遊戯王GX-幻海の龍と決闘者 (天野京司)
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第1話 入試デュエル!
「やばいやばいやばい!!!!!!!」
必死になって俺は今、自転車を漕いでいる。坂を超えて人の群れを超えて走る、走る!!
そりゃもう大爆走だ!この状況、遅れる訳には行かないのである。遅れたらこの先のデュエルで楽しく生きていこう人生計画が崩れるのだ!
だから俺は超必死に自転車を漕いでいる!レベル6闇属性アンデッド族攻撃力1900の儀式モンスターであるスカルライダーもびっくりの爆走激走暴走自転車だ!!
暴走……?
「ドワーーーーッ止まらなーーーッ!!!」
俺が乗った暴走自転車は海馬ランド――アカデミア試験会場であるドームに盛大に突っ込んだ!俺は海馬ランドにダイレクトアタック!もちろん自転車は粉砕玉砕である。
起き上がって俺は怪我の状況を確かめた。
……うん、擦り傷はあれど自分の身体は無事なのが救いだ。決闘者ならこの程度で死ぬ訳は無いのだ……本当か?
そして次に突っ込んだ自転車を起こす。もうぺしゃんこだ。新品の自転車だったのに…。短い付き合いだったぜ…
畜生……あの電車が遅延しなければ今頃は電車で悠々と試験会場に到着できたはずだ。事故で遅延が決定した瞬間家に戻って自転車乗って大爆走してきた。うーん、もう一本早めで来れば良かった。この遅刻はギリギリを攻めたせいでもある。エキサイティングどころではない。デンジャラスである。
ええい気にしても仕方がない!とりあえず受付しないと!!
「……試験番号10番!
俺は立ち上がってもう片付けようとしている黒スーツを着たスタッフに向かって大声で叫んだ。
「遅いぞ!!もう1分遅れていたら遅刻扱いだった!早くいきたまえ!」
ぶっ壊れた自転車を端に置きつつ、息を整えドームに足を踏み入れる。これから始まるのは入学試験のうち、実技科目。
俺は瀬戸海波。エリート決闘者育成高等機関であるデュエルアカデミアの受験生だ。
◆◆◆
試験会場に入るともう既に自分の番は終わっており軽く絶望する。やっぱ遅刻だよなぁ。意気揚々と入った自分がなんか恥ずかしく思えてくる…。
試験は筆記試験の順位が低かった順から行われる。ちなみに筆記試験で落とされた人もおり、なんとか俺は筆記試験で合格した。
実技の受験番号は筆記の順位と対応しており、10番ということは筆記試験が10位だった、ということだ。何人いるかは知らないけど倍率がやばいらしいのでかなり良い方だと思う。……多分。
正直マトモに勉強してなかったのでこんな高順位なのが奇跡的だ。知るか初期のよくわからんバニラのフレーバーテキストなんて……、【ジェノサイドキングサーモン】とか…なんか覚えてたテキストでよかった。暗黒海の主として恐れられている巨大なシャケで、その卵は暗黒界一の美味として知られている。暗黒界だとレインとグラファ以外には強いんだぞ。最強シャケじゃないか。グラファが「ちょっとサーモン獲ってくる」って出掛ける様子、見てみたいですね。俺もシャケ召喚したいな…今度デッキにいれてみよっかな。
それで話を戻すが筆記試験で10位なら最後の方だろうとたかをくくってギリギリに家を出たらこのザマである。思いっきり敗北者だ。
流石に筆記で10位は落とさないだろう……とは思いたいが、俺は遅刻した(一応書類上は遅刻してないだろうけど)身であるからして、一切安心出来ない。
一応遅れた人のために最後に試験をやるとはスタッフさんに聞いていたが、どうにもこうにもモヤモヤが拭えないのだ。
「はぁ〜あ、どうしよっかなぁ……」
今やってるデュエルを観戦しようかな…。お、あいつ【
しかもあいつはワンキル……正しくはワンショットキルか、まぁいいや、ワンキルをしてるし、フィールド魔法…スカイスクレイパーも格好良いし強いなぁ。相手の
「ガッチャ!楽しいデュエルだったぜ!」
フィールドには二本の指を相手に向けてどこかで聞いたようなセリフを話す少年がいた。
楽しそうだな。
彼が勝った瞬間、周囲がざわつくのがわかった。聞き耳をたててみると、どうやら俺と同じで遅刻ギリギリに来た人で、しかも筆記試験の成績は110位。特別に頭がいいわけではなさそうだが、天性の決闘者って感じの匂いがする。俺はわかるんだ、強そうなやつは。……ごめんこれは言い過ぎた。口からでまかせです。
それでアンティーク・ギア使いの先生が彼に叩き潰されていたんだな。でもあれどう考えても試験用のデッキの威力じゃなかったような…?
で、あいつが終わったってことは、俺がちゃんと受付出来てればもうそろそろだよな、きっと。デュエルフィールドを去った彼の姿を見てMCはえデッキの一枚を捲り、そこにいる一番大好きなモンスターを見る。こいつこそ俺の魂、最強カードだ。
〚受験番号10番、瀬戸海波君〛
呼び出しのアナウンスがかかり、慌ててデュエルディスクを持って立ち上がる。
「110番の次に遅れてきた10番!ボンジョーーーーーールノ!!私がこのまま相手するーノ。来るノーネ」
貴族らしい雰囲気と独特な喋り方と妙に濃いキャラクター性の先生だ。
「受験番号10番、瀬戸海波」
「全く…今年は何でスーノ?遅刻者2名なんて前代未聞ナノーネ。もっと余裕を持つノーネ」
「……遅刻ではない、受付時刻に間に合った。遅刻というのは訂正していただきたいが」
……あ、やっちゃった。この俺、瀬戸海波は人前に出ると緊張でついつい本音をキツイ口調で言い過ぎてしまうのである!あぁ…謝る気はあったんだ。心の中は愉快な人間なので許してほしい。誰もわかんないけど…生まれてこの方ずっと怖い人間だと思われてるけど…。
「グヌヌ…シニョールミナミ。私はクロノス・デ・メディチ。この学園の実技担当最高責任者。つまーり!私がシニョールの合格か不合格かを握ってるノーネ」
「先入観と思い込み無しで実力を測って貰いたいものだ」
「遅刻者には容赦しないノーネ。ドロップアウトはこの学園に必要ないーノ。さっきは負けましたがこの『暗黒の中世デッキ』によって実力を測ってやりまスーノ!」
「時間が押しているならさっさと試験を始めろ」
「デュエル
「デュエルディスクオン!」
「「デュエル!」」
海波 LP 4000
クロノス LP 4000
「入学試験デュエルの先攻は受験者からナノーネ」
「なら先攻は貰った!俺は……」
手札を見る。うーん、よし、行け…る。最悪このデッキはフィールド魔法さえあればいい。
「手札から【テラ・フォーミング】を発動!」
「テラ・フォーミングはデッキからフィールド魔法1枚を手札に加えるカード!その効果で俺はデッキからフィールド魔法の【幻煌の都 パシフィス】を手札に加え、そのまま発動!」
発動したパシフィスはソリッドビジョンとなってあたりは神々しくも恐ろしい深海に沈む都となった。
「なんと…フィールド魔法ナノーネ?」
「あぁ、俺の最強カードはこの深く沈んだ海の都が好きなのさ。このまま俺はターンエンド!」
「フィールド魔法一枚でフィールドはガラ空き、壁モンスターすらドロー出来なかったとは運が悪いーネ。それかデュエルタクティクスがお粗末でスーノ」
かわいそうなものを見る目でクロノス先生は見てきた。確かにフィールド魔法1枚だけ。確かに少しだけ……事故ってる!
