ダンガンロンパ espoir (桐咲斗來)
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序章
序章 1/3


 

その巨大な学園は、広大な土地のど真ん中にそびえ立っていた。まるで、そこが世界の中心でもあるかのように。

"私立 希望ヶ峰学園"……あらゆる分野の超一流の高校生を集め、育て上げることを目的とした政府公認の超特権的な学園。

卒業すれば人生において成功したも同然と云われていた…が、十数年前まである事件がきっかけで廃校になっていたらしい。

しかし、希望ヶ峰学園の卒業生たちが再興を目指し動いた結果、今の新たな"希望ヶ峰学園"が創立されたそうだ。

俺は今日、"超高校級の記憶力"としてこの学園に入学する、んだが……

 

「早く来すぎたな…」

 

学校側から指定された時間は八時。 今は七時十分過ぎだから、かなり早く着いてしまった。そのせいか、この場に俺以外の人間が見当たらない。

まあ、早く来てしまったぶん、校内の探索時間が増えたと思うことにしよう。 俺はそう考えながら、門へと歩を進め、学園内へと足を踏み入れた。 その瞬間。

 

ぐにゃり。

 

「…っ!?」

 

世界が歪んだ。 いや、俺の目が変なのか?

ぐにゃりぐにゃりと俺の視界はぐちゃぐちゃの絵の具のように歪んでいき、俺は何が起きたのかもわからぬまま…

……意識を手放した。

 

 

 

 

 

「……ん、」

 

ぱちりと目を開いた瞬間、俺はいつの間にかジャングルにでも迷いこんだのかと混乱した。 そう思ってしまったのは、何を隠そう俺の周辺に緑しかなかったからだ。

右を見ても、左を見ても、上を見ても、下を見ても。

日本では絶対に生育されていない木々に囲まれていた。 地面に大の字に倒れたまま周囲の状況を確認し、俺は口を開いた。

 

「…俺、この後ゴリラに拾われて育てられるのかな…」

「んなわけねぇだろ、バカか?オマエ」

 

ツッコミを期待していなかった独り言に反応があったことに驚きつつ、聞き覚えのない可愛らしい声に未だに倒れたまま頭だけを声が聞こえた方に向ければ、そこには呆れたように俺を見下ろした黄色がかった茶色の髪を腰にまで伸ばした、背の小さい女の子が立っていた。

 

「ちっ、スカートじゃなかったか…」

「さりげなく女子の下着を覗こうとしてんじゃねぇよ。最低だなオマエ」

 

ほら、と差し出された手に抵抗せず右手を重ねれば、見た目に似合わない腕の強さで俺は一気に立ち上がらせられた。

 

「意外と力が強いんだな」

「力がないとやって行けねぇ仕事でな。…で、一応確認なんだが。オマエは超高校級の人間か?」

 

俺が立ち上がったことにより、見上げながらそう聞いて来た彼女の言葉を耳に入れ、やっぱりジャングルにでも来たのかと思いながらも質問に答える。

 

「そう、だな。今日から超高校級として入学予定だった向月直(コウツキ ナオ)だ。…そういうお前は?」

「あ゛?…あぁ、俺も超高校級。超高校級の近距離武器職人、鈴木歪夢(スズキヒズム)。よろしくな、変態」

 

彼女、改め鈴木はそう言っていたずらが成功した子供のように、にっと笑った。

 

【超高校級の記憶力 向月直】

【超高校級の近距離武器職人 鈴木歪夢】

 

「変態じゃない。ちゃんと向月直って名前が」

「うるせぇ、今はんなこと言ってる場合じゃねえんだよ変態」

 

鈴木は俺の呼び方を変えないまま、握ったままだった手を引き、歩き出した。

 

「ネットの情報が正しいんなら、オマエで最後のはずなんだよ。ほら、さっさと行くぞ」

「ちょ、ちょっと待て。行くってどこに…」

「あ?察しが悪ぃな。んなもん一つしかねぇだろ」

 

鈴木は俺の手を引いたまま、こちらを振り向かずに言葉を続ける。

 

「俺ら以外の超高校級がいるところだよ」

 

 

 

 

 

"俺ら以外の超高校級"。

それは、文字通り俺と鈴木以外の十四人の入学生のことだろう。

超高校級にスカウトされた俺がまず最初にしたことは、同じく超高校級にスカウトされた人物たちについて調べることだった。

今の世の中、調べたいことは某掲示板を覗けば殆ど答えが書き込みされていると言っても過言ではない。

とは言っても、俺は厄介な記憶力のおかげ(せい?)で変な知識を増やしたくなくて今まで開いたことがなかったのだが、前情報なしで入学するのも超高校級の記憶力としてどうなのかということで、渋々ブラウザを開いた。

