【TS】配信者やってると、こういうこともあるらしい。 (16色のレイン・コーラス)
しおりを挟む
特に理由のないTSが配信者を襲う!
TSしてしまった。
……なんで?
変なものでも食べたかと昨日の夜の晩飯を思い出そうとしても、カップ麺だけしか食べてない。新種のゴキブリでも入っていたか?
これは俗に言う……確か……
あさおんだとかはよくわからないがもう昼過ぎなので違うだろう。昨日の耐久配信が響いているのかも。死に際に見る夢?
しかしまずいな。昼から配信する予定を入れてたんだが! 過ぎてるし。もうあと5分待って。
流し台の位置が高い。というか俺の目線が低い。
鏡を見る。赤本よりも真っ赤なロングヘアー。澄んだ空のような青い瞳。ビスクドールのような真っ白できれいな肌! ビスクドールって何?
そして身長が25センチくらい足りない。……面影ねえ。寧ろカラーリングだけなら配信に使っているバーチャルモデルに近いか? これじゃあ俺だって言っても誰にも信じてもらえないな。言うつもりもないが。
「あーっ、どうしよ! こんなんで配信できるのか」
まずはそこ。床をごろごろ転がる。ボディが小さいから部屋が広く感じる。寝間着がダボダボだし。自分の萌え袖なんて見たところで嬉しくもなんともないんだよなぁ! というかおそらく指先がトラッキングできない。どうせ画面の向こうには見えないし脱ぐか。
短パンと、イースター島が描かれたTシャツとに着替える。モアイっていいよな。眼力がすごい。庭に置くなら狸よりモアイだわ。うちに庭ないけど。
すごい腹減ってきたな。女子って何食べるんだ?
こういうときこそ落ち着いて行動しなければ。パン食ってる余裕はあるだろ。
食パンにベーコンとトマトとチーズとレタスを乗せてトースト、それと牛乳。別に料理できない訳じゃなくてしないだけだから。でももやしは腐らせる。これが料理かどうかは微妙だから機会があればな。
うぷっ、腹いっぱい。これは配信中に吐くまであるぞ。食パン一枚で限界とか小学生か? 干支が一周すると昔すぎて覚えてないぜ。スイーツじゃないから入らないのか。
歯を磨く、歯ブラシを……。
……。
……なんか嫌だな。自分のだけど。新しいのを出そう。
「よし、時間だ。配信を始めよう」
もう始まってるけど。何かあったときこそ平常心。いつも通りを心掛けなければ。
”また遅刻か””寝てる……?””これはダメみたいですね”などのコメントが並んでいる。前例があって良かった。心が痛むようなコメント内容はないな。スパチャ溜まってる。これはちょっと申し訳ない。
「ハロー」
”あっ””来たか””うん?”
流石にこの声で普段使用していたモデルを使うのも憚られるので、立ち絵だけ。何か使えるオリジナルの絵があったかとフォルダを探したところ、半年ほど前に描いた”剣聖ソードテール”の立ち絵があったのでそれを使用する。水没都市のテーマ企画に出していたものだがオリジナルはオリジナル。モデルになった人ならいるが。
「ハロー。
”へっ!?””誰だお前!?””事故か”等のコメントが。爆速だな。まあそうなるよなぁ。『赤待ケイ』っていうのは元々のバーチャルモデルの名前な。信号機。
「皆混乱してると思う。だけど、俺も同じように混乱しているということを忘れないでほしい」
俺なに言ってんだろ。TS云々より先にキャラメイクの時間が欲しい。設定とか。……あ、これいいかも。
”何言ってんだこいつ””声可愛いですね””で、誰?”
「俺は赤待ケイの妹の……赤待ボタン。ゴメン、秒で決めた。漢字にしとくか。『
カチャカチャと文字を打ちこんで、画面上に『赤待牡丹』と表示させる。
そういえば配信開始の告知してねえな。今の俺が告知するのも変か。後でいいや。
「赤待牡丹だ。今日は何する予定だっかというと、プレゼントされたゲーム……というか送り付けられたゴミの処理を行おうという予定だった。のだが予定を変更して俺の立ち絵を作っていこうと思う」
”ケイ君は……どこ?””いったい何者なんです?”
「ケイ君はどこ。今は出てこれないの! 何者かって聞かれたら赤待牡丹と答えよう。こいつはソードテール師匠」
誰にも聞かれてないが師匠を推していく。
”ケイ君何かあったん?””ケイ君との関係性は?””事故った?”
ケイ君って……ファン層は割と男子のはずだからこうしてみるとやばいな。
「何かあったといえば何かあった。関係性は兄妹のようなもの。事故……? 事故っちゃあ事故だけどどうなんだろ。保険適用? 待った荒ぶるな命に別状はないから。怪我したわけではない」
コメントが加速していくので目で追えない。そりゃあ質問があるだろうけれども。
合間合間にスーパーチャットが流れるので優先的に読んでいこう。
「ありがと~う! エミュさんありがとう。スパークルさんありがとう。”本当はケイ君の彼女なのでは?”えっ違うわ! 物理的に不可能だから。あの……人は血縁なんで。多分」
”多分って何だよ”
「いや分からない。まだ調べてないんで」
”うん?””どういう……ことだ?”
