鎧戦記 (フライングピッグ)
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神という者は

言いたいことは分かりますが、できれば全て見ていただきたい。
見ていただけるという奇特な方、ありがとうございます。

タグには気をつけよう。例:作品ロック




 とある森、降りしきる雪の中で無数の蛸壺が掘られ、全身鎧を身にまとった男たちが談笑に興じていた。

 

 「鎧の中まで冷たくなってきそうだな」

 「お前は偵察型だから寒くねえだろ。てか迫撃砲どうした」

 「二時間前の砲撃で俺のはもうねえよ。ああ、タバコ吸いてえ」

 「エウゲニー、鎧の外に出るのはやめとけ。同士大尉に見つかったら殺されるぞ」

 

 だよな、と三人目の男は嘆息し蛸壺の斜面へと背中を預け欠伸をこぼす。

 

 「足止めはしてるがそろそろ不味いんじゃないか? 退いたほうが」

 「そういうな、我々が今後退すれば作戦が崩れることになる」

 「「「大尉殿!?」」」

 

 三人が弾かれたように顔を上げると目に入るのは、グレートヘルム型の兜の目に当たる部分にはスリットが入っており中からは赤いモノアイが覗く、それに大きな鎧。

 鎧はマクシミリアン式の鎧に似ているが寸胴で分厚さが段違いであり、成人男性三人分といったところだろうか。避弾経始を意識した作りになっており、上から見れば丸みを帯びた三角のように見えるだろう。身長は三メートルほどもある。

 そして近代的な装備が所々に飾られ、ふくらはぎ横には履帯までもが取り付けられ。重機関銃をまるで小銃でも持つかのように気軽に持っている。

 

 

 慌てて立とうとする三人を少年のような声を鎧の中から響かせる大尉と呼ばれた男は鋼鉄の手で制し、座っているように促す。

 

 「もう少し我慢してもらえるか。もう少しすれば左右の軍が我々を後退させてくれる」

 

 明るい口調で言う大尉に三人は顔を見合わせた後に、偵察型と呼ばれた比較的小柄で逆関節の鎧を着込んだ兵士が口を開く。

 

 「ですが同士大尉。噂では左右は総崩れし撤退を始めていると聞きます。」

 「左右は我々と違い装甲兵は少ないないからな。多少は大目に見てやれ。しかしこれ以上撤退が続けば我々も退かざるを得んが……と、同士少佐を見なかったか?」

 

 思い出したように言う大尉の言葉に再び顔を見合わせた三人は首をひねる。

 

 「お前見たか?」

 「いや、二時間前の砲撃から見てねえな。お前は?」

 「……そういえば被害が多かったあっちの方で兵を見てました」

 

 三人の言葉に、困ったように肩を落とした大尉はため息を吐き、ふくらはぎ横の履帯を下ろした。

 履帯がしっかりと降りているか地面を踏みしめて確かめた後、モノアイを三人へと移した。

 

 「分かった……何度も言うが鎧の外には出るなよ。特にエウゲニ、貴様だ」

 「分かっております! 決して出ません!」

 「ははは、エウゲニーにゃ大尉の言葉が一番き――」

 

 一人が敬礼で答え、もう一人が笑ったその時、口笛のような音が上から響いてきた。

 

 「砲撃!」

 

 誰が言ったか、その言葉があちこちから響いてくるのと同時に地面が至るところから爆音と共に爆ぜ始めた。

 

 「全員蛸壺の中に入れ! 終わり次第負傷者がいないかの確認! 機関銃の準備も怠るな! 分かっているとは思うが戦車が出てくるようなら対戦車兵を援護しろ!」

 「大尉! 早く中に入って下さい!」

 「そこに私は入れんだろうが! 良いから入っていろ! 私は少佐を探す! それと盾もしっかり被っておけよ!」

 

 そう大尉は伝えると履帯を信地回転させ、激しい砲撃の中で雪と土を巻き上げながらどこかへと去っていく。

 それを見送った三人は蛸壺の脇においてあった全長三メートル、横幅二.五メートルの三角に曲がったタワーシールドを持ち頭上に掲げた。

 

 砲撃が豪雨のごとく降る中を走る大尉は少佐を探し、見たと言われている場所へと木々を避けながら履帯を回す。

 そして、元は白であったであろう、汚れて灰色になって蛸壺から離れようとしている全身鎧を確認し速度を早めた。

 しかし、もう数メートルという所で直上から笛のような音が響き渡る。

 

 「くっそっが!」

 

 大尉は灰色の鎧――少佐――へと思いきり体をぶつけ吹き飛ばした。

 瞬間、大尉の後ろに砲弾が着弾。吹き飛ばされた大尉は腐葉土に落下。とはいえ、衝撃はある程度殺したのみなので中にいる大尉は息ができず、長方形のバックパックからは煙が吹いていた。

 

 「いつ……大尉! 何故このような……今後方に運びます! メフィスキー! 砲撃が終わり次第各中隊長へ伝令! エフセイ中尉が臨時に指揮を執るようにと!」

 「了解いたしました!」

 

 大尉は薄れゆく意識の中で悪態を吐く、総指揮官が前線にいるほうが悪いと、何もなければお前なんぞかばわなかった、お前が死ねば俺のクビが飛ぶんだクソ、と。 

 

 「何で俺がこんな目に」

 

 

 帝歴1905年

 ロマノ帝国、その貧民区から誕生したとある扇動者により革命が起きる。後にフィブラリ革命と呼ばれたこの革命は帝国を打倒せんとしていた。そこで時の皇帝サンドロ二世は議会の設立に勅令を出し、立憲君主制へと移った。そして、市民へと当時普及していたラジオにて宗教や言論の自由、集会に結社の自由、更には女性への参政権、経済の自由化、そして後にRI法と呼ばれる様々な自由も認めた事で事態は沈静化し扇動者とその思想に感化された革命家達は海外に逃亡、再起の機会を図ることになる。

 そして中央政府は、独立したがっていた国々を独立させる代わりに君主を我が帝国の皇帝とすることを条件に出し、それぞれが喜んで飲んだことによって物的同君連合へと変わり、国名もロマノ帝国からロマノ連合国へと名前を変えた。

 

 女性参政権やRI法は半ばサンドロ二世の強行で行ったため多くの貴族からの反発を受けた。しかし、サンドロ二世は頑なとして譲らなかった。

 これにより皇帝と貴族は更なる溝を生むこととなった。

 

 もともと、即位した段階で農奴解放やゼムトヴォなどにより市民寄りな政策を打ち出していた後、貴族が食堂を占拠し農民議員が屋外で食べていると聞いたサンドロ二世は激怒し、貴族を屋外へと農民議員を屋内で食べさせるようにした。

 これは軍や警察を使っての監視も行われたために全土で貴族の大反発を招き、皇室の相談役であり僧であったエフィに諭されたことにより同じ食堂で食べるよう緩和された。これによって最初の溝が生まれたのだった。

 

 統一歴1912年

 バルカ湖北方にある金鉱でストライキが発生。その鎮圧に軍隊が導入されたが、サンドロ二世が無理を言って共に向かい。止めようとする親衛隊達までも強引に突破して労働者たちの話を聞き、謝罪の言葉とともに立憲君主だということを忘れ劣悪な労働環境を改善すると約束しストライキは収まった。

 そして実際に――立憲主義へと変わったとは言え、変わったばかりなので中央政府もサンドロ二世の言葉を無碍に出来ず。トルーピヨ首相も喜々として頷き――労働時間は15時間から9時間へと変わり、賃金も大幅に上がりよくわからない罰金も撤廃された。

 この労働改善はその土地で形を変えながらもロマノ帝国全土へと広げていった事により、市民は皇帝や中央政府を熱烈に支持することとなった。

 

 余談ではあるが、1900年のサンドロ二世の即位式では来訪した大群衆が順番待ちの混乱により事故が発生し多くが怪我をおった。その時、サンドロ二世は傷ついた群衆に心を砕き祝賀行事を取りやめ、人員を怪我人の治療へと回している。

 もし、この時何事もなかったように祝賀行事へと参加していればここまでの支持はなかったように思う。

 

 そして、この年に工業の重工業化が始まる。

 それに伴い帝国東部や極東の開発政策も同時にスタートした。

 

 帝歴1913年

 ルバト工場飛行機設計部設計家コルスキーが旅客機として四発機であるアグロンニを開発。度重なるテストや初飛行を経て、お披露目式にて首相であるトルーピヨや新しいものが好きであったサンドロ二世は大いに感激し大規模に導入することを決定。

 トルーピヨ首相は元の旅客機としての機能は勿論のこと、広大な国土へと物資を運ぶ輸送機としての稼働も決定し、主要な場所には飛行場を設置し、雪が積もっている場合でも問題ないように除雪車も作られることになる。これによってアグロンニはベリシア鉄道と共にロマノ帝国全土の物資を支える基盤となった。

 そして色々な作業を楽にするべく、隣の帝国が作っていた魔力を使い動く作業用全身鎧を参考に自国で作られた魔力式全身鎧――RB-13――が完成。

 一家に一台というお題目の元、ポスターやチラシ、ラジオなどでも宣伝されたものの市民にしては高価であったのと、使える人間が限られていたので出荷台数は控えめであった。しかし大きな農家や力仕事が多い現場では売れ、重宝され魔力持ちが良い仕事にありつけるなど雇用効果もあった。

 これに目をつけた軍部も多数購入しライセンスを取得、軍事利用の目的でも開発していくことになる。

 しかし、資金不足に陥っていった帝国はブリタニア連邦からきていた協商の提案を飲んだ。そして資源も足りず、物資も不安があったことから皇国と欧米へと援助を求めた。

 それによって生じるであろう不凍港の問題はすでになく。極東にあるトロパブロ不凍港から、物流中継地であるスチークートへの鉄道網はすでに完成しており、上でも述べた輸送機と合わせ運用していく算段となっている。

 

 そして、それを知らなかったサンドロ二世が私財を投じ大量に購入、ガスマスクを付けた型を危険な労働環境にいる労働者たちへと送った。

 トルーピヨや蔵相であるルゲイ、皇后に止められるも強行突破し住んでいた宮殿を政府へ売り払い、高価な調度品や家財も売却。

 これにより一家は宮殿からトルーピヨ首相が急いで用意した二階一戸建て護衛付きへと移り、平民のような生活へと変貌した。

 

 これがロマノ帝国全土へと報道されるとサンドロ二世の一家は市民たちからさらなる人気を得、各家にサンドロ二世一家の肖像画が置かれる事態にまで発生。

 この時、第四皇女であるアナが家計の負担を減らすために士官学校へと入学手続きを送り、受理されている。

 

 帝歴1915年

 いつの間にか帰ってきていた革命家達は労働者がすっかりと様変わりしているのを見てショックを受け、革命を諦めかけたが現政府や皇帝に反感を抱いていた貴族たちに目をつけ甘い言葉で籠絡し貴族たちの支持を受ける形で革命党を起こす。

 革命党は現政権を一切支持せずに扇動者が提起した卯月定立を表明した。 

 政府はこの提起された内容を鼻で笑ったものの、貴族たちが後ろについているのは見過ごせず、行動を監視するため秘密裏に警察を導入。これが後の秘密警察の基盤となった。

 

 そしてこの年の十月、革命党はクーデターを引き起こした。

 革命党は前々から暴力による革命を主張しており、それに同調した貴族たちの助力もえて決行。兵は主に貴族たちの私兵や派閥、革命家に賛同した者たちから構成されていた。

 ロマノ帝国は赤と白に分かれての内戦へと突入した。

 

 帝歴1916年

 貴族や革命党を中心に引き起こされた革命は貴族の手引きにより皇帝一家が住む地域と工業地帯へ侵攻。しかし、秘密警察によってその情報を得ていた政府は軍を待機させており、あっけなく鎮圧された。

 だが、革命軍は少数の部隊を万が一のためと秘密裏に別れさせていたため、本隊と軍が戦闘を開始すると同時に少数部隊も目を掻い潜りながら皇居へと接近、護衛と交戦状態に入るものの、護衛は最新式の戦闘用魔力式鎧――MA-1――を装着していたため小銃による弾が通らず鎮圧されたが、決死の覚悟で突破した一人が手榴弾を家へと投げ入れ、爆発。

 この時、小さかったアレクセイ皇太子が地下から抜け出して戦闘の様子を見ており、それに気付いたサンドロ二世はアレクセイ皇太子を連れ戻そうとした所に手榴弾が入ってきたため皇太子を咄嗟に庇い、重症を負ってしまった。

 鎮圧した護衛が急ぎ家へと入り、重症を負っていたサンドロ二世を発見。

 急ぎ病院へと運ばれ、一命は取り留めたものの下半身不随となってしまった。

 

 このニュースを聞いた首相は勿論、市民や労働者達は怒り狂い、軍へと志願するものが増えに増えてしまい一部拒否をした所、革命軍達を自前の銃や農具で追い回す事態にまで発展。 

 

 帝国の首都や工業地帯でのクーデターは鎮圧されたが、南部でも起こっていた。賛同したものは貴族以外では革命家の思想に共感した者たちや派閥以外殆どおらず、様々な政治工作はしていたものの、元々貴族が後ろ盾ということでその理想は破綻しており、そして皇帝への人気は絶大であった、それを害した革命党は市民や労働者階級からも白い目で見られていたため兵士が思うように集まらず、逆に勧誘すれば銃を持ち出され背中を撃たれ、農具で殺されたりと散々であった。

 しかし、革命軍は暴力と恐怖で一定数の人員を確保。そして農地も取り上げるなどをしてそれを元に南部で反攻作戦を開始。ミリクア半島から反攻の軍事作戦を行うことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 面倒だ、人生とはこの一言に尽きる。

 仕事、人間関係、税金、その他諸々面倒ごとのオンパレード。

 楽しいことなど少ないことが常で交友関係も就職を機に減っていき同僚とはうまく付き合えず、休みの日は一人で映画やゲーム、アニメを見る他になく。オタクになってしまうのも仕方のないことだろう。いや、必然というべきか。

 仕事だって生きるために仕事をするのか仕事をするために生きるのかだって最近は区別がつかない。

 ただ費用対効果を考え、業績を上げるのを考え、リストラされないよう精一杯仕事をする。面倒なことこの上ない。最近では働き方改革なんて言葉を聞くがそれは余裕がある人間だけがやれることであって、仕事に忙殺されている人間は改革なんてする余裕がない。ブラック万歳。全く笑えてくる。

 事実、ブラック企業は少々減っているがそれだけ。堂々とのさばりそこで働いている自分が格好いいと思うナルシストが幅を利かせ、自分たちのせいですぐに辞めていく人間を根性なしとレッテルを貼る。生まれた年代によってもレッテルを貼るのだから人間というものはまったくもって面白い。死を選ぶものが多いのも頷けるというもの。

 その死を選んだものを自己責任という言葉で片付ける人間がいるのだから更に笑える。つまらない芸人よりもよっぽど面白い。

 労基なんてものも当てにならない。定時が17時という時点でお察しだ。もし連絡できて監督官が来ても口裏を合わせて問題ないように見せかけるだけ。後で犯人探しが始まって窓際に。まるでコメディでも見ているかのようだ。

 

 まあ、自分が視野狭窄で考え方が捻くれているという自覚はあるが、早々自分なんてものは変えられるはずもなく、さっきのようなくだらない思考を脳内でこねくり回し、ナルシスト共を内心で見下すことでしか生きていけないのだ。

 

 「……定時なんで上がります」

 「まだ仕事が残ってるだろ」

 

 俺のは早々に終わらせて、無言でおかれた仕事もすぐに終わらせた。

 自分が終わっていないだけだろうに、自分が少しでも先輩だからと先に帰る後輩を面白くないと思い引き止める。それか残業が当たり前と考えている輩。まあこいつは前者のナルシスト野郎だ。無能めが。

 

 「先輩が終わってないだけじゃないですか。もう少し手を動かす時間を増やせば終わりますよ」

 「俺のほうが仕事多いから終わんねんだよ! お前が社交性を持って手伝うなりなんなりすれば終わるだろうが! 第一、先に帰るとか先輩に申し訳ないとか思わねえのか!?」

 

 ほら、反論したら顔を真赤にして仕事が終わらない原因を自分ではなく他人に押し付ける。

 そして社交性と先輩後輩というやつで此方の有限な時間をさも当たり前のように縛る。

 ほら、面倒しかない。

 いつもは定時で上がらず遅くまで仕事をし、定時で上がる際も反論せずにさっさと立ち去るのだが今日は特別な用事があるので反論してやっている。ありがたく思うがいい無能ナルシスト。

 

 「思いません。私はこれから自由時間なので先輩に縛られる謂れは一ミリとも存在しません。その前に先輩、今日と言わず勤務時間にえらく手を動かしていませんでしたね。何をしていたので?」

 「関係ねえだろ! いいから手伝え! その後は居酒屋で説教だ!」

 「仕事ができない上に手伝いを強制ですか。その後は居酒屋? 説教? お話になりませんね。手伝ってもらったのですから普通は感謝でしょう。もう少し頭を使っていただきたいものです。では」

 

 後ろから色々聞こえるがゴミの言うことは全く耳に入りはしない。

 なんでも、喧嘩というものは同じ次元でしか起こらないらしいから。

 

 その後はスーパーに行って普段は買わない高い肉とビールを購入して家に戻り、七輪とガムテープ、焼肉のタレとダンボールを持って近場の人気の少ない高架下に向かう。

 高架下についたら人目のつかないような隅っこでダンボールを一人が入れるほどの大きさまで組み立てて中に入って七輪セット。火を炊き始めたらダンボールハウスの内側からガムテープを張り巡らせる。少しの空気でももれないように。

 スマホを起動させ最近ハマっているアニメを写して横に置く。

 

 「はぁ、やっぱりアニメは良い」

 

 現実の何もかもを忘れられるし、楽しいという気分にさせてくれる。

 最近はただ家にいると倦怠感で何もする気が起きず、生きる事すら面倒だと思っていたのだがアニメはそれをすべて忘れさせてくれる。

 アニメだけとも言わずにサブカル系全般は良いものだ。まあ、アウトドアをしてみようと釣りをしようと思ったのだがこの日までには間に合わなかった。

 

 おっと、いい感じに温度が上がっている。

 

 パックを開けて霜が振っている肉を七輪の上に置いて、肉が焼けていく音と光景を目に焼き付ける。

 いい感じに火が通った所でひっくり返して軽く火を通してタレを掛けていただく。

 うん、やっぱり美味しい。最後に食べたのはいつだったか。

 

 10パックは買ってるからまだまだ無くならない。

 アニメを見ながら焼き肉。幸せとはこういう事を言うのだろう。

 

 食べながら、意識が朦朧としていくのを感じる。

 そろそろかと息を吐いて七輪を脇に避けて寝っ転がってスマホの画面をただ眺める。

 ま、死体を片付ける人には悪いと思う。余計な仕事増やして申し訳ない。それに、家族が元々いなくてよかったのかもしれない。アニメのエンディングを見ながら最期に思う。

 今までお疲れ様、俺。

 

 

 瞬間、意識は白く染まった。

 意識が戻ると、生きていたのかと周囲を見渡すが俺は立っていて、下に水が張り地平線の彼方まで続いていて、上は青い空に白い雲が悠然と流れている。

 

 「おい」

 「はい?」

 

 聞こえてきたのは威厳がありそうなしわがれた声。

 周りを見渡してもただ空と水しか見えないものだから謎だ。

 もしや神様というやつであろうか。本当にいたとは驚きだ。地獄を現世に作っておきながらのうのうとしているとは。呆れたものだ。

 

 「地獄にしたのは貴様自身だ」

 

 考えが読めると? ますます最近の小説のような状況になってきたじゃないか。

 しかし、地獄にしたのは俺自身とはこれ如何に。俺は普通に勉学に励み、就職先をきっちりと決めたはずなのに騙されただけなのだが。完全週休2日と週休二日が違うとはまさに初歩的トラップ。これに騙された諸君は多いのではないだろうか。俺は騙されなかったが面接官と書類に騙された。

 そしてまさかまた自己責任か? 神まで自己責任と言うとは世も末というものだ。ああ、世も末だった。

 

 「貴様には生の喜びを知ってもらう」

 

おっと? 自殺したものは地獄に行くのではなかったのかな?

