白兎が怪人になるのは間違っているだろうか (白米は正義)
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プロローグ

僕、ベル・クラネルはオラリオに着いたその日の夜にどこかにへと連れ込まれた。

 

手足を縛られ、目隠しに猿轡をつけられたまま放置されていたが、どこからか悲鳴のような叫び声が聞こえて来る。

 

怖くて震えながら聞きたくもない悲鳴を二十回近く聞いた所で、僕の身体は誰かに抱えられて宙に浮いた。

 

「テメェで今日の実験が最後か・・・。まぁ、()()するだろうがな・・・。」

 

僕を抱えている男がそんな言葉を漏らした。

 

実験・失敗その言葉を聞いて僕は血の気が引いた。

 

人体実験の材料として僕は使われる、そして確実な死を迎えるという事がハッキリと理解出来た。

 

「んっーーーーーーーーーーーーーーー!?」

 

「おいおい、今更暴れたってもう手遅れなんだよクソガキ。」

 

暴れる僕を男はさほど気にした様子も無く歩き続ける。

 

そうして、やって来た場所は血塗れの部屋だった。

 

その部屋の中に不気味な仮面をつけた男がいて、僕を抱えている男と話をしている。

 

『これで最後か。』

 

「あぁ、そうだ。」

 

その会話の後、僕は台座の様な物に乗せられて全身をさらに拘束されてしまう。

 

「それでこのガキには何の魔石を喰わせるんだ?」

 

『そうだな、この強化種ミノタウロスの魔石を使うとしよう。』

 

「こんなガキに強化種の魔石を使うのか?勿体無さ過ぎるだろ。」

 

魔石?使う?何を言っているんだ、この人達は?

 

そんな事を思っていると、胸に鋭い痛みが走ったかと思ったらナイフで斬られていた。

 

その切り口に拳大の極彩色の魔石を押し込まれた。

 

その瞬間、とてつもない激痛と共に頭の中や身体の中を掻き混ぜられているような感覚が押し寄せて来る。

 

ぐぅあああああああああああああああああああああっ!?

 

その押し寄せて来る得体の知れない気持ち悪さに僕は声を抑える事が出来ずに叫ぶ。

 

「うるせぇな、俺は戻ってるぞ。」

 

『あぁ、好きにしろ。』

 

そう言って男の一人はどこかにへと行き、仮面の男が僕の猿轡を外して紫紺色の魔石を口に押し込まれた。

 

 

その瞬間、さっきから僕の中を掻き回している気持ち悪さが更に倍増した気がする。

 

ごぉあああああああああああああああああああっ!?

 

そんな中で僕はこう思った、死ぬと。

 

お爺ちゃんに英雄譚を聞かせて貰って英雄に憧れていた僕は事故でお爺ちゃんを亡くした後に一念発起でこの迷宮都市(オラリオ)に来たけど、どこの派閥(ファミリア)にも入る事が出来なかった。

 

そして、非道な人体実験の犠牲者の一人として死ぬんだ・・・。

 

そう諦めかけていたその時、僕はもう一つの感情が沸き上がって来る。

 

それは、憤怒(いかり)だ。

 

僕はこんな目に遭っている自分に対して憤怒(いかり)を抱いていた。

 

しかし、それと同等にこんな人を人と思わない人体実験(コト)をしている男達にも激しい憤怒(いかり)を抱いている。

 

すると、そんな時身体に変化が訪れた。

 

今まで僕自身の中で渦巻いていた気持ち悪さが綺麗サッパリ消えていた。

 

更に言ってしまえば、今までに類を見ない位に身体に力が漲っている事のを感じるほどだ。

 

『これは・・・成功だ!!』

 

一人だけ残った仮面の男が僕の変化を感じ取り、歓喜の声を上げる。

 

『まさか、最後の最後でこれほどの作品が出来上がるとはな・・・!!』

 

そう言っている仮面の男は興奮冷めやらぬといった感じだ。

 

僕はそんな光景を見た後、身体に力を入れて拘束具を破壊する。

 

『なっ、何!?』

 

幾重にも重ねられた拘束具をいとも簡単に破壊してみせた僕に対して驚愕の声を上げる。

 

「遅い」

 

僕は怒りのままに仮面の男の顔面に拳を叩き込んだ。

 

すると、男の頭はまるで熟れ過ぎた果物の様に潰れてその血が僕の顔に掛かる。

 

「汚いな・・・。」

 

そう言いながら僕は顔に掛かった血を噴くの袖で拭うと、得物になる武器を探すけれど見つからず素手のままで行動するしかなくなった。

 

「確か、僕をここまで連れて来た男が残っていたな・・・。そいつから武器を奪えばいいか。」

 

そう言って僕が部屋を出て少し先に進むと、一つの部屋を発見して中を確認すると、そこには様々な種族がこと切れた状態で放置されていた。

 

「っ!!!」

 

その光景を目にした僕は拳から血が流れだすまで力一杯握る。

 

こんな事が起こっていて良い訳が無い、こんな惨状は僕の番で終わりにするんだ!!

 

そう決意した僕がその部屋を出ると、外では男とその仲間が待ち構えていた。

 

「よぉ、お前死なずに怪人(クリーチャー)になったんだなぁ・・・。」

 

怪人(クリーチャー)?」

 

男の口から聞きなれない言葉が出てきた。

 

すると、男は馬鹿正直にこう言って来る。

 

「あぁ、お前はもうヒューマン(普通)じゃなくモンスターと混じった怪人(化け物)なんだよぉっ!!」

 

指差しながらそう言って来る男に対して僕はこう言った。

 

「そうか、もうヒューマンじゃないんだ。」

 

男に突きつけられた事実を聞いてもポツリと呟きながら僕に動揺は無かった。

 

だって、モンスターの魔石を埋め込まれて普通でいられるわけがないからだ。

 

「まぁ、お前も()()()で俺の操り人形にしてやるよ。」

 

そう言いながら男は一本の短剣を取り出した。

 

「コイツはある呪術師(ヘクサー)に作らせた短剣で、傷を負わせた者を操る事が出来るって代物だ。ここにいる奴はお前と同じように適応した怪人だが理性がぶっ飛んじまってるからコイツで操ってるって訳だ。」

 

自慢気にそう語って来る男に対して僕は行動で応える事にした。

 

ぐちゃりっ。

 

「は?」

 

男の左胸、つまり心臓のある場所が僕の右腕によって貫かれていた。

 

「なぁ・・・っ!?」

 

信じられないといった表情を浮かべる男に対して僕はこう言った。

 

「相手が一人だからって油断が過ぎますよ。」

 

そう言いながら僕は腕を抜き取って付着している血を払い落とすと、周囲の空気が変わったことに気づく。

 

原因は僕の事を取り囲んでいる失敗作と呼ばれている怪人(クリーチャー)もどき達の事だ。

 

支配下に置いていた男が死んで支配から解放されたといった感じか。

 

そして、目の前に居る僕に牙を剥こうとしている。

 

その状況を理解した僕は拳を握り、こう言った。

 

「来い。」

 

『ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』

 

僕の言葉を皮切りに怪人(クリーチャー)もどき達は一斉に襲い掛かってくるが、実際は自分以外は敵といった大乱戦だった。

 

僕は襲い掛かって来る怪人(クリーチャー)もどき達の顎、腕、肩、膝、足を躊躇する事無く砕いて行動不能にしていった。

 

そうして、全ての怪人(クリーチャー)もどき達の動きを止めてから完全に息の根を止める為に頭を踏み砕こうとした瞬間、一体の怪人(クリーチャー)もどきが話しかけてくる。

 

「感謝スル、名モ知ラヌヒューマンヨ。」

 

「(死の間際になって理性を取り戻したのか・・・。)感謝される事はしていないです、これから貴方達を殺そうとしている僕に感謝する事は無いですよ。」

 

素っ気なくそう答えると、言葉を続けて来る。

 

「ソンナ事ハ無イ、貴殿ハ我々ヲアノ男カラ解放シテクレタ恩人ダ。」

 

「・・・っ!!」

 

その言葉を聞いて僕は思わず泣きそうになってしまうが、それを押し殺してこう言った。

 

「最後に、言っておきたい事はありますか?」

 

「無イ。モウ思イ残ス事モ無イカラナ」

 

「・・・そうですか。それでは、さようなら。」

 

その言葉と共に僕の足元は血の海と化していて、その近くにはいくつもの頭の潰された人だったものが存在している。

 

「・・・。」

 

胸の中で渦巻いている虚無感を感じながら通路の奥にへと進んで行くのだった。



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覚悟

僕は英雄になりたかった・・・。

 

おじいちゃんがいつも話してくれる英雄譚に出てくるどの英雄達も物凄くカッコよくて心惹かれる程に心躍った。

 

だからこそ、僕は【英雄】に憧れた。僕自身が【英雄】になりたいとも思った。

 

お爺ちゃんも僕の背中を押してくれた。

 

だからこそ、一念発起で迷宮都市オラリオに来たはずだった。

 

オラリオに着いたその日の夜に訳も解らず拉致されて、怪人(クリーチャー)と呼ばれる存在に改造されて、主犯格の男二人と僕と同じ被害者であるはず怪人(クリーチャー)もどきと化してしまった人達を殺してしまった。

 

英雄と呼ばれる人達とは真逆の道を進んでいる、そんな気がしてならなかった。

 

「何やってるんだろ・・・、僕・・・」

 

そんな事を考えながら通路を歩いていると、反対側から白装束を身に纏った奇妙な二人組が歩いてきた。

 

「何だ、貴様は!?何処から入ってきた!?」

 

何処から入ってきた?ふざけるな、お前らの仲間がここへ連れてきたんだろうが!!

 

その言葉を聞いた瞬間、僕はその二人組に向かって走り出した。

 

「「!?」」

 

ただの子供と思っていたのか逃げるものと思っていたようで二人組は向かってくる僕に対して体を硬直させる。

 

硬直した瞬間を狙って僕は回し蹴りを放ち、二人纏めて行動不能にさせる。

 

「ぐはっ!?」「ぐげっ!?」

 

回し蹴りをまともに受けた一人がもう一人を巻き込んで通路の壁に激突し、痛みで立ち上がること無く地面に蹲る。

 

そんな二人組に僕はこう話しかける。

 

「ここから出るにはどう進めば良いんですか?」

 

そうやって問いかけるも返事がない。

 

気になった僕は二人組の首を触って脈があるかどうかを確認する。

 

そうした所、脈は完全に停止していた。つまり、二人組はあの回し蹴り一発で命を落としたということになる。

 

こうして見ると、本当に僕は普通(人間)じゃなくなったんだと自覚させられる。

 

怪人(クリーチャー)と呼ばれる存在は人類と怪物(モンスター)異種混成(ハイブリッド)な存在。

 

そんな存在にベル・クラネル(ぼく)はなってしまった。

 

これからどうしようか、そんな事を考えながら二人組の死体を放置してその場から離れるのだった。

 

 

十分程歩くと新たな部屋の扉を発見した僕は息を殺して近づき、そっと扉を開いた。

 

その部屋は保管庫になっていて、その中には僕が口にした紫紺の結晶もとい魔石が大量に置かれていた。

 

それを見た僕はこう思った。

 

"あぁ、美味しそう"だと。

 

ハッとなって僕は口を抑える。

 

今、僕は魔石を見てなんで美味しそうだと思ったんだろう・・・。

 

そうか、僕はもうとっくに化け物になってしまったんだと否応でも理解せざるを得なかった。

 

だったら、僕はこのまま化け物のままで前に進んでいこうと覚悟を決めたその瞬間、僕は保管庫にある魔石を()()()()()()

 

僕、ベル・クラネルは怪人(クリーチャー)という化け物でありながら英雄を目指すことにした。



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動き出す闇

魔石を全て食べた僕の身体は今までにないくらいに力が漲る感覚が感じ取れる。

 

「これが魔石を喰らった怪人(クリーチャー)の力なのかな・・・」

 

そう呟きながら僕は保管庫を出ようとはせずに他にもなにか保管されていないかと物色を始める。

 

すると、見つけたのは武器の山だった。

 

僕はいつまでも素手で対処できるとは思えなかった為、その武器の山から一本の長剣を取り出した。

 

黒を基調とし、切っ先が炎の如き形状を取るその黒い長剣は妙に僕の手に馴染んでいる気がした。

 

「ちょうど良いや、この剣は詫び賃代わりに貰っておこう」

 

そう言って僕は黒剣を腰に差し、保管庫を出ると大勢の白装束を身に纏った人達がいた。

 

「よくも、我らが同志達を手にかけてくれたな・・・!!」

 

白装束の人達の中の一人がそう言ってくるのに対して僕はこう言った。

 

「ふざけるな、全てはお前達が招いた事だろう。それに、その報いを受けるのは必然だろう」

 

そう言いながら僕はさっき手に入れた黒剣を抜いた。

 

それを見た一人の白装束が声を上げる。

 

「そ、その剣は《ベーゼ・マーレボルジェ》!?」

 

その男の言葉に他の白装束達がざわめき出す。

 

《ベーゼ・マーレボルジェ》っていうのか、この剣は・・・かっこいいな。

 

思わずのんきにそんな事を考えていると、最初に声を上げた白装束がこう言ってくる。

 

「その剣はバルカ様が制作した呪剣(カースウェポン)の一つ!第一等級武装の特殊武装(スペリオルズ)なのだ、貴様のような薄汚い餓鬼が触れて良いものではないのだ!!」

 

そうやってまくし立ててくる白装束に対して僕はこう言った。

 

「知るか、そんな事」

 

その言葉を最後に僕は目の前にいた白装束を斬り捨てた。

 

斬り捨てられた白装束は悲鳴を上げること無く横に両断されて絶命する。

 

それを皮切りに僕は白装束達を血祭りに上げるために剣を振るい続ける。

 

剣を振るう度に鮮血が舞い散り、周囲を赤く染め上げていく。

 

最後の一人になった白装束に剣を振り下ろし絶命した事を見届けると、通路の奥に目を向ける。

 

「出て来いよ、そこにいるのは解っているんだ」

 

僕がそう言うと、通路の奥から現れたのは一人の女性。

 

「あ〜ぁ、せっかくの兵隊共をこンなに殺ってくれやがってェ・・・。」

 

そう言いながら歩いてくる女性の纏っている雰囲気はさっきの白装束達とは別格だ。

 

「どう落とし前付けてくれンだァ!!」

 

怒りを顕にしながら女性は剣で襲いかかってくる。

 

その時、僕はとてつもない違和感に襲われる。

 

女性の動きが遅過ぎる、これでは格好の的だがそんな事は関係ない。

 

白装束の仲間なら殺す、それだけだ。

 

そう思い、剣を振るった。

 

ザンッッ・・・!!

 

「ぐぎゃああああああああああああああああああああああっっ!?」

 

僕の一振の斬撃を受け、女は激痛による断末魔を上げる。

 

「クソガキがァ〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!」

 

そう叫びながら女は懐からある物を取り出した。

 

『D』の刻印の入った珠ようなモノを取り出したかと思えば上から扉のようなものが僕と女の間に割って入った。

 

僕は女に逃げられてしまった。

 

「くそっ」

 

悪態をつきながら剣にこびり付いた血を払い落とし、鞘に収めて出入り口を探し出す事を再開する。

 

あれからしばらく歩き回ったが、中々出入り口が見つからない。

 

それにつれて苛立ちも大きくなっていくのは気のせいじゃないはずだ。

 

すると、僕の目の前に地下水路らしき場所に辿り着いた。

 

更に言えば、ここは僕が今まで歩いていた通路の出入り口だということだった。

 

僥倖だと思い、僕は右から左へ流れる水の流れに逆らって上流を目指すことにした。

 

すると、水中から魚のモンスターが飛び出してきたが、僕はすかさず抜剣して切り伏せる。

 

「ふぅ、初めてのモンスター撃破がダンジョンじゃなくて下水道かぁ・・・。」

 

そんな不満を漏らしながら僕は倒したモンスターの魔石を一口で飲み込む。

 

魔石を口にしたことで多少の力の上昇は感じられるけど、さっきまでいた通路の保管庫の中にあった魔石の方が質が良いと思った。

 

そう思いながら次は下水路の出入り口を見つけることにした僕は足を動かすことにした。

 

 

 

 

 

一方、その頃・・・・。

 

「くそったれがぁあああああああああああああああああああああああああっ!!あのクソガキ、タダじゃおかねぇぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

身体に包帯を巻き品性の欠片もない喚き声を上げているのはヴァレッタ・グレーデ。

 

七年前、この迷宮都市オラリオを混沌と殺戮で満たした闇派閥(イヴィルス)の幹部である。

 

Lv.5の冒険者であり。二つ名は【殺帝(アラクニア)

 

人の命を奪うことを己の至上としている彼女は今も収まらぬ怒りの衝動を吐露し続ける。

 

その理由は一人の少年(ベル・クラネル)である。

 

その少年に一撃を貰い、深手を負わされたことに怒りを剥き出しに叫ぶ。

 

すると、一人の闇派閥(イヴィルス)がヴァレッタに報告をする。

 

「ヴァレッタ様、報告します。怪人(クリーチャー)量産計画を行っていた者達が殺されていることが判明いたしました。恐らくは・・・、あの子供が実行したものだと思われます」

 

その報告を受けたヴァレッタは瞳孔が開いた眼でこう言ってくる。

 

「ンだと、じゃああのクソガキは唯一の生き残り(完成品)って事か・・・。」

 

いくらか冷静さを取り戻したヴァレッタを見たその闇派閥(イヴィルス)は次の報告を行う。

 

「次の報告です。実は・・・最悪な事に『天の雄牛』に与えるはずだった魔石が保管庫から全て消失しています。恐らくではありますが、例の子供に・・・」

 

闇派閥(イヴィルス)の報告が最後まで発せられることはなかった。

 

何故なら、ヴァレッタがその闇派閥(イヴィルス)の首を自身の得物で切り裂いたからだ。

 

「オイオイ、フザケンじゃねぇぞ!!あのクソガキ、『深層』のモンスター共の魔石を全部喰いやがったのか!?そうなってくりゃあ、階層主の魔石を喰ったことになりやがる・・・。」

 

今までにない事態にヴァレッタは動揺を隠せないでいた。

 

ただでさえ現状でも第一級冒険者の自身に深手を負わすほどの力を持つ怪人(クリーチャー)の少年が万が一にもどこぞの神に神の恩恵(ファルナ)を授かればいよいよ手が付けられなくなってしまう事を瞬時に理解する。

 

そうして、ヴァレッタは大声で闇派閥(イヴィルス)に命令を下す。

 

「てめぇら、今すぐにあのクソガキを回収してこい!!手足を切り落としても構わねぇ、どうせすぐに治っちまうからな!!ただし、この事を勘付かれんじゃねぇぞ!!」

 

その命令を聞いた闇派閥(イヴィルス)達は実行する為に動き始める。



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出会い

下水路を進んでいき、ようやく外へと出ることが出来た僕は久しぶりに浴びる事になったのは陽の光ではなく月の光だった。

 

しかし、今の僕の状態であるなら昼間ではなく夜で助かったと言える。

 

何故なら、白装束達の返り血によって衣類が血塗れになっているからだ。

 

「・・・替えの服も奪って来るんだったな。」

 

過ぎてしまった事を口にしても意味がないと考え、今日身体を休める事の出来る場所を探すことにする。

 

まず最初の条件としてひと目を避けられる場所であることが前提だ。

 

それからどこかで服を調達しなくちゃいけない、いつまでもこんな血塗れの服を着てはいられないから。

 

そんな事を考えていると、数人の男達が僕の事を取り囲んでくる。

 

「へへっ、おいガキ随分と良さそうな剣をぶら下げてんじゃねぇか」

 

下卑た声でそう言ってくるのはまさしく冒険者といった風貌の獣人の男。

 

周囲にいる男達も下卑た笑みを浮かべながら立っている。

 

「それで、僕に何か用ですか?」

 

男達の目的が解っていながらそう言った僕に対して獣人の男はこう言ってくる。

 

「なに簡単な話だ、お前の腰の剣を痛い目に遭う前に俺達に寄越せ。」

 

やっぱりという感情が僕の中で巡った、こいつらの目的は《ベーゼ・マーレボルジェ》。

 

見た目的に弱そうな僕がこの剣を持っているからたかりに来たって事か・・・。

 

そう言ってくる男達に対して僕ははっきりとこう言った。

 

「断る」

 

「なら、しょうがねぇな・・・。やっちまえ、お前ら!!」

 

「「「おおおおお!!」」」

 

それを聞いた男達はさっきよりも醜悪な笑みを浮かべながら襲いかかってくるが、怪人(クリーチャー)になった僕にとってこの程度は襲われた内に入らない。

 

しかし、僕は剣を抜かずに拳で迎撃をする。

 

襲い掛かってきた全員は一撃で倒れる。

 

僕は男達から迷惑料として一時的に着れそうな服と金を全て貰っていく、その後は一瞥すること無くその場から離れるのだった。

 

その後、僕は夜でも開いている呉服店に行き、替えの服を数枚購入してから奪った服をゴミ箱に捨てて一夜を過ごす場所を探すことを再開する。

 

しばらく都市を歩いて見つけたのが、廃れた教会だった。

 

今日はここで一晩過ごそうと思い、中に入ろうとした瞬間背後から数十人程の白装束の者達が取り囲んでくる。

 

「まさか、そっちから来てくれるとは思ってなかったな・・・。」

 

そう言いながら僕は服の入った紙袋を教会の中に放り投げてから剣を抜き、更に言葉を続けた。

 

「死ね」

 

「かかれ!!」

 

そう言ったのを皮切りに僕と白装束との戦いが始まる。

 

とは言ってみたが、所詮は蹂躙の延長線でありすぐに数十人いた白装束達は全員骸と化した。

 

「結局、何をしに来たんだこいつら。」

 

呆れながら骸になった白装束達に一瞥くれずにそう言っていると、教会の方から気配を感じ取り剣を構える。

 

「誰だ!!」

 

「うわぁっ!?」

 

振り向いたその先にいたのは一人の女神だった。

 

「どうしたんだい、少年・・・。こんな夜遅くに一人で出歩くなんて・・・」

 

寝ぼけ眼でそう言ってくる女神は僕の事しか認識できていないようだ。

 

「夜分遅くに騒いでしまって申し訳ありません、名を知らぬ女神様。」

 

僕はそう言って頭を下げる。

 

「実は、少々訳ありでして一晩だけ泊めて頂けないでしょうか?」

 

僕がそう言うと女神様はこう言ってくる。

 

「う~ん、別に構わないよ。でも、静かにしていてくれよ、ボクはバイトをして疲れているんだ。」

 

そう言ってくる女神様に対してボクはこう言った。

 

「感謝します、女神様」

 

そう言って僕は教会の中に入り、一夜を過ごすのだった。



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【ヘスティア・ファミリア】

教会の長椅子の上で一夜を過ごした僕は女神様よりも早く目を覚まして教会の周辺に散乱している死体を人目の付かない場所にへと運び込み、土の中にへと埋める。

 

その後、すぐに僕は昨日買ってきていた服に着替え、血と土で汚れた服を燃やして証拠隠滅をする。

 

それら全てが終わると、女神様が起きてきた。

 

「ふぁあ~~、おはよう少年」

 

そう朝の挨拶を言ってくる女神様に僕も朝の挨拶で返す。

 

「おはようございます、女神様」

 

それを聞いた女神様がこう言ってくる。

 

「あぁ、そういえば自己紹介がまだだったね。ボクの名前はヘスティア、炉の女神だよ。ボクの事は好きに呼んでくれて良いからね!!」

 

「それでは僕も自己紹介を。ベル・クラネルといいます」

 

互いに自己紹介をすると、ヘスティア様がこう言ってくる。

 

「ベル君、良かったら朝食を一緒に食べないかい?」

 

「いいんですか?」

 

ボクが聞き返すと、ヘスティア様がこう言ってくる。

 

「もちろんさ、一人で食べるご飯は味気ないじゃないか。それとも、君は一人で食べるのが好きなのかい?」

 

その言葉に対して僕はこう言った。

 

「いえ、いただきます」

 

僕の言葉を聞いてへスティア様が持ってきてくれたのはなにかを油で揚げた食べ物だった。

 

「ベル君。これはじゃが丸くんと言ってね、オラリオの名物なんだよ!!」

 

僕が聞く前に教えてくれたヘスティア様の言葉を聞いて一口頬張る。

 

揚げ立てではないにしろ、これは味は無いけど芋本来の甘さがお腹にズシンと来るけど満たされる感覚が心地良いな。

 

そう思いながらもう一口頬張ると、一個のじゃが丸くんを食べ終える。

 

