新時代の全てを照らせウルトラマン (ローグ5)
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ウルトラマンオーブ菫色のメモリア 前篇

          さそり怪獣アンタレス
                                       登場


 何処かの世界の日本の何処かにある穏やかな街。

 先ほどまでは確かにあった春の日差しを覆い隠すように季節外れの大雨が降り注ぎ、街並みを洗っていく。

 叩くように降り注ぐ雨に人影は少ない。

 

 当然ながら街外れにある墓所にも人影は皆無。

 雨を嫌ったのか数少ない墓参りに来た客ももうすでに帰路についている。

 

 否、一人だけ墓所に残っている女性がいた。

 

 女性の顔は端的に言って美しさにあふれていた。

 日の光が映える長く美しい金髪に宝石を思わせるマリンブルーの瞳、その顔立ちはまるで物語の中に出てくる深窓の令嬢そのものであり、気品ある美しさを醸し出していた。

 この女性は名をスミレという。

 

 スミレは最後に一礼すると墓所より離れて黒い傘を差し歩き去っていく。

 黒い傘を差した姿は気品すら感じられる姿だがしかし何処か頼りない。

 背を曲げる事はないが覇気のなく感じられる姿。

 まるで魂を抜かれてしまったかのように、幽霊であるかのように見る者の心を痛ませる儚さがあった。

 

「……これから、どうしましょう、か……?」

 

 不意にスミレは足を止めた。

 何となく、本当に何となくだが不吉な物を空に感じた。

 そして訝し気に空を見上げたが、結果として彼女の行動は遅すぎた。

 

 結果として彼女の勘は正解だった。

 彼女から少し離れた山地に天から落ちてきたのは大質量。

 小さいとはいえ山一つを半壊させた崩落の衝撃は強烈な地震を起こしスミレは苦悶の声を上げる。

 地響きと空気が攪拌され発生した気流に必死で耐えるが追い打ちをかける様に、それらすら上回る金切り声が浴びせかけられた。

 

「うわっ……くぅ……!」

 

 地響きに続く金切り声にスミレから離れた街の人々も慌てて原因を確認するが、彼らもまた一様に驚愕の声を上げた。

 

「お、おいアレを見ろ! アレは────―」

「間違いねえあれは……怪獣だっ!?」

 

 天より落ちてきた金切り声の主の正体は数年前からの魔王獣と呼ばれるものを始めとして、今や地球でメジャーな存在となった怪獣だ。

 尋常の生物ではありえない巨体を有する怪獣は超常的な能力を持ち、ただ市街地を進むだけで街を破壊し人類を殺傷する天敵。

 

 『―――――噂話通りの貧相な星よ』

 

 今宵天より降りてきた怪獣は茶褐色の身体に奇怪なハサミを携えた四肢。

 およそ人の感性に共感するとは思えないほどにカミキリムシの様な凶悪な面相。

 そして蠍の様に長大で剣呑な尾を携えた怪獣だ。

 名前をさそり怪獣アンタレスという。

 

『フン。他愛のない雑魚共が驚き慌てておるわ。

 どれ一つ目に物を見せてやろう──────ムン!』

 

 アンタレスは小さき人々の諸処の感情を一顧だにしない。

 ただ悠然と長大な尾を手近な小山に振るった。

 それだけですぱりと、どちらかといえば丘に近いスケールとはいえ山があまりにもあっさりと五合目から切断されて宙を舞った。

 

『ハハッ脆い脆い。山でこれならば脆弱な地球人はどれ程に脆いだろうな?』

 

 平然と独り言ちる怪獣の技は危険に過ぎる。

 まるでカラテの達人がビール瓶の口を手刀で割るような熟練の技。

 水平に振るわれた尾の一撃が山を割るという空前のスケールで再現されたことに人々は恐れおののく。

 あの怪獣は、あまりにも危険すぎると。

 

「な、なんだよあれ……山があんな風に」

「ビートル隊を! 早くビートル隊を呼ばないとっ」

「イヤ無理だ! 早く街の人を逃がさないと────アイツこっちに来てやがるぞ!?」

 

 大雨が血を叩く音を圧倒するほどの様々な感情がこもった叫びが街を包み込む。

 それぞれが巨大な存在に揺り動かされ奏でる叫びはさながら混沌の協奏曲。

 

「…………」

 

 他方で土砂に半身を埋没させたスミレは無言だった。

 

『まずは暇つぶしといこう。小さき者どもよ我の糧となれ』

 

 アンタレスの暴虐によって起きた土砂崩れにより身動きが取れない彼女は冷静というよりも空虚な目で、自分の方に近づいてくるさそり怪獣を見上げる。

 恐らく目に入っているわけでもないのだろうが怪獣の歩幅を考えればこのままアンタレスはスミレを痛みを感じる間もなく踏み潰す事になるだろう。

 その悲劇を地球人と同様の能力しか持たない彼女は状況を覆す事が出来ない。

 

 この絶望的な状況をスミレは静かに受け入れる。

 思ったよりも遅く、そして無意味な死だったが自分にとってはふさわしいのかもしれない。

 空虚になった自分には。

 

 視界を染める巨大なハサミと、右足の禍禍しい黒から目を背ける様にスミレは何事か呟き目を閉じた。

 

 身を固くするも一瞬、そのまま彼女は何も感じなくなることはなかった。

 むしろ感じるのは瞼越しにも分かるほどの眩い、何処か優しい光だ。

 

