バンドリ! -その声を、復讐のためにー (ハナバーナ)
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Vanguard Of Revenge(VOR)

それぞれが一流の腕前でありながら、大人達の都合で業界から捨てられた5人の少女が、復讐のために結成したゴシックメタル系ガールズバンド。ライブの際は全員がアニマルキャップをかぶり、ベネチアンマスクで顔を隠している。どのCIRCLEや芸能事務所にも所属しておらず、ゲリラライブ・ゲリラ配信で知名度を上げていくスタイルで、正体を隠しているため世間では謎の多いガールズバンドとして扱われている。芸能・音楽業界を混乱させることが目的のため、事務所からのスカウトはNGだが、バンドチームからの勝負申請があった場合、気分によっては受けることもある。ライブ時には、結成時に決めたハンドルネームで呼び合う。その演奏には怒り・憎しみといった負の感情がこもっているが、一流の腕前に加え、自らの思いに真っ直ぐなその演奏は、意外にも多くの人を引き寄せていく。

 

ゴシック系なだけあって、その演奏は幻想的でありながら激しい。

カバー曲はALIPROJECTや妖精帝國のようなタイプが多い。

 

メンバーの苗字は東急池上線の各駅から、名前やハンドルネームは天気からきている。

 

 

名前:蓮沼 晴陽(はすぬま はるひ)

担当:ボーカル

年齢:14 学校:通信制中学2年

誕生日:5月14日

血液型:A型

身長:147㎝

好きなもの:アイスクリーム、オムライス

嫌いなもの:芸能界、椎茸(嫌いというよりは苦手で、我慢すればなんとかいける)

趣味:カラオケ

二つ名:小柄なジェネラル

容姿:オーキッドのロングにスカイグレーのパッチリ開いた目。

家族構成:父

特技:作詞・作曲・編曲

イメージCV:水瀬いのり

人物

最年少だが、チームのリーダーを務める。母親が有名歌手で、晴陽自身も「NEON」という芸名で天才歌手として活躍していたが、10歳の時に母が無理なスケジュールで過労死してからは業界で「死んだ親のおこぼれ」と後ろ指をさされ続け、挙句の果てに事務所のイメージダウンの防止を理由に引退させられたことで、自分を捨て、母親を殺した芸能界を憎むようになる。父親は海外で仕事をしておりほとんど会わず、1人暮らしをしている。SNSでコミュニティを立ち上げて似た境遇のメンバーを集め、自分達でバンドを立ち上げて業界への復讐を提案する。ライブの際は、靴底の高い靴で身長をごまかしている。普段は明るくいたずらっぽい性格だが、ライブでスイッチが入ると雰囲気がガラリと変わり、憎しみを込めてまんべんなく実力を発揮する。中学は通信制。メンバーは全員呼び捨て。アニマルキャップはヒヨコ。ライブ時のハンドルネームは「サニー」。

 

セリフサンプル

「あたしは蓮沼晴陽。ハンドルネームは《サニー》ってことで、よろしく!」

「よっし、今日も元気に練習しよっか!」

「うぇ…椎茸かぁ。」

「あたし達の復讐の演奏…聴いて気絶しないようにね!!」

 

口上セリフ

【会場のみんなや、他のバンドのおねーさん達に教えてあげる……あたし達の本気の復讐!!】

 

 

 

名前:旗之台 出雲(はたのだい いずも)

担当:ギター

年齢:16 学校:羽丘学園高等部1年

誕生日:6月7日

血液型:B型

身長:170㎝

好きなもの:サンドイッチ

嫌いなもの:両親、音楽業界

趣味:格闘技観戦

二つ名:笑わない王子

容姿:オレンジの短髪にジト目。

家族構成:父、母、祖母

特技:空手

イメージCV:種崎敦美

人物

背の高いボーイッシュな少女。幼い頃から両親から将来を有望視される「サイン」という芸名の才能あるギタリストだったが、自分達の望んだスタイルと違うというから簡単に愛想をつかされ、業界から捨てられたことから、自分を捨てた両親やそんな2人を受け入れる音楽業界を憎む。現在は仲のいい祖母と2人暮らしで、自分探しの一環として空手をやっていた。捨てられたショックから感情を表に出せなくなっており、声色で自らの感情を表す。アニマルキャップはオオカミ。ライブ時のハンドルネームは「クラウド」。

 

セリフサンプル

「僕は旗之台出雲。ハンドルネームは《クラウド》。」

「ごめん、表情が分かりずらくって…努力はしてるんだけどね。」

「顔は見せられないな…決意の表れみたいなものだし。」

「うん…今日も復讐ライブの時間だ。」

 

口上セリフ

【怒りも憎しみも、顔には出せない…だからその分、ギターに乗せる!】

 

 

名前:千鳥 御雷(ちどり みかづち)

担当:ドラム

年齢:16 学校:花咲川学園高等部1年

誕生日:7月4日

血液型:O型

身長:160㎝

好きなもの:たこ焼き、祭りごと

嫌いなもの:上品な料理、芸能界

趣味:お笑い番組鑑賞

二つ名:ナニワの電々太鼓

容姿:トラ柄のポニーテールに猫のような細目。赤縁眼鏡をかけている。

家族構成:父、母

特技:料理

イメージCV:千本木彩花

人物

大阪から引っ越してきた生粋の大阪人。大阪の芸能事務所で「雷々」という芸名で活動していた実力派ドラマーだったが、事務所が買収されると同時にバンドチームの入れ替えのために簡単に芸能界から追い出されたため、実力を見ようともしない芸能界を憎んでいる。普段は明るく気さくに接するが、芸能の話になると目の色を変え、憎しみに満ちた表情となる。晴陽の提案に1番に乗った人物。アニマルキャップはトラ。ライブ時のハンドルネームは「サンダー」。

 

セリフサンプル

「ウチは千鳥御雷、ライブん時は《サンダー》や!」

「今日は成功祝いや。ウチが腕を振るうでぇ!」

「おお、これはすごいわ! イケるんちゃうんか!?」

「なんにもわかってへん。腐敗ゆーんは聞くのと感じるとのじゃ、全然違うんよ。」

 

口上セリフ

【よっしゃ、乗りに乗ってきた……ウチのありったけの怒り、ドラムに乗せるで!!】

 

 

 

名前:長原 雨打(ながはら ゆた)

担当:ベース

年齢:15 学校:羽丘学園中等部3年

誕生日:4月26日

血液型:AB型

身長:157㎝

好きなもの:可愛いもの、カフェオレ

嫌いなもの:芸能界、散らかった部屋

趣味:クレーンゲーム

二つ名:辛口王女

容姿:ウェーブのかかった狐色のツインテールに赤茶色のツリ目。

家族構成:父、母、妹

特技:家事全般

イメージCV:花守ゆみり

人物

チームの中では比較的常識人なベース担当。小学生時代、子供ながら「YUTA」という芸名で活躍していたベーシストのエースだったが、事務所の得意先の愛娘がベーシストを希望したことからお払い箱とされて芸能界を引退。実力よりも相手の顔色を平気で優先する芸能界を憎み、愛想をつかす。しっかり者で、年の差は関係なく注意するタイプ。普段は冷静だが、一度火が付くといつものキャラを忘れるくらい激情にまかせて毒を吐く。アニマルキャップはクマ。ライブ時のハンドルネームは「レイン」。

 

セリフサンプル

「私は長原雨打。ハンドルネームは《レイン》です。」

「ああもう、仕方ありませんね、やってやりますよ!」

「大事なライブです。ミスのないようにしっかりと、ですよ?」

「ケッ、だから駄目だってんですよ! ああ~腹立つ!!」

 

口上セリフ

【ここまで来たらやけっぱちです! なにもかもぶちまけてやろうじゃないですか!!】

 

 

名前:戸越 雪路(とごし ゆきじ)

担当:キーボード

年齢:17 学校:月ノ森学園2年

誕生日:8月2日

血液型:A型

身長:163㎝

好きなもの:スイーツ、晴陽

嫌いなもの:音楽業界、炭酸

趣味:お菓子作り

二つ名:声を失った人魚

容姿:萌黄色のロングに空色のタレ目。胸は燐子並みに大きい。

家族構成:父、母

特技:ピアノ演奏

イメージCV:瀬戸麻紗美

人物

チーム最年長のキーボード担当。子供の頃は「ANGE」という名で活動していた天性のピアノ歌手だったが、事務所の融資のための取引先との援助交際を拒否したことで身に覚えのないスキャンダルをかけられた挙句、全責任を押し付けられて引退。ショックで喉に異常をきたすと同時に、大人達を憎むようになる。出雲とは逆で、大きな声は出せないが表情ははっきりと作れる。自分をチームに呼んでくれた晴陽を、感謝と同時に崇拝している。敬語だが、メンバーのことは呼び捨て。アニマルキャップは羊。ライブ時のハンドルネームは「スノウ」。