〝今年度 超高校級 スカウト〝で検索すれば、吐きそうになるくらいに溢れ出でくる情報。

希望ヶ峰学園職員が直々に立ててるスレッドを開けば、どうやら〝メディアに顔が知られていない生徒の写真や個人情報の掲載は禁止〝と注意されているらしく、それを破ったものはコメントが消去され、掲示板からも追い出され二度と書き込みができなくなるらしく、普通の一般人だった俺はホッと胸を撫で下ろしたものだ。

一安心した俺はそのスレッドから色々と情報を仕入れた。

同級生となる彼ら彼女らは俺を合わせて十六人いること。

その全員の才能、及びスカウトされた理由や経歴。

など、その他エトセトラ。

そのため、目の前で俺の手を引いて何処かへ連れて行こうとしている彼女のことは、才能は知っていたが声や顔は知らなかったわけだ。

超高校級の近距離武器職人、鈴木歪夢。 確か彼女には、双子の姉が…

 

「おい、変態。何考えてんのかしらねぇけど、その辺にしとけよ。…ついたから」

 

言われるがままに思考を止めて、俺の手を離した鈴木が指をさした方に顔を向け…

…美男美女しかいない十四人の同級生たちを見て、あまりの驚きにポカンと大きく口を開けた。

 

 



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序章 2/3

 

「おっ、その人が最後の一人っすか?」

 

何故か顔全体に大きく卍が書かれた爽やか系のイケメンが俺たちに気がつきそう声をかけてきた。

たたっ、と軽やかな足取りで俺の元へと近づいてきた彼は爽やかな笑みを向け、右手を差し出した。

 

「初めまして、オレは…」

「自己紹介は後でもいいんじゃないの?今はこの状況を確認するべきでしょ」

 

イケメンスマイルに圧倒されていた俺に助け舟を出した形になった彼女に目線を向ければ、そこにはやはり美少女がいた。

というか、あまり雑誌を読まない俺でも知っている超有名人が不機嫌そうに立っていた。 彼女は確か、人気女性ファッション誌に…

 

「それもそうっすね。ごめんなさいっす」

「謝られても現状は変わんないから」

「…ねぇ帝王様?アタシ的には、アンタを狙った誘拐にアタシらが巻き込まれたと思ってるんだけど…。意見を聞かせてくれる?」

 

ヘッドホンをカチューシャのように使って前髪をあげ額を露わにしている強気そうな少女が、真剣な顔で近くにいた一目見ただけで"王子様"と呼んでしまうくらいに整った顔立ちと格好をした正統派美少年に話しかけた。

彼は彼女を一瞥し、口を……

 

「どうやら、全員揃ったみたいだね!」

 

…開こうとしたところで、幼い子供のような声が聞こえた。

 

「な、なんでしょうか、今の声…」

「子供の声…、っすかね?」

「それにしては流暢だったけれど」

「……ねぇ、あれ…何?」

 

俺を含めた全員が困惑し、声の主を探して辺りを見回していると、こげ茶色の髪を肩まで伸ばしている、幼い顔立ちの可愛らしい女の子がそう言って、すっと指を指した。

その指の先へ自然と目を向ければ、そこには右半分が白色、左半分が黒色という奇妙なデザインをしたクマのヌイグルミが、地面にぽつんと置かれていた。

さっきまでは絶対になかったそれに、俺は密かに警戒する。

…と思ったところで、ヌイグルミから一番近かった色素の薄いボサボサの髪を適当に伸ばした明らかに寝間着姿の隈のひどい女の子が、ひょいとそれを持ち上げ… …勢いよく、俺の背後にあった噴水へぶん投げた。

 

「いきなり何をしているんだ君は!!?」 「何って…気味が悪かったから…」

 

寝間着の彼女の奇行に、制服をきっちり着用した真面目そうなイケメンが戸惑ったようにそう叫べば、彼女は心外そうな声で返答した。 そのやりとりを見ていたら、再び聞こえてきた幼い子供のような声。

 

「ひどいなぁ、こんなキュートなボクに向かって気味が悪いだなんて!」

「ま、また声が聞こえてきましたけど…っ!」

「…噴水の方から聞こえてきたみたいだね」

 

オレンジ色がかった茶色の長い髪を両サイドに三つ編みにしている少女が怯えたようにそう呟くと、右目にモノクルをつけた見た目からしてかなり怪しい黒髪のイケメンがその言葉とともに噴水へ目を向ければ、他のみんなもつられるようにそちらへと視線を動かした。 全員の視線が噴水へ集まった、その瞬間。

 

「うぷぷぷぷぷぷっ!こんなに視線を集めちゃって、ボクったら人気者!」

 

幼い声はそんなふざけたことを言いながら、「とうっ!」という掛け声とともに、噴水から"何か"が飛び出してきた。

その何かは空中で一回転をしながら噴水の淵に着地し、決めポーズをとった。

そして、一言。

 

「やぁ、お待たせしました!オマエラ、お久し振りです!ボクはモノクマ。この学園の、学園長なのだ!……って言っても、ここは学園じゃないけどね!」

 

