怪人、悪の秘密結社が滅んだ世界にて。 (バンバ)
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1話

書いていたワンコJK最新話4000文字が吹っ飛んだので初投稿です。

嘘です。作者のやりたい放題描こうと思います。


『喜ぶと良い! 君は生まれ変わるのだ! 我々、秘密結社ダイアークの手先としてな!』

  

 それが、この身体に成り果てる前に覚えている最後の記憶だ。

  

 目が覚める。全方位に発揮される視界に何時ものことながら吐き気を禁じ得ない。

  

 まぶたもなければ動かす眼球もない。コレが元の身体のままだったら眼精疲労で視力低下待ったなしだったなと笑うも、その笑いもどこか黒板を引っ掻く音か、音割れした反響音のような生き物として違和感を感じる音だ。

  

 さて、今日も頑張って生きようか。

  

 ◆

  

 前回は魚だったから、今日は山の物を食べよう。そう決めれば行動は早い。

  

 無数の触手の先を今日に山肌に突き刺し、スルリスルリと滑るようにヤマブドウの生える場所まで登っていく。こういう時、この下半身は極めて便利だと思う。表面は木材のように硬く、それでいてタコのような吸盤やしなやかさを併せ持つ大小無数の触手はなかなかに便利だ。

  

 途中、大葉やヨモギを見つけて天ぷらが食べたいなとしょぼくれてしまったが気にしないものとする。しょうがない、人間社会に出るにはこの姿は異形が過ぎるし、俺を改造した秘密結社にバレたりでもしたらそれこそ次がない。ただでさえ下っ端として拉致、改造されたんだ。どうなるかなんて考えたくもない。

  

 するりするり、ドスドスと山肌に足を突き刺し登ること十分。目当ての場所にたどり着いた。一週間ぶりに訪れたそこには、黒々とした真珠のような実を付けた山葡萄がぶら下がっている。

  

 長く昆虫めいた枝のような腕を伸ばす。一房取って、一粒ちぎり取って口に運べば、強い酸味と僅かな渋味、そこから後追いするようにほのかな甘さが口の中を占める。

  

 美味い。ジュース、砂糖漬けとかに加工したくなる。しかし悲しいかな。加工する道具もなければ、保存しておくための冷蔵庫があるわけでもない。

 皿とか箸なら一応用意はできてるんだけども。悲しいことにこの手にはなかなか使いづらい。

  

 まあ、俺自身この身体になってすこぶる燃費が良いので二房も食べてしまえば満足で、三日は持つのもある。

 

 そもそも改造されてから得た力で保存食等の食料問題も現状気にする必要が薄いので助かっているのだが。

  

「【命に感謝を。対価に体を】」

  

 脚を一本地面に突き立て、それを折って両手を合わせて祈るような体勢を取る。あの日から神様のことはこれっぽっちも信じちゃいないが、俺を生かしてくれている食べ物には感謝を送るようにしている。

 

 お誂え向きに、そうしたことができる力だ。

『体の一部を自然の養分に変換できる』それが俺に備わっている力だ。しかもよほど栄養が詰まっているようで、成長を促進させる効果があるのか採った分はすぐに成長してくれる。

 

 言い方が悪いが栄養剤のそれである。海に流せばそこら一体がプランクトンの宝庫になるようで、大小多数の魚が溢れかえることになったのはちょっとしたトラウマだ。まさか鮫まで寄ってきたせいであわや食われそうになりかけるとは。

  

 ◆

  

 するりするりと山を下って、その途中にある洞窟を目指す。

 

 俺の今の仮住まい兼、物置というか、強いて言えばこの身体になってからの暇つぶしの場である。

 

 このヒョロ長い両腕のどこにそんなパワーがあるのやら。

 両手の指先で石をそのまま削れるほどの鋭利さと硬さ、力強さがある。

 

 それらを利用して、趣味の一環として海岸とかで見つけた石を削り出しては家具や、珍妙なオブジェクトを作って無聊を慰めるのである。

  

 そうやって移動していると、見慣れない、違う、見慣れたくないものがいた。

 

 テレビアニメに出てくる魔法少女かプリキュアのような、ふりふりとしたドレス調の衣装をきた、真っ赤な髪のポニーテールが似合う女の子。何処か機械的な箒に跨りながら空を飛び、周囲を見渡していた。

 

 慌てて岩陰に隠れる。

  

 秘密結社ダイアーク。それは世界征服を目論む悪の組織である。なればこそその悪の組織を野放しにしておくわけにも行かない。

 

 そして、それを止めようとしている『正義の味方』と呼べる存在も確かに存在するわけで。

 

 ただ、その勢力は一つではない。少なくとも二つの組織が絡んで、結果として自身の利益を求めて三つ巴になっているのは確かだ。

 

 一つが『魔法技術協会』

 

 もう一つが『ヒーロー連盟』

  

 あの女の子は恐らく『魔法技術連合』の魔法少女だろうか。昔見たアニメのようにレーザー砲よろしく魔法をぶっぱなしてこないだけ有情か。

  

 ……困る。非常に困る。俺自身は所属の上では完全中立派というか。

 

『名義上では』ダイアーク側の存在ではあるものの、改造された直後に逃げ出してきた逃亡兵とかそんな感じなのだ。ぶっちゃけ、敵対の意思はない。

 

 当初は投降し元の姿に戻る方法を探そうとしたけども、この身体は便利といえば便利なので、そこまで困っている訳でもないのが実情である。で、ある以上投降のメリットも薄い。

 

 そもそもの話、いくら内面的には一般人のままだといって、こんな異形を社会が受け入れてくれるとも思えない。

  

『This is 人外』なやべー外観を持つやつが安全だなんて俄かには信じ難い。俺だって信じられない。

  

 更に重ねて、他二つの組織所属の人間から見ればそんなことは関係ない。

 怪人として討たれてしまう。世の中そういうものだろう。

  

 そうこう悩んでいるうちに、女の子がふらふらと……そのうち、箒ごとひゅーと、落ちてしまった。

  

「は?」

  

 呆けた言葉が口から漏れた。

 そこから一、二秒と時間が経って、大慌てで触手を駆使して山中を移動する。

 

 この辺は大小岩が並んで、あんな自由落下したまま打ち付けられればどうなるかなんて考えるまでもない。

 

 しかも女の子がいた場所はおおよそ20mほどの高さ。1mや2mならまだ頭からいかなければ何とかなるかもしれないが、あんな高さでは打ち所なんて殆ど誤差だ。下手しなくとも死ぬ。それは嫌だ。

 

 何故なら俺は、外見こそ化け物でも、中身はまだ一般人でいたいからね! 

