世界最強のヴィランお兄ちゃん (揚げ物・鉄火)
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第一話

氷の男『アイスマン』のヒーローアカデミアのifルートです。
結構王道です。
出来れば本編も見て行って下さい。

それでは、どうぞ。ごゆっくり!



ある日…俺は生まれた。

この世に生を成し幸せな人生を過ごせると思っていた。

 

両親と兄弟に囲まれ幸せな子供時代を過ごしそこそこ有名な高校のヒーロー科に通い卒業しヒーローとして活躍し添い遂げる相手を見つけ子供を作り、育てヒーローを引退し充実した老後を過ごした後…子供や孫に看取られながらそっと目を閉じて穏やかにこの世を去りたいと願っていた。

 

だが全ては俺の勝手な妄想だった。

俺を出産してくれた母親は、出産の時に体力を使い果たし絶命したらしい。

父親は俺が生まれる数ヶ月前に死んでいた。

 

生まれた直後の俺を引き取ってくれたのは父の弟。つまり叔父だった。

叔父に引き取られやっと幸せを掴めると思っていた…だが違った。

叔父に引き取られた俺を待っていたのは虐待と言う名の地獄だった。

 

 

夜お腹が空いて泣いていたら叔父に殴られた。

必要な物を言ったら怒鳴られた。

勉強したいと言ったら酒瓶を投げられた。

歌ってたらうるさいと言われ首を絞められた。

座っていたら邪魔だと言われ蹴り飛ばされた。

何もせず無表情で居たら『その顔やめろ!』と言われタバコの火を押し付けられた。

部屋の隅っこでヒッソリと息を殺して座っていたら「目障りだ!」と言われ窓から投げ捨てられた。

少しでも気に入られようと味噌汁を作っていたら「クソまずいもん作ってんじゃねぇ!」と沸騰したお湯をぶっ掛けられた。

 

その時だろう…俺の中で大事な何かが壊れた気がした。

意識が全て消え去り気づいた時には…叔父(クズ)は死んでいた。

それも苦悶の表情を浮かべ凍り付いていた。

 

実にいい気味だと思った。

同時に美しいとも思った。

その直後に何かが変だと気づいた。

自分の視線がいつもより高かった。

そこでふと自分の体を見た。

 

自分の体は何故か氷に覆われていて身長は叔父を超える程高かった。

それを不思議に思いながら洗面所に向かい鏡を見ると一度だけ写真で見た父によく似た男がいた。

 

それが自分だと気づいても特に驚く事も無くすんなり受け入れた。

これが自分なのだと…そして、この力は自分の物なのだと…

 

 

自分の姿を確認した後はお腹が空いていたので町に向かった。

 

初めて歩く町で何か食べれる物を探したが何も見付からなかった。

 

何も無い事に絶望しベンチに座っていると黒髪の小さな女の子が飴玉を差し出してきた。

「ん?」

「んっ!」

 

それを受け取り感謝の印に自分の手から小さな氷の髪飾りを作り出し女の子にプレゼントした。

 

女の子はすごく喜んでくれた。

 

飴玉を食べ終えもう一度歩き出そうとすると近くから爆発音が聞こえた。

 

周りの人間の騒ぎ出していると音が聞こえた方角から巨大な怪獣のような生物(ゴジラ擬きのヴィラン)が現れた。

 

その直後に珍妙な格好をした男達がその怪獣を相手に戦っていた。

 

周りの人間は「行けー!」とか「やっつけろー!」とか騒いでいたがやがて珍妙な格好をしていた男の一人が怪獣(偽ゴジラ)の攻撃により吹っ飛ばされた。

 

そこで連携が崩れたのか他の男達も次々に倒されて行きついに怪獣は、こちらに向かって走り出した。

 

それを見た人達は、初めて自分達が置かれている危険に気づき逃げ惑う。

 

その中で偶然、先ほど飴玉をくれた黒髪の女の子が腰を抜かして動けない事に気づいた。

 

怪獣は真っ直ぐ女の子の方に向かっていた。

 

すぐに助け出そうと立ち上がり手に入れたばかりの力を使う事にした。

 

第三者視点

 

人混みの中から白い人影が飛び出て来た。

それは、髪も肌も服に至るまで真っ白な男だった。

だがその男には暴力的なまでの美しさ。

圧倒的な力の波動。

そして異常なまでのカリスマを兼ね備えていた。

 

その男を言い表すなら『白馬の王子』か『氷の王子』もしくは『究極の造形美』と言う言葉がぴったりだろう。

 

その男が何人ものヒーローを倒し暴れ回るヴィランと逃げ遅れた黒髪無表情の女の子の間に立つ。

その姿は歴戦の戦士が姫をドラゴンから守るような光景だった。

 

誰もが見とれている中、男は小さく囁くように口を開く。

 

氷の怪物(アイスモンスター)怪獣王(ゴジラ)!」

 

その声は決してオールマイトのように大きく逞しい声やヒーロー達が発する安心する声では無くまるで…魂に直接響く自分が最強だと信じて疑わないような絶対王者の風格を感じさせる声だった。

 

次の瞬間、ヴィランや周りのビルを超える巨大な氷の怪物が現れた。

 

 

それはまさに巨大な化け物。

太い両足に巨大な胴体、背中には背びれのような物が3列に並んでいる。その体に不釣り合いな小さな腕を持ち恐竜を思わせる頭に体より長く太い尻尾を持った巨大な氷で出来た怪物。

ハリウッド版ゴジラ(うろ覚え+氷製)が現れた。

それと同時に先ほどまで居た白髪の男の姿が消えていた。

 

『ギュオオオオオオォォォォォォン!!!!』

突然現れた氷の怪物に対し怪獣(偽ゴジラ)が咆哮を上げた。

 

スゥーッ…!

『グルァァァァァアアアアアアアアアアアアアア!!!!』

それに対し氷の怪物は、相手と周囲の人間に力の差を分からせるかのような大きな咆哮を轟かせ一歩だけ前進する。

ズウゥゥゥゥン…!

 

『グゥゥ…』

それに対し怪獣(偽ゴジラ)は、氷の怪物を見上げながら一歩退く。

 

ズウゥゥゥゥン…!

氷の怪物がまた一歩前進すると怪獣は二歩後退する。

 

 

『グッ…グオオオオン!!』

怪獣が己に喝を入れるように雄叫びを上げ氷の怪物に向かって突撃する。

 

『……』

だが悲しいかな…二体の間には圧倒的なまでの体長差が存在していた。

 

怪獣(偽ゴジラ)の体長は精々30メートル前後。

対する氷の怪物(アイスモンスター)の体長は、優に100メートルを超えていた。

 

氷の怪物は、右足を引き怪獣が近づいて来た辺りで蹴り抜いた。

 

『ガッ…!!!!!???』

蹴られた怪獣は己の肉体へのダメージを認識しビルを幾つも倒壊させながら吹っ飛ばされる。

ドッドッドッドッドゴンッ!!

 

『ギュアアア!!』

一方の怪物は、怪獣が吹っ飛ばされた方向に歩みを進める。

 

キィィィィィィィィィィィン!!!!

だが丁度その方向から極細の紫色の光線が放たれ氷の怪物に直撃し爆発する。

ズガ――ンッ!!

 

『ギュオオン!?』

光線が放たれた方向を見ると先程とは違う見た目の怪獣が立っていた。

 

割と細身な上半身とは対照的にかなり太ましい脚部という独特なバランスの体型、そして先端が歪な形状をした本体よりも長い尻尾と掌を上に向けた非常に小振りな両腕を持ち、足は鳥や肉食獣のような爪先立ちである。

全身はまるで焼け爛れて炭化したかのような質感の体表で覆われ、ある箇所は皮膚が引き攣って破れているように、またある箇所は骨が露出しているようにも見える。そして皮膚の内側からは高温を放つかの如く赤い光が漏れ出している。

 

その姿を言い表すならば悪魔という言葉が相応しいだろう。

新しく現れた怪獣の名は…シン・ゴジラ。

その体長は氷の怪物(アイスモンスター)と同様に100メートルを優に越している。

 

 

『……』

『……』

二体の怪物が睨み合い。

 

『ギュオオオオオオオオオオォォォォォォン!!!!』

『ギュアアアアアアアアアアァァァァァァァ!!!!』

互いに咆哮し走り出す。

 

 

 

そこからの戦いはまさに怪獣特撮映画並みの戦闘だった。

 

氷の怪物(アイスモンスター)がシン・ゴジラにタックルで吹き飛ばす。

負けじとシン・ゴジラも懐に入り込み体全体を使って担ぎ飛ばす。

飛ばされた氷の怪物(アイスモンスター)は、途中で姿を三首の黄金龍へ変え周囲の建物への被害を最小限に抑える。

再び氷製の怪獣王(ゴジラ)へと姿を変えた怪物は、縦回転しながらシン・ゴジラに突進し尻尾の一撃を食らわせる。

その攻撃にシン・ゴジラが怯んでいる隙に尻尾を首元に巻き付け地面へと叩き落す。

だがシン・ゴジラも負けじと背中から大量の放射熱線を放ち氷製のハリウッド版ゴジラに傷を付ける。

 

『グゥゥゥ…』

やっと立ち上がれたシン・ゴジラは、氷の怪物(アイスモンスター)を忌々しく睨みつける。

キュィィィィィィィィン……!!

そして口の中で放射能を集中させて作った光線を発射する。

 

『ガァァァァ!!!』

それに対し怪物は、口を開き口内へと移動した冷気(本体)が右手を向けていた。

そして口を開く。

 

「四界氷結!」

その技を放った瞬間、シン・ゴジラが発射した光線と周りの空間ごと完全に凍り付いた。

 

「ヒュォォォ…吸収」

完全に物言わぬ氷像となったシン・ゴジラを吸収し元の人間の姿に戻り先ほど飴玉をくれた少女の元に向かう。

 

「君……大丈「ば、化け物!」え?」

大丈夫か?と聞こうとした時その声が聞こえ辺りを見渡すと周囲の人間達が恐怖した目で彼を見ていた。

 

「あ、あんな怪物を一方的に倒せる奴なんて化物に決まっている!」

「こいつも途轍もないデカさの怪物を出しやがったぞ!」

「き、危険だ!危険すぎる!」

「ひ、ヒーローは?ヒーローはまだなの!?」

誰かが喋ったのを皮切りに民衆が次々と口を開き罵詈雑言を浴びせ始める。

 

「ち、違う…俺はただ…」

それに対し反論しようと口を開くが民衆は聞く耳を持たない。

 

「こっちに来るな!」

「どっか行けー!!」

「その子から離れろ!」

しまいには、石やゴミを投げ出す者まで現れる。

 

「待って…!お、俺は!」

それらを即席の盾で防ぎながら尚も反論しようとする。

 

そして…

『赫灼熱拳プロミネンスバーン!』

「がっ…!」

事情を殆ど知らないエンデヴァーにより顔を殴られ先ほど助けようとした黒髪の子の近くまで飛ばされた。

 

ズザーッ…

「う、グゥ…き、君…大丈夫?」

「ヒッ…!」

顔上げ助けようとした少女に無事か尋ねると恐れられた。

 

それもそうだろう彼の顔は先ほどのエンデヴァーの攻撃により片方の目から口にかけて溶かされており若干…いや、かなりホラーな姿になっていた。

だが本人はそれを知らない。

それを知らないからこそこんなにも恐れられ攻撃される理由が理解出来ない。

 

「ヴィランよ。貴様の悪行もここまでだ!」ズチャッ!

「俺は…」

近づいて来たエンデヴァーを認識した彼は、ゆっくり立ち上がり雲一つない空を見上げる。

 

「俺は…!俺は――!!!」

全てに絶望した彼は、己の体に氷を纏わせ巨大な氷の鳥へと姿を変え遥か上空へと飛び立ち姿を消す。

 

「クッソ!逃げられた!」

「あ…」

目の前でヴィランを取り逃がしてしまったエンデヴァーは、悔しそうに燦々と照り付ける太陽の上った空を見上げ助けられた少女…小大 唯は頭の髪飾りにそっと触れる。

 

 

 

その数日後、全世界に最凶最悪のヴィランとして彼の名が報道される事になる。

 

 




この時の冷気君の年齢は約10歳(精神年齢は20数歳)。
小大さんの年齢は3〜4歳ぐらいです。
つまり…分かりますか?

反響があればめっちゃ続きます。


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第二話

お久しぶりです。
やっと書き終えました…コロナのせいで課題が増えまくって、そりゃあもう大変…なんとか書き終えました。

少しだけ時間が飛びます。

では、どうぞ。ごゆっくり!


「………」

巨大な氷の怪鳥となった冷気は日本を出てただひたすら東へと飛んで行くと巨大な大陸に着いた。

その道中に燃え盛る炎の島に生息する炎の巨人(スルト)を目撃したが無視する事とした。

 

「……アメリカ?」

看板や標識が全て英語で書かれていたのでここはきっとアメリカだろうと考え適当に歩き始めた。

 

 

その後もちょくちょく事件に巻き込まれ反撃しているうちに完全に闇落ちしヴィラン化した。

 

 

~数年後~

深夜の港

 

「………」

蟀谷から角を生やした笑顔の表情の描かれた仮面を被った深い青髪の男が港の倉庫の前で右手にスーツケースを持った状態で待っていた。

この男が今から行う武器の密売の取引相手である武器商人の男を待っているが…その取引相手が遅れてる。

 

「…」チラッ・・・

男がケースを片手に腕時計を確認しながら帰ろうかと考え始めた頃、一台の黒い車と三台の大型トラックがやって来る。

 

「…遅い」

取引相手が遅れた事に苛立ち右手に氷製のデザートイーグルを形成したがそのまま仕舞い、車が停まり相手が降りて来るのを待つ。

 

「やあやあ、遅れてすまない!武器の調達にちょっとばかし時間が掛かってしまってな!」

「別に良い…それよりもちゃんと揃ったか?」

軽く謝罪しながら車から降りて来たのは数人の黒スーツを着た異形型個性の男達と白い高級スーツを着た黒いサングラス姿の男。

青髪の男は彼らの乗って来た車とトラックを見ながら質問する(声からして青年のようだ)。

 

「おう!バッチリだぜ!…だがその前に現金を確認して良いか?」

「…」

「念のためだ。分かるだろ?」

「…」

男の言葉に青年は何も言わずスーツケースを開ける。

 

「おいおい…銀行でも襲ったのか?」

「昔何度かな…だがこれは正真正銘、俺が稼いだ金だ。300万ドル…お望み通り全て100ドル札でだ」

「…完璧だ。では商談と行こう」

スーツケースの中身を確認した男は満足そうに頷いてから部下に武器を持ってこさせる。

 

 

「さてと、あんたが望んだのは可能な限り大量の武器と強力なヤツだったな?」

「そうだ」

「しかも出来ればガトリングガンも調達して欲しいと…」

「見つかったか?」

「完璧だぜ兄弟!この俺に調達出来ねえ武器は存在しねえ!」

スーツの男は、腕を広げながら車のトランクを開けて部下が用意した台の上に銃を並べる。

 

「まずは、このベイビー達だ!」

そう言いながら二丁のサブマシンガンを持ち上げた。

「Vz61…別名.スコーピオンだ。種類はサブマシンガン。口径は7.65㎜。装弾数は30発。分間750~800発ほど撃てる代物だ!今なら弾を3000発付けてやる。買うか?」

「…」

青年はサブマシンガンを色んな角度から観察したり構えたりしてから台の上に戻す。

 

「だんまりか…まあ良い。じゃあ、お次はコイツだ!」

次に取り出したのは、二丁の散弾銃(ショットガン)

 

「モスバーグM500とレミントンM870だ。今なら弾を30発ずつ付けてやる」

「うん…」

それぞれの銃を確認してから再び台の上に置く。

 

「気に食わんか…ならこのウィンチェスターM1887/1901ならどうだ?レバーアクション式の散弾銃で装弾数は5発だ。ターミネーターごっこをやりたいならこれがオススメだ!今なら弾を60発付けて800ドルで良いぞ?」

「ふむ…」

持ち上げて構えたり手ごたえを確かめてから銃を台の上に戻す。

 

「なるほど…分かったぞ!威力が気に食わないんだな?それならこいつだ!」

納得したように頷いた男はトラックの荷台から黒い毛布に包まれた武器を取り出す。

 

「バレットM82。いわば対物ライフルだな。数キロ先の標的もハッキリ見えるスコープ付き。威力も申し分なく強化ガラスやコンクリートの壁越しでも相手を確実に仕留められる威力だ。装弾数10発で「買った」毎度あり!」

説明中に青年が購入を決めたのを見た男は、頷きながら次の武器を紹介する。

 

「なるほど!こういうのが好みか。それならとっておきのヤツを持って来てある」

そう言って部下が持ってきた大き目の木箱から大型の武器を取り出す。

 

「ロケットランチャーと回転式6連グレネードランチャーだ!説明はいるかな?」

「不要だ。両方とも買わせて貰う」

「そう来なくっちゃ!」

青年の答えに男は上機嫌になっていく。

 

その後もひたすら武器を見せては買う買わないの話が続き今晩の取引のメインの時間になった。

 

「さて…今回の取引のメインだ!」

サングラスの男は大きく手を広げながらトラックに積んであるガトリングガンを取り出す。

「はぁ~…まさかコイツを買おうって奴が現れようなんて思いもしなかったぜ」

恍惚とした表情を見せながら2種類のガトリングガンの紹介を始める。

 

「まずはM61バルカンだ。銃砲身6本。発射速度は、分間6,000発。威力は申し分なし」

「もう一丁はM134。いわゆるミニガンだ。こいつも発射速度分間6,000発。こいつも最高品質だ。買うか?」

「ああ…両方買うよ」

ガトリングを持ち上げた青年は満足そうに頷きながら購入の意志を示す。

 

機嫌を良くした男は、そのまま武器の紹介を続ける。

「じゃあ、お次は…こいつらだ。欲しい奴を言ってくれ」

そう言いながら何種類もの武器を取り出し並べる。

「ブローニングM2。KPVを頼みたい」

「丁度あるぜ。他には?」

「M16とM4カービン。AK74とAN-94。H&K HK416。あとは…ベレッタAR70/90とAR-18。それにブッシュマスターACRを頼めるか?」

「思ったよりもいっぱい買うな。他にはいいのか?」

「ならM249とM60も頼む」

「オーケーオーケー。これでどうだ?」

青年が注文をしていくと男の部下達は慌ただしく次々と並べていく。

 

「完璧な品揃えだな」

「それがウチの自慢だからな!」

青年の呟きに男は楽しそうに返事した。

 

「こんな所かな…」

「オーケー!良い取引だった!武器の値段は合計で…」

「ケースの中身を全部持ってて良い。あまりはくれてやる。はした金だ」

「マジかよ!?じゃあ、また次回も頼むぜ?」

「また近いうちにな…」

全ての武器の支払いを終わらせた青年は、男達が乗ったトラックが遠ざかるのを確認してから個性を発動させた。

 

「アイスエイジ」

その言葉を口にした瞬間、金を積んだトラックが一気に凍り付き、そのまま割れる。

 

「さて…後片付けも準備も済んだし…懐かしき故郷へ帰るかな?」

そう呟きながら青年…冷気 零は、携帯を取り出し警察へと通報する。

 

『はい、こちらFBI本部』

「港の前に凍り付いたトラックが数台ある。全員武器商人だ。捕らえに来い…『ロード(LORD)』の最後の置き土産だ」

『なっ!?ちょっと待て!あんた誰「ピッ!」ツー!ツー!ツー!』

言うだけ言って電話を切りそのまま端末を海に投げ捨てた。

 

「さて…航空券でも買いに行こうかな?」

歩きだした青年は、わざわざトラックの方に向かい、まだ息のあった武器商人の男の顔面に銃弾を13発撃ち込む。

「いろいろ持って来てんな…スローイングナイフもあるのか。これも貰っておこう」

三台のトラックの荷台に積まれていた全ての武器回収し終えると空港に向かった。

 

そして、その足で空港に向かいイギリス行きのチケットと小説を購入。

イギリス,ロンドンの高級テーラーに赴き、オーダーメイドのスーツを作成している間に老舗の高級ホテルに宿泊。

イギリスでヒーロー達と戯れて(戦って)いる一方で、ちゃっかり女王陛下に挨拶したり、おば様方とお茶会を楽しみ、イギリス人女性を口説き落とし1週間限定の恋人として宝石のように扱い幸せにしたりと色々やった。

 

今度は、電車を乗り継ぎイタリアに移動。

世界遺産を見て周り、またヒーロー達と遊び(戦い)、ついでに絵画を見て周り心行くまでイタリア旅行を楽しんでからフランスに移動。

 

フランスでは、憧れだったフランス料理を堪能し、その場に居た美食評論家達と美食談義で大盛り上がり。

帰り際、美食家の一人に高級車を提供されて、それをありがたく頂戴しフランスから去って行った。

 

そして、フランスで知り合った老紳士のご厚意で日本までプライベートジェットで送って貰い、ついに日本に世界最強と謳われるヴィラン『ロード』が帰還した。

 

 

「さあ、始めようか!」

青年は、両手を広げ日本での活動開始を宣言する。

 

「Vos bagages sont laisses ici, non?」(お荷物こちらに置いておきますね?)

「Merci pour votre gentillesse.」(ああ、わざわざご親切にどうもありがとうございます)

最後の最後で締まらないのは、ヴィラン化しても同じようだ。




次回から本格的に活動します。
一応終わらせ方の候補を幾つ考えてありますがどれにするか迷ってます。
いつか決まると思うので楽しみに待ってて頂けたら幸いです。
では、また次回!

ヒロアカを読みながらふと思ったんですが…なぜヒーローとかヴィランって基本個性頼りで現代兵器をほとんど使わないのだろうか?って
現代兵器(銃とか剣とか)を使うキャラってあんまり見かけませんよね?だからこのお兄ちゃん(通称.クソ兄貴)には、大量に使って貰います。
個性と併用して使えればもっと恐ろしい事になりそうと思いました。
武器を氷で作って弾が氷製だから弾切れ起こさないし、壊れてもすぐに作り直せるし、色々チートですよね?

質問等ございましたらご遠慮なくどうぞ。


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第三話

皆様お久しぶりです。
書き終えたので投稿です。
今回は、とある原作キャラを救済したため原作が大きく変わります。

では、どうぞ。ごゆっくり!


世界最強と謳われるヴィラン『ロード』こと冷気 零は、オーダーメイドの高級スーツを着て不動産屋に来ていた。

もちろんバレないように変装したが無意識の領域でただならぬ威圧感を放っているので大半の従業員が気を失ってしまった。

 

「お、お客様、こちら本店の最高級の茶葉を使用して作られた紅茶でご、ごごごございます!」

「…いらん」

そんな中、奇跡的に気絶しなかった店員の女性が震えながらティーカップに注がれたお茶を彼の前に差し出した。

が、当の本人は、足を組んだ状態で雑誌を読みながら拒絶した。

 

「し、しかしお客様…」

それでも引き下がらなかった女性店員に対して冷気は、僅かな殺気を込めて睨み再度断った。

「要らぬと言ったはずだ…聞こえなかったのか?女」

「ひっ!」

裏社会を生き抜いた男の絶対零度の目に睨まれた店員は意識が飛びかけていた。

 

「ふむ…これを耐えるか。やるではないか女」

「あふぅ…」

「やっぱ何でもない…」

自分の殺気の籠った視線を受けて尚、立ち続けた女性店員に冷気は感心を覚えた。

だが、すぐに気を失ったので己の発言を撤回した。

 

「お、お待たせしました。私、社長の前園と申します。本日は、どのようなご用件で?」

冷や汗を掻きながらやって来た社長と名乗る少し太った中年の男性が冷気に対して質問を投げかける。

それに対して冷気は小さく短く答える。

「家を買いたい…」

「い、家でございますか?」

「その通りだ」

「かしこまりました。あれを持ってきてくれ」

注文を受諾した社長は、唯一気絶しなかった運が良いのか悪いのか分からない男性店員に家のカタログを持ってこさせる。

 

「まず、おすすめの物件としまして…」

「俺が条件を言う。それに合わせて見繕え」

「かしこまりました」

説明を始めようとして遮られた社長は取り敢えず了承した。

 

「近くにデパート…スーパーでも良い。そのどちらかがあって駐車場付きでペット可。あとは…高層マンションか何かだったら、なお良い」

「なるほど…ちなみに予算の方は、おいくら程「ドサドサッ!」へっ?」

社長が質問をしようとしたとほぼ同時に冷気は懐から現ナマ400万をテーブルの上に捨てるように置いた。

 

「調査費用だ。もう面倒だから高層マンションを丸ごと買い取ってやる。何億欲しい?」

そう言って懐からサインだけされた小切手(・・・・・・・・・・・)とボールペンを取り出しながら質問する。

 

「えーと…」

そこから話は、サクサク進んだ。

冷気が現金を見せたからなのか不動産屋の社長の信用を勝ち取り、不動産屋の社長は自分の持てる限りのコネを使い最高の高層マンションを提供した。

冷気はそのマンションを34億ほどで購入。

全財産の半分以上を使い購入したマンションの最上階以外の部屋を全て貸し出し、家賃によって大儲けした。

その金の大半を株に突っ込み色々な企業の株を買い占め自分にとって都合の悪い会社を世界最強のヴィラン『ロード』として襲撃。

暴落した企業の株を買い占め無理矢理成長させ、さらに儲ける。

このような事をやっていながらも、しっかり税金を支払う律儀な一面もある。

 

 

 

 

 

 

「…」

それからしばらく経ったある日、冷気は町を適当に散歩していた。

なぜ散歩しているかは自分でも理解出来ない。

なんら特別な理由はない。ただ単純にマンションに引き籠っているのに飽きただけだったかもしれない。

 

「あ?」

そして散歩中に立ち寄った公園で偶然、見掛けてしまった。

顔中に掻きむしった跡のある血塗れの少年を。

 

「おい、ガキんちょ」

普段なら無視するが何故か声を掛けた。

ただの気まぐれかもしれない。

「どうした?そんな血だらけになって…ヴィランに襲撃でもされたか?」

「…」

冷気は声を掛けたが少年は、何も答えず虚ろな目で空を眺めていた。

 

「もしかして…誰か殺したか?」

「…」コク…

何も答えない少年に対してその質問を投げかけると小さく頷いた。

「そうか…」

公園の椅子に座っていた少年の隣に座り、また質問する。

 

「いくつか質問する。喋りたくないなら別に良い。ただ首だけを動かせ。いいな?」

「…」コク…

少年が頷いたのを確認してから再び質問する。

 

「お前が殺したのは、ヒーローか?」

「…」フルフル

「じゃあ…ヴィランか?」

「…」フルフル

冷気の質問に少年は二回とも首を横に振る。

 

「一般人か?」

「…」コク…

「お前の友達か?」

「…」フルフル…

少年の答えに冷気は確信したように口を開く。

 

「もしかして…家族か?」

「うぐ、ひぐ…ゔん!」

「そうか…」

そして確信を突いた質問をすると少年は泣きながら肯定し冷気は溜め息を吐きながら空を見上げる。

空を見ながら、この少年をどうするべきか考え始める。

 

この少年をここで見捨てても問題ないはずだ。

だが、このまま見捨てるのは何故か気が進まない。

どこか昔の自分によく似た雰囲気を醸し出している。

ここでこの少年を見捨てたら確実にヴィランに成るだろう。

自分的には、どうでも良いが何故か気が進まない。

この子をここで帰してしまったら何かヤバい事が起きる気がする。

て言うかこの少年を原作のどこかで見た気がする。

そこそこ重要なポジションのキャラだった気がする。

どこかよく思い出せないが取り敢えず聞いてみよう。

 

「お前…名前は?」

「志村…転弧です」

「そうか…」

(バリバリの主要キャラだったよ!)

志村 転弧と言えばオールマイトの師匠役の志村 菜奈の孫にして未来の死柄木 弔じゃないか。

たしか原作では、家族を殺した後にオール・フォー・ワンに拾われてヴィランルートを辿ったんだっけ?

じゃあ、今この瞬間こそが志村 転弧が死柄木 弔に成るかどうかの分岐点って事か…

このままヴィラン化すればいつか確実にぶつかるだろう。

そうなればちょっとした戦争が勃発するかしれない。

 

(被害は被りたくないなぁ…でも、この子は助けたい。このまま養護施設にでも預けてもオール・フォー・ワンが確実に回収しに来るだろう。そうなれば元も子も無い。ならば…)

「なぁ、お前…俺の家族に成らないか?」

俺がこの子を貰っちまえば良いじゃないか。

 

「え?」

当たり前の反応をした少年…転弧の目を見ながら言葉を続ける。

「ただ何となくの気まぐれだ。最近マンションを買ったは良いけど俺一人が使うには大き過ぎるんだよ。だからお前、俺の家で俺の家族として暮らさないか?」

「え?で、でも…僕は人を」

「別にお前のやった事に興味無いし知る気もない。何せこう見えて俺もヴィランだからな。第一お前は人を殺すのは初めてなんだろ?ならお前が犯した罪を俺が全て被ってやるよ。今更ほんの10人や20人殺したくらいで俺の罪は変わんねえよ」

転弧が犯した罪なんざ自分の罪に比べれば大した事ない。転弧の家族殺しは俺が起こした事にすれば良い。

そうすれば、転弧は潔白。

さらに俺の力で家族を殺した記憶を凍らせれば晴れて無罪。

「どうだ?」

「うぅ…うぐ、ひぐ。よろじぐお願いじまず!」

そこまで言い切ると転弧は泣きながら了承した。

俺は、泣いてる転弧を抱きしめて泣き止むのを待った。

途中で「あっ、僕に触ったら死んじゃう!」と言ってたが『崩壊』くらいで俺を殺す事は不可能なので無視した。

 

 

泣き疲れて眠ってしまった転弧を腕の中に抱えながら彼の家が在った場所に移動する。

探している途中で二世帯住宅を片っ端から襲撃しようと思ったが『志村』と表札が掲げられた家を案外早く見つけられた。

 

「ここか…」

結構立派な家だったが所々崩壊しており辺りには嗅ぎなれた人が死んだあとに発する死臭が漂っていた。

 

「う、うぅ…た、助け…て」

「…」

タァーン…

まだ息のあった一人の人間に銃口を向け一発だけ発砲。

真夜中だった事もあり周囲に銃の発砲音が大きく響き渡り近所の人間が「なんだなんだ?」と言いながら群がってくる。

すかさず『笑顔仮面』を被り家の中に侵入。『金銭目的で家に押し入り、そこで一家に見つかったため全員を殺害したが子供を一人だけ人質として誘拐した』というシナリオを作るため家の金庫の扉にロケランを撃ち込み破壊。

金庫の中身を全て近くにあったバッグに詰め込んでから窓を割って氷製の馬に乗って逃走。

目撃者を多数残し、そのまま行方をくらます。

 

これで志村家を皆殺しにした犯人が『ロード』という事になった。

つまり、志村転弧は家族を皆殺しにされ誘拐された可哀そうな子供という事になった。

これはこれで救済と言えるかもしれない。

 

 

その数日後。

マンションの最上階の一室で俺は転弧の小学校への入学書類を書いていた。

(原作なんて無視して志村転弧を救済した…なら、原作が壊れても良いからこいつを幸せにするために自分の好きなように生きて行くとしよう)

心の中で、そう決めて書類を書き終えテレビを点ける。

 

テレビを見ると丁度、生放送のニュース番組をやっていた。

『…一家殺人事件の犯人が判明しました。

犯人は世界最強と称されるヴィラン.LORDによるものだと先ほど警察が発表しました。

このヴィラン.LORDは、今までも国家転覆、国家壊滅、売国、大量殺人、銀行強盗、銃器所有等を始めとした数々の凶悪犯罪を繰り返してきましたが誘拐事件は、初めてです。いったいなぜ誘拐などしたのか?専門家の意見を聞いていきましょう』

『○○先生。よろしくお願いします』

『お願いします』

『さっそくですが何故、誘拐をしたのか?という疑問について先生はどう思われますか?』

『そうですね。やはりこれは』

ダァン!

「チッ!早くテレビ買い替えねぇとな…」

専門家と名乗る男が説明を始めようとしていたのを見てついうっかり対戦車ライフルを撃ってしまった。

 

「兄さん!凄い音したけど大丈夫!?」

「ああ、大丈夫だよ。心配せず勉強でも進めてろ。俺は、ちょっとテレビを買い替えてくる」

「あっ、じゃあ4Kのテレビ買って来て!あとこの前、発売されたゲームも一緒に!」

「あいよ…」

転弧の注文を受けながら外に買い物に行った。

 

テレビはデカいので今日は、改造しまくった4WDかセネターAPCに乗って行くとしよう。

出来ればジャガー XJに乗って行きたいが別に遠出する予定はないので普通の車(・・・・)でいいだろう。

そのまま地下駐車場に仕舞ってある車に乗り買い物に行った。

 

買い物中にヒーロー達に襲撃されたが全員返り討ちにした。

けど途中から参戦して来たオールマイトからは逃げた。

全力で戦えば勝てるかもしれないが、町が壊滅的な被害を被るだろう。

別にそこまでして勝ちたい相手じゃない。

この町は、結構気に入ってるし破壊衝動がある訳じゃない。

それに今俺は、休息期間中だ。

ヴィラン活動は、可能な限り抑えたい。

 

「帰ったら風呂沸かそう…」

そう呟きながら車を運転する。




と言うわけで救済したのは死柄木 弔こと志村 転弧です。
弟として迎え入れて家族を殺した記憶を忘れさせました。
これでオール・フォー・ワンは、迂闊に手が出せなくなります。
ある意味救済だと思います。

この作品の結末がある程度決まりました。
細かい所は、まだ考え中ですが大体決まりました。
では、また次回!


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第四話

友達に「一つくらい完結させてから他のヤツ進めろよ」と言われたので取り敢えずこれともう一つを完結させてから他の作品を進めます。

では、どうぞ。ごゆっくり!
でもアイスマンのリメイク作品は、感想をたくさん貰えたので可能な限り速くアップします。


未来の死柄木 弔こと志村 転弧をある意味救済し近くの小学校に入学させてから数か月経ったある日。

 

「食わないのか?」

「いや、遠慮しておくよ…」

「そうか…」

俺は何故かオール・フォー・ワンと一緒に会員制の高級焼肉店の個室に居た。

 

どうしてこうなったかと言うと、近々俺のマンションで行われるママ友たちのお茶会用に高級茶葉やらティーカップやらを買っていたら偶然この男と出くわしてしまった。

お互い闇の世界の住人だから相手が同類だということがすぐに理解(わか)り今すぐにでも殺し合いが始まるのでは無いかというレベルの殺気をぶつけ合った。

実際、近くに居たオフのヒーローが動き出そうとしていたが相手に目配せし知り合いのふりをしてもらった。

そしてそのまま、久しぶりに再会した旧友の真似事をしながら近くの高級焼肉店に入店し今に至る。

 

「それで…この後はどうする気だ?俺を口封じの為に殺すか?」

「ハハハハ。まさか、そんな事しないよ。折角『LORD(君主)』と言う世界トップクラスの有名人(ヴィラン)に出会えたというのに…殺すわけないじゃないか?」

「よく言うよ。裏の世界を牛耳る全ての(ヴィラン)の頂点にして諸悪の根源。裏社会の帝王.オール・フォー・ワン…目的はなんだ?」

肉が焼けるのを待ちながらオール・フォー・ワンと会話を進める。

 

「目的ねぇ。強いて言うなら君が誘拐した男の子。志村転弧を僕に引き渡して欲しい…と言った所かな?」

「転孤を?理由はオールマイトへの嫌がらせの為か?」

「ふふふふ…どうやら君にはすべてお見通しのようだ。君の言う通りさ。彼はオールマイトの師匠の孫だからね。オールマイトへの嫌がらせと僕の後継者作りのために彼が必要なのさ」

「悪いがあいつ(転弧)は、もう俺の家族だ。嫌がらせをしたいなら別の手段を探せ。一応忠告しておくが、あいつに手ぇ出したらお前の計画諸共お前をぶっ壊すぞ?」

オール・フォー・ワンの目的を聞けば予想通りの答えが返って来たので殺気を込めながら忠告する。

 

「ふふふふ、怖いねぇ…分かった分かった。まあ、良いさ。また別の手段を考えるよ。かわりにもしもの時は協力して貰えるかな?」

「まあ…良いだろう。ただ協力するにしても数年後だ。今はヴィラン活動を極力抑えたいからな」

「何かあるのかい?」

「特別な理由は何も無ぇよ。ただ単に一人の兄としてあいつの成長を見守って行きたいだけだ」

「そうかい。ふふふ…そうかい」

俺が協力する事を約束するとオール・フォー・ワンは、不気味に笑った。それを無視して焼けた肉を網から回収して食べ始めた。

 

「モグモグ…ゴキュッ。本当に食わなくていいのか?最高級品だぞ?」

「そうだね。君がそこまで言うなら僕も食べさせて貰うよ」

最高級の肉をオール・フォー・ワンに再び勧めたらやっと箸に手を付けた。

 

「うん、美味いね。日本酒と一緒に食べたくなる味だ」

「そうなのか?酒なんか今まで一度も飲んだ事が無いから何とも言えないな」

「意外だね。飲んだことが無いのかい?」

「当たり前だろ?未成年者の飲酒は法律で禁止されてるんだよ。法律は守らなきゃいけないだろ?」

「君がそれを言うのかい?今まで散々法を犯してきた君が?」

俺の言葉にオール・フォー・ワンが何とも言えない顔で失礼な事を言って来たので反論する。

 

「俺が今まで犯して来た罪は、バイクや車の窃盗、交通法違反、ハイジャック。飛行機のは濡れ衣だがな。他には、国家壊滅、ホワイトハウス侵入、首相殺害、軍事機密売却、売国、知り合いとペンタゴンのメインコンピューターをハッキング、大量殺人、銀行強盗、武器の大量所持くらいだ。酒と煙草に関してはちゃんと守ってるぞ?」

「う~ん、そう言う事じゃないんだけどね…あと、代表的な事件を忘れてるよ?」

「代表的な事件?どれの事を言ってんだ?」

「君ともう一人の戦いの余波だけで国が三つ滅びた事件だよ。覚えてないのかい?」

「ああ、あれか…」

俺が説明し忘れた部分があると指摘され、どれの事かを聞くと可能な限り思い出したくない事件の事を言われた。

 

俺が一人の女と比較的…いや、全力全開で戦った余波で周辺諸国に壊滅的な被害を与え最終的に俺が『世界最強のヴィラン』と呼ばれるキッカケにもなった事件。

ただの意地のぶつかり合いが口喧嘩から最終的には戦争クラスの殺し合いにまで発展し戦いの場となった土地は、今でも永遠に消えない炎と絶対に溶けない氷で包まれ世界有数の危険区域に指定されている。

 

通称.氷炎戦争

 

世界最強格の二人が三日三晩休み無く殺し合った結果、周囲の土地へ与えた影響は凄まじく互いの攻撃の流れ弾だけでいくつもの町が消し飛び人が万単位で亡くなり、巨山クラスの氷塊や隕石サイズの火球が当たり前のように飛び交う戦いは、結局勝負が着かず引き分けで終わった。

勝負は着かなかったが周辺諸国へ与えた被害は複数の国に及び、どの国も経済的にも物理的にも壊滅的な被害を受けて国を立て直せず他の国に取り込まれた。

結果的に言えば国が三つ滅びた。

 

まあ、うん。あれは、若さ故の過ちってヤツだ。

今もまだ若いって?ははは、揚げ足取らないでくれ。

 

実を言うとあの一戦で力を一度に使い過ぎたせいで今は全盛期の10分の1くらいしか力を行使できない。

 

力が一気に衰えたからこその武器大量購入だ。

個性で無理なら武器で勝負しようと思い付いて何人もの武器商人から大量の銃火器や刃物に爆薬を今まで銀行を襲いまくって稼いだ金や正真正銘、俺が稼いだ金を使って購入した。

今では少しずつ力が戻って来ているが、やっぱりラスボスクラスのオール・フォー・ワンやそれと互角のオールマイトの相手は流石にキツイ。

だからこそ本来なら原作で転弧を闇の道に完堕ちさせたオール・フォー・ワンをすぐにでもぶっ殺したい気持ちを抑え協力関係を受け入れた。

俺の本来の力が5割ほど帰って来るまでは、可能な限りヴィラン活動を抑えたい。

 

戻った後でぶっ殺す!慈悲はない。

オールマイトに興味はない。ただしオール・フォー・ワン、てめぇはダメだ。

 

 

三十分後食事も会計も済ませ、そのまま別れた。

ちなみに会計の際、俺が二人分の食事代120万を全額支払ってオール・フォー・ワンに「これで貸し一つな?」と言ったら「やれやれ…」と言いながら肩を竦めやがった。やっぱり明日殺そう。

 

 

買い物の続きでも、と思ったが何となくイヤな予感がしたので最高クラスの戦闘力を持つ氷人形(アイスドール)を作り先に家に向かわせてから路地裏に入り懐に仕舞ってある笑顔仮面を被る。

笑顔仮面を被ったまま指先に氷製の鉤爪を作りビルの壁を攀じ登って屋上に立ち周囲を見渡しているとよく知ってる声と笑い声が聞こえてくる。

 

「HAーHAHAHAHA!!私が来たー!!!」

「…オールマイトか。なんの用だ?」

予想通りの男が相変わらずのテンションでやって来て精神的に疲れたが社交辞令(いつもの)として分かりきった質問をする。

 

「HAHAHAHA!君を捕らえに来たんだよ!今日こそは大人しくお縄について貰うぞ!」

「普通にイヤだ。で、相変わらず相棒(サイドキック)は置いて来たんだな?」

いつも通りの答えにいつも通りの台詞。

このやり取りは、俺が日本に来てからかれこれ30回以上はやっている。

いい加減飽きないのかこいつは?こっちは10回目から完全に飽きてるぞ。

15回目なんてセリフの途中で欠伸までしてしまったしな。

 

「ああ、彼はこの戦いに付いて来れないと私が判断したからな!それ以前にスピード差で置いて来てしまったけどね!SMASH!」

「某戦闘漫画のセリフかと思ったら普通にスピード差かよ!大盾!」

喋りながら右の拳で放ってきたパンチに対し中世の騎士達が使っていたような大盾を氷で作り出しなんとか防ぐ。

 

ガオォォォォン!!

ピシィッ!

 

拳と氷がぶつかり合ったとは思えない音が鳴り響き、オールマイトのパンチにより鋼鉄並の強度を誇るはずの氷盾に罅が入る。

「鋼鉄並の強度を誇る俺の氷盾に拳一つで罅を入れるとかどういうパワーしてんだよ!化け物か!?」

「そんな私のパンチを耐える盾を一瞬で作り出す君も大概だけどね!」

「抜かせ!」

オールマイトの拳を弾き飛ばしながら大盾を槍斧(ハルバード)に作り替え、片手で構えながらオールマイトに取引を持ち込む。

 

「オールマイト!俺は今日、買い物をしに来ただけだ!今年から数年間ヴィラン活動を抑える!だから俺を見逃せ!正直に言うと俺にはお前と戦ってもなんの利益も無い!正直無意味だ!!」

「残念だがそれは出来ない相談だ!今まで貴様に殺された人々や被害を被った方々のためにも!貴様を見逃す訳にはいかん!!」

「なら死ね!!」

「だが断る!!」

予想通り失敗し、ほぼ同時にお互いに向かって飛び出す。

 

「DETROIT…」

氷王の(キング)…」

お互いに体を捻じり左の拳に力を溜めて…殴る。

「SMASH!!」

鉄拳(ハンマー)!!!」

 

互角の威力を誇る全力の左拳のぶつかり合いに空気が震え景色が歪む。

 

「ぐっ!くぅぅ!?」ピシッ…!バキンッ!

「むぅ!?」

力が互角のため相手を押し飛ばすなんて事は起きず二人とも同時に後ろに飛ぶ。

 

「まさか私のパンチと互角とは…いやはや恐れ行ったよ」

自分のパンチと互角の威力を誇る『LORD』のパンチにオールマイトは手を握ったり開いたりしながら驚愕の表情を浮かべる。

 

「互角なんかじゃねぇよ。拳の衝突で俺の左腕が破壊されちまった。こりゃ、修復に3分はかかるぞ?」

一方の『LORD(ロード)』こと冷気は、パンチの衝突で粉々に破壊された左腕を少しずつ修復しながらオールマイトにハルバードの先端を向ける。

 

「オールマイト!もう一度だけ交渉する!今ここで俺を見逃せば俺はヴィラン活動を極力抑えるから被害も極端に少なくなる!しかし、ここで二人が戦えば被害は拡大するし確実に無関係の一般市民が死ぬ!俺は、一般市民を巻き添え以外では極力殺さないようにしている!つまりこの戦いはお互いにとって不利益な一戦だ!だから俺を見逃せ!」

「残念ながらそう言う訳にはいかない!そもそも貴様が本当にヴィラン活動を抑える保証なんぞ何処にも無い!!それに…もうすぐ応援も到着する!だから尚更貴様を見逃す訳にはいかんのだ!!」

「チッ!また、交渉決裂かよ!てか応援って誰だよ!?」

「TITAN SMASH!!」

案の定、交渉決裂した事に舌打ちしながら突っ込んで来たオールマイトのアッパーパンチを氷のハルバードで迎え撃つ。

 

その結果、ハルバードが持ち手から破壊されオールマイトの拳がロードの腹部に直撃し、そのままめり込む。

「がっ……!!は………っ!!?」

「まだまだだ!CAROLINA SMASH!!」

吹き飛ばされ掛けていたロードの足を踏みつけて超高威力のクロスチョップを胸部に食らわせた。

 

「ゴフォッ…!!」

胸部への攻撃をもろに食らった影響でロードは笑顔仮面の穴や縁から赤い液体を垂らす。

 

「てめぇ…殺す気満々じゃねぇか!何が逮捕だ!」

「貴様にこの程度の攻撃は通用しない事ぐらい把握している!なんせ山を消し飛ばすパンチの直撃を受けてもすぐに反撃したからな!」

「何年前の話してんだ!?チェアッ!!」

ロードは反論ながら残された右腕でオールマイトを全力で殴る。

 

「効かん!!」

「マジか!?」

「DETROIT SMASH!!」

腹部に拳の直撃を食らってもまったく聞いてない様子のオールマイトに驚愕し明確な隙を作ったロードにオールマイトが仮面の上から本気の左ストレートを食らわせる。

 

「グルァッ!!」

「何っ!?」

殴った後の腕を右手で掴み修復途中の左腕を戦斧に変えてオールマイトの首を狙うが右拳でギリギリ防がれる。

そして…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「赫灼熱拳 ジェットバーン!!」

「なっ…!」

「今だ!SMASH!!」

修復中の左腕をオールマイトの腕を掴んでいた右腕ごと吹き飛ばされ動揺した隙を付いてオールマイトが右腕で殴り無理矢理引き剥がした。

 

「来てくれたか!エンデヴァー!」

「勘違いするなよオールマイト?俺は貴様の救援要請を受けて来たわけではない!たまたま近くに居たから貴様と戦っていたロードを捕らえに来ただけだ!」

「そうだね!そういう事にしておくよ!」

オールマイトの救援要請を受けて来たのは、たまたま近くでパトロールをしていたNo.2ヒーローエンデヴァー。

ロード(冷気)が一番嫌う相手でもある。

 

「エンデヴァーだと?オールマイト…貴様、嘗めてるのか?それとも巫山戯てんのか?」

オールマイトとエンデヴァーの会話を聞いたロードは幽鬼のように立ち上がり口を開いた。

「一対一の闘いに応援を呼ぶだけならまだしも、よりにもよってそいつ(エンデヴァー)を呼ぶだと?貴様…勝負を何だと思っている!?ふざけるのも大概にしろ!ああ、いやもう良い…貴様らは、今ここで殺す!」

憎悪の籠った目で二人のヒーローを睨みながら修復を強制的に完了させた結果、『氷獄の王』本来の禍々しい形になった左腕で氷製のデザートイーグルを握りしめ同じく禍々しい右腕で青い氷の剣を構え叫ぶ。

 

「覚悟はいいか?」

「「「俺(私)は出来ている!!」」

ある名セリフを口にし三人が同時に答えて一気に駆け出し衝突する。




おかしい…買い物をさせるだけで終わらせたかったのに何故か戦闘シーンに突入してしまった。なぜだ?不思議だ…
ちなみに今のオールマイトは全盛期の状態でブチギレ状態です。なので原作開始時(?)のオールマイトより強いです。
そして冷気くん…いや、冷気さんは数年前のガチ喧嘩でめちゃくちゃ弱体化しました。普通に戦えば弱体化オールマイトにも負けます。
次回は戦闘の続きです。
戦闘シーンを書くのって…結構苦手なんですよねぇ…(遠い目)。

では、また次回!


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第五話

どうもこんにちは。
お久しぶり…では、ありませんが書けたので投稿です。
今回は、オールマイトとエンデヴァーが仲良くなってて微笑ましい回です(白目)。
あと、色んなネタを少し入れました。

では、どうぞ。ごゆっくり!