 

セリフサンプル

「わたくしは、戸越雪路。ライブでは《スノウ》とお呼びください。」

「わたくしは、感謝しています。手を差し伸べてくださった晴陽に。」

「晴陽、お菓子を作ってみました…食べて、いただけますか?」

「さぁ、始めましょう……わたくし達の、恐怖のライブを。」

 

口上セリフ

【美しく、儚げで、それでいて激しい……これこそが、わたくし達の演奏。】

 



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プロローグ

他の小説の執筆がうまくいかず、自分が今ハマっているバンドリ系小説にチャレンジしてみました。


都内にあるカラオケ店の一室。そこにはSNSのコミュニティで知り合い、その中の1人の呼びかけに応じた5人の少女がいた。

 

『では、コミュニティを立ち上げ、今回の集会を立ち上げたあたしから、自己紹介させて

 いただきます。名前は蓮沼(はすぬま) 晴陽(はるひ)。中2ですが、通信制で家にこもってま~す。』

 

オーキッドのロングヘアの小柄な少女がマイクで自己紹介し、他4人が小さく拍手する。「では、次の方どうぞ」と、晴陽は自分から見て右側に座っている長身の少女に相槌を打つ。

 

「……旗之台(はたのだい) 出雲(いずも)。羽丘女子高等部1年。趣味で空手をやってるから、空手部に

 入る…つもりかな。」

 

次に来たのは、金と黒のトラ柄のポニーテールをしたメガネの少女だ。

 

「ウチは千鳥(ちどり) 御雷(みかづち)。今年大阪から越してきました、花咲川女子1年です。よろしゅう!」

 

次はウェーブのかかった狐色のツインテールをしたツリ目の少女だ。

 

長原(ながはら) 雨打(ゆた)。羽丘女子中等部3年です。旗之台先輩とは面識がありません…以上です。」

 

最後は萌黄色ロングで垂れ目の少女だ。他の4人に比べて、胸の大きさが服越しでもはっきり分かる。

 

戸越(とごし) 雪路(ゆきじ)、月ノ森女子学園2年です。部活はやってません。趣味で、お菓子作ってます。」

 

全員が紹介を終え、晴陽が「わー」と大きな拍手を交わす。

 

晴陽『ではでは、せっかく集まったことですし、今は大いに楽しみましょう!』

 

晴陽がそう言って大きく手を上げるが、それについていけてるのは、関西人である御雷だけである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10分後

 

“晴陽ちゃん、歌うまいやん! なんかやっとったん?”

 

“ちっちゃい頃に、歌手やってたんだ♪《NEON》って芸名で。”

 

“あっ、聞いたことあるよ僕。幼いのにプロ並だったって話”

 

“旗之台先輩は《サイン》ってギタリストでしたっけ? 私は《YUTA》ってベーシスト

やってました。”

 

“2人とも一流みたいやね。ウチは《雷々》ゆードラマーやってたんや。関西やとブイブイ

言わせとったんやで?”

 

“わたくしは……《ANGE》という名でピアノやってました。歌も歌ってたので、

ピアノ歌手ですかね?”

 

“へぇ、おねーさん達もすっごい業界人だったんだね~♪”

 

…とまぁこういう具合で、コミュニティ会は順調に進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……しかし、数十分後

 

御雷「ふっざけんなやっ!!」

 

御雷が怒りを露わにした表情で、テーブルをガンッと殴っていた。御雷のみに限らず、他の4人も明らかに不機嫌な表情をしていた。正確には出雲は無表情なため、顔には出ていないのだが、おそらくいい感情は持っていないだろう。

 

出雲「まぁある程度覚悟はしていたけど…これほどとわね。」

 

雨打「あーやだやだ! 飲まなきゃやってられますかっての!!」

 

さっきまで真面目そうだった雨打は、酔ったおっさんのごとく飲んでいる。飲んでいるのは酒ではなくジンジャーエールだが。

 

雪路「ええ…そうです…そうですよ…………大人なんて…………。」

 

雪路は顔を下に向け、呪詛のごとくぶつぶつとなにかを唱えまくっていた。

 

晴陽「……。」

 

晴陽は不機嫌そうな表情で背中をソファに任せ、照明の付いた天井を向いていた。

 

---------彼女らには、【小さい頃に大人に裏切られ、業界を追放された】という共通の過去がある。

 

 

 

 

 

出雲は、その才能を事務所を経営していた両親に見込まれ、ギターを始めた。誇りだった。しかし、結果としてそれは、両親の望む形ではなかった。両親の期待に応えようと努力しても、結局は見限られ、縁を切られ、事務所を追放された。

 

 

 

 

御雷は、小さな事務所ながらも売れるなにわバンドチームのドラム担当だった。しかし守銭奴だった社長は高値で事務所を売り、所属チームも全く新しいものとなった、存続を訴えても大人は聞く耳を持たず、結局は解散となり、それを機に仲間も大人を信じなくなり、チームは離れ離れとなった。

 

 

 

 

雨打は、ドームライブも期待されていたエースベーシストだった。しかし事務所の得意先の愛娘が、雨内より実力が低いにも関わらずベースでのドームライブを望んだ。この時から生真面目だった雨打は抗議を申し出たが、それが得意先を怒らせ、即除籍を命じられた。得意先に世話になっていた事務所も、それに応じざるを得なかった。

 

 

 

 

雪路は、卓越したピアノ技術と人魚のような歌声で人々を魅了するピアノ歌手だった。しかし今後の活動に必要な投資のために売春行為を条件に出され、それを断った時、身に覚えのないスキャンダルをかけられ、非難の声を浴びせられ、結局業界を追放された。

 

 

 

 

そして会の主催者である晴陽は…プロ顔負けの小学生歌手だった。母親がプロの歌手であったのがきっかけだったが、それを除いても彼女の才能は一級品だった。しかし、母親が事務所が組み立てた無茶なスケジュールに倒れ、過労死したことをきっかけに「七光り2世歌手」などと後ろ指をさされ続け、挙句の果てにイメージを守るためという理由で事務所を脱退というあんまりな結果である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雨打「私や千鳥先輩も相当ですが、ショックで旗之台先輩は表情をうまく作れず、戸越先輩は

   喉に異常をきたして碌に歌も歌えない有様ですもんね……。」

 

御雷「せやけど、一番ひどいのは晴陽ちゃんやん! なんで、なんで母ちゃん死んだんにそこまで

   言われなあかんのや!! なんで一番責任ある連中にやめろ言われなあかんねや!!!」

 

御雷は怒りに身を任せてテーブルと叩く。晴陽にいたっては、学校でいじめを受けていたという話もあるから引きこもりになるのも無理ないと思うほどである。むしろよくぞグレて問題を起こしたり、自殺を図らなかったなと思うほどである。

 

晴陽「…ねぇ、おねーさん達。」

 

その時、今まで口を閉ざしていた晴陽が、上を向いたまま口を開く。

 

御雷「ん、なんや?」

 

晴陽「おねーさん達ってさ、その時の楽器って今でも弾ける?」

 

御雷「あぁ、しばらくは叩いてへんけど、その気になればブランクは帳消しにできるで?」

 

出雲「僕も御雷と同じく。」

 

雪路「わたくしは……感覚を忘れたくなくてよく弾きます。声は出せませんが。」

 

雨打「私はストレス発散のために時々……って、何考えてるんですか?」

 

雨打が怪訝な表情で問うてくる。晴陽は表情を変えぬまま上に向けていた顔を4人に向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

晴陽「ねぇ……あたし達でさ、バンド組んでみない? 復讐のために。」

 

彼女たちの中で止まっていた音楽の針が、動き始める。



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まずはお試し

物語の時期的には、アニメの1stシーズン(香澄達が1年生のころ)です。


晴陽「いらっしゃい、おねーさん達♪」

 

コミュ会から1週間後の休日。晴陽以外の4人は晴陽の自宅に集まっていた。家は内外ともに造りが良く、どことなくソワソワしている者もいる。

 

御雷「な、なんや…晴陽ちゃん()、結構ええとこやんな。」

 

晴陽「あたしが生まれる前からママって結構売れてたみたいだし、パパも海外飛び回る

   キャリアマンだしさ。」

 

雪路「では、お父様は今も海外に?」

 