 

 「貴様らが勝手に決めたものだ」

 

 なるほどね。まあいいか。

 

 生の喜びね。

 じゃあイケメンで頭が良くてお金持ちの家系にしてください。

 人生なんて顔と金さえあればイージーモードであるからして。

 顔と金があっても辛いという輩は少しは現実というものを知ったほうが良い。持つものと持たざるものの差というものを。

 イケメンであれば大体の行動は許され、金さえあれば奨学金という闇金を背負わなくて良いのだ。

 

 「貴様が行く世界を決めた。精々そこで生の喜びを探求すると良い」

 

 会話のキャッチボールをしようとは思わないのか?

 人類というものは対話によって成り立っているのだ。もし神がバベルの塔を壊さなければもっと平和になっていただろう。業を感じろ自称神よ。

 そして俺は多神教のほうが好きだ。多神教と言っても少しは常識を持った神にしてもらいたい。洞窟に籠もったお方とか今から連れてきてはくれないだろうか。

 

 「暴力の歴史でもある。それは貴様らの業だ」

 

 おっと、責任転嫁とは自称神とは余程傲慢と見える。

 もししっかりと性善を設定していたなら相手の考えを尊重し、考えを押し付けず、しっかりと思いやりの優しさがあったならば暴力は減っていたはずであり十字軍遠征や新旧戦争、三十年戦争その他諸々という愚は犯さなかったはず。

 肌の色で、生まれで、外見で、身分で差別もしなかったはずだ。

 

 「それも貴様らの業だ」

 

 人のせいにしか出来ないようだ。

 チンパンジーのほうが遥かに賢いに違いない。

 人のせいばかりにするのは生産的ではないし進歩もしない。少しは自分の非も認めるところから始めれば人間というものは進歩するものだろう。

 そこら辺はどう思うだろうか。

 

 「それでは、しっかりと生の喜びを噛みしてこい」

 

 会話になっていない。

 やはりこの神から生まれた文明はなるべくしてな

 

 

 「ふぎゃー! ふぎゃー!」

 

 おっと、強制的に転生させられたらしい。ふざけるなと言いたいところだ。

 目の前にはスラブ人的な顔をし、サラファンと呼ばれる民族衣装を着た女性とルパシカと呼ぶ伝統衣装を着た男性が俺の顔を覗き込んでいる。

 まさかここはあの広大な面積を誇る不毛地帯? そんなバカな。おそろしあ。

 しかも母と父と思われる二人は確実に昔の服装であるため現代ではない。しかも木造の小汚え部屋も見えるものだから金も持っていないものと見える。

 

 「милый」

 「да」

 

 何を言っているかわからない。日本語で話してはくれないだろうか。

 だが、生の喜びをしれとの言葉は分かった。要はこの二人に愛してもらえということなのだろう。うん、これから新しい言語を習得するとなると大変な予感しかしない。

 

 

 

 どうも、ミール・ソコロフです。

 男の子で7歳です。立派なショタっ子に成長したぞ。

 そしてこのミールという名前は、世界、平和という意味らしい。

 キラキラネームも甚だしいと思うのは俺だけなのだろう。将来絶対笑われるぞ。まあ、顔は中々に良いので自称神は少し許すとする。

 

 パパはバリバリの帝国軍人! かっこいい! 内戦とかで死にそうだけど。生き残っても粛清とかされそうだけど。

 とは言え、今の所赤いのは見えずラジオからの情報でもパパ上からの情報でも、少しだけ台頭したようだがツァーリのウルトラCにより赤いのは消え去っている。

 具体的に言えば、素直に身を引いて立憲君主制にして議会民主主義に切り替えた。ここまでは大体一緒なのだが、この時代には珍しい男女平等の基礎である女性参政権を取り入れた。それによって一旦赤いのは国外に。

 更には物的連合になるなど訳のわからないことになっている。

 

 そしてバルカ湖という所の北方にある金鉱で運命の分かれ道であるストライキ。

 そこから帝室は破滅していくはずなのだが、ウルトラCを決めたツァーリは金鉱に突撃し、身を引いたくせに待遇改善を約束。見事に通した。立憲君主とは?

 まあ、その御蔭で帝政の破滅はかなり遠のいた。

 

 その後は色々あって赤いのが帰ってきて革命とかふざけたこと抜かしてクーデターを起こして内戦突入。

 そのせいでうちのパパンが帰らぬ人になって、ママンが目の前で殺されました。

 

 絶対に許さんぞ?

 自称神とやらもコミー共も。俺をあんなにかわいがって、くれた二人を殺しやがって。

 俺がどうやって生き残ったかって? 察してくれ。

 

 俺は愛というものを知って前世よりはマシな精神構造となったはずなのに、コミーと自称神、二つに復讐したくてたまらない。生の喜びを知れとはどういうことだ? この絶体絶命の状況で愛を知れと? 随分な皮肉だ。

 あの笑顔も笑い声も手の温もりも帰ってこない。初めて知った愛しいという感情は憎悪に塗りつぶされた。

 

 しかしその憎悪のままめちゃくちゃにやってしまえばコミーや神を自称している輩達と同じになってしまう。復讐は無意味であると落ち着いたが、そこで俺は考えた。

 両親も家もなくなったから家なき子で、学もないのは不味いので軍に入っていずれ来るであろうコミー共に対抗するため、それと将来のため勉強しようと。

 

 孤児院? この時代の孤児院はろくな場所じゃないでしょ。

 もしマシな孤児院を選んで孤児院を出たとして待ってるのは肉体労働。しかもここはロマノ連合、絶対に死ぬまで炭鉱か木を数える作業で終わる。

 

 それから俺は寝る間も惜しんで情報収集を開始し、今は俺が襲われたところよりさらに南にまだ反乱軍はいるらしい。お飾りとは言え市民に大人気なツァーリが負傷させられ、その残党は匿われていると来ている。

 政府や市民が怒り狂うのも無理はないのかも知れない。

 

 だから今が好機だった。

 幸い俺には最新技術の魔導鎧を長時間動かせるだけの魔力があった。

 それは貴重な才能で、実戦で魔導鎧の有用性も見せつけられ今は猫の手もほしい帝国は俺を受け入れた。そして士官学校は実力主義でもあったので丁度良かった。上は年齢を気にしないようだ。

 寝る間も惜しんだ代償と士官学校までの道のりで目が死んだが問題ないだろう。

 

 まぁ、15歳まで教育してもらえると思ったら違ったんですけどね!

 

 そして俺はこの帝国のことを勘違いしてたことに入学してから気付いた。




言いたいことは分かる。パクリだるぉ!?
はい、色々と見た結果空もいいけど陸もいいな、てことで書き始めました。
ですがこれはパクリではなくオマージュです(確信)
火葬戦記らしく、赤の方々は北部ではなく南部で頑張っていただきます。


弾丸を弾いて動く鎧が書きたいんです。
ただそれだけなんです。


※(普通選挙? 民主主義的政策?) その他諸々。
 これを修正しました。前の私は粛清されました。次はうまくやるでしょう。

送信しても既読にならず諸々解除されないので作り直しました。
よろしくおねがいします。


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圧迫面接は何も産まない

ここ違うだろうがクソがよ、戦史考察してんのかクソが、にわかが、などなど罵詈雑言と共に感想お待ちしております。


サイド:面接官

 

 その日、士官学校の面接官は多忙であった。

 とは言えこの日に限らずクーデター以降は毎日が忙しく、大人数の面接が終われば書類を書き、一日を終える。

 上は嬉しい悲鳴と言っていたが現場からしてみればとんでもない。悲鳴は悲鳴だから聞き届けてくれと上官の前で叫びそうになった。

 

 だからその日も半ば事務的に面接をこなしていると、魔力試験担当の同僚が休憩時間に難しい顔をして話しかけてきた。

 煙草を吹かしながらどうかしたかと聞くと 

 

 「魔力が高い少年が来てな。高いと言ってもそこまで高いというわけではないが、これから伸びるだろうことも考えるとな……筆記試験でもトップだ」

 

 では悩むこともなく合格だろう。

 成長するまで士官学校に入れておけばいい。

 

 「訳ありでな。どうやら先の内戦で父と母を亡くしたようだ。父の方は、ほれ、お前の元上官の」

 

 まさか、と思った。

 元上官は優しく面倒見が良い理想の上官で、俺が撃たれそうになったところをかばってくれた。そのせいで死んでしまった。その上官の今際の際の言葉が蘇る。

 

 助けたお返しに、息子と嫁を頼む。 

 

 そう、託されたはずだった。

 だがいざ家の場所を調べてみるとそこは南部のリハコフ、内戦地だ。反乱軍を制圧した後、住所の場所に駆けつけると無残な死体があった。

 だから俺は頼まれたように上官の妻を丁寧に埋葬した。しかし息子が見つからなかった。どこを探しても、後方に退いて探してみても見つからなかった。それが士官学校に? そんな馬鹿な。

 

 「ま、そういう事だ。お前には伝えておこうと思ってな。次の面接でお前の所に行く……覚悟だけは決めておけ」

 

 反乱軍共が、と吐き捨てた同僚は煙草を灰皿に押し付け去っていく。

 その後姿を呆然と見ることしか出来ず、結局休憩時間が終わり、呼ばれるまで俺はそのままだった。

 

 「ミール・ソコロフです」

 

 その少年を見た時、俺は愕然とした。

 その目には光はなく、表情は一つも変わらない。緊張しているのだろうかとも思ったが違うだろうということは面接官としての長年の経験でわかった。

 だから、何故志願したのかと問うた。我らがロマノ連合は徴兵制ではなく志願制だ。昔は徴兵制であったが我らがツァーリが志願制へと変えてくれた。よしんば徴兵制でもその年齢であれば徴兵などされないだろう。だからわざわざこんな所に来なくとも孤児院でいい暮らしができるはずだ。

 

 「国のため、家族のためです」

 

 どうしてか、そう聞いた瞬間目に光が戻った。

 その光も明るい光ではなく昏い光。復讐を願うものの目であり、戦場で腐るほど見てきた。

 俺はこの子を引き取るべきだと即座に思い至ったが、臆病さに口をつぐんでしまった。

 今更この子を引き取って善人ぶるつもりか? すべてを話したとしてもこの子は変わらないだろうというのに?

 

 「年齢のことでご心配なことでもありましたか。敵を目の前に、死体を目の前に立ち止まるとお思いで? それならば心配はご無用であります。国のため、家族のため目の前に立ちはだかるものはすべてなぎ倒します。必要とあらば首を切り取り杭に打ち付けましょう。必要とあらばその場で臓物を引き裂きましょう。その覚悟はあるつもりです」

 

 その後、口ではなんとも言えますが、と笑いを浮かべたミールくんを見て俺は自分自身を殴りたくなった。さらに言えば、自分を殺したくなった。

 何故あの時もっと探さなかったのか。上官に掛け合わなかったのか、勝手に死んだと決めつけてしまったのか。

 後悔が山のように押し寄せる。

 目は復讐の炎でギラギラと光り、口は犬歯を剥き出しにして笑うミール君は、率直に言って、化け物であった。復讐に駆り立てられた狼、復讐することでしかもう自分を満たせない餓狼。それとも、魔女という共産主義者共に狼へと変えられた哀れな人狼か、化け物以外の何物でもありはしない。

 気迫もそこらの大人が出せるものではない。実際に首を切り取れるのだろう。臓物を引きずり出せるのだろう。今はいない家族のためと言う言葉が信憑性に拍車をかける。

 俺が、俺がこの子を、化け物にしてしまった。 

 

 であるならば、復讐の一助となることが俺の、この子を任された大人としての責任ではないだろうか。ミール君の気迫が、俺をそう思わせた。

 

 退出させる前、どこで暮らしているのかと聞き、当たり前のように野宿だと答えられてその場で合格とし、すぐに兵舎へと入るようにと告げたことを俺の人生で一度も後悔しなかったことなどなかった。すべてを話し、保護するべきだったのだ。

 家族のためと言いつつ、野宿と簡単に言ってのける。彼は、どこまでも狂っていて、壊れていた。

 平和を意味するミールとは、神は随分と皮肉屋なようだ。

 

 

サイド:ソコロフ

 

 やあ皆の衆。テレビを見ながら心にもないことを言って安全な環境で食べる食事は美味しいだろうか。

 まあ美味しいだろう。飯は飯なのだから、どんな環境であっても作られた味は変わらん。まして出来たてなら尚の事。

 俺はあの手この手で遠い場所から士官学校へとやってきたんだ。少しの八つ当たりは許してほしい。

 

 いやぁ、随分と無口で俺を睨んでくるから圧迫面接かと思って色々と喋りすぎた。圧迫面接で大事なのは負けない心だからつい前世を思い出したよ。

 圧迫面接はやめてほしいところである。何の効果もなく就活生をただ悪戯に緊張させいい面を引き出せない。面接官が否定や怒鳴ると言ったことは言語道断。面接というものを履き違えている。是非その凝り固まった脳を粉砕し柔らかくしてから出直してきてほしい。百害あって一利なしということだ

 ということで言った内容も全てが口からでまかせ。愛国なんてものは微塵も思ってはいない。入る理由は唯一つ。安定した優雅な暮らしを手に入れるため。

 面接で本音を言うやつがいるほうが珍しい。

 

 しかし、その場で合格を出されるとは思わなかったから驚いたがある意味助かった。飯もろくに食べてないし風呂にも入ってないしで。

 すぐに合格通知を受け取って寮舎へと行き、奇異の視線を向けられる中、採寸を図られた後に風呂に入れられた。

 

 そして部屋を割り振られベッドサイドにおいてあるガイドを見てみると、完全な実力主義であることが分かった。

 この士官学校は予備二等兵を最初とし、最高が予備大尉である。それを決めるのは座学や訓練においての成績であり、良い成績を収めれば収めるほど繰り上がっていく。卒業までに二年間に、最低でも予備少尉にはなっておかなければ下士官へと割り振られ、出世コースからは外れることになる。

 できれば怒鳴りたくないし後方勤務で安全に過ごしたいので頑張りたいところだ。

 前世でとある友人から、軍隊はめちゃくちゃ怖いところと聞いていたので、上には媚びへつらうこととしよう。下もよく扱わないと後で怖いというのも色々な歴史が証明しているので下へもなるべく優しくし。そして上へと有用性をも見せつける。 

 今からやることが多い。俺が入るであろう新学期まで色々とやっておこう。

 

 

 

 士官学校、演習場。そこで事件は起きた。

 最初に気付いたのは監督官だったが、演習場は広く銃声が絶えず鳴り響いているため、遅れてしまった。

 気づけた要因としては悲痛な叫び声につられ、演習場が静まっていったことだろう。助けを乞うような、そんな悲鳴。

 その出処を見て監督官は驚いた、鎧の頭がなくなり、次は人間の頭部がある場所へと対装甲兵用パイルバンカーを向けていたのだから。

 

 「何度命令違反を繰り返した? 何度私に、上官に反抗的な態度をとった? 答えろ」

 「ひ、ひ……覚えて、ない」

 「何だと? 覚えていない? 命令違反だけではなくその回数さえ覚えていないのか。お前は何だ? 本当に同じ人間か?」

 「に、人間だ、この狂人……!」

 「ほう、人間と言い張るか。ならばどれ、上官への侮辱や反抗の厳罰ついでに血の色を見てやろう」

 

 本当に撃つ、監督官が声を張り上げようとした矢先、見学に来ていた少将が面白そうに笑いながら監督官を制した。と同時、同じ士官の装甲兵が駆け寄り、パイルバンカーの引き金に指をかけた腕を掴み、制止させた。

 その士官の鎧と刻まれた番号で、第四皇女だということを監督官と少将は認識した。

 

 「やめなさい! 何をしている!」

 「何だ貴様――これは、第四皇女殿」

 「今は第四皇女ではありません。予備大尉で貴方の上官です。ミール・ソコロフ予備中尉」

 「失礼しました……この者が何度も命令違反を繰り返し、小官を侮辱。上官を侮辱、反抗するので体に覚えさせようとしたのであります」

 「だとしても、やりすぎです。他に方法はあったでしょう」

 「は、短慮に過ぎました。誠に申し訳ありません」

 「そこのあなたも、ミール予備少尉のことを年齢で下に見たのでしょうが。ここでは実力が全てです。年下に命令されるのが嫌であれば今すぐここを……軍をやめることです」

 「も、申し訳ありませんアナ予備大尉殿」

 

 

 年齢のことで周囲に舐められるのは分かっていたがここまでとは思っていなかった。

 入学して俺は座学成績をトップで駆け抜け、実技に関しても最初は苦労しながらも上がっていき、予備少尉まで半年で駆け上がった。

 

 そこで学生での小隊を任されたのだが、少数の人間が俺を舐め、命令に従わないばかりか反抗的な態度に侮辱を何度も繰り返す。

 他の小隊員もそれを窘めず笑ってみたいたことから同罪だ。

 やはり仏の顔もという言葉がある通り、仏の顔を殴打した奴らに我慢の限界にきた俺は演習場でぶちかました。

 

 「今回、我々はアナ予備大尉率いる中隊との模擬戦闘を行う。フィールドは平野。此方は防御側となり、一定数時間目標を守れば此方側の勝利となる。質問は」

 

 俺は今回対戦車兵のため装甲は分厚く、武装は14式追加装甲――タワーシールド――に何故か実弾入りの50ミリ対戦車砲。予備には火薬を取るのを忘れていつでも発射可能な対戦車兵用パイルバンカーに12.7ミリ重機関銃。

 しかし、魔導鎧に乗り込んでいるので身長は大体一緒で同じ目線で話ができるのはありがたい。首が痛くならないからな。

 

 「はい、質問よろしいでしょうか予備少尉殿?」

 

 やる気のない挙手で質問をしてきたのはドナート予備准尉。

 こいつやこいつの取り巻きが主に命令違反を行う。貴族の子弟だか知らんが随分と偉そうに。今の所貴様らは反乱分子なのだぞ。

 

 「構わん」

 「敵は数や速度を活かして横列での突撃を敢行してくると予想できますがどうするので?」

 「偵察型もか?」

 「そうですが?」

 

 ……何? 数を生かしての突撃? 迫撃砲を持った偵察型も一緒に? それでは後方からの火力支援もないではないか。 しかも横列だと? いつの時代を生きているのだこいつは。

 ……こいつは馬鹿なのか? おちょくっているのか?