「良い食べっぷりだね、たくさんあるからいっぱい食べると良いよ。それから塩胡椒で味を付けても美味しいよ!」

 

それを聞いた僕は二つ目のじゃが丸くんを手に取って塩胡椒で味を付けて頬張る。

 

すると、塩っ気が足されるとさらに芋の甘みが強調されて良いなと思っていたら次に胡椒の刺激で引き締まる。

 

そこから僕は、夢中になってじゃが丸くんを食べた。

 

その姿を見ていたヘスティア様が優しく笑っていたことを僕は知らない。

 

お互い朝食を済ませると、ヘスティア様がこんな事を聞いてくる。

 

「ベル君は都市外からやってきた子だよね、その髪は目立つから見かければ気づくからね」

 

その言葉に対して僕はこう言った。

 

「・・・ヘスティア様、昨日僕が言ったことを覚えていますか?」

 

「あぁ、何やら訳ありだって言っていたね」

 

「実は僕ベル・クラネルは人類と怪物(モンスター)が入り交じった存在、怪人(クリーチャー)なんです」

 

「へ?」

 

僕の告白にヘスティア様はきょとんとしてしまう。

 

「実はですね・・・」

 

そう言って僕は自身に起こった出来事を全て話した。

 

すると、ヘスティア様は僕のことを優しく抱擁してくれた。

 

「それは辛かったね、よく頑張ったね」

 

そう言いながら頭を撫でてくれた。

 

その瞬間、目から大粒の涙がこぼれ出てくる。

 

「うぅ・・・っ、ひっ・・・・・・ひぐぅっ・・・・・・」

 

止めどなく流れ出してくる涙滴は地面に落ちては消えていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして、涙を出し切った僕はヘスティア様にこう言った。

 

「ヘスティア様、僕を貴女の眷族にして頂けませんか?」

 

「もちろんさ、ベル君!!」

 

こうして僕はヘスティア様の眷族となり【ヘスティア・ファミリア】結成となった。

 

「それじゃあ今から恩恵(ファルナ)を刻むぜ!!」

 

「はい、ヘスティア様」

 

そうして、ヘスティア様が僕に『恩恵』を刻み、【ステイタス】を確認すると・・・。

 

「な、なんじゃこりゃ~~~~っ!?」

 

「ヘスティア様、どうかしたんですか!?」

 

突然、叫び声を上げるヘスティア様に僕が驚く。

 

すると、ヘスティア様は手早く羊皮紙に僕の【ステイタス】を書き写していき、見せてくれる。

 

「ベル君、これが君の【ステイタス】だぜ・・・」

 

なにやら疲れた様子のヘスティア様から手渡された羊皮紙に書き写されている【ステイタス】を確認する。

 

ベル・クラネル

 

Lv.7

 

力SSS1890 耐久SSS1460 器用SSS1781 敏捷SSS2140 魔力I0

 

幸運EX 怪人EX

 

人怪融合(モンストルム・ユニオン)

異種混成(ハイブリッド)

超越界律(ネオイレギュラー)

神理崩壊(ステイタス・バグ)

穢霊侵食(アニマ・イロ―ジョン)

 

超越怪人(オーバーロード)

無限再生(アペイロン・リバース)

無限成長(アペイロン・アウクセシス)

限界突破(クリティカルオーバー)

 

捕食者(プレデター)

完全回復(フルリカバリー)

怪物喰い(モンスター・イーター)

 

才禍の怪物(モンストルム・タレント)

・超早熟する

怪物(りかい)が続く限り

効果持続

怪物(りかい)の丈により効果向上

 

 

 

「これは・・・」

 

スキルの所を見ると、怪人になった影響がはっきりと出ている。

 

普通では無いことを再認識させられる。

 

そう考えていると、ヘスティア様がこう言ってくる。

 

「ベル君、気にすることじゃないぜ」

 

「え?」

 

まるで今自分が考えていたことを見透かしているかの様な言葉に僕は戸惑う。

 

「どんなスキルを得ようとも君は君さ。それに、君は『英雄』になるんだろ?」

 

「!!」

 

その言葉に僕は気づかされる。

 

僕は何のためにオラリオ(ここ)に来たのかと・・・。

 

それは読んでいた英雄譚に出てくる英雄のようになりたいと思ったからだ!!

 

「そうですよね、こんな事でへこたれていたら英雄になる所か冒険者になる事も出来ないですよね!!」

 

「その通りだぜ、ベル君!!」

 

こうして、僕の【眷族の物語(ファミリア・ミィス)】が始まるのだった。



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冒険者登録

『恩恵』を授かった僕は【ステイタス】を書き写した羊皮紙の名前とLv.だけを切り取った紙を持ってギルド本部にへと歩いて行く。

 

「あの、すみません。冒険者登録をしたいんですけど・・・」

 

ギルドに辿り着いた僕は受付まで行き、声をかけると眼鏡をかけたエルフの女性職員がこう言ってくる。

 

「冒険者登録ですね、それではこちらの紙に記載をお願い致します」

 

そう言われて僕はサラサラと登録紙に記載していく。

 

そうして書き終わった所でエルフの女性職員に手渡した。

 

すると、女性職員が顔を顰めた後こう言ってくる。

 

「申し訳ありません、Lv.の偽装は禁止されているのですが?」

 

まぁ、確かに恩恵を授かったばかりの新人冒険者がいきなりLv.7を名乗ればそういった反応になるのは当然だ。

 

そこで、僕は先刻更新してもらったばかりの【ステイタス】が記載された羊皮紙を女性職員の前に出してこう言った。

 

「これが先刻僕の主神に刻んでもらった『恩恵(ファルナ)』から読み取ってもらった【ステイタス】です、これを見て貰えば信じて貰えますよ」

 

羊皮紙を受け取った女性職員が目を通すと驚愕の表情を浮かべながら僕と羊皮紙を交互に見てくる。

 

それが終わると、女性職員は頭を下げて謝罪をしてくる。

 

「大変申し訳ありませんでした、クラネル氏。確かにここに記載されている【ステイタス】は本物のようです」

 

そう言ってくる女性職員に対して僕はこう言った。

 

「仕方が無いですよ、今日初めて冒険者登録をしに来た人がLv.7なんて言えば嘘をついているんじゃないかって疑うのは当然ですよ」

 

「お気遣い感謝します」

 

そう言って女性職員は頭を下げる。

 

「それじゃあ、僕は帰ります」

 

「お待ちください」

 

そう言って踵を返そうとしたら女性職員に止められた。

 

「なんですか?」

 

「冒険者登録をされに来た方にはギルド職員が専属アドバイザーを務めさせて頂くので…」

 

「じゃあ、あなたがいいです」

 

「え?」

 

僕の言葉を聞いて女性職員の人はキョトンとした表情を浮かべる。

 

「貴女が良いと言ったんですよ」

 

「は、はい!解りました、それでは冒険者ベル・クラネル氏のアドバイザーは私エイナ・チュールが勤めさせていただきます」

 

「解りました、それじゃあエイナさんこれからよろしくお願いします」

 

「こちらこそよろしくお願いします、クラネル氏」

 

女性職員もといエイナさんと互いにこれからの事で挨拶し合った後、僕にこう言ってくる。

 

「クラネル氏は冒険者となられたばかりなので初心者講習を受けることが出来ますが、どうされますか?」

 

「是非お願いします」

 

「解りました、こちらの別室にいらしてください」

 

そう言われて案内されたのが、黒板と教卓と机と椅子が置かれているだけの部屋だった。

 

「よいしょっと」ドスン

 

そう言ってエイナさんは教卓の上に軽く三重は越える大量の教材らしき本の山が置かれていた。

 

「それでは、始めましょうかクラネル氏」

 

「解りました」

 

こうして、エイナさんによるダンジョン講習が始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

講習が終わると、外はすっかり暗くなっていて今日の所はダンジョン探索はお預けだなと判断した。

 

「お疲れ様、ベル君」

 

「ありがとうございます」

 

エイナさんの僕の呼び方が柔らかくなったのは名字呼びに慣れていない僕が頼んだからだ。

 

そして、僕はエイナさんの講習をなんとか合格することが出来た。

 

「それじゃあ、僕はこれで」

 

「うん、明日はダンジョンに潜るんだよね」

 

「はい、そう思っています」

 

エイナさんが明日の予定を聞いてくるので答えると、こう言葉を続けてくる。

 

「それなら絶対に忘れちゃいけない事はなんだったかな?」

 

「冒険をしない、でしたね。コレばかりは賛同しかねますけどね」

 

「安全にダンジョンを探索するための言葉だからちゃんと守ること、解った‼」

 

「…善処はしますよ」

 

そう言って僕は神様の待つ本拠(ホーム)へと帰るのだった。

 

 

 

 

 

 

「おっかえり〜、ベル君‼」

 

本拠(ホーム)に帰ると、神様が抱きついてくるのを受け止める。

 

「危ないじゃないですか、神様。そんな勢い良く来られたら倒れちゃいますよ」

 

そう言いながら僕は神様を降ろす。

 

「実はね、今日屋台の店長がボクに初めての眷属が出来たお祝いにこんなにじゃが丸くんをくれたんだ‼」

 

「それは良かったですね、それじゃあ早速食べましょう」

 

「うん」

 

そうして、僕と神様はじゃが丸くんを頬張るのだった。

 

食事が終わると、神様がこう言ってくる。

 

「そういえばベル君は今日ダンジョンに潜ったのかい?感想を聞かせておくれよ」

 

「いえ、今日は冒険者登録を済ませた後はずっとアドバイザーになってもらったギルド職員にダンジョンのことを教えてもらってました。」

 

「へぇ、それじゃあダンジョンには潜ってないんだね」

 

「はい。でも、明日は潜るつもりですよ。」

 

神様の言葉に僕はそう言いながら水を飲み干した。

 

「それじゃあ、おやすみなさい神様」

 

「うん、おやすみベル君」

 

明日に備えて僕は神様よりも先に眠りについた。



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ダンジョン

冒険者登録を済ませた翌日、眼を覚ました僕は神様の朝食(昨日のじゃが丸くん)を用意してから装備を整えて本拠(ホーム)を出る。

 

「行ってきます、神様」

 

そう言ってからダンジョンを目指して歩き出すのだった。

 

ダンジョンに向かっている途中、ある視線が僕に向けられている事に気づいた。

 

その視線というのが、値踏みをするようなそんな感じだ。

 

ただ、何かを仕掛けてくる様子はなくひとまずはこちらも様子見を決め込むことにした。

 

その後は何事もなくダンジョンに辿り着いた僕は冒険者として足を踏み入れると、地上とは別の場所だと否応でも解らされる。

 

張り詰めた空気がベッタリと張り付いているような感覚がある。

 

そんな感覚を感じながらもダンジョンの奥にへと足を進めていくと、目の前でゴブリンが三匹生み出された。

 

ダンジョンからモンスターが現れるところを始めて見た僕はどういう構造になっているのかを疑問に思ったが、それは気にしないことにした。

 

僕は剣を抜くこと無く蹴りで先手必勝とばかりにゴブリン三匹を屠り、魔石を回収すると咀嚼する。

 

「不味い」

 

その一言だけを漏らして更に下の階層を目指して足を運んで行く。

 

それから二・三・四・五・六・七・八・九・十・十一・十二階層を踏破していき、中層である十三階層に辿り着いた。

 

「これじゃあ足りないな」

 

そう言いながら上層で集めた魔石や怪物素材(ドロップアイテム)の入った背嚢の重みを感じて進んでいると、中層のモンスターであるアルミラージとヘルハウンドが襲い掛かってくる。

 

それも数十体の群れ単位でだ。

 

だけど、それでも僕の相手にはならず全て魔石や怪物素材(ドロップアイテム)に変え、背嚢の中に詰め込んでいく。

 

そこからはさっきと一緒で各階層を踏破していき、迷宮の孤王(モンスターレックス)ゴライアスの出現する十七階層まで降りてきた。

 

「さて、階層主の魔石ってどんな味がするんだろうな」

 

そう言いながら進む僕はゴライアスが出没する場所・嘆きの大壁に辿り着くと、そこには黒髪黒褐色の巨人が立っていた。

 

それを確認した僕はここで初めて剣を抜き、背嚢を手放した瞬間一気に駆け出した。

 

ドサッと背嚢が地面に落ちた音に反応してゴライアスが視線を向けようとした瞬間、両足首が切断される。

 

『ッ!?』

 

突然のことにゴライアスは叫び声を上げようとするもそれは出来なかった。

 

何故なら、既に首が両断されているからだ。

 

その瞬間、ゴライアスは灰へと変わり果てると共に魔石と怪物素材(ゴライアスの歯牙)が残った。

 

こうして、僕の初めての階層主討伐は圧勝で幕を閉じ、それと共にゴライアスの巨大な魔石を運ぶために初めてのダンジョン攻略も幕を閉じることになった。

 

 

地上に戻ってギルドに向かうと、大騒ぎになるもなんとかゴライアスの魔石の換金を済ませることが出来た。

 

階層主(ゴライアス)の魔石の換金総額1500万ヴァリス、階層主の魔石だけでこれだけの金額になるとは思わなかったなと思いながらまだまだ空きのある背嚢の中を満たす為にもう一度ダンジョンへと潜ることにした僕は金の入った麻袋を魔石などが入った背嚢とは別の背嚢に入れてからダンジョンへと戻っていくのだった。

 

ダンジョンに戻ってきた僕は上層をさっさと踏破し、中層も十七階層まで降りてきた。

 

嘆きの大壁に戻ってくると、ミノタウロスが十数体の群れとして誕生して来る。

 

そして、僕を見つけるや否や襲い掛かって来る。

 

それに対して僕は剣を抜き放ち構えようとした時ある可能性を見出した。

 

それは魔石の摂取による能力上昇(ステイタス・アップ)が見込めるのであればモンスターの血肉を喰らえばどうなるのかという事だった。

 

魔石が可能であるならば血肉でも可能であろうと判断した僕は剣を抜かずに一番近くまで来ていたミノタウロスの喉に噛み付き、喰い千切ると共に呑み込んだ。

 

すると、僕は身体の奥底から力が溢れて来る感覚を味わった。

 

これで確証を得られた、怪人(クリーチャー)となった僕は魔石だけでなくモンスターの血肉でも力を上昇させられる…!!

 

予想以上の成果に満足出来た僕は強化された肉体のみでミノタウロスを殲滅し、魔石と怪物素材(ミノタウロスの角)を回収し、他のモンスターの魔石なども集めながら地上に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

地上に戻り、換金と買い物を済ませて本拠(ホーム)に帰って来ると、バイトで疲れたヘスティア様が寝台(ベッド)で休まれていた。

 

僕はヘスティア様を起こさないように夕食の準備にへと取り掛かる。

 

まず最初に汁物(スープ)から作っていき、次にサラダ、副菜、主菜(メイン)を作り終えるとヘスティア様を起こす。

 

「ヘスティア様、起きて下さい。夕食の用意が出来ましたよ」

 

「うぅん、分かったよべるくぅん…」

 

眼をしょぼしょぼさせながら席に着くヘスティア様に眠気覚ましに冷水をコップに注いで手渡すとヘスティア様は意識を覚醒させる。

 

「ありがとう、ベル君」

 

「いえいえ、さっそく食べましょうヘスティア様」

 

「うん!!」

 

『いただきます』

 

そうして、僕とヘスティア様は夕食を楽しむのだった。

 

夕食を食べ終えて片づけを済ませると、本日の【ステイタス】更新を行う。

 

「ベル君、たった一回で【ステイタス】が劇的に変化するんだったらこの下界は第一級冒険者だらけだよ~」

 

「それでも、僕は一刻も早く強くなりたいんです」

 

ヘスティア様とそう話しながら【ステイタス】を更新していくと、大声が響き渡る。

 

「なんだいこれは~~~~~~っ!!?」

 

「どうかしたんですか、ヘスティア様?」

 

「ちょっと待っていてくれベル君、今書き写すから!!」

 

ヘスティア様はそう言って手早く羊皮紙に【ステイタス】書き写し見せて来る。

 

ベル・クラネル

 

Lv.7

 

力SSS1890→2134 耐久SSS1460→1718 器用SSS1781→2099 敏捷SSS2140→2590 魔力I0

 

幸運EX 怪人EX 

 

人怪融合(モンストルム・ユニオン)

異種混成(ハイブリッド)

超越界律(ネオイレギュラー)

神理崩壊(ステイタス・バグ)

穢霊侵食(アニマ・イロ―ジョン)

 

超越怪人(オーバーロード)

無限再生(アペイロン・リバース)

無限成長(アペイロン・アウクセシス)

限界突破(クリティカルオーバー)

 

捕食者(プレデター)

完全回復(フルリカバリー)

怪物喰い(モンスター・イーター)

 

才禍の怪物(モンストルム・タレント)

・超早熟する

怪物(りかい)が続く限り効果持続

怪物(りかい)の丈により効果向上

 

怪物恩寵(モンストルム・アムブロシア)

強喰増幅(オーバーイート)

無限暴喰(ベルゼブル)

尽喰貪王(タイラント)

完全擬態(アブソル―ト・コピー)

成長増強(ビルドアップ)

 

【グラト二―・サーベラス】

付与魔法(エンチャント)

・炎属性・雷属性

魔力吸収(マジックドレイン)

損傷吸収(ダメージドレイン)

生命吸収(エナジードレイン)

呪詛吸収(カースドレイン)

・詠唱式『幾ら喰らえどもこの()から溢れ零れでる飢餓(うえ)は満たされぬ』『美食()でも悪食()でも満たされぬ』『既にこの身は穢され侵食(おか)され禊も浄化も救恤(すく)いすら皆無()く罪過の烙印を刻み込む』『飢餓(うえ)象徴(しょうこ)たる(ぜん)大地(つち)を侵し、大海(うみ)を穢し、大空(そら)を閉ざす』『食物を喰らい、怪物を喰らい、精霊を喰らい、他者を喰らい、恩恵を喰らい、呪詛(のろい)を喰らい、病魔(やまい)を喰らい、意思を喰らい、誇りを喰らい、魂魄(たましい)を喰らい、我が身すらも喰らう底無し穴の幽鬼』『森羅万象全て喰らい貪り味わい飲み込み己が血肉と化す』『たとえこの身この魂が無間の地獄に堕ちようとも喰らい続ける』『この身はいずれ神々をも喰らおう』『蹂躙し数多を飲み干し平らげる 暴喰の覇道ここに極まれり』『暴悪に喰らい尽くす原罪の一角たる暴喰の化身(けもの)が胎動する』

 

 

【アウレー・エウアンゲリオン】

・回復魔法

・詠唱式『奏でられるは堅琴の音色』『その音色は優しき魂の平穏へと導く静寂の園へと通ずる』『静寂の園で響き渡るは聖鐘楼の福音』『静寂(しずか)なる悠久の時間(ひととき)はゆっくりと流れる』

 

「これは・・・」

 

僕は驚きを隠せなかった、たかが一度モンスターを喰らっただけでこれほどの魔法二つを得るほどの経験値(エクセリア)が得られたという実感がない。

 

すると、ヘスティア様が驚く僕に対してこう言ってくる。

 

「ベル君、今日ダンジョンでなにがあったのか教えてくれるかい?」

 

「はい、解りました。」

 

そうして、僕はヘスティア様に今日ダンジョンの出来事を全て話した。

 

「モンスターを食べるなんて身体の方に異常はないのかい?」

 

「はい、それどころか身体の奥底から力が溢れ出てくるんですよ」

 

ヘスティア様の言葉に僕はすこぶる調子が良い事を伝えるのだった。

 

「それなら良いんだけど無茶だけはしないでおくれよ、君に何かあったらボクはまたひとりぼっちになってしまう···」

 

「大丈夫ですよ、ヘスティア様。僕は絶対にヘスティア様を一人にはしませんよ」

 

「ベル君···」

 

僕の言葉に感動したのかヘスティア様は笑みを溢していた。

 

「それじゃあ僕はダンジョンに行ってきますね」

 

「うん、行ってらっしゃい!!」

 

そうして、僕はヘスティア様に見送られてダンジョンにへと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダンジョンに着くと、僕は上層ー中層を早々に踏破し下層巨蒼の滝(グレートフォール)に辿り着く。

 

「ここが第二の死線(セカンドライン)・・・」

 

そう呟きながらも僕は足を進めていくと、水中からモンスターが飛び出してくる。

 

アクア・サーペントが三匹、ブルークラブ四体が一斉に襲いかかってくるのに対して僕は剣で一太刀で切り捨て、魔石と怪物素材(ドロップアイテム)を回収してからさらに下層にへと降りていくのだった。



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深層

更にダンジョンの下層に向かって降りて行くと、僕はついに『真の死線(トゥルー・ライン)』である深層に辿り着くのだった。

 

三十七階層『白宮殿(ホワイトパレス)

 

ダンジョンの最大危険層域に足を踏み入れ歩みを進める僕は襲い掛かって来るモンスターを粉砕していく。

 

すると、ここで僕はある気配を感じ取った。

 

その気配は現れては消え失せるという事を繰り返している、それが気になった僕はその不思議な気配がする場所にへと向かうのだった。

 

辿り着いたその場所は闘技場(コロシアム)のような場所で、その中ではモンスター同士の殺し合いが行われていた。

 

「こんな場所もあるんだな…」

 

そう言いながら僕は闘技場(コロシアム)の中にへと足を踏み入れた瞬間、モンスター達が異分子である僕を排除しようと咆哮を上げ敵意を、殺意を纏いながら迫って来る。

 

比喩抜きに僕は闘技場(コロシアム)中にいたモンスター全ての標的になったようだが、迫り来る怪物達の大軍を見て思わず笑ってしまい、こう呟いた。

 

「せっかくだから魔法を使ってみよう」

 

『幾ら喰らえどもこの()から溢れ零れでる飢餓(うえ)は満たされぬ』『美食()でも悪食()でも満たされぬ』『既にこの身は穢され侵食(おか)され禊も浄化も救恤(すく)いすら皆無()く罪過の烙印を刻み込む』『飢餓(うえ)象徴(しょうこ)たる(ぜん)大地(つち)を侵し、大海(うみ)を穢し、大空(そら)を閉ざす』『食物を喰らい、怪物を喰らい、精霊を喰らい、他者を喰らい、恩恵を喰らい、呪詛(のろい)を喰らい、病魔(やまい)を喰らい、意思を喰らい、誇りを喰らい、魂魄(たましい)を喰らい、我が身すらも喰らう底無し穴の幽鬼』『森羅万象全て喰らい貪り味わい飲み込み己が血肉と化す』『たとえこの身この魂が無間の地獄に堕ちようとも喰らい続ける』『この身はいずれ神々をも喰らおう』『蹂躙し数多を飲み干し平らげる 暴喰の覇道ここに極まれり』『暴悪に喰らい尽くす原罪の一角たる暴喰の化身(けもの)が胎動する』

 

【グラト二ー・サーベラス】

 

詠唱を完成させ魔法名を言った瞬間、僕の身体と剣は燃え盛る赫焱(ほのお)と激しく迸る金雷(いかづち)を纏っている。

 

「行くぞ」

 

その言葉を最後に僕は怪物達の大軍にへと突撃する。

 

バーバリアン、ルー・ガルー、スカル・シープ、ペルーダ、スパルトイ、リザードマン・エリート、オブディシアンソルジャーを瞬きの間に魔石や怪物素材(ドロップアイテム)にへと変えて行くが、ここで違和感に気が付く。

 

その違和感というのがモンスターが減っていない事だ。

 

すると、背後からルー・ガルー二匹が襲って来るが回転斬りで対応すると正面の壁からモンスターが二匹誕生する。

 

「チッ」

 

僕は思わず舌打ちをしてしまうが、丁度良いとまで思ってしまった。

 

際限なく誕生(うまれ)るのなら今まで溜めこんでいた精神的疲労(ストレス)解消に利用しようと考えた。

 

そう決めた僕は地面に落ちていた魔石数個を拾い上げ喰らったその瞬間、赫焱(ほのお)金雷(いかづち)の勢いが増幅しモンスターを焼いている。

 

「はああああああああああああああああああああああああああっ!!」

 

炎雷を纏った肉体で同じく焱雷を纏う長剣を振るいモンスター全てを爆砕して見せた。

 

更に今以上にモンスターが生み出されないように壁に斬撃と魔法を刻み込んだ。

 

その後、魔法を解除し一息入れるのだった。

 

エイナさんから聞いて居たダンジョンの壁は傷つけられると修復の為にその間モンスター生み出さない事を。

 

その特性を利用した僕は大量の魔石と怪物素材(ドロップアイテム)を手に入れる事が出来た。

 

しかし、大量の魔石は疲労回復の為に半分以上が僕の胃袋に消えてしまった。

 

