詭弁ですよ!霊夢ちゃん! (名は体を表す)
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週に何回してんの!霊夢ちゃん!

ド下ネタ注意


 俺の発言で宴会中の博麗神社の境内が凍り付く。

 

「……なんだって?」

 

 凍りついた世界の中で一番始めに動き出したのは、俺のパートナー(会話相手的な意味で)の博麗霊夢ちゃん。脇丸出しの奇抜な巫女服を身に纏った女の子だ。

 

「だから、週に何回オナニーしてんの?あ、オナニーってのは自慰の事で――」

 

「そういう意味で聞き直してんじゃないわよ」

 

「え?じゃあ聞こえなかっただけ?仕方ないなぁ、霊夢ちゃんはぁ!週にぃ!何回「そういう意味じゃないわよ!!」弾幕は止めろォ!!?」

 

 霊撃によって撃ち抜かれ地面に倒れ込む。愛が痛いなぁ……!!

 

「へ、変な事言うなっての!」

 

「変!?愛を謳うのが変ですと!?そんな、俺と霊夢ちゃんの仲じゃないか!互いの身体のホクロの数を数え合った仲じゃないか!」

 

「昔の話をほじくり返すんじゃないわよ!」

 

 追加の夢想封印(単)が俺をぶち抜く。今時暴力系幼馴染は流行らないぜ……?

 

「知るか!」

 

「おいおい、暴力系幼馴染巫女に更にツンデレまで付けたら属性過多で大渋滞起こすぜ。まあ幻想郷ならそれくらいのキャラ付けしなきゃ埋もれるから気持ちは分からなくも無いけど」

 

「アンタもうちょっと黙ってなさい!」

 

 なんかよく分からない札が俺の顔に向かって飛んでくるが、近くに居た金髪の子を盾にして回避する。

 

「むぎゅっ!!?……っ!!……ッッッ!!!」

 

 金髪の子が口に張り付いた札を指差して何かを叫んでいるが、全く何を言ってるか分からない。

 

「……おいおい、幾ら俺達が以心伝心の仲だからって口を塞ぐのにこんなお札使うなんて無粋だなぁ」

 

「避けんな!」

 

「口を塞ぐのならマウストゥマウスじゃなきゃなー?」

 

「誰がアンタとするか!」

 

「酷い!将来を誓い合った仲なのに!!結婚を前提としたお付き合いの真っ只中なのに!!」

 

「ンな事誓った覚えないわよ!!」

 

「……えっ?お、おいおい霊夢ちゃん。えー……それマジで言ってる?若年性痴呆のフリは流石にキツいぜ?」

 

「なっ……そ、その手には乗らないわよ!」

 

「嘘だろ?……なあ、嘘だって言ってくれよ。あの時俺の告白を受け入れてくれたじゃんか……本当に忘れちまったってのか……?」

 

「な、何を言ってるのよ……!」

 

「っ……そ、そうか……博麗の巫女はその高い霊能力故に記憶を無くしやすいって話は本当だったのか……。ゴメン、霊夢ちゃん……。でも、良いんだ。霊夢ちゃんの記憶から何度俺が消えようとも、俺は何度だって霊夢ちゃんに告白するよ……!」

 

「……」

 

 俺は霊夢ちゃんの手を握り、目を合わせる。

 

「なあ、霊夢ちゃん。満月の日に伝えた言葉を、またもう一度伝えるよ。俺は霊夢ちゃんが好きだ!愛してる!」

 

「っっ!!」

 

「……あー。良い雰囲気の所悪いけど、博麗の巫女が記憶を無くしやすいってのは初耳なんだけど?」

 

 空気を読まない双角のロリ鬼が手に持った瓢箪の酒をグビグビ飲みながら割り込んでくる。

 

「……へぇ」

 

「あ、あのー霊夢さん?」

 

 ついさっきまで顔を赤く染めていた霊夢の髪が逆立ち、明らかにヤベーオーラを発している。て、テヘペロ……?

 

「また……騙したのね詭弁?」

 

「は、はぁい!貴方だけの詭弁ですよ!霊夢ちゃん!」

 

 さっきまで掴んでいた手が逆に掴まれる。あー困ります困ります!指はソッチに曲がりませんですことよ!!

 

「……ちょっと気晴らしに付き合いなさい」

 

「ははは霊夢ちゃんそう言って俺を無理矢理空に引っ張り上げるのは良くない良くない良くないなぁ!!誰か救けてー!!!」

 

「問答無用!『夢想封印』」

 

「ゼロ距離夢想封印止めっ……ギャー!!!」

 

 今日もまた神社の空に散る。ふ、此処で倒れようとも第二第三の俺が……あの、二度目の夢想封印は流石に遠慮します。遠慮しますから!止めてっ!本当に死ぬっ!!死……アッー!!!

 

 

 

「……汚い花火だぜ」

 

「本当に懲りないわねあの男」

 

「顔は良いのになんでああも性格が残念なのか……」

 

 魔女三人がため息を吐く。

 

「霊夢もあんな変な男に纏わりつかれて大変そうねぇ」

 

「あらあら、霊夢も満更じゃなさそうじゃない?」

 

「何故こう……幻想郷の人間は変なのばかりなのか……」

 

 紫色を基調にした女性が呆れ、大量の料理を胃袋に納める亡霊が笑い、偉そうな幼女が血のように紅いワインを飲み干す。

 

 

 ここは幻想郷。人と妖が密接に関わる場所。そして人外染みた人間が割と跋扈している魔境である。

 




・詭弁答弁(きべん とうべん)
 10代 人間 男 口が回る程度の能力を持つ。
 イケメン、高身長、んでオープンスケベで女の子大好き。モテる男だが性格で全部台無しにしている感もある。
 空は飛べないが素の身体能力が高く、霊力や魔力を扱う才能も有り、頼まれれば何でもやる里の便利屋を営んでいる。ただ普段から里の外を歩き回っている為、里内で見かける方が少ない。


 私が書いてる別作品『詭弁ですよ!ヤオヨロちゃん!』の主人公の設定をそのまま幻想郷に持って来ただけ。尚生まれも育ちも幻想郷なので、本当に設定だけ持って来た感じ。ソッチの話を読んでいただければ主人公のキャラが理解しやすいかもですが、完全に別次元の話ですのでコッチでもキャラ詳細を書いていきます(予定)

その場合タグってどうすれば良いんだ?教えてエロい人!


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慧音先生のおっぱいはでっけーね!

前話はアレでしたが、今話から時間が巻き戻って大体紅魔郷前。


 時刻は朝。朝食を食べて一日の活力を得た俺は釣り道具一式と斧を担いで里の外に向かう。

 その道中に長くて蒼い髪が見えたので、こっそりと後ろから近づいてその大きな胸にイタズラを……しようとしたところで振り返られたので何事も無かったように普通に挨拶をする。

 

「おはようございます慧音先生」

 

「ああ、おはよう詭弁。……相変わらず里の外に出ているようだな」

 

 慧音先生が顔を顰めながら俺の背中に装備している釣り道具と斧を見る。

 

「まあ俺は戦いの天・才ですから!弱小妖怪程度相手じゃ無いっすよ!」

 

「調子に乗るな」

 

 手刀が俺の頭に落とされる。割と痛い。

 まあ、慧音先生が言いたい事は分かる。幾ら()()()から、()()()()だからと言って、子供が里の外に出る事に賛成したくはないのだろう。里の外に出れば、そこは常に『死』の危険が纏わりつくのだから。

 

 だけど、俺もいい年だ。いつまでも親の元に居ないで、独り立ちする必要がある。そして偶々、俺には外で戦う才能が有った。だから俺は、里の外に様々な物資を取りに行く。それが()()()()だったから。

 ……とは言え、だ。戦う才能があるとはいえ、運が悪ければ、気を抜けば、あっさりとその身を妖怪に食われる。それが怖くないと言えば嘘になる。誰だって死にたくないし、勿論俺も死にたくない。

 

「だから先生!俺とえっちな事を――」

 

「……」

 

 ガッ、と慧音先生の両手が俺の頭を掴み、川のように流麗な蒼き髪が舞い上がる。要するに慧音先生お得意の頭突きが俺の頭に叩き込まれた。

 

「お前は本当に……ほんっとうに変わらないな……!」

 

「んぉぁ……朝なのに星が瞬いて……ッ」

 

 慧音先生の頭突きを食らって立ってられる人間は恐らく俺だけだろう!(キリッ)

 まあ頭に防御魔法と気合いを入れていただけなのだが、ソレらを貫通してダメージを与える慧音先生の頭突きがおかしいと思うなー。

 

「いやぁ先生……冗談抜きにですね、俺ってばいつ死ぬか分からない生活してるじゃないですか」

 

「そうだと分かっているのなら何故里内で働く選択肢を選ばない?」

 

 あーあー聞こえなーい。

 

「ですから俺はなるべく未練の無いように生きてる訳ですよ。俺も男ですからね……子供の一人も残さない内に死にたくはないんです」

 

「ならさっさと嫁でも取ればいいだろう。お前相手なら幾らでも選べるだろうに……」

 

 聞ーこーえーまーせーん。

 

「ですから是非とも先生と一晩」

 

「するか!」

 

 二度目の頭突きが炸裂。俺の頭陥没しそうですわ……。

 

「そんな……だって童貞のまま死にたくないじゃないですか!」

 

「ついに本性表したな……だからお前相手なら幾らでも居るだろう。何故私なんだ!」

 

「そんな事決まってるじゃないですか!俺が慧音先生の事が好きだからです!」

 

「っ!」

 

 俺の頭をがっしり掴んでいた先生の両腕を頭から外し、胸の前で揃えて握りしめる。

 

「初めては好きな人が良いと思う事は……可笑しいですか?」

 

「っ……それは……」

 

「分かっています。慧音先生は半分妖で、俺は人間。生きる時間が違う、なんて事は……。慧音先生の重石にしかならない事は……っ。ですがっ!それでもっ!俺は……俺は……!」

 

「……本気……なのか……?私はお前よりも、遥かに長く生きているんだぞ……?」

 

「はい、俺は―――」

 

「九尾の狐にも同じ事言ってませんでした?」

 

 急に現れた声の方を見れば、凄いニコニコ笑顔の阿求嬢が立っていた。

 え、阿求嬢……貴方いつの間に……。

 

「はてはてー。確かこの前はかの花の妖怪、その前は桃髪の仙人、もっと前は人形遣いにも似たような事を言っていませんでしたかねー?私の記憶違いですかねー?」

 

 ニッコニッコと笑顔で首を傾げながら色々述べる阿求嬢。おい止めろ、稗田の『記憶違い』はちょっとシャレになら―――はっ、殺気っ!!!

 視線を向ければ怒りのオーラを滾らせている慧音先生が……ああ、怒髪天を衝くとはこういう事かぁー。成程ねー。

 

「あの、えっと……違うんすよ慧音先生。阿求嬢はちょっとした熱中症で記憶が曖昧になってるだけっすよ。あーなんか今日は暑いなー。もう夏かー!阿求嬢も水分補給をこまめにネ!」

 

「少しでも」

 

「……あー、センセ?」

 

 

 

「少しでもお前に期待した私が馬鹿だった。それだけだ」

 

 

 

 慧音先生の頭にはご立派な角が二本そびえ立っていた。おかしいな今日は満月じゃないし、ましてや今は朝―――

 

ドゴシャァッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど。要するに里の外に首から下を埋められるような覚えはない、と」

 

「ああ、朝起きてメシ食ったところまでは覚えてるんだけど……なんか気が付けばこうして埋められてるし、鳥妖怪はうるさいしで……」

 

「うーんこれは大事件の香り!『狙われた便利屋!その真相に迫る!』見出しはこんな感じですかねー」

 

「そういう訳で助けてくれ。なんか両手足が縛られてるっぽいから脱出するに出来ん」

 

「え、嫌ですよ。だって記者が事件に直接かかわってしまったらヤラセになるじゃないですか!」

 

「おいテメェ、まさかここで俺を見捨てるって言うつもりじゃねえよな?」

 

「いえいえ見捨てるだなんてそんなそんな。ただ貴方の最期を空から見守ってあげるだけですよ!」

 

「ざけんな天狗ゥ!!?いやぁぁぁ!!誰か救けてェェェ!!!!」

 

 叫び声が遠くまで虚しく響く。哀れ、俺の冒険は此処で終わってしまった。

 

 

 

「……いや、なにしてんのよ」

 

「新手の遊びか?」

 

「たすけてレイマリ!!」

 

「よし、ちょっと針投げる練習でもしましょうか」

 

「私は試作品の魔法薬の実験でも」

 

「ゴメンて霊夢!魔理沙!マジで救けて!」

 

 正午を過ぎ、日が傾き始めた所でようやく二人によって救助されたのであった。

 

 




なお天狗は詭弁が命の危機になったら助けに入るつもりだったもよう。

AQN「詭弁さんはそりゃもう()()()から色んな女の子に声を掛けてるんですよね、ええ。信じられます?妖精にすら手を出すんですよ?」
ブンブン「花の妖怪にも声を掛けたというのは本当ですか?」
AQN「ええ。花の妖怪もまさかナンパしてくる人間が居るとは思わなかったようで、終始タジタジでしたよ」
ブンブン「くっ……それは是非とも写真に収めたかった!」

小鈴「……何で阿求が全部知ってるのとか突っ込んだ方が良いのかな……?」


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紅い霧は割と迷惑!

ブンブン「便利屋って具体的に何やってるんですか?」
クズ「そりゃもう色々よ。人里の中だけで完全な自給自足は無理だから、里の外から建材用の木や岩を採ってきたり、食料を狩ってきたり、必要なら妖怪退治とかだ。後、俺や他の退治屋でもダメな妖怪被害が起きた時に博麗の巫女まで繋いだりとか、代わりに参拝しに行ったりとか。まあ本当に何でもやるよ」
ブンブン「へぇー。基本的に人里の外で活動してる訳ですね」
クズ「そゆこと」



 日差しの強い夏の日。妖怪退治のお礼として、里から大量の食糧や酒を乗せた大八車を博麗神社まで運んだ帰りの出来事だった。

 ふと見上げた西の空から紅い霧が広がっていた。わあおー。

 

「これは……異変じゃな!」

 

 瞬く間に紅い霧が世界に広がっていき、夏の日差しすら遮る程になってしまった。

 霧からは微弱な妖気を感じ取れ、放置すると何かヤベー感じがする。空の大八車を強く押し、急いで里に帰った。

 

 太陽が頂点から僅かに傾き始めた頃、里に戻ると霧は里内まで満ちていた。

 

「詭弁、戻ったか!」

 

「先生!」

 

 里内は閑散として、昼間なのに眠っているかのように静かだ。慧音先生はぐったりしている子供達を担いで、一時的に寺子屋に避難させているようだ。

 身体の弱い子供や老人が微弱な妖気を感じる紅い霧に晒されているのはマズいと判断し、先生は一か所に集めるつもりのようだ。

 

「詭弁、私は子供達を一旦集めていく!その大八車を借りるぞ!」

 

「はい!俺は先に寺子屋に簡易結界張ってきます!」

 

「頼んだ!」

 

 慧音先生に大八車を渡し、寺子屋に向かって駆ける。道中手ごろな棒を持って魔力を込めた。

 寺子屋に到着したら、寺子屋全体を囲うように魔力を込めた棒で地面に線を引く。この()は境界。線を引き終えたら、霊力を込めて言葉を紡ぐ。

 

「『排魔の陣結界』」

 

 ぼう、と線の内側がぼんやり光り出して紅い霧を弾いていく。

 その現象を確認したら寺子屋の中に入り、中で寝かされている幼い子供達に声を掛けていく。

 

「あ、便利屋のにーちゃん……」

 

「にーちゃん……大丈夫なの……?」

 

「はっはっは、安心しろお前ら!今はちょっと外が赤くなって、皆ビックリしてるだけだ!笑ってればその内何ともなくなる!皆少し外に出て鬼ごっこでもしよう!」

 

 笑いながら子供達を寺子屋の中庭に連れ出す。中庭も陣結界の内側だから既に紅い霧は排されていた。

 

「うわーメチャクチャ赤いな!こんな光景メッタに見れんぞ!」

 

「わー、スゲー……!」

 

「さあ、鬼ごっこをしようか!先ずは俺が鬼だ!皆、十数えるから逃げろー!あっ、寺子屋の外に出るなよ!はい、いーち!」

 

「きゃー!」

 

「にげろー!」

 

 さっきまでぐったりしていた姿は何処に行ったのやら、外に出て来た子供達は元気に走り出し、後からのっそり出て来た子供達も次第に元気を取り戻していった。

 

 ……これが、俺の能力。『言葉』にした事を現実に影響させる能力(ちから)だ。勿論限度はあるが、俺の言葉を聞いた人間に元気を与える事は造作無い。

 『排魔の陣結界』も、単にそれっぽい『言葉』と『陣』を用意しただけだ。簡単に準備が出来るが、多少腕に覚えのある妖怪なら難なく破る事が出来る。今はただ紅い霧を寺子屋から排除するだけだからこの程度で良かった。

 唯人が持つには過ぎた能力(ちから)。だからこそ俺は『妖怪寄り』の生を強いられている。

 

「詭弁!大丈夫そうだな……!」

 

「先生、戻りましたか」

 

 小さな子達と鬼ごっこしていると、慧音先生が戻ってきた。

 

「ああ。……しかし驚いた。こんな効果の結界をよく短時間で組めたな。子供達もすぐに元気が回復して何よりだ」

 

「そうですね。……先生、今度は里全体にこの結界を張ってきます。広いから寺子屋のより効果が薄いでしょうが、無いよりかマシです」

 

「お前は……。はぁ、無理をするんじゃないぞ」

 

「分かってますよ。先生は子供達の相手、お願いします」

 

「私からすればお前も子供なのだがな……」

 

 慧音先生の言葉には曖昧に返し、寺子屋から里の外に向かう。紅い霧は更に濃くなっていき、まだ昼間なのに辺りは薄闇が広がっているようだった。日が沈み、暗闇になる前に終わらせなければ妖怪達に襲われる確率が上がる。急がねば。

 

「……すぅー……『俺の脚は風のように速い!』」

 

 里の外を、魔力の込めた棒で線を引きながら駆け出す。この能力(ちから)で出来る事は幅広い。自己暗示による強化なんてお手の物。更に身体強化の魔法を掛けて駆け抜ける。

 それで約片時(一時間)かけて里の外周に線を引き、魔力を込める。里全体を覆う大きさの魔法陣なんてどれだけ魔力があれば起動できるのかは知らないが、これはあくまでも境界に過ぎない。弱小妖怪や或いは人間が何かの間違えで線を踏み消したとしても、効果が早々切れないようにするために魔力を込める。

 引いた線に魔力が満ちるのと同時に、俺の中にある魔力が丁度空になった。あーしんど。

 

「『排魔の陣結界』」

 

 霊力を込めて言葉を紡げば、結界は起動して紅い霧を里から排除していった。

 

「……はぁ、疲れた。後は……まぁ霊夢ちゃんが異変を何とかしてくれるでしょ……」

 

 真っ赤に染まった空を見上げながら呟く。うわー、太陽がもう全然見えねえや。

 辛うじて日が出ていると分かる程の薄闇に包まれながら里に戻ろうと―――

 

「気に入らないわね」

 

 ぞっとする程の()()が向けられた。

 手に持った棒を声のする方に投げつけた瞬間棒が弾け飛んだ。

 

「ふーん、勘は良いようね。それとも運が良いだけかしら?」

 

「……何の用ですかねぇ」

 

 臨戦態勢を取りながら狂気の発生源に顔を向けると、そこには幼き少女が()()()いた。

 里の外で活動する者達には、暗黙のルールがある。それは、『顔の良い妖怪には近づくな』だ。

 

「こんにちは、生意気な人間さん」

 

「ええこんにちわ。アナタはドナタでしょうかね?」

 

「ワタシは偉大なる吸血鬼ヴラド・ツェペシュの末裔、レミリア・スカーレットよ」

 

「初対面でいきなり嘘吐くなよ……」

 

「……」

 

 こんな言葉に関する能力(ちから)を持っている所為か、相手が嘘を吐いてるのかどうかが何となく分かる。なんというか、なんか……えー。偉大なる吸血鬼ヴラド・ツェペシュの末裔?嘘乙。

 

「……」

 

「……」

 

「それで?こっちが名乗ったら貴方も名乗るのが筋じゃないかしら」

 

「(無かった事にしやがった……)俺は詭弁答弁。一応普通の人間だ」

 

「そう。それで普通の人間如きが私の出した霧を弾くなんて、どういうつもりかしら?」

 

「どうもこうもねえよ。その霧のせいで子供達が体調不良起こしてんだよ」

 

「だから何?それがこの私に盾突く理由になると?」

 

「十分なるだろ……考えてもみろ。もし里の子供達全員が死んだらどうするつもりだ?里にはそれなりに若い男女が居るとは言え、新たに子供を産み育てるにも限界はある。ましてや子供達が死んだショックでマトモに出産できるかどうかも怪しい。そうすればいずれ若い世代が居なくなって人里は崩壊する。そして人が居なくなれば当然、人の心に由来する妖怪達も生きていくことは出来なくなるだろう。……幻想郷は終焉するだろうな。そうなったら妖怪の賢者がどう出るか……むしろ俺は怒り狂う賢者からお前を守ったんだが、礼の一つも言えないのか?」

 

 俺の言葉に沈黙するレミリア・スカーレット。霧が深くてよく見えないが、なんとなく顔が青ざめているようにも見える。

 ……まあ、半分以上は出鱈目のでまかせなのだが。まず間違いなくそんな事態になる前に妖怪の賢者が子供を何らかの方法で()()するだろうなぁ。

 

「……ん”ん”っ、まあいいわ。そんな事より唯の人間風情が私の霧を弾いたって事の方が重要なのよ」

 

()()()()?おいおい話は終わりじゃねえぞ。アンタがこの霧をいつまで出し続けるかは知らんけど、もしこの紅い霧が続くとどうなると思う?太陽の光が地表に届かなくなるじゃねえか」

 

「あら、良い事じゃない」

 

「ほう。太陽の光が地表に届かなくなるって事は、当然植物は育たなくなる。植物が育たなくなれば、草木を食べる虫や動物が餓え死に、それらを食べる鳥や肉食動物も餓え死に、当たり前だが人も皆死ぬ。それでも良い事だと?」

 

「……」

 

「草木が枯れたら、紅茶なんて飲めなくなるだろうなー。いや、そもそも紅茶を淹れる者が居なくなるな。まあ?偉大なる吸血鬼様は?そんな事になっても良い事だと言いますし?」

 

「うるさい!うるさい!」

 

 まあそんな事態になる前に妖怪の賢者が(以下略

 

「悪い事は言わんからさぁ、早いとここの紅い霧収めな?」

 

「まだ出したばかりなのに、すぐに引っ込めるような情けないマネできる訳無いでしょう!」

 

「そうか、うん……。本当に悪い事は言わないから、この霧を収めた方が良いぞ?じゃないとお前は後悔する事になる」

 

「ふん。人間に何言われても『はいそうですか』と収めるような事はしないわ」

 

「そうか……分かった。じゃあ少し昔話をしようか」

 

 

 昔々の話。まだ幻想郷の枠組みが出来たばかりの頃の話だ。

 妖怪は好き勝手暴れ、幻想郷の人間はその妖怪によって滅ぼされかけた……だが、そこでとある人間が立ち上がった。その人間は今まで一度も霊能修行を行ったことが無い()()()()()だったが、暴れる妖怪によって命の危機に瀕した時に眠っていた才能が開花した。

 その少女は天賦の才を持っていた。あっという間に暴れまわる妖怪の殆どを倒し、幻想郷を平定した。そうして彼女の力によって今の幻想郷の形、ひいては人里の礎が築かれた。……彼女の今際の際に、残った妖怪達に向けて『人里の人間を襲えば、黄泉の国からお前達を八つ裂きにする為に甦る』と遺言を残し、彼女は冥府の旅に出た。

 その彼女の魂を引き継ぎし者を、彼女の名から取り『博麗の巫女』と言い、代々幻想郷を見守っている。

 もし幻想郷を乱す者が居れば、其の物を()()()()にする為に……

 

 

「そして今代の博麗の巫女は俺と同年代でありながら、かの妖怪の賢者が『博麗の鬼才』と呼ぶほどに強い……。レミリア・スカーレット、アンタがどれだけ強いか分からんけど、死にたくなければ博麗の巫女が動き出す前に止めた方が良い……死ぬぞ」

 

「……嘘ぉ……」

 

「俺は何度も霊夢……今代の博麗の巫女な、が戦っている所を見た事があるが、ありゃぁ……ウン。俺は妖怪に生まれなくて心底良かったって思えるほどの蹂躙具合だ。少なくともどんな大妖怪相手でも霊夢に傷一つ付けることが出来るとは思えんね。こうして吸血鬼なんていう大妖怪が目の前にいても、霊夢に慣れてれば全然怖くねえもん」

 

「……私、死ぬの……?」

 

「霊夢はやべえぞ……なんせ弱小妖怪なら視線を向けるだけで滅ぼされる。多少腕に覚えのある妖怪でも一睨みで塵も残らない。霊夢が朝起きただけで幻想郷中の妖怪の一割が消え、ちょっと空を飛んだだけで山の天狗達は全て地に墜ち、霊力を込めてない唯のお札を投げつけただけで大妖怪に大怪我を負わせ、霊力を込めたお札を作ろうとした瞬間妖怪の賢者が土下座して許しを乞うレベルだからな」

 

「怖……」

 

「そんな人間居る訳無いでしょ……」

 

 俺達の頭上の()()が裂け、中から金髪の美女がぬるぅと垂れ落ちてきた。

 

「でたな隙間産業」

 

「スキマ妖怪よ。そんなニッチな商売してそうな会社みたいに言わないで頂戴」

 

「八雲紫、か……おい、なんか聞いていた話と違うぞ!このままじゃ私博麗の巫女に殺されるんだが!?」

 

「……あのねえ、レミリア・スカーレット……今の話、一から十まで全部その男のデタラメよ」

 

「……は?」

 

 心底頭が痛いと言わんばかりに額を押さえる妖怪の賢者。それとポカーンと口を開ける吸血鬼レミリア・スカーレット。

 さて、今の話的にこの異変は……まさか妖怪の賢者が一枚噛んでいる?え?やばない?

 

「ええ、お察しの通り。()()()()()()()()()()()

 

「ほぼ首謀者的なこのロリの自爆じゃぁ~ん……」

 

 やばたにえんののりちゃづけ。ヤバイ。何がヤバイって、今の()に盛大に引っかかったロリが結構な殺気を向けている&スキマ妖怪が俺を逃がす気が無いというダブルパンチ。

 なんで妖怪の賢者が異変に一枚噛んでいるのかは分からんが、きっと碌でもない事なのだろう。少なくとも、俺が今死ぬかもしれないという事に比べれば。

 

「詭弁、と言ったわね……?初対面で嘘を吐くな、なんてよく言えたわね」

 

「はっはっは、あんなに会話したんだから俺達初対面じゃなくて()()やん()()!なぁレミィちゃん!」

 

「人間如きに愛称で呼ばれるなんて虫唾が走るわ」

 

 いつの間にかレミリア・スカーレットのその右手に、紅い槍が握られていた。

 ほんの僅か魔法を齧っている程度の俺でも分かる。()()()()()()

 

「『グングニルの槍』を聞いた事あるかしら?これに狙いを定められたら、()()()()()()()()()()()()()の。コレは本物じゃないけど……()()()よ。私は()()を操る」

 

「は、はは……冗談すぎるぜレミリア嬢さんや。あ、そうだ!そんなモノよりもっといいモンあるぜ?コレ、『スペルカード』って言うんだけど」

 

「生憎、男と()()()()する趣味は無いわ」

 

「ぴえん」

 

 おい、なんか聞いてた話と違うぞ。今幻想郷で大ブームのナウなヤングにバカウケなお遊びちゃうんか。

 持っている槍先が俺の心臓に向けられる。ただそれだけでその心臓が凍り付いたかのように鋭い痛みが走った。それでも歯を食いしばって、両足で地面を踏みしめて耐える。

 

「フフフ、この槍を向けられて立っていられた人間は貴方で二人目……。有象無象なら槍先を向けられただけで地に這いつくばるわ。さあ、無様に泣き叫んで命乞いしなさい人間。そうすれば命だけは助けてあげる」

 

「……はは、命()()は、か。お優しい事で」

 

 それってアレでしょ。命(四肢欠損)でしょ。俺は詳しいんだ。

 

「そんな生き延び方なんて御免だね。例え地べたに這いつくばっても泥水啜っても生き延びるが、誰かに首を垂れる生き方なんて()()()()()だ。人間舐めるんじゃねえよ吸血鬼」

 

「威勢だけは良いのね。でも、そんなヤツはこの世にゴマンと居るわ……死に際にどんな顔をするのか見物ね!」

 

 レミリア・スカーレットがその紅槍を振りかぶる。吸血鬼ってのがどれ程の強さなのかイマイチ分からんが、幻想郷全体を妖力纏った霧で満たせるくらいには()鹿()()()存在なのは間違いない。そう、大妖怪の中でもトップクラスなのだろう。そんな妖怪に目をつけられた時点で『詰み』だったんだ、そもそも。

 ……もし、その力がトップクラスなら。当然投げる槍なんかは人間一人貫いた程度で止まる物じゃぁないだろう。俺の後ろには、里がある。()()()()。なら、せめて……

 

 ザッ!

 

「逃げようとしても無駄よ!この槍は既に貴方の心臓を捉えている!貴方が吸血鬼並みに速くとも、心臓を穿たれる『運命』は変わらないッ!!」

 

 レミリア・スカーレットが脚を一歩分踏み出す。それだけで地面が大きく揺れた気がした。構うものか。俺の後ろに、誰も居ない所まで。

 腰が捻られる。

 肩が伸びる。

 手首が曲がる。

 

 

 

 紅い槍が、神速で放たれる。

 

 

 

「■■■―――ッ!!!!」

 

 

 

 瞬間、俺の意識は消し飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お前が、何かしたのか……?八雲紫!」

 

「……いいえ。()()、何も」

 

「そう……か……(運命を()()()()()人間、か……。)くく、ふふふ、ふはははは!!!面白いッ!!!コイツはウチで預かるぞ八雲紫!」

 

「どうぞお好きに」

 

 レミリア・スカーレットと八雲紫の間には、心臓()()()()左肩が穿たれた男が倒れていた。

 




三話目にしてシリアス死しそうな主人公が居るってマ?

そして皆さん、もしかしたら察してるかもしれませんが……





割とタイトル詐欺です。すみません。

ギャグ!ギャグパートは霊夢ちゃんメインにしますから!!許して!!!お願い!!何でも(


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人間生きてりゃ割と何とかなるって良く言うじゃん?

前話のレミィは紅い霧の中だったとはいえ、お昼なのに主人公を一撃でノした実力者……強い……。
主人公、まさかのピーチポジション。


 目が覚めると知らない部屋だった。

 

「何ココ……」

 

 左肩の痛みに呻きながら辺りを見回すと、全体的に赤を基調とした洋室である事が分かる。そして部屋の中においてある椅子に座っているメイド服の少女がジッと俺を見ていた。

 

「……」

 

「……」

 

 髪は銀髪のボブカット。もみあげ辺りから三つ編みを結って、その髪の先には緑色のリボンが付いていた。

 リボンを着けているという事はオシャレさんだな!(錯乱)

 

「おはようございます」

 

「もう夜になるわよ」

 

「こんばんは」

 

「ええこんばんは」

 

 なんだろう、この子から凄い独特なテンポを感じる。ぶっちゃけタイプです!

 

「すみません、一つ聞いても宜しいですかね?」

 

「ええ、どうぞ」

 

「スリーサイズは―――」

 

 瞬間、俺の全身の皮膚を縫うように大量の銀のナイフがベッドに突き刺さった。

 

「女性にそういう事を聞くのは失礼ですわ」

 

「そうかもしれませんが、美しい女性の事を詳しく知りたいと思うのはおかしい事でしょうか」

 

「っ!?」

 

 今度はパッと煙のように……否、元から居なかったかのようにメイド少女の姿が消えた。超スピードとか催眠術とかそんなチャチなモノじゃねえ、もっと恐ろしいものの片鱗を味わった気がしたぜ。

 

「……誰かー、このナイフ抜いてってくれませんかー?」

 

 今俺の全身が銀のナイフによって固定されており、これでは起き上がる事も寝返りをうつ事も出来やしない。

 そして左肩が痛い。

 

 

 あ、やばい……トイレいきたい……!

 

 

 

 俺が左肩の痛みと尿意と格闘していた時、ようやく紅白巫女は重い腰を上げたという事をまだ知らなかった。

 

「危うく人ん家で尊厳を解放するところだった……」

 

「なんかゴメンナサイ……」

 

 そして俺は偶々部屋の前を通った妖精メイドによって救出されたのだった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 尿意から解放された後、案内してくれた妖精メイドを口説いた末に得た情報によると此処は霧の湖直近にある『紅魔館』だと言う。

 そして『紅魔館』の主は吸血鬼レミリア・スカーレットで、今紅い霧を撒き散らしている張本人だと言う。

 吸血鬼とはなんか凄い強い妖怪らしく、夜の王であり、太陽光以外ではそうそう倒す事が出来ないとか。

 

「ふんふん、他に弱点は?」

 

「あっ、あっ、流水とか、あっ、ニンニクとかあっ、あっ、炒り豆やイワシの頭とかが苦手ってあっ、あっ、あっ、あっ、」

 

 ……誤解無きように伝えておくが、単純に妖精メイドの頭を撫でているだけである。妖精は容姿も性格も子供っぽい者が非常に多く、褒めたり撫でたりがよく()()のだ。霊夢ちゃんとかは面倒になってすぐ弾幕で撃ち落としたりするけど……。

 特に俺は、自分で言うのも何なのだが『顔が良い』から大抵の子には好印象だ。その上鍛え上げた動物を撫で殺す程度の能力(ナデポ)で、ほらこの通り。

 ……しかし妖精にしては中々賢い子だな。

 

「他にこの館には誰が居る?」

 

「あっ、お嬢様の妹様とか、あっ、御友人の魔法使いであるパチュリー様とかあっ、メイド長の咲夜さんとかあっ、あっ、門番の妖怪さんとかあっ、あっ、あっ、」

 

「うん、よく分かった。教えてくれてありがとうな」

 

 頭を撫でながら妖精メイドの頬に口づけを落とす。

 

「っ~~~……ぁ」

 

 顔が真っ赤に染まり、ポシュンッ!と音を立てて妖精メイドが気絶した。

 気絶した妖精メイドは部屋にあった長椅子に運び、優しく寝かせる。

 

「……さて、何処から向かうか」

 

 僅かに復活した魔力を、左肩に集めて回復魔法(リジェネ)を唱える。僅かな魔力で痛み止めと怪我の治療を同時に行えるから割と重宝してるぜ……。

 さて、少なくとも吸血鬼レミリア・スカーレットは俺が逆立ちしたって倒せそうにない。なんせ夜の王だって言うのに真昼間でやられてるんだからな……。同じように『妹様』なる相手も吸血鬼だろうからパス。人間舐めるなって言ってたお前は何処行っただって?バカ野郎プライドだけで人間生きてけねえんだよ!

 

「となると魔法使いか、メイド長か、門番の妖怪かぁ……」

 

 吸血鬼を()()に持つ魔法使い……それってどんなヤツよ。メイド長……俺の勘が正しければ、俺が起きた時に居た子だよなぁ……あの瞬間移動?に対応できるか……。門番の妖怪……門番の妖怪……。

 

「門番の妖怪が一番情報無いじゃん……」

 

 とりあえず何故俺が生きたままこの館に連れてこられたのかが分からないが、脱出できるのなら脱出を目指すべきだろう。なら目指すべきはこの館の門&門番か。

 

「つーか霊夢ちゃん早いとこ動いてくれれば良いんだが……あの子結構呑気な所あるしなぁ」

 

 とか何とか考えながら移動していれば、凄い大きな部屋に出た。

 ……あーコレあれか。いわゆるエントランスって所か。なら必然的に館の入り口たる門&門番も近いな!出入口と思われる大きな扉に颯爽と近づき、扉を開けると―――

 

「恋符『マスタースパーク』!!!」

 

「なっ、太っ!!?キャァァァ!!!」

 

「あーこーいうパターン―――」

 

 (恐らく)門番の妖怪と紅魔館の入り口扉と共に、魔理沙が放ったであろう極太レーザーの極光に呑まれた。

 

 

 

 

「イタタ……く、やっぱり弾幕戦は苦手だなぁ……」

 

「苦手と言うわりには綺麗な弾幕だったぜ」

 

「結局負けてるんですから意味ないですよぅ……」

 

「……んぅ。感想戦は結構なんだが退いて貰えると助かる」

 

 門番の妖怪の尻の下敷きになりながらも声を絞り出す。ナイス生尻……なのだけれども、あまりこういう事を考えるのも良くないと思うのだが今の俺は割と重症だから許してほしい。重い……。

 

「っ!!?キャァッ!い、いつの間にそんなところに!!」

 

「マスパでぶっ飛ばされた時かな」

 

「うっわ、詭弁お前なんでこんなトコに居るんだぜ」

 

「こっちの台詞だ魔理沙。お前こそなんで此処に……」

 

「ん?まあ何か目ぼしい物を探しにな」

 

 でたよ天然泥棒気質……お前面白そうだからって何でも持っていくの止めろコラ。

 

「人間の命は短いんだ。なら待っている暇は無いだろ?」

 

「だからって人様の物盗っていく普通?」

 

「借りてるだけだぜ。おっと!こんな事してる場合じゃない、あいつもすぐにコッチにきそうだ!」

 

 そう言って魔理沙は箒に跨り、館の中に飛びこんでいった。

 

「元気な奴だな」

 

「……あのー」

 

 遠慮がちに緑色の門番妖怪が伺ってくる。

 

「怪我は大丈夫ですか?」

 

「怪我?まあ弾幕ごっこ用のマスパ直撃したくらいで怪我はしないよ。(慣れたし)」

 

「あ、いえ……そちらではなく左肩の方です」

 

「ん?」

 

 聞けば、俺が気絶していた際に吸血鬼レミリア・スカーレットが血だらけの俺を担いで紅魔館に入っていったのを見ていたらしい。まあ門番というのなら見てるか。

 俺はボロボロになっている服を軽く肌蹴させ、左肩を見せる。そこには大きな傷跡が残っていたが、肩に開いた穴は塞がっていた……と思ったが、さっきのアレでまた傷が開いたらしい。血が止まらねえ。回復魔法(リジェネ)自体はまだ効果が続いているから痛みは無いし、いずれ塞がるだろう。

 

「うん、軽く重症だな」

 

「『重症だな』じゃないですよ!肩に大穴開いてよく平然としてられますね!!」

 

「あー……まあ肩に穴開くくらいは慣れてるし……」

 

「慣れる!!?貴方人間ですよね!?どんな生活してるんですか!!?」

 

 どんな生活……里の外で木材や食材を集めたり、時折喧嘩吹っかけてくる妖怪相手にボコボコにしたりされたり、割としょっちゅう来る花の妖怪に全身あちこち風穴開けられたりしてる生活を思い起こす。

 

「何で生きてるんだろうね俺……」

 

「本当にどんな生活してるんですか!!!?」

 

 人間死にかける事に慣れると、色々麻痺してくるな……。魔法や霊力が使えて本当に良かった。マジで。

 

「(魔法や霊力が使えるからこそ面倒な事になっているのでは……?)」

 

「ところで俺の名前は詭弁答弁。一応普通の人間だ」

 

「えっ……あ、紅美鈴(ホンメイリン)です。紅魔館の門番やってます……」

 

「紅……中華系の妖怪かな?もしかして武術に強い系……?」

 

「え、ええ。まあ大抵の武術家には負けない程度には……」

 

「マジか。じゃあ俺を鍛えてくれないか!?」

 

「うぇぇ!?それは弟子を取るという事ですか!?」

 

「いや、時折組み手をしてくれるだけでいい。俺も見様見真似でやってるけど、キチンとしたモンを参考にした方が良いからな……」

 

 俺の戦闘スタイル的には『使える物は全てブッ込む』というタイプ。弾幕も使うし近接戦闘もするし手元に武器があればそれも使う。使える手札は多いに越したことは無いし、手札の()()は高いに越したことは無い。

 俺は霊夢ちゃんや魔理沙みたいに才能が豊富な訳じゃないし、それでも幻想郷で生き残るのなら手段を選んでられない……。空も飛べないしな。

 

「まあそれくらいなら全然……詭弁さん、何故そこまでしてガムシャラに強さを求めるんですか?」

 

「何故……か。好きになった子が人外染みた強さだから……かな」

 

 霊夢ちゃんの()()()()姿を思い浮かべる。一人で飛んで行く姿に、その背中を守りたいと思ったから……それが理由の一つかな。

 なんてまぁ、ガラじゃねえなあ……ふふっ。

 

「……」

 

「ん?どうしたメイちゃん?」

 

「(人間の、少年の笑顔に見惚れてたとは言えない……)いえっ!何でも……メイちゃん!?」

 

紅美鈴(ホンメイリン)だからメイちゃん。……あれ、マズった?」

 

「い、いえ!?ちょっと呼ばれ慣れてない愛称でしたので!!め、メイちゃんかぁ……」

 

 と、メイちゃんと話してたら突然弾幕の雨が降り注いだ。

 

「キャァッ!!?」

 

「危なっ!『守護術(ブロック)』……この霊力、霊夢ちゃん!!?」

 

 霊力を用いた防御で弾幕雨の傘を作ると、雨の向こうには霊夢ちゃんがふよふよ飛んでいた。

 

「ん?あら、妖精かと思ったわ」

 

「ちょ、(ひで)ぇ!!」

 

 霊夢ちゃんは異変解決モードのスイッチが入ってるらしく、異変によって興奮している妖精達を割と容赦ない弾幕で撃ち落としてきたらしい。

 俺の守護術(ブロック)だと人一人くらいの大きさしか守れず、メイちゃんを抱きしめるように守る。

 

「……」

 

「霊夢ちゃ……ちょ!?なんで弾幕濃くした!?周りに妖精居ないんだからもう張る必要無くない!!?ねえ!!聞いてる!!!?」

 

「チッ、夢符『封魔陣』!」

 

「なんで今ボム切ったァ!!?『衝破術(ボンバー)』!!」

 

 霊力を固めて撃ち出し、霊夢のボムに合わせて炸裂させる事で相殺させる。

 相殺した霊力がキラキラと夜空の星々のように煌めきながら紅い霧に呑まれていった。

 

「霊夢ちゃん異変解決に来たんじゃないん!?黒幕は先!この建物の中っ!!」

 

「……まあ良いわ。覚えてなさいよアンタ」

 

「えっ、私ですか!?」

 

 唾を吐き捨てながら紅魔館の中に入っていった霊夢ちゃん。……えっ、怖……。なんで?

 

「あはは……私何かしちゃいましたかね……」

 

「わ か ら ん」

 

 ただ一つ言えることは、メイちゃんのおっぱいデケェなってこと。身を寄せ合うように抱きしめてたら……そりゃぁ、ね?揉みしだきたいと思うのはね?自然なことだね?

 

 ……う、なんか急に背中に寒気が……。

 

「あの……おっぱいから手を離しませんか……?」

 

「ゴメンメイちゃん。なんか寒気がするからおっぱいで暖まるね!」

 

「さ、寒気ってちょ……あンっ!?」

 

「うぅ、今日会ったばかりなのに人の心配してくれる上、おっぱいも貸してくれるなんて……メイちゃんは凄い優しい妖怪だね……」

 

「貸した覚えないんですけどー!?ひゃぁ!?」

 

「あとお尻も借りるね」

 

「ふぁっ……!?まっ、あぁ……」

 

 直後、何処からともなく飛んできた針に貫かれて俺の意識は再び闇に落ちたのだった。

 

「ぅ……あ、き、詭弁さーん!!?」

 

 

 




ちなみに詭弁君はヒロアカ時空で使った詭弁式五指必殺は()()使えません。

門番さんはチョロインだと思う人ノ


詭弁ナデナデ被害者の会

二尾の黒猫「あの人間に撫でられたと思ったら全身の力が抜けた」
山の白狼天狗「普段真面目キャラで通ってるのにキャラ崩壊させられた」
赤いろくろ首「気がつけばあられもない姿を晒していた」
九尾の狐「あれはまさに傾国レベルだな。うん」



白兎・人狼「私はァ!?」


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異変解決ですよ!霊夢ちゃん!

夢で、神様?から「両親の御不浄を清めれば中吉。その為にあらゆる縁を一旦繋げ直した」みたいなお告げが下り、実家に帰ってトイレ掃除したら昼飯と夕飯がそこそこ豪華でした。なるほど、中吉。


詭弁君は男ですから『弾幕ごっこ』は苦手な上に積極的に行いません。
具体的には大体2~3面ボス程度の実力。


 最近凄い気絶している気がしている今日この頃なんですけども。

 

「さっき見た天井だ」

 

「あっ、目覚めましたか!」

 

 目が覚めれば紅魔館の客室に寝かされていた。

 寝ながら辺りを見回すと、門番のメイちゃんが椅子から立ち上がって俺に向かってくる。

 

「メイちゃん、俺はどれくらい寝てた?一時(2時間)くらい?」

 

「え、はい。確かに大体それくらいですね」

 

 気絶することに慣れすぎて、時間の進みが気絶していても大体察せるようになってしまったのは喜ばしいことか……?

 そしてふと、幻想郷を覆っていた紅い霧の気配が消えている事に気が付いた。

 

「メイちゃん、紅い霧の異変はどうなった?」

 

「……はい、お嬢様が博麗の巫女に敗北し、霧を収めました」

 

「そうか、やっぱりなぁ」

 

「やっぱり……とは?」

 

「んぅ……俺は吸血鬼の『本気』は知らないけど、霊夢ちゃんの『本気』は知ってるんだ。逆立ちしたってあの吸血鬼じゃ霊夢ちゃんに勝てないって思ってた」

 

「そ、そこまでですか……」

 

「ん…………んん?」

 

 少し離れた場所に巨大な妖力を感じた。この妖力はあの吸血鬼のもので間違いない……あれぇ?

 

「えっ、レミリア・スカーレットってまだ生きてるの?」

 

「えっ……そ、それはもうピンピンしてますけど……」

 

 霊夢ちゃんがあの吸血鬼を()()()()?倒し損ねた……にしてはメイちゃんも『ピンピンしてる』って言ってるし……少し待て。俺は何か勘違いしている気がする……。

 

「んにぃ……なあメイちゃん。そういえば魔理沙と『弾幕ごっこ』で勝負してたな?」

 

「え、はい。侵入者相手にはソレで勝負をつけろ、とお嬢様から命令を受けてました」

 

 そういえば、昼にあの吸血鬼に会った時に『スペルカード』を見せた時、あの吸血鬼は()()()()と言ってた。弾幕ごっこ自体、少し前に霊夢ちゃんがルールを創ったばかりだ。珍しく霊夢ちゃんが俺にプレゼントしたと思ったらタダの紙でがっかりしたのは記憶に新しい……じゃなくて。

 幻想郷全体に影響を及ぼす吸血鬼の異変に、一枚噛んでいる妖怪の賢者……はっ!その時俺の灰色の脳細胞に電撃が走るッ!!

 

「あばばばば!!!」

 

「ひっ、詭弁さん!?急にどうしたんですか!!?」

 

 脳細胞に電撃が走るというか、完全に全身に電撃が走ってる!!

 思考回路が割とショートした所で洋室の空間が()()、そこから八雲紫がぬるぅと降りて来た。

 

「ふふ……()()()()男は早死にするわよ?」

 

「っ!妖怪の賢者……何の用ですか」

 

「ば な な」

 

「忠告に来ただけよ……()()()()()に辿りついてしまった不幸を恨むことね」

 

「……貴方が詭弁さんを……っ!」

 

「ウェ~~イ」bb

 

「……『弾幕決闘』或いは『スペルカードルール』。コレが広まることで、より人と妖の間が縮まるわ。詭弁、貴方のような()()()はいずれ無用になるわ」

 

「詭弁さんが……必要悪?どういう事ですか……?」

 

「貴女は知らなくて良い事よ。『異変がスペルカードルールによって解決された』という前例は、妖怪達が簡単に人々を脅かし、人は妖怪を打ち倒する。畏れ退治する、昔のような妖と人との在り方に戻るの……()()()()()としてね」

 

「 エビフライー 」

 

「…………今までは選ばれた僅かな人間が妖怪達に『畏れ』を与え、その他の人間達は安全圏で恐怖を忘れた生活を送っていたわ。だけど、それももう限界だった。忘れられ、畏れを失った妖怪は消える定め。だけど無暗に妖怪が人間を襲っては、あっという間に幻想郷から人間が居なくなってしまう。……それを防ぐために、詭弁のように『里の外で活動する凡人』が必要だったわ……」

 

「モヤシ(裏声)」

 

「あの、そんな(シリアス)より詭弁さんはコレ元に戻るんですか……?」

 

「そ、そんな強い電撃流したつもりじゃないのよ……?」

 

 アホになった俺の頭に気を流して治療を図るメイちゃんと、両手を俺の頭に添えて何かをしている八雲紫。

 そして隙だらけになった八雲紫のドレスを捲り上げ、中身を確認するアホのフリをした(賢者を出し抜く)俺。

 

「こちら詭弁!中身確認しました、黒です!」

 

「えい」

 

 俺の頭に添えられてた両手は、妖怪特有の怪力によってそのまま締め上げられた。あー頭からミシミシいってます!あー!

 

「意地でも離すかコノヤロォ……!!!」

 

「そこは離しなさいよ!!謎の意地を張るなっ!あっちょ、止めなさいっ!」

 

 頭を締め上げられながらも更に紫のドレスを捲り上げ、下着を完全に露出。そして更にヘソの穴まで見えた。

 

「いいかぁ……っ!人間には、死ぬと分かっていても先に進まなきゃいけない時があるッ!!『Plus Ultra(プルスウルトラ)』ァ!!!!」

 

「それは絶対今じゃないわっ!キャーっ!離しなさいッ!離せッ!!」

 

 頭が割れる音がするが、ついさっきまでメイちゃんから気を流して貰ってた為か割とまだイケそう。

 更にグッと捲り上げる手に力を入れ、遂にゆかりっぱい(下乳)が見えた。

 

「やはり貴様ッその恰好ならしてないと思ったぜッ!ブラっ!!!」

 

「言ってる事やってる事何一つカッコよくないわよこのスケベ男ッ!!!!はーなーしーなーさーい!!!」

 

 刹那、俺の頭の中の悪魔(レミリア)が囁く。『YOU、()も確認しちゃいなYO!』と。

 同時に俺の頭の中の天使(霊夢ちゃん)が囁く。『ついでに胸もイっちゃいなさい!』と。

 

了解(わか)ったァ!!!」

 

「いや何がよぉ!!!?」

 

 ドレスを右手で捲り上げながら左手を八雲紫(黒)に伸ばす。抵抗するように八雲紫が左手を押さえるが、頭を締め付けてた手が離れたために俺の身体の自由が復活。そのまま押し倒すように全身を使って八雲紫を攻める。

 

「い、けぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」

 

 僅かな隙を突いて俺は遂に八雲紫の栄光(右胸)を掴み、八雲紫(黒)を引き下げる事に成功したっ!確認しましたッ金です!!!

 俺の、勝ちだァァァ!!!!

 

ガチャッ

 

「詭弁、さっさと帰るわ―――よ……」

 

 扉から現れた霊夢ちゃん(本物)と目が合う。

 刹那、俺の頭の中の悪魔(レミリア)と天使(霊夢ちゃん)が親指を立てながら消えていった。

 

 

『夢想天生(拳)』

 

 

 紅魔館から一人の人間が飛び出し、霧の湖を越え、妖怪の山を越え、幻想郷の端の端、魔界の入り口の扉に突き刺さったが、ついさっきまで広がっていた紅い霧を不気味がって、人妖神誰もが塒に隠れていた為に誰も確認していなかった。

 つまり誰も詭弁の死を確認していないから量子論(シュレーディンガーの猫)的に詭弁はまだ生きていたのである!!(暴論)

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 人里では紅い霧の異変、『紅霧異変』の解決を祝って宴会を行っていたようだが俺は参加してない。出来なかったと言おう。

 ……俺も酒呑みたかったなぁ。

 

「全身粉々で何言ってんだお前は」

 

「先生、知ってます?酒は百薬の長って言うらしいですよ?」

 

「そうか、じゃあ私じゃなくて酒に看病してもらうといい」

 

「待って先生ごめんなさい!!!」

 

 全身の骨という骨が粉々になり、立つ事もままならない俺は今自宅で慧音先生に看病してもらっていた。

 

「なんでお前そこまで全身粉々で死んでないんだ?」

 

「うーん、何でも俺は蓬莱人より不死身なんだそうで」

 

「んな訳ないだろ」

 

 人の家でタバコ吸っている白髪の少女は藤原妹紅。永遠を生きる蓬莱人なんだとか。まあ俺にとっては生まれた時から変わらないご近所さんなのだが。それと里の外での『生き方』を教えてくれた先生でもある。

 

「御免下さい」

 

「ん?誰だろう、私が出てくるよ」

 

「あ、お願いします慧音先生」

 

「また女か。詭弁お前外出るたび女引っ掛けてないか?」

 

「やー、女の子の姿をした妖怪だらけなのが悪いと思います」

 

「そう思ってんなら誰彼構わずセクハラかますの止めろ」

 

 ……入口から慧音先生の怒り声が聞こえる?

 

「どうしたんですかね」

 

「ふぅー……寝てろお前は、私が見てくる……っ!?」

 

 妹紅先生が吸っていたタバコを置いて腰をあげた瞬間、気が付けば俺を見下ろすようにメイド服を着た銀髪の少女が立っていた。

 

「やっぱり居たわね。お嬢様がお呼びよ」

 

「んぅ?お嬢様ってレミリア・スカーレットだよな……遊ぶ約束したっけ?」

 

「ただの人間相手に()()なんてしないわよ。契約ならともかく」

 

「……お嬢様」

 

 これまたいつの間にか件の吸血鬼がメイド少女の後ろに立っていた。流行ってんの?その登場の仕方。

 

「異変の終わりには宴会をするんでしょ?なのに霊夢のヤツ『詭弁が来なきゃダメ』って言うもんだから」

 

「お、宴会すんのか!行く行く」

 

「詭弁!お前自分がどういう状態か分かっているのか!というか勝手に上がりこむなんて無礼な奴等だな!!」

 

 慧音先生が大股でドカドカ駆けながら部屋に戻ってきた。

 

「勝手に上がってる訳じゃないわ?ちゃんと家主の許可は得てるもの。ねえ詭弁?」

 

「んぉ?女の子ならいつでもウェルカムだぞ?」

 

「ほら」

 

「詭弁お前!遂に子供にまで手を出したか!!見損なったぞ!!」

 

「この私を子ども扱いするなんて、お前の方が無礼だな」

 

 慧音先生とレミリア・スカーレットが睨みあう。俺の家の中で暴れんなよ。

 

「……まあいい。私は寛大だからな、多少の無礼は許してあげるわ。それよりさっさと博麗神社に行くわよ、咲夜」

 

「はい」

 

 パッ、と。いつの間にか俺はメイド少女の背中に背負われていた。いつの間に。

 

「待て、そいつは重傷人だ。勝手なマネはよして貰おうか」

 

「誰の許可を得て詭弁を連れていくつもりだ?」

 

 妹紅先生がもんぺに手を突っ込みながらメイド少女の前に立ちふさがり、慧音先生が部屋の出入口に仁王立ちする。互いの眉間に皺が寄って、臨戦態勢に入っていた。

 

「このレミリア・スカーレットがそうしたいと思えば、誰の許可なんて要らないわ」

 

「霊夢ちゃんから許可貰えなければ宴会出来ない癖に……」

 

 そう呟けばものすっごい目で睨まれた。ぴゅーぴゅぴゅ~♪

 

「慧音先生、妹紅先生。俺は大丈夫だ。むしろ博麗神社なら霊脈ど真ん中だから回復術も使える。怪我の治りも早くなるさ」

 

「く……」

 

「……俺は早々死なないよ、大丈夫」

 

 慧音先生と妹紅先生は、本当に渋々と道を開けた。

 

「最初からそうしておけばいいのよ。さあ飛んで行くわよ咲夜、詭弁」

 

「おい、俺を従者みたいな扱いで呼ぶな。あと里の中で飛ぶと霊夢が本気出してシバきに来るぞ」

 

「……里の外までは歩いて行くわよ」

 

 そうして博麗神社まで運ばれる。その道中にメイド少女……十六夜咲夜と言葉を交わす。

 

「ところで咲夜ちゃん。時々見せる瞬間移動なんだけど、なんかタネでもあるのか?」

 

「さて、どうでしょう。手品のタネをすぐに見せてはつまらないと思わない?」

 

「なるほど一理ある。だけどそれはタネを隠せる上手な手品師が言うべき言葉じゃないかな?」

 

「私は違うと?」

 

「懐中時計」

 

 ボソっと呟けば、ピクリと心臓の跳ねる感覚がした。

 

「……何故そう思ったの?」

 

「さて、どうでしょう」

 

 おどけて言えば、癪に障ったのか俺を背負ったままアクロバット飛行をしだす。

 

「ちょっと!?落ちる!落ちる!俺全身怪我してるんだからもっと優しくしてよ!?」

 

「少し回りたい気分でしたので」

 

 振り落とされないために必死で咲夜ちゃんの身体に抱き着く。あ、意外と……あれ?この感覚は―――あ”あ”あ”あ”

 

「急降下しますわ」

 

「酔うぅ!酒飲む前に色んなもん出るぅ!!」

 

 そうして博麗神社に到着した時には息絶え絶えとなっていた。

 

「(さっきの楽しそうだったわね……私も咲夜にお願いしてみようかしら?)」

 

「きべ……うわ。スゲー顔色だぜ。毒キノコでも食ったのか?」

 

「本当に連れてきたのね……まあいいわ。丁度良い感じに食材あるし、宴会始めましょ」

 




 現在の詭弁は主に肉弾戦特化ですが、小道具や武器等も多用するために咲夜が持っている懐中時計にタネがあると察せました。ただ流石に時間を止めてるとまでは思い至らなかったようです。


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宴会ですよ!

宴会の時間だオラァ!!
宴会を書くという事は、一場面当たりの喋るキャラクターの数が多いという事!書き分ける事なんて出来る訳ないだろ!!


 博麗神社の中で宴会が始まった。なお俺は縁側に転がされ放置されている。おい。

 ……まあ、霊夢ちゃんや魔理沙が寝転んでる俺に態々食べ物や酒を持ってくるような優しさを見せたら、それはそれで怖いので良いのだが。

 霊力を練って回復術を起動し、同時に魔力を使って回復魔法(リジェネ)を使う。どちらも効果的にはあまり変わらないが、併用することで早く怪我が治る。ただ霊力の回復術は何故か消費が激しいから中々使えないのだが……。

 

「詭弁さっ……だ、大丈夫です……か?」

 

「おーメイちゃん。まあ、見ての通りぴんぴんしとるぜ」

 

「どう見ても瀕死なんですけど……」

 

 メイちゃん(紅美鈴)が縁側に寝ている俺の横に、酒と小皿に持った料理を持ってきて座る。部屋の中を見れば吸血鬼と咲夜ちゃんの他に紫色の魔女?とおっぱいのデカい悪魔が居た。

 

「あぁ、あちらはお嬢様のご友人のパチュリー様とその使い魔の小悪魔ですね」

 

 (おっぱいデカい)悪魔を使役してるのか……少なくとも俺より遥かに凄い魔法使いのようだ。

 悪魔を使役する事は魔法使いのステータスの一つだと聞いた事がある。とはいえ俺の知ってる魔女二人はどちらも悪魔を使役してないし、俺は召喚しようにも妖精レベルの子であるインプしか召喚できなかった。出来る事も子供レベルだったから一晩で送還した。……やましい事はしてないよ!

 と、小悪魔を見てたら視線が合い、ニヤニヤしながらコッチに近づいてきた。

 

「あふふ、こんばんはぁ♥」

 

 こいつはヤベェ。一瞬で察せた。

 

「へぇ~、この方が()()門番さんをたった一晩で落とした男ですかぁ~。顔は確かに良いですねぇ♥」

 

「メイちゃんを倒したのは魔理沙だぞ」

 

「そういう意味ではないと思います……」

 

 うん、知ってる。

 さて、インプよりか何段かは格の高そうな小悪魔だが、何でも主人であるパチュリー・ノーレッジが住む大図書館の司書をやっているそうだ。

 

「パチュリー様が()()ですからねぇ、私は男に餓えてるんですよぉ。あふふ♥」

 

 その言葉を聞いたメイちゃんがさりげなく俺と小悪魔の間に移動する。あー、気を使う程度の能力ってそういう……。

 

「そう警戒しなくても門番さんから盗りはしませんよぉ♥」

 

「盗っ!?そ、そもそも詭弁さんは誰のモノでも無いですし!」

 

「あら、じゃあ私が()()()も良いんですかぁ♥」

 

 フシャーッ!と威嚇行動をするメイちゃん。小悪魔はニヤニヤと「冗談ですよぉ♥」と嗤う。うーん実に悪魔的。

 

「あふふ、それはともかくですねぇ♥どうです詭弁さぁん、飲んでますぅ?」

 

「あぁどうもどうも」

 

 図書館(ウチ)特製のワインですよぉ、とグラスに注がれた赤色の液体を渡される。()()()というのは聞いた事はあっても初めて飲むのだが、中々果物感のある香りだ。

 ゴクッと一気に飲み干す。ん~、渋い。

 

「……躊躇なくいきましたねぇ。普通、悪魔から渡される物に警戒とかなさらないんですかぁ?」

 

「女の子から出された飲食物を躊躇するとか失礼だろ」

 

「……あふふ♥面白い人ですねぇ♥」

 

 小悪魔はニマニマと笑いながら立ち上がり、「余裕があればパチュリー様ともお話してくださいねぇ♥」と言って去っていった。スッと来てスッと帰っていったな。

 そうしていると宴会の匂いか声に釣られたのか、妖精や妖怪が神社に寄ってきた。

 

「美味しそうな匂いがするぞー」

 

「アタイ見参!!」

 

「だ、大丈夫かな……あの巫女の居る所だよ……?」

 

 宵闇妖怪ルーミア、氷の妖精チルノ、大妖精の三体がフワフワ飛んでくる。

 

「おっ、詭弁じゃん!なにしてんの?」

 

「酒飲んで飯食ってる」

 

「アタイものむ!」

 

「手洗ってからな。お前等も」

 

 わー、と神社の手水舎で手を洗う三体。

 

「うーん、あの氷の妖精が素直に言う事を聞くなんて……」

 

「まあ一応顔見知りだからな」

 

 勿論チルノだけでなくルーミアと大妖精もだ。

 手を洗い終わったのかピューと飛んできて俺の腹にダイレクトアタック……が成功する直前に守護術(ブロック)で腹を守る。

 

「おい、俺は今怪我してるんだから止めろ」

 

「もう!女の子を抱きとめるくらいのカイショー見せなさい!」

 

「なら()()()まで成長してから出直しな」

 

 『見た目だけ子供』とかならまだしも、中身まで子供なのだから始末に負えない。

 

「貴方は食べても良い人類?」

 

「全然食べもしないだろ」

 

「私グルメだもん」

 

「小食の事をグルメとは言わないぞ」

 

「そーなのかー」

 

 そのままルーミアとチルノは部屋の中に入っていき、大妖精はビクビクしながらチルノ達の後ろについて行った。

 

「子供にも好かれてるんですね」

 

「お子ちゃまに好かれてもなぁ。俺はやっぱコレくらい育ってた方が……」

 

「ひゃっ!?」

 

 メイちゃんのおっぱいをぷにっと指先で突っつく。うん、大きい事は良い事だ。

 そうして酒を飲みながらメイちゃんをイジっているとお子ちゃま吸血鬼が横に来た。

 

「誰がお子ちゃまよ、失礼ね」

 

 レミリア・スカーレットの一部分とメイちゃんの一部分を見比べる。

 

「お子ちゃま」

 

「また私の槍に貫かれたいのかしら?」

 

「謹んでお断りいたします」

 

 手に持った酒の残りを飲み干す。

 空を見上げれば僅か欠けた月が浮いていた。

 

「知ってるか?月には絶世の美女が居るんだと」

 

「何よそれ、昔話?」

 

「んぃ、『かぐや姫』。知ってるか?」

 

「田舎の物語なんて知ったこっちゃないわよ」

 

「田舎て。まあ幻想郷は閉じた世界だからなぁ。ところで吸血鬼ってのはどういう妖怪なんだ?」

 

「ふん、まあ特別に教えてあげるわ。吸血鬼(わたし)は人間の血を吸い、目にもとまらぬ速度で空を飛び、岩も簡単に砕く力を持ち、一声掛ければ一山幾らで悪魔を自在に呼び出せるの。それに首を落とした程度じゃ死なない再生力も持っているわ。凄いでしょう?」

 

 うーん、嘘の感じがしない。つまり本当に言った通りの強さを持っているんだろう。

 

「でも霊夢ちゃんに負けたんだ」

 

「う”っ……そ、それは霊夢が強すぎただけよ。どれ程弾幕放っても掠りもしないし……」

 

 まあそれは仕方ない。霊夢ちゃんはこと弾幕戦において次元違いの強さを誇ってるし。

 

「……そういえば、なん―――」

 

 なんで『弾幕ごっこ』で異変解決を許したのか、そもそもなんで異変を起こしたのか。そう聞こうとした直前、その小さな人差し指で口を塞がれた。

 

日本(ココ)にはこういう諺があるみたいね。『壁に耳あり障子に目あり』。それと『好奇心は猫をも殺す』……だったかしら?」

 

 言外に、死にたくなければ余計な探りを入れるなと言うレミリア。

 

「異変を起こした理由は……そうね、ただ太陽が煩わしかったからよ」

 

「……そうか」

 

 まあ、どうしても知りたいという訳でも無い。この異変について阿求嬢に話をする際に知っておいた方が良いかな、程度のモンだし。

 そもそも妖怪の賢者が噛んでいるんだ。下手な探りを入れるより、さっさと忘れたほうが良い事だ。

 

 まああのこと(おっぱいとパンツ)は絶対忘れないけどね!!!!

 

 

「……変な人間ね、貴方」

 

「なんか割と言われるな……そんな変か?」

 

「ええ。霊夢とはまた違った変わり者……そう、咲夜とも違う。貴方は一体何なのかしら?」

 

「自分が一体何なのか、難しい問題だね。……まあ今言える事は、『女の子大好きな普通の人間』……かな?」

 

 魔理沙が言うには『幻想郷では普通でいるのも難しい』らしい。まあ二つ名が『普通の魔法使い』なだけはある。

 

「……やっぱ貴方変な人間ね。霊夢のように誰にでも平等な訳でも無い。妖怪を『畏れ』てるのに、死は『恐れ』ていない。それは何故?」

 

「死ぬ事よりももっと怖い事があるだけさ。おっと、それが何かは内緒だぜ?知りたかったら好感度をもっと上げてからな!」

 

 はははと笑いながら料理を摘まむ。お、この卵焼き美味しい。

 

「……貴方は……ふふ、そうね。私の従者になる気はないかしら?今なら執事の席が空いてるわよ?」

 

「えー……あの真っ赤な館で働くのはなぁ……」

 

「何よ、紅くてカッコいいじゃない!」

 

「目に悪いわ」

 

 あの紅い館で執事?嫌だなぁ……。

 

「今なら咲夜を好きにして良いわよ?」

 

「マジか!?」

 

「お嬢様……」

 

「あら、中々に良い相手じゃないかしら咲夜?」

 

「……お嬢様がそう望むのなら」

 

「満更でもないでしょうに」

 

 く、今の生活を捨てて咲夜ちゃんとイチャラブ生活……割と有りな気がしてきた……!だけどあの真っ赤な館で執事生活……ぐぬぬっ!なんて選択を迫りやがる、この悪魔っ!

 と本気で悩んでいたら陰陽玉が凄い勢いで飛んできて俺の頭に激突した。

 

「ちょっとレミリア!私の丁稚を勝手に持ってくな!」

 

「俺博麗神社の丁稚だったの!!?」

 

 結構飲んでいたのか、顔を赤くした霊夢ちゃんがズカズカ歩いてくる。

 

()()は私のよ!勝手に手を出すんじゃないわ!」

 

「やだ、イケメン……」

 

 霊夢ちゃんが俺を抱きしめ所有者宣言。これは惚れざるをえない。

 

「霊夢ちゃん大好き!」

 

「私も好きぃぃ!!」

 

 ぎゅうううっと強い抱擁(ハグ)。あーこれは霊夢ちゃんルート確定しましたわー。

 そしてそのまま持ちあげられ、神社の境内に投げ飛ばされた。

 

「いやなんでぇ!!!?」

 

「うるさい!いっつも色んな女の子にフラフラ言い寄って!!御仕置きよ!!」

 

 霊夢ちゃんはいつの間にか手に持っていた大麻(おおぬさ)を思いっきり俺の頭に振り下ろしてくる。それ打撃武器じゃないと思うんですがぁ!?

 ブンっ!と風を切る音まで聞こえてくる始末。転がる様に避ければ、今度は蹴りが飛んでくる。弾幕戦が得意だが打撃戦が苦手と誰が言ったァと言わんばかりの拳打の嵐。

 ちょ、誰か止めて!!俺怪我人なんですけど!!!身体がグシャグシャなんですけどぉ!!?

 

「あーまたやってるぜ。詭弁がどれだけもつか賭けようぜ!」

 

「ふふ、霊夢のあの猛攻に5分でも持てば良い方でしょ?」

 

「お、じゃあレミリアは5分未満だな?私は10分に賭けるぜ!」

 

「あふふ、じゃあ私は5分以上10分未満に賭けますね♥」

 

「賭けとる場合かァァァ!!!助け、たすけてメイちゃんっ!!!」

 

 半泣きになりながらメイちゃんに助けを求める。メイちゃんなら、メイちゃんなら何とかしてくれる……!

 と一縷の望みを懸けてメイちゃんを見れば、『私怒ってます!』と言わんばかりに頬を膨らませて睨むメイちゃん。えぇ……。

 

「詭弁さんなんて知りませんっ!!」

 

 そしてプン!と顔を背けて立ち去ってしまった。なんでぇ!?

 

「アンタが誰にでも好き好き言うからでしょうが!」

 

 大麻(おおぬさ)の一撃が腕を掠める。ひぃ、身体に巻いてた包帯が切り裂けたぁ。

 全身がバッキバキで動くのも億劫なのだが、もう泣き言は言ってられない。魔力を使って自分自身を人形のように操り、自身の肉体の限界以上を自己暗示で引き出す。避けられない攻撃は守護術(ブロック)で弾き、時折言葉を使って()()()()()()

 

「くっ、『右』ィ!!『下』ァ!!『守護術(ブロック)』!!」

 

「このっ、いい加減に……霊符『夢想封印 集』!!」

 

「割と酷い本気出さないで!!?『混合障壁(ダイヤシールド)』!!」

 

 魔力と霊力を多量に混ぜ込んだ障壁に俺の能力(ちから)を込める。前方の空間にキラキラ輝く障壁が現れた。

 障壁に霊夢ちゃんの夢想封印が全弾当たるが、障壁の輝きは曇らない。

 

「ふぅーっ!危ねぇなぁ!」

 

夢想天生

 

 障壁なんて知った事かと言わんばかりに、半透明になった霊夢ちゃんがそのまま障壁を通り抜けて弾幕(拳)を直で放つ。

 あ、死んだ。

 

 

 

テーレッテー テーレッテー テーレッテー

 

 詭弁、夜闇に散るッ!!!

 

 

 

「あふふ♥時間は……9分52秒。残念でしたねぇ魔理沙さん♥」

 

「ちぇー、もうちょいねばれよな詭弁!」

 

「……パチェ、今の見たかしら?」

 

「ええ……本当に()()()()()ね」

 

 言葉だけで()()する能力……研究し甲斐がありそうね、と密かに笑う七曜の魔女だった。

 




混合と金剛を掛けたギャグ。ルートはまだ確定してません。


霊力と魔力、異なる二つを掛け合わせれば爆発的に強化されるなんて当たり前ですね!!(強弁)
更に詭弁には妖力、神力と進化の余地を残している……これがどういう意味か分かるか!

え?普通の人間が妖力扱ったら妖怪化待ったなし?神力を使えるのは神様だけ?アーアー聞こえなーい。


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ありきたりな日常?

いつの間にかランキングに載ってたし、やったぜ。さあ皆感想書け定期。
サブタイトル考えるのもわりと面倒なのよね。


 宴会から明けて暫く。俺の怪我もほぼ完治し、普通に出歩けるようになった。

 そして今は阿求嬢と慧音先生、射命丸文(変装済み)を交えて先の異変『紅霧異変』の歴史の編纂中である。

 

「……という感じで、博麗の巫女は弾幕ごっこによって吸血鬼レミリア・スカーレットを打ち倒した訳だ」

 

「なるほどなるほど……私の持っている情報を裏付ける証言ですね!」

 

「ふむ、弾幕ごっこ……『スペルカードルール』か……」

 

「弾幕ごっこって、話は聞くんですけど実物を見たこと無いんですよね私」

 

「面白いですよー?鮮やかで写真映えしますし」

 

 そう言って文ちゃんは懐から写真を何枚か出し、阿求嬢に見せる。

 

「弾幕を撒き散らして空を飾る、優雅さを競う遊びです!あ、そういえばここに考案者の一人が居ましたね!」

 

「そうなのか?」

 

 慧音先生が俺を見るが、考案者と言うか遊びのルールにちょっとだけ口出した程度なのだが……。

 

「かの博麗の巫女に弾幕ごっこで勝利を収めたとか!」

 

 勝率一割切ってるのに大業に言うのはちょっと……。

 というか、そもそもそんなに弾幕ごっこで戦ってないのだが。

 

「一応霊夢ちゃんに言われてカード持ってる程度だよ……。考案者っても、『スペルカード切る時に技名宣言した方が良いんじゃねえの?』って言っただけだし」

 

 まあ、とは言えだ。女子供の遊びと揶揄されても、カード持ってるのと持ってないのじゃ里の外の危険度がかなり違う。それでも一般人には危険なのには変わらないけど。

 

「うーん流石。ほぼ毎週のように花の妖怪に襲われている貴方が言うと説得力が違いますね!」

 

「やめろ」

 

 何がイジメ甲斐あるからまた来るわね、だ。毎回瀕死になる俺の身にもなれ。

 

「……と、それで阿求嬢、他に何か聞きたいことはあるか?」

 

「そうですねぇ……あ、吸血鬼レミリア・スカーレットの事についての情報を教えてください」

 

「んぃ。吸血鬼レミリア・スカーレットは500年生きる妖怪で……」

 

 そして阿求嬢に一通り情報を伝えたら今日はそこで解散となった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 時間が経って、紅魔館の門前。そこで俺はメイちゃんと組手をしていた。

 

「ふっ!」

 

「やっ!はっ!」

 

「っづ!」

 

 メイちゃんの攻撃は、一撃一撃が()()上に速い。俺が一撃入れる間に二撃入れられ、しかも威力は俺の二倍くらい。都合四倍差だ。しかもまだ本気を出してないと来た。

 そうして防御の上から腹を蹴られ、一瞬息が止められた瞬間頭に一撃を……寸止めされた。

 

「ぐふぅ……メイちゃんの攻撃重すぎ……」

 

「『気』を自在に使えば詭弁さんももっと強くなりますよ!しかしなんと言うか……詭弁さんは回避と防御が上手ですね。普通の人間なら後半の()()に反応するのも難しいと思うのですが」

 

「目は普段から鍛えてるんでね」

 

 主に揺れるおっぱいとか風で翻るスカートの中とか見逃さないようにだけどね!揺れまくるメイちゃんのおっぱいとチラチラ見えるチャイナドレスの中ゴチです!

 

「うん、メイちゃん。今度からちゃんとブラと、あと下にズボンかスパッツ的な物を履こうね」

 

「……み、見ちゃいました……?」

 

「バッチリと」

 

「…………タイヘン、オミグルシイモノヲオミセシマシタ……」

 

 顔を真っ赤にして俯くメイちゃん。女の子の赤面顔は良いぞ(クズ)

 

「そうだ。今度一緒に下着類買いに行こうか!」

 

「はへぇ!?」

 

「何をやっているのよ……」

 

 突如音もなく現れたのは紅魔館のメイド長、咲夜ちゃん。

 

「咲夜ちゃんも下着買いに行く?」

 

「結構よ」

 

「じゃあ良さそうなの選んであげるね!」

 

「耳付いてます?……って、そんな話をしに来たんじゃないわ。詭弁さん、パチュリー様がお呼びです」

 

「んぅ、何でだ……?結局この前の宴会じゃぁ話はしてないけど……」

 

「私に言われましても。案内しますので付いてきてください……美鈴、門を開けなさい」

 

「へぁ、は、はいっ!!」

 

 混乱して目をグルグルさせていたメイちゃんが再起動し、いそいそと門を開ける。

 

「それではどうぞ、こちらへ」

 

 そうして紅魔館内に案内される。

 

「そういえば咲夜ちゃん、紅魔館の中って外観(みため)以上に大きいよね。どうなってんのこれ」

 

「空間をちょっと弄ってるだけですよ」

 

「ちなみに俺の()()()外観(みため)以上に大きいと評判―――」

 

 凄い勢いで眉間に銀のナイフが飛んできた。

 

「咲夜ちゃん?客人を殺しにくるのは不味いんではないのかね?」

 

「何故死んでないのかしら?」

 

 眉間に張った守護術(ブロック)が間に合わなかったら紅魔館の通路に紅いオブジェが出来上がってるところだぞ。

 というか、今のよく下ネタって通じた―――

 

 瞬間、俺を囲むように銀のナイフが中に浮いていた。

 

「私、裁縫も得意なんですよ。その口縫い合わせてあげましょうか?」

 

「やーいムッツリスケベー」

 

「銀色のハリネズミにしてあげるわ」

 

「はっはー。魔理沙並みの純粋さを取り戻してから言うんだなぁ!」

 

 魔理沙は凄いぞ、大抵の下ネタが通じないんだから。さっきのだって「俺の詭弁君?何言ってんだお前」ってんで、言った俺の方が恥ずかしいくらいなんだから。

 その後「私の魔理沙さん並みに広い心で―――」って言った時はもうどうしようかと。

 

「だから咲夜ちゃんも咲夜ちゃん並みの広い心で許してくれよ」

 

「今日のデザートは口煩い男のケーキね。お嬢様もお喜びになるわきっと」

 

 激おこぷんぷん丸の咲夜ちゃんが弾幕を展開し、俺は懐から()()()()を取り出した。

 

「幻世『ザ・ワールド』」

 

時止め観測(ストップウォッチ)!!」

 

 咲夜ちゃんが波紋状に弾幕を張り、懐の懐中時計に触れて()()()()()()

 

「時が止まった世界ってこうなってるのか」

 

「なっ!?」

 

 時間を止めても尚喋る俺にビックリしたのか、手に持った銀のナイフを取り落とす咲夜ちゃん。

 手品のタネは単純明快。俺の懐中時計に、予め魔法を込めていた。そして咲夜ちゃんが時間を止めると一緒に俺も止まった世界で動くことが出来る。ただ、自分から時を止めるなんて事は出来ないのが欠点だが……まあぶっつけ本番だけどうまくいったようだ。

 

「さて、時間は咲夜ちゃんだけの味方じゃないぜ?」

 

「くっ」

 

 本当に予想外だったのか動きが鈍い咲夜ちゃん。タンと床を蹴って、至近距離で霊撃を放ちスペルブレイクした。

 

「ははは、里じゃぁ『奇想天外の詭弁さん』と有名なんだぞ俺は」

 

「『奇妙奇天烈』の間違いでしょう?」

 

 口では強がっているが動揺しているのが丸わかりだ。そのままあっという間に咲夜ちゃんを撃墜し、弾幕ごっこに勝利した。

 

「……不覚をとったわ」

 

「今日から俺がご主人様だ……冗談だからそんな目で睨むなよぅ」

 

 というか、なんで弾幕ごっこすることになったんだっけ?まあいいや。

 そんなこんなあって、漸く紅魔館の大図書館に入る。

 

「広すぎひん?」

 

 限度ってものがあるだろ……と言いたくなる程上も奥も広く、同様に蔵書もとんでもない量と伺える。

 

「あふふ、遅かったじゃないですかぁ♥️パチュリー様を置いて乳繰り合ってるなんて良い御身分ですねぇ♥️」

 

「別に乳繰り合って……」

 

「やー、咲夜ちゃんがどーしてもどーしてもとオネダリしまくるからさぁー」

 

 ナイフが飛んでくるが見切って……痛いっ!曲がった!?カクッて曲がった!?

 

「煩い蝿がいるみたいね」

 

「そりゃ大変だ。本が齧られちゃう」

 

「あふふ、この図書館の本は全て保存魔法が掛けられているので、劣化や浸食程度じゃ傷一つつきませんよぉ♥️」

 

「なるほど。虫は虫でも本の虫だったか」

 

「あらお上手♥️」

 

 あふふHAHAHAと笑ってるとジトッとしたメイドの視線を感じたがあえてスルー。

 

「着いたのならさっさと案内しなさいよ小悪魔」

 

「あらパチュリー(本の虫)様」

 

 ゴウッ!!

 熱風が吹いたと思ったら、隣にいた小悪魔が跡形もなく消え去っていた。

 

「今日の私は絶好調よ。おちょくるタイミングは考えるべきね」

 

「怖っわ」

 

 ふよふよと漂うように空から紫色の何かが降りてきたと思ったら、ゆったりとした服を着た女の子だった。寝巻きかな?

 突然殺しに掛かるなんて物騒な女の子だなぁ(なお幻想郷ではわりと日常茶飯事)

 

「……いきてますよぉ」

 

 全身が焼け焦げてとても扇情的な姿をした小悪魔が、本棚の間から這いずるようにして戻ってきた。

 咲夜ちゃんを見る。小悪魔を見る。もう一度咲夜ちゃんを見る。ナイフが飛んでくる。掴んで止める。

 

「あ、ふふ……詭弁さん。その方が私の(あるじ)、パチュリー・ノーレッジ様です……」

 

「おお!貴方様がかの有名なパチュリー・ノーレッジ様であられますか!その御高名は遥か海を越えてこの極東の地にも響いていらっしゃいます!!」

 

「っ……そ、そう?なによ、貴方ちょっとは見所あるわね……」

 

 眠たげな眼を細め、口元は少しばかり緩んでいる。成程褒め言葉に弱いと見た。

 

「ここで会えたのもきっと神の思し召し!どうかこの私めと挨拶のハグを!!」

 

「ふ、ふん。本来なら貴方みたいな只の人間とはお断りだけど、今の私は気分が良いからちょっとくらいなら良いわよ?」

 

「ありがたき幸せ!!」

 

 計 画 通 り !!

 だ、ダメだ……まだ笑うな……いや、しかし……っ!

 視界の端では、一切の音を立てずにゲラゲラ笑い転げている小悪魔と侮蔑しきった目を向ける咲夜ちゃんが居るが、パチュリー・ノーレッジはそんなことに気がつかなかった。

 そして縮まる俺らの距離っ!3・2・1・ハグ!

 

 

 デッッッッッ!?

 

 

 えっ?デッッッッ?低身長なのにおっぱいデッッッッ?慧音先生よりデッッッッくない?着やせするするタイプなの?説明不要のデカさなの?無差別級なの?略してむきゅ~なの?

 これはもしや幻想郷おっぱい番付更新もあるか!?いや、まだだ……そう、これは言うなればシュレーディンガーのおっぱい!()()()()()と観測するまでは断言できないっ!観測……そう、観測しなければ(使命感)

 

「あら、感動のあまり絶句したのかしら?」

 

「そぉい!!!」

 

 パチュリー・ノーレッジの超ゆったり服の裾をバサッと一気に持ち上げ、衣服を上にひっくり返す。頭の上でキュッと結べば、さながら胸から下が生えた布袋だ。

 

「……むきゅ?」

 

 残念なことに……非常に残念なことに、服の内側は薄手のキャミソールとドロワーズで守られており、まあそれはそれで良き……じゃなかった。パチュリー・ノーレッジの全容を観測することは叶わなかったが、キャミの上からでも分かる程の大迫力おっぱいが大変おっぱいでしたので晴れてめでたく幻想郷おっぱい番付表の更新が決まりました。やったね!

 

「おめでとうパチュリーちゃん。まさかこんな小さな体に大きなおもちを御持ちになられているとは。これは間違いなく遥か海を越えてこの極東の地に『ラクト()ガール』の異名が響き渡るでしょう!」

 

 さて、おかしいな。なんで俺の両足だけが、時が止まったかのように動かないのだろうか。

 

 あれー?なぁーんか頭上にでっかい火の玉が出現してるぞぉー?あんなにでっかい火の玉が出現してるのに、背中がゾクゾクとして寒気に包まれてるのはなんでだー?

 

「貴方の敗因は……()()()()()()よ……詭弁……

 ()()()()()()単純(シンプル)な答え……」

 

『テメーは私達を(おこ)らせた』

 

「いやそれキャラ的に咲夜ちゃんの台詞じゃな―――」

 

「不可能弾幕『ロイヤルフレア』」

 

 移動縛りで弾幕ごっこっすかぁぁぁ~!!!?

 太陽が落ちてくるっ!逃げっ……れないっ!!あー困りますっ!困りますッ!!!

 死ッ……!!

 

「ン……でたまるかぁッ!!!氷の女王スカディよ、その凍てつく息吹(ブレス)で迫る厄災から守る祝福(ブレス)を授けたまえ!氷結壊(ひょうけっかい)魔法『フロストコラプス』!!」

 

 全魔力を放ち、隠し持ってた氷のエレメンタルを全て使って巨大な炎に対抗する。くっそまた集めなおしだよっ!

 炎と氷が拮抗し合い、辺りに異様な霧と魔力の残滓が飛び散る。しかも威力は向こうの方が高く、魔力制御を一歩間違えれば焼け死にマッハ。

 

「これに対抗出来るなんて大したものね、この暴挙は絶対に許さないけど」

 

その(服がひっくり返されて頭上で縛られてる)状態で喋らないで!?」

 

 やっといてアレだけどちょっとその姿面白すぎない?

 あ、制御ミスっ―――

 

「ア”ーッ!!!!!!!」

 

 視界が炎に染まり……俺は意識を失った。

 

 

 

 

「あふふ♥あんなに(はしゃ)いでるパチュリー様なんて初めて見たわぁ♥」

 

「チッ、まだ息がありますねこの男。トドメを刺しますか?」

 

「……やらなくていいわよ、別に。……ふん、炎と……雷のエレメンタル、ね。コレの代わりに命は取らないであげるわ。小悪魔、適当に介抱してあげなさい」

 

「はぁい♥」

 

 

 

「あふふ~♥まさかまさか、こぉんな()()の男が転がり込んでくるなんて♥あぁ……楽しみだわぁ♥」

 




もっと……もっと感想を書くのです……。
ところでスカートやワンピース的な衣服を捲り上げて頭上で縛るヤツって何か名前あったりします?もっと多種多様なソレを見たいのですが、検索方法がわからん。


・エレメンタルってなんぞ?
クズ「いわゆる『属性の塊』の様なモノだ。俺はソレが無いと属性魔法の威力がカスになる。今の所氷、炎、雷の三種が見つかってるぞ」
魔理沙「属性の塊、つまり超自然的な物の結晶だから妖精と相性が良くて、妖精達が隠し持っている事が多いぜ。ただ私は妖精から集めるのは面倒だから隙を見て詭弁から盗……借りてっているぜ」
パチェ「私はそんなの無くても属性魔法は使えるけど……まあ用途は色々あるわ。ウチの妖精メイドたちも集めてくればいいのに」

・おっぱい番付とは?
幻想郷で人妖神関わらず密かに測定され続けた胸囲度(きょういど)をランキングにした物がもの凄くひっそりと回っている。胸囲度(きょういど)は大きさ、柔らかさ、ハリ、身体との比率で決まり、古今東西のおっぱいが図解付きで説明されている。
その歴史は古く、幻想郷が始まって以来ずっとコッソリ続いてきた。番付表の製作者は代々変わっていき、時に人間、時に妖怪がその作製に関わってきたそうな。
今までは服の上から見た揺れ方や湯浴みを覗く等によって得られた情報ばかりだったが、最近の番付表には実際に触れたかのようなコメントが添えられており、ひっそりながらも爆発的な販売量を誇っている。
尚この番付表の製作者は機密保持のため、その正体は謎に包まれている。

・???程度の好感度
霊夢ちゃん:目の前で他の女とイチャつかれると夢想封印撃ちたくなる程度の好感度
魔理沙:コイツ小さい頃から全然変わってないなーって程度の好感度
慧音先生:普段から真面目にしていれば、まあ私だって……その、吝かではないぞ?程度の好感度
もこたん:色んな意味で気になる弟程度の好感度
メイちゃん:詭弁さんの事を考えると胸が苦しい……程度の好感度
咲夜ちゃん:他人と呼ぶには近過ぎる距離程度の好感度
レミィ:アイツが死ぬ前にはモノにしたいわね……程度の好感度
パチェ:ちょっとは興味あるわね……ほんのちょっとよ?程度の好感度

AQN:じ…………………………………………と見てるだけで満足な程度の好感度
八雲紫:■■■■■程度の好感度
小悪魔:うふふ、うふふふふふふふふははははひはははいひははいひあひあひははあははあはははいひはいあいはいあははいははうふふははふふははははあははふふふひはは


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歩く死亡フラグ?はっはっはそんな奴居るわけ……

前回のスカートを頭上で縛るヤツ、あれ茶巾ズシと呼ぶそうですね。教えてくれてありがとうございますエロい人!
お陰でばあちゃんの病気が治りました!


「あふふ♥️あふふふふ♥️詭弁さん♥️詭弁答弁さん♥️あぁ……あの巫女なんかよりも遥かに()()()()()()の魂……穢したいわぁ♥️ぐちゃぐちゃにしたいわぁ♥️永遠に私だけの所有物にしたいわぁ♥️……でも、()()()()()()よ……もっと、もぉっと魂が育つまで待つの……♥️今はまだマーキングしておくだけにとどめるのよぉ……あふふふふ♥️」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 茶巾ずしィ!!!?

 はっ、夢か。

 

「あふふ、起きましたかぁ♥️」

 

「あぁ……うん…………なんで俺裸に剥かれてんの?」

 

「あふふふふ♥️とても素敵な一夜でしたわぁ♥️」

 

「ン何をしたァ!!!」

 

 目を覚ませば図書館の一角。そのソファの上で何故か全裸で寝ていた。服返せこら。

 

「あふふ、冗談ですよぉ……詭弁さんの服はパチュリー様の魔法で焼けてしまいましてぇ。図書館にはパチュリー様か私の替えの服しか置いてないんですよねぇ」

 

「なんと、女装して家に帰ることになるとは……」

 

 まあ?俺ってば中性的なイケメンだし?女物でも着れば似合う事は硬貨を投げて表か裏が出るくらい当たり前な事実だし?

 

「わりと乗り気なんですねぇ……」

 

「冗談だ、じょーだん……半分くらいは」

 

 まあ本当に着るとしても咲夜ちゃんのメイド服やメイちゃんのチャイナドレスの様なものは流石にキツい。主に絵面的な意味で。

 その点パチュリーちゃんや小悪魔の着ているような服なら足とかは出ないからわりと平気そうだ。

 

「まあ、見映えさえ気にしなければわりとどうにでもなるし……『魔力紡績(マギスパイダー)』」

 

 魔力で糸を紡ぎ、糸から布を織る。人形遣いから教わった糸の魔法をアレンジし、魔法の服を造り上げた。

 魔法の服……なんて、名前だけなら強そうなものだが実際は不純物だらけの魔力糸で織った布だから色がくすんでみすぼらしい印象。ちゃんとした魔法使いならもっと高純度の魔力糸で、色合いも綺麗になる。

 

「……まあ、俺に服飾の才能は無かったということで」

 

「あふふ♥️原始人みたいですねぇ」

 

 くすんだタンクトップに腰ミノ……『最低限以下』を行くスタイルは、いくら俺がイケメンだからといっても許される服装じゃなかった。

 咲夜ちゃんが突如現れ、物凄いしかめっ面しながら燕尾服一式を持ってきた。有るんならもっと早くだな……

 

「貴方が紅魔館の執事に形だけでもなることが耐えられないだけよ」

 

「またまた~素直じゃないんだからーもー…………んぃ、着替えたよ。似合う?」

 

「さっきの野蛮人姿と比べれば遥かにマシね」

 

「『一緒に働くならやっぱりこの格好が良いわね』?」

 

「貴方耳何処に付いてるのよ……」

 

 何故か大きさがぴったりな燕尾服に袖を通し、小悪魔と咲夜ちゃんに一礼。ついでに咲夜ちゃんの手をとり、その甲に口付けを落とす。

 

「何かご用命が有れば何なりとお申し付け下さい、お嬢様」

 

「っ!」

 

 パッと瞬間移動したかのように消える咲夜ちゃん。

 

「あふふ♥️女誑しですねぇ♥️」

 

「特技ですから」

 

「いつか背中を刺されますよぉ♥️」

 

 刺される程度で済めば良いけどな……まあ、女の子を口説くのはライフワークなもんで。

 

「んぃ、それで……俺はそもそも何で図書館に呼ばれたんだ?この格好で社交ダンスでもすれば良いのか?」

 

「あふふ、運動不足のパチュリー様相手は難しいですよぉ?いえ、そうではなく。パチュリー様が貴方に興味があるそうでぇ」

 

「俺に興味ねぇ……。まさかパチュリーちゃん、あれで面食い?予想外にも程があるな」

 

「ち が う わ よ !!」

 

 噂をすれば影と言うように、パチュリーちゃんが怒鳴りながら俺達の所に飛んできた。

 

「面食いじゃない?……もしかして、身体目当て!?」

 

「違ーう!!あんたの能力が気になるから呼んだのよっ!!」

 

「……やっぱり身体目当てじゃないか!!」

 

「その言い方止めなさいっ!ゲホッゲホッ……ヒュッ、ヒュゥ……」

 

「パチュリー様、大丈夫ですかぁ?急に叫んだりするから……」

 

「さ、叫ばせるコイツのせいでしょ……ゴホッ」

 

「んぉ~う、もしかしなくても喘息か?……専門じゃないが俺は医者もやってる。パチュリーちゃん、一旦目を閉じて心を落ち着けて……ゆっくり息を吸うんだ」

 

「ひゅっ、ゴホッ……スゥ……」

 

「息を吐いて……ここは空気の済んだ森の中。暖かな木漏れ日が優しく自分を照らしている……息を吸って」

 

「……スゥー……」

 

「済んだ空気が自分の中の悪い気を洗い流し、代わりに良い気が肺から全身を巡っていく……息を吐いて」

 

「はぁー……」

 

「森の空気が肺の細胞一つ一つに染み渡り、自分の肺を大きく広げていく……息を吸って」

 

「すぅー……」

 

「悪い気は全て洗い流され、次に息を吐く時には身体はすっかり元気を取り戻している……息を吐いて」

 

「はぁー……」

 

「……はい、処置完了。パチュリーちゃん、目を開けて良いよ」

 

「……すっかり調子が良くなったわ……不思議ね」

 

「あふふ、凄い手腕ですねぇ♥️専門じゃないと言ってましたが、外科の方が得意ですか?」

 

「いや、『医者が』専門じゃないという意味だ」

 

「ヤブ医者じゃないの!!!」

 

「んぃぃその通り。里で一番有名なヤブ医者(quackdoctor)とは俺の事よ」

 

 quackは英語で『ガーガーうるさい』という意味でもある。つまりそういうことだ。

 病は気から。大抵の病気は何とかなるし、怪我も回復魔法を使えば大抵間に合う。勿論()()()()じゃ限界もある。まあ、それでも大体は()()()()()を薬草と言って飲ませたり、()()()()()()()を一緒に行ったりすれば何とかなる。

 

 実際それで効果有るんだから真っ黒とか言うな!

 

「さて、落ち着いたところで……俺の身体目当てのパチュリーちゃんは何をしようってんですかね」

 

「だから身体目当てじゃないって言ってるでしょ!!!」

 

「パチュリー様ぁ、無限ループってご存じですぅ?」

 

「パチュリーちゃんなら治療費は『1おっぱい』でいいぞ!」

 

身体目当てはアンタじゃないのッッッ!!!!ヒュッッ!!?」

 

「あらぁ……これは……」

 

「……さて」

 

「ヒュッ……カヒュ……」

 

 1.もう一度森林回復呼吸治療

 2.胸部圧迫療法

 3.人工呼吸

 

「どれを選ぶっ!!!?」

 

「面白そうな三番でぇ♥️」

 

「私で遊ぶなッッッ!!!」

 

 

 本日の治療費 2おっぱい

 

 

「こんなの詐欺よ詐欺ッ!」

 

「パチュリー様ぁ。また叫ぶと喘息発症しちゃいますよぉ?」

 

「ぐっっっぬっっっ……!!」

 

「ん~……どーしてもおっぱいがダメなら、まあ別の物でも良いよ。しょうがない」

 

「ふん!金でも魔力結晶でも賢者の石でも言ってみなさいよ!」

 

「ん?今何でもって」

 

「言ってないわよ!!」

 

「じゃぁ『パチュリーちゃんが読んだこと無い魔導書』を10冊程」

 

「……ん?」

 

「勿論一回の治療費が10冊だから、二回で20冊『パチュリーちゃんが読んだこと無い魔導書』を見繕って貰おうかな!当たり前だけど()()じゃなくて()()だから魔導書をどう処分しても文句言わないでね!最悪()()()渡してくれた魔導書の中身をパチュリーちゃんが知ることはなくなるけど、別に良いよね!」

 

「良いわけないでしょ!?な、なんでそんな……アンタにちょうど良い感じの魔導書なら幾らでも見繕ってあげるわよ!」

 

「ダメ。『パチュリーちゃんが読んだこと無い魔導書』じゃないと。と言う訳で小悪魔サン!適当に良いの見繕ってきて!出来れば神話級にレアで読む気も起きない位えげつない位分厚いヤツ!!」

 

「はぁい♥」

 

「ま、待ちなさいっ!待ってっ!」

 

「んもぉ!ワガママばっかだなパチュリーちゃんは!おっぱいは嫌、魔導書も嫌、じゃあ治療費は何で払う気なんだ!」

 

「だ、だから金塊とか、貴方レベルに合わせた魔導書とか出すって言ってるでしょ!?」

 

ちっ(tsk)ちっ(tsk)ちっ(tsk)……パチュリーちゃん、世の中の原理は()()()()だよ。魔法でボロボロ生み出せる金塊や、手離しても惜しくない本で対価を払おうなんてちょぉっとムシが良すぎないかなぁ?……ぶっちゃけた話、俺はただパチュリーちゃんのおっぱい揉めるかもしくはパチュリーちゃんを困り倒したいだけなんだよ!」

 

「想像以上のクズ男じゃないの!!!」

 

「パチュリー様、喘息ぅ」

 

「―――っ!……ふぅー……」

 

「おっぱいは嫌、魔導書は嫌、じゃあしょうがないなぁ。ここは()()()()にしてあげようか」

 

「っ!?」

 

「うんうん、この()()の利子が膨れて膨れて……満期になった辺りで一気に返してもらうねっ!と言う訳で小悪魔サン!契約書を持って来てっ」

 

「はぁい♥」

 

「待っ!?ってか小悪魔貴方どっちの味方よ!!」

 

「あふふ♥私は常にパチュリー様の味方ですよぉ♥契約の範囲内でですが♥」

 

「クソッ!!悪魔種特有の快楽主義者がっ!!」

 

「ぱっちぇさん口汚いなおい」

 

 世の中の原理は()()()()。特に『魔法使い』という種族は等価交換にうるさいのだそうだ。人形遣いが言ってた。

 さて、そんな魔法使いに『貸し一つ』なんて言う超曖昧なモノを交換すると……こうなる。

 

「う……くっ……うぅ……」

 

「わぁ♥パチュリー様の表情筋が今まで見た事も無い程に動いてますぅ♥」

 

 おめめがぐるぐるしてるぱちゅりーちゃんはかわいいなぁ!!!

 小悪魔がもの凄い良い笑顔で親指を立てる。心なしか肌がツヤッツヤになってる気もする。

 

「(知識を尊ぶ魔女が、その知識を得る機会を手離す?ありえない……!なら、貸し一つ……駄目っ!このクズ男に何を要求されるか分かった物じゃないっ!な、なら要求が分かっているモノに、つまり()()()()()とやらで対価を払う……しか……無い……っ!!)」

 

「(―――なんてパチュリー様は考えているんでしょうねぇ。選択肢としては()()()()()物なのに、更に後から()()()()()()()()()()()()()を提示することで最初の選択肢が良い物に感じてしまう……あふふ♥世間知らずの引きこもり魔女を騙すその話術、人間にしておくには勿体ないですねぇ♥)」

 

「(―――そう、俺の目的はただ一つ。『パチュリーちゃんのおっぱいを存分に揉みしだく事』ッ!!!!あの胸、男なら揉まずに居られるかッ!閻魔が怖くて嘘が吐けるか(セクハラ出来るか)ってんだ!!)」

 

 ―――ちなみに詭弁は、喘息で悶えるパチュリーを落ち着かせて深呼吸させただけである。それだけでおっぱいだって?何のことは無い、最初っから()()()()なんてモンに喧嘩を売ってただけだった。

 

「くっ……分かったわ。治療費はおっぱいで払えば良いんでしょう……っ!」

 

「「 いよっしゃぁ!!! 」」

 

「いやなんで小悪魔まで拳握るのよっ!」

 

「あっ、つい……あふふ♥」

 

 そうと決まれば早速おっぱいの準備である。小悪魔の魔法によって大変雰囲気のある(ピンク色の天蓋付きキングサイズ)ベッドを用意してくれたので、パチュリーちゃんをそのベッドに寝かせた。

 

「お……おぉ……少し前にしっかり見たとは言え、服を押し上げているあのボリュームはヤベェな……」

 

「あふふ、ですよねぇ♥パチュリー様ってばあのようなゆったり服しか着ないので、初めて出会った時は妊婦かと思いましたよぉ♥」

 

「小悪魔、貴方後で覚えてなさいよ……(あれ、そもそもなんで私おっぱい揉まれる事になったんだっけ……?)」

 

 そしてパチュリーちゃんのほっそい腰を跨るように上に乗り、逃げられないように両脚でしっかりパチュリーちゃんの腰を挟む。

 

「(……今の私の状態って、もしかして……性行為(セッ○ス)……直前……?)っっっ!!?」

 

 急にパチュリーちゃんの顔が真っ赤に染まった。えっ、なんでこのタイミング?

 

「あふふ♥パチュリー様は耳年増の処女(好奇心旺盛)ですから、いつか読んだ艶本に今みたいな状態が書いてあったんじゃないんですかねぇ♥」

 

「つ、艶本?……え、つまりパチュリーちゃんは、この()を想像したって事!?」

 

 俺がそう言った瞬間、パチュリーちゃんの耳と首もとまで真っ赤に染まった。スカーレットデビルってお前の事だったのかよぉ。

 ……というか、マジか。今の状況を見れば、大変雰囲気のある(ピンク色の天蓋付きキングサイズ)ベッドの上で身体を合わせている男女一組+α。あ、何か俺もちょっとヤバい……。

 

「……?どうしたんですかぁ?パチュリー様のおっぱいを揉みしだかないんですかぁ?ペッティングしないんですかぁ??」

 

「ペッティングとか言うなよ!生々しいだろっ!」

 

 馬鹿野郎お前ここぞという時のヘタレ方舐めんなよお前。伊達にこの年まで童貞じゃねえんだぞコラァ!!

 あ、やば。俺の詭弁君が勃っ―――

 

 思わず腰を浮かしてしまったら、パチュリーちゃんが俺の腰に両手を添えてきた。

 

「あふふふふ♥パチュリー様もなんだかんだ言って受け入れてるじゃないですかぁ♥誘い受けですかぁ?」

 

「あっ!?ち、違うのよこれは!?」

 

 あ、あー……これはアレですわ。もうあれですわ。つまり今日が卒業式だったんですね。悪いな、里の悪ガキ達。一足先に大人になるぜ俺は。

 

 詭弁っ!イっきまー(キャスト・オフ)―――

 

禁忌「クランベリートラップ」

 

 瞬間、小悪魔に首根っこを引っ張られベッドから引きずり落とされた。

 その直後、身体を掠める(グレイズ)大量の弾幕が過ぎ去っていった。

 

「ちょっとー、小悪魔風情が私の邪魔しないでよ」

 

「……あふふ。詭弁さん、貴方一体どんな星の下に生まれたんですぅ?」

 

「――っ、妹様!?いつの間に地下から……」

 

 一瞬でズタボロになったベッドから顔を覗かせれば、弾幕が放たれた方向には赤い洋服に身を包んだ10にも満たないような幼い子が立っていた。

 そして、その子の背中には七色の結晶と、それらを繋ぐ枝の様な翼が生えていた。

 うーん、あの身から感じられる妖力と魔力、そしてパチュリーちゃんが言った『妹様』。これは……アレか。レミリア・スカーレットの妹って奴か。

 

「そいつ、パチュリーを襲ってたんでしょ?なんで守ろうとするの?……あっ、分かった!小悪魔はそいつに()()されたんだね!」

 

 そう言って手に持った悪魔の尻尾のような杖を振り回し、小悪魔の頭に振り下ろした。

 

()()()()()()()()()ってね!」

 

「ヒィッ!!?」

 

 小悪魔を抱き寄せ、入れ替わるように杖の軌道に入る。

 

「『混合障壁(ダイヤシールド)』!!」

 

 霊力と魔力を込めた障壁で杖の一撃を防ぐ。その一撃は、障壁を貫きはしなかったものの衝撃を止めきる事は出来なかった。左腕の表皮が大きく裂ける。

 

「っ!!くっそ、コレだから能力(スペック)差がある種族は!」

 

「あははっ!貴方が誰だか知らないけど、私の一撃を受け止めきれたのはそんな居なかったわ!」

 

「そもそも本気で暴れたことあるのかお前さんはよぉ!」

 

「んー。よく考えたらそんな無かった」

 

「イマドキ手加減も出来ないと遊び相手に困るぜ?」

 

「別にいいもん。私いつも地下室にこもってるし」

 

「お前も引きこもりかよ……この館引きこもり率高くねぇ?」

 

「そんな事知った事じゃないわ。ねえ、そんな事より貴方人間?初めて見たわ」

 

「お前も吸血鬼なんだろ?なんで人間見たことないんだよ」

 

「だって今まで人間なんて飲み物の形でしか見たこと無いの。良くあるでしょ?」

 

「なるほどな。最近の子供は切り身の状態でしか魚を知らないみたいなもんか」

 

「私は()()の子じゃないよー。495年は生きてるし」

 

「495年引きこもってれば生まれたての子供と変わんねえだろ」

 

「じゃあ貴方は生まれたての子供に負けるのね」

 

「ズルい手使ってでも勝つのが大人ってモンだ」

 

「あはっ!じゃあ正々堂々勝ってあげる!」

 

 そうして吸血鬼が大量の弾幕を放って来た。

 さぁーてイキったのは良いが、小道具の類はパチュリーちゃんに燃やされてほぼ無し。今着ている燕尾服は多少丈夫程度しか効果がなさそうだ。これは敗戦濃厚かなぁ……。

 小悪魔は弾幕戦が始まる少し前に離脱していき、パチュリーちゃんはかなり離れた所で様子を窺っているのが見えた。

 

 さて、これは……()()で当たるべきだな。小声で自分に暗示をかけ、更に身体能力を上げて図書館内一杯に広がる弾幕の嵐に立ち向かった。

 

 

 




口だけでパッチェさんをだまくらかした詭弁がパッチェさんに跨る?死刑。
これが等価交換だ。覚えておけ。

幻想郷において歩く死亡フラグは……思い当たるヤツ結構いるな。

まりちゃん「詭弁お前医者の真似事なんてすんのか」
クズ「何でも屋なのでなんでもします!」
うどん「催眠術とかも……」
クズ「なんでもします!」
みょん「えっちな按摩とかも?」
クズ「なんでもします!」
フルーツ「神様と信仰ックスも!」
クズ「な ん で も し ま す !!」

霊夢「詭弁?分かってるわ・よ・ね?」
クズ「ごめんなさい!何でもはしません!!!」


あ、ちなみに『1おっぱい』とは大体10分くらいおっぱいを揉むことです。一説によれば一日10分おっぱい見ると寿命が延びるのだとか。なら揉めばもっと寿命が延びるね!!詭弁は長生きだ!
現金に換算すると?幻想郷の少女達のおっぱいを10分揉み放題の権利を現金に換算するの?本気かよ。


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悪魔の妹、襲来!

戦闘描写は難しいですなぁ


 戦い(遊び)が始まって暫く。俺は未だに無傷(ノーミス)で弾幕を避け続けていた。

 

「もー!ちょろちょろ鬱陶しいなあ!!禁弾『スターボウブレイク』」

 

 相手がスペルカードを切ってきた。

 虹色の雨のような弾幕が降り注ぐが、弾幕の密度としてはまだまだ甘い。弾幕を縫うように移動し、霊撃を放つ。

 

「弾幕ごっこなら一日の長が俺に有るようだな」

 

「空も飛べないくせにっ!」

 

 二次元的な動きで避けるのはもう慣れっこだ。……とは言え、身体を強化していなければ避けきれず弾幕に撃ち抜かれているだろうが。

 俺の放つ弾幕は槍のように鋭く雨を貫き、相手のスペルカードを撃破した。

 

「飛ぶ鳥を落とす勢いとはこの事」

 

「私は鳥じゃなくて吸血鬼だよっ!禁忌『レーヴァテイン』」

 

 赤く燃え盛る剣を生み出したと思ったらそれを振り回し始めた。

 剣の軌跡に沿うように炎の弾幕も放たれる。

 

「真っ二つになっちゃえ!」

 

「不死身の詭弁さんと言っても燃やされるのは駄目だっての!欺曲『捻くれ詐欺師の舞台演目』」

 

 俺の指先から大量の魔力糸を放ち、その辺の本棚に入っていた分厚く重い魔導書に繋がる。

 沢山の魔導書をまとめて振り回し、赤い剣と撃ち合う。

 

「重っ!?」

 

「あは!人間って脆弱なのね!」

 

 拮抗は一瞬。振り回した魔導書が弾かれて宙に舞い、赤い剣はそのまま二撃目を振り下ろす……寸前に、宙に舞った魔導書から大量の()()()()()()()が放たれた。

 

「えっ!?曲が……キャッ!」

 

 レーザーを見て回避しようとした七色の吸血鬼は、回避した先に曲がってきたレーザーに撃たれて手に持っていた赤い剣を取り落とした。

 んにぃ、戴きっ!

 

「あぁっ!!?ヒトの物盗ったらドロボウよ!」

 

「お前『人』じゃないだろ!」

 

 指先の魔力糸に繋がった赤い剣を魔導書と同じように振り回す。

 魔導書からは曲がるレーザー、赤い剣は燃え盛る弾幕を撒き散らして相手を追い詰めていく。

 

「やってくれるわねっ!禁弾『カタディオプトリック』」

 

 燃え盛る赤い剣は黒い枝のような杖に戻り、大量の弾幕が図書館いっぱいに暴れまわる。

 駆け回って避けながら魔導書からレーザーを放つが、壁に反射するような弾幕に魔導書が全て撃ち抜かれてスペルブレイク。

 

「本は大事にしてー!!」

 

 パチュリーちゃんが何か言っているが聞こえないふりをする。俺の()()()をほとんど焼いた自分を恨んでくれ。

 

「あははははっ!人間って丈夫なのね!お人形遊びよりも遥かに面白いわ!禁忌『フォーオブアカインド』」

 

 急に笑い出したと思ったら吸血鬼が4人に分身した。

 

「禁忌『カゴメカゴメ』」

「禁忌『恋の迷路』」

「禁弾『過去を刻む時計』」

「QED『495年の波紋』」

 

 ……は?

 

 ……は???

 

「そんなん有りかよぉぉぉぉぉ!!!!?」

 

 弾幕の濃度が急に四倍になり、視界いっぱい……否、図書館いっぱいに弾幕が溢れだす。死ねと。

 踵を返し、とにかく相手から離れる為に走り出す。弾幕の雨どころか弾幕の濁流だあんなモン。避けられるかっ!

 

「あははっ!鬼ごっこ?」

 

「何処に逃げようって言うのかしら?」

 

「速さなら負けないよ!」

 

「捕まえてグチャグチャにしてあげる!」

 

「逃がす逃がさないじゃない!()()()んだよぉ!!『閃光魔法(フラッシュ)』!!!」

 

 ビガッ!!と魔法の光が吸血鬼の目を焼き、視界を眩ませる。

 だが無差別に放たれる弾幕に一切の衰えは無かった。逃げながら針の穴を通るように弾幕の極僅かな穴に退避し続け――

 

「いや無理っ!『混合塊(ダイヤモンドブロック)』!!」

 

 霊力と魔力を混ぜ合わせた立方体の弾幕を大量に放つ。『弾幕をはじく特性』を持つコレを作るのは非常にしんどいが、効果は抜群。弾幕の濁流と衝突して弾かれまくっているものの破壊はされていない。

 弾幕を弾きまくって作った時間で魔法陣と()()を込める。

 

「『退魔の咆哮!』」

 

 魔法陣が浮き上がり、そこから極光の極太レーザーが放たれる。

 極太レーザーは射線上にあった弾幕全てを飲み込み、その先に居た吸血鬼達を薙ぎ払っていった。

 

「はぁ……はぁ……めっちゃしんどい……」

 

 威力的には魔理沙のマスパと同程度だというのに、片や連発出来るくらい、俺は一発限りの切り札。この差は何だってんだちくしょー。

 極光が通り過ぎた後に残ったのは、ボロボロの姿をした吸血鬼だけだった。

 

「私が負けるなんて……聞いてた話と違うわ」

 

「『人間は弱い物』ってか?残念だったな、悪魔や怪物を出し抜くのは人間の役割なんだよ。いつだってな」

 

「そういえばお姉様も人間にやられてたわね」

 

「……おっと、自己紹介してなかったな。俺は詭弁答弁、割と普通の人間だ」

 

「フランドールよ。また遊びましょ?」

 

「勘弁してくれ……今度遊び応えありそうなヤツ紹介してやるから」

 

「本当?約束よ!」

 

「分かった分かった。(悪魔相手に約束かぁー……)」

 

「嘘ついたら……花火みたいにしてあげるわ」

 

「怖っ」

 

「あ、服が汚れちゃったわ!お風呂お風呂~」

 

 そう言って何処かに飛んで行った吸血鬼フランドール。ふぅ、生きた心地がしなかったぜ……。

 

「あふふ……助けてくれてありがとうございます♥」

 

「ふう、あの妹様があれだけしか暴れないなんて……槍でも降るのかしら?」

 

 フランドールが去っていった気配を感じて戻ってきた小悪魔とパチュリーちゃん。

 

「って、貴方私の魔導書を乱暴に扱った事忘れてないからね!」

 

「しょーがねーだろ、無手であの吸血鬼相手とか出来るか」

 

「あふふ、それよりも()()妹様が外に出てくるなんて

……」

 

「あの?」

 

「妹様は情緒不安定ですからねぇ……本人も好んで地下から出てくることも無いんですけどぉ」

 

「情緒不安定……?そんな風には見えなかったけどな」

 

 悪魔にしては、という意味でだが。

 

「はい。今日は非常におとなしい方だったと思いますぅ」

 

「そうねぇ……詭弁、貴方妹様の専属執事にならない?」

 

「子供のおもちゃになれってか?嫌すぎる……」

 

 あれがもっと大人だったら考えた。

 と思ってたら突然図書館の扉がぶち破られ、直後に紅い線が俺の右肩を掠めていった。

 

「こんにちは詭弁。死ね」

 

「何っ!?何っ!?急に何だおい!!?」

 

「お前がフランに手を出す異常性癖(ロリコン)野郎とは思わなかったわ、私のミスね。責任持って私が貴方に引導を渡してあげるわ!」

 

「いや何の事ォ!?」

 

 顔中に青筋を立てまくったレミリア・スカーレットが大量の弾幕を放ってきた。殺意満々で。

 いや何でぇ!?

 

「ここがお前の墓場よっ!!」

 

「バカ野郎ふざけるなっての!!」

 

 なけなしの魔力と霊力を総動員して図書館、及び紅魔館から逃走。沈みかけている夕日が完全に沈む前に人里まで戻った。

 ふぅー、夜になってたら完全に追い付かれてたな……。

 あれ、何か忘れている気が……まあ、いいか。

 

 

 

 

 

「……いきなりどうしたのよレミィ」

 

「聞いてよパチェ!フランが珍しく上まで来たからどうしたのか聞いたら……」

 

 

『あらフラン、地下から出てくるなんて珍しいわね。どうしたのよ』

 

『あ、お姉様。人間の男に汚されちゃったからお風呂に入ろうと思って』

 

『……は?汚された?人間の……男に?』

 

 

「あのクズ男!!私の妹に手を出すなんて!!擂り潰して紅茶にしてやるわ!!」

 

「……レミィ、妹様の言う『汚された』って言葉通りの意味よ」

 

「だからこうして処刑をしようと……!」

 

「詭弁と妹様が弾幕ごっこをして、詭弁が勝った。それだけの事よ」

 

「……ん?……えっ?どういうこと?」

 

「詭弁は何もやましい事はしてないし、妹様も汚されたってのは『服が汚れた』程度の意味よ」

 

「……えっ」

 

「……脳内ピンク吸血鬼」

 

「う、うるさい!耳年増魔女!」

 




ふらんちゃんかわいいなぁ!というわけでフランとのフラグを立てました。このロリコンめ!
ちなみに詭弁が忘れていることは、パチュリーちゃんの2おっぱいです。

さて『紅魔郷』は終わり、次から『妖々夢』編。詭弁は春度を集めやすい体質だった?死ななければ冥界に行けない?そして生者と死者の禁断の恋物語!?
次回、『原作開始前に居ても問題ない筈なのに、そのキャラが登場する原作の時間軸前に登場させるのって何故か気が引ける現象』こうご期待!

(内容に大きな変更がある場合がございます、ご了承ください。)


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本編と特に関係ないけど、妖夢ちゃん一位おめでとう!

妖夢ちゃんは存在が可愛いの化身なのでヒロイン候補ですよ?

本編と全く関係ない話ですが、画像検索で妖夢ちゃん検索してると希にサイトウ(ポケモン)がヒットする現象ってなんですか?
と調べたら『カップやきそば現象』とか言うらしいですね。なるほど。


 紅い霧が晴れても夏真っ盛りである。夏真っ盛りということは、つまり暑いのである。暑いということは、時たま頭溶けたんか?と言うような依頼が来ることもある。

 

「『氷の妖精を捕獲してきてください』……なんだと思ってんだこらぁ」

 

 依頼は依頼……なのだが、この手の依頼を一度受けてしまえばいずれ自分の首を締める結果になるのは分かっている。

 特に妖精に関しては、襲われたりイタズラされたりした時においはらう程度にして、自分から積極的に妖精と関わっていくのはわりとタブーに当たる。別にそういうルールがあるというわけではないが、妖精は自然の化身。なめて掛かれば後で痛い目をみるのは当たり前である。

 

 まあ、それはそれとして俺も各種エレメンタルが尽きてしまい、属性魔法がロクに使えないので妖精たちから分けて貰う。特に今の時期は氷のエレメンタルをよく使うのに在庫が無いから採りに行かなければならない。

 

「はんじょーはんじょーしょーばいはんじょ~」

 

 朝早くから、自作の『商売を称える歌』を歌いながら人里近くの森を歩き回る。すると歌声に釣られて、妖精がふわふわ飛んできた。

 

「あっ詭弁じゃん!」

 

「よぅサニー。今日はお前ひとりか?」

 

「スターとルナは今別行動中よ!」

 

 光を操る妖精ことサニーミルク。妖精の中では強い方なのだが、如何せん比較対象が妖精。まあ『ちゃんと名前を持っている』というのは一つの指標ではある。つまり人里内でもそれなりに厄介と知られているということだ。

 

「今日も()()採りに来たの?」

 

「んぃ、持ってるか?」

 

「いっぱいあるわよ!」

 

 アレとはエレメンタルの事である。エレメンタルは超自然的な結晶で、妖精達はこれらを好んで集めている。反エントロピー物質がどうのとか言われたけど詳しいことは知らーん。

 とにかく、エレメンタルを集めるには自分の足で歩いて見つけるのも良いが、一番手っ取り早いのは妖精達が集めているのを貰う事だな。

 

「なんで妖精はエレメンタルを集めるんだ?」

 

「ん?だってなんかキレイじゃない?」

 

 とのこと。実用性の無い物をコレクションしたがるのは人も妖精も変わらないらしい。まあ、実用性はあるんだけど。

 

「はいっ!」

 

「おう」

 

「ん!」

 

「んぅ」

 

 サニーミルクが服から出したエレメンタルを受け取り、そのファサファサした髪を撫でる。

 サニー含め一部の妖精達には『エレメンタルを渡す代わりに頭を撫でる』という約束を結んでいる。妖精達は見た目相応の子供精神なので、時折こういった肉体的な繋がりを欲しがる……らしい。

 そこ、ヒモに通帳渡す女の子の関係って目で見るな。

 

「ありがとうなサニー、お陰ですごい助かった。……サニーはエレメンタル探すのが上手だなぁ」

 

「んへへぇ……」

 

 カワイイ。

 時々勘違いされるが、俺は別に子供が嫌いなわけではない。子供相手に性的興奮しないだけで、子供を愛らしいと思う気持ちまでは死んじゃいない。……ほ、ホントだよ?

 そしてサニーの気が済むまで頭や首の後ろ、羽の付け根を撫でてやる。

 

「ん、んっ」

 

「んぅ?もういいのか?」

 

「うんっ!る、ルナやスターの様子も見に行かなくちゃ!」

 

 急に身をよじったと思えば、パッと跳ねるように飛んでいった。

 

「またねー!」

 

「おーぅ、またよろしくなー」

 

 スターに会ってざっくり小半時(30分)。俺一人で集めるよりも遥かに多いエレメンタルが手元に残るが、まだまだ必要数には足りない。エレメンタルの採集を続ける事にした。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 あれからまた暫くしてお昼時。光をそれなりに遮る森の中とはいえ、今は夏。身体の内側からじっくり蒸されるような暑さを払うように竹で出来た水筒の中身を飲む。

 集めたエレメンタルはそこそこ。日常的に使う分には間に合うが、奥の手としてもっと回収しておきたい所。

 

 何者かによって斬り倒されていた樹の切り株に腰掛け、持ってきていた弁当を食べる。人里では朝と夕の1日2食がまだ主流だが俺は朝昼夕3食しっかり食べるぜ。弁当の中身は野牛の焼肉弁当。うーん豪華。

 

「良い匂いがするわね」

 

 茂みをかき分ける音と共に現れたのは人狼の今泉影狼。焼肉の匂いに釣られて来たのか?

 さて、端から見れば妖怪に襲われそうな人間……という構図なのだが、俺には絶対に人狼に襲われない秘策がある。

 

「『加熱魔法(エンチャントファイア)』!」

 

「アォン!?」

 

 弁当の中にある野牛の肉を加熱し、じうじうと良い匂いを撒きながら人狼の前に垂らす。

 

「待て!待てだぞ……」

 

「クゥ、クゥ……」

 

「……お手!」

 

「アォン!」

 

「おかわり!」

 

「ワォン!」

 

「伏せ!」

 

「クォン!」

 

「逆立ち!」

 

「ワ、ワォン……!」

 

 スカートが翻ってナイスパンツ。じゃなくて。

 

「良し、いいぞ!」

 

「アォン!」

 

 鼻先にぶら下げていた肉を影狼ちゃんにあげる。

 

「ヨシヨシ、影狼ちゃんは賢くて偉いぞー」

 

「わふぅ」

 

 影狼ちゃんの頭や耳の後ろ、首の裏をわしわし撫でる。扱いが完全に犬のそれ。

 勿論、出会ったばかりはこんなことする関係では無かったが、気がつけばこんな感じになっていた。

 

 なお、この時調子にのって影狼ちゃんのお尻や胸を撫でると噛みつかれるので注意(5敗)

 

「……って、私は犬じゃないわよ!」

 

 膝の上でゴロゴロしてた影狼ちゃんが突如立ち上がって怒り出す。しかしそれは影狼ちゃんがナデナデに満足した証拠で、ある意味ここまでが一連の流れである。

 弁当の肉が無くなったが、こんなこともあろうかと漬物を持ってきているのでそれを齧りながらご飯を食べる。

 ……影狼ちゃんの視線を感じる。

 

「……漬物も欲しいの?」

 

「べっ、別に最近食べてないなーとか思ってないから!」

 

 人狼だけに嘘つきだなぁ。

 仕方ない、漬物を箸でつまんで影狼ちゃんに食べさせる。

 

「はいアーン」

 

「いっ、いらないわよ!」

 

「はいアーン」

 

「べ、別にいらないってば……!」

 

「はいアーン」

 

「……もう!食べれば良いんでしょ!」

 

 勝ったな……。

 パクっ、カリカリ……とようやく漬物を食べる影狼ちゃん。

 ……尻尾がフリフリ揺れて喜んでるのが分かるのって……凄い良いよね。

 

「どうだった?」

 

「べ、別に……普通に美味しかったわ……」

 

「そうじゃなくて間接キス」

 

「ブフッ!!?」

 

 漬物をつまんだ箸は、当然俺が今使っている箸だ。まあ、つまりそういうことである。

 

「こっ、ここ……」

 

「こ?」

 

「怖いわー!!人間怖いわー!!」

 

 顔を真っ赤にしながら何処かに逃走した影狼ちゃん。大変かわいかったです。

 ……さて、弁当食うか。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 あちこち移動しながらエレメンタルを回収し続け、十分な量を集め終えた時には太陽はそれなりに大きく傾いていた。昼と夕方の間くらいか。

 さて帰るか……と踵を返すと、緑髪で赤いチェック柄のスカートを着た女性が立っていた。

 

「こんにちは」

 

「ヒェ……こ、こんにちは幽香ちゃん……」

 

 何を隠そう危険度極高の妖怪、風見幽香が目の前に立っていた。

 ちなみに名前を呼ぶ時に『幽香()()()』と呼ばないとわりと本気で殴られる。

 そして、里の外で会う度に殺されかけるのがもはやお決まりパターンになりつつある今日この頃なんですけども。

 

「吸血鬼と一戦やりあったそうね」

 

「まあ、一応ね……」

 

「それなら、多少は強くなったわね?」

 

 問答無用と言わんばかりに踏み込んで殴り掛かってくる幽香ちゃん。幽香ちゃんは弱いもの苛めが大好きで、俺みたいな多少強い程度の人間を見るとつい苛めたくなるそうな。止めて。

 顔に向かって突き出された拳を左の掌で受け流し、右の拳を幽香ちゃんの顔に向かって返す。

 

 ガァン!

 

 岩同士がぶつかったような、およそ人体から出てはいけないような快音を響かせて俺の拳と幽香ちゃんの額が衝突した。

 

「腰が入ってないわね」

 

「そりゃぁ本命じゃないからなぁ!」

 

 幽香ちゃんの額に当てた拳から魔力糸を出し、額と拳を繋げる。そして繋がった右の拳を引く勢いに乗せて、魔力と霊力を混ぜ合わせて強化した左拳で幽香ちゃんの腹を殴るっ!!

 

「今のはちょっと効いたわよ」

 

「ちょっとかよ……」

 

 まるで余裕そうな顔で俺の左拳を掴み、持ち前の腕力だけで俺を放り投げた。

 

「レベルを上げるわよ?」

 

「勘弁してぇ……」

 

 ドンッ!!

 地面が爆発したかのような音を立てて再び肉薄する幽香ちゃん。

 俺は持っていたエレメンタルの使用を決断する。

 

「『電光石火(ライトニングボルト)』!!」

 

 雷の速度で放たれる魔法で幽香ちゃんを迎え撃つ。だが幽香ちゃんは、放たれた魔法の雷を手に持っていた傘で叩き落とした。いや、うそやろ。

 

「これで終わりかしら?」

 

「まだまだっ!『帯電(スパーク)』!」

 

 魔法の雷で出来た鎧を纏い、肉薄する幽香ちゃんを迎撃する。高電圧の鎧で、振り下ろされた幽香ちゃんの傘を両手で受け止め……

 バギッ!

 

「い"ィ"っだぁっ!!!」

 

「妖怪の攻撃を素手で受け止めるなんて自殺行為よ?」

 

 ちょっと手が痺れたわ……と手を払いながら言う幽香ちゃん。そして両腕の骨がバキバキに折れた俺。回復魔法(リジェネ)

 

 ……と、人里の外で幽香ちゃんと出会えば、その瞬間幽香ちゃんが攻撃を仕掛けてきて半強制的に『訓練』が始まる。まあご覧の通り殺されはしないが、逆に言えば死なない程度に()()()()()()()

 

「さぁ、まだまだ行くわよ?」

 

「ひぃ」

 

 俺を苛めるのが心底楽しいのか、終始笑顔のまま俺をボロボロに()()幽香ちゃん。ちなみに俺は楽しくない。

 

「うふふ。もっと強くなりなさい、詭弁。そうしたら……いえ、なんでもないわ。それじゃあね?」

 

 そうして気が済んだら、ボロボロの俺を人里入口に放り投げて去っていく。くすん……

 

 

 幽香ちゃんのおっぱいがばるんばるん揺れてなかったら挫けてたぜ!!!

 

 

「よう詭弁!また今日もこっぴどくヤラれたなぁ!」

 

「あ、便利屋のにーちゃんがまた血だらけで帰ってきたー!」

 

 なお、ボロボロになって帰ってくるのは毎度の事なので、もはや誰も俺の事を心配してくれないのである!哀しみ!




妖夢「……あれっ!?出番は!??」
クズ「誰も妖夢ちゃんが出るなんて言ってないだろ」

詭弁は三食肉が食べられるくらいには裕福な暮らしをしています。しかし貯金はしないので、依頼で得た金銭はガンガン使って里の経済を回しています。偉い子!
そしてゆうかりんは好きな男の子にはツンツンしちゃう系女子!とてもKAWAII!!


皆さん、最近忘れてることがあるんじゃないんですか……?
そうだね!感想だよね!!!書いて!
あ、あとぉ……私の好きな色の話なんですけどぉ……私、黄色より赤の方が好きだなぁ……。赤い色……良いなぁ……。
評価の話です!!!皆!オラに評価を分けてくれ!!あと一言評価入れてくれたら、作者のマイページでスグに分かるから是非一言評価入れてくれよなっ!俺は赤色が好きだからなっ!(強欲)

感想欄も面白いことで有名な私の小説!(自惚れ)
特に意味は無くても感想欄も是非覗いていってください……。


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強化フラグは主人公の嗜みですよ!

前話で感想と評価をネダったお陰で感想欄と評価がそれはそれは凄い事に。皆ありがとう!!!
じゃ、今回もヨロシクな(ゲス顔)

今回は薄い本にはあまり出てこないけど、二次創作界隈では大変お世話になる(印象)あのお方の話。


 夏も終わり、秋の収穫祭が近づいてきた頃。俺は自身の肉体強化に限界を感じ、その現状を打破するために新たな道を模索せんと魔法の森が入口に建立している不思議な外装の古道具屋『香霖堂』に来店した。

 

「……あー、つまり『すれ違った女の子が持っていた刀がカッコよかったから自分も刀を振り回したい』ということかい?」

 

「流石霖ちゃん話が早い」

 

 複雑な言い方をしていたが要するにそう言うこと。

 まあ、刀だけでなく手頃な武具の類いがあればと思った。メイちゃん(紅美鈴)との組手を続けてきたお陰で()()()の扱いと近接戦闘に慣れてきたが、前に幽香ちゃんに言われたように素手で攻撃を受け止めるにも限界がある。

 今まで武器らしい武器を使わなかったのは、メンテナンスに時間やお金を掛ける必要があるから。使い捨てで、壊れても惜しくない物を妖怪退治によく使っていた。ただ如何せん、そうも言ってられない事情も有ってだな……。

 

「そんなに魔理沙に負けたことが悔しいのかい?」

 

「当たり前だろ!あんチクショウ勝った後に散々煽りやがって!!」

 

 魔理沙は紅魔館の大図書館から本を大量に持って(盗んで)いき、それを取り返すようにパチュリーちゃんから依頼を受けて魔理沙の家に向かったのだが、返り討ちにあったのだ。

 

「それで依頼はどうしたんだい?」

 

「んにぃ、勿論後日達成したさ。アイツん家の中はごちゃごちゃの山積み状態だからな、()()()が多少無くなったり入れ替わったりしてもバレやしないさ」

 

 そっちがその気ならこっちも手を変えるだけだ。便利屋の名は伊達じゃない、鍵開け術(ピッキング)だってお手の物。魔理沙が留守の間に家に侵入し、持ってかれた魔導書と入れ替えるように小悪魔謹製の弾幕を撒き散らす本を詰め込んでおいた。因果応報、どうなろうが知らん。

 

「まあ、それはそれとして。なにか良さげな道具はある?戦国武将の魂がこもった刀とか、神製の剣とか」

 

「名も無き鉄砲隊の無念がこもった火縄銃はどうだい?」

 

「絶妙にいらんわそんなモン」

 

 かさばるしメンテナンス時間掛かるし、そもそも遠距離攻撃には困ってないし。ってか銃あるんだ……。

 

「ふむ、しかしそういう事なら丁度良い物があるよ」

 

 そう言って一度店の奥に引っ込む霖ちゃん。そして持って来たのは、一対の手甲と長い棒だった。

 

「どっちも拾い物だが、キミの役に立つだろう」

 

「触っても?」

 

「勿論」

 

 霖ちゃんが持って来た長い棒を手に取ると、身体の内側から何らかのパワーが吸われる感覚がした。

 

「それは『如意陽輝棒(にょいようきぼう)』と言って、使用者の()を力に変える道具だ。『如意』は自由自在、『陽』は太陽、『輝』は光。つまり()を込める事で使用者は自在に太陽の光を―――」

 

 大体三尺(150cm程)の長さで、握るのに適した太さ。材質は鉄?の様な気もするし木製の様な感じもする。要するに分からない。軽く持ち上げて動かしてみると、その見た目からでは予想できない程に()()。色は青白く、なんかカッコいい(超重要)

 

「―――つまりかの斉天大聖、孫悟空が所持していた如意金箍棒(にょいきんこぼう)に通ずるものがあり、かの武器のように小指の先から家並みに大きさを操れる訳ではないが似たような事が出来る事から、恐らく―――」

 

 小さくなれ、と念じながら()を込めると、長さが三尺から一尺程度まで縮み、太さも腕並から指並くらいまで細くなった。持ち運びにめっちゃ便利やん……。

 

「―――事から、道教における陰と陽の気もまた理論上自在に操ることが出来る筈だから―――」

 

「霖ちゃん、コッチの手甲は?」

 

「ん?ああ、コッチは『妖精手甲(ようせいしゅこう)』と言って、身に着けた者に自然の力を与える道具だ。僕が使ってみたんだが、あまり効果が無くてね。妖精に好かれやすい君ならもしかして、と思って持って来たんだ」

 

 その鮮やかな銀碧色の手甲を持ってみると、見た目相応の重さがずっしりと手に伝わった。腕の先、前腕から手首、手の甲までをしっかりと保護している作りだ。

 早速装着してみると、さっきまでの重さは何処へやら。腕全体が軽くなったような感じがする。

 

「……なるほど、やっぱり僕の見立ては間違いじゃなかったか。『自然の力』というのは、妖精が持つ特有の力の事で間違いなさそうだ。どうやらその手甲は着けている者と場所によって効果が違うようだね」

 

「面白いな、それは」

 

 なんにせよ嵩張らず、またメンテナンスも簡単そうな物が見つかってよかった。色もカッコいいから言う事無しだな。

 パチュリーちゃんからの依頼料がほとんどぶっ飛んだが、良い買い物だったと思う。

 

 さっそく、そうびしていくかい?

 ニア はい

 

 というわけで手甲を着け、香霖堂の前で如意陽輝棒を振り回してみる。

 里の槍術の達人による演舞を思い出しながら、見よう見まねで突いたりなぎ払ったりしてみた。

 

「ほう、なかなか様になっているじゃないか」

 

「んぃ、思った以上に手に馴染むんだよコレ」

 

 太陽の光を浴びてキラキラと光る棒は、振る瞬間僅かに伸び、振り終えると元に戻っている。さらに棒の()()()も、持っているだけでは非常に硬いのだが、なぎ払う瞬間竹のようにしなる。まさに自由自在。

 そして何より、()だけじゃなく霊力や魔力を込めると更に強く輝きだした。これは強い(確信)

 その状態でえいやと振れば光弾が放たれ、一直線に飛んで行き空の果てまで飛んでいった。……強い(確信)

 

「良い買い物だった」

 

「それは何より」

 

 そうして霖ちゃんと別れ、棒を振り回しながら帰路に着いた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 天界

 

「あー……暇ねぇ……何か面白いことでも起きないかなぁ」

 

 その直後、雲を裂きながら高速で飛んできた光弾に撃ち抜かれ、服だけが燃え尽きた。

 

「ぎゃわーっ!!?何っ!?何が起きたのよ!!?」

 

「何ですか騒々しい……天子様もいい加減年相応の振る舞いというのを…………あっ、裸族の方でしたか」

 

「なっ、違!?」

 

「天子様、いくら退屈だからといってそのような趣味に走るのは……」

 

「違うって言ってるでしょ!!ちょっと!聞きなさいよ!」

 

「空気の読めるこの永江衣玖、この辺で退散させていただきますね」

 

「待ちなさいよっ!待て!!ちょっと!違うんだからー!!!」

 

 

 




妖夢「私の出番はー!?妖々夢編の主役キャラの私の出番はー!!??」
クズ「ステイ、ステイ……いや、何勝手に主役取ろうとしてんだ」


詭弁は武装『如意陽輝棒』と武装『妖精手甲』を手にいれた!
そしてその場に居なくてもセクハラに余念が無い詭弁であった!
ちなみに孫悟空の如意棒は伸びたり太くなったりする事から、男のアレのメタファーという説もあるのだそうな。(なんて説だ)
詭弁の如意陽輝棒も伸びたり太くなったり……あっ(察し)


皆様、感想・評価ありがとうございます!!前話だけで感想11件(投稿時点)、評価は私の好きな赤色っ!!しかも日刊ランキングの常連みたいになっちゃいましてすみませんねぇほんとグヘヘヘヘ(クズofクズ作者の極み)
飽きるまでは投稿速度維持したいと思っています!思って()います!
これからものんびりよろしくお願いします!


ちなみに、やっぱり『短編』から『連載』に変えたほうが良いんですかね……
文字数的にはまだ短編っ!短編だからっ!!


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真冬ですよ!妖夢ちゃん!

クセになってんだ、真夜中過ぎて早朝に投稿するの。
待ちに待ったあの娘が満を持してようやく登場?