 

 「それは……更に具体的に言えばどのような突撃が予想される」

 「は? 今言った通りでしかありませんが」

 

 そうか、馬鹿なのか。軍事的リソースを前線に全て使うと。ただ前進して撃ってくるだけだと。

 戦列歩兵の時代はもうとうに通り越しているのだぞ。ウジ虫が。

 いや、しかし今の時代を思えば電撃戦は勿論、縦深攻撃や縦深防御、それによる機動防御も考えられていない時代だ。塹壕の中で敵が突撃してくるのを待つか此方が先に突撃するか。

 だがしかし後方からの火力援護は十分にあったはずだ。それを考えに入れていないとはウジ虫以下のようだ。

 

 

 「もし相手がそのように攻めてくるのならば、こちらは鶴翼陣を狭めた縦に深い陣地を展開する。左右の部隊の対策のため機動遊撃部隊を編成。陣地は左右中央には突撃兵を配置し。後方左右には火力支援として対戦車兵や」

 「ぷは、ははははは」

 

 説明してやろうという時に、質問してきた男が吹き出して笑う。

 やはり子供、勉強ができるだけ、意味のない作戦を平然という、予備少尉になったのもなにかしたのだと言い始めた。

 それにつられ周囲までもが笑い始めるので、しょうがなく火薬入りのパイルバンカーを構え、カメラが搭載されている魔導鎧の頭部を吹き飛ばし、人間の頭が存在する部位である胸へとその先端を突きつけた。

 今まで十回ほど馬鹿にされ、集合時間を10分も過ぎて現れるなど。笑って返していたが、学んだ。

 飴だけではだめなのだと。

 

 更に詰問してやろうと思えば、対戦車兵の装甲をさらに分厚くし白色が特徴の専用機が俺の腕を掴んだ。

 皇女でありながら奇特にも軍隊へと入った変わり者。銀髪黒目で大体が振り向くであろう美貌の持ち主。第四皇女様であらせられるアナ・ニコラエバ・ロマノだ。

 おとなしく腕をおろし、皇女様のありがたいお話を聞き反省。はしない。

 

 その後、始末書を欠かされたが問題なく終わり。次の日の最初は座学だ。

 

 

 

 楽しい楽しい座学の時間。

 魔力、それの基本、応用。魔導鎧の基礎について。

 

 魔力というのは昔から認知されていたものの無い人間もおり、何に使うかは全くもって分からなかっが最近になり隣国の帝国科学者が電気に変わる代物として発見し、論文を発表した。要は無害な大容量生体電気ということらしい。火気厳禁と思われるが、使用を意識しない限りは問題ない。

 その論文に伴い世界でどうやって使うかの研究が行われ、最初は作業補助の強化外骨格が作られ、それに目をつけた世界の軍部たちが遅いか早いかの違いで兵器化に成功。俺達は兵器の生体電池というわけだ。

 

 魔力量とは、簡単な話で大きいのと小さいのどちらがより入るか、それだけの話しである。大は小を兼ねるということだ。

 なので、手短に割愛され次には魔力を鎧についている魔力循環装置へとどれくらい注ぐかの話になってくる。

 今量産されている鎧は――装置へと循環させる魔力量を一律で0から100へと規定し――歩きながらの戦闘では30の魔力を注がねばならず、走りながらでは50の魔力を、履帯を使用する場合には60から100を。まあ、鉄の塊を動かすのだから当然といえば当然だが。

 勿論、消費すればなくなる為乱用は出来ない。なくなった場合は良くて気絶、悪くて昏睡状態にまで入る。

 だが消費されるものというものは補充されるもので、補充される魔力は200を上限にして、多いもので一日で150、少ないものでは50となる。

 なので戦力の均一化のため、魔力量や補充魔力量に応じて装甲兵の中でも兵科が決められる。多いものは突撃兵か重い兵器を扱う対戦車兵。少ないものは偵察兵へと割り振られる。

 

 今はまだ初期型のため魔力循環効率が悪いものの、改良型は更に効率を良くするため注ぐ魔力を少なく出来るため、オプションパーツの追加も検討されている。

 だが、新型装備だけに割高で、今の所初期型の循環装置で頑張らねばならないようだ。

 装甲の部分は魔力を使った合金製で、前世で言うAK47の弾薬7.62ミリ弾は容易く弾く。それでも次期主力戦車よりはまだ安くすむのだが、問題は魔力循環装置に、それをめぐる配線にそれを保護するためのスーツ――総じて循環スーツ――これらが高い。

 だから最悪鎧は壊れてもいいが中まで弾が入れば、配線が切れて動かなくなり、循環装置が暴走を起こし壊れてしまう。しかし利点もあって、使い回せるというのがある。

 

 鎧の構造としては簡単に言ってしまえば外側から、鎧、魔力浸透フィルタ、循環スーツとなる。

 なので、装甲がだめになれば循環スーツを引っ張り出し、次の鎧へと入れ直せばそれで終りとなる。つまりは循環スーツが生きていれば何度でも再利用可能でき、熟練した兵士が死に難くなり、戦闘に復帰するのも早い。利点が多いのだ。

 だが一体型というものもあり、それは着脱式に比べて反応速度や魔力の伝達率に明らかな差がある。コスト度外視で見れば明らかに一体型のほうが良いだろうが、此方は主に指揮官用だろう。

 

 今現在先進国が戦車や航空機と同様にこぞって開発競争を繰り広げている。

 

 我々連合は魔導鎧先進国に名を連ねているが、トップを走るのは勿論の事隣国、ロム帝国。

 どうやらマッドでサイエンティズムな輩が多いようで次々と新型を開発している。向こうは複雑で超高性能。此方は簡素で高性能を目指しているようだ。

 

 「では、装甲兵の有効的な運用方法を考え、レポートに纏めて来ること」

 

 レポートか。その単語を聞いただけで気が滅入るが、上に気に入られるため持ちうる限りの知識をレポートにまとめようではないか。

 

 

 

 さて、後の授業はすべて物理や数学、語学となっている。

 これらはすべて学習対象でありすべての点数によっても階級は上下するため気を抜けない。

 

 社会学に関して言えば、目からウロコの話ではなかった。

 どうもこの世界は第一次大戦がベースのようで、世界列強が水面下でバチバチと火花を散らしているが、表面上は皆仲良くしているので水面で泳ぐ白鳥のような様相を呈している。

 しかし、兵器や車両に関して言えば第二次大戦に手をかけている程度の技術力はある様子だ。全く不思議だ。

 

 

 我が連合とブリタニア連邦は協商を結んでおり(今の所危ういが)ガリア共和国とは軍事同盟を結んでいる。

 そしてなんと、我が連合は奇跡的にも南下政策は行っておらず、内々で頑張りましょうねという富国政策を打ち出し、天然資源の探査や東部、極東の開発に乗り出した挙げ句シベリア鉄道を伸ばしに伸ばしまくって全土へと物資を行き渡らせている。勿論輸送機もフル稼働だ。

 南下政策をしていなかったおかげで日露戦争も回避されている。

 南下政策は本当に害悪だな。 

 

 そして皇国や合衆国とは貿易協定が結ばれている。それにより我が国は資本主義寄りになってきている。

 しかし我が連合の財政は火の車。貿易や協商で稼いでいるが新型の魔導鎧に戦車や航空機の研究開発。歩兵装備の改善も。

 蔵相であるルゲイ・ウィットが頑張っているらしいが火にスポイトの水をかけているくらいだ。

 もし、ブリタニア連邦との協商も打ち切られれば火の車に油を注ぎ、焼け落ちること請け合いだ。

 

 

 だが、情報収集をしている過程でどうにも、我が連合とロム帝国で同盟を締結させようとしている動きがあるようだ。我が連合国境に張り付いているロム帝国兵士もハリボテとの噂もある。本当かどうかは定かではないが。

 まあ、海の向こう側と取引するよりかは地続きのお隣と甘い関係になったほうが良いだろう。

 もしそうなったとしても領土通過や軍事技術や疑心暗鬼もあるだろう。軍事同盟にでもならない限りはそう簡単に実現はできない。

 そしてまずは中での戦争を終わらせなければ話にもならない。

 

 

 我が連合に関して言えば、皇帝のウルトラCにより赤の津波は少しはどうにかなり、お国柄の派閥争いも絶大なる人気を得ている皇帝の存命によって沈静化しているが、それでも抑えきれずに反乱軍共に加勢している派閥もある。

 しかし、トルーピヨ首相という皇帝大好きおじさんが水面下で他の派閥をゆっくりと確実に吸収していっているようで、ラジオで聞こえてくるのは党からの離党だ。

 ただ、帝政に戻るような気配はなく、皇帝はラジオで陽気な調子で度々立憲と参政権の自由を謳っている。それで良いのか。立憲だぞ。

 

 そんなこんな、割と平和な日常で士官学校生活は過ぎていき。

 新入生の練兵に加え、南部での捕虜銃殺を行うこととなった。




帝国、となっていた所を"連合"に修正いたしました。
誤字をしていた私は粛清されました。次はもっとうまくやるでしょう。

日露戦争についてと、技術レベルに関して追記いたしました。
忘れていた私は木を数える作業へと行ってもらいました。
次こそ上手くやるでしょう。


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特別任務

ストックここまでです。

※後半の勲章授与のシーン以外変えておりません。



視点:アナ予備大尉

 

 今日、私は銃殺隊の指揮を執ることとなった。

 指名された時は驚いたが、卒業までもう少しなのでやっておかねば実際の戦場で引き金を引けなくなってしまうかも知れない。

 それに、対象は憎き反乱軍。躊躇いなどしない。 

 

 しかし、銃殺隊の資料が送られてくると、階級を次々と繰り上げている優秀な少年であるが問題行動を最近起こした――私にしてみれば相手の方が悪いと思うのだが――ミール少年の名前があった。

 今彼は8歳。遊び盛りだと言うのに黙々と勉学に励み、装甲過程も上位という神童。

 だが名前が乗るのが早いと思う。8歳に銃殺は重いものがあるだろう。

 だからミールくんの資料を取り寄せ、目を通してみれば色々と納得するものはあった。

 

 名前を消すように教官へと掛け合おうと思ったのだが、エゴでしかないと思い直し、少年を呼び出すことにした。

 

 そして、ノックの音。

 

 「ミール・ソコロフ予備中尉、出頭いたしました」

 

 まだきれいなソプラノボイスだと言うのに、出てくる言葉は機械のように無機質だ。

 

 「入りなさい」

 「失礼致します」

 

 入室を促すと入ってきたのは銀髪に黒い目をした可愛い顔立ちの少年。ミール・ソコロフ。

 チラチラと見ることはあったが、真正面から見るのは初めて。私の琴線にビンビンと触れて、今すぐにでも抱きしめて頬摺りしたい衝動に駆られる。

 

 「予備大尉殿?」

 

 いけない。衝動を抑えなくては。

 

 「すまない。考え事をしていた。それで、要件だが。銃殺隊のことについてだ。貴君が編入されているのは知っているな?」

 「はい。承知しております」

 

 顔をピクリとも動かさない。

 目はしっかりとこっちを見ていることからも動揺もしていないのだろう。

 末恐ろしい、と感じてしまう私を律して口を開く。

 

 「気がすすまないのならば辞退することもできるが。どうする」

 

 その時、初めてミール君の表情が動く。

 見て取れるのは明らかなる怒りの色。まさか軍人としての資質を疑われたと?

 

 「辞退はいたしません。必ず参加致します」

 「……なぜ、と聞いてもいいか」

 「構いません。自分は未だ子供と言えども立派な連合軍人であると自負しておりますゆえに」

 

 鉄の意志。

 そして目からは、もし勝手に外したら喉笛を噛みちぎる、とでも言いたげだ。

 

 「それは、家族が殺されたからか?」

 

 僅かに揺れる目を見て取った。

 やはりそういうことなのだろうか。

 家族を殺され、愛を失い復讐に燃える餓狼。

 

 「失礼ながら貴君の経歴を見させてもらった」

 「構いません。自分は、家族のためではなく愛する祖国のために銃を握ると決めたのです」

 

 面接で家族のため、とも言っていたと書いてあったのだけれど。

 本音を隠す隠れ蓑に国を使う。それが無性に悲しくて、原因の一人である私はいたたまれない気持ちと一緒にこうも決めた。

 この子に愛を教えよう、と。

 

 「そうか。疑って悪かった」

 「いえ、構いません」

 「そしてお願いがある。これは予備大尉としてではなく、第四皇女としてのお願いなのだが」

 「……構いませんが」

 

 怪訝な色が浮かぶその表情に、私は笑みを浮かべる。

 

 「素で話しても良いだろうか。貴君と友になりたいのだ」

 「は、了解致しまし……なんと?」

 「そうか、うなずいてくれるか――全く、軍人口調ってつかれるわ」

 

 混乱で口をパクパクとさせているミール君に近づいて、目線にまで体を落とす。

 うん、やっぱり私の琴線にビンビンと触れる。

 

 「ね、笑ってみて?」

 「は、は……はい?」

 「笑うの。ほら」

 

 ぎこちなく笑うミール君に心の中が熱くなっていくのを感じながら頬へと、両手を添える。

 

 「もうちょっと自然に」

 

 言うと、ぎこちなかった笑顔が、優しげな笑顔となって、それがまためちゃくちゃ可愛くて、弄り倒してしまった私は悪くないと思う。

 これからこの子を私の色の染めても良いかも知れない。皇国ではライトゲンジ計画、といったかしら。

 

 

 

視点:ソコロフ

 

 呼び出されたからこの前の演習場での出来事かと思えば、お友達になってください宣言だったので驚いた。

 銃殺の件に関して言えば、トラップだろと疑ってかかっていたので絶対に参加するという意志を見せつけた。辞退してみろ、確実に出世街道から外される。

 お友達宣言はまあ、第四皇女様のお願いを断れるわけないだろ! 面倒になりそうだから嫌ですとか言えないだろ! いいかげんにしろ!

 

 

 そして銃殺の日。

 連れられてくる奴らを見ながら、さっさと終わらせようと誓う。

 こんな面倒事はさっさと終わらせるに限る。

 

 結局の所戦争をして負ける要因というのは、国内情勢が大きな起因となる。

 それの大きな一例を上げるとすればベトナム戦争。

 北ベトナム側、強いて言えばソビエトの工作もあって合衆国では反戦運動が勃発。それによってアメリカは撤退することになる。

 まあ、あの戦争はなるべくしてなったというところが大きいが。

 その他にも第二次世界大戦下でのポーランド。ソ連から侵攻された際に、打ち合わせでもしていたかのような反乱もあった。

 なくても結局の所支配されていただろうが。

 

 ともかく、反乱分子というのは戦争においては大きな敗因となる。

 なので早いうちに潰しておいたほうが良いに越したことはない。ソ連のヒゲが良い例だ。まあ、あれは行き過ぎだが。

 

 俺は銃殺隊の指揮ではなく撃つ側に回っている。

 指揮を取っているのはアナ予備大尉殿だ。

 

 「最期に言いたいことはあるか」

 

 今日天に召されるのは南部で未だ頑張っている共産主義者。それに味方した貴族に私兵の敗残兵。

 全く、共産主義というのはいつの時代も害悪としか言いようがない。真の共産主義を実現するならば人間が全員ロボットのようにならなければならない。

 土台無理な話に惹かれたバカ者共だ。

 

 「貴様! 第四皇女ではないか! それが子供をも洗脳し人殺しをさせるとは。恥を知れ!」

 「無辜の民を殺し回った貴様らが言うと説得力が違うな」

 「予備中尉」

 

 おっと、つい口が出てしまった。

 だが恥を知るのは貴様らだ。

 革命の名の下、市民の家族を盾に兵を集め、断れば公開処刑に強姦。

 それを正当化する危険思想。ただの蛮族。いや、それ以下だろう。

 例える言葉が見つからないほどに下劣。

 

 「そこの子供! 皇帝や政府に騙されるな! 奴らは君たちから搾取することしか考えていない!」

 

 従順になる土台を作ったのは貴様らなんだがな?

