腐り目騎士の英雄譚 (アルビノ)
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入学編
腐眼は再び日本に降り立つ
ここはとある国の山奥。そこに一人の青年がいた。その青年の住む家の周りには武器を持った人間が無数に存在していた。
「お前がここにいるのはわかっているんだよ
ったくなんだよこんな時間に。まだ早朝だろうが。
「はぁ。襲うなら襲うでもっと時間を考えてほしいものだな。それはともかく一瞬で終わらすかな」
そう言って家の外に移動すると手に刀を具現化して足元に突き刺す。すると刀から影が伸び、手の形に変わってて伐刀者に向かっていった。刀から伸びた影が伐刀者たちの体に巻き付き首を締めるとこの場にいた伐刀者の意識を奪う。
「さてと、戻るかな」
家に戻ろうとしたとき、手元の携帯がバイブ音を鳴らす。
はあ、今度はなんなんだよ。襲撃者のせいで眠いんだけど。
「もしもし」
「君が比企谷八幡だな」
誰だ?この声どこかで聞いたことのある声だな。どこかで会ったか?
「そうだがあんたは?」
「名前くらいはきいたことあるとは思うが神宮寺黒乃だ」
神宮寺黒乃か、確かに聞いたことあるな。確か元覇軍学園のOGで元KOK世界ランキング3位だったか。そいつが俺に電話でいったいなんの用だ?
「その神宮寺さんが俺になんの用だ?」
「君には覇軍学園に入学するヴァーミリオン皇国の皇女の学園までの護衛をお願いしたい」
そういえばヴァーミリオン皇国の皇女が日本に留学するって記事があったな。
「なんで覇軍学園の名前がでてくるんだよ」
「なに、今年から覇軍学園の理事長になったからな」
理事長変わったのか。まあ前理事長がいなくなったのなら戻っても問題ないか?まあ、今はそんなことよりも俺の携帯番号を誰から聞いたのかを問い詰めるのが先か。
「・・・それで誰から聞いたんですか、俺の携帯の電話番号」
「なに、黒鉄から聞いたさ。快く教えてくれたぞ」
俺の個人情報保護はどうなってんだよ。
「はあ・・・わかりました。それで皇女はいつ来日するんですか」
「来日するのは3日後だ。10時に到着予定だからそれまでに来るようにしてくれ」
理事長はそれだけ告げると電話を切ってしまった。
「・・・ここからだと近くの空港まで4時間と近くの空港から羽田空港まで14時間、羽田から成田まで1時間の計19時間か。面倒だが依頼は依頼だし行くしかないか」
そう呟くと再び目を閉じるのだった。
そして二日後の朝。八幡は昨日の夜まで向こうに行く準備をして、当日は午前11時に起きていた。そして皇女が来日する空港に向けて出発した。
俺が今住んでいる山奥から空港まではおよそ4時間で、近くの空港から皇女が来日する羽田空港までは15時間かかる。そして俺はその長い距離を移動して近くの空港に来ると忘れ物がないかのチェックをする。
覇軍学園の制服は着てるし、着替えもしっかり鞄に入れた。デバイスも持ってるし俺のチャームポイントのアホ毛も整えてある。これなら準備は万端、よし行くか。
八幡はキャリーバックを持って空港の中に入る。空港の中はたくさんの人で溢れ返っているが、日本の空港に比べると人混みは少ないし、本当に日本はごった返していたんだなと思った。こうして八幡は一年間過ごしたこの地を離れて日本に向かうのだった。
飛行機に乗って日本へ向かうこと14時間。ついに日本にある国際空港の一つ、成田空港に到着した。時刻は午前時8時で既に太陽は昇っていて温かな日差しが降り注いでいる。
やっぱりスイスとは違って日本は湿度高いし、暑いな。また今日からこの強い日差しを浴びながら生活するんだな。学生とはいえ皇女の護衛だからな。働きたくなんてなかったがそんなことは言ってられないか。万が一があったら外交問題になるだろうし。
飛行機の中では日本とスイスの時差に対応するために眠っていたため、眠気はとうにない。八幡は夕飯を食べずに熟睡していたため腹が減っていた。空港近くの喫茶店に寄って朝食をとるとタクシーを呼び、タクシーで羽田空港に向かった。
タクシーで移動すること約1時間、羽田空港に到着すると理事長との待ち合わせ場所である空港のロビーにやって来た。
理事長は来るの早いな。あの感じだと1時間くらい前からいそうだな。それにしても俺が来たことに気づいていないみたいだな。よし、ここは一発驚かせるか。
「こんなところで奇遇ですねクロノ。待ち合わせですか?」
俺がとある犯罪者の声を真似して理事長に声をかけるとものすごい勢いでこちらを振り返り一瞬で5メートルほど距離を取った。
「なんだ比企谷か、驚かせるな。本当に心臓に悪い」
おお。さすが元世界ランキング3位だな。すぐに反応して距離を取るとはな。
「いや、俺が来たのに気づいていないみたいだったのでつい」
「ついであんなことするなよ。本当に焦ったんだからな」
確かにあの焦り方は尋常じゃないくらい面白かったぞ。そんなに似てたか?
「それにしても声をかけられるまで私に気配を気付かせなかったことといい、本当に恐ろしいな。これならあの皇女の護衛は安泰そうだ」
「まあ、そうですね。よっぽどのことがない限り皇女に近づけさせない自信はありますね」
「それは頼もしい。スイスで傭兵として突如名を挙げただけあるな腐眼」
「その呼び方は止めてくださいよ理事長。あんなダサい2つ名恥ずかしすぎるんで」
「そうか?私はいいと思うんだが」
あんなん俺みたいな黒歴史製造器には到底耐えられねぇよ。
「さて、そろそろ時間だ。皇女が降りてくるから不敬のないようにな」
理事長がそう言うとヴァーミリオン皇国が所有するプライベートジェットが着陸する。そしてプライベートジェットの扉が開き皇女が降りてきた。
こうしてついにヴァーミリオン皇国の皇女が日本の地に降り立ったのだった。
ヒロインを募集します。詳しくは活動報告にて!
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覇軍学園到着
プライベートジェットから降りてきたのは赤い髪をツーサイドアップにした少女だった。その少女が地面に降り立ち、こちらに向かって歩いてきたため、こちらに近づいてきたところを見計らって理事長が少女に声をかけた。
「初めましてだな。私は神宮寺黒乃、覇軍学園の理事長をしている」
「お出迎えいただきありがとうございます理事長先生」
少女は理事長の声に反応して挨拶を返す。少女の目には理事長しか映っていないようで八幡の方には目を向けない。
俺のこと気づいてないじゃねーか。理事長といい皇女といい俺がここにいることに気づかないとか駄目だろ。戦場だったら死んでるぞ。それにしてもAランクが二人も気づかないとか俺の存在感なさすぎだろ。
「さて、本来ならゆっくり話しながら学園に向かうところだが記者がたくさん集まってきているからすぐに学園に向かうぞ。比企谷、すまないが皇女の護衛を頼む」
「わかりました、理事長」
理事長の呼び掛けに答えると肩をビクッとさせてこちらを向いた。
「キャアッ!いつからいたのよ、ビックリするじゃないっ」
「やはり比企谷は存在感薄いな。少し離れていたとはいえ私と同じように声をかけられるまで気が付かないとは」
「理事長先生!他に人がいるなら教えてくださいよ!」
あの人絶対面白がってただろ。それにしても日本語自体は割ときれいにしゃべれてるけど敬語を使うと違和感がすごいな。まあ、皇女だし向こうでは敬語を使う機会がこっちよりも少ないから違和感があるのは仕方ないか。
「皇女の護衛を連れてきているっていう話はしてあっただろう?」
「確かにしてありましたが隠しておく必要はなかったと思いますけどっ」
「いや、比企谷がいるのに気づかないのが面白くてついな」
理事長は悪びれることもなく笑う。
やっぱ面白がってるじゃねーか。こりゃ学校についてからもひとつあるな。
「さて話しもこれくらいにして本当に向かうか」
こうして俺と理事長、そして皇女の三人は記者の質問攻めを掻い潜りながら空港の外に停めてある黒の高級車に乗り込んだ。
そして約1時間後に覇軍学園に到着した。
「さて、着いたぞ。ここがヴァーミリオンが通う覇軍学園だ」
こうして俺とヴァーミリオンは理事長の覇軍学園についての説明を聞きながら歩いて理事長室へ向かうのだった。
「という訳で今年から七星剣武祭は他の学園と同様選抜戦を行うことになった。向こうではこのような真剣勝負はできなかっただろうから楽しむといい」
前の学園長はランクで代表を決めるとか言ってたがとうとう実力で代表を決めることになったか。前の学園長はなにを考えてたのか知らんがランクで代表を決めてたらしいしな。ランクなんて強さの基準になるってだけなのにランクにこだわるから勝てないんだろ。
そして歩くこと15分。俺たちは理事長室へとやってきた。俺は去年に入学したから持っているが、デバイスを取りに来たのだ。
「さて今日からヴァーミリオンも覇軍学園の生徒だ。よってヴァーミリオンにはデバイスを用意した。このデバイスは連絡は勿論のこと他の教室や修練場、選抜戦や決闘の時に使うスタジアムに入るときに必ず必要になる。だから絶対になくすなよ?それと私のデバイスの番号を入れておいたから緊急時には連絡を入れるといい」
理事長はデバイスに連絡先を入れるとヴァーミリオンに渡す。
「さて、明日は入学式と始業式が同時に行われるから部屋に戻ってゆっくりと休むがいい。比企谷も始業式には出ろよ?」
「わかってますよ、それくらいは。じゃあ戻りますね」
俺とヴァーミリオンは理事長室から出るとそれぞれの部屋に向かったのだった。
そして八幡は理事長先生に言われた部屋に向かっていた。その部屋は今まで一人の生徒だけが住んでいた部屋だったが、理事長が変わり部屋割りが実力の近いもの同士を組ませることになったためその部屋には一年間学校外にいて部屋を使っていなかった八幡が入ることになった。
部屋は黒鉄の隣か。あいつこんなところに住んでいたのか。ていうか寮まで遠いところに1人で住ませるとかよほど黒鉄を孤立させたいらしいな。
・・・よし、入るか。
八幡は部屋の扉を開けて中に入った。
「どなたですか?」
「・・・東堂先輩」
部屋の中には1人の女子生徒がいた。
「君に会うのは初めてですね。私は生徒会長の東堂刀華と申します」
「あっえっと。ひきぎゃや・・・んんっ、比企谷八幡です」
はい、噛んだ。自己紹介の度に噛んでるが本当治らんかなこの癖。
「ふふっ、これから一年間よろしくお願いしますね比企谷くん」
噛んだ恥ずかしさに心の中で叫んでいると東堂先輩がそういえばとこちらの目を見た。
今日が初対面なのに俺の目を見ても何も言ってこないし悪感情も全く感じられないな。そういえばヴァーミリオンも俺の声が突然聞こえたことに驚いていただけで悪感情を感じなかったし、実力者は見た目で人を判断しないんだな。そのことを知れたのは大きいぞこれは。
「あの、八幡くんって強いですよね?雰囲気は強そうに感じないんですが、視線とか立ち方が普通の伐刀者とは明らかに違います」
生徒会長が学園の序列一位なのは入学当時から知っていたがやっぱり学園の序列一位なら気づくか。
「さすが生徒会長ですね。雰囲気が強く感じないのは能力の影響だから仕方ないとしても視線とか立ち方で気づかれるとは」
「雰囲気とかランクで実力を計るのは愚の骨頂ですから」
その言葉、前の理事長とか他の生徒に聞かせたいわ。
「明日は入学式で新学期も始まりますので一旦失礼しますね」
そう言うと生徒会長は部屋を出ていった。
そういえば生徒会長がここにいたってことは生徒会長がルームメイトか。男女を一つ屋根の下にするとか何かあったらどうするんだよ。俺には手を出す勇気なんてないから別にいいんだが。
自分たち以外の男女でルームメイトになっている部屋のことを考えていると隣の部屋で悲鳴が上がった。
あそこって黒鉄の部屋だったよな。女の声だったしこれは予想が的中したな・・・はぁ。
八幡はため息を一つすると隣の部屋に向かったのだった。
あの後一輝の部屋だったはずの部屋に行くとそこは下着姿の皇女と上半身を露にした一輝がいるというカオスな状況であった。
この作品は1話につき、2000から3000文字で投稿することにしますのでよろしくお願いします。
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ステラ・ヴァーミリオン
「・・・はぁ。アホだろお前」
一輝の口から聞いた説明に理事長は呟いた。なんでもステラが部屋の中で着替えていることを知らずに入ってきた一輝がステラの下着姿を見てしまい、汚名を返上しようとして服を脱いだということらしい。
本当アホだろ。テンパったからってキャストオフするかよ普通。
「あの時は紳士的なアイデアだと思ったんですけどね」
「それ、紳士は紳士でも変態紳士だろ」
本当にどうするんだよこれ。下手したら外交問題になるぞ。
「とにかく黒鉄にはヴァーミリオンを怖がらせた責任を取ってもらうことになるのは確定だ。今回の件は下手したら外交問題になるレベルだからな」
ヴァーミリオンの親父は親バカだからな。向こうにこのことがバレたら絶対外交問題になるな。
「理事長先生と黒鉄、来たみたいだぞ」
八幡の言葉通り扉にノックがされる。理事長が入室を促すとステラが入ってきた。
ステラが理事長室の中に足を踏み入れた後、扉が閉まったのを確認してから一輝は謝罪の言葉を口にして頭を下げた。
「あれは不幸な事故で下着姿を見るつもりはなかったんだ。だけど怖がらせてしまったのは事実だから謝らせて欲しい。ごめん」
一輝からしてみれば、ただ自分の部屋に戻ってきただけなのに、なぜか自分の部屋に下着姿のヴァーミリオンがいるのだ。一輝に非がないのはステラ以外の者は既にわかっているのだ。そして泣いたであろう腫らした目を向けて雰囲気を少し和らげる。
「・・・そう、潔いのね。なら、その潔さに免じてハラキリで許してあげる」
許してはいなかった。なぜハラキリという言葉を知っているのかはさておき、一輝の刑は切腹だった。
「ちょっと待ってよ。譲歩した結果そうなったんだろうけどいくらなんでも命まではかけられないよ」
「そんなこと言われても切腹っていったら切腹よ。それともなに?国際問題にされた上で市中引き回しの末の国民全員によって石打ちにされる方がいいの?それならそっちにするわよ」
国際問題になっても黒鉄はおしまいだな。黒鉄家は黒鉄のことをFランクの恥さらしって思ってるだろうしこれ幸いと黒鉄のことを切り捨てるだろうな。
「どっちも嫌だよ!確かに僕が下着姿を見たのが悪いけどたかがそんなことでハラキリとか・・・あ」
やらかしたな黒鉄のやつ。
「たかがですって!?アタシの下着姿をたかがで済ませるなんて無礼にもほどがあるわよ!もう怒ったわ、あんたみたいな変態、痴漢、無礼のスリーアウト平民はアタシ自ら焼いてあげるわよっ!」
ステラの周囲に炎が出てくる。
「アタシの裸、いやらしい目で見たくせに・・・なめるように見たくせにっ!」
「確かに見たけどあれは」
魔力だけで異能を発現させたか。さすが今年の首席にして平均の約30倍の魔力量の持ち主だな。ってそんなこと言ってる場合じゃねぇな、ヴァーミリオンが能力使ったらここら一体が吹き飛ぶだろうしここは止めるか。
八幡がステラを止めようとしたそのときだった。
「あまりにもステラさんがきれいだから見とれちゃったんだっ!」
「ふぇ!?」
突然一輝が暴露しだすとステラが声をあげた。そしていつの間にかステラの感情を示すように炎は消えていた。
「未婚の女性にきれいとかこれだから平民は・・・」
呟きながらステラがあたふたとしている。
なんでこんなタイミングでラブコメができるんだよ。まあ、とにかくヴァーミリオンも落ち着いてきたしこれなら俺が動く必要はなさそうだな。よし、これでさっきからずっと疑問に思っていたことを言えるな。
「なあ、ヴァーミリオン。アンタが着替えていた部屋な、あそこ黒鉄の部屋なんだが」
「はあ?そんなわけないでしょ!?理事長先生からここがお前の部屋だって鍵渡されたんですけど!?」
あ、これなんか理事長企んでいたな。まさかとは思うが・・・
「そういえば言い忘れていたが黒鉄とヴァーミリオンは同じ部屋だ。所謂ルームメイトだ」
「はあ!?」
やっぱりか。俺と東堂先輩がルームメイトで黒鉄の部屋にヴァーミリオンがいた時点でなんとなくそんな気がしてたんだよな。
「だからルームメイトだ。私が理事長に就任してから実力主義に変わったのは知っているな?だから実力の近い者同士でルームメイトを再編した。互いに切磋琢磨するようにな」
「ちょっと待ってくださいよ理事長。なぜ落第生の僕と主席のステラさんがルームメイトなんですか!?」
黒鉄のその疑問はもっともだ。ただし実力で決めているならこの判断も妥当なものだと思う。
黒鉄は半分ランク詐欺みたいなもんだしな。
「えっ、アンタ落第生なの!?」
「うん。最低ランクのFランクだし、使える異能も身体能力強化だけだし。しかも魔力量なんて平均の10分の1だし」
身体能力強化の上がり幅10倍以上あるけどな。
「そして他の能力値も最低レベルでついたあだ名は
小さく一言付け加えるがステラには聞こえていなかった。
「そしてそれこそが質問の答えだ。黒鉄ほど劣った者はいない、ヴァーミリオンほど優れた者もまたしかりだ」
「それって余りものってことだろ」
数少ないAランクのヴァーミリオンとまた数少ないFランクの黒鉄。二人がルームメイトになるのは当然の帰結というわけだ。
「確かに比企谷の言う通りだな」
「間違いが起こったらどうするんですか!?」
「君達の他にも男女でルームメイトになったやつはいるんだ、嫌なら退学してくれて結構。それともどんな間違いが起こるのかなぁ」
性格悪いなこの人。
「・・・わかりました。ただし話しかけないこと、目を開けないこと、息をしないこと、この3つを守れるなら部屋の前で生活してもいいわ」
「その一輝君死んでるよね!?」
「しかも追い出されてるしな」
「なによ、できないの?」
「できないよ、せめて息はさせて!?」
部屋の前で生活するのはいいのかよ。
「嫌よ!アタシの匂いを嗅ぐつもりでしょこの変態っ!」
「じゃあ、口呼吸するから!」
「駄目よ、アタシの吐いた息を舌で味わうつもりでしょこの変態っ!」
「その発想はなかったっ」
その発想が出てくるヴァーミリオンの方が変態じゃね?
「嫌なら退学しなさいよ!」
「そんな滅茶苦茶なっ」
「落ち着け二人とも。己の運命は剣で切り開くのが騎士道、だろ?」
なにげにかっこいいこと言うな理事長。
「実力で話をつけろってことですか?」
言い合いをやめて一輝が尋ねる。
「ああ。模擬戦をやって勝った方が部屋のルールを決めることができるって寸法だ」
「それは公平でいいですね。そうしようよステラさん」
「アンタはFランクで私はAランク。FランクがAランクに勝てるわけが」
「ちょっと待てヴァーミリオン。受けてやったらどうだ?お前は強くなるために日本に来たんだろ。誰が相手だったとしてもどこかに必ず得られるものはある。必要のない戦いなんてものは存在しないと思うんだが」
「それに勝負はやってみないとわからないし、僕もそれなりに努力してるから」
「・・・私が努力してないみたいじゃない」
ヴァーミリオンのやつ、私が努力してないみたいとか考えていそうだな。
「・・・いいわ。やってやるわよその試合。それなら賭けるのはルールなんてものじゃないわよ。負けた方は勝った方に一生服従、どんな屈辱的な命令にも犬のように従う下僕になるのよっ!いいわね!?」
これは大きく出たな。しかも最初から勝った気でいるとはな。
「は、はい・・・」
「決まったな。これより1時間後、模擬戦を行う」
こうして黒鉄一輝対ステラ・ヴァーミリオンの模擬戦が決まったのだった。
次回はとうとう模擬戦です。果たしてどちらが勝つのか!?
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落第騎士VS紅蓮の皇女 ①
「さて、比企谷。お前から見てヴァーミリオンはどのように見える?」
一輝とヴァーミリオンが出ていった後、理事長室に残った八幡は理事長にこんな質問をされた。
「初めて見たときこれはAランクで間違いないって思いましたね。体から感じる魔力の質とか平均の30倍の魔力量とかがまさに天才騎士って感じでした。だけど少し宝の持ち腐れだと思います」
「ほう。それはどういったところがだ?比企谷」
理事長先生はおそらく宝の持ち腐れに近い状態であることはすぐに把握しているはずなのだがなぜか八幡に質問を返す。
「自分と同レベルか自分以上の実力者との実戦経験が足りないところですね。ヴァーミリオンはAランクの天才騎士と言われていてそれにふさわしい実力を持っています。そのため皇国の同年代では恐らく敵なしだったでしょう。そのため自分と互角以上の相手との実戦経験が圧倒的に足りないことが宝の持ち腐れって感じですね」
AランクやBランクは生まれながらにして強者の側の魔導騎士で、他のランクの魔導騎士を正面から打ち破ることのできる存在だった。そのため、八幡も当時はBランクで自分の中では一定以上の実力を持っていると思っていた。しかし、スイスで傭兵として活動していくうちに自分の見ていた世界がどれだけ狭いものだったのかに気づいたのだ。ステラも恐らくは当時の八幡と同じ状態になっているであろうことは経験から推測できていた。
「となると比企谷は今回の黒鉄とヴァーミリオンの決闘は黒鉄が勝つと考えているのだな?」
「そうですね。今回は間違いなく黒鉄が勝ちますよ、ヴァーミリオンは確かにランクが高いですけど自分より格上の相手との戦闘経験が少ない。それに対して黒鉄はランクが低いためほとんどが格上。なので実力が近く格上との戦闘経験が多い黒鉄が勝つのが当たり前ですね」
「そうか。それなら答え合わせにいくか。そろそろ二人の決闘が始まるからな」
そう言って八幡と理事長は部屋を出て闘技場へ向かうのだった。
理事長室を出て一人で観客席に向かった八幡は闘技場の観客席に到着した。観客席にはどこから噂を聞きつけたのか学園の生徒がちらほらとやってきていた。
「皇女殿下と黒鉄くんの模擬戦の話題で持ちきりですね」
八幡が座る場所を探していると少し離れたところから生徒会長の東堂刀華がやってきて八幡に話しかけてきた。
「今話題のヴァーミリオンと
八幡の言葉通り二人の周囲からはヴァーミリオンのことがたくさん聞こえてくる。
やはりどの生徒もヴァーミリオンのことが気になっていたようだな。ヴァーミリオンは歴代最高成績で入学してきたAランク騎士だし気になるのは仕方ないか。
八幡と刀華が二人で話している間に一輝とステラ・ヴァーミリオンはステージに上がって向かい合っていた。
「噂は聞いたわ。アンタ、能力値が足りなくて実戦の授業を受けることすらできなかったそうね。魔導騎士を諦めた方が身のためなんじゃないの」
それは言えてるかもしれんな。黒鉄の顔とか性格からして魔導騎士以外でいくらでも大成できるだろうし。
「そうかもしれないね。けど、この試合をやめる気はないよ」
「努力すれば才能にも打ち勝てるって言いたがる口かしら。あなたも」
才能。それは誰しもが生まれたときから持っている人と人の優劣を決めるファクターだ。魔導騎士が持つ魔力は生まれ持った運命の重さによって決まり、不変に変わることのない才能のひとつとされている。一輝のランクは最低ランクのFで魔導騎士の才能はない。しかし一輝は才能を理由に魔導騎士を諦めようとはしなかった。逆に努力で才能の差を埋めようとしていた。
「そうありたいとは思っているよ」
この言葉に今までしてきた努力と、努力で才能を上回ろうという信念が透けて見えた。
「まるでこっちが努力してないみたいに」
目の前の一輝に聞こえないほどの小声で呟く。
「え?」
「なんでもないわ。さあ、始めましょう理事長先生」
一輝が呟きに反応するがヴァーミリオンは無視して理事長に試合開始の合図をお願いした。
「それではこれより模擬戦を始める。わかっているだろうが模擬戦は肉体的ダメージを与えず、体力のみを削り合う戦いだ。そのためデバイスは幻想形態で展開すること」
理事長が模擬戦の準備を始めるように言うと一輝とステラはそれぞれ自身の固有霊装を展開する。
「来てくれ、陰鉄」
「
一輝は黒色の刀を、ステラは赤い長剣をそれぞれ具現化する。固有霊装は伐刀者の魂を具現化した装備で、様々な形をしている。そして固有霊装には実像形態と幻想形態があり、今回は幻想形態で具現化されていた。
『Let′s Go Ahead』
互いに武器を具現化したのを確認されてから電子音が試合開始を告げる。こうして一輝とステラ・ヴァーミリオンの模擬戦が始まったのだった。
3話目は試合開始前のお話でしたので短めとなりましたが、次の話ではしっかりバトルをやるので文字数がいつもより多くなると思います。バトルを楽しみにされている方は是非見てくださいね。
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落第騎士VS紅蓮の皇女②
『Let′s Go Ahead』
電子音が試合開始を告げると同時に動き出したのはステラ・ヴァーミリオン。剣から炎を出して纏わせると一輝に斬りかかる。一輝はそれを剣で受けようとするが途中で受け止めるのを止めて回避する。
「いい判断ね。アタシの
炎を噴出する剣で果敢に攻めるが一輝の防御を中々破ることができない。
「あーあ」
「やっぱりねー」
二人の攻防をみている観客のほとんどは一輝が攻め込まれていると思い込み予想通りの展開になったと納得の声を上げているが、一部の実力者たちはFランクがAランクの攻撃を防ぎ続けていることに違和感を覚えていた。
「黒鉄のやつ、ヴァーミリオンの攻撃を受け流してるな」
その一部の実力者の中の一人である八幡は違和感はおろか、一輝の行っていることを理解していた。
ステラの攻撃の一つ一つが高ランク者であってもおいそれと受けてはならないものであることは一回目の攻撃で吹き飛んだ瓦礫を見れば一目瞭然だ。しかし、そのステラの攻撃を下半身を使って攻撃の威力を外に完全に受け流しているのを見た八幡は一輝の体術のレベルがとても高い水準にあることを理解した。
「そうですね。皇女殿下の実力を見るつもりで来ましたが、面白いものも見れたので来た意味がありました」
八幡の呟きに隣に座る東堂が反応する。八幡の呟きに反応した東堂だったがその目は目の前の戦いをしっかり観察していた。八幡も東堂から視線を外すと一輝とヴァーミリオンに視線を戻したまま近くにいる人に話しかける。
「ところでいつの間にここに来ていたんですか?理事長と夜叉姫さん」
「ありゃりゃ、気付かれちゃったねぇ。これでも気配を完全に消していたつもりだったんだけど」
「完全に消しているからこそわかったんですよ。ある場所だけ全く気配を感じられなかったらそこに誰かいるって言っているも同然ですよ」
「へぇ、そうなんだ」
夜叉姫と呼ばれる少女・・・否、女性は感心したように目を細める。
「おいおい二人とも。ここでバチバチするなよ」
魔力こそ放出しないものの二人の間に火花が散っていたため、仕方なく理事長が二人を宥める。
「それにしても八坊もしばらく見ない間に急激に力が増したねぇ。これほどまでになれば七星剣武祭優勝も余裕じゃないかい?」
「余裕ではありませんよ。噂によるとあの風の剣帝が参戦してくるみたいですし、他にもうちの学園からは雷切、他の学園からも爆炎の女帝や現七星剣王もくると思いますので激戦は必至です」
八幡が挙げた名はいずれも学生騎士としてトップクラスの実力を持つものたちで、中でも風の剣帝は日本の学生騎士として二人しかいないAランクの一人だ。その名を挙げても負けるとは言っていないあたり勝つ自信がないというわけではないようだ。
「話はこのくらいにしてそろそろ状況が動くようですよ」
八幡が闘技場に視線を移すと理事長と夜叉姫も闘技場を見る。
(なに、これ?)