 冬、雪がしんしんと降り積もる日の事。俺は人里のど真ん中で人間暖房機になっていた。

 

「おーい詭弁!もっと暖かくならねぇのかぁ?」

 

「ざけんなコラ!!お前らもっと有り難がれ!!」

 

 何をしているのかと言うと、前に買った『如意陽輝棒』を使って、厚い雲に隠れているお日様の代わりをしているのだ。

 気、霊力、魔力を込めまくって煌々と輝く姿はまさに神々しいの一言だが、端から見ている以上に実際には消耗しているのだ。つらい。

 今は真昼を少しだけ過ぎた辺りなのだが、朝イチからずっと立ちっぱなしの力使いっぱなしだ。足はガクガクである。

 更に言えば辺りはぽかぽか陽気な気温だが、棒を持っている俺は真夏の太陽直下にいるように暑い。これで『妖精手甲』を着けて熱をある程度防いでいなかったら丸焼けだった。

 

 あ、もうムリ。

 

 プツッ、と電球が切れるように陽輝棒の輝きが消え、俺は地面に這いつくばった。し、死ぬぅ……。

 

「おーい、もう終わりなのか?」

 

「ふ、ふざけんなボケぇ……!朝イチからずっと光らせっぱなしなんだよこちとら……!」

 

 なんだよー、と口々に文句を言いながら去っていく里の住人達。この野郎共……。

 で、こんな事を依頼してきた奴は何をしているのかと言うと。

 

「……あら、もう限界かしら?次の演目の準備途中なのに」

 

「少しは休ませてくれませんかねぇアリスちゃん……!」

 

 モコモコの耐寒素材で身を包んで、人形劇の準備をしていた。

 彼女の名前はアリス・マーガトロイド。七色の魔法使いと呼ばれ、俺に魔法糸を教えてくれた先生でもある。

 ちなみにアリスちゃんは暑さ寒さを感じにくいらしく、それでなんでモコモコの服を着ているかと言うと『人里で人形劇するのはいいけど、見てるコッチが寒くなるような服装は止めた方がいいぞ』という忠告を真に受けて俺と一緒に服を買いに行ったからだ。

 

「別に服くらい作れるわよ」

 

「たまには人が作ったものを見ないと感性が鈍くなるぞ。それにいつも世話になってるし、服の1着くらい奢らせろ」

 

「……まあ、そういうことなら良いわよ」

 

「ちなみにこれってデートだよね!」

 

「張り倒すわよ?」

 

「またまた~そんなこと言って顔が赤くなってるのは分かって……痛い痛い痛いっ!!!指っ!?指はソッチに曲がりませんことよっ!?」

 

「……馬鹿ね」

 

 といった事があって今に至る。

 ……しかし、それにしても暑い。今は真冬だというのに、俺だけ身体の芯から熱を放つように汗が止まらない。

 

「はい、お茶よ」

 

「んにぃ、ありがとうアリスちゃん……」

 

 アリスちゃんから熱々の紅茶を渡される。これは何のイジメでしょう……まあ、冷却魔法(エンチャントアイス)で冷ましてから飲む。

 

「というか、何でアリスちゃんはこんな依頼をしたん……?」

 

「貴方のその武具に興味があるからよ」

 

「えっ?俺の身体に興味がある?」

 

「その耳引っこ抜くわよ?……妖精の力を使えるようになる手甲、太陽の力を持つ棒、どっちも興味深いわ」

 

「やだアリスちゃんったら、女の子が手や棒がどうのだなんてハレンチ……痛たたたたたっ!!!耳取れるっ!!」

 

「やると言ったらやる女よ私は」

 

 ちょっとした冗談じゃないかぁ。ぴえん。

 ()()()に興味津々なアリスちゃんに、(効率的に光を出すために)カチカチに硬く大きくなった棒を押し付ける。えいえい。

 

「ちょっと、止めなさい。……ふーん、やっぱり魔力だけじゃ反応しないのね」

 

「そうそう、魔力じゃなくて気功や気合いの()を込めないと勃たな―――」

 

 俺の宝玉(タマタマ)に人形の一撃が突き刺さる。再び地面に崩れ落ちた。

 

「次はちょん切るわよ」

 

 ぴえん。

 ちなみに当然のように気や魔力、霊力を使い分けているが、気とは生命活動(主に呼吸)を行う上で勝手に作られ、消費されていく力。魔力は、主に体外の環境から生まれる混沌とした力。霊力は霊魂、魂から放たれる力をそれぞれ総称して言っている。生産する場所が違うからこそ、其々が得意とする事柄も違うそうだ。そしてそれら全てを扱える俺って実は天才説。

 

「貴方が天才なら世界中に天才が溢れかえってるわね」

 

「ぴえん」

 

 冗談きついぜアリスちゃん……。

 まあそれはともかくとして……俺はまだ陽輝棒を光らせなきゃダメなのだろうか。

 

「……少し休んでても良いわよ」

 

「やったぜ」

 

 霊力、魔力、気力全てが底をついてヘロヘロに疲労しきっている身体を引きずり、すぐそばの茶店の外席に座る。お腹が空いた。

 

「お汁粉一つ」

 

「あいよ」

 

 ぴう、と冷たい風が吹けば、汗を流した身体が冷めていく感覚が心地よい。

 出てきたお汁粉を啜りながら、人形劇の準備が整ったらしいアリスちゃんを見る。アリスちゃんは操っている人形に鳴子を持たせ、カランカラン渇いた音を響かせる。それが人形劇が始まる合図だ。少し待てば、わらわらと暇を持て余した子供達が集まってくる。

 アリスちゃんが俺に目線を送ると、俺は一つ頷き、手に持った陽輝棒を光らせる。朝からやったような全力の光ではなく、辺りをほんのり照らす程度の光。しんしん降る雪が離れていく気配がした。

 

「これより始まる話は、誰にも知られることなく街を救った小さな騎士の物語です……」

 

 アリスちゃんが朗々と語り出し、演劇内の人形たちが動き出す。

 俺は手の陽輝棒を光らせたまま、その光景をぼんやり眺めていた……。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「……たった一人で悪魔を討伐した帰り道、彼の知人はボロボロの姿の彼を見て驚きました。『おい、一体どうしたんだその姿は!?』彼は応えました。『ああ、ちょっと妖精のイタズラに巻き込まれてな』『なんてこった!かの騎士サマが妖精相手にボロボロになるとは!明日は槍が降るぞ!』知人は笑いながら去っていきました。彼もまた笑って家に帰りました。明日から再び平和な日常が戻る事を確信したからです。めでたしめでたし」

 

 うぉぉぉ……めっちゃいい話やぁ……!涙が止まらねえ……!

 誰にも知られず、そして誇らず、街を救って……なんて良い奴だ騎士テメェこの野郎っ(号泣)

 涙を拭きながらアリスちゃんの人形劇を振り返る。やばいまた涙が。

 

「うう、凄い良い話でしたぁ……!」

 

「お前さんもそう思うか……あの騎士めっちゃ良い奴だよなぁ……!」(語彙力消失)

 

「はいっ……!凄い……健気で……凄い……あぁぁ……」

 

 涙と鼻水でドロドロになっている少女の顔にハンカチを差し出す。

 

「うう……ありがとうございます……」

 

 ぶびぃぃぃっ!と鼻をかんで突き返されるハンカチ。おい。

 

「くっ……同じ剣を扱う者としてあの騎士に負けてられません!」

 

「『浄化魔法(ピュリファイ)』……そういえば大きな刀を持っているな。俺の名前は詭弁答弁。君は?」

 

「私は魂魄妖夢(こんぱくようむ)、半人半霊の庭師です」

 

「庭師か、庭木の手入れなら何度かやったことあったなぁ」

 

「貴方も庭師なのですか?」

 

「いや、俺はただの便利屋だ。頼まれれば何でもやるだけ」

 

「何でもですか」

 

「勿論選り好みはするよ。人間の時間は有限だからな」

 

「そういえばそんな噂を聞いたような……」

 

 茶店の外席でお茶を啜っていると、人形劇の片づけを終えたアリスちゃんがコッチに歩いてきた。……何かご機嫌斜めかしら?

 

「もう回復したでしょ?次は日没まで休み無しよ」

 

「にちぼっ……!?死ぬわァっ!!!」

 

「早くしなさい。依頼受けたんでしょ?」

 

「ぐぬぬっ……いいだろう!巌窟王と呼ばれた俺の超常スタミナ見せてやらぁよ!!!見てろよ赤パンアリスちゃん!」

 

「今赤パン関係ないでしょっ!!」

 

 右ストレートで真っすぐいってぶっ飛ばされる。流石人形遣いだ、腕の鍛え方が違う。

 

 

「……あっ、『春色の(セクハラ)便利屋』……」

 

 

 その後、本当に日没まで陽輝棒を光らされ続け、汗だくのままぶっ倒れてそのまま放置された。

 当然汗かいたまま雪が降り積もる外で寝ていたものだから、普通に凍死しかけた。凍死しかけた上に風邪をひいた。

 

「お前は本当に……ほんっとうに頭悪いよな……」

 

「うぅ……妹紅先生、裸で暖めて……」

 

「火鉢に焼かれてろ」

 

「アツゥイ!!」

 

「馬鹿が風邪をひいたと聞きまして!」

 

「帰れ馬鹿天狗」

 

「詭弁さん、大丈夫ですか?大陸に伝わる風邪治しの薬草を煎じてきました」

 

「メイちゃんだけが俺の救いだよ……ささ、同衾しようか」

 

「ふぇっ!?」

 

「……詭弁、火鉢と言わず不死鳥の炎で燃やされたいようだな」

 

「もこたんが率先して布団に入って来ないからじゃないですかーやだー!!」

 

「遺言はそれでいいな?『フェニックス再誕』」

 

「家の中でそれはアカンと思います!!!!」

 




詭弁の二つ名どうしようかな。複数あっても別に良いか。
里の人達は真冬のソーラー暖房を手に入れた!


本当はこんな事を書きたくはないんです。本当は書きたくないんですけどぉ……感想薄いよっ!何やってんの!?
と言うわけで感想下さい。もっともっと下さい。良いじゃないの減るもんじゃあるまいし。
読者のために書いていきたい。感想書いてくれるならー。

ここで一首

感想を
書いてとしつこく
言ったから
皆が感想
書いてくれたからこれからもしつこく感想書いてくれとおねだりしたいと思います。
 感想、書いてください。名は体を表す


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冬は続きますよ!

小説情報からランキング過去最高何位か分かるようになればいいのにと思う今日この頃。
やはり定期的に感想を強請らねばならぬか……


 風邪を治して幾日。陽輝棒を振り回しながら里の外を特に用も無くぶらぶら歩いている。基本的に冬場は色々と依頼も重なって忙しくなるのだが、何故か今日は何の依頼も無く暇を持て余していた。

 陽輝棒は太陽の光を放つというだけあり、弱い妖怪なら光を放つだけで近寄って来なくなる。更に辺りに降り積もった雪を溶かして道を作る事も簡単。便利。

 陽輝棒だけで溶かし切れなかった雪は、妖精手甲の力を使って溶かす。妖精手甲のお陰でエレメンタルを使わなくても属性魔法の威力が底上げされるのは非常に助かる。

 

「『熱線魔法(バーン)』」

 

 細い炎線が道行く先の雪を溶かし、一本道を作り上げる。溶けた雪によって地面がぐちょぐちょに濡れるが、雪に足を取られるよりかマシだ。

 適度に魔法の炎で道を焼き、太陽の光で自身を照らす。辺りの気温は非常に低いが、自分が通った所だけは暖かくなる。そんな風に暖気を撒き散らしていると当然、冬の妖怪達が面白くないと襲撃してくる。

 

「ちょっとちょっと困るわよー。折角の冬なのに暖かい空気出されちゃコッチの面子が立たないわー」

 

「お、雪女」

 

「そういう貴方は人間?にしては太陽の力を感じるし……」

 

「そりゃ人間だから太陽の力を放つだろう。呼吸ひとつで太陽のエネルギーを纏うなんて普通だぜ」

 

「ええ……最近は若者の人間離れが深刻ねぇ」

 

「見た目若いのに年寄りぶるのは良くないな」

 

「あらやだ。今のって口説かれたのかしら」

 

「そういえば雪女といえば嫁入り伝説が流行ってたなぁ」

 

「別に流行ってる訳じゃないのよ?そういう雪女が居ただけ」

 

「じゃあ俺と身も心も解け合うような一晩を過ごさない?」

 

「……ん~、そんな直球で口説かれたのは初めてだわぁ」

 

「ついでに俺の初めても貰ってくれると―――」

 

「なーにやってんだぜ詭弁」

 

 突然声を掛けられたと思ったら、空から白黒の物体が降ってきた。もこもこした防寒仕様の普通の魔法使い、魔理沙だ。

 

「雪女を嫁にしようと画策してたところだ」

 

「ほー、それで進捗は?」

 

「あと一押しってところかなぁ」

 

「勝手にお嫁さんにしようとしないでー」

 

寒符「リンガリングコールド」

 

 辺りに冷気が増してきたと思えば、弾幕の粒が大量に放たれた。

 

「おっと危ない。はは、詭弁のヤツ振られてやんの」

 

「チッチッチ、まだ勝負は分からんよ。『昇陽発気(ライジング・サン)』」

 

 弾幕を避けながら、陽輝棒から沢山の光弾を放つ。一発一発が陽気を持った弾幕で、冷気の弾幕と相殺する。

 

「もう、そんなのズルいわ!怪符『テーブルターニング』」

 

 大量の弾幕が放たれ、今度はレーザーまで撃たれる。割と本気モードじゃな?

 

「おいおい、私まで巻き込むなっての!恋符『マスタースパーク』」

 

 魔理沙から放たれる光線が雪女を焼いた。

 

「ひーん、最近の人間は怖いー」

 

「あ、逃げられたぜ」

 

「おいおい、俺の未来の嫁さんを追い払うなよ」

 

「どうせ詭弁の嫁になるような物好きな妖怪は居ないしいいだろ?」

 

「居るかも分からんだろいい加減にしろ!」

 

 この魔女っ子は……

 

「それで、なんでお前こんな所をほっつき歩いてるんだ?」

 

「んぃ、暇つぶしに散歩してるだけだ。そういうお前は何してんだ?」

 

「私は宴会の誘いに来ただけだぜ。もうすぐ大晦日だろ?神社で人を集めて宴会しようと思ってな。詭弁も参加するだろ?」

 

「おぅ、そういえば大晦日が近かったな。んまぁ大晦日はいつも仕事で神社に行ってるんだが」

 

「ありゃ、そうだったか?」

 

「『代わりに参拝してきてくれ』って依頼ばかりだ。博麗神社の神様は何か知らんけど、なんかの御利益求めてるんだろ」

 

「景気が良さそうで何よりだな。まあいいや、とにかく伝えたからなー」

 

 そう言って飛び去っていく魔理沙。嵐のように来ては去っていったな。

 さて……そうか、もうすぐ大晦日か。

 

 

 俺の目の前に季節外れの桜の花びらが一枚舞い降りた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 大晦日の朝。

 

「じゃあ詭弁、コイツを頼んだよ!」

 

「コレも持っていってくれよ!」

 

「ぐへぇ……今年も多いなぁ……」

 

 俺は家の前に積み上がった米、酒、野菜、菓子類等を大八車に乗せて、魔法を使って固定する。重さは変わらないから辛さは変わらん。キツイ。

 毎年大晦日に、こうした品々を博麗神社に奉納する事が俺の仕事になった。昔は極一部の人間が博麗神社まで、それこそ命懸けで奉納していたそうなのだが、今は大抵の妖怪相手に負けない俺が居るから、こうして里中の信心深い家から代わりに奉納してくるように頼まれる。

 里から博麗神社までの道のりは山あり谷あり……というわけではないが、まあ一般人にはキツい道のりだ。ましてや妖怪達もわりとウジャウジャ居るし、霊夢ちゃんも神社までの道のりを整備すればイイのに……。『嫌よ、面倒臭い』と言いきられるのは目に見えているが。

 

「さぁて、頑張りますかぁ」

 

 あえて声に出すことで、自分の中のスイッチを切り替える。ここからはお仕事モードだ。

 大八車を引き、里を出る。空は雲が多く、切れ間切れ間に青い色が見える。曇りのち晴れといったところかな。道には雪が積もり、寒気を漂わせている。さむゅいぜ。

 さて、里を一歩外に出れば、そこは妖怪達の領域。のこのこと現れた俺を取り囲むように猿型妖怪達が現れた。両手は大八車を引くために塞がっており、その状態でどうやって妖怪の襲撃を防ぐかというと……

 

「『如意自在陽輝棒(タクティカル・タクト)』」

 

 如意陽気棒に魔力糸を結び付け、気を流しながら魔法の力でもって振り回す。自分の力で振るよりかは弱い一撃だが、そこは太陽の力でカバー。一撃当たれば猿型妖怪を打ち倒すには十分。さらに振り回すだけならそれほど気も魔力も使わないので、それこそ一日中振り回せる。

 ギィギィ唸り声を上げながら取り囲んでくる猿型妖怪を蹴散らしながら、博麗神社に向かって動き出した。

 

 

 猿妖怪を蹴散らし、雪にはしゃぐあまり突進してきた犬を退かし、ふよふよ浮いてきた闇の球体に陽輝棒を突き刺したりしているとようやく博麗神社が見えてきた。この長い階段がまた面倒なんだ。

 階段の斜面に沿うように霊力を使って結界を張る。そして出来た結界の斜面を大八車を引いて上る。気を抜けば大八車の重さに引っ張られて真っ逆さまに滑り落ちるから注意だ。まあそんな事になったら魔法で何とかするんだけど。

 

「と、う……ちゃくっ!」

 

 ぶへぇ、と息を吐きながら博麗神社まで上りきった。あーもーしんどいなぁー。

 

「お疲れ様。素敵な賽銭箱はあそこよ」

 

「もう目を瞑っても何処にあるか分かるくらい知ってるよ……」

 

 最近の恒例だからか、奉納品を持ってくる頃には霊夢ちゃんが入口で出迎えてくれる。

 奉納品を一度本殿の中に入れ、その後里の人達から預かった賽銭を入れていたがま口ごと賽銭箱に入れ、二拍手一礼。もの凄いテキトーな参拝方法だが、『正しい参拝方法覚えるより、心からお祈りした方が良いわよ』と霊夢ちゃんが言うからそれに倣う。それでいいのか巫女、と思わなくもない。

 そして奉納した物は霊夢ちゃんによっておざなりに神様に捧げられ、さっさと本殿から食料の保管庫に移される。

 

「それでいいのかよ」

 

「別に良いわよ。神様から文句が来た事ないから」

 

 だそうで。

 さて、何やかんやあって朝に里を出立したが、もうすぐ昼時だ。お腹減った。

 

「……どうせ朝そんな食べてこなかったんでしょ?アンタの分も準備してあるからさっさと上がりなさい」

 

「やったぜ霊夢ちゃん大好き!」

 

「はいはい、さっさと手洗いなさい」

 

「ンな子供じゃあるまいに……」

 

 そうして手を洗い、霊夢ちゃんと一緒に昼食を食べる。霊夢ちゃんの作る料理は質素でありながらバランスが良く味付けも美味しいんだ。

 

「そりゃどうも。……そういえば久々に詭弁の料理も食べたいわね」

 

「おっけー。じゃ宴会ン時に出すから適当に仕込みしておく」

 

 霊夢ちゃんが質素でも味付けの良い料理なら、俺は野生的で豪快な味付け専門だ。まあ狩りや採集したその場で作って食べる事が多いからな、俺は。最低限の調味料だけ持って、食材は近場で狩るのがメインだから。それでもこれが中々に好評なんだよな。

 その後霊夢ちゃんと駄弁りながら仕込みをしていたら時間が過ぎて行き、日も沈みかけた頃に魔理沙やレミリア達がやってきた。

 

「じゃあ私は神事の準備をしてるから」

 

「おう」

 

 霊夢ちゃんが本殿に向かって行くのを眺めていたレミリアが首を傾げる。

 

「神事?霊夢は何かやるのかしら?」

 

「年の終わりから新たな年明けに掛けて準備してな、アメカカポのミコトとかいう悪い神を弱らせて天照大神を勝たせるとか何とか」

 

「アメカカポ?」

 

「詭弁、天香香背男命だぜ」

 

「ああそう、それ。明けの明星である天香香背男命と天照大神が年明けに戦うんだが、天照大神が負けるとその年は妖怪の力が強くなるんだって」

 

「なんですって!?ちょっと霊夢を止めてくるわ」

 

「止めんかお子ちゃま吸血鬼」

 

「誰がお子ちゃまよ!!!」

 

 本殿に飛んで向かおうとしたレミリアを物理的に掴みあげて止める。

 

「妖怪の力を強めたいって気持ちは分からんでもないが、仮に天照大神が負けるとレミリアも不利益を被るぞ?」

 

「何でよ、良い事じゃない。まあ、人間の貴方達にとっては良くないことでしょうけど」

 

「ところがどっこい。天照大神が負けて、妖怪の力が強くなったらどうなるか。当然強くなった低級の妖怪達が調子に乗って里に襲撃を掛けたりするだろう。そしたら俺含め里の退治屋達は大忙しだ」

 

「まあ、そうね」

 

「だが、退治屋も無数にいる訳じゃない。怪我をしたら前線から下がらざるを得ないし、退治屋の数が減れば人里は危機に陥る。そしたら博麗の巫女たる霊夢ちゃんが出張らざるをえない訳だ」

 

「ふんふん」

 

「博麗神社から里まではひとっ飛びとは言え、距離がそこそこある。里に妖怪達が襲撃されてから向かっても、霊夢ちゃんが着くまで抑える役の退治屋は居ない。()()()()()()()()なんて事が無いように、霊夢ちゃんは里の近くか、或いは中に引っ越しせざるをえないだろうなぁ」

 

「……続けなさい」

 

「そしたら今みたくレミリア嬢が霊夢ちゃんとこに遊びに来ることは早々出来なくなる。里に大妖怪が平然と来るのはご法度だからな」

 

「……」

 

「というか、そもそも天香香背命が勝ってもレミリア嬢に大した利点も無いだろ。妖怪の年になるって言っても恩恵を受けるのは普通の妖怪達だけ。大妖怪と呼ばれる者達には()()()()()でしか影響受けないよ。それでも霊夢ちゃんの儀式の邪魔をするかい?」

 

「………………まあ、別にアンタの言葉に従う訳じゃなくて、気が変わっただけよ。咲夜、宴会の準備をなさい」

 

「御意に」

 

 

「また詭弁が()()を垂れまわしてるぜ」

 

「実害無いんだから良いだろ別に」

 

 そうして夜が更けていき、宴会の準備が着々と進んでいった。

 




次回は年末ー年明け。そして遂にあの娘が本格始動。


毎秒投稿して♥️と思ったのならッ!
毎秒感想書くくらいしないと()()じゃあァねェよなァ~ッ!?
こちとら3~4000字程度書いてるンだからよォ~!!!
つべこべ言わず感想と一言評価を書くンだよォ~ッ!!!


毎話後書きのネタ考えるのも面倒……じゃないよッ!
面倒じゃねーのかよ!騙されたよ!ヒーハー!


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冬は長引きますよ!

感想が絶えず来るとモチベーション向上に繋がるよなぁー。
そしてその状態が続くと、感想来なくなったらモチベーション駄々下がりするんだもんな。


 宴会の準備といっても、料理や酒の準備をするだけだ。

 台所は女性の領域……ということで外で火を炊きながら包丁を振るって、結界の上に乗せた猪を捌く。

 

「へぇー、豪快に捌くわね。咲夜にもやってもらおうかしら」

 

「人間をか?」

 

「そんなわけ無いでしょ!」

 

 猪を解体しながら鍋の準備をし、事前に用意していた調味液を入れる。

 今日は大ぼたん鍋だ。

 

「ずいぶん手際良いのね」

 

「まあな、鍋料理は作り慣れてるんだ」

 

 なんせ具材を鍋に突っ込むだけでバリエーション豊かな食事が楽しめるからな!鍋のダシも違えば更にバリエーション豊富!

 

「コイツ気を抜くと三食連続で鍋とか平気でやるんだぜ」

 

「うるせえキノコ食主義者」

 

 鍋を準備していると、アリスちゃんや霖ちゃん、メイちゃんと残りの紅魔館勢がやって来た。

 

「お、いつも誘っても来ない奴がようやく来たぜ」

 

「うるさいな……年に一回くらいは参加しようかなと思っただけだよ」

 

「ほー、詭弁に説得されたか?」

 

「さてね」

 

「メイちゃん!さぁ俺と再会のハグを!」

 

「少し前に会ったばかりですよねっ!?」

 

「詭弁ー!久しぶりねー!」

 

 赤色の弾丸が俺の腹部に突っ込んでくる。当たる寸前で避けるっ!

 と跳んだ瞬間、ホーミングしてくる七色の宝石のような翼。

 

「ほグゥッ!?」

 

「あ、力加減間違えちゃったわ」

 

 お、お腹がミンチになりそうですわ……。回復魔法(リジェネ)

 俺のポンポンに悪質タックルかましてきたのは悪魔の妹、フランドール。くそぅ、コレだから子どもは……。

 

「次は気を付けろよっ!!!」

 

「ごめんなさい」テヘペロ

 

「可愛いから許す!」

 

「なにやってんのよ……」

 

 呆れた顔をしながら歩いてきたのはパチュリーちゃん。運動不足解消してるぅ?

 

「余計なお世話よ」

 

「あふふ♥️詭弁さんがパチュリー様と夜の大運動会してくれると解消し―――」

 

「ロイヤルフレア」

 

 ボォッ!!!と燃え上がり、吹き飛んでいく小悪魔。惜しい奴を亡くした……。

 

「全然惜しくないわよあんなの」

 

 じゃあ俺にくれ……とは冗談でも言えないなぁ。なんか本気で押し付けられそうだし。

 

「アリスちゃんも来たんだね!さあ再会のキスを!」

 

「上海としてなさい」

 

 うーん人形の感触。じゃなくて。

 

「全く酷いご主人様だよなー上海?」

 

「シャンハーイ」

 

「もうちょっと分かりやすくデレてくれてもいいのになー上海?」

 

「シャンハーイ」

 

「良い年した男が人形遊びするんじゃ無いわよ」

 

「それは性差別と言うものだよアリスちゃん。外の世界では男も女も関係なく人形遊びしてるそうだぞ?」

 

「そうなの?」

 

「なんでも等身大の人形を抱いて遊ぶとか……」

 

「それもしかしなくても一般的な()()じゃ無いでしょ」

 

「へい上海。ご主人様の一人遊びの回数を教えて?」

 

「聞くな」

 

「ヘイキンデ、シュウニ―――」

 

「言うな」

 

 さてさて、そんなことやっているうちに儀式の準備を終えた霊夢が戻ってきた。本格的に儀式を始めるのは新年明けてから午前中の内らしい。じゃぁそれまで飲んで騒ぎますか!

 

「と言うわけで幹事役ぅ!」

 

「おう!これから忘年会兼新年会を始めるぜ!適当に飲んで騒いで食い尽くせ!かんぱーい!!」

 

「「「 かんぱーい!! 」」」

 

 そして始まる宴会。どんちゃん騒ぎに釣られたのか、妖怪や妖精もひっそり集まってきた。

 

「藍様!もう始まってますよ!急ぎましょう!」

 

「こらこら、引っ張るんじゃないよ橙」

 

「あやや、博麗神社に妖怪が集まってきました!これはスクープの匂いがするわ!」

 

 妖怪達が霊夢に挨拶していくのを霖ちゃんと眺めながら酒を飲む。

 

「やれやれ……あんなに一気に飲んだら折角の酒の味が分からないだろうに……」

 

「HAHAHA、あれは酒を楽しんでるんじゃなくて、()()を楽しんでるのさ!美味しいに越したことはないけど、友達と一緒に飲むのに酒の味を気にするのは野暮だよ野暮」

 

「……なるほど」

 

「しかしやっぱ霊夢ちゃんは妖怪達に人気だねぇー」

 

「彼女は誰にでも平等だからね」

 

「……そうだねぇ……あっ!藍ちゃん居るやん!」

 

 ぴょんと飛び跳ねて八雲藍の尻尾にまっしぐら。

 

「やあ霊夢。相変わらず元気なようだな」

 

「藍、そう言うアンタもそれなりに元気そうね。紫は?」

 

「紫様は冬眠中だ。まだしばらくは起きないだろう……そして詭弁、お前は何を狙っているんだ?」

 

 九尾のモフ尻尾に向けてダイブした瞬間、藍ちゃんがクルっと一回りして尻尾を離す。あー勢い良すぎて止まれないー。

 ぽふっ。幻想郷おっぱい番付堂々の一位を誇る豊満な胸に着陸。あ~これはあきまへんわぁ~、人をダメにするおっぱいですわぁ~。良い匂いしゅる。

 

「俺一生藍ちゃんのおっぱいに埋もれて生きたい」

 

「じゃあそのまま永眠させてあげるわ。夢想―――」

 

「待て霊夢。私ごとぶっぱなそうとするな」

 

 顔全体が埋もれるほどに大きなおっぱいはまさにおっぱい。このおっぱいを前にして無事でいられる男なんておりゅ?これが傾国レベル……!詭弁君の詭弁国が傾きました、責任を取ってください。

 

「―――夢想封印」

 

「ア"ッー!!!」

 

 気軽に奥義を放つ霊夢ちゃんまじ博麗の巫女。そなたは美しい……。

 

「ふんっ!!!」

 

 その細腕からは考えられないほどの豪腕でもって神社の屋根まで投げられる。すげぇー、人って空を飛べるんだー。

 そうして投げ飛ばされた屋根の上で、登って降りられなくなった猫の如く震える。助けて。

 

「自業自得だな」

 

「藍っ!貴方のその駄肉毟って鍋の具にしてやるわ!」

 

「ひっ!?怖いこと言うなっ!?」

 

 霊夢ちゃんが捕食者のように駆け出し、藍ちゃんは草食動物のように逃げまわる。

 そんなやり取りを屋根の上から見下ろす。女の子って怖いわー。

 

「みゃー」

 

「んにぃ、橙か。……ほれほれ」

 

「にゃぅん」

 

 二尾の黒猫、橙の頭の先から尻尾まで全身くまなくワシワシ撫でる。前に猫モードじゃなく人型モードの時に全身ナデナデを所望されたが、絵面がアレなのでNG。

 ここがええのかーええのんかー。

 

「私も撫でてっ!」

 

「ぐへぇ」

 

 猫に嫉妬して本日2度目の突進を行うフランドール。ガキは帰りな。

 

「むぅー、撫でてくれないんだ」

 

「……頭だけで我慢しろ」

 

「……♥️」

 

 仕方ないのでフランドールの金髪を撫でてやる。あーあ、これがエチエチボディの女の子ならなぁ。……?

 

「……フランドール、お前猫耳なんぞ生えてたか?」

 

「猫耳くらい生えるよ、魔法少女だもん」

 

 魔法少女とは?はぁー……可愛いかよ、許す。

 さて、そんな魔法少女?が横に来て、アイデンティティーが崩壊しかけた黒猫は黙っていられない。人型に変化したと思ったら俺の腰に抱きついてきた。

 

「フシャァ!詭弁は渡さないよっ!」

 

「なぁに貴方?」

 

「詭弁の妹ポジションは私の物なんだからっ!」

 

 そんな猫耳生えた妹を持った覚えはありません。

 

「なに言ってるの?既に妹キャラが浸透してる私の方が妹にふさわしいでしょ?」

 

 キャラが浸透とか言うな。どこに浸透してると言うのか。というか猫キャラに妹キャラとか欲張りセットやめろや。

 あ、でも霊夢ちゃんなら妹に欲しいかも……痛たたた!

 

「爪を立てるなお前ら!痛いわぁ!!!」

 

「「ふんっ!」」

 

 息ピッタリか。

 

「良いわ!弾幕ごっこで決着を着けてやる!」

 

「上等!マイナーな猫妖怪が吸血鬼に勝てるわけ無いでしょ!」

 

 幻想郷じゃ吸血鬼の方がマイナーでは?俺は訝しんだ。

 とか考えている内に両者はフワッと浮き上がり、博麗神社上空で弾幕ごっこの花を咲かせた。

 

 その綺麗な花を眺めながら、よっと屋根から降りるとレミリアが丁度目の前に来た。

 

「元気なもんでしょう?妹のフランは」

 

「元気すぎて太陽かと思ったぜ」

 

「……元々地下室から積極的に外に出ようともしなかったわ。でもね、貴方と出会ってからフランは()()した」

 

「んぅ、そりゃ霊夢ちゃんや魔理沙が何とかした事だ。俺はなんもしてねぇぞ」

 

「それでも貴方が切っ掛けなのは間違いないわ。だから礼を言わせて?」

 

「礼はいらない。あ、でも咲夜ちゃんは欲しい」

 

「絶対渡さないわよ……でも貴方が仕えるのなら美鈴も咲夜もあげるわよ?」

 

「欲しいものは自分の手で取るのが俺のやり方さ。仕えんでも自分で口説き落とすまでよ」

 

「自信家ね」

 

「伊達に顔で生きちゃ居ないさ。HAHAHA!!」

 

 紅魔館から持ってきたという、血のように赤いワインを飲む。うーん……美味しい。

 空を見上げれば、フランドールと橙の弾幕ごっこも佳境に入っている。フランドールが優勢だ。

 

「あの子も手加減が上手になったわねぇ」

 

「あのくらいの子供なら何教えてもスポンジのように吸収するからなぁ」

 

「……一応言っておくけど、フランも私も貴方の何十倍生きてるのよ?」

 

「俺が15歳だとして、正確に何倍か言えるか?」

 

「………………ちょっと待ちなさい。えーと……ひのふの……さ、30倍……くらい?」

 

「お子ちゃま」

 

「ちょっと!!納得いかないんだけど!」

 

 そうこう言ってると弾幕ごっこの決着が着いたのか、空から降りてくる妖怪二人。

 

「ま、負けたぁ」

 

「私の勝ちよ!詭弁お兄様!」

 

「お、おにっ……!?詭弁!どういう事よ!!」

 

「何か気がつけば妹ポジションを奪い合っててな」

 

「何か気がつけばって当事者でしょアンタ!ちょっとフラン!こんな奴を兄と呼ぶなんて―――」

 

「そうか、フランドールが妹なら、レミリアも必然的に妹になるのか」

 

「っ!!?み、認めないわよ!!っていうかなるとしたら貴方が弟でしょ!年齢的に!!」

 

「俺が『レミリアお姉ちゃーん』ってか?……あほくさ。うぅ、言ってて鳥肌立つわ」

 

「このっ……くっ、フランっ!とにかくこんなのを兄と呼ぶなんて許さないわ!」

 

「お姉様に詭弁お兄様の呼び方を決められる謂れは無いわ!」

 

「ところでフランドール、495年生きてるお前と15年生きてる俺は何倍差ある?」

 

「え、33倍差でしょ?何言ってんの?」

 

「だとよレミリア嬢。何言ってんの?」

 

「むきゃぁーッ!!!姉より優れた妹なんて居ないわ!フラン!勝負しなさい!!ついでにこんな奴を兄と慕う性根をへし折ってあげるわ!」

 

「ふん!いつも咲夜が付きっきりじゃないと何もできない癖に!ボコボコにぶちのめしてバラバラに刻んで太陽の下に晒してあげるんだから!」

 

「怖っ!?なんで此処まで殺意満々なのよ、このシスター!!?」

 

 シャッ!と空高く飛びあがる吸血鬼シスターズ。……まあ、仲良さげで何より。

 ぎゅっと服の裾を橙に掴まれる。その目は涙に滲んでいた。

 

「……」

 

「……橙、妹の座は取られても、義妹の座は開いてるぞ」

 

「っ!」パァァ

 

 泣いたカラスがもう笑う。涙の痕は持ってたハンカチで拭いてやった。

 

「そうだ!義妹なら結婚も出来るね詭弁!」

 

「えぇ……」

 

 する気は無いぞ。と言う前に、橙は手を振りながら去っていった。なんかややこしい事になったが……まあいいや。

 

「いや待てよ?橙が義妹になるという事は、藍ちゃんが俺の妻……?」

 

「いや、そうはならんだろう」

 

 後ろから現れた藍ちゃんに頭を引っ叩かれる。いい音が鳴り響いたなぁ。

 

「橙を泣かせたときは八つ裂きにしてやろうかと思ったが……まあ、良い」

 

「いや、良くない。ここで俺と藍ちゃんが婚姻することで名実共に橙を義妹にしよう」

 

「しないと言ってるだろう。貴様、本当にいずれ背中を刺されるぞ……」

 

「夫の心配をするなんて、藍ちゃんは凄い良いお嫁さんだなぁー」

 

「勝手に関係を進めるな」

 

「何でダメなんだよ!藍ちゃんは橙の笑顔が見れる!橙は俺の義妹になる!俺は藍ちゃんのおっぱいと尻尾を心ゆくまで堪能する!WIN&WIN&WINじゃないか!」

 

「そもそも私と婚姻した所で橙がお前の義妹になると?」

 

「そういう事にしておいた方が皆ハッピーじゃない?」

 

「私がハッピーじゃないんだが」

 

「なんで!?毎日油揚げ食べさせてあげるよ!?」

 

「……油揚げに釣られる九尾の狐ではない」

 

「今ちょっと良いかもって思ったくせに。こうなりゃ実力行使だ」

 

「ほう?私に勝てると?……ふっ、良いだろう。私に勝てればこの身を好きにするといい」

 

「よぉし良いだろう、勝負だ。愛してるゲーム』でなぁ!!!!」

 

「……ん?」

 

 説明しよう!愛してるゲームとは、相手に向かって『愛してる』と様々な言葉で伝え、それに照れたり笑ったりしたら負け!という簡単なゲームである!弾幕ごっこより実際平和!

 

「……詭弁、お前酔ってるだろう……」

 

「酔ってない!俺が勝ったら藍ちゃんを嫁に貰う!藍ちゃんが勝ったら俺を婿に貰う!これで対等!」

 

「結果が変わってないのだが」

 

「じゃあ藍ちゃんが勝ったら俺の貞操を捧げよう!」

 

「結果がそれほど変わってないのだが」

 

「じゃあ俺が先行な!『愛してるゲーム』スタート!」

 

 藍ちゃんの身体を優しく抱きしめ、その金色の瞳を覗き込みながら―――

 

「『愛してる』」

 

「ッッ……ふん、その程度か?」

 

「むむ、照れない……だと?ぐぬぬ、次は藍ちゃんの番だよ」

 

「ふ、軽いお触りは有りか……なら」

 

 藍ちゃんは着ている服の胸元を緩め、大変なおっぱいの谷間を大変強調しながら俺の耳元で囁く。

 

「『愛してる』」

 

「……」

 

「……ッチ、反応しないだと?」

 

 あ、すみません。余りの衝撃に神経がぶっ飛んでただけデス。だが耐えた、次は俺の番だ。

 藍ちゃんの両手を握り、目を見て言葉を伝える。

 

「藍ちゃんはキチンと仕事をこなして、凄くカッコいいよ。『愛してる』」

 

「ッッッ~~…………ふぅ、そんなものか?では次は私の番だ」

 

 藍ちゃんがその胸に俺の右腕をうずめ、耳元で息を吐くように囁く。

 

「『あ・い・し・て・る』」

 

「もう一回ー」

 

「も、もう一回だと!?『愛してる』!」

 

 予想外の一言に慌てたのか、二回目は少し早口で言いきった。

 くそ、『もう一回』の決め撃ちを考えて無かったら今のでヤられていたかもしれん……!流石は傾国の美女、一筋縄ではいかぬ……!

 マズいな。藍ちゃんは頭がとても良いからすぐにこのゲームの攻略法をモノにしてしまう。その前に決着をつけるしかない……!

 藍ちゃんの目も、『次で仕留める』と雄弁に語っていた。なら、全てを出し切るしかない。ここで今、俺の全てを!!!

 

 藍ちゃんを多少強引に神社の壁に押し付け、その顔の横に手を突き、金色の瞳に自分の顔が映っているのが見える程に顔を近づける。もう少しでも近づけば唇同士が当たる距離だ。

 

「藍、俺のモノになれ!『愛してる』!!」

 

「ッッッ~~~!!!」

 

 パチン!パチン!と藍ちゃんから何かが弾けるような、電気が空中に放電されるような音が聞こえる。何の音?

 スゥっと藍ちゃんの瞳の中が縦に裂けていき、まるで蛇のような捕食者の―――

 

 パヂン!!

 

 藍ちゃんの頭から電気が放たれたと思えば、いつの間にか藍ちゃんによって押し倒されていた。

 

「フーッ、ふ、ふふふ……今の言葉は()()()ぞ、詭弁……♥約束通り貴様の嫁になってやる……ただし人間と婚姻するつもりは無いがな……」

 

「え、えーっと……ドウイウコトデショウ」

 

「ふふ……人間が妖怪と何度も何度も交わる事で互いの()を交換し合い、そして互いの境界が曖昧になる。すると人間は『人』という枠から外れ、妖怪も『人』に近づいていく……まあ、私程の妖怪であれば貴様を更に()()()()にしたところであまり変わらないがな……♥」

 

「あー……んー……えー……つ、つまり?」

 

「分からないか詭弁?つまり―――

 

 

 

交合(セッ○ス)の時間だ♥

 

 

 

「夢想天生」

魔砲「ファイナルマスタースパーク」

「グランギニョル座の怪人」

火水木金土符「賢者の石」

彩符「極彩颱風」

メイド秘技「殺人ドール」

 

 

 弾幕の雨と言わず、()が押し寄せてくる。あ、死んだ―――。

 

 

 と思ったら生きてた。

 地面に突然出現した()()()に吸われるように落ち、俺と藍ちゃんは謎の空間に投げ出された。

 

「急に藍の『式』が剥がれたから何事かと思ったら……いや、本当に何があったのよ……」

 

「かくかくしかじか」

 

「四角いムーブ……って喧しいわ」

 

 冗談は置いといて、普通に何があったかを話した。

 

「100%貴方の所為じゃないの……」

 

「いやぁ、ついどうしても藍ちゃんが嫁に来てほしいという心が暴走してしまって」

 

「じゃあ自分の言葉の責任は自分で負うのね。神社に戻してあげるわ」

 

「待って、今戻ると弾幕の雨に撃ち抜かれる未来しか見えな―――」

 

 スッ、と音も無く謎空間から落ちていく。おのれ。

 そして案の定落ちた先の博麗神社で全員にボコボコにされたのだった。いやなんでぇ?

 

 

 

 

 

「……それで、本当に『言葉だけで』式が剥がされたの?」

 

「え、その……はい……彼の言葉に惑わされないように耐えてはいたのですが……彼の『愛してる』に思わず……♥」

 

「頬を染めるんじゃないわよ。一大事なのよ?」

 

「そこまで、ですか?」

 

「ええ、そうよ。貴方の式が言葉だけで剥がされたという事はつまり、『詭弁の言葉が遥か格上にも通じる様になった』という事。()が憑けた()()()()()()()よ?……人間の成長というのは、恐ろしくもあり、楽しみでもあるわね……ふふふ」

 

「……はあ(紫様の考えてる事は相変わらず分からん)」

 

 




ヒント1.詭弁の声は遠くまでよく聞こえる。
ヒント2.詭弁は割とすぐ酔っ払う。酔うと声が大きくなりやすい。
ヒント3.仮に神社の裏手に居て、表側がメイン会場だったとしても物理的な距離には限界があるとは思わんかね?


こたえ.愛してるゲームの声が全員に届いていた。


前回の次回予告で年明けまでと書いたな。あれは嘘だ。(正確には嘘に()()()
オカシイな。書いてるうちに藍しゃまが暴走したぞ?


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冬が長引き……いや長すぎるだろっ!

前回()()()あらすじ

詭弁は全員に『愛してるゲーム』を行うことを条件に一命を取り留めた。


 新年、それは新しい一年の始まり。今までの古さを捨て、新しいものに切り替える事はとても清々しい。気分が一新されるものだ。

 だというのに……

 

 神社の境内にいる死屍累々とした面々は変わりがなかった。あぁ、やっぱ現実か……。

 

 あれから何があったか、軽く振り返ってみよう。

 

 

 

―――――

―――

 

 

 

 宴会に参加していた者達ほぼ全員から弾幕ごっこという名の襲撃を受け、意識が朦朧としていた中で何が起きたか分からないが、なぜか全員と『愛してるゲーム』を行うことになった。

 

『霊夢ちゃん、ずっとお前の事が好きだったんだよ!愛してる!』

 

『ふグっ!!?』(負け)

 

『魔理沙、男らしい言葉使いを意識してるけど、内面は誰よりも女の子らしい事は知ってるよ。愛してる』

 

『はっ!?ぐっ……く、くそっ!お前ズルいぞ!』(負け)

 

『アリスちゃんは料理が上手だし、いいお嫁さんになると思うんだ。愛してる』

 

『ッッッ!!!』(負け)

 

『パチュリーちゃん。最近はよく図書館の外に出ているみたいだね、偉いよ。愛してる』

 

『むきゅっ!?な、なんでそれを……』(負け)

 

『メイちゃん、最近はよくお洒落に気を使ってるよね。今度一緒に遊びにいこうよ。愛してる』

 

『はぅ……ず、ズルいです……』(負け)

 

『咲夜ちゃん、宴会の時はいつも裏方で頑張ってるね。そういうところスゴいと思うし、とても偉いよ。愛してる』

 

『っ……べ、別に誉められたくてそうしてるわけではないわ』(負け)

 

『あやややや……これは中々のネタですねぇ。「春色の便利屋、愛を紡ぐ」……ある意味いつも通りすぎてインパクトに欠けますね……あや?』

 

『文ちゃん。俺は文ちゃんと一緒に幻想郷中を巡りたい。愛してる』

 

『……ぁ……ハイ……』(負け)

 

 

 

―――

―――――

 

 

 うん、色々あったな!

 というわけでゲームに負けた皆は自棄酒じゃぁと一升瓶をあおるように飲み干し、一気に何本も空けてそのままぶっ倒れた。

 ふふふ、皆が泥酔して、()()()()()をするのは容易い……と思ったがそんなことはなかったぜ。

 

「詭弁お兄様っ!『愛してる!』」

 

「フランドール、お前が頑張って手加減を覚えたのはよく分かったぜ。『愛してる』」

 

「ふにゃぁ……うー!もう一回!」

 

 姉との弾幕ごっこに飽きたフランドールが付きっきりで俺と『愛してるゲーム』を始めた為に()()()()()どころか()()()()の一つとて出来やしない。助けろレミリアお姉ちゃん。

 

「ぅー……ふ、フラン?一旦もうその辺にしておきなさい?」

 

「姉より優れた妹が……なんだっけ?」

 

「うぅ……さくやー……何とかしてぇ……」

 

 くそっ、これだからレミリア嬢は……!

 そしてそのまま空が白くなるまでフランドールとの『愛してるゲーム』は続いた……。

 

「……『愛してる』」

 

「もう一回!もっと気持ちをこめてよお兄様!」

 

「何時間言わせ続けるんだお前はっ!『愛してる』!」

 

「あはっ!今のツンデレっぽくて良かったわ!」

 

「イメクラかココはァ!!!」

 

 酒を飲みながらでなければやってられんわ。

 

「お兄様っ『あ・い・し・て・る♥️』」

 

「500年早い。身体に色気が出てから出直しな」

 

「もう!一部の人間には需要あるのに!」

 

 スカートの裾をヒラヒラめくって性アピールをするフランドール。だが欠片も色気を感じない。お前そういうとこだぞ。

 もー誰か助けてくれぇー……。

 

 

 

 

 さて、小悪魔系吸血鬼とのお遊びも解散の時間。空が更に明るくなり、間もなく太陽がその顔を覗かせる事が伺えた。吸血鬼の従者も友も皆倒れているから、代わりに俺が二人分の日傘を持つ。

 今日も、新しい日が始まる。

 

 初日の出を吸血鬼二人と一緒に見るという、新年早々目出度いんだが目出度くないんだかいまいち分からない。ただ一つ言えるのは吸血鬼が初日の出を見ているにも係わらず眠りこけている奴らは、きっと今年の運勢は悪い方に違いない。

 

 

「起きろォー!!!」

 

 

 朝の到来を告げる鶏以上に異常な目覚めの声によって、寝ていた者達が()()()()()

 

「おぉーら元旦早々から寝正月決め込もうなんてふてぇ奴らだ!とっとと起きて顔洗って目を覚ましてこい!一日の計は朝に有り、一年の計は元旦に有り!頭と身体を起こしてハイ朝食の準備!」

 

 ぱぁんと幻想郷中に響き渡る目覚めの声。博麗神社から放たれた大声は妖怪の山の山頂から三途の川を通り越して地獄の底まで響き渡る。

 詭弁答弁の新年一番最初の大仕事。大仕事というか、大声の仕事というか。とにかく年末から年明けにかけて堕落した気を吹き飛ばして欲しいという依頼に全力を持ってお応え中。いやー新年早々仕事熱心な俺素敵。

 

「幻想郷の皆様おはようございます!博麗神社から詭弁答弁が年初めの挨拶運動を行っております!東の空をご覧ください!雲一つ無い空に浮かぶ上がっていく太陽が今年も燦々と輝いております!」

 

 ハキハキと大声で語る。始めは『天岩戸伝説』に(なぞら)え今年も笑いの絶えない一年にしようという言葉から、去年の夏に起きた『紅霧異変』を皮切りに幻想郷中にスペルカードルールが浸透しきった事から今年は変化・成長の多い一年になるであろうという某氏の占い。そして締めとして、この演説が閻魔大王からの有り難い依頼であった事を伝え終了。はぁー、久々に声はったわぁー。

 

 幻想郷中に響き渡るような大声を間近で聞いていた人妖達から半強制的に止められるかと思ってたのだが、周りを見回してみると全員耳を塞いで地面に蹲っていた。

 

「み”……耳が……」

 

「頭が割れそうだぜ……」

 

「あ……く……きぼちわるぅい……」

 

 なんという事でしょう。幻想郷でも指折りの実力者たちを同時にK.O.(ノックアウト)してしまったではありませんか。つまり俺が最強。ふ、また一つ伝説を作ってしまったぜ……。

 そしてその直後、眠りの邪魔をされて大変お怒りモードの八雲紫に謎の空間に引きずり込まれて―――その後の記憶は無い。ぱっと気が付けば博麗神社の鳥居に引っかかっていた。全身に謎の痛みを残しながら。

 俺は、俺は真面目に仕事をしただけなのに……。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 太陽も地平線から完全に出たか出てないかといった時間。俺は霊夢ちゃんに『詭弁印の薬草丸』を飲ませていた。

 『詭弁印の薬草丸』は疲労・体調不良・腹痛・腰痛・頭痛・二日酔い・眩暈・吐き気、あとなんかその他諸々に良く効くお手製の丸薬だ。ちなみに俺の手で飲ませなければ正しく薬効は発動しない。

 

「これで儀式は大丈夫そうか?」

 

「ええ、大丈夫よ。……でも本当に効くモンなのねこの薬……」

 

「ちゃんと薬効のある物使ってるんだからそんな疑うなよ……」

 

 ※俺の手で飲ませなければ正しく薬効は発動しません。

 故に誰かから『詭弁印の薬草丸』を買っても効果ないぞ!そんないい加減な物で良いのかって?実際抜群に効いてるから問題ねえんだよぉ!!

 あ、いや、身体に良い物なのは間違いないんだがな?それはともかくとして。

 霊夢を本殿まで送り、中に入ったのを確認すると神事の成功を見ないうちから博麗神社から出る。

 

「イテテ……なあ詭弁、私にも薬くれよ」

 

「霊夢ちゃんは神事に差し障りがあるとヤバいから特別。お前はこの後なんも予定無いのに渡すわけないだろ」

 

「あるある、めっちゃ予定あるぜ。家に置いてあった魔導書からいきなり大量の弾幕が放たれてな、その犯人探しをするつもりだぜ」

 

「……お前……整理整頓本当に全然しないんだな……」

 

 魔導書から弾幕って……それ去年の夏終わりのアレでは……?嘘だろお前半年近く経ってるぞ?

 

「とにかくやらんモンはやらん。俺はお前と違って新年の挨拶回りとかあるんだよ」

 

「ほー?慧音のおっぱいを揉む事が挨拶回りだって言うのか?」

 

「馬鹿野郎、『新年あけまして一おっぱい』と『おっぱい年玉』は欠かせない行事だろうが!」

 

「初めて聞いたぜそんな行事……イツツ……二日酔いで飛べないぜ……」

 

「……はぁぁー……魔理沙、二日酔いにはとにかく水分だ。水2:緑茶1くらいの割合で沢山飲め。お茶は飲みすぎるなよ?緑茶には利尿作用があって、飲むとトイレが近くなる。身体に溜まってる悪いモンはさっさと出して、新しく綺麗な水を取り入れろ」

 

「お、おう……」

 

 ふらふらと頭を抑えながら神社の内に戻っていく魔理沙。まったく世話の焼ける……。

 

 ふと前を見れば、季節外れの桜の花びらが一枚舞い降りた。ここんとこ時折見かけるものだ。なんとなく集めているが、これが何なのかがいまいちわからない。

 ……ま、良いや。とにかく今は慧音先生のおっぱい!急いで人里に向かう。

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 慧音先生!新年あけましておめでとうございまーーーーす!!!!

 

「フンッ!!!」

 

 ゴシャァッ!!!!

 額と額がぶつかり合ったとは到底思えない音が人里中に響く。

 

「詭弁、先程のアレはなんだ!!寝間着のまま思わず布団から飛び出してしまっただろう!!」

 

「えっ!寝間着姿の慧音先生見たい!」

 

「そういう話じゃない!!!異変が起こったかと誤解しただろうが!」

 

「しかし慧音先生。アレはかの閻魔大王四季映姫・ヤマザナドゥからの直々の依頼で、『近年、皆が怠惰の気を纏い始めました。このままでは皆して地獄行きは免れません。そこで詭弁さんには皆の意識改革を依頼します。方法は問いません。貴方なりのやり方で人々をより良い方向へ導く事、それが今の貴方に出来る善行です』って言われたんですよ!それなら新年に心機一転!一年の計は元旦にあり!寝正月なんてするから映姫様が皆を堕落していると言うのです!だからこそ元旦から朝早く起きて活動を始める事が堕落を抜け出す第一歩として―――」

 

「やり過ぎだ!!!なんだあの大声!?人の身体の何処からあんなどデカい声が発せられるんだ!!?耳元に雷が落ちたかと思ったぞ!!!」

 

「でも効果抜群でしたよね?」

 

「ああ!皆が怠惰から憤怒に変わるくらいにな!!」

 

「わあ効果覿面」

 

 ふと周りを見れば、皆が皆俺に向かって大変良くない視線を送っている。ひぇぇ。

 だが、突然俺を取り巻いてた一角がザワつきだした。何事と思えば人衆が割れるように開き、そこからかの閻魔大王、四季映姫・ヤマザナドゥが現れた。

 

「詭弁答弁、新年おめでとうございます」

 

「えっ、あ、はい。おめでとうございます」

 

「……まずはお礼を。先日お伝えした()()の件は、今朝の行動をもって『達成』と致します」

 

「ほらー!映姫様だってこう言って―――」

 

「ですが、貴方は少し考えが足りなさすぎる」

 

 手に持った悔悟棒を俺の頭に落とし、映姫様は説教を続ける。

 前に映姫様の説教の最中に()()()()()結果、俺だけ説教が始まる前に物理的に半身を地面に埋められてから説教が始まる。ちょ、ちょっと説教に夢中になってる映姫様にユーモアを見せただけじゃーん……。

 

「前もそうです。こうして私が足を運んで、地獄に落ちないように有り難い言葉を言い渡しているにも拘らず貴方は私のスカートを捲って中を確認するという暴挙に出る始末。それに飽き足らず下着を脱がそうと試みるなど前代未聞です。本来ならすぐにでも地獄に落としても良い所、貴方の()()を鑑みて保留としているのです。いつまでもその現状に甘んじていては本当に地獄に送らねばならなくなりますよ。そもそも―――」

 

 あ、でも映姫様スカート短いからもうちょい……見えそう……見え……くっ、ギリギリ見えないっ!

 と、奮闘していたら二撃目の悔悟棒が脳天に撃ちおろされた。

 

「―――そもそも、貴方には煩悩が多すぎる。年頃の女性を見れば、性的欲求を満たすために一目散に走り出すなど人どころか知性ある生き物の姿ではありません。本来男女の関わりとは、様々な過程を経て一歩一歩進んでいくモノです。ですが貴方の歩み寄り方は異常が過ぎる。自身の能力に胡坐をかいて女性に言い寄るなど、その女性に対して失礼であり―――」

 

 更に地面に埋められたお陰で映姫様の内側がしっかりと見える様になりました。黒です。

 そして三撃目。首から上だけ地面から出ている。俺もうゆっくりになっちまうよ……。

 

「―――失礼であり、自身の品を落とす事に繋がります。何より、例えうまく男女の交際になったとしてもその結末は互いに不幸な物となるでしょう。故に貴方は段階を経て男女の付き合い方を学ぶべきであり―――」

 

「つまり映姫様は()()()()()()()()()と言う物に詳しいと?映姫様は詳しい程に男性とお付き合いをしていると?」

 

「……とにかく、貴方は今一度女性との向き合い方を考えるべきです」

 

「それは何をもって正解とするのですか?交際をすれば正解なのですか?男女の関係になれば正解なのですか?それとも一度も関わりを持たずにただ思い続けるだけが正解と言うのですか?」

 

「…………女性が不愉快に思わないように心掛け、節度を持った関係を―――」

 

「つまり女性は皆不愉快と思わない様な男性と付き合うべきと?必ず不愉快に思わない様な人間関係って存在するのでしょうか?世間一般で『仲の良い親子・兄弟』と呼ばれる間柄でも、内心では相手に対する不満点があるでしょう。ですが映姫様の言う男女の関係にはそのような不満点が一切無く、節度を持った関係が続くと?……映姫様、男女の関係は一般論で語られる物でなければ、これが正解という形もないと思います。世間が羨むようなおしどり夫婦でも、互いが互いに不満を持っている事も有ります。世間が呆れるような、女性に養われるヒモ男との関係でも、当人にとっては最上の幸せだと言う事も有ります。正しさだけでは世界は存続しません。理想だけでは人は生きていけません。ですが、()()()()()()()()()()()()があれば人は生きて、世界は続きます。映姫様の言う通り、()()()()()というのがあるのかもしれません。しかしそれを探っていく行動を、意思を、否定しないでください!」

 

「……ふぅ、分かりました。やはり貴方には何を言っても無駄のようですね」

 

 映姫様は諦めたようにため息を一つ吐くと、悔悟棒に何かを書き連ねていく。

 

「貴方の最も大きな罪は、自身に向けられる愛に目を向けない事。特例措置として死をもって―――」

 

「ひゃーすげー!とんだとんだ―!!!」

 

「まってよー!!つぎボクのばんー!!」

 

 子供の声が映姫様の後ろから聞こえたと思ったら、ドンと人と人が当たる音がして―――視界が真っ黒に染まった。

 

「いてて……あっ!ご、ごめんなさい!!」

 

「ちゃんとまえみなよー!おねえちゃんだいじょうぶ?」

 

「え、ええ。私は大丈夫です……怪我は無いですか?」

 

「オレはじょーぶなんだ!しんぱいしてくれてありがとうおねーちゃん!ぶつかってごめんなさい!」

 

「……あれ?おねえちゃんのおしりのしたになにかいるよ?」

 

「……」

 

 早い話、俺は映姫様のお尻の下に敷かれている状態だ。

 落ち着け、状況を整理しよう。まず俺は三度映姫様の悔悟棒にぶっ叩かれた影響で地面の下に首から下全部埋まり、顔だけ地上に出ていた。

 そして映姫ちゃん。短いスカートの中は黒くアダルトなパンツ。閻魔の癖に色気づきやがって……じゃなくて、後ろから勢いよく走ってきた子供に衝突し、転倒。そしてその際、大変愉快な事に顔だけ出てた俺の上に尻を乗せる事になった訳だ。いやー、なんて奇跡か。

 映姫様は何事も無かったかのようにスッと立ち上がる。

 

「うわ、便利屋のにーちゃんじゃん。なにしてんだそんなところで」

 

「ちょっと一頭身の気分を味わっていた」

 

「またパンツのぞいてる。いけないんだー!」

 

「……坊やたち、その男から離れていなさい」

 

「ん、おー。じゃあな便利屋のにーちゃん!」

 

「ばいばーい!」

 

「……詭弁、答弁。今起きた事は忘れなさい」

 

「いや、無理でしょ。映姫様の顔面騎乗よ?めっちゃ良い匂いでした」

 

「か、感想を言うんじゃありません……!いいですか、今起きた事を忘れなさい。いま貴方の出来る善行はそれのみです!」

 

「……映姫様。もし、それしか出来る善行が無いと言うのなら……俺は悪人で良いッ!!!!!」

 

「良い訳無いでしょう!!くっ、こうなったら物理的に記憶を飛ばすしか……!」

 

「『詭弁流逃走術:土竜陣』」

 

 手に装着していた妖精手甲の力を最大限に引き出し、地面の中を泳ぐように逃げる。

 

「待ちなさい!待てっ!貴方、そんな事ばかりしていると本当に地獄に落とすわよっ!!!」

 

 あーあーきこえなーい。映姫様は真面目な時とポンコツな時とのギャップが可愛いんだ。

 慧音先生から()()()は貰えなかったが、代わりに映姫様から()()()を貰えるとは。これは新年早々良い事だ。

 地面を潜り続け、里の外の適当な所まで逃げる。ふふふ今日は流石に家に帰れないぜ……。何故なら前に似たような事があった時、『もう大丈夫だろう』と思って家に帰ったら死神連れた映姫様が待ち構えていた事がある。俺は過去に学ぶ系人類。

 慧音先生からの()()()はまた次の機会にしよう。

 

 ああ、今年の一年も良い年になるなぁ!!!

 

 

 

 

「……くっ、逃げられてしまいましたか。詭弁さん……あまり打ちたくはない手ですが、貴方には一度()()()()()()()()()()()()()()()みたいですね……。何とか隙を突けると良いのですが……」

 

 そうして楽園の最高裁判長は人里から去っていった。

 

 




話が全然進まない……!詭弁、お前も自由に動きすぎや……!
映姫ちゃんは詭弁以外にはキチンとしたお説教をします。ただ詭弁にだけはキチンとお説教が出来ません。なんでやろうなぁ?


ひんと:幻想郷の女の子はみんな詭弁の事が()()()()()()()んだ!


感想は作者の力になります。書いて。
特に本編と関係ないけど、やっぱ妖々夢編って二次創作全体でシリアスな印象になるよね。お前のせいやぞ妖怪桜。


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春度とは一体なんですか?

なぜこんなにも妖々夢編が続くのか……


 正月は主に燃料用の薪を作って売ったり、獣やこの時期の山菜を狩ってきたり、時々襲撃にくる冬の妖怪達を蹴散らしたりと、新年早々から忙しい日々を送っていた。慧音先生からも()()()を貰え、幸先の良い一年の始まりと言えよう。

 

「……こんにちは、詭弁さん」

 

「ん?おう、妖夢ちゃん。こんにちは」

 

 今日も雪が降る中で、薪を作るために木こりをしている最中に妖夢ちゃんと出会った。最近はよく里の外で会うことが多く、会えば軽く話す仲になっていた。

 魂魄妖夢。半分人で半分霊魂という種族で、冥界に住んでいるのだが時々こうして現世に降りてくるそうだ。

 

「詭弁さん、一つお願いがあるのですが……」

 

「んぅ、なんだ?大体の事なら()()という形で請け負うが」

 

「詭弁さんの持っている春、私に下さい!!」

 

「……ん?」

 

「ですから、詭弁さんの春を私に下さい!」

 

「……あー……ココでか?」

 

「はい!」

 

 わお。

 いや、マジでか。この娘の目が本気ですと語っている。う、うーん……この娘中々に……。

 ……よし、分かった。俺も男だ。覚悟を決めよう。

 そうして着ていた服を脱ぐと、妖夢ちゃんが慌てだす。

 

「な、な、何故急に服を脱ぎだすんですか!!?」

 

「えっ?妖夢ちゃんが俺の春を欲しいって……」

 

「言いましたけど!だからと言って何故服を脱ぐんですか!?」

 

「???服が汚れるだろ?え、もしかして服を着たままの方が良かった?」

 

「当たり前でしょう!!!」

 

「お、おう……そういうことなら……」

 

 そうしてズボンの()からアレを出す。

 

「ちょっと寒いから勃つまで時間ちょうだい」

 

「わぁぁぁぁぁ!!!なんてモノ見せてるんですかぁぁぁぁ!!!」

 

 妖夢ちゃんが両手で目を覆い、指の隙間からガッツリと俺の股間を見ている。なんて古典的な……じゃなくて。

 

「妖夢ちゃん。依頼として春を買うという話では……?」

 

「お、お金が必要でしたら少しなら有りますが!()()()()()を突然強要するのはっ……せ、せめて少し時間を下さいっ!!」

 

「んん?????」

 

 何か話がすれ違っている気がする。

 

「妖夢ちゃんが売春を求めたのでは?」

 

「ばいしゅ……!?違います!!!詭弁さんの持っている『春度』が欲しいだけですよぉ!!」

 

 ……あ、寒いからチンチンしまうね。

 はて?春度とな?

 

「桜の花弁のような物を何枚か持ってますよね!?それは春が結晶となったものでして、それを集めることでより春っぽくなるものです!」

 

 『春っぽくなる』とは、なんとも抽象的な表現だ。だが、そうか。俺が意図的ではなかったとは言え、この春度を集めていた事で俺の回り及び家の周辺が若干暖かかったわけか。

 

「つまりその春度を売春すればいいわけだ」

 

「売春から離れてくださいっ!」

 

 まあ春度を集めているとは言え、時期的にはまだ冬。幾ら沢山集めた所で春はまだ訪れない…………待てよ?春度を集めることで春っぽくなるということは、()()()()()()()()()()()()()? 

 

 チャキ。鍔鳴りが響く。

 

「詭弁さん。余計な詮索はしないでください。春度の対価が必要であれば、私が持っている分で支払いましょう。ですが、『渡さない』と言うのであれば……強引に奪っていきます!」

 

「ははは、喧嘩っ早くて良くないなぁ。『渡さない』なんて言ってないだろうに。まあ、どうせ拾い物だ。妖夢ちゃんが持っている物と交換しよう」

 

「……本当ですね?」

 

「取引で嘘は吐かないさ。じゃあ持ってるもの見せて?」

 

「……ふぅ。正直、詭弁さんと戦うのは気が引けていた所でした」

 

 そうして妖夢ちゃんが持っている物を見る。

 中身が軽いがま口。刀の磨き粉と油落とし等の日本刀の点検用品。空き瓶。綺麗な小石。

 

「お前これでよくまあ取引を持ちかけたな。感心するわ」

 

「ち、違うんです!本当はもっとお金を持っていたのですが、買い物に使ってしまったのを忘れてて……」

 

「で、更に俺から()()()()()と……妖夢ちゃんは意外に散財癖があるんだね……」

 

「言い方ァ!!?違いますっ!今日は偶々……」

 

「偶々お財布の中身を忘れるほどに買い物をしたと。妖夢ちゃんの()()は週に何回あるのかなぁ?」

 

「だから違いますってぇ!!普段はちゃんと節制してますから!」

 

「妖夢ちゃんに質問!『剣豪』と『本日限定』、どっちの言葉が好きですか?」

 

「『本日限定』です!」

 

「続いて質問!『サムライ』と『カワイイ』と『大特価』、選ぶとしたらどれ?」

 

「『大特価』!」

 

「最後の質問!『すぐに入れる大衆食堂』と『行列が出来ているカフェー』食事をするとしたらどっち!」

 

「人気そうなカフェーです!」

 

「……あかん。俺の占いでは、妖夢ちゃんは『必要なものではないけど限定と付いてる品は何となく欲しくなっちゃう病』と『安かったから買ったけど後から思えば別に要らない物だったな、と思うことが多い病』と『拘りはないけど何となく流行に乗っておかないと損をする気がする病』が併発している……。妖夢ちゃん、悪いことは言わないから一度『買い物学』を学ぼうね」

 

「な、何ですかその妙に具体的な名前の病気は……というか、買い物なんて学ばなくても出来ますよっ!!!」

 

「えっ!?妖夢ちゃん『買い物学』知らないの!?今人里で大流行の『買い物学』を知らない!?大人も子供も皆勉強してるのに!?」

 

「知りませんよそんなもの!……ま、まあ詭弁さんが教えてくれるというのなら、勉強するのもやぶさかでは無いですが……」

 

「……そういうところだぞ妖夢ちゃん。『買い物学』なんてモンは無いし、流行ってないよ。大方その空き瓶も小石も売り付けられたものだろ……」

 

「う……確かによく考えれば、私は何故このようなものを買ったのか……」

 

「『買い物学』じゃぁ無いけど……今度一緒に買い物しに行こうか。余計な出費をしない買い物の仕方を教えてあげるね」

 

「うぅ……よろしくお願いします……」

 

「じゃぁそういうことで。まだまだ寒いし、暗くなるのも早いから気をつけて帰るんだぞ」

 

「はい。すみません詭弁さん、今度よろしくお願いします!」

 

「おーぅ、気を付けろよー」

 

 そうして俺は切った倒木を担ぎ、薪として使えるように加工するために一度里の内側に戻るのであった。

 

「……うぅ、なんて情けないの妖夢。詭弁さんが優しい人で良かった…………じゃ、なぁぁぁい!!!!!!」

 

 倒木を担いでいる俺の後ろから妖夢ちゃんが飛びかかってくる。

 

「詭弁さん!私は詭弁さんが持っている『春度』を取りに来たんです!!『春度』を集めて西行桜を満開にさせないといけないんです!!」

 

「さ、桜なら春を待てば咲くでしょうに……」

 

「普通の春じゃ駄目なんです!!幻想郷中の春をかき集めなければ……あっ」

 

「……つまり幻想郷中から春度を集めて、春を奪おうと言う訳だな?」

 

「くっ!?まさかこのような手で暴いてくるなんて……っ!」

 

「いや自爆自爆」

 

とにかく!!企みがバレてしまったなら口封じをするしかありませんっ!」

 

「ほう、『死んでもうるさそうな男』と名高い俺を口封じと。どうするんだい?」

 

「お願いしますっ!どうかこの事は誰にも言わないでくださいッ!!」

 

「まさかの懇願!!?」

 

「特に博麗の巫女にバレたら春を集めるのが難航してしまいます……ですからどうか……」

 

「ん、んぅ……女の子の()()()には弱いんだよなぁ……分かった分かった。妖夢ちゃんが春度を集めている事は誰にも言わないよ」

 

「本当ですか!?ありがとうございます!!ついでに詭弁さんが持ってる春度をください!」

 

「厚かましいな急に!!?春度を集めている事は言わないけど、それとこれは別問題だろうが……。拾ったモンだけど、コレがあると冬場の作業がかなり楽だしタダで渡すのは駄目だ」

 

「ではやはり力づくで……」

 

「……ちなみに商売の神の信徒である俺は、例え女の子でも強盗や万引きは絶対に許さないよ?もしそんなことしたら……とても口には出来ない事(エロ本展開)をしちゃうからね?」

 

「…………私が持っているコレらで何とか手を打ってもらえないでしょうか……」

 

「中身がほぼ空のがま口、日本刀用品、空き瓶、小石。これでどう手を打てと?……そうだなぁ、妖夢ちゃんの持ってるその刀―――」

 

「こっ、これは魂魄家に代々伝わるとても大事な刀ですので絶対に渡せませんッ!!!」

 

「ふぅん。春度は欲しい、でも対価が無い。なるほどねぇ……」

 

「うぅ……お願いします……今ある物で何とかなりませんか……?」

 

「んぅー…………よし、分かった。じゃあ妖夢ちゃんが()()()()()()()で手を打とうか」

 

「ほ、本当ですかっ!!!」

 

「ああ、勿論。これから言う物を『今』『この場で』渡してくれたら、今持っている春度を全部交換してあげる」

 

「ありがとうございますっ!!どうぞ何でも言ってください!!!」

 

「お、本当?じゃあ―――」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 冥界 白玉楼

 

「た、ただいま戻りました幽々子様……」

 

「あら妖夢、おかえりー。春度集めは順調かしら?」

 

「え、ええ……まあ……一応……」

 

「んー?どうしたの?……あら、まあまあ。まだ冬真っ盛りなのによくこんなに集めて来てくれたわね!凄いわ妖夢」

 

「い、いえそれほどでも……すみません幽々子様、一度自室の方に戻らせていただきます……」

 

「?良いわよー?……どうしたのかしら妖夢ったら。……こっそりついて行ってみよう」

 

 

「……うぅ……幽々子様に褒められましたが、まさかあんなモノを対価に要求されるとは……しかも、あんな辱めを……っ」

 

「(あら、着替えてるのかしら……あれ?なんで()()()()()()()()()()()()()()()()の?)」

 

「くっ……詭弁さんっ!この借りは必ず返しますからね……っ!」

 

「(詭弁……といえば、前に紫が話していた人間の男だったかしら……まさか、ウチの妖夢に手を出した?……それこそまさかね。)」

 

「まさか目の前でサラシとドロワーズを脱ぐように要求した上に、に、匂いを嗅ぐなんて……っ!!」

 

「妖夢、ちょっとお話があるの」

 

「ひゃぁぁぁ!!ゆ、幽々子様!!?私まだ着替えている最中なのですが!?」

 

「そんな事はどうでも良いわ。その詭弁って男について詳しく教えなさい?」

 

「そんな事っ!?」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 いやぁ、まさか本当に目の前でサラシとドロワーズを脱いで渡してくれるとは。よっぽど春度が欲しかったんだなぁ。脱ぎたてで生暖かいサラシとドロワを手に入れた!ってか。

 顔を真っ赤に染めて羞恥に悶える妖夢ちゃんの生おっぱいとツルツルのおマタ。大変ありがとうございました。永久保存版です。ふふふ、今晩も捗るぜ……。

 ……待てよ?もしかしてもっと春が近づいてきた時に、今以上の春度を集めていたら?それはもっとスゴい物と交換できるのでは?ヤバイ、俺天才かよ。流石に気分が高揚します。

 こうしちゃいられねぇ、もっと春度をかき集めるんだ。そう、妖夢ちゃん以上にもっと、沢山!

 そして大量の春度を妖夢ちゃんの眼前に突きつけ、対価として……ぐへへ。夢が広がりますなぁ!!

 

 ゾクッ

 

 背中に氷柱が突き刺さったかのような悪寒に襲われる。……き、気のせいか?近くに妖怪の気配はないし……。

 ……まあ、妖怪は居ないしヨシ!今はとにかく春度を集めるプランを練ろう。効率的に集めるには……やっぱり妖精達の協力が必要か?使えるもんは全部使おうか。

 ふふふ、ああ妖夢ちゃんを弄りまくれる日が楽しみだなぁ!よぅしとにかく春度をいっぱい集めよう!やっぱり今年は良い一年になるな!

 妖夢ちゃんから交換したサラシとドロワ―ズ、ついでに空き瓶と綺麗な小石を懐にしまって揚々と歩きだした。

 




詭弁が死ぬまで秒読み段階!

空き瓶
 無色透明のガラスで作られた空き瓶。中に薬を詰めたり、虫かご代わりに虫を入れたり、果ては妖精や幽霊の魂を詰めたり出来る。
 熟練の勇者は空き瓶で光弾を跳ね返したり、空き瓶を楽器代わりに使って演奏したりするらしい。
 中に物を詰め込んだら、頭上高く掲げるのがマナー。

綺麗な小石
 紅く煌めく綺麗な石ころ。これを光にかざすと、内部で何億回と光を反射し続けて最終的にレーザービームのように射出される。
 太陽のエネルギーを増幅させる効果があるらしい。


ところで私も妖夢ちゃんのストリップを目の前で見たいのですが、どんな善行を行えば見れますか?


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春雪異変ですよ!

妖夢ちゃんかわいいなぁ


 あれから少し時間が経った。

 妖精達を使って春度を集める作戦は、最初のうちはうまくいってたが時期的に春が近づいてくるにつれ、妖精達が興奮して凶暴化してきたので断念した。

 やはり幻想郷中から春度を集めた影響で()()()な状況になり、妖精達が異変を感知して興奮し出したのだろう。まあ、とは言えだ。まだ妖精達が少し騒がしい程度の凶暴化で、『そんな日もあるか』くらいの誤差だ。

 

 今は俺一人で幻想郷中を歩き回って春度を集めている。霊夢ちゃんや魔理沙に気取られないように時々神社に顔を出しつつ、便利屋の依頼をこなしつつ、紅魔館の前でメイちゃんと組手しつつ。ぶっちゃけめちゃくちゃ大変だ。

 そして春度を集めまくれば終わり……というわけもなかった。冬が長引いて春の到来が遅れると、考えられる不利益は作物の影響だ。もし春が来ない影響で種蒔きが遅れて、不作にでもなってしまえば一大事だ。俺みたいに限られた人間だけが里の外で食料を探してこれるが、普通の人間では妖怪のエサになって終わり。

 そんなことにならないように、里で管理してる畑に近づいてコッソリと春度を使()()。春の結晶がこの春度なら、砕けば辺りに春が蒔かれると踏んで使ってみたらこれが正解だった。厚く積もっていた雪は徐々に溶けて、僅かに地面が見えるようになった。春は近い。

 ……と、集めては少し使い、また集めては少し使ってを繰り返している為に春度があまり集まらない。くっ、これでは妖夢ちゃんを辱しめる計画が……。

 家の中でウンウン唸っていると、戸を叩く音が聞こえてくる。はいはいどなたかしら?

 

「……こんにちは、詭弁さん」

 

「誰かと思えば妖夢ちゃん。何の用だ?」

 

「私と勝負してください!」

 

「良いよ」

 

「勿論突然こんなことを言われて困惑するのも分かりますが、これは便利屋の詭弁さんに依頼していると取ってもらっても構いません!」

 

「んぃ、だから良いよ」

 

「今日はキチンとお金を持ってきました!これでどうか勝負を受けてください!」

 

「良いって言ってるだろ乳首抓るぞ」

 

「…い、今なんて?」

 

「しつこいから乳首抓るね」

 

「止めてください!!」

 

 乳首をつねり損ねた妖夢ちゃんの言うことには、白玉楼の庭師であり剣術指南役でもあるのだが自分自身まだまだ半人前で、一人で刀を振り続ける修行だけでは限界もあるとの事。

 

「そこで同じ長物を扱う詭弁さんと試合をすることで、自分に足りない物を知る機会を作ろうと―――」

 

「理由は本当にそれだけ?」

 

「……そ、それと詭弁さんが持っている大量の春度を取る為に……」

 

「そういうのなんて言うか知ってる?」

 

「う、うるさい!変に交換しようとしてまた下着取られては堪ったものじゃありませんよぉ!」

 

「安心しなって、今度は上着()貰うから」

 

()!!?何一つ安心できる要素が無いじゃないですか!!!」

 

 閑話休題。

 まあ俺も強くなるという目標があるから、この手の勝負事はわりと歓迎だ。素手での組手はメイちゃんと行っているが、陽輝棒は組手では使わないから中々上達した感じがしないのだ。

 とまぁ、そういう事で人里から少し離れた開けた場所に移動し、間合いを取る。

 

「……私が勝ったら、詭弁さんの持っている春度全てを渡して貰います!」

 

「じゃあ俺が勝ったら妖夢ちゃんの着ている服全て渡して貰います」

 

「さっきの本気だったんですか!!?嫌ですよっ!!!」

 

「じゃあ服は着たまま一晩シケこむというのは……」

 

「シケこっ……!?だ、ダメですッ!!そういうのはちゃんと婚姻してから行う事ですからッ!!」

 

「ほう、じゃあ俺が勝ったら妖夢ちゃんと結婚するというのは?」

 

「ふええっ!?ほ、本気なんですか!?」

 

「それは妖夢ちゃん次第かなぁ。まあ、妖夢ちゃんが勝てば良い話じゃないか」

 

「そうですが……うぅぅ…………やっぱりダメですっ!!!」

 

「じゃあやっぱり、最初言った着ている服全部で良いな?」

 

「くっ……変態っ!」

 

 はいそうです。

 そうして始まる模擬戦。限りなく実戦に近い()()は、一気に互いの()()のギアを高めていった。

 妖夢ちゃんの振り下ろす刀と俺の陽輝棒の薙ぎ払いが交差する。ガァンとまるで巨岩を撃ったかのような手の()()に、手加減している余裕はないと意識を切り替えた。

 

「『身体強化魔法(エンハンス)』」

 

「くっ……!?一筋縄ではいきませんか!」

 

 魔法と()()()()によって身体能力を爆発的に上げ、残像が残る程の突きによる連撃を御見舞いする。だが妖夢ちゃんはその全てを見切って紙一重で回避しきった。

 

「次はこちらの番です!」

 

 妖夢ちゃんは長い方の刀を両手に持ち、刀を振り回す。振った後の残像が飛んできて、その直線状にある物を切断していった。

 

「飛ぶ斬撃!?ンだそれ面白いな」

 

 牽制の光弾を撃ち、妖夢ちゃんの脚を止めさせる。完全に脚が止まった所に陽輝棒を伸ばして振り抜く。妖夢ちゃんは刀で受け止めるが、身体強化されている俺の攻撃を受け止めきることが出来ずに薙ぎ飛ばされる。

 

「うぅっ!(力が上がったッ!?真正面から受け止めるのは不味いっ!)」

 

「離れた所を狙い打つ。『驚愕魔弾(ジャックインショット)』」

 

 妖夢ちゃんをホーミングする弾幕を張り、追撃する。無数の魔弾は駆け出す妖夢ちゃんを追い続け、追い詰める。

 

「く、しつこいです!」

 

 振り返り、魔弾を斬り落とす妖夢ちゃん。だが魔弾はそこから真価を発揮する。

 斬られた魔弾がはじけ、内側から氷の礫が飛び出す。予想してなかったのか、体勢を崩しながらかすり避け(グレイズ)。その隙を見逃さない。

 如意陽輝棒は多少の距離をものともしない。グンと伸ばして妖夢ちゃんを突く。

 

「ぐうっ!?(里の外を平然と出歩くだけあって、やはり強い……っ!)本気を出させてもらいます!魂魄『幽明求聞持聡明の法』!」

 

 妖夢ちゃんの側に憑いていた半霊が人となり、妖夢ちゃんが二人に増えた。そんなん有りかよ。

 

「「いきます!」」

 

「いやぁ勘弁。『斜陽陰気(トワイライトブラック)』」

 

 陽輝棒を強く光らせる。陽輝棒は日の光、つまり陽の気を操るだけじゃない。光が強まれば影もまた濃くなる。強い光に照らされた俺の影が()()()()()、増えた妖夢ちゃんの片方に向かう。

 

「「増えた!?」」

 

「影分身の術ってな。さあ第2ラウンドだ」

 

 影分身の俺の両腕に冷気が纏われる。冷気は氷の籠手となり、妖夢ちゃんの持っている刀を掴む。

 

「っ、冷たっ!!」

 

 冷気が刀を伝って妖夢ちゃんの手のひらまで通る。振り払うようにもう一人の妖夢ちゃんが影分身の腕を斬るが、一瞬霧のように散った後再び元の形に戻った。

 

「太陽が出ている限り影分身が消える事は無いぞ!」

 

「……ならば!」

 

 妖夢ちゃんは、今度は短い方の刀で影分身を斬る。影分身は氷の籠手で受け止めようとしたが、紙のようにあっさりと籠手ごと斬られて消滅した。

 

「やっぱり!白楼剣なら斬ることが出来る!影分身恐るるに足らず!」

 

「じゃぁもっといってみようか。『斜陽陰気(トワイライトブラック)3連』」

 

「……へ?」

 

 陽輝棒が更に強く光り、俺の後方に三つの影が出来る。影達は立ち上がり、妖夢ちゃん二人に向かっていった。

 

「なっ、何でぇ!?斬ったじゃないですか!!増えるなんてズルい!」

 

「先に増えたお前が言うな……。さあ、総攻撃だ!」

 

 影達は腕の氷籠手で、俺は陽輝棒で、増えた妖夢ちゃんごと囲んで叩く。妖夢ちゃん達は二刀と二刀で交戦するも、防戦一方だ。

 

「とどめ!『影四方凍結界(ボーダーオブトワイライト)』!」

 

 妖夢ちゃんから見て東西南北それぞれに俺と影分身が立ち、結界術で影分身ごと妖夢ちゃんを封印。そして封印の中で、影分身が自爆するように冷気を撒き散らす。

 そうして、あっという間に氷の棺が出来上がり。

 

 実戦で初めて影分身を使ってみたが、中々使い勝手の良い技だ。影分身自体に攻撃力が無いから魔法で補助しないとあまり意味が無いのと、影分身を出している間はずっと陽輝棒を持っていないと維持できない点が難点か。もっと積極的に使って習熟度を上げないとな。

 結界を解き、氷の棺を外側から破壊する。すると中から、寒さで縮こまっている妖夢ちゃんが這い出てきた。

 

「うぅぅぅ……寒いです……」

 

「影分身に氷のエレメンタルを持たせてたからな。強烈な氷属性魔法だったろ?」

 

「くぅ……本調子であればあの程度の技は破れた筈ですのに……」

 

「そうだな。じゃあなんで本調子じゃなかったと思う?」

 

「えっ……?そ、それは…………ずっと、詭弁さんのペースだったから……」

 

「つまりそういうことだ。勝負中、俺は常に自分のペース、自分の間合い、自分の()()で戦ってた。妖夢ちゃんのその刀は確かに長いが、その刀よりもっと長い間合いから攻撃され続ければそりゃいつかは負ける。じゃあどうする?」

 

「どう……するか……」

 

「一人で修行し続けて見える境地もあるだろう。でも、自分に出来ることを考えて、試して、また考えてって繰り返して、様々なことが出来るようになって見えてくる景色もあるはずだ。色々考えてごらん?」

 

「……詭弁さんは、もしそうなった場合にどうしますか?」

 

「俺だったら兎に角相手の意表を突く事を意識するね。魔法で地面を掘るとか、武器を投げるとか」

 

「武器を捨てるんですか!!?」

 

「捨てはしない……が、武器よりも俺の命の方が大事だ。必要なら大事に使ってる如意陽輝棒(コレ)も手離すだろうね」

 

「……愛着は、無いんですか?」

 

「あるに決まってるだろう。綺麗に輝かせるために一日一回は磨いてるんだぞ?でも、愛着があるからと言って判断を間違えば、待っているのは死だ。……まあ、とは言っても()()()程扱いやすい武器も無いから、コレを手離すのは本当に最終手段だな。むしろそんな事にならないように色々な奥の手を持っているワケでもあるし」

 

「……なるほど」

 

「んぃ、まぁ『道を極める』ってのは並大抵の覚悟や時間で達成出来るもんじゃない。時には寄り道回り道する事もあるけど、それは自分の中で()()にはならない筈だ。色々考えて、思いついた事を試してごらん。時間が合えば、こうして俺が試合出来るからさ。俺も色々試して鍛えたいし、俺に付き合ってよ」

 

「詭弁さん……!はいっ!何から何までありがとうございます!これからは剣を振り続けるだけでなく、必要な事は何か考える時間も取る事にします!」

 

「おう。しっかり考えれば、絶対無駄にはならねえからな」

 

「はい!ありがとうございました!それでは!」

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

「あの、なんでついてきてるのでしょうか……?」

 

「え?妖夢ちゃんの自室で、着ている服全部渡してくれるんじゃないの?」

 

「なんでそんな話になってるんですか!?」

 

「俺が持ってる春度全部と妖夢ちゃんが着ている服全部賭けるって話だったじゃないか」

 

「そうでした……(くっ、流れで帰って有耶無耶にする作戦が……)」

 

「流石に全裸で家まで帰すのは忍びないし、まあ折角だし妖夢ちゃん家までついてくよ」

 

「場所冥界ですよ!!!?死にたいんですか!?」

 

「でぇじょーぶだ。妖怪の賢者が『冥界までは地続きだから歩いていけるわ』って言ってた記憶がある」

 

「確かにそうですけども!!?普通生きた人間が冥界に来ます!?」

 

「そういう意味では俺は普通じゃないから平気だな」

 

「ああこの人はこういう人でした……」

 

「んまぁ、そんな訳で冥界案内ヨロシク!いやぁ妖夢ちゃんと『お家デート』とは燃えるな」

 

「『お家デート』とは!!?私と詭弁さんはまだそう言った関係ではないですよね!?」

 

「え?俺が『付き合って』って聞いたら、妖夢ちゃん『はい!』って答えてくれたじゃん」

 

()()そういう意味で言ったんですか!!?私てっきり試合に付き合ってという意味かと……」

 

「うん、試合デート」

 

「試合デートとはっ!!??」

 

 そうして、なんだかんだで妖夢ちゃんについていき冥界に入った。

 

 

 

 

 一か月後、詭弁は未だに人里に帰ってきていなかった。

 春は、まだ来ない。

 

 




ようやく東方妖々夢本編が始まる……ただし原作主人公たちの活躍場面はわりと割愛。


斜陽陰気(トワイライトブラック)
如意陽輝棒によって増幅された陰の気が具現化し人の形をとった物。動きは速いが、元がただの影なので質量はほぼ無い故に単体では攻撃力もゼロ。
魔法で武装する事で攻撃力を持つ事が出来るほか、弾幕の起点や結界術の基点としても使える。


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冥界の空は明るいですよ!

(全略)
詭弁死す!デュエルスタンバイ!


 詭弁を見なくなって約一月。既に五月に入っていると言うのに、冬はまだ終わりを見せない。

 

「……それで、あのバカはまだ帰ってきてないのね?」

 

「ああ、居なくなる前から頻繁に里の外へ出ていたが、それでも里から3日以上離れる事はなかった。不在時に詭弁への依頼を纏めておく依頼箱も、ここのところ開けられた形跡もない」

 

「あの詭弁の事だ。どっかでのたれ死んでるなんてあり得ないぜ。大方どっかの妖怪の巣に移り住んでるだけだろ」

 

「なら尚更早く見つけなきゃいけないじゃないの。()()詭弁が女の子と一ヶ月近く一緒に居て、なにも起きない訳がないわ」

 

「おっ、そうだな」

 

 霊夢と魔理沙は人里に赴き、慧音に詭弁の居場所を問う。だが慧音もまた、詭弁を探している一人だった。

 

「……関係有るかどうかは分からないが、こうして冬が長く続いているだろう?だが、里の畑周りだけいつも雪が積もっていないんだ。……いや、本来ならそっちの方が普通なんだが、幻想郷中がこうだからな……」

 

「……ふーん。ま、一応見るだけ見てみましょうか」

 

「そうだな」

 

 そうして霊夢と魔理沙は里の外側にある畑を見に行く。すると見えてきたのは、周りが白銀の世界であるにも関わらず、雪が積もっていないどころか若芽がちらちら見え始めている畑が広がっていた。

 その辺を飛んでいた春告精を捕まえると、興味深い話が聞けた。

 

「ほう?つまり冥界は春真っ盛りだってことか?」

 

「そ、そうですよー……だからもう離して……」

 

「じゃあアンタなんで里まで降りてきたのよ」

 

「だって冥界にずっと居ると飽きるんですよー……詭弁さんにこの辺は春っぽいはずって教えてもらったから……」

 

「詭弁!?詭弁に会ったのね!?何処で会ったの!?案内しなさい!」

 

「会いましたけどー……だいぶ前の事ですから詭弁さんは居ないと思いますよー……」

 

「良いから案内し・な・さ・い!」

 

「霊夢が張り切ってるぜ」

 

 霊夢は春告精を捕まえ、冥界まで案内させる。魔理沙は首を振りながら、呆れたように霊夢の後に付いていった。

 

 そしてここにもう一人、長い冬を終わらせるため。それとついでに行方不明となった詭弁を探すために飛び立つ少女が一人居た。

 

「……咲夜さん、私の代わりにお願い致します……!」

 

「貴方のためではないわ。詭弁を見つけないと妹様がうるさいし、燃料が尽きる前にこの冬も終わらせてくるついでに探してくるわ」

 

 メイド服を着た少女が紅い館から飛び立つ。何の道しるべも無いが、なんとなく風上に向かって行くのであった。

 

 

 春は、まだ遠い。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 場所が変わって現世と冥界の境目にある幽明結界の前にて、幽霊()()が楽器をガチャガチャ掻き鳴らして音楽を紡ぎあげていた。

 騒霊のヴァイオリニスト、ルナサ・プリズムリバー

 騒霊のトランペッター、メルラン・プリズムリバー

 騒霊のキーボーディスト、リリカ・プリズムリバー

 騒霊の新人ヴォーカリスト兼ドラマー、????

 プリズムリバー三姉妹は新しく音楽団に加入した新人を歓迎する演奏を行い、新人の騒霊は即興で歌を歌いながら太鼓とも呼べない皮張りの板を叩く。そんなチャチな物であるはずなのに妙にサマになっていた。

 

「あはは!アンタ中々良い音感してるね!」

 

「歌も上手いし、あとはその楽器とも呼べないオモチャを何とかすれば言う事無しだわ」

 

「やっぱり生前から何かやってたの?」

 

「んにぃ……そう言われればずっと歌を歌ってたような気もしなくもない」

 

「もうじき大きなお屋敷でお花見が行われるわ。貴方はその時に大々的にデビューを飾るの!」

 

「私達プリズムリバー三姉妹と言えば、幻想郷でも有名な音楽団なんだから!」

 

「へぇ、『プリズムリバー三姉妹』に男の俺が加入したらなんて呼べばいいんだ?」

 

「うーん……『プリズムリバー四姉弟』?」

 

「俺が弟なのか」

 

「そりゃぁ貴方生まれたばかりでしょ?数えで一歳」

 

「私達こう見えて貴方より長く生きてるのよー。死んでるけど」

 

「長く死んでる?」

 

「腐ってそうね」

 

 歓迎の音楽を鳴らしながら会話をしている最中、その場に闖入してきたものが居た。紅白色のお目出度い巫女と白黒の不吉な魔女だ。

 

「妖精が急に逃げ出したと思ったら……アンタらそこで何してるのよ」

 

「見ての通り歓迎会中よ?」

 

「ガチャガチャ騒いでるようにしか見えないぜ」

 

「そりゃそうよ。だって私たち騒霊だもの」

 

「騒いでナンボよ」

 

「別にアンタらが何処で騒ごうがかまいはしないけど。それより……そこで何をしてるの、詭弁」

 

「んにぃ?俺の事か?」

 

「詭弁はアンタ以外に居ないでしょ」

 

「そんなこと言われても困る。俺は俺を知らないんだ。で、お前さんは誰だ?」

 

「……は?」

 

「彼は最近死んだばかりで、生前の記憶がないんですってー」

 

「冥界をうろうろしてたから話してみれば、なんかティンと来たからスカウトしたのよ」

 

「良い拾い物したわールナサ姉さん」

 

「んぃ、まあそういうわけで生前お世話になったっぽいが、俺は新たな幽生を送るから!えーと……巫女ちゃん?」

 

「……ふ、ふふふ。今の冗談は面白かったわよ詭弁。笑っているうちにさっさと帰るわよ」

 

「おい詭弁、下らない冗談言ってないで帰るぞ。ここら辺はなんか暖かいけど、幻想郷中は冬真っ盛りなんだぜ」

 

「……?ふーん、そう。帰るぞって言われてもなぁ……お花見も控えてるし、また今度で良くない?えー……白黒ちゃん?」

 

「……あぁ?この魔理沙様を忘れるとはどういう了見だ?健忘症か?」

 

「馴れ馴れしい子だな……挨拶ははじめましてからって親に教わんなかったか?」

 

「……はは、面白い冗談だぜ。なら思い出させてやるよ」

 

「死んでまで生前のシガラミに囚われるなんて……幽霊も楽じゃないぜ」

 

「あはは、慣れれば楽しいわよ!」

 

「じゃあ私たちのニューシングル聴いていきなさい!お代はその命よ!」

 

「シングル?カルテットでは?」

 

「そういう意味じゃなーい!」

 

『騒符「ライブポルターガイスト怪」』

 

 騒霊達は息を合わせて弾幕の雨を張る。四人の合同スペルによる弾幕は、避けるために針の穴を通すような精密な動きを強要する……はずだった。

 

『恋符「マスタースパーク」』

 

 極太のレーザーが四人纏めて薙ぎ払い、スペルカードを一気に粉砕した。

 墜落していくプリズムリバー三姉妹だが、男が声と気合いを発すれば墜落する以前より更に元気になって帰ってきた。

 

「あはは、素敵!なんだか力が湧いてくるわ!」

 

「今なら何でも出来そうよ」

 

「さっきはよくもやってくれたわね!百倍にして返してやる!」

 

『大合葬「霊車コンチェルトグロッソ害」』

 

 男の騒霊を中心に三姉妹が時計回りに周り始め、小さな弾幕を大量にばらまき出す。そしてプリズムを模した三本のレーザーブレードが小さな弾幕を屈折させ、複雑な弾幕の嵐を作り出した。

 

「もう一回纏めて倒してやるぜ!恋符『マスタースパーク』!!!」

 

 再び極太のレーザーが四人を纏めて薙ぎ払う……と思いきや、四人の前に大きなダイヤモンドのようなモノが出現し、レーザーを拡散させて被害を逸らした。

 

「ははは!派手なスポットライトをありがとう!」

 

「んのやろぉ!」

 

「どきなさい魔理沙。霊符『夢想封印 集』」

 

 大きな光弾が騒霊達に向かっていく。慌てて無数のダイヤモンドのようなモノで壁を作り出したが、それらを粉砕しながら騒霊達を叩き落とした。

 墜落していく男の騒霊を巫女が掴み、引きずるように振り回す。

 

「死体蹴りは止めろぉ」

 

「アンタは死体じゃないでしょ」

 

「確かに。それで俺を引き連れて何処に向かうんだ?」

 

「取り敢えず異変の黒幕の所よ。アンタらが行うお花見会場に案内しなさい」

 

「えー。良いよ」

 

 

 

「う、うーん……なんなのよあの巫女……」

 

「強すぎ……」

 

「あ、あれ?新しい弟は?」

 

「……拐われた?」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 そして時は進み、白玉楼へと続く長階段。そこに博麗の巫女With白黒の魔女feat.新人騒霊ヴォーカリストが空を飛んで階段を登っていく。

 

「色は~匂へど~♪」

 

「急に歌い出すんじゃないぜ詭弁」

 

「そのさ、俺の事『詭弁』って呼ぶの止めてくんない?俺の生前がどうだったか知らないけど今の俺はしがないポルターガイストだから」

 

「……お前本気で言ってるのか?」

 

「本気も本気だぜ。つーかそもそもお前らはなんなんだ?」

 

「おう、私達はともだ―――」

 

「嫁よ」

 

「嫁っ!?二人とも!?」

 

「ファッ!?おい霊夢!!」

 

「よく聴きなさい魔理沙。仮に詭弁の記憶が戻らなかったとしたら、この綺麗な詭弁のままに()()をする事が出来るわ」

 

「だからっていきなり嫁は飛躍しすぎだろ!」

 

「あら、良いの?じゃあ詭弁は私だけのお婿さんにするわ」

 

「……いや、それも……あーもう!おい聞け詭弁!今のは霊夢の悪い冗談だ!!」

 

「なんだ冗談か。その年で未亡人は何の冗談だと思ったが、冗談だったか。大丈夫大丈夫、生きてりゃそのうち結婚出来るさ。HAHAHA!!」

 

 騒霊の笑い声が遠くまで響く。その声に釣られたように、階段の上に二振りの刀を持った少女が一人浮いていた。

 

「……来ましたか。結局、詭弁さんが言った通りになってしまいましたね」

 

「……アンタは?」

 

「私の名は魂魄妖夢。持っている春度を置いて去れ、巫女、魔女!」

 

「生意気なヤツだな。だが、対詭弁用に組んだ戦術を試すには良い相手だぜ!霊夢、詭弁連れて先に行け!」

 

「言われなくても分かってるわよ」

 

「おいおい、俺の意見はー?」

 

 騒霊の首根っこを掴んで、刀を持った少女を飛び越えていく博麗の巫女。させじと刀を振るおうとしたが、その行動を魔女によって阻害された。

 

「お前の相手はこの私だ!」

 

「くっ、ならお前の春をすべて頂くわ!妖怪が鍛えたこの楼観剣に斬れぬ物など殆ど無い!」

 

 

 剣士の上を飛び越えて、白玉楼へと侵入した博麗の巫女と騒霊。白玉楼の敷地内には沢山の死霊が漂っていた。

 

「ああもう!死霊ばっかりでうんざりよ!」

 

「ええっ!?な、なんかゴメン……」

 

「アンタの事じゃないわよ!」

 

「しかし見事なまでの桜だな。すげぇ桜。超桜って感じ」

 

「幻想郷中の春は此処に集めていたのね。目的は何なのかしら」

 

「そりゃお花見だろ。桜見て、騒いで、あと酒でも飲めれば言う事無しだな」

 

「そう、でも残念ね。私はうちの神社の桜でお花見をするのよ」

 

「神社なのに桜が植えられてるのか?」

 

「何よ」

 

「知らないのか?桜の木の下には―――」

 

「―――死体が埋まっているのよ」

 

 白玉楼の縁側から突如声を掛けられて思わず振り向いた先には桃色髪の少女と、それに侍るように後方に座っている少年が居た。

 

「うぉ、俺だ!?俺が居るぞ!?」

 

「……知っているか?桜の美しい色は、下に埋められた死体の罪と血の色によって彩られているそうだ。俺の罪の色ってのは、どんな色だろうな?」

 

「なんだコイツ、俺と同じ顔して全然キャラ違うぞ!」

 

「アンタ等ちょっと黙ってなさい。それで、アンタが幻想郷の春を奪った黒幕?」

 

「ええ、そうよ」

 

「ならさっさと春と詭弁を返してくれる?私は神社の桜でお花見がしたいの」

 

「春は西行妖が満開になったら返すわ」

 

「なんなのよ、西行妖って」

 

「うちの妖怪桜。この程度の春じゃ、この桜の封印が解けないのよ」

 

「わざわざ封印してあるんだから、それは解かない方がいいんじゃないの?なんの封印だか判らないし」

 

「結界乗り越えてきた貴方が言う事かしら」

 

「ああそうだ!俺達ここのお花見でライブするんだから、春持ってかれたらライブ出来ないのでは!?」

 

「ここでライブ出来なくても神社でライブすればいいじゃないの」

 

「……それもそうだな!」

 

「ちょっと~、騒霊なら亡霊の味方をしてよー」

 

「そんな事言われても困る。と言うか俺とそっくりさんがソッチに居るんだからそれで我慢して!」

 

()()とはなんだ()()とは。陰気霊だからといって侮られる筋合いはない」

 

「え、なに?陰キャ霊?それでお前そんなド暗いの?」

 

「っていうかなんでアンタ達分裂してんの、さっさと一つに戻りなさい。さて、冗談はそこまでにして、幻想郷の春を返して貰おうかしら」

 

「最初からそう言えばいいのに」

 

「最初から2番目位に言った」

 

「最後の詰めが肝心なのよ」

 

 

「花の下に還るがいいわ、春の亡霊!」

「花の下で眠るがいいわ、紅白の蝶!」

 

 

 巫女と亡霊の少女が空に飛びあがり、美しい弾幕戦を繰り広げる。

 そして地に立つのは騒霊の少年と、全く同じ顔をした亡霊の少年。

 

「で、結局俺達ってなんなんだ?」

 

「俺達はある男の魂を陰と陽に分けた存在。互いに分けた為に生前の記憶が無いと言う」

 

「誰が?あの桃色髪の子が?」

 

「否、緑髪の少女だった」

 

「んにぃ……ここに来て新キャラ出さないでほしいな……で、どうすんの?光VS闇的な感じで戦えばいいのか?」

 

「陽ある限り陰は絶えず、また逆もしかり。無意味な事に費やす時間は無い」

 

「分かってないねぇー。無意味こそが人生だ……いや死んでるけど。んん?で、どうすれば良いんだ?ポタラで合体すればいいのか?」

 

「時が解決するそうだ」

 

「えー……じゃあ、歌う?」

 

「歌わない」

 

 白玉楼の空で盛大な弾幕勝負が繰り広げられている横で、白玉楼の敷地内に魔女・メイド・剣士・騒霊達と、続々人が集まってきた。

 

「うおっ!?詭弁が二人!?」

 

「あら……増えるのなら一人紅魔館に連れてっても問題無いわね」

 

「え!?増えてる!ルナサ姉さんどうしよう!プリズムリバー五姉弟になっちゃう!」

 

「うーん……何となく語呂が悪いから新しい名前考えようか」

 

「勝手に謎の団体に加えるな」

 

「ああ、幽々子様に殺されても知らないわよ……」

 

 集った面々が空の弾幕勝負を観戦していると、決着が着いたのか墜落していく桃色髪の少女。

 

「勝った!第三部完!」

 

「急に何言ってんだ詭弁」

 

 墜落していく桃色髪の少女を受け止める為に亡霊の少年と銀髪の剣士が落下地点に駆け込む……が、落ちていく最中に()()()

 

「なっ!?幽々子様!!?」

 

「……ッッ!!?皆、()()()()()()!!!」

 

 裂けんばかりに大きな声で警戒を促す言葉に、その場にいた全員が思わず身構える……と、その瞬間。白玉楼の奥にあるひと際大きな桜が一気に開花した。

 

「あれは、西行妖!なんで、このタイミングで!?」

 

「きゃっ!?」

 

 一筋の風が西行妖に向かって吹きつけたと思えば、その場にいた全員から桜の花びらが舞い上がる。

 

「春度!?」

 

「なんだあの桜!?春を吸ってるのか!?」

 

「うおぅ!?何だこりゃ!?引き寄せられるっ!」

 

「くっ、これは……!?」

 

 騒霊の少年と亡霊の少年が引き寄せられるように西行妖へ引きずられていく。

 西行妖の元に、二人の男女が立っていた。

 

「ゆ、幽々子様!?」

 

「詭弁!?おいおい、もう何が何だか分かんないぜ!!」

 

「どうしよう!男女比が完全に一対一になっちゃう!」

 

「メルランそんな事言ってる場合!?アレは絶対良くないものよ!!」

 

 剣士とメイドが亡霊の少年を、魔女と騒霊達が騒霊の少年を掴み引き留める。

 

 

 身のうさを思ひしらでややみなまし

  そむくならひのなき世なりせば

 

 

 風に舞い上がった春を吸収した西行妖から大量の弾幕が放たれる。それは『ごっこ遊び』の範疇を越え、生者も死者も等しく滅ぼす破滅の弾幕。

 

『「反魂蝶 -狂い咲-」』

 

 命を奪う大量の蝶が舞い上がり、光弾、光線が乱れ飛ぶ。空を飛んでいる巫女は悠々と避け続けるが、地面に立つ者達は決死の回避を強制し続けられていた。

 

「うおおお!!?飛べねえええええ!!!」

 

「くっ!お前達、俺の手を離して逃げろ!」

 

「馬鹿言わないでください!!貴方を置いて逃げられるわけないじゃないですか!!」

 

「連れて帰ると言った以上、意地でも連れて帰ります!」

 

「詭弁お前意地でも死なないんじゃなかったか!?男なら根性見せるんだぜ!!」

 

「馬鹿野郎お前馬鹿野郎絶対離すなよ!?手ェ離すなよ!?死にたくないぞ俺はまだ!?いや死んでるんだけどォ!!」

 

「貴方が居なくなったら誰がヴォーカルやるのよ!根性見せなさい!」

 

「いやぁぁぁ!!!今ちょうちょ掠ったぁぁぁ!!!」

 

「ちょっとリリカ!危ないから横で暴れないの!」

 

 時に光弾、時に刀、時にナイフ、時にレーザーで襲い掛かる弾幕の極一部を焼き払い、僅かに生まれた空間に身を投げ込んで弾幕の壁を避け続ける。

 

「全然キリがねえよ!もうあの俺のそっくりさん達ぶっ叩けばよくね!?」

 

「良い案ね、それが不可能って事を除けば!」

 

「恐らくですが、西行妖がため込んだ春を全て解き放つまで弾幕は続きます!何とか耐えましょう!!」

 

「でェそれはいつ全部解き放つの!?」

 

「分かりません!!」

 

「だぁーもぉぉぉ!!!『止まれクソ桜』!!!」

 

 ビシィッ!!

 空間が張り詰める様な割れた音が轟いたと思えば、西行妖から放たれていた弾幕がピタリと止んだ。

 

「……何?何事?今度は何が始まるの!?」

 

「今、貴方が止まれと言ったから止まったのかしら?」

 

「なんにせよ今がチャンスだ!一旦離れるぜ!」

 

「異議なし!」

 

 そして少し離れた瞬間、先程の勢いを取り戻すように再び弾幕が展開された。

 だが、その時には全員距離を取っていたので大きな問題は無く、そして西行妖から全ての春が解き放たれるまで全員無傷で乗り切った。

 

「お、終わり?今度こそ終わったの?」

 

「……そのようね」

 

「じゃあ後はとりあえず霊夢に任せて、私達は詭弁を回収して帰るとするか」

 

「ええ!?お花見は!?」

 

「神社でやればいいぜ。宴会と一緒にな」

 

「宴会!私達プリズムリバー三姉妹も呼んでくれるわよね?」

 

「勿論、宴会は自由参加だぜ!」

 

 静かになった西行妖の元に集まる男女四人。博麗の巫女と銀髪の剣士、騒霊と亡霊の少年。そしてその視線の先には、折り重なるようにして倒れてる男女が居た。

 

「だ、大丈夫なのかこれは……」

 

「大変だ皆!!二人とも息してない!!」

 

「そ、そんな!?幽々子様っ!詭弁さん!!」

 

「……二人とも死んでるから息してないのは当たり前だろう?」

 

「あ、そっか」

 

「アンタ達ちょっと退いてなさい」

 

 博麗の巫女が折り重なっている男女を引きはがし、女性の方を適当に投げ捨てた後男性の様子を調べる。

 

「幽々子様ぁぁ!!?ちょっと何してくれるの!!?」

 

「うるさいわね、ソッチは無事よ。……ふーん、身体自体は生きてるようね。良かった」

 

「つまりどういう事だ?」

 

「詭弁は霊魂だけを叩き出されている状態と言う訳よ。アンタ等を肉体に戻せば、詭弁は復活するわ」

 

「そうか」

 

「そうか、って……アンタ生き返られるのにそんな淡泊な……」

 

「元々()()()()になって、生前の記憶が無い故に生への執着も無かったからな。まあ、戻れるのなら戻ろうか」

 

「えーでも俺はもうちょっと幽霊生活を楽しみたいというか……」

 

「あ”あ”?」

 

「ひぃ、女の子がそんな顔しないで……」

 

「……まあ、なら先に肉体に戻らせてもらおうか」

 

 そう言って亡霊の少年は、魂の抜けた肉体に戻る。

 

「……ん、ぐぅ……何……?身体……重……」

 

「あ、あれぇ?俺まだ戻ってないのに、もう復活しちゃっていいのコレ……?」

 

「魂の半分だけで復活?普通は起こり得ないけど……あの変な棒の所為かしら?」

 

「あ、じゃあ俺は幽霊生活に戻りますね」

 

「アンタも戻るの!」

 

 巫女が騒霊の首根っこを掴んで、詭弁に押し込める。

 

「……あー」

 

「詭弁、私の事分かるかしら?」

 

「………………霊夢ちゃん?何でこんな所に?」

 

「……良かった」

 

「んにぃ?ん?ちょ、霊夢ちゃん?」

 

 巫女は詭弁に抱き着き、その胸で静かに涙を零した。

 

「アンタが死んだって……思ったら……寂しくて……そんな訳無いって思って……」

 

「んぁー……うん……心配かけたね。ごめんよ、霊夢ちゃん」

 

「嫌。許さない。罰として一生―――」

 

「おーい霊夢!詭弁!帰ってお花見の準備しようぜー!!」

 

「……アイツ元気だなオイ。んで、えー……今なんて?」

 

「……別に、何でもないわよ。ほら、帰るわよ。下らない心配かけた罰としてこき使ってあげるわ」

 

「ひえぇ、お手柔らかに……」

 

 そうして霊夢と詭弁は立ち上がり、魔理沙達と合流し並んで現世へと降りていった。

 生者達は現世へ行き、死者は冥界に残る。

 

「……あーあ。あの様子じゃ私達の事覚えてなさそうだったなー」

 

「フラれたわね、ざんねーん」

 

「ちぇ。まあ本当に死んだ時にまた誘えばいいか」

 

 騒霊の音楽団達は白玉楼から飛び立ち、再び何処かで音楽の練習をするために消えていく。

 

「……幽々子様」

 

「ふふ、失敗しちゃったわねぇ」

 

 花を散らした西行妖の元で、空を見上げて笑う亡霊。春が散っても、空は明るくなってゆく。

 

 

 

 長い冬が、終わりを告げた。

 

 




な、長かった……。

次回、宴会。


騒霊新人ヴォーカリスト兼ドラマー 名称不明

詭弁の陽の気が詰まった魂。歌を歌うのが得意。霊魂故に空を飛ぶのも得意。音感やリズム感も良いが、手先が絶望的に不器用。
主に気と霊力を扱う程度の能力を持つ。

幽明魔人の亡霊 名称不明

詭弁の陰の気が詰まった魂。近接戦闘に長け、主に妖夢の勝負相手として長物を扱っている。手先が器用だが口は不器用。
主に気と魔力を扱う程度の能力を持つ。


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花見酒ですよ!

死んでも蘇るとか詭弁は太陽神の素質有りますね。


 一か月ぶりの我が家ーと家に戻れば、なんと埃一つ無い綺麗な家が!

 

「え、妹紅先生が掃除してくれたんですか……?」

 

「私がそういう事するようなタチに見えるか?」

 

「いえ全然。自分の部屋すら掃除しなさそ”ぅ”っづいっ!!!」

 

「正直で結構。ちょっと炙ってやろうははは」

 

「火気厳禁っ!」

 

 家の中で妹紅先生がタバコを吸っていた。はて、では誰が家を掃除したのかしらん。

 

「……ま、お前が思っている以上にお前の事を心配してるヤツが多かっただけさ」

 

「うう、一ヶ月家を空けるだけで誰かが掃除してくれるなんて……ありがたい限りだよ本当に……」

 

 そうして一月ぶりとなる自分の部屋に戻れば、最低限の家具だけ置いてある殺風景な部屋が目についた。

 

「……ん?」

 

 詭弁はそのまま部屋中をくまなく()()を探し回る。

 

「……あれ?」

 

「ああ、お前の探してる色本は私が焼いといたわ」

 

「何をしてくれてるのかなぁ妹紅先生っ!!?」

 

 詭弁は、普段から自分の部屋に隠して置いている素敵本が一冊も残ってない事に嘆き、咽び泣いた。

 

「あ、それとお前の服をしまっておく箪笥なんだがな」

 

「まだあるの!?」

 

「いや、何で女物の服が入っていたのか……聞かせてくれないか?」

 

 妹紅先生の超絶良い笑顔。俺の心臓は縮み上がった。

 

「あ、その……それは……」

 

「まさか、まさかとは思うが……人様のモノを盗んできた、なんて言わないよな?」

 

「盗んだんじゃなくてぇ……正当な取引の対価としてぇ……」

 

「なら燃やして構わないな」

 

「めっちゃ構うよ!!?止めてくんない!?」

 

 結果として服は燃やされた。あぁ、妖夢ちゃんの残り香付きが……。

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

「それで……何故閻魔様がわざわざ此方までお越しになったのかしら?」

 

「私が冥界に来るのはおかしいですか?」

 

「いえ、ただあまりにも()()()()()が良すぎたものですから。閻魔様が一人の人間に執着するなんて、珍しいこともあるものです」

 

「ええ。()()()()()()()()()()()、閻魔が一人の人間に執着するのは珍しいですね」

 

「……」

 

()()()生きている彼に絆されたのでは?」

 

「鏡が無くても隠し事は出来ないものねぇ」

 

「此度()()()()()()()()()()理由は、彼がどういう存在であるかを見定めるためです。彼は……影響力が大きすぎる」

 

「それで、結果はどうだったのかしら?」

 

「彼は黒であり白であると判断しました。彼自身は黒、但し彼の周りの者達が彼を白に導くでしょう。故に()()()()()彼に手を出すことは有りません」

 

「あら、そう」

 

「……何か言いたげですね?」

 

「別になんでもないわよー?ただ閻魔様も、恋する乙女の顔をするのねって思っただけよ」

 

「なっ、なっ……」

 

「残念ねぇ。あの人がちゃんと死んでたら、永く一緒に居られたのに」

 

「な、なにを言いますか西行寺幽々子!私は別にっ……そんなことは思っていません!」

 

「あらあら?誰も閻魔様が()()思ってるなんて言ってないわよー?今のは私の気持ちを言っただけよ?」

 

「っ……!!」

 

「ふふふ、顔真っ赤にして、可愛いわねぇ」

 

「そこになおりなさい西行寺幽々子!あ、貴方は少しおふざけが過ぎる!!」

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

 永い冬が終わり、里全体にようやく春が訪れた。この時を待っていたんだとばかりに春告精が春の到来を伝え回る。

 

「詭弁さん!春ですよー!春ですよー!」

 

「分かった、分かった……」

 

 俺の肩に飛び乗り、その存在を主張する。俺は春告妖のリリーホワイトを肩にのせたまま、溜まりに溜まっていた依頼を片っ端からこなし続けた。

 

 そして日が沈んでいき、夜。博麗神社に着けば、人も妖も入り乱れる宴会が行われていた。中には胆の太い里人連中も桜の元でわいわい騒いでいる。

 

「やべぇ遅れた遅れた」

 

「春ですよー!」

 

 快晴の星空の元、幻想郷中から花見という名目で集まった妖怪妖精人間達が揃いも揃って花より団子……否、花より酒と言わんばかりに飲めや歌えのどんちゃん騒ぎ。あ、咲夜ちゃんが一人で料理作って運んでる。

 

「いえーい呑兵衛の諸君、盛り上がってるかァー!!!」

 

「「 イエーイ!!! 」」

 

「太陽のごとく甦る詭弁さんが人里から大量の酒を持ってきたぞ!有りがたく全部飲み干せぇー!!」

 

「「 いやっほぉー!!! 」」

 

 お前らノリ良いな。

 里から引っ張ってきた大八車に乗っていた酒を全て下ろすと、顔を赤くした霊夢ちゃんが飛んできて俺の耳を引っ張る。

 

「詭弁!!遅いわよ!!」

 

「痛ててて……霊夢ちゃんもう出来上がってるのか?」

 

「うるさい!良いからこっち来る!」

 

「春ですよー!」

 

 幽霊楽団の音楽を聞きながら霊夢ちゃんに引っ張られた先には、今回の異変の首謀者達と異変解決に赴いた者とその関係者が集まって酒を飲んでいた。

 

「博麗神社って意外に人が多いのねぇ……」

 

「ん?ああ、少し前から詭弁が何かと博麗神社に人を集めてたからな、花見の宴会やるって聞いて駆けつけてきたんだろ。昔はマジで全然人が来なかったらしいけどな」

 

「神社なのに参拝客も来ないなんて、霊夢も何をしてるのかしらね?」

 

「アンタ達みたいな妖怪が居なくなればもっと参拝客も増えるわよ」

 

「さて詭弁。うちの咲夜がお前を助けたようじゃないか?何か礼の一つでも見せてやればどうだ?」

 

「話を逸らすな!」

 

「お礼か……今度一緒にデートしようか。勿論全部俺のおごりで」

 

「あら良さそうね。近い内、咲夜に休暇を取らせましょう」

 

「良くないっ!!」

 

「あら、そんなことを言ったら今詭弁が生きてるのは、私や妖夢が魂の抜けた詭弁の身体の()()()をしていたからよ?」

 

「お世話とな!?くっ!妖夢ちゃんや幽々子ちゃんと一緒にお風呂に入る記憶が何故思い起こせない俺っ!」

 

「お風呂には入れてないわよ……」

 

「えっ?あっ……もしかして『スメルスキー』の方でしたか……?」

 

「すめるすきー?」

 

「ああ結構、俺もそういった()()には一定の理解をしていますので。そうだよねぇ、幽霊って匂い無さそうだし、逆にそういう()()に敏感になるのかも知れない。ならむしろ体臭が好みになるのは何もおかしくないな」

 

「性癖……体臭……すめる、好きー……!?ちょ、違うわよ!?そういう意味じゃ無いわよ!!」

 

「あ、大丈夫ですよ西行寺さん。人には人の好みというものがあります。まあ、ただ俺は仕事柄ちょっとキツい匂いをさせるわけにはいきませんが、これから西行寺幽々子さんに会う予定があれば多少お風呂に入ることを控えさせていただきますので」

 

「だから違うってば!!なんで急に凄い他人行儀な呼び方になるのよ!幽々子ちゃんって呼びなさいよ!」

 

「必死に否定する様が逆に怪しいわね」

 

「違うもん!」

 

「……あの幽々子様があんなにはしゃぐなんて……詭弁さん、恐るべし……」

 

 酒の魔力か、話の魔力か。人間と人間以外の境界が限りなく薄くなり、互いに感情をむき出しにして笑い合う。

 少し時間が経てば、既に旧友であったかのように肩を組み歌い出す。

 

「桜桜舞い踊れ~♪」

 

「いいぞー詭弁!」

 

「ほら妖夢も」

 

「えっ、ええっ!?そんな急に言われても!?」

 

 何処までも騒がしく、明るい夜は更けていく。

 

 

 

 

「……あぁ、この空気。本当に良いもんだねぇ……」

 

 

 

 ◆

 

 

 

「ギャハハハハ!咲夜ぁー!貴方も何か芸見せなさい!白玉楼の半人前なんかに負けるんじゃないわよー!」

 

「お嬢様飲み過ぎですよ……」

 

「あー良いこと考えたわ!咲夜、貴方脱ぎなさい!」

 

「…………飲み過ぎですよ……はぁ……」

 

「これがわがやにぃ伝わるみょん()技!『ろーかんけん独楽渡りごれん』です~!」

 

「わははは!」

 

「んなぁ幽々子ちゃん、ちょっと裏でシケこもうやぁ」

 

「うふふ~良いわよ~」

 

「詭弁さん!私もイきます!」

 

「おーいいぞ~」

 

「アリス~一緒に歌うぜぇ~」

 

「なんなのこの酔っぱらいは……」

 

「あふふ♥️パチュリー様?ナニをしているんですかぁ?」

 

「べ、別に詭弁なんか気にしてないわよ」

 

「春ですよー!」

 

「いえーいヴォーカルは俺に任せろー!!」

 

「詭弁家秘伝の隠し芸とは、俺自身が独楽になることだ!」

 

「「「な、ナンダッテー!」」」

 

「というか詭弁さん増えてるし!」

 

「でも詭弁だしな」

 

「詭弁だから増えるわよ」

 

「『増える詭弁さん』販売中!」

 

「買った!」

 

「私も!」

 

 

 

「いや、なんだこれ」

 

 

 

 宴はまだまだ終わりを見せない。

 風に吹かれ、桜吹雪が舞うのであった。

 




KA!N!SO!
KA!N!SO!

エキストラストーリーをこなしつつ萃夢想編に行くぞおらァ!
妖々夢編永すぎたんじゃおらァ!
書きたいだけ書いてるから仕方ないな。


今日の詭弁さん

 増えた

内訳
・詭弁(本体)
・詭弁(霊体《陽》)
・詭弁(霊体《陰》)


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幽霊街道ですよ!?

変な人が居ても元気に更新活動。


 宴会から明けて翌日……の筈なのだが、何故か俺は三途の川は賽の河原に立っていた。なんでスグに理解できたかと言えば、単純に何度か()()に来ているからだ。

 

「……はて、死にかけた記憶は無いのだが……なんで?」

 

 まさか急性アルコール中毒?いやいやそんな、幻想郷にその概念はまだ入って来てない……何言ってんだ俺。

 

「うわ、サボりに来たのに嫌な奴が居るよ……」

 

「その声と乳は……おっぱい神!」

 

「死神だよ私は……はぁ~、で?今日はなんで此処に来たんだい?」

 

 後ろから声を掛けられ、振り向けばおっきいおっぱい。揉まねば(本能)。

 

「だから挨拶ついでに揉むんじゃないよ」

 

「そう言いつつ揉ませてくれる小町(こま)ちゃん大好きうひょー柔らかさの極みかよ」

 

「生憎幽霊に触れられても一切感じないからねぇ……はぁ、せめてアンタの肉体があれば……」

 

「えっ、肉体があればヤラせてくれるって!?」

 

「ま、考えておくよ。いい加減離しな」

 

「ああんもうちょっと」

 

「刈るよ」

 

「ごめんなさい」

 

 ぱっとおっぱいから離れる。流石に魂を死神に刈られちゃ敵わない。

 どっこいしょ、とその辺に転がってた大きな石の上に座る小町ちゃんこと死神小野塚小町。

 

「しかし……しばらく見ない間に随分変わったねぇアンタ。だいぶ男前になったんじゃないか?」

 

「ははは、それは生まれつき」

 

「違いない。……ん?アンタ最近死んだ……?いや、この感じは……」

 

「んにぃ?どうしたん小町ちゃん?おっぱい揉む?」

 

「もういいだろ。ふーむ……魂の力が上がってる?精神もか。アンタどっかで修行でもしてたのかい?」

 

「心当たりはないけど毎日が修行みたいなもんだぜ……あ、少し前にひと月ほど死んでたわ。あんまり実感ないけど」

 

「生者がひと月死んだ実感沸くもんかい。まあ何でかよく分からないけど、今のお前さんの魂は実に常人の三人分以上はあるね」

 

「……ほう?つまり……どう言うことだってばよ?」

 

「さあ?一つの身体に魂が三人分も詰まってる事なんて早々ないし、あたいは今まで見たこと無いね。だからどうなるかは知らない。まあ、死んだら運賃は三倍貰うけど」

 

「変な所でデメリットあるなぁ三人分の魂」

 

「ま、三人寄れば文殊の知恵と言うだろう?ソレをどう活用するかはお前さん次第さ」

 

「……ちなみに三人分の魂全部抜け出したらどうなる?」

 

「今のお前さんの状態その物だろ。ずっと長く続いてると本当に()()()の住人になっちまうよ」

 

「えぇ?それはマズい。生きて小町ちゃんに会わねば!」

 

「じゃあさっさと帰りな。サボりの邪魔だ」

 

「次会った時は挟んでいい?」

 

「あたいがサボって無ければな」

 

 それは逆にダメなのでは?と思ったが、働いてる最中にするセクハラもまた良しと思ったので口を閉じる。

 意識を現世に集中させる。臨死体験から戻るテクニックなんぞ何故身についたのか……まあそれほど死にかけているという事なのだが。

 小町ちゃんに手を振りながら現世に戻る。小町ちゃんも手を振り返しているのを確認したら、意識がまた一度消え去った。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 目を覚ませば、全身包帯まみれだった。イッツ何故?

 と思って、包帯男となっている俺の横で何故かニマニマして座っていた小悪魔に聞いてみる。

 

「あふふ♥それはですねぇ―――」

 

 ……小悪魔曰く、俺は泥酔しながら無意識に霊体(陽・陰)を出して何だかんだしつつ、本体の俺は神社の裏で幽々子ちゃんとメイちゃん二人を半裸にまで脱がして、致す直前に霊夢ちゃん筆頭に女性陣からとても口に出すのも恐ろしいあふふ♥という目に合わされたのだとか。いや何それ。

 

「クソっ、今日ほど酒に弱い俺自身を呪う日は無いぜ!なんで幽々子ちゃん&メイちゃんという二大おっぱいの半裸を思い出せないんだ!!」

 

「あふふ♥それはもう詭弁さんの頭部をしこたまぶん殴っていた巫女達の所為ですねぇ♥」

 

「いや何してんの霊夢ちゃんズ!?」

 

 いいか?人は頭を殴られただけで死ぬ。覚えておけ。いやまだ死んでないけど……や、一回死んでたわ。

 

「と、言うか……え?俺無意識に霊体出してたって?」

 

「はい♥」

 

 そんな事ある?と思いつつ、斜陽陰気(トワイライトブラック)を出す要領で影を出す。すると本来暗い影である筈の影分身が色づいて、俺の姿ソックリに変わった。わぁーお。

 

「おっす!オラ詭弁!なんか知んねえけどオラわくわくすっぞ!」

 

「我が名は詭弁答弁。闇を従えし者!」

 

「なんだろう。キャラが違うのになんか俺って分かるのが悔しい」

 

 多分二人とも冗談で言ってるのだろう。いや、自分自身の事()()って表現するのも違和感あるが。もっと分身体を出そうとしたが、出てくるのは影分身ばかりだった。

 

「おい下手に増やそうとするな。陰の俺の気が減る」

 

「陰の気が減ると当然()の気も減るような気がするから勘弁して!」

 

「ええい騒がしいな。まあ俺だから仕方ないか」

 

「そうだな、俺だしな」

 

「さすが俺。騒がしさに掛けて右に出る者が無い!」

 

「……あふふ。なんですかこれ」

 

 陰気と陽気を戻す。うーんこれは単純に戦力三倍加と考えていいのか……?詳しい事は要検証。しかし増える事って意外と簡単に出来たな……。

 

「そうか、増えるとしたらそれぞれの武具を揃えないとな」

 

「要りますかぁ?」

 

「あれば役に立つかもやんけ」

 

 それぞれの()が着ていた服が違っていた。ならもしかして今俺が持ってる如意陽輝棒と妖精手甲みたいな武具もそれぞれの魂で持ってる事も出来る……かも?そして陰気、陽気切り替えれば一瞬で持っている武具も切り替わる……ヤバいそれカッコいいかよ。練習しよ()

 

「よしそうと決まれば香霖堂に行ってくるか!」

 

「あふふ♥良いんですかぁ?詭弁さんって先の異変で一度死んでいたんですよねぇ?助けてくれた方々にお礼、しなくていいんですかぁ?」

 

「んに……ん……まあ、確かに……」

 

 宴会の事で頭から抜けてたが、確かに俺は一度死んだ。それを助けてくれた皆に礼を返す前に、私事に向かうのは良くない。

 

「ふぅー……よし、ちょっと気が逸ってたみたいだ。ありがとうね小悪魔」

 

「あふふふふ♥良いんですよぉ……っ!?」

 

 小悪魔の赤い髪を撫でる。つやつやのサラサラ髪だ。

 

「よし、そうと決まれば皆の所に行ってくるわ。よく考えたら皆に心配かけまくりだったじゃん俺」

 

 巻かれている包帯を剥いで服を着る。身体の節々が痛いが、まあ回復魔法掛けてればその内治るさ。

 

「さて……じゃ、行ってくるわ!」

 

 小悪魔にニカッと笑いかけ、寝ていた部屋から出る。よく見れば此処博麗神社だったわ。皆はまだ残っているかな?

 

 

 

「……むぅ、魅了(チャーム)は悪魔の専売特許なんですが……まあ、いいです」

 

 

 

 博麗神社の境内に出てみると、死屍累々という言葉がこれ以上ない程に似合う惨状だった。大半の妖怪が地べたで酒瓶や酒樽を抱いて眠りこけ、里の人間達も腹を出して眠っている。肝が太くてもありゃ風邪ひくな……。

 しかし、よく考えたら博麗神社にこんなに集まるなんて珍しい事もあるもんだ。何か神事を行うにしても妖怪も人も集まりはしないのに……。ま、いないよりかマシか。

 

「……それで、確か霊夢ちゃん達はコッチ側だったっけな~っと……」

 

 境内を回っていくと、良く見知った一団がグッタリ倒れていた。

 

「うぅ~ん……」

 

「うぐぐ……飲みすぎたぜ……」

 

「すぅ……すぅ……」

 

 倒れるまで飲むようなイメージの無い奴等も普段から倒れるまで飲むような奴等も揃って地面に倒れていた。地面に倒れていなかったのは咲夜ちゃんと、恐らく咲夜ちゃんの手によって避難されたであろうレミリア・スカーレットのみ。それでも神社の中で倒れていそうだが。

 ……ふむ、寝ている内に胸を揉んでも……バレへんか!

 いや、いや。俺は何しに来たんだ。礼を返しに来たんだろう。おっぱい揉んでる暇が……いや、少しくらいなら……。

 くっ!やっぱりおっぱいは悪魔か!

 目の前の禁断の果実を我慢し、境内で寝ている皆を取り敢えず神社の縁側に並べる。

 ……おっぱい大きい順に並べる。むむむ……やはりメイちゃんと幽々子ちゃんが飛び抜けて……パチュリーちゃんももっとスタイル出る服を着れば良いのに……。

 

「一応聞くけど……何をしているの?」

 

「あ、咲夜ちゃん」

 

 魔理沙と妖夢ちゃんのおっぱいを並べて比較していると、咲夜ちゃんが後ろから声を掛けてきた。

 

「咲夜ちゃんは下から数えて……」

 

「それ以上余計なことを言うとその口縫い合わせるわよ」

 

「ぴえん」

 

 咲夜ちゃんに冗談が通じねぇ。

 

「そういえば皆何故か凄い飲みまくってたよね」

 

「ああ、確かに。久々の宴会で羽目を外しすぎたのかしら」

 

「久々って……まぁ久々か」

 

 忘新年会の宴会が最後だから、もう大分前だ。

 

「うーん……例年ならもっと何回かお花見してたんだが、今年はお花見自体少なくなるかなぁ」

 

「あら、そうなの?」

 

「んにぃ。例年なら里でも博麗神社でも、わりと引っ切り無しに宴会をやっててな。当然そんなだから、里の酒屋とか春に向けて酒を大量に作ってて俺も何度も手伝わされた」

 

「お酒作りもやるのね……」

 

「なんでもやるよぉ」

 

 咲夜ちゃんと話していると、日もどんどん高くなっていく。そろそろ皆を起こすか……。

 

「あ、咲夜ちゃん。今度一緒にデートしようか」

 

「……はい?」

 

「何だかんだでこの前咲夜ちゃんに助けて貰ったわけで、まあ感謝の気持ち的な?勿論奢るからさ」

 

「……はぁ、貴方という人は……残念だけど、お嬢様が許可するかは分からないわよ?」

 

「昨日この事レミリア嬢に言ったら『咲夜に休暇を取らせましょう』って言ってたぞ」

 

「お嬢様……」

 

「ほらほら、お嬢様が許可してるんだから」

 

「分かった、分かったわよ……もう。そのかわり、完璧なエスコートをしてくれるんでしょうね?」

 

「勿論!食事から買い物、ベッドの上まで完璧なデートプランをお見せしましょう!」

 

「ベッドは余計よ」

 

「えっ……ふ、風呂の中で?」

 

「そういう意味じゃないわ」

 

 咲夜ちゃんをいじり倒していると、絶不調な皆が順次起きてくる。皆に水を渡した後、咲夜ちゃんが事前に作ってた大根粥を食べる。

 

「中々美味しいわね」

 

「二日酔い飯って感じだな」

 

 中にはウンウン唸りながら縁側で寝転んでいた者もいたが、おおむね皆お粥を食べていった。

 

「はぁー……何であんなに酔っ払ったのかしら……」

 

「そう言えば昨日の酒ってなんか変わった味しなかった?」

 

「あぁ、里の酒屋の新商品だよ。なんつったっけな……ボトカ?」

 

「へぇ、ボトカ……ん?もしかして蒸留酒?」

 

「んぉーそうそう。なんか煮てアルコール度数を上げるんだと」

 

「ウォッカじゃない!」

 

「んぃ?あぁ、なんかそんな感じの名前」

 

「ねぇちょっと、外見てみなさいよ」

 

「どうしたの?」

 

「ん?どうし……うわぁ」

 

 外を見ると、いくつもの人魂がふわふわ飛んでいた。

 

「……幻覚かしら?」

 

「んにぃ、じゃぁ目を覚ますためにキスを―――」

 

「夢想封印!」

 

「ギャー!」

 

 人魂の群れに向かって吹き飛ばされる。うん、こうして間近で見たら、幻覚じゃぁ無いなぁ。

 

「幽霊が冥界から脱獄してるぞー!」

 

「脱獄て。皆、現世を観光してるだけですよ」

 

「あら、そう言えば幽明結界が壊れてたわね。アイツに治して貰わなきゃ」

 

「つまり……異変ね!」

 

「異変……かなぁ?」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 霊夢ちゃん達は幽明結界とやらに向かい、幽々子ちゃんは別口で何とかすると言って何処かに行った。

 俺は一応里に悪い影響が無いかを確認するために戻ると……

 

「うへぇ、幽霊まみれだ」

 

 里には、博麗神社で見た数よりもさらに多くの霊がふわふわ飛んでいた。

 飛んでいる幽霊に驚き腰を抜かして怪我をするような年寄りが居たくらいで、大きな実害は無さそうだな。

 

「慧音先生ー!」

 

「ん?おお詭弁か」

 

「大丈夫ですか慧音先生、幽霊に風呂とか覗かれてないですか?」

 

「お前みたいな幽霊が早々居てたまるか」

 

 頭上に幽霊が飛び交っている中で始まる井戸端会議。春が戻ってすぐにこの幽霊騒動、里も中々に混乱しているようだ。

 

「そういうわけで何とかしたいが……相手が幽霊だからな」

 

「うーん……やっぱり餅は餅屋と言うことで……幽霊楽団の皆様に来ていただきました」

 

「よろしくー!」

「よろしく」

「よろしくねー」

 

「……いや、何故」

 

「いやぁ、まあ同じ幽霊ですし。何で里にこう人魂が集まってるのか分からないし。取り敢えず何とかするために幽霊楽団に協力してもらおうかと」

 

「と言うわけで、里でライブをやるわ。冥界ではお花見くらいしかやること無かったから、皆娯楽に飢えてるの。だから満足したら、そのうち冥界に戻っていくわ」

 

「そういうわけで便利屋さん、ステージ設営お願いねー!」

 

「それとヴォーカルもお願い!」

 

「ステージ設営は流石にノウハウが無いなぁ」

 

 まあ、依頼ならやるのですけど。実害が無いとはいえ、幽霊がこう多く居られると鬱陶しい。幽々子ちゃんみたいなのだったら大歓迎なんだが……。

 

 

 春になって、乱痴気騒ぎはまだまだ続く。

 あちこちでお花見を行っているかと思えば、里のど真ん中で幽霊が集まってライブを行い、遥か遠くは冥界の入り口では弾幕ごっこの花が咲く。

 

「『新人騒霊ヴォーカリストの《陽》です!今日はプリズムリバー三姉妹改めプリズムリバー四姉弟のライブに来てくれてありがとォー!!』」

 

「……詭弁が……増えた……だと?」

 

「あ、アイツは俺みたいにセクハラはしないんで警戒しなくてもいいですよ慧音先生。今日は赤か……」

 

「流れるようにスカートを捲るな!」

 

 ゴシャァッ!!!

 

 

 今日もまた、桜の花が風に踊る。

 

 




いっそ強引なまでに詭弁の強化フラグを推し進めていく。
さて、詭弁《陽》と詭弁《陰》の武具は何にしようかな。
あ……感想ください。評価もおくれ。
ほら……な?分かるだろ?俺だって4、5千字書いてるんだからさ。感想なんて高々100文字くらいだろ?な?くれるよな?な?な?な?

書け(豹変)


《陽》
分霊の名前はもう適当に決めた。
詭弁から限りなくセクハラ要素を抜き、パリピ感を足したようなヤツ。

《陰》
詭弁から限りなくセクハラ要素を抜き、闇感を足したようなヤツ。
ただ元が詭弁なので基本的にノリは良いし、気分でふざけ倒す。

《陽中陰・陰中陽》
詭弁の身体に憑いている魂。《陽》と《陰》が抜けても本体が動ける要因。
これが抜け出ると詭弁の本体は動かなくなり、《陽》と《陰》が本体に戻っても《陽中陰・陰中陽》を戻さないといずれ死に至る。


ボトカ……もといウォッカ、ヴォトカとも

詭弁「里に最近幻想入りした外国の外来人が作った酒だ。清酒とはまた違う味わいで、ガツンと来るアルコールが特徴だな。ただアルコールが強すぎて、里の極一部の若者にしか売れないと嘆いていたぞ」
霊夢「まあ、悪くは無かったわよ。ただすぐ酔っぱらって何が何だか分からなくなるのはダメね」
詭弁「まあ俺みたいなヤツがすぐ悪用するからな!泥酔させてお持ち帰り……ぐへへ」
霊夢「夢想封印」


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花見は何回やっても良い物……かなぁ?

あの子が欲しい、あの子じゃわからん。
この子が欲しい、この子じゃわからん。
全員だそう、そうしよう。


 ライブは大盛況に終わり、幽霊たちは満足して帰っていった……訳ではなく、単に里以外の場所に移動したらしい。

 

「それは根本的な解決に至っていないのでは?」

 

「ま、霊夢ちゃん達が何とかしてくれるさ」

 

 まあ里から幽霊たちが離れていったのは間違いないので、落ち着いて今回の異変の顛末を稗田家にて、阿求嬢と慧音先生に教える。

 

「……ふむ、つまりその妖怪桜を満開にさせる為に幻想郷中から春度なる物を集めた……と」

 

「それで詭弁さんはなんで冥界に?」

 

「ん?そりゃあ春度を集めてた子が可愛い女の子だったからホイホイ付いてって―――」

 

 そう話した瞬間、阿求嬢の目のハイライトがスッ……と消える。怖い。

 

「ええ、やはり女性がらみでしたか。そうではないかと思っていましたよ」

 

「あーえー……あっ!そう!その妖怪桜が最後に集めた春全部をぶちまけた様な弾幕を放ったんだって!俺丁度そん時の記憶ないからさぞ美しかったんだろうなぁハハハ!」

 

「そうですか。ところで詭弁さん今晩は空いてますか?空いてますよね?私の家に泊まっていきませんか泊まっていきましょう」

 

「ハハハ今日はちょっとアレが男の子の日なんでちょっとアレでアレしますんでそれではさよなら!」

 

 稗田家から飛び出すように去る。阿求嬢はドストレートにひん曲がった好意をぶつけてくるのだが、いかんせん幼すぎる。もうちょっと大人になってからどうぞ。

 

 さて、里から幽霊達が去り、幻想郷に春が完全に戻った。そうすると行う事は……お花見である。あれ、また?と思うかもしれないが、何せこの前の異変、『春雪異変』の所為で折角の花見シーズンが短くなってしまった。なら短い間に花見の宴会を何度も行うのは……不思議じゃないな!

