万能職を目指します。(異論は認めない) (神楽 光)
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プロローグ

 他作品を読んで書きたくなった。
 一応実験でもあります。


「ふぅ.....」

 

 思わず、ため息が漏れる。

 俺がいるのは滅びた王都。植物が所々侵食していて、崩れているところもある。

 その地表付近で、俺は休憩していた。

 俺の周りにはクレーターが幾つかある。もちろん、俺が作ったものだ。

 

《現在の順位を発表するよ! 現在は────》

 

 ドラゴン? と首を傾げるような姿をしたキャラクターが目の前に現れ、イベントの中間結果をアナウンスしてくる。

 

 一位はペイン。二位はドレッド。三位は────、

 

 ────メイプル。

 

「うわぁ...」

 

 思わず引き気味の言葉が漏れる。まさかあの天然少女がここまで成長するのか。そう思わずにはいられない。

 

「今の俺の順位は……五位か」

 

 四位にミィ。こちらも知っている少女ではあるが、有り得ることなので、驚きは少ない。

 まぁ、十位以内にいたら別に拘ることでもないので、これ以上は順位を変えないよう努力するに勤めるが。

 

「はぁ……どうしてこうなったんだろう……」

 

 マップを見てみると、大勢のプレイヤーが此方に──いや、()に向かってきている。

 スクっと立ち上がり、階段へと移動する。ウインドウを開いて、弓を取りだしながら階段を上り、屋上へと出る。

 周囲を見渡し、メイプル────本条さんから離れていて、見えないところにいることを確認する。

 

「よし……」

 

 またまたウインドウから取り出した特殊な矢を白銀の弓につがえる。

 弦を引き絞り、弓からギリギリと音が鳴る。

 

「ふっ……!」

 

 バヒュンっと音がして、矢が飛んでいく。

 

「【矢雨(アローレイン)】」

 

 途端、矢が幾つもに分かれていき、まさしく雨のようになり、集まっていたプレイヤーを次々と撃ち抜いていく。

 

「ギャアアアアア!!!」

 

「うわあああああ!」

 

「撤退! 撤退ー!」

 

 段々とプレイヤーの数が減っていく。ある程度減ったところで、リーダー的なプレイヤーが撤退の指示を出した。

 

「あぁー……ずっとこれ続くのかな……」

 

 弓をインベントリに戻して、天を見上げて嘆く。

 

「ほんと、どうしてこうなったんだろう……」

 

 これは、何故か万能職が最強だと思い込んだ少年が、様々な武器を極めながらクエストに奔走し。

 奇想天外な方法で、運営が悪ふざけで実装したゲームバランスを崩壊させるスキルを次々と習得し、メイプルの防御力を貫通して何故かなつかれる。そんなお話。

 P.S.女難の相も出ているので他の女性プレイヤーにも振り回されることになる。あと、掲示板で何故か信仰されたり慕われたり色々される。



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二! キャラを作ろう!そして始めよう!

 ストックを作ってそれを投稿するって言う実験。


 その日、とある少年は心待ちにしていた。

 NewWorldOnline────通称『NWO』と呼ばれるゲームが今日、サービスを開始するからだ。

 もちろん少年はハードもソフトもどちらも既に用意しており、現実世界(便宜上そう呼ぶことにする)での設定も終わっている。

 

「(くぅ~! 楽しみ~!)」

 

 誰もがそうなるだろう。新しいゲームを買えば、それをプレイしてみたくなるのは当然のことと言える。そして、少年はこのゲームのβテストにも参加していた。つまりは、既に一度体験している為、何よりも心待にしていたのだ。

 

「(よし! もうそろそろ始まる)」

 

 ハードを体に取り付け、楽な態勢になる。

 

「(三、二、一────開始!)」

 

 そして少年は、仮想世界へと旅だった。

 

 >>>>

 

 電脳世界へと入ったが、即町の中と言えるほどキャラの設定をしていない。というか、キャラの設定は本来電脳世界の中でする。

 

「名前……は前ので良いか」

 

 カタカタとキーボードで名前を打ち、決定を押す。

 空中に浮かぶパネルが映し出す内容を変え、初期に装備する武器が映し出された。

 少年は既に何を選択するかあらかじめ決めていたのか、迷うこともせずに片手剣を選択した。

 

「やっぱり最初だしね…」

 

 またまた映し出される内容が変わり、今度はステータスポイントの振り分けだった。

 

「まぁ、これは当然……均等振りだよね!」

 

 と言いながら少年はステータスを均等に割り振り、余ったものは上から順に振っていった。

 普通のプレイヤーならばこんなことはめったにしない。極振りよりも更にする人間は少ないだろう。なぜなら、圧倒的に器用貧乏になる確率が高いからだ。器用貧乏よりも特化の方が需要があるのは考えればすぐにわかるし、そもそも武器選択の時点でどのような職になるか決めているのである。ならばそれに沿ったステータスにするのが道理だ。

 ならば何故この少年は均等振りしてわざわざ器用貧乏になりに行くのか。彼は元々、ゲームが好きである。その都度、均等振りしにしていた。故に彼は多くのプレイヤーから頼られまっくった。何処にいても活動できる存在。ずっとそう見られてきたのだ。まぁ、極論。この少年は勘違いしているのだ。何処にいても頼られる存在=強い。この図式がゲームを始めた頃から作られたわけである。

 

「よし、終わり! 今度こそ! 『新世界』へ!」

 

 少年の体が光に包まれ、次に目を開けたとき。活気溢れる城下町の広場に、少年は立っていた。

 

 >>>>

 

「まずは……ステータス!」

 

 ヴォンという音と共に少年の目の前に半透明の青いパネルが浮かび上がる。

 

 夜雪(よるゆき)

 Lv1

 HP 40/40

 MP 12/12

 

【STR 20〈+18〉】

【VIT 20】

【AGI 20】

【DEX 20】

【INT 20】

 

 装備

 頭 【空欄】

 体 【空欄】

 右手 【初心者の片手剣】

 左手 【空欄】

 足 【空欄】

 靴 【空欄】

 装飾品 【空欄】

【空欄】

【空欄】

 

 スキル

 なし

 

「よしよし」

 

 少年────夜雪は頷く。βテストの時同様で変わっているところはなかった。

 

「それじゃあ早速、この体に慣れる為にもモンスターとの戦闘と行きますか!」

 

 夜雪はスタスタと町の外へと歩き出した。

 

 >>>>

 

 町の外は存外、人が少なかった。サービス開始から時間が経っていないので当然だ。

 

「あんまり誰かに見られるのみ嫌だし…もう少し歩くかな」

 

 夜雪はそのままてくてくと歩いて、人がいなさそう、というか来なさそうな森までやってきた。因みにこの森、後にとある少女が来ることになる森でもある。

 

「よし。此処でいいかな……さぁ行くぞ!」

 

 と、突然尖った角を持った白兎が草むらから飛び出してきた。白兎はかなりのスピードで体当たりをしてくる。現実世界と同じ速度の夜雪が兎の突進を躱せるかというと答えは否だ。しかし、此処はゲームの世界。

 

「うわ! いきなり!」

 

 夜雪は咄嗟に横に避けたため、ギリギリのところでダメージは受けなかった。

 

「あ、危っ!」

 

 ホッと胸を撫で下ろすが、兎はそんなものを待ってはくれない。またまた突進をしてきて、夜雪もまたまたギリギリのところで避けた。

 

「はっ!」

 

「ほっ!」

 

 一度体験しているはずなのに、その様子は初心者にしか見えない。突進とそれをギリギリ避けるということが何度か続いた。

 

「何か楽しくなってきた!」

 

 と、突進を避けるのが二桁に突入したところで、夜雪の頭の中に音声が流れた。

 

『スキル【回避】を取得しました』

 

「お? ……ガフッ!」

 

 夜雪は音声に気を取られ、遂に兎の突進を受けてしまった。それは初心者としか言えなかった。これでβテストを受けましたと言っても、『絶対嘘だ!』としか言われないことが目に見えている。

 

「いつつ……。スキルは後回しにして、まずは倒さなきゃだね!」

 

 誰に言っていいるのか、叫びながら兎の首を狙おうとする。

 

「(確か兎のクリティカルは頚だったはず…)」

 

 その考えはまさしくβテストを受けた者だ。何故それを口に出さないのか甚だ疑問である。

 夜雪は兎に駆け寄り、頚を狙って剣を振り下ろす。もちろん兎も黙って見ているわけがない。前にジャンプして剣から逃れる。しかし、夜雪はそれを予想していた。

 夜雪も兎同様に後ろにジャンプして、兎の進路を阻む。すぐさま剣を振り、兎の頚を正確に捉えた。

 クリティカルが入ったのか、兎の頭上に現れたHPバーが真っ赤に染まる。

 

「よし! 後一回!」

 

 兎はHPが少ないからか、その動きは少しだけ鈍くなっていた。それから数分もせずに兎を討ち取った。

 

「きゅ…」

 

「勝利!」

 

 剣を掲げて勝鬨を上げる。……本当に初心者じゃないのだろうか。

 白兎はパリンという音と共に光輝く粒子となって消えていった。ドロップアイテムを一つも落とさず、跡形も無く無くなってしまった。

 

『レベルが2に上がりました』

 

「お。レベルも上がった」

 

 そう言いながら夜雪はスキルの確認を始めた。

 

スキル【回避】

 敵性体が付近に存在する場合、このスキルの所有者のAGIを二倍にする。

取得条件

 一時間の間、敵からの攻撃を避け続け、ダメージを受けないこと。かつ魔法、武器によるダメージを与えないこと。

 

「へぇ……中々。ってことは……40かぁ~」

 

 と言いながら、今度はレベルアップの確認をする。

 

「5か……βの時と変わらないね」

 

 夜雪は今回も最初と同様に均等に割り振った。

 

「とりあえず、多くのスキル取得とレベルアップが目標かな.」

 

 夜雪はまたモンスターを見つけるため森の奥へと進んでいった。




 一週間ごとに更新していく予定です


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三!レベルアップをしよう!そしてスキルを取得しよう!