「ドロー、私は永続マジックカード、【
重々しい音を立てて、なんとなくスチームパンクの匂いを感じる城がフィールドに現れた。
「その時!【幻煌の都 パシフィス】の効果発動! クロノス先生が魔法カードを発動したので自分フィールドに【幻煌龍トークン】を守備表示で特殊召喚!」
【幻煌龍トークン】
☆8/水属性/幻竜族
DEF 2000
深海の都の祭壇のようなところから、自分のフォールドに半透明でキラキラと輝く幻煌龍トークンが現れた。
「ちなみにこの幻煌龍トークンは攻守共に2000のトークンだ。幻煌の都パシフィスは自分フィールドにトークンが無い場合、相手が魔法罠モンスターの効果を発動したとき幻煌龍トークンを召喚できる!」
「なんでスート!?」
「そしてトークンは通常モンスター扱いだ。自分フィールド上に通常モンスターである幻煌龍トークンが特殊召喚されたのでデッキから幻煌龍カードを手札に加える。俺は通常罠の【幻煌龍の戦渦】を手札に加える」
「ぐぬぬ…小賢しいノーネ…。しかしいくら罠を手札に呼んだとしても1ターン伏せなければ使えないノーネ。つまり発動できるのは次の私のターン。その頃には決着がつくーノ。私は【
機械仕掛けの騎士はこれまた重々しい音を立てて現れた。騎士というだけあって高潔な雰囲気…な気がする。
【
☆4/地属性/機械族
ATK 1800
「そしーて!古代の機械城の効果で機械騎士の攻撃力は300アップ!」
機械仕掛けの城の援護を受けた機械騎士はさらに威圧感を増す。
【
☆4/地属性/機械族
ATK 1800→2100
「これで幻煌龍トークンの攻撃力を超えたノーネ!そしてモンスターが特殊召喚されたのでカウンターを一つ置くーニョ」
得意げに話すクロノス先生を一瞥し、手札の先程加えた幻煌龍の戦渦を見る。よし、これだ…!
「…ちょっと待った!この時、手札から罠発動!【幻煌龍の戦渦】!」
「それはさっきサーチした罠……!しかも手札からトラップナノーネ!?」
会場がざわついた。普通、罠カードは1ターンセットしないと使えない。セットしないで使ってるし、相手ターンに手札からの発動だ。おかしいと思うのは無理はない。
「そう!幻煌龍の戦渦はフィールドに『海』があるとき手札から直接発動が出来る。ちなみに幻煌の都パシフィスはルール上『海』だ!」
熾烈な戦いに巻き込まれたスパイラルドラゴンの記憶。その記憶はあらゆるものを破壊する力を持つ!
「幻煌龍の戦渦の効果、相手フィールドのカード1枚を破壊する!俺が破壊するのは古代の機械城!」
戦渦の記憶により、機械城はボロボロと風化し消えてしまった。そして援護をなくした機械騎士は元の攻撃力に。
【
☆4/地属性/機械族
ATK 2100→1800
「くっ…カードを3枚伏せてターンエンドナノーネ」
「俺のターン!」
勢いよくドローするもやはり手札は緑と赤。おかしいな…モンスターも入れてるはずなんだけど。
「俺は手札から【フィールドバリア】を発動!フィールドバリアがある限り、お互いにフィールド魔法の発動と破壊は出来なくなる。そして幻煌龍トークンを攻撃表示にし、装備魔法【幻煌龍の
【幻煌龍トークン】
☆8/水属性/幻竜族
ATK 2000→2500
装備 幻煌龍の螺旋絞
幻煌龍トークンにスパイラルの力が宿った。透明なトークンだが、心なしか頼もしく感じる。
「メインフェイズ終了!バトルだ!幻煌龍トークンで
「攻撃宣言時、トラップカード発動【邪神の大災害】ナノーネ!このカードの効果によって全フィールドの魔法罠カードは破壊されるーノデス!フホホホホ」
あ!攻撃反応型の大嵐!邪神の大災害は罠カードで攻撃宣言されないと発動できないが、相手ターンでも発動できる強みがある。
邪神が起こした災害により、自分のフィールドの幻煌龍の
しかし、幻煌龍装備魔法は破壊されてしまった。
【幻煌龍トークン】
☆8/水属性/幻竜族
ATK 2500→2000
そして更にクロノス先生のフィールドの伏せカード2枚も破壊される。よく見ると…そのカードは…
「あ、」
「私が破壊したのは【黄金の邪神像】2枚!伏せられたこのカードが破壊された時自分フィールド上に2体の【邪神トークン】を守備表示で特殊召喚ナノーネ!」
破壊された事によって発動する効果持ちの罠カードだ。黄金色した爬虫類みたいな風貌の邪神トークンがクロノス先生のフィールドに現れる。
【邪神トークン】
☆4/闇属性/悪魔族
DEF 1000
【邪神トークン】
☆4/闇属性/悪魔族
DEF 1000
「さてどうするーノ?」
ニヤニヤしながら笑うクロノス先生。先生のフィールドに3体のモンスター。邪神トークンってことは多分……、次のターンでアドバンス召喚をするんだろう。まぁ…ここは今できることをやるしかない。
「そのまま攻撃だ!幻煌龍トークンで|古代の機械騎士を攻撃!ミニ・スパイラル・ウェーブ!」
幻煌龍トークンは古代の機械騎士に突撃し、噛み殺した。
戦闘破壊【
クロノス LP 4000→3800
「これで俺はターンエンド!さ、先生。出すんだろ、先生のデッキで最強のエースモンスター!」
正直言って、これは強がりだ。
「私のターンでスーノ。ドローニョ。私は2体の邪神トークンを生贄にして……【
邪神トークンは炎に包まれ、そこから現れるのは人に作られし機械仕掛けの巨人、威圧感は圧倒的だ。
【
☆8/地属性/機械族
ATK 3000
「バトル!そのままその幻煌龍トークンに攻撃ナノーネ!アルティメット・パウンド!」
無慈悲なる鉄槌がそのまま幻煌龍トークンを粉砕した。幻煌龍トークンは霧散するように消えていく。
戦闘破壊【幻煌龍トークン】
瀬戸海波 LP 4000→3000
「そしてこのままターンエンド。多少小賢しいけどさほどでも無いでスーノ。超えられるもんなら超えてみるノーネ!」
確かあの古代の機械巨人は貫通効果がある。幻煌龍トークンを出して守備表示にしてもジリ貧だし、他のモンスターを出して来てもライフは削られる。ここで決めるしかない!