晴陽「まぁね。帰ってくるのは半年に1回ぐらい。」

 

雨打「…寂しくはないんですか?」

 

晴陽「テレビ電話があるからね~。これでもパパって気遣ってるほうなんだよね。

   『学校行け』とは強く言わないし。」

 

出雲「……。」

 

苦笑しながら頬を掻く晴陽を見て4人はこれ以上なんて言えばいいかわからなくなってしまう。

 

晴陽「っと、そうだった。4人に見せたいものがあるから、ついてきて!」

 

晴陽がそう言って、手招きしながら歩いていく。4人は互いに顔を見合わせながら、晴陽についていく。

 

・・・・・・・・・・・・

 

御雷「うっおぉ…!」

 

4人が晴陽に連れてこられた場所は地下だった。床は木製で、それなりに広く照明もついているという仕様である。

 

出雲「…いいところだ。」

 

晴陽「ありがと♪ この辺住宅街だからさ、歌の練習で近所迷惑にならないようにママが建てて

   くれたの。引退してからはあんまり使わなくなったけど…落ち着くから時々くるんだ。」

 

晴陽は次に「あれ見て」と指を差し、4人は差されたほうを向く。そこにはベース、ギター、キーボード、マイク、ドラム…バンドに必要な一式が揃っていた。

 

御雷「あれ、どないしたん?」

 

晴陽「この一週間の間に、買い揃えた。」

 

雨打「えっ!!?」

 

雨打は驚愕する。バンドの楽器一式を揃えるとしたら、どれだけ安く見積もっても10万を超えるのだ。それを中学生が、一週間で買い揃えたというのだ。

 

晴陽「心配しなくてもいいって。全部あたしのポケットマネーからだし。」

 

雨打「余計に気が引けますけど!?」

 

雪路「……本気、なんですね?」

 

これだけの要素をそろえた…一週間前の宣言が嘘ではないことを理解した雪路は、真面目な表情で晴陽に問いかける。

 

晴陽「あたしは本気だよ? あと必要なのは……おねーさん達の意志、かな?」

 

「「「「……!」」」」

 

表情は笑顔でも、その問いにどこか強い何かを感じ取る4人。思わずゴクッと唾をのむ。

 

出雲「……晴陽、適切な環境・必要な機材・優秀な5人のメンバー……それらを揃える事から、

   君の覚悟が本物だというのはわかった。だけど、問題なのは【実力と相性】だ。僕らは

   会って間もないから互いの実力を知らない。バンドマンにだって相性があるんだ。所詮

   寄せ集めに近い僕らが本当に復讐できるかなんて断言できない。」

 

御雷「せやな。ここまでさせてしもうたことに引け目はあるけど、復讐できる力がない

   バンドにウチら入れへんよ。」

 

出雲と御雷の言葉に、雨打と雪路もうなづく。晴陽は2人の言い分を聞いている間は真顔だったが、聞き終えるとすぐにニコッと笑う。

 

晴陽「うんうん、その意見はもっともだよ。だから、試してみようよ。まず、あたし達5人で

   1曲を真剣に練習する。そしてライブハウスで演奏して、おねーさん達全員をあたしが

   納得させる。そしたらバンド結成っていうのはどう?」

 

晴陽の言葉に、4人は考え込む。しかし、答えるのに時間はかからなかった。

 

雨打「…まぁ、確かにそれが一番手っ取り早いですね。」

 

出雲「うん、自分の力を取り戻すのにもちょうどいいしね。」

 

御雷「晴陽ちゃんの気持ちも分からんでもないしな。付き合うで!」

 

雪路「わたくし、バンドなんて初めてですが……やってみます。」

 

晴陽「ありがとう! 早速だけど、おねーさん達この後予定ある?」

 

晴陽の問いに、4人は首を横に振る。

 

晴陽「分かった! なら早速、今から練習だよ!」

 

雨打「今からですか?」

 

晴陽「やるなら早めにやっておいたほうがいいからね。」

 

晴陽が「飲み物やタオルはあるからねー」と騒ぎ、雨打は呆れ、御雷は苦笑する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

晴陽「はい、これが演奏する予定の曲の楽譜ね。」

 

配置についた4人に、晴陽が楽譜を渡していく。

 

雨打「聞いたことない曲ですね……オリジナルですか?」

 

晴陽「うん。作詞・作曲全部あたし。」

 

出雲「…すごいな。この中で一番年下なのに。」

 

晴陽「いつか大人を見返す【何か】を習得しようと思って、時間があれば練習してた。

   こんなに早く役に立つとは思わなかったけどね。」

 

雨打「この歌詞に曲調…テーマは【ゴシックロック】ですか。」

 

御雷「ん、なんやっけそれ?」

 

雨打「音自体は壮大ですが、そこに悲しみな怒りといったマイナス要素を含んだ曲ですよ。

   物事に対するアンチテーゼとかも相当します。」

 

雪路「自分の気持ちを素直に伝える……という程でいいんでしょうか?」

 

晴陽「そだよ~…さ、練習しよ、練習!」

 

晴陽の言葉で、早速練習が開始される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1時間後

 

晴陽「それで、どうだったかな?」

 

一通り練習した後、晴陽は4人に感想を求める。

 

雨打「……悪くはありません。感覚も慣れてきましたし、全員のリズムも一致してます。」

 

出雲「うん、だけど…。」

 

御雷「なんか……なんか足りひんな。」

 

雪路「…はい。」

 

笑顔の晴陽に対し、他の4人はどこか納得いかない表情である。

 

晴陽「あ~…ひとまず休憩にしようよ。あたし、飲み物持ってくるね!」

 

晴陽はそう言って、駆け足で地下室を出ていく。4人はそんな晴陽を見送った後、互いに顔を合わせる。

 

御雷「どないする?」

 

出雲「…ひとまず続けてみよう。続けてけば、足りないものが見つかるかもしれないし。」

 

雨打「でも、もし見つからなかったらどうするんです?」

 

雪路「……。」

 

疑問をはっきりと口にする雨打。その彼女の問いに、少なくともここにいる3人は、答えられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし休憩終わりの練習でも、その日以降の練習でも、【足りない何か】を見つけることができなかった。そして不幸にも、その状態で晴陽がエントリーしておいたライブイベント当日を、迎えてしまうのだった。




感想も募集してますよ。


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バンド名は?

都内のライブハウスの控室

 

晴陽「はいこれ、被り物でーす!」

 

晴陽が用意したのは、よくハロウィン等で見られるアニマルキャップと、目の周りを隠すベネチアンマスクである。

 

雪路「あの、これは…?」

 

晴陽「ほら、あたし達一応元業界人だったわけだしさ、思い出されたら困るじゃん? こうして

   頭と目を隠せば正体隠せるし、インパクトも残せるでしょ?」

 

雨打「一応、考えてはいるんですね。」

 

晴陽「記念すべき初のライブだからね~♪ あ、あたしの靴は底が高いから、身長

   ごまかせるんだよ?」

 

晴陽はウキウキしているが、未だ【足りない何か】に引っ掛かりを感じている他の4人は、陽気になることができないでいた。

 

御雷「そ、そういえば晴陽ちゃん。バンド名はどうしたん?」

 

晴陽「ん~?」

 

出雲「ライブにエントリーするとき、チームの名前書くだろう? 何て名前にしたのさ?」

 

出雲が質問すると、晴陽はニコニコしながら、近くのホワイトボードに書き込んでいく。そして書き終えた文字を読み取ったのは、雪路だ。

 

雪路「【Vanguard Of Revenge】…?」

 

晴陽「略してVOR(ヴォア)! 【復讐の先導者】って意味なんだよ。かっこいいでしょ?」

 

御雷「ヴォアって……イノシシみたいやね。」

 

雨打「いきなり提案されたんですから、間違っていないのでは?」

 

雨打が棘のある言い方をするが、晴陽は笑ったままである。

 

スタッフ「【Vanguard Of Revenge】のみなさん、お願いしまーす!」

 

晴陽「は~い! よっし、みんな行こう!」

 

ドア越しからのスタッフの声に晴陽は返事をして、キャップとマスクを着ける。4人も急いでキャップとマスクを着け、控室を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ステージに立った5人。ライブハウスはギュウギュウになるほど客員がいるイメージがあるが、客と客の間に大きい間隔があるほど少なかった。

 

御雷『なんか、少なくあらへん?』

 

雨打『こんなもんじゃないですか? バンドは大体人気ある人達に客とられるんですよ。』

 

雪路『わたくしは、これでいいです。緊迫感が、和らぎます。』

 