 めっちゃ台本形式。
 あと、第三者視点を肝にしてます。


「おおお…キモ…」

 

 現在、夜雪は大ムカデと対峙している。流石にこれを気持ち悪いと思わない人間はいないのでは無いだろうか。

 夜雪は腰から引き抜いた片手剣でザクザクとその体を刺していく。このムカデは毒を持っていて噛み付いた相手にその毒を流し込むのだが、夜雪は回避に専念しているので、毒の入れようがない。

 数十回刺してやっと倒すことが出来た。

 

「レベルは……上がらないか……」

 

 夜雪はこの時点で引き返すか迷っていた。

 しかし、奥へ奥へと進むうちにこの辺りで最も強力な魔物がいる所に迷い込んできてしまっていたのだ。

 そして、その魔物は不幸なことにまさに今、夜雪の前に現れたのだ。

 煩い羽音を立てて飛んでいる大きな蜂。

 それが、夜雪に向かってくる。

 ……余談になるが、この数週間後に同じ目にとある少女が会う。何かシンパシーでもあるのだろうか。

 

「うわ……最悪だ……」

 

 βテストの時を思い出したのか、その表情は暗い。

 夜雪はその有り得ないくらい大きいお尻の針に恐怖を覚えて片手剣を構える。

 しかし、一瞬で背後を取られて、首筋を刺され……

 

 

 無かった。その持っているスキルとステータス、プレイヤースキルと呼ばれるものまで駆使して、全力で避けていた。

 巨大蜂は何度も首筋を刺そうとする。

 その度に避ける。避けつづける。

 

「はいっ! やっ! ほっ!」

 

 総合的なAGIが巨大蜂よりも高かったようで、容易にとはいかずとも、避けることができていた。

 巨大蜂はそれからも何度か刺そうと試みてはいたが無意味だと悟ったのか、毒液を噴射してきた。

 

「んっ……!?」

 

 夜雪はこれまたギリギリで避けた。しかし効果範囲が広く、このままだといずれ攻撃を受けてしまいかねない。が、

 

「おっし! やるか!」

 

 何故かやる気を出した。アホである。

 普通なら戦略的撤退……つまり逃げるところだ。とある少女もこの場面は流石に逃げだそうとした。……まぁ結果的に【毒耐性】を取得して事なきを得たのだが。

 そのまま数時間かけて巨大蜂の攻撃を全て避けつづけた。

 

「……っ。流石に、しんどくなってきた」

 

 当たり前である。人間、体力的に問題なくても同じことを延々とするのは精神的な疲労がハンパない。というかまず無理だ。

 

『スキル【超回避】を取得しました』

 

 途端、スピードが上昇した。

 

「お? 速くなった。あれかな、【回避】の上位版ってところなのかな」

 

 そう言いながら、巨大蜂に攻撃を仕掛け、徐々にそのHPを削っていく。

 数分かけてようやっと巨大蜂を討伐した。

 巨大蜂はピクピクと震えた後、光となって消えていく。そしてその場にぽとっと銀色の指輪がドロップした。

 

「ふっ…勝利!」

 

『スキル【大物喰らい(ジャイアントキリング)】を取得しました。レベルが9に上がりました』

 

 夜雪は指輪を拾い上げると、今回手に入れたスキルと指輪を確認する。

 

 フォレストクインビーの指輪【レア】

 

【VIT +6】

 

 自動回復:10分で最大HPの一割回復。

 

「おおおお! これは凄い。HP自動回復! 運が良い!」

 

 魔法を一つも取得していない夜雪にとってHP回復は貴重である。さらについでに付いている【VIT +6】が地味に大きい。これで防御もすこしは安心できる。

 それを最初から着けていたグローブを外して付ける。グローブは装備品では無い唯のオシャレアイテムなので指輪の上から着け直す。

 

「後はスキルっと…」

 

【超回避】

 敵性体が付近にいる場合、AGIを四倍にする。薬や装備品は効果範囲外。ステータスのみの強化。

取得条件

 自身よりも強いモンスターの範囲攻撃を三十回回避する。攻撃を受ければ再カウント。

 

「四倍……やべぇ…」

 

 実際、本当にやばい代物である。未だサービス開始から数時間ほどしか経っていない。それなのに、スキルで自身の速度を四倍に強化するなど、強さのバランスが崩壊する。現在のプレイヤーでは夜雪ほど速い者はまず居ないだろう。

 

「じゃあ次!」

 

大物喰らい(ジャイアントキリング)

 HP、MP以外のステータスのうち四つ以上が戦闘相手よりも低い値の時にHP、MP以外のステータスが二倍になる。

取得条件

 HP、MP以外のステータスのうち、四つ以上が戦闘相手であるモンスターの半分以下のプレイヤーが、単独で対象のモンスターを討伐すること。

 

「基本的にステータスは低いから……最初の方だけかな? 役に立つのは。……AGIだけ飛び抜けてるなぁ…十六倍って」

 

 現在の夜雪のAGIの実数値は384だ。あの少女のVITには遠く及ばないが、それでも今で考えると驚異的な数字だ。

 

「……レベル10になってからログアウトするかな」

 

 夜雪は帰り際にモンスターを倒し続け、レベルアップを果たしてから現実世界へと帰った。

 

 >>>>

 

「よぅし! 今日も張り切っていくぞ!」

 

 あの少女と同じような言葉でログインする。……似たもの同士だからこそ言葉も似るのだろうか。

 

「今日も森に行こっと。新しいスキルも欲しいし」

 

 夜雪はレベル上げに熱を入れるようなタイプだが、新しいスキルが手に入った時のワクワクする感覚にも惹かれるものがあった。真っ白なキャンパスに様々な色を塗っていくような、一種の楽しみがあるのだ。

 

「なるべく色んなスキルを身につけなきゃ」

 

 夜雪はスタスタと町の外へ向かって歩き出した。

 

 >>>>

 

「どんなことを試そうかな………」

 

 昨日と同じ森に夜雪は来ていた。

 気配察知は昨日の内に既に取得していた。効率的にレベルアップするには必須のスキルだからだ。狩りの最中に意識して身につけた。

 

「剣術スキルを鍛えながら……気配希釈でもやってみるかな!」

 

 そう言いながら、息を殺して、できるだけ自身の存在を消すように物音立てずに動く。そうして三時間。

 

『スキル【存在希釈】を取得しました』

 

 全く別のスキルを取得した。

 

「あれ? 何か違うやつじゃん……」

 

 そう。実際に夜雪は間違ったことをしていた。そもそも【気配希釈】の取得方法は掲示板に載っている。気配希釈はクエストをクリアしなければ取得できないのだ。……何処かの少女と同じような間違いをしていたのである。

 

【存在希釈】

 使用すると、相手または自分の存在を薄くさせる。効果持続時間は三十分。消費MPなし。

【存在希釈】時には【気配希釈】等の敵に気付かれにくくなるスキルは使えない。

取得条件

 息を殺してほとんどの音を消し去って、モンスターを十体以上討伐すること。その間、誰にも見られずに討伐すること。誰かに見られたら再カウント。

 

「……うん。まぁ、似たようなものだし。いっか」

 

 実際は存在希釈の方が強力なのだが……それを知ることになるのは大分後の話だ。

 

『スキル【剣術 Ⅱ】が【剣術 Ⅲ】になりました。レベルが14になりました』

 

 続いてスキルと自分のレベルアップだった。

 

「おー、一気に……ステータスの振り分けでもしよ」

 

 夜雪

 Lv14

 HP 40/40

 MP 12/12

 

【STR 34〈+18〉】

【VIT 34】

【AGI 34】

【DEX 34】

【INT 34】

 

 装備

頭 【空欄】

体 【空欄】

右手 【初心者の片手剣】

左手 【空欄】

足 【空欄】

靴 【空欄】

 

装飾品 【フォレストクインビーの指輪】

【空欄】

【空欄】

 

 スキル

【回避】【大物喰らい(ジャイアントキリング)】【超回避】【剣術 Ⅲ】【存在希釈】【気配察知 Ⅰ】

 

 夜雪は最後にステータスを確認すると満足気に頷いて、フォレストクインビーを倒し【毒耐性】を得て、レベル上げをしてからログアウトした。



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四!ダンジョン攻略とスキル取得!

 圧倒的に長い。六千文字近く行ってます。


「あ~、楽しい!」

 

 これで三日連続ログインである。完全にどっぷりとはまってしまった。最初から予期していたようだが。

 

「あっ!そういえば初期装備のままだった……」

 

 装飾の一切施されていない片手剣である。周りはまだそこまでレベルは上ではないだろうが、そのほとんどが装飾のついたカッコイイ装備に身を包んでいる。

 ……何故こんなにも彼女と重なっているのだろうか。

 

「むむ」

 

 ただ、彼女と違うところがある。それは────、

 

「よし! ダンジョンに行こう!」

 

 これである。何故装備が初期のままでダンジョンへ行こうとしているのか。装備を変えようと今まで思っていたのではなかったのか。率直に言ってアホだ。……これで初心者ではないのが甚だ疑問である。いや、初心者でもこんなことはしない。

 

「えーと、確か…」

 

 うんうん唸りながらマップを見る。それを見ていた幾人かのプレイヤーが何処かに何かを書き込んでいた。

 

「あっ! そうだ! どうせなら…」

 

 と、夜雪は武器屋へと駆け込み、初心者用の武器をいくつか見繕って購入した。何故そんなことをしたのか疑問に思う人が多く居るだろう。今一度思い出してほしい。彼は何を目指しているのか────そう、万能職(オールラウンダー)だ。そして彼はβテストを受けている。つまり、ダンジョンを攻略すれば何が出るのかを知っている。それ故にどうせなら、なのだ。これはおいおいわかることなので割愛する。

 装備を買った夜雪はその初期装備とも呼べるものをある程度まで使えるようにと考え、また森へと駆け出した。

 

 それから一日後。

 四日目のログイン。

 

「よぅし! 今度こそ行くぞ! ……その前にポーション買わなきゃ」

 

 HPは60以上はあるが、お金が余り無いので最下級のポーションを買う。一応、回復魔法を覚えているので、緊急用だ。

 準備を整えてダンジョンへと向かう。目指すは記憶にある【光芒の洞窟】だ。

 

 いざダンジョンへと意気込んで町から飛び出した。

 

 >>>>

 

 森の奥へ奥へとスタスタ歩いていく。ここが街の外で夜雪が片手剣を持っていなければ遠足に行く中学生にしか見えない。

 道中で何度かモンスターに襲われたがノーダメージで倒していく。

 この辺りのモンスターは森のモンスターよりも頭がいいようで連携や障害物等を使って攻撃をしてきた。……驚異のAGIですぐに潰されているが。

 目撃者が誰もいなかったため夜雪の異常な敏捷性が露見することは無かった。

 夜雪がそうして歩いていくと次第に周りの木々が少なくなり風景が寂れていくのに気が付いた。

 地面にはぼこぼことした土が多くなってきた。

 そうして歩くことさらに十分。

 岩盤にぽっかりと口を開けているのが見えた。

 

「あった!」

 

 夜雪が中へと入っていく。中は思っていたよりも高い天井で飛行系のモンスターでも充分に飛び回れる高さだ。

 奥へと進んでいくと神々しいスライムや蜥蜴が壁や地面を這って突撃してくる。

 

「はぁっ! やっ!」

 

 スライムに刃を突き立て、その半透明の体の中を漂うように動き回る核を捉える。蜥蜴の方は一刀の下に切り捨てる。

 

 もう何度目だろうか、核を切り裂き、蜥蜴を真っ二つにする。その時。

 

『スキル【一刀(いっとう)】を取得しました』

 

 夜雪は早速そのスキルの説明を読む。名前から大体の内容は掴めていたが念のためだ。

 

【一刀】

 剣系統の武器で攻撃する。威力はSTR依存。ノックバック効果小。即死効果小。

取得条件

 一回だけの攻撃でモンスターに十五回止めを刺すこと。

 