 と言う訳で今日も酒屋で大量の酒を調達。この時期になると酒屋は酒を大量生産し、安く売ってくれる。まさに薄利多売。

 ……ん?何で俺は宴会をやると決まってもいないのに大量に酒を買ったんだ?……ま、いいか。とりあえず博麗神社に持っていけばなんとでもなる。

 もはや俺の身体の一部と言っても過言ではない程に使いこんだ大八車に大量の酒を乗せて里を出発。その道中に二尾の黒猫が俺の肩に飛び乗ってきた。橙か。

 

「にゃーん」

 

「どうした橙。この大八車は人里発博麗神社行きだぞ」

 

「なぅー」

 

「なるほど付いていくと」

 

「いや何故貴様猫語が分かる」

 

 声に振り返れば、藍ちゃんがジト目で俺を睨み付けていた。

 

「やほ。猫語が分かるのは単にフィーリングだよフィーリング」

 

「……はぁ。貴様も大概頭のおかしい側の人間だな……」

 

「頭のおかしいとは失礼な。俺の何処を見ておかしいと感じるのか」

 

 言いながら藍ちゃんの前掛けとロングスカートをたくし上げる。

 

「貴様は言動と行動が一致してから同じことを言ってみろ」

 

「藍ちゃんのスカート捲るね。で、俺の何処が頭がおかしいって?」

 

「貴様のそういう所だ」

 

 ふーむ、白……白は清潔感の色。ところでロングスカートをたくし上げると内側から良い感じの熱気がムワッてきません?

 とか思ってたら顔を蹴られた。

 

「長い。いい加減に離れろ」

 

「つまり短かったら中を見てよいと」

 

「いいから離れろ」

 

 良し。いま『良い』と言質頂きました。ぐへへ……痛っ!?

 

「フシャァー!」

 

「俺の脚は爪とぎ柱じゃありませんことよ橙っ!!」

 

 ああ、俺の脚がズタズタに……回復魔法(リジェネ)

 と、橙と藍ちゃんと一緒に博麗神社に向かう。

 

「んで、なんで今日は博麗神社に向かってるんです?」

 

「……」

 

「もしもし?」

 

「ん?あ、ああ……何となく……かな?」

 

「橙もか?」

 

「なぅん」

 

 そんな話をしてると、博麗神社へ続く長階段の下に辿りついた。

 

「相変わらず貴様は飛べないのか。不便な奴」

 

「いやぁ、何でか空を飛ぶことが出来ないんだよねぇ……。空を吹き飛ぶ事なら出来るんだけど」

 

 ちなみに空を吹き飛ぶとは、魔力やら霊力やらで爆発して吹っ飛ぶ事である。コレを俺は緊急脱出(ベイルアウト)と呼んでいる。使う事はまずない。

 

「ふん。貴様は地を這う方がお似合いだ」

 

「嘘ばっかり。一緒に空を並んで飛びたいってなんで素直に言えないのかしらこの狐様」

 

「出鱈目を言うな!」

 

 ぎゅぅぅと頬を抓られる。めっちゃ痛い。

 ぷんぷん怒って階段を飛んで行った。

 

「……やれやれ、お前の主人は気性が荒いなぁ」

 

「んにゃー」

 

 橙を肩に乗せたまま、大八車を博麗神社まで引き上げる。

 よいしょぉーと階段を上がれば、なんとそこには沢山の妖怪達の姿が!

 

「ん?おー詭弁!丁度呼びに行こうと思ってたところだぜ!」

 

「んにぃ。どうした魔理沙この集団は」

 

「いやーなんか集まってたぜ。んで、折角だし宴会でもやるかってなってな……おっ!お前酒大量に持って来たのか!おーい皆ー!酒が来たぜー!」

 

「にゃー」

 

 そうして何故か始まるお花見宴会。うーんただの偶然……か?

 

 

 そして全員に酒が程よく入ってきた頃に『奴等』が現れた。

 

「ちょっと、宴会するなら呼びなさいよ藍」

 

「ゆ、紫様!?起きてらっしゃったので!?」

 

 空間を()()現れたのは紫色を基調とした衣服を身に纏った少女、『八雲紫』。

 

「……フン。しばらく見ないと思ったら、幽霊なんかと仲良くしてるみたいね詭弁」

 

「げぇ、幽香ちゃん」

 

 カツカツと日傘を携えて境内に入ってきたのは緑髪と赤いチェック柄が特徴の少女、『風見幽香』。

 ちなみに幽香ちゃんは辺りを一瞥した後、俺以外に興味を失ったように一直線に俺に向かって来る。ひええ目がマジですぜ……。

 と思った次の瞬間、俺の前に二人の女の子が立ち塞がった。

 

「……誰かしら?」

 

「どうもお初にお目にかかります。私の名前は紅美鈴」

 

「私は魂魄妖夢です」

 

「そう、退きなさい。私は詭弁に用があるの」

 

「そんな殺気を隠さない相手を、詭弁さんにさせる訳にもいきませんので」

 

「そちらこそ、退かねば斬る」

 

「……ふぅ、困ったわねえ。ザコの相手をしている暇は無いのだけど」

 

 

「殺せば詭弁が出てくるかしら?」

 

 

 ゴウッ!!!

 

 突風が吹いたような、巨大な獣が雄たけびを上げたような、爆音が博麗神社の境内を突き抜ける。

 

「殺すのは無しだぜ幽香ちゃん。少なくとも、俺の目の前じゃあ誰も死なせやしねえ」

 

 幽香ちゃんの傘の一撃を、如意陽輝棒で受け止める。

 

「あら、女の子の後ろに隠れるのは止めたの?」

 

「冗談。そんな情けないマネ出来るかっての」

 

 傘を弾き飛ばし、妖精手甲と炎のエレメンタルで最大に強化した爆炎を御見舞いする。

 ド派手な花火が撃ち上がり、幽香ちゃんを強制的に吹き飛ばした。

 

「詭弁さん……!」

 

「守ってくれてありがとうなメイちゃん、妖夢ちゃん。だが悪いね、コレは俺の喧嘩だ」

 

 如意陽輝棒を軽く振り回し、身体の調子と気を整える。ニヤリと、不敵に笑う。

 

 あ”あ”あ”あ”ぁ”ぁ”!!!腕いてええええええ!!!!!!

 もげるっ!!腕もげるっ!!!!回復魔術(リジェネ)回復術(ヒール)

 幽香ちゃんの本気の一撃を受け止めた両腕が粉々になりそうだ。陽輝棒無かったら間違いなく両腕の原形なくなってた。ぴえん。

 

 などと言う事を一切表情に出さない為に不敵に笑い続ける。

 炎塵に包まれていた幽香ちゃんが無傷で歩いてくる。この圧倒的強キャラ感よ。

 

「……ふふふ、しばらく見ない間に凄く強くなったわね。期待、しちゃうわよ?」

 

「ハハハ!今日こそ幽香ちゃんに土つけてやるさ!」

 

 陽輝棒が燦々と輝きだす。今の俺はかつてない程に絶好調だ、という暗示を繰り返す。

 ザリッ。境内の玉石を踏みにじる音が聞こえた。次の瞬間、幽香ちゃんが目の前に迫り、その傘を振り下ろしてくる。

 

「『大地の加護(グラブレス)』!!」

 

 妖精手甲が重く、硬く変化し、振り下ろされた傘の一撃を無傷で受け流す。受け流した力で円を描くように如意陽輝棒を振り、幽香ちゃんの首を強かに撃った。

 

「くはっ……!良い、良いわ!」

 

 血が滾って来たと言わんばかりに目を見開き、その赤い目を更に紅く染める。

 そして至近距離であるにもかかわらず大量の弾幕を展開してきた。

 

「『昇陽発揮(ライジング・サン)』!!」

 

 陽輝棒を幽香ちゃんに向かって振り回しながら、展開される弾幕を撃ち落としていく。傘の一撃を陽輝棒で迎撃し、弾幕に弾幕を返し、魔法を魔術で落とされる。

 その戦いは、空の上で行う弾幕勝負とはまた違った()()()を魅せた。

 そして追加で放たれる大量の弾幕。それを潜るように体勢を限りなく低く保って回避する(グレイズ)。弾幕の壁を突破した先には、僅か驚愕に目を開いていた幽香ちゃんが隙を晒していた。

 

「ここで決める!『雷轟一閃(サンダーランス)』!!!」

 

 雷のエレメンタルを全て使って全身に雷を纏い、幽香ちゃんに突撃する。

 雷速となった俺は陽輝棒と共に、槍のように一直線に幽香ちゃんを撃ち抜いた。

 

「……ふふ、お見事」

 

 突き飛ばされた幽香ちゃんは境内を突っ切って、神社横の林に消えたと思えばすぐに戻ってきた。いや嘘でしょ。

 

「もっと本気出すわよ?」

 

「待って?」

 

 雷速となっている俺でもギリギリ反応出来るくらいの速度で駆け寄り、その傘を振り回す。一撃一撃が空間を引き裂くような音と共に衝撃波が放たれる。身体が割れそうだ。

 幽香ちゃんの動きを予測し、先の先を読み当て続けなければその傘は俺の身を突き斬るだろう。やばみ。

 そして雷轟一閃(サンダーランス)の効果時間はもうじき切れる。あ、詰んだ――

 

「終わりよ、詭弁」

 

「――なっ、死……」

 

 幽香ちゃんの拳が、俺の腹を()()()

 

「詭弁さんッ!!!?」

 

「……?手ごたえが……」

 

 次の瞬間、俺の身体が()のように黒く染まり、霧散した。

 

「っ!?これは――」

 

「――変わり身の術、つまり影分身さ!!」

 

 《陰》と入れ替わり、俺の影から()()()俺が出てくる。さあ第二ラウンドの始まりだ!

 

「『斜陽陰気(トワイライトブラック)』!!」

 

「やっほぉー!」

 

「……参る!」

 

 《陽》が空から弾幕を張り、《陰》は氷のエレメンタルで出来た棒を持って俺と共に幽香ちゃんを攻撃する。

 幽香ちゃんは、急に増えた手数に慌てる……かと思いきや、二人に増えて攻撃に対処しだした。

 

「増える程度誰でも出来るわよ」

 

「嘘だぁー!?」

 

 あっという間に《陽》が落とされ、《陰》は吹き飛ばされ、俺は殴り飛ばされて気絶した。

 

「……増えたら弱体化したわよ貴方」

 

 その一言は気絶している俺に届いていない。

 

「くそっ!本体がやられた!弔い合戦だ!」

 

「……本体が気を失ってるのに分身は元気なのね?」

 

「ふ、それは当然!何故なら俺は本体から完全に自立した《陽》!例え本体が寝ていようとも俺はピンピンしてるぞ!なあ《陰》!」

 

「弔い合戦なら一人でやれ《陽》」

 

「なんだよノリが悪いな!」

 

「ノリとかそう言う問題じゃないでしょうに……」

 

「まあいいや、ほら幽香ちゃんも折角なんだしお花見参加してけよ!かくし芸大会!一番歌います!」

 

「……アレっていつもああなのかしら?」

 

「今日はテンションが低い方だな」

 

「……そう」

 

「詭弁さん!詭弁さん!大丈夫ですか!?」

 

「気絶してるだけよ。……半霊の貴方」

 

「わ、私ですか?」

 

「そうよ。()()()()()()()()()()、もっと強くなることね。今の貴方じゃ、本気になった詭弁の足元にも及ばない」

 

「っ!?」

 

 

 

 はっ。と目を覚ませば、俺はメイちゃんの膝の上で寝ていた。そのまま辺りを見回すと、凄い目で睨んでくる霊夢ちゃんが……えぇ……。

 

「詭弁起きたわよ!さっさと退きなさい!」

 

「いやいや、まだ治療中ですから……」

 

「こんな傷ツバ付けとけば治るわよ!詭弁!アンタもいつまで膝の上でごろごろしてんの!」

 

「待って霊夢ちゃん、今俺は膝枕から見上げるおっぱいの素晴らしさについて考えてるところだから邪魔しないで」

 

「夢想封印!!!」

 

「えちょ、待っ」

 

「私までー!!?」

 

 

 それからというもの、近接戦闘を主体に置いた弾幕ごっこが少し流行るのだがそれはまた別のお話。

 

 




で、全員出すのに後何話必要ですか?
私にもわからん。
コウモリだけが知っている。

詭弁の成長速度はAと言ったところか。
さて、どうやって萃香といちゃいちゃ()させようか。


ところで話は変わりますが、皆さん感想ってご存知ですか?何、ご存知ない?なるほど。
感想というのは読んだ方が思った事を何でもよいので作者にぶつける事です。するとどうなるって?作者のモチベーションが上がります。
また、作者は内容を推敲しますが所詮素人目線なので、第三者目線から物語を見る事によって感じ取れる事を作者に伝える事でより良い作品になるんです。どうです?良い事だらけでしょう?
ほら、貴方も感想を書いてより良い作品にしましょう。
感想、書くでしょう?

何?感想を書かない?……ははは、面白い冗談だ。

何?感想を書かない?……ははは、面白い冗談だ。

何?感想を書かない?……ははは、面白い冗談だ。


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集まると始まる宴会ですよ!あれ、また?

萃夢想のシステム的に、詭弁は回復技持ち中距離打撃特化という凄まじい厨キャラ感。但し女の子相手だと攻撃力半減。それって……


 幽香ちゃんに襲撃されて幾日。今日もまた博麗神社で宴会をすることになった。

 

「……えっ、また?」

 

「おう、まただぜ。そういうわけでまた酒の準備よろしくな!」

 

「お、おう……」

 

 魔理沙の奴、ここ数日置きに開催される宴会に疑問を持たないのか?

 ……まあ、宴会となるとあられもない姿を晒す女の子が増えるし、俺的には全然問題ないのだが……酒代はバカにならないんだよなぁ……。

 

「んにぃ……もっと仕事頑張らないとなぁ」

 

 営業とかしてみるか……?

 まあ、それは後で考えるとして。今は酒の確保だ。

 ここ数日で常連客になってしまった酒屋でまた酒を大量購入。酒屋のおっちゃんに『また女の子侍らせて宴会か?』とからかわれる。間違ってない。

 大八車を引いて博麗神社に向かう。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 数日後。里の外で木こりをしていると、魔理沙が空から飛んできた。

 

「詭弁!今日も博麗神社で宴会やるぜ!」

 

「……お前アホだろ」

 

「?」

 

 今日もまた宴会のお誘いが来た。幻想郷は宴会好きが多いとは言え、幾らなんでもやりすぎだ。何よりもう行きつけの酒屋の酒はほぼ売り切れだ。まあ他にも酒屋が有るから酒は大丈夫と言えば大丈夫だが。

 魔理沙に、最近宴会続きなことをおかしく思わないのかと聞いた。

 

「……言われてみれば確かに。なんか博麗神社に集まっちまうから、特に気にしてなかったぜ」

 

「それと、なんか最近辺りに妖気を感じる。多分だが此処のところの宴会続きは妖怪の仕業だろうな」

 

「なるほどな、つまり異変か。魔理沙様の推理によれば、『宴会を行うことで得する奴』が一番怪しいぜ!」

 

「『宴会を行うことで得する奴』……ねぇ?そんな奴居るか?」

 

「ああ。運の良いことに私にゃ一人心当たりが有るぜ」

 

「……あー。そう言えばここ最近の宴会の幹事はお前だったな魔理沙」

 

「はっ!宴会になったらいつもセクハラばっかしてる詭弁の方が怪しいぜ!!」

 

 まあ、うん。戦う理由がお互い出来てしまったのなら仕方ないな。ここは丁度里の外で、しかも良い感じに離れているから里には被害が及ばないだろう。

 

「詭弁!悪いことは言わないから、さっさと自首した方が良いぜ?」

 

「そう言うお前こそ、痛い目見てからじゃ遅いぞ!」

 

 そして始まる弾幕ごっこ……と呼ぶには、互いの距離が近すぎる。この前の宴会の時に感化されたのか、弾幕格闘とでも呼ぶべき勝負となった。

 数メートルの距離から互いに弾幕を放つ。至近距離でありながら互いに弾幕が当たらないのは、集中力の賜物か。

 

「行くぜ!」

 

 先に仕掛けてきたのは魔理沙。弾幕を放った直後の硬直を狙って瞬時に感覚を詰めてくる……が、その動作に移るまでがあまりにも()()()()

 

「『影撃ち(シャドウスティック)』!」

 

「うわっ!?」

 

 如意陽輝棒の光によって伸ばされた影からの不意打ち。突進するように突っ込んできた魔理沙の意表を逆に突いて大きな隙を晒した。

 

「『電光一閃(スパークランス)』!」

 

 陽輝棒の先端から数多の雷の槍が飛び出し、魔理沙を黒焦げにした。

 

「ぐはぁっ!?クソっ!」

 

「近距離戦なら俺に分があったみたいだな」

 

「ちぇっ!まあ酒に弱い詭弁が犯人な訳無いよな」

 

「だから最初っから『妖怪の仕業』だって言っただろうが」

 

 まあ、その事に関しては俺にも言えるんだが。……さて、じゃぁ犯人は誰だろうな?

 

 今日行うという宴会には念のため参加はしなかった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 月が頂点に昇ったくらいの時間。何故だか胸騒ぎのする俺は寝ていた布団から出て、完全武装で里の外に向かった。

 里から妖怪の山に向かう途中に、良い感じに開けた平野が有る。そこに来たら、俺の目の前で霧が萃まっていき、角が生えた子供のような姿を取った。

 

「よく来たな、人間」

 

「……お前は……誰だ?」

 

 頭をぐわんぐわん揺らしながらフラフラ立つ少女は、手に持った瓢箪の中身をごくごく飲みながら俺を見据える。

 

「ふ、ふふ……あぁ、今の世にこんな懐かしき人間が居るなんて。勇儀の奴が見たらすぐにでも拐っちまいそうだねぇ」

 

「懐かしい……?生憎お前みたいな奴には会ったことないが?」

 

「あぁ、そう言う意味じゃないよ。お前の纏う空気が、昔の人間にそっくりなだけさ。誠実で、嘘つきで、小賢しくて、間抜けで、強く、弱い人間にな」

 

「それは只の普通の人間では?」

 

「そうさ、普通の人間。でも、今じゃ殆ど見かけなくなっちまった。だからあたしらは幻想郷から去っていった」

 

「幻想郷から去った?……いや待てよ?そんな話何処かで……」

 

「自己紹介がまだだったね。あたしは萃香。鬼の伊吹萃香さ」

 

「俺は詭弁答弁。伊吹……萃香、鬼……!?『鬼の目にも涙』『鬼の霍乱』『鬼を酢に指して食う』の鬼!?」

 

「いや……まあそうなんだけど。なんか釈然としないなぁ……」

 

「鬼か、丁度良い。長年気になっていた事を知るチャンスか!」

 

「へぇ、やっぱり良いねぇ。『鬼退治』に積極的な人間は本当に久しぶりだよ!」

 

「『オニのパンツは良いパンツ』なのか試させて貰う!!」

 

「いやちょっと待て」

 

 鬼……伊吹萃香が手を広げて待ったを掛ける。仕方ないなぁ。

 

「なんだ?俺は早く帰って二度寝をしたいんだ」

 

「あー……何?あたしのパンツ目当てなの?」

 

「だって気になるし」

 

「そういうことじゃないだろう?……くっ、前の宴会の時から何となく察してたけど、相当なスケベだなお前」

 

「……?何言ってんだ?幼女相手に興奮しねえけど」

 

「……嘘じゃないとか、それはそれでキレそう」

 

「大丈夫、代わりのパンツは用意してやるから!」

 

「そう言う問題じゃないんだよなぁ」

 

「じゃあどういう問題だよ!」

 

「矜持の問題だ」

 

 そう言って手に持った瓢箪の中身を飲む鬼。

 

「いいかぁ?あたしだって女の子なんだぞ?男から堂々と『興味ない』なんて言われると沽券に関わるんだよ」

 

「へべれげで常に酒飲んでる様なヤツが『女の子』であってたまるか。そんな事言うならせめて身長か胸囲を倍以上にしてから言うんだな」

 

「……言ったな?ミッシングパワー!!」

 

 そう言って鬼は巨大化した。

 

 巨大化した。

 

 えっ?

 

「ははは!どうだ!身長も胸囲も倍以上になったぞ!」

 

「お前それはズルいだろ!?」

 

 違うんだよ。俺が思ってた感じと全然違うんだよ……。

 

「……くっ!男に二言は無い。これからは幼女相手でも頑張って興奮する事にしよう……」

 

「あー?なんか違う気がするが……まあいい!久々の『鬼退治』楽しませてもらうよ!!」

 

「待ってその状態で!?」

 

 俺の大よそ4~5倍くらいの体格となった伊吹萃香がその巨体から拳で攻撃を繰り出してくる。嘘でしょ。

 転がるように退避するが、拳が地面をぶち抜いた衝撃で身体が紙風船のように飛ばされた。

 

「おっと!力加減間違えると簡単に死んじゃうかもな」

 

「くそっ。幽香ちゃん以上に理不尽だ……!」

 

 限界まで身体強化を掛ける。鬼……鬼……確か鬼にはなんか弱点がある筈だ……何だっけ……。

 ええいまだるっこしい!とりあえず叩く!叩いて考える!

 伊吹萃香の巨体から繰り出される拳は、巨体特有の遅さも相まって直撃を避ける事は簡単だ。だが拳が地面に当たった衝撃波が辺りに撒き散らされて、当たらなくても身体はミンチ必至。なら、妖精の力を借りるしかない。

 二撃目の拳が降ってくる。

 

「『沼化(マッドフィールド)』!!」

 

 辺り一帯の地面に大量の水分を足して、ドロドロのベチョベチョに変える。ドボン!!と大きな音を立てて鬼の拳が地面に突き刺さったが、先程よりも衝撃波はかなり弱い。そして突然地面の状態が変わった為に、かなり深くまで拳が地面に埋まってしまったようだ。

 

「つまり攻撃チャンス!」

 

 お伽噺に語られる鬼は、とにかく強く恐ろしいモノだという。なら適当な場所を狙った所で攻撃が通らないなんて事もあり得る。何より相手は凄いデカい。なら、狙う場所は此処っ!

 

「クソ、小癪な……ッッッ!!!?」

 

弁慶の泣き所ホームランッ(会心の一撃)!!!」

 

 如意陽輝棒を全力で鬼のスネに向かってフルスイング。もの凄い音が鳴って鬼の片足を薙ぎ払った。

 

「あ”あ”あ”ッッッ!!!おまっ!!!ココはシャレにならないって!!!?」

 

 鬼はスネを押さえて七転八倒している。シャレになるとかならないとかじゃなく、コッチは命張ってるんだからそういう文句は無しにしてほしい。

 

「くっ……覚悟しなっ!符の壱『投擲の大天岩戸』」

 

 ズダァンッ!!と地響きがするほど強力な跳躍をしたかと思えば、腕をぐるぐる振り回す。するとその腕に萃まるように岩があちこちから飛んでくる。

 腕に岩を萃めながらぐるぐる振り回し……そのまま投げたぁ!!

 

「いや死ぬわァ!!博麗式二重結界移動術(テレポート)!」

 

 空間から融けるように消え、別の場所に現れる。霊力の消費がそこそこ激しいが、瞬時に移動する事が出来るからなるべく使いたくない奥の手の一つだ。

 

「ん?今のは……まあいいや。ホラホラ、次行くぞー!」

 

 また腕をぐるぐる回したかと思えば大岩を集めてくる。勘弁しろ。

 陽輝棒に気と魔力を込めて威力の高い弾幕を生成し、そのまま射出する。的がデカいからとにかく当てて怯ませなければ岩がガンガン飛んでくる事になる。

 弾幕を放って、移動し、また弾幕を放つ。とにかく回避を優先しながらスペルブレイクを狙う。

 

「もう、いっちょぉー!」

 

 岩が高速で飛んでくるが、何とか避ける。もう精神的にかなりキツイ。だがもう少し……あと、ちょっと……!

 

「おりゃぁァ!!」

 

 弾幕がようやく鬼を撃ち落とし、スペルブレイク。だが勝負はまだ始まったばかり。

 

「くはっ!!良いねぇ人間!凄く楽しくなってきたよ!符の弐『坤軸の巨大鬼』」

 

 今度は更に山のように大きくなって、空高く跳躍した。えぇ……。

 そして俺にめがけて落ちてくる。踏まれればぺしゃんこだ。

 

「馬鹿野郎お前馬鹿野郎!!!」

 

 能力(チカラ)も使って全速力でその場から離れる。そして大きな地響きと共に巨大になった鬼が地面に着地する。衝撃波も凄いもんだ。

 そしてまた跳躍。俺めがけてまた落ちてくる。ふざけんな!!

 着地し、再び大きな地響きが鳴るが構ってられない。衝撃波が自分の身を痛めつけるが、無理矢理手甲のガードと回復魔法(リジェネ)で突破する。着地した硬直を狙って、弁慶の泣き所……は巨体過ぎて届かないから靴の上から足の小指ホームランッ(会心の一撃)!!

 

「あ”痛ッだァッ!!?」

 

 バランスを崩して膝を付いた隙に、山のように巨大な鬼の身体を登る。一寸法師みたいだな俺。

 そうして何とか肩まで登りつめた所で鬼の身体が大きく揺れた。

 

「ええい鬱陶しい!!」

 

 鬼の手が、肩にまで登った俺を払い落そうと伸びてくる。マズい避けっ!!?

 俺は足を滑らせ、真っ逆さまに落ちてった。

 

 

 伊吹萃香()の服の内側に。

 

 

「いやなんて場所に入るんだお前っ!!?」

 

「うおお……落ちるっ、落ちる……!」

 

 鬼の服の内側には取っ掛かりらしい取っ掛かりも無くそのまま滑り落ちるかと思ったが、()()()()()()()()()()に陽輝棒を引っ掛けて滑落を阻止。ふぅー危ない危ない。

 

「あッ♥!?はっ、お、お前ッ!?バカ野郎ンな所に引っかかるなッ!!?」

 

「危ねぇっ!?暴れるな落ちる!!」

 

「ふざけ、んっ♥クソっ!!こんな恥辱は初めてだこの野郎っ!!」

 

 振り落とされないように爪を立てて()()()()()にしがみ付いてたが、服の上からはたき落とされ落下する。鬼が着ていたノースリーブの裾から脱出。そのままロングスカートを滑り台のようにするする滑りながら辛うじて無事に地面に着地。なんか大冒険した気分だぜ。

 そして酒ではない要因により顔を赤く染めた鬼の身体がみるみるうちに小さくなっていく。

 

「くそぅ!お前相手にはこれくらいで丁度良い!」

 

 そうして山のように大きかった身体は、俺の身長の約二倍程度に落ち着いた。まあそれでもデカいのだが。

 

「仕切り直しだ!符の参『追儺返しブラックホール』」

 

 鬼が何かをぐっと握りしめて放り投げたと思えば、そこに吸い込まれるような引力を感じた。

 

「何でも有りかっ!?『地球の加護(テラブレス)』!」

 

 吸い込みに対抗するように妖精手甲を媒体として地球の引力を強める。これで多少の攻撃では怯まない重い身体(スーパーアーマー)を手に入れた。

 鬼の引力に逆らいながら、陽輝棒で攻撃を仕掛ける。

 

「スペルカード無視するなー!」

 

「いやお前殺しに来ててそれは無いだろ!?」

 

 大振りに振り回される手脚の攻撃を的確に避け、その隙を陽輝棒で()()()ダメージを蓄積させる。

 一見すると俺が優勢に立ち回っているように見えるが、相手は鬼。一撃でもマトモに入ってしまえばそこでゲームオーバー。油断は出来ない。

 スペルブレイク!

 

「ぐぬぬっ……次っ!鬼火『超高密度燐禍術』」

 

 ぐっ、と鬼が力を入れて地面を殴ると、そこから大量の炎が吹きあがり、辺りを火の海にする。

 

「熱いっ!?くっ、召霊『陰』!」

 

「呼ばれて参上、からの氷結魔法(エンチャントアイス)!」

 

 魔力の扱いに長けている《陰》を呼び出し、燃え上がっている炎を対処させる。同時に本体の俺は鬼に向かって攻撃を続ける。

 

「上手いじゃないか!だが炎はもっと増えていくよ!!」

 

「大量の炎で来るなら、大量の氷で対抗するだけさ!『凍結界陣(サーキットアイス)』!!」

 

 俺と《陰》が魔力的にリンクし、氷の結界を張る。氷と炎がぶつかり合い、互いを食い合って小さくなっていく。こうなれば悠々と避けられる。

 

「チィ!小賢しいね!」

 

「知恵と経験で妖怪退治しつづけてんだよ人間は!何時だって積み重ねてきた!」

 

 里に連綿と繋がれる妖怪退治の経験と記憶を綴じた()()は、例え一度歴史から消えた鬼であろうとも打倒する力をもたらしてくれる。

 それが人間の可能性で、人間の力だ。

 

「……ハッ!!なら見せてみなよ!その人間の力を!!『百万鬼夜行』!!」

 

 辺りに撒かれていた妖力が鬼を中心に萃まってきた。

 そして放たれる大量の弾幕。辺りを吹き飛ばしながらも、鬼を中心として引っ張る力が働く。

 足元が削り飛ばされ、更に常に引っ張られ続ける。回避もままならない……なら、攻撃あるのみだ。

 空を飛べない俺は、地を駆けて敵を屠るしかない。

 一人では何もできないから、沢山の力を扱うしかない。

 何かを極められなくても、何かを成せると証明したい。

 

「太陽の力を、全て引き出す!如意陽輝棒!!!」

 

 いつぞや妖夢ちゃんから交換した、赤い石を握りしめて如意陽輝棒に全気力・魔力・霊力を注ぎ込む。

 

「サポートは俺達に任せろ!」

 

「全力でブチかまして来い!」

 

 《陽》が出てきて《陰》と共に、鬼が放つ弾幕の嵐から俺を守ってくれる。

 俺は静かに呼吸を整え、如意陽輝棒を()()した。全身が灼けるように熱い筈なのに、ぽかぽか春の太陽にあてられているかのように心地よい。

 そして握りしめた赤い石は、太陽の力を増幅する。

 

「『天成(てんせい)』」

 

 赤い石が粉々に砕け散った。

 

「な……人間が、太陽に()()だと!?」

 

「これが……人間の可能性だァァァァ!!!!」

 

 ()()()()()と化した一撃は、例え名高い鬼であろうとも抗う事は出来ない。何故なら、妖怪は太陽に勝てないものだから。

 煌々と輝く拳が、伊吹萃香を打ち倒した。

 

 

「勝ったッ!東方萃夢想完ッ」

 

 

 

―――――

 

―――

 

 

 

 

「っはふっ!!?」

 

 目が覚めると、自室の天井が目に入った。

 

「……んぁ?」

 

 念のため、念のため押入れを確認する。

 如意陽輝棒、ある。妖精手甲、ある。ガラス瓶、ある。赤い石、ある。

 

 

 赤い石、ある。

 あれれーおかしいなー。さっき粉々に砕け散ったはずなのになーHAHAHA。

 

 

 

 

「夢オチかよぉぉぉぉぉんぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 泣いた。久々に号泣した。なんかもう色々恥ずかしすぎて暫く外出たくなくなった。

 

「詭弁ー!!居るかー!!?今日も博麗神社で宴会やるぜー!!?」

 

「馬鹿野郎かよぅ!!!」

 

 もぅマジ無理。。。ふて寝しょ。。。

 

 

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

 

 

「ねえ萃香。貴方は馬鹿なのかしら」

 

「はっはっはー、すまんすまん。あんまりにも楽しくってつい……許して!」

 

「許すわけ無いでしょう……!!貴方が大暴れしたせいで大結界が壊れかけたのよ……!!夢と現の境界を弄ってなかったら、幻想郷が崩壊してたかも分からないのよ……!!!」

 

「悪かったってば……でも仕方ないじゃん。あんなにも血が滾る戦いなんて久しぶりだったんだからさぁー……あー、またやりたいなー」

 

「反省しなさいっ!!!」

 

「ぶー。……んで、マジな話なんだけど……あの詭弁って男は何者なんだい?ありゃ()に片足突っ込んでるだろ」

 

「……彼は、()()()()()よ」

 

「……ふーん?ま、紫が()()()()()()()()()()()()って事なら、まあ深くは聞かないでやるよ。でもアイツは良い男だから、間違いなく大騒動になるだろうねぇ。特に勇儀のヤツがアイツの事を知ったら、間違いなく()()()()()()()()()()アイツを力づくで攫いに来るだろうけど」

 

「そうならない事を祈るばかりですわ」

 

「……なあ、やっぱりもう一回アイツと―――」

 

「絶対にダメよ。それにこれは貴方の為でもあるのよ?」

 

「……次は本当に『退治』されるって?あはは、次こそは私が勝つって!」

 

「……」

 

「……な、なんだよぅその目は」

 

「……はぁぁぁ。貴方は本当に気楽で良いわね」

 

 

 




なんだ、夢オチか。夢オチならしょうがないな。だって夢なら何にでもなれるんだもんな。

と言う訳で夢オチになったため次回から原作萃夢想始まる予定です!予定です!

前話以上の感想ネタが思いつかないから適当に感想ネタ書きます!
感想ください!
冷房つけっぱで寝ると喉が乾燥しますよ!
そういえばこの前部屋に置いてある空気清浄機を換装したんですよ!
そして上司が栄転するので歓送会をしたいと思ってます!
明日観相師に運勢見てもらう予定なんですよ!
カラオケ行ってきたんですけど間奏って良いものですね!

はい。


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もうなんも知らん!寝る!

前回のよく伝わらなかったと思うのですが、魔理沙が『今日宴会を行う』と誘いに来たことから、魔理沙と詭弁が戦った所も夢となってます。


 博麗神社

 

「……で?詭弁は?」

 

「なんかふて寝するってよ」

 

「はあ?」

 

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

 

 あれから暫く。桜もほぼ散り、青々とした葉っぱが代わりに生い茂るようになった。

 だというのに、未だに花見と称して博麗神社で宴会を断続的に行っている。その宴会に参加しなくなってからよく分かるようになったが、やはり幻想郷一帯に怪しい妖霧が漂っていた。

 

「『排魔の陣結界』……っと」

 

 どんな影響があるか分からない以上、なるべく里から切り離していた方が安全だろう。

 さて、今日の仕事はもう終了。メイちゃんの所に行こうかな……と、歩きだしたら正面の空から咲夜ちゃんが飛んできた。

 

「こんにちは咲夜ちゃん」

 

「ええこんにちは。貴方が異変の犯人?」

 

「断続的に行われてる宴会の事か?」

 

「それ以外に何があるのよ」

 

「最近里に出没する『謎の妖怪盗み食い』とか」

 

「そんなモノに興味ないわよ」

 

「里の酒を大量に買い占める『謎の大八車引き』とか」

 

「それは貴方じゃない」

 

「あとは……空飛ぶ可愛いメイドちゃんとか」

 

「私も有名になったものね」

 

「可愛いからね」

 

「……」

 

「それで、俺に何の用で?」

 

「調子狂うわね本当に……貴方が宴会を続けさせているのかしら?」

 

「違うって言ったら?」

 

「犯人は皆そう言うのよ」

 

「咲夜ちゃん可愛いって言ったら?」

 

「貴方しか言わないわよそんなこと!」

 

 咲夜ちゃんがナイフを投げてくるのを合図に戦闘が始まった。

 無数のナイフが飛んでくるが、それら全てを陽輝棒で叩き落として咲夜ちゃんに接近する。

 

「くっ……時符『プライベートスクウェア』」

 

「甘いぜ、時止め観測(ストップウォッチ)!」

 

 周囲の時間が止まるが、俺と咲夜ちゃんは動き続けている。

 

「しまった、私の時間に干渉出来るのを忘れていたわ……」

 

「んにぃ、遠慮はしないぞ」

 

 陽輝棒で飛んでくるナイフを落としながら咲夜ちゃんを叩く。

 あーくそ、さくやちゃん速すぎてうまく当てられないなー。

 

「ちょっ!?あ、貴方わざと狙っているでしょう!?」

 

「さて何のことやら」

 

 激しい弾幕勝負になると、衣服へのダメージが大きくなるのはもはや周知の事実だ。だから咲夜ちゃんの服がボロボロになるのは仕方のないことなんですよ!

 あー惜しいッ!咲夜ちゃんの脚を狙ったつもりの攻撃が、ミニスカートを扇情的に裂いてしまった!ガーターベルト丸見えっ!

 

「きゃあっ!?」

 

「ごめんね!わざとじゃないんだ!パンツまで破れたら大変な事になっちゃうね!」

 

「あーもう!止めよ止め!!」

 

 咲夜ちゃんは破れたスカートを押さえて逃げていった。うん、眼福。

 

「はっ!異変解決にかこつけて皆の衣服を破れるんじゃね!?俺ってば天才かよ!」

 

 なーんちゃって。そうそう上手く行くわけ……。

 

「見つけたわよ詭弁。貴方、最近宴会に参加してないわね?この異変について……知っていることを全て話しなさい!」

 

「あ、アリスちゃん……。ふっ!そっちこそ宴会を続けて何を企んでいる!」

 

「……話す気は無い、と。仕方ないわね、それなら身体に聞いてあげるわ!」

 

 アリスちゃんが攻撃してきたので、丁寧に衣服を剥いて差し上げた。赤い下着がセクスィ……。

 

「お、お、覚えてなさいよっ!!!」

 

 破れた布の切れ端で身体を隠してアリスちゃんは逃走。お尻丸出しですよ。

 

「……天才かよ俺」

 

 妖怪服剥ぎが誕生した瞬間だった。洒落にならん。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「詭弁さん……!貴方がこの異変の犯人か、斬れば分かる!!」

 

「はーいお洋服脱ぎ脱ぎしましょうねー」

 

「きゃーっ!!?ちょっ!服を狙うのは止めてくださいっ!!」

 

 

「辺りに漂っている妖気だけど……まさかとは思うけど、詭弁。貴方が犯人じゃ無いでしょうね?」

 

「そう言うパチュリーちゃんが犯人じゃないって証拠を見せて貰おうかホラホラ!」

 

「ひゃぁっ!!?服を破らないでっ!!服の内側に証拠なんて有るわけ無いでしょ!」

 

 

「妖夢がお世話になったみたいね~。……ちょっとオイタが過ぎるんじゃないの?」

 

「奪衣婆直伝、幽体縛札衣(ゴーストバスター)!」

 

「きゃー!きゃー!!」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 なんか、遂に来るところまで来てしまった感が有るが……今の俺は修羅。その命朽ちるまで止まることは無いのだ。

 時間は昼と夜との境目、場所は博麗神社。正面には……異変解決モードの霊夢ちゃんが悠然と立っていた。

 

「……来たわね」

 

「んぃ。その様子は……もう黒幕に当たりをつけたって所かな?」

 

「そうよ。……どんな理由があっても、私の邪魔をするのなら容赦しないわよ詭弁」

 

「邪魔だなんてそんなそんな。今日の詭弁さんは霊夢ちゃんに勝ちに来ただけだよ」

 

「それを邪魔と言うのよ」

 

「まあまあ。思えば、ここ最近はキチンとした形で霊夢ちゃんと戦ってないなぁってね。そういうわけで久々にボコボコにしてあげるよ!」

 

「泣く羽目になるのは貴方よ!詭弁!」

 

 霊夢ちゃんが大量の弾幕を放つと同時に飛び上がる。空を飛ばれちゃ打つ手がない……から、こうする。

 

「『幽糸結界(ホロスパイダーネット)』!」

 

「っな、糸!?」

 

 博麗神社一帯に魔力と霊力を練り合わせた魔法糸を張り巡らせる。魔力糸はドーム状に編み込まれ、結界として機能しだした。

 これで霊夢ちゃんは空を飛ぼうにも結界が邪魔して高く空を飛べない。

 

「破壊しようにも、その糸は魂と肉体だけを縛る!霊撃も夢想天生も無駄だ!」

 

「……やってくれるわね。でもそれで勝ったつもりかしら?」

 

「何言ってんだ。()()()()だ!!」

 

 キラキラ光らせた陽輝棒を回転させるように高速で振り回し、その軌跡が魔法陣となる。

 

「『幽魔の陽光(ゴーストドライブ)』!!」

 

「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!!」

 

 魔法陣から武装した《陽》が飛び出し、弾幕を撒き散らしながら霊夢ちゃんに突撃する。

 魔法によって強化された《陽》の弾幕を回避(グレイズ)しながら、本体の俺に向かってくる霊夢ちゃん。突撃を回避された《陽》は、そのまま魔力糸のドームに当たり……弾かれるように加速して戻ってきた。

 

「わははは!!!たーのしー!」

 

「私は楽しくないわよっ!」

 

 《陽》は手に持った『光の短剣』を振り回し、霊夢ちゃんの巫女服の袖を僅かに切り裂いた。

 

「危ないじゃないの!」

 

「大丈夫だよ!当たっても『痛い』だけで済むし!但し服は裂けるけどね!」

 

「それに《陽》ばかりに気を取られて良いのか?」

 

「っ!」

 

 陽輝棒の容赦の無い一撃が霊夢ちゃんの脚を掠める。お返しとばかりに弾幕を張ってくるが、その全てを陽輝棒で打ち落とす。

 

「このぉ、霊符『夢想妙珠』!」

 

 俺を常に狙って移動する光弾が何発も放たれる。だが、残念。その技は対策済みなのだよ!

 陽輝棒は光を操る。光を操る事は、すなわち影を操る事に繋がる。強い光には、より暗い影が常についてまわるのだ。

 

「『逆光陰影(フラッシェード)』!!」

 

 陽輝棒を背中に伸ばし、強く輝かせる。目が眩んでしまった霊夢ちゃんは、的外れな方向に弾幕を飛ばしてしまう。

 

「くっ……そこッ!!」

 

「ざぁんねん!それは俺の影分身だよっ!」

 

 霊夢ちゃんの怖いところは、視覚を封じただけでは()()で対処してくるところだ。だから、視覚だけじゃなく聴覚も縛る。

 

「ほーらコッチコッチ!」

 

「どっち向いてるの?左だよ左!」

 

「違う違う、右に居るよー!」

 

「そっちじゃないって!」

 

「たーのしー!」

 

「ああもう五月蝿いッ!!!!」

 

 俺の声が結界内で反響し、霊夢ちゃんが冷静さを失う。

 声に反応して霊夢ちゃんは霊撃を放つが、やはり俺には当たらない。完全に頭に血が昇っている状態で、隙だらけだ。

 

「後ろの正面だあれ?」

 

「っ!?しまっ―――」

 

 《陽》の持つ光の短剣が霊夢ちゃんの巫女服を斬り捨てた。

 バサリと服が落ちる。今の霊夢ちゃんは、上はサラシと巫女袖だけ。下はボロボロに破れている巫女スカートからチラチラ見える脚が眩しい。

 

「……やってくれたわね……!!」

 

「くく、ようやく()()って所か」

 

 巫女袖だけ残して脱がすってなんか凄い興奮する。いや、そんな事はどうでもいい。後はそのサラシとスカート、下に履いてるドロワを何とかすれば勝ったようなもんだ。

 ……と思ったら、霊夢ちゃんが神社の中に駆け込んでいった。ありゃ?

 

「待たせたわね。さ、オシオキの時間よ」

 

「追加で着てくるなんて聞いてない!!?」

 

 霊夢ちゃんは神社の中で替えの服を新たに着てきた。そんなぁ。

 くそ、こんな事ならせめて人里近くまでおびき寄せるべきだった……ハッ!?

 

 その後本気になった霊夢ちゃん(ブチギれいむ)によって瞬時にボコボコにされた。

 

「ひぃ、本体が張った糸のドームに叩きつけられてるぅ……」

 

「次はアンタよ、《陽》」

 

「まって霊夢ちゃん!俺はただ本体の命令に従ってただソゲブッ!!!?」

 

「この結界は良く跳ねるから面白いわね」

 

 ぶん殴られた《陽》が糸のドームによって弾かれ、また霊夢ちゃんの元に寄せられて再び殴られる。

 

 

 残念!詭弁の冒険は此処で終わってしまった!!

 

 

「紫、居るんでしょう?早く出てこないと詭弁以上にボコボコにするわよ?」

 

「怖いこと言わないで……」

 

「今の私は虫の居所が悪いの。率直に言うわ。黒幕の居場所に案内するか、半殺しにされるか選ばせてあげる」

 

「勘弁してよー……」

 

 

 

 そうして長く断続的に続いていた宴会はひとまずの終わりを見せた。

 散り行く春を名残る宴会には、詭弁も参加していた。

 

 本格的な夏が始まる。

 




萃夢想編完!
巻きで行くわよ巻き巻き。

次回閑話を挟んで永夜抄編!割と先が長いなぁ!


幽糸結界(ホロスパイダーネット)
対霊夢用に詭弁が開発した、『飛べなくなる』結界。この結界の中で飛び続ける事は出来ない。『夢想天生』も半分くらいしか効果が無い。

幽魔の陽光(ゴーストドライブ)
戦符「リトルレギオン」+式神「八雲藍」みたいな性能の技。相手の衣服に特効ダメージを与える。


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デートですよ!咲夜ちゃん!

閑話


「さて、詭弁さんの処刑を始めたいと思うのですが異議はありませんね?」

 

「有るぅぅぅぅ!!!!めっちゃ有るぅぅぅぅぅ!!!!」

 

「賛成多数の様ですのでそのまま処刑を始めたいと思います」

 

 どうしてこうなった!?どうしてこうなった!?

 今、俺は博麗神社の近くに生えている大木に逆さ吊りされている。どうしてこんな事になっているのか……そう。振り返る事、今から約2年前―――

 

「勝手に過去編行こうとする詭弁さんに先んじて、どうぞ皆さん弾幕を自由に放ってください」

 

「ぃ止めてぇぇぇ!!!」

 

 そして複数人から容赦なく放たれる弾幕を宙づりになりながら必死で避け続けた。どうしてこうなった!どうしてこうなった!!

 

「LOVE&PEACEだよ咲夜ちゃん!お願いだからナイフ投げるの止めてっ!」

 

「馬鹿は死んでも治らないとはよく言ったものね」

 

 ナイフが頸動脈すぐ横ギリギリに飛んでくる。

 

「アリスちゃんも、人形をこんな風に使うのは良くないと思うなぁ!!」

 

「死ね」

 

 心臓に向かって槍を構えた人形が突撃してくるのを守護術(ブロック)で弾く。

 

「妖夢ちゃん!頼むから許してっ!」

 

「死んでも魂の介錯は任せてくださいね」

 

 首を斬り落とすような軌跡の斬撃を身体を揺らして避ける。

 

「パチュリーちゃん最近運動頑張ってるね!ちょっとお休みしない!?」

 

「貴方を殺してから考えるわ」

 

 水の弾幕を氷の魔法で撃ち落とす。

 

「幽々子ちゃんほんとマジで勘弁してください!!」

 

「確実に息の根を止めてあげるわ~」

 

 飛んでくる死の蝶を気弾で相殺する。

 少しでも対処を間違えたらそのまま死んでしまうような弾幕の嵐を凌ぎ続け、暴れまくった事で俺を縛っていた綱が千切れた為にそのまま逃走した。

 

「チッ、逃がしましたか……!」

 

「あっはははは!もう諦めなアンタら、ありゃ詭弁の勝ちだよ!」

 

「うるさいわよ子鬼!」

 

「そう言って皆、本当は詭弁に()()()()()満更でもないんだろう?ならそれ以上詭弁を攻撃するのは野暮ってモンだよ」

 

「なっ……!?な、何を言うかと思えば……!」

 

「くっ……霊夢!なんでコイツ退治しないのよ!」

 

「別に良いじゃない、これ以上悪さする訳でも無いし」

 

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

 

 宴会騒動から明けて暫く、季節的に夏真っ盛りとなった。影魔法を使って強い日差しから身を護る日傘を作り、俺は人里の入り口で立っていた。

 時刻は大体正午。すると、遠くから銀髪の少女が歩いてやってきた。

 

「よっす咲夜ちゃん。相変わらずのメイド服なんだね」

 

「別に、これで十分でしょ?」

 

「んにぃ……ま、丁度良いや。これから目一杯女の子の服装に変えてあげるからね!」

 

「……ふん。全くどうしてお嬢様もこんな奴と一日中過ごせだなんて命令をするのか……」

 

 そう、今日は咲夜ちゃんとデートを行う日だ。つい昨日、紅魔館から手紙を咥えたコウモリが一匹飛んできて、『明日咲夜を休みにさせたから一日中デートしなさい(意訳)』と書かれた長ったらしい内容を読んだのを見届けて帰っていった。何だったんだ。

 まあなんにせよ咲夜ちゃんとデートする機会だ。

 

 そうして、俺の隣に立った咲夜ちゃんに影の日傘を広げつつ人里を案内する。

 

「人里って思ったよりも広いのね」

 

「んぃ。ここ数年で割と人口も増えてきたからねぇ……そういえば咲夜ちゃん人里に来るのは初めてか?」

 

「お嬢様が異変を起こす前に一度来たっきりね。里に用もないし」

 

「へぇ。食料とか、冬の暖房燃料とかどうしてたの?」

 

「食料は定期的に八雲紫の式神が持ってくるわ、お嬢様達用の人間も一緒にね。燃料は近くの木を集めたり、パチュリー様が魔法で作ったりしてるから大丈夫なのよ。……この前みたいに冬が長引いたら話は別だけど」

 

「ふーん……あ、そうだ。丁度ソコ曲がった所に八百屋があるんだけど、そこの野菜は取れたてのヤツが多いし味も良い物ばっか扱ってるんだよね。今度買いに来たら?」

 

「……考えておくわ。それより随分不躾な目で見てくる輩が多いのね」

 

「そりゃ咲夜ちゃんが可愛い上に珍しいメイド服着てるからだよ。まぁ俺が横に居て手を出してくる奴はモグリか馬鹿のどっちか―――」

 

「よぉ姉ちゃん、別嬪さんだねぇ。そんなヒョロッちいヤツなんかよりオレの方が楽しませてやるよぉ?」

 

 俺と咲夜ちゃんの前にゴリゴリでムキムキな大男が立ち塞がった。またなんてベタな……。

 

「詭弁、コレは?」

 

「……馬鹿のモグリだな」

 

「ンだァ?オレに―――」

 

 大男の足を踏みつぶし、怯んだ瞬間に水月に指を刺し入れて大男を倒す。

 次の瞬間、大男はボフンと煙を立てて一匹の狸に変化した。

 

「大方咲夜ちゃんを騙して攫おうとした妖怪変化だろ。……まあ、俺が居なくても咲夜ちゃんが攫われる未来なんて予想できないけど」

 

「……そうね」

 

 俺は転がっている狸を掴み上げ、その耳元で囁く。

 

「いいか狸、ココは人間の里だ。自由に闊歩するのは結構だが、悪い事考えてるんなら相応に痛い目を見る覚悟をしておくんだな。『次は無い』ぞ?」

 

「キュキュゥーン!!!」

 

 狸を手離せば、凄いスピードで里の外に走っていった。

 

「……ああいうのは多いのかしら?」

 

「んまぁ、そこそこってところかな。人に化けた妖怪ってのは結構いるんだが、大体は大人しく暮らしてる。()()()()()()()()()()を何とかするのも俺の仕事だ」

 

「そう……」

 

「ま、咲夜ちゃんの今の恰好が悪目立ちしてるのも確かだし、咲夜ちゃんにぴったりの良い服買いに行こうか!」

 

「この服は私のアイデンティティなのだけれど」

 

「でも今日はメイド()()()なんでしょ?」

 

「……そうだけれども」

 

「じゃあ着替えて良いじゃん!これから一日、また()()()()()相手にするのも面倒でしょ?」

 

「……はぁ、そうね」

 

「よし決まり!ってな訳でそこにオススメの服屋があるんだよ!外来のデザインの服も取り扱ってるから、咲夜ちゃんに合うヤツが絶対ある筈さ!」

 

 そう言って咲夜ちゃんの手を取って服屋に向かう。

 

「ああもう……しょうがないわね」

 

 

「いらっしゃいませー!」

 

「すみませーん!この銀髪の可愛いメイドちゃんに『童貞を殺す服』を買ってあげたいのですが構いませんね!!」

 

「思いっきり構うわよ!!」

 

 ぜ、絶対似合うのに……。

 

「そんな顔してもダメ!」

 

「じゃあ代わりに『逆バニー』を……」

 

「メイド服以上に悪目立ちするわよ!?そもそもそんなモノ置いてある筈が――」

 

「有りますよ!着て行きますか?」

 

「何で置いているのよ!?着て行かないわよ!!」

 

「咲夜ちゃん、買った服は装備していかなきゃ意味ないんだぜ?」

 

「着ている意味も無い服なんて装備しても何の意味も無いでしょう!!!」

 

「『存在がスケベ』という意味が生まれるので何の問題もありませんッ!!」

 

「ちなみに『逆逆バニー』も用意してますよ!如何です?」

 

「買った!」

 

「買うなっ!!」

 

 

 

 ◆

 

 

 結局咲夜ちゃんは普通の服を着る事になった。無念……。

 

「……これでもだいぶ妥協した方よ……」

 

 今の咲夜ちゃんは白の半袖シャツの上に青いボレロを羽織り、下はデニム生地のショートパンツ。あふん、脚線美がえっち……。

 

「凄い似合ってるよ咲夜ちゃん。涼しげで『いいね』しました」

 

「はいはい……それよりお腹が空いたわ。何か良い場所は有るかしら?」

 

「勿論!『和』『洋』『中』『甘』色々選べるけどどれが良い?」

 

「……じゃあ、『和』」

 

「『甘』じゃないのか」

 

「今お昼よ?甘いの好きでもお昼ご飯に食べる程ではないわよ……」

 

「そうか。まあオヤツに取っておこうね!じゃあ『和』に向けて出発!」

 

 そうして少しだけ歩き、着いた場所は人里でも珍しい『ライスカレー』を扱う食堂。近くを通るだけで食欲をそそるこの香りはもはや暴力……

 

「って、『カレー』じゃないの!」

 

「カレーは和食です!遠くインドを発祥としたカレーは一度イギリスによって改造され、さらに遠い日本に来た事で進化を遂げました。故にインドカレーとイギリスカレーは別物であり、イギリスカレーと日本カレーもまた別物となったのです!つまり一言に『カレー』と言っても『和食カレー』『洋食カレー』と分けられるのです!」

 

「要するに貴方がお昼にカレーが食べたいだけでしょ!」

 

「バレたか。まあまあそう言わず、ほら。カレーの香ばしい匂いを嗅いだら咲夜ちゃんもカレー食べたくなってきたでしょ?」

 

「そうだけど……ちなみに『中』と『甘』を選んだらどうするつもりだったのよ」

 

「『中辛カレー』と『甘口カレー』と用意してありましたぜ」

 

「結局カレーしか選択肢に無かったのね……」

 

 まあまあ、と言いつつ咲夜ちゃんを食堂に引っ張りこむ。ここのカレーはマジで美味しいんだから、きっと咲夜ちゃんも気に入るよー。

 

「と言う訳でこの『本日のオススメライスカレー』に好きな物を追加で頼むのが吉」

 

「そんな限定的過ぎる占い有る?」

 

「あっ、咲夜ちゃん辛いのイケる?ここの香辛料はお店のオリジナル仕様なんだって。スパイス多ければ多い程美味しいんだ。めっちゃ辛いけど」

 

「そうね……そういえば最近は辛い物食べて無いし、少しだけ挑戦してみようかしら?」

 

「おっ、チャレンジャー咲夜ちゃん。すみませーん!オススメの『大辛』と『激辛』ひとつー!玉子も!」

 

 注文して少し経つ。咲夜ちゃんと談話してると、すぐに店主のおばちゃん(見た目30代前半)がカレーを持って来た。

 

「はいよ、『大辛』に『激辛』、玉子だよ」

 

「……あら、意外と具が多めなのね」

 

「この肉と野菜のバランスが良いんだよね」

 

 咲夜ちゃんは辣韭派だった。俺と一緒。

 

「……美味しいわね」

 

「でしょ?カレーは自分では作らないけど、よく此処に食べにくるんだよ」

 

「(野菜が苦手なお嬢様もこのカレーなら食べるかも……?)」

 

「このカレー、意外にも納豆とも合うんだよね。あ、野菜とか苦手そうなレミリア嬢にカレースパイス買ってく?」

 

「……何故野菜が苦手そうだと?」

 

「前の宴会でメイちゃんが作った青椒肉絲のピーマンだけ残してたぜ?」

 

「お嬢様……」

 

「咲夜ちゃんも得意料理的な物ってあるの?」

 

「特には無いわ。強いて言えば洋食が得意よ」

 

「へぇ。あ、そうだ。今度咲夜ちゃんの手料理食べさせてよ」

 

「宴会で良く食べてるでしょ?」

 

「作った咲夜ちゃんの顔を見ながら食べたいな」

 

「っ!?……全く。機会があればね」

 

「わお。楽しみにしてるね!」

 

 半分ほどカレーを食べ進めると、店主のおばちゃんが白くとろみのついた飲み物を二つ持って来た。

 

「あら、これは?」

 

「いつもありがとうおばちゃん。これはラッシーって言って、カレーを食べる時にはいつも頼んでるんだ。辛さでピリピリする舌を癒してくれるよ」

 

「へぇ……こういうのもあるのね」

 

 ラッシーを手に取り、ゆっくりと飲む咲夜ちゃん。白くてとろみのついた液体を飲む……ぐへへ。

 

「……何よ」

 

「いやなんでも。美味しい?」

 

「そうね、美味しいわ」

 

「お子ちゃま口のレミリア嬢にも作ってあげると喜ぶだろうなー」

 

「……そうね。どうやって作るのかしら?」

 

「作り方は簡単!ヨーグルトに牛乳、水、砂糖を入れてミキサーで混ぜるだけ!お好みで蜂蜜や果物を入れるとバリエーション豊かに楽しめるぞ!混ぜる時に氷を入れておくと食感も楽しい!」

 

「……本当に簡単に作れるわね。ヨーグルトなら私の能力を使えば割とすぐに用意できるし」

 

「便利だな時間操作」

 

 そうしてカレーを食べきる。ご馳走様でした。

 店主のおばちゃんが小さな粒々を皿に入れて持って来たので、そのまま代金を手渡しする。

 

「なにかしらこれは」

 

「これはファンネル?とか言う、口の中をスッキリさせるお菓子みたいな香辛料さ」

 

「ファンネルじゃなくて()()()()()だよ。カレー食べた後は皆コレを噛むもんさ」

 

「そういう事」

 

 興味深々とばかりに粒々を眺める咲夜ちゃん。俺は一つまみのフェンネルを口に放り込む。独特の爽やかさと甘さが口の中に広がる。

 

「女は特にコレを食べた方が良いよ。こんなヤブ医者が作る薬なんかよりよっぼど身体のタメになる」

 

「いや、俺医者専門じゃないし……」

 

「ふーん……」

 

 そうして咲夜ちゃんもフェンネルを一つまみ口に入れる。

 

「気にいったかい?」

 

「……そうね、中々と言ったところかしら?」

 

「そうかい、ならまた来な。こんな奴なんかよりよっぽど良い男連れてな」

 

「余計なお世話だっつーの!!」

 

 そうして咲夜ちゃんと共に店の外に出る。

 

「……中々パワフルな女性ね」

 

「んにぃ、俺の医術の先生なんだ。ああ見えてもう80歳超えてるんだぜ?」

 

「はちっ……全然見えないわね」

 

 人里七不思議の一つ、『どう見ても30代のおばあちゃん』。純人間の筈だが、実は妖怪だったと言われても納得である。

 長生きの秘訣は食うモノにこだわる事さ、とは彼女の言。

 

 そうして、俺達はデートを続けた。

 

 

 ◆

 

 

 それから咲夜ちゃんと一緒に小物屋に入って銀の腕輪を買ったり、河童が露天を開いてるところに冷やかしに行ったり、甘味処で一緒のお団子を食べたり、人里に潜り込んでいた天狗に咲夜ちゃんとのツーショットを撮って貰ったりして、夕方。

 人里の外に出て、草野を二人で歩いていく。

 

「今日は楽しかった?」

 

「……まあ、シャクだけど言うだけはあったわね」

 

「素直じゃなーいねっ」

 

「五月蝿い」

 

 思いっきり頬をつねられる。

 

「痛てて……おっと、そろそろ目的地に到着するからオフザケはここまでだぜ」

 

「一番ふざけてるのは貴方よ」

 

「ぴえん」

 

 そうして着いたのは、辺りに何もない丘の頂点。地面に草が生えている程度で、本当に何もない。

 

「……ここが目的地?何もないじゃないの」

 

「んぃ、何もないから此処が良いんだ。……ほら、月が登ってきて、もうじき夜になるよ」

 

 日が沈んでいき、月は登ってくる。空は橙色から紫、次第に藍色に染まって行く。

 

「……ねえ、咲夜ちゃん。今日は満月って知ってた?」

 

「勿論よ。伊達に長いこと吸血鬼の従者やってないわ」

 

「そっか。じゃあさ、月に手を伸ばして、手に取ろうとしたこと有る?」

 

「……?それがどうしたのよ」

 

「俺は何度も有るよ。月が、すぐ近くに在るように見えるほど大きくなっている日は、特に。何度も何度も月に手を伸ばしても、実際には月との距離はとんでもないほどに遠くて、絶対に掴めやしないんだ」

 

「……そう」

 

「でもね、月に向かって手を伸ばし続けたのは、決して無駄じゃなかったんだよ。見てて」

 

 日が沈み、月が高く昇る。空は藍色から星が瞬く黒に近づいていく。

 

 俺は、何もない丘の頂点で月に向かって手を伸ばした。

 

 すると星の瞬きがどんどん強くなっていき、星の光が月に集まるように飛んでいく。そして月に集まった光は、俺に向かって真っ直ぐに降ってきた。

 咲夜ちゃんが息を飲むのが聞こえる。それは、あまりにも理解を超えた美しい光景だったからか、もしくは俺の事が心配だったのか。それはよく分からない。

 俺に降り注いだ月の光は、俺に()()()()()()()

 

 月に向かって伸ばした手には、いつの間にか小さな満月が握られていた。

 

「……ほら、月を手に取っちゃった」

 

「……ぁ」

 

 その小さな満月に魔法で作ったチェーンを通して、ペンダントに加工して咲夜ちゃんに着ける。

 

「うん、似合ってる。可愛いよ……咲夜」

 

 月明かりに照らされて浮かんだ微笑みは、咲夜ちゃんの顔を真っ赤に染めるという結果を引き寄せた。

 

「今宵満月の下、俺と一緒に踊りませんか……と、行きたい所だけど、残念。シンデレラの魔法が解ける時間らしい」

 

 西の空から紅魔館の主が飛んでくるのが見える。しかも赤い槍を持って。

 

「残念だけどデートの時間はここまでらしい。()()、大事にしてくれると嬉しいな。じゃ、またね咲夜ちゃん!」

 

 気障な投げキッスを咲夜ちゃんに向かって行い、人里目指して一目散に去る。

 

 

 『満月を手中に納める手品』のタネは実に簡単。陽輝棒を使って光を操り、派手に光を浴びている最中に()()()()()()()満月の力を込めて磨いた石を手に移しただけだ。

 咲夜ちゃんの()()()()()()も凄いが、今日は俺の方が一枚上手だったって事で。それではお粗末。

 

 

 

 

 

「ッチ。あいつ、一()()って約束破って……まあいいわ。咲夜」

 

「……ぁ。はいお嬢様」

 

「……ふん、その様子なら()()大丈夫ね。咲夜、あの男とは()()()程度の付き合いにしておきなさい。あまりあの男に入れ込みすぎると燃え盛る炎に焼け死んじゃうよ?」

 

「は、はぁ……」

 

「全く……ほんと、私の思い通りにならないモノね……」

 

 だからこそ()()()のだけど、とは言葉に出さないレミリア・スカーレット。

 

 一人の『女の子』としての時間は終わり。ここからは『紅魔館のメイド』としての時間が始まる。

 だが、『女の子』であった時間が消える訳ではない。メイドの記憶と、その胸に揺れる満月のペンダントが無事である限り、決してなくなりはしないのだ。

 

 永遠に。

 

 




これでもまだ咲夜ちゃんルート確定してないって信じられる?
そして『詭弁ですよ!ヤオヨロちゃん!』から見ている皆様はお気付きであろうか。この男、デートの食事はいつもカレーなのである!

でも実際カレーで大外れは無いので、ルックスに自信ある方は是非真似してみてはいかがでしょうか!その際にどのような結果になろうとも当方は関知致しません!自己責任!
ま、牛丼よりはマシだから……。


満月のペンダント

十六夜咲夜専用装備。
装備している間、常に霊力と魔力が回復し続けていく。
指の先程の小さなペンダントトップと、魔力で緻密に紡がれたペンダントチェーンで出来ている。ペンダントトップは、詭弁が魔力を込めながら研磨した『月石』と呼ばれる月に良く似ている石。特に美しく輝き、真ん丸の形をした月石は『満月石』と呼ばれ、非常に高価で希少。
ペンダントチェーンは魔力糸を紡いで限りなく頑丈に出来ている。誰かさん曰く、『1000年はもつ』とのこと。


ウチも、(更新)やったんだからさ。

ウチも、(更新)やったんだからさ。

ウチも、(更新)やったんだからさ。


 わ か る や ろ ?


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怪談ですよ!妖夢ちゃん!

まだ閑話。
最近、別原作のアイデアが割と溢れてきて執筆作業に支障が出てきました。だが全てを書く時間も無ければ脳も足りない……詭弁君みたいに増えたい……誰か私の替わりに書いて(切実)

詭弁ですよ!シリーズは三次創作を応援していますん!!



 夏もまだまだ盛況と言ったところ。あの春雪異変からずっと幽霊達が自由に行き来している所為でお盆がお盆になっていない感じがする今日この頃なんですけど。

 

「百物語……ねぇ?」

 

「んぃ。今度暑気払いの一環として里の集会所で怪談をやる事になったんだが、如何せん俺ってば口が達者過ぎるだろ?里のじいちゃんばあちゃん達が恐怖のあまり心臓止まったらヤバいし、だから先ずは()()()達で試そうかと」

 

「自分で『口達者』とか言うか普通?……まあ、詭弁に関してはその通りなんだが」

 

 場所は博麗神社。そこに俺を含めた人間組5人が揃っていた。

 

「百物語って……怖い話ですかぁ……」

 

「ああ、そういえば貴方()()()()()苦手なんだっけ?」

 

 妖夢ちゃんが自身の半霊を抱きかかえながら怯え、咲夜ちゃんがその姿を一瞥する。

 

「百物語か、面白そうだぜ。最近暇していた所だ」

 

「そうねぇ。最近特に暑いし、丁度良いわね」

 

「参加するのは此処にいる5人だけかしら?」

 

「そりゃ怪談話なのに本物の妖怪とか混じったら一々冷やかしが入るだろ。それじゃあ雰囲気出ないじゃないか」

 

「ええぇ……私も参加するんですかぁ……」

 

「大丈夫だよ妖夢ちゃん。もし本物のお化けが出て来たら斬れない物を斬るいい練習になるって!」

 

「なにも大丈夫じゃないですよぅ!」

 

「じゃあ皆暇してるみたいだし、早速今日やりましょうか」

 

「ひぃー。私帰りますぅ!」

 

 そう言って飛ぼうとした妖夢ちゃんの肩を掴む。

 

「おっと、良いのかな妖夢ちゃん?百物語のお誘いを断ると大変な目に合うよ?」

 

「でも怖いのは嫌ですー!」

 

「まあ聞けって。知ってるか?()()()自体にこわーい妖怪が居るんだ。その姿は『百物語の百番目』に姿を現すと言うが、実はそれ以外の時にも姿を現すそうだ。それは何時だと思う?」

 

「ひ、ひぃ……いつなんですかぁ……」

 

「それは百物語の誘いを断った人が夜に寝る時。枕元に立っているそうだ。『百物語から逃げる臆病者の魂を取って食べる為に』……」

 

「嫌ぁぁぁ!!!参加しますぅ!参加しますから食べないでぇー!!!」

 

「参加決定だな」

 

「貴方……酷いわね」

 

 さて何のことやら。

 

 

 そうして夜。場所は博麗神社……から離れ、人里の外側にある古い小屋。辺りには妖怪の息遣いが聞こえなくもなさそうで聞こえない。

 

「ここは?」

 

「んにぃ、俺が里の外で活動する時の拠点の一つだよ。普段から使ってる場所じゃないけど、休憩できるように座布団やら何やら用意して定期的に掃除しているんだ。……ま、気が付けば妖怪の溜まり場になってる時もあるけど」

 

「なるほどな。今回の百物語には丁度良いぜ」

 

「うぅ……なんでこんな所でやるんですかぁ……せめて博麗神社にしましょうよー……」

 

「何言ってるのよ。本当にお化けが出てきた時に、神社の中じゃ暴れられないじゃない」

 

「霊夢ちゃん、一応ここ俺の家と言えば家なんだからここでも暴れないでね……。さて、改めて百物語のルールを説明しよう……と言っても、今日やるのは『簡易版』とでも言うべきやり方なんだけどね」

 

 1、怪談話を語り終えるたびに、火の灯った蝋燭を一つ消す。

 2、怪談話は妖怪や幽霊が出る物じゃなく、不思議話の類でも可。

 

「ルールはこれだけ。簡単でしょ?」

 

「そうね、小難しい事しなくていいのは楽だわ」

 

「んにぃ、じゃあ早速やってくか。初めは誰からにする?」

 

「そりゃ勿論発案者の詭弁からだぜ。一発目から怖いのを頼むぜ?」

 

「ひぃぃ……こ、怖くない話でお願いしますぅ……」

 

「ははは、一発目から全力で行くと後が白けちゃうよ。まあ最初はジャブって相場が決まってるもんだぜ魔理沙。……っつー訳で不思議話『カラス』」

 

 カラス……と言えば、まあ思いつくのは烏天狗だろうが、此処で話すのは普通の何の変哲もないただの鳥のカラスだ。

 カラスは頭の良い鳥としてかなり有名だ。俺がまだ小さな子供の時の事、里の外に出た事も無いような頃の話。里の一区画の生ごみを集めていると、区画ごとに野生のカラスが生ごみを荒らし回っていた。余りにもカラスによる被害が多いから、里では一度その区画ごとに『生ごみの見張り当番』を作る事になった。大体そういう時に当番になるのは決まって俺の家なんだが、まあそれ自体は良い。

 カラスは頭が良いから、生ごみを集める曜日になると決まって朝一から『ごみを集める場所』に溜まりはじめる。そしてその場所に生ごみを人が捨てていき、離れた所を一気に荒らしに来る。見張り当番が居たらよそ見をしているうちに狙い、或いは敢えて目の前で荒らそうとして()()()になった所を見計らって他のカラスが荒らす。といった事が横行していた。要するに『見張り当番』はほとんど意味を成してなかった訳だ。

 本題は此処から。俺の親が『見張り当番』を当時子供だった俺にやらせ、渋々朝一から見張りをしていた所だ。生ごみがまだ一つも無い所に俺がぼぉっと立ってたら、偶々目の前を一匹のカラスがちょんちょん跳ねながら通っていったから、俺はカラスに向かって『おはよう』と声を掛けたんだ。それに驚いたのかカラスはバサバサ音を立てて飛んで行った。

 そしてまた少し時間が経って、近くの家の人が生ごみを回収場所に置いたら今度はカラスが二匹並んでちょんちょん跳ねてきたから、また俺はカラスに向かって『おはよう』と声を掛けた。今度はカラスはすぐに逃げずに、ジッと俺を見てから飛んで行った。するとしばらくしたら辺りに集まり始めていたカラスが離れていき、結局その日は俺の所の区画だけカラス被害が無かった。

 

「そういう事があって寺子屋でその体験談を話したら、俺の真似をしてカラスに挨拶する子供が増えてな。俺含めてその子達の周りではカラス被害が無くなった」

 

「へえ、カラスって人の言葉が分かるのね」

 

「妖怪でも無いのに人の言葉がわかるモンか?」

 

「それは知らん……だから不思議話」

 

「うぅ。怪談話と聞いていたから、怖い話じゃなくて良かった……」

 

「何言ってんだ妖夢、これから怖い話をするんじゃないか」

 

「……嫌だなぁ」

 

 妖夢ちゃんが自身の半霊を抱きかかえているのを後目に、蝋燭の火を一つ消した。

 

「そうだな。詭弁が軽いジャブで来るなら、私も最初は軽い話にしとくか」

 

 そうして魔理沙は魔法の森で起きた奇妙な話を始めた……。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 そうして何順か話し、場が温まってきた頃。本格的に怪談を話すとしようかね。

 

「さあ、そろそろ背中がゾクゾクするような怪談が欲しいと思ってきた頃合いじゃないか?」

 

「も、もっと面白い不思議話をしましょうよぉー……」

 

「馬鹿ね妖夢。それじゃあ結局百物語をやる意味が無いじゃないの」

 

「そうだぜ。やっぱ怪談といったら怖いモンじゃないと」

 

「でも日頃から妖怪がすぐ傍に居るのに、背中がゾクゾクするような怪談なんてあるの?」

 

「チッチッチ。いつも妖怪の傍に居るからと言って忘れられるような『怖さ』なんて、それは妖怪の真の怖さじゃないよ。人は何時だって何かを()()()()()()になるだけさ。そう、人の形をとっている妖怪は、それはただの『仮の姿』でしかないんだよ……宵闇の妖怪ルーミアを知っているかい?あれが典型的な例さ」

 

 『闇の妖怪』

 本当の闇を知っているか?今の外みたいに、月明かりや星明かりが見えるような()じゃなくて、真の闇。それは真っ黒じゃなくて、光すら飲み込む闇の事。

 真の闇の中は何も聞こえないし、何も感じる事が出来ないという。何故なら光を飲み込む闇は、音も、意識も、精神も、全てを飲み込むから。

 魔法の光や退魔の霊光も意味を成さない。言葉通りに何も見えない。自分が光を出しているという感覚も無い。

 

 ……だけど、ただ一つだけ。真の闇の中で見える物がある。それが『闇の妖怪』。

 妖怪……と呼んでいるが、それが()()なのかどうかは分からない。何故なら未だかつて『退治された』という記録が無いのだから。

 その姿を明確に知る者も、記した書物も無い。でも、『闇の妖怪』が居る事は間違いない。何故なら『闇の妖怪』は、宵闇の妖怪ルーミアの産みの親だからだ。

 

 闇の妖怪に会う方法は至極簡単だ。『新月の日の夜、目を閉じて外を出歩く事』。星明かりを目蓋で遮り出歩き続けると、どんな妖怪にも襲われない。何故ならどの妖怪も、闇の妖怪を恐れているから。その儀式を行っている者を襲ってしまえば、それは闇の妖怪への()()を横取りしてしまう事になる。故に襲われない。

 新月の夜の下、目を閉じて歩いていると……いずれ闇の妖怪に辿りつく。目を閉じている筈なのに、何故かその姿が()()()。そしてその姿が見えたら最期……歩いている感覚、意識、理性、全てが闇に飲まれて……この()()から居なくなってしまう。

 

「ああそうそう、もう一つ闇の妖怪に会う方法があった。『新月の夜に厚い雲が星明かりを覆い隠し、()()誰も火を焚いていない時』。幻想郷が真の闇に包まれ、飲み込む直前に全ての人妖の前に現れるそうだ。新月の夜には気をつけなよ?いつも俺が火を焚いているが、()()焚き忘れる事があるかもしれないからな」

 

 そう言って、蝋燭の火を消した。

 

「そういえば百物語を語り終えたら現れる妖怪が『闇の妖怪』という説もあるみたいだな。どうだ妖夢ちゃん、一つ試してみるか?」

 

「ひぃぃぃ!嫌ですぅー!!!うわーん詭弁さんのせいで新月の日に外歩けなくなっちゃうじゃないですかー!!」

 

「はは、ようやく怪談っぽくなってきたぜ。じゃあ次は私の番だな!」

 

 百物語は続いていく……。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 『饅頭怖い』

「人の頭部そっくりの生きた巨大な饅頭がひっそりとこの世に住んでいて、夜な夜な小さな子供の元に這ってくるんだ。そして寝ている子の耳元でこう囁く……『ゆっくりしていってね!!』」

 

「ひゃあああああ!!!」

 

 『饅頭怖いパートⅡ』

「そうして倍々に増えていく饅頭は河童製のロケットによって宇宙に飛ばされたが、宇宙全てを増殖した饅頭によって埋め尽くされるのはもはや時間の問題だ」

 

「饅頭怖いいいい!!!」

 

 『饅頭怖いパートⅢ』

「『半殺し』の餡と『皆殺し』の餡を投げ捨てこう言った。次はお前が饅頭になるんだよォォ!!!』」

 

「嫌あああああああ!!!!」

 

「詭弁の奴イキイキし過ぎだぜ……」

 

「ほぼ妖夢しか怖がらせてないわね」

 

「饅頭怖……えっ?」

 

「えっ?」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 長く続いていた百物語ももう終盤。それに夜明けもだいぶ近くなってきた。

 妖夢ちゃんは部屋の隅で縮こまっている。

 

「もうヤダ……お家帰る……かえるぅ……」

 

「おい詭弁、妖夢の奴がもう気絶寸前だぜ」

 

「うーん……この様子だと本番ではもうちょっとマイルドな感じの話を増やした方が良いかなぁ……」

 

「妖夢が特別怖がりなだけよ」

 

「そうね……でも普通に百物語としてなら丁度良いんじゃない?」

 

「んぅ~……まあ、もう少し考えるか……次、百物語の99話目だが……100話目なら百物語の締めとしてド定番があるんだけど……よし、こういう話はどうだろうか?題して『一人寝(ひとりね)』」

 

 俺もそうなんだけど、みんな普段寝る時は大抵布団の中で一人で寝ているよね。でも本当は一人で寝るのは、凄く危険な事なんだ。寝相が良い人はまだ安全なんだけど、寝相が悪い人……特に、起きたら掛けてあった布団を抱きしめて寝ていた人は、注意した方が良い。それは寝ている間に『一人寝』に襲われていた可能性があるから……。

 『一人寝』というのはすごく非力な妖怪で、煎餅布団一つとて持ち上げられない程に力が弱い。でもその代わり特異なチカラを持っているんだ。それは『掛け布団に化ける事が出来る』能力。

 布団を持ちあげられないから寝相の良い人の布団は退かせず、もし布団に変化していても布団が二重になってるからすぐに分かる。でも寝相の悪い人が布団を蹴とばしていたら、蹴とばされた布団の替わりとなって掛け布団に化ける。その重さや肌触りは普段から使っている布団そっくりで、誰にも見分けはつかない。布団になってどうするかだって?当然、寝ている人を食べるのさ。

 『一人寝』の食事は変わっていて、寝ている人の汗や呼吸を食べるんだ。勿論そこまでならほとんど害は無いに等しいんだけど、もし『一人寝』が満腹になったら……とても恐ろしい事になる。

 『一人寝』が満腹になったら真の力を発揮できるようになり、寝ている人を抱きしめるように布団で包むんだ。そうしてどうなるかって?

 

 『一人寝』が、その人と()()()()()のさ。

 

 記憶も意識も、何もかも入れ替わって『一人寝』がその人に成り代わり、その人は『一人寝』になってしまう。

 そうなってしまったら最期、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。周りの人は入れ替わった事に気付けない。何故なら記憶も意識も全て入れ替わっているのだから。

 

「『一人寝』に襲われないようにするには、二人以上で一緒に寝れば大丈夫だ。『一人寝』は違う人の汗や呼吸を一緒に食べることが出来ないからね。夏の暑い夜、寝苦しさから布団を蹴飛ばしてないか?そんな子は『一人寝』の格好の餌食だぞ?」

 

 そうして残り二つとなった蝋燭の火の内の一つを消した。

 と次の瞬間、妖夢ちゃんが俺に向かって飛び付いてきた。

 

「あ”ぅ”ぅ”ー!!一人で寝れなくなっちゃったじゃないですかぁー!!」

 

「んぃーしょうがないなぁ。じゃあ今日は俺と一緒に寝ようか」

 

「約束ですよぅ!!」

 

「「「おい」」」

 

 三人から同時にツッコまれる。

 

「おっどうした?皆も一人で寝るのが怖くなっちゃった?」

 

「そうじゃないわよ」

 

「詭弁、お前()()()()()は良くないぜ」

 

「弱みに付け込んで……最低ね」

 

「なんだぁ?皆して妖夢ちゃんに嫉妬か?しょうがないな!よし、今日は皆でお泊り会だ!」

 

「誰もそんな事言ってないんだぜ」

 

「み、皆さんも一緒に寝ましょう!」

 

「えぇ……嫌よ。詭弁に何されるか分かったもんじゃないわ」

 

 

 

「じゃ、じゃあ……私も一緒に寝ますから……!」

 

 

 

 妖夢ちゃん以外全員顔を押さえた。無論俺も。

 もう百物語とかどうでもいいわ。

 

「優勝は妖夢ちゃんで異議ある人ー?」

 

「「「異議なし」」」

 

「え、ええ!?なんで!?優勝ってなんですかぁ!?」

 

 それは知らんけど、とにかく優勝は妖夢ちゃんだ。

 気が付けば、既に朝日が昇っていた。

 

 




オチはとある方をリスペクトしました。妖夢ちゃん可愛い。
妖夢ちゃんの可愛さを100分の1でも表現出来てたらいいなぁ。
(ちなみにこの百物語は今後の伏線とかじゃ)ないです。書きたいから書いただけ。(今後オリジナル妖怪が活躍とかは)ないです。

ところでこの話を書いている最中に通算10万UAを達成してました。記念の小話を……誰か書け(無茶振り)
ほら、俺が書くと流れメチャクチャになるし……またUNEIによってR-18送りにされかねないし……

という訳でお前らの感想待ってるぜ!!妖夢ちゃんをすこれ!
あ、突然ですが何となくアンケート始めました。何となく答えて戴けたら何となく今後の更新内容に影響するかも分かりませんが、何となくご参加ください。

注:基本的に作者の気まぐれ更新なのは変わりません。あくまでも参考程度にしますので。


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平和ですよ!霊夢ちゃん!

また閑話。
読み方はピンフではないです。


 人里での納涼百物語大会を何事もなく終えると、幻想郷ではひっそりと怪談ブームが巻き起こっていた。

 さて、そういった怪談ブームは流行り事に敏感な妖怪達の琴線に触れたらしく、『妖怪版百物語』とでも言うようなものが徐々に出来上がってきた。

 

 そんな時勢の中、俺は紅魔館の中庭に集まった妖怪達に『妖怪版百物語』を語っている最中だった。

 

「―――『博麗の巫女』は決して妖怪を逃しはしない。例えその身が滅び、魂だけになろうとも……絶対に妖怪を封印するのだ。そう、今日の犠牲者は……お前だァァァ!!!

 

「「あ”あ”あ”あ”あ”!!!」」

 

 互いの身体を抱き合い、ガチ絶叫する妖怪達。

 

「人を脅かす妖怪が、人間に驚かされてどうするのよ……ねえレミィ?」

 

「そそそそそうね!えっ?今なんか言ったパチェ!?」

 

「……何でもないわ」

 

 今この場所には、下はルーミアやミスティア・ローレライ、リグル・ナイトバグから、上は風見幽香や八雲紫といった大妖怪、他にもアリス・マーガトロイドや西行寺幽々子といった、そうそうたるメンツが集まっている。この会の主催者である紅魔館の主、レミリア・スカーレットが手当たり次第集めた結果だ。

 まあ勿論とでも言うべきか、大妖怪と呼ばれる者達にとっては取るに足らない話ばかりだったらしい。……極一部を除いて。

 

「もう、退屈な話ばかりでうんざりするわ。ゆかりんうんざり」

 

「大妖怪サマが退屈しない話とは何なのか是非ともご教授いただきたいものですねぇ」

 

「まぁ良いじゃん紫。たまにはこういう酒の肴があってもさぁー」

 

 わはは。と笑いながら豪快に瓢箪を傾ける伊吹萃香。酒を飲みながら参加してるのはお前だけだよ……と思いきや、わりと飲んでいる妖怪は多かった。

 

「ひい、何故山の四天王がこんなところに……」

 

 ビックリするくらい身体を小さくして隅に隠れているのは射命丸文。可哀想に、鬼に良い記憶が無いらしい。あーかわいそうかわいそう。

 

「という訳で次は、かつて幻想郷を支配したと言う『鬼』に関するお話。題して『鬼の退治屋』」

 

「詭弁さんの鬼っ!」

 

 俺は人間だ。

 

「さて、昔昔の遥か昔。刀を持った武士が世で活躍するより前の話。その時の人間達は―――」

 

 

 

 ◆

 

 

 

「―――その鬼は今でも地獄の奥底で妖怪達が墜ちてくるのを待っている。その身が燃え尽き、骨だけになろうとも……己の愛する女性を、半身と言える兄弟を、親しき友を、そして全てを殺した妖怪を地獄の業火で焼き殺すために……」

 

「ひぃ、地獄には落ちたくないー……」

 

「……ふう、馬鹿馬鹿しい。そんな鬼が居るわけ無いでしょ?」

 

「それはお前だァァァ!!!

 

「「「あ"あ"あ"あ"あ"!!!」」」

 

「それもういいわよ!!!」

 

「ん~……そんなヤツが昔居たような……」

 

 むう、永く生きている大妖怪を怖がらせるにはまだ足りないと言うのか……いや、まあそもそも大妖怪を怖がらせるのが無理難題と言えばそうなんだが、悔しいモノは悔しいのである。

 

 よし、こうなったらもう取って置き。今まで温めに温めた()()()で驚かしてやろう。

 

「……さて、長いようで短かった『妖怪版百物語』も、次で最後。大妖怪サマガタも、()()()()()()()()()()馬鹿話で締めくくりたいと思います。題して―――」

 

 

 ()()()

 

 

 そう口にした瞬間、八雲紫の纏う空気が変わった気がした。

 

 

 

 

 《月の都》

 

 昔昔の遥か昔。今此処に居る大妖怪達皆がこの世に生まれ落ちるよりも遥かに昔。今の世よりも、人の世界は()()していた。生まれたばかりの子供でも空を飛ぶのは当たり前。人の移動手段は歩きではなく、馬でもなく、もっぱら()に乗って移動するのが当たり前だった。

 その当時の妖怪は、()のように()()()()を食べるモノを指す言葉ではなく、主に人間を物理的に食べるモノを指していた。当時の人間にとって、『妖怪』とは『死』のメタファーであったのだ。

 当然、当時の人間はあの手この手で『妖怪』を遠ざけようとし、また失敗し続けた。

 

 しかしある日の事。人間は『妖怪』を遠ざける名案を思いつき、そして実行した。

 それは、『妖怪が居ない月に移住する事』。

 作戦は成功し、地上を支配していた人間全てが居なくなった事で地上に残された妖怪達はほぼ全て死滅した。

 

 それから『人』が居なくなった地上に、新たな『人』が生まれ、新たな『妖怪』が生まれる程に気が遠くなるような永い時間を掛けて、月で発展し続けた『月人』は、河童ですら目を剥くような卓越した()()()()()()を武器に引っ提げてこの地上を支配する時を伏して待ち望んでいる。

 

 忌むべき『死』であった『かつての妖怪達の残党』を全て滅ぼすために……。

 

 

 

「そして真っ先に狙われるのは、当然多くの妖怪達が住む楽園『幻想郷』。そう、もしかしたら月よりの使者は既に貴方の隣に居るのかも知れない……」

 

 そうして100本目の蝋燭に()()()()()

 

 煌々と燃え上がる百本の蝋燭に灯された火とは裏腹に、辺りの空気は淀んだように()()

 

「月の使者はお前だァァァ!!!

 

「「「あ"あ"あ"あ"あ"!!!」」」

 

「だからもういいって言ってるでしょ!!」

 

 最後に空気が弛緩し、漸く会は締めとなる。

 

「さてさて。()()より始まったこの会ですが、これにて100本目の蝋燭に火が灯った事で()()()とさせていただきます。……あぁ、そうそう。妖怪が怪談話の真似事は結構ですが、怪談話には『退治譚』が付き物です。努々人を侮るなかれや……。話し手は『二枚舌の妖怪』でお送りしました。それでは、これにて」

 

 百本の蝋燭が轟と音を立てて燃え上がり、俺を包む。

 火が収まれば、後に残ったのは『舌が二枚描かれているお面』のみ。

 ウソつきは地獄の炎で焼かれ死ぬのがお似合いだ、なんてな。

 

 以上、《陰》が紅魔館よりお届けしました。それでは、お粗末。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 同時刻、博麗神社。

 

「はぁぁー……暑くて何もやる気が起きないし、平和すぎて退屈だわ。詭弁、あんた何か異変起こしなさいよ」

 

「んにぃ……じゃ、会う妖怪全員のパンツを強奪していく異変でも起こすかぁ……」

 

「なら異変が起きる前に退治しておきましょ」

 

「待ってよ霊夢ちゃん、ちょっとした冗談じゃないかぁ……ぐわぁー」

 

 縁側でゴロゴロしてたら、霊夢ちゃんに叩き落とされた。ひどいよぉ、ぐすん。

 

「……暑いわねぇ」

 

「んぅー……まあ、もうすぐ夏も終わるから……もう少しの辛抱……っ!?し、しまったぁ!!!?」

 

「なっ……急にどうしたのよ詭弁!?」

 

「折角の夏なのに『水着回』が無いじゃん!!霊夢ちゃん!今すぐ霧の湖に行ぐへぇ!!?」

 

「慌てて損したわ」

 

 霊夢ちゃんから陰陽玉を投げつけられる。酷い仕打ちだ。

 

「うぅ……急に霊夢ちゃんの水着を見ないと全身の穴という穴から血を噴き出して死ぬ呪いに掛かってしまった……お願い助けて霊夢ちゃん……」

 

「野良妖怪の餌にしたら治るかしら?」

 

「容赦という言葉をどこに捨ててきた霊夢ちゃん……」

 

 くそっ、とりつく島もないとはこの事か。メイちゃんならゴリ押しすれば水着を着てくれたのに……ぐへへ、あの身体を思い出しただけでも勃――

 

「夢想封印っ!!!」

 

「ほぐわぁー!!!?なんで!?なんで急に夢想(むそ)ったの!?」

 

「なんかムカつくからよっ!」

 

「くそぅ!こうなれば強引にでも水着を着させてやるっ!そうしてスケベな脇を接写してやるぐへへ」

 

「夢想天生」

 

「えちょ―――」

 

 

 直後、俺の意識は三途の川まで飛ばされた。

 

 

「……はぁ。あたいはサボろうとする度にお前さんに邪魔される呪いにでも掛かってるのかい……」

 

「小町っちゃん!小町っちゃんも水着着る!?」

 

「あたいはいつも嫌になるほど()()()してるんだ。なんでオフでも水浴びしにゃならんのよ」

 

「なん……だと……」

 

 サラバ俺の幻想郷。もうこうなったら慧音先生の水着姿を拝むしかない……。

 

「という訳でまた会おうね小町ちゃん!」

 

「はいはい、もう来るなよ」

 

 

 そうして意識が博麗神社に戻ってくる。

 

 

「―――はっ!まだ見ぬ理想郷!?」

 

「……起きて早々何言ってんのよ……」

 

 意識が戻れば、目の前に霊夢ちゃんの顔が見えた。

 視線だけをキョロキョロ動かすと、どうやら博麗神社の縁側に寝転がされていたらしい。

 

 

 霊夢ちゃんの膝枕付きで。

 

 

「えっ、急にデレ期来た?」

 

「その頭落とすわよ!」

 

「ごめんなさいっ!」

 

 霊夢ちゃんの持ってるおおぬさの一撃が俺の腹を叩く。もー気まぐれなんだから。そんなんだから猫巫女とか呼ばれるんだよ……(呼ぶのは主に俺)。

 

「……あんた、今日は泊まってくでしょ?」

 

「んぇ、それはつまり結婚……」

 

「違うわよ!」

 

 だよね。うん。

 もーほんとに霊夢ちゃんは気まぐれなんだからー。

 年頃の異性をそう易々家に泊めちゃダメだぞぉー。

 

「あんただから良いのよ……」

 

「なんか言った?」

 

「別に、ご飯の仕度してくるから退きなさい」

 

「断るっ!もう一時間こうしてる!」

 

「後にしなさい!」

 

「後っ!?後って言ったね!?言質取ったぞ!?」

 

「あーもー……はいはい」

 

 そして霊夢ちゃんの膝から、ペッと膝から剥がされた俺は縁側でごろごろし続ける。本当は食事の準備とか手伝いたいが、こういう時霊夢ちゃんは絶対台所に入れてくれない。なんでかは知らん。

 即ち、暇である。

 

「……んぃ……もうすぐ日が沈むなぁ……」

 

 

 じきに、夏が終わる。

 

 

 

 そうして完全に日が沈んだと同時に、血相を変えて俺を探しに来た妖怪達が博麗神社に襲撃してきて全員仲良く霊夢ちゃんによってシバキ倒されたのはまた別の話。

 

 




「詭弁が!詭弁が火に包まれて!火が詭弁を焼き尽くしたと思って!詭弁が!詭弁生きてるじゃないですかやだー!!?」
「落ち着け、俺はずっと生きてる」

基本的に《陰》《陽》本体で記憶は共有してません。だから紅魔館で派手に格好良く消えた(と当人は思っている)《陰》がやってきた事は本体は知りません。
本体「紅魔館で百物語……ねぇ?」
《陰》「あ、俺それ参加したい」
《陽》「いてらー」
的な会話がなされたとか何とか。

『妖怪版百物語』
普通の百物語は夜になってから行い、蝋燭100本の火を一つづつ消していくのだが、妖怪版百物語は()()から行い、蝋燭100本に一つづつ火を灯していく。
更に話す怪談は『その場にいる妖怪の話以外』でないといけない縛り。嘘は可。
多くの妖怪が参加するので大抵の怪談はNGだが、そういう時に嘘八百の二枚舌、詭弁に話し手として声が掛かった。

霊夢ちゃんは詭弁と二人きりの時はわりと素直になってくれるんだ!可愛い!

伏線まみれな所で次回、永夜抄編!
と思いましたが、わりとダークネス展開が望まれてるので無い頭絞って書くね!無論、別作品として投稿するので座して待て!
と書いておきながら、しれっと次話投稿してるかもだから気長にね。


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最近セーフとアウトの境界を反復横跳びしてる気がする!!

もー、私ったらドジっ子ね☆

いいか?君達は何も見ていない。何も見ていないんだ。
深夜に投稿されたモノを見た者は速やかにAクラス記憶処理を受けるように。

閑話ッ!!


 もうじき夏も終わる。……何処かで『秋度』なる物を集めてる奴が居なければの話だが。

 夜もだいぶ涼しくなってきたかと思いきや、いやいやまだまだ熱帯夜と言わんばかりに暑い日もあり、夏が過ぎて秋になりそうでならなさそうだ。秋姉妹がキレてそう。

 

 さて、今日は竹を採りに迷いの竹林にやってきた。

 青々と涼しげな色合いの竹は加工して生活小物にしたり、竹の先端部は食材として使えたりと年中そこそこに需要がある物だ。

 そして俺はキノコよりタケノコ派(燃料投下)

 

「たけのっこーのこのこたけのっこー」

 

 タケノコの歌(自作)を口ずさみながら迷いの竹林外周に生えている竹を伐採していく。竹林の中?入る訳無いじゃないですかーやだー。

 迷いの竹林の中に入る時は必ず脱出できる算段をつけてから。これ常識。

 

「おやおや~?誰かと思えば、其処に居るのは里のプレイボーイこと詭弁ウサ」

 

「うわ出た」

 

 迷いの竹林の中からニヤニヤしながらぴょんと跳ねて出て来たのは因幡てゐ。……うっ、何故かコイツを見たら寒気が……。

 

「ん?風邪かい?丁度良い。風邪に良く効くオクスリがあるよー?」

 

「要らん。自分で何とかするわ」

 

 因幡てゐ、あの有名な因幡の素兎と言えば分かり易いか。こんな子供みたいな見た目をして、百何万年も生きているらしい。どう見てもそう見えない。

 子供……妊娠……ウッ、アタマガ。

 

「本当に体調悪そうね……大丈夫?」

 

「ダメかもわからん」

 

 閑話休題

 

「そんな外側の竹よりも、もっともっと上質な竹が向こうに有るよ?案内しようか?」

 

「要らねえよ。お前、前に俺を竹林に置いて行ったの忘れてねえからな?」

 

「むむっ」

 

 この兎妖怪、タチの悪い事に妖精並みにイタズラ好きで妖精以上に頭が回るものだから厄介なこと厄介なこと。『人に幸運を与える』という能力が無ければ、『討伐』どころか『討滅』されてもおかしくはない。『妖怪兎の言葉に耳を貸さない』これ里の常識。

 

「良いのかなぁ~?丁度すぐ近くで妹紅が水浴びしてるんだけどなぁ~?」

 

「バカ野郎お前すぐに案内しろ」

 

 あの妹紅先生が水浴びしてる?つまり裸?裸なの?

 見なくては(使命感)

 

「……あたしアンタのそう言うところ好きよ」

 

「そういうの良いからはよ案内!はよ!」

 

 例え嘘だったとしても1パーセントの確率が有るのなら……男なら、行かねばならぬ。

 

 そうして迷いの竹林の奥地へと向かった……。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「騙された……」

 

 竹林の奥地。今俺は一人でここに放置されている。

 あの兎、俺が足元の落とし穴に気を取られた瞬間姿を消しやがって……。今度会ったら鍋にしてやろうか……。

 

 ま、騙されてくよくよするより脱出する事に集中するべきか。

 

 さて、こういう時にも妖精手甲。こんなこともあろうかと自分の家、つまり人里方向にマーキングを施してあり、妖精手甲に魔力を通すことで道標の魔法を簡単に使うことが出来る。

 手甲に魔力を通し、目を閉じて念じれば目蓋の裏側にボンヤリ光るモノが見えた。これが道標だろう。

 

「使うのは初めてだが、上手くいったーーーーーと思ったらなんだこれは?」

 

 目蓋の裏側でボンヤリと光った方向に向かって歩きだしたのだが、向かった方向には『光る竹』が生えていた。

 もう一度目を閉じ、道標を思い浮かべる。光る竹の有る方向がボンヤリ光る。

 

「あ、あるぇ~?使い方間違えたかな~……?」

 

 迷いの竹林奥地で迷子になった。それなんて死亡フラグ?

 

「落ち着け俺。まだ慌てる時間じゃない」

 

 そう。手甲を使った道標の魔法の使い方が悪かったんだ。手甲ごと拳を地面につけ、魔力を通しながら言葉を発する。

 

「我が家まで案内しろ!」

 

 なにも起きない。

 

 

 

「おおお落ち着け俺。まままだあわあわあわ慌てる時間じゃななない」

 

 お、おかしいな。小悪魔から教えてもらった魔法なんだが……。

 

 頭の中で小悪魔が『あふふふふ♥️』と笑いだした。

 

「あのやろう担ぎやがったなっ!?」

 

 きっと『嘘』じゃなかったのだろう、小悪魔の中では。ただ人間の俺には使えなかっただけで……。

 くそ、やられた……覚えてろよ、次会った時おっぱい揉みしだいてパンツ奪ってやる……。

 

 ……さて、何とかして帰るか……の、前に。

 

「この光る竹だよ」

 

 光る竹、ああ光る竹、光る竹。

 光る竹と言えば、あの『竹取物語』のかぐや姫が入っていたモノとして有名だ。迷いの竹林で稀に見つかると噂だったのだが、まさか本当に有るとは。

 そして竹から生まれたかぐや姫は、僅か数ヵ月の間で少女に成長したという。……ふむ。

 

「この光る竹から女の子が産まれる可能性がワンチャン」

 

 そう言った瞬間、竹採り用の斧で光る竹を切り取っていた。他愛なし……。さて、カワイイ女の子居るかな~?

 と中を覗いて見たら、黒髪の女の子が入っていた。

 

 

「そんなことあるっ!!?」

 

 

 ほ、本当に入ってるとは思わないじゃん……思わないじゃん……。

 ビックリして腰を抜かしていると、光る竹から黒髪の女の子が這い出てきた。

 

「ちょっと、もう少し丁寧に扱いなさいよ」

 

「えっ、ごめんなさい……」

 

「全く……で?ここは何処かしら?竹林……よね」

 

 光る竹から出てきた女の子は、立ち上がると身体が大きくなって普通の少女並みの大きさになった。

 そこでようやくマトモに顔が見えた。わお美人。

 

「というか、何故に竹の中に入ってたのさ」

 

「ん~……さあ?ちょっとしたイタズラをしたんだけど、永琳にお仕置きされた所までは覚えているのよね~」

 

「お仕置きの一環として竹に入れられるとか……怖っ」

 

「……ところで、貴方イナバ?こんな顔のヤツ居たかしら……?」

 

「イナバ……?因幡てゐ?」

 

「その反応、イナバじゃ無いわね。……というか良く見たら貴方人間じゃない。久々に()を見たから忘れてたわ」

 

 そう言って袖で口許を隠しクスクス笑う少女。その仕草が堂に入っているというか……お姫様感しゅごい。

 

「自己紹介がまだだったわね、私は蓬莱山輝夜。『竹取物語のかぐや姫』と言えば分かりやすいかしら?」

 

「あ、どうも。詭弁答弁です。……かぐや姫?並み居る男達を斬り倒し、貴族五人を薙ぎ倒し、時の帝を打ち取り国を取った『傾国の剣豪』という()()!?」

 

()()!?どんな伝われ方してるのよ『竹取物語』!!?」

 

 意外にもノリが良い性格らしい。今のは冗談であることを伝える。

 

「……この私に嘘を吐く者は幾らでも居たけど、まさか初対面でいきなり来るのは初めてよ」

 

「ほう。つまり俺は、かのかぐや姫の()()()()()()()と」

 

「変な言い方しないで!」

 

「大丈夫、輝夜ちゃんのハジメテ(処女)の話は誰にも秘密にするから!」

 

「言い方ァ!!……はぁ、なんか一気に疲れたわ……」

 

「というかかぐや姫って月に帰ったんじゃないの?」

 

「えっ、このタイミングで聞く?普通そういうのってもっと早い段階で聞かない?常識的に」

 

()()()()()()()()……この幻想郷においてそんなものに何の意味もないっ!!!」

 

「言いきったっ!?」

 

「うーん中々良いツッコミ。これは鍛えれば漫才師として名を馳せるだろう……」

 

「名を馳せるも何も、もう『かぐや姫』って名前が有名なのだけど」

 

「平安の世ではソロ活動でも良かったんだろうが現代ではそうはいかない!時代に求められているのはソロの独創性とコンビの多様性だっ!」

 

「何のソロ活動よ。そもそも活動って活動はしてないわよ」

 

「えっ!?じゃあ平安から今まで何してたの!?」

 

「特に何もしてないわよ。強いて言えば逃亡生活って所かしら?」

 

「ええっ!?逃亡生活って……かぐや姫まさかの犯罪者!?」

 

「違うわよ!……あ、いや、違くはない……けど、チンケなこそ泥とかじゃないわ!」

 

「ほう……俺の中にあった『かぐや姫月の大罪者説』が急浮上して参りました」

 

「……へぇ、どうしてそんな風に思ったの?」

 

「『かぐや姫』がなんやかんや有って月に帰る時、帝は軍勢集めて月の使者に抵抗しようとした描写があった。だが月は人の抵抗すら許さない程に圧倒的にかぐや姫を地上から奪還した……。そこから、月は地上とは一線を画す程の文明が有るのではないかと予測を立てた」

 

「へぇ……ただの妄言って訳でも無さそうね。続けて?」

 

「地上よりも遥かに発達した月の文明……では、何故『かぐや姫』は地上に落とされ、再び月に帰る事になったのか。そこで『かぐや姫単身旅行説』と『かぐや姫月の大罪者説』の2つを思い付いた」

 

「……それで?」

 

「『かぐや姫単身旅行説』は竹形旅行ポットに一人乗り込んで地上に()()()()()()。そこでなんやかんやあり、地上が気に入った為におじいさんおばあさん相手に思わず泣きついてしまったという説。他に月からの旅行者が来る話が無い事からあんまり主力じゃなかった訳で……。

 『かぐや姫月の大罪者説』はかぐや姫が月で大罪を犯し、()()としてこの地上に落とされた。月に愛想が尽きたかぐや姫はこのまま地上で第二の人生を送ろうと思っていたが、かぐや姫は実は月での重要人物だった。そこで月の規模からして()()()()とかぐや姫を回収しに来た月の使者によってかぐや姫は月に帰った、という説」

 

「……ふふっ、それだけではまだ()()()()でしょう?『かぐや姫』が犯した罪がなにか、答えなければ説として不足だわ」

 

「……『かぐや姫』が月から追放された罪。それは……」

 

「それは?」

 

 

 

 

「ずばり『姦通』ッ!!!数多の男を弄んだその手腕は地上に来る前から月で存分に振るわれ、月の偉いヤツ全員と()()事で得た情報を使って私利私欲に満ちた生活っ!!!そんなかぐや姫は処刑するにも危険!野放しにするにも危険!そこで月とは関係ない遥か遠い地上へ流刑にされた!だがかぐや姫の身体を忘れられない男が自分の軍勢を使ってこっそり回収しに地上へーーー」

 

「もう良いわッッッ!!!」

 

「はゲブゥっ!!?」

 

 腰の入った拳が俺の頬に突き刺さる。あっ……かぐや姫貴方思った以上に力強いのね……。

 

「バカじゃないの!?なんで!よりによって!犯した罪が『姦通』なのよっ!!!」

 

「言ったじゃん。『貴族五人を弄んだ』『時の権力者すら袖にした』悪女の手腕、地上に居る間に身につけたとは思えないし……それに平安美人(オカメ顔)に群がる月の権力者とかおもしろゲフンゲフン、学術的な興味があるし」

 

「隠せてない!本音が隠しきれてないわよ貴方!!面白いって言った!?今『かぐや姫』目の前にして面白さ優先の仮説披露したの貴方!?」

 

「実際は平安美人(オカメ顔)じゃなくて現代にも通じる美人顔だけど身体は平安美人(こけし体型)だったわけで」

 

「こけし体型じゃなくてスリムって言いなさいよ!?張り倒すわよ!!」

 

「あ、すみません。『かぐや姫』よりもエッチな体型の美少女は幻想郷に沢山居ますんで、自分の体型の事誇張するのやめてもらっていいですか?」

 

「それ暗に子供体型って言ってるでしょ貴方!!?殴るわよ!?淑女にあるまじきグーでいくわよ!?」

 

「えっ!?グーでイく!?長い長い逃亡生活によって乱れまくった性事情がフィスト○ァックまで出来るようになった!?」

 

「違う!!!いい加減にしないと撃ち殺すわよ!!?」

 

「大丈夫だよ輝夜ちゃん。たとえ自分の()()に拳が入っちゃうくらいガバガバでも、外見はちゃんと美少女だからそれでも平気っていう男も居るし、拳並みにデカイモノ持ってるヤツも居るさ!!」

 

「死にたいのね死にたいんでしょ殺してあげるわ!!!」

 

「わーははは!!月の悪女に追われるなんて男冥利に尽きるぜぇー!!!」

 

「待てっ!待ちなさいっ!このっ!」

 

 弾幕の嵐が巻き起こるが、笑いながら逃走する。お姫様然とした女の子をイジるのは楽しいなぁ!!

 

 

 

 

 

「ウサウサ……詭弁のヤツ、懲りずにあたしの嘘に引っ掛かるんだから。遊びがいあって良いわねぇー。……さて、流石にそろそろ迷子の迷子の詭弁君を見つけてやろうかな……ん?」

 

 

 

「ははははは!!!その身は不老不死でも、衣服はそういう訳でもなさそうだなぁ!!!」

 

「変態っ!!!変態っ!!!服を返しなさいっ!!」

 

「『かぐや姫』が数多の男達の恋心を奪って返さぬように、俺もまた奪った衣服は返せないっ!」

 

「心と服を同列に語るなっ!!」

 

 

 

 因幡の素兎の前で、煤だらけだが目立った怪我の無い男と、怪我一つ無いが()()()()()()()()()()()女性が戯れていた。

 

「……は?いやいや……見間違い見間違い……」

 

 因幡の素兎は己の目を擦り、もう一度先の景色を眺める。

 

 

 

「パンツ取ったどー!!!」

 

「きゃぁぁぁ!!?変態っ!!!えーりん!助けてえーりーん!!!」

 

「さぁって長い逃亡生活の間はき続けたパンツはどんな匂いかなぁー?」

 

「毎日はき換えてるわよ!!!着替えすらやってないズボラみたいな言い方止めなさい!!!」

 

 

 

 知り合いの男と知り合いの女が乳繰りあっていた。

 

「なんだ、夢か」

 

 因幡てゐは踵を返して、自らの住みかである永遠亭に戻っていく。

 

「お師匠様ー。睡眠薬ってあるー?」

 

「あら、てゐ……すごい顔ね」

 

「ちょっと……しばらくの間なにも考えたくないウサ」

 

「……あ、そう……」

 

 そうして因幡てゐは眠った。一日中眠った。眠ってる間に、全裸にまで()()()()輝夜が永遠亭に戻ってきて一悶着あったが、そんなこと知らんと二度寝した。

 

 

 夏が、終わる。




ダークネスの方に投稿するのを忘れ、しかも匿名投稿に変えてなかったのをそこで気が付くという……。
月一感覚でやらかす作者であった。

せ、宣伝……宣伝だから……
『ダークネス投稿を間違えさせる妖怪』の仕業だから……

 う っ か り と も 言 う !!!


というわけでダークネスありマス。

https://syosetu.org/novel/230504/

18才以下の良い子は見ちゃダメだゾ★
悪い子は感想書いて♥️
普通の子は……感想書いて♥️


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今日も良い夜だねぇ……えっ?月が変?

さてさて、ようやくマトモに永夜抄。
永夜抄と言えば人間と妖怪の二人組ですね。さて、詭弁の相方は誰にしましょうか。


 その日はいつもと同じだった。いつもと同じように働き、いつもと同じようにセクハラし、いつもと同じように帰って寝る。それで一日が終わるはずだった……。

 

 時刻は亥一つ(だいたい午後9時)。既に日は沈み、妖怪達の時間だというのに俺は未だに里の外を歩いていた。

 

「あー痛たた……くそぅ、幽香ちゃんの()()も結構しんどくなってきたなぁ」

 

 身体中に青タンを作りながらトボトボ歩いていると、辺りに霧が萃まってきて、同時にむせそうな程の酒の匂いが漂ってきた。

 

「うぐっ……この匂いは、伊吹萃香……」

 

「正解ー。最近はずいぶん()()()()()ようじゃないか」

 

 霧の向こうからヒック、としゃっくりをしながらふらっふら歩いてくる子供の姿。伊吹萃香が今日もまた酒を飲みながら現れた。

 

「はぁ……何の用だ?ただ会いに来た……なんてガラには見えないが」

 

「なによー。用もなく会いに来ちゃマズいのか?」

 

「そりゃそうだろ。子供はもう寝る時間だ」

 

「アンタよりも遥かに大人だよ。経験って意味でね」

 

「なら良い大人は明日に備えて寝る時間だぞ」

 

「あたしは悪い大人だからまだ起きてるよ。じゃなくて、アンタはあの月を見て何か気がつかないか?」

 

「月?」

 

 伊吹萃香に言われて月を見上げる……が、いまいち言いたい事が分からない。

 

「月が綺麗ですね?」

 

「死ぬのはまだゴメンだね。……って、そうじゃない。今日は満月だってのに月が欠けているのが分からないか?」

 

「欠けてたら満月じゃないだろ」

 

「ああそうだ。久々に月見酒を洒落込もうと思ったのに、これじゃ台無しさ」

 

「だから自棄酒しようってか?」

 

「それも良いが、まずは月を欠けさせた犯人を見つけてとっちめてやろうってね」

 

「……んぅ。なら普通霊夢ちゃんの所じゃないか?」

 

「霊夢の所には紫が行ってる。あたしも異変解決に参加したい」

 

「要するに暇潰しじゃねえか……」

 

 伊吹萃香が俺の肩に飛び乗り、ぺしぺし頭を叩く。

 

「さあ、適当に歩き出せー!」

 

「お前が霧になって犯人捜しすれば良いのに……」

 

「それじゃあツマラナイじゃないか!」

 

「はぁ、疲れてるんだが……」

 

 そうして、俺達は異変解決に向けてゆっくり歩き出した。

 

 

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

 霧双の格闘チーム

 

チーム共通特徴 至近距離での弾幕の威力が非常に高い。

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

 

 さて、俺達はアテもなく歩き出した……というわけでもなく、『月が欠けている』と言うのなら月に関係する妖怪が怪しいと思い動いている。

 人間である俺からすれば、今空を登っている『月』に違和感は無いのだが()()()にとっては大きな異変らしい。妖精達が騒ぎだし、興奮した者が俺達に向かって弾幕を放ってくる。異変って感じ。

 そんな中、伊吹萃香は笑いながら飛んでくる妖精達を撃ち落とし続けている。

 

「あはは!たまにはこういう()()()も良いもんだ!」

 

「あんまり妖精をいじめるモンじゃないよ」

 

 何が楽しいのか、片っ端から妖精を倒していく伊吹萃香。まあ()()だから多少打ち所が悪くても死なないし、仮に死んでも何処かで復活するらしい。『一回休み』とかなんとか。だからと言って積極的に倒したい見た目でもないのだが。

 

 伊吹萃香がケラケラ笑いながら飛ぶのを眺めながら付いていくと、あちらこちらからボンヤリ光るホタルが飛んできた。

 

「知ってるか?ホタルは求愛行動の一環として尻が光るそうだ。天敵の鳥やコウモリなんかに見つかるリスクを負いながらも、愛の為にその命を懸ける。ロマンチックな虫だよねぇ」

 

「ふーん。まあ酒の肴になれば何でも良いけど」

 

「月見酒洒落込もうとしてたというヤツの言葉か?」

 

「あたしは好きな時に好きなように飲んでるだけさ」

 

「四六時中飲んでるのに?」

 

「そりゃ酒が好きだからね」

 

 ホタルの群れを眺めながら歩いていると、突然辺りが暗くなってきた。

 

「んぅ?月が雲に隠れたかな?」

 

「んぁー?いや、普通に光ってるぞ?」

 

「えー、でも辺りが暗くなってきたけど……」

 

「あぁ、そりゃアレだ。鳥目になったんだなお前」

 

「鳥目かぁ……ん?そういえば―――」

 

「ちょっと待ったー!そこ行く人間!止まりなさーい!」

 

 突如現れる声、だがその正体が良く分からない。分からないというか、見えない。

 

「貴方、こんな夜中に何処に行こうっての?」

 

「―――そういえば鳥目に良く効くコレが在ったわ」

 

 そうして陽輝棒を振りかざし、夜の世界に日輪を出現させる。

 

「きゃぁーっ!!?眩しいっ!?何っ!?何事!?急に朝が来たっ!?」

 

「んにぃ?誰かと思えばミスティア・ローレライ。俺を鳥目にさせたのはお前か」

 

「そうだけど!?だからって朝にすること無いじゃない、もう!これじゃぁ()雀の名折れよ!」

 

「そうか、じゃあ妖怪らしく退治してあげよう」

 

 思いっきりブンブンと音が鳴るくらい強く陽輝棒を振り回す。

 

「止めて!?」

 

「おい詭弁、弾幕勝負ならあたしにもやらせろ」

 

「えー」

 

「二対一なんて卑怯よっ!」

 

「ん?なるほど……じゃあお前のお友達も萃めてやろう。えいっ」

 

 伊吹萃香が空中の何かを引く仕草をしたと思ったら、遠くから茂みを掻き分けるような音が近づいてきて、一匹の妖怪が現れた。

 

「うーん?今こっちで何か……あれ、ミスティア?詭弁も居るし……そっちの子は前に百物語会場に居たような……」

 

「よし、これで二対二だ」

 

「えっ?何?どういう事なのミスティア?」

 

「うぅぅ~、こうなりゃヤケよ!リグル、一緒に戦うわよ!」

 

「月の異変を解決せにゃならんって言うのに、こんなのんびりで良いのか……?」

 

 そうして始まる二対二の弾幕勝負……なのだが、決着は非常にあっさりと着いた。そもそも相手は名有りとは言え弱い方の妖怪二体。一方こちらは鬼と妖怪退治も生業としてる便利屋。負ける理由が無かった。

 

「うーん、手ごたえ無いなぁー」

 

「そりゃぁ一()当千のお前なら大抵の奴等が束になったって手ごたえ無いだろ」

 

「つまんない!これから向かう先でもっと楽しめりゃ良いんだけど……」

 

 時刻は亥三つ(だいたい午後10時半)。夜は、まだ長い。

 




という訳で詭弁の相方は捻くれ鬼こと伊吹萃香です。なんで萃香かというと、他のキャラだと異変そっちのけで相方にセクハラし続ける詭弁君しか書けなさそうだったから。
多少強引に詭弁を動かせるキャラとしては中々に良いチョイスなのではないでしょうか。

クズ「伊吹萃香は博麗神社によく出没する。何度も博麗神社に行けば、必然的に何度も顔をあわせる事になるだろうな」
萃香「一度コイツの家に行った事があるんだけど、ズリセンこいてる最中だったからかなり気まずくてね。思わずぶん殴っちゃった」
クズ「家で自家発電に励んでたらいきなり後ろから殴られる身にもなれ?この酔っ払い」
萃香「その後下半身丸出しのまま喧嘩したのは楽しかったなぁ。またやろうね」
クズ「次同じ事があったらその瓢箪叩き割ってやるからな……」


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そこ征くお嬢様、ちょっとお待ちくださいな!

初めて異変解決側に立ってテンション高めの萃香と相方がロリでテンション低めの詭弁君。
前回がStage1なら今回がStage2。今度こそセクハラ成功なるか?


 時刻は大体亥三つ……なのだが……

 

「月、動いてなくね?」

 

「ん?あ、ほんとだ」

 

 空を見ると、少し前に見た時とほぼ同じ場所に月が昇っていたままだった。

 

「誰かが夜を止めてるのかな」

 

「夜を止めるって……そんなこと出来るもんなのか?」

 

「そりゃ紫なら夜を止める事くらい出来るさ」

 

 八雲紫。非常識こそが常識な幻想郷において、なお()()()側に存在する大妖怪。おっぱいが大きい。世界を創る事も壊す事も容易という、神にも等しい能力を持つ妖怪として有名だ。あとおっぱいが大きい。

 

「ということは紫と霊夢が本格的に異変解決に向かったって訳だ。詭弁急げー!」

 

「あーはいはいわかったわかった……もうすぐ目的地に到着するからな」

 

 そう言いながら霧の湖を()()()渡っている。魔法の氷で向こう岸までの橋を作る事もお茶の子さいさい。

 

 ……と、霧の向こうに大きな妖気を感知した。

 

「伊吹萃香、ちょっと霧を払ってくれ」

 

「ん?あいよ」

 

 伊吹萃香が何かを手で払ったような仕草をすると、万年霧で覆われている湖の霧が一瞬で晴れていった。

 そして晴れた向こう側には、目的の相手が空を浮いていた。

 

「あら?詭弁……こんなところで何をしているのかしら?」

 

「もしや異変とやらの犯人……な訳ないか」

 

「レミリア嬢に咲夜ちゃん、こんばんは。良い夜……じゃ、なさそうだね」

 

「アンタらが月を欠けさせた犯人?」

 

「はあ?なんで私達が月を欠けさせなきゃいけないのよ」

 

「『美しい真円に嫉妬した悪魔は、満月を欠けさせる事で世界から真円を消しました』ってのはどう?」

 

「月に嫉妬?馬鹿馬鹿しいわ。私は夜の王、月すら私にひれ伏すの」

 

「うーん、どうやら犯人じゃなさそうだぞ」

 

「だからそう言ってるじゃない」

 

「なんでもいいや。とりあえずぶっ飛ばす!」

 

「やれやれですわ。どこも『鬼』というのは話を聞かないんだから……」

 

「咲夜、それどういう意味よ」

 

 そして飛び上がる伊吹萃香とレミリア・スカーレット。

 俺と咲夜ちゃんは霧の湖に出来た氷の橋に向かい合って立つ。

 

「……それ、ちゃんと身に付けてくれてるんだ。嬉しいなぁ」

 

「別に、外す理由が無いだけよ」

 

 さて。互いの相方が戦っているのに、立っているだけというのは納まりが悪い。互いに武器を構える。

 

「この前は邪魔されたけど、今日は二人で踊れそうだ」

 

「おあいにく様。踊り狂うのは貴方だけよ」

 

 そして始まる弾幕勝負。咲夜ちゃんは服を剥ぎに来るのを警戒してか、離れた場所から弾幕を放ってくる。まぁ、距離を取るというのなら相応の戦法を使うまで。

 

「『水巨人の腕(ウォータイタン)』!!」

 

 湖の水が盛り上がり、巨大な腕となって咲夜ちゃんを捕まえようとする。咲夜ちゃんは飛び上がる事で回避しようとするが、空で戦っているロリ二人の流れ弾がその身に掠り、大きくよろめいた。

 

「しまった!?」

 

「隙……ありッ!『氷巨人(ブリザードデビル)』!!」

 

 咲夜ちゃんに向かって伸びた水の腕ががっちりと凍りつき、良い足場と変わる。出来上がった足場を駆け抜けて一気に間合いを詰め、陽輝棒の一撃を見舞う。

 

「ぐぅっ……!!やってくれたわね!幻符『殺人ドール』」

 

 返すように大量のナイフが飛んでくる。俺は足場にしていた氷を溶かし、水の中に隠れるように避けた。

 

「なっ、水に潜った!?」

 

 湖の水はかなり綺麗で、夜とはいえ水の中に居る者が見えなくなる程暗くはない。水の中を泳ぐ俺に向かって弾幕を放ってくる……が、残念。妖精手甲があるかぎり水の中も俺のフィールドだ。魚のように素早く泳ぎ弾幕を回避する。

 そして一瞬の隙を突き、水の中から咲夜ちゃんに飛びかかる。

 

「なっ!?」

 

「食らえ!『水龍弾(ストリームバレット)』!!」

 

 魔法で集めた水を撃ち出し、咲夜ちゃんをぐしょ濡れの濡れ透けにさせる。やったぜ。

 

「最近はまだ暑いから着てると思ったぜ!薄手の生地のメイド服をよぉ~ッ!!」

 

「あ、な、た、は~ッ!!!何故真面目に戦わないのよッ!!!」

 

「戦いに勝つよりも大事な事があるだけだ!!うひょーホンの僅かに透けて見える下着がえっちでグッドデザイン賞!!」

 

「また訳の分からないことをっ…………はっ!お嬢様っ!?」

 

 咲夜ちゃんが空を見上げたので、俺は隠し持ってたカメラで濡れ透けのスカートの中身を撮影すると膝が鼻先に飛んでくる。

 

「死になさいっ!」

 

「HAHAHA!!俺の目の前で隙を見せるほうが悪いのさぁ!!『最新鋭でじかめ』とやらはスゴいぜ!撮った映像がすぐ見れる!」

 

「それを渡しなさいっ!渡せっ!」

 

 咲夜ちゃんのびしょびしょパンツを接写した写真を吟味する。

 ……ほう、やはり咲夜ちゃんの()()は銀……

 

『デフレーションワールド』

 

 大量のナイフが飛んでくるのを、写真を見ながら避けーーー

 

「どわぁー!?ナイフが凄いなんか凄いことに!?」(語彙消失)

 

 投げられたナイフが突如連鎖するように()()し、俺の腕を掠っていく。おかしい、『時間停止』なら時止め観測(ストップウォッチャー)を持ってる俺に感知できない訳ないのに。

 

「これは『時間停止』じゃなくて『時間操作』よ。投げたナイフの時間が収縮し、過去・現在・未来全てが『今』に集約される」

 

「メチャクチャだなぁ!?」

 

 要するにナイフが凄いことになるって事だな!俺は頭悪いんだからそんな説明で分かる訳無いだろっ!

 飛んでくるナイフの軌道を読み、その刃先から逃れる。その直後にさっきまでいた場所に連鎖したナイフが置かれていた。怖っ。

 ナイフを避け続けていると、空から伊吹萃香が降ってきて咲夜ちゃんを一瞬で殴り飛ばした。

 

「おーい詭弁。大丈夫そうだなー」

 

「んぃ。そっちは終わったのか?」

 

「ああ、まあね。流れ弾がメイドに掠った後あいつの動きが悪くなって、そこをぶん殴って紅い館にまで飛ばしてやった。楽しかった~」

 

「あ……そう。じゃぁ異変解決ごっこはもう終わりで良いか?」

 

「まだ犯人捕まえて無いじゃん!ほら次行くよ次々~!」

 

 そうして再び俺の肩に乗ってくる伊吹萃香。あ~今日は夜更かしコースだなぁ~。……次は何処に行こうか、

 

 

 時刻は子一つ(だいたい午後11時半)。未だに月は止まったままだ。




一話辺りを短めにして投稿速度をキープしようという意気込み。

さすがだぞ!作者のモチベーション維持のしかたをバッチリわかっているんだな!
そう!作者は感想を書くことでやる気がみなぎってくるんだ!


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そこ行くお姫様、ちょっとお待ちくださいな!

最近休みが取れなくて常に寝不足気味なんですけどもー。

stage3 原作では慧音先生がボスでしたが……?


 既に真夜中と言っても差し支えない時間……なのだが、夜が止まっているせいで正確な時刻が分からなくなってきた。

 

「それで今度は何処に向かってるんだ?」

 

「んぃ、まあとりあえず本命の所にでも……」

 

「なんだ、本命があるならなんで最初ッからそこに向かわないんだ?」

 

「霊夢ちゃんに纏めてシバかれる未来しか見えなかったからな」

 

「あぁ……」

 

 まあ、本命とは言っても異変の犯人か或いはそれを知っていそうな相手と言うべきか。

 そんな訳で迷いの竹林入り口に来たのだが……目の前に妖夢ちゃんと幽々子ちゃん二人が現れた。

 

「あらあら、詭弁と萃香じゃない。珍しい組み合わせね」

 

「亡霊と半人前がこんなところに居る方が珍しいけど」

 

「そりゃ異変なんだもの」

 

「月を欠けさせた犯人は……まさか詭弁さん!?」

 

「なんで俺が月を欠けさせなきゃならんのだ」

 

「咲夜さんに満月をプレゼントして、自分は本物の月を奪った……とか?」

 

「なるほど。そういうのもロマンあって良いなぁ」

 

「自白しましたね!今すぐ月を戻せば痛い目を見なくて済みますよ!!」

 

「妖夢?今のは自白じゃないと思うんだけど……」

 

「えっ?じゃ、じゃあ夜を止めているのは詭弁さんの仕業ですか!?」

 

「俺がどうやって夜を止めるって?」

 

「それは……詭弁さんの変な魔法で……」

 

「変な魔法とか言うな。ちょっと風を操ってスカートをめくりあげたりするだけだ」

 

「やっぱり変な魔法じゃないですか!!」

 

「だから変な魔法じゃないぞ。この時期スカートの中が蒸れて大変そうだから換気をするために風を送ってるだけなんだから。そーれチンカラホイ」

 

「止めてくださいっ!!!」

 

「あーもー、話が進まない。とりあえずぶっ飛ばす!」

 

「鬼は短気でいけないわね。まあ話が進まないってのには同意するけど」

 

「妖夢ちゃん後ろに幽霊がっ!」

 

「ひゃぁぁぁ!!!……って幽々子様じゃないですか!」

 

 そして始まる二対二の弾幕勝負。幽々子ちゃんは相変わらず蝶のように綺麗な弾幕を張り、妖夢ちゃんは刀を用いた真っ直ぐな弾幕を放つ。

 二人の弾幕が緻密に絡み合い、難解な絵画のように逃げ道のない弾幕の花を開かせた。

 

「そぉぉらあああ!!!萃符『戸隠山投げ』!」

 

 そんなこと知るかと言わんばかりの力業で、その弾幕の花を打ち破ってそのまま幽々子ちゃんまで岩を届かせ……

 

 断命剣「冥想斬」

 

 る事はなく、妖夢ちゃんによって岩は切り捨てられた。

 

「妖怪の鍛え上げた楼観剣に斬れぬものなど、少ししかない!」

 

「それ気に入ってるの?」

 

「っ!?」

 

 岩を斬って()()()()()()隙を突いて、伊吹萃香が投げた岩の影に添うように駆け抜ける。そして斬られた岩から飛び出すように不意を撃つ。

 突きだした陽輝棒の一撃は吸い込まれるように妖夢ちゃんの重心に当たり、体をくの字に折り曲げて突き飛ばした。

 

 そして突き飛んだ妖夢ちゃんの体を避けるように空を飛ぶ幽々子ちゃん。

 

「そこは受け止めてあげるのが優しさでは?」

 

「やーよ。敵を前にして気を抜くこの子が悪いんだから」

 

「不憫だねぇ。ま、だからといって手は抜かないけど」

 

 ゴキリゴキリ、とふっとい音を手首から鳴らす伊吹萃香。

 辺りに蝶を漂わせ、優雅に舞う幽々子ちゃん。

 下から幽々子ちゃんのパンツを覗けないか苦戦する俺。

 

 三者三様の戦闘準備を終えていざ尋常に―――

 

死符「ギャストリドリーム」

鬼符「ミッシングパープルパワー」

人符「現世斬」

 

「どぉわぁーっ!!?なんで!?なんで萃香まで俺を攻撃したぁっ!?」

 

 突如三人から一斉に攻撃を受ける俺。

 

「お前はいい加減真面目に戦いな!」

 

「くっ……おちおち空も飛んでられないなんて……」

 

「や、やっぱりドロワーズではダメなんでしょうか……」

 

 三者三様の目付きで俺を睨み付ける。ひええ……。

 

「ちゃんと真面目に戦いますよぅ……『闇ニ潜ム影(ドッペルブラック)』」

 

 俺の影から、最近気に入っているのか暗褐色の衣服に身を包み、真っ黒のお面を着けた《陰》が現れる。

 

「俺は忍者。裏から裏へ、闇から闇へ、人知れず任務を遂行する男……」

 

「うっわ。忍者だ忍者だ」

 

「変な格好ねぇ」

 

「うわぁ……(カッコいい……)」

 

「……ふっ、女子供にはこの浪漫は分かるまい……」

 

 《陰》、お前は泣いていい。

 《陰》は懐から鎖付き分銅を取り出し、じゃらじゃらと音を立てて振り回す。

 

「忍んでないじゃないの」

 

「忍者は必ず任務を果たす。それが鉄の掟」

 

 じゃらじゃら、じゃらじゃら、と音が辺りに響き渡る。その音に乗じて俺が妖夢ちゃんに向かって踏み込み、陽輝棒を突き出すと妖夢ちゃんはそれを白楼剣で弾いた。

 

「安易な攻撃はもう受けませんっ!!」

 

「おや残念。ところで、《陰》は何処に行ったでしょうか?」

 

「何処にって、そこでずっと鎖を振り回して……っ!??」

 

 鎖がじゃらじゃらと鳴る音はする。だが、《陰》の姿は何処にも見当たらない。

 

「さぁて、《陰》は魔法使いでもある。魔法使いに時間を与えたら、ロクな事にならないぞぉー?()()()()も亡霊故に得意分野だ。妖夢ちゃん、幽々子ちゃんに見つけられるかなぁ?」

 

「くっ……!?」

 

「妖夢、落ち着いて。それじゃぁ詭弁の思うつぼよ?」

 

「しかし……っ!?」

 

「敵は待っちゃくれないぞ!」

 

 ズダンッ!と破裂音が鳴る程強く踏み込む伊吹萃香。その拳と妖夢ちゃんの持つ刀が鍔迫り合いのように撃ち合い、ほんの僅かな抵抗虚しく殴り飛ばされる。

 幽々子ちゃんが、殴り飛ばされた妖夢ちゃんに視線を向けた一瞬、鎖付き分銅が幽々子ちゃんの足に絡み付き拘束する。

 

「幽々子様っ!!」

 

「余所見禁物!」

 

 殴り飛ばされて着地しようとした妖夢ちゃんの隙だらけの脚を陽輝棒で刈る。勢いそのままに妖夢ちゃんは顔から地面に叩きつけられた。

 

「詭弁流捕縛術『早縄』」

 

 魔法ですぐさま綯った縄を使い、高速で妖夢ちゃんを縛り上げる。最近はあまり無くなってきたが、人間の犯罪者をすぐさま無力化するために教わった技術の一つで、今では無意識レベルで行う事が出来る程に身に染みついた技術だ。

 そうしてあっという間に妖夢ちゃんを無力化―――

 

「ちょ、ちょっと!!?なんで亀甲縛りなんですかぁ!!?」

 

「……あれ?」

 

 ちょっと無意識過ぎて思わず妖夢ちゃんを亀甲縛りで縛り上げてしまった。テヘペロ。

 妖夢ちゃんは、両手と両足を揃えて背中側で一つに縛られながらその僅かに膨らんだ胸と股を引っ掛けるように縄を通されて縛られている。これ無意識レベルってヤバイな(戦慄)。

 ま、まあ妖夢ちゃんを無力化した事に変わりないし!

 

「馬鹿野郎!半霊っ!」

 

「あ、やっぶぇ―――」

 

 人化した妖夢ちゃんの半霊によって袈裟懸けに斬られた。

 

「なっ!?詭弁っ!!」

 

「―――忍法『変わり身の術』」

 

 袈裟懸けに斬られた俺の身体は、次の瞬間()に変わった。

 

「ピンチを演出し、華麗に勝利っ!」

 

 そう、此処まではわざとだ。妖夢ちゃん本体を捕縛して気を抜いたところに半霊によって攻撃される。だがそれは罠。狙いは()()()()()半霊だった。……あ、亀甲縛りは本当に無意識だった。

 人化した妖夢ちゃんの半霊を捕まえ、今度は霊力と魔力を混ぜ合わせて作った縄で縛り上げる。こうする事で()()()妖夢ちゃんを無力化するために。

 

「うぅ……悔しい……!」

 

「ははは、まだやるかい幽々子ちゃん?」

 

「くっ……降参するわ……」

 

「で、あんた達が満月を欠けさせた犯人なの?」

 

「違うわよ。私達も月を欠けさせた犯人を追ってるだけなんだから……」

 

「ちぇー。結局詭弁ばっかり動いてたし、つまんない」

 

「飽きたなら帰るか?」

 

「まだっ!」

 

「……詭弁、貴方も大変そうねぇ」

 

「替わってほしいくらいだよ……」

 

 時刻は……丑二つ(だいたい午前2時)……か?夜はまだまだ終わらなさそうだ。

 伊吹萃香が肩に乗り、竹林の中へ向かって歩き出す。

 

 

 

「この縄ほどいてって下さいよー!!!」

 




お察しの通り、原作の主人公達を片っ端から倒していくルートです。
尚、倒された方々は原作システム通りコンティニューしたら30分後に再挑戦になります。そして30分経ってるので詭弁達は既に進んでいるという。ボーナスステージかな?

《陰》忍者になる(コスプレ)

半霊を縛った縄は、以前霊夢と戦った時に使った幽糸結界製です。掴むところ無く半霊を縛るのは難しいですが、一度実体化した半霊を捕まえて縛ると完全に拘束できるという寸法。
半霊を亀甲縛り?誰得……


え?もう見飽きたって?奇遇ですね、私も書き飽きてきたところなんです。ですので……ねえ?感想、書きましょうよ。毎日。書け。書け。書け。書いて♥


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そこ往くお嬢……お姫……お前!ちょっとお待ちくださいな!

眠い……仕事めんどい……金が欲しい……時間が欲しい……力が欲しい……


 迷いの竹林の中、俺達はそれなりにゆっくり歩いていた。

 

「こんなゆっくり歩いてると夜が明けちゃうよー」

 

「だからって無理に急ぐモンでも無いぜ」

 

 竹林の中は天然の迷路になっており、中を熟知していないとすぐに迷って出られなくなってしまう危険な場所だ。しかも地面は極僅かな坂になっており、真っ直ぐ歩いているつもりでも斜めに逸れていったり、飛んでも極僅かに傾いて伸びている竹によって平衡感覚が崩されてしまう、といった場所である。

 よっぽどの事が無い限り、竹林の中に入りたがる者は居ない……はずだった。

 

 突如俺達の眼前をレーザーが通りすぎる。

 

「動くと撃つ!間違えた、撃つと動くだ」

 

「撃たなくても動くだろうが」

 

 竹林を割いて現れたのは魔理沙とアリスちゃんの魔法使いコンビ。こんなところで奇遇だねー……とはならないよなぁ。

 

「率直に聞くが、月を欠けさせたのはお前らか?」

 

「違うよ」

 

「あら、私の勘では詭弁が異変について知ってると思ったのだけど?」

 

「アリスちゃんの『勘』も鈍ったもんだ。今なら格安で『勘修理』を請け負うけど?」

 

「どうやって勘を修理するって言うのよ」

 

「そりゃ勿論、右斜め45度」

 

「生憎叩いて治るような簡単な頭してないの」

 

「なんでもいいや。話はぶっ飛ばしてから聞くよ!」

 

「鬼ってのは野蛮だぜ」

 

「窃盗犯が何か言ってら」

 

 そしてお馴染みのように始まる弾幕勝負。竹林はレーザーや人形が飛び交う戦場に早変わりした。弾幕の嵐によって下手に近づくことも出来ず、相手も距離が離れてるために弾幕を当てる事が出来ない上に下手に近寄れば待っているのは鬼の一撃か痛烈な打撃。勝負は早くも硬直状態となった。

 

「ちぃっ、いつまで夜が止まってるか分からないってのにこんなところで時間食う訳にも行かないぜ」

 

「そうは言っても相手は詭弁に鬼よ?生半可な策は通じないわ」

 

「策なんて要らないぜ。押してダメなら押し潰す!弾幕はパワーだぜ!!」

 

 恋心「ダブルスパーク」

 

「いいね、そういう意気込みは好きだよ!」

 

「脳筋魔女に脳筋鬼か……」

 

 極太のレーザーが二本同時に放たれる。それと同時に大量の星型弾幕も放たれた。

 魔理沙の代名詞、マスパが強化されて再登場ってかぁ?

 

「マスパ攻略の基本その一。『レーザーに真正面から立ち向かわない』」

 

 二本同時に放たれる事で、タダでさえ広い極太レーザーの照射範囲が更に増える。そしてマスパは大抵の弾幕を飲み込み打ち消す程の火力を持っているから、レーザーが当たらないギリギリで攻めるのは無為と化す。

 そこら中に生えてる竹を足場に、三次元的に跳ね回る。気分はさながらピンボールの玉だ。

 

「魔理沙貴方外してるじゃないの!どんなに高火力でも当たらなきゃ意味ないでしょ!?」

 

「あーうるせえな!私にばかり押し付けないでお前も働け!」

 

「仲悪いね君達」

 

 丁度良い所に生えていた竹のしなりを使い、マスパを撃っている魔理沙の丁度真上に陣取ってそこから大量の弾幕で撃ち落とす。

 

「『昇陽発気(ライジング・サン)』」

 

 陽気の弾幕が隙だらけの魔理沙に直撃するかと思いきや、アリスちゃんが間に割って入り人形を投げ込んだ。

 

 魔符「アーティフルサクリファイス」

 

 人形が爆発して陽気弾幕を打ち消した。

 そしてその隙に二度目の射撃準備に入った魔理沙が、俺に向かって再びマスパを放つ。竹のしなりの勢いを使って回避する。

 

「クソっ!地形戦は詭弁の得意分野だぜ!」

 

「俺ばかりに構ってて良いのか?」

 

 鬼火「超高密度燐禍術」

 

 ズガァン!と大きな音を立てて伊吹萃香が地面を殴ると大量の炎が吹き上がった。

 

「そぅれ追い焚きだ!『フレイムピラー』!!」

 

 炎のエレメンタルを使い、妖精手甲で更に強化した魔法の炎柱を複数打ち立てる。辺り一面火の海だ。

 

「ははっ、詭弁も豪快なヤツだなぁ!」

 

「笑ってる場合か!?竹林が火の海になるぜ!?」

 

「落ち着きなさい魔理沙、あれは全部『陰火』よ。生き物に害はあれど、物を燃やす力は無いわ」

 

「冷静ぶってるところ申し訳ないが俺の魔法の炎は『衣服だけは燃やす』特別製だぞ!!」

 

「だから貴方のその無駄に器用な魔法改造の仕方なんなのよ!!?」

 

 チリチリと服の端が燃えだすアリスちゃん。その事に気が付き慌てだしたが、その隙を鬼は見逃さない。

 

「そぉりゃああ!!」

 

「っ!?しま―――きゃぁぁっ!!!」

 

「アリスっ!?」

 

 伊吹萃香に()()()、ブンブンと振り回されるアリスちゃん。そして勢いそのまま魔理沙に向かって投げ飛ばす。

 

「うおっ!?危ねっ!!」

 

「だから受け止める優しさはお前らに無いのか……」

 

 投げられた勢いで目を回し気絶したアリスちゃんを飛んで避ける魔理沙。地面に激突する直前にアリスちゃんを受け止め、怪我をしないように勢いを殺す。おっぱい柔らか。

 

「よくもアリスをやってくれたな!光撃『シュート・ザ・ムーン』!」

 

「いやそんなこと言うならアリスちゃんを受け止めてやれよ……」

 

 再び大量の星形弾幕をばら蒔いていく魔理沙。今度は地面に着弾した所から空に向かって伸びるレーザーが放たれる。

 陰火と星形弾幕が舞い散る桜吹雪のように辺りを飛ぶ。気絶しているアリスちゃんを背負い、辺りを駆け回った。

 

「あはは!中々やるじゃないか黒いの!次はこれだ!鬼気『濛々迷霧』!」

 

 伊吹萃香の身体が霧となり、そこから大量の米粒のような弾幕が撒き散らされる。

 

「くっ……ここは一旦引くしかないか」

 

 魔理沙は弾幕を散らしながら俺達から離れるように動き出した。霧状の伊吹萃香も、逃がさんと言わんばかりに魔理沙を追いかける。

 

 ……アリスちゃんをここに一人置いていく訳には行かないか。

 俺はアリスちゃんを背負ったまま二人を追いかけた。背中に感じるおっぱいの感覚に集中しながら。

 

 

 

 

 

 散り行く弾幕を追いかけると、既に勝負は佳境に入っているのかあちこちがボロボロになり始めた魔理沙と伊吹萃香。

 戦い自体は伊吹萃香が優勢で、魔理沙はもう満身創痍だ。

 

「ぐっ……これで、最後だ!魔砲『ファイナルマスタースパーク』!!!」

 

 そして放たれる極太の極光。普通のマスパと違うところは、俺達を追いかけるように射角が変わっていくところか。いやそれエグくない?