その為、僕は更に魔石を求めて深層にへと降りて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、四十九階層に辿り着くと山羊型の獣人のモンスター・フォモールが大挙して襲って来る。

 

「消えろ」

 

その一言だけ言い瞬殺した跡、魔石を回収した時点で背嚢の容量が限界を迎えたため地上に戻ることになった。

 

地上に戻ってくると、ギルドに訪れて魔石を換金し終えると真っ直ぐに本拠(ホーム)に帰るとそこには優男風の男神と犬人(シアンスロープ)の女性がいました。

 

「おかえり、ベル君」

 

そう言って僕を出迎えてくれるヘスティア様に問いかける。

 

「ヘスティア様、こちらの男神と眷族の方は…?」

 

「自己紹介が遅れてしまったな。私は【ミアハ・ファミリア】主神のミアハだ。こっちは私の眷族でナァーザだ」

 

「初めまして・・・、ナァーザ・ミリスイス・・・です」

 

そう言って自己紹介してくる犬人(シアンスロープ)の女性。

 

「初めまして、僕はヘスティア様の最初の眷族でベル・クラネルといいます」

 

僕も間髪入れずに自己紹介をするのだった。

 

何故、この二人が来ているのか疑問に思ったがミアハ様の次の言葉で得心する。

 

「私達の派閥(ファミリア)は商業系で、「青の薬舗」という店をしているのだ。ナァーザは薬師なのだ」

 

「なるほど、宣伝という意味でもということですね」

 

「まぁ、そういったところだ」

 

中々に商魂あるな、この神様と内心思いながらミアハ様が懐から青い液体の入った試験瓶を取り出した。

 

「それでは、ベルよお近付きの印にこれを渡そう」

 

そう言ってくるミアハ様に言われるままに受けとるとこう言ってくる。

 

「それはさっき出来立ての回復薬(ポーション)だ、役立たせてくれ」

 

「いや、売り物を無料(タダ)では受け取れませんよ!!」

 

「なに、タダとは言っておらんよ。今後とも良き隣人でありたいためだ」

 

「ホント商魂逞しいですね・・・」

 

そんな会話をした後、ミアハ様達は帰っていくのだった。

 

ミアハ様達が帰られた後、僕と神様は夕食を済ませて明日に備えて眠るのだった



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詭弁

ミアハ様達と顔合わせをした翌日、僕は軽く腹拵えをして背嚢を五つに増やしてからダンジョンに向かう。

 

ダンジョンに着くと、昨日同様に上層と中層を早々に踏破し下層に辿り着く。

 

そして、僕は下層のモンスターを相手に魔石や怪物素材(ドロップアイテム)を採取しながら進んでいくと、水中からブルー・クラブの大群が大挙して襲ってくる。

 

それに対して僕は遭遇瞬殺と言わんばかりの速さで屠り、魔石と怪物素材(ブルー・クラブの鋼殻)へと変えるのだった。

 

それらを回収し更に下に降りていくのだった。

 

二十七階層まで降りてくると、僕は妙な気配を感じ取り正規ルートから外れて小さい広間(ルーム)に入るのだった。

 

その瞬間、僕の後ろから見覚えのある白装束達が小広間(ルーム)に大勢で押し寄せてくる。

 

「またお前らか・・・」

 

嫌悪と憎悪丸出しの表情をしながら僕はそう言うと、白装束がこう言って来る

 

「死ねぇ、化け物がぁっ!!」

 

そう言うと同時に白装束共が各々の得物を持って襲いかかって来る。

 

僕は担いでいる背嚢を手放した瞬間、剣を抜いて白装束共を血飛沫を上げながら斬り捨てていく。

 

「馬鹿な・・・、あれだけの数の同士達を相手にして返り血も浴びずに無傷だと・・・っ!?」

 

「さっきまでの威勢はどうした、同志達という奴等がいなきゃダメなのか?」

 

「ふざけるな、貴様なんぞこの私だけで十分だ!!死ねぇ!!」

 

「お前が死ね」

 

叫びながら剣を持って振り下ろしてくる白装束を僕は頭から兜割りで一刀両断した。

 

白装束全てを鏖殺したことを確認した僕は死体をそのままにして下の階層に降りていく。

 

あの後、僕は苛立ちを発散させるためにモンスターに八つ当たりをしていくが魔石と怪物素材(ドロップアイテム)はもちろん回収する。

 

そうしている内に持ってきていた背嚢は全て隙間なく詰め込まれている為、今日のダンジョン探索はここまでにすることにした。

 

地上に戻ってくると、エイナさんに呼び出されて個室にへと案内された。

 

「ベル君、ここ三日会ってなかったけど何をしていたのかな?」

 

「別に、ダンジョン探索をしていただけですよエイナさん」

 

「それなら到達階層とかの更新とかしなくちゃいけないから報告に来てもらわないといけないんだよ」

 

「そうだったんですか、以後気を付けますね」

 

「本当にお願いね、それじゃあこの三日で到達した階層を教えて貰っても良いかな?」

 

僕は軽く注意を受けた後、エイナさんはそう言いながら記録用紙を取り出し羽ペンに墨を付ける。

 

「四十九階層です」

 

「・・・なんて?」

 

「だから、四十九階層です」

 

到達階層を伝えると、エイナさんはもう一度聞いてくるため再度答える。

 

「四十九階層~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!?」

 

少し時が止まったかと思えばいきなりエイナさんは大声でそう叫ぶのだった。

 

「エイナさんいきなり叫ぶのは止めてください。耳が痛いです」

 

「そりゃ、大声にもなるでしょ!!君はまだ冒険者になって日が浅いんだからそんな深い階層まで潜ってるなんて思わないよ!!」

 

僕がエイナさんに文句を言うと、エイナさんは勢いそのままに捲し立ててくる。

 

「別に僕がどれだけ進もうと関係ないじゃないですか」

 

「それでもいくら君がLv.7とは言ってもまだ深層に挑むのは早計過ぎるよ!!そんな無茶してたらいつか本当に命を落としちゃうよ!!」

 

「それがなにか問題でも?生きとし生ける者全て等しく死がある、それは当然ですよ」

 

「そう、だから”冒険者は冒険しちゃいけない”の!!」

 

「だけどそれは詭弁でしかない」

 

「なっ!?」

 

僕の言葉にエイナさんは驚愕の表情を浮かべる。

 

「話がそれだけなら僕はもう帰りますね、さようなら」

 

そう言って僕は個室を出て換金所に向かい、集めた魔石等を換金してから本拠(ホーム)にへと帰るのだった。

 

僕が本拠(ホーム)に戻ってくると、ヘスティア様が出迎えてくれた。

 

「おかえり、ベル君!!」

 

「ただいま帰りました、ヘスティア様」

 

僕は満面の笑みで出迎えてくれるヘスティア様に感謝しながら夕食を食べるのだった。

 

 

 

 

 

 

私、エイナ・チュールは個室で受け持つことになった第一級冒険者の少年の事を考えていた。

 

「はぁ・・・」

 

「どうしたの、エイナそんな深い溜め息ついちゃって幸せが逃げちゃうよ?」

 

「ミィシャ・・・」

 

この子は私の同僚のミィシャ・フロット、仲の良い友人である。ちょうど今休憩中のようで私のところまでやって来ていた。

 

「実はね・・・」

 

私はさっきあった出来事をミィシャに話した。

 

「えっ、白兎みたいな子がLv.7!?しかも十四歳でもう深層の四十九階層に到達したの!?」

 

「うん」

 

ミィシャの言葉に同意すると、さらに言葉を続けて来る。

 

「でも、幾らなんでも嘘なんじゃないの?」

 

ミィシャの言いたいことは分かる、私だって人伝で聞いたら嘘をついていると判断してしまう。

 

しかし、ベル君は昨日深層の魔石を大量に換金所に持ち込んだということは把握しているから間違いなく第一級冒険者並みの実力を兼ね備えていると言えてしまうのだ。

 

「それで私”冒険者は冒険しちゃいけない”って言ったの、そしたら・・・」

 

「そしたら?」

 

「”詭弁”だって言われちゃった」

 

「うわぁ・・・」

 

あんなハッキリと否定されるとは思ってもみなかったなぁ。

 

何がベル君をあそこまで駆り立てているんだろうか。

 

私はその事を考えることになってしまうのだった。



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強制任務(ミッション)

エイナさんに呼び出された翌日、僕は今日も早朝からダンジョンに潜っている。

 

「グゥオオオオオオオオオオオッ!!」

 

咆哮を上げて襲いかかってくるバーバリアンを一太刀で屠ると魔石を回収し、先を目指して進んでいく。

 

そうして、やって来たのは闘技場(コロシアム)

 

僕は良い稼ぎ場所と魔法に慣れる為の修練場所として使うことを決めていた。

一歩闘技場(コロシアム)に入ると、最初に入った時同様に一斉に僕めがけて襲いかかってくる。

 

それを僕は表情を一切変えずに剣を片手に斬り込んでいくのだった。

 

『幾ら喰らえどもこの()から溢れ零れでる飢餓(うえ)は満たされぬ』『美食()でも悪食()でも満たされぬ』『既にこの身は穢され侵食(おか)され禊も浄化も救恤(すく)いすら皆無()く罪過の烙印を刻み込む』『飢餓(うえ)象徴(しょうこ)たる(ぜん)大地(つち)を侵し、大海(うみ)を穢し、大空(そら)を閉ざす』『食物を喰らい、怪物を喰らい、精霊を喰らい、他者を喰らい、恩恵を喰らい、呪詛(のろい)を喰らい、病魔(やまい)を喰らい、意思を喰らい、ほこりを喰らい、魂魄(たましい)を喰らい、我が身すら喰らう底無し穴の幽鬼』『森羅万象全て喰らい貪り味わい飲み込み己が血肉と化す』『たとえこの身この魂が無間の地獄に堕ちようとも喰らい続ける』『この身はいずれ神々をも喰らおう』『蹂躙し数多を飲み干し平らげる 暴喰の覇道ここに極まれり』『暴悪に喰らい尽くす原罪の一角たる暴喰の化身(けもの)が胎動する』

 

【グラトニー・サーベラス】

 

魔法を発動させ赫焱(ほのお)金雷(いかづち)に包まれた僕の攻勢は苛烈さが増し無限に湧くモンスター達を止まることなく撃破していく。

 

そして、前回と同様に壁に傷を付けてモンスターが湧かないようにした後、僕は全ての魔石と怪物素材(ドロップアイテム)を回収するのだった。

 

その時、壁が崩れある金属が顔を出した、その金属は超硬金属(アダマンタイト)

 

突然発掘?出来た超硬金属(アダマンタイト)を全て回収を終えると、僕は地上にへと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地上に戻ると同時に管理機関(ギルド)に行くと、エイナさんがやって来てこう言って来る。

 

「ベル君、これ…!!」

 

そう言いながら差し出してきたのは管理機関(ギルド)の徽章が押印された封筒だった。

 

「なんですか、これ?」

 

僕が問いかけると、エイナさんはこう言って来る。

 

「【ヘスティア・ファミリア】に「強制任務(ミッション)の要請です!」

 

強制任務(ミッション)、聞く限り面倒な気配がするなぁ・・・。

 

僕がそんなことを考えながら封筒の中身を確認するとそこに書かれていた強制任務(ミッション)の内容は・・・。

 

「・・・遠征」

 

派閥(ファミリア)には等級(ランク)がありS~Iまである、遠征は等級(ランク)Dから義務付けられている。

 

つまり、【ヘスティア・ファミリア】が等級(ランク)D以上だと認定されたということだ。

 

「・・・はぁ、面倒だな」

 

そう言いながら僕は魔石の換金を済ませると、遠征に向けての準備のために一旦本拠(ホーム)に戻るのだった。

 

本拠(ホーム)に帰ってくると、ヘスティア様はまだバイトから帰ってきていないようだった。

 

今から準備が整い次第遠征に行くという報告をしたかったのだが、いないのならしょうがないとして置き手紙を書いておくことにした。

 

手紙を書き終えると、僕は干し肉などを購入しダンジョンに向かうのだった。

 

 



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邂逅

遠征の準備を整えて僕はダンジョンへ向かっている途中背後に気配を感じ取り振り向き様に跳んで距離を取る。

 

すると、そこには緑と白の給仕服を着た鈍色の髪の少女が立っていた。

 

「ごめんなさい、驚かせちゃいましたね」

 

「いえ、こちらこそすみません」

 

そう言って来る少女に対して謝罪すると、少女は自己紹介をしてくる。

 

「私はシル・フローヴァです、この『豊穣の女主人』で給仕をしています」

 

「これはどうもご丁寧に…、僕はベル・クラネルといいます。【ヘスティア・ファミリア】所属の冒険者です。それで何か御用ですか?」

 

互いに自己紹介を済ませると、僕はシルさんに話しかけて来た訳を聞く。

 

「それはですね、少しでもダンジョンで疲弊している冒険者さんの為にですね英気を養ってもらおうと思ってお店への客引きをしているんです」

 

「そうでしたか、後ろから話しかけるのは止めた方がいいですよ。襲撃者と勘違いされてたら大変な事になりますよ」

 

「そうですね、以後気を付けますね」

 

そう言ってからうふふと笑うシルさんに僕は大丈夫かと思った。

 

すると、店の方から怒声が聞こえて来る。

 

「シル、いつまでくっちゃべってるつもりだい!!」

 

その言葉を聞いてシルさんは店に戻りながらこう言って来る。

 

「それじゃあ、ベルさんもいらして下さいね!!」

 

そう言ってシルさんは店の中にへと入って行きその姿を見届けた後、ダンジョンに向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ダンジョンへと潜り、五階層まで降りて来ると目の前に上層では見る事の無いモンスターが現れる。

 

「ミノタウロスがなんでここに…?」

 

「ヴモォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

疑問に思っているとミノタウロスは咆哮(ハウル)を上げながら拳を放ってくるが、その拳を片手で受け止め()()()()()

 

「ヴヴォッ!?」

 

あり得ない光景にミノタウロスは呻き声を上げるが、僕が間髪入れずに下顎を蹴り砕くと魔石と怪物素材(ミノタウロスの角)に変わるのだった。

 

「なんで上層(ここ)にミノタウロスが居たんだろ…?」

 

「あの…」

 

その疑問に頭を巡らせていると、後ろから声を掛けられて振り返るとそこには金髪金目の少女が立っていた。

 

「何か用ですか」

 

「この辺でミノタウロスを見ませんでしたか?」

 

「それなら倒しましたよ、はい魔石と怪物素材(ドロップアイテム)

 

「!! ごめんなさい」

 

少女の問いに対して答えると、いきなり謝罪をされた。

 

「なんであなたが謝るんですか?」

 

「そのミノタウロスは私達が逃がしてしまったから…」

 

「そう言う事ですか」

 

突然の謝罪に驚いた僕の問いに少女の答えを聞き納得をする。

 

「まぁ、僕には実害が無かったので別に構いませんよ」

 

「でも・・・」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「!?」

 

「それじゃあ、僕は先を急ぎますんで」

 

「待って…」

 

僕は何か言って来る少女を無視して走り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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階層主討伐

金髪金目の少女と別れ、遠征を再開した僕は上層・中層・下層を早々に踏破し深層に降り立った。

 

「さて、始めるか」

 

そう言って僕はダンジョン攻略を開始する。

 

「グゥオオオオオオッ!!」

 

「邪魔」

 

「ギャアアアアア!!」

 

紅色の肉食恐竜(モンスター)であるブラッドサウルスを一撃で屠り魔石を喰らうと、力が漲ってくるのが分かる。

 

「これで十五」

 

そうやって撃退したモンスターの魔石を喰らい【ステイタス】を成長させながら深層を進んで行き、三十七階層「白宮殿(ホワイト・パレス)」の最奥の大広間(ルーム)へ辿り着く。

 

僕はある事を考えていた、それは階層主(モンスター・レックス)の強制出産だ。

 

人間でもモンスターでもない未知の存在(ウイルス)に対してダンジョンがどのような反応を示すのか気になる事でもあり、万が一の時に何かあってからでは遅いからだ。

 

僕が人の身である事を捨てる事になったあの時の様な出来事は避けるべきだ。

 

そう思いながら剣で指先を切り、血を一滴を落とした瞬間ダンジョンが哭いた。

 

そして、大広間(ルーム)の白濁色の壁に亀裂が走り崩壊すると生まれ落ちた迷宮の孤王(モンスター・レックス)ウダイオス。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 

「僕が血を流した結果がこれか…。事前に知っておけて良かった、これで安心して戦える」

 

母胎(ダンジョン)によって一定周期の次産間隔(インターバル)無視(スルー)して生み出さたモンスターは自身の領域に踏み込んだ愚者を誅するべく猛り狂う。

 

そんな階層主(ウダイオス)を尻目に自分が血を流せばどうなるかを知れた僕は安堵しながらも目の前の階層主(エサ)を喰らう為に剣を構え、戦いという名の蹂躙が始まる。

 

ウダイオスの剥き出しの長骨が黒く照る歪な左腕が鈍器となって薙ぎ払いに来るが、僕はそれを躱し左腕の上に着地すると同時に駆け登った。

 

肩の部分まで辿り着くと、肩と腕の接合部である核関節を破壊するとウダイオスの左腕は轟音と衝撃と共に崩れ落ちる。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!?」

 

左腕の破壊と共にウダイオスは悲鳴を上げ、僕を振り落とそうともがく。

 

それに対して僕は()()()ウダイオスの肩から降りたその瞬間地面から夥しいほどの逆杭(パイル)が射出されるが剣の一振りによって砕け散る。

 

「無駄なんだよ、逆杭(パイル)

 

そう言いながら際限なく射出されていく逆杭(パイル)を剣の一振り一振りによって粉砕していく。

 

それに対してウダイオスは今度は(スパルトイ)を大量に呼び出すのだが、それは失策である事を知らない。

 

「まさか、補給物資(ませき)までくれるとはな…」

 

そう、僕にとってスパルトイ(モンスター)全てが栄養源であるが故にどうという事は無い。

 

「行くぞ」

 

スパルトイの大軍に突っ込もうとした瞬間、足元から逆杭(パイル)が射出されるがそれを僕は紙一重に躱して見せた。

 

そして、この瞬間から魔法を解禁する事にした。

 

『幾ら喰らえどもこの()から溢れ零れでる飢餓(うえ)は満たされぬ』『美食()でも悪食()でも満たされぬ』『既にこの身は穢され侵食(おか)され禊も浄化も救恤(すく)いすら皆無()く罪過の烙印を刻み込む』『飢餓(うえ)象徴(しょうこ)たる(ぜん)大地(つち)を侵し、大海(うみ)を穢し、大空(そら)を閉ざす』『食物を喰らい、怪物を喰らい、精霊を喰らい、他者を喰らい、恩恵を喰らい、呪詛(のろい)を喰らい、病魔(やまい)を喰らい、意思を喰らい、誇りを喰らい、魂魄(たましい)を喰らい、我が身すらも喰らう底無し穴の幽鬼』『森羅万象全て喰らい貪り味わい飲み込み己が血肉と化す』『たとえこの身この魂が無間の地獄に堕ちようとも喰らい続ける』『この身はいずれ神々をも喰らおう』『蹂躙し数多を飲み干し平らげる 暴喰の覇道ここに極まれり』『暴悪に喰らい尽くす原罪の一角たる暴喰の化身(けもの)が胎動する』

 

【グラト二ー・サーベラス】

 

魔法名を言い終わった瞬間、僕の身体は炎雷を身に纏い地面を蹴り砕き疾駆(はし)る。

 

立ち塞がろうとするスパルトイの大軍を剣の一振りで粉砕し、逆杭(パイル)を壁として利用しようとも遠雷を纏った剣の斬撃によって切り裂かれていく。

 

そして、全ての障害を薙ぎ払う所まで来た瞬間、一本の長大な逆杭(パイル)が出現する。

 

その逆杭(パイル)は全長六Mほどもある剣のようにも見えた。

 

ウダイオスはその剣のような逆杭(パイル)を残された右腕に装備しゆっくりと振りかぶるのだった。

 

その光景に頭の中で警鐘が鳴り響く。

 

「逃げろ」「死ぬぞ」「動け」と頭の中でそう考えてしまうが、僕の選んだ選択は「逃げる事」ではなく「全身で受け止める事」だった。

 

「来い!!」

 

肩、肘、手首とウダイオスの核関節が煌々しく発光し禍々しい紫の光輝と共にウダイオスの右腕は霞んだ。

 

その瞬間、凄まじい爆風と衝撃波が襲い掛かって来るのに対して僕は全力で魔法で全身と剣に纏わせ防御態勢に入る。

 

それに巻き込まれたその場にいたスパルトイは一瞬の間も無く消滅する。

 

この一撃はウダイオスの本当の切り札と言えるものである事を身をもって実感した僕の身体は傷だらけとなっていたが、ミアハ様から貰った回復薬(ポーション)を飲み干し傷を癒そうと思ったが魔法効果を思い出し服用を止める。

 

「あの一撃に耐えた…、僕はまだまだ強くなれる!!」

 

そう言いながら剣を構え、殆ど剥がれた炎雷を纏い直し疾駆(はし)り出す。

 

走り出した僕を見てウダイオスは再び右腕を振り被るが、もう振り下ろされる事は無い。

 

何故なら、僕が肘の核関節を両断したからだ。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!?」

 

なにが起こったのか分からないと言った感じで悲鳴を上げるウダイオス。

 

しかし、僕の攻撃はまだ終わってはいない。

 

「これで終わりだ」

 

そう言ってウダイオスの首の骨を右横薙ぎに斬り払うと、首が落ちると同時に轟音と振動が発生しウダイオスは灰にへと変わるのだった。

 

そして、残されたのは階層主(ウダイオス)の魔石と怪物素材(ドロップアイテム)であるウダイオスの黒剣である。

 

「とりあえずはまずまずかな」

 

僕はそう言いながら回復薬(ポーション)を飲み干した後、ウダイオスの魔石を少しだけ残して後は全て喰らいとてつもない力の上昇を感じ取った。

 

「流石は階層主と言った所かな、他のモンスターの魔石とは力の上昇の仕方が段違いだ」

 

そう言いながら体の状態把握をした後、ウダイオスの黒剣を背負い更に下層にへと足を運ぶのだった。

 

 



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遠征終了

ウダイオスを討伐した後、僕は更に深層を進んで行き五十階層まで到達したことで遠征が達成されるのだった。

 

「これで遠征終了か…、意外と簡単だったな」

 

そんな事を口にしながら僕は魔石と怪物素材(ドロップアイテム)を収集しながら地上にへと戻って行くのだった。

 

地上に着くとまず遠征終了の旨をエイナさんにへと伝えに行く。

 

「エイナさん」

 

「あっ、ベルくん遠征の準備なんだけど…」

 

「終わりました」

 

「へ?」

 

「だから、遠征を終えて帰って来たって言ってるんです」

 

「えぇ~~~~~~~~~っ!?」

 

僕の遠征達成の報告を聞いてエイナさんは驚いて大声を上げる。

 

「後、これウダイオスからドロップした希少怪物素材(レア・ドロップアイテム)です」

 

「ウダイオス…?三十七階層の階層主…、まだ次産間隔(インターバル)があるのになんで…?」

 

頭の自己処理能力が低下しているエイナさんは完全に機能停止(ショート)していた。

 

なので、僕は魔石と黒剣を除く怪物素材(ドロップアイテム)全てを換金し9990万ヴァリスを手に入れて帰宅するのだった。

 

あの後、エイナさんが正気に戻り僕は黒剣の入手経緯を問い詰められるのは言うまでの事は無い。

 

エイナさんから解放されると、僕はまっすぐにヘスティア様の待つ本拠(ホーム)帰って行くのだった。

 

「おかえり、ベル君!!」

 

「はい、ただいま帰りましたヘスティア様」

 

互いに帰って来た時の挨拶をし、【ステイタス】の更新をする事にした。

 

「それにしても、遠征って言うのはそんなすぐに終わる物なのかい?」

 

「いえ、単純に僕一人だったから出来たと言えますね。他の人達もいればこんなすぐには不可能です」

 

「なるほど…、だからこそ無茶をして欲しくないなぁ…」

 

「すみません、それだけは了承する事は出来ません。冒険者ですから」

 

「うん、それは解っているよ。これはボクの我が儘だって事は」

 

「……」

 

「それでも、下界に来て初めて出来た眷族だからいつまでも一緒にいたいんだ」

 

「…ヘスティア様」

 

僕はヘスティア様の言ってくれた言葉を噛み締めながらこう言うのだった。

 

「ヘスティア様、僕も同じ気持ちです。だから、信じて下さい。僕は決してあなたを一人にはしない」

 

「ベル君…」

 