「おぉ…。でもあんまり使わなさそう。持っていて不便でもないけど」

 

 奥へ奥へと進む中、青色の見るからに毒っぽい霧を噴射する花があったり、何かを吐き出す魚が白い沼を泳いでいたりした。

 それを掻い潜ってついに辿り着いた最深部。

 目の前には夜雪の背丈の三倍はある大きな扉。

 両開きのその扉を力を込めて開ける。

 キィィィと何処かの屋敷のような音を発しながら扉が開ききり、中の部屋の全貌が明らかになる。

 その中は薄く白がかった気体で満たされていた。

 夜雪がその部屋に恐る恐る入ったと同時。後ろの扉が勢いよく閉まった。

 

「うわっ!」

 

 その短い悲鳴をかき消すように岩影から神聖な光を放つ竜が姿を現した。……一度は来ているはずなのだが。

 その竜の体は全体的に白く、普通の竜と比べると幾分か小さかった。プレイヤーからしたら大きさはどれも同じようなものだが。瞳はサファイアのような蒼。羽毛ではなくしっかりとした鱗で、しなりもあるようだった。

 

「よっし、行くぞ!」

 

 言って、竜に向かって駆け出す。その体に剣を突き立てるが、バキィィンという音と共に半ばから折れた。

 

「やっぱり……」

 

 すぐさまインベントリから代わりの剣を出すが、当然竜は待ってくれない。ギリギリで避けながら、再度攻撃をする準備を行う。

 

「じゃあ早速! 【一刀】!」

 

 あんまり使わなさそうと言っておきながら早速【一刀】を使う。

 多少のHPが減った。

 

「やっぱりね! スキル攻撃なら入ると思った!」

 

 その結果に喜びながら次々に攻撃を仕掛けていく。もちろん、白竜の攻撃を避けながらだ。

 

「うおっ! 危っ!」

 

 精神を擦り減らしながら避けている為、時々危険な場面があった。側から見れば精神を減らしているのかどうかわからないが。

 それでも着実にHPを削っていく。だが、そんな幸運も長くは続かない。

 

「あっ! また!」

 

 二本目の剣も壊れた。お金が無いため、剣はもう無い。本来なら打つ手が無く、死ぬしか無いのだが……。(ボス部屋は脱出不可能のため)

 

「今度は弓!」

 

 インベントリから初心者の弓を取りだし、装備した。

 

「【射撃 Ⅱ】!」

 

 弓に矢をつがえて弦を弾く。

 狙いが定まりにくいが、対象が大きいので問題はない。

 少しだけHPが削れる。ほんの少しだけ。

 

「【射撃 Ⅱ】! 【射撃 Ⅱ】! 【射撃 Ⅱ】!」

 

 矢が続く限り撃ち放ち続ける。もちろん、白竜の攻撃を全力で回避しながら。

 流石に鬱陶しかったのか、白竜は口を開き、その口に光を集め出した。

 

「ハァッ! 【石突き】!」

 

 それを見逃さず、夜雪は白竜の頭の下に走りより、武器を槍に変更。逆手に持って白竜の顎目掛けて目一杯ジャンプした、

 

 ガッッ!!! 

 

 見事に白竜の顎に当たりその口を閉じさせることに成功する。そして白竜が集めた光は、白竜の口内で暴発した。これによって相当のHPを削ることに成功。

 白竜のHPは俗に言うイエローゾーンに突入した。

 夜雪はすぐさま離れて弓に持ちかえる。そしてまた遠距離攻撃を再開した。

 

「【射撃 Ⅱ】!」

 

 白竜のHPは徐々に削られるが、そんなものは関係ないとばかりに体全体を低くする。これは飛び立つ姿勢だ。

 白竜は夜雪の攻撃が届かないところまで飛んで、一方的に攻撃をしようと考えたのだ。が、しかし。ここはどこであるのか? ────そう洞窟である。

 竜がのっしのっしと歩く程度なら問題はないが、羽ばたく広さも、飛んでも大丈夫な高さもない(竜にとっては)。故に。

 

 ドガアアアアアン!!! 

 

 天井や壁に当たって更にHPを減らした。もう既にレッドゾーン────HPが赤色に染まっている。

 因みに、なぜ白竜がそんなことをしたのかとと言うと、大抵のボスモンスターはHPがある程度減ると行動パターンが変わる。これは暴走状態と言われることもあるが、つまりはイライラしているのだ。そのせいで行動パターンが変わり、視野が狭くなる。それ故に行動が制限される場所では、ボス自身が体力を削ってしまうという結果になるのだ。......実はこれ、夜雪は狙ってやっていた。βテストの時にこの攻略方法を見つけて、何度もボスモンスターを討伐していたのだ。末恐ろしい限りである。

 

「よぉし! ラストスパート!」

 

 夜雪は叫んで、新たな武器をインベントリから取り出した。それは刀だ。しかし、初心者用とは違い少しだけ装飾が施されている。柄の部分に赤色の宝珠が埋め込まれているのだ。

 ────魔法武器。武器自体に魔法が埋め込まれている武器だ。もちろん、モンスタードロップでもこれらの武器は出てくるが、今のところそこまで強い武器は出ていない。では何か? ハンドメイドである。つまり、プレイヤーが作った武器なのだ。

 込められている魔法は【炎爆】。炎属性攻撃中位の魔法だ。本来、ここまで強力な魔法が作れる筈がない。しかし、そこそこの腕の生産系プレイヤーととある魔物の素材があれば、造れたりするのである。

 

 そのモンスターの名は爆発テントウである。

 

 これのお陰で、夜雪は強い魔法武器を手にした。一回限りの武器であるが。

 

「ハアアアアアッ!!! 【炎爆】!」

 

 岩の出っ張り等を使って飛び上がり、白竜の頭上へと至る。そして白竜に刃を向けて、白竜に当たる寸前に魔法を発動した。

 カッ! と白竜の頭が爆ぜ、吹き飛ばした。周囲は爆風で荒れ狂い、地面は焦げていた。

 夜雪が持っていた刀は粉々に砕けたが、白竜のHPをしっかりと削り、討伐に成功した。

 そして白竜の後ろに光輝く魔法陣と大きな宝箱が現れた。

 

『【光芒の洞窟】をクリアしました』

 

『スキル【竜特攻(ドラゴンスレイヤー)】を取得しました。これにより、【毒耐性 中】が【毒無効】、【麻痺耐性 小】が【麻痺無効】に進化しました。【燃焼無効】を取得しました』

 

『レベルが20に上がりました』

 

 夜雪はまずはステータスポイント20をいつものように均等に振った。

 

 続けてスキルを確認する。夜雪もまさか【竜特攻(ドラゴンスレイヤー)】などというスキルがあるとは思わなかった。

 

竜特攻(ドラゴンスレイヤー)

 ドラゴン、竜種などのドラゴンに関わりのある敵性体からの攻撃、また竜系統の攻撃全てを1/3にする。逆にこのスキルを持つ者の攻撃を2倍にする。

取得条件

 上位のドラゴンを単独で正攻法、また一定時間内で討伐すること。

 

「おぉ.......中々強力だけどここら辺で竜ってダンジョンにしかいないんだよね」

 

 うんうん唸っていた夜雪だったが、宝箱の存在を思い出して思考を中断する。

 かなり大きい。横は三メートル、縦は一メートル、高さは一メートルほどの長方形だ。宝箱に夜雪はゴクリと唾を飲み込む。緊張と興奮で鼓動が高鳴る。

 ゆっくりと蓋を持ち上げて中身を確認する。

 

「おおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

 夜雪が興奮のあまり大声で叫ぶ。……かの少女と同じ反応である。

 中に入っていたのは、白を基調とした所々に鮮やかな青の装飾が施された片手剣。

 神秘的な輝きを放ち、勿忘草(わすれなぐさ)のレリーフが目立ち過ぎずそれでいてしっかりとした存在感を持つ様に縫われたいかにも先程の片手剣に合いそうなマント。

 そして、美しく輝くアクアマリンが埋められている鞘を持つ落ち着きのある純白の太刀。

 更に蒼い色をもち、柄と刃の間にサファイアが埋め込まれた夜雪の身長よりも少し長い槍。

 矢をつがえる場所に銀の装飾がなされた白銀の弓。

 最後は杖の上部に白い球体が浮かび、球体の周りに輪っかと菱形の装飾がある赤白い杖。

 

「もうっ……最っ高! 格好良い! くぅ~!」

 

 それらを手に取り一つずつ説明を見ていく。

 

【ユニークシリーズ】

 単独でかつボスを初回戦闘で撃破しダンジョンを攻略した者に贈られる攻略者だけの為の唯一無二の装備。

 一ダンジョンに一つきり。

 取得した者はこの装備を譲渡出来ない。

 

光明(こうみょう)ノ兆シ』

【STR +30】

【破壊成長】

 スキルスロット空欄

 

勿忘(わすれな)ノ外套』

【VIT +25】

【破壊成長】

 スキルスロット空欄

 

月守(つくかみ)

【AGI +15】

【STR +12】

【DEX +10】

【破壊成長】

 スキルスロット空欄

 

『蒼月ノ槍』

【DEX +13】

【STR +10】

【破壊成長】

 スキルスロット空欄

 

『白夜ノ弓』

【DEX +30】

【破壊成長】

 スキルスロット空欄

 

『暁ノ鎮魂杖』

【INT +25】

【破壊成長】

 スキルスロット空欄

 

 まさに夜雪専用装備。全部が全部それぞれを強化するという、他の人が使ってもその強力さを十分に発揮出来ない装備である。

 

「破壊成長はたしか……壊れても修復されて強化されるやつだったよね。……帰ってから確認しよ」

 

 夜雪は六つの装備を大事にインベントリに仕舞い込むと魔法陣の光に包まれてダンジョンからいつもの町へと転送された。

 

 >>>>

 

 夜雪は戻るなりそそくさとその場を退散して残ったお金で一日だけ、宿を一部屋借りた。

 このゲーム内でも睡眠をとることは出来るため宿という設備があるのだが、今回の夜雪の目的は泊まることなどではなかった。因みに、とある少女もこの宿に泊まる予定である。同じ部屋では無いが。

 

【破壊成長】

 この装備は壊れれば壊れるだけより強力になって元の形状に戻る。修復は瞬時に行われるため破損時の数値上の影響は無い。

 

 スキルスロット

 自分の持っているスキルを捨てて武器に付与することが出来る。こうして付与したスキルは二度と取り戻すことが出来ない。

 付与したスキルは一日に五回だけMP消費0で発動出来る。

 それ以降は通常通りMPを必要とする。

 スロットは15レベル毎に一つ解放される。

 

「フフフ……格好良くて! 強い! そして、お待ちかねの〜装備!」

 

 夜雪が全ての装備を身に付けて鏡でその姿を確認する。

 

「おおおおおおお! 格好良いよ僕! ……いや、俺!」

 

 それから一時間程その装備に慣れる意味も含めて鏡の前でポーズをとり続けた。……本当に初心者じゃないのだろうか。余談だが、夜雪のβテスト時のユニークシリーズとは全くの別物である。むしろこちらの方が強いまである。

 

「よし、いざ外出!」

 

 勝負服を着て外へ出る様なものなのでかなり緊張している夜雪だった。

 案の定、圧倒的存在感を放つその装備に注目している人が沢山いた。

 もう夜も遅くなってきているが、もう一度狩りに行ってみようと町の外へ足を向けた。




 コイツほんとにβテスターか?
 行動原理はあの少女とほぼ同じ。


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五!初交……流?

