科学少年とアルビノ少女 (マリル)
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ヒロイン設定
"ヒロイン設定"
空継 出雲(そらつぐ いづも)
誕生日 9月20日
登場時 16歳
身長 150cm
体重 40kg
石化前 広末高等学校、科学部副部長の女子高生
好きな物 千空が作ったもの
嫌いな物 特になし
アルビノの特徴である白い髪に赤い瞳をした少女。登場時は腰くらいまで長かったが司によって髪を切られたため両サイドに長い触覚がありそれ以外は首元まで短くなった。
人目を引く容姿で年齢を重ねる毎に美しくなり、その地域ではちょっとした有名人。千空は気にしないフリをしているが内心面白くはない。それに気づいているのは大樹と杠だけ。そして当の本人は気づいてはいるが全く気にしない。なぜなら千空に関することではないから。
いかなる時も無表情、無関心、無愛想な性格だが幼なじみであり崇拝している千空の前だけでは表情豊か。千空程ではないが大樹や杠の前でもほんの少しだけ表情が動く。それ以外では基本鉄仮面。だが感情が無い訳ではなく千空だけはそれが読める。
"千空が自分の全てであり、他の何を捨ててでも千空だけは守る"と豪語しており、何よりも千空を優先する。しかし他者にも優しい部分はある。
悪烈な環境下で生まれ、幼少期から変わった容姿のせいで酷い虐待を受けて己の心を守るために感情の蓋を閉じ過ごしていたが千空に出会い、救われたことによって以降千空の傍から片時も離れなくなる。
しかし、千空を1番に守れるのは自分でありたい、と思うようになり養子として迎えてくれた百夜に頼み込みあらゆる武道を極め、大会では負け無しとなったが地位や名声には全く興味がないので中学卒業を期に全てやめ、部活の勧誘も一蹴して千空と科学部に入った。
元々頭の回転が早く飲み込みも早いため千空程ではないが大人顔負けの科学の知識が頭に詰め込まれており、ストーンワールドでも武力兼千空の助手として活躍する。
知識では千空に劣るが暗算などは千空より早い。
アルビノなので陽の光に弱く、いかなる時も素肌は見せない。
それ以外にも虐待を受けた時の傷跡があり、人に素肌を見せたがらない。
基本冷静なのだが千空のことに関してはとことん盲目。
どんなゲス顔をしようとも"かっこいい"、"可愛い"、"素敵"'の三拍子しか言わず、その度に周りを呆れさせている。
流石に千空本人もこれにはたじたじである。
落ち:千空
"その他登場人物"
石神千空
基本原作通りの科学大好き少年。
出雲と出会ったのは小学校3年生の時。アルビノの容姿に興味を持ち話しかけたのがきっかけ。出雲の虐待を瞬時に見抜き文字通り科学で撃退し、父である百夜に養子として出雲を迎え入れるよう頼み込む。
"恋愛脳は一番非合理的"と言いつつも恋愛の意味で出雲のことが好き。
大木大樹
基本原作通りの頭が雑な体力担当。
千空が出雲のことが好きということを知っている数少ない人物。
二人の仲が早く進展するようにと願いつつ杠に絶賛片想い中。
小川杠
基本原作通りの元手芸部のエース。
千空が出雲のことが好きということを知っている数少ない人物。
出雲の唯一の女友達で同性で出雲が唯一気を許す何気に凄い人物。
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以上 設定
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第1話
"気持ちわりぃんだよ!!"
___いたい
"化け物!こんなの私の子じゃない!!"
____くるしい
"えっと…出雲ちゃん、無理して学校に来なくていいのよ?"