そうやって話しながら【ステイタス】の更新は進んで行き終わりを迎える。

 

「はい、更新が終わったよベル君」

 

「ありがとうございます、ヘスティア様」

 

更新が終わり、僕は上着を着てから自分の【ステイタス】を確認するのだった。

 

 

ベル・クラネル

 

Lv.7

 

力SSS2134→5960 耐久SSS1718→4611 器用SSS2099→4569 敏捷SSS2590→5643 魔力I0→SSS3556

 

幸運EX 怪人EX 

 

人怪融合(モンストルム・ユニオン)

異種混成(ハイブリッド)

超越界律(ネオイレギュラー)

神理崩壊(ステイタス・バグ)

穢霊侵食(アニマ・イロ―ジョン)

 

超越怪人(オーバーロード)

無限再生(アペイロン・リバース)

無限成長(アペイロン・アウクセシス)

限界突破(クリティカルオーバー)

 

捕食者(プレデター)

完全回復(フルリカバリー)

怪物喰い(モンスター・イーター)

 

才禍の怪物(モンストルム・タレント)

・超早熟する

怪物(りかい)が続く限り効果持続

怪物(りかい)の丈により効果向上

 

怪物恩寵(モンストルム・アムブロシア)

強喰増幅(オーバーイート)

無限暴喰(ベルゼブル)

尽喰貪王(タイラント)

完全擬態(アブソル―ト・コピー)

成長増強(ビルドアップ)

 

【グラト二―・サーベラス】

付与魔法(エンチャント)

・炎属性・雷属性

魔力吸収(マジックドレイン)

損傷吸収(ダメージドレイン)

生命吸収(エナジードレイン)

呪詛吸収(カースドレイン)

・詠唱式『幾ら喰らえどもこの()から溢れ零れでる飢餓(うえ)は満たされぬ』『美食()でも悪食()でも満たされぬ』『既にこの身は穢され侵食(おか)され禊も浄化も救恤(すく)いすら皆無()く罪過の烙印を刻み込む』『飢餓(うえ)象徴(しょうこ)たる(ぜん)大地(つち)を侵し、大海(うみ)を穢し、大空(そら)を閉ざす』『食物を喰らい、怪物を喰らい、精霊を喰らい、他者を喰らい、恩恵を喰らい、呪詛(のろい)を喰らい、病魔(やまい)を喰らい、意思を喰らい、誇りを喰らい、魂魄(たましい)を喰らい、我が身すらも喰らう底無し穴の幽鬼』『森羅万象全て喰らい貪り味わい飲み込み己が血肉と化す』『たとえこの身この魂が無間の地獄に堕ちようとも喰らい続ける』『この身はいずれ神々をも喰らおう』『蹂躙し数多を飲み干し平らげる 暴喰の覇道ここに極まれり』『暴悪に喰らい尽くす原罪の一角たる暴喰の化身(けもの)が胎動する』

 

 

【アウレー・エウアンゲリオン】

・回復魔法

・詠唱式『奏でられるは堅琴の音色』『その音色は優しき魂の平穏へと導く静寂の園へと通ずる』『静寂の園で響き渡るは聖鐘楼の福音』『静寂(しずか)なる悠久の時間(ひととき)はゆっくりと流れる』

 

「うん、規格外だね」

 

ヘスティア様は僕の【ステイタス】にそう感想を述べるけど、僕としてはこれが通常(ふつう)なためヘスティア様に同意できないのだった。

 

 



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震撼

迷宮都市・オラリオに激震が走る。

 

その理由(ワケ)は深層の迷宮の孤王(モンスターレックス)であるウダイオスの単独(ソロ)討伐達成と希少怪物素材(レア・ドロップアイテム)の発生である。

 

そして、もう一つオラリオを騒がせていることがある。

 

それは階層主(ウダイオス)単独討伐を達成したのが零細派閥の冒険者だということ

 

その冒険者が二大最強派閥【フレイヤ・ファミリア】首領・オッタルと同じLv.7であること

 

その冒険者は都市外からオラリオにやって来たばかりの十四歳の少年であること

 

これが今オラリオを騒がせているのだった。

 

その渦中の主は主神(ヘスティア)と共に【ヘファイストス・ファミリア】主神ヘファイストスの仕事場に訪れていた。

 

いや、正確には()()()()が原因でここに来ている。

 

「本当にごめんなさいね、ヘスティア。椿()が貴方達の所へ押し掛けていたなんて…」

 

ヘファイストス様の口から出た椿と言う名の女性は椿・コルブランドと言い【ヘファイストス・ファミリア】団長でありオラリオ最高の鍛冶師の称号である最上級鍛冶師(マスター・スミス)を冠するLv.5の鍛冶師。二つ名は【単眼の巨師(キュクロプス)】。

 

「まぁ、突然やってきた事には驚いたけどね…。椿くんらしいと言えば椿くんらしいじゃないか」

 

「そうなんだけどね…、椿貴女の口からも言う事があるでしょ」

 

そうヘファイストス様が言うと、極東でいうところの着物の作業着を着こんだ眼帯の女性が口を開く。

 

「いやぁ、すまなんだな。深層の、ましてや階層主(ウダイオス)希少怪物素材(レア・ドロップアイテム)と聞いてしまってはいても経ってもいられなくてな!!」

 

快活な笑みと共にそう言って来るのが椿・コルブランドその人である。

 

「いや、いつであろうと『未知』には誰もが興味を抱く。そこに人も、神も関係ない」

 

「確かにな、はーっはっはっはっはっはっはっはっ!!」

 

「はぁ…」

 

「あはは…」

 

眷族(こども)同士の会話を聞いて主神(おや)達は心内では納得はしながらも呆れるのだった。

 

そんな会話も終わり、次の話にへと変わる。

 

「それでだ、ベル・クラネルそのウダイオスの黒剣(ドロップアイテム)を手前に武器として鍛造(きたえ)させてはくれまいか」

 

「あぁ、構わない」

 

椿の言葉に対して即答で了承し、持ってきていたウダイオスの黒剣を手渡した。

 

「鍛えるにあたって武器の要望はなにかあるか?」

 

「長剣とは違う武器が良いな、手数が多いのとより頑丈なものが良い」

 

「手数で言うのであれば双剣だな、より頑丈なものとなると…最硬精製金属(オリハルコン)と統合させて不壊属性(デュランダル)を付与するか」

 

「あぁ、それで頼む」

 

「よし、任された!!それでは主神様、手前は制作に入る故これにて御免!!」

 

そう言って椿は部屋を飛び出し、己が工房にへと走って行くのだった。

 

「全く嵐の様だったね」

 

「はぁ…、あの子にも困ったものね…」

 

「鍛冶師としても魅力的な素材だったって事ですよ」

 

その後も世間話を続いたのだった。



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暗躍

オラリオがベルの前人未踏の偉業を達成した事に人々が興奮冷めやらぬ中、闇派閥(イヴィルス)の幹部であるヴァレッタはいらだちを隠せずにいた。

 

「クソッタレがぁっ!!よりにもよってLv.7だと!?あんなクソガキがぁあああああああああああっ!!!」

 

怒りのままに叫び散らかすヴァレッタに対して白衣の集団は何も言わない。

 

言ったところで返ってくるのは言葉

、剣による一閃であることを知っているからだ。

 

しかし、そんな中で一人の男神がヴァレッタに話しかける。

 

「まぁ、そんなに喚いたって現状は良くならないよヴァレッタちゃん」

 

「・・・タナトス」

 

男神の名はタナトス、死そのものを司る神であり闇派閥(イヴィルス)【タナトス・ファミリア】の主神である。

 

「それに、あれだけ目立たれちゃったらこっちも迂闊には動けないよね。しかも、ダンジョンで襲おうにも格上過ぎて話にもならない」

 

「何が言いてぇ?さっさと言えよ」

 

 

まどろっこしいと言わんばかりのヴァレッタの視線と声にタナトスはこう言い放った。

 

「神殺しの怪物に相手をさせようよと思ってさ・・・、七年前と同じようにね・・・!!」

 

『!?』

 

目を血走らせながらそう宣言してくる主神(タナトス)に対してほぼ全員が絶句するながらヴァレッタのみが口角をつり上げながら嗤ってみせる。

 

「それ、良いなァ・・・!!」

 

「決まりだね、作戦決行日は一週間後ということで」

 

闇に着実に牙を研ぎ、ゆっくりと迫ってくるのだった。

 

 

 

【ヘファイストス・ファミリア】の帰り道、ヘスティア様をバイト先のじゃが丸くんの屋台に送り届けた後、僕は何か背中に冷たいモノを感じ取って後ろを振り返ると、そこには変わりの無い街の喧騒が広がっていた。

 

「気のせいかな?」

 

なにやら違和感を拭い切れていない部分があるが、気にしない事にした。

 

そして、一週間が過ぎた頃に椿から注文の品が出来たと連絡を受けた僕はすぐにダンジョンに潜る準備を整えて椿の工房へ足を運ぶのだった。

 

「おっ、来たなベル」

 

「完成したって聞いていても経ってもいられなかったからな、すぐ来た」

 

「はっはっはっはっは、そう言ってもらえるのであれば鍛冶師冥利に尽きるというものよ」

 

互いにそう言うと、早速本題に入ることにした。

 

「これが《ウダイオスの黒剣》で鍛え上げた双剣だ」

 

「おぉ!!」

 

椿の指差す方向を視線を向ければ、そこには漆黒の剣身を持つ二本の長大な両刃剣だった。

 

「随分大きいな」

 

「うむ、元々の素材の大きさもあったが故に双剣でありながら長剣のようになってしまった。更に言えば刀身の方もだんぴらになってしまって重量もそこそこある」

 

「ふむ」

 

椿の説明を受けながら僕は双剣の一振りを手に取った。

 

すると、ズシリと確かに重みを感じたが扱いにくさは無かった。

 

むしろ、逆に軽ければすっぽ抜けてしまうと思えてしまう。

 

「いや、これでいい。こっちの方が手に馴染む」

 

「そうか、それであれば良いのだが・・・」

 

椿はそう言うと、更に言葉を続けてくる。

 

「そして、注文通りその双剣は最硬精製金属(オリハルコン)を使用して不壊属性(デュランダル)を付与させてあるぞ」

 

「あぁ、助かる」

 

「それでだな、ベルその双剣は精製金属(ミスリル)も混合させてあるのだ」

 

「何故だ?」

 

「手前の鍛冶師としての直感だな、だからそうするべきだと手前は判断し、精製金属(ミスリル)を混ぜた。勝手な事だとは重々承知だ。料金の無料(タダ)でいい、向こう五年の整備費も無料(タダ)だ」

 

そう言ってくる椿の目は真剣そのものだった。

 

「いや、金は払う。お前の直感を信じる」

 

僕はそう言いながら懐からヴァリスの入った麻袋を椿へと渡した。

 

「そう言って貰えるのなら手前も鍛冶師冥利に尽きるというものだ」

 

椿は麻袋を受け取りながらそう言ってくる。

 

そうして、初めての特注(オーダーメイド)の武装を手に入れた僕だった。

 



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悪夢の再来

ダンジョン深層域・三十七階層「白宮殿(ホワイト・パレス)」最奥の大広間(ルーム)に一人の邪神がいた。

 

暗黒期に闇派閥(イヴィルス)の邪神達は【フレイヤ・ファミリア】【ロキ・ファミリア】【ガネーシャ・ファミリア】などの有力派閥に一掃され、天界に送還されたはずだった。

 

「ひ・・・ひひ・・・、オラリオが崩壊する様を天界で見届けてやるぅ・・・・・・!!」

 

薄気味悪い声でそう言いながら邪神は己の首に短刀を突き刺した。

 

その瞬間、神威が天上にへと向かって昇っていく。

 

そして、解き放たれた神威によってダンジョンは啼き、怒り狂った。

 

自分を封じ込めた神々が自分の中にいることを知ったダンジョンは二体の神殺しを産み落とすのだった。

 

「グゥルオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 

一体目は漆黒の三つ首の凶暴なる巨獣。その額には赤・青・黄の宝玉が埋め込まれていた。

 

「グギュリュウァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

二体目は黒い鱗を持つ大型肉食恐竜。その肉体には黒い血を流し侵食をしていく。

 

その二体の神殺しは神々を殺すために地上へと進軍するのだった。

 

 

 

僕は装備を調えて双剣を試すためにダンジョンに潜っていた。

 

すると、ダンジョンが()()()

 

その後、下の階層から雄叫びが反響し聞こえてきた。

 

「グゥルオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 

「グギュリュウァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

その声を聞いた瞬間、これは異常事態(イレギュラー)だと判断できた。

 

しかし、こんな時に何故か僕の口から涎が溢れた。

 

そう、僕は異常事態(イレギュラー)に対して未知への食欲(魅力)に歓喜を抱いていた。

 

そこからは僕の行動は決まっていた。

 

その未知()を食らうために疾駆(はし)る。

 

そうして辿り着いたのが三十階層、そこで僕は二体の神殺しに接敵する。

 

「お前ら、良いな。()()()()

 

そう言いながら双剣を抜剣し、魔法を唱える。

 

 

『幾ら喰らえどもこの()から溢れ零れでる飢餓(うえ)は満たされぬ』『美食()でも悪食()でも満たされぬ』『既にこの身は穢され侵食(おか)され禊も浄化も救恤(すく)いすら皆無()く罪過の烙印を刻み込む』『飢餓(うえ)象徴(しょうこ)たる(ぜん)大地(つち)を侵し、大海(うみ)を穢し、大空(そら)を閉ざす』『食物を喰らい、怪物を喰らい、精霊を喰らい、他者を喰らい、恩恵を喰らい、呪詛(のろい)を喰らい、病魔(やまい)を喰らい、意思を喰らい、誇りを喰らい、魂魄(たましい)を喰らい、我が身すらも喰らう底無し穴の幽鬼』『森羅万象全て喰らい貪り味わい飲み込み己が血肉と化す』『たとえこの身この魂が無間の地獄に堕ちようとも喰らい続ける』『この身はいずれ神々をも喰らおう』『蹂躙し数多を飲み干し平らげる 暴喰の覇道ここに極まれり』『暴悪に喰らい尽くす原罪の一角たる暴喰の化身(けもの)が胎動する』

 

【グラト二ー・サーベラス】

 

燃え盛る赫焱(ほのお)と激しく迸る金雷(いかづち)を全身と双剣に纏い、激突するのだった。

 

 

地上

 

ギルドではこの異常事態の対処に追われていた。

 

「おい、ダンジョンで異常事態(イレギュラー)の詳細を冒険者から聞き込んでこい」

 

「は、はいぃぃぃっ!!」

 

班長の言葉にミィシャが走って行く。

 

「各派閥(ファミリア)の冒険者を招集し、モンスターの地上進出を食い止させろ!!」「それから【フレイヤ・ファミリア】【ロキ・ファミリア】の第一級冒険者には異常事態(イレギュラー)の原因の対処させろ!強制任務(ミッション)として発令しろ!!」

 

「は、はい!!」

 

ギルド長の言葉に指示にローズさんが走る。

 

「おい、チュールお前の担当している【ヘスティア・ファミリア】のLv.7であるベル・クラネルモンスター進出を食い止めさせろ!!」

 

「はい!!」

 

ギルド長の指示を聞き、【ヘスティア・ファミリア】の本拠(ホーム)にへと向かうのだった。

 

その途中、最上級鍛冶師(マスター・スミス)の椿・コルブランド氏とぶつかってしまった。

 

「何やら騒がしいが・・・、もしや異常事態(イレギュラー)か」

 

冒険者達の様子から察してくれた椿氏にも今起こっている事態を伝えると衝撃の事実を知る。

 

「確か、今ベルが手前の鍛えた双剣を試すためにダンジョンに向かったはずだが・・・」

 

「え?」

 

その言葉に私は我が耳を疑ったが、その言葉を反芻する内にそれが現実だと言うことを自覚する。

 

ダンジョンの方へと顔を向けて願った。

 

「ベル君、どうか無事でいて」と。



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死闘

三十階層では二体の未知のモンスターと僕が静かに睨み合う。

 

そして、最初に我慢の限界が来たのは三つ首の巨獣だった。

 

左前足を振り上げ押し潰そうと振り下ろしてくる。

 

それが戦いの合図となり、僕は迫ってくる左前足を一刀両断し巨獣の機動力を奪う。

 

「グギャァアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」

 

この一撃で終わると思っていた巨獣は思わぬ反撃に悲鳴を上げる。

   

それとはお構いなしに肉食恐竜が尻尾を横薙ぎに振るってくるのを後ろに跳び躱した。

 

すると、痛みに慣れた巨獣の額の赤い珠が輝く。

 

それを見た僕は背筋が寒くなる感覚に襲われた。

 

その瞬間、巨獣の真ん中の口が開くと炎が吐き出されてくる。

 

それに対して僕はその炎の中に飛び込んだ。

 

それには理由がある、それは二つ。

 

この魔法(グラトニー・サーベラス)の四つある特性の一つである【損傷吸収(ダメージ・ドレイン)】は傷を負えば負う程に()()()()、そして二つ目の【生命吸収(エナジー・ドレイン)】は相手の生命力を()()()()()()のだ。それはモンスターも等しくだ。

 

つまり、戦いが長引けば長引くほどに無制限に強くなるのだ。

 

そうして、僕は炎による新たな傷を負い【ステイタス】を激上させる。

 

「死ね」

 

端的に発した言葉と共に三本まとめて断ち切るために双剣を振るうも巨獣の反応が勝ったようで浅く切り込みを入れる程度にしか当たらなかった。

 

「チッ!!」

 

それに対して悪態をついている僕。

 

「グルゥオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

そこへ巨獣の咆哮が響き渡ると同時に噛み砕こうと真ん中の首が大口を開いて襲いかかってくる。

 

「煩い、黙ってろ!!」

 

そう言って左の剣で牙を受け止め、返す踏鞴に右の剣で上顎を切り落とす。

 

「グギャァアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」

 

思わぬ反撃に悲鳴を上げる真ん中の首に構うこと無く左右の首が僕に襲いかかって来る。

 

「チィイイッ!!」

 

更に背後から肉食恐竜が大口を開いて襲いかかってくる。

 

更に巨獣の左右の首の額にある宝玉が同時に輝きを放つ。

 

それに対して僕に焦りは無かった。

 

何故なら、便利な肉壁があるから。

 

そうして、僕は体制を低くして肉食恐竜の懐に飛び込んだ。

 

目標を見失った肉食恐竜はそのままの勢いで巨獣に突っ込んでしまうと共に左右の首から放たれた風と雷の攻撃をまともに食らってしまう。

 

巨獣の方も肉食恐竜の牙が自分に食い込み悲鳴を上げる。

 

『グルゥアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

『グギュリュリィアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

更に肉食恐竜の牙が深く食い込んでいるのか中々離れることが出来ないようだ。

 

攻撃を受けた肉食恐竜の肉体は風で切り刻まれ、雷によって焦げた匂いが鼻につく。

 

「臭い」

 

そう言いながらも現状を好機とみて仕掛けようとした時、肉食恐竜の黒い鱗が輝き始める。

 

それを見ると背筋が凍る感覚に襲われた瞬間、僕の身体は動き出していた。

 

しかし、それよりも早く鱗に蓄積されていた光が解き放たれた。

 

「くそっ!!グハッ!?」

 

解き放たれた光は全方位に散弾のように放ち、僕も打ち落とそうと双剣を振るうが数が多すぎた。

 

散弾のように飛んでくる光が身体を焼いてくる。

 

「がぁあああ・・・」

 

身体に走る激痛に思わず膝を付きそうになるが、それだけは御免被る。

 

「これで・・・決めてやる・・・!!」

 

そう言いながら二体のモンスターを睨み付け走り出した。

 

「一気に片付けるには喰らうのみ」

 

ぼそっと呟いた僕は肉食恐竜と巨獣の肉を喰い千切り飲み込んだ。

 

その瞬間、【ステイタス】が激上する感覚を感じながら二体を軽く飛び越えた高さまで跳んだ。

 

そして、僕は双剣に炎雷を纏わせて振るう。

 

炎雷(魔法)を纏った双剣は巨獣と肉食恐竜を斬り捨てた。

 

その瞬間、二体のモンスターから魔石と怪物素材(ドロップアイテム)が排出されたのだった。

 

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・・・・」

 

息絶え絶えになりながらもゆっくりと魔石の前に立った。

 

そして、二体のモンスターの魔石を完食し【ステイタス】が上昇するのを感じた。

 

そして、怪物素材(ドロップアイテム)である巨獣の素材(黒宝玉)肉食恐竜の素材(黒巨鱗)を背嚢に回収し地上に戻るのだった。



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新たな頂天の誕生

二体のモンスターを討伐した僕は正規順路(ルート)が外れて少し離れた小広間(ショート・ルーム)で休息を取っていた。

 

「流石に身体が重いな・・・」

 

そう言いながら【ミアハ・ファミリア】製の回復薬(ポーション)を全て飲み干すも傷は少ししか消えずに残っている。

 

「使うか」

 

そう呟いた後、僕は詠唱(うた)う。

 

『奏でられるは堅琴の音色』『その音色は優しき魂の平穏へと導く静寂の園へと通ずる』『静寂の園で響き渡るは聖鐘楼の福音』『静寂(しずか)なる悠久の時間(ひととき)はゆっくりと流れる』

 

【アウレー・エウアンゲリオン】

 

魔法名を言い終えると、白い聖鐘楼が現れると大きくも心安らかになる音色を奏でると先ほどまであった傷が綺麗さっぱり消え去っている上に体力までもが回復している。

 

「これで地上に帰れる」

 

そう言って僕は地上を目指すのだった。

 

そうして、僕が地上に戻ってくると多くの冒険者が摩天楼施設(バベル)に集まっている。

 

「さて、換金しに行こう」

 

そう言って素通りをしギルドに向かうのだった。

 

ギルドに着くと、職員全てが慌ただしく動き回っている。

 

「あっ、ベル君!!」

 

エイナさんが僕を見て声を上げると他の職員達もこちらを見てくる。

 

「心配してたんだよ、ダンジョンで神の送還が行われたって聞いてモンスター達が地上進出してこようとしてたから・・・。そうだ、ベル君神の送還が切っ掛けでダンジョンの中で何があったか教えてくれないかな?」

 

息継ぎ無しに怒濤の言葉責めをしてくるエイナさんに対して僕はこう言った。

 

「黒いモンスターが二体居たな」

 

それを言った瞬間、ギルド内は更にざわめきを強める。

 

すると、エイナさんの後ろから一人の妖精(エルフ)がやってくる。

 

「今の話、詳しく聞かせてはくれないか」

 

「誰だ」

 

「私は【ロキ・ファミリア】副団長のリヴェリア・リヨス・アールヴだ」

 

「僕は【ヘスティア・ファミリア】のベル・クラネルだ」

 

あの後、エイナさんに応接室へと通され互いに自己紹介をした後、僕は戦った二体のモンスターのことを話す。

 

そして、黒いモンスターが神々を殺すために生み出された神殺しのモンスターであることを知る。

 

「三つ首の巨獣(けもの)に黒い鱗を纏った肉食恐竜か・・・」

 

そう言いながら顎に手を当てて考え込む仕草をする。

 

そこで僕はこう言った。

 

「対策を講じようとしているならその必要はない」

 

「どういう意味だ?」

 

「既に討伐済みだ」

 

「何だとっ!?」

 

僕の言葉にリヴェリアは声を荒げる。

 

「ダンジョン内にいた僕はこの異常事態(未知)を喰らう為に」

 

「!? 何故、そんな無茶をした!!下手をすれば死んでいたかもしれんのだぞ!!」

 

そう言ってくる王族妖精(リヴェリア)に僕はこう言った。

 

「死すればそこまでだっただけの話だ。ただそれだけだ」

 

「!?」

 

僕の言葉にリヴェリアは言葉を発することが出来なかった。

 

「それじゃあ僕は帰る」

 

そう言って僕はギルドを応接室を出るのだった。

 

 

 

私、リヴェリア・リヨス・アールヴは先ほどまで話していたベル・クラネルとの会話を思い出していた。

 

『死すればそこまでだっただけの話だ。ただそれだけだ』

 

「まるでゼウスとヘラの眷族ではないか」

 

そう言いながら私は背もたれにもたれ掛かる。

 

しかし、いつまでもこうしては居られない。

 

そうして、私はエイナに一言言ってから黄昏の館(ホーム)に戻るのだった。

 

 

 

換金を終えて本拠(ホーム)から帰った僕は長椅子(ソファ)に座り、二体のモンスターから出た怪物素材(ドロップアイテム)を取り出した。

 

まずは三つ首の巨獣の怪物素材(ドロップアイテム)である黒宝玉。

 