 前回はメチャクチャ文字数多かったですね。たまにこんなこともあるのでご了承願います。


 純白の装備に身を包んで、噴水の縁に腰掛けて夜雪は悩んでいた。中々レベルが上げられないのだ。

 現在の夜雪のレベルは20だ。夜雪はβテスターなため、特典としてレベルが上がりやすい。では、何故夜雪がレベルを上げられないのかというとSTRが足りないためレベルを上げられる程強力な敵がいる場所に気軽に行けない為である。

 

「うーん…」

 

 と夜雪が悩んでいると近づいて来る人影がいた。

 

「も、もしかして……夜雪?」

 

「え?」

 

 そこに立っていたのは廃人ゲーマーであり、とある少女を追い詰めることまでできるようになるペインだった。

 

「あれ? ペイン?」

 

「あぁ……やっぱり来ていたのか…」

 

 ペインは右手を頭に当てて嘆く。どうやらβテストの時に何かがあったらしい。

 

「む……それってどういう意味?」

 

 夜雪は唇を尖らせる。

 

「ああ、違う。そうじゃない」

 

 ペインは全力で首を振った。

 

「そっかぁ」

 

 夜雪は何でもないことの用にすぐに興味をうしなった。

 

「それで、どうしたの?」

 

「ん、あー何だ。何かに悩んでいる風だったからな」

 

 ペインは照れ臭そうに後頭部をかく。

 

「あ~! そうなんだ! ありがとう!」

 

 夜雪は花開いたような笑顔を見せた。

 

「あぁ。それで何に悩んでたんだ?」

 

「んーとね。レベルが上がらないなーって」

 

「レベルか…因みに今どれくらい何だ?」

 

「20だよ!」

 

「えっ…」

 

 この時、ペインはレベルを聞いたのを後悔した。なぜなら、自分のレベルよりも高かったからだ。

 ペインは負けず嫌いだ。しかし、夜雪にβテストの時に心を折られたのか青い顔をした。

 

「ん? どうしたの?」

 

「あ……いや。そ、そうなのか。ええっと、そうだな……北に行ってみたら良いんじゃないか?」

 

「……うん。わかった!」

 

 実は既に行ったことがある。白竜を倒すときに使った魔法武器を作るときに爆発テントウを狩りに行ったのだ。余談だが、魔法武器を作ったのはリズだ。このときに交流があったりする。

 

「それじゃあまたね~!」

 

 夜雪は颯爽と立ち上がり、てくてくと町の外へと歩き出した。

 

「はぁぁ……また振り回されるのか。と言うかもうレベル20か……はぁ」

 

 ペインはその場で深いため息を吐いた。

 

 >>>>

 

「明日は休みだし……泊まりで行くかな!」

 

 やって来たのは北の森。ここで狙う獲物のうち一匹は爆発テントウという自爆攻撃をしてくるテントウムシだ。

 そして、もう一種類は様々なゲームでお馴染みの、ゴブリンだ。

 

「おっし、やるぞー!」

 

 森の中を木を伝って移動していく。数分で、ゴブリンの集団を見つけた。三匹いる。

 木の上で弓を取りだし、構える。矢をつがえて弦を引き絞る。弓はユニークシリーズの『白夜の弓』。矢は普通の矢だ。そこら辺のお店で売っている。

 

「……ふっ!」

 

 スパンッ! と音が響いて、ゴブリンの頭部を貫く。それだけでゴブリンはHPを全損させた。残りの2匹は唐突にやられた仲間に驚き、慌てて周囲を警戒し出した。

 夜雪は続けて二射目の準備をして、射る。これまたクリティカルで一撃死した。

 残った一匹は訳もわからず、逃げようとする。が、三射目で倒された。

 

「……おぉ。強い」

 

 ドロップは無かったが、弓の強さを確認できた。

 移動して、狩りを再開する。何度目かゴブリンを一撃で倒すと、スキルを取得した。

 

『スキル【影撃ち】を取得しました』

 

【影撃ち】

 障害物がある場所、暗闇などの相手から自身が見えないときにクリティカル率アップ。エイム補助。

取得条件

 モンスターに悟られずに十回以上攻撃を成功させ、倒すこと。

 

「うーん……微妙。もっともっとスキル取らなきゃ!」

 

 そうして、北の森が次の狩り場となった。

 

 >>>>

 

「よーし! 今日も頑張るぞー! 「うぅ…」……ん?」

 

 夜雪がログインしたと同時に、隣から気弱そうな声が響いた。夜雪が隣を見ると、そこには赤髪の少女がうずくまっていた。

 

「ど、どうしたの……?」

 

 思わず声をかける夜雪。普通の人間だったら関わろうとはしないだろう。だが、これが夜雪なのだ。何かを考えるよりも先に他者を心配してしまう。

 

「ふぇ? ……あ、あ、えと!」

 

 途端、挙動不審に陥る少女。

 

(初心者の人かな?)

 

 これで夜雪が考えたのは初心者という発想。こう考えるのは当然と言える。実際、この少女は初心者だ。しかし、挙動不審になったのはこれが理由ではない。────ただの人見知りだ。

 

「ええええとととっと」

 

 目茶苦茶吃る少女────もといミィ。そう。この人見知りの赤髪少女はいずれ超有名ギルド『炎帝の国』を率いることになる少女だ。

 

「大丈夫。落ち着いて?」

 

「あああ」

 

 夜雪が落ち着くよう言うが、ミィは落ち着けない。

 

「深呼吸。吸って~」

 

「は、はいっ! すぅ~……」

 

「吐いて~」

 

「はぁ~……」

 

「もう一回吸って~」

 

「すぅ~.……」

 

「吐いて~」

 

「はぁ~……。あ、ありがとうございます。落ち着きました」

 

 夜雪の言う通りに深呼吸をすること二回。ミィは落ち着きを取り戻した。

 

「良かった~」

 

 夜雪は胸を撫で下ろす。それを見てミィは申し訳なさそうな顔をした。

 

「……すみません。私、人見知りでして……」

 

「ん~? それで何で謝るの?」

 

「……え?」

 

 ミィは驚く。そう返されたのは初めてだった。誰かに自分が人見知りだと言うと必ず、直せやそれを言い訳にするな、と言われ続けてきた。だが、夜雪は違った。人見知りが悪いことではないと言う風に。

 

「人見知りも立派な個性だよ。人見知りってことはほとんどのこと自分でしちゃうでしょ?」

 

「え、ああ、はい……」

 

 まさに、その答えは的を射ていた。ミィは自分の仕事を誰にも頼らずにできる。それは人見知り故に、独りだったからだ。

 

「ならそれは長所じゃないの?」

 

「え……」

 

「人見知りって言うのは相手をよく観察するんだ。その人が自分に害を及ぼすかどうか、とかね。いろんな性格があるけど、どれもこれも短所にも長所にも言い替えれる」

 

「────」

 

 ミィはその一言で救われた気がした。今まで短所を無くせと言われ続けて、自分もそのように努力した。でも、人見知りだけはなおらなかった。ずっとそこをつつかれた。だけど夜雪はそれは長所だと言った。

 

(あぁ……この人、スゴいなぁ)

 

「まぁ、僕が言えた義理じゃないんだけど」

 

「……ぷ」

 

 夜雪は最後に和ませるように自虐する。それがなんだか面白くて、ミィは笑った。

 

「……あ! す、すみません!」

 

「良いですよ! 全然。笑っていた方が可愛いですよ」

 

「ふぇぇ!?」

 

 さらっとキザなことを言う夜雪。天然ジゴロとはこのことだ。

 

「それで、何か困り事があるんですよね?」

 

「は、はい! 実は────」

 

 こうしてミィと夜雪は会合した。

 

 >>>>

 

 またまた別の日。噴水広場にて、夜雪はとある少女とばったり会った。と言うよりも夜雪側が少女を見つけた。

 

「あ、やべ」

 

 思わずそう口に出してしまう。すぐに方向転換して颯爽とその場を立ち去ろうとする。────が、逃げられなかった。

 

「なぁ~にがヤバいの?」

 

「や、やぁ────フレデリカ……」

 

 ガシッと夜雪の腕を掴んだのは、金髪のサイドテールが可愛らしい少女────フレデリカだった。

 

「うん。久しぶりー。それで? 何で逃げるの?」

 

 ニコリと笑うフレデリカ。目が笑っていない。ギリギリと夜雪の腕を掴む手に、力を加える。

 

「べ、別に逃げたわけじゃないよ? ただ少し用事を思い出しただけで────」

 

「ふ~ん……」

 

 苦しい言い訳を言う夜雪にジトッとした目を向けるフレデリカ。

 実はフレデリカもペインの時と同様、βテストの時に出会っており、一時期パーティーを組んでいた。パーティーというのは、大体5~6人ぐらいで徒党を組、互いのスキルなどで弱点を補って戦闘などをするチームのようなものだ。

 

「ま、いいや。フレンド登録しよー」

 

 どうやらフレデリカは諦めたようで、夜雪にフレンド申請をした。

 

「う、うん」

 

 夜雪はビクビクしながら、承認する。なぜに夜雪がこんなにも怯えているのか? 実は振り回しすぎて怒られたことが一度ある。それ故に苦手意識があるのだ。────一度怒られても直らない天然はどうしたらいいのだろうか? 

 

 こうして、フレンドが増えていく夜雪だった。

 

 

 

 

 ────そして、物語は動き出す。

 

「よし! ここは…」

 

 とある少女がNWOの世界に降り立った。




 次回は遂に原作主人公兼本作ヤンデレヒロイン候補が登場ですね。


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原作開始!
六! 第一回イベント!


 メイプルちゃんが出てくるよ!
 後スキルと装備の説明が多いよ!