「ほとんど変わらないと思うんだけど。話が脱線してるから筆の方も進めていく。髪は長い方がいいよね。あんまり盛り過ぎると妹っぽくなくなるんだけど。何で妹にしたんだろ。いや別に姉でもいいんだけどね?」
”声は地声ですか””ヌける”
「声は作ってないな。かわいいよね? ヌける? ヌくな」
”話し方がケイくんと似ていますがケイ君の真似ですか?”
似てるってか本人なんだよなあ。……あれ、もしかして変えた方が良かった? いやでも適当に作るとボロが出るしな。『ですわよ!』とか言っておけばいいのか? 気持ち悪っ。
「どちらが先とかそういうのはない」
てかちょっと暑いんだが。もう一枚脱いだら見えなくても死だな。
「給水させろ」
ペットボトルがいつもより重い。コップを用意しろ。
ふう。
”助かる”等のコメント。
「勝手に助かってろ。”初見です”このタイミングで!? こんなタイミングでか……ありがとう。今日はいつもと画面違うからな。いつもならケイ……兄キャラがいるんだけど。今はこの牡丹だ。この……って言っても立ち絵はソードテール師匠だけど。ちょっと分かり辛い。早急に絵を完成させなくては」
師匠の説明をしたいんだけど今やっても情報量が多すぎて流れそう。
「手足が先だけどアクセントが欲しいな。牡丹ってどんな花だっけ。ぼたんぼたん…………思ったより面倒臭いな。これは別に作って乗せるか。”牡丹って何色?”白かな。本体の赤以外。”背中にボタン”それは違うやつ。というか背中にボタンあっても立ち絵から見えないじゃん」
”かわいい””ご趣味は?”
「かわいい。さんきゅー。趣味。合コン会場めいてきたな。行ったことはないが。趣味は歌うこと。ケイも歌ってみたやってたな。見てる?」
チャットの反応がいつもと違う。普段よりスーパーチャットも多いかも。俺が緊急時だってときに……あっ赤スパ5万、ありがと~う!
「”学生ですか”社会人。ステ振りはケイと同じ。”生き別れの双子か?”そうかもしれないしそうではないかもしれない」
コメントを返していく。
”予定終了時刻だけど延長する?”
「もうそんな時間か。延長はしない。用事があるから。……よし、線画部分は大体完成。背景赤。こんな感じ」
肌以外は赤で塗るので本当に大体完成。もちろん後できっちり塗る。
「次回は未定。後で告知……赤待ケイの告知を見てくれ」
告知どうしようかねえ。
「申し訳ないがこれから病院に行かなければならないのでこれにて失礼。グッバイ」
”お疲れ様”や似た意味のチャットが流れていく。いつもの倍は疲れた気がするぞ。
次があるなら設定は詰めておかないとな。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
これは口頭では説明が難しい。
遅刻しつつ定時退社*1するクソムーブをしながらも、病院に行って検査する必要があるのは事実なので用意を進める。遅刻したのはケイであって今の俺じゃないのでセーフにならない? そのあたりも後で考える。
病院と言っても『朝起きたら女の子になっていた』などという与太話を信じてもらえるような場所はまずない。免許証等の身分証明になる物はあるが、そもそも写真にある顔と今の俺の顔に微粒子レベルの類似点も見受けられないのだからイタズラだと思われて終わりだ。それにもし話を聞いてもらいこの事実が認められたら、今度は実験動物のように世界中の施設で身体を弄りまわされるかもしれない。そして行き着く先は……仮面ライダー。
それは流石に極端すぎたが、少しでも信用のできる場所で見てもらうべきだろう。
留守だと悪いから電話入れておくか。
……待てよ? 元々知り合いなのだから携帯から電話したら話がややこしくならないか?
念のために公衆電話から掛けておこう。
そんなわけで家の中の公衆電話を使用する。
XXXX-XX-XXXX
ぷるるる……ピッ
「もしもし?
うちの診療所はすっかり使われなくなった廃駅の一部を借りて経営しているのだけれど、あまり患者が訪れることはない。何といっても街が過疎っているのだ。僕にとっては都合のいいことがあるからこの土地を借りているのだけど、スーパーも食料品店もなくコンビニすら閉鎖してしまったこの街には現在何人が住んでいるのだろう。
そんなわけで、日中の僕は暇を持て余していることが多い。
電話がかかってきたのは、午後三時を過ぎてビーカーでコーヒーを飲もうとしていたときのことだった。
ディスプレイの表示は『コウシュウデンワ』となっていた。
「もしもし?
「
声の頃からすると中学生くらいの女の子だろうか。声ソムリエではないので分からないけれど。僕は普段からハスキーボイスだから、女の子らしい声には少し憧れる。
湯川さん。珍しいようなそうでないような苗字。花袋の方が1000倍くらい珍しいからね。家族にもいないもの。湯川さんと言えば、知り合いの男の子がそんな苗字だったなあと考えながら返答する。
「はい、いいですよ。何時頃にいらっしゃいますか?」
「これからすぐに向かいます。二十分くらいで到着すると思います」
僕は反射的に壁の時計を見た。腕時計もしているんだけど、あまり忙しくならないから習慣が身につかない。
え~と。
「今から二十分と言うと、三時半頃ですかね。分かりました。お待ちしております。お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか」
そのとき、電話越しにかすかに息を呑むような声が聞こえた。どうしたんだろう。もしかして裏の住人だったり?