「覚悟はいいか?」

「「「(オレ)(私)は出来ている!!」」」

ロードの言葉に三人が同時に答えるとまるで打ち合わせでもしたのか?と疑いたくなるほどタイミングよく駆け出し三人同時に衝突した。

 

「SMASH!!」

「ジェットバーン!!」

「うぉらあ!!」

ロードの胸部を狙って放たれたオールマイトのパンチを左腕と左膝でガードしエンデヴァーのジェットバーンを右手に持つ氷の剣から放つ冷気で相殺された。

 

「やっぱり通用しないか!」

「今のを相殺するとは…」

「ふん…(クソ痛ぇ…!)」

オールマイトが攻撃を止められた事に歯噛みし、エンデヴァーは自分の攻撃が相殺された事に驚愕を隠せず、ロードは平静を装いながら痛みを必死で我慢していた。

ついでに手が痺れて持っていた武器を落としてしまっていた。

 

「エンデヴァー…」

「なんだオールマイト?」

「ロードを何メートル上空に飛ばせば最大火力の一撃を叩き込める?」

今の攻防でロードの大まかな実力を把握したオールマイトは、エンデヴァーに目を向けず質問を投げかける。

「最低でも30メートルは欲しい…出来るか?」

それに対してエンデヴァーも呟くように答え、質問する。

 

「ふっ、出来る出来ないじゃなく…やるしかないんだ!!」

その言葉にオールマイトは、口角を上げて両足に力を込め一気に加速しながら力強く答えた。

 

「少々付き合って貰うぞ!ロード!」

「くっ!」

「答えは聞いてない!!SMASH!」

一瞬でロードの懐まで忍び込んだオールマイトは、そのままロードの腹部と胸部の間に拳を叩き込んだ。

 

「ガ…………ハッ!!?」

(息が…出来ない!?)

オールマイトがロードに叩き込んだ拳は、ちょうど肋骨の少し下。

つまり横隔膜付近に拳がめり込みパンチの衝撃で肺の中の空気が全て体外に押し出されロードは、一時的な呼吸困難に陥っていた。

 

「息を…空気を!」

「まだまだ行くぞ!SMASH!」

「しまっ…!?」

必死に息を吸おうとしているロードに対してオールマイトは、打ち上げるような一撃を叩き込み、その体を浮かび上がらせる。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!!」

少し浮かび上がったロードに対しオールマイトの超高速連続ラッシュを全身に叩き込み

「さらにおまけだ!DETROIT SMASH!!」

トドメと言わんばかりの一撃をがら空きの胸部にクリーンヒットさせた。

 

「ゴフォ……!!」

バキバキボキッ!!

肋骨を折られ再び赤い液体を笑顔仮面の穴から垂れ流しながら空中高くに殴り飛ばされたロードは、近くのビルの屋上に立つ影に目を見開いた。

 

「待っていたぞ…このタイミングを!!」

「エンデヴァー…!!」

屋上に立って必殺の構えを取っているエンデヴァーを見たロードの目に黒い炎が宿る。

 

「最大火力!螺旋プロミネンスバーン!!!」

「受けて立つ!!」

エンデヴァーが放った超高威力の一点集中螺旋式プロミネンスバーンを両手に氷を纏わせながら真正面から受け止めた。

 

が…

 

「うっ、ぐぉぉぉおおおお!!?」

「ぬううううっ!!」

エンデヴァーが放つ螺旋状の炎を両手で防ごうとするロード。

ロードの防御を突破しようとさらに火力を上げようとするエンデヴァー。

ロードの放つ冷気とエンデヴァーの発生させる熱気の衝突で台風クラスの突風が吹き荒れ周囲の建物に甚大な被害を与えて行く。

 

ミシッ…

バキンッ!

ピシッ!

バキバキッ!

二つの強大な力の衝突によってエンデヴァーの立つビルに次第に罅が入って行く。

 

「ぐっ…!!(こいつ、いつまでこの火力を維持し続ける気だ!?)」

「おおおお!!(この男の氷は、底無しか!?)」

お互いの力が拮抗しているため永遠に続くかと思われた炎と氷の衝突は、第三者の介入によって崩された。

 

「隙を見せたな!ロード!」

「「オールマイト!?」」

突如、ロードの後ろへ飛び出したオールマイトにエンデヴァーとロードの声が重なった。

 

「CAROLINA!」

「やばっ!って熱っ!?」

オールマイトの攻撃を防ぐため、そちらに両腕をクロスさせ防御の態勢を取ったロードの背中をエンデヴァーの炎が焼いていく。

「SMASH!!」

「ガグゥッ!!」

それが原因でオールマイトの攻撃を防ぐため構えた両腕に上手く力が入らず両腕を圧し折られ建物を貫通しながら遠く離れた喫茶店に突っ込んだ。

 

自分の獲物を横取りされた気分のエンデヴァーは、今にもオールマイトを殺しに掛かりそうなほど怒りの籠った目で睨むがオールマイトは気にしない。

「オールマイト…貴様!」

「エンデヴァー!今は言い争っている場合じゃない!早くロードを追いかけなくては!」

「貴様が吹っ飛ばしたんだろうが!クソ!」

特大ジャンプをしながら跳んで行ったオールマイトの言葉に突っ込んだエンデヴァーは、空を飛ばず崩れかけたビルの屋上から非常階段を使い降りてからロードが吹っ飛ばされた店に走って向かった。

 

 

ロードサイド

 

 

「ぐうっ!?」

ガッシャーン!

オールマイトの全力攻撃を受けて吹き飛ばされたロードは、喫茶店の窓と壁を破壊しながら突っ込んだ。

 

「きゃああ!」

「何だ!?」

「誰か突っ込んで来たぞ!」

突如として店の窓と壁を破壊しながら突っ込んで来た人影に店の中の居た客が驚愕する。

 

「コホッ!ケホッ!…ああ、痛ぇな。チクショウ…」

自分の体に乗った瓦礫を退かしながらゆっくりと起き上がる影に近くの女性店員が近づく。

 

「あ、あの、大丈夫ですか?」

「ああ?」

「ヒッ!ろ、ロード!?」

自分が話し掛けた相手が世界最強と称されるヴィランだと気づいた女性店員は、尻餅をついてそのまま後退る。

 

「ここは…喫茶店か?なるほどなぁ…」

店の雰囲気や客の様子、さらには壁に貼られているメニュー表を確認したロードは、ここが喫茶店である事を確認した。

喫茶店でやる事と言ったら基本的に一つだけ。

それも3時のお茶の時間(ティータイム)が近づいていたら、さらに限定される。

 

「すまないがお茶を貰えるかな?あとケーキも一緒に頼むよ」

「えっ?あっ、はい」

まるで普通の客のように注文を始めたロードに対し店員は、職業柄普通に接客した。

 

「うん?来てるな…」

自分の身体を再形成しながら高速で近付く気配に気が付いたロードは、注文の品が来るまで暇なので両手に氷製の籠手(ガントレット)を装備し迎撃に向かう。

 

 

 

「見つけたぞ!ロード!!」

「こっちの台詞だ!オールマイト!!」

正義と悪のトップ同士がお互いを視認し叫びながら三度衝突する。

 

三度目の衝突で先に動いたのは…以外にもロードだった。

「マシンガンブロー!!」

「はああああっ!!!」

ロードの怒涛の超高速ラッシュに対しオールマイトも同じくラッシュで応戦した。

 

「クッ!やはりパワーで負けるか!?」

「そろそろケリを着けさせて貰うぞ!ロード!!」

だが二人の間には、明確な(パワー)と身長差が存在し少しずつロードが押されていた。

 

「ぬうううん!!」

「くっ…!うぉぉおおお!!」

常人は疎か並のプロヒーローですら視認不可能な速度で行われた拳の打ち合いは…

 

「SMASH!」

「ぐおっ!?」バキンッ!!

オールマイトの攻撃がロードの右腕を破壊し一瞬の隙を見せた事で終わりを迎えた。

 

「隙を見せたな!」

「隙?隙なんて何処にあるんだ!!」

ガントレットごと右腕を破壊され僅かにバランスを崩したロードに必殺の一撃を食らわせようとしたオールマイトの言葉に答えた。

 

「これを、待っていたああぁぁ!!!」

「何っ!?」

オールマイトに笑顔仮面越しに顔面を殴られた時の衝撃を利用して後ろに回転しながら両足でオールマイトの右腕を挟む。

この時オールマイトは、ロードの予想だにしなかった行動に驚き1秒にも満たない一瞬の隙を晒してしまった。

この一瞬の隙こそがこの戦いの勝敗に大きな影響を与えた。

 

「気化冷凍法!」cv.子安

「な、なにィ―――!!!」

無理矢理上体を起こしロードは、わざわざ声を変えてから残された左腕だけでオールマイトの腕を掴み一気に凍らせる。

今まで体験した事のない感覚にオールマイトは、驚きを隠せずその場から一歩後退する事を忘れた。

同時に右腕を一時的に封印された事を長年の勘で察した。

 

「今度は…こっちの番だァ!!」

「くっ!」

オールマイトの腕を離したロードは、自分と相手の左足を氷の鎖で繋げて口から赤い液体を垂れ流しながら全力でオールマイトを殴りながら叫ぶ。

 

「オールマイトォ…そろそろハンデ無しで本気のデスマッチ(殺し合い)を始めようかァ!!?」

「嘗めないで貰おうか!!たとえ片腕だけでも私は、本気で行かせて貰うぞ!」

二人が言い終わると同時に互いの拳が衝突した。

 

「それでこそ…トップだァァァ!!氷王の鉄拳(キング・ハンマー)!!!」

「DETROIT SMASH!!!!!!」

クロスカウンターの形で相手の腹部、胸部、顔面を殴り合うロードとオールマイト。

お互いの全力の攻撃は、必殺の一撃にも匹敵する威力を誇るがどちらも一歩も引かない。

時折、拳以外に全力の蹴りや肘で攻撃を放つ事もあるが二人の間では、まるで意味を為さず逆に隙を晒すだけに終わる。

そのため二人の間で行われる攻防は、小細工無しの単純な拳の殴り合いだけ。

それだけの事だが正義と悪のトップの本気の命を懸けた殴り合いは、先ほどのエンデヴァーとロードの個性の衝突の比では無い災害クラスの絶大な力の衝突は、周囲に甚大な被害を与え始める。

 

 

「まだだァ!!」

「当たり前だろうがァ!!」

オールマイトの怒号に近い叫びにロードも反射的に答え…

 

「いい加減に…倒れろやァ!!!」

「私は、まだ倒れる訳にいかんのだ!」

相手の胸部を完璧なカウンターのタイミングで殴り合い、二人とも血を吐きながら氷の鎖を破壊し遥か後方に吹っ飛ぶ。

 

「ぐぅっ!」

ズガーンッ!!

吹っ飛ばされたオールマイトは、近くの建物の壁を破壊しながら突っ込み、そこで止まった。

 

ドゴーンッ!!

「ガフッ!!」

「お、お客様!?」

一方のロードは、先ほど吹っ飛んだ喫茶店の壁に再激突した。

 

「ん?あ、お茶出来たんだね。ありがとう」

「い、いえ…ごゆっくりどうぞ?」

まるで何事も無かったかのように女性店員の持ってきたお茶を片手で受け取ったロードは、普通に飲み始めた。

 

「ふぅ…美味い。ゴフォッ!」

「お、お客様!?」

半分くらいまでお茶を飲んだロードは、又もや口から赤い液体を噴き出し女性店員を驚かせる。

 

「美味しかった。今度は、プライベートで来るよ」

そう言いながらゆっくりと立ち上がり懐に手を入れた。

「ヒッ…!」

「これ、お代ね?ついでに修理費と迷惑料も置いておくよ」

懐から武器でも取り出すのでは?と考えた女性店員は、少し恐怖したがロードの言葉に戸惑った。

 

「え……?あ、あの…これは?」

「お代と修理費に迷惑料だよ?もしかして足りない?」

「い、いえいえ!大丈夫です!充分です!」

「そうですか?それなら良かった」

「えぇ…」

お茶の代金と店の修繕費に迷惑料として1200万円ほどの札束を置いて出て行ったロードに対して店員は、やはり戸惑った。

 

 

「そろそろ終わらせようぜ!オールマイト!!」

そう叫びながら走り去ったロードの眺めながら店員は、三度戸惑った。

「……………えぇ?」




少し長くなりそうだったので一旦区切ります。
おかしいな…今回で終わらせたかったのに終わらない。
う〜ん…不思議だ。

解説.
ロードこと冷気さんは、初対面の一般人相手なら基本的に礼儀正しいです。
ただ相手がヒーローやヴィランになると態度が一変します。

技解説.
螺旋プロミネンスバーン

プロミネンスバーンの火力を一点集中させ破壊力と貫通力を上げた技。
オリジナル技です。

次回は、書けたら投稿します。
では、また次回!


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第六話

現在の冷気さんは、血の代わりとなる液体を流し過ぎて貧血状態でテンションがハイ!になっています。
さらに言えば自分の個性の自動修復の回復力に頼りまくっているので本人の身体は、すでにダメージ限界を迎えています。
他にも色々と問題が起きています。
あと、活動報告で冷気さんに言わせたい台詞を募集してます。遠慮なくお申し込み下さい。

では、どうぞ。ごゆっくり!


「そろそろ終わらせようぜ!オールマイト!!」

喫茶店でお茶を飲み終えたロードは、両脚に力を込めて一気に駆け出す。

 

「………オールマイト?何処だ?」

オールマイトとエンデヴァーを同時に相手取った戦闘でボロボロになった特注品(オーダーメイド)の耐電、耐火、耐斬、耐衝撃等を完璧に兼ね備えたはずの黒のトレンチコートを靡かせながら歩き出す。

「どこだ?どこ行った?」キョロキョロ

倒壊した建物の残骸に立ったロードは、辺りを見渡すが配信者や野次馬にメディアを避難させようとしているヒーロー達しか見当たらない。

 

「見つけたぞロード!」

「お前を逮捕する!」

「貴様を倒して俺達兄弟の手柄にする!」

避難誘導していたヒーローの中から自分達の手柄のため無謀にもロードを逮捕しようとする者達が現れた。

現れたのは、三人のコンビネーションでヴィランを翻弄しながら倒し捕らえる戦法を得意とする『三兄弟ヒーロー.トリニティブラザーズ』。

ロードとオールマイト&エンデヴァーの戦闘騒ぎを聞いてここまでやって来た三人のプロヒーロー達だ。

「…」

だがロードは彼らを一瞥して双眼鏡のような物を取り出し再び周囲にオールマイトが居ないか探し始める。

 

「俺たちを無視するな!」

「クソ!嘗めやがって!」

「オールマイト以外は、眼中に無いって事か!あ゛ぁん!?」

自分達を無視した事にキレた三兄弟ヒーローの一人がロードに詰め寄り肩に手を掛けた。

 

「ふむ…雑魚に用は無い。失せろ」

一瞬だけ肩を掴んだヒーローを見てから優しく言葉を掛ける。

 

「嘗めてんじゃねぇぞ!!」

ロードの言葉に三兄弟の次男が拳を振り上げ殴り掛かった。

が…

 

ダァーンッ!

 

「…なら死んでろ」

いつの間にか握られていたH&K HK45で眉間を撃ち抜かれ死亡した。

 

「なっ…あ…」

「あ、兄貴…!」

自分達の兄弟があっさり死んだことに驚きを隠せない様子の二人にロードは、慈愛の籠った眼差しと優しい声音で話しかける。

 

「彼は、私の忠告を無視した。だから死んだ。何か問題でもあるのか?」

さも当たり前の事のように話すロードに対して残された兄弟二人の怒りがピークに達した。

 

「ふ、ふざけんじゃねぇ!!」

「あ、兄貴の仇だ!ぶっ殺してやる!!」

長男と思わしき男が両手を盾のような物に変化させ、弟は両腕両脚を獣の物に変化させて同時に突撃した。

 

「ぶっ殺す…か」

兄弟二人の猛攻を躱しながら小さく呟いたロードは、体内に収納してある日本刀で一呼吸の内に弟の四肢を切断する。

 

「えっ…?」

ザンッ…!

一瞬で四肢を失った事に反応が追い付かない弟は、続く五の太刀で斬り首を落とされた。

 

「いいか?心の中で『殺す』と思った時には…」

「武志ー!!!」

ゆっくりと口を開きながら弟の元に駆け寄ろうとした兄の後頭部に回転式拳銃(リボルバー)の銃口を向けて

ダァンッ

「その時すでに行動は終わっているんだよ…」

躊躇無く発砲した。

 

 

「い、イヤァァァァァッ!!!!!!」

「こ、殺しやがった…本当に殺しやがった!!」

「逃げろー!ここにいたら俺達も殺されるぞ!!」

その光景の一部始終を見ていた野次馬の一般人女性の金切り声をを機に蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。

 

「ふむ…死に晒せ」

それを見たロードは、体内に収納してあるM134ミニガン(機関銃)M61バルカン(ガトリング砲)を取り出し集団に銃口を向ける。

「フハハハハ!!良いぞ良いぞ!そのまま逃げろ!嘗てこの我を迫害した人間(クズ)共には、無邪気な子供が学校に忘れられ中身を腐らせた水筒のお茶を巣を流された蟻の如く大慌てで醜く逃げ惑う姿がお似合いだ!!」

かつて自分が理由も無く迫害され、それがキッカケでヴィランへの道を辿る事となった出来事を思い出し自分のヴィランとして無関係の一般市民を巻き添え以外で極力傷つけない信念をも忘れたロードは、やけに具体的に表現で野次馬やヒーローに向かってM134ミニガン(機関銃)M61バルカン(ガトリング砲)乱射する。

 

「クハハハハハ!!良いぞ良いぞ!!貴様らゴミクズは、無様に地面を這いながら蛆虫のように必死に逃げ惑う姿がお似合いだ!!」

弾丸雨中の攻撃をしながら笑顔仮面の奥で狂ったように笑うロードの姿を見た者は、後にこう語る。

「あれは、まさにLORD(支配者)だった…」

と。

 

 

 

ヴィラン(Villain)(name).君主(LORD)

それは、冷気がヴィラン化してから数日経った頃、道端で汚職警官ならぬ汚職ヒーロー達に絡まれた時に付いた異名。

まだ何の罪も無かった冷気を捕らえようとし抵抗した結果、起こった事件。

彼の腕を掴んだヒーロー達は一瞬で凍らされそのまま砕かれた。

それを見ていた他のヒーローが攻撃を仕掛けてしまい、その攻撃に対抗するように冷気も個性を使って攻撃を返した。

そこからは、攻撃し攻撃されるを繰り返す泥沼と化し一度に50人以上のプロヒーローとの戦闘の際に使った『世界は我が手中に在り(ザ・ロード)』を見た新聞記者が付けた名前。

当時その名前を付けた新聞記者のネーミングセンスが疑われたが当の本人が偉く気に入り自らを君主や支配者を意味する『LORD(ロード)』と名乗るようになりその名前が定着した。

それから本格的にヴィラン活動を始めて、1年半前の氷炎戦争で全世界にその脅威を見せつけた。

 

 

そして今日この日『一般市民を巻き添え以外では、極力殺さない』という信念の元活動して来た世界最強のヴィランが己の信念を捨てて一般市民に対して攻撃を始めた。

「クハハハハハ!!良いぞ良いぞ!そのまま逃げ続けろ!!」

両手でM134ミニガン(機関銃)を持ちながら隣に置いてあるM61バルカン(ガトリング砲)を代わりに撃ってくれる氷の兵士を生み出しひたすら乱射する。

豪雨のように飛び交う弾丸の雨は、無力で無防備な人々に直撃し痛みを感じる暇も無く死ぬ。もしくは弾丸が腕や足を掠り掠った部分が吹き飛び、その痛みに悶え逃げ遅れた事で弾丸が直撃し死亡する。

そのような事が繰り返され辺りが血で染まり真っ赤な水たまりが出来始める。

 

「ふぅ…誰も来ないな。本当に終わったのか?」

給弾ベルトを3本連結させて二丁で3万発以上の弾丸を連射し終えたあたりで周りを見渡すが誰も居ない事を確認し撤退する事を視野に入れ始めた頃、ロードの遥か上空からエンデヴァーの放った炎の拳が高速で迫って来た。

「ジェットバーン!!」

「来たか!」

自分が立っている場所の遥か上空から迫って来た炎の拳を自分から反らし横に居た兵士にダメージを受け流すため上を向いた事で僅かな隙を作ってしまった。

 

WASHINGTON(ワシントン) SMASH!!」

ロードが上を向いた隙を突いて無防備な腹部と再生途中の肋骨に両手で(・・・)SMASHを放った。

 

「グッ…カフッ!ぐっ、痛ぇ…けど、もう慣れた!」

口から僅かに赤い液体を垂らしながら数歩後退り、いつの間に並んで立っているオールマイトとエンデヴァーを見た。

 

「不意打ちでも防がれるとは…」

「ヒーローだけでなく無関係の一般の方々にまで手を出すとは…やはり貴様は、ここで捕らえて置かなければならないようだ!!」

エンデヴァーは、ロードとの戦闘で無理矢理冷やされた自分の体を少しずつ温めながら構え、オールマイトは、周囲の被害を見渡しながら拳を構えた。

 

「はぁ…はぁ…」

一方のロードは肩で息をしながら、ふと気になった疑問を口にする。

「そう言えばなぜ凍らせたはずのオールマイトの腕が元に戻ってるんだ?」

「言う訳ないd「エンデヴァーに解凍して貰ったからな!」なぜ言うんだ!?」

ロードがふと口にした疑問に対しエンデヴァーは、黙っていようとしていたがオールマイトは普通に答えた。

 

「ああ、なるほどな。理解した。納得だわぁ」

その答えに納得のいったロードは、再生を済ませた右腕と再生が追い付かず罅割れたままの左腕を構えて近くの時計台を見て時間を確認する。

 

時刻は、15時23分。

時刻を確認したロードは、笑顔仮面の内側で焦り始めた。

その理由は、もうすぐ(転弧)の下校時間の16時までもうすぐだからだ。

(ヤバいな…もうこんな時間か。早く帰って出迎える準備しなければ…あいつ拗ねると我が儘な女みたいに面倒だからな)

ロード(冷気)は、早く家に帰り出迎える準備をしなければとガチで焦る。

 

時間の経過を見るため相手から少しの間だけ目線を逸らした。

相手から視線を逸らす。この行為は真剣勝負において一番の禁忌(タブー)とされている。

何故なら視線を逸らした時間だけ相手に隙を見せる事となるからだ。

それも実力が拮抗している圧倒的実力者同士だと例え1秒にも満たない一瞬とは言え相手から視線を外す事は、『死』を意味する。

 

「ふんっ!」

「なっ!?消え…!」

視線を外した隙にオールマイトが目にも止まらぬ速さで動き一瞬にしてロードの目の前に現れる。

「クソッ!」

突如目の前に現れたオールマイトに対して反射的に拳を繰り出した。

「ハッ!?なっ!えっ?残像!?」

だが攻撃を仕掛けた相手が残像だと気が付いた時には時すでに遅し。

ロードの背後に回り込んでいたオールマイトに羽交い絞めに拘束された。

この時、右腕も首ごと拘束しており左腕しか動かせない状態にあった。

 

「捕らえたぞ!ロード!」

「羽交い絞め!?クソが!この筋肉達磨め!これじゃ返せねぇ!」

オールマイトの完璧に決まった羽交い絞めを外す事に専念したロードは、又も大きな隙を見せた。

 

「今だ!私ごとやれ!エンデヴァー!!」

「分かっておるわ!!」

「エンデヴァー!?」(完全に忘れてた!!)

その隙を突いて拘束されているロードと拘束しているオールマイトに向けてエンデヴァーが溜めた炎を一気に放出する。

 

「食らえ!!超螺旋プロミネンスバーン!!!!!

「ヤバッ!!」

エンデヴァーの放った螺旋状のプロミネンスバーンが二人に迫る。

その熱量は、先ほど放った螺旋プロミネンスバーンを優に上回っていた。

受ければ確実に大ダメージ。避けても四肢のどれかを失う。そもそも避けようにもオールマイトの拘束を外せないので避けられない。

更に(たち)の悪い事にこの攻撃が直撃した場合でもダメージを受けるのは、氷の体を持つロードだけで拘束しているオールマイトには殆どダメージが無い。精々ちょっと熱いと感じるぐらいだろう。

攻撃を受けるロードがこの事実を知れば「なんだその訳の分からないご都合攻撃は!?」と怒り狂いながら特大ブーメランが刺さっていただろう。

 

(食らえば大ダメージ避けようにも避けられない…)

「ならば…左腕一本を犠牲に貴様の全力を耐え切って見せよう!!」

自分に大ダメージを与えかねない攻撃に対してロードが取った行動は、左腕を突き出す事だった。

 

氷河時代(アイスエイジ)!!」

左手で生み出した氷は、エンデヴァーの炎と衝突し一気に蒸発した。

 

ドジュゥゥゥゥゥオオオ!!!

「やっぱり片手だけではこれが限度か…」

氷を突破して左手に直撃した炎で肘まで完全に溶かされた左腕を見ながら右腕の袖を振り袖下から取り出したコンバットナイフでオールマイトの右肩を何度も突き刺す。

「いい加減に…離せ!この筋肉達磨!!」

「死んでも離さんぞ!」

「ウグッ!?」

(こいつ、更に締め付けやがった!こうなれば…あれ(・・)をやるしかねぇ!)

拘束が更にキツクなった事にロードは、僅かに焦ったが自分の関節を外して無理矢理オールマイトの拘束から逃れた。

 

「むっ!まさか関節を外したのか!」

「その通りだ。てなわけで離れろ!」

「おっと!」

オールマイトを遠ざけるため関節を元の位置に戻したロードは、コートの内側に仕舞ってあるスローイングナイフを両手でひたすら投げる。

 

「危ないじゃないか!人に当たったらどうする気なんだ!」

「お前を殺す気で投げてんだよ!てか当たっても刺さらず筋肉で弾き飛ばすってどんな化物筋肉なんだよ!?」

ひたすらナイフを投げても一本も刺さらない。

だがそれでもオールマイトを後退させる事に成功していた。

そしてナイフのストックが切れる頃には、オールマイトをエンデヴァーの隣に並ばせる事に成功していた。

 

「フゥ…」

(ヤバい…攻撃受けすぎてダメージがヤバい。再生も追い付かないし何だか目が霞んで来たし、さらに言えば体が思うように動かないし次で終わらせないとマジで捕まる…取り敢えず『ジャッジメント』でも使って逃げるよう…うん、そうしよう)

ロードの体は、色々と限界を迎えていた。

なので逃げるため自分の残りエネルギーの9割を自分の右手に集中させる。

 

「フハ…フハハハ…クハハハハハ!!アーハハハハハハハッ!!そうかそうか!もうそんな時間か!!」

だが、それを悟られない為に意味深な高笑いを上げて撤退(逃亡)する準備と最後の大技を放つ準備を同時に始める。

 

「あー、久々に笑ったわ…オールマイト、エンデヴァー。悪ぃが次で終わらせるぞ?」

氷獄の王、本来の姿に戻した右手を腰まで引き残された力の殆どを拳に集中させ筋肉を極限まで引き絞る。

それに呼応するかのように周辺の空気の温度が少しずつ静かに下がり始めた。

 

「終わらせる…つまりこれを防げばついに捕らえられる訳か」

「ならば遠慮する必要は無いな!全力で行くぞ!!」

ロードの言葉に二人は同時に拳を引いて構える。

二人が拳を構えるとオールマイトが発する体温の熱気とエンデヴァーのヘルフレイムの熱が発する高温で周囲に陽炎が立ち上る。

 

両陣営が正真正銘最後の一撃を放つ準備を終わらせ…

 

「行くぞ!」

「「来い!!」

同時に放った。

 

 

「絶技…」

氷王の裁き(キング・ジャッジメント)!!」

 

ロードが右腕を正拳突きのように突き出すと大気が悲鳴を上げながら凍らされ巨大な氷の拳と化しオールマイトとエンデヴァーに襲い掛かった。

 

「「プルスウルトラ!!」」

「「プロメテウス・SMASH!!!」」

一方のオールマイトとエンデヴァーは、同時に拳を振るった。

オールマイトの全力の一撃による衝撃波とエンデヴァーの限界を突破した獄炎が合わさり大気を歪ませながら巨大な炎の拳と化しロードの攻撃を真正面から迎え撃つ。

 

 

両陣営が放った文字通り最後の一撃。

お互いの攻撃が衝突した瞬間、大爆発。

周囲が一瞬で真っ白になり攻撃を放った三人は、爆風によって吹き飛ばされた。

 

「ぐぅっ!」

「ぐおっ!?」

オールマイトとエンデヴァーは、爆風によって近くの建物に突っ込み倒壊させた。

 

「ゴファッ!!?」

一方のロードも近くの建設中の高層ビルに突っ込み倒壊に巻き込まれた。

「ゴフッ!ケホッ…コホッ!ああ、マジヤベェわ…なんで『ジャッジメント』を相殺出来るんだよ?トップクラスのヒーローって全員こんな感じか?だとしたら日本ってただの修羅の国じゃねえか…しばらく引き籠ろ」

ぶつぶつ独り言を言いながらボロボロになったロードは、撤退した。

 

「クソ!逃がしたか!!」

二人のヒーローがすぐに倒壊した建物の残骸から抜け出し再び戦いの場に戻ったが時、既に遅し。

「エンデヴァー!今はそれよりも怪我人の救助だ!」

「分かってる!!」

ロードが撤退した後だった。

 

こうして世界最強の(ヴィラン).LORD(ロード)と日本のトップヒーロー二人の戦いは幕を閉じた。

死者58人、重傷者86人を出しながらもロードを捕らえられ切れずまんまと逃げられたこの事件は、後に『LORD(ロード)の再臨』と呼ばれるようになり全世界にロードが日本に潜伏していると知らせる結果となった。

そしてこの一戦以降ロードは、滅多に姿を現さなくなった。




やっと…やっと終わりました。
まさかクソみたいな戦闘シーンだけで3話も使ってしまうなんて…
次回からは、普通に冷気さん(兄)と転弧くん(弟)がのんびり暮らしてママ友たちとお茶会を開いて普通にほのぼの暮らしてる回を書きたいです。
あと、活動報告で色んな作品の名言を募集しています。
遠慮なくご応募下さい。

技解説.
氷王の裁き(キング・ジャッジメント)
冷気さんの放てる大技のうちの一つで威力だけで言えば一二を争うレベル。
ダメージを受ければ受ける程攻撃の威力が上がる。
今回は、割と限界だったので最高クラスの威力だった。


『WASHINGTON SMASH』
オールマイトが両手で同時に殴るだけのシンプルな技。
シンプル故に超威力

『プルスウルトラ・プロメテウス・SMASH』
オールマイトとエンデヴァーの合体技。
並のヴィランに当たれば灰も残らず燃え尽きてしまう。
人間に撃つ技では無い。

これから冷気さんは、少し引き籠ります。
では、また次回!


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第七話

明けましておめでとうございます。
皆様、お久しぶりです。
新年初投稿がまさかの『世界最強のヴィランお兄ちゃん』です。
感想貰えて嬉しかったとは言え、3か月も放っておいてホント何やってんだかねぇ…

今年もよろしくお願いします。
では、どうぞ。ごゆっくり!


日本の首都.東京

そんな東京の中でも高級マンションが立ち並ぶ新宿区。

その一画に建てられた超高層高級マンション。

 

規模.地上87階.

総戸数.998戸

居住者専用スポーツ施設を始めに屋内プールやショッピングモールにエステサロン、美容院、ゲームセンターなどの娯楽施設。

ファミリーレストラン、高級レストラン、バー、居酒屋、ファーストフード店などの飲食店。

更には、エレベーターが8基完備され、トップヒーロークラスの戦闘力を誇る警備員12人が24時間体制で巡回しており各部屋もオートロック式でセキュリティー面も万全で医療機関も完備している。

等々このマンションに暮らす者が快適かつ不自由なく暮らせるようにマンションの経営者が施設を増やしまくった結果、完成したこのマンションの名は『高級高層マンション.エデンの園』。

選ばれた一部の人間のみが暮らす事を許可されたまさに楽園。

一戸の値段が8千万から5億4千万まで様々な最高級マンション。

同時に世界最強の(ヴィラン)ことLORD(ロード)の本拠地であり冷気さん(ロード)が最上階二階を売らず立ち入りを禁止している事を除けば、まさに『現代の楽園』とも呼べる高層マンション。

 

 

「はぁ…はぁ…」

その楽園とも呼べる建物の最上階の廊下をロードこと冷気が壁に手を当てて赤い液体を流しながら歩いていた。

オールマイトとエンデヴァーを同時に相手取った結果、想定以上のダメージを受けてしまい這う這うの体で撤退したが流石に体が限界を迎えていた。

それでも気合と根性だけで(転弧)が帰って来る前に帰宅出来た。

 

「ヤバいな…早く回復しないと…あれ(・・)を飲まないと…」ガチャ

「…」(*- -)(*_ _)ペコリ

最後の力を振り絞りながら自宅の扉を開けると氷人形が出迎えた。

「俺に帰って来い」

「…」コクッ

出迎えた氷人形(アイスドール)に命令を下すと自ら冷気に近づきそのまま取り込まれる。

「ふぅ…さっきよりマシだ」

氷人形(アイスドール)を取り込んで力を補充した冷気は、台所に向かい冷蔵庫の扉を開け一つの箱を取り出し箱の中身を一気に飲み干す。

 

「これで…一応は大丈夫だな。早く転弧を出迎える準備をしないと」

飲み干した空箱をゴミ箱に捨てながら洗面所に歩き出す。

 

「ガラガラガラガラ…ぺっ!はぁ、めんどくせ…」

しっかりとうがい手洗いをしながら小さく呟く。

 

「よいしょっと…まあ、精々頑張るか?」

戦闘でボロボロになったコートやベトベトになったスーツを色別で分けてから洗濯機に入れて電源を入れる。

洗剤の必要量が決まったら必要な分を入れて蓋を閉めてキッチンに向かう。

 

「今夜は…四種のチーズを使ったチーズINハンバーグでも作るか。上にもう一枚チーズを乗せて更にその上から特製デミグラスソースをかけて付け合わせに厚切りポテト。うん、頑張ろ!」

材料を冷蔵庫から取り出しそれぞれを台の上に乗せて溶けやすいチーズや腐りやすい肉の周りに氷を作り出し氷製の包丁を作り出し構える。

 

「よし…いっちょ本気出すか!」

そう言いながらヒーローと戦う時以上のスピードで調理を始めた。

この男、先ほどまで瀕死の一歩手前だったとは思えないレベルの回復力である。

それに料理の腕前もプロ級で栄養バランスをしっかり考えて作ったり毎日違う料理を作り絶対に飽きさせないように工夫して将来役立つと前世の知識をフル活用し勉強を教えたりして弟を絶対に幸せにしようとする辺りただの良い兄なのかも知れない。

「早く帰って来ねぇかな…やっぱり迎えに行った方が良いのかな?カテゴリー5(最強クラス)氷人形(アイスドール)を迎えに行かせた方が良いんじゃ…」

いや、どちらかと言うとただのブラコンかもしれない。

 

 

ダンッ!

「まっ、こんなもんかな?」

ハンバーグを作るために使う食材を全て切り終わり包丁を俎板に刺して手を洗い、リビングの隅に置いてある巨大な置時計で時間を確認する。。

 

「もう4時か…あと、30分しても帰って来なかったら俺が直接(・・・・)迎えに行こう」

手を洗いながら何気にヤバい事を呟き始めた冷気は、台の上に置いた氷を吸収しレンジで加熱した玉ねぎを取り出し、少しずつ冷ましながら牛挽肉が痛まないように低温解凍させる。

 

「さっさと作って、さっさと休も」

コンロの上に置いたフライパンに油を引いて豚挽き肉と牛挽き肉を少し大きめのボウルに入れて混ぜ始める。

それと同時に体内から氷で作られた日本刀を取り出し人外染みた動きで玉ねぎを細かい櫛斬りにカットした。

 

パキ…パキキッ!

「引き籠るって言っても如何するかな…?」

牛と豚の合い挽き肉に塩胡椒、卵、パン粉、微塵切りにした玉ねぎを入れて氷を纏わせた右手で捏ねながら今後の活動について考え始めた。

 

「LORDとしての活動休止を報告するためには…やっぱり全国ネットかな?それか生放送中に乱入して堂々と宣言するべきかなぁ?」

色々と考えながら捏ね終えたハンバーグの種から右手を取り出し左手に握ったコンバットナイフで一気に斬り落とす。

斬り落とした右手をシンクに放り投げ、右手を修復させながら冷蔵庫からチェダーチーズ、モッツァレラチーズナチュラルチーズを取り出し薄力粉と一緒に耐熱ボウルに入れて少しずつ絡める。

追加で牛乳を回し入れ、少し緩めにラップで包み600wのレンジで50秒加熱させてから一気に冷ます。

 

「なぁ、お前はどう思うよ?」

「―――?」

「そうか…やっぱ生放送中の方が信憑性あるよなぁ」

手伝い役として呼び出したカテゴリー4(トップヒーロークラス)氷人形(アイスドール)に相談しながらハンバーグの種を楕円形状に形作り、そこにチーズソースを乗せ、またハンバーグの種を乗せて特大サイズのチーズINハンバーグの元が出来上がった。

 

「でもよぉ…そう簡単に生放送中の番組なんかに出会えるのか?」

「―――。――?」

「天気予報のコーナーか…確かにそれなら確実だな。考えよとくよ」

そして大き目のフライパンを取り出しコンロに置いてからオリーブオイルを流し入れ火を点ける。

 

フライパンを温めている間に酒蔵から30年物の赤ワインを持って来た氷人形(アイスドール)から未開封のボトルを受け取りながらケチャップ、中濃ソース、マヨネーズと粒マスタードに顆粒コンソメを用意させる。

ソース作りの用意が終わると完全に温まったフライパンにハンバーグを入れてコンロの火を点けて弱めの中火で焼き始める。

 

ジュウゥゥ…パチパチッ!

「良い感じに焼けて来たな。ちょっと手貸してくれるか?」

「――?」

「イヤ、物理的に…もういいや、勝手に借りるぞ」

少しだけ溜め息を吐きながら氷人形(アイスドール)の右腕を手刀で斬り落とし、少しだけ力を流し込んでフライ返しの形に加工してハンバーグをひっくり返す。

 

「―――?――!―――――!?」

「大丈夫だろ。万が一の為にバックアップを取ってあるし、別にそれが本体って訳じゃないだろ?」

いきなり右腕を斬り落とされた事に文句を言う氷人形だったが問題ないと冷気は、聞き流した。

 

「そろそろ皿の準備でもしておいてくれるか?もうすぐ出来上がるぞ」

「―――」

「文句垂れてんじゃねぇよ…はぁ」

ぶつぶつ小言を言いながら皿を渡して来る氷人形に溜め息を吐きながら皿を受け取りハンバーグを盛り付ける。

 

「じゃあ次、ソース作りだ。手伝え」

「――」

その言葉に反応した氷人形がワインボトルの栓を開けて冷気に手渡す。

 

「これ…30年物じゃん。普通のヤツで良いって言わなかった?」

「――。―――?」

多少困惑しながらもワインボトルを受け取った冷気は、顆粒コンソメを沸騰した水に入れてフライパンに残った肉汁とケチャップ、中濃ソースを混ぜ合わせ最後にコンソメを入れてヘラで回しながら焦げないように混ぜる。

完全に混ざったのを確認し少しだけ味見して塩気も完璧な事を確認した冷気は、特製ソースをハンバーグの上にかけて最後にスライスチーズを乗せた。

 

「はぁ…ハンバーグは終わった。後はポテトとスープにサラダだ…冷凍保存しておくか」

作り足りない料理を考えながら出来立てのハンバーグの上に手を翳す。

 

「ふぅ…時間氷結(タイムストップ)

個性を行使しハンバーグと周囲の空間の時間を完全に凍らせた冷気は、そのまま皿を冷蔵庫に入れてコンバットナイフを洗い始めた。

 

「もうすぐだな…あと5分だ。あと5分で来なければ俺が行く!」

(ヴィラン)やヒーローにとって死刑宣告に等しい事を口走りながら氷人形がクローゼットから持って来たトレンチコートを手に取ろうと考え始めた頃だった。

 

ガチャッ

「ただいま!兄さん居るー?」

ちょうど(転弧)が帰って来た。

 

「おう、転弧。お帰り!」

「兄さん!」

玄関に向かった冷気()さんが両腕を広げると靴を脱いだ転弧()が胸に飛び込んだ。

それを受け止めた冷気さんは、両手を脇の下に入れて弟の小さな体を持ち上げてその場でくるくる回転し始めた。

 

「フハハハハハハハ!元気そうだな!学校はどうだった?勉強は楽しかったか?」

「えーっとね、新しく割り算を教えて貰ったよ!あと、友達とお泊り会をしたいだけど…い、良いかな?」

「まずは、親御さん達に確認しないとな。ちょうど来週にお茶会があるし、そこで聞いてみる」

「本当!?ありがとう、兄さん大好き!」

「そうか?フハハハハハハハ!俺も大好きだぞ!」

冷気さんは、片腕で抱えたまま転弧に頬擦り始めた。

 

「に、兄さん!ちょっとくすぐったいよ。キャフフフ」

「そうかそうか!くすぐったいか!フハハハハ!ならもっと遠慮なく笑え!フハハハハ!!」

(お前が幸せそうで何よりだ…)

落とさないようにバランスを取りながら開いてる手で器用にくすぐり続ける冷気さんの目が少しだけ潤んでいた。

 

「あ、そうだ。今日の晩御飯なに?」

「お前の大好物のチーズINハンバーグだ。トッピングとしてスライスチーズと目玉焼きがあるぞ」

「本当!?ねぇ、いつも思うけど兄さんって何者なの?」

「ただの世界最強だ。そこは気にしたら負けってヤツだ!クハハハハハハハハ!!」

「もう、またそれ!」

「おっと、すまんすまん」

頬を膨らませがら若干拗ねた転弧()の頭を撫でて部屋に入って行った。

 

 

 

 

 

「兄さん!これ、すごく美味しいよ!」

「だろだろ?低温解凍が美味さの秘訣だ」

「ごめん、良く分かんない」

「そうか…」

晩御飯の際、何故か心にダメージを受けた冷気が見られたが気にする必要はないだろう。

 

 

「ふぅ、ごちそうさまでした。うっぷ、ちょっと食べ過ぎたかな?」

「ご飯二杯と俺の分のハンバーグをお替りしたんだ。食べ過ぎじゃない訳ないだろ。ショウガ茶あるけど飲むか?」

「うん、お願い」

「ほれ、熱いから気を付けろよ。あと蜂蜜も入れて良いぞ」

「ありがとう。ふー…ふー…うん、おいしいよ」

食事を済ませ食後のお茶を飲む転弧()を見てスマホを取り出す。

 

「7時半…転弧、そろそろ『頑張れオールマイト』が始まるぞ。見なくていいのか?」

「え?あっ、本当だ!」

冷気の言葉に慌てて席から立ち上がった転弧は、ソファーに座ってテレビの電源を点けた。

 

「じゃあ兄さんは、ちょっと電話してくるから待ってろよ」

「分かった。ねぇ、電話の相手ってもしかして…彼女さんとか?」

「ガキがませた事言ってんじゃねえよ。ただの仕事仲間だ…大丈夫、10分くらいで終わる」

転弧の頭をわしゃわしゃ撫でてからベランダに出てある番号(・・・・)に掛ける。

 

プルルル…プルルル…プルルル…プルル、ガチャッ

『もしもし?』

四回のコール音の後に受話器を取った音が鳴り電話口から流暢な英語で話す男の声が聞こえてくる。

「よお、情報屋」

『oh!ミスターLORD(ロード)!こんな時間に何の御用で?』

「単刀直入に聞く。『煉獄の女王』は復活したか?」

英語で話す冷気のLORDとしての質問に情報屋の男が少し渋るような声を出す。

 

『う~ん…そうだなぁ』

「口座に30万ドル送金しておく」

『OK!復活してるぜ』

金を振り込むと言った瞬間、情報を開示した。

 

「では、次だ」

内容(情報)によるな…』

「500万だ…」

『何でも聞いて良い!!』

先程と似たようなやり取りをすると情報屋の男が機嫌良く返事した。

 

「煉獄の女王は…日本(Japan)に上陸したか?」

『いいや、まだ上陸してねぇ。だがあと数ヶ月以内には上陸する』

「確かか?」

『先代に誓って確かな情報だ』

「そうか…分かった。あとでいつもの口座に送金しておく」

『んじゃ、good night』

「おう…」

通話が切断されたのを確認した冷気は、静かに夜空を見上げた。

 

「はぁ…ここに来るのか。困ったなぁ…」

嘗て全盛期の自分と互角に渡り合った女が自分の住む日本に来ると知った冷気は、これからの事を考えながら後頭部を掻いた。

 

 

 

 

 

 

「まあ、何とかなるだろ?」

やがて冷気は、考えるのをやめた。

(現実逃避)




次回は、出来るだけ早く投稿したいと思います。

では、また次回!


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第八話

長らくお持たせして申し訳ありません。

今回は、前話から数日経ったある日の出来事です。
書いてて思ったのですがヒーロー&警察サイドと主人公サイドの温度差が酷過ぎて風邪ひきそうになりました。

あと、思い切りオリキャラが出て来ます。
名前から察する人も居ると思います。

では、どうぞ。ごゆっくり!