 運営のイベント通知が来て数日。夜雪はレベル上げとスキル取得に勤しんだ。

 夜雪は最後のステータスチェックの為に青色のパネルを出す。

 

 夜雪

 Lv50

 HP 69/69

 MP 41/41

【STR 63〈+60〉】

【VIT 63〈+58〉】

【AGI 62〈+23〉】

【DEX 62】

【INT 62】

 

装備

頭 【空欄】

体 【勿忘(わすれな)ノ外套:隠行】

右手 【光明ノ兆シ:傲慢】

左手【暗転ノ(つるぎ):吸収】

足 【夜歩行(ナイトウォーカー)

靴 【闇風(やみかぜ)ノ靴】

装飾品 【フォレストクインビーの指輪】

【身代わりミサンガ】

【空欄】

 

スキル

【回避】【超回避】【大物喰らい(ジャイアントキリング)】【剣術 Ⅵ】【弓術 Ⅴ】【射撃 Ⅴ】【槍術 Ⅳ】【杖術 Ⅲ】【体術 Ⅳ】【双剣術 Ⅲ】【存在希釈】【体捌き】【攻撃逸らし】【気配察知 Ⅳ】【一刀】【石突き】【竜特攻(ドラゴンスレイヤー)】【掌底】【魔導】

 

「よし!準備万端!」

 

 いくつか見たことがないものがある。というのは、夜雪はイベントが始まるまでもう一つダンジョンを攻略していたのだ。正直、ここまで行くとチートにしか見えない。

 まずは装備。

 

『暗転ノ(つるぎ)

【STR+30】

【斬魔成長】

【破壊成長】

【吸収】

スキルスロット空欄

スキルスロット空欄

 

【斬魔成長】

 魔法、モンスター、敵対者を斬ると切れ味が増し、より強力になる。

 

【吸収】

 魔法を吸収し、自分のMPに変換する。容量オーバーになると魔力の結晶として体内に蓄えられる。

取得条件

 一定の強さの魔法を二十回無効化する。

 

夜歩行(ナイトウォーカー)

【VIT+13】

【AGI+3】

【暗視】

【破壊成長】

スキルスロット空欄

 

【暗視】

 暗闇の中でも、昼と同じように見ることができる。

 

闇風(やみかぜ)ノ靴』

【AGI+20】

【VIT+10】

【疾風】

【破壊成長】

スキルスロット空欄

 

【疾風】

 一定時間AGIが上昇し、クリティカルが下がる。上昇はレベル÷2を加算。

 

『身代わりミサンガ』

【VIT+4】

【身代わり】

 

【身代わり】

 一度だけ死に至る攻撃を防ぐ。消耗品。

 

 次にスキル。

 

【傲慢】

 敵対者またはモンスターが一人でも付近に存在する場合、自身を含めたパーティー全体のステータスを敵対者またはモンスターのステータスの二倍にする。ただし、敵対者またはモンスターが自身を含めたパーティーの二分の一以下のステータスをもつ場合は加算しない。

取得条件

 自身よりも高レベルのモンスターまたは敵対者を二体、低レベル装備で一人で討伐する。

 

【隠行】

 自身の存在感を限りなく薄くする。スキルを使用してもばれることはない。ただし、【看破】などのスキルによって見破られると再使用まで一日かかる。

取得条件

 クエスト『引退した暗殺者』をクリアする。

 

【掌底】

 装備の防御力を無視して攻撃をする。威力はSTRに依存する。ただし、素手のみ使用可能。

取得条件

 クエスト『格闘家 Ⅱ』をクリアする。

 

【魔導】

 全属性の魔法を使用できる。威力はINT×3。

取得条件

 全属性魔法を二十回使用する。かつ、クエスト【魔導士の弟子】を全てクリアすること。

 

 アホみたいに強力なスキルと装備である。

 夜雪が暫く最初の広場で待っていると、参加者が続々と集まってきた。

 さらに空中には巨大スクリーンが浮かんでいる。あれで面白いプレイヤーを中継するのである。それは、生産職の人や参加しなかった人が主に見ることになる。

 

「それでは、第一回イベント!バトルロワイヤルを開始します!」

 

 あっちこっちからうおおおおおといった怒号が響く。夜雪は涼しい顔をして聞き流す。

 そこで大音量でアナウンスが流れる。

 

「それでは、もう一度改めてルールを説明します!制限時間は三時間。ステージは新たに作られたイベント専用マップです!

 倒したプレイヤーの数と倒された回数、それに被ダメージと与ダメージ。この四つの項目からポイントを算出し、順位を出します!さらに上位十名には記念品が贈られます!頑張って下さい!」

 

 そう言い終わるとスクリーンに転移までのカウントダウンが表示され、ゼロになった瞬間に夜雪は光に包まれて転移した。

 

 >>>>

 

「ん…ここは?」

 

 夜雪は眩しくなくなっていることに気付きゆっくりと目を開ける。

 どうやら崩れかけた廃墟の端にいるようである。

 周りにはパッと見渡した分には誰もいない。

 

「う~んどうしよっか?中心にいた方が戦い易いかな」

 

 夜雪はマップを出し、方角を確認して中心方向へと向かった。

 その先に実は知っている人がいるとも知らずに……。

 

 

 中心に進む道中、何人かが夜雪を襲ってきた。しかし、どれもこれもを華麗に避けて【一刀】で退場にしていく。

 

 そして遂に中心部近くに来た。

 

「えぇ……」

 

 唖然とする夜雪。それも仕方がない。なぜなら、目の前で蹂躙が起きていたからだ。

 

「は?う、うわああああっ!」

 

 襲撃しただろう男を飲み込む盾に男は悲鳴を上げる。

 そして、その命は綺麗な赤い結晶となって盾の装飾として浮かび上がる。

 

 そうしてまたメイプルは隙だらけの姿を見せて地面に絵を描き始める。

 そう、楽しそうに絵を描くメイプルは本当に隙だらけなのだ。それは狙ってやっている訳では無さそうだった。そしてパーティーを組んだ男たちが釣れた。

 パーティーを組むことは反則では無い。パーティーメンバーの一人を十位以内に入れようと結束しているのだろう。

 剣士の男性が駆けてくる。何の工夫も無い直線のダッシュだ。夜雪にとっては問題ない速さだ。しかし、距離を詰めるのとメイプルが短刀の納刀音を鳴らすのでは速さが違いすぎた。

 

 キンッと小気味いい音がなって三人のプレイヤーがばたりと倒れる。

 そして盾の赤い結晶がパリンという音と共に砕ける。メイプルは大盾を持って立ち上がる。

 

 今度はメインウェポンを破損させないように頭だけを大盾に付けた。その瞬間、剣士のプレイヤーは光の粒子となって消えた。

 同じ様にして他の二人も倒してしまう。

 三個の結晶が新たに大盾に浮かび上がる。

 そんな化け物じみた大盾使いなメイプルはもう一度同じ位置に戻った。

 

「だ、大虐殺を見た……」

 

 そう言いながら夜雪はメイプルから離れていった。




 天然×天然=......?

 この図式のイコールのところわかる人いる?


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七!第一回イベント結果!

 ヤンデレ寸前。


 夜雪は疲れ果てていた。メイプルを狙うプレイヤー達をチマチマと攻撃して減らしていると、それに気づいたプレイヤー達が夜雪のところにも来たのだ。そして現在。

 正面から大所帯。その数何と五十人である。メイプルの方も同様だ。パーティーを組む者は何度か見かけたが、五十人は流石に見たことが無かった。因みに、メイプルの移動によって夜雪も移動しており、一本道の側にいた。……端から見れば協力しているように見えるが、メイプルのほうは夜雪に気づいていない。

 

 五十人のプレイヤーのその殆どが魔法使いのようで夜雪とメイプルを視認してすぐ杖を掲げ魔法を放ってくる。

 恐らくこうやって一本道で何度もプレイヤーを狩ってきたのだろう。

 その動きには淀みがなく慣れが感じられる。

 

「大魔法で、吹き飛ばす!」

 

 メイプルが叫ぶ。魔力結晶が溜まりすぎて黒の大盾が赤の大盾になってしまっているのだ。

 そして、それを聞いて全力でその場から離れる夜雪。メイプルは四十人近い魔法使いから放たれる魔法を素で受け止めた。

 相手の魔法が尽きた時。メイプルは腰の短刀を引き、抜ききる。最大威力の攻撃は刀身全てを見せて行うのである。

 刀身から紫色の魔法陣が展開される。

 

「【毒竜ヒドラ】!」

 

 三本の首を持ち全身劇毒で出来た毒竜が、大盾の魔力結晶全てと引き換えに前方三方向を毒の海に変えていく。

 巻き添えを食った人も合わせれば五百近くのプレイヤーが吹き飛んだ。

 

「(あっぶな~……)」

 

 残り時間は後一時間となっていた。後たった一時間で全ての順位が決定するのだ。そんな緊張状態の中。

 大音量でアナウンスが鳴り響いた。

 

「現在の一位はペインさん二位はドレッドさん三位はメイプルさんです! これから一時間上位三名を倒した際、得点の三割が譲渡されます! 三人の位置はマップに表示されています! それでは最後まで頑張って下さい!」

 

「どうにも簡単には終わらせてくれないようだ」

 

 危機感は感じていない様子のペイン。

 

「うぇーめんどくせーマジで?」

 

 露骨にだるそうなドレッド。

 

「やった! 私三位だ!」

 

 喜ぶメイプル。

 

「うわぁ……」

 

 引き攣った顔で嘆く夜雪。

 

 三者三様の反応を各地で見せる中、イベントはクライマックスへと向かっていく。三人の元へ我先にとその首を狙うプレイヤー達が走り出す。

 

「いたぞ! あいつだ!」

 

 わらわらと森から出て来るプレイヤー達。

 その中には当然AGIに多めに振っている者もいたりする。

 その速度についていけるわけもなく、うなじにナイフが振り下ろされる。寸前に夜雪が弓矢で射る。本来必要ないことではあるが、夜雪は自分の存在を示すために行った。

 

「グアッ⁉︎」

 

「え?」

 

 夜雪の助太刀に驚くメイプル。だが、そんなことをしている暇はない。その後もメイプルに数人が飛びかかっては何故か通らない刃に文句を言いつつ食われていった。

 

「う~ん? ま、いっか」

 

 メイプルは誰かに助けられたと考えたが、その人物を探す暇もないため後にすることにした。

 流石にそんな光景を何度も見ればプレイヤーの出方も慎重になるようでじりじりと距離を詰めてくる。特に一撃必殺の大盾を気にしている者が多い。

 しかし、メイプルの攻撃役は大盾では無く短刀だということをプレイヤー達は失念していた。

 

「【致死毒の息】」

 

 メイプルが新月を半分程度抜くと鞘から濃い紫の霧が溢れ出す。

 

「【パラライズシャウト】!」

 

 パタパタと倒れていくプレイヤー達が致死毒から逃げられる筈もなく。最前列から順に粒子に変わっていった。

 結局。プレイヤー達はメイプルと夜雪のポイントになっただけだった。

 

 そして、遂にその場に残るのが夜雪とメイプルのみになったとき。

 

「それじゃあ────やろうか、メイプル」

 

「────うん」

 

 夜雪は白夜の弓に()()()をつがえる。そして────、

 

「────うっ!?」

 

 ズドオオオオオン!!! 