「……湯川
おおー、知り合いと同姓同名だ。何がおおなのか分からんけど。
「漢字はどのような漢字を書きますか?」
メモにペンを走らせて待機する。
「
刑事の『刑』? 傾聴? 軽重? ケイチョウってなんだ? 待って。五分あれば分かりそうなんだけど。
「ごめんなさい。ちょっとわからないので、他の特徴はあります?」
「ええと、テンケイ、
別の読みが来たね。ケイ、ギョウ! 天啓がひらめきそうな気がする。いや啓ではない。
「もう一声」
「あー、
!
「なるほど、分かった目出度い感じの慶ね!」
それなら最初から慶應義塾大学って言ってもらえれば……中学生だと出てこないかな?
……このやり取りは前にもやったような。
「
これを聞いておくことは外せない。電話だけで判断できるものではないけれど、もしかすると急を要する病気のときもあるし。
するとまた電話越しに悩むようなそぶりを見せ、少ししてから口を開いた。
「身体の調子が変なんです」
「なるほど。具体的には、どのように?」
「髪が伸びたり、声が変化したり……」
「な、なるほど?」
「目の色も変わってて、あと肌が真っ白になりました!」
「???」
どうしよう、全く症状が分からない。
あ、コーヒー冷めてる。
先生に電話したら少し落ち着いた。
誰だお前、とはならないで。流石に先生が相手なら敬語だって使う。正しい敬語かどうかは分からないが。それでもって俺の本名は湯川慶。名前を呼ばれたときに反応しやすいから同じ読みで配信用の名前を付けている。
それにしてもやっぱり花袋先生はカッコイイ人だ。あの中性的な声を聴くと安心する。
俺の話をイタズラだと思わずに聞いてくれたし、もうちょいでアラサーなのに落ち着いてるし、男性的なカッコ良さがある。同性にモテそうなタイプ。姉御。
それにしても今日みたいな敬語口調の先生もいい。初対面だとあんな感じなのか。いきなり『女の子になりました』って言っても混乱させるだけだし流石に信じてもらえないだろうから客観的にぼかして言ってみたんだけど、お待ちしてますって言ってもらえたし。すぐに準備して行こう。
しかしながら外へ来ていく服がない。一人暮らしの男性配信者の部屋に女物の服なんてないのだ。Tシャツはこの際このままでいいけど胸が見えそう。コート羽織っていくか。暑いー。
財布と携帯と免許証と……この身体で車運転するのは不安だしそもそも免許証が有効か分からないから自転車で行こう。保険証使えるのかな。十割負担とか嫌なんだけど。
旧藤盛駅ビル街、今ではほとんど人が寄り付かなくなった場所へと到着。まだインフラは通っているはずなのだが、路線が廃止されてからはほとんどだれも住んでいない。
俺の行き先の病院はここにある。病院……でいいのか? 花袋先生が免許持ってるのは知ってるし、トロフィーも大量に飾ってあったから闇医者ではないだろう、しかしそもそも看板は掲げてない。
ほとんど人がいないので物静か。それに暗い。つぐのひ*2みたいな幽霊が出てきそうだとここへ来るたびに思う。時折動いている掃除用ロボットの横を通り抜けて、花袋先生の住居へと辿り着いた。
スライド・ドアー。
スリッパに履き替えて待合室へと進む。受付には男性とも女性ともとれる中性的な人がゆったりとした様子で座っていた。花袋先生だ。
「こんにちは!」
「どうぞいらっしゃい。君が電話をくれた湯川さんでいいのかな」
「はい、よろしくお願いします!」
俺の目線が下がったから花袋先生の目線が高い。やっぱカッコいいわこの人。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
医者にとっての患者はただの患者です【前編】
「──”
フィールドに浮かび上がる緑色の小さなユニットたち。
「さらに呼び出されたフラギラリアの効果。デッキから同名のカードをこのユニットの後方1マスに呼び出す。呼び出されたフラギラリアの効果を使用してもう一体のフラギラリアをコール」
ユニットによって次々とフィールドが埋められていく。とても目に優しい。
「光虫呪文”赤緑反転”の効果。場にある自分の緑光虫ユニットを3枚まで墓地に送って、その枚数までデッキ・手札・墓地から相手の場に”
「うわ、張り付きだ。嫌だなぁ」
「”セネデスムス”が場を離れるとき、自分の場に緑光虫ユニットが存在するのでデッキから1枚手札に加える。さらに”緑光虫ボルボックス”をプレイ。このユニットが場に存在するとき、プレイヤーを直接攻撃する全ての光虫ユニットの攻撃は+1される」
緑色の光がフィールドを満たしていく。
「バトル。直接攻撃が可能なのはダフニア3体。攻撃力の合計は12Pのダメージ。ターン終了」
3ターンでこんなに張り付かれると次のターンはないな。取りあえずは雑に対処。
「ターン開始。ドロー。呪文”巨人襲来のルーン”をプレイ。手札の待機値が最も重い巨人カードの待機値を0にする。”
「ダフニアは墓地へ送られる」
「”魔槌ミョルニル”をプレイ。このユニットが場に出たとき、全ての敵ユニットに1Pのダメージを与える。呪文”暗黒合成”をプレイ。グングニルにミドガルズオルムとミョルニルを合成。”魔神槍槌グニングニングニル”」
「いやそうはならない」
武器に生物を合成する禁忌の呪法。
「結果が出たよ。……何やってるんだ?」
続かない。
午後三時半。『湯川けい』と名乗る少女が時間通りに現れた。
バイク用のコートを羽織っていて、顔が赤く息切れしている。話を聞いてみれば自転車に乗ってきたとのこと。この暑い中を? 死ぬよ? コートを脱がせたらその下はモアイのプリントされたTシャツ一枚。極端だな。中学生の服装意識ってこんなもんだったか? *1
「お疲れ様。何か飲み物を出そう。何がいい? 麦茶と、牛乳と、野菜ジュースと……」
「麦茶でお願いします」
グラスに注いで渡すとごくごくと一気飲み。
いい飲みっぷりだ。もう一杯どうぞ。
「落ち着いた?」
「はい先生!」
「それはよかった」
それで、何だっけ。髪が伸びて声が変わって? 目の色が変わるのは割と別人レベルだと思うけど。
本当に肌が白くてきれい。これ後天的なものなの?