 その土台なくしても共産主義者などにはならんが。

 

 「それで終わりか? では、さようなら」

 

 皇女殿下の号令の元、躊躇いなく引き金を引いた。

 

 

 :予備二等兵

 

 「ようこそ兵器量産学校へ! ここに入った貴様らは今日から無価値な蛆虫だ! いや! ウジ虫のほうが価値があるかもしれんな!」

 

 まさか、冗談だろうと思った。

 今まさに俺達に罵詈雑言の限りを尽くしているのは俺達よりも遥かに年下な少年であったから。

 当然、言われている罵詈雑言も子供から放たれていると思えば微笑ましいものであったが、鬼気迫るものもあったので他の大半の奴らはイライラとしていた。

 

 だがまあ、入学式を終えたあとはまさか子供が本当に俺達の上につくなどとは考えてもいなかったので笑っていたものだ。

 次の日に、ゆっくりとしていた俺達は対戦車兵の鎧を身に着けたソコロフ予備大尉によって眠りから叩き起こされた。45ミリ砲の爆音によって。

 穴が空いて風通しとともに日光の入りも良くなった隊舎には驚いてベッドから転げ落ちているものが大半だ。

 

 「今日の集合は何時だと言っていた! 5分前で寝ていられるとは早着替えにでも自信があるのか!? ならば結構! 今から5分後にはすべての装備を身に着け整列しろ! ここで!」

 

 できるわけがない。

 そう言い放った負けん気が強い男は、45ミリ砲を捨てた予備大尉に迫られ、鋼鉄の手で頭を捕まれもがく。

 

 「口からクソ垂れる前に同志をつけろこの粗チンが! そのタマ切り取ってグズでのろまな家系を根絶やしにしてやろうか!」

 

 痛みに耐えかねた男が気絶したのが分かると、ゴミでも放るかのようにそこらに投げ捨て、驚きで未だ動けないでいる俺達に向き直った。

 

 「なにをしている動くクソ共! 早着替えに自信があるんじゃなかったのか! 早く着替えろ! その粗チンも含め10分後までに練兵場まで集まれ! 遅れたら分かっているだろうな!」

 

 文字通りのアイアンクローなぞくらいたくもない。

 それはみんなの共通認識か、黙って素早く、必死になって着替え、起きない同期の服を脱がせさっさと着替えさせて運んだ。

 それからは地獄のような訓練の数々。

 崖をロープで登りきったと思えばもう一度。何キロも走らされたかと思えば、同期が暴言を吐いてしまい、俺達が吐くまで走らされ。反抗しようとした輩にはアイアンクローで気絶させて俺達に運ばせる。連帯責任だと。

 

 「俺は貴様らが有能であろうと無能であろうと男であろうと女であろうと差別はしない! なぜなら貴様らは等しくウジ虫であるからだ! 分かったか!」

 『はい同士殿!』

 

 そんな鬼のように厳しい予備中尉殿に歯向かったらどうなる?

 俺達に地獄が待っている。

 それを理解できない馬鹿が予備中尉殿に今日も歯向かい連帯責任と一緒に厳しい訓練が追加される。

 

 嫌なくらいに平等だ。馬鹿と同じ扱いをされるのだから。

 こっちからしてみれば溜まったものじゃない。

 もし、演習場で耐えかねた馬鹿がペイント弾をわざと予備中尉にあてたら?

 そんな物は分かりきっている。

 

 「おーれたち蛆虫だいぐんだーん!」

 

 学校の円周や市街を恥ずかしい歌を大声で歌いながら最後の一人が魔力切れ寸前。気絶するまで続けられる。

 予備中尉とそれに逆らうクソバカに神の制裁を!

 

 

 :ソコロフ

 

 

 練兵過程も前世で見た鬼軍曹のマネで順調にこなし、いよいよ卒業。

 まだ9歳だと言うのに訓練学校の予備大尉から装甲中尉となり、装甲小隊12人を束ねる立場となった。

 俺を卒業させるかについての議論もあったようだが、内戦が予想よりも長引いているという事で卒業となったわけだ。コミー共に災いあれ。

 アナ皇女殿下は軍学校へと進学なされた。持つべきは権力というのが分かるというもの。

 

 俺は小隊員12人を与えられ、難なく掌握。小隊を掌握する過程は、特段珍しいことでもなく、実力主義な連合兵士に力を見せつけ、飴と鞭を使い分けることによって掌握。貴族出の奴らの掌握はまだ未熟だが仕方あるまい。

 そして我ら小隊は未だ反乱軍の抵抗が続く南部へと着任することとなった。実戦というやつだ。

 まさか前線に送られるとは、くそったれ。

 

 「大尉から連絡! 敵塹壕を速やかに突破せよと!」

 「少し待てと伝えろ! それと塹壕に600秒の砲撃を要請! 偵察型も工兵と協力し迫撃砲を叩き込んでやれ!」

 「中尉! 敵が塹壕から出てきました!」

 「迫撃砲は砲撃が止み次第止め歩兵を援護するため重機関銃にて移動弾幕射撃! 突撃兵と対戦車兵は俺に続け! 砲撃が止み次第塹壕を突破する! ヴコル少尉は分隊を率いて俺の横に来い!」

 「了解です! 第一分隊集合!」

 

 血と硝煙漂う戦場からこんにちは。

 俺の装甲が弾を弾く音を聞きながら準備砲撃の後に進軍。

 敵は時代遅れの小銃しか持っていない上、大砲も此方の偵察兵の活躍により場所が割れ、此方の砲撃により破壊されている。そして敵の装甲兵は此方の対戦車兵の50ミリ砲の狙撃によって破壊されており、後は雑兵のみだ。凝った戦術など必要ではない。

 履帯を下ろし、俺を中心として魚鱗のような陣形を組み敵の塹壕へまっすぐに。

 俺の横には同じような陣を組んで突撃する俺によく従ってくれるヴコル少尉がいる。

 

 敵が撃ってくる弾は全てが効かず、投げてくる手榴弾も片手でキャッチし投げ返す。出てきた敵は此方の12.7重機関銃でばらばらにし、念の為塹壕へと射撃をしながら突っ込み、塹壕を制圧。

 逃げ出す敵を後ろから撃ち、漏れた敵を追おうとする隊員を止める。

 

 「今が好機です! 攻めましょう!」

 「目的は達した。それに、突き進んで囲まれても知らんぞ」

 「ですが……!」

 

 ち、装甲兵特有の満身ほど面倒なものはない。

 自分は弾を受けても問題ない。これを着てさえいれば不死身。

 なんて思い上がった思考は隊を危険に晒す。一人の無能で全員が巻き添えを食うのだ。

 

 「では貴様一人で行ってくるがいい。ああ、その際にはその鎧は置いていけよ?」

 「……チッ、留まります」

 「懸命だ」

 

 特に貴族出身は思い上がりが大きいように思う。

 市民出も勿論思い上がるフシはあるが、貴族よりは少ない。

 ……少し特別任務でも与えてやるか。

 

 

 :隊員

 

 今日の攻勢が終わり、同じ貴族出身の連中と飯を取る。

 市民連中と飯を取るなんてとんでもない。市民と飯を取る奇特なやつもいるようだが、同じ隊だという事だけでも業腹だと言うのに飯までも同じ。これが不味いったらない。まるで家畜の餌でもくているかのようだ。

 うちの小隊長も市民出だ。これが鼻持ちならない。

 農民と同じような扱いをし、敵が敗走しているというのに後ろから撃つだけ。

 追撃し、次の陣地を攻略したほうが良いだろうに。歩兵の到着を待つまでもない。我ら装甲兵が突撃すれば、ただの歩兵など取るに足らない。

 

 「貴様ら、特別任務だ」

 

 そうやって中尉の悪口で盛り上がっていると、気配もなく後ろから声がかけられ、驚いた。しかも今日捕らえた捕虜も一人連れて。

 しかし、特別任務とはなんだろうか。

 

 「何、上層部が貴様ら貴族を重用すると決めてな。これから夜襲を始める」

 

 にわかに色めき立つ仲間たち。それもそうだ、やっと俺達の価値に気づいたか。

 遅いくらいだがまあ良い。参加してやろうではないか。

 

 「それでは行くぞ。小銃とその他装備だけ持っていく」

 

 鎧は、着ないのだろうか。

 あれがなければすぐに死んでしまう。

 

 「貴様らができないのならば問題ない。上に報告するだけだ」

 

 舐められている。

 そう感じた俺達は立ち上がり各々準備を始めた。

 背嚢を背負い、小銃も中尉から渡されたものを受け取り準備が完了。

 満月の中、誰にも見られないよう陣地を離れ、猿轡を噛まされている捕虜を連れた中尉を先頭に森へと分け入っていく。

 

 「中尉殿、その捕虜は?」

 「ああ、案内係だ」

 

 不審に思いながらも一応は納得し、再び進む。

 十分は歩いただろうか。その時、中尉が振り返り、おもむろに陣地へと戻り始めた。

 怖気づいたか?

 

 「いやな、無線機を忘れてな。悪いな」

 

 無線? ち、本当に市民というのは。

 

 「少し待っていろ」

 

 そうして俺達から数メートル離れた所で、連れていた捕虜を撃ち殺した。そして振り返り、拳銃を俺達に向け、一人の頭を吹き飛ばした。

 なん……なんだと?

 

 「馬鹿な奴らは制御しやすくて助かる。特に貴様らのような連中は特にな」

 

 騙したのか貴様!

 だが何故味方の俺達を殺す!

 気でも狂ったか!

 

 「わからないのか? それならば死んで考えろ」

 

 罵詈雑言を吐き散らしたものの、奴は満月の元、薄ら笑いを浮かべるのみ。

 また一人撃たれ、俺と残ったもうひとりはこの悪魔に小銃を向け引き金を引くが、軽い金属音が虚しく響くだけ。

 

 「あっはっはっはっは! 貴様らは本当に馬鹿だな! 実弾入りを渡すと思っていたのか? こいつはおめでたい!」

 

 もうひとり射殺された所で、俺はかなわないと判断し、その場に止まり両手を上げた。

 これからは従順に従う! だから殺さないでほしい!

 

 「貴族もこうなると哀れだな。笑えてくる」

 

 それにこの状況をどう説明するつもりなんだ。

 俺の助けがなければ言い逃れはできんぞ!

 

 「何のために捕虜を連れてきたと思う。このためだよ。貴様らは反乱軍に寝返るため捕虜の一人を連れていき、俺が見つけ投降をすすめるが反抗。仕方なく全員射殺。そういう筋書きだ」

 

 ふざけるな! 魔女に人狼にでも変えられたか!

 

 「最近良くその名を耳にするな。まあいい」

 

 薄ら笑いを浮かべ、無感情な目で此方を見下ろすその姿は間違いない。

 人間から人狼へと変えられた怪物、ヴルドラク。ああ、神よ。

 

 

 :ソコロフ

 

 万事順調。

 不穏分子はすべて処理し陣地へと戻り一芝居うって報告書を作成。提出。

 怪しげな目で見られたものの問題ない。捕虜は俺が秘密裏に隠していたし、管理も杜撰で人数も多かったからばれない。バレないようにした。

 これで枕を高くして眠れるというものだ。

 

 そして、翌日からは戦線を押し上げ続け。半月もするとコミー共をミクリア半島へと押し込めた。敵軍が赤軍であるからして、武器の供与は本来どこも行わないはずなのだが、どうやら内戦を長引かせたい勢力がいるらしく、連邦製、合衆国製と思われる武器や鎧が見つかっている。

 おいおい、どちらも我が連合と取引をしているではないか。一体全体どうしたというのか。

 

 赤軍にとっては猫の手も借りたい事態であり、どうにかしたいだろうがこの戦局で左右するであろう重要な通過地点であるシシュヴァー湾とペレコプ地峡はほぼほぼ抑えており、奴らはもう通過できない。とはいってもすべてを制圧したわけではないので油断はできないのだが。

 

 この日、俺達小隊は巡回を命じられており、いつもの巡回ルートを通っていた時、先行していた偵察兵の一人が慌てて帰ってくるものだからどうしたのかと問うと、恐らくは大隊規模の敵の大勢力を発見したとのことだった。

 

 

 「大隊本部へと連絡! 敵の反攻勢力見ゆ! 歩兵大隊規模が浸透中! 撤退の許可を求めると!」

 「リょ、了解しました!」

 

 急ぎ大隊へと連絡をとっているこの偵察兵はヤコ伍長といい、貴族の中でも珍しい市民派で、よく少隊員たちと楽しそうに喋っているのを見かける。女のような男で、いつもおどおどとしている。

 

 「そんな! 撤退できなければ我々は犬死するだけです! 大尉! 大尉!」

 

 ああ、報告を聞かなくても分かる。

 撤退は許可できんのだろう。

 

 「なんと?」

 「て、撤退は許可できない。即応部隊到着まできゅ、900秒は耐えろと」

 「そうか。では、精々遅滞戦闘に務めるとしよう」

 

 その報告に我ら小隊員12名は悲しみに暮れるものがほとんどであった。

 それもそうだろう。小隊と大隊、どちらが勝つ? ランチェスターの法則を引っ張り出すまでもなく明らかであり、覆らない。だが、それは数の差であり、武器の差はまだ拮抗はせずとも負けてはいない。

 それはイコール負けるということなのだがな。

 明らかに動揺して意味不明な思考になっているのを自覚する中、落ち着くために小隊へと声をかける。

 

 「小隊諸君。ここでもし撤退すれば軍法会議にかけられ銃殺が決まる。だが、ここで戦えば名誉の戦死となる」

 

 名誉が何だというのだ。

 生きていなければ何の意味もありはしない。

 俺の口からこんな言葉が出るとは、全くもって笑えるではないか。

 

 「ふは、だが同士諸君、嘆くことはない。諸君にはこの私がついている。それに信じる仲間もだ。諸君らの大多数は死ぬであろうが、少数は生きて帰れる。私が保証しよう。全く、今日は死ぬには良い日ではないか」

 

 死ぬのに良い日なんてない。そんな意味を込めた皮肉。

 どうやら、こんな演説にもなっていない演説でもやる気は見せ始めている。

 どうにか、戦闘はできそうだ。この国の兵士はとにかく愛国心が強い。

 さてはて、どうするか。

 

 「それでは戦闘配置だ。ツァーリの尖兵たる我らの力を見せつけるぞ!」

 『ウラァァァァアアアアァァ!!』

 「同志諸君! 縦深陣地を形成! 敵を寄せ付けぬよう、部隊が到着するまで弾幕を張るぞ! 弾が切れれば近接戦へと移行! ナイフ持ちはナイフで、パイルバンカーは一度射出したら槍として扱え!」

 

 素早く縦深陣地を形成し、ヘルムに搭載されている三倍望遠がおよそ1キロメートル先まで迫っている敵軍を発見。それに向けて対戦車兵の50ミリ砲が吼えた。

 

 「最初は徹甲弾を使っていけ! それが切れれば榴弾! 奴らは散兵などせん!」

 

 ろくな将軍がいない向こうは、此方が寡兵であると見て取っているので素早く撃破したいだろう。だから人海戦術によっての突撃を敢行してくる。

 だから偵察兵が持っている迫撃砲が刺さる。

 砲弾自体そこまでないためすぐに終わるが、それまでに敵の足は少しでも止められる。

 そして此方の偵察兵は熟練。素早く腰についている迫撃砲を設置、位置を調整し見事に敵の前線に着弾させてくれる。

 本当に、ここで死なせるのは惜しい。

 

 重機関銃、大砲が火を吹き、空からは火薬の雨を降らせる。

 それでも敵の進撃は止まらない。13人を相手にすでに何百人と倒されようと止まることを知らない。

 

 「銃身が焼け付くまで撃ち続けろ! どうせ向こうに弾薬は持っていけん!」

 「中尉! 迫撃砲弾が切れました!」

 「対戦車兵の影に隠れて左右を軽機関銃で狙え!」

 

 弾が鎧を叩くのをどこか遠くに聞きながら撃ち続ける。

 ガンオイルが発火し、持ち手の木が燃えようとも気にしない。

 これが複雑な機構の重機関銃ならば壊れていたが、これは簡素で丈夫なロマノ連合製。弾が切れる迄撃ち続けられた。

 

 「中尉! 弾が切れました!」

 「此方もです! 誰か余ってないか!」

 「砲弾も底をつきました!」

 

 聞こえてくる弾切れの大合唱。

 俺の分の弾も全て撃ち尽くし、もう近接専用のパイルバンカーとナイフしかない。

 いよいよ年貢の納め時が近づいてきた。まあ、どこに何を収めるかなどわからないのだが。

 

 「さて同志諸君。楽しい楽しい近接戦と行くぞ。履帯を回してひき肉にしてやれ、ナイフでミンチにしてやれ、パイルバンカーで串刺しにしてやれ。我らがツァーリの威光を示す時。近接装備以外は置いていけ、重いままではカリノフ橋は渡れんぞ。さぁ、突撃だ」

 『ウラァァァァアアアア!!!』

 

 総員履帯を下ろし、突撃。

 俺が先頭に立ち、最初に接敵。銃をアホ面で構えていた男に金属の塊がぶつかる。

 すると吹き飛ぶ。簡単なことであった。後はパイルバンカーを一人の敵に射出し串刺しにした後は敵を放り捨て、槍として扱い、近接用ナイフも装備しての二刀流で敵を突き殺し、斬り殺し、刺し殺す。

 

 「同志! お先に!」

 「ああ! 先に渡っていろ!」

 

 囲まれ、魔力循環装置が壊されかかったヴコル少尉が対戦車手榴弾を炸裂させた。

 轟音とともに肉片が飛び散り、装甲も飛び散る。

 それが3回繰り返された後、循環装置を壊されまいと10人で円を描くように背中合わせになって襲い来る敵を退かせる。

 

 「1時方向! 対戦車砲!」

 

 視線を向ければ、たしかに準備しているのが見えた。

 だが、此方に群がっている敵も同時に巻き込む様子だ。

 射線の先は、ヤコか。

 

 

 :ヤコ

 

 最初見た時は可愛い子供だな、何でこんな戦地に、位の印象。

 でも、戦闘を重ねるにつれてその子供が、ひどく冷静で頼りになる上官だと気づくのにそう時間はかからなかった。

 そして公平な人、貴族も平民もなく平等に接する。

 でも、ただ一つだけ公平ではなかったとするならば、それは馬鹿な貴族連中に対して。

 

 「おいヤコ、平民臭いのと食事するよりこっち来いよ」

 

 こういう奴ら。

 僕は貴族でももう没落寸前だから平民と大差なくて、昔から遊び相手は平民の子供ばかりだったから貴族という認識も薄い。

 だからこういうのを見ると滅茶苦茶ムカつく。しかも平然と平民出の小隊員の前で言うから更に。

 

 「今どきそんなの気にするの? 遅れてるし、僕は貴族なんて意識はない」

 「ははは、そうか。どうやら人気取りに忙しいらしい。あの子供にも尻尾振ってるのか?」

 「何だって?」

 

 つい、頭に血が上ってにらみつけると、ニヤニヤしながら取り巻き達と近づいてきた。

 僕も立ち上がって近づく。ボコボコになっても知ったことか。

 後ろにいた平民の仲間も立ち上がって近づいてきている。

 

 「何をしている」

 

 その時、鈴のような、凛とした声が響いた。

 声の先を見てみると、睨み合っている僕たちを呆れた様子で見ている中尉がいた。

 

 「おや、中尉殿。中尉殿も人気取りに?」

 「何を言っているか知らんが、また別々に食事をとる気か」

 「そうですが?」

 「私の目の前でそんな事はさせん。大人しくテーブルにつけ。つく気がないなら外で食べていろ無能共」

 「なんだと? このガキ」

 

 馬鹿がそういった瞬間、中尉は腰の拳銃を抜き放ちその馬鹿の足元へと発砲した。

 流石にびっくりして、後ろに下がってしまったのは普通だと思う。

 

 「上官を侮辱したな? 略式で銃殺とする」

 

 嘘だと思うのだけれど、この中尉の目はいつも本気で。冗談を言ったところは数回しかないと思う。

 銃殺は流石に極端にすぎると思うけど。でも、胸がすっとした。

 

 「じょ、冗談です同志中尉」

 「では外で食べておけ」

 「り、了解です」

 

 馬鹿たちが敬礼を返したのを見ると満足そうにうなずいて拳銃を仕舞い、あるきさるその背中を見送った。

 その時に、この人ならばどこまでもついていけると確信した。

 

 

 「一時の方向に対戦車砲!」

 

 でも、僕の人生はここまでと知った時、怖いと思うと同時に、中尉ともっと先を歩きたかったという悔しさだった。

 

 「お先に失礼します。同志」

 

 だから後ろから蹴られて、転がった時は驚いた。

 死んでいないし、どこも穴が空いていないから。でも、慌てて振り返ってみると、中尉の踝から先が装甲を撒き散らしながらばらばらになって、巨体が倒れた。

 

 「中尉!」

 「構うな! 早く起きて応戦しろ!」

 

 ハッとして、循環装置を狙っていた敵をナイフで刺し殺して中尉のもとまで戻る。

 

 「中尉を中心にしろ! 援軍までもう少しだ!」

 「構うなと言っただろう! 戦える!」

 

 確かに足先は循環スーツが通っていない分動けるけど!