 俺は竹と竹の間を縫うように、伊吹萃香は竹を叩き割りながらレーザーから逃げる。下手に近寄ろうものなら、マスパによって薙がれた空気ごと吹き飛ばされておしまいだ。

 

 ……だが、ただ逃げ回るだけなんて()()()()()

 伊吹萃香が目配せをし、それに頷いて返す。

 

「《陽》、アリスちゃんを頼む」

 

「オッケーね!」

 

 《陽》が俺の代わりにアリスちゃんを()()()、戦線から離脱する。そして俺は伊吹萃香と合流し……

 

「よし、行くぞ!おりゃぁぁぁ!!!」

 

「待ってそれは聞いてない」

 

 伊吹萃香に掴まれ、岩のようにぶん投げられた。いくらなんでもそりゃ無いだろ脳筋この野郎。

 空気と弾幕を裂きながら、頭から魔理沙の腹に激突。首が折れそうですわ……。

 そのまま魔理沙と縺れながら地面に落ちる。そして俺は地面と魔理沙にサンドイッチされ、意識を手離した。

 

 

 

 

「よっしゃ!大命中!!!」

 

「嘘だろこいつ人の心を持ってるのか!?」

 

「う……うぅ……勝負はどうなって……?」

 

 鬼が笑いながら、騒霊は鬼におののきながら、魔女は頭を軽く振りながら、地面に落ちた魔理沙と詭弁の様子を見に行く。

 

「ん?」

 

「お」

 

「あら?」

 

 するとそこには体を重ね合わせ、()()()()()()()()()()()ように見える二人が倒れていた。

 ()()()()は衝撃でずり落ちた魔理沙の黒帽子によって隠されていた。

 

「あーこれまうすとぅーあすって奴?」

 

「『マウストゥマウス』よ!何処に口づけしてんのよ!」

 

「おっ、黒いのが立ち上がったぞ」

 

 魔理沙は顔を真っ赤に染めて、気絶している詭弁の腹を強かに蹴り飛ばす。

 

「ノーカン!!ノーカンだからなっ!!!」

 

 そう言い捨てて魔理沙は竹林を飛び去っていった。

 

「あっ、ちょっと!待ちなさいよ!!!」

 

 飛ぶ魔理沙を追うように魔女も去っていった。

 そして後に残されたのは鬼と騒霊と気絶している男だけ。

 

「あー……とりあえず本体起こすね」

 

「おう」

 

 騒霊によって気付けされた詭弁の視界には、竹林によって隠されていた大きな屋敷が悠然と佇んでいた。

 




月給10万円(手取り)で良いからずっと引きこもってごろごろして時折趣味で小説書く生活をおくりたーい!
???「ダメだ。その願いは私の力を超えている」

詭弁のマスパ攻略の基本
その一「レーザーに真正面から立ち向かわない」
その二「判定が割と見た目詐欺な所があるからギリギリ回避は狙わない」
その三「時々連発してくるからしっかり魔理沙の様子は確認する」
その四「絶対回避出来ないタイミングで撃たれる時があるのでその時は覚悟する」

陰火について
陰火とは鬼火、狐火ともいわれる炎の事。
何かに燃え移る事は無いが、すぐそばの生命を脅かす何らかの力が放たれているらしい。
詭弁の出す魔法の炎は生命の替わりに衣服を脅かす。謎エネルギー。


最近アレ滞ってますよ?ねぇ。アレをくださいよ。アレ。アレが無いと「マスタースパークのような懐中電灯」に当たったみたいにやる気が無くなっていくんですよね。だからアレくださいよ。アレ。はやく。


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そこ来る巫女ォ!?待て待て待て待て!!?

まだStage5なのに漂うラスボス感。


 時刻は……もう分からん!大体深夜!

 さて、目の前に佇む大きな屋敷。これは一体……?

 

「迷いの竹林の奥地に誰か住んでるなんて聞いた事無いな。妹紅先生はもっと入口に近い方に住んでるんだけど」

 

「私の勘がココに犯人が居るって言ってる!行くぞー詭弁!」

 

「ああもう、はいはい。ふむ……もしかしてここにかぐや姫が住んでいる可能性が……」

 

「かぐや姫?」

 

「んにぃ、まあ中に入れば分かるか。ノックしてもしも~し!お邪魔しまーす!」

 

「入るまでほぼノータイム」

 

 屋敷の入り口を開け中に入る。中は純和風と言った感じの、古き良き日本みたいな作りだった。

 

「おー、懐かしい作りだねぇ。……だけど、まるで()()()()()()みたいだ」

 

「新築特有の匂いが強いな……ん?こっちから女の子の香りが……」

 

「犬かお前……」

 

 失礼な。女の子を五感で関知する術に長けているだけだ。

 長い長い廊下を駆けると、長い薄紫色の髪の少女が立っていた。うさ耳、ブレザー、ミニスカート。満貫!

 

「遅かったわね。全ての扉は封印したわ、もう、姫は連れ出せないでしょう?」

 

「姫?俺的には君を連れ去りたいのだけど」

 

「おいおい、『人攫い』は鬼の役目だぞぅ」

 

「なっ!?私を連れ戻しに来た!?」

 

「何言ってんだコイツ」

 

「一番言ってる事分かんないのお前だからな?」

 

「……って、よく見たら妖怪じゃない。そうよね、ここまで来れるはずが無いし……心配して損したわ」

 

「えぇ……妖怪に間違われるのは困る」

 

「よく言うよ。『服剥ぎの妖怪』だか『二枚舌の妖怪』だか言われてるクセに」

 

「『二枚舌の妖怪』は《陰》の仕業だからセーフだし」

 

「それで、こんな夜中に何の用?」

 

「心当たりが無いとは言わせないぜ?悪い事は言わないから早く月を――」

 

「――懐かしい気配を感じたと思ったら……貴方は誰?」

 

 突如現れた長い銀髪のおっぱい……じゃなくて変な格好のおっぱい……あーもーおっぱいしか情報が入ってこない。何なんだこのヤベー力を感じるおっぱいは。

 

「これが乳トンの万有引力……」

 

「ニュートン?なにを言ってるのかしら?まあ良いわ、知り合いじゃなさそうだし……ウドンゲ、ここはお前に任せたわ。間違っても姫を連れ出されないようにね」

 

「お任せください。閉ざされた扉は一つも空かせません」

 

「閉ざされた()を抉じ開けたくなるのは男のサガか……」

 

「開けるなと言われちゃ開けたくなるのも鬼のサガ」

 

「私を無視し過ぎよ!いい?この廊下、催眠廊下は私の罠の一つ。真っ直ぐに飛べないお前達は私の力で跡形も無く消え去るのよ!」

 

「そもそも飛んでないんだが?」

 

「お前の力を借りなくても跡形も無く消え去れるぞ?」

 

「もー水を差すな!」

 

 ウドンゲ、と呼ばれた少女を軽くおちょくってると、後方から凄い勢いで見知った気配が近づいてくる。

 

「異変の黒幕は此処ねっ!!あれっ、詭弁じゃないの」

 

「萃香までいるじゃない。何よ貴方達暇なの?」

 

「暇だから詭弁誘って異変解決に来た!」

 

「一年の半分を寝て過ごす忙しい賢者様には分からないでしょーねー()の『暇さ』が」

 

「人間が忙しかろうが暇だろうが知った事じゃないですわ」

 

「それで忙しすぎて月を欠けさせたって訳?」

 

「そーそー。おまけに一日が24時間じゃ足りなさ過ぎて夜も止めちゃったぜー」

 

「馬鹿にして!」

 

「霊夢、詭弁が月を欠けさせた犯人な訳無いじゃない。アッチの方が犯人に近い匂いがするわ」

 

「もう、面倒ね!詭弁も鬼もそこの兎も纏めて退治よ!」

 

「ついで扱いで倒される気分はどうだいウドンゲちゃんや?」

 

「地上の人間風情が気軽に私の名を口にするな!私の目を見ても、まだ正気で居られると思うなよ!」

 

「太陽無くして月は輝かない。()()()()()()()知るがいい!」

 

「それを言うなら『その身を持って』だろ?……まあ詭弁ならそれで間違いでも無さそうだけどさ」

 

 そして始まる5人入り乱れての大乱戦。広い廊下とはいえ、流石に5人の弾幕が張り巡らされると超狭い。

 時に壁や天井に張り付くことで弾幕を避け続ける。

 

「いや、もうそこまでするなら素直に飛びなさいよ!!?」

 

「知らないのか?幻想郷の一般人は空を飛べないのが常識だ」

 

「天井に張り付いてる方が非常識よ!!幻波『赤眼催眠(マインドブローイング)』」

 

 そして波状に広がっていく弾幕。ウドンゲちゃんの目が妖しく光った瞬間、弾幕が()()て不思議な移動をした。

 

「ンだありゃ?」

 

「ふむ……弾幕が()()みたいに透過した?()()た?多分そんな感じだな」

 

 そしてその後再び弾幕が元通りになり広がっていく。あーはいはいなるほどね。一瞬で理解したわ。

 

「つまりあの弾幕が()()た瞬間を狙って……」

 

「紫達に弾幕を放つってか!」

 

「……うん、お前はそれでいいんじゃないか?」

 

 天井を駆け回りながらウドンゲちゃんの弾幕を避け、霊夢ちゃんや八雲紫の弾幕も避け続ける。

 

「ちっ、鬱陶しいわね!霊符『夢想妙珠』!」

 

 霊夢ちゃんから放たれる『ありがたい光』がウドンゲちゃんの弾幕やらをかき消していき、俺や伊吹萃香にも向かって来る。

 俺は天井や壁、床を跳ね回り『ありがたい光』を振り切る。

 

「キモっ!?黒い虫みたいにカサカサ動き回るな!」

 

「言い方気を付けろよお前ェ!?」

 

 黒い虫ってお前……。あーもー優しい詭弁さんも流石に頭に来ました。雷のエレメンタルを使い、ウドンゲちゃんに怒りの一撃を撃つ。

 

「鳴符『爆鳴気(エレクトロイボム)』」

 

 ウドンゲちゃんに向けて大量の水弾を放つ。水弾はウドンゲちゃんの近くで漂うように停滞し、辺り一帯を埋めていく。

 

「やばっ……紫!一旦離れるわよ!!」

 

「どうしたのよ急に……?」

 

「あれば……なんかヤバそうだね」

 

「こんな弾幕大したこと無いわ!所詮愚かな地上の民ね!」

 

「油断大敵って月の寺子屋で習わなかったかぁ?」

 

 パシッ!と鋭い音が鳴り、ウドンゲちゃんの周りに在る水弾が消え失せる。

 

「っ!?何を……」

 

 

 

「さあ、爆竹祭りの始まりだ」

 

 

 

 再びパシッ!と鋭い音が鳴る。その直後、廊下を埋め尽くすような大爆音が鳴り響いた。

 

「あぐっ!!?お、音響兵器っ!!!?」

 

「そぅらまだまだ続くぞぉ!」

 

 続けてパシッ!と鋭い音が鳴り、辺りの水弾が消え失せる。

 

「ちょ、待って待って!!」

 

「ゴキ○リ扱いされて怒らない奴が居るとでも!?口の悪いウサギさんにはキツいお仕置きをしましょうねぇ!!」

 

 そして再びパシッ!と鋭い音が鳴り、直後に廊下を埋め尽くすような大爆音が鳴り響く。その音に堪らず両耳を塞ぐウドンゲちゃんに駆け寄り、隙だらけの身体にキツい一撃を叩き込む。

 

「うぐぅ!」

 

「ヒャッハぁー!危険な危険な爆弾祭りじゃぁ~!!」

 

「五月蝿いわ!!!」

 

「へげぶっ!!!」

 

 突如俺の目の前の空間が()()、中から謎の標識が突き出てきて俺の腹に叩き込まれる。腹が裂けそう……。

 腹を抱えて蹲っていると霊夢ちゃんに尻を蹴られ、倒れているウドンゲちゃんの横に蹴飛ばされた。酷い。

 

「詭弁っ!あんた()()使うなって言ったでしょ!!!耳壊れるかと思ったじゃないの!!」

 

「ふぐぐ……だってぇー」

 

「だってもかっても無いわよ!!次やったら割るわよ!?」

 

「何を!?」

 

「さて、図らずも詭弁がお邪魔虫をどけてくれたし、私達は異変の黒幕を追うわよ、霊夢」

 

「……分かったわ。詭弁!あんたが何でこんなトコに居るのか知らないけど、さっさと家に帰って大人しくしてなさい!」

 

「あー待って待って!私も黒幕退治行くぞー!」

 

 そうして霊夢ちゃんに八雲紫、伊吹萃香は銀髪のおっぱいさんを追いかけるように奥へ奥へと向かっていった。

 

「ぐぬぬ……こんなところに置いて行きおって……」

 

「くっ……地上の妖怪を三人も通しちゃうなんて……まあ良いわ。お師匠様ならあの程度簡単に……」

 

 すると後方から複数の妖気を感じた。あー……まさか……。そう思って振り返ると……。

 

「ええい邪魔よ亡霊!異変を解決するのはこの私、レミリア・スカーレットよ!」

 

「うふふ、ここまで来たのに引き下がる訳には行かないわ」

 

「きっと今の爆音は詭弁さんが戦っている音!異変が終わる前にせめて黒幕の顔だけでも拝まなきゃやってられないわ!」

 

「どうせ異変解決したら神社で宴会やるんだ!その時に黒幕の顔を拝めば良いぜ!」

 

「そう思うのなら貴方も引き下がりなさいよ」

 

「詭弁に借りを返すまで引き下がれる訳無いじゃない!」

 

 吸血鬼亡霊半人半霊白黒魔女メイド七色魔女が入り乱れて弾幕を広げながら競うように飛んできた。

 そして廊下の隅で転がってる俺達に気がつかずに通り過ぎて、そのまま凄い勢いで奥へと向かっていった。

 

 ……大量の弾幕を残しながら。

 

「のわぁー!」

 

「きゃぁぁ!」

 

 転がってた俺達に対し突風のように襲い掛かって来た弾幕は、木の葉のように意図も容易く纏めて吹き飛ばしていった。

 風に煽られる木の葉の気分を味わった後、さっきの弾幕で()()()()()()()襖の奥に折り重なるようにして叩き込まれた。

 ……白は清潔感の色()()()

 

「う、う~ん痛たた……うぅ、更に六人……九人に囲まれたら流石のお師匠様も……いや、お師匠様なら……」

 

「唸るのは俺の上から退いて、股を閉じてからでも遅くは無いんじゃないのかな?」

 

 一応カメラで開けっ広げになっている白い布と内腿をパシャッとな。

 

「……へっ?」

 

「ほぅ、尻尾はパンツから出してるのか。……ということはお尻に穴が開いてるのか?わざわざ開けてるのか」

 

「……え」

 

「そして匂いは……うん、ちょっと酸っぱめというか刺激的というか。もしかしてさっきの音爆弾にビックリして漏ら」

 

「漏らしてないわよ!ちょ、もう退きなさい変態っ!」

 

「だからお前が俺に乗っていると言ってるだろうに」

 

 唐突の出来事についていけないのか、それとも腰が抜けたのか、キャーキャー騒ぐ割には俺の上から退かないし脚も閉じない。これはもう脱がすしかないか?

 

「……因幡が変態男相手に盛ってるわ」

 

「はぇ!?ちょ!誤解です姫様!!違いますっ!!」

 

 そして暴かれた襖の更に奥から、いつぞや見た『かぐや姫』が現れた。

 

 永い夜が、もう間もなく明ける気がした。

 




次回!えーりんの危険がピンチ!(適当)

イタズラ好き(好意的表現)の詭弁ですが、本気で怒ったら相当容赦無くなるタイプです。女の子だからって優しくしないぞ★
だからみんなも気を付けようね!
『詭弁ですよ!ヤオヨロちゃん!』から読んでいただいている読者の方々はお察し戴けると思いますが、こっちのウサギキャラと向こうのウサギキャラには共通点があります。さて、なーんだ?

話は変わりますが、皆様は「ここすき」機能をご存知ですか?説明するのめんどいので各自調べて使ってください。はよはよ。
あっ、例のアレは勿論書いてくれますよね?ね?


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そこな月のお姫様、月を返してくださいな。

詭弁以外全員Aルート行き!どうなってしまうのか!


「姫様っ!なんで奥から出てきちゃったんですか!?」

 

「そりゃあれだけ文明的な爆発音が聞こえたら様子見くらいするでしょ?」

 

「姫様を取り戻しに来た月の使者かも知れないじゃないですか!!」

 

「今時あんなド派手な音を撒き散らす兵器なんて月に存在しないでしょ」

 

 ウドンゲちゃんがようやく俺の上から退き、パンツをしまい、立ち上がった。

 ……大丈夫?俺の服にアンモニア臭のする液体掛かってない?

 

「だから漏らしてないってば!」

 

「ほんとにござるかぁー?」

 

 証拠はバッチリカメラで捉えてるんだからな?

 

「いつの間にそんなもの撮ってたの!?」

 

「因幡、大事な話をするからちょっとどいてなさいね」

 

「待ってください!このままでは、このままではお漏らしウサギって呼ばれ続けぁぁぁ~~~!」

 

 ウドンゲちゃんを襖の向こうに投げ飛ばし、ピシャッと襖を閉めたかぐや姫。見た目は普通の襖だというのに、閉じたとたん()()()()()()()()()()()()()()静寂に包まれた。

 

「……さて、これでゆっくり話が出来るわね」

 

「ふぅん、静かな夜より少し騒がしい夜の方が好きなんだが」

 

「あら奇遇ね、私もよ。少し歩きながら話しましょうか」

 

 長い長い廊下を歩きながら会話をする。

 会話の内容は当たり障りの無い事から、最近起きた異変の事、博麗神社で行った宴会で起きた事や、俺が産まれてから起きた様々な出来事。色んな事を話した。

 かぐや姫も話を聞いているだけじゃない。()()()()に産まれ落ちた事、月から追放されてから地上で見聞きした事、『竹取物語』の()()()()()()の事、様々。

 今日会ったのが二回目だというのに、既にお互いがまるで長い時間を共にした友人のように思えた。

 

 長い……永い話の終わりは、『本物の月』で締め括られる。

 

「詭弁、問題よ?『何故、私はこの地から本物の月を隠したのか』正解したら……そうね、月の珍しい物でもあげましょうか」

 

「ふむ……ヒントは?」

 

「無しよ」

 

「むむむ……そうだなぁー」

 

 『本物の月』を間近で眺めながら考える。

 

「仮説1、月人から追われ続けるかぐや姫は、ひょんな事から『次の満月に月より使者が送られる』事を知った。そこで一計を案じ、本物の月と偽物の月を()()()()()事で月の使者がこの地にたどり着けなくした」

 

「あら、中々に()()()()()仮説ね」

 

「仮説2、永い時を月からの逃走生活に費やしたかぐや姫は、その逃走生活自体に()()()()()()()()()()。『気晴らし』『退屈しのぎ』、そんな何かを探し求めたかぐや姫は目立つ事を厭わず『力有る何者か』を此処に招く事にした。永遠とは不変、そして不変は()()に繋がる。()()()()()する為に、この地に新たな『歴史』を紡ぐ事を選択した。『歴史』とは人、そして変化。その手始めとして『月を盗む』という異変を起こし、異変解決に来る者達をこの屋敷に招くことで()()()()()()()()()()()()()()を無理矢理壊す事を企んだ」

 

「ふぅん?()()()()仮説ね」

 

「仮説3、月見団子を楽しみにしていたかぐや姫はふと見上げた満月を見て()()()()()と思い、満月を盗んだ」

 

「ちょっと、貴方の中の私はどれだけ食い意地張ってるのよ」

 

「ああスマンな。俺の中の『姫』像って割と健啖家なイメージなんだ」

 

 冥界の亡霊姫然り、幻想郷の閻魔様然り。映()様もその気になればよく甘味食べてるイメージ。

 

「……ふふ、でも良いわね。月見団子を見て()()()()を食べようかと考える所なんて斬新だわ」

 

「花より団子、月()()()団子ってな」

 

「それで?貴方の中でどの仮説が本命なの?」

 

「さて、どれも()()と言えばアリだし、()()と言えばナシだなぁ。仮説1は、幻想郷は既に『博麗大結界』という大きな結界に覆われているし、『本物の月』を隠す事で使者を惑わそうにも博麗大結界を超える事が月の使者に出来るかどうかはちょい疑問だ。仮説2は新しい『歴史』を取り入れると言ったが現状ではどうにも()()()()感が否めない。『偽物の月』に入れ替えずとも、そのまま『本物の月』だけ奪ってしまえば誰にでも異変が分かる。それこそ敏感な妖怪以外にだってすぐに異変解決に向かうだろう。何より此処に籠っているより()()()()()()()()方がより新鮮だろう」

 

「……ふふ」

 

「と言う訳で本命はどれかと言われれば、まあ仮説3かなぁ。あってる?」

 

「……残念ね、それは間違いよ」

 

「えー、じゃあなんで本物の月を隠したんだよー」

 

「それはまだ秘密。『かぐや姫の難題』なんだから頑張って答えを探しなさいな。さて……そんな事より()()()を止めているのは貴方かしら?」

 

「ンなぁんか急に話題逸らそうとしてない?」

 

「気のせいよ」

 

「気のせいなら仕方ないな。夜を止めてるのだっけ?それは俺じゃなくて霊夢ちゃん達だな。……多分」

 

「あら、自信無いの?」

 

「この幻想郷には夜くらい止められそうなヤツが多すぎる」

 

「それは……中々に楽しそうな所ね。ああ、もっと早く外に出ておくんだったわ」

 

「そして竹の中に叩き込まれると……」

 

「嫌な事を思い出させないで」

 

「おや、閉所恐怖症?それとも暗所恐怖症かな?まあ光る竹の中がどうなってるのかは知らないけど」

 

「そっちじゃなくて、その後アナタに裸にひん剥かれた事よ」

 

「あー。俺的には良い記憶だから該当しなかったわ」

 

「地上人の考える事は分からないわね」

 

「月人の考える事も分からんな。さて、そろそろ月を返してもらおうか」

 

「良いわよ。でもその前に私の五つの難題―――」

 

 

廻星(かいせい)

 

 

 如意陽輝棒を掲げ、陰気と陽気をそれぞれ増幅し続けていく。陰気と陽気はぐるぐる、ぐるぐると回り続け、巨大化していく。

 日が昇り、月が沈む。月が昇って日が沈む。陰の中にある陽、陽の中にある陰、それぞれが太陽と月の如く昇り沈みを繰り返す。

 天に固定されていた偽物の月が、目の前に鎮座する本物の月が、動き出す。

 

「そして夜が明ける」

 

 朝日が、昇る。

 

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

 

 ところ替わって、霊夢、紫、魔理沙、アリス、妖夢、幽々子、咲夜、レミリア、それに萃香全員と戦っている八意永琳。

 

「……ッ!?な、偽の月が()()()()っ!!?」

 

「っ!永夜の術が……破られたですって?」

 

「あ”ー?おい紫!今の言葉はどういう意味だ!?」

 

「夜を止めていたのは貴方だったのね?」

 

「さあ、何のことかしら……って、こんな事するのはやっぱり」

 

「詭弁、よねぇ……」

 

「ああっ!!?そういえば黒幕を倒す事に集中し過ぎて詭弁さんの事すっかり忘れてました!!」

 

「もう、妖夢ったら一つの事に集中し過ぎよ。もっと広い視野を持ち続けなさい」

 

「亡霊、そういうお前は詭弁の事忘れてた訳じゃないだろうな?」

 

「お嬢様、ブーメランが飛んでくるので口を噤んでいた方がよろしいかと」

 

「詭弁……っ!しまった、姫様が!!」

 

「あっ!逃げたぜ!!」

 

「姫?アイツが黒幕じゃなかったの?」

 

「いえ、アイツが犯人の筈……まさか裏で更に糸を引いていた奴が居る?」

 

「それでその()()()()()()()()の所に詭弁が居ると」

 

「くそっ!またアイツに良い所を持ってかれるのか!咲夜急ぐわよ!」

 

「ちょっと萃香、なんでアナタ詭弁の所に居ないのよ!相方でしょ!?」

 

「あ~?何でだろうな?私にも分からん!あっはっは!!」

 

「笑って誤魔化すな!」

 

「あーもー滅茶苦茶よ……。これなら魔理沙じゃなくて詭弁を選べば良かったわ……」

 

「良いのか?私と違ってアイツは大人しくしてるとは思えないぜ?」

 

「……一人で解決に向かえば良かったわ」

 

「と言うかこんな時くらい弾幕張らず足並みそろえましょうよー!!」

 

「そう言うなら貴方から弾幕放つの止めたら?」

 

「ええい異変を解決するのは私!詭弁が解決する直前に横取りだ!」

 

「その前に貴方を倒してあげるわよ子鬼!」

 

「ちょっと!私の通り道に弾幕を張らないでよ!危ないでしょ!!」

 

「あらあら、危ないわねぇ……」

 

「邪魔だ!纏めて吹き飛ばして―――」

 

「あーもう鬱陶しいわね!神霊『夢想封印・瞬』!」

 

「っチィ!!やっぱり脅威は霊夢ね!紅魔『スカーレットデビル』!」

 

「マズっ!?人鬼『未来永劫斬』っ!!」

 

「コッチに!?魔操『リターンイナニメトネス』!」

 

「っ!幻葬『夜霧の幻影殺人鬼』!」

 

「これはっ……死蝶『華胥の永眠』」

 

「ちょっと危ないじゃないの!境界『永夜四重結界』!」

 

「だぁぁ!!纏めて薙ぎ倒す!魔砲『ファイナルスパーク』!!」

 

「うがー!黒幕目の前にして逃がすなんてっ!『百万鬼夜行』!!!」

 

 全くと言って良い程足並みの揃わない人妖達だった。

 

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

 

「―――姫様っ!!」

 

 

「どういうつもりよ!私の見せ場を奪うなんて!!」

 

「んぃ、見せるような身体つきしてないだろー?」

 

「はー???私の顔すら見れないで散っていった男が何人いると思ってるのよ!!」

 

「昔々のそのまた昔の苔むした昔話の事を仰ってます?あら嫌ですわーこれだからお年寄りは!!すーぐ『昔は』『昔は』!!昔々言って昔に戻れりゃ世話ねぇなぁ!!大事なのは今と未来だよ!」

 

「昔も今も未来も変わらず超需要のプロポーションよ私は!需要曲線の頂点よ!」

 

「身体に曲線無い癖に()()()()()()だってぇー!?洗濯板の方がまだ曲線あるぜ!」

 

「誰の何処が板ですって!!?あるわよちゃんとなだらかでも立派な丘が!」

 

「はーなるほど!話を()()のがお上手ですこと()()()()ってかぁ!身体締める帯を外したら出てくるんですね()()()()()!」

 

「馬鹿言ってんじゃないわよ!ちゃんと締まるとこ締まった理想のスレンダー体形よ!!」

 

 

「……えっ。何コレ……ど、どうなってるのよ……?」

 

 

「あっ、永琳!えーりん!!この馬鹿に私の身体の美しさを教え込んでやりなさい!」

 

「よっ、珠のような肌!烏の濡れ羽色の髪!まな板!その筋の人には大人気の身体つき!理想のコケシ!」

 

「うわーん馬鹿にしてっ!!!」

 

「? ? ?」

 

 八意永琳は初めて『理解出来ない事』に直面した。

 今まで()()()()()()があっても、その天才の頭脳はすぐに解析し()()()()()()なった。例えすぐに分からない事象でも、理解プロセスの手掛かりは掴む事が出来た。

 だが、今。この瞬間に限っては。脳が()()()()()()()()()のだ。これは永い時間を生きてきた八意永琳にとって初めての事だったのだ。

 そして天才八意永琳が初めて直面した『理解出来ない事』に対する策は……

 

「……邪魔したわね」

 

「えーりーん!?」

 

 『逃避』だった。現状からの逃避。問題を()()()()()()()()()。そうすることで、エラーを吐き熱暴走を起こしかけた自身の脳を守ったのだ。

 

 

 そうして、永かった夜が漸く明ける。

 この永き夜の物語全てを書き記すには、紙が幾らあっても足りない。故に、主に一人の視点からこの話を抄記しよう。日出ずる国に在る楽園の物語。題して―――

 

 

  ―――東方永夜抄

 





抄記――長い文章などの一部を抜き取り書き出すこと。

うん、中々良い感じにまとまった―――はい、最後の奴は思いつきでやりました。特に深い意味はないです。


なんでだろうな。姫様は何故か詭弁に弄り倒されるキャラになってしまった。
ただ詭弁は姫様もちゃんと()()()()相手として見てます。名前呼ぶときは『輝夜ちゃん』なので!

そしてAルート側は皆して()()()()()()なんて行うはずもなく……永琳一人相手に手こずりまくりでした。


ぐーや「詭弁、貴方()()()なのに『本物の月』を間近で見て狂わないのね」
クズ「そりゃ勿論。日頃から陽輝棒使って()()の力使ってるのに、太陽の光を()()してる月見て狂う訳が無いだろ?」
ぐーや「そういうモノかしら……それだけじゃなく貴方永琳の秘術である『偽物の月』を割って夜を動かしたわよね?なんでそんな事出来るのよ」
クズ「それもまた陽輝棒の力だな。陽即ち昼、陰即ち夜。そして陽中陰は太陽で、陰中陽は月だ。太陽を見ようとすると眩しくて目を閉じるだろ?そして月は夜空で輝くモンだ。故に陽輝棒を使って陰と陽を増幅し、ぐるぐる廻し続ける事で空を動かせるようになる。小さな歯車がもの凄い回転すれば大きな歯車を動かせるようにな。まあ勿論、あの時()()()()()()()()から出来たんだがな」
ぐーや「……ちょっと待ちなさい。つまり()()()()()()()()()って事?何故()()が出来ると思ったのよ?」
クズ「それは……あれ?なんでだ?」

「感想を書く」「ここすきボタンを押す」
「両方」やらなくっちゃあならないってのが「読者」のつらいところだな
覚悟はいいか?オレはできてる


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異変解決後はやっぱりコレだよね!

詭弁には詭弁なりに妙なこだわりがあるようです。


「……つまり、偽の月を作り、地上を密室にした意味は無かった、と?」

 

「そうね。月からの使者が博麗大結界を超えてくる事はまずありえないわ」

 

「と、いう事は今まで隠れて生活する意味は無かった……って事?なによそれ……」

 

 床に崩れ落ちる八意永琳。

 

「うーん……答えは仮説1だったかぁ。なんだ、かぐや姫の難題も意外と大したこと無いな」

 

「かぐや姫?何言ってんだお前」

 

「いや、そこでボコボコにされてる女の子が『竹取物語のかぐや姫』その人なんだと」

 

「はぁ、アレがねぇ」

 

 

「アンタが本当の黒幕ね!覚悟しなさい!!」

 

「詭弁さんと何していたか洗いざらい吐け!」

 

「ちょっと!!もう月は返したんだから弾幕放つのは止めなさいって!」

 

 

「……全く、血の気の多い連中だな」

 

「吸血鬼なんだから当たり前でしょ?」

 

「なるほど確かに。はぁ……あー疲れた……じゃ、俺はもう帰って寝る。つーか伊吹萃香の所為で完徹だよ」

 

 夜が明けて朝になり、ようやく帰路につく。朝日に照らされた竹林の緑が眩しい……。

 

「ふぁぁ……ぁー眠ぅ!」

 

「どうやって永遠亭から里まで戻るつもりウサ?」

 

「げぇ、因幡てゐ」

 

 いつもの如くニヤニヤと笑いながら茂みから顔を出す因幡てゐ。

 

「ウサウサ……無事に月を取り戻せたみたいだね」

 

「あ~?お前さっきの異変についてなんか知ってるのか?」

 

「そりゃ勿論。アタシがどれだけ永くこの竹林に居ると思ってるの?()()()永遠亭も場所を貸してるのはアタシだよ」

 

「はぁー、つまりお前もここの奴等とグルだったって事……あ?待て待て、じゃあなんで永遠亭の連中はこの異変を起こした?昔からずっとこの幻想郷に居るお前が博麗大結界の事知らない訳ないだろ?」

 

「さぁて、なんでだろうね?」

 

 より深くニヤニヤと笑う因幡てゐ。コイツ、さてはワザと博麗大結界の事話さなかったな?

 

「お前が大結界の事話してればこんな面倒な異変起こす事も無かっただろうに……」

 

「ん、そうかもねー」

 

 そうすればこんな辺鄙な所に好き好んでくる奴も……待てよ?

 

「『異変を起こす事で力有る者を此処に招く事にした?』」

 

 仮説2が脳裏をよぎる。『永遠の秘術を破る』、そんなもの術を掛けた者が外せば事足りる。なのに態々回りくどい手を使うのは、()()()()()()()()()()()()()。つまり異変を計画して実行したのは八意永琳及びかぐや姫だが、そうさせるように()()()()のは……。

 

「なんでそんな回りくどい事を……」

 

「決まってるでしょ?楽しい事は皆でやるモンさ。さ、野暮はそこまでにして里まで送ってやるさね」

 

 そうしてぴょこぴょこ駆けて行く因幡てゐ。俺はその後を無言で追いかけた。

 

 

 ◆

 

 

 家に帰りひと眠り。

 あー良く寝た。

 

「起きたか」

 

「んぇ、妹紅先生」

 

 妹紅先生が俺の部屋でタバコを吸いながら何かを読んでいた。

 俺が布団から起き上がる頃には吸っていたタバコを消し、読んでいた本を閉じて床に置いていた。

 

「くぁ……ぁ。んで、妹紅先生は何の用で此処に?」

 

「……昨日()()()()()()()()だろ?慧音がまだ詭弁が戻ってきてないって言うからお前を探してたんだよ」

 

「あーそれは態々どうも(()()()()()()()()、か。まあ人間にとって月が欠けるよりそっちの方が分かり易い異変だよなぁ)ちょっと異変解決に行ってたんですよ」

 

「竹林にか?」

 

「え?ええ……あっ、そういえば妹紅先生と同じ『蓬莱人』を名乗る女の子に――」

 

「――輝夜に会ったのかっ!!!?」

 

 突如凄い目つきで俺に掴みかかる妹紅先生。首が絞まるぅ……。妹紅先生の胸を揉んで宥める。

 

「ドサクサに紛れて何処触ってる!」

 

「痛いっ!」

 

 思いっきりグーで殴られた。先に絞めてきた方が悪いと思うなぁ!

 

「……ったく、で?」

 

「で?」

 

「輝夜と何かあったか聞いてんだよ!」

 

「えぇ……何かあったと言えばありますし、ないと言えばなかったですし……」

 

「ハッキリしろ!」

 

「かぐや姫の難題を出されました」

 

 なんで妹紅先生そんな敵意剥き出しなんですかね。ほら今も思いっきり歯をギリギリ鳴らして……。

 

「それで!?」

 

「えっ」

 

「それでお前はその難題に答えたんだろ!?そしてお前はかぐや姫の婿になった!違うか!?」

 

「全然違いますけど」

 

 嫁に取るならまだしも、婿入りするのは……って、もしかして。

 

「妹紅先生、かぐや姫に嫉妬してんの?」

 

「はぁ!!?」

 

「大丈夫だよ妹紅先生!あんなこけし体型より妹紅先生の方がよっぽど立派な体つきしてますから!ほらおっぱいもこんなに揉みごたえあるブグッ!!?」

 

「誰が!誰に!嫉妬してるって!!?」

 

 殴るところソコ?というか、妹紅先生と輝夜ちゃんは少なからず因縁が在るらしいな。

 もしかして同じ蓬莱人であることに何か……はっ!そういえばかぐや姫は月に帰る(実際には帰ってないけど)時に不老不死になる薬を置いていった筈だ。その不老不死の薬を、なんの因果か妹紅先生が飲んで今に至るのでは!?

 そうか……不老不死ってのはよく分からなかったけど、要するに永遠という時間に囚われ続ける事なんだな。あのかぐや姫も、妹紅先生も……ということは、俺が死ぬまでずっとこのおっぱいの張りが維持されるということか?

 

「ありがたいからとりあえず揉んどこ」

 

「何がだ!?」

 

 妹紅先生のおっぱいをフニフニしてぶん殴られた後、玄関からノック音が聞こえた。

 

「おや、朝早くに誰だろう」

 

「朝って……今はもう昼過ぎだよ」

 

「……あっ、そうか。徹夜して寝て起きたら昼か」

 

 昨日の異変のせいで時間感覚狂ってもーた。

 そうこうしてると再びノック音が。はいはい今出ますよ。

 

「はーいどちら様ー」

 

「遅いわよ。姫を待たせるなんて随分偉いモノね」

 

 扉を開けるとかぐや姫がどーん。

 

「すみません昨日の今日で……」

 

 更にお供ウサギのウドンゲちゃんがどーん。

 いや何の用だよ昨日の今日で。ウドンゲちゃんにいたっては昨日と性格違うくない?

 

「その声っ……!!輝夜ァ!!お前こんなところに何の用だ!!!」

 

「あら妹紅?貴方こそこんなところで何をしてるのよ」

 

「先に私の質問に答えろ!!」

 

 妹紅先生が背中から炎を出しながら輝夜ちゃんに凄む。家が火事になるから止めぃ。

 

「嫁入りに来たのよ」

 

「あ?」

 

「はい?」

 

「だから、詭弁に嫁入りしに来たのよ」

 

「あっ、正確に言うと嫁入り()()に来たんです。……何故か私も一緒に」

 

 ああ、それでウドンゲちゃん背中に大量の荷物持ってるのね。あーなるほどーハイハイ。

 

「納得するかぁッ!!!」

 

 妹紅先生の背中が更に激しく燃え上がる。だから火事になるから止めろって。

 

「なんでお前が嫁入り修業なんかっ……!!つーか修業するなら自分の家でしろよ!!!」

 

「あれだけ徹底的に私の魅力を否定したんだもの。なら()()()魅力を見せてあげるんだからより近い方が良いでしょ?」

 

「ほーう、それで俺に嫁入りと」

 

「修業です、嫁入り修業。絶対に貴方に嫁ぎはしませんので。……はぁーお師匠様もなんで許可しちゃうのかなぁ……(いや待てよ?流石にいきなり押し掛けても普通は門前払いされる……そして家主の顔を立てて出直し、改めて姫様とお師匠様を説得すれば……)迷惑、ですよね?もしそうならまた出直し―――」

 

「良いよー。嫁入り修業だろうが本当に嫁入りしようが全然オッケー!」

 

「えっ、ええっ!!?良いんですか!?」

 

「あらイナバ、意外と乗り気?」

 

「いや、今の『良いんですか!?』はそういう意味じゃないですよ!?」

 

「おい詭弁ッ!!!お前さっきと言ってる事が違うじゃねえか!!!!」

 

 更に火が強まる。だから火を止めろって。

 

「なにも違いませんよ。『俺が婿入り』するのと『向こうから嫁入り』するのじゃ意味が違うじゃないですか」

 

「変わんねえだろっ!!」

 

「俺が『蓬莱山答弁』になるのと、『詭弁輝夜』になるのでは全然違うと言ってるんです」

 

「だから婚姻する事には変わんねえだろう!!!」

 

 メチャクチャ火が強まって、遂には玄関の屋根が黒く焦げだした。あーもう……。

 

「だから」

 

「あ”ぁ!?」

 

 妹紅先生の首根っこを掴む。

 

「火を止めろって」

 

「あっ!!?何をす―――」

 

 腰を強引に倒し、妹紅先生の尻を突き出させるように体勢を固定する。

 

 

「言ってるでしょうがっ!!!」

 

 

 そして妹紅先生の尻を手のひらで思いっきり強く引っ叩く。

 

「あぎっ!!?」

 

 パァンといい音が鳴った。火は収まった。

 

「里ん中の、しかも人ん家でよくまあボォボォ燃えられますねぇ貴方は!!」

 

「やめッ!!はぁッ!!?」

 

 パァン!パァン!と里中に響き渡るのではないかと言う程に強く尻を叩き続ける。

 

「天井見てくださいよ!妹紅先生の炎で焦げてるじゃないですか!」

 

「待っ!!?待てっ!!?」

 

「火事になったらどうするんです!?俺の住むところ無くなりますが!?」

 

「止めろォ!!?止めっ……!?ぁ……っ!?♥」

 

「わかったならしっかり反省してください!!」

 

「わるっ!!♥悪かったってぇ!!♥謝るっ!??♥あやまるからぁっ!!♥」

 

「里の中でムヤミに火を焚かないで下さいね!!背中から炎を噴出させるなんてもっての外!!!」

 

「わかったっ!!♥わかったからぁ!!♥おしり……っ!?♥おしりたたかないでぇ……!!♥」

 

 妹紅先生がポロポロ泣きだし、しっかり反省したようなので解放する。

 

「うぅ……お、覚えてろっ!!」

 

 そうして尻を押さえながら捨て台詞を吐いて外に走っていった。……オシオキ不足かな?

 

「……ねえイナバ?」

 

「はい。怒ってますけど、波長はビックリするほど平常ですよあの男」

 

「無自覚なのね……キレる若者ってヤツかしら」

 

「な、なんにせよ変に怒らせない方が良さそうですね……」

 

 ……さて、妹紅先生はともかく。

 

「じゃ、早速二人が住む部屋に案内するよ!永遠亭ほど広くないけど、元々三人で暮らしてた家だから普通に暮らす分には余裕あるから大丈夫!それにいい加減ウドンゲちゃんの背負ってる荷物降ろしたいでしょ?さあさあいつまでも玄関に居ないで中に入った入った!」

 

「ま、まあ気を取り直していくわよイナバ。詭弁!貴方を私の新たな魅力でギャフンと言わせてあげるから!!」

 

「うぅ……本当にやるんですかぁ……」

 

「早速だけど寝室は俺と共用で良いよね!」

 

「良くない!!!」

 

 

 ◆

 

 

 引っ越し……と言うには簡素なモノだが、まあ一応引っ越しは終わった。どうにも二人は俺の家と永遠亭を行ったり来たりするらしい。

 荷解きを終え、俺の家の設備等を説明し終えたらもう夕暮れだ。

 

「おぅ、こんな時間か。輝夜ちゃん、ウドンゲちゃん、そろそろ神社に行くよ」

 

「ああ、宴会ね。異変の終わりには必ずそうするんだっけ?」

 

「『必ず』って訳じゃないんだけど……なんかそういう()()()になってるんだよねぇ」

 

「……あの、『ウドンゲちゃん』って呼ぶのは止めてもらえませんか?」

 

「そんな事言われても。そもそもウドンゲちゃんの正しい名前知らないし」

 

「あぁ、そういえばちゃんと自己紹介してませんでしたね。私の名前は『鈴仙・優曇華院・イナバ』です」

 

「ははは、俺に負けず劣らずの変な名前だ。なんで『ウドンゲちゃん』はダメなんだ?」

 

「変な名前……やっぱりそうですよねー……まあ『詭弁答弁』も相当変ですけど。とにかく『ウドンゲ』って響きが変なのと、あんま可愛くないじゃないですか……」

 

「そうかな?そうかも」

 

「適当ねぇ」

 

「とは言え、呼ぶとしたらー……イナバちゃん、じゃぁ因幡てゐと被るし、やっぱレーちゃん?」

 

「『ウドンゲちゃん』よりはマシかー」

 

「んぃ、でもさレーちゃん。『変なこと』って悪い事かな?」

 

「……えっ?」

 

「『変わってる』と言えばマイナスなイメージに思えるかもだけど、言い替えれば『唯一無二の個性』さ。ありきたりな言葉じゃ言い表せないような意味がその名前に込められてるんじゃないかな」

 

「唯一無二の個性……」

 

「まぁ『鈴仙・優曇華院・イナバ』って名前は変に思うけど、俺は好きだよ」

 

「!?」

 

「おっと、酒を大量に買ってこないと。じゃぁ輝夜ちゃん、レーちゃん、先に神社向かっといて。後から行くから」

 

「あっ……行っちゃった……」

 

「……落ちたわね」

 

「落ちてませんっ!」

 

 

 ◆

 

 

 博麗神社に到着すると、既に俺以外が揃ってる状態だった。

 

「遅いわよ!」

 

「んぃ、ゴメンゴメン」

 

「じゃー詭弁も来た事だし、そろそろ始めるか!よし詭弁!そのまま乾杯の音頭取れ!」

 

「あいよ。えー……この度結婚して同棲することになりました。かんぱーい!」

 

「かんぱー……え?」

 

 

「「「 はぁ!!!? 」」」

 

 波乱の宴会の幕開けである。

 




次回!詭弁刺される!(嘘)

月人の考えることは解らん(エキストラストーリー感)


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宴会は楽し……うおわぁー!!?

なんか日間ランキング9位でした。やったぇ。

さあ盛り上がって参りました。


 宴会だー!酒だー!

 と酒を一口飲んだら、隣に霊夢ちゃんとメイちゃんが座った。

 と思った瞬間、俺はみの虫のようにガチガチに縛られて宙吊りにされていた。いや何事ぉ!?

 

「詭弁さん。先のお言葉」

 

「説明してくれるわよね?」

 

 ひゅー霊夢ちゃんメイちゃん、今日も笑顔が可愛いね!なんか別レイヤーに般若が見えるけど。

 

「説明と言われても……言葉通りなんだけどなぁ」

 

「そう、なら聞き方を変えるわ。今日何があったのか全部説明しなさい。じゃないとこの刀でアンタのお腹切るわよ」

 

「あれぇ!?霊夢さんいつの間に私の楼観剣持ってるんですか!?」

 

 流石博麗の巫女だ。初めて持った刀でも振り回すのに何の躊躇いも無い。ぶった切られるのも時間の問題である。

 とりあえず今日起きた事を掻い摘んで話す。

 

「―――と言う訳で輝夜ちゃんとレーちゃんがウチに嫁入り修業に来る事になったんだ。分かった?」

 

「全く分からないわ」

 

「俺もどうしてそうなったか分からん」

 

「……あの、詭弁さんはそれで良いんですか……?」

 

「断る理由もないし。……それにあの家は()()()()()()()()()()()()から」

 

「……はぁー。あーもーいいわ」

 

 霊夢ちゃんが持っている楼観剣を俺に向かって振り下ろす。大変危険が危ない。

 スパンっ!

 俺を縛っていた縄だけを器用に切り裂いた。

 

「要するにそっちの宇宙人が馬鹿やらかしてるって事でしょ?」

 

「うん、霊夢ちゃん。俺今斬られて死んだかと思ったんだけど」

 

「知らないわよ」

 

 ひょっとして妖夢ちゃんより剣術上手いのでは?

 霊夢ちゃんがその楼観剣を妖夢ちゃんに投げて返す。

 

「大事に扱ってくださいっ!」

 

「まあ、詭弁は良いわ。いや良くないけど。それより……そっちよね」

 

 霊夢ちゃんが振り向いた先に視線を送ると、鎖で縛られている輝夜ちゃんとレーちゃんがいた。その二人を、武器を持った沢山の人形たちが囲んでいる。

 

「今日はウサギ鍋に、デザートはタケノコと人肉のケーキにでもしようかしら」

 

「ひぃ、食べないでください……」

 

「あらら、時間を止める能力ねぇ……そこのアナタかしら?」

 

 鎖が勝手に割れるように砕け落ち、境内にバラバラと撒かれる。

 

「もう、折角の宴会なんだから飲みましょ?」

 

「そうね。折角の宴会だし、久々に真っ赤なワインが飲みたくなってきたわ」

 

「もう、そんな物騒なモノ(ナイフ)よりも盃を持った方が良くないかしら?」

 

 殺気立つ周りに囲まれても悠然と笑い佇む輝夜ちゃん。余裕が違いますよ。

 

「……ふふっ、全く。()()()()()()()()()歩を進めるのを躊躇うから『奪われる』のよ?」

 

「「ッ!!」」

 

 そうして不敵に笑うかぐや姫。

 

「ふふふ、昨日は楽しかったわねぇ詭弁。あれだけ長い時間お喋りしたのはいつ以来かしら?」

 

「……蓬莱山、輝夜と言ったわね。折角だし少し()()()()()()?」

 

「あら、遊びの誘いなんて嬉しいわね。そちらの人形遣いも一緒かしら?」

 

「ふん、丁度新しい演目を考えていた所よ。悪役(ヴィラン)にぴったりの配役が見つかったわ」

 

 まだ宴会が始まったばかりだというのに、余興とばかりに咲夜ちゃんとアリスちゃん、輝夜ちゃんが空高く飛んでいった。うーんすぐに打ち解けた様で何より。

 

「いや、今の打ち解けたって言います普通?」

 

「レーちゃん。『ケンカする程仲が良い』ってね」

 

「とてもそうは見えませんが……」

 

「ところで詭弁さん。『嫁入り修業』とは何をするんですか?」

 

 俺とレーちゃんの間に入り込むように妖夢ちゃんが座る。妖夢ちゃんはレーちゃんに向けて『ベーッ!』と舌を突き出す。子供か。困惑顔になるレーちゃん。

 

「そりゃ嫁入り修業って言うくらいだからなぁ。基本的には『家を任せられる技術』の習得だろうな」

 

「家を任せられる……とは?」

 

「『好きな人と結婚し、末永く幸せに暮らしました。めでたしめでたし』……と、物語ならそれで終わりで良いんだが、実際に()()()()()()ってのは大変な事だ。例えば今俺は一人で暮らしている訳だが、毎日好きな物食って、小奇麗な服を着て、ゆっくり寝る時間もある……と、そんな感じで裕福な暮らしが出来る程度の稼ぎがある訳だ。だが俺が誰かと婚姻して一緒に暮らすとなったら単純に食費は二倍、服代も二倍、その他諸々にも当然お金は付き纏うし、子供ができるとなれば更に金が掛かる。一人で暮らす分には余裕もあって多少贅沢も出来る収入でも、二人で暮らすとなると途端カツカツの苦しい生活になる……なんてザラだ。人間ってのは不思議なモンで、幾ら『好き同士』で結婚しても()()()()()()()()()()()。苦しい生活に耐えきれずに破局……何てのも珍しくない」

 

「え、えぇ……そんな時こそ『二人で力を合わせて乗り越えよう』ってならないんですか?」

 

「そうだな、じゃあ仮に妖怪の山を歩いて登るとしよう。『二人で力を合わせて山頂まで登りきろうね!』そう言った相手が、自分の背中にへばり付いてたらどう思う?」

 

「『自分で歩け』って言って叩き落とします」

 

「同じ事が同棲生活にも言える訳だ。『俺は朝から晩まで働いて金を稼いできた。だが帰れば家中汚い、飯も準備してない、風呂も沸いてない。嫁はごろごろしてる。だというのに人一倍飯は食う』さて、どんな美人なら許されるだろうな?人は愛に生きるが、愛だけでは生活が出来ない上に愛は金が掛かると来た」

 

「なんてロマンの無い……」

 

「『男は外に、女は家に』が基本の生活スタイルな訳だから、嫁入り修業ってのは女の子の魅力を上げるのと共に『幸せな結婚生活』にほぼ必須と言えるな。さて漸く本題だ、『嫁入り修業とは何をするか』」

 

 空に弾幕の花が咲く。妖夢ちゃんは真剣と言った表情で俺の話を聞き、レーちゃんもしっかり耳を傾けている。酒で口を濡らすついでにチラと周りを見れば、興味の無い振りをしてしっかり耳をこちらに向けている人妖のなんと多い事か。

 

「『料理の技術』なるほど大事だ。男はまず胃袋を掴めと言うし、仕事から帰って来て旨そうな飯が用意されてたら間違いなく嬉しい。『掃除の技術』これも大事だ。家が汚いと単純に病気のリスクが高まるし、集中力ややる気といった精神面にも意外と直結する。同じように『洗濯技術』や『裁縫技術』もあると仕事や生活の面で便利に働く事間違いなしだ。だが、一番重要なのはそのどれでも無い」

 

「い、一番重要なのは……?」

 

「一番重要な事。それは……」

 

「それは……」

 

 

セック「夢想封印(拳)!!」ズげブっ!!?

 

 

 顎が吹き飛んだんじゃないかっていう衝撃と共に意識がぶっ飛ぶ。あぁ、今日もお世話になりますぜ小町っちゃん。

 

「あーもう!真面目に聞いてて損したわっ!」

 

「お師匠様!私本当にコイツの所で嫁入り修業しなきゃならないんですか!?」

 

「姫様がやるって言って聞かないんだからしょうがないでしょ。イザとなったら身体張ってでも止めなさいねウドンゲ」

 

「嫌ですぅー!!」

 

「……ふん。ウチには咲夜が居るし、料理も掃除も何でもござれよ」

 

「お嬢様、その場合咲夜さんが嫁入りするだけでお嬢様は何も関係ないんじゃ……」

 

「なっ!?で、でもでも咲夜は生きてる限りずっと私と一緒に居るって言ったモン!」

 

「……ねえ藍?」

 

「仮に紫様が誰かに嫁いだとしても私は紫様の式神ですよ」

 

「よね!よね!大丈夫よね!!」

 

「ただ私が何処かに嫁いだ場合はその限りじゃありませんが」

 

「ちょっと!?」

 

「……(詭弁が帰ってきた時に『お帰りなさいアナタ。ご飯にする?お風呂にする?それとも……』『今日はお前を頂くぜ魔理沙』そして近づく唇……)」

 

「……魔理沙さん?」

 

「はぁぇあ!?な、なんでも無いぜ!!なんでもな!(ノーカン!!アレはノーカンだぜ!!!)」

 

 

「くっ……詭弁に続いて時間停止が効かない相手が居るなんて……あら?」

 

「……何よこの変な空気は」

 

「詭弁見たかしら私の実力を!貴方に見せ場を奪われたけど私強いのよかなり!って何寝てるのっ!!」

 

 

 婚姻なんてめんどくさい事しないで攫っちゃえば良いのに。

 そう思いながら瓢箪を傾ける伊吹萃香だった。

 

 




ほら、身体さえ良ければ離婚しないって言いますしね?
まあ私結婚したこと無いんですけど(白目)

ちなみに詭弁の収入は二、三人と言わずそれこそ頑張ればもっと養えるくらいの収入が有ります。お金持ち!男は顔とカネだよ!


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そして始まるアマアマ結婚生活……の!筈でしたがァッ!!

前回で霊夢が詭弁をあっさり解放したのには一応ちゃんと理由があります。たぶんその内書くんじゃないかな?書かないかも。


 その後三途の川まで飛んだ意識が戻ってきた後も、異変の時のリベンジだ!と襲われ続けたために全然お酒を飲めなかった。悲しい。

 そうして眠るように気絶し、朝。宴会はお開き。

 今は寝ている輝夜ちゃんを背負い、レーちゃんと並んで家に帰っている。

 

「蓬莱人も酔い潰れたりするんだねぇ」

 

「あれほどお酒を飲んでいたのは初めて見ました」

 

「……だけど八意永琳はそんな酔ってる感じなかったけど」

 

「お師匠様にはあらゆる毒が効かないの。お酒も一緒よ」

 

「んぃ、それお酒飲む意味ある?」

 

 なんとかしてあのおっぱいの痴態を拝めないものか考えながら家に帰ると、阿求嬢が正座して待っていた。

 

「お帰りなさい詭弁さん。私を差し置いて結婚し、あまつさえ()()()とは。私、感動しました。人って怒りが限界を超えると、ここまで清々しい気分になるんですね」

 

 そう言いながら自身の衣服を丁寧に脱いでいく阿求嬢。なんで服を脱ぐ必要があるんですか?

 

「決まってるじゃないですか、子作りのためですよ。大丈夫です。こんな時の為に()()()()()()はしっかりと覚えてきましたので」

 

「詭弁さん貴方こんな小さい子にまで手を出してるの……?ロリコン……」

 

「誤解だ!」

 

 俺から手は出してないのでロリコンじゃないな!

 とか言ってる場合でもなく、もう既に下着だけになっている阿求嬢を止めて服を着せる。

 

「……つまり『嫁入り修業』の為に詭弁さんの家に来た、と?」

 

「んぃ、そういう事」

 

「……なるほど、そうですか。へぇ、なるほどなるほど」

 

 物凄い意味深に笑いながら何度も頷く阿求嬢。

 

「では、折角ですし慧音先生を呼んで『異変の歴史』を残しておきましょうか」

 

「んぇ、折角?というか、ちょっと仕事が溜まってるんだけど……」

 

「 何 か 言 い ま し た ? 」

 

「ひえっ」

 

 阿求嬢から今まで感じたことのない『凄み』を受ける。はいはい慧音先生を呼んできますよ呼べばいいんでしょう。ぴえん。

 輝夜ちゃんを布団に寝かせ、慧音先生のところまで駆け足で移動する。

 

 

 

「……さて、ウサギさん」

 

「な、何ですか……?」

 

「詭弁さんは多情仏心ですので、()()()()()なら目こぼしをしましょう。……ですが、もし。もしも、ですよ?詭弁さんの愛を独り占めしようものなら……」

 

「し、しようものなら……?」

 

 

わたし(稗田家)の総力を上げて()()()()を抹殺します」

 

 

「しません!絶対にしませんっ!!」

 

「なら、良いです」

 

「(怖っ!!!なんなのこの人間怖すぎるでしょ!?なんでこんなに()()()()を好きになるのよ!!?)」

 

「慧音先生を連れてきたぞぅ阿求嬢……ん?何この空気感?」

 

「何でもないですよ。さあ、歴史の編纂をしましょう」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 先日の異変……『永夜異変』で起きた事を話している最中に輝夜ちゃんが起きてきて、俺が話す内容に時折補足するように情報を加えていく。

 

「……ふむ、つまり『夜が止まった』のは『満月が欠けた』為に起こした異変であると……そこまでして解決しなきゃいけないモノだったんですかね?」

 

「阿求にはよくわからない感覚だと思うが、『満月が隠された』というのは妖怪達にとって相当に不安になる事なんだ。無論、私にもな」

 

「元々夜が明けたら本物の月は返す予定だったのよ。その前に詭弁によって偽物の月ごと永夜の術は壊されたようだけど」

 

「つまり、詭弁さんが異変を解決したって事ですか?」

 

「まぁ、そう言えるわね」

 

「なるほど……」

 

 そうして手元のメモ帳に何かをサラサラと書き込む慧音先生。

 

「……それでは、異変の日に輝夜さんが詭弁さんと()()()()をもっと詳しく教えていただいてもよろしいですか?」

 

「話した事って言ってもなぁ……当たり障りの無いような事ばかりだったけど」

 

「あら、中々興味深い話してたじゃない。()()()()()()()()()とか……」

 

「そんな面白いことかね?親が元博麗の巫女だなんて」

 

「……はい?詭弁さん、今なんて言いました?」

 

「ん?いや、だから親が元博麗の巫女だって」

 

「ええええ!!?なんですかそれ初耳ですよ!!?」

 

「あぁ……そうか、そういえば阿求が産まれた時には既に『先代博麗』とも名乗っていなかったな、あの子は」

 

「まあそういうわけで博麗の術とか詳しいのさ。あんまり適正無いけど」

 

「えっ、えっ、つ、つまり霊夢さんとは御姉弟……?」

 

「義理的にはそうとも言えるけど、霊夢ちゃんは八雲紫が何処からか拾ってきた子だから母さんとは直接的な血の繋がりはないよ」

 

「つまり今代の博麗の巫女である霊夢さんと先代の博麗の巫女は義理の親子で、先代博麗と詭弁さんは実の親子関係で、霊夢さんと詭弁さんは義理の姉弟?」

 

「だから結婚しても問題ないな!」

 

「……あぁ、もう怒涛の展開で疲れてきました……」

 

「んぃ、今日はもう終わっとく?」

 

「そうですね……そうしておきましょう」

 

「ん、じゃあ俺は仕事に出るから留守番ヨロシクね」

 

「……!ええ、行ってらっしゃい()()()♥」

 

「ん?」「は?」「えっ、姫様?」

 

 輝夜ちゃんが俺に抱き着き、頬に口づけをした。は?何だお前あざといの化身か?

 

 

「秒で仕事終わらせたらァよ!!!!」

 

 

 一瞬でやる気MAXになった俺は気分は光速。うおォん今の俺は依頼をこなす機械(スーパーマッスィーン)だ。これはもう今晩はおせっせですわ間違いない。絶対残業許さないマンだ俺は。

 

 ものすごい勢いで家から飛び出し、そのまま里の外に出て大量の薪と山菜を集め野良妖怪を退治しデカいイノシシを仕留める。今日で依頼全部おわらせたらァよ!

 

 

 

「ふふ、効果覿面ね」

 

「え、えー……姫様どうしたんですか?頭でも打ちました?」

 

「あら、『良い妻』は如何に上手に男を働かせるかが腕の見せ所よ?」

 

「なんだ、これは……私は夢でも見ているのか……?あの詭弁に……『妻』???」

 

「やはり()()しか……」

 

「ひぃ!?姫様早く謝って!!」

 

「??どうしたのよ、()()()キス一つじゃない」

 

「「 あ? 」」

 

「あ、あわわ……稗田さんと上白沢さんの顔が凄い事にぃ……」

 

 

 

 なんとか日が沈む前に全ての仕事を終わらせて家に帰る。

 

「おせっせ!じゃない間違えた、ただいま!」

 

 

「障子に埃が残ってるっ!やり直し!!!」

 

「な、なによこれくらい大したことないじゃないの……」

 

「塵一つ残さず掃除出来ずに何が嫁かっ!!」

 

「分かった!分かったから頭突き止めてっ!」

 

「うぅ……手が痛い……」

 

「洗濯一つとてマトモに出来ないんですか?月は随分な『温室』なんですね」

 

「うぅぅ~……助けてししょ~……」

 

 

「嫁・姑ダブル戦争!?ちょ、慧音先生!体罰教師も斯くやと言わんばかりの頭突き制裁止めたげてっ!阿求嬢!ウチは河童製洗濯機あるからソッチ使って!!」

 

 たった半日で凄い事になった二人は、月が空高く昇る頃には半泣きになりながら永遠亭に帰っていった。

 

「なんであんなドキツイ指導してたん……?」

 

「キツイ?ふっ、()()()掃除一つロクに出来ないで『嫁入り修業』とは聞いて呆れると思ってな」

 

「そうですよ。()()()洗濯一つ出来ないで何を言っているのか……」

 

「え、えぇぇ……」

 

 あの二人はこの二人を怒らせるような事でも言ったのだろうか……。あぁおせっせ……。

 そうして『嫁入り修業』一日目は過ぎていった……。

 




こんな感じで『嫁入り修業編』はーじまーるよー(適当)

そしてずっとひっそり温めていた設定の一つが日の目を見る!
詭弁のマッマは実は元博麗の巫女だったんだよ!!!
逆に詭弁の父はどういう人間なんだ……

よくわかる(訳無い)詭弁マッマ元博麗の巫女の伏線
・霊夢ちゃんと幼馴染
→ゆかりんが何処かから拾ってきた霊夢と先代巫女が産んだ詭弁は短い間だが博麗神社で一緒に育てられていた。その後霊夢がある程度一人立ち出来るようになると、霊夢を神社に置いて先代巫女と詭弁は里に移り住む。
 この時からちょくちょく里を抜け出し、霊夢に会いに行っていた。
・妖怪を畏れるが死は恐れない
→先代巫女の教育により、妖怪の本質はなにかに対する『畏れ』である事をしっかり教え込まれている。それは弱小妖怪程度なら片手で倒せるほどに強くなった今でも変わらない。
・博麗式二重結界が使える
→霊夢と一緒に育てられていた為に、一部の博麗の秘術の理論は知っている状態。

伏線……伏線?伏線……なのかなぁ……?伏線……伏線だな!うん!(洗脳)


最近意図的に感想をオネダリしてませんでしたが、オネダリがクセになってしまった読者の方も居るようですし感想のオネダリしますね!

感想さっさと書きだせ♥ざーこ♥ざこ読者♥早く感想書け♥


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嫁入り修業って大変そう……男で良かった!(小並感)

詭弁君が性転換したら……どうなるか想像つかねぇな!


 『嫁入り修業』生活二日目。昨日は夜に永遠亭に帰っていった二人だが、今日は朝早くから家に来た。

 

「今日こそ私の『女子力』を見せてあげるわよ!」

 

「もう止めましょうよ姫様……」

 

「なに言ってるのイナバ!まだ始めたばかりじゃないの!」

 

「んぃ、おはよう二人とも。朝から元気だねぇ」

 

「えぇおはよう詭弁。貴方も朝から元気過ぎないッッッ!!?

 

「キャー!!?ちょ、詭弁さん()()なんとかしてください!!」

 

 何言ってんだコイツら。

 と二人の視線の先を追えば詭弁さんの詭弁山が地殻変動を起こしていた。おや失敬。

 

「まぁ朝イチだし、ちょっとした生理現象だ。許せ」

 

「良いから()()鎮めて下さい!!というかその状態で出迎えるとか頭おかしいんですか!?」

 

「生理現象なんだから『鎮まれ』って言って鎮まれば苦労はしない!あと二人はもう嫁入りしたんだから()()くらい慣れないと『夜のオツトメ』なんて出来ないぞ」

 

「嫁入り()()です!!!」

 

「なんなのよ貴方……股間にウサギでも飼ってるの?」

 

「ちょ、姫様!そんなマジマジと見るモンじゃ無いですって!!」

 

 そう言うレーちゃんは、顔を逸らしながらも目線はしっかりと股間を捉えている事は見逃さしてないゾ☆

 

「こんな大きいのがお腹に入るの?絶対痛いじゃないのそんなの……」

 

「冷静に分析しないで下さいー!!」

 

「大丈夫だ。『案ずるより産むが易し』と言うし、そもそも赤ちゃんより小さいチンチンがお腹に入らない訳が無いだろ?」

 

「うーん……そういうものかしら」

 

「だから早く何とかして下さいってば!!姫様!こんな奴との子供とか想像しちゃダメですよ!!」

 

「やっぱり俺と輝夜ちゃんの子供は黒髪で可愛い顔つきなんだろうなぁ」

 

「だから止めろって言ってるでしょうがっ!」

 

 レーちゃんの脚が俺の股間を蹴りあげる……直前に守護術で防ぐ。

 

「おい、勃起不全になったらどうしてくれる」

 

「女の子相手に『勃起』とか言うな!」

 

「何言ってんだ?『風邪引いて熱でた』とか『咳が止まらない』とかの病気の症状は日常的に言うだろ?『勃起不全』も立派な症状なんだから『勃起不全』だけ言っちゃいけない理由がわからないなぁ?」

 

()()おっきくしたまま言うなって言ってるの!」

 

()()ってどこ?ちゃんと言ってもらわないとなぁー?わかんないなぁー?」

 

「だっ、だから!おち……おちん……おちちん……女の子にナニ言わせるのよぉ!!!

 

「自分で勝手に言ったんだろうに。それに『ナニ』を言ったのか、声が小さくてよく聞こえなかったなぁ~?」

 

「じゃらァ!!」

 

 レーちゃんの右ストレートが俺の頬を突き抜ける。

 K.O.!!

 

「朝から元気ねぇイナバ」

 

「誰のせいだと思ってるんですかぁ!!もうヤダぁー!」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ノックアウトから立ち直った時には既に股間の詭弁山も治まっていた。

 

「詭弁、貴方朝食は食べたかしら?」

 

「んぅ、まだ食べてないよ。これから準備しようとしたところ」

 

「ふふ、ならちょうど良かったわ。私が腕によりをかけて食事を作ってあげる!」

 

「おー、料理作れるんだ」

 

「当たり前よ!料理の一つくらい出来ないで何が女よ!」

 

「あら随分自信あるのね」

 

 突然後ろから声がして振り向けば、咲夜ちゃんとメイちゃんがいつの間にか立っていた。いやほんといつの間に。

 

「おはようございます詭弁さん」

 

「あぁ、うん。おはようメイちゃん、咲夜ちゃん。別に何時来ても良いけど、せめて先に一声掛けよ?」

 

「すみません。()()を見たら、つい居ても立ってもいられず……」

 

「コレ?」

 

 そうして見せられたモノは『号外』と書かれた文々。新聞だった。中身を読んでいくと……

 

「えー何々……『人間の英雄、異変の首謀者を愛玩奴隷にする!!』……ほう」

 

 内容を読み進めていくと、先の『永夜異変』の首謀者()()()()『八意永琳』『蓬莱山輝夜』を倒して朝を取り戻した()()()()が、黒幕である『蓬莱山輝夜』とそのペットのウサギを自宅で()()事にした。写真は()()()に家事を教える図である……。と、的を射ているんだかそうじゃないんだかよくわからない号外新聞だった。

 

「夜を止めたのは霊夢ちゃん達なんだがなぁ」

 

「突っ込む所ソコですか?」

 

「んぃ?じゃぁ『人間の英雄』って所?」

 

「そうじゃなくて!詭弁さんと女の子が同棲しているということが問題なんです!」

 

「なんで?俺だってもう女の子と結婚しても可笑しくない歳だし、なんの問題も無くない?」

 

「っ……もう!」

 

 頬を膨らませて『不満です!!』と表情で表現するメイちゃん。可愛い。

 

「ふふん。『他人』がヒトの家庭事情に首を突っ込むなんて烏滸がましいわよ?」

 

「つまり俺とメイちゃんが『家族』になれば良いんだね!というわけでメイちゃんも俺の所に嫁入りしなよ!」

 

「ぶぇえ!?な、なにを急にそんなっ!?」

 

「美鈴、落ち着きなさい。詭弁、貴方もからかわないの」

 

「本気なのに……。で、朝から二人とも何の用かな?朝食もまだなんだけど」

 

「そう、その『食事』に用があるのよ。ねぇ蓬莱山さん?」

 

「な、何よ……」

 

「貴方の作る『朝食』、私達にも食べさせてもらえるかしら?」

 

「はぁ?なんでそんなことしなきゃならないのよ。詭弁にご飯作るのと貴方達にご飯作るのじゃ意味が違ってくるでしょう?」

 

「『嫁入り修業』をしてるんでしょう?私も美鈴も、料理に関しては一家言有るのよ」

 

「そういえば宴会で出てくる料理はだいたい咲夜ちゃんが作ってるし、メイちゃんの中華料理は凄い美味しいよね」

 

「『食事』とは妖怪にとっては只の娯楽以上にはならない……ですが、()()()()()()()は違います。食べたものは消化吸収され、彼の血肉となるのです。味だけでなく、栄養を考えなければ詭弁さんは力を発揮出来なくなります」

 

 わお、そんなに思ってくれるなんて。これも愛だよ!

 ニコニコしながらメイちゃんを見ると、自分が言ってる事の意味に気が付いたのか赤面するメイちゃん。結婚しよ。

 

「とっ、とにかく!人間の詭弁さんに変なモノ食べさせて体調崩しでもしたらタダじゃ済みませんからね!!」

 

「……まあ、詭弁なら()()()()のモノじゃない限り女の子から出された料理は全部食べるでしょうね」

 

「流石咲夜ちゃん俺の事分かってるぅ」

 

「うるさい」

 

「なによ馬鹿にして!永琳だって私の作る料理を食べて褒めてくれたのよ!?」

 

「ええっ!?姫様料理作った事あるんですか!?」

 

「イナバまで!!あるに決まってるでしょ!!結構前の事だけど……

 

「まあまあ、そこまで言うのなら見せてもらおうじゃぁないか。月のお姫様の料理の腕を!あ、冷蔵庫に入ってる食材は好きに使っていいからね。どうせ今日買い物に行くつもりだったし」

 

「ふふん、見てなさい!美味しい朝食作って度肝を抜いてあげるわ!」

 

()()より()()を抜いてほし―――」

 

 次の瞬間、拳が頬に突き刺さりナイフが太ももに突き刺さり弾丸型の光弾が眉間に突き刺さる。

 

「去勢しないとダメかしらね」

 

「去勢しないとダメですね」

 

「去勢するならお師匠様も力を貸してくれると思います」

 

「去勢去勢ってお前ら人の股間事情なんだと思ってんだ!!!」

 

 一瞬で重症を負った俺は回復魔法を唱え続ける。ぴえん。

 

 

 そうして少し時間が経ち、輝夜ちゃんが『朝食』を持ってきた。

 

「『プレーンオムレツ』に『焼きベーコン』よ!」

 

「……普通ね」

 

「普通ですね」

 

「普通だねぇ」

 

「……あ、あはは」

 

()()って何よ!!?ちゃんと朝食らしいチョイスでしょうが!!」

 

「いやぁ、『月のお姫様』な訳だからなんかもっと凄いモン来るのかと思ってた」

 

「いい加減にしないと怒るわよ!?」

 

「んにぃ……まあいいや、とりあえず食べてみようか。頂きます」

 

 そうしてまずオムレツをぱくり。……うん。新鮮な卵の風味と香ばしい味があって美味しい。

 次にベーコンをぱくり。……うん。ガリッとした食感で中が若干トロォとしてて美味しい。

 

「…………あの、姫様。調味料って知ってます?」

 

「片やただ溶いた卵を焼いただけ。片や加工済みベーコンを焼いただけ。これでよく『料理が出来る』とほざけましたね」

 

「しかもオムレツは火力強すぎて焦げてますし、ベーコンに至っては中まで火は通っていない。なんなんですかコレ」

 

「思った以上の酷評!?き、詭弁!美味しいわよね!?永琳も絶賛してたもの!!美味しいに決まってるわよね!!」

 

「ん?んー……あのさ咲夜ちゃん、仮にこの料理を出したのがレミリア嬢だとしたらどう思う?」

 

「お嬢様だったら?お嬢様が料理なんてするかしら……?」

 

「いつも咲夜ちゃんが料理してるのを見て、『少しでも咲夜の負担を軽くしよう』という健気な気持ちを持って料理をするんだ。勿論初めは包丁すらたどたどしく持って、フライパンの使い方にも不慣れなレミリア嬢が一生懸命作ったオムレツと焼きベーコンだ。『咲夜、今日の朝食は私が作ったわ。何か感想を言いなさい』って感じで、無い胸を張りながら背中の羽をパタつかせて咲夜ちゃんの感想を待ってるんだ。なんて言う?」

 

「『美味しいに決まってるじゃないですか。お嬢様のお手製なんですから』……あぁ、そういう事ね」

 

「ちょっと!どういう事か説明しなさいよ!」

 

 あれもラブ、これもラブ。そして八意永琳からの魂のラブです。

 簡単に輝夜ちゃんに説明した。そして輝夜ちゃんは膝から崩れ落ちた。

 

「私の……勘違いだったってワケね……」

 

「んにぃ、まあ食べられないモノが混ざってる訳でも無し。『上手な料理』はこれから覚えていけば良いさ」

 

 そして輝夜ちゃんを包む生暖かい眼差し。咲夜ちゃん、メイちゃん!彼女に料理を教えてあげなさい!

 

「……はぁ、まあ良いか。蓬莱山さん、私が同じ材料を使って食事を作りますので、まずは見て覚えてください。『料理は知識』ですので」

 

「くっ、屈辱……あと『輝夜』で良いわよ」

 

 そう言いながらも素直に咲夜ちゃんについていく輝夜ちゃん。

 

「レーちゃんは良いの?」

 

「私は普段から永遠亭の食事係ですので……」

 

「ふーん……『料理は』?」

 

「『科学』です!」

 

「……メイちゃん、『料理は』?」

 

「『愛情』ですよ」

 

「Oh三者三様……」

 

 まあ、美味しければ何でもいいか。

 ちなみに俺の場合は『料理は思考時間と試行回数の掛け算』である。

 

 その後結局咲夜ちゃんが作った朝食、レーちゃんが作った朝食、メイちゃんが作った朝食を全て食べ比べした。……暫く卵はいいかな……。

 

「ぜ、全部食べたんですか……」

 

「んぃ。と言うか俺が普段食べてる量より少ない方だったし」

 

「ほぼ三人分でしたよね!!?朝から凄い食べるんですね……」

 

「そりゃぁ一日の元気は朝食にあり、だからな。輝夜ちゃんとレーちゃんの二人が来なかったら台所にある土鍋で朝食を作ってたところだぞ」

 

「朝から鍋っ!!?しかもあれ、かなり大きかったですよね!?」

 

「鍋は良いぞぉ。具材とダシを適当に変えるだけでバリエーション豊かだからなぁ」

 

「……一人暮らしが長くなるとどっかおかしくなるもんなのね」

 

 失礼な奴だ。

 そうして輝夜ちゃんは『料理を一から覚え直してくるわ』と言ってレーちゃんを引き連れて永遠亭に帰っていった。朝から騒がしかったなぁ。

 

「……ところで咲夜ちゃん、メイちゃん、二人は今日は暇なの?ならデートにでも……」

 

「残念ね、また紅魔館に戻らないといけないの。……美鈴、貴女も戻るのよ」

 

「うぅ……咲夜さんばかりデートしてる気がする……」

 

「貴女が詭弁とデートしたら()()()()()()()気がするからダメ。お嬢様のお言葉よ」

 

「ずるい……」

 

「んぅ……都合がつかないのなら仕方ない。じゃあメイちゃん、お昼過ぎに『試合デート』しようね!」

 

「……!はい!」

 

「それで良いの貴女……」

 

 そうして咲夜ちゃんとメイちゃんも紅魔館に帰っていった。騒がしかった朝は終わり、間もなく昼になる。

 

 ……さて、俺も買い物にいくかぁ。

 




霊夢ちゃん「料理は勘よ」
魔理沙「料理は試行錯誤だぜ」
アリスちゃん「料理は経験よ」
ゆかりん「料理は爆発よ☆」
藍ちゃん「紫様は台所に立たないでください……」


クズ「キュービィー!『三人』クッキングぅぅぅぅぅぅ!!!!」
ぐーや「……えっ?」
ウドンゲ「急に何か始まりましたね」
クズ「今日作るのはコレ!『豚と白菜のミルフィーユ鍋』!!!豚の旨味と白菜の旨味が鍋のダシと合わさり最強に美味い!おまけに食べやすい!」
ぐーや「テンションオカシイけど意外とマトモ……?」
クズ「早速鍋に水を入れていきましょう!中に醤油と味の素を適度に入れて―――」
《陰》「魔法を使って即沸騰させるッ!」
ウドンゲ「マトモかと思ったらこれだよ」
《陽》「そして騒霊特有の『ゴーストリック』で瞬時に豚バラと白菜をフュージョン!あっという間にミルフィーユ状に!」
ぐーや「中グッチャグチャじゃないの」
クズ「食えりゃ良いんだよ」
ぐーや「あっはい」
クズ「フュージョンした豚入り白菜を鍋に入れ、魔法でなんやかんやしてはい完成!ポン酢をつけて白米の上にワンバンして食べれば激うま!皆もやってみてくれよな!」
ウドンゲ「貴方しか出来ません」


前回メスガキ感満載の感想おねだりを行ったら凄い勢いで食いついてきて草。皆好きなんですねぇ。
と言う訳で今回も感想おねだりします!

感想書く人はかっこいいぞー♥がんばれがんばれー♥


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ヤる事やってれば大丈夫ですよ!輝夜ちゃん!

13連勤しながら更新は流石に無理だったよ……


 『嫁入り修業』生活三日目。今日は昼を過ぎたくらいに輝夜ちゃん達が家に訪れた。

 

「今日こそギャフンと言わせてあげるわ!」

 

「んぃ、なんか目的変わってないか?」

 

「変わってないわよ!」

 

 今日も今日とて嫁入り修業。早速今まで覚えた事を実践するスタイルらしい。

 

「まずは掃除よ!イナバ、あれ出しなさい!」

 

「は、はい!」

 

 そうしてレーちゃんが持っていた荷物から出したのは……一見するとただの扇子にしか見えない扇子だ。何コレ。

 

「これは月の最終兵器である、どんなものも素粒子レベルで浄化する風を起こす扇子―――」

 

「なんてモノ取り出してんの!?」

 

 月の技術力は幻想郷よりも遥かに進んでいるとは聞いていたが、まさかそんなモン平然と作りだす上にシレッと取り出すなんて……。

 

「話は最後まで聞きなさい。その扇子を元にして永琳が作った掃除用の扇子よコレは。コレを使えば……ほらこの通り。障子の埃やタンスの奥の埃。更に家具の隙間に住む嫌な虫だって一瞬で()()()()()出来るのよ?凄いでしょ?」

 

 輝夜ちゃんがその扇子を使って軽く風を起こすと、そよ風が吹いたと思ったら部屋に積もってた極僅かな埃が()()()()()()

 

「でもお高いんでしょう?」

 

「それが何と今なら『かぐや姫の難題』で有名な『龍の頸の玉』『仏の御石の鉢』『火鼠の皮衣』『燕の子安貝』『蓬莱の玉の枝』のどれかと交換する事が出来るわ!……って、そんな訳ないじゃない!」

 

「ひ、姫様がノリツッコミしてる……」

 

 まあ、とにかく凄い便利な珍品である事は理解した。理解したけど……

 

「それって要するに『その道具の力』なだけであって『輝夜ちゃんの嫁入り修業』とは関係ないんじゃ……」

 

「黙りなさい、次よ次!イナバ、あれを!」

 

「はい!」

 

 そうして取り出されたのは錠剤のような小さな黒い玉。

 

「これをこうして水に溶かすと……どんな汚れも一瞬で落とす事が出来るわ!」

 

 輝夜ちゃんが水を溜めた洗濯桶に黒い玉を入れると水に溶けていき、水は若干黒く変色した。その黒い水に手ぬぐいを入れると、輝夜ちゃんの言葉通りあっという間に手ぬぐいが真っ白になった。

 

「凄い!汚れて黒かった手ぬぐいが一瞬で綺麗に!」

 

「さらに何度も使える上に、醤油やワインを溢しちゃったようなシミも、泥汚れも、油汚れといったガンコな汚れも一瞬で浄化出来るわ!」

 

「本当に何でも綺麗になるんですね!」

 

「しかも!今なら一つ購入する毎にもう一個おまけでついてくる!」

 

「わあ、お得ですね!」

 

「さあ画面の前の皆!今すぐ画面下の電話番号に……って違ーう!!!」

 

 ノリノリで何言ってんだこいつ。

 

「うん、だから『道具の力』と『輝夜ちゃんの嫁入り修業』は関係ないよね?」

 

「道具を使いこなすのに技術がいるのよ!」

 

「その意見には同意するけど。で、その黒い玉を作ったのは?」

 

「……永琳よ」

 

「じゃぁ輝夜ちゃんじゃなくて八意永琳と結婚するってならないかな」

 

「だって掃除とか洗濯とかめんどくさいじゃない!」

 

「……おっ、そうだな」

 

 輝夜ちゃんの女子力が下がっていく……。

 

「この様子だと料理も……」

 

「あ、一応料理はちゃんとお師匠様と勉強しているんですよ?……一応」

 

「イナバ!『一応』ってどういう意味よ!」

 

 なんで料理だけはちゃんと勉強してるんだろうか。謎だ。

 

「ふん!どうせ私なんか凡百の一般人以下よ!月の姫(笑)よどうせ!」

 

「んぃ……どうしてこんな投げやりなのか」

 

「じ、実は今朝方、姫様の喧嘩相手である藤原さんに出会いまして……」

 

 

―――

―――――

 

 

「はっ!まだ無駄な『嫁入り修業』なんてやってんのか輝夜ァ!」

 

「あら、負け犬妹紅じゃないの。何?態々噛みつきにでも来たのかしら?」

 

「あぁ?ははっ、『知らない』ってのはオメデタイ事だな!()()()がどっちかも分からないなんて」

 

「……どういう意味よ」

 

「『お前程度』詭弁にとっちゃ()()()()()()()だって言ってんだよ!」

 

「はぁ!?誰が凡百の小娘よ!?私は()()かぐや姫よ!?」

 

「お前が()()姫だろうが『知名度』程度で目が眩む詭弁じゃねえよ。胸も無い、尻も無い、家事能力も無ければ料理の腕も無い。()()()()()()()()だけなお前が、どうやって詭弁を落とすって言うんだ?」

 

「な、何言ってるのかしら?既に詭弁は私の魅力にメロメロよ?」

 

「詭弁が()()()()()()()()()を無碍にする訳ないだろ?ぷぷっ、何勘違いしてるんだお前」

 

「っ……」

 

「詭弁に飽きられたら捨てられる立場なんだよお前は!お前が今までフった男達みたいにな!」

 

 

―――――

―――

 

 

「……と言う事がありまして……」

 

「それで荒れてるのか」

 

「どうせ私なんかカワイイだけのお姫様よ!美しいだけが取り柄のかぐや姫よ!」

 

「……なんか腹立つ」

 

「ま、まあまあ……何とかならないですかね……」

 

「うーん………………よし、輝夜ちゃんにしか出来ない事を探してみようか」

 

「姫様にしか出来ない事……ですか?」

 

「と言う事でレーちゃん!先ずは服を脱ごうか!」

 

「ハァ!?急に何言ってんですか!?」

 

「俺は至って真面目だぞ。ささ、服を脱いで脱いで」

 

「脱・ぎ・ま・せ・ん!!!」

 

「このまま輝夜ちゃんが荒れたままで良いって言うのか!」

 

「それとこれとは関係ないでしょう!!!」

 

「脱いでみるまで関係あるかどうか分からないじゃないか!さあ脱いで!はよ!はよ!」

 

「ぐっ……!(姫様をこのまま放置する訳にも……いや、だからって服を脱ぐ必要なんて……何か企んでいる……?)……あーもー!上だけですよ!!」

 

「やったぜ」

 

 そうしてレーちゃんは上着を脱ぎ、白いタンクトップ姿になった。はー健康的エロス。ヘソが見えててスケベやん。

 

「こ、これ以上は脱ぎませんからね!!」

 

 そう言って腕を使い、タンクトップを押し上げているウサギ乳を隠す。隠して出るエロス。

 

「よし。じゃあベッドインしようか!」

 

「しません!」

 

「なんで!?輝夜ちゃんにしか出来ない事を探す為に必要なんだから!ささ、早く寝室に―――」

 

「行く訳無いでしょ!!」

 

 レーちゃんの目が赤く光る。すると頭を殴られたかのような衝撃が走り、視界がぐらぐら揺れた。

 

「う、ぐぐ……回復術(ヒール)。うぇっぷ、気持ち悪ぃ……」

 

「嘘!?耐えた!!?」

 

「ぐぬぬ……まあ、良い。さ、次は輝夜ちゃんだ……ええいしゃらくさい!脱がせるより脱がした方が早いな!!!」

 

「きゃっ!?ちょ、何するのよいきなり!!?止めっ!?」

 

「ちょぉ!!?詭弁!止めなさい!!撃つわよ!!?」

 

「撃たれた程度で俺の情熱は止まらねえ!!!」

 

「ちょっとイナバ!!貴方詭弁に変なことしたでしょ!!!?」

 

「いやしましたけども!?くっ、コレが詭弁の()()だって言うの!?いつも通りじゃない!!!」

 

 そうして輝夜ちゃんの服を脱がし、下着だけの姿に変えた。ブラとパンツが大変えっち。

 

「ま、また脱がされた……」

 

「くぅ、何をするつもりよ……!」

 

「『何をするつもり』!?決まってるだろう!家事がダメ、料理もダメ、なら残った『嫁入り修業』は一つしかない!!!お待ちかねの『夜の技術』ッッッ!!!」

 

 人間ってのは単純なモノで、『金目当て』『身体目当て』の好意と言うように、己の欲望に対してなら多少の不合理すら無視できるのだ。そして男というのはセックスする事以外考えていないので、例えお嫁さんがグーたらで家事はやらない飯は作らない、でも身体はエッチで夜は充実している。だとしても許しちゃうくらい単純でチンチンでしかモノを考えていないので、『夜の技術』さえ覚えていれば後はどうでも良いのだ!

 

「単に詭弁さんがヤりたいだけじゃないですかっ!!!?」

 

「なにを言うかッ!!!俺は輝夜ちゃんの『嫁入り修業』を手伝う為に()()()()()いるだけだ!!!『産めよ増やせよ地に満ちよ』が生物の本能であるのだから、『夜の技術』を鍛える事は即ち生物の繁殖欲求に則っているのだから非常に合理的ッ!大丈夫!俺も初めてだけどめっちゃ勉強してるから!」

 

「ひぃ、姫様っ!もう嫁入り修業なんて止めて永遠亭に帰りましょう!このままでは詭弁さんに()()()()ちゃいますっ!」

 

「……ふ、上等よ」

 

「姫様っ!!?正気(バカ)ですか!?」

 

「イナバ、貴方が私の事をどう思っているのかよぉーく分かったわ。元々詭弁を()()()為には避けては通れない道なのよ!」

 

「いや、ですが……っ……あーもう!やりますよやればいいんでしょう!!姫様置いて私だけ逃げたなんて師匠にバレたらオシオキどころじゃ済まないわ!」

 

「ふ、良い覚悟だ。俺の詭弁山も張り切っているぞ!さあ、楽しい楽しい『お勉強会』の時間だ!!」

 

「行くわよイナバ!」

 

「ちくしょーやってやりますよぉ―!!!」

 

 と言う訳で俺の新しい『秘蔵本』を一緒に読みながら勉強する事になった。

 え?実践?何言ってんだ?いきなり実践して、失敗でもしちゃったら輝夜ちゃんが立ち直れなくなるかもじゃないか。

 

 以下読書中の様子!!!

 

 

「……うわ」

 

「ひゃぁ……」

 

「……えっ、そんな所舐めるの!?」

 

「わ、わ、わ……」

 

「……不味そうね」

 

「で、でも嬉しそうです……」

 

「えっ、ソコ触るのっ……!?」

 

「月じゃ考えられないですね……」

 

「う、嘘……あんなに……」

 

「絶対入らないですって……絶対無理ですって……」

 

「……っ!」

 

「……うぁ、うわぁ……凄い……」

 

 

 ただの読書した感想だから何も卑猥な事は無いな!!!!

 

「さて、事前の勉強はここまでだ。次は……演習の時間だ!!!」

 

「……良いわ、やってやろうじゃないの!」

 

「っ……待ってくださいっ!」

 

「んぃ、どうした?」

 

「……さ、最初は……私からっ……私から、やります」

 

「イナバ……」

 

「ひ、姫様は見ていてください」

 

「良い心意気だ。さあこっちにおいでレーちゃん」

 

 そうしてレーちゃんが布団の上にすり寄ってくる。ガチガチに緊張しているのが良く分かる。

 

「ふ、ふ、ふちゅ、ふちゅちゅきゃものでしゅぎゃよりょしゅくおにゃぎゃいしましゅ!」

 

「落ち着け」

 

 レーちゃんが三つ指ついて頭を下げるが、何を言ってるのかがまるで分からない。

 緊張し過ぎて震えだしているレーちゃんの頭を軽く撫でて落ち着かせる。

 

「例え間違えても、失敗しても、幻想郷じゃ『もう一回』が許されるんだ。大丈夫、大丈夫。さぁ、顔を上げて?」

 

 恐る恐ると言った感じで顔を上げるレーちゃんの手を取り、優しく揉むように緊張を取り除いていく。

 

「レーちゃんはいつもよく頑張っているね。心の奥では臆病なのに、勇気を振り絞って外に向き合っているんだ。凄い偉いよ」

 

「詭弁……さん……」

 

「今だって怖いのに、主人の前に出て守ろうとしてるんだ。そういう所をちゃんと見てくれてる人は居るよ。よく、頑張ったね」

 

「っ……」

 

「……今の鈴仙は、凄い可愛いよ……」

 

 ちゅっ

 鈴仙の頬に軽く口づけを落とす。

 

「っ!!?……ぁ」

 

 ポンッ!と大きな音を立てて鈴仙が大きくのけぞって気絶した。

 

「……イナバには刺激が強すぎたのね」

 

「んぅ……惜しい、もう少しだったのに……」

 

「……ふん、まあいいわ。イナバが気絶しちゃったし……つ、次は私よ……」

 

 レーちゃんを布団に寝かせて、今度は輝夜ちゃんと向き合う。

 

「さあ、何処からでもかかってきなさい!」

 

「輝夜ちゃんは今何か致命的な勘違いをしている気がする」

 

 両手を広げた魔王のポーズ(天地魔闘の構え)で俺を待ち構える輝夜ちゃん。お前そういう所やぞ……。

 

「と言う訳でまずは『色気』の勉強からだ!」

 

 というか()してる時は色気出てるんだからその調子のままいればいいのに……。

 

「露出が増えるとダメなのよ……」

 

「まさかの色気と露出の反比例!?」

 

 なるほど、思い出せばかぐや姫のポンコツっぷりは服の露出が多ければ発揮されていたような……と思ったが別にそんな事は無かったぜ。

 

「いいか、色気とは極論『恥じらい』だ。()()()()()に男は惹かれる」

 

「そ、そんな事くらい百も承知よ。伊達に『かぐや姫』やってないわ」

 

「『閨』でも一緒だ。小さな仕草で『恥じらい』を演出する」

 

 輝夜ちゃんの後ろに回り込み、そのまま抱きしめる。俺の身体に輝夜ちゃんの小さな身体がすっぽりと収まった。

 

「ぁ……ちょ、ちょっと……」

 

 プチッ

 

「ほら、こうしてブラのホックを外された時には形だけでも抵抗すると情欲の炎が更に燃え上がる訳だ」

 

「いやいつの間に!?ブラのホックってそんな簡単に取れるモノじゃないわよ!?ましてや普段使わない様な男が!」

 

 そんなん『ブラを取りたい』という無意識レベルの欲求が俺にブラの構造を教えてくれただけに過ぎない。

 

「ほらほら、完全に隠すんじゃなくて隠す()()程度に収めておくのが恥じらいだよ」

 

「単に貴方が見たいだけじゃないの!!ちょ、やぁ……っ!ち、近いのよっ!」

 

「ふふふ、まだ皮膚が触れ合ってる程度じゃないか。これから皮膚と言わず()()()()が触れ合うレベルで近づくんだからさ。良いではないか良いではないか」

 

「んっ……やめ……ぁ……」

 

 後ろから輝夜ちゃんに抱き着きながら、そのすべすべの肌に手を滑らす。

 

「ほら、力を抜いて……初めてだけど、なるべく優しくするからさ」

 

「あっ…………痛くしないで……ね……?」

 

 あー、それだよそれ。やればできんじゃーん。パンツ吹き飛びました。

 

 

 いただきます。

 

 

夢想天生

 

「天網蜘網捕蝶の法」

 

 

「ぐわぁー!!?」

 

「きゃぁっ!?え、永琳!!?」

 

「嫌な予感がしたと思えば……真っ昼間からナニをしてるんですか姫様?」

 

「随分()()()()()()してるじゃない詭弁。私も混ぜなさいよ」

 

「ヒェッ……霊夢ちゃん……」

 

 すげぇー。顔に青筋を立てるなんてモンじゃないレベルの怒り顔霊夢ちゃん。これは大妖怪ですら裸足で逃げ出しますわははは……。

 

 

「 ゆ る し て 」

 

「 ゆ る さ な い 」

 

 

『無想天生(拳)』

 

 

 極光が俺を包んだと思ったら、俺は気が付けば空を飛んでいた。

 いや、飛んでいるというよりこれは……()()()()()。俺は今空を落ちている。重力ではない力に引かれる様に落ちている。雲を突き抜けて、山を越え、空を超え、天界を見下ろし、尚宙に飛んで(落ちて)いく。そしてついに博麗大結界を突き破り、宇宙空間にまで落ちていった。

 

 

 その後詭弁の行方を知る者は居ない。

 

 

「……姫様、帰りますよ」

 

「あ、はい」

 

 そうしてかぐや姫の嫁入り騒動は幕を閉じ、かぐや姫は再び竹林に閉じこもったのだった。

 なお気まぐれに時折里に顔を出しに来るもよう。

 




―???―

「うぐぐ……こ、ここは……?」
「うわぁ……半裸の男……こ、ここは竜宮城よ。貴方は誰かしら?」
「俺の名前は詭弁答弁。桃のお姫様、貴方のお名前をお聞かせ願えないでしょうか」
「お、お姫様……ん”んっ!わ、私の名前は綿月豊姫、そんなに畏まらなくても良いわよ?」
「おう、ヨロシクとよひー」
「とよひー!!?」

 何だかんだあって無事幻想郷に帰還できた詭弁であった。


ぐーやとうどんげは詭弁の顔を直視できないようになりましたとさ。
めでたしめでたし!!!!!!!


簡素な感想を歓送!


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秋ですよー!

次は花映塚。舞台は春か……春!?先は長い……


 天高く馬肥ゆる秋。

 普段から馬車馬のごとく働く俺は成長期なので、身体の成長と日々の活動に食べた分のカロリーを全て消費するために太るなんて事はない。イケメンな俺は体型も常にイケメンなのだ。パーフェクトボディー!

 そんな感じで一部の人間達を敵に回しつつ、ここのところは秋の収穫祭に向けての準備を手伝っている。

 

 博麗神社がここ最近の妖怪達の溜まり場なら、人里の俺の家はここ最近の変人達の溜まり場と化していた。

 輝夜ちゃんの嫁入り修業騒動が終わっても、巫女や魔女、メイド、半人半霊、蓬莱人、ウサギと割と節操のないメンツである。

 

「里の人間達はずいぶん忙しそうね」

 

「そりゃぁ収穫祭もすぐそこまで近づいてるしな」

 

「収穫祭ですか。そういえば今まで一度も人里の収穫祭に参加したことはないなぁ」

 

「おっ、妖夢ちゃん収穫祭に参加する?」

 

「あー、収穫祭に参加するのはやめとけ妖夢。酷い目を見るぜ?」

 

「酷い目って……そんな、お祭りに参加するだけじゃないですか……」

 

「おうそうだぞ。祭りに参加するだけなんだからここにいる皆も一緒に行こう!なっ!」

 

「あら、面白そうね」

 

「姫様ぁ……何か嫌な予感がするから止めておきましょうよ……」

 

「なんで?美味しい料理、楽しい屋台、その他諸々の出し物!時間を忘れるくらいに超楽しいぞ!」

 

「その代わり褌一つで参加するんだろ?」

 

 魔理沙の一言で若干前のめり姿勢だった妖夢ちゃんと輝夜ちゃん二人が元に戻る。

 

「「詭弁(さん)……」」

 

「褌一つの何が悪い!伝統ある祭り衣装なんだぞ!?」

 

「去年から突如始まったと聞いているけど」

 

 咲夜ちゃんの一言で全員の視線が刺さる。お、俺は悪くねぇ!そりゃぁその時の勢いで祭りの衣装を褌一つに統一しちゃったのは俺の一言だけど!

 

「詭弁さんのせいじゃないですか!」

 

「最終的に決定権持つのは里の『長者会』だし!」

 

 長者会とは人里の長を筆頭に名家の大黒柱達が集って様々な里のルールを作る会の事だ。勿論俺も実力ある人間として末席に就いている。

 やってることはゴミ捨てのルールとか決める位だけどな!

 

「ともかく冗談半分で起案したらなんか通っちゃった……」

 

「やっぱり詭弁さんのせいじゃないですか!」

 

「んぃ……で、でも参加した子供達や男衆には評判は良かったぞ!」

 

「その代わり女の子の参加者が一人も居ないから差し引いてマイナスだったんでしょ」

 

「慧音先生は参加しても良いだろ!長者会で決まったんだから!!!」

 

 勿論慧音先生も『長者会』の一席に就いている。まあ収穫祭の祭り衣装の投票では普通に反対派だったのだが。

 

「……誰が参加するのよそんな祭りに」

 

「えっ?そりゃ勿論主賓の『秋姉妹』とか……」

 

「罰当たりが過ぎる」

 

 ちゃんと説得してから褌一丁にさせたからセーフ。静葉様はまあともかく、穣子様は大変眼福でした……。『不幸だー!』とか言ってた気もするがまぁ気にしない。

 なお流石に褌一つで上丸出しは問題だらけだったので、祭の本番では二柱とも上に普通の法被を羽織ってもらった。

 

「まぁ、冗談は置いといて……。今年の祭り衣装は()()露出は多いけど『褌一つ』よりか何億倍もマシだから!」

 

 そう言って祭り衣装の原案が書かれた紙を見せる。下は褌だが、上にはサラシと法被を重ねた至極マトモなモノだ。法被は白を基調として紅葉を散りばめたようなオシャレなもの。これなら皆着てくれるに違いない!

 

「褌の代わりにスパッツや短パンもあるし、慧音先生も『まあこれなら……』って賛成してくれた奴だからジッサイアンゼン!」

 

「ふぅん……まあ、普通……ね」

 

「うーん……何か裏があるような……」

 

「だから大丈夫だって!ちゃんと呉服屋で素材から厳選した良い布使ってるんだから肌触りも抜群!祭りの雰囲気爆上げ!皆コレ着て収穫祭盛り上げようぜ~」

 

「……まあ、お祭りに参加すること自体は吝かではないのですが……」

 

「良いんじゃないの?永琳も呼ぼうかしら……」

 

「勿論何人で来ても良いよー!里中央の呉服屋で配ってるから適当なサイズ見繕って持っていってね!」

 

「……実物あるの?」

 

「勿論。収穫祭までもう時間もないしな」

 

「……ねえ詭弁、それなら貴方用のは既に持っているんでしょう?ちょっと見せなさいよ」

 

「むむ……疑り深いなぁ霊夢ちゃんは……」

 

「当たり前でしょ?アンタが原案って時点でもう()()()()()じゃないの」

 

「……俺だってちゃんと真面目に働く時だってあるんだからさぁ……」

 

 そう文句を言いながらも俺用の祭り衣装を持ってくる。ついでに着替えてきた。

 

「ほら!普通にオシャレでしょ!?」

 

「ま、まあ普通ね」

 

「(詭弁さんの腹筋ッッッ……!)」

 

「(うぅ……この前の事が頭によぎる……)」

 

 従者三人組の熱視線が突き刺さる。良いぞ。

 

「まあ、中々似合ってるんじゃないか?」

 

「そうねぇ、良いんじゃないのかしら?白が多いのがちょっと気になるけど……」

 

 魔理沙と輝夜ちゃんは簡単に評価する。よしよし好印象。

 

「皆もコレ着て収穫祭に参加しようぜ!」

 

「……詭弁、ちょっと良いかしら?」

 

「んにぃ?どうしたん霊夢ちゃん」

 

 霊夢ちゃんは一言そう言って立ち上がり、台所から水を持って来て俺にぶっ掛けようと―――

 

「待て待て待て!?な、な、なにすんの!!?」

 

「いいから黙って水掛かってなさい」

 

「いきなり水掛けてこないで!?えっ!?なんで!?ちょ、止めい!」

 

「魔理沙、咲夜、詭弁押さえてなさい」

 

「え、お、おう……分かったぜ……」

 

「どうしたのよ突然……」

 

「待って!ちょ、霊夢ちゃんストップ!!!きゃー!」

 

 そうして霊夢ちゃんに水をぶっかけられ、水も滴る良い男。いやん。

 

「……えっ、透け……?」

 

「……やっぱりそんな事だろうと思ったわ。『白』が多いから変だと思ったのよ」

 

 そう!何を隠そうこの法被の生地とサラシは呉服屋と共に製作した『水が掛かると魔法のようにスケスケになる白い布』なのだ!収穫祭でテンション上がった女の子達から滴る汗によってどんどん透けていき、気が付けば大事な所が丸見えッ!!!という算段っ!俺ってば天才ねっ!!!

 

「まあバレたんだけどねっ!!?」

 

 この場から逃げ出そうと部屋から飛び出した……瞬間、俺は全身を縄で縛られて部屋の中央に転がされていた。

 

「すとっぷうぉっちゃー……でしたっけ?アレが無いと『時間停止』に抗えないみたいね」

 

「ひぃん。着替えてきたのが裏目に……」

 

「ちなみになんですが詭弁さんの褌は透けないんですか?」

 

「ヤダ妖夢ちゃんむっつりスケベ……」

 

「あっ、なっ!?違っ!!?」

 

「『褌』は普通の布だから透けないよっ!ただしスパッツと短パンは透けるんだ!やったぜ!!」

 

有罪(ギルティ)

 

有罪(ギルティ)ね」

 

有罪(ギルティ)だわ」

 

有罪(ギルティ)だぜ」

 

有罪(ギルティ)よ」

 

「話せば分かる」

 

「問答無用!」夢想封印(連撃)

 

 

 

 こうして収穫祭の衣装は()()()()()法被だけとなった。

 そしてスケスケ法被の主犯格である俺と呉服屋は、慧音先生によって二人揃って逆吊りの刑に処されていた。

 

「くぅ……オレ考案の『弾ける汗でスケスケ』計画が……」

 

「……まあ、逆に考えてオッサンのスケスケ姿を見る事にならなくて良かったと思うか」

 

「それな。……で、詭弁。オレ達はいつまで里のど真ん中で逆吊りにされてればいいんだ?」

 

「収穫祭が終わるまで……で、済めば良いなぁ」

 

「安心しろお前達。収穫祭が終われば私直々に()()()()()だ」

 

「許してください慧音先生……オレはこの馬鹿と違って普通の人間なんです……」

 

「すみません慧音先生。先日頭に受けた傷が開きそうなので、俺の代わりにこの馬鹿が二倍受けるそうです」

 

「おい詭弁、お前は逸般人なんだからむしろオレの代わりに頭突きを二倍受けろよ」

 

「何言ってんだお前その空っぽの脳味噌がクッションになるんだから痛くないだろお前が二倍受けろ」

 

「はっはっはなんて美しい友情だろうなぁ、先生感動したよ。よしそれぞれ合わせて四倍頭突きしてやる。泣いて喜べ」

 

「慧音先生の御慈悲に思わず感涙だよ……」

 

「明日の朝日を拝めればいいなぁ……」

 

 

 そうして収穫祭の終わりに里全体に鈍い大きな音が何度か鳴り響いたのは、また別のお話……じゃ、ないか。

 




唐突なオリキャラ!!!
ま、詭弁が女の子しか友達が居ないというのも変な話ですし。

・五福 助兵衛
詭弁の男友達。霊夢に対する魔理沙みたいなポジ。なお今後登場するかは未定。
詭弁に負けず劣らずスケベ。

今後登場する予定が未定なので全然設定が決まってないというある意味最強に便利なキャラ(白目)
きっと次に登場する時は新たな設定を持ってくるんだろうなー。
設定に矛盾があれば最新話に準拠という原作リスペクト。



霊夢「……ところで、去年の祭り衣装は褌一つって言ったわよね。詭弁も着けてたの?」
クズ「んぃ、勿論。発案者の俺が着ない訳にもいかないだろ?だから祭りの間はずっと褌一つだけだったぞ」
霊夢「ふーん…」


文「あややー!清く正しい文々。新聞のお届けですよー!」
霊夢「ちょうど良いわ。文、去年のバックナンバーってある?」
文「え?無いことは無いですけど……」
霊夢「なら一部寄越しなさい」
文「はぁ……」
咲夜「私も一部」
アリス「私も」
妖夢「あ、じゃあ私も……」
輝夜「ウチにも寄越しなさい」


クズ「んにぃ……急に奢るとかどういう風の吹きまわしだよ?」
文「まあまあ硬い事言わずに!ちょっとしたお礼ですよ♪まあその代わりと言ってはなんですが、暫くの間密着取材おば……」
クズ「んぃ。別に構わねえけど……」
文「ありがとうございます!(ぐふふ……詭弁さんのセクシーショットを撮って大儲け……)」
クズ「???」

文々。新聞の明日はどっちだ!


乾燥わかめって美味しいですよね。私アレ生で食べるのが好きなんですよ。
……ん?


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冬場ですよ!

まずい!近年希に見るスランプだ!何一つ手が進まない!ねむゅいぜ……


 収穫祭も過ぎ、季節はあっという間に巡って冬。雪女も元気を取り戻して大暴れし、調子にのりすぎて霊夢ちゃんにしばかれていた今日この頃。

 

「どうしたのかしら?身体が鈍ってるんじゃないの?」

 

「ぐぃぃ……っ!そういう幽香ちゃんは今日もノビノビしてる……なぁっ!」

 

 寒い寒い低気圧に包まれた、熱い戦場。拳と傘、脚と棒が激突し、熱気に包まれた舞台を火花で彩る。

 命を懸けた()()()は、今日も幽香ちゃんが優勢に進んでいた。

 幽香ちゃんの傘による一閃が俺の身体を切り裂く……ように見せ掛けて、影分身で受ける。そしてその一閃をやり過ごした隙を突こうと……

 

「もう見飽きたわ」

 

 陽輝棒の突きを傘の持ち手で受け止められる。だが止められたなら、次の一手を間髪入れず打つのみ!

 

「『衝破術(ボンバー)』!!」

 

「っ!?小癪な……っ!」

 

 陽輝棒の先に集めた霊力を炸裂させ、幽香ちゃんの不意を突く。僅かに体勢を崩した幽香ちゃんに追い打ちを掛けるように魔法で追撃をする。

 

「『氷結弾(アイスバレット)』!『氷結枝(アイスブランチ)』!」

 

 氷の弾丸を放ち、地面から氷の棘を伸ばす。どちらも当たればその部位が一時的に凍り付いてしまう程の冷気を持っていた。

 当然当たれば大きな隙を晒してしまうから幽香ちゃんは避けざるを得ない。万全の体勢なら持っている傘で力いっぱい薙ぎ払えば打ち消す事が出来るだろうが、今それを行えば俺に更に追撃を許してしまうという事は分かっていた。故に幽香ちゃんは回避を選択……

 

「詰めが甘いわよ!」

 

 回避を選択せず、持っている傘で氷の魔法を落としながら猛攻を仕掛けてきた。

 予想を裏切られ、逆に猛攻を受ける立場となった俺は陽輝棒や妖精手甲を使ってギリギリ防いでいく。冷汗が額に流れる。

 氷の弾幕が幽香ちゃんに掠ってその身の一部を凍らせるが、全く意に介さずに攻撃を続ける。バーサーカーかな?

 

「はあっ!!」

 

「っ!?ヤベ……」

 

 幽香ちゃんの傘の一撃によって陽輝棒が手元からすっぽ抜けて何処かに飛んで行く。その行く末を一瞬視線で追った僅かな隙を突かれ、幽香ちゃんの拳が顔面に迫る。

 妖精手甲で顔を防ぐが、ガードごと殴り飛ばされた。

 

「この程度かしら?」

 

「んぎ……まだ、まだぁ!」

 

 鼻から血が流れるが、大きな問題じゃない。回転しながら飛んで行く陽輝棒に魔法の糸を飛ばし、引き寄せる。

 

「『回天(かいてん)』」

 

 陽輝棒の両端に陽の気と陰の気を集め、陽輝棒をグルグル回す。白と黒の弾幕が大量に放たれ、辺りをゆっくり漂い埋め尽くす。

 

「今度は弾幕遊びかしら?いいわ、付き合ってあげる」

 

 幽香ちゃんも同じように大量の弾幕を放ってくるが、俺の狙いはただの弾幕勝負じゃない。黒い弾幕全てが一瞬で俺の姿を形取り、その手に持っている黒い陽輝棒のレプリカを幽香ちゃんに向かって一斉に振り下ろす。

 

「っ!?」

 

 突如姿を変えた弾幕に対処するように傘を広げて、黒い一撃を防ぐ幽香ちゃん。だが、攻撃はまだ続く。白い弾幕が黒に染まり、黒い弾幕は漂白される。

 今度は黒くなった弾幕が一瞬で俺の姿を形取り、幽香ちゃんに向かって攻撃する。

 

「くっ、なるほどね……パターンは掴めたわ」

 

 白と黒とが入れ替わり立ち代わり、幽香ちゃんを削るように攻め続ける。

 幽香ちゃんは鬱陶しいと言わんばかりに傘の先から極太の光線を薙ぎ払うように放つ。

 それを飛び越えるように回避し、本体の俺が陽輝棒を振りかざして幽香ちゃんに攻め入る。

 

「でやあああ!!!」

 

 跳んで大上段から頭をカチ割らんと振り下ろす陽輝棒は、幽香ちゃんが両手に構えた傘でもって受け止められた。

 

「それで終わりかしら?」

 

「っ!今だ!!」

 

「『翔霊拳(しょうれいけん)』!」

 

「なっ……グッ!!?」

 

 突如幽香ちゃんの足元から生えるように飛び出したのは《陽》。俺の攻撃を防ぐために両手が塞がっていた幽香ちゃんは真っすぐ顎を狙って伸びる右腕の一撃を防ぐことも回避する事も出来なかった。

 《陽》の一撃は幽香ちゃんの身体を浮かす程に強烈な威力を持っていた。浮いた身体に対し更に追い打ちをかける。

 

「『雷轟瞬閃(サンダーブレイク)』!!」

 

 雷のエレメンタルを使い、幽香ちゃんに雷速の連撃を仕掛ける。ズガガガガガッ!!!と擬音が響き渡るくらいに早く、(はや)く。

 最後の一撃を入れて幽香ちゃんを突き飛ばした瞬間、雷轟瞬閃(サンダーブレイク)の効果時間が切れる。

 

「はあっ……はぁっ……はぁ~……」

 

 呼吸を整えている間に、吹き飛んだ幽香ちゃんが歩いて戻ってくる。その顔には赤い血が流れていた。

 

「……ふふっ。人間相手に血を流したのは何時以来かしら?成長したわね、詭弁」

 

 清々しいまでの笑顔を浮かべる幽香ちゃん。間違いなく、今ので幽香ちゃんの中の()()のスイッチが入った。

 瞬間、残像が見える程に速く幽香ちゃんが踏み込んできた。真っすぐ、真っすぐ突き進んで、真っすぐ右の拳を突き出してくる。

 ただそれだけで音を置き去りにした。

 

 パァン!!!

 

 辛うじて腕を犠牲にしてその拳を受けたが、止める事は叶わず。左腕が妖精手甲越しに粉々になる感覚が頭に走りながら雪原に身を沈める。

 

「もっと、もっと強くなりなさい。妖よりも強く。神よりも強く。そして、私よりも強くなりなさい……」

 

 俺の視界には曇天の空しか映らないが、幽香ちゃんの気配が離れていくのを感じ取れた。どうやら今日は一戦だけで満足したようだ。

 

 

「あやや、今日もまた手酷い怪我をしてますねぇ」

 

 

「……文ちゃん、か」

 

 意識が薄れかけた中で話しかけてきたのは、里に最も近い天狗の射命丸文。首からカメラを提げて俺を見下ろしていた。

 

「ほらほら、そんな所で寝ていると風邪をひきますよ……いや、よく考えたら詭弁さんは風邪をひきそうにないですね」

 

「どういう意味かなぁ?」

 

 それは言外に俺の事馬鹿にしてるのか?ん?パンツ覗くぞ?

 

「まあまあ。しかし風見幽香相手にして五体満足で居られるなんて、大したものと褒めるべきか呆れるべきか……」

 

「ふん。何時になるかわかんないけど、あの幽香ちゃんを倒せる程に強くならなきゃなんないんでね」

 

「いやいや……()()風見幽香に血を流させる人間が過去合わせてどれだけ居たと思ってるのよ……何故貴方はそこまで強さに拘るんですか?」

 

「んなもん決まってるだろ。強い方がモテるからッ!!!」

 

「あっ、真面目に聞いた私が馬鹿でした」

 

「ははは文ちゃんはバカだなぁ!」

 

「 キ レ そ う 」

 

「冗談だよ、冗談。……男なら、強くなくちゃ意味が無い。誰にも負けないように。それに俺が求める強さは、理想は、もっともっと高い位置にあるから」

 

「……そう、ですか……。ハァ、その為に死んだら何の意味も無いでしょうに……

 

 粉々になった腕に回復魔法を掛ける。ジンジンと走っていた激痛が薄れていき、一息つく。

 

「……もっと、もっと強くならねえとなぁ」

 

「それ以上強くなってどうするというのよ?既に貴方は人間という枠組みを超えかけてるほどに強いわ。それ以上強くなるというのなら、それこそ人間を辞めなきゃ……」

 

「―――なるほど、その手があったか」

 

「……いや、え?」

 

「ありがとう文ちゃん。俺はもっと強くなれる」

 

「いや、ちょ……」

 

 人間であるから弱いままだというのなら、俺は人間を()()()必要がある。なら……俺は人間を超える。それこそ、あらゆる手を使ってでも……!

 

「さあ、なら急がなきゃな。時間は有限……世界は待ってはくれないのだから」

 

「あっ、詭弁さん……!?」

 

 いつまでも寝っ転がってられは居られない。俺は立ち上がり、一度自分の家へと帰っていった。

 

 

「……これ、もし詭弁さんが妖怪にでも堕ちてしまったら……私、霊夢さんに退治されやしないですかね……」

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

ー紅魔館 門前ー

 

 

「『詭弁答弁超人化計画』ーッ!!!!」

 

「……えっ」

 

「説明しよう!『詭弁答弁超人化計画』とは、俺を人並み外れた強さにする為に立ち上がった一大プロジェクトである!!」

 

「はぁ……」

 

「『はぁ……』じゃないぞメイちゃん!この計画で必要なのは()()()()からの改造!つまりメイちゃんの『気を使う程度の能力』が必須なんだよ!!」

 

「えぇ……いや、必要としてくれるのは嬉しいですけど……なんです?『超人化計画』って……」

 

「その名の通り()()()()()()事を最終目標にした計画だ!」

 

 謎のテンションでもって紅魔館に向かって突撃した俺は、立ちながら器用に昼寝をしていたメイちゃんのおっぱいへと即座に目標を変更。メイちゃんの意識が覚醒するまで存分におっぱいを揉んで、意識が覚醒したらなに食わぬ顔でメイちゃんに話し掛けていた。

 つい先ほどまで寝ていたからか若干おねむな感じのメイちゃんも可愛いなぁ。

 

「えーと……つまり詭弁さんは『俺は人間を止めるぞー!』ということですか?」

 

「どっちかといえば新人類になる方かな!ついさっきまで幽香ちゃんと戦ってたけど、技術(スキル)じゃなくて肉体(スペック)差で圧倒されたんだ」

 

「……それは仕方のない事では?風見幽香は妖怪で、詭弁さんは人間なんですから」

 

「勿論そうだ。だけど、()()()()と諦める訳にもいかない。付け焼刃の技術()()じゃ幽香ちゃんと同じ土俵に立つ事も難しい。かと言って『技』をじっくり鍛えている()()じゃ何時幽香ちゃんに勝てるか分かったもんじゃない。時間は有限なんだ、強くなる()()は幾つも同時進行出来るに越したことはないだろ?」

 

 強くなることが()()じゃない。だが、俺の()()の為には強くならざるを得ないのだ。しかもなるべく早いうちに。

 

「だからメイちゃんには力を貸してほしいんだ!」

 

「……もちろん!私に出来ることなら何でもしますよ!」

 

「ん?今何でもするって言った!?じゃ俺とセッーー」

 

「嘘です!何でもはしません!!」

 

「ちっ」

 

 

 閑話休題

 

 

「それで超人化?でしたっけ……どのようにして超人になるのでしょうか」

 

「んにぃ、メイちゃんは『指一本だけで大岩を砕く達人』って知ってる?」

 

「指一本……あぁ、昔にそんな人間が居たような……」

 

「まあ俺も武器や魔法を使えば岩を砕く事は出来るんだけど、『指一本』という所がミソでね。その達人の身体は少なくとも()()()()()()()()()()()んじゃないかと」

 

「ははぁ、話が読めてきました。つまり詭弁さんは、自身の身体を岩以上に硬くすることは出来ないかと考えているわけですね?」

 

「んぃ。肉体の強度が上がれば、当然防御も攻撃も強くなる。そして()()()()()()といえば、()の力だろう?筋繊維一本、血液一滴、細胞の一片に至るまで()で強化出来れば、『超人』に一歩近づけると思うんだ」

 

「うーん……理論的にはそうなんですが……それを実現するのは非常に難しいと思います」

 

「まあ、モノは試し。俺が全力で気を練り上げるから、メイちゃんはその気を使って全身に染み渡るように操作してみてくれないか?継続は力。全身に気が染み渡れば強くなる……気がする」

 

「分かりました。……ですが、肉体を強化するために毎回私が気を操作するのも非効率な気が……」

 

「そこは大丈夫だ。一度コツさえ掴んじまえば、俺一人で家とかで練習するさ」

 

「……うーん(気の操作なんて、しかも全身に気を染み渡らせる操作なんて一朝一夕で出来るようなモノでもないんですけど……詭弁さんも大概才人気質ですよね……)」

 

「……よし、じゃあ行くぞメイちゃん!」

 

「はい!」

 

 全身の力を抜いて、深く呼吸をする。肺を限界いっぱいまで広げて()を練り上げる。

 ()を練るのにもっとも重要なのは呼吸、及び肺だ。吸った空気を、肺の中で燃やすように()()に変える。

 

「っ……(凄い……まるで物理的な()が在るかのように熱い(オーラ)。総量も申し分ない……)」

 

 ひゅぅぅぅぅ、こぉぉぉぉぉ。

 辺りの空気が音を持って肺に集い、燃やされ、吐き出される。身体から溢れんばかりの()が練り上がった。

 

「……いきますよ詭弁さん!練った気が全身、体内まで染み渡らせる感覚は、攻撃に()を使う感覚とは別物です!肺とは別に、へその少し下に力を入れるように気を溜めて下さい!そこから体内へ、血の巡りと共に気が流れていくイメージを!流れた気は血液から細胞の内側まで通り、そしてまた血液に乗って別の細胞へ、更にまた別の細胞へ!気が巡り回り、手足の末端に至ったら再びへその少し下まで戻ってくるように!」

 

 メイちゃんのアドバイスと共に、練り上げた気が操作されて全身の隅々まで巡っていく。まるで自身の内側から何かが膨れ上がるように、細胞一つ一つが漲ってくる。

 少し、苦しい。

 

「詭弁さんの身体は、突然浸透してきた()にビックリしています!慣れるまで非常に苦しいでしょうが頑張ってください!」

 

「よし、慣れた」

 

「嘘ッ!?もうですか!!?」

 

 細胞一つ一つが漲ってくる感覚は確かに苦しいが、初めて霊力と魔力を混ぜ合わせた時には身体の内側から破裂する寸前の風船のように漲ってきた。その時と比べれば大したことない。

 

「待てよ?この状態で更に魔力と霊力も混ぜ合わせれば更に最強……?」

 

「本当に身体が破裂しますよ!?止めてください!!」

 

「んぅ……」

 

 そうして真冬でありながらも熱気を感じる程の気を練り続け、細胞レベルでの肉体強化を行った。

 

 

 

 

 そして日が沈み、今。ここにスーパー詭弁さんが降臨した!

 

「素晴らしい……これが新たなる姿の俺か……」

 

「き、詭弁さんが一回りも二回りも大きくなった……」

 

 今の俺は筋肉ムキムキ、オーラバキバキ、顔も画風が違うレベルで超絶進化を遂げた!

 一歩歩けば、ギュピッ、ギュピッと地面を踏みつける音が鳴り響く。凄い、伝説のスーパーサイヤ人になれそう。髪の毛も金髪(気分だけ)で申し分無し。

 

「これなら幽香ちゃんにだって勝てる……ッ!!?」

 

 突如膝をつく俺。まるで不可視の攻撃を喰らい、大ダメージを受けたかのように身体が言うことを聞かなくなった。

 

「き、詭弁さん!?一体何が!!?」

 

「ぬうっ……!?これは一体……」

 

 ぐぅ~ ぎゅるるるる

 

「……」

 

「……」

 

 その後紅魔館でめっちゃ夕食をご馳走になった。

 

「バリガツムシャモグガブゴク」

 

「す、凄い勢いで食べますね……」

 

「わぁー……お姉さま何人分かしら?」

 

「はぁ、作る側の立場にも立って貰いたいわね……」

 

「悪いね咲夜ちゃん!美味しい料理をありがとう!」

 

「いやいやいや!!?アンタら何普通に受け入れてるのよ!!?えっ!?詭弁よね!!?貴方詭弁よね!!?何突然変異起こしてるのよ!!?」

 

「レミリア嬢、これが人間の可能性の力だ!!!」

 

「たった一日でバキバキのムキムキに変化するのが人間の可能性な訳ないでしょーが!!!骨格からして別人じゃないの!!!」

 

「なに言ってるのよお姉さま。何処からどうみても詭弁じゃない」

 

「そうよレミィ、吸血鬼なのにちょっと日に当たりすぎたんじゃない?」

 

「私か!?私がおかしいのか!?」

 

「可哀想に。レミリア嬢は神社に入り浸っているせいで身体の内側から神聖な空気にやられちゃったんだね……」

 

「アンタに哀れまれる謂われは無いわよ!!」

 

 レミリア嬢からグングニルが飛んできたが片手で掴み捕った。

 

「ふぁっ!?」

 

「お兄様凄ーい!」

 

 その後片時(一時間)程度で元の体型に戻った。

 

「ふむ、()()()()……便宜上超人モード(スーパーサイヤ人状態)と呼ぶか。超人モード(スーパーサイヤ人状態)は全細胞が超活性化してるせいで、消費エネルギーも莫大に膨れ上がったんだな。その為にいくら食べてもすぐにエネルギーを消費して、また腹が減るというループに陥ったのか……。超人モード(スーパーサイヤ人状態)はとんでもないポテンシャルを秘めているが、肝心の継戦能力が……何とかして超人モード(スーパーサイヤ人状態)を活用する手段を考えるか……」

 

「さっきからスーパーサイヤ人スーパーサイヤ人うるさいわよ!!」

 

 

 

 その後、里の外でバキバキのムキムキな大男が出歩いているという通報を受けて巫女や魔女が探索していたが、特に関係のない話だった。

 




クズ「俺が化け物?……違う、俺は悪魔だぁ!」
こぁ「お前のような悪魔が居るか」

私の作風ってこんなんでしたっけ。こんな感じだったような……
じわじわ書き続けてきたけど本格的にスランプかも知れん。
くっ……更新放置して読む小説は最高だぜ!!!!


ほらほら読者の皆様、作者がスランプですよ……『か』で始まる作者のやる気に直結するアレ、何でしたっけ?
あと『ひ』で始まって私の好きな赤色に関係するアレもやる気に直結する気がするんですけど、アレって何でしたっけ?
アレですよ、アレ。アレアレ、あれ~?


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春ですy……なんじゃぁこりゃぁ!?

花映塚編はあっさり風味


 春。幻想郷中の花が一斉に開花した。

 

「いやなんでぇ!!?」

 

 

 

 今年は終わらない冬……なんて事にはならず、だいたい例年通りに春がやって来た。リリーホワイトも元気に叫びながら俺に飛び付いてくるのももはや風物詩と諦めた。

 

「詭弁さん!春ですよー!春ですよー!!」

 

「分かった、分かった……寝ているところに飛び込むのは止めろ。な?」

 

 だが家にまで襲撃してくるとは聞いていないんだがぁ!?

 抱きついてきて離れないリリーを何とかして剥がしながら寝巻きから着替え、朝食を食べる。この前の超人モードになってからというもの、普通の状態でも日頃食べる量が格段に増えた。まあ、増えた分仕事効率も格段に上がってるから収支で言うとプラスなのだが。アレかね、スーパーサイヤ人になった事で本当に細胞レベルで強化入ったのかねぇ。

 

 食事の時ですら引っ付いてくるリリーを何とかしながら、今日の分の仕事をしようと家を出たら……冒頭に繋がる。

 

 

 さて、ここでようやくリリーが興奮し続けている理由が判明した。要するに春になった+異変という妖精大興奮コンボを受けてテンション爆上がりになっているということだ。

 

「外!外いきましょー!」

 

「はいはい」

 

 まあ何にせよ仕事で里の外に行くんだ。そこにリリーが付いてくるだけである。

 桜、向日葵、野菊、桔梗……咲く季節がバラバラな花々が一斉に咲いているのはある主壮観だ。

 今日は魚屋に卸す為に魚を釣り、八百屋に卸す為に山菜を採ってくるという完全出来高払いの仕事を2つこなす。

 

「春ですよー!春ですよー!」

 

「静かにしろ、天狗達が寄ってくるだろうが」

 

「あぅ」

 

 リリーにデコピンしつつ、先ずは山菜採りに妖怪の山へと移動する。

 山菜を()()()取るには、妖怪の山以外の場所を目指すべきである。だが、『大量の山菜を』取るには、妖怪の山を目指すべきである。ただ、妖怪の山は天狗達の縄張りなので下手に深入りすると天狗達が襲ってくるし、深入りしなくても天狗の機嫌が悪いとやっぱり襲ってくる。俺はその辺慣れているから天狗達が襲ってくるギリギリを見分けて山菜を――

 

「そこの人間!止まりなさい!」

 

「んぉ」

 

 ……まあ、今の俺なら天狗相手にむざむざ殺される事はない。見つかっても何とかなるなる。

 空から降りてきたのは下っ端哨戒天狗こと犬走椛。俺が妖怪の山に登ろうとする度に必ずと言って良いほど現れる可愛い白狼天狗だ。お前俺の事好き過ぎない?

 

「誰がお前なんか好くものか!!ってそうじゃない、また無許可で山に侵入する気だな!?」

 

「無許可じゃないぞ」

 

「嘘つけ!!大天狗様から何も聞いてないぞ!!」

 

「大天狗なんかに許可貰うかよ。だがちゃんと山に登る許可は貰ってるぞ」

 

「一体誰から貰ったと!?たかが普通の人間に山に登らせる奴なんて――」

 

「鬼」

 

「――えっ?」

 

「鬼の伊吹萃香が言ったんだよ。『何時でも妖怪の山に登って良い』って」

 

「……い、いやいや!騙されないぞ!!なんで今さら、鬼様が出てくる!?口八丁もいい加減に……」

 

「『鬼は嘘が嫌い』だそうだな。もし仮に俺が鬼の言葉を()()()としたら、大変なことになるとは思わないか?」

 

「っ……!た、確かに……いや!証拠ッ!!証拠はあるのか!!?」

 

「証拠ねぇ……」

 

「ほ、ほーら見なさい!証拠なんて無いんだろう!分かったらさっさと里に帰れ詭弁!!」

 

「……はぁ、分かった」

 

「なら他の天狗に見つかる前にさっさと「じゃ本人呼べば良いよね?」……へぇっ?」

 

 

「すぅ……伊吹萃香ぁーーー!!!ちょぉーっと来てぇーーーッッ!!!」

 

 

 妖怪の山の麓から爆発的な大声を出して伊吹萃香を呼ぶ。あまりの大声によって辺りで休んでいた鳥達が一斉に飛び去り、飛んでいた天狗はその優れた耳が災いして一時的に空間識失調に陥った。

 

……んにゃぁぁ……詭弁、お前その呼び方止めろよぅ……

 

 幻想郷中から霧が萃まって形作るのは、二本角の幼女こと伊吹萃香。直前まで酒を飲んでいたのか、その顔は真っ赤に染まっていた。

 

「悪いな、何処に居るか分かんないし、態々呼びに行くのも面倒だったからさ」

 

「素直で良し、後で殴らせろよな」

 

「だぁが断るぅー」

 

「お、お、鬼様!!?」

 

「んぉお……?誰だお前、天狗か?」

 

「その子は白狼天狗界のアイドルこと犬走椛ちゃん。名前だけでも覚えていってね!」

 

「……ふーん、犬走……ねえ?」

 

「あひゅっ!?よ、よろしくお願いします……(馬鹿詭弁さん!!鬼に名前覚えられたら面倒な事になるに決まってるじゃない!!?)」

 

「んで、なんで伊吹萃香を呼んだかと言うと、この前妖怪の山登って良いって言ってただろ?ソレの証明の為に呼んだんだよ」

 

「ん~?……そんな事言ったっけなぁ?」

 

「言った言った。超言った」

 

「お、おい詭弁っ!お前鬼様の怖さを知らないのか……っ!適当な事言って鬼様を怒らせでもしたら――」

 

「あー!そーだそーだ!言ったな確かに!!いやーついに地獄に行く覚悟が決まったか詭弁!勇儀のヤツも喜ぶな!」

 

「んぅ?地獄になんぞ行かんぞ。品行方正な俺が地獄に落ちる訳が無いだろう!山菜取りに山登るだけだ」

 

「えー!?行こうよ地獄にさぁー!勇儀のヤツも首を長くして待ってるって!」

 

「誰だよユウギって」

 

「――えっ、あの……鬼様……?本当に詭弁(こんな奴)に山を登る許可を出したので……?」

 

「出したよ。と言うか詭弁も一々天狗なんかに許可貰わなくても好きに山に登ればいいじゃん」

 

「そうしたいのも()()()()なんだが、陰湿天狗がなぁ……」

 

「……ふーん?そもそも()()()()()()()()()()妖怪の山にのさばってる天狗……ってのも可笑しな話だなぁ?」

 

「ひっ……あの、鬼様……?」

 

 伊吹萃香の不穏な空気を読み取った椛ちゃんは、顔を青くしながら伊吹萃香から隠れるように俺に引っ付く。お前そういうあざとい所やぞ(興奮)。

 

「おい、犬走って言ったな。お前天魔の所まで案内……いや、やっぱアタシが直接行った方が早いな。丁度良い、久々に()()()()を揉んでやるとするか」

 

「い、幾ら鬼様とは言え、既に山を離れた身!勝手なマネは―――」

 

「あ”?」

 

「キャイン」

 

「おいコラ、可愛い可愛い椛ちゃんを威圧するな」

 

「だって~」

 

 伊吹萃香が椛ちゃんを睨み付けた所為で、椛ちゃんの尻尾が内股に潜り込み、更に俺の服の中にまで頭を突っ込んできた。

 俺はため息を吐きつつ、伊吹萃香の頭に軽く手刀を落とす。

 

「ぶー……そもそもこの山はアタシら鬼が居た時から―――いや、今は関係ない話だね。ま、とにかくアタシはちょっと天魔のヤツに話をつけてくるから、詭弁は自由に山を散策してな。……それと、近いうちに必ず地獄にまで来てもらうからね!」

 

「だから地獄に落ちるような事はしてないというのに」

 

「おい、犬走。お前は詭弁の護衛をしな。他の天狗共が寄ってきたらお前が追い払うんだ」

 

「くぅん……」

 

 そう言って伊吹萃香はまた霧となって何処かに消えていった。呼んだのは俺だけど嵐のような奴だなぁ。

 

「……な?言った通り鬼から山登って良いって言われただろ?」

 

「何でこんな事になるのよぉ……うぅ、こんな事なら詭弁さんをさっさと通しておけば良かった……」

 

 まあ、天狗達がこの後どうなろうが俺には直接関係ない事だからどうでもいいや。

 

「もし行く場所に困ったら俺が責任もって保護してあげるからね椛ちゃん!!」

 

「当たり前だッ!!!お、お前のせいでこの後大騒動になるんだぞ!!?」

 

 それはしーらね。

 ……さて、山菜山ほど採ろ。山菜の花が開花していて実に探しやすい。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 採った山菜を山ほど担いで、今度は川沿いに山を下りて霧の湖に到着。椛ちゃんはついてきた。

 

「だって山に暫く戻りたくないですし……」

 

「ここまで騒がしさが聞こえるってのも珍しいモンだよな」

 

「春ですよー!」

 

 妖怪の山から光弾や光線がもの凄い放たれているが見なかった事にする。

 さて、山菜の次は魚。ゆっくり釣りでもしていきたい所なのだが……山菜は鮮度が命。ササッと漁をしていく事にした。

 稚魚、未成魚の類まで乱獲してしまえば生態系が崩れてしまい、手痛いしっぺ返しを食らう事になる。故に狙うは大物。それに里の近くの川で獲れるような魚だと魚屋で普通に扱ってるものだから俺的にあまり旨味が無い。

 と、言う訳で自作した目の粗い投網を取り出す。春の狙い目はやはりイワナやマス、ヤマメやアブラと言ったところか。

 投網に魔力を込めて、霧の湖に向かって投げる!!すると俺特製の投網が自動的に大物を捕獲してくれる大変優れモノな逸品なのだ。魚屋のおっちゃんがめっちゃ欲しがっていたが量産出来ないモノだからダメ。

 

「っと言ってるうちにHIT!!」

 

 投網が引っ張られるように張り詰め、俺を霧の湖に引きずり込もうとしてくる。甘いわっ!『身体強化』!!

 

「ッッッ!!?まだ引っ張られるだとっ!?」

 

「わー!危険ですよー!?」

 

「世話の焼けるっ!」

 

 俺の腰に引っ付くようにリリーが、俺の後ろから添うように椛ちゃんが力を貸し、一緒に引っ張ってくれる。それでもじわじわと引き摺られるように湖に近づいていく。

 

「ぐっ……ぬぬぬ……!ンなら……『火事場の馬鹿力』だ!!!」

 

 ミシミシッ!と俺の筋肉が鳴り、120%の力を引き出す。ふふふ、魚相手にここまで手こずるのは初めての経験ですよ……!

 

「そ……おらぁぁぁぁ!!!」

 

「きゃああああ!!!」

 

 そうして漸く投網を引っ張り上げると、網の中には人ほどに大きな魚が掴まっていた。

 人ほどに大きな魚というか、人魚だった。

 

「うわーん!水の中で人間に負けるなんてー」

 

「人魚……ですか。食べられるのかな……?」

 

「しかも食べる気満々だー!?」

 

「こらこら椛ちゃん、人魚を食べようとしてはいけません。大丈夫ですかお嬢さん?すみませんねこの投網が勝手に獲物と勘違いしたようで」

 

「うぅ……ありがとう、貴方は優しいのね……」

 

「いえいえ、ところで人魚の人の部分と魚の部分の境目がどうなってるのか見させてもらいますね」

 

 そう言ってから人魚のスカートみたいになってる部分を思いっきり捲り上げる。

 

「……えっ?」

 

 ほうほう……なるほど、これはこれは……大変興味深い。人魚は下着を着けないし下の毛も生えてな―――

 

「嫌ああああ!!!?」

 

 尾ひれビンタが炸裂ッ!

 俺をK.O.した人魚はそのまま湖に戻っていった。

 

「……変態ッ」

 

「春ですよー!!!」

 

「痛っ!痛ッ!!?止めろお前ら蹴るなっ!!」

 

 その後魚を大量に獲って里に帰り、山菜と魚を纏めて卸したのだが『多すぎだ馬鹿野郎』と言われかなりの量が残ってしまった。

 

「と言う訳で余らせても腐るだけだし、椛ちゃんも食ってけ」

 

「……まあ、別に吝かではないけど」

 

 つん、とそっぽを向いてるが内心喜んでいるのが良く分かる。だって尻尾に出てるんだもん。

 

「尻尾を見るな!」

 

「それは無理だ」

 

 さーて今日は山菜と魚の鍋パだー。

 

 その後めっちゃ食った。

 

「(人間が食べる量じゃないと思う……)」

 

「はー食べた食べた……ん?どうした?」

 

「別に……」

 

 

 春はまだまだ続く。

 




もみじちゃんは人間相手だと頑張って男口調にしてるのが可愛いんだ!でも時々無意識で丁寧口調に戻っちゃうのがてぇてぇなんだ!

前話だけで21個(投稿時点)もの感想ありがとうございます!!!大変励みになりました!
じゃぁ今話は当然、もっと感想来ますよね?(暗黒微笑)
感想忘れたら……ふふふ。


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妖精と幽霊とその他人妖の祭典ですよ!

暑すぎて脳が溶けました。レッツメルトダウン!