一輝に連撃を加えながらステラは内心で首をひねる。ステラが使う皇室剣技は相手に反撃の隙を与えず一方的に攻撃し続ける技で、ステラの力も相まってこの剣技は圧倒的威力となって相手に回避を許さず押し潰すはずなのだ。にもかかわらず目の前の男は潰されることなくステラの攻撃を防ぎ続けている。
(まさかアタシの剣を受け流してるっていうの!?)
そして、一輝が自身の攻撃を受け流していることに気付いたステラは一旦一輝を弾き飛ばして距離を取る。
「逃げるのだけは上手いじゃないの」
「いや、ギリギリさ。ステラさんが磨きあげてきた剣術。感じるよ、才能だけじゃない、すごい努力だ」
一輝がステラから感じられる努力した跡を褒めるとステラは軽く驚くが、それを表には出さずに剣を相手に向けた。
「なかなか目がいいのね。でも、あんたに見切れるほどアタシの剣はお安くないわよ!」
「いや、もう見切ったっ」
その言葉と同時に攻守が入れ替わり、一輝が先に動き出す。
一輝はステラに接近し唐竹割りで攻撃を仕掛ける。その攻撃はさきほど使われたステラの攻撃と同じような軌道をしていた。
「アタシの剣、どうしてあんたがそれを?」
ステラは攻撃を防ぐと後ろへ飛んで間合いを開ける。
「まさか、この試合中に盗んだっていうの!?」
構えを一旦解くと信じられないかのように叫ぶ。実際斬り結びはじめてから数分でステラの剣を盗んだのだ、信じられないのも無理はない。
「僕は昔から誰にも教えてもらえなかったから、こういうことばかり上手くなっちゃってねっ」
一輝は自身の霊装を見ながらステラに言うと再び接近し攻撃を仕掛ける。ステラはなんとか一輝の猛攻をしのぎ続けるがこれでは完全に黒鉄のペースだ。
なるほどな。こりゃ剣を使う者からしてみればこれほど嫌な相手はいないな。今まで長い時間をかけて築いてきた技をたった数分で盗んだ挙げ句、弱点を克服した技に昇華させてしまうんだからな。
そして一輝がステラから盗んだ剣技を上から振り下ろすとステラは防御を止めて後ろへ回避した。
「これが僕の剣術、
(見切ったですって?ならフェイントで!)
ステラは攻撃するフリをして攻撃を誘うと一輝の攻撃をしゃがんで避け、横薙ぎを放つ。
「太刀筋が寝ぼけているよ」
しかしその攻撃は一輝の刀の柄によって止められた。
「なっ!?」
「そんなのは君の剣じゃない。この曲げた一撃は致命的だっ」
柄で受け止めた攻撃を弾いて体勢を崩させると刀を上から振り下ろした。
次で模擬戦が決着!
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落第騎士VS紅蓮の皇女③
一輝の放った攻撃がステラの左肩を襲う。ステラは反応できず左肩に直撃する。そのはずだった。
「やはりこうなったか」
「どういうことですか比企谷くん」
八幡の声に東堂刀華が聞き返す。
「あれを見てみろ」
刀華は八幡が指差したところを見る。刀華が見たのはステラに直撃する寸前で止まっている刀だった。
「あれはまさか・・・」
「そうだ。ステラが常時身に纏っている魔力だ」
一輝の刀が直撃する寸前で止まっているのはステラが常時身に纏っている魔力が一輝の攻撃を受け止めたからだ。
伐刀者は誰もが無意識に魔力を纏っていて、魔力量が多ければ多いほど纏っている魔力の量は増える。そして纏っている魔力は障壁の役割も果たし、一定以下のダメージを受けなくするのだ。一輝の魔力量が平均の10分の1なのに対し、ステラの魔力量は平均の30倍で二人の間には300倍の魔力差があった。そのため黒鉄の攻撃はステラの魔力防御を破ることができなかったのだ。
「カッコ悪いわね、こんな勝ち方」
「陰鉄が君を傷つけられないとわかっていたんだね。その上で剣撃を挑んだ」
それも一つの戦い方だぞ黒鉄。これを卑怯だというなら魔導騎士は名乗れないからな。
「ええ。剣であなたに勝って私が才能だけの人間じゃないって思い知らせるためにね」
わかる人にはわかるだろ、才能だけじゃないことくらい。わからんやつは才能でしかものを見てないやつだけだ。
「でも認めてあげるわ。この一戦、アタシが勝てたのは確かに魔力の才能のおかげだって。だから最大の敬意を持って倒してあげる」
ステラは既に勝ったつもりでいるが、一輝の方はまだ戦闘態勢を解いていない。そのためステラは魔力を集中させ始める。
「蒼天を穿て、煉獄の炎!」
ステラが魔力を集中させると地面から炎が吹き出し天井を突き破る。
「確かに、僕には魔導騎士の才能がない。だけど退けないんだ。今この場を降りるのは、僕を僕たらしめる誓いが許さない。だから考えた、最弱が最強に打ち勝つにはどうすればいいかを。そして至った!」
その炎を竜の形にすると一輝に向けて解き放った。
「焼き尽くせ、
「一刀修羅!」
一輝が刀を構えると炎の竜が黒鉄を飲み込んだ。
ステラは炎の竜が一輝を飲み込むのを確認する。
(今の、なに?)
しかし攻撃を当てた感じが全くなかったため咄嗟に後ろを振り向く。そこには無傷の一輝がいた。一瞬で背後を取られたことに驚きつつもすぐに冷静さを取り戻す。
「速くなってる?それに魔力も上がって!?」
「上がったんじゃない、なりふり構わず全力で使っているんだっ!」
「だからって!」
ステラは一輝に向けて炎の竜を放つが避けられてしまう。
「バカなっ!」
ステラは一輝に向けて炎を放ち続けるがその攻撃は一切一輝に当たらない。
「比企谷くん、なぜ黒鉄くんの魔力量が上がっているのでしょう?」
「上がっている訳ではないですよあれは。黒鉄は人が持つリミッターを自分の意思で外すことで元々持っている身体能力と魔力量を引き出しているようですね」
「脳のリミッターは誰もが持っているので外すこと自体はできると思いますが、外せるからといって実際にやるかって言われたら普通の伐刀者ならしませんね。ただ黒鉄はFランクでありながら強くなることに余念がないので、格上と渡り合うためならどんなことでもやってしまうでしょうね」
魔力が上がったように見えた理由を説明している間に一輝とステラの戦いはほとんど終わっていた。
「僕の最強を以て君の最強を打ち破る!」
一輝の渾身の攻撃が今度こそステラの魔力防御を斬り裂く。そしてステラは幻想形態での攻撃を受けた際に発生する精神ダメージによって意識が消失した。
「凡人が天才に勝つには、修羅になるしかないんだ」
一輝は纏っていた魔力を解除すると床に大の字になって倒れ息を吐く。
「そこまで!勝者、黒鉄一輝!」
この場にいた全員が目撃することとなった。低ランクが高ランクを破ったという快挙を、そして全員が認識した。凡人でも努力をすれば天才に勝つことができるという事実を。
やはり勝ったのは黒鉄だったか。ヴァーミリオンが黒鉄のことを頭の奥で侮っていたのと格上との戦闘経験が少なすぎたことが敗因だな。
「さて、今回は勝利したが、次からはヴァーミリオンも油断、慢心がなくなるだろうし厳しい戦いになるぞ、黒鉄」
八幡は誰にも聞こえない声で呟くと闘技場から姿を消したのだった。
一輝とステラの模擬戦が終わってから時間は経ち、時刻は夕方。ステラは既に気絶から覚めていて夕焼けに染まっている空を眺めていた。そこへ医務室の扉を開けて理事長が入ってくる。
「ヴァーミリオン、具合はどうだ?」
「久しく忘れてました。負けるってこういう気分なんですね。あいつは?」
「1分で全てを使いきる1日1回限りの大技、そんな代物を使ったんだ。お前よりずっと消耗している。まあ、命に別状はないさ」
「理事長先生、一体なんなんですか?」
模擬戦中から思っていたことをここで質問をしてみた。
「なに・・・とは?」
「とぼけないでください!あれほどの男がFランクなんておかしいわ」
真剣な眼差しを向けるステラを見ると理事長は説明を始めた。
「ランクとは伐刀者としての能力を評価するものだ。実戦力・・・つまり剣術や体術は評価項目に存在しない。現状、黒鉄を評価できるシステム自体が存在しないんだよ」
「でも、落第なんて・・・」
「はあ・・・色々と複雑な事情があってね」
その事情とやらを思い返したのだろう。理事長は自分の髪を触りながらため息を吐く。
「いや、単純にして古典的な事情と言うべきか」
そして理事長は部屋の窓から外に視線を向ける。
「ただ言えるのは、何度もチャンスを不当に奪われながら、それでも自分を信じ、自分を高めることを止めなかった・・・あいつはそういう男だということだ」
そこで言葉を切るとステラの方を向く。
「ヴァーミリオン、今朝君に聞いたな。なぜ留学を望んだのかと」
理事長がステラに聞いたのは今朝、学校に向かう途中の車の中で質問したことだった。その時、ステラは理事長にこう答えていた。
『あの国にいると上を目指せなくなるからです。天才という枠の中に押し込められて』
そのことをしっかりと覚えている理事長は言葉を続ける。
「とりあえずこの一年、黒鉄の背中を全力で追いかけてみろ。それはきっと、お前の人生において無駄にはならないはずだ」
そういわれたステラは俯いて考えるのだった。
今回でアニメの第一話の内容は終了です。次の話からアニメの第2話に入っていきます。
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早朝の鍛練と入学式
一輝とステラの模擬戦が終わった次の日。八幡と一輝、そしてステラは早朝から鍛練を行っていた。普段は一輝一人で鍛練をしているのだが、昨日の模擬戦でなにかを感じ取ったのかステラが一輝の鍛練に参加したいと言い出したのだ。一輝から一緒にどうかと誘われた結果八幡も一輝の鍛練に参加することになった。
まず一輝とステラは一輝がいつもやっている20㎞のランニング、八幡は行きに25㎞のランニング、帰りに25㎞のダッシュの合計50㎞を魔力を放出したまま行っていた。一輝と八幡は毎日この鍛練を行っているため慣れているが、ステラはこれまでこのレベルの鍛練は行っていなかったようで二人が霊装を使った鍛練を始める頃に息が上がりながら戻ってきた。
「お疲れ様ステラさん」
「お疲れさん」
後から戻ってきたステラに声をかける二人。
「ステラよ」
一輝の他人行儀な呼び方を訂正するとステラは息を整える。
「じゃあステラあのさ、僕は習慣だから毎朝20㎞走ってるけど無理してついてこなくても」
「平気よ、これくらい」
「でもほら、体力を補う大きな魔力だって持ってるわけだし」
「完走したんだから別にいいでしょ!」
「本当に負けず嫌いなんだなステラは。はい」
一輝は自分が持っている水筒をステラに渡そうとした。
「え!?それって」
黒鉄のやつ、 自分が口つけたやつ渡すかよ普通。ヴァーミリオン困ってるじゃねーか。
「それ、黒鉄が口つけたやつだろ」
「あ、僕が口つけたやつなんて嫌だよね。ごめん」
八幡の指摘に気付き水筒を持っていた手を戻す。
「別に嫌だなんて言ってないでしょ。むしろ逆っていうか」
「えっ?」
ステラの呟きが聞こえなかった一輝は聞き返す。
「いいからそれ、寄越しなさい!」
ステラは自分の呟いた言葉が恥ずかしかったため一輝の手から水筒を奪って飲み始めた。そんなステラを一度見ると空を見上げる。
「それにしてもようやくだな」
「うん、そうだね」
一輝と八幡は去年のことを思い返す。一輝はとある事情でまともに授業すら受けさせてもらえなかったが、それでも今年に入って理事長が変わり完全な実力主義になったことでようやく一輝にもチャンスが回ってきたのだ。
そして八幡は学園のとある方針に嫌気がさしたため自分から覇軍学園から姿を消したのだが、理事長が変わったのと同時に復学し表舞台に立つことになったのだ。
こういった背景から一輝と八幡は互いに短い言葉を吐いたのだ。
「ん?なんだか嬉しそうね」
一輝と八幡の会話を聞いていたステラが不思議そうに聞いてくる。
「うん、今日妹が入学してくるんだ。会うのは四年ぶりでね」
黒鉄にも妹いたんだな。黒鉄は実家からいないように扱われてきたから黒鉄家に味方はいないと思っていたが黒鉄の声から察するにその妹とはうまくやれているみたいだな。
「へぇ・・・ねぇ、その妹さん血が繋がってないとかそういう設定じゃないでしょうね」
「いや、ごく普通の血縁兄弟だけど」
「なら、良し」
「・・・今、なにを許したの?」
妹って聞いてまず血が繋がってない設定が出てくるとかこいつ絶対日本語の勉強の教材漫画とかアニメだろ。それにしてもヴァーミリオンのやつ、多分黒鉄のこと好きだろこれ。チッ、リア充爆発しろっ。
心の中で毒を吐く八幡であった。
「新入生の皆さ~ん、入学おめでと~う。皆さんの担任の折木有里で~す」
そう言ったのは教卓の前に立つ目の下に隈のある女性だ。その後ろにあるプロジェクターにはその女性の顔が写り、クラッカーの音が鳴り響く。
「担任を持つのは初めてのピチピチの新米教師なの。ユリちゃんって呼んでね」
自身の自己紹介を終えると有里は話し始めた。
「・・・なんか疲れる先生ね」
「お偉いさんの話は長くてつまらんが、やっぱりあの人の喋り方は聞いてるこっちも疲れるな」
まあ、長くてつまらない話よりはだいぶマシだけどな。それにいい先生だっていうのもこの人の元で数ヵ月だけど学んできたことからも知ってるしな。
「あはは、まあね。でもいい先生だよ」
そう言って一輝は有里の方を見た。八幡とステラも遅れて有里の方を見る。
「みんな、入学式に理事長先生が言っていたことを覚えているよね?」
確か、昨年まで能力値で代表を選抜していたが、今年からは全校生徒参加の実戦選抜に変更され、上位6名が代表になるっていうことだったな。
この変更はおそらく、黒鉄が七星剣武祭の予選に参加できるようにするためのものだろうな。必ずしも黒鉄が七星剣武祭に出られるとは限らないがその資格がとれる可能性が出てくるから黒鉄にとってはこれ以上ないくらいの朗報だろうな。
「というわけで学内戦は来週から開始だよ~。試合の日程や相手は生徒手帳から送られて来るのでこまめにチェックすべし」
去年はすぐに学園から出ていったから知らなかったけど早いな、すぐ予選開始かよ。
「先生」
「ノンノン。ユリちゃんって呼んでくれないと返事してあげないぞ~」
うわぁ、うぜぇ。
「・・・ゆ、ユリちゃん」
「は~い、な~に?ステラちゃん」
ステラのユリちゃん呼びに満足した有里は返事を返す。
「全部で何試合くらいするんですか?」
「ん~、一人10試合くらいは軽くかかるかな?3日に一回は必ず試合があると思ってくれていいよ~」
3日に一回か。俺が向こうで傭兵やってた時は2日丸ごと戦闘が続いたこともあったし俺的にはかなり余裕だな。
「マジかよー」
「面倒くせぇー」
試合数の多さに生徒達は口々に不満を呟く。八幡はそんなに不満があるなら参加しなければいいだろって思う。そして八幡はチラッと一輝を見た。
(3日に一回・・・つまり一刀修羅も)
黒鉄やつ考えてるな。恐らく手札の確認でもしているんだと思うが、これだけ早い段階から考えてるってことは本気で代表狙っているんだな。
「やりたくない人は棄権しても大丈夫、成績に影響したりはしません。だけどね、誰にでも平等にチャンスがあるって、とっても素敵なことだと先生は思うよ。だから、是非頑張ってみて?」
最後に一輝をチラッと見て話を締めくくると雰囲気を元に戻す。
「じゃあみんな~、これから一年全力全開で頑張ろ~。はい、みんなで一緒に~エイエイオーぶはぁっ!」
テンション高く拳を突き上げる有里だったが突き上げたと同時に血を大量に吐いて倒れ込んだ。
「ゆ、ユリちゃん!?」
「あぁっ、やっぱり」
「おいおい。締まらねぇなぁ」
驚くステラ、そして有里を見てため息を吐く一輝と八幡であった。
頑張って次の話に進めますのでしばらくお待ち下さい。
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努力は才能の一つである
有里が血を吐いて倒れたことによって発生した騒ぎを収めた一輝はステラと二人で有里を抱えて運ぶと医務室のベッドに横たわらせた。八幡の能力の都合上向こうにいたときにこういった事故や事件の時にはとても重宝されていたため、一輝達の後をついて医務室に入った。
「実は先生、1日1リットルは吐血する体質でね」
有里はベッドに横たわりながら自分の体質について教える。
曰く、普段から患っていない病気が少ないほど病弱なのだとか。
「確かにほとんどの病気にかかってるな。折木先生よくこの状態で今まで生きてこられましたね」
「うん、体は弱いけど生命力は強いみたいでなんとか1日1リットルの吐血で済んでいるんだ」
確かに生命力が強いって言われればそうだなって思うけど、1日1リットルの吐血をなんでもないみたいに言うのは違うと思うんだが。
「・・・大変ですね」
「あんまり無理しちゃ駄目ですよ先生」
「うん、でもおめでたい日だし不健康な顔は似合わないかなって」
「僕がここに入学できたのは先生が認めてくれたからなんだ」
しんみりとした空気を変えようと話を変える一輝。
「あれは黒鉄くんの実力があってこそだよ。昨年は残念なことになったけど」
当時のことはよく覚えている。入学試験にFランクが来たって話が上がっていてどんなやつか見に来たのだが、そこで見たのが折木先生と黒鉄の試験での戦いだった。その結果を見てすごいやつが入ってきたって思ったのだ。そしてそんなやつが不当な理由で授業を受けられなくなったと聞いたときは驚いたものだ。
「あれだけのことがあっても腐ることなく努力を続けられるのは才能だろ。才能の上に胡座をかいて努力しないやつには一生わからないことだが一部の者には黒鉄の努力は目に見えているぞ」
このことは俺やヴァーミリオン、そして生徒会長も気づいたはずだ。そういうやつはしっかりと評価してくれる。スイスで会った傭兵とかあいつとかな。
「そうよ、イッキの努力は実際に戦った私にはわかってるわよ!」
「黒鉄くん、いい友達ができてよかったね。これならこれから先は大丈夫そうだね」
そう言って笑みを浮かべる有里だった。
医務室で少しの間話し込んだ3人は外に出て歩いていた。
「ねぇ、去年は残念だったって?」
さっきの有里の話を思い出したように一輝に問うステラ。
「ああ、ほら。授業受けさせてもらえなかったって話だよ」
そういわれてステラは一輝の方を見る。
「僕が入学するまでは能力値の基準なんてなかったんだ」
そうだな。なんでこんなありもしないものを作られたのか疑問に思っていたが、今にして思えば黒鉄の邪魔をするために生まれたものなのだとわかる。理由は何個も想定できるが黒鉄の邪魔をするためだけに変なルール決めるなよって思うわ。
「それってどういう」
ステラが黒鉄に聞き返そうとした時だった。
「黒鉄せんぱーいっ!」
「うわっ!?」
「えっ!?」
「は?」
向こうから一人の女子生徒が走ってきて一輝の腕に抱きついてきた。その奇行に三人は驚きの声を上げる。そんな三人を無視して一方的に話しかける。
「やっと先輩とお話できる~」
「ななな、なにやってるのよっイッキ!」
「それは僕が聞きたいよ!?君誰?」
「おい、話があるんじゃないのか?」
「あ、すみません。忘れてました~」
一輝とステラが今もテンパっている中、実は二人の関係とは部外者な八幡はいち早く復活して話の続きを促すと女子生徒も平静を取り戻し、腕に抱きついたまま話始めた。
「私、同じクラスの日下部加々美です~。先輩のだーいファンなんです」
「え!?ファン?」
突然のファン発言に戸惑いの声を上げる一輝。この空間にはファン発言によって戸惑っている一輝と、その隣でむーっという声を上げるステラ、そしていつもよりも目を腐らせた男という奇妙な図式が浮かび上がっている。
「見ちゃったんです、この間の模擬戦。先輩、強いんですね~」
「い、いや別に」
黒鉄の模擬戦見ていたんだなこいつも。あれを見てFランクの癖にとか思わない辺り、他のやつらよりよっぽど現実見れてるんじゃないか?それと黒鉄、お前挙動不審すぎだぞ。
「実は私、新聞部を創ろうと思っていて、先輩に記念すべき第1号を飾って欲しいんです。是非取材させてくださいっ」
たくさんの人がいるところで申し込むのは中々だが、黒鉄の場合それは悪手だぞ。目をつけられると厄介だから断られると思うんだが。
「いや、それほどの者じゃ・・・はは」
一輝は周りのすごい視線に引いた笑い声をあげる。それにしても男の嫉妬の視線が強いんだが。
「よかったじゃない、新学期早々モテモテで。取材受けてあげたらいかがですか先輩?」
男が嫉妬の視線ならヴァーミリオンは私不機嫌ですオーラかよ、はぁ。
「ヴァーミリオン追いかけるぞ。弁明した方がいいだろうからな」
「あ、うん。そうだね。ちょっと待ってよステラさん!?」
「見出しももう決めてるんです。脅威の伏兵黒鉄一輝、噂の天才騎士に白星!どうですか?」
「あ、ああ。とにかくその話はまた今度ね」
一人で盛り上がる女子生徒に一言声をかけるとステラを追いかけ始めた。その時だった。
「ようやく見つけました」
どこからか女の子の声が聞こえてきた。一輝にとって聞き覚えのある声に声の主の場所を探すために周りを見る。すると柱にもたれ掛かるようにこちらを、いや一輝の方を見る女子生徒がいた。
「・・・
その姿に見覚えのあった八幡はその女子生徒の二つ名を呟いたのだった。
次の投稿は早ければ明日、遅ければ来週以降になります。遅くなった場合は気長に待っていただけると幸いです。
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痴話喧嘩みたいなもの
「ようやく見つけました」
そう言ったのはここから少し離れたところにある柱の下に佇む銀髪の少女だ。
「・・・珠雫?」
一輝が少女の名を呟くと銀髪の少女はゆっくりと黒鉄の方へと近づいていく。
「お久しぶりです、お兄様」
銀髪の少女の名は黒鉄珠雫。今年の新入生次席にして
見たところ魔力量はCランクくらいだが体から漏れる魔力はごくわずかなところから魔力制御Aか。これだけの制御力はあまり見たことがないし、魔力制御だけ見ればプロクラスだな。
「お久しぶりです、お兄様」
「珠雫!見違えたよっ!この後会いに行こうと思ってたんだ。探させちゃって悪かったね」
「いいえ、私が待てなかったのです。お兄様・・・はむっ」
一輝が自分を探させてしまったことを謝ると気にしていないと優しく言う珠雫。そして一輝を後ろの柱に押し倒すと口づけした。
「はぁ!?」
「あっ!」
突然行われる兄妹の濃厚な行為に間近で見ていた二人が驚きの声を上げる。それに対して珠雫は一輝に長いキスをし続ける。
まさかの兄妹でキスかよ。俺も自分がシスコンで小町がブラコンの自覚はあるが兄妹でキスはないぞ。妹として好きなだけだからな。
「なっ!ナニゴトーっ」
「きたーっ!スクープ、スクープ、スクープ!!」
兄妹でのキスを激写する加々美と信じられないとばかり叫ぶステラ。そんな中で珠雫はゆっくりと黒鉄とのキスを楽しんだ後口を離す。一輝と珠雫の間に銀色の橋が掛かる。
「ずっと、お会いしたかった・・・」
「し、珠雫・・・」
一輝と珠雫の間におよそ兄妹とは思えないほどの空気が流れる。その空気を破ったのはステラだ。
「ちょっ、ちょっとイッキ!あ、あ、アンタなにやってんのよ!」
「ぼぼ、僕だってわからないよ!」
それはそうだ。なにせ再会したと思いきや突然のキスなのだ。しかも兄妹で。これで動揺しない方がおかしい。
「もちろん口づけですよ。口づけとは親愛の証、恋人という浅い絆の男女でも行っていることです。ならば固い絆で結ばれた兄と妹が口づけするのはごくごく自然な流れ。外国では挨拶みたいなものですし」
「え?そうなの?」
「アタシの国じゃ兄妹でそんなキスしないわ!」
「他の国でもしないと思いまーす」
「俺も妹はいるがそんなことしたことねぇよ」
珠雫の本気なのかからかいなのかわからない言葉に八幡たち3人は口々に否定する。
「だそうだけど」
「他所は他所、うちはうちです。四年分の愛おしさを考えれば、今の私たちには夜のまぐわいですら朝の挨拶」
『そんなわけあるかっ!!』
衝撃的な発言をする珠雫にこの場にいる全員が雫の言葉を否定する。いつもは一輝を貶めるのに一致団結しているが今回は珠雫の発言を否定するのに一致団結していた。
「珠雫、そんなこと女の子が言っちゃダメだろっ」
「冗談ですよ。でも、もしもお兄様が望まれるのでしたら」
「ダメぇっ」
「キャア」
そう言って一輝に再びキスしようとする珠雫だったがステラによって阻まれ、珠雫は後ろに投げられる。そしてステラは一輝に詰め寄った。
「しっかりしなさいよイッキ!なに流されそうになってんのよ!!」
「あ、ありがとうステラ」
流されそうになっていたところへステラが目を覚まさせるかのように言う。そして一輝はそんなステラへお礼を言った。
「あなたが噂のステラ殿下・・・」
そこへ珠雫がやって来たためステラは珠雫の方に視線を向ける。
「なぜ私たち兄妹の庶民的コミュニケーションを邪魔するのですか」
「こんな糸を引くような兄妹のコミュニケーションなんてないわよっ!」
「それは私とお兄様が決めることです、あなたには関係ありませんよね?わかったら田舎のお姫様は黙っていてください」
「うっ・・・か、関係ならあるわよ・・・」
「へぇ・・・どんな関係ですか?」
ステラが言い淀むと珠雫は次の言葉を待つ。
「どんな関係ですか?」
言い淀むことわずか、とうとうステラが言い放った。
「・・・イッキはあたしのご主人様で、アタシはイッキの下僕なんだからぁぁぁっ!」
ステラの発言にこの場にいる者達が騒がしくなる。
「ちょっとステラっ、それはなかったことにしようって」
なんで今それを持ち出すんだよ。そんなことしたら新聞部が騒ぎ出すぞ。
「特大スキャンダルキタァァァァ!」
ほれ見ろ、日下部が騒ぎだしたじゃねーか。
「違うからね、誤解だからっ」
加々美の誤解を解こうともがくがなぜかステラが加々美の言葉を肯定し始める。
「誤解じゃないわ。決闘で勝ったのを引き換えに一輝は命令したじゃない『ステラ、俺と同じベッドで寝ろ』って」
「誰だそのカッコいいやつ!?そんなインモラルなテンションじゃなかったし!?」
「ブッ・・・黒鉄あの後そんなこと言ったのかよ。お前のことだから友達になってくれとか言うと思ってたんだが」
「八幡も誤解だからね!ルームメイトになってくれってお願いしただけだからねっ!」
八幡と一輝の二人で掛け合いをやっていると珠雫が黒鉄に事実確認をし始める。
「本当ですか?」
「えっ?」
珠雫の冷たい声に思わず反応して珠雫の方を見る一輝。八幡も一輝と同じように珠雫の方を見た。そこには目を細めている珠雫の顔がある。
怖っ!!とてもじゃないが小さい子供には見せられない顔になってるぞ。
「お兄様、本当なのかと聞いています」
「えっと・・・一応本当かな?つまり二段ベッドのことで」
一輝の言葉に珠雫は不気味に笑った。
「・・・そうですか、本当ですか・・・フヒヒッ」
「あの・・・珠雫さん?」
「珠雫が今、お兄様を自由にして差し上げます。
「珠雫!?それはダメだって!」
一輝が珠雫を止めようとするが、珠雫は止まらず小太刀型の霊装を展開した。
「大丈夫ですお兄様。私の属性は水、炎属性のステラさんを殺れます」
それのどこが大丈夫なんだよ。こんなところで怪我人が出たら大変なことになるぞ。
「そんなこと言ってるんじゃないよ!?こんなところで霊装なんか使ったら」
「傅きなさい、
一輝が言い終える前にステラも大剣型の霊装を展開してしまい、戦闘態勢が整ってしまう。