…それは、たった今投げ飛ばされたクマのヌイグルミだった。 ヌイグルミが喋って動いている、というあまりに現実的じゃない光景に、俺たちは呆然としていた。

 

「………、…腹話術?」

「例え腹話術だとしても、何故動いているのか、という説明にはならないわよ」

「誰かが操ってるにしては、動きが滑らかすぎるよね?」

「きっっっも!!!」

「みんなして失礼しちゃうなぁ!ボクはボク以外の何者でもないよ!ボク自身の意思で喋って動いてるの!」

 

着物を着た少年、眼鏡をかけた美人、鈴木と瓜二つの少女(双子の姉?)、ジャージを着たアホが順に感想を述べていくと、モノクマを自称したソイツは怒ったように両前脚を上に挙げて威嚇してきた。

対する俺は、未だにモノクマが現れた衝撃から立ち直っていなかった。

 

「うぷぷぷ。向月くん、なぁにその顔。鳩がガトリングガン食らったような顔してるよ?」

「…それを言うなら豆鉄砲ではござらんか?」

 

道着を着たガタイのいいイケメンのツッコミをスルーし、空気を入れ替えるようにくるりと踊るように一回転したモノクマは、最後にビシッと決めポーズをして、

 

「では、これからオマエラが行う"林間学校"の説明を行います!」

 

と、訳のわからない宣言をした。

 

「…は?林間学校?」

「林間学校って…オレら入学式すらしてねーのに、どーゆー事だよ?」

 

聞き間違いかとその言葉を反芻した俺に反応するように、ジャージを着たアホが本気で不思議そうにモノクマに問いかければ、モノクマはやれやれ、とでも言いたげなポーズで首を横に振った。

 

「林間学校は林間学校だよ。オマエラ十六人には、この山で共同生活してもらうの!一生ね!」

「…つまり、死ぬまでここから出られないという事か?…冗談だろう?」

「本気だよ!本気と書いてマジだよ!」

 

真面目系男子の言葉にモノクマは右前足から鋭い爪を生やしてそう答えると、何が面白いのか再び笑い始めた。

 

「うぷぷぷぷ……まぁ、一生って言ったけど、無い訳じゃないよ?この山から出る方法……」

「…どうせ下らない事だろう?」

「むっ!下らなくないよアレクくん!むしろ楽しい事だよ!ボクにとってはね!」

「それ、要は私たちにとっては下らない事なんじゃ…?」

「なんだよ優しい機織さんまでそんな事言っちゃって!もういいよ!勝手に説明するから!」

 

若干拗ねたらしいモノクマは腰(?)に両前足を当て、説明し始めた。

 

「学園長であるボクは、山から出たい人の為にある特別ルールを設けたのです!それが、"下山"というルール!」

 

下山…?なんだそのルール。

この場の誰もが思った事だろうが、モノクマは無言の俺たちを気にせず話を続けた。

 

「オマエラには、この絶望山(ゼツボウザン)での秩序を守った共同生活が義務付けられる訳ですが…もし、その秩序を破った者が現れた場合、その人物だけはこの山から出ていくことになるのです!要は厄介払いって奴だね!それが"下山"のルールなのですっ!」

 

モノクマがそこで言葉を区切ると、寝間着女が質問をするように右手を挙げ、口を開いた。

 

「秩序を破ると言ったが、具体的にはどういう事をしたら破った事になるんだ?」

「おっ、いい質問だね野宮さん!聞きたい?聞きたい?」

「はいはい。聞きたいから、早く答えなさい」

「九里田さんに免じてお答えしましょう!それはね……」

 

 

 

「人が人を殺すことだよ」

 

 

……こ、ろす……?

 

「殴殺刺殺撲殺斬殺焼殺圧殺絞殺惨殺呪殺……殺し方は問いません。 "誰かを殺した生徒だけがここから出られる"。…それだけの簡単なルールだよ」

 

モノクマの言っていることが、理解できなかった。

それはこの場にいる全員がそうだったと思う。

殺す…?俺たちの誰かが、俺たちの誰かを…?

そんな事、出来る訳が無い。

…だって俺たちは友達だろ……………、

 

……………友達?

 

どうして、俺はこいつらを友達だと思ったんだ?あのアホはともかく、他の奴らはついさっき会ったばかりなのに…?

