ようこそ綾小路清隆が本気を出した教室へ (俺がいる最高)
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第1話 『バスの中の事件』

 突然だが、少し考えてみて欲しい。

 

 人は平等であるか否か。現代社会は平等、平等と訴えて止まない。

 

 ある偉人が『天は人の上に人を作らず、人の下にも人を作らず』と言った。

 

 だがこれには続きがある。

 

『生まれた時は平等だが、その後に差が生まれるのは学問に励んだか励まなかったか、そこに違いが生じる』と。

 

 兎にも角にも、人間は考える事の出来る生き物だ。

 

 平等という言葉は、嘘偽りだらけだが、不平等もまた、受け入れ難い事実であるということ。

 

 

 

 

「ねぇ。席、譲ってもらえないかな?」

 

 入学式の日。学校に向かうバスの中、座席に座りゆらゆらと揺れていると、前の方から可愛いらしい声が響いた。

 

 覗いてみると、辛そうに立っているおばあさんに、優先席にドッカリと腰を下ろし、席を譲ろうとしないガタイの良い金髪の高校生が、栗色の髪の女子生徒に声をかけられているところだった。

 

「そこ、優先席だし、おばあさんに座ってもらった方がいいと思うの」

 

 しかし男子生徒の対応は想像を超えるものだった。

 

「おやおやプリティーガール。優先席は優先席であって、法的な義務は存在しない。若者だから席を譲れと? はっは.......、実にナンセンス。私が若かろうと立てばより体力を消耗する。何故、意味もなく無益な事をしなければならない?」

 

 彼は長々と言い訳をし、どうしても席を譲る気がないらしい。

 

「でも社会貢献にもなると思うんだ。それにおばあさん、辛そうにしてるから.」

 

 女子生徒はそう言っておばあさんに視線を向ける。

 

「社会貢献には興味がないのでね。それに」

 

 男子生徒は金色の髪をバッとかきあげ、座っている乗客達に聞こえるように声を大きくする。

 

「私以外の一般席に座っている者はどうだ? 優先席かそうでないかなど、些細な問題だと思うがね?」

 

 女子生徒は彼の言葉に何も言えず、目を伏せ俯く。

 

「い〜よぉ。わたしは大丈夫だからぁ。ありがとう」

 

 おばあさんの言葉に女子生徒は決意したように俺達に声をかける。

 

「皆さん! どなたか席を譲ってあげてもらえないでしょうか!」

 

 オレはふと、隣の席に座っている長い黒髪が特徴の女子生徒に目を向ける。

 

 彼女はこの喧騒の中、まるで場に流されることなく無表情で過ごしている。

 

 その異様さにジッと見てしまっていると、一瞬だけ少女と目があった。どうやら彼女も席を譲る気は無さそうだ。

 

 仕方がない。ここはオレが。

 

「あの.......オレ、席譲りますよ」

 

 そう言って立ち上がると

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 栗色の髪をした女子生徒は満面の笑みでお礼を言う。

 

 腰掛けたおばあさんも、オレと女子生徒に何度も重ねてお礼を言った。

 

「席を譲ってくれてありがとう。私の名前は櫛田桔梗。君の名前は?」

 

 櫛田と名乗った女子生徒は満面の笑みで話しかけて来た。

 

「オレの名前は綾小路清隆。よろしく、櫛田」

 

 オレはそう言って手を出すと、

 

「うん、よろしくね! 綾小路くん」

 

 櫛田は嬉しそうに手を握り返してきた。

 

 まさか入学初日からこんなに可愛い娘と友達になれるなんて。

 

 昨日までの俺からしたらとてもありえない事だな。

 

 それから程なくして目的地に着くと、オレは櫛田と共に地に降り立った。

 

 バスを降りると、そこには天然石を連結加工した作りの門がオレを

 

 バスから降りた、制服に身を包んだ少年少女たちは全員この門をくぐり抜けていく。

 

「今日からここに通うのか」

 

 大きい校舎を見つめながらポツリと呟く。

 

『東京都高度育成高等学校』日本政府が作り上げた、未来を支えていく若者の育成を目的とした学校だ。

 

 就職率、進学率、百パーセントを謳い国指導の徹底した指導により、希望する未来に全力でこたえるという。

 

「ちょっと」

 

「ん?」

 

 凛とした声で呼び止められ、声のした方を向くと、先程隣に座っていた黒髪の女子生徒が髪を靡かせながら階段の上から見下ろしていた。

 

「バスの中で私の方を見てたけど、何なの?」

 

 しっかりと目を付けられていたってことか。

 

「あぁ、悪い。あんたはオレと違って席を譲る気なさそうだったから。まぁ、確かにああいう事に関わりたくないというら気持ちも分からなくはないが」

 

「私は信念を持って譲らなかったの」

 

「いや、それもっと酷くね?」

 

「用がないならもういいわ.」

 

 彼女はそう言ってコツコツと足音をたてながら校舎の方に歩いて行った。

 

「綾小路くん、さっきの子と仲良さそうだったけどお友達?」

 

 さっきまで黙ってオレたちの会話を見ていた櫛田が声をかける。

 

「.......そう見えたか? 彼女はバスの中で隣に座ってただけだ」

 

「ふーん。そっか」

 

 櫛田は含みのある言い方をする。

 

「なんだ? 何かあるのか?」

 

「別に.......。そんな事より、早く校舎に入ろう! 同じクラスになれると良いね!」

 

「あぁ、そうだな」

 

 その言い方が気になるが、まだ知り合ったばかりだし、深く言及は出来ないな。

 