おいおい、こんなところで始める気かよ。確か許可なしで霊装を使うのは禁止だろ。
そして戦闘態勢が整ったと思ったら今度は悪口合戦だ。少しの間言い合った後最後に珠雫がデブ、ステラがブスと言った瞬間二人は同時に動き出した。
はぁ。結局俺が動かなきゃいけないのかよ。
「それ以上はダメだろ。怪我人がでるぞ」
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魔力制御の鍛練
「それ以上はダメだろ。怪我人が出るぞ」
八幡はそう言って間に割って入ると二人の霊装をそれぞれ掴む。
(八幡は本当に影薄いなぁ。それに炎とか氷が出てる霊装を素手で掴んでる)
一輝は驚いた顔で八幡の方を見る。その驚きは霊装を掴まれているステラと珠雫も同じなようだ。
「なにするんですか、離しなさいっ」
「ちょっと、なんで止めるのよ!」
誰が掴んでいるのかすらわかっていないまま邪魔をされて腹を立てている二人。
「なんでって指定された場所以外での霊装使用は校則違反だからに決まってるだろ」
八幡は腹を立てている二人に対して冷静に校則違反であることを告げる。
「うっ」
「あっ」
ステラと珠雫は校則のことを完全に忘れていたようで小さく声を上げる。
「それに、俺達伐刀者の力は人を簡単に殺すことができる。だから伐刀者の力を振るうなら責任と覚悟を持てるようになってからにしろよ。なにかあってからでは遅いんだからな」
八幡の言葉にその場にいた者達が同意の頷きをする。
「それでさ八幡。霊装掴んだままで熱かったり冷たかったりしないの?」
八幡の言葉が終わった後、一輝は八幡が剣を掴んだままであることを指摘するとようやく二人の霊装を離す。
「あ、すまん忘れてた」
「えっ・・・忘れてたって本当に熱くなかったのね」
「私の霊装掴んで冷たくないって・・・」
八幡の言葉に絶句する二人。しかしすぐに頭を切り替えて謝ろうするが珠雫は名前を知らず言葉が詰まる。
「すみませんでした。えっと・・・」
「比企谷くんだよ珠雫」
そんな珠雫に一輝は八幡の名字を教える。
「すみませんでした。比企谷先輩」
「悪かったわ、ヒキガヤ」
珠雫は敬語で、ステラは敬語こそないもののしっかりと頭を下げて過ちを認める。
「まあいい。怪我人はいないみたいだしな。これから気を付ければいい。それと、先輩はいらん。実は俺も留年してるからな」
「えっ?なぜ比企谷先輩・・・あ、比企谷くんは留年してしまったのですか?」
留年という言葉を耳にした珠雫が思わず理由を尋ねる。
「授業に出てなかったからな。それにランクだけ見て人を判断するような教師の多い学校の授業なんて聞きたくないしな」
「そうだったんですか。お兄様との会話を聞いていたところお知り合いのようなので、お兄様のことよろしくお願いします」
「あー、気が向いたらな」
「ありがとうございます」
暗に断ったのだが、珠雫は了解したと思ったようで八幡にお礼を言った。
「・・・とりあえず今回の件は理事長に報告することになるからな」
そのため八幡は指摘するのを諦め珠雫とステラの処遇を理事長に委ねることを伝える。そして八幡はその場を離れると理事長室へ向かうのだった。
そしてその後理事長に判断を仰いだ結果、八幡が止めたことで周囲に被害が出なかったことからステラと珠雫は一週間の間、学園の女子トイレ全ての掃除という処分になった。
その後八幡は自身の寮に戻った。寮の同居人である東堂刀華は戻ってきていなかったため、日課である魔力制御の練習をしていた。
八幡が行っているのは伐刀者が纏っている魔力を知覚し自身の好きなところに集中させることだ。八幡は身体全体に流れている魔力の全てを一ヶ所に集め、一つずつ場所を変えていく。そして次に魔力を集める場所を一ヶ所ずつ増やしていき、最後に両目と両手両足に均等に分ける。そして再び身体全体に回したところで後ろに振り向く。
「帰ってきていたんですね東堂先輩」
気づいていたことに驚く刀華だったがそれを表に出さず八幡がやっていることを尋ねる。
「ついさっきね。それで比企谷くんはなにをやってるのかな?」
「魔力制御の鍛練ですよ。身体に巡っている魔力を操作しているんです」
体内の魔力を操作することは魔力制御に自信がある者であればこれくらいのことはできるだろう。しかし、身体全体に纏っている魔力を好きな場所に好きな比率で分配できるのはおそらく八幡だけだろう。
「すごいですね比企谷くんは。私も魔力制御の鍛練で部分的に魔力を集中させようとしていたんだけど全然上手にできなくて諦めちゃったんです。私が諦めたのってこの鍛練方法だけなんですけどね」
意外だな、生徒会長の東堂先輩が諦めたのって。まあ、実際難しいからな。俺もできるようになるまでに1年かかってるし。
「あれは無意識に身体全体に回っている魔力を意識的に身体を動かす部分だけに回すようにするんです。東堂先輩の能力で例えるなら体内に流れる電気を、動かす身体の部分のみに集中させるようにするといいですよ」
刀華は八幡のアドバイスの通りに魔力を右腕のみに回す。
「こうかな?・・・うーん、前やったときよりはできてるかな」
「そうですね、中々いい感じにできてると思いますよ」
刀華の魔力の流れを能力で確認する。魔力はしっかりと右腕に集まっていて他の箇所と比べると明らかに多く集められている。
「これからも続けていけば魔力制御もうまくなりますよ」
八幡がそこまで言ったところで八幡の生徒手帳にメールが入ってきた。八幡がメールの機能を開くと一輝からだった。
「すみません、知り合いからメールが来たので確認してもいいですか?」
話の最中だったため刀華に一言声を掛けると一輝からのメールを見る。そこにはステラや珠雫達とショッピングモールに行くためステラの護衛をしてほしいときていた。
はぁ、休日はゆっくり寝れるなって思ったらこれか。ステラの護衛の任務があるから仕方ない、行くか。
八幡は一輝の生徒手帳にステラの護衛に向かうことを了承する連絡を入れると手帳をしまった。
「土曜日はショッピングモールに行くので一日中ここにはいません。なので自由に使ってください」
「わかりました。楽しんできてくださいね」
ステラの護衛としていくことになっているため楽しむことはあまりできないのだが、八幡は頷くと明日の準備をして早めに寝るのだった。
次の話はお出掛け会となります。すぐに投稿できると思うので少しの間お待ち下さい。
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お出かけ
そして次の日の朝、八幡は私服に着替えて学園の正門前にやって来た。今日は土曜日で、本来であれば寮でダラダラしているところだったのだが、一輝やステラ達がショッピングモールに遊びに行くことになったせいでステラの護衛として付いて行かなくてはいけなくなったのだ。
正門前には既に一輝とステラが来ていた。先に気づいた一輝が八幡に声をかける。
「おーい、八幡~」
「早いな黒鉄とヴァーミリオン」
八幡は集合の五分前に校門前に到着した。そして一輝とステラを見る。一輝とステラはいつもの制服とは違い私服を着てきているのだが、八幡は傭兵時代に着ていた全身黒の服だった。
「なんていうか僕の予想通りの服を着てきたね」
「仕方ないだろ、俺に服のセンスはないし機能性を重視したらこうなったんだよ」
実際千葉にいたときは千葉Tシャツ来てたし、傭兵時代には黒服だったしな。それにしてもヴァーミリオンは気合い入ってるな、大方黒鉄に見せるためだろうけど。
「意外ね、ハチマンがこういうのに早く来るなんて。ハチマンのことだから遅刻してくると思ってたのに」
確かに昔ならあることないこと言って行かないようにしようとして結局無理矢理来させられて遅刻するのが一連の流れだったんだがな。小町の英才教育によって遅刻しなくなっちゃったよ、まあそもそもの話誘われることすら数えるくらいしかないんだがな。
「待ち合わせは集合時間より早く来ることって小町に散々言われたからな。小町に言われたらやらないわけにはいかないだろ」
「小町って誰よ、もしかしてハチマンの彼女?」
なんで女子って男子の口から女子の名前を聞くと恋愛方面の話だって思うんだろうな。女子と話したことなんてほとんどしたことないし、なんなら人と話したことすらほとんどないんだが。
「違うわ妹だよ妹。大体俺に彼女なんてできるわけねぇだろ、それどころかクラスに認識されてないまである」
「なんでそんなにネガティブなのよハチマンは」
「あはは」
八幡のネガティブな回答にステラがつっこみ一輝は乾いた笑い声をあげる。
「それで妹さんはどんな子なんだい?」
「なんだ黒鉄、俺の妹狙ってんのか?もしそうなら覚悟を決めろよ、生半可な覚悟じゃやらんからな?」
「ちょっと一輝!?」
「八幡とステラ別に違うからね!?」
校門前で朝から騒いでいるところに今回の買い物を計画した本人が登場する・・・なぜか男を連れて。
「あ、珠雫だ。おーい珠雫ー」
黒鉄のやつ追及から逃げたな。まあいいかこれは俺が追及するべきことじゃないしな。そして珠雫は一輝に挨拶を返す。
「あ、お兄様。おはようございます」
「おはよう珠雫。今日は誘ってくれてありがとう」
「いいのですお兄様。私がお兄様とお出かけしたくて誘ったのですから」
一輝と楽しく話をして機嫌がよくなる珠雫に対してヴァーミリオンの機嫌は反比例するように悪くなっていく。そしてそんなヴァーミリオンを珠雫が煽る。
「それにしても本当に驚きました。まさかステラ殿下のように高貴な方が興味を持たれるなんて。私たち兄妹が好む庶民の娯楽に」
「日本のことをもっと学びたいって言ったら誘ってくれたのよ、アタシのご主人様の一輝が」
しかしステラはうまいことその煽りを避ける。このやり取りを聞いていた一輝は「アハハ」と力なく笑う。
「殿下が学ぶべきなのは遠慮とか空気読むとかじゃないですか?」
「空気読んだからこそよ、実の兄にキスするハレンチな妹とお出かけなんて危険すぎるもの」
二人は言い合いを終えるとそれぞれそっぽを向く。
二人揃って子供かよ。仲良くしろとは言わんがうまくやれよ。
「えーっとそれで君は?」
一輝は珠雫と一緒に来た青年に声をかける。
「珠雫が誘ってくれたの。珠雫のルームメイトの有栖院凪よ、 アリスって呼んで」
「アリス?」
アリスと名乗った青年は珠雫のルームメイトだった。アリスの話し方や呼び方を聞いた一輝は一度アリスの体全体を眺める。
「もう、いきなりそんなジロジロ見ないの。お兄さんのエッチ」
俺のいたところにもオカマはいたけどやっぱいつみても怖いよな、別の意味で狙われそうで。まあ、今回は黒鉄もいるし俺の方には来ないと嬉しいんだがな。
「あ、ごめん。でもその、男だよね?」
確かに男だな、外見上は。ただ、中身は乙女なんだよな。前会ったやつはそう言ってた。
「生物学的にはね。だけど安心して、心は乙女よ」
ほらやっぱり言った。オカマってなぜかみんなそう言うよな。この有栖院も含めて2人しか会ったことないけどな。
「それを巷ではオカマっていうんだっての」
アリスに気づかれないように黙っていた八幡だったが、アリスのボケ?についツッコミを入れてしまう。 そしてアリスは声のした方を見て心の中で絶句する。
(な、なんでこんなところに腐眼がいるのよ!?でも大丈夫よ、今は特になにも行動起こしてないもの。それに直接の面識はないし私が解放軍にいることは知られていないはず)
アリスは解放軍に出回っている要注意伐刀者のリストにあった八幡の姿を思い出してバレないようにヒヤヒヤしながら口を開く。
「比企谷くんは真面目なのね。でもそういうのも素敵よ」
「は、はぁ」
八幡とアリスの会話に入り込むように提案する珠雫。
「とにかくお兄様、全員揃ったようですしそろそろ出発しませんか?」
「あ、そうだね。それじゃあ行こうか」
珠雫の提案を受けた4人はそれぞれ頷くとショッピングモールへと向かうのだった。
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テロリストと占拠されたショッピングモール
あれから5人はモノレールに乗って覇軍学園の近くにあるショッピングモールへとやって来ていた。一輝と珠雫は手を繋いでステラの後ろを、その後ろをアリスと八幡が、ステラは前方を歩いている。
「ふーんこれが日本のショッピングモールかー」
そう言いながら後ろを振り返ったステラは一輝と珠雫が手を繋いでいることに気づく。
「・・・ってちょっと珠雫なにしてんのよ!」
「なにってごくごく一般的な兄弟のスキンシップですが?昔からよく手を繋いで歩きましたよねお兄様」
そういえば俺も昔は小町と手を繋いで歩いていたな。いつの間にかなくなったけど。
「あはは、まあそうだよね」
「だったらアタシも・・・」
珠雫の嬉しそうな声に一輝は肯定するとステラがもじもじしながら手を繋ごうとする。しかし珠雫は不思議そうにステラを見て笑った。
「あら?ステラさんはお兄様の下僕なんですよね?」
「・・・ッ」
「いえ、いいんですよ?手を繋ぎたければ繋いでも。でも、肉親でもない異性と手を繋ぎたいなんてまるで特別な感情があるみたいですよね?まさかステラさんは!?」
ステラに向けたのは笑顔は笑顔でも悪い笑顔だった。そしてステラは珠雫の言葉に顔を赤くする。
「う・・・そそんなことないわよ!アタシはイッキの下僕、ただそれだけよ!」
「なら手を繋ぐ必要はないですねー。さぁ、参りましょうお兄様」
「えっ?あぁうん」
珠雫はステラをあしらうと一輝と手を繋いだままステラの前を歩き出した。
「バカイッキ!シスコン!優男!女誑し!ヘンタイ!シスコン!」
色々悪口みたいなの出てくるなおい。ていうかシスコン二回言ったぞ、大事なことだから二回言いました的なやつか。
一輝と珠雫の後ろ姿を見ながら一輝に出来る限りの暴言を浴びせるステラであった。
その後、ショッピングモール内の店でクレープを食べた八幡たちはトイレに入るために男子グループと女子グループに分かれていた。八幡は先にトイレを済ませ外に出て行ったが、一輝とアリスはトイレに残って珠雫について話していた。
「それにしても驚いたよ。あの珠雫がアリスには心を許しているみたいだから」
「あら、そんなに驚くようなこと?」
一輝は蛇口を捻り水を止めると手を拭きアリスに体を向ける。
「繊細で人見知りで、そうそう他人に懐くような子じゃないんだよ。特に異性には」
「まあ、あたしは女だし?」
アリスは確かに生物学的には男なのだが、初対面の時から珠雫に対しても心は女性だと公言し、行動でも心は女性であることを強く表現していた。
「あははは、とにかくお礼を言いたくて。 珠雫と仲良くしてくれてありがとう」
アリスは一輝の言葉に驚き小さく声をあげると表情を和らげる。
「本当に、珠雫の言った通りの人ね。強くて、とても優しくて」
そこまで言ってアリスは言葉を切り、そして呟く。
「だけど・・・だからこそあなたは」
「ん?」
アリスの呟きが聞こえたのか一輝は戸惑いの声をあげた。しかし、なにを言ったのかは聞き取れなかったようだ。
「ううん、なんでもないの忘れて」
アリスは一瞬顔を下げ、すぐに顔を上げるがそこで表情が強ばった。一輝はアリスに話しかけようとするがアリスは一輝の口を塞ぎ身を寄せる。
そしてアリスは短剣型の霊装を呼び出すと男子トイレに霊装を突き刺し影でできた穴を作る。そして一輝と共に中に入ると穴を閉じた。その直後、男子トイレの扉が開き覆面の男二人が入ってくる。そして銃弾を全て撃ち尽くすと男二人はトイレから出ていった。
影から出てきたアリスと一輝は周囲を見渡し誰もいないことを確認するとトイレの床に降りた。床には発射薬を詰める薬莢が落ちていて一輝はその薬莢を手に取る。
「あいつらは一体・・・」
「少なくとも善人じゃなさそうね。ひょっとするとこのモール・・・」
「占拠された?」
「かもね。確かめに行く?」
そう言うとアリスは手に紫色の魔力を溜め短剣型の霊装を呼び出した。
「それが君の
展開された霊装を見ながら呟く一輝にアリスは自身の霊装について教える。
「そう、
アリスは壁に向かって短剣を振るい影を作り出し、一輝に中に入るように促す。
「行きましょう、珠雫達が心配だわ」
「わかった」
一輝は先に影の中に入り、その後をアリスが続く。そして一輝とアリスは状況を把握するために移動を開始したのだった。
一方その頃、先にトイレを済ませていた八幡はステラと珠雫が待っているフードコートに戻っている途中だった。人混みというものがあまり好きではない八幡は人混みから逃れて気力を回復させるために人通りの少ないところを歩いていた。
しかしそこへ、複数の足音とガチャガチャ音が耳に入ったため刀型の固有霊装を展開し周囲を警戒する。そこへ銃を持った覆面の男達が現れる。
「おい!あそこに刀を持ったやつがいるぞ!間違いない、あれは伐刀者だ!撃て!!」
覆面の男の一人が指示を出すとその声に続いて他の者達が銃を乱射する。
弾丸の数は多いが狙いは結構バラバラだな、普通にしてても当たらないやつが結構ある。当たるとまずいのはせいぜい数十発だな。
「比企谷流剣術第5秘技崩剣」
弾幕の隙間に刀を差し入れ軌道を反らしつつ自身の足元から立体化させた影を数十本出し、男たちを縛り上げた後、刀の柄で打撃を加えて男たちを気絶させる。
よし、これでいいか。
仕事を一つ終えた八幡は護衛対象であるステラの元へ戻ろうとしたその時だった。
「・・・っ!」
自身に悪意を向けられたのを感じ大きく後ろに下がると先程までいた位置に鉄の円柱が飛び出てきた。八幡は体勢を整えると悪意を感じた方向に視線を向けた。
「おいおい今のを避けるかよ・・・完全な不意討ちだと思ったんだがな」
そう言いながら現れたのは金髪で中肉中背の男だった。その男はポケットに手を突っ込みながら歩いてくる。雰囲気からは強者特有のものは感じられないが、武術を嗜んでいることがわかる体捌きと歩き方だった。
雰囲気と動きが噛み合っていないし、大方雰囲気を偽っているってところか。まあ、武術の心得があるなら動きから実力を判断できるだろうけどな。
「ボッチは視線に敏感でな。覆面の男達が出てきた辺りからずっと視線が突き刺さってたことはとっくに気づいていたぞ」
「ボッチとやらがなにかは知らんが気づいていたなら仕方ない。人を殺すのは俺の主義に反するから殺しはしないが腕や足の1本は覚悟してもらう」
男はポケットから手を出すと手袋を着けた手を前に出し構える。すると男の体から隠していた気配が解き放たれ、体を銀色の魔力が覆った。
そして八幡は腰の鞘に刀を入れると柄に手をかける。そして足を開き腰を落とすと魔力を解放した。八幡から放たれた魔力は黒色で、刀は黒色を纏い目の濁りは濃さを増す。男は八幡から放たれる魔力に目を細めるとその数秒後に両者は同時に動き出した。
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ショッピングモールでの戦い
同時に動き出した二人の伐刀者は一回目の攻防に入る。八幡は下からの斬り上げを放つが、男は斬撃を半身でかわすと大きく踏み込んできて右ストレートを打ち込んでくる。
八幡は男の拳を鎬で受け流すとそのままの勢いで突きを相手の眉間に放つ。男は腕を引っ込めると魔力を込めた腕をクロスさせることで突きを防ぎ、八幡の動きを止めると腕をほどくことでバランスを崩させ空いた脇腹へボディフックを放ってきた。
八幡は刀の刃を下に向けて拳を受けると後ろに飛んだ。自分から後ろに飛んだため勢いを完全に殺すことができていてダメージは一切ない。
「中々やるな。異能に頼った戦い方かと思っていたが剣術もしっかりできているようだ」
先程の一連の攻防からある程度実力を把握した男は再び拳を握った。どうやら八幡に勝てると判断したようだ。
今のところ向こうは能力を使わずに格闘術だけで戦っているか。まずは能力を明らかにしないと始まらないし、こちらから攻勢にでるのもありだな。
「さて、ほかにも伐刀者はいるかもしれないし早いところ決めるかね」
次に動いたのは男からだ。男は低い姿勢で飛び出して八幡の視界から外れようとするが八幡は男のスピードに負けることなく目を動かし男を視界に入れている。そこへ男は一つ急停止を入れた後に再加速することで緩急を生み出し距離感覚を狂わることを試みるが、八幡は惑わされることなく刃の届くところまで男を引き付けると刀を横に振り抜いた。再加速を入れたタイミングで攻撃を繰り出された男は腕を左から右に振るう。
「
八幡の目の前に現れた金属の壁が攻撃を防ぐとそこから柱が突き出てきた。
「うおっ!最初の攻撃のやつじゃねーか」
驚きの声を上げる八幡だったが頭は冷静なようで突き出てきた鉄の柱に飛び乗ると突きだしてきた柱に乗って男から距離を取る。男は壁に視界を遮られていたためか特に追撃をすることなく壁を分解する。そしてすぐに八幡が離れていることに気づく。
「あれを凌ぐか、ならばこれならどうだ。
いくつかの銃器を自身の周囲に展開しそこから銃弾を雨のように飛ばす。
「第5秘剣技・崩剣」
八幡は全力で前に疾走しながら刀の切っ先を揺らし、飛んでくる銃弾の軌道をずらす。その瞬間
「撃ち抜け」
「っ!
八幡は男の言葉が耳に入ると同時に悪意を体で感じたため周囲に影の穴を創る。そして横から放たれた弾丸を吸い込むとそのまま居合を放つが男は居合を左腕で受け流し、さらにそこから受け流した際の勢いを上乗せし右フックを繰り出してくる。
男が行ったのは体内での捻転運動だ。左腕で受けた攻撃の威力を体内の筋肉で循環させ右腕に乗せたのである。
そうとは知らない八幡は受け流しから右フックに入るまでの間に体勢を整えると、今までと同じように攻撃を捌こうとする。しかし刀に加わる重みから威力が上がっていることを察し刀から手を離して自分から後ろに跳んだ。攻撃の威力を完全に殺すことはできなかったようで床に靴跡を付けながら止まった。
さっきよりも攻撃の威力が上がってるな。手を抜いていたのか?手を抜いたのかはわからないが膂力は向こうの方が上のようだし攻め方を変えた方がいいか。
八幡は地面に落ちている自身の霊装の具現化を解き、再び具現化させることで遠くにあった霊装を呼び戻す。そして足元の影を広げた。
「
足元の影は遅い速度でありながら段々と影の範囲を広くしていき、影の上にあるものを飲み込んでいく。男はその光景を目の当たりにし顔を引きつらさせる。
「マジかよ、これはどう考えても危ないやつだろ。とにかく範囲内から外れないと俺も飲み込まれるな」
男は八幡から視線を逸らさず時折半身になりながら影から逃げていく。それに対して八幡は影へと魔力を送り込み影の広くなる速さを早め男を捕らえようとするが男の逃げる速さを上回ることはできていない。男は影から逃げるため階段を上るが影は男を追って階段をも上っていく。
(このままじゃ追い付かれるのは時間の問題だな。どこかで伐刀絶技を突破できるタイミングを見つけないといけないな)
男は八幡の伐刀絶技を突破するための一手を打つ。足に魔力を集中させると影へ向かって走り出す。そして影へと足を踏み入れると足が沈む前に次の足を出すことで沈む時間を与えずに移動していた。
もう対応してきたか・・・これはもう通じないな。
広げていた影を元の大きさに戻すと刀で地面を叩く。すると足元から立体化した影が出現し触手状に変わると男に向かって一斉に伸びた。
男の背後からと両側、さらには上からも襲ってきたため逃げ場は前にしかなく、男は仕方なく前方に飛び出した。そこへ八幡が密かに展開していた数十本の影の腕が迫る。
(これは少しまずいな。前方に影の腕、横と上と後ろに触手となると避ける場所がない。防げるかはわからんがあれをするしかないか)
「
直後影の腕と男の体が衝突した。薄い鋼を纏ったおかげで大ダメージは免れた男だったが衝撃をそのまま受け3階の吹抜けから落下していく。そして八幡は男を追って同じように吹抜けから飛び降りたのだった。
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ショッピングモールでの戦いの裏側
八幡が男と戦い、黒鉄とアリスが理事長の神宮寺黒乃と連絡をとっている頃、ステラと珠雫がいるショッピングモールの一階では解放軍によって捕らえられた客達が一ヶ所にまとめられていた。
「女子供だけを人質に・・・卑劣なやつら」
「私に考えがありますが時間が必要です。それまで絶対に気づかれないようにしてください」
犯行グループ達に対する憤りを抑えながらステラが呟く。そこへ珠雫がステラの耳に口を寄せ自分の考えを伝える。そして珠雫が伐刀絶技の準備をするために魔力制御を開始したその時事態が動いた。
「お願いします!どうか子供だけはどうか!」
子連れの母親が子供を守るために犯行グループの一人にすがりついたのだ。しかしその行動が男の神経を逆撫でしたようで、母親を銃の底で横から殴り付けた。
「お母さんをいじめるなー!」
「こんのクソガキィ!」
それに反応した子供が男にアイスクリームを投げつけると男の頭に当たる。そのことに怒り出した男は眉間にしわを寄せ怒鳴りつけ子供を蹴り飛ばすが、男は蹴り飛ばしただけでは飽き足らず子供に向かってサブマシンガンを撃ち放った。しかしそこへステラが子供の前に立ち炎の竜で弾丸を全て消し炭にしたことで間一髪子供を守ることに成功する。
「クソッ伐刀者かっ」
「無駄よ、アタシの
男はステラが伐刀者であることに気付き再びサブマシンガンを撃ちまくるがステラの体に纏われた炎で弾丸が消し炭にされステラを撃ち抜くができていない。
「アンタたちと戦う気はないわ。親玉と交渉させなさい」
銃を撃っている男に親玉を呼び出すように告げるが、男はそれに腹をたて大声をあげながら銃を撃ち続ける。
「バカなことをぬかしてんじゃねぇ!なにを偉そうに言って」
「銃を下ろせ、ヤキン」
どこからか現れた男に銃を下ろすように命令され、ヤキンと呼ばれた男は銃を下ろした。歩きながら銃を下ろしたのを確認すると男は立ち止まり両手を広げる。
「こーれはこれは。ヴァーミリオン皇国の第2皇女ステラ様、お目にかかれて光栄です」
「アンタが親玉ね」
ステラは男に敵のボスかどうか確認をとると男は肯定する。
「いかにも・・・名をビショウと申します。お見知りおきを」
ビショウといった男はステラから視線を外すとヤキンへ視線を向け怒鳴り付ける。
「おいヤキン!てめぇなにやってんだ?人質には手を出すなって言ったよな」
「すみません。で、でもあのガキが俺にアイスを」
「はあぁ!?たかがそんなことでガタガタ・・・フッ」
ヤキンの言い訳のようにもとれる声を聞きビショウは再びヤキンを怒鳴ろうとしたが、途中で考えが変わったようで口許を歪めるとヤキンに近づき肩に手を置いた。
「そりゃあ災難だったなぁヤキン」
「い、いえ」
「躾のなってねぇガキってのはつまるところ親の責任だよなぁ、ヤキン」
そう言ってビショウは親の頭に銃を突きつけた。
「止めなさい!」
ステラは止めようと声を上げるもビショウは止まらない。
「罪には罰を、罰には許しを・・・それが俺のモットーでしてねぇ。この女は子供を躾けねぇという罪を犯した・・・命をもって罪を贖え」
ビショウが銃の引き金を引こうとした瞬間、ステラはビショウの方へ駆け出し剣を振り下ろした。そこでビショウはすぐさまステラに手を向けて迎撃の体勢に入った。
(誘われた!?でも力で押し切る!)