出雲『まぁ、初級ステージと思えばいいんじゃないかな? …続くかわからないけど。』

 

4人はコソコソと話しながら、マイクの調整をする晴陽を見る。当の本人からは、明らかに緊張感を感じない。

 

晴陽『よし、こっちは準備できたけど、みんなはいい?』

 

晴陽が問いかけ、4人はうなづいて肯定する。だが、心の中では不安が渦巻いていた。もし【足りないもの】がこのままわからなければ、自分達はバンドを続けようとは思わないからである。

 

晴陽《じゃあ、あたし達VORの初ライブ、この一曲に込めちゃうから。覚悟して聴いてね。》

 

そう言って真剣な顔になった晴陽は、御雷に合図を促す。晴陽の曲のイントロは、ボーカルである晴陽が単独で歌い出し、しばらくして他の4人がついていくというものだ。御雷がドラムスティックをカチカチと鳴らし、晴陽が歌い始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《----------------------------------------------------------》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「!!!!??」」」」

 

4人は驚愕する。練習の時も見せた晴陽の圧倒的歌唱力。しかし今の彼女から発せられる歌声は、その時とは比べ物にならない。観客だけでなく、メンバーの自分たちすら魅入られてしまう。そして、自分達のパートに入るのに気づいたのは、4人同時だった。

 

出雲『(ぐっ、これは…!)』

 

雪路『(昨日までの自分では駄目です……今の晴陽の、圧倒的な声に合わせなければ……。)』

 

御雷『(晴陽ちゃん、今の今までこれだけの(モン)隠しとった言うんか……!)』

 

雨打『(ああもう、無茶振りさせてくれますね!!)』

 

文句を言いたい気分ではあるが、晴陽の歌声に比例しなくなる演奏は、自分達のプライドが許さなかった。4人の演奏は晴陽の歌を、晴陽の歌は4人の演奏の良さをだんだんと引き出していく。

 

歓客1「ねぇねぇ、ヤバくない、あれ?」

 

観客2「あれでライブハウス初めてだなんて信じられないよ……。」

 

観客3「逃げ出したくなるくらい怖い…けど、最後まで聴いていたくなる!」

 

観客のほうも、だんだんと盛り上がってくる。そして演奏は、クライマックスに近づいてくる。

 

 

 

 

“お客さんだけじゃない……他のメンバー(おねーさん達)にも教えてあげる、あたしのホントにホントの覚悟!!”

 

 

 

 

“晴陽…これが君の本気なんだね……やっとわかったよ、僕らに足りなかったもの”

 

 

 

 

“ええでええで、こうゆうの!! ウチのハートにビリビリが流れてくるわ!!”

 

 

 

 

“こうなりゃ、やけっぱちです……付いてってやろうじゃないですか!!”

 

 

 

 

“こんなにも熱く、激しく…でもなぜでしょう、凄く心地が良い。これが、わたくしたちのバンド”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………パチパチパチパチ

 

いつの間にか自分達の演奏が終わっていたことに気づいたのは、静寂の中から観客達の拍手が聞こえてからだった。4人が晴陽のほうを見ると、彼女も息を荒くしているのがわかる。

 

晴陽《今日は聴いてくれてありがとう。改めて自己紹介するね。あたしは、ボーカルの“サニー”。

   続いてあたしの同志、ギターの“クラウド”、ベースの“レイン”、ドラムの“サンダー”、

   そしてキーボードの“スノウ”。みんな、“音”で挨拶して。》

 

それを聞いた4人は、それぞれ自分の楽器の音を鳴らす。それに対して、観客が小さく拍手してくれる。

 

晴陽《拍手ありがとう。次の活躍がいつになるかは未定だけど、その時はまた聴いてくれると

   嬉しいな。それじゃあみんな、サヨナラ!》

 

拍手の中で、VORはステージを降りていく。

 

・・・・・・・・・・・・

 

雨打「それで、説明してもらえますよね?」

 

控室で晴陽は、4人から険しい視線を受けていた。まぁ、本番でいきなり本領発揮され、自分達もそれについていかなければならなかったのだから、当然だろう。さっきまで笑顔だった晴陽も険しい表情になっていた。

 

晴陽「…まず、ごめんなさい。あたし、おねーさん達を試してました。」

 

素直に頭を下げる晴陽。その回答は、ライブ後の4人にとって予想できないわけではなかった。

 

晴陽「申し訳ないとは思ってた。でも、復讐を遂げるにはどんな音の変化にも対応できる、

   それこそプロにも負けない資質を持ったメンバーを集める必要があったの。」

 

御雷「せやから、今日まで本領を隠しとったわけやな~。」

 

晴陽「それと、ライブ当日まで、付いてきてくれる器がおねーさん達にあるか

   確かめたかったの。」

 

出雲「まぁ、最後の最後まで確かめてみたいって思いはあったからね。」

 

雪路「あの…それで、晴陽から見て、わたくし達はどうですか?」

 

雪路の質問に、晴陽は真剣な表情のまま顔を上げる。

 

晴陽「全員合格。あとは、大人達に復讐する意志と覚悟が……おねーさん達にあるか。」

 

そしてしばらくの沈黙。先に口を開いたのは、御雷だ。

 

御雷「ええよ! ここまで実力を合わせられた5人や! このチームで復讐なんて面白そうやん!」

 

出雲「あのライブで、君は足りないもの……【限界を感じさせない演奏】を教えてくれた。そんな

   リーダーなら、付いて行ってもいいと思う。」

 

雨打「はぁ……分かりましたよ、やってやりますよ! ただし、妥協は一切許しませんから!」

 

雪路「むしろわたくしから、お願いしたいです。お願いです、わたくしを入れてください。」

 

4人は、VORに入る覚悟を決めた。それを聞いて晴陽の表情は、パアッと明るくなる。

 

晴陽「うん! これからよろしくね、御雷、出雲、雨打、雪路♪」

 

雨打「決まった瞬間呼び捨てですか……。」

 

御雷「あはは、面白いリーダーやね。」

 

こうして正式に結成が決まった【Vanguard Of Revenge】(VOR)。彼女らの復讐の果てに

待つものとは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雨打「そういえば、ライブの時の私達のハンドルネーム…。」

 

晴陽「えへへ、かっこいいでしょ?」

 

雨打「いえ、ダサいと思いますけど?」

 

晴陽「ガーンッ!!」




次回から、原作キャラ出せるかも…?


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表向きの彼女達

・物語の展開上、どうしても原作キャラが絡むので、控えめのタグは消します。
・今回から、台本形式取りやめます。

後、原作キャラ出ます。


羽丘女子学園中等部

 

「……では、帰りのホームルームはこれにて終了します。みなさん、気をつけて

 帰ってください。」

 

学級委員長である雨打がそう言うと、クラス全員が「さようなら」とお辞儀をし、各々のタイミングで帰っていく。雨打はあくびをしながら髪を掻く紫ミニツインテールの小柄な少女に、呆れながら近づく。

 

「宇田川さん。最近、授業中の睡眠が目立っていますよ?」

 

「委員長…うん、バンドの練習が忙しくってさ。」

 

そういいながら目を擦る少女、宇田川あこ。彼女は最近バンドに入り、ドラマーを務めているらしい。背伸びしがちな言動が目立つため、クラスでもかなり印象が濃い。

 

「…やってはいけないという校則はありませんが、学業のほうもしっかり務めてくださいね。

 補習ともなれば、バンドのほうにも影響が出ますよ?」

 

「うっ…それを言われるとなぁ。」

 

冷や汗をかくあこ。雨打は溜息を吐くと、鞄から何枚かの紙を取り出し、あこの机に置く。

 

「今日の授業の内容、コピーしておきましたから、自宅でしっかり確認するように。」

 

「うん、ありがとう委員長!」

 

用紙を受け取って、喜ぶあこ。雨打は生真面目でキツめの言動が目立つものの、こういった気の利いたフォローもするためクラスでもそこそこ信頼されている。雨打はそのまま、教室を後にしようとする。

 

「あっ、委員長! よかったら今度ライブ観に来てよ! 『CiRCLE』ってライブハウスで、

 【Roselia】ってバンド名でライブしてるからさ!」

 

「そういうのはちゃんと学業も両立できるようになってから言ってください。」

 

振り向かないままそう言って、雨打は教室を出ていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

羽丘女子学園高等部

 

「やあ、旗之台!」

 

「瀬田先輩、どうも。」

 

放課後、廊下を歩いていた出雲の前に現れたのは、2年の先輩である瀬田薫である。出雲と同じくらいの背丈で、顔だちも中性的なことから、女子に人気がある。最近【ハロー、ハッピーワールド!】というバンドのメンバーになったらしい。