 

 走る。走る。

 体感的には一般的な車の法定速度程の速さだが、間に合うか? いや違う、間に合え。間に合え! 

  

「──ギリギリ、セーフ!!」

 

 幸い、どうにか女の子が岩に叩きつけられるよりも早く落下地点に駆けつけることに成功。

 

 全身をクッションのように使って落下の衝撃を逃がして受け止めることに成功する。

 よく見れば、女の子は細かい怪我を無数に負っていた。擦り傷や切り傷、衣類は磯臭く湿り気を帯び、砂が沢山付いて中々にボロボロだ。

 

 歳は十五歳前後だろうか。

 しかし、俺の中では別の疑問が渦巻いていた。

 

 何故、こんな場所に? 

 正直、ここが何処なのかは俺自身ハッキリとは分かっていない。ダイアークの研究所を抜けて、海に飛び込み、どうにかこうにか流れ着いた先、つまり無人島なのだ。昔は人が住んでいたような形跡はあったものの、建家は朽ち果て床は抜け、屋根は青天井と、そんな具合である。

  

「取りあえず行くか」

 

 此処で突っ立ったままいても何事も始まらない。一先ず、女の子を抱えて洞窟へと足を運んだ。

 

 ◆

 

 ガリガリと硬質な音が洞窟に響く。洞窟、とは言ったものの、奥行き5m、縦横幅それぞれ3m程度の空間だ。そこまで広々としているわけではないが、寝泊りするには充分な環境でもある。

 

 やはり水平に削るのはなかなか難しい。ブロック状の椅子を作り、不格好ながらベッドも作れば、今度は長方形のテーブルも作りたくなってしまった。

 

 件の少女は、その石のベッドの上で眠っている。流石にそのまま寝かせるのは冷えそうだったので、布団の代わりとは言い難いが乾いたツタで編み上げた物を間に挟んでいる。

 

 改めて見ても整った容姿の子だと思う。溌剌とした表情の似合いそうな、勝手な印象ながらも、威勢の良さそうな子だと思う。砂埃などで汚れていてもそれは変わらない。

 

 ……テーブルというからには足も作りたい。しかし一個の岩から削り出しとなると製作途中にひび割れると取り返しがつかない。

 

 ピシッ、と。割と、聞き慣れた音がした。

 

「あっ」

 

 考えてる矢先にコレだ。フラグ回収が早過ぎる。硬質な音と共に、四角のうちの一角が大きくひび割れてしまった。これでは脚にすることもできない。……諦めてそのまま使うか。

 

 さて。

 

「目がさめたようで何よりだ。どこか痛むところはあるか?」

「……」

「ああ、寝たフリはしなくていい。この頭は複眼でね。360°見えるんだ。片目を開けてこちらの様子を見ていたのも分かっていたとも」

「……あなた、趣味が悪いって言われないですか」

「この身体になってすぐに研究所を逃げ出した。それから長いこと人に会えなかったんだ。だから、申し訳ないがそのあたり少し疎いかもしれない」

「……グリム」

『レイピアモード』

 

 ムクリと体を起こした女の子は睨みつけるように俺を見る。警戒からか、箒から変形したレイピアをこちらに向ける。

 

 変形、だと。……カッコいいなー……個人的には体は闘争を求めるとかそっちの作品寄りのロマンというか、そういうものが好きなのだけど、ああやって物理法則を無視した変形をする物も好きだ。

 

 いやいかん。冷静になれ俺。

 

 警戒に関しては、そりゃそうだ。こんなナリをしてたら誰だってそうなる。ましてや敵対してる組織の存在と思しき奴だ。すぐ手を出して来ないだけマシだろう。

 

 岩につけていた手を上げる。2mも離れておらず、こちらは魔法などは使えない。かと言って石とか握り込んでたらそれを理由に敵対の意思があると判断され攻撃されるかもしれない。そうなると困るのは俺だ。

 

「……いくつか質問します。正直に答えてください。グリム、インクリーモード」

『承認。インクリーモード起動』

「答えられるものであれば。オレは何を答えれば?」

 

 出来るだけ明るく答えたつもりが、レイピアを構えて身構えられてしまった。流石に少し、へこんだ。

 

「貴方は、秘密結社ダイアークの怪人ですか」

「ああ。正確には『改造されて意識を取り戻して洗脳とかそんなのされる前にどうにか逃げ出した怪人』が正解かもしれない」

『肯定』

 

 確かにそうだろう。俺は改造された見た目完全に異形の怪人である。

 

 ただ、洗脳処理なる行為……まあ、字面からして既にやばいことに間違いないそれを受ける前に逃亡に成功したので、ダイアークに忠誠を誓うだとか、そんなのは微塵もない。

 

「では、貴方はどうやってこの島へ?」

「運良く。改造されたてホヤホヤの身体を駆使してどうにか泳ぎ着いたというか、流れ着いた」

『肯定』

 

 あの時は本当に必死だった。動かし慣れない下半身の触手を総動員して、とにかく沈まないように必死に泳ぎ続けていた。全身をとにかく総動員した犬かきのそれだっだと思う。

 そのまま海流に流されて、気がつけば流れ着いていたのだ。

 

「えぇ……? あ、貴方は、改造される前の記憶を保持……してそうですね」

「覚えてるよ。自分の名前とか家族構成とかも。何なら、ブラック勤めだった事とかね。拐われる直前にその月の残業が100時間を超えた事までしっかりと。……まだ二十日しか経ってないはずだったんだけどなあ」

「うわぁ……」

『肯定。ルビー、彼の勤めていた企業についてこの後資料をまとめて労基に提出しましょう』

 

 100時間残業も初めてじゃなかったから全てを諦めていたけど、先月から数えて休みなしの連続出勤が100日を超えた日だったのでとてもよく覚えている。……あれ、おかしいな、目から涙が。