理由は分からないけど、怪人としての僕が"喰らえ"と訴えかけている。

 

僕はその意志に従って黒宝玉を丸呑みすると、内側から力を馴染んで来るような感覚があった。

 

それは戦闘時にモンスターを喰らった感覚とは違ってジワジワと染みこんでいくようなそんな感覚だった。

 

そして、二つ目の怪物素材(ドロップアイテム)である肉食恐竜の黒巨鱗は僕のことを覆えるほどの大きさがあるため、防具(プロテクター)に利用することにした。

 

そう考えを纏めていると、ヘスティア様が帰ってくる。

 

「ただいま、今帰ったよベル君!!」

 

「お帰りなさい、ヘスティア様」

 

そうして、僕達は夕食を食べ入浴を済ませると【ステイタス】の更新を行う。

 

「それにしても、今日は大変だったんじゃないかい」

 

「何がですか?」

 

ヘスティア様の言葉に僕が疑問符を浮かべるとこう言ってくる。

 

「だって、今日はダンジョンで神の送還があって異常事態(イレギュラー)が発生したそうじゃないか」

 

「そうでしたね、どうでも良かったので忘れていました」

 

「おいおい、それは冒険者としてはダメじゃないか」

 

「そうですね、以後気をつけます」

 

「もぉ・・・、ほぎゃあっ!?」

 

そうやって話している内に【ステイタス】の更新が終わると同時にヘスティア様が奇声を上げる。

 

「どうかしましたか、ヘスティア様?」

 

器の昇華(ランクアップ)出来る・・・」

 

「そうですか、それじゃお願いします」

 

「いやいや、少しは驚こうよ!!」

 

「いえ、神殺しのモンスターを二体同時に相手にして単独討伐したのでこのくらいは妥当ではないですかね?」

 

「なにそれコワい」

 

器の昇華(ランクアップ)に対する反応が薄い僕に対してヘスティア様がそう言うのをその要因になった出来事を口にするとドン引きしていた。

 

「その後、神殺しの魔石を完食したんでそれも理由になるでしょうか」

 

「ベル君の規格外さにボクは着いていけないよ」

 

黄昏れた空気を放つヘスティア様に僕はこう言った。

 

「まぁ、僕の場合は存在自体が異常ですし・・・」

 

「それはそれとして、これが君のLv.7としての最終的な【ステイタス】だ」

 

そう言ってヘスティア様が【ステイタス】を書き写した羊皮紙を見せてくる。

 

ベル・クラネル

 

Lv.7

 

力SSS5960→8960 耐久SSS4611→7629 器用SSS4569→7925 敏捷SSS5643→9669 魔力SSS3556→7269

 

幸運EX 怪人EX 

 

人怪融合(モンストルム・ユニオン)

異種混成(ハイブリッド)

超越界律(ネオイレギュラー)

神理崩壊(ステイタス・バグ)

穢霊侵食(アニマ・イロ―ジョン)

 

超越怪人(オーバーロード)

無限再生(アペイロン・リバース)

無限成長(アペイロン・アウクセシス)

限界突破(クリティカルオーバー)

 

捕食者(プレデター)

完全回復(フルリカバリー)

怪物喰い(モンスター・イーター)

 

才禍の怪物(モンストルム・タレント)

・超早熟する

怪物(りかい)が続く限り効果持続

怪物(りかい)の丈により効果向上

 

怪物恩寵(モンストルム・アムブロシア)

強喰増幅(オーバーイート)

無限暴喰(ベルゼブル)

尽喰貪王(タイラント)

完全擬態(アブソル―ト・コピー)

成長増強(ビルドアップ)

 

【グラト二―・サーベラス】

付与魔法(エンチャント)

・炎属性・雷属性

魔力吸収(マジックドレイン)

損傷吸収(ダメージドレイン)

生命吸収(エナジードレイン)

呪詛吸収(カースドレイン)

・詠唱式『幾ら喰らえどもこの()から溢れ零れでる飢餓(うえ)は満たされぬ』『美食()でも悪食()でも満たされぬ』『既にこの身は穢され侵食(おか)され禊も浄化も救恤(すく)いすら皆無()く罪過の烙印を刻み込む』『飢餓(うえ)象徴(しょうこ)たる(ぜん)大地(つち)を侵し、大海(うみ)を穢し、大空(そら)を閉ざす』『食物を喰らい、怪物を喰らい、精霊を喰らい、他者を喰らい、恩恵を喰らい、呪詛(のろい)を喰らい、病魔(やまい)を喰らい、意思を喰らい、誇りを喰らい、魂魄(たましい)を喰らい、我が身すらも喰らう底無し穴の幽鬼』『森羅万象全て喰らい貪り味わい飲み込み己が血肉と化す』『たとえこの身この魂が無間の地獄に堕ちようとも喰らい続ける』『この身はいずれ神々をも喰らおう』『蹂躙し数多を飲み干し平らげる 暴喰の覇道ここに極まれり』『暴悪に喰らい尽くす原罪の一角たる暴喰の化身(けもの)が胎動する』

 

 

【アウレー・エウアンゲリオン】

・回復魔法

・詠唱式『奏でられるは堅琴の音色』『その音色は優しき魂の平穏へと導く静寂の園へと通ずる』『静寂の園で響き渡るは聖鐘楼の福音』『静寂(しずか)なる悠久の時間(ひととき)はゆっくりと流れる』

 

これが僕のLv.7の最終【ステイタス】か。

 

「それじゃあ、ヘスティア様お願いします」

 

「解ったよ」

 

僕の言葉の後、ヘスティア様によって【ステイタス】が昇華される。

 

ベル・クラネル

 

Lv.8

 

力I0 耐久I0 器用I0 敏捷I0 魔力I0

 

幸運EX 怪人EX 

 

人怪融合(モンストルム・ユニオン)

異種混成(ハイブリッド)

超越界律(ネオイレギュラー)

神理崩壊(ステイタス・バグ)

穢霊侵食(アニマ・イロ―ジョン)

 

超越怪人(オーバーロード)

無限再生(アペイロン・リバース)

無限成長(アペイロン・アウクセシス)

限界突破(クリティカルオーバー)

 

捕食者(プレデター)

完全回復(フルリカバリー)

怪物喰い(モンスター・イーター)

 

才禍の怪物(モンストルム・タレント)

・超早熟する

怪物(りかい)が続く限り効果持続

怪物(りかい)の丈により効果向上

 

怪物恩寵(モンストルム・アムブロシア)

強喰増幅(オーバーイート)

無限暴喰(ベルゼブル)

尽喰貪王(タイラント)

完全擬態(アブソル―ト・コピー)

成長増強(ビルドアップ)

 

【グラト二―・サーベラス】

付与魔法(エンチャント)

・炎属性・雷属性

魔力吸収(マジックドレイン)

損傷吸収(ダメージドレイン)

生命吸収(エナジードレイン)

呪詛吸収(カースドレイン)

・詠唱式『幾ら喰らえどもこの()から溢れ零れでる飢餓(うえ)は満たされぬ』『美食()でも悪食()でも満たされぬ』『既にこの身は穢され侵食(おか)され禊も浄化も救恤(すく)いすら皆無()く罪過の烙印を刻み込む』『飢餓(うえ)象徴(しょうこ)たる(ぜん)大地(つち)を侵し、大海(うみ)を穢し、大空(そら)を閉ざす』『食物を喰らい、怪物を喰らい、精霊を喰らい、他者を喰らい、恩恵を喰らい、呪詛(のろい)を喰らい、病魔(やまい)を喰らい、意思を喰らい、誇りを喰らい、魂魄(たましい)を喰らい、我が身すらも喰らう底無し穴の幽鬼』『森羅万象全て喰らい貪り味わい飲み込み己が血肉と化す』『たとえこの身この魂が無間の地獄に堕ちようとも喰らい続ける』『この身はいずれ神々をも喰らおう』『蹂躙し数多を飲み干し平らげる 暴喰の覇道ここに極まれり』『暴悪に喰らい尽くす原罪の一角たる暴喰の化身(けもの)が胎動する』

 

 

【アウレー・エウアンゲリオン】

・回復魔法

・詠唱式『奏でられるは堅琴の音色』『その音色は優しき魂の平穏へと導く静寂の園へと通ずる』『静寂の園で響き渡るは聖鐘楼の福音』『静寂(しずか)なる悠久の時間(ひととき)はゆっくりと流れる』

 

こうして、オラリオに新たなLv.8の冒険者が誕生した。



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騒動

Lv.8に昇華した翌日、僕はギルドにやってきた。

 

「ベル君、今日はどうしたの?」

 

エイナさんが目的を聞いてくるのに対して僕はこう言った。

 

器の昇華(ランクアップ)をしたのでその報告です」

 

「ラ、ララ、ランクアップ~~~~~~!!?」

 

僕の言葉を受けてエイナさんは普段は出さない大声でそう言った。

 

その結果、ギルドにいた冒険者、ギルド職員の視線が僕達に集中してくる。

 

「ご、ごめん、ベル君!!個室に来てくれるかな!!」

 

周囲の視線に気付いたのかエイナさんは慌てながらそう言ってくる。

 

僕はそんなエイナさんに付いていき個室にて話し合いを始める。

 

「そ、それじゃベル君器の昇華(ランクアップ)のことについて聞かせて貰えるかな」

 

そう言ってくるエイナさんの質問に一言一句はっきりと伝えた。

 

「ダンジョンで生まれた神殺しのモンスターを単独討伐・・・、しかも二体だなんて・・・」

 

そう言いながら話を受け止め切れていないエイナさんに対して僕はこう言った。

 

「エイナさん、こういうのは割り切った方が楽ですよ。精神的に」

 

「少なくとも、君が言う言葉ではないと思うよ」

 

僕の言葉に辛辣に言葉を返してくるエイナさん。

 

「それじゃあ、報告はしたんで僕は帰ります」

 

「うん、解ったよ。でも、こういう突拍子もない事は控えてね・・・」

 

「保証は出来ません」

 

そう言って僕はギルドから帰宅するのだった。

 

ギルドから帰ってくると、武器と例の怪物素材(肉食恐竜の黒巨鱗)を持って椿の工房に足を運ぶのだった。

 

「椿」

 

「おぉ、ベルではないか。どうした、装備の手入れにでも来たのか?」

 

工房に入ると、作業に取りかかろうとしていた椿がいた。

 

「あぁ、それもあるが防具を作って欲しくてな」

 

「ふむ、それはまた急ではないか。何かあったのか?」

 

「お前も知っての通り、神の送還で生まれた二体の神殺しのモンスターを」

 

「お主が倒したのだろう、それがどうかしたのか?」

 

「その二体の内一体のモンスターが怪物素材(ドロップアイテム)を出した」

 

「ほう、それで?」

 

僕の言葉を聞いた納得したような顔で聞いてくる。

 

「それを用いた防具を造ってくれ」

 

「あいわかった、任せよ」

 

二つ返事で了承してくる椿に感謝しながら僕は肉食恐竜の黒巨鱗(ドロップアイテム)を手渡した。

 

「おぉ~~~っ、これが神殺しのモンスターの怪物素材(ドロップアイテム)か~~っ!!」

 

そう言いながら椿はまるで童のように目をキラキラさせている。

 

「それで防具に何か希望はあるか?」

 

「出来れば全身鎧(フルプレート)が良いんだが、軽装鎧(ライトアーマー)でも構わない」

 

「承知した、出来る限り要望には応えよう」

 

「あぁ」

 

椿の言葉に同意すると、白銀の双剣を渡してくる。

 

「これは・・・?」

 

「お主に半端な武器は渡せんからな、すぐに使い潰してしまうだろうからな。不壊属性(デュランダル)の双剣を代剣を出しておく」

 

「助かる」

 

そうして、防具の依頼をして椿の工房を去るのだった。

 

 

【ロキ・ファミリア】

 

無名の第一級冒険者ベル・クラネル、Lv.8へ到達!!

 

「さて、彼は何者なんだろうね・・・」

 

そう口にするのは【ロキ・ファミリア】団長にして勇者(ブレイバー)の二つ名を持つ第一級冒険者(Lv.6)フィン・ディムナ。種族は小人族(パルゥム)

 

「リヴェリア、其奴に会ったのだろう。どんな若造だった?」

 

フィンの次に口を開いたのは【ロキ・ファミリア】最古参にして豪傑(エルガルム)の二つ名を持つ第一級冒険者(Lv.6)ガレス・ランドロック。種族は鉱人(ドワーフ)

 

「あぁ、あの少年に感じたモノはかつての最強と最恐(ゼウスとヘラ)だったよ」

 

三番目に口を開いたのはベルと開講を果たしている一人、【ロキ・ファミリア】副団長にして都市最強の魔導師の呼び声の高い九魔姫(ナイン・ヘル)の二つ名を持つ第一級冒険者(Lv.6)リヴェリア・リヨス・アールヴ。種族は王族妖精(ハイエルフ)

 

「でも、ダンジョンに入らずにどうやってLv.7まで至ったのかしら?」

 

「そうだよね、あたし達だって中々Lv.6になれないのにね・・・」

 

疑問を口にしたのは【ロキ・ファミリア】幹部にして怒蛇(ヨルムガンド)の二つ名を持つ第一級冒険者(Lv.5)ティオネ・ヒリュテ。種族は女戦士(アマゾネス)

 

そして、その疑問に同意するのは【ロキ・ファミリア】幹部にして大切断(アマゾン)の二つ名を持つ第一級冒険者(Lv.5)ティオナ・ヒリュテ。種族は女戦士(アマゾネス)

 

「チッ」

 

舌打ちするのは【ロキ・ファミリア】幹部にして凶狼(ヴァナルガンド)の二つ名を持つ第一級冒険者(Lv.5)ベート・ローガ。種族は狼人(ウェアウルフ)

 

「・・・・・・」

 

無言のままにベルのランクアップした記事を凝視するのは【ロキ・ファミリア】幹部にして剣姫(けんき)の二つ名を持つ第一級冒険者(Lv.5)アイズ・ヴァレンシュタイン。種族は人間(ヒューマン)

 

「んー、それにしてもドチビのとこにそんな逸材がいくとはなぁ・・・」

 

ヘスティアのことをドチビと呼ぶのは【ロキ・ファミリア】主神であるロキ。

 

実はこのロキとヘスティアは天界時代から犬猿の仲である。

 

「そう言っていても仕方がないよ、ロキ。僕達は僕達のやり方でやっていくだけさ」

 

ロキの言葉にフィンがそう言うと、ガレスがリヴェリアに問いかける。

 

「そういえばリヴェリアさっき言っていたゼウスとヘラを感じたとはどういう事じゃ?」

 

「あぁ、それは彼から神殺しのモンスター二体の討伐を聞いたときに死んでしまっては意味がないと言ったのだが『死すればそこまでだっただけの話だ。ただそれだけだ』と返されてしまった。」

 

「確かに連中であればそう言いそうじゃが・・・」

 

リヴェリアの言葉に同意するも疑問が残るガレスの様子にフィンが口を開く。

 

「そうだね、彼に関しては頭の片隅にでも留めておこう」

 

それに関してはその場にいる全員が一致するのだった。

 



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暗転

Lv.8になった僕はダンジョンに来ていた。

 

理由は魂の昇華(ランクアップ)に伴って激上した【ステイタス】によって起こった感覚のズレを調整しに闘技場(コロシアム)に訪れ、魔法無しで十時間以上も戦闘を行った。

 

「ふぅ、やっと違和感がなくなった」

 

そう呟く僕の足下には大量の魔石と怪物素材(ドロップアイテム)が転がっていて、壁は無数の亀裂が深々と刻まれている。

 

そして、代剣の双剣は長時間の戦闘によって酷く摩耗していた。

 

「椿に文句を言われそうだな」

 

そう愚痴りながら僕は転がっている魔石と怪物素材(ドロップアイテム)を回収して地上に戻るのだった。

 

地上に戻ると魔石だけを換金し、怪物素材(ドロップアイテム)が椿への詫び賃として渡したのだった。

 

そして、手入れに出していた三本の武器で長剣の「ベーゼ・マーレボルジェ」が先に手入れを終えて戻ってきた。

 

すると、椿がこんな事を聞いてくる。

 

「ベルよ、その剣は呪武具(カース・ウェポン)であろう。どこで手に入れた?」

 

「謎の白装束の覆面集団から奪った」

 

別に隠すことではないため、正直に伝えると苦虫を噛み潰したような顔でこう言ってくる。

 

「ベル、其奴らは恐らく闇派閥(イヴィルス)と言う連中だ。面倒な連中だ、気をつけろ」

 

「あぁ、解っている。それこそ嫌って程にな・・・」

 

そんな会話の後、僕はヘスティア様行きつけの古書店に足を向けた。

 

そして、ある一冊の本と出会うのだった。

 

まさか、この本がある出会いを引き合わせるのだった。

 

 

 

古書店に着くと、何か珍しい英雄譚が無いか探していると真っ白い本が目に入った。

 

「レコード・ファミリア?」

 

そう表紙に書かれた題名を口にし、本を開くとそこには()()()()()()()()()()()

 

疑問に思った僕が初老の男性店主に話を聞くと分からないという答えしか返ってこなかった。

 

それでも、僕はこの本が気になってしまい購入するのだった。

 

そして、僕は本拠(ホーム)に帰り本を取り出すと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「どういう事だ?」

 

疑問に思いながらも本を開いた瞬間、僕の意識はそこで失われるのだった。

 

 

そうして意識を失ってから目を覚ますと、さっきまでの活気あるオラリオとは思えないほど静かだった。

 

その事に疑問に思っていると、都市の中から爆音が響き渡り、悲鳴も轟いていた。

 

「これはどういう事・・・?」

 

あまりにも突然すぎる都市の変貌に僕は完全に混乱していた。

 

「なんだ、ここにも雑音を奏でる者が居たか・・・」

 

後ろから聞こえてきた声に対して僕は長剣(けん)を抜き放ち、臨戦態勢を取る。

 

振り返ると、そこには目を閉じ黒い衣装(ドレス)に身を包んだ灰色の髪の女性だった。



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悲しき邂逅

戦火に包まれるオラリオに目の前に居る謎の女性、僕の頭は理解が追い付けていない。

 

「小僧、お前のその顔いやその()か・・・何故だか解らんが無性にくり抜きたくなってくる」

 

「!?」

 

女性の衝撃かつ過激な発言に対して強い警戒心を抱いた。

 

「小僧、貴様の名前は何だ?」

 

「・・・ベル・クラネル」

 

女性の急な質問に疑問を抱きながら僕は名前を名乗った。

 

「なんだと?いや、まさかそんな・・・」

 

僕の名前を聞いた途端女性は驚きの表情を浮かべた後、眉間に皺を寄せ何やら呟きながら考え込み始める。

 

すると、女性の後ろから一本の大剣を携え黒い全身鎧(フルプレート)を纏う大男が現れる。

 

「アルフィア、何をしている?エレボスが動いた、俺達も動くぞ」

 

「ザルド、あの子供を見てみろ。『悪食』を極めたお前であれば見極めれるだろう」

 

アルフィアと呼ばれた女性は後からやってきたザルドと呼ばれる大男にそう言った。

 

「あの子供がなんだと・・・・・・ !?」

 

ザルドと呼ばれる大男が僕のことを視界に捉えた瞬間驚いた表情をする。

 

「何故、あの子供からあのバカとメーテリアの『空気(香り)』と『状態()』がするだと・・・・・・!?」

 

ザルドと呼ばれる大男が言い放った言葉に理解が出来なかった。

 

だが、アルフィアと呼ばれた女性はやはりそうかと納得した様子を見せていた。

 

「いや、待ておかしいぞ。何故、あの子供からモンスターの『空気(香り)』と『状態()』がするんだ!?」

 

「「!!?」」

 

心底驚いてしまった、あのザルドという大男は見ただけで僕の本質を見抜いたのだった。

 

「・・・・・・おい、ザルドそれは・・・どういう・・・意味だ・・・?返答・・・次第・・・では容赦はせんぞ」

 

ザルドと呼ばれる大男の言葉に対してアルフィアと呼ばれた女性の空気を一変させる。

 

しかし、声音は少し震えていたような気もする。

 

「残念だが言葉通りだ、アルフィア。あの子供にはあのバカとメーテリアの『空気(香り)』と『状態()』と共にモンスターの『空気(香り)』と『状態()』がするのは紛れもない事実だ・・・」

 

ザルドと呼ばれる大男の言葉を聞き終えたアルフィアと呼ばれる女性は僕の方にへと振り向き、たった一言。

 

福音(ゴスペル)

 

一言、たった一言。

 

その一言によって轟音と衝撃に襲われた。

 

謎の攻撃を受けた僕は吹き飛ばされ地面に叩き付けられた。

 

「グハッ!?」

 

「メーテリアの子に、あの子の忘れ形見に何故モンスターが混ざっているのだ!?あの狒々爺の好々爺は何をしている!!」

 

激高するアルフィアと呼ばれる女性は誰かに怒りを向けていた。

 

「おい、小僧お前祖父はどうした?」

 

そう言ってくるアルフィアと呼ばれる女性に対して疑問に思いながらも答える。

 

「お爺ちゃんなら僕が14歳の誕生日の当日にモンスターに襲われて一緒に崖から転落死したと村長から聞いた。それがどうした?」

 

僕がそう言うと、アルフィアと呼ばれる女性はこう言ってくる。

 

「バカめ、あのエロジジイがその程度でくたばっているならとっくに天界に送還されている」

 

「天界に送還?」

 

何を言っているんだと思っていると、ザルドと呼ばれる大男もこう言ってくる。

 

「確かにな、意外にもあの神は存外しぶとい」

 

「え?」

 

アルフィアとザルドと呼ばれる二人の言葉が衝撃的すぎて呆けた声が出てしまうと同時にザルドと呼ばれる大男の発した言葉を口にしていた。

 

「あの、お爺ちゃんが神ってどういう事ですか?」

 

「なんだ、あの好々爺から聞かされていなかったのか。お前の祖父は本当の祖父では無く神の一柱(ひとり)でゼウスと言う名前だ」

 

「・・・・・・・・・」

 

嘘だと思いたかった、お爺ちゃんが本当のお爺ちゃんじゃないなんて・・・。

 

でも、それは真実であると現実が突きつけてくる。

 

突如として知らされた己自身の出生の真実を受け止めることは出来なかった。

 

「それじゃあ、お爺ちゃん・・・神ゼウスのことを知っている貴女たちは一体誰なんですか?」

 

「俺の名はザルド、元【ゼウス・ファミリア】所属の冒険者だった」

 

「私はアルフィア、元【ヘラ・ファミリア】に所属していた冒険者でお前の母親の実姉だ」

 

それを聞いて僕はゆっくりと身体を起こしながら問いかける。

 

「それじゃあ、僕の両親は・・・?」

 

「死んだ。父親の方は知らんが母親のメーテリアは先天性死病を患っていてそれの悪化によるものだ」

 

「そうですか・・・」

 

僕の両親はもうこの世界には居ない。

 

それを聞いてうつむいているとアルフィアさんがこう言ってくる。

 

「ベル、さっきお前は十四歳と言ったな」

 

「はい、そうです」

 

「私が知っている限りのベルの今の歳は七歳だったはずだ」

 

「え?」

 

「なに?それは本当か、アルフィア!?」

 

アルフィアさんの言葉に僕とザルドさんが驚きの声を出す。

 

「つまり、この場にいるベルは今から七年後のベル・クラネルと言うことになるな」

 

「嘘・・・」

 

「なんとまぁ・・・」

 

断言するアルフィアさんに僕は思考が追い付いていなかった。

 

すると、アルフィアさんがこんな事を言ってくる。

 

「ベル、私のことはお義母さんと呼べ。お前の選択権は無い」

 

「・・・はい」

 

何故だろう、アルフィアお義母さんに逆らってはいけないというのを感じてしまう。

 

そんなことを思っていると、ザルドさんから同情の眼差しを向けられたのだった。

 

すると、アルフィアお義母さんがある質問をしてくる。

 

「ベル、何故お前にモンスターが混じっているのかを答えろ」

 

「はい」

 

アルフィアお義母さんの有無言わせぬ言葉に僕は一言一句偽りなく話した。

 

質問に答えるごとにアルフィアお義母さんの機嫌が悪くなっていくのが手に取るように解った。

 

「そうか、よく分かったよ」

 

「あぁ、そうだなアルフィア」

 

「?」

 

僕には二人が何を言っているのか解らなかった、次に発せられる言葉を聞くまでは・・・。

 

「やはり終わらせるしかないようだな、この『神時代』を」

 

「そして、『英雄の時代』へ逆行する!」



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白兎の怒号

「何を言っているんですか・・・?」

 

僕は二人の言っていることが理解できない、一体どういう事なんだ?