ステラは攻撃を誘われたことに気づくも力で押し切ろうとそのまま振り下ろした。
「
ビショウの声とともに開かれた本が出現しステラの攻撃を受け止めた。
「速い、そして強い。だが悲しいかな・・・世界の広さと怖さを知らない!」
そしてビショウは拳を握るとステラを殴り付けた。ステラは吹き飛ばされると地面を転がり呻き声を上げる。そしてそれを見ながらビショウは霊装の名前と能力を明かした。
「これが俺の
「・・・そう、つまりアタシは自分の全力で殴られた訳ね」
ステラはビショウの説明から自身の身になにが起きたのかを正確に把握したみたいだった。
「フフフッやぁしかしさすがは皇女様、平民達のために身を挺するとは。その勇気に敬意を評してこいつらの命を救う提案を致しましょう」
「・・・なんなの?」
ビショウはステラの行動に対してある提案を行った。その提案はステラにとって、否女性として屈辱的なものだった。
「皇女様が謝るんですよ、全裸で土下座してねっ」
ステラは目を見開くも覚悟を決めたのか少しの間を空けて下から順に脱ぎ始めた。テロリスト達はステラの公開脱衣に歓声を上げる。そして上下ともに脱ぎ下着だけになった。
「フフッ、まだ脱ぐモンが残ってるぜぇ」
ビショウが下着まで脱ぐのを急かすとステラは下着を脱ごうとした。その時、上からビショウと同じローブを来た男がステラとテロリスト達の間に落ちてきたのだった。
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事件の解決
ステラがビショウによって脱ぐことを強制されステラが下着を脱ごうとしたその時、上から男が落ちてきて、その後を追って八幡も降りてくる。
男はなんとか足から着地しすぐさま後ろに跳び、八幡は着地とともに男が移動した方に移動しようとする。その途中で八幡は珠雫の方をチラッと見ると伐刀絶技を発動させようとしているのを確認し、大声で伐刀絶技の発動を促した。
「黒鉄妹、準備している伐刀絶技を使え!」
「障波水蓮!」
八幡の大声に反応し、珠雫は伐刀絶技を発動させ人質たちの周囲に水の壁を展開する。そして八幡は足元の影を立体化させ手の形に変えるとテロリスト達へ向けて放った。攻撃を吸収することができるビショウの方を手動で操作し、その他のテロリスト達を自動で攻撃させている。
「
テロリスト達は影で縛られるがビショウと男はそれぞれ大法官の指輪と、指先から出された鉄線で防ぐ。
「第7秘剣・・・雷光」
一輝はあらかじめ2階で伐刀絶技の一刀修羅を発動させ、その状態で2階から駆け降りビショウに接近すると八幡の伐刀絶技を防ぐのに手一杯なビショウの左手を斬り落とした。
「がぁぁぁぁっ!!」
能力で作られた影の腕を左手で吸収していたことから考えて攻撃を吸収する能力だったんだろうな。目で見えるものでなければ吸収できないとかいった感じのやつか。それとさっきまで俺と戦っていたやつは逃げたみたいだし、こいつらは組織的に用済みってことか。
「てってめぇよくもっ」
「お前がステラにやったことを考えればこれでも生温いくらいだ」
おおー、黒鉄のやつ怒ってるなぁ。まあそれも仕方ないか、ヴァーミリオンの服をひん剥いて見世物にしてたし。
「くっ、このガキィッ!んぐっ」
ビショウが大声を上げようとしたときビショウの影に短剣型のデバイスが刺され、動けなくなった。
「はい、お遊戯の時間は終わり」
「くっクソがっ!おいっ誰でもいい!こいつらを」
自分も捕らわれ伐刀者も他にいないっていうのに諦めが悪いなこいつ。
「比企谷くんがお仲間を全員捕らえたから助けなんて来ないわよ?もう1人いた伐刀者もとっくに逃げたしね」
アリスの言葉に周囲を見渡したビショウは仲間たちが全員気絶させられていることに気づくと項垂れた。
「ステラ!」
「え!?な、なに?どうしたの一輝?」
ステラは一輝が一刀修羅を解いて自身を抱き締めてきたことに驚くが冷静さを取り戻し柔らかい声でどうしたのと問いかける。それに対して一輝は静かに謝る。
「ごめんよ・・・本当にごめん」
一輝の謝罪にステラは抱き締められたまま一輝の名前を漏らす。
「イッキ・・・」
さっきまで戦闘があって張り詰めた空気だったのに一瞬にして壊したなこいつら。このボッチの俺にイチャコラ見せつけやがって、このリア充がっ。
俺の心の声と同じ事を思っていたのか黒鉄妹も若干呆れているようだ。いや、呆れていた。
「まったく軽率にもほどがあります。なんの考えもなしに飛び出すなんて・・・でも、立派な行動だったと思います」
「そっちこそみんなを守ってくれたじゃない」
珠雫が姑のように小言を言うがすぐにステラを讃える。そしてステラも珠雫の行動のおかげで被害をある程度気にせず戦うことができたと珠雫を誉めていた。そして一輝は二人の様子を眺めていた。その瞬間一輝は体の力が抜け足元に片膝をつく。一刀修羅の反動だ。
「心配するなヴァーミリオンと黒鉄妹、これはただの伐刀絶技の反動だ。時間が経てば回復するぞ」
「そうなのね」
「そうですか」
ステラと珠雫が一輝に近寄ろうとするが一輝の様子を見抜いた八幡が反動でこうなっていることを伝えると二人は平静を取り戻した。
さて、革命軍の使徒の1人には逃げられたが実行犯の男の方は無力化したし一件落着か?
そう思っていた俺は人質達の方を見たその時1人の女から悪意が発せられた。悪意を感知した八幡はすぐにその場を移動し影の能力を使って女をいつでも拘束できるように準備を整えた。
「全員動くな!余計なことをしたらこの女を殺す」
女は近くにいた女性に銃を突きつける。八幡の後にその事に気づいたステラ達は動きが止まり驚きの声が漏れる。
「人質の中に紛れていたのはお前達だけじゃなかったんだよマヌケが!」
しまったな。人質の中に仲間が混じっている可能性があることを忘れていたわ。俺は伐刀絶技で咄嗟に影を身に纏って影を薄くしたから大丈夫だと思うが他のやつは動けないだろうな。
そんなことを考えながらも状況は進んでいく。女がビショウを解放することを要求し、ステラ達は女の要求を呑むしかなく困惑していた。そしてこのままでは埒が明かないと判断した八幡は女を拘束するため動き出そうとした時だった。
「射貫け・・・朧月」
蠱惑的な男の声が響き女の銃を持った手と背中、ビショウの手や肩を魔力でできた矢が貫いた。その間姿はおろか、気配や匂いすらも感じ取れずただ矢が放たれるのを見ているだけだった。
「なに?今のどこから!?」
ステラと珠雫は突然の出来事に周りを見渡す。しかし周囲には矢を放った人間の姿や気配は感じられない。そんなことができるやつは俺の記憶では1人しかいないな。そいつの名は
「桐原くん・・・」
「・・・桐原」
八幡と一輝の言葉と同時に出てきたのは紫がかった髪色の青年・・・桐原静矢だった。
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狩人との邂逅
「手柄を横取りするなんてこの僕の好みじゃないんだけどねぇ」
「思ってもないことを平気で宣うんだな桐原は」
この男の名前は桐原
とまあそれはさておき、目の前にいる桐原は次席であり前年度の七星剣武祭の覇軍学園の代表だ。おそらくここにいるのは友達と遊びに来ててテロに巻き込まれたからであろう。そして来ているかどうか定かではない友達を置いてここに来たのは騎士としての自覚があるからであろう・・・そうであると信じたい。
「おや、そこにいるのはヒキタニくんじゃないか。君は僕を差し置いて首席になっているというのに落第だなんてそこにいる黒鉄くんと一緒にいるからではないのかい?首席には首席の、落第生には落第生にふさわしい立場というものがあるんじゃないかい?みんなそう思っていると思うよ」
・・・騎士としての自覚があるとはとてもではないけど言えないな。
「みんなって誰だよ。みんなの中に俺が入ってたことなんて一度もねぇよ」
八幡の軽口めいた重い発言に周りが無言になる。それは目の前にいる桐原も同じだった。
「・・・それはともかくとしてだ。俺が誰と一緒にいるだとか桐原には関係ないだろ。そんなくだらないことを俺に言う暇があるなら友達のところにでも戻っていったらどうだ」
「まあ、それもそうだね。じゃあ戻る前に黒鉄くん」
八幡にいっていた視線が一輝に向かう。そして八幡と喋っていたときの雰囲気とはうって変わって一輝を明らかに蔑みながら口を開く。
「君、まだ学校にいたんだ。あれだけ痛い目を見た上に学園の授業すら受けられず留年したというのによく頑張るね。僕だったら恥ずかしくて退学してるよ」
「そうまでしてでも叶えたいことがあるからね。こんなところで立ち止まってはいられないよ」
「ふーん」
一輝の言葉に興味無さそうに鼻を鳴らす。そして心底バカにした声である言葉を放った。
「でもさ、一般人と大して変わらないその惨めったらしい力でなにを叶えられるというんだい?」
桐原の言葉に我慢できずステラが桐原に詰め寄ろうとした。
「ちょっとアンタいい加減にしなさいよ!」
「ステラ!いいんだ」
しかし一輝に右手で止められステラは立ち止まる。しかしステラは桐原の言葉に腹を立てたままだった。
「良くない!イッキは強いんだから!アンタなんかイッキの足元にも及ぶもんですか!」
そしてステラの発言に桐原は固まる。そして少しして復活した桐原が大声で笑いだす。
「・・・フッ、アハハハッ、ハハハハッ!!」
「な、なによ」
桐原の笑い声に一瞬呆けすぐに桐原が笑い出したことを咎めるが桐原は笑い続ける。そしてひとしきり笑うとステラに一歩近づき言った。1年前のことを。
「これは傑作だ、自分のことを随分と格好よく吹き込んでいるみたいだねぇ・・・ちゃんと教えないとダメじゃないか・・・君がかつて僕と戦うのが怖くて逃げ出した臆病者だということをさ」
桐原の言葉に一年前のことを思い出した八幡が目をさらに腐らせた。八幡は当時のことを知っているため目を腐らせただけで動揺はしていないが、ステラは思いがけない言葉に動揺する。そして桐原は思い出したことがあったのか話を切り替える。
「そういえば、生徒手帳は見たかい?」
切り替えられた話に出てきたのは生徒手帳を見ろという一言。一輝はポケットの中のデバイスを取りだし電源を入れる。そして届いていたメールを確認すると七星剣武祭の予選の相手の名前があった。
『黒鉄一輝様。選抜戦第1試合の対戦者は2年3組桐原静矢様に決定しました』
桐原静矢と。
「見たかい?そう、君の一戦目の相手はこの僕、去年七星剣武祭で覇軍の代表を務めた桐原静矢だ。今度は逃げないでくれよ、
最後に七星剣武祭の初戦の相手が自分だということを伝えるとガールフレンド達を連れてショッピングモールを出ていったのだった。
その後、警察に事情聴取されたり人質だった人たちにお礼を言われたりして時間を多く消費した俺たちは遊ぶといったことをしようとは思えず、結局このまま現地で解散になった。俺はヴァーミリオンの護衛であったため、ヴァーミリオンのルームメイトの黒鉄を含めた三人で寮へと戻った。そして二人と別れて自分の部屋に戻ると生徒会長の東堂先輩が戻ってきていた。
「比企谷くんお帰りなさい。今日は大変でしたね」
ショッピングモールでの出来事については既に知っていたようで帰って来ると東堂さんに労われた。
「え、えぇ。解放軍の使徒と戦いはありましたが傭兵時代に比べると楽でしたので問題はありませんでしたよ」
俺は小さい頃に両親を亡くし、それからは妹の小町を守りながら国を転々としていた。その時に比べれば休む時間もしっかり取ることができていて、危険も当時に比べれば少ないため肉体的にも精神的にも楽だ。
「そうですか。今回の件で魔導騎士連盟も比企谷君の強さを把握したことですので特別召集がかかることもあるかもしれませんね」
俺にはヴァーミリオンの護衛もあるから厳しいところではあるんだよな。まあ、あれ使えば同時に出来ないこともないしその時になったら考えるか。それに黒鉄もついてるし余程のことがない限り大丈夫か。
「それと、今日は色々と忙しかったようなのでデバイスの方はまだ見ていないですよね?」
「はい、まだ見れていないですね。それがどうかしましたか」
「いえ、七星剣武祭の予選の組み合わせが今日発表で対戦相手の名前がデバイスに送られてきていますのでみてみたらどうですか?」
そういえば黒鉄の対戦相手が桐原だってことが送られてきてたな。それと同じ感じのやつが送られてきてるってことか。どれ、対戦相手は誰かね。
『比企谷八幡様。選抜戦第1試合の対戦者は大杉剛様に決定しました』
こいつは1年の始め頃の桐原の取り巻きか。桐原みたいに手は出さなかったが黒鉄が一方的にやられてたのみて笑ってたな。まあいいや、印象は薄いし向こうも俺のことなんて覚えてねぇだろ。
「見ましたよ。選抜戦2日目の第8試合でした」
「そうですか。比企谷くんなら余程のことがない限り負けないとは思いますが頑張ってくださいね」
生徒会長から直接エールを受けた八幡は頷くのだった。こうして七星剣武祭の選抜戦が始まっていくのであった。
話に一区切りできたので次のところで八幡の情報開示を行います。
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設定1
比企谷八幡
所属:覇軍学園1年1組 明の星
二つ名:腐眼
伐刀者ランク:A
パラメーター
攻撃力:B 防御力:A 魔力量:A 魔力制御:A 身体能力:A 運:D
固有霊装:村雨
異能:影
人物設定:6歳の頃、両親を解放軍によって殺されその事が原因で伐刀者に目覚める。15歳までフリーの傭兵として活動していたが、伐刀者として正式に活動するため覇軍学園の入学試験を受ける。主席で合格し覇軍学園に入学し、その時に黒鉄と仲良くなるが前理事長による黒鉄への虐めレベルの嫌がらせに嫌気が差し学園に籍を置いたまま学園を去る。その後戻った先で明の星という名の傭兵団にスカウトされ入隊し、そこで傭兵として1年活動した後に皇女の護衛任務により復学する。魔人の一人に数えられていて、明の星の部隊長をしている。
オリキャラ
レグルス・グローリー
所属:解放軍
二つ名:
伐刀者ランク:B
固有霊装:名称不明(手袋型)
異能:錬成
人物設定:解放軍に所属する伐刀者で
ここまで出てきた技や技術の設定
パソコンで作成することになり、アニメを観るかこの作品を書くかのどちらかしかすることがなくなったので投稿速度が早くなりそうです。これから今の状態で頑張りますのでよろしくお願いします。
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七星剣武祭予選編
選抜戦開幕!
解放軍がショッピングモールを占拠するという事件が起きて1日が経った。俺や黒鉄、ヴァーミリオンなど黒鉄を取り巻くメンバー達はそれぞれ選抜戦に向けて最後の調整を行った。
去年までは能力値によって覇軍学園の代表が決まっていて、真面目に鍛練を行っているのは代表者くらいのものだった。しかし今年からは代表の決め方が変わり、選抜戦を行い勝ち上がった者を代表とする方式に変わったため、周囲では代表の座を狙っている生徒達が鍛練を行っていた。こうして今日から選抜戦が開幕したのだった。
今日から選抜戦が始まったが選抜戦初戦が明日にあり時間のある八幡は闘技場に来ていた。闘技場の観客席には今日の選抜戦第1試合にヴァーミリオン皇国の皇女ステラ・ヴァーミリオンが登場すると聞きつけた生徒達がたくさん来ている。
去年まで能力値での選抜だったことに加えて学校を出ていて本戦を見てなかったが、選抜戦とはいえ実際に見てみると観客も結構いて騒がしいな。まあ、それだけ七星剣武祭とか選抜戦への関心が高いってことか。
そんなことを考えていると闘技場にステラ・ヴァーミリオンとその対戦者がやってきた。燃えるような赤髪を持つステラ・ヴァーミリオンと、ヘビータンクの二つ名を持つ男子生徒桃谷だ。
「さあ、遂に始まりました!七星剣武祭代表選抜戦。ヴァーミリオン選手の初戦の相手はヘビータンクの二つ名を持つ桃谷選手。希少な甲冑型固有霊装ゴリアテから放たれるヘビーチャージが今日も炸裂するのか!」
二人は言葉を一言も交わすことなく自分の持ち場につく。そしてステラは大剣型の
「いっけー桃谷!」
「そいつはFランクに負けてるんだぜ!」
観客席から桃谷に期待する声などが飛び交うが、闘技場にいる桃谷は今の自身の状況から対戦相手であるステラに臆しているようだった。
(Fランクに負けてるんだから勝てるっていいたいのか?バカいえ、あの試合は俺も見ていたがヴァーミリオンが弱かったんじゃなくてあれは黒鉄が強かったんだ。俺では無理だ。甲冑が暑くてとてもじゃないが戦える状況じゃない)
「アンタはあっちで騒いでる連中と違って弁えてるみたいね。この試合は実戦、飛び込めば幻想形態のように痛いだけじゃ済まないわ。よく考えて決断することね」
桃谷は少しの間荒い息を吐きながら構えていたが少し経つとゴリアテの目から光が消え桃谷は膝をついた。そして絞り出したような声で降参を宣言した。
「・・・ま、まいった」
『勝者ステラ・ヴァーミリオン』
こうしてステラの初戦は相手の降参によって勝利という結果で終わったのだった。
この後も選抜戦を見ていたが一部の試合を除いて見所のある試合がなかったため、八幡と一輝は闘技場から出て寮への道を歩いていた。
ヴァーミリオンと一部の生徒しか見所のある試合はなかったが、ヴァーミリオンと桃谷って人の試合は予想通りの結果で終わったな。桃谷って人も弱くはないけど、甲冑型の固有霊装では炎で中を蒸し焼きにされるのがオチだっただろうし今回は相手が悪かったな。まあ、こうやって勝てない相手とは戦わないのも1つだしそれが悪いとは言わないがな。
「やっぱりステラが勝ったね」
ヴァーミリオンと桃谷の試合を頭の中で振り返っていると黒鉄が話しかけてくる。俺は黒鉄の声に反応し意識を黒鉄に向けると肯定の声をかける。
「まあな。今回は相手がよかったんだろ。甲冑型の固有霊装だったし、炎との相性はいいからな。なんとなくあの結果になるだろうってことは分かってたぞ」
「甲冑型だと内部に熱がこもって蒸し暑くなっていくけど今回はステラの炎が蒸し暑さをさらに加速させてたからね。暑さで熱中症になることを考えたら棄権した方がいいってことはわかるよ」
桃谷にとっては初戦の相手から相性最悪の相手だったというわけだ。しかも一敗したからもう後がないとかハードモード過ぎだろ。それでいったら黒鉄も結構なハードモードだな。黒鉄の相手は黒鉄にとって因縁ともいうべき桐原静矢だし。黒鉄がどうやって戦うのか気になるところではあるな。よし、聞いてみるか。
「相性が悪いといえば黒鉄も結構相性が悪いがどうやって戦うつもりなんだ」
気になった俺は黒鉄に聞くも黒鉄は困ったように笑った。
「どうしようかな。去年までの通りなら矢にはステルス迷彩が掛けられていなかったから矢が飛んできた方角から位置を逆算して位置を特定しようかなって思ったんだけど」
「確かにその方法もあるが、他のやり方も何個か用意しておいた方がいいと思うぞ。桐原のことだから二つ名の狩人らしくこそこそと隠れながら痛めつけるように攻撃してくるだろうしな」
飛んでくる位置から逆算して位置を特定するのは矢が見えればそれもできるがもし矢まで透明にできたらまずいな。一方的な展開になるぞ。
「考えておくよ。今回でやっとできたチャンスだから絶対に負けられないしね」
黒鉄は表向きには緊張していることを出さないようにしながらやる気をみせると八幡と別れて自分の部屋へと戻っていった。
黒鉄と別れて自分の部屋に戻った俺はさきほど黒鉄と話したことを振り返る。黒鉄と桐原の戦いについてのことだ。
黒鉄は桐原との戦いで矢が飛んできた方角から逆算して位置を特定するって作戦をたててたが矢を透明化できたら通用しないから音で見極める作戦の方がいいと思うんだよな。俺が桐原だったら矢を透明化できないと思わせ後から透明化するか、透明化していない矢の中に透明化している矢を混ぜて雨のように広範囲に落とすかのどちらかで戦うし。
まあ、それよりも問題なのはメンタル面か。 俺に気付かれないようにしていたが顔が強ばっていて、いつもなら言わないようなことも言ってたし緊張しているのがわかるな。黒鉄にとってトラウマとも言える桐原が初戦の相手だということに加えて負けたら卒業が遠のくというプレッシャーを感じているのだろう。後は本番で緊張のしすぎで視野が狭くならなければいいが。
黒鉄の現在の状態に一抹の不安を感じながら次の日を迎えるのだった。そしてこの時八幡は思いもしていなかった・・・桐原との戦いが黒鉄にとって困難と栄光の始まりだということを。
今回はありがとうございました。次から本格的に選抜戦に入っていきますので期待して待っててください。
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一輝の初陣と緊張
黒鉄と話した翌日の昼、俺達は黒鉄の試合がある闘技場の前に集まっていた。黒鉄の試合は1時からで待機時間までは20分ほどある。そこでヴァーミリオンは黒鉄に待機時間までの過ごし方を尋ねた。
「まだイッキの待機時間までしばらくあるわね、どうする?今やってる試合見に行く?」
「いや、僕はもう控え室に行くよ。自分の試合に集中したいからね」
一輝はステラの誘いを断って試合に集中することを伝える。そんな一輝を見ていた八幡は一輝の靴ひもが取れていることに気付き指摘する。
「それはいいけどな黒鉄、お前靴ひも解けてるぞ」
「え・・・あっありがとう八幡」
一輝は八幡の声で自分の靴ひもが解けていることに気付きしゃがみこんで靴ひもを結ぶ。
俺に声かけられるまで靴ひもが解けてることに気づいてなかったな。緊張で些細なことにも気づかないとなると本番は厳しい戦いになりそうだ。
「まあ、とにかく頑張ってこいよ」
黒鉄が緊張していることには気づいているがそれを声に出すともっと緊張するかもしれないからな。このへんで別れた方がいいだろう。俺は黒鉄に一言エールを送ると黒鉄が控え室に向かうのを見送った。そして残った俺とヴァーミリオン、有栖院、黒鉄妹の4人は黒鉄の試合がある闘技場の観客室へと向かった。
5分後観客席に到着すると、観客席は選抜戦に参加しない生徒と参加する生徒、桐原を応援しに来た女子生徒達で賑わっていた。その中の空いている席を俺、有栖院、黒鉄妹、ヴァーミリオンの順で座り黒鉄と桐原の試合が始まるのを待つ。この時の時間は午後12時55分になっていて試合開始まで後5分となっている。
黒鉄と桐原の相性は最悪といってもいいレベルだが黒鉄はどのように戦うのかね。現時点で緊張しているかどうかはわからんが昨日言った通りの作戦だと少し予想が外れただけで大惨事になるな。
黒鉄と桐原が闘技場に来るまでの間、二人の戦いの流れを考えながら試合時間まで待っていると隣の有栖院が話しかけてきた。
「八幡。さっきの一輝を見てどう思った?」
「靴ひもが解けてることに気づいていなかったって話か。あれは緊張しているってことの表れだろ。普段の黒鉄なら気づかないなんてことはありえないな、特に自分のことなら」
靴ひもが解けてることをいっているのだろうと俺は見当を付けて有栖院の質問に答えた。そして有栖院は望んでいた答えを得られたのか話を進める。
「そうね。私から見ても一輝が緊張していることはわかったわ。彼の実力の高さを知っているとはいえ、相手の実力も高いから緊張を感じるのはおかしくないわね」
有栖院の言う通りだがそれだけじゃない。一番は勝たなければこれまでの2年間が無駄になるというプレッシャーからだろう。緊張するなとは言わんが緊張をある程度は制御できるようになるといいというのは確かだ。
「別に緊張することが悪いという訳ではないが過度な緊張は視野を狭めることにもなる。その事に気づかなければ、なにか予想外の事態になった時相手の有利になるのは避けられないだろうな」
過度な緊張が大事に発展することは既に経験済みだ。黒鉄も俺と同じように頭で考えてから動くタイプだから俺の言ったようなことはおそらく起こるだろうと確信に近いものを感じている。
「さて、黒鉄の初戦。どうなることやら」
こうして脳内で思考を止めないでいると八幡の隣に知っている気配が現れ八幡に声をかけてきた。
「へ~ハチマンくんが気にする相手がこの試合に出るのか~黒鉄くんってのはどっち?剣士くん?それとも弓使いくん?」
「・・・なんでいるんですか、オルフェさん」
俺に声をかけてきたのは長い銀髪を持つ女性の伐刀者、シゼル・オルフェだ。俺が所属する傭兵団の傭兵で、入った当初の上司にあたる人物だ。語尾を伸ばすような口調で子供っぽい印象を与えるがこの人との年齢は2つしか離れていない。
「なんでってそれは~、ハチマンが選抜戦に出るって聞いたからだよ~」
誰に聞いたんだよ。俺知り合いにしか言ってないのに。まさかあいつか。
「そうだよ~、ミラちゃんに教えてもらったんだ~」
「なにも言ってないだろ。心を読むな」
やっぱりか。どうせミラに能力を使わせて教えてもらったんだろ。
「それはそうとして~ハチマンくんの試合は観るけどそのハチマンくんが気にかけてる子の試合も観ようかな~」
「俺の試合を観ても面白いことはないですけど、黒鉄の試合は多分面白いことになりそうですし観てもいいんじゃないですかね」
黒鉄が緊張しているとはいってもその緊張が解れたりしたら面白いことになりそうなんだよな、本当に。
「それじゃあ観てみることにするね~」
オルフェさんと話していると時間は過ぎていき黒鉄と桐原が闘技場に姿を現す時間になった。まず選手紹介とともに右から選手が入場する。
「右から入場するのは、昨年一年生にして七星剣武祭への出場を果たしたCランク騎士桐原静矢選手!」
桐原の名前が呼ばれると会場の女子生徒が大きな歓声を挙げ、それに応えながら歩いてくる。
そして歓声が弱まったところで黒鉄の紹介が始まる。
「そして反対側から現れたのはFランクながら模擬戦であのヴァーミリオン選手に勝った黒鉄一輝選手!」
黒鉄と桐原は互いに少し離れた位置で立ち止まると何事か話しているが、小声であるためこちらには聞こえてこない。そして話が終わったのか二人はそれぞれ
「さあ狩りの時間だ朧月」
「来てくれ陰鉄」
黒鉄と桐原の準備ができると同時に試合の開始を告げる機械音声が響いたのだった。
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落第騎士VS狩人 前編
試合開始の合図が流れるが黒鉄は構えたまま動かず様子を窺い、桐原は構えることなく黒鉄を見ている。桐原は黒鉄を甘く見て余裕ぶっているが、俺からしたらどうぞ攻撃してくださいといっているようなものであることはいうまでもない。
「おー怖い目だ。とてもかつてのクラスメイトに向ける視線じゃない」
「もう試合は始まっているよ、桐原くん」
「嫌だね余裕のない人は・・・では失礼して」
余裕のある桐原に対し余裕なさそうに試合を急かす黒鉄。今のところは精神面で余裕のある桐原がリードしている形だ。
なんであれほど油断している桐原に攻撃しないんだよ。こんな絶好の機会を目の前で見逃すとか黒鉄のやつ緊張しすぎだろ。
黒鉄に促された桐原は見せつけるようにピアノを弾くような仕草をするとその動きに合わせて闘技場全体が広大な森に変化していった。
「出たぁっ
フィールドが森に変化するのと同時に桐原は自身の姿を消す。俺は桐原がどこにいるかフィールド全体を見渡してみるが居場所に繋がる情報を完全に消しているようでこちらからも一切感知できなかった。
観客席から全体を見れる俺でも感知できないとなると完全なステルス能力ということか。黒鉄も難敵と当たることになるとはこれはまた運のない・・・いや、実際あいつは運もFランクだったな。さてどうなることやら。