 

 そんなことを思っていると、心底同情的な声が聞こえた。何ならグリムと呼ばれている、恐らく何かしらの補助媒体の一種からも同情というか、ブラック企業撲滅みたいな空気を感じる。

 

 いやいやいや、多分だけど君たちの方も似たり寄ったりでしょうよ。悪の秘密結社なんて相手にするんだし、下手すると命を掛けて24時間365日年中無休無給料とかありそうで怖いんだが。

 

「グリム、まだ取り調べ中よ……。んっんん。質問を続けます。貴方は、私を見て『殺したい』とか、『食べたい』という衝動に襲われますか?」

「いや全く。いくら改造されて外見が人間卒業してるからってそりゃないわ」

『肯定』

 

 人間に対してそういう衝動を覚えたことはない。最初、どの程度食わなくても大丈夫なのかと調べる一環で一週間飲まず食わずを貫いたら流石に身体の方がキツかったらしく普段の食べる量の3倍程度食べてしまったが、その程度だ。

 

「貴方の、怪人としての能力は何かありますか?」

「能力……自覚してる中であれば、足の一部を切りはなして、植物や生き物に対して栄養をばら撒いて成長を手助けすること、だろうか。山や海の幸を頂いた後によくやってるよ」

『肯定。ルビー、これはもしや』

「……原因は彼っぽいわね」

 

 原因? はて、何かしてしまったのだろうか。微妙に緊張してきた。

 

 もしかしたらこの能力が実は有害で、取りすぎたら毒になるとかそういうやつだったのだろうか。

 

「最後の質問です。貴方はその能力を意図して使い、この島の周囲一帯の環境を変えましたか?」

は? ……い、いや。全くそんな意図は無かった」

 

 あっ。結構思いの外ヤバそうなことしてしまったらしい。環境破壊、になってしまうのだろうか。

 

 元々その一帯に住み着いていた生き物たちの環境を一変させてしまうというのは、まあそうなる、か。無性に胃がキリキリしてきた。

 

『肯定。判定結果、シロ。問題ありません』

「良かった。──武器を向けて申し訳ありませんでした。私は『世界総合異能連合』通所『異能連』所属、魔法使いのルビーといいます」

 

 酷く安心したような顔色で一礼し、こちらに笑顔を向ける少女、ルビー。

 

「……いくつか聞きたいことがあるが、これだけは聞いておきたい。えー、ミス・ルビー? 君は、オレを討ちに来たのでは」

「えーっと、ですね。それも含めて幾つか説明をさせていただきます」

『補足説明はルビーのマジックデバイス、グリムが担当します』

 

 

 

 

グウウゥウ……。

 

 

 そんな間の抜けた音が、大きく響く。洞窟の入り口ということもあってから、それはやけに大きく聞こえた。

 

 酷く安心したような顔を熟れたトマトのように赤くし、滝のような汗をかく少女、ルビー。

 

『提案。ミスター。よろしければ食料等はありませんか? ルビーはこの島に辿り着く為に昨日から睡眠や食事に支障をきたしているのです』

「ちょ、グリム!!?」

「ふふふふ、ああ、いいとも。ただ、山の幸か、君たちの方で火の用意ができるなら、魚か貝類などの海の幸も用意できるが」

『火の用意はこちらでしましょう』

「わかった。少し待っていてくれ」

 

 これ幸いと乗っかることにした。

 久しぶりに、火の通った食べ物を食べることができそうだ。



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2話

 待たせたな!!!

 1つ、謝罪を。
 特殊タグ、利用をやめます。
 理由として、作者はiPhoneで投稿している為、どうしても使いにくく、また、特殊タグを利用した結果文字変換等に支障をきたす為です。
 この話が投稿でき次第、1話も編集します。

 そして2つ目の謝罪。
 ほぼ解説会と、若干の飯テロあります。

2020/12/13 作者の手元にPCが届いたため特殊タグ復活します、やったぜ。


 頭部を覆うマイクに見えないこともない球体状の複眼。

 

 ガラス片めいた不揃いな牙を生やした鳥の口、傘の骨組みか、蜘蛛の脚かのように細く、それでいて硬質な1.5mはありそうな両腕は、肩、肘、手首がボールジョイント状になっていて大きな見た目の割に細かく動かせそう。

 

 干し肉のように乾いてしまっている上半身に背中には亀のような甲羅。

 

 太さや長さもまちまちな、木材の硬さとタコのようなしなやかさと吸盤を持つ、無数の触手の生える下半身。

 

 低い男性の声へ機械的なエコーやノイズを被せ、加えて無理やり絞り出したような金切り声。そのくせ妙に人間的に話すから、違和感が果てしない。

 

 いや、違うか。

 彼は被害者だ。人間だ。見た目こそ致命的だけど。間違いない。

 

 過去に相対してきたダイアークやその残党、洗脳を受けた怪人たちとは全く違う。

 

 奴らのようにダイアークに狂信的な忠義を誓って、欲望のままに悪辣を為す……そんな存在では、断じてない。

 

『ルビー。あまり思い詰めないでください。貴女は、過去に怪人を討ちました。しかし、それは仕方がなかった』

「うん、わかっては、いるんだけどね……」

 

 グリムの言う通りだ。でもね、グリム。

 いくら洗脳されていたからって、本当にどうしようもない怪人を討ったからって、無辜の人々に襲い掛かったからって。

 

『ありがとな、嬢ちゃん。アンタのおかげで、俺は──』

 

 ──家族を、手にかけずに済んだ。

 

 あんなにも家族を愛していた、改造されてしまった被害者を討った私は、どうしようもない人殺しなんだよグリム。

 

 

 揺らめく火に当たりながら待ちぼうけていると、這いずるような、木材を引きずるような音が聞こえてきた。

 

「待たせた。火の通った魚を食べるのは久しぶりだ」

「あ、おかえりなさい」

『お疲れ様でした、ミスター。火の準備は済ませてあります』

 

 全身を水浸しにし、触手の先に大振りに肥えた魚たちを串刺しに触手をくねらせ歩いてくる姿は、やはり人のそれには全く見えなくて少し身構えてしまう。

 しかし、同時に。

 

「ああ……本当に久しぶりだ」

 