 オレは仕方なく諦め、櫛田の後を追った。



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第2話 『新しいクラス』

「続きまして。生徒会長の挨拶です」

 

 入学式。現在、体育館には沢山の拍手が響いている。

 

「生徒会長の堀北学です。本年度、我が校に入学した皆さんに、在校生を代表して歓迎の意を評したいと思います。本校は、文武両道、更に高い進学率、就職率を誇る事は皆さんご存知でしょう。それは卒業生、在校生の普段の努力により、達されている。我が校の誇りであり、進入生にそれに続く事を望む。我が校は完全な実力主義によるーー」

 

 生徒会長の長い挨拶を聞きながら、右斜め前を見ると、黒髪の女子生徒が気まづそうな目で生徒会長を見ていた。

 

 同じクラスなのか.......。

 

 しかも櫛田の後ろ姿も見える。

 

 凄い偶然だな。

 

 しかし入学式は好きになれない。そんな風に考えている一年生は少なくないだろう。

 

 校長や在校生のありがたいお言葉に煩わしさを感じたり、整列だの立ちっぱなしだの、面倒な事が多いから邪魔くさく感じてしまう。

 

 けど、オレが言いたいのはそういう事じゃない。

 

 小、中、高校の入学式は、子供たちにとって一つの試練のスタートを意味する。

 

 学校生活を満喫するために必要不可欠な友だち作りが出来るかどうか、この日から数日に全てがかかっている。

 

 これに失敗すると、悲惨な3年間が待っていると言えるだろう。

 

 そして、オレたちは体育館から自分たちの教室へ移動して来た。

 

 ぐるりと教室を見渡し、オレは自分のネームプレートが置かれた席へと向かった。

 

 窓際近くの後ろの席。一般的には当たりと言っても良い場所だ。

 

 そして各々、初対面だと言うのに談笑を始めた。

 

「うふふ、そうなんだぁ?で、どういうジャンルの本が好きなの?」

 

「えぇ?本?ジャンル?えぇとねぇ恋愛ものかなぁ、やっぱり」

 

「やっぱりそうなの?」

 

「少女漫画とか.......」

 

「へぇ〜私はねぇ、ミステリーが好きなの」

 

「ミステリー?」

 

「意外でしょ?」

 

「意外!」

 

「えへへ.......よく言われる」

 

 オレは櫛田たちの話に耳を傾けながら隣の席に目を向けると、黒髪の女子生徒が座っていた。

 

 隣の席なのか.......。

 

「.......嫌な偶然ね」

 

 そう考えるていると、彼女もそう思ったのか、声をかけて来た。

 

「.......同感だ」

 

 オレがそう応えると、

 

「みんな、ちょっといいかな?」

 

 スっと手を上げた男子生徒の声が教室に響いた。

 

 彼は髪も染めておらず、優等生そうだ。

 

 表情にも不良のそれは感じられない。

 

 みんなが彼に注目する。

 

「今から皆で自己紹介をやって、一日も早くお互いに友達になれたらと思うんだ。先生もまだ来ないみたいだし.......どうかな?」

 

「さんせ〜い!」

 

「いいんじゃないの?」

 

「だよね〜あたしら名前も知らないし」

 

 彼の意見に女子達が賛成の意見を述べる。

 

「ありがとう。.......じゃあまずは僕から。平田洋介。気軽に洋介って呼んで欲しい。趣味はスポーツ全般で、この学校ではサッカー部に入る予定だよ。みんな、よろしく」

 

「「よろしく〜!」」

 

 こういう奴がクラスの中心になっていくんだろうなぁ。

 

 それに平田は容姿もいいし、女子にモテるんだろうなぁ.......。

 

「じゃあ次は私だね!」

 

 元気にそう言ったのは櫛田だった。

 

「櫛田桔梗と言います。ここにいる皆と仲良くなる事が目標です。たくさん思い出を作りたいので、皆さん、どんどん誘って下さい!」

 

 櫛田はぺこりとお辞儀をした。

 

 男女共に人気出るだろうな.......。櫛田には悪いが、もうわたし、誰とでも仲良くなれるオーラ出てるし.......。

 

 って批評してる場合じゃないな。

 

 この自己紹介でクラス内の立ち位置が決まる。

 

 ウケを狙うべきか.......。超ハイテンションで一笑いくらいとれるかも.......。いや、ドン引きされるか.......。

 

 そもそも趣味とか特技とかないし.......。オレは何も持たない自由な白い鳥.......。

 

 と黄昏ていると、

 

「ーー次は.......そこの君」

 

 平田がそう言うと皆の視線がオレに集まった。

 

「え、オレ?」

 

 ん〜.......仕方ない。ここは少し気張って自己紹介するとしよう。

 

「え〜.......えぇっと、綾小路清隆です。えぇ〜.......よろしくお願いします。え〜.......得意な事は特にありませんが、えぇ〜.......仲良くなれるように頑張ります」

 

 パラパラと、乾いた拍手。

 

 .......失敗した。

 

「よろしくね、綾小路くん。仲良くやっていこう」

 

 席に着くと、

 

「.......ふっ」

 

 と隣の席の女の子に笑われた。

 

「じゃあ次はーー」

 

 平田がそう言いかけた時、

 

 バン!