「えっ……?あ……」

 

 吹き飛ばされ苦悶の声を上げるアンタレスに対して光は人の形に収束し、スミレを守るように立ちふさがる。

 

『ぬう……この星に未練がましくはびこる偽善者が! 全く以て忌々しい……!』

 

 忌々し気に首を振るアンタレスは知っている。

 己のような平和の敵の天敵となる存在の名を。

 

「あれは……来た来てくれたんだ!」

 

 その姿をスミレは、街の人々は、この星に生きる人々は知っている。

 

 それは光の巨人。人々を護る聖剣の勇者。闇を照らす光の戦士。

 その名は────

 

『俺の名はウルトラマンオーブ! 闇を照らして、悪を撃つ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤と紫の体色に金色のラインが刻まれた基本形態に変身したオーブは強力な切断能力を持つスペリオン光輪を抜き打ちに放つ。

 

『来いっアンタレス! スペリオン光輪!』

 

 凶悪な切断能力を持つ光の環をアンタレスはとっさに飛びのいて回避するが頭部の角の片側を飛ばされ憎悪の声を上げる。

 

『ぬううっ! しゃらくさいわっ!』

 

 黒い角が大地に突き刺さる中、頭部への攻撃に憤ったのか弾かれるようにアンタレスは突進する。

 剣呑な叫びと共にオーブに対してハサミを交差するかのような軌道で振るうが、そうはさせじとオーブの熟練の受けに流された腕をがっちりとつかまれる。

 

 アンタレスは膂力に優れるといってもそれはオーブも同じ事。体勢を崩したアンタレスをオーブは見事に投げ飛ばした。

 

『チィッ……やみくもで勝てる相手ではないか。ならば速さ比べだウルトラマンオーブ!』

『望むところだ! ジャックさん! ゼロさん!』

 

 背中から落ちたアンタレスは苦悶の声を上げながらも回転し起き上がるが、突進よりも先に後退を選んだ。

 初撃を喰らい頭に血を上らせていた物の短い戦闘ですでにオーブを難敵と認識したのか慎重に距離をとりオーブに致命的な一撃を見舞う機会を狙う。

 

『キレのいい奴頼みます!』

 

 対するオーブも三又の槍を携えた青い姿に変身。

 流星の如き速度でアンタレスの首を狙い槍を振るう。

 

『光を超えて、闇を斬る!』

 

 蒼い軌跡が夜空に幾度なく瞬き、対するアンタレスも四肢をフル活動して対抗していく。

 地を蹴り切り結び、そのまま幾度なく空中で交錯した両者はダメージを見せる事無く大地に降り立つと並走し更なる攻撃を交しあう。

 

 アンタレスの攻撃は苛烈だ。

 多様な攻撃手段と高度な格闘技を持つことで知られるアンタレスは、およそ獣のそれとは思えない精妙な足さばきで立ちまわり、思い拳をオーブへ打ち込む。

 対するオーブは俊敏な動きで手にした青い三叉槍で縦横無尽に突き、薙ぎ払う。

 このオーブという光の巨人はアンタレスと同様に、いやそれ以上の領域にある歴戦の達人の技を持っていた。

 

『せぇ……やぁっ!』

『────ッ!?』

 

 アンタレスのフリッカージャブのような拳が巨人の槍によってはじかれる。

 如何にアンタレスが達人と言っても槍と無手のリーチの差は多大なディスアドバンテージである。

 拳をはじかれたアンタレスが体勢を崩した隙を突き巨人は大気を切り裂く鋭い斬撃を放つ。

 

『ぐがっ……かかったなアホがッ』

『なっ……!』

 

 深く身を切り裂かれるアンタレス。

 しかしさそり怪獣は裂帛の気合共に片足で跳ねて後退し、そして目から怪光線を放つ。

 それはサーチライトのように巨人を撫でるとその体表で火花を散らした。

 

 この光線は忍びの持つ暗器のようにアンタレスの奥の手ともいえる技だ。

 拘束の近接戦の中で突如として放つ奥の手であるこの技は幾度なく彼に勝利をもたらしてきた必殺奥義。

 これを受ければ如何にオーブといえども。

 

『キェアアアアアアアアアッ!』

 

 其処に間髪入れず怪鳥のような叫び声をあげながらアンタレスは長大な尾を巨人に向け放つ。

 

 アンタレスの尾はとある世界において富士山の五合目から上を切り飛ばす事が可能とすら言われた異常なまでの威力を持つ必殺武器であり、事実アンタレスは光線で動きを止めた相手をこの尾で斬殺する事を邂逅戦にも勝る最大の必殺技としている。侍の居合斬撃のような美しさすらある円弧を描いた毒尾が巨人を真っ二つにするかに思われたが

 

『────―闇を抱いて、光となる!!』

 

 体の奥深くからの想いと共に叫ばれた言葉。

 その言葉と同時にオーブの姿が赤と黒を基調とした姿に変わる。

 全身の筋肉を隆起させた赤と黒の暴乱形態はその強大なパワーで尾の半ばを受け止め吹き飛ばされるどころか、むしろしっかりと地面を踏みしめアンタレスを振り回す。

 

『グォッ! ガギッ! グアアアッ!!? 』

 

 アンタレスは何度も山肌に叩きつけられうめき声をあげる。容赦のない攻撃に獣のような声を上げ深いダメージを甘受するばかり。

 そしてオーブははグロッキー状態になったアンタレスを宙に投げ飛ばす。

 大地にたたきつけられたアンタレスは何とか体勢を立て直しながらも、それ以上の対応をすることが出来ない。

 