投稿時間をミスりました。申し訳ございません。


ヒーロー&警察サイド

 

都内某所

日本の治安を守る警察。

その警察のツートップである警視総監と警察庁長官、他にも十数人の高官達。

 

そして個性を悪用する(ヴィラン)を捕らえるヒーロー達。

その中でトップヒーローと称される実力を持ったトップ10の内4人と実力だけ見ればトップヒーローにも引けを取らないヒーローやその相棒(サイドキック)が集まっていた。

大会議室に集まり一つの問題について議論していた。

 

議題は、『日本に上陸した世界最強の(ヴィラン)と称されるLORD(ロード)にどう対応すべきか?』である。

既に会議が始まってから一時間近く経っているが一向に話が進まない。

無理もない。今回の議題の中心である『ヴィラン.LORD(ロード)』本人がつい一週間前に『二つの大仕事を終えたら今年から数年間ヴィラン活動を抑える』と生放送中のカメラの前で向かって公言したのだ。

この発言に日本は、疎か全世界に衝撃が走った。

 

世界最強の(ヴィラン)の称号を欲しいがままにしているLORD(ロード)は、全世界への共通の脅威であると同時に裏社会に潜む悪への最大最強の抑止力でもあるのだ。

世界中に存在するLORD(ロード)の縄張りで何かしらの悪事を働いた場合、怒り狂った世界最強が不滅の軍団を引き連れて迫りくるため、(LORD)の力を恐れた裏社会の住人達は迂闊に動けないでいた。

 

しかしながらLORD(ロード)が居ても尚、動ける男が一人だけ居る。その男は、通称.『闇の帝王』と呼ばれている。

彼は全盛期のLORD(ロード)とほぼ同等の実力を持ち、LORDにも引けを取らない脅威度を誇った闇社会に君臨する化け物の一人である。

 

彼とLORD(ロード)が闇社会のツートップとして君臨してからの数年間その二人の手により闇社会の均衡を保っていた。

 

しかし二人の支配者の片割れが突如として消えてしまった。その結果今まで抑え付けられていた悪が一斉に活動を始めた。

それと同時にLORDが影から支配していた幾つかの国で影の支配者を失った政府が崩壊し国民による暴動が起きた。その影響で全世界の流通が一度ストップしかけたが何とか持ちこたえた。

 

だが一人の絶対支配者を失った闇社会は、三つの派閥に分かれた。

一つ目が残されたもう一人の支配者である闇の帝王の下に就く派閥。

二つ目がロードが残したと噂されている隠し財産と彼の縄張りを狙う者達で構成された派閥。

三つ目がロードが再臨するまで待ち続け闇の帝王に対抗しようとする支配者(LORD)を支持する派閥。

今の闇社会の勢力は、大きく分けてこの三つの派閥に分けられていた。

 

そして派閥が生まれれば当然派閥争いが起きる。

対立する派閥同士での衝突で周囲の一般人にも被害が出始めている。

この派閥同士の争いを助長する、どの派閥にも属さないフリーの武器商人がこのチャンスを逃すまいと大量に武器を売りつけたが一週間ほどで誰かに暗殺されそのまま記録を抹消された。

 

悪への抑止力であるLORDが突如居なくなって起きた最大の問題は、今まで抑圧されていた悪が一斉に活動を始めた事だ。

日本に現れたLORDのお陰で鳴りを潜めていたヴィラン達は、抑止力を失い一気に活動を活発化させていた。

それに対抗するべくヒーローも警察も躍起になっている。だが一向に収まる気配が無い。

 

 

ならばとこの騒動の原因であるLORDを徹底的に調べ上げようとオールマイトとの戦闘の際に流した血液を採取し鑑定に回していた。

その血液の鑑定結果が出て研究者と思われる男が息を切らせながら入って来る。

 

「ほ、報告します!ヴィラン名.LORDの血液と思われるものの鑑定結果が出ました!」

「おお、やっとか!では早速報告してくれ!」

「…ええと、そのですね…」

報告をしに来た研究者に上官の男が期待を込めた声で報告を促すが当の本人は、言い辛そうに口を結んでいる。

 

「どうした?早く言いたまえ」

「…はい」

もう一度催促されると研究者の男が覚悟を決めたように口を開く。

 

「LORDの血液の成分は…果糖ぶとう糖液糖、食用着色料、食用香料、苺果汁…つまりイチゴ味のかき氷シロップと同じ成分でした」

「「「………は?」」」

「それも一般のスーパーで買えるような物でした。私も先程部下を向かわせました。あとでそちらを研究対象として調べさせて頂きます。次にLORDの落として行った腕についてですが…」

「ま、待て待て待て待て!!」

研究員の男の淡々とした口調に一人のヒーローが待ったを掛ける。

 

「はい、どうしました?」

「どうしました?じゃないだろ!?ふざけた報告は止せ!今は一刻も早くLORDの情報を集めて正体を割り出し逮捕、若しくは抹殺しなくてはならないのだ!」

「はい。存じております」

ヒーローの怒りの言葉をサラリと聞き流し研究員の男は説明を続ける。

 

「では続きですね。LORDが落としていった彼の物と思われる腕は、氷製でした。成分を調べてみた所…全世界、複数の地域の水道水で構成されていました。なので成分を調べて潜伏地を割り出す事は不可能に近いと思われます」

「そうか…では、LORDの使っていた武器について何か分かった事はあるか?」

研究員の男の説明を聞いた警察関係者が武器について質問した。

 

「はい。そちらを詳しく調べてみました所、ほぼ全ての武器が氷で作られていて解析前に溶けて無くなりました。一方で発砲された弾丸は全て20㎜口径弾でした。一発当たれば人体が粉々に吹き飛び威力です。ついでにトリニティブラザーズの三男を殺した時に使ったと思われる刀を調べてみた所、裏社会の刀匠が仕上げた渾身の一振りで価格は時価1億は下らないとの事です。武器についての報告は以上です」

一息で全て説明しきった研究員の男に警察の男が少し考え込む。

 

「そうか…ありがとう。また後で頼む」

「はい。では失礼します」

研究員の男が頭を下げて出て行ったのを確認してから一つ大きな溜め息を吐く。

「はぁ…」

 

「オールマイトさん…」

「はい」

「正直に答えて下さい。貴方は…LORDに勝てそうですか?」

警察の男に質問に全員の視線がオールマイトに集中する。

 

「……」

オールマイトは押し黙った。

 

「……正直に言うと…無理です」

たっぷりと考えたあと、オールマイトが口を重々しく開き否定の言葉を口にする。

「「「「「っ!!?」」」」」

「そうか…」

その言葉に他の者が驚くが質問を投げかけた本人は驚く事なく静かに呟いてから窓の外を見やった。

 

「全く…世界中で何が起ころうとしているんだ?」

警察の男の視線の先ではビルの巨大スクリーンに『煉獄の女王』がアメリカから東へ向かって進行を始めたと放映されていた。

 

 

 

 

一方、話の渦中にいるLORDはというと…

 

「今夜は、チキン南蛮だ!」

「いやだ!ハンバーグが良い!!」

「待てい!私はビーフストロガノフの気分だ!今夜はビーフストロガノフにして貰うぞ!」

弟(転弧)と女性のお客さん(武器商人)を相手に晩御飯のメニューを賭けてスマブラをしていた。

 

「うおおおおお!!ピ〇チュウ使いの私を簡単に倒せると思うなよ!」

「僕こそ!ク〇パで道連れにしてやる!」

「黙れ!俺のキャ〇テンファ〇コンで纏めて倒してチキン南蛮を作るんだ!!」

三人で仲良くスマブラをする姿は、見てて微笑ましいがメンバーが中々ヤバい。

 

「ビーフストロガノフゥゥウウウ!!」

ビーフストロガノフを食べたがっている金髪の20代前半の女性。

名を雷禍(らいか)・サンダース・ミラージュ・ウォルター。

裏社会最大勢力圏を持つ最強の武器商人である。

 

「僕は、ハンバーグが食べたいんだよ!!」

ハンバーグを食べたがっている水色髪の少年。

名を志村 転弧。

世界最強のヴィラン.LORDの義弟にして本来ならば死柄木 弔としてヴィラン連合のトップに立つ未来を持っていた少年である。

 

「ハンバーグならともかく!ビーフストロガノフは時間掛かりすぎるんだよ!あと、鶏むね肉が余ってるからさっさと消費させろや!」

最後にお母さんみたいな考え方で晩御飯を決めた青髪の青年。

名を冷気 零。

世界最強の座を欲しいがままにしたヴィラン.LORDである。

 

その三人がクッソしょうもない事で争っている姿を知ればヒーロー達は何を思うのだろうか。

 

「クッパ!ハンバーグ!!」

「うわああ!!プリンんんん!!?」

「ファルコンキックミスったぁああああ!!!」

さらに二人揃って小学生の子供にゲームで負けて二人の最強が床に倒れ伏す姿を見たらきっと気を失うほどに困惑するであろう。

 

「勝ったああああ!!兄さん、ハンバーグお願いね!」

「クゥッ!!…悔しいが仕方ない。大人しくハンバーグを作るよ」

「負け…た?この私が…『雷帝』である私が…負けただと…?」

子供が勝ち誇り、大人の片割れが両手を突いて自分の敗北を認められずに嘆き、兄であるLORDがハンバーグを作る準備を進めていた。

 

 

~数十分後~

 

コト…

「ほれ、合い挽き肉のハンバーグだ。デミグラスソースとチーズソースから好きな方を選べ」

「わーい!ありがとう兄さん!」

テーブルにハンバーグとライス、コーンポタージュ、くし切りポテトフライ、サラダ、ホットココアを置きながら転弧を座らせる。

 

「…私は粗挽き肉のハンバーグが良かったぞ。作ってくれるか?LO…むぐっ!?」

冷気が自分のヴィランネームを口にしかけた雷禍の口を右手で塞ぎ壁際に追い込んでからベレッタPx4を喉元に突き付ける。

冷気と雷禍の身長差は、約15センチ。

冷気が189で雷禍が174センチだ。

お互いの認識では大して変わらないが実際に向かい合ってみると冷気が若干見下ろす形になっている。

 

Hey(おい)…」

そのまま(転弧)に分からないように英語で喋り始める。

 

「…俺の弟の前でその名前を口にするな。殺すぞ?」

「プハァ…言ってくれるわね。冷気 零。通称.LORD。君が私を殺せない事は、君が一番良く知っているはずさ」

雷禍もそれに合わせて英語で返す。

 

「そうだな…仮にお前を物理的に殺す事が出来てもお前のバックを殺し尽くす事は面倒だな」

「だろう?だったら早くこの手を離して「だが…」だが、なんだい?」

「不可能ではない。それを忘れるな…」

「おお、怖い怖い。せいぜい気を付けるよ」

LORDとしての忠告に肩を少し上げながら小馬鹿にした態度で雷禍が答えた。

 

「…チッ!」

「ふふ…」

冷気が舌打ちをしながら銃を仕舞い雷禍が悪戯な笑みを浮かべる。

 

「さっさと席に着け。お望み通り粗挽き肉のハンバーグを作ってやる」

「あら、ありがとう。でもね…私を脅した事への謝罪が欲しいわ」

雷禍が離れようとした冷気のシャツの襟を掴み顔を近づける。

 

それに対し若干忌避感を見せながら冷気が問う。

「いつ、何を、いくら欲しい?」

その質問に聖母のような微笑みを浮かべながら雷禍が口を開く。

「今、貴方とのキスを…それと貴方との肉体関係を今夜一晩だけ欲しいわ。構わないでしょ?」

 

「一晩で良いのか?」

冷気が雷禍の腰に手を回す。

「あら?もっとしてくれるの?新人君(・・・)

そんな冷気の首元に雷禍も両腕を回す。

 

「…泣かす」

「やってみなさい…んちゅ♡」

睨みながら顔を近付ける冷気の唇に雷禍が唇を重ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もぐもぐ…」

(兄さん達、さっきから何やってるんだろ?)

その二人のやり取りを背にしながら何も知らない転弧が呑気にハンバーグを食べていた。

知らぬが仏。とはまさにこの事だろう。




いやー、温度差が凄いですね(棒)。

取りあえず次回で武器商人との会話を終わらせてその次くらいで『煉獄の女王』と絡ませて、それも終わったら義妹を回収しに行ってから原作に入りたいです。
活動報告にて冷気さんことLORDに言わせたい台詞を大量に募集してますので遠慮なく書いて下さい。


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第九話

皆様お久しぶりです。
少し長くなりましたが投稿します。

今回は、戦争前の布石と作者の趣味が合わさった回です。

では、どうぞ。ごゆっくり!


「ん…あぁ…」

雷禍との一夜が明けた。

 

「クソッ…頭痛ぇ…」

ズキズキと痛む頭を押さえて時間を確認するため近くの台に置いたスマホに手を伸ばす。

 

「んぅ…んふぁ…」

「あぁ…?」

スマホに手を伸ばすため体を動かすと布団の中で何かがもぞもぞ動く。

確認の為に布団を捲るとそこには金髪の美女が一糸まとわぬ姿で寝ていた。

それと同時に昨晩の出来事を思い出し頭を押さえる。

 

「やっちまったなぁ…キスだけで済ませるつもりが結局最後までヤった訳か。はぁ…取り敢えず朝飯作ろ」

隣で寝ている雷禍に布団を掛け直して自分はベッドから出て着替える。

 

「頭だけじゃなくて腰と背中も痛ぇな…うん?首にキスマーク…擦れば消えるかな?」

ズキズキ痛む腰やじんじん痛む背中に苦戦しながら服を着ていく。

 

「そういえば今何時だ?げっ!」

スマホで時間を確認すると既に9:30を越していた。

 

「ヤッバ!転弧が起きてる時間じゃねぇかよ!?さっさと朝飯作んねぇと!」

極力音を立てないように寝室から出てキッチンに急いで向かう。

 

「あっ、兄さん。おはよ!」

「転弧!」

キッチンに着くと案の定転弧が料理をしていた。

 

「ケガしてないか?包丁をちゃんと使えるか?火の点け方もちゃんと知ってるか?」

「だ、大丈夫だよ兄さん!それくらい出来るよ」

「そうか?なら良いが…」

問題ないとの返事をされたが心配なので椅子を持って近くに座る。

 

「あ、あの…兄さん?」

「どうした?」

「見られてると緊張するんだけど…」

「気にするな。怪我しないように見張ってるだけだから」

転弧の言葉にそう返して頬杖を突く。

 

「うっ…緊張するなぁ…」

転弧が少しぎこちない動きでコンバットナイフ(・・・・・・・・)を取り出し構えた。

は?いやいやいやいや待て待て待て待て!!何故コンバットナイフなんだ!?

普通は包丁だろ!?まさか俺の真似か!?そうなのか!?

 

「ちょっと待て転弧!どこでそれを見つけたんだ!?」

「え?昨日のお姉さんが持って来たカバンに入ってたけど?」

俺の質問に転弧が当たり前のように答えた。

 

「いや、当たり前のように答えてるけどコンバットナイフだぞ?包丁じゃねぇんだぞ?」

「え?そうだよ?けど、兄さんもいつも使ってるでしょ?」

「う~ん…そういう問題じゃないんだけど」

転弧にそう言われるとあまり強く否定できない。

 

実際、俺もコンバットナイフを使って料理している。理由は、単純に手に馴染むからだ。

やはり食材や人間関係無く肉を切る時には、切れ味が良くて手にしっかりフィットする物の方が良い。

そのため雷禍にオーダーメイドでナイフを作って貰った。

しかし転弧は違う。転弧は、人のこと切れる瞬間を見た事が無い。それに人が血を流す瞬間も見た事が無い。

だから使わせる訳には行かない。そこまで考えて転弧からコンバットナイフを取り上げた。

 

「あっ、兄さん!どうして?」

「お前にはまだ早い。あと十年もすれば本当の使い方を教えてやるから包丁を使って料理しろ」

「むぅ~!僕だって兄さんみたいにカッコよく料理したいのに」

転弧が頬を膨らませて抗議するが努めて無視する。

そのまま転弧を椅子に座らせて自分が調理場に立った。

 

「何か食べたい物あるか?」

「ええとね…う~ん」

「私は、卵料理を所望する」

考え込む転弧の後ろから突如、雷禍が現れて勝手に注文して来た。

 

「うわっ!?ビックリした!」

「いや…お前には聞いてないんだが?」

さりげなく驚く転弧と雷禍の間に入り先程転弧から取り上げたコンバットナイフを構える。

 

「別に良いじゃないか?それよりも何か卵を使った料理を作ってくれないか?今、無性にパンと卵料理が食べたい気分なんだ」

「どうする?」

俺と転弥に構わず自分の意見を言い切る所は、さすが裏社会の大物だ。

雷禍の言葉に転弧に視線を向けて意見を求める。

 

「ぼ、僕もそれでいいよ…」

「分かった。少し待ってろ」

少し遠慮がちに言う転弧の頭を軽く撫でながらキッチンに向かう。

 

「出来ればポーチドエッグとかが食べたい。お前なら作れるだろう?」

「何様だよ…」

雷禍の言葉に小さく文句を言いながら冷蔵庫から卵を取り出し鍋に水を入れる。

 

「フレンチトーストも食べるか?」

「食べる!」

「ふむ…せっかくだし頂こう」

ポーチドエッグを作るついでにフレンチトーストも一緒に作り始める。

食パンを一升取り出して丁度いい厚さに切って冷蔵庫から必要なものを取り出す。

 

「おい、なんも見るものがないぞ?」

「人の家でパジャマ姿で勝手にテレビ点けといて文句垂れんなよ。なんか見たいならニュースでも見ればいいだろ」

革張りのソファーにドカリと俺のパジャマを着た状態で座り込み、リモコン片手にテレビのチャンネルを変える雷禍にそう答えて卵をラップで包んで行く。

 

「あ、あの…兄さん?」

「どうした転弧?」

「今日は、日曜日だし…えっと、出来れば…その、ホットチョコレートを飲みたいな…」

「…マシュマロも一緒に入れるか?」

「うん!」

もじもじしながら注文してきた転弧の為に別の鍋を用意し、冷蔵庫から新たにチョコレートを取り出す。

 

「私にも用意してくれる?」

「…分かった」

ニュースを見ながら注文して来た雷禍と為にもホットチョコレートを作る為、さらにチョコを取り出した。

 

 

~十数分後~

 

 

「はい、マシュマロ入りホットチョコレート。フレンチトーストにポーチドエッグ。ついでに塩トマトだ。遠慮せず食え」

「悪いわね。私にまで用意して貰って」

「気にすんな。ついでだ」

心にもない事を言う雷禍に対してそう返す。

 

「ありがとう兄さん!」

「おう。残さず食えよ」

だけど転弧には、ちゃんと返す。

 

 

「ふぅ…」

コーヒーを胃に流し込んでから一つ息を吐く。

 

「美味しかったわ。ごちそうさま」

「おう…転弧、少し向こうに行っててくれるか?」

「分かった。待ってるね」

食事を終えた雷禍から食器を受け取りながら転弧に聞かせられない話をするために少しの間部屋から出す。

 

「…それで?」

胸元からタバコの箱を取り出した雷禍が火を点けてから口を開く。

 

「私に何の用?」

「武器が欲しい…」

「どんなの?」

雷禍の質問に答えると雷禍が再び聞いてくる。

 

「巨大戦艦を八隻、列車砲を六両、斬艦刀を四振り、貨物船を十二隻」

「随分と大きな物を注文するのね。他には?」

俺の注文に一切驚かず淡々とメモしていく雷禍の言葉に注文を続ける。

 

「コンバットナイフ3000、スローイングナイフ5万、重機関銃を300丁、軽機関銃を500丁、対物・対人ライフルをそれぞれ3000、ガトリングガンを5000丁、サブマシンガンを7500丁、ハンドガンを…8000丁頼めるか?」

「問題ないわ。弾は何万発欲しいの?」

流石は世界一の武器商人だ。こんな無茶な注文にも対応できるとは思わなかった。

 

「最低でも3億5000万。可能ならば5億発欲しい」

「問題ないわね。期間はどのくらい?」

「煉獄の女王が日本に乗り込んでくるまで」

「は?」

必要な弾数をは問題なく了承してくれたが期間を言うと顔を顰められた。

 

「もう一度期間を言ってくれる?」

「煉獄の女王が日本やってくるまでだ」

「あと3ヶ月よ?分かってるの?」

「だからお前に頼んでるんだ」

しばらく視線を交わしていたが雷禍が先に折れてくれた。

 

「はぁ…分かった。世界中の全工場をフル稼働させてなんとか用意するわ」

「すまない…」

無理な注文を聞いてくれる雷禍に対して頭を下げて感謝する。

だが一番必要な物を忘れてはいけない。

 

「それと、もう一つだけ」

「はぁ…どんなの?」

呆れた様子で聞いてくる雷禍に最後の注文をする。

 

「インドラの矢を一発」

「一発五億よ?」

注文をした直後に値段を提示された。

 

やはり、それなりの値段はするか。

インドラの矢は、雷禍が持つ最強の一撃必殺。

喰らえば大体の者が即死するレベルの一撃だ。

一発撃つのに一時間ほどのチャージを要するらしいが、それに見合う破壊力だ。

実際に一度だけ遠目で見たがあれはヤバい。

自分が見た時は、喰らった相手が島ごと消し飛んだ。

 

「分かった。今、現金を用意する」

それほどの一撃を使って貰うのだ。これくらい安い

 

「ふぅん?結構用意が良いのね」

「万が一に備えてだ…ほれ五億だ」

雷禍が要求した通りの現金の入ったアタッシュケースを床下から取り出し目の前に並べる。

 

「ちなみに撃つ相手は?オールマイトとか?」

「いや、煉獄の女王だ。開戦と同時に撃って欲しい」

「アレを相手に時間稼ぎなんて出来るの?今の貴方より強いんでしょ?」

雷禍の言葉に少し黙り込む。

 

確かに今の自分では、煉獄の女王を相手にしたら普通に負ける。

全盛期でもギリギリだったのだ。弱体化した今の状態で勝てる程、あいつは甘い相手では無い。

だからこそ準備を万端にして挑む。雷禍にインドラの矢を撃って貰う事も準備に入っている。

これでも足りない。だから更に準備を進める為にもうじき起きるだろうイベントを狙う。

原作とは、起こるタイミングが全然違うが仕方ない。先に起こるだけラッキーと考えよう。

 

「何とかするさ…それよりも注文してた武器は出来たか?」

「露骨に話題を逸らしたわね。出来てるわよ…よいしょっと!」

話を注文した武器へと変えると雷禍が玄関から一つのライフルケースを持ってくる。

 

「飛距離5000の対物プラズマライフルよ。よくこんなの思い付いたわね?注文を受けた時『どこの殺戮ロボットだよ』って思ったわ」

「すまないな。解説を頼めるか?」

雷禍の皮肉を軽く受け流しながらライフルケースから取り出して軽く構える。

 

「ほう?これは…」

「飛距離5000の対物プラズマライフル.雷霆。今までの対物ライフルとは比べ物にならない化け物。対物ライフル用の12.7x99mm NATO弾では無く、専用の電磁式プラズマ弾を使用する銃よ。全長1m50㎝、重量25㌔、装弾数3発、チャージ時間30秒。もはや人間に扱えない代物さ」

「専用弾は?」

「23㎜電磁式プラズマ弾」

「弾速は?」

「時速1500キロ」

「威力は?」

「二階建ての一軒家が木端微塵」

「弾丸のリロード方法は?フルオート式かセミオートマチックか」

「セミオートマチックさ」

雷禍の説明を聞いて思わず頬が吊り上がる。

 

「パーフェクトだウォルター!」

「感謝の極み!って、言えば良かったの?」

「クハハハッ!」

わざわざ乗ってくれた事に思わず笑いが零れる。

 

「買うの?買わないの?」

「買うに決まってるだろう!いくらだ?」

雷禍の言葉にそう答えて胸元から小切手を取り出す。

 

「8500万よ。弾丸三発で300万。どのくらい買う」

「本体と弾を15発だ。小切手で支払う」

「はい、毎度。それじゃ、武器が出来たら報告するわ」

「ああ、頼んだ」

買い物を終えて雷禍が服を着替え、さっさと退散した。

 

「さてと…予定日まであと一週間だったか?」

残された二つの大仕事のうちの一つを片付ける為に襲撃の準備を進める。

 

「待ってろよ…俺と転弧の妹。今、迎えに行ってやるよ」

相手にとっては、ただの傍迷惑な行為かもしれないが別にどうでもいい。

自分と家族さえ無事なら世界が滅びても構わない。

 

「さあ…戦争だ!」

デザートイーグルを二丁腰に装着してコートを羽織る。

 

「兄さん、何処か行くの?」

「うん?ちょっくら出生届を偽造して(出して)来るだけだ。ついでに色々と買って来るよ」

「あっ、じゃあ新しい絵の具のチューブを買って来てくれる?もう無くなっちゃて…」

「分かった。んじゃ行ってきます」

転弧に別れを告げて買い物に出かける。




次回は、ある場所を襲撃します。

どこかって?妹を回収しに行くと言えば分かると思います。
原作でも結構人気な話だし作者も個人的に好きな話でしたが、お兄ちゃんが壊しに行きます。

あと、ちゃんと武器を使うと思います。


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第十話

ついに十話の大台に乗りました。
今回は、あの場所との戦争です。…いや?どちらかというと一方的な蹂躙かもしれません。

前半は普通に日常の風景で、後半から一気に物々しくなります。

では、どうぞ。ごゆっくり!


「どんな感じだ?」

『あと二、三日ってところだな』

「そうか…なら、さっさと準備を進めないとな」

『なあ?本当にやるのか?』

「何をだ?」

『世界最強のヴィランが天然記念物扱いされる指定ヴィラン団体の本部を襲撃するんだろう?それも…たった一人の赤子を救い出す為に』

「何か問題でもあるのか?」

『いや?別に問題は無いがな…裏社会の連中がみ~んな浮足立っているぜ?『あの化け物がまた動き出す』ってよ』

「放っておけ。俺に実害がなければどうでもいい」

『ま、そうだよな?んじゃアンタが欲している死柄八斎會の情報は、これで以上だ』

「その情報は、確かか?」

『確かだ。『風の噂』*1で集めた情報だから間違いない』

「分かった…いつもの口座に振り込んでおく」

『おう。んじゃ、またな』

そこまで聞いて通話を切る。

 

「ふぅ…妹か」

信用出来る情報屋から襲撃場所の情報を得たLORDこと冷気は、背中に隠している『レミントンM870』をクローゼットの中に仕舞う。

 

「おーい、転弧。ちょっと来てくれるか?」

「どうしたの兄さん?」

大切な弟を呼んで、とある大事な話をするため片膝を突いて目線を合わせる。

 

「いいか転弧?今から凄く大事な話をするぞ。ちゃんと聞け」

「う、うん。どうしたの?」

いつも優しい憧れの兄の真剣な顔に転弧も緊張した顔付になる。

 

「お前はな…これから数日以内に」

「うん…」

兄の言葉を一言一句、聞き逃さないように全神経を兄の言葉に向ける。

 

「兄になる」

「………え?」

己の兄の言葉を聞いても全く理解できなかった。

そのせいで疑問の声が口から漏れ出た。

それを見越したかのように兄が再び口を開く。

 

「もっと簡単に言えばお前に妹が出来る」

「え?………え?は?え?え?うそ?本当!?」

脳がやっと理解した瞬間、転弧がパニックになる。

 

「本当だ。今から数日以内に妹が出来るぞ?」

「え、うそ…妹。え、どうしよ?ど、どうしたらいいかな?」

「どうもしなくていいぞ。俺が回収しに行くからお前は楽しみに待ってればいいさ」

楽しみと焦りと色んな感情が混ざり、うろうろしている転弧を宥めてキッチンに向かう。

 

「今日は、その前祝いだ。食いたい物全部作ってやるぞ?」

「えっ!?じ、じゃあイチゴケーキが食べたい!この前のお店で買ったヤツ!」

「この前って言うと…本場ヨーロッパで修行したパティシエの独立店か?めっちゃ舌が肥えてんな…別に良いけど」

転弧の注文を受けてスマホを取り出し店に電話を掛ける。

 

「ええ、そうです。イチゴケーキを一つお願いします。あと、三ヶ月後にちょっとした会食があるので、その時用にケーキを一つお願いします。はい。ええ、その通りです。相手は女性ですが、甘い物は余り得意ではありません。しかし長旅の後なので疲れも溜まっているでしょうし、少し甘めのケーキを一つお願いします。ええ、ではそれでお願いします」

通話を切り別の場所へと新たに電話を掛ける。

 

「もしもし?出張サービスをお願いしたいのですが…場所?海です。いえ正確には海岸沿いなんですが…ええ、そうです。二名でお願いします。コース?シェフにお任せでお願いします。全部前払いでお願い出来ますか?ええ、それでお願いします。日にちは、三ヶ月後です。名前?冷気です。はい。はい。ええ、それでお願いします」

ある場所へ予約を済ませて電話を切った。

 

「んじゃ最後だな…」

また別の番号に電話を掛けてスマホを耳に宛がう。

 

Oui(ウィ)?』

「オーケストラの予約をお願いします。三ヶ月後に海岸沿いの特設ステージで5~6曲弾いて貰えればいいので、費用は全てこっち持ちで負担するので頼めますか?」

フランスへ電話してフランス語で話されたので流暢なフランス語で返す。

 

『申し訳ございません。実は、半年後まで予約がいっぱいでして…それ以降だったら何時でも大丈夫なのですが』

「ほう…?」

まさか断れるとは思ってもみなかった冷気が少し考え込んでから口を開く。

 

「俺はLORDだ。それでも無理か?」

『なっ!?…悪い冗談は止して下さい。第一、仮に貴方が本物の世界最強のヴィランだったとして、なぜオーケストラなどを欲しがるんですか?』

「三ヶ月後に『煉獄の女王』が日本に乗り込んでくる。それを俺が迎え撃つんだが…その前に少しだけ食事をする猶予があるんだ。その間の演奏を頼みたい」

『…かしこまりました。では、貴方の手に日本の命運が握られていると考えてもよろしいですね?』

「そう考えて貰って構わない。それで?頼めるか?」

『ええ、何とか時間を作ってそちらに参ります』

「そうか。では頼んだぞ」

全ての予約を終えた冷気は、通話を切りスマホを破壊する。

 

「終わったぞ転弧!今日は、チーズINハンバーグでも作ってやるよ!」

「わーい!やったー!」

そして何食わぬ顔で弟の下に向かい、チーズINハンバーグを作る準備を始めた。

 

「美味いか?」

「うん!凄く美味しいよ!」

「そうか。なら良かった」

美味しそうに食べる弟を見ながら冷気は、コーヒーに口を着ける。

 

 

 

 

 

冷気が妹を迎えに行くと言ってから3日ほど経ったある日の昼下がり。

死柄八斎會の本部の正門が突如として盛大に爆発した。

 

「なんだ!?」

「カチコミか!?」

「何処のどいつだ!」

正門が破壊された事で死柄八斎會の組員である若い衆たちが拳銃や刀を持って集まって来る。

 

ダダダンッ!

 

しかし土煙の中から飛んで来た銃弾に頭を撃ち抜かれて三人同時に殺された。

 

「誰だ!?」

組員が三人殺された事に激怒した男の一人が刀を抜いて構える。

 

「………」ジャリ…

土煙が正門を吹き飛ばしたと思われる者の片足が現れた。

 

その足は、黒い軍靴と黒いズボンに覆われていた。

 

「…」ザリ…

更に一歩踏み出し足元まで伸びている物が見えた。

 

それは、黒いトレンチコートだった。

 

「…」ザッ!

更に一歩踏み出して上半身を露わにした。

 

上半身には、白いシャツの上に黒いトレンチコートと黒いジャケットを羽織り、黒いネクタイと金のネクタイピンを着けている。

そこまでなら普通の格好だっただろう。

問題は、それより上だった。

 

「ふっ…」

笑うような声を出した侵入者が顔に被っていた物は、笑顔仮面。

髪色は、海を思わせる青。蟀谷からは悪魔のような尖った角を生やしている。

 

「馬鹿な…!」

その姿を見た死柄八斎會の組員の一人がそんな声を漏らした。

 

侵入者の男の右手には、対物プラズマライフル.雷霆が握られており左手にデザートイーグルが握られている。

更に背中には、レミントンM870を背負っている。

足元には、四連ロケットランチャーが二つ置かれている。

 

「チワーッス!絶望のお届けに参りました!!注文してない?遠慮すんな。俺の奢りだ!」

そこまで一息で言い切った男は、ライフルを背中に背負い直し四連ロケットランチャーを構えた。

 

「LOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOORD!!!!!」

侵入者のヴィランネームを叫んだ男は、ロケットランチャーの弾が直撃して粉々に吹き飛んだ。

 

「クハハハハハハハハハハハハハハ!!!出すもん出して貰うぞ!死柄八斎會!!」

ロケランを連射しながら高笑いを上げたLORDは、撃ち終わったロケットランチャーを捨てて歩き出した。

 

「ロンドン橋落ちた、落ちた、落ちた。ロンドン橋落ちた、どうしましょう?」

無駄にいい声で童謡(ナーサリーライム)を口ずさみながら両手にデザートイーグルを持った世界最強のヴィランであるLORDが死柄八斎會に対しての蹂躙を開始する。

 

 

 

「今すぐ姐さんを避難させろ!組長(オヤジ)も避難してくれ!LORDが襲撃に来たんだ、全ての戦力を集中させろ!足止めを考えなくて良い!!殺す気でやれ!」

「はい!」

若頭の男が次々と指示を出して懐から拳銃を取り出し侵入者の攻撃に備える。

 

「クソッ!なぜよりにもよって今日なんだ!?組長(オヤジ)の初孫が生まれた日に襲撃してくるなんて何を考えてやがる!」

襲撃して来たLORDに対して悪態を吐きながら数名の部下を引き連れて銃撃音のする場所へと向かう。

 

「クソッ!大方の予想通りか…」

若頭の男が屋敷の影から顔を出して襲撃者を迎え撃っている組員達を見つけた。

 

そのほとんどが日本庭園の飾りや何かの影に隠れて襲撃者であるLORDに対して発砲しているが、銃弾がLORDに当たる前に凍った空気によって弾かれる。

一方のLORDが撃つ弾は、何にも遮られる事無く飛んでいる。

 

「クソがあああっ!!」

埒が明かないと思った一人の組員が武器を捨てて個性を発動させる。

その男の個性は、『熊化』。

己の肉体を熊のように変身させる個性だ。

熊特有のパワーと耐久性が自慢の男がLORDに向かって二足歩行で走って行った。

 

「熊?」

それを見たLORDがデザートイーグルを二丁とも仕舞い、背中に隠し持っていたレミントンM870を取り出して構える。

 

ドォン!ドォン!ドォン!ドォン!ドォン!

 

そして一切の躊躇なく装填してあった弾を五発全て発砲した。

 

一発目が熊男の胸に着弾。

二発目も胸に着弾。

三発目は、胸でなく腹に着弾。

四発目が顔に着弾し、最後の一発が再び頭に着弾した。

立て続けにスラッグ弾を五発も喰らった熊男は、顔を覚えられる事も無く一瞬で殺された。

 

「ここでは、熊まで飼ってんのか?凄い所だな」

レミントンM870に弾を再装填しながら、そう呟くLORDに対して組員達が再び銃口を向ける。

 

「撃てー!!」

誰かの叫びを合図に再び全員が銃を撃ちまくった。

 

「チッ!」

それに対しLORDがレミントンM870を乱射しながら移動し岩の影に隠れる。

 

「レミントンM870は、弾切れか…なら次だ」

弾が無くなったレミントンM870を背中に担ぎ直してコートの内側に隠し持っていたvz 61を二丁取り出す。

そしてアクション映画さながらの動きで岩の影から飛び出し、死柄八斎會の組員達に対して乱射し始めた。

 

ダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ!!!

「ウアアッ!!」

「グァアア!」

「ギャアアア!!」

「お前らー!!」

組員が次々と凶弾に沈んで行く中、組員の一人が全身を鋼鉄化させてLORDに突貫した。

 

「死ねやぁあああ!!」

「ん?」

それを見たLORDがそちらに銃口を向けて連射するが弾を悉く弾かれた。

 

「無駄無駄無駄無駄!!俺様に銃弾なんて通用しねぇぞ!!」

「ふぅん…?」

両腕を顔の前で組んで突貫する男に対してLORDが取った行動は、vz 61スコーピオンを仕舞い背負っていた対物プラズマライフル.雷霆を撃つ事だった。

 

ドオオオオオオオオオオオオオン!!!!

 

雷帝から放たれた迸るエネルギー弾が男に着弾すると同時に空気を揺るがすような爆発音が響き渡り、男が跡形も無く消し飛んだ。

 

「呆けてる時間なんて無いぞ?」

ダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ!!!

呆けている死柄八斎會の組員達に声を掛けるとリロードしたvz 61スコーピオンを再び撃ちまくった。

 

 

LORDが死柄八斎會を襲撃してから僅か十分、既に組員の半分以上が殺された。

一方のLORDは、一切の被害を被っていない。

真昼間に起こった理由の無いこの一方的な蹂躙劇は、後に『Play of the Lord(君主の戯れ)』と呼ばれLORDの悪逆非道さに拍車をかける事となる。

*1
情報屋の個性




はい、一方的な蹂躙劇ですよ。
時系列的には…原作の8年前くらい?を目安に書いているのでオールマイトもまだ全盛期の状態だし、死柄八斎會に居る治崎もまだ若いです。
それに八斎衆も全員集まっていないし、原作と色々変わっているので襲撃しやすくなっています。

今回のLORDの装備.
対物プラズマライフル.雷帝×1
レミントンM870×1
vz. 61スコーピオン×2
デザートイーグル×2
ワルサーp99×4
H&K HK45×4
マガジン各10ずつ
手榴弾×20
M84スタングレネード×10
コンバットナイフ×4
スローイングナイフ×50

となっております。

割りとガチ装備で死柄八斎會に乗り込んでいるのであまり苦戦していません。
次回は、原作メンバーとエンカウントすると思います。

では、また次回!


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第十一話

皆様お久し振りです。
数話後に投稿する予定の第二次氷炎戦争編や卒論等を書いていたら滅茶苦茶遅れました。
死柄八斎會本部襲撃編の続きです。
次回で終わると思います。

では、どうぞごゆっくり!


LORDこと冷気が死柄八斎會の本部に一人で特攻してから15分が経過した頃。

 

ドンッドンッドンッ!!

 

LORD一人の手によって構成員の約七割以上が殺されている。

端的に言うと死柄八斎會の本部が地獄絵図と化していた。

あちこちに構成員の肉片や血が飛び散り、幾度となく投げられた手榴弾や戦闘の余波で柱がいくつも折られ一部が倒壊していた。

 

「どこだ~?何処に隠れているだ~?」

後ろで銃を構えた構成員の頭をノールックで撃ち抜き射殺したLORDが適当な柱に手榴弾を巻き付け一本の糸をピンに通し、糸に引っかかると爆発する簡易な罠を作りながら屋敷内を練り歩く。

更に適当な柱や壁にプラスチック爆弾を貼り付け信管を取り付け、起爆装置を近くの手榴弾に接続した。

 

一方LORDの目的である死柄八斎會の組長と出産の報告に来ていた娘が生まれて間もない赤ん坊をその腕の中で必死に守りながら金庫のような隠し部屋に避難していた。

 

「お父さん…」

「大丈夫だ…安心しろ」

己の娘を安心させようと必死で抱き締めるがまったくと言っていいほど安心できない。

なにせ、この屋敷を襲撃したのが他ならない世界最強の(ヴィラン)であるLORDなのだ。

 

この世界に住む者であればLORDの恐ろしさと、その強さを知っている。

曰く、気紛れで歴史に残る大虐殺を行った。

曰く、『己の進路にあった』その理由だけで世界遺産にも残る古代遺跡を破壊した。

曰く、五ヵ国の連合艦隊をものの十秒で返り討ちにした。

曰く、戦闘の余波だけで活火山を氷山に変えた。

曰く、マリアナ海溝の底を凍らせた。

等々、上げて行けばキリがない。

 

気まぐれで世界に恐怖を与え、気まぐれで国を堕とす。

攻撃されれば持ちうる全ての力を使い復讐する。

まさに天災。常軌を逸した力の持ち主にのみ与えられた特権。

 

まさに天上天下唯我独尊。

 

その化け物が突如としてこの死柄八斎會本部を襲撃したのだ。

構成員が必死に対抗しているが悉く返り討ちにされている。

 

「おらぁああああああああ!!!!」

ドッドッドッドッドッドッド!!

巨漢の男がAA-12等の日本にほとんど流通していない強力な銃器で対抗するが殆ど意味を成さない。

 

「大きれりゃあ良いってもんじゃねぇぞ?」

ドンッドンッ!

 

「まっ、俺が言えた口ではないがな?」

LORDがデザートイーグルの銃口を相手に向けて発砲する。

そして弾切れを起こしたデザートイーグルのマガジンを交換しながら屋敷内を散策する。

 

「にしても何で指定(ヴィラン)団体如きがあんな大量の武器を持ってんだ?銃や刀だけならまだしもアサルトライフルとかショットガンやらワルサーなら分かるがAA-12なんて何処で手にしたんだ?調達だけで一ヶ月以上はかかるだろ…ああ、雷帝か。それなら納得いくわ。うわぁ、面倒な事になって来たな…」

ドンッ!

死柄八斎會の装備に少々疑問を覚えたLORDが死角から襲って来た男の額にコンバットナイフを突き刺し虫の息の男の頭を一発撃ってから考え事を始めたが、やがて答えを導き出して額に手を当てた。

 

「居ないな…一応、粗方の部屋を捜索し終えたし何処かに居るはずなんだがな。もしかして隠し部屋か?」

笑顔仮面に掛かった返り血をタンスから引っ張り出した高価な着物で乱暴に拭い、また罠を設置していく。

 

「上に居ないって事は、地下か…何処かに隠し扉でも無いかな?」

LORDが隠し扉を探すために一歩踏み出す。

 

「俺がそれを見過ごすと本気で思ってるのか?」

「いいや、思ってないさ…」

居間に飾られていた掛け軸を退かして隠し通路から黒いマスクで口元を覆った若い男が現れた。

 

「探したよ…治崎 廻。組長の下へと案内して貰おうか?」

「誰が貴様を親父の所に案内するか…冗談も休み休み言え」

軽口を叩くLORDに対して治崎が怒気を発しながら返して行く。

二人に間にバチバチと火花が飛び散り今にも殺し合いが始まりそうな一触即発の空気が流れていた。

 

「「……」」

治崎は既に蕁麻疹が起きる事も承知の上で手袋を脱ぎ捨てて臨戦態勢に入っている。

LORDもデザートイーグルを捨てて懐からH&K HK45とワルサーp99を取り出して安全装置を外している。

 

「シッ!」

睨み合いが終わり先に動いたのは、LORDだった。

銃による攻撃ではなく右足による蹴りを放つ。

 

「ふん!」

対する治崎は、それを左腕と右手で受け止めて一気に破壊する。

 

「そらっ!」

「なっ!?ぐっ!」

体全てを破壊するつもりで個性を使ったにも関わらず破壊出来たのは右足の一部分だけだった。

その事に気付いた治崎がガードしようとするが踏ん張りが効かずそのまま吹き飛ばされる。

 

「すげー個性だ。オール・フォー・ワン辺りに高値売れそうだな」

「げほっ!ごほっ!誰の事は…一応知っているが俺の前で叶わぬ夢を口にする事は許せん」

「うっわ!めんどくさ!」

治崎の言葉に昔の恋人(仮)を思い出したLORDが思わずそう口にした。

 

「案内も出来ないクズ野郎なら死んでおけ。見ていて不快になる」

「ほう?他者を傷つける事でしか自己主張出来ない塵芥(ゴミクズ)が何か言ってやがる」

「フハハハハ、何時までも昔の理想に追い縋っている老害をトップにしている奴等が何を言うんだ?」

「おっと、それはそれは…自己紹介か?だったら完璧この上無いな。関心するよ」

「ハッハッハッハッハッハ!冗談が上手いんだな?」

「アハハハハハハ!お前ほどじゃないさ?」

「ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!」

「アハハハハハハハハハハハ!」

売り言葉に買い言葉、からの大笑い。

両者の口喧嘩が終わる頃には、辺り一帯に途轍もない殺気が撒き散らされていた。

 

「「殺す!」」

突然笑い声が収まったかと思ったら両者が同時に動いた。

 

ダダンッ!!

 

治崎に向かって発砲された弾丸が空しく空を切り奥の壁にめり込む。

弾丸を躱した治崎が掌を向けてLORDに迫るが、その手を片足で弾き一歩後退する。

 

「なるほど…?そういう感じか」

治崎との戦闘方法を理解したLORDが武器を仕舞いコートを脱ぎ捨ててボクシングのファイティングポーズを取った。

 

「何のつもりだ…?」

それ対して治崎が警戒しながらも構える。

 

「……」

「……」

数瞬の睨み合いの後に再度接敵した。

 

触れれば死ぬであろう治崎の個性『オーバーホール』を警戒してその手を躱すようにLORDが立ち回る。

治崎の掌に絶対に当たらないように攻撃を躱し足で弾き、ひたすら殴る。

攻撃が来れば飛んで躱す、更に隙を見て再度攻撃を繰り返す。

治崎が本能的にもっとも嫌う戦い方をメインに対処している。

 

そもそも、なぜLORDが治崎を相手にこんなに優勢に立ち回れるか?

それは、単純に彼が世界最強である以前に原作知識を保有しているからに他ならない。

原作知識があり異常な戦闘力を持っているが故に余裕で相手出来る。

それに加えて現在の治崎は、原作初登場時の完璧な強さではなく若い頃のまだ成長していない頃の治崎なのだ。

対するLORDは、先の氷炎戦争で弱体化したとはいえ変わらず最強の力を保持している。

数年もすれば原作中でも屈指の実力を持つであろう治崎と現時点で世界最強の一角を担う両者には、努力や作戦などが意味を持たない絶対的な差が存在していた。

つまり闘う前から既に勝負は着いているのだ。

 

「クソッ!」

「クハハ!」

一度も攻撃が当たらずダメージと疲労だけが蓄積していく治崎が悪態を吐いて後ろに半歩下がる。

 

「一つ忠告だ。それ以上下がらない事を勧めるぞ?」

「ご丁寧にどうも!」

LORDの言葉に半ギレ状態で返した治崎が距離を一気に縮める。

 

「じゃーん!これ、な~んだ?」

「なっ!?」

治崎との距離があと少しまで迫った所でLORDが腰に着けていた円筒状の物を取り出す。

治崎がそれが何かを理解するより先にLORDがピンを抜いて安全バーを放した。

 

カッ!!!

ドォォオオオオオオオン!!!!!!

 

「ぐぉあっ!!!??」

「スタングレネード…って、知ってる?」

治崎がそれの存在に気付いた時には時すでに遅し。

スタングレネードの起爆と同時に170~180デシベルの爆発音と15メートルの範囲で100万カンデラ以上の閃光を放ち、治崎に突発的な目の眩み・難聴・耳鳴りを発生させる。

しかしスタングレネードが眼前で爆発した事により視力を失い聴力も失い、平衡感覚すらも失った。

爆音により脳を揺さぶられたせいで思考力が一時的に低下し、そのせいで部屋中をふらふらと歩き周り結果として後ろに数歩下がった。

 

「うおっ…うがあ、くそッ!ぬあっ!?」

「あーあ、だからそれ以上下がるなって言って置いたのに…」

治崎が後ろに下がるとLORDが予め罠として張って置いた鉄糸に引っ掛かり手榴弾のピンを引き抜いた。

 

ドンッ!ドンドンドンッ!!ドドドドドドドドドンッ!!!

 

その結果、連鎖的な爆発が起こり柱が次々と倒壊し、死柄八斎會本部である日本家屋そのものが崩れ落ちる。

倒壊時の轟音と幾度も響いた銃の乾いた発砲音の連続で既に近所の人間は、警察とヒーローを呼んでいた。

何人かのヒーローが現場に到着したものの野次馬の対処で思うように避難誘導が上手く行かない。

そんな時に起こった爆発だ。

野次馬だけでなく近所の住民も我先にと逃げ出そうとし、現場がパニックになる。

 

ドォオン!!

 

それをなんとか落ち着かせようとヒーローと警察が奮闘するも更なる爆発音により再度パニックになる。

幾人ものヒーローが落ち着かせようとするが現場は混乱するばかりである。

 

一方の爆発の中心である倒壊した死柄八斎會本部の瓦礫の下から無傷で出て来たLORDがコートを引っ張り出し数回叩いてから羽織る。

 

「さ~てと、大爆発を起こしたあの阿呆はどこかな?」

手榴弾だけでなくプラスチック爆弾まで自分が設置したはずなのにそれすら相手の責任にしたLORDが瓦礫の上を歩きながら瓦礫の下に埋もれているであろう治崎を探す。

 

「おっ?居た居た、って瀕死じゃん…馬鹿だねぇ」

「ヒュー…コヒュー…コホッ!」

爆発により左腕が吹き飛ばされ右腕が変な方向に折れ曲がった治崎を見つけたLORDがその姿を憐れみ馬鹿にしながら屈んで顔を近付ける。

 

「お前は結構頑張った方だと思うぞ?並のヒーローや(ヴィラン)だったらお前に成す術無く殺されていただろうな。けど残念!俺が相手だとお前の長所は全て消える。…お前如きが俺に勝とうなんざ2000年早いんだよ」

「LORD貴様ッ!なぜ俺達を襲撃した!?俺達は、お前に一切関わっていない!それどころか会った事すらない!なのに何故だ!?答えろ!LORD!!」

LORDの馬鹿にしてくるような言葉に対して治崎が痛む体に鞭を打ちながら、その真意を問う。

 

「ふむ…」

その質問にLORDが少し考えてからゆっくりと口を開く。

 

「特に理由なんて無い」

「なんだと…?」

LORDの言葉に治崎が疑問の声を零した。

 

「いいか?この行為は、ただの自己満足だ。自慰行為にも等しい。だが俺がやりたいと思ったからやっただけだ。反省も後悔もしていない。これで満足か?」

「…ける…な」

「なんて?」

「ふざけるな!」

治崎は怒りのあまり叫んだ。

 

自分達が邪魔でそれを潰しに来たのであれば、まだ納得がいく。世界最強の障害になったとして名誉な死を遂げる事が出来る。

力試しや死柄八斎會の力を恐れての襲撃だった場合でも納得しよう。しかし違う。

この男は、特に理由も無く、自分がそう望んだから、ただそれだけの理由で組の構成員達を皆殺しにし、本部まで壊滅させた。

そして、よりにもよって組長(オヤジ)の初孫の誕生祝いの日に襲撃された。

全構成員と普段世話になっている他の組の組長や傘下の組織の人間までもがやって来るほどの宴会の場を襲撃された死柄八斎會は面子丸潰れだ。

自分達に大恥を掻かせ、ついでと言わんばかりに構成員を殺し尽くし、自分をこうして見下している。

治崎からすればこの上なく許せない事だった。

今すぐにでも殺したいが片腕を失い、もう片方の腕は折れ曲がり使い物にならない。

今にも死にそうな自分に対し襲撃者たるLORDは、全くの無傷。

 

「クッソ…が!」

力の差は歴然だった。それでも一矢報いようと治崎が体を動かす。

 

「さっさとアキラメロン」

LORDがふざけた事を言いながら懐に仕舞ってあった最後の手榴弾のピンを抜いて治崎の胸の上に乗せる。

 

「バイバ~イ!」

手榴弾のバーを放したLORDが別れの挨拶をして数メートル離れた所に避難した。

 

「L、LOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOORD!!!!!!!!!!!!!!」

治崎の雄叫びが響くと同時に手榴弾が爆発した。

 

 

「ヒュ~、汚ねぇ花火だ…」

近くまで飛んで来た臓物や血を避けながら死柄八斎會本部が崩れても無事だった金庫の向かって歩き出す。

 

「どうもこんにちは…初めまして、そして死ね」

厳重なはずの隠し部屋の金庫の扉を破壊したLORDが挨拶をする。

 

「クッ!」

「ヒッ!」

その金庫内には、死柄八斎會の組長とその娘。

そしてLORDのお目当てである未来の壊理ことLORDの妹になる運命を強制的に押し付けられた生後数日の女の子の赤ちゃんが居た。

 

「居たぁ…」

その光景を見たLOADが笑顔仮面の下で笑みを浮かべた。




やべーよ…どうしよう?
治崎が死んじゃったよ…
普通に好きな原作キャラなのに…どうしよう?

では、また次回!


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第十二話

お久し振りです。
今話で死柄八斎會本部襲撃編が終わりです。
次回は、日常回か何かを挟んでから第二次氷炎戦争編です…多分。

それでは、どうぞ。ごゆっくり!

原作で登場したアメリカのNo.1ヒーローの戦いを見て「え?ヤバ…煉獄の女王の方が何倍も強くね?てか、それと互角に渡り合ったLORDってヤバくね?…やべぇ、どうしよう?」ってなりました。
ウチの子の方が何倍も強いとかヤバくないですか?
この作品の設定上、全盛期オールマイトはLORDとか煉獄の女王と互角に渡り合えるんですよ。
今後の進め方に影響しまくるな…って感じです。


死柄八斎會の組長とその娘さん。

更に生後数日の女の子の赤ちゃん。

 

その三人が死柄八斎會の誇る最強の金庫に避難していた。

それは、三つのロックを破り指紋認証と色彩認証に声帯認証などを突破した上で30t以上もある扉を開けなくてはならない鉄壁と呼ぶに相応しい金庫だ。

金庫の中には、様々な貴金属や土地の権利書に数々の名画と希少価値の高い壺などが保存されている。

突破不可能とされている世界最強の金庫(LORDも愛用している)の扉を前にLORDが考え込むような仕草をしてから金庫の扉に手を当てる。

 

「邪魔くさいな…壊れるかな?」

LORDが力を込めて少しずつ手を閉じて行くと甲高い音と共に金属が拉げ始め、ついには変形する。

 

メキッ…バキッバキッ…!

メシッ!メシャッ!

バキンッ!バキャッ!!