 噛み締めるように、打ち震えるように堪えきれない歓喜の声を絞り出すその声は、どうしようもなく人のそれだった。

 

 なんだか、その様子がとても綺麗で、可愛らしくて、ギャップに笑ってしまう。

 

 こんなにも怖い見た目をしているのに、実体は正しく人のそれである。その事実がなんだか妙におかしくて。

 

「っふ……あ、ごめんなさい、なんだか可愛らしくて」

『肯定。ルビーの言う通りです』

「可愛い……この姿のどこかだ……?」

 

 心底困惑、動揺したような声。それもまあ、仕方ないかな。

 事実、彼の言う通りではある。私たちの言う可愛らしいは、外見から来るギャップ萌えを感じてのものだ。

 

「あ、脚は折ってきてないですよね?」

「それも大丈夫だ。オレが、いつもやっていたことが、環境破壊を引き起こしていたんだろう?」

 

 彼の発言に心底ホッとする。

 同時に、なんで説明をしたらいいのか困ってしまった。

 事実を事実のまま伝えるのは簡単だ。彼自身に悪気はなく、加えて洗脳処理を受けていない。生きる為に狩った命や、自然の恵みへの感謝の為にそれを成していた。

 

 ……結果的に、とんでもないことを引き起こしていたので総合的にアウトなのだけど。

 

「えーと、ですね。説明に移る前に、改めて自己紹介を。『異能連』所属の魔法使い、ルビーと言います」

『私はルビーのマジックデバイス、グリムです』

「オレの名前は青山竜馬。まあ、しがない元社畜だ。とりあえず、焼いてしまおう」

 

 そういうと彼、リョーマさんは近くに生えていた細い木の枝を折って、指先で削り串の形に成形してした。

 どうにも力強いだけでなく、よくよく見ると指の腹側が鋭利な刃物のようになっているらしい。

 

 ……間違っても大岩を削れるような力と鋭さを併せ持つその手を私に向けてこないことを願う。

 

 そのまま手慣れたように魚の腹を人差し指で切り裂いて、ワタを取り出し先ほどの串を魚に刺した。

 

「手慣れてますね。魚は久しぶりなのでは?」

「生では食べていたからね。こんなナリだし大丈夫かって自暴自棄になってたことがあったんだ。寄生虫のようなものに当たって、体調不良はまだ出ていないしね」

 

 「流石に生身の、いや、怪人でもなさそうな女の子に食べてもらうには火を通したほうがよさそうだと思っただけだよ」と朗らかに話す声色には、痛ましい程にコミュニケーションに飢えていそうな寂しさが見え隠れしていた。

 

 優しい人なのだろう。『自分が大丈夫だから、他の人もきっと大丈夫』と安直に行動しないあたり、しっかりしていると思う。

 

「皿と箸はあるが、使うかい? 見た目は悪いけど」

「あ、お願いします」

 

 いや待ってなんでそういうものがあるのだろうか。

 顔に出ていたのか、その返答は「寂しさを紛らわす暇つぶしに作ったんだ」と、割と切実な事情が見え隠れしていた。

 ……ごめんなさい。

 

 

ホクホクと湯気を上げる、姿そのままに焼かれた魚が石皿の上に鎮座している。

 サクサクと焼き上がった表皮を箸で突けば、中から溢れ出る脂の混ざった旨味のエキス。

 少し身をほぐして、箸で持ち上げれば、ホロホロと崩れ落ちてしまいそうなほど柔らかい。

 

『……このままだとルビーが説明を放棄しそうなので代わりに私が、今回この無人島を訪れた経緯を解説します。

 事の発端は、我々『異能連』当てに入った情報です。1、2年程前からメガロドンもかくやと言わんばかりのサイズの巨大サメたちの襲撃、突発的な大波や暴風によって、多くの漁船が沈没・座礁を繰り返している海域がある、と』

「……既に環境被害なんて目じゃない事態が起こっていないか?」

 

 慌てて口に運べば、まず口を支配する濃い脂っ気。微かに甘味を含んだそれだけで十分に美味しいそれについで、脂を押し流すほどの強い旨味に、表皮に残っていた海水由来の塩が譲らず自己主張して、口の中で混ざり合う。

 

『我々『異能連』は所属する魔法使いルビーを派遣する形で、状況把握、究明に取り組みました。ルビーはそういった調査や研究に長ずる魔法使いである為です。

 調査の結果、この海域はこの島を中心に異界化、つまり大量の魔力に満ち溢れ、それによりこの海域一帯がある種生命のように活動していると発覚しました。

 脳をこの島、体内をめぐる血液の白血球がサメたちと表せば良いでしょうか』

「……ふむ」

 

それはあまりにも強く、瞬きの間に流れてしまうも、1つの幸せの形だった。

 

 日本人に生まれてきて良かったと思うと共に、ご飯がないことが悔やまれる。

 

『ミスターの察しの通りです。貴方の怪人としての能力によって得た能力、それは栄養を撒くこともできましたが、本質ではありません。周囲に大量の魔力を散布する効果。こちらがメインでした。

 更に言えば、その魔力には依存性を誘発するものがありました』

「……つまり、ここらの海の生き物たちを薬漬けにした挙句、この島近辺を怪物サイズのサメが泳ぎ回るような環境に変えてしまった、と?」

 

 既に1匹食べ終わってしまって、2匹目を食べているけど、これは最早麻薬か何かではないだろうか。

 ……あながち間違いでもなさそうなのが辛い。

 

「お魚、ご馳走様でした。……それだけではありません」

『ルビー……美味しかったのはわかりました。ですが、流石に説明は果たすべきです

「ごめんって……」

 

 リョーマさんの言っていた薬漬けという表現は、これ以上なく正確な表現だ。

 何せ、込められた魔力の性質からして本来なら、『彼が怪人として動いていたなら』もっと悪辣な、全人類規模での被害になっていた可能性が極めて高い。

 

 この魔力が与える効果は、至極単純。

 『その魔力の持ち主への崇拝心を抱かせる事』

 『その魔力の持ち主への絶対服従』

 文字通り人の心を変えてしまう、麻薬のそれ。

 