『ウオオオオァァっ!!』

 

 そしてアンタレスに接近したオーブが荒々しい拳を連続して打ち込む。その身に宿す黒き暴王の圧倒的なパワーはアンタレスに技による防御を許さない。三発目、四発目とアンタレスの体がさらに宙に浮いていき、五発目の回し蹴りで山よりも高く跳ばされた。

 

 オーブは宙を飛んでいく怪獣とは対照的に両腕を広げしっかりと大地を踏みしめる。

 その両腕にはすでに光と闇のエネルギーが集中し、巨大な輪を描いており────

 

『ゼットシウム光線!!』

 

 青い光線とそれを取り巻くような赤い螺旋状の光線が放たれ、アンタレスの身を抉るようにして破壊し、爆発させしめた。

 

『グガアアアアアアアアアッ!!? おのれ、おのれェ────―ッ!!』

 

 暴力的なまでの破壊力の光線に圧倒され粉々に吹き飛んだアンタレス。

 凄惨さすらある破壊を見届けた巨人はどこかへ飛び去っていく。巨人の巻き起こす風に、雨の中も咲き誇る花々がかすかに揺れた。

 

 アンタレスとオーブの激しい戦いを見ていたスミレは何の感銘を受けた様子もなく無言だ。

 まるでこの戦いの勝敗など興味がないかのように。

 ただ一つ彼女の胸の内を語るのは街の人々が害されなくてよかった事に対する安どのため息のみだ。

 

 自分を案じ、駆け寄ってくる人々の声にか細い声で返事をする。

 最低限の礼儀としての対応をした直後スミレは意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 関東にあるとある養護施設の一室。

 既に消灯した施設の一室で布団の中にこもりながらも、少女はこっそりとスマホの光を灯代わりに書類を読んでいた。

 

 「……」

 

 この日にようやくもたらされた書類をじっと真剣に読む少女の顔には不安や喜びの他にも、幾つもの感情が宿っている。

 

 しばらくして少女は書類をそっと大切にしまうと準備していた旅行鞄を引き寄せた。

 ずっしり重い鞄は彼女の心情を表しているかのよう。

 しかし、それでも自分にもたらされる希望を胸に灯した少女は、かねてよりあったある決意を固めていた。

 




中篇も明日の同じ時間に投稿します。


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ウルトラマンオーブ菫色のメモリア 中篇

 赤レンガの館がその街の外れにはあった。

 豪雨が去った後の燦燦とした日差しを浴びる館はおそらく今から百年以上前の明治時代に建てられたと見える様式だ。

 古いながらも庭と共に手入れが行き届き、見る者に上品な印象を与えるその館は雨雲が過ぎ去った後の穏やかな春の日の日差しで照らされていた。

 

 館の二階の一室で春の日差しに照らされ、スミレ目を覚ました。

 目に入る天井は常日頃から見慣れていた周知の物。

 しかしその表情は暗い。

 

 一貫性のある、気品ある美しさとは裏腹にその表情は昨日の天気のように暗いままだ。

 原因は分かっている。ここはスミレが長年暮らしてきた場所ではあるが、今となってはこれまでとは決定的な違いがある。

 自分はもうこの館で一人ぼっちだという事だ。

 

「あらスミレさん気が付いたのね! 本当によかったわ何事もなさそうで。

 昨日は本当に心配したのよ。あの凶暴そうな怪獣のせいで肝を冷やしたわ」

「……ご迷惑をおかけしました」

「いいのいいのあなたとアタシの仲だしね」

 

 スミレの傍らにいたのは近所で病院を開いている女医だ。

 もう中年を過ぎた年齢になっているにもかかわらずエネルギッシュな人でスミレも長い間世話になっている。

 

「それよりあなたを助けた人にお礼を言っておくのよ。

 昨日の大雨の中わざわざあなたを運んできてくれたんだから」

 

 女医が言うには昨日雨の中、土砂崩れに巻き込まれて倒れていたスミレをわざわざ病院まで連れていったのは旅行者の青年だという。今どき珍しいほど親切なその彼が一階でスミレを待っているとか。

 

「そうですか。ならお礼を申し上げなくてはいけませんね」

 

 スミレは身支度を整え広い居間へ降りていく。居間で待っていたのは黒いジャケットに同じ色のつばの広い帽子という服装をした、どこか風来坊のような雰囲気の青年だった。

 

 スミレは青年の瞳をじっと見る。

 自分とは大違いの、困難があっても進んでいける長い生を生きていける人間だと分かった。

 その事実に、どこか後ろめたい気持ちを抱く。

 

「私はスミレと申します。先日はご迷惑をおかけいたしました「俺の名はクレナイ・ガイ。なに、困ったときはお互い様さ」

 

 スミレの予想と違い、青年は気さくに受け答えた。

 それと同時に青年の名を聞いたスミレは息をのむ。彼と面識があるわけではない。

 しかし()()()()()()()()()()()誰もが彼の顔を知っているだろう。

 それほどの有名人だった。

 

 その後も動揺を隠しとおしたスミレとガイの取り留めのない話が続いていく。

 どうやら彼はこの日本だけでなく、世界中を旅してまわっている本物の風来坊だという。

 そうして話が一段落したあたりでスミレは、ふと傍らに座る女医に気づかわし気に声をかける。

 

「熊野さん。大石さんの診察の方は大丈夫でしょうか? いつもは確か毎週水曜の午前中にしていたと思うのですが?」

 

「あらやだ私ったら! じゃあスミレさんあとは若い人同士でよろしくね! 