桐原が姿を消したのを視認すると黒鉄は意識を集中させどこから攻撃が来てもいいように備える。そして姿の見えない桐原が矢を放つと黒鉄は攻撃に反応し矢を斬り落した。 さらに追加で飛んでくる矢を3本斬り落とすとなにもないはずの場所に斬撃を放つ。するとその斬撃はなにかを斬り裂きそのなにかが地面に落ちた。
「あ、制服の切れ端!イッキがキリハラを捉えたみたいね。でもどうやって捉えたのかしら」
制服の切れ端が地面に落ちたのに気づいたヴァーミリオンは歓声を挙げるがすぐに切り替えて黒鉄が桐原の居場所を把握した方法について考える。その答えを口に出したのは俺の隣にいるオルフェさんだ。
「それは簡単なことよ~。弓使いの子が放った矢の飛んでくる位置から居場所を逆算したってところね~。そうでしょハチマンくん~」
「そういうことだ。桐原の能力では姿を透明にしても矢は透明にならない。それを逆手にとった戦術だというわけだ」
さて、ここまでは互角か黒鉄が若干有利ってところ。だが桐原はこれでも一応七星剣武祭出場者だしこのまま終わるとは思えない・・・ここからが黒鉄にとって本当の戦いになりそうだな。
俺の考え通り闘技場では次のステップへと足を踏み入れていた。
桐原は近くの木に移ると透明化を解除し姿を現す。黒鉄も桐原の後を追って近くの木の枝の上に立つと桐原と距離を置いて対峙する。
「これは参った。もしかして黒鉄君は本気で僕に勝つつもりなのかなぁ」
「そうでなければここにはこないよ」
「アハハハッ君は全くあの時から変わってないなぁ。実に、実に不愉快だよ」
「それなら好きなだけ矢を射ち放てばいい。僕はその悉くを打ち払おう」
「フンッ
黒鉄と桐原はそれぞれ少しの間口論すると桐原は再び姿を消し黒鉄は木の上に立ったまま刀を構えると周囲を警戒し始めた。そこへ桐原の声が響いてくる。
「ああそうだ。この後はどこを射るか前以て教えてあげるよ。まずは右太腿だ」
桐原の宣言に戸惑いを感じながら攻撃に備える。しかし不可視の矢は黒鉄に知覚されることなく、桐原の宣言通り右の太腿を射抜いた。
「ぐぁぁぁっ!」
矢で足を貫かれたことで黒鉄は苦痛の声を上げ、その声に反応して桐原の笑い声が響き渡る。その光景を観ながら俺と黒鉄妹と有栖院はそれぞれ難しい顔をした。
やはり桐原は昨年の弱点を克服していたか。これは黒鉄にとって最悪に近い展開だな。
「まずいわね」
「えぇ。お兄様の思惑が根底から崩された」
黒鉄の考えていた攻略法は飛んできた矢の方向から居場所を逆算し攻撃を当てるというものだったが、それも矢がステルス化できないことを前提としている攻略法であったため矢をステルス化できるようになった今年の桐原には通じない攻略法となった。
桐原は黒鉄を敢えて痛めつけるように左腕、左手、左太腿と宣言した通りの場所を射抜いていく。その姿はまさしく狩人だ。
「どうして開幕速攻を掛けなかったの?」
ヴァーミリオンが試合開始から思っていたことを口に出す。その問いに黒鉄妹が疑問の声を上げた。
「えっ?」
「敵が消えるのが分かっているんだからそこで勝負を掛けるのが一番確実じゃない」
「でも時間をかけて相手を読むのがお兄様の剣で」
確かに黒鉄は相手の剣を見ることで剣の理を暴くことができるなど目や剣術に関していえば才能があるといえるレベルにある。しかし桐原の狩人の森を相手に剣だけでの対抗は難しく本来なら開幕速攻が最善策であった。にもかかわらず開幕速攻を仕掛けなかった。これは黒鉄のことを知っている者達からすれば違和感を感じるだろう。
「見えない敵に備えるだけでどれだけ消耗を強いられると思う?イッキがその程度の見切りをしないなんて」
「しなかったんじゃない。できなかったんだよ、ヴァーミリオン」
そうだ。平常時であればその程度の見切りができないなんてことはまず考えられない。しかし平常時でなければ話は変わってくる。
「その程度の見切りすらできないほどに黒鉄は緊張している。最近の黒鉄になにか違和感を感じたことはなかったか?」
例えば試合直前に靴紐が解けていることに気づいていなかったこととかな。ヴァーミリオンにもあるはずだ、誰よりも長い時間黒鉄の側にいたお前なら。
「違和感?そんなもの一つも・・・」
ヴァーミリオンの言葉が途中で止まる。やはり違和感はあったようだ。
「その様子だとあったようだな。違和感が」
「ええ、あったわ。寮でキリハラのことを話しててその最後に僕は必ず勝つって言ってた。イッキは勝負において必ずなんて言葉を使うタイプじゃない」
俺が黒鉄の違和感について聞くと、ヴァーミリオンは黒鉄の違和感について思いあたることがあったようだ。その違和感をヴァーミリオンが口にしたところで俺はさらに言葉を続ける。
「黒鉄が公式戦という舞台に立てるまでに重ねてきた苦労と、トラウマともいえる桐原が相手であることを考えれば普段通りにしていることが既に異常だったんだよ」
「・・・そうだわ、緊張しないわけがない。どうして気づけなかったのよアタシはっ」
おかしなまでの平常心が黒鉄の心の悲鳴だったという訳だ。そのことに気づけなかったヴァーミリオンは自身を責めているが気づけなかったのも無理はないと思う。近くにいるからこそ気づけないものもあるのだから。
戦闘から気づいた黒鉄の緊張や心の悲鳴について話していたところ、桐原がある一言を戦闘中に言ったことで観客席の空気が変わった。
「それにしても新理事長は酷な条件を出すなぁ君みたいな虫けらにさぁ・・・七星剣武祭で優勝することだけが卒業への道なんだろう?」
桐原くんが「七星剣武祭での優勝だけが卒業への道なんて酷な条件出すなぁ」と言っていましたが黒鉄がハンデ戦とはいえ神宮寺理事長に勝っているという裏の事情があることを考えたら達成できると見込んで出された条件だと考えられますよね。
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落第騎士VS狩人 後編
「七星剣武祭で優勝することだけが卒業への道なんだろう?」
桐原が突然発した言葉に会場の生徒たちは困惑の声を数多く上げる。
「どういうことだ?」
「あいつだけ卒業の条件があるのか」
生徒の多くが卒業する条件があることに関心を持っていてそこらじゅうから疑問の声が上がっている。
「優勝?七星剣武祭で?」
「バカじゃねーの」
「あいつFランクだろ?マジかよ」
そして中にはFランクであることを馬鹿にし、七星剣武祭で優勝することなんてできないと決めつけて嘲笑する者までいた。
「おやおや笑われてるぞ悔しくないのか。必ず優勝するって今みんなに宣言したらいいじゃないか、なぁ!」
桐原の精神攻撃と観客の嘲笑に黒鉄は攻撃を避ける素振りすら見せなくなった。それでも桐原は攻撃の手を止めず黒鉄を痛めつけ続ける。
「へっ、無様なやつ」
「Fランクの癖に優勝とかありえねぇ」
「一回まぐれでAランクに勝っただけでよー」
観客たちの罵声が響く中、隣ではヴァーミリオンがなにやらぶつぶつと呟いているが何をいっているのかはわからなかった。おそらく観客や桐原に対しての不満なのだろうがここは見なかったことにしておくのが一番のようだ。
そして俺が視線を戻すとちょうど黒鉄が背後から矢を受け倒れるところだった。しかしここまで派手にやられても黒鉄は意識を失ってはいないようで試合終了の音声は流れない。そこで桐原は最後の追い討ちとしてさきほど黒鉄を馬鹿にしていた観客達に応援するようけしかける。
「ハハハハッみんなぁっ!挫けそうな黒鉄君を応援してあげてくれぇっ!それワーストワン!」
「ワーストワン!」
桐原の声に続いて観客達も黒鉄の二つ名を呼び、会場全体はワーストワンコールに包まれる。そして桐原と観客の声によって黒鉄の心が折れかけたその時、とうとうヴァーミリオンの怒りが爆発する。
「黙れぇぇぇぇっ!!アタシの大好きな騎士をバカにするなぁぁぁぁっ!!イッキ、こんなところで諦めかけてんじゃないわよ!上を見てるアンタがアタシは好きなんだから!アンタはアタシの前ではずっとカッコいいアンタのままでいなさいよこのバカぁぁぁっ!!」
ステラは自分の心の中に秘めていたものを解き放ち一輝を鼓舞する。
ヴァーミリオンのやつ、まさかこんなところで告白染みたことをするとは。だがこれほど男に気合いが入る言葉は存在しないな。
ヴァーミリオンの声に黒鉄は立ち上がり膝に力を入れると右の拳を握り締め自分の右頬を殴り気合いを入れる。そして再び桐原を見据えた。
「ありがとう、ステラ。いい喝が入った」
黒鉄の緊張が解れたみたいだな。これなら視野を狭めることなく解決策を考えられるだろう。さぁ黒鉄、ここからが正念場だ。
「喝が入ったからなんだっていうのかい?僕の狩人の森は遠距離攻撃でなければ絶対に破れない。それでも僕に勝つつもりなのかな?」
桐原の訝しげな声を無視して黒鉄は刀を構える。桐原は舌打ちを一つすると再び姿を消す。
「黙りか、まあいい。今更頑張ったところで僕の勝利は揺るがない」
黒鉄は深呼吸を一つして目を開ける。そしてついに切り札となる伐刀絶技を解放した。
「一刀修羅!」
ここで切り札を切ったということは勝負を決めるつもりか。だが桐原の狩人の森は姿や気配すらも消える完全ステルスで居場所を捉えるのは難しい。居場所がわからない相手をどういう風に突破するのか楽しみだ。
「欠陥だらけの技で避けられるかよ!」
桐原が弓を引き絞って矢を黒鉄に向けて放つ。そして桐原から放たれた矢は黒鉄に向かって一直線に飛んでいく。
「ホラホラァ!当たっちゃうぞっ!死んじゃうぞっ」
透明な矢が黒鉄を貫く・・・ことはなく黒鉄の手によって矢を掴まれたのだった。
「へ?」
掴んだ矢を素手で粉々にすると桐原の口から間の抜けた声が聞こえた。
「やっぱりね。桐原君ならここは必ず曲げてくると思った」
「バッ、バカな。見えてるっていうのか!?」
これまでこのような形で破られたことはなかったのだろう。未知の状況に今度は桐原が唖然としている。
「影や形も見えちゃいない。でもわかるんだ」
俺も驚いた。見えてはいないけどわかる、そんなこと勘が鋭すぎるならともかく普通ならありえないことだ。今のところどうしてそうなったのかは皆目見当がつかない。
「そんなことあるかぁぁぁっ」
桐原の言葉から現実を受け止められないという感情が透けて見える。実際黒鉄の強さは戦ってみて初めて理解できるもので動画では絶対にわからないものだ。そこに桐原の油断が重なって今の状況になったのだが取り乱している桐原にはそんなことは知る由もない。
「君の手順が、痛みの深さが、声音に宿る感情が、君の全てを教えてくれる」
続けざまに放たれる透明な矢をまるで見えているかのように全て切り落とすと攻撃が途切れたタイミングで再び息を整えると言葉を続けた。
「ならそれを辿ればいい。その果てに必ず君はいるのだからっ」
最後の一発で桐原の居場所を突き止めたようで黒鉄と桐原の視線が交わる。
「捕まえた。僕はもう君を逃がさない」
黒鉄と完全に目が合った桐原は一歩後ずさった。
「マジか。まさか桐原の狩人の森をそんな風に破るとはな」
「ヒキガヤ、どういうことよ!」
「黒鉄は相手の剣技の理を暴く
本当おかしいだろ、これ俺の体質の上位互換じゃねぇか。
「君の器はもう見切った」
桐原の居場所を完全に捉えた黒鉄はとうとう反撃に打って出た。
「いくぞ、桐原君。僕の最強を以て君の最強を捕まえるっ」
黒鉄は開いていた距離を詰めるため急速に接近を試みる。対する桐原は近寄らせまいと後ろに下がりながら矢を何本も放つ。
「うわァァァァァッ」
しかし黒鉄には当たらず段々と距離が近くなっていく。桐原は伐刀絶技で同時に無数の矢を放って足を止めさせようとするが黒鉄の足を止めさせることはできていないようだ。
「
無数の矢が黒鉄を襲うがほとんどの矢は黒鉄の横を通り過ぎ、稀に真っ直ぐ飛んでくる矢があるがそれらは黒鉄によって全て切り落とされる。
「待て待てっ!止まれっ!やめてくれェェェっ!」
黒鉄には止まれと言っているが自分は攻撃しているところに桐原の屑さが表れている。
「そうだ!ジャンケンで決めようっ」
なんとしても斬られたくない桐原は言葉でも行動でも黒鉄の動きを止めようとするが黒鉄は止まらない。そして最終的に散々虐めてきたことを棚にあげて友達面するが黒鉄には無視される。
「友達じゃないかっ」
固有霊装が消えていて完全に戦意を失った桐原は後ろに下がりながら悪足掻きをしているが黒鉄は完全に勝負を決めるつもりなようで一切動きを止めない。
「それ刃物!死んじゃうっ死んじゃうよ!分かった敗けでいいっ僕の敗けでいいから!痛いのは嫌だァァァ!!」
そして黒鉄が最後の一撃を桐原に振り下ろし刀が地面に突き刺さったところで桐原が気絶した。
「1ミリ予測とズレたな。僕もまだまだだ」
黒鉄が一言呟いたところで機械音声での桐原の戦闘不能が宣言され試合が終了した。
落第騎士の一輝と狩人の桐原の試合はこれで終了です。次話は選抜戦後の話を入れてから八幡の選抜戦の初戦の話を少しだけするでお楽しみに。
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試合前
黒鉄と桐原の試合が終了した後、俺たち5人は2試合後にある俺の試合を観るために闘技場を出て門の前に集まっていた。今回の戦いの功労者である黒鉄は先ほどの激闘により治療が必要な状態となっているためここにはいない。 まず初めに口を開いたのは桐原との戦いに勝利した黒鉄の妹だった。
「一時はどうなることかと思いましたがお兄様が勝ってよかったですねステラさん」
「そうね。キリハラとの相性はかなり悪かったけどイッキなら勝てるって信じてたわ」
まあ、選抜戦の初戦で躓くようでは七星剣武祭の優勝は疎か選抜戦を勝ち残ることすらできないからな。だからどのような形であれ初戦に勝利できたことは黒鉄の実力から考えれば大きな一歩になるだろう。
「どこかの誰かさんが告白染みた叫びで黒鉄に活を入れたからな。それがなければ負けていただろ」
「うっ、うっさいわね。私は別にイッキのことが好きなわけじゃないわよ!ただあんなチキンに負けるのが嫌なだけっ」
伐刀者はある程度の慎重さがなければいけないから桐原の勝てる相手としか戦わないってのは否定できないんだよな。ただ逃げてばかりだと本当に大事なときに戦えなくなるから慎重すぎてもいけないが。
「ステラちゃんも素直にならないと彼を取られちゃうわよ。今は有名でないからライバルは珠雫しかいないけど、勝ち上がってきて有名になればファンも増えるしイケメンだからライバルもきっと増える。そうなったら黒鉄一輝争奪戦が起こってもおかしくないわ」
確かに黒鉄は見た目からしてイケメンだしファンとかライバルとか増えてもおかしくないわな。俺だったら見た目で寄ってくるようなやつは嫌だけど。
「確かに黒鉄は顔も性格もいいな。強いってことがわかったら言い方は少し悪いが結構優良物件だと思しライバルは増えるんじゃねぇか?」
「別にイッキのことが好きなわけじゃないんだから関係ないわよ」
黒鉄のことが好きなわけではないと口にするヴァーミリオンであったが、その顔はうっすらと赤くなっていて異性として意識しているのは丸わかりな状態であった。この話題から無理矢理話を変えたのはヴァーミリオンだ。
「そんなことより次はヒキガヤの試合じゃない。ヒキガヤの相手ってどんな奴なの?」
「あ?俺の相手は大杉剛ってやつだ。桐原と同じ低ランク差別者で黒鉄と一緒にいた俺にAランクの恥さらしだとか言ってたな」
「なんですかそいつ。ランクに関係なく接してくれる比企谷君を恥さらしとか何様なんですか」
兄を蔑ろにした黒鉄家と似たようなことをする大杉剛に対して怒りを露にしている黒鉄妹を見ながら俺は口を開いた。
「単純にランクにふさわしいやつと仲良くしろって言いたいんだろうあれは。互いにランク差のあるやつと仲がいいからそれが気に食わないんだろ」
自分のことでありながら他人事のように話していると珠雫は呆れたように溜め息を吐いた。
「なんでそんなに他人事なんですか」
「八幡くんにとってランクはそれほど重要ではないからですよ~。伐刀者のランクを当てにして戦っていたら死んでいてもおかしくない環境で生活してたからね~」
オルフェさんの言う通り、油断している者が敵の攻撃によって死ぬのを戦場で散々目にしているため、ランクで実力を判断せず実際に見たり戦ったりして判断している。そのため俺にとってランクは強さを図る指標の一つなだけでそれほど重要視していない。
「ということは比企谷君と同じ経験をすればランク差別が減るってことね」
逆にいえばそういった経験をしなければ考え方は変わらないって捉えることもできるのだが。ていうか俺と同じ体験をするのは少し酷だと思うぞ。
「闘技場の観客席の入り口に着いたな」
闘技場に着き俺は時計を確認すると時間は試合開始の15分前となっていたため待機室へ向かうことを告げる。
「そろそろ時間だし待機室に向かうわ」
「頑張りなさいよヒキガヤ!負けたら承知しないからねっ」
「比企谷くんご武運を」
「頑張って」
「ハチマンくん頑張ってね~」
俺は4人に見送られて待機室に向かうのだった。
4人と別れた数分後、俺は入り口から少し離れた待機室に入った。待機室はロッカールームのようになっていて水道もついているなど更衣室に近い形状をしている。俺はそんな待機室の中央で目を閉じて意識を体の内側に集中させていた。
意識を集中させてみてわかったが魔力が若干荒れていて意外と緊張しているな。とはいっても戦場にいるときのように周囲に気を張り続けて空気が張りつめたようなピリピリしたものではなく、体が落ち着かずソワソワしたくなるようなものだからまた違った感じがするが。
とにかく緊張で体が固まるようなことにはなっていないためほどよい緊張を感じているということがわかる。荒れていた体内の魔力を落ち着かせると意識の集中を解き目を開ける。
今まで目を閉じて体内に意識を集中させていたため時間感覚があやふやな俺は待機室の時計を見ると時間は午後4時55分となっているのが確認できた。試合時間まで後5分ほど残っているが他にやることもなかった俺は魔力を一瞬で体の隅々まで均等に行き渡らせることと、時間をかけて魔力を体の中心に集めるといったことを交互に繰り返しながら努力について考える。
Aランクは国の顔とも言える存在であるため他の伐刀者に舐められることがないよう並々ならぬ努力をしている。しかしほとんどの伐刀者はその事実に目を背け才能には勝てないと思い込み努力をするだけ無駄だと諦めている。現にFランクがAランクに勝った時にはAランクに勝てたのはまぐれだとか八百長だとか騒ぎ、Fランクが勝てるなら他のランクでも勝てると努力を否定していた。
そこで今回の選抜戦でAランクの俺が圧倒的な戦いを見せ、強者に勝つためには強者以上の努力をしなければならないと演説することで黒鉄が強さが努力にあることと努力の重要性を伝えられる筈だ。
このように今回の試合を勝つことで伝えられることを考えているとアナウンスで俺の名前が呼ばれ、闘技場に入場するように促される。
やっと俺の出番か。実像形態とはいえiPS
俺は歩く早さを一切落とすことなく通路を通り、闘技場の扉を開けたのだった。
次はとうとう八幡の初陣です。どのような戦いになるかはお楽しみに
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八幡の初陣
「さあ、やって参りました!七星剣武祭代表選抜戦2日目、第8試合の実況は私、枯野千鶴、解説は折木有里先生でお送りします!」
「よろしくね~☆」
闘技場の扉の内側から実況を聞いていると遂に選手紹介に移った。俺は選手紹介に入ったタイミングで扉を開けて闘技場内に入る。
「さて、早速ですが選手紹介に参りましょう!左から現れるは昨年の首席にして日本の学生に2人しかいないAランク騎士の一人、比企谷八幡選手です!!昨年は入学1ヶ月で休学したため戦闘データは皆無ですがどんな戦いを見せてくれるのか注目です!」
俺が入ってきたときにはそれほど拍手や歓声は多くなかったが、Aランクだとわかった途端歓声に包まれる。
「対するは2年のCランク騎士、大杉剛選手!!昨年は選抜戦に出ておらず実戦データは授業のみ。実像形態で行われる実戦でどう戦っていくのか!」
観客席は俺より少ないが歓声があり、その歓声の中にはFランクで勝てるならお前でも勝てるといったもある。はっきりいってこいつらAランクのこと舐めすぎだろ。
「退学したかと思ってたわヒキタニ」
名前をわざと間違えたまま話しかけてくる大杉に対して、俺は一々直すのも面倒だと感じそのままスルーした。
「噂だとFランクと仲良くしていたからって理由で前理事長に退学させられたって話だったが嘘だったか」
この噂流したやつ魔導騎士連盟のことなにもわかってないだろ。将来的に国の顔になるAランクを退学にするとか風聞が悪い上に戦力を落とすことにもなるんだしそんな判断をするなんてことはありえねぇよ。
「噂の真偽はとにかく仲良くする相手は選んだ方がいい。FランクにはFランクの、AランクにはAランクに見合った身の程ってものがあるんだからな」
言葉的にはアドバイス的な感じになっているものの、言い方は完全に強制させるような物言いになっているため俺は無視すると、大杉は顔を歪め苛立った様子をみせた。
「なにか言ったらどうなんだ?」
俺が無視したからってもう怒ったのかよ。仕方ない、そんなに言ってほしいのなら言ってやるとするか。
「言いたいことはそれだけか?それだけなら霊装出して準備しろよ。力無き者の戯れ言に付き合う気はないしな」
おもいっきり煽ってやると大杉はさらに顔を歪ませ舌打ちをしてから霊装を展開した。
「ちっ・・積み上げろ鬼灯」
「具象せよ、村正」
互いに霊装を展開し戦う準備を整え試合開始の合図を待つ。そして5秒後に機械音声による試合開始の合図が流れた瞬間大杉は伐刀絶技を発動した。
「
伐刀絶技を発動させたまま地面を蹴り高速で接近してくる。そして目の前で剣を振り上げるとまっすぐ振り下ろしてきたが、俺はその振り下ろしを平然と受け止める。そこへさらに踏み込んで横薙ぎを放ってくるがその攻撃も受け流した。
伐刀絶技の名前の通りなら身体能力が倍加されているというわけか。確かに攻撃速度や移動速度、威力は上がっているが一切の技術もない力任せな攻撃だから受け止めるのは簡単だな。
俺が2度の攻撃を全て防いだことで普通にやったらダメージを与えられないと考えたのか大杉は攻撃の手数を増やして押しきろうと連撃を放ってくる。
「速くて威力が高いだけじゃ攻撃なんて通らねぇよ」
俺は呆れながらも大杉が放つ連撃を一つ一つ対応していく。大杉の連撃もこれまでと同様に技術もない力任せなもので簡単に対処できてしまうのだが、大杉は攻めてこないことに調子に乗って煽ってくる。
「どうしたヒキタニ防戦一方じゃないか。やっぱり雑魚のFランクなんかとつるんでるからAランクのお前まで軟弱になったんじゃねぇか?ほらほら連撃の速度上げてくぞ」
大杉はさらに攻撃の速度や威力を上げていくが技術は一切変わっていないため俺は今までと変わらず攻撃を受け流し捌いている。
「大杉選手の猛攻に防戦一方だ!!比企谷選手このまま押し切られてしまうのか!」
「いえ、それはどうでしょうか。比企谷君の足元を見てみて」
「足元ですか・・・これは!一歩も動いていません!!どういうことなんでしょうか折木先生!」
「単純に足を動かさなければならないほどの攻撃ではないということだと思うわ。それだけ戦闘能力に差があるというわけね」
大体の能力は把握できたな。元々の身体能力は恐らくCランクで能力は一定時間毎に倍率が上がっていく倍加か。となると早いところ反撃に出て勝負を決めた方がいいな。今のところは俺が防戦一方だと思わせてるがそれもそろそろ気づかれるだろうし。
「さて、そろそろ決めようかね」
「あ?決めるだと?笑わせるな、防戦一方の状態で何ができる!逆に俺が終わらせてやるよ!」
そう言って大杉は時間が経ったことでさらに上昇した身体能力で勝負を決めにきた。大杉は一番威力が出やすいであろう上段からの振り下ろしで俺を斬ろうとする。そこで俺は、振り下ろしに対して斜めに刀を入れることで攻撃の威力を弱めると無音で受け流した。
「なっ」
無音で受け流されたことに驚いた大杉は一瞬硬直し、俺はその隙を見逃さず腕に魔力を全て注ぎ込み大杉の左腕を斬った。大杉は腕を斬り落とされた痛みで絶叫しその場に座り込む。
「ガアァァァァッ痛てぇ!痛てぇよ!親父にも斬られたことないのに!!」
そりゃあ自分の息子を斬るようなやつはそうそういないだろ。ていうかガンダムのアムロ・レイのセリフをアレンジするなよ、思わず笑っちゃいそうになっただろ。
「比企谷選手のカウンターが大杉選手にヒット!大杉選手の腕を斬り落としたぁぁぁ!!」
大杉の左腕を躊躇なく斬ったことで観客席が僅かに騒めくが俺にとってはこの程度のことは日常茶飯事であるため既に慣れている。
「今度は無音で攻撃を受け流していましたがこれも実力差なのでしょうか。どう思いますか?」
「えぇ、これも実力差ね。とは言っても余程実力差がないとあんな風に無音で受け流されるなんてことはないのだけど」
ていうか武器を使った攻撃が受け流されたのこれまで一度もしたこともされたこともなかったんだが。本当にこんなことできるんだな。
「クソッ、なんでFランクでも勝てるのに俺は勝てないんだよ!」
「逆に聞くが大した努力もしてないのになんで俺に勝てるって思ったんだよ」
「は?」
率直な疑問を投げかけると大杉は唖然としたような声を出した。
「だからなんで大した努力もしてないのに勝てるって思ったのか聞いているんだが」
まさか努力するだけ無駄なFランクが勝てるならCランクの俺でも勝てると思ったとかじゃねぇよな。
「はぁ!?Fランクが勝てるなら俺が勝てない方がおかしいだろうが!なにを当たり前なことを言ってんだ!!」
マジか本当にそう思ってたのかよ。だとしたら黒鉄以上に伐刀者向いてないだろこいつ。実力差を把握できず圧倒的格上に戦いを挑んで殺されそうなんだが。
「Fランクが勝てるなら他のランクでも勝てるとか言ってるがお前が言ってる勝てるってのは努力してないことが前提の話なんだろう。だとしたらAランクを舐めすぎだろ」
「じゃあなんだ!AランクやあのFランクは努力しているっていうのか!?」
「しているさ。他の奴等が思っている以上にな」
教えてやるよ。本当の努力というやつをな。
次は1週間で出せるといいなぁ
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才能と努力
「じゃあなんだ!AランクやあのFランクは努力しているというのか!?」
「しているさ。他の奴等が思っている以上にな」
Aランクが努力しないで才能で戦ってきたと言いたいかのような大杉の発言に俺は否定の言葉を返すと努力について話し始めた。
「まずAランクってのは国家の顔を担う存在だから圧倒的な力が必要となることは知っているだろう。だからこそ国を侮らせないためにAランクは人一倍努力している」
闘技場の空気を掴むためにAランクの責務について自分の考えを話し始めると俺がAランクであることも関係あるのか観客たちは静かになった。
「しかしほとんどの者は才能を言い訳にしてAランクも努力しているという事実から目を背けている。だがな、才能の有無は努力しない理由にはならねぇ。むしろ努力ってのは才能という生まれ持っての差を埋めるために必ず必要となってくるものなんだよ」