 

 とでかい音を立てて机を足で蹴る音がした。

 

 そいつは赤髪で目付きが悪く、いかにも不良って感じの奴だ。

 

「何が自己紹介だ。俺らはガキかよ。やりたいやつだけやってろ」

 

 彼がそう喚いた、その時だった。

 

「お前たち、席に着け」

 

 スーツを来た一人の女性がカツカツとヒールの音をたてて教室へ入ってくる。

 

 見た目からの印象はしっかりとした、規律を大事にしそうな先生。歳の頃は30、に届いているか届いてないか。微妙なところだ。

 

 それなりに長そうな髪は後頭部で、ポニーテール調にまとめられている。

 

「Dクラスの担任となった、茶柱佐枝だ。この学校にクラス替えはない。卒業まで三年間、私がお前たちの担任となる。まずは本校の資料を配ろう。前から後ろへ回してくれ」

 

 前から回ってきた資料を受け取り、目を通す。

 

「本校には独自のルールが存在する。まず、全寮制で、在学中に敷地内から出る事と外部との連絡を制限している。だが、心配するな。学園にはありとあらゆる施設が揃っている。生活に必要な物は全て手に入るだろう。娯楽も含めてな.......。買い物には学生証端末に保有されているポイントを使う。この学校ではあらゆるものをポイントで買うことが出来る。ポイントは毎月一日に振り込まれる。1ポイントで一円の価値だ。お前達には既に今月分の10万ポイントが支給されている」

 

 学生証端末を確認すると、確かに10万という数字が表示されている。

 

「え〜!?」

 

「10万!?」

 

「マジかよ!?」

 

「へぇ〜!」

 

 茶柱先生の言葉に俺達はザワついていた。

 

 彼女の言う通りなら、オレたちは現時点で10万円という大金を得ているのだ。

 

「支給学の多さに驚いたか?この学校は実力で生徒を測る。入学を果たしたお前たちにはそれだけの価値があるというわけだ。ではいい学生ライフを過ごしてくれ」

 

 茶柱先生はそう締め括って喧騒に包まれる教室から立ち去った。

 

「思ったよりも堅苦しい学校ではないみたいね」

 

 独り言かと思ったが隣の女子生徒はこちらを見ていたので話しかけて来たと分かった。

 

「確かに、何というか物凄く緩いな」

 

 自由度の高い生活には危険なリスクがあるのではないかと疑ってしまう。

 

「ねぇねぇ、後で一緒に買い物に行かない?」

 

「いいね!私、取り敢えず服が欲しい!」

 

 10万円という大金を得た喜びに浸り、浮き足立つ沢山の生徒。

 

 見れば、既にグループが確立されていて、どうやらオレはボッチらしい。

 

「綾小路くん。この後、皆で買い物に行こうと思ってるんだけど、君も一緒に行かないか?」

 

 帰り支度をして教室を出ようとすると、平田が声をかけて来た。

 

 彼の周りには沢山の女の子がいた。入学早々、ハーレムを作っているのか。羨ましいヤツめ。

 

「これから用事があるんだけど、直ぐに終わるからそしたらオレも一緒に行きたいんだけど、それでいいか?」

 

 本当は用事が終わったら直ぐに自分の部屋に戻りたいところだが、現在は12時前。

 

 時間はたっぷりあるし、それに平田と周りの女の子達は見たところ、このクラスの中心人物だ。

 

 今後の為にも彼らとは仲良くなっておいて損は無い。

 

「うん。軽井沢さん達もそれでいいよね?」

 

「オッケーだよ〜!」

 

 平田は横にいる金髪のギャルっぽい女の子に聞くと、彼女は明るい話し方で了承した。

 

「それじゃあ後で合流出来るように連絡先を交換しとこうか」

 

「あ、じゃあわたしも〜」

 

「わたしも!」

 

「ありがとう、みんな。じゃあオレは用事を済ませてくるから、後で合流しよう」

 

「うん。じゃあまたね」

 

「バイバイ〜綾小路くん〜!」

 

 彼らに別れを告げ、教室を出ると、廊下で櫛田が

 待っていた。

 

「あ、綾小路くん」

 

「櫛田。何か用か?」

 

「うん。この後、友達と敷地内を回ろうと思うんだけど、綾小路くんもどうかなって」

 

「そうか.......。櫛田はもう友達が出来たんだな」

 

「うん。クラスの殆どの人とは連絡先も交換したんだ!」

 

「凄いな.......。櫛田、悪いけど、また今度にしてくれないか?この後は用事があってその後に平田達と遊ぶ約束をしてるんだ」

 

「そっか.......。なら仕方ないね。じゃあ連絡先だけ交換しよっか」

 

「あぁ、そうだな。せっかく誘ってくれたのに悪いな」

 

「ううん。気にしないで」

 

「.......櫛田。夜、電話してもいいか?話したい事があるんだ」

 

「え?.......いいよ。じゃあまたね」

 

 櫛田は顔を赤くしながら逃げるように去って行った。

 

 いったい何だったんだ?

 

 オレは用事を済ませる為にコンビニへ向かった。

 

 



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第3話 「放課後の出来事」

 用事といってもコンビニで買い物をするだけなので、平田達と一緒に来てもよかったが、自分の買い物くらい一人でゆっくりしたいものだ。

 

 コンビニに入り、適当に必要な物を買う。

 

「ありがとうございました〜!」

 

 学生証端末をかざし、ポイントを払う。

 

「本当に金として使えるんだな」

 

 学生証端末のポイントが減ったのを確認しながらポツリと呟く。

 

 1クラス25人で各学年4クラスだから、全校生徒は300人。全員に毎月10万も支給していたら年3億6千万の出費.......。

 

 いくら国が運営してるといってもーー

 

「ん?」

 

 人の気配がしたので視線を向けてみると、日用品売り場の前に隣の席の黒髪の女の子が立っていた。

 

「.......またとして嫌な偶然ね」

 

 彼女は横目でオレを睨む。

 