 ……あまり気を落とさないでねスミレさん。私もこの町の人たちも皆あなたの味方だから」

 

「……ありがとうございます」

 

 そう言って熊野女史はあわただしく出ていった。それを確認したスミレはガイの方に向き直る。

 僅かな所作から見える緊張にどこか煤けた疲弊を感じる表情。

 ただでさえ倒れたばかりで暗い表情をより暗くしたスミレにガイは確信する。

 なにか、事情があるなと。

 

「昨日は雨の中私を助けていただきありがとうございました。……でもあえて言わせていただきましょう。

 どうして私を助けたのですか? クレナイ・ガイさん。いえ、ウルトラマンオーブ」

 

 

 そうこのクレナイ・ガイという青年はただの風来坊ではない。

 遠い昔五千年前に存在していたイシュタール文明全盛期の頃より、地球で戦い続けているウルトラマン、ウルトラマンオーブが彼の正体である。

 

 如何にこの星に来て長いと言えど宇宙人以外で彼の正体を知る者は少ない。

 生きている地球人で知っているのはおよそ3人。

 それ以外はもう長い眠りについた。

 

「君は……気づいていたのか!?」

「ええ。私もあなたと同じ宇宙人、この星の人々にとっては望まれない異邦人ですから。

 それなりにこの星に来て長いですし」

 

 そう言ってスミレは自身の出身惑星を告げる。

 それはガイにとっても聞き覚えのない名前の星だった。

 

 彼女曰く周辺の星との星間戦争の末に滅び、今はもう跡形もなくなっている。

 スミレはその戦争の末期、少年兵をしていたという。

 

「私は偶然宇宙船を入手し滅びゆく母星から一人何とか落ち延びました。けれど少年兵である私には宇宙船の碌な操縦法もわからず彷徨ううちに────気が付いたら百数十年前のこの星にたどり着いていました」

 

 人間にとってはこの国の年号が明治だった頃の大昔、しかしスミレやガイの様な長命な宇宙人にとってはほんの少し前に思える過去。

 当然のように死の恐怖すら感じず、いつかは自分も戦いの中死んでいくのだろうと思っていた当時のスミレは生きていたといえるのだろうか。

 故にスミレは自身の始まりを地球に降り立ったその日であると定義している。

 

「重傷を負った私をこの館の主である園崎家の方たちはかくまってくださいました。

 どこの馬の骨とも知らない私をです」

 

 それは遠き日の懐かしき、今となっては哀しみと共に語られる思い出だ。

 

「当時の園崎家の当主であった旦那様と奥方様は私の身を憐れみ、この家の一員として迎え入れてくれました。当時の私はまだこのような人間の姿をしていなかったというのに」

「それは凄いな」

 

 ガイは園崎家の行為に感服する。

 今より昔の異質な物への忌避の強かった時代にどこの誰とも知れぬ宇宙人の命を救ったのは並大抵の優しさや勇気のなせるものではない。

 地球だけでなく何もかも異なる人々の間に起きる対立をその目で見てきたガイは心からそう思う。

 

「ええ。本当に優しい方たちでした」

 

 スミレは昨日のことのように思い出せる。まだ虚ろな目をした自分に話しかける夫妻の笑顔を。

 それはスミレの記憶の中でも一番美しい物だ。

 

「それから私は園崎の使用人として生活することとなり、今に至るまで園崎家の方々にお仕えしてまいりました。

 地球のことなど何も知らない私にとって難しい事もありましたが────私に愛情を注いでくださる方たちの為に働く生活はとても楽しい物でした。

 あの外の菫を植えた花畑が見えますか?」

 

 そう言ってスミレは外に視線を向ける。屋敷の庭には丁寧に整えられた花壇があり、そこには菫を始めとする多種多様な花々が咲き誇っている。

 その美しさは花に興味のない者も自然に足を止め見とれるような、温かみのある鮮やかさがあった。

 

「ああ。綺麗な花畑だ」

 

「ありがとうございます。奥様が私に名づけてくれたスミレという名前──その基になった花の種を私が地球に来てから一年後に下さいました。

 それから私は菫を始めとする花々を育ててまいりました」

 

 花畑の事を語るスミレは少しだけ自慢げだった。

 

「園崎家の方には花のお名前を持つ方も多かったので、新しく家族が増えるたびに新しい花を植えて、今では花畑もここまで大きくなりました」

 

 そう話すスミレはどこか嬉しそうだった。

 花畑にまつわる園崎家の人々との思い出が蘇ってきているからだろうか。

 

 しかしその表情はすぐに一変する。自身のおかれていた現実を思い出してしまったからだ。

 

「……でももうこの花畑を世話する必要はなくなりました。もう園崎家の方は一人もいらっしゃらないのですから」

「一人も……?」

「────はい。十年ほど前に亡くなった旦那様は厳格な方で、反発された菊乃お嬢様は家を駆け落ちして家を出て行ってしまいました。そしてビートル隊に勤務されていた蓮司様は、4年前のマガオロチとの一戦で、戦死されました」

「マガオロチ、か……」

 