 

「おっ?壊れた」

金庫の扉が壊れたのを確認したLORDが更に力を入れて引っ張る。

 

「思ったよりも重いな…ってマジで重ッ!?」

金庫の扉を無理矢理外し、それを両腕で担ぎ上げ外へと投げ捨てた。

 

「どうもこんにちは…初めまして、そして死ね」

「クソッ!」

「ヒィッ!」

LORDの処刑宣言に死柄八斎會の組長が顔を顰め、その娘は小さく悲鳴を上げた。

 

「ん~?…居たぁ」

金庫の中を軽く見渡したLORDが今回の襲撃の目的である死柄八斎會の組長の孫娘を発見して笑顔仮面の奥で笑みを浮かべた。

 

「LORD貴様ッ!!ウチの組員達をどうした!?ウチの組の中でも特別戦闘力の高い連中が迎撃に向かったはずだ!そいつらをどうした!?」

「ああ、全員殺した」

死柄八斎會の組長の言葉にLORDがさも当たり前のように答えた。

 

「は?」

「え?」

LORDの言葉に組長とその娘が間の抜けた声を出す。

まるで脳が理解する事を拒否しているかのように、その言葉が頭を過ぎる。

何度も何度も頭の中でその言葉を理解しようとするが一向に理解出来ない。

二人共、組員が全員殺された事を認めたくない。

 

変わりゆく社会の中でも昔ながらの極道としての矜持を忘れずに付いて来てくれた者達。

喧嘩が絶えずとも仲も良く、時に協力し合う組員達。

荒くれ者の組員を纏め上げる若頭。

最近何かを思い詰めているような治崎。

そんな治崎に着いて行くと誓った一人の組員。

自分達が動きやすい様に裏で手を回してくれている組員。

一人で金策を進めて組の存続に奮闘している組員。

そんな彼等が皆殺しにされた。

組長は、それを受け入れられ無かった。

 

組長の娘もそうだった。

妊娠報告をした時にまるで自分の事のように喜んでくれたお母さん。

体を労わるように妊婦用の料理を作ってくれた若頭さん。

まだ性別も判明していない頃に手編みの赤ちゃん服を作ってくれた中島さん。

赤ちゃんの世話の仕方をご近所さんに聞いて回った向沢さん。

浮き足立っている組員達を纏め上げる死柄八斎會、唯一の子持ちの小鳥遊さん。

出産の日に全員で病院に押しかけ他の患者さんの迷惑になるからと追い出された組員達。

生まれた子の性別が女の子と判明した時、自分と旦那以上に喜び思わず笑ってしまった他の組の組長の皆さん。

病室の警護に着くと言って聞かず看護師長と大揉めした組員の皆さん。

退院した日の内に祝いの花や、祝い酒と祝いの席を用意してくれた商店街の皆さん。

そんな彼等が全員殺されたなど到底信じられなかった。

 

間抜け面を晒す両者を尻目にLORDが一歩近づく。

 

「何が目的だ!?LORD!ここには貴様の欲する物は無いはずだ!」

「あるんだよな~、それが」

組長の必死の言葉を馬鹿にするようにLORDが答える。

そのまま指をゆっくりと組長の娘さんの方に向けた。

 

「その子…赤ん坊の方な?そいつを貰いに来た。理由は聞かないで貰いたい。一応言っておくが拒否権は無いぞ?」

「なんだと…?」

一呼吸で言い切ったLORDに対して組長が再度疑問の声を漏らす。

死柄八斎會の組長は、まったく理解出来なかった。

何故、世界最強のヴィランたるLORDが自分の孫娘を欲するのか。

彼は、その気になれば世界中のどんな美女でもどんな大国であろうと己の手中に収める事が出来る。

なのに今回要求して来ているのは、自分の娘ではなく自分の孫娘(・・)なのだ。

故に思わず呟いた。

 

「貴様…もしやロリコンか?」

「………え?」

「………は?」

その言葉に組長の娘とLORDが同時に疑問の声を零した。

特にLORDなんて背中に宇宙を背負っている。

完全に宇宙猫状態だった。この場合は、スペースLORD(なんか強そう)なのだが。

まあ、それはともかくとして両者共に疑問の声を零しLORDに大きすぎる隙が出来た。

時間にして10秒もの空き時間。それだけ無防備な状態のLORDを殺そうと組長が傍にあった日本刀を手に取り一気に駆け出す。

 

(考えている時間は無い!何故LORDが我々を襲ったのか。何処で孫娘の誕生を知ったのか。なぜ娘ではなく孫娘を欲するのか。組員達は、本当に全員殺されたのか。知りたい事が多すぎるが考えている時間は無い!)

組長は、日本刀を居合の形で構えLORDの一歩手前で刀を抜いた。

 

「ここだ!」

「はっ!?」

宇宙猫状態から脱出したLORDがその声に気付き胸元に手を移動させた。

時間にして1秒以下の交差。

 

「……」

死柄八斎會の組長は、刀を上段に振り抜いた状態で動かない。

 

「…ふぅ」

一方のLORDは、日本刀を下段に構え、一つ息を吐いた。

 

「LORDよ…教えてくれ…なぜ我々を襲った?我々は、貴様に何もしていないはずだ…組員達にも貴様に手を出すなと…言って置いた。なのに…何故だ?」

組長は、指一本動かさないままLORDに質問した。

 

「…今のお前達に罪は無い。だが、お前達は未来に罪を犯す。だから先に裁く。悪く思って良いぞ?」

質問をされたLORDは、血振をしながら淡々と答えた。

 

「そうか…なんと…自分勝手…な…」

それを聞いた組長が途切れ途切れに納得の声を漏らし、体がズレ落ちた。

 

「お父さん!!」

「なんだ、まだ正気を保っていたのか?発狂していれば楽だったものを…愚かなり小娘」

悲鳴のような声を上げた組長の娘にLORDが近づき片膝を突く。

 

「取引と行こうか?」

「と、取引?」

何を言い出すかと身構えていた組長の娘がLORDの提案に首を傾げて思わず聞き返す。

 

「その通り、取引だ。取引内容は、お前の娘を貰う代わりにお前を見逃す事だ。どうだ?悪くないだろう?」

「ふざけないで!誰がアンタみたいな化物に娘をやるもんですか!どうしても欲しければ私を殺してからにしなさい!」

あまりにも一方的な取引内容を聞いた組長の娘が食って掛かる。

 

「そうか…じゃあ、そうする」

「え?」

パンッ!

残念そうに、しかし分かっていたように呟いたLORDが懐からワルサーp99を取り出し銃口を額に当てた。

組長の娘が驚いた顔をして状況を理解する前に躊躇無く発砲して、その若い命を奪った。

 

「せっかく生きるチャンスをやったのに…どうしてチャンスを無碍にするかな?」

心底分からないような声を出したLORDが組長の娘の腕の中に居た赤ん坊を拾い上げる。

 

「赤ん坊の回収完了、目的達成!」

「…って、こんな状況でもまだスヤスヤ寝てんのかよ。こりゃあ、将来大物だな」

赤ん坊を抱き上げ笑顔仮面を取り外し適当な金庫の上に座る。

その時の動きで赤ん坊が目を覚ました。

目をぱちくりさせ、周りを見渡した赤ん坊がLORDに手を伸ばす。

 

「お前の名前は…原作では『理を壊す』、って意味で壊理だったな?なら俺がお前に妹として与える名前は、『理の恵みを授かる』事を意味して恵理だ。悪くないだろ?名付けには、結構自信あるんだ」

「きゃっきゃっ!」

「クハハハハハ!良いぞ!笑え笑え!」

LORDが小指を差し出しながら腕の中の赤子に名前を付ける。

それは、意味だけ聞けば幸せを願われている名だと誰もが思うだろう。しかし名付け親がLORDだと知れば皆、中々に面白い反応を示すかもしれない。

その数秒後に笑い出した妹を抱え直したLORDの顔は、ヴィランの顔ではなく完全に兄としての顔だった。

 

「クハハハハハハハ!!良いぞ良いぞ!!笑え笑え!」

「きゃっきゃっ!きゃふふ!」

実の母親の死体の転がる死柄八斎會本部の金庫の中でLORDの妹となった恵理は、心底楽しそうに笑った。

 

こうしてLORDの死柄八斎會に対する一方的な虐殺が幕を閉じた。

 

 

 

 

「おらーっ!転弧!妹だぞ!」

「お帰り兄さん!」

玄関扉を蹴破りながら家に帰って来た冷気を弟である転弧が嬉しそうに出迎える。

その顔には、満面の笑みを浮かべていた。

その顔を見た冷気が片膝を突き腕の中の赤子を見せる。

 

「ほら、お前の妹だ。ちゃんと可愛がれよ?」

「うわー、可愛い!ね、ねぇ触っても良い?」

「ゆっくりと優しくだぞ?」

「うん!」

兄の言葉に転弧が一つ頷いてからおずおずとスゥスゥ寝てる妹になった赤子、改め恵理の頬っぺたに触れる。

 

「や、柔らかい!マシュマロみたいに柔らかいよ!?」

「当たり前だろ?生後数日の赤ん坊なんだぞ?」

「ほあー、可愛い…」

尚も妹の頬っぺたに触り続ける転弧の手を取り居間へと向かう。

 

「さて…妹の為のミルクと今夜の晩飯を作るぞ」

「まだ3時だよ?出掛けたの10時くらいだったよね?もうご飯作るの?」

「今夜は角煮を作るからな。今からじゃないと間に合わないんだよ…圧力鍋があれば別だけど」

「買わないの?」

「スペースめっちゃ使うし、圧力鍋を使った料理はあんま作らないし、後片付けとか洗うのとかでめっちゃ苦労するし、で買う予定は無いかな?」

キッチンに立った冷気がヤカンに水を入れてコンロに火を点けながら転弧と会話をする。

兄の言葉を聞いて「ふーん」と答えた転弧が居間のソファーに座りテレビを点けた。

 

「じゃあ僕は『タイタニック』でも見て待ってるね?」

「おい、ちょっと待て。そこはもっと子供らしくアニメでも見ろよ。なぜ歴代の名作シリーズから選ぶんだよ?」

「じゃあ『初代ゴジラ』を見るね」

「じゃあ、で見る作品じゃねぇよ!あれは道徳の授業とかでも使われる名作だろうが!」

「う~ん、『スタンドバイミードラえもん』は?」

「やめろ。それは俺に効く」

「『ミュウツーの逆襲』はどう?」

「涙腺特攻を選ぶな。俺を殺す気か?」

「『ローマの休日』とかは?」

「心にグッと来るから見るんじゃねぇ」

「仕方ない…なら『鉄道員(ぽっぽや)』でも見るよ」

「何度俺の心を抉れば気が済むんだ?」

「じゃあ、『IT』とかは?」

「いきなりホラーをぶち込んで来るんじゃねぇよ。温度差で風邪引いちまうだろうが」

「それなら『火垂るの墓』か『最強の二人』にするよ」

「やめろ。俺の涙腺を殴り殺す気か?」

「『八日目の蝉』と『そして父になる』ならどう?」

「俺の心が死ぬ」

「じゃあ『モーレツオトナ帝国』にするね!」

「お前、俺になんか恨みでもあんのか?」

「お小遣い上げてくれない事かな?」

「月5万も渡してるぞ?」

「そんなの全然足りないよ!せめて10万くらい欲しいよ!」

「どこの金持ちの子供だよ!?月5万で我慢しろ!」

「推しの子に貢ぐんだよ!月5万じゃ足りないんだよ!」

「俺の金だろ!?」

何を見るかで始まった話しが、いつの間にか逸れて二人共肩で息をする結果になった。

 

「兄さん。一度腹を割って話し合う必要がありそうだね」

「下拵えを済ませるまで待て」

真剣な表情で席に着いた転弧に対して、そう答えた冷気が豚肉を切って味付けと下拵えを済ませてから席に着いた。

 

 

 

妹の恵理が目を覚ますまで続いた話し合いの結果、一度冷気も推しの子のライブを見に行って小遣いアップするかどうかを決める事で落ち着いた。

尚、それから3日ほど恵理の夜泣きで寝不足になった冷気が確認される事となった。

ちなみに小遣いはアップしなかった。

 

「ちくしょー!兄さんなんて大嫌いだ!!バーカ!」

そして冷気は、(心が)死んだ。




キャラ解説.

冷気 零.
ヴィラン名.LORD
今作の主人公にして世界最強のヴィラン。
後の死柄木 弔となる予定だった志村 転弧を救済し弟にした。
この度は、死柄八斎會編のキーキャラになるはずの壊理ちゃんを助け出し、うっかり死柄八斎會を潰してしまった(てへっ)。
三ヶ月後の第二次氷炎戦争に向けて準備中。

志村 転弧.
死柄木 弔になる運命を持っていた子供。
LORDに救われ彼の弟となった。
その結果、オール・フォー・ワンですら手出し出来なくなった。
何故か号泣必至の名作映画ばかり観てる。そして冷気が泣く。

恵理.
死柄八斎會編にて全ての始まりとなった超重要な原作キャラ。だったが、この度LORDの死柄八斎會本部襲撃によって死柄八斎會編そのものが消えた。
血液を利用した薬を作られる事も無いし、普通の女の子として生活する。
なんならLORDの保護下にある為、裏社会の誰もが手出し出来ない状態にある。
生後数日で冷気の妹となった。
出産届が出ていないので法律上、本当の妹である。

作者の心境.
ヤバいな…原作が…原作が徐々に壊れていってる。
お兄ちゃん暴れすぎだよ…自分で書いたとはいえ、流石にこれは…
ヒーロー側に勝ち目無いじゃん…アメリカのNo.1ヒーローが噛ませにならない事を祈るしか無いよ…かませ犬感が強いけど。
原作キャラを強化しないとヤバいんじゃね?
誰か助けて!(他力本願)

では、また次回!


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第十三話

日常回(?)です。
途中で戦闘が入るけど日常回です。

では、どうぞ。ごゆっくり!


「ふん♪ふんふ~ん♪」

学校での授業が終わり冷気の買ったマンションに帰宅した転弧が出入り口の自動ドアの前に立つ。

 

「おい志村。本当にここがお前の家なのか?」

「母ちゃんが、このマンションは庶民が住める場所じゃないって言ってたぞ?」

「嘘だったらぶっ飛ばすからな!」

その後ろに着いて来た彼の友達である三人組が疑いの眼差しを向けて後ろでなんか言っている。

それでも転弧は、一切気にする事なく入り口の装置に部屋番号を入力し首から掛けているカードキーを装置にセットする。

電子音が鳴り厳重にロックされていた自動ドアが開き自動ドアの奥に居た管理人に声を掛けた。

 

「ただいま!管理人さん!兄さんは帰ってる?」

「おやおや、お帰りなさいませ坊ちゃん。そうですな、あの人は今朝の10時頃に『ちょっと買い物に行ってくる』と言った切り帰って来ていませんね」

「もう四時なのにまだ帰って来ないの?珍しいね」

兄のが未だに帰って来ない事に疑問を覚えた転弧が首を傾げるが管理人の男が声を掛けた事で思考を切り替えた。

 

「はい、一体どちらまで向かわれたのでしょう?それより坊ちゃん、どのお部屋に向かわれるので?」

「そうだなぁ…家は妹が居るし、兄さんの仕事の道具がある階は立ち入り禁止だし、87階の11号室にするよ!」

「来客用の部屋ですね。かしこまりました」

転弧の向かう部屋を聞いた管理人が目の前の機会を操作したかと思えば黒いカードキーを手渡した。

 

「では坊ちゃん。87階11号室のカードキーです。気を付けていってらっしゃいませ」

「うん!ありがとうね。さっ、みんなも行こ?」

管理人からカードキーを受け取った転弧が友達に声を掛けるが返事がない。

 

「あれ?みんなどうしたの?」

転弧が疑問に思い声を掛けるが全員呆けた様子でただポカーンとしている。

 

「俺…父ちゃんに『ここは大企業の社長クラスじゃないと住めない場所』って聞いた事がある」

「僕も母さんに『ここに住みたければ最低でも年収3000万クラスじゃないと無理』って言われた」

「そう言えばウチのクラスの『金持 金治』もここの30階に住んでるって自慢してたよな?」

「そう言えばそうだね。…何でもそれ以上は、一般人には手の出せない金額だとか何とか…」

「特に最上階がオーナー以外立ち入り禁止じゃなかったっけ?」

「オーナーとその家族以外だろ?…って事は?」

会話をしていた三人が何かに気付いたように転弧を見る。

 

「転弧ってガチの大金持ちなの?」

「そこはオーナーじゃない?」

「けど、さっき兄さんって言ってたから…転弧のお兄さんがオーナー?」

純粋無垢な顔をした転弧を見た三人が顔を青くした。

 

「みんな…どうしたの?本当に大丈夫?」

「今までナマ言ってすいませんでした!!」

「勝手に僕より格下だと思っててすいませんでした!!」

「あなたの下僕になりますのでどうか命だけは!!」

転弧が再び声を掛けると三人が同時に頭を下げた。

 

「ええっ!?みんなどうしたの!?」

三人の反応に転弧がひたすら困惑した。

 

 

 

 

居間に通された全員が荷物を置きテーブルに座る。

「アハハハハ!大丈夫だよ、兄さんはともかくとして僕はそんな事しないよ。普通に僕と友達で居てくれたら僕はそれでいいよ」

「そ、そうなの?」

「大丈夫なのか…」

「良かった…本当に良かった」

笑いながら心配ないと言った転弧の言葉に三人が安心した様子で溜め息を吐いた。

 

「じゃあみんな、なんか飲む?」

「俺は…コーラでお願い」

「僕はダージリンティーでお願い」

「俺は濃いめのカルピスで頼む…」

「分かった。おーい、カナさ~ん」

全員の注文を聞き終えた転弧がキッチンに向けて声を掛ける。

 

「ハイ。オ待タセイタシマシタ転弧様」

キッチンの方から現れたカテゴリー4のメイド型氷人形(アイスドール)の女性が頭を下げて注文された飲み物を持って来た。

 

「ガチのメイドさんだ…」

「本物のメイドさんなんて初めて見た!」

「す、スゲー綺麗な人だ」

「フフ、アリガトウゴザイマス」

褒められたカナが小さく笑って感謝の言葉を告げる。

テーブルに各人の飲み物を置いて行く。

 

「デハ、ゴユックリドウゾ」

全員に飲み物と茶菓子を渡し終えたカナが再び頭を下げて一礼してから下がる。

 

「じゃあみんな。宿題やろ?」

「お、おう」

「分かった。ちゃんと勉強するんだよ?」

「悪いけど誰かここ教えてくれる?」

すぐに適応した三人が転弧と一緒に学校の宿題を解き始めた。

 

 

 

 

一方の冷気はと言うと

 

「今日は…野菜炒め。いや…大根が安いから鮭と一緒に鮭大根にしようかな?それとも大根おろしにしてポン酢と一緒にさっぱりと鍋にするか。けど肉巻きおにぎりも捨てがたい」

「……そうだ、みぞれ鍋にしよう」

街の中で今晩のご飯を決めていた。

 

「何をぶつくさ喋っているんだLORD!!?」

プロヒーローと戦っている事を除けば普通の光景だっただろう。

だが残念。現在LORDは、タイマン最強のプロヒーロー.キングボクスと殴り合っていた。

 

「おらおらおらーっ!!」

「おっ…!」

キングボクスがLORDに対してラッシュを決める。

残像が残る程の速度で殴るキングボクスに対しLORDは、敢えて全ての攻撃を受ける。

 

「どりゃーっ!!」

「ごはぁっ!!?」

キングボクスのガードの隙を突いてLORDが拳を叩き込んだ。

その衝撃でキングボクスが20メートル吹き飛ぶ。

 

「がふっ!ゴフッ!ぜぇ…はぁ…なんて、バケモンだ!」

片腕で体を持ち上げたキングボクスが吐血して悪態を吐いた。

たった一発で今まで受けた事の無いダメージを一気に蓄積された事でキングボクスの目が焦点を失う。

 

「気は済んだか?」

「クソッ…!本気でやんねーとヤバいな」

ゆっくりと近づくLORDに対してキングボクスがボクシングの構えを取る。

 

「はぁ…面倒だな」

「申し訳ないが…本気でいかせて貰うぞ!!」

キングボクスとは逆に何の構えも取らないLORDが呆れた様子で溜め息を吐いた。

 

「喰らえLORD!!これが俺の最強の一撃!」

王者の拳(キングパンチ)!!」

キングボクスがLORDの笑顔仮面に向けて本気の一撃を叩き込む。

 

拳が当たった衝撃で突風が巻き起こり、轟音が鳴り響く。

しかし、LORDは微動だにしない。

まるで効いていないと言わんばかりにキングボクスの拳を退かした。

 

「ば、馬鹿な!?」

「まだ、やるかい?」

「クッ!」

心底驚いた様子で拳を引いたキングボクスにLORDが再び問い掛ける。

 

「キング!頑張れー!!」

「LORDに負けんじゃねぇ!!」

「本気でぶん殴れ!!」

周りのギャラリーがキングボクスを応援する。

 

「LORD!ぶっ倒れろ!!」

「さっさと死ね!!」

「キングボクスに倒されろ!」

一方のLORDは、周りのギャラリーに敵意を向けられて罵倒されている。

 

「あれだけの一撃を受けたのにどうして倒れない!?」

「あ゛?」

「大型トレーラーを粉々に粉砕する俺の必殺の一撃を受けて置いて何故立っていられる!?なぜ倒れない!?」

必殺の一撃を直撃させても尚、微動だにしないLORDにキングボクスが焦燥に駆られた様子で問い掛け拳を構える。

「シンプルに効いてないだけかな?」

その質問に対してLORDが困った様子で笑顔仮面の上から頬を掻き答える。

 

「なっ!?」

「いやいや、逆に聞くがあの程度で俺が倒れると思ってんのか?」

信じられない物を見たような目をしたキングボクスにLORDが当たり前のことを言うように聞き返す。

 

「まあ、いいや。俺の番だ、ガードしろよ?」

「ひぃっ!?」

説明が面倒になって拳を深く引いて力を込めるLORDに恐怖を覚えたキングボクスが両腕をクロスさせて守りの構えを取る。

 

「本物の王の拳を見せてやる…」

氷王の鉄拳(キング・パンチ)!!!」

LORDが拳を放った直後に腕が消えた。

常人の目に追えない速度で放たれた拳が人々の目には消えたように見える。

その速度で放たれた拳がキングボクスがクロスガードに使った腕に当たり、その両腕をへし折る。

両腕を折った拳が、そのままの勢いで胸に当たり肋骨を折り、その衝撃が背中までに伝わり背骨をも圧し折った。

 

「がっ…はっ………!!!?」

LORDの拳を受けたキングボクスが踏ん張る事も出来ず吹っ飛ばされて近くのオフィスビルの壁にめり込んだ。

 

「ふぅ…弱っ」

キングボクスを評価し買い物を済ませてさっさと帰ろうとしたLORDがコートを翻すと大地を揺らしながら新たなプロヒーローが現れる。

 

「ごっつあんです!」

「えぇ…相撲取り?」

「元・横綱.光の山!ヴィランLORD!貴方に立ち会いを申し込みます!」

新たに現れたのは、個性が一般的になってから更に過激化した角界の中で最上位に位置する横綱。

その中でも歴代最強とまで謳われた元・横綱.光の山がプロヒーローへと転職した姿。

プロヒーロー.相撲キングだった。

 

「はぁ…もういいや、ほら掛かって来な」

「うっす!胸をお借りします!!」

呆れたような声を出したLORに対し相撲キングが突っ込んだ。

地面が割れる程の踏み込みに重量200キロ越えの肉体が合わさり巨大重機となんら変わりない一撃としてLORDに突っ込んだ。

 

「なっ…!?」

「気は済んだか?」

元・横綱の本気のぶちかましを物ともせず、微動だにしないLORDに相撲キングが目を見開く。

 

「んじゃ、俺の番だな?突っ張りいくぞ!」

「っ!うっす!!」

LORDの宣言に打たれる覚悟を決めた相撲キングが踏ん張る。

 

直後、LORDの突っ張りが相撲キングを吹き飛ばす。

吹き飛ばされた相撲キングが駐車してあった大型トラックを横転させて近くのコンビニに突っ込んだ。

 

「やれやれ…やっと終わったか?」

LORDがやや疲れた様子で呟くと後方に筋肉隆々の男が着地する。

 

「HA-HAHAHAHAHA!!!!!私が来た!!」

「「「オールマイト!!!」」」

「オールマイト…」

新しく現れたのは、日本のNo.1ヒーロー.オールマイト。

彼が現れた瞬間、ギャラリーが沸き上がり相対的にLORDのテンションが下がった。

 

「LORD!!今日こそ貴様を捕らえるぞ!」

「断る。あと、ギャラリーがさっきから煩いからどっか行って貰え」

LORDが日本に入国してから何十回も行われたやり取りを行った両者の放つ気迫に押されて周りのギャラリーが一斉に居なくなる。

 

「これで心置きなくやれるな!」

「勘弁してくれよ…まあいいや。晩飯までには終わらせる」

拳を構えたオールマイトに合わせてLORDも拳を構える。

その数秒後に両者の拳が衝突し台風クラスの突風が巻き起こった。

 

 

 

 

夜6時頃

 

「よぉ、転弧…今帰ったぞ」

「あっ、兄さん!お帰…り……凄い疲れてるけど何かあったの?」

外出から帰って来た兄を出迎えた転弧が心配した様子で問い掛ける。

 

「おう…心配すんな。それよりも喜べ。今夜はみぞれ鍋だ」

「みぞれ鍋?って美味しいの?」

「食べた事ないから分からない。だから今日食べるんだよ」

買い物袋から大根や豚肉などを取り出してキッチンに立つと寝室から赤ん坊の泣き声が聞こえる。

 

「ふ、ふぇぇぇぇん!」

「おっと、恵理が起きたか。悪い転弧、ちょっと待ってろ」

「はーい…」

泣き出した妹の下へ早足で向かった兄の背中を眺めて、転弧がソファーに座りテレビで鉄道員(ぽっぽや)を見始めた。

 

 

「おー、よしよし。どうしましたか?おむつ…ではなさそうだし、お腹が空いたのかな?それとも何処か痛いのかい?眠いからって訳ではなさそうだし、怖い夢でも見たのかな?それとも気温が気に入らなかった?…駄目だ、全然分からない。赤ん坊相手じゃ世界最強のヴィランの称号なんてクソの役にも立たないし、兄として転弧の世話もしないといけないし、晩飯も作らないといけない…洗濯物を取り込んでまた洗濯機を回して服を干して服を畳んで…やる事が多すぎるな!?世の母親達って偉大なんだな…そりゃあ、育児ノイローゼにもなるわ」

「おぎゃぁぁあああ!!」

「おう、すまんすまん。びっくりしたよね?ごめんねー。いないいないばあ、とか通用するのか?」

腕の中で抱えた妹をあやしながら、やるべき事を一個ずつ思い出した冷気が世の母親の偉大さを痛感する。

 

「兄さ~ん!ご飯まだ~?」

「分かった!すぐ行く!」

「びぇぇぇぇええええん!!」

「ああ、ごめんねー。よーしよし、いい子いい子。いい子だから泣かないでねー」

あっちもこっちも大忙しになった冷気が最終手段として8体のカテゴリー3(戦闘力プロヒーロークラス)を生み出し家事を分担する事で何とか対処した。

 

 

「はぁ…はぁ…なあ、情報屋。知ってるか?」

『何をだ?』

「世の母親ってスゲー偉大なんだぜ?」

『うん、まぁ…知ってる。俺も一応二児の父親だからな…』

「そうか…お前もスゲーんだな」

『ああ、ありがとう。それよりも煉獄の女王に着いての新情報だ。何でか知らんが中国まで歩いていた煉獄の女王が突然立ち止まり、誰かと戦闘をおっぱじめたかと思えば方向転換しやがった。今度は、ロシアを通ってからヨーロッパ諸国を通り、アメリカを通ってから太平洋を渡って日本に上陸するつもりらしい。何を考えてるか分かんねぇな…』

「そうか…分かった、ありがとう。金は後で振り込んでお…く……よ…」

『おい、LORD?LORD!?どうした!?』

「ぐー…ぐー…」(-_-)zzz

『なんだ、寝てるだけか。育児疲れってヤツだな?まぁ、あれだ。暖かい飲み物でも飲んでゆっくり休め』

会話の最中に寝落ちしたLORDに対して情報屋の男が聞いているかも分からないアドバイスをしてから電話を切った。




何度でも言います。
これは、日常回です。
もう一度言います。これは、日常回です。

次回は、氷炎戦争の一歩手前の武器調達シーン&開戦前の会話です。多分…きっと…恐らく…。

では、また次回!


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第十四話

どうもこんにちは。
下手したら全作品の中で一番進んでるんじゃね?って思ってる作者です。

ヒロアカの最新話を読んで第二次氷炎戦争編(執筆済み)の内容を確認すると、今の死柄木に勝てそうなキャラが三人(オールマイトは含まない)もいて草生え散らかしました。

それでは、どうぞ。ごゆっくり!


LORDが死柄八斎會を襲撃してから2ヶ月ほど経った日の朝。

 

「おーい、転弧。そろそろ学校に行く時間だぞ。送ってやるから早くしろ」

「ち、ちょっと待ってよ兄さん!靴下が見つからないんだ。確か昨日ここら辺に置いておいた筈なんだけど…」

冷気と転弧が玄関前で慌ただしく動いていた。

学校へ送ってやるつもりの冷気が用意しておいた靴下が見つからない弟の準備を待っている。

 

「はぁ、またかよお前」

prrrrr…prrrrr…

冷気が呆れていると突如スマホが鳴り出す。

 

「ん?誰だ?こんなクソ忙しい時に…チッ!」

若干イラつきながらも相手を確認した所で冷気が顔を顰めた。

 

「お待たせ兄さん!早く行こう!」

「……」

「兄さん?」

「…ん?ああ、すまない。じゃあ行こうか」

準備を済ませた転弧が冷気に声を掛けるが今にも人を殺しそうな目をした兄を心配した。

弟の声に気付いた冷気が何も無かったかのように振る舞い転弧を車へと案内する。

 

 

「ね、ねぇ…兄さん」

「どうした?」

「さっきの電話…誰からだったの?」

「ああ…知り合いだ」

学校に向かう途中の車の中で転弧が兄に質問した。

冷気は、それにただ淡々と不機嫌な声で答える。

「そ、そう…」

兄の威圧的な言葉を聞いた転弧は、それ以上何も聞く事が出来なかった。

その後の会話も無く学校に到着するまでの10分間を無言が支配していた。

 

「着いたぞ…」

「あ、ありがとう。兄さん…」

「おい、転弧…手袋を着け忘れるなよ?」

「うん…」

冷気がポケットから取り出した個性封じの手袋を弟に着けてから軽く頭を撫でる。

 

「安心しろ。お前に怒っていない。だから心配するな…確かにお前や恵理を育てるのは大変だ。だがそれも俺の選んだ道だ。だから心配するな」

「兄さん…」

「ほら、笑顔だ!口の端を指で持ち上げろ」

「うん!行ってきます!」

弟を元気付けてから学校に向かわせた冷気が車のドアを閉めてスマホを取り出す。

 

「先程は、電話に出れなくてすまない。近くに人が居たから会話を聞かれるわけにいかなかったんだ」

『大丈夫よ。それよりこの後会える?注文の品についてとオススメの商品があるのよ』

「分かった…取り敢えず空港で待て。くれぐれも問題を起こすなよ?」

『あら?私を誰だと思ってるのかしら?』

「最重要国際指名手配犯の一人『破滅の女狐』こと.雷帝だろ?」

『あらあら…喧嘩売ってるのなら買うわよ?』

「良いから落ち着け。問題起こさずに空港内の時計台近くで待て…良いか?くれぐれも日本のヒーローと戦いになるような事はするなよ?」

『まあ、頑張るわ。それじゃあまたね』ピッ

電話先の相手との会話を終わらせた冷気が頭を抱えてサングラスを取り出し装着する。

 

「早く来すぎだろ…雷禍。なんで今日なんだよ。煉獄の女王が来るのは、まだ1ヶ月後の話しだろ?あぁ…頭痛い」

ぶつぶつと文句を言いながらも空港へと車を走らせた。

 

 

 

 

約2時間ほどで空港に到着した冷気が空港の駐車場に車を止めて時計台のある広場に向かう。

 

「さてと…問題を起こしていなければいいんだけど、何処にいるんだ?」

合流場所である時計台の所に来た冷気が雷禍を探すが見つからない。

 

「おい、お前何処にいるんだ?」

「暇だからスターバックスに入ったわ。10分以内に来れたら一杯奢ってあげる」

「はあ…分かった。すぐ向かう」

相変わらず自由奔放な性格の雷禍に振り回された冷気が空港の案内図を読みながら新たな待ち合わせ場所であるスターバックスに早足で向かった。

 

 

~数分後~

 

 

少しだけ遅れながら店に入店した冷気が窓際でコーヒーを飲んでいる雷禍を見つけて近づいた。

「着いたぞ」

「3分遅刻よ。コーヒーは奢らないわ」

「別にいいさ。それくらい自分で買う」

「あっそ。じゃあ座って」

皮肉を軽く躱した冷気に雷禍が着席を促す。

 

「で?どうしたんだ?」

「貴方の無茶な注文の事で話しがあるのよ」

「期日に間に合いそうに無いか?」

「嘗めないで。全然間に合うわ。本題はそこじゃなくて、武器を何処に隠すかって事よ」

「コンテナを契約しておくから問題ない」

「そう…戦艦は?」

「戦艦は…流石に入らないから普通に港近くに待機。列車砲は、空輸で頼む。大型貨物船は、遠くで待機」

「はいはい。ついでに斬艦刀は、海に沈めておくわ。んでまあ、一番大事な話しだけど…」

一切目を合わせず美男美女が淡々と話す光景は、傍から見るとこの上なく不気味な光景だった。

が、二人ともそれを気にするほど左顧右眄では無いので話しを続けた。

 

「煉獄の女王が大西洋を渡り切ってアメリカのNo.1ヒーローをぶっ飛ばしてからアメリカ横断を果たし、今は太平洋を横断している真っ最中よ」

「あいつが?相変わらずやべぇな…」

「なに言ってんのよ。あんたもアメリカのNo.1くらいならぶっ飛ばせるでしょ?」

「全盛期ならな?弱体化した今じゃ…まあ、どっこいどっこいって所だ。何のためにお前に協力を仰いだを思ってる?」

雷禍が1ヶ月後に訪れる煉獄の女王の現在の状況を話し、冷気がそれに相槌を打つ。

 

「ああ、そういうことね。納得行ったわ。それよりもコーヒーの一つくらい注文しなさい。流石に迷惑よ」

「そうだな…ちょっくら注文してくる」

「キャラメルマキアートがおすすめよ」

「うぃーっす」

遠まわしな雷禍の注文を了承した冷気がレジに向かう。

 

「いらっしゃいませ。ご注文をどうぞ」

「エクストラショット アーモンドミルク ラテ with キャラメルソースをトールサイズで一つ。アイス リストレット ノンファットミルク キャラメル キャラメル マキアートをグランデで一つ。あと、ホットサンドとチキンフィローネ、ハム&オニオンフォカッチャを一つずつ。支払いはカードで」

「かしこまりました」

注文を済ませ待っている間に1ヶ月後にまで迫った決戦に思いをはせる。

 

自分と煉獄の女王の戦い。

確実にどちらも無事に帰れないであろう世紀の一戦。

周りに与える被害は、最低でも決戦の地となる場所の完全消滅。

それに加えて街の半壊と都心部の一時的な麻痺。

それだけならまだ可愛い方だ。

下手したら、日本が滅びる。

 

「お待たせ致しました」

「ああ、ありがとう」

そこまで考え至った所で注文した品々が出来上がり思考を切り替えた。

今は悩んでいても仕方ない。

そう自分に言い聞かせて席で待つ雷禍の下へと向かった。

 

「お待たせ。食っていいぞ」

「ありがとう。代金は?」

「お前じゃねぇんだから一々要求しねぇよ」

「あら、そう」

雷禍にキャラメルマキアートを渡してから冷気も自分の飲み物に口を着ける。

 

「んで?続きは?」

「ああ、そうね」

冷気が話しの続きを促すと雷禍がキャラメルマキアートを置いて話しを続ける。

 

「で、その煉獄の女王がね。太平洋を横断中なのよ。周りの海水をジュウジュウ蒸発させながら一歩一歩確実に歩みを進めているようなの。このペースだと…そうね。日本到達まで、あと32日って所かしら?」

「マジの1ヶ月後かよ!?」

「そうよ。そこでオススメ商品の出番って訳」

「オススメ商品?ティアマトでも撃ち込むってのか?」

「あんな風船レベルのおもちゃじゃ煉獄の女王にかすり傷を付ける事すら不可能よ」

呆れた様子でわざとらしく肩をすくめた雷禍がカバンから一つの封筒と『笑顔仮面』を取り出した。

 

「まず一個目のオススメの商品は、この破壊不可能な笑顔仮面よ」

「破壊不可能?」

「そうよ。今までの笑顔仮面と違って耐久性が桁違い。第一次氷炎戦争を基準に耐久力を底上げしたから、あんた達の殴り合いでも耐えられると思うわ」

「それは…凄いな」

雷禍の説明に冷気が純粋に驚く。

自分と煉獄の女王の殴り合いにも耐えうる強度の笑顔仮面がこの世に生み出した雷禍の技術力に純粋に驚いた。

 

「で、二つ目が…その封筒の中にある」

「これは…雷迎?」

「そっ!私の切り札の一つにして、溜め技。一発5億だけど、今回は特別価格で3億5千万よ。どう?」

「要らない。笑顔仮面だけで良い」

封筒の中身を説明していた雷禍に淡々と言い放った冷気が懐から小切手を取り出す。

 

「いくらだ?」

「その仮面はサービスよ…じゃあ、また連絡するわ」

「何処か行くのか?」

「ちょっとだけ京都観光してから帰るわ。『インドラの矢』は、チャージに一時間掛かるからそっちで何とか時間を稼ぎなさいよね」

冷気との会話を強制的に切り上げた雷禍がキャラメルマキアートを持って席を立つ。

その目元は、うっすらと滲んでいた。

 

「そうか…」

冷気が店から出て行く雷禍の姿を横目にコーヒーに口を付けた。

 

「転弧に土産が出来ちまった…」

手つかずのサンドイッチを袋に詰めながら冷気が呟く。

 

 

 

 

アメリカ付近の海上で300にも上る米海軍の軍艦が待機していた。

 

「提督!全艦所定の位置に着きました!」

「分かった。指示があるまで待機しろ」

「イエッサー!」

敬礼をしながら報告する部下に髭を生やした男が答える。

 

「すーっ…ふぅ…」

「大将殿、確か奥様のために禁煙なさったのでは?」

「人生最後の一服になるんだ。今日くらい目を瞑れ」

部下の質問に男が諦めた様な顔で葉巻を吸う。

 

「まったく、お偉いさん方にも困ったもんだよ。国としての威厳を守るためとは言え、『ウチ(アメリカ)のNo.1を倒した煉獄の女王を殺せ』って命令を出して来るなんてな…」

「確か世界最強の(ヴィラン)と互角に渡り合い、あろうことかイギリス最強のヒーロー『光の皇女(みこ)』を倒したって言う…」

一人愚痴る様に呟いた男の言葉に確認するように部下の男が煉獄の女王の成した偉業を語っていく。

 

「そう…そいつだ。第一次氷炎戦争でLORDと戦い国を3つ滅ぼし、何を思ったのか光の皇女を瀕死に追い込み、再度LORDと戦おうとしているあの煉獄の女王だ」

「また…戦う気なんですね」

「ああ、しかも日本(Japan)で決着を着けるつもりらしい」

「沈むでしょうね…」

提督の男の言葉に部下の男が同情するような声を出した。

 

 

『報告!12時の方向に高さ数百メートルの巨大な水蒸気柱を確認!煉獄の女王です!!』

それから1時間ほど経った頃に無線機から偵察向きの個性を持った男の焦った声が響く。

 

「分かった。全艦!戦闘態勢に移行!あの女にアメリカの意地を見せてやれ!」

『『『『『イエッサー!!』』』』』

報告を受けた提督が指示を飛ばし窓の外に目を向ける。

 

「現れたな…化け物!」

その視線の先には、海上を歩く赤髪の女がいた。

煉獄の女王の存在を目視で確認した提督が無線機を持って口を開く。

 

「全艦…撃て(FIRE)!!」

提督が指示を発砲命令を出し全艦が一斉掃射を行った。

 

「……」

自分に飛んでくる無数の砲弾を確認した煉獄の女王が懐から一振りの刀を取り出し小さく口を開く。

 

「流刃若火…残火の太刀!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『続いてのニュースです。

アメリカのNo.1ヒーローを倒し日本に向かっている煉獄の女王をアメリカ海軍が迎撃。約5時間の戦闘の末、アメリカ海軍の艦隊が全滅しました。

煉獄の女王は、依然として日本に向かって進行中です。

専門家の話しでは、今から約30日後に日本に到着した後にLORDと接敵する可能性があるとの事です。

この国は、一体どうなってしまうのでしょう?』




ヤバい…話しがあまり進んでない…どうしよう?

次回から第二次氷炎戦争編が始まります。
戦闘シーンだけで5万字を越えた第二次氷炎戦争編です。

では、また次回!


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第十五話

正直言って作者ですら何を書きたいのか良く分からないまま生まれた今回の話し。
せっかくの第二次氷炎戦争に始まりなのに、読んで「なんだこれ?」ってなりました。作者です。
それでも丁度都合の良い所で書き終えたので投稿です。

では、どうぞ。ごゆっくり!


煉獄の女王が日本に到着するとされる一週間前。

日本はお祭り騒ぎとなっていた。

 

もうすぐ沈むかもしれないと噂されている上にLORDと煉獄の女王が確実に衝突すると言われている。

そんな国に誰が滞在し続けたいと思うだろう?誰も思わない。

 

その不安を煽るかのように一週間前に起こったエンデヴァーとLORDの衝突。

街一つがその機能を完全停止させるほどの氷と炎の衝突により人々に第一次氷炎戦争の恐怖を思い出せた。

そして人々は悟る。エンデヴァーとの衝突でこれほどの被害が出たのだ。

もし煉獄の女王とLORDが殺し合いを始めたら日本国は堕ちるだろう、と。

故に空港は出国したい人々でごった返していた。

 

すでに日本の経済は壊滅的な大打撃を受けているし、日本中の至る所で窃盗、強盗、暴行や暴動に殺人などの犯罪が起こり、もはや無法地帯と化している。

ヒーローや警察が出動して忙しなく動いているが事態は一向に良くならない。

事の発端たるLORDを捕らえれば良いと考える人間もいるが、それはこの上ない悪手だ。

LORDと雌雄を決す事を目的として日本に向かっている煉獄の女王が戦う相手が居ないと気づいた場合、交渉する暇も無く日本国を滅ぼすだろう。

 

頼みの綱であるオールマイトが煉獄の女王に勝てるかどうかも微妙な状況の中でLORDを捕らえる事は推奨されない。

故に日本の命運は、LORDの手に託された。そう言っても過言ではない。

 

 

「って状況なんだけど…どう思う?」

「いや、どう思うって…そんなの分からないよ」

「だよなぁ…」

場面は変わって冷気のマンションの一室で転弧が兄の質問に答えられないでいた。

日本の危機に呑気に昼飯を作っている兄に、これからどうするの?と問い掛けた所、なぜか現在の状況を説明された。

1週間後に迫ったLORDと煉獄の女王による氷炎戦争をまったく重大な事と考えていない兄に転弧は、ひたすら困惑した。

その困惑をよそに兄が再び問い掛けて来る。

 

「なあ、転弧。俺が…お兄ちゃんがお前や恵理の生まれ故郷であるこの日本が沈む事を黙って見過ごすと思うか?」

「え?どういう事?」

「そのままの意味だ。安心しろ、日本は沈ませない」

「え?兄さん、何を言って…氷炎戦争は、LORDと煉獄の女王の戦いで…その余波で日本が滅びる可能性があって…え?」

兄の説明を受けた転弧の脳が理解する事を拒む。

兄の言ってる事が本当なら兄は、世界最強の(ヴィラン).LORDという事になる。

 

転弧は、それを信じたくなかった。あの優しい兄が世界最強にして残虐非道なヴィランであるなんて信じたくなかった。

だが、一度湧いた疑問は、徐々に大きくなる。

思えば不可解な出来事はいくつもあった。

 

そう言えば自分は、両親の顔を知らない。

自分が赤ん坊の頃の写真が一枚も無い。

兄も自分の写真を一枚も持っていない。

本人は、写真に写る事が嫌いだと言っているがどうも怪しい。

いつも兄が出掛ける時、ほぼ絶対の確立でヴィラン.LORDが現れる。

兄が仕事をしている姿を見掛けた事が無いのにこのマンションを管理出来るだけの資金がある。

家に泊まりに来た金髪のお姉さんのカバンに銃やらナイフなどの武器のカタログが入っていた。

妹を連れて来た日のニュースで、死柄八斎會がLORDに襲撃されたと流れていた。

そして今の兄の発言で疑問が確信に変わった。

 

あの優しい兄は、世界最強の(ヴィラン).LORDだったのだ。

 

「はっ…はぁっ…!」

それを脳が理解した瞬間、息が苦しくなる。

息が苦しい。吐き気がする。全身に鳥肌が立つ。寒い。怖い。

人を遊び感覚で殺すアレ(LORD)が自分の兄だったなんて信じられない。信じたくない。

だが疑問が確信に変わった今、それを信じずには居られない。

早く逃げないと。そう思うが足が竦んで動かない。

 

「痛っ!」

足に鞭を打って何とか動こうとするが転んでしまう。

軽くぶつけた鼻をさすりながら顔を上げると、そこには兄が立っていた。

 

「に、兄さん?」

声を掛けるが返事が無い。

恐る恐る顔を上げると黒いトレンチコートを羽織った兄が居た。

だがいつもと違う点は、その顔だった。

いつもの見慣れている優しい笑顔や時々見せる何かを考え込むような表情ではなく、表情が窺えないように笑顔仮面を着けていた。

 

「L、LORD…!?」

相手のヴィランネームを口にするとLORDが片膝を突いて顔を近付けてから笑顔仮面に手を掛ける。

 

「バァ…!」

「ひぃっ!?」

笑顔仮面を退かして顔を覗かせたのは、案の定さっきまで疑っていた兄だった。

それに思わず後退るが足を掴まれて引きずられる。

 

「や、やだ!助けっ…!?」

「静かにしてろ…転弧」

何とか逃げようと藻掻くと口を塞がれて押し倒された。

倒れる時にもう一つの手で頭が地面にぶつかる事を防がれたのがせめてもの優しさだろう。

 

「安心しろ転弧…お前達には手出ししない。信じられないなら天の契約書(ヘブンズディール)でも使ってやろうか?」

「んん!!んんっ!」

「取り敢えず寝とけ…起きた頃には全て忘れているはずだ」

話している途中で逃げ出そうと藻掻いていた転弧の額を軽く小突いた事で気絶させてからベッドに運んだ。

 

「よし…じゃあ、あとは」

そこまで言った所で玄関ドアが破壊された。

 

「はぁ…修理費くらい出して貰うぞ?」

「撃てーっ!!」

笑顔仮面を装着してため息をついたLORDに特殊急襲部隊(SAT)の隊長が発砲命令を出す。

同時にLORDがマンションの自室の玄関以外の全てに特殊な氷でコーティングしてからSAT隊員百数名を相手に一方的な虐殺を始めた。

 

 

 

 

手始めに隊長と思われる男にデザートイーグルの銃口を向けて躊躇無く発砲。

.50 AE弾の装填されたデザートイーグルから発砲された弾丸は、防弾ヘルメットを貫通し隊長の命を一瞬にして奪った。

そのまま銃口を別の隊員に向けてまた発砲。

続けて発砲。発砲。発砲。発砲。発砲。発砲。発砲。

両手に一丁ずつ持ったデザートイーグルが空になるまで発砲を続けた結果、約30人の隊員を虐殺。

その後に体内に保管してあるGAU-8 Avenger(アヴェンジャー)をセット。

更にデザートイーグルを再装填(リロード)し待ち構える。

 

「おや?以外と学習するんだな」

向かって来る第二陣の姿を見たLORDが少し感心したように呟いた。

 

第二陣は、防御系の個性を持ったヒーローと隊員を戦闘に全員がバリスティック・シールド(防弾盾)を持って前進している。

たしかにそれ(防弾盾)を使えば普通の銃弾くらいなら防げるだろう。物によってはショットガンのスラッグ弾も防げるだろう。

 

「じゃあ、全員死ね」

だが、今回はあまりにも脆過ぎた。

相手は、LORD。そしてLORDの用意した兵器は、GAU-8 Avenger(アヴェンジャー)

そしてその弾薬は、30㎜口径弾。戦車の装甲ですら貫通する弾丸。

この程度の装備では、防ぎ切る事は到底不可能だった。

 

ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!