「.......そう警戒するなよ」

 

「.......」

 

 本当に偶然かどうか疑っているらしい。

 

「.......まぁ、隣の席同士、今日からよろしく。.......名前は?」

 

「.......」

 

 しかし反応がない。

 

「それくらい答えてもいいんじゃないか?」

 

「拒否しても構わないかしら」

 

「隣同士で名前も知らないなんて居心地悪いと思うんだけどなぁ.......」

 

 オレがそう言うと彼女は呆れた目でこちらを睨む。

 

「.......堀北鈴音よ」

 

「.......堀北.......確か生徒会長も.......」

 

 オレの話など聞かずに、手に取ったシャンプーなどの日用品を、テキパキとカゴの中へ運ぶ堀北。

 

 適当に選んでいるのかと思いきや、安価なものばかりをピックアップしている。

 

「安いのかうんだな?金はあるんだし、もう少し高いの買ってもいいーー」

 

「必要ない」

 

 高めのクリーミーそうなヤツを手に取って見せると軽く拒否された。

 

「しかしーー」

 

「必要ない、と言ったでしょ?」

 

「.......はい」

 

 睨まれたのでオレはそっと棚に洗顔料を戻した。

 

 怒られても構わないからある程度会話を弾ませようと思ったが、失敗した。

 

「.......あなた、人付き合いが得意じゃなさそうね。会話が下手だもの」

 

「.......そうだなぁ。お前も似たようなものだと思うが」

 

「そうね。でも、わたしはそもそも友達を作る必要性を感じない.......無料?」

 

 堀北は話しながら視線の端で何かを見つけたようだ。

 

 オレもそこに目を向けてみると、歯ブラシや絆創膏といった日用品が『無料』と書かれたワゴンに詰められている。

 

『1ヶ月3つまで』と但し書きも添えられており、明らかに周りから浮いた異質さを放っていた。

 

「ポイントを使い過ぎた人への救済措置.......かな?」

 

「月10万も与えておきながら随分と甘い学校ーー」

 

「なめてんじゃねぇぞ!あぁん!?」

 

 突如、和やかなBGMを掻き消し、やたらと大きな声がコンビニの外から聞こえた。

 

「お前、1年のDクラスだろ?」

 

「あぁ?だからなんだよ!」

 

「おうおう、ひでぇ口のききようだなぁ。上級生に対してよぉ」

 

「うっせぇ!」

 

 どうやら揉め事らしい。男同士の睨みを利かせた言い合いが、コンビニの中まで聞こえてくる。

 

「あれ、確かウチのクラスの.......」

 

「関わったらわたしの品位まで落ちそうね」

 

 堀北は会計を済ませながら素知らぬ顔でそう言う。

 

「やるのか、やらねぇのか?まとめて相手してやるよ!かかってこいオラ!あぁん!?」

 

「ふっ.......。今日は見逃してやるよ。惨めなお前ら不良品を、これ以上虐めちゃ可哀想だもんなぁ」

 

「はっはは!」

 

「逃げんのか!オラ!」

 

「吠えてろよ。どうせお前らこれから地獄を見るんだからなぁ」

 

 地獄を見る?

 

 彼らからは明らかな余裕の色が見て取れた。どういうことだろうな。

 

 と言うか、てっきりお坊ちゃんお嬢様ばっかりの学校かと思ってたけど、ああ言う連中や須藤のようなタイプまで、派手な連中が結構いるんだな。

 

「んだよっクソがっ!」

 

 ガシャン!

 

 大声を出していた赤髪の男は怒鳴りならがら近くにあるゴミ箱に八つ当たりする。

 

「ちっ.......」

 

 舌打ちをしながら去っていく赤髪。

 

 ん?そこでオレは天井についている2台の監視カメラの存在を認識する。

 

「.......はぁ」

 

 オレはため息をつきながらゴミ箱を片付けることにした。

 

 

 

 それからオレは平田と連絡をとり、ショッピングモールで合流した。現在時刻は13時前。まだまだ遊ぶ時間はあるようだ。

 

「やぁ、綾小路くん。随分と早かったね」

 

「まぁ、コンビニに行ってただけだしな」

 

 オレたちが話し込んでいると、軽井沢たちが平田の方に寄ってきた。

 

「ねぇねぇ〜平田くん〜。あ、綾小路くん。もう来たんだ〜?」

 

 軽井沢は相変わらず明るいな。

 

「用事はもう終わったの?」

 

 確かこの子は.......松下だったかな?

 

「あぁ。ところで本当にオレまでついて来て良かったのか?」

 

「うん。綾小路くんなら大歓迎だよ!」

 

 と松下は嬉しそうに言う。

 

「そっか。なら良かった。ところで随分と買ったんだな?」

 

「だってここ、可愛い服がいっぱいあんたんだもん!ね?」

 

「「「うんうん」」」

 

 佐藤.......森.......篠原.......だったかな?三人は松下の言葉に頷く。

 

「楽しそうなところ、悪いんだが、あまりポイントを使い過ぎない方がいいんじゃないか?」

 

「何言ってるの、綾小路くん。だって毎月10万も貰えるんだよ?」

 

 軽井沢はオレの言葉に反論する。

 

「いや、毎月ポイントが貰えるとは言っていたが、毎月10万貰えるとは言っていない」

 

「そうかもだけど〜。じゃあ根拠があるわけ?」

 

「まだ確信は出来ないけど、コンビニで無料コーナーがあったんだ。毎月10万もらえたらそんものが存在するはずがないだろ?」

 

「それはそうかもだけど.......皆はどう思う?」

 