黒鉄がしてきた努力をまぐれだとか八百長だとか文句をつけて否定されることがまるでAランクも努力するのがいけないことであるかのように聞こえたことがなによりも嫌だった。そのためAランクということで話に耳を傾けて貰いやすくなる俺の試合で努力について演説したのだ。
「確かに伐刀者の世界はランクによって才能に優劣が付けられているが、それが絶対的なものであるという保証はない。いいか?才能を羨むことができるのは真剣に努力してきた者のみだ。真剣に努力をしない者に努力してきた者を笑い、否定する権利はねぇんだよ」
そこまで言って左腕を斬られた痛みで蹲っている大杉に視線を移す。大杉は顔を涙で濡らしながらも俺を睨み付けていた。大方俺に腕を斬られたことに加えて自分よりも下に見ていた黒鉄の努力をAランクが称賛していることが琴線に触れたのだろう。俺に対して怒りをぶつけてくる。
「努力がなんだって言うんだよ!Fランクのクズができる努力程度でAランクに勝てるならそれこそ努力しなくても俺にだって勝てるはずだろ!?」
さっきまでの低ランクじゃ高ランクには勝てないって発言はどこいったんだよ、さっきまでとは真逆のこと言ってるじゃねぇか。まあいいや、これだけ言っても努力を否定する上にAランクを甘く見るなら直接言わなければダメか。
「なにを言っているんだお前は。大した努力もせずに勝てるほどAランクの名は安くねぇよ。それとこの際だからはっきり言わせてもらうが魔導騎士連盟が決めた伐刀者のランクなんて戦場じゃ参考程度にしかならないからな」
俺はここで話すのをやめると床に蹲っている大杉のところへ行き目の前で立ち止まる。
「さて、無駄話はこれくらいにして終わらせるとするかね」
俺がこの試合を終わらせようとしたその時、大杉が地面に蹲ったまま伐刀絶技を発動した。
「その無駄話のお陰で伐刀絶技を使う時間が作れた。これでAランクとはいえ動けないだろっ
うん?確かに若干動きにくいような感じはするがそれくらいだな。 少し身体強化するくらいで普段と変わらない動きができるようになるんだからそれほど倍加されていないんだろ。
「なんで動けるんだよ!重力を5倍には倍加しているんだぞっ!」
「なんか少し重いような気がするなと思ったら5倍にしてたのか。普段と変わらない動きができるから気のせいかと思ってたわ」
「なっ、 5倍にしてても重い気がする程度にしか感じてないのかよ・・・」
「まあ、そういうことだ。片腕もないし降参するなら今のうちだぞ」
戦意を失ったのを感じた俺は大杉に降参するように促すと一言呟くと大杉は降参した。
「クソッ勝てるわけがない・・・降参だ」
「試合終了!!比企谷八幡選手!Aランクの圧倒的な強さを見せつけ初戦に勝利だぁっ!」
会場が歓声で包まれる中、言いたいことを全て言った俺は足早に闘技場を後にした。
闘技場を出ていった後、俺は控え室に戻り着替えることなく荷物をまとめると控え室を出る。通路を通って外に出るとそこには試合前に集まっていたメンバーが揃っていた。向こうは俺に気づくと口々に労いの言葉をかけてくれる。
「お疲れヒキガヤ!負けるかもって思ったじゃない!」
「お疲れ様でした比企谷くん」
「お疲れ様比企谷くん。圧勝だったわね」
「ハチマンくんお疲れ~、余裕だったね~」
戦場に出たことすらない人間には勝てて当たり前だろ。 逆に傭兵組織の部隊長であるにも関わらず戦場に出たことのない学生に負けるようだったら部隊長の座を返還しなくちゃいけなくなるわ。
「ありがとうございます比企谷君、お兄様の努力を肯定してくれて」
オルフェさんの言葉に脳内でツッコミを入れていると黒鉄妹に今ここにはいない黒鉄に代わって礼を言われた。だが、お礼を言われるようなことをしたわけではないと俺は弁明する。
「真面目に努力をしていないやつが努力を否定するのが気に入らなかっただけだ。別に黒鉄のために言ったわけじゃない」
「・・・比企谷君って捻くれてるとか言われたことないかしら」
有栖院が呟くと俺たちは一斉に黙り込んだ。俺は否定はできなかった。だって自覚はあるもの。
「・・・こほん。比企谷君が捻くれているのかどうかはともかく、ここにはいない一輝も含めて全員が初戦を白星で飾れたのはよかったわ」
なんともいえない空気になった俺達の中で初めに復活したのは有栖院だった。有栖院は全員が初戦を勝利したことを称えるとそれに続いてオルフェさんも俺達のレベルの高さに驚いていた。
「ハチマンくんが強いのはよくわかっていたけど~他のみんなも強かったよ~特にステラちゃんは相手になにもさせなかったしさすがAランクだな~って思ったよ~」
「私も日本の学生騎士のレベルの高さには驚いたわよ!この学園を選んで本当によかったって思うわ!」
「日本の学生騎士のレベルが高いって聞いて思ったがなぜヴァーミリオンは日本の学校に来たんだ?」
俺はヴァーミリオンの口から日本の学生騎士のレベルが高いという言葉が出てきたのを聞き、この際にヴァーミリオンがなぜ自分の国の学校に行かず日本の学校に来たのか聞いてみた。するとヴァーミリオンは俺の問いにこう答えたのだった。
「向こうにいた頃はヴァーミリオン皇国唯一のAランク騎士で周りから天才だと持て囃されていたわ。だけど周りはアタシを天才という枠の中に押し込んでアタシのしてきた努力を見ることはなかった」
人は目で見えないものよりも目で見えるものを信じる生き物だ。だからこそ努力よりもランクを見てしまい、ランクの高い者を特別視してしまう。それが嫌でヴァーミリオンは日本へ留学したのだろう。
「だからアタシはあの国にいると上を目指せなくなると考えて伐刀者のレベルが高い日本に留学したのよ」
日本に来る外人の学生騎士の一部は確かにこのような理由で来る者が多い。それだけ日本の伐刀者のレベルが高水準にあるのだろう。
「さて、他の闘技場で試合しているやつで注目する生徒はいないしここらで別れるか」
俺の提案に反対する者はおらず俺とヴァーミリオン、黒鉄妹と有栖院、そしてオルフェさんとで別れたのだった。
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俺のしてきた努力と鍛練方法
黒鉄妹やオルフェさん、有栖院と別れた俺とヴァーミリオンは、試合後に倒れた黒鉄の様子を見に行くため医務室に向かっていた。その途中では俺とヴァーミリオンの間に一切会話はなく、ただ無言で歩いているだけであった。そのまま互いに無言で歩いていると隣を歩くヴァーミリオンが俺に声を掛けてきた。
「ねえヒキガヤ。さっきの試合でアンタは努力について大勢の前で語っていたけどどんな努力をしてきたのよ?」
「はあ?なんでそんなこと俺に聞くんだよ。ヴァーミリオンが敗れた黒鉄と同じ部屋に住んでいるんだし黒鉄に聞けばいいだろ」
「それもそうだけどアンタが昨年の首席だっていうことも知ってるし、アタシと同じAランクだからこの際参考にしたいのよ」
同じランクのやつの努力を参考にするのは理に叶ってるか。強くなるために努力を欠かさないやつは個人的に共感もてるし教えてやってもいいかね。って教えてやってもいいとか我ながらすごい上から目線だったな。
「まあわかった。ただ俺は自己流でやってきたから参考になるかわからないからな」
俺はあらかじめ自己流であることを伝えるとヴァーミリオンが了承の頷きを返した。そして俺は今まで行ってきた努力について話し始める。
「まず初めに行ったのは体内の魔力を循環させる魔力循環訓練だ。この訓練を行うことで魔力制御が格段と巧くなるから、一番この訓練を多くやったな」
「確かにアタシもこの訓練はやったわね。これのおかげでよく暴走させていた炎の能力を制御できるようになったもの」
どうやらヴァーミリオンの話によると、この訓練を行うことでよく暴走させていた炎の能力を制御できるようになったらしい。それならあれほどの炎を剣の形に変えるのもそう難しくは無いのだろう。
「そしてこの訓練を行って魔力制御ができるようになってきたところで、体内の魔力を自分の好きな場所に好きな比率で分配する魔力分配訓練を行う。俺が伐刀者の能力で一番重要視しているのは魔力制御だからこの二つの鍛練に一番時間を使っているぞ」
俺が伐刀者として一番重要視している能力を明かし、その能力の鍛練方法を明かすとヴァーミリオンは感嘆の声を上げた。
「へえー。循環の訓練はあたしもやってたからわかるけどそんな魔力制御訓練もあるんだ。中々参考になるわね」
(訓練内容を2つ聞いただけでも魔力制御にどれほどの努力を重ねてきたのかわかるわね。これはヒキガヤに話を聞いてよかったわ)
「魔力制御についてはわかったわ。それじゃあ戦闘の訓練とかはどうやってるのよ」
「戦闘訓練か・・・戦闘訓練は大体1人でやってるな。ヴァーミリオンではまず不可能だが、俺の能力で自分の姿と同じ人形を創れるからその人形に対して戦闘訓練を行っているぞ」
この方法だったらほとんどの人が真似できないし、実戦に近い形で鍛練を行えるしで一石二鳥なんだよな。とはいえ、これは間違いなく参考にはできないだろ。
案の定ヴァーミリオンの参考になるようなものではなかったらしく、そんな訓練方法もあるのね程度に話は収まった。ただ色々な訓練方法を行っていると確信できたヴァーミリオンは他にもなにかないか問い掛けてくる。
「じゃあ剣術は?どうやって剣術を覚えたのよ?」
「剣術なんて特に我流だぞ。ヴァーミリオンの剣術みたいに型がある訳じゃないし、華やかさもない。ただの実戦剣術なのにそれを聞きたがるとはな」
俺が扱っているのは戦場を渡り歩き人を殺すことを念頭に置いた無駄を省いた剣術だ。その技術を後ろ暗いことをなにも知らないただの学生に教えていいのか・・・いや、伐刀者の学園に入った時点でそれは今更だな。となると多少は教えても問題はないな。
「よし、なら少しだけな。俺は小さい頃に親から剣術の基礎を習いその後はひたすら戦闘技術を身に付けたって感じだな」
「最初だけ教えてもらって後は自力でやってきたっていうことね。なんていうかイッキと似てるところがあるわね。強くなるために1人で頑張ってきたところとか」
「いやいや、黒鉄と俺は全然似てないだろ。確かに1人で頑張ってきたというところは同じかもしれないが、黒鉄は伐刀者ランクが最低のFランクな上に実家に疎まれまともに武術も教えてもらえなかった状況からここまで這い上がってきた。だが俺はランクが高かった上に基本だけでも習うことができていてスタートラインから格差があった。その格差をものともせずあれほどの実力になったんだから俺と比べたら黒鉄に失礼だ」
俺は両親を亡くして生きるために戦場に出ていたが、小さい頃に両親から武術の基本を習っていたなど黒鉄に比べれば恵まれていた方だ。だから黒鉄と俺は断じて似ていない。
「確かに言われてみればイッキはヒキガヤみたいにランクは高くないし家族との仲も悪かったわね。だからイッキは本当の意味で1人でやってきているんだわ」
ヴァーミリオンが自分の中で黒鉄と俺の違いについて考えている間に黒鉄が休憩している医務室の近くにたどり着いたため、話を打ち切る。そしてヴァーミリオンにもうすぐ医務室に着くことを伝える。
「おいヴァーミリオン。医務室に着くぞ」
「ええわかったわ。ヒキガヤもありがとう、アタシの話に付き合ってくれて」
こうして俺とヴァーミリオンの努力についての話が終わると再び無言になり医務室までの道を歩きだした。
そして少し歩いて医務室に着くと俺は黒鉄を意識しているヴァーミリオンに一言声を掛ける。
「俺はこの辺で失礼するからな。ヴァーミリオンも黒鉄のルームメイトなんだししっかりと話して仲を深めておくんだな」
「わかってるわよっ、大きなお世話ね!」
この反応からしてやはりヴァーミリオンは黒鉄のこと大分意識しているんだな。今回のことで仲が進展すればいいがそれこそ大きなお世話か。
こうして俺はヴァーミリオンと別れて医務室を後にするのだった。
今回の話で八幡の伐刀者としての価値観がほんの少しだけ明かされましたね。これから段々と八幡の話が明かされていきますのでそれもお楽しみに!
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二つ名決定
失踪せず少しずつ進めていく予定なのでよろしくお願いします。それではどうぞ。
「今日も対戦相手の降参により1年Aランク比企谷八幡選手の勝利!これで選抜戦無傷の5戦5勝、腐った目と雰囲気のある構えで戦意を喪失させる様子はまさに
選抜戦の初戦が行われてから2週間ほどが経ち、俺は初戦以降一切戦うことなく不戦勝で選抜戦を5戦全勝していた。これまでの試合では1度もまともに戦っていないため良い二つ名が付けられず、最終的に
腐眼ってもっと他に良い二つ名があるだろ、ハッキリ言って腐眼はダサいわ。黒鉄の無冠の剣王とか見習えよ。
俺は自分の二つ名のダサさを嘆いたまま闘技場の外に出ると、先に外に出てきていたオルフェさんや黒鉄兄妹と合流した。合流する時に3人がなにか話をしていたのを見た俺はなんの話をしていたのか気になり黒鉄に聞いた。
「なぁ、黒鉄。俺がいない間に3人でなんの話をしてたんだよ」
「二つ名の話だよ八幡。八幡の二つ名が腐眼ってどうなのかってね」
どうやら俺の二つ名の話のようだ。個人的にはダサいと思うが他の人から見たらどうなのか気になってつい聞いてみた。
「なぁ、俺の二つ名ってお前らから見てどう思う?」
「ダサいね」
「その二つ名はかわいそうだと思いました」
「面白いわ~」
なんとなく予想はついていたがやはり想像通りだ。他の人から見てもダサかった。もっと深く聞いてみると3人はこのように答えた。
「Aランクといったらそれは大層な名前になると思っていたけど、ただ外見の特徴を英語にしただけで強者感がなくてこんな二つ名でいいのかって感じだね」
「今まで能力を一切使わず戦ってきたとはいえ、これからついて回る二つ名は考えて決めるべきだと思いました」
「別にいいんじゃないかしら~。向こうでも同じように呼ばれてるんだし今更じゃない~?」
黒鉄兄妹は俺の二つ名にやや否定気味であるがオルフェさんはどうやら肯定的なようだ。確かに前から腐眼なんて呼ばれ方してたし今更っていえば今更なんだよな。
「八幡は~自分の二つ名のことはどう思う~?」
「そりゃダサいと思うがもう決まったんだし変えようがねぇよ」
二つ名が腐眼だと実況されたのはたくさんの人がいるところだったため、新聞部の耳に入り記事で掲載されることになるのはほぼ確定だろう。その時までに心の準備をしておく必要があるのは秘密だ。
「それにしても黒鉄の二つ名が
「確かにそうですがお兄様が認められた証なので私のことのように嬉しいですっ」
黒鉄は黒鉄家から認められず、いないものとして扱われ周囲にバカにされてきた。そんな状況を黒鉄妹は間近で見ていたのだ。関わっていた時間が僅かしかない俺でも嬉しいのだから、その家族であり兄を慕っている黒鉄妹の喜びは更に大きいだろう。だが当人の黒鉄は目標の高さだけに気が抜けないようだ。
「二つ名が変わって強さを認められるようになってきたとはいえ、僕の目標は魔導騎士免許の獲得だから目標が達成されるまで一切油断はできないよ」
俺は黒鉄の言葉を聞いて少し力が入っているなと感じ、気を抜くように伝える。黒鉄妹も俺の後に続いて黒鉄の身を案ずる。
「黒鉄の目標が難易度の高いものだってことはわかってるが試合が終わったばかりの時くらいは気を抜けよ。まだ選抜戦は前半戦が終わったばかりなんだからな」
「そうですよお兄様。試合が終わったその日くらいは身も心も休めてくださいね」
「僕も少し肩に力が入りすぎていたみたいだよ。ありがとう八幡。珠雫も心配してくれてありがとう」
ようやく気を緩めたか。まったく俺だけでなく妹にまで心配かけさせるなよ。俺や妹の言葉に従って黒鉄が気を緩めたところで黒鉄妹がある疑問を俺にぶつけてきた。
「ところで、先程向こうでも同じような二つ名で呼ばれてるって聞こえたんですけどどういうことですか?」
聞こえていたのか。まあ俺と同じ領域には立っていないしそもそも敵って訳でもないからな。一部は教えてもいいだろ。
「いやなに、この学園に入る前とか学校に行ってない時とかは違う国にいたからな。その時に同じような二つ名で呼ばれたことがあるっていうだけだ」
学園にいない時の話をすると付け加えるようにオルフェさんが俺の個人情報を一部ではあるがバラしてきた。
「そんなこと言って~。ハチマンくんは有名人でしょ~、向こうにいた頃は二つ名に釣られて1度に何十人もプロの伐刀者を相手にしていたじゃない~」
おい、それは言っちゃダメなやつでしょうが。普通に考えてただの学生騎士が何十人ものプロを相手に1度に戦えないんだしここは惚けておくか。
「ちょっとなにを言ってるかわからないな。俺がそんな強く見えるか?」
「強く見えるもなにも八幡はAランクだよね。それにここまで選抜戦を勝ち上がっているんだから弱いわけないよ」
「だとしても学生騎士が何十人ものプロを相手に戦えないだろ?」
「それはそうだけど・・・」
黒鉄的にはまだ納得いっていないだろうがここら辺で話を切っておくか。
「はい、この話はここで終わりだ。黒鉄の話に戻るが黒鉄は気を緩めるところは緩めて気持ちにメリハリをつけること、いいな?」
俺は半分強制的に話を打ち切ると一言言ってこの場を離れる。
「この後少し用事があるから俺とオルフェさんはこの辺で帰るな」
「わかったよ。それじゃあ次は月曜日だね」
「比企谷君また今度」
こうして俺とオルフェさんは黒鉄兄妹と別れるとオルフェさんを泊まっているホテルへ送るのだった。
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取材交渉 前編
二つ名が決まった次の日。俺は朝のホームルームの時間の直前に学校に来ると話す相手もいないため来て早々に机に伏せ寝たふりを始める。教室は先週の選抜戦のことで盛り上がっていている。俺は寝たふりをしたまま生徒の話を盗み聞きしてみると次のような話をしていることがわかった。
「選抜戦が4分の1終わったけど気になる人いた?」
「そうだなぁ~、黒鉄くんとか?Fランクなのにあんなに強くて顔もかっこいいしファンになっちゃったよ~」
「確かに~。でも私は凪様がいいなぁ。ミステリアスな感じがしてかっこいいし、休日に見た凪様は服装もかっこよかったなぁ」
俺のことは一切話題にはなっていないようだが、黒鉄や有栖院は強さに加えて外見のよさも相まって女子にかなり人気があるようだ。やっぱり人は外見が一番重要なんだな、再確認できたわ。実際日本に来てから何回も職質されたし。そんなことを考えていると聞き覚えのない声が俺の名前を呼んだ。
「・・・おはようございます。・・・比企谷君ですよね?」
聞き覚えのない声だな
「誰だよこんな学校来て早々俺に声をかけてきたのは。ホームルームも近いしそろそろ席つけよ・・・って誰?」
声をかけてきたのは今まで一度も見たことのない女子生徒だった。目の前の女子生徒はたどたどしい喋り方で名前と何をしに来たのか話す。
「・・・えっと・・・新聞部の漆原
同じ新聞部の日下部とは正反対に大人しい感じだな。俺の目は怖い印象があるのは自分でもわかっているから怖がらせないようになるべく優しく話しかける。
「そうか新聞部か。ということは取材のことでいいのか?」
「・・・はい・・取材のことで・・・お話したくて」
やっぱり取材だったか。放課後は特に用事もないし取材を受けるくらいはしてもいいだろう。それに俺もAランクだしある程度は表に出る必要があると思うし。
「わかった放課後か。別にいいぞ。詳しいことはその時に話そうな」
俺が新聞部の取材を受けることを了承すると女子生徒は僅かに表情を明るくする。俺はそれを見て妹を思い出し、つい女子生徒の頭を撫でてしまう。
「・・・比企谷君・・・その手・・・」
「ん?あ、ああすまん、つい。初対面で頭触って済まなかったな。手離すから」
俺は頭を撫でていた手を離す。すると女子生徒は小さく声を漏らした。
「・・・あっ」
俺は別に主人公によくある難聴とかではないため女子生徒の残念そうな声が聞こえてしまったが聞こえないふりをしてやり過ごす。しかしその女子生徒との間で変な雰囲気になりお互いにフリーズしてしまう。このままフリーズしたまま数秒が経ったタイミングで朝のホームルームのチャイムがなったため二人のフリーズが解除された。
「・・・ということで放課後はよろしく頼む」
「・・・は、はい」
二人は一言だけ言葉を交わすと女子生徒は自分の席へ戻っていった。そして担任の折木有里が教室に入ってきてホームルームが始まるのだった。
朝の一件から時間が経ち時は授業後。生徒達はこの後の予定について友達と話し合ったりして思い思いの時間を過ごしている。俺は生徒達の会話を耳に入れながら放課後にある用事について考える。
この後は放課後に新聞部の取材について話すんだったな。教室では一切話題にも上がらなかったが取材の交渉があるくらいだし知ってる人は知ってるって感じか。Aランクなのにまあまあ影が薄いとか喜んでいいやら悪いやらわからんな。
そんなことを考えていると教室の後ろが僅かに騒がしくなった。そのため俺は後ろを振り向くと後ろでは日下部の他に二人の生徒が黒鉄と話していた。話している雰囲気的にやましいことではないようだが黒鉄はなにやら困っているような顔をしていた。
「どうしたんだ黒鉄?なにか困っているようだが」
「あ、八幡。えっとね日下部さん達に剣術を教えてほしいって頼まれてね。さっきからステラがこっちを見てるからどうしようかって迷っていたんだ」
遠く離れている俺の席にも聞こえるくらいだしさらに近い場所にいるヴァーミリオンに聞こえないはずがないわな。ていうか自分の手の内に近いような情報を教えてしまっていいのかとは思ったがその辺は選抜戦の動画を見ればある程度はわかることだし、それほど気にすることではないのかもしれないが。
「そうだな、剣術を教えるのは別にいいと思うぞ。ただヴァーミリオンがこっちみてるってことは気になってるんだろうしヴァーミリオンも誘った方がいいんじゃないか?」
「そうだね、そうすることにさせてもらうよ」
俺が話しかけたことで日下部達は空気を読んで一旦外れていたようだ。そして日下部達は話の区切りができたタイミングで戻ってきたため黒鉄は先程の話の続きを始めた。
「わかった。そういうことなら教えるのは構わないよ」
「やったー!『突撃取材、無敵の
「あれ?趣旨変わってる?」
「いいからいいから。じゃっ明日から始めるとしますかっ」
もう見出しまで決めてるじゃねぇか、気が早すぎだわ。それに反して漆原は同じ新聞部でもペースが全く違うな。漆原のあの感じだとゆっくり進んでくことになりそうだ。
「なにデレデレしてんだアイツ。目立ちやがって」
「調子乗るなよ
日下部や黒鉄が予定を立てている中、近くの男子達は黒鉄に対して愚痴のようなものを言っていた。あの様子だと当日はなにか問題が起きそうだ。
俺は黒鉄達の話や男子生徒達の愚痴を耳に入れながら当日に起こる厄介事を考えて溜め息を吐くのだった。
次の話は後編になりますが八幡の取材交渉回となります。
楽しみにして待っててくださいね
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取材交渉 後編
あの後クラス担任である折木有里が来たことで話は終わり帰りのホームルームが始まったのだが、早々に血を吹き倒れてしまったため代わりの教員がホームルームを行った。こういったことは折木先生が病弱であるためかなりの頻度で起こるらしく、そういった時には今日のように別の教員が素早く対応し業務を引き継ぐのだ。
ていうかあの人本当にすごい病弱だよな。吐血して医務室に運んだ時に本人から聞いたが、1日1L吐血する体質で普段から輸血パックが手放せない他、患っていない病気が少ないレベルの虚弱体質らしい。学校もそのことを知っているからこそ倒れた時の対処が早いのだろう。
こうしていつものホームルームは終わり教室は再び騒がしさを取り戻す。騒がしさの中で俺は教室から出ると少し離れたところにある空き教室に入る。扉を閉めて振り返ると部屋の中央には、今朝のホームルーム前の時間に俺とある約束をした漆原が来ていた。
「・・・その・・・来ていただいて・・・ありがとう
・・・ございます」
「別にお礼を言われるようなことではないぞ。それよりもなんで俺に話しかけようって思ったんだ?自分で言うのもなんだが俺って目付きが悪いし一度留年していて周囲よりも年齢が上だからクラスでは浮いてる感じだろ?だから見たところ気の強いタイプではない漆原が俺に話かけてくるなんて思わなくてな」
向こうも俺が来たことに気づいたようで、少し離れた位置まで近づいてくると一度頭を下げた。それに対して俺は気にするなと伝えると漆原の途切れ途切れだった話し方が僅かに滑らかになる。
「いえ・・・目付きは悪くないです・・・なので別に怖くないです」
「そうか、怖くないならいいや。それはそうと今朝の新聞部の取材についてだが詳しく説明してくれないか?」
怖がらせないように口調に気を付けながら説明を求めると漆原はゆっくりと取材について話し始めた。
「はい・・・覇軍学園の生徒について調べていたら比企谷くんがAランク騎士だって偶然知って・・・比企谷くんの選抜戦を観戦して興味が湧いたので取材したいと思ったんです」
選抜戦を観て俺に興味を持ったのか。そうなるとあの演説も聞かれていたということになるが、変なことは言ってないと思うし問題ないはずだ。まぁ反応が気になるといえば気になるがそれは置いといて取材についての話をしなければいけないな。
「俺の選抜戦や演説からなにか感じることがあったのならよかった。それで取材についてなんだが取材を受けるのは全然いいぞ。俺も一応日本の数少ない学生のAランク騎士だし情報を一部公開するのは義務みたいなものだからな」
「ありがとうございます・・・実は自分の足で取材をして記事を書くのに憧れていて・・・そんな時に加々美さんに新聞部に誘われて・・・こうして記事を書くことができるようになって本当に嬉しいんです」
意外とアクティブだなこいつ。そうなるとただ取材をするだけでは終わらないような気がしてきたんだが大丈夫か?ほぼ初対面の相手と長時間一緒に活動とするのは個人的に少し難易度高いんだが。
「期待に答えられるかはわからないがやれるだけやってみるな。それで取材はいつやる予定なんだ?」
「そうですね・・・・・試合の後はどうですか?」
試合の後か・・・時間的には悪くないな。ただ記事ができるまでにやや時間がかかることを考えると早めに取材を行った方がいいと思うだよな。その辺を漆原はどう考えているのか聞くか。
「時間的には悪くないけど次の試合までに記事を書くの間に合いそうなのか?」
「はい・・・取材をした2日後くらいに・・・記事ができることになるので間に合うと思います」
選抜戦は3日に一回あるからそのくらいのペースであれば書くことは不可能ではないか。ただ毎日書くのは時間の都合上厳しいだろう。
「なあ、選抜戦の記事って毎試合後に書くわけではないんだよな?」
「はい・・・対戦相手が強い人の時に・・・記事を書くことになります」
俺は漆原に選抜戦の記事をどのタイミングで出すのか聞くと漆原は既に記事を出すタイミングは決めていたようで詳しく教えてもらった。俺の観た感じだと強敵だと感じたのが俺と交流のある生徒を除くと生徒会長や副会長くらいで戦いになりそうなのは二人を含めて10人いるかいないかで同じグループにいるのはその中の3人だけだ。
「なので比企谷くんの対戦相手が判明してから・・・取材する日を決めるのはどうですか?」
「わかった、そうするか。じゃあ対戦相手が決まったらまたこの場所で話をするからその時はよろしくな」