「俺のターン!ドロー!!」
ラストターンにするべく勢いよくドローをする。ドローしたカードは…魔法カード、…キーカード、来た!そして今ドローしたカードを発動するべくデュエルディスクに置いた。
「俺は【予想GUY】を発動!自分フィールドにモンスターが存在しない時、デッキからレベル4以下の通常モンスターを特殊召喚する!予想の外から来い!【メガロスマッシャーX】」
獰猛な牙を持つ海に生息する太古の恐竜がフィールドに現れた。
【メガロスマッシャーX】
☆4/水属性/恐竜族
ATK 2000
こいつは恐竜型バイオノイド。どっちかというとワニに近いやつだと思う。音もなく獲物に食らいつくが捕食モードになると発光するので獲物によく逃げられてしまうというかわいそうなモンスターだ。かわいそうはかわいい、このデッキのマスコットモンスター…にしておこう。顔面凶悪だけど……な。現在は攻撃表示、もちろん捕食モード。ビカビカ光っている。自己主張が激しい。だから獲物に逃げられるのである。
「レベル4なのに2000の高攻撃力モンスター…!?」
「そして自分フィールドに通常モンスターであるメガロスマッシャーXが特殊召喚されたことにより幻煌の都パシフィスの効果発動!デッキから幻煌龍罠カードである【幻煌龍の浸渦】を手札に加える。そしてそのまま発動!」
「また手札から罠でスーノ!?」
「ああ!この罠も『海』があるとき手札から発動できる!」
傷ついたスパイラルドラゴンを癒やし、より深みへ浸渦させた力!その力は相手を弱らせる力がある!
「幻煌龍の浸渦の効果!古代の機械巨人の効果をターン終了時まで無効にして攻撃力を1000下げる!」
【
☆8/地属性/機械族
ATK 3000→2000
効果無効
「更に墓地に行った幻煌龍の浸渦の効果発動!」
「手札だけじゃなく墓地からでスート!?トラップとは言えない型破りナノーネ!!」
浸渦は失われし力を取り戻せる。
「幻煌龍の浸渦を除外して、墓地の幻煌龍の螺旋絞をメガロスマッシャーXに装備!」
【メガロスマッシャーX】
☆4/水属性/恐竜族
ATK 2000→2500
幻煌龍のサポートを受けたメガロスマッシャーXは更に発光し、やる気に満ち溢れている。すっごいビカビカしている。逆にイカみたいな光の惹かれるモノが寄ってきそうなレベルで。
「バトルだ!メガロスマッシャーXで古代の機械巨人を攻撃!アビス・スマッシュ!」
メガロスマッシャーXは古代の機械巨人に音もなく近づき噛みつき攻撃をする。ただし相手は逃げられないようで、強靭な顎と幻煌龍の力によって粉砕された。もはやスクラップとなってしまっている。
「マンマ・ミーア!!私の古代の機械巨人がー!?」
意気揚々と自分フィールドに戻ってきたメガロスマッシャーXはドヤ顔に見えた。俺が見えるだけだ。こいつはワニだから表情はわからん。
クロノス LP 3800→3300
「そして幻煌龍の螺旋絞を装備したメガロスマッシャーXがモンスターを破壊したので効果発動!!デッキから【幻煌龍 スパイラル】1体を特殊召喚!来い!真打ち登場!マイフェイバリットエースモンスター!」
深海から現れた猛き龍。戦渦に巻き込まれ、浸渦を果たし、やがて天渦を制する煌の龍。幻の如きその翼はあらゆるものを征するのだ。俺が一番好きだったモンスターである、【スパイラルドラゴン】…その海竜は幻竜と進化した!攻撃力と守備力の合計ならあの【
【幻煌龍 スパイラル】
☆8/水属性/幻竜族
ATK 2900
「さらに幻煌龍の螺旋絞の効果により、メガロスマッシャーXに装備されていた幻煌龍の螺旋絞は召喚した幻煌龍スパイラル還る。幻煌龍の螺旋絞を幻煌龍スパイラルに再装備!力は正しい持ち主へ。そして相手に1000のダメージ!すごいぞー!かっこいいぞー!!」
【幻煌龍 スパイラル】
☆8/水属性/幻竜族
ATK 2900→3400
クロノス LP 3300→2300
「3400の攻撃力に1000のバーンダメージナノーネ!?そんなコンボがあるトーハ……」
「先生、問題だ!バトルフェイズ中に召喚されたモンスターは…?」
「バトルフェイズ中なので攻撃出来るノーネ!」
「正解、行くぞ!幻煌龍スパイラルでクロノス先生にダイレクトアタック!スパイラルホールド!粉砕!玉砕!大喝采!!強靭!無敵!最強!!」
強いモンスターを出した時のお約束……このデュエルアカデミアのオーナーリスペクトだ。そして幻煌龍スパイラルは巨大な身体を翻し、クロノス先生に向かっていった。そしてクロノス先生は幻煌龍スパイラルの足に掴まれ……
クロノス LP 2300→0
「私がドロップアウトボーイに2連続で負けるトーハ……ガックシ……」
「良いデュエル(自分の大好きなモンスターが大活躍だったので満足した)だった」
◆◆◆
試験が終わり、帰宅しようとぺしゃんこになった自転車を押しながら帰り道を歩いていた。ここから地味に家まで遠いんだよな…歩いて3時間………………………………、か。
「おーい!お前さ、さっき幻煌龍っていうドラゴン使ってた奴だろ?」
後ろから声をかけられ振り向いた。そこに居たのは、俺の前にクロノス先生と戦っていて、HEROを使っていた学ランの少年。
「ただのドラゴンではない、幻竜族だ。ドラゴンを超越したモンスターだぞ」