 

「言葉通りの意味だ、ベル。私達はこの千年続く『神々の時代』を終わらせるんだ」

 

「アルフィアの言っていることは本当だ。俺達が犯した原罪(つみ)を清算するためにこの凋落した英雄の都市(オラリオ)を滅ぼす!!」

 

ザルドさんのその言葉でようやく理解出来た僕は大声で叫んだ。

 

「何を言っているんですか!?オラリオを滅ぼすなんてどうしてそんなことをする必要があるんですか!?」

 

その叫びに対してアルフィアお義母さんは言葉を返してくる。

 

我々(ゼウスとヘラ)では果たせなかった"三大冒険者依頼(クエスト)"最後の一体である"黒き終末"隻眼の黒竜討伐のためだ。そのために神々が降り立ち築いた『神時代』に幕を下ろし・・・"次代にして最後の英雄"を誕生させるために『古の時代』へと巻き戻す!!」

 

「たとえそれが千、万、億それ以上の命が散ることになるとしても成し遂げねばならん!!それがたとえ()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

「!!」

 

二人の魂の叫びに対して僕はこう言った。

 

「いやだ」

 

「なんだ、何を言っているのか聞こえんぞ童」

 

「嫌だ」

 

「どうした、囁き程度の声では俺達には届かんぞ兎」

 

「嫌だ、そんなの絶対嫌だ!!せっかく家族と呼べる人達に出会えたのに!!その人達は僕に今生の別れを告げてくる!!認めない、そんなのは絶対に間違っている!!」

 

「ならばどうする!!」

 

 

「決まっている、貴方達を止める!!そして、"英雄"を求めるなら僕がなる!!いつか来る隻眼の黒竜も僕が喰らい尽くす!!」

 

「ならば止めてみせろ!!その身と命を賭してな!!」

 

「やってみせろ、クソガキがぁっ!!俺達ですら果たすことの出来なかった黒竜討伐(目的)を口にしたからには俺達を超えて見せろ!!お前の『弱者の咆哮』を聞かせて見せろぉ!!」

 

「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」

 

空気を震えさせる程の猛り声と共に幾度も斬り結ばれる剣戟によって起こる轟音()と衝撃が都市を揺らし響き渡る。

 

「オッタルが戦っているのか・・・?」

 

「猛者・・・?」

 

誰もが現都市最強(オッタル)が戦っていると錯覚する。

 

それは小人族(パルゥム)の勇者から正義の眷族(アストレア・ファミリア)までもがそうだった。

 

戦いの()に反応し動き出す冒険者達は本来決して出会うことが出来なかった筈の者同士の派閥騒動(家族問題)を目にすることになるのだった。

 

 

大剣と長剣での剣戟では本来であれば長剣が先に限界を迎えているにも拘わらずベルの振るう長剣「ベーゼ・マーレボルジェ」はザルドの振るう大剣の剛撃を受け止め、その刃をもって斬り掛かっていく。

 

それは何故かというと「ベーゼ・マーレボルジェ」の制作者である闇派閥(イヴィルス)呪術師(ヘクサー)であるバルカ・ペルディクスの「神秘」のアビリティと剣

の素材に使われた最硬精製金属(オリハルコン)によって作り上げられた不壊属性(デュランダル)を持つ呪剣(カース・ウェポン)なのである。

 

福音(ゴスペル)

 

「かはっ!?」

 

超単文詠唱とは思えない威力の魔法(いちげき)を僕は躱すことが出来ずにまともに食らってしまう。

 

しかも、ザルドさんのことなどお構いなしに放ってくるからこそ躱し損ねてしまい魔法を喰らって地に伏してしまう。

 

「いくらLv.8とはいえ中身が『技と駆け引き』が未熟な冒険者では話にもならんし、取るに足らん童だ」

 

「あぁ、俺達二人相手でこの様では黒き終末を討つ所か俺達を止めることすら不可能だ。諦めて大人しく寝ていろ兎」

 

二人の言葉に僕は立ち上がりながらこう言った。

 

「絶対に嫌だ!!ここで諦めたら"英雄"に憧れていた僕を根底から否定することになる・・・。だけど、それ以上に家族を失いたくないんだ!!だから僕は何度だって立ち上がる、絶対に二度も家族を失うのは嫌なんだ!!どうしても時代を逆行、巻き戻すというのなら最初として()()()()()()()()()()()()()!!」

 

「「!?」」

 

そう、僕が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ザルドさんと剣を交え、アルフィアお義母さんの魔法を受けてなお生きているのはそのおかげだ。

 

僕を通してザルドさんは父を、アルフィアお義母さんは実妹である母を重ねてしまっている。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「・・・・・・・・・そうか、そうだったな。お前は仮にもあの狒々爺の好々爺に育てられていたのだったな。私もヤキが回っていたようだ、せっかく逢えた甥に己が甘さを指摘されるとはな・・・、さすがメーテリアの子だ」

 

「俺としてはあのバカの子供とはいえ見透かされてしまったことに衝撃を隠せないな・・・。だが・・・、子供とはいえ男があそこまで吼えて見せたんだ、ここで手を抜くというのは奴への侮辱に他ならんな」

 

そう言いながらザルドさんは大剣を構え、アルフィアお義母さんも臨戦態勢に入っている。

 

僕も魔法を使うために詠唱(うた)い始める。

 

『幾ら喰らえどもこの()から溢れ出る飢餓(うえ)は満たされぬ』

 

福音(ゴスペル)

 

「させん!!」

 

アルフィアお義母さんが魔法で、ザルドさんが大剣の一撃にて詠唱の妨害をしてくるけど僕は止まらない。

 

美食()でも悪食()でも満たされぬ』『既にこの身は穢され侵食(おか)され禊も浄化も救恤(すく)いすら皆無()く罪過の烙印を刻み込む』

 

Lv.7の二人の猛攻を受けながらも血反吐を吐きながらも詠唱(うた)い続ける。

 

「ぐはっ!!『・・・飢餓(うえ)象徴(しょうこ)たる涎は大地(りく)侵食(おか)し、大海(うみ)を穢し、大空(そら)を閉ざす』『食物を喰らい、怪物を喰らい、精霊を喰らい、他者を喰らい、恩恵を喰らい、呪詛(のろい)を喰らい、病魔(やまい)を喰らい、意思を喰らい、誇りを喰らい、魂魄(たましい)を喰らい、我が身すらも喰らう底無し穴の幽鬼』『森羅万象全て喰らい貪り味わい飲み込み己が血肉と化す』『たとえこの身この魂が無間の地獄に堕ちようとも喰らい続ける』『この身はいずれ神々をも喰らおう』『蹂躙し数多を飲み干し平らげる 暴喰の覇道ここに極まれり』『暴悪に喰らい尽くす原罪の一角たる暴喰の化身(けもの)が胎動する』

 

【グラトニー・サーベラス】

 

最後の一文を詠唱(うた)い終え魔法名を言った瞬間、燃え盛り滾る赫焱(ほのお)と激しく迸る金雷(いかづち)が場所を示すかのように天へ立ち昇ると共に僕の身体と長剣(けん)へと纏う。

 

「ベル、その付与魔法(エンチャント)がお前の魔法か?」

 

「そうです、そして貴方達二人を止める魔法だ!!」

 

「言うではないか、ならばやってみろ!!」

 

福音(ゴスペル)

 

そう話した後、アルフィアお義母さんが魔法を放ってくるも僕には届かなかった。

 

「!? どういう事だ!?」

 

「アルフィア、どうやらお前の魔法は喰われたようだぞ」

 

「ザルド、どういう意味だ?」

 

「そのままの意味だ、お前の魔法がベルの付与魔法(エンチャント)に触れた瞬間に掻き消された。つまり、ベルの魔法の特性は・・・」

 

魔力吸収(マジック・ドレイン)か・・・、それであれば納得がいくか・・・。厄介な魔法を得ているようだな」

 

「あぁ、これでお前と俺の魔法は封じられたと言えるな。だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()・・・!!」

 

「ならば、その正体を確かめればいい話だ。だが、このまま戦えばいずれ私達は・・・」

 

「あぁ、そうだな。それに猪の糞餓鬼や勇者の糞餓鬼も来るだろうからな」

 

こうして、派閥騒動(家族問題)は苛烈さを増しながら激化していく。

 



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独白

「なんだこれは・・・?」

 

轟音(おと)と衝撃が止んだと思えば炎雷の柱が天へと昇った。

 

そして、各派閥の冒険者達と共に柱の中心部に着くとそこにはあり得ない光景が広がっていた。

 

かつての最強(ゼウスとヘラ)の眷族と炎雷を纏う一人の少年が対峙している姿だった。

 

【ゼウス・ファミリア】"暴喰"のザルド

 

【ヘラ・ファミリア】"静寂"のアルフィア

 

かつての最強(ゼウスとヘラ)の中でも上位に君臨する実力者が闇派閥(イヴィルス)に所属していることに驚きを隠せなかったが、それよりもその二人を相手に一人の少年が戦えている事の方が大きかった。

 

すると、死角から闇派閥(イヴィルス)の集団が少年を害そうと矢を射かけようとしている動きを見せている。

 

「全冒険者に告ぐ、あの白髪の少年を援護しろ!!闇派閥(イヴィルス)に邪魔をさせるな!!」

 

咄嗟に叫んだ指示に対して冒険者達は闇派閥(イヴィルス)から少年を守るように戦いを展開する。

 

 

本来であるならばかつての最強(ゼウスとヘラ)と対峙するのは因縁深いロキとフレイヤ(僕達)のハズなのに・・・、超えなければいけないはずなのにそれが出来なかった。

 

その時、フィン()いやディムナ()の胸中はとても穏やかとは言っていられなかった。

 

そう、怒りに満ち満ちていた。

 

ザルドとアルフィア、第一級冒険者二人を相手に折れること無く戦いを挑み食らいついていく少年のあの姿を見て憧憬を抱いてしまった自分に対してだ!!

 

「くそっ、くそっ・・・!!」

 

そんな感情は捨てたはずだろう、あの時に・・・!!

 

何を今更縋ろうとしているんだ!!

 

「畜生・・・!!」

 

激しい戦闘の轟音(おと)によって掻き消されていることに安堵しながらも忸怩たる思いを胸に抱きながら目の前の敵を討つのだった。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

滑稽、まず最初に今の俺に対する浮かんだ言葉がそうだった。

 

雑兵を片付ける中でかつての最強(ゼウスとヘラ)を相手に刃を交えている兎とも思える少年を見やる。

 

まるであの場所に俺の立つ場所は無いと言わんばかりに近くとも遠く感じてしまっている、

 

ギリッ!!

 

本来であればゼウスとの因縁を断ち切らねばならないのは俺だ、俺なんだ!!

 

しかし、運命はそれを許さずあの子供に一任させる。

 

なんたる脆弱!!なんたる惰弱!!

 

こんな所で俺は止まるわけにはいかない!!

 

俺が浴びるは敗北と屈辱の『泥』ばかりだ。

 

だからこそ俺は浴びてきた『泥』を全て『礎』に変える!!

 

『超克の礎』に変えてのける!!



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一先ずの幕切れ

幾度目かの剣戟の最中、周囲から猛り声が聞こえてくる。

 

「やっと来たか、冒険者」

 

「遅い、遅すぎる。事態が佳境を迎えるにも拘わらず何をしていたというのだ・・・」

 

ザルドさんとアルフィアお義母さんが呆れた声でそう言った。

 

そう、他の場所で戦闘をしていた冒険者達が徐々にこの場に集まってきていた。

 

更に闇派閥(イヴィルス)と戦闘を開始していた。

 

「まぁ、現状に胡座を掻いていた奴らはどうとでもなる」

 

「あぁ、問題はあの子だ」

 

ザルドさんの言葉にアルフィアお義母さんが答える。

 

「まだまだぁっ!!」

 

そう叫びながらも剣を握り振るう一撃をザルドさんの大剣が防ぐと同時に轟音と衝撃が走る。

 

そして、それと共に間髪入れずにアルフィアお義母さんの蹴りが放たれ、僕の脇腹に刺さる。

 

「ぐぷっ!?」

 

Lv.では僕が上でも対人戦闘の経験では二人の方が格上、徐々に押し込まれていく。

 

「どうした、俺達を止めると言っていた割には勢いが無くなったぞ」

 

「最初から出来もしないことを口にするな。もうお前の奏でる雑音(おと)を消すと・・・ゴフッ!?」

 

そう言うとアルフィアお義母さんが詠唱を始めようとしたとき、吐血した。

 

それも血の塊としてだ。

 

その光景を見た僕は思わず身体が固まってしまった。

 

「アルフィア、今はここまでだ。俺の身体も限界のようだ」

 

「ザルド・・・、退くとしよう」

 

「待って!!」

 

福音(ゴスペル)

 

その言葉を最後にアルフィアお義母さんが地面に魔法を打ち込み土煙と共に姿を眩ませたのだった。

 

「くそっ!!」

 

悪態をつきながら僕はこの場を他の冒険者に押し付けて身体を休めるために移動するのだった。

 

そうして、足を休めるために訪れたのはヘスティア様と出会った廃教会ではなく用水路の中だった。

 

そこで僕は腰を下ろし休息を取るのだった。

 

「アルフィアお義母さん、大丈夫かな・・・?」

 

休息を取りながら考えることはアルフィアお義母さんのことだった。

 

吐血するにしたってあの量は異常だ。

 

身体を壊していることは確定として原因は何だろう。

 

そこで僕はあることを頭に過らせた。

 

それは先天性の死病という言葉だった。

 

僕の実母がその死病で死んでしまったけど、あり得なくはない。

 

「アルフィアお義母さんもその死病に罹っている・・・?」

 

もしそうだとすれば、いままでどうやって生き延びられたんだ?

 

神々の恩恵の力なのか、それとも・・・。

 

「病の症状を緩和させる方法があるか・・・」

 

そう考えるのが妥当だと判断した僕は少しでも身体を休めるために眠りにつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴホッ・・・ゴホッ・・・カハッ・・・!!」

 

思わぬ限界を超えた戦闘時間により病の進行が進み発作が激しい。

 

何度も口から血の塊を吐いた、もう鉄の味しかせん。

 

私いや、私とザルドには時間が無い。

 

しかし、まさか愛しの実妹(メーテリア)忘れ形見()が未来からやってくるとはな・・・。

 

しかも【ゼウス・ファミリア】団長の英傑(マキシム)と同じ領域に立っている。

 

いや、経験での話であれば英傑(マキシム)の方が上だが・・・。

 

あの子の口から怪しい白装束共(イヴィルス)の手によって怪人(クリーチャー)二作り替えられたと聞いたときは冒険者と共に纏めて消し飛ばしてやると誓ったほどだ。

 

エレボスがそのような指示を出すとは思えんしな。

 

あぁ、もどかしい!!七年後の闇派閥(イヴィルス)の連中を殺して回りたい。

 

私の大切な実妹の忘れ形見を穢したからには相応の報いをくれてやろう。

 

そんなことを考えているとザルドがやってくる。

 

「アルフィア、身体はまだ動けるか?」

 

「今は難しいだろうが最終決戦までには回復させる」

 

「そうか」

 

そう言ってザルドは椅子に身体を預けるように座る。

 

「ザルド、お前から感じたベル(あの子)状態()を教えろ」

 

「それは構わんが・・・急に如何した?」

 

「・・・・・・只の気紛れだ」

 

「そうか」

 

私の言葉にザルドはあの子のことを話し始めた。

 

「まずはそうだな、『家族』というものに餓えていることだな」

 

「そうか、やはりな・・・」

 

そう、その事に関しては私も感づいてはいた。

 

私達が死も厭わないと宣言した時、あの子は拒絶した。

 

ハッキリと私達のことを『家族』と呼んでいた。

 

「二つ目は英雄への憧憬」

 

「これに関しては大神(ゼウス)が絡んでいるだろうな」

 

「あぁ、俺もそう思う。全くあの爺は何を考えているのやら」

 

「よせ、今更あの狒々爺の好々爺のことで悩んでいても仕方が無い」

 

「そうだな」

 

本当にあの糞爺はこんな時でさえも私達をかき回すのだな。

 

「三つ目が強さへの渇望」

 

「何?」

 

「これに関して俺は黒き終末に向けての物だと考えているんだが・・・、アルフィアお前の考えはどうだ?」

 

「そうだな、私は・・・」

 

そうして、ザルドと共にベルのことを話している内に夜が明けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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もう一つの眷属の物語

過去の世界に来て何日か経過した。

 

闇派閥(イヴィルス)は断続的にオラリオを破壊していく。

 

僕はその間にも幾度か殲滅するも蛆のようにわいてくる。

 

そんな中で僕はダンジョンへと侵入を試みようとしていた。

 

目的は食事代わりの魔石を摂取することだ。

 

そのためにダンジョンへと向かおうとしたとき、一人の男神と護衛の笑みを張り付けた気味の悪い男が現れた。

 

「はじめまして、少年。俺の名はエレボス、こっちは俺の眷族でヴィトーだ」

 

「だからなんだ、僕に何の用だ」

 

男神の自己紹介に僕は冷たく接する、不敬かもしれないがヘスティア様以外の神は信用できない。

 

「反応が冷たいな、まぁ警戒するのは正しい。これでも闇派閥(イヴィルス)の親玉だから・・・」

 

「死ね」

 

僕はエレボスの言葉を遮り首を刎ねようと抜剣し斬り掛かるも割って入ってきたザルドさんに弾かれてしまう。

 

「退いて貰えませんか、ザルドさん。そいつを殺せない・・・!!」

 

「すまんが、それは出来ん。エレボスにはまだ役目がある」

 

止め処なく沸き上がってくる殺意を僕はザルドさんの後ろにいるエレボスに向ける。

 

「おー怖い、いやマジで。これゼウスの浮気を知ったときのヘラ並にヤバいな・・・、マジで」

 

「だな。しかし、このままというわけにも行くまい」

 

そう話しているエレボスとザルドさんの後ろからアルフィアお義母さんが現れる。

 

「ベル、少し話をしに来た」

 

「話って何ですか?」

 

「まぁ、色々だがここではなくあの教会で話したい」

 

アルフィアお義母さんの言葉に僕は剣を下ろすしか出来なかった。

 

教会に着くと僕達はいろんな事を話した。

 

それも各派閥の首領達の過去話なども聞かせてくれた。

 

かつての最強(ゼウスとヘラ)が健在だったときの話もたくさん聞かせて貰った。

 

僕もヘスティア様と過ごした事を話した、その度にアルフィアお義母さんは羨んでいる様な様子をしていたけど、それを指摘していたらザルドさんの様に福音正拳(ゴスペルパンチ)で地面に沈んでいただろう。

 

そして、話しの話題はあの事に変わってくる。

 

「ねぇ、お義母さんどうしても・・・」

 

「そうだ、これは私もザルドも覚悟の上だ」

 

アルフィアお義母さんは僕の言葉を遮りそう言い切った。

 

「なら、僕はお義母さんの遺志を繋ぐよ」

 

「そうか、ありがとうベル」

 

僕の言葉にアルフィアお義母さんはそう言うのだった。

 

その瞬間、大地が揺れた。いや、正確にはダンジョンが啼いた。

 

「!?なに、これ!?」

 

「そうか、実行したようだなエレボス」

 

「アルフィア、俺達の役目はもうすぐだ」

 

僕が驚く中でザルドさんとアルフィアお義母さんは平然としていることからこれがなんなのかを知っているようだ。

 

「お義母さん、これって一体・・・?」

 

「これは神殺しの怪物が誕生()まれたのだ」

 

「神殺しの怪物・・・」

 

それを聞いて僕はLv.8に至るときに倒した漆黒のモンスター二体を思い浮かべる。

 

「最期にお前と話すことが出来て良かった。これでようやく・・・」

 

そう言いながらアルフィアお義母さんは言葉を止める。

 

「ザルド」

 

「解っている、アルフィア」

 

「「ベル、私(俺)の血肉を呑め」」

 

「え?」

 

ザルドさんとアルフィアお義母さんの言葉に僕は呆けてしまった。

 

「お前のスキルは俺と似ている。だからこそ、俺とアルフィアの血肉を喰らえば更に力を得ることが出来るだろう」

 

「しかし、これは同時に賭けでもある。さっきの話しの中でも言ったが、ザルドの身体は巨獣(ベヒーモス)の血肉を喰らったことで全身を猛毒に冒され尽くしている。だから、お前には・・・」

 

「食べるよ」

 

僕はアルフィアお義母さん達の言葉を遮り答える。

 

「僕は今まで家族はお爺ちゃんしか居ないと思ってた。だけど、違ったんだ。僕にはまだ厳しくも優しく支えてくれる家族が居てくれたんだと言うことが知れて嬉しいんだ。だから、僕はそんな家族の思いを無碍にはしたくないんだ」

 

「・・・そうか」

 

「ベル、ありがとう」

 

こうして、僕はザルドさんとアルフィアお義母さんの身体の一部を喰らった。

 

「ぐがぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!??」

 

ザルドさんの一部を口にした瞬間、巨獣(ベヒーモス)の猛毒は当然の如く牙を剥く。

 

「ベル、巨獣(ベヒーモス)の猛毒に勝てよ。負けるな、止まるな、進み続けろ」

 

「ベル、お前は全てが終わるまでここでいろ。・・・さよならだ」

 

猛毒に悶えながらも二人の言葉が耳に届く。

 

駄目だ、行かないで。行っちゃ駄目だ!!

 

最初から二人はこうするつもりだったんだ、僕のスキルであれば時間がかかるが解毒もとい適応が出来ることを二人は見抜いていた。

 

だからこそ、僕に力を得させると同時に身動きを封じその間に計画を進めるつもりだったんだ。

 

「ふっ・・・ざけろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

僕は怒号と共にスキルに全神経を注ぎ込み稼働させる。

 

その結果、僕は巨獣(ベヒーモス)の猛毒に適応することが出来た。

 

「早く・・・お義母さん達を追いかけないと・・・」

 

そう言いながら進もうとした時、エレボスが姿を見せる。

 

「何の用だ、エレボス」

 

「うむ、俺がここに来たのは案内役を買って出たからだ」

 

「あん・・・ない・・・やく?」

 

「あぁ」

 

エレボスは自身を案内役だと言ってくるのに対して疑問を投げかける。

 

「何故、神が案内役をする?」

 

「いやなに、お前はザルドすら解毒できなかった巨獣(ベヒーモス)の猛毒に適応して見せた。その可能性をもっと見たくなってしまった、たんなる好奇心さ」

 

「・・・だったら、僕をどこへ案内するつもりだ」

 

「ダンジョン、十八階層でアルフィアが冒険者と戦っている。しかし、想定外の出来事が起こった。本来一体しか召喚されない神殺しのモンスターが二体産まれてしまったことだ」

 

「!?」

 

エレボスの言葉に僕は耳を疑った。

 

そして、僕はエレボスの考えている事を口にする。

 

「一体は冒険者が討伐するとして、もう一体は僕に討伐しろというのか」

 

「正解」

 

考えを言い当てるとエレボスは不敵の笑みを浮かべる。

 

「殴っても良いか」

 

「おいおい、勘弁してくれよ。Lv.8のステイタスで殴られたら送還されてしまう」

 

「じゃあ、手加減を覚えるための頭陀袋(サンドバック)になってくれ」

 

「はっはっは、イヤだね!!」

 

そんなこんなで茶番は終わりにして僕とエレボスはダンジョンへと向かうのだった。

 

しかし、摩天楼施設(バベル)は封鎖されているため闇派閥(イヴィルス)の使う経路でダンジョンへと向かう。

 

「ザルドさんはどうしたんだ?」

 

「ザルドは地上で現最強と戦っているよ」

 

「そうか・・・」

 

ザルドさんも戦っていることを聞かされ、僕も神殺しのモンスターとの戦いに戦意を高めていく。

 

そうして、辿り着いたのは完全に原型のなくなった二十五階層だった。

 

辺りは炎が燃え盛り、水も瀑布と化していた。

 

「ここが二十五階層なのか、まるで地獄だな」

 

「あぁ、そうだな」

 

そんなことを話していると半狂乱化したモンスター達が襲いかかってくるが、それは僕が剣で一掃する。

 

「エレボス、お前には役目があるとザルドさんから聞いているがそれはなんだ?」

 

「それをお前に教える必要はないが・・・、強いて言えることがあるとすれば"未来"かな」

 

「そうか」

 

僕の問いにエレボスがそう言った。

 

「それじゃあ俺は眷属達の元に行くとしよう。頑張ってくれベル」

 

「お前に言われなくても解っている」

 

そう言いながら破壊音のする方角を見ると、そこには上半身が巨人、下半身が大蛇、背中には翼の特徴を持つモンスターがいた。

 

「来い、モンスター」

 

そう言って僕の戦いが切って落とされた。



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終幕

先日、間違えて投稿してしまったが為に読者の皆様を混乱させてしまい申し訳ありませんでした。

今度からは間違えないように気をつけていきたいと思います。


二十五階層の戦いは正に死闘そのもの。

 

僕が剣で切り裂くも瞬く間に傷が癒えてしまう上に目が光ったと思えば炎がそこから吐き出される。

 

身震いを起こすだけで地形を変えてしまう。

 

「あぁ、鬱陶しいなぁ」

 

そう悪態を付いたところで状況が好転する訳ない為

弱点を探るべく攻撃の手を緩めることなく攻めたてていく。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

すると、突然モンスターは雄叫びにも似た叫び声を上げた。

 

その瞬間、ダンジョンの壁からモンスター達が出現してくる。

 

「チィッ!!」

 

舌打ちしたところでどうこうなるわけでもないのは解って入るもののしたくもなる状況だ。

 

襲いかかってくるモンスターに集中すれば神殺しが一撃を見舞い、神殺しに集中すれば他のモンスターが隙間を塗って襲ってくる。

 

しかし、この状況に対して僕はある意味好機ではないのかと考えた。

 

補給(かいふく)のままならない現状で生み出されるモンスターは僕にとっては補給物資そのものであると考えた。

 

そう思ったら行動あるのみと僕はブルークラブ数体を魔石に変え喰らう。

 

すると、少しばかりではあるが体力が回復したような感覚があった。

 

これならば長期戦になろうとも戦えるような気がしなくもないが・・・、魔法を使うことにした。

 

『幾ら喰らえどもこの()溢れ零れでる飢餓(うえ)は満たされぬ』『美食()でも悪食()でも満たされぬ』

 

僕は詠唱(うた)う、誰かに見せるわけでもないモンスターとの演武を披露するかのように・・・。

 

平行詠唱、それは魔導士であればなんとしてでも身に付けておきたい技能である。

 

それは魔法使用の際に動きを止めてしまう魔導士はそれこそ格好の的になってしまうからだ。

 

しかし、平行詠唱は魔導士の危険性(リスク)はある程度は軽減できる。

 

軽減できるだけであって無くなることはなくむしろ高くなっている可能性すらある。

 

何故なら、詠唱と同時に移動、モンスターへの対処など守られていた頃よりも思考を一つ二ついや三つ増やさなくてはならないからだ。

 

だからこそ、平行詠唱は熟練の魔導士でも身に付けている者はそう多くはない。

 

しかし、多対一のこの状況で()()()平行詠唱に挑戦する。

 

しかも、神殺しという規格外の化け物の前でだ。

 

普通であればイカレていると誹りを受けるだろうが、そんなことはどうでも良かった。

 

ザルドさんとアルフィアお義母さん(家族)を守れるのであればどんな術も利用すると決めたんだ。

 

だから、失敗したとしても何度でもやってやる!!