「僕も綾小路くんの意見に賛成かな?」

 

「私もさんせ〜」

 

「平田くんがそう言うなら.......」

 

 しかし軽井沢はあまり納得がいっていないようだ。

 

「まぁ、これはあくまでのオレの見解だ。どう使うかは好きにするんだな。けど、後で困っても知らないぞ」

 

「.......分かったわよ。使い過ぎないように気をつけるわ」

 

 軽井沢達はオレの意見に賛成してくれたみたいだ。

 

 後は.......。

 

「どうしたの?まだ何かあるの?」

 

 考え込んでいると、平田が顔を覗いてくる。

 

「いや、何でもない。せっかく楽しそうなところ、悪かったな」

 

「ううん。綾小路くんの意見は正しいと思うから」

 

「そっか。なら良かった」

 

 それから、平田達は必要なものだけ買って、解散となった。

 

「今日はありがとう、綾小路くん。また明日」

 

「ばいば〜い、綾小路くん」

 

「また明日、綾小路くん」

 

「じゃあね〜」

 

「ばいば〜い」

 

「また明日〜」

 

「あぁ。また明日」

 

 大きく手を振る平田達にオレはそっと手を上げてその場を去った。

 



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第4話 『自室にて』

 午後5時を回る頃、オレは今日から自分の家となる寮へと帰り着いた。

 

 1階フロントの管理人から401と書かれたカードキーと、寮でのルールが書かれたマニュアルを受け取り、エレベーターに乗り込む。

 

 渡されたマニュアルに目を通すと、ゴミ出しの日や時間、騒音には気を付けること。

 

 水の使い過ぎや無駄な電気の使用を控えることなど、生活の基本の事柄ばかりが記載されていた。

 

「電気代やガス代も、基本的に制限はないのか.......」

 

 てっきり、ポイントの中から支出するものだとばかり思っていた。

 

 本当にこの学校は生徒のために、あらゆる手を尽くし万全の体制を築いている。

 

 男女共用の寮になっていることにも少し驚いた。

 

 さすがに高校生にそぐわない恋愛をしてはいけないと書かれてあるが。

 

 要は表向きエッチはご法度ってことだ。

 

 .......当たり前か。

 

 聖職者が不純異性交遊やりまくってオッケーなんて言うはずがない。

 

 しかしこんな楽な暮らしで、本当に立派な大人に育成出来るのかは甚だ疑問だが、生徒側としては喜んで今の状況を利用させてもらった方がいい。

 

 僅か八畳ほどの1ルーム。けど、今日からここはオレだけの家だ。

 

 学校の寮とはいえ、初めての一人暮らし。

 

 卒業するまでの間、外部との連絡を一切断って生活することになる。

 

 その状況にオレは思わず笑みがこぼれてしまった。

 

 この学校は高い就職率を誇り、その施設や待遇も他校の追随を許さない日本屈指の高校。

 

 でも、オレにとってそんなものは些細なことだ。

 

 この学校を選んだ唯一にして最大の理由。

 

 中学時代の友人であれ肉親であれ、許可なく在校生と接触することは出来ない。

 

 それがーーどれだけありがたいことか。

 

 オレは自由だ。自由。英語で言うとフリーダム。

 

 フランス語ならリベルテ。

 

 .......自由って最高じゃね?好きな時間に食べたいものを食べたり、寝たり、遊んだり出来るってことだろ?

 

 卒業したくねーわー、オレ。

 

 この学校に受かる前は、正直どっちでもいいと思っていた。

 

 合格でも不合格でも、些細な違いでしかないと思っていた。

 

 だけどやっと実感が湧いてくる。

 

 オレはこの学校に受かって良かったんだ、と。

 

 もう誰の目も、言葉も、オレに届くことは無い。

 

 やり直せる.......いや、新しく始めることが出来るのだ。人生を。

 

 とりあえず、これから不自由なく生活するためにはしなくてはいけない事がある。

 

 それも目立たずに。

 

 オレは携帯から櫛田の連絡先を探し、電話をかける。

 

『あ、もしもし、綾小路くん?』

 

「あぁ、オレだ」

 

『用があるって言ってたよね?何かな?』

 

「実はな、今日1日、学校内を視察していて分かった事があるんだ」

 

『視察?綾小路くん、そんなことしてたんだ』

 

「あぁ。自由度の高い学校なんだ。何かあるかもと疑うのは当然だろう?」

 

『確かに.......そうかもしれないね。で、何か分かった?』

 

「まず、敷地内の殆どの場所に監視カメラが設置されていた」

 

『え、本当!?全然気づかなかったよ!』

 

「確かに普通に過ごしてたらまず見つけられないよ」

 

『へぇ〜。綾小路くん、良く見つけられたね』

 

「言っただろ、視察してたって。良く見れば見つかるもんだよ」

 

『そっか.......。他にも何かあるの?』

 

「あぁ。帰りにコンビニに寄ったんだが、『1ヶ月3つまで無料』のコーナーがあったんだ」

 

『無料?おかしいね.......』

 

「だろ?月に10万貰えるならそんなものは必要ない。つまり月に10万は貰えない、ということになる」

 

『でも.......何で?』

 

「恐らく、今月貰えた10万はただの入学祝い金みたいなもので毎月貰えると思わせるフェイクだ。そして最高額、10万からポイント式に引かれた分が、その月の支給額になる」

 

『納得出来るけど、それって綾小路くんの考えでしょ?』

 

「あぁ。だが、敷地内に置かれた監視カメラ、コンビニの無料コーナーからその可能性は十分に高い。授業態度や生活態度からポイントととして引かれるというシステムだとしたら納得がいくだろう?」