「今日は身体の調子が変だということだけど、もう一度説明してもらえるかな?」
「あの、笑わないでもらえますか……?」
「もちろんだよ」
これくらいの子供は多感な時期だからなぁ。*2
それにしてもこの緊張度合い、まるで学生のころ僕に告白してきた後輩女子のようだ。
「俺が『湯川慶』なんです!」
「知ってるよ?」
俺?
「……。違うんです、先生のよく知ってる『湯川慶』なんです、男の!」
そんなには知らないけど。一般的な医師と患者の関係だよ。
「どういう?」
「免許証あります! 本物です! 朝起きたらこんな風になってて……もう俺、どうすればいいか分かんなくて」
確かに免許証は本物っぽいけど目の前にいる女の子とは全く結びつかない。うむむ、どうしよう……。
「ちょっと待って。そういうのに詳しい機械持ってくるね」
あれだ、嘘発見器。
「ここに座って」
「はい……」
「これを頭に被って」
「はい……洗脳装置? 」
聞こえてるよ?
「じゃあ質問するから『はい』か『いいえ』で答えてね」
「はい」
「あなたは湯川慶ですか」
「はい」
「あなたは男ですか」
「はい」
「ふーむ。あなたは花袋
「はい」
ブーッ! 嘘を検知した反応。まだ分からないな。
「先生、違うんです!」
「大丈夫、分かってるよ。次、あなたは動画配信者です」
「はい」
「あなたは歌を歌うことが好きだ」
「はい」
「あなたは──」
「あのー。これは何をやってるんですか?」
「嘘発見器」
「真面目に! お願いします!」
分かった。分からないということが。嘘はついていないみたいだけど、そもそも彼とめちゃくちゃ親しかった訳じゃないから秘密の質問とかもできないし。配信をやっているというから、実験で使う予定の薬剤について聞きに来るくらい。ああ、そうだ。
「あなたがインフルエンザに罹ったのは何歳のとき?」
「予防接種を打っているのでかかってないです」
「正解。引っかからなかったね、っていうのは違うか……。でも人に話してるかもしれん情報だしなぁ。よし分かった。ひとまずは信じよう。装置は外していいよ」
何だったかな悪魔の証明? それは違うか。
「それじゃあ採血させてもらえる? 血を調べれば何か分かるかも」
「お願いします……」
そう言っておずおずと腕をさし出してくる少女。かわいい。これが元々は成人男性だって? 嘘でしょう。
「きれいな肌だよね。注射器を刺すのがもったいないくらい。いただきます*3」
無意識に変なこと言っちゃった。
「結果が出るまでは――出ないかもしれないけど、30分くらいかかるかもしれないから待合室で待ってて」
「はい先生。あの、トイレ借りていいですか?」
「いいよ。場所は分かる? ……! 僕もついていこう」
「うええ、一人で大丈夫ですって!」
この少女が知り合いの男の子だと仮定して、もしかすると女子用のトイレを使うのは初めてなのでは。まさか男子用トイレの方には行かないよね?
感想・誤字報告よろしくお願いします。特に誤字報告。
自分で読み返していて何か所か間違いがあったので修正しました。お目汚ししてすいません。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
医者にとっての患者はただの患者です【後編】
ひどい目に遭った。
花袋先生に見守られながら(流石に個室までは入ってこないが)用を足すという特殊プレイを終え、待合室へ戻る。ちょうどそのとき、玄関口から一人の女の子がやってきた。
ものすごく見覚えがある。金色の特徴的なショートヘア―に、緑と紫が入り混じったようなグラデーションの瞳。特徴的過ぎて一度であったら忘れない。今は俺も同じくらい目立っているかもだけど。
この女の子は藤盛周辺に住んでいる三人の一般市民の一人だ。学生なのかな。花袋先生は一般市民かどうかわからないのでカウントしない。そんな氷蜂
「こんにちは」
先に挨拶されるとは。挨拶をどこから始めるかっていう距離感って悩まない?
「こんにちは」
「一人で来たの?」
「はい」
いつも以上に距離を詰めてくるな。年下相手だとこんな感じなのか? 丁寧語を使うだけで少女ロールプレイになりかねないから気をつけなければ。
「今日は風邪?」
「いや、身体の検査」
「そっか。ここへはよく来るの?」
「まあまあかな」
距離の詰め方がすごい。ほとんど無表情なのに会話好きなのか?
ぴりり、と氷蜂ちゃんの持つスマホが鳴る。
「ちょっとごめん」
そう言って氷蜂ちゃんがスマホを操作すると、独特なBGMが流れる。このゲームは……!