 

「それで、今日も僕を演劇部に勧誘ですか?」

 

「ああ、君と私が舞台に立てば、もっと多くの子猫ちゃんを幸せにできる。そう思わないかい?」

 

出雲もそれなりに中性的で、多くを語らない部分があることから、入学早々密かに女生徒から人気が出ている。薫もそんな出雲の魅力に注目し、幾度か演劇部に勧誘している。

 

「すいませんが、お断りします。なんというか、先輩のように豊かな表情は作れませんし、

 そんな気分にもなれなくて。」

 

「ふむ…恋かな?」

 

「どうでしょうね?」

 

無表情のまま返答する出雲、薫はさわやかな表情でフッと髪をかき上げる。

 

「悩むなら悩むといいさ。恋とはなんとも儚いもの! シェイクスピアも言っている、

 【真の恋の道は、茨の道である】とね。」

 

「えっ?」

 

「つまりは、そういうことさ。」

 

薫はそれだけ言って、高笑いしながら演劇部へと向かう。

 

「……茨の道、か…。」

 

出雲は小声でそうつぶやき、学校を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

花咲川女子学園

 

「ねぇ、ミカミカ!」

 

「どないしたん、かすみん?」

 

御雷に質問してきたのは、キラキラドキドキを探している同級生の戸山香澄。猫耳のような髪型(本人は星形と言い切っている)をした少女で、最近同じ1年の5人で【Poppin❜Party】というバンドを組んでいる。明るい性格が御雷と気が合い、入学してそう経たないうちにあだ名で呼び合うほど仲が良くなった。

 

「私さ、最近バンド組んだんだよね。」

 

「ポッピンなんとかやったっけ?」

 

「そう、それ!」

 

「それがどうかしたんか?」

 

「ミカミカがいた大阪にもバンドとかあったんでしょ? ポピパの参考のために、どんな

 バンドがあったか聞きたくてさ。」

 

ああ、そういうことかと思いながら、御雷は髪を掻きながら思考する。

 

「…せやなぁ、東京がガールズバンド多いからかわからんけど、大阪は男のヴィジュアル系が

 多かったわ。」

 

「びじゅある系?」

 

「化粧とかファッションとかの外見にこだわったバンドや。曲がないがしろってわけや

 あらへんけど、格好とか演出にかなりインパクト持ってかれるなぁ。」

 

それを聞いて「なるほど~」と真剣な表情で考える。そこまでかと考えてしまうほど力のこもった表情に、御雷も思わず吹き出してしまう。

 

「かすみんは音楽を沢山の人に聞いてもらいたいんやろ?」

 

「それは、もちろん!」

 

「せやったら、まずは音楽の練習あるのみやな。ライブは基本ラフな見た目の人ら多いし、

 格好とかは後々どうとでもなるて。」

 

「へぇ、ミカミカって、音楽とかやってたの?」

 

香澄に言われ、一瞬ドキッとしてしまう御雷。思わず目を見開いてしまう。

 

「い、いやぁ、ウチはほら、外見より歌に注目するタイプやから、そっちのほうがええん

 ちゃうかなって。」

 

「なるほど…なんにしても、ありがとう!」

 

「お~い香澄、練習行くぞ~。」

 

と、教室の外から声をかけた金髪ツインテールの少女は、香澄と同じポピパメンバーであり、隣のクラスの市ヶ谷有咲だ。

 

「今行くね有咲~。じゃあねミカミカ、ライブ決まったら誘うから!」

 

「楽しみにしとるで~。」

 

教室を去っていく香澄に手を振る御雷。姿が見えなくなったのを確認すると、ふうっと息を吐く。

 

「バレんでよかったわ…っと、練習の時間やな。」

 

腕時計で時間を確認した御雷は、少し急ぎ目に教室を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、雨打ちゃんに出雲はんやん。」

 

「やぁ、御雷。」

 

「どうも。」

 

晴陽の自宅の前に、3人が一緒のタイミングで訪れた。

 

「2人とも一緒の学校やったっけ?」

 

「正確には、高等部と中等部ですが。」

 

「まぁ、気にすることでもないだろう。」

 

出雲がそう言って、2人と共に自宅の地下へと降りていき、地下室の扉を開ける。

 

「あっ、晴陽…3人も来ましたよ。」

 

「いらっしゃ~い♪」

 

練習のための地下室には晴陽と、雪路がすでに訪れていた。

 

「戸越先輩は、先に来てましたか。」

 

「月ノ森とは、思ったよりも近いので…。」

 

「これで全員集まったね。それじゃ、次のお披露目に向けて練習しよーう♪」

 

そう言ってピョンピョン跳ねる晴陽。その様子にある者は呆れ、あるものは笑った。




残り二人の様子が出なかった理由
晴陽→不登校
雪路→1stシーズンの時期だから、ましろちゃん達いないんだ、許してくれ。


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ブログを作ろう!

「ブログを作りましょう。」

 

ある日の練習の休憩中、雨打はそれぞれくつろいでいる4人にそう言った。

 

「どないしたん、突然?」

 

「一言で言って、今の私たちはチーム全体でみるとお金がない。全部リーダーの蓮沼さんに

 賄ってもらってる状態です。」

 

「あたしから言ったことなんだから、そんなの気にしなくていいのに…。」

 

「私達が気にするんですよ。よくよく考えれば、蓮沼さんは5人の中で一番年下。なのに

 スケジュール、作詞・作曲、楽器の用意等多くをやらせてしまっています。私達4人が

 やってることと言えば、自分の楽器のメンテくらいじゃないですか?」

 

生真面目な雨打は、そういった状態が許せないのだろう。それを聞いた晴陽以外の3人も、考えるような表情になる。

 

「……言われてみれば確かにそうだね。」

 

「わたくし達、自分達の演奏に必死でしたから…。」

 

「せやな、雨打ちゃんの気持ち、分からんくもないわ。」

 

「はい、ですからブログを作ろうと言っているんです。パソコンも持ってきました。」

 

言って雨打は、自分の鞄からノートパソコンを取り出す。画面を起動させ、デスクトップになったのを5人が集まって確認する。

 

「雨打、ブログ作れるの?」

 

「教材ソフトなどは一通り覚えました。安定した将来のためです。」

 

「せやけど、なんでブログなん?」

 

「理由は大きく分けて3つあります。

 1つ、VOR専用のブログを作成することで、多くの人にVORの活動方針を知ってもらうため。

 2つ、この部屋でのVORの演奏を動画でアップすることで、ライブハウスへの交通費や参加費を

    少しでも抑えると同時に、ライブハウス以上の人数の人に聴いてもらう事ができるため。

 3つ、これが一番の理由ですが、アフィリエイト収入を稼ぐためです。」

 

「アフィリエイト収入?」

 

「広告収入ともいいますかね。VORのブログにメジャーな企業サイトに飛ぶ広告バナーを設置して、

 そこから飛んだ人がその企業の商品を購入することで、商品を扱っている企業からバナーを設置

 したブログの管理人に報酬が入るんです。」

 

「う、うん…?」

 

「簡単に言えば、私達のサイトから経由して買い物した人がいればいるほど、こちらにも

 お金が入るってことですよ。こういった稼ぎ方、結構メジャーなんですよ?」

 

言いながら雨打は、事前に作成してきたブログの土台に、次々とアレンジを加えていく。

 

「さて、次に紹介なんですが…蓮沼さん、VORの活動方針は?」

 

「あたし?」

 

「そういえばそうや。バンドってそれぞれ流儀みたいなもんあるやん? VOR(ウチら)

 どんな流儀や方針があるん?」

 

質問された晴陽はう~んと考えた後、すぐに思いついたようにうなづく。

 

「それでは、これから活動が活発化していくVORのためにも、改めて方針を紹介します!」

 

晴陽はそう言うと、部屋の隅にあったホワイトボードを急いで持ってくる。雪路はほんわかとした表情で「前にもこんなことありましたね…」とつぶやく。

 

「まず1つ、あたし達VORは大人達に復讐するために結成されたバンド。だから当然、

 事務所からのスカウトは一切受けない!」

 

「僕もそれはあると思ってたよ。全員メジャーが欲しくて集まったわけじゃないからね。」

 

「2つ、VORは音楽のスタイルを変えることは一切ない! 常に負の感情を加えたゴシックな

 演奏で恐怖と興奮を与え続ける。」

 