 魔王獣と呼ばれる大怪獣の頂点に立つ大魔王獣マガオロチとの一戦────それはガイにとっても他人事ではなかった。魔王獣と呼ばれる強力極まりない怪獣の頂点に立つ大魔王獣マガオロチとの一戦はどうにかガイに軍配が上がったがその過程ではビートル隊の隊員などに多くの犠牲者が出た。その中に園崎家の人間が含まれていたとしたら。

 

「……すまない。俺の力不足で君の大切な人を失わせてしまった」

 

「あなたを恨んではいません。私もあの怪獣の強さは分かっています。むしろ良く蓮司様の仇をとってくださいました」

 

 そう言ってスミレはガイに向けて頭を下げる。

 しかしその声は抑揚がなくどこか気の抜けたような虚ろさがあった。

 

「……そして先日奥様がお亡くなりになりました。親戚の方とは疎遠でしたので、奥様はこの家と財産のかなりの割合を私に相続させるよう遺言をなさいました。

 奥様がそれほど私を大切にしてくださった事はとても嬉しいです。でも」

 

 そう言ってスミレは言葉を切る。そのマリンブルーの透き通った瞳には次々と涙が浮かび、流れ落ちていく。

 

「私一人がこのまま生きていて何の意味があるのでしょうか。もう、この花畑を見せてあげたい方もっいないのに……!」

 

 大雨の後のやや強い風を受け、花々は何も言わずにただ揺れていた。

 爽やかな日差しが燦燦と降り注いでいるのにもかかわらずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(まずいな。どうしたもんかなこりゃ)

 

 数日後、園崎家の屋敷から歩いて十分ほどの蕎麦屋の中でガイは悩んでいた。

 どうすればスミレに生きる希望を取り戻すことができるのだろうか。スミレが自ら命を絶つことがないように、あれこれ理由をつけてこの地にとどまりスミレを見守っているのだが、ガイの言葉は一向にスミレを元気づけることはない。

 無理もない。スミレにとって大切な園崎家の人間はもう一人もいないのだから。

 

 無論赤の他人であるガイにスミレを見守義務などはない。

 しかし袖すり合うのも多生の縁というが偶然のか細いつながりが一生の宝物となる事もある事をガイは人生経験から知っている。

 それにあそこまで摩耗した人間を見捨てることは彼にはできなかった。

 

(他人の事情に踏み込むのはいい事じゃないとわかってる。でも俺は────)

 

 ガイにとっても大切な人を失った経験はある。それは自責と絶望を伴う悲痛な物であったが、その果てにあったのは────

 

「お客さん待たせましたね、はいざるそば一丁!」

「オオ、待ってました!」

 

 そこまで考えた所で頼んでいた蕎麦が来た。

 悩んでいても仕方ないとガイは食べ始めるが、そのうまさに目をむく。

 

「うん! うまいなこの蕎麦!」

 

 天ぷらといったトッピングなどのないシンプルな蕎麦であるのだが、麺に程よいコシと歯ごたえがあり、さらに特別製のつゆが素材の良質さを引き立てている。

 薬味のわさびも良質な物を使っているのか、程よい辛みでガイの舌を刺激する。

 

「こんなにうまい蕎麦は久しぶりだな。お代わりを頼むよ」

 

「はいざるそばいもうっちょー! そう言ってもらうとここの一人娘としては照れるな~。

 ご先祖様の写真だけじゃなくて味の方でも有名になるといいんですけどね──」

 

「ご先祖様の写真?」

 

「あああれです。あれあの古そうな奴」

 

 そういって少女が指さしたのはカウンターの上に張ってある写真だった。

 セピア色に色あせたそれにはどこかの森林をバックに黒い恐竜の様な怪獣と銀色の巨人が映っている。

 

「あれは……驚いたな」

 

 ガイはその写真の見覚えがあった。ガイにとっても因縁深い地である旧ルパシカ皇国の森林地帯でキングザウルスⅡ世という怪獣と戦った時の写真だ。

 あの時は確か地元のモロゾフ卿という若い貴族がその光景を写真にとって新聞に載せていた事をガイは覚えている。

 長い活動でも現代ならともかくあの時代にオーブの姿がメディアに登場したのはあれくらいだ。

 

「私の母が北の方の国の出身なんですけどご先祖様から受け継いでいた品の中にあれがあったんです。

 四年前のウルトラマンブームのおかげで今は落ち着いたんですけどあの写真目当てのお客さんが沢山……あれ? どうしました?」

「い、いや。なんでもない」

 

 人とのつながりは思わぬところである物だ。蕎麦をすすりながらガイはそう感じた。

 

 そうしてガイが蕎麦のお代わりを食べ終えた所だった。蕎麦屋の玄関の引き戸が勢い良く引かれ、少女が一人入ってくる。

 

「はあっはあっ……すいません道を教えてください! 」

 

 息を弾ませた少女の背には大荷物。蕎麦屋に飛び込んだ勢いのまま声を張り上げる。どうやらいてもたってもいられないといった様子だ。

 

「園崎さんのご自宅はどちらですか!? 」

 

 その少女をガイは見やる。スミレと対照的に黒い髪をした少女の目はどこまでも真剣だった。

 

 



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ウルトラマンオーブ菫色のメモリア 後篇

 穏やかな春の日差しの中、スミレは自室の椅子に座って、写真を見ていた。

 十数年前に撮られたその写真は園崎家の全員が写った写真。今頃は園崎家の全員がこの館にそろっていた。

 まだスミレが幸せであった時代の頃の話だ。

 

「私はどうすればよいのでしょう……」

 

 スミレは思い出す、園崎家の最後の一人がいなくなった時の事を。

 

 

 ────ありがとうねスミレ。あなたが私を見守っててくれたおかげでこれまで幸せだったわ。

 

 ────そんな! 幸せにしていただいたのは私の方です! 園崎家の皆様がいてくれたから私は! 私は! 