 と、中尉は構わず不安定になりながらも起き上がって武器を振るい始めた。

 本当にこの人は不器用だけど優しくて、公平で、頼りになる。まるで狼の群れの長のように。

 

 「同志を救出しろ! 突撃!」

 

 やっと援軍も来たみたいだ。

 どうやら、僕らは助かったようだ。

 安堵に包まれて、ほっと息を吐きそうになった。

 

 「もう一射来ます!」

 

 でも、それは敵の対戦車弾が中尉に命中するまでの話。

 

 

 

 :ソコロフ

 

 ヤコを体が勝手に動いて助けた後は、バランスが取れない中で援軍が来るまで奮闘した。

 やっと援軍が来たと思えば、俺を狙っての一射。咄嗟に腕を十字にするクロスアームブロックで体の中心を守ったが、砲弾は体にめり込み、その衝撃で俺は気絶した。

 

 

 

 ふ、と目を覚ますと白い天井が最初に見えて。

 つい、生きていると知って安心してポツリと呟いた。

 

 「知らない天井だ」

 「起きられました!」

 

 おや、ナースさんがいた様子。

 恥ずかしい呟きを聞かれはしたが、まあ問題ない。

 今なら空も飛べそうな気分だ。なんせ生きている。五体も無事。

 子供体型で良かったー!

 今なら神に感謝――

 

 

 「ミール・ソコロフ装甲中尉。貴君ら第101小隊は反乱軍との戦闘において満身創痍となりながらも極めて重要な要所を守り、敵を多数打ち破ったことにより敵大隊の進行を阻止した。なお、ミール・ソコロフ中尉の活躍は眼を見張るものがあり、これによってほまれ高く、第一号である銀盾防衛勲章を贈呈するものであり、銀狼の二つ名も送るものとする。おめでとう」

 

 

 ――できそうもない。

 

 

 完全にエース扱い! エースは前線に送られるって相場が決まってるんだぞ! そしてなんだ二つ名とは! 銀狼とはなんだ! 背中がムズムズする! 他の小隊員はどうした!

 

 まあそれは良い! 置いておく! 重要なのはコミー共がこの大地から去ったということだ!

 あの後、俺達を襲ったコミー共は撃破され、そのままなし崩し的に攻め込まれたコミー共はロトツキ将軍も撃破されたことにより敗北。

 主要なメンバーは再び海外に逃げたものの、当分の危機は去り、連合は勝利を収めたことによって連日お祝いが催されることになった。

 その立役者たちの披露も行われることになったのだが、当然俺も含まれていた、の、だが。

 

 「大尉! 可愛いですよ! あ、いえ、凛々しくて格好いいです!」

 

 俺の衣装だけ、銀色を多めに使ったもので、狼をあしらったアクセサリーなどが多く、チェーンも付いていたため中々に中二病臭い。後で確実に悶えるやつ。

 そして最後に、銀色の犬耳型のカチューシャが俺の頭につけられている。

 

 目の前で写真をパシャパシャと撮っているのはヤコ伍長、改め、二階級特進を果たしたヤコ曹長。

 あー……もう嫌だ。




オリジナルです(粛清対象)


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プレゼント

最後のハミイル少将の部分を少し変更、指摘を受けコサックについて追記いたしました。


 勝利の馬鹿騒ぎも終わりを告げて落ち着いた頃、俺と生き残った少隊員たちは第一装甲教導大隊に編入させられたものの、暫くの休暇を言い渡されておりその間に首都にある軍書庫へと足繁く通っていた。軍学校へと通おうとも思ったのだが、今は定員いっぱいで受け付けていないらしい。くそ、銀狼様の邪魔をするか。

 全くもってあの皇女殿下が羨ましいところだ。

 

 士官学校の書庫でも問題はなかったがやはり士官学校。首都の此方のほうが遥かに蔵書が多い。そして、この古臭い本の匂いも大好きなのだ。

 ノートと鉛筆を持ち勉強に励む様はまさに勉強熱心な士官。周りの評価も上がるというもの。というか上げなければ、本当にエースかと疑われ色々と不味いので頑張っている。

 

 

 しかし、どの本を見ても縦深攻撃や縦深防御、それに伴う機動防御などもなかった。当たり前といえば当たり前だが、装甲兵はいわば機動戦闘車。機動防御にはうってつけと言える。それに、戦車が来るまでの戦力増強にもうってつけの存在。

 我が連合軍はそれをただの弾除け件戦車の随伴歩兵として使っている。まぁ、間違いではないのだろうが、さっきも言ったようにもう少しできる幅はあるだろう。

 

 「勉強中に申し訳ありません。ミール・ソコロフ中尉でありますか」

 

 と、ある程度ノートに書き込んで戦術を模索していれば後ろから声がかけられた。

 良い所で邪魔しやがって、と後ろを振り向いてみると、至って平凡な男が見えた。それに少尉の階級章も。

 ……少尉が何のようだ?

 

 「ああ、たしかに自分だが。何のようだ」

 「少将閣下が出頭するようにと」

 

 少将だと!?

 何故軍上層部のおえらいさんではないか! 会社の役職で例えるならば専務取締役。中間管理職たる俺が絶対に逆らってはいけない。

 逆らえば木を数える作業が待っている。

 

 だが何故俺が少将に召喚されなければならない?

 もしやあの貴族共を粛清したのがバレたか? いや、それならばこんなやんわりと言わないだろう。人ももっとよこすはずだ。それに、あれはバレるはずがない。

 では、本当に何のようだ?

 

 「了解した。今からか?」

 「は、そのとおりであります。ですが少将閣下からは無理をさせぬようにと言付かっているため、今でなくとも結構であります」

 「いや、今行こう。案内してくれるな?」

 「勿論であります」

 

 無理をさせぬようにということは、悪い話ではないはずだ。

 ただの中尉を呼び出す意味がわからんが。

 いや、良い方に考えればこれは昇進のチャンス。内容次第では貪欲に食らいついてやろう。

 

 そして少尉に案内されるまま少々の執務室前まで移動すると、少尉は敬礼をして去っていく。

 おい、中に通すまではいろよ。

 しょうがない、と扉をノックした後に出頭した旨を告げ、返事が帰ってくると震える手をどうにか抑えながら扉を開けた。

 すると、中には黒い髪にむすっとした表情が特徴な壮年と思わしき男が見えた。

 あれが少将だろう。

 

 様々な料理が乗ったテーブルの奥で少々は俺を見るなり、むすっとした顔からやんわりとした表情へと変わる。

 

 「急に呼び出して申し訳ない。聞いているとは思うが私はハミイル少将だ。話をする前に座りなさい。食事でもしながらゆっくりと話すとしよう」

 「は、了解いたしました」

 

 誘われるままロシアの一般的な料理が並ぶテーブル、少将の向かいの席へと座り、じっと少将を見つめる。

 相手が先に食べださなければ絶対に手を付けてはならない。評価が落ちる。

 

 「君が士官学校時代に提出したレポートのことで呼び出したのだが、実は君のことは前に見てもいるし、評判も聞いている。苛烈で人狼のようだとね」

 

 それは褒めているのか?

 だがしかし、前にも見ただと? どこでだ?

 なんてことは聞ける勇気もないので曖昧に笑う。

 

 「光栄であります」

 「士官学校時代のレポートは素晴らしい。君を中尉にしておくにはもったいない」

 

 あのレポートのことか。

 あれに目をつける輩がいるとは思わなかった。

 しかも子供のレポートだぞ、普通は目を通そうとは思わない。

 しかも少将という役職があれば尚更だろう。

 

 「は、身に余る光栄であります」

 

 敬礼をしたままロボットのように同じ言葉を繰り返すさまを見て、少将閣下は可笑しそうにお笑いになられた。

 まあ、たしかに壊れたカセットテープのようだったが。

 しかし、閣下とあろうお方が俺に何のようだ? まさか軍学校に入りたがっているのを聞いて口利きしてくれるとか? 成程、それならば納得できる。

 前回あんなに死にそうな目にあったのだからご褒美というわけか。

 しかし待て、なぜ丁度良く料理が置かれている? まあ、少将に呼ばれれば誰でもすぐに行くからだろうが。

 

 「それよりも、折角の料理が冷めてしまう。食べようではないか」

 「は、ありがたくいただきます」

 

 持っていたノートを地面にでもおろそうとした矢先

 

 「食事を始める前に、そのノートを見せてもらっても良いかな?」

 

 ノートだと? 魔導鎧をどう運用するかと考えてチラシの裏に書いたものよりひどい程度のものを? 

 まさか目立ちすぎたか!? それで私物のノートを見ることによって反乱分子か否かを見ると? ふ、だが問題はない。コミーなどのことには一ミリたりとも触れていないからな。

 だが、この中身を見られて落胆されるという可能性はあるが、断れはしないのでしょうがない。

 

 「お目汚しになってしまいます」

 「君のノートが目を汚す? まさか。ちなみに、何が書いてあるのかね?」

 「は、装甲兵の運用方法や戦術、その他の兵器について愚考したものをまとめております」

 「ほう、それは楽しみだ」

 

 朗らかな笑みを浮かべる閣下はまさに仏。

 この方は解脱されているに違いない。

 ノートを受け取った少将閣下はノートを開き、真剣な表情になってその中身を読んでいる。

 ああ、緊張する。これは初めてのプレゼン資料を上司に確認してもらう以上の緊張感だ。

 

 「ああ、先に食べていなさい。命令だ」

 

 ノートを開き読み進めていく少将の表情は最初に見たムスッとした表情へと変わり、俺のノートを熟読し始めた。

 だから俺は命令されて仕方なく、仕方なく目の前の料理に先に手を付け始めた。

 

 

 :ハミイル少将

 

 やはり間違いではなかった。

 ひと目見たときは復讐に燃え、部下に後ろから撃たれるか前線ですぐに死ぬタイプと思ったが、士官学校からのレポートを暇つぶしに眺めていると面白いものを見つけた。縦深による防御と攻撃、それに伴う動き。というレポートを見た時は意味が分からなかったが、レポートを見てみれば成程。この国に適しているではないか、と。

 装甲機械化部隊の機動戦についても触れられており、私が考えていたものをすべて補完する内容となっていたのだ。

 誰が書いたか調べてみれば、演習場で見かけたあの子供だという。

 もしそれが本当ならばこれほどまでに背筋が凍ることもあるまい。

 後ろに誰かいるのかとも思ったが、それをさせるメリットが見当たらない。

 念の為身辺調査をやらせたが、結果は白。

 

 齢にして8歳がこれを考えるなど、常軌を逸している。が、面白い。

 このような時代だ、劇薬にも手を付けなければ勝ち残れん。

 

 とはいえ、彼を呼び出し会話をしようにも彼は前線。

 一人だけ呼び出すにしても反感を食らうだろうと自重していたのだが、彼の活躍は時たま此方の耳に入ってくるまでになった。曰く、群れを統率する狼だ、と。

 そして、大隊規模との戦闘で生き残ったことが分かり、私は喜んだ。

 クリスマスにプレゼントをもらう子供のように。

 

 今では復帰し、軍書庫に入り浸っているという情報を耳にした私は呼び出すことにした。

 急では悪いだろうから無理をさせるなと言付けたのだが、すぐにミール中尉はやってきた。

 その目は此方を見てはいるものの、私を獲物として認識しているのかと疑問に思うような昏い目だ。獲物を前にした狼のような。

 ここに来るまでに何があったのか私は知っているからさもありなんと言ったところだが、ここまで人間というのは表情を削ぎ落とせるものなのだろうか。

 出てくる言葉も無機質であり、人間性を感じられない。

 だが、戦場での言動や行動も苛烈であるというのも聞いているしミール中尉の部下からの信頼は絶大であるらしいのは聞いている。

 人狼と呼ばれ恐れられるのも分かる気がするな。

 しかし、用意した料理が無駄にならずにすんでよかった。

 

 

 思考が横にそれてしまった。

 今はプレゼントを開けることに集中しなくては。

 

 と、中尉が持っていたノートを見せてもらうよう頼むと、遠慮するような言動をしたが、渡してくれた。中に書かれている内容を聞いて私は更に喜ぶ。まさかプレゼントがもう一つ来るとは。

 私はプレゼントを雑多に開ける子供のようにノートを手にとったが、やはり面白い。 

 

 我々は装甲兵の利用をどのように広げていくか考えていたが、その一例がそこに載っている。新しい兵器の概略までもだ。これは、一日かけて考察せねば面白くないが、少尉を待たせているため思考を二つに分け考えるしかあるまい。

 

 私は年甲斐もなく熱中してしまい、気づけばミール中尉は自分の分の料理をすべて平らげてしまっていた。仕方がない、分からなかったことは本人に聞くとしよう。

 準備していた我が連合の家庭料理を食べ、少し舌を濡らした後。本題に入ることにする。

 

 

:ソコロフ

 

 すべてが美味しかった。

 ボルシチもピロシキもブリヌイもウハーも、母が作ってくれてものを思い出すような味で少しうるっと来てしまった。

 そんな事は置いておき、全て食べ終わった頃合いで、目の前のハミイル少将が朗らかな顔のまま口を開いた。

 

 「さて、君を呼び出したのは他でもない。あのレポートについてだが、その前に質問だ。あのノートに書いてあった装輪戦車とはなんだね?」

 

 そこから来るか。たしかに迂闊に書いてしまった節はある。見られるなんて思っても見なかったからな。

 

 今の時代では考えはされているだろうがまだごく一部だったはずだ。

 

 「戦車の履帯をタイヤに変えたものです」

 「ふむ、成程。それがどんな……いや、待て、当ててみせよう」

 

 悪戯げな笑みを浮かべた少将は数分考えた後、ドヤ顔を浮かべた。

 

 「戦車では足が遅く、間に合わない場所やぬかるんだ場所でも大きなタイヤならば走破でき、戦車の代用戦力として火力がほしい歩兵部隊とも素早く連携できる。これで正解かな?」

 

 この少将何者だ? 

 その考えが出てきたのは第二次大戦後だ。

 頭が切れるにもほどがあるぞ。

 

 「はい、そのとおりです」

 「はっはっは! やはりか! その言葉が聞きたかったのだ」

 

 少々閣下は子供のように嬉しそうに笑った後、だが、と続けた。

 

 「欠陥がある。火砲を詰むとしてもその火砲の反動で安定性が保てん」

 「ええ、そこは改良する余地があると思っております。ですが」

 「待て待て、答えさせてくれ」

 

 この少将は本当に何なんだ?

 ウキウキとした顔は子供のようで、たくさんのプレゼントを開けていく子供のようだ。

 だがこの頭のキレは今の世界でも中々いないだろう。

 さすがは作戦参謀副長、というだけはあるか。

 

 「しかるに、その代用として君たち装甲兵というわけだ。勿論、装輪戦車戦車なるものも開発せねばならんが、我らは金が無い。開発はすすめるが遅れるだろう。うむ、うむ。実に理にかなっている。素晴らしい」

 「流石であります」

 「はっはっは、君のノートを深く考察していなければ辿り着けんかっただろう。君のお手柄だ」

 「過分な評価痛み入ります」

 

 よしよしよし、更に風が吹いてきている。

 このままいけば左官へと行くことも可能だろう。

 

 「そして輸送機による装甲兵のパラシュート降下も中々に良い。制空さえ取れていれば後方の撹乱や要衝の制圧も捗るというものだ」

 「そのとおりであります」

 

 俺はこのおっさんのイエスマンにでもなるのか?

 ずっと一人で語っているではないか。まあ、此方に害はないので良いのだが。

 むしろプラスに働いている。

 

 「ではもう一つ質問だ。先の内戦で我々は敵の一点突破をうけ一度戦線を突破されかかった。その原因とは? 自由に述べよ」

 

 ついに来たか。今までのはお遊び、これからが俺の地位を高める勝負どころとなる。

 プレゼン力はあまりないが頑張るしかないだろう。

 

 そしてつまるところ、先の一点突破というのは偶然起こった電撃戦に他ならない。敵にまだ戦車や装甲兵がいたころ、それを中心として速度を此方で上回り、司令部へとなりふり構わず突っ込んできた事だ。

 あれを電撃戦と言ってよいのかは甚だ疑問ではあるが、一応電撃戦と俺の中で定義しておく。

 

 原因は、敵を完全に止めようとしているからいたずらに兵が死んでいき穴ができてしまい。そこに新たな部隊を投入するから戦力の逐次投入となり後退せざるを得なくなった。此方は兵力で勝っていたからどうにかなったが。

 

 だがこれを正直に話せば、お前らの作戦が拙いんじゃ馬鹿、と遠回しに言うようなので言わない。

 

 「連合の戦術、戦略が現在の状況に即していないためと愚考致します」

 「ふむ、成程。一利ある」

 

 現に閣下は俺を睨むように目を細めている。

 オブラートを発泡スチロールで梱包しダンボールにまで仕舞ったと言うのに!