これは考えを変えないという意思表明でもあるが、音楽においてスタイルはユニットの個性を強く出す。下手に変えてしまえば、最悪そのユニットには誰も見向きもしなくなる。それが原因で解散したバンドも少なくない。

 

「そして3つ。あたし達はいつだって全力で演奏する。相手のレベル関係なくあたし達の

 持てる力を1曲1曲に全て発揮する。」

 

「前に雨打ちゃん妥協許さへん言うてたもんな。文句言えへんよ~雨打ちゃん?」

 

「何の心配ですか。ちゃんと賛成ですから大丈夫ですよ…っと、紹介欄は作りました。」

 

「じゃぁ、休憩終わり~! みんな、ブログの第1報告に載せる動画の演奏するよ!」

 

「ええやん! ウチは賛成やで!」

 

「僕も、特に反対はないかな?」

 

「わたくしもです。」

 

そんな4人の様子を見て、雨打は溜息を吐く。

 

「まぁ、予想はしていました。パソコン用のカメラは持ってきましたから、早速

 撮影しますよ。」

 

「さっすが雨打ちゃん、チームの参謀担当やな!」

 

「いよっ、参謀!」

 

「誰が参謀ですか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果でいえば、VORのブログは大人気だった。元々生で演奏を見た観客の拡散で密かに知名度はあったものの、VORのメンバーの個性が出ている面白いコメントや喧嘩腰な活動方針、そしてそれを証明するためにアップされた彼女たちの演奏は、瞬く間に多くの閲覧者を生み出した。

 

「これは…。」

 

「すごい…画面越しなのに、この子達の技術や迫力がちゃんとわかるよ。」

 

「えぇ…一人一人の演奏が、明らかに私達を上回っています。」

 

今絶賛進撃中の本格派バンド【Roselia】の湊友希那、今井リサ、氷川紗夜の3人も、VORの演奏には感服だった。目を見開くリサと紗夜。友希那も静かにみているが、内心は2人同様驚愕していた。

 

「こんにちは~!」

 

「こんにちは…です……。」

 

友希那達のいる練習スタジオに入ってくる2人の少女は、Roseliaの残り2人のメンバーの宇田川あこと白金燐子だ。

 

「待ってたよ、あこに燐子。」

 

「今、VORのブログを見ていたところです。」

 

「あっ、あこも見ました! 動画の演奏すごいですよね! なんか、こう、バーンッて感じで!」

 

「私も…見ました…悲しい感じなのに…どこか魅力的で。」

 

それは以前友希那達が演奏で体験した【キセキ】…それをマイナスの感情で、しかし気持ちが直にこもった演奏で、何度も起こした感覚だった。

 

「あこ、生で見てみたいです!」

 

「そうですね。今後のRoseliaのヒントになるかもしれません。」

 

「でも…どこで演奏するかわかりません……。」

 

「なら、こちらから呼びかけましょう。」

 

「友希那?」

 

「メールフォームで伝えるわ…【ライブハウス『CiRCLE』で演奏してほしい】とね。」

 

RoseliaとVORの邂逅まで、あと数日。



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ライバル出現?

ライブハウス『CiRCLE』

 

「ねぇねぇ、あれって【Vanguard of Revenge】じゃない?」

 

「あっ、そうだよ! 今噂の覆面バンド、VORじゃん!」

 

「サニー様~♪」

 

CiRCLEの前を行きかう人々が注目しているのは、入り口前に立っているVORの5人だ。もちろん正体がわからないように、アニマルキャップとマスクを着けている。

 

「ここだね、ライブのリクエストをした会場は。 結構いいとこじゃん♪」

 

「しっかし、まさか羽丘や花咲川から歩いて行けるとは思わんかったわ。」

 

「僕達、音楽から大分離れて暮らしてたからね。」

 

「わたくし、近くのカフェになら行ったことあります。」

 

「……。」

 

5人の中で唯一レイン…雨打はどこか微妙な反応になっていた。

 

「ゆ…レイン、どうかした?」

 

「い、いえ…なんでもありません。」

 

「そう? じゃ、早速入ろうか。」

 

サニーの言葉に4人はうなづき、店内に入店する。

 

・・・・・・・・・・・・

 

入店して最初に見たのは、黒髪のラフな格好をした女性だった。

 

「いらっしゃ…って、もしかしてVORの皆さん?」

 

「はい。メールでライブをしてほしいとの希望がありまして。」

 

「話は聞いてるよ。スタッフの月島まりなです。今日は来てくれてありがとうね。」

 

「まりなおねーさんも、リクエストくれてありがと♪」

 

「あーいや、メール送ったの私じゃなくて--------」

 

「私達よ。」

 

まりなの言葉を遮り歩いてきたのは、Roseliaの5人だ。

 

「もしかして、Roseliaかいな?」

 

「えぇ、Roseliaのボーカルの湊友希那よ。今日は来てくれて感謝するわ。」

 

「ベースの今井リサで~す♪」

 

「ギターの氷川紗夜です。」

 

「あの…キーボードの…白金、燐子です……よろしくお願いします。」

 

「ふふふ、我が名は冥界より出でし漆黒の「宇田川さん?」…ドラムの宇田川あこです!」

 

やはりというか、独特な自己紹介をするあこにVORは苦笑する。

 

「うん、よろしくね。あたしはボーカルのサニー♪」

 

「…ギターを務める、クラウド。」

 

「ベースのレインです…どうも。」

 

「ドラムのサンダーや! 今日はよろしゅう!」

 

「わたくしは、キーボードのスノウです。…顔と名を明かせずに、申し訳ございません。」

 

「構わないわ。あくまであなた達の【音楽】に興味があるもの。」

 

そう言われ、スノウは気が楽になると同時に、まりなに声を掛けられる。

 

「あのー、時間が押してるんだけど?」

 

「あっ、そうだった! それじゃああたし達、ライブだから。」

 

「えぇ、あなた達の演奏、直に見せてもらうわ。」

 

それだけ言う友希那にサニーは手を振りながら控室に向かう。

 

・・・・・・・・・・・・

 

「はぁ~……。」

 

控室に入り、一旦仮面を外した5人。雨打は深くため息を吐く。

 

「どないしたん、雨打ちゃん? もうすぐライブやのに元気ないやん。」

 

「…宇田川さん、私のクラスメイトなんです。」

 

「湊さんや今井さんだって、同じ羽丘で僕の1つ先輩だ。」

 

「あのですね旗之台先輩、同級生ですよ、同・級・生! しかも先日、宇田川さんにライブの

 鑑賞を勧められましたし…あぁ、胃がきりきりする。」

 

自分の胸をグッと抑える雨打。雪路はそんな彼女の背中をさする。

 

「でもでも、もうすぐライブ始まっちゃうよ?」

 

「…それは分かっています。分かっていますが……。」

 

「《妥協》するんか?」

 

「……なんですって?」

 

「あんだけ全力全力言うてた雨打ちゃんが、ライブで手加減なんてするわけあらへんやろ?」

 

「当然です!!」

 

御雷の煽りを受け、雨打は急にやる気を取り戻す。

 

『なんか雨打って、扱いやすいとこあるよね。』

 

『それは本人の前では、言わないでくださいね? 晴陽。』

 

燃えている雨打に聞こえないように、晴陽と雪路はこそこそ話していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《イェーイ、みんな、誰一人このハウスから逃げ出してないよね?》

 

『イェェェェェエエエエエエエイ!!』

 

《OK! それじゃあもう一曲歌うけど、みんな失神したりちびらないように気を付けてね!!》

 

『イェェェェェエエエエエエエイ!!』

 

サニーのアピールの後に、4人のメンバーが一斉に楽器を弾き始める。それは決して勢いだけではなく、卓越した技術による旋律が、サニーの歌声の期待度を上げているのだ。無論、サニーもそれに応える。

 

「(やはり、流石だわ……彼女達の一人一人の演奏が互いを引き出している。悔しいけど、

  私達を明らかに超えている!)」

 

観客の中でVORの演奏に見惚れる友希那。リサや紗夜、燐子も同様で、あこは目をキラキラさせ、口元を緩ませていた。

 

「(何より、彼女達の気持ちの込め方……怒りや悲しみがこちらに伝わってくる。彼女達は

  そういった負の感情というものを、よく理解しているわ。)」

 

一体何が彼女達をそうさせたのか……不謹慎ではあるものの、友希那はVORの根源を知りたいと思わずにはいられなかった。

 

・・・・・・・・・・・・

 

「今日はありがとう、いいライブだったわ。」

 

「ううん、あたし達もこんないい場所で演奏できてうれしかったよ♪」

 