 

 人と矢が当たった音とは思えない音が響く。

 

「うわぁ……固ぁ」

 

「イッタタ……あれ? でも……」

 

 何かに気づいたメイプルが何かを言う前に唐突に終わりが来た。

 

「終了! 結果、一位から三位の順位変動はありませんでした。それではこれから表彰式に移ります!」

 

 メイプルと夜雪の目の前が白く染まったかと思うとそこは最初の広場だった。

 一位から三位までが壇上に登るように言われてメイプルも登壇する。メイプルは真っ直ぐ前を向いて立っていたが余りの視線の量に恥ずかしくなったのか顔を赤くする。

 そして、メイプルにマイクが渡された。因みに夜雪はすぐに人混みに隠れた。最後の最後にメイプルを攻撃したので、出るのはまずいと考えたのだ。

 

「次は、メイプルさん! 一言どうぞ!」

 

 次はということは後の二人はもう言ったのだろうが、メイプルは緊張して全く聞いていない風だった。

 

「えっあっえっ? えっと、その、一杯耐えれてよかったでしゅ」

 

 メイプルが噛んだ。

 それはもう盛大に噛んだ。

 しかも何を話せばいいか分からなかったために言っていることが滅茶苦茶である。

 メイプルは、流石に恥ずかしすぎて前を向けなかったので、その様子が動画として多くのプレイヤーに記録されていることも分かっていなかった。

 記念品を受け取ると、そそくさと宿屋に帰るメイプルだった。

 その夜。掲示板はメイプル可愛すぎスレとメイプル強過ぎスレで大いに盛り上がった。.....ついでに最終兵器として夜雪も有名となった。因みに彼は五位である。




 タグも幾つか回収。

 メイプル!それに気づいてはいけない!

 メイプルの防御力を貫けたのは、鉄の矢の攻撃力加算とステータスと武器の攻撃力加算ですね。ただ、HPは少ししか削れてません。


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八!新装備の獲得と……?

 今回も長い。


 第一回イベントの翌日。夜雪は東のフィールドを散策していた。

 何か新しいクエストやスキルがないか探していたのだ。因みに彼はあまり掲示板を見ない。そのせいで今凄いことになっているが、それには気づいていない。

 

 そしてNewWorld Onlineが発売されて明日でちょうど三ヶ月。それに合わせて明日は大規模アップデートが行われる。幾つかのスキルの追加やアイテムの追加。それらもネットを賑わせたが目玉はそれでは無い。

 目玉は現在のマップの最北端にあるダンジョンのボスを倒した者が、アップデートで新たに追加されたマップに進むことが出来るようになるというものである。

 勿論パーティーで挑んでもソロで挑んでも問題無い。

 分かりやすく言うなら、一層をクリアすると二層に行けますよということである。

 夜雪もスキルを身につけたら行ってみようと思っているのだ。

 

「う~ん。やっぱり無いかなぁ?」

 

 そう口にする夜雪。だが、それも仕方がない。何より3ヶ月も経っているのだ、そのほとんどが発掘されていても不思議はない。

 

「はぁ………お?」

 

 ため息をついた夜雪は、下を見た拍子に何かの文字に気づいた。ただ、踏み荒らされていて文字を正確に読むことができない。

 

「ん~? ……矢印?」

 

 辛うじて判別できたのは、上方向の矢印だった。

 

「このまま進めってことなのかな……?」

 

 罠である可能性を考えない夜雪。βテスターがそれで良いのだろうか。

 

「よし! 進もう!」

 

 大きな声を出して、下を見ながら矢印の方向へ真っ直ぐ進んでいく。それから数秒経って、また矢印を見つけた。今度は方向変換して、右方向の矢印だった。

 夜雪はずっと下を見ながら矢印を見つけては喜び、そして進んでいった。

 

 そられから数十分後。ついに夜雪は、とある館の前に来た。

 

「おぉ……大きい」

 

 見上げるほどの大きさの古い屋敷。ただ、放置されてある程度経っているのか、所々がボロボロだった。

 屋敷の前にも大きな門が建っていて、荘厳な雰囲気を漂わせている。

 普通のプレイヤーなら、何らかのイベントやクエストだと見抜いて、準備を整えてから足を踏み入れる。がしかし、夜雪は躊躇いもなく門を押し開け、中へと入った。まぁ、普段装備しているものが夜雪の中では最強の装備なので、準備をすることもほとんど無いが。.……ポーションの確認ぐらいはしても良いと思う。

 

『汝……。ここは汝が来る場所ではない…。即刻立ち去れ…』

 

 唐突に何処からか声が聞こえてきた。ついでに、クエスト開始報告も夜雪の目の前に出てきた。

 名称は『堕ちる日の館』。東のフィールド内最高難易度のクエストだ。因みに、『光芒の洞窟』は南のフィールド最高難易度のダンジョンである。

 

「もちろん! Yesだよね!」

 

 そうして、夜雪はフィールド最高難易度のクエストに挑むことになった。

 そして、こっそりと付いてきていたフードを着けたプレイヤーが何処かに何かを書き込んで、その場を立ち去った。

 

 >>>>

 

 屋敷のドアを開けると、ギィィィィと音がした。屋敷の中は何故か()()()()()()()()()()、確認しやすかった。夜雪の目の前には、大きな階段があり、途中にある踊り場で左右に別れていた。だが、右の階段は崩れていて、昇れそうにない。階段以外にも、6ヶ所扉があり、壁には蝋燭が立てられていた。また、階段の奥にステンドグラスがつけられており、赤ん坊をあやす慈母の絵が描かれていた。

 

「う~ん。なかなか幻想的」

 

 床は古めかしい木の板で、赤色の生地に白の幾何学模様が描かれたカーペットが敷かれていた。

 一歩進むごとにギッギッと軋む音がする。

 

 夜雪はまず、階段の後ろに向かった。そこは物置のように木箱が幾つか置かれていた。夜雪はそれを押し退ける。すると、床に地下へと続くだろうと思われるドアが現れた。

 

「フフン。大抵こういう所に隠し扉があるからね~」

 

 誰も見ていないのにどや顔を披露する夜雪。製作者もビックリの早業である。本来ならば、屋敷の部屋を巡ってヒントを見つけるのであるが、夜雪は何のヒントも無しに一発で当てた。その理由が何とも不条理であるが。

 夜雪は地下への隠しドアを開ける。特に湿っぽいだとかカビっぽいだとかそんな感じは無かった。無骨な階段が存在しているだけだった。

 

「よし! いざ!」

 

 夜雪は意気揚々と降りていった。

 

 >>>>

 

「【ライト】!」

 

 少し長い階段を降りると、そこは真っ暗な空間があった。

 夜雪は光の魔法を使用して明かりをとる。

 

「おぉ?」

 

 そこに見えたのは黒い魔方陣が床に描かれた、だだっ広い部屋だった。十メートル四方はあろうかという広さで、天井は十メートル以上あった。

 

「なんだろ………これ」

 

 無警戒に黒い魔方陣に近づく。足が魔方陣に触れると、唐突に光だした。

 

「うわっ!」

 

 夜雪は目を瞑る。光が落ち着いて夜雪が辺りを見回すと、そこには幻想的な光景が広がっていた。

 今にも落ちそうな夕暮れと、燃えるように朱い雲。目の前には花畑が広がっており、一陣の風が吹いて幾つかの花弁が巻き上げられる。それがより一層幻想的だった。

 

「うわぁ……!」

 

 思わず見惚れる夜雪。しかし、ここは未だ戦闘フィールド。そして、そこに出るのは────クエスト最終ボスだった。

 地平線まで続くかと思われる花畑が、突如として盛り上がる。そこに現れたのは────、

 

「………小屋?」

 

 小屋だった。紛れもない小屋だった。

 

 だが、外見が全くと言って良いほどただの小屋とは言えない。真っ赤な雨でも降ったかのように血みどろで、何とも言えないホラー感があった。

 とてもこの幻想的な光景とは釣り合わない。

 

「あー……もしかしてあれがボス?」

 

 その名は【怪物の家(モンスター・ハウス)】。紛れもなく、強いボスだった。

 

「ハァッ!」

 

 夜雪は駆け出し、剣を取り出して斬撃を与える。が、少ししか減らなかった。対象が大きいため、攻撃は当たりやすいがHPと耐久力が高い。そしてその攻撃力も。

 

「────っ!」

 

 唐突にドアが開き、夜雪を吸い込もうとした。夜雪はそれに不穏さを感じて、地面に剣を突き刺して耐える。吸い込まれていったのは、花弁だけだった。

 夜雪はすぐさま剣を抜き、新たに取得したスキルを使う。

 

「【縮地】!」

 

怪物の家(モンスター・ハウス)】の目の前から唐突に夜雪が消え、右後方に現れた。

 そしてまた、新たなスキルを使う。

 

「【終焉の白剣(はっけん)】」

 

 剣が白い光を発して大きくなってゆく。そうして小屋をかち割るほどの大きさになると、そのまま小屋の方向に倒れていき────。

 

 >>>>

 

「いやー! 難しかった!」

 

 屋敷から出ると同時に、クエスト完了報告が出た。

 

『クエスト:堕ちる日の館をクリアしました』

 

 あの後、夜雪は【怪物の家(モンスター・ハウス)】と激闘を広げ、辛勝した。そして幾つかのユニークシリーズとスキルを取得した。

 そのユニークシリーズがこれだ。

 

『夕闇ノ軽鎧』

【VIT +60】

【破壊成長】

闇に呑まれよ(ダーク・スワロウ)

 スキルスロット空欄

 

『黄昏ノ剣』

【STR +59】

【破壊成長】

【二刀流】

【黄昏時】

 スキルスロット空欄

 

『夕陽ノ仮面』

【VIT +10】

【認識阻害】

【認識変更】

【変わらぬ眼差し】

 スキルスロット空欄

 

 夜雪がこれらを獲得した時には、既に深夜となっていた。夜雪の両親がそれについて怒ることは無いが、明日は学校だ。

 仕方がないので夜雪はログアウトした。

 ゲームのために現実を疎かにする訳にもいかないのだ。

 

「ふうっ……今日はこれで終わり」

 

 夜雪はハードの電源を落とすとすぐさまベッドに横になる。宿題や翌日の準備は既に終えているのだ。

 

「お休みなさい……」

 

 数分で夜雪はすぅすぅと寝息を立て始めた。

 きっといい夢を見ることだろう。………たぶん。

 

 >>>>

 

「それじゃあ、行ってきまーす!」

 

 制服を着て学校へ向かう。

 ここ数日で日差しも強くなってきてぽかぽかとした陽気が心地いい。ようやく春らしくなってきたと言える。

 夜雪の席は窓際なので油断すると眠ってしまいそうだ。

 と、そんなことを考えながら通学路を歩いていく。夜雪の家は学校から少し近いため歩いて登校しているのだ。その距離なんと徒歩十五分である。

 心地いい風が吹いていて歩くことが苦にならない。

 

「うし! 今日も一日頑張るか!」

 

 校門をくぐって、教室に向かい自分の席に着く。

 

「おはようー」

 

「ん? あ、おはよう!」

 

 既に教室にいる本条楓に挨拶をする。その後、教室の気になった所を掃除したり、配布物を配ったりしているとふと本条楓が目に写った。

 とてもニヤニヤしていた。正直言って怖い。そして、そろそろと教室に入ってきた人物を発見した。その人物は夜雪────夜桜(やざくら)雪を見つけるとシーっと唇に人差し指を当てた。そして────、