「
「やってるの?」
「うん」
ARCOIRISはスマホ向けのフィールドカードバトルだ。30枚で構成されるデッキからターンごとにカードを引いていき、ユニットを場に出して戦う。最終的に相手プレイヤーの体力を0にすれば勝ちというよくある対戦スマホゲームの一つ。ただしプレイヤー同士の間には将棋盤のようなフィールドが広がっていて、ユニットが相手プレイヤーを攻撃するためにはフィールドを進軍していかなければならない。めんどくさいけど面白いゲームだ。TCGだったらまずできないけど。
それはそれとして音声を流すのは勇者だわ。というかここは病院なんだが。
「対戦する?」
「えっ、でも病院だし静かにした方が」
「平気。普段は誰も来ないから」
「そう言うことなら……それは医者として大丈夫なのか?」
このときの俺はちょっと冷静じゃなかったので病院でゲームを始めてしまった。だって相手が女子学生っぽいし*1。
俺の北欧統一デッキが火を噴くかも。
「検査結果が出たよ、って氷蜂。君も来ていたのか」
カードバトルに白熱している所へ、花袋先生が戻ってきた。
「個人的な話になるから奥の部屋で話そう」
花袋先生は氷蜂ちゃんをちらりと見てからそう言った。
部屋へと向かうと実際のデータがモニターに延々と表示されている。見ても分からないが。
それで、結果はどうなりました?
「結論から言うと、慶くんの遺伝子情報と君の遺伝子情報は完全には一致しなかった。ただ、完全に無関係というわけでもなくて、
「いないですね」
「だよねぇ確か。前にそんな話を聞いた気がする。同一人物だって証明は難しいかな」
「そうですか」
遺伝学的に違うってもうどういうことだ。よくある感じで、俺は自分を湯川慶だと思い込んでいる一般少女だったり? いやそもそもいとこなんていないし。
「僕は信じるよ。君は嘘を言っていない。それに何よりも僕の作った嘘発見器を信じる」
「自分で作ったんですか……?」
それはすごいな。
と、そこで部屋の入り口からぬるりと頭を出した氷蜂ちゃんが参加してくる。
「信じるとか信じないとか、何の話? 気になる話が聞こえてきたんだけど」
「氷蜂、勝手に入ってくるんじゃない。慶くん、ちょっと待ってて」
二、三度言葉を交わしていたかと思うと、花袋先生がドアを閉めたあと鍵をかける。
「ジャズでもかけようか」
「理由は分かるけど意味が分からないです」
先生本当にかけ始めちゃったよ。
「それで、慶くんはこれからどうする? どうして性転換するようなことになったのかはわからなかったけど、今の慶くんは肉体的に非常に安定している。女性として生活していくにしても、まずは戸籍をどうにかしないといけない。内密に」
「内密なんですか」
「そう。あまりたくさんの人に知られたい話ではないだろう? 時間はあるからよく考えるといい」
戸籍の取り直し? その場合、
「そ・れ・よ・り、慶くん。明日服を買いに行こう!」
「えっ」
「お金は僕が出すさ。どうせ使いどころのないお金だからね。……女物の服なんて持ってないだろう? 持ってたら引くけど。そんな恰好で街を歩いていたら襲ってくださいって言っているようなものだよ。よく襲われなかったね」
「道中誰もいませんでしたよ。ありがたい話なのでお願いしていいですか。でもお金は自分で出しますから!」
「そう? まあこの近辺はね……。どうせなら今日はここに泊まっていくといい。お風呂での身体の洗い方だってわからないだろう」
教えてくれるって言うの? それはいろいろとヤバい。
「それはどうなの?」
「氷蜂! また勝手に。そうだ。明日はお前も付き合えよ。今時のJKっぽいファッションを見せるときだ」
「ふうん?」
やっぱりJKなのか。……今どこから入ってきたんだ?
「先生、俺は男ですよ!」
「
なんで英語。
大まかなプロットの他はライブ感でやってるから仕方ないんですけど、書いているとそもそも舞台が現代なのか分からなくなってきます。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
一番見たいところは?
ショック!
手ごわい夜だった。
昨晩の風呂で何があったかという話題は少々センシティブゆえに割愛する。
俺は 何も 見ていない。
昨日、氷蜂ちゃんが部屋に侵入してからのことを思い出してみる。
「どこから聞いてた?」
「いや今来たばかりだけど。もみじがその女の子の身体を洗ってあげるって迫っているくらい」
「言い方に悪意を感じるなぁ! 僕はそういう趣味はないぞ。大体鍵はどうした」
「ひみつー」
先生もどこから入って来たのか知らないのかよ。
仲いいのかな、この二人。年の差はありそうだけどいったいどういう関係なんだろう。
「それで結局、何お話だったの? 話せないような病気?」
ぐるん、と氷蜂ちゃんの顔がこちらを向く。
「氷蜂」
「いいですよ。話しても」
「えっ、君がそういうなら……。命拾いしたな」
今の先生チンピラっぽかった。
服を選ぶことを手伝ってもらうのに、男だっていう秘密を隠し続けるのは不誠実だと思う。話した結果として拒否されるかもしれないけど……。
「俺、実は男なんだ」
「まじ?」
「本気」
「ツいてるの?」
ツいてる? なにが、って……ああ。
「そういうわけじゃなくて。今朝目が覚めたら女の子になってて」
「本気っていうか正気? もみじ?」
「嘘は言っていないよ」
「ふうん。そう言うこともあるんだ。変身かな」
「変身?」
予想の斜め上な反応。これはいいのか悪いのかどういう感じなんだ?