「リョーマさん、生物濃縮って知ってます?」

「生物濃縮? 確か、生き物を食べたりするうちに、なんらかのものが体に残っていく現象だったか」

「それですね、なんなら、食物連鎖の上の方の生き物になればなるほど、その濃縮はより濃いものとなります」

 

 本来の用途を考えるなら、1、2年前から起きていた異変は起こらないはずの物だ。

 ただ魔力を散布していればそれで良かった。それだけで、世界はゆっくりと確実に、致命的な事態に陥る筈だった。

 

 そうならなかったのは、ひとえに彼が洗脳を受ける前に研究所から脱出していたから。

 

 結局、本質的な力は変わらずとも、恵みや命への感謝を忘れていなかった彼の性格上、無意識的にその魔力を栄養として散布する方向にシフトしていた。その結果が栄養のスープと呼べるほどのリソースに溢れたこの島一帯の海域。そこまでで被害は収まっていた。

 

 それが私の見解だ。

 無意識的にその能力を発揮していたなら、サメたちがこの海域に近づく漁船を襲っていたことも、何となく説明がつく。

 

 リョーマさんが、恐らく恐れていたんだ。

 当時の魔法技術協会、ヒーロー連盟、今の異能連を。ダイアークを。

 そしてたぶん、この世のすべての人を。

 

 見られたくない、知られたくない。恐らくはそういった風に、無意識的に他者の拒絶を願い、それを汲み取った海の生き物たちはこぞって侵入者を撃退した。

 

 ……想定外だったのは、あまりに過剰に供給された魔力の影響で、この島そのものが弱いながらに意思を持ち、リョーマさんを守ろうと天候や波に影響を与えていた事だ。正直、そのせいで波に飲まれてサメの餌になりそうになったのは忘れたい。

 

 過去にダイアークの研究資料を見た際、脱走したとされる怪人の資料に目を通したことがある。

 

 その怪人を用いて、生物濃縮を利用し、ゆっくりと時間をかけて人類を洗脳し、争わせ、魔法技術協会、ヒーロー連盟それぞれが疲弊しているその隙にダイアークの独り勝ちを狙う。

 

「……あれ、これってオレ、洗脳なんかされてた日には超ヤバイ怪人だったんじゃ……」

『その通りです』

「リョーマさんの研究所からの脱出は英断だったと私は思います」

 

 両手を頭に当てて、困惑と焦りを見せるリョーマさんに、善良な人で助かったと思わざるを得ない。

 これでもし、悪意ある人であったり、自分の能力の本質に気がついている人であれば、怪人でなくとももっと危ないところだった。

 

 開発コードネームは『モノセイズム』

 大それたよく考えられた名前だと感心してしまった。

 



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3話

 待たせたな!
 ゆっくりゆっくり話は動くやで。そう考えると、ワンコJKの時は勢いよくし過ぎたのだろうかと反省しています。

2020/12/13 作者の手元にPCが届いたため特殊タグ復活します、やったぜ。


 森がザワザワと揺れ動く。風が洞窟の入り口にいるオレたちを撫でるように吹く中、オレは自分の頭の中で情報を咀嚼するために頭をフル回転させていた。

 

 ルビーから齎された情報を改めて整理する。

 俺の能力の本質的な部分のこと。端的に言えば『相当なんて言葉では納めていけない』くらい極めて危険な代物だった。

 

 本当に。切実に。何が栄養剤だという話なんだが?

 栄養剤すっ飛ばして麻薬や覚醒剤の類じゃねえか。なにオレのバカ悠長が過ぎる。

 これでもしもダイアークに洗脳でもされていたらガチモンのやべえ新興宗教の教祖とかそんな感じの立場に納められてた可能性があったってことだ。というか能力からしてその為の物だし。

 

 冷や汗をかくことができるなら、今頃水溜りができるくらい汗をかいていたことだろう。

 

 控えめに言っても肝が冷える。足がウネウネと震えるのが実感できる。

 いやー、改造された当初の俺まじでGJだと思わざるを得ない。その判断がなければ今頃俺はどう転んでも地獄だったわけだ。

 

「……幾つか、改めて聞きたいことがある。魔力とは、そもそもなんだ? いや、ファンタジー系の小説とかゲームではまあまあ聞く物なんだが」

 

 魔力がどうとか、そういうのはよくわからない。

 というか、過剰に供給されてたって、つまり俺の魔力がそれほど多かったのだろうか。

 

 そのことをルビーに尋ねると、まず「リョーマさんの、今の状態からの推察ですが」との前置きの後に、簡易的な説明をもらうことができた。

 

「そもそも魔力というのは、なんにでも宿ります。魔力、国や地域が変われば、霊力なんて言い方もされますね。

 『物理的、精神的、霊的に作用する非物理的エネルギーの証明要素』『架空原子』……なんて言い方だとすっごい面倒くさいと思うので、とりあえず『不思議なことができるエネルギー』という認識で大丈夫です」

「アッ、ハイ」

『ルビー。その言い方でついていける人は、貴方を含めてもほんの一握りです』

 

 もう既にしれっと訳の分からない単語が飛び出してきたので思考を放棄しそうになる。

 すっごいワードが飛び出してきたような気がするけど、オレの脳が既にキャパオーバーの頭痛を引き起こすレベルで知る事を拒んでいるので認識できないものとして取り扱いたい。

 そして丁重に関わらないよう距離を取りたい言葉だ。いや本当に。

 

「それらを言葉、呪文であったり、何かしらの変換器を用いて攻撃や防御等に利用した物を魔法って言うんです。私の場合はグリムを通して展開してますね」

 

 とりあえず理解できる部分まで話をスケールダウンしてもらえたのは幸いだった。

 魔力だけでこれなのだから、ヒーローたちの力の源はなんなのかとか説明を受ける機会があったら全力で謹んでお断りさせていただく決意ができた。

 

 ルビー曰く、俺の魔力の性質についての考えを掘り下げいくと、割と聞き覚えのある言葉に行き当たる、らしい。

 

 それが言霊。言葉に宿る霊的な力。

 極めて原始的な魔法の1つで、そのシンプルさ故に強い力を発揮するらしいそれ。

 