 

 ────ふふ、それはお互い様かもしれないわね。……最後だからよく聞いてスミレ。園崎の人間はあなたを愛し、あなたは園崎の人間を愛してきた。

 その絆は見えないけど確かにあるわ。だから私が死んでも……決して絆が失われてしまったわけじゃない。

 だから、諦めないでね。

 

 ────おくさま……

 

 

 それが彼女の、スミレが生まれたときから見守ってきた園崎家の一人の遺言だった。

 恩人の遺言の内容は確かにスミレの支えとなっている。

 だがしかし。スミレはもう一人だけであり、そしてその寿命は地球人のそれと比して長大に過ぎた。

 

「ひっ……」

 

 スミレは想像する。この屋敷の中自分が長い時間を一人で過ごす事を。自分を愛する人のいない無意味な生を。

 それは絶望的な想像であった。空虚な生。

 未来のない灰色だったスミレの人生は園崎家の人々と出会う事によってようやく彩を得た。

 だがその彩が今はもう失われてしまった。

 一度生える事が出来た、かけがえのない大切な物を奪われる残酷な仕打ちにスミレは耐えられない。

 

「うっううう……一人は……一人は嫌……」

 

 静かな自室で一人スミレは嗚咽する。孤独が猛毒のようにスミレの心を蝕む。もはやスミレには立ち直る気力がなかった。静かな館をすすり泣きが満たす。

 

 しばらく泣いていたスミレはガイが来る時間になっていることに気づき、居住まいをただす。

 恩人であるガイに自身のみじめな姿を見せるわけにはいかなかった。

 そうして自身の身支度と屋敷の調度を整えたスミレはガイを出迎える。

 

「こんにちはガイさん」

「ああ。こんにちは」

 

 呼び鈴が鳴りスミレはドアを開ける。そこにいたのはガイと、そして大人びているがまだ小学生ぐらいの少女がいた。

 

「あ、あの初めまして! 私は大石朝日と言います!」

「ええ、はじめまし……て?」

 

 朝日と名乗ったその少女の顔を見てスミレは硬直する。

 その少女の顔立ちはスミレの良く知る人物、十数年前に園崎家を出ていった菊乃の幼少期に似ており────

 

「あなたは、菊乃……様に、似て?」

「やっぱり! お母さんを知っているんですね!」

 

 スミレはその反応を受け目を見開く。朝日の言葉が差す意味はつまり────

 

「どうやら間違いないらしいな。スミレさんこれを見てくれ」

 

 朝日の物らしい荷物を抱えていたガイは書類を差し出す。

 スミレが急いで読んだその書類の内容を要約するなら、十数年前に園崎家を出奔した菊乃は数年前に夫と共に交通事故で死亡している。

 しかしその一人娘がいた事が園崎家の顧問弁護士の調査で明らかになったという物だった。

 

「ならあなたは園崎家の、私の……私の家族のっ」

 

 朝日が誰であるかという結論にたどり着いたスミレは感極まったように声を詰まらせる。

 その言葉を聞いた朝日もまた同様の反応を示した。

 

「お母さんやお父さんが死んで私はもう、もう一人ぼっちだと思っていました……。でも、でも私にはまだ家族がいたんだぁ……!」

 

 朝日は泣きながらスミレに抱き着き、泣きじゃくる。スミレもまた朝日を抱きしめすすり泣く。

 その涙は先程の絶望の涙とは全く異なっている。

 もういないと思っていた家族に会えた安堵と喜びの涙だった。二人は失った後に家族を、愛を得た。

 

 二人を邪魔しないように少し離れたガイはその光景を見て穏やかに笑う。

 この世界を回すのが愛ならばこの奇跡は必然的な事だったのだろう。

 いつだって誰もが誰かに愛されているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜に吹いた気まぐれな風が花びらをふわりと運び、どこか舞う様に飛ばし行く。

 春らしい穏やかな夜が訪れていた。

 

 灯のついた屋敷の中、スミレと朝日はリビングで話し合っていた。

 スミレは菊乃が屋敷を出てからどのような人生を送ったのか、また朝日自身について知りたかった。

 朝日も自身が血を引く園崎家の人々がどの様な人間だったのか、またスミレがどういう人間だったのか知りたかった。

 その為やや遅い時間になっても二人とも話を続けていた。

 

「そうですか……菊乃様のお菓子作りの腕はそこまで上達されていたのですか」

「お母さんは師匠がよかったっていつも言っていましたけどねー」

「これでも百年以上やっていましたからそれなりには得意なのです。

 朝日さんも今度一緒にケーキを焼きましょう」

 

 朝日は母からスミレが宇宙人である事を聞いている。

 だが朝日はそれ些細な事として特に気にしていない。

 自身の生まれるずっと前から祖母や母と暮らしてきた、亡くなった母から何時も話を聞かされていたスミレを信じているからだ。

 嘘偽りのない信頼、今日あったばかりの朝日とスミレの間にはそうした絆が生まれ始めていた。

 

 そうして二人は大切な過去と希望に満ちた未来、その両方についての話を続ける。

 だがある時突然、スミレが血相を変えて窓に駆け寄る。

 