 

『うん.......。綾小路くんの言う通りかもしれない。でも皆に言っても信じてもらえるかな?』

 

「大丈夫だ。入学して1日目でそこそこの信頼を置かれてるお前や平田が言えば大半は信じてくれる。他の奴らはしょうがない。来月になれば嫌でもオレらの言うことを聞かざるを得なくなる。それまで、なるべく被害を少なくしたいんだ」

 

『それは分かったけど.......、綾小路くんって結構熱血なんだね』

 

「別にそう言うわけじゃない。ただ、『退学』という最悪の状況を避けたいだけなんだ。まだ入学したばかりだが、オレはこの学校を気に入ってる。だからーー」

 

『分かった。綾小路くんに協力してあげる。その代わり、わたしが困った時は助けてね』

 

「あぁ。約束する」

 

 櫛田が電話を切るのを待ってからこちらも電話を切った。

 

「ふぅ.......」

 

 初めての女子との会話だ。緊張したが普通に話せた.......よな?

 

「さてと、平田にも電話しなくちゃな」

 

 平田にも櫛田と同様のことを告げると、平田も協力すると言ってくれた。

 

 一通りやるべきことはやったので、制服のまま整えられたベッドにダイブする。

 

 だが、眠気が襲って来るどころか、わくわくする状況に気持ちが落ち着かず目が冴えていくのだった。



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第5話 『友達』

 翌日。朝のHRが終わった後、櫛田と平田からオレが導き出したこの学校のシステムについて告げられた。

 

「ーーだから皆にはこれから遅刻や欠席、授業中の居眠りやスマホの操作等を控えて欲しいんだ」

 

「ちょっと待てよ」

 

 ガラの悪い赤髪、確か.......須藤だったかな。

 

 平田達の提案に不満があるのか、ドン!と机の上に足を乗せて言った。

 

「何で俺達がいちいちお前らの言うこと聞かなきゃいけないんだよ」

 

「これは僕だけの問題じゃなくて君達にも関係ある事なんだ」

 

「けどそれはあくまでお前らの想像だろ?それに俺らを巻き込むな。真面目にしたけりゃお前らだけやってろ」

 

「そうはいかないよ。君だってポイントが貰えなくなったり、退学は嫌だろう?」

 

「だからそれはお前らの想像だって言ってんだろ。そんなに言うなら証拠を見せろよ」

 

「それは.......」

 

『証拠』と言われて言い淀む平田。

 

 横で見てる櫛田も困ってる様子だ。

 

 さて.......どうするか.......。

 

 悩んでいると、昨日一緒に遊んだ軽井沢、篠原、佐藤、森、松下が手を挙げた。

 

「あたしは平田くんにさんせ〜」

 

「わたしも」

 

「あたしも」

 

「軽井沢さん.......」

 

 すると、櫛田の友達である井の頭、王、小野寺も手を挙げた。

 

 残っているのは幸村、三宅、長谷部、佐倉の静かなグループと池、山内、須藤、沖谷、外村の悪目立ちグループ、そして孤立している高円寺だ。

 

 つまり丁度半分のクラスメイトがこの提案に賛成したということになる。

 

 過半数なら十分だ。

 

 オレは平田達にアイコンタクトをする。

 

「ありがとう、皆。僕達の意見に賛成してくれたのが半分、もう半分は自由に過ごしてくれて構わない。僕達半分はさっき言った事に注意して学校生活を楽しもう」

 

 やはり櫛田、平田達と仲良くなっておいたのは大きい。

 

 クラスの半分がこの2人の友達となっている。

 

 お陰で過半数がとれた。

 

 2人には後で労っておかないとな。

 

 

 

 

 それから一週間が過ぎた。

 

 この一週間はこの前の会議通り、真面目に授業を受けるものが半分、自由に過ごすものが半分となっていた。

 

 かくいうオレも事の発端となっているので真面目に授業を受けていた。

 

 手を挙げなかった堀北は元々、優等生なのか真面目に授業を受けていた。

 

「桔梗〜ちゃん。お昼ご飯食べに行こう?」

 

「ごめん。ちょっと用事があって.......」

 

 珍しいな.......。櫛田が井の頭の誘いを断るなんて。

 

「ほんの8万程でござる。毎月10万も貰えるからなぁ」

 

「おれは携帯ゲーム買っちまったぜぇ」

 

 池と外村は平田達の意見など聞かずに自由に過ごしているらしい。

 

 さて、オレは友達作りに失敗したらしい。

 

 平田や軽井沢達、櫛田とは話す事はあるがいつも一緒にいるわけじゃない。

 

 一緒に登校や下校をする友達など、1人も居ないのだ。

 

「哀れね」

 

「ん?」

 

 一人でサンドウィッチを食べている堀北に馬鹿にされた。

 

「お前だってボッチだろう?」

 

「そうね。私は1人が好きだもの」

 

 .......学食でも行くかぁ。

 

 席を立ち、廊下に出ると櫛田に話しかけられた。

 

「綾小路くん、ちょっといいかな?」

 

 櫛田の後を追い、廊下の隅に移動した。

 

「綾小路くんって堀北さんと仲良いよね?」

 

「いや、良くはないと思うが.......」

 

「でも、堀北さんが話すのは綾小路くんだけだよ?」

 

「.......」

 

「わたしね、学校中の皆と友達になりたいんだ。だから堀北さんにも連絡先を聞いたんだけど、断られちゃって.......。誰とも仲良くする気はないって」

 

「あぁいう性格だからなぁ」

 