さり気なく訂正するも正直どうでもいいかもしれない。というか幻煌龍スパイラルの進化前であるスパイラルドラゴン自体海竜族である。ドラゴン族ではない。
「デュエル見てたんだけどさすっげーって思った!入学楽しみにしてるぜ!」
「もう受かった気持ちか。……俺もお前とアカデミアでデュエルするのを楽しみにしている」
俺もさっきのデュエルすごかった〜とか言いたい!けど言えない…やっぱり対人関係の呪いがあるに違いない。遊城十代多分対人関係レベル100だ。こいつは強い。
「オレ、遊城十代!お前は?」
「瀬戸海波」
「オッケー!覚えた!じゃあアカデミアで会おうな!」
そう言うと遊城十代はその場を意気揚々と走って立ち去った。はぁ〜〜〜〜あ…もっと仲良くしたい…。というか受かるかどうかはまだ分かんないし。受かれば良いな。
これからどうしよう。
「家まで3時間…自転車を捨てる訳には行かないし押して歩くか」
俺は入試デュエルで疲れた頭を抱えながら、昼空の下3時間かかる家路についた。
海波「今日の最強カードはこれ!幻煌…」
クロノス「今日の最強カードは【古代の機械巨人】ナノーネ!」
海波「!?主人公を押しのけて自分のカードを入れるだと!?」
クロノス「私はアカデミア実技担当最高責任者、これくらいどうということはないノーネ!
それで今日の最強カードの【古代の機械巨人】は攻撃力3000の最上級モンスター。貫通効果を持ってるノーデ、守備で逃げても確実に追い詰めるーノ!さらーに魔法罠を封じる効果持ちデスーノ。ミラフォがあっても安心ナノーネ。このカードを出して負たことは無い伝説があったのでスーガ、崩されて悔しいノーネ…サルバトーレ…」
海波「ちなみに特殊召喚が出来ないから召喚にも一苦労だ。しかし古代の機械サポートには召喚条件を無視して特殊召喚をすることができるカードがあるからそれを利用するのも手だ。例えば【古代の機械素体】や【魔法の歯車】とか」
クロノス「アリガターイ事に未来のデュエルの話だけどリメイクカードもあるノーネ!【古代の機械巨人-アルティメット・パウンド】!しかしリメイクカードの方は魔法罠を封じる効果が無いから、どっちを採用するか迷うノーネ」
海波「それじゃあ今日はここまで。次回は幻煌龍カードを紹介しよう…できるといいな…」
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第2話 スパイラルドラゴンが浸渦した日
今回、日本未発売の海外版カードが登場します。ご注意下さい。
「『拝啓 ペガサス・J・クロフォード様
暑さも峠を超え秋が近づき、風が爽やかな季節となりました。いかがお過ごしでしょうか』……と、」
俺は今、手紙を書いている。宛先は『ペガサス・J・クロフォード』。デュエルモンスターズの生みの親、インダストリアルイリュージョン社会長。デュエルモンスターズでは超VIPな方だ。
彼とは度々連絡を取り合う仲である。連絡と言っても忙しいだろうし電話ではなく専ら手紙かメールだが。
なぜそんな人と知り合いなのかというと、数年前……まだ俺が小学生だった頃、日本に来た彼と特別にデュエルをした事があり、それがきっかけで連絡先をゲットした。そしてそれから度々メールの送り合いをし始めたのがきっかけだ。
今回連絡したのはデュエルアカデミアに合格したことの報告だ。彼は応援してくれていたし、伝えるなら一番が良かった。
俺は送られてきたデュエルアカデミアの合格通知を再度確認する。やっぱり夢じゃないよな。これを見たときは強めの幻覚を見ているのかと思った。
……まぁ、アカデミアの先生を倒しているし、当然っちゃ当然かもしれないけど。
あのデュエルに幻煌龍で勝てた。それがすごく嬉しかった。個人的には通常モンスターが好きだし、幻煌龍スパイラルの元であるスパイラルドラゴンがずっと好きだ。ロマンと言えども……、いや、ロマンデッキとは呼ばせてやらない。
今は数年前と比べて効果モンスターがかなり増えてきて、効果持ちモンスターが台頭してきている。まだ通常モンスターを使っている人はいれど、それだって結局は効果持ち最上級モンスターへの布石だ。
しかし幻煌龍は違う。エースモンスターは幻煌龍スパイラルのみ。非常にアツいじゃないか。
最強通常モンスターである
――通常モンスターとして扱う融合モンスターとか出ないかな…、スパイラル3体融合……スパイラル・アルティメット・ドラゴン!!……とか。無いな。
どうして俺がこんなにも幻煌龍を愛しているのかというと…、それは先程も言ったペガサスさんとのデュエル関連なんだが……。
◆◆◆
俺、中学1年の頃、俺は青眼の白龍に次ぐレベルの攻撃力の通常モンスターカードであるスパイラルドラゴンをゲットした。なんと2900である。小学生だった俺はすげー強いカードだなぁと、素直に思っていた。ゴギガ・ガガギゴとかラビードラゴンは知らなかった。なんだよ攻撃力2950とか。
スパイラルドラゴンを最初見たときはギョロ目でなんだこのふざけたみたいな外見の海竜は…とか、すべてを飲み込む津波を起こせる海の主の
なんというか……、このスパイラルドラゴンの良さがわかるのは自分だけなんだぞって気持ちになって専用構築をしたのだった。
ちなみにあと2枚のスパイラルドラゴンは友人に貰った。決して奪ったとか言ってはならない。持ってる?って聞いたら怯えた顔で差し出してきたのを貰っただけだ。カツアゲではない。