 幻想郷中の花が開花して二日目。今日もリリーと椛ちゃんと行動する。

 

「い、いいか?これは仕方なく……仕方なくお前に付いていくだけなんだからな……。鬼様の命令に背く訳にはいかないからな……」

 

「そうだね!一日明けても未だに大量の弾幕で騒がしい山に戻るの怖いもんね!」

 

「怖くないし!」

 

「春ですよー!」

 

 今日は仕事が無いので家でゆっくり……といきたいところだが、折角四季の花が咲き乱れているんだ。楽しまなきゃ嘘ってモンだろう。

 里の外に出て、三人でお散歩。

 

「そう言えば花を抱えている妖精が多いな。何でだ?」

 

「それは花が不自然だからですよー」

 

 リリー曰く、自然の化身である妖精が興奮のあまり不自然に咲いている花を抱えて飛んでいるそうだ。

 

「まあ、自然現象じゃないとは思っていたけど」

 

「……?あぁ、そうか。詭弁は六十年周期の異変を知らないのか」

 

「何か知ってるのか椛ちゃん」

 

「ふふん、勿論。六十年に一度、こうして沢山の幽霊が外から流れてきて花に取り憑く。その為に季節外れの花まで開花するんだ」

 

「へー。よく知ってるねぇ」

 

「当然だ。……ふふ」

 

「んで、何で外から沢山の幽霊が流れてくるんだ?」

 

「……そ、それは……知らない……」

 

「ふーん……それと何で幽霊が花に取り憑くと花が開花するんだ?」

 

「ええい知るか!死神か閻魔様にでも聞け!」

 

 プンプン怒り出してしまった。わんわん。

 まあ、今日は特に予定も無いんだ。折角だし歩いて三途の川にでも向かってみるか。

 

 そうしてあちこち寄りながら花見をしていると、弾幕ごっこに興じている霊夢ちゃんと魔理沙を見つけた。

 

「よし、離れるぞ」

 

「春ですよー!!」

 

「あっ、バカ!」

 

 弾幕ごっこの巻き添えを食わないように離れようとしたが、弾幕を見てテンションの上がったリリーが二人に挟まるような位置に向かって飛んでいってしまった。

 勝手に飛んでいってしまったとはいえ、見捨てるのは寝覚めが悪い。リリーを守るように盾型の結界を飛ばしながら追いかける。

 

「春ですよーッ!!」

 

「ちっ!邪魔だぜ!」

 

魔符「スターダストレヴァリエ」

 

「邪魔よ!」

 

霊符「陰陽印」

 

 二人は容赦なくスペルカードを切った。相手を落とす()()()にリリーを倒そうとしてるのだろう。

 

「魔霊式『無双封陣』!!」

 

 魔力と霊力をふんだんに混ぜ合わせ練り込んだ光弾が、リリーを撃ち落とそうと迫る弾幕を掻き消していく。消しきれなかった弾幕はリリーの回りを飛んでいる盾型の結界で防ぐ。

 

「んなっ!?詭弁まで居るのか!?」

 

「あーもう邪魔よ邪魔!!まとめて退治してやる!霊符『博麗幻影』!!」

 

 霊夢ちゃんの幻が目の前に現れ、色々な弾幕を撒き散らしていく。弾幕の元を倒そうにも、幻だから攻撃が効きやしない。

 

 

「春ですよーッ!!!」

 

 

 リリーから暖かな暴風が放たれる。春一番だ。

 暴風は弾幕全てを圧し流し、換わるように弾幕が霊夢ちゃんと魔理沙に向かって放たれた。

 

「くそっ!妖精のクセに生意気だぜ!」

 

恋符「マスタースパーク」

 

「鬱陶しいのよ!」

 

霊符「夢想封印」

 

「ッチ!流石にアレらを打ち消すのは無理か!『身体強化』!『肉体活性』!」

 

 魔力と気を使って自分の身体を強化し、弾幕がリリーに届く前にリリーを抱えて戦線を離脱。

 

「ついでの最後ッ屁だ!『妖精幻想弾(フェアリーテイル)』!」

 

 リリーの放った春風に乗せて大量の米粒弾幕を放つ。風に乗った弾幕は、霊夢ちゃんや魔理沙に近づいたらパァンとはじけて、さらに近くを飛んでいた米粒弾幕に誘爆していく。

 

「だぁぁくそ!!詭弁ッ!待て!!!」

 

「待ちなさい詭弁!後で覚えてなさいよ!!!」

 

 上手いこと二人を弾幕に巻いて逃げ出した俺は、そのまま椛ちゃんと合流して離れていった。

 

「ダメだろリリー。あんな気のたっている巫女と魔女の前に躍り出るなんて、死にに行くようなモンだぞ」

 

「楽しかったですよー」

 

「全く、これだから妖精は……」

 

 笑顔のリリーと呆れ顔の椛ちゃん。

 そうして俺達は三途の川に向かって再度歩き出した。

 

 

 

 

「春ですよー!!」

 

「ンだから行くなって行ってるだろうがッ!」

 

 その後、何度も弾幕ごっこに興じている人妖の間に突っ込んでいくリリーを何度も救助し、時に相手を撃ち落としたりと色々忙しかった。

 

 

「春ですよー!!!」

 

「だから待てってば!」

 

「うぎゅぅ……」

 

「ちょっと!勝負の邪魔をしないで頂戴!」

 

「ええい流れ弾に当たる方が悪い!」

 

 妖夢ちゃんVS咲夜ちゃん

 リリーの放った弾幕で妖夢ちゃん撃墜により勝負はお流れ。

 

 

「春ですよーッ!!!」

 

「きゃぁー!?」

 

「ふぎゃッ!?」

 

「あーもー滅茶苦茶だよ!」

 

 ミスティアVSリリカ

 リリーにより同時ノックアウトでドロー。

 

 

「春ですよー!?」

 

「ちょっと通りますよぉー!!!」

 

「あやややや!!?」

 

「なっ、何事っ!!?」

 

 文ちゃんVSレーちゃん

 リリーを高速で回収することに成功し決着つかず。

 

 

「リリー、お前、いい加減にしろ……な???」

 

「あぅぅ……」

 

 リリーの頭を思いっきりグリグリしてやった。こればかりは俺は悪くないと思う。

 

「そんなに苦労するのなら見捨てれば良いだろうに」

 

「寝覚めが悪いだろうが!」

 

「ふん、お人好しめ……」

 

 めっっっっちゃ疲れた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 時刻はだいたい正午。お腹も空いたのでここいらで昼飯にしようと思う。

 三途の川を目指していた筈なのだが、何故かあちらこちらフラフラと移動しまくっていたので、全然目的地に到着する気配が無い。

 今は一面向日葵の花が咲き誇っている『太陽の畑』にて弁当を広げている。今日も飯が旨い。

 

「だ、大丈夫なんですか?太陽の畑といえば、あの風見幽香の縄張りでは……」

 

「別に縄張りって訳じゃねえよ、所謂『お気に入りスポット』とかそういう所だ。それに荒らしに来た訳でも無いのにビクビクすんなって」

 

「し、してないし!」

 

「ヒマワリですよー」

 

 リリーがヒマワリを指差す。辺り一帯のヒマワリ全てが俺達の方に向いていた。

 

「ひぃぃ……やっ、やっぱり風見幽香に見られてるんだぁぁ……」

 

「情けない声を出すなって、もし本当に幽香ちゃんが襲ってきても椛ちゃんは絶対助けるから」

 

「絶対ですよ!絶対助けてくださいよ!」

 

「ただのイタズラですよー」

 

 向日葵がこっちを向いているのは、太陽の畑に潜む妖精達によるイタズラだ。怖がるものでもないし、むしろ少し珍しいモンだからしっかり見とけ。

 

 そうして、もはやただのピクニックと化したお散歩に闖入者が現れる。

 

「楽しそうね!あたいも仲間にいれてよ!」

 

 突然チルノが現れ、俺の首に飛び付いてきた。

 

「あ!コレ美味しそう!いただきまーす!」

 

「そりゃぁ!」

 

「きゃー!」

 

 首に飛び付き、弁当の中の串焼きに手を伸ばしてきたチルノを片手で放り投げる。く、首が……回復魔法(ヒール)

 

「なにするのよ詭弁!」

 

「コッチの台詞だ!首折れるかと思ったわ!!」

 

 首から鳴っちゃいけないような音出たんですが。

 魔法で水の玉を生成し、チルノに手を洗わせる。

 

「今度こそ!いただきまーす!」

 

「はいはい。もー好きにしろ……」

 

 うま、うま、と串焼きにかぶりつくチルノ。リリーは俺の膝の上で寝ているし、椛ちゃんはずっと不安そうにキョロキョロしている。揃いも揃って自由か。

 そよそよ吹く春風が心地よい。

 

「なぁ椛ちゃん」

 

「な、何ですか。今周囲の警戒で忙しいんですが……」

 

「『伏せ』!」

 

「わん!」

 

 椛ちゃんが地面にうつぶせになる。

 

「……はっ!!?詭弁!私は犬じゃないと何度言わせれば!」

 

「ちょっとお尻借りるね!」

 

「きゃひぅ!?」

 

 うつぶせになっている椛ちゃんの尻に頭を乗せて横になる。うーん柔らかくて良い枕だ。

 

「な、な、な、なに考えてるんですかぁ!!」

 

「んにゅー……」

 

「こら椛ちゃん。リリーが寝てるんだから静かにしなさい」

 

「あ、すみません……じゃなくて!こ、こんな所で何を盛ってるんだ!?そういう事はせめて家の中で……

 

「ん?俺も少し昼寝しようと、椛ちゃんの尻を枕にしてるだけだぞ」

 

「っ!?こ、コイツ……ならお尻じゃなくて膝!膝なら貸してやるから!」

 

「いや、それならお腹を貸せ!」

 

「はぁ!?くっ……尻よりマシか……わ、分かった……」

 

 そうしてうつぶせから仰向けに転がる椛ちゃん。椛ちゃんのポンポンに頭を乗せる。

 

「……これで満足か?」

 

「おぅ、絶景」

 

「はぁ?」

 

 ちなみになのだが、今の俺と椛ちゃんは絶対に目が合わない。何故なら俺の顔と椛ちゃんの顔の間に大きな山二つがそびえ立っているから。良い眺めだなぁ。

 

「あたいも一緒に寝る!」

 

「……お前は膝にしろ。腹が冷えるだろうが……」

 

 そうして椛ちゃんのポンポンに俺、太ももにチルノが寝そべり、俺の脚にリリーが寝そべっている。

 

「……なんか家族みたいだなぁ」

 

「……はぁッ!!?誰が!!?誰とッ!!?」

 

「俺が父親で、椛ちゃんは母親。リリーとチルノは娘……的な……ふぁ……」

 

 心地よい春風が向日葵を叩き、さわさわと小声で鳴く。あぁ、本格的に眠く……なって……

 

「っ、おいっ!……ほ、本当に寝たのか……。母親、かぁ……あ、あなた……なんて

 

「何やってんのよもみじ」

 

「ッッッ!?ち、チルノ!お前も詭弁の横でさっさと寝ろ!」

 

「あたい知ってるよ。そーいうの()()()()って言うんでしょ?」

 

「うるさい!叩っ切るぞ!」

 

「わー!助けて詭弁とーちゃん!もみじかーちゃんが()()()()してくるー!」

 

「なっ……!かっ……だっ、誰がかーちゃんだっ!」

 

「んにぃ……うるさいぞチルノ……お前も……寝ろ……『誘眠魔法(スリープ)』」

 

「ひゃあッ!?うぁー……なん、か……世界が……まわぅ……スヤァ」

 

「……寝た、か……。全く、世話のやける奴らだよ本当に……」

 

 

 

「おやすみ、詭弁さん」

 

 

 

 

 

 数十分後。

 

「あら、あらあらあら。ずいぶんとまぁ……楽しそうなことしてるわね?」

 

「おおおお起きろ詭弁!早く起きて!!」

 

「ん~……もみじ山脈を攻略するぞ~……」

 

「んぁ……♥️も、揉んでる場合か!!?風見幽香が!風見幽香がぁ!!」

 

「うふふふ……ねーえ天狗、ちょっと良いかしら?」

 

「良くない!私は良くないっ!!詭弁ーッ!!早く起きろぉーッ!!!」

 

 それからまたしばらく。俺が目を覚ました時には椛ちゃんの姿はなく、代わりに幽香ちゃんが居た。……ぱちっ、と目を開けたら幽香ちゃんの赤い瞳に反射する俺が見えるぐらいまで近くに。

 

「おひゅッ!?」

 

「おはよう詭弁。ずいぶんとまぁ楽しそうな夢を見ていたようね?」

 

「お、お、おう……も、椛ちゃんとリリーとチルノは……?」

 

「皆帰ったわよ?」

 

 暴力的に帰らせた、とかじゃ無いことを祈るばかりだ。

 

「……ふん。イジメたりしないで、ちゃんと普通に帰したわよ」

 

「んなら良いけど……」

 

 今の俺は幽香ちゃんの膝で寝ている状態で、幽香ちゃんの両手が俺の頭に添えられてる。

 

「……ふふふ、変なこと考えたらこの手が()()()とイっちゃうわよ?」

 

「なにする気!?止めろよ!?」

 

「冗談よ」

 

 そのまま髪を整えるように頭を撫でられる。うおー止めろよー。

 

「……貴方の髪は柔らかいわね」

 

「そうかな」

 

 自分ではあまり意識した事は無いが、そう言うのならそうなのだろう。まあ、髪先まで気合いを入れれば固くなるだろうが。

 頭で幽香ちゃんの脚の柔らかさを感じつつ、微睡みながら風に鳴く向日葵の声に耳を澄ませた。

 

 

 




チルノ「とーちゃん!」
リリー「おとーさん!」
サニー「お父様!」
ルナチャ「パパ!」
スター「ぱ・ぱ♥️」

クズ「うっ……なんか鳥肌が……」



ゆうかちゃんすき(脳溶)
感想も好き(脳融)


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あの世の連中によろしく!

家にゲジゲジが住みつきだしたけど私は元気です。


 あれからまた数日。未だに幻想郷は花と幽霊で溢れかえっていた。

 

「何度シバいても一向に働かないのよあの死神!」

 

「あのサボリ魔にも困った物ね」

 

「まぁいずれ落ち着くって話だし、もう少し様子を見ようぜ」

 

 早くもこの花の異変に飽きはじめた人妖は各々の生活に戻り、異変解決に向かった少女たちはこうして何故か俺の家に上がり込むようになった。不思議。

 

「詭弁さん時間です!次は私の番!さあ早く替わってください咲夜さん!」

 

「あら、私の時計ではまだ時間になってないわ」

 

 自身の膝をパンパン叩いて膝枕アピールする妖夢ちゃんと、フンフン鼻歌を歌いながら膝に俺の頭を乗せて裁縫をしている咲夜ちゃん。

 どうしてこうなった。

 

 話は少しだけ前に遡る。

 俺が幽香ちゃんの膝枕を堪能している所にブン屋の文ちゃんがやってきてその光景を新聞に載せたのだ。それだけならまあよくある事なのだが、その新聞をきっかけにひっそりと『膝枕ブーム』が始まったのだ。ちょっとそこは分からない。

 それからまあ色々すったもんだあって、結論を言うと今俺は膝枕をする側でありされる側になっている。

 今は咲夜ちゃんの膝に頭を乗せ、寝ている俺の脚を魔理沙が枕にしている状態だ。

 

「……詭弁、お前の脚硬くて寝辛いぜ。何とかしろ」

 

「無茶を言うな」

 

 魔理沙は俺の脚を枕にしながら、俺が紅魔館の図書館から借りている『猫でも分かる詠唱呪文と魔法陣呪文の違い』という本を読んでいる。超行儀悪いぜ。

 

「はぁ、このままだと本当に『異変解決もしない巫女』って言われそうだし、またあの死神の尻でも叩きに行こうかしら」

 

 むしろ霊夢ちゃん達が頻繁に戦いを挑んでくるから仕事が進まないのではないかと思ったが口には出さないでおく。

 遂に無言でぐいぐいと俺の頭を引っ張り出した妖夢ちゃんを片手で抑えつつ、今日の晩飯は何にしようかと頭を巡らせる。

 

「……」

 

「……」

 

「……っ!」

 

「……ふっ!」

 

「やぁっ!」

 

「おいお前ら、さっきから詭弁の頭でキャッチボールするんじゃないぜ。脚が揺れて気持ち悪くなる」

 

「頭がダイレクトに揺れてる俺はもっと気持ち悪くなるとは思わんかね?」

 

 吐き気がしてきた……。キャッチボールというか、もはやただの取り合いである。

 首がミシミシ言いだしてきたので強制的に二人を止める。……ふむ、今日は二人とも白――

 

「スカートを捲るなっ!」

 

 ナイフが眉間に突き立てられるがもはや慣れたモノ、結界を張ってナイフを防ぐ。目の前で結界とナイフから火花が散る。

 

「当たったら死ぬぞ流石に」

 

「いっぺん死ねば良いのよ」

 

「残念、もう既に一回死んでるんだよなぁ!」

 

「笑えないわね」

 

 流石にいつまでもゴロゴロしてると本当に床の住人になりそうなので起き上がる。魔理沙が膝から転げ落ちた。

 

「おい、起きるなら一声掛けろ」

 

「お、スマンな」

 

 外を見れば日も傾きだした所だ。丁度良いし夕飯用に買い物にでも行くかなぁ。

 

「という訳で解散、解散。まあ夕飯食ってくってんなら別だけど」

 

「むむ……幽々子様を置いてご同伴する訳にも……」

 

「私はお嬢様達が待っているから遠慮しておくわ」

 

「霊夢ちゃんと魔理沙は?」

 

「まあ久しぶりに詭弁の飯でも食ってくかな」

 

「萃香は……まあほっといても大丈夫ね」

 

「んにぃ。じゃ三人分の食材買ってくるわ」

 

 そうして三人での夕食が決まった。……ふむ、思えばこの三人で夕食をつつくなんて何時以来だろうか。最近は博麗神社も騒がしくなってるし。

 外に出れば、未だに数多もの花が咲き誇っているし、妖精も飛び回ってるし幽霊も飛び回っている。そして食材を買いに行くついでに酒も買おうと酒屋に行けば店先で見知った赤い髪の死神が呑んでいた。

 

「『小町っ!また貴方はこんな所でサボって!!』」

 

「きゃん!すみません四季様っ!!……ありゃ?」

 

「よぉーす小町っちゃん」

 

「な、なんだい詭弁の声真似か……心臓が止まるかと思ったわ……」

 

「へえ、死神も心臓が動いてるんだ」

 

 確認するために小町っちゃんの胸を触る。……ふむ、柔らかな胸から仄かに感じるトクトクとした鼓動が――

 

「刈るよ」

 

「ごめんなさい」

 

 俺の首に大鎌が触れる。流石に魂を死神に刈られちゃ敵わない……ありゃ、デジャブ?

 

「油断も隙もあったもんじゃない……」

 

「油断しきった小町っちゃんも好きよ」

 

 ロングスカートを捲り上げて中身確認。むっちりと肉のついた太ももを被う白いオーバーニーソックス、そして更に上には赤いレース生地の

 

「危なっ!!?」

 

「ちっ、仕留め損なったか……」

 

 小町っちゃんの大鎌が首に向かって振るわれたが紙一重で回避する。うーん言葉通り危機一髪。髪の毛が一本持ってかれた。

 

「こんなとこで流血沙汰になったらどうする気だよ」

 

「安心しな、そん時はあたいが責任もってトドメを刺してから彼岸まで運んでやる」

 

「おかしいな。小町っちゃんは魂を刈る方の死神じゃないと聞いたんだが」

 

 なんとか小町っちゃんをなだめる。

 

「というかこんな所で油売ってて良いのかよ。未だに幽霊達溢れかえってるぞ?」

 

「良いんだよ。この休暇があたいの仕事効率を上げるのさ」

 

「どうして仕事全然してないのに効率とかあるんですか?」(電話猫感)

 

「そ、そりゃ一度バリバリと働きだしたら一気に仕事が終わるようにさぁ……」

 

 夏休みの宿題最後まで取っておくタイプだなオメー。

 

「なあ小町ちゃん。いい加減そろそろ真面目に仕事しないと本当に首切られるぞ?」

 

「ぐ……」

 

「まあ本当にそうなったら俺が養ってあげるさ!」

 

「あんたに養われるのは負けた気がするからよしとくよ」

 

「そう思うのなら遊んでないで仕事をしなさい!」

 

「きゃん!」

 

 首を向ければ、映姫様が悔悟棒を今まさに小町ちゃんに振り下ろそうとして居る所だった。

 

「ちょ、四季さ――」

 

「昼間からお酒を呑むとは、なんて大した労働意欲なのかしらね!」

 

 ドゴン!と大きな音が鳴り響く。

 

「何が『負けた気がする』ですか!労働に対してなら詭弁の方が遥かに真面目に働いてますよ小町!!そもそも――」

 

「映姫様、映姫様。コイツ聞こえてないって」

 

 目を回して地面に倒れ伏す小町ちゃん。惜しい人を亡くした……。

 

「い、生きてるよ……」

 

「ならさっさと仕事をしなさい!」

 

「ひぃ!すみません!」

 

 小町ちゃんはバッと立ち上がり、凄まじい速度で三途の川方面へ消えていった。

 

「全く……小町のサボり癖も困ったものです」

 

「そうだね!説教しに回ってるのに、当の部下がサボってると説得力ないからね!」

 

「ぐぅ……」

 

 図星を突かれたせいか、眉間にシワを寄せる映姫様。部下の教育不足は上司の責任だぞぉ?

 

「ええ、分かっています……はぁ、最初に会った時はもっと真面目な性格だと思ったんですがね」

 

「まあ上司が真面目すぎる分、部下がうまくバランスとれてるから良いんじゃない?」

 

「限度があると言うことです。……詭弁が死神になってくれませんかね?」

 

「ははは、死んでから考えるわ」

 

「貴方は少し楽観が過ぎる。死後の事を考えるのは生きている内でなければ意味が無いでしょう」

 

「えー……じゃぁ死んでまで働きたくないから、死んだら冥界でぐーたら過ごすね」

 

「怠惰は罪です」

 

「それ要するに死んでも死神として働けって言ってるでしょ」

 

 生きてる今めっちゃ働いてるんだから、死んだらゆっくり休みたいね。

 

「あーそっか。それで小町っちゃんは普段からサボってる訳だ」

 

「アレはもはや性分だと思いますが……。ともかく、死後の事を真面目に考える事。それが貴方の出来る善行です」

 

「はいはい。死ぬ時には渡し船に乗りきらない程の渡し賃用意しておくからね」

 

「だから真面目に考えろと……まあ、期待しないで待ってますよ」

 

 そうして映姫様とも別れ、夕飯用に食材と酒を買い込んだ。

 

 

 満開の春は、もうじき終わりそうだ。




こまっちゃんは誰も見てない所なら詭弁に色々自由にさせるぞ!恥ずかしがり屋だな!
そしてえーきっきは詭弁と一緒に働ける日を待ち望んでるぞ!モテモテだな!(なお幻想の少女達が素直に詭弁を死なせるかと言うと……)


膝枕小異変

萃香「霊夢ー、膝枕してー」
霊夢「……はぁ、はいはい」

レミリア「咲夜ー、膝枕ー」
咲夜「はい、どうぞ」

幽々子「妖夢ー、耳かきしてあげるからこっちいらっしゃい?」ポンポン
妖夢「こ、この前したばっかじゃないですか!」

魔理沙「うーん……詭弁より寝心地が悪いぜ」
香霖「そりゃ僕は彼程鍛えてないからね」


最近暑すぎて脳に搭載しているスーパーコンピューターがダウンしました。今では2bitしか働きません。

感じるままに
想うままに
くだらないことを書いて
レスを待つ今日この頃なんですけども。


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炎天下ですよ!

暑い……泳ぎながら水着美女のおっぱいも見たいしおっぱい揉みたい……


 満開の春は漸く終わりを告げ、妖精や幽霊は落ち着きを見せた。

 そして噎せるような蒸し暑さの梅雨も通り過ぎ、太陽の季節、真夏が訪れる。そして今年の夏はまた一段と……

 

「暑い……っ!」

 

 例年に比べ非常に暑い夏がやってきた。まるで地面のすぐ下で火が焚かれてるんじゃないかと言うほどに暑い。暑すぎて死者が出るぞー……なんて、洒落にならん。

 この暑さで干からびて死ぬジジババ達が居ないとも限らないので、里中を回って回診染みた事を行っている。

 

「というわけで、この暑い時期は朝起きた時、昼飯と夕飯の食間、夜寝る前にこの薬を飲む事。飲む時は必ず水一杯と一緒に飲むように」

 

「うむ、いつもすまんなぁ詭弁や」

 

「大したことじゃないさ。精々長生きして、俺に金を落とし続けてくれ」

 

「はっはっは。お前なんぞに金を落とすのも今日限りじゃい」

 

 そうして爺さんに丸薬を渡し、代金を受けとる。くくく、ボロい商売だぜ医者ってのはよぉ……!適量の塩と小麦粉を水で混ぜて焼き固めただけの丸薬が金に変わるんだからなぁ!

 精々熱中症にならないように長生きしやがれってんだ爺さん!だから必ず毎日水飲めよ!水の代わりに酒は絶対に駄目だからな!!!

 

 その後里中に丸薬を売りつけ回ってめっちゃ稼いだ。材料費引いて……えーっと、黒……かな……?回る時間を含めると普通に働いた方が……はぁ。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 酷暑は続くよどこまでも。氷のエレメンタルを使った冷房器具は一部の金持ち達が大金を払い買い占めた事で、俺の懐具合は非常に豊かとなった。具体的には暫くの間働かなくても良いくらいには。

 そうと決まれば早速夏期休暇を取ることにする。暫くの間便利屋は店仕舞いだ。折角だし、普段から俺の中に居る《陰》と《陽》にも休暇を出して自由行動にさせた。

 

「と言うわけで避暑地にやって参りました」

 

「神社を避暑地扱いするな」

 

 だって実際涼しいんだもん。……幻想郷の中では比較的に、だけど。

 さて、そんな博麗神社だが、俺と同じような考えに至った妖怪達が既に中でダラダラしていた。

 

「んぅぉ~う……詭弁じゃないかー……」

 

「暑……」

 

 神社の日陰には鬼、吸血鬼、妖獣、魔女、その他妖怪達がゴロゴロしていた。

 

「というか鬼なら地獄にも居るんだから熱に強そうなモンだけど……」

 

「暑さと熱さは違うの!」

 

 あーつーいー!と騒ぐ伊吹萃香。

 

「はぁぁー……冥界にでも行こうかしら?」

 

「あー良いねー。幽霊の周りは涼しくなるって言うし、何匹か拐ってきちゃう?」

 

「止めなさいよ。そんなことしたら私が暑い中働かないといけないじゃない」

 

 頭がゆだって来た妖怪達が冥界襲撃作戦を練りはじめ、それを霊夢ちゃんが止める。折角涼みに来たのにこれじゃぁ……あ、そうだ。

 神社の境内の一部を魔法でくり貫き、中を水で満たす。即席プールの完成―――

 

「神社の敷地で勝手なことするな!」

 

「痛いっ!!?ち、ちょっとした水着回の下準備じゃないか!」

 

「また詭弁が訳の分からんこと言ってるぜ」

 

「ちゃんと終わったら元に戻すからさぁ……」

 

「当たり前でしょ!!」

 

 霊夢ちゃんのおおぬさでバシバシ叩かれる。それは鈍器ではないってば。

 

「あら、プールね。久しぶりに泳いでみようかな……」

 

「そうそう!避暑と言ったら()()()でしょ!さ、さ、広く作ったから泳ごうぜ!」

 

 こんなこともあろうかと香霖堂で水着を買っていたのさ!

 

「霊夢ちゃんの分もあるからね!」

 

「なんであんたが私の水着まで買ってるのよ!?着ないわよ!」

 

「用意周到ね……」

 

「お嬢様用の水着を準備しました」

 

「あら咲夜、準備が良いわね」

 

「おい詭弁!私の分はあるんだろうな!?」

 

「ンで俺が魔理沙の分の水着まで準備せなならんのだ!ねえよ!」

 

「一番もーらい!」

 

「あ、ちょ、てゐ!待ちなさい!」

 

 因幡てゐが普通の衣服のままプールに飛び込む。バシャァと跳ねた水が橙に掛かった。

 

「うにゃ~っ!!?」

 

「あははー涼しー!」

 

「くっ……こんなことなら水着を作る魔法でも覚えとくんだったぜ……」

 

「そんな限定的な魔法なんて何時使うのよ……」

 

「ひゃっほー!」

 

 瞬時に水着に着替えた俺もプールに飛び込む。水が冷たくて気持ち良いぜ!やっぱ夏と言ったらコレだよな!

 

「くっ……霊夢さん!その水着使わないのなら私に下さい!」

 

「はあ?嫌よ!だいたいあんたら宇宙人は日の当たらない竹林の奥に篭ってればいいでしょ?」

 

「今の竹林でじっとしてたら蒸し焼きになりますよぅ!お師匠様と姫様は私達に内緒で何処かに行っちゃうし!」

 

「さあ咲夜!プールに向かって突撃よ!」

 

「お嬢様、まだ浮き輪の準備が出来ておりませんよ」

 

「な、無くても泳げるわよ!」

 

「ああ焦れったい!水着なんか無くても鬼は泳げるんだよ!」

 

「おいバカ幼女の全裸に需要は無いから止めろ!」

 

 伊吹萃香が全裸になって飛び掛かってくる。

 いや、待てよ?幼女だが前例(全裸)があれば他の女の子もいっそ全裸で、全裸じゃなくても下着姿で泳ぐ可能性が出てくるんじゃないか……!?よぉし!でかした伊吹ぃ!!

 

「ひゃー冷たぁー!」

 

「パチェも来なさい!そんな物陰で本ばっか読んでると魔女の干物になっちゃうわよ!」

 

「遠慮しておくわ……はぁ、図書館の空調魔法が急に調子悪くなるなんて……小悪魔め、日が暮れるまでに直ってなかったらオシオキよ……」

 

「『遊符 スプラッシュウォータートゥーン』」

 

「ひにぁぁぁぁ!!?」

 

 パチュリーちゃんに向かって手遊びの水鉄砲を放つ。手遊びとは言え、魔力を水に込めた全力だ。凄い勢いで放たれた水が、蛇のようにクニャリと曲がった軌道でパチュリーちゃんの胸をビチャビチャにした。おっふ、ピンクの下着が透けてすけべ!

 

「詭弁っ!!!」

 

「へぇーいパチュリーちゃん!勝負ならプールの中(ココ)で受けるぜ!」

 

「上等よ!待ってなさい!!」

 

「うへぇ、パチュリーの奴が熱暴走を起こしたぜ」

 

 パチュリーちゃんがプンスカ怒りながらプールに飛び込んできた。ひゅー!

 

 俺達の夏はこれからだ!!!

 

 

 

 ◆

 

 

 

 暑い夏のある日、突如本体から休暇を言い渡された。何処の世界に自身の()()()に休暇を出す奴が居るのだろうか。

 

「まー良いんじゃね?普段からわりと自由にしてる気もするけど、今日からしばらくは伸び伸びと自由行動なんだろ?こんな機会もそうそう無いんじゃない?」

 

「まぁ、そうだけども」

 

 《陽》の奴は折角だ、と歌を歌いながら空を飛び回るようだ。何が折角なんだろうか。

 しかし休暇、か。困った事に何もしなくて良い時間というのは苦手だ。……何処かで怪談でも語ろうか。

 そう思いながらふらふら宛ても無く彷徨っていると、魔法の森の入り口に立っている香霖堂の前に着いた。そういえば此処にあるものはどれもこれもが訳のわからない物で、見ている分には良い暇つぶしにでもなるかもしれない。更に店主の蘊蓄も加われば更に時間は過ごせるだろう……まあ、その蘊蓄が役に立つ事は早々無いのだが。なんて贅沢な時間の使い方だ。

 ジィジィと鳴く蝉の声を他所に、香霖堂の扉を開けた。

 

「いらっしゃい、詭弁……じゃなくて《陰》の方か。君一人とは珍しい」

 

「ああ。本体から休暇を出されてな」

 

「……自分の分身にかい?」

 

「そうだ」

 

 これには店主の森近霖之助も呆れ顔である。まあ分からんでもない。

 

「それで君一人で買い物かい?」

 

「何か珍しい物でも有ればと思ってな」

 

 方便である。まあ『ウインドウショッピングに来ました』と言うよりかマシ程度だが。

 

「ふむ……珍しいもの、ねぇ。……あぁ、そう言えば良いものがあるよ」

 

「良いもの?」

 

「少し待っててくれ」

 

 そう言って霖之助は店の奥に向かって行った。ふむ?

 少し待っていると苦しそうな声を漏らしながら、布に包まれている長物を持ってきた。

 

「ぐっ……よ、い……しょっ!はぁ、はぁ……」

 

「どうしたんだそんな重そうなもの」

 

「実際重いからね……これは『方天画戟』と呼ばれる形状の武器に非常に似ているが、用途的には魔法使いの杖に近い」

 

 そう言いながら霖之助は長物に巻かれている布を剥ぎ取る。中身は重厚そうに光を反射する、槍とも斧ともとれるようななんとも言いがたい物が鎮座していた。

 

「コレの名は『気天魔戟』と言い、気とは心、すなわち精神と生命を意味し、天は神の住む世界の事であり、魔は魔法、及び混沌を指す字だ。意味を繋げて読めば『神の世界を人の意思を持って掻き回す』と言ったところだろうか。元となった『戟』と呼ばれる形状の武器の用途も、馬上に居る敵を引きずり落とすところからあながち間違いではないだろう」

 

 単に製作者がカッコいいと思う字面を並べただけのように感じるが……まあ、言わないでおこう。

 

「そして驚くべき事にこの『気天魔戟』には()()()()()()()が使われているんだ。緋々色金はその希少性から、神珍鉄も希少性と重量から加工できる職人が非常に限られているんだが、この『気天魔戟』の芯材に神珍鉄が仕込まれていて、見た目以上に重いんだ。緋々色金は月牙と呼ばれるこの横刃と、持ち手の細工部分に使われている。何が驚きかと言うと、方天画戟は実は以外と最近生まれた武器の形状なんだ。『戟』と呼ばれる形状の武器の改良型の改良型のそのまた改良型の様なもので、当然そこに至るまで長い時間が掛かり、『方天画戟』の形状が出来たのは10世紀くらいだそうだ。三国志で有名な呂布が使っていた武器が方天画戟だという書物もあるがそれは後世の創作で、実際にはもっとシンプルな武器を使っていたそうだ。……おっと、話が逸れたね。要するに()()は方天画戟の『援』『胡』『内』『搪』の四種の用法に、離れた相手にも戦えるように『術』の用法を加えた武具なんだ。大陸では遥か昔から『五』に強い関心が向けられていて、五行思想なんかは特に有名だね。『気天魔戟』は『援』『胡』『内』『搪』『術』の五種の用法によってあらゆる敵を打ち砕く事が出来るように物理的な面と霊的な面から働きかけていて―――」

 

 何処からそんな蘊蓄が出てくるのか。もはや妄想としか思えないような角度から道具を語る霖之助に、意識が遠のきかける。蘊蓄を聞きに来たのが目的なのに、話半分にしか聞いてないというのもどうなのか。

 

「―――そういう訳でこの『気天魔戟』が作られたのは数百年程度前ぐらいだと思うんだが、それでもいくつか理解できない点もあるんだ。まず、何故これの製作者は神珍鉄と緋々色金の両方を加工する技術を持っているのか、そして『気天魔戟』を作って何を成そうとしたのか、の二つだ。遥か昔ならともかく、神珍鉄も緋々色金も今となっては希少すぎる金属だ。それを加工して作り上げたのが、扱う者を選ぶような使()()()()()()()()()を必要とする方天画戟。しかも更に()()()()()()()()()程に重いときた。そんな扱いにくい物を何故態々、しかも希少すぎる金属を使ってでも作り上げたのだろうか」

 

「『試しに作ってみた』程度じゃないのか?」

 

「試しに作るにしても、基本的には金属は再利用可能な資源であり、また希少なモノである神珍鉄と緋々色金をそのまま放っておくかい?ましてやそんな貴重なものが易々と『幻想入り』するとはあまり思えないんだ」

 

「なら試しに作ってみて、そしてそのまま放置する事が出来る程度にその神珍鉄と緋々色金がありふれているような場所で作られたんじゃないか?忘れられた者達が集まる世界(幻想郷)があるんだ。遥か昔に存在していた幻想の金属が集まる世界があったって不思議じゃないだろう」

 

「……ふむ」

 

 そう言った後、霖之助は目を閉じて腕を組んだ。俺が適当に言った説を考慮して、自身の考察を纏めているのだろう。

 霖之助は一度考えはじめると長いんだ。少しの間放っておく事にしよう。

 

 思考の海に沈んでいる霖之助を尻目に、『気天魔戟』と呼ばれた武器を持ち上げてみる。成る程、確かに見た目以上に遥かに重い。長さは約五尺(250cm程)、だが重さは成人男性の3倍以上と言ったところか。非常に重い……が、気力を使えば振り回せない事もない。

 ……まぁ、狭い店内で振り回す事はしないが。持ち上げた気天魔戟をゆっくり戻す。

 ふむ、霖之助はまだ思考の海に浸っているようだ。店内を軽く見回してみる。やはり雑多というか、ガラクタの山というか……。

 ふと、視界の端に大きな鉄塊が映った。いや、鉄塊というよりか、コレは……剣?長さは俺の身長並、幅は俺の肩幅程もあり、厚みも拳一つ分ととんでもないデカさの直剣だ。形状だけ見れば普通のロングソードのようだが、端が余りに厚すぎて切れ味なんて物は無さそうだ。

 

「……ん?おや、それに興味があるのかい?」

 

 思考の世界から戻ってきた霖之助が声を掛ける。興味があるというか、何でこんなモノを仕入れたんだ。というかそもそもこんな無骨な武器類を仕入れてくる事すら珍しいと思う。

 

「それは『巨人の短剣』という名前で、持ちあげられた者に巨人の如き怪力を授けるという呪われた代物だよ」

 

「へぇ……いや、そんな呪われたモンをポンと置いとくなよ」

 

「まあ、そうなんだが……無縁塚からそれを担いで持って帰って来たんだが、そこに置いた直後に全身とんでもない程の筋肉痛が襲ってきてね……下手に動かせなくなったんだ」

 

「それ()()とかじゃなくて単に日頃の運動不足が一気に来ただけでは?」

 

「いいや、求めていない祝福なんて呪いと一緒さ」

 

 しかし、怪力を授ける……ねえ?そんなモンよくまあ無縁塚に落ちてるモンだな。

 

「マジックアイテムの材料に使えるかと思ったんだが、それを溶かそうにもまず持ち上げられなくて……そうだ、それを引き取ってくれるのなら『気天魔戟』を安く売ってあげよう」

 

「体よく不用品押し付けてきやがる。つーか『気天魔戟』も買うなんて一言も言ってないぞ」

 

「おや、じゃあ要らないのかな?」

 

 要らない……なんて事は無い。方天画戟とかめっちゃカッコいいやん……。しかも魔法の杖代わりにも使えるだって?めっちゃ便利やん……。だが、こんな飾り一つ無い無骨な大剣なんて俺には……

 

「今なら『巨人の短剣』を君好みに細工し直してあげよう」

 

「そこまで言うのなら仕方ない。引き取ろう」

 

「まいどあり」

 

 そうしてまずは『巨人の短剣』を持ち上げる。すると『巨人の短剣』から多量の魔力が流れ込み、俺の中で『身体強化の魔法』が発動した。……なるほど、巨人の如き怪力のタネはこれか。非常に重いであろう大剣は、まるで木の棒かのように軽い。

 ふと思いついて『気天魔戟』も持つ。片手には人の身体のように大きい大剣、もう片手には大剣よりも更に長い方天画戟。……これはカッコいい。

 

「うむむ……元の肉体が強い程強化率も高くなるのか。まさか気天魔戟を片手で持つなんてね」

 

「外で素振りしてみていいか?」

 

「ああ、良いよ」

 

 両手が塞がっている為に魔法で香霖堂の扉を開ける。魔力の流れがかなりスムーズだ、良いぞ。

 両手に巨大な武器を持って、軽く振り回す。その武器の重量によって、振る度に空間が唸る音が響く。だというのに、自身に感じる重量はそれほどでもない。うーんこれは破壊力に期待できますね。

 巨人の短剣を立てて、思いっきり振る。すると空間をぶっ叩く様な手ごたえと共に暴風が産まれ、真正面の空間を薙ぎ払って行く。強い。

 気天魔戟を構え、ひたすら高速で突き出す。真空波が伸び放題だった雑草を刈り取っていく。強い。

 

「……弾幕ごっこどころか普通の戦闘じゃ使えないな。相手が死ぬという意味で」

 

 いや、無論手加減なんて不要な程に強い相手(風見幽香とか)ならむしろ積極的に使っていきたい所存。……だが、魔力の消費が思った以上にデカいな。

 

「うん。傍から見ただけの意見だけど、気天魔戟の魔力伝導率が《陰》自身の身体よりも遥かに高いせいで普段以上の魔力を消費しているみたいだね」

 

「魔力伝導率?」

 

「要するに、いつも以上に強力な魔法を無意識で使っているという事さ。本来の『魔法の杖』の役割ってのは、自身の力量以上の強力な魔法を安定して使えるようにするための制御装置であり、ブースターでもあるんだ。腕の良い魔法使いにとって無くても良いモノだが、それは単に自分の肉体以上に魔力伝導率の良い素材が早々あるものじゃないからだね」

 

「分かったようで分からん」

 

「君の身体を水の入った樽で例えると、魔法を使う時は魔力……樽の中の水を外に排出するようなモノだ。樽に穴を開ければ、当然中の水が出てくる。個人の才覚によってこの穴の大きさは変わる訳だが、良い『魔法の杖』を使うとこの穴が広がる。穴が広がれば、当然中の水が排出される勢いが増えるだろう?排出される水の勢いがそのまま魔法の威力になる」

 

「なるほど。そして水の勢いが増えたとしても、樽の中身の総量は変わらないから結果的にすぐ中身が空になる……と言う事か」

 

 その例えで言えば、穴を広げたり絞ったりする事は訓練によってある程度操作は出来るが、元々の穴の大きさが広がれば絞る感覚も少し変わってくると言う事。慣れないうちは余計な魔力を消費する、と。

 まあ、非常時のブースターが出来たと思うか。

 

「うん、良い物だ。ありがとう霖之助」

 

「いやいや、ちゃんと代金を払ってくれるんならこういったモノを幾らでも見繕ってきてあげよう」

 

「……ちなみに気天魔戟は幾らぐらいになる?」

 

「希少な神珍鉄と緋々色金が使われた高価な逸品だ。そうだな、巨人の短剣の引き取り費を差し引いて……こんなものかな?」

 

「……っ」

 

 霖之助が提示した金額に絶句した。その金額は、本体が金持ち達に売りつけて稼いだ大金とほぼ同額だった。お、俺の一存で決められる金額では……だが、気天魔戟は間違いなく良いモノだ……巨人の短剣と共に俺の新しい装備として申し分ない……くっ!

 

 

 

 

 俺達の夏季休暇は僅か一日で終了した。

 

「お前マジ覚えておけよ《陰》テメェ自分ばっか良いモン買いやがって!俺にも何か買いやがれください本体っ!」

 

「タダ同然の物しか買えないのでNG。くっ……結局着てくれなかった霊夢ちゃん用の水着なんて買わなきゃ良かった……だけど万が一着てくれるという未来が訪れた時に悔いが残るし……ええい!なんでこんなクソ熱い日に働かなきゃいかんのだ!」

 

「すまん……」

 

 本体は猛暑で暴れまわる妖怪の退治に、《陽》は山菜取りに、《()》は大量の木材を担いで里の大工に納品に。

 正に三倍力となって必死で働いた。暑さ寒さとは無縁だと思っていたのだが、この猛暑の中で働いたせいか幽霊だというのに汗が止まらなかった。

 

 

 太陽は今日も燦々と強く幻想郷を照り付けていた。




唐突な強化フラグ。
だって両手武器を両手に担ぐってめっちゃカッコいいんだもん(脳溶)

どうして過剰なまでに武装を強化するんですか?(電話猫)


・気天魔戟
元ネタはあると言えばあるし無いと言えば無い。どこぞの魔王専用理力の杖は関係ないと言えば無いしあると言えばある。
神珍鉄が心材に使われている為非常に重く、普通の人間では持ち上げるだけで精一杯である。霖之助は半妖だから何とか持ち上げられた。
武器としての性能は高く、魔法の杖としての機能を持っている事から武器の届かない様な遠距離であっても高火力を発揮できるだろう。十全に扱えるだけの筋力と技量があればの話だが。

・巨人の短剣
元ネタはあると言えば(ry
持ち上げると高レベルの身体強化魔法が自動で発動する。ただし筋肉痛には注意。
剣と名が付いているが切れ味は皆無。ほぼ打撃武器。ただし重量が見た目相応なので、思いっきり振り回せば相手を叩き切る事も出来なくはない。

どちらも詭弁じゃなく《陰》の所持武器ですので、陽輝棒並の出番はないかも。

どうして出番の無い武器を出したんですか?(電話猫)

詭弁には消費が超激しい超人モードが搭載されました。
《陰》には消費が激しい魔人モードが搭載されました。
《陽》には……何が良いんだろうか?

もう8月も終わるというのに夏は続きますね。気温もなかなか下がりませんが皆さま熱中症にお気を付けください。
感想ください。
熱帯夜も続き、エアコンをつけっぱなしにする事も多々あるとは思いますがエアコン風邪をひかないようお気を付けください。
評価ください。
水を飲みすぎてトイレが近くなり、間に合わず社会的に死ぬ事もあるかと思いますが生物的に死ぬよりかマシなので水をガンガン飲んでください。
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新しい神社ですよ!霊夢ちゃん!

いやー妖怪の山の描写は大変だったなぁ!!!
と言うわけで風神録の後日譚です!


 暑い時期も漸く過ぎ、季節は秋。芸術の秋、読書の秋、食欲の秋、そして異変の秋()()()

 

「お……おま、いつの間にそんな……なんでそんなお祭り事に誘ってくれなかったんだよ!!」

 

「お祭りって……アンタ収穫祭の準備で忙しかったでしょ?それにコレはウチの問題だから私が解決するのよ。……まぁ、呼んでもないのに来た奴も居るけど」

 

「へへっ、こうして宴会には呼んでるんだから感謝して欲しいくらいだぜ」

 

「バカ野郎お前バカ野郎!こんな脇丸出しの可愛い巫女が居るならいち早く俺に知らせろよ!」

 

「ちょっと黙ってなさい詭弁」

 

「あ、あはは……」

 

 今は博麗神社で、天狗や河童連中と共に新たに幻想郷の仲間となった『守矢神社』のメンツが酒をがばがば飲んで宴会を行っている。

 今俺の前に居る巫女(厳密に言えば風祝と言うらしい)は『東風谷早苗』と言い、なんでも此処博麗神社及び霊夢ちゃんに喧嘩を売った張本人らしい。なんて恐ろしいことを……その行いはもはや地雷原でタップダンスを躍りながらそこらを駆け回るようなものだ。よくもまぁ五体満足で生き残れたねぇ」

 

「そんなに危険なことだったんですか!?」

 

「適当なことを言うな!」

 

 おっと口に出てた。霊夢ちゃんから陰陽玉を投げつけられる。大変痛いので是非ともお止めください。

 

「さて改めて……俺の名前は『詭弁答弁』、里の便利屋だ。庭の草むしりから新鮮な肉や魚、山菜等の調達、薪割り荷運び妖怪退治、更には迷子のペット探しや舞台の設営、果ては信仰の獲得まで。代金次第でなんでもやるよ!」

 

「凄い!まるで『万事屋銀ちゃん』みたいですね!やっぱりスナックの二階に住んでるんですか!?」

 

「えっ……普通の一軒家に住んでるけど……」

 

「なぁんだ」

 

 えっ、なんか今凄い理不尽なことで失望された?

 

「早苗、詭弁に関わらない方が良いぜ。こいつ女と見ればすぐ食いつくような餓えた狼みたいな奴なんだ」

 

「ふっ……自分が女の子として扱われないからって嫉妬してるなオメー」

 

「あん?なんだ詭弁喧嘩売ってるのか?言い値で買ってやるよ」

 

「背が低い、胸も無い、家の中はガラクタだらけで片付けが出来ない、おしとやかさの欠片もない、チンチン付いてないイコール女の子って訳じゃねえぞこの性別魔理沙が!」

 

「あ"あ"!?お前今言ってはならないことを言ったな!?幻想郷でも指折りで女の子女の子してるこの魔理沙様に向かってなんて事を言いやがる!よーし上等だぜ!お前は此処で消し炭にしてやる!」

 

「はっ!部屋の片付けも出来ない女子力糞雑魚ナメクジなんぞ酒飲みながらでもボコボコにしてやるよ!」

 

 魔理沙は箒に跨がって飛び上がり、俺は神社の屋根に跳び上がって陽輝棒を構える。丁度良い、異変に参加すらできなかった鬱憤を晴らしてやる!

 

 

 

 ◆

 

 

 

「ふ、詭弁と言ったわね。これより始まるは神遊び……だが、稚拙な(いくさ)は許さないわ!全霊をもってかかってきなさい!」

 

 どうしてこうなった!?どうしてこうなった!?

 今俺の前に対峙しているのは、先の異変の黒幕。その名を『八坂神奈子』と言い、守矢神社の祭神だそうだ。そして風とか山とか司る神らしい。何故唐突にそんな神と戦うことになったのか。話は少しだけ遡る……

 

 魔理沙との弾幕ごっこは、マスタースパークを叩き切った《陰》の活躍により無事勝利を納めた……のだが、叩き切ったマスパの流れ弾に直撃して怒り心頭の天狗達が乱入してきた。

 それらを力で捩じ伏せたら今度は酒に呑まれて有頂天気分の河童連中も乱入してきて、更には『天狗の矜持を傷つけた!』と激おこぷんぷん丸で偉そうな天狗達も飛び掛かってきて物凄いすごいことになった(語彙死)。

 そうした大立ち回りを演じていたら、件の神様が『軍神の血が騒ぐ!』と突撃してきた。そして今に至る。

 

 どうしてこうなった!?どうしてこうなった!?

 

 さて、今日の俺はなんか滅茶苦茶調子が良い。ぶっちゃけ連戦の疲れが無いわけではないが、まだまだ動き回れる。とは言え、相手はマジもんの神様。しかもわりとバリバリの武闘派っぽい。

 

「どうした詭弁、来ないのかい?」

 

「ははは、神様相手に武器を向けるのも具合が悪いでしょう」

 

「ふぅん、つまらないな……よし。なら、もし私が満足いく戦いになったら何でも一つ願い事を叶え―――」

 

「ん?今なんでもするって言った!?」

 

「お、おう……(凄い勢いで食い付いてきた……)」

 

 神様が?何でも?マジかよ。今日から神奈子様信仰します。

 ぐへへ……山の神だけあって見事な()()()()の持ち主だぜ……。あれを好きなだけ弄り放題……いや、弄る以上の事だって……!

 

「(詭弁から凄い邪念と共に多くの信仰心を感じる……やはり奴には()()の素質があるな。……邪念さえなければ)」

 

「そういうわけで神様ボコっても不敬ってのは無しだぜ!」

 

「ふふっ、全身全霊で掛かってこい!!」

 

 神奈子様が両手を広げて待ち構える。何時でもどうぞってかぁ?なら掛かってやるよぉ!!

 

「『博麗式二重結界移動術(テレポート)』合わせて『大上段胡気天魔戟(カチ割りハンマー)』!!」

 

 二重結界による瞬間移動からの奇襲。気天魔戟の側面を神奈子様の脳天目掛けて振り下ろす。峰打ち……と言えば聞こえは良いが、実際には相当な重量から繰り出される兜割(かぶとわり)だ。普通の人間なら頭が身体の中にめり込むどころか、身体全部が地面の中にめり込みかねない。

 そんな技をいつの間にか出現していた柱で受け止め、尚余裕そうに笑う神奈子に自然と畏れを抱いた。

 

「ふふふ。御柱に傷をつけるなんて大したものじゃないか。今の世界にそんな事が出来る人間が後どれ程居るものか……(怖っ!こっっっわ!一切躊躇なく頭を割りに来たわね!?なんなの幻想郷って!?神に対して遠慮無い人間が多すぎない!?)」

 

「流石神様ってところか……力がダメなら、速さで勝負だ!」

 

 両手で持っていた気天魔戟を()()し、いつもの陽輝棒を持つ。やっぱり軽くてこっちの方が使いやすいぜ。

 

「『雷轟瞬閃(サンダーブレイク)』!!」

 

 雷のエレメンタルを使い、雷速の連撃を叩き込む。

 

「この我にイカズチで勝負を仕掛けるとは面白い!(いやいや、自分の身体を()()()()()()()なんて人間がやる事じゃないでしょ!?)」

 

 一陣の風が吹いたと思えば、本物の雷が俺目掛けて落ちてきた。今の俺は全身に雷を纏っているようなものだから、雷が直撃しても死にはしない……が、神性を持った雷なら話は変わってくる。要するに、めっちゃ痛い。

 

「ぐぎぎっ……『回復魔法(リジェネ)』!」

 

「ほう?今のを耐えるなんて中々丈夫ね。(本当に人間よね貴方……?)」

 

「速さでもダメなら手数っ!召喚『《陰》・《陽》』!」

 

「呼ばれて飛び出て以下略!」

 

「高価な武具分位は活躍しないとな」

 

「ほう……分身か。(いやいやいや、人間が分身なんてどういうことよ!!?そんな事歴戦の武将だって出来やしないってのッ!!こ、これが最近うわさの『若者の人間離れ』って奴なのかしら……)」

 

 分身に囲まれても不敵な笑顔を崩さない神奈子様。うむむ、もしかして分身程度じゃ驚かない程に外の世界は人外魔境なのか?

 まあなんにせよやることは変わらない!

 

「《陰》、《陽》、おっぱいの為に死ぬ気で行くぞ!」

 

「「露骨にやる気下がる言い方をするな!!」」

 

 《陰》は両手に持っている巨大な武器を振りかざして神奈子様に突撃し、《陽》は空を飛んで神奈子様の真上を陣取って霊撃を降らし、俺は氷のエレメンタルを使った魔法を詠唱する。

 

「力押しに牽制を合わせ、本命の魔法で仕留める気か……まだ青いが、良く練られているな。(3体に増えた上で各々違う攻撃を行うなんて、両手で全く違う絵を描くようなモノじゃない!?器用が過ぎるわよ!!)」

 

 大きな柱を打ち出すことで《陰》の突撃を止め、大量の弾幕の雨で《陽》の霊撃を撃ち落とし、突風を放って少し離れた位置に居る俺を吹き飛ばそうとする。流石神様……だが、まだ終わらない!

 

「っ……ぅがあアアアッ!!!」

 

 一度受け止めた柱を、巨人の短剣で叩き折る《陰》。

 

「ふぅぅぅ……ッせりゃぁぁぁ!!!」

 

 迫り来る弾幕の雨に対し、霊力で作った特大の弾丸を打ち出して逆に飲み込んだ《陽》。

 

「すぅぅぅ……はああああッ!!!」

 

 黄金色のオーラが見える程に強く練り上げた気を全身から放出することで突風を跳ね返す俺。

 三者三様に神奈子様の反撃を返し、大技を放つ。

 

「『無双転星(むそうてんせい)』!」

 

 《陰》が両手に持っている超重量の武器を全身で回転させ、遠心力と共に叩き付ける。

 

「『太陽落シ(ソーラーインパクト)』!」

 

 《陽》の放った巨大な霊力弾が眩い光を放ちながら突き進む。

 

「『極氷衛星(エウロパ)』!」

 

 俺の魔法が極寒の氷の玉を作り、冷気を放ちながら神奈子様に引き寄せられる。

 一つ一つが必殺の威力を持って殺到する。三星の絶技。逃げ場は、無い。

 

「……若き身でありながら良く研鑽された力だ、見事と言う他無い。……だが、まだこの身に届かせるにはちと惜しい。敬意を持って本気で相手をしてやろう!(ええいあの魔女といい巫女といい!幻想郷はバケモンみたいな人間の巣窟なの!?)神の力をその身で受けよ!『マウンテン・オブ・フェイス』!!」

 

 神奈子様が神の力を解放する。神の力は弾幕に変わり、高速回転していた《陰》を薙ぎ払い、氷の星を砕き、偽の太陽を消し飛ばした。

 単純な力業、それだけで俺の切り札が破られる。それほど迄に神様(神奈子様)人間()の力の差……()が違った。

 

「素晴らしかったぞ詭弁。お前はまるで人間の可能性そのものだ。もっと鍛練を積むがいい。いずれこの我の首にまで届くことを待っているぞ」

 

「……そりゃ光栄だね。ンだけどぉ……例え相手が神だろうと、『はい負けました』じゃぁ俺の気が収まらない。せめて()()報いさせてもらう……はああああああッ!!!!」

 

 腹の内側から全力で気を練る。身体から溢れた気を右手に集めつつ、今度は霊力を練り上げる。全力で練り上げた霊力を左手に集め、右手と左手を合わせる。

 身体の内側で霊力と魔力、気力を混ぜ合わせるから身体が破裂しそうになるのなら、身体の外側に近い所で混ぜれば良いじゃない理論だ。身体の内側で混ぜ合わせるよりか時間は掛かるが、比較的安全に混ぜる事は出来た。……霊力と気力だけなら。ここに魔力まで混ぜようとすると、身体の外側に一度発する必要がある所為で魔力のロスが非常に大きく、難しいなんてものじゃない上に意味も無い。力の合成は、理想の比率は霊力魔力気力が1:1:1。魔力のロスを入れると、全力で行うには今の最大魔力量がざっと3倍以上は必要になる。かと言ってロスする分気力も霊力も少なくすると、単純な出力不足で力を合成する意味も無い。故に今俺が出来る最高の出力は気力と霊力の最大合成。

 気力と霊力を合成し、キラキラと輝く()が生まれる。()()が形を変え、一対の弓矢となった。

 

「これが、今の俺が出せる全力全開ッ!!受けてみろォ!!!」

 

「……ふふふ。来いっ!」

 

 輝く力の弓を引き絞り、神奈子様に向けて光の矢を放った。

 光の矢は一直線に、曲がらずに神奈子様へ光の尾を伸ばす。神奈子様は御柱を撃ち出して迎え撃つが、一瞬の拮抗の後に御柱を貫いて光の矢が吸い込まれるように神奈子様の胸に光る鏡へと突き刺さる。

 

「なるほど、()()報いた……か。大したもの―――」

 

「これが俺の究極の禁じ手!!『博麗式二重結界脱衣射撃(アポート)ォ!!!」

 

 二重結界とはそもそも移動用の技ではなく、攻撃用の技……というよりか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()変化技なのだそうだ。その仕様に目をつけて瞬間移動出来るようにしたのは俺のオリジナル……だったのだが、なんか気が付けばいつの間にか霊夢ちゃんも瞬間移動出来るようになっててホントお前マジで理不尽……話がそれた。

 ともかく、二重結界は元々生き物が通れるような作りにはなっていなかった。それを自分だけでも通れるように改良したのが『博麗式二重結界移動術(テレポート)』だ。自分じゃない別の生き物、ましてや神を()()()()()()()なんてとてもではないが無理だ。精々―――

 

「……ん、何だ?なんか肌寒……ッッッ!!!???」

 

 ―――精々()()()()()()程度を手元にワープさせるくらいが限界だ。

 

「素晴らしい山岳……っ!季節も秋らしく、()()()()()()()()()()()―――」

 

「死ねァ!!!!!

 

 直後、顔面に御柱が突き刺さった。あ、荒魂の鎮魂は巫女に任せた……。

 

「まさかラッキースケベを意図的にっ!?やはり詭弁さんは主人公気質……」

 

「それより詭弁、アンタ神社の敷地内を随分荒らしてくれたようだけど……当然、直していくわよね?」

 

 あ、なんかダメそう。あー、じゃあ俺そろそろ帰りますねー。

 

待てェ!!!

 

「詭弁さん!やっぱり詭弁さんは本物のヒーローか何かですか!?」

 

「詭弁ッ!神社を元に戻してから行きなさい!!」

 

 いや無理ィ!!!捕まったら何されるか分かんないんだもんッ!!!いやぁぁぁぁ!!!あーなんかめっちゃ良い匂いするこの服ゥー!!!

 ……あっ、気力とか霊力とか諸々(ねんりょう)が切れた。

 

つ・か・ま・え・た♥

 

「ひえっ」

 

 明らかに大量の御柱が背中に見えるのですが、あの、ちょっと。それをどうするつもりですか!?ちょっと!!ねえ!!

 

 

 その後何度も御柱を叩きつけられた。

 




流石詭弁だぜ!神様相手でも容赦ねえ!
そして作者の一存で神奈子様はどこぞの勘違い系クールキャラみたいな内面。ただし神なので勘違い要素なくてもちゃんと強い。

クズVSキャナコ を見ている外野

早苗「ふわぁぁぁ!!!凄いです!!!まるでドラゴンボールをリアルで見てるみたい!」
魔理沙「ドラゴン……?何言ってんだ?いてて……あーくそ!詭弁に負けるのは霊夢に負ける以上になんかムカつく!」
早苗「と思ったら今度は雷がっ!?ま、まさか気勉さんは変化系能力者……!?」
霊夢「……何言ってんの?」
早苗「『電光石火』!今の絶対『電光石火』ですって!詭弁さんはキルアの生まれ変わりだったんですね!」
魔理沙「誰だよキルア」
早苗「はぁぁぁ!!!詭弁さんが増えたと思ったら其々バトルスタイルが違うとか!もう詭弁さんは一人で何人分少年漫画の主人公やってるんですか!!もう!!!」
魔理沙「おい霊夢、同じ巫女だろ早くなんとかしろよ」
霊夢「嫌よめんどくさい」


外の神様目線では割ととんでもないことを平然と行う詭弁。
なお幻想郷では、『まぁ詭弁だし』の一言で済む模様。なんにしてもバケモンかよ。
ちなみに詭弁は気力>霊力>魔力の順で多いです。気力は陽輝棒によって増幅され、霊力は詭弁本体と《陰》《陽》の三人分の魂を持っている為。魔法は基本的に低燃費の魔法をエレメンタルを使って強引に高火力にする使い方が基本。


クズ「ここすき、感想、評価が多ければ多いほど次回の早苗ちゃんの露出が増えますッ!!!」
早苗「ちょ!?勝手なこと言わないで下さい!!」

増えます(増えます)
さあ、みんな頑張って早苗ちゃんを全裸にさせよう!

もし感想も評価も来なかったら……詭弁が脱ぎます。


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信仰を捧げよッ!!!

作者「さーて前話の後書きの影響はどんなもんかなぁーっと……」
感想19件(投稿時)
「……ま、まぁ、過去にもっと感想来た事もあるし……全裸には程遠いな!うん!……一応評価確認するか……」
☆9ずらーっ!
「……ま、まぁまぁ……☆10無かったし全裸までは……半裸位で……」
ここすき者20 総数190
「はぁぁぁぁもぉぉぉぉぉ書けば良いんだろぉ書けばぁ!!!U・N・E・Iのブラックリスト入りなんざ怖くねぇ!!!」


あ、今回は色々試してみました。その結果なんか長くなっちゃったので分けます。早苗ちゃんの全裸はまた次ねッ!!!!!
代わりと言っては何ですが詭弁が脱ぎます。


 幻想郷に新しい神社が引っ越して来た宴会から数日。俺の家に客が来た。

 

「おぉぉ……此処が本物の万事屋ですね……!」

 

「便利屋だっての……んで、早苗ちゃん。今日はどうした?」

 

「はい。今日はですね、守矢神社に信仰を集めるために是非とも詭弁さんの力を借りたいと思いまして……昨日里で信仰集めをしていたんですが、全然手応えが無くてですね……」

 

「そういや外の世界から信仰集めに来たんだっけな。よしよし、手伝ってあげよう。勿論有料で」

 

「よろしくお願いします!あ、これ前金です!」

 

「うんう……ん?早苗ちゃん、これもしかしなくても外のお金?」

 

「え、ええ……そうですが」

 

「外の世界のお金は幻想郷じゃ使えないよ」

 

「えっ、ええっ!!?そんなぁ……えっ、てことはもしかしてウチって今無一文っ!!?」

 

「あはは、博麗神社より貧乏神社とはねぇ。でも安心してよ、例え無一文でも依頼は受けてあげる」

 

「本当ですか!?ありがとうございます!か、必ず後でお支払しますから!」

 

「あー、お金は大丈夫。お金のかわりに……このおっぱいで払ってくれれば良いから!」

 

 そう言って早苗ちゃんのおっぱいを突っつく。ほう……サラシ越しでもこの柔らかさ!大きさといい、これは期待できますねぇ。是非ともサラシを外して、生の大きさを見てみたい!

 

「ぴぃっ!!?や、やめてください!?」

 

 バッ!と俺から離れながら両腕でおっぱいをガードする早苗ちゃん。なんだろう、隠す仕草もグッと来るものがあるな。

 

「良いのかなぁ?神社、無一文なんでしょ?仮に山の妖怪達からのお供え物が来たとしても、それだけで食い繋ぐ事が出来るかなぁ?……というか、妖怪達のお供え物ってお酒ばかりじゃない?」

 

「うぅ……言われてみればほとんどがお酒だったような……」

 

「勿論依頼となれば全力で結果は残すさ。そうすれば里の人からお賽銭やらお供え物やら沢山ゲット出来るだろうねぇ。ほら、命が掛かってるんだから、おっぱいの一つや二つくらいで済むならそっちの方が良くない?」

 

「……で、でもぉ……そ、そうだ!何処かからお金を借りれば!」

 

「何処かからって、何処から?ちなみに先に言っておくけど里の貸金業は例え妖怪や神様相手でも相当な担保を要求するよ?神社に、担保になりそうなものある?それも外の世界ならともかく、幻想郷でも価値のあるようなものが」

 

「ううぅ……思い付かないです……どうしよぉ……」

 

「でも大丈夫!俺なら貸金のアイツにデカい()()があるから、俺の口添えなら無利子無担保で大金を貸してくれるさ!」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「勿論!俺と早苗ちゃんの仲だろ?」

 

「うう……詭弁さんが聖人すぎます……」

 

「いや、どう見てもあの手この手で()()()()させようとしてくる悪徳業者じゃないの……」

 

 ぬっ、と空間を裂いて現れたのは妖怪の賢者こと八雲紫。

 

「出たな妖怪スマキラー」

 

「どこぞの殺虫剤(フマキラー)みたいに呼ばないで頂戴。あとスマキじゃなくてスキマよ……まぁ、それはともかく。早苗さん?外の世界のお金なら私が換金しますわよ?……少なくともこの男に頼るより良いと思いますが」

 

「本当ですか!?じゃ、じゃぁ家にあるタンス預金も全部……?」

 

「勿論、いくらでも両替致します」

 

「や、やったぁ!これで無一文神社じゃなくなる!」

 

「おいおい八雲紫、いくらなんでも営業妨害だぞ」

 

「営業妨害って……貴方悪徳金融か何かかしら?」

 

「失礼だな、ウチでは金本位制と()()()()のダブルスタンダードを採用してるだけだぞ!」

 

「初めて聞いたわその制度……」

 

 そんなこんなで俺の目の前で外の世界のお金が両替され、普通に前金を渡された。チッ……。

 

「紫さん、ありがとうございます……」

 

「あら、別に気にしなくても良いのよ?外から来た方が安心して幻想郷で暮らせるように気を使うのも私のお仕事だから♪」

 

「そう言ってこっそり両替手数料取る気なんだろ俺は詳しいんだ!手数料として早苗ちゃんの胸を()()()()()する気なんだ!?」

 

「貴方と一緒にするんじゃないわよこのスットコドッコイ!!」

 

 さりげなく胸をガードしながら八雲紫から距離を取る早苗ちゃん。

 

「ちょ、違うわよ!?別に胸で両替手数料なんて取る気ないわよ!?」

 

「『胸で』!?じゃぁ違う何かで取られるんですか!?すみません私は至ってノーマルですので!!」

 

「胸じゃなかったらお尻か……もしくは口には出来ないようなあんなことやこんなことを……」

 

「やだー!私は至ってノーマルなのにーっ!!」

 

「えーい貴方達ちょっと黙ってなさい!!!」

 

 早苗ちゃんのおっぱいを邪魔された仕返しはこのくらいにしておくか。

 

「ひぃ!よ、寄らないで下さい!助けて詭弁さぁん!」

 

「誤解よ!私は同性愛者じゃないわよ!!?」

 

「幽々子ちゃんといつも一緒に居るのは違うのか」

 

「ち・が・う・わ・よ!!!」

 

 仕返しはこのくらい。ただし弄るのを止めるとは言ってない。

 

「『雪の降る夜。人肌恋しくなった八雲紫は亡霊の友の寝床に忍び込み、死んでいるはずなのに仄かに暖かい体温を深く感じるために能力を用いて互いの衣服をとり、肌と肌の境界を―――』」

 

「キャー!キャー!違うもん!そういうのじゃないもん!!!」

 

 顔を真っ赤に染めた八雲紫は、その能力を用いて作った()()()の中に顔から飛び込んでいった。

 

「……」

 

「……」

 

「……さて、じゃあ依頼を受けるとしますか」

 

「あ、はい」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 さて、早苗ちゃんを連れて人里を軽く練り歩く。

 

「ど、何処に向かっているんですか?」

 

「まぁまぁ、慌てない慌てない。早苗ちゃん、『信仰』って何か知ってる?」

 

「『信仰』が何か……って、それ神職に聞きます?」

 

「んぃ」

 

「『信仰』とは、言葉の意味なら神聖なものを絶対視して信じ、尊ぶものです。そして信仰の有り方とは、心の所作。人間は何かにすがらなければ真っ直ぐ生きていくのは難しいです。そこで絶対に折れない柱である神様を()()()()事で正しい生を全う出来るのです」

 

「ふむ、なるほどねぇ。じゃあ、今の時代で人間が最も()()()()()()ってなーんだ?」

 

「え、ええ……か、神様……ですか?」

 

 早苗ちゃんの答えにチッチッチ(tsk tsk tsk)と指を振りながら正解を教える。

 

「今の時代、最も信仰を集めているのは……『お金』だよ」

 

「『お金』……ですか?むしろ()()とは無縁の物に思えるんですけど……」

 

「地獄の沙汰も金次第とは言ったもので、昔はそれこそ神様に縋るしか無かった事でも、今では金であらゆる物事を解決する事が出来る。まあ限界はあるけど」

 

「うーん……それが()()とどう繋がるんですか?」

 

「それが最初の質問に繋がる訳だ。おっ、丁度茶屋が見えてきたし、そこで甘いものでも摘まみながら話そうか」

 

 そう言って茶屋の前にある、緋毛氈の敷かれた床机*1に腰掛ける。さあさお隣にどうぞ。

 

「おばちゃーん、『白餡蜜』二つねー!」

 

「あいよーぅ」

 

「ここの『白餡蜜』はすごく美味しいんだよ。折角だから奢ってあげるね」

 

「わぁ、ありがとうございます!……それで、()()()()()がどう関係するんですか?」

 

「んぃ。コレは俺の考えなんだけど、『信仰』ってのは要するに()()()()()()()()()()()だと思う訳なんだよね」

 

()()()?」

 

「早苗ちゃんが俺ん家に来て依頼をした時、前金って言って外の世界のお金を出したじゃない。なんでお金を持って来たんだ?価値のある物なら金とか、それこそ沢山お供えで来た酒とかでも良かっただろ?」

 

「なんでと言われても……どんな依頼でも()()()受けるって言われてましたから」

 

「そうだね。()()って言われたら普通、お金が必要って思うよね?じゃあその()()って何だ?」

 

「普通が何だと言われても……」

 

「んにぃ、()()を明確な言葉にするのは難しい。つまりその()()の中に潜在的な無意識があり、その無意識は()()()()()と言い換えられるんだよ。要するに、『お金をこれだけ持っていけば依頼を受けてくれるだろう』という意思があり、その意思とは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を持っているという前提からなるんだ」

 

「な、なるほ……ど?」

 

「『白餡蜜』二つ、おまちぃ」

 

「んぉう、ありがとう。お代は此処に置いとくよ。ほい早苗ちゃん」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 白餡蜜とは、餡蜜の上にこれでもかと言う程に白いクリームが乗っかったカロリーの暴力(女子の天敵)である。しかも下の餡蜜も小豆餡盛り盛り果物満載、白玉や求肥もいっぱい。こんなの食べて良いんですか!?良いんです、たーんと食いな!

 

「そして上から冒涜的な黒蜜をたっぷりかけてドーン!」

 

「あぁぁぁぁ!!カロリーが!!カロリーが!!!」

 

「かるーく混ぜて食べると……甘くて美味い!」

 

「ぐぅっ……目の前でそんなにおいしそうに食べられると……!」

 

「ほらほら、俺の奢りなんだから遠慮すんなってー」

 

「うぎぎ……食べたら絶対太る、絶対太る、絶対太るっ……でも食べちゃうっ!!!」

 

 巫女の質素な生活とは。

 

「うう……凄く美味しい……程よく甘くて、時々果物の酸味と苦みの所為で延々食べられる……」

 

「体重計乗るのが楽しみだねッ!!!」

 

「止めてぇぇ!!」

 

 閑話休題。

 餡蜜を食べ終えた後、お茶を啜りながら話を再開する。

 

「……さて、このようにお金はモノの対価として十全に機能するだろう。しかもよっぽどの事が無い限り、ある日突然持っていたお金が全てガラクタになりました!……って事も無い。何故なら皆この()()に対し、同量の金属以上の『価値』を認めているから。だから皆お金さえあれば何でも出来ると、お金を()()する訳だ。まあ例外も居るけど

 

「うむむ……つまり守谷神社の信仰を集めるには、まずは『お金』に対する信仰を何とかしなければならないんですね……」

 

「んぃ。まあ幻想郷だとお金なんて関係なく生きている妖精や妖怪も多いし、そんな人食い妖怪が目の前に居て『持ってる金全部やるから助けてくれぇ』と命乞いしたって聞いてくれはしない。そういう意味じゃ『お金』に対する信仰も弱いけど……そんな妖怪や妖精が居ない外の世界は、なんか色々ヤバイんだって?」

 

「うーん……詭弁さんの話を聞くと、外の世界では神様はまず信仰を得られないですねぇ……。食べる物や飲む物、衣服、住む所、生きるや死ぬに至るまで全て『お金』が関わってるんですから……」

 

「資本主義の闇だなぁ……さて、そろそろいい時間か。じゃ行こうか」

 

「えっ、行くって……何処に?」

 

「そりゃ勿論、信仰を集めにさ」

 

 

 

 ◆

 

 

 

「ここは……」

 

「呉服屋。まあ俺の友達がやってる所だ」

 

「いらっしゃいませー!おー詭弁!その子が例の!」

 

「んぉーう五福。()()の準備は出来てるか?」

 

「万端!少し待ってろ、今取りに行くわ!」

 

()()?何ですか一体……?」

 

「んぃ、まあ()()()()の小道具だよ……さて早苗ちゃん。凄い言い方をするけどまず理解してほしいのは、()()()()()()()だよ」

 

「っ!どういう意味ですか!?神様を売り物にすると!?」

 

「売り物だなんてまさか。『ビジネス』ってのは要するに()()()()()の関係さ。例えば鍬も持ったことの無い町人が居たとする。そんな人に『ウチの神様は農業の神!御利益は勿論豊作です!ぜひ信仰してください!』なぁんて言っても信仰するかねぇって話よ」

 

「む、むぅ……」

 

()()のニーズ*2に合わせるのも必要だが、まずは自身のシーズ*3に合わせて顧客を選ぶのさ」

 

「わ、分かるような……分からないような……」

 

「そこでまずは()()の厳選作業。基本的に里の爺さん婆さんはお金以外にも信仰する神様は既に居る……が、逆に若い世代は特に信仰する神様を決めている訳じゃない。それこそ神は居れど信仰せず、困った時の神頼み……なんてのが多数派だ。まあ祭とかだと率先して騒いだりするが」

 

「つまりその若い世代を上手く掴めば……!」

 

「信仰を簡単に獲得できるって訳さ」

 

「おおっ!……で、でも昨日信仰集めをしていた時は全然手ごたえが無かったのですが……」

 

「そりゃ時間か場所が悪い。神を信仰してないとは言っても、働かなきゃ生きていけないんだ。俺みたいに自由に時間作ってる奴じゃなきゃ大抵昼から夕方位の間じゃなきゃ忙しいモンだ。んで、そんな時間に暇してる奴が溜まる場所と言えば……」

 

「……と言えば?」

 

「酒場に決まってる」

 

 むしろ昼ちょい過ぎくらいに家に来たからビックリしたぜ。どうやってうまい具合に時間潰そうか考えてたんだから。

 

「おぉー!つまり今から酒場で信仰集めをすれば抜群に効果があると!!分かりました!ではすぐに行ってきま―――」

 

「結論を急ぐな。なんで呉服屋に来たと思ってる」

 

「……なんでですか?」

 

()()()を取りに来たんだよ」

 

「ほい待たせたな!コレが例のアレだ!!!」

 

 そうして五福が持って来た桐箱を開けると、()()()()()()()()()()()()()

 

「……何です?何も入ってませんが……」

 

「早苗ちゃんは『馬鹿には見えない服』の話って知ってるか?」

 

「え?ええ……『裸の王様』ですよね?それがどうしたんですか?」

 

「桐箱の中身、持ってみ」

 

「中身って……どう見ても空じゃ……ッ!?」

 

 早苗ちゃんが桐箱の中身を手に取る。

 

「えっ!?重さがあるっ!?なんで!?」

 

「ふっふっふ……それはオレと詭弁が長年研究を重ねに重ねた、現代の『馬鹿には見えない服』!!」

 

「ズバリ!『信心深いものには見えない服』だッッッ!!!」

 

馬鹿なんじゃないんですか?

 

 長かった……もうもの凄い長かった……ッ!完全に透明な糸と、糸を織る技術を作るのがもう本当にしんどかった……!!!

 

「さあ着てくれ」

 

「着ませんよこんなの」

 

「「なん……だと……?」」

 

「なんだも何も着るわけないじゃないですか!!」

 

(どうする詭弁!)

 

(……こうなればどんな手を使っても着させる!プランBだ!)

 

 思念伝達の魔法を覚えておいてよかった。

 

「早苗ちゃん、さっき話した事は覚えているだろう?信仰はビジネスだ!若い世代には『未来が良くなる』って御利益より即物的な御利益の方が分かりやすい!そして()()()()()()()()()()()()()()()()というのは、即信仰に繋がるんだ!この服を着れば『信じようかな?』と思った奴がふと早苗ちゃんを見れば、服が若干透けて見える。そこで俺が『神奈子様を心から信仰すれば早苗ちゃんの服が透けて見えます』と言えば、若い男達はスケベ心から熱心な信者になるだろう!」

 

「だからと言って脱ぎませんよ!?乙女の身体を何だと思ってるんですか!!?」

 

「幻想郷で新興宗教が信仰を集めるならこれくらいのインパクトが必要なんだって!かの『秋姉妹』も信仰を集めるために()()()しか身に付けなかった時もあるんだから!」

 

(お前が騙してな)

 

(俺だけの責任じゃねえし!)

 

(うるせぇ!何でお前ばかり良い思いしてんだこの野郎ッ!)

 

 と思考空間で殴りあいしているのを尻目に、早苗ちゃんは若干迷いが出てきたのか『信心深い者には見えない服』と俺の間で視線をさ迷わせている。

 

「で、でもどう見ても透け透け……どころか何もないんですけど……」

 

「そりゃ早苗ちゃんの信心がカンストしてるからさ!俺の目にはレース生地くらいにしか見えないぜ!」(合わせろ!)

 

(了解!)「あぁ、オレは商売の神様の熱心な信者なんだが、ちょっと厚手のシースルー生地くらいに見えるな!」

 

「む、む、む……詭弁さん程の信仰心でもそれくらいなら……いや、結局()が見えてるじゃないですか!?着ませんよ恥ずかしい!」

 

 くっ、まだダメか……なら最終手段っ!

 

「俺も着るっ!!」

 

(おまっ、バカか!!!)

 

「依頼を受けた以上、俺にも負担を背負わなきゃな!女の子一人だけに恥ずかしい思いはさせないぜ!」

 

「き、詭弁さん。そこまでしていただけるなんて……ありがとうございます!」

 

「良いって事よ!さぁ早苗ちゃん、透明でやりづらいとは思うけど、そこの試着室で着替えてきな!」

 

「はい!」

 

 そうして試着室に入っていった早苗ちゃん。

 

(ちょろいぜ)

 

(……じゃねぇだろ!!おま、()()()は一着しか無いんだぞ!どうするつもりだ!!?)

 

 『信心深い者には見えない服』なんてものは真っ赤な嘘(透明だけど)。正確には俺の魔力によって作られた、『幻術用の媒体』なのだ。魔法を使ってない時は当然誰が見ても無色透明な服なのだが、幻術を使えば特定の人には見えたり見えなかったりと遠隔制御で自在に操れる……のだが、当然それは媒体となる『透明な服』ありきの技術なので、透明な服無しにそんな器用な幻術なんて使えない……が、だからと言ってそれで諦められるか?

 

(どうする?じゃない……どうにかするんだよ!)

 

 考えろ……考えろ……!ただの幻術だと、『信心深い者には見えない服』と銘打っている筈なのに早苗ちゃんにも見えてしまう。だからと言って全裸で外を歩こうモンなら普通に騒ぎになる。早苗ちゃんには服を着ていないように見えて、それ以外の奴には服を着ているように見えるようにするためには……くっ、妙案が思い付かない……諦めるな、俺!『信心深い者には見えない服』は、元はと言えば俺の魔力だろ!何か手はある筈だ……!

 

 信心……信仰……無意識……っ!そうか!発想を変えて、()()()()()()()()()()()()()()()!!

 相手の無意識に働き掛け、『俺が裸でも騒ぐことではない』と思い込ませればいけるっ!!!

 

 くくく……『早苗ちゃんを半裸を拝んだ上で出歩かせて羞恥心を煽る』作戦……貰ったッ!

 

 

 

 

(よく考えたら、体よく騙されている気がする……)

 

 私は東風谷早苗。幻想郷に引っ越してきたばかりの女の子。今は万事屋……じゃなかった、便利屋の詭弁さんと一緒に人里で信仰集めをしようとしてるのですが……今は何故か透明な服を着させられそうになっています。これじゃぁ本当に裸の王様みたいになっちゃいますよ……。

 

(うぅ、詭弁さんは悪い人じゃなさそうなんですが、性欲にド正直というか……一体何故神奈子様も諏訪子様も詭弁さんに近づくように言ったんだろう。神奈子様はともかく、実際に会ってない筈の諏訪子様まで……)

 

 神奈子様曰く、『ヤツは是非ともウチに引き入れたいね』との事ですし、諏訪子様も神奈子様の話を聞いただけなのに『早苗の婿に丁度良いじゃん!』とか言いますし……。別に詭弁さんが嫌って訳じゃなくていくら何でも性急に過ぎるというかもっと互いを知ってからというか

 っと、思考が逸れた。ともかくこの透明な服を着るのは流石に……詭弁さんには悪いですが、また別の方法を模索してもらいましょう。しかし宗教はビジネス……かぁ。私には無かった発想だなぁ。

 

 そう思いながら試着室のカーテンを少し開けて詭弁さんに声を掛ける。

 

「詭弁さん。あの、すみませんがやっぱり流石にコレは―――ングっ!!?

 

「んぃ?どうした早苗ちゃん、流石に透明な服だと着るのが難しかったか?」

 

 カーテンの向こうに、下着一枚だけになっている詭弁さんが立っていた。ほぼ、裸。

 

「ききき詭弁さん!?なぜゆえに服を着ていないんですかッ!!?」

 

「どう見ても着てるじゃない……あぁ、早苗ちゃんは信仰心カンストしてるから、『信心深いものには見えない服』が完全に透明に見えるんだったっけ。えっ、って事は今俺早苗ちゃんにとってパン一姿晒してるっ!?ヤだ恥ずかしい!!」

 

(ルナティック白々しい……)

 

 そ、そうか。詭弁さんは今『信心深いものには見えない服』を着ているから、今は私にしか半裸姿を見せていないのか……。

 咄嗟の事で、すぐさまカーテンを閉めた。だというのに詭弁さんの肉体が脳裏に焼き付いて離れない。全身余す所なく鍛え上げられた筋肉、だがそれは見せる為に膨らませているモノでは無く、限りなく無駄を削ぎ落とした所謂『細マッチョ』というやつだろうか。ちらと見ただけでも巌のように硬そうな筋肉の鎧に身を包んでいたが、その身に刻まれた幾つもの大きな傷跡が彼の生き様を物語っているように思えた。

 心臓がドッ、ドッ、と早く鳴り響く。顔が熱い。もの凄くありきたりな表現を使えば、恋に落ちた……というものだろうか。

 少し前まで、恋愛ごとなんて所詮自分には関係の無い事だと思っていた。だが、今は……。

 

(もっと詭弁さんの身体を見たい……)

 

 ただ見るだけじゃない。前からだけじゃなく、横や後ろから近くで眺めてみたい。触ってみたい。色々な欲求が悶々と出てくるが、頭を振る事で無理矢理振り払う。こ、こんな事考えている場合じゃない……ちゃんと人里でも守矢神社の信仰集めをする為に頑張らないと……。

 

(……この透明な服を着れば()()()()()()詭弁さんがすぐ傍で一緒に信仰集めを頑張ってくれるのでは?)

 

 名案……いやいや、肌を晒すのは流石に……いや、でもちゃんと下着を着ていれば問題ないのでは?

 

(そう、言わばコレは水着のようなモノ!水着なら実質下着と同程度の露出ですけどセーフですし!というかそもそも『信心深いものには見えない服』という事ならちゃんと服着てますし!なら全く問題ないですね!!)オメメグルグル

 

 そうと決まれば早く着替えなくては。詭弁さんが待ってますし、若い世代の人達(ターゲット層)が酒場から移動してしまうし、詭弁さん(キンニク)が待ってますしッ!

 

(……あ、肌触りが凄い良い……パジャマにもピッタリかも……)

 

 そうして着ていた巫女装束を脱ぎ、意外と大きく感じる透明な服を着る。ぜ、前後は合ってるかな……?

 一応鏡を見て確認する。サラシを胸に巻き、白いパンツを履いている私。どう見ても下着姿です。本当にありがとうございました。

 

「早苗ちゃん、着替え終わったか?」

 

「えっ!?あ、はいッ!」

 

「じゃあ開けるね」

 

「え、ちょ――」

 

 シャッ、と試着室のカーテンが開かれる。目の前に半裸の詭弁さんが……

 

「あ、あの……えっと……ど、どうですか?……なんて」

 

 透明な服の裾(多分ワンピースタイプの服だと思う)を摘まんでその場で一回転してみる。……私が着てるコレが、私が見えてる通りに本当に透明な服だったらただの痴女だなぁ……なんて思いながら。顔、赤くなってないですかね……?

 

「おー!凄い似合ってるじゃん。めっちゃ可愛いよ!」(あれぇオカシイなぁ!?なんで普通に服着てるように見えてんの!?)

「……ぷぷぷ」

「美人は何着ても似合うとは言うが、想像以上だな……」(おい詭弁お前話が違うじゃねえか!!?早苗ちゃんの下着姿は!?)

 

「に、似合ってます?そうですか……ちなみに私は今どういった恰好ですか?」

 

「自分じゃ確認出来ないからしょうがないね!青色を基調としたシックなワンピースだよ!」(うるせえ俺も分かんねえよ!アレか!?俺が今無意識を操る魔法使ってる所為か!?あーもー解らん!)

 

「ちなみにお代はこの馬鹿が全額持つから気にすんな!それそのまま持って帰って良いぞ!」(クソッ!肝心な所でヘマしやがってこの馬鹿野郎!)

 

(馬鹿野郎とは何だテメェ!俺は今からぶっつけ本番で無意識を操る魔法を試すんだぞお前早苗ちゃんの半裸姿でも見なきゃ割に合わねえ助けてくださいッ!!)

 

(知るかボケッ!!!)

「くすくす」

 ふへへ……ナマの詭弁さんはやっぱ良い身体してますねぇ……ハッ!一瞬ヤバい扉を開けてしまったような気がする……!

 

「よ、よーし!じゃあ詭弁さん、信仰集め頑張りましょう!!」

 

「お、おう!そうだな!よし、じゃあ近くの酒場に案内しよう!」(作戦は失敗かっ……ッチ!いや、だが早苗ちゃんにとって今の自身の恰好は半裸である事には変わりない……メインターゲットは失敗だが、サブターゲットは成功させるっ!)

 

 そうして詭弁さんの後をついていく。……下着姿の詭弁さんの後を、ついていく。

 

(背中広いなぁ……触りたい……舐め―――ハッ!?いやいや、何考えてんの私!!)

 

(くっ……予想なら羞恥に悶える早苗ちゃんを見れる筈だったんだが、まるで()()()()()()()してるかのように自分の格好を意識しないな……手強い……!)

 

 そうして何とか意識を保ちながら、漸く酒場の前に来た。いよいよ、信仰集めの本番が始まる……!

 

 

 私達の信仰集めは、これからだ!!

「もうちっとだけ続くよ!」

 

*1
時代劇でよくある甘味処の前にある赤い色の長椅子みたいなヤツ

*2
顧客が求める需要

*3
自身が提供できる何か




ご愛読ありがとうございました――――
勿論続きます。

元々詭弁の第一印象は『良い』程度だった早苗ちゃん。神奈子様との戦闘を見て好感度が上昇した所で、神奈子様と諏訪子様の言葉によって詭弁をめっちゃ意識し、そして詭弁の半裸を見た事がトドメになりました。早苗ちゃんはチョロイなー(棒)

ちなみにですが作者の中では
早苗>>>咲夜>霊夢>魔理沙
です。異論は認める。
え?何がって?そりゃぁ……ねぇ?やっぱり外の世界の方が豊かだし、良いモン食ってるから……ねぇ?

たいじゅう!!!

「八坂の神風!!!」

ぐわぁー次回こそ裸にひん剥いてやるからなぁー。
感想評価ここすきボタンを忘れるんじゃないぞー。


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理性を捧げよォ!!!

お待たせしまくりました。
お詫びと言ってはなんですが、お待たせしまくりまくった原因を一首詠みます。

暑すぎて
惰性に過ごし
ハーメルン
今日も今日とて
お気に入り登録してある小説をまた始めから読みなおしている今日この頃なんですけども。(字余り)

前回こっっっっそり無意識発動してた事に気がついていた読者はどれくらいいるのかなぁ!?まあ気がつかなくても話に支障は無いぜ。
さて、酒場に乗り込んだ詭弁&早苗ちゃん。酒場……つまりは居酒屋。さて、最近の幻想郷で居酒屋と言えば……?


「たのもぉー!!」

「たのもー!」

 バァァァーン!と酒場の扉を開けて中に入るパン一姿の俺と青いワンピースを着た(透明な服の筈なのに……)早苗ちゃん。ガヤガヤと騒がしい店内は一瞬静かになった直後、再び喧噪に包まれた。

 

「よぉ詭弁!おめぇ……まーたベッピンさん連れてきたな!!」

「やだぁそれって私のこと?」

「いい加減一人に絞れー!」

 

「うるせぇ酔っ払い共!」

 

 よしよし、呑兵衛共には今の俺の姿に対して特に違和感は感じて無いみたいだな。

「皆私達に対して無意識だから!」

「いらっしゃいませー!」

 

「んぃ、よぅ()()()()()!コイツで適当に頼むぜ!」

 

「相変わらず気前がいいですね!ちょっと待ってくださいねー!」

 

 彼女はこの酒場、『鯢呑亭(げいどんてい)』の看板娘の奥野田美宵。とても可愛い(重要)。そしておっぱいが素晴らしい(超重要)。

 小金の入った小袋を美宵ちゃんに渡す……と見せかけてその失礼なおっぱいを突く。うむ……やはり素晴らしい胸だ素晴らしい。柔らかさと張りが違いますよ。

 

「もー、まだ飲んでもいない内からこのクソ酔っ払いは♪」

 

「メゴスッ!!?」

 

 美宵ちゃんがいつの間にか手に持っていた徳利で俺の頭をぶん殴る。ねえ、普通の人間なら額が割れ砕けてますわよ……。

「いま一瞬凄いめり込まなかった?」

「き、詭弁さん大丈夫ですか!?」

 

「お、おぅ……いつもの事だ……」

 

「徳利で殴られる事がいつもの事なんですか……?」

 

 自分で言うのもなんだが、自業自得してる俺を心配してくれる早苗ちゃん優しい。結婚しよ。

 

「まあ、とりあえず座りな」

 

「えっ……(もうケロリとしてる……)は、はい……。あのぉ……信仰集めをするのでは?」

 

「勿論集めるさ。だが、それは今じゃない。信仰はビジネス、()()()()にゃぁタイミングが重要なのさ」

 

「はーいお待ち!有り合わせ盛りと漬物、それにウチ自慢の煮物です!」

 

「んにぃ、さんきゅ」

 

 そうして出て来たのは焼き鳥に刺身、キュウリや白菜の漬物に煮物と雑多な料理が机の上に所狭しと並ぶ。

 

「いつもこんなに食べてるんですか……?」

 

「ん?まあね。空きっ腹に酒はキツいし、特に最近は良く食べるようになったし……あ、此処の料理はめっちゃ美味しいから遠慮せず食いな?」

「ありがとう!いただきまーす!」

「は、はぁ……(流石男の人……いやそれにしても食べ過ぎな気もするけど……)」

 

 そうして酒と料理を摘まみながら機会を待つ。するとある一団の声が鯢呑亭内に響く。

 

「しっかし最近アレだよなー……なんつーか盛り上がりに欠けるっつーか」

 

「あーわかるわー。なんかアレだもんなー……アレだもんなー」

 

「語彙力死んでんのかお前」

 

「事件らしい事件も起きねえし……なんか()の方が騒がしかったらしいけど、オレ達にゃ関係ねー話だしな」

 

「何言ってるんですか。もうすぐ収穫祭がありますよ」

 

「収穫祭もなぁー、なんというかマンネリ感があるんだよなー」

 

「一昨年の()()はサイコーだったけどな!」

 

「今年も()()やりゃ良いのに……なあ美宵ちゃん?美宵ちゃんもフンドシ一つで―――」

 

「もーこの酔っ払いは。そんなに鼻っ柱折られたいのかしら?」

 

「怖ッ!?詭弁じゃねえんだから鼻折られたら早々治らねえからな!?」

 

「……あ。そういえばよぉ……風の噂なんだが、何でも()に新しい『神社』が出来たらしいぜ?」

 

「『神社』ぁ?ンでまたそんなモン出来たんだよ?」

 

「なんでも外の世界から来たんだとさ。天狗の新聞に書いてあったってダチが言ってた」

 

「はぁー?どうせ天狗の妄想新聞だろ?ンなモン間に受けんなや」

 

「いやいや、さっき山が騒がしかったって言っただろ?ソレと関係あるんじゃねえのか?」

 

「つーかじゃあなんで外の世界から態々やってきたんだよ?」

 

「そりゃー……侵略の為とか?」

 

「話は聞かせてもらったぞ!このままでは幻想郷は滅亡する!」

 

「「「なっ、なんだってー!?」」」

 

 騒がしい事この上ねえな。

 声のデカい一団が幻想郷滅亡論を語っている中で俺と早苗ちゃんは料理に舌鼓を打っていた。

「おいしー」

「早苗ちゃんは酒が苦手なのか?」

 

「はい……まあ、苦手というか、そもそも()()()では飲んだことも無くてですね」

 

「へぇ……えっ?外の世界には酒が無いの?」

 

「ありますよ!そうじゃなくて、外の世界では未成年がお酒を呑んではいけない法律があるんです」

 

「……えっ……なにその悪法……。くっ、汚い大人が酒を独占しようって為の法律かっ、なんてあくどい事を!」

 

「どこの禁酒令ですか……未成年がお酒を飲むのは健康に悪いって言われてるんですよ」

 

「それはおかしい。何故なら日常的に酒を飲む俺が健康的な日々を送っているのだから」

 

「詭弁さんは()()()()じゃないのでは?」

 

「言ってくれるじゃねえか……」

 

 そのおっぱいモミモミしてやる覚悟しろ。

 と、揉み攻防を繰り広げる俺と早苗ちゃんの前に有った料理が尽きた。はて、いつの間に?ま良いか。

 

「美宵ちゃん。ダシ巻きと天ぷら盛り合わせ、追加でナスお願い!」

 

「はーい!」

 

 そうこうしてると、幻想郷滅亡論を語っていた一団の声が小さくなっていく。何言ってるかは聞き取れないが、恐らく話は終わりの方向に向かっていってるのだろう。よし、そろそろ行くか。

 

「アナタハカミヲシンジマスカー!」

 

「どぅ!?ンだよ詭弁か!?脅かすな!」

 

「悪いな、面白そうな話が聞こえてたからつい。新しく来た神社の話をしてやろうか?」

 

「何っ、知っているのか詭弁!!」

「知っているのかライデン!」

「左様……妖怪の山に新たに現れた神社、その名を『守矢神社』と言い、風雨の神であり山の神である『八坂神奈子』を祀神としている。外の世界においては軍神としても名を馳せており、その御利益は五穀豊穣や武運、また風関連のアレやそれや等だ。また()の神だけに、神奈子様はそりゃぁ大層な()を御持ちであり、()に悩む女性の助けに―――」

「私もおっぱい大きくなるかな?」

「変な御利益を足さないでくださいッ!!」

 

 会話に割り込んでくる早苗ちゃん。

 

「丁度良い。この子がその守矢神社の風祝、『東風谷早苗』ちゃんだ。見ての通り()()()に仕えるだけの素晴らしいモノを持っているだろう?」

 

「おお……これが神の御利益……」

 

「ありがたやありがたや……」

 

「なんで胸に向かって拝んでくるんですかっ!!?」

 

「ほら、現人神ってそういうモンって言ってたでしょ?」

 

「意味が変わってきますよねぇ!?」

 

 忘れてはいけないのだが今の早苗ちゃんは透明な服を着ているのだ。例え他人からは普通の服を着ているように見えても、早苗ちゃん主観だと半裸状態で囲まれている……筈なのだが、なんというか……あんまり羞恥心を感じて無いというかいつも通りというか……。

 

(うーん……半裸で居るのにも慣れてくれば大したことじゃないかな……どうせ周りの人には普通の服を着ているように見えてるんですし。()()()()より詭弁さんの身体……うぇへへ、見てるだけでご飯三杯はいけそう……)

 

 うっ、なんか背中がゾクっとした……。

 と、とにかく……信仰集めを再開しよう……。

 

「さぁて皆様方お耳を拝借。外より来る神は信ずる人の心をご所望の様子。しかし此処は思いが力となる幻想郷。信心すらも()()とは言いますまい。そこで皆々様に『神の奇跡』をご覧入れましょう。信仰はそれを見てからでも遅くは無い。さあさあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい」

 

 パンと柏手一つ。音の響きに()を乗せる。必然注目が集まり、酒場内が一瞬のうちに()()と化す。

 

「(おお!なんか時代劇でよく見るような芸人みたいですね!)」

 

「(何呑気な事言ってんだ早苗ちゃん、()()()()()じゃなくて実際に芸人やるんだよ。無論半端な『奇跡』じゃあ信仰なんて集まんないぞ?)」

 

「(……えっ?誰が?)」

 

「(早苗ちゃんが)」

 

「ええっ!!?」

 

 いや、『ええっ』って……幾ら俺があーだこーだ言おうとも、結局信仰心を集めるのは目に見えて分かり易い『奇跡』って言っただろ?

 

「(そういうわけでまずは簡単な奇跡からヨロシク!)」

 

「(簡単なって言われても……『奇跡』起こすのだってタダじゃないんですよ!?長い準備が必要なんです!)」

 

「(()()()()()()()()()()()()何でもいいんだって!お手本見せるから合わせて!)」

 

「(お手本って……ああもう!)」

 

「さあ先ずは俺から!先日の山の騒ぎの後、守矢の信徒となった俺は信仰を広めるために神奈子様より直々に御力を授けて戴いた。その奇跡を御覧じろ!」

 

「(えっ!?いつの間に神奈子様からそんな力を貰ったんですか!?)」

 

「(ただの嘘だ!)」

 

「(!??)」

 

 要は神様の御利益っぽい結果を引き起こせば良い。それなら俺の魔法でちょちょいのちょいよぉ……(ゲス顔)

 

「さあこれが『神の風』だ!」

 

 手元に魔力を集め、風に変換させる。無論店の中なので、そよそよとした微風程度の出力に抑える。締め切った店の中で風が生まれるという奇跡だが、ショボ……と思ったそこの貴方!真の()()はこれからだ!

 手に集めた魔力を地面に叩きつける。するとそこから舞い上がるように風が吹き―――

 

「……へっ?」

 

ザワッ 「おおっ!!」 ザワッ

 

 鯢呑亭の看板娘が着ていた服の裾が大胆に捲り上がり、その透き通るようなモチモチ太ももを晒した。あー大変エッチで良いですねぇー。パンツ……もうちょいでパンツも見えそ……

 

「でぇいッ!!!」

「ふんッ!!!」

 

「ばっきゃもッ!?」

 

 早苗ちゃんの拳と美宵ちゃんの蹴りが俺の頭を挟むように放たれ、ダメージが逃げる場も無くそのまま膝から床に崩れ落ちる。み……見え……た……ガクッ。

 

「……コホン。えー、本当の『守矢の奇跡』をお見せしましょう」

 

 

 そうして信仰集めは一応何事も無く進んだ。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「頭が割れそう……」

 

「全く、飲み過ぎですよ詭弁さん!仕事中にお酒を飲むなんて信じられませんっ」

 

「おう物理的に頭が割れそうなんだよこちとら」

 

 信仰集めは一応『成功』と見て良いらしく、一応それなりに新たな信者を獲得出来たようだ。そして後は地道に布教活動を続けるだけ……つまり俺のお仕事はこれで終了との事である。

 

「本当に良いのか?」

 

「はい。詭弁さんのお陰で、幻想郷での布教の仕方は大体分かりましたので」

 

「脱ぐのか……俺以外の男の前で……」

 

「脱ぎませんよ!?」

 

 冗談ですぉ。

 

「んじゃ気をつけて帰りな。……一応言っておくが里の近くに分社を立てる場合、俺じゃなくてちゃんと大工雇えよ?」

 

「…………あはは、流石にそんな事ぐらい分かってますよー?」

 

「なんだその微妙な間は」

 

 金さえ出せば何でもやるけど、俺に何でもやらせるな。

 ……と、もう空はだいぶ日が傾いていて、既に東の空から夜が降りてきている。もう間もなく妖怪達の時間になるだろう。

 

「詭弁さん、ありがとうございました。それではまた」

 

「んぃ、またな」

 

 そうして早苗ちゃんと別れる。……さて、晩飯はさっき食ったけど、もう少し何か摘まんで行こうかな。

 

 

 

 それからまた暫く。日はほぼ沈み、空は藍色と紫色のグラデーションに染まり、星明かりがアクセントとして光っている。

 

「あ”~……偶には銭湯も悪くない。こうして湯に浸かりながら脚伸ばせるのは良いな……」

「ウチのお風呂ももっと広いと良いんだけどねー」

 腹も膨れたし後は帰るだけ……と思ったんだが、家の風呂を掃除する気力が湧かなかった為にこうして里外れの露天風呂に来た。湯に浸かり、空を眺めながらの一献もオツなモノよ。

 此処、里外れの銭湯は広い露天風呂が特徴なのだが、里外れ故に稀に妖怪が潜り込んでくる事があって割と不人気だ。今も俺以外には誰も客が居ない位に。

「私も居るよ?」

 はぁぁー……どうして銭湯の風呂は家の風呂と違って疲れが溶け出るような感覚になるのだろうか。酒を傾けながら今日の出来事を思い返す。……うむ、やはり早苗ちゃんのおっぱいは良かった。帰ったらおっぱい番付を更新しておかなきゃな。フフフ……思い出すだけで昂ってきました。

「わっ、わっ、ちんちん大きくなってきた……凄い、私の手より遥かに大きい!」

 カララッ!と露天風呂の出入口が開く音がした。

 

「私いっちばーん!」

 

「こら諏訪子!ちゃんと掛け湯しなさい!」

 

 入ってきた声は、幼い声と妙齢の女性の声だった。酒に酔った俺ではよく判断が付かないが、そういえば此処は混浴だったなと今更になって思う。だってあんまりにも利用者少ないんだもん。

 パチャパチャと掛ける音がしたと思えば、視界の端で小柄な少女が風呂に飛びこむのが見えた。おっと酒が零れる……。

 

「諏訪子!」

 

「へへー、やっぱ広いお風呂はいいね~♪神奈子も早く入りなよ!」

 

「……カナコ?」

 

 はて、最近聞いたような名前の気がするぞ……。

 

「諏訪子様、神奈子様、はしゃぎ過ぎですよ……他の利用者が居るかもしれないじゃないですか」

 

「私もかい!?」

 

 はて、ついさっきまで聞いた声の様な気がするぞ。

 

「良いじゃん良いじゃん。脱衣所に他の客の服なんて置いてなかったんだし、誰も居ないってー……―――ありゃ?」

 

「久々に外に出たからってはしゃぎ過ぎよ諏訪子―――あら?」

 

「どうしたんですか?そんなありえないモノを見たかのような声を―――って」

 

 湯面に浮かぶ金髪幼女。屈んで掛け湯をしている最中の美女、しずしずと露天風呂に歩いてくる美少女。全員がタオル一つ持たず、その身を空に晒していた。要するに色々開けっ広げになっていた。

 滴る湯を弾くその身にはシミ一つ無く、豊かに実っている()の頂点に色づいている()。髪の色と同じ()()()()()()()はその()を隠し、されど完全に隠しきるほどには茂っておらずその()の鮮やかな色を仄かに見せている。正に女神。

 細く締まった腰回りから弾けるように実る()に、その先っぽを隠している()()()()()()()()。まだ生え揃っていない()()は、()()()()()()をさらけ出している。正に聖女。

 あとなんかプニプニしてそうな子供。

 

 

ディ・モールトグラッツェ(誠にありがとうございました)ッッッ!!!」

 

 

 顔面に御柱とかが突き刺さる僅か二秒前の言葉だった……

 




霊夢「……っ!今異変が起きた気がするわ。詭弁に夢想封印撃ちに行かなきゃ」ガタッ

酔蝶華買ってないなんて……そんな……そんな事お前……
くっそ、あんなえっちな服しやがって。

何故カナスワ神様が里まで来たかというと、神社に戻ってきた早苗(透明な服着用)の姿を見て『詭弁は何処だァ!!?』と探し回った結果。
詭弁の家に襲撃掛けたが不在。何処探しても居ない。あー疲れた。おっ、丁度銭湯あるやん、寄ってこ。という思考。フフフまさかそこが混浴だとは神様ですら思うめえよ……。


クズ「」チーン

早苗「ど、どうするんですか?」
神奈子「どうするも何も、脱衣所にでも放り投げておきな」
諏訪子「裸のままで?」

三人「……」
クズ「」チーン <コンバンハ!

諏訪子「ぐへへ、仕方ないなぁ!じゃあ私が責任もって脱衣所で鎮めてきてあげるよ!」
神奈子「絵面がヤバイから止めな!」
早苗「お、お、おち、おち、おちん、おち、……ふっ」バタッ
神奈子「早苗まで倒れたッ!?」
諏訪子「じゃあ早苗の手当は任せた!」
神奈子「あーもー収集が付かないだろいい加減にしろッ!」



「感想、評価、ここすき、いーっぱいくれたら……地底でいーっぱいサービス♥シーンがあるかもっ!だから皆よろしくねー!」


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落とし穴ですよぉぉぉぉぉ!!!?

毎日更新って都市伝説、御存知ですか?私は知りません。ええ知りませんとも。


時系列的には緋想天が先なんですが、作者のモウガマンデキナイ!な精神によって詭弁には先に地底旅行券(片道)をプレゼント。
漸く……漸く好きなあの子が出せるっ……と……良いなぁ……ッ!


 皆さまこんにちは。詭弁答弁です。今日は真冬の妖怪の山にやってきました。冬という事で一面雪景色。右も左も真っ白です。

 さて、何故真冬に妖怪の山にやってきているのかというと、これも偏に守矢神社からの依頼という訳です。守矢神社は妖怪の山の頂上付近に建っている事から、人里に住む普通の人間では参拝は困難を極める。故に此度私のような便利屋が安全な参道の整備、或いは参拝者を安全に人里から神社までを結ぶ乗り物の設営準備等を任された次第。参道の整備も、乗り物設営の準備も、先ずは安全な通り道の確認をする事が第一に必要な事。よってこうして歩いて妖怪の山を登って()()訳なのですが……

 

 今、俺は足を滑らせ、転んだ先に偶々ポコッと開いていた穴から転落している最中である。

 

 

「そんな馬鹿な事あるぅぅぅ!!!???」

 

 

 ないわー。そんな事ありえないわー。雪の積もった山道に苦戦して、偶々踏みしめた所が凍り付いた上に苔むして超滑りやすい石で、滑って手を着いた所に偶々人一人分程度入れるような大きさの穴が開いていて、しかもそれが雪によって隠されていた。そして今、その穴にズボォッ!!っと真っ逆さまに落ちている俺。空を飛ぶってこんな感覚なのね。いやぁー……助けて厄神様、御祓いおねげーしやす。

 

「って言ってる場合じゃないってのぉ!!」

 

 穴の中は真っ暗。身体は真っ逆さま。何時頭から穴の底に突き刺さるか分からない恐怖が俺を襲う。嫌じゃ!こんな死に方しとうない!

 空を飛べないという、普通の人間にとって当たり前だが幻想郷においては明らかな不利が此処に来て俺に襲い掛かる。いやほんと、どうしよう。そんな事考えている間にも、落下速度は体感どんどん加速していく。

 

「くッ!!『輝け如意陽輝棒』ッ!!!」

 

 手に持っていた陽輝棒が真っ暗な穴の中で輝き、周囲を照らす……が、それでも穴の底が見えない程に深い。

 陽輝棒を振り回し、穴の横壁を叩いた反動で反対側の横壁に近づく。

 

「『硬気功』ッ!『大地の加護』ッ!」

 

 気を練り、自身の肉体を鋼のように頑強に強化し、更にその上から妖精手甲によって強化された魔力の鎧を纏う。

 迫る横壁に手を伸ばし、少しでも落下速度を弱めようとする……が、落下速度が余りにも早過ぎた所為で岩のように硬い横壁に腕が弾かれた。……だが、何とか身体を捻り、脚を下に向けられた。

 

「ぐぅぅッ……!!『緊急脱出(ベイルアウト)』ッ!!!」

 

 霊力や魔力を足先に集め、そのまま爆発させる。本来であれば自分一人を爆発の勢いで高く跳ばすための緊急避難的な技なのだが、四の五の言ってられない。足先から伝わる衝撃がそのまま腰、背中、肩を通り頭まで貫く。

 

「『緊急脱出(ベイルアウト)』!!!」

 

 二度、三度と繰り返し、漸く目に見えて落下速度が弱まった……と思った矢先の事。視界の下、穴の底に白い何かが見えた。まさか、穴の底……

 そう思い至った瞬間、地面に叩きつけられて身体がグシャグシャになる未来が想像出来た。

 

「(止まれ止まれ止まれ止まれッッッ!!!)」

 

 もはや声も出ない程に引き攣った喉で声にならない声を上げながら足先を何度も爆破して、必死になって落下速度を抑え続ける。全身の骨が爆破の衝撃で粉々になっていく感覚がするが、ミンチ肉になるよりもマシだ。

 そして……

 

 白い何かに包まれるように受け止められ、網に掛かった魚のような気分を味わいながらブチブチという音を聞き、漸く落下速度が0になった。

 

「……死んだかと思った」

 

 大丈夫?口から魂出てない?

 

「……随分派手に落ちてくるなあと思ったら、人間だったか。河童あたりが嫌がらせに花火でも落としてきたかと思ったよ」

 

 身体に纏わりつく白い何かに悪戦苦闘していると、横穴から中々奇抜な服装をした金髪ポニーテールの少女が現れた。

 

「おお、よく見ると私好みのイイ『男』じゃないか。しかも五体満足……じゃなさそうだけど、まあ原形残ってるだけマシか」

 

「そう言う君も俺好みの美女……俺の名前は『詭弁答弁』。しがない一般人だ」

 

「おやご丁寧に、私は『黒谷ヤマメ』。しがない土蜘蛛さ」

 

「土蜘蛛……はて、聞いたことあるな。病気を操る妖怪だったかな?」

 

「お、正解~」

 

 土蜘蛛……蜘蛛って事は、この白い何かはもしかしなくても蜘蛛の糸か。

 

「ふっふっふ、何の因果か知らないけど、土蜘蛛(わたし)の糸に絡まるなんて『食べてください』って言ってる様なモノよ。今すぐパクッと食べちゃっても良いんだけど……折角のイイ男だからちょっと()()()()()()にしようかねぇ?」

 

「……そういえば蜘蛛の糸って()()()から出るよな」

 

「……ん?いや、まあ……オシリと言えばオシリ……かな?」

 

「……」

 

「……」

 

「クンクンクンクンクン」

 

「ちょちょちょっ!!?意味深な事言ってから糸の匂いを嗅ぐんじゃないよっ!!!」

 

 仄かに甘い匂いがした。

 

「分かった。アンタさては馬鹿だね?」

 

「馬鹿とは失礼な。人里一の『大天才(ベスト・ジーニアス)』とも呼ばれた俺が馬鹿な訳が無い」

 

「なら地上の人間は馬鹿ばかりなんだねぇ」

 

 それはどういう意味ですかね。

 と、蜘蛛の糸に絡まっている俺の上に跨るように乗るヤマメちゃん。

 

「何をする気でせう」

 

「何って、そりゃぁ()()()()()に決まってるじゃないか。さて、その邪魔な服を脱ぎましょうねぇー」

 

「いやああああ食われるぅぅぅぅ!!!」

 

 性的な意味でなら勿論バッチ来いなんですが食事的な意味ではらめなのぉぉぉぉ!!!

 口に魔力を溜め、勢いよく噴き出すと共に炎に変換する。

 

「『火炎弾(ドラゴンブレス)』!!」

 

「うわっち!!?火ぃっ!?」

 

 吐いた炎に驚き、跳び退くヤマメちゃん。その隙に全身に魔法の炎を纏い、蜘蛛の糸を焼き切る。

 

「むむ、久しぶりの人間なんだ。逃げようったってそうは行かないよ!罠符『キャプチャーウェブ』!」

 

 そう言ってヤマメちゃんは弾幕を放って来た。ふぅん、良いだろう。戦うというのなら……人間らしく生き残る為に、こちらも武器を取ろうではないか。

 放たれる弾幕を駆け抜け、ヤマメちゃんにすれ違うように一閃。手に持った光の短剣がヤマメちゃんを斬り捨てる。

 

 より正確に言えば、ヤマメちゃんの着ていた服の下部分(膨らんだスカート)を斬り捨てた。

 

「な……っ!?キャーッ!!!!

 

 は?何その紐パンツ。誘ってんのか?お?ケツでか過ぎて後ろからじゃほぼ履いてないようにしか見えないんだが?

 

「はぁー流石蜘蛛、ここから糸出してるだけあるなぁ。ムチムチじゃん」

 

「触るんじゃなァい!!!ヒトが気にしてる事をズケズケ言うんじゃないよッ!!!」

 

「何言ってるんだ?むしろコレくらい肉付いてた方が女性らしくて美しいじゃないか。うはぁ、柔らか」

 

「えっ……そ、そう?えへへ……ってだから触るな!揉むなッ!!」

 

 ケツのデカい女も好きです。

 背中から生えた蜘蛛の脚がバタバタ暴れて俺を振り払う。

 

「くぅ……乙女の身体をベタベタ触った罪は重いよっ!」

 

乙女(Girl)淑女(Lady)の間違いだろ?」

 

「そんなに褒めても何も出ないって!!」

 

 いやんいやんと身体をくねらせるヤマメちゃん。蜘蛛も求愛ダンスを踊るんですね。詭弁君のムスコもイライラしてきました。

 

「ええいさっきから調子が狂うなぁ……!生意気な人間め、原因不明の熱病に浮かされるが良いわ!」

 

「そう言えば蜘蛛の糸ってたんぱく質が主成分だよね。折角の巣を壊しちゃったし、ここはお詫びに()()たんぱく質を注入(意味深)してあげるね!」

 

「話聞けよぉ!」

 

 さっき死にかけたせいか、性欲を持て余す。まぁ、生物的な本能なんですけども。人間性を捧げよ……。

 

「(ま、マズい……!あのヤバめな目付き……このままじゃ、逆に()()()()ッ!)毒符『樺黄小町』!!!」

 

 大量の弾幕が放たれるが、直撃コースのモノだけを全て叩き落とす。

 俺が一歩前進する毎に、ヤマメちゃんは一歩後退を繰り返し、ついには壁際まで追い詰めた。

 

「実に扇情的な姿で私、大変興奮致しますッ!!!

 

「う、うぅ…………は、初めてだから優しくして……

 

良いぜ!俺の○○○(ピーー)が紳士にするかは別だがなァ!!!

 

 

落符『秋の釣瓶フォーリング』

 

 

 ガゴォンッ!!!

 

 突如脳天からとんでもない程の衝撃を受け、そのまま地面に顔から叩き付けられる。そしてその衝撃で意識が何処かに飛んでいってしまった。

 

 

「ヤマメ大丈夫?うわぁ凄い格好」

 

「ううっ……ありがとうキスメぇ……助かったよ……」

 

「どういたしまして。それでどうするこの人間、食べちゃう?」

 

「いや、止めておこう。こんなん食べたらお腹壊しちゃうよ……」

 

「ふーん……ま、ヤマメがいいならいいけど……」

 

「(九死に一生を得たけど…………なんだろう、ちょっと残念にも思う……)」

 

「どしたのヤマメ、行くよ?」

 

「あ、うん」

 

 

 

 

 

「行ったか?」

 

「行ったな」

 

「はぁ、()()の性欲も困ったモンだ……」

 

「いつか身を滅ぼさなきゃいいけど」

 

「無理だな」

 

「無理だねぇ。……で、この()、登れそうかね?」

 

「……無理そうだ。壁の土が柔らかくて到底よじ登れそうにない。魔法で上に行こうにも高すぎて魔力が尽きるのが先だ。其処の横穴が地上に繋がってるのを祈るしかないな」

 

「ふぅーん……図らずも地底旅行……まあ、最悪俺だけ地上に飛んでいって救援呼びに行けるし、なんとかなるでしょ!」

 

「そうだな……まぁ、なんにせよ本体の回復に当たるか」

 

「オッケー!」

 

 

 そうして目が覚めた時にはヤマメちゃんは何処にも居なかった。くそぅ……。

 

 一人なのに騒がしい地底旅行が、始まる。




と言うわけで(旧)地獄旅行編、始まり始まり。
この後に控えてるあの方とかあの方とか、地底の連中ってなんでこうえっちが過ぎるの?教えてエロい人。

感、評、こ、よろ!


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(旧)地獄で大喧嘩ですよ!

?「最近出番ないわねー……」
?「私なんか感想欄ですら出番無い」
?「メインヒロインの筈なのに……」


 長いトンネルを抜けると、そこは繁華街上空でした。いや、なんで?

 ……ああ、そういえば昔、地の底には地獄の繁華街があったって聞いた事あるな。ふぅん、つまりいつの間にか地獄まで降りてきてしまったという訳か……。そんな事ある?

 ここまで一本道だった事から、地上に戻るには別の所から行かなきゃならなそうだ。ふむ……誰か道案内してくれないかな。岩壁を伝って下まで降りる。

 地底の明かりに照らされて、雪がちらちら降っているのが見える。地底にも雪は降るんだなぁ。よっ……と、地面に着地。改めて見れば、里並みに発展している街のようだ。あ~……そういえば伊吹萃香のヤツがしきりに地底に連れて行こうとしていた事を思い出す。地獄に人なんて居るのかと思えば、実際居るのは怨霊と鬼、あとは今の地上(幻想郷)に馴染めない妖怪達が居るって言っていたな。

 

「―――で、勇儀姐さんがよぉ」

 

「クカカ、そりゃお前が悪いのぅ」

 

 ……ふむ、話し声が聞こえる。地上への道を知ってるかもしれん、と話し声の主達に声を掛ける事にした。……まあ、素直に教えてくれるとは期待してはないけど。

 二人の前に出る。立派な口ひげを蓄えた壮年の男と、長いあごひげを棚引かせている老齢の男に見える二人組だが、二人ともその頭部には拳ほどの大きさの角が生えていた。鬼か。

 

「すみませんお二人さん、ちょいと道を尋ねたいんですが」

 

「ンぁ?……人間?しかも生きているヤツだと?」

 

「ん?ほぉー……珍しい事もあるもんじゃのぅ」

 

「ちょっと色々あって此処まで落ちて来たんだが、地上に戻る道は知らないか?」

 

「あ~?……フン、知ってると言えば知ってる」

 

「さて、知らんと言えば知らんのぅ」

 

「何言ってんだコイツら」

 

 二人ともニタニタと嗤いながら同じような仕草で、顎を指で擦る。

 

「まあ待てよ。何の因果か、折角旧都まで人間が来たんだ。多少は()()()()()くれるんだろ?」

 

「なんで俺が野郎なんぞを楽しませなきゃなんねえんだ」

 

「クカカ、見た所多少は()()()ようじゃの。よしよしここは一つ勝負と行こうじゃないか。勝負に勝てれば地上までの道を教えるのも吝かじゃないのぅ」

 

「無論勝負方法は(コレ)に決まってるがなァ!!!」

 

 問答無用と言わんばかりに壮年の男鬼が殴りかかってくる。さて、鬼と言えばあの怪力か……と、伊吹萃香を思い出す。受け止めるのも、受け流すのも凶。となれば―――

 

強反撃(カウンター)に限る」

 

「ばゴハッ!!?」

 

「……ひょ?」

 

 壮年の男鬼の拳を潜り込むように掠って回避(グレイズ)。隙だらけの顎に向け、全身のバネを使って撃ち込む右拳。力を溜めてジャンプするように全身の力を真っすぐ鬼の顎に向けて撃ち出された攻撃の威力は、その身長の三倍以上高く撃ち上がるように飛ぶ鬼の姿が雄弁に語っていた。

 

「……伊吹萃香より遥かに弱いな」

 

「な、なんじゃオヌシ!!?(サイ)のヤツがあんなあっさり負けるじゃと……クッ!我が妖火を食らえィ!!!カァァッ!!!

 

 口から猛火を吐き出す老齢の鬼。だが伊吹萃香の妖術に比べればぬるま湯の様だ。

 

「『風人拳』」

 

 神奈子様を信仰してから会得した、風を生み出す力。文ちゃんや早苗ちゃんの生む風に比べれば微風も良い所だが、魔力によって風の力を増幅すれば、この通り。多少の炎では焼けない風の鎧が出来上がる。

 吐き出される炎をかき消しながら駆け、老齢の鬼の顔面を容赦なくぶん殴る。

 

「と、年寄りには優しく―――」

 

「うるせえ!『老牢廻護拳(ろうろうかいごけん)』!!」

 

 腰の入った右ストレート。風の力も相まって、もの凄い勢いで錐揉み回転しながらぶっ飛んで行く老齢の鬼。

 

「……あっ、しまった。殴り飛ばしちゃったら道案内させられねえじゃん」

 

 失敗失敗……と反省したと同時に空高く飛んでいた壮年の鬼と錐揉み回転しながら飛んでいく老齢の鬼が音を立てて地面と壁に突き刺さる。

 

「なんだなんだ?」

「ケンカだケンカ!」

「おい!人間が殴り込みに来たらしいぞ!」

「マジか!!血祭にあげてやろうぜ!!」

 

 火事と喧嘩は江戸の華、と言わんばかりに血の気の多い連中が一瞬で騒ぎを聞きつけ、騒ぎが騒ぎを呼ぶ事態になる。そして何処からともなく集まってくる、頭に角の生えた男女の群れ。百鬼夜行かな?

 

「居たぞ!人間だ!!」

 

「ヒュゥ!アタシ好みの顔だ……攫って食っちまおう!」

 

「ああいうイケ好かねえ顔はぶっ潰してやりてえもんだ!」

 

「ひひ、具合の良さそうな長物持ってるなァ……オレに寄越せェェ!」

 

「こう言うのって普通人数差逆じゃない?」

 

 大きな金棒を持った女鬼、拳に鉄の輪を嵌めた赤肌鬼、ボロボロの野太刀を両手に持った青肌鬼。それぞれが嗤いながら我先にと襲い掛かってくる。

 人間一人に対して鬼三人ってどういう事よ。あ、よく考えたら俺増えられるじゃん。

 

「《陰》、《陽》!」

 

「野太刀のヤツは任せろ」

 

「じゃあ赤肌は任せな!」

 

 《陰》が持った『巨人の短剣』を青肌鬼にブチ当て吹き飛ばし、《陽》は霊撃を使って赤肌鬼を運び、俺は女鬼の金棒を陽輝棒で迎撃する。

 

「ははっ!アタシ()相手に力比べか!?」

 

「相手にならないがな。『身体強化魔法(エンハンス)』!」

 

 自身の身体を強化する。拮抗していた力は、一気に形勢を傾けた。

 

「なっ!?勇儀姐さんぐらいにしか負けたこと無いのに!?」

 

「井の中の――ってヤツかな?」

 

 陽輝棒を振り、女鬼の金棒を弾く。女鬼が大きく体勢を崩した所で、激しく金棒を突き上げる。

 

「『閃光衝(ライトレイ・スラスト)』!!」

 

 金属特有の甲高い音を上げ、粉々に砕かれる金棒。武器を失った女鬼はその光景を見てたじろぐ。

 

「アタシの『金癇棒(きかんぼう)ちゃん』がッ!?」

 

「『攫って食う』と言う事は、逆に()()()()覚悟があって言ってるんですよね?」

 

「人が鬼を食うだと!?生意気なッ!!」

 

 武器が粉砕されたというのに、尚も両手を打ち付けて掛かってくる女鬼の戦闘意欲には驚嘆を禁じ得ない。なるほど素晴らしい。それなら俺も全力でお相手致そう。

 腕に着けている『妖精手甲』に魔力と気力を通す。この地(地底)には『大地』と『熱』の()が満ちている。その()を十全に活用する!

 

「『魔装:熱核(オーバーヒート)』!」

 

 岩よりも硬く強化された肉体から大量の蒸気と共に放たれる気力を推進力(ブースター)として、殴りかかってくる女鬼と超高速ですれ違う。他愛無し……。

 

 

 数瞬後、衣服全てが弾け跳ぶ女鬼。

 

 

「……ッ!??ぎにゃぁぁぁぁぁッ!!!?

 

 プシュゥゥゥゥと音を立てて排熱する俺の身体と、音を立てて顔を真っ赤に染まる女鬼。恨むんならそのばるんばるん揺れて俺を惑わすおっぱいを恨むんだな……ふ、良き写真が取れた♥

 

「「「お、覚えてろッ!!!」」」

 

 丁度俺と同じタイミングで決着が着いたのか、顔がボコボコに腫れあがった赤肌鬼と全身ボロボロに変わった青肌鬼と女鬼が捨て台詞を吐いて何処かへと走り去っていった。

 何だったんだ……と思ったのも束の間の事。

 

「スゲェ!!あんな強い人間なんて久々じゃねえか!!」

「次はオレと勝負しろ人間ッ!!」

「馬鹿野郎!次はオレとだ!!」

「オレサマ、オマエ、マルカジリ!」

「邪魔だボケ!」

「ンだとゴラァ!!」

「喧嘩だ喧嘩だ!」

「ブッ殺してやるよ!!」

「人間テメエ掛かってコイやボケェ!!」

 

 爆音みたいに煩い声が囃し立て、一気に辺りは混沌とした空間に包まれた。しかもよく見れば周りは鬼やその他妖怪達に囲まれて退路が無いと来た。

 

「「ブッ殺す!!!」」

「轟鬼兄弟がまた喧嘩してるぞ!今日はどっちが勝つか、さぁ張った!張った!!」

「アタイと勝負しな人間!!」

「邪魔すんなブス!オレが先にヤんだよ!!」

「あ”あ”!?テメェみてえなノロマな肉ダルマなんて出る幕じゃないよ!!」

「カッチーン!!ブステメェ言ったなッ!?先にお前から捻り潰してやる!!」

「上等じゃないか!その四肢捥いで本当の肉ダルマにしてやるよ!!」

「バカヤロー!貴様等ワシの店先で暴れるんじゃねぇーッ!!」

「おーいコッチに酒持ってこい!!」

「ギャハハハ!どっちが勝つか賭けだ賭け!!」

 

 里での祭を彷彿とさせるような大爆音での大騒ぎ。眩暈がするような声の大きさで辺り一帯は喧噪に包まれた。あーもー滅茶苦茶だよ!

 

「誰か地上への帰り道教えてくれぇー……」

 

「お兄ちゃん、コッチコッチ」

 

 頭痛を押さえながら悶えるように絞り出した声が聞こえたのか、小さな子供の声がすぐ近くで聞こえる。直後、唐突に左腕が何かに掴まれる感覚がしたと思えば、いつの間にか俺の身体は喧噪の輪の外側に居た。

 

「皆の無意識の隙間を通ったんだよ。凄いでしょ?」

 

「お、おう……」

 

 俺の手を引っ張っていたのは、緑色の瞳が特徴的な幼い姿の少女だった。

 

「私は古明地こいし。貴方は?」

 

「俺は詭弁答弁。里の……あー、地上の便利屋だ」

 

「知ってるよー。お金次第で何でもやってくれるんでしょ?」

 

「俺の気分次第でな」

 

 言い方に若干悪意を感じたが……まあ良いか。

 しかし地底世界にまで俺を知ってる奴がいるとは。

 そのままこいしに引っ張られるように喧噪を後にする。繁華街を少し離れ、地底の中心へと連れてかれる。

 

「何処向かってんだ?」

 

「私の家だよ。貴方面白そうだからお姉ちゃんに紹介しようと思って!」

 

「姉?」

 

「そう!お姉ちゃんはすっごい可愛いんだよ!」

 

 ぴょんぴょん跳ねながら自身の姉の良い所をあげつらうこいし。姉妹仲が宜しそうで何より。

 

「あ、お燐とお空だ」

 

「あれっ!?こいし様!?今まで何処に行ってたんですか!?さとり様がずっと心配してましたよ!!」

 

「あはは、すぐ戻るって伝えて?」

 

「待て待て。その前にやる事があるだろう?」

 

「ん?ありゃ、こいし様が人間連れてる。珍しい事もあるもんだ」

 

「うん。結婚するの」

 

「……えっ」

 

「寝言は寝て言え。そんな事よりお嬢さん方、俺の名前は詭弁答弁。お二人の名前は?」

 

「うにゅ?私は霊烏路空。お空で良いよ」

 

「あ、アタイは火焔猫燐。お燐って呼びな……えっ、こいし様、本当にこの人間と結婚する気ですか!?」

 

「本気だよ?だってこんなにイケメンなんだもん!」

 

「こいし様面食いだったの!?」

 

「ヘイお空ちゃん、キミ可愛いね。何の妖怪?」

 

「可愛い?えへへ……私は地獄烏だよー」

 

「烏!なるほどそれでこの立派な翼か!触っても良い?」

 

「良いよ!」

 

「どれどれ……ほう、やはり素晴らしい手触り。柔らかくてスベスベ―――」

 

「いやアンタ何いきなりお空の胸揉んでるんだい!!?」

 

 いきなりじゃない。ちゃんと『触っても良い?』と聞いただろ。大きくて素晴らしいおっぱいでした。

 

「話の流れ的に普通触る所は()じゃないか!?」

 

「誰も翼を触りたいとは言ってないだろ。それに翼は鳥妖怪にとって敏感な所だからいきなり触ったら失礼だろ!」

 

「胸揉んどいて何言ってんのこの人間!!?」

 

「お燐!お燐!なんかこの人間におっぱい触られたら凄い気持ち良かったよ!お燐も触ってもらいなよ!」

 

「アンタ馬鹿だ馬鹿だとは思ってたけどそこまで馬鹿だったのかい!?」

 

「はっはっは、お空ちゃん。どうやらお燐ちゃんは少し恥ずかしがり屋の様だね。多少強引になるけど、一回()()したらきっと良くなるよ!後ろから押さえておいて!」

 

「分かった!」

 

「ちょ、お空!!?離しなっ!離せ!やめ、止めろぉー!!!んにゃぁぁぁ!!!」

 

 こ、これは……!見た目からでは想像できない程に詰まったおもち!しかもコイツ……()()()()()!!指に触れるコリコリとした感触!なんて挑発的なッ!!

 

「ねー?気持ちいいでしょー?」

 

「マッサージと違うんだよお空ッ!んっ……!にゃぁ……!?あっ……ぅ……」

 

「大丈夫大丈夫。地上では胸部マッサージが流行ってて、誰も彼もがおっぱい揉まれてるから!特に俺は『特級胸部按摩師』の資格を持ってるから安心して!」

 

「なんかよく分かんないけど凄い!」

 

「やだ……こんな道の真ん中でぇ……っ!んにゃぁぁ……」

 

「そうかそうか、じゃあ何処か近くの空き家でしっかりと続きをごぶっ

 

 気が付けばいつの間にか腹に包丁が突き刺さっていた。

 

「こ、こいし様?」

 

「ああ、ゴメンねお燐。でも詭弁が悪いんだよ?だって結婚相手をほっといて他の女の子に手を出すんだもん。ねえ、なんで?私じゃダメなの?」

 

「だってお前子供なんだもん」

 

 流石に子供相手に欲情しねーよ。腹に回復魔法(リジェネ)を掛けながら突き刺さった包丁を抜く。あー痛かった!

 

「いや、普通『痛かった』で済む?」

 

「済むんだよいつもの事だから」

 

「腹刺されるのがいつもの事って何!?」

 

 なあに、人間肩に風穴開こうが腹掻っ捌かれようが意外と何とかなるもんだ。俺が言うんだから間違いない。

 

「……アンタ早死にしそうだねぇ」

 

 童貞捨てるまでは死ぬ気はない。

 そのままこいしに思いっきり引っ張られるまま引き摺られるように大きな屋敷、『地霊殿』に連れ込まれた。

 

 

 『地霊殿』の重苦しい扉が大きな音を立てて閉まった。

 




モブ鬼程度なら簡単に薙ぎ倒せる詭弁君でした。
モブ鬼君達のカタキはあの方に任せましょうね(暗黒微笑)
なんでこいしちゃんの好感度高いかって?そりゃ次回説明するよ。たぶん。頑張れ未来の俺。

???程度の好感度

お空:触られると心と身体がポカポカしてくる程度の好感度
お燐:顔は良いけどお前……程度の好感度
こいし: も っ と 私 を 見 て
 
???:テメェよくも大事な妹を……
???:へえ、強い人間が地底に降りてきた、ねえ?そりゃぁ……愉 し そ う だ


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地霊殿ですよ!お燐ちゃん!

充電するのに時間がかかる上、電池が空になる速度が倍くらい早くなった古いバッテリーみたいな執筆速度してんな。

後書き・感想欄(番外)と本編でのキャラの性格に差異があるのは仕様です。


 地霊殿の中は広く、紅魔館並みにデカい建物だった。すげー(小並感)

 

「それじゃあアタイはさとり様に報告に行ってくるよ。お空、とりあえずその人間を客間に案内しときな」

 

「分かった!」

 

 そう言って奥の方へ飛んでいったお燐ちゃん。スカートの中は黒か……。

 

「詭弁?」

 

「なんで事有る毎に刺してこようとするん?」

 

 こいしが包丁を突き出してくる。流石に何度も刺されるのは嫌なので手刀で叩き落とす。物騒なモンは不要よー、と落とした包丁を踏み潰す。

 

 バキャッ

 

「あぁ、私の武器が!」

 

「子供は木の棒でも持ってろ」

 

 踏み潰した包丁を塵にしつつ、お空ちゃんのお尻を揉む。おふ、お尻も柔らかくて全身エッチかよ。

 

「うにゅ?」

 

「ほらほらお空ちゃん、客間に案内して?」

 

「うん!コッチだよ!着いてきて!」

 

 そう言って結構な速度で飛んでいくお空ちゃん。お空ちゃんは白か……。

 って、客を置いてきぼりにするのはどうなのよ。……ん?

 

「……」

 

 無言で俺の手を掴むこいし。……何がしたいのか分からんが、行くぞ?

 

「……うん!」

 

 手を繋いだまま、お空ちゃんを追いかける。まてまてー。

 ……いやマジで速いな!見失いそうだぞ。手を繋いでるこいしを肩に抱え、少し本気を出す。

 

「♡」

 

 なんかモゾモゾしてるが、まあ気にしない。

 そうして飛んでいるお空ちゃんに追い付き、部屋に到着した。

 

「ここだよ!入って入って」

 

「分かった分かった」

 

 案内されるままに部屋に入る。部屋の中には一人用ベッドが2つあり、小さなテーブルに椅子が2つ、タンス一つ、そして様々な動物が所狭しと寛いでいた。

 ……客間?

 

「ここは私とお燐の部屋だよー」

 

「客間はどうしたァ!?」

 

「お空は鳥頭だから……」

 

 なるほど、つまりアホの子という訳か。どういう事だよ……。

 椅子……は犬が占拠してるので、空いているベッドに腰掛ける。すると右隣にお空ちゃんが座ってきた。ベッドで男女二人並んで座る……これは実質セッ

 

「てえいっ!」

 

「ぐっ……腹に突撃かますなこいし……」

 

 膝の上に飛び込んできたこいしを受け止める。これだから子供は……。

 落ち着いたのか、そのまま膝の上に座るこいし。……俺の方を向いて、脚を俺の腰に回して抱きついてくる。いや邪魔ァ!?

 

「詭弁とこいし様って仲いいね!」

 

「なんでやんなぁ……」

 

「詭弁いい匂いするー」

 

「私も嗅ぎたい!」

 

「えっ」

 

 そして飛び付いてくるお空ちゃん。あー大変素晴らしいありがとうございますおっぱい!ただ今は腰にこいし居るんで勃つような行為は控えてくれると助かりますゥ!?

 

「えへー、さとり様とは違うけどなんか安心する匂い……好き……」

 

 ちょっと股間に響くんでやめてもらっていいですか?

 気がつけば部屋にいた動物達にも囲まれて匂いを嗅がれていた。いや……ナニコレ?犬や猫とかはまだ分かる。けど目付き悪いデカイ鳥や爬虫類まで引っ付いてくるのはナンデデスカネ!?

 

「うおあぁぁぁ離れろォー!!!」

 

 俺の両腕ごとガッチリ抱きついて離れないこいしを何とか引き剥がそうともがくが、更に外側からお空ちゃん、その他動物達が引っ付いてきてどうしようもできない。顔にまで引っ付いてくる始末。

 ガチャリと部屋の扉が開く。

 

「やれやれ。お空、アタイは客間に案内しろって言ったのに何で違うところにムツゴロウ王国ッ!!!?」

 

 扉から現れたお燐は文句を言いながら部屋に入り中の様子を見るなり謎のツッコミを入れた。

 

「ちょ、アンタ達お客さんから離れな!コラ!アッチ行く!お空お前も何やってんだい!!」

 

「いたたたた!痛いよお燐!」

 

「さとり様がこの人間を待ってんだから早く……こいし様!?何舐めてるんですか!!?」

 

「詭弁の脇」

 

「お腹壊しますよ止めてください!」

 

 妙に脇舐めてくる犬居るなと思ったらお前かよ!?服がべたべたじゃねえか!……はぁ、浄化魔法(ピュリファイ)

 

「あー……大丈夫かい詭弁?」

 

「全身動物の毛まみれ粘液まみれで涎まみれと来て、大丈夫だとでも?」

 

「あ、あはは……」

 

 なんだその苦笑いは、おっぱい揉むぞ。……もう一回浄化魔法。

 ベッドから立ち上がり、服についた毛を払い落とす。動物は嫌いじゃねえけど、何事にも限度ってモンがあるだルルォ?

 

「ま、まあこの子達なりの歓迎の仕方さ!男ならドーンと受け止めなさいな!」

 

「脇を涎まみれにされるのもか?」

 

「あ、いやぁー、それは…………さぁ!さとり様も待ってるんだ!今度こそ客間に案内してあげるよ!」

 

 話をそらしたな、まあいい。いい男ってのは黙って女の手玉に取られてやるモンさ。

 ただ俺は悪い男なのでタダでは取られんがなァ!パターン黒!尻尾の付け根です!