「でもわたし、堀北さんとも友達になりたいの!」

 

 櫛田はそう言って手を握ってくる。

 

「協力してもらえないかな?」

 

「協力って言っても.......」

 

 確かに櫛田に借りはある。だが.......。

 

「ダメ.......かな?」

 

「.......分かったよ。櫛田には借りがあるからな」

 

「ありがとう!」

 

 決して櫛田の上目遣いにやられた訳じゃない。

 

 借りがあるから、それだけだ。

 

 

 

 

 放課後。

 

「.......本当に甘い学校ね。授業中に生徒が遊んだり居眠りしても注意さえしない。本当にここは国が運営する進学校なの?」

 

「生徒の自主性に任せるって事じゃないか?」

 

「.......そうね」

 

「.......なぁ、帰るんだったら少し付き合って欲しいんだが」

 

「.......何が目的?」

 

 堀北は目を細めて言った。

 

「オレが誘うと狙いがあるように見えるのか?」

 

「具体的な要件があるなら、聞くくらい構わないけど」

 

「ショッピングモールにカフェあるだろう?女の子がいっぱいいる。あそこに一緒に行かないか?」

 

「どうして私が?」

 

「.......1人で行く勇気がないんだ。男子禁制って感じがするだろう?」

 

「他に誘う相手は.......居るはずもないわね」

 

「.......情けないが、その通りだ」

 

 堀北は心底呆れたようにこちらを見てくる。

 

 オレ達は黙ってカフェへ移動した。

 

 

 

 

 

「.......凄い人数ね」

 

 カフェに入るなり堀北がそう言った。

 

「堀北も初めて来たのか?.......あぁ、ボッチだもんな」

 

「嫌味のつもり?幼稚ね」

 

「お、あそこが空いたな」

 

 コーヒーを頼み、空いた席に座る。

 

「.......あれだな。周りから見たらオレ達、カップルに見えたりし.......ないだろうなぁ」

 

 堀北の怖い無表情で言いかけた言葉を止めた。

 

 これから起こることを想像すると.......胃が痛い。

 

「あ、堀北さん。.......偶然だね。綾小路くんも」

 

 偶然をよそおった櫛田が自然の流れで堀北の隣に座った。

 

「2人もここ、よく来るの?」

 

「今日はたまたまだ」

 

「そうなんだ〜。わたしは1人でーー」

 

「帰るわ」

 

 堀北は何かを悟った用で急に席を立った。

 

「.......おい、まだ来たばっかだろ?」

 

「櫛田さんがいるなら私は必要ないでしょ」

 

「いや.......ほら.......オレと櫛田はクラスメイトってだけだし.......」

 

「私と貴方の関係も同じよ。それに.......気に入らないわね。何がしたいの?」

 

 堀北は櫛田を睨みつける。

 

「や、やだな〜.......偶然だよ?」

 

 .......櫛田、そこはどういう意味?が正解だ。

 

「さっきここにいた2人もテーブルにいた2人も、皆Dクラス生徒だった。偶然?」

 

「良く知ってるんだなぁ。全然気づかなかった」

 

「.......私達は放課後直ぐにここに来たのよ。とすると彼女達がここにいた時間はせいぜい数分。帰るには早すぎるわ」

 

「えっと.......」

 

 櫛田を見ると何を言ったらいいか分からない、といった様子だ。

 

「.......悪い。ちょっと根回しした」

 

「.......でしょうね」

 

 決意を固めた櫛田は席を立って堀北に言った。

 

「堀北さん!わたしと友達になって下さい!」

 

「.......私のことは放っておいてほしいの。クラスには迷惑をかけないわ」

 

「え!?でもずっと1人ボッチじゃ寂しすぎるよ.......」

 

「私は1人を寂しいと感じたことはない」

 

「.......」

 

「時間の無駄ね。貴方の発言全てが不愉快よ」

 

「おい、本当にいいのか?このまま誰ともならないってことは3年間ボッチってことだぞ」

 

「9年間続けているから平気よ。幼稚園を含めればもっとね」

 

 堀北はそう言ってカフェを出ていった。

 

「.......ごめん、わたしのせいで堀北さんに嫌われるようなマネさせちゃって.......」

 

「いや、気にするな」

 

「.......友達には、なれないのかな?」

 

 櫛田は1人呟いた。

 

 

 

 

 帰り道、櫛田はまだ堀北のことを引きずっていた。

 

「クラスの子とも仲良くなれないんじゃ、目標は遠いいな」

 

 堀北が特別なだけだと思うが.......。

 

「あ、一之瀬さんだ」

 

 ロングヘアでスタイルがいい美少女が櫛田に向かって手を振っている。

 

「Bクラスの一之瀬帆波さん。昨日、友達になったんだ」

 

「.......違うクラスの生徒ととも仲良くなってるのか?」

 

「うん。Bクラスは話しやすい人が多いから。でもさ、この学校って凄いよね!お店もいっぱいあってお金もいっぱい貰えて。でも来月は貰えないかもしれないんだよね?」

 

「あぁ。ただの勘だけどな。それより助かったぞ。櫛田達のお陰で被害を半分にまで抑えることが出来そうだ」

 

「綾小路くんが感謝することじゃないよ。わたしだってポイントが減るのは嫌だからさ」

 

「そうだな。今度またあのカフェに行こう。今度は2人で」

 

「2人で.......?」

 

「.......嫌なのか?」

 

「ううん。嬉しいよ!綾小路くんから誘ってくれるなんて!普段、全然話しかけてくれないんだもん」

 

「オレは元々1人が好きだからな」

 