「ど、どうしたんですかスミレさん!?」

 

 驚く朝日もスミレの行動の理由をすぐに理解する。

 窓の外、スミレが感じ取ったのは街の郊外に落ちるのは青と黒のどこか毒々しい流星。

 それが差す意味はつまり────宇宙からの悪意の来襲である。

 

 平穏な街の郊外に禍禍しい巨大な怪獣が降り立つ。

 土煙を上げて降り立った怪獣の姿は赤ん坊にすら明確にわかる、それほどの凶悪さだ。

 

 凶悪という言葉を獣の姿に押し込めたかの如き怪獣は、第一印象にたがわぬ凶悪な面相に、同様の顔を両腕に生やした異形の三つ頸。

 さらに堅牢極まりないどす黒い甲殻は鎧のように筋肉質な体を覆っている。

 身体の各所に生えた不吉な赤色の棘が一層それらの不穏な印象を強めていた。

 

 この怪獣は凶悪極まりない姿に違わず幾多の文明や星を滅ぼしてきたその名を凶獣ルガノーガーという。

 

 人々の住む家といった建造物、そして花畑などから自身の滅ぼすべき文明の存在を認め、ルガノーガーは獰悪な雄たけびを上げる。

 そして口に青黒い光線をチャージした。その目的はここら一帯の完全壊滅。そしてその破滅をルガノーガーは地球全域に向けて広げていくだろう。

 そしてそれはスミレや朝日の暮らす館、そして外の花畑をも滅ぼしていく事になるはずだ。

 

 ──────────だが我々は忘れてはならない。宇宙には理由なき悪意のみでなく、人と人との絆が生み出した光も存在することを。

 

 既にルガノ―ガーの姿を視止め、どこからともなく現れたガイは花畑の道を疾駆する。

 その瞳に宿るのは不退転の意思。ガイは多くを語らない。

 されどスミレや朝日の、人々の未来を壊させてなるものかと、その瞳がガイの意思を雄弁に語っていた。

 

 その右手の持つのは赤と銀の環。

 神秘の環、オーブリングにルガノーガーにある程度近づいたところで環にカードを差し込んでいく。

 

「ウルトラマンさん!」

 

《ウルトラマン》

 

 どこからか勇ましい声が鳴り響く。

 

「ティガさん!」

 

《ウルトラマンティガ》

 

 二つ力が一つになりガイを中心に集まっていく。

 それは古より受け継がれ二つの光の力の結晶。

 ガイが受け継いだ幾多の宇宙を守った光の巨人の力。

 

「光の力、お借りします!」

 

《フュージョンアップ! ウルトラマンオーブ、スペシウウムゼペリオン!》

 

「闇を照らして、悪を撃つ! 」

 

 そして光が天へ伸び、巨人の身体を形成する。銀をベースに赤や紫といった多色が入り混じったその姿はウルトラマンオーブスペシウムゼペリオン。

 闇を払う光の戦士が今宵も現れた。

 

『いきなりだが行くぜ! スペリオン光線!』

 

 地に降り立つと同時にオーブは必殺光線を放ち、ルガノーガーの禍禍しい光線を継撃する。

 二つの光がぶつかり合い、対消滅を起こして消え去った。

 それを見たルガノーガーは電撃や体表のとげ、各種の光線を放つが、豊富な技を持つオーブによって無効化される。

 光線の残滓が消え去る中両者は距離を詰め、格闘戦に移行。

 

『紅に燃えるぜ! 』

 

 オーブは赤い体色と二つの大角が特徴的な格闘形態バーンマイトに変身し、ルガノーガーと組み合う。

 両腕からの噛みつきを肘でいなし、オーブは焔の拳でルガノーガーの甲殻を殴る。だが

 

『ぐ……! 堅い!』

 

 ルガノーガーの甲殻は予想以上に堅い。

 腹部の甲殻に拳を打ち込み続けるも効果はなく、むしろ重厚なボディを活かしたルガノ―ガーの突進に跳ね飛ばされる。

『ぐああっ!』

 

「オーブ……!」

 

 スミレの見守る中吹きとばされたオーブは花畑の前に倒れるどうにか起き上がるものの、そこにルガノーガーがフルパワーの電撃を打ち込みその姿が爆炎に包まれる。

 

「あ……あああ……ガイさん」

 

 その姿を見て旭を抱き寄せるスミレは絶望する

 。自分は、アサヒはまた大切な物を理不尽に失ってしまうのか────と。

 

 その時だった。スミレの耳にハーモニカの音が聞こえた。

 どこか哀愁を帯びたその音色はスミレの胸を打つ。

 そして対照的にルガノーガーが何処か苦しむような唸り声をあげる。

 

 それは受け継がれてきた聖なる歌。

 人間の歴史が持つ受け継ぐ力を結晶化させたかのような優しく、それでいて勇壮な歌だ。

 

「スミレさん! あれ!」

 

 朝日が指さすのは爆炎の晴れた後も立ち続ける巨人の姿。ただしその姿は先程と様変わりしている。

 

「……私何年か前見たんです。お母さんと離れてしばらくした後怪獣に殺されそうになって」

 

 朝日は訥々と語る。

 一度は夢と思ったけどかつて自分は確かに見た。

 怪獣から自分を守る為に立ちふさがった光の巨人を。

 

 あの時の巨人と目の前で戦う巨人の姿が今、確かに重なった。

 体色は銀を基調に赤と黒、そしてその手には聖剣オーブカリバー。

 愛と正義を貫き、何度斃れたって蘇り、命を燃やして全て救い出すトゥルーファイター。

 