 

 「では同志大尉。貴殿ならばどうする」

 「敵の電撃的な進行を止めるためには深層防御……敵の前進を完全に止めようとするのではなく、遅らせ、国土と引き換えに敵の犠牲者を増加させるものであります」

 

 これでいいだろう。本心を語れと言ったのはあちらなのだから多少は――

 

 「――我が連合の国土をむざむざと敵に取らせると?」

 

 これは不味い。

 

 本心を語れと言ったのはあちらだが、考えてみれば我が連合は愛国に湧いている。その愛国の最先鋒たる軍事の参謀の一人とあればなおさらだ! まずいまずいまずい! 粛清される!

 

 「いえ、決してそのようなことでは。あくまで一時的に取らせるのであり最終的には敵の多き犠牲によって我々の領土へと取り戻し、敵が疲弊した隙に逆に敵国へと攻め入るということであります。勿論取らせずとも、戦車や歩兵を中心とした基盤的防衛力に装甲兵を中心とする即応機動部隊、動的防衛力も追加し機動防御という侵攻勢力を別個の装甲兵を中心とした機動打撃部隊で叩くという戦術も提案致します」

 「……ふむ、いい考えだ。君を呼び出したかいがあったというもの。それをレポートにまとめて提出しなさい。それが採用された暁には発案者を貴殿として讃えようではないか」

 「は! 了解いたしました! ですが、発案者が私では他の方々に信用されないように思います。ですので、少将の発案ということでお願いしたいのです」

 「……手柄を取るようで気が進まんが。納得はできる。分かった、そのようにしよう。それで、その機動部隊はどの程度の規模が適当だと考える?」

 

 助かった! まだ木を数えなくてすむ!

 しかし、規模か……師団は大きすぎて移動が遅い。中隊は戦力が低い、であるならば大隊規模が適当だろう。

 

 「大隊規模かと」

 「分かった、ではレポートを心待ちにしている。本日は良い話ができた。また頼むとしよう。では、これから会議があるから解散だ」

 「は、了解いたしました! 失礼致します!」

 

 はぁ、胃がキリキリする。

 前世の上司など目ではないな。

 というか、また頼むとは何だ?

 

 :ハミイル少将

 

 

 全くもって有意義な話し合いだった。

 これほど満足したのはいつ以来か。今は上に行ってしまっている同期と軍学校で討論した時以来だろうか。

 

 しかし、わざと領土を取らせるとは正気の沙汰ではない。常人ならば考えつくはずがない思考だ。無力な民草をも犠牲にしようというのだから考えついたとしても喜々として話す内容ではない。

 だが、機動防御というものもあり、聞く限りでは素晴らしく有効に思える。それを実行するとなると別ではあるが。

 

 作戦での変化が集積し戦術は次の段階へと進化する。そして戦略は進路を示す。

 

 たしかにその通りだ。現代戦においては、一度の大戦闘で勝利したとしても決定的な勝利へは結びつかない。先の内戦で痛いほど経験した。

 そしてその勝利を無駄にすることなく、敵が立て直す暇を与えず更に奥へと進む。

 その勝利のためには前の敵だけではなく後ろの敵をも撃滅せねばならない。

 

 それをまとめたものを私は考えていた。機械化歩兵。

 元々は戦車の速度に合わせるため戦車の上に歩兵を乗せ、砲兵と工兵に援護をさせ敵陣を突破する。そしてその間に爆撃機が敵の後方に打撃を与える。

 そのように考えていたが、装甲兵か、なるほど面白い。文字通りの機械化歩兵というわけだ。空挺部隊としても運用できるというのも尚良い。爆撃機とともに運用できる。

 

 装甲兵単独の運用は考えていなかったが、考え直させられた。

 もしこれが実現できればどのような防御をも粉砕せしむることができる。

 名付けるならば、縦深攻撃とでも言った所か

 

 更に装甲兵大隊、編成するとしてトップはあのミール中尉か? いや、実力があるとは言え少し暴走する気がする。ではどうするか。

 まあ、それはおいおい考え、編成するとすれば特務参謀付きということにしようか。

 

 だがまずはお歴々を納得させた後だ、編成もかなったのならさらなる研究に投資せなばなるまい。

 それに時代遅れのコザーク共も反対してくるか。装甲兵を導入する際にもひと悶着あったが、中央政府にどうにか取りなしてもらった。だが、考えてみれば奴らは今生き残りの道を探しているはず。ロザポージ・コザークやクイヤ・コザークのようにはなりたくはあるまい。

 奴らの忠誠の先は未だ皇帝だが、そのうち中央政府へと変わっていくだろう。

 

 更に奴らは未だ特権階級の意識が強い。そこを刺激してやり、機械化歩兵大隊はコザーク騎兵の予備とでも言っていればどうにかなるか。

 そしてコザーク共を最前線へと送る。多少は減るだろう。

 私が考えるこれからの戦争にコザークの騎馬隊は不要。 

 これからは馬ではなく戦車や航空機、戦闘機が活躍する時代だ。

 

 

 あいつに自慢するとともに相談でもするとしようか。

 

 

 

 今、反乱軍共を匿っているオットマン帝国に返還要求をしているが、もし蹴ったら戦争になるだろう。

 戦争になった場合、精々そこですり減らしと実験と行こうではないか。

 ああ、事の成り行きによってはロム帝国とも、か。だがそれはまずい。かの帝国ともしやり合うのならば二正面作戦などしている暇はないだろう。

 政府に期待するしかない、か。

 

 しかし、9歳でここまでの考えが本当に出るのか。身辺調査をさせてみても白ということはそうなのだろうが、未だ信じられない。

 本当なのだとすると彼はただの飢えた餓狼ではない。この戦乱の申し子として生まれたヴルドラク、人を残忍に殺すために生まれた人狼だ。

 二つ名の銀狼というのは、中々に皮肉が効いている。

 




ロックされる原因を作った前の私は粛清されました。
次はもっとうまくやるでしょう。

コサックさん達について追記いたしました。
ご指摘感謝致します。コサックさんを忘れていた私は炭鉱に行きました。
次はうまくやってくれることでしょう。


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面倒な者たち

前の話にてコサックさん達について追記しました。
それを忘れた私は木を数えさせているのでご安心ください。



 敵は中隊規模、大して此方は小隊。

 これを打ち破れというのだから中々に辛い注文をしてくれる。

 火砲支援は此方の偵察兵が持つ迫撃砲のみ。

 フィールドは百メートルほどの野原を挟んだ森の中。

 敵は向こうの森の中にいることは知っている。木の陰から顔を覗かせてみるが見えないことからまだ作戦でも練っているか。

 

 だが恐らく相手は先に攻めてくる。

 此方が寡兵と知っているのならなおさら。

 普通ならば撤退するところであるがそれは許されない。許可されていないのだ。

 だがまぁ、自慢の鎧はオリーブグリーンにライトグリーン、黒を組み合わせた森林迷彩が施されているためしっかりと隠れていればそうそうバレはしない。

 迷彩は1848年のイギリスが最初であり、その後におフランスが色々としていたようだが、世界で使用され始めたのは第二次大戦後だ。ということで我々は流行の最先端を行っていることになる。

 これもちゃっかりノートに書いていたため採用されることになった。

 

 「中尉、戻りました」

 

 ヤコ曹長が偵察から帰還した。

 その鎧は全体的に丸みを帯びたデザインで普通の装甲兵より小さく、逆関節を活かし横に跳ぶように移動しスピードと静音性を重視された最新型の偵察型魔導鎧。

 

 「どうだ」

 「ここから11時方向500メートル先からゆっくりと前進してきています。此方を探しているのでしょう」

 「どのような隊形だ」

 「散兵です。突撃兵が最前列、対戦車兵が二列目です」

 「偵察兵はどうした」

 「突撃兵の前へと出て此方を探しています」

 

 セオリーと言えばセオリーか。

 此方であれば、対戦車砲を探して潰し、散兵でもって前進する。

 50ミリの砲弾をも弾く盾を持った突撃兵もいる。

 

 「我が先に行動する。それにより敵を思うように動かす……だったか」

 「え、と。誰の言葉です?」

 「さてな。よし、敵の位置はわかった。お手柄だ」

 「えへへ」

 

 兎耳のような長距離無線アンテナを動かす曹長は置いておき、隠れていた小隊員を呼び寄せ、ゲラーシー少尉を呼び作戦説明の後、少尉は分隊を率い敵の側面へとゆっくりと回り込み始める。

 俺もそれに続くように反対側へと回る。慎重に、ゆっくりと。

 だがこのままではバレるので、対戦車兵の50ミリを偵察兵が敵に向けて撃つよう命じてある。

 撃ち終わった偵察兵は逃げる算段だ。

 

 そして、偵察兵の砲撃により場所を見つけたと思い込んだ突撃兵が履帯を下ろし全速で進撃。したはずだ。

 ここからでは突撃兵と対戦車兵が数名抜けた程度しかわからない。

 

 だが作戦は始まった、遅れることは許されない。

 

 「総員射撃開始。全力で引きつける」

 

 重機関銃、対戦車砲が火を吹き、赤熱した弾頭が敵へと向かい爆ぜる。はずだった。

 

 だが一斉掃射の後、見えてきたのは赤い塗料をぶちまけられた大盾を持つ白い鎧に、それに付き従う突撃兵達。

 

 「なんだと!?」

 

 ばれたというのか!?

 隠蔽も無音移動も完璧だった。見つかっているはずはなかったのに何故バレた!

 

 「貴方ならこうしてくると思っていました。ミール」

 

 さてはヤコの偵察がバレていたな!? 泳がされたか! 無駄に頭がキレるなこの皇女! 

 

 だが、慌てるのもここまでだ。

 近接戦闘の用意をさせ、此方も白鎧へとぶつかり、あちこちで近接戦が開始、俺達は大盾同士がぶつかり、火花を散らせながらもメイスを振るう。

 

 「さすが皇女殿下、気づいておられましたか」

 「アナとよんでいただきたいものです!」

 「今は軍務の最中ですので!」

 

 激しくぶつかり合うメイスと大盾、近接戦闘技能は皇女殿下のほうが上か、押され始める。

 

 皇女のメイスが振り下ろされるのに合わせ、盾を掲げ防ぎカウンターの横薙ぎを振るうものの、読んでいたのかバックステップでかわされる。

 無駄にすばしっこい!

 

 「降参したほうが良いのでは? これ以上は醜態を晒しますよ?」

 「戦場では醜態を晒してでも生き残るのがコツであります。それに、醜態を晒すのはそちらですがね」

 

 俺の言葉に皇女が周りの状況を確認しようとするが、そうはいかない。

 首を巡らそうとする第四皇女殿にメイスを振り下ろすが、読んでいたのか勘なのか、見事にメイスの一撃を盾で防がれた。

 

 

 「何……数が少ない。まさか……!」

 

 気づいたか、だがもう遅い。

 劣勢に見えるが、そうではない。わざと数を減らして側面へと回り込ませ、俺達がガッチリと戦闘をし始めた段階で突撃するように伝えてある。

 事実、演習を止めるための笛が鳴り響いた。

 

 『そこまで、ミール・ソコロフ中尉率いる小隊の勝利!』

 

 驚いたように、笛が鳴り響いた場所へと顔を巡らせる皇女に、おれはおかしくておかしくて笑う。

 俺達が交戦を始めたのを確認させ少しの間の後に小隊を突撃させる算段だったのだが上手く行ったようだ。

 

 「俺がただ一方向だけで側面攻撃を仕掛けるとでも?」

 「……通りです。今回は完敗ですね」

 『貴様らは何をしていた! 左右を警戒するのは基本中の基本だろうが! 戦闘中でもそれは変わらん! ソコロフ中尉とともに総評を行う!』

 

 がっくりと肩を落とすアナ予備中佐を尻目に、魔導鎧を整備庫へと戻し軍学校の更衣室へと向かった。

 

 さて、私は今軍学校にいる。

 

 入学できたということではない。全く違う。

 もし入学できたと思った輩は今すぐ小学校からやり直し給え。

 中学生でも可だ。

 

 また八つ当たりしてしまったがしょうがない。

 俺だって軍学校から声がかかり喜んだのだ。飛び上がるほどに。 

 

 だが蓋を開けてみれば教導隊としての役割。

 八つ当たりもしたくなるというものだ。

 

 軍学校学生の階級は相変わらず予備が付くが、今度は最低が少尉から始まり最高階級が予備大佐だ。

 なのでただの中尉でも普通に接することができる。教導隊なら尚更のこと。

 我が国では学生は学生でしかないとの認識なので、実戦を経験していようがいまいが学生に過ぎない、らしい。

 

 まあそんな事はどうでもいい。

 重要なのは戦争が始まりそうということだ。

 そう、戦争だ。殺し殺され撃ち撃たれの素敵な素敵な戦争。

 相手は先の反乱軍の残党を匿っている連合国の南に位置するオットマン帝国。

 

 オットマン帝国は此方の度重なる返還要求を突っぱねた挙げ句には此方の国境付近で演習をする始末。赤いのに染められたいのか?

 それとも此方に勝てるなにかがあるというのか。

 確かに国土は広いが此方に及ばず、工業化もあまりされていない。そのおかげで装甲兵も極少数に留まっており、帝政の専制政治の停滞に不満がある反乱分子もいる始末。此方に勝てる要素は見当たらないのだが。

 強気になれる要素はどこにあるのだ?

 

 此方が南下政策をしていないからそこまでの強気になれるのか?

 ご自慢のイェニツェリか? いや、それこそまさかだ。奴らは現在世襲制によって腐りに腐っている。

 

 だが、あの帝国は西欧諸国に借款、ローンがあり貿易も拡大していることから半植民地化されているのもある。後ろに二枚舌や合衆国でもついてるのか?

 その要素は十分にある。それを背景に考えれば納得する部分は多い。

 今や我ら連合は列強の中でもロム帝国と並び頭が一つ抜けている。面白く思わない国は多いだろう。少しでも足を引っ張ろうとしてくるに違いはない。醜いことこの上ない。

 上を下に引っ張るのではなく、向上心を持って並び立とうとは思わないのか。

 ふん、まあこの時代の国家間でそんな事はまずありえんがな。

 

 前世の時代でも足の引っ張り合いはあったというのに。

 

 話がそれた。

 今や国民は反戦のプラカードではなく、戦争を望むプラカードに満ちている。

 政府もそれを無視することはできない。その前に引き渡しを拒み続け、国境付近で演習などされて黙っていれば相手が図に乗るのは明らかであるため、戦争をしないという選択肢は連合にはない。

 誰が最前線に行くと思っているのやら。

 

 

 何故愚痴っぽくなっているのか、それは今我らが国境付近に張り付いているからに他ならない。

 

 複葉戦闘機が空を舞い地上を監視し、後方の飛行場では爆撃機がいつでも出発できるようにと待っている。

 俺達は教導隊から抜かれ、特務参謀本部付きの特務機動小隊と名前を変えて配属された。

 大隊規模が適当だと言ったはずなのだが、どうやらこれはお試しらしく、上手く行けば大隊規模へと化けるとのこと。その暁には俺は昇進となる。

 頑張らねばいかんな?

 

 今は中央軍団に紛れ、第7装甲大隊の傘下となっており、押されている所へと戦力増強、及び交代要員として転々と回ることになっている。

 機動部隊、この新しい概念を押し付けられた大隊長からの受けは良くない。そしてここを押さえれば、大きな油田があるパステン方面へと移動するかも知れないから尚更受けは良くない。

 そりゃあ、戦力として数えられないものがいるのは気に食わないだろう。しかも押し付けられれば尚更。

 

 「ミール・ソコロフ中尉以下13名只今着任しました」

 「ふん、特務だかなんだかわからんが調子に乗るなよ銀狼。受け入れただけでもありがたいと思え」

 「は、勿論分かっております。同志少佐」

 

 ふん、受け入れただと? 受け入れさせられたの間違いだろうに。

 スキンヘッドの筋骨隆々としたこの少佐は考えが少し古臭いらしい。まあ、押し付けられて迷惑という気持ちはわかるがな。だからおとなしくしていよう。

 

 「結構。分を弁えているようで何よりだ。貴様らは基本的に俺の命令で動いてもらう。もし戦争が始まれば最前線だ。勿論断らんな?」

 「ええ、最前線と聞けば胸が踊りますので、勿論断りは致しません」

 「……ならばいい」

 

 少しの間の後、舌打ちを零した少佐は踵を返し大隊指揮所へと向かっていく。それを見送ると振り返り、部下へと視線を配る。

 

 「では、各員私達に与えられた兵舎へと入り荷物をおろせ。その後装甲を身に着けての訓練を1300時より行う。装甲は先に整備庫へ搬入されてある。今整備兵がチェックしているから手伝ってもいいぞ」

 『は』

 「では解散」

 

 俺はとにかく朝飯でも食べるかと大隊宿舎へと向かうが、ヤコ曹長が俺の横に並び、妙に近い距離で俺を見下ろしつつ口を開く。

 

 「少し不満です」

 「そうか」

 「僕たちは仮にも仲間です。生死をともにするのに歓迎されないなんてあんまりですよ」

 「そうか」

 「聞いてます?」

 

 聞いてる聞いてる。そのお気楽な考えはヤコ曹長の利点ではあるが、同時に欠点だ。

 

 「ヤコ曹長」

 「はい」

 「我々は言ってしまえば部外者だ。生死を共にするとは言えそこは変わらん。そして、部外者をよく思わん輩もな。そして近い」

 「要するに仲良くなれってことですね。分かりました!」

 

 どこをどう解釈したらそうなる。お前の頭の中身を一回でいいからぜひ見せてくれないか。さぞお花畑が広がっているに違いない。ぐいぐいと寄るな、身体をくっつけるな。粛清するぞ!