…何かが、おかしい。俺が、何かを忘れるなんて、ありえないはずなのに………

 

「……あなたは、わたしたちに殺し合いをさせたいの?」

 

その言葉にハッと我に帰ると、こげ茶色の髪の少女はその幼い顔を一切歪ませないままモノクマを見つめていた。

 

「うぷぷぷ。その通りだよ?」

「……どうしてそんな事させようとするの?」

「どうしてって?そんなの教えるわけ無いじゃない!強いていえば趣味だよ!ボクの趣味!」

「……まともに答えないのなら、もういい」

「あれ、もう終わりなの常前さん?だったら、次の説明に進むよ!」

 

モノクマはそう言うと、どこから出したのか板のようなものを両前脚に持ち、それを俺たちに向けて投げた。

俺に向かってきた一枚の板をキャッチすると、親指が丁度いい位置に当たったのか、画面に「向月直」と俺の名前が浮かび上がった。

 

「今オマエラに投げたのは、この山で必要になるオマエラ専用の生徒手帳です。電子化された生徒手帳……略して、電子生徒手帳!その手帳は林間学校に欠かす事の出来ない必需品だから、絶対になくさないようにね!単なる手帳以外の使い道もあるんでね!」

「…今、ざっと調べてみたけど…、この"林間学校のルール"って、何?」

 

板(電子生徒手帳)を片手にヘッドホン女子がそう聞くと、モノクマはあの変な笑い声を響かせながら、いわゆるドヤ顔をして話し始めた。

 

「ルールはルールだよ。ルール違反をしたらオシオキが待ってるから、各自ちゃんと読んでおくよーに!ではでは、これにて林間学校開会式を終わりたいと思います。それじゃあ、待ったね〜!」

 

モノクマはそう言い終えると、謎の効果音を出しながら俺たちの目の前から姿を消した。

後に残ったのは、困惑と恐怖、疑いという暗い雰囲気に満ちた、俺たち十六人だけだった。

 

 

 

 

 

モノクマが去ってから数分続いた沈黙を破ったのは、両腕を組んで深くため息を吐いた真面目系男子だった。

 

「…あまりの荒唐無稽さに頭が痛くなるが、とりあえず。皆、僕の話を聞いてくれないか?」

 

尋ねるようなその言葉に、俺を含めた全員が各々真面目系男子に目線を向ける。

彼は全員の視線が自分へ向いたことを確認すると、すうっと息を吸って話を続けた。

 

「まず初めに、自己紹介をしよう。僕は今年度超高校級の学級委員として希望ヶ峰学園に入学した、岩崎孝輔(イワサキ コウスケ)だ。以後よろしく頼む」

 

【超高校級の学級委員 岩崎孝輔】

 

「さて、本題だが。たった今僕達はモノクマを名乗る得体の知れないヌイグルミに、この山から脱出したければコロシアイをしろ、と脅迫された。

もちろん僕はそんな事をしたくは無いし、君達もそうだろう。

そこで、モノクマの言うこの絶望山を一度全員で調べてみるのはどうだろう?

望み薄ではあるがどこかに出口があるかもしれないし、そうでなくても何かの手がかりは見つかるかもしれない」

 

真面目系男子…岩崎の言葉に、他の奴らは「確かに…」「そうかもしれないけど…」など、それぞれの反応を示す。

その反応がお気に召したのか、岩崎はにこりと微笑んで再び口を開いた。

 

「それに、だ。ここにいる全員は超高校級。今年の入学生十六人が拉致されたとなれば、警察機関も動くだろう。モノクマの言葉が虚言であれ真実であれ、数日もすれば主犯は捕まり、僕達は助かるだろうと考えているんだ。…どうだろう?」

「…ま、確かにね。今の警察機関は十数年前に比べて実力も権威も強化されてる。早ければ五日、遅くても一ヶ月以内…って所でしょ。

あのクマの言葉を無視して過ごせば、アタシら全員無事に保護されるでしょうね」

 

伺うような岩崎の言葉に反応したのは何かを考えるように顎に手を当てていたヘッドホン女子。先程モノクマに質問した所と言い、中々肝が座っているようだ。

 

「そ、そうですよね…!大人しく待っていれば、助けが来るに決まってますよね…!あぁ、良かった。安心して涙が出てきました…」

 

涙目になりつつも安心したように微笑んだ三つ編み女子の言葉を筆頭に、次々に「安心した」「良かった」などと続く声。

次第に明るくなっていく雰囲気の中、俺の心には何故か不安が漂ったままだった。

…いや、冷静に考えれば岩崎の言う事が現実的ではあるんだが…。

一人でうんうん唸っていたら、いつの間にか話が進んでいたらしく、とりあえず一人ずつ自己紹介をしよう、という事になっていた。

 

「この山を探索するにも、保護を待つにしても。お互いの名前も知らなければ不憫でしかないしな。今は簡単な自己紹介をして、顔と名前と才能を一致させよう」

 

苦笑しながらそう言った岩崎に、俺はぼんやりとコイツは苦労人気質そうだな、と思いながら周りを見た。

岩崎の提案に否定を示す人間は居ないようで、誰が最初に自己紹介をするのか?と各々視線を動かしていた。

そんな中、岩崎は丁度対面上にいる俺を見ていた。…もしかして、俺が最初に自己紹介をしろって事なのか?