そしてスパイラルドラゴンをエースに据えたこのデッキを誰かに見せたいとウキウキの俺は、デュエルモンスターズの創造主であるペガサスさんが来日し、アマチュアデュエリストの中からペガサスとデュエルしよう!みたいなイベントがあることを知り、参加するべく応募し、見事当選したのだ。今考えると、完全に調子に乗り過ぎで運が良かったと思う。
開催地は海馬ランド。ペガサスさんが久しぶりにデュエルをするということで中学生の子供相手だが沢山のメディアやギャラリーが来ていた。今考えるとそりゃ当然だよな、って感じだがそんな光景を見た俺は恥ずかしながらめちゃめちゃビビっていた。
そしてスパイラルドラゴンを極限まで活躍(過労死)させるデッキを持ってペガサスの前に立った。
こんな人前でデュエルするのは初めてだった。ガッチガチに緊張していた俺は、今に通じる対人関係の呪い(極度の上がり症)によって一切会話出来なかった。いや…今ほどは酷くないけど…。マジで今の本音の1.5倍キツく言ってしまうのなんでだろうな。
「…」
「この度はイベントに参加ありがとうございマース!デュエルモンスターズは今や世界で遊ばれているカードゲームデース」
「……」
「さて、今回勇敢な少年が私とデュエルすることになりました。紹介しましょう海波ボーイデース!」
「………」
「ワーオ…」
マジで何一つ喋れなかった。本当にペガサスさんには悪いことをしたと思う。今思い返すとコミュ障少年が来てしまって困らせてしまってマジで申し訳無いと思っている。
「ンンッ!すごく緊張しているみたいデース!デュエルすれば緊張もほぐれますかね?それでは早速デュエルを始めまショウ!」
ペガサスさんはデュエルディスクにデッキをセットして構え、少し雰囲気に飲まれていた俺はそれに少し遅れデュエルディスクを構えた。
「…………………」
「デュエル!」
◇ペガサス LP 4000
◇海波 LP 4000
「私が先攻デース。それでは手札よりフィールドマジック【トゥーン・キングダム】を発動デース。発動時、デッキの上3枚を裏側除外しマース」
◆手札 5→4
◆フィールド
【トゥーン・キングダム】
飛び出す絵本とそこから
「そして私は手札より【トゥーン・マーメイド】を守備表示で特殊召喚デース。トゥーン・マーメイドは自分フィールドに【トゥーン・ワールド】がある時、特殊召喚が可能なのデース。来て下サイ、愛しいマーメイド!」
◆手札 4→3
◆フィールド【トゥーン・キングダム】
◆モンスター
【トゥーン・マーメイド】
【トゥーン・マーメイド】
特殊召喚・トゥーン・効果モンスター
☆4/水属性/水族
DEF 1500
トゥーン・マーメイドが現れ、トゥーン・キングダムのページをめくり、海のページで遊び始めた。
「……?トゥーン・ワールドなんて無いが…」
「ワオ!やっと喋ってくれましたね!トゥーン・キングダムはフィールドにある限りトゥーン・ワールドとして扱うのデース!」
言葉を発しただけで褒められる世界……。デュエルは会話をしなければ出来ない(キャッチボールではなくドッジボールでも可)なので俺だって普通に話します。そりゃまぁ…会話は苦手だけど…、デュエルなら大丈夫なので!!効果処理くらいしか言わないし…俺は単なる上がり症なだけだし……。デュエルが出来れば日常会話は必要ないのかもしれない…、会話よりもデュエルのほうが人柄が分かるということわざもある(かもしれない)!!いやそれは無いな。
「更に言うとトゥーンは召喚・特殊召喚・反転召喚したターンに攻撃は出来ませんが、先攻はバトル出来ないので関係無いのデース。魔法罠ゾーンにカードを1枚セットしてターンエンドデース。アナタのデュエル、見せて下サーイ!」
◆手札 3→2
◆フィールド【トゥーン・キングダム】
◆モンスター
【トゥーン・マーメイド】
◆魔法罠
【セット】
「トゥーンか、初めて見た。俺のターン、ドロー!…………」
◇手札 5→6
事故った。いや、事故りかけている。ドローソースを引いてなかったら壁モンスターすら召喚できなくて危なかった……。このデッキ、モンスター2種類しかいないんだよ…。しかもキーカードを引けなかったら防戦一方になってしまう事故率が高いんだよ…。
どうしてこんなデッキで来たのか、って聞かれればそれはロマンしか無いよな。
「フィールド魔法、【海】を発動!フィールド上に表側表示で存在する魚族・海竜族・雷族・水族モンスターの攻撃力と守備力は各200ずつ上がる」
◇手札 6→5
◇フィールド【海】
「オウ!海!ということは海が得意なモンスターのデッキですね?しかしそのフィールド魔法の効果により、私のトゥーン・マーメイドの攻撃力と守備力も上がりマース」
フィールドに海が現れたことにより、絵本を飛び出して泳ぎ始めるトゥーン・マーメイド。水を得た魚…水を得たマーメイド?
【トゥーン・マーメイド】
特殊召喚・トゥーン・効果モンスター
☆4/水属性/水族
DEF 1500→1700(海効果)
「さらに手札からレベル8モンスターである【スパイラルドラゴン】捨てて、魔法カード【トレード・イン】発動。効果で2枚ドロー」
◇手札 5→3→5
頼む頼むここでキーカードか蘇生カードが引けないと死ぬ。何も出来なくて死ぬ…!