 俺の魔力を何らかの方法で取り入れてしまうと、魔力の性質上、崇拝に至るそうなんだけど。

 魔力を取り入れてしまっただけでそれだ。

 なら、それをより明確にする為に、言葉というツールを用いればどうなるかなんていうのは想像に難くない。先程の説明を当てはめるなら、絶対服従のそれだ。

 

 しかし、それでは俺の魔力の量について説明がされていないような。

 

「話が少し脱線しましたね。それで、魔力というのは古い物、もしくは古くからあり続ける物に強く宿ります。例えば亀の甲羅もそう、例えば永い時を生き続ける樹木もそう。他にも宝石や本、本当に何にでも、魔力というのは宿るんです。

 ……さて、リョーマさん。実は私、リョーマさんと思しき人物への改造に関する資料をダイアークの研究所から押収して、見たことがあるんです」

「マジか」

「マジです」

『マジの一言で会話されても困るのですが』

「と、言われてもだな……」

 

 なんか思わず出た言葉にルビーが乗っかっただけだったんだけど。それを言われてもなあというのが1つ。

 

 こんな体になってしまった以上、今更研究資料が出てきてもなあというか。仮に元の体に戻る方法があったとしても、一度『怪人』という括りに収まってしまった以上それが原因で社会的に孤立しそうな未来しか見えないというので2つ。

 

 そのことを伝えると、ルビーがとても顔色を悪くしながら返答してくれた。お腹を鳴らした時といい、魚を食べていた時の幸せそうな顔といい、表情豊かな子だなと思う。

 

「えぇっと、その……怪人に改造されてしまった人たちは、その改造されてからの期間が短いほど元の体に戻る為の治療が受けやすくなるのですが、それにも、タイムリミットがあってですね。

 少なくとも、リョーマさんが改造された時期はダイアークがまだ残っていた時期、なんですよね?」

「ちょっと、待って欲しい。まだ、残っていたとは──」

『ダイアーク、および、異能連に関する説明はこの質問と魔力に関する疑問への返答が終わってからにしましょう。脱線しすぎです』

「──む……すまない、昔から悪い癖でね」

 

 いけないな。やはりコロコロと話題が変わる、というか『A』で話している時に気になる発言や単語が出てくるとそこから『B』『C』と飛躍してしまうのは本当に悪い癖だと思ってる。そうやって困ってきたこともあったから、社畜時代には治していたのだけど。

 

 ああ、違うか。人と話すのが久しぶりすぎて、そういう部分も割と薄れていたんだな。

 そう思うと、人との会話というのはやはり重要な物なんだと認識できた。それだけの有無で、人として何かが欠落していないかが認識できる。

 こんな形でもまだ、俺は人間なんだと、思うことができた。

 

「……タイムリミットなんですけど、1年、です。リョーマさんの場合だと、改造されてから最低でも2年以上が経過している、かと……」

「あー、まあ、しょうがない

「いや、あの、軽くないですか?」

「いやだって、こんな体になっちゃったら一周回って諦めの方が強いからね

 

 個人的な心境としてはダイアーク死すべしのそれなんだけど、さっきの言い方でダイアークは既に滅んでいると見るのが妥当だろう。

 

 そうすると、ルビーやグリムに八つ当たりするわけにもいかないので、不満を撒き散らすだけの言葉は胸中に『そっとじ』した方が平和だ。というか、元社会人というか、年上のお兄さん的に年下の女の子に当たり散らすのができないというか、プライドがねえ。

 

「さあ、この話はここで一旦おしまいだ。それで? 魔力が、なんだったか」

「……なんでしたっけ」

 

 パチクリと目を瞬きさせて『そういえば』という顔をするルビーに、ははぁ、さてはこの子もオレと同じ口だなとあたりをつける。

 まあ、変なところで仲間意識を持ってもという話ではあるのだけど。

 

『研究資料から分かった、リョーマさんの魔力量のことです』

 

 そういう意味では、機械であるグリムはルビーとは相性がいいのかもしれない。

 機械的、と呼ぶには少し話している限りグリムも大概人間味があるというか、中に人でも居るんじゃないかって感じがひしひしと。

 暴走しがちな良い子と、それを諌めるしっかり者。そんな言葉が頭に残る。

 

「あ、それそれ。ありがとうグリム。

 リョーマさん、貴方の体には、先ほど説明したような『古い年月が経っている物』が多数使用されているみたいで」

「……まさか、背中のこれとか、足のこれって、そういうことなのか?」

『恐らくは、ですが』

 

 確かに、納得のいく説明ではある。

 

 亀の甲羅。

 推定樹齢1000年以上の樹木の根。

 石英の結晶。

 

 それらが、ルビーから説明されたオレの体に、『恐らく』使われている年月が経っている代物。

 

 『恐らく』とついた理由。それは、資料の方に意図して消された形跡があり、そこから知ることができた情報からの推測でしかないから、とのことだ。まだいくつ使われている可能性が高いが、わからない、と。

 

 しかしその話も、あながち間違いでもなさそうだとも思う。

 亀は長生きだし、種によっては300年以上生きると聞いたことがある。

 樹齢が4桁の木なんて、御神木なんて名前でいくつか聞き覚えがある。

 石英の結晶は1mm大きくなるだけで100年もの時間がかかると過去に調べた覚えがある。

 

 それらの素材を掛け合わせて改造されれば、いやでも沢山の魔力が宿る、のだろうか。

 いやまあそういうことに詳しいルビーがそう言うのだから、きっとそうなのだろうけど。

 

 とはいえオレ自身が専門家でもないので、その辺りの部分は聞くだけ聞いてわからないことがあれば後々また聞き直すしかないのだが。

 

「ふふふふ……なんだか、笑えてきた

「リョ、リョーマさん……」

 

 内心『あれ、これまじモンのラスボスというか、どう足掻いてもラスボスルートなあかんヤツ』としか思えなくなってきた自分のことで、一周回って腹抱えて笑いそうな気分だ。

 というかもう笑いが漏れてしまっている。むしろ笑わないとやってられない類の話だ。

 

「はぁ……ルビー、グリム、改めて聞きたい。オレは、どうしたらいい」

「……『異能連』として提示できる選択肢は2つあります。

 1つ目は、この島を出て私たち異能連の、悪い言い方をすると監視下に収まりながら、社会貢献できる形を探すこと。

 2つ目は、この島に残り、異能連の監視下の元生活すること、です」

「監視が付くのは知ってた。……そりゃそうだよなあ」

 