 

「あー、えっと…」

 

俺がたまらずそう声を出すと、数人分の視線が俺に集まった。

あまりの視線の数に少し気圧されながらちらりと顔見知りのアホを見れば、ソイツは視線に気がついたらしく満面の笑みを浮かべて頷いた。

…いや、期待していた反応はそういうのじゃないんだが。

呑気なアホ面を見たおかげで少しだけ緊張が解れた俺は、少し前の岩崎のようにすうっと息を吸った。

 

「…じゃあ、俺から。俺は向月直。苗字でも名前でも、なんでも好きに呼んでくれ。超高校級の記憶力として入学した。…よろしく」

 

無難で地味な自己紹介。

それだけなのに、どうしてこんなに精神的に疲れたんだろうか。



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序章 3/3

 

俺の簡単な自己紹介が終わると、丁度左斜め前の位置に立っていた爽やか系男子がぱんっと一拍手し、笑顔で口を開いた。

 

「じゃあ、向月くんから時計回りに自己紹介、ってことで進めていいっすかね?

ちなみにオレは超高校級の助っ人としてスカウトされた、禍埜羽卍里(カノウ バンリ)っす!正式に入学したらクラスメイトになるだろうし、これから長い間宜しくっす!」

 

爽やか系男子、もとい禍埜羽は、ネットで仕入れた情報によると「運動部の助っ人から文化部の手伝い、さらに教師陣の簡単な仕事を自ら進んで手助けし、なおかつ完璧にこなす」とのこと。

超高校級の助っ人という才能ではあるが、別名「超高校級の便利屋」とも呼ばれている…らしい。

 

【超高校級の助っ人 禍埜羽卍里】 

 

「次、アレク様っすよ。どうぞっす!」

 

そう言いながら禍埜羽は隣にいた正統派美少年に声を掛けた。どうやらこの二人は知り合いのようだ。

正統派美少年は禍埜羽をチラ見すると、ゆっくり口を開いた。

 

「……アレクサンドラ·アルフレッド·アリフォールJr.。長いと感じるのなら、アレクと呼んでも構わない。超高校級の帝王と呼ばれている」

 

正統派美少年…もといアレクは、とある国の若き帝王らしい。

様々な国の文化を知る、という名目で来日していたアレクを希望ヶ峰学園がスカウト、という流れだそうだ。

また、禍埜羽曰く二人は通っていた学校が同じだったらしい。この状況下で顔見知りがいるというのは心強いだろうな。

 

【超高校級の帝王 アレクサンドラ·アルフレッド·アリフォールJr.】 

 

「時計回りということは、次は私ね。九里田璃久(クリタ リク)よ。超高校級の数学者、らしいわ」

 

眼鏡美人、もとい九里田は若き天才数学者と呼ばれているらしく、今までどの天才秀才たちが解けなかった超難問も小学生が習う足し算のようにスラスラと解いていき、その頭脳から世間では今や彼女に解けない問題は無いとまで云われているらしい。

 

【超高校級の数学者 九里田璃久】

 

「……染井吉野(ソメイ ヨシノ)。……華道家。……よろしく」

 

着物男子、もとい染井は全国的に有名な華道家らしい。

彼の活けた華はまるで生きているかのように輝いて見えるらしく、世界各国の富豪、貴族、有名人から一般人まで、こぞって彼の活けた華を見るためだけに来日してくるまでの人気だそうだ。

 

【超高校級の華道家 染井吉野】 

 

「じゃあ、次!私たち!

私は鈴木歪見(スズキ ヒズミ)!歪夢の双子のお姉ちゃんでーす!」 

「鈴木歪夢。不本意ながら歪見の双子の妹」

「私たちは武器職人!私が遠距離専門でー、歪夢が近距離専門なの!よろしくね!」

 

鈴木と瓜二つの少女はやはり双子の姉だったらしく、男勝りな鈴木(妹)と比べ鈴木(姉)は年相応に明るい元気な子らしい。

彼女たち姉妹が製造した武器は警察から裏社会の人間まで、様々なところで役に立っているそうだ。ちなみに特許は取っているとのこと。

 

【超高校級の遠距離武器職人 鈴木歪見】

 

「…一応、僕ももう一度。岩崎孝輔だ。よろしく頼む」

 

一つ咳払いをして改めて自己紹介した岩崎は、小さい頃から親の都合で転校が多かったらしく、どんな荒れている学級でも学級委員長として一ヶ月以内にはクラス全員をまとめた実績の数々からスカウトされたらしい。

ちなみに今まで転校した回数は二桁を超えるとのこと。

 

「………野宮憂希(ノノミヤ ウサギ)

 

寝間着女子、もとい野宮は私立の小·中·高の試験を主席で入学したにも関わらず、一日も、入学式にさえも登校しなかったことから、その根性が逆に凄いと関心した希望ヶ峰学園卒業生の一人が超高校級のニートとしてスカウトしたらしい。いや超高校級のニートってなんだ?