引いた手札を見た。よし……!来てくれた!!やっぱ初期手札はあれだったけどデッキは応援してくれている……かも?ずっとやりたかったコンボが出来そうだ。
「相手フィールドにモンスターが存在し、自分フィールドにモンスターが存在しない時このカードは手札から特殊召喚出来る。【カイザー・シースネーク】」
◇手札 5→4
◇フィールド【海】
◇モンスター
【カイザー・シースネーク】
【カイザー・シースネーク】
効果モンスター
☆8→☆4(特殊召喚効果)/水属性/海竜族
DEF 1000→1200(海効果)
「特殊召喚したカイザー・シースネークの効果で、カイザー・シースネークのレベルは4、攻撃力はゼロになってしまうけど、とりあえず海の効果で200はアップする。そしてさらなる効果を発動、墓地よりレベル8の海竜族を蘇生する。現われろこのデッキのエース!スパイラルドラゴン!」
◇手札 4
◇フィールド【海】
◇モンスター
【カイザー・シースネーク】
【スパイラルドラゴン】
墓地から現れたスパイラルドラゴンは半透明だ。それもそうだ、カイザー・シースネークの効果がある。
【スパイラルドラゴン】
通常モンスター
☆8/水属性/海竜族/
DEF 0(カイザー・シースネーク効果)→200(海効果)
「カイザー・シースネークの効果で特殊召喚したスパイラルドラゴンの攻撃力と守備力はゼロになる。しかしここでこの魔法を使う。【地獄の暴走召喚】発動。今召喚したスパイラルドラゴンと同じ名前のカード……スパイラルドラゴンをデッキより可能な限り…今は2体…特殊召喚する!」
攻撃力がゼロになったスパイラルドラゴンが吼えると、地獄の暴走召喚の効果で他のスパイラルドラゴンが現れた。地獄の暴走召喚は攻撃力が1500以下のモンスターしか選べないが、現在のスパイラルドラゴンの攻撃力はゼロ(海効果で200)だから地獄の暴走召喚の効果は使える。そしてデッキから召喚したスパイラルドラゴンはそのままの攻撃力になるのだ。
頼むからあの伏せは奈落の落とし穴じゃありませんように……。そう祈ってペガサスさんを見ると動く様子は無い。…よし!通った!
◇手札4→3
◇フィールド【海】
◇モンスター
【カイザー・シースネーク】
【スパイラルドラゴン】
【スパイラルドラゴン】
【スパイラルドラゴン】
【スパイラルドラゴン】
通常モンスター
☆8/水属性/海竜族/
ATK 2900→3100(海効果)
【スパイラルドラゴン】
通常モンスター
☆8/水属性/海竜族/
ATK 2900→3100(海効果)
「地獄の暴走召喚ペガサスさんにも影響する。ペガサスさんは自分フィールドのモンスター1体を選び手札デッキ墓地から可能な限り特殊召喚する」
「それでは私はトゥーン・マーメイドを選択し、2体召喚しマース」
【トゥーン・マーメイド】
特殊召喚・トゥーン・効果モンスター
☆4/水属性/水族
DEF 1500→1700(海効果)
【トゥーン・マーメイド】
特殊召喚・トゥーン・効果モンスター
☆4/水属性/水族
DEF 1500→1700(海効果)
◆手札 2
◆フィールド【トゥーン・キングダム】
◆モンスター
【トゥーン・マーメイド】
【トゥーン・マーメイド】
【トゥーン・マーメイド】
◆魔法罠
【セット】
「さらに魔法【アドバンスドロー】を発動。カイザー・シースネークの効果で特殊召喚されたスパイラルドラゴンを生贄にして2枚ドロー」
◇手札 3→2→4
◇フィールド【海】
◇モンスター
【カイザー・シースネーク】
【スパイラルドラゴン】
【スパイラルドラゴン】
あ、これスパイラル3体行ける。
「魔法カード、【死者蘇生】を発動。墓地のスパイラルドラゴンを特殊召喚する!」
【スパイラルドラゴン】
通常モンスター
☆8/水属性/海竜族/
ATK 2900→3100(海効果)
◇手札 4→3
◇フィールド【海】
◇モンスター
【カイザー・シースネーク】
【スパイラルドラゴン】
【スパイラルドラゴン】
【スパイラルドラゴン】
「アンビリーバボー!すごいデース!魔法を活用しながら驚きのスパイラルドラゴン3体召喚コンボ!イッツァミラクル!」
称賛の言葉を発してパチパチと拍手をするペガサスさん。正直めちゃめちゃ嬉しい。このコンボが決まったのは初めてだからな。
「バトル、スパイラルドラゴンでトゥーン・マーメイドを攻撃!」
すべてを飲み込む(フレーバーテキスト参照)というスパイラルウェーブを巨大なヒレを動かして放つスパイラルドラゴン。
しかし、その攻撃はトゥーン・マーメイドには届かなかった。
トゥーン・マーメイドはトゥーン・キングダムの本の中に隠れ、スパイラルドラゴンの攻撃をやり過ごした。
「トゥーンは完全無敵の生命体!トゥーン・キングダムの効果で、トゥーンが破壊される時、代わりにデッキの一番上のカードを裏側除外することにより破壊を免れるのデース!」
「裏側除外……なるほど…だけど攻撃続行!残りのスパイラル2体でトゥーン・マーメイドを攻撃!」
「しかし私はトゥーン・キングダムの効果によりデッキの上2枚を裏側除外しマース!トゥーンは無敵なのデース!」
「……カードを2枚伏せてターンエンド」
◇手札 3→2
◇フィールド【海】
◇モンスター
【カイザー・シースネーク】
【スパイラルドラゴン】
【スパイラルドラゴン】
【スパイラルドラゴン】
◇魔法罠
【セット】
【セット】
盤面では自分が勝ってるものの、ダメージは与えられず、超強力なトゥーン・キングダムが相手にある。正直言ってひらりと躱されただけだ。
「私のターン!ドロー!」
◆手札 2→3
◆フィールド【トゥーン・キングダム】
◆モンスター
【トゥーン・マーメイド】
【トゥーン・マーメイド】
【トゥーン・マーメイド】
◆魔法罠
【セット】
「ふむ…ではセットしていた【コミックハンド】を発動」
発動したカードは……装備魔法カード!? 罠っぽく伏せてるから罠かと思っていた……。なんだブラフだったのか。
「コミックハンドの効果は相手モンスターをトゥーン化してコントロールを得マース。私が装備するのはスパイラルドラゴン。アナタもトゥーンの仲間になるのデース!」
マジックハンドが出て来て、スパイラルドラゴンを掴んでそのままペガサスさんのフィールドへ。その瞬間、スパイラルドラゴンはトゥーンのようなポップな姿に変わった。ギョロ目は相変わらずだけどまぁ…愛くるしいと言っていいのでは。
◆手札 3
◆フィールド【トゥーン・キングダム】
◆モンスター
【トゥーン・マーメイド】
【トゥーン・マーメイド】