 

『既にこの身は穢され侵食(おか)され禊も浄化も

救恤(すく)いすら皆無()く罪過の烙印を刻み込む』『飢餓(うえ)象徴(しょうこ)たる(ぜん)大地(つち)を侵し大海(うみ)を穢し大空(そら)を閉ざす』『食物を喰らい、怪物を喰らい、精霊を喰らい、他者を喰らい、恩恵を喰らい、呪詛(のろい)を喰らい、病魔(やまい)を喰らい、意思を喰らい、誇りを喰らい、魂魄(たましい)を喰らい、我が身すらも喰らう底無し穴の幽鬼』『森羅万象全て喰らい貪り味わい飲み込み己が血肉と化す』『たとえこの身この魂が無間の地獄に堕ちようとも喰らい続ける』『この身はいずれ神々をも喰らおう』『蹂躙し数多を飲み干し平らげる 暴喰の覇道ここに極まれり』

 

そう、僕はこれからも全てを喰らう。

 

『暴悪に喰らい尽くす原罪の一角たる暴喰の化身(けもの)が胎動する』

 

【グラトニー・サーベラス】

 

 

その瞬間、僕は身体と剣に燃え盛る赫焱(ほのお)と激しく迸る金雷(いかづち)を纏い、地を蹴り砕くほどの力で駆け出す。

 

神殺しまでの進路を塞ぐモンスターを一撃で屠り魔石は捕食していき力の向上を図る。

 

すると、神殺しの左腕が膨張したと思ったらそのまま振り下ろしてくる。

 

僕はすぐさま後ろに跳び回避しようとしたが振り下ろされたその一撃は周囲を吹き飛ばす衝撃と轟音が発生()きた。

 

「ぐぁっ!?」

 

それと同時に砕けた地面の一部や巻き込まれたモンスターが衝撃によって飛んでくる。

 

「邪魔だぁっ!!」

 

そう叫びながら僕は衝撃に耐え飛んでくるモンスターは斬り捨て、瓦礫は躱していくことで前へと進んでいく。

 

すると、神殺しが追撃と言わんばかりに目から炎を吐き出してくる。

 

「ぐぅあああああああっ!!?」

 

その炎が右腕に被弾し、苦痛に僕は叫んでしまう。

 

その様子を見て神殺しはニタリと気持ち悪い笑みを浮かべているのが視界に入ると怒りがこみ上げてくる。

 

「クソッタレがぁああああああああああああああああああっ!!」

 

それは神殺しに対してではなく自分自身に対してである。

 

僕はザルドさんとアルフィアお義母さん(二人)に黒竜討伐を宣言したというのにこの体たらくはなんだといんだ!!

 

「僕は・・・"英雄"になりたい・・・。僕を信じてくれる人達のために、想いを果たすために・・・。だから、お前らの命を喰らい尽くす!!」

 

そう言い切った瞬間、ある変化が起こる。

 

背中に刻まれた炉神(ヘスティア様)恩恵(ファルナ)が、神血(イコル)が激しく反応している。

 

すると、ただ纏うだけだった炎雷は集束されまるで鎧のように纏まってみせ、剣には刃に集束され炎雷によって剣身が延長され大剣の様になる。

 

そして、共鳴するかのように聖鐘楼(かね)の音色が響き渡ると全身が、剣が白く光輝する光に照らされる。

 

「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

その光景を目にした神殺しは吠えた、目の前に居る危険を滅ぼすために死兵(モンスター)に襲わせる。

 

神殺しの咆哮に従って襲いかかる無数のモンスターに対して僕は一撃を振るった。

 

その瞬烈の剛閃はによって迫り来る無数のモンスターは灰と化し魔石に姿を変えた。

 

「!!!?」

 

神殺しは目の前で起こった光景に明らかな動揺を見せる。

 

自分は神を殺すために産まれたはずなのに目の前にいる小さき存在に臆してしまっていると言う事実を受け止めきれていないのかそれとも、純粋に目の前の小さき存在に恐怖しているか・・・。

 

そのどちらかはどうでもいい、しかし神殺しの取った行動が逃亡だった。

 

「逃げられると思うなよ」

 

その一言と共に駆け出し逃げ出した神殺しを背後から蹴り飛ばすとそのまま巨蒼の滝(グレート・フォール)の滝壺に叩き付けた。

 

しかし、流石は神殺しというべきだろう。

 

滝壺に叩き付けられた程度では魔石に変わることはなかった。

 

「生きていたか・・・、じゃあ喰われて死ね」

 

その言葉と共に僕は神殺しの懐に飛び込むと、剣で腹へ突き刺し下から上へと斬り上げた。

 

「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ・・・ッ!!」

 

最期道連れにしよう拳を振り下ろしてきたが手首から両断してそれを防いだ。

 

それを最期に神殺しは灰と化し魔石怪物素材(巨王の剛皮)だけが残るのだった。

 

「いただきます」

 

神殺しの魔石は補給のために喰らい、怪物素材(巨王の剛皮)外套(コート)の様に羽織るのだった。

 

もう一つの眷族の物語は終わりを告げ、そして上階の戦いも終わりを迎えることとなった。

 

「終わったんだね、ザルドさんアルフィアお義母さん・・・」

 

その言葉と共に僕の目から涙が溢れてくる。

 

過去であったとしても愛する家族が死ぬことになるのは悲しい。

 

だからこそ、僕は誓いを守る。

 

そう考えていると、僕の身体が光に包まれ始める。

 

どうやら僕が介入を許されているのはここまでらしい。

 

「ザルドさん、アルフィアお義母さん僕は絶対に"英雄"になるから見守っていて下さい」

 

その言葉を最後に僕の意識は遠のいていくのだった。

 

 

 

 

 

意識を取り戻すと、僕は本拠(ホーム)の机に突っ伏して寝ていたようだ。

 

つまり、僕はさっきまで夢を見ていた・・・?

 

いやでも、アルフィアお義母さんの魔法やザルドさんの大剣の一撃、神殺しの攻撃を受けてたときの痛みは本物だった。

 

それが夢だと言い切れるのか、あれは間違いなく現実のハズ・・・。

 

「ただいま~、あっベル君今日は帰りが早かったんだね」

 

「お帰りなさい、ヘスティア様。はい、今日は早めに切り上げてきたんです」

 

バイトから帰ってきたヘスティア様の問いに答えると、あることに気付く。

 

それは外套(コート)のように羽織っている巨王の剛皮(ドロップアイテム)だった。

 

これを身に付けていると言うことはあれは現実だったという証拠だ。

 

「ヘスティア様、【ステイタス】の更新をお願いしても良いですか」

 

「いいぜ、とは言っても君のことだからいきなりバカ高い数字を叩き出すのは目に見えてるから少しは安心して見られるよ」

 

そう言った話をしながら僕は【ステイタス】を更新して貰う。

 

その結果・・・。

 

 

ベル・クラネル

 

Lv.8

 

力I0→SSS20796 耐久I0→SSS21804 器用I0→SSS18696 敏捷I0→SSS18696 魔力I0→SSS10039

 

幸運EX 怪人EX 

 

人怪融合(モンストルム・ユニオン)

異種混成(ハイブリッド)

超越界律(ネオイレギュラー)

神理崩壊(ステイタス・バグ)

穢霊侵食(アニマ・イロ―ジョン)

 

超越怪人(オーバーロード)

無限再生(アペイロン・リバース)

無限成長(アペイロン・アウクセシス)

限界突破(クリティカルオーバー)

 

捕食者(プレデター)

完全回復(フルリカバリー)

怪物喰い(モンスター・イーター)

 

才禍の怪物(モンストルム・タレント)

・超早熟する

怪物(りかい)が続く限り効果持続

怪物(りかい)の丈により効果向上

 

怪物恩寵(モンストルム・アムブロシア)

強喰増幅(オーバーイート)

無限暴喰(ベルゼブル)

尽喰貪王(タイラント)

完全擬態(アブソル―ト・コピー)

成長増強(ビルドアップ)

 

【グラト二―・サーベラス】

付与魔法(エンチャント)

・炎属性・雷属性

魔力吸収(マジックドレイン)

損傷吸収(ダメージドレイン)

生命吸収(エナジードレイン)

呪詛吸収(カースドレイン)

・詠唱式『幾ら喰らえどもこの()から溢れ零れでる飢餓(うえ)は満たされぬ』『美食()でも悪食()でも満たされぬ』『既にこの身は穢され侵食(おか)され禊も浄化も救恤(すく)いすら皆無()く罪過の烙印を刻み込む』『飢餓(うえ)象徴(しょうこ)たる(ぜん)大地(つち)を侵し、大海(うみ)を穢し、大空(そら)を閉ざす』『食物を喰らい、怪物を喰らい、精霊を喰らい、他者を喰らい、恩恵を喰らい、呪詛(のろい)を喰らい、病魔(やまい)を喰らい、意思を喰らい、誇りを喰らい、魂魄(たましい)を喰らい、我が身すらも喰らう底無し穴の幽鬼』『森羅万象全て喰らい貪り味わい飲み込み己が血肉と化す』『たとえこの身この魂が無間の地獄に堕ちようとも喰らい続ける』『この身はいずれ神々をも喰らおう』『蹂躙し数多を飲み干し平らげる 暴喰の覇道ここに極まれり』『暴悪に喰らい尽くす原罪の一角たる暴喰の化身(けもの)が胎動する』

 

 

【アウレー・エウアンゲリオン】

・回復魔法

・詠唱式『奏でられるは堅琴の音色』『その音色は優しき魂の平穏へと導く静寂の園へと通ずる』『静寂の園で響き渡るは聖鐘楼の福音』『静寂(しずか)なる悠久の時間(ひととき)はゆっくりと流れる』

 

「って、何でもう昇華(ランクアップ)が可能になっているんだい!?」

 

「実は・・・」

 

流石に僕も昇華(ランクアップ)が出来ることには驚いた。

 

そして、ヘスティア様の質問に正直に話した。

 

「まさか、ベル君がゼウスとヘラの眷族の隠し子だったなんてね・・・」

 

「それをアルフィアお義母さんから聞かされたときは穏当に驚きました。でも良かったです」

 

「お爺ちゃんしか居ないと思っていた僕の家族はまだ居るんだって知れたんですから」

 

「そっか」

 

僕の言葉にヘスティア様は優しい笑みを浮かべながらそう言ってくる。

 

「それでヘスティア様昇華(ランクアップ)をお願いします」

 

「あぁ、うん解ったよ」

 

そう言って僕はヘスティア様に【ステイタス】を更新もとい昇華(ランクアップ)をして貰った。

 

 

ベル・クラネル

 

Lv.9

 

力I0 耐久I0 器用I0 敏捷I0 魔力I0

 

幸運EX 怪人EX 

 

人怪融合(モンストルム・ユニオン)

異種混成(ハイブリッド)

超越界律(ネオイレギュラー)

神理崩壊(ステイタス・バグ)

穢霊侵食(アニマ・イロ―ジョン)

 

超越怪人(オーバーロード)

無限再生(アペイロン・リバース)

無限成長(アペイロン・アウクセシス)

限界突破(クリティカルオーバー)

 

捕食者(プレデター)

完全回復(フルリカバリー)

怪物喰い(モンスター・イーター)

人間喰い(マン・イーター)

 

才禍の怪物(モンストルム・タレント)

・超早熟する

怪物(りかい)が続く限り効果持続

怪物(りかい)の丈により効果向上

 

怪物恩寵(モンストルム・アムブロシア)

強喰増幅(オーバーイート)

無限暴喰(ベルゼブル)

尽喰貪王(タイラント)

完全擬態(アブソル―ト・コピー)

成長増強(ビルドアップ)

 

英雄願望(アルゴノゥト)

能動的行動(アクティブアクション)に対することチャージ実行権

 

血統系譜(ゲノス・デスモス)

大神系譜(ゼウス・デスモス)

女神系譜(ヘラ・デスモス)

 

巨獣死毒(ディリティリオ・ベヒーモス)

死毒精製(クリエイト・ディリティリオ)

死毒纏身(ボディ・ディリティリオ)

 

【グラト二―・サーベラス】

付与魔法(エンチャント)

・炎属性・雷属性

魔力吸収(マジックドレイン)

損傷吸収(ダメージドレイン)

生命吸収(エナジードレイン)

呪詛吸収(カースドレイン)

病魔吸収(アロスティア・ドレイン)

死毒吸収(ディリティリオ・ドレイン)

・詠唱式『幾ら喰らえどもこの()から溢れ零れでる飢餓(うえ)は満たされぬ』『美食()でも悪食()でも満たされぬ』『既にこの身は穢され侵食(おか)され禊も浄化も救恤(すく)いすら皆無()く罪過の烙印を刻み込む』『飢餓(うえ)象徴(しょうこ)たる(ぜん)大地(つち)を侵し、大海(うみ)を穢し、大空(そら)を閉ざす』『食物を喰らい、怪物を喰らい、精霊を喰らい、他者を喰らい、恩恵を喰らい、呪詛(のろい)を喰らい、病魔(やまい)を喰らい、意思を喰らい、誇りを喰らい、魂魄(たましい)あくてを喰らい、我が身すらも喰らう底無し穴の幽鬼』『森羅万象全て喰らい貪り味わい飲み込み己が血肉と化す』『たとえこの身この魂が無間の地獄に堕ちようとも喰らい続ける』『この身はいずれ神々をも喰らおう』『蹂躙し数多を飲み干し平らげる 暴喰の覇道ここに極まれり』『暴悪に喰らい尽くす原罪の一角たる暴喰の化身(けもの)が胎動する』

 

【アウレー・エウアンゲリオン】

・回復魔法

・解毒魔法

・解病魔法

・詠唱式『奏でられるは堅琴の音色』『その音色は優しき魂の平穏へと導く静寂の園へと通ずる』『静寂の園で響き渡るは聖鐘楼の福音』『静寂(しずか)なる悠久の時間(ひととき)はゆっくりと流れる』

 

「なんだいこれは・・・」

 

僕の【ステイタス】を見てヘスティア様はドン引きしていた。

 

「そうですね、既に発現しているスキルや魔法に効果が追加されるとは思いませんでしたよ」

 

そう、言葉通り既存のスキルや魔法に効果が追加されていたのだ。

 

それに関しては心当たりがある、それはザルドさんとアルフィアお義母さんが関係していることは確かだ。

 

恐らく二人の血肉を食べた結果が効果が追加されたと考えた方が妥当だ。

 

しかし、こんな事なら魔法が発現したときから一緒に有ってくれたら二人のことを助けられたかも知れないのに・・・。

 

どうしてもそんなたらればを考えてしまう。

 

それは命を賭して壁として立ち塞がった二人への侮辱だと解ってはいるけれどもそう思わざることを禁じ得ない。

 

「もっと強くならないと・・・」

 

そう呟くと、ヘスティア様が僕の頬に触れてこう言ってくる。

 

「君の気持ちは解るんだけどね、焦りは禁物だよ。それに失いたくない気持ちはボクだって一緒だよ」

 

「ヘスティア様・・・」

 

ヘスティア様の言葉に僕は心が少し軽くなったような気がした。

 

「さて、今日はもう休もう。君には少し休息が必要だ」

 

「・・・はい」

 

そうして、僕とヘスティア様は食事と入浴を済ませ眠りにつくのだった。



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増幅する悪意

迷宮都市オラリオの地下深くに存在する悪意の巣窟人造迷宮(クノッソス)、そこでは怪人(クリーチャー)の製造実験場が再建されていた。

 

「ヴァレッタ様、新たに怪人(クリーチャー)を生み出すというのは本当に宜しいのでしょうか?」

 

「今更何言ってやがる、あんな化けもんに対抗出来んのは同じ化けもんしかいねえんだよ」

 

配下の言葉にヴァレッタは威圧を込めてそう言い黙らせる。

 

「さっさとあのガキを始末しねぇといけねぇんだ」

 

そう言いながら試験管に入っている実験体(人間)達に目を向ける。

 

その試験管の中に入っているのは白妖精(エルフ)黒妖精(ダークエルフ)、獣人、小人族(パルゥム)、アマゾネス、ドワーフ、ヒューマンなど種族は違えども共通している物がはめ込まれている。

 

それは拳大の極彩色の魔石である、更に首には黒い首輪が装着されていた。

 

「バルカの奴に創らせた操り人形の首輪(マリオネット・コラー)人形師の指輪(パペッティア・リング)、これであのガキも操り人形にしてやるぜ!!!」

 

興奮しながら高笑いをするヴァレッタ、その姿は醜悪そのものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

七年前のオラリオから帰ってきた僕はザルドさんやアルフィアお義母さん、神殺しの怪物との戦闘で摩耗した愛剣(ベーゼ・マーレボルジェ)を手入れして貰うために椿の工房にやってきた。

 

「椿、居るか?」

 

そう言いながら工房の中に入ると其処には精魂尽き果てて倒れている椿の姿があった。

 

「んぉ・・・、おぉベルではないか・・・」

 

「とりあえず胸を隠せ・・・」

 

椿が起き上がろうとすると胸のサラシが解け丸見え(ポロリ)寸前だった。

 

「すまんすまん、ずっと工房(ここ)に籠もりっきりだったのでな」

 

後ろを向いたまま僕が指摘すると椿はそう言いながらサラシを巻き直す。

 

「それで手前に・・・」ぐぅうううううううう・・・。

 

「とりあえず・・・お前は風呂に入ってこい。僕は飯を買ってくる」

 

「重ねて済まんな」

 

そうして、僕と椿は話の前に食事をすることにした。

 

「ふぅ、食った食った」

 

「ごちそうさま」

 

食事も終えてようやく本題に入る。

 

「それでこんな朝早くに如何したのだ?」

 

「あぁ、こいつの手入れを頼みたくてな」

 

そう言って僕は【ベーゼ・マーレボルジェ】を椿に手渡すと、鞘から抜かれると椿が絶叫する。

 

「なんだこれは!?どんな戦いをすればこんなにも摩耗するのだ、これは異常だぞ!!」

 

ボロボロの剣身を見て目を見開かせながら叫ぶ椿にこう言った。

 

「実はある魔導具(マジックアイテム)が原因で七年前のオラリオに行ってきた」

 

「は、何を言っているのだお主?」

 

僕の説明を聞いて椿は頭に疑問符を浮かべる。

 

「信じられないだろうが、事実だ。そして、暴喰と静寂と神殺しの怪物と戦ってきた」

 

「成る程な、暴喰と静寂か。それに神殺しの怪物が相手であれば納得・・・出来るわけなかろう!!過去へ渡った?そこから訳が分からんわ!!詳細を求めるぞ!!」

 

僕の説明に椿は納得できず早口でそう言ってくる。

 

「解ってる、最初から説明するからしっかり聞け」

 

そう言ってくる椿に対して僕は懇切丁寧に説明をした。

 

そうして、椿はなんとか要領得たようで納得もしてくれた。

 

「成る程、再度詳しく聞いても頭が追い付かんな。過去に行ける魔導具(マジックアイテム)なんぞがあるとはな・・・」

 

椿が顎に手を当てて考え込む姿勢を取る。

 

「実際に体験した僕だって夢だったんじゃないかって思っているくらいだからな。摩耗した剣とこれがなければ」

 

「ん?そういえばその皮は何なのだ、ゴライアスの硬皮のように見えるが」

 

「あぁ、これは神殺しの怪物の怪物素材(ドロップアイテム)だ」

 

「なんと、確かに実際に摩耗した剣とその過去で獲たという怪物素材(ドロップアイテム)が手元にあるのであれば信じる他ないな」

 

「あぁ。それでこの巨王の剛皮(かわ)を・・・」

 

「今お主が注文している防具に使えば良いのだな」

 

「あぁ、頼む」

 

「応とも、満足のいく防具に仕上げてみせる!!」

 

そうして、僕は整備に出していた黒双剣を受け取るとあることに気付く。

 

「そう言えばこの双剣の銘はなんだったか」

 

「そう言えば決めておらなんだな、傑作が出来たと心躍っておったからすっかり忘れておったわ」

 

そう言いながら爆笑する椿を半目で見る僕。

 

「銘は持ち主であるベルが名付けるが良かろうて。その方がその双剣も喜ぶであろう」

 

「そうか・・・、それじゃあこの双剣の銘は・・・」

 

《ベーゼ・マーレブランケ》

 

そう名付けた僕は双剣(ベーゼ・マーレブランケ)を背負う。

 

「《ベーゼ・マーレブランケ》か・・・、中々に良い名前を付けたな」

 

「そうか、名前を付けるのなんて初めてだからそう言って貰えるなら安心した」

 

椿の言葉に僕はそう返した。

 

そうして、僕は椿の工房を後にするのだった。

 

 

 

 

工房を出た僕の行き先は決まっていた、それはダンジョン。

 

Lv.9となった僕は感覚のズレを修正するべくダンジョンへと足を運ぶ。

 

二十七階層を進んでいると希少怪物(レア・モンスター)水馬(ケルピー)などのモンスターが数十体の群れが襲ってきた。

 

それを一撃で両断し魔石へと変え回収する。

 

そうして回収し終えると更に下の階層へ降りていく。

 

 

 

 



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前触れ

階層を降りていき辿り着いたのは三十七階層、目的地はもちろん闘技場(コロシアム)

 

無限に溢れるモンスター達は感覚のズレを修正するのにうってつけなのだ。

 

「始めるか」

 

そう言って闘技場(コロシアム)に降り立つと先ほどまでモンスター同士で殺し合っていたのが一変し、一斉に僕に襲いかかってくる。

 

双剣(ベーゼ・マーレブランケ)を抜き放ち、しばしの闘争に身を堕とすのだった。

 

ルーガルーの胴を断ち、スパルトイの頭蓋を砕き、ペルーダの首を飛ばし、バーバリアンの顎を蹴り砕き、リザードマン・エリートを脳天から両断する。

 

蹂躙、その言葉では収まらないほど惨劇と共に大量の魔石と怪物素材(ドロップアイテム)が転がっている。

 

「そういえばあのスキル試してみようかな」

 

そう言うと双剣に纏わせるのは巨獣(ベヒーモス)の猛毒、試すスキルというの【巨獣死毒(ディリティリオ・ベヒーモス)】だ。

 

ベヒーモスの猛毒を宿していたザルドさんの血肉を食べて得たスキル、それを試すなら誰も寄りつかない闘技場(コロシアム)しかない。

 

そうして猛毒を纏わせモンスターを斬り魔石に変える。

 

しかし、これは猛毒で死んだというよりかは僕の一撃で死んでいる。

 

「う~ん、このスキルは扱いが難しいかもな。使うとしても、闇派閥(イヴィルス)か・・・」

 

モンスターに使った結果、【巨獣死毒(ディリティリオ・ベヒーモス)】は対闇派閥(イヴィルス)に使うことに決めた。

 

その後はいつも通り魔法で闘技場(コロシアム)全体を焼き安全を確保した上で回収と休息を取るのだった。

 

 

 

 

 

 

休息を取った後は更に下の階層に降りてきた。

 

四十四階層にいるフレイムロックから得られる怪物素材(ドロップアイテム)火炎石の採取だ。

 

「これはどういうことだ」

 

開けた場所までやってきた僕が見たものはフレイムロックの大群だった。

 

数十体以上はいるフレイムロックに対し僕は違和感を感じる。

 

「ダンジョンに生み出されたからってあそこまで固まって行動するか?」

 

そう、モンスターは生み出されはするものの一カ所には留まることなく徘徊している。

 

なのに、フレイムロックは大群と呼べるまでに集まっている。

 

「まぁ、あれだけいれば火炎石も沢山採れるだろ」

 

そう言いながらその場所に飛び降りると、フレイムロック達が一斉に襲いかかってくる。

 

それを双剣で両断し魔石と火炎石(ドロップアイテム)にし回収し終えると地上へと戻るのだった。

 

 

 

地上に戻る途中、【ガネーシャ・ファミリア】の団員達が檻を運んでいる、しかも中にいるのはモンスター。

 

「あの、モンスターを何処に運んでいるんですか?」

 

僕は近くに居た【ガネーシャ・ファミリア】の団員に話しかける。

 

「あぁ、ここから運び出しているモンスターは全て三日後に開かれる怪物祭(モンスター・フィリア)での催しに使うんだよ」

 

怪物祭(モンスター・フィリア)?」

 

「あぁ、お前さん最近オラリオに来たんだな。なら教えてやるよ」

 

その後、その団員から聞いた話はオラリオでは年に一度モンスターを調教(テイム)する祭り「怪物祭(モンスター・フィリア)」が開催される。

 

そのためにダンジョンからモンスターを連れ出しているらしい。

 

「逃げ出したり暴れたりしないですか?」

 

「そういう事もあるが問題はないよ、万が一の時は倒すし」

 

「そうですか」

 

そうして、僕は【ガネーシャ・ファミリア】の団員との話を終え地上へと戻るのだった。

 

 



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魔剣嫌いの鍛冶師(ヴェルフ・クロッゾ)

新年あけましておめでとうございます!!