俺と漆原の取材についての話し合いは取材を試合後に行うということで双方同意し、日にちは対戦相手が決まってから再び話し合いで決めることになった。
その後寮に戻るとすぐに、俺の持つデバイス端末に次の対戦相手に関する連絡が来た。俺は端末の電源を入れて選抜戦関連のメールを開くとそこには6戦目の対戦相手の名前が記されていた。その名前を見て面倒なやつを相手にすることになったと溜め息を漏らした。
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比企谷八幡のとある休日
昨日の夜に選抜戦の対戦相手が決まり、次の日はいつもの鍛練を行ってから朝食を食べた。朝食は鍛練を行ったことによって消費したエネルギーを補給するためにバランスよく多めに摂っている。朝食を食べ終えると俺はパジャマから私服に着替えてオルフェさんが宿泊しているホテルへと向かう。
ここで1つ追記すると普段の学校がある日は制服に着替えて、必ず黒鉄とヴァーミリオンの住んでいる寮に行きヴァーミリオンに顔を見せている。俺がヴァーミリオンや黒鉄に顔を見せに行っているのは仕事の1つであるヴァーミリオンの護衛をしていることや黒鉄を気にかけているからという理由があるのだ。
なにせ黒鉄はFランクだという理由で、最近まで本家や学園の教員から嫌がらせを受けていたからな。今では理事長を含め嫌がらせをしていた教員がほとんど解雇されいなくなったが決して黒鉄に対する偏見がなくなったわけではないため昔に比べれば心配してはいないが今も気にかけているというわけだ。
そうこうしているうちにオルフェさんが宿泊するホテルに到着すると俺は受付でオルフェさんの面会を求める。ところでなぜオルフェさんがここに泊まっているのかというと俺の選抜戦を観たいかららしい・・・仕事しろよ。
それはさておき受付で待つこと10分、オルフェさんから面会の確認がとれた。俺はホテルマンの人に連れられてオルフェさんの部屋のある階のロビーへと向かう。
連れられていくのを他の人が見たら面会室に連れていかれる囚人のようにみえるだろうな。俺の淀んだ目はそれだけ犯罪者に見えるということだ、全く笑えないわ。
ロビーに到着するとホテルマンに待つように言われたため俺は椅子に座ってオルフェさんが来るのを待つ。そしてロビーで待つこと5分。普段と同じような服装をしたオルフェさんが出てきた。
「ハチマンくんおはよう~、今日も変わらず目が淀んでるね~。夜しっかり眠れた~?」
「会って第一声が目が淀んでるはないでしょオルフェさん」
「ごめんね~、濁ってるだったね~」
変わってねぇよ、全然変わってねぇ。それどころか悪化してるだろそれ。
会ってそうそうオルフェさんにいじられたため俺はいじりに対してオルフェさんは話をすり替え選抜戦の経過について尋ねてきた。
「とまあハチマンくんをいじるのはこのくらいにして~。選抜戦の初戦だけ観たけどあの後の試合はどう~?ハチマンくんなら全勝してるよね~」
「まあそりゃあな。実戦にも出ていないやつに部隊長が負けるなんてことはありえねぇよ」
今のところは誰一人実戦に出たことがある者はいなかったから勝てて当たり前だ。実戦に出たことがあるやつと戦うときが正念場になってくるだろうな。
この後、学生生活の話や強い伐刀者の話など1時間ほど話すとオルフェさんの方に用事があるため昼で別れた。
次に約2時間かけてやって来たのは親父とお袋の墓だ。前に二人の墓に来たのは再び日本から離れることにした1年前の5月で、毎年必ず墓に来て1年の報告をしている。
「今年になってやっと俺の友達の黒鉄が授業を受けられるようになったんだ。あいつは学校のルールのせいで卒業ができなかったんだが、ルールが改正されて七星剣武祭で優勝さえすれば卒業できるんだってさ。他にもさ、年下ではあるが黒鉄以外にも友達ができたし俺は結構楽しく過ごせているから心配するな」
俺はここに来る度に当時のことを鮮明に思い出し両親を殺した伐刀者を自分の手で殺すと自身に誓っていた。その伐刀者を見つけるために傭兵になり、組織にも所属するようになったのだが今のところ進展はない。
「・・・今も傭兵組織に入って活動しているけど親父とお袋を殺した伐刀者は見つけられていない。2人は反対するだろうけど絶対見つけ出して俺の手でそいつを殺すから見守っていてくれ」
俺は5分ほど墓の前で片膝をつき目を閉じていると再び目を開けて立ち上がり墓場を後にした。
俺は両親の墓がある墓場から2時間かけて覇軍学園に戻ると明後日にある選抜戦の第6戦に向けて鍛練を開始した。まず行うのは目を閉じた状態での素振りで、斬撃の基本である9つの振り方を各100回ずつ行った。この鍛練方法は視覚を遮断することで視覚以外の感覚を鍛えるのが目的だ。
視覚以外の感覚は視界に入っていないものを捕捉するために必要なものだ。そして視覚以外の感覚を鍛えることは不意打ちへの対応力を高めるのにも有用であるためしっかりと鍛練をしたのだった。
この鍛練を約1時間行うと俺は鍛練を止めて自分の寮へと戻った。そして自分の部屋で目を閉じて20分ほど瞑想をしてから、新聞部の漆原と電話で取材の日にち決めを行う。漆原の方でも俺の対戦相手を把握していたようで、日にち決めはすぐに終わり第8試合のある日に取材を行うことに決まった。
その後は夕食を生徒会長の東堂先輩と食べた。夕食は俺が鍛練をしているうちに作ってくれていたようで家庭的な味で美味しかったな。作ってもらってばかりだと悪いし今度は俺が作るか。
とまあ、読者もびっくりだとは思うが俺も料理はできる。なにせ家族なんて小町しかいないし知り合いが経営している孤児院にもたまに顔を出して子供達にご飯をつくることもあったしなって読者って誰だよ。
メタいことを頭で考えながらご飯を食べていると俺の携帯デバイスにメールが来た。メールの相手は黒鉄で内容はこんな感じだった。
『明日プール行くから八幡もどう?』
メールが来たタイミングがご飯を食べている途中だったため内容だけ見ると再びご飯を食べ始める。そして20分程度で夕食を食べ終えるとリビングでゆったりしながら先程のメールを返信する。
『なにしにプールに行くんだよ』
確か今日は日下部や他の女子生徒達に剣術を教えているんだったっけ。ということは明日行くらしいプールも剣術関連のことっぽいな。
『剣術指南の一環でプールに行こうって思ってね。八幡も一緒にどうかな?』
やはり剣術関連のことだったか。まあ、明後日が試合で明日を休息日にする予定であることを考えればプールに行くのはいいかもしれんな。
『別に行くのは構わないがヴァーミリオンは誘ったのか?仲いいんだし誘ったら来てくれると思うんだが』
黒鉄が気付いているのかはわからんがヴァーミリオンは黒鉄のことが好きみたいだし誘ったら喜んで来るだろ。
『それについてはもう大丈夫だよ、ステラはもう誘ったからね』
『そうか。なら俺もプール行くからどこであつまるのか教えてくれ』
『集合場所は学校の校門前になってるよ。9時には出発するからそれまでに来てね』
『そうか、わかった。じゃあお休み』
『うん、八幡もお休み』
俺は黒鉄からお休みのメールが来たのを確認してからデバイスを閉じる。
こうして俺のとある休日が過ぎていったのだった。
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いざプールへ
更新速度がやや落ちましたが可能な限り完結まで執筆しますのでよろしくお願いします
一輝達とプールに行く当日、八幡は集合場所である覇軍学園の校門前に待ち合わせの15分前に来ていた。しかし八幡が到着した時には既に一輝とステラが来ていて、人目があることを忘れてイチャついていた。
うわぁ、今来たばかりだが猛烈に家に帰りたい。早めに来たのに目の前でイチャつかれるのを見なければならないとか本当に地獄なんだが。ていうか今の状況を写真に撮られてスクープになったらどうするんだよ、黒鉄の今の環境だとかなりマズイし注意しろよ。
俺は黒鉄達の危機感のなさにため息を吐きながらイチャついている二人に声をかけた。
「おはようお二人さん。もっと周囲を気にしろよ、誰が見てるかわからないんだからな」
八幡が突然話しかけたことで一輝とステラは驚き、肩を跳ね上げさせると素早くこっちを向いた。
「うわぁっびっくりさせないでよ八幡!心臓が止まるかと思ったよ」
「キャアッちょっとヒキガヤ!来ていたなら来てるって言ってよ、ビックリしたじゃない!」
「二人で何かしてるから声かけづらかったんだよ」
それにしても時間に余裕を持って15分前に来たのにもう集合場所にいるとか早すぎだろ。しかも俺が来たときに既にイチャついていたことを考えるとおそらく来てから時間が経っているのだろう。
「ところでどのくらい人が来るんだ?今日のプールの目的は昨日の鍛練の続きだって話だが俺は昨日いなかったし何人くらい参加していたのか知らないから気になるな」
「そうだなぁ、昨日は僕も含めて20人くらい来てたから今日も同じくらいの人数が来ると思うよ」
昨日の鍛練に20人近くが参加してたのか。普通は見下していた相手に教えを乞うのはプライドが邪魔してできないやつが多いがよく20人も集まったな。
このように俺と黒鉄が話している間にプールに行くメンバーは全員揃ったようだ。その中には黒鉄妹と有栖院の二人もいて、俺達を見つけるとこちらへ向かって歩いてくる。
「3人ともおはよう。今日もいい天気ね」
「お兄様おはようございます!」
アリスは一輝だけでなく八幡やステラにもしっかり挨拶をしていたが、珠雫の方は兄しか視界に入っていないようで兄の一輝にだけ挨拶していた。
「おはよう珠雫、アリス。二人とも水着は持ってきた?」
「ええ、持ってきたわ」
「持ってきましたお兄様。プールに着いたらお兄様に見せてあげますので楽しみにしててくださいっ」
「うん、楽しみにしているよ珠雫」
兄妹とは思えないやり取りをする二人にステラは不満をあらわにして会話に割って入っていったが、珠雫には相手にされておらず適当にあしらわれていた。
「ちょっと珠雫!イッキにベタベタしすぎよ!アンタたち兄妹でしょうが!」
「前にも言いましたが私達にはこれが普通なんです。なので兄妹ではない人は口出ししないで下さい。それに奴隷のステラさんにこれを止める権利なんてありませんよね?」
「確かにそうだけど・・・」
奴隷のことを引き合いに出されなにも言えないステラが言い淀むと、珠雫はさらに追い打ちでステラを煽る。
「それともステラさん、まさかとは思いますが私に嫉妬しているんですか?」
「べ、別に嫉妬なんかしてないわよ!シズクがイッキの近くにいて羨ましいとかそんなこと思ってないんだから!」
それを嫉妬と言うんじゃねぇか。ていうか黒鉄も見てないで止めろよ。
「あのさ、もうすぐバスも来るしステラと珠雫も喧嘩みたいなの止めない?」
「わかりましたお兄様。ここで喧嘩するのは他の生徒の邪魔になりますし私はここでやめます・・・ステラさんとは違って聞き分けがいいので」
「イッキがそういうなら・・・ってちょっとシズクッ小声で言ったって聞こえてるわよ!」
ステラと珠雫は一輝の言葉に従って言い争いを止めようとしたが、ステラの方は珠雫が小声で言った言葉を聞き逃しておらず再び詰め寄ろうとしたところを一輝に宥められたのだった。
ステラと珠雫による言い争いが終わってから時間が経ち、現在八幡達はプールへと向かうバスの中にいた。
バスの座席は一輝とステラ、珠雫とアリスなどといったようにほとんどの生徒が仲のいい人と座って話をしたりしているが、八幡は自分と同じ余り物でほとんど関わりがない加々美と座り黙って窓の外を見ていた。
俺は一人でも問題なく過ごせるタイプの人間だから日下部との間にある沈黙は大して気にならないが、日下部の方は沈黙を気まずく感じているようで分かりやすいくらいにそわそわしている。そしてついに日下部は沈黙に耐えきれなくなり俺に話しかけてきた。
「それにしても比企谷センパイがこういうのに参加するとは思いませんでした。どうして参加してくれたんですか?」
「黒鉄が誘ってくれたからな。彼奴が誘ってくれるなら参加してもいいと思ったんだよ」
日下部の質問に対して俺は、ヴァーミリオンの護衛任務のことを省いて答えた。すると日下部は俺と黒鉄の仲の良さに驚き、仲良くなれたきっかけについて聞いてきた。
「本当に仲がいいんですね先輩方は。ところでお二人が仲良くなったきっかけってなんだったんですか?」
「仲良くなったきっかけか・・・やっぱりあれだな、桐原の決闘未遂事件だな」
「決闘未遂事件ですか・・・聞いたことないですけどどういった事件なんですか?」
この事件があったのは昨年だから日下部は知らないんだったな。となると黒鉄と本家の間にある確執とかの裏の部分を省いて分かりやすく説明した方がいいな。
「日下部に分かりやすく説明すると桐原が黒鉄に決闘しないかと提案し黒鉄が断った結果、周囲に人がいるにも関わらず桐原が黒鉄を一方的に攻撃した事件のことだ」
「選抜戦での二人の会話からなにか因縁があるんだろうと思ってましたけど、なんですかそのヤバい事件は!?それでどうなったんですか、桐原センパイはなにか処分を受けたんですか?」
「いいや、処分を受けたことは受けたがとても軽い処分でほぼ無罪みたいなもんだったな」
このときの桐原の処分には俺もかなり驚いた。小規模な事件ならともかく、大規模な事件なのにもかかわらずまともに処分もされないんだからな。
八幡は桐原の処分が決まった後に、一輝本人から黒鉄家との確執を聞いたため処分が軽かった理由にも想像がついたのだが、加々美は一輝と黒鉄家の確執についてなにも知らない。そのため加々美は桐原の処分が軽かったことに疑問を持ち、一輝の事情に詳しそうな八幡に処分が軽くなった理由を尋ねた。
「比企谷センパイ、なぜ学園は桐原センパイの処分を軽くしたのでしょう?人目があるところでその事件が起こったんですから、表向きだけでもしっかりと罰を与えなければ余計な詮索を受けると思うのですが」
「処分が軽くなった理由については黒鉄のことが大いに関係するからさすがに話せないな。だから理由を知りたいなら黒鉄に許可をとってからにしろよ。わかったな?」
「はい、そういうことならわかりました」
八幡が日下部の質問に対して一輝の事情にも関わるからと答えるのを拒否すると、日下部はそれ以上は追及して来なかった。そしてこのまま他愛のない話をしながらバスに揺られて鍛練を行うプールへと向かうのだった。
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女の子の水着が気にならなかったら男じゃない
バスに乗ること約20分、生徒達は室内プールに到着する。そして水着に着替えるため男子と女子に分かれると更衣室に入っていき、中で水着に着替え始めた。
男子は女子に比べて着替えるものが少なく着替えに時間はかからないため次々と更衣室から出ていくのだが、アリスは他の男子達が出ていくまで一切服を脱がないでいた。
なんで有栖院は水着に着替えないんだ・・・って有栖院は心は乙女だから男がいると裸になれないのか。
八幡はアリスがなぜ服を脱がないのかその理由について忘れていたが、アリスの内面のことを思い出すとアリスが水着に着替えられるように、素早く水着に着替えると外に出ていく。
八幡は更衣室から出ると不自然な程にそわそわしている男子生徒達と、少し離れたところでその様子を見ている黒鉄を発見した。
「一人だけ離れた場所にいるがどうしたんだ黒鉄」
「あ、八幡。実は女の子達の水着が気にならないかって詰め寄られてね。話してる途中に女の子がくるかもしれないし聞かれたりしたら嫌だから適当に答えて離れたんだ」
なるほど、黒鉄のその判断は正解だな。なにせ仲のいいわけでもない相手に水着を露骨に見られたり話題にされたりするのは女子達にとって嫌だろうし。こういった紳士なところが黒鉄がモテる理由の一つなんだろうな。
一輝がモテる理由の一つを知った八幡は、一旦一輝から視線を外し男子生徒達を見る。すると今朝の一輝とステラのイチャつきぶりを思い出したため、八幡は恋人だと思われるステラの水着に興味はないのか一輝に聞いた。
「それで一人だけ離れていたのか。とはいえ黒鉄だって男だし水着に興味がないわけではないんだろ?どうだ、恋人のヴァーミリオンの水着とか」
「彼女の水着が気にならなかったら僕は男じゃないよ」
惚けると思っていたが意外だな、まさか恋人かどうかの部分を否定しないとは。一部始終を見られていたとはいえ接吻とかみたいに決定的な場面ではないんだし、誤魔化せばよかったと思うんだが。
「黒鉄はステラと恋人なの否定しないんだな」
「他の人ならともかく八幡になら知られても問題ないよ。今朝のこともあるけど八幡のことは信用しているからね」
実際一輝はこれまでステラとの恋人関係を周囲の人間に隠しながらこれまで生活してきていたのだ。それを偶々見てしまっただけで誤魔化すこともせずにあっさり認めたことに驚きながらも一輝に信用されていたことを八幡は嬉しく思っていた。しかしそのことをおくびにも見せず、一輝には関係を明かす相手はしっかりと選ぶように言った。
「そうか、それならいいんだが。だが彼女のことを明かす相手はしっかりと選べよ、今のお前は色々と危ない立ち位置にいるんだからな」
「うん、わかってるよ。気を付けるから八幡は心配しなくても大丈夫」
俺の忠告に黒鉄の表情が引き締まったところでプールサイドに水着を着た女子達が次々とやって来た。そのためプールサイドは女子達の声で一気に騒がしくなり、男子達も興奮を隠しきれない様子だ。
それにしても女三人寄れば
そんな中、ステラ達がやって来たことで男子達から今まで以上の歓声が上がる。
「おぉぉぉっ!」
「おぉぉぉっ!」
「おぉぉぉっ!」
それもそのはずステラや珠雫、加々美はタイプこそ違えどみんな美少女だ。その美少女達が水着を着て現れたのだから男子達のテンションが更に上がるのも当然だろう。しかしせっかく上がったテンションも、最後にとある人物が現れたことで一気に下がってしまう。
「あぁぁ!?」
その人物は自称乙女で一輝の友人、アリスだ。
反応が全く同じとかこいつら仲良しかよ。ていうか有栖院のやつ、出てくるタイミングが絶妙過ぎて、狙ってやったのかって思ったわ。
「それにしてもこれだけ女子がいると華やかさが違うな」
「そうだね。他の男の子が騒ぐ気持ちもよくわかるよ」
八幡と一輝は女子生徒達の水着を見て男子達が騒ぎたくなる気持ちを理解するが、他の男子達とは違って騒ぐことなく平静を保っている。そんな八幡達とは対照的に男子生徒達は、女子生徒達を見ながら感激の声を上げていた。
「感無量だぜ・・・俺達、今日までお師匠様に着いてきてよかったなぁぁぁ」
「うんうんっ」
「えっと鍛練に参加するようになってまだ数日しか経ってないんだけどなぁ・・・」
今日までとか言ってるが鍛練に参加し始めてまだ数日しか経ってないんかい。ていうかこいつら、鍛練することから女子の水着を見ることに目的変わってるだろ絶対。
男子達の言葉に対して黒鉄がツッコミを入れたところで八幡は一輝に生徒達をプールに集めるように伝える。
「なあ黒鉄。無駄話もその辺にしてそろそろ全員プールに集めた方がいいんじゃないか?鍛練できる時間も限られているんだし」
「それもそうだね、そろそろみんな集めることにするよ。八幡はステラ達にそのことを伝えてきてくれる?」
「わかった。じゃあ行ってくるわ」
黒鉄に生徒達を集めるよう頼まれた俺はヴァーミリオンと黒鉄妹、有栖院を探す。そして三人が固まって話しているのを発見すると、話が途切れるタイミングを見計らって声をかけた。
「ちょっといいかヴァーミリオン達、そろそろ鍛練を始めるから集まってほしいって黒鉄が言ってたぞ。他の女子達にもそう伝えてくれるか?」
「わかったわ。アタシからみんなに伝えておくわね」
ヴァーミリオンは俺の伝言を聞き入れると、プールに集まることを伝えるため女子生徒達の方へ向かった。そして俺と黒鉄も男子生徒達の方へ行ってプールに集まることを伝えると、5分後には鍛練に参加する生徒達全員がプールに集まった。
こうして生徒全員が揃ったところで黒鉄による剣術指南が始まったのだった。
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武術の指導
新年初投稿が約3ヶ月ぶりの投稿となりました。それではどうぞ!
「これから皆には体の力を抜いて水中を漂ってもらう」
一輝による武術の指導が始まってまず最初に行われたのは水中を漂うという一見武術に関係のないものだった。しかし一輝が言うところによるとこれも武術に関係のあるもののようで、一輝は次のように武術の関係性を説明した。
「この訓練が武術になんの関係があるのかと疑問に思っている人もいると思うんだけど、これには肺活量を鍛えるということの他に、自分の内側にだけ意識を向けることで身体の感覚を研ぎ澄ますといった目的があるんだ」
この訓練には肺活量を鍛え呼吸することによる隙を減らすことと、身体の感覚を研ぎ澄まし自分の思い通りに身体を動かせるようになることの二つの目的がある。この二つの目的は一輝の言葉通りどちらも武術に深く関係があるためまずこの訓練を行うことになった。
「ということで早速水の中に潜ってもらうよ。水中での呼吸は水泳時と同じでいいから潜水前に息を大きくしっかりと吸って酸素を確保することを意識してね」
黒鉄が訓練の内容を伝えると生徒達は黒鉄の指示に従い水の中に潜っていく。その後に続いて俺も水の中に潜ると先ほど黒鉄が説明した通りに身体の力を抜き水中を漂う。
確かに黒鉄の言った通り身体の感覚が研ぎ澄まされていくような感じがするな。それに肺活量を鍛えるのにも有効なようだしこの訓練は結構いいかもしれん。俺のいた場所は山奧だったから高地トレーニングくらいしか呼吸器官を鍛える手段がなかったが、こっちに来ている時は水中を漂う訓練を行うことにするか。
考え事をしていて長い時間水中にいたことに気づいていなかった八幡は、水から顔を出して周囲を見渡したことでようやく自分が長い時間水中にいたことに気づく。
「・・・意識を集中させすぎたか、俺以外全員水から顔を出してるじゃねぇか」
「比企谷くん、かなり長い時間潜ってたわね。こういった訓練は前からやってたのかしら」
「いや、これをやったのは初めてだが俺がいたところが同じような環境だったからな。酸素が少ないところでの訓練に慣れているだけだぞ」
「慣れていた感じの雰囲気があったから聞いてみたのだけど当たっていたみたいね」
俺の答えに納得したのか有栖院はそれ以上なにか聞いてくることなく再び黒鉄の指導を聞き始めた。そして俺もなにか自分の訓練に取り入れられるものがないか黒鉄の指導する声に耳を傾ける。
「一回みんなに水中を漂ってもらったけど自分の身体の内側に意識を向ける感覚をなんとなくでもいいから掴めた人はいるかな?」
黒鉄が訓練に参加している生徒達に自分の身体の内側に意識を向ける感覚を掴めたかどうかを聞くと、感覚を掴めたと答えたのが俺と有栖院、なんとなく感覚を掴めたと答えたのは黒鉄妹とその他数人だけだった。そのため全く感覚を掴めなかった人の為に黒鉄がアドバイスを送る。
「感覚を掴めなかった人は、水中で目を閉じて身体の内側の音を聞くことを意識してもう一度漂ってみよう」
一輝のアドバイスを聞いた生徒達は今度こそ感覚を掴めるようにと再び水中に潜っていく。その後、4分の1程度の生徒がなんとなく感覚を掴めたという状態となったところで加々美がやって来て一輝になにか耳打ちした。
そして数分で加々美が耳打ちを止めると一輝は指導を受けている生徒達に一旦休憩に入ることを伝える。
「みんな少しいいかな?武術の指導を始めて2時間経ったしこれ以上長時間訓練しても集中力が下がるだけだから休憩にするよ。それで後5分程休憩したら再び指導を再開するけど、僕は今から少しこの場を離れるから戻ってくるまで比企谷くんから武術の指導を受けてね。八幡もそれでいいかな?」
「なにがあったのかは知らんが別にいいぞ。人に教えるのは今までやってきたことの振り返りに有用だからな」
八幡から了承をもらった一輝は加々美からステラがいる場所を教えてもらい、そこへ向かったのだった。
一輝がステラのいるところへ向かってから5分経ち休憩時間が終わったため、生徒達は八幡から武術について教えを受けていた。
「黒鉄が用事で席を外したから戻ってくるまで代わりに俺が指導する。まずは指導の前に武術をどのような技術だと認識しているのか教えてくれ」
八幡が武術についてどのような技術だと認識していたのか生徒達に尋ねると、とある一人の女子生徒が八幡の問いにこう答えた。
「私は黒鉄くんの試合を見るまで、武術は能力に恵まれない人が覚える小手先だけの力だと思っていました」
女子生徒が答えた後に他の生徒達数人にも同じ質問をしたところ、どの生徒からも同じような答えが返ってきて武術を軽視していることがわかった。
「なるほど、つまりお前らは武術のことを覚える必要のない無駄なものと認識しているわけだ。それならまずはその認識をなくすことから始めるぞ」
そう言って俺は伐刀者の中で武術を習得していることで有名な者の名前を挙げる。
「まず始めに武術を高レベルで習得している伐刀者についてだが、学生騎士では昨年の七星剣王である諸星雄大や七星剣武祭ベスト4の東堂刀華、プロの魔導騎士であれば西京寧音や雪ノ下陽乃が武術を高レベルで習得している伐刀者に挙げられる」
八幡の口から挙げられた名前は誰もが知っているような強力な伐刀者ばかりだった。そんな誰もが知っている強力な伐刀者が武術を蔑ろにしていないのだから、武術の習得が伐刀者にとって重要なのは誰の目から見ても明らかだ。
「ここで挙げられた名前以外にも武術を習得している者は多いがその大半は強力な伐刀者だ。それでなぜ強力な伐刀者の多くが武術を習得しているのかわかるか?」
生徒達に聞いてみたが答えられる者はいなかった。なぜならこれまで武術のことをまともに知ろうとしなかった者が大半だからだ。ということで俺は強力な伐刀者が武術を習得している理由を説明する。
「理由は異能が戦闘向きではないからだったり自身の能力との相性だったりと色々あるが、総じて言えるのは彼らが強さに貪欲で、強くなることに余念がないからだ」
強者は強くなるために様々なものを自身のものにしようとする。それに対してほとんどの者は異能の鍛練を行うことが推奨されていることを理由に、武術を始めとする異能以外のものを覚えようとしない。その差が強者と弱者を決める要因となるのだ。
「そのため強力な伐刀者は、伐刀者としての能力である異能の鍛練と同等の時間を武術の鍛練に費やすことで自身に取り入れ、同時に武術に関する知識も蓄えている」
黒鉄の指導を体感し現時点の生徒達には黒鉄の指導が合うことに気づいていた俺は、武術の指導を黒鉄に任せて武術に対する知識の重要性について教えた。しかしその最中に黒鉄が戻ってきたため話のキリがいいタイミングで教えるのを切り上げる。
「ということでいかに伐刀者にとって武術が重要なのかわかっただろう。そこで君達には本格的に武術を覚えてもらうことになる訳だが、はっきり言って俺より黒鉄の方が指導は上手い。だからちょうど帰ってきた黒鉄に任せることにする。じゃあ黒鉄後は頼む」
八幡に指導者の交代を頼まれた一輝は八幡と交代すると武術の指導を始めた。そして半日かけて指導が行われたことで生徒達はクタクタになって帰路に着いたのだった。
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対決、生徒会!