【トゥーン・マーメイド】
【スパイラルドラゴン(トゥーン)】
◆魔法罠
【コミックハンド】
「俺のスパイラルドラゴンがトゥーンに……」
いやいや、新たなスパイラルドラゴンの魅力に気づいてる場合ではない!かわいいな…と緩む表情を引き締めるように歯を食い縛る。俺は伏せカードに手を掛け……いや、このカードは今じゃない。まだチャンスはあるんだ。
「スパイラルドラゴンは可愛らしいトゥーンとなり私のフィールドに来マシタ。……どうしてトゥーン化するとそんな顔をするのでしょうか。惨めな姿と言った海馬ボーイを思い出しマース。それではトゥーン・マーメイドを攻撃表示にして…このままバトルしまショウ!」
【トゥーン・マーメイド】
特殊召喚・トゥーン・効果モンスター
☆4/水属性/水族
ATK 1400→1600(海効果)
少し手札を見て考えたペガサスさんはそのままバトルフェイズへ。
「……?ペガサスさんに取られたスパイラルドラゴンならまだしも…トゥーン・マーメイドの攻撃力はスパイラルドラゴンを超えてないからダメージは……」
「いいえ、トゥーンはフィールドにトゥーン・ワールドがあるときダイレクトアタックが出来るのデース。そして私のフィールドにはトゥーン・ワールドとして扱うトゥーン・キングダムが存在しマース」
「ということは……攻撃力1600の直接攻撃が3回。さらにトゥーンとなったスパイラルドラゴンで3100…合計7900…!?」
「ライフは4000。これが通ったら私の勝ちデース」
『海波散る!無敵のトゥーン・キングダム』する訳には行かない!俺はセットカードを発動した。
「通すわけには行かない!【和睦の使者】を発動!このターン、俺は戦闘ダメージを受けない」
「フフフ、良いですね…それではバトルフェイズを終了しマース。まぁトゥーン・マーメイドは攻撃するのにライフポイントを払わなければならないので助かったといえば助かりマシタ」
やる気満々だったトゥーン・マーメイドは残念そうに弓を引っ込める。スパイラルドラゴンは状況が飲み込めなくてキョロキョロしている。
「私はマジックカード【トゥーンのもくじ】を発動デッキからトゥーンカードを手札に加えマース!私が加えるのは【トゥーン・ブラック・マジシャン】!そしてトゥーン・マーメイド2体を生贄にして召喚しマース」
【トゥーン・ブラック・マジシャン】
トゥーン・効果モンスター
☆7/闇属性/魔法使い族
ATK 2500
◆手札 2
◆フィールド【トゥーン・キングダム】
◆モンスター
【トゥーン・マーメイド】
【スパイラルドラゴン(トゥーン)】
【トゥーン・ブラック・マジシャン】
◆魔法罠
【コミックハンド】
「トゥーン・ブラック・マジシャンの効果を発動しマース。手札の『トゥーン』と名の付いたカードを1枚捨ててデッキからトゥーンモンスターを召喚条件を無視して特殊召喚しマース。私は手札の【トゥーン・ディフェンス】を捨ててデッキから【ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴン】を特殊召喚しマース!」
【ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴン】
特殊召喚・トゥーン・効果モンスター
☆8/光属性/ドラゴン族
ATK 3000
伝説の決闘者……武藤遊戯と海馬瀬人が使用した超有名カードのトゥーンが現れた。ポップな絵柄のトゥーンといえども圧倒的存在感だ。
◆手札 0
◆フィールド【トゥーン・キングダム】
◆モンスター
【トゥーン・マーメイド】
【トゥーン・マーメイド】
【スパイラルドラゴン(トゥーン)】
【トゥーン・ブラック・マジシャン】
【ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴン】
◆魔法罠
【コミックハンド】
【セット】
「フフフ、これで伝説の
手札は使い切ったと見えるが、場には無敵のトゥーン。……伝説のモンスターと並んで(トゥーン化したけど)自分の最愛カードが並んでるの良いな…じゃなかった!早く倒して取り返さないと!
「俺のターン!」
ここで何も出来なければ次のターンで総攻撃を食らい、俺は敗北する。頼むから古のルールとか来ないでくれ……。このデッキでそのカードで召喚できるモンスターはスパイラルドラゴンしかいないんだ。
「ドロー!」
◇手札 2→3
◇フィールド【海】
◇モンスター
【カイザー・シースネーク】
【スパイラルドラゴン】
【スパイラルドラゴン】
◇魔法罠
【セット】
【セット】
ドローしたカードは…………、ふふ、やっぱ今日はこのデッキに俺好かれてる!
「……ペガサスさん。トゥーンは最強なんだよな」
「ハイ、トゥーンは無敵の生命体、このフィールドにおいて最強デース!」
「だけどトゥーンの住処であるトゥーン・キングダムが破壊されたらどうなるのかな!」
「ほう、まさか……」
「俺は【サイクロン】を発動!破壊するのはトゥーン・ワールド扱いであるトゥーン・キングダム!」
トゥーン・キングダムを破壊すると言ったのにまだ余裕そうなペガサスさんは、その手は読んでいたとばかりに伏せカードを発動した。
「私はセットしていた【トゥーン・テラー】を発動デース!」
【トゥーン・テラー】(日本未発売カード)
カウンター罠
(日本語訳)
「トゥーン・テラー」は1ターンに1度しか発動できない。
①自分フィールドに「トゥーン・ワールド」及びトゥーンモンスターが存在し、相手が魔法・罠・モンスター効果を発動した時に発動できる。その発動を無効にし破壊する。
「そのサイクロンを無効にしマース!」
「ちょっと待った!それにチェーンして【王者の看破】を発動!自分フィールドにレベル7以上通常モンスター…つまりスパイラルドラゴンがいるのでこのカードを発動できる。そのトゥーン・テラーを無効にして破壊する!」
スパイラルドラゴンが吼えると、発動したトゥーン・テラーが破壊され、そのままサイクロンが発動し、トゥーン・キングダムが破壊された。
トゥーン・キングダムが破壊された瞬間、居場所を失ったトゥーンモンスターたちは破壊され、コミックハンドで捕まっていたスパイラルドラゴンも
◆手札、フィールドともに無し
◇手札 3→2
◇フィールド【海】
◇モンスター
【カイザー・シースネーク】
【スパイラルドラゴン】
【スパイラルドラゴン】
【スパイラルドラゴン】
「私のトゥーンが……!」
「バトル!!スパイラルドラゴン全員ででガラ空きとなったペガサスさんに攻撃!