______さみしい
もう、たすけてなんていわない。
だれもたすけてくれない。わたしが"きもちわるい"から"ばけもの"だから。
"きたい"したら、もっとつらくなるから。
このままいのちがなくなるまで、なにもかんじずにいきていこう……。
そう、思っていた。
「ククク、おいお前がアルビノの出雲だろ?」
「俺は千空。お前のその体質、おもしれぇじゃねえか。」
「一緒に来いよ。その鉄仮面が剥がれるくらい唆るもん見せてやる!」
あぁ、あの時から貴方は私にとっての神様だった_______。
千空side
最初はほんの興味本位だった。
知識として知ってはいたが実際にアルビノなんてそうそうお目にかかれるもんじゃねえ。
"アルビノ"
動物学においてメラニンの生合成に関わる遺伝情報の欠損による遺伝子疾患の人間をそう呼ぶ。
医学的には先天性白皮症と呼ばれ蛇やウサギなんかにもこの症状は稀に発生する。
神聖化され、崇められる場合もあるが
殆どの地域じゃ迫害の対象だ。アフリカ南東辺りじゃえげつねぇくらいに残虐な"アルビノ狩り"なんてあるくらいだからな。
現在でもその風習は完全に途絶えることはねぇ。
それに比べりゃ、日本は比較的平和だがコイツの瞳を見た時戦慄した。
何もかも諦めて只々"死"を求める瞳。
包帯だらけの手足を見れば大体の事情は察しがつく。
____"虐待"
とても小学生がするような瞳じゃなかった。
柄にもなくビビっちまったが…それと同時に興味が湧いた。
この死んだ瞳に…光を灯すことが出来たら__
「ククク、おいお前がアルビノの出雲だろ?」
想像するだけで唆ぜこれは…!!
「俺は千空。お前のその体質、おもしれぇじゃねえか。」
俺と同じ赤い瞳が見開かれ、その瞳にほんの少し光が灯る。
「一緒に来いよ。その鉄仮面が剥がれるくらい唆るもん見せてやる!」
傷だらけの小さな手を掴み暗闇からソイツを引き剥がした。
そっからはあっという間だった。
出雲の虐待両親を科学でぶっ飛ばし(何をしたかはめんどくせぇからカケラも説明しねぇ)、父親である百夜に出雲を養子に入れてもらい、戸籍上出雲とは姉弟になった。つっても姉って感じはカケラもねぇがな。
最初は言葉を発することすら難しかったが元から頭は良かったんだろう。すぐに俺の言うことを理解し俺の科学実験の手伝いを大樹が出来なさそうな事まで出来るようになった。
基本鉄仮面は剥がれねぇし、無口なのは変わらねぇが確実にあの死んだ瞳は変わってきた。
ただ一つ困ったことがあるとすりゃあ……
『千空……。』
ちぃとばかり、懐かれすぎたってことくらいか…。
.
千空命な出雲ちゃん。
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第2話
千空side
「聞いてくれ千空!!出雲!!
俺は決めた!今日こそ今から!!この5年越しの想いを杠に、伝える!!」
放課後いつものように科学部室してるとドアを思い切り開ける音の直後に聞き飽きたバカでけぇ声が聞こえてきた。
とりあえずドアが開く音が聞こえると同時に素早く実験器具を置き、すぐ傍にいた出雲の耳を塞ぐ。コイツは目が悪い分聴覚がとにかく鋭い。
デカブツの声をモロに聞こうもんなら暫くは耳鳴りが治まらねぇだろう。この前それで暫く保健室で寝込んでたからな。
現にパッと見表情はあまり変わってねぇが目を見開き固まっている出雲を見る。他の連中には分からねぇだろうが死ぬほどビックリして固まっちまってる。俺の白衣を離そうともしねぇ。あ、それは元からか。
「ほーん。そりゃすげえ興味深い深い。