 

戦車の装甲をも貫く威力を誇る徹甲弾を分間.3900発も連射するGAU-8 Avenger(アヴェンジャー)の攻撃により最初の数秒は耐えたものの、すぐに防御が破壊されミンチにされた。

続いてバリスティック・シールド(防弾盾)を展開していたSATの隊員達が30㎜口径弾の脅威に晒される。

弾丸を防げるはずのバリスティック・シールド(防弾盾)がまるで紙切れのように破壊され残っていた隊員達の殆どが同じようにミンチになった。

それでもしぶとく生き残った隊員の一人が顔を出しLORDに銃口を向けるが先にデザートイーグルに頭を撃ち抜かれて殺された。

 

「ふぅ…終わったか?」

SATを全滅させたLORDがマンション中に張り巡らせた氷を隊員達の亡骸ごと回収し、一点に圧縮。

大きさ数センチの赤黒い球体に変化させたそれを警視庁に『次、邪魔したら潰す』と書かれた手紙ごと送りつけた。

尚、警視庁に届いた頃に圧縮された玉が広がり無惨な死体が晒される仕組みになっているので警視庁は、これが脅しでは無く警告であると理解させられる事になったが、それはまた別の話。

 

「あぁーっ、腰痛ぇ…」

総重量が1.8tもあるGAU-8 Avenger(アヴェンジャー)を再び体内に収納したLORDが腰を擦る。

 

「あっ!鍋の火点けっぱなしだった!」

急に思い出したように手をポンと叩いて急いで鍋の火を止めに戻った。

 

その1時間半後に起きた転弧は、何か大事な事を忘れているような気がしたが昼ご飯が大好きな味の染みた肉じゃがだったので、細かい事はさっさと忘れた。

ちなみに冷気は、妹の世話で相変わらず寝不足だった。

 

 

煉獄の女王が日本に到着する3日前。

日本政府と日本のヒーロー協会が記者会見を開いた。

 

内容は、『LORDと煉獄の女王の衝突について、我が国の対応』であった。

全国民が今すぐにでも知りたい情報を開示するため、この会見は生放送で行われた。

 

そこで日本政府が出した結論を要約すると『我々、日本政府にLORDと煉獄の女王の衝突を止める術が無いため『第二次氷炎戦争』中は、傍観に徹する。』との事だった。

 

この結論に記者達は、荒れに荒れた。

罵詈雑言が飛び散り幾人かの記者が政府の役人の胸ぐらを掴み声を荒げた。

それほどの発言だった。

だが残念。これは政府の上層部が出した苦渋の決断。

もはやこれ以外に方法が無いのだ。

すでにLORDを捕らえに行ったSAT部隊が全滅させられ、LORDの日本政府に対するただでさえ無い信用がマリアナ海溝よりも降下してしまったのだ。

決戦の地を日本と決めた両者の戦いを邪魔しようものなら協力して(・・・・)その邪魔者を消すだろう。

 

荒れた記者会見の現場に続いて訪れたのは、日本のヒーロー協会の会長。

元プロヒーロー.オール・ジャスティス。

本名.近藤 正義

 

元プロヒーローでありヒーロー協会の会長である彼に記者達が期待の眼差しを向けた。

しかし、彼が出した結論も同じだった。

「我々、日本ヒーロー協会はLORDと煉獄の女王の正面衝突である『第二次氷炎戦争』中は、あくまで傍観者として居る事に徹する」

そう言い切った彼に記者達の怒りが再燃したが次の言葉に全員が黙らされた。

 

「そんなに言うのであれば、自分達が行って下さい。我々は、100%死ぬと分かっている場所にヒーロー達を送るほど残酷な決断は下せません」

その言葉を聞いた誰もが黙ってしまった。

誰も反論できない。

ヒーロー達は、たしかに自己犠牲の精神があるが先の第一次氷炎戦争で数百人のヒーローが成す術も無く殺された事を知っている。

なので日本のヒーロー協会会長の下した決断に誰もが納得せざるを得なかった。

 

その後、数回の問答があっただけでお通夜のような記者会見が終わった。

 

そして、

 

ついに、

 

煉獄の女王が日本に到着する一日前になった。

 

そして、

 

煉獄の女王が到着すると思われる場所に、

 

世界最強の(ヴィラン).LORDが立っていた。




一応『第二次氷炎戦争』編が始まった…はずなんですけど。
どうなんだろう?これで良いのかな?ってなってる作者です。

次回は、戦争の前準備(兵器到着)と煉獄の女王の到着です。…多分…きっと…恐らく…そうであって欲しい…。
では、また次回!


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第十六話

ヒロアカ333話でアメリカのNo.1ヒーローの活躍を見て心の中のLORDさんが敬礼しながら「見事だ…」と誇り高い戦士に向けるような眼差しで呟きました。
自分の作品では、試合に勝っても勝負に負けるだろうな…と思いました。作者です。

それに比べてこの作品は…全然進んでないじゃなか…ちくしょう。

なんだか気分が落ち込んでいます。
では、どうぞ。ごゆっくり!


日本に向かって来る煉獄の女王の進路から計算して彼女が到着すると予想される場所は、海に面した日本の都市の一つ。

その都市の保持する砂浜に煉獄の女王が到達すると予想された。

 

すでにその都市の住人全員に避難命令が発令され、人的被害を極力抑えられるように立入禁止の指示が出された。

都市が機能を停止してから三日。既に誰も居てはいけないはずのこの危険地帯に二つの人影があった。

 

「先輩、マジでヤバいですって!早く帰りましょうよ!」

「バッカ!ここまで来て手ぶらで帰れるか。せめてLORDの素顔を激写してから帰るぞ」

カメラを持ったスーツ姿の女性に同じくスーツ姿の男がそう返した。

二人は、同じ新聞社に所属する先輩と後輩であり、この地で始まるであろう第二次氷炎戦争開戦の当事者であるLORDの素顔を激写するまで帰るつもりがないらしい。

これ以上ない危険区域に足を踏み入れたこの者たちは、勇敢と言うべきか、はたまた無謀と言うべきか。

本社の命令に背き、この場所に赴いたと言う事は、命を捨てる覚悟があると考えるべきだろう。本当に覚悟あるかどうかは別として。

 

その二人が待機している場所に銃を持った二人の警備員が近づいた。

 

「お前達!ここで何やってるんだ!?」

「ここは立入禁止区域だぞ!今すぐ逃げろ!」

一人目の警備員の言葉に焦ったが二人目の言葉に二人とも頭に疑問符を浮かべた。

 

「あ、あのそれってどういう…」

ズゥゥゥゥゥン

 

女性記者が警備員の一人に質問するより先に大地が震えた。

 

ズゥゥゥゥゥン

 

大地が再度震えて誰も立っていられなくなる。

 

「な、なんだ!?」

「ヤバい!もう来やがった!」

「来たって何が!?」

警備員が焦った様子で二人を避難させようとするが男の記者は何がなんだか分からない様子で辺りを見渡す。

 

ズゥゥゥゥゥン

 

「痛っ!…え?」

再度訪れた振動によって女性記者が倒れてしまい…ソレを見た。

 

「せ、先輩!あれ!」

「あ?なんだよ?…あ」

先輩記者の袖を引きながら指差した方に全員が向けると、そこには絶望が立っていた。

 

ソレは、周りの高層ビルの間から姿を現した。

一目で細身ながらも引き締まった肉体。

蟀谷からは悪魔のように尖った角が天に向かって伸びている。

その手は、ビルに触れると触れた場所から凍らせて圧し折っている。

その指先は、獰猛な肉食動物の爪のように鋭い。

その口元から覗く牙は、鋭く尖っており呼吸音に合わせて周りの空気を凍らされている。

獲物を逃さない強い意志が込められた瞳孔が縦に割れた金色の瞳。

すでにこれだけで圧倒的な強者だと理解させらるだろう。

だが一番の問題は、その出鱈目な大きさだ。

その化け物の大きさは、周りの高層ビルとなんら変わらない。

下手すればそれらより大きいかもしれない。

 

だが一番の問題は、その化け物ではない。

その化け物の上に胡坐をかいて座っている更なる化け物。

黒いトレンチコートを羽織り黒いスーツ姿の男。

その背中には、対物プラズマライフル.雷霆を背負っており黒い革手袋を身に着けている。

そして顔に笑顔仮面を被った正真正銘の化け物。

世界最強の(ヴィラン).LORD。

 

一般の人間が手を出してはならない災害にも匹敵する絶対的な君主。

 

そのLORDが高層ビル並の大きさを持つ氷の巨人から飛び降りて地面に降り立った。

その時の着地は、片膝と片手の拳を突き、もう一方の腕を上げたままの着地。

いわゆるスーパーヒーロー着地(膝に悪い)だった。

 

「…」

地面に降り立ったLORDが記者達を一瞥してから歩き出した。

まるで雑魚に興味はない、と言わんばかりに歩く。

少し歩いたLORDが砂浜に氷製の椅子を作り出して座った。

 

「我々に興味が無い…って感じですかね?」

「ムカつくが…そうみたいだ。恐竜が一々足元の蟻を気にしないようにLORDも俺達に興味が無いようだ」

一人の警備員の言葉にもう一人の警備員がそう答えて避難の準備をする。

 

「あれ?先輩、LORDの写真を撮らなくていいんですか?」

「良いか?あの化け物は、すでに俺達に気付いている。その上で脅威にならないと判断したから俺達は、生きているんだ。それを忘れるな」

後輩記者の質問に先輩が心底安堵した様子で返す。

 

「今、我々が生きていられるのはLORDの気まぐれです。その気になれば死んだと気づく暇も無く我々を殺せるあの化け物の気が変わらない内に早く避難しましょう」

遠くに佇むLORDを見てそう言った警備員が記者二人を避難させ、装甲車に乗り込みさっさと街の外へと避難した。

 

 

 

 

「行ったか…」

一方のLORDは、記者達と警備員が避難した方向を見て呟いた。

 

「邪魔者が居なくなって丁度いい。もうそろそろ到着する頃だしな…」

そう言うや否や遥か遠方からヘリキャリアを思わせる飛行船が六隻飛んでくる。

それぞれが列車砲を一台吊るしているようだ。

その後続に20機の飛行船が四機係で一つのコンテナを運んでいる。

コンテナの数は、全部で5基。さらに海上には、8隻の巨大戦艦がゆっくりと近づいて来ている。

それらを先導するように一機のヘリが飛んでいる。

 

やがて先導していたヘリが砂浜に着陸すると中からサングラス姿の金髪の女性が現れる。

 

「Hay!来たわよLORD!」

片手を上げて元気よく挨拶をしたのは、世界最重要指名手配犯の一人『破滅の女狐』こと雷帝。

真の名を雷禍。LORDの友達である。

 

「ああ、久しぶりだな…」

「もうノリ悪いなぁ!もっとテンション上げなさいよ!」

何故か無駄にハイテンションな雷禍を疑問に思ったLORDだったが彼女の口元からアルコールの臭いがした事で理解した。

 

「誰だ!こいつに酒を飲ました大馬鹿は!?こいつは死ぬほど酒癖が悪いんだぞ!?」

LORDがヘリに向かってそう叫ぶが全く返事が無い。

それを疑問に思っていると雷禍が説明を始めた。

 

「返事する訳ないじゃ~ん?全員ロボットなんだよ?ちなみにコントロール権は、私が全部持ってます!」(`・∀・´)エッヘン!!

「馬鹿か…?」

その説明にLORDが思わずと言った様子で答えた。

誰がこんな酔っ払いにロボット全機のコントロール権を与えたんだ?半殺しで済ませてやるから出てこい。

LORDは、頭を抱えたい気持ちを必死に抑えて雷禍の介抱を始めた。

 

 

雷禍の介護を始めてから数十分後。

 

「おえぇぇぇ…」

「よーしよし、吐け。楽になるまで吐け」

LORDは、女性として色々と失った雷禍の背中を擦っていた。

 

「うっぷ…ふぅ、楽になったわ…」

「どうしてそうなるまで飲んだんだ?」

「それは…まあ、いろいろとね?」

吐き終えて楽になった雷禍にLORDが問うが本人はバツが悪そうに誤魔化した。

 

「分かった…それで?注文の品はどうだ?」

「ああ…揃ったわよ」パチンッ!

雷禍を気遣いLORDがわざと会話のテーマを変えて質問する。

口元を拭った雷禍が指をパッチンと鳴らして待機していたロボット達に一斉に指示を出す。

 

「ふぅ…あんな大量の武器と弾丸を五億発も3ヶ月以内に用意してくれって言われた時はぶっ飛ばそうと考えてたけど、以外と用意出来るもんなのね?」

ロボットが赤と青の五つのコンテナの扉を開けて中の積荷を見せる。

 

「あんたの望み通りにコンバットナイフ3000、スローイングナイフ5万、重機関銃300、軽機関銃500、対物・対人ライフルをそれぞれ3000とガトリングガンを5000、途中でAvenger(アヴェンジャー)に変更できるかって要望があったけど無理ね。M61で我慢しなさい。あとは、サブマシンガンを7500とハンドガンを5000」

「弾丸も五億発よ。煉獄の女王と戦う事を想定して全金属の中で融点の最も高いタングステンの合金を素材に作ったわ…残念だけどこれ以上の弾丸は、この世に存在しない」

弾丸が詰まったコンテナ1基と武器が大量に詰まった4基のコンテナを順に紹介していく。

 

「他にも注文通りに列車砲を六両と巨大戦艦八隻。斬艦刀を四振りに貨物船を十二隻。全部待機させているわ」

最後にLORDに双眼鏡を渡し、待機させている巨大戦艦と大型貨物船を見せる。

 

「列車砲は…街中で良い?」

「ああ、それで頼む。砲塔が一点を狙うように配置してくれ」

「了解…んじゃ、これで全部ね」

注文された商品の確認を終えた雷禍が懐から一つの黄色の契約書を取り出す。

 

「じゃあ、開戦直後にインドラの矢を一発撃てば取引完了ね。ほら、さっさとサインしなさい」

「…天の契約書(ヘブンズディール)を使ってまでやる取引か?」

「私にとってはそうよ。はい、早くサイン頂戴」

「はぁ…」

黄色い契約書にサインをするように()かす雷禍に対してLORDが一つ溜め息を吐いてからボールペンを取り出し筆記体でサインを書き入れる。

LORDがサインすると契約書が発光してして契約完了を知らせる。

 

「いくらだ?」

「なにが?」

「この兵器の値段だよ。軽く100億は越えるだろ」

「ああ…そうね…」

戦艦や列車砲やらコンテナ一杯の武器の合計を聞かれた雷禍が先程の契約書を片手に説明を始める。

 

「タダよ…」

「は?」

「あんたに大きな借りがあるからさ…それを纏めて返す為に第二次氷炎戦争の武器を全部用意したのよ。ほら、契約書にもそう書いてあるでしょ?」

「大きな…借り?」

「あんたが昔、風神を倒したから今の私が生きているのよ。その借りを今ここで返すって訳…分かるでしょ?」

口を挟む隙も与えずに説明を終わらせた雷禍がLORDの胸に自分の拳を押し当てて笑ってみせる。

 

「頑張んなさい!」

「ああ…分かった!」

雷禍からの気合を受けたLORDが胸を叩いて答える。

 

 

雷禍が全ての飛行船とロボットを退避した頃。

LORDが砂浜で力を溜めていた。

 

 

「じゃあ離れてろ。ちょっと本気出す」

「はいはーい」

LORDの言葉に迎えのヘリに乗った雷禍が遠ざかる。

 

「スー…フー…」

その直後にLORDが深く息を吸って、大きく吐いた。

 

「ハッ!」

気合を入れるように足を踏み込み砂浜を凍らせて行く。

 

「我が王であり支配者である…我が貴様等の創造主である…我が呼び声に答え、その力を振るえ。我に従い、我の為にその命を使い果たせ…世界は我が手中にあり(ザ・ロード)!!」

LORDがそう口にすると砂浜全体の気温が一気に下がる。

 

霜が降りそうなほどに気温が低下した砂浜が一気に凍り付き、その中から無数の氷人形(アイスドール)が現れる。

それ等は全て最低でもカテゴリー3に分類される氷人形(アイスドール)

それぞれが最低でもプロヒーローと同等の戦闘力を持っており、その全てがLORDに絶対の忠誠を誓っている。

更にその全ての氷人形(アイスドール)の前に一組の男女が現れる。

 

『騎士型氷人形(アイスドール)総勢10万体の総指揮を任されております。カテゴリー5の氷人形(アイスドール)。氷の騎士団.二代目騎士団長.アイナ。御身の前に』

『兵士型氷人形(アイスドール)総勢13万体の総指揮を任されております。カテゴリー5の氷人形(アイスドール)。氷獄の王.直属部隊.最高司令官氷河。御身の前に』

片膝を突いて忠誠を示したのは、五体しか存在しないカテゴリー5の氷人形(アイスドール)。その戦闘力は、トップヒーローをも上回るLORDの持つ最高戦力である。

 

13万体全てに武器が行き渡るように調整された兵士型氷人形(アイスドール)の軍団。

10万体全てが各々の得物を持ちいつでも戦える騎士型氷人形(アイスドール)の軍団。

それ等の指揮を任されたカテゴリー5の氷人形(アイスドール)が二体同時に顕現している。

八隻の巨大戦艦と六両の列車砲も待機している。

更にLORDが乗って来た超巨大氷人形(アイスドール)が8体が少しずつ作り上げられて行ってる。

それに加えて世界最強のヴィランであるLORD本人も戦闘に参加する。

どんな軍事国家でも裸足で逃げ出すレベルの戦力がこの砂浜に集結した。

 

それでもこの程度(・・・・)の戦力では煉獄の女王には、決して敵わない。

だが、やれるだけの事はやった。

これ以上ない戦力を一ヶ所に集中させて煉獄の女王を迎え撃つ準備が出来た。

 

 

 

 

「サブマシンガン持ちとショットガン持ちはナイフを使うな。ハンドガン持ちはナイフを持て、アサシン部隊はスローイングナイフだ」

『報告!12時の方向に巨大な水蒸気柱を確認!煉獄の女王です!』

偵察を任されていた兵士型氷人形(アイスドール)が偵察衛星を使って煉獄の女王を発見し、兵士型に武器を装備させていたLORDに報告する。

 

「…分かった。おい、氷河。全艦所定の位置に着いたか?」

『全艦所定の位置に着きました。いつでも戦闘可能です』

「よし…煉獄の女王の推定到着時間は?」

『18時間後です!』

推定到着時間と超巨大戦艦の状態を確認したLORDが通信機を仕舞い新しく指示を出す。

 

「おい、兵士型から適当に100体着いて来い。最後の準備をするぞ…」

そう言ってコートを翻したLORDが100体の兵士型氷人形(アイスドール)を引き連れて街中に向かった。

 

 

 

第二次氷炎戦争開戦まで…あと20時間。




キャラ解説.

風神.
元・世界最強の一角。
ヨーロッパのプロヒーローだった。
雷禍の天敵だったが完全にヴィラン化したLORDに胸を貫かれて殺された。


ヴィランネーム.雷帝。
本名.雷禍・サンダース・ミラージュ・ウォルター(ドイツ籍)
世界最重要指名手配犯の一人.『破滅の女狐』

解説.
世界最強の一角を担っているガチの化け物である雷帝。
「刺繍針から大陸間弾道ミサイルまでなんでもござれ!欲しい武器があったら連絡してね☆」をモットーに活動している。
大体の武器を調達してくれるが急ぎで頼むと少々高くなる。

『破滅の女狐』.
世界最大の武器商人である雷帝につけられた通称。
昔(10年前)は、二つの国を同時に騙した事から『女狐』と呼ばれていたが契約違反を起こした相手が次々と破滅の道を辿って行くので『破滅の女狐』と呼ばれるようになった。
契約さえ守れば何にもしてこない。


用語解説.

天の契約書.
スゲー契約書。
自分と相手を魂の領域で縛る契約書。破壊不可能。
魂を縛っているので逃げても無駄。
両者の同意の下で破棄可能。


何とか武器の調達に成功した…次回こそ煉獄の女王が到着する予定です。
到着するかな?なんやかんや言って引っ張りまくっているし…早く戦闘シーンを投稿したいなぁ。

では、また次回!


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第十七話

どうもこんにちは。
ヒロアカ原作の最新話を見て大興奮している作者です。
ヤバい…マジで面白い!原作がマジで面白いです。

こっちはこっちでやっとLORDと煉獄の女王が接触したのでテンションがぶち上がっています。
では、どうぞ。ごゆっくり!


日本でもかなり有名な部類に入る専門店にLORDが笑顔仮面を取った状態で入店した。

 

「三ヶ月前に予約した冷気です。予約したケーキを取りに来ました」

「うぇっ!?こんな時にお客さん!?しかも予約!?店長!予約のお客様です!店長!」

突如訪れた冷気に気付いた一人の女性店員が店の奥へ店長を呼びに行った。

 

「店長!お客様です!」

「こんなヤバい時にか!?」

「そうです!第二次氷炎戦争が始まろうとしているこのヤバい時にケーキを予約したお客様が訪れました!」

「どんな神経してんだ!?」

「知りません!早く予約したケーキを渡して帰って貰いましょう!ここに居たら私たちも死んでしまいます!」

店のキッチンに向かった女性店員と店長と思われる男性の焦った声が聞こえて来た。

 

「いや、聞こえているんだが?」

二人の会話は、並の人間より耳が良い冷気でなくても聞こえる程度には良く響いた。

 

 

 

「お待たせいたしましたお客様!こちら予約のケーキでございます!」

「ああ、ありがとう…」

「ありがとうございました!」

その数分後に予約したケーキを渡された冷気の目の前で店の扉が勢い良く閉まった。

 

「臨時休業?まあ仕方ないよな…」

CLOSEと書かれた掛け看板を見ながら兵士型氷人形(アイスドール)にケーキを預けた冷気が呟く。

 

もうすぐ日本が沈むかもしれない程の戦いが起ころうとしているのに、わざわざ予約したケーキを取りに来るヤツなんて普通だったら気が知れないと思うだろうが、今回はお互い様だ。

こんな時にまで店をやっていた方も悪い。

 

「あとは…コース料理とオーケストラだけか…間に合うか?」

3ヶ月前に予約しておいた残り二つの予約を見て冷気が首を傾げた。

 

「空港に到着したのが渡航制限の掛かる1週間前だからオーケストラは、都心のホテルに滞在しているはずだ…」

「一方のコース料理の料理長は…同じホテルだったか?ラッキー!直接迎えに行こう!」

スマホで色々と調べた冷気が嬉しそうに笑顔仮面を被り直し氷製の馬に乗る。

 

YEEHAW(イーハー)!!!」

『ヒヒ―ン!!』

馬に合図を出してLORDが駆け出した。

一方の兵士型氷人形達は、帰還命令が出されたので帰った。

 

 

~二時間後~

 

 

「いやはや、まさか彼の有名なLORD卿に直接迎えられる日が来ようとは…人生何が起きるか分からないものですね。長生きはしてみるもんだ」

「いやいや、まさか俺も貴方方を亀型氷人形に乗せるとは思わなかったさ。それにしても料理長。直接迎えに行った俺が言うのもなんだが、まさかキッチンやスタッフ達も一緒に同行させろなんて言うとは思わなかったよ」

何故か料理長と思われる六十路の男性がLORDが亀型氷人形の上で談笑していた。

 

中々にカオスな光景だが二人が楽しそうなので放っておいた方が良いだろう。

二人が談笑している先頭の亀型氷人形の後続に7体の亀型氷人形が他の料理人やオーケストラ奏者、約90人と各人の楽器を載せて着いて来ている。

そもそも何故このような状況になっているのか。

時は、1時間ほど遡る。

 

 

ホテルに到着したLORDが料理長とオーケストラ奏者の面々に対して「迎えに来た!」と堂々と宣言したものの料理長に「急過ぎて料理の準備が出来ていないし、持ち帰りにしてもあちらに着く頃にはすっかり冷めているだろう。料理人としてそれは許せない(要約)」と言われてしまい、オーケストラの指揮者にも「まだ楽器の調整とか音合わせやらが終わっていない(要約)」と言われた結果、「あー、じゃあ…乗ってくか?」と言って全員を乗せて今に至る。

 

意味が分からないって?

安心しろ。書いている本人ですら分かっていない。

 

 

閑話休題(それは置いといて)

 

半分誘拐に近い形で彼等を連れたLORDが料理長と話しながら道中の障害物(主に車や建物)を蹴散らしてズンズンと進んで砂浜に到着した。

海に到着した面々が砂浜を埋め尽くす膨大な数の氷人形に絶句した。

 

「なんという…膨大な数…」

「あの兵士一体一体が並のプロヒーローを上回る強さだってのか?」

「ありえない…」

「やはり化け物か…?」

亀型氷人形から降りた面々が好き勝手言い合っているのを尻目にLORDが料理長を調理場へと案内した。

 

「こちらで必要な道具を揃えておいた。他に必要なものがあったら言ってくれ」

「なぜここまでするんだ?お主だったらワシ等を無理矢理連れて来る事も出来たろうに…わざわざ予約までして」

「これから起こる会食は…言ってしまえば日本が沈むかどうかを決める話し合いだ。失敗すれば第一次氷炎戦争の二の舞になる」

「もし成功すれば?」

「まったく違う結果になるだろう…いや、正直分からん」

LORDと話して料理長が用意されたキッチンに着きカバンから一本の包丁を取り出した。

 

「そうか…まあ、儂は自分に出来る事をやるさ。至高のコース料理を作ってやる…スペシャリテ付きでな」

「感謝する…」

料理長の言葉にLORDが感謝の言葉を伝える。

 

 

「ふぅ…」

料理長に礼を伝え終えたLORDが無数の氷人形の中を突き進み海岸沿いに立つ。

 

「料理長と料理人は集まった…あと10時間もすれば、煉獄の女王が到着する。そうしたら2時間の猶予の後に第二次氷炎戦争が開戦(はじ)まる…」

そこまで口にしたLORDが頭を抱えて蹲る。

 

「ああ、もうマジで面倒くせぇ。なんであんな事(・・・・)を約束したんだよぉ…俺の馬鹿!」

「チクショウ…話し合いで済むならそうしたいけど…無理に決まってんだよなぁ…」

「ああ、やだやだ…ただの喧嘩のはずなのに…二人だけの問題なのに…どうして世間が注目するんだよ…放っておけば良いじゃねぇかよ…」

「たしかに?世界最強の一角である俺と煉獄の女王(あいつ)が?正面衝突するけど?別に良いだろ!放っとけよ!」

「いや、分かるよ?一回目の喧嘩で世界を恐怖のどん底に叩き落した事は認めるよ?でもさぁ…あいつが決着が付かなかった腹いせに『光の皇女』を倒しに行ったって知った時はマジでビックリしたんだよ?これでも驚いたんだよ?」

「たしかに俺が悪いけどさぁ…さすがにいきなり殴って来るのはどうかと思うよ…」

「…転弧には、仕事の出張で二、三日帰れないって言っておいたし…万が一の襲撃を考えて防衛戦最強の『タイタン』と暗殺特化型の『ハサン』に単騎で俺と10分以上互角に渡り合える氷人形準最強の『ゼロ』と言った三体のカテゴリー5の氷人形を配備しておいたけど…この戦場とほぼ同等の戦力を用意しておいたから万が一の襲撃にも十分対応出来るはず…オール・フォー・ワンが本気で転弧を攫いに来ても返討ちに出来るくらいの戦力を揃えておいた…はず」

「最悪の場合は、カテゴリー6のアレ(・・)を開放するとして…煉獄の女王を相手にこの程度の戦力じゃなあ。はあ…嫌だなぁ!めんどくせぇ!!」

一人でブツブツと呟き始めたかと思ったら、最終的には駄々を捏ねる子供のように砂浜をゴロゴロと転がり始めた。

世界最強と称されるヴィランとLORDにあるまじき行為だった。

 

だが、これも仕方がない。

人類史上最悪の大喧嘩が起きようとしているのだ。

当事者たるLORDが望むのは、あくまで終戦(・・)であり完全決着(・・・・)ではない。

第一次氷炎戦争のような一時的な不可侵条約(・・・・・)の締結では無く、完全なる終戦(・・・・・・)

これ以上、氷炎戦争が起きないような終戦を望んでいる。

煉獄の女王が何を望むか分からない今、LORDはひたすらに持成す準備を進める事した出来なかった。

 

しかし最大の問題は、煉獄の女王の対応ではなく、世界の各国の対応だ。

既にアメリカ、中国、ロシアなどの大国は、氷炎戦争へ一切関与しないと宣言している。

それに続くかのように自国のNo.1ヒーローである『光の皇女』を瀕死にまで追いやられたイギリスを始めとしたヨーロッパ各国が次々と賛同した。

南米の全ての国もそれに賛同し、北アメリカ大陸の全ての国も賛同した。

アフリカ大陸の全ての国々も同じように賛同した事で世界中の犯罪が一時的に激減した。

そして、アジアのほとんどの国々が賛同する中、賛同しない国が少しだけある。

世界には「何を馬鹿な事を…さっさと賛同すれば良いものを」と言われているが、その国々は頑なに否定している。

問題は、この数か国だ。

もし仮にこの国々がLORDですら関わろうとしないある化け物(・・・・・)に接触した場合、端的に言えば世界の均衡が崩れる。

それ程の事が確実に起きる。

 

もはや世界中の国々が第二次氷炎戦争を傍観する事を望むしかない。

 

「ああ、やだぁ…絶対に動かすだろ…面倒くせぇ…」

第二次氷炎戦争中に起こるだろう出来事を予測したLORDが砂浜に身を投げ出し大の字で寝っ転がった。

 

この時点で氷炎戦争開始まで…あと15時間。

 

 

 

 

ある男の話をしよう。

その男は、表舞台の総合格闘技世界チャンピオンであり、裏社会での個性の使用と武器の使用、さらには相手の殺害を許可した裏格闘技において400戦無敗を誇る最強の称号を欲しいがままにした者だった。

 

表舞台で勝てば巨万の富と名声を得る事が出来る。

裏社会で勝てば更なる大金と絶大な信用を得る事が出来る。

しかし…どちらの世界でも本物の最強の称号(・・・・・・・・)を得る事は出来ない。

本物の世界最強。

誰もが一度は憧れ、最後には諦める称号。

ただの世界最強の称号だったら格闘技世界チャンピオンにでもなれば手に入るだろう。

 

しかし、本物の最強の称号(・・・・・・・・)を手に入れたいのであれば、話は別だ。

世界最強の一角。

その称号を持つ者に挑めば良い。

 

その称号を持つ者は、8人居る。

否、8人居た。

世界の均衡を保つほどの強大な力を持った8人のうち3人が死に、1人は引退したも同然だった。

残る世界最強の一角の称号持つ者は、全部で4人。残り半数。

この広い世界でたった四人を見つける事は、困難この上ない。

しかし幸いなことに日本国のとある海岸で2人の世界最強が出会う情報が入って来た。

 

それを知った男は、すぐに日本へと飛び大急ぎで目的地の砂浜に向かった。

しかし、あまりに多すぎる氷人形が邪魔で近付けなかったので近くのビルの屋上に上がり双眼鏡を覗いた。

そして世界最強の称号を諦めた。

 

彼はそこで本物の世界最強(・・・・・・・)を目撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼が目撃したのは、海面に立つ赤髪の女(煉獄の女王)が世界最強と称されるヴィラン.LORDを殴り、海面へと叩き付けている瞬間だった。




ええ…まぁ…はい…最後のね?
最後の最後でモブ視点だけど接触しました。
うん…なんかごめんなさい。

それでは、また次回!


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第十八話

どうもこんにちは。
ヒロアカ原作の展開がヤバい!ってなってる作者です。

今話にてLORDと煉獄の女王が接触しました。
ええ、接触しましたよ?でもいきなりドンパチしません。
ドンパチするのは、二、三話後の出来事です。

では、どうぞ。ごゆっくり!


LORDが料理長とオーケストラの面々を迎えに行ってから9時間が経った頃。

偵察を任されている氷人形からLORDに通信が入った。

 

『報告!煉獄の女王を目視にて確認!到着予想時間.11時45分です!』

「……」

その報告を聞いたLORDがゆっくりと立ち上がる。

 

「…来たか」

『我が王よ…!』

海に向かおうとするLORDを氷河が遮るように立って止めようとする。

しかし、言われて止まる彼ではない。

片手で氷河をどけて突き進む。

 

『我が王よ!止まって下さい!』

「アイナ…」

次いでアイナが剣を向けてでも歩みを止めさせようとして来る。

 

「どけ…」

『お断りします!』

「聞こえなかったか?どけと言っている」

『我が王よ…!』

「命令だ…どけ」

二度も命令を否定したアイナに対してLORDが強めの口調で命令を下す。

 

『ぐっ…!うぅ…ぐぅ…っっっ!畏まり…まし…たッ!』

『アイナ!貴様!』

「氷河…動くな」

何かを堪えるように悶えてから命令を聞き届けたアイナに対して氷河が叫ぶ。

しかし、その動きは主たるLORDに止められた。

 

『我が王よ!まさかあの女(煉獄の女王)を直接迎えに行くおつもりですか!?』

「その通りだ…」

『そんな事!他の兵士に任せれば良いでは無いですか!』

「それじゃあ駄目だ…俺が直接迎え行かないと意味が無い」

『では!せめて護衛に私かアイナを連れて行って下さい!』

「断る…」

『我が王よ!』

氷河の頼みを断ったLORDが更に歩みを進める。

それでもなお止めようよする氷河に対してLORDが説明を始める。

 

「いいか?俺はこれから煉獄の女王を直接迎えに行く。この出迎えは、一種の誠意を見せる行動だ。誠意を見せるってのに武器を持った護衛を連れて行く奴が何処にいる?もし、お前達も着いて来ればあいつは話し合う暇も無く攻撃してくるだろう。そうなれば今までの準備が全て台無しになる。分かったら命令が出るまで待機だ」

『承知しました…我が王よ』

LORDの説明を聞き終えた氷河が震えながら堪えるように頷いた。

 

「それと…」

『はい…』

「何があっても絶対に動くな。絶対にだ」

『承知しました…偉大なる我が王よ』

「お前もだアイナ。分かったな?」

『畏まりました…偉大なる我が王よ』

LORDに改めて釘を刺された事でアイナと氷河が肯定の意を示した。

 

「二人共…あとは頼んだぞ」

『『我が王よ!!』』

海に向かって歩いて行くLORDの言葉に二人の声が重なった。

 

20万を超える氷人形たちの間を歩いたLORDが遂に波打ち際に到達した。

 

「……」

少しだけ波の動きを見てから躊躇無く一歩を踏み出す。

靴を濡らすはずの海水が到達する前に凍り付く。

 

海水が凍ったのを確認したLORDが更に歩みを進める。

一歩ずつ歩みを進めるごとに海面が凍って行き、氷の道が出来上がる。

やがて十数キロ進んだ所でLORDが歩みを止めた。

 

「ここが丁度良いか…」

辺りを見渡したLORDが雷禍に貰った笑顔仮面を被り胸の中心部から淡い青色の刀身を持った氷獄の(つるぎ)を取り出し背負う。

 

「正直言って…戦いたくないが…それも無理っぽいな?」

LORDがそこまで口にして遥か遠くにありながらもハッキリと確認出来る程の高さを持つ水蒸気柱を見た。

 

「LOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOORD!!!!!」

「ひょえ~、ブチ切れていらっしゃる!」

遥か遠くに居ながら己のヴィランネームを呼ぶ声にLORDが身震いした。

それでもその場から一歩も動かず相手が到達するのを待つ。

 

 

それから1時間ほどして目視出来る距離に水蒸気柱の発生源が現れた。

LORDの数百メートル前方に現れたのは、背中からロケットブースターのように炎を噴出させながら海面を歩いている赤髪の女性。

きめ細かな白い肌にはシミ一つ無い。

絶対的な力を感じさせる赤い目をしている。

女性らしく嫋やかでありながらも怒りに染まった鋭い眼光をしている。

細くすらりと伸びた手足は、白く美しい。

怒りによりまるで燃え盛る炎のように逆立つ赤い髪すらも彼女が着けている黒い宝石の嵌められたティアラによってその魅力を底上げしている。

まさに絶世の美女と呼んでも差し支えない程の美貌を持つ彼女を前にLORDが冷や汗を流した。

 

そんな美しい彼女の足元が触れた海水が一瞬で蒸発し、その周りの海水ですら煮え滾った油のようにグツグツと音を立てて巨大な水蒸気柱を形成している。

こちらにゆっくりと着々と向かって来る煉獄の女王に対し、LORDが生唾を飲み込んだ。

 

「ひ、久し振りだな…煉獄の女王。元気だったか?」

「………ッ!?」

LORDが片手を上げてした挨拶に対し煉獄の女王と呼ばれた赤髪の女性が怒りに顔を歪めた。

 

「はぁ…」

しかしすぐに溜め息を吐いて落ち着いた。

 

「あらあら…」

「久しぶりの再会なのに…昔みたいに名前で呼んでくれないの?ねぇ…レイレイ?」

煉獄の女王が口元を片手で隠し、嘲笑うような笑みを浮かべてLORDに向かってそう口にした。

 

「うぐっ…!」

「すまん…未来火(あすか)。俺が悪かった…気が利かなかったようだ」

煉獄の女王、改め未来火の言葉にLORDが一瞬だけ言葉に詰まってから謝罪の言葉を口にした。

 

「そう…じゃあ、私に一発殴られる覚悟はあるでしょうね?」

「もちろんだ…全力で殴ってくれ」

「あんた、それじゃあドMみたいに聞こえるわよ?まあ良いわ…さっさとその仮面を脱いで素顔晒しない」

「…分かった」

彼女の言葉にLORDが大人しく従い被っていた笑顔仮面を取る。

 

「相変わらず…顔だけは良いよね。本当に…馬鹿だったわ」

「未来火…」

どこか悲しそうな顔をした未来火にLORDが近づこうと一歩動いた。

 

「動かないで!」

「ッ!」

「コントロールを付けている最中だから動かれると困るのよ。分かる?」

「すまん…」

しかし未来火の言葉によって動きを止めた。

 

「さあ…いつでも来い!」

LORDが覚悟を決めたように足を肩幅に開き両腕を後ろで組んだ体勢で立つ。

 

「じゃあ…遠慮なく」

それを見た未来火が燃え盛る髪の炎の火力を上げてから体を捻る。

右手で握り拳を作り、体全体を右側に向けて捻り、全体重を込めるて殴れるような体勢を取った。

防御を一切考えない、攻撃にのみ意識を割いた構えを取り力を溜めて行く。

すでに二人が面と向かっただけで大気が震えるほどの力が衝突しているにも関わらず、更にエネルギーが溜まって行き海が割れる。

 

「こんの…!」

力を溜め終えた未来火が煉獄の女王としてその拳を振るう。

 

「クソッタレがァァあああ!!!」

煉獄の女王の振るった拳が音の壁を易々と突破し、LORDの顔面に炸裂する。

 

バッキィィィィイイイイイ!!!!

 

途轍もない炸裂音と共にLORDが海面に叩き付けられる。

高速で叩き付ける事によりコンクリートにも匹敵する硬度となる海面。

そこにLORDが勢いよく叩き付けられた。

 

『『ッ!…クッ!』』

その光景を元の待機場所で見ていたアイナと氷河が動きだそうとしたが、己が主の命令を思い出し唇を血が滲む程に噛み締めて耐えた。

 

海面に叩き付けられたLORDが2~3回ほどバウンドして巨大な水飛沫を上げてから海に沈んだ。

 

「いっぺん死ね!!」

沈みゆくLORDに対して煉獄の女王が中指を立てて罵倒する。

 

「…この程度の攻撃でくたばるタマじゃないでしょ?遊んでないでさっさと上がって来なさい」

「いや…たしかにそうだけれど。せめて少しくらい心配して欲しかったな…」

煉獄の女王の言葉に従うかのようにLORDが海中から顔を出し凍った海面に手を掛けて這い上がった。

 

「気は済んだか?」

「まあまあね…」

LORDの問い掛けに煉獄の女王が若干不機嫌に答える。

 

「そうか…なら、少し着いて来てくれるか?食事の用意をしておいたんだ」

「あら?エスコートも無し?」

「これは失礼…お手を失礼しても?未来火様」

煉獄の女王の望むものを理解したLORDが右手の掌を上に向けて差し出す。

 

「ふふふふ…やれば出来るじゃん?それじゃあ、お願いするわね?」

「喜んで…」

小さく笑みを浮かべてLORDの手に自分の手を乗せた煉獄の女王に対してLORDが小さく答えた。

 

「ねぇ…」

「どうした?」

手を繋ぎ指を絡ませて状態で二人が揃って歩いていると唐突に煉獄の女王…否、未来火がLORD(冷気)に声を掛ける。

 

「目的地まで後どのくらいなの?」

「…10キロ以上…だったと思う」

「…馬鹿なの?」

「…すまん」

未来火の純粋な疑問に冷気が申し訳なさそうに答えた。

その答えに未来火が純粋に思った事を口にする。

その言葉が純粋に冷気の心を抉った。

 

「気が利かなかったみたいだ…」

「少しだけ待っててくれ」

冷気がそう言うや否や凍った海面が盛り上がり、その中から一頭の白い氷製の馬が出現する。

 

『ブルルルッ!』

「どうどう…氷獄最速の馬、名前はランスロットだ。こいつに一緒に乗って行こう」

「ふ~ん?」

未来火を見て暴れようとした氷獄最速の名馬.ランスロットを落ち着かせた冷気が左手を差し出す。

未来火が嬉しそうな顔をしてその手を取る。

 

「すまないが少し屈んでくれないか?そう。その通りだ」

「さあ、お手をどうぞ。我が…いや、なんでもない」

馬に跨った冷気が未来火に手を差し出す。その途中でセリフを切り、そのまま押し黙ってしまった。

 

「はぁ…いつまで引き摺ってるのよ?」

その様子を見た未来火が一つ溜め息を吐いてから手を取り同じように馬に跨った。

ただし自ら前に跨り冷気に背中を預けた。

 

「未来火…」

「なによ?なんか文句あんの?」

その行動に対して冷気が何か言おうと口を開く。

未来火は、文句でもあるのかと睨むが冷気はただ微笑みを浮かべているだけだった。

 

「いや、なんだか昔に戻ったみたいでな…嬉しいのさ。またお前とこうして居られてな」

「…っ!!!………馬鹿」

心底嬉しそうな柔らかな笑みを浮かべた冷気の言葉を聞いた未来火が顔を真っ赤に染めて前を向いた。

怒りで炎のように燃え盛っていた赤い髪は、既に治まっていた。

 

「……」

その反応を見た冷気が未来火の後ろから腕を回し手綱を握る。

「…ッ!?……」

その行動に一瞬だけ跳ねた未来火だったが、すぐに落ち着きを取り戻し自分の手を冷気の手に重ねた。

 

『ブルルルッ!!』

自分の背中の上でイチャイチャしだした二人に対してランスロット(馬)が鼻嵐を吹いた。

少々荒れた態度を取ったもののランスロットが凍った海面を歩き始める。

 

 

 

 

 

LORD(氷獄の王)と煉獄の女王…11:30接触。

 

氷炎戦争開戦まで残り…2時間ッ!!!




やっと接触させる事が出来ました。
え?なんでこんなにも仲が良いかって?
その理由は、多分今年中に判明すると思います。…判明するか?正直言って微妙です。

では、また次回!


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第十九話

どうもこんにちは。作者です。
まずは、皆さまに謝罪を。
作者の勝手な都合により、この作品を一時的に非公開にしました。
理由としては、余りにも自己責任的な問題なので詳しく説明出来ません。
ですが簡単に言うと、この方が都合が良かった。となります。

作者の勝手な都合でご迷惑をお掛けして大変申し訳ございません。

それでは、どうぞ。ごゆっくり!(定型文)


LORDと煉獄の女王が名馬.ランスロットに二人乗りで凍った海面を進んでいた。

 

「……」

「……」

お互いに言葉を交わさず前だけを見て無言を貫いている。

 

そんな状態が既に10分以上続いているが、どちらも一言も発言しない。

LORDが笑顔仮面を被った状態で手綱を握り、煉獄の女王がその上から手を重ねて背中を預けている。

傍から見ればかなり仲の良い男女の関係に見える。

 

だがこの二人、こう見えて今から約二時間後に大喧嘩をおっぱじるのだ。

それも国が亡びるかもしれない規模の戦争にも匹敵する大喧嘩。

 

しかし二人の衝突を止める手段は、もはやこの世界に存在しない。

世界はこの光景を固唾を飲んで見守ることしか許されない。

 

 

「見えて来たぞ…」

「ん…」

ランスロットが歩き始めてから数十分が経った頃、LORDが己の胸の内で微睡んでいた煉獄の女王を起こし、前方を指差した。

今にも眠ってしまいそうな様子で瞼を擦った煉獄の女王の視線の先には、巨大なキノコを思わせる建造物が建っていた。

真ん中を一本の太い柱を軸に大きな台のような物を乗せている。

会場を風から守るようにドーム状の屋根が覆っている

その横には、高さ80メートル級の超大型氷人形が二体立っていた。

 

「なにあれ?」

「会場…かな?」

思わずといった様子で煉獄の女王が疑問を零す。

それに対してLORDが自信なさげに答えた。

 

「ふ~ん。じゃあ、あの砂浜に居る無数の兵隊さん達は?」

「今回の…戦争(喧嘩)の為に準備した」

「数と強さは?」

「カテゴリー5二体とカテゴリー3以上が20万以上だ」

それまでの移動中、一度もLORDに視線を向ける事の無かった煉獄の女王が初めて視線を向けた。

 

「たったそれっぽっち?」

「そう。たったそれっぽっちだ」

自分に対抗するための戦力を聞いて呆れたような表情をした。

 

「ずいぶんと嘗められたものね…」

軍事国家ですら裸足で逃げ出す戦力に対して、まるで期待外れだと言わんばかりの態度で溜め息を吐く。

 

圧倒的なまでの傲慢にして不遜な態度。

こんな態度を取られたら普通だったらLORDとてキレるだろう。

キレた上で相手が生まれて来た事を後悔する程に痛めつけるだろう。

しかし、この相手は違う。

この相手(煉獄の女王)は、それだけの態度を取る事を許される程の圧倒的強者。

かのLORDと第一次氷炎戦争において互角に渡り合った化け物。

正真正銘の世界最強の一角。

 

「まあ…色々とあってな」

故にLORDは、言葉を濁した。

言葉を濁し、そのまま黙り込んだ。

 

 

二人の会話が無いまま数分が経ちランスロットが足を止めた。

 

「ん?」

何故急に止まったのか?と煉獄の女王が一瞬だけ疑問に思ったが、すぐに答えを出した。

 

会場のすぐそばに待機していた超巨大氷人形が動き出す。

片手を伸ばしまるで掬い上げるようにLORDと煉獄の女王が乗ったランスロットを持ち上げた。

壊れ物を扱うかのように二人を掬い上げた氷人形が指の隙間から海水を流し、手を会場の上へと移動させた。

 

「まあ、せいぜい持成して頂戴」

まったく期待していない声音で煉獄の女王がそう言ってランスロットから降りた。

 

 

 

 

「ようこそ。お待ちしておりました」

会場についてまず最初に声を掛けて来たのは、スーツを着こなした初老の男性。

片眼鏡を右目に着けて不快にならない程度に髭を生やした彼が軽くお辞儀をして煉獄の女王とLORDを出迎えた。

 

「長旅でお疲れでしょう。まずは、こちらのウェルカムドリンクをどうぞ」

「あら、ありがとう。気が利くのね?」

まったく恐れる事なく煉獄の女王にシャンパンの入ったグラスを手渡す。

礼を言いながらグラスを受け取った煉獄の女王がさっそく一口飲む。

 

「うん、悪くないわ」

「ああ…美味いな」

いつの間にグラスを受け取っていたLORDも感想を告げる。

 

「ありがとうございます。早速ではございますが、お席の方へとご案内致します」

どうぞこちらへ、と男が会場の真ん中にある一つのテーブルへと二人を案内する。

 

「見晴らしの良い会場でクラシック音楽を聴きながら一流シェフの料理を食べる…私が昔貴方に話した理想の持て成しね。本当はディナーが良かったけど」

かつての自分の望みを全て叶えようとしたLORDの努力に対して煉獄の女王が何処か残念そうに呟く。

 

「望まれた事を…望まれたままに」

「なによそれ?」

「さあ、なんだろうな?」

変な事を言い出したLORDに対して疑問をぶつけた煉獄の女王だったが適当にはぐらかされた。

 

「こちらへおかけください」

「ありがとう」

席へと案内された煉獄の女王が椅子に座る。

 

「どうぞこちらへ」

「うん…」

同じように席に案内されたLORDもコートを預けてから席に着く。

ついでに席に着く時、足元の氷を操り太陽の光を反射させ上空で待機している雷帝に合図を送った。

こうして世界最強同士が向かい合った食事会が始まってしまった。

 

 

「本日の料理を任されおります、料理長の玄道と申します」

「早速ですが食前酒をお選び下さい」

頭を下げて二人に挨拶したのは、料理長の玄道 隆弘。

向かい合って座っている煉獄の女王とLORDに対して注文を聞いて行く。

 

「私は…白ワインを」

「俺はシャンパンを頼む」

「かしこまりました」

二人の一つ目の注文を聞いた料理長が頭を下げて了承の意を示し『個性』を使ってウェイターにそれぞれのボトルを持って来させる。

 

「ではまず…こちらロジャー・グラート カヴァ ゴールド ブリュットでございます。第一次氷炎戦争に巻き込まれ滅びたネデス地区で収穫される3種類のぶどうから最高品質のもののみを厳選して贅沢に使用した、心地よいフルーティさとやわらかな酸味の調和をお楽しみいただけます」

そう言いながら煉獄の女王側のシャンパングラスに注いでいく。

 

「続いてこちら、ブリュット アンペリアルでございます」

同じようにLORDのワイングラスにシャンパンが注がれていく。

 

「乾杯…」

「…乾杯」

注ぎ終えたの確認した両者が同時にワイングラスを掲げて乾杯の音頭を取る。

 

グラスを軽く鳴らしLORDが笑顔仮面を外す。

そしてそのままグラスの中身を仰いだ。

 

「「…ふぅ」」

両者が同時にため息をつく。

しかし未だに両者の間に重苦しい空気が流れている。

 

「お待たせいたしました。こちら前菜(オードブル)の『鰯と多伎いちじくのマリネ ベネチア風』でございます」

そんな二人の空気など知ったこっちゃない、と言わんばかりに前菜(オードブル)が運ばれてきた。

 

「…ふふっ」

「…ふはっ」

それを見た二人が小さく笑ってからナイフとフォークに手を付けて食事を始めた。

 

~~♬~♪

二人の所に料理が着いたのを見計らって、オーケストラの指揮者が指揮棒を振り奏者達が一斉に一つの物語を奏で始める。

 

 

「悪くないわね」

「そうだろう?」

食事の最中、デザートの『フルーツタルト』を味わっていると煉獄の女王が口を開いた。

それにLORDがすぐに反応し肯定の意を示す。

 

「貴方とこうして一緒に食事をするのは…一年以上前に一緒に作ったビーフシチューの時以来だったかしら?」

「そうだな…大体そのくらいだ」

どこか寂しそうに言う煉獄の女王に対してLORDが悲しそうに返す。

 

「それで?あの時の返事は決まったの?」

「ああ、決まったさ」

煉獄の女王がそんな空気を打ち破るようにテーマを変えた。

彼女が何を望むかを理解しているLORDがタルトの最後の一切れを口に放り込み咀嚼する。

 

「食後酒は、いかがなさいますか?」

「「コニャック ナポレオン」」

ウェイターの質問に二人が同時に答えた。

まるでその答えだけは昔から決まっていたかのように息ぴったりに答えた。

 

「…食事が始まってから約40分。貴方は時計を7回も気にしてた」

「何かあるでしょ?」

到着したグラスを片手で揺らしながら煉獄の女王がLORDに問うた。

 

「……」

LORDは、その質問に答えずコニャックを一口飲んでからグラスを置く。

 

表には出していないが内心焦っていた。

まさかそんなに仕草に出ていたとは思っていなかった。

既に雷帝に『インドラの矢』のチャージを始める為の合図を出してから47分が経っている。

近況報告程度の会話と昔を懐かしむような会話しか無かった。

食事中も大して盛り上がらず酒が入っても気分が高揚する事は無かった。

特に何もないまま食事が終盤を迎えてもチャージに必要なだけの時間を稼ぐ事は出来なかった。

 

「なあ…未来火(あすか)

故にLORDは、時間を稼ぐための最終手段に出た。

 

「何よ?」

突然自分を名前呼びして来たLORDに対して煉獄の女王、(もとい)未来火が胡乱な目を向ける。

 

「一曲…踊ってくれないか?」

「はぁ…?」

右手を差し出して彼女を誘うLORDに対して煉獄の女王が本気で困惑する。

それが時間稼ぎだと分かってはいても、それが自分を殺そうとしている男の誘いだとしても、彼女は断れない。

かつて、一度愛した相手だから。否、そうでなくても彼女は断れない。

かつて愛した、では無い。今も愛している。

一年前の氷炎戦争の切っ掛けともなった話だと分かっていても、彼女は断らない。

 

「……」

少しだけ思考してからLORDの手を取った。

 

「ありがとう。信じていたよ」

「御託は良いから…さっさと済ませるわよ」

彼の誘いを受けた煉獄の女王がLORDの肩に手を置き視線を向ける。

その視線に気付いたLORDが煉獄の女王の腰にもう一つの手を回し指揮者に視線を向ける。

 

「…」ゴクッ

LORDの指示を受けた生唾を飲み込み視線を前に戻した指揮者が再び指揮棒を振る。

 

~♪~~♬

 

再び音楽が流れる。

しかし今度の音楽は、先程までのとは少し違う。

『エリーゼのために』、『G線上のアリア』、『協奏曲第5番 運命』、『新世界より』そのどれでもない。

 

今、奏でられている曲の名は

「ボレロ?」

「そうだ…」

煉獄の女王がその名を言い当てた。

それと同時にLORDが彼女の腰を引いて踊り始めた。

 

氷炎戦争開戦までに残されたほんの数分を、最後の猶予を二人が楽しんでいた。

一年前のあの日々、第一次氷炎戦争が起こる前の日々を思い出して踊っていた。

まさに二人のための時間。世界から二人だけが切り抜かれたかのように踊った。

数分続くこの曲を聴きながら踊っていた二人だったが、曲が終わってしまった。

 

「未来火…許せ」

「分かってるわよ…それにしても」

曲が終わり未来火の腰から手を放した冷気が一つ謝罪する。

これから起こる事の予想が付いている未来火は、少し悲しそうな目をして冷気の青髪を撫でた。

 

「本当に青髪なんて似合わないわね。貴方は白髪の方が似合うわ」

「すまない…」

自分の髪を撫でる未来火の手を取ってからもう一度謝罪し、手の甲に軽く口づけをする。

己の創造主たる冷気(LORD)のその動きを見た超巨大氷人形がオーケストラの奏者達と料理人を全て亀型氷人形の所に移動させ退避させた。

もの凄く優秀な部下である。

 

「ふっ!」

部外者が全員退避したのを確認したLORDが煉獄の女王を蹴り飛ばす。

ほんの少し前まで一緒に食事をしていた会場が音を立てて崩れる。

案の定、煉獄の女王は海の上に綺麗に着地し…戦闘モードへと切り替えた。

 

 

シュタッ!