「分からないならそれがいい。まあ男でも女でも変わらないもみじみたいなのもいるし――」
「おいこら」
「――例え正体が何であっても今が全て。仲良くしよう」
「ありがとう!」
手を伸ばして握手をしてくれる氷蜂ちゃん。
でもそれって俺が男に戻れたらまた赤の他人レベルの対応に戻るのか?
「それで、名前は?」
「はい?」
「私は
「
こんな感じで、氷蜂ちゃんと仲良くしてもらえることになった。
自分の状況の一割くらいしか話せてないけど、それから氷蜂ちゃんは帰っていって、俺は花袋先生に晩御飯をごちそうになったりいろいろ教えてもらったりした。
氷蜂ちゃんは何しに来ていたんだろう。
そんなこんなで次の朝。
「花袋先生、ブラがきついです」
「んなあほな」
一日に一体どれほどの羞恥を受けるのだろう。
寝間着代わりに借りていた病衣から、花袋先生が用意してくれた余所行きの服装に着替える。
「僕の今使ってる奴と同じサイズなんだけど……何が原因だろう」
「間違えました、カップがきついです」
「そっか」
しょうがないので
「シャケ焼けたから持ってって」
「はーい!」
二人で朝食の準備をする。ずっと一人暮らしだったからこういうやり取りもいいな。まるで新婚の夫婦みたいだが、そうなると今の見た目では100パーセント俺の方が新婦になってしまうのであまり深く考えないようにしよう。花袋先生は白衣を着ていないときはモデルのお兄さんのようだ。
そして先生はどうやら和食派らしい。
「席についたね。ではいただきます」
「いただきます」
朝は一杯の味噌汁から始まる。俺はパン食で済ませることが多いから実践してないけど。
うん、おいしい。
「先生、今日は服を買いに連れていって下さるとのことですが、いったいどうやって行くんですか? と言うか行先はどこです?」
「隣の解形市のショッピングモールまで行く。もちろん車でね」
花袋先生の運転が荒くないといいが。
「おはよ」
ご飯を食べ終わって洗い物を行っていると、診療所ではない普通の玄関の方から氷蜂ちゃんがやってきた。
間取りを覚えるのが大変。
玄関から外へ出る花袋先生の後を付いていき、大きな車庫へと移動する。
先生が『よっこいしょ』と車庫のシャッターを持ちあげると、黒塗りのボンネットが長い車が現れた。センチュリーではない。俺はいつも軽しか運転していないから、こんな長い車だとぶつけそうというか擦りそう。
それにしても、ここはやっぱ立地が悪いわ。車庫までに階段をぐるぐる降りなければいけないし、担架運べなそう。
「さあ乗って。二人とも後ろでいいね?」
先んじてドアを開けて待っている花袋先生。こういうところが女子にモテるのか?
「それでは出発」
「まずは靴が必要でしょ。それと下着類。普段着は最低上下三着として……慶くんは何か意見はある? どういうのが趣味だとか」
「正直何もわからないんでお任せします」
「そっか、そうだよね」
出発して数分で氷蜂ちゃんはくぅくぅと寝息を立てていた。元々眠そうだったけど朝弱いのか?
頭を俺の方に預けてくる。いい香りがする。やばいな煩悩。
「静かだね。ジャズでもかける?」
「氷蜂ちゃん起きちゃいますよ。好きなんですか?」
「運転中は歌詞がある曲よりも演奏だけの曲の方が好きかな。竹原ピストルとかだと事故りそう*1」
「ひどい差別を見た。先生は運転お上手ですよ」
「それならよかった」
本当のことです。
藤盛市周辺はもう整備もされていなくてガタガタの道だから運転できるだけでもすごい。
いつ崩落するか分からないくらいにひび割れていて怖いし*2。
「……昨日遅かったんですかね?」
「氷蜂? ちょっとしたバイトかなー」
そもそもこの街で成り立っている仕事はあるのだろうか。
それからしばらく花袋先生と他愛もない話を続けながら、流れる景色を眺めていた。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
そんな装備で大丈夫か
元々何も考えてなかったけど。
主人公は信号機の赤かな。でも瞳は青。
氷蜂は黄色。スズメバチ。瞳の色は緑と紫のグラデーション。早い話がオーロラ。北極の氷もイメージの一つ。
先生はもみじだから赤でもいいんだけど、赤い医者は血濡れみたいで怖いので茶色の短髪。目は黒っぽい。もみじまんじゅうのイメージ。
「ついたよー」
車に乗ってから40分程度で、目的地へ到着。
『ぽひゅう』と寝息を立てている
「ん? ついた?」
「うん」
氷蜂ちゃんは首をぐるぐると回している。車で寝ると肩が凝るよな。運転しても凝るけど。
「どこから回る?」
「まずは靴だね」
「そう。慶、迷子にならないように手をつなごう」
「迷子になるほど子供じゃないけど」
「いいから」
強引に手をつながれた。そんなに迷子になりそうに見える? どちらかと言えばさっきまで寝てた人の方が心配だが。
こうして二人で手をつないでいたら百合にしか見えないと思う。少し気恥しい。
氷蜂ちゃんも結構背が高いんだよな。
昨日身長を測定したところ、現在の俺の身長は153センチだった。元々の俺の身長は179センチだったので実に26センチのマイナスだ。流石にモノの勝手が違って見えるわけだ。
花袋先生は176センチらしい。氷蜂ちゃんは聞いていないが、だいたい今の俺と先生の中間くらい。
身長の変化には花袋先生も興味深そうにしていた。『骨格がどうやって変化したのか』なんて、詳しく突き詰められても不安になるだけなのだが。
まあ女子は中学に入ってからほとんど伸びないし、少し小柄なだけでは子供に見られることもないだろう*1。
「仲がいいのは良いことだ。では行こうか」
花袋先生は観葉植物のようにやわらかい笑みを浮かべていた。
歩き始めると歩幅を俺たちに合わせてくれる。
ショッピングモールの中は多くの客でにぎわっていた。藤盛からの落差……落差? 数値が跳ね上がった場合にはどう言えばいいんだろう。とにかく差がすごい。しかもちらちらとこちらへ向いている視線を感じる。そんなに赤い髪が珍しいか! そうかも。それでなくても花袋先生は大きいし氷蜂ちゃんはかわいいし、三人組だから目立ってるのか?