声帯がブチ切れるほど応援してるわこの科学部室から。」
「おおそうか!ありがとう千空!」
「うるせえな1mmも応援してねえよこのデカブツ。」
「なにぃ!?どっちだー!!」
「そもそも5年も何も言わねぇとかバカはどんだけ非合理的だ。
あといい加減静かにしろ。出雲の鼓膜が破けちまう。」
「おお!すまん出雲!」
まだ声は十分デケェがまあいいだろ。
ようやく出雲の耳から手を離す。出雲も音の出処がデカブツだとわかったら落ち着いたのか漸く俺の白衣から手を離す。頭でも撫でてやれば嬉しそうな顔をして擦り寄ってきやがる。
……可愛いなクソが。
周りの連中が滅多にお目にかかれねぇ出雲の表情に見惚れてるが残念ながらこれ以上見せてやらねぇよ。デカブツにあるものを渡すついでに俺より小さい出雲の頭を抱き寄せると俺の胸に顔を埋めるような形になる。
っておい、出雲俺の背中に腕を回すな。喰うぞ。
「フェロモン放出を極度に活性化する
いわゆる惚れさせ薬。こいつ飲んどきゃ100億%だ。」
デカブツは素直に受け取ったが直ぐにそれを目の前で捨てる。
ククク、そうすると思ってたぜ。
「ありがとう!千空
だがすまん、こんなインチキには頼れん!」
そう言って科学部室から出ていくデカブツ。
ったく、嵐のようにってよく言うが下手な嵐よりうるせぇなアイツは。
「おら出雲、いい加減離れろ。」
『…………………ん。』
名残惜しそうに渋々と離れる出雲。
周りの奴らの羨望と嫉妬の視線に気づいてねぇわけじゃねぇが精々血涙流しながら見とけ。
「てかこれマジか千空。惚れさせ薬って…。」
「んなもんあるわけねぇだろ。ただのガソリンだ。ペットボトルのキャップから精製した。」
『…ガソリンの長さに炭化水素を切った。』
「ククク、正解だ出雲。100億点くれてやる。」
『…へへ。』
「「「(ほんと千空羨ましいなちくしょう…!!!)」」」
出雲は俺に頭を撫でられるのが好きだからな。こうしときゃ大抵は大人しくなる。
「それって飲んでたら大樹くん死んでたんじゃないか…?」
「ククク、100億%飲みやしねえよ。あの真面目バカは。」
.
※この2人付き合ってません
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第3話
そうなったらご指摘お願いします
出雲side
大樹の大きな声にまだ少し耳がキンキンしてる…。
千空が塞いでくれなかったら今頃保健室だったろうな…。
そんなことを考えながら窓の外を見るとちょうど大樹と杠が中庭のクスノキの所にいた。
「フラれるに500円。」
「フルパワーで振られるに500円。」
「フラれるに1000円。」
気づいたらギャラリーたくさん…まああれだけ大声で言ってたら誰にだって聞こえるか…。
「意外とフラれねえに1万円。」
「「「マジか!?」」」
千空は楽しげな笑みを浮かべながら自販機で飲み物を買っている。楽しそうな千空もかっこいい。
私は千空が好き。
恋愛とかそういうのはよく分からないけど…他の何を差し置いても千空が1番大切。千空は私を救ってくれた神様だから。
"崇拝"、"依存"…たぶんそんな感じなんだと思う。私の千空に対するこの感情の名前は。
いつか千空に好きな人が出来て私が邪魔になったら…
ああ…嫌だな…。
心の底のドス黒い"何か"がドロリと身体中を巡るような感覚。嫌だ…千空は千空だけは誰にも渡したくない……。
ポン
頭の中を黒い思考がグルグル回っていると、ふと頭に暖かいものが触れたのに気づく。視線を向けると千空の手が私の頭に乗っていた。