 

「……」

『『我が王!!』』

一方、砂浜に着地したLORDを二体のカテゴリー5の氷人形達が出迎えた。

 

『話し合いは…』

「何も無かった…当初の予定通りだ。全力でやるぞ!」

何があったかを聞こうとしたアイナだったがLORDによって遮られた。

 

『『イエッサー!!』』

その上で命令を下された。

彼等は、騎士と兵士だ。

ならば主たるLORDの命令を聞くのは当然のことである。

 

「総員!戦闘準備!!」

破壊不可能の笑顔仮面を被り戦闘モードに移行したLORDが氷獄の剣を地面に砂浜に突き立て全ての氷人形に命令を下した。

 

 

第二次氷炎戦争…開戦ッ!!



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第二十話

どうもこんにちは。作者です。
正直に言うと第十九話は、超難産でした。

ですがここからは、作者の本気です。
ブランクを含めての執筆期間、約2ヶ月の第二次氷炎戦争開戦です。

では、どうぞ。ごゆっくり!


世界最強の(ヴィラン)と称されるLORDと世界最大の災厄と称される煉獄の女王が真正面から向き合っている。

戦場は、海辺。

もっと詳しく言うのであれば街からそう遠くない海水浴場だった。

 

LORD側の戦力は、世界最大の武器商人が用意した武器を装備している軍隊を模した氷人形(アイスドール)

それに加えて氷で作られた得物を装備している騎士団を模した大量の氷人形(アイスドール)

更にそれぞれが100メートルを優に越す超巨大な人型氷人形(アイスドール)が8体。

とどめと言わんばかりに巨大戦艦が八隻が煉獄の女王を砲撃できるように10キロ以上離れた海上で待機中だ。

だが忘れてはいけないのが列車砲の存在だ。巨大な主砲を持った移動可能な陸上火砲としては最大級の兵器であるそれが六両。

いつでも煉獄の女王を砲撃できるように狙いを定めている。

 

そして、総数25万体を超える氷人形(アイスドール)をたった一人で生み出し、その全ての指揮を執る化け物。

 

黒スーツの上に黒いコートを羽織り笑顔仮面を被った世界最強の(ヴィラン) LORDが全軍の中心に立ち、背中に『雷霆』を担いで何処から取り出したのか分からない氷獄の剣を砂に突き立てている。

 

 

相対するは、煉獄の女王。

健康的な白い肌と燃えるような赤い髪に宝石のような赤い瞳。

ほんのり朱が差した頬と目の下にある泣き黒子に健康的なプルンとした艶やかな赤い唇が美しい。

肥満体型でなければ不健康な痩せ型でもない女性なら誰もが羨むような理想の体型を持ち、男なら誰もが欲情するような妖艶な肉体。

スラリと伸びる手足には、傷一つどころかシミ一つ存在していない。

その身に纏う衣装は、真紅の宝石が散りばめられ背中が大きく開いた赤を基調に黒が入ったドレス。

足元には、大きな赤い宝石を囲うように小さな黒い宝石が並べられた赤いヒールを履いていた。

彼女が着るからこそ美しい。彼女が服を着ている(・・・・・・・・・)

彼女が身に着けるからこそ彼女だからこそ美しい(・・・・・・・・・・)

そう思わせる力強い美しさだった。

 

そんな彼女は、海に一人で立っている。

比喩表現では無くプカプカ浮かぶように海の上に立っているのだ。

美しいドレス以外に何も装備していない。

剣も銃も槍も弓矢も斧も杖も大槌も短刀も盾すら持っていない。

完全なる丸腰に近い状態。素手。

だからこそ危険なのだ。

 

彼女は戦う際、一切の武器を使わない。

使えないのではなく、使う必要が無いから使わない(・・・・・・・・・・・・・)だけだ。

武器を使わずとも己の手だけで片付く。武器を使わずとも己の技だけで片付く。自分が本気を出せば世界に終焉を齎す事が出来る事を己自身が一番良く分かっている。

だからこそ目の前の相手に期待している。

過去に一度、本気の自分と互角に渡り合い、剰え引き分けに持ち込んだ『LORD(氷獄の王)』をこの上なく期待している。

自分を確実に殺すために着々と準備を進めたLORDに…否、自分を楽しませる事が出来るLORDとの出会いに感謝しながら煉獄の女王が一歩踏み出した。

 

 

 

 

 

それが開戦の合図だった。

 

 

「今だ!撃てぇえええええ!!!!!」

ゴロゴロゴロゴロ…

 

「恨まないでね!」

「インドラの矢!!」

カッ!!

 

LORDが空に向かって叫ぶと同時に遥か上空から一筋の光が煉獄の女王に向かって叩き込まれる。

 

ドッガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!

ヴァリヴァリヴァリィイイ!!!!!!!

 

 

 

耳を劈くような破裂音と閃光が視界を埋め尽くす。

それは、準備(チャージ)を済ませた雷禍がインドラの矢を放った影響で周囲一帯に轟音が鳴り響き突風が発生した。

突風と爆音の影響により海辺に建てられた建物が軒並み吹き飛ばされ、周囲10キロ圏内の窓ガラスが軒並み割れる。

更に塩化ナトリウム等を含んでいる故に電気伝導率が高い海の周囲数キロ圏内に存在していた全ての海洋生物が感電死した。

それは、電気ウナギの流す600~800ボルトなど目じゃない威力。

ポ〇モンのマスコットキャラクターたるピ〇チュウの放つ十万ボルトの10万倍の一撃。

ボルト数にして約100億ボルトの一撃。喰らった相手は、跡形も無く消滅する。

それが常識だ。

 

しかし…

 

「うん…今のは、結構痛かったわ」

「チッ、やはりか…なら!」

案の定それなりのダメージが入ったものの二本の足で立ったままの煉獄の女王の姿にLORDが一つ舌打ちをして八隻の戦艦に一斉に指示を出す。

ちなみに雷禍は、さっさと撤退した。

『面倒事には巻き込まれたくないんでね.by雷禍』

 

 

「全砲塔構えろ!俺が許す。全戦力を持って我が軍の力を見せつけろ!!全砲塔一斉掃射!」バッ!

「今度は何?…えっ!?」

LORDが右腕を横に振って命令を下し煉獄の女王が後方を振り向いた直後に全八隻の巨大戦艦から一斉掃射された無数の砲弾が着弾する。

 

 

再び鳴り響く轟音。

立ち昇る水柱。

飛び散る水飛沫。

轟く爆音。

破壊される景色。

地形に絶大なダメージを与えながら煉獄の女王へ攻撃をした。

 

しかし…

「効いたわ…少しね」

やはり、ダメージを与えるには些か威力不足だった。

 

「全く効いてないか…仕方ない」

LORDが氷獄の剣をゆっくりと振り上げて切っ先を海上で余裕綽々とした様子の煉獄の女王へと向けて口を開く。

 

「敵は、煉獄の女王ただ一人!全戦力を持って奴を殺せ!!」

己の後ろに控える全ての氷人形(アイスドール)へ一斉に命令を下し一歩踏み出す。

 

「全軍突撃!!」

『『『『『ウォオオオオオオオオオオオ!!!!!』』』』』

君主(LORD)が走り出すと全ての氷人形(アイスドール)も一斉に走り出した。

20万以上の氷人形(アイスドール)が一斉に走り出した事により、砂煙が立ち昇り足音による振動音が辺り一体に響き渡る。

 

彼等が走り出した先に待ち受けるは、生命の源たる海。

いくら彼等でも海に入れば動きが鈍くなり格好の獲物となってしまう。

しかし誰も足を止める気配を見せない。

まるで己の主を心底信頼しているかのように迷い無く走っている。

 

氷河時代(アイスエイジ)!」

LORDが海へと一歩足を踏み入れた瞬間、海が凍った。

 

カメラ越しにそれを見た誰もが目を丸くした。

しかし氷人形(アイスドール)達は、それを当たり前の出来事として受け入れ、凍った海面を走って煉獄の女王へと向かった。

 

 

「クフフフ…楽しませて貰うわ!!」

自分に迫り来る氷人形(アイスドール)達とLORDに目を向けて煉獄の女王も一歩踏み込んだ。

 

 

 

LORDの率いる氷人形(アイスドール)達で構成された軍と煉獄の女王が接敵した瞬間…

 

「オラァ!」

「ハァッ!」

LORDと煉獄の女王が殴り合った。

己の拳を相手の拳へと叩き込む技でも何でもない攻撃から、この第二次氷炎戦争が始まった。

本来なら拮抗しているはずの力と速度もLORDが第一次氷炎戦争で弱体化した影響により煉獄の女王が有利になっている。

 

「フンッ!」

「ガハッ!」

LORDよりも一手早く動いた煉獄の女王の拳が彼の腹にめり込む。

 

「セイヤァ!」

「ゴフッ!?」

おまけと言わんばかりにLORDの頭に回し蹴りを喰らわせ遥か遠くへと蹴り飛ばした。

頭に回し蹴りを受けた影響で力が緩み手に持っていた氷獄の剣を放してしまう。

が、氷人形(アイスドール)達から一つの影が飛び出し氷獄の剣を空中で掴んで、そのまま煉獄の女王に斬り掛かる。

 

『ハァッ!!』

「おっと!」

その一撃を躱した煉獄の女王が襲撃者を視界に入れた。

 

「あなた…誰?」

『初めまして…氷の騎士団騎士団長.アイナ・フローゼン・ヴェルナージュ・ミラ・レイキと申します。以後お見知りおきを』

「アイナね?覚えたわ、よろしくね」

丁寧に自己紹介をしたのは、LORDこと冷気が作成出来る五体の『カテゴリー5』の氷人形(アイスドール)の内の一体。

一騎当千の実力を持つ氷の騎士団騎士団長.アイナだった。

 

『行きます!』

煉獄の女王へと一歩力強く踏み出し剣を一気に振り下ろす。

この時の剣を振り下ろした速度が音の壁を突破し、そのままの勢いで煉獄の女王へと振り下ろされた。

 

「クッフフフ…惜しい」

『チッ!』

アイナの振り下ろした氷獄の剣は、煉獄の女王により片手で(・・・)受け止められていた。

 

アイナがすぐさま剣を引き抜こうと力を込めるが剣が1ミリも動かなかった。

『馬鹿な!?』

「粉バナナ?」

アイナの言葉に適当に返した煉獄の女王が拳に高熱を込めて拳で殴った。

 

「火拳!!」

『ぐぉああああ!!!』

燃え盛る拳で殴られたアイナは、苦悶の声を上げながら消滅した。

 

この世界でも強者の部類に入るアイナが何故こうもあっさり倒されたか。

それは、単純な実力差。煉獄の女王がアイナよりも遥か上の実力を持っていただけ。

ただそれだけの事だ。

 

「ふ~ん?本体が消えても武器は消えない…面白いわねぇ」

煉獄の女王は、所有者が倒されても尚残り続ける氷獄の剣を一瞥してから凍った海面へと捨てた。

 

「さあ、掛かって来なさい!!」

そう口にして迫り来る氷人形(アイスドール)達の下へと突っ込んだ。

 

煉獄の女王が突っ込むと同時に氷人形(アイスドール)が数百体吹っ飛ばされる。

仲間が吹っ飛ばされた事へ大した反応も見せず煉獄の女王を殺そうと騎士型の氷人形(アイスドール)が己の得物を振るう。

 

煉獄の女王は、彼等の攻撃を躱しながら殴打、蹴り、打撃による胸部の貫通、蹴りによる肉体断裂に両手足に炎を纏わせた攻撃で無双していた。

騎士型がやられていくのを見た兵士型が懐からハンドガンを取り出し煉獄の女王に向けて発砲する。

 

「遅いよ!」

しかし弾丸は、空しく空を切りハンドガンを持っていた兵士は、煉獄の女王の拳によって胸を貫通され破壊された。

ならばと全方向から一斉にコンバットナイフや剣などを持った兵士と騎士の入り乱れた集団として飛び掛かった。

 

それでも誰も敵わなかった。

攻撃をしたと思ったらいつの間にかこちらが破壊されるか破壊寸前まで追い込まれて、胸に付けた手榴弾を奪われ仲間の騎士の鎧にピンを抜いた手榴弾を入れて遥か遠くへと蹴り飛ばす。

蹴り飛ばされた騎士型は、戦士型と騎士型の入り乱れる集団へと突っ込みそこで爆発した。

仲間が破壊されようと果敢に挑み続けるも成す術無く次々に破壊されていく。

誰から見ても一方的な蹂躙劇だった。

 

しかし、その蹂躙劇も終わりを迎える。

 

「次は誰?」

「オ・レ・だ!!」

二体の氷人形(アイスドール)の頭を握り潰して破壊しながら問うと、遥か遠くへと吹っ飛ばされたLORDが煉獄の女王を蹴り飛ばした。

もちろん煉獄の女王も両手でガードしたがそれでもダメージが響き両腕が痺れている。

 

「ウッヒャー、凄いね。まさかもう戻ってくるなんて思ってなかったよ」

「ああ、結構良いのを貰った。おかげで仮面に罅が入ってやがる」

煉獄の女王が軽口を叩くのに対してLORDは、罅割れた笑顔仮面に手を掛けてダメージを確認する。

 

「ペッ!思ったよりもダメージ入ってんな…さすがは最強の一角」

「あら?褒めても炎しか出さないわよ」

口に溜まった血の代わりの液体を吐き出したLORDに対して煉獄の女王が両手で印を結びながら答えた。

 

「ちょっとペース上げてこうか!」

「チッ!てめぇらどけ!」

煉獄の女王が息を吸うと同時にLORDが最前線に出て右手を向ける。

 

「火遁・業火滅却!!」

氷獄の檻(プリズン・コキュートス)!!」

広範囲を焼き尽くす『火遁・業火滅却』に対して高層ビル程の大きさを誇る0ポイント仮想(ヴィラン)を丸ごと包み込める大きさの氷を放つ『氷獄の檻(プリズン・コキュートス)』で迎え撃った。




切りの良い所で少しずつ切ってから投稿して行くので一話の長さが毎回変わります。

それでは、また次回!
また明日。


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第二十一話

作者の本気、二日目です。
今話は、煉獄の女王が本気で戦ります。

では、どうぞ。ごゆっくり!


「ちょっとペース上げてこうか!」

「チッ!てめぇらどけ!」

煉獄の女王が息を吸うと同時にLORDが最前線に出て右手を向ける。

 

「火遁・業火滅却!!」

氷獄の檻(プリズン・コキュートス)!!」

広範囲を焼き尽くす『火遁・業火滅却』に対して高層ビル程の大きさを誇る0ポイント仮想(ヴィラン)を丸ごと包み込める大きさの氷を放つ『氷獄の檻(プリズン・コキュートス)』で迎え撃った。

 

全てを焼き尽くす高熱と全てを凍らせる冷気の衝突で大規模な水蒸気爆発が巻き起こる。

だが両者ともに対して気にする事なく次の一手を下す。

 

「火遁・龍炎放火の術!」

「ヴァイスシュナーベル!」

続いて飛んできた龍の頭を模した炎に対して空中に作られた氷の剣で相殺していく。

さらに全方向から氷の剣が煉獄の女王に迫るがいつの間にか手に持った炎を纏った剣で全て弾き返した。

 

「アハッ!楽しいね!!」

「創造ッ!青薔薇の剣!」

迫り来る煉獄の女王の一撃を即座に構成した青薔薇の剣で受け止める。

その衝撃で凍った海の氷が少しだけ陥没する。

 

「アッハハハハハハハ!!楽しいねぇ!!」

「何がだよ!こちとら全然楽しくねぇ!!」

鍔迫り合いをした状態で軽口叩く煉獄の女王に対して左手にデザートイーグルを持ったLORDが銃口を向ける。

 

「死ね!」

ダァンッ!

 

蟀谷に向かって発砲したはずの弾が直撃する前に煉獄の女王に指二本で摘ままれた。

 

「効かないよ?」

「知ってる…!」

煉獄の女王に蹴りを入れて遠ざかったLORDが凍った海に両手を着ける。

 

「何をする気?」

「大氷壁!!」

煉獄の女王の質問に答えず凍った海からぶ厚い氷の壁を三枚連続で作り出した。

 

「壁?なんでこんな脆い壁を?こんな壁なら一瞬で…まさか!」

氷の壁に軽く触れながら少しだけ考えると一気に後を振り向く。

 

振り向くと10キロほど離れた場所に待機していた巨大戦艦がいつの間にか5キロまでの距離に近づいており、その全てが一斉掃射を行った。

煉獄の女王に向けて放たれた100発以上の砲弾が着弾する。

その衝撃で凍った海が割れて煉獄の女王の立っていた足場が崩れる。

それを見越していたかのように氷の下から発射された魚雷が次々と爆発する。

更にトドメと言わんばかりに氷の壁から3000を超すM61の銃口が現れ、煉獄の女王の立っていた場所に連射し始める。

 

弾丸雨中の攻撃が煉獄の女王の居た場所を狙う。

明らかな過剰戦力。

何も知らない者が見ればそう言うだろう。

だが相手が煉獄の女王と知れば誰もが言うだろう。

 

『まだ足りない。あの化け物は、核兵器であろうと殺せない。殺すためには、世界を滅ぼす兵器を使うしかない』

 

と。

彼女の強さは、他と隔絶している。

人間の常識では測れない。

『煉獄の女王は、人間じゃない。一つの災害と考えるべきだ』

氷炎戦争の被害を被った一国の首相の言葉に全世界の誰もが納得した。

 

『煉獄の女王を倒せる可能性を持つ者は、LORDに殺された海神と風神。そして裏社会の支配者の一人、闇の帝王とその天敵の光の皇女(みこ)だろう。しかし確実に殺せる者は、LORDしか存在しない』

一人の研究者が煉獄の女王についての研究レポートに残した一文から抜粋。

 

 

そして案の定。

 

ザバァッ!

 

凍った海が沸騰し始めその中から燃え盛る巨大な腕が現れた。

燃え盛る腕が凍った海面に手を突いて、その巨体を持ち上げ口から炎を吹いた。

 

「出しやがったか…!」

出て来た本体を衛生カメラ越しに確認したLORDが通信機に手を当てて指示を出す。

 

「全砲塔構えろ。狙いを定め調整が完了ししだい撃て」

「クソが…」

指示を出し終えたLORDが次々と破壊されていく氷の壁の向こうにいる相手を睨む。

 

海の中から現れたのは、二本の角が生えた巨大な人型の化け物。

全身が超高温の炎に包まれて燃え盛っている。

新たに出した右手には、炎の剣(レーヴァテイン)を持っている。

その顔には、炎の仮面を被り口元を隠している。

その姿の名は、

 

「スルト…」

 

炎の巨人(スルト)

北欧神話において世界を焼き尽くしたとされる炎の巨人にして煉獄の門の番人。

煉獄の女王が持つ切り札の一つである。

 

その姿のまま凍った海面に昇り炎の剣(レーヴァテイン)を振って氷の壁を破壊した。

 

『ウォオオオオオオオオ!!!!』

「…撃て(Fire)!」

炎の巨人(スルト)が雄叫びを上げると同時にLORDが合図を出した。

 

ドドドドドドンッ!!!

 

一歩踏み出そうとした炎の巨人(スルト)の胸部に六両の列車砲から発射された砲弾が六発連続で着弾する。

その攻撃に炎の巨人(スルト)が後ろに少しよろけてたたらを踏んだ。

 

『グォ…ォオオオオ!!?』

「解除…もう一度撃て!」

後ろに数歩後退したのを確認したLORDが氷河時代(アイスエイジ)によって凍った海面を崩し巨大戦艦が発砲した。

 

『オオオオオオオオオオオ…!!!』

「全砲門…撃て(Fire)!!」

バランスを崩し海に落下した煉獄の女王に八隻の巨大戦艦と列車砲が全てその砲口を向けて一斉に砲撃した。

列車砲が六両と巨大戦艦が八隻に氷人形の中でも重機関銃を持つ者が氷で作られた発射台に上り連射を始めた。

 

「まだだ!返って来い、氷獄の剣!」

この程度(・・・・)では、全然足りないと知っているLORDが海に手を向けて海中に沈んだ氷獄の剣を手元に手繰り寄せる。

 

「全力の戦いだ、怠ける事は許さんぞ。封印解除!」

絶対零度の冷気を垂れ流す氷獄の剣を海に突き立ててスルトが倒れた海面まで凍らせる。

 

「圧死せよ!ハーゲルシュプルング!!」

そのまま左手を天高く掲げて空中に巨大な氷塊を作り出し一気に叩き落した。

隕石にも匹敵する大きさの氷塊が猛スピードで落下を始めスルトを圧し潰そうと迫る。

このまま行けば煉獄の女王ですら無視できないダメージが入る。

 

だが…

 

偉大なる太陽(グレイテスト・サン)!』

氷を突き破り海面から現れた燃え盛る手から放たれた太陽に匹敵する温度の炎の塊が氷塊に衝突して相殺された。

 

「まあ、予想通りだな!」

凍った海面を割って現れたスルトに大して驚く事も無く氷獄の剣を握った右手も掲げて力を溜めて行く。

 

「俺の力か?好きなだけ持ってけ!その対価として眼前の敵を討ち払え!!」

そう口にすると氷獄の剣の剣身に途轍もないエネルギーが溜まっていき青い雷が迸った。

迸る絶対零度の雷が海面を凍らせていく中、それに気が付いたスルトも炎の剣(レーヴァテイン)を掲げた。

 

「せめて切り傷くらいつけろ!!」

『ウォオオオオオオオオオ!!!』

LORDが氷獄の剣を振り下ろすとスルトも同じように炎の剣(レーヴァテイン)を振り下ろした。

 

全力全開(フルパワー)原初の氷剣(プロト・ゼロカリバー)!!!!!』

スルトを確実に倒せるだけの力を込めたLORDの放った一撃が巨大な斬撃となって海を海中ごと凍らせながらスルトに迫った。

 

災禍なる太陽が如き剣(レーヴァテイン)!!!!』

一方のスルトも迫り来る斬撃を確実に相殺出来る威力の斬撃で返した。

 

 

その数秒後に両者の攻撃が衝突した。

 

 

世界最強の一角と謳われる両者の持つ最高威力の一撃が正面衝突した。

各々が相手を殺す気で撃った技が衝突するとどうなるか?それは、想像に難くない。

雷帝と呼ばれる武器商人の最強の一撃ですら周囲の建物に甚大な被害を与えたのだ。

それより遥かに強い『氷獄の王』と『煉獄の女王』の持つ最高威力の一撃は、衝突の瞬間半径10キロ圏内に存在する全ての建物を消し飛ばした。

比喩では無く文字通り跡形も無く全て消し飛んだ。

 

氷人形達は、LORDが張った即席の十枚重ねの大氷壁に守られたが巨大戦艦と列車砲は、甚大な被害を被り使い物にならない。

巨大戦艦の8隻の内3隻が少しずつ沈み始めている。列車砲は、爆風に吹き飛ばされてレールから外れて倒れていた。

海に立っていた100メートル越えの氷人形は、両者の一撃の衝突寸前に海に飛び込み、8体の内、3体が壁となり飛び込んだ5体が無事だった。

LORDが張った10枚の大氷壁のうち8枚が一瞬で破壊され9枚目が半壊。そして10枚目に罅が入った。

 

それほどの爆発の原因となった張本人達はと言うと…

 

「ケホッケホッ…煙いな」

LORDが即席の氷壁の後ろで手を振りながら咳き込んでいる。

 

『グォオオオ…』

一方のスルトは、両腕をクロスさせたまま小さく唸り声を上げた。

 

 

お互いに大したダメージの無い様子でピンピンしていた。

そして、すぐさま構えを取った。

LORDが右足を軽く引いて右手を腰に置いた構えを取ったのに対して煉獄の女王は、天地魔闘の構えを取った(意味が分からないよ)。

両者ともに一歩動かない緊迫状態が続く中、LORDが先に動いた。

 

「戦艦部隊、残り何隻だ?」

『5隻です。うち2隻の全砲塔が爆風により吹き飛ばされました』

「…分かった。さっきのがもう一発行くかもしれないが耐えれるか?』

『戦艦がそう簡単に沈むか!です、我が王』

「実際沈んでるんだよな~、まあいい。残った艦で砲撃の準備を進めろ。主砲を失った艦は特攻しろ。何としてでも隙を作れ」

『イエッサー!』

残った巨大戦艦のリーダー格に指示を出し、海中の5体の超巨大氷人形達にも指示を出した。

 

「やれ…」

たった二文字の短い指示だったが、単調な命令しか理解できない超巨大氷人形には十分な指示だった。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!』

海中から飛び出した超巨大氷人形の一体がスルトの背後へと飛び掛かる。

 

『フッ!』

『グォオオオオ!!!』

しかしスルトには、そのような攻撃が通じる訳も無くクロスカウンターの形で顔に拳を喰らって頭部を完全に破壊された。

 

『『『『オオオオオオオオオオオ!!!』』』』

超巨大氷人形の一体が倒された直後に海中から残った4体の超巨大氷人形達が海中に沈めてあった斬艦刀を一体一振りずつ持った状態で現れ、それを一気に振りかぶった。

 

『オオオオオオオオオオオ!!!!』

スルトが腕を一本ずつ使って斬艦刀を二本受け止めた。

しかし残された二体がスルトの体を切り裂くために斬艦刀を振り抜いた。

 

ジュオオオオオオオ!!!

 

しかし、斬艦刀がスルトの燃え盛る体に触れた部分が一瞬で熔解した。

それでも、だからどうしたと言わんばかりに斬艦刀を溶かされた超巨大氷人形が振り返り拳を振りかぶった。

 

『『オオオオオオオオオオオ!!!』』

迫り来る二体の拳を防ぐ為にスルトが斬艦刀を持つ二体の超巨大氷人形にバランスを崩させ超巨大氷人形同士を衝突させた。

 

『火遁・業火滅失!!』

『『『『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』』』』

スルトがバランスを崩して団子状態になった超巨大氷人形たちに向かって口から大火力の炎を吹きかけて全て一気に溶かした。

 

 

『てーい!!』

ドドドドドドドン!!

 

『グォオオオオ…!!?』

スルトの背中に数発の砲弾が直撃し当然視線そちらに向けられる。

 

スルトの視線の先には、特攻してくる2隻の巨大戦艦とそれを援護するように砲撃を続けている3隻の巨大戦艦があった。

更にその遥か向こうからは、大型貨物船が時速50ノットで進んで来ていた。

 

『オオ…?』

(なんで貨物船?)

スルトこと煉獄の女王は、単純に疑問に思い首を傾げた。

 

『装填完了!』

『てーい!』

その疑問の答えを得る暇も無く巨大戦艦がまた砲撃を開始した。

 

『オオオオオオオ!!!』

砲撃を煩わしく思ったスルトが片手を顔の前に移動させ僅かだが隙を晒した。

その僅かな隙に砲塔を失った巨大戦艦がスルトの両脚に衝突して後方三隻の連続砲撃により二隻とも盛大に爆発した。

 

「良くやった!グラオホルン!!」

巨大戦艦二隻が爆発した影響でバランスを崩したスルトの足元にLORDが無数の尖った氷の柱を作り出し足元を串刺しにした。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!』

足を串刺しにされた事によりスルトが悲鳴にも似た雄叫びを上げた。

 

「一応、俺に出来る限りのダメージを与えた。後は天に任せるだけだ…」

ゴロゴロゴロ…

LORDが空を見上げて小さく呟く。

 

空には、氷と炎の度重なる衝突によって発生した積乱雲の中で雷鳴が鳴り響いていた。

積乱雲は、雲の中で静電気を発生させて、それを雷として落下させる。らしい…良く分からない。

原理はともかくスルトの頭上に巨大な積乱雲が発生した。

スルトの熱で海が熱せられた事により水が蒸発してLORDの放つ氷によって水蒸気が何度も冷やされた。

その連続で上空に巨大な積乱雲が発生して内部で何度も何度も雷鳴を響かせる。

 

『雷とは、古来より高い位置にある物に当たりやすい』と言われている。

この時、一番高い位置にあった物は…スルトの角だった。

 

本来、雷を狙った場所へ的確に落とす事は不可能だ。

しかし、LORDには雷を狙った場所に確実に落とす方法が存在する。

それは、雷帝から買った対物プラズマライフル『雷霆』の23㎜電磁式プラズマ弾による誘導だ。

 

時間にして2秒。たったそれだけの時間でスルトの角に狙いを定め、弾丸を発射した。

 

『オオオオオオオ…』

(まさか、これを狙っていたの?)

 

ゴロゴロゴロ…

バリバリバリバリィ!!!

23㎜電磁式プラズマ弾に誘導された雷が必然的に一番高い位置に存在しプラズマ弾の着弾したスルトの角に向かって直撃する。

 

『オオオオオオオオ!!!??』

最初に喰らった『インドラの矢』とは違う自然が生み出した純粋なエネルギーによる『雷遁・麒麟』が直撃した事によりスルトが片膝を突いた。

 

「トドメは、刺せる時に刺すべし!」

そう口にしたLORDが右手を上げて頭上に巨大な氷の槍を形成した。

 

「名前は適当に…ゲイ・ボルグ!」

右手を前に向けると同時に巨大な氷の槍が高速で飛んで行きスルトの胸を貫いた。

 

『オオオオオオオオオオオオオ……!!!』

断末魔の叫びを上げながらスルトが後方に倒れる。

更に大量の海水がスルトの体を構成する炎を消火し始めた。

 

ついに煉獄の女王が倒された。

その情報を聞いた裏社会の誰もが安堵し歓喜した。

 

それも束の間、突如として海に高さ数百メートルの火柱が立ち昇った。

 

『ギュァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!』

ナニカの咆哮が聞こえた瞬間、海が消滅した。

 

文字通りの消滅。

突如としてスルトが倒れ込んだ場所の海水が一瞬で蒸発してしまったのだ。

海水の消滅した範囲は、約半径500メートル。リットルに換算すると1,000,000㎘に上る。

それほどの海水を一瞬で蒸発させた存在。それが、その姿を現した。

 

それは、嘗てLORDへと堕ちる前の冷気が一度だけ使用した最強の怪獣王。

全ての怪獣の頂点に君臨する最強の生物。

空想上の怪獣の王。

怪獣王ゴジラ(ハリウッド版)。

 

しかし、その体は炎に包まれ常に高熱を発し続けている。

その状態のゴジラを人々は、こう呼ぶ。

 

「バーニングゴジラ…」

 

と。




用語解説.

スルト.
北欧神話に登場する炎の剣を用いて世界を焼き尽くした炎の巨人。
煉獄の女王がちょっと本気で戦う時に使う姿。

バーニングゴジラ.
マジの本気の姿。
一切のお遊び無しの本気中の本気。

技解説.(煉獄の女王)

火遁・業火滅却.
NARUTOの登場人物、うちはマダラが忍連合相手に開幕ぶっぱした火遁の最上位忍術。
並の火遁を遥かに上回り複数人の水遁使いでやっと対処できた程の火力。

火遁・龍炎放火の術.
うちはマダラが火遁・業火滅却の次に使った火遁忍術。
龍の頭を模した火炎弾を飛ばす。

火遁・業火滅失.
同じくNARUTOの登場人物。うちはマダラの忍術。
描写を見る限り、攻撃より殲滅寄りの忍術だと思われる。

偉大なる太陽(グレイテスト・サン).
七つの大罪の登場人物、四大天使の一人マエルの技。
巨大な太陽の如き炎塊が相手を焼き尽くす。

災禍なる太陽が如き剣(レーヴァテイン).
FGOのスルトの宝具。
スルト状態の煉獄の女王の必殺技。


技解説.(LORD)

氷獄の檻(プリズン・コキュートス).
ビルより巨大な0ポイント仮想敵をも包み込む程の巨大な氷を一度に出す技。

ヴァイスシュナーベル.
『アカメが斬る!』の登場人物、エスデス将軍が使った技。
空中に無数の氷の剣を作り出し一斉放出する技。

青薔薇の剣.
北の守護竜に認められた者のみが扱える氷の剣。
常に冷気を放っている。

大氷壁.
無駄にデカい氷の壁。

ハーゲルシュプルング.
隕石サイズの氷塊を作り出し降らせる技。
圧倒的質量で相手は死ぬ。

全力全開(フルパワー)原初の氷剣(プロト・ゼロカリバー).
LORDの奥義の一つ。
大地を抉り、海を凍らせ、天を割る氷の斬撃。
噴火中の火山ですら一瞬で凍り付く程の威力を誇る。

雷遁・麒麟.
NARUTOの登場人物、うちはサスケの使用忍術。
積乱雲に溜まった雷を誘導し確実に当てる雷遁忍術。
此度は、23㎜電磁式プラズマ弾による誘導により偶然再現された。

グラオホルン.
巨大な氷柱によって相手を貫くエスデス将軍の技。

ゲイ・ボルグ.
名前だけの技。
巨大な氷の槍を形成し相手に投げ付ける。



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第二十二話

「バーニングゴジラ…」

 

と。

 

「ッ!」

LORDは、漏れ出た言葉に思わず口を塞ぐ。

そしてすぐに悟る。

アレは、ヤバい。

もはや巨大戦艦や列車砲等の巨大兵器で如何にか出来る存在では無い。

 

『一つの強力な個を倒すのに弱者が数で攻めても意味が無い。同じくらい強力な個の加勢がいる』

ふと、誰かの言葉を思い出したLORDが両手を合わせた。

 

氷の怪物(アイスモンスター)…」

両手を合わせたまま小さく呟くように口を開く。

 

それに合わせてバーニングゴジラが海の砂を結晶化させ岩盤を溶かしながら一歩進んだ。

 

『てーい!』

ドドドドドドドン!!

 

後方の巨大戦艦からバーニングゴジラの背中に向けて砲撃が開始される。

もはや敵わないと知りながら巨大戦艦に搭乗している氷人形達は、己の主たるLORDの為に可能な限り時間を稼ごうと健気に戦い続けている。

これ以上近づけば確実に死ぬ。そうと分かっていながら攻撃の手を緩めようとしない。

魚雷だけでなく戦艦に搭載されたガトリング砲をも利用しバーニングゴジラの注意を引こうとしている。

 

『…………』

それを煩わしく思ったバーニングゴジラが巨大戦艦の方にその巨体を向けた。

 

『お前達と共に戦えて光栄だった。また会おう同士よ!』

『全砲塔!一斉掃射!!』

巨大戦艦のリーダー格の氷人形が他の者達に感謝の言葉を伝え、最後の指示を出す。

その指示に従い巨大戦艦に残っている全ての砲塔でバーニングゴジラに砲撃を開始した。

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!

 

 

その攻撃に対してバーニングゴジラが口から火炎放射にも似た赤みを帯びた熱戦を放つ。

その一撃が残る全ての巨大戦艦に直撃し、その全てを跡形も無く消し飛ばした。

あまりにもあっさりと残された巨大戦艦が全て消し飛んだ。

 

『…………』

邪魔だった虫けら(・・・・)を処理し終えたバーニングゴジラが再びその巨体を動かし視線をLORDへと向ける。

 

「……」

笑顔仮面の奥で表情を変えたであろうLORDが手を合わせたままバーニングゴジラを見る。

 

『ガァアアア!!!』

LORDに狙いを定めたバーニングゴジラが口を開き口内に超高温のエネルギ―を充填していく。

ソレの温度は、先程の巨大戦艦を消し飛ばした時に放った光線の数倍以上の熱量。

エネルギチャージの温度だけで周囲の大気が歪むほどの熱量が口内に集まって行き…

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!

 

膨大な熱量の光線を放出した。

 

『我等が王を死守しろ!!』

バーニングゴジラの放った高熱の光線がLORDに直撃する前に一体の氷人形が指示を出し、残っていた10万体の氷人形達が一つの巨大で分厚い氷の壁となった。

 

氷の壁となった氷人形達にバーニングゴジラの放った超高温の光線が直撃する。

巨大戦艦を一瞬で破壊した光線をその壁が完璧に防ぐ。

しかし防げる時間は、ほんの数秒。氷の壁は、5秒ほどで罅が入り始めじわじわと溶け出す。

 

「良く頑張ったな…怪獣王(ゴジラ)!!」

氷の壁の壁が破壊されたと同時にLORDの体を大量の氷が覆った。

 

カッ!!!

ドッガ――――――ン!!

氷の壁を貫通した光線がLORDの立っていた場所に直撃し大爆発を起こす。

 

ズゥゥゥゥゥゥン!!

爆発した時に立ち昇った煙の中から巨大な足が姿を現す。

 

ズゥゥゥゥゥゥン!!

もう一度同じような振動が起こりもう一方の足も姿を現した。

 

『………』

煙の中から姿を現したソレは、周囲を一瞥してから咆哮を上げる。

 

『グルァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!』

 

己以外の全ての生物に己の存在を知らしめるように咆哮を轟かせたソレは、バーニングゴジラに向き直る。

 

太い両足に巨大な胴体、背中には背びれのような物が3列に並んでいる。その体に不釣り合いな小さな腕を持ち恐竜を思わせる頭部に体より長く太い尻尾を持った巨大な氷で出来た怪物。

ソレは、最強の怪獣王を模した姿。

LORDこと冷気が人生初の戦闘で使用した姿。

人々は、その怪獣に畏敬の念を込めてこう呼ぶ…怪獣王(ゴジラ)と。

 

『………』

『………』

瓜二つの二体の巨大怪獣が真正面から向き合い同時に口を大きく開く。

 

ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!

キィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!!!

 

両者共に全力の光線を放った。

バーニングゴジラは、全てを融解させる超高温の光線を。

ゴジラ(ハリウッド版+氷製)は、原子レベルで全てを凍らせる絶対零度の光線を。

それぞれが己の得意とする一撃を同時に撃った。

 

両者の得意とする光線技の衝突により光線の衝突地点で膨大なエネルギーの奔流が巻き起こる。

だがそれもやがて決壊し大爆発を起こす。

 

原初の氷剣(プロト・ゼロカリバー)災禍なる太陽が如き剣(レーヴァテイン)の衝突に比では無い大爆発。

爆風により瓦礫の山になった街の瓦礫が根こそぎ吹き飛ばされ完全な更地と化した。

更に吹き飛ばされた瓦礫が周囲20キロ圏内の建物に直撃し幾つもの建造物が軒並み倒壊を始める。

それだけでなく爆発時に轟いた爆音により崩れ無かった建物の窓ガラスが全て割れ落ちた。

海側も甚大な被害を被っている。

海が一気に蒸発し元に戻ろうと迫っていた海水までもが近づく暇もなく蒸発させられた。

さらに海底までもが膨大な熱に()てられドロドロに溶け出して溶岩が流れ出している。

 

『………』

『………』

それだけの被害を与えた当事者達は、相手を見据えたまま一歩も動こうとしない。

 

『ギュオオオオオオオオオオン!!』

『グルオオオオオオオオオオン!!』

やっと動いたかと思うと一気に駆け出し正面衝突した。

 

衝突した二体の怪獣の温度差の影響で突風が巻き起こる。

ほぼゼロ距離で放たれた光線の衝突でお互いが吹き飛ぼうとも大地を強く踏みしめて持ち堪える。

 

『ギュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!』

バーニングゴジラが雄叫びを上げてゴジラに突進した。

 

『グルォオオオオオオオオオオオオン!!!??』

予想だにしなかった攻撃にゴジラが耐え切れず遥か後方へと吹き飛ばされた。

 

吹き飛ばされたゴジラが更地となった街にその身を叩き付けられ苦悶の表情を浮かべるが直ぐに立ち上がろうと動き出す。

ゴジラが立ち上がろうとしているとバーニングゴジラ基、煉獄の女王が歩みを進め…ついに日本に上陸を果たした。

 

『ガァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』

キュイイイイイイイイイイイイン!!

立ち上がったゴジラが絶対零度の光線を溜め無しで放つ。

 

『ギュアアアアアアアアアアアアアアア!!!』

ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!

それに対しバーニングゴジラが超高温の熱線を放った。

 

再度衝突する光線がまたもや大爆発を起こす。

さきほどの爆発と比べれば小さな物だが、それでも被害は甚大だった。

更地になったとは言え街中で放った光線技の衝突は、辺り一帯を凍らせ燃やし地面に巨大なクレーターを幾つも形成し大地を抉った。

 

その数秒後に二体の怪物が再度衝突した。

そこからは、怪獣映画の最終決戦にしても遜色ない一戦となった。

ゴジラがバーニングゴジラに飛び掛かりバーニングゴジラが全身を使って躱し尻尾を振って攻撃した。

バーニングゴジラの放った光線を躱しゴジラが短い腕でラリアットを喰らわせた。

バーニングゴジラの光線を喰らい海に吹き飛ばされたゴジラが時速50ノットで迫って来た大型貨物船を一隻ずつ片手で掴み上げバーニングゴジラを殴った。

さらにまた別の大型貨物船を握り尻尾を巧みに使いバーニングゴジラに向かって九隻の大型貨物船を投げた。

バーニングゴジラは、それらを熱線で焼き切りゴジラに向き直った。

しかし、ゴジラが最後の一隻を両手で振り上げてバーニングゴジラに大型貨物船で殴り付ける。

バーニングゴジラもお返しと言わんばかりに尻尾を叩き付ける。

 

二体の超巨大怪獣の戦いにより大地が震え、海が荒れて、空が割れる。

光線を避けると大地が熔解し海が凍り付く。

まさに災害。否、天災。

最強同士の戦いは、人知の及ばない物と化した。

 

 

しかし、その戦いにも終わりが訪れようとしていた。

 

それは両者がバーニングゴジラとゴジラを解除したからだ。

 

「ふぅ…」

「はぁ…」

姿を晒したLORDと煉獄の女王が同時に溜め息を吐く。

 

「面倒くさい!!」

「怠い!飽きた!」

そして同時に本音を吐き出した。

 

お互い、この終わらない戦いに辟易していた。

弱体化したLORDが予め準備を進めた影響もあって実力が拮抗し、互いが互いの弱点属性であり同時に得意属性でもある。

それに加えて過去に一度、本気の殺し合いを演じたから相手の出方や技も大体分かる。

お互いに戦闘のプロだからこそ相手の癖も知っているし弱点も大体察せる。

自分の嘗ての弱点を一番よく知っているのは己自身だ。だからこそ、その弱点を克服出来るようにして隙を晒さないように戦っている。

それだけならまだしも両者共にエネルギーが無尽蔵に生み出されるのだ。

お互いにエネルギー切れを起こす事が無いし、そもそも肉体が氷で形成されているLORDと炎で形成されている煉獄の女王は、肉体の損傷が一瞬で回復するので永遠に決着が着かない。

(だが体力は、無尽蔵ではない)

 

1年前ならお互いに決着が着くまで存分に戦っただろう。

しかし、今の二人は昔と違う。

LORDには、転弧と恵理と言う守るべき家族が出来た。

煉獄の女王に至っては、ヴィラン活動をする理由がさほど残っていない。

 

だが自分の最後の戦いを黒星で終わらせるのは、御免被る。

身勝手だって?その通り、彼等(ヴィラン)は身勝手なのだ。

 

一瞬で同じ思考に到達したLORDと煉獄の女王が各々の一番得意とする構えを取った。

 

「Shall we Dance ? Ms.Asuka」

「Yes,let's. Mr.Zero」

冷気の問いかけに煉獄の女王が返した。

 

お互いの意思を確認した両者は、一秒足らずで10メートル以上あった距離を詰めた。

 

そして生身での激戦が始まる。

 



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第二十三話

どうもこんにちは。作者です。
今話は、作者の趣味と性癖をぶち撒けました。
気に入ってくれれば幸いです。

では、どうぞ。ごゆっくり!


ゴジラを解除した両者が衝突する。

 

最初の巨大戦艦や軍隊による戦いや先程の巨大怪獣同士の戦いに比べると見劣りするが、流石は世界最強同士。

両者共に一つの武を極めた者のみが到達出来る境地に至っている。

 

LORDが徒手空拳で挑み煉獄の女王も同じように徒手空拳で返している。

攻撃を躱し躱され、受け止め受け止められ、相手を投げ投げられ、技を返し返され、衝撃を流し流され、手から氷の弾を出すも弾かれ炎の弾を出すも弾かれる。

互いの攻撃が音速を超えて瞬間移動にも似た動きで戦闘が続いている。

人間の目では到底追えない速度で行われる戦闘は、大気を震わせ攻撃の余波だけで突風を巻き起こしている。

拳の衝突、蹴り技の衝突、肘打ち、その全てが人知を超えている。それほどの戦い。

その数秒後に首元を狙った相手の右手を己の左手で掴んだ状態で二人の動きが一度止まった。

 

「……」

「……」

余計な言葉を交わすことなく相手の手を止めたまま静かな睨み合いが続いている。

やがて10秒ほど続いた睨み合いは、両者が同時に後ろへ跳ぶ事で終わった。

 

「アイス(ブロック)暴雉嘴(フェザントペック)!!」

「鏡火炎!!」

LORDの放った氷の怪鳥に対して煉獄の女王が炎の壁を作り出すことで相殺した。

 

「アイス(ブロック)両棘矛(パルチザン)!!」

「火遁・業火球の術!」

続いて放たれた無数の氷製の矛が巨大な炎の弾に防がれる。

 

炎の息吹(ファイアーブレス)!」

氷の息吹(アイスブレス)!」

煉獄の女王が炎の息吹を放つとLORDも氷の息吹を放つ事で相殺した。

 

「フレイムセイバー!」

「氷獄の剣!」

息吹の衝突で巻き起こった水蒸気を掻い潜るように煉獄の女王とLORDが同時に駆け出し呼び出したお互いの武器をぶつけた。

 

「やるじゃん」

「ありがとう」

火花が飛び散る程の鍔迫り合いの最中にどちらかが声を掛けて相手もそれに答える。

 

また後ろに一歩跳んで、それぞれが己の得物を新たに作り出し再び衝突する。

その後の戦いもやはり筆舌に尽くしがたい物となった。

 

LORDの攻撃を受け流したはいい物の武器を弾き飛ばされた煉獄の女王がLORDに八卦を込めた掌底突きを喰らわせる。

その一撃を後ろに跳んで流すも武器を破壊されたLORDがコートの下からスローイングナイフを取り出して投げた。

スローイングナイフが当たるよりも先に、それを避けて煉獄の女王が拳に炎を纏わせてLORDに肉薄する。

しかしLORDも簡単に懐に潜らせるほど甘くない。すぐさま相手との間に氷の壁を作り出し距離を取る。

煉獄の女王がその壁を一秒足らずで破壊しLORDに迫るが肝心のLORDが居ない。

 

「ッ!!」

上空から降りた影に上を見るとLORDが巨大な氷の怪鳥となり遥か上空…とまでは行かないが上空100メートルの地点から全身にM61バルカンを生やしガトリング砲による連射を始めた。

煉獄の女王が豪雨のように振り掛かる弾丸を躱しながら片手に太陽神(アポロン)の弓、もう一方の手に黒炎の矢を作り出し上空を飛び回る巨大怪鳥に向かって放った。

消えない炎、『天照(アマテラス)』を付与(エンチャント)した矢が飛翔中に無数の矢に別れ巨大怪鳥に変化したLORDへと迫る。

 

『ギュアアアアア!!!?』

下から飛んでくる矢をM61の銃弾で相殺しようと試みたが天照(アマテラス)を付与した炎の矢が巨大怪鳥に直撃した事により悲鳴を上げる。

しかし、すぐさま巨大怪鳥からLORD本体が離脱して巨大怪鳥の亡骸を煉獄の女王に向けて落とした。

 

「狐火流・焔裂き!」

煉獄の女王が己に迫っていた消えぬ黒炎を纏った氷の巨大怪鳥を炎諸共切り裂いた。

そして滑空してくるLORDに新しく作成したフレイムセイバーを構え居合の形で一気に引き抜いた。

 

ガキィィィィィィィン!!