「なんか堀北さんと同じこと言ってる」

 

「まぁ、オレとあいつは似たようなとこあるからな」

 

「なにそれ.......」

 

 夕日が沈む中、オレ達は寮の入口で別れた。

 

 

 

 

 多くの生徒は深く考えることなく、学園生活を満喫していった。日々の生活で10万という金を湯水のように浪費して。

 

 授業では教師は放任主義で私語や居眠り、遅刻欠席は日常茶飯事。

 

 散財と放蕩と怠惰を続け、そうして5月1日を迎えた。



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第6話 『ようこそ実力至上主義の世界へ』

 5月最初の学校開始を告げる始業チャイムが鳴った。

 

 程なくして、手にポスターの筒を持った茶柱先生がやってくる。

 

 その顔はいつもより険しい。

 

「席に着け。朝のHRを始まる」

 

「せんせー、ポイントが少ないんですけど、毎月10万貰えるんじゃなかったんですか?」

 

「.......本当に愚かだな、と言いたいところだが。遅刻欠席、合わせて38回。授業中の私語や携帯を触った回数156回。私が予想してた数よりも40%近く抑えられている。これを見ろ」

 

 手にしていた筒から白い厚手の紙を取り出し、広げた。

 

 それを黒板に貼り付け、磁石で止める。

 

 そこにはAクラスからDクラスの名前とその横に、最大4桁の数字が表示されていた。

 

 オレたちDクラスは420。Cクラスが490。Bクラスが650。そして一番高い数字がAクラスの940。

 

 これがポイントのことだとすると1000ポイントが10万に値することになる。

 

 オレの読み通りだ。

 

「私が予想していたのは0ポイント。しかしCクラスと70ポイント差まで詰めている。これは意外だった。誰かに指示されたな?」

 

「えっと.......平田くんと櫛田さんが2日目にこうなるかもって皆に指示してくれたんです」

 

 真面目組の中で1番真面目だった篠原が代表して言う。

 

「そうだな。だがもしこれがある人物によって仕組まれたことだったら?」

 

 まさか.......。

 

「ある人物?」

 

「そうだ。その人物はこの学校の仕組みにいち早く気づき、0ポイントという最悪の結果を避けるためにクラスの中心人物である平田と櫛田を利用した」

 

 この教師.......何が目的だ。オレの目立たず行動するという誓いを粉々にする気だ。

 

「平田、櫛田。思い当たる節があるだろう?言ってみろ」

 

「.......言えません」

 

「平田、お前は?」

 

「.......僕も言えません」

 

「.......そうか。そいつは余程信頼されているのだな。ならば教えてやろう。その人物を。全ての首謀者はお前だ、綾小路清隆」

 

 先生の言葉にクラスメイト全員がオレに注目する。

 

「驚いただろう?私も驚いている。入学当初から目立たなかった彼がまさかこんなことをするなんてな。いや、目立たないようにしていたお前だからだったのかもしれんな。綾小路」

 

「.......何のことでしょう?」

 

「とぼけても無駄だぞ。これを見ろ」

 

 黒板に、追加されるように張り出された一枚の紙。そこにはクラスメイト全員の名前が、ずらりと並んでいる。

 

 そして各名前の横には、またして数字が記載されていた。

 

「この数字が何か、バカが多いこのクラスの生徒でも理解出来るだろう」

 

 カツカツとヒールで床を踏み鳴らし、生徒達を一瞥する。

 

「先日やった小テストの結果だ。揃いも揃って粒揃いで、先生は嬉しいぞ。中学で一体何を勉強してきたんだ?お前らは」

 

 一部の上位を除き、殆どのの生徒は60点前後の点数しか取れていない。

 

 須藤の14点という驚異的なものは無視するとして、その次が池の24点だ。

 

 平均点は65点前後か。

 

「良かったな、これが本番だったら7人は入学早々退学になっていたところだ」

 

「た、退学?どういうことですか?」

 

「なんだ、説明していなかったか?この学校では中間テスト、期末テストで1科目でも赤点を取ったら退学になることが決まっている。今回のテストで言えば、32点未満の生徒は全員対象と言うことになる。まぁ、それはさておき、注目して欲しいのは綾小路の点だ」

 

 皆がオレの点数に注目し、そしてざわついた。

 

「綾小路清隆、全教科50点。偶然か?」

 

「.......当たり前でしょ。狙って出せるもんじゃないですよ」

 

「そうか?私も偶然だと思っていたのだがな、今回のことで確信した。お前は本来このクラスにいていい存在じゃない。何故、隠す?」

 

「.......たまたまですよ。テストの結果もたまたまだし、ポイントの件も予想してたことがたまたま当たっただけです」

 

「.......そうだな。そういうことにしておこう」

 

「とにかく、この学校に望みを叶えて貰いたければ、日々の生活態度を改め、テストで良い成績を残し、Aクラスに上がるしか方法は無い。それ以外の生徒には、この学校は何一つ保証することはないだろう」

 

「そ、そんな.......」

 

「浮かれていた気分は払拭されたようだな。お前らの置かれた状況の過酷さを理解出来たのなら、この長ったるいHRにも意味はあったかもな。中間テストまでは後3週間、まぁじっくりと熟考し、退学を回避してくれ。お前らが赤点を取らずに乗り切る方法はあると確信している。出来ることなら、実力派者に相応しい振る舞いをもって挑んでくれ」

 

 ちょっと強めに扉を閉めると、茶柱先生は今度こそ教室を後にした。

 

 がっくりとうな垂れる赤点組たち。いつも堂々としている須藤も、舌打ちをして俯いた。



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