プールでの一輝による武術の指導から1週間ほどが経ったある日、八幡は一輝の試合がある闘技場の観客席にやって来ていた。観客席は試合開始を待つ生徒達の声で溢れていてこの試合に注目している者が多いことが窺える。
それもそのはず、今から行われるのはランクに似合わぬ強さで勝ち上がってきて人気が出てきた一輝と、生徒会の一員で序列4位の生徒の試合なのだ。そのため観戦者が多いのもわかる話だ。そしてとうとう選手入場の時間となり新聞部の生徒が実況を始める。
「さあ、始まりました七星剣武祭代表選抜戦。第7試合の対戦カードは1年Fランク、
実況の声と共に姿を現したのは日本刀型の
「黒鉄選手は初戦に狩人の二つ名を持つ桐原選手に勝利を収めるとその後も勝利を積み重ね八戦全勝。果たして無冠の剣王の快進撃は一体どこまで続くのか!そして対する兎丸選手は全試合危なげない試合運びで黒鉄選手と同じく八戦全勝。兎丸選手は生徒会の役員にして序列3位の底力を見せ、黒鉄選手の快進撃を阻むのか!それでは第7戦バトルスタート!」
試合開始のブザーが鳴り響くと、恋々は試合が始まっているにも関わらずその場でステップを踏みながら一輝に話しかける。
「やあ黒鉄くん、狩人との試合を見せてもらったけどいい試合だったよ。まさか狩人に勝つなんて」
「あの試合は決して楽なものではなかったのでそう言ってもらえると嬉しいです兎丸先輩」
「僕と同い年だし敬語じゃなくていいよ黒鉄くん。確かに楽なものではなかったのはわかるよ、ボロボロになっていたからね。だけど狩人程度の強さで苦戦しているようではこの僕には勝てない。そのことを教えてあげる」
そう言って恋々は一輝の周囲をグルグルと回りだす。そんな恋々の動きを追おうと一輝は視線を動かすが恋々の姿を捉えることはできず、残像が辛うじて見えるだけだった。
「出たぁ!マッハグリードだぁぁぁ!自分にかかる速度を累積し、停止しない限り無限に加速し続ける。これが速度中毒兎丸恋々選手の伐刀絶技。そのスピードは既に音速を超えています!」
なるほど。始めに会話をしながらステップを踏んでいたのは速度を累積する能力の弱点となる初速を確保するためというわけか。ルールのある試合ならともかく戦場だと状況によっては弱点となるが概ね強力な能力といえるな。
弱点となる初速を確保した恋々はさらに加速を続け、とうとう一輝の動体視力でも視認できない速さに到達する。
「どう?驚いたっしょ黒鉄くん」
「ああ、流石に生徒会役員を務める兎丸さんだ。目ではとても追いきれない」
確かに黒鉄の言う通り目では追いきれないが、目で見えないだけじゃ桐原と大して変わらないな。それに能力の都合上兎丸は黒鉄に接近しなければならないが、黒鉄にとってクロスレンジは自分の領域だしもう勝負は決まったな。
「そうだよねっ、確かに黒鉄くんの身体能力には目を見張るものがある。だけど音速を遥かに超える僕を捕まえることなんてできないよ!さあ、捕まえられるものなら捕まえてごらんよ黒鉄くん。いくよっブラックバード!」
一輝の背後から恋々の音速を超えた拳が襲いかかるが一輝はその攻撃を回避しながら恋々を捕まえると地面に叩きつけた。恋々はすぐに立ち上がろうとしたが目の前に刀を突き付けられたことで動くのを止めて降参したのだった。
一輝の試合の後にはステラの試合もあったのだが、その試合はステラの勝利という形で決着がついた。実力者から見たこの2試合は特に見所のないものだったが、ほとんどの生徒からすると注目度の高い試合であったため会場のボルテージは最高潮になっていた。
そして今から行われる試合の実況をする放送部の生徒は、前の試合によって高められた会場のボルテージが覚めない内に出場する選手の紹介を始める。
「さあこのままの流れで次の試合に参りましょう!まず始めに長い黒髪をはためかせながら現れたのは2年Cランク、鷺沼慎之介選手です!昨年の代表選抜戦では惜しくもあと一歩のところで七星剣武祭出場はなりませんでしたが今回は違うぞ!これまでの成績は8戦8勝、今回格上に勝利して七星剣武祭出場へ一歩近づくことができるのか!」
実況の声と共に長い黒髪を束ねた背の高い男子生徒が現れると会場の女子達が大勢歓声を上げる。歓声を受けた男子生徒は歓声をものともせず闘技場を歩き、所定の位置に着くと直立した。そして次に紹介されたのは八幡だ。
「対するは1年Aランク騎士、比企谷八幡選手だ!これまで8戦全勝、2戦目以降全ての試合で対戦相手を一太刀で沈めています。今回も対戦相手を一太刀で沈めてしまうことになるのか!」
八幡が闘技場に姿を現し男子生徒の対面に立つと、相手の方から八幡に話しかけてきた。
「こうして会うのは初めましてだな。しかしお前のことを初めて見た時からわかってはいたが只者ではないな、隙が微塵も見当たらない」
「俺のことを只者ではないと言うが、かの有名な鷺沼流の師範代に高校2年で就任したあんたも大概だからな」
「確かに他の人から見たらどっちもどっちか。さて、観客も試合開始を待っていることだし始めるとするか比企谷」
「そうだな。お互いにいい戦いをしようか」
二人は話を終えると互いに霊装を展開して試合開始の合図を待つ。そして両者の準備ができたところで実況が試合開始を宣言する。
「それでは参りましょう、第9戦バトルスタート!」
試合開始の合図と共に両者はぶつかり合ったのだった。
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剣士同士の戦い①
それではどうぞ。
試合開始の合図と同時にまず動いたのは八幡だ。足に魔力を集中させると鷺沼に一瞬で接近し袈裟斬りを放つ。対する鷺沼は左の肩口から来る一撃を防御するとさらに連続で来る攻撃を同じように防御しながら隙を伺う。
そして連撃の一つを捌いたところで八幡に僅かな隙ができたため、鷺沼はこれを見逃さず振り下ろしの一撃を放つがその攻撃は八幡に命中することなく地面を叩く。その直後鷺沼に八幡の攻撃が襲いかかった。しかし鷺沼は相手に誘い出されたことに気づくとすぐに反転し、八幡の刀に斬撃をぶつけてなんとか攻撃を受けるのは避けた。
「鷺沼選手のカウンターが比企谷選手を襲うがそれを見事に回避!カウンターを仕掛けた本人が逆にカウンターをもらうという結果となりました~っ」
「ふむ、ギリギリで防御が間に合ったとはいえ今のは比企谷君が上手だったな。普通の伐刀者では気づかないような僅かな隙をわざと見せて相手に攻撃させ、攻撃を回避した直後に背後から斬りつける。流れは完璧だったが攻撃を回避するタイミングが早かった分カウンターを防ぐ時間を与えてしまったのが惜しかった。ギリギリまで引き付けていたら今回も一太刀で決まっていただろう」
解説の先生の言う通りほとんどの伐刀者は俺よりも大きく強さで劣るため、大きな隙でなければそもそも隙があることにも気づかない。しかし実力者は僅かな隙を突いて攻撃を仕掛けてくる。そこで敢えて普通の伐刀者では気づかないような僅かな隙を見せることで、自身の手によって作られた隙だと誤認させて攻撃を誘い込んだというわけだ。
「様子見とはいえ、よく今の攻撃を凌いだな。武術をある程度使えるくらいの実力であればさっきので仕留められたんだが」
「最年少の師範代を相手にその発言とは恐れ入る。だがその発言に見合うだけの実力があるのは確か。さて、ここからが本番だ」
鷺沼の言う通りここからが本当の戦いだ。どういった能力なのかはわからないがこれまで以上に激しい戦いになるのは確実だな。
一連の攻防が終わり距離を取って会話していた二人は互いに動き出し、先程以上の激しい戦闘が始まった。
「先程は先手を取られたが今度はこちらからいくぞ」
さっきとは打って変わって鷺沼から攻撃を仕掛けてきた。数歩で八幡との距離を詰めると剣を振り上げ、自身の体重を乗せながら剣を振り下ろす。その動きはやや大振りではあるものの、腕に魔力を込めている影響で剣速はかなりのものだ。
「はあぁぁぁぁぁっ」
「おっと」
しかし八幡は鷺沼の強力な一撃を刀の峰を持った状態で頭上に刀を構えて防いだ。そして鷺沼がこの後に放ってきた連撃は摺り足で後ろに少しずつ下がりながら捌いていく。
剣の振りは鋭く威力も充分あるしいい攻撃だが防げないこともないな。それにしてもさっきから相手の攻撃の威力を利用して後ろに下がりながら攻撃を受けているが、その度に後ろに下がる距離が段々と長くなっているな。だがこのくらいの攻撃力ならまだ斬撃を捌く余裕はあるからもう少し様子を見るか。
鷺沼の攻撃を捌きながら考え事をしていると八幡の意識が別のところを向いていることに気づいたのか鷺沼がフェイントを掛けてくる。しかし八幡は鷺沼の攻撃に悪意があまり込もっていないことに気付くと、攻撃が当たる瞬間に体の力を抜いて一撃目を柔らかく受け止め二擊目もしっかりと防いだ。
そして八幡と鷺沼の二人はそのまま鍔迫り合いとなった。
「戦いの途中で考え事とは随分と余裕だな」
「いや、それほど余裕というわけではないぞ。現に戦いは今のところ互角だしな」
八幡の言葉通り剣での戦いは互角と言えるだろう。しかし鷺沼は能力を使っているのに対して八幡は未だに一切能力を使っていない。そのため完全な互角ではなく全体で見ると八幡の方が有利だ。そのことを分かっていながら八幡は惚けるが鷺沼にはお見通しのようだ。
「互角とは謙遜か比企谷?どんな能力を持っているのか知らないが、まだ能力を使っていないだろう」
「能力を使っていないことはわかるのか。だが互角というのは本当だぞ、この試合では能力を一切使わないからな」
「・・・能力は使わない宣言か。それならば逆に能力を使わせたくなってくるというものだ」
「それなら俺に能力を使わせてみせるんだなっ」
八幡は鍔迫り合いの状態から鷺沼を弾き飛ばすと鷺沼から距離を取る。そして鷺沼は少し離れたところに着地すると先程までの戦闘によって乱れた息を整える。そして鷺沼は八幡に能力を使わせることを目の前にいる本人に告げた。
「言われなくともそうする」
鷺沼の言葉が終わると同時、数メートル程の距離が一気に詰められクロスレンジでの戦いが再開された。
三度目の攻防で始めに攻撃したのは八幡だ。足元で魔力を爆発させることで機動力を向上させると鷺沼との距離を一気に詰める。そして八幡が居合を放つが鷺沼には当たらず回避されてしまう。そこで自身の攻撃が当たらないことを予想していた八幡が鷺沼を追撃するものの、鷺沼も相手が追撃してくることを予想していたため八幡の攻撃を剣で防いだのだった。
そして鷺沼は八幡の攻撃が一瞬止まったところで八幡を力で押し返すと、体を遠ざけ空いた胴に横薙ぎを放つ。しかし鷺沼の攻撃は惜しくも八幡が刀を体の前に割り込ませたことで有効打とはならなかった。そして鷺沼が攻撃を仕掛けたことで攻守が入れ替わると鷺沼の猛攻が始まった。
まず始めに繰り出されたのは下からの斬り上げだ。先ほどの攻撃から繋ぐ形で放たれた斬撃が八幡を襲う。
対する八幡は鷺沼の攻撃を防ぎつつ攻撃の威力を利用して後ろに下がるがその動きを追って鷺沼が前進し剣を振り下ろしてくる。
斬り上げからの振り下ろしによる連続斬りできたということはここで勝負を決めに来たか。剣術においては振り下ろしが最も威力の出る斬り方だから、二撃目以降に威力のある攻撃を選択したのは悪くない判断だ。だが相手の体勢が崩れる前に勝負を決めにいくとは勝負を焦ったな。
八幡は今までの攻防から鷺沼がここぞという時に毎回振り下ろしの一撃を放っていることを看破していた。そのため振り下ろしの一撃直後の隙を狙うため鷺沼の攻撃を剣先で受け流す。そして鷺沼の背後に回り込んだ次の瞬間、八幡は自身の首に悪意を感じたため咄嗟に刀で首を守る。その直後に刀と剣がぶつかり合った。
次で決着です。
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剣士同士の戦い②
すみません、今回で終わらせるはずが結局終わりませんでした。
「おおっと危ない!比企谷選手、剣と自身の首の間に刀を割り込ませることで鷺沼選手の放った突きをなんとか防ぎました!」
後少し首を守るのが遅れていたら今頃俺の首は貫かれていたな。それにしても振り下ろしが囮で本命は下からの突きだったか。鷺沼から放たれた殺気のおかげで攻撃を間一髪で防ぐことができたが普通なら決まってたな。
鷺沼が放った攻撃が全く予想していなかったものだったため防ぐのがギリギリになった八幡は内心冷や汗をかく。
「今のは完全に決まったと思ったんだがこれでも防がれるというのか」
鷺沼は今の一撃のために散々布石を打ち、確実に決められるタイミングで攻撃を放った。にも関わらず八幡に攻撃を防がれたため、鷺沼は一旦八幡から距離を取ると信じられないかのように呟く。
「だが着実に比企谷に近づいているのは確かだ。だからこのまま攻め続けて攻撃の主導権を握ってやる」
しかしすぐに気持ちを切り替えると、鷺沼は自身の一番得意な攻撃である振り下ろしを一撃目に放った。対する八幡はその攻撃を後ろに下がり回避するとすぐさま刀を出して防御体勢に入る。そこへ鷺沼が八幡との間に距離があるにも関わらず下から斬り上げを放ってきた。斬り上げを放った際に削り取られた地面の欠片が礫となって八幡を襲うが、八幡は冷静に礫を全て叩き落とした。
しかし八幡を襲った礫は陽動だったようで、鷺沼は八幡が礫の対処をしている間に接近すると最後の礫を弾いた瞬間を見計らい攻撃を仕掛ける。
「はあぁぁぁっ」
鷺沼は気合いの声とともにがら空きになっている左の脇腹に斬り上げを放つが、八幡は声に反応して刀を右手から左手に持ち替えると鷺沼の一撃を防いだ。
「折角の奇襲も声を出してたら意味がないだろう」
「比企谷の言う通りではあるが声の有無に関係なくどんな不意打ちも対応していた以上意識外の攻撃は通用しないとみて間違いはないだろう?それならば比企谷の動体視力を上回る速さで攻めて防御を抉じ開けるまでだ」
「とはいえあんたの固有霊装は剣。加えて身体能力もこれまでの感じからBランクあるかないかだろう。それでは俺の動体視力を上回ることなど不可能だと思うが」
「不可能かどうかは自分の体で確かめてみるんだなっ」
八幡から大きく距離を取った鷺沼は両指を地面に付きクラウチングスタートの構えを取る。そして足元で魔力を爆発させると剣を前に突き出したまま走り出した。
目にも止まらない速さで駆け抜け突きを放つが、八幡は突きを刀の樋を利用して受け流した。そこで鷺沼は素早く反転しながらそのままの勢いで連続突きを放った。
「ここで鷺沼選手の攻撃が斬撃主体から突き主体へと変わりました!今のところは比企谷選手に突きが当たっていませんがこれは当たるのも時間の問題になりそうです!」
鷺沼が八幡の動体視力を上回るために選択した攻撃は突き攻撃だった。何回も高速の突きが八幡を襲うものの体を捉えることはできていない。
「これなら比企谷の動体視力を上回ることは可能だろう?さて勝負はまだ終わらないぞ」
そう言ってまず始めに鷺沼が放ったのは頭と腹部への連続突きだ。初速を出すために剣先を相手に向けたまま体を捻り力を貯めると、2連突きを放つが八幡によって二回とも弾かれてしまう。そこで今度は稲妻型になるように4連突きを放った。しかしこれも八幡には通用せず全て弾かれることになった。
そこで更に攻撃の速度を上げて連続突きを放ち続けるが中々当たらない。ただ連続突きの回転率を更に上げたことで八幡は段々と防戦一方になっていた。
そしてここで鷺沼は勝負を決めに来たようだ。ある一回の連続突きの最中に八幡の頭上を飛び越えると背後から頭部や腹部、心臓や両肩に六連突きを放ってくる。八幡はすぐに振り向き突きを弾くが、最後の突きを弾いた瞬間に一瞬鷺沼を見失うとその直後には真横から殺気を感じ横を振り向くよりも先に刀を振るった。
ガキィィィンッ!
八幡は金属音を鳴らしながらギリギリで頭への突きを弾くことに成功する。そしてすぐに体を真横に向けると肩と足への4連突きを全て弾いた。
攻撃方法が突きに変わってから明らかに攻撃の密度が増しているな。確かにこれならやがては俺の動体視力を上回るかな・・・っと。
考え事をすることすらも許さないとばかりに攻撃が激しくなり、連続突きを放ちながらも鷺沼は八幡に隙ができるのを今かと待っていた。そしてとある一撃が八幡の制服を僅かに貫き、剣を引いたタイミングで体勢を崩させる。
あ、これはマズイ。今から回避するのでは間に合わないから防御するしかないができるか?
そして次の瞬間鷺沼は背後に回り込むと気合いの声と共に突きを放った。
「うぉぉぉぉぉぉっ」
気合いの声とともに放たれた連続突きを八幡はその場に留まって弾いていく。しかし11回目の突きを弾いたところで次の攻撃を防ぐことができないことに気づいた八幡は全力で後ろに跳ぶ。そしてなんとか攻撃を回避して着地するとさっきまで八幡がいたところに大きなクレーターが残っているのだった。
「おおっと比企谷選手!鷺沼選手が放った怒涛の連続突きと振り下ろしの一撃を見事乗り切りました!!」
今のは本当に危なかった。だけどあれで鷺沼の能力は完全に把握できたな。さて、答え合わせでもしようかねぇ。
「今の攻撃は本当に見事だった、後少しで押し切られるところだったからな。だがあれのおかげで能力がわかった。鷺沼の能力は威力の累積だな?」
「・・・正解だ。なぜ俺の能力が威力の累積だとわかったのか聞かせてもらおうか」
八幡が鷺沼の持つ能力を暴くと鷺沼はなぜ自分の能力を暴くことができたのか尋ねてきた。そこで八幡はその理由を詳しく説明する。
「攻撃を何回も防御している中で気になったところはいくつかあったが、決め手になったのは最後の一撃だ。試合開始直後の攻撃でできたクレーターと最後の攻撃でできたクレーターを比べたところ、後にできたものの方が遥かに大きかったため鷺沼の能力を完全に把握したというわけだ」
「なるほど、地面に残されていた攻撃の痕から俺の能力を見破ったというわけか。戦闘中から感じていたがやはり中々良い観察眼と頭のキレを持っているな」
「まあ観察眼と思考力は俺の専売特許だからな。敵の能力を暴くことくらいは簡単にできる」
八幡から能力を暴くことができた理由を聞いた鷺沼が八幡の洞察力の高さを称賛すると、八幡は鷺沼に対して肯定の言葉を返す。そしてさらに八幡は鷺沼に称賛された特技を生かして鷺沼の身体の状態を言い当てる。
「それと体力の回復は終わったのか?隠しているつもりなのだろうが息が荒いぞ」
「・・・心配ない、体力の方は大体回復した。だから次の一撃で決める」
度重なる能力の使用で魔力のほとんどを消耗した鷺沼は次の攻撃で確実に勝負を決めようと剣を構える。それを受けて八幡の方も腰を落とすと柄を握って構えた。そして一瞬の静寂の後、魔力で身体能力を強化した鷺沼と身体能力を強化していない八幡は同時に動き出した。
今度こそ次回決着です。
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試合終了と取材
それではどうぞ。
鷺沼は足元で魔力を爆発させると一瞬で八幡に接近する。
(俺の魔力がほとんどなくなっている以上これが能力を発動させられる最後の一撃だ。ならばここで剣技の中で最も速いとされている突きを放つしかないだろう)
そして鷺沼は威力を累積させた状態の剣で八幡よりも先に突きを繰り出した。
身体能力の強化を行っていない八幡と、足元で魔力を爆発させたことによる機動力の上昇及び威力の累積という能力の発動を同時に行っている鷺沼とでは、攻撃力と機動力において鷺沼の方に分があった。そのため鷺沼の突きを防ぐことができずに勝負が決まるかと思われた。
しかし鷺沼が走りながら放った突きは八幡によって受け流されてしまう。そしてそのまま背後に回り込まれると首に峰打ちを受けて鷺沼は走り抜けた先で気絶したのだった。
「ここで試合終了ですっ。剣士同士の戦いを制したのは比企谷選手だ!鷺沼選手の威力を累積させる能力を生かした剣術をものともせず鮮やかなカウンターで勝負を決めましたぁぁぁ!」
実況の試合終了を告げる声が響き渡り闘技場が歓声に包まれる中、解説を務めていた先生は八幡が最後に行った攻撃の詳細を解説する。
「最後のカウンターはよかったな。あえて魔力を使わずに接近し遅い方の速さを目で覚えさせた後、魔力によって身体能力を強化し背後に回り込み攻撃する。このように急激な緩急をつけた動きをするだけでも難しいのに、加えて魔力を一切使用していない状態から必要な分の魔力を一瞬で使うという全くタイプの異なる二つの高等技術をあっさりやってのけるとは驚きだ」
鷺沼と八幡による最後の攻防に隠された八幡の戦闘技術を説明した解説の先生は、八幡がこの試合で見せた圧倒的な強さを称賛する。
こうして解説に褒められた八幡だったが、当の本人は言葉を最後まで聞くことなく出口へと向かうとそのまま闘技場を出ていったのだった。
試合が終わり闘技場を出た八幡は外へと繋がる通路を歩いていた。そこへ新聞部に所属している女子生徒の漆原此花が現れると八幡に労いの言葉をかける。
「お疲れ様です・・・選抜戦観てました・・・9勝目おめでとうございます比企谷くん」
「俺の試合を観てくれてありがとな。魔術戦と比べると地味だからあまりおもしろくなかっただろう?」
炎や雷などの派手な攻撃が飛び交う魔術戦は誰が観ても楽しむことができるが、武術戦は武術の知識を持つ者でなければ戦いを理解することができないため素人の目には地味に映る。そのことを知っている八幡だったがとりあえず試合の感想を素人の此花に聞いてみると此花からは意外な答えが返ってきた。
「武術のことはよくわからないですけど・・・二人の動きを目で追っていた感じだと・・・凄くいい戦いをしていたことは・・・わかります」
なんと此花が八幡と鷺沼の戦いをしっかりと目で追えていたというのだ。それを信じられなかった八幡は此花を観察するが嘘をついているような感じは見受けられなかった。
「どうやら俺と鷺沼の動きを目で追っていたというのは本当のようだな。それに楽しく試合を観戦することができたみたいでよかった。さてとそれじゃあ俺の方は準備できたから此花も準備ができたら取材を始めてもいいぞ」
「わかりました・・・今から準備を始めるので・・・少しお待ち下さい」
八幡に取材の準備をするように言われた此花はポケットからメモとペンを取り出すと取材の準備を整える。そして準備ができた此花が八幡に一つ目の質問をぶつけてきた。
「それでは・・・準備ができましたので・・・取材を始めます・・・まずは・・・9勝目を挙げた時の・・・率直な感想を・・・よろしくお願いします」
「今日の試合は選抜戦が始まってから初めてのまともな戦いで緊張していたけど勝ててよかったです」
八幡が言うには初めての強敵を相手に緊張していたということらしいのだが、試合を観戦していた此花からすると緊張しているようには全く見えなかったため八幡のポーカーフェイスの完成度に此花は驚きの言葉を吐く。
「緊張しているようには・・・見えなかった・・・比企谷くんでも・・・緊張するんですね・・・」
「此花さん?でもってどういう意味なんですかね俺のことどのように思ってたの?」
此花の口から出た言葉に八幡が反応するが此花には届かず次の質問に移っていく。
「・・・それでは・・・二つ目の質問です・・・今回の試合は剣士同士の戦いでしたが・・・魔術を得意とする人が相手の場合には・・・どのように戦いますか」
「詳細は教えられないけど現時点では今まで通り能力は使わないだろうと答えておきます」
八幡の言う通り今まで戦った9試合の中には魔術主体の伐刀者が何人もいたのだが、その全員を伐刀絶技すら使わずに刀1本で斬り伏せてきた。そのため余程の相手でない限り八幡が能力を使うことはないだろうということが八幡の言葉から明らかとなった。
そしてこの後も此花による取材が続き、八幡がそれに一つ一つ答えていくと次で最後の質問となった。
「それでは最後に・・・残りの選抜戦の意気込みを・・・よろしくお願いします」
「これからどんどん強敵との戦いは増えていくと思うので一戦一戦真剣に戦っていきたいです」
此花が最後にした質問に八幡が答えて、此花がその答えをメモ帳に書き込むとメモ帳とペンをしまい八幡への取材を終了した。
「・・・質問は・・・以上になりますので・・・これで取材を終了します・・・」
取材が終わりメモ帳とペンがしまわれたのを確認した八幡は此花にこの後の予定について訊ねた。
「俺はこの後知り合いに用事があるからもう行かなければならないが漆原はどうするんだ?」
「・・・メモした内容を・・・記事にする・・・作業があるので・・・私は部屋に帰ります」
人見知りが激しいとはいえ俺以外にも取材に行かなければいけない人はいるだろうから、取材後すぐに寮へ帰って記事を作り始めないと時間が足りなくなるか。俺のしたことがすっかりそのことを忘れていたな。
「漆原の記事楽しみにしているから記事作るの頑張れよ」
「はい・・・頑張ります・・・比企谷くん・・・今日はありがとうございました」
そして互いに予定があることを知った二人は一言二言だけ言葉を交わすとそれぞれ別の方へ歩いていくのであった。
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