攻撃力3100のスパイラルドラゴンが、ペガサスさんに一斉に巨大なヒレからスパイラルウェーブをくりだし、そして……
ペガサス LP 4000→0
創造主を倒したのだった。
◇◇◇
デュエルが終わった俺は早速ペガサスさんに呼ばれ、お話することになった。
「海波ボーイ!さっきは良いデュエルでした。とても楽しかったデース!」
「あっ、………ありがとうございます」
楽屋に訪れた俺をニコニコ笑顔でペガサスさんは迎え入れてくれた。やっぱりこの人は楽しいことが好きな愉快な人だと思う。うん、こういう大人って良いよな。
ちなみにデュエルの時は散々タメ口をきいていたが、今は普通に敬語である。やっぱりデュエルモンスターズの生みの親だし。流石に敬語を使えないほどコミュニケーションに問題を抱えてない……。
「まさか1ターンでスパイラルドラゴンを3体並べるなんてとってもミラクルデース!」
デッキを見せてほしいと言われ、ペガサスさんに自分のデッキを解説している。メインのギミックとしてはカイザー・シースネークや黙する死者等で生贄を用意しつつスパイラルドラゴンの生贄召喚だが、地獄の暴走召喚を組み込んだり、トレード・イン等で墓地に落としてから特殊召喚したり…など、とにかくスパイラルドラゴンを使い回すロマンデッキだ。
「単なる高攻撃力モンスター採用ならサポートも多い光属性ドラゴン族のラビードラゴンを使ったり…他には高攻撃力の効果モンスターだって増えて来ていマスのでそれを採用したりも出来たはずデース。しかしこのスパイラルドラゴン特化構築…ということは、アナタはスパイラルドラゴンが好きデスカ?」
無言で頷いた。理由はコミュニケーションが苦手のため。自分のことになると途端に口下手になってしまう癖、やめたいと思っている。
「その一つのモンスターに対してのコダワリ、懐かしいものを思い出させマース。海波ボーイ、このカードを私に預けてくれませんか?悪いようにはしません」
「どうするんですか」
「その時までの秘密デース!イッツアサプラーイズ!」
芝居がかった動きでお辞儀をしたペガサスさん。きっと、この人は悪い人ではなさそうだ。俺はペガサスさんを信用して3枚のスパイラルドラゴンを手渡した。
そして俺は何故か彼に大変気に入られたようで、連絡先を交換してくれた。まさかまさかはじめての連絡先交換がペガサスさんである。
そろそろスケジュールが押してると言い、ペガサスさんと別れる直前、俺はデュエルをした所感をぶつけてみた。
「ペガサスさん。あのデュエル、本当は全力じゃない気がするんですが」
「買いかぶりすぎデース。……ま、どうなんでしょうネ!フフ」
ひらりと躱し、彼は去っていった。微妙に掴めない人だった、まるで彼の操ったトゥーンのように。そんな感じ。
それから数カ月。俺のもとにはペガサスさんに渡したスパイラルドラゴンのリメイクである、幻煌龍スパイラルとそのサポートカードが届いた。その日、スパイラルドラゴンは煌へと浸渦したのだった。
◆◆◆
と、つまり、ペガサスさんから直接貰った超思い出のデッキで、(恐らく)俺しか使ってないであろうデッキ。そして最愛モンスター。これらから俺は幻煌龍を愛しているのだ。
だから、俺はこいつをもっと活躍できるように、そして強いデュエリストになりたいと思った。
「と、こんなもんでいいかな」
回想してる間に手紙も書いたし、手紙を出してくるついでに、これから始まる学園生活の買い出しとかもしようかな!
俺はトゥーンのイラストが描かれた封筒に手紙を入れて、郵便屋へと向かった。
◆◆◆
「海波ボーイがデュエルアカデミアに……」
ペガサス・J・クロフォードは数年前デュエルして、その古き良き時代の戦い方をする少年からの手紙を読んでいた。
「フフフ、私がデザインしたカードたち…そして気に入った決闘者が活躍してくれると我が子のように嬉しいデース」
デュエルモンスターズは日々進化している。少し前までは珍しかった効果モンスターも今やほとんどのデュエリストが使用している。融合、ユニオン、デュアル、スピリット…その他色々……。新たな召喚やルール出て来て奥深くなっていっている。それはとても面白いが、やはり古き良き召喚、そして通常モンスターも捨てがたい。新旧様々な戦略で楽しんでもらいたい。もう第一線は退いたが、ここまでデュエルモンスターズを育ててきたカードデザイナーとしての思いでもある。
新時代のデュエリストに通常モンスターで殴る、というテーマを与えてどうなるかが楽しみなのである。
彼はまだ未完成。通常モンスターといえども可能性は無限大。どこまでも成長できるはずだ。その時を……楽しみにしている。
「三角域から来たる不思議な海波ボーイ、その先にはどんなロードがあるのでしょう」
ペガサスは『おめでとう』と返信するべく筆をとった。
海波「今日の最強カードはこれ!スパイラ…」
ペガサス「今日の最強カードは【カイザー・シースネーク】デース!」
海波「!?ウルトラスーパーマイフェイバリットラブアンドライクエースモンスターではないだと!?」
ペガサス「決着をつけたモンスターを最強カードにすれば良いってものじゃ無いのデース。自分のデュエルを振り返って下サーイ。カイザー・シースネークが居なければスパイラルドラゴンは並べられなかったと思いマース。
トゥーン・キングダムを最強カードにしなかっただけマシだと納得するのデース。
さて、カイザー・シースネークは相手フィールドにモンスターがいて、自分フィールドにモンスターが居なければ特殊召喚出来るモンスターデース。まぁそのときに効果でレベルは4に、攻撃力はゼロになってしまうのですが……。特殊召喚時の効果で墓地からがレベル8の海竜族を攻守0にして特殊召喚出来マース」
海波「もちろんこの効果でカイザー・シースネークも墓地から特殊召喚できるぞ。カイザー・シースネークを釣り上げてランク4エクシーズを狙ってみたり、俺がやったみたいにスパイラルドラゴンを釣り上げてアドバンスドローのコストにしたり、もう一体出してランク8エクシーズに繋げてもいいな」
ペガサス「攻守0になることに注目して、作中同様に地獄の暴走召喚を使うのも大アリデース。地獄の暴走召喚は現在の攻撃力を見て、その同名カードですからネ。一気に2900打点が2体並ぶ、爽快デース。それと自身を特殊召喚する効果は手札からなので、スキルドレインを発動しておけばノーコストで2500打点が出マース。しかし墓地から釣り上げる効果は使えないので注意デース」
海波「それじゃあ今日はここまで。カイザー・シースネーク地獄の暴走召喚コンボ、楽しいからやってみるといい」
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