 

 :少佐

 

 全くもって気に食わない。

 軍上層部もそうだがあの子供、ミール・ソコロフとかいったか。

 あんな子供が前線に出てくるなどと、上は何をしているのか。ああいう年頃は公園で他の子供達と遊んでいればいいと言うのに、何故銃を玩具にして遊ばなければならない。

 上へと連絡してみても答えは変わらず、配属されるのは銀狼の二つ名を持つ少年だという。

 前の内戦でも聞いたことはあったが、俺は海峡の守備を任されており、町でのパレードも見に行かなかったからいまいち信用はしていなかったが、本当に子供とは。

 

 プロパガンダかと思ったが、信用のある情報筋に聞いてみてもしっかりと実戦を経験した兵士なのだという。そして実際に会って目を見て確信した。あれは狂っている。

 最前線行きと聞けば並の兵士ならば少しは動揺するだろうが、あの子供は全くもって動揺は見られなかった。むしろ当然といった様子だったのが癪に障る。

 銀狼とは別の二つ名も納得といったところだろうな。

 

 それもこれもあの反乱軍共が悪いのだ。

 意味のわからん思想など説きおって。あんな物は破綻するに決まっているだろうに。

 賛同した者共もすべて阿呆だ。目先の理想ばかりを目で追うからああなるのだ。子供までをも犠牲にして何が大義か。クソッタレの共産主義者どもが。

 全く、世も末というものだ。 

 

 神よ、できることなればあの子に愛を教えて下さいますよう。

 

 

 :ソコロフ

 

 俺達がこの大隊に所属して3日ほど、俺達は最前線の国境付近にいた。

 そこはフカスカ山脈という場所で、空からは複葉偵察機が国境を見張り、地上では履帯を持ち、走破性能が高い装甲兵と山岳兵が国境の近くを見回っている。

 ここ、フカスカ山脈は自然の要害と言ってもいい所で、攻めるにも面倒で、かと言って放置する事もできないという面倒ことこの上ない場所だ。

 ここから東のアジージョ方面も山は多いが迂回路もあるからして此方よりは遥かに楽だ。

 その先は大きな油田があるため抵抗は激しいだろうがな。

 

 フカスカ山脈の国境警備のゲートはあるが、俺達の数キロ後ろだ。

 俺達の他には山岳兵もおり、俺達とは別の所を見回っている。

 

 そして、軍の情報屋として、オットマン帝国から独立したい勢力――ルドク人――が接触してくるので話を聞きながら情報を収集する。

 ちなみに、ルドク人を独立させると我が連合は密約しているため、此方が攻め入った時には味方として戦うという。そのため、秘密裏にルドク人と見分けるための軍服と装備を渡している。これは特務隊としての任務だ。

 産油地であるため、恐らくは連邦や合衆国、果にはお隣の帝国まで干渉してくるだろうが、上は一歩も退かない覚悟だと少将が言っていた。

 そも、これらの情報はこの前知り合い、この任務を命令してきた少将に提供してもらったものだ。

 

 

 「本当に侵攻してくるのか。そして本当に独立を保証してくれるんだろうな」

 「ええ、勿論です。だからあなた方に十分な装備を与えたのです。ですからあなた方は今度の国境沿いの演習の際、此方に発砲してくだされば良いのです。勿論、死にたくないのなら、ばれないようにしてくださいね?」

 「……分かった。独立の大義のためだ」

 

 だから、こんな夜更けに此方の国境内でテントの中、こうした密談も行われている。

 俺達はこのテントの護衛だ。

 

 シナリオとしては、国境沿いで我々側に対して発砲。一人が死ぬことになっている。その死ぬ役は、勿論の事先の内戦で捕らえた幹部クラスの一人。

 全くもって羽振りがいいではないかオットマン帝国は、銃殺に加えて侵攻の大義名分まであちら側から与えてくれるのだから。

 勿論の事、この事は秘密であり、もし口外すれば木を数える作業とともに死ぬまで炭鉱で働かされるだろう。

しかし、大義ね。大義で戦い死ぬというのはどんな感じなのやら。

 

 ま、口外する気はないから気にする必要もないのだが。

 テントの護衛は俺一人で、他は周囲の目がないかの確認を行っている。

 この秘密の会話を聞いているのも俺一人というわけだ。笑える。

 

 「では、よろしくお願い致します」

 「ああ、そちらもよろしく頼むぞ?」

 

 一人はルドク人伝統の服を着た男、そしてもうひとりは特務大佐。

 今回の作戦の責任者だ。

 

 分かれた二人の一人、ルドク人を見送り、特務大佐へと敬礼をすればそのにこやかな顔が真顔へと変わる。先程の柔和な笑みはどこへやら、狐のような顔で俺を睨みあげてくる。おお、怖い怖い。

 

 「装甲中尉。このテントは?」

 「知りません。気づいたら立っていました。片付けておきます」

 「先程の男は?」

 「誰のことです?」

 「……よろしい」

 

 それだけを告げ、此方側の宿舎へ歩き出す特務大佐を見送り、無線を開く。

 

 『総員に告ぐ、シャシリクは終了。繰り返す、シャシリクは終了』

 

 さて、戦争の準備でも始めるとするか。

 

 

 連合歴1919年

 

 ロマノ連合国内戦の反乱軍主要メンバーを匿うオットマン帝国に連合は、その主要メンバーを引き渡すようにとの再三の通告を送ったもののオットマン帝国はすべて拒否。

 あまつさえロマノ連合国境近くで軍事演習まで始めた。

 それを見た連合は国境に兵を貼り付け監視を始めた。そして監視を始めて三ヶ月が立とうとした時、オットマン帝国は再び国境での軍事演習を始め、それに伴い連合の軍も国境へと進んだ。

 互いが互いの顔を認識する中、事件は起きた。

 連合兵士の一人がオットマン帝国軍の一発の発砲によって倒れたのだ。

 

 それによってロマノ連合はオットマン帝国へと宣戦を布告。

 カフスカ山脈を盾にしようとした帝国であったが、戦争が始まるのと同時期にオットマン帝国内部でルドク人が独立の名目の元一斉に蜂起。国名をルドスタンとし、自然の要害と言われていたカフスカ山脈はルドク人と連合によって挟み撃ちにされ、抑えられることとなった。

 ロオ戦争の始まりである。

 

 後年、この発砲事件は連合の工作と見られているが、真相は未だわかっていない。

 

 

 

:オットマン帝国兵士

 

 最初は、他国の支援もあるという話を聞いていたものだから容易くはなくとも勝てるだろうと踏んでいた。実際、山脈を取られたとは言え、敵は騎兵を中心とした部隊がただひたすらに攻めてきており、それを塹壕内で防御するだけの簡単な作業だった。一つ二つは攻略されたが。だが今日は?

 

 「撃て撃て撃てぇ! 彼奴等を近づけさせるな!」

 「無理です! 弾が通りませ……」

 「良いから撃て! くそ! 此方の火砲はどうした!」

 「腕、俺の腕ぇ!」

 

 塹壕の中、怒号と悲鳴、そして血が溢れる。

 敵の出血は少なく、此方の砲撃で吹き飛んだ生身の兵士と騎兵。コザーク騎兵共は塹壕に向かって突撃してくる馬を撃ち抜いてやりどうにかなったが、問題は鎧を身にまとった奴ら。一発の弾も通りはしない。

 

 此方の砲撃と言えば、飛行機が空を通過していってからはぱったりと止んでしまった。

 逆に敵の砲撃は恐ろしいくら位に飛んできて、俺達は塹壕からなんて出ることはできず。よしんば出たとしても吹き飛ばされる。

 そして、1つ目の怪物がやってきた。

 

 撃っても弾かれる。何発撃っても罅すら入らない。

 そんな巨人が全力で走ってきたら? 誰も彼もが恐怖して逃げ出すに決まってる。そういう輩は後ろからバラバラにされたが。

 俺は塹壕の中で銃を下ろして無理だと悟る。あんな化け物を相手に勝てと? 無理だ。歯向かった所であの1つ目のキュクロプスに勝てはしない。

 土埃を上げ迫りくる化け物に、自然と両手を上げた。

 

 「ふむ、捕虜だ。丁重にもてなせ」

 

 幸運なことに、化け物は案外紳士的なようだ。

 

:スコロフ

 

 カフスカ山脈を抑えてからというもの、我々はアジージョ方面軍から離れ、バク油田攻略のためのバク方面軍の第115装甲大隊に入り快進撃を続けていた。

 敵塹壕をコザーク兵の騎馬隊が突撃し、それに続くように歩兵。それが駄目ならば偵察兵の観測の元、新型の75ミリ迫撃砲でたっぷりの準備砲撃で耕してやり、ついでに肥料も加えた後に進撃すると敵の反攻など皆無に等しく、我ら装甲兵の鎧を突き破れる代物は先に破壊してあるゆえに実質的に無敵状態であり、下手の事をしなければただの平押しで突破できるのだ。

 しかし、騎兵が突撃する前の此方側の砲撃は散発的で、援護する気があるのかと思ったが、装甲大隊が行く番になれば砲撃は苛烈を極めた。上の思惑が少し見えたという所か。

 

 更に、此方の地上戦力が抑えているうちに空では制空戦が行われたが、あちらは戦闘機などなかったため不発に終わり弾着観測に努めた。偵察兵との無線での情報共有によりさらに精度は高まった。

 

 そして、爆撃機70機が敵の後方を叩きに叩いたおかげで砲撃も援軍もない楽な戦場へと様変わり。散歩でもしているような気軽さだ。

 だから、降伏してくる兵士を余裕を持って受け入れることもできるわけだ。

 

 「赤十字条約の元、捕虜は丁寧に扱え。もし暴行を加えたものがいたら報告しろ。私がそいつを血袋に変える」

 「了解しました」

 

 捕虜や傷病兵を運ぶ兵士に念の為釘を刺しておく。

 捕虜の待遇は万全で朝昼夕の三食はもちろんベッドにシーツも完備されている。俺達より待遇が良いとは、まさに我々は文明人というわけだ。

 

 「中尉、整い次第先に向かいますか?」

 「はっ、上の命令では非常に頼もしきコザーク騎兵隊共が先頭だ。我らはその尻拭いをすればいい。さて、魔力量は十分か総員に確認させろ。ないものは装甲車に乗り、十分であると判断した者は装甲車の随伴だ。全員は乗れんからな」

 「は」

 

 無敵の装甲兵に見えても欠陥はもちろんある。

 中身の魔力切れだ。

 

 前に我々を生体電池と言っていたがまさにその通りで、魔力が切れれば鎧は動かない。

 歩きっぱなしでいざ戦闘で魔力がなくて戦えませんでは話しにならない、ということで先程も言ったように装甲兵用のオープントップの兵員輸送車が完成したのだ。

 全長7.5メートル、全幅3.5、全高3.5という巨大なものだ。

 当然のごとくエンジンの問題が浮上したものの、戦車のエンジンを積んでどうにか解決したという。

 乗員は8名で武装は20ミリ機関砲一門のみ。勿論履帯だ。頭が多少出てしまうが、そこは装甲兵を運ぶためのものなので文句はない。それにこれは試作機であるからして、あまり期待はしていない。

 

 「確認完了いたしました。総員問題はないとのこと」

 「偵察兵は」

 「迫撃砲しか撃っておりませんので、問題ないでしょう」

 「ゲラーシー少尉。私は、なんと、言った?」

 「そ、総員の、確認をと」

 「怠ったのか?」

 「確認してまいります!」

 

 たまにああいうのがいるから困る。

 装甲兵の中でも偵察兵は地味な仕事で、魔力を一番使わないと思っている輩が多く偵察兵を軽視しがちだ。

 偵察がなければ不意の遭遇戦に発展し、奇襲を受けてしまうかも知れず、火力援護を受けられないため被害が増す。

 自分たちが前に出るからと後ろのものを軽視して良い訳はなく、逆に偵察兵や裏方がいるからこそ我々が前に出られるというのに。士官学校で何を学んだのやら。そも、何故偵察兵に割り振られたかの理由を思い出せばすぐに理解できそうなものを。

 全く、人間というものは。

 

 「確認完了いたしました。問題ないとのことです」

 「分かった。次はもう言わんぞ」

 「分かっております」

 「ならばいい。歩兵の準備が終わり次第我々も乗り込むぞ。それと、何故偵察兵がいるのか、何故割り振られたかを考えておけ」

 「は」

 

 次はサムル橋を落とす。

 その次は街を落としながらバク油田。最優先目標だ。

 

 と、次の戦いを考えていると騎兵隊の生き残りがやってきた。

 表情は不愉快そうだが。

 

 「鉄人形共」

 「何でしょうか大尉殿」

 「あまりでしゃばるなよ? 先陣の誉れは我らコザーク騎兵隊のものだ」

 

 はっ、先程の戦闘で散々死んでおいてよく言う。

 まあ今の所騎兵が花形という風潮であるため下手に出ておくか。

 俺が思うに花形は砲兵なのだがな?

 

 「ええ、勿論分かっております。我らはあなた方の後ろをゆっくりとついていきますよ」

 「分かっているならば良い。精々俺のケツでも見ておけ」

 

 誰がてめぇのきたねぇケツなんぞ見るか。

 栄光に縋り付いて死んでいけ。

 

 「ははは、了解いたしました」

 「ふん、言い返す気力もないか。鉄人形、貴様らなんぞはくるみでも割っているのがお似合いなのだ」

 「左様で」

 

 言いたいことを言ったのか、満足げに部下を引き連れて戻っていく間抜け共を見送る。

 

 「言わせたままでいいので?」

 「構わん。短い人生を精々楽しんでもらう」

 「了解しました。精々彼奴等の死体でも眺めましょう」

 

 連合内でコザークたちの評判は悪い。

 コザーク達は元々反体制派であったのだが、ロマノ帝国時代にコザーク達は敗北を繰り返し、帝国側へとすり寄っていく形となり、弾圧される側からする側へと変わっている。

 そしてしばしば武力によって民草の生命を脅かすなど、存外に好き放題をしているため、嫌われるのも当然といった所だろう。まあ、差別もあったようだが。

 まあいい、次だ。

 

 「総員! これから先トイレ休憩などない! 今のうちに済ませておけ!」

 

 次はサムル橋。橋を落とされる前に此方が取らなくてはな。




シャシルクというのはロシア式のバーベキューみたいです。
美味しそうでしたよ。

それと、これから色々と忙しくなるので不定期更新となります。
見てくださっている奇特な方々誠に申し訳ありません。
感想も同様に、万が一してもらえた場合にも遅くなります。


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サムル橋攻防戦

このお話はちょくちょく納得言っていない部分もあるので後で手直しするかも知れません。
申し訳ございません。


先の突破戦以降、連合軍は敵の防御線をコザークを全面に押し出して盾にし、我々装甲兵や歩兵で打ち砕き着々と戦線を押し上げていき、重要な要所であるサムル橋後方15キロ地点で小休止。

 今我々の小隊は敵が立て籠もっている塹壕の偵察を命じられている。

 

 『こちらヤコ曹長。聞こえますか』

 「ああ、聞こえている。状況を伝えろ」

 『敵はこちらの陣地からおよそ5キロ先に構えています』

 「よし、了解した」

 『我々はこれから……ちょっと! なんで騎馬と歩兵が!?』

 「はぁ、ついていけ」

 

 またか、あの脳筋共が。

 一度装甲兵の実力を見せるため上から無理やりコザーク達を停止させ、我ら装甲兵で楽々と突破したのを見せつけた。

 だが奴らはそれを見て逆に熱を上げ、無理やり最前線に出張り始め、敵発見の報告があれば前へ前へと勝手に進み自滅している。

 威力偵察にはなっているからいいが、残骸を片付けるのは面倒だ。

 

 

 

 「敵の様子はどうだ」

 『み、味方の心配はしないんですか!? ものすごい勢いで機関銃を乱射されてコザークさん達が死んでいってます! あ、でも敵の砲の位置は分かりそうです。計算するので待ってください』

 

 たまにヤコ曹長の事がわからなくなる。

 慌てていたかと思えば急に冷静になり有能な所を見せつける。

 偵察兵に搭載されている高倍率レンズで砲弾の弾道を捉えてすぐさま計算し、位置を割り出すなど常人ではまず無理なのではないだろうか。まず弾道って見えるものなのか。

 砲兵泣かせにもほどがある。

 

 『位置分かりました。今から敵の配置と重迫撃砲のおおよその位置を伝えます』

 

 伝えられた情報を書き留め、礼を伝えて無線を一度切ると指揮所へと無線をつなぐ。

 出てきた通信手に状況と場所を伝え、了解の返事が帰ってきた所で再び無線を切り再びヤコ曹長へと無線をつなぎ撤退の指示を出す。

 後は航空機との連携で大体の砲は破壊できるだろう。

 

 『コザークさん達はよろしいのですか?』

 「我々の関知するところではない」

 

 そう、我々はコザークたちの援護をしていない。

 一切というわけではないが、コザーク達が逃げ帰り、それを敵が追ってきた場合のみ装甲兵や歩兵が出るという具合だ。

 良く言えば威力偵察要員。悪く言えば口減らし。

 上もコザークには辟易しているらしく、これを機にコザーク達を減らそうという魂胆のようだ。

 

 それにコザークも気づかないわけではないのだろうが、ああやって自分たちの価値をアピールしている。

 まあ、着々とコザーク達は攻勢に失敗していき人間や馬は勿論、信頼も失いつつあるのだが。

 

 軍部の上層に楯突けばどうなるか、彼奴等が教えてくれている。

 全く、大人しく戦車や装甲兵に座を渡せばよかったものを。時代遅れのバカどもめ。

 そうだ、コザーク達が音を上げた暁にはお祝いとしてコザックダンスでも踊って差し上げよう。

 

 

 そして、運命のサムル橋攻防戦。

 早く落とさねば、敵が橋を落としてしまうかも知れないので我々は急ぎ陣地を展開、サムル橋の手前でいつもの塹壕戦となった。

 ここでの鍵はどれだけ早く敵塹壕を突破できるかにかかっている。

 

 「今回はよろしくおねがいします」

 「ふん、貴様らはあとから付いてくればいい。我らの強さを見ておけ」

 「ですが、今回は速さが勝負だと上からのお達しです」

 「集中の原則も知らんのか?」

 「……は?」

 

 

 今回はコザークや装甲兵なども関係なく、連携して攻めようとしたのだがコザーク達はこれを拒否。速度ならば負けぬと大群を従えて飛び出していってしまった。

 何が集中の原則だ。あれは敵の弱点を探り兵力が勝っていなければ到底意味をなさん。

 くそ、特権階級かなんだか知らないが足を引っ張りやがって。ここで橋を落とされれば今までの苦労は水の泡となるのだぞ。分かっているのかあいつらは。

 前線に集中? なにかの冗談か。

 塹壕に騎兵突撃をする狂人共が。

 

 「大隊長殿、如何しますか」

 「……放っておけ。暴走すれば見殺しにせよとの命令だ。貴様が所属する特務参謀からな」

 「左様で」

 

 

 

 サムル橋攻防戦。最初の攻防戦にて、コザーク達の大攻勢が発生した。

 その突撃したコザークを待ち構えていたのは機関銃、それもどこからか持ち込まれた。

 機関銃によって多くのコザーク兵が倒れたため障害物になり、後ろの騎兵が迂回機動を取ったものの、それも撃退され躯を晒した。馬を盾に戦うものもいたが、軽迫撃砲によって死んでいった。

 結局の所、抑えたのは塹壕一つだけであり、それに対してのコザーク兵の犠牲者は明らかに釣り当っておらず、その抑えた塹壕も敵の散発的な砲撃に晒され残りも逃げ帰ってくる羽目となる。

 後に伝わるコザークの大虐殺が発生した。

 

 

:コザーク

 

 攻勢に失敗した。

 原因は分かっている。敵が学習しだしたのだ、我らの戦術を。そして馬だ、馬が撃たれれば我らはただの歩兵。

 それを敵に付け入られて撤退するしかなくなるのだ。

 勇気のあるものは落馬しても死んでしまった馬を盾に応戦しているが、止まれば敵の砲撃に晒される。

 馬が足りず、歩兵として戦うコザーク兵もいる。

 

 後ろからくる鈍亀は役に立たず、我々がひくときのみ援護をするだけで突撃の際は次いてこれずに置いていく。だが、突破をしたにも関わらずそれの穴を埋めようとしないというのはどういう事だ?