笑顔でそう告げるサニー、それが嘘ではないことを、友希那は理解する。

 

「あの…今更なんですが、何故わたくし達を招待したのですか?」

 

「ブログの演奏を見て、直に聴いてみたいと思ったからよ。Roseliaの参考にも

 したかったし。」

 

「えへへ、参考にされちゃったねスノウ♪」

 

「よかったですねサニー。」

 

和やかな雰囲気を出すVORの面々。とても先程まで憎しみを込めていたとは思えない。

 

「そういえばさ、VORってFUTUR WORLD FES.とかに出る予定ある?」

 

「プロでも予選落ちする世界的な音楽祭だよね…いや、予定はないけど。」

 

「なんや、Roseliaってそれを目指しとるんか?」

 

「うん! あこ達そのためのコンテストで上位3位に入るのが今の目標なんだ!」

 

「しかし惜しいですね……あなた方ほどの実力なら、コンテストでも通用するでしょうに。」

 

紗夜の言葉に、レインは口をとがらせる。

 

「……ブログの活動方針の通り、私達の目的はあくまで演奏を通して大人達に復讐

 することで、世界的なデビューをしたいわけではありません。私たちは地道に

 名を広めていきたいので……癇に障ったのなら謝ります。」

 

「…いえ、こちらこそ、話していただきありがとうございました。」

 

「それじゃぁまたね、おねーさん達♪」

 

そう言ってVORの面々は、CiRCLEを去ろうとする。

 

「サニー、いつか私達RoseliaはVORに対バンを申し込む……そして、VORを超えるわ!」

 

「楽しみにしてるよ~♪」

 

振り向かず、手を振るサニー。彼女が見なかった友希那の瞳には、明らかな闘志が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで対バンってなに?」

 

「知らずに応えとったんかい!?」

 

5人だけになった最初の会話がこれである。



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聴いてから判断しろ

今回は主に、原作キャラ視点です。


「ほら蘭、早く~。」

 

「分かったって……。」

 

銀髪ショートのおっとりした少女、青葉モカに手を引っ張られる赤メッシュをした少女、美竹蘭。彼女らが、向かっているのはライブハウス『CIRCLE』。入口の近くにはすでに、待ち合わせをした3人の少女がいた。

 

「あっ2人とも来たよ。」

 

「よっ。」

 

「もう、蘭もモカも遅いよ~!」

 

最初に声を出したおとなしそうな少女、羽沢つぐみ。次に声を出した背の高い少女、宇田川巴。最後に怒ったような声を出した少女は上原ひまり。そこに蘭とモカを合わせた彼女らはガールズバンド【Afterglow】。羽丘女子1年の幼馴染5人で結成している。今回はCIRCLEのライブにVORが出るということで、観客としてやってきた。

 

「でも巴、なんで急にVORのライブが見たいなんて言ったのさ?」

 

「前にあこがVORのライブ見たらしくてさ、家でRoseliaが結成した時ぐらいのレベルで興奮して

 言ってきたんだよ。すごいとかかっこいいとかな。んで、あこにそこまで言わせるVORがどんな

 もんなのかなーって思ってよ。」

 

「私はブログの演奏見て、すっごく興奮したから!」

 

「私は…演奏のヒントを得られればなって。」

 

3人の意見を聞いても、蘭はそう言うものなのかとしか思えなかった。ひまりの話によれば、『大人に復讐するために結成したバンド』らしいのだが、蘭にとっては「なにそれ?」と、思わず小馬鹿にしてしまう程度のものだった。

 

「あっ、もしかしてあの人達じゃない~?」

 

モカが蘭の袖を引っ張る。蘭達が見た先には、CIRCLEに向かって歩いてくるVORの5人の姿があった。

 

「あれが噂のVOR…確かに、ちょっと怖いね。」

 

「そう? 動物の被り物があって可愛いんじゃないかな?」

 

「可愛いはない。」

 

きっぱり言い切る蘭。巴はVORに歩いていく。

 

「なぁ、【Vanguard Of Revenge】だよな?」

 

「おねーさん達は?」

 

「アタシら、Afterglowってバンド組んでてさ。あこからすごいバンドだって聞いて聴きに

 来たんだ。アタシはドラムの宇田川巴、Roseliaのあこはアタシの妹なんだ。」

 

「(宇田川さん、お姉さんいたんですか……。)」

 

「おー、あの元気っ子の姉ちゃんかいな。よく憶えとるよ。」

 

「では、後ろの4人が同じバンドの…?」

 

「はい、ベースの上原ひまりだよ!」

 

「キーボード担当の、羽沢つぐみです。」

 

「ギターの青葉モカで~す。…ほら、蘭も。」

 

「……ギターボーカルの、美竹蘭。」

 

面倒そうに自己紹介する蘭。しかしVORの5人は、気にしていなさそうだった。

 

「よろしく。あたし達は------」

 

「サニーにクラウド、レインにサンダー、それとスノウだよな。ちゃんと覚えたぜ?」

 

「いやー、ウチらも名が広まってきたもんやな~♪」

 

「覚えてくれてありがと♪ じゃあ次は、ライブステージで。」

 

サニーがそう言って、CIRCLEの入り口を通ろうとする。

 

「…復讐なんて、本当にできるんだか。」

 

蘭のつぶやきを、サニーは聞き逃さなかった。笑顔のまま蘭に近づき、顔前で口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【じゃあ、演奏で判断してみなよ……そうすれば本気かどうかわかるからさ♪】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!!」

 

瞬間蘭は、急な恐怖と寒気を感じる。先程まで微塵も怖さを感じなかったというのに…思わず後ずさってしまう。

 

「早く行くよ、サニー。」

 

「クラウド、了解。」

 

クラウドに呼ばれ、サニーは急いで中に入る。そして扉が閉まると、蘭は大きく息を吐く。

 

「どしたの~蘭?」

 

「…なんでもない。」

 

「でも蘭ちゃん、なんだか変だよ?」

 

「急に迫られて、びっくりしただけだから。」

 

そう言ってCIRCLEに入る蘭。4人は顔を合わせ、首をかしげるのだった。

 

・・・・・・・・・・・・

 

《では、プログラムラスト。【Vanguard Of Revenge】の皆さんです》

 

紹介と同時に、VORの5人がステージに立つ。観客からは、待ってましたと言わんばかりに大きな拍手が来る。

 

「やっと来たか。」

 

「今回のプログラムではVORは本当に最後のほうだからねー。」

 

「……。」

 

蘭は周りを見渡す。VOR目的のためか帰っている客はほとんどいないように見えるが、所々であくびをしたり、目をこすっている客がいる。

 

「なんか、疲れてる人たち居るね。」

 

「部活とか仕事帰りの人もいるし、ステージも暗いから仕方ないんじゃないかな?」

 

そしてVORのほうでも、蘭同様眠そうな客に目を向けていた。

 

『なんだか、眠そうな方々がいます。』

 

『ここまで結構、待たせてしもたからな~。』

 

『うん、あたし達が起こしてあげよう!』

 

サニーのうなずきを合図に、4人が臨戦態勢に入る。そして、

 

【--------------------------】

 

サニーの歌声が、4人の旋律がステージに響き渡る。

 

「なっ……!!??」

 

蘭が戦慄する。蘭だけではなく、他のアフグロメンバーも目をカッと開きながら固まり、だるそうにしていた客の目は一気に覚める。

 

「(なに、これ…心臓に直に掴みかかってくるような感覚…今にも喰われそうだ!!)」

 

先程まで興味を持たなかった蘭にも、ここからどんな音が出てくるのかと、恐怖と期待が同時にあふれてくる。

 

「す、すごいねみんな…みんな?」

 

つぐみが見惚れながらも声をかける。しかし4人とも、茫然と、ただただ、VORの奏でる演奏に心を奪われ続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやーヤバかった。あこが興奮するのも分かるな。」

 

「私も、歓声上げる暇なかった~!」

 

「モカちゃんもね~、関心どころじゃなかったよ~。」

 

「……あれは、参考にできないかも。」

 

「……。」

 

その中で蘭だけが、下に顔を向けて黙ったままだった。

 

「お疲れ様でした~。」

 

その時CIRCLEの扉を開け、VORが出てくる。蘭はそれを確認すると、サニーの前に立つ。そしてゆっくりと、頭を下げる。

 

「なんやなんや?」

 

「…あんた達の演奏、本当にすごかった。馬鹿にしてごめん。」

 

「いいよいいよ、嫌われるくらい覚悟してるから。」

 

手をひらひらさせて受け流すサニー。しかし顔を上げた蘭の目には、闘志が宿っていた。

 

「あたし…あんた達に負けないバンドに、絶対なるから!!」

 

「…うん、応援してるよ♪」

 

それだけ言って、今度こそVORはCIRCLEを後にする。

 

「(なんか似た展開、最近あったような。)」

 

思い返すと同時に、胃を痛めるレインだった。

 

・・・・・・・・・・・・

 

そして今回のライブを見ていたバンドは、アフグロだけではなかった。

 

「なんてすごい演奏なのかしら! とっても怖くて、ワクワクしたわ! よーし、

 早速黒服や花音達に連絡ね…ハロハピとVORで、共演するわよ!!」

 

【ハロー、ハッピーワールド!】の弦巻こころ…彼女の思い付きが、レインの胃にさらなる負担をかけることになる。



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ハッピー!&アンハッピー!