 

【超高校級のニート 野宮憂希】

 

「拙者は牙山柁紀(キバヤマ カジキ)。未熟ながら超高校級の空手家として入学する事と相成った。以後、よろしく頼むでござる!」

 

道着男子、もとい牙山は実家が有名な空手道場らしく、幼い頃から空手家の父親からの英才教育を受け育ったらしい。

当時齢五歳にして、身長差が倍もある高校生相手に数秒で勝利した、という伝説はネットにも流れていた。

 

【超高校級の空手家 牙山柁紀】

 

「…あたしね。輝流美衣(カガヤ ルビイ)よ。モデルやってるわ」

 

ツインテ美女子、もとい輝は、当時小学一年生ながら女子中高生向けファッション雑誌の表紙を飾ったという経歴の持ち主で、今やどの雑誌でも輝の姿を見ない日は無いと言われるほどの超人気モデルだ。

あまりファッション雑誌類を読まない俺でも、顔くらいは見たことがあるくらいだ。

 

【超高校級のモデル 輝流美衣】

 

「僕は漆乃怪盗(ウルシノ アヤト)。よろしくね」

 

モノクル男子、もとい漆乃は世界各国のあらゆる美術品や宝石、果てには家宝を盗んでは、それを本来持つべき主へと返却している、いわゆる義賊というやつらしい。

世間では「怪盗義賊」と呼ばれているが…希望ヶ峰学園側は漆乃の素性まで調べあげてるんだな。

 

【超高校級の怪盗 漆乃怪盗】

 

「アタシは塀獨駿(ヘイドク シュン)。ハッカーよ。これからよろしくね」

 

ヘッドホン女子、もとい塀獨は、叔父が政府お抱えのホワイトハッカーというやつらしく、その叔父に憧れて真似をしているうちにハッカーとしての才能が開花したらしい。

今は叔父の手伝いとしてインターネット犯罪の撲滅を主な活動としているとのことだ。

 

【超高校級のハッカー 塀獨駿】

 

「次はオレだな!オレは黒紫峰涼太郎(クロシミネ リョウタロウ)。昔からバスケやってんだ。よろしくな!」

 

アホジャージ、もとい黒紫峰…もう涼でいいな、涼のことは嫌ほど知っている。

本人が言う通り幼い頃からバスケを楽しんでおり、ストバスでは経験豊富な大人相手に勝ち越すほどの実力で、大会ではコイツのいる学校はいつも大差で優勝していた。

ちなみに、コイツは俺の幼馴染だ。数年前に別れてから、全然変わっていないらしい。

 

【超高校級のバスケット選手 黒紫峰涼太郎】

 

「……常前梛(トコマエ ナギ)。わたしはただの一般人だから…才能なんて、ないよ」

 

こげ茶色髪の女子、もとい常前は…おそらく、「超高校級の幸運」だろう。

希望ヶ峰学園は毎年、一般の平均的な学生の中からクジで一人を選び、超高校級の幸運として入学させる伝統がある。

常前は、それこそ幸運にもその枠に選ばれた人物のようだ。

 

【超高校級の幸運 常前梛】

 

「最後は…私ですね。はじめまして、機織雀(ハタオリ スズメ)と言います。裁縫師として日々腕を磨いています。よろしくお願いしますね!」

 

三つ編み女子、もとい機織は腕の達つ裁縫師らしく、主に海外で日本の着物をメインとした商売活動をしているらしい。

彼女の裁縫した着物や反物は繊細で丁寧な仕上がりになるらしく、固定ファンが付くほどの人気だそうだ。

 

【超高校級の裁縫師 機織雀】

 

以上、計十六名。

この十六人で、この絶望山での保護を待つ集団生活を行うことになる。

…コロシアイとかモノクマとか、余計なものは付いているものの、そんな物騒なものから目を背けば、至って普通の林間学校になるだろう。

 

 

コロシアイなんて非現実的なこと、現実では絶対に起きようが無いのだから。

 

 

序章 END



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コロシアイ参加者名簿

※五十音順

※後日追記予定




アレクサンドラ·アルフレッド·アリフォールJr.

∟才能:超高校級の帝王

 一人称/二人称:私/お前、お前達

 身長/体重:185cm/69kg

 好きなもの:紅茶、勉強

 嫌いなもの:怠惰

 備考:とある国の若き帝王。現在は国を離れ後学のために日本に留学中。

 

 

岩崎孝輔 (イワサキ コウスケ)

∟才能:超高校級の学級委員

 一人称/二人称:僕/君、君達

 身長/体重:179cm/68Kg

 好きなもの:塩豆大福、勉強

 嫌いなもの:オカルト系統

 備考:過去通算27回の転校を経験しているが、それ以外は特に何も無い至って普通の高校生。

 

 

漆乃怪盗 (ウルシノ アヤト)

∟才能:超高校級の怪盗

 一人称/二人称:僕/君、君たち

 身長/体重:175cm/67Kg

 好きなもの:うどん、善良な人

 嫌いなもの:邪悪な人

 備考:日中は普通の高校生として過ごしているが夜になると怪盗活動に勤しむ。

 