 

「ニャァッ!!?スカートから手を離しな!!」

 

「やあスマンスマン。お燐ちゃんのお尻に突然興味が芽生えちゃって」

 

「じゃあ仕方ないってはならないよね!?」

 

「ホラホラ、さとり様とやらが待ってるんだろ。急げ急げー」

 

「くっ……このっ……覚えてなさいよ!」

 

「忘れる訳ねえだろこんな美尻」

 

「フニャァァァッ!!!」

 

 鋭く尖った爪で襲われるが、紙一重で回避する。ふふふ俺から一本取りたきゃもっと強くなるんだな。

 避ける度に大振りになる爪攻撃を笑いながら回避し、その攻撃の隙を突いて指先でお燐ちゃんのアチコチを突っつく。

 

「シャァッ!!ふにぅ!?フシィッ!ふにゃっ!?んっ、ぁッ……や、止めっ!!もう止めっ!!」

 

「攻撃してきたのはお燐ちゃんからじゃないか。『止め』と言うからにはお燐ちゃんの負けで良いのか?」

 

「勝ち負けとかあるかい!いいからさとり様の所に行くんだっての!」

 

「なら俺の勝ちでお燐ちゃんの負けだな。勝者の特権として、敗者を好きに扱う権利を行使する!」

 

「んにゃぁぁぁ!!」

 

 お燐ちゃんの二股尻尾をニギニギする。おぅ……これは……良き……。そのまま左手で尻尾をニギニギしながらお燐ちゃんの猫耳を右手でモフモフする。ふぅん……これもまた……良き……。

 

「あっ……ふぁ……やめぇ……」

 

「ほぉらほらココがええのかええのんかぁ~」

 

「んみゃぁー……」

 

 あっという間に脱力しきったお燐ちゃんを抱え、地霊殿の中を歩きだす。オフザケも良いが、流石に()()()()とやらを待たせすぎるのもアレだしな。さとり様とやらがボインボインのスケベネーチャンな事を祈る。

 

「お姉ちゃんは私に似て凄い可愛いんだよ!」

 

 頼む、なんかの間違いで実はめっちゃえっちな感じの子であってほしい。切に。

 勘を頼りに、客間(推定)に入る。そこには薄紫色の髪色の幼女が椅子に座って紅茶を嗜んでいた。

 

「あぁ、やっぱスカーレット家タイプだったか……」

 

「入るなりもの凄い失礼な思考してるわね貴方」

 

「お燐ちゃん、一応聞くけどアレがさとり様とやら?」

 

「みゃぅ……」

 

「……ふむ、お燐がこうも骨抜きにされるとは、中々変わった人間の様ね。私は古明地さとり、この地霊殿の主です」

 

「ドーモ。サトリ=サン。詭弁答弁です」

 

「(えっ、今何も考えて無かった?)」

 

 なんかギョっとした目で見られたんですけど。そんなに変な挨拶だっただろうか。変な挨拶だったな。

 

「ん、コホン。まあ立ち話もなんですから、どうぞおかけになってください」

 

「どうも」

 

 お燐ちゃんを抱えたまま椅子に座る。

 

「……お燐は退かしなさい」

 

「(胸の)触り心地が最高なのに……」

 

 まあ流石にお燐ちゃんを膝の上に乗せながらだと詭弁くんの詭弁君がスタンダップしちゃうのでそこはね。

 

「(なんて事を考えているのかしら……)えー、まずはこいしを連れてきてくれてありがとうございます。妹は放浪癖があって、何か危険な目にあってるんじゃないかと不安で不安で……」

 

「大したことじゃないさ」

 

 実際旧都で大騒ぎしてた時にいつの間にか居たからな。俺が何したって訳じゃなし。

 

「……それで、何故こいしが貴方と結婚すると言っているのか分かりますか?」

 

「分からん」

 

 いや本当になんでなんやろなぁ。こいしと出会ったのは地底に落ちてきてからの筈なんだが。

 

「あぁ、そう言えばこいしは俺の事を前から知っていたような風に言ってたな」

 

「(……思考を言葉にするのが速すぎて心が読み辛いなんて)こいしが人間の貴方を、ですか」

 

「それとさっきから見てくるその目のアクセサリーはなんだ?こいしも似たようなの着けてたし、地底の流行りか?」

 

「……これは第三の目と言って、相手の心を読む事の出来るものです。どのような隠し事も私の前では無意味ですよ」

 

 えっ、つまりそれは俺の好みやら性癖やらお気に入り秘蔵本の内容やらお燐ちゃんとお空ちゃんとSEX!!!したい欲求やら急に透視能力にでも目覚めて女の子の乳首の色分からないかなーとか考えていることがモロバレってこと!?きゃっ、はずかし!

 とか下らないことを考えていると一瞬で死んだ目付きに変わるさとり。心が読めるというのは嘘じゃないらしい。……ふむぅん、ならこれならどうだ!

 

「『赤巻き紙青巻き紙黄巻き紙』、『坊主が屏風に上手に坊主の絵を描いた』、『この竹垣に竹立て掛けたのは竹立て掛けたかったから竹立て掛けた』……何がしたいんです?」

 

「早口言葉も堪能だと?ならこれで最後だ!!」

 

生麦生米生姜

 

「なまむぎなまごめなま…………っ!?」

 

「やーいひっかかってやんのー」

 

 心を読むというのは、言葉通りに心を()()ものらしい。まあ、だからどうしたという訳ではないのだが。

 まあそんな事はともかく、要するに目の前の妖怪は『覚妖怪』ということか。人の心を読む無害な妖怪……だった気がする。

 

「本当に心を読む事が『無害』と言えますか?……なるほど、『読まれてもそれほど気にしない』と。本当にそう思える貴方は()()人間なんでしょうね。どんな人間にも妖怪にも、誰にも言えない隠し事がある。それを問答無用で暴く力が恐ろしいとは……思わないんですね。『隠してある秘蔵本を暴かれるのは困る』って、私はそんなもの態々引っ張り出して処分なんてしませんよ。……脈絡なく厭らしい妄想するの止めてもらえます?お空の身体と私を合成するのを止めてください。大変不愉快ですので……だからといってお燐なら良いという訳でもないと―――」

 

 なんだコイツ急に早口になったな。

 

「ッ……」

 

 今度は拗ねた。まあ、心が読めるってのも大変なモンだなぁ……ん?

 

「今度は何ですか……『何故こいしがさとりの後ろに―――」

 

「お姉ちゃんの身体は世界一ィィィィ!!!!」

 

 バリィッ!!と勢いよく姉の服を破り捨てるこいし。無残に投げ散らされた水色の服の内側には薄ピンクのスポブラがコンニチハしていた。

 

「……こいし?」

 

 そして自分の服をバサァッ!!と脱ぎ、丁寧にテーブルの上に畳むこいし。インナーくらい着たら?

 

「……こいし?何をやっているのかしら?」

 

「詭弁はエッチだからお姉ちゃんも手伝って!」

 

「こいし、会話をしましょう。それと私のスカートから手を離しなさい。何をする気なのこいし」

 

「詭弁!私と結婚したらお姉ちゃんももれなくついてきます!」

 

「えっ、要らない……」

 

「なんで!?お姉ちゃんだよ!?おっぱい無くてもお姉ちゃんだよ!?」

 

「お前のその姉に対する無条件の信頼感は何?」

 

 仮にお前らの様な取っ掛かり一つ無い幼女が幾ら集まっても結婚しねえよ。というかなんで唐突に姉を脱がしてお前も脱ぐんだよ意味分かんねえよ。姉よりお前の方が若干怖いよ。

 

「お姉ちゃんこうなったら裸になって詭弁にセキニンをとってもらうしかないよ!さあ!」

 

「さあじゃないわ、やめなさいこいし……スカートを上に引っ張るのはやめなさい……詭弁が見てるからやめなさい……お願いやめて……」

 

 妹に敗北するクソザコナメクジ姉。スカートまでビリビリに破かれ、無残にも下着姿を晒すさとり。寒そう(小並間)。

 

「ふぅ、ふぅ、お姉ちゃんは可愛いなぁグヘヘ……」

 

「もはや目的が迷子になってないか?」

 

 こいしの首を引っ掴んで持ち上げる事で物理的に止める。そして妹に強姦されかけた不憫すぎるさとりには魔法で急ごしらえした服を掛けてやる。

 

「……ありがとうございます、詭弁さん。こいし……何でこんな酷い事するの……?」

 

「だってズルい!詭弁がお姉ちゃんばっかり構ってるんだもん!私も此処に居るよ!詭弁だけが見つけてくれる!理解してくれる!詭弁だけが(無意識)を見てくれるんだもん!!!」

 

「ッ……こいし、貴方……目が―――」

 

 ズガァァン!!

 

 突如爆音が響くと共に、建物全体が揺れる。事態は風雲急を告げるようだ。




どんな徳を積めばお燐ちゃんやお空ちゃんとSEX!!!出来ますか?
次回は例のあの方と……アレします!!!楽しくなってきたぜ!

感想は作者の古ぼけたエンジンの潤滑油になります。
燃料にはならないのかって?ははは。


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鬼!悪魔!……鬼!

最近寒くなってきたかのようなイメージ。


 爆音と共に揺れる地霊殿。床でゴロゴロしていたお燐ちゃんが飛び起きた。

 

「さとり様!様子を見てきますので此処に居てください!」

 

 そして猫を思わせるような俊敏さで、音の発生源と思われる玄関の方に向かって飛んでいった。

 そして断続的に続く爆音と揺れ。襲撃でも受けてんのか?

 

「……あり得ない……とは思いますが、心当たりが一つあります」

 

「心当たり?」

 

「はい。それは―――」

 

 直後、客室の扉越しに響く大爆音。その衝撃で部屋の扉はひしゃげ、弾けとんだ。

 そして現れる()()()()()

 

「―――やはり、()()でしたか。星熊勇儀」

 

「よう、邪魔するよ古明地さとり。()()()()()()()()()()()人間らしき奴が、地霊殿の方に行ったと聞いてつい居ても立っても……ぁ、あ?」

 

「……勇儀さん?」

 

 星熊勇儀……と呼ばれた女鬼は、俺の顔を見るなりその表情を大きく変化させた。

 

「ぉ、お前……は……ッ!!お前ェ!!!よくもまァアタシの前に顔を出せたモンだなァッッッ!!!」

 

「もしかして:『初めまして』」

 

「ンなふざけた事を言う奴が二人も居るか!!!」

 

 なるほど、分からん。

 俺の顔を見るなり、その美貌が憤怒の表情と呼ぶに相応しい程に激情を顕にしている。えぇ……そんな立派なおっぱい、すれ違っただけでも忘れることはないと思うんだけどぉ……どういう事なのさとりん。

 

「さとりんと呼ばないで下さい。……詭弁さん、過去に一度勇儀さんに会った事が……いや、一度と言わず……っ、これは……」

 

「アタシの記憶(想い)を読むなァ!!!」

 

 声を張り上げただけで物理的な破壊を産むという、ある意味妖怪らしい理不尽の前に貧弱な覚妖怪は無力。その破壊の衝撃波に晒され―――

 

「『守護術(ブロック)』」

 

 る事はなく、透明な障壁によって守られた。

 

「……ありがとうございます詭弁さん」

 

「礼はお燐ちゃんかお空ちゃんの一おっぱいでいいよ」

 

 軽口を叩きながら、目の前の女鬼を分析する。身体から漏れ出る妖力を見て、恐らく伊吹萃香と同じくらい……大妖怪の中でも上位クラスと判断した。有り体に言ってヤバい。

 

「あー、星熊勇儀って言ったか。やっぱり人違いって事はないか?俺は幻想郷の人里育ち、里の便利屋を営んでいる極普通の一般人だ。あんたみたいな美女に会ってれば忘れることはないと思うんだけどぉ……」

 

 瞬間、星熊勇儀の表情がスン、と切り替わる。

 無表情と呼ばれるような顔だが、俺はその表情があらゆる負の感情が煮えたぎり、限界値を上回ったときに浮かぶ表情ということを知っていた。

 

「忘れ……た?アタシの事を?誰が?お前が?何故?どうして?いや……そうか。あまりにも()()会ってなかったから思い出すのに時間が掛かってるだけか。じゃあ思い出させないとなぁ……」

 

「ちょっとちょっと勇儀の姐さん!いきなりアタイ達ぶっ飛ばして、地霊殿荒らしながら進むなんてちょぉっとオイタが過ぎるんじゃないかい!?」

 

「さとり様に酷いことはさせない!」

 

 お燐ちゃん、お空ちゃんが星熊勇儀の身体を掴み、引き留めようとするが―――

 

 

「邪魔」

 

 

 無感情のままに振りほどかれ、壁に叩きつけられた。

 

「お燐ッ!お空ッ!……勇儀さん、貴方の()()()()()()と詭弁さんは別人です……!何故、()()貴方がそこまでの激情に駆られるのかは理解できます。ですが私の―――」

 

「理解?何を言ってるんだ古明地さとり。アタシの感情は、アタシだけのモノだ!」

 

 ダァンッ!!!

 床が粉々に砕ける程に強く踏み込み、唸りを上げて振りかぶられた星熊勇儀の拳は、鬼相応の破壊力をもってさとりの顔に向かって振るわれた。

 

 バツッ!

 

 鬼の拳は、古明地さとりの首から上を消し飛ばした。

 

「お姉ちゃんッ!!!」

 

 

 

 

「はっ、はっ、あ、あれ……?い、生きてます私?」

 

「……あぁ?

 

「お姉ちゃん!」

 

 何が役に立つかなんて分からないモンだな。

 俺の魔法で作られた服を着たさとりは、魔力的なパスが俺と繋がっている状態だった。星熊勇儀が踏み込んだ瞬間にさとりを俺の元へと引き寄せ、幻覚魔法で作った身代わり(デコイ)を代わりに置くことでほんの一瞬だけこの場にいる全員を騙すことができた。

 さとりに怪我は……無さそうだな。

 

「き、詭弁……さん、何故私を何度も助けてくれるんですか?私は、貴方に好かれてもいないのに……」

 

 何で、か。知るかンなもん。

 

「えぇ……」

 

「そう、強いて言えば……目の前で子供が傷つくのが嫌なだけだ」

 

 フッと思い付いた理由がそのまま口に出る。例え相手が俺より長生きしてる妖怪だとか、関係ない。()()目の前で子供が傷つくのが嫌なだけ。

 ふるふると、死が眼前まで迫った恐怖で震えているさとりの頭を撫でる。髪柔らかいな。

 

「お前は、俺が守る。後ろに下がっててくれ」

 

「あっ……はい……」

 

「あぁ……あぁ、あぁ、ああ!お前はいつもそうやって()()を守る!なんなんだよ……なんでだよ……なんでなんだよ!!アタシは!アタシはお前に!お前に並び立てるようになるまで!!お前の横で立てるまで!!どれだけ掛かったと……

 

「知らんッ!!!」

 

 ビリビリと肌が痺れる程に大きな声で遮る。

 

「俺はお前の事なんて知らんし、人違いだ。暴れるのなら勝手にしろ。だが、俺の目の前で誰かを傷つけようとする限り……」

 

 手にもった陽輝棒を軽く振る。今日の俺は絶好調だ……!

 

「お前をぶっ飛ばす!!」

 

「……そうか。あぁ、そうだったな。お前はそういう奴だった」

 

 無表情から、怒りの顔に切り替わっていく。身体に妖力が漲ってくる。目元から、一滴の液体が溢れ出る。

 

「ならアタシは証明する……お前に並び立てるだけの力を、お前を殺す事で!!」

 

「人違いだ、他人の影を俺に被せるんじゃねえ。……だが今日の俺は相当()()()()()()だぜ」

 

 魔法の雷を身に纏う。本気を出すには此処(客室)じゃ狭すぎる……と思いながらさとりを一瞥する。

 

「っ……中庭!中庭に『灼熱地獄』の入り口があります!ですが普通の人間では」

 

「灼熱地獄、そりゃなんとも広そうな場所だ。焼ける程に熱いのも丁度良い」

 

 バシィッと軽い音と共に、星熊勇儀を蹴り飛ばし中庭に飛び出る。蹴り飛ばされた星熊勇儀は然したるダメージもなく、空中で受け身を取って中庭に降り立つ。

 

「アタシは、お前の背を追って、追って、追い続けて……『山の四天王』とまで呼ばれるようになった!お前を越える!今日ッ!!此処でェッ!!!四天王奥義『三歩―――

 

「『風人雷迅撃(ふうじんらいじんげき)』」

 

 ドンッ!

 雷が落ちたかのような大爆音と共に踏み込み、星熊勇儀を陽輝棒で突き上げ、たたらを踏んだ足を払い、宙に殴り飛ばす。そして宙に浮いた星熊勇儀を灼熱地獄入り口に叩き落とし、すぐ後から追うように俺も灼熱地獄に降りる。

 

 灼熱地獄の中はその名の通り非常に熱い。だが()()よりも遥かに濃い『大地』と『熱』の気を存分に使い、自身の肉体を強化すれば問題ない。むしろ濃すぎる()によって限界まで強化された俺の身体は、どんな強力な技の反動を受けても痛み一つとて無い程に頑強になっていた。

 

「―――『三歩必殺』!!逸歩(いっぽ)

 

 だが頑強になっているとは言え、相手の身体はそれ以上に頑強なようだ。技を受けて怯みこそすれ、怪我一つ負っていない。

 相手の技も何もない力だけの踏み込みは、周囲の燃え盛る大地の炎を消し飛ばし、陥没、粉砕、そして隆盛させる。その一歩の衝撃で強化されている筈の俺の足を地面に縫い付けた。

 

邇歩(にほ)!!!

 

 あらゆる力を前に進むだけのベクトルに変換した二歩目は、少し離れていた程度の距離を消し飛ばして瞬時に俺の目の前に現れた。

 

燦歩(さんぽ)ォォォ!!!!」

 

 右拳に妖力を集中させて放たれた一撃は音を置き去りにし、その拳の軌跡上の全てを消滅させた。

 正に必殺と呼ぶに相応しい一撃は間違いなく俺に直撃した。

 

「はぁっ……はぁっ……アタシは……ずっとお前を……ッ!?」

 

「おぉ、怖い怖い。()()に当たってたら間違いなくあの世行きだったな」

 

「それは、此処が『地獄』だって知ってて言ってるのか?」

 

 地面から生えた影が星熊勇儀を拘束し、俺を含めた三人が灼熱地獄の地面から現れる。

 辺りは煌々と燃え盛る大地、火に照らされて写る陰すら焼き尽くされる筈だが、如意陽輝棒を持つ俺には関係ない。陽気が強まれば、陰気は濃くなる。()に近いこの場所こそ、最も()が強くなる。

 右手に『気天魔戟』、左手に『巨人の短刀』を持ち、戦気万端の《陰》が星熊勇儀に斬り掛かる。星熊勇儀は影に縛られながらも、その両腕で《陰》の武器を防ぐ。

 

「ぐぅっ……!!?(アタシが力で負けるッ!?)舐……めるなッ!!!」

 

「お前の、全てを薙ぎ払う『怪力乱神の力』は大したものだ。だが、まだ甘い。『力は尖らせろ、滞らせるな』」

 

「ッッッ!!!?お、前……」

 

「故にお前は()()人に負ける」

 

 《陰》が星熊勇儀を抑えている間に、《陽》を踏み台にして高く跳び上がり、全身に熱と大地の気を漲らせる。

 

「『煌翼天昇(こうよくてんしょう)』」

 

 赤熱する鋼鉄のような翼を背中に生成。

 

「『軌道設置』」

 

 高く上昇する俺と、《陰》に抑えられている星熊勇儀を繋ぐように一本の光の線が伸びる。

 

「『赤陽武装(せきようぶそう)』」

 

 手に持った陽輝棒が重く、太く、鋭く、そして()()なる。

 

()()の強さの本質は学習力と成長速度、なによりも使()()()()()()()()()使()()多様性にある」

 

「『魔装:紅炎(スカーレットデビル)』」

 

 灼熱地獄の炎が、高く()んでいる俺に纏うように集まってくる。

 

「貪欲に知識を吸収し、技に落とし込み、力に変える。時に卑怯、卑劣と罵られる事もあるだろう。無様に地に這いつくばる事もあるだろう。()()()()()、人間はあらゆる障害を乗り越えてきた。神も、悪魔も、妖怪も、全てを」

 

「怒りの業火が全てを貫く!『魔想:必中必殺の突撃槍(スピア・ザ・グングニル)』!!!」

 

 燃え盛る紅き翼を羽ばたかせ、敷かれた軌道をなぞるように落ちる(飛翔する)。槍の切っ先は、真っ直ぐ星熊勇儀を指していた。

 

テメェがくたばるその時(最期)まで、成長()()()()()()心を捨てるんじゃねえよ!勇儀!!

 

「ッッッ!!!う、おおおおおおおお!!!」

 

 星熊勇儀は、纏わり付いていた影を引き千切りながら《陰》を武器ごと投げ飛ばし、空から落ちて(飛んで)くる俺に向けて拳を振りかぶる。

 

「勝つのはアタシだ()()!!!」

 

「いいや、勝つのは俺だ!」

 

 不可視の力が星熊勇儀の身から溢れ出て、その右腕に()()されていくのを幻視した。

 

「「おおおおおおお!!!!!」」

 

 紅き突撃槍と不可視の力が凝縮された右拳がぶつかり合い、()()()()()()()()()()()()

 

「なッ!?(手応えがまるで無いだと!?)」

 

無意識(エス)撃』

 

 星熊勇儀が殴ったのは、陽輝棒による影分身に幻影魔法でコーティングした()()(本物)は高く飛びあがった後に偽物を作り、魔法で姿を隠しながら重力に引かれ地面に降りていた。後は偽物が視線誘導している間に気・霊力・魔力を練り上げ、融合させていた。

 拳を振り抜いた姿勢のまま漸く視線だけが俺を捉えたが、既に俺の全力の一撃は放たれている。

 

無想天成(むそうてんせい)

 

 自身の気・霊力・魔力、そして意識すら全てを如意陽輝棒に込めて放たれた突きは、耀ける閃光となって星熊勇儀を穿つ―――

 

「ぐ、ガ、アアアアアアッ!!!!」

 

 ―――事は無く、滅茶苦茶な体勢から放たれた頭突きによって受け止められた。如意陽輝棒と、その赤き一角が激しく衝突し競り合う。ぶつかり合った反動で、燃え盛る灼熱地獄の炎がほとんど消し飛んだ。

 無茶な体勢からの頭突きだっていうのに、俺の全力の一撃と拮抗するとかホント理不尽だよなァ!!!

 如意陽輝棒によって()を増幅しても、その角を破壊する事も出来ない。これ以上意識を消費してしまえば、間違いなく動きをプログラムされた身体(無意識)が壊れて戻れなくなってしまう。だが、この攻撃は間違いなく最大の選択肢で、今俺が出せる全力。霊力も魔力もカラッケツで、灼熱地獄の熱から身を護る魔力すら全て攻撃に回している。文字通りの絶体絶命の一撃。だが、それでも届かない。

 

 ―――やはり、宙に伸ばした手は何も掴む事は出来ないのか。

 

 

 諦めるなッ!!!

 

 

 突如俺の後ろから、誰かが肩に手を置いた。

 

 

 詭弁の身体(無意識)は私が操る!(意識)と、身体(無意識)をシンクロさせるの!

 

 

 肩に置かれた手が身体の中に溶け込んでいくような、空っぽの器に水が満たされていくような感覚。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ―――宙に伸ばした手は、()()を掴んだ。それが何かは、まだ分からないけど。

 

 拮抗していた力は、徐々に天秤が傾いていくように。

 

「「『(無意識)のシンクロ』!!」」

 

 身体と魂が、完全に一つとなる。また一つ、限界を突破した。

 

「「おおおおおおおお!!!!」」

 

「ぐ、ゥああああああ!!!!」

 

 ピシッ、ピシッ、と何かが音を立てる。壊れるのは如意陽輝棒か、それとも星熊勇儀の一本角か。

 

 

 

 最後に立つのは俺か、相手か。

 

 

 

 ばきィッ!!!!

 

 

 

 

 空高く、星が描かれた赤い角が飛んでいった―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「……マジか。ま、まさか人間が()()勇儀の姐さんに勝っちまうなんて」

 

「……詭弁さん。無事な様で……良かった……」

 

「うにゅ……凄い……私も、あんな風に……

 

 『山の四天王』星熊勇儀が一人の人間に敗北した。

 このニュースはあっという間に地底全体に広がり、また新たな騒動の元となるが……それはまた、別の話。

 

 




勇儀姐さんってなんで色んな創作物でガチ戦闘ばっかしてるんです?

Q.なんで勇儀姐さんは詭弁の顔を見るなりオコなの?
A.世界にはよく似た顔の人間が三人居るって話だし、詭弁じゃない誰かと間違えたんでしょ。

Q.グングニルの槍って投槍じゃ……
A.調整中

Q.《陰》と勇儀姐さんの関係って?
A.調整中

Q.詭弁強すぎひん?
A.勇儀姐さんは「殺す」と言っておきながら全力で殺しに来てなかったのと、実は一撃でもマトモに食らえば詭弁はミンチになっていたので実質オワタ式だったので割とギリギリな攻防だった。

Q.「殺す」は嘘だったん?鬼が嘘吐いていいん?
A.勇儀姐さんのスーパーエゴが……


感想、評価、ここすき等御待ちしてましてよ!


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地底観光ですよ!

私が小説を書く時なんですけど(唐突な自分語り)
ノリとテンションと最近見た創作物とかにモロ影響を受けるんですよね。何が言いたいかというと要するにこいしちゃんとシンクロしちゃったけどコレどうすんの?地上に出たら霊夢ちゃん詭弁の事妖怪認定しないコレ大丈夫?って事です。しーらね。きっとその内『クリアマインド!』からの『アクセルシンクロォ!!』とか言いだすんだぜ。たぶん最もクリアマインドからかけ離れている主人公だと思うんですけど(名推理)
まあ私はLIVE感で生きてる人間ですから!!(長所)


凄い落ち着いた。前書きは気にしないでください。


 星熊勇儀を倒して、数日経った。

 あれから何をしていたかというと……

 

「ほらほらお兄さん、しっかり食べなきゃ治るモンも治らないよ!」

 

「詭弁!ほら、あーん!」

 

「おい無理矢理口に匙突っ込んでくるんじゃゴむむ」

 

 地霊殿の客室でずっと寝ていた。

 というのも、全身全霊全力全開で勇儀を倒した結果、灼熱地獄に無防備で放り出された為に全身が焼け焦げる大怪我を負ったという訳だ。

 

「普通の人間なら十分死に至ってる大火傷ですよ」

 

 とは古明地さとりの弁。そんな大怪我で何故まだ生きてるのかというと、単に俺が丈夫だっていうのもあるのと……

 

「おう詭弁!調子はどうだ?鬼の秘薬は相当キくだろ?」

 

 半日に一回以上のペースで見舞いに来る勇儀が持ってくる塗り薬のお陰かな。うん。勝負に勝ったはずの俺の方が重傷で、負けたはずの勇儀の方がピンピンしてるってのもオカシイ話だよなぁ?

 結局あの時、俺は勇儀の一本角をへし折った。勇儀の額の角は痛々しく見える程に根元から砕け散っているが、勇儀はむしろ()()を誇っているようだった。

 

「鬼が全力を出して尚負けたんだ。折れた角さえ立派な勲章だよ」

 

 との事。やはり妖怪の考える事は分からん()

 

 ……さて、今に意識を戻そう。俺達が大暴れしたのは旧都と呼ばれる地底の歓楽街の更に下。灼熱地獄。当然そんな所で大暴れした余波は地底全体に及んだ。酷い所だと旧都の一区画が粉々に消滅したらしい。ダレダーソンナヒドイコトシタノハー。

 要するにそんな感じで大暴れしていたために、地底ではあっという間に『星熊勇儀、人間に敗北する』というニュースが広まった。そのせいか、地底の嫌われ者と名高い(らしい)覚妖怪の所に野次馬根性の妖怪が集まり、鬼の四天王に勝った人間を一目見ようと殺到してるらしい。()()()というのは、絶対安静にしている俺の元まで来る妖怪は殆ど居ないから実感が無いからだ。

 

「勝手に入ってくるヤツを焼けば良いんだねさとり様!私頑張る!」

 

「ああ、気にしなくていいですよ詭弁さん。多少雑に扱ったくらいで死ぬような奴等でもないので」

 

 と、まあ数日の間は安静にしていた。そのおかげか身体は完全復活。霊力も魔力も心なしか増幅された気もしなくもない。

 敷いて言うなれば四六時中監視……というか引っ付いて来るこいしと、何が何でもベッドの上から俺を動かそうとしないさとりの古明地姉妹の所為でアレが発散できずムラムラしてるってことかなー!

 

「既に身体を重ねてる(意味深)し、実質妻みたいなモノじゃない!私に性欲をぶつけても良いのよ!!」

 

「詭弁さんがしてほしい事は()()行います。どうぞ右手の代わりに使ってください」

 

「戻れ。散れ。GO BACK!」

 

 何なの急に古明地姉妹好感度高くなり過ぎじゃない?こいしはまだ分かる――いや、分からんけど、とにかく前からこんな感じだったから分かるけど、何なの古明地さとり。なんかグイグイ来るやん……。

 

「思えば、『目は口ほどに物を言う』と言いますね。つまり口から先に生まれた様な貴方と目から先に生まれた私はきっと相性が良いのだと思います」

 

 俺はそうは思いませんが?えっ、何言ってん?

 もしもーし!お前らの主人達がなんかとんでもない暴走してるんですがァー!『ニャー』じゃねえぞ猫ォ!『ワフン』とか言ってないで何とかしろ犬ゥ!なんでこの部屋こんなに動物集まってんだコミケか!?(謎電波)

 そしてさっきから嘴が頬に刺さって絶妙に痛いんだよ離れろ鳥ィ!!

 

「その子はハシビロコウのメスですね。見た目は怖いかもしれませんが貴方に懐いているようです」

 

「人型の女の子になってから出直してくれません事ォ!!?」

 

 頬が!頬が!めっちゃグリグリして来るやんこの鳥ィ!俺なんかした!?

 

「あーははは……『さとり様を助けてくれてありがとう』だって。モテモテだねぇ詭弁」

 

「笑っとる場合かお燐ちゃん!ええい分かったから離れろ!」

 

 もしかしなくてもこの動物園状態は星熊勇儀を倒したことと関係が?

 

「いんや、それはアレだよ。地霊殿は『灼熱地獄』の熱による床暖房で全体が暖かかったんだけど……ほら、ね?」

 

「俺と勇儀で灼熱地獄の炎殆ど消し飛ばしちゃったもんねェ!?それはゴメンて!!」

 

 要するに暖を求めて集まってきたって事ね。灼熱地獄の温度が下がっても良いのかって?知らん。

 そしてさっきからよく叫んでるのは、いい加減溜まりに溜まった()()を少しでも発散しようという無駄な努力の所為だ。ムラムラ……はともかく、いい加減身体を動かしたいぜ……。

 

「じゃあ情熱的な運動(意味深)しよ詭弁!」

 

「いや無理」

 

 お燐ちゃんやお空ちゃんならいつでもベッドインバッチコイなんだけどお前……せめて倍近く成長してくれません?

 

「この()()()の良さが分かんないなんてまだまだね詭弁」

 

「おう一生分かんなくてええわ」

 

 幼女相手にどう勃つと……。だがいい加減発散しなければ、このままでは幼女だろうがケモノだろうが何でも良くなりそう……グギギ、性癖スライムは嫌じゃ!(決意)

 と動物達に囲まれ、殺人的な熱量の中心部と化した俺の頭は良い感じに茹だってきている。自分でも汗臭いなぁと思う今日この頃……って俺数日風呂入ってないやん!!

 

「お風呂に入らずとも私が清潔なタオルで身体を拭ってあげますよ。ええ、隅々まで……」

 

「えーっ?このくらい汗臭い方がむしろ興奮する……」

 

「お前等がどう思うかじゃない。俺がどう思うかだ」

 

 俺はわりと綺麗好きなのだ。自分自身が汗臭いとか気になるくらいには。あぁ……身体洗って、服洗濯しなきゃ……服の替え無いわ(白目)。

 ……ま、服くらいなら旧都で手に入るだろ。

 

「という訳で服を調達してくるからお前らどけェい!」

 

 身体に引っ付いてくるこいしや地霊殿のペット達をポイポイ投げて離す。暑いんじゃ。

 

「……詭弁さん、どうしても此処から動くというのなら―――」

 

「実力行使か?生憎今の俺は身体を動かしたくて堪らねェから手加減は―――」

 

「いえ、普通についていきますが」

 

「……あっそ」

 

「さとり様が行くんなら私も行くよ!」

 

「私もー!」

 

「あっズルい!詭弁の隣は私専用スペースよお空!」

 

 どうしてこうなった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 右手にお空ちゃん、左手にさとり、前にはお燐ちゃんが歩き、俺の背中にはこいしが引っ付いてくる。『囲まれたぞッ!』『どうやらそのようだな……』

 いや、ほんとは両手に古明地姉妹、前にお燐ちゃんでお空ちゃんが背中についてたんだが、背中の素晴らしい感触を味わってると『こいし、お空。位置替わりなさい』と来たもんで……Shit!!!

 

 んで。地霊殿から出ると、来る時とは大きく違う景色が広がっていた。

 

「いやー旧都が凄い被害とは聞いてたが……まさか地形がガッツリ変わってるとは」

 

「それだけアンタ達の喧嘩が激しかったって事さ」

 

「むしろ逆になんで爆心地の真上にあったような地霊殿が無事だったんだよと思うね」

 

「非常に頑丈に出来てるんです」

 

 俺が来た時、旧地獄全体で見ると『かなり歪で巨大な洞窟』と言ったような地形だった。旧都はそれなりに均されていたがそこ以外はボコボコとした大岩が転がっている様な感じ。

 ところが今はどうでしょう。なんと旧地獄全体がほぼほぼ平らに均されているではありませんか。これには匠の技が光ります。意味分かんねえよ。

 

「『区画整理が楽で良い』と言ってましたね」

 

「子供の遊びじゃねえんだぞ……」

 

「まあ、鬼の建築技術は変態的だからねぇ。後三日くらいで旧都は完全に復旧するんじゃないかい?」

 

「俺がゴロゴロしてた日も合わせて一週間くらいか?一週間弱で旧都が戻るとか変態的過ぎる」

 

 いや、まあ俺が変態とか言えた立場にないのは重々承知よ?それにしても限度があるじゃん……。

 

「あっ!アイツ例の人間じゃねえか!?」

「おー、アレが勇儀姐さんに勝ったという」

「うほっ、良い男……!」

「オレもガチ喧嘩してぇなぁ……」

「星熊の姉御に擦り下ろされても知らねえぞ」

 

「詭弁も一気に有名人になったね!」

 

「それは喜ぶ事だろうか」

 

 少なくともケツを守る必要が出てきた気がする。俺はノーマルだ。

 

「そういや聞いたか?地上への道がこの前のアレで完全に塞がっちまったってよ」

「マジかよ。まあ今更あんな道使うヤツもそう居ないか」

 

「……」

 

「心中お察しします。ですが詭弁さんなら地霊殿(ウチ)にいつまでも居たって構いませんよ」

 

「俺が構うんだよなぁ……!」

 

 お燐ちゃんやお空ちゃんが居るから良いっちゃ良いけど、それはあくまでも地上に何時でも帰れる事が前提な訳で……そうだよ俺よく考えたら依頼の最中だったわ。それが数日間の間突然の音信不通……これはもしかしなくてもよろしくないですねぇ!

 

「うにゅ、大丈夫だよ詭弁!私がやしなってあげるから!」

 

「それ世間一般では大丈夫と言わないのですお空ちゃん」

 

「??」

 

 多分()()()()って意味を正しく知らんのだと思うけど。若くしてヒモかぁ……それマジの地獄に落ちる奴では?

 

「人の数だけ愛の形もありますよ。詭弁さんが良く分かってるでしょう」

 

 うんソレ何時だったか映姫様に言った事を曲解してるよね!覚妖怪が記憶捏造しちゃ良くないよね!

 ……まあ地上に戻る手段は後で考えるとして、今は服を探そう。

 

「という訳でお燐ちゃん。旧都には呉服屋的なモノは無いのか?」

 

「うん、()()()よ」

 

「……()()()?」

 

「アタシら妖怪は大抵()()には頓着しないから、妖怪しか居ない旧都には呉服屋なんかより酒屋の方が圧倒的に需要があるからねぇ。復旧作業も酒屋最優先だし……唯一あった呉服屋は、まだ治ってない区画の方かな?」

 

「あ、はい。もういいです」

 

 やはり人間と妖怪は相容れない様だなァ!!(極端)

 なんで酒第一なんだよ……あ、鬼が現場作業員だからか(納得)

 

「ん~……あっ、そうだ!アタイの知り合いに服を作るのが多少得意な奴が居るから当たってみるよ!」

 

「お、おう」

 

 そう言ってお燐ちゃんは何処かに飛んでいった。大丈夫かこれ……。まあ、とにかく服は最悪自作の粗悪な魔法糸で作ったヤツで間に合わせるとして、次は身体の匂いだな。もう俺の汗と色んな動物の匂いが混ざってヤバい(語彙死)。銭湯かなんか無いの?

 

「銭湯……ですか。無いことは無いですが……」

 

「聞いたか今の」

「聞いた。ヤベエな」

「勇儀姐さんの目の届かない所で……ゴクリ」

「ふっ、ここはオレに任せてもらおうか」

「馬鹿野郎テメェ一人に良い恰好させねえぜ」

「良い男が風呂場で裸一貫。何も起こらない筈もなく……」

 

「……本当に行きますか?」

 

「止めとく」

 

 俺の色々がヤバい(脳死)。何なの俺のホールニューワールド狙われ過ぎじゃない?なんで?

 

「その……とても言い辛いのですが鬼にとって衆道というのは割りと普通の考えですので……」

 

 うん……鬼と武士は斬っても切れない関係だし、武士と衆道も斬っても切れない関係だから鬼にとって衆道が普通なのは当たり前だな(白目)

 俺若いし、イケメンだし、誰もが羨む超美男子。フフフ……ケツが寒くなってきた。

 

「いや、まあ……詭弁さんなら鬼相手でも大抵の相手なら勝てるのでは?」

 

「お前仮に自分よりクソザコナメクジな奴からクッソ汚い劣情の思考見せられて平然としてられる?」

 

それとこれ(強さと不愉快さ)とは別ですね(即答)」

 

 そりゃ負けるつもりは一切無いとはいえさぁ……ケツ狙われて平然と出来るか!

 俺が女の子にセクハラするのは良いのかだって?良いんだよ俺イケメンだし(真顔)

 

「うにゅ?あ、勇儀だー」

 

あん?おお詭弁!……と地霊殿の連中か」

 

 そこには角材を大量に肩に担いでいる星熊勇儀が居た。いや、持つ量。確実に今持ってる量だけで家一軒建つだろ……。そんな事はどうでも良い、重要な事じゃない。

 

「よう星熊勇儀。早速だけど今使える()()に案内してくれ」

 

「ン、良いけど―――女湯?」

 

 俺は無言で視界の端にウロウロしていた鬼達を指差す。どいつもこいつも俺(の尻を)無遠慮に見ている。ハッキリってさっきからずっとゾワゾワしている。ヤバい。

 

「あっ、ヤベ、ばれてる」

「馬鹿お前がジロジロ見てるから」

「お前がデケェ声であの人間狙ってる事言うから」

「ざけんなお前もだろうが!」

「ンだとテメェぶん殴るぞ!」

「上等だ今ここでブッ殺してやる!」

「やれるモンならやってみろテメェのケツに角材ブッ込んでやるよ!」

「ハッ!テメェのクソ穴じゃねえんだ逆に角材ブッ込んで百舌鳥の早贄みたいにしてやる!」

 

「フンッ!!」

 

「「 お”お”ぅ”ん!!? 」」

 

 星熊勇儀が大量に担いでいた角材の内二本を持って騒ぐ鬼達に向けて思いっきり投げる。角材は弾丸のように真っすぐ飛んで行き、騒ぐ鬼二体のケツに突き刺さった。見てるだけで何かがヒュッってなる。ヒュッって。

 

「……(きっっっっったな)いなぁ……」

 

「まあそういう事なら態々女湯じゃなくて誰も使わないような秘湯に案内してやるよ」

 

「……もうこの際あぁいう感じの男鬼さえ居なけりゃ何処でも良いか」

 

「というか、風呂なら地霊殿にもあるだろうに。なんで態々?」

 

「ああ、地霊殿のお風呂は基本的に小型のペットや私達用の大きさしか無くて、詭弁さんが入れる大きさじゃないんですよ」

 

「妙な所不便だなさとりン所は」

 

 それなー。紅魔館みたく無駄に広い大浴場あるモンだと勝手に思ってたがそんな事は無かったぜ。お燐ちゃんとお空ちゃんはどうするのかだって?動物形態で入るんだと。

 

「……魔法でお湯を張ったり、源泉から直接引っ張って来れるのならそれでも良かったんですが、何分それでは温度調節が難しいもので」

 

 あぁ、色んな動物居るもんな。中には熱いとすぐ火傷するようなヤツも混ざってるよなそりゃ。まあ不必要なら無駄にデカくする事も無い。

 紅魔館の大浴場は何の為にあるん?(純粋な疑問)

 

 

 

 

「ふぇっくち!」

 

「お嬢様、突然如何なさいましたか?」

 

「何でもないわ咲夜。きっと誰かが下らない噂話をしているだけよ」

 

「ちょっとお姉様、変な病気なんて移さないでよね?」

 

「……フラン、もうちょっと姉を労わる心とか……」

 

「ねえお姉様、今日のクッキー美味しい?」

 

「えっ?ええ……美味しいわよ?どうしたの突然」

 

「お嬢様、今日のクッキーは妹様がお作りになられたんですよ」

 

「え”っ……貴方いつの間にお菓子作りなんて出来るようになったのよ!?」

 

「お姉様が神社で遊び呆けてたりゴロゴロしてる間によ。他にも美味しい紅茶の入れ方とか、詭弁のお嫁さんになる為に色々頑張ってるんだから」

 

「あっ……」

 

「……で、()()()()()()が……何だって?」

 

「ナンデモナイデス……」

 

 

 

 

 地底なのに今日も電波は絶好調だぜ!(バリ3)

 そんなこんなで旧都から離れ、少し歩いた所に見えてきた小さな建物。アレが件の秘湯、その脱衣所だと言う。

 

「まあ見ての通り少し狭いのと旧都から結構離れてる事、あと酒を常備するにゃ向いてないから温泉浸かりながら酒を飲むには持参しなきゃならないから全然使われてないんだよ」

 

「銭湯なのに酒が準備されてるのが前提条件な所本当に期待を裏切らないよな地底(ここ)は……」

 

「此処はアタシらが管理してるところだけど……まあアンタだから今日はロハで良いよ」

 

THX(さんくす)

 

「んじゃぁ……アタシは復旧作業の最中だから一旦戻るわ」

 

「ふむ……では私はお燐を探してきます。此処まで移動した事は分からないでしょうし」

 

「じゃあ私はさとり様についてく!」

 

「えっ!?お空ちゃんは一緒に入る流れでは!?」

 

「(そんな流れなんて)ないです」

 

「そっかぁ」

 

 そういうことになった。

 IQ低そうな会話してんな。

 そういうわけで一人寂しく温泉に入る事になった。この際背中の引っ付き虫(こいし)は知らん。

「虫だけに無視とはシャレが効くねえ!」

 さて、脱衣所で服を脱ぎ捨て、全裸で温泉に突撃する。のりこめー^^

「わぁい^^」

 スパァン!と脱衣所から温泉へ続く扉を開け放つと、湯に浸かっていた先客の金髪長耳美女がビクッと身体を跳ねさせ、俺を睨み付ける。

 

「ビックリするじゃない!静かに入ってきなさいよ妬ましい!」

 

「あ、ごめんなさい」

 

 先に汚れている身体を軽く洗ってから流し、金髪長耳美女の隣に入る。ふぅー……良い湯加減ではないか。濁り湯で肌に優しい弱酸性の温泉。なんか身体にすごく良さそう(小並間)

 

「この場所にはよく来るんです?」

 

「別に……少し前に大地震があったでしょ?その時にちょっと所用で旧都に居たんだけど、運悪く住処まで続く通路が崩落しちゃったのよ」

 

「はぁ、それは大変でしたねぇ」

 

「そうなの、大変だったのよ。急に帰れなくなって、ヤな奴に貸しまで作るハメになったんだから。あー妬ましい妬ましい」

 

「実は俺も同じで、帰り路が崩落しちゃったんですよ」

 

「あら、そう。それで?今どうしてるのよ」

 

「今は色々あって地霊殿で厄介になってるんですけど、まあ早いところ戻らないと色々マズいんですよねぇ」

 

「地霊殿……あぁ、覚妖怪の所。それは……んー……まぁ私が厄介になってるところとドッコイ位かしら」

 

「へぇ、今は何処を借りてるんです?」

 

「今は勇儀の家の一室を借りてるわ。偶々アイツの家が残ってたってのもあるけど……あーあ、早く自分の家に帰りたいわ。毎日のようにご機嫌に飲んだくれて、本当に妬ましい。そういえば知ってる?鬼の四天王って呼ばれてる()()勇儀が人間なんかに負けて、しかも一本角を折られたって自慢気に言うのよ。いくら鬼でも流石に嘘でしょって思うわよね」

 

「勿論知ってるよ。角折ったの俺だもんで」

 

「フン。まあ多少は鍛えてる様な見た目してるみたいだけど、人間の……しかもまだまだ子供みたいな男に鬼が倒せるワケが……………………男?」

 

「なんだよ証拠出せって?仕方ないなぁ……お手を拝借。ほーら、男の子の部分だ()()

 

あ、硬……………ッッッッッ!!!?????」

 

 驚きのあまり声にならない叫び声を上げて立ち上がろうとした女性の肩を掴んで、多少強引に温泉の中に座らせ続ける。

 

「ッ……!!!ッ!!?―――ッッッ!!!」

 

「ほーら落ち着け落ち着け。今立ったら()()()()()()()()()全部おっぴろげになるぞ」

 

 口をパクパクと金魚のように開け閉めしながらも、何とか落ち着いたようで全身の力が抜けていった。それでもまだ緊張はしてる様だが。

 

「な、何のつもりかしら……!此処は女湯よ……!」

 

「えっ、普通に『男』と書かれた暖簾くぐって来たけど……此処って混浴だったってオチでは?」

 

「えっ……あっ、ほんとだ……」

 

 振り返って出入口を確認すれば『男』と『女』と書かれた暖簾がそれぞれ少し離れた位置にあった。

 これは……つまりアレらは男女の脱衣所を指し示してるものに違いない!(名推理)

 混浴風呂があるなんて地底は良いところですね(手のひらドリル)

 

「た、タオルも無しに混浴に入ってくるなんて非常識ね!」

 

「ブーメラン刺さってますよ」

 

 C位の美しき山が白濁している湯から覗ける。大変素晴らしいと思います。もうちょっと先を見ても……あ、ダメですかそうですか。

 

「ッッ!そ、そもそも混浴とは言えいきなり女性の手を掴んでお、お、……アレを触らせるなんて恥知らずもいいところでしょ妬ましい!!!」

 

「これは角です」

 

「いや、どう考えてもおち―――」

 

「角です!」

 

「あっはい」

 

 そりゃ女性にアレを触らせる事に大変興奮いたしますが。それをやっちゃぁおしまいよ。

 というわけでネタバラシにお湯の中から『星熊勇儀の天を貫く剛角』を出す。

 

「って本当に角じゃないッ!!!」

 

「むしろ嘘の方が良かったのです?いやんムッツリ……痛たたた!!!指はそっちの方向には曲がりませんッ!曲がりませんッ!」

 

 指がもげる!痛い……くっ、仕返しに乳首でもつねってやろうか……あっ、はい、冗談ですのでいつの間にか補填してた包丁しまってくださいこいしさん。風呂場に危険物の持ち込みはおよし。

 

「……て言うかよく見たら覚妖怪の妹の方も居るじゃない……何なのよ此処、折角誰も居なくてゆっくりできる温泉見つけたと思ったのに。妬ましいわ」

 

「そりゃスマンね。替わりと言っちゃ何だけど()()()()()でもしてあげようか?少なくとも俺の知ってる中で、俺よりマッサージ上手いのは俺の師匠だけなモンだぜ」

 

「……そう言って変なことする気でしょう妬ましい」

 

「いやいや、本当に普通のマッサージさ。肩とか腰周りとか足とか、普通に揉みほぐすだけ」

 

「……ふぅん、ならまずは肩だけやってみなさい。他の所はそれから考えてあげる」

 

「はいはい、お任せくださいお嬢様」

 

「……ふん」

 

「詭弁?分かってると思うけどいきなり変なことしたら処すからね?」

 

 処すな。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「やあやあ、態々悪いねヤマメの姉さん」

 

「別に良いわ、あんな災害が起きた後だし……へぇ、中々良さそうな所じゃないかい。旧都の外れにこんな温泉があったんだねぇ。一仕事の前にちょっと浴びてこうか」

 

「……まぁ、詭弁さんもまだ温泉に浸かってるところでしょうし、ゆっくりしてても良いでしょう」

 

「……ん?今『詭弁』って言った?……もしかしなくても、勇儀の一本角折ったのって……」

 

「ああ、詭弁だ!アイツは強かったなぁ!私の本気の一撃をを上手く避けて、強烈な攻撃をアタシの角に……かぁー!何度思い出してもありゃ痺れたねぇ!」

 

「うん、聞いたよそのくだり。何度も何度も聞いたよ。……あぁーなんか嫌な予感がしてきたなぁ」

 

 

「……ッ!……く、……ンっ!」

 

 

「うにゅ?今なにか聞こえたよ?」

 

「おや、今のはパルスィの声かな?アイツん所通る道全部崩落してたからかなり心配してたんだけど、無事っぽそうだねぇ」

 

「パルスィは今私のところで世話してる。まあ明日には地上までの道は開通してるだろうけどね。……しかしなんで此処に居るんだろうな?今は詭弁が入ってるってのに……」

 

「あー……嫌な予感の正体が見えてきたかも」

 

 一行は脱衣所を通り過ぎ、温泉へ続く扉を開ける。すると……。

 

 

 

「大丈夫大丈夫!棒(意味深)を使ったマッサージは初めてだけど、絶対に気持ちよくさせるから!」

 

「はくぅッ……!ふっ、その自信はどっから来るのよッ!も、もう良いから……ぁ……」

 

「良いの!!?やったぜ!俺のマッサージ棒(暗喩)から特濃オイル(比喩)を直接ブチこんであげるね!」

 

「そう言う意味じゃなあ"ッ♥️くぅ……ひっ……ソコっ……ひぅ……」

 

「ンう"う"う"う"う"ッッッ!!!」

 

 一切の布を身に纏わず温泉の縁の岩肌にうつ伏せで寝そべる水橋パルスィ。腰にタオル一枚巻いてパルスィの太股に座り、その背中から腰にかけて指圧マッサージを施す鼻息の荒い詭弁答弁(クズ野郎)。そして少し離れた場所で、両手に包丁を握って暴れているがタオルで全身と口を縛られて転がされている古明地こいし。

 

「あ、あた、あたっ、当たってんのよさっきから柔らかいのと硬いのが!!!脚にッ!!!」

 

「当ててんのよ言わせんな恥ずかしい」

 

「存在が恥ずかしい奴が何ほざくぅんッ……くっ……はっ……はぁ……」

 

「……もし本当に、本当に嫌だったら俺はこれ以上はしないよ。ちゃんとした普通のマッサージをして終わりさ」

 

「い、今やってるのは()()()()()()って言ってる様なモンでしょ……っ…………い、嫌……じゃ、な―――あ」

 

「んぅ?……あ」

 

 

「よう詭弁。命の洗濯は終わったかい?」

 

「ははは……アタイ達をほっぽってナニやってるのかねぇ……」

 

「やはり地霊殿でキチンと『管理』をしないといけませんね」

 

 

「……あぁ、凄く上質な嫉妬心ね。これだけ満たされる気持ちになるのは何時ぶりかしら。今日は機嫌が良いからコレくらいにしてあげるわ」

 

「Hey待ちなよベイビー。『旅は道連れ世は情け』と言うだろう?俺も一緒についていくぜ」

 

「『去る物は追わず』とも言うわよ。生憎だけど縁が無かったって事で―――」

 

「まあ待ちなよパルスィ。お前にも丁度話があるんだ」

 

「わ、私には無いわ。そこを通るわよ勇儀」

 

「『無意識(エス)―――

 

「ねえ詭弁私を縛ったまま何処に行こうとする気かしら無意識は私の領域でつまり()()は私と共に行くという事よねそうでしょ?」

 

「ひぇ。た、助けてお空ちゃん……」

 

「知らないッ!」プィッ

 

 

 

 地底の片隅で巨大な火柱やら衝撃波やらが放たれたが、旧地獄にとってその程度の喧嘩など日常茶飯事だったのでスグに忘れ去られた。

 




ハシビロコウ……女の子……うっ……ふぅ。

パルスィちゃんはか"わ"い"い"な"ぁ"!!!(発作)
ちなみにこの時点ではクズもパルスィもお互いの名前を知らない状態。名前も知らん相手にも盛るとかコイツ……

パル「(コイツと一緒に居れば良質な嫉妬が得られる……?)」
クズ「へーいヤマメちゃん今日も良いケツしてんな”だだだだ!!手が折れるッ!折れるッ!」
パル「(……私が嫉妬で狂ってしまいそうになるから止めとこ)」


詭弁式指圧術
 あらゆる按摩師を統べるという伝説の指圧師の御業を自身が扱えるレベルまでに落とし込んだ詭弁にしか使えない指圧術。指先から放たれる気と微弱な雷の魔法により、頭痛肩こり腰痛むくみ冷え性手足の痺れ関節痛等に抜群の効果があり、特に肉体の若返り効果も期待できるというのも特筆するべき点である。

裏・詭弁式指圧術
 あらゆる按摩師を統べ(ry 詭弁にしか使えない指圧術の超秘。女性相手にしか使えない。
 絶妙な力加減で放たれる波動により、皮膚・筋肉等を通り越して直接内臓に触れるかのような施術を行える。特に生理痛に効き、身体の内側からメルトダウン(意味深)する事間違いなし!ひでぇ技だ。


いやー詭弁が腰にタオル巻いてたからギリR-15だわー。仮に腰にタオル巻いてなかったらR-18だったわー。ギリセーフだわー。これはギリセーフだわー。
そう、だってあくまでも唯の指圧マッサージだから!!!変なことしてないから!!!お風呂場でほぼ裸同士でマッサージしてただけだから!!!チンチン出てないから!!!
チンチン出さなきゃセーフってミリオ先輩も言ってたしね(拡大解釈)

あのエヴァ二次の続き早く読みたいなぁ!
遊戯王二次の続き気になるなぁ!
ハイキュー!二次の続きはよ!
……えっ?この小説も同じように思われてるって?ほんま?ほんまなん?ほんまやったら感想、評価、ここすきで示してくれへん?やないと分からんち。


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俺の魂ってどーなってん!?

ダークネスの方頑張ってたら疲れたよパトラッシュ


「前が見えねェ」

 

「『前が見えねェ』程度で済んでるアンタの方が驚きだよアタシゃ……」

 

 今の俺は温泉に肩まで浸かりながら真っ暗な空……地底の場合なんて言えばいい?天井?……を見上げながらゆっくりしてる。もうダメかと思ったよ。

 

「お姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃん!!」

 

「こいし、包丁持ったまま抱き付いてこないで。危ないわ」

 

「お空、アンタ何食べてんだい……?」

 

「うにゅ?温泉卵だよ。お燐も食べる?」

 

「いや、そうじゃなくて何処から……いや、いいよ……」

 

「ふぅん、ヤマメもコイツに()()()かけたの」

 

「ああそうさ、全く。人食い妖怪を何だと思ってるのかねぇ」

 

 まあ俺の現状よりも気になるのは今この温泉の中に美女が全裸で揃っているって事だよな酒池肉林かようひょー!

 

「あ、詭弁お前顔のタオル外したら三歩必殺だからな?」

 

 桃源郷が目の前に有るのに見ざるはひじょーにつらいぞごすずん……。先ほどのように是非とも全裸美女の全身をモミモミしたい所存。

 

「そういえば割と聞きたい事があるんだった。なぁ星熊勇儀、俺を誰と間違えて地霊殿に襲撃しに来たんだ?」

 

「ん?あぁ……別に誰かと間違えて襲撃したわけじゃない。少し前に萃香のヤツがふらっと地底に来てな、その時に『人間でありながら鬼の様に強い』ってお前の事を延々自慢してくるモンだからずーっと悶々とした日を過ごしてたんだ。それで漸く待ちに待った日が来たから……つい、な」

 

「『つい』で住む家を襲撃される身にもなってくださいよ勇儀さん」

 

「わりぃわりぃ。んで、件の人間を見つけりゃァアタシの()()()()()()に顔がソックリと来た。何千年もアタシを放っておいてノコノコと現れたヤツに、思わず手が出ただけさ」

 

「俺にソックリの古い知り合い、ねえ。俺の先祖的な?」

 

「さあね。アイツは今のお前みたいに()()()()()()()に好かれてたけど、誰かと子を成したなんて聞いたことないし」

 

「……成程、勇儀さんみたいな()()()()()()()に好かれていると」

 

「あ”?」

 

「こんな場所で止めなさいよ貴方達。ああ妬ましい妬ましい」

 

「チッ…………まあ、少なくともその()()()()とアンタは無関係じゃなさそうだ。()って言ったか?ソイツ出しな詭弁」

 

「んぃ……召喚『《陰》』!」

 

 いつものように、俺の身体の中に収納されている《陰》を引き出す……あれ、出てこねえ。

 

「……出てこないぞ?」

 

「オカシイなぁ。召喚『《陰》』!」

 

「《陰》は出たくないから何度も呼ぶなって!」

 

 代わりに《陽》が生えてきた。いや、出たくないってお前……。

 

「わお、おっきいのからちっこいのまでより取り見取りかよ」

 

「シッ!!!」

 

「HEY包丁は投げるもんじゃねえぜ!それじゃあの」

 

 投げられた包丁を掴み取り、戻っていく《陽》。おい、お前だけ堪能してズルいぞ。見た記憶を寄越せ。

 

「詭弁さん……」

 

「詭弁は良いけど()()()はダメだよ!!!」

 

「悪いが()()()も『俺』なんで」

 

「……ねぇ詭弁、その《陽》とか《陰》とかって何なんだい?どうにも普通の()()とは思えないんだけど」

 

「分身と言えば分身なんだけど……ん~俺にもよく分からん。俺の魂を三つに分けたモンの内の一つって事ぐらいしか」

 

()()()()()?人間が?そんな事出来るのかい?」

 

「……あのねぇ詭弁。同じ分身使いとして言わせてもらうけど、普通の人間は……というか魔女でも妖怪でも、『意識』を分ける事は出来ても()()()()()なんて事は容易く出来る物ではないわ。それこそカミサマでもないとね。ああ妬ましい」

 

「何が違うのかサッパリだぜ」

 

「例えるなら、普通の分身は右手で絵を描きながら左手で字を書く様なモノ……難しいけど()()()()()じゃないし、簡単な動作の繰り返し程度なら比較的簡単に出来るわ。……魂を分けるって事は、つまり『自分でありながら自分とは違う存在を生み出す』事よ。だって元は同じ魂でも、分けるって事は()()()()()()()という事なのだから」

 

「ま、それこそ『神様』なら分霊(わけみたま)っていう様に魂を分割しても問題無いんだが、普通なら人間が魂を分けるなんて事する必要ないしな」

 

 それほど魂の分割なんて異常な事なのだろうか。はて、紅魔館の図書館で『分霊術』に関する本を読んだ記憶があるな。

 

「アタイは生霊にゃ詳しくないけど、怨霊なら詳しいよ。ま、霊は霊さ。そんなアタイから言わせてもらえば、『霊』ってのはそれ自体が一つの『個』なのさ。神様みたいにドデカい霊なら幾ら分割しても大丈夫だろうけど、普通の人間程度の霊を分割しようものなら『霊』としての形を保てなくなるねぇ。……普通なら、だけど」

 

「つまり?」

 

「普通の人間が霊魂を分けようもんならスグサマ昇天……どころか霊力の残渣にでもなって輪廻転生も出来ないかもねぇ」

 

「こっわ」

 

 あの世にも行けないとかこっわ。分霊術って何だよ。

 

「あぁもー話が逸れた。とにかくアタシは《陰》に用があるんだ。本当にアタシの知り合いかどうかを確認するためにな」

 

「そう言われても。《陽》も《陰》もある日突然現れたというか生えてきたというか……いや、前触れはあったけども。ともかく元が()()魂だから古い知り合いじゃぁないと思うんだが」

 

「それでもさ、一応確認しておきたいからな」

 

「んにぃ……少し待て」

 

 そう言って俺は()()()()()に言葉を投げる。《陰》《陽》共に召喚せずとも自身の内にいる間はこういう形で会話する事も出来る。

 そういうわけで星熊勇儀を以前から知っているか?

 

『……生憎だが()が生まれたのは春雪異変の時。それより前の記憶も意識も『本体』と共有している以上の物は無い。……だが、勇儀を見ていると少し懐かしい気分になる』

 

 との事。俺はその言葉をそのまま星熊勇儀に伝える。

 

「春雪異変……ってのは知らないが、要するに詭弁が生まれてから起きたって事だろう?…………いや、まさかな」

 

「んで、その古い知り合いってのはどういう奴なんだ?」

 

「ん、あぁ……そうだなぁ……()()()は、色々と規格外の『人間』だった。アタシの知る限り、戦いにおいて()()()()()()()()()()()()。相手が同じ人間だろうが、妖怪だろうが、果ては神だろうが……な」

 

「へぇ、一度も敗北した事が無い……ねぇ?本当にそんな人間が居るのかしら、妬ましい」

 

()()とはかけ離れていたが、一応間違いなく『人間』だったな。人妖神問わず色んなヤツから好かれていたな」

 

 霊夢ちゃんみたいだな、と漠然に思った。

 

「アタシが()()()に出会ったのは、アタシがさとり位に小さかった頃だ。その時からそれなりに腕に自信があったアタシは、当時から無敗を欲しいままにしていた人間に会うために喧嘩を売りに行ったのが始まりだ」

 

 星熊勇儀の幼女時代。なんだろう、全然想像がつかない。やっぱり、その大きなおっぱいも古明地姉妹並だったのだろうか。

 

「そう思えば私達の将来も楽しみだと思いませんか?」

 

 ぽそっと耳打ちする古明地さとり。顔は良いから将来が楽しみかもしれないが、多分星熊勇儀並みに成長する頃には既に俺は骨になってると思うんだが。ふと500年幼女吸血鬼を思い出す。……期待はしないでおくか。

 

「ちょっと、どういう意味ですか」

 

 妖怪は成長が遅いからねぇ。

 

「アタシは()()()に初めて会ってすぐに喧嘩を売ったんだが、アイツは歯牙にもかけなくてな。手に持った武器を振るうこと無く、『声』だけでアタシをあしらったんだ」

 

「うん?それは勇儀姐さんを言葉巧みに騙したって事かい?」

 

「いいや、文字通り『声』だけさ。その時から怪力乱神の力を持ってたアタシがだよ?」

 

 『声』だけ、か。勿論俺にも心当たりがある。少し前に星熊勇儀の()()が物理的な破壊力を持って古明地さとりを襲ったのは記憶に新しいし、俺自身も喉と肺を気力や霊力で強化すれば『声』だけで木っ端妖怪を倒せるし、本気で『声』を張り上げれば物理的な破壊力を持たせられる。

 とは言えそれはあくまで相手が木っ端妖怪ならの話だし、物理的破壊力と言えどもたかが知れてる。少なくとも地底に蔓延る鬼達を相手に声だけで何とかする気は起きない。今より弱かっただろう星熊勇儀相手とはいえよくもまあ声だけであしらったもんだ。

 

「たかが人間に、それも『声』だけであしらわれたアタシは悔しくて悔しくて、それから延々とアタシはアイツに向かい続けた。……だが、アタシは終ぞアイツから本気を引き出す事は叶わなかった」

 

「へー……『鬼の四天王』星熊勇儀を、まだ幼かったとは言え声だけで退けるとはねぇ。人間でそれだけ強ければ有名になりそうなモンだけどねぇ」

 

「ああ。アイツは天涯孤独故か、その名前を知る者はアタシ含め誰も居なかった。ただ誰かが言いだしたか分からないが、その二つ名だけが知れ渡っていた」

 

 ―――『魔王』……と。

 

 

 

『お前『魔王』とか呼ばれてたんか!!!!』

 

『知らん!!!絶対知らん!!!』

 

『よっ!『双両撃手(デュアル・ウェポン)の魔王』!』

 

『止めろォ!!!』

 

 控えめに言って大爆笑の二つ名。えー?《陰》が魔王ー?

 

「我が腕の中で息絶えるがいい!!」

 

『陰じゃなくて闇纏ってる方だソレ!』

 

「魔王……『常戦不敗の魔王』ですか。よく覚えていないですが誰かの心的外傷(トラウマ)で見た記憶がありますね」

 

「知ってるのかお姉ちゃん!!」

 

「ええ。その名の通り、常に何者かと戦い続け、敗北した者を配下に加え続け、そうしていつしか百鬼夜行の主となった……という噂を能力で見た記憶があります」

 

「ん?魔王って言ったら『神斬鬼滅の魔王』じゃないのかい?私が地上で大暴れしてた時にゃぁダレがその魔王を見つけるか競争してたモンだよ」

 

「魔王……まさか『葬槍無双の魔王』?数多もの人間を持っている槍で葬り去ったというアレかしら?妬ましいわ」

 

『『常戦不敗(インフィニティ・ウォーズ)の魔王』に『神斬鬼滅(イマジンキラー)の魔王』に『葬槍無双(デス・ランサー)の魔王』か……随分と有名だなぁ』

 

『ぐわあああああ心当たりが一切無いのに頭痛があああああ!!!!』

 

 楽しそうだなお前等。まあそれだけ強かったって事なんだろう……二つ名にしてはまぁ大層なモンだけど。

 魔王と呼ばれるだけあって恐らく魔法使いだったのだろう。それなら『捨虫の術』を覚えてたのかもしれん。

 

「アタシが最後にアイツと戦ったのは、アイツが皺くちゃのジジイになってた頃だ。……その時になって、漸くアイツの武器を振るわす事が出来たくらいアイツは強く、アタシはまだ弱かった。結局、アタシはアイツに一度も傷をつける事が出来ずに勝ち逃げされちまった」

 

 あ、これは『捨虫の術』は覚えてませんね間違いない。

 

「……《陰》がその魔王なのかは分からないし、そもそも詭弁と関係あるのかも分からない。けどさ、《陰》、聞こえているんだろう?……出てこないってんなら、好き勝手言わせてもらうよ」

 

 

「アンタのお陰でアタシはここまで強くなったし、これからも強くなる。ありがとうな」

 

 

『……本体、勇儀に伝えてくれ。『強くなる理由を忘れんなよ』ってな』

 

『いやお前が直接言えよそれくらい』

 

 同感。人をメッセンジャーかなんかだと思いやがってこの魔王。

 

『おま、お前ェ!今そういう雰囲気だっただろうが!!!』

 

『今更どうカッコつけたって『魔王』の汚名は雪がれないゾ☆』

 

『ブッコロ』

 

 おうこれからもヨロシクなマオちゃん。

 

『よーし本体テメェ月の出ている夜ばかりと思うなよチクショー』

 

「『強くなったらまたタイマンでやろう』ってさ」

 

『全力で言って無いんだがァ!!!?』

 

 

 

 ◆

 

 

 

「……で、勇儀。何時になったら私は自分の家に帰れるのかしら」

 

「ン?あぁ、とりあえず子鬼達を遣わせてるが、どうも完全に崩落しちまってるみたいでねぇ。新たに地上までの道を掘った方が早いんじゃないかってくらいだそうだよ」

 

「……つまり?」

 

「旧都の建物を直すのとはワケが違うからねぇ……まあ大体一ヶ月くらい掛かるかな?」

 

「ンな待てないわよ妬ましいッ!!!」

 

「自身の住処()を守れなかった可愛い橋姫ちゃんはココですか?」

 

「その口閉じないとブッ殺すわよ詭弁!!!」

 

 おお、怖い怖い。正に()()()()()形相をしているであろうパルスィちゃん(少し前に自己紹介してもらった)に対し肩を竦める仕草をする俺。いやー顔についてるタオルが有る所為で見えないわー。鬼のような形相してるパルスィちゃんが見えないわー。見えたらもっと怖いかもしれないのになー。

 

「……外してはいけませんからね?」

 

「チッ」

 

 時計の様な舌打ちの音が温泉に響く。めのまえにらくえんがあるのにみれないのはつらいぞごす……ん?これさっき似たような事思ったな。

 

「詭弁には私が居るじゃない!」

 

 あーはいはい。分かった分かった……ん?そういえば俺は古明地こいしと『シンクロ』することで星熊勇儀に打ち勝った。その際に自分の無意識を十全に操る事が出来るようになった訳だが……妹のこいしが『シンクロ』出来るのなら姉のさとりも出来るのでは?

 

「っ!」

 

 勿論あの時は俺の()()すら攻撃に移していたから、身体に残った()()()に乗り移る形でこいしがシンクロ出来たのかもしれないが、まあそれならむしろ俺の()()に乗る形でさとりとシンクロ出来る筈だ。何故ならさとりは相手の心を読む妖怪。こいしが無意識を操るのなら、さとりは意識を操るとも言える……筈。

 よし、物は試しだ。あの時こいしは俺の身体に()()というのがキーだった。ならばさとりも同じだろう。白く濁った温泉の中でさとりに向けて手を伸ばす。……さとりは、手を握り返した。

 

(意識)のシンクロ』!!

 

 ……多分成功……して、る?

 今、俺の視界には闇に浮かぶ七つの光の玉が見える。俺のすぐそばにある二つの玉は間違いなく古明地姉妹だろう。その隣にある二つの玉はお燐ちゃんとお空ちゃんだろうか。そして俺の正面に見える、周りに比べて少し大きい玉は星熊勇儀……か?そしてその両隣にヤマメちゃんとパルスィちゃんと。

 うーん……てっきり俺にも心を読む能力が使えるかと思いきや、実際には目隠しされても周囲の気配を読む事が出来るくらいだとは。それくらいなら別に()を使えば出来る―――いや、待てよ?なら更に()を使って気配を探ればどうなる?

 深呼吸を一つ。気力を用いて周囲を探ると、先程まではまるで闇に浮かぶ星の様な光景だったのがじわりじわりと変わってくる。具体的には今浸かっている温泉、温泉を囲む岩、周囲の地面、そして温泉に浸かる者達の()()()()体形。それらが俺を中心に360°、モノクロームの世界で頭の中に浮かび上がる。

 うむ、間違いない。さとりとシンクロすることで俺にも心を読む能力が使えるのだろう。そしてその能力は本人の知覚によって効果が変わるのだろう。今視覚を縛っている俺が相手の考えている事が見えるのではなく、相手の『(意識)』の位置が理解できるようになっている。

 手を握っているさとりに意識を集める。光の輪郭はさとりの身体を正確に描き、その考えている事を浮かび上げた。

 

『やはり詭弁さんはかなり人間離れした事を行えるというか今私の体形が詭弁さんに筒抜けなんですけどこれはかなり恥ずかしいというかいや詭弁さんなら見られても良いのですけどやはりもう少し段階を踏んでからああ今私の考えてる事が筒抜けになっています!!???』

 

 別に子供体形で興奮しやしないから落ち着け。

 

『あ”?詭弁さんを子供体形でしか興奮できない変態(ロリコン)にしても良いんですよ?』

 

 凄まれても全く怖くないのだが。さとりの頭をグシグシ撫でる。

 

『あっひゅぅ』

 

 謎の言語を発声した後に温泉に沈んでいったさとり。それと同時に視界が元の暗闇(目隠し)状態に戻った。チッ、もう少し気配察知の精度を上げれば俺の真正面に居る美巨美の六連団子(意味深)を拝めたというのに……。

 突然透視能力に目覚めろ俺の眼よ!

 

「地上までの路が無いから詭弁も帰れないねぇ~、あー残念だ残念だ」

 

「うにゅ?それってつまりもっと一緒に居られるって事?やったー!」

 

「こらこらお空、ヒトの不幸を喜んじゃダメだよ。幾ら本当の事でもね」

 

「うん?地上にすぐ行きたければ間欠泉でも使えば良いんじゃないのかい?」

 

「あ、バカ」

 

 成程、そういえば妖怪の山にも秘湯と呼ばれる場所があった事を思い出す。当然秘湯には源泉があるだろうし、源泉がこの地底に繋がってても何らおかしくは無い。良い事を聞いた。

 

「あーあ、勇儀姐さんの所為で詭弁が帰り道に気付いちゃったじゃないか」

 

「わ、悪い」

 

 それなりに居心地の良い地底にいつまでも居たいという心も無いわけではないが、それでも地上に帰りたいという心の方が大きかった。帰る事が出来るのなら、俺は地上に戻る事にする。

 

「えー?詭弁地上に帰っちゃうの?」

 

 お空ちゃんが抱き付いてきて引き留めてくる。あー生パイがむにゅって、むにゅぅって。俺もうちょっと此処に居ようっかなー。

 

「……三歩必殺食らいたいようだねぇ」

 

「やっぱり今此処でバリバリ食ってやろうか……」

 

「ああ、良い嫉妬ね。本当に……()()()()()だわ……!」パルパル

 

 正面三方向から凄い殺意がビンビン。いやぁホントモテル男は辛いなぁ……!

 顔に結ばれてるタオルを引き剥がし、正面三人に投げつける。

 

「わぷっ、ま、待て詭弁!!!」

 

「逃がさないよ!蜘蛛『石窟の蜘蛛の巣』!」

 

「嫉妬の糧にしてあげる!花咲爺『シロの灰』!」

 

 一瞬見えた桃源郷を振り払うように脱衣所に向かって逃げる。あークソ、じっくり見たかった……じゃなくて。流石に一ヶ月家を空ける訳にはいかない。また俺の素敵本が焼却処分されてしまう。地底にはまた来れるが素敵本に関しては幻想入りした物も多くコレクションしてる。つまり一期一会!ロストしたらそれっきり!そういうわけでサラダバー!

 

「あー逃げられたッ!」

 

「くっ、逃げ足の速い……妬ましい!」

 

「チィ!こうなりゃ地上までの道を突貫で―――」

 

 速攻で服を着た俺は脱衣所から出て再度温泉に走る。だってよく考えたら源泉に一番近い場所ってやっぱ此処なんだもん!あーすみませんすみません!大変なおっぱいすみません!その身を隠す一切のモノが無い光景がすみません!!!ばるんばるんのたゆんたゆんヤッター!!!水の滴る良い女ぁー!!!あなたは狂喜して叫んだ。『ナイスおっぱい!』行きがけの駄賃とばかりにおっぱいを揉んでいく。素晴らしい感触だ素晴らしい。

 ドボーン。俺は温泉の源泉に向かって飛びこみ、熱湯の水流に逆らいながら深く深く潜っていく。熱いは熱いけど灼熱地獄に比べれば余裕ヨォ!防熱の魔法を重ね掛けしておくのを忘れずに。

 あっという間に地中の源泉溜まりに到着。その中で地上に繋がってそうな所を選んで向かう。さらば地底、また会う日まで。

 

「……やっぱアイツ殺す!!」

 

「勇儀ィ!さっさと地上までの道を作りなさい!!!」

 

「言われんでも!!!」

 

 ギャーギャー!

 

「うにゅぅ……詭弁行っちゃったぁ」

 

「……そう言う割にはあんま悲しそうじゃないねお空。まぁ、確かに今生の別れって訳でもないかぁ」

 

「そうだねー。それに詭弁って地上だと有名らしいし、地上まで行ける様になったら詭弁の家の場所聞けば良いかなって」

 

「……お空、アンタ意外と頭良いね」

 

「でしょー?」フンス

 

 

 

 

 

 

 

「確かに俺は勢いよく間欠泉の中を移動していた。その移動に合わせて偶々間欠泉が噴出しだしたのも確認した。……だからってさぁ。まさか出口が妖怪の山の頂点付近で、しかも分厚い雲を突き抜ける勢いで飛び出すとは思わないじゃん」

 

「あの、何を言っているのですか?何故人間が天界まで来れたのかの説明になっていないと思うのですが……」

 

「ンなもん俺が知りたいわ!!!」

 

 俺はまだ地上には帰れないらしい。雲よりも高い所から紐無しバンジー……死ねるぜ。誰かタスケテー!!!!

 




ダークネスの方書いてたのですが、どう頑張っても美鈴とくっ付きやがらない(R-18回避表現)のでコッチが生えてきました。どうして(電話猫)
いや、略奪愛に熱心な方がね……湧いて出てきてね……どうして(二度目)
やっぱメインヒロインは防御力がダメだなごすずん!

はい、美鈴メイン回ガンバリマス。


魔王

遥か昔から存在が確認されている推定人間。霊夢並の才能を持ち、努力を厭わず、戦いの道を選んだ結果強さランクで言えば某日の呼吸の使い手並。要するにブッ壊れクラス。現在は鬼籍に入っている。
星熊勇儀(幼女)に付き纏われながらも世界中を旅し、なんやかんや色々あって世界を救ってる(適当)
魔法(物理)の使い手でもある。色んな意味で魔術師キラー。


少し前に気が付いたのですが詭弁の身体データが実質《イケメン》しか無いのは色々問題なのでは?
何が問題かっていうとね。ほら……詭弁ですよシリーズの二次元化にね、ちょっとね……支障があるっていうかね……。
読者のみんなー!!!オラに『これぞイケメン』ってキャラを教えてくれェー!!!
ついでに評価もくれェー!!!
ここすきを忘れないでくれェー!!!
あと感想くれェー!!!(乞食感)


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天界での展開……ごめんなんでもない。

お久しブリーフ★

いろいろ大変だったなの……許してなの……


「……で?私はまた妖怪の山に殴り込みに行けばいいの?」

 

「そういう話じゃなかったと思うんですけど!!?」

 

 地底から沢山の妖怪が湧き出て来たのを、巫女・魔女・メイド・半人半霊・その他地上の妖怪達で無双し、再度地底送りにしてから約一週間。

 時は年越し、場所は博麗神社。境内には数多の人妖神が入り乱れて今年最後の大宴会を繰り広げている中、巫女服を着た少女二人は縁側に座って話す。話題の内容はある意味一番HOTな男について。

 

「アンタん所の依頼を受けて以降姿を消した……ねぇ」

 

「天狗の皆さんも姿を見ていない……と言ってました」

 

「……ふぅん、嘘でも無さそうね。全く、何処行ったのかしらあのバカは」

 

 毎年大晦日には人里から大量の奉納品を持って来る筈の人間が月が昇る時間になっても来ない、という事はそれなりに大きな事件である。しかもその人間は『人間』という枠組みの中でもトップクラスの実力者ともなれば猶更。

 なにせその人間は寝ても覚めてもうるさい男であり、犬も歩けば棒に当たると言わんばかりに何かと騒動に関わる男でもある。耳目の良い天狗達にとって()()()()()として注目を集めている上に、新聞にはその動向を記載する専用の欄まで作られる程。とにかく何かと話題に上る男……だったのだが、その天狗達ですらここひと月以上その男を見ていないと言う。

 

「冥界にも居なければ彼岸に行ったワケでも無いし、ホント何処に行ったのか……」

 

「あの詭弁が静かに死ぬなんて有り得ないもんなー」

 

「魔理沙さん」

 

 多少酔っているのか、頭をフラフラと揺らしながらも確かな足取りで巫女達の前に現れるのは白黒の魔女、霧雨魔理沙。

 

「全く、私は便利屋じゃないってーの」

 

 どっこいせ、と縁側に腰を下ろす魔理沙。何を隠そう、件の人間の代わりに里から大量の奉納品を持って来たのはこの魔女だった。とはいえ()()()()で奉納品全てを持ってきたわけではないが。

 

「アリスにも聞いたんだが、こっそり魔界に行ってるとかでも無さそうだぜ。なぁんかアイツ年々()()()()()が上手くなってねえか?」

 

「本当にただのかくれんぼならどれだけ良かったか……」

 

「まぁどうせアイツの事だ、その内ひょっこり帰ってくるだろ。ほら、酒ならまだ大量にあるからお前らも飲め飲め」

 

「あ、いや、私は……れ、霊夢さんー……」

 

「魔理沙、無理に飲ませて境内で吐かれても迷惑なだけよ」

 

 呆れた表情を浮かべながら、境内に降りる博麗の巫女。哀れ守矢の風祝は酔っ払い魔女に捕まったまま、宴会の中心へと引き込まれた。

 

 

「……本当に、何処行ったのよ。馬鹿……」

 

 一人の少女が呟いた声は空に溶けていった。

 

 

 

 

 

 一方、溶けていった空の向こうに居る馬鹿(詭弁)は何をしているかというと

 

「天人にもう一度その半生を語る名誉を与えるわ地上人!」

 

「昨日語り尽くしたばかりでしょうが!?いい加減地上に返して貰えませんこと!?」

 

「うるさいわね!天界には娯楽なんて一切無いんだから少しくらい良いじゃない!」

 

「娯楽なんて男女一組揃ってれば幾らでも()()()()だろいい加減にしろ!」

 

「は、はあ!?いきなり何言ってんのよ!?エッチ!ヘンタイ!」

 

「ん~?ただ『二人居れば会話でも遊びでも何でも出来るだろ?』って意味で言っただけなんだけど~?なんでエッチだのヘンタイだの言われなきゃならないんだ~?天子ちゃんはな~にを考えたのかな~?」

 

「うっ……うるさい!別に何でも無いわよ!」

 

「あっ、もしかして天子ちゃんは()()()()()だったり?しょうがないよね!『男友達』が居ない天子ちゃんは一人自室の布団を濡らすくらいしか出来ないから―――」

 

「緋想の剣!」

 

「ぬわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 赤いレーザーに焼かれていた。

 間もなく年が明けるというのに呑気なモノである。

 

 

 ひょんな事から天界に来てしまった詭弁だが、本来であれば天に近付きすぎたイカロスの如く地上に突き落とされていた。だが、何故こうしてひと月近く天界に滞在を許されているかと言うと、単にその人間離れした強さのお蔭である。

 

 天界に来てしまった当初、第一発見者である竜宮の使いによる報告を受けて『思い上がった地上人など叩き落としてくれる!』と意気揚々と詭弁へと向かった自称武闘派(暇人)の天人があっという間に倒され、『奴は天人の中でも最弱……』『地上人風情に負けるなど、天人の面汚しよ……』と武装した天人(暇人)複数が相手でも鎧袖一触。『連邦の地上人は化け物か!?』『野郎オブクラッシャァァァ!』と狂気的に飛び掛かってきた仮面を着けた天人(暇人)ムキムキマッチョマンの変態(暇人)をなぎ払い、『第一発見者が何とかするべきそうすべき』と一任(投げっぱなしジャーマン)された竜宮の使いが涙目で『もう勘弁してくだちい』と土下座外交した結果、『良いよ、一おっぱいくれたらな』とパッツンパッツンの服の上から存分に揉みしだいて漸く騒動は収まった。

 

「私が揉まれ損な気がするのですが」

 

「そういう日もあるさ」

 

 さて、その後騒動こそ収まりこそすれども、それでも唯の地上人が天界に居るというのは良くないらしい。

 

「だから俺は安全に地上へ降りられればすぐにでも帰ると言ってるのに」

 

「仕方ないじゃないですか。人間でも空を飛べる筈の『天女の羽衣』では貴方は重量オーバーですし、天人の誰もが態々地上人抱えて地上に降りる役なんて請け負いたくないでしょうし」

 

「衣玖さんが抱えるというのは」

 

「面倒なので嫌ですけど」(真顔)

 

 そんなこんなで紆余曲折あり、今詭弁は天人くずれと名高い比那名居天子預かりとなっている。

 

「私の退屈を解消出来るのなら地上に返してやるわ!」

 

「……好奇心は猫を殺すと言うけど、退屈はここまで天人を堕落させるのか……」

 

「ちょっと!何処見て言ってんのよこのヘンタイ!!」

 

()()?……強いて言えば『虚空』……かな……」

 

「誰の胸が『虚空』だコラァ!!!!」

 

 地底の巨乳達を思い浮かべ、隣に立つ竜宮の使いの胸部を見て、最後に『虚空』を見る。

 

「ふっ」

 

「ぶった斬ってやろうかしらァァン!!!?」

 

「ちょ、総領娘様、いつの間に緋想の剣を……!?」

 

 ……と、まあ詭弁と比那名居天子の相性自体は悪くなく、あっという間に打ち解け(?)て……気がつけば地底から飛び出てからひと月近く経っていた。

 暇をもて余していた天人にとって、詭弁の話術は刺激が強かった。()()()()と言ってもよい。幻想郷での何気ない日常を話すだけでも、詭弁の話術に掛かればハラハラドキドキ冒険譚の一節。詭弁の()()()()()は手に汗握る臨場感と共に。異変の出来事は壮大なストーリーと共に情景が脳裏に浮かぶ。

 早い話、詭弁は『満たされている筈の天界』において劇物に等しかった。

 

「そろそろ地上に返してくれませんかねぇ……」

 

「まだまだ足りないわ!もっと貴方の半生を語りなさい!」

 

「えぇ……」

 

 満足すれば地上に返す。その言葉に偽りは無かった。だが、もし今地上に返してしまえば?その後はまた、代わり映えの無い『日常』が、『退屈』が、自身を襲うだろう。故に天子は自身の言葉を違えども詭弁を地上に返す訳にはいかなかった。天人特有の傲慢さで、詭弁を拘束し続ける。

 無論詭弁もその事は察している。察してはいるが、天界と地上が離れている故にそれでも天子に従うしかない。自身の分身たる《陰》と《陽》を地上に先んじて向かわせようとも、天界と地上は物理的な距離以上に()()()()離れている。霊魂だけでは地上まで届かなかった。

 何故詭弁が天界にまで来れたのかは分からないが、とにかく帰る手立てが現状では比那名居天子に任せるしかない以上天子に付き合うしかなかった。

 しかし詭弁もただ状況に流されるままではない。本体が天子の相手をしている最中でも《陰》と《陽》を使い、天子以外の天人に接触を図っている。成果はまだ実っては居ないが、天子以外にも『退屈』に死にかけている者が居るのも事実。その天人達を口説き落とすのも時間の問題だろう。

 

 

 そして年末の今に至る。

 やべぇーなー早く帰らねぇとなぁー。と思いながら桃を齧る詭弁。天界の桃は非常に旨いのだが、食べた気がしないのが難点だ。多分その気になれば一食で木一本に生る桃全部食べ尽くせる。

 ちなみに詭弁はまだ気が付いていないのだが、天界に生える桃、『仙果』は食べるだけで身体が鍛えられ、元から人間離れしていた詭弁の身体能力が凄いことになっている。でも空は飛べない。

 

「はぁ、早くまた刺激的な話の続きを話しなさいよ」

 

「一ヶ月近くほぼぶっ続けで俺の半生を語り尽くしたんですがァ!?昨日地底で起きた騒動の顛末と、天界に来た経緯話しただろうが!そこで俺の物語は現在進行形で加筆修正待ちだオラァン!」

 

「ちっ、つまんないわ」

 

「そう思うんなら俺を地上に下ろせ。そうすればまた物語の続きからコンテニューだ」

 

「それは嫌よ」

 

 天子は言葉や態度で表す以上に、内心で詭弁の事が凄く気に入っていた。

 不良天人と呼ばれ、歌や踊り等で遊びながら『満ち足りた』者達から後ろ指を指される事には慣れきっていた。歌も、踊りも、多少は嗜んでいる。だが()()()は自身を満たすに足りなかった。そんな()()の事で満ち足りる天人達を天子は見下していた。

 だが、詭弁は違う。日頃から仙果を食し鍛えられた天人達をまとめてなぎ払う『力』を持ちながらも、それを誇示せずにこうして自身のワガママに付き合っている。『男』であれば大なり小なり、『女』を力尽くで言うことを聞かせようという態度が有った。だが、詭弁はそういった手段を取ろうともしなかった。その点に関しては『野蛮な地上人』と見下すことは無かった。

 (幻想郷では大抵の場合女の子の方が強いから、経験上『力尽く』は悪い結果しか呼ばないと理解しているからである)

 

 だからこそ、天子は不愉快な気持ちが募る。

 

「あぁー、そういえばもう年末か……結局ひと月以上家に帰れてないし……皆元気かなぁ」

 

 私を後目に、この男はずっと地上の事を考えているから。

 

「……ふん、そんなに地上に帰りたいの?美味しい桃は食べ放題、面倒な仕事なんてしないで好きなだけ遊んで暮らせて、身を脅かす危険なんて、たまに来る死神だけ。何が不満と言うのよ」

 

「確かに、()()()()()()()()()()此処は楽園だろう。だが、()()()退()()()()()

 

 嗚呼、この目だ。今、この男がしている目。地上での生活を語る時、命を懸けた闘争を語る時、そして数多の天人達を薙ぎ払い続けた時。この男の目に宿る炎が、天子の心を焼き焦がす。野蛮な目だ。危険な目だ。悪辣な目だ。……そして、天子の知る誰よりも強く輝く目だ。

 

「『人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻のごとくなり』」

 

「なによ急に。地上人の癖に、天人の私に説教でもしようっての?」

 

「まさか。仮にこの先、天人として永く生きる道が選べたとしても。俺は例え儚い一生でも普通の人間として、燃えるように、閃光のように生きる道を選ぶだけさ」

 

 それが()()()()()()だから。

 

 ギリィッ

 歯軋りが鳴る。何処から?決まってる。

 

「閃光のように!?そんなに生き急いで何がしたいの!?何を目指してると言うのよ!!?」

 

 認めない。認めない。認めない。()()を認めてしまえば最後、彼を―――

 

「頂点」

 

「ちょう……てん……?」

 

 ―――彼を、手元から失ってしまうから。

 

「男として生まれた以上、頂点(あこがれ)を目指して走らなきゃァ嘘ってモンだ。死に物狂いで手を伸ばし、泥を啜って這ってでも。倒れる時は常に前のめりだ」

 

 にやり、と不敵に笑う。

 

「自分の一生を煮詰めて、煮詰めて、濃く絞り出して。そうしてようやく見えるのさ。俺の目指す頂点(あこがれ)の背中が」

 

 するり、と。手元から彼を繋ぐ紐がほどけていくのを錯覚した。

 

 

「YO-o!!へい本体!やぁっと話がついたぜ!!」

 

 

 場違いな程に底抜けに明るい声が響く。

 彼によく似た男がフワフワと彼の下に飛んできた。

 

「話が付いたって事はつまり?」

 

「ようやく地上に帰れるって事だ!……ま、その代わり多少()()()()事になるがな」

 

「……まあ、ある程度は必要経費と割り切るさ。……ハァ」

 

「……かえ、る……?ま、待ちなさいよ詭弁。アンタは私預かりで、それで帰るには私の協力が必要なんでしょ……?」

 

 頭が悪いわけではなく、むしろ頭の回転は速い方の天子は、()()()()が何を意味しているのかを内心で理解しながらも感情面で納得していなかった。何かの間違いだと信じたかった。

 

「俺は地上に戻る。天子の協力は、要らない」

 

 足元から地面が崩れていくようだ。ふら、ふら……と、詭弁に縋りつく様に歩きだす。

 

「な、なんで……どうしてよ……天界は、良い、ところよ……食べるに困ら、ないし……好きな時に寝て、起きて……好きに遊ん、で……好きに……」

 

「……俺の『楽園』は()()()()()()

 

 脚の力が抜け、立っていられなくなった。地面に崩れ落ちる。思考と感情がバラバラだ。

 

「そ、そうよ!アンタ女の子好きでしょ!?あの竜宮の使いを好きにして良いわ!そ、それに、私だって……む、胸は無いけど!顔は整ってるし!?自分で言うのも何だけど!あはは!」

 

「天子」

 

「あの竜宮の使い、あんな真面目くさった顔してるけど絶対エッチな事に興味深々よきっと!おっぱいおっきいし!わ、私、も……ちょ、ちょびっとだけそういう事興味あるし!」

 

「天子」

 

「そ、それにほら、私……しょ、じょ、だし、別に私はアンタならそういう事の相手にしても良いかなーって思ってるし……!」

 

「天子!」

 

「ッ!」

 

 気が付けば視界が歪み、ぼろぼろと目から何かが零れ出る。情けない。情けない。情けない。

 

「なんで……なんで私の言う事を聞かないのっ!!!私は!私は天人よ!!アンタよりも偉いのよ!!!勝手に行くなっ!!!私の隣に居なさいっ!!!」

 

 自分勝手な慟哭が響く。そして……

 

 ぽん、と。優しく頭を撫でられる。

 

「天子、悪いとは思う。でも俺は謝らない。俺は誰よりも『自分勝手』だからな。恨んでくれても、憎んでも良い。嫌いになったって構わない。俺は俺がやりたい様に生きるだけさ」

 

「ふざけないで!ふざけないでよぉ……!言う事聞かないヤツなんて嫌いよ……!!大っ嫌い……!!!」

 

 頭を撫でている手を掴む。少しでも、ほんの僅かでも、その温もりを覚えていたいから。

 

「行かないでよ……ずっと一緒に居てよぉ……!」

 

「……燃えるように、閃光のように生きるって言ったけど、俺はすぐ死ぬ気はない。これが今生の別れじゃないんだ。いつかまた会えるさ」

 

「うるさい!うるさい!!うるさい!!!私を置いて何処かに行くってんなら……

 

アンタの両脚ぶった斬ってでも止めてやるッ!!!

 

 掴んでいた手を振り払い、緋想の剣を振るう。

 しかし剣の軌道を読んでいたかのように紙一重で躱し、跳ねるように距離を取る詭弁。

 

「はは、刺すどころか斬るってさ」

 

「茶化すな。……『戦う』と言うのなら、応戦するまでだ」

 

 いつの間にか手に青白く輝く棒を持ち、軽く素振りをする詭弁。それだけで空間が唸る音が響く。

 嗚呼、その目だ。思えば私はその目に―――

 

 

 

 

 

 

 天子は、気が付けば自室の布団で眠っていた。あの時、何が起きたのかは良く分からない。一瞬、一閃の光が瞬いたと思った刹那に意識を手離していた。

 身体の調子はいつになく絶好調だ。布団を蹴り飛ばし、靴も履かないままに外へ駆け出してしまうくらいに。

 走って。走って。走って。走って。天界中を走り回って。

 あの男は何処にも居なかった。

 

「こんな所で、靴も履かずに何をしているんですか総領娘様」

 

「……別に、何だっていいでしょ」

 

「そんな今にも身投げしそうな顔して『何だっていいでしょ』とは御冗談を」

 

「……何処かに消えなさい」

 

 大げさなため息と身振りで首を振る永江衣玖。そしてその仕草に沸々と怒りを溜める比那名居天子。

 

「ご存知ですか?あの男、地上でも数多もの女性に手を出しているそうですよ」

 

「……っ、だから、何?」

 

「その中には人間だけでなく妖怪や亡霊、更には神まで居るのだとか」

 

「何が言いたいの!!?」

 

「悔しくないのですか?強かったとは言え、ただの人間に負け。地上に住む人妖にも()()()()()()()()のが」

 

「ッッッ!!誰が、負けたですって!?」

 

「あの男は普通の人間ですから、まあ遅かれ早かれ死ぬでしょう。ですが周りの人妖はそれを見過ごすと思いますか?如何に彼を()()()()()に引き込むかを競っていると思いませんか?ただ一度負けただけで、投げ出すのですか?……まあ、その程度で諦めるようでは所詮総領娘様の恋心なんてその程度だったという事ですね」

 

「かっ、こっ、恋ッ!!?ハァ!!?誰が!!??誰にッ!!!?何よ!!!???」

 

「いや、そこに反応します?」

 

 歳だけ食っても精神年齢子供なんだから……と呆れ顔の永江衣玖。

 一方、口では強い口調で否定しつつも、言葉にされた事で自分の想いに気が付いた比那名居天子。

 

「(そっか。私、詭弁に恋してたんだ……)」

 

 小説の様に劇的な出会い方では無かった。ひと月にも満たない時間だった。

 でも、それで十分だった。彼との時間は、今まで生きてきた時間よりも遥かに濃密で、退屈とは無縁で、刺激的。下らない事を言われ、感情をむき出しにして怒り、でも苦痛とは無縁の時間。思えば、あそこまで何かに執着したのは初めてだった。

 

「(『恋』なんて、もっと綺麗なモノかと思ったけど……案外泥臭いものね)」

 

 何処にも行ってほしくない。ただ自分の隣にいてほしい。それだけなら、まだ綺麗なモノだったと言える。だが、選んだ手段は『その相手の両脚をぶった斬る』という野蛮なモノで。

 

 それも、悪くないかな。なんて思ってみたり。

 

「(……そもそもアイツはまだ()()()()なんだから、勝手にどっか行かせちゃったら私の責任問題になるわね)」

 

 そう、それならこんな所で蹲っている暇は無い。

 

「(アイツ、『異変解決』も仕事の一つとか言ってたわね。それなら()()()()()を起こせば、私の下まで絶対に来るはず)」

 

 彼の交友関係は、彼自身がひと月近くに渡って事細かに説明してくれた。その中で『乙女の勘』を働かせ、()()()()()を想起する。該当者は、多い。

 

「(それが、どうした)」

 

 彼は私のモノにする。命を燃やすような輝きを秘めたその目に魅了された天人(長命の者)は、その目を手に入れる為に―――

 

「……()()

 

「(あっ、悪い方向に空気が……)すみません天子様、私は急用が出来たので――」

 

「手を貸しなさい」

 

 覇気を携えながら永江衣玖を見る比那名居天子。

 こ、こんな筈では……と内心焦りに焦りながらも、表情には出さない永江衣玖。

 

「(くっ、恋愛初心者の総領娘様にマウント取るつもりだったのに……)」

 

 マジで何考えてるんだこの竜宮の使い。

 

 

 幻想郷崩壊の危機は、確かに近づいてきている。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 元旦、早朝の人里にて。

 

「まさか家に帰るまでに年が明けるとはなぁー」

 

「くく……まあ御愁傷様と言っておこう……」

 

「やー、天界から地上までのやたら長い距離を態々飛んでくれて、しかも里まで送ってくれるとか悪いねー()()()()

 

「くく……良いさ。お前は天子と遊んでくれたからな。……それに()()さえ貰えれば何も言う事は無い……」

 

「いやぁ、家が()()()()()()掃除されてなければ大丈夫さ……大丈夫、だと良いなぁ」(白目)

 

 詭弁家の中へ、男が二人上がっていく。

 一人はこの家の現在の家主である人間、詭弁答弁。そしてもう一人は天界の重鎮(暇人)である天人、名居守(なゐのかみ) 天蓋(てんがい)

 詭弁はともかく、何故天人である名居守まで詭弁家に上がるのかというと、詭弁を地上に送った()を受け取る為である。

 

「ふむ……ひと月近く空けていたと言うには埃一つとて無いな……」

 

「色んな人が割と頻繁にウチを掃除してくんだよねぇ、有り難い事に」

 

 なおその際に詭弁の私物が無くなり、代わりにソックリな別の物に入れ替わっている事に詭弁はまだ気が付いていない。『枕までいつも誰かが洗濯してくれるんだよねぇ。有り難いよホント』と、聞く人が聞けば『いやお前……』となる事必至である。

 閑話休題。

 

「……さて、本棚の奥は……あっ、やっぱ無くなってる」

 

「畳の裏……は……やっぱ無いかぁ」

 

「押入れの裏……も無くなってらぁ」

 

「台所の食器棚の隠し棚……も、無い……だと……?」

 

 さて、詭弁が何を探しているかと言うと、例のアレ(エッチな本)である。詭弁が長く家を空けたら、もはや恒例となっているアレ(エロ本処分の刑)である。詭弁が何をしたと言うのですか!!

 

「……本当に大丈夫なのか?というか、此処はお前の家では無いのか?何故勝手に私物が処分される」

 

「幻想郷じゃぁよくある事だから!!!」

 

「……そうか」

 

 幻想郷こわ……と内心思う名居守だった。

 

「くっ……これが最後の隠し場所だ。屋根裏部屋!」

 

「其処こそ真っ先に捜索されてそうなモノだがな……」

 

「俺がただ屋根裏部屋に隠してるとでも?コレを見よ!」

 

 屋根裏の薄暗い部屋の中。本来は埃っぽい空気なのだが、現在は其処も綺麗に掃除されている為にそれなりに快適な場所だ。

 そして詭弁が見せたのは、屋根裏部屋に設置されていた小物。外来の品であり、その名も『マトリョーシカ』と呼ばれる人形だ。

 

「……コレがどうした?」

 

「コレをな、こうしてな、こうじゃ!」

 

 詭弁はマトリョーシカの中身を適当にバラバラに配置した……と思えば、マトリョーシカの『模様』が見事に魔法陣となった。

 

「いわゆる『収納魔法』って奴だ。フフフ……流石にこんな小物が収納魔法の魔法陣に変わるなんて、御天道様でも思うめえよ……」

 

 悪い顔して笑う詭弁。だが中身はお察しの通り、ただのエロ本である。ただのエロ本とは言え、詭弁が厳選に厳選を重ねたモノであるが。

 

「本当に、ほんっっっっとうに惜しいモノだが、背に腹は代えられんからな……」

 

「……気持ちは、分かる。だが対価は対価だ」

 

「分かってらぁ」

 

 名居守は詭弁を地上まで送る対価として『上等なエロ本』を要求し、詭弁(《陽》)がそれに応えた形となる。

 天人がエロ本なんて……と思うかもしれないが、天人とは言え彼も男なのだ。ましてや天界なんて閉じた世界。幻想郷よりもエロ本の入手難度が高いのだ。物理的にね?

 そして漸く対価を受け取った名居守は、小さな宝玉を渡してきた。

 

「くく……それは我と直通で会話が出来る物だ。用がある時は何度かそれを小突くが良い。困った事があれば助けてやろう」

 

「対価次第で?」

 

「無論。男相手にタダ働きはゴメンだからな……ではサラバだ詭弁。また会おう」

 

「おう、またなー名居さん」

 

 そうして飛び去っていく天人。

 

「……さ~って、久々の家だし、ちょっとのんびりしようかなぁ―――」

 

「―――随分()()()()()()してるみたいね、詭弁」

 

「―――ぁー……えー……いつからそこに居たんパチュリーちゃん?」

 

「丁度変な男が飛んでいった時よ。……成程ね、『マトリョーシカ人形』の入れ子構造を魔術的に組み込んだ収納魔法ね。随分面白い発想じゃない」

 

「で、でっしょー?いやーこの構造思いついて、実際に仕上げるまで結構掛かったんだよねぇー」

 

「ええ、凄いわね。致命的な脆弱性が無ければ、だけど」

 

「ち、致命的な……脆弱性?」

 

「ええ。もの凄く致命的なものよ……『アグニシャイン』!!」

 

 突如放たれた魔法の炎を防ぐことが出来ず、無残にも焼かれるマトリョーシカ人形。

 

「な、何をするだァーッ!」

 

「このように物理的な破壊に対して何の防御が無い上に、破壊されれば()()()()消滅してしまうのが難点ね。勉強になったかしら?」

 

 こ、コイツ……息を吐くように()()()()()()()を……ッ!!!ゆ゛る゛さ゛ん゛!!

 

「ところで一ヶ月近くも何処に行っていたのかしら?」

 

「そんな事など我が宝を消された事に比べればどうでもよいのだァァァーッ!!!」

 

 

 どうでもいい?

 

 

「あっ……霊夢ちゃん……」

 

「ひとが一ヶ月近く心配してた事が、どうでもいい?」

 

「あっ、その……」

 

「一ヶ月近くあちこち飛び回って、探し回って、何処にも居ないってなって、心配させる事がどうでもいい???」

 

「しゅ、しゅんましぇん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夢想封印ッッッ!!!!

 

 

 

 新年早々、幻想郷は騒がしいようです。

 




皆さんおひさー☆げんきー?私はねー……ヤバい。
気が付いたら1万字近く書いてた。ヤバぉ。
天子可愛い。ヤバぃ。


天界に住む天人と地上に住む人間では、生きる時間が違う。
故に、道が交わる事はあれど決して寄り添う事は無いのだ……。
てんこ「うるせえお前も天人になるんだよオラァ!!」
クズ「うおおおお!!止めろォォォォ!!!!」

幻想郷では割と日常風景だな!ヨシッ!



クズ「俺に惚れると火傷するぜ☆」
紅白「ヴォェ!!」
白黒「おrrrrr」
398「うっ……すみません、失礼します……」
半人前「詭弁さん、世の中にはやって良い事と悪い事が……」
2P色「悪い事は言いませんのでそのキャラは止めた方が……」
クズ「揃いも揃ってリアクションっっっ!失礼だとは思わんか!!?」


気が付いたらもう朝の5時前だよ!まったく執筆に夢中になってまた寝る時間が無くなっちまったんだぜ!そういうわけでね。はい。例のアレです。
感想とかさ、評価とかさ、久々に更新頑張ったんだからさ、ね?ね?一杯おくれ?

今のは送信の送れと贈与の贈れと更新滞りまくって遅れのトリプルミーニング!!!


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幻想郷の天候は晴れのちレーザー

ダークネスとはまた違った性癖詰め込んでたら遅くなりました。


 正月気分が抜けきらない冬の日、ふとしたタイミングで天候の変化が凄いことになっている事に気がついた。

 ある日は晴れかと思ったら、直後に雪が降ってきたり。

 ある日は雨が強いなぁと思ったら濃霧に包まれたり。

 暴風雨かと思いきや天気雨だったり。雹が降ってきたと思いきや竜巻が巻き起こったり。もう無茶苦茶だ。

 

 また新しい異変なのだろうか……と考えていたその時の事だった。

 

 

 ()()()()()()()()()()の大地震が発生した。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 幸い……と言うべきか、先の大地震及び二次災害によって死んだ人間は誰も居なかった。だがその災害の爪痕は非常に大きく、人里においては倒壊、焼失してない家屋の方が少なかった。

 俺は無事だった里の大工を率いて、荒れ狂う天気の中でも最低限風雨を凌げる掘っ立て小屋を作り続けては怪我で弱った子供や年寄りを放り込んでいく。

 《陰》は妹紅先生の案内で重傷人を永遠亭に運び、《陽》は逃げ遅れた人や倒壊した建物の下敷きになっている人が居ないかを探る。

 

「詭弁さん!」

 

「阿求嬢、無事だったか!」

 

「ええ、運が良かったです。……しかし、コレは……」

 

 阿求嬢の視線の先には、荒れ果てた等と言う言葉では表現し尽くせない程に破壊された人里が広がっていた。

 

「……たった、一日で……私達の住む里が崩壊するなんて……」

 

「……家はまた建てれば良い。ほら、天候が変わる前に避難所に行きな。家はすぐ直せるが、身体はそうはいかないんだから」

 

「……いえ、私は『阿礼乙女』として、この……惨状を、記録する役目があります」

 

「……んぃ。なら、俺の上着を貸す。勘だが、もうじき雪が降りそうだからな。身体壊さん程度にしておきな」

 

「詭弁さん……ありがとうございます」

 

「おぉーい詭弁!」

 

 ふと空から聞き覚えのある声がした……と思った次の瞬間に猛スピードで流星が降ってきた。

 

「無事か詭弁!」

 

「……魔理沙、阿求嬢が着地の勢いですっ転び掛けてるから気を付けろ……」

 

 飛んできた魔理沙の勢いに押され、尻餅をつきかけた阿求嬢の腰を支える。

 

「ぅぁ……ち、近っ……」

 

「……んぅ?どうした阿求嬢、身体が熱いぞ?風邪か?」

 

「い、いえなんでも!!」

 

「詭弁お前……いや、今はそんなことどうでも良い!霊夢がヤバいんだ!手を貸せ!」

 

「なっ、霊夢ちゃんが!?ッ……だけどまだ里を空ける訳には……」

 

 

「詭弁ッッッ!!!」

 

 

 突如響く怒鳴り声に、思わず声のする方向に顔を向けた。其処には俺の竹馬の友こと五福が走ってきた。

 

「人間舐めんなパァンチ!!!」

 

「どゴフッ!!?」

 

 唐突にぶん殴られる。

 

「いッッッてェなボゲェ!!!」

 

「うるせえボケェ!いいか、例えオレ達人間を守る壁や家が無くなろうとも、例え空がブッ壊れてとんでもねえ大荒れ模様だとしてもォ!!テメェなんぞに守られなくても化け物だらけのクソッタレな世界で、両脚使って立ってられるんだよォ!!!思い上がるんじゃねえェ!!!

 

「ッッッ!!ふざけんな!弱小妖怪相手でも真正面から勝てないような奴が、身を隠す家も、侵入を防ぐ壁も、ましてや戦う術も無しにッ!誰かに守られてなきゃ生き残れないヤツが何をほざく!!

 

「だからって『ヒーロー気取り』かァ!!?人間はッ!テメェ()()に全てを押し付けなきゃ生き残れねえほどに弱くねえッ!!!」

 

 気が付けば五福の後ろから多くの人が走ってきていた。

 

「詭弁!テメェが居なくても家の一軒や二軒……いや、十軒や百軒だろうがあっという間に立ててやる!」

 

「最近は妖怪共との小競り合いすら無くて暇してた所だ。里の壁なんて無くても妖怪なんぞに里の人間達に指一本触れさせやしねえさ」

 

「豪雪だろうが大嵐だろうが、人間は天気なんかに負けないよッ!このワタシが直々に炊き出ししてやるさね!」

 

詭弁ッ!テメェなんぞお呼びじゃねえんだ!テメェが()()()()()へ、さっさと行け!!」

 

 里の人々は、未曽有の大異変を前に一致団結した。きっと、この混乱に乗じて襲い掛かってくる様な程度の低い妖怪達相手なら、それこそ()()()()()のだろう……。

 

「詭弁さん……」

 

「……けっ、つまんねぇ小芝居しやがって。ンなら俺は好きにさせてもらうぜ!」

 

「おうさっさと行け行け!」

 

 んまぁそれはそれとして―――――くたばりやがれ五福!!!

 

「ぶげばらァァァッ!!!!?」

 

「五福が飛んだッ!!?」

 

「馬鹿!どう見ても殴り飛ばされたんだろうが!」

 

 世界一のイケメンたる俺の顔をぶん殴るなんて大罪を拳一つで済ませてやったんだ、ありがたく思え。

 

「えぇ……」

 

「阿求嬢、そういう訳で俺は里を空ける。慧音先生が戻ってきたら……まあ上手い感じに誤魔化してくれ」

 

「えっ、あ、ちょっと!?」

 

「上着は貸したままにしとくよ!行くぞ魔理沙!!」

 

「えっ、お、おう!!」

 

 そうして俺達は崩壊した人里を後にして、博麗神社へと向かった。

 

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

 

 魔理沙の箒でタンデム飛行し、あっと言う間に博麗神社まで飛んできた……が。

 

「こりゃ酷いな……完全に倒壊してやがる。それで霊夢ちゃんは!?」

 

「倒壊した神社に巻き込まれて―――」

 

「そういうことは早く言えバカ!『博麗式二重結界輸送術(アポート)』!!」

 

 二重結界で押し潰すように、倒壊した神社を片っ端から境内の隅に退ける。生き物は通さないという仕様を逆手にとり、霊夢ちゃんを掘り出した。

 

「霊夢ちゃん!無事か!?」

 

「ッ……ぅ……き、べん……?」

 

 うつ伏せに倒れていた霊夢ちゃんを抱き起こすと、頭を打ったのか意識が朦朧としている上に額から血を流していた。

 すぐさま回復魔法と回復術の合わせ技で治療に当たる。

 

「霊夢!大丈夫か!?」

 

「魔、理沙……詭弁を呼んできてくれたのね……」

 

「喋るな霊夢ちゃん、傷に響くぞ」

 

 霊夢ちゃんの衣服を手早く脱がし、他に怪我してる部分がないか探る。青アザや擦り傷、切り傷、霊夢ちゃんの身体は傷だらけだった。……だが、倒壊に巻き込まれたとしてもこんな細かい傷だらけになるか?まるで少し前まで激しい弾幕決闘を繰り広げたかのような……。

 

「詭弁……ごめん、なさい…………約束っ、守れ……なかっ……た……」

 

「っ……約束なんてどうでも良いだろ!霊夢ちゃんの身体が優先だ!喋らず寝とけ!」

 

「どうでも、良くなんて……ないわ……よ……っ。だって……詭弁の……っ」

 

「霊夢、これでも飲んでろ」

 

 そう言って魔理沙は霊夢に小さな瓶に詰められたポーションを強引に飲ませた。すると霊夢ちゃんの意識があっという間に沈んでいった。

 

「何を飲ませた?」

 

「私特製の回復ポーションだぜ。副作用として凄く眠くなる上にクソ不味いけどな。……で、だ。詭弁、約束って何のことだ?」

 

「……何のことはねぇ、子供の時からの約束事だ。そうか……霊夢ちゃんは負けたのか……

 

「……詭弁?」

 

「なんでもねえよ。とりあえず霊夢ちゃんを安全な場所に寝かせよう。魔理沙、八卦炉使って火を焚いててくれ」

 

「ああ」

 

 魔理沙が霊夢ちゃんの傍で火を焚いているのを後目に、俺は倒壊した神社の廃材を使って小さな家を作った。霊夢ちゃん一人が寝るだけで精一杯の広さだが、それこそ寝るだけなら十二分に快適になるように魔法を使って隙間風一つとて通さず、断熱性の高い家が完成した。

 霊夢ちゃんをその小さな家に運び終えた直後、大雪が降り注いでくる。

 

「くそっ……新年早々とんでもない大異変だぜ」

 

「……魔理沙、悪いが霊夢ちゃんを看てて貰ってもいいか」

 

「あー?それは私に『異変解決に行くな』って言ってんのか?」

 

「……んぃ、そうだ」

 

「へっ、ヤなこった。霊夢が心配ならお前が看てればいいだろ?」

 

「……そうか、んなら―――」

 

「―――()()だ」

 

 俺と魔理沙は弾かれるように互いに距離を取り合い、一枚の()()()()()()を掲げる。

 

「邪恋『実りやすいマスタースパーク』!」

 

「陰符『博麗式幻影陣』」

 

 魔理沙の八卦炉から槍の様に細いレーザーが放たれるが、それを紙一重で避ける。その後超極太のレーザーが放たれて俺を焼き飛ばす……と見せ掛ける。残念それは俺の幻影だ。

 四人に増えた内の一体がレーザーで掻き消えるが、まだ三人居る。各々が弾幕を展開し、魔理沙を撃ち抜いた。

 

「ガァッ……!?くっ……そぉ……」

 

「怪我人をこんなクソ寒い中放置するわけにもいかないからな。霊夢ちゃんを頼むぞ。……さぁ、異変解決の時間だ」

 

 蹲る魔理沙を後目に、天候の異変と大地震の異変の犯人を捕まえる為に動き出した。

 

 震える程の激情に、そっと蓋をして。

 




 詭弁 答弁

幻想郷全域を襲った大地震の異変を突き止めるために動き出す。
天候は??(まだ不明)


まさかの博麗の巫女脱落。異変はどうなる?
さて、そんな訳で一つの山場を迎えようとしています。書きたい事が大詰めだZE☆
べ、別にダークネスの更新にハマってた訳じゃ……ないんだからねっ!

てなわけでぇ~い・つ・も・の♥よろしくねぇ~ん♥












1.
「どんなに美しく咲く花もいずれは枯れ散る。そんな事は分かっているわ。でもね、長く……長く、大事に育て続けた花が、最も美しく咲き誇るその瞬間に……つい、手折ってしまいたくなる。その美しさがいずれ枯れ、散ってしまう前に……その美しさを、()()()()()()()()()()()()()()()()

 そう言って彼女はその手に持っている日傘を投げ捨てた。


2.
「……本当は、貴方が此処まで長く生き残るとは思ってもなかったし、()()()()()()()()()()()()()()()()()。でも今こうして立っているように、貴方は常に私の想定を超えてきた。……それは、貴方にとって不幸な事かもしれないわね。貴方は何も知らないまま、()()()()()()()()()()()妖怪に襲われ、死んでしまった方が幸せだったかもしれない。でも、もう遅い。『幻想郷』が、貴方を求めているの」

 そう言って彼女は虚空からふわりと降り、虚無の空に浮かび上がった。


3.
「……こうして思い返せば、『私』の旅路はとても永かった。あらゆる国々を渡り歩きながら、闘争の世界で生きてきました。今、この場所で立って居るのは……お嬢様風に言えば()()だったのでしょう。この館に来てからというもの、非常に充実した生活を送ってきました。ですが、それももう終わり。やっぱり、『私』は闘争の世界でしか生きられないようです」

 そう言って彼女は立ち上がり、その身を光が包んだ。


4.
「私はこんなんでも、『博麗の巫女』である事に誇りを持っているの。お母さんが死ぬ気で私に教え込んだ『博麗の意思』が此処に残っている限り、私はずっと『博麗の巫女』なのよ。私が『博麗』を辞める時は()()()()()を紫が連れてきた時か、死ぬ時だけよ!」

 そう言って彼女は宙に浮き、陰陽玉を展開した。


5.
「思えば、不思議な縁だったなぁ。()()()の筈なのに、何処か違う。趣味嗜好も違えば、考えも違う。お前達との生活は、まあまあ楽しいモンだったぜ。……だが、俺が目指す先にお前が立ち塞がるってンなら……俺は(お前ら)をぶっ飛ばす!!!」

 そう言って俺達は武器を振り下ろした。


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天界の天候は極光のち……

小説書くより畑の世話とハイラル救う方が気になって気になって……
100年前の世界救いながら米作ってたら遅くなりました(正直)
世紀末無双米作りは楽しいなぁ!!!!(別ゲー)

そして私の悪癖スキル(シリアスになると冗長になる)が発動しかけたので要所要所バッサリカットじゃ


 博麗神社を後にして、先ず目指した場所は紅魔館。いつも以上に深い霧に包まれていた霧の湖を渡って見れば、あれだけ立派だった建物も先の大地震によって全壊していた。

 更に霧が濃くなっていく中で気配を頼りに近づいていけば、レミリア・スカーレットが直接メイド妖精達を指揮して瓦礫を撤去している様子が伺えた。

 

「レミリア嬢」

 

「ん?あぁ、詭弁か……悪いわね、見ての通り貴方にゆっくり構ってられる程余裕がある訳ではないわ」

 

「んぃ、別に構わないけど。……少し意外だな、レミリア嬢がメイド妖精達に直接指示を出すってのは。咲夜ちゃんやメイちゃんはどうした?それに大抵の事は魔法で片付けられるパチュリーちゃんも居ないってのも―――」

 

「―――咲夜と美鈴、それにパチェは……唯一無事だった地下室で()()()()()()わよ」

 

「は?()()()()()()って……まさか倒壊した館に巻き込まれたのか?」

 

「全員そこまでのんびり屋でも無いって分かって言ってるでしょ?……やられたのよ。あの大地震の後、突如やってきた()()()に……ッ」

 

 そう言って歯が砕けんばかりに強い歯軋りを鳴らすレミリア・スカーレット。その表情は屈辱に染まっていた。

 

「あんな()()()()()に……くっ!詭弁ッ!貴方が咲夜達の仇を討ってきなさい!」

 

「あー……そりゃ異変に関係してそうなヤツなら勿論追うつもりだが……ンな『仇討ち』ってまた大げさな……」

 

「大げさなモノか!!あの女の所為で咲夜達は()()()()()()に……ッ」

 

「――ッ!そんなに酷くやられたのか!?」

 

「……身体ダメージ(そとがわ)はそれほどでもないけど、精神ダメージ(うちがわ)がね……。本当なら私が直々に討ってやりたいけど、()()()()()が先の戦闘で壊されてね。館の事もあるし、この濃霧から暫く出る事は出来ないわ。あぁ、忌々しい……!」

 

「……分かった。それで、その女は何処に向かったんだ?」

 

「咲夜達を倒した後、アイツは魔法の森の方へ向かっていった。長い青髪だから目立つと思うわ」

 

「そうか」

 

 そうして紅魔館から離れ、今度は魔法の森へと向かう。

 魔法の森もまた、あの大地震の所為か木々が荒れ、化け物茸共の胞子が外にまで散っているのが見えた。

 老木が自身の影響で薙ぎ倒された所為か、普段は鬱屈としてジメジメしている魔法の森の中だというのに適度に日の光が差し込んで、それなりに快適さを獲得していた。()()()森という名を変える日も近いのかもしれない……と、駆け足で森の奥地へと進んでいる最中に半壊している家屋を発見した。位置的にはアリスちゃんの家がある場所であり、その庭先には見知った金髪の少女が倒れていた。

 

「アリスちゃん!!」

 

 即座に駆け寄り、回復魔法を掛けながら抱き起す。どうやら気を失っているようだ。更によく観察すれば、アリスちゃんの衣服が袈裟懸けにバッサリ斬られている事に気が付いた。軽く触診してみたが、どうやら斬られているのは衣服だけのようだ。これは……いや、今はまずアリスちゃんの保護だ。

 魔法の森の中は紅魔館周辺とは違って快晴の空模様だが、それでもこんな寒い中外に放置する事は出来ない。半壊しているとは言え、風雨を凌げる程度には形が残っているマーガトロイド邸に運び入れる。

 

「ぅ……き……べ……?」

 

「起きたかアリスちゃん。怪我は無いか?さっき軽く調べたが目立った外傷は無さそうだったが……」

 

 寝室のベッドに運んでいる最中にアリスちゃんが目を覚ました。頭を打ったのかボンヤリとした表情のままだ。

 アリスちゃんをベッドに寝かせ、バッサリと斬られている衣服を脱が―――

 

「って何脱がせようとしてんのよ!」

 

「ほぶッ!!?」

 

 寝ているアリスちゃんからの突き上げアッパーカットにより床から若干浮いてそのままK.O.

 視界が揺れる感覚も懐かしいぜ……

 

「い、いや……服が斬れたままにする訳にもいかないって思っただけじゃん……つーか元気そうで何よりじゃん……」

 

「ええおかげさまでね!…………見た?」

 

「なにを」

 

「何って私のおっ―――何でもないわよ!」

 

「……?ああ、無残にも切り裂かれてた高そうな黒のスケスケブラに包まれたおっぱいの事?」

 

「ジャァオラッ」

 

 謎の掛け声と共に繰り出されるダウン追撃(下段蹴り)。ダメージは更に加速した。

 

「何故俺はアリスちゃんに殴られた上で蹴られなければならないのか、これがわからない」

 

「仮に見たとしても何も言わなかったらここまでしないわよ馬鹿!!」

 

 つまりこれからは無言でアリスちゃんのおっぱいを見ても許される?

 

「紅符『和蘭人―――ああ、手持ちの人形は全部斬られたんだったわ……」

 

「斬られた?人形をか?」

 

「ええ……妖夢みたいな技術じゃない、完全な力技だったけど。……あれは悪夢よ」

 

 ベッドに腰かけ、顔色を青くして話すアリスちゃん。まるで悍ましいモノでも見てしまったかのように身体はカタカタ震えていた。

 

「詭弁、あの青髪の女には気をつけなさい。……見た目に惑わされてはダメよ」

 

 そうしてアリスちゃんと別れ、魔法の森から出る。アリスちゃんは気を失った為に、その青髪の女が何処に向かったのかは分からないようだった。これで手詰まり……と、言う訳では無さそうだ。離れた所で異様な気配を感じ、そちらの方向を見れば空に緋色の雲が集まっていた。

 緋色の雲の方角へ駆け出すと、ほぼ同時にその雲は空へ空へと昇っていった。雲を追おうにも流石に空までは飛べない。とりあえずそのまま駆け続け、何らかの異常が残っていないかを調査する。

 そして駆け抜けた先には、地面に倒れているレーちゃんの姿があった。

 

「レーちゃん?レーちゃん!」

 

 完全に気を失っているのかうんともすんとも言わない。呼吸はしているようだ。

 そして外傷が無いにも関わらず意識は無いし、服も袈裟懸けに斬られている。

 ……今気が付いたが、アリスちゃんもレーちゃんも決して弱くは無い。だというのに、二人とも擦り傷や切り傷も無く、()()()()()()()()()()()()()。この辺りが少し荒れている様子から、レーちゃんと犯人は『弾幕ごっこ』をしていた可能性は高い。だが外傷らしい外傷もなく、衣服が袈裟懸けに斬られている以外には一切のダメージも無いことから犯人はとんでもない実力者なのだろう。それこそえげつない初見殺しを持っているか、大妖怪の中でも更にトップクラスの強さでもなければ不可能だ。

 俺はレーちゃんを抱きかかえ、迷いの竹林へ駆け込んだ。

 

 迷いの竹林の入り口には因幡てゐが配下の妖怪兎達を引き連れて立っていた。

 

「ん?詭弁、今はこの先立ち入り禁止だよ……っとぉ、その抱えてる()()()は鈴仙じゃん。何があったの?」

 

「この異常気象の犯人と思わしきヤツと戦ってたらしい。丁度良い、レーちゃんの保護は任せていいか?」

 

「……ふーん、成程ね。もしかしなくてもさっきの緋色の雲が関係してるってことかねぇ。詭弁、一つ良い事を教えてあげるウサ。『緋色の雲が起こす異常気象』も『先の大地震』も、どっちも()()()()()()()()()()()()()()()()だよ」

 

「んぃ……何でそう言いきれる?」

 

「長く生きてる上での勘ウサ。あんまそういう風に言いたかないけど……ま、対価でも貰いたい所だけど鈴仙(ソレ)拾ってきたお礼って事にしておくさね」

 

「……それが本当だって?普段から二言目には嘘ついてる様なヤツが?」

 

「信じるか信じないかは好きにすればいいよ、今のあたしはこう見えて忙しいんだ。()()()()()()なら他所でやってほしいウサ」

 

「分かってんなら普段からもっと誠実になれや」

 

「ウサウサ、アンタが()()って言う?」

 

 因幡てゐにレーちゃんを預け、竹林を背に向け歩きだす。異常気象も地震も、同じ奴が引き起こしたモノだとすれば……その犯人像が脳裏に浮かんだ。だが、まだ解せない。()()()にそこまでの実力は無かった筈だ。……その、筈だ。

 空を見上げると竹林近辺の天候は晴れ。日は沈みかけ、もうじき夜の闇が幻想郷を覆うだろう。あまり悠長に時間をかけていられない。

 

 俺は懐から小さな宝玉を取り出し、それを二三度小突いた。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

「……到着したぞ詭弁。くく……あれからひと月程度でまた天界に来たがるとはな。そんなにも此処が気に入ったか?」

 

「茶化すな、分かって言ってるだろ名居さん」

 

「ふっ……天界は良い所だぞ。新たな本が流れてこない事を除けばな……」

 

「天人なのに煩悩まみれかよ」

 

 場所は天界。日は沈み、夕焼けの残滓が間もなく塗り潰される時間だ。雲の上だと夜空が良く見える。空にはいつも以上に近いお月さまと……極光(オーロラ)が共に輝いていた。

 

「気を付けろよ……あのじゃじゃ馬娘、緋想の剣を玩具にするどころか使いこなしている。下界の異常気象も、天界の空の極光も、ただの試運転に過ぎない。その真価はあらゆる物質、生命に宿る『気質』を自在に操り、奪い、力に変える。そして……いや、コレを言うのは無粋か」

 

「気になるだろうがそんなトコで止められると……」

 

「くくっ……気になるのなら緋想の剣に秘められた真価を無理矢理にでも引き出してみればいい。だが、天子は強くなったぞ。それこそ僅かひと月足らずでこの天界の誰よりも……な」

 

「……地上の大地震も天子ちゃんの仕業か?」

 

「くくく……我等『名居』の一族は地震を司る天人にして神。そして名居に仕える比那名居の一族は唯一『名居』の暴走を止める事の出来る従者。地震の力を抑える『要石』を自在に扱う事が出来る。要石を抜いた際に蓄積され続けた地震の力は一気に解き放たれる。本来過去に起きるはずだった地震を先送りにし、()()に引き起こす事など造作もないだろうよ」

 

 そう言って名居さんは歩きだす。雲の上に存在する天界において尚高く突き上げる峰に向けて。

 

「無論、際限無く地震を引き起こす力は比那名居の一族は持たない。……だが、()()()()()()()一掃出来る程度には力は溜まっているだろうな。幻想郷という限られた箱庭の世界を揺らす程度なら……言うまでも無いか。くくく……さあ、お前がお探しの娘はこの先だ」

 

「……さっきから思ってたんだが、『実は黒幕は我でした』的な話し方だなオメー」

 

「……それは無いから安心しろ」

 

 内心自分でもそう思ってたのか、軽く頭を掻きながらため息を吐く名居さん。

 用事はこれまでとばかりに振り返って別れを告げては、言い忘れていた事があったと首だけ此方に向けた。

 

「詭弁、天子は力を求める為に人間性を捨てた。では何故そこまでして力を求めたか……わかるな?」

 

「知らんわ。どんな姿でも天子ちゃんは天子ちゃんだろ」

 

「質問の答えとなってないが……くく、それもまた良し。こう見えて我はハッピーエンド主義でな、天子の事は姪のように可愛がっているのだ。せめて泣かせてくれるなよ」

 

「ハッピーエンドなんて主観によって変わるモンだろ。ましてやエロ本のNTRエンドもNTRおじさんにとっちゃハッピーなエンドだろうし」

 

「そんなもの我主観に決まっておろう。知らなかったか?天人は皆自分勝手なのだ」

 

「今回の礼は珠玉のNTRモノ本で良いな?」

 

「馬鹿止めろ脳が破壊される」

 

 NTRモノはこんな事もあろうかと交換用に集めてるのだ。いやそんな事はどうでも良い。

 名居さんと別れ、極光(オーロラ)輝く天を貫く峰へ一人登る。夜は完全に降りきり、星の光と天の輝きが辺りを照らす。登り登り登りきって、岩肌ばかりで草一本とて生えてない山の頂。地平の上には天を埋める程の極光の輝き、地平の下には薄らと浮かぶ青い世界。空には全てを見下ろすように睨む、長い青髪が特徴の少女が浮いていた。

 

「……詭弁、待ってたわよ」

 

「随分とまた()()したじゃねーか。見間違いかと思ったぜ」

 

「何よソレ、皮肉のつもり?」

 

 青髪の少女が空から降りてきて、脚を地につける。緩やかな動作だったが、その身についた肉がたゆんと揺れた。

 

「本当に……ひと月足らずで成長し過ぎだろ、何があった」

 

「ふん、必要な事だからやった。それだけよ」

 

「説明する気はない、と。……んまぁ、予測は出来るがな。地上に降りてから聞いたんだが、天界の桃は特別なんだって?食うだけで身体が鍛えられるとか……。大方その桃を食いまくったんだろうよ、誰よりも強くなる為にな。違うか?」

 

 天子ちゃん……比那名居天子の姿はひと月前とは見る影もなく、異常なまでに成長していた。横に。ちょっと正視に耐えないレベルで。ちょっとと言うレベルでなく、二倍、三倍、それ以上か?と言う程にぽよぽよのぷよぷよだった。無論、腹回りの話である。

 人間性(女子力)を投げ捨ててまで得た力は相当なモノだ。こうして相対しているだけでその強さがビリビリと感じられる。それこそ幽香ちゃん(大妖怪の中でもトップ)クラスな程に。この巨体で霊夢ちゃんや紅魔館勢、アリスちゃんにレーちゃんを圧倒する程のパワーを秘めてるとか成程、悪夢だ。

 

「……はぁ、つまらないわね。察しの良い男はモテないわよ?」

 

「お生憎、それ以上に顔が良いもんでモテまくりだぜはっはっは」

 

「……貴方に、相応しくない女にモテて何になるの?」

 

「んぃ?」

 

「『貴方(詭弁)の隣に相応しいのはこの私よ』。地上で一暴れする時に、言ってあげたわ。半人半霊、亡霊、魔女、メイド、妖怪、それに巫女にも。全員がいきりたって、全員が私の前に散っていったわ。命だけは勘弁してあげたけど、しつこいようなら次は斬り捨てるだけ。貴方の覚悟に並び立つだけの気概と実力も無い奴等に、貴方の隣は相応しくない。違うかしら?」

 

「相応しい相応しくないってのは、誰が決める事じゃない。無論、俺が決めることでも無い。隣がどうとか、勝手に決めるな」

 

「そうね、誰が決める事じゃないかもしれないわ。でもだからといってなあなあにしていい事でも無いのよ、少なくとも私にとっては。じゃないと思い上がった者が勝手に振る舞うかもしれないでしょう?」

 

「お、そうだな」

 

 俺は半眼で天子ちゃんを睨む。

 

「勘違いしてほしくないけど、別に私は妾の存在を否定してる訳じゃないわよ。むしろ貴方を繋ぎとめる為には多ければ多い程良いって思ってるし」

 

「んなヒトを首輪の付いてないペットか何かかと思いやがって……」

 

「似たような物でしょ?勝手にどっか行ってはメスを引っ掛けてくる辺りとか」

 

「おっ、そうだな」

 

 現に地底と天界で引っ掛けてきたしな。地上に降りてから聞いたけど俺の居ない間に地底の妖怪達が地上に侵攻してきたらしいし、今起きてる異変もそうだし……俺はいつの間に疫病神引っ付けてきたのか。

 そんな事は今はどうでも良い、重要な事じゃないんだ。

 

「……詭弁、天界は良い所よ。空気も美味しいし食べる物も……まあ桃しかないけど、美味しいわ。波乱万丈と言うには寂しいけど、時折来る死神を相手取れば退屈はしないでしょう。必要になれば下界に降りても良い。だから―――」

 

「だから天界に住めって?前も言ったが、俺の楽園は此処じゃない。俺が目指す頂点(あこがれ)は此処に無い」

 

「……そう。まあ、分かってたわ。言ってみただけよ。……でも、それなら私も、()()遠慮する事は無いわね」

 

 そう言って天子ちゃんは手に持っていた緋想の剣を掲げる。すると辺りから……否、()()()()()緋色の靄が集まってくる。

 

「……何をする気だ」

 

「決まってるでしょう?貴方が此処に留まってくれないと言うのなら、()()()()()()()を壊すだけよ。ほら、そうすればもう貴方の帰る場所は此処にしか無いでしょ?」

 

「それを俺が黙って見てるとでも?」

 

「そうね、思ってないわ。……でも、結果は一緒。ひと月ほど前に貴方が私にした事をそっくりそのまま返すだけよ。貴方をここでブッ倒して、貴方が寝ている間に全てが終わるだけ。終わらせるだけ」

 

「はっ……中々にぶっ飛んだ答え(Answer)だ、気にいった。全力で止めてやるよ!」

 

「例え両手両足が無くなっても気にする事は無いわよ詭弁。貴方の物語は此処でおしまい。『愛する妻と天界で永遠に平穏を享受しました。めでたしめでたし』で綴るのよ!」

 

残念(ざァんねん)!俺の物語はまだまだ続くし、シメの一文はもう決めてんだよ!『数多の妻や子孫に恵まれた波乱万丈な男は死んでもあの世で騒がしく過ごしました』ってなァ!!!」

 

 そうして俺と天子は互いのエモノを振りかざし、全力でぶつかっていった。

 




※天子ちゃんは現在ぽよぽよのぷよぷよです。

そりゃあね……女子力を何処かに投げ捨てた様な体形の奴に『詭弁は私のモノだ文句あるかオラァン!』って言われた後にボコボコにされたらね……精神ダメージは計り知れないよね……

話が通じてねえぞ!→幻想郷ではよくある事。

次回、VS貴方(詭弁)の事が好きすぎてつい世界を滅ぼしちゃう系少女。詭弁は無事に幻想郷を救う事が出来るのか!それとも四肢欠損からの永久就職ルートか!(結果見えてるとか言うな)
乞うご期待!
乞う感想!
乞う評価!
乞うここすき!














「貴方達の、その見えている地雷を避けようとして核の発射スイッチを押してしまったような、まんまと運命の思い通りに動いている様を見て()()同情心が湧いてしまったわ」

1.
「お前らはいつも勝手に進みやがる!偶には私に活躍の場を寄越すんだぜ!」

2.
「さいきょーのあたい達はぜぇぇぇったいに負けないんだから!!!」

3.
「この私が力を貸してあげると言うのよ。泣いて喜びなさい」

4.
「貴様!この私を差し置いて負けるなんて許さんぞ!」

5.
「我等レジスタンスは友を決して見捨てはしない!」


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それはまるで流星のように

年末は……だるいぞ!


* * * * *

 

 

 

 

「総領娘様、天界中から桃を集めてきました……あの、本当にやるんですか?」

 

「当たり前でしょ。詭弁はただの人間だけど、想像を絶する程の修業の果てにあの強さを得たの。今から詭弁と同じように修業したって、その強さに届くまでにどれ程掛かるの?」

 

「それは……」

 

「詭弁に追いつく……ううん、詭弁を追い越す為には()()()()()()じゃダメ。出来る事全てやって、それでも尚()()()()()()程の『決意』が必要なのよ。なりふりなんて構ってられないわ」

 

「しかし、だからといって……常に大量の桃を腹に詰めながら更に身体を鍛えるなんて常軌を逸しています!」

 

「衣玖、この桃……『仙果』は食べるだけで身体が鋼のように鍛えられる。当然食べれば食べる程に、更に身体が鍛えられていくの。その上で肉体を徹底的にいじめる。相乗効果であっという間に強くなれる筈よ!」

 

「ですがそんな事をすれば総領娘様のお身体がどうなるか予測が付きません!桃を大量に食べるなんてそれだけでも前例の無い事ですのに、更に身体を鍛えるためにトレーニングを行うなんて……ゴリラかブタにでもなりたいんですか!?」

 

「別になりたくてなるわけじゃ……と、とにかく一にも二にも詭弁より強くならなきゃ意味が無いの!ゴリラやブタになったらその時はその時改めて肉体改造し直せば良い!」

 

「総領娘様……この永江衣玖、敬服致しました。貴方様のその御覚悟の邪魔にならぬよう、遠目ながらもしかと見させていただきます」

 

「何言ってんのよ。アンタにはまだ重要な役割があるんだから勝手に去るな!」

 

「え”っ……まだ何かあるんですか……」

 

「当たり前でしょ?誰がこの大量の桃を調理するのよ」

 

「…………はい?」

 

「アンタまさか、この私が大量の桃を全部生で齧るとでも思ってたの?アンタは飽きが来ないように工夫して料理し続けるのよ!」

 

「……あー……えっ?この、山のように運んできた桃を?全て?」

 

「勿論最初は生でも齧るけどすぐ飽きるに決まってるでしょ!?そもそもこの天界には()()くらいしか食べ物が無いんだから!とにかく、飽きが来ないように料理し続けなさい!……出来なかったら、分かってるわよね?」

 

「……(白目)」

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

「―――とにかく、強くなるために思いついた事はすぐに実践したわ。常に桃を齧り飲み込みながら天界中を駆け続けたり、巨大な要石を持ちあげてスクワットしたり、緋想の剣を使って素振りし続けたり、色々。時に吐き戻したりもしたけど、少しでもお腹に空きが出来たら桃を詰め込んで更に身体を鍛える……そんな生活を続けた所為で贅肉がもの凄く付いたけど、それ以上の筋肉が私の身に付いている。それは―――――単純な力比べなら詭弁にだって負けない程にィッッッ!!!」

 

 打ち合っていた緋想の剣と陽気棒の均衡は一瞬で崩れ、空間が唸る音と共に俺は吹き飛んでいた。

 重い……なんてモノじゃない。まるで山そのものに突き飛ばされるような、拮抗すら許さない程の規格外。

 吹き飛ばされて大地から離れ、着地の為に宙で姿勢を整えよう……と、その次の瞬間。

 

(パワー)だけじゃない、疾さ(スピード)もッッッ!!!」

 

 地面を蹴り砕き、俺が吹き飛ぶ速度よりも速く追いつき、俺の脚が地面に着くよりも速く緋想の剣を振り下ろす。俺はそれを眺めてる事しか出来なかった。

 

 

 

 眺めてるだけでも良かったと言い換えよう。

 確実に俺に当たる筈だった剣の軌跡は、俺の目の前を通過して地面に叩きつけられた。その後俺は地面に着地し、何が起こったのか理解出来ないと言った表情の天子ちゃんにネタバラシを行う。

 

「腰にある()()、手繰ってみな」

 

「……ッ!?これは、いつの間に!!?」

 

 天子ちゃんの丸々と膨らんだ腹に隠されて見えなかった物の正体、それは糸だった。

 唯の糸と侮ることなかれ。これはアリスちゃんから貰った『魔法の糸』だ。俺も生成自体は出来るが、アリスちゃんのように高純度で丈夫な糸は作れない……まあ、それはともかく。魔法の糸の先には、辺りに転がっている岩に繋がっていた。

 

「夜は妖怪の領分……だが、俺みたいな『小細工使い(ヒネクレモノ)』にとっては妖怪(強者)を存分に嵌める事の出来る聖域(サンクチュアリ)さ」

 

「なっ……こんな小細工で!?」

 

「……()()()()()()()踏み込みが甘くなり、太刀筋がブレる。肉体的には確かに俺を凌駕する程度の力を持ってるんだろう。でも、想定外な事(イレギュラー)に対する反応速度と対応能力までは鍛える事は出来なかったようだな」

 

 これがもし妖夢ちゃんだったのなら身体に引っかかる糸と岩の所為で僅かに足りなかった分の踏み込みの代わりに、腕と肩の筋を伸ばして一太刀入れる程度の反応を無意識レベルで即座に行えるだろう。

 これがもし咲夜ちゃんだったのなら即座に切り替えて手元のナイフを投擲し、続いて追撃を狙うだろう。

 これがもし霊夢ちゃんだったのなら……そもそもこの程度の小細工が通用しなさそうだったから一旦思考を止める。

 

「強くなる事に近道なんてありゃしない。仮にあったとしてもその強さは脆いモンさ。地道に地道に積み重ね……階段を上る様に強くなる。一足跳びで上っても転びやすくなるだけさ」

 

「ッ!ほんのちょっと(つまづ)かせた程度で良い気にならないでくれる!?」

 

「人は躓いて、転んで、立ち上がる事で強くなっていくモンだぜ。おお!少し強くはなったんじゃないか天子ちゃん?」

 

「馬鹿にしてッ!!!」

 

 バガァン!!と地面が砕ける程に強い踏み込みで突撃してくる天子ちゃん。確かにその速さはとんでもないレベルであり、その見た目からでは一切想像も出来ない程に機敏に動けている。……だが、それさえも移動するのにもパワー全振り妖怪との組手(ゆうかちゃん)の速さで慣れている俺にとっては十分見て反応出来る。ましてや、動きにフェイント一つとて無いなんて誇張抜きに欠伸が出そうだ。

 

「『凍結注意(スリッピング)』!!」

 

「わっ……キャッ!!?」

 

 凄まじい勢いで突っ込んできた天子ちゃんの足先を凍らせる。その重量が集中し、圧縮された事による熱によって凍った部分の表面が僅かに融ける事で摩擦を奪った。

 要するに勢いそのまま、ド派手にすっ転んだ。

 

「躓いた次は転んだな。更に強くなれた様で何よりじゃないか」

 

「ふっ……ざけないでッッッ!!!派手に転んだ程度で怪我する程ヤワな身体じゃないわ!」

 

 地面を蹴り、今度は空を飛ぶ天子ちゃん。空を飛ぶ速度もまた速く、地を駆けるよりも複雑な軌道で飛び回る。その上弾幕をばら撒く事で牽制をしているようだ。

 ……だが、まともに力を込めていない弾幕はハリボテにすらならない。天子ちゃんにとってその()()は自分でも制御しきれていないんじゃないか?その目に映る景色はキチンと把握できていないんじゃないのか?その姿になって……初見殺しに等しい戦い方しかしていなかったから、飛んでいる動きが画一的(パターン化)してる事に気が付いていないんじゃないか?