「コンサートホールで、共演ライブするわよ~!」

 

「訳が分からない。」

 

会場のコンサートホールの前ではしゃぐ弦巻こころにツッコミを入れるのは、彼女に半ば無理やりバンド入りさせられた奥沢美咲…が、中にいるクマの着ぐるみのミッシェルである。

 

「ふぇぇ…コンサートホールでライブなんて、緊張するよぉ…。」

 

話し方にあざとさが出ている水色の髪の少女は、松原花音。

 

「広いねー、ここで共演という名の戦いが始まるんだね!」

 

「共演の意味わかってる?」

 

ミッシェルにツッコミを入れられるオレンジショートの少女は、こころや花音、美咲と同じ学校の北沢はぐみ。

 

「ああ、なんて儚いんだこころ! この地にて行われるのはそう…天使と悪魔の“饗宴”!」

 

「多分文字、間違ってますよね?」

 

そして唯一羽丘の生徒で背の高い少女、瀬田薫。この5人こそ、世界中を笑顔にすることを目標とするバンド、【ハロー、ハッピーワールド!】である。

 

「(またとんでもないこと思いつくなぁ…でも、なんでVORなんだろう?)」

 

ミッシェルは思う。【Vanguard Of Revenge】といえば、恐怖の演奏をすることで有名な復讐バンドである。それとは真逆の思想をもつハロハピとは、関連性が薄いと思われる。

 

「こんにちは~。」

 

そんなことを思っていると、サニーを先頭にVORの5人が歩いてくるのがわかる。

 

「あら、こんにちは! あたし達のオファーを受けてくれてありがとう!」

 

「そらあんさん、偉大なる弦巻財閥のお嬢様から直々のオファーやからね~。」

 

事は数日前、VORのブログに共演依頼のメールが来たことから始まる。ご丁寧に信憑性を持たせるためのビデオレター付きである。しかも大きなコンサートホールでのライブときた。こんな大きな舞台で演奏できるのはチャンスだと、VORはリクエストを了承した。

 

「わたくし達、ハッピー?な演奏はできませんが、よろしくお願いします。」

 

「えぇ、よろしく。あたしはボーカルの弦巻こころよ!」

 

「えっと、ドラムの、松原花音です。」

 

「はぐみは北沢はぐみ! ベースやってるんだよ!」

 

「ギターの瀬田薫だ。今日はよろしく、子猫ちゃん達。」

 

「お…DJのミッシェルで~す。」

 

「(着ぐるみ?)」

 

「(着ぐるみだ…。)」

 

「(可愛い…。)」

 

VORの誰もがミッシェルに注目し、レインは外見の愛らしさについ見惚れてしまう。

 

「ところでさっき、天使と悪魔って聞こえたんやけど、悪魔ってVOR(ウチら)の事かいな?」

 

「あぁ、すいません。気に障ってしまったのなら、謝りますんで。」

 

「えぇよミッシェルはん。ウチらも悪魔になったつもりでやっとるし。」

 

「はぁ…。」

 

気分を害するようなことは起こらなかったようで、安心するミッシェル。

 

「ねぇ、こころおねーさん。共演のライブって?」

 

「そうだったわ! 早速会場に行きましょう!」

 

こころはサニーの手を引っ張り、会場の中に入る。

 

・・・・・・・・・・・・

 

ホール内はそれなりに広く、演奏のためのステージは中央に設置物を置いて、2分割している。

 

「あそこでハロハピとVORが分かれて、交代交代で演奏するのよ!」

 

「確かにあれなら、交代時間を節約できるし、演奏の間に次の演奏の準備もできるね。」

 

「楽しいライブにするのよ? お客さんのみんなを待たせるのはもったいないわ!」

 

「徹底しとるな~。」

 

「そうゆう子なんですよ、こころは。」

 

まるで子育てに苦労する母親みたいな口調のミッシェル。そんなミッシェルを見て、レインはどこか同情してしまう。

 

「…一応確認しますけど、私達VORはいつも通りの演奏をします。ハロハピ(あなた達)

 ような明るめな演奏はできませんので、あしからず。」

 

「それでいいわ! そんなあなた達だから、あたしは呼んだのよ?」

 

笑顔で答えるこころ。VORはそんな彼女の考えが、どうにも読めなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《聴いてくれてありがと~! 次はハロハピの演奏、聴いてあげてね~?》

 

先攻のVORが歌い終わり、ハロハピにバトンタッチするサニー。ふうっと一息吐いたレインは、観客席を見やる。会場にはライブハウス以上の人数がおり、中には小学生ほどの子供の姿もあった。当然、自分達の演奏を怖がっており、子供にいたっては今にも泣きそうだった。

 

「(胃が痛い…。)」

 

泣きそうな姿を見て、流石に来るものがあるレイン。変に思われない程度に、胸を抑えていた。そんなレインに、後ろからスノウが声をかける。

 

『レイン…次が終わったらもう一曲ずつあります。』

 

『…大丈夫です、もう治ります。』

 

《ハッピー! ラッキー! スマイル! イエーイ! VORのみんな、とってもゾクゾクする

 演奏ありがとう! 今度はあたし達ハロハピが、みんなを笑顔にするわ!》

 

マーチングバンドの衣装で演奏を始めるハロハピ。その演奏はVORとは正反対と言えるほどに明るくポジティブで、自然と観客の顔が緩んでいく。

 

「(みんなが笑顔になっていく。【ハロー、ハッピーワールド!】の名は伊達じゃないという

  事ですか。)」

 

泣きそうだった子供が笑顔になっていく様子を見て、レインの胃の負担は多少軽くなる。同時に、もう1曲怖い演奏をするのだと考えると、レインは溜息を吐かずにはいられなかった。

 

「(しかし、妥協は絶対しないのが私です。)」

 

そう自分に言い聞かせ、腕を回して次の準備に入る。

 

・・・・・・・・・・・・

 

「いやー凄かったな。」

 

「なんというか、味変だよな。辛いVORと、甘いハロハピ的な?」

 

「私、2階席だったけど、すっごい伝わった!」

 

帰っていく観客達の様子を陰から見守るハロハピとVOR。途中、レインが見ていた子供の1人とその母親と思われる女性を見かける。

 

「今日はどうだった?」

 

「うん、ハロハピ、すっごく笑顔になれた。VORは怖かったけど、すごくかっこよかったから、

 また聴きたい!」

 

という声が聞こえ、レインにとっては意外な感想だった。

 

「ほら、みんなハロハピだけじゃなくて、VORも好きなのよ。共演したことは、間違いじゃ

 なかったわ!」

 

「…そうですか。」

 

「ああ、儚い! これぞツンデレ!」

 

「違いますよ薫さん。」

 

冷静に突っ込むミッシェル。そんなやり取りを見て、サニーは笑う。

 

「あっはは、おねーさん達面白ーい♪」

 

「あら、あなた達だって面白いわよ。だから、分からないわ。」

 

「うん?」

 

「みんなが笑顔になるのに、どうしてVOR(あなた達)は、【心から笑ってない】のかしら?」

 

首をかしげながら、核心を突くような疑問をぶつけるこころ。言われた5人はピクっと動揺してしまう。

 

「ちょっと、こころ。」

 

「いいよ、ミッシェルおねーさん…そうだね、“あたし達が心から笑うため”に、VORを

 やってるんだよ。」

 

「あら、そうなの?」

 

「そうだよ…今日はありがとう。ライブできてよかったよ。」

 

「ええ、また一緒に演奏しましょう!」

 

そう言って、VORとハロハピは別れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…サニー。」

 

「いいよ、スノウ…VORの方針は変わらない。復讐は、やらなきゃいけないんだよ。」

 

それは本心なのだろう…だが4人から見て、今日のサニーはどこか後姿が寂しく感じられた。



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