本年も「白兎が怪人になるのは間違っているだろうか」をよろしくお願いします!!

昨年は多くの読者の皆様に読んで戴き感謝しかございません。

これからもこの作品を楽しんで呼んで戴けるように尽力します。


ダンジョンから地上に戻ってくると僕は魔石と火炎石を除く怪物素材(ドロップアイテム)を換金し椿の工房に向かった。

 

その途中で椿の工房から怒声が聞こえてくる。

 

「いい加減にしろよ、椿!!俺のことを周りに吹聴するんじゃねぇ!!」

 

「何を言っている、ヴェル吉。お前は何か勘違いしているのではないか、人間(ひと)の身であの鍛冶神(バケモノ)超越(こえ)るには、『至高』に至るには血を、骨を、肉を、魂を摩耗(けず)り全てを捧げるしかないのだ」

 

「だから、お前のそれは逃避(甘え)でしかない」

 

椿の言葉には並々ならぬ重みがある、それは鍛冶派閥(ヘファイストス・ファミリア)団長にして『至高』を求める一人の鍛治師としての言葉だった。

 

制作(つく)ったとして最後には使い手を見捨てて砕けちまう魔剣(武器)なんて武器じゃねぇ、只の消耗品だ!!武器は使い手の半身だ、俺は認めねぇぞ!!」

 

「だが、それで使い手は生き残る確率は高くなる」

 

「・・・だとしても、俺は魔剣を打たねぇ!!」

 

そう言ってヴェル吉と呼ばれた赤髪の鍛治師が椿の工房から出てくる。

 

「おっと、済まない」

 

「あぁ、こっちこそ済まねぇ」

 

僕が入ろうとした時にヴェル吉と呼ばれていた飛び出してきてぶつかりそうになったがそれは未然に防げた。

 

「おぉ、ベルではないか!!どうした、まさかまた整備か?」

 

僕に気付いた椿がそう言いながら近付いてくる。

 

それに最初に反応したのはヴェル吉だった。

 

「ベル・・・、おい椿ベルって・・・」

 

「おぉ、此奴は今噂になっておるLv.8のベル・クラネルだ」

 

そう言いながら椿は僕の肩を組む。

 

「ベル・クラネルだ、よろしく」

 

「あ、あぁ。俺はヴェルフ・クロッゾだ、ヴェルフって呼んでくれ。家名では呼ばれたくねぇからな」

 

「了解した」

 

そうやって自己紹介を終えると、椿がこう言ってくる。

 

「そうだ、ベルお主からもこの頑固者に言ってくれんか」

 

「おい、他の派閥の奴まで巻き込むなよ!!」

 

さっきまで二人で話していたことを蒸し返してくる椿に怒声を上げるヴェルフ。

 

「まぁ、さっきまでの会話は外まで聞こえていたから事情は把握している」

 

僕の言葉を聞いてヴェルフは恥ずかしそうにする。

 

「だが、双方の意見はどれも納得は出来る」

 

更に続けた言葉で二人の視線はまっすぐ僕に向いた。

 

「椿の全てを賭しでもしない限り神々(バケモノ)には届くことはないということも、ヴェルフのいう魔剣は武器じゃなく消耗品だということも武器は使い手の半身だと言うこともな」

 

「「・・・・・・」」

 

「だったら、答えは簡単だ。不壊(こわ)れない魔剣を創れば良い」

 

「はぁっ!?」

 

「ほぅ」

 

僕の言葉にヴェルフは驚愕し、得心したような表情を浮かべる椿。

 

「おいおい・・・、何言ってんだよ。魔剣は限界が来れば砕けるもんだろ、そんなもん・・・」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「!?」

 

僕の言葉にヴェルフはハッとする、そしてこう言い切ってくる。

 

「上等だ、やってやるよ。俺が魔剣の常識をぶっ壊してやる!!」

 

そうして、火が付いたヴェルフは椿の工房を飛び出していく。

 

自分の工房に籠もるのだろう、新たな魔剣を生み出すために・・・。

 

「ベルよ、感謝するぞ。あの馬鹿者がようやく己が"血"を受け入れはじめよった」

 

「それは良いが、椿一つ訂正がある」

 

「なんだそれは?」

 

「僕は今Lv.8じゃなくてLv.9だ」

 

「は・・・?」

 

ステイタスの訂正をすると椿は唖然とした表情で僕のことを見てくる。

 

「いや、早過ぎるだろう。ベル、お主何をした?」

 

「お前なら解るだろ、例の一件だ」

 

「!! なるほど、そういう事だったか・・・」

 

過去への渡航、それは神々ですら信じがたいものであるからこそだ。

 

しかし、僕はそれだけが起因しているとは考えにくかった。

 

もう一つの起因はザルドさんとアルフィアお義母さんの血肉と恩恵を喰らったことも関係しているんだろう。

 

「それで管理機関(ギルド)に報告したのか?」

 

「あっ、忘れてた」

 

椿の指摘に気付き、ギルドへ報告すると文字通り大騒ぎになった。



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神会(デナトゥス)

私、ミィシャ・フロットは午前の忙しさを乗り越え、お昼休みに入っていたのですが・・・しかし!!

 

親友であるエイナ・チュール受け持っている担当冒険者のベル・クラネル氏の一言で私の休憩(幸せ)は消し飛んだのです。

 

今日エイナは休日だったため職場(ギルド)にはいません。

 

「Lv.9になったからそれの申請に来た」

 

「はい!承りました・・・「Lv.9~~~~~~~~!!?」」

 

それを聞いた私の絶叫は管理機関(ギルド)全体に響き渡り、クラネル氏のLv.9到達はオラリオ全域に知られることとなった。

 

こうして、私の幸せはどこかに飛んでいってしまったのでした。

 

「エイナ~助けて~!!」

 

 

 

 

「さて、帰ろう」

 

そうして、管理機関(ギルド)に報告し終えた僕は本拠(ホーム)に帰るとヘスティア様が何処かへと出かける支度をしていた。

 

「神様、こんな遅くにお出掛けですか?」

 

「あぁ、今日はガネーシャ・ファミリアの本拠(ホーム)神会(デナトゥス)なんだ」

 

「そうでしたか、それなら僕は護衛に付きますね」

 

「いやいや、これは神々だけの集まりだから君は入れないぜ」

 

「それでもです、僕にとっての主神は神様だけですから」

 

「ベル君・・・!!」

 

神と眷族の仲睦まじい一幕の後、神様と僕は諸々の準備を済ませ神会(デナトゥス)の会場である【ガネーシャ・ファミリア】の本拠(ホーム)に向かうのだった。

 

 

夜空に月が浮かび、この迷宮都市・オラリオを静かに照らしてくれている。

 

『本日はよく集まってくれたな皆の者!!俺がガネーシャである!!さて、積もる話もあるのだが今年も例年通りに三日後には怪物祭(モンスターフィリア)が行われる!!皆のファミリアにもどうか是非とも・・・・・・・・・・』

 

今回の神会(デナトゥス)の主催者であるガネーシャが挨拶をしている中、他の神々は思うように行動していた。

 

僕はいつもの服装に上着を着ただけの恰好で、持参した保存容器(タッパー)にテーブルに並べられている日持ちのしそうな料理を入れていく。

 

「アンタ、あの頃と何にも変わらないわね」

 

「!?」

 

突然、背後から声をかけられた事に驚いて喉を詰まらせてしまうけど、水を飲んで流し込んだ。

 

「ぷはぁっ、急に驚かさないでくれよヘファイストス!!」

 

後ろを振り向くと、僕が展開にいる時からの神友である鍛冶神ヘファイストスが呆れた表情をしながら立っていた。

 

「まぁ、元気そうで何よりだわ。ヘスティア、アンタもファミリアを持つ事になったんだからちゃんとした振る舞いをしなくちゃダメよ」

 

「それくらいは僕だって分かってるさ。でも、こればっかりは仕方が無いじゃないか、僕の所は零細ファミリアなんだからさ」

 

「何言ってるのよ、現最強のLv.9の眷族がいる派閥(ファミリア)の主神なんだからしっかりしないと駄目よ」

 

「うん、そうだね・・・」

 

ヘファイストスの的確な指摘にボクはえも言えぬ気持ちになってしまう。

 

「ねぇ、二人だけで話さないで頂戴。一緒に会場を見て回りましょうって言ったじゃない」 

 

そう言って言いながらヘファイストスの隣から現れたのはオラリオ最強の一角である【フレイヤ・ファミリア】主神のフレイヤだった。

 

「ゲッ、フレイヤ何でここに!?」

 

「あら、ヘスティアお久しぶりね」

 

ボクの言葉をスルーしたフレイヤはそう言って来て、ヘファイストスがこう続けて来た。

 

「さっき会場の入り口で偶然出会ったのよ、それで一緒に会場を回る事にしたのよ」

 

ヘファイストスは軽いノリでそう言って来るが己の苦手としているフレイヤが目の前にいるだけではなくて、その美の神(フレイヤ)の美貌に目を奪われた男神達の視線が集中しているため鬱陶しい事この上ないとばかりにボクは顔を顰める。

 

「それにしても、フレイヤが参加してくるなんて何時ぶりかしらね」

 

「さぁ、そんな事一々覚えていないわ。強いて言うなら気分が乗らなかったって所かしら」

 

ヘファイストスの問いに葡萄酒(ワイン)を一口踏みながらそう言っているフレイヤ。

 

「それにしても、ヘスティアかなりめかし込んでるじゃない」

 

フレイヤがヘスティアの方を見てそう告げる。

 

そう、今回の神会(デナトゥス)は普段着に上着を羽織っただけの姿で行こうとしていたのだが眷族(ベル)によって白地に黄・橙・朱・赤といった炎を思わせる色合いのレースが使用されたドレスを身に纏い、首には蒼い宝石の首飾り(ネックレス)を身に付けている。

 

「うん、ベル君が用意してくれたんだ」

 

「そう、いい子なのね」

 

ヘスティアの言葉にフレイヤは笑みを浮かべる。

 

そこへもう一つの最強派閥の一角【ロキ・ファミリア】主神であるロキがやって来る。

 

「おーファイたん、フレイヤ!!それからドチビーって何やねんその高そうなドレスは!?」

 

「登場と同時に騒がしいなぁ、君は」

 

ロキの参加によって神会(デナトゥス)の夜は更けてくる。

 

 

 

一方、その頃外で待機している僕はある男達と邂逅する。

 

 

【フレイヤ・ファミリア】首領オッタル

 

【ロキ・ファミリア】団員ラウル・ノールド

 

「「「・・・・・・・・・・」」」

 

三者の間に会話はなく静かに主神の帰りを待つのだった。

 

すると、最初に神ロキが出てきて帰って行き、次に神フレイヤが帰って行くのだが僕の横を通る時品定めをするような目を向けられたが無視した。

 

その後にヘスティア様が眼帯を付けた赤髪の女神と共に出てくる。

 

「お待たせベル君」

 

「おかえりなさい神様」

 

ヘスティア様の言葉にそう返すのだった。

 

 

 

【ロキ・ファミリア】馬車内

 

「ドチビの眷族(こども)間近で見てみたけど・・・あれは捨てられたくない兎やな」

 

 

【フレイヤ・ファミリア】馬車内

 

「可愛い兎さんね」

 

そう最大派閥の主神が述べていることは知らない。



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悪意の牙

神会(デナトゥス)から三日後、怪物祭(モンスター・フィリア)当日である今日という日は僕もダンジョンには行かずに祭りに参加している。

 

というのも、神様からも僕は働きすぎているから身体を休めるように厳命されたためである。

 

「別に気にしなくていいのに」

 

そう僕は呟きながら街の中を歩いていく、武装した状態で。

 

何故かはわからない、それでも拭い去る事の出来ない不穏な気配が漂っている。

 

なんだろう、この違和感は・・・。

 

 

「おい、怪人(クリーチャー)共の調整はどうなってやがる?」

 

「ヴァレッタ様、稼働可能なのは五体のみです。他の個体はまだ運用に不安材料が取り除けてはいませんので無理に稼働させた場合潰れるだけですね」

 

ヴァレッタの問いに研究者が答える。

 

「チッ、あの化け物に対抗するには少ねぇな・・・。いや、待てよ・・・そうだな」

 

「どうかされましたか、ヴァレッタ様」

 

あることを思いついたヴァレッタに対し研究者が問いかける。

 

「なに、どうせ潰れちまうなら役に立つ潰れ方をしてもらうじゃないか」

 

「つまり、どういうことでしょうか」

 

「あの五体以外の怪人(クリーチャー)共には爆弾になってもらう」

 

「は!?」

 

ヴァレッタの発言に研究者は思わず声を上げる。

 

「これ以上時間は与えられねぇ、他の怪人(クリーチャー)共の完成を待っていたらあの化け物は更に手が付けられなくなる。その前にふっ飛ばしちまえば良いんだよ」

 

「なるほどでございます、もったいない気もしますがその方がよろしいかと」

 

最初の発言に驚いていた研究者だったが、ヴァレッタの意見に賛同している。

 

「それに爆弾にした方が民衆共も巻き添えになるから一石二鳥だ」

 

ヴァレッタの狂気に満ちた笑いが地下に響きわたる。

 

悪意の牙がひっそりと忍び寄ってくる、喰らいつき飲み込む時を待つ。

 

 

 

 

 

僕は屋台で串焼きと飲み物を買って食べ終えると闘技場(コロシアム)で行われているモンスターの調教(テイム)を見に行こうと歩き出した時、悲鳴が上がる。

 

「なんだこれ」

 

悲鳴を聞いて向かった先ではモンスターで広場が大混乱になっていた。

 

「まずはモンスターを・・・!?」

 

モンスターの撃退をしようと剣を抜いた瞬間、黒い外套(コート)に身を包んだ襲撃者が戦斧を振るってくる。

 

戦斧を受け止めると衝撃が生まれ周囲の人間が巻き込まれていた。

 

これは不味いと思い、僕はダンジョンに向かって走り出す。

 

すると、戦斧だけではなく十数人の襲撃者が姿を見せる。

 

そして、一人の襲撃者が住民達の多くいる場所で立ち止まり懐からあるものが見えた。

 

それは何らかの装置に取り付けられた火炎石だった。

 

その時僕は椿に教えてもらった闇派閥(イヴィルス)の所業の一つ「人間爆弾」を思い出した。

 

「ふざけろぉっ!!」

 

認識した僕はその瞬間、その襲撃者の元に駆け出し妨害してくる襲撃者達を蹴散らしその場所にたどり着き胸ぐらを掴み全力で宙に投げた。

 

その瞬間、その襲撃者は爆ぜた。

 

しかし・・・、その一連の流れは最悪の形を成した。

 

「い、闇派閥(イヴィルス)だーーーーーーーーーーーーーー!!」

 

誰かはわからない声、それでも混乱(パニック)を呼び起こすには充分過ぎた。

 

「くそっ!!」

 

周囲は大混乱、モンスターだけでも騒ぎになっていたが人間爆弾が最後のダメ押しとなってしまった。

 

しかし、僕はモンスターに意識を回すことが出来ない。

 

人間爆弾が一人なはずがない、だからこそ襲撃者達は放置は出来ない。

 

だから、僕はモンスターは他の冒険者に任せて黒外套(コート)の襲撃者達の対処をする。

 

「お前達の目的は何だ、なんでこんなことをする!!」

 

声を張り上げながら問いかけるも襲撃者達は無言を貫きながら戦闘を続行する。

 

更に隙を見て人間爆弾を発動させてくるからこの上なく厄介だ。

 

そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

つまり、それは怪人(クリーチャー)であるということを示唆している。

 

「くそったれがぁああっ!!」

 

僕はそう吠えながら攻勢に出る、すると一人の襲撃者がしがみついてくる。

 

その瞬間、服を掴んでいる両腕を切り落とし蹴り飛ばしたと同時に爆発する。

 

「チッ」

 

その矢先、襲撃者の太刀の一閃を躱し剣を振るう。

 

高速の剣戟を繰り広げる中で襲撃者の顔を隠していた外套(コート)が取れて素顔が晒された。

 

「やはりか・・・」

 

襲撃者の一人は獣人、狐人(ルナール)の女性。

 

しかし、それは些事であり問題ではない。

 

僕の予想は当たってしまっていた。

 

そう、眼の前の彼女は怪人(クリーチャー)だった。

 

しかし、気になることもあった。

 

何故、彼女はあんなにも眼が虚ろになっているのか・・・。

 

何か精神汚染系の魔法か呪詛(カース)をかけられているのかと考えを巡らせていると僕は彼女が身に付けている悪趣味な首輪を見つける。

 

もしかして、あれが彼女の意識を奪っているものなのか?

 

そう考えている暇はあまりない、他にも襲撃者がいる以上彼女ばかりにかまけてはいられない。

 

「一か八かだ」

 

そう言いながら僕は駆け出した、それに合わせて彼女も向かってくる。

 

先手は彼女の左の小太刀での牽制、それを剣でわざと受け小太刀を弾き飛ばす。

 

その後に右の太刀を両手で掴み切り捨てようと僕に振るわれるも懐に飛び込み刃の根元で受ける。

 

そして、距離を潰した僕は彼女の首にある首輪を掴み引き千切った。

 

すると、彼女は糸の切れた糸人形のように倒れ込む。

 

「まず一人」

 

そう言って僕は次の襲撃者の方を見ると、そこには三人一塊になった襲撃者が撃鉄を引いた。

 

「しまっ・・・!!」

 

回避は間に合わず吹き飛ばされてしまう。

 

更に三人一塊の人間爆弾は次々に起動されてしまい街を破壊していく。

 

「くそっ」

 

悪態をつきながらも立ち上がり、剣を構える。

 

襲撃者達が一斉に攻勢に出てくる。

 

しかし、僕は既に斬るべき場所を見極めた。

 

それは首に装着されている首輪だ、そこを斬れば一時的ではあるが気を失い拘束出来る。

 

そう考えた僕は駆け抜けた、それこそ襲撃者達が反応することが出来ない速度で。

 

そして、その速度のまま首輪を破壊した。

 

すると、さっきの狐人(ルナール)の女性と同じで首輪が外れると倒れ込んだ。

 

「一先ず全員連れて行くしかないな」

 

そう言って僕は本拠(ホーム)に戻るのだった。

 

神様は避難所となっていた管理機関(ギルド)に避難してくれていた。

 

無事で本当に良かった、本当に。



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慟哭

あの後闇派閥(イヴィルス)による怪物祭(モンスター・フィリア)襲撃事件は無事に収束したが、今回の事件で闇派閥(イヴィルス)の復活を遂げたことが都市中に知れ渡った。

 

更に、脱走したモンスターに対しても闇派閥(イヴィルス)が【ガネーシャ・ファミリア】の眼を掻い潜り檻から開放したと見られている。

 

管理機関(ギルド)はこの事態に対応するべく対策本部を設置することを発表するのだった。

 

そして、その日の夜・・・。

 

僕と神様は眼の前で眠っている十人の怪人(クリーチャー)の対応に困っている。

 

「この十人の子供達も君のように怪人(クリーチャー)に変えられているっていうのかい?」

 

「はい、見た目からは判りませんけど僕には判るんです。この人達は怪人(おなじ)なんだって・・・」

 

「ベル君・・・」

 

そうやって話していると、最初に首輪を破壊した狐人(ルナール)の女性が目を覚ました。

 

「!!」

 

女性は一瞬で飛び退き僕と神様から距離を取る。

 

「貴様ら、よくもっ・・・私を化け物に変えてくれたな!!」

 

「落ち着いてくれ、僕達は闇派閥(イヴィルス)じゃない。それに貴方なら判るはずだ、僕がどういう存在かが・・・」

 

「?・・・、まさか!?」

 

僕の言葉に彼女は気付いた、僕が自分と同じ変えられた怪人(そんざい)である事を・・・。

 

「貴方も私と同じ・・・?」

 

「そうです、僕も貴女達と同じ怪人(化け物)です」

 

僕の言葉に彼女は吠える。

 

「ならば、何故神と一緒にいる!!私達の生命(いのち)を弄んだ存在と!!」

 

魂の慟哭、それはどれだけ彼女の負った心の傷(トラウマ)の大きさを物語った。

 

「ヘスティア様は僕を救ってくれた。だからこそ、僕はここにいる」

 

「それはどういう意味だ」

 

「僕達を弄んだ存在は闇派閥(イヴィルス)、七年前オラリオ崩壊を目論んだ存在だったが当時の冒険者が撃破し消え去ったと思われていたが奴らは地下に潜っていた。しかし、今になって再びオラリオ崩壊に動き出したと考えられる」

 

「その一歩が・・・」

 

「恐らく体の良い戦力増強の為に僕達を怪人(化け物)に変えたんだろうと思っている」

 

「ふざけるな、ふざけるなよ!!」

 

僕の言葉に彼女は怒号を上げる、体中から怒気をみなぎらせながら。

 

「事情は理解した、それで私達をここへ連れてきた理由を聞かせてもらおうか」

 

怒りで頭の中が満ちているが冷静に話をしようとする彼女に隠し事などせずに本心を話す。

 

「僕と一緒に闇派閥(イヴィルス)を討つための一助になってほしい」

 

そう言いながら手を差し出す、すると彼女は笑みを見せながらこう言った。

 

「フッ。それは願ったり叶ったりだ、私は奴等を鏖殺まで止まるつもりはないんでな」

 

そう言いながら彼女は僕の手を握る。

 

そして、【ヘスティア・ファミリア】に新たな眷族が加わった。

 

 



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