 

 だから、こうなる。

 

「『混合障壁(ダイヤシールド)』」

 

「へっ?ぷぎゅッッッ!!!?」

 

 高速で飛び回る天子ちゃんの眼前に頑強な結界が現れ、頭からその結界に突っ込む。速度がそのまま威力となり、自分に全て帰ってきたようだ。

 そのまま真っ逆さまに空から落ち、地面にも激突した。

 

「ぐっ……ぐぐぐ……」

 

「ヤワな身体じゃなかったが、流石にあの勢いでノーダメージとはならなかったようだな」

 

「正々堂々と勝負しなさいよ!!!!」

 

 地面に(うずくま)っていた天子ちゃんは緋想の剣を支えに、両足で立ち上がっては俺を睨み付けてそう言い放った。躓いて、転んで、立ち上がって。昨日よりもだいぶ強くなったんじゃないか?

 

「うるさい!なんで真っ向からぶつかってこないの!!?アンタには、()()が出来るだけの力を持っているでしょ!!?」

 

()()()()()()()()()ってのは俺にとって最終手段に等しい。大抵の場合妖怪は俺より強いからな。正面から()()()()()()怪我するのは当たり前だろ?」

 

 幽香ちゃんやメイちゃんとの組手をする際にはそれこそ真っ向からぶつかるが、それはあくまでも訓練の一環だからだ。俺の命は一つしかない以上、弾幕ごっこの様な遊びならまだしも実践には()()()()なんて無い。卑怯、邪道、上等だ。勝てば官軍……とまでは言わないが、相手の()()につけこむのは当たり前だ。

 

「既に『弾幕ごっこ』の粋を越えた……故に本気で戦ってるだけさ」

 

「うるさいうるさい!アンタは……()()()()()()()()はそんなこと言わない!!!燃えるような眼で!相手を圧倒して!不敵に笑い続けてッ!!!そんなアンタをブッ倒すの!!!」

 

「ワガママっぷりに磨きが掛かってるじゃねぇか。()()()()はその身体だけにしとけ!」

 

 『憧れと理解は遠い感情』……か。理想と現実は違う。理想を描けぬ者に未来(さき)は無いが、理想()()見ない者には未来(さき)へ進む道が見えない。

 口は回れど、説教臭いのは苦手なんだ。だから―――

 

「ボコボコにぶん殴って現実を分からせてやるよ!」

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 天子ちゃんを殴り、打ち、蹴飛ばし、転ばし……それでもほぼ無傷で立ち上がっては斬りかかってくる。山の様に……と、さっきは思ったがこれでは本当に山を相手にしているようだ。一撃……また一撃と、相手にとってはチリの様なダメージを積み重ねる。積もれば山となるだろうが、積み上げきるまで相手からの攻撃をマトモに食らってはいけないという縛りが重くのしかかる。

 

「あああああああああああ!!!!」

 

「ッ……『影崩刺(シャドウストライク)』!」

 

 真っすぐ、イノシシの如く突っ込んでくる天子ちゃんに対し地面に伸びた影からの不意の一撃が突き刺さる。一瞬怯みはすれども、それだけ。丈夫すぎる天子ちゃんの身体には痣一つ残らない。デコピンだけで大の大人を倒す……或いは、妖怪の山をスコップ一本で崩すように思える程途方もない苦労と時間が掛かるだろう。

 

「シ”ィっ!!!」

 

 大振りに振られる緋想の剣を避け、後隙を逃さずぶっ叩き続ける。この緋想の剣も厄介だ。その刀身は幻想のように揺らめき続け、振るい当たるその瞬間に刀身は刃に変わる。故に非常に剣筋が見づらい上に掠りでもしただけでアウト。剛腕で振るわれる勢いが掠っただけで俺の身体を通り、良くて体勢が崩れ、悪くて致命傷になるだろう。それ程までに()がある。

 

 力が、パワーが圧倒的に足りない。天子ちゃんに勝つには、それこそ()の様なパワーが必要だ。ありとあらゆる物を壊せるだけのパワーが必要だ。

 だがそんなものを望んで、すぐに手に入るようなら誰だって苦労はしない。

 …………いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()は、その手段は、既に持っていた。

 だが、それは非常に危険な諸刃の刃。もしそれで仕留めきれなければ……待っているのは確実な敗北だ。勝つために手段を選んでられる程贅沢言っている場合ではないが、その手段はあまりにもリスクが高い。

 

 ……だが、今のままではジリ貧だ。せめてあと一手、()()()()()()()()()()さえあれば……っ!この、()()は!!!

 

「天子様、桃のおかわりを―――」

 

「でかしたぜ衣玖サン!」

 

「なっ、馬鹿衣玖!空気読みなさいよ!!!」

 

 『忍法影縛りの術(シャドウゲイル)』!

 数多もの影分身が天子ちゃんに飛び掛かり、足止めを行う。

 全ての影分身を斬り捨てるのに僅か一秒。だが、その一秒は価千金の一秒だった。

 全身から黄金色の『(オーラ)』が放たれ、俺の筋肉が倍加する。まるで画風が変わった様な雰囲気を醸し出しながら一息で衣玖さんの所まで行き、その背に背負った大きな籠の中に入っていた大量の焼き桃(仙果)を全て食いきる。

 

「……へっ?」

 

「ガツガツ……ゴクッ……ぷはぁっ!この前までは気がつかなかったが、流石に一気に食べると()()()()()のが理解出来る……!今の状態なら、神様すら倒せると思える程に……!」

 

「なっ……なぁっ……や、やりやがったわコイツ……っ!」

 

 全身から吹き出る黄金色の気が更に濃くなり、まるで紅く輝いている。よく見えないが、多分髪の色と瞳が紅くなってる気もする。(推定)

 

「そう、これが超人モード(スーパーサイヤ人状態)を越え、()()()()()()状態!名付けて『超神モード(スーパーサイヤ人・ゴッド状態)』ッッッ!!!」

 

「バカお前それはもう色々とマズイでしょ!!?」

 

 この圧倒的パワー(筋肉)!!力こそパワー(筋肉is GOD)!筋肉は全てを解決する!筋肉を信じろ!

 

「ひぇっ、詭弁さんが脳みそまでプロテイン漬けになった……」

 

「桃にそんな効果ないわよ……ッ!?」

 

 一息にも満たない間に天子ちゃんに近付き、その丸々とした身体をぶん殴る。

 拳に響く感覚は、間違いなく山を震わせる程の手応えだった。

 

「ふぐッッッ!!?」

 

 ボールの様にぽーんと飛んでいった(殴り飛ばされた)天子ちゃんを追い抜く様に回り込み、飛んでくる天子ちゃんボールを蹴り飛ばす。

 

「ゴがァッッ!!!」

 

 蹴り返した勢いもあり、地面とほぼ平行に飛ぶ天子ちゃんにまた回り込む様に追い抜き、向かってくる天子ちゃんをぶん殴る。

 

 人の身体を玩具にして行われる超人的な()()()()()()()()()。しかしそれはまだ準備運動に過ぎなかった。現に殴られ続けている天子ちゃんは目を回しつつも反撃の機を伺っていた。そう出来る程には余裕があった。

 

 余裕が、()()()

 

「『星影世界(スターサイド・ザ・ワールド)』!!」

 

「もう色々とマズイ上に無茶苦茶じゃないの!!!」

 

 殴り飛ばされた天子ちゃんが()()()()()()。抵抗も、反撃も、その場からの離脱も出来ない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その(わざ)のタネは至って単純。殴り飛ばされた天子ちゃんの『影』を陽輝棒で縫い止めているから。陽の気と陰の気を操る陽輝棒に限界一杯まで気を送り込み、天子ちゃんを殴り飛ばしたと同時にその影へ向けて陽輝棒を突き刺す。

 陽の気と陰の気は互いに廻り合い、干渉し、影響を受ける。過剰なまでに注がれた気によって『本体』と『影』の因果関係が逆転する。即ち『本体が動くから影も追従する』のではなく、『影が形を変えるから本体が追従する』ように。

 故に影が縫い止められた天子ちゃんは、自らの意思で動くことが出来ない。

 

「此処までやっても、たった一人の時間を止める事しか出来ないのだから本当に幻想郷は理不尽に溢れてるよなぁ」

 

「理不尽はアンタよ!早く解きなさいっ!」

 

「安心しろ。精々後3秒程度で業は解除される」

 

 つまり、後3秒でケリを着けるということだ。

 

 3

 

 殴る、殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る。

 一人キャッチボールの際、移動に回していた()()を全て殴る事に費やした。

 

 2

 

 蹴る、蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る。

 

 1

 

 撃つ、撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ。

 

 ゼロ。

 

「『そして時は動き出す』」

 

 地面に突き刺さり天子ちゃんの影を縫い止めていた陽輝棒を引き抜いたその瞬間、叩き込んだ全ての衝撃が解放され天子ちゃんを遥か彼方へとブチ飛ばした。

 

「『博麗式二重結界転移術(テレポート)』」

 

 空高くぶっ飛び、星になった天子ちゃんを瞬間移動で追いかける。同時に、俺の身体は元の姿に戻っていた。

 

 

 

 そこは青く輝く星を見下ろす、無限の世界への入り口だった。

 

「……アンタは、卑怯者よ。真正面からぶつかって来ないなんて言いながら、結局滅茶苦茶な力押しなんてして」

 

 あれだけの攻撃を叩き込んでも、未だに意識一つ断てないなんてな。だが流石に限界なのか、満身創痍といった風貌で宙に浮く天子ちゃん。

 

「それで、私にトドメを刺しに来たのかしら?幻想郷を壊そうとした大罪人の私の首でも取りに来たの?」

 

「ンな物騒な事するかよ。女の子には優しくするのが俺のモットーなんだ。……それに、幻想郷を壊そうとした大罪人?何処にそんな奴が居るんだ?」

 

「なっ……まさかこの期に及んで、あの大地震を起こした犯人が解らないなんて言うつもりなの!!?」

 

「あの大地震は()()()()だ。誰が起こしたってモンじゃない。今俺がこうして天子ちゃんと戦ってるのは、天子ちゃんが『謎の気象現象による異変の犯人』だからだ。それ以上の理由は無いね」

 

「そんな……そんな事は許される訳が無いでしょ!?私は、下界の奴等を皆殺しにする気だったのよ!?それを―――」

 

「でも、未遂だ。幻想郷の連中は誰も死んじゃいねえ……良いか天子ちゃん。『許す、許されない』って話じゃねえんだ。『異変を起こす、それを解決する。終わったら関係者全員集まっての大宴会』それでおしまいってだけの話だ。感情も、罪も、全部酒と共に呑み込んで馬鹿騒ぎ。幻想郷(楽園)はそうして回るんだ」

 

「……理解、出来ないわ」

 

「んにぃ、ならオバカな天子ちゃんにも分かり易く伝えてやるよ。周りを見てみろよ。仰ぎ見れば満天の()空。眼下には青く輝く地球。こんな最高の()()()()()()()で『花火』一つ上がらない上に現地解散じゃあ落第点だろ。なぁ?」

 

「……」

 

「それに、()()()()()()で俺の気はもうカラッケツだ。丁度『スペルカード一枚分』しか力は残ってねえよ」

 

「……そう。やっぱ私、アンタみたいな気障(キザ)な奴って嫌いだったわ」

 

「『目』はもう治ったようだな?」

 

「ええお陰さまでね。目の治療費は―――アンタの黒星よッッッ!!!

 

「黒星は既に十分な程に積み重ねてる。ただ俺が欲しいのは―――お前からの白星だ!!!

 

 

 

『全()()の緋想天』

 

 

『夢想流転』

 

 

 

 夜空から一筋の流れ星が落ちてきた後、幻想郷の各地で起きていた異常気象は収まった。

 かの博麗霊夢が途中離脱(リタイア)した異変を解決した者の名は―――――

 





緋想天編、完!
いや、もうちょっとだけ続くんじゃ。
なんかオラオラ煩そうな詭弁であった。
?「私凄い空気な気がするんですが」
知らん。そんな事は俺の管轄外だ。

何とか無事今年中に更新出来て良かった、良かった。
皆様、良いお年をー。






クリスマス特別編は無いのかだって?
『与えよ、さらば与えられん』という名言を知らないのか?
感想・評価・ここすき。
『与えよ、さらば与えられん』


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そして最後は晴天の霹靂!

明けましておめでとうごじゃいます。
さむぅい!


 異変は解決しめでたしめでたし、宴会で締める……とはならなかった。何故なら幻想郷は大地震の影響によって東西南北何処もかしこも大惨事。結果的に人死にが無かったとは言え、人死にが無い以外は壊滅的なダメージを与えたのだ。そう、それは当然―――

 

「さ、酒が無いだとォォォ!!!?」

 

「そりゃあの大地震で里の酒蔵がぜェんぶ()()()()になっちまったからなァ」

 

「何とかならねえのかよ!」

 

「無茶()ゥな詭弁。テメェも知っての通り、酒造りにゃ時間が掛かるモンだ」

 

 ―――と、肝心要の酒が調達出来なくなってしまった。酒の無い宴会なんて、脇丸出しじゃない霊夢ちゃんの様なモノだ。

 里の酒蔵は全滅。ならば妖怪の山はどうかと行ってみれば

 

「あー……すみませんね詭弁さん。天狗(ウチ)の酒造所も全滅してるんですよ……」

 

河童(私達)の所も……というか流石に何を置いても酒を守るって程に天狗も河童もお酒狂いじゃないからね?」

 

「んにぃ……」

 

 と、妖怪の山も芳しくない。これでは……これでは宴会が出来ない……!

 

「そ、そこまで絶望する事ですか……」

 

「射命丸には分からんだろう……俺がどれだけ宴会で女の子達にセクハラするのを楽しみにしてるのか……」

 

「すみませんちょっと分かりたくないです」

 

 這いつくばりながら地面に拳を叩きつける。だって……だってここの所シリアスが濃いんだもん……!

 

「せや、地底なら鬼がクソほど居るし酒もあるやろ。強奪してこ」

 

「ちょ、詭弁!?そんな急にキャラ変わる程ォ!?」

 

「というか気軽に地底に向かわないでください!少し前に凄い勢いで地底の妖怪達が侵攻してきた事を忘れたんですか!?」

 

「知らんな、とにかく酒は有る所から持ってくればいいんだ。酒ぇ……えんかいぃ……

 

「どんだけセクハラしたいんだコイツ……」

 

「(にとり、もう貴方がパンツでも見せてやればいいじゃない)」

 

「(ひゅい!?バカ言うなよそういうのは発案者がやれ!)」

 

「(私は宗教上の理由でちょっと)」

 

「(何の宗教だよ!)」

 

 急にイチャつきだした妖怪二人を後目に、地底の鬼達がぶち抜いたと言う旧地獄直通の大穴とやらに向かう。ああ、地底に行ったついでにお空ちゃんのおっぱいやお燐ちゃんの太もも、ヤマメちゃんのケツやパルスィちゃんの鎖骨とかを堪能してくるのも良いのかもしれない。

 

「いやいやいや、思い立ったらすぐ行動するところとか大変好ましく思うけど地底だけは駄目だよ詭弁!!!」

 

「そうですよ!詭弁さんが地底に行ったら今度こそ地上の人妖達が黙ってないですし、仮に無事戻って来れても興奮した鬼達がまた地上に侵攻してくるかも……」

 

「大スクープだよ、喜べよ文ちゃん」

 

「 心 労 で 死 ぬ ! 」

 

 背中側から首に腰にと抱きつかれ引き止められるが何のその。文ちゃんのフワモチとりむね肉が背中に当たるが、そんなことお構い無しに地底行きの大穴に向かう。だからもっと押し付けてきても良いのよ!

 にとり?あぁ……うん、理論は知ってる。

 

「ま、不味い……!詭弁さんが鬼の悪いところに似てきてる……!」

 

「大丈夫大丈夫!地底からちょっと(宴会で飲む程度の量)酒を取りに行ってくるだけだから!」

 

「貴方普段の宴会でどれ程の量の酒を大八車に載せて来てると思ってるんです!?絶対()()()()で済まないですよね!!?」

 

「というか詭弁が地底に言って()()()()で帰ってこれるわけ無いだろ!山の責任問題になるんだからな!?」

 

「ぐぬぬ……人外パワァ全開で止めに来やがって……」

 

 全身ににとりの『のびーるアーム』が巻き付き、更に強い逆風が俺に襲い掛かる。おのれ……俺の邪魔をしてタダで済むと思うなよ……。

 

「貴方のその欲望最優先の所、人としてどうかと思うけど妖怪的には好感が持てるわね」

 

「八雲……紫……!」

 

「はぁい」

 

 空間が裂けた隙間から、ぬっと現れた八雲紫。風の噂では幻想郷がこんなんなってブチギレ発狂したと聞いていたが……。

 

「発狂はしてないわよ……というか誰よそんなこと言ってた奴は」

 

「匿名のモフモフ九尾さんだ」

 

「一瞬で正体が分かるハンドルネームありがとう(藍……)」

 

「それで何の用だ?冬眠してた所に地震で落ちてきた電灯が顔面に直撃してマジおこ起床して式神に八つ当たりしまくった危機感ゼロの八雲紫」

 

「私も堪忍袋の緒が切れる時もあるんですわ?お?」

 

「(あの胡散臭いで有名な八雲紫が凄い顔してる……)」

 

「……コホン。詭弁、私が宴会に必要な酒を調達してくる、と言っーーー」

 

「そういう事は早く言ってくださいよ紫さま靴でも磨きましょうかぐへへ」

 

「おそろしく速い変わり身。私じゃなきゃ見逃しちゃうわね」

 

 後ろで文ちゃんがなんか言ってるが今は気にしない。そんなことより今は酒だよ酒!宴会!

 

「……まぁ、良いわ。それでは宴会のためにお酒を用意します。そのかわり……詭弁、貴方にはやってもらいたい事があります。それは―――」

 

 

 

 

「……えっ、そんな簡単なことで良いの?」

 

「いや詭弁、簡単って……簡単って言うけど、わりと難しい事だと思うんだけど……」

 

「ふふん、俺の手に掛かれば不可能は無いと断言させてもらおうか」

 

「それでは頼みましたわ。勿論、宴会の際には件の天人崩れを連れてくること」

 

「当たり前だ。これは異変解決の宴会なんだから」

 

 そういうことになった。

 そうと決まれば、こんなところで油を売ってる場合ではない。俺は颯爽と自宅に帰った。

 

「……文、どう思う?」

 

「あやや……どうもこうも、詭弁さんはともかくあの妖怪の賢者が何を考えているかまでは流石に。案外何としてでも詭弁さんを地底に向かわせないようにしたかっただけでは?」

 

「そうかなぁ……?」

 

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

 

 あれからまた暫く。博麗神社が伊吹萃香の手によって建て直され、人里も同じようにほぼ再建が終わり、霊夢の怪我も完治した事を切っ掛けとして大宴会が開催される事が決まった。

 主催は八雲紫。なんと『外の世界』から持ってきたという()()()()を目当てに、幻想郷の各地から人妖が博麗神社に集まってきた。

 

「よぉ霊夢。怪我が治って何よりだな」

 

「ええ、永琳の薬のおかげでね」

 

「こんにちは霊夢さん魔理沙さん。神社が元に戻って良かったですね」

 

「ん、おう早苗か。そういう早苗ん所は大丈夫だったのか?」

 

「はい。あの大地震が起きた際に、諏訪子様が咄嗟に神社周辺だけ地震を相殺させたんです」

 

「なによ、そんな事出来るんだったらウチもこうなる前に何とかしてほしかったわ」

 

「あはは……『全盛期ならともかく、今は神社周りだけで手一杯』だそうで……」

 

 女三人寄れば姦しいとは言ったもので、さきの大地震での被害を想起させない程度の明るさで会話する巫女、魔女、風祝。更に其処に半人半霊とメイドも後から加わった。

 

「しかし、あれだけ『宴会、宴会』と騒いでいた張本人は何処に行ったんですかね?」

 

「初めてマトモに()()()()して舞い上がってただけでしょ?」

 

「あー……永い夜の異変は……まあ実質ノーカンみたいなものね」

 

「あっ、知ってます!『永夜異変』って奴ですね!里の歴史書で見ました!」

 

「あん時はアイツだけちゃっかり黒幕の黒幕ン所に行きやがって……」

 

 

 

「あー……んで、だ。さっきからすこぉーしだけ気になってるんだが…………あー、なんだ?お前ら全員ちょっと太ったか?」

 

「「「「 ―――ッ!? 」」」」

 

「何を言ってるのかしら魔理沙。紅魔館の瀟洒なメイド長の私が太る訳無いでしょう?」

 

「そ、そうですよ!普段からヨガとか色々運動してる私が太る訳無いじゃないですか霊夢さんじゃあるまいし!」

 

「それどういう意味よ早苗!普段から質素な食生活を意識してる私が太る理由が無いでしょ!?」

 

「わ、私だって重い刀振り回したり大量の食糧を里から冥界まで運んだりで重労働してますし太る理由がありません!!」

 

「ほんとかぁ~?」

 

 そう言ってペタペタと少女達の腹回りを触る魔理沙。

 

「うーん、これは白か黒かで言ったら全員黒だぜ」

 

「白黒なのはアンタでしょ魔理沙!!ペタペタ触るな!」

 

「こ、これはアレです……最近寒いからちょっと越冬の準備をしてるだけで……」

 

「わ、私は幽々子様のお食事量が最近増えてきたので……それに釣られて……」

 

「私はまだ普通よ……ええ……普通……」

 

 少し場面を変えて、境内の端。其処には紅魔館勢が大きなパラソルを広げ、優雅にブランデーを嗜むフランドール・スカーレット。本を読みながら洋菓子を齧るパチュリー・ノーレッジ。焼いた肉を飲むように食べる紅美鈴。魔法を駆使して給仕に回る小悪魔()

 死んだ魚の様な目をしている異様な姿のレミリア・スカーレットの視線の先には、自身の配下と友が居た。

 

「どうしたのよお姉様、そんな蛆が湧いたような腐った魚みたいな目をして」

 

「フラン貴方もうちょっと言葉を選びなさい。貴方に理解できる?信頼している配下と友達がある日急にムクムクと肉を付け始めた時の私の気持ちが」

 

「そうねぇ……好きな人にもっと好かれたいって気持ちなら理解できるかな」

 

「最近(フラン)の成長が早過ぎる件について!!!」

 

 恋は人を変えると言うが、それは吸血鬼にも当てはまるらしい。妙に大人びた表情をする事の多い妹を見て謎の焦燥感に駆られる姉の威厳は何処へ向かうのか。

 

「モグ……モグ……ぅ、吐き気が……でも、もっと食べないと……」

 

「もっと……もっと肉をつけなければ……うぅ、お腹いっぱい食べるのは好きですが限界以上に食べるのは……」

 

 そして食べれば食べる程()()肉が付いていく、ある意味特異体質の配下と友を見て更に目の色を褪せさせる吸血鬼。その手は自身の虚しい胸元を彷徨っている。

 

「私だって……後百年でもすればあれくらい……あれの半分くらい……やっぱ四分の一くらいは……成長するもん……」

 

「ねえお姉様。『人の夢と書いて儚い』ってお兄様も言っていたわよ」

 

「私吸血鬼だし!アイツが言ったら本当にシャレにならないわ!!!あと貴方も私と同じ血を受け継いでるんだから刺さるわよブーメランが!」

 

「別に良いわよ。身体が大きくならなくても、()()()()で詭弁お兄様をメロメロにすればいいもんね~」

 

同じ大きさ(ミニマムサイズ)な筈なのにこの心の大きさの差は一体何処から生まれたって言うのよぉ!!!」

 

 フランドールの言葉はそれほど大きい声で言い放ったわけではないが、何故か離れた位置に居る筈の人妖達の心にダメージを与えた。

 『む、胸だけではダメなの……?』と大ダメージを受ける門番の妖怪と七曜の魔女。そして更に離れた位置にいる蓬莱人にも同じようにダメージを与えた。

 

「くっ……や、やっぱり無理矢理大きくするだけじゃ詭弁は落とせないのね……」

 

「ですから言ったでしょう姫様。外見を整えるだけでなく内面も磨かねば良い男性は早々寄って来ないと」

 

「うぐっ。う、うるさいわね永琳。私は妹紅とは違って高貴なのよ。でもちょぉっとばかし肉付きが現在(いま)の美的感覚にそぐわないようだから、そっちに合わせてるだけよ……!」

 

「いや、私は貴族の生まれなんだけど」

 

「黙ってなさい妹紅。それに研究一筋~みたいな堅物永琳が、かぐや姫()を差し置いて男心を語るなんて―――」

 

「あら、私も人並みに恋をした時期くらいあるわよ?」

 

「……へっ?」

 

「『月人』がまだ地上にいた頃にね。あの時の記憶は、何時迄経っても褪せる事はないわ……」

 

「うわっ、お師匠が似合わない乙女の顔をしてるウサプギュッ」

 

「口には気を付けなさいてゐ。何が最期の言葉になるのか分からないわよ」

 

「お、お師匠様の恋のお相手の話聞きたいなー!」

 

「あらイナバ。普段はそういうことに興味ないみたいな顔して、実は内心興味津々?」

 

「そうね……彼に出会ったのは、私がまだ産まれて間もない頃。思えば一目惚れだったわね……きっと、彼も」

 

「えっ、産まれて間もないお師匠様に一目惚れ?それってペドフィプギュッ」

 

 八意永琳と八意永琳の薬によって少し()()()()()()蓬莱山輝夜、藤原妹紅、今は顔が凄いことになってるイナバ二匹。彼女らは大地震によって住処を失ってはいないものの、多くの者が負った怪我の治療薬の材料を取り、薬を作り、各地に運び、と連携してこの災害に当たっていた。そして地震が発生してからつい先程まで働き詰めだった為、肉体的ストレスはともかく精神的なストレス解消の為にこうして宴会に参加することにしたようだ。

 

「……永琳が赤ちゃんの頃とか全く想像出来ないわね。やっぱり産まれた時から天才だったのかしら?」

 

「ええ。母親のお腹の中にいた時から外の声はよく届いてたし、目がちゃんと見えるようになった時から書物の内容を理解できる程度には」

 

「うわ、マジで意味分からんくらいの天才なんだな……」

 

「それで色々な書物を読み進め……私は父親に対して恋心を抱いている事に気がついたの」

 

「待って」

 

「どうしたのよ」

 

「えっ……今『父親に恋してる』って言った?」

 

「それがどうしたのよ?」

 

「近親婚くらい良くあることよ?」

 

「くそっ!このカオス日本神話登場人物共が!」

 

 妹紅が頭を抱えて叫ぶ。

 そうして騒がしく酒をかっ込む永遠亭勢から、少し離れた場所で呑んでいた山の妖怪・神達。

 

「やれやれ……これで完全に元通りー、とまでは行かないけど、山の皆も里の人間達も一応元の生活に戻ったかねぇ」

 

「そうだねー。天災に見舞われた時に信仰心が試される……って言っても、やっぱり人が平和に生きててこその私達だからね」

 

「おいおい、一応私は『戦神』でもあるんだけど?」

 

「五穀豊穣に風関連のあれやそれや、あと()()()()()()()等等。それに加えて『戦神』?属性盛り過ぎじゃない神奈子?」

 

「後半は詭弁が勝手に言ってるだけだろいい加減にしろ!最近更に胸回りが大きくなって色々大変なんだぞ!」

 

「あーハイハイ大変だねー。んで、ブン屋。天狗達の里も一応復旧出来たの?」

 

「ええ、まあ一応主要な施設だけは完全に復旧してますね。ある程度余裕が出来てきたせいか、『異変の犯人を八つ裂きにしろ』と主張する奴らが一定数増えてきて困ったものです」

 

「あはは、当の犯人は大妖怪や博麗の巫女相手にタイマンで勝つ程度に強い上に、()()()()が直撃しても五体満足で生きてる程度に身体が丈夫だってのにどうやって()()()()にする気なのかね」

 

「私も嘘偽り無く記事にしたはずなんですが、どうにも奴らには()()が見えないようで」

 

「……あー、しかしアレは本当なのか?その……あんな……アレに霊夢達が負けたってのは」

 

「写真で見た限り『ものすごいデブ』だったよね!!!」

 

「こら諏訪子!ド直球に言うんじゃない!」

 

 ゲラゲラと笑う洩矢諏訪子。それを嗜める八坂神奈子。彼女達の()()において、過剰なまでに太っているという事と強いという事は決して等号では繋がらなかった。彼女達の知るフィクションでも同じように、太っているという事と優しいという事が等号で繋がりはするが強いという事とは等号では繋がらなかった。(無論強い巨漢キャラは沢山居るが、彼女達の知識は偏っているようだ)

 

「やっぱ詭弁も『柔破斬』したのかな」

 

「諏訪子、お前詭弁を何だと思ってる……」

 

「現に博麗の巫女も大怪我を負いましたし、紅魔館の皆様もかなりの痛手を負ったようです(じゅうはざん……?)。詭弁さんが件の天人をどのようにして打ち倒したのかは気になる所ですが……あっ」

 

「うん?どうしたブン屋」

 

「ああいえ、何でも……(そういえば何故妖怪の賢者は詭弁さんにあのような事を言ったのか)」

 

 射命丸文は一升瓶を呷りながら考える。かの異変の犯人の影響か、幻想郷の一部の少女達の間で()()()()()ブームとでも言えるモノが訪れていた。そこそこ長く生きている身からすれば、この頃妙な事柄が変に流行しているようにも思える。少し前の()()ブームや()()ブーム等。そして今、新しい年が明けて早々にこの()()()()()ブームだ。たぶんここ数日だけで幻想郷全体の平均体重は2~3キロは上昇してる。

 

「(……まぁ、原因は分かりきっているのですが)」

 

 このデブエットブームの先導者と言うべきか火付け役と言うべきか。それは間違いなく先の異変の犯人である『比那名居天子』だろう。聞けば、詭弁に初めて出会った際は()()の体形らしいが、その後何を切っ掛けとしたのか()()()()()()()姿で詭弁と再会したらしい。詳しい事情までは聞き出せなかったが、|信頼できる情報である《天狗特有のゴシップ作成能力をふんだんに用いた》文々。新聞によって幻想郷中に拡散され、『詭弁はデブ専』という認識が広がった。

 

「(まあ私は()()とはハッキリ書いてないですが)」

 

 文々。新聞はあくまでも()()()()を扱う新聞である。だが事実という()()に対して読者がどう受け取るかは知った事ではない。そう、新聞が()()()()()売れやすくなる言葉を用いているだけである。

 

「(紅魔館の門番に、メイド長、動かない大図書館、他にも半人半霊や七色の魔女や蓬莱人、更には本命の巫女まで。ふふふ、()()()()は少なければ少ない程良いですからね……!)」

 

 最後に笑うのはこの射命丸だァァァァ!!!!と背景に独特な効果音が鳴り響きそうな顔をしながら一升瓶を空にした射命丸。その、視線の先には……この宴会の、ひいてはこの異変の『主役』が博麗神社の階段を登りきった所が見えた。

 

「待たせたなァ!!!って先に始めてんじゃねえよ!」

 

「遅刻してきた奴がなんか言ってるぜ」

 

 かの者の名は詭弁答弁。邪魔する者を打ち倒し、異変解決のスペシャリストである博麗の巫女さえ退けた異変の首謀者を退治した張本人。その力は間違いなく幻想郷のパワーバランスの一角を担っている程に()()()()()()()()。その顔は美男子という言葉が誰よりも似合う程に整っており、歩けば10人中9人が振り返るイケメンだ。残りの一人は目が見えていないに違いない。

 

「ったく……異変解決の宴会って名目なんだから、そこは俺達を待てよ。少しぐらいは待てよ」

 

()()()()()は待ったぜ。乾杯の音頭の前に二三言挟んでから乾杯したんだ。待った方だろ」

 

「もうちょっと『我慢』って言葉を覚えようぜ」

 

「『我慢』って言葉くらい知ってるぜ。何だったら漢字で書いて見せようか?」

 

「そういう意味じゃねえよ。ほれ、俺達にも酒を寄越せ」

 

「おう。……で、いい加減お前の後ろに居る奴を紹介してくれてもいいんじゃないか?」

 

「何?もう喋っても良い訳?」

 

 その()に反応したのは数人。その数人全員が声のした方向を見て、目を擦って再度見て、頬を抓っている。

 

「……あの、私は耳がおかしくなった様です。今ちょっと有り得ない人の声が聞こえた様な気がするんですけど」

 

「奇遇ね妖夢。私も耳か……もしくは目でもおかしくなったのかしらね。後で永遠亭に目薬を貰いに行かなきゃだわ」

 

「何よあんた達。まさかあんた達を()()()()()()()の声を忘れたとでも言うのかしら?」

 

 詭弁に付き従うように歩いていたその少女。腰まで届く様な長く美しい青髪に深紅の瞳、頭には桃の実と葉が付いた特徴的な帽子を被っており、着ているロングスカートは遥か大空をそのまま映しているかのように移ろう模様が描かれていた。

 

 

 そして何より、その少女は肥満ではなく()()であった。

 

 

 

ボンッ

 

キュッ

 

ボンッ

 

 

 

 というアメリカンドリームを体現したかのような豹変具合に、彼女のとんでもねぇ姿を知る者は皆夢を見ているかのような*1気持ちになっていた。

 

「自己紹介がまだだったかしら?まあ、ある意味丁度良いわね、一応神社の前なんだし。私は天界に住まう天人『比那名居天子』―――改め、詭弁のの『詭弁天子』よ」

 

 夢なら覚めてくれ。という少女達の願いは届かないようだった。

*1
言うまでも無く悪夢である




恋は盲目だって?当然じゃないか。だって相手を()()()()んだから。
恋から覚めて、ようやく愛に至るのさ。

イクサン「あの、私もお二人の後ろに居るんですけど……」


 詭弁 答弁
幻想郷全域を襲った大地震の異変を突き止めるために動き出す。
天候は流星(りゅうせい)

《陰》
天候は幻日(げんじつ)

《陽》
天候は白虹(はっこう)


緋想天風に天候効果

・流星(気を抜いたら死ぬ程度の天気)
 上空から流れ星が降ってくる。当たるとスゲェ痛い。

・幻日(コンボしない程度の天気)
 全ての攻撃が相手を吹き飛ばす。

・白虹(射撃し放題な程度の天気)
 霊力ゲージが0でも射撃及び飛翔が使える。ガードクラッシュはする。

こんなん考えるのたのすぃ……って人は一定数居ると思うの。
居るでしょ?ねえ。分かって(必死)


感想とか評価とか色々……それらが私の力になるから。だからお願い、力を貸して!!
勿論借りた力は死ぬまで返さないけど。


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めでたしめでたしで終わらせろよぉ!

今年の抱負は週一更新でも目指しますか。(やるとは言ってない)


 さて、宴会は恙無く進行していった。

 

「詭弁さんは『デブ専』になったのでは!?」

 

「ンな事実1ミリもねえよ!!!誰情報だ!!!」

 

 無言で文々。新聞を見せる早苗ちゃん。あーはいはいなるほどねー。完全に理解したわ。

 

「ローストチキンにするぞ射命丸ぁ!!!!」

 

「真のマスメディアは暴力には屈しませんよ!」

 

「おーい伊吹萃香ー、ここにお前の嫌う『嘘つき』が居るぞー」

 

「鬼を呼ぶのは反則でしょう!!?」

 

 ぬわぁぁぁ、と汚い叫び声をあげながらドナドナされていく射命丸。引き摺られていく先に何故か複数人待ち構えているが、まあ大したことではないだろう。

 

「詭弁」

 

 それはそれとしてさっきから凄い殺気を感じる(激ウマギャグ)

 

「詭弁」

 

「んにぃ、聞こえてるって!だからその大麻(おおぬさ)でペチペチしてくるの止めぇ!」

 

 何故かこの前よりも血色が良くふくよかに見える霊夢ちゃんを宥めつつ、同じようにふくよかに見える早苗ちゃんと咲夜ちゃんと妖夢ちゃん、それと何時も通りの魔理沙に囲まれてる天子ちゃんを救出する。

 

「ふん!地上人の嫉妬は見苦しいわね!」

 

 やっぱ放置してても良かったかもしれない。

 

「それで、一体どんな魔法を使ったのよ」

 

「そ、そうです!あんな大量の脂肪が何処に消えたって言うんですか!というか詭弁さんはっ……うぅ、こんなことなら無理にお団子食べなければ良かった……」

 

「妖夢ちゃん?」

 

「なんでもないです!!!」

 

 大量の脂肪が何処に消えた、か。そんなこと決まっている。

 

「『肉体改造』は俺の特技!『詭弁式五指按摩術』に掛かれば()()()()()があっという間に理想的な()()()()()()の持ち主に変貌!僅か一週間足らずの施術で生まれ変わったかのような衝撃を貴方に!今なら施術費は通常価格から50%OFF!さあお腹周りが気になり始めた貴方!二の腕が弛んできた貴方!今すぐ財布を持って御依頼下さい!

 効 果 は 未 知 数 !!!」

 

「宣伝してんじゃねぇぜ」

 

 スパァンと頭を叩かれる。暴力は良くないなぁ!

 

「んにぃ……ちょっとした冗談じゃないか。とはいっても半分以上は本当なんだけど」

 

「何?という事は本当に按摩を施しただけだというの?」

 

「まさか。肉体()()は伊達じゃない。按摩は勿論、あらゆる手を施して天子ちゃんの脂肪を落としたさ。ねー天子ちゃん!」

 

「……えぇ、そうね……」

 

 一瞬で目が乾いていく天子ちゃん。

 

「脂肪ってのは要するに油だ。『熱して溶かして排出する』のが一番早く効果が出るってもんだ。体温を上げる為に()()()()香辛料を飲んでもらったり白湯を飲んでもらったりしてから施術をしただけさ」

 

「詭弁、一般的に『キログラム』単位の量を()()()()とは言わないのよ……」

 

「脂肪を()()()()()ように魔法を掛けながら()()()()()()()()()とどうしても汗が出て身体から水分が失われてくからな。生命維持には必要な事だ」

 

「生命維持に必要な水分補給の際に白湯(煮え湯)を飲まされて命の危機を感じたわよ詭弁……」

 

「そうして身体に付いた不要な脂肪分を片っ端から落とし続ける事五日!あの巨体がここまでスッキリと変化する事に成功した!」

 

「寝る間と食事の間、トイレの間以外の時間はず~っと身体の外側から灼ける様な熱と共に詭弁の殴打にも似た按摩が施され、ず~っと身体の内側から燃え盛る様な熱に蝕まれて全身から油を搾り出され続け……ねえ知ってた?トイレの水をいくら流しても、()()は浮いてくるのよ?」

 

「詭弁、もういい……もう止めろ……お前幾ら幻想郷を滅茶苦茶にした犯人相手だからってやって良い事と悪い事があるぜ……」

 

「しょうがないだろ。なんせ皮膚が硬すぎて普通の按摩術じゃ手の施しようがない上に、普通の運動で痩せようにも()()の身体が丈夫すぎるせいか多少の負荷程度じゃダイエットにもなりゃしない。一日が24時間じゃ何ヵ月必要か分からんよ。それに何としてでも一週間で通常の体重まで落とす必要があったからな」

 

「あん?なんで一週間なんて期限―――」

 

「ちょっと待ちなさい。つまり詭弁、貴方……相手が『天人の様な丈夫すぎる身体の持ち主』じゃなかったらもっと普通に脂肪を落とす事が出来る、という事かしら?」

 

「そりゃ勿論。天子ちゃんは例外も例外なアレだったから()()無理したけど」

 

()()で『多少』……?」

 

 基本的に体温を上げさせて按摩を施す事で、余分な脂肪をこそぎ落としながら内臓機能を活発にさせるだけである。それだけで基礎代謝が上がり、脂肪が付きにくくなる身体に『肉体改造』が出来る。その上で気になる部位を指圧や微弱な電流で刺激する事で骨格や筋肉レベルで矯正する事が可能だ。『体重はそうでもないのに太って見える』というヤツは大抵骨格が歪んでるか筋肉量が不足してるかのどちらかだからな。

 

「故にそれこそ胸に脂肪を残したまま腹回り腰回り、二の腕や太もものたるみを抑えたりする事なんて造作も無い訳だ」

 

「お前が何を目指してるのかもうよく分からんぜ」

 

「んなモン決まってるだろ。『施術』と称して女の子の身体を触り放題!やっぱ俺って天才かよ!」

 

「(それで本当に『肉体改造』レベルの按摩術持ってるとかどうかしてるぜ)」

 

 八雲紫が外の世界から持って来たという()()()()()()()なる酒を飲み干す。うむ、旨い水だ。

 

「ほら、パッと見みんなもなんか()()()()みたいだし俺がいっちょ()()()―――ゴハァッ!!」

 

「別に太ってないわよ!!」

 

「し、失礼ですね詭弁さん!!」

 

「私も太ってないわ……けど、最近仕事が増えて肩が凝ってきたみたいだし按摩を受けるのも悪くないわね」

 

「なっ、わ、私だってここのところずっと重い刀を振り続けてきたので肩とか腰とか痛みだしてますし!」

 

「なにを張り合ってんだお前ら……太ってきたのは事実だろ?認めちまえよ」

 

「だから別に太ってないわよ魔理沙!!!」

 

 霊夢ちゃんによる拳の一撃が脳を揺らし、酒の酔いとの相乗効果によりもの凄いクラックラになった(語彙消失)。

 

「ちょっと大丈夫?」

 

「うーんダメかも分からん」

 

 そのまま天子ちゃんの膝に頭を軟着陸。太ももが柔らかくて良いぞ。

 

「ちょっと」

 

「あら、何か文句でもあるのかしら?()()()()()()()この程度の触れ合いなんて当たり前じゃない?」

 

「「「 …… 」」」

 

 空気が急激に冷えてきた気がする。全く誰だよ博麗神社周辺から春度を奪ってった奴は!

 

「……一度は負けた身ですが、今なら空気ごと貴方を斬り捨てる事が出来そうですね」

 

「お嬢様は天人の血を気に入るかしら」

 

()()()()()で嫉妬するなんてお可愛いこと!大汗かいて同じ布団に寝たって聞いたらどういう顔をしてくれるのかしら!」

 

「男女が二人同じ布団で寝る。もうこれは実質セッ○スと言っても過言じゃないよね!」

 

 

「は?」

 

 

 霊夢ちゃんから『黒』が噴出した気がするが気のせいだ。気のせいだってば。

 

「いや、その、違うんですよ。天子ちゃんの脂肪を落とすために朝起きて夜寝るまでの間ほぼずっと魔法を使いながら施術を行ってた訳で寝る時も半ば意識を失うような感じでホントに何もしてないと言いますか実質セッ○スは言いすぎでしたねはははお”あ”あ”あ”ア”ア”ッ!!!?」

 

 霊夢ちゃんによるアイアンクローが俺の頭に突き刺さる。骨が!骨が歪む!

 

「ああ、そういえば()とか何とか言ってたわねコイツ。そこんところはどうなの詭弁」

 

「あ”ァ”っががガガガッ!!!?割れぅ!あたまわれぅ!」

 

「 ど う な の ? 」

 

「『まだ』っ!一応まだだし()()()()()もしてないけど実質的に結婚してるようなモンです!事実婚!」

 

「…………ふーん、そう」

 

 ようやく解放され地面に崩れ落ちる。大丈夫?頭に穴開いてない?

 カシュッ!

 と爽やかな音が鳴ったと思ったら霊夢ちゃんが地面に崩れている俺の鼻をつまみ口に何かを押し込む。

 

「おっごボボボボボ!!?」

 

 口の中に冷たい液体が流れ込み、窒息死しかける。鼻がつままれているので呼吸が出来ず、空気を求めて冷たい液体を飲み干す。

 

「ゲホッ、ゲホッ、霊夢ちゃん何を―――」

 

 カシュッ!

 

「ちょ、まごボボボボボ!!」

 

 再び口内に冷たい液体が流れ込み、再度窒息死しかける。

 

「ゲホッ、うっ……ゴホッ、れ、霊夢ちゃ」

 

 カシュッ!

 

「止めボボボボボ!!」

 

 再度窒息死しかける。

 カシュッ!

 

「死ぬぅ!」

 

 再度窒息死しかける。

 カシュッ!

 

「っ!っ!」

 

 カシュッ!

 

 カシュッ!

 

 カシュッ!

 

 

 

 気が付けば辺りに大量に転がる『アルコール分9%』と書かれた空き缶。そして口からキラキラした虹色の何らかを垂れ流す詭弁。

 

「わーたいへん、詭弁がのみすぎてたおれちゃったわー。神社の中で安静にさせないとー」

 

凄い棒読み!!?霊夢さん貴方そういうキャラじゃなかったでしたよね!?」

 

「……はっ!?目の前で行われた衝撃的な犯行のあまり放心しちゃったわ!ちょっと巫女!アンタ私の夫にベタベタ触るんじゃ―――」

 

 ヒュッ

 パギョッ!

 

 霊夢の腕がブレ、何かが風を切る様な音が聞こえたかと思えば、ほぼ同時に()()が砕け折れる音と共に仰向けに倒れる天子。

 

「魔理沙、ソイツどっか邪魔にならないところに転がしておいて」

 

「おっ!?おうっ!?」

 

 そう言って霊夢は倒れてぐったりとしてる詭弁を抱き上げ、神社の中に運んで行く。

 

「ああ、そうそう―――」

 

 その声は静かな声だったにもかかわらず、一連の流れを遠くから見ていた妖怪達にも聞こえるような不思議な声量だった。

 

 

 

 

 

「―――邪魔したヤツは 殺す 

 

 

 

 

 

 そうして詭弁を抱えたまま部屋に入って障子を閉める霊夢。ピシッと張り詰めた様な音が鳴り響き、部屋に強固な結界が張られたのが外から見ても理解できた。

 静まり返る博麗神社境内。

 

「き……詭弁がついに霊夢に食われたわ……」

 

 ボソッとつぶやく吸血鬼。

 中で()()が行われているのかは伺う事が出来ないが、その場に居る者達の殆どは()()()()予想が付いていた。

 

「い、異変解決の宴会ってこんなんだったか……?」

 

 魔理沙の独り言は空中に消えていった。




霊夢「…………タたないわね」


・『詭弁式五指按摩術』
 詭弁式指圧術の更にその先の技術である肉体改造術。『回復魔法』を掛けながらあらゆる魔法と共に施術する事で、肉体の破壊と創造を繰り返す。すぐに治るとは言え一度身体が壊されるので、もの凄く痛い。とっても痛い。泣く程痛い。だが痛み無くして改革は無いのだ。

《身体に蓄積した醜い脂肪を落としたい?もっとムキムキマッチョになってモテたい?そんなときは俺にお任せ!一週間程度通うだけで理想の自分に変貌!まるで生まれ変わったかのような衝撃を保証します!さあ、大金を持って今すぐご依頼を!》 -人里掲示板の張り紙広告

「コレ本当に効くのか?」 -霧雨魔法店店主

「勿論効果は保証するぞ。どんな身体の悩みでも俺に任せろ。まあ、()()()()()()というより()()()()()()()()()()()()()を受けるのは間違いないけど。まあ俺も自分自身に施術して通った道だし、まず死にはしないさ。……多分な」 -春色の便利屋


さてさて、遂に行く所まで来てしまった感あるけどこの先詭弁はどうなるのか!まあ嫁は別に一人じゃなきゃいけないって法律は()()()()()無いからな!
次回『死亡確認!』お楽しみに!(大嘘)


感想、評価、ここすき等ヨロシクな!それら次第で作者のやる気が凄い事になってダークネスの方も凄い事になるかもしれないぞ!
えっ、見たくない?はははまたまた御冗談を。

感想書くよね?


書くよね?



ねっ?









ねえ












書け



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結婚式ですよぅぐッ……!

詭弁、例え無意識でも相変わらず()()()()()()()にヘタレるもよう。脱童貞は何時になることやら。


 宴会から明けて翌日、いまだに結界の施された部屋にこもっている霊夢の様子を確認するために、八雲紫は結界破りを試みていた。

 

「これはただ霊夢が心配なだけで出歯亀とかそういうのじゃないから」

 

「誰に向けて言ってるの?」

 

 ふんふふーん、と鼻歌交じりに強固な結界を解いていく八雲紫を呆れた目で見ている幽々子。

 

「ん~……霊夢の結界術の上達を褒めれば良いのか、こんな事で本気出す霊夢を叱れば良いのか悩むわねぇ……よし、ようやく結界が解けたわ」

 

 パシッと渇いた音が響いた直後、内側から障子が開けられ中から霊夢が現れた。

 

「あっ……は、はぁい♥️いつもニコニコ貴方のそばに這い寄るゆかりん―――」

 

「夢想天生(拳)」

 

「ふィぎゅっ」

 

「ゆ、紫ぃー!!!?」

 

 謎の遺言を残し幻想郷の空を高速で吹っ飛んでいく八雲紫に、思わず手を伸ばす幽々子。そしてキシッ……と床板が鳴る音で、自身の未来を予知した。

 

「ち、違うのよ霊夢!私は紫を止めようとしたのよ!本当よ!」

 

「……」

 

 キシッ……

 

「わた、私の静止を無視して紫が勝手に!私止めたもん!止めたもん!」

 

 キシッ……

 

「だからねっ、ねっ!その拳を一旦下ろしましょっ!そういうのって詭弁の役割でしょっ!ねっ!」

 

 キシッ……

 

「やだー!やだー!!!」

 

「夢想封印(拳)」

 

「ぴぎュっ」

 

 その日、亡霊は空を飛んだ。『あぁ、成仏ってこんな感じなのかしら……』と考えながら、空を飛んだ。

 

 

 

「うぅ~ん……騒がしいな……ん?霊夢、出てきたのか……って臭っ!?」

 

「……魔理沙、ちょっとお風呂に入ってくるわ……」

 

「お、おう、是非とも入ってこい……詭弁は大丈夫か……?」

 

 魔理沙が件の部屋を覗くと、床一面に虹色にキラキラ光る正体不明(モザイク状)のモノが撒き散らされていた。

 

「臭っ!?ゲロ臭ッッ!!!?……うっ、」

 

 魔理沙もキラキラ虹色に光る正体不明(モザイク状)のモノを吐き出す為にトイレに駆け込んだ。

 

 

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

 

「目が覚めたら服が変わってるって結構ホラーだと思うの」

 

「知らないわよ」

 

 天子ちゃんの膝枕を堪能してた所からぷっつりと記憶が飛んで、気が付いたら日が昇りきっているのが見えたし気が付いたら服が変わってた。それに頭が割れるように痛いしお腹の中がぐるんぐるん回ってるような感じがして非常に気持ち悪い。

 そうして腹の不快感と戦ってると朝食(時間的には昼食)が出来たらしく、霊夢ちゃんが呼びに来て今に至る。

 

「いただきます」

 

 霊夢ちゃんの作る料理は質素ながらも美味しいなぁ!ぐるんぐるん回ってる胃に優しく染み渡る……ううむ、昨日はそんな飲んだ記憶が無いんだがなぁ……外の世界の酒は悪酔いしやすいのかも知れん。

 そうしてモソモソ飯を食べてると、不意に霊夢ちゃんから声を掛けられる。

 

「それで、詭弁はこの後どうするつもりなのかしら」

 

「んにぃ~……まぁ家に帰って()の準備かなぁ」

 

「……式?」

 

「ありゃ、言ってなかったっけ。だいぶ経って里の皆も落ち着いてきたし、異変解決の宴会以外にもここいらで一つ『目出度い事』でもやって皆の気を盛り上げようかと」

 

「……なにを、する気なのかしら」

 

「んなもん決まってるでしょ―――

 

 

 

 ―――()()()だよ」

 

 

 

 結婚(けっこん)とは、夫婦になること。婚姻(こんいん)とは、『結婚すること』『夫婦となること』『社会的に承認された夫と妻の結合』である。『婚姻』は配偶関係の締結のほか配偶関係の状態をも含めて指している。

 そういう意味では俺と天子ちゃんは()()『婚姻』してないことになる。近い言い方をすれば『同棲』だろうか。とは言っても『同棲』を始めてまだ一週間弱。それも肉体改造の為に朝から晩まで延々汗水垂らしまくってただけだ。()()()()()()()なんてモンじゃないくらいお互いに触れ合っていたが、少なくとも色味のある生活ではなかったことは確かである。

 だが、それもこれまで。天子ちゃんの肉体改造も終わり、後は()()()()()()()が始まる。同じ食卓で向かい合って食べる食事。一緒に入るお風呂。そして夜は……むふっ。

 …………いやまあ、流石にそれは早すぎか。

 とまあ、実質的には結婚してるようなものなのだが世間的にはまだ結婚してないことになっているのが俺と天子ちゃんとの関係だ。そこで一つ大々的に『結婚式』を挙げる事で、名実共に婚姻関係を結ぶ事が出来る。

 

 ……って()()()()が言ってた!

 難しい事はよく分からんが、名居さん含めた複数の天人達が結婚式場の準備とか諸々を進めているらしい。俺がやる事と言ったら、名居さんが言ってた『白のタキシード』を用意するくらいだ。……結婚式と言ったら紋付羽織袴じゃないのか?

 

「そういう訳でアリスちゃんに『白のタキシード』を作ってもらおうかと」

 

「…………いつ、結婚式を挙げるつもり?」

 

「そうだなぁ、今天人達が立派な式場を建ててる。天子ちゃんのウエディングドレスも作ってるらしいし、俺のタキシードも作って……だいたい一週間前後ってところかな」

 

「一週間……ね。何処で行うの?」

 

「んぃ。隕石が落ちた『何もない丘』の辺りだよ。あそこなら里からも近いし、今は本当に()()()()から丁度良いし」

 

「……そう」

 

 それから霊夢ちゃんは黙ったまま食事を終えた。ふむん?なんだったんだろうか。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「ってなわけで白タキシードを作ってアリスちゃん!」

 

「……何でアンタの結婚式衣装を私が作らなきゃいけないのよ(私が花嫁ならともかく)」

 

「えぇ?だってアリスちゃんなら白タキシードって何か知ってそうだし」

 

「それはどういう意味かしら。とにかく()()作らないからッ!」

 

「ええ!?な、何をそんな怒ってるん……?」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 さてさてそんな訳であっという間に一週間が経った。天気は快晴、気候も少しだけ暖かくなって良い感じ。結局白タキシードは呉服屋で何とか作ってもらった。結婚式場は広く、多くの人妖が集まって俺達を祝ってくれる―――

 

 

「さァー始まりました『()()()()()()()()()』!優勝者は()()詭弁と結婚する権利が与えられます!」

 

「くくく……司会実況は人里の呉服屋にして優勝賞品である詭弁の一番の親友『五福助兵衛』。解説はこの我、天人である『名居守天蓋』でお送りしよう」

 

 なんだこれ。

 

 いやなんだよこれ。

 

 天子ちゃんとの結婚式ぃー!と意気揚々に現地に向かってみれば名居守による無言の腹パンが待っていて、一瞬意識が飛んだ瞬間に『天界の秘宝』とやらの力によって完全拘束。なんか凄い豪勢な椅子の上にふん縛られている今日この頃なんですけどー。

 そして俺を拘束している『天界の秘宝』……これまた何故か居た霖ちゃんによれば、名を『蒼穹の大枷』と言うらしく、大空が大地から離れすぎないように留めておくための拘束具らしい。ンなもん人に使うなよ。だがその力は本物らしく、一切の気・魔・霊力が身の外に出る気配が無い程に完全に拘束されている。

 

規則(ルール)は単純!()()()()()()()()()()()()!!ただし『殺し』はご法度だぜ!飛び入り参加大歓迎!武術、妖術、弾幕、何でもござれ!ド派手に大暴れしろォい!!」

 

「くく……幻想郷において、我こそが『最強』の座(詭弁の嫁)にふさわしい、と思う奴はあらゆる障害を薙ぎ倒して征くがよい……」

 

 今明らかに『最強の座』って書いて違う読み方したよな。

 おかしい。妙だぞ。どうしてこうなった。俺は……俺はただ皆の溜まりに溜まった鬱屈を少しでも晴らせればと思って……。

 

 さながらコロッセオのように、隕石が落ちた為にすり鉢状に抉れた大地を囲うように大きな建造物が建ち、その中心に二人の少女が立っている。一人は長い青髪の少女、比那名居天子。もう一人は氷の妖精、チルノ。

 

「詭弁との結婚式だって思って楽しみにしてたのに……ちょっとキツいウエディングドレスも頑張って着たのに……」

 

「なんかよく分からないけど、アンタを倒せばアタイがサイキョーだって認められるのね!」

 

 チルノは()()()に座ってる俺に向かって笑顔でVサインを送ってくる。

 

「見てなさい詭弁!()()()()()()()()()がついでにアンタを貰ってってあげるわ!」

 

「……妖精の癖に、私に勝つつもりかしら……?」

 

「おおっと!試合開始の鐘はまだ鳴っていないが、両者共に戦気万全!だがまだ選手紹介もまだ終わってないからおっぱじめないでくれよー!」

 

「くく……元々長い青髪のじゃじゃ馬娘、比那名居天子は詭弁との結婚式を行うつもりで来ていたからな。だが安心しろ、無事に参加者全員叩きのめせば晴れてお前達は夫婦となる」

 

「ふざけんじゃないわよクソジジイ!!!サイコロ状に加工してやるわ!!!」

 

「さてもう一方!比那名居天子に相対するは氷の妖精チルノ!!」

 

「『妖精』という種族は本来、弱く儚い存在。だが、今()()()は例の隕石による影響か、普段以上の力を妖精に与えているようだ。具体的に言えば妖精達はかなり丈夫になり、その身に秘めた力を最大限に活用する事が出来るだろう。特に妖精としては破格の強さを持つという『氷の妖精』はその恩恵が顕著に現れるだろう。くく……妖精と侮ると痛い目を見るかもな……」

 

「なるほど!その辺に居たヤツを適当に連れてきた訳では無かったんですね!さあ、試合は間もなく開催しますが未だに選手は二人だけ!これではぶっちゃけ企画倒れになってしまいますが!!」

 

「案ずるな。もう間もなく……来たか」

 

 コロッセオの壁を飛んで、中央の舞台に舞い降りる銀・紅・白の影。

 

「「「 その結婚、ちょっと待った!!! 」」」

 

「何奴!?」

 

「詭弁さん!愛というのは時間を掛けて育むモノ……それをこんなぽっと出の女性に捧げるのは間違ってます!」

 

「わ、私の方が詭弁さんをもっと幸せに出来ますよっ!」

 

「詭弁お前……約束っ!忘れたとは言わせないからなっ!!」

 

「おお~っと!ここで飛び入り参加してきたのは冥界からの来訪者『魂魄妖夢』!吸血鬼の先兵『紅美鈴』!更に竹林の案内人『藤原妹紅』だぁぁぁ!!!」

 

「くく……皆粒揃いの実力者……()()()が盛り上がる事は間違いないだろう……!」

 

 堂々と飛び込んできた妖夢ちゃん、メイちゃん、妹紅先生。だが、まるで飛び込んでくる場所を間違えたのかとでも言いそうな表情を浮かべる。

 

「……あれ?詭弁さんの結婚式会場って、此処であってますよね?」

 

「えー、と?き、詭弁さん?なんでそんな所で、しかも厳重に縛られてるんです?」

 

「おい、詭弁……説明しろ」

 

「俺が知りたいわ!!!」

 

「さあ人数が揃った!今この場に居る参加者全員で戦い、最後まで残っていた奴に『幻想郷最強』の称号と共に詭弁と結婚できる権利が与えられます!この後から飛び入りで参加してくる者を含め、全てを薙ぎ倒して栄光を掴めェ!!!」

 

「くく……機を見て飛び入り参加するのも良いが、()()()()()になった時点で試合は終了。既に居る者は連戦の不利があるだろうが、後から飛び入り参加する者は()()()()()()()()()()()()()リスクがある。さあ競え!争え!『幻想郷最強』の称号(詭弁の正妻の座)は一つしか無いぞ!」

 

「それではこれより()()()()()()()()()を始めさせて頂きます!美しき少女達によるキャットファイト&ドッグファイトを御覧じろ!レディぃぃぃ……ファイトッ!!!

 

 だから、もう……ちゃんと!しっかり!!説明しろよォ!!!

 




今日はここまで。


次回予告!

 名居守の暗躍により何故か突然始まった、最強を決める幻想郷式コロシアム!
 しかもその噂を聞いた人妖達が次々とコロッセオの中に飛び込んでくる!風のように広まる噂は留まる事を知らず地底世界にも広がって……!?
 最後に立っていた奴が詭弁と結婚できるというとんでもないルールに詭弁LOVE勢が黙ってる訳ないだろいい加減にしろ!

 次回!『結婚には多くの困難が立ちはだかるとは言え限度ってモンがあるだろ!!』
 優勝賞品は詭弁の貞操。お楽しみに!


あっ、好きなキャラの好きな所を感想に書くと勝率が上がるってけーねが言ってたウサ。
一言付き高評価だともっと勝率上がるって言ってたウサ。


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結婚には多くの困難が立ちはだかるとは言え限度ってモンがあるだろ!!

前回の投稿後、スマホの充電部がお亡くなりになってしまった為に執筆速度低下のデバフを受けました。悲しい。
直置きタイプのワイヤレス充電器買いました。安かったです。
使ってみまし……充電出来ねぇぞオラァン!!?


 試合開始の鐘が会場に響き渡った瞬間、天子ちゃんは妖夢ちゃんに飛び込むように斬りかかっていく。

 

「もう!要は片っ端からブッ倒していけばいいんでしょ!あのクソジジイ後でバラバラに引き裂いてやる!」

 

「ッッッ!痩せてもその疾さは変わらないみたいね!」

 

「脂肪と一緒に筋肉もちょっと落ちたけど、軽くなって差し引きゼロよ!」

 

 緋想の剣と楼観剣が火花を散らしながらぶつかり合う。

 そして上空では極彩色の弾幕と炎、氷が激しく舞い踊っていた。

 

「なんかよく分からないけど邪魔するんなら容赦しないぞ!」

 

「それはコッチのセリフです!詭弁さんは私が……!」

 

「最強はあたいよ!凍符―――『パーフェクトフリーズ』!!!

 

 チルノが上空でスペルカードを切った。その、瞬間。

 極彩色の弾幕が。

 炎の弾幕が。

 地上で斬り結ぶ剣同士から放たれる火花までもが。

 

 全てが凍りついた。

 

「な、なァんとォォォ!!?空を埋める弾幕が全て凍りついてしまったァ!!!」

 

「ふむ……隕石による妖精の強化は本当にバカには出来ない様だ。実に見事で美しい光景だ」

 

「つっ、冷たいッ!クソッ、妖精のクセに()()()()()まで凍らそうとしてくるなんてねっ!」

 

「あのチルノがこんなにも……舐めてた訳じゃないけど、より一層気を引き締めなくちゃ……!」

 

 

 

「あ、あたいこんな事出来たんだ……」

 

 

 

「氷の妖精自身も予想外だったァ!?」

 

「まぁ、突如得た力なんてそんなモノだ。この場所限定ながらも強力な力を、墜とされる前に使いこなせれば勝利も難くないだろう」

 

「ふ、フフン!どーよ詭弁!あたいはやっぱりサイキョーねっ!」

 

 炎すら凍てつく極寒の中、元気そうに弾幕を撒き散らすチルノ。でも気付いてほしい。さっきから冷気を纏った弾幕がビシビシ俺に当たってるのよ。

 

「詭弁、『蒼穹の大枷』には多少の攻撃を弾き返す程度の結界を張る力を持ってるから、安心して観戦すると良い」

 

「じゃあ俺と場所代わるかァ!!?」

 

 安心しろと霖ちゃんは言うが、目の前で弾けていく弾幕を見てると不安しかない。これ絶対いつか結界壊れて酷い目に合う奴やん……。

 

「不死鳥を舐めるなッ!『火の鳥 ―不死伝説―』!!!」

 

「おおっと!?藤原妹紅、更に燃え盛る業火で凍った弾幕ごと焼き払っていくゥ!!!」

 

「くく……流石に氷の妖精と言えども炎には敵わないか?」

 

「わわっ!?ま、まずい避けッ―――」

 

 

 ―――――冬符「ノーザンウイナー」

 

 

 突如コロッセオ内に吹き荒れる凍てついた風。凍える風は燃え盛る業火を再び鎮火させ、暴れまわる。

 

「ちょっとちょっとー、楽しそうな事してるじゃないの。私も混ぜてー?」

 

「な、なんと!!ここでまさかの冬妖怪レティ・ホワイトロックが乱入してきたァ!!!」

 

「レティ!!」

 

「こんにちわチルノ、あんまりにも情けない姿だったからつい手を出しちゃったわ。……さあ、冬の恐ろしさを思い知らせてあげましょう。合わせなさいチルノ」

 

「うん!」

 

 ―――厳冬『コールドスナップアクトレス』

 

 弾幕全てが凍り付き、地面に霜が降りる程に冷たい空気に包まれた。更に吹き荒れる寒波によって体温が容赦なく奪われ続け、飛ぶ速度にすら影響を及ぼす。

 吹き荒れる風と共に舞い散る雪と霰の弾幕に、舞台の上にいる参加者は延々と削られ続け―――

 

 ―――『全人類の緋想天』

 

 紅いレーザーによって、レティ・チルノコンビはあっという間に薙ぎ払われた。

 

「くっ……こんな早く切り札を使う事になるなんて……!」

 

 身体中に霜をくっつけたまま緋想の剣を振りかざす天子ちゃん。緋想の剣は前に見た時よりも、その色がくすんで見えた。

 

「比那名居天子、満を持して登場した冬妖怪と氷の妖精を纏めて倒したァ!」

 

「だがその代償は少なくない。あの技は『緋想の剣』に溜まった()()を放つ技故に連発する事が出来ないからな……」

 

「あの()()()を倒してくれてありがとうございます。お礼に私が痛みを無くして貴方を倒してあげましょう!」

 

 ―――華符『彩光蓮華輝掌』

 

 技を放った後隙を逃す事無く、メイちゃんが両手に輝く気を携えて天子ちゃんに突進。その両手で天子ちゃんとすれ違いざまに猛連撃を与え、気を炸裂させた。容赦ねえ。

 しかしその直後に猛火の弾幕がメイちゃんに降り注ぐ。

 

()()()()程度に燃やしてやる!」

 

 だが猛火はメイちゃんに届くことは無かった。メイちゃんに当たる寸前に、空から大量の水の弾幕が降り注いで猛火を飲み込んでしまった。

 

 ―――水符『ベリーインレイク』

 ―――幻幽『ジャック・ザ・ルドビレ』

 

 更に降りそそぐ大量のナイフ弾幕が妹紅先生に突き刺さり、その身を紅く染め上げる。

 

 ―――『リザレクション』

 

「痛ったいなぁ!死ななくても死ぬほど痛いモンは痛いんだからな!」

 

「蓬莱人の血……お嬢様はお飲みになるかしら?」

 

「ケホッ……全く、随分と愉快な催し物やってるみたいね」

 

「パチュリー様!?咲夜さん!?どうしてここに!?」

 

「……別に、幻想郷最強の称号が欲しくて来ただけよ」

 

 空からパチュリーちゃんと咲夜ちゃんが降りてきて辺りを睨むように牽制する。

 

「美鈴、邪魔な奴らを倒しきるまで手を組みましょう。個々で戦い続けるよりか早く終わるわ」

 

「……いくらパチュリー様とはいえ、()()は譲りませんから」

 

「上等。色々終わってから改めて叩き潰してあげるわ」

 

「……美鈴」

 

「咲夜さん。咲夜さんにも負けませんよ」

 

「精々それまでに潰れないでよね」

 

「これはまさかの『チーミング』!!?残虐非道のバトルロワイアルにあるまじき行為!!動かない大図書館パチュリー・ノーレッジ!紅魔のメイド長十六夜咲夜!そこに紅美鈴が加わって紅魔館勢が大暴れだァ!!!」

 

「くくっ……だが勿論これは規則の範囲内。さあ、個々人が個性的な実力者が組んでの大暴れに、他の参加者は如何にして抗う?」

 

 ナイフ、光弾、レーザー、数多の弾幕が参加者達を蹂躙していき、次々と落としていく。だが地に着いても尚皆の目は諦めの色を見せない。体力の有る限り挑み続ける。

 

 ―――魔砲『ファイナルマスタースパーク』

 

 直後、回避不可能な程極太のレーザーが上空から全てを叩き潰すかのように降り注ぎ、空を飛んでいた者達……紅魔館勢含めて全てを焼き落とした。

 

「お前ら、楽しそうだな。わたしも混ぜろよ」

 

 空から箒に立ち乗りしながら現れたのは白黒の魔女。

 

「ここで大胆不敵に現れたのは普通の魔法使い霧雨魔理沙!数多の異変に立ち向かったその実力は並み居る人妖を薙ぎ払うに相応しィィィ!!!」

 

「ま、魔理沙!?なんで!?」

 

「あー?何でも何も、『幻想郷最強』を決めるんだろ?私が居ないのに勝手に決められちゃたまったモンじゃないぜ!」

 

「私も居るわよ」

 

 ―――呪符『ストロードールカミカゼ』

 

 更にアリスちゃんの自機狙い弾幕が大量に放たれ、マスパを食らって地に這う者達を容赦なく狙撃していく。

 

「アリス!お前良いところを奪ってくんじゃない!」

 

「あら、弱った者を叩き潰すのに貴方の許可が必要?」

 

「更に現れたのは七色の人形遣いアリス・マーガトロイド!その知謀で勝利を掴む事が出来るか!!?」

 

 そして次から次へとコロッセオに飛び込んでくる人妖達。

 空間を割くように現れたのはすきま妖怪の式である藍ちゃんと橙。

 騒音を撒き散らしながら飛びこんできたプリズムリバー三姉妹。

 ミサイルと共に飛んできた河城にとりと文ちゃん。

 コロッセオの内側は正に混沌と評するに値する程の混乱に満ち満ちていた。

 

「暴れまわる光弾!!レーザーの嵐!!もはや唯人では立つ事もままならない大乱闘ッ!!!見よ!コレが幻想郷一のド派手な祭りだァァァ!!!」

 

「くくくくっ……!撃ち抜かれて地に墜ちた者も立ち上がる意志(残機)ある限り退場は無い!真の敗北とは諦める者の事だ!」

 

 まるで大量の火薬と花火が詰め込まれた蔵が爆発したかのような光の嵐は、確かに幻想郷一と呼ぶに相応しいド派手な光景だ。光の嵐の中を飛び交う少女達の表情は皆必死で、美しい。

 

「さあ行くわよ!《陽》と共に作り上げた私達の新作!」

 

「ハイテンションでおかしくなっても知らないわよ!」

 

「あまりの光景に言葉を失うかもね!」

 

 ―――『ダイクロイックプリズムフィルハーモニー』

 

「橙、我等は紫様の従者として情けない姿を見せてはならない。分かるね」

 

「はい藍さま!」

 

 ―――『アルティメット遁甲式Illusion』

 

「どいつもこいつも本当に好き勝手しやがって!」

 

 ―――『巨大幻想河童キャノン』

 

「あやややや、本来ならこのお祭り騒ぎを余す事無くカメラに収めたい所ですが……今日ばっかりは()()じゃいられないのよ!」

 

 ―――『葬送無双風神』

 

 超大技と呼ぶべき弾幕があちこちから放たれ、すり潰されないように意識を保っていなければあっという間に身体がバラバラになってしまうのではないかと言う程の暴虐が目の前に広がっていた。

 『無事』な者は誰も居らず、滅多な事では動かないパチュリーちゃんや()()魔理沙、藍ちゃんや文ちゃんと言った大妖怪も、蓬莱人である妹紅先生でさえ常に新たな傷を身体に刻まれ続けている。何が彼女たちをそこまで駆り立てるのか。

 大量の弾幕が俺の目の前に張られた結界に弾けて、その残滓が流れ消える前に更に新たな弾幕が追加される。

 俺の視界には数多の弾幕に撃たれ、倒れて、それでも立ち上がり空に舞い上がる彼女達の姿がはっきりと見えていた。

 

「ンで……なんでそこまでして動けるんだ……」

 

「……それはきっと、キミ(詭弁)が今の今まで立ち上がり続けてきた理由と一緒だろう」

 

 俺の呟き声に霖ちゃんが反応する。

 

「キミが立ち上がり続けてきた理由、それは『欲』だ。過ぎた欲というものは得てして悪に落ちやすい。だが『何かを()する』というのは、あらゆる生き物の行動原理だ。『欲』が強いキミだからこそ、彼女達も感化されたんだろう」

 

「……どうかね。皆元々特に理由も無く大暴れしたがる事もあるだろうさ」

 

 正に()()()という言葉に相応しい程、目の前の光景は荒れに荒れていた。極太のレーザーが辺りを吹き飛ばしたと思えば、直後大量の光弾が飛び交い、巨大な氷塊が降り注いで来ると肝を冷やせばすぐさま業火が氷塊を飲み込む。言うなれば()()()()()だ。

 

「激しい弾幕の嵐によって突貫工事で作ったコロッセオが崩壊の危機!!?舞台全部ぶっ飛ばしてノーゲームは幾らなんでも最悪の終わり方だぞォ!!?」

 

 その時、空気の流れが変わった。

 

「総員射撃用意!撃て(てー)!!!」

 

 パパパパパァンと渇いた音がコロッセオ全体に鳴り響いた瞬間、空を飛んでいた人妖達全員が堕ちた。

 

「な、なんだァ!!?何が起こったァ!!?」

 

「……今のは、まさか……『銃撃』か!?」

 

「詭弁さん!色々言いたい事は有りますが……今はとりあえず全員ブッ○す

 

阿求嬢!!?なんかキャラ崩壊とかそう言うレベルじゃない程の暴言が御口から飛び出てらっしゃいますがァ!?」

 

 コロッセオの観客席から飛び越えて現れたのは、なんとまさかの稗田阿求嬢。ちょっと『おてんば』の域を飛び越え過ぎでは?

 

「こんな事もあろうかと密かに育成していた『稗田射撃部隊』。詭弁さんを除いた、里の退魔師達全てをかき集めて作った甲斐があるというモノです」

 

「ちょっと待って世界観ヤバない?」

 

 コロッセオの客席部から顔を覗かせる沢山の人間達。その数おおよそ20人。その全員が妖しく黒光りする鉄砲を担いで、コロッセオの内側に居る人妖達に狙いを定めている。

 

「ま、まさかまさかの此処に来て()()()()()()が乱入してきたァー!!!?稗田のお嬢様ァ!()()は絶対ダメですからねェー!!?」

 

「ええ分かってますよ。皆さんが担いでいる銃は()()()の麻酔銃ですから」

 

「くく……いくら幻想郷とは言え、20人近い人間達全員に扱えるだけの『銃』を用意するのも、十分な訓練が出来るだけの『弾』を用意するのも難しいだろう……稗田の財力、恐るべしと言ったところか……」

 

 阿求嬢の登場により、皆が倒れて勝負は一気に決まる……事も無く、ごく僅かな者達だけが阿求嬢達の銃撃に抵抗出来ていた。

 

「くっ……不覚を取りましたが、ここで貴方を討てば周りの者達も動揺するでしょう!覚悟!」

 

 妖夢ちゃんは自分に飛んでくる弾丸を全て斬り払いながら阿求嬢に高速で駆け出し、その刀の峰を阿求嬢に振り下ろす。

 

 キィン!!

 

「当然、私も対抗策無く()()()()に飛び込んできません!!」

 

「なっ、嘘ッ!!?」

 

 驚くべきことに、妖夢ちゃんの力強い振り下ろしに対して阿求嬢はその手に持った銃で()()()()()()()()()()()()()()()。阿求嬢は見た目の割には意外と力持ちだが、いくら何でも長く鍛え続けてきた妖夢ちゃんの一撃を受け止めるには力不足だ。だというのに実際はこの通り妖夢ちゃんの一撃をはじき返した。つまるところ考えられる原因は一つしか無い。

 

「阿求が持っているあの銃。銘は『黒きオオガラスの眼』と言い、扱う者に強靭な膂力と視力を与え、どんなに離れた物でも()()()()()()狙い撃つ事が出来る程度の火縄式の銃だ。そこには()()()()()()()の念がこもっていたが、阿求が買い取った後に慧音の能力と合わせて()()()()()()()の正体を明かし、その『名』を未来に残す事を約束する事で『真価』を発揮する事が出来たようだ。阿求が20人近い人達に『銃』と『弾』を用意したのも、その力があってこそ……だ、そうだよ」

 

「なんてモンを阿求嬢に売ってんだ霖ちゃんテメェこの野郎!?」

 

 いつぞや*1にチラッと出た伏線なんて誰が分かるんだいい加減にしろ!

 

「銃弾が効かないのなら……射撃部隊換装!捕獲網投射!!」

 

「っ!?あ、網ッ!!?」

 

 妖夢ちゃんに向かって幾つもの弾丸が撃ち込まれ、当たる直前に弾けて中身の網が飛び出して妖夢ちゃんを捕らえた。

 

()の強さとは『数』です!」

 

「いいや違うね。()()()()()ってのは、数すら打ち砕く『意志』だよ。なあ詭弁?」

 

 空気から滲み出るように伊吹萃香が現れた。

 

「鬼ッ!伝説に語られる百鬼夜行伊吹萃香が今此処に顕在した!!!」

 

「ふむ……噂ではかなりの祭り好きと聞いていたのだが……些か()()()()()()()()()気もするが……」

 

「ん?ああ……ちょっくら『古い仲間』を呼びに行っててね。……まあ、()()()()色々増えたが構わんだろ?」

 

 ひぅるるるるる……

 

 空から空気が割けるような音が響いて、()()()が降ってくるのが見えた。

 

 ズドンッ!!!

 

「っフゥー……萃香、此処が件の会場かい?」

 

「遅いぞ()()。さあ、存分に大暴れしようじゃないか!」

 

 舞台の中央に降って来たのは長い金髪の()()の鬼。特徴だった大きな盃を()()()、両手をパキパキ鳴らしながら立ち上がる。

 

「だ、誰だァ!!?突如空から降って来たのは金髪美女!まさか詭弁はまだ知られていない相手にもコナをかけまくっているのか!!?」

 

「あれは……恐らく伊吹萃香と同じ鬼……だろうか?にしては特徴的な『角』が見当たらないが……」

 

「アタシの名は『星熊勇儀』。詭弁を攫いに来た()さ!」

 

「鬼……ッ!ですが、鍛え上げた『稗田射撃部隊』の敵ではありません!総員射撃用意!撃て(てー)!!!」

 

 阿求嬢の掛け声に合わせて、数多の銃弾が伊吹萃香と星熊勇儀に当たる。だが、弾丸は彼女達の皮膚を一切傷つける事は無かった。

 

「どうした?そんな豆鉄砲でこの私を倒せるとでも?」

 

「アタシに立ち向かった気概()()は認めてやる!だが……うっとおしい!!」

 

 星熊勇儀が派手に現れた際に砕けた舞台の欠片の岩を纏めて掴みとり、客席に隠れている射撃部隊に向けて的確に投げて打ち倒していく。

 

「そ、そんな……くっ、ならっ!『黒きオオガラスの眼』よ、我が敵を撃ち抜け!!」

 

 阿求嬢がその身に似合わぬ程の長さの銃を取りまわし、星熊勇儀に向けてその引き金を引いた。

 

 ガォンッ!!!

 

 とても火薬が炸裂した音には聞こえない様な爆発音が鳴り響いたとほぼ同時に、星熊勇儀の身体がすっ飛んでいった。

 

「うおおおおお!!!?稗田のお嬢様が()()鬼を討伐したかァ!!!??」

 

「はっ、はっ……ど、どうですこの威力ッ!!私だって……詭弁さんと肩を並べて戦えますッ!!!」

 

「……おいおい、ちょっと油断し過ぎじゃないのか勇儀?」

 

「痛っつつ……確かにちょっと油断してたけど、コレくらい大したことないさ」

 

 すっ飛んでコロッセオの壁に大穴を開けた星熊勇儀だが、ケロッとした表情で再び舞台に戻ってくる。

 

「なっ、そんな……傷一つ無いなんて……」

 

「ははっ、中々やるみたいだが……お前の()()は所詮ただの()()()()()に過ぎやしない。詭弁は違う……力、技術、策、道具、様々なモノをかき集めて、纏めて、積み重ねて……そうして得た()()は『厚み』が違うのさ」

 

「随分べた惚れじゃないか勇儀」

 

「萃香も詭弁に角折られてみるか?なんつーか、見る景色が一気に変わった気がするぞ?」

 

「そうだねぇ……()()も良いかも、ね」

 

 そう言って粘着質な視線を俺に投げかける伊吹萃香。おい止めろ俺は無駄に命を懸けた戦いなんぞしたくない。お前のターンはだいぶ前に過ぎただろいい加減にしろ!

 

「さて、邪魔する奴をとっとと排除して詭弁を地底に連れて帰らなきゃな―――うおっ!!?

 

 直後、空からとんでもない程に高出力のレーザーが降り注ぎ、地面ごと星熊勇儀と伊吹萃香を()()()

 空には、優雅に降りてくる幽香ちゃんの姿が見えた。

 

「ここにきて最強最悪!四季のフラワーマスターにしてだいたい週一間隔で詭弁を半殺しにするヤベー奴の風見幽香が現れたァ!!!」

 

「くく……妖怪としての強さが純粋に強い奴だ。弱点らしい弱点もなく、『畏れ』というモノを形にすればああなるように思える程妖怪らしい妖怪だろう」

 

「こんな楽しそうな催し物なのに、私に招待状が来てないなんて可笑しな話じゃない?ねえ、詭弁?

 

「待って俺コレ今日聞いたばかりな上()()()()()で言われても困るッ!?」

 

 鬼二人と幽香ちゃんの取っ組み合いが始まる……と思ったら、空から大量のお札が降り注いできた。空を見上げれば―――

 

「この方抜きで最強は語れない!幻想郷天下一武闘会に飛び込んできたのは楽園の素敵な巫女である博麗霊―――って凄い形相だ!!!?

 

「お、鬼の形相とはこの事だな……くく。あの巫女、その身に()()()()()()()()()を漲らせて……一体何をしてきたのだろうな?」

 

 大量のお札が地面に当たった直後に大爆発を起こし、霊夢ちゃんの絨毯爆撃が舞台上に居た人妖を片っ端から吹き飛ばしていく。

 そして舞台があった所に無事で立っていたのは、霊夢ちゃんと魔理沙、伊吹萃香、星熊勇儀、幽香ちゃんだけだった。

 

「チッ、全員纏めて吹き飛ばしたつもりだったんだけどね」

 

「痛たた……おい霊夢テメェ!覚悟出来てんだろうな!!!」

 

「あっはははは!鬱陶しい奴等も吹っ飛んで気持ち良いくらいだよ!」

 

「角は折れても、アタシの心はまだ折れちゃいないよ!詭弁!アンタを力づくで攫ってってやる!」

 

「生意気な奴等ね。全員残らずすり潰して花の養分に変えてあげるわ」

 

「舞台が吹っ飛んで滅茶苦茶だが未だに戦気は衰えず!最後の一人になるまで終わらない!!果たして幻想郷は無事に明日を迎えられるのかァ!!?」

 

「霖ちゃん、俺もう帰りたい」

 

「君は優勝賞品だからダメだよ」

 

「そんなー」

 

 大空と大地を繋ぐという拘束具がピシピシ嫌な音を立てている。これ最終的に()()()()俺が粉々に砕けなけりゃいいけど……。

 

*1
11話『強化フラグは主人公の嗜みですよ!』




今日はここまで。

ワイヤレス充電器をひっくり返してみたらなんか充電出来ました。分かりづらいんじゃ。説明書に表裏くらい書いておけよなプンプン!

次回予告!

 最強(それと詭弁の妻の座)を決める幻想郷式コロシアム!残ったのはバケモンクラスに強い人間二人に鬼の四天王二人、そして最強クラスの妖怪!
 彼女達が本気の本気で大暴れして幻想郷は大丈夫なのか!?そして詭弁は無事に明日の朝日を拝めるのか!?

 次回!『詭弁、死す!』

 安心しろ、死んでも閻魔の元で休む間もなく働けるぞ!お楽しみに!


 感想、評価、ここすきボタン等ヨロシクな。感想いっぱい来たら作者がめっちゃ頑張ってダークネスの方も頑張るって言ってたウサ。


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閑話・詭弁が特に意味もなく縮んだ話

本編ではサツバツ結婚式!編が進行してますが、急きょ閑話をどうぞ。

本当ならダークネス次元に投下する予定でしたが、ちょっとした諸事情でお試し投稿。特に関係はないですが、かわいそうはかわいいってお話。
独自設定の塊ですが、まあここまで見てくれた方々なら大丈夫ですよね!


「大変です霊夢さん魔理沙さん!なんか色々あって詭弁さんが縮んじゃいました!」

 

「いやそうはならんやろ烏天狗」

 

 博麗神社の境内に小さな子供を抱えて飛び込んできたのは黒い羽根が特徴の少女、射命丸文。縁側に並んで座っていた博麗霊夢と霧雨魔理沙は『また意味分からん面倒事か……』と若干達観したような目を向ける。

 

「それで何処から拉致って来たんだ?自首しに来るなんて良い度胸だぜ」

 

「違いますッ!!本当にこの子は詭弁さんなんです!」

 

「よう霊夢ちゃんとマリサ。なんかお前達デカくね?」

 

「アンタが小さいのよ詭弁……ふーん、確かに寺子屋に通ってたくらいの詭弁ねぇ」

 

「はぁ、それでなんでまたこんな事になったんだ?」

 

「それがどうにも……詭弁さんに聞いても『気が付いたらこうなっていた』としか」

 

「俺の記憶では寺子屋から家に帰る途中、気が付けばこうして抱きかかえられていたワケなんだが」

 

「寺子屋から帰る途中?お前寺子屋になんの用事があるってんだよ」

 

「用事も何も、勉強の為に寺子屋に通うのは普通だろ?」

 

「ん?」

 

「んぃ?」

 

 お互い首を傾げる魔理沙と詭弁。詭弁はその幼い姿故に妙に庇護欲を掻き立てられる。

 

「……詭弁、アンタ自分が誰か分かってるかしら?」

 

「当たり前だろ?詭弁家の一人息子にして寺子屋一の問題児。将来100人の嫁を娶る者!」

 

「あっ、自分で問題児って言うんですね……んん?今なんかおかしくなかったですか?」

 

「詭弁、お前は里の便利屋っていつも名乗ってただろ」

 

「んぅ?便利屋?俺が?何言ってんだ?」

 

「……成程ね、どうやら姿だけじゃなくて()()も子供になったと。面倒な事になったわ本当に……」

 

「どういう事でしょうか?」

 

「何があったのかは分からないけど、今の詭弁は記憶まで子供の時と同じって事よ。最近の出来事の記憶なんて無いって思った方が良いわね」

 

「ええっ!?じゃあ私と詭弁さんの甘い蜜月な関係も無かった事に!?」

 

「いつなったか言ってみなさいよ射命丸。ほら。早く」

 

「あ、その……ちょっとした冗談なので……ごめんなさい」

 

「霊夢ちゃん、そうカッカしないで。このスカート短いお姉さんも悪気があった訳じゃないんだから」

 

「スカート短いは余計ですが……ありがとうございます詭弁さん。小さくなっても優しいんですねぇ」

 

「良いさ、パンツ見せてくれたお礼だよ」

 

「は?……射命丸、お前……」

 

「誤解ですッ!!ちょ、詭弁さん!?霊夢さんの犯罪者を見るような目が堪えるんですけど!?」

 

「ショタコン天狗……」

 

「だから違いますってば!!!詭弁さん!訂正を!訂正をお願いします!」

 

「いやぁ、俺の前でそんな短いスカートで飛ぶなんて中身を見てくれって言ってる様なもんだと思って、つい。とても良い白パンでした」

 

「ッッッ!!?」

 

「……『誤解』?」

 

「ち、ちがうんです……わざとじゃないんですぅーッ!!!」

 

 烏なのに顔を紅く染めて逃げる射命丸。

 

「……なんだったんだ、アレ」

 

「さあ?」

 

「それより俺はどうすればいいんだ?急に攫われて此処に来たんだが……」

 

「……あー、とりあえずウチに泊まっていきなさい詭弁。流石に今のアンタを一人里まで返す訳にはいかないわ」

 

 そういう事になった。

 かくかくしかじか。

 

「んにぃ……要するに俺にとって此処は未来の世界って事か?」

 

「あー、そうだな。そういう事になる……のか?」

 

「おー、じゃあ未来の俺はもう結婚してんの?流石にもう一人くらいお嫁さんは居るだろ?」

 

「…………詭弁、世の中には知らない事が良い事もあるんだぜ」

 

「どういう意味それ!?」

 

 そうして、夜。

 

「詭弁、ご飯よ」

 

「んぉー…………キノコ嫌い」

 

「好き嫌いすんな」

 

 霊夢と魔理沙と一緒にご飯を食べたり、

 

「霊夢ちゃんは随分成長したなぁ。どう?嫁に来ない?」

 

「寝言は寝て言いなさい」

 

「ははは、霊夢にフラれてやんのー」

 

「マリサはー……成長、してないね……」

 

「おうどういう意味だテメェ表出ろ」

 

「魔理沙、子供相手に大人げないわよ」

 

「マリサ、大人になっても子供と変わらないわよ」

 

「ざけんな詭弁テメェ夜空の星屑にしてやる!」

 

「助けて霊夢ちゃん」

 

()()()?」

 

「うぐっ……でもよぉ……」

 

「怒られてやんのー」

 

「アンタもよ詭弁」ペシッ

 

「痛っ!」

 

 会話で燥ぎあったり、そうして夜が更けていった。

 

「……く、ぁ……ぁふ」

 

「お?おねむか詭弁」

 

「まだお風呂入ってないじゃないの、お風呂入ってる間に布団敷いてあげるから、さっさと入ってきなさい」

 

「ん、ぃ……ぉー」

 

 ぽてっ、と畳の上に倒れ込む詭弁。

 

「はぁー、しょーがない奴だな。私が風呂に入れてきてやるぜ」

 

「頼んだわよ魔理沙。子供相手に変な気を起こさないでよね」

 

「起こすかぁ!?」

 

「冗談よ、冗談。……魔理沙、小さい時の詭弁は寂しがり屋だから優しくしてあげなさいよ」

 

「あー?コイツがそんなタマか?」

 

「……頼んだわよ」

 

「……へーへー、さっさと布団敷いとけ。どうせ明日になったら治るだろ」

 

 そう言いながら幼い詭弁を抱えて風呂場に向かう魔理沙。

 

「おら、寝るな詭弁。熱々の熱湯風呂かキンキンに冷えた氷風呂に入れて起こすぜ?」

 

「んみゅ……ん、しょ……」

 

「一人で入れるか?」

 

「んぉー……ぉー?」

 

「ダメそうだな……しょうがない、私も一緒に入ってやるよ」

 

「さんくす」

 

「生意気な奴め……」

 

 詭弁と一緒に衣服を脱ぎ、脱衣籠に投げ込む。

 

「魔理沙様の裸姿なんて大金積んでも見せないんだぞ。有り難がれ」

 

「ありがたー」

 

「よし、頭から風呂に突っ込んでやる。そら!」

 

「ぴゃぁぁがぼおぼっぼおぼぼ!!?殺す気かテメェ!!?

 

「おっ、目が覚めたようだな」

 

 湯を滴らせ暴れる詭弁を後目に、悠然と掛け湯をする魔理沙。

 

「ほら、風呂の中で暴れんな」

 

「誰のせいだと思ってるん!?」

 

 そうして身体を洗う魔理沙に、湯船の中でぷかぷか浮かびながら魔理沙を眺める詭弁。

 

「おい詭弁、乙女の肌をジロジロ見るもんじゃないぜ」

 

「んぃ?つい先日、銭湯の男湯の中まで付いてきたヤツが乙女だって?」

 

「いつの話だ!!」

 

「だから先日の話だと」

 

「……あぁ、そういやお前の記憶ではまだ子供だったな。記憶違うくせに性格に変化ないから調子狂うぜ……」

 

「マリサ、もうヒトのチンチンをツンツンすんのに卒業したのか?」

 

「沈めるぞテメェ!?」

 

「風呂に石鹸入れるの良くない」

 

「くっ……なんだかスゲェ懐かしいやりとりだなぁオイ……。はぁ~、昔はこんな奴と一緒に風呂入ってた時期があるとか黒歴史も良いトコだぜ……ホラ、今度は詭弁が身体洗う番だぜ」

 

 身体に付いた石鹸を流し、風呂に浮かんでいる詭弁を抱き上げる魔理沙。

 

「……!そうだ、背中でも洗ってやろうか?」

 

「えー?折角ならおっぱいの大きい子に洗って貰いたいんだがー?」

 

「贅沢言うな!」

 

 ニヤニヤ笑いながら詭弁を前に抱え、泡だったスポンジで詭弁を洗う魔理沙。

 

「いやー性別マリサに全身汚されるー」

 

「その性別魔理沙って言うの止めるんだぜ!このこの!」

 

「おふっ!?ふくくくく……ちょ、止めっ!?」

 

「お客様、痒い所は御座いませんかぁ!」

 

「ふひゃははははは!くすぐったいから止めれ!」

 

「暴れるんじゃないぜ!このっ!」

 

 詭弁の敏感な所を重点的に洗うと面白いくらいの反応が返って来て、大変気を良くする魔理沙は更に調子に乗った。

 

「うりゃっ!逃げるな!」

 

「ひひひひひっ!やめ、止めろー!」

 

 暴れる詭弁を押さえこみ、足の裏や脇の下といった弱そうなところをくすぐっていく。

 石鹸のぬめりを利用して何とか逃げる詭弁だが、男とはいえまだ子供も子供な詭弁。身体だって今ほど鍛えられている訳ではない。幻想郷の中でも指折りの実力者である魔理沙から逃げ切る事は出来ず、あっという間にガッチリ押さえ込まれた。

 

「ふふふ、この魔理沙様から逃げようったってそうはいかないぜ。覚悟し―――

 

「詭弁、魔理沙!アンタ等はしゃぎ過ぎよ!いい加減風呂から―――あ?」

 

 風呂の扉を開けた霊夢が見た光景は、風呂の床にがっしりと押さえ付けられた詭弁と彼にまたがる魔理沙。詭弁の両腕は魔理沙の太ももで挟まれ、暴れる脚を両手で押さえ付けている。

 俗に言う『さかさ椋鳥』と呼ばれる体位に非常に近い状態だ。ましてや今の詭弁と魔理沙では言葉通り子供と大人程の体格差がある。それはもう何を言わんとするか分かるだろう。

 

 詭弁の眼前に魔理沙の尻があり、魔理沙の視線の先には一切を隠すことないおちんちんがある。

 

 そしてそれを横で見ている霊夢、と。カオス。

 

「……うわぁ」

 

「えっ、あっ、ア”ァ!?ちょ、霊夢!!これはその、違うんだぜ!!」

 

性犯罪者(しゃめいまる)も同じような事言ってたわね。安心して魔理沙、分かってるわ。時々面会に行くからしっかりお勤めを果たすのよ」

 

「分かってねえだろ!!おい詭弁!お前もなんか言え!」

 

「たすけてれいむちゃん、せいべつまりさにおかされる」

 

「ざけんなクソが!」

 

 魔理沙は思わず、目の前にあったフカフカしてそうなモノを握りしめた。

 

「オ”ア”ア”ア”ア”!!?マリサおま、そこは男の男たる由縁ですことよ!!?」

 

「うるせえバーカバーカ!」

 

「テメェいい加減にしろコノッ!」

 

 詭弁は目の前にある()()()()()()()()()()金の毛を纏めて引っ掴む。

 

「痛でででで!!!止めろ離せ!!」

 

「お前が離せ!!」

 

「二人ともいい加減にしなさいッ!!!」

 

 博麗式柔術が詭弁と魔理沙に炸裂。詭弁は風呂桶に沈み、魔理沙は風呂の床に叩きつけられる。

 

「がぼぼぼぼぼ……」

 

「私にだけ妙に殺意高くねえか?」

 

「詭弁はまだ子供なの!前みたいに丈夫じゃないんだから!」

 

「いやぁ、私も人間並みに丈夫じゃないんだが……」

 

「とにかく!さっさとお風呂から上がって寝なさい!」

 

「ひええ、まるでオカンだぜ」

 

 パパパッと風呂から上がった所で詭弁の着替えが無い事に気が付いた霊夢と魔理沙は、仕方なしに神社に眠っていた霊夢のお古の巫女服を詭弁に着せた。

 

「イエーイ似合う?」

 

「……コイツ男だよな?」

 

「昔からこんなモンよ詭弁は」

 

 妙に似合っている上にノリノリで巫女服を着こなす詭弁。悲しい事に女子用の衣服を着るのは彼にとって慣れている事なのだ。

 

「ま、イケメンは何着てもサマになるから仕方ないよなぁ!」

 

「……コイツこんなだったか?」

 

「……昔からこんなモンよ詭弁は」

 

 霊夢の目には若干の達観の色が見えた。

 そうして寝る時間。魔理沙、詭弁、霊夢と川の字で並んで眠る事になった。

 

「お泊り会みたいで良いなコレ。俺も大人になったら嫁達と並んで寝よう」

 

「何言ってんだコイツ」

 

「さっさと寝なさい詭弁」

 

「んぃ」

 

 モソモソと霊夢に寄っていく詭弁。

 

「……ちょっと」

 

「良いじゃん良いじゃん」

 

「……変な所触ったら容赦しないからね」

 

「んにぃ」

 

「(詭弁相手だったら引き剥がしそうなモンだけどな。……『小さい時の詭弁は寂しがり屋』か。なんかあったのか?あの毎日元気印みたいな詭弁に……)」

 

 それから程なくして、三人分の寝息が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マリサ!俺はいつだってお前の■■だぜ!

 

わ、私も!私もいつだって詭弁の■■だからな!

 

へへっ、んならもっと―――

 

 

「んがっ、あ、あ~?……トイレ」

 

 草木も眠る丑三つ時を更に少し過ぎた頃。突如もよおした魔理沙は一人起き上がり、寝ている詭弁と霊夢を跨ぎ越えて勝手知ったる博麗神社の厠へ向かう。

 神社の厠は妙にハイテクで、河童の技術をふんだんに使った優れモノ。人の気配を察知した瞬間厠に光が灯り、辺りを照らし出す。そして外の世界から流れ着いたTOTO(ティーオーティーオー)と書かれた『洋式トイレ』なる物の蓋が自動で開き、そこに座って使用するという便利なモノである。寒い冬でも便座を暖めてくれる自動温度調節機能付き。

 

「(ウチにも欲しいぜ……けどなぁ、前聞いた時目ん玉飛び出るかと思う程高かったんだよなぁ……)」

 

 寝間着をずり降ろし、便座に座る魔理沙。

 すると何処からともなく小川のせせらぎが聞こえてくる。何のためにあるのか分からないが、何故か便座に座ると頭の中に直接川の流れる音が聞こえてくる。今のように夜中にもよおした時でも騒音被害が無い優れモノ。結局なんで川の流れる音が流れるのかは不明だが。

 

「……ん、ぉ……」

 

 ショロロロロ……

 生暖かい液体が体外に排出されていく。溜まっていた物が抜け出ていく快感と腹にあった暖かい物が抜けていく不快感が同時に身体を走っていく。

 ぼーっとしながらも思い出してしまう事は詭弁の事だった。

 

「……アイツの身体、傷一つ無かったなぁ……」

 

 子供だが、男の癖に女の私よりもキメ細やかでモチモチスベスベの肌に不愉快な感情が脳裏をよぎった。

 だが思えば、いつからだろうか。彼の身体に傷が残る様になったのは。

 いつからだろうか。彼と共に風呂に入らなくなったのは。

 

 いつからだろうか。彼が、自身の前を常に走っていくように思えたのは―――

 

「何考えてるんだか。アイツは未だに空を飛べない人間だってのに」

 

 頭を軽く振って、下らない考えを振り払う。

 そう、詭弁はどれ程強くなっても。誰よりも強くなっても。自分の―――

 

「―――なん、なんだろうな」

 

 厠から出て、妖怪すら寝静まったかと思えるほど不気味な静けさが広がる夜を眺める。自身が今の詭弁くらい幼かった頃。まだ魔法の深淵の欠片すら知らず、世界の広さと高さを知る前の時の頃を思い出す。あの頃はこんな夜が怖かった。よく分からない何かの恐怖に怯えながら一人で眠る事が出来なかった。夜は兎角怖かったが、いつからか夜が怖くなくなった。何故だろうか。魔法を知ったからか?違う、魔法を知るより前の事だった気がする。負けたくないと思えるライバル(霊夢)を知った時か?違う、もっと前に大事な出会いがあった筈。そう、それは―――

 

 

「俺は詭弁答弁!世界最強を目指し美女ハーレムを作る者!」

 

 

 ―――太陽のように明るい笑顔の少年に出会ったから。

 彼に手を引っ張られ、未知を既知に変えていく冒険が楽しかった。()()()()()に立ち向かう彼が眩しかった。同時に、彼に負けたくないとも思った。彼に手を引っ張られるだけじゃ駄目だと思った。彼に並び立ちたいと思った。そして―――

 

 

「見つけたぞ馬鹿マリサ。里の外に出やがって……さぁ、家に帰るぞ」

 

「詭弁っ!後ろぉ!!」

 

「―――あぁ?」

 

 

 ―――太陽が、()に沈む姿を見た。

 ああ、そういえば……そんな事になった時間は、今みたいな真夜中だったか。あの時から、私は夜が怖くなくなった。夜の怖さなんて、()()怖さに比べたらなんて事は無い。嗚呼、本当に怖いのは―――

 

「んぃ……まりさ?」

 

「……詭弁、どうした?こんな真夜中に起きてくるなんて感心しないぜ」

 

「おしっこ……」

 

「おー……そうか、厠はコッチだぜ」

 

「んぃ……」

 

 幼い詭弁の手を引いて厠に案内する。小さい、小さい手だ。この手が幼い自身を引っ張っていたとは、少し想像がつかない程に。

 今はその小さい手を自身が引っ張っている事に可笑しさを感じる。

 

「ほら、ここが厠だ。使い方は、まあ分かるよな?」

 

「……分からん、なんだこれは」

 

「……」

 

 まあ、確かに昔ながらの厠しか知らないと分からない事も無いかもしれんが……いや、今の詭弁は子供なんだ。多少のオツムの悪さも愛嬌だ。

 

「なんかしつれいなことかんがえてないか?」

 

「何のことやら」

 

 眠気のせいか尚幼い言葉遣いになっている事に気がつき、内心クスクス笑う。

 詭弁が着ていた巫女袴を脱がし、抱き上げ、便座に座らせる。

 

「んぅ?じんじゃのちかくに川なんてあったか?」

 

「気のせいだろ」

 

「そうか」

 

 んゃ~、と力が抜けるような気の入れ方で排尿する詭弁。

 ちょぽぽぽぽ……

 

「水はたまりっぱなしか、ふえいせいだなぁ」

 

「ん?ああ、これは勝手に流れるんだぜ。ほれ、しっかり袴はけ」

 

「んぃ」

 

 詭弁が便座から立ち上がり、巫女袴をはきなおした所で水が勝手に流れ出す。

 

「ほら、厠に行ったらしっかり手を洗うんだ」

 

「ばかにするな、そこまでおさなくないわい」

 

 そうしてまた手を引かれて寝室に戻る詭弁。

 

「なんかへんな気分だなぁ」

 

「あん?」

 

「ついきのうまで手をひいてたのは俺だったのになぁ」

 

「……」

 

 そうか。幼い詭弁にとっては、魔理沙()じゃなくてマリサ(幼い私)こそが■■で―――

 

「あ?」

 

「んぃ……どうしたマリサ」

 

「―――なんでも、ないぜ」

 

「んみぃ」

 

 ■■……って、何だよ。私は、詭弁の……何、なんだ……?

 ■■ってのは、命の危険に曝すのが■■なのか?

 ()()()()■■は、マリサ(幼い私)で……じゃあ、魔理沙()■■って……なんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけたぞ馬鹿マリサ。里の外に出やがって……さぁ、家に帰るぞ」

 

「詭弁っ!後ろぉ!!」

 

「―――あぁ?」

 

 

 止めろ

 

 

「しっかりしなさい!貴方は私の息子でしょう!」

 

「……ダメだ、心臓が止まってる……巫女さん、もう―――」

 

「黙れ!この子は……この子だけは絶対に死なせない……!」

 

 

 止めろ

 

 

「―――ぅ、ぁ?」

 

「あ、ああ……息を吹き返した!奇跡だ!」

 

「―――かあ、さん……?」

 

「っ……よく、聞け、詭弁答弁。お前の母は―――」

 

「ふふ、この子が例の……。初めまして、私の名は八雲紫。よろしくね」

 

「……貴様の出る幕ではない!」

 

「あら、良いじゃない。誰が冥府からこの子の魂を呼び寄せたと思うの?」

 

「……くそっ!」

 

 

 止めろ

 

 

「詭弁答弁、まだ幼い貴方には残酷な運命が待ち受けています」

 

「残りの人生を幻想郷の為に生きるという運命が」

 

「それが貴方の母の願い」

 

「貴方の母が命を懸けて(こいねが)った望みを、まさか無下にしないでしょうね?」

 

 

 止めてくれ

 

 

「……それが、母さんの望みだと言うのなら」

 

「うふふ、賢い子は好きよ」

 

「それで、俺はどうすればいい?」

 

「そうねぇ……まずは貴方の『能力』を、里中に知らせましょう」

 

 

 やめてくれ

 

 

「見えてるか、魔理沙」

 

「お前が中途半端に魔法を齧ったせいで」

 

「お前が中途半端な力で世界に飛び出したせいで」

 

「俺の人生は全部滅茶苦茶だ」

 

 

 

 これは悪い夢だ

 

 

 

「見えてるか、魔理沙」

 

「お前のせいで俺は傷だらけだ」

 

「お前のせいで毎日死ぬ思いをして生きてるんだ」

 

「お前のせいで俺は―――」

 

 

 

 やめろ。やめろやめろやめろ!

 詭弁は絶対にそんな事言わないっ!だって詭弁は!詭弁は私の―――

 

 

 

 

「起きろ馬鹿マリサぁ!!!」

 

「おぶっふぅ!!?」

 

 バカでかい声によって飛び起きれば、そこは神社の一室。既に日は高く昇っており、朝の到来をとっくに告げていた。

 

「お前大人になっても朝弱いのかよ。成長しねえ奴だな」

 

「……き、べん?」

 

「おう、詭弁さんだぞ。霊夢ちゃんが朝ごはん作って待ってるから早くこい!」

 

「あ、ああ……」

 

 詭弁は魔理沙の目が完全に覚めたのを確認し、部屋を出て行った。いつも通りの(昔と変わらない)様子で、足取りは軽く。

 

「……夢、なん……だよな……」

 

 詭弁の足取りとは正反対に、自身の足取りは非常に重かった。

 あれは夢だ。夢なんだ。

 夢にしては、嫌になるほど現実的(リアリスティック)な光景だった。まるで本当に起きた事を追体験したかのように。

 

 ……なんて、誤魔化すのは止めよう。現実的(リアリスティック)なんじゃない。実際に起きた過去(リアル)なんだ。

 詭弁は私の前で実際に死にかけ、詭弁の血を全身に浴びて私は気を失った。私の意識が戻った時、詭弁の母親が詭弁に縋りついていた。その後、詭弁が息を吹き返した代わりに彼の前から彼の母親は姿を消した。そして、詭弁は―――

 

「魔理沙?」

 

「ぅおっ!?な、なんだ霊夢?」

 

「なんだじゃないわよ。アンタ食べるんだったらちゃんと食べなさい」

 

「そうだぞマリサ、いくら胸の成長が絶望的でも食うのと食わないのじゃ天地の差があるぞ」

 

「あ、ああ……そうだな……」

 

「……魔理沙?」

 

「どうしたマリサ……いつもなら『舐めんな』くらい言い返すのに……まさか、風邪!?バカなのに風邪ひいたの!?」

 

「お前じゃねえんだから風邪くらいひくわ!」

 

「……ああ、普段からちゃんとしたご飯食べないから風邪ひくのか……駄目だぞ、好き嫌いせず色々食べなきゃ」

 

()()見て言ってんだテメェ!」

 

「調子戻ってきたじゃん」

 

 けらけらと笑う詭弁の姿を見て、さっきまでの悪い考えが沈んでいく。ああクソ、現金な自分に腹立つ。やっぱり詭弁は太陽みたいな笑顔が似合いやがる。

 

「アンタ達、食事くらい静かに食べなさい」

 

「げっ、オカン霊夢だぜ」

 

「誰がオカンよ、いいからさっさと食べなさい」

 

「へいへい」

 

 そうしてある程度食べ進めると、自然に話題はこの後の事になる。

 

「しかしどうしたモンかなぁ。なんか自然な感じとはいえ、詭弁を戻さなきゃならないが……どうやって戻しゃいいんだ?」

 

「知らないわよ。そもそもどうして詭弁が()()()()()のかも分からないんだから」

 

「俺的にはこのままで良いんじゃないかって思うんだけど」

 

「何で?」

 

「なんか知らないけど、俺が知らない美女達が俺にチヤホヤしてくれんでしょ?じゃあ、良いかなって」

 

「良い訳あるか」

 

 そう、今の詭弁は力も何も持っていない状態なのだ。それなのに幻想郷の妖怪達の前に出す?そんなもん『食べてください』と大声で言っているようなモンだ。昨日の射命丸だって、何でか知らないけど詭弁を連れて神社に来たが、気の迷いでそのまま妖怪の山に連れ帰っていれば詭弁はもう山を脱出する手段を持たない。伊達に詭弁は人間族最強とか妖怪に恐れられてはいない―――

 

 ―――今の詭弁を放置したら、どうなる?妖怪に狙われまくるに決まってる。

 今の詭弁は自覚ないだろうが、妖怪達にとって『詭弁答弁』と言えば最高のゴチソウなのだ。霊力・気力・魔力を持ち、優れた精神と肉体を兼ね揃えた最高のエサ。無論、詭弁は強いから生半可な妖怪なら相手にもならないし、生半可じゃない妖怪達は理性でもって詭弁と対話する。その際詭弁が妖怪を()()()のはまた別の話だが……。

 ともかく、今の力を持ってない詭弁はただのゴハン。理性ある相手なら、未来が確約されたゴチソウに見えるだろう。最高の状態まで育てた時か、自身の理性が尽きた時、詭弁は妖怪の腹の中だ。

 

「そんなのダメだ」

 

「……マリサ?」

 

「ダメだ、ダメだ駄目だだめだ!!!詭弁はもう()()から……外に出ちゃダメだ!!!」

 

「んぅ……ハッキリと『弱い』とか言われると傷つくぞ俺も……」

 

「弾幕一発で追い払えるような雑魚妖怪相手に死にかける奴が外に出て良い訳ないだろ!!」

 

「……んぃ?」

 

「っ、魔理沙!」

 

「霊夢!ま、守らなきゃ!詭弁は、だって!今の詭弁は弱いんだぞ!?里に、里に送り届けなきゃ!」

 

「魔理沙!落ち着きなさい!!」

 

「落ち着いてられるかよ!詭弁が死ぬかもしれないんだぞ!」

 

「マリサ落ち着けって!どうどう!はいよーシルバー!」

 

「馬か私は!」

 

 詭弁に背中をベシベシ叩かれ、思わず投げ飛ばす。力加減を誤ったのと、想像以上に軽かった詭弁は部屋の障子を突き越えて境内に転がり落ちた。

 

「あっ、あ……ああ……き、詭弁!ごめん!」

 

「ちょっと詭弁!大丈夫!?」

 

「痛ぅ……ひ、酷くねマリサ……」

 

 霊夢が詭弁の傍にしゃがみ込み、回復術を掛ける。あの回復術も元々は詭弁のオリジナル技で、でもその詭弁は今は居なくて……?

 

「あ、ぅ……ぅぅ」

 

 そう、今の投げだって詭弁が詭弁だったらちょっと転がる程度の力だったのに、詭弁が子供だったせいで……違う、違う!違う!!私の力加減が悪かった!!詭弁は悪くない!だって詭弁はいつも私の前を駆けて行って……

 そうだ。詭弁はいつも私の目標で、超えるべき壁で、私の手を引いてくれる―――

 

「血が……詭弁、ちょっと痛むわよ」

 

「痛たた……マリサ!お前の馬鹿力のせいで怪我しちゃったじゃん!これはカラダで賠償してもらうしかないですねぇ!」

 

「お前のせいで俺は傷だらけだ」

 

「あ……ぅ、ぁ……ぁ……」

 

「お前のせいで毎日死ぬ思いをして生きてるんだ」

 

「やめろ……やめろぉ……」

 

「ま、マリサ?……霊夢ちゃん、ちょっと立つね」

 

「っ!ジッとしてなさい!治らないでしょうが!」

 

「いいや!立つと言ったら立つ!男には立たねばならん時がある!いつだって?それは今さ!!」

 

「お前のせいで俺は―――」

 

「止めてくれ!詭弁はそんな事言わないっ!絶対に言わないッ!!!」

 

 目を瞑り、耳を塞ぐ。頭の中で響き渡る詭弁の声が私の心を掻き毟る。

 どうして、どうして思い出してしまったのか。忘れておきたかった記憶を。封じこめておきたかったトラウマを。

 なんで、どうして。どうして詭弁は―――

 

 

「目をっ覚ませこの馬鹿魔理沙ァァァァ!!!!

 

 

 額に衝撃。

 頭が割れんばかりに痛む。

 いや、もうこれ割れてるかもしれない。ふざけんな。

 

「痛いだろうが馬鹿野郎ッ!!!」

 

「俺も痛いわ馬鹿野郎ボケタコこら!頭突きなんて食らう専門なんだよこちとら!!!」

 

 目を開ければ、眼前に幼い詭弁の顔。だが、幼くても詭弁は詭弁だった。

 耳を塞いでも両手を突き抜けていく詭弁の声。幼くてもその声量は健在だった。

 

「いいか馬鹿マシマシ魔理沙!こっ恥ずかしいから一度しか言わないからな良く聞けボケ!

 俺はテメェの親友だ!テメェは俺の親友だ!テメェが勝手に成長しようが俺が幼くなろうが()()()()()()()()()()だろうが!!

 俺がッ!テメェが本気で嫌がる事を言う訳ねえだろが!」

 

 ああ

 

 ああ、クソ。

 

 痛い。

 

 凄い痛い。

 

 メチャクチャ痛い。

 

 頭が割れそうな程痛い。

 

 それはもう、泣く程だ。痛くて痛くて、涙が勝手に出てきやがる。ちくしょう。

 

「……詭弁。私は、私はなぁ、おまえに、めちゃくちゃひどいことをしたんだぞ……?」

 

「お前がわざとそういう事する奴じゃねえって事は、俺がよく知ってる」

 

「おまえが血だらけになって、死ぬような目にあう、ひどい事をしたんだぞ……?」

 

「俺は、死なねえ。絶対に」

 

「おまえの人生をめちゃくちゃにするようなひどいことをしたんだぞ……?」

 

「平坦で何もない人生よか百億倍マシだろうが」

 

「なんども、なんどもなんども、しんじゃうような―――」

 

「しつこいぞ!」

 

 詭弁の小さな腕に抱き寄せられ、私の顔を筋肉も何もない様な小さな胸に押し付けた。

 

「俺は詭弁答弁!世界最強を目指し美女ハーレムを作る者!」

 

 その、自己紹介は。初めて出会った時の―――

 

「世界最強を目指すのは伊達じゃねえんだ。一度や二度……何十、何百、何千と死にかけようが、俺は絶対に死なねえ!なんでか分かるか魔理沙ァ!!!」

 

 詭弁の身体は小さくとも、そのデカさはいつだって……

 

 

 

 

「何故なら死んだら美女ハーレムが作れないからなァ!!!」

 

 

「お前のそういう所が大っ嫌いなんだよボケェ!!!」

 

 

 

 詭弁を抱き上げ、ジャーマンスープレックス。地響きが鳴るほど強く地面に打ち付ける。クソが。

 

「バーカバーカお前なんか野良妖怪相手に食われて死んでしまえ!」

 

 そう吐き捨て、箒に乗って飛んで行く。泣き腫らした目を見せないように。

 

 

 もう、幻聴は聞こえない。

 

 

 

 後日

 

「なあ霊夢ちゃん。最近魔理沙と全然顔合わせないんだが、アイツ生きてるのか?」

 

「……まあ、無事よ。伝言でもあるの?」

 

「ああ。『俺が小さかった頃の詳細を教えて』って」

 

「(死体蹴り……)」

 

 なんやかんやで詭弁は戻っていた。




 元々ダークネス次元でのお話にしようとしましたが、丁度良い感じで詭弁過去編のさわりだけ触れる事が出来そうでしたので予定変更。えっちなことはいけないと思います!の精神で書きあげました。やっぱりスケベは執筆カロリー高いなごす。
 ……えっ?R-18?何が?何処が?全裸でお風呂に入るくらい普通ですし子供もトイレにだって行くでしょ?


ショタ詭弁→子供の頃から詭弁は詭弁。子供の頃に死にかけるのはヒロアカ時空と一緒だね♪
ロリサ→ちっちゃなころから魔法使い見習い。トラウマ持ちでさとりん大興奮。霊夢ちゃんよりヒロインしとるやんけお前とか言ってはいけない。


金髪の子かわいそうって言うじゃん?あれねぇ、好き。

感想評価お待ちしております!
私の思う正義のおねショタってこんな感じなんですけど、分かる人いますかね。生意気なショタがここぞという時におねを救う感じなんですけど。


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俺の知ってる結婚式とかけ離れたナニカですよぅぉぉ!!?

ショタ詭弁にかまけ過ぎてつらい。
前の話(閑話除く)でもそうなんですけど、戦闘シーンは意図的に巻き巻きで進行してます。じゃないといつまで経っても戦闘終わらないし投稿できないからね仕方ないね。俺の嫁がこんなあっさり負ける訳ないだろ!って思う方もそういう訳ですんでご了承ください。


「夢想封印・散!!!」

 

 霊夢ちゃんの本気の夢想封印が周囲の空間を薙ぎ払うように放たれる。

 

「チィ……!流石霊夢だね!負けないよぉー……ミッシングパワー!!」

 

 伊吹萃香が巨大化し、狭い空間で大暴れをする。

 

「ああ鬱陶しいぜ!!マスタースパーク!!!」

 

 魔理沙の極太光線が空間を焼き尽くしていく。

 

「ははは!!!楽しくなってきたなァ!大江山颪!!!」

 

 星熊勇儀が腕を振るい、衝撃波と共に大量の瓦礫が舞い飛ぶ。

 

「邪魔よ」

 

 傘を薙ぎ払って、空間を殴り飛ばす幽香ちゃん。

 

「破壊と暴力!まさに怪獣大決戦が今目の前で繰り広げられているゥ!!!」

 

「くく……平然と空間を歪める程度の攻撃を行うなんてやはり常軌を逸している奴等だな……」

 

 霊夢ちゃんの夢想封印が幽香ちゃんに当たって消し飛ばす……と思いきや次の瞬間突っ切って霊夢ちゃんを殴り飛ばし、その砲弾の如き勢いそのまま巨大化した伊吹萃香を巻き込み飛んで行く……が、踏鞴を踏んだ伊吹萃香に踏みつぶされた星熊勇儀が殴り飛ばし、空を飛んでいる魔理沙を落とす……直前に大出力の破壊光線が連発され、周囲一帯を飲み込んでいく。

 一瞬ごとに何かが吹き飛び、その次の瞬間には何かが粉微塵となる。同じ生き物が作りだしている光景とは思えない()()()さが目に飛び込んでくる。……あ、妖怪は『生き物』としてカテゴリしていいのか?

 

 半ば現実逃避気味にふざけた光景を眺めていると、晴天だった空が陰っていく。雲……?

 

 

―――天創『スーパーセル』

 

 

 直後、雷が降り注いだ。

 空を飛ぶ人も、地に立つ妖も、総じてその()の前には抗う事は出来ない。

 

()()()を聞いて駆けつけてみれば……本当に楽しそうな催し物じゃないか!勿論『軍神』の私も参加していいだろう?」

 

「怪獣大決戦の中に『天災』まで飛び込んできたァー!?これはもう勝負がどうこう言ってるレベルじゃない!幻想郷の新参勢ではあるが、紛う事無き!守矢の軍神八坂神奈子様が天を引き連れやって来たァ―!!!」

 

 雷と共に大量の雨霰が降り注ぎ、上空から地面に叩きつけるような強風と竜巻により空と地表に甚大な被害を与えていく。気を抜けば吹き飛ばされてしまいそうだ。

 

「邪魔を……すんな!!!」

 

 そんな大荒れの天候の中、宙をふわふわ浮いている霊夢ちゃんは夢想天生を発動して神奈子様を撃ち落とさんと攻める。だが、暴風と雨霰によって放った弾幕が流されてお互いがお互いを攻撃出来ない状況に陥っていた。

 このまま膠着状態か……と、思ったが。

 

「ははは!流石霊夢ね!!今の私に対抗出来るなんて!では……()()()()()()()()()としよう!!!」

 

 

―――天造『アトモスフェア ペサード』

 

 

 巨大な雲が……否、()そのものが落ちてきたかのように迫ってくる。それは、正に『規格外』と言うしかない。神の畏れそのものが降ってくる。

 

「お……いおいおい!!!?死んだわオレら!!!!?」

 

「僅かとはいえ、信仰心を取り戻した神……流石だな。()()()()()()()()()()程度でこれなのだから」

 

 大気が震える音を響かせながら塊となって降ってくる。アレがどれほどの威力か想像がつかないが、まず間違いなくアレが地面に落ちきったらその余波で死ぬ。

 流石の霊夢ちゃんも額に汗を流しながらその様子を見ていて―――

 

 

 

 

 

「ありとあらゆるものには例外なく、根幹となり弱点となる『目』があるの。私の能力はソレを手の中に収める事が出来る。例えそれが()()()()()()()()()、私の能力から逃れる事は出来ないわ」

 

 パキィン……

 鉱石が割れるような音が響いた瞬間、落ちてきた『天』が霧散した。

 

「絶対必中の運命を持った()()()()()。詭弁はうまく被害を最小限に抑えたけど……貴方はどうかしらねぇ『神様』?」

 

 神速の紅き槍が空を駆け、一条の光を残して神奈子様の心臓を貫き消えていった。

 

「なっ……吸血鬼の……何故……。あぁ、ははっ……雲で日が隠れたからか……」

 

「ええ、そうよ。貴方が()()に来た時点で、貴方の敗北は既に運命づけられていた」

 

「ああくそ、油断したわねぇ……まぁ、仕方ない……()()、後は頼んだよ」

 

「お任せください神奈子様!!!さあ見よ!コレが風祝の起こす奇跡ッ!!」

 

 神奈子様が空中に溶けるように消えた直後、バケツをひっくり返したかのような土砂降り雨が降り注ぐ。

 

「「流水っ!!?」」

 

「なっ……コイツは!?」

 

「っ、あークソッ……こりゃ厄介な……!」

 

 飛んでいた吸血鬼二人が地に落ちていき、暴風を耐えていた鬼二人は土砂降り雨を受けて膝を付いていた。

 

「霊力と神力を混ぜ込んだ雨です!妖怪の皆さんにはさぞ堪える事でしょう!」

 

 詭弁さんの戦い方を真似てみました!と鼻息を荒くしながらシレッと力の融合してるけどお前俺がどれほど苦労して力を融合してると思ってお前……。

 

「ぽっと出てきて鬱陶しいわよ緑巫女」

 

「うおおぅ!?この雨の中でも平然と飛ぶなんて非常識な!?」

 

 幽香ちゃんが土砂降りの中でも平然と空に浮き上がり、早苗ちゃんに向けて傘を突き刺そうとするが辛うじて回避した。

 

「あら、雨でも傘を()()()問題ないのは当たり前でしょう?」

 

「詭弁さん助けてくださいこの人会話が通じない気がします!!!」

 

 俺の今の姿を見て尚それ言えるんだったら多分早苗ちゃんの方が話通じないと思うよ。

 そうして始まる緑と緑のドッグファイト。土砂降りの中でも平然と動き回れる人間とそうでない妖怪の差が現れ、白熱した戦いになっていた。……なるほど、不可避のデバフは効果的のようだ。

 

 と、その戦いを眺めていた次の瞬間、土砂降りがいきなり止んで夕焼け空が見えた。……いや、夕焼けから……宵闇に変わって……?

 

「そんな!?『奇跡』は少なくとも半日は続く筈なのに……!?」

 

「『半日』なんて永遠から見ればそれこそ瞬く間よ。僅かに欠けた月……こんな日は、()()()を思い出すわ……ねぇ、詭弁?」

 

 宵闇空に浮かぶ月を背にするように、輝夜ちゃんが浮いていた。

 

「永遠と須臾の姫蓬莱山輝夜参戦ッ!かの有名なかぐや姫までもが詭弁争奪戦に飛び入り参加ァ!!!」

 

「ふふ……楽しく遊びましょう?」

 

 そして放たれる大量の弾幕。先ほどまで降っていた土砂降りの代わりに、ソレと遜色無い程の弾幕の雨。()()って、なんだっけ。

 

 混戦に次ぐ混戦で場が荒れに荒れ、上を下への大騒ぎ。()()()()()なんてレベルではない、『見てるだけでも危険』な乱戦によって観客席から逃げ出す者も続出。

 彼女達の本気に対して、観客を守る壁は頼りなさ過ぎた。

 

「ちょっと失礼するウサ」

 

「うおっ―――」

 

「し、静かにしててください!詭弁さんの声は良く響くんですから!」

 

 突如見えない何者かに掴まれ持ち上げられた、と思ったら聞き覚えのある声二人。そのまま会場の外に運ばれていくが、誰も俺達には見向きもしなかった。

 

「……よ、よし!上手く行ったウサ!」

 

「因幡てゐにレーちゃん!?お前ら何で!?」

 

「それは、詭弁さんが結婚するって言うから……」

 

「花婿を直接奪いに来たと思ったら、なんか変なことやってたし……隙を伺ってたのよ」

 

「詭弁さんさえ居なければ結婚式も何もないですし、私の能力で姿を隠しながらうまいこと永遠亭まで逃げ切ればお師匠様の秘術で―――」

 

 

―――本能『イドの解放』

 

 

「うわわっ!?」

 

「嘘ッ!弾幕!?なんで!?」

 

「……最後に笑うのは力が強い者ではありません。頭脳が優れた者でもありません。さとり妖怪であるこの私よ!」

 

「詭弁!すぐにそのクソ○ッチ共から助けてあげるからね!」

 

雌犬(○ッチ)じゃなくてウサギよ!」

 

「そういう話じゃないウサ……」

 

 そして始まる弾幕ファイト。ウサギ組は俺を抱えてる分、飛行速度に差が出来てしまい不利に……

 

「秘技『詭弁ガード』!」

 

「詭弁さんごめんなさいっ!」

 

「謝るくらいなら止めろよ!!?」

 

 不利になることもなく、一切の遠慮なしに俺を弾幕の盾にするウサギ組。

 

「なっ……なんて卑劣な策略を……」

 

 ほら見ろ、怨霊も恐れ怯むさとり妖怪すら怯む極悪非道の諸行。こいつら人間じゃねぇ!

 

―――深層『無意識の遺伝子』

 

「『詭弁シールド』!」

 

―――『サブタレイニアンローズ』

 

「『詭弁ウォール』!」

 

「ダメだお姉ちゃん!相手が固すぎる!」

 

「貴方はもう少し詭弁に気遣ってあげなさいこいし……ッ!」

 

 お前らマジで覚えとけよ……

 そしてさっきから弾幕が直撃しまくってるせいか、俺を拘束してる鎖からピシピシ嫌な音が聞こえまくってる。もしかしなくてもコイツ砕けるのでは?

 

「……ッ!誰か来る!」

 

 

―――牙符『咀嚼玩味』

 

―――牙符『月下の犬歯』

 

 

 突然別々の草むらから飛び出してきた二人の弾幕が()()()()、俺を縛っていた鎖を粉々に砕いた。

 

「お前達、大人しくその人間を此方に渡してもらおうか!」

 

「詭弁を渡せば痛い目を見ずに済むわよ!」

 

「「……ああんッ!?」」

 

 白狼天狗の椛ちゃんと人狼の影狼ちゃんは急に現れ、息の合ったコンビプレーを見せたかと思ったら今度はお互いに睨み合っている。……縄張り争いする犬かなにか?

 

「くっ……無駄に時間を食い過ぎましたね……千里眼を持つ白狼天狗に鼻の利く人狼、ですか。こいし、更に増援が来る前に詭弁さんを連れていくわ……よ……」

 

 俺を縛っていた鎖が粉々になった、ということは俺が自由の身になった、ということだ。首間接をコキコキならしつつ、右腕を振り上げる。

 

「あー……えっとー……その、き、詭弁?その振り上げた拳を何処に下ろすつもりウサ?まさかまさかこんなに可愛いてゐちゃんの頭に落としたりは……」

 

「なに言ってるんだ因幡てゐ」

 

「そ、そうだよねー!だって攻撃してきたのはアッチの緑色のだし!私悪くないもんね!」

 

「右足を出した後に左足を出したら歩ける、くらいに当たり前の事をいちいち言う訳無いだろ?はっはっはー」

 

 ズドンッ!!!

 拳が轟音を鳴らし、因幡てゐの脳天に直撃。ちょうど膝ぐらいまでを地面に沈める程度の力加減で殴った。

 無論、()()()()()()()()である。

 

「せめて痛みを知らぬままに逝くが良い……」

 

「てゐ~ッ!!?」

 

「やたっ!詭弁!そんなクソ○ッチじゃなくて私を選んでくれるのね!」

 

「ああこいし、お前もこっちに来い」

 

「詭弁詭弁詭弁ーっ!!!」

 

「こ、こいし!ダメっ!そっちに行っちゃ―――」

 

 古明地こいしが両手を広げ抱き付いてくるが、俺は腰を屈めて剛速タックル。そして高く飛び上がり、こいしの頭から地面に叩きつけるようにフライングバックドロップ。こいしもてゐと同じように頭から地面にめり込んだ。

 

「こいし~ッ!!?」

 

「地獄直送便だ、お代は結構だぜ」

 

 ああ、イライラする。もちろん俺に向けて弾幕放ってきたこいしや俺を盾にしたてゐにもそうだが、そもそも俺の意思を無視して結婚式をめちゃくちゃにした五福のヤツも、知ってて悪乗りしたであろう名居さんと霖ちゃんも、それに観客達も参加者全員にも。

 このストレス、俺も暴れなければ収まらぬ!

 

「き、詭弁さん!旧地獄なら暴れるにちょうど良い鬼達も居ますし、一回地獄に来てからでも遅くは……」

 

「じゃらァ!!!」

 

「きゃぁっ!?」

 

 地面に埋まって気絶していたこいしをさとりに向かって放り投げ、ついでにてゐをレーちゃんに向かって投げ、喧嘩している椛ちゃんと影狼ちゃんのケツを揉んで両成敗。

 

「「 ガウッ!!! 」」

 

 牙を向かれて噛み付いてくるが顎をナデナデして封殺。

 そうだな……こうしよう、とりあえずあの祭に参加してるヤツは全員俺の嫁ということで。名案かよ。

 さあ、念仏をあげる準備を済ませておけ……

 

 と、今度は自身の両足で会場に戻ったらそこには―――

 

 

 

 

「ぐっ……カハッ」

 

「クソ……ッ!」

 

 地面に埋まっている鬼二人が

 

「ごぉ……ぐっ……」

 

「うっ……うぅ……」

 

 壁に突き刺さってぐったりしてる吸血鬼二人が

 

「くっ……ケホッ……」

 

「うぐぅ……」

 

 地に倒れ伏している蓬莱人と風祝が

 

「あー……こりゃ一歩も動けないぜ……」

 

「ゴホッ……チッ……」

 

 大の字で倒れている魔女と巫女が

 

「くっ……がァァァァ!!!」

 

 ()()()()に顔を掴まれて、咆哮を上げる花妖怪が。

 

 想像だにしてなかった()()を中心にして、皆。敗北を喫していた。

 

「な、んだよ……これ……」

 

 俺の声に反応したのか、掴み上げていた幽香ちゃんを放り投げて俺の方を向く()()()()。その、影の正体は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「答弁。結婚式を挙げるのならもっと前もって言いなさい。まずは私達の前に答弁の嫁候補を連れてきて

『お前のような何処とも知れぬ馬の骨に答弁は婿に出さん!』

 ってクダリをしたかったのよお母さん」

 

「母さん……」

 

 身長6.6尺(約200cm)、体重2俵(約120kg)、およそ女性とは思えないほどに鍛え上げられた巌のような肉体を持ち、そのような姿でありながらも()()()に収まりきれぬ程の膨大な霊力を携える者。元・博麗の巫女にして、歴代において只一人()()()()()と呼ばれた女性。

 

 『詭弁巫女』が、コロッセオの中心で立っていた。

 




 皆さんお忘れかと思いますが、結婚式の前にご両親へ挨拶に向かうのがマナーです。マナー違反には厳しい詭弁母であった……。え?詭弁の母親は死んだんじゃないのかって?いつ、誰がそんなことを言ったんです?

・詭弁巫女
 詭弁の母親にして元・博麗の巫女、鬼才
 博麗霊夢の先代にして育ての親であり、子供の霊夢に教えられる事を全て教えた後隠居生活を楽しむ……つもりだった。
 性格は……次回にでも。ただ一つ言えるのは『この親にしてこの子あり』。
 顔は美形で胸も大きいが、それ以上に目立つ筋肉。絶対強キャラや……。


次回予告!

「答弁、久しぶりね。見ないうちに本当に大きくなって……」
「母さん……いったい今の今まで何処に行ってたんだよ……ッ!」
「あっ、ちょっと待ちなさい。今そういうシリアスなのいいから。そんなことよりも、よ。この大会、貴方の嫁を決める大会みたいじゃない。私が優勝したってことは、つまり私が答弁のお嫁さんになるってこと?あらやだ、息子のヴァージンを頂くことになるなんて思っても……いや、むしろ息子のヴァージンは母親が責任もって管理するべきでは?」
「待って、なんでそんな乗り気なんです?」
「答弁。私だってね、花の二十代なのよ?若いツバメに心踊らないわけがないじゃないの」
「ソレ貴方の息子ですよ(二十代……?)」
「夫にそっくりで……いや、むしろ夫よりもカッコよくなっちゃってて、実質ノーカンね!」
「ダメだ話が通じない!」

次回!『母は強しっていくら何でも強すぎだろいい加減にしろ!』

 兄弟好きはブラザーコンプレックスでブラコン、姉妹好きはシスターコンプレックスでシスコン。じゃあ息子好きはサンコンプレックスで……サンコン?


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母は強しっていくら何でも強すぎだろいい加減にしろ!

コミュ症でも食うに困らない程度は稼げる職って何か無いですかね。
私はこのままだとボディービルダーにでも転職しなければならないかもしれません……筋肉を信仰しろ!

そんな事より本編。詭弁のお母さん出るまで……長かったなぁ……。
過去編が始まるのも近い……。


 詭弁巫女。旧姓『博麗巫女』がコロッセオに現れた時、起きた事全てを把握できた者は彼女だけだった。

 まず()()が現れた瞬間。そのコロッセオの中に居た『戦う意思を持たぬ者』全てを纏めて里の入り口に転送し、『立ち上がろうとする意志を僅かでも持つ者』の意識全てを断ち切った。

 彼女はコロッセオ中央へと歩みを進めながら、()()()()()()()()()()()()と知りつつも鬼の血がそうさせるのか『脅威』に殴り込みに行った鬼二人を、それぞれ片手だけでその剛腕を受けて投げ飛ばし、地面に埋まるほど強く叩きつけた。

 その瞬間を見ていた吸血鬼二人は、その正体不明の『脅威』に対して()()を選択。片や紅き槍を、片や不可避の破壊能力を、その『脅威』に向けた……と同時に、紅き槍を持っている腕が折られ、破壊能力を振るう筈の手が砕かれ、()()()殴り飛ばされていた。

 それらを空から見ていた風祝と蓬莱人は『脅威』に対し、ほんの僅かにでも二の足を踏んでしまった。空高くに()()()()しまった二人は、閃光の様な霊撃に撃ち抜かれて地面へと墜落していく。

 ()()から『幸運にも』離れていた巫女と魔女は自身に蓄積された膨大な記憶、経験、技術が須臾の間に脳裏を駆け巡る走馬灯にも似た感覚が迸り、本来の己であれば絶対に選び得ぬ選択肢を各々が自身の()に推され選択した。

 

―――『博麗式二重結界移動術(テレポート)』ッッッ!!!

 

―――『詭弁式緊急脱出(ベイルアウト)』ッッッ!!!

 

 奇しくも、同じ男が使った別の技でもってその場からの逃走を図る二人。一秒あれば遥か遠くまで移動出来る筈なのに、その一秒が長い。身体を流れる時間感覚が限りなく遅くなっていく。早く、一刻も早く!この場からの逃走を!

 刹那の時間、須臾の時間までもを感じ取れるのではないかという程に圧縮され、引き伸ばされていく時間感覚。狂っていく時間感覚。歪んでいく空間。そして―――

 

「久々に会ったってのに逃げだすなんて、また随分な挨拶じゃない?ねえ、霊夢?」

 

 刹那の時間で霊夢が捕まり、

 

「ふーん、霧雨の所のお嬢ちゃんじゃない。何よ、貴方までウチの答弁をファックしたいって言うの?」

 

 秒も経たずに魔理沙も捕まり、

 

「揃って逃げようったってそうはいかないわよ。えい!」

 

 目に見えない鎖の様な物によって大地に縛り付けられる。

 更にしつこく逃げようとする霊夢に対し、指先をヘソの上辺りに沈めるように突き刺す()()

 

「霊夢貴方、自分の()()()()()()()()()()()()()()は身を滅ぼすわよ。具体的に言えば三十路辺りで一気に老け込むかも」

 

「そんな早く老けないわよ化け物ババア!」

 

「あらやだうふふ霊夢ちゃんッたら人にババアは死亡フラグと何度も伝えただろうがバラバラに引き裂くぞ」

 

 ドスドスドスッ!!!