 こういう時、顔もクソもないこの頭は助かる。きっと、非常に苦々しく顔を歪めていたに違いない。

 監視に関してはむしろ此方からお願いしたい件だった。ルビーたちから問われた、人に対しての害意。何かの拍子に、それが表に出てこないかオレ自身が心配なんだ。

 

 それを加味した上で、胸中としては1つ目に飛びつきたい。

 諦めていたんだ。もう無理だと、会えないと割り切っていた。その筈の家族に会えるかもという選択肢が提示されて、それに食らいつかないというのは嘘だろう。

 

 両親に、「ただいま」と言いたい。

 近所のおじさんやおばさんたちと他愛もない話をしたい。

 昔馴染みの友達に会って、また馬鹿馬鹿しいことをして盛り上がりたい。

 

 ……それに、グリムたちがオレが務めていたクソブラック企業について色々制裁をしてくれそうな話をしていたので、それを見て満足したい。

 

『ルビーと私としての意見ですが、1つ目に関してはあることを解決しなければできません』

「はい。その事で、もう少しの間だけ時間を貰いたいんです。良ければ、リョーマさんも手を貸してもらえませんか?」

「手伝うこと?」

 

 期待に膨らんだところに、僅かに水を差された気分だったが、仕方ない。

 というか無自覚とはいえヤベー案件を多数やらかしている以上、断る選択肢もないんだけどもさ。

 

「ああ、良いとも。オレで良ければ喜んで手伝おう。ただ、長話をし過ぎた。もう日も落ちる。さあ、ルビー……」

「な、なんでしょうか」

 

 見れば、洞窟の中へ西日が入り込んでくる。

 大雑把にしか分からないけど、時刻で言えば夕方の4時前後だろうか。

 だから、目の前のあんな美味しそうに焼き魚を食べていた女の子には、この問いかけをしなければいけないんだ。

 

 オレは、この問いをすることを、強いられているんだ!

 いやだって、あんなに美味しそうにイイ食べっぷりを見せてくれたんだ。餌付けとは言わないけど、なんか、こう、満足感というか、達成感があったんだ。

 

「Mountain or sea?」

「まうんてん、おあ、しー……? ……あっ、……こ、今回は、山の方でお願いします

「かしこまりました、お嬢さん」

 

 不可抗力のやらかしを思い出して顔を赤くするルビーに、眼福と思いながら恭しく一礼する。

 

 この後、ルビーから怒られつつも『あるお願い』をされた後、山を巡って葡萄や野苺、アケビに柿を気持ち多めに取ってきたオレは、ちょっとだけ心配になりながらも洞窟へ引き返した。

 

 もうじき、日は暮れて、真っ暗で、そのくせ明るい夜が来る。

 

 




 よろしければ、感想、評価の方も、よろしくお願いします。作者が喜ぶよ!


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4話

 遅くなりました。

 友人が(使ってないパーツの余りで)PCを組んでくれたのでPC投稿できるようになったぞ!!!(クソデカ声)

 これで特殊タグが使いやすくなる……

 


 パチパチと産声を上げる火にまかれた薪の爆ぜる音を聞き流して、空を見上げる。

 人工の光がない夜というのは、本当に真っ暗闇。だからこそ、特に一際大きな満月の夜なんかは、惚れ惚れするほどの絶景を堪能できる。

 

 大きな月や、星々の光がこれがまあよく映える。風に揺すられてざわめく木々の合唱をBGMに、洞窟の中に意識を落とすのがいつもの日課だった。

 いつもの中に混ざっていない薪の爆ぜる音も入り込み、新たな音が耳を楽しませてくれる。

 

 しかし、眠ることさえも、目を瞑る感覚もないまま、意識がぷっつりと途切れて落ちていくような感覚はやはり嫌いだ。恐怖心すらある。

 そう考えると、他人が近くにいながら眠りに落ちる状態というのは中々新鮮だ。不思議ですらあるかもしれない。

 

「なんだか、プラネタリウムみたいですね」

『ルビー、貴女の考えていることは大変失礼です』

「グリム、その、君の言葉が無ければ綺麗にまとまっていたと思うんだ」

『……現状理解完了。大変、大変失礼しました』

 

 これはひどい。台無しである。

 

 彼女たちは今日出会ったばかりの(中身の事はともかくとして)ガワは完全に異形な怪人の俺のことを、よもやカラオケやホールにあるようなミラーボールか何かと見間違えてるのではなかろうか。

 

 強ち否定できない外見なのが悲しい。ただしこれはミラーボールではなく複眼だ、複眼。360度カバー可能な優れものだぞ! ちょっとした弊害があるだけでかなり優れたものなんだ!

 まあその弊害も、常に目が開きっぱなしの状態だから瞑りたくでも瞑れないとか、太陽光で視界がかなりやられるくらいのものなのだけど。

 

 それを加味して考えると、偏見も込みで存外人間らしいシルエットが多い怪人の中ではかなりらしくない姿なのかもしれない。俺が改造される前、テレビやSNSで見かける機会のあった怪人というのは、総じてしっかりと人型のシルエットを保っていたように思う。

 まあ、片腕がドリルだったり大砲のように改造されているとか序の口で、どっかの変態企業あたりが着想したイロモノめいた物までくっついていたりしていた。ほら、六連チェーンソードリルとか。

 

 それと比較すると俺は特に、下半身が大きな差異だと言える。

 二本足での歩行を完全に放棄している。タコの脚とも樹木の根とも言い難い大小の触手を足代わりにしているが、歩くというかスライドとか、突き刺して固定してから移動するとかそんな感じである。

 

「君たちの頼み通り、魔力をばら撒いてきたけどさ、本当に良かったのか?」

「はい、正直ここまで魔力がばら撒かれていると……正直、手の施しようがないので、なら別の方法をとってしまおうと」

「手の施しようがない、か」

 

 はっきりと言い切られると流石に少しへこむ。いやまあ、発端から原因から全て自分の責任な訳だが。

 『これも全部ダイアークって秘密結社の仕業なんだ!』と割り切れたらどれだけ良かっただろう。

 しかし悲しいことに抱えてる能力の都合上、そんな風に思っていると碌でもないことになりそうなのが辛い。

 