 

「へぇ…?」

それを見越していたLORDが氷獄の剣で迎え撃った。

「チッ…!」パキッ!

だが、ほんの僅かコンマ数秒だけ反応が遅れて笑顔仮面に斜めの傷が入り、LORDの口元が露わになる。。

軽くを舌打ちをしてから遠くに着地したLORDが氷獄の剣を地面に突き立て、体内に収納してあった一振り時価4億の日本刀を三本取り出し、一本を右手、一本を左手、一本を割れた笑顔仮面の口元に咥えて三刀流の構えを取る。

 

「九山八海一世界…」

三本の日本刀に夥しい量のエネルギーを流し入れ、一人で詠唱(?)を口遊みながら煉獄の女王に向かって大地が割れる程に強く踏み込んで駆け出す。

 

「マズイね…」

LORDの気迫とこれから撃つであろう一撃を予想した煉獄の女王も迎え撃つ準備を進める。

 

「千集まって小千世界…」

煉獄の女王が構えを取ったついでに放った火球を躱しながら更に速度を上げた。

 

「なら…無慈悲な太陽(クルーエル・サン)!」

「三乗結んで斬れぬ物なし!」

煉獄の女王の放った太陽の如き火球をコートを燃やしながらも真っ二つに切り裂き更に力強く踏み込んだ。

 

「斬った!?マズッ!」

「一大・三千・大千・世界!!!」

まさかそのような対応をされると思っていなかった煉獄の女王がほんの少しだけ反応が遅れてフレイムセイバーを引き抜く。

LORDがその僅かな隙を見逃すはずもなく、一気に煉獄の女王をフレイムセイバーごと斬った。

 

「カハッ…!!!」

LORDの渾身の一撃により煉獄の女王の体が袈裟斬りに切り裂かれ口から血を吐いた。

 

「はぁ…はぁ…グッ…!!?……コフッ!!」

技を放ち終えた体勢からゆっくりと立ち上がったLORDは、完全に油断しきっていたせいで煉獄の女王の形成した鞘より抜かれし剣(ミカエルの剣)に胸部を貫かれ吐血した。

 

「ハァ…ハァ…」

煉獄の女王が膝を突いたまま胸から血を流す。

 

「フゥ…フゥ…」

LORDも流し込まれたエネルギーに耐え切れず自壊した日本刀を捨て口から血の代わりの液体を流した。

 

「「……」」

両者共に回復が追い付かないダメージを負ったせいで体力が底を尽きかけている。

 

「そろそろ決着と行こう…」

「その意見にだけは賛成ね…」

LORDの言葉に煉獄の女王が返した。

少しだけ黙り込んでから右手人差し指をを相手に向けて同時に口を開く。

 

「「これで終わらせる…」」

まったく同じ台詞を同時に発した二人は、指先にエネルギーを集中させる。

 

「……」

LORDは、自分の指先に夥しい量のエネルギーを集中させて球体状のエネルギーの塊を形成する。

そのエネルギーの奔流は、更地となった街の地面を絶対零度の冷気で凍らせながら抉り始めた。

 

「……」

煉獄の女王は、LORDと同じように自分の指先に夥しい量のエネルギーを集中させて球体状のエネルギーを形成する。

そのエネルギーの奔流は、更地となった街の地面を超高温の熱でドロドロに溶かしながら抉り始めた。

 

 

人知の及ばない最強同士の戦いに決着が着こうとしている。

人類は、固唾を飲んでその様子見守るしかない。

 

虚無(ゼロ)…』

世界終焉(ラグナロク)!』

 

互いの放ったトドメの一撃。

片や相手を存在ごと凍らせて消滅させる一撃。

片や相手を存在ごと焼き尽くし消滅させる一撃。

文字通り終わらせるために放たれた一撃。

正面衝突すれば周囲100キロが完全に消し飛ぶであろう可能性を持つそれが正面衝突した。

 

 

 

 

 

 

 

否、衝突しようとした。

 

 

混沌の渦(カオスホール)

 

 

それが第三者の介入によって防がれた。

 

「困るんだよ…この世界を滅ぼされたら」

上空から聞こえた声にLORDと煉獄の女王が同時に視線を向ける。

 

その視線の先では、一人の男が浮いていた。

全身を黒いライダースーツで覆い両手に黒いグローブを着け黒いサイレントブーツを履いている。

黒い髪をショートカットにして切れ長の目をした黒目の男。

その男の名は…

 

「闇の帝王…」

 

闇の帝王.

裏社会を牛耳る巨悪の一人。

それと同時に世界最強の一角を担う化物である。

 

「知り合い?」

「まあ…そうだな」

LORDの呟きに反応した煉獄の女王が近づいて質問を投げかけた。

 

「ふ~ん…」

LORDがそれに答えると煉獄の女王が警戒心を露わにした。

 

「強いの?」

「昔の俺と互角…って言えば分かるか?」

「めっちゃ強いじゃん」

「やばいな」

再度投げ掛けられた質問にLORDが答え、その答えに煉獄の女王が警戒心MAXで構えを取った。

 

「闇の帝王!なぜここに来た!」

「あ?う~ん、なんて言うかな…」

空中に浮かぶ闇の帝王へとLORDが質問すると面倒くさそうに頭を掻いた。

 

「理由は………三つだ!」

地面に降り立ち少し考え込んでから指を三本立てて説明を始めた。

 

「一つ!お前達の首にそれぞれ500億ドルの賞金が懸けられたからだ!」

「国家予算並の賞金が?」

「世界も本気で私たちを消そうと重い腰を上げたのね…」

闇の帝王の言葉に二人共それぞれの反応を見せた。

 

「二つ!お前達が世界を滅ぼしたら俺の仕事場(遊び場)が無くなるからだ!」

「やっぱりか…」

「隠す気なんてあるの?」

二つ目の理由を聞いた二人が呆れたように肩を竦める。

しかし一切の警戒を解こうとしない。

 

「三つ!…この世界は、俺が滅ぼすって決めてんだ。邪魔すんなら殺す!」

「そうか…」

「そう…」

最後の理由を聞いた二人は、特に大した反応も見せず納得してように頷いた。

 

「主な理由は、三つ目だろ?」

「良く分かってんな?で、邪魔するか?」

闇の帝王の質問にLORDがゆっくりと口を開く。

 

「そうだな…実を言うと家族が出来たんだ」

「へぇ…?」

「ほぅ…?」

突然の家族が出来た宣言に闇の帝王と煉獄の女王が珍しい物を見たような反応をする。

 

「まだ、ほんの1年と少しくらいの付き合いだが…それでも大切な家族だ」

「ほほう…それで?」

「………」

そう口にしたLORDに闇の帝王が質問を投げかけた。

煉獄の女王は、彼の返す返事を分かっている。だからこそ黙って何も言わない。

 

「お前にこの世界を滅ぼさせる訳には行かないな…」

そこまで言って初めて人前で笑顔仮面を外した。

 

「それは…世界最強のヴィラン.LORD(君主)としてか?」

「その通り。いや、間違えた…兄貴として(・・・・・)だ」

闇の帝王の質問に答えたLORDが己の手に持つ笑顔仮面を破壊して獰猛な笑みを浮かべる。

 

「フッフッフッフッフッフ…お前一人で俺を止めようってのか?」

LORDの宣言を聞いた闇の帝王が悪役風に笑ってから本当に一人でやる気かと問うた。

 

「ああ、俺が止める」

「何言ってんの…?」

LORDの言葉に重ねるように煉獄の女王が口を開いた。

 

「俺"達„でしょ?」

未来火(あすか)…お前」

「さっさとコイツ(闇の帝王)を始末してこっちの決着を着けるわよ。ね?レイレイ」

「はぁ、しょうがねぇなぁ…あいよ!」

煉獄の女王…改め未来火(あすか)の言葉にLORD(レイレイ)が溜め息を吐きながら賛同して闇の帝王へと駆け出す。

 

「フッフッフッフッフッフ…面白れぇ。さあ、来い!」

それに対して闇の帝王が愉快そうに笑ってから一気に走り出した。




作者の個人的に好きな展開。
強者同士で戦う→更なる強者の乱入→乱入者を相手に共闘する(利害の一致)→次回へ続く。
この胸アツ展開が最高に好きです。

感想を貰えれば作者のテンションがバカみたいにブチ上がります。
それでは、また次回!


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第二十四話

氷炎戦争と三人が出会う数日前。

 

 

某国の上層部が集まり煉獄の女王とLORDの衝突にどう対処するか会議していた。

 

「まず…あの二体の化け物の衝突を防ぐ事は、誰にも出来ません…絶対に」

「むぅ…」

国家防衛省の男の言葉に首脳の男が唸った。

 

「アレを相手に全世界の軍隊を搔き集めた連合軍をぶつけても返り討ちに合うだけです。核兵器を使っても同じです。あの二体の強さは、人知の及ばない領域にあります。」

「では、世界中のヒーローを集めればどうだ?それならば多少なりとも追い詰めて殺す算段が出来るはずだ!」

「無理です…あの二体の化け物を殺す事は不可能です」

別の男の言葉に国防総省の男が即答した。

 

「な、何故不可能だと言い切れるんだ!?」

「皆様も知っているでしょう?あの『氷炎戦争』を…人類史上最大最悪の大喧嘩の結果を」

「ぐっ…!!」

氷炎戦争の結果を思い出せと言われた上層部の人間達は、一斉に黙ってしまう。

それは、一概に『氷炎戦争』の結果を思い出したからに他ならない。

 

氷炎戦争とは、世界最強クラスの個性所有者同士の争いだ。

たった二人きりの戦争だが、戦場となった国はものの数分で滅び、周辺諸国は攻撃の流れ弾で甚大な被害を被った。

更なる被害の拡大を恐れた国連が軍隊とヒーローの派遣を決定し、実際に派遣したものの両者の技の衝突の余波だけで全軍が壊滅した。

20万の勇敢な命が一瞬で散り3万人以上のヒーローが成す術無く塵となった。

最強同士の争いは三日三晩続き、最後は埒が明かないと考えたLORDが煉獄の女王にある取り引き(・・・・・・)を持ちかけた事で終わった。

氷炎戦争は終結したが、戦争の被害により三つの国が滅び、周辺諸国含めての死者、行方不明者が善悪老若男女問わず、1億7千万人に上ったとされている。

 

それほどの被害を与えた氷炎戦争の発生要因は、表向きにはLORDと煉獄の女王が世界最強の座を賭けて争ったとされている。

しかし真実は、まったく異なる。

LORDと煉獄の女王が争った真の理由は、ただの痴話喧嘩(・・・・・・・)だ。

喧嘩の原因は、誰も知らない。氷炎戦争を起こした当事者達ですら覚えてない。

 

当事者達が喧嘩の原因を覚えていないので様々な憶測が飛び交っている。

 

相手が自分の欲していたナニカを持っていた。

相手が気に食わないから。

相手が自分を侮辱したから。

相手を殺して自分の強さを証明したかった。

 

等、様々な憶測が飛び交っている。

 

今回の議題は、過去にそれだけの被害を与えた氷炎戦争が再び起きる事を阻止する方法を求める事だ。

すでに会議が始まってから3時間が経とうとしているが一向に良い案が出ない。

 

途中で『プロヒーローの海神や大地の王(グランドキング)に風神と光の皇女(みこ)をぶつける』との案も出たが被害が拡大する可能性があると却下された。

そもそもの話、海神と風神はLORDに、大地の王(グランドキング)は煉獄の女王に殺されている。光の皇女に関しては、煉獄の女王の手によって消えないトラウマを植え付けられているので、例え案が通ったとしても意味が無い。

それならばオールマイトを中心に日本のヒーローをぶつけるように依頼するのはどうか、と提案されたが日本国は拒否するだろうとこれまた却下された。

 

 

「あの二人と互角に渡り合える化け物…それをぶつければ何とかなるかもしれません」

「そんなヒーローが存在するのか?アメリカのNo.1ヒーローでさえ煉獄の女王に敗北したんだぞ!」

「それを言うなら5ヶ国の連合艦隊をものの10秒で返り討ちにしたLORDも居るぞ!それほどのヒーローが何処に居るんだ!?」

「馬鹿も休み休み言え!!」

上層部の罵倒に近い焦った声に国家防衛省の男が静かに落ち着いて返した。

 

「居ません…彼等に太刀打ち出来るヒーローは、もう存在しません」

「なら「しかし!」っ!」

太刀打ち出来るヒーローが存在しないと言い切った男に上層部の人間が焦ったように口を開くが、その言葉を遮って男は説明を続けた。

 

「裏社会になら存在します」

「裏社会だと…?」

「まさか…」

「闇の帝王…」

国家防衛省の男の言葉に会議室がざわざわと周りの声が騒がしくなり始める。

 

「馬鹿な!ありえん!闇の帝王に協力を仰ぐ事は、奴の活動を支援する事を意味するぞ!」

「そんな事をすれば我が国は、世界から孤立してしてしまう!そうなった場合の責任が取れるのか!?」

「大丈夫です」

上層部の人間達の言葉に国防総省の男が落ち着いて返事をした。

 

「何が大丈夫なんだ!?」

「あの化け物が我々の依頼を受ける訳がないだろう!!」

「ええ、我々が依頼しても動かないでしょう。しかし、あちら側が動かねばならない条件を出せば動かざるを得ません」

その言葉に誰もが首を傾げる。

 

「アレを動かせる程の条件があるのか?」

「アレに脅迫は通じないぞ?」

「どうするつもりだ?」

「LORDと煉獄の女王に討伐賞金を懸けましょう。闇の帝王が動く程の額となると…500億ドルくらい必要です」

闇の帝王を動かすため提示された金額を聞いた全員に衝撃が走る。

 

「そ、そんな大金!」

「用意しよう。首一つに500億ドルだな?」

「ええ、それでお願いします。それともう一つ」

「今度はなんだ?」

さすがにこれ以上無いだろうと思い話を聞いた男は、自分の言葉を後悔する事になる。

 

「雷帝にも依頼を出しましょう」

「あの女狐にもか!?」

「はい。彼女の力も無視出来る物ではありません。もし彼女にも協力して貰えれば二人を…いえ、三人を同時に追い詰める事も出来るかもしれません。アレには、それだけの戦力があります」

「「「「………」」」」

闇社会最大の武器商人にも依頼を出すと提案された上層部の人間は、己の足元が崩れる様を感じた。

しかし国防総省の男の言葉に誰もが納得した。

 

「ご決断を!大統領」

「大統領!」

「大統領!」

「う~む…分かった。今すぐLORDと煉獄の女王に賞金を懸けろ!雷帝にも協力要請を出せ!何としてでもあの化け物共を始末しろ!」

最終的な決定権を持つ大統領が指示を出し始めた。

作戦が決定したことで会議室は、お祭り状態になった。

 

「…この国も終わったな」

その様子を監視カメラをハッキングする事で見ていた情報屋の男が画面の向こうで小さく呟いた。

 

 

 

 

そして時が戻って現在。

 

闇の帝王とLORD&煉獄の女王が衝突した。

 

「セリャア!!!」

「オラァ!!!」

「ハァ!!!」

疲労が溜まり、そこそこのダメージを蓄積しているLORDと煉獄の女王を相手に闇の帝王が互角に渡り合っていた。

 

先程のLORDと煉獄の女王の一戦と同様に瞬間移動に近い動きで三人の攻撃の一撃一撃が音速を超えて、そのどれもが突風を巻き起こしてクレーターの数を増やす。

人知の及ばない戦いが再度巻き起こっている。

 

暗黒球(ダークボール)!」

火球(ファイアーボール)!」

「グラオホルン!」

闇の帝王の放った闇エネルギーの渦巻く球を煉獄の女王が火の球で相殺し、LORDが地面から鋭く尖った氷の柱を形成し闇の帝王を串刺しにしようとする。

 

「ダークエリア!」

闇の帝王が己に迫り来る氷の柱を闇で覆い破壊する。

そのまま振り返り右手に闇を溜め込むが、何かに気づいたように後ろへと跳ぶ。

 

朱の新星(ヴァーミリオンノヴァ)!」

真なる闇(トゥルー・ダーク)!」

自分に迫って来た超高温の炎塊を闇の塊で相殺して一気に上空へ跳んだ。

 

氷の領域(アイスフィールド)!」

「当たるかよ!暗澹の繭!」

凍って行く大地から上へ跳んだ事により巻き込まれる事を防いだ闇の帝王が、そのままの勢いでLORDに手を向けて闇で包み込もうとする。

が、LORDもそれに捕まるほど抜けていないので簡単に躱しコートの下からデザートイーグルを二丁取り出した。

 

「直接戦闘は任せた。俺はサポートに徹する!」

「はあっ!?え、ちょっ!」

LORDが煉獄の女王に言うだけ言って返事を聞く前に走り出した。

 

「あー、もう!しょうがないな!召喚、炎の軍勢(フレイム・アーミー)!」

「命令!あの黒髪のクソ野郎を倒して来い!」

『イエスマム!』

煉獄の女王が仕方なくそれを受け入れて炎で作られた戦士達を大量に召喚する。

召喚された炎の軍勢は、一直線に闇の帝王の下へと向かう。

 

100体近くの戦士が武器を持って駆けている。

LORDの相手をしている闇の帝王は、ソレに気づくが相手が相手なので集中するしかない。

 

あらゆる生ある者の目指す所は、死である(ザ・ゴール・オール・ライフ・イズ・デス)!!」

ならばと闇の帝王が自分の背後に巨大な時計を形成した。

 

「ッ!!アイナ!!!」

『お任せを!』

それが何かを知っているLORDがその場から一気に離れて、足元から『氷の騎士団.二代目騎士団長.アイナ』を氷獄最速の馬にしてアイナの愛馬たるランスロットごと呼び出し向かわせる。

走りながら大氷壁を五つ形成し更に速度を上げた。

それに加えて氷で構成された美しい妙齢の女性『氷獄の地母神(ザ・マザー)』を作り上げ、氷獄の地母神(ザ・マザー)に大量の氷人形(アイスドール)作らせて煉獄の女王の下へ方向転換する。

 

「はっ!?え、ちょっ、なに!?」

「説明している暇が無い!ロケットブースターを頼んだ!」

「…よく分かんないけど分かった!」

突然LORDに担がれた煉獄の女王が文句を垂れたが彼の焦った様子を見て素直に従った。

 

「炎帝!」

「ハーゲルシュプルング!」

闇の帝王から高速で離れるついでに二人とも巨大な炎塊と氷塊を放ち闇の帝王から1キロ以上離れた場所でLORDがやっと足を止めた。

 

『ア――――――――――――、アァ――――――――――――、Ahhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhh!!!!!!!!!!!!!』

その間も氷獄の地母神(ザ・マザー)に作られた氷人形と煉獄の女王が召喚した炎の軍勢(フレイム・アーミー)が協力して闇の帝王を倒そうとしていた。

氷獄の地母神(ザ・マザー)が美しい声を絶叫に切り替えて味方にバフ、敵にデバフを掛けて戦力差を増大させていく。

しかし炎と氷の入り乱れ大乱戦に新たな軍勢が加わった。

 

「暗黒の軍勢…!」

背中の巨大な時計の針が半分まで移動した闇の帝王が足元から真っ黒の軍勢を作り出し迎え撃つ。

 

嘆き妖精の絶叫(クライ・オブ・ザ・バンシー)!!」

『――――――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』

闇の帝王が新しく技を使うと闇から這い出るようにして一人の若さの残る少女の姿をした妖精が絶叫を上げた。

それと同時に近くに居た氷人形達が糸が切れたように倒れる。

 

「あれって…!」

「即死技だ…範囲が狭い代わりに大体の相手に通用する」

煉獄の女王の質問にLORDが苦い顔をして解説する。

 

 

そして…

 

 

ついにその時が来た。

 

「終わりだ…」

闇の帝王が、そう口にしたと同時に背負っていた時計の針が一周した。

頭上には、巨大な氷塊が迫っているし巨大な炎塊も迫っている。

しかし闇の帝王は、それでも動こうとしなかった。

 

 

ゴーン…

 

ゴーン…

 

ゴーン…

 

ゴーン…

 

鐘の音が鳴り響き辺り半径1キロが暖かい光に包まれた…

 

「壁を張れ!大氷壁!!」

「分かってるわよ!獄炎の壁(ヘルファイヤーウォール)!!」

LORDと煉獄の女王が同時に巨大な壁を張った。

 

 

数秒後、光が晴れる頃には、闇の帝王を中心に半径1キロ圏内の全てが死んでいた(・・・・・・・・)

煉獄の女王の召喚した炎の軍勢(フレイム・アーミー)も、LORDの生み出したアイナと氷獄の地母神(ザ・マザー)も、大地そのものが死んでいた。

あらゆる生物と無生物に死を与え、有機物と無機物にも死を与えた。

死を与えられた全てが死んで砂となった。

更地となり凍らされた大地もLORDと煉獄の女王が召喚し呼び出した全てが砂に還った。

二人が必死の想いで張った壁すらも砂になった。

 

「相変わらずとんでもない奴だな…」

「ほえ~。さすがは、全盛期のあんたと互角なだけあるわ」

LORDの呟きに応えるように煉獄の女王が感心したような声を上げる。

その呟きに煉獄の女王を軽く睨むが、当の本人はそんな視線もなんのその、腕を組んだまま立っていた。

しかし、二人とも特に焦った様子もなく遠くで膝を突いて息を整えようとしている闇の帝王を静かに見ている。

 

「アレを倒す算段があるんでしょ?時間稼ぎくらいならやってあげるけど?」

「倒す算段は…あるにはある。が、俺一人では無理だし1分も隙を晒してしまう」

煉獄の女王がLORDに作戦を聞くが本人は、困ったような表情で頭を掻いた。

軽いストレッチをしている煉獄の女王が無駄に優秀な脳でLORDの望んでいる事を理解して顔を顰めた。

 

「ちょっと待って…まさか私にあのクソダサいポーズ(・・・・・・・・・・)を取れって言わないでしょうね?」

「他に案があるなら聞くが?」

「…ゼロとラグナロクの同時撃ちは?」

「さっき相殺されただろ?」

「うっ…!」

「一応言っておくが…ニヴルヘイムとムスペルヘイムの同時撃ちでも倒しきれないぞ?」

「ぐぬぬぬぬ…」

「俺の『王の中の王(キング・オブ・キングス)』とお前の『天上天下唯我独尊・極み(ザ・ワン・アルティメット)』の連携でも勝てないぞ?」

「むぅ…」

「他に何かあるのか?」

「………無い」

一番やりたくない手段以外に闇の帝王を倒す手段が無いと諭された煉獄の女王は、嫌々了承した。

 

「でも時間稼ぎは如何するの?あんたの騎士や私の兵士でも稼げて30秒が限界よ?」

「それなら大丈夫だ。もうすぐ時間稼ぎ要員が来るだろうからな…しかし、それまで俺達が時間稼ぎをしないといけないっぽいけど!」

「ひゃあっ!…ハァッ!!」

煉獄の女王の質問にLORDが答えると同時に拳を突き出す。

その拳がすぐ近く闇の帝王の拳と衝突して爆風を巻き起こす。

少し驚いた煉獄の女王が可愛い悲鳴を上げるが、すぐさま闇の帝王の腹に足蹴りを叩き込む。

しかし煉獄の女王の攻撃を片手で受け止めた闇の帝王が逆に攻撃をしかける。

 

「チッ!」

「ぐっ!」

しかし煉獄の女王に当たるはずだった攻撃をLORDが片手で受け止めてから本気の蹴りを叩き込み闇の帝王を引き剥がす。

後ろへ跳んで蹴りの威力を緩和した闇の帝王が大地に闇を広げ息を整えて上空に合図を送る。

 

「なんで庇ったの?」

「…ただの気まぐれだ」

「ふ~ん?」

煉獄の女王の質問にLORDが軽く返事を返す。

だが煉獄の女王は、LORDの様子がどこかおかしいと気づき始めた。

言い表すなら自分に視線を合わせようとしない所や自分に背中を見せている所など昔のLORDでは、絶対に有り得ないような事をしていたのだ。

もっと言うのであれば何故か頬が少しだけ赤い。

それを見た煉獄の女王がほんの少し口角を上げた。

 

「ちょっとだけ…勘違いしても良いって事かしら?」

「ん?なんか言ったか?」

「なんでも無いわ…馬鹿

煉獄の女王が最後にボソッと呟いた言は、LORDの耳に届く前に闇の帝王の起こした爆発音に掻き消された。

 

「来るぞ!」

「分かってる!」

LORDと煉獄の女王が指先に膨大なエネルギーを集中させて球体状に変化させる。

 

そしてそのままその手を…

 

 

虚無(ゼロ)…』

世界終焉(ラグナロク)!』

 

 

 

上に向けた。



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第二十五話

なぜ二人とも上空に向かって技を放ったか?

その理由は、数秒後に曇天の空に掛かった分厚い雲を突き破って現れた。

 

 

雷迎(らいごう)!』

 

 

現れたのは、直径数百メートルの巨大な黒い球体。

黒い雷雲の集合体であるそれは、直撃した場所を跡形も無く消し飛ばす威力を誇る。

その一撃の名は、雷迎。

雷禍がLORDと煉獄の女王に賞金を懸けた国に依頼されて放った一撃である。

 

 

一方、それを放った本人はと言うと…

 

「ああ…やっちゃった。30億貰ったとは言え本当に雷迎を撃っちゃったよ。LORDも大事なお客様なのに…一晩寝た仲なのに!くっそぅ…後で依頼して来たあの国を滅ぼそ。万雷(ママラガン)神の裁き(エルトール)雷光滅剣(バララーク・インケラードサイカ)とインドラの矢を連続で撃ちまくろ…うん、そうしよ。うぅ…なんで受けちゃったのかな?LORDの方が金払い良いし、いっぱい買い物してくれるし、頼めば料理も作ってくれるし、口は悪いけど良い人だし、めっちゃかっこいいし…あれ?もしかしてめっちゃ優良物件?ヒャー、やべぇよ。LORDってヴィランって事を除けば最高の物件じゃないですかやだー!はぁあああああああ…嫁にしたい。だけどLORDは、煉獄の女王にゾッコンだし…あー、やだやだ。やってらんね。帰って『闇鍋先生』*1の新しい作品でも読も…」

遥か上空3000メートルから一人でブツブツと早口で捲くし立てて、さっさと帰った。

 

 

技を放った雷禍本人は去ったが、雷迎は未だに落下を続けている。

それに対してLORDと煉獄の女王が放った虚無(ゼロ)世界終焉(ラグナロク)が上昇を続けている。

 

 

雷禍が帰り闇の帝王がLORDと煉獄の女王を相手に再度衝突した直後に、純粋なエネルギーの塊である雷迎が虚無(ゼロ)世界終焉(ラグナロク)と衝突した。

衝突の影響により轟音が轟き大気が震え蒸発した海が元に戻った影響で発生した大津波を爆風だけで押し返した。

しかし当の本人達は、大した影響も受けずに戦闘を続行した。

 

相変わらず規格外の戦闘。

赤と黒が尾を引きながら何度も漆黒と衝突し、その度に辺り一帯に消えない炎、溶けない氷、底なしの闇が飛び散って周囲を地獄へと変えていく。

 

闇の帝王が巨大な黒い渦を放つとLORDが口から冷凍ビームを発射して相殺する。

相殺時に起こった爆発に紛れて煉獄の女王が一気に近づきフレイムセイバーで斬り掛かるも闇の帝王がそれを片手で受け止めて闇がフレイムセイバーを浸食し始める。

フレイムセイバーが闇に浸食されている事を確認した煉獄の女王は、フレイムセイバーの刀身に膨大なエネルギーを流し込み闇の浸食を押し返した。

今まで見た事の無い闇への対処法に闇の帝王が驚き0.3秒の隙を晒してしまう。

その隙を突いて煉獄の女王が新しく作ったフレイムセイバーで闇の帝王の胸を斬りつけた。

フレイムセイバーに斬られた傷口から天照の黒い炎が燃え上がり闇の帝王の胸を焼き尽くさんと更に燃え上がるが本体を燃やす前に闇に阻まれ間一髪で防がれた。

それに気づいたLORDが攻撃を防がれた煉獄の女王の腕を引っ張り自分の下に引き寄せる。

LORDの胸にすっぽりと収まった煉獄の女王が一言文句を言おうと顔上げた瞬間、地面に投げ捨てられた。

その行動にわずかに殺意が湧いたが次に目に入った光景にその殺意が霧散した。

煉獄の女王が目にしたのは、闇の帝王がLORDの頭の角を掴み顔面に膝蹴りを決めている瞬間だった。

 

「ガフッ…!」

「LORD!!チッ!」

鼻血を垂らし口からも血を流しながら角を折られて飛ばされるLORDに対して煉獄の女王が悲鳴染みた声を上げる。

しかしすぐさま切り替えて目から超高温の熱線を放つ。

 

「カッ!」

「クッ!」

闇の帝王がそれを防ごうとするが、防ぎ切れないと察して手を捻り受け流す。

 

受け流した光線が後方の海に着弾し高さ100メートル越えの水柱を形成する。

だが、その程度の事に三人の誰もが気を向けず目の前の相手を殺そうと再度全力をぶつけた。

煉獄の女王が一瞬で自分の倍以上の長さを持つ炎の槍を形成する。

対する闇の帝王も闇の力を込めた剣を作り出した。

両者の攻撃の衝突を防ぐ為にLORDも慌てて厚さ50メートルの氷の壁を四方八方に作り出し氷獄の剣を呼び戻して構える。

 

「神々の王の慈悲を知れ。インドラよ、刮目しろ。絶滅とは是、この一刺!」

炎の槍に太陽の温度にも匹敵する高温が集まり始め周囲一帯の温度が急上昇を始める。

 

「『卑王鉄槌(ヴォーティガーン)』、極光は反転する。光を呑め…!」

それに対して闇の帝王が持つ剣に夥しい量の闇が集まり始める。

 

「氷獄最強の剣よ。この上ない相手だ。思う存分、汝の全力を振るうが良い!!」

LORDの詠唱に合わせて封印で雁字搦めにされた氷獄の剣の封印を解かれその剣身をコバルトブルーから純白へと変色させた。

 

日輪よ、死に随え(ヴァサヴィシャクティ)!!」

約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)!!」

真・原初の氷剣(トゥルー・ゼロカリバー)!!」

 

神をも滅ぼす光の槍、黒い極光の聖剣、真の姿を取り戻した氷獄の剣。

どれもが神話や御伽噺(おとぎばなし)に語られるレベルの三つの神器の衝突により周囲一帯が再度壌土と化す。

消えない炎が掻き消され、溶けない氷が蒸発して、底なしの闇が消滅した。

 

その神話級の戦闘に世界の気持ちを代弁するかのように大気が悲鳴を上げた。

本来ならこの世に存在しないはずの(LORD)に対して世界がカウンターとして生み出した対を成す存在(煉獄の女王)が協力して、これまた存在するはずが無かったものの世界に均衡を与えるため誕生した闇の帝王と闘っていた。

あってはならない現象に冷気を転生させた神すらも困惑している。

 

そんな神ですら理解の追い付かない戦いは、遂に最終局面を迎えようとしていた。

 

「滲み出す混濁の紋章 不遜なる狂気の器 湧きあがり・否定し 痺れ・瞬き 眠りを妨げる 爬行(はこう)する鉄の王女 絶えず自壊する泥の人形 結合せよ 反発せよ 地に満ち己の無力を知れ!」

「甘いわ!」

「マズい!口寄せ!」

闇の帝王が詠唱を口遊み煉獄の女王の周囲に漆黒の壁が現れる。

それに対抗するように煉獄の女王が自らの腕を引き千切り、大地に手を向ける。

その二人の様子を見たLORDがすぐさま指の皮膚を噛み切り印を結び右手を地に着ける。

 

「タイタン!ハサン!氷河!」

『『『ハッ!』』』

口寄せの印が大地に広がると同時に地面が凍り付きその中から3体のカテゴリー5の氷人形が召喚される。

(転弧の所にはゼロが残っている。あいつ一人ならば30分くらい大丈夫だ…良し!イケる!)

1秒も掛からず思考を終えたLORDが召喚したばかりの氷人形達を自分を中心に四角形を作るように配置して思考を共有した。

 

「破道の九十・黒棺!」

「破道の九十六・一刀火葬!」

「黙って俺に合わせろ!四赤陽陣(氷)!!」

闇の帝王の放った攻撃により現れた巨大な黒い棺の形をした重力渦が煉獄の女王を包み込む。

煉獄の女王が同時に放った巨大な炎の刀身が闇の帝王を焼き尽くさんと燃え盛る。

両者の攻撃によるこれ以上の周囲への被害を抑えるためにLORDが厚さ50メートル高さ数百メートル以上の巨大な氷の壁を四方に作り出し両者を包み込んだ。

しかし、その氷の壁も5秒ほどで壊された。

LORDが壊された氷の壁を修復していき尚も黒棺と一刀火葬の衝突による余波を防いでいた。

 

 

やがて、技の衝突が終わり闇の帝王と煉獄の女王が姿を現す。

 

煉獄の女王が右腕を失い、肩で息をしていた。

まさに満身創痍と言っていいだろう。

 

一方の闇の帝王も全身に大なり小なり火傷を負っていたが、闇によって傷を癒し始めていた。

傷を癒した闇の帝王の表情には、まだ些かの余裕が感じられた。

 

煉獄の女王と闇の帝王の疲労とダメージの差は、歴然だった。

 

「良く闘った。称賛に値するぞ?」

「まったく嬉しくない…褒め言葉ね」

闇の帝王の言葉を受けた煉獄の女王が膝を突いて答えた。

闇の帝王が大して傷も無く立っているのに対し、煉獄の女王は膝を突いて息を切らし、右腕を左手で押さえている。

 

 

煉獄の女王が圧倒的に不利な中、LORDが動いた。

 

「今度は、俺が相手だ!!」

「LORD…!」

「チッ!厄介なのが来やがった!」

LORDが闇の帝王に拳を叩き込んで煉獄の女王から引き剥がした。

 

「お前との戦いには、これを使うって決めてた」

「あ?」

殴られた影響で数メートル飛んだ闇の帝王が綺麗に着地してから血を拭いLORDに右手を向けた。

闇の帝王の右手に徐々に闇が集まって行き、謎の引力(・・)が発生する。

 

「ヤベッ!」

「逃がさん!闇水(くろうず)!!」

少しでも距離を取ろうとしたLORDを闇の帝王の右手に発生した引力が逃がさなかった。

引力に引き寄せられLORDの体が弓なりに曲がり闇の帝王の下へ飛んで行く。

 

「クソが!」

「捕らえたぞ!」

踏ん張っても引きずられたLORDが遂に闇の帝王に右腕を掴まれる。

それ同時に体から力が抜けていくのを感じた。

 

「力が…いや、個性を吸われる?」

「半分正解だ。では死ね!」

LORDの言葉に肯定の意を示した闇の帝王が開いた方の手にエネルギーを溜めて行く。

 

「デスシウムショット!」

「危なっ!」

闇の帝王が放ったカッター状のレーザーを発射するがLORDがその腕を掴んで軌道を逸らした。

逸らした先に遥か先にあった雲にレーザーが直撃して綺麗に消し飛んだ。

 

「うひゃー、やべぇな…」

「よそ見とはずいぶん余裕だな!」

あれが直撃していたら、と考えたLORDが惚けた声を上げる。

その隙を見逃さず闇の帝王が再びエネルギーを溜めて新たに技を放つ。

 

「暗黒弾!」

「よっと!」

LORDが闇の帝王の放った黒い弾を体を捩じる事で躱した。

躱された暗黒弾は、その勢いを殺さず後方に居た煉獄の女王へ向かった。

 

肩で息をしている煉獄の女王の下へ底無しの闇を込められた暗黒弾が向かっている。

煉獄の女王は、それを躱せるだけの体力が残っていない。

*1
BL本の作者



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第二十六話

ハァ〜イ、皆さん!メリークリスマス~!
このサイト内で幾つもの小説でクリスマス回が投稿されるのにこの作品では相変わらずバトらせています。作者です。
本当に何やってんだかね〜。

それでは、どうぞ。ごゆっくり!


「チッ!火炎弾!」

「コフッ!コホッコホッ!」

煉獄の女王が自分に向かって来る暗黒弾を口から放った火炎弾で相殺する。

だがあまりのダメージ量に思わず咳き込み口から血を吐いた。

 

あちらさん(煉獄の女王)は、結構苦しそうだぞ?」

「そうだな」

「見に行かなくて良いのか?」

「あの程度で死ぬほど柔なヤツじゃねぇだろ?もしアレで死ぬようならさっきの戦いで死んでいたさ」

「随分と信用しているんだな」

「そりゃあ、自分を認めさせるために仮にも俺に勝負を挑んだ女だからな?あいつの強さは、俺のお墨付きだ!」

「かのLORDに認められた女か。世界中のヒーローやヴィランからすればこの上なく名誉な称号だろうな!」

互角の打撃戦を行いながら会話を続ける両者が同時に拳を突き出した。

 

「「ハァッ!!」」

両者の拳の衝突と同時に爆風が起こり、二人が後ろに一歩後退する。

 

「決定打に欠けるな…」

「そもそもの話、俺を倒しきれるだけのエネルギーも残ってないだろ?さっさと降参して俺に捕まれ。そうすれば命だけは保証する」

「そう言われて、はいそうですか、って捕まるヴィランが居るかよ?」

「俺を前にしたら大抵のヴィランが降参してくれたぞ?」

「他の雑魚共と一緒にするな。俺は、自他共に認める世界最強のヴィランだ。そう簡単に最強の座を譲る事は出来ないな」

「さっきの一戦で奪われかけただろ?金に物を言わせて武器を大量に購入して雷帝にインドラの矢を撃たせて軍隊まで準備した癖に接戦だったじゃないか?それに今も俺に負けかけている。これでは世界最強の名が泣くじゃないか?」

「貴様…一度死んでみるか?」

「殺してから言え。雑魚が」

「殺す…」

「やってみろ」

売り言葉に買い言葉と言うべきだろうか?

お互いに煽り合ったLORDと闇の帝王が同時に駆け出し右の拳を衝突させた。

 

「ぐっ!?」

「どうやら俺に分があるようだな!」

「ッLORD!!」

本日何度目か分からない拳の衝突によりLORDの拳が罅割れる。

 

だが、これも仕方のない事と言えるだろう。

3ヶ月前の死柄八斎會襲撃後の妹と弟の世話、第二次氷炎戦争の準備、ヴィラン活動時のヒーローとの戦闘、それに加え煉獄の女王との激戦に闇の帝王の乱入から大激闘とイベントが連続で続いて限界を迎えていたLORDの肉体が遂に悲鳴上げた。

ダメージ許容量の限界を突破し拮抗していた闇の帝王とLORDの戦いに勝敗が見え始めた。

闇の帝王が己の勝利を確信し、煉獄の女王ですら悲鳴染みた声を上げた。

闇の帝王が闇水(くろうず)を発動させたままLORDの首を掴み上げゆっくりと締め始める。

 

「…クハッ!」

しかしLORDだけは違う。

彼だけは、頸を締められながらも不適な笑みを浮かべ、コートの下から取り出した一丁のデザートイーグルを闇の帝王の眉間に向ける。

それを見た煉獄の女王が遥か上空へと飛んだ。

 

Hasta la vista, Baby!(地獄で会おうぜ!)

某大人気映画の筋肉モリモリマッチョマンの変態の俳優さんの台詞を口にしたLORDが躊躇無く発砲した。

ほぼゼロ距離でデザートイーグルから発射された弾丸は、何物にも遮られる事なく闇の帝王の眉間へと吸い込まれて行く。

 

「くっ!」

迫り来る弾丸を首を後ろに反らす事で間一髪で躱しデザートイーグルを持ったLORDの腕を武器諸共破壊した。

その一瞬後に自分へと迫る燃え盛る太陽(・・・・・・)を見た。

 

 

「過去は此処に! 現在もまた等しく。未来もまた此処にあり。風よ来たれ、雷よ来たれ! 明けの明星輝く時も! 太陽もまた、彼方にて輝くと知るがいい!」

太陽暦石(ピエドラ・デル・ソル)!!』

 

 

迫るは、煉獄の女王が己の(コア)を燃やして始めて使える捨て身の一撃。

当たれば周囲一帯が壌土と化す程の熱量を持った煉獄の女王渾身の一撃。

煉獄の女王がそれ程の熱を一点に集め、己の内側で(コア)を暴走させて更に熱量を上げた。

 

「我が身は、遠い魔境の神性なれば!闇の帝王、何するものぞ!我ら南米の地下冥界(シバルバー)、多くの生命を絶滅させた大衝突の力を見せてくれる!我が身を燃える岩と成し、彗星となって大地を殺す!!」

煉獄の女王が己の身を焦がすレベルの炎を左足に集中させてロケットブースターの様に炎を放出し、その加速エネルギーを推進力として生物の限界を超えた速度で闇の帝王に迫る。

その姿勢は、俗に言うライダーキックの姿勢に類似していた。

 

「受け止め…られるか!!?」

嘗て大陸そのものとも謳われた大地の王(グランドキング)を殺した時に煉獄の女王が使った燃え盛る太陽の如き熱量を誇る一撃。

自分に迫り来るそれを避けようと闇の帝王がその場から動こうとするが足が貼り付いたように動かない。

 

「LORD!?」

氷の領域(アイスフィールド)…逃がさねぇよ!」

動けなかったのは、逃げようとした闇の帝王の足元をLORDが残った腕で地面を凍らせる事で拘束していたからだった。

足元を凍らされて身動きが取れない闇の帝王が両手に闇を集めて氷を破壊しようと試みるも地面から伸びた氷の柱に両掌を貫かれ妨害される。

更に凍った地面から無数の腕が現れ、闇の帝王を全方向から掴みその体を拘束する。

 

「貴様!俺ごと死ぬ気か!?」

「否、死ぬのはお前一人だ!」

闇の帝王の言葉に対してLORDがそう返しその場から一気に離れた。

 

「L、LOOOOOOOOOOOOOOOOORD!!!!!!!!!」

「ウルティモ・トペ・パターダァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

闇の帝王が叫びを上げた直後に煉獄の女王が超高温の塊となって闇の帝王に蹴りを叩き込んだ。

 

 

「うおおおおおおっ!!!!?」

隕石の衝突にも匹敵する程の突風が発生してLORDが吹き飛ばされかけたが何とか気合で耐えた。

 

衝突から十秒経った頃、少しずつ煙が晴れ始め衝突地点の様子が確認出来た。

 

「クソが…当然のように防ぎやがって!」

衝突地点の様子を確認したLORDが欠損した腕の修復を急ぎながら一気に駆け出す。

 

LORDが煉獄の女王と闇の帝王の衝突地点で見たのは、ウルティモ・トペ・パターダを叩き込んだままの姿勢の煉獄の女王と、その攻撃を無数に重ねた闇の盾で防ごうとしたものの防ぎ切れずクロスさせた両腕を折られながらも何とか防いだ闇の帝王の姿だった。

 

何故闇の帝王が煉獄の女王渾身の一撃を防げたか?