「1mmも唆らねえ顔してんぞ。ほら、これでも飲んどけ。」
そう言って渡されたのはりんごジュース。
千空はPOWERドリンクを飲んでいる。私は炭酸が苦手。
そして千空はりんごジュースなんて子供っぽいものは基本的に飲まない。つまりこれは私のために買ってくれたということ。
全身を巡っていた黒いドロドロがすうっと消えていくのがわかる。ああ…やっぱり千空は私の神様だ。
千空の隣でほわほわとした気持ちになりながらりんごジュースを飲んでいると……
『なに……あれ。』
外に見えたのは緑色の謎の光。
何の光か分からない…けど私の第六感が告げている。
アレハ危険ダ
『っ…!!!千空!!!』
今まで出したこともないような大きな声が出た。
咄嗟に千空を庇うように覆い被さる。と言っても私の小さな体では千空を守りきることは不可能だろう…ああ、無力な自分に腹が立つ。
気づけば私の意識は暗闇の中だった。
___
____
_______
________
あれから、どれくらいだったんだろう…。
ずっと暗闇の中体は一切動かない。どれだけ試しても動かない。
だけど思考を巡らせることは問題ない。
少しでも油断すれば意識まで持っていかれる。
それはダメ…千空の無事を確認するまで私は死ねない…。
こんなとき千空なら数を数えたりとかするんだろうけど流石に私はそれをやりきる頭なんてない。
だから私は千空のことを考えよう。
大丈夫…千空ならきっと無事だ。千空が簡単に死ぬはずがない。
千空、千空____。
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第4話
人類が石化して数千年後のある日_2人の少年少女が目覚めた。
千空side
「(うおおお、破ったぞ!
……とかなんとかお元気一杯やりてえとこだが、ククク、大樹みてえな雑アタマなら100億%やらかしてんだろうがな。)」
最優先は現場の保全だ。
俺のボディ自体が値千金の謎ときの手がかりになる。
そう思うと同時に近くてひび割れるような音がした。
そっちに視線を向ければ____
「ククク、3700年ぶりだな。出雲。」
『……あぁ、やっと千空の声が聞けた。』
ぽろぽろと涙を流すそいつに昔のように頭を撫でると更に滝のように涙が流れる。水分全部涙に使う気か?
とにかくコイツも馬鹿ではない。この石片が科学的な手がかりになる事には気づいてるんだろう。そうじゃなかったらコイツならすぐに抱きついてくるはずだからな。
すぐさま倒れていた位地、ポーズ、謎の石片が体のどこから順番に剥がれたか。
検証できる時のために一片残らず確保しとく---と真っ先にしてえとこだが……。
「出雲、絶対に動くなよ。あと目瞑っとけ。」
『??…わかった。』
不思議そうな顔をしながらもしっかり俺の言うことを聞く出雲。今はその素直さがおありがてえ。なんでこんなことをさせてるかというと俺もコイツも服が風化したせいかお互い素っ裸だ。
いつもの俺なら非常時にそんなこと気にしてられねえ、と言うところだと思うが惚れてる女の体はまた話が違ってくる。ったくやっぱり恋愛脳は非合理的の塊だ。
ガササァ!
「!」
「(おう、おまどこのもんや。どこのおサルやコラ。)」
音のした方を見ると数匹の猿。
明らかに威嚇していたが俺の姿を目にするとビビった様な顔をする。
「(ツルっピカやないか!)」
「(きも!あのおサルおはだツルっピカやないか!)」
「(わんぱくなおティンティンも、まるだしやんけ!)」
「(きもー!)」
……初めて見んのか?