 

「なーにニヤニヤしてるのかなっ!」

 

 すぱこーんと楓の頭に突っ込みを入れる。

 突っ込みの主は理沙だった。

 

「べ、別に何でもない!」

 

「本当に〜? っと、そうだ。今日はそんなことをしに来た訳じゃなくて、んん……ときに、楓くん。今日は重大な発表があるのだよ」

 

 そう言って楓の友人────理沙が腰を曲げてずいっと顔を近づけてくる。咳払いをしてわざわざ言い直して謎のキャラを作っている理沙に楓も乗っかってあげる。

 

「よしっ。これでいいかな」

 

 あらかたの作業を終え、自席に近づく雪。すると、楓達の話が聞こえてきた。

 楓がパチパチと小さく拍手をする。

 どうやら、理沙がゲームをプレイできることになったらしい。

 

「(ん……? あれ、と言うことは?)」

 

「と言うわけで、楓にゲーム押し付けただけになってたけど今日からやっとプレイ出来るよ〜」

 

「じゃあ、パーティーが組めるね!」

 

「うん、そうそう。パーティーが……って楓もう始めてたの!?」

 

 理沙は驚いたのか大きな声でそう言った。そして雪はその言葉で察した。運動神経抜群で有名な理沙がプレイヤースキルをも要求するあのゲームに参加する、と。

 因みに三人とも登校はかなり早いため教室には三人しかいない。周りのことは気にしなくていいのだ。

 

「(う~ん。マジかぁ……)」

 

 理沙は話を続ける。どうやら、楓のゲームプレイを聞いているらしい。

 

「何レベルまで上げたの? それともアカウント作っただけ?」

 

「え、えっとぉ……その……に、20レベル」

 

 理沙と雪は一瞬ポカンとした。理沙はニヤニヤと笑い出すが、雪は固まったままだ。

 

「おーっとぉ………予想以上に楓さんはゲームにハマっているようですねぇ」

 

「むうぅ……」

 

 楓が頬を赤らめながら理沙を睨む。理沙はまだ少し楽しそうに笑っていたが、悪気は無さそうなので楓も何も言わないでおいた。その姿はとても可愛いと呼べるものであるが、下を向いて考え事をしていた雪の目には入らなかった。

 

「(あれ? ……案外普通のレベルだ……あんなにおかしなスキル持ってるのに、むしろ低いぐらいだと思うけど)」

 

 雪は楓が天然なことを知っている。それ故に、レベルも規格外なのではないかと疑っていたのだ。……自分も同類だと言うことには気づいていないらしい。余談だが、勝手に他人のステータスを聞いたりすることはマナー的に悪いことなので絶対にしないように。

 

「(う~ん。ま、いっか)」

 

 そうそうに考えることをやめた雪。別に頭が悪いというわけではなく、ただ単に考えても無駄なことだからだ。

 その後は二人の会話を聞くことは無く、やって来た友人とお喋りを始めた。既に頭の中から理沙が参戦すると言う事実は無くなっていた。

 

 >>>>

 

「でね? 痛いのは嫌だった筈なんだけど……その人の攻撃は何て言うのかな? 他の攻撃とは何かが違ったんだ」

 

「何か?」

 

「うん。………う~ん。やっぱり言葉じゃ表せられないや」

 

 むーっと唸りつつ考えごとをする楓。そんな楓に不思議そうな目を向ける理沙。

 

「どんな人なの?」

 

「えっとね……白いフードつきのポンチョを着てて、後ろに勿忘草? て言うのかなそれが描かれてた。後は弓を使ってたぐらいかな?」

 

「ふーん……ちょっと私も探してみるよ」

 

「うん! お願い!」

 

 こうして楓と理沙による謎のプレイヤー捜索が始まった。そして、今夜一緒にプレイする約束をして二人の話は終わった。理沙も自分の席に戻っていく。

 

「回避盾……難易度は最高クラス? でも、だからこそ燃えてくる……! それに……楓に攻撃を入れれた人も気になるし……」

 

 小さな声で呟いたそれは楓の耳には届かなかった。

 ゲーマーとしての性だろうか。

 理沙は達成条件の難しいものを選択するのを好む傾向がある。

 さっき理沙が言った、無傷の無敵パーティーのを実現するためには、まずは理沙が敵の攻撃を避け続けることが必須条件である。

 

 何十発と打ち込まれる魔法。

 

 高速の連続攻撃。

 

 それを紙一重で避けて敵を倒す自分をイメージするだけで。

 

「ゾクゾクするっ……!」

 

 理沙は今日の授業が早く終わって欲しくて欲しくて仕方なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(……うわ!? な、何!? 急に寒気が……)」

 

 その頃、雪は敏感に危険を察知していた。




 理沙もヒロインに入っていくぅ!




 理沙ってヤンデレにしやすそうなんだけど何でかなぁ?


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九!行きは良い良い帰りは……

 貯めてたのが無くなったのでまた貯めるまで時間が空きます。


「よーし! 今日は……と」

 

 夜雪はログインして、今日何をするか考える。

 

「装備が良いせいか随分目立ってるし……プレイヤーメイドの装備でも着ようかな? そしたらまずは……イズさんのとこに行かなきゃ」

 

 自分が注目されているのは装備のせいだと勘違いする夜雪。

 確かに彼の装備は一目でユニークシリーズだとわかるが、それ以上に彼は有名だ。

 

「よし! 早速!」

 

 シュタタタッとイズの店へと駆け出した。

 

 >>>>

 

「こんにちはー!」

 

「あら、いらっしゃい!」

 

 夜雪がドアベルを鳴らしながら入ると、何かしらの作業をしているイズがいた。

 イズは手を止めて、夜雪の挨拶に挨拶を返す。

 

「イズさん! 造ってほしいです!」

 

 説明も無しに造ってほしいと言う夜雪。

 

「え? 何を?」

 

 当然聞き返すイズ。

 

「武器とか防具とか!」

 

 端的に告げる夜雪。

 

「どんなの?」

 

 こちらも端的に問うイズ。

 

「目立たないの!」

 

 これまた端的に言う夜雪。

 こんな会話が数十分続き、イズは夜雪が欲しているものを理解した。

 

「う~ん。今あるのじゃあ貴方に耐えられるものは無いわね……すぐに壊したし」

 

 イズは夜雪のステータスを知っている。これは夜雪が直接伝えたのもあるが、渡した自作の魔法武器をたったの一回の戦闘で壊された為に、ある程度の強さはあるのだろうと考えた。本来武器を壊すには、耐久値と呼ばれる武器防具に付けられた値を全損させなければ武器破壊をなし得ることはない。

 

「すみません……」

 

「良いわよ。どうせ失敗品だったから。気にしてないわ。それよりも、そうね。材料を採取してきてくれない?」

 

 夜雪はイズが言った材料にふむふむと頷く。どうやら何か考えがありそうだ。

 

「わかりました! 全部採ってきたら戻ってきますね!」

 

「ええ。お願いね」

 

 夜雪はイズにそう告げて、スタこらさっさとフィールドへと飛び出した。

 

 >>>>

 

 夜雪は地底湖方面へと爆走していた。ゲーム内でも動きすぎると脳が疲労して動きが鈍くなるのだが、これはプレイヤーによって個人差がある。因みに、夜雪は50メートル走6秒台だ。

 脳がどれだけ上手く働いてくれるかによって反応速度やスタミナなどのPS(プレイヤースキル)に違いが出る。

 夜雪がここまで走れるのはVR慣れしているからである。

 と言っても、これで三作品目なのだが。

 走りながらモンスターを討伐していく。

 狼型のモンスターが夜雪に近づき、その凶悪な牙で肉を引きちぎろうとするが、ヒラリとかわして片手剣で斬りつけた。深々と刺さり、モンスターのHPが急激に減っていく。

 夜雪はそのまま剣を振り抜き、モンスターのHPを全損させた。

 

「ふぅ! 中々疲れる」

 

 次々に襲い掛かってくるモンスターを一々討伐しながら走る。

 実はこれも新たなスキルを発現させる為の行動だったりする。実際に得られるかどうかはわからないが、試しにやっているわけだ。

 

 そして、遂に着いた。夜雪は湖に近づき、道中で買った釣竿を取り出して釣り糸を垂らす。

 そして釣り始めてから一時間。

 

「ほっ! よし、十匹目!」

 

 釣りは順調に進んでいた。

 

「おー魚にトドメ刺すだけでも経験値入るんだ……」

 

 実際に着々と経験値が溜まり、レベルが上がった。効率は大分悪いみたいだが。これは高レベル者の弊害とも言える。レベルが上がれば上がる程必要経験値が高くなる設定なのだ。大抵のゲームにも適用されるので当たり前と言える。

 

「【釣り】スキルかぁ」

 

 夜雪は一時間の釣りで【釣り】スキルも取得していた。これにより更に釣りの効率が上がるだろう。

 

「おおおお〜! すっごく早かった!」

 

 と、外へと繋がる道から黒髪の少女と茶髪の少女────つまりは、メイプルとサリーが来た。

 

「ん?」

 

「ん?」

 

「ん?」

 

 三人とも首を傾げる。そして数秒。夜雪はバッと自分の姿を確かめ、フードを被っていることに安心した。

 メイプルは目を瞑ってうんうん唸る。

 サリーはと言うと、怪訝な顔で夜雪を眺めていた。

 

「あ〜すみません。私たちも釣りしたいんですけど……いいですか?」

 

 夜雪を訝しげに眺めながらも、確認をとるサリー。

 と言うのも、フードを被っているせいで夜雪の顔が見えないのだ。明るい色の外套だが、顔が見えなければどんな人物かわかるものでは無い。だからこそ、サリーは距離を置きたがった。

 

「え? あぁはい。どうぞ?」

 

 夜雪は特に何も考えず了承した。……それが間違いだった。

 

「ありがとうございます。……ほら、メイプル。こっち」

 

「んー? んんー??」

 

 サリーは未だに夜雪を見てうんうんと唸るメイプルを誘導して、夜雪から少し……いやかなり離れた場所に移動した。

 

「ほら、メイプル。始めようよ。と言うかどうしたの?」

 

 サリーは地底湖に着いてから唸り続けているメイプルに唸る理由を聞いた。

 

「んーとね。何処かで見たことあるなぁって思って……あれ? あれれ?」

 

 メイプルは何かに気づいた。それは(夜雪からすれば)気づいて欲しくはないものだった。そう、それは割と目立つ外套のど真ん中に大きく描かれた……勿忘草だった。一方夜雪はと言うと、いそいそと片付けをしており、二人に注意を払っていなかった。その為、背中の勿忘草が見えたのである。

 

「どうしたの?」

 

 再びサリーがメイプルに聞く。しかし、メイプルにその声は聞こえていなかった。何故なら、勿忘草に注視……というよりも夜雪に注視していたからだ。

 

「あの人が、どうかした?」

 