 

禍埜羽卍里 (カノウ バンリ)

∟才能:超高校級の助っ人

 一人称/二人称:オレ/アンタ、アンタら

 身長/体重:188cm/72Kg

 好きなもの:炭酸飲料、労働

 嫌いなもの:怪我

 備考:現在はアレクの従者的な立ち位置。顔や腕にある模様は基本ペイント。たまにタトゥーシール。

 

 

輝流美衣 (カガヤ ルビイ)

∟才能:超高校級のモデル

 一人称/二人称:あたし/あんた、あんたら

 身長/体重:167cm/52Kg

 好きなもの:飴、オカルト系統の本

 嫌いなもの:軽そうな人間

 備考:現役女子高生モデル。同世代の男女からの人気は高いが、何故かテレビ出演はしていない。

 

 

牙山柁紀 (キバヤマ カジキ)

∟才能:超高校級の空手家

 一人称/二人称:拙者/貴殿、貴殿等

 身長/体重:192cm/80Kg

 好きなもの:果物、鍛錬

 嫌いなもの:機械操作

 備考:当時齢五歳にして身長差が倍もある高校生相手に数秒で勝利したことのある、霊長類最強に近い鉄人。

 

 

九里田璃久 (クリタ リク)

∟才能:超高校級の数学者

 一人称/二人称:私/貴方、貴方たち

 身長/体重:168cm/54Kg

 好きなもの:栄養補助食品、数学

 嫌いなもの:国語

 備考:世間では彼女に解けない数学の問題は無いとまで云われているらしい。が、国語は苦手。

 

 

黒紫峰涼太郎 (クロシミネ リョウタロウ)

∟才能:超高校級のバスケット選手

 一人称/二人称:オレ/オマエ、オマエら

 身長/体重:181cm/71Kg

 好きなもの:アイスキャンデー、バスケ

 嫌いなもの:勉強

 備考:バスケでは負け無しのバスケバカ。しかし頭が足りていないためたまに人の名前を間違えることがある。

 

 

向月直 (コウツキ ナオ)

∟才能:超高校級の記憶力

 一人称/二人称:俺/お前、お前ら

 身長/体重:162cm/57Kg

 好きなもの:マーブルクッキー、漫画

 嫌いなもの:二度手間

 備考:絶対記憶能力を持つだけの至って普通の高校生。だがたまに口が悪くなる。

 

 

鈴木歪見 (スズキ ヒズミ)

∟才能:超高校級の遠距離武器職人

 一人称/二人称:私/君、君たち

 身長/体重:153cm/48Kg

 好きなもの:辛いもの、掃除

 嫌いなもの:贋作

 備考:ロリショート。遠距離武器の製作を得意とするが、大体のものは自分では扱いきれない。

 

 

鈴木歪夢 (スズキ ヒズム)

∟才能:超高校級の近距離武器職人

 一人称/二人称:俺/お前、お前ら

 身長/体重:153cm/48Kg

 好きなもの:甘いもの、料理

 嫌いなもの:贋作

 備考:ロリロング。近距離武器の製作を得意とし、完成基準は「自分が扱えるかどうか」。

 

 

染井吉野 (ソメイ ヨシノ)

∟才能:超高校級の華道家

 一人称/二人称:ボク/キミ、キミたち

 身長/体重:158cm/52Kg

 好きなもの:抹茶、植物

 嫌いなもの:森林伐採

 備考:全国的に有名な高校生華道家。その作品に似合わず、本人は無口無表情無感動の三拍子が揃っている。

 

常前梛 (トコマエ ナギ)

∟才能:超高校級の幸運

 一人称/二人称:わたし/あなた、あなたたち

 身長/体重:162cm/53Kg

 好きなもの:オムライス、フードの着いた服

 嫌いなもの:自分

 備考:一般の平均的な学生の中から抽選で選ばれた普通の、少し大人しめの女子高校生。

 

 

野宮憂希 (ノノミヤ ウサギ)

∟才能:超高校級のニート

 一人称/二人称:ボク/キミ、キミ達

 身長/体重:158cm/50Kg

 好きなもの:スナック菓子、商業ものの小説

 嫌いなもの:趣味をバカにする人種

 備考:言うまでもなく紛うことなきニート。その割には口数も多くコミュ力も高い。

 

 

機織雀 (ハタオリ スズメ)

∟才能:超高校級の裁縫師

 一人称/二人称:私/貴方、貴方達

 身長/体重:165cm/53Kg

 好きなもの:駄菓子、裁縫

 嫌いなもの:爬虫類

 備考:主に外国での人気を集めているおっとりとした女子高生。ただしダークマター製造機。

 

 

塀獨駿 (ヘイドク シュン)

∟才能:超高校級のハッカー

 一人称/二人称:アタシ/アンタ達

 身長/体重:174cm/56Kg

 好きなもの:珈琲、家族

 嫌いなもの:犯罪者

 備考:ハッカーとは言うものの実態は警察内で活動するホワイトハッカー。使命感は強い。

 