それは、煉獄の女王渾身の一撃が発生させた膨大な熱量により闇の帝王を拘束していた氷が溶けたからに他ならない。

 

太陽にも匹敵するその熱量は、砂を一瞬で結晶化させ、剥き出しになった岩盤をドロドロに溶かし、広範囲に亘って海水を蒸発させた一撃がLORDが闇の帝王を拘束するのに用いた氷を溶かしてしまったのだ。

闇の帝王は、氷が溶けて煉獄の女王の一撃が当たるまでの一瞬、時間にして0.0000001秒の間に無数の闇の盾を作り出し両腕を強化させた状態でクロスして防ごうとした。

だが煉獄の女王渾身の一撃は、張られた盾を全て破壊した上で闇の帝王の両腕を折るに至った。

しかし、闇の盾と闇の帝王の両腕を破壊した煉獄の女王渾身の一撃ですら、そこで止まってしまったのだ。

 

渾身の一撃を防がれた事で動揺した煉獄の女王が動きを止めた。

闇の帝王が動揺により動きを止めた煉獄の女王の首を刎ねようと足を振り上げた。

確実にその首を刎ねられるだけのエネルギーを纏った闇の帝王の足が煉獄の女王の首に当たるまで、あとほんの数センチと言った所でLORDが間に割って入った。

 

摩訶鉢特摩(マカハドマ)!!」

LORDがそう口にすると同時に全世界の時が凍り付いた(・・・・・・・・・・・)

 

LORDの持つ切り札の一つである摩訶鉢特摩により疑似的な時間停止を起こし、煉獄の女王を回収して闇の帝王に一発蹴りを入れてから退避した。

退避が完了した頃に摩訶鉢特摩の効果が切れて闇の帝王の一撃が空を切って、煉獄の女王が驚いた表情をした。

 

「ゴフッ…!」

「LORD!!」

その数秒後に摩訶鉢特摩を使った反動でLORDが片膝を突いて吐血する。

 

「俺の事は良い…それよりもあいつを倒す準備をしろ」

「何言ってんの!?あんたボロボロじゃない!そんな状態でこれ以上やったら!!」

「大丈夫だ」

「ぴゃっ!」

これ以上やったら死ぬ。

そう言おうとした煉獄の女王の言葉を遮るように彼女の手を握り口を開いた。

 

「俺もお前もまだエネルギーを温存しているだろ?それを全て使い切るぞ」

「あんたねぇ!!温存したエネルギーってアンタとの決戦用に取って置いた最後のエネルギーの事でしょ?それを全て使い切るって簡単に言ってるけど、準備とか開放とか、その他の事を幾ら急いでも一分は掛かるのよ!その間の時間稼ぎは、誰がするって言うのよ!?」

「安心しろ、もう十分時間は稼いだ。あとは、あいつ(・・・)に任せる」

LORDを支えながら煉獄の女王の当然の疑問に彼が小さく笑みを浮かべサムズアップをしてから上空を指差して答えた。

 

「あいつ?雷帝ならさっき帰って…嘘でしょ!!?」

雷帝でも呼んだのかと上に視線を向けた煉獄の女王が素っ頓狂な声を上げた。

 

煉獄の女王の視線の先に居たのは、筋骨隆々の巨漢。

触覚のように伸びた髪型以外は、オールバックにした金髪。

その目元は、深い影が落ちて青く光る瞳しか見えない。

その口元から覗くのは、光を反射してキラリと輝く白い歯。

鍛え抜かれた鋼の肉体がぴっちりとした青と赤に白い線の入ったヒーローコスチュームで覆われている。

一人だけ画風がアメコミ調のその男が戦場となった地にスーパーヒーロー着地で降り立った。

 

「HA-HAHAHAHAHAHA!!!!私が来た!!!!」

「オールマイト!!?」

その男の名は、オールマイト。

世界でもトップクラスに有名な日本のNO.1ヒーローである。

その実力は、弱体化したとは言え一度LORDを追い詰めたと言っても過言ではない程の世界最強のヒーローである。




やっぱね、『ヒロアカと言ったらオールマイトだろ!』って書いてる途中に考えて登場させました。


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第二十七話

「LORD!貴様を捕らえに来た!…と言いたい所なんだが」

戦場にスーパーヒーロー着地してから立ち上がったオールマイトがLORDにピシッと指差したが、周囲を見渡して頭を掻く。

 

オールマイトが困惑するのも無理はない。

何せ現在の状況は、満身創痍のLORDが笑顔仮面を脱いで肩で息をしながら煉獄の女王と思われる赤髪の女性に支えられている。

その煉獄の女王と思われる赤髪の女性もLORDと同じく満身創痍の状態で向こう側に居る黒髪の男を睨んでいる。

そして、その黒髪の男も二人よりは幾らかマシだが両腕を折られているしLORDと同じく肩で息をしている。

オールマイトが出動要請を受けた時の報告と全く違っていた。

 

「一体どういう状況か教えてくれるかい?と言うか仮面を取ったんだね。安心しな十分カッコいいよ!」

「あ、ああ…ありがとう。状況説明だったな?まあ、簡単に言えば…俺と煉獄の女王が闘っていたら闇の帝王が来て戦いになって今に至るってわけだ」

オールマイトが状況説明を求めるとLORDが素直に説明した。

だがその説明には、色々と足りてなかった。

 

「いや、簡潔!?けど大体合ってるだけに質が悪い!」

だが色々と省られているので煉獄の女王が思わず素で突っ込んだ。

 

「き、君が煉獄の女王…かい?」

「そうだけど。なに?」

「い、いや…LORDと互角に渡り合った化物だって聞いてたから、凄いヤバいのを想像してたけど…結構普通になんだね?」

「化け物はアッチよ!って私の事は、どうでもいいかから闇の帝王の足止めを頼める?その後だったら逮捕でも捕縛でも何でもして良いからさ」

「うぇっ!?結構あっさりしてる…今まで聞いて来た煉獄の女王のイメージが崩れてく…」

煉獄の女王の態度にオールマイトの中で彼女のイメージが音を立てて崩れていった。

 

だが煉獄の女王も形振り構っていられない。

腕の中の愛する者(・・・・)を一刻も早く回復させて闇の帝王を倒したいし、この淡い恋心にも決着を着けたい。

何とも乙女チックな理由でオールマイトに闇の帝王の足止めを依頼した。

 

「う~ん…残念だけど君達の言葉を信じる事は出来ないかな…」

「あっそ…」

しかしオールマイトは、そう簡単にヴィランの言う事を信用する事は出来ない。

それならばと煉獄の女王が少しだけ目を伏せてから口を開いた。

 

「なら…天の契約書(ヘブンズ・ディール)

「煉獄の女王の名の下にヒーロー.オールマイトに闇の帝王討伐の協力を要請する。対価として決着後、オールマイトの捕縛から護送中の期間、煉獄の女王は一切の抵抗をしない物とする。これを破った場合『煉獄の女王』は、その一切の力を失う物とする。対するオールマイトは、この契約の事を他言無用とする。この契約は、両者共に同意した瞬間から効力を発揮する」

煉獄の女王の言葉に合わせて空中に強力なエネルギーを発する一枚の真っ赤な契約書が現れ、甲の欄に『煉獄の女王』と、乙の欄に『オールマイト』と刻まれる。

 

「お前…!はぁ、仕方ない。天の契約書(ヘブンズ・ディール)

「氷獄の王の名の下にヒーロー.オールマイトに闇の帝王討伐の協力を要請する。対価として決着後、オールマイトの捕縛から護送中の期間、氷獄の王は一切の抵抗をしない物とする。これを破った場合『氷獄の王』は、その一切の力を失う物とする。対するオールマイトは、この契約の事を他言無用とする。この契約は、両者共に同意した瞬間から効力を発揮する」

驚いた様子で煉獄の女王を見たLORDだったが一つ溜め息を吐いてから同じように空中に強力なエネルギーを発する一枚の純白の契約書を作り出し甲の欄に『氷獄の王』と、乙の欄に『オールマイト』と刻まれる。

 

煉獄の女王と氷獄の王ことLORDが使ったのは、己と相手を魂の領域で縛る天の契約書(ヘブンズ・ディール)

大地の王(グランドキング)、海神、雷帝、風神、光の皇女(みこ)、闇の帝王、煉獄の女王、氷獄の王にのみ許された絶対的な効力を持った契約書だ。

契約に違反した者には、先に決めた罰が下る。先に罰を決めなかった場合は、耐え難い苦痛と共に命を落とす。

滅多な事で使われない天の契約書(ヘブンズ・ディール)を使った理由は、一概にオールマイトの信用を得て闇の帝王を倒す為に他ならない。

しかしオールマイトは、この契約書の効力を知らない。

 

「す、すまない。それは…一体何なんだ?」

「「これは、天の契約書(ヘブンズ・ディール)。『俺/私』とオールマイトの間で交わされる絶対的効力を持つ契約だ。お前が信用ならないと言ったから契約をする。これで闇の帝王討伐に協力してくれるか?」」

オールマイトの質問に煉獄の女王とLORDが同時に答えたので声が重なった。

 

「ふむ…君達の覚悟は分かった。問題は、闇の帝王が本当に倒すべき相手かだけど…君達に協力すべき理由を説明出来るか?」

「俺は…煉獄の女王との闘いに…決着を着けられれば…それで良い。その後のヴィラン活動には…コフッ!興味無い。こいつもそうだ。だが、闇の帝王は…世界を自分の遊び場としか考えていない。それにあと数年で…この地球()を滅ぼす気だ。理由は…これで良いか?」

「………」

LORDが所々息を切らし口から血を吐きながらした説明にオールマイトが手を組むメリットとデメリットを少し考え込んでから右腕を動かす。

 

「…っ!」

その動きに煉獄の女王が警戒を露わにしたがLORDが片手で制した。

 

「良いだろう…闇の帝王を倒すためならば、今回限りの共闘だ。次は無いから良く覚えておけ!」

「「契約成立…」」

オールマイトがサムズアップをしながらそう言い切ると天の契約書(ヘブンズ・ディール)がその効力を発動する。

魂の領域で両者を縛る天の契約書(ヘブンズ・ディール)が発光し契約成立を知らせた。

 

「オール…マイトォオオ!!」

「むっ!!」

オールマイトと煉獄の女王、LORDの間で契約が成立した直後に闇の帝王が加速し三人に迫る。

 

「1分だ…1分だけ時間を稼いでくれ。1分だけ稼いでくれれば確実に闇の帝王を倒せる…任せたぞ!」

「ああ、任された!」

何とか立ち上がったLORDがオールマイトの肩に手を掛けて条件を告げるとオールマイトが了承し一気に飛び出した。

 

 

「DETROIT…」

「ダーク…」

あと数歩で衝突と言った距離まで近づいたオールマイトと闇の帝王が同じように腕を引いて拳を構える。

数瞬の溜めの後に両者が動いた。

 

「SMASH!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「キャノン!!!!!!!」

 

世界最強の一角を担う闇の帝王の拳をオールマイトが文字通りの間一髪で躱し、その必殺の拳を顔面に叩き込んだ。

オールマイトの拳が闇の帝王に叩き込まれたと同時に先程の大激戦と遜色無い突風が巻き起こる。

オールマイトの拳の直撃を受けた闇の帝王が何度も地面をバウンドしながら100メートル以上の距離を吹き飛ばされてから止まった。

 

「………」

全盛期オールマイトの100%の一撃が完璧に決まった。

しかしオールマイトは、言葉に出来ない違和感を感じた。

 

まるで風船を殴ったような…否、少し違う。

例えるなら骨組みの入った水風船をタオル越しに殴ったような、捕らえたはずなのに今一その感触を捉えきれないような柔らかい物を殴った時のようにもどかしい気持ち悪い感覚だった。

確かにダメージを与えたはずなのに心の何処かで何かが違うと感じていた。

 

「コホッ…!コフッ!う~ん?ん~?…ペッ!…さすがは、オールマイト…と言ったところか?俺にまともにダメージを与えれたのは、光の皇女やLORDと煉獄の女王以外では…あの糸目の中華女を含めて、お前が2人目だ!」

口元を拭ってから血を吐いた闇の帝王が嬉しそうに笑ってオールマイトの下へと歩いて行く。

 

「そうか…!」

歩み寄って来る闇の帝王の姿を見てオールマイトが違和感の正体に気付く。

 

歩みを進める闇の帝王の傷から黒い靄が漏れ出ていた。

まるで闇の帝王の構成要素であるそれが漏れ出ているように傷口から空中に溶け出して行く。

 

「おっと、失礼」

傷口から漏れ出している黒い靄に気づいた闇の帝王が手を翳すと漏れ出ていた黒い靄が収まり傷口が塞がった。

 

「…それが君の本体かい?」

「う~ん?まあ、感じかな?俺は基本的には、純粋な闇エネルギーで構成されている。だから俺にダメージを与えられる存在は、本当に限られているはずなんだ。あの憎き光の皇女やLORDと煉獄の女王みたいに純粋な高エネルギーの塊のような個性持ちでも無い限り俺にダメージを与える事は出来ない…はずだ」

「だから本当に不思議で堪らないんだ。なんでお前が俺にダメージを与えれたのか?恐らくは、お前のその個性に関係するだろうが後で考える。だが!今は!純粋に!お前を殺したい!!」

更なるエネルギーを放出しながら闇の帝王が獰猛な笑みを浮かべた。

 

「行くぞ!」

「来い!」

お互いに相手の返事を待たず一気に駆け出した。

直後、辺り一帯に夥しい量のエネルギー衝突による突風が巻き起こった。

 

「余所見とは余裕だな!オールマイト!!」

「くっ!」

エネルギーの発生源を確認しようと、一瞬だけそちらに意識を飛ばしたオールマイトに闇の帝王の拳が迫る。

自分に迫る拳を体を捩じる事で間一髪で躱したオールマイトが闇の帝王の背中に蹴りを入れる。

 

「ガハッ!!!」

「まだだ!TITAN SMASH!!!!」

地面に沈んだ闇の帝王にオールマイトが追撃を入れるために拳を叩き込んだ。

その影響で爆発音にも似た轟音が鳴り響き、突風が吹き荒れ、地面に亀裂が走り、大地が陥没する。

 

「デスシウムショット!!」

「クッ!」

追撃をしようとしたオールマイトに地面から片手を出した闇の帝王が攻撃を仕掛けた事で失敗して飛び退いた。

 

「ハッ!」

「SMASH!!」

一歩退いたオールマイトへ追撃を掛ける為に闇の帝王が手に膨大な量のエネルギーを集中させて球体状に変化させ放つ。

オールマイトもそれをSMASHで迎え撃ち相殺する。

 

「CAROLINA SMASH!!!」

「影槍!」

オールマイトの放ったクロスチョップに対して闇の帝王が影から作り出した槍で迎え撃つ。

オールマイトの攻撃と影槍が衝突し影槍が吹き飛ぶが何とか攻撃を防ぐ事に成功した。

 

 

「中々やるな!」

「君こそ!」

その言葉を皮切りに一進一退の攻防が再開する。

 

LORDと煉獄の女王を相手にした影響もあり疲れの溜まっていた闇の帝王がオールマイトを相手に劣勢に陥っていた。

一方のオールマイトは、時間稼ぎでなく本当に倒す気で闇の帝王と闘っていたが今一決め手に欠けていた。

闇の帝王にトドメを刺すための一撃を叩き込もうにも少しでも隙を晒せば形勢が逆転してしまう。

 

「SMASH!!!!」

「ヌゥン!!」

空気の壁を蹴って空中で方向転換をしたオールマイトが闇の帝王をガードの上から殴る。

ガードした腕を折られた闇の帝王が折れた腕にエネルギーを集中させて回復しながらオールマイトの腹を蹴り上げる。

 

「ぐっ!?」

「せやぁっ!!」

ギリギリのタイミングでガードが間に合ったオールマイトが蹴りの衝撃で空中に浮いた。

その状態のオールマイトに闇の帝王が殴り掛かる。

 

「NEW HAMPSHIRE SMASH!!」

「チィッ!!」

攻撃が当たる直前でオールマイトが両腕を突き出しジェット噴射の容量で後退した。

その時発生した爆風で闇の帝王の視界が一瞬だけ潰されて大きな隙を晒した。

 

「SMA…ッ!!?」

「チッ…さすがにバレるか」

隙を晒した闇の帝王に更に追撃しょうとしたオールマイトが己の肩を抉られる姿を幻視して足を止めた。

一方、罠を張って待っていた闇の帝王は、全身に更に闇を纏いながら態勢を低くする。

 

「本気で行くぞ…」

「くれぐれも…死ぬなよ?」

態勢を低くして地面を這うような声で闇の帝王が忠告する。

 

「今まで本気では無かったのか!?」

オールマイトが驚いた様に口を開いた。

その直後に周囲一帯に膨大な量の闇が広がり闇の帝王の姿が闇に溶け込んだ。

 

「ククッ…暗黒からの攻撃に恐怖しろ」

「クッ!」

全方位から聞こえて来る闇の帝王の声にオールマイトが苦い表情を浮かべる。

 

「さあ、死ね!!」

そこからは、一方的な蹂躙が始ま…らなかった。

 

闇から現れた闇の帝王がオールマイトを攻撃するも、オールマイトが長年の勘と戦闘センスに物を言わせて闇の帝王の攻撃を悉く防いでいた。

闘いが再度拮抗しているように思われた。

しかし、防戦一方のオールマイトに対して闇の帝王は、一方的に攻める事が出来る。

オールマイトのダメージが少しずつだが確実に溜まり始めていた。

それでもオールマイトは、ギリギリで対応していた。

それもLORDの言った『1分だけ時間を稼いでくれれば確実に闇の帝王を倒せる』という言葉を信じているからだ。

 

確かにLORDは、世界最強のヴィランだ。

世界を絶望に叩き落した化け物でもあるし、複数の国家を相手に大虐殺も行った。

気に食わないという理由だけで一国の首相を殺した事もある。

しかし一度した約束は、不測の事態が無い限り必ず守る。

LORDは、なんやかんや言いながら信用に足る人物なのだ。

何が何でも1分、時間を稼ぐ。

そう覚悟を決めたオールマイトは、攻撃の僅かな間に体を捻らせ一気に回転した。

 

「…OKLAHOMA SMASH!!!」

「何!?回転だけで俺の闇を消し飛ばしただと!?」

回転の勢いでオールマイトを覆っていた全ての闇が吹き飛ぶ。

その事に闇の帝王が狼狽える。

 

「SMASH!!」

闇の帝王が狼狽えた隙を突いてオールマイトが拳を叩き込んだ。

 

「オラァッ!!!」

闇の帝王もそれに反撃するように殴り返した。

 

「「…ッ!!」」ギンッ!

両者が同時に相手を睨み、渾身の力を込めた殴り合いが始まった。

 

全盛期のオールマイトを相手に闇の帝王が互角に殴り合っている。

身長が2メートル越えのオールマイトと190センチ台の闇の帝王だからこそ有り得る殴り合い。

闇の帝王が身体能力を闇の力で強化しているからこそ有り得る互角の殴り合い。

お互いに一歩も引かずノーガードで行われる拳による純粋な根性比べ。

殴った拳から相手の骨が軋む音が伝わり、筋肉が切れる感触が走り、血が飛び散ろうとも、一切止まる気配を見せない。

完全に互角な勝負。

その速度は、残像がいくつも残る程の速度で行われている。

 

オールマイトは、No.1ヒーローとして。

闇の帝王は、裏社会最大一派のボスとして。

お互いに引けない理由を持つ漢の殴り合いは、更に激化していく。

一向に止まる気配が無い。

 

そして…

 

遂に…

 

1分経った。

 

 

 

「「フュージョン!ハッ!!」」

 

 

 

オールマイトと闇の帝王が思わず攻撃の手を止めてしまう程のエネルギーが迸り、LORDと煉獄の女王の声が重なって響いた。

その瞬間、両者の身体が眩い光を放ち一つになった(・・・・・・)



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第二十八話

オールマイトが闇の帝王と衝突した頃、LORDが煉獄の女王に起こされてギリギリで立っていた。

 

「イケる?」

「やるしかないだろ…」

今にも倒れ込みそうな体に鞭を入れ、震えそうな膝を気合で抑え込み、根性だけで背筋を伸ばした。

 

「ねえ…本当にアレ(・・)をやるの?一発で成功させないと私達全員死ぬ事になるわよ?」

「それ以外に勝つ手段が無い。それに死は避けられない…お前だって死ぬし、俺だって死ぬ。オールマイトもいずれ死ぬ、皆いつか死ぬ………だが今日じゃない」

純粋に心配した煉獄の女王の言葉に対してLORDがそう返す。

 

「~~~~~~~~~っっっ!!!!!だーっ、もう!!本当にアンタってヤツは!」

「?」

その言葉に煉獄の女王が頭を掻き乱し地団駄を踏む。

しかしLORDは、頭に疑問符を浮かべて視線を向けた。

 

「はぁ…本当にどうしてアンタなんか好きになってしまったんだろ…」

「仕方ないだろ?お前が俺に惚れた以上、こうなる事は確定していた。それに…」

「それに?」

煉獄の女王の言葉に応えていたLORDが途中で口ごもる。

それに続きを話すよう煉獄の女王が促すとLORDがそっぽを向いて口を開く。

 

「俺だって…惚れた女くらい守りたいさ…だから、命の一つや二つくらい賭けるよ…」

「はぇ?」

耳を真っ赤にしながら最後まで言い切ったLORDの言葉を聞いた煉獄の女王が変な声を出し顔が真っ赤に染まる。

その直後に闇を漏らした闇の帝王がゆっくりと立ち上がりオールマイトに説明を始める。

 

「と、取り敢えず行くぞ!」

「うぇっ!?え、ええ。そうね!」

その様子を見たLORDが切り替えて戦場に目を向ける。

煉獄の女王もそれに合わせて視線を向ける。

 

「じゃあ…」

「出力は…」

「「お前が/アンタが」」

顔の前で腕をクロスさせてエネルギーをじわじわと溜めて行く二人の声が重なる。

 

「俺に…/私に…」

「「合わせろ!!/合わせなさい!!」」

 

二人の声が重なり同時に残されていた全てのエネルギーを消費する勢いで気合いを入れた。

 

「「ハァァアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」」

残存エネルギーの全開放により巻き起こったエネルギーの奔流とエネルギーの衝突による突風が発生し足が震える。

一瞬でも気を抜けば倒れてしまう程のエネルギーの鬩ぎ合いによりLORDが目から血の涙を流し、煉獄の女王が鼻血を垂らして吐血する。

 

「「ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」」

それでも尚、限界を超えたエネルギーを開放する。

限界を超えたエネルギーの開放に大地が罅割れ、海が引き、天の雲が吹き飛ばされる。

 

「「ッ!ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」」

両者がエネルギーの限界開放値に到達したと同時に更に気合を入れて限界を突破する。

瞬間、煉獄の女王の真紅の髪が炎のように燃え盛り、LORDの青髪が全盛期のように白髪に戻った。

 

そして…

 

「「フュージョン!ハッ!!」」

 

オールマイトとの約束の一分に差し掛かった所で両者が絶妙にダサいポーズで合体し眩い光を漏らしながら一人になった(・・・・・・)

 

 

 

 

「はっ…?」

「何っ!?」

突如発された眩い光に闇の帝王とオールマイトが攻撃の手を止めて思わず、そちらに目を向けた。

両者が視線を向けた先では、眩い光が突如として神々しい光に変わり、まるで何かの誕生を祝福するように雪の結晶や鬼火が舞っていた。

 

「………」

光が収まり、それ(・・)が姿を現す。

 

それ(・・)は、男とも女とも取れる中性的な顔立ちをしていた。

それ(・・)は、男とも女とも取れる中性的な姿をしていた。

それ(・・)は、男とも女とも取れる中性的な手足をしていた。

それ(・・)は、白を基調に赤い線の入った鎧を身に纏っていた。

それ(・・)は、炎を放出する氷で出来た翼を持っていた。

それ(・・)は、水色の目と真紅の目のオッドアイだった。

それ(・・)は、縦に割れた瞳をしていた。

それ(・・)は、肩より少し長い程度の白髪に所々赤いメッシュが入っていた。

それ(・・)は、男とも女とも取れる中性的な声を発した。

それ(・・)は、右腕を軽く振るい周囲に舞っていた雪の結晶を掃った。

それ(・・)は、左腕を軽く振るい周囲に舞っていた鬼火を掃った。

 

「ふむ…中々悪く無いな。贅沢を言うのであれば…もっとエネルギーのある時にでも呼び出して欲しかったのだがな…」

それ(・・)が体を慣らすように少しずつ体を動かした。

指を鳴らし、腕を伸ばし、肩を回し、腰を捻り、足を上げ、足首を回し、最後に首も回した。

 

「だが、まぁ…贅沢も言ってられないか…仕方ない。5分でケリを着けるとしよう」

それ(・・)は、そう言ってから闇の帝王に向き直る。

 

「テメェ…何者だ?」

「ふむ…いい質問だ」

闇の帝王の問いにそれ(・・)が少し考え込むような仕草をしてから口を開き答える。

 

「我は、氷獄の王でも煉獄の女王でも無い。強いて言うなら貴様を倒す者だ。名は…氷炎の覇者、とでも名乗って置こう。別に覚えなくていいぞ?すぐに終わらせるからな」

氷炎の覇者と名乗ったそれ(・・)は、闇の帝王の下にゆっくりと歩みを進める。

 

「はんっ!覇者だか何だか知らねぇが、俺に殺される事に変わりは無いだろ!?」

「ぬおっ!?」

闇の帝王の発した高純度のエネルギーにオールマイトが少し飛ばされる。

が、すぐに足を地面に突き刺す事でそれ以上の後退を防いだ。

 

一方の闇の帝王は、両腕を頭上でクロスさせて両手にエネルギーを溜め、円を描くように腕をゆっくりと降ろし、胸の前でL字に組み右の掌を向ける。

 

『デスシウム光線!!』

 

赤い雷が迸る黒い極太の光線が氷炎の覇者に放たれる。

 

対する氷炎の覇者は、両手を頭上で組み、そのまま相手に向けた。

 

極光滅殺(オーロラアナイアレイト)!!』

 

氷炎の覇者の放った光線は、絶対零度を下回る極低温の一撃。

あらゆる生命を断絶する究極の光線技が放たれた。

 

両者の放った光線が衝突し相殺された。

 

「馬鹿な!?」

「おお…!」

闇の帝王が有り得ないモノを見たと驚愕の表情を浮かべたのに対して氷炎の覇者は、感心したような声を上げた。

 

「ならば…!」

「おや?」

己の一撃を防がれた闇の帝王は、両手を胸の前に持って来てエネルギーを溜めて行く。

 

胸の前で少しスペースを開けた状態の両手の中心部分に底知れぬ闇エネルギーが集中しバランスボールサイズの球体状に変化する。

オールマイトが慌てて止めに入ろうとするが氷炎の覇者が片手を翳して動きを制した。

 

「貴様…!」

「安心しろ、オールマイト。アレ(・・)くらいであれば簡単に止められる」

「何だと!?」

氷炎の覇者に一言文句を言おうとしたオールマイトだったがその言葉に思わず足を止めた。

 

「ほほう?簡単に止められるだと?なら、これでも喰らいやがれ!」

 

混沌の渦(カオスホール)!』

 

闇の帝王が放ったのは、LORDの虚無(ゼロ)と煉獄の女王の世界終焉(ラグナロク)を同時に相殺した一撃。

飲み込んだ全てを跡形も無く消す完全消滅の一撃必殺。

 

「ふん!」

それに対して氷炎の覇者は、闇の帝王と同じように両手を胸の前に動かしエネルギーを溜めた。

エネルギーを溜めるとバレーボール大の青白く燃え盛る太陽が形成される。

 

『ストナーサンシャイン!!!!』

 

氷炎の覇者が太陽の如き青白い火球を闇の帝王に向けて放つ。

 

 

両者の一撃が中間地点で正面衝突し、爆発を起こす事なく相殺される。

 

「ありえん!!?」

「実際に有り得ているんだ。認めろ」

己の持つ最高に一撃が相殺された事を信じられない闇の帝王が狼狽する。

それに対して氷炎の覇者が現実を見るように諭す。

 

「ふ、ふふふふ…」

「ふ?」

気が狂ったのか突如笑いだした闇の帝王の様子に氷炎の覇者が疑問に思い首を傾げた。

 

「ふざけるな!!貴様が!!ぽっと出の貴様がこの俺!この裏社会の支配者たる闇の帝王よりも強いと認めろとでも言うのか!?」

「実際そうだしな…」

己の誇りを傷付けられた闇の帝王の蟀谷に血管が浮かび上がり両手に一気にエネルギーを溜めて行く。

 

「なら!これでも喰らって死に晒せ!!」

 

『ギャラクシアンエクスプロージョン!』

 

闇の帝王が溜めたエネルギーを一気に開放し氷炎の覇者に向けて放った。

 

「はぁ…学習のしない奴だ」

呆れたように一つ溜め息を吐いた氷炎の覇者が右手に夥しい量の氷のエネルギーを集中させ、左手に夥しい量の炎エネルギーを集中させる。

そして両手を近付け二つのエネルギーを融合させて一本の光の矢を作り出し、右手を引いて構えを取った。

 

極大消滅呪文(メドローア)ッ!!!』

 

氷炎の覇者の放った一撃が闇の帝王の攻撃を真正面から迎え撃ち再度相殺した。

 

「おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれッ!!!この俺を…闇の帝王をコケにしやがって!!」

「はぁ…やれやれ。それにしても、これじゃちっとも面白くない。もっと本気でやって欲しいものだな。それとも、本気でやってこのザマだったかな?だったら失礼な事を言って悪かった。謝るよ」

「っっっっっ~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!」

 

己の持つあらゆる最高クラスの技がまったく持って通じない。

その事に闇の帝王が焦り始めた。

更に氷炎の覇者の煽りを受けて思考能力が鈍った。

故に気付けなかった(・・・・・・・)

氷炎の覇者が闇の帝王の技を全て相殺している(・・・・・・・・)と言う事に気付けていない。

 

事実、氷炎の覇者は、闇の帝王の放つ技を全て相殺している。

だが、一つも押し返したり、突破していない。

飽くまで相殺(・・)しかしていない。

否、相殺しか出来ていない(・・・・・・・・・・)のだ。

限界近くまでダメージを受けたLORDと煉獄の女王が限界突破して開放したエネルギーを維持した状態で合体し誕生した氷炎の覇者は、本来の力の半分程度しか出せていない。

もし100%の力を使えるのであれば既に闇の帝王を倒し終えていたであろう。

しかし今の氷炎の覇者には、闇の帝王を抑え込む力があろうとも、トドメを刺すだけの力が無い。

 

故に、

「オールマイト。協力してくれるか?」

救援要請を出すしかない。

氷炎の覇者は、息の上がっているオールマイトに右手を差し出す。

 

「……」

救援要請を受けたオールマイトは、疑いの眼差しを向けるが氷炎の覇者の目を見て少し考え込む。

やがて一つの答えを導き出したオールマイトが立ち上がりその手を握った。

 

「今回だけだ!」

「オーケー!」

この瞬間、正義(ヒーロー)(ヴィラン)による最強タッグが誕生した。

 

 

「クッソがぁあああああああああああ!!!!」

正義と悪が手を組む。

漫画やアニメなどの創作物でない限り有り得ない光景を前にして、闇の帝王が取った行動は…

 

「全制限解除!!今!ここで!世界を滅ぼす!!!」

己を縛る世界を滅ぼさない為の、ありとあらゆる制限を解除する事だった。

 

「グッ!?ぐごぁあああああ!!!?ぐがぁあああああ!!!」

闇の帝王の心臓が一つ大きく鼓動を打った直後、急に苦しみ出した。

 

「うぉああああああああ!!!?」

体内から作り替えられていく感覚に闇の帝王が苦痛の声を上げて悶える。

 

そして徐々に姿が変化していく。

黒く短かった髪が灰色に染まり、腰の近くまで伸びる。

爪が黒く変色し、全身に悪魔のような刺青が浮かび上がる。

白目が黒く染まり、瞳が赤色に変化する。

蟀谷から悪魔のような鋭利な角が生え、背中から蝙蝠のような真っ黒な翼が生える。

 

「ふしゅーっ!!」

変身を完了させた闇の帝王が荒く息を吐き、オールマイトと氷炎の覇者を睨む。

 

「ファイナルラウンドだ!全力で行くぞ!!」

「「掛かって来い!!」」

闇の帝王の宣言に両者が短く言葉を返す。

 

その一秒後に三者が衝突した。



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第二十九話

駆け出した三人が衝突した。

 

オールマイトの拳が闇の帝王の腹部に炸裂し、闇の帝王のエネルギーを纏った手刀を氷炎の覇者が左手で止め、氷炎の覇者の右拳が闇の帝王の顔面を捕らえた。

時間にして、僅か0.5秒。

それだけの時間の後に両陣営が同時に後ろへ跳び、再度衝突した。

 

「ブラックかめはめ波!!」

極大消滅呪文(メドローア)ッ!!」

「KENTUCKY SMASH!!」

 

「デスボールッ!!」

「カイザーフェニックス!!」

「CONNECTICUT SMASH!!」

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)!!」

真・原初の氷剣(トゥルー・ゼロカリバー)!!」

「NEBRASKA SMASH!!」

 

相変わらずの激闘。

闇の帝王の放つ攻撃を氷炎の覇者が全て相殺し、オールマイトが次々と攻撃を浴びせて行く。

言葉にすると簡単だが実際に戦っている者達からすれば、この上なく気の抜けない戦いだった。

なにせ一つでもタイミングが狂えば全てが一気に崩壊するレベルで拮抗している戦いだからだ。

それはもはや、人間の常識を超えた戦い。

人の理解を超えた大激闘へと昇華した。

闇の帝王が空中に移動すると、氷炎の覇者がそれを追うようにロケットブースターの要領で空を飛び、オールマイトも空気を蹴って跳び上がった。

 

「これでも喰らってろ!!堕天の王(ルシフェル)!!」

「面白い!ならば!神炎(ミカエル)!!」

「相変わらずだね!WAIST VIRGINIA SMASH!!」

闇の帝王の落とした時間稼ぎ用の特大暗黒弾を氷炎の覇者が巨大な炎の槍で相殺し、空気を蹴ったオールマイトがその間を縫い闇の帝王をぶん殴った。

 

「ぐはっ!!?」

「隙あり!オーロラエクスキューション!!」

「DETROIT SMASH!!!!!」

殴られてバランスを崩した闇の帝王の隙を突いた氷炎の覇者が絶対零度の光線を放ち、左腕を凍らせた。

その直後にオールマイトが闇の帝王の胸部を殴り、その時の衝撃が全身に伝わり凍った左腕を破壊した。

オールマイトと氷炎の覇者がしっかりと地面に着地したのに対して闇の帝王は、勢いよく地面に叩き付けられた。

 

「ぐっおおおお!!!」

殴られた衝撃で地面に叩き付けられた闇の帝王がゆっくりと立ち上がる。

 

「う、腕が…俺の腕が…チ、チキショーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」

自分の腕の惨状を見た闇の帝王が雄叫びを上げる。

 

「油断するなよ…?」

「言われなくとも!」

その様子を見た氷炎の覇者がオールマイトに注意を促す。

オールマイトは、まだ何かあると感じている為、油断なく拳を構える。

 

「なんちゃって」

「…」

「やはりか…」

突然、余裕な態度に変わった闇の帝王を氷炎の覇者が冷めた視線で見る。

オールマイトは、予想が当たった、とファイティングポーズを取る。

 

「なんだ、バレバレだったか?なら、これ以上下らない演技をしていても意味が無いって事だな?」

「そうなるな」

「はぁ…つまらん。ふんっ!」

退屈そうに息を吐いた闇の帝王が体に力を込めると失ったはずの左腕が再生した。

 

あいつ(闇の帝王)も同じ事が出来るんだな?」

「まあ、伊達に世界最強の一角を担ってないからな…あれくらい出来て当然だ」

オールマイトの質問に氷炎の覇者が当然の事のように答える。

 

「んじゃあ、まあ、ぼちぼち終わらせるとするか?」

闇の帝王がそう口にすると同時に彼の内側に眠っていた全ての闇エネルギーが一点に集中し始めた。

 

「おうおう、もう終わらせに来やがったか?短気な野郎だ。まあ、こちらとしては大助かりだけどな」

「冗談を言ってる場合か!?アレ(・・)を使われれば、周囲一帯どころかこの国が消し飛ぶぞ!」

「国どころか、星ごと消し飛ぶかもな?まあ、安心しろ」

オールマイトを安心させるように声を掛けた氷炎の覇者が残された全エネルギーを右の拳に集中させる。

 

「いいか、オールマイト?今から何が起こっても止まらず闇の帝王に突っ込んで、この上ない渾身の一撃。それも魂が籠ったありったけの一撃を叩き込め。…それ以外に勝つ方法は、もう存在しない」

「………分かった」

真剣な声で話す氷炎の覇者の目を見たオールマイトが小さく言葉を返し、拳にありったけの力を集中させる。

 

 

「さあ、終わらせるぞ!!」

その言葉と共に闇の帝王が空高く飛び上がり、一点に集中させた闇エネルギーを体外に放出し、両手で掴んだ。

 

冥界降臨(アンダーワールド)!!!!!』

 

闇の帝王が黒より更に黒い球体を投げ落とすと、まだ昼間のはずの空に夜の帳が降り、その夜すらも吸収し一回りも二回りも大きな暗黒球へと成長する。

それは、直撃すれば確実に死を与える一撃。

相手が神であろうとも必ず殺しきる死そのもの。

仮に氷炎の覇者が避けても地球に当たれば、この世に死の世界を顕現させるであろうそれが勢いを殺す事なく氷炎の覇者とオールマイトに迫る。

 

 

「我が生涯…我が生き様…我の力…我の全て!今から放つは、我が最強の一撃!!」

氷炎の覇者が限界以上のエネルギーを溜め、右手にありったけの氷獄のエネルギーを左手に煉獄エネルギー込めて、腕を水平にする。

その腕を伸ばしたまま頭上に移動させ、胸の前に移動させて、再度水平にした。

氷炎の覇者が迫り来る巨大な漆黒の闇よりも暗い球体に向かって飛翔した。

 

天地崩壊(ワールド・エンド)!!!!!』

 

氷炎の覇者は、両腕をL字に組んで星を一つ消し飛ばせるまでに溜め込んだエネルギーを冥界降臨(アンダーワールド)に向けて発射しそれらを内側で暴発させて消し飛ばせるだけのエネルギーを得る為、防御に回すはずのエネルギーも全て攻撃に回した。

氷炎の覇者の両腕に回された夥しい量のエネルギーが、闇の帝王の冥界降臨(アンダーワールド)と衝突し、大爆発を起こす。

 

世界に死を顕現させる冥界降臨(アンダーワールド)が、星を消し飛ばせるだけのエネルギーの籠った天地崩壊(ワールド・エンド)と衝突し、海が蒸発し大地を抉り雲を吹き飛ばす程の威力となり爆ぜる。

 

しかし、氷炎の覇者の放った一撃は、ただの囮に過ぎない(・・・・・・・・・)

彼の放った一撃は、あくまで本命を通すための囮(・・・・・・・・・)に過ぎない。

本命の一撃を通すための囮。

氷炎の覇者は、それを成し遂げた。

 

「あとは…頼ん…だ……ぞ…」

「任せろ!」

「オールマイト!?馬鹿な!さっきの一撃が本命では無かったのか!?」

爆発を諸に受けた氷炎の覇者(最高の囮)が鎧を所々崩壊させながら落ちて行く。

その言葉に答えるようにしてオールマイト(大本命)が爆炎の中から現れた。

氷炎の覇者の放った攻撃が本命だと考えていた闇の帝王が、思いも寄らなかったまさかの光景に驚愕し、ありったけのエネルギー攻撃にを込めた影響もあり、防御に回していた残り僅かなエネルギーを乱してしまった。

 

大地が罅割れる程に地面を力強く蹴って跳んだオールマイトが、驚愕の表情を浮かべている闇の帝王に狙いを定め、筋肉が膨張しヒーローコスチューム破けた右腕を振るう。

 

 

「ユナイテッド・オリジン・オブ・スマッシュ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

オールマイトの放った一撃が闇の帝王の胸の中心に叩き込まれる。

 

「グッッッッハァ………オ、オールマイトォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!」

その一撃は、骨を砕き、内蔵を破裂させ、宙に浮いていた踏ん張りの効かない闇の帝王を遥か彼方に吹き飛ばし、成層圏を突破させ、宇宙空間へと強制追放した。

 

 

「化け物め…だが、まあ…良くやったと言っておこう…か?」

その光景を見ていた氷炎の覇者が力を失い、自由落下をし始めた。

 

その数秒後に氷炎の覇者の身体が光り、フュージョンが解除された。

フュージョンが解除された結果、分離したLORDと煉獄の女王が落下していく。

 

「はっ…!?」

落下していくLORDが落下中に目を覚ます。

 

「未来火…」

煉獄の女王を自分の方に手繰り寄せ、愛おしそうに頭を撫でてから胸の内に抱え込んだ。

 

その数秒後にLORDが煉獄の女王を抱え込んだまま地面に叩き付けられた。

遥か上空からの自由落下によりクレーターが形成され即死を免れない程の強い衝撃のはずだが、流石は世界最強。

常人なら即死するはずの衝撃を受けても、精々ベッドから落ちた程度のダメージしか入らなかった。

 

「あー、痛ってぇ…おちおち寝かせてもくれねぇのか?」

嫌味を言いながらも煉獄の女王を衝撃から守ったLORDは、彼女の髪に付いた埃を掃い落としてから頭に顔を近付ける。

 

「全部終わった…助けたい奴等も助けたし…闇の帝王も死んだ。氷炎戦争は、またも引き分けに終わり…オール・フォー・ワンも、コフッ!ハァ…迂闊に動けなくなった…」

これまでの事を思い返しながら煉獄の女王にゆっくりと語りかけるLORDが慈愛の眼差しを向けている。

 

「未来火…お前との約束…ちゃんと叶えてやるぞ…」

「…本当?」

LORDが約束を叶えると口にすると煉獄の女王が顔を上げた。

 

「起きてたのか?」

「ついさっき起きたばかり。それよりもさっきの話は本当?」

「本当だ…」

「本当の本当に?」

「ああ、本当だ」

「へ~?ふ~ん?ほう?」

煉獄の女王が顔をニマニマさせながらLORDの胸の上で嬉しそうにジタバタしている。

 

「何なんだよ、お前は…」

「あなたのお嫁さん」

LORDの質問に煉獄の女王が顔を綻ばせ答える。

 

「………」

「ふへへへ~」

その答えにLORDが思わず頬を染めながら顔を逸らす。

その反応を見た煉獄の女王がだらしない声を上げながら想い人(LORD)の胸に自分の顔を埋める。

 

「はぁ…俺の嫁が最高に可愛い」

「えへへへ~、最高に幸せよ~」

自分の胸に顔を埋めている煉獄の女王の頭を撫でながらLORDが照れたような顔をする。

煉獄の女王…基、未来火(あすか)は人前に出せない程に顔を盛大に緩ませて、されるがままにしている。

 

 

こうして世界最強の(ヴィラン)たるLORDと煉獄の女王の間で勃発した戦い、第二次氷炎戦争が幕を閉じた。

LORDが依頼した雷帝の一撃から始まり、互いの持てる全てをぶつけあい、街に甚大な被害を出しながら、決着が着きそうな時に現れた闇の帝王を相手に共闘し、互角の勝負を繰り広げ、オールマイトによる時間稼ぎのお陰もあり氷炎の覇者となって更に共闘し、必死の思いで倒した事でこの氷炎戦争が終わった。

 

途中からまったく関係の無いはずの二人が乱入して来たとはいえ、比較的綺麗な幕切れと言えるだろう。

 

 

 

 

 

 

所で、そもそも何故こんな氷炎戦争が始まったのか?

当事者達が理由を覚えていないので真相は、闇の中なのだが…流石に勿体無いので語らせて貰おう。

 

しかし語るのは、次回にしよう。



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第三十話

こんにちは、諸君。

それでは、何故第一次氷炎戦争が起こったのか。

それを語らせて貰おう。

 

 

きっかけは、本当に些細な出来事だった。

LORDを討伐しに煉獄の女王がLORDの目撃情報の有った国へ向かったのだ。

その日の煉獄の女王、改め未来火は疲れていた。

それはもう、今にも倒れそうな程には疲れていた。

そんな中、討伐目標であるLORDと思われる男を見つけた。彼を見つけた時間帯は、三時頃だった。

そんな彼は、今も愛用している黒コートを背凭れに立てかけて優雅にお茶を飲んでいた。

それを一目見た瞬間、未来火の中に底知れない殺意が湧いた。

何故アイツが優雅にお茶を飲んでいて自分はこんなに苦労しているんだ?と、かなり自分勝手な意見だったが取り敢えず殺意が湧いた。

すぐにでも殺そうと煉獄の女王が歩みを進めた。一歩歩みを進める度に地面が溶ける程の熱量を放出しながら歩いていた。

自分に近づく煉獄の女王に気付いたLORDが何を思ったのか突如として席を立ち、うやうやしく頭を下げて挨拶した。

その予想だにしなかった光景に煉獄の女王は、分かりやすく狼狽えた。

今までの人生でそのような反応を返された事の無い彼女の手を取ったLORDが席へとエスコートし、あろうことか持て成した。

それも最上級の持て成しだった。彼女の手を取って紳士顔負けの女性の扱いをLORDが実行した。

今まで恐れられてばかりで女性らしい扱いを受けた事ない彼女には、あまりにも刺激が強すぎた。

その結果、惚れた。なんならLORDも惚れた。

LORDとしては、自分に掛かる火の粉を払う程度の考えで始めた行動だったが、彼女の純粋な女の子としての仕草や初々しい反応、そして何よりも彼女の外見と内面の両方に惚れた。

 

そして運命の日。別名.氷炎戦争開戦の日。

 

LORDがエスコートしてから一ヶ月経ったある日の昼下がり、煉獄の女王がLORDを呼び出した。

LORDは、彼女の誘いを受け二人の出会いの場であるカフェに向かった。

煉獄の女王に促され席に着いたLORDがコーヒーを注文し待っている間に煉獄の女王が開口一番こう言った。

 

 

「あんたの事、結構気に入ったから私を嫁にさせてもいいわよ!」

 

 

どう考えても告白する側のセリフではない。しかし、これも仕方のないことだった。

なにせ未来火には、日本国で言うところの『ツンデレ属性』が付与されていたからだ。

今の冷気にならクリティカルヒットが決まりオーバーキル出来るくらいに特攻が決まるだろうが、昔の彼には大して効果が無い。

その上未来火は、あろうことかその国の言語で言った為、周りに居た客が一斉に噴き出した。

一方のLORDは、ポカーンとしていた。

その様子を見た煉獄の女王、基ただの恋する乙女にジョブチェンジしてしまった未来火がLORDに返答を急かした。

LORDが混乱した頭を精一杯働かせて返事をしようとした。

彼の言おうとした言葉は、「まだ日も浅いし、これからも仲良く…恋人としてでよければ一緒に居てくれないかな?」と伝えようとした。

しかし、彼はこう答えてしまった。

 

「いえ、結構です」

 

なんとも酷い言い間違いである。

しかし、恋する乙女だった未来火にその言葉は、強烈過ぎた。あまりの強烈さに未来火の目に涙が溜まった。

冷気も自分の言った事の重大さに気付いた。今にも零れ落ちそうな程の涙を溜めた未来火をLORDこと冷気が、その涙を拭おうと動いた。

しかし、時すでに遅し。涙を拭おうとして来た冷気の手を叩いた未来火は、そのままの勢いで冷気の頬に平手打ちを食らわせた。

自分の純粋な恋心を踏み躙られたと思った未来火は、ひたすらにキレ散らかした。氷獄の王と煉獄の女王などの支配者にしか理解出来ない言語でキレた。

突如、知らないはずなのに何故か理解出来てしまう言語で一方的にキレられた冷気も怒った。と言うか反論した。

そこから、いわゆる痴話喧嘩が始まった。口喧嘩の内容は、先程の未来火の告白と冷気の返答についてだが、一方は全くと言っていい程人の話を聞かないし、もう一方は答えが煮え切らない。

両者の口喧嘩が30分を越えようとした時にそれ(・・)が起こった。

口喧嘩の途中で未来火が「器の小さい男ね…」と言って、対する冷気が「めんどくせぇ女だな…」答えてしまった。

その瞬間、闘いのゴングが鳴った。

まだ若かった頃のLORDと恋心を踏み躙られた煉獄の女王が正面衝突した。

両者の初撃の衝突により、半径20キロ圏内の全ての命が断たれた。

全盛期のLORDとそれを殺せるだけの力を持つ煉獄の女王の本気の闘いに巻き込まれた一般市民は、自分が死んだ事を自覚する暇も無く消滅した。

午後3時のお茶の時間(ティータイム)に近い時間帯の平和な1日が耳を劈く爆音と共に地獄へと叩き落された。

 

そこからは凄かった。

語彙力が消失する程の一戦だった。

巨大化した両者の拳の衝突によって街は疎か、国が消し飛んだ。

ブレスと思われる攻撃が世界でも有数の高さを持つ山を跡形もなく消し飛ばし海に高さ数百メートル越えの氷柱を作った。

二人の戦闘を止めようと国連が軍を派遣したが到着と同時に虚無(ゼロ)世界終焉(ラグナロク)が正面衝突した余波により撤退せざるを得ない程の大打撃を負った。

と言うか、一緒に派遣されたヒーロー達と一緒に消し飛んだ。

 

その後も本気の戦いが続き、巨山サイズの氷塊や隕石サイズの炎塊が飛び交う戦場に二人の英雄(ヒーロー)が飛び込んだ。

それが大地の王(グランドキング)と海神だった。

大地の王(グランドキング)がLORDを相手し、海神が煉獄の女王を相手した。

 

大地そのものを操れる大地の王(グランドキング)がLORDが凍らせきれない程圧倒的物量で攻め込み、海全体の約七割を意のままに操れる海神が煉獄の女王を追い詰めていた。

最初こそ善戦していたもののLORDと煉獄の女王がアイコンタクトを交わし戦うを相手を入れ替えた事で形成が逆転した。

大地の王(グランドキング)の攻撃を悉く融解させる煉獄の女王と海神の攻撃を海ごと凍らせるLORDの手により両者が成す術もなく殺された。

 

大地の王(グランドキング)は、太陽にも匹敵する高温の一撃が脳天に直撃し(コア)ごと破壊された。

海神も巨大な氷の球体に包まれ逃げ場を失くされた上に原子レベルで凍らされ(コア)ごと破壊された。

 

こうして世界最強の一角が二人同時に落ちたが、LORDと煉獄の女王の闘いは、一切収まらなかった。

このままでは埒が明かないと考えたLORDが煉獄の女王に天の契約書(ヘブンズディール)を用いて取引を持ちかける。

内容は、『1.今より一年後に決着を着ける。2.それまでは、休戦及び戦争準備期間として相互不干渉とする。3.決戦の地は、極東の島国.日本国の領土内とする』の三つだった。

最初は、契約内容を見て顔を顰めた煉獄の女王だったが少しだけ考える仕草をして渋々了承した。

 

そしてそれより一年の時が経ち日本の海辺で再戦したが闇の帝王の乱入により決着がうやむやとなった。

 

では、どうやって決着を着けるつもりなのか?

 

そこはあれだ。良い子のみんなは知らなくて良い話しだ。

えっ?それでも知りたいって?

はぁ…碌な大人に成れないぞ?

決着の方法は…まあ…あれだ…

 

イチャイチャ(意味深) するんだよ。知らんけど。

 

体力が尽きた方の負けな個性や実力関係無しの何とも言えない勝負。

どうせ結婚するんだし良いんじゃね?なノリでヤる事をヤるらしい。

男女の勝負で一番分かりやすいかもしれん勝負で決着を着けるつもりらしい。

だけど一応両者合意の上で純愛なので特に問題は無い。そう思うしかない。

 

まあ、とにかく氷炎戦争は、比較的平和に決着が着いた。

LORDも煉獄の女王も死なず、日本も沈没しなかった。

経済に大打撃を与えたかもしれないが、国家そのものが消える事と比べれば何倍もマシな結果と言えるだろう。

すでに他国による復興支援も決まっているし、オールマイトがLORDと煉獄の女王の二人を倒したと誰もが信じて疑わないので、国家として考えれば得したと考えても良いかもしれない。

それに事前に周囲30キロ圏内の全住民に避難勧告が出ていたので奇跡的に死者が出ていない。

勝利…とは一概に言えないが兎にも角にも氷炎戦争は終結し、世界に一時的な平和が訪れた。

 

 

 

 

~以下、第二次氷炎戦争に関する報告書~

 

 

第二次氷炎戦争終結時の被害及び今後予想される被害。

 

死傷者ゼロ。

戦場となった海岸線の付近20数キロ圏内が壊滅。

都心部半壊。

世界最強のヴィラン.LORD逮捕。

世界最大の災厄.煉獄の女王逮捕。

裏社会の支配者.闇の帝王永久追放。

No.1ヒーロー.オールマイト生存及び勝利。

 

 

八大抑止力の生死状況.

氷獄の王(LORD).生存。

逮捕の後、最高警備体制を持ってタルタロスに収監。収監から1時間で脱獄。

 

煉獄の女王.生存。

逮捕の後、最高警備体制を持ってタルタロスに収監。収監から30分で脱獄。

 

大地の王(グランドキング).死亡。

第一次氷炎戦争において死亡。

 

海神.死亡。

第一次氷炎戦争において死亡。

 

風神.死亡。

氷獄の王として覚醒したLORDとの戦闘において死亡。

 

雷帝.生存。

表舞台で活躍せず武器商人として活躍中。LORDの懐刀。

 

闇の帝王.生死不明。

氷炎の覇者とオールマイトとの戦闘において宇宙空間へと永久追放。地球への帰還は不可能と考えられる。

 

光の皇女.生存。

煉獄の女王との戦闘において消えないトラウマを植え付けられる。

 

 

最終結果.裏社会への抑止力が三柱同時に消滅。

 

推定被害.複数国家の壊滅。

 

残りの八大抑止力.『光の皇女(トラウマ持ち)』のみ。

 

結論.割とマジでヤバい。オール・フォー・ワンが動きにくくなったけど、それでもヤバい。

 

最終結果に対して一言.頑張れオールマイト!世界の命運は君の手に掛かっている。




正直言って書きたい事全部書き終えたし、もうそろそろ最終回迎えてもいいんじゃね?って、考えましたがもうちょっとだけ続きます。
その後にオマケみたいな感じで原作組との絡みを書いて行きたいと思っています。

では、また次回!


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