あいつらの反応からして、文明は滅びてんな。
あるいは、俺らが--
「地球に初めて生まれた二匹のツルピカ猿か。」
自分の破片の保存や処理をきちんとしつつ、蔦を自分の下半身に付け出雲の分も用意する。ここまで来てようやく準備完了だ。
「出雲、もう目開けていいぞ。」
『ん。』
目を開けた出雲は同じように破片の保存などを手早く行う。ククク、やっぱりちゃんとわかってんな。
蔦も巻きつければ準備完了だ。
すると出雲がそわそわした顔でこっちを見てくる。
……ああ、そういうことか。
3700年も我慢してたんだ。
コイツにとってかなり堪えただろう。
大人しく両手を広げればまたポロポロ泣きながら俺の胸に小さな体が飛び込んできた。
『千空……千空ぅ……!!』
「ククク…よく耐えたな出雲。100億点やるよ。」
こいつの性格や今までを考えれば狂ってもおかしくないような年月だ。
すぐにでも探索に出たいところだが、少しは大目に見てやるよ。
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第5話
出雲side
石化してから約3700年。
私が泣き止むまで千空はずっとそばに居てくれた。やっぱり千空は優しい。
西暦5738年4月1日。
ここから新たに人類は始まるんだ。
けど最初からぽんぽん上手くわけではない。
現に火を起こそうと必死に木片をシャコシャコしてた千空は結局火をつけられないまま疲労でダウンしてる。私も手伝いたいけど私は食料の確保をしなければいけない。
アルビノ体質の影響で日の光が強い所にあまり出られないのだけれど森の木々が生い茂っているから外で自由に動いてもあまり影響はでない。山菜やきのこ、武器がないから肉になる獲物は仕留められなかったけどそこは千空が何とかしてくれるだろう。
身体能力は私の方が完全に上だから千空に必要な道具や食料を集めたり、物作りの手伝いをしたり、とにかく千空のために出来ることは全てやってやる。
私を救ってくれた千空を、今度は私が助けるんだ。
私が集めた材料を使ってトライ&エラーを繰り返しながら着々と石器や紐などを作り上げ、そして____
「セルロースが出すガスの酸化による発熱、つまり燃焼だ。」
ついに火を起こすことに成功し、石器を手に入れた私は獲物を仕留められるようになり千空は泣きながらお肉を食べていた。
創意工夫で森羅万象をしゃぶりつくす、科学の支配者。
「(!?ツルっピカおサル、ツルっピカちゃうやんけ!?)」
「ククク、自己紹介もまだだったか。初めましてだな。」
そして、私の世界で一番大切な神様____
「俺たちは、"人間"だ!!」
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何とかツリーハウスも完成し、無事に衣食住を手に入れた。
けど、ここで次の問題が出てきた。
『はあ…はあ…。』
「クソっ…流石に無理させすぎたな。」
私の肌はいま大部分が赤く日焼けしてしまっている、
アルビノの人は日焼けやDNAの破壊などの紫外線の害から体を守るメラニンというものが極めて少ない、あるいは欠如しているため日差しの強い日には短時間でも日光に当たると皮膚が赤く日焼けしてしまい皮膚がん発症のリスクも高まる。
だから3700年前も日焼け対策は念入りにやっていたし外に出る時は細心の注意を払っていた。だけどこのストーンワールドではUVクリームや日傘などもない。肌を晒さないように露出を極度に無くした服を来ていたが真夏になればそれも辛い。
しかも最近ツリーハウスを完成させたばかりで今まで野宿だったため日差しから体を守るには限度があった。
つまり、私の体は限界をとうに超えていたのだ。
真っ赤に日焼けした肌は衣服が擦れるだけで激痛が走るしここ最近熱も下がらない。
清潔な水で千空が清めてくれている。焼け石に水だけど薬もない今それしか治療法はない。これ以上日に当たると命に関わる。
つまり、しばらく私は外には出られない。
『せんくう……ごめ、なさ、、』
「謝るな。お前は1mmも悪くねえ。
俺が無理させすぎたんだ。お前がいなきゃ即詰んでた。」