 霊夢の腹を貫くように三指が突き刺さる。だが不思議な事に、示指・中指・薬指の第二関節まで深々と突き刺さっているのにもかかわらず霊夢は一切の出血を伴う怪我をしていなかった。

 

「お”っ……ゲェェッ!!?」

 

 およそ女子らしくない怪声を上げているが、怪我はしていなかった。

 

「今ので寿()()()()()()はチャラになったわ。何を生き急いでるんだか知らないけど、私が死ぬ前に貴方が死ぬような事にならないでよね面倒くさいし」

 

「ゴボッ……く……」

 

 霊夢に処置して立ち上がろうとした()()に向かっていく()()()()()

 

 ガィィン!!

 

 とても肉体同士がぶつかったようには思えない程の硬質な音が響く。

 

「久しぶりじゃない……ねえ!!」

 

「あー……アンタ、誰だっけ?昔近所だったノンちゃん?」

 

「風見幽香、お前を殺し詭弁を貰う者の名よ!!!」

 

「ああ、風見幽香。なるほどね。どうでもいいわ」

 

 直後()()の身体が増え、幽香を『右拳で』挟むように殴り付ける。

 

「お前みたいなヤツにウチの大事な息子を渡すわけにはいかないのよ。だからいっぺんあの世にでも行ってきなさい」

 

 挟まれるように殴られた幽香はほんの僅か意識を手放してしまった。直後に意識を取り戻したがもう遅い。

 ()()の手が幽香の顔を掴み上げ、そのまま万力のように締め付けられていく。

 

「くっ……がァァァァ!!!」

 

 ベキッ……メキッ……と、数瞬毎に顔から、頭から、悲鳴のような破砕音が鳴り響き、もうあと数秒で幽香の頭は粉々に砕け散るだろう。

 

 

 

 

「な、んだよ……これ……」

 

 

 

 

 彼が、コロッセオに戻って来なかったら……の話だが。

 

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

 

 俺は夢でも見ているのか?

 俺がまだ幼い頃に冥府へと旅立ってしまった筈の母さんが、何故かコロッセオの中心で暴れていた。何を言ってるか(略)

 

「答弁……会いたかったわ。しばらく見ない間に成長したのね。ふふっ、父さんより格好良くなったんじゃない?」

 

「母さん……死んで地獄に落ちた筈じゃ……」

 

「あら、私が地獄で大人しくしてるタマだと思ってるの?まあ()()は無いんだけど!……答弁に会いたくて会いたくて、地獄の獄卒共を全員片っ端からブッ殺……オハナシしててね。ハァ、その上地獄で迷子になっちゃって5年以上も離ればなれになっちゃったわね。知ってる答弁?地獄ってクソ無駄に広いのよ?」

 

「こ、答えになってない……」

 

「おっと、話がちょっとそれちゃったわね。確かに私は地獄に落ちた……けど、そもそも私は『死んでなかった』ってだけの話よ。ねぇ、()()()

 

 

 

 

「ふ、ふふ……まさか地獄に落ちても蘇ってくるなんて、この頭脳を持ってしても予想つかなかったわ……」

 

 

 

 

「八雲……紫……」

 

 いつものように空中が割けるように空間が開き、中から八雲紫が現れ―――

 

「ヒトの息子に色目使ってんじゃねェェェ!!!!」

 

「ええええええ!?」

 

 八雲紫が現れた瞬間、その顔を掴み上げ()()()から引きずり出す母さん。あの、ちょっと……今シリアス……。

 

「お前の事だから私が居なくなった後に母親代わりとして答弁に近付こうとしたんでしょうけど母親はこの私一人だけよブッ殺されたいようね」

 

「待って待って待って!とんでもねぇ誤解が生まれてるわよ!?」

 

「答弁は小さい頃からそりゃもう可愛いから道行く女共からたいそう可愛がられたでしょうし、中には母親()に成り代わるクソ女……クズが居たに違いない!」

 

「母さん、言い替えても対して変わってないぞ」

 

「あの人が居なくなってしまってから、答弁は時々暗い顔をするようになったわ。ふとした時にそんな顔を見せられた女がどうなるか……よぉぉぉく知ってるわ。ねえ、()()()。私が消えてから答弁の母親に成り代わろうとして、あえなく轟沈した愚かな女。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……本当に、貴方は……不条理すぎる人間ね……!」

 

 八雲紫は母さんの拘束から逃れ、宙に浮きあがる。

 

「貴方はいつもそうだった。私の大事なものを奪っていく。不条理に、理不尽に!」

 

 その言葉に対し中指を突き立てながら返答する母さん。淑やかさって知ってる?

 

「ンなもん、奪われる方が悪い!それに夫の事を言ってるのならお門違いも良いトコよ!アンタが処女拗らせすぎたせいでしょ私のせいにすんな万年喪女!

 

もっ……!?あ、あ、アンタに言われたくないわよ発情ゴリラ!年中盛って本当に見苦しいったらありゃしないわ!」

 

「残念だったわね!私こう見えて結婚済みで愛する子供も居るのよ!アンタには一生出来ないでしょうけどねぇ!!」

 

 急に醜い罵り合いを始めた八雲紫と母さん。母さんはともかくとして、八雲紫があんな取り乱してるのは初めて見たかもしれん。

 

「な、なあ母さん……いい加減説明ぷりーず」

 

「おっと、久々のレスバについ熱が入っちゃったわ。地獄じゃ会話が成り立つような知能のある生き物も居なかったし」

 

「今のが知能ある生き物の会話だとは到底思えないんだが」

 

「はっはっは可愛い息子。私は言葉で負けると夜に復讐する系女子よ?口には気をつけなさい」

 

「夜に息子相手に何する気だよ!?怖ぇよ!!」

 

 しかも今言外にぐうの音も出ないって言ってる様なモンじゃねえか……話が進まない。とにかく何があったかを聞かないと。

 

「母さん……俺は、アンタが()()()と聞かされて今日まで生きてきた。でも、今の母さんは亡霊や外法で蘇った死者には見えない。何があったのかを全部……聞かせてくれないか?」

 

「……そうね、貴方には知る権利がある。貴方にとっては、ある日急に勝手に居なくなった母親だけど……これから話す事、信じて受け止めてくれるかしら?」

 

「……ああ、分かった。聞かせてくれ」

 

「ええ、勿論。そう、全ての始まりの事。あれは日差しの強い夏の日の事だったわ―――

 

 

 

 

 

 ある夏の日の事。私は日課の修業をこなしながら呟いた。

 

「猿のようなセックスしてーなー私もなー!」

 

「待って」

 

「何よ答弁、話はまだ始まったばっかじゃない」

 

「親の口から『セックスしてーなー』とか言われる子の気持ち考えて?」

 

「答弁。私はね、顔は良くても生まれつき岩を握力で砂に変えられるようなゴリゴリの女だったのよ。そんな女を抱きたいと思う男は居ないわ、悲しい事に。しかもその上性欲も人並み以上に持て余してると来た。そりゃあどんな聖人君子も猿のようなセックスしたいと思うってものでしょう?」

 

「本当の聖人君子は猿のようなセックスとか絶対言わないだろ」

 

「答弁。私はね、今も身体を持て余してるのよ。多少の倫理観なんてどうでもよくなる程に」

 

「おっ、おう……」

 

「息子の()()を身体で確かめても良いのよ?今ここで。ジュルリ」

 

「滅茶苦茶だこの母親」

 

「……話を戻すわよ」

 

 ―――当時の私は、今の霊夢よりも少し年上くらいだったかしらね。毎日毎日、修業してるか妖怪ブッ殺し……じゃなくて、退()()してるかの色味の無い生活を送ってたわ。

 そんなある日、ゆかりが一人の人間を連れてきたの。

 

「見なさいゴリラ!私にも春が来たのよ!」

 

「ほう、それで何処から拉致してきたの?場合によっては()()()で許してあげるわ」

 

「首一つって私の!?」

 

「あ、言い間違えた。ムカつくから()()()で許してあげるわ」

 

「最悪の言い間違いじゃないの!?止めなさい!」

 

「あ、あの……」

 

 それが、私達の初めての出会い。

 

「ど、どうも。ゆかりさんの()()()、『詭弁勉号』です」

 

 それが、貴方の父親とのファーストコンタクトだった。

 

「待って」

 

「なによさっきから」

 

「(俺が聞きたい話じゃなくね?とか、この話長くなるの?とか、色々突っ込みたいところはあるけどさ……)えっ、父さんと八雲紫が『婚約者』?」

 

「些細な事よ」

 

「些細じゃないわよゴリラクソ女!」

 

「ふっ、負け犬の遠吠えは見苦しいわねゆかり。最後に選ばれたのはこの私」

 

「はああ!?酒呑ませまくって昏睡レ○プした女は言うことが違うわねえ!!?」

 

「ふん、最後の方では彼から私を求めてきたから和姦成立してますー!」

 

「アンタが途中変な薬飲ませたせいでしょ!幻想郷でも強姦罪成立してますー!」

 

「当時は()()()だから裁ける奴なんて居ませーん!残念ですわねぇー!!!」

 

「親のシモい話を延々聞かされる俺の身になれ?」

 

 話を戻すわ。とにかく、色々あって私は勉号さんを寝取って結婚。できちゃった婚ってヤツね。その後貴方を出産したわ。

 当時は貴方を博麗の御子として育てる気満々だったんだけど、ゆかりが『女の子じゃないとダメ』って五月蠅くて。夫と二人目を作る前に何処からか女の子を拾ってきてね。それが霊夢よ。しょうがないから貴方と霊夢を同時に育ててたわけだけど……まあその辺は重要じゃないわね。飛ばすわ。

 

 それから……そうね、霧雨の所のお嬢ちゃんが里の外に行った()()の日。貴方が()()()()()時、貴方の肉体を治す事は出来ても貴方の魂は既に現世を離れていた。

 既に冥府へと向かっている貴方の魂を戻すのは()()()()では不可能だったわ。だから、恥を忍んで紫に頼んだ。『答弁の魂を肉体に呼び戻してほしい』と。

 

「へえ、どのツラ下げて不倶戴天の敵相手に下らない事を頼んでいるのかしら」

 

「たとえ妖精相手でも頭を下げるし野良妖怪の前で腹を斬って首でも捧げるわ、私のプライドや命なんかで息子の命が助かるのなら。ゆかり、アンタなら答弁の魂を戻す事が出来るでしょう?」

 

「……『蘇生した詭弁答弁の一生を幻想郷に捧げる事』を承諾するなら、『詭弁答弁の魂の代わりに貴方が冥府へ行く事』と『貴方の生きた()()を幻想郷から消す事』を条件として貴方の息子を蘇らせてあげる。貴方は死に、誰も貴方が生きた記録を残さない。そしていずれ貴方は誰からも忘れ去られ、決して誰からも認識されず朽ちていく。貴方が遺した者も、成長と共に貴方を忘れていくでしょう。それでも―――」

 

「私の息子が助かるなら」

 

「―――そう。なら()()()()()()()を入れ替えるわ。貴方の子供、散々に使いつぶしてあげる。その結果野良妖怪に食い散らかされて無残に死んでも恨まないで頂戴ね?」

 

「馬鹿にするな。あの子は私と夫の子だぞ?お前の思惑なんか華麗にぶち壊してくれるさ」

 

「……ふん、もう発情ゴリラの顔を見なくていいと思えば清々するわ。精々あの世でその馬鹿さ加減を治してくる事ね」

 

 ……そうして貴方は蘇生し、私は代わりに閻魔の裁判を受けて地獄に落ちた。地獄は凄い所だったわ。私の語彙力では到底表せない程に。時空が歪んで、時間の進みが現世と大きく違った。

 それから、地獄に落ちて暫く経ったある日。私は貴方の様子が気になってしまった。一人で生きていく術を一通り教えていたけど、それでも心配なものは心配だった。

 それでどうにか貴方の様子が見れないか唸ってたら……突然、貴方の姿が、貴方の周りに居る相手が、ぼんやりと見えるようになった。それから必死になって集中したら―――

 

「ふふ。ねえ詭弁、お腹空いてるでしょう?私がご飯作ってあげましょうか?」

 

「……お前のほどこしはうけないぞ、やくもゆかり」

 

「あ”?」

 

 今なんて?八雲紫って言った?なんて言った?『ご飯作ってあげましょうか』?そういうのは母である私の役目だろう?

 そうして気が付いたの。あっ、私……暴れる事の出来る身体があるじゃん―――って。

 

「待って」

 

「なによ今良い所なのに。ゆかりまで揃って」

 

「……えっ?貴方そんなふざけた理由で霊視能力を得たって言うの?というか、暴れる事の出来る()()ってどういう事よ……?死んだら魂だけの状態になるでしょ普通……」

 

「ああ、どうも私は()()()()答弁の魂と入れ替わったせいで実質生きたまま地獄巡りツアーに参加してた感じらしいわ。あんまりにも有り得ない事だから地獄の閻魔も極卒共も気が付かなかったんですって。ウケるわね」

 

「つまり本来死んだ魂が向かう冥府の旅路に、八雲紫の能力によって俺の魂と母さんの肉体ごと入れ替わったせいで起きた『バグ』的なサムシングって事?なにそれウケる」

 

「親子そろってコイツ等……っ!直接の原因が私にある事にビックリよ!」

 

「それからはさっき説明した通りね。5年以上暴れ回って片っ端から極卒共を捻り潰しながら地獄の底から蘇って来たわ。答弁、今まで寂しい思いをさせてしまった分、うんと可愛がってあげるわね」

 

「あ、ああ……それは嬉しいけど、もう母親に可愛がってもらうような年齢じゃないと言うか―――」

 

「言い間違えたわ。今まで愛する息子から離れざるをえなかった可哀想な私をうんと可愛がってね」

 

「それはそれでおかしい事に気付け」

 

「なんでよ!可愛い盛りの息子が目の前に居るのに思いっきり構い倒す事の出来ないなんて地獄よりも地獄じゃない!」

 

「ぐわぁ~!!?」

 

 俺よりも身長が高く大柄な女性に飛び掛かられ、全身を使って抱き付かれる。あまりの速さに巨大なフェイスハガーにでも襲われたのかと思ったぜ(震え声)

 

「あぁ、そうそう。答弁、貴方暫く結婚しちゃダメよ」

 

「ふぁっ!?ナンデ!?結婚NGナンデ!?」

 

「決まってるじゃない。貴方が結婚したら()()()()()()()んでしょ?暫くは()()()()()()()()()の生活を楽しみましょう?」

 

 そう言い放った女性は、年齢不相応な程に無邪気な笑顔を俺に向けた。

 




詭弁母「答弁と結婚したかったら私に勝ってからにしなさい」
霊夢「何よこの無理ゲー」
レミリア「か、勝てるビジョンが見えない……!」


・詭弁巫女
 息子を想って地獄より蘇ってきた理不尽系ヒロイン?
 通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃、場合によっては呪いやデバフを掛けまくってくるお母さん。ちょうつよい(脳死)
 息子を産むまでは性欲が溢れていたのだが、生まれつきゴリラ(比喩表現)な彼女は絶望的にモテなかった。顔は良いんですけどねぇ。

・詭弁勉号
 極普通の外の世界の住人。ワイルドなイケメン。
 外の世界で何やかんやあって八雲紫と婚約。八雲紫が勝手に言いだしただけだが当人も満更じゃな()()()
 幻想郷に来たがその日の内に博麗の巫女に美味しく頂かれました。セックスから始まる愛もあるよね!
 そしてやっぱりなんやかんやあって失踪。現在は行方不明。死体すら見つかっていないらしい。

・八雲紫
 想い人をクソ女に寝取られてブチギレ案件。巫女に対し恨みも怨みもあるし、その血を継ぐ詭弁にも似た想いを抱いている……が、彼は想い人の血も半分継いでいるのだ。


次回予告!

 色々あったが家に住む家族が増えた……というより()()()詭弁。だが、母は色々と束縛が強かった。
 詭弁の事を思う幻想郷の者達は、どうにかして詭弁を解放させようと画策するが純粋なる力を前に打つ手は無かった。
「……こうなれば手段は選んでいられないか」
「私が、詭弁を助けるんだ!」

 次回!『燃えさかれ神の炎!沸き上がれ灼熱の湯!』

 温泉回が多い?何か問題でも?


 感想評価ここすきボタン連打ヨロシク!感想欄に変な奴がくるのも人気作のサダメってやつだからなぁーつらいわ~!かぁーっ!
 我こそはって奴はドンドン感想書いてけ(真顔)


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燃えさかれ神の炎!沸き上がれ灼熱の湯!

花粉症つらいぬぇ


 母さんが復活してから数日経った。俺は何とか母さんに()()()()のを阻止し続けているが、それも時間の問題だろう。性欲を持て余した■■(ピー)歳を舐めてた。風呂に入ってくるのは当たり前だし布団に潜りこんでくるのは呼吸をするように自然と行ってくるし挙句の果てには博麗式二重結界移動術で自身の腕の中に俺を転送するという回避不能な技を繰り出してくる始末。服を脱がされた時はもうダメかと思った。

 

「ふふふ。どうも地獄に居た間、身体は年を取っていないようね。むしろ若返った気分……今の私は全盛期よ(性欲的な意味で)」

 

「だからそれを息子に言ってどうする」

 

「貴方は私の息子でもあるけどその前に一人前(意味深)の男だという事を自覚しなさい」

 

「俺が一人前の男になる前から俺の母親なんだから自覚しなさい」

 

「あらあら勉号さんに似て口も上手くなってムラムラしてきたわちょっと寝室に来なさい」

 

「行かねえよ!!?」

 

 これが普通に赤の他人とかだったら全然問題ない……むしろバッチ来いくらいの感覚なのだが、相手は母親である。どうして……。

 そして下手に()()をこなそうものなら……

 

「答弁。今の私の嗅覚は、たとえ一日前の()()でも嗅ぎ分けられる程鋭敏になってるのよ」

 

「どういう事なの……」

 

 と風呂場だろうが便所だろうが、鍵を閉めていても持ち前の『開錠スキル(物理)』で入ってくる始末。

 そして最悪の手段として()()()()()に外で処理してこようにも普通についてくるという……。性欲が溜まりすぎてもう母親でも良いかな……とか思いだしてくる。ヤバい。

 

「おい詭弁……お前、凄い顔色してるな……」

 

「おう五福……それはそうとお前死ねェ!!!

 

「おぼぶゥ!!?」

 

 溜まってるムシャクシャと天子ちゃんとの結婚式を台無しにしてくれた怒りを込めたお礼の一撃(レバーブレイクショット)を道で出会った五福に打ち込む。膝から崩れ落ちた五福に追撃の蹴り。

 

「ゴボッ!?お、お前……容赦ねえな……」

 

「可愛い女の子との結婚を邪魔したヤツに対する行動としては非常に慈悲のある方だと思いますが」

 

「それはスマンて!だがオレの言い分も聞けって!」

 

「聞いたらお前を沈めていい?」

 

「良い訳ねえだろなんだよその殺意の高さは!?」

 

 五福曰く、幻想郷天下一武闘会は天子ちゃんと俺に対するヘイトを下げる意味もあったらしい。幻想郷全体を()()()()()大異変の犯人である天子ちゃんに対し、甘々な処罰どころか『結婚』するなんて前代未聞も良いトコ。俺が大地震は自然現象だ、という風に言っても分かる奴には大地震の犯人は分かるらしい。

 

「ましてやお前は幻想郷一()()()になる詭弁。人妖問わずお前の結婚を妨害しようとする奴が出てくるだろ?それならいっその事そういう奴等を纏めてド派手な祭にしちまえば、異変で溜まったストレスの捌け口くらいにはなるだろうって思ってな」

 

「……お前が全部考えたのか?本当に???」

 

「…………天人の名居守さんにアイデアを出して貰いました」

 

 お前さぁ……。いや、もう過ぎた事は良いとしよう。

 

「しかし……まあ、なんだ?お前のお母さん……生きててよかった……な?」

 

「何で疑問形なんだよ」

 

「いやぁ……だって、なあ?意味分かんねえよ。お前目当ての妖怪全員里から排除しながら……今もお前にずっと引っ付いてるとか理解の範疇超えとる」

 

「それな」

 

 そう、今の俺は家の外に出ようものなら背中に母さんが飛び付いてくるという謎仕様を受けている。無論、今も。これなんて刑罰?

 

「しかし……あれだな、それだけ強ければ里でも伝説になっててもおかしくないと思うんだが」

 

()()()()()()()()()()ってのがよく分からんのだが、親しい者以外の記憶から消えて『霊夢ちゃんの()()()()()という存在が居た』って記録しか残らなかったそうだ」

 

「ふーん……『人は忘れられた時に再び死ぬ』って言うし、妖怪の賢者もそういうのを狙ってたのかねー」

 

「さて、八雲紫の真意なんて理解できるとも思えないが……っと、今日はまだ依頼が残ってるんだった。じゃあな」

 

「ん、おう。…………結局背中の母親、一言も喋らなかったな?」

 

 

 

「……答弁、答弁」

 

「なんだよ母さん」

 

「さ、さっきの人は貴方のお友達……?あ、挨拶とかした方が良かったかしら?母親として」

 

「そんな事気にするくらいなら初めから背中に引っ付かなければいいのに」

 

「む、無理よ……だって相手が妖怪とかならブッ殺……退治すればいいけど、に、人間の男と目を合わせるなんて……そのうえ会話とか……う”ッ、想像しただけで吐きそう……」

 

俺の背中に吐くなよ!?つーかそれでよく父さんと結婚出来たな!?」

 

「あの人はすごく会話しやすかったから……」

 

 両親にコミュニケーション能力に差があり過ぎ問題。つーかそんなナリでコミュ症なのかよ母さん。

 

「人間の男相手だけよ……妖怪とか、同じ女だったら普通なのよ?」

 

「ンのくせに日常的に『セックスしてーなー』とか言ってんのかよ」

 

 妖怪はアレだろ?どうせ最終的に殺せば同じか、みたいな思考回路だからだろ?

 

「そ、それにお酒入ればもっと饒舌よ私!」

 

「はいはい」

 

 酒入って急に滅茶苦茶な距離のつめ方とかしか予想出来ないんだが。父さんは本当によく母さんと結婚したな……。

 

「答弁今失礼な事考えてる!?母親だから分かるのよ!?」

 

「母親なら今息子が抱えてる不満も分かって?」

 

「大丈夫よ!一発ヤれば気にもならなくなるわ!」

 

「ンもうそういう所だぞ!?」

 

 誰か助けて……。

 

 

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

 

 

 -人里外-

 

 

「はぁ……はぁ……こ、これが『先代巫女』の力……か……!」

 

「くっ……()()で、この強さとは……!これでは本当に詭弁さんの……!」

 

「天狗共。悪い事は言わないわ、今すぐ山に戻りなさい。答弁たっての希望だから五体満足に留めてあげてるけど、貴方達程度の雑魚妖怪を原形留めたまま攻撃するってのもかなり気を使うのよ」

 

「……椛、ここは一旦引くわよ」

 

「くそっ……詭弁……」

 

 

「……やれやれ。これで……何組目だ?あの子が健やかに成長していた事は喜ばしいとは言え、人妖問わず口説きまわってるとはね。誰に似たんだか……親の私が答弁に適した嫁を探さないとね」

 

 

 

 

 -妖怪の山 守矢神社-

 

 

「……と、いう訳で手も足も出せず、()()にすらなりませんでした……」

 

「ふむ……ウチの早苗も追い返されたし、あの女の目的がイマイチ分からんな。何故詭弁に執着する?いくら息子とはいえ既に元服は済ませてる様な年齢だろう?」

 

「母親にとっちゃ幾つになろうとも子は可愛いものだよ、神奈子。……まあ、ありゃ流石に行き過ぎな気もするけどねー」

 

「里に隠れ住む、詭弁さんの事を慕う妖怪達を全員叩き出すのは行き過ぎとかそう言うレベルでは無い気も……」

 

「『先代巫女』ねぇ……それだけ強いのならもっと有名になっててもおかしくないのだけど……ブン屋、『先代巫女』に関するニュースとか残ってないのかい?」

 

「それが何処にも……私自身、以前にも『先代巫女』に接触した記憶自体はあるのですが、何故か『先代巫女』に関する記事の一切が残ってないんですよねぇ……()()()()()()()()()()()()()不自然さですよ」

 

「ふむ……自分で隠してるのか、或いは()()()()()()()()()()()()()()()()()か……まあ、今は重要な事じゃなさそうだ。それより詭弁が『先代巫女』の下で監視され続けているのは良い状態とは言えない。何とかして離さないとだな」

 

「じゃないと詭弁の童貞が実の母親に戴かれるという悍ましい結果になりそうだからね!」

 

「諏訪子、お前ちょっと黙ってろ……」

 

「ねえ白狼天狗、今も詭弁の貞操は危機に瀕しているんだろう?」

 

「えっ!?あ、えっと……」

 

「だから黙ってろ諏訪子!!天狗の子が凄い困ってるだろ!……はぁ、なんにせようまく『先代巫女』から詭弁を引き離すには実力行使じゃ難しいな。単純な力比べでも鬼に勝り、速さでも天狗に勝り、数の利をひっくり返す純粋な実力の持ち主。あの魔理沙や早苗、咲夜と言ったか?あのメイドと半人半霊の者達も有象無象と扱う強さ……どうしたものか」

 

「ねえ神奈子、それならこの前手に入れた()()を使えば良いんじゃない?流石に一人間が()()に敵うとは思えないし」

 

「ん……だがいくら何でも()()は……いや、待てよ?うまく制御出来れば……信仰……エネルギー革命……

 

「あ、あの?話が見えてこないのですが?」

 

「ん?ああ悪いなブン屋、とりあえずこっちはこっちで手を考えておく。お前達は『先代巫女』の急所、弱点、とにかく何でもいいから情報を集めてくれ。今の所分かってるのが『詭弁の母親』と『幻想郷最強生命体』という二つだけじゃぁ割とどうしようもないからな……」

 

「分かりました。天狗としても、幻想郷が『先代巫女』に支配されるのは回避したい所ですからね。椛、貴方は山の哨戒任務から外れて『先代巫女及び詭弁さんの監視』を徹底しなさい。大天狗達には私から言っておくわ」

 

「はっ。(いつもこう()()()なら尊敬するのになぁ……)」

 

 神二柱に対し一礼した後、高速で飛び去る天狗二人。後に残った神二柱は肘を突きながら()を練る

 

「……早いところ詭弁を『先代巫女』の保護下から出さないとな」

 

「あのままじゃ()()()()()()()()()からねー。で?()()を使うとして、誰か良い相手でも居るかい?」

 

「良い相手がいるかどうかは分からないが……良い()()には心当たりがある」

 

「へー……そりゃ何処だい?」

 

「決まってる。……地獄だ」

 

 

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

 

 

 今までの俺はもの凄く恵まれていたという事を自覚しだした今日この頃。可愛い女の子との接触を断たれて……もう、何日だ?俺は何故生きているという哲学的な問いを繰り返しながら今日も仕事をこなす。里の中だけでも慧音先生や妹紅先生、ピンク髪の仙人や鯨呑亭の看板娘等々、美女美少女は幾らでも会う事が出来る筈……なのにっ!何故っ!顔すら合わせられぬっ!

 

「美女なら此処に居るじゃない」

 

「一般的に母親を指す言葉として美女とは言わない」

 

 俺は……俺はただセクハラをしたいだけなのに……どうしてこんなことに……。このままじゃ阿求嬢でもよくなっちまうよ……。

 

「詭弁さんそれ普通に暴言ですからね」

 

「今すぐ阿求嬢が大人になぁ~れ!」

 

「悪かったですね子供体形で!!!」

 

「おいお前私の息子に色目を使っ―――」

 

「そぉい!!」

 

「へぶっ」

 

 そして気を抜けば阿求嬢相手でも容赦なく殺気を飛ばす我が母上の顔面に掌を打ち込む。ほんともういいかげんにせーよほんと。

 

「答弁が家庭内暴力を振るってきた……」

 

「言っておくけど息子を性的に襲うのも家庭内暴力だからな?」

 

 知らん顔してそっぽを向く母さんにため息を吐く。あーあ、生活に()()が欲しいなぁー……と、考えていたところに地響きが鳴り渡る。

 

「だ、大地震の前兆ですか!?」

 

「いや、違う……これは―――」

 

 

 ―――幻想郷の各地に、高々と間欠泉が噴き上がった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「私も異変解決についていくわよ!」

 

「来ないでくれ頼むから、切実に」

 

 異変解決の準備を整え、現在も噴き上がっている間欠泉に向かえばそこには怨霊がうようよと漂っていた。コイツ等は一体……?

 

「怨霊……しかも湧き出る温泉と共にぽこぽこ出てくるわね……」

 

「温泉と共に、か……って事は地底から来てるのか?」

 

 はて、怨霊を操る……何処かで聞いたことあるような無いような……

 

 

「無双拍手」

 

 

 パン!と霊力が過剰に籠った拍手(かしわで)がうたれる。その直後、漂っていた怨霊が塵となって空気に溶けるように消えていった。成仏とかじゃなく、消滅。

 えっ、怖。

 

「さあ答弁、お風呂に入りましょう?」

 

「入らねえよ!?異変解決しに来たんだよ!」

 

「大丈夫よ。怨霊が湧いて出てきても片っ端から()()()その内尽きるでしょ」

 

「やだこの母上様脳筋……つーか各地で間欠泉噴きあがってるし、多分怨霊も各地で湧いてきてる筈だろうから根本的解決に至ってねえぞ」

 

「えー。じゃあどうするのよ、怨霊が湧いて出てくるくらい大したことないじゃない」

 

「えっ」

 

「えっ」

 

「お、怨霊が妖怪に憑りつくと、その妖怪が死ぬんだって。だから放置してたら幻想郷がヤバいだろ?」

 

「別に妖怪が幾ら死のうが大したことないでしょ?あいつらまたその内ポンと湧くわよ」

 

「えっ」

 

「えっ」

 

 本当に博麗の巫女だったのかよ。幻想郷のパワーバランスを保つ役割とは……

 

「と、とりあえず地底に向かおう。地底世界は怨霊がいっぱい居たから、多分誰かが地上に怨霊を送り込んでるんだろうし」

 

「なるほど。つまりその地底世界をブッ壊して埋め立ててしまえば良いのね!」

 

「完璧な案だな、地上がどうなるか予想つかないって事を除けばなァァァ!!!」

 

 もうヤダこの母上。

 何とか牽制しながら、地底へと続く大穴を降りていく。飛べないってのは不便なモノで、魔法を使って大穴の側面に階段を作りながら降りていく。母さんも空を飛べないらしく、俺が作った階段を後からついてくる。

 

「飛ぶより跳んだ方が速いもの」

 

「……そうだな」

 

 昔は飛べない事に対し不便を感じていたが、今は重い物を運ぶ事とかザラにあるし重量制限のある飛行に利便性を見出せなくなっているのも確かである。

 そうして階段を作りながらゆっくり降りていくのに飽きてきて、だんだんと階段の間隔が大きくなっていき、ついには身長の五倍はあろうかと思われる程度の段差をチョンチョンと降りていく。

 

「(ああ、そういえば少し前に地底へ落ちた時は本気で死ぬのを覚悟したなぁ。今じゃあれくらいの高さから落ちても死ぬ気しないけど)」

 

 なんせ天界から地上まで隕石と共に落ちてきたのだ。いい加減人間辞めてる。

 そうしてほぼ落ちるような速度で大穴を降りていき、ようやく地の底に到着。穴の底には、足を踏み外した哀れな者達の残骸が散らばってる……と、いう事も無く。上を見上げれば、遥か遠くに日の光が見える。

 

「……妖怪の気配がするけど……近くには居ないようね。大方少し前までこの辺に住んでたって所かしら?」

 

「んぃ?」

 

 そうして辺りを軽く見回してみると、何処かで見たような白い糸が壁に付着してるのが見えた。ふむ?

 ……ああ、そういえば前に地底落ちした時に出会ったヤマメちゃんは土蜘蛛だったな。あれは本当に良いケツだった……じゃなくて、この糸を見るにヤマメちゃんがココに住んでたって所か。

 はて、だとしたら何故ヤマメちゃんはここの巣を捨てて引っ越ししたのだろうか。……まあ、良いか。

 

 そうして俺と母さんは妖怪の気配が濃い方向に進んでいった。

 道中、不気味な程に妖怪や妖精達の襲撃を受ける事も無く……。

 




やる気おきないぬぇ


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灼熱地獄に対を成す極寒地獄旅行ですかぁ!?

なんか最近書く気力が出てこない……まさか、病気?
永琳「ゲームのやり過ぎね」

13話ぶり、二回目の地底旅行。だが、前に比べればどうにもキナ臭い……


「……気配はあるけど、誰も居ないわね」

 

「うーん」

 

 地の底の底へ向けて歩いている道中、小さな橋に差し掛かったのだが誰も居なかった。おかしいな、てっきり小ぶりながらも素晴らしいものをお持ちな橋姫が居るかと思ったんだが……。

 

「まあいいわ、それより怨霊よ怨霊。答弁、この先に妖怪達がうようよ居る気がするし、霊撃で先制攻撃を―――」

 

「問答無用にも程があるぞ母上殿」

 

 隙あらば先制霊撃を撃とうとする母さんを宥めながら長いトンネルを抜けると、旧地獄の繁華街の煌びやかな明かりが俺達を出迎える。

 前に来た時は繁華街が壊滅した訳だが、今はもうすっかり元通りとなっているようだ。

 

「中々ブッ壊し甲斐がありそうな場所ねぇ」

 

「やめたれ」

 

 ついこの前実際にブッ壊れてるんだから。何でこんな血の気が多いんこの母上。

 そうして旧都に足を踏み入れると、俺達の存在に気が付いた男鬼が俺達の前に躍り出る。

 

「人間ン~?こんな所に何の用だァ?」

 

「答弁、コイツは殺して良いわよね?」

 

「五体満足に生かしてやれって……」

 

 だからなんで一々物騒なんこの母上様。

 

「あァ?このオレ様を殺す?グワハハハハ!!!出来るモンならやってみなァ!!鋼鬼と呼ばれる、この『弾巌正―――

 

「一々耳障りなのよアンタ」

 

 指弾。指に乗せた弾を指の力で弾き飛ばす技。母さんは指に乗せた小石を弾き飛ばし、目の前の鬼の眉間に寸分狂わず直撃させて昏倒させた。

 

「チッ、加減するのも楽じゃないわねぇ。石コロを粉々にしそうだったわ」

 

「加減って小石飛ばす方かよ。……なんかもう、それくらいの縛りプレイの方が丁度良いんじゃないか?」

 

「こんな道のど真ん中で緊縛プレイだなんて破廉恥な!」

 

「その脳内変換機能の方が破廉恥だと思う」

 

 詭弁答弁はこの母親を縛れるだけの強力な紐を探しています。所持してる方は今すぐご連絡ください。よろしくお願いいたします。

 と冗談はさておき、今の騒ぎで血の気の多い連中がガヤガヤと騒ぎながら俺達に寄ってくる。はて、前もこんな事があったなぁ……デジャヴかな?

 

「喧嘩だ喧嘩!」

「チィッ!こんな時に騒ぐダボは誰だ!?」

「敵襲!敵襲!」

「さっさと終えてアッチに向かうぞ!」

 

 はてさて、聞こえてくる騒ぎの声からして前みたいなお祭り騒ぎのような雰囲気は感じられない。それどころか焦燥を感じられるような声だ。そうこうしてるうちに鬼達がどんどん集まってくる。鬼だけでなく、その他地底に封じられていた危険な妖怪達まで俺達を取り囲む。

 

「コイツ、この前勇儀姐さんを倒したっつー人間だぞ!」

 

「このクソ忙しい時に……おいテメェ!今すぐ帰れば痛い目を見ずに済むぞ!!」

 

「お、おい待てよ。この人間に手を貸してもらうってのはどうだ!?勇儀姐さんを倒す実力の持ち主だ、きっと役に立つだろ!」

 

「ふざけんな!人間なんかの手を借りれるかよ!」

 

 ぎゃあぎゃあ騒ぐ妖怪達。話を聞くに、この地底には何かしらのトラブルが起きているらしい。どうする?

 ・お前等一旦落ち着いて事情を話せ

 ・一度引き返す

 ・俺には関係ないね。押し通らせてもらう

ニア・とりあえずボコす

 

 「博麗震脚」

 

 ズドンッ!!!

 母さんの脚が地面を()()()。一瞬しか揺れなかったが、地に立っていた者は皆その揺れによって転倒した。

 そして大きな隙を晒す妖怪達が見上げた空には、星のように光る霊力弾が()()()()()待機していた。

 

 「夢想天星」

 

 その壮絶な光景を前に、妖怪達は皆息を止めて硬直した。

 そして煌めく星々の全てが、繁華街を蹂躙する―――

 

 「『夢想天生・反転(むそうてんせい・リベンジ)』!!!」

 

 空から降り注ぐ霊撃全てが一瞬止まり、俺に向かって()()()()()()。俺はその全ての霊撃を一点に集め、陽輝棒に吸収させる。

 

「ちょっと答弁、邪魔しないでよ」

 

「ンだから妖怪相手に問答無用が過ぎるぞ母さん!!意思疎通くらいしろよ!」

 

「だからこうしてまずあいつ等に『立場』ってモンを分からせようとしてるんじゃない。どうせ妖怪しか居ない場所だし、多少暴れても問題無いでしょ?」

 

()()の範囲が広すぎる!!」

 

 明らかにこの辺だけじゃなく繁華街全体が攻撃範囲でしたよね?なんでこう……なんでこうウチの母親はこんなんなんです!?

ニア・お前等一旦落ち着いて事情を話せ

 ・一度引き返す

 ・俺には関係ないね。押し通らせてもらう

 ・とりあえずボコす

 

「ひぃ……い、命だけは許してください。な、なんでもしますから……」

 

「ん?今何でもって―――」

 

「答弁」

 

「あっはい」

 

 女鬼の言葉につい反応してしまったが、心を落ち着ける。くっ、星熊勇儀よりも少し小さいがハリのありそうな良いおっぱいが悪い……。

 とにかく今地底で何が起きているのかを聞いた。

 女鬼の話を要約すると、地底の奥の奥、地霊殿の下にある灼熱地獄でとある神が大暴れしているらしく、その余波が地上に湧き出す間欠泉という形で影響を与えているらしい。さらにそれとは別件で()()()()()()()()()()が、灼熱地獄とはまた別の地底の奥地である『嗢鉢羅(うばら)地獄』に本拠地を置いているらしい。

 

「今は勇儀姐さんが抑えているが、相手は数が非常に多すぎる。撃ち漏らした雑魚が頻繁に此処まで来るんだ……」

 

「雑魚ならお前達で何とかなるだろう」

 

「ああ勿論。だが奴等は非常に厄介な事に、潰せば八寒地獄の凍気を撒き散らす!鬼である私達には()には強いが()()にはそれほど強くない……まあ無論普通の人間なんかよりは滅法強いんだが、八寒地獄の凍気は普通の寒さなんか比じゃないのさ」

 

「なるほどな。完全に理解した」

 

「答弁、『八寒地獄』って何?」

 

「知らん」

 

 その言葉にずっこける女鬼と母さん。

 

「……簡単に言えばめっちゃ寒い地獄の事だ」

 

「要するに地底の奥で神様と不審者が暴れてるって事だろう?道中妖怪や妖精達に襲われなかったのは、単純に他の脅威に対して向かっていたから……か。よし、まずは地霊殿に向かって暴れる神様を鎮めてから侵略者に向かおう」

 

「……答弁、そうも言ってられないみたいよ」

 

 母さんの言葉に反応を返す前に、物凄い猛吹雪に襲われた。

 

「うわっ!?寒っ!」

 

「ヒィッ!?や、奴らだ!!!」

 

 繁華街の外側から猛烈に吹き付ける凍える風が顔をピシピシ叩く。風の吹く方向を見た瞬間に、背中に感じる柔らかくも暖かなおっぱ―――

 

「ウチの息子に手を出すんじゃない!」

 

「にぎゃぁぁぁぁ!!!?」

 

 ……目にも止まらぬ速さの掌底打ちが女鬼の重心を叩き、綺麗な弧を描いて吹っ飛んでいく。あのさぁ……。

 

「さて、どうも妖怪でも神でもない変な気配が寄ってきてるわね。……どうしたのよ答弁?」

 

「……なんでもないよ」

 

 頭痛がしてきた……精神的なダメージに回復魔法は聞くか知らん。

 ともかく、旧都の中央である地霊殿がある方向とは逆から吹き付ける猛吹雪に向かって進む。あー寒い寒い……。

 

「つーか母さんは寒くないのか?」

 

「生憎この程度の寒さでどうにかなる程度じゃ博麗の巫女なんてやってられないのよ。それにこの程度、地獄から戻る最中に迷い込んだ何とかって地獄の方がまだ寒かったわ」

 

「地獄なのに寒いとかあるんか」

 

 地獄ってだいたい炎に炙られるみたいなモン想像してたけど、実情は違う感じ?まあ、今はどうでも良いけど。

 猛吹雪の発生源に向かっていくと、そこには岩山みたいに大きくゴツゴツした大男がその拳を振るっているのが見えた。

 

「クソ(さみ)ぃしキリがねえなぁ!!!」

 

「般京!さっきから潰すから寒くなるって言ってんじゃん!!潰さないように押し返せってば!!」

 

「黙れ黒谷ぃ!オレ様に指図するんじゃねえよ!!!」

 

 吹雪の中よく見れば、大男の肩の上にヤマメちゃんが乗っているのが見えた。乗っているというか、肩の上に立って大男の頭を殴り続けている。

 

「あ”あ”鬱陶しいッ!!」

 

「うわっ!!?」

 

「危なッ!」

 

 大男の拳によって肩から叩き落とされたヤマメちゃんを咄嗟に抱きかかえるように受け止める。セーフ。

 

「あ、ありがとう……って、お前は詭弁!?」

 

「おう、詭弁さんだぞ」

 

「な、なんでアンタが……いや、丁度良い!アンタの力が必要―――」

 

「私の目の前で息子とイチャつこうなんて百億年早いのよ妖怪」

 

 パァン!!

 と音を置き去りにした正拳がヤマメちゃんの胴体を貫く……という事にはならず、気力と霊力を混ぜ合わせた結界で防ぐ。流石に二度目は許さん。

 

「母さん、マジでいい加減にしてくれ。話が進まん」

 

「答弁、そいつは人喰い妖怪よ。何故庇うの?」

 

「可愛いから以上の理由はねえよ。それよりもまずは()()()の事だ」

 

「……後でしっかり話す必要があるわね」

 

「ひぃ……何なのさ、この大巫女……」

 

 視線を向こうに合わせれば、今も大男が大暴れしている。その腕や脚で潰しているのは小さな生命体のようだ。

 

「あの大暴れしてる奴は『般京』、アタシと同じ土蜘蛛さ。アイツは頭が悪いが力だけなら勇儀の姐さんとタメを張れる。そしてアイツがプチプチ潰してるのは、『嗢鉢羅(うばら)地獄』から湧いて出てきてる変な奴らさ。ああして倒すと、凍気をばらまいてくる」

 

「どう控えめに見ても()()()()()には見えないんだが……まあそれより地獄から湧いて出てくる変な奴等だな、アレは……魔法生物?」

 

 般京と呼ばれた妖怪が潰しているのは、氷の礫に手足が生えたような見た目の代わった生き物……いや、あれは生きてるのか?ともかくソレらが奥に見える洞窟から絶えず出てきて、物量でもって般京に襲い掛かっている。

 

「奴等は今般京を狙ってるけど、もし般京がやられたら繁華街の方に向かって来るのは目に見えてる。頼む詭弁、何とかしておくれよ!」

 

「美女の願いにNOと言わないのが出来る男ってモンだ。『炎獄の咆哮』!!」

 

 持っている炎のエレメンタルを使い、灼熱に燃える閃光の魔法を口から放つ。閃光が空間を焼きながら魔法生物が湧いて出てくる洞窟にぶち当たり、周囲の地面ごと業火に包まれた。

 

「凄い……!」

 

 業火に包まれた魔法生物たちは絶命する瞬間に自爆するように弾けて周囲に凍気をばらまくが、その凍気すら業火は焼き尽くす。あっという間に魔法生物たちは全滅した。

 

「あ”あ”っ!?テメェらオレ様のエモノを横取りしてんじゃねえ!!!」

 

 何故かブチギレた般京が俺に向かって拳を振りかぶるが、その拳が振り下ろされる前に母さんの一撃が般京の顔に突き刺さり、高速回転しながら地底の岩壁に突き刺さった。

 

「さっきから声デカすぎて煩いのよ!」

 

「は、般京を……一撃でノした……」

 

 ……まあ、野郎の妖怪なら生きてりゃ大丈夫やろ。洞窟から出ている魔法生物たちは業火に飲まれ、洞窟の奥には未だ出てきていない魔法生物たちが炎を恐れて逃げていくのが見えた。

 

「どうやら元凶は更に奥に居るようね」

 

「さらに寒くなりそうだ」

 

 猛吹雪の発生源である魔法生物が全て燃え、辺りは炎がパチパチ弾ける音に包まれた。少なくともこれで旧都の方はこれ以上猛吹雪に襲われる事は無いだろう。だが洞窟の方から業火を越えて凍気がそろりそろりと出てきている以上、まだ終わってはいないということだ。

 

「……詭弁、その先は地底の妖怪達すら滅多に近づかない極寒の地獄だよ。なんて言うか……その……き、気をつけてね」

 

「おう、ありがとうヤマメちゃん。無事に帰って来れたら俺とセッ―――」

 

「さっさと行くわよ答弁」

 

「耳が痛いッ!?」

 

 母さんに耳を掴まれ、引き摺られるように地底の奥地へと向かっていった。

 

 

 

「詭弁……無事で帰ってきなよ……」

 

 

 

 

「ここが地底……まあ、随分と賑やかな所じゃない」

 

『そうね。ただ気がかりなのは、道中妖怪達の妨害が一切無かった所かしら……』

 

「楽に異変解決出来るならそれに越した事は無いぜ」

 

『そうね、でも気は抜かないようにしなさいよ。前に地上に侵攻してきた妖怪達よりも厄介な奴等が地底にはまだ居るみたいだし』

 

「……それに、この異変はさっさと解決した方が良いと思うわ」

 

「あん?そりゃいつもの()か?」

 

「ええ、いつもの()よ」

 

『それならなおさら道中気を抜かないようにしなさい。全く、あのゴリラ女さえ居なかったら詭弁にも依頼したのに』

 

「そもそも里にも近づけないってのにどうやって依頼するって?」

 

『おしゃべりはその辺にしときな。うーん……随分地底の雰囲気が変わったように思えるな』

 

 同刻、旧都に二人の人間が足を踏み入れた。

 




主人公達は地霊殿通常?ルートへ。詭弁達は灼熱地獄とはまた別の地獄ルートへ。
東方詭異変、始まります。


よく分かる詭弁巫女スペック
・思いっきり足を踏み込むだけで地震を起こせる程度の圧倒的筋力。
・天を埋め尽くす程の霊力弾を瞬時に生成できる程度の圧倒的霊力。
・銃弾を見てから握り潰せる程度の反射神経。
・むずかしいことはわからん程度の脳味噌。

なんだァこの巫女……歩くチートかよ。


『博麗震脚』
 霊力を込めて地面を蹴ることで強力な横揺れ地震を広範囲に引き起こす()()。技の範囲に居る者は転倒する。
 規模は極々狭いが、似たような事を霊夢も出来る。

『夢想天星』 速攻魔法
 場に『詭弁巫女』が居る時に発動できる。このカードを発動したターンの終了時、場に存在する『詭弁』カード以外の全てを破壊し相手に1000ダメージを与える。
(「最終奥義?この程度ただの小手調べよ」)-詭弁巫女

夢想天生・反転(むそうてんせい・リベンジ)
「夢想天生が()()()()()()()()()()技なら、この技はあらゆるモノを引き寄せる技……と言いたい所だが、今の所は霊力を引き寄せて吸収する技だ。その名の通り夢想天生に対抗するために俺が編み出した」


・八寒地獄ってなあに?
「俺達が良く知る焦熱地獄ってのはなんでも『八熱地獄』と呼ばれる地獄群の最下層から数えて三番目らしい。そして八寒地獄ってのは、その八熱地獄の隣に存在しているようだ。いわゆる()()()()()()()とは真逆の極寒の地獄だそうだ。嗢鉢羅(うばら)地獄ってのは八寒地獄の最下層から数えて三番目。おお、焦熱地獄と同じ位置だな!」

「諸説ありッ!!!」



最近は花粉のせいでモッチベェーションが上がりません。さあ皆!感想を送って作者に元気を送ってください!感想が無いとこの作者マジで書かないから!


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極寒地獄でまた会おう。

へーこれが歴代最強の博麗の巫女か!
詭弁くん…ボクは ずーっとこの巫女を倒す戦略を考えていたんだ。
でも なかなか見つからなくて……でもようやく見つけたよ……

こ う す れ ば よ か っ た ん だ !


※本編とは特に関係が無い事も無いかもしれません。


「寒すぎてマジサムシングエルス……」

 

「急にどうしたのよ」

 

 洞窟を抜けてナントカって言う極寒地獄に足を踏み入れれば、真冬の夜に吹雪の中全裸で歩いているかのような寒さが俺達に襲い掛かる。母さんはむしろこんな寒さの中で何故平然として居られるのですかね?

 魔法の炎を纏うことで寒さを拒絶する。これでなんとか普通に行動出来そうだ。襲い掛かってくる魔法生物を焼き捨てながら進攻すると、薄暗い極寒地獄の向こうに巨大な建物がぼんやりと浮かび上がってきた。

 

「この変な奴らはあそこから出てきてるっぽいわね」

 

「あんな遠くにあるのに、よく見えるなぁ」

 

「勘よ、勘」

 

 勘かぁ。

 そうしてその建物に近付いていくと、氷で出来た巨大な城だということが理解できた。そしてその城の前で大暴れしている星熊勇儀と、常人の二倍以上の大きさの魔法生物の群れも見えた。

 

「だァ!クソっ倒しても倒してもキリが無いねぇホントに!!!」

 

「夢想天星」

 

「んぁ?なんだ急に明るく―――」

 

「本当に問答無用だよなぁ母さんよぉ!?」

 

 空から数えるのも億劫なほどの霊撃が降り注ぐ。それらが地面へ当たる前に星熊勇儀のもとへ高速で移動し、抱き抱えながら強度を高めまくった結界を張って直後に来る衝撃に備える。

 

「き、詭弁!?おま、なんで!?」

 

「口閉じとけ星熊勇儀!舌噛むぞぉ!」

 

 直後、結界ごと揺さぶられるような轟音と共に目に見える世界が一瞬で変わった。

 先程まで見えていた白銀と極寒の世界が、今は地面がすべてひっくり返ったかのような土色の世界となった。俺達は結界の中で、凍りついた大地ごとミキサーに掛けられたかのように天と地がぐるぐる混ざり続けるように吹き飛ばされる。

 

 衝撃がようやく収まり、目を回しながら瞼を見開けば今にも割れ砕けそうになっている結界が見えた。もしこの結界が破られてたと思うと、少なくとも俺も星熊勇儀も五体満足にはいられなかっただろう。

 

「……詭弁、危ないところを助けてくれたようだな。感謝する。感謝はするが……そこを退け」

 

「おや失礼」

 

 俺は今、仰向けに倒れている星熊勇儀の胸に手をおいて四つん這いになっている姿勢だ。星熊勇儀はこの寒い地獄の中で暴れ続けたせいか体温が非常に低くなっている。ふむ。

 

「失礼ついでに凍傷にならないように暖めなければ。人肌で」

 

「んなァ!?バカ野郎止めっ!?」

 

 おぅ、冷やしおっぱいは身体に悪いぞぅ。女の子が身体を冷やしちゃいけません!血行良くするために揉まねば!揉まねば!

 

「くぅッ……!ち、力が……おいバカ止めっ……ぅあッ」

 

「これは医療行為!医療行為だから大丈夫!柔らけぇなぁおい!あーダメダメ!これは()()()()()()()()()()()()ですねぇ!ちょうど良く俺の『身体の内側暖め棒』の準備も―――」

 

 ビキッ!

 バキバキッ……

 バギィッ!!!

 

 空から降り注ぐ流星にも耐えきった結界が、罅が入っていたとは言え素手でガラスを砕くかのように破られるのはちょっと理解出来ないって言うか……ええっ?

 

「楽しそうなことしてるじゃないの答弁……」

 

「あっ……その、これは……おっと!あの城から誰か出てきた!きっとこの襲撃の犯人に違いない!母さん、勇儀、行くぞ!」

 

 粉々になった結界を破棄し、城に向かって駆け出す。侵略者とかいうヤツ!覚悟しろ!

 

「……オイ鬼」

 

「ひクッ!?な、なんだいいったい……?」

 

「ウチの息子に手を出したら、生きたまま全身すりつぶしてスムージーにして飲み干してやるわ」

 

「いや今手ぇ出されたのはアタシの方なんだがねぇ!?」

 

「関係ないわ」

 

「理不尽だな!」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 母さんからの執拗な追撃を躱しながら氷の城に近付いていくと、一人の男が立っていた。

 

「やれやれ、周囲の整備している最中だというのに騒がしい……んん?」

 

「お前は……」

 

 その男は襤褸切れのような灰色の長いローブを身に付け、顔はペストマスクによって隠されていた。

 

「……貴様のその顔……もしや……いや、まさかな……」

 

「一人で盛り上がってるところ悪いが、その城からポコポコ出てきてる魔法生物共に迷惑してるんだ。何とかしないとボコボコにした後でその城ブッ壊すぞ?」

 

「……ふん。あの凍魔共を越えて来たことは誉めてやるが、所詮辺境のゴミか。この城の価値を理解出来ないようだな」

 

「今私の息子を馬鹿にしたか変なお面野郎。夢想封印!」

 

 母さんから五色の霊撃が放たれ、ペストマスク男に直撃し氷の城に叩き戻した。……あの、ちょっと?

 

「何よ」

 

「せめてぶっ飛ばす前に『ここに来た目的はなんだ!?』くらいのやり取りはやってもいいんじゃないんでしょうかね」

 

「面倒くさいわ」

 

「さよですか……」

 

 母さんの夢想封印によって入口が無残に吹き飛んだ門を踏み越え、氷の城の中に足を踏み入れる。外も寒けりゃ中も寒いな!

 ド派手なエントリーをかましたせいで、音に釣られて城の中からワラワラと魔法生物が湧いて出てくる。氷の礫のような小さなモノから、人ほどの大きさを持っている氷塊の魔法生物、氷の結晶に手足の生えたような魔法生物、そして手足の数が半分しかない魔法生物や手足の代わりに羽根の生えた魔法生物が這いずる様に現れる。すっげえキモい。

 

「数もキモければ動き方もキモいわね、また纏めて潰すわよ。夢想天―――」

 

「城ごと俺達を潰す気か母さん!?」

 

「……そうだったわ、危ない危ない」

 

「大丈夫なのかいこの巫女……」

 

 母さんを訝しげに見る星熊勇儀。あまりそういう目で見るな、母さんのオツムは身体に対してあまりにも小さすぎるのだ……。

 そして母さんは大規模殲滅破壊が得意故に、この場所のように屋内での戦闘が難しい。下手に殴り飛ばして城ごとブッ壊すとか普通にあり得るからな……。

 

「そしてコイツらも下手に倒せば凍気を撒き散らす訳だ。かと言ってこんな氷の城の中で炎を撒き散らそうモンなら壁や床とかぶっこ抜けそうだしな」

 

「おいおい詭弁、のんびり考えてる暇は無いぞ!コイツ等は集まると厄介だ!」

 

「アンタ、さっきから『詭弁』『詭弁』煩いのよ。私も詭弁よ」

 

「おっ、おう……じゃなくて!」

 

 勿論言いたい事は分かる。コイツ等は()()()()。性質的には可愛くない事を除けば妖精に近い。つまり、集まれば集まる程より凶悪な事が出来るようになる。ざっと数えて……100匹程度か。成程。

 

 おや?まほうせいぶつたちのようすが……。

 

 なんと!まほうせいぶつたちはがったいしてしまった!

 

 そんなことある?

 広いエントランスとは言えども、限られた空間の中で次々に合体して巨大化する魔法生物。巨大化していくにつれ、その姿は透明度の高い水晶の様に澄み鋭くなっていく。

 そうしてエントランスの中いっぱいに巨大化した魔法生物は、まるで上半身だけの巨人のような姿で俺達の前に立ち塞がる。邪魔ァ!

 

「気をつけろ!合体したコイツらは、より強力な凍気を放ってくる!」

 

「炎のエレメンタルも無限じゃねぇってのに……!『炎獄の咆哮』!」

 

 灼熱に燃える閃光の魔法を口から放つ。水晶で出来た巨人の胸部を焼き飛ばしたが、閃光が巨人を貫通する前に放たれた凍気によって閃光が吹き消された。まじかよ。

 お返しと言わんばかりに、水晶の巨人は口から輝く息吹を吹き出し、俺達を襲う。

 

「博麗結界」

 

 母さんが片手を広げて見えない剛壁を作り出し、輝く息吹きをシャットアウトした。

 

「……ッチ。答弁、構えなさい」

 

「んマジかぁ」

 

 母さんが作りだした結界ごと空間が凍り付き、巨人は凍り付いた空間を殴り壊した。飛び散る凍った結界片が皮膚を切り裂く……が、俺達全員その程度で血を流す程ヤワな身体してない。

 一番の問題は母さんの結界ですら凍らせる規格外の凍気という事だろう。アレに直撃したら俺と星熊勇儀は流石に凍り付く。母さんは……多分大丈夫じゃないかな……。

 

「答弁、少しは私の心配してもいいのよ?」

 

「頭の心配はいつもしてるし無問題だな!『日輪片:陽炎焔(かげろうほむら)』!!」

 

 陽輝棒に気と魔力を込め、床を薙ぎ払うように振る。陽気棒の軌跡から熱波が放たれ、狭いエントランス内を暖めていく。巨人に直接攻撃しても反射で凍気が吹きつけられるなら、ジワリジワリと溶かせばどうだ?

 

「更にオマケだ!『熱風人拳』!」

 

 エントランス内をかき混ぜるように、熱風がつむじを巻いて巨人を溶かしていく。ジワジワと表面から溶けているが、凍気が反射で放たれることは無かった。よし、効いてるな。

 熱波を嫌うように巨人はその両腕を振り回し暴れ出すが、勇儀が左肘から先をねじり取り、母さんが右肩ごと捥ぎ取った。ええ……。

 

「じゃあ俺は首を切らなきゃ(使命感)」

 

「いやその理屈はおかしい」

 

 壁を駆け登り、跳んで巨人の肩に乗る。召喚『《陰》・《陽》』!

 

「勢いで()()ぞ。合わせろ」

 

「おうよっ!」

 

 俺は顎を、《陽》は側頭部を、それぞれ首を中心として回転させるように殴る。ボゴギッ!!と太い音と共に巨人が前のめりに倒れる。そう、まるで()()()()()()()()()()()()()()

 

「『断頭刑(エクセキューション)』」

 

 《陰》が巨人の短剣を持ち、高速回転しながら巨人の首を()()()()()

 巨人は断末魔と共に周囲に凍気を放ちながら消滅。部屋を渦巻いていた熱波と相殺し合って無風となった……が、めっちゃ寒い。

 

「流石に少し寒いわね……」

 

「コレを()()で済むアンタはどっかオカシイだろ……」

 

 鬼の勇儀でも両腕で自身を抱えるように寒がっているのに対し、母さんはまるで秋風に吹かれてるかのような感覚で寒がってる辺りほんともう人間辞めてるな……。俺?俺は魔法の炎で防寒してるし。

 立ってるだけで炎のエレメンタルと魔力がゴリゴリ無くなっていく。早い所解決しなきゃヤバいか。

 そうして俺達は城の中を進み、主犯格らしき者を探し始めた……。

 

 

 

 

「……侵入者か。人間二人と妖怪が一体。デカい女は霊能者で、ガキの方は魔法使い……か?妖怪はどうでも良いが……ふん、イケニエには丁度良いか」

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

「……来客?こんな忙しい中悪いけどお相手してる暇は無いの」

 

「まあそう言うなよ。ちょっと異変の解決ついでに身辺整理の手伝いをしてやろうと思ってな」

 

『泥棒してる暇は無いわよ魔理沙』

 

「全く、アンタがあの鬼共のボスなの?」

 

「いいえ。鬼のまとめ役は別の方ですよ、魔理沙さん。霊夢さん」

 

「おりょ?自己紹介なんてしたっけ?」

 

「一応こうして会うのは初めてですが、貴方達の事はよく知ってますよ。ええ、詭弁さんから()()()()()伺っています」

 

『コイツは地底一の嫌われ者さ。()()()()にも狙われてるのかい詭弁の奴は』

 

「地底一の嫌われ者ねぇ」

 

「酷い言われようね。……成程、()()()詭弁さんの事を……それに戦う気もあるみたいね」

 

「チッ、とにかく面倒な事はさっさと終わらせるに限るわ」

 

「これだけ広い屋敷なら目ぼしい物の一つや二つあるだろ。早いところ終わらせてゆっくり探索したい所だぜ」

 

「……二人とも、思っても無い事を口に出すものね。そんなにも詭弁さんの事が心配なら、あの大巫女を倒す気概を出せばいいのに」

 

「あぁ?なんだと?」

 

「……嫌われ者ってのも間違った評価じゃないわね」

 

「その通り、私はさとり。この地霊殿の主にして怨霊すら恐れる妖怪さとり。私の三つ目の目は、貴方の考えている事を嫌でも教えてくれるのよ。ねえ、()()()()()()()()?」

 

「あん?何言ってんだお前。んな妖怪居る訳ねえだろ」

 

「……魔理沙、とっととコイツぶちのめして先を急ぐわよ」

 

「おっ、おう」

 

「貴方の気持ちは手に取るように分かるわ。さあ、貴方達の全てを私に見せなさい。貴方の心の中に思い描いている想いを、弾幕を!」

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 城に侵入してから暫く。寒さに耐えながら城内を探索し、隠されていた登り階段を探し出していた。

 この城は見た目に反し、内部の空間が異常な広さを持っていた為に探索が難航した。更に面倒になった母さんが『外から最上階目指しましょ』と一度壁をぶち抜いて外に出た……と思えば、そこはまた別の部屋だったというオチ。

 

「内部の空間を弄りまわし過ぎだろ……紅魔館よりひでえな」

 

「なら真っすぐ壁をぶち抜いていくだけよ。夢想封印!」

 

「だから問答無用かよ!」

 

 母さんの夢想封印が真っすぐ壁をぶち抜いていき……俺達の横から母さんの夢想封印が飛んできた。

 

「んな事あるっ!?」

 

「うおお!!?」

 

「チッ」

 

 空間がねじ曲がっているせいで真っすぐ飛んでいた筈の夢想封印が突如真横から現れるという非常事態。直撃して跡形……残ればいいな。

 無論直撃する訳にもいかず、俺と勇儀は緊急回避と言わんばかりに不格好ながら飛び込むように避け、母さんは手刀でありがたい光を弾き返す。……もう何も言うまい。

 

「無駄に広いだけじゃなく、方角すら捻じ曲げる迷路……ね。次は上下も捻じ曲げるのかしら?」

 

「本当にありそうで困る……。しかし、こういった謎解きチックな仕掛けは嫌いなんだ」

 

「私もよ。仕方ない、ちょっと強引に外に出るわよ」

 

「強引ったってまず外の方角が分からないじゃしょうがないんじゃないか?」

 

「どうにでも出来るわよこんなの。飛ぶわよ」

 

「えっ、おい―――」

 

 パッと景色が切り替わり、気が付けば城の入り口ド真ん前に俺達は立っていた。ああ、二重結界か……おかしいな、二重結界ってめっちゃ短距離を()()技だと思ってたんだが、さっきの場所から此処まで飛ぶとかほんと……。

 

「じゃあここから直に一番上目指しましょうか」

 

「おっそうだな」

 

 そうして無駄足を踏んだが、改めて氷の城を外側から登っていく。大抵の場合こういう城に居る奴ってのは高い所に偉そうな奴が居るもんだ。

 

「……アンタ達は、その……なんだ?飛べないのか?」

 

「飛べなくて不便を感じた事は無いわ」

 

「そ、そうかい……」

 

 壁を蹴るように駆けあがる俺と母さん。その後をついて来るように飛行する勇儀。『おかしいな、人間ってほぼ垂直の壁を走れるっけか?』と顔に書いてあるが、どう見ても垂直の壁を走ってるだろう。考えるだけ無駄な疑問である。

 そうして中の迷路に掛けていた時間は何だったんだと思えるほどあっさり最上階に到着。侵入口が無いな。

 

「作れば問題ないわね」

 

 そう言って母さんは拳を振り上げ、壁をまたぶち抜いた。壁ぶち抜きすぎてヤバイ。

 

「なっ!?さっきまで城内の亜空間を彷徨ってた筈!?貴様等、何処から!!?」

 

「どう見ても外から来てんじゃない。目ん玉ついてんの?」

 

 そして壁をぶち抜いた先には、ペストマスクを着けた()()()()な連中がなんかよく分からない魔法陣と機械を囲んでいた。

 

「お前らが地底に襲撃仕掛けてきたっつー侵略者で間違いないな?」

 

「チィッ、辺境の者と油断したか!?まさかこの『極凍城』の壁が破られるなんて……」

 

「お前等落ち着け!所詮奴等はただの田舎者!魔を研究しつくした我等に敵うはずが―――」

 

「ゴチャゴチャ煩いのよ!封魔陣!!」

 

 母さんが袖から出した一枚のお札が瞬時に増加し、結界を押し広げる。広がっていく結界に巻き込まれたペストマスク達ごと城の壁を破壊し、退場させられていった。

 

「これで一件落着でしょ?さ、帰って一緒にお風呂に入りましょう答弁」

 

「……あー、うん。一件落着……かコレ?」

 

「なあ、詭弁。アタシが居る意味あったか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「『詭弁』?今『詭弁』と言ったか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如現れた()()()()()()()()にいち早く反応した母さんの拳が『ナニカ』を殴る。だがその『ナニカ』は母さんの拳を意に介さず、その不明瞭な腕を俺の首に伸ばしてきた。

 

「ぐッ!!?」

 

「詭弁!?」

 

「どれ、その忌々しい顔をよく御見せ」

 

「私の息子から汚い手を離せ!」

 

 母さんの殴打が()()()()()()に何度も当たるが、それに対し一切の反応を返さない。

 不明瞭な腕は首を絞めながら俺を持ち上げて、俺の顔を覗き込む。その瞳は、まるで骸の様にがらんどうで光さえ灯ってない不気味なモノだった。

 

 

「おお……我が身を滅ぼしたあやつの若い頃にそっくりだ……。ああ忌々しい。忌々しい」

 

「ぐっ……かはっ……」

 

 枯れ枝のような黒い腕が、鬼のような怪力でもって俺の首を絞めあげる。気を抜けばそのまま首の骨が砕かれてしまいそうだ。

 

「離れろって言ってるのよッ!!夢想天生ッッッ!!!

 

 母さんの身体がこの世界から掻き消える。母さんの夢想天生は霊夢ちゃんと同じように……否、霊夢ちゃんよりも理不尽な()()だ。()()()()()()()()()から解放され、『自分だけの法則(ルール)』を世界に強いる。どんな手段をもってしても母さんを捉える事は出来ないし、ましてや母さんに反撃する事は出来やしない。ただ一方的に相手を滅ぼす、母さんの()()()

 

「鬱陶しい小娘だね。『覇痲滅封』

 

 黒い腕は、法則(ルール)すら握りつぶした。

 

「あああああッ!!!」

 

「がっ……母さんっ……!!」

 

 世界に融け、自身の意思でなければ再び現れる筈が無かった母さんが、その全身に夥しい出血を伴いながら床に叩きつけられた。

 

「おお……貴様にはまだ生きてもらわないと困るんだった。全く、奴等は数ばかり揃ってイザという時に役に立たんから困る」

 

 枯れ枝の様な黒い腕から指が伸び、宙を彷徨うようになぞる。すると空間が裂け、床に倒れて荒い息を吐いている母さんの四肢に向けて鎖が突き刺さる。

 

「て、めぇ……母さんに何をッ……《陰》・《陽》!」

 

 俺の身体の内から《陰》と《陽》が飛び出し、魔法と霊力でもって黒い腕を攻撃する。

 

「『霊輝光陽(シャインソウル)』!!」

 

「『魔影天墜(ブラックバッシュ)』!!」

 

 光り輝く霊撃、闇の魔力を纏った気天魔戟の振り下ろし、それぞれが間違いなく不明瞭な存在に直撃した。にも、関わらず。まるで一切効いてないかのように、攻撃に対し一瞥もせずに、黒い腕は勇儀に向かって伸び、その身を母さんの隣へと叩きつけた。

 

「ごォッ!?かっ、ハっ……」

 

「勇儀っ!」

 

「うむ、これで二体目……。後は……」

 

 再び枯れ枝の様な黒い腕から指が伸び、宙をなぞる。空間が裂け、床に倒れてる勇儀と《陰》、《陽》に鎖が突き刺さった。

 

「ごふっ……」

 

「ぐぅゥッ……!?コイツは……!?」

 

「これで四体目。あと、一人」

 

「ッッッ!!」

 

 不気味な瞳が俺を覗き込む。吐き気がするほどの死の匂いが漂ってきた。

 

「小僧……貴様の名はなんと言う?」

 

「ぐっ……き、きべん……答弁……っ……」

 

 俺の意思に反するように、俺の口から言葉を引きずり出される。言葉と一緒に魂まで抜かれているような気分だ。

 

「うむ、うむ。やはり貴様はアヤツの息子か……!おぉぉ……このような辺境に来た甲斐があると言うものだ……!」

 

 表情すら不明瞭だというのに、ソイツは口が裂けんばかりに()()()

 

「う、おおおおお!!!」

 

 全力を出し、俺の首を掴みあげる黒い腕を両手で握り潰す勢いで締め上げる。極々僅かに首を絞める力が緩んだ隙にソイツの腹を蹴り飛ばし、反動で束縛から抜ける。首回りの肉が裂かれたが骨が潰れるよりかマシ―――

 

 ドッ

 

「……ぁ」

 

 俺の胸に、心臓に、鎖が突き刺さった。

 

「詭弁ッ!!?」

 

「本体ッ!!」

 

「と、答弁……?嘘、嘘よ……いやああああああ!!!

 

 身体から()が抜け出ていく。ああ……『死にかける感覚』と似ているようで違う、この感覚。いつだったかコレと同じ感覚を味わったな。あれは……いつだったか。

 ああ、そうだ。あれは、俺がまだ子供の頃で、魔理沙を、探しに行った時に……

 

 あー……『死にかける感覚』、じゃなくて……『死ぬ感覚―――

 

 意識が……暗く……

 

 寒―――

 

 

 

 

 

「これで五体目っ……くふっ……ふふっ……ふはははは!!!ああ、素晴らしい!素晴らしいぞ!!詭弁答弁ッ!!!貴様の血肉!経験ッ!命ッッッ!!!この我を満たすに相応しい()だ!!!」

 

「お前……お前ェ!!!よくも息子をッ!!殺すッ!!ブッ殺してやるッッッ!!!」

 

「ふはは、そう囀るな小娘!貴様もまた我のイケニエ、詭弁答弁と同じ場所に送ってやろう!」

 

「糞ッ!くそッ!!!殺すッ!絶対に殺してやるッ!!!」

 

「暴れるな、手元が狂う……貴様も息子のように、苦しみ無く我が身と同化するが良い……ふはははは!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔装:幻想賢者(ネクロファンタジア)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しゃららん

 

 鈴が鳴る音と共に詭弁巫女、星熊勇儀、《陰》、《陽》を縛っていた鎖が粉々に砕ける。

 

「……巫女、大丈夫か?」

 

「ぅ……あ、貴方は……!」

 

「おお……おおぉ……貴様、貴様貴様貴様ァァァっ!!!!何故此処に居るぅッ!!!」

 

 治癒の雨

 

 極寒の地獄の中に、癒しの力が込められた仄かに暖かい雨が降り注ぐ。

 

「ぐっ……ありゃ?痛みが引いていく……」

 

「マジか……なんて魔力だこりゃぁ」

 

「……答弁、久しぶりだな……なんて、言ってる場合じゃねえなァ。名も亡き『魔神』よ、オレの息子を返してもらうぞ!」

 

 壮年の人間。紫衣を纏った者。幻想郷とは違う世界より現れたのは、()()()()()()()()()()

 

 

 

「さあ、三度(みたび)テメエの魂を粉微塵にしてやる!!!」

 

「此度こそ貴様を黄泉へ送ってやろう……!!!」

 

 

 

 異界の勇者『詭弁勉号』が、家族を守る()()()()世界を脅かす魔神を始末しに来た。

 




紫ん「私が別件で居ない間になんか幻想郷の未来がとんでもねえ事になりそうな件」

えっ?詭弁の母親はともかく、父親の方は『普通』じゃなかったのかって?
父親ってのはな、家族を守る為なら誰だって勇者になるモンなのさ……。

さとりん、恋敵に会ってテンションアゲアゲ↑

それはそうと65話過ぎても原作キャラ放っておいてオリ展開始める作者が居るらしいっすよ。一体誰なんだろうね。


・詭弁勉号
 極普通の外の世界の住人。ワイルドなイケメン。えっ?どこが普通だって?そりゃ勇者してる経験の一つや二つくらい、皆もあるでしょ?この人は偶々リアルで勇者してたってだけの話で。
 勇者と言うが、実際には賢者に近い()()()()使()()
 幻想郷に来る前に一度、博麗巫女と結婚し詭弁が生まれた後に一度、魔神を討伐した。ゆかりんとは一度目の魔神討伐の際に出会い、二度目の魔神討伐の際命に関わる重傷を負った為幻想郷に戻る事は叶わなかった。

・名も亡き『魔神』
 外の世界の魔法カルト集団で信仰されている女神。何だかんだあって詭弁父に二度滅ぼされかけ、世界的に見て辺境である幻想郷の端も端である極寒地獄に信者が逃げ込んで再起を図る()()()に幻想郷(地底)を侵略していた。


・魔装:幻想賢者(ネクロファンタジア)
 詭弁父のオリジナル魔法。物質・概念等の境界を操り、人の身にして神を殺す為の魔法。効果は絶大だが消耗も激しい。


次回予告!

 魔と混沌、不変の象徴である氷を司る魔神を完全に滅ぼすには、『魔神』に対する信仰全てを消さなければならない。しかしそれは余りにも非現実的なモノである。だが、幾ら強くても人間が神を直接滅ぼす事は決して出来ない。存在の格が違うからだ。
 なら同格である神に滅ぼしてもらう事を願えば?それもまた難しい。神同士の戦争でも無ければ、同格の神を滅ぼす事を忌諱するだろう。人間が同じ人間を殺す事を忌諱するのと同じように。
 幻想郷を守るには魔神を滅ぼすしかない。だが、その手段は非常に限られていた。

次回、『神の殺し方、神殺しの勇者』

氷を融かすのは、自然の力だ。


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四月馬鹿企画 詭弁に戦う才能が無かったら

イキテマス


 目が覚める。いつも通りの朝、いつも通りの空、そしていつも通りの―――

 

 

「おーい詭弁、起きてるかー?」

 

「んぃ、ちょうど今起きたばかりだ……おはようにとり」

 

「ん、助けはいるかい?」

 

「要らねえよ、もうとっくに慣れてる」

 

 よいしょっ、と身体を起こして布団から抜け出る。俺を起こしにきたにとりを片手で制しながら()()()()()()()()

 

機械義肢(オートメイル)のメンテナンスは終わってるよ」

 

「サンキューニット」

 

「ちゃんと名前を呼びなよ」

 

 壁に立て掛けていた杖を持ち、片足の代わりに床を突きながら居間に向かう。

 

「起きましたか詭弁さん、おはようございます」

 

「んにぃ。おはよう、阿求」

 

 居間には朝食の準備を終えたばかりの阿求が座っている。

 ここは稗田家の邸宅。食客として俺は阿求に雇われている……のだが、()()()()()()()()()俺は実質的に阿求の入婿として扱われている。

 

「ささ、どうぞこちらに。今日は新鮮なヤマメが捕れたので塩焼きにしてみました」

 

「んぃ」

 

 良いとこのお嬢様だというのに自ら腕を振るって料理を作る事に首を傾げんでもないが、こんな生活もそこそこ長い故に細かいことをいちいち指摘していたら幻想郷では生きていけない。時には黙って状況を飲み込むのも必要だ。……なんの話だっけ。

 

 阿求の横に座り、食卓に着く。杖を使っての立ち座りも慣れたものだ。

 

「……ねえ阿求、私の分は?」

 

「……にとりさん、まだ居たんですか。用事が済んだのなら妖怪の山にお帰りいただいてもよろしいんですよ?」

 

「おまっ、徹夜で詭弁の機械義肢を整備させておいてその仕打ちは無いんじゃない!?」

 

「元はと言えば詭弁さんの義肢に余計な機能をつけた貴方の責任でしょう?叫べば腕が飛ぶ機能なんていつ使うというんですか?」

 

「ロケットパンチカッコいいじゃん!私悪くない!」

 

 カッコ良さに関しては否定はしないが暴発が怖すぎる。『飛べ』と叫べば発射されるわけだが、問題なのは俺以外の声にも反応してしまう点である。仮に小さい子が俺の近くで『飛べ』と言ったら、突如吹き飛ぶ俺の右腕。有り体に言って軽く恐怖映像である。ふざけ半分でヤバみ。

 

 

 ―――と、()()が今の俺の日常。片腕と片足を喪った俺は、今日も幻想郷で生きている。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 人里イチ……否、幻想郷イチのイケメン少年の朝は早い……こともないけど遅いこともない。普通だ。

 日が地平線から完全に顔を出して少し経ち、太陽の光が部屋の中に入り込んでくるくらいの時間になると自然に目が覚める。そして朝食を取った後は、基本的に阿求の書く『幻想郷縁起』編纂の為に取材に行くか護衛(役に立たない)するか、もしくは自由時間である。

 

「詭弁、義肢の調子はどう?」

 

「んぅ、問題は無いな。……もっと軽くなればと思わなくもないが」

 

「必要な機構を詰めたら重くなるのは仕方ないだろ!」

 

「ブースター、閃光弾、小型ミサイル、ワイヤー射出機構……全部要るか?」

 

「絶対要る!」

 

「絶対要らんわこんなん!」

 

「なんで!?本当だったら自爆機能もつける筈だったのに詭弁がワガママ言うから涙を飲んで我慢したのになんだよその言いぐさ!」

 

「お前俺をどうするつもり!?ただでさえ気だるい重さだっつーのにこれ以上重くなったら歩けないだろうが!」

 

「大丈夫!そしたら無事な方の足の代わりにキャタピラ着けて走破性能を高めれば良いから!」

 

「何一つ良くねぇ!!!」

 

 これ以上無事な四肢を気軽に持ってかないで?

 俺の左腕と右足を見る。謎金属で出来た機械の義肢が銀色に輝いていた。銀の装甲の下には、着けている俺にも良く分からないワイヤーや歯車が詰め込まれている。

 

「詭弁さん。今日の予定の事ですが……」

 

「んぃ、命蓮寺のおっぱ……じゃなくて、住職に話を聞きに行くんだろ?」

 

「……ええ、まあそうなんですけど。ちょっと外せない用事が出来てしまったので詭弁さん一人で行ってもらえますか?」

 

「おう、分かった。おっ……住職のセッ、ぽうを聞いてくれば良いんだな」

 

「ちょいちょい欲望滲み出てるじゃん」

 

「ものすごく不安ですが……」

 

 そういうことになった。

 おっぱい住職の居る命蓮寺は里から近いとは言え妖怪が跋扈する場所だ。気を引き締めて行こう。

 

 そうして義肢をガチャガチャ鳴らしながら外を歩いていると、向こうから紅白のおめでたい服装をした少女が歩いてくるのが見えた。

 

「あら、おはよう」

 

「おはようございます霊夢さん。その節はどうも」

 

「別に気にしなくていいわよ、仕事だし」

 

 彼女は博麗霊夢。俺の母さんが博麗の巫女の職を退き、その全てを託された今代の博麗の巫女にして命の恩人である。詳しく話すと長くなるが、まあよくある話だ。俺が妖怪に喰われかけた時に助けてもらったというだけの話。

 

「……貴方、その腕と足……随分重そうね」

 

「ええ、まあ……見た目以上に重いですが、これがまあこう見えて意外と細かく動かせるので重宝してます」

 

 そう言って霊夢さんに左の義手を見せ、手を握ってみせる。

 

「ふーん。まあ大事無さそうで良かったわ」

 

「お陰さまで」

 

 霊夢さんも何か用が有るらしく、そのまま別れた。霊夢さんは恩人だが……もう少し肉付きが良かったらなぁと思―――

 

「ふん!」

 

「ごぶっ!!?」

 

 突如後頭部に走る衝撃によって、言葉通り視界が明滅した。目ん玉飛び出てない?大丈夫?

 

「邪念を感じたわ」

 

「ジャネンナンテソンナトンデモナイ」

 

 飛んでくる紅白の球から身を屈めて避けながら命蓮寺方面へ駆ける。巫女は勘が鋭いというのは本当だったようだ。おー怖い怖い……。

 

 重い義肢を引きずるように動かしながらようやく命蓮寺に到着。身体はあんまり鍛えてないんだ、走るなんて無茶しなきゃ良かった……。

 

「ぎゃーてーぎゃーてー……ん?おはよーございます!」

 

「おぅ、おはよう――

 

「そして悲鳴を上げろ人間!!」

 

「ええー」

 

 犬耳のような房が頭の横に生えた女の子が突如飛び掛かってくる。咄嗟の出来事に思わず硬直してしまい、そのまま飛んできた女の子の頭が音を立てて俺の左肩に激突した。

 

「痛っ!ちょっと!避けるなりなんなりしてよ!!」

 

「理不尽が俺を襲う……」

 

 左腕が機械の義手である為に、腕と身体を接続するための機械が俺の肩回りに直付けされている。そんな頑丈な部位に頭をぶつけた女の子が慧音先生並の石頭でもない限り、痛い思いをするのは当然だろう。むしろあの勢いでぶつかってきたら頭に傷が残ることだってあり得る。怪我が無いか確認するため、右手で軽く女の子のおでこに触れて顔を近づける。

 

「はぅっ」

 

「血は……出てなさそうだな。頭は大事な場所だからな、眩暈や吐き気なんか無いか?」

 

「だぃじょぶでしゅ」

 

「そうか?顔が赤いが……少しでも違和感があるんなら無理せず安静にしてるんだぞ?」

 

「みゅい」

 

 微笑みかけて女の子の頭を撫でると、破裂音のような謎の音が聞こえた後に女の子は寺の壁にもたれ掛かった。やっぱり少し無理していたのかもしれない。

 

「うわ……響子を口説くロリコンが居る……」

 

 もの凄い失礼な独り言の発信源に目を向けると、黒のショートヘアーをした水兵服の少女が立っていた。ショートパンツ……アリ寄りのアリやね。

 

「ロリコンとは聞き捨てならん。俺の好みは貴方のようなすらりとした脚を御持ちの方だ」

 

「えっ、あっ、その……ありがとうございます……」

 

 もしくは大きいおっぱいを御持ちの方か立派なケツを御持ちの方、或いはその全てを兼ね揃えた方だ。まあ言わないけど。

 

「んで、俺は詭弁答弁。命蓮寺のおっ住職に会いに来たんだが、取り次いでもらえるか?」

 

「聖に会いに、ですか(お住職?)あっ、もしかして聖が言ってた人……少々お待ちくださいね」

 

 水兵服の少女が心当たりのあると言った表情で寺の奥へ向かっていった。ふむ……揺れるケツ……ヨシッ!

 

「……むー」

 

 何故か俺に頭突きしてきた女の子から強い視線を感じる。ま、まあ無問題……。

 そして少し待ち、噂に名高いおっぱいの持ち主である住職『聖白蓮』が現れた。おお……これが……まさになんと言うか、南無三って感じ。

 

「……あの、村紗?何故この方は突然拝み始めたのですか?」

 

「さあ……」

 

「ぬー……やっぱ胸なのかしら……」

 

 それから命蓮寺の奥の部屋へと案内され、幻想郷縁起に書き記す為の情報を聖白蓮から聞き出していく。

 

 

 

 そうして、太陽が頂点を越えて更に暫く。

 

「つまり()()()()()()()()()()()()が生物の本能であり正しい姿!!仏教が『生き方』を教え説くというのなら白蓮、貴方から()()()()()()()()を知るべきだ!」

 

「そうでしょうか……そうかもしれない……」

 

「人も妖怪も神も仏も全て平等なら、()()()()()()()()()()()()()()()()もまた平等!この無限に等しい広い世界を一人で救う事は仏陀でも叶わなかった。白蓮、貴方でもきっと叶わないだろう……でも、貴方と同じ意志を継ぐ者が長い時を経て増えていけば、いずれは無限に等しい広い世界全てを救う事が出来る筈だ!」

 

「し……しかし、私のような者と心を共にする男性なんて今まで―――」

 

「俺じゃ駄目か!?」

 

「ッ!?」

 

 両手で白蓮の手を掴む。

 

「俺の左腕と右足は血の通わぬ異形だ、魂亡き絡繰だ。それでも俺は貴方の言葉で『(せい)』を知った、魂で知った!白蓮、俺にこの返しきれない恩を少しでも返す機会をくれないか?」

 

「き、詭弁さん……」

 

 

 

「―――……悪い。今の言葉は、正確じゃなかった。恩返しだから仕方なく、なんて意味じゃぁ無いんだ。ただ、俺が、貴方と共に生きたいという願い、それに余計な理由を付けちまった」

 

 白蓮に顔を近づける。その金色の瞳に俺の瞳が反射して見えるくらいに、近く。

 

 

 

 

「貴方に、俺の子を産んでほしい」

 

「ひゃい」

 

 

 

 

ズバァン!!!

 

 

「ええ。妙な胸騒ぎがすると思ったら……何やってんだドグサレ

 

「あっ……阿求……」

 

 その後の展開は……まあ、語る必要もないだろう。戦いの才能が無い俺はいつも通りの結末を迎えたというだけの話さ……。




続かない。

本編では元気に死んでる詭弁ほっといて何書いてるんだろう。
それもこれも全部エイプリルフールって奴の仕業なんだ!
絶対に許さねえ!ドン・サウザンド!

嘘です、ほんとはモンハンのせいです。らいずたのしい。


・戦う才能の無い詭弁
 本編詭弁とは違い、霊力・魔力・気力等々を扱う才能が無い。筋力も無い。でも度胸はある。性欲もある。
 生まれつき戦闘力が無い為、霊夢の事は母を通じてお互い知っているがそれだけ。霊夢と共に修業とか無いから。
 色々あって右足を犠牲に阿求を助ける。それから稗田家に食客として雇われているが、事実上入り婿として対外的には扱われている。それからまた色々あって左腕を斬られ、にとりに義手と義足を作ってもらった。


 実は初期の構想では本編詭弁も義手を付ける予定だったがセクハラし辛くなってしまうため断念。オートメイル……カッコいいのに。


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神の殺し方、神殺しの勇者

番外編除いたらもう一月も経っちまったよ。


 ……ここは何処だ?俺は……確か、心臓を突かれて死んだ筈……っ、寒……。

 冥界……でも無ければ、三途の川でも無いし……辺りを見回しても何も見えない、聞こえない。『俺』という存在が闇の中で一人、ポツンと浮かんでいるようだ。

 この空間に居ると、俺の身体がヤスリで削られていくかのように少しずつ、少しずつ()()()()()()のが分かる。俺の中の()()()()()が、水で薄まっていくかのように消えていく。その事に対して、俺の精神が掻き毟られるかのようにゾワゾワした不快感が延々と身体中を巡る。

 此処は何処だか分からない。だが、いち早くここから脱出しなければ、俺は()()()()()を失ってしまう。そういう予感がある。

 故に俺は―――

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 焦熱の波動

 

 赤い閃光が詭弁勉号の手から放たれ、魔神の黒い腕を焼き落とす……が、魔神はまるで時を戻したかのように何事もなく黒い腕を振り回す。

 

詭弁、詭弁、詭弁んん!!!貴様も息子と同じように我が魂と一つになるが良い!!!」

 

「テメェなんぞにオレの子をやる訳ねえだろ!」

 

炎獄弾

 

 詭弁勉号は腕を魔神に向け、その十指全てから機関銃の如き速度で蒼き炎を飛ばし続ける。炎の弾丸が着弾した所から猛火が上がり、周囲の物を焼き尽くしていく。『神』を、その核ごと焼き尽くさんとする炎の弾幕は直撃すれば間違いなく神殺しを為せるだけの威力を持っていた。

 無論、魔神はそんなモノを態々その身で受け止める気はサラサラなく、その神力を持って炎の弾幕を()()()

 

 絶対零度の視線

 

 魔法の炎は、その燃える姿を保ったまま空中で凍り付いた。

 名も亡き魔神は、『魔』を司る神にしてあらゆるモノを凍らせる()()を持っていた。その力は、物理的な法則を塗り替えて凍らせるという絶対的な力を持っていた。それは例え魔法の炎であっても例外ではなく、詭弁勉号の放つ魔法の炎でさえも時が停まったかのように凍り付く。

 

「無駄だ無駄だ!魔法とは言え所詮()()()で我を殺しきるには足りんなぁ!!!」

 

 反撃と言わんばかりに魔神はその身から凍気を放出し、触れる全てを凍らせていく。

 

 博麗八重結界

 

「舐めんじゃないわよ!!」

 

 詭弁巫女は両手で印を結び、魔神を空間的に隔離する。八重に張られた結界の内七つが凍り付き、粉々に砕け散る。だが詭弁巫女は一番外側の結界を暴力的に殴り付け、結界の内側に衝撃を叩き込む。

 

「本当に鬱陶しい小娘だ。『覇痲滅―――

 

 夢幻泡影

 

 詭弁勉号の魔法が、魔神の黒い腕を()()()()

 

「お、おぉ……貴様、我が腕を一度ならず二度までも!!!」

 

「その技のタネが割れてるのに使う方が悪いに決まってんだろ!」

 

 まるで『魔神の腕』という絵の上に紫色の絵の具をぶちまけたかのように、魔神の腕を封じた詭弁勉号。魔神は時を戻したかのように腕を再生……出来なかった。

 黒から紫色に変色した腕は魔神の意思で動かすことが出来ないにも関わらず、概念的には一切の傷を負っていない状態だった。

 

「テメェの腕が()()なのに再生出来るわけねえだろ?」

 

「小癪な!!」

 

 魔神は邪魔になった腕を切り捨て、再度再生を試みようとするがそんな隙だらけの姿を見逃す詭弁勉号では無い。今度こそ魔神を滅ぼす為、猛攻を始めた。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

「……呼んでる」

 

「ああ!?何か言ったか!?」

 

 地獄の奥底、焦熱地獄。其処で燃え盛るように激しい弾幕勝負が行われていた。光弾、光線、針、お札、様々なものが飛び交い、『遊び』と称した戦闘が焼ける世界に繰り広げられている。

 しかしある瞬間、神の力を得た妖怪が突如弾幕を放つのを止めてある方向を見る。その方向は偶然か必然か、鳥頭の彼女が訪れたこともない、知る筈もない『嗢鉢羅地獄』の中心地がある方向だった。

 

「行かなきゃ」

 

「っ!?待ちなさい!何処へ―――」

 

 紅白の少女が止める間もなく、妖怪少女は全速力で真っ直ぐ飛び去っていく。

 

「なんだアイツ、いきなり何処へ行こうってんだ?」

 

「知らないわよ!とにかく追うわよ魔理沙!」

 

 高速で飛び去る妖怪少女を追うように、人間の少女二人は灼熱地獄の空を翔る。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 極寒の地獄で始まった戦闘は、魂まで凍るような寒さを吹き飛ばすほどの激しい戦闘……『戦争』と呼ぶに相応しい規模の被害を周囲に撒き散らす。

 無論こんな極寒地獄に住んでいる生物は居らず、裁きを受けている咎人の霊魂を除けば()()()()()()は詭弁家の二人、角の無い鬼、《陰》、《陽》、そして『名も亡き魔神』だけだった。魔神達の戦いを恐れ、遠くから眺めていただけの魔神の信者達は全て『名も亡き魔神』の気まぐれによって殺され、壊され、肉体ごと魂を凍らされその命を散らした。

 

 ……そして生き残った者達もまた、『名も亡き魔神』によってその命を摘み取られる間際だった。

 

「くふっ、ははははは!素晴らしいっ!実に素晴らしいッッッ!!!詭弁勉号ッ!貴様の息子は、我が位階を押し上げるに十二分なイケニエだ!ああ、実に素晴らしい!今にして思えば、貴様に滅ぼされかけた事すらこの予兆に過ぎなかったのだ!」

 

「化け物め……」

 

 ()()は、まさしく『神』であった。凍えるほどに美しい容姿に猫を想起させる瞳を悦に歪ませ、目の前に捧げられた供物共の処理方法を考える。

 

 

 

 『戦争』の始まりは、拮抗していた。詭弁勉号を軸に詭弁巫女・《陰》が魔神を攻め立て、《陽》が防御を、星熊勇儀が攪乱を担当していた。

 

「鬼の力も目眩まし程度にしかならないとはねぇ……こりゃ本気で一から鍛え直さないとだな……ッ!」

 

「それもこれも、この戦いを生き残ってからだ!」

 

 一人一人が一騎当千の実力者。この状況が続けば、時間はかかれども全員が生きて魔神の討滅を為せる……筈だった。

 

 それは突然の事だった。突然、魂まで凍るような凍気が放たれ、咄嗟にそれに対応出来なかった《陰》が。その事に動揺した《陽》と星熊勇儀が。刹那の間に凍りつき、その身を氷の牢獄に捕らわれる。

 

「くふっ、ははは!!なんだ!なんだこの力は!!!

 詭弁答弁に宿る黄金の意志が!白金の才能が!!宝玉の経験が!!!

 我が血肉となってゆく!!!」

 

 黒く、昏く、曖昧だった『魔神』は、詭弁答弁の魂を飴玉のようにじわじわと舐めとかし飲み込むようにその身に吸収していき、この極寒地獄の地に顕現した。

 地面に触れる程長い黒髪、一見妙齢の美女にも見える顔立ち、ギラリと黄金に光る猫のような瞳、そのどれもが()()()()()事を雄弁に語っていた。

 

 

 

 それからは、あっという間だった。

 拮抗していた戦況は一瞬で『魔神』側に傾き、詭弁巫女を氷の剣で串刺しにし、詭弁勉号の両手足に鎖を打ち込んだ。二度も自身を滅ぼしかけた憎き怨敵を、赤子の手をひねるが如く容易く倒すこの力に酔いしれた。

 ……その際、自身を信仰していた者達を()()全て殺したが、今となってはどうでも良い事だった。数だけは無駄に居た、無能な信者達。詭弁勉号に滅ぼされかけた際に、()()として信仰力を変換する程度の使い道しか無かった愚かな愚物共。だが今は、宿敵すら容易く倒せる力を持っているのだからどうでも良い。むしろ信仰に引き寄せられ、思うがままに動けなくなる可能性を考えれば積極的に殺すことは良い事だった。

 全能感。邪魔者も、怨敵も、あらゆるしがらみを無に帰す強さに高揚しながらもさて、目の前の()()をどのように拷問してやろうかと舌なめずりして……

 

 

 サブタレイニアンサン

 

 

 ()()()に燃やされた。

 

「ぐあああああッッッ!!!?」

 

「攻撃が……効いた……?」

 

 

「詭弁は……何処?」

 

 

 極寒の地獄において尚、獄炎の熱風を吹かす黒き烏……『霊烏路空』が太陽と同じ力を携え現れた。

 

「き、貴様……ッ!?()()()()()()()はッ……!」

 

「追い付いたァー!!あークソっ!なんなんだ此処の寒さは!!」

 

「灼熱地獄の次は極寒地獄?聞いてないわよ……ちょっと紫!?結構寒いんだけど、何とかしなさいよ!」

 

『……』

 

「紫!?聞いてるの!?」

 

 後に続くように、戦場に『霧雨魔理沙』と『博麗霊夢』も現れる。そして霊夢の言葉に反応を返したのは通信越しに居る八雲紫ではなく、両手足を鎖で貫かれた詭弁勉号だった。

 

「ゆか、り……?」

 

『勉号……勉号ッ!』

 

『あっ……ちょ、紫!?』

 

「勉号!貴方……生きてたのね……!」

 

「ゆかり……ああ、まあな……」

 

 八雲紫は詭弁勉号の声を聞いて、通信先から思わず、といったように境界を繋いで飛び出してくる。

 

「おい万年喪女ォ……私の前で堂々と勉号さんを抱くなんていい度胸してるじゃないのォ……」

 

うげぇっ!?腹に剣ぶっ刺さってるのに生きてるぜこいつ!?」

 

「魔理沙!落ち着いてよく見なさい!母さん(モンスター)よ!」

 

「博麗の巫女ならこの程度で放置されても死にはしないわ。貴女達は後で後悔させてやる

 

「ヒエッ」

 

 霧雨魔理沙と博麗霊夢は全身血だらけな上に腹から剣を生やしている詭弁巫女を見て肝を冷やしている。

 状況は人数が増えただけ。『名も亡き魔神』の力は刻々と上昇していくのにも関わらず、戦場の空気は若干弛緩したものに変わっていく。魔神はそれが気に喰わない。全てを想うがままに支配した筈だったのに、突如現れた奴等に自分の世界がかき乱されていくように思えた。

 

「貴様等……この氷獄から生きて逃れられると思うな!!!」

 

お前から詭弁の声が聞こえるわ。氷獄とやらを溶かし尽くせば詭弁を助けられるかしら?

 

よく分からんが、アイツがラスボスか?お~寒っ、とっとと終わらせて帰るとするぜ

 

何でもいいわ。早く終わらせて温泉に浸かりたいわね……それで、あの馬鹿は何処に居るのかしら?

 

性懲りもなくまた現れて……命が惜しいのなら私達の前に出てこなければいいのよ

 

 霊烏路空から放たれる核融合エネルギー(神の力)によって辺りの氷が融けてゆく。

 八雲紫の境界を操る能力(神に匹敵する力)によって氷の牢獄に捕らわれていた《陰》・《陽》・星熊勇儀が救出され、詭弁勉号の魔法によって詭弁巫女共々怪我を回復した。

 

「……ゆかり」

 

「何よゴリラ女」

 

「『最強』の名を下ろす気は無いけど、私だけじゃアレの相手は荷が勝ちすぎるわ。……答弁を助けるために、力を貸して」

 

「…………ふん。貴方なんかに言われなくても、()()()は既に幻想郷に無くてはならない『歯車』よ。こんな所でみすみす使い潰す気は無いわ」

 

「なんだ、私の息子に惚れたのか?」

 

「お前から殺すわよ」

 

 日も差さぬ極寒地獄に太陽が顕現し、神と神がぶつかり合う。戦場すら遊び場とする少女達が飛び回り、我が子を救う為に死力を尽くす大人達と共に再び本体を取り戻すために分身も武器を手に取る。

 戦争は、どのような結末を迎えようとするのか。それは神にも分からない。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 歌う。歌う。何も見えない、聞こえない、完全に閉ざされた闇の中で一人、歌う。

 感情に任せた歌を歌う。

 理性を放り出した歌を歌い続ける。

 言葉にならない歌を歌いあげる。

 存在しない歌を歌う。

 

 闇に存在を削り取られ続けながらも、歌う。

 記憶を零しながらも、歌う。

 意志を落としながらも、歌う。

 

 自分の姿が消えていく。

 認識が溶けていく。

 意識が暈けていく。

 

 音程も何もない歌を、歌う。

 大事な何かを奪われても、落としても、零しても。

 世界を閉ざす闇に包まれても。

 腕が闇に消えようとも手を伸ばし続ければ。

 最期の時まで足掻けば。ほら。

 

 希望の光が見えるから。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 突然、魔神の胸に光輝く棒が突き刺さった。

 

「があァッッ!!?ア”ッ……これはッ……!!?」

 

「あれは詭弁の……ッ!」

 

 『名も亡き魔神』の身体にヒビが入り、内側から何かがもがき出ようとしている。

 

「答弁っ!?ゆかり!!」

 

「紫さん、オレに合わせてくれ!」

 

「久々の共同作業に胸が高鳴っちゃうわ、ってね……!」

 

 

 

魔葬:幻送亡者(ネクロファンタズマ)

 

 

 

 しゃららん

 

 鈴の鳴る音と共に、『魔神』が内側から爆発し中から小さな光が飛び出てくる。

 

「な、何だいあの光は……!?」

 

「幽霊……?にしては幾らなんでも小さすぎるぜ……」

 

「っ!まさか、きべ―――詭弁ッ!!!

 

 蝋燭の火かと思う程に小さい光に向かって迷うことなく飛び付く霊烏路空。小さい灯火を抱くように、胸についている『赤の目』に灯すように、限界を超えてすり潰された詭弁の魂を、自身の器に満たすように。

 

 

 私が、詭弁を助けるんだ!

 その魂が、霊烏路空と一つとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天成

 

 

 

 詭弁が持っていた()()()が、粉々に砕け散った。

 

 その場にいた全ての者の目を焼く閃光が収まった時、其処に立っていたのは白く輝く髪に燃え盛る紅と黒の瞳を携え、その腕には青白く光り輝く六角棒を持ち、背中に黒い翼と宇宙を映すマントを棚引かせて()()()()()()()()()

 詭弁答弁の面影を持つ『太陽の化身』が顕現した。

 

「なっ……八咫烏の力を……!?」

 

「と、答弁……なのか……?」

 

「『……』」

 

 詭弁巫女の声に無言で答える『太陽の化身』。その紅と黒の瞳を、『名も亡き魔神』に向ける。視線の先には、破壊された胸部を修復している魔神が立っていた。

 

「ぐ、ぅ……オノレ……貴様ァ……大人しく我が贄となってれば良いモノをォ……!!!」

 

 生贄(詭弁)を食い尽くす前に自身から逃れたせいか少しずつ黒く暈けていく魔神に向かって、腕の六角棒を向ける『太陽の化身』。その先に小さな太陽が創りだされていく。

 どんな極寒であろうとも焼き尽くす超高温超高圧の神の力。絶対零度(停止した物)を融かし尽くす超重力の神の力。

 

「おぉ……おぉぉ……神の力を自在に操るだと……やはり貴様は極上の贄……!その神の格ごと我が身に捧げよッ!!!」

 

 不可視の凍気が高速で放たれ、辺り一帯を極寒の地獄に戻す。それに巻き込まれた者達は氷像と化す……事は無かった。

 

「『太陽はあらゆるモノを引き寄せ、融かす。その力を自在に操れるとしたら望むモノだけを引き寄せ、望まぬモノは引き寄せないといった使い方も可能』」

 

「な……んだ、と……」

 

 『魔神』にはあらゆるモノを凍らせる()()を持っていた。その力は、物理的な法則を塗り替えて凍らせるという絶対的な力を持っていた。

 だというのに。

 煌々と輝く小さな太陽は未だ健在。むしろ少しずつ大きくなっていく。

 それが意味する事は、つまり。

 

 ()()()()()()が絶対的に違うという事を意味している。

 

おぉ……おぉぉ……ッ!認めんっ……絶対に認めんッ!!!我は生まれながらにして神ッ!貴様等の様な人間と妖怪の成り上がりとは違うッ!!!」

 

 『魔神』はその身ごと氷の巨人に変化し、矮小な人間達を叩き潰さんと拳を振り上げ―――

 

 

 マスターノヴァ

 

 

 極限温度の閃光が氷の巨人を、氷獄を、世界を、全て飲み込んだ。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 あれほど激しかった『戦争』の終わり方は、酷くあっけないモノだった。

 無数に居た氷の魔法生物は、『魔神』の肉体と共に極寒地獄ごと焼失。

 灼熱地獄と極寒地獄が壁一枚隔てた隣り合わせだった事と、極熱の閃光がその壁を焼き払った事で灼熱地獄の熱が流入。超巨大な灼熱地獄へと変わった。

 そして外の世界からの侵略者である『魔神』は、信者を全て失った今。完全なる消滅を目前としていた。

 

「殺すべきよ」

 

 幻想の賢者、八雲紫が言う。

 

「放っておいても消滅するだろうが、トドメは刺しておくべきだ」

 

 異界の勇者、詭弁勉号が言う。

 

「余計なイザコザは御免だわ」

 

 最強の元博麗の巫女、詭弁巫女が言う。

 

「というかいつまであんた達合体してるのよ!」

 

 現博麗の巫女、博麗霊夢が言う。

 

「『そんな事言われても戻り方なんて分からないし……』」

 

 『太陽の化身』が言う。

 

「って言うか……詭弁、だよな?」

 

「ついに完全に人間を辞めたぜ」

 

 鬼の四天王、星熊勇儀と人間の魔法使い、霧雨魔理沙が言う。

 《陰》と《陽》はいつの間にか姿を消しているので、今此処に居るのは人、妖怪、神合わせて七人。それと消滅しかけた何かが一つ。霊魂よりも惨めな存在となって宙に浮いているだけの存在。消えかけの蝋燭のように、その存在は既に朧であった。

 

「死にたくない……消えたくない……」

 

 風の音にすら負ける程に掠れた声は、その場にいる誰にも届かない。

 

「『……』」

 

「どうしたんだ詭弁」

 

「魔法は科学に追いやられて廃れていく一方……何故我々魔法使いは排除され続けなければならない……」

 

 その声は、外の世界に住んでいた魔法使い達の声。

 科学とは別の視点から真理を追究し、神を恐れぬ研究者達が幻想に追われながらも最後に縋った神の声。

 

 ふいに、『太陽の化身』は朧に手を伸ばす。

 

「『忘れられた神も、魔法も、全部。大人しく出来るってんなら、俺がお前を受け入れてやる』」

 

「……傲慢な奴だ。だが、ありがとう……」

 

 そのまま、朧は融けていくように『太陽の化身』に消えていった。

 辺りに静寂が訪れる。

 

「……終わった、のかしら?」

 

「……の、ようだな」

 

「ふぅ。なんかよく分からんうちに解決したようだぜ……地上の温泉はもう大丈夫だろうな?」

 

「紫、アンタの能力使えば()()()引き剥がす事出来るでしょ?」

 

「『うにゅ?』」

 

「そりゃ出来るでしょうけども……まあ、やるだけやりましょう」

 

 そうして八雲紫が持っている扇子で『太陽の化身』の額を軽く叩く。その瞬間、ピカッと目を焼く閃光が放たれたかと思えば、霊烏路空と詭弁答弁の二人が立っていた。

 

私と詭弁がフュージョンしちゃった!

 

「その言い方止めなさい!」

 

「痛いっ!」

 

 大幣で容赦なく空の頭を叩く霊夢。

 

「おい詭弁、大丈夫か?」

 

「答弁、ちゃんと生きてるわよね?」

 

「ぅ……ん……」

 

 魔理沙と巫女が詭弁答弁に駆け寄る。

 辺りに異変解決後の和やかな空気が漂う。幻想郷に平和が訪れ―――

 

 

 

「お前ら……誰だ?」

 

 

 

「……えっ?」

 

 

 

 ―――異変は、まだ続く。

 

 




東方詭異変1stSTAGE CLEAR!!


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心の在り方、魂の強さ

例え粉々に砕かれようとも、其処に在ったという事実は変わらない。


-地霊殿-

 

 

「……」

 

「……どうなのよさとり」

 

「さとり様……」

 

「……駄目ですね」

 

「『駄目』って……どういう意味よ!」

 

「お、落ち着いて下さい霊夢さん」

 

 地霊殿の一室に人と妖怪が集まって、一人の人間を囲む。

 覚妖怪は囲まれている人間の心を読み、その内面を探っていた……だが、成果は芳しくないらしい。その様子に苛立った博麗霊夢は覚妖怪に掴み掛かる。

 

「……元々、詭弁さんの心は読み辛いというのもありましたが、今は『読めない』と言える程……。例えるなら、本にインクを大量に溢してしまったかのように」

 

「つ、つまりどういう事だよ。人間にも分かりやすく言え!」

 

「落ち着きな霧雨のお嬢ちゃん。……答弁は、『生きてる』のは間違いないのか?」

 

「……それも、何とも言えませんね」

 

「だからどういう事だっての!」

 

「私の『目』は、例え死んで脳機能が腐り落ちても、例え脳そのものが無くても、対象となる霊魂さえ『見』られればその思考を暴く事が出来ます。しかし今の詭弁さんの心を読むことは出来ない、ということです」

 

「……それは、答弁の『魂』が肉体に入ってない……と、いうことかしら?」

 

「いえ、それはありませんよ詭弁巫女さん。先ほども言ったように、今の詭弁さんの心は『インクを大量に溢してしまった本』のように内容を読めないだけで、()()()()()()()ということには変わりません。……ですが、それは『生きている』事と同義では無い」

 

 古明地さとりの言葉に対し詭弁巫女は、欠伸を噛み殺している我が子を見ながら口を開く。

 

「それで、答弁は元に戻るの?」

 

「……何とも言えないですね。件の『魔神』によって心臓を貫かれ、魂の殆どを『魔神』に吸収された……しかしお空と分離する直前に『魔神』を逆に吸収。普通なら肉体が死んで、『魔神』と共に魂も滅んでもおかしくないのですが―――」

 

「「「詭弁だからなぁ……」」」

 

「我が子ながら謎の信頼関係を築いてるようだな……」

 

 普通に殺しても死なない男として認識されている我が子に対し複雑な表情を浮かべる詭弁勉号。しばらく見ない間に成長したようだ……何か違う気もするが。

 それはそうと、此処には居ない『参加者達』にも話題を振る霧雨魔理沙。

 

「どうだパチュリー、アリス、にとり。なんか良い解決策はありそうか?」

 

『どうせ詭弁の事だから胸とか尻とか触らせれば戻るんじゃない?』

 

『適当なこと言うんじゃないわよ河童』

 

『……通信器越しじゃぁどうしようもないわ。魔理沙、一度詭弁を紅魔館に連れてきなさい』

 

「妖怪の塒なんかにウチの大事な息子を連れていくわけ無いでしょ。お前らが此方に来なさい」

 

『……チッ。腹痛の呪いでも掛けてやろうかしら……』

 

「あー、止めとけパチュリー。呪い返しされるのがオチだぜ」

 

 詭弁巫女の理不尽さを思い出し、嫌がらせでもしてやろうかと呟くパチュリー・ノーレッジ。

 とにかく此処でじっとしていても解決しないと判断した一同は、地上に上がる為に部屋を出……

 

「うっ、うぅ……ゴメンよぅ……アタイのせいで……ごめんよう詭弁……」

 

 部屋の外で大粒の涙を流しながら咽び泣く火焔猫燐の姿を見た。

 異変解決の際に火焔猫燐を見た霊夢と魔理沙は、燐が泣く理由になんとなく予想がついていた。

 火焔猫燐は怨霊を操る能力を持っているらしい。地上に湧き出た間欠泉と共に怨霊が出てきた為に、異変解決に向かった一同。地底では『怨霊が湧き出る』以上の遥かに大事な異変が起きていた訳で、地上にいる者達に向けて発したメッセージである事は想像に難くない。……否、火焔猫燐は『地上に向けて』ではなく、()()()()()()()()()のメッセージのつもりで怨霊を地上に向かわせたのだ。結果的には暴れる友を無事に鎮静化でき、しかも侵略者達の撃退どころか根絶まで終わらせる事ができて万々歳……その()()()()()が負った被害を無視すれば。

 

 火焔猫燐は、地底の平和を守る代償として詭弁答弁の全てを失わせてしまった事を後悔していた。自分が詭弁を呼ばなければこうはならなかったと悔いていた。

 

「うぁ、うぁぁ……詭弁、ゴメンよぅ……」

 

「お燐……っ」

 

 火焔猫燐の心情を唯一完全に理解する事が出来る古明地さとりは、()()()()()()()()()()事を察知した。

 妖怪というのは『心』で生きる動物である。肉体的な傷で死ぬことは少なく、『心』に負った傷で死ぬ事があるという事を覚妖怪である古明地さとりはよく知っていた。本来なら人間の死体に喜んで飛び付く筈の妖怪『火車』であるにも関わらず()()()()に泣き、後悔している。それは火焔猫燐の『心』に大きな傷を残し、『妖怪としての在り方』を大きく歪めてしまっていた。

 『妖怪としての在り方』が歪んでしまった者の末路は、()()()古明地こいしのように自身の性質とは全く逆の能力(チカラ)を得る。悪ければ……。

 そして今、『妖怪としての在り方』が歪んでいくのを証明してしまうかのように、火焔猫燐の特徴的な深紅の髪が毛先から白く……否、()()()いく。

 その光景を見ていた者達が目を見開き、主人である古明地さとりが火焔猫燐に駆け出す……より前に。

 

 詭弁答弁が火焔猫燐を胸に抱きしめていた。

 

「「詭弁!!?」」

 

「ぅ……ぁ……?」

 

「泣くな。謝るな。俺が()()なったのはお前の責任じゃねえ、俺が弱かったからだ」

 

「き、詭弁……もしかして、記憶が……」

 

「……悪いな、記憶は無い。だが、()()()()()()()()()()()ってのは理解(わか)ってる」

 

 より強く、火焔猫燐を抱きしめる詭弁。

 

「詭弁……あたいはっ……!」

 

「……()は、生きている。必ず記憶を取り戻す。だから俺が記憶を取り戻したら―――」

 

「詭弁……詭弁っ……」

 

 

 

 

 

「是非セックスを前提としたお付き合いを―――」

 

夢想封印・連

 

「ぬわーーっっ!!」

 

「詭弁……」

 

 連続で放たれる光弾によって、一瞬で壁に叩きつけられる詭弁。更に追い打ちと言わんばかりに色とりどりの弾幕が詭弁に襲い掛かり、詭弁を壁に埋めていく。

 

「死んでも詭弁は詭弁だったぜ」

 

「あの、家の中で暴れられると困るんですけど……」

 

 先程までのシリアスは何処へやら、詭弁に呆れた目を向ける魔理沙とさとり。

 

「……答弁は母親似に育ったかぁ」

 

「勉号さんそれどういう意味?」

 

「鏡見なさい年中発情ゴリラ女」

 

 遠い目をする詭弁勉号。

 

『……やっぱり詭弁の事だから胸とか尻とか触らせれば戻るんじゃない?』

 

『解決策の最有力候補がソレとか悲しくなってくるわ……』

 

 通信器越しの状況に頭痛がすると言わんばかりの声色で話す一同。

 

「お燐大丈夫?」

 

「アイツの為に泣いてた事が馬鹿らしくなったよあたいは……」

 

「大丈夫そうだね」

 

 白くなってた筈の毛先が元通りになって一安心な霊烏路空。

 詭弁が元に戻るのも時間の問題だろうと楽観視出来るようになり、先程までの張り詰めたモノとは一転して緩やかな空気に包まれた。

 

「やっぱり!切除!しないと!駄目かしらッ!!」

 

「やめグボッ!?ちょ、グーはッ!女の子がグーはアカンッ!!」

 

 遂には弾幕ではなく拳で詭弁の頭を壁に何度も叩きつける霊夢と、記憶を無くそうともイケメンの本能で顔だけは死守する詭弁。

 ある意味でいつも通りの日常が戻って来た。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 地底の異変解決から明けて翌日。地上に戻って来た詭弁は未だに記憶が戻ってはいないが、回復の兆しが見えてきた。

 通信器越しに居た射命丸文による文々。新聞の号外が幻想郷中に行き届き、詭弁の様子を一目見ようと様々な妖怪連中がこっそり人里に侵入しようとするも皆詭弁巫女の分身によって叩き出され、そもそも当の本人は里内ではなく実は永遠亭に居るというのだから始末に終えない。

 そうして今、永遠亭のとある一室で詭弁は診察を受けていた。

 

「……肉体的には問題点無し。精神状態も『神を宿している』にしては異常は見られないわね。でも魂の様子は一切不明……か。少なくとも、『ウチ』にある設備じゃ詭弁が元に戻るかどうかは分からないわね」

 

 ぷすぅぷすぅと鼻提灯を膨らませながら鈴仙・優曇華院・イナバの膝上に頭を乗せて眠っている詭弁から聴診器に似た魔道具を外す八意永琳。この場には永遠亭に住んでいる者の他には紅魔館勢一同、河童、七色の人形遣い、天狗、鬼、八雲家一同、そして化け物染みた強さを持った人間達が居た。

 

「……いい加減詭弁から離れなさいよ兎」

 

「フフン。詭弁さんのメンタルチェックに最も適してるのは私の能力よ。悔しかったら波長を操って……ヒィっ!!?」

 

「きゅっとして―――」

 

「止めなさいフラン」

 

「……今のは鈴仙が悪いうさ」

 

 寝ている詭弁の髪に触りつつドヤ顔で周囲を煽る鈴仙・優曇華院・イナバを視線だけでブッ殺せるのではないかという程の殺意を込めながらド派手に爆散させようとするフランドール・スカーレットを宥めるレミリア・スカーレット。

 

「うーん、永琳でも治せないとなると()()()しかないか?」

 

「あら、『治せない』とは一言も言ってないわよ?」

 

「はぁ?だって今詭弁が元に戻るかどうかは分からないって……」

 

「ええ。『元に戻るかは分からない』けど、『治療できるかもしれない』ということよ」

 

「おお!それじゃすぐにでも―――」

 

「待ちなさい魔理沙。何か条件がある……と、言うことでしょう?」

 

「そうよ。場合によっては()()()()命の危険があるわ」

 

「私達に?詭弁の治療で、なんで私達が危険になるのよ」

 

「……詭弁の肉体も精神も異常は見られない、なら原因は間違いなく『魂』にあるわ。今の設備じゃ詭弁の魂を観測できない以上、()()()()しか手は無い……そこで、詭弁の肉体と魂を一時的に入れ替える事で原因を探り、可能ならそのまま治療に当たる」

 

「……聞いただけならアタシ達に()()()は無さそうだけど?」

 

「詭弁が『普通の人間』なら何も問題はないわよ……でも違う。詭弁は、魂の()()とでも言うものが最低でも常人の三倍。更に死にかけとは言え、『神』をその内に受け入れるだけの器があることは明白」

 

「常人の三倍って……《陰》と《陽》の事か」

 

「魂と肉体を入れ替える際、最低でもこの部屋が……最悪の場合は幻想郷全体が巻き込まれ、『魂に刻まれた記憶の世界』に引きずり込まれる」

 

「あー……なんだい?『魂に刻まれた記憶の世界』ってのは?」

 

「言葉通りよ。私達蓬莱人は肉体が滅びても魂の力によって、記憶を保ったまま完全に蘇生することが出来る。要するに脳みそが無くても物事を覚えることが出来るって訳ね。詭弁も一緒で、《陰》も《陽》も物理的な脳を持たない()()であるにも関わらず物事を記憶している……それが『魂に刻まれた記憶』ということよ」

 

「ふーん……要するに、詭弁の記憶に入って異常を見つければ良いってだけの話でしょ?」

 

「そういうことね。でも気を付けなさいよ?今回はただ暴れれば良いってものじゃない。原因()()を取り除かないと、詭弁の記憶が完全に取り戻せなくなる可能性が高いわよ」

 

 じゃあ薬を取りに行くから、それまでに治療に参加するかどうか決めなさい。と、八意永琳は一度席を外す。

 

「詭弁の記憶に入る……ねえ?随分楽しそうなアトラクションですこと」

 

「遊び半分で参加する気?」

 

「勿論。こんな面白そうな事を見逃すわけが……ヒィッ!!?」

 

「ん?今、愛息子の命が懸かってるのに対して?『面白そう』とか言ったのは?ドコのドイツかしらぁ?ああ???」

 

「ごめんなさい!ごめんなさい!」

 

「巫女、相手が妖怪とは言え子供をイジメちゃ駄目だよ」

 

 詭弁巫女の大きな手がレミリア・スカーレットの頭に乗り、メキメキメキと音を立ててじっくりと万力の様に握りつぶされながら同時に床へと押し潰していく。詭弁勉号が窘めなければそのまま頭がトマトジュースになるトマトの様に潰され、身体はまな板もかくやと言わんばかりにペッタンコになっただろう。勿論いやらしい意味ではない。

 

「し、死ぬかと思った……私の身長縮んでない?」

 

「大丈夫ですよお嬢様。お嬢様の身長は元から低いですから、更に多少縮んだところでさして変化はありませんよ」

 

「咲夜貴方……今主人が目の前で殺されかけて……」

 

「お姉様が下らないこと言うからでしょ」

 

「先に言っておくわよ妖怪共。もしウチの可愛い答弁に傷をつけようモノならお前らの目ん玉ほじくり出し、間接全て引き千切って粉々に擂り潰した後魂ごと焼き滅ぼしてやる」

 

「ひゅいっ!!?」

 

 運悪くそばに()()()()()()河城にとりの顔を軽く掴みながら宣言する詭弁巫女。その指はにとりの目に触れ、いつでもえぐり抜けると語っていた。にとりは恐怖で泣いてた。

 

「巫女!止め――『ヤメロ』――ッ!!」

 

 つい先程まで鼻提灯を膨らませていた筈の詭弁がいつの間にか、殺気にも似た闘気を放ちながら母親の腕を掴み上げて河城にとりを救出していた。

 

「女の子が泣いてるだろ」

 

「答弁……で、でもコイツらクソ生意気な妖怪なのよ?」

 

「だが『女の子』だ」

 

「うう……詭弁!ついにアタシにも『女の子(レディー)』扱いしてくれるようになったんだね!」

 

「『女の子(ベビー)』という意味だが」

 

「誰の身体が幼児体型だぶっ飛ばすぞ!!!」

 

 にとりに噛みつかれる詭弁。だが全く意に介していないようだ。

 そんな詭弁を見て複雑な表情を浮かべる複数名。

 

「(()()ゴリラ女すら気がつく事なく、『目覚めて』『河童のもとに移動して』『ゴリラ女の腕を掴み上げる』とはね……)」

 

「(今のは咲夜さんのような時間操作……?詭弁さんは、どこまで強く……)」

 

「(身体強化の魔法……じゃぁ、無い。認識操作の魔法か、或いは……『魔神』の術?)」

 

「(愛息子が()を越えていく瞬間……成長したわね、答弁。それはそれとして勉号さんより鍛えられた腕に掴まれる……イイっ)」

 

「っ……さ、寒気が……」

 

 若干一名欲に塗れた目をしているが、まあともかく。

 八意永琳が薬を持って戻って来た時には、部屋の中にいる人数は薬を取りに行く前と変わらず。全員が詭弁の治療に参加する意志を持っていた。

 

「……そう。治療に当たる人数は多ければ良いってモノじゃ無いのだけど……まあ良いわ。今から詭弁に薬を投与するわ。投与した瞬間、詭弁の肉体と魂が入れ替わる……あっという間に『魂に刻まれた記憶の世界』に入る事が出来るわ。貴方達は手分けして、『明らかに不自然なモノ』を探して……まあどうにかしなさい」

 

「何で最後だけフワッとしてるのよ」

 

「『どうにかしろ』以外言えないからよ、見れば分かるわ。早速詭弁に薬を投与したい所だけど、何か質問あるかしら?」

 

「スリーサイズを――」

 

「ふんっ!!」

 

 永琳のスリーサイズを()()確認しようとした詭弁の顔を容赦なく殴る霊夢。

 

「麻酔要らずね」

 

「ただただ痛いだけなんですがそれは」

 

 前が見えねェ詭弁を放っておいて質問をする魔理沙。

 

「んで、その薬ってどうやって詭弁に投与するんだよ」

 

「……そうねぇ。注射しようにも鉄みたいに硬い詭弁の皮膚を貫く針なんて無いし、かといって経口摂取だと薬効が出ないし……」

 

「じゃあ、座薬しか無いウサ」

 

「「「 座薬 」」」

 

「詭弁が逃げたぞ!」

 

「捕まえなさい!」

 

「シニタクナーイ!シニタクナーイ!」

 

「別に死にゃしないぜ!」

 

「衆人観衆の中座薬入れられるとか精神が死ぬわよ……」

 

 何故こうも息子はあらゆる災難が降り注ぐのか、そういう星の下で生まれたというのか、『詭弁』の血は難儀だ……と遠い目をする詭弁勉号であった。

 

 

 

 座薬を入れる事になったのか、それ以外の投与方法が考案されたのか、それは重要な事ではない。詭弁に薬が投与され、詭弁の肉体と魂が入れ替わったという結果が残った。

 

「さあ、『世界』が変わるわよ。皆……特に妖怪達は『自意識』をしっかり持ってなさい。呑まれるわよ!」

 

 そうして辺りは光に……否、『白い闇』に包まれて―――

 

 





次回、過去編……しかしどうにも様子がおかしい模様。
異変は、終わらない。





合言葉は、感想と評価。
感想(感想)。評価(評価)。
3、2、1、Feuer!!


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詭弁の過去と歴史ともしもの世界

感想が少なかったので思わず他の小説書いてました。許してにゃん♥


 ―――目を開けば、そこは深い森の中だった。

 

「……あぁ?此処は何処だ……?」

 

 霧雨魔理沙は辺りを見回して何処かを探るが、ふと気が付いた事があった。

 

「……ありゃ、皆何処行ったんだ?」

 

 何処とも知れぬ森の中。霧雨魔理沙は一人で立っていた。

 とりあえず辺りを見回しながら歩きだす。周囲には不気味な黒い靄のようなものが漂っているが、妖怪や幽霊等の気配は感じられない。

 

「うーん……この景色、何処かで見たような気がするんだが……ぁ」

 

 すん、と。偶々鼻に入ってきた臭いに、頭の中で警鐘が鳴り響く。いち早く、この臭いの元に向かわなければという焦りが噴出した。

 魔理沙は箒に跨り、そよと吹いている風を頼りに森の中を飛行する。

 自身が封印していた『トラウマ』が、ゾワゾワと背中を駆けて行った。

 

 そうして、魔理沙が()()()()にたどり着いた時。目の前に広がる景色は―――

 

 

GARURURU...

 

 

 ―――一目見て()()()と思われる子供二人と、その両手を鮮血で染め上げた()()()()()()()

 

「あ、ああ……?」

 

 その倒れている子供の髪は、見覚えのある黒髪と金髪で。

 真っ黒な妖怪熊は、あの時()()()()()()―――

 

 

GURAAAAAAA!!!

 

 

 森の中に、妖怪熊の咆哮が響き渡る。

 呼応するように、辺りの黒い靄が妖怪熊に集まっていった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「……何処よ、此処」

 

 博麗霊夢は、どこか懐かしいと思える夕日を眺めながらあぜ道のど真ん中で立っていた。辺りを見回せば見覚えのあるような、無いような……青々とした稲が夕日に照らされ、じわっと感じる熱と湿り気が夏である事を想わせる。

 風が吹くように稲が揺れるが、霊夢の耳には風の音も稲同士がぶつかり合う音も聞こえない。自身の身体を流れる血の音も脈動の音も、何も聞こえない。完全な『無音』に包まれていた。

 

「……気味が悪いわね」

 

 とりあえず適当に、己の勘に従って飛び立つ。とにかく、八意永琳の言う事が正しければ此処は既に詭弁の魂に刻まれた記憶の世界の中、という事。なら、『明らかに不自然なモノ』を探し出してどうにかしなければいけない。

 そうしてふわりふわりと宙に浮いた霊夢が、勘に従って向かった先には……幼児が二人、手を繋いで歩いているのが見えた。

 

「……あの、二人は……」

 

 二人とも、今霊夢が着ているような巫女服をそのまま小さくしたような服を着て、笑顔で会話しながら日が沈んで暗くなっていくあぜ道を歩いていく。

 夜は、妖怪の時間だ。早く帰らなければ、妖怪が子供達を襲う―――ッ!!!

 

「危ないッ!!!」

 

 妖怪猪が子供達に向かって猛スピードで突進していくのが見えた。霊夢が子供達に向けて咄嗟に手を伸ばしたが、霊夢の手から霊力弾が放たれるよりも早く()()()()()姿()()()()()()()

 

「っな、何処に―――」

 

 バァンッ!!!

 

 突進してくる妖怪猪が一瞬で消し炭と化し、掻き消えた幼児が再び姿を現した。

 

「くす、くす、くす。聞いたかしらキベン。あの女、『危ないっ!』ですって」

 

「くつ、くつ、くつ。聞いた。聞いたよレイム。弱っちいのに、オレタチの事が心配なんだねぇ」

 

 幼児二人が、空を飛んでいる私にその顔を向ける。その顔は、白い筈の目が黒くなっている事を除けば、幼い頃の私と詭弁そっくりだった。

 

「ねえ、お姉さん。ゲームしよう」

 

「今、オレタチが考えてる面白いゲームしよう」

 

 不気味だ。吐き気がする。幼い頃の私達の皮を被ったバケモノが、人形遊びの延長の様に役割を演じているサマが。

 

「私、()()()()()()『博麗の巫女』なの。そのカッコ、貴方もそうなんでしょ?」

 

「ゲームはカンタン。オレタチとド派手に弾幕勝負をするだけ」

 

「より()()()弾幕を放った方の勝ち」

 

()()()弾幕に見とれて、被弾した方の負け」

 

 ……ああ、懐かしい。思えば、今幻想郷で流行っている弾幕ごっこの原案とも言うべきモノは確か私がこいつ等と同じくらいの頃に出来てたんだったっけか。あの時、詭弁と一緒に帰ったあぜ道。一緒に見た夕焼け。一緒に語り合った事。一つ思い出せば、繋がる様に思い起こされていく。

 ……だと、言うのに。

 ああ、そうだというのに。目の前のこいつ等のせいで、美しかった思い出が汚されていくような気分だ。

 

「……とりあえず、アンタ達が『不自然なモノ』って事は分かったわ。だから遠慮なくぶちのめしてあげる」

 

「くす、くす、くす。聞いたかしらキベン。あの女、ワタシタチをぶちのめすですって」

 

「くつ、くつ、くつ。聞いた。聞いたよレイム。『約束も守れない』ヤツが、オレタチをぶちのめすってさ」

 

 『約束』……詭弁と約束した、なんて事の無いモノ。だけど、きっと。詭弁にとっては()()()()()約束。

 思わず掌が切れてしまう程強く手を握りしめてしまった。

 

「……もう、約束を違えるつもりは無いの」

 

「へえ。じゃあ此処で二回目の約束破りをする事になるのね」

 

「嘘つきだなぁ。オレ、そんなヤツきらーい」

 

 

 喋るな

 

 

「「ッ……!」」

 

 ああ。もうその()で喋るな。アンタは詭弁じゃない。アンタみたいなバケモノが詭弁のフリをしていると考えるだけで吐き気がする。怒りに震える。魂ごと消し飛ばしてやりたくなる。だから―――

 

「この世から往ね。バケモノ」

 

「あははッ!!この世界で、弱い奴に発言権は無いの!!」

 

「花火のように綺麗に殺してやるよ!!」

 

 幼児の姿をしたバケモノ二人の身体から黒い靄が噴出して空に飛びあがる。

 お前達は幽霊でも、妖怪でも、神でも無い。なら消しても問題は無いわよね。

 

 地平線を裂く様に太陽が沈み、星の数ほどの光弾を互いに放った。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 詭弁勉号と詭弁巫女の二人は、懐かしいような風景の中佇んでいた。

 

「ここは……私達の家?」

 

「建てたばかりの新しさ……答弁が産まれる直前かその後くらいの時かな」

 

 セピア色の人里の中で、唯一鮮明な色がついている家は詭弁家のものだ。中に入ると、侵入者に気がつくことなく二人の男女が赤ん坊をあやしていた。

 

「……若い僕達だ」

 

「これが、答弁の魂の記憶って訳ね」

 

 詭弁勉号は、愛の結晶である赤子が無事に産まれたことでこれ以上ない程の幸せを感じていた。詭弁巫女も、この時ばかりは猿のような性欲を出さずに赤子をあやしている。

 

「……答弁が産まれて、育って、友達を作って、いつか結婚して……そんな息子の成長を近くで見続ける事が出来るって思ってた」

 

「……そうね。私も同じよ、勉号さん」

 

 二人は、愛する息子のいる場所に結果的に戻ってこれたというだけで、『幼い息子を置いて遠くに行ってしまった』罪を思い出す。

 

 記憶の世界の中。様々な感情を綯交ぜにしたかのような表情を浮かべる男女二人は、赤子の笑い声が響く室内でただ立ち尽くしていた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「……紅い、霧?」

 

「ふぅん……『紅霧異変』の時の記憶……かしら?」

 

 紅魔館一同は紅い霧が漂う世界を飛んでいた。

 

「明らかに不自然なもの……ねぇ?そんなもの見えるかしら?」

 

「紅い霧に混じる黒い……瘴気?のようなものを感じますけど……」

 

 紅美鈴の言うように、紅い霧の中に僅かながら黒い霧が混じっているようだ。

 一同は、その黒い霧が濃い方角へ向けて飛行する……と、目下の森の中から紅い槍が高速で飛来した。

 

「あれは、レミィのグングニル!?」

 

 雷のような軌跡を残しながら飛来してきた『グングニルの槍』が誰かに突き刺さる前に、レミリア・スカーレットが奪い取るように掴み止めた。

 

「……チッ、手が裂けたわ」

 

 吸血鬼の怪力をもってしても完全に止める事は出来なかった程の威力。レミリアは、自身の持つ紅槍と違って()()()を重視した重量の有る槍である事に気付く。

 そして目下の森から、翼の生えた人型の生命体が飛んできた。

 

「……えっ?き、詭弁さん?」

 

「詭弁……よね?」

 

「どう言うことか説明してくれるわよね()()()?」

 

「知らない!知らないわよ!!」

 

 その人型は、おそらく詭弁であった。

 顔や体格は間違いなく詭弁のソレであったが、髪の色や髪質、背中に生えている翼、そして手に持っている槍は間違いなくレミリア・スカーレットのソレであった。

 いつの間に詭弁と悪魔合体してんだコノヤロー、という視線がレミリアに突き刺さる。

 

『おや、さっき()()()()()()の妖怪と同じ顔が居る』

 

 ゾッとするような視線がレミリアに向けられる。その目には、一切の感情が感じられない。()を煮詰めて濾したら、こんな色になるのだろうという瞳の色。レミリアが知るような詭弁の瞳とは、全く違った。

 そうして無感情に、無関心に、その手に持った紅槍を無数に出現させて打ち出した。

 

「危ないッ!」

 

 大量に飛んでくる紅槍を、全て誰かに当たる前に『破壊』するフランドール・スカーレット。お返しと言わんばかりに大量のナイフを投げる十六夜咲夜。

 しかし背に生えている翼で力強く羽ばたいただけで、全てのナイフを落とした。

 

「くっ……お嬢様の翼よりもかなり強い羽ばたきですね……」

 

「そうね。レミィよりもかなり厄介かも」

 

「御姉様なんかよりも強そうだわ」

 

「あんた達一々私をこき下ろさないと気が済まないの!?」

 

 紅い霧に黒い霧が混じっている世界の中、悪魔達と人型は互いに切っ先を向け合った。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「……えーっと、此処は妖怪の山……かな?」

 

 河城にとりは紅葉に染まる林の中で一人立っていた。

 辺りを見回しても特に見覚えの無い光景……だが、生えている木にそれとなく刻まれている紋様は天狗のナワバリを示しているモノであり、それがあるという事は即ち妖怪の山の中或いは近辺であるのが分かった。

 

「ここが詭弁の記憶の世界ねぇ。なんだかイメージと違うなぁ」

 

 もっとこう……セクハラしまくってるような雰囲気で―――と思っていたその最中の事。

 

「そこの人間!止まりなさい!」

 

「ひゅいっ!?」

 

 突如響き渡る大きな声によって驚かされ、咄嗟に光学迷彩を発動したにとり。

 そうして透明になりながら、声の出どころを探って移動するとそこには―――

 

「ほー……天狗ってフンドシはいてるイメージだったんだけど普通のパンツなんだねぇ」

 

「スカートから手を下ろせ馬鹿!!」

 

 今と比べたら顔に幼さが残っている詭弁と、自身の知り合いである白狼天狗の椛がイチャついていた。

 

「……やっぱイメージ通りだったわ」

 

 にとりの呟き声は、大声で騒ぐ二人の声にかき消された。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「……人里……よね?」

 

 アリス・マーガトロイドは黒い霧が漂う人里内を歩いていた。

 辺りを煌々と照らす祭の光と、それを遮る様に広がる黒い霧が不気味な雰囲気を匂わせる。そして更に言えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 人里の中、誰ともすれ違うことなく歩き続けたアリスは目に映る光景から、もしかしたら『自身と詭弁が初めて出会った時の日』ではないかと予想を立てた。

 

「……」

 

 長く生きる魔女でも、少しは感傷に浸って昔を思い出す事はある。だが、それは今ではない。アリスは自身の腕を抱く様に握りしめながら、かつての日を想起する。……そう、確かあの日詭弁に出会った場所は、人里中央の大広場から少し離れた―――

 

「こんばんは」

 

「っ―――」

 

 ―――大広場から少し離れた、祭の光が届かない程に暗い路地裏。

 そこに、()()()()が立っていた。

 

「うふふ。ねえ、見て?とっても素敵な『お人形』でしょ?ついさっきお手入れが終わったばっかなのよ」

 

 黒い少女の腕には、()()()()()()()()()()()が抱えられていた。

 触り心地の良かった柔らかい髪質は、全て紛い物特有のゴワゴワした質感の糸に変えられて。

 人間らしい欲と、夢を見る子供特有の情熱と、理不尽に抗う為に現実を見据える力が秘められた眼は(くす)み、何も映す事の無いガラス玉のように無機質なモノに変えられて。

 その見た目以上に強かった筋肉と少しの脂肪がつまった四肢は、ただただ固いだけの木目が見える粗末な材質に変えられて。

 

 アリス・マーガトロイド(黒い少女)は、木偶人形(詭弁答弁の死体)を抱えて嗤っていた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 轟々と燃えさかる山の中、星熊勇儀と伊吹萃香は立っていた。

 

「……んぁ?何処だい此処は。……幻想郷……じゃ、無さそうだねぇ」

 

 伊吹萃香は燃え盛る森の中、余裕そうに手に持った伊吹瓢を傾ける。山火事とは言え、この程度の炎で何とかなるほど鬼の身体は弱くは無い。

 ……弱くは無いのに、相方の星熊勇儀は炎の中で青ざめた表情をしていた。

 

「んー……おい、勇儀?何小さい声でブツブツ言ってんのさ」

 

「まさかここはちがうでもいやまさかまさか」

 

「あっ!ちょっと!?」

 

 星熊勇儀は、少なくとも幻想郷に来てからこのような山火事に出会ったことが無い。(無論色々あって地底に引きこもった時より後の事は知らないが)

 だが、この山火事には『覚えがある』。まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に、星熊勇儀は確かに覚えがあった。

 此処は詭弁答弁の記憶の世界。より正確に言えば、『魂に刻まれた記憶の世界』。詭弁は、()()()()()()()()()宿()()()()()と言っていた。

 それは、つまり。

 

ダァンッ!!!

 

 破砕音を置き去りにして星熊勇儀は駆け出した。向かう先は、自身の永遠のライバル(父親代わり)の場所。

 逆巻く炎を頼りに駆け抜けた……その、先には。

 

「……勇儀……か?」

 

「は……ハハハ……元気だったかい?クソジジイ(親父)

 

 恐らく少し前に、幼き頃の星熊勇儀(自身)をその持っている長槍で遥か向こうの山まで殴り飛ばしたであろう老人がただ一人、岩の上で佇んでいた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 詭弁答弁の記憶の世界……その()()()()()()()()

 

「此処があの子の『最奥』……かしら?」

 

「……くっ、ダメでした。やはり各地に点在している『魔神の欠片』を破壊しなければ……」

 

「はぁ、本当に……どうして『詭弁』ってのは私に迷惑を掛け続けるのかしら……」

 

「……紫様?」

 

「仕方ないわ。藍、とりあえず片っ端からツブしていくわよ。あーあ、『妖怪の賢者』ともあろう者がこんな脳筋プレーをしなきゃいけないなんて……」

 

「……紫様は昔から割と脳筋プレーを好「何か言ったかしら?」イエナンデモ……」

 

 八雲紫と八雲藍は『真っ黒』に包まれた記憶の世界を離れ、違う場所を目指す。

 記憶の世界は詭弁、或いは詭弁の記憶に深く刻まれたモノを中心に形成され、端を目指して移動すればその内に違う記憶の世界へとたどり着く。八雲紫は、自身の能力を使い『全ての記憶の世界』を俯瞰視点で覗き、片っ端から『魔神の欠片』を取り除いていく事にした。

 

 

 

 

 『魔神の欠片』除去進行度:0%

 




魂に刻まれた記憶の世界
イメージとしてはスマブラXの亜空間大迷宮。
『魔神の欠片』を無事に取り除ければ記憶の世界は元に戻っていくぞ♥ガンバレ♥ガンバレ♥


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