俺が周囲の目を気にしていてもすぐに実害があったわけでもなく、無事に婦人用の靴が売っている店に辿り着いた。そういえば女子の履物って何? ハイヒールとか?
「まずは慶くんの足のサイズを測ってもらおう。店員さん!」
花袋先生が呼び止めた女性店員さんに、特別な器具で足回りを測ってもらう。なんだか無駄に緊張する。男のときに足の長さ以外の情報なんて気にしたことがなかったから、足の形によって履ける靴のタイプが違うっていうのには驚いた。
それにしても……。
「23センチだって」
「小さくてうらやましい。僕なんて6.5*2だからね。特注じゃないと履けるモノがなかなかなくて」
「それは男」
「花袋先生は身長がありますから」
かなり小さいとは思っていたが、女子の足ってこんなに小さいんだな。
花袋先生は……それでも男のときは僕の方が高かったのだが。
「普段履き用はスニーカーを選ぼう。ヒールに慣れてないし」
いくつか試し履きしてみて、その中からあったものを選ぶ。
「うーん」
「どう?」
「一つ気になったんだけど、靴底厚くない?」
「そう? 普通だと思うけど」
「あまり走らないからね、男物と違うかも」
そういうものなのか。
結局、無難な色のスニーカーを一つ選んで購入した。表面が布みたいなやつ。防水性はなさそうだ。
次は下着の調達。上下一式。
「ブラだよブラ。実際にカップ数がどんなものか計ってもらおうじゃないか」
先生、気にしてたんですね。でも外では言わないでほしい。セクハラです。
「85のCでした」
「もみじより大分あるね」
「胸囲自体は僕の方があるから」
「意味ある?」
店員さんにはさらしを巻いていることに驚かれたけど。
女性下着について長々と語りたくはないので割愛。
黒下着は使わないって。
普段着を選ぶ。ここでは氷蜂ちゃんと花袋先生にされるがまま。
二人がいろいろな服を見繕って来るので、それを着せ替え人形のように着替えるだけだったのだが。
「ねえ、もみじ」
「やっぱりそう思う?」
何事かを話している二人。聞けば、赤い髪が強烈すぎて何を合わせてもコスプレに見えるらしい。それは俺も思った。
「黒染めした方がいい?」
「それは」
「だめ」
「せっかくきれいな赤なんだから」
「それを染めるなんてもったいない」
そっか。二人同時に喋るな。びっくりしたわ。
「あっ、これなんかどう? ちょっと大胆だけど」
先生のおすすめ、服の種類を説明してもらえるのはありがたいんだけど、何を言われても耳に入ってこない。知ってる言葉で話して?*3
何にしてもお勧めされたら着てみるまで。
Vの字……。大胆といえば大胆な開襟。胸が見えそう。でも中に何か着るわけでしょ? ならこれも買い。
「こっちもどう」
赤系統、チェックのワンピース。髪の毛の赤に寄せつつも違いがはっきりと分かるくらいには白が強い。
どうなんだろうか。どう?