千空の昔に比べて傷だらけになった手が私の額に触れる。
冷たくて心地良い……。
ぼやけて目も殆ど見えていない。
けど、千空がそばに居てくれているというだけで私の心は落ち着くことが出来た。
「そもそも人間二人じゃ生活だけでギリギリだ。
科学も進歩もクソもねえ。せめてあと一人体力があるやつを復活させる。目星はいてるからな。お前もよーく知ってる奴だ。」
『あ……。』
体力があって私と千空がよく知っている人物。
そんなの一人しかいない。
「お前はゆっくり休んでろ。出雲。
安心しろ、お前が回復したら死ぬほどこき使ってやる。」
『ん……。』
一瞬千空の優しい顔が見えて意識が遠のいていく。
額に暖かい何かが触れた気がしたけど、それが何なのかは分からなかった。
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第6話
千空side
俺の言葉に安心したように眠る出雲。
コイツには本当に無理をさせすぎちまった。
ずっと一緒にいた俺ならコイツが限界なんて無視して動くことなんざ知ってただろうが。
だが、後悔してる時間はねえ。んなもん非合理的だ。出雲のためにも、一刻も早く"アイツ"を復活させる。
『せん、くう…。』
「……ククク、こんな時にも俺のことかよ。」
出雲が眠りについたのを確認してから額に唇をおとす。
ククク、こんなクソ甘ったるいことを俺がやるなんてな。
想いを何年も伝えないなんて非合理的だ、と前に"アイツ"に言ったことがあるがそれは俺も同じだ。
けどそれは俺達の間で恋人なんてカテゴライズにしちゃいけねえって思ったからだ。
出雲は俺の事を神格化しすぎてる。
そこから恋人になんてなってみろ。コイツは本当に"俺"と"俺以外"という存在認識しかしなくなる。かろうじて存在している大樹や杠ですら消えちまうだろう。
それは出雲にとってあまりにも危険すぎる。
出雲のこれは所謂"関係依存症"だ。ある特定の人物に必要とされることに依存する。一言で言ってしまえば精神の病。
これを完璧に治さねえといつまで経っても出雲は俺のことしか見ねえ。惚れた女に依存されるってのは悪かねえが仮に俺に何かあったとして、そしたらこいつはどうなる?
いとも簡単に壊れちまう。
このストーンワールドでは特に何が起こるか分からねえ。だから出雲にはその病を治してもらわねえとな。
「まあ、出雲のことはとりあえず置いといてだな。」
出雲に言った通り目星はついてた。
俺たちの復活地点のすぐ側。おそらく同じ場所から同じように流されてきた男の、妙にゴツい手。
掘り起こしてみれば大正解だ。
「ククク、見たくもねえほど見飽きた顔だがな。
3700年ぶりじゃねえか、ようデカブツ……!!」
昔と変わらねえアホ面に思わず表情がゆるむ。
「さ〜〜〜て、千空研究所のスタートだ。
おいデカブツ、何やったら俺らみたく復活する?」
そもそも3700年前、人類全員がいきなり石化した原因は??
考えられるのは3つ。
宇宙人の科学攻撃説、どっかの国の軍事兵器説、新種ウイルス説。
唯一ハッキリしてるのが人間とツバメだけがピンポイントで"狙われた"ってことだ。
一見ムチャクチャなファンタジーだが何かルールがある!だったら俺は戦える。再現性(ルール)を探すのが科学だ。
「今!原始人の俺の前に、前人未踏新作の科学がある。唆るじゃねえか……!!!」
さあ考えろ!俺の石化はどうして破れた?シンプルに経年劣化??
シンプルに経年劣化で復活するってんなら吹きっさらしの表面ほど治るはずじゃねえのか?
さんざん考えて出た復活のカギは別の特殊な外的要因。
俺も出雲も頭に近い石片ほど下の方に重なってた。つまり復活は頭側からだ。その方向にカギがある!
そう思いその方向に向かえばあったのは洞窟。
そこにあったのは上からポタポタ垂れている液体。"硝酸"だ。
試しに後頭部に残ってる髪の石片に付ければビンゴ。元の髪に戻った!
だが早速大樹にぶっかけたが、変化はなしツバメや他の連中にかけても復活しねえ。
クソ…!ここまで来てまだ足りねえってのか…!!