 無能共が。

 

 「くそ! 何故味方がああも無能なのだ!」

 「我らをすり潰す気なのだろう」

 

 コザーク用に建てさせたテントの中、悔しさを噛み締めていれば声がかかる。

 声の方を見てみれば同志クスラノフがテントの中へと入ってきていた。

 

 我らをすり潰す? 我らコザークを? そんな馬鹿な話があるか。

 

 「どういう事だ。我らは軍管州まで与えられた特権階級なのだぞ!? ありえん!」

 

 俺の言葉を鼻で笑った同志を睨みつけてやれば、クスラノフは肩を竦めパイプに火を灯しゆっくりと煙を吐いた。

 

 「ありえるのだよ。我らは上層部の提案した機械化師団、そして装甲兵というものを危険視し排除しようとした。それが上層部の癇に障ったのだろうよ。それに、今回は自由にしすぎた」

 

 危険視だと? そんなものはしていない。我らがいるのに機械に頼るなど屈辱の極みだ。断固として認められることではないのだ。

 現に我々だけで何個もの塹壕を突破した……我々だけの力だけではないが。

 

 「だが……しかしだな」

 「しかしも何もない。事実だ」

 「……反乱でも起こすか?」

 

 冗談でいったつもりだったのだが、同志は鬼のような形相でこちらを睨み、腰のサーベルにまで手を伸ばした。

 

 「冗談だ! そんな事はせん! 滅ぼされるのが目に見えている!」

 

 勢いよく両手を振り冗談と伝えれば同志はホッとしたように息を吐き、腰のサーベルから手を離し、腕を組んで俺を見下ろした。

 

 「そうだ。滅ぼされる。あの哀れな反乱軍と同じようにな。であれば、もうでしゃばるようなことはせずに後ろにいようではないか」

 「それはどういう――」

 「――軍警にならないかとも打診が来ている。この国を降伏させたなら、取った土地に軍警として広く配備もしてくれるそうだ。我らの地位は揺るがない」

 

 悪くはない。悪くはないが……

 

 「……軍上層部からの打診ならば俺は蹴るぞ。突撃し、死んだほうがマシだ」

 「中央政府直々の打診だ。我らがツァーリも推してくださっている……それに、下手なことをして軍管州を取り上げられても、な」

 

 軍ではなく中央政府、そしてツァーリもか。

 腹立たしいが、悪くはないだろう。面目も保たれ、我らは生き延びる。

 軍の上層部にすり潰されるのも気分が悪い。ならばいっそ後ろに下がり家族のために働くのも悪くはないだろう。

 

 「これを受けるならば素行も良く、とのお達しもある。これで軍に意見できる立場から降ろされた……嫌がらせもできん。ま、信頼も落ちている事だ。生き残れるだけマシだろう」

 「チッ……しょうがあるまい。後のことは新しいものに任せるとしよう。次の戦働きが悪いようであればまた我らの出番もある」

 

 それまでは精々鉄人形や鉄の箱にでも頑張ってもらおうではないか。

 それに実のところ内心ホッとしている。戦うことでしか価値を示せなかった我らが平穏に過ごせるというのも悪くはないのだから。

 子供や皇女様をも使う軍上層部には反感しか抱かんがな。

 

 ツァーリの威光にさらなる輝きあれ。

 

 

:ソコロフ

 

 俺は今、テントで一人コサックダンスを踊っている。

 なんでって、コザーク共が音を上げたからに他ならない。

 これで余計な資源が減るのを防げると思えばコザックダンスもしたくなる。

 

 先の攻防から数日が立った頃、少将からの手紙でコザーク達がこの戦争が終われば軍警や警察といった姿になるというのを見た。

 あの頑固で自由なコザークが頷いたのかと疑問符を浮かべたが、後方から続々と交代要員が配属され、大多数のコザーク達が戻っていくのを見るに本当だったらしいと確信し俺は今踊っている。

 これからはしっかりと連携もするようで、馬を降りたコザーク兵や歩兵の前を俺達装甲兵がいくことになった。

 だから小さく笑いながらコザックダンスをしている俺は何もおかしくはない。

 

 「中尉、次の戦いのことでお話が……え?」

 「あ」

 

 何をしている曹長。

 入る時は声をかけろとあれほど言っているのに、なんで勝手に入ってくる。

 何をしている本当に。粛清するぞ?

 

 

 そして次の日、攻勢の際には降りしきる鉄の雨を弾きながら歩兵の盾になり俺達装甲兵が先行する形で突撃していた。

 

 「命令通り第一塹壕を突破しても止まるな! 塹壕の処理は歩兵に任せろ! 敵の砲がまだ生きているからな!」

 

 まだ生きている砲があれば止まるべきではない。

 何故ならば敵の塹壕は敵陣であるため防御側の砲撃照準は正確なのだ。

 突破されたと分かればすかさず砲撃され、こちらの被害は増すばかりで良いことはない。

 くそ、時間がないとは言え空爆前に突撃させられるとはな!

 

 塹壕を飛び越え、後ろに残っている敵兵は歩兵に任せて更に向こうの第二塹壕へと履帯を回す。

 見えてきたのは第2塹壕、の後ろに複数の対戦車砲。

 盾は置いてきているというのに! しかしなんでこんな所にある!? 先の爆撃や砲撃でほとんど壊したはずだぞ!

 その砲を見るに新型の対戦車砲……クソが! 随分な支援を受けているようだな!

 

 「総員乱数機動! 照準を絞らせるな!」

 「りょうか」

 

 一人命中した。

 生きているのか死んでいるのか確認する時間はない。

 対戦車兵も我ら中隊も含めすべて重機関銃だ。盾は持ってきていない。 

 

 「第二射が来る前に突破するぞ! 魔力を回せ!」

 

 歩兵の小銃弾が装甲が叩く音を聞きながら、その音の原因である塹壕から顔を出している敵兵へと重機関銃を薙ぐように乱射。

 頭を引っ込めさせ、更に近づく。

 

 「手榴弾用意! ピンを抜け!」

 

 塹壕を飛び越える段になり、腰から手榴弾をピンごと抜き、タイミングを見計らいセーフティレバーを離して塹壕を飛び越えた。飛び越える際に手榴弾を塹壕に落とし、ある程度の歩兵を掃除する。

 そして問題の対戦車砲へと肉薄しながら重機関銃を乱射する。

 すると、装填が終わった砲が俺へと狙いを定め撃ってきたので数歩先の横へと身体を回転させるように移動し回避。

 少し掠ったが問題ない。

 

 「死にたくなければ早く取り付け!」

 

 再び履帯を回して対戦車砲に近づき装填を急いでいる兵士を肉塊に変え、第3塹壕にももちろん対戦車砲が確認された。

 それ込みで第3塹壕を蹂躙する頃には装甲兵は全体を通して、魔力切れを含め半数まで減っていた。

 やはり一番の敵は魔力量か。次の循環スーツに期待するしかない。

 

 それからは第2塹壕を制圧した歩兵と合流し魔力の回復を待って、橋へと急ぐ。

 随分な強行軍だが仕方がない。橋をこちら側のものにするためだ。

 本当は戦車が到着するのを待つのだが、戦車はまだ来ていないのでしょうがない。戦車もコザーク兵が足を引っ張ったおかげで少数しか生産されておらず、この戦場にも少数しか来ておらず組織だった動きはできない。

 だが、今回のコザークの撤退を受けて増産される見通しがたった。

 この戦争中盤くらいには現れるだろう。はっは、大爆笑だ。

 

 次の作戦では、対戦車兵と偵察兵は突撃に参加せず後ろから敵兵、敵対戦車砲への長距離直接火砲支援(ダイレクトカノンサポート)の任につく。狙撃手とスポッターに近い。

 なので橋を渡るのは突撃兵のみということになる。

 それと、橋が落ちる可能性もあるということで爆撃と砲撃の支援はない。

 

 次の作戦開始時間が近くなり、それに必要なものがまだ来ないので内心焦っていれば後ろから履帯の音が聞こえ、音の出どころへと視線を向ければ兵員輸送車、と共に偵察兵達がやってきていた。

 その中の一人が慌てたように耳のアンテナをピコピコ動かしながら俺へと駆け寄ってくる。

 ヤコ曹長か。

 

 「中尉、怪我はありませんか」

 「あるように見えるか? あるように見えるなら後方に下がれ。それより、それに積んでるのは弾薬と盾か」

 「はい」

 

 師団の中でこの作戦に参加した第一複合師団でここまでで稼働可能なのは十分の八程度かと考えていたが、アンクルサムと二枚舌が余計なことをしてくれたおかげで予想よりも減っており十分の五、半分にまで減っていた。だがまあ、生きている循環スーツが予想よりも多ければ兵は増えるだろう。

 

 「小隊集合! 弾薬の再分配を行うとともに突撃兵は盾を受領しろ。偵察兵と対戦車兵は直接火砲支援に向かえ」

 

 我ら小隊は一人減ったくらいで特に作戦行動に問題があるわけでもない。

 それに橋を渡るのは突撃兵のみのため一旦、突撃兵のみで構成された急造の部隊――突撃隊――へと吸収される。

 突撃隊が橋を確保したら歩兵が続き、橋近くの街を攻め落とし歩兵と工兵が橋頭堡を築く算段となっている。

 その時にはロシアンティーでも優雅に飲むとしよう。

 

 「時間だ。行くぞ」

 

 ヤコ曹長達と別れ、突撃隊へと合流。

 対戦車砲の直接支援を受けながらの前進となった。

 

 

 

:対戦車兵

 

 高倍率レンズの先は照門と照星。

 更にその先は、わずかに見える対戦車砲と弾を込める兵士。

 それに照準を合わせて、引き金を引く。

 

 身体を揺さぶられそうになる衝撃を堪えて撃った先を見る。

 少しずれたかな。

 

 「左に0.2。一人巻き込んだ」

 

 横にいるのは特務小隊からきた偵察兵、ヤコ曹長。

 排莢して、新しい弾薬を薬室に送り込みながら報告を聞き、照準を修正する。

 もう一射、命中。あの対戦車砲はもう使い物にならない。

 

 「3.5キロの距離を2射で命中させるんだ。凄い」

 「止まっていますので。それに、この砲の精度がいいだけです。次お願いします」

 

 たしかあの銀狼の小隊員と聞いていたから期待したのだけれど、期待通りだった。

 しっかりと風の方向を伝えてくれるし、弾着観測もしっかりしている。

 急に偵察兵とバディを組めと言われて困惑したけれどこの人なら私の腕前について来れる。それに、少々後ろに配置されてしまったから当たるか心配だった。

 他の対戦車兵はバカスカ撃ってるらしいけど、スマートじゃない。

 

 「そろそろ突撃開始みたい。もう少し減らせってさ。右に10メートル目標。射距離3540、東の風プラス3度」

 「了解しました」

 

 射距離も瞬時に伝えてくるこの能力は私の相棒に是非ともほしい。

 もう一門破壊した所で、隣から声がかかる。

 

 「これ聞いたらリュドさんのこと欲しがるだろうな」

 「それは光栄です。引き抜きの話があれば即移りましょう」

 

 そう簡単に決められるものでもないのだが、エースの一人と数えられている銀狼のお願いは無碍にできないはずだ。多分。

 

 「上から命令。対戦車砲を掃討したら榴弾に切り替えて突撃兵の援護」

 「了解しました」

 

 小難しいのを考えるのは後でいくらでもできる。

 今は目標を破壊することに専念しよう。

 

 

:ソコロフ

 

 突撃前に対戦車兵の援護を受け多少は減ったが対戦車砲はまだ健在。

 なので厚さ十センチの曲線を描いたタワーシールドを掲げての前進となる。

 鋼鉄の塊のためかなり重く、履帯を使用しての速度は思い切り下がってしまい人間の全力疾走程度の速力しか出ない。

 

 まあ、ないよりはマシなので良いのだが。 

 

 「同志達が援護をしてくれている間に突破する。橋の向こうまで着いたならそのまま周囲を掃討し歩兵の援護にあたれ。いいな」

 

 大隊長のありがたいお言葉の後、俺を先頭とした魚鱗陣のような陣形で攻めることになった。

 ……は?何で俺が先頭なんだ。

 

 「各員安心しろ! 先頭は銀狼であるミール・ソコロフ中尉だ!」

 

 そういうことか。エースだから先頭ということか。士気高揚に使わせてもらうと。なるほどなるほど?

 ふざけるな。士気高揚のためであったなら大隊長が先頭で突撃しろ。指揮系統の混乱? 知るか。

 替えがきくからといって中尉に先頭を貼らせるんじゃない。クソが、エース扱いほど面倒なものはないな。

 

 俄に湧く周囲の様子に、抵抗することもできないので大人しく先頭に立ち、お決まりの言葉を吐いて履帯を回す。これが同調圧力か。

 

 「ツァーリの威光を示す! 突撃!」

 『ウラアアアァァァアアア!!』

 

 橋の手前からでも砲弾や銃弾がこちら側に飛び込んでくるというのに、更に激しくなる向こう側へと爆撃も砲撃もなしで突撃しなければならない。

 死ぬかもしれん。

 

 「倒れた味方につまずかないよう間隔を開けろ!」

 

 これの何が不味いのか、先頭の装甲兵が倒れれば後続がそれにつまずくかも知れないということだ。

 そのために間隔を開けさせたがどうなるやら。

 

 「ぐぬっ」

 

 予め調整しておいたのだろう、俺達に向かって45ミリ対戦車砲が正確に放たれる。

 その一発を縦で受け止めたが、衝撃が凄まじく動きが止まりかけた。これは何度も受けきれるものでもない。そして盾も重くなって使う魔力量が増える。このままでは足が止まって本当に死ぬ。

 こうなれば無理矢理にでも速度を上げる!

 

 「2発砲弾を受けたら盾を横に捨てろ! 味方を信じ速度を上げる!」

 

 盾と鎧に銃弾が当たる音を聞きながら、橋の向こうで装填が終わった対戦車砲が俺に向いているのが分かった。

 盾を持つ腕に魔力を回し第2射を受ける準備を整え、砲弾を受けた。

 砲弾がめり込んだその衝撃は大きく、盾を持つ左側が泳ぎそうになるのを履帯のコントロールで持ち直す。一息吐いて、盾を橋の外まで放り投げた。

 ここからはチキンレースだくそったれ。 

 

 重機関銃を牽制のためにばら撒きながら橋の中央まで突破、折り返し地点となった所で再び俺へと一つの照準が向く。

 どうする? 横のやつの盾をもらうか? いや、横も盾を放り捨て、今装甲に着弾して落伍した。

 重機関銃の弾が運良く射手にあたるのを祈る? まだ500メートルもあるというのに?

 どうする、どうする、どうする!

 

 考えている間も与えてはくれないらしい、砲弾は発射された。

 経験か、勘か、自然と重機関銃も気休めの盾として腕を十字に組んでクロスアームブロック。

 その中心に砲弾が直撃する瞬間、俺は少し横へとずれた。

 

 「中尉!」

 

 仲間の言葉で意識が戻る。すると、俺はまだ橋を渡っていた。

 何事かと下を見てみると両手がなくなり、前装甲の少し横が砲弾でえぐられている痕が見えた。

 どうやら生きているらしい。生身の腕も無事だ。

 では、やることは一つだな。ぶっ殺す。

 

 「私のことは気にするな! 進め!」

 

 俺は魔力をさらに回し、隊列から更に前へと進み憎き対戦車砲へと回避軌道をとりながら一直線に。

 幸い手には循環スーツが通っていない為動ける。

 武装もなにもないが、だからこそ更に早く移動できる。

 

 300メートルを切った距離を全力で履帯を回し対戦車砲の一つへと突貫。

 俺を狙った砲の横の砲が俺に向いたが、その砲は対戦車兵の援護によって破壊された。

 そして、さらなる砲弾を避けて距離を更に詰め、対戦車砲へと体ごとぶつかった。

 

 「なんだこいつ! 狂ってるのか!」

 

 ゆっくりと起き上がって吹き飛んだ砲で下敷きにされている男の頭を踏み潰し、逃げ腰になっている砲手に回し蹴りを入れて吹き飛ばす。

 近くの装填手が拳銃を俺に撃つが効くはずもない。

 狂ったように拳銃を乱射する男に近づき、膝蹴りを入れ黙らせた。

 その衝撃で男が血を吐いて俺の鎧を汚したが、まあ問題ない。

 

 次の砲へと向かうかと視線を移動させれば、味方の装甲兵達がこちら側に到着し周囲の掃討を開始した。こうなれば勝ったようなもの。風呂にでも入りたくなる。

 

 「中尉は下がってください! 後は我々が。おい! 中尉を後ろに運べ!」

 

 ちょうど魔力切れで意識が朦朧としていたから丁度いいか、倒れても。

 疲れた体を癒やすように、意識は暗闇へと落ちた。



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