「慶、かわいい」
「かわいいかわいい」
ひゃあ、照れる。そんなに言われたら買うしかないな。自分のファッションセンスより人のセンスの方が信用できる*4。女の子ってこんなに簡単にかわいいって言うの? ……男子でも言うわ。主に配信のコラボ相手に。こんな風に見えるのか、ちょっと自重しようかな。腐りしもの達が湧く。
次はズボンとかスカートとか。絶対ズボンがいい。
「そうはいってもスカートも必要だよ」
「えっ、先生もスカートを履くんですか?」
「うん?」
何でもないです。
しかしどれも一緒に見えるんだが。なるべく長めのやつを。
「上下の兼ね合いもあるから。買ったモノに合わせるとこれがいいと思う」
「もうお任せします……」
買い物をする女の子ってパワフルだよな。俺のために親身になってくれてるんだから自分でも考えないといけないとは思うんだが。
最終的にはソックスを買ったり、それに女物のハンカチまで買って、衣類で車のトランクがパンパンになるくらいだった。
ショッピングセンターを出た後は近くのパスタ屋でランチ。
買い物でお昼の時間を過ぎていたことには全然気がつかなかった。元々時間感覚なんてあまり持ち合わせていないが。
パスタはナポリタンが美味かった。先に入れたらウェストがきつくなってたかも。
帰りはそのまま自宅まで送ってもらうことに。
「花袋先生、今日はありがとうございました」
「僕も楽しかったよ。またいつでも連絡してくれ」
「氷蜂ちゃんもありがとう」
「うん。また来る」
「本当にありがとうございました。それではさようなら」
「Bye」「またね」
疲れた。
結構いろいろあったと思うけど、全部終わってもまだ午後三時くらいなんだよな。
配信するか。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
【悲報】声優交代!? 声優っていうか性別が変化してるんですがそれは……。
配信、と言ってもまずは皆に現状の説明をしなければならない。
個人用アカウントにめっちゃ通知きているし。放置してたからなぁ。
配信者はやることが多い。
オフコラボした知り合いや、元々親交のある輩もいるので説明に窮する。
でもまずは一般視聴者向けの回答か。
寝て起きたら女の子になっていました、って正直に言っても炎上必至。まだ俺は大炎上したことないんだから、今回もうまい説明を考えないと。
状況を確認してみよう。
『
……。
……。
……終わり。あと何か言えることある?
ケイは天に召されたわけでも海外留学するわけでも引退するわけでもないし、説明できることがない。自分でもよく分かってないしな。案外と、もう一度耐久配信したら元に戻るかもしれない。当分やりたくねえな。
やっぱり動画かなあ。マシュマロに牡丹についての質問も来ているのだが。
重要な発表は、極力簡潔にまとめなければ。他の場所にも貼るし。
てか絵を作ってないわ。描きかけのままだわ。
何度もソードテール師匠に頼るわけにはいかない。
線画のままゴーサイン出すか? とりあえずは撮ってみよう。
んーん゛っ! あーあー、マイクテスト。声は大丈夫かな。
昨日は何も気にしていなかったけど、この声で配信するとなると普段と同じ話し方でも受け取る印象が全く異なる。タメ口でも背伸びした子ども? そもそも敬語の方がいいのか? いやでも謝罪動画ではないし。
めっっっっっっちゃ悩む。どうしよ。
「ハロー。
結局いつも通りの口調。対外的に拡散するなら、牡丹のキャラクターも一緒に知ってもらった方がいいと思ったんだよな。キャラクターの内面は何も変わっていないが、声のイメージが違えば文字起こしでもしない限り混同されることはないだろう。
立ち絵として、前回書いた赤待牡丹のイラストを使用している。まだ色を付けていないので白抜きのままだけど。というかパーツ分けしていないので動くこともない。これでバーチャルを名乗るのは少々無理がある。無理があるが、それでも通さなければいけないときはあるのだ。
速度を取るか、完成度を取るかという問題は常に悩まされる問題だ。
今現在問題が発生している最中なので動画を撮ることを優先したが、緊急事態でなければ一言休むといって準備期間に
話が脱線したが、速度を優先しすぎて後悔が生まれるのは当たり前。この動画は状況説明のための動画で、謝罪動画に近いから動かない立ち絵なら使わない方が良かったかもしれない。もう投稿した後だが。白黒の度合いがホラゲ*1実況のサムネイルみたいになってしまった。
「誰だお前、とみんな思っているだろうが、少し説明させてくれ」
本当に誰なんだろうな。鏡を見たとき思ったわ。
「このチャンネルの持ち主である赤待ケイはどうやら俺のいとこにあたるらしい」
さらっと新情報を混ぜる。前回と違うことを言っている気がするが、よく考えると兄妹がいるのに全くそれを話題に出さないというのもおかしいので赤待ケイのいとこに設定した。いとこならいてもいなくても変わらないよな?
画面の中では俺の
「リアルの話はあまりしたくないのだが、赤待ケイは諸事情によりしばらく配信をお休みすることになった」
家庭の事情、でもないしうまく説明できない。
「病気やケガではないのでそこについては安心してくれ。ただいつ戻ってくるのかは未定だ。そのうち復帰する予定はあるようなので、気長に待ってもらえると嬉しい」
戻れるなら戻りたいのは本当。せっかくたくさんのファンに見てもらっているし。見た目が変わっても中身が変わらない俺を見てくれるっていうのが一番いいんだけど、どうだろう。
「それで、だ。俺はケイからこのチャンネルの保守を任された。保守っていうのは維持していくってことだな」
ちょっと無理がある設定のような気がするが、本当にどうしようもなくなったら誰かに引き継ぐということはあると思う。俺はね。
「乗っ取りを企画しているわけではないので、俺はケイが行っていたことと似たようなことはするが、ケイがやっていた企画自体は引き継がない。それは戻って来た時にやってもらうことにする。具体例を挙げると、『歌ってみた』や新しいゲームの実況はするが、ケイがやっていた途中のゲームはやらない、ということだ」
単純に二度手間だしね。
「あともう一つ。赤待牡丹専用の質問箱を開設したから、今後私に関することはこちらへ投稿してくれると有り難い。それでは、今後ともこの『赤待電脳放送局』をよろしく頼む。それではみんな、また次の放送で会おう。See you soon.」
こんな感じでどうだろうか。
後は、話信じてもらえるかな……。知り合いに連絡を入れておこう。
「もしもし――■■■?」
目次 感想へのリンク しおりを挟む