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番外編〜大樹と出雲〜
投稿休んでてすみませんでした(汗)
仕事が多忙なためノロノロではありますがまた投稿を再開します!
千空side
俺が大樹と出雲と出会った時期はほぼ同時期だが、出雲と大樹がマトモに対面したのは、それからしばらく経ってからだ。
出雲の両親の件や養子の手続きとかもあったし何より出雲のメンタルケアのために暫く出雲は学校を休んでいたから2人の初対面はちょうどその頃だった。
「おお!君が出雲か!!
俺は大樹だ!よろしくな!!出雲!!」
「おいデカブツ、出雲にあんま大声で近づくんじゃねぇ。
顔には出てねぇが100億パーセントビビりまくってんじゃねぇか。」
現に、俺の背中に隠れて服をガッツし掴んでガタガタ震えてやがる。
顔には出ないだけで割と感情の豊かさは取り戻しつつあった。
とは言っても俺や少し慣れ始めた百夜がいなかったら、また殻に籠るんだろうけどな。
一向に俺の背後から顔を出そうとしない出雲に焦ったのか大樹は申し訳なさそうに出雲に謝り倒す。
「す、すまない!驚かせるつもりはなかったんだ!」
「おい出雲。コイツは雑頭だから変に緊張するこたぁねぇよ。
いい加減、顔くらい出せ。その為に合わせたんだからよ。」
酷いな千空!?と地味にショックを受けている大樹を無視して出雲に顔を出すよう促す。
すると俺の言葉が効いたのか少しだけ大樹に顔を出した。
その目には、まだ少し怯えがあるが顔を出しただけでも大きな進歩だ。
出雲の姿をようやくとらえた大樹は嬉しそうな顔で出雲に話しかける。
「おお!ようやく顔を見せてくれたな!!
千空から聞いてはいたが髪も瞳の色もすごく綺麗だ!!」
『……!!』
大樹の100億パーセント嘘偽りのない言葉に出雲は、その大きな目を更に見開いて驚いた。
まぁムリもねぇ。
今まで散々気味悪がられてきたのに、この雑頭は気味悪がるどころか真っ直ぐ褒められたんだからな。俺や百夜以外に言われたことのねぇその言葉は十分衝撃的だろう。
「瞳は千空と同じ色だな!
"おそろい"ってやつだな!!」
『…!!!おそろい?』
出雲の後ろにピシャーン!!と雷が打たれたような幻覚が見えたのは絶対俺だけじゃねぇ。
さっきまでの怯えはどこえやら、目をキラキラさせて大樹を見ている出雲。
…なんか面白くねぇ。
『…本当に?千空とおそろい??』
「ん?あぁ!
るびーっていう色なんだろう?千空と同じ色じゃないか!」
『千空とおそろい…へへ。』
白い頬を赤く染めて俺と同じ色だってだけで喜ぶ出雲を見て俺は少しむず痒い気持ちになる。
悪い気はしねぇが…なんか気恥しい。
「出雲は本当に千空が好きなんだな!!」
「ばっ…!おい、言い方考えろ、このデカブツ!」
子どもの純粋な、それこそ異性の意識なんてまるでない雑頭の何気ない一言。
しかも俺は、この頃から既に"恋愛は非合理的"という概念があったというのもあり特にそう言う事に興味はなかった筈なのに何故かその時だけは、その辺のガキと同じように変に捉えて顔を赤らめた。
『うん…大好き。
千空は私の神様だから。』
「!!」
「?かみさま??千空は人間だぞ??」
「おー、もう黙っとけデカブツ。」
顔を赤らめて、如何にもその辺の女みたいに一見見えるが
出雲のその言葉に俺は一気に冷静さを"取り戻させられた"。
ガキながらに"コイツのその感情は危ない"と本能的に悟っちまった。
『?千空…??』
「…なんでもねえよ。」
俺のこの非合理の塊の想いをコイツに伝えるのは、もう少し先の話になりそうだ。
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