「あの日見た……光の巨人!」

 

『俺の名はオーブ! ウルトラマンオーブ!! 』銀河の光が我を呼ぶ!』

 

 それはウルトラマンオーブの真の姿、ウルトラマンオーブオーブオリジン! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハーモニカの曲の残滓が消えていく中、園崎家の館と花畑を背にしたオーブは厳かに歩み寄る。

 それに対しルガノーガーは電撃や破壊光線を斉射し、オーブを迎え撃つが全てが聖剣によってはじかれる。

 動揺で一瞬動きを止めたルガノーガーは今度は背中から無数のとげを生やし、オーブに向けて発射する。

 

『カリバーシールド!』

 

 だが微塵の揺らぎも見せずオーブは聖剣を掲げバリアを張り、無数の棘の連撃を防御する。

 大量の棘があらぬ方へ飛ばされていく中一本の棘が防御をすり抜け花畑へ飛ぶが、真っ二つになり、花畑を壊すことはなかった。

 

(あいつまた‥‥‥でも、助かった!)

 

 花畑に見えた銅色と黒の影──────ガイにとっては見覚えがあるにもほどがある影を一瞬目に焼き付けたガイは呆れる。また自分の後をつけてきたのかと。

 だがそれでも花畑を守るのに手を貸してくれたのはありがたい。

 

『はあああっ!』

 

 そしてオーブカリバーの間合いに至ったオーブは手にした聖剣でルガノーガーの体を切りつける。

 鎧の様なその甲殻も聖剣を防御するに至らず大した抵抗もなく切り裂かれていく。

 そのまま二度、三度とオーブはルガノーガーを切りつけ確実にダメージを与えていく。

 ルガノーガーは両腕の顎で噛みつきオーブの攻撃を押しとどめようとする。

 しかし、その狙いはオーブに読まれており、聖剣の側面による打撃で左側が、横一文字の斬撃で右側の顎が破壊される。

 

 痛みに咆哮するルガノーガーは接近戦ではかなわぬとたまらず圧縮空気を噴射して急速後退し、オーブから距離をとる。

 そして体の各部からのエネルギーを集中させ、一つの強大な光線を放とうと試みる。

 禍禍しい光が集中する中、オーブもまた聖剣にエネルギーをチャージし、それを真っ向から迎え撃つ。

 

「ギュアアアアアアアアアアッ!!!」

『オーブスプリーム……カリバーァァァァッ!!!』

 

 禍禍しい凶獣の一撃と聖剣の一撃が同時に放たれ、空中で激突する。だが互角のように見えたその勝敗は最初から

 決まっていたのかもしれない。

 片や破壊しか望まぬ凶獣、片や人々の絆を光の力に変えて戦う光の巨人、この宇宙を回しているものが愛ならばその勝敗は必然。

 ルガノーガーの光線をオーブスプリームカリバーが飛沫による被害すら出さずに飲み込んでいく。

 

 そしてルガノーガーに到達しその身を粉々に粉砕せしめた。

 春の風が吹き、花弁の舞う中光の巨人は聖剣を手に立つ。

 その雄姿はそれを見た人々の心にいつまでも焼き付いていた──────―。

 

 

 

 

 

 

 

 

 オーブとルガノーガーの戦いの翌日、スミレと朝日は花畑の手入れをしていた。オーブの奮戦により花畑が破壊される事はなかったが、それでも何か異常がないか点検が必要だった。

 それに朝日に花の世話を教える為という目的もあり、二人は春の日ざしの中仲良く花の世話をする。

 

 並んで花の世話をする二人はこの上なく幸せそうに見える。

 二人とも一度は家族を全て失った身だが、今はそばに家族がいる。

 朝日はスミレという家族がいる限り、スミレは園崎家が世代を超えて続いていく限り、その幸せはこれからも続いていくのだろう。

 

 その光景を見届けたガイは一人館を出ていく。風来坊は長く一か所には留まらない者。

 

「ヒヒッなるほどぉ……確かに美しい花だ。二、三本貰おう」

「ジャグラー。やっぱりついてきたのか」

 

 門に寄りかかりニタニタと笑っているのは少しばかり気味の悪い男だ。

 この男はジャグラス・ジャグラー、クレナイ・ガイの終生のライバルというべき男だった。

 その手には今朝こっそりと摘んだらしき一輪の菫の花がある。

 

「今回のことは勘違いするなよ。俺はこの花が欲しかっただけさ。お前を助けたわけじゃない」

「分かっているさ。お前が素直な奴じゃないってことは」

「は? 何言ってんだおお前?」

 

 腐れ縁としての長い付き合いだからかガイはジャグラーがこう言うだろうことを分かっていた。相変わらず素直じゃない奴だ。

 そう呆れるガイの前でジャグラーは不気味な笑いを残し何処かへ去っていく。

 

「まったくあいつは……」

 

 ガイもまたジャグラーとは別の方向に去っていく。ハーモニカの様な楽器を吹き綺麗な音色を奏でながら。その音はどこかスミレや朝日を祝福するような優しい音色だった。

 

 優しい音色が響き、美しい花畑で朝日とスミレが空を見上げる。

 一枚の絵画のように美しく、繋がり重なる未来を思わせる光景がそこにはあった。

 




本エピソードはこれにて終わりです。

読んでいただきありがとうございました。


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