 

 



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chapter.1
秋天に望む (非)日常編①


 

全員の自己紹介が終わると、岩崎が「さて、」と一拍置いてから話し始めた。

 

「とりあえず、モノクマの言っていたルールとやらを確認しないか?後から知らなかった、と言い訳しても通用しない場合があるからな」

 

その提案を聞き、俺たちは顔を見合わせながら電子生徒手帳を起動させた。

そこにはモノクマの言っていたルールの他に、この山……絶望山の地図やこの場にいる十六人の情報などが載っている項目があった。

様々な項目の中にある"林間学校のルール"という項目をタッチすると、画面にモノクマの言っていたルールが映し出された。

 

・生徒達はこの絶望山内だけで共同生活を行いましょう。共同生活の期限はありません。

・夜十時から朝七時までを夜時間とします。

・この山について調べるのは自由です。特に制限は課せられません。

・学園長ことモノクマへの暴力、監視カメラの破壊を禁じます。

・仲間の誰かを殺したクロは"下山"となりますが、自分がクロだとは他の生徒に知られてはいけません。

注意 なお、ルールは学園長の都合により順次増えていく場合があります。

 

「…随分と勝手だな」

「勝手って…えっと、どこがでしょう…?」

 

アレクの呟きに機織が不思議そうに首を傾げて聞き返すと、アレクはチラリと機織を見てとんとん、と電子生徒手帳を軽く突いた。

 

「注意の部分をよく読んでみるといい。あのヌイグルミ…モノクマが不都合だと判断した事は禁止させる、と言っているようなものだろう」

 

そう言い終えると、アレクは冷ややかな目を電子生徒手帳に落とし、すぐに電源を落とし胸ポケットにしまった。

確かにアレクの言っていた注意も気にかかるが、でも…このルール、なんかおかしいって言うか…。

 

「…どういうことなんだ?これ…」

「うん?何が?」

 

いつの間にか隣に来ていた涼にそう聞かれ、俺は首を傾げながらじっと電子生徒手帳を見た。

 

「…"自分がクロだと知られてはいけない"って、どういうことかと思ってな」

「ま、まさか直オマエ……!」

「バカ言うな、そんなわけないだろ。単純に気になっただけだって、裏がありそうで…」

 

涼の言葉を聞いて全員が疑惑の目で俺を見始めた為、涼を睨んでそう訂正すれば、涼はカラカラと笑いながら俺の背中をバシバシと叩いた。

 

「わかってるって!直が殺人なんてするわけねーもんなー!」

「お前さぁ、相変わらず能天気だよな…今の状況分かってんのか?」

「わかってるわかってる!でもさ、その校則の事って単純に考えて"完全犯罪を成立させろ"って事じゃねーの?」

「…ま、それもそうだよな…そうとしか考えられないし…」

「……完全犯罪…果たしてそれで正解なのかな?」

 

俺たちの会話を聞いていたらしい野宮は誰に言うでもなくそう呟くと、俺と涼を見てフッと口元に笑みを浮かべ、先程のアレクと同じように電子生徒手帳の電源を落としてスウェットのポケットに入れた。

 

「な、何だ?今の意味深な笑顔…」

 

若干顔を引き攣らせながら小声で呟いた涼をスルーしつつ、俺は再びルールを最初から読んだ。

俺たち全員をこの山に閉じ込めてまでさせることが、"この山で共同生活をさせて誰にも知られないように人を殺させる"だけ……

だけ、って言い方もどうかと思うが……本当にそれだけか……?

 

「と、まぁ…自己紹介もルールの確認も終わったことだし、今から各自解散してこの山の探索をするとしよう。モノクマはこの山で一生を過ごせと言っていた。ということは、それなりの宿泊施設も整っているはずだ。

さっき向月くんと鈴木さんがやって来た方の道の奥にはまだ何かしらの施設があるだろうしな。…どうだろう、何か意見がある人は?」

 

つらつらと噛まずに言いきった岩崎の言葉に、俺達は肯定の意味で無言で頷き、その場で各々どこかへの歩き出した。気がつけばこの場に残ったのは俺一人だけだった。

 

「……とりあえずMAPを見てみるか」

 

そう呟き、電子生徒手帳のMAPが乗っているページを開いた。

MAPは全部で六ページに別れており、一ページ目は今いるこの場所。中央エリアと記されていて、目の前にある噴水と噴水を囲むように設置されている十六個の小さなコテージ、そしてそれ以外には森しかなかった。

次のページには第一エリアと記されており、体育館、食堂、図書館、病院の四つの施設があるらしい。

とりあえず、まずはこのコテージを調べてみるか。一番近いし、誰かいるかもしれないし。

…別に誰かいないかなとか思ってないからな、置いてかれたことを気にしてるわけじゃないからな。



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