「んーとね。何処かで見たことあるなぁ……って思って。記憶から引っ張り出そうとしてるんだけど中々出てこなくて。何か切っ掛けがあれば思い出すんだけどなぁ」

 

 そう言ってまた唸り出したメイプル。サリーもメイプルに言われて、同様に今まであったことを思い返していた。

 

「よし。それではお先に失礼します」

 

 夜雪は二人が話している間にもぱっぱと片付けを終え、律儀に二人に断ってからその場を後にした。そして振り返った時、今まで出していなかった()を背中に背負っていた。

 夜雪が弓を取り出したのは、帰りに一狩りする為と弓系統のスキルを上げる為である。夜雪はいつも忘れないように、覚えているうちに前々に準備する主義なので事前に弓の準備をしたのだ。今回はそれが裏目に出た。

 サリーはその弓を見て、唐突に今朝のことを思い出した。

 

「あ………」

 

 思わずサリーはそう溢した。それは近くにいたメイプルにしか聞こえない声だった。

 

「?どうしたの?」

 

「あの人……今朝メイプルが言ってた人に似てるなぁって思って。弓を持っていて勿忘草の外套を着てる人って、あの人なんじゃ?」

 

 サリーがそこまで言うと、メイプルも思い出したようでグリンと音が成る程の速度で夜雪を見た。その背中は既に大分小さかったが、サリーならば走っても届く距離である。

 

「サリー!」

 

「オーケーっ!」

 

 メイプルにプレイヤーネームを呼ばれた瞬間にその意図を察し、即座に夜雪を追いかけた。サリー自身も夜雪のことご気になるためか、その速度は洞窟に来た時よりも速い。……メイプルが背中に乗っていないからかもしれないが。(走る時の邪魔が無いという意味で)

 

「ん……?んん?んんん⁉︎」

 

 夜雪は悪寒を感じて振り向いた。そこで見たのはサリーが全速力で夜雪に向かっているところだった。サリーの目が狩人のように鋭かった。

 

「うぇ?ちょっ、怖い⁉︎」

 

 夜雪はサリーの顔に恐怖を感じて、その場から駆け出した。

 

「ちょっと……待って……止まって……」

 

 息切れはしていないが、全力疾走で喋っているため、途切れ途切れの声が出る。

 

「いや、そんな鬼気迫る表情で見知らぬ人に追いかけられたら逃げると思うんですけど⁉︎」

 

 真っ当なことを言う夜雪。夜雪が走っているため、サリーとの距離は徐々にひらいていく。

 

「くうう……早いぃ」

 

 サリーは完全に追いつけないことを悟り、速度を落として止まった。あまりメイプルから離れすぎると未だLvが1のサリーでは、モンスターに出会えば即お陀仏だ。そんな状況を迎えないためにも、ある程度の所までしか追えない。

 

「はぁ……捕まえれなかったなぁ……でも、目標ができたから、いっか」

 

 既に夜雪は遥か彼方におり、その背中は豆粒程しか見えなかった。

 だが、夜雪は後悔するだろう。何故ならーーーー夜雪はサリーにロックオンされたからだ。

 

 >>>>

 

「ふぃー。逃げ切れた……と言うか何だあれ、怖」

 

 夜雪は逃げた勢いで、街まで戻ってきていた。まだその心にはサリーに追いかけられたら恐怖があるみたいだが。

 

「ってあれ?待てよ……?もしかして、いやもしかすると……あれって白峯さん⁉︎」

 

 今更ながらにサリーの顔に見覚えがあることに気づき、そしてそれが知人だったことに驚いた。本当に今更であるが。

 

「おおぅマジかぁ……リアルでも気をつけなきゃいけないしゃん」

 

 夜雪は落ち込んだ。ただでさえ目をつけられるような真似をしたのに、今回は完全に目をつけられていた。リアルだとクラスメイトの為、バレたらどうなるかわかったものではない。そんな風に気落ちする夜雪であったが、当の本人たちはと言うと……、

 

「や、やっと三匹目!」

 

「あ、またかかった!」

 

 夜雪を諦め、釣りに精を出していた。平和である。

 

「あ、そうだ。ちゃんと目標の数取れたのか確認しなきゃ………」

 

 夜雪はインベントリを表示して、【白魚の鱗】の数を確認した。

 

「20個か……まぁ大幅に目標超えちゃったけどいいよね」

 

 夜雪に頼まれた数は10個。つまり二倍の数を夜雪は取っていた。

 

「よし、早速造ってもらおう!」

 

 そう意気込んで、夜雪はイズの店へと急いだ。因みに、他の素材については既に持っていたりする。唯一手持ちになかったのが【白魚の鱗】だけだったのだ。

 

「イズさーん!ただいま戻りましたー!」

 

「はいはーい」

 

 店の奥からイズが出てきて、夜雪に応対した。

 

「あら?もうちょっとかかると思ったのだけれど、案外早かったわね」

 

「【釣り】スキルを得たので!」

 

「ああ、そう言うこと」

 

 イズは夜雪が予想よりも早く帰ってきたことに驚き、その理由を知って納得した。

 

「それじゃあまた2日後に来てくれる?他の子の注文が入っちゃって。ああ、もちろんあなたの方を優先するわよ?早かったもの」

 

 イズは申し訳なさそうな顔をしながら、夜雪に言った。

 

「別に問題無いですよー」

 

 ふわりと笑って了承する夜雪。あまりにも返事が軽かったので、イズは夜雪が悪い人間に騙されやしないか心配になった。

 実際は何度か危機的な状況がリアルであったのだが、その度に誰かが未然に防いでいたので、大事になっていないだけだったりする。

 

「それじゃあよろしくお願いします!」

 

「はい。承りました」

 

 夜雪はリズの店を後にした。

 

「さて……あとはどうしようかなぁ」

 

 未だもう少し時間があり、止めるには少し勿体無い気がする夜雪。

 

「レベル上げか……新ダンジョンの開拓か……新スキルの獲得か……あ、次の階層はどうだろう?もしくは有名な場所を探してみるか」

 

 うんうんと唸りながら街の外へと向かっていく。

 と、ふと視界の端に長い赤髪がチラリと見えた。赤髪など何処にでもいるので、夜雪は気にしなかったのだが、向こうの人物は違った。

 

「よ、夜雪さん!」

 

「あれ?ミィ?」

 

 そう。何を隠そう視界の端に映った赤髪はギルド【炎帝ノ国】を支配する少女、ミィだった。

 夜雪とミィは、初めて会った時から時々フレンドメールをしており、それなりと言えるほど仲が良い。まぁ、大体のメールの内容はミィが弱音を言い、それを夜雪が励ますだけなのだが。

 そんなやりとりがあるせいか、ミィは敬意を込めて夜雪をさん付で呼んでいるのだ。夜雪は気恥ずかしい思いをしているので何とかやめさせたがっているが。

 

「直接会うのは久しぶりだね。そういえば第一回イベント五位おめでとう!」

 

 ニコニコと笑顔でミィを讃える夜雪。ミィは顔をほんのり紅くした。

 

「い、いえ。ありがとうございます!夜雪さんも四位おめでとうございます!流石夜雪さんです!」

 

 そう。夜雪の順位は実は四位に上がっていた。と言うのも、最後の大規模な攻撃で大量に倒した為に、それがカウントされて順位が上がったのだ。

 

「ミィ、その方は?」

 

 楽しげに会話をしていると、話しかける女性がいた。夜雪が目を向けると、長く美しい金髪と透き通る緑目を持ち、神官のような服装を着ているとある部分が大きい女性がいた。右手には、先端に飾りのついた白い長杖を持っている。

 

「あ、そうだね。えっと、こちら夜雪さん。私がまだ初心者の時に手助けしてくれた人で、とっても強いの!」

 

 ミィが女性に夜雪のことを紹介する。

 

「で、夜雪さん。こちらミザリー。聖女って呼ばれてて、回復魔法が得意なんです。今は私の補佐役をしてもらってます」

 

 ミィが夜雪にミザリーを紹介する。

 

「どうも、夜雪です。よろしくお願いします」

 

「これはご丁寧にどうも。ミザリーです」

 

 お互いに頭を下げて挨拶をする。夜雪とミザリーはこれから仲良くできそうだと謎の確信を得た。二人してニコリと笑い合う。

 

「………?」

 

 ミィは二人が何故笑いあったのか分からず、二人の顔を交互に見て最後に首を傾げた。

 それからまた会う約束をしてから二人と別れ、街の外へ出る……直前に、夜雪はフレデリカと出会った。

 

「や、やぁ。……フレデリカ」

 

 ここで出会うと思っていなかった夜雪は引き攣った笑顔でフレデリカに挨拶した。

 

「あれ?夜雪じゃない!」

 

 夜雪と会い、花が咲くような笑みを浮かべるフレデリカ。二人の顔は対照的である。

 

「こんなところでどうしたの?」

 

 フレデリカは不思議そうに夜雪に聞く、探そうとしても見つけられない夜雪が、何故今日目の前に現れたのか不思議でならないのだ。まぁ実際は夜雪がフレデリカを避けているだけであるが。

 

「あーえっと、ちょっと散歩に……」

 

 苦し紛れに夜雪は言う。

 

「ふーん……じゃあ暇なんだ?」

 

 意味深な聞き方をするフレデリカ。夜雪は不穏な空気を察知した。

 

「あー、いや。別に暇というわけでは……」

 

「ねぇねぇ。私行ってみたい場所があるんだ〜」

 

 フレデリカはそう言って、強引に夜雪の手を引く。

 

「え、あ、ちょっ!」

 

 咄嗟のことで反応できない夜雪。そのまま流れるように腕を組まれ、街を出た。

 

「よ〜し! 行こう〜!」

 

 気の抜けるような掛け声を出して、二人は森の奥へと消えていった。

 

 >>>>

 

 一方その頃。メイプルとサリーはと言うと、夜雪同様釣りをしていた。サリーは釣りというより素潜り漁と言うべきだが。

 夜雪と別れてから順調に魚を狩っていき、その数は80枚を優に超えていた。

 それをメイプルに渡して、潜水している時に見つけた横穴のことを話した。

 恐らくはダンジョン。地底湖に沈んでいることから、水中系のダンジョンだとサリーは予想した。そう言うわけでサリーは【潜水】と【水泳】のスキルレベルを上げている。

 

(メイプルやあの男の人に追いつくには、これぐらいしないといけない。ダンジョン初攻略に貰えるユニークシリーズ。これを確実に得る!)

 

 サリーは気持ちを新たに、スキルレベルを上げていく。メイプルは遥か先にいる。洞窟で別れた男性だって、もしかしたらメイプルよりも遥か遠い場所にいるのかもしれない。今現在でさえ油断ならない。メイプルに近づく為に。男性を超える為に。強く強く、ならなければならない。

 初めのダンジョンでなんか、躓いてられない。

 

「プハッ!」

 

 ザバリと水から顔を出し、空気を取り込む。と、同時にスキルレベルが上昇したアナウンスが流れてきた。

 

(絶対、負けない!)




 フレデリカ……強引な子になったなぁ。後悔はないけど。


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