 昔読んだダークファンタジー物の小説で、特別な力を持って生まれたが為に邪教の神具に祀り上げられ、ただ邪教徒の指示通りに能力を使う物に『加工』された登場人物がいた。

 その登場人物とは全く能力は違うけど、例えばもしもダイアークやそれに連なる組織に連れ去られ洗脳でも受けるハメになればもうお察しである。詰みだ。そんでもってほかの人々に迷惑をかける。それは嫌だ。

 なので自然と『なるようになる』なんて考えは消えていた。

 

「はい。明確な指揮性のない魔力でこの規模です。なら、こちらも手を変えて『この魔力自体を単体で操作できるようにする』手法が楽かなって」

「なる、ほど? ルビー、いったい何をするつもりなんだ」

『ルビーは、意思を持ち始めている島に、完全に意思を与えようとしています』

「意思を与える?」

 

 そう言えば魚を食べているときに言っていたな。魔力が満ちすぎて島が意思を持ちかけている、とかなんとか。ただ、そんなことをしていいのだろうか。

 もう字面の時点で嫌な予感しかしない。厄ネタに厄ネタを重ねて碌でもないことにしかならないじゃないだろうか。

 

「雑に言うとですけど、リョーマさんにはお父さんになってもらおうかなと」

「お父さん?」

 

 一瞬真っ白の柴犬が頭をよぎったが違う違うと頭の片隅に追いやる。

 どういう、事だ? 何かの暗喩だろうか。

 

『ルビー、言葉が足りません。つまり、意思を与え、擬人化だったり擬獣化してもらって、リョーマさんの使い魔として我々異能連の方で形式上、管理、保護しやすくなります』

「小難しくグリムは言ってますけど、ようは『今後の生活を保障します』って言ってるだけですから。

 やりましたねリョーマさん! 家族が増えますよ!」

「おいバカやめろ」

 

 笑顔で目をキラキラさせながら言うことじゃない。

 それにしても、そうか。結婚もしていないのに一児の父になるのか。バツイチでもないのに。

 

 両親にもうすぐ三十路になるのだから結婚も考えたらどうだと言われ、若干肩身の狭い思いをしていたことを思い出してへこんだ。

 てか、俺今の年齢って少なくとも、2年経過していると考えると……あーやめやめ。

 切り替えなければ。家族には会いたいけどこれは別問題だ。胃に穴が開く。

 

「そういえば聞き損なっていたんだが、ダイアークが崩壊したというのは、本当なのかい?」

 

 そう。その話がずっと気になっていたのだ。人様のことをこんなビックリトンデモ魔改造してくれやがったダイアークは少なくとも2年前に滅んでいるらしい。その話を今の今まで聞きそびれていたので、ここで聞いてみることにした。

 

「ええっと。……ダイアークの戦力を少しずつ削って、追い込むことはできていたんですけど。

 ……最後の最後に残った戦力で決起されてしまい、殆ど同じタイミングで当時のヒーロー連盟や魔法技術協会が色々ともめたりして、…………ハイ。お恥ずかしい話、結果的に足を引っ張りあっている間にダイアークから強襲を受ける形での総力戦になってしまいまして」

「ごめんガワがダイアーク側の俺が言うのもなんだけど何やっているの人類」

『肯定。権利や欲に目が眩んだ人間というのは、怪人よりも性質が悪いです』

「ぐふぅ……」

 

 俺からの口撃とグリムからのお腹を押さえるように俯いてしまった。しかし俺からしたら『残当』の2文字しか頭に残らない。

 いや本当に何やってるの? なんでそういう共通の敵がいる中で利権争いみたいなことやってんの? 理由はまあわかる。ダイアークがいなくなった後の事を見据えていたんだろうけど、状況が悪すぎるだろ。やっぱ人間って馬鹿だわ。知ってたけど。

 

「わ、私に言われてもですよぉ、あの時の私は協会の一研究員でしかなかったんです……ヨヨヨ……」

「君結構余裕あるね? しかしまあ、ルビーが悪いわけじゃないのはその通りだ」

『肯定。ルビーの話を引き継ぎますが、ダイアーク壊滅後、残ったヒーロー連盟、魔法技術協会共に致命的なダメージを負ってしまいました。今後そのような事態が起こらないよう当時の上層部の人員を総入れ替えし、相互監視も兼ねて2つの組織を合併、今の異能連の形になりました』

「なるほど」

 

 これ以上ルビーを責めても何にもならない。というか言ったところでルビー視点では理不尽極まりない事柄でしかない。これ以上グチグチ言っては完全に悪質クレーマーのそれだ。

 やっぱ利権やら金やら欲に目が眩んだ人間ってクソだわと当時のブラック企業の上層部を思い出してこれ以上なく心の中指をおっ立てる。

 さあこの空気どうしようかと思案しようとしていると、ふと昼の光景と与えられた情報から、背筋が凍るような感覚に襲われた。

 ……そういえば、彼女、思いっきりこの島由来の食べ物を食べてなかっただろうか。

 

「……ルビー。君、魚や山の果物を食べてしまったが……大丈夫なのか?」

「露骨な話題変更ありがとうございます……。それに関しては大丈夫です。私、これでも魔力操作は異能連の中でもトップクラスの腕前なので、取り入れた魔力を外に逃がすくらいお手の物なんです」

『彼女は調査や研究に長じています。魔力の取り扱いに関して言うまでもありません』

「……よかった……」

 

 心の底からホッとする。ふと沸き上がった懸念事項の1つが消えて、安心からどっと疲れが噴き出てきた。これで(年齢こそ知らないけど)若い女の子を洗脳してしまうとかいうエロ同人誌みたいな展開は回避したわけだ。

 ……触手、異形、洗脳……やめよう。これ以上は俺の心が持たない。というか考えたところでそういう意味合いの発散する方法を未来永劫失っているのだから実行に移す理由もない。

 

『推定、疲労。お疲れのようですね』

「恥ずかしい話、人とのコミュニケーションに飢えていたけど、同時に久しぶりの事すぎて疲れたみたいだ……悪いけど、今日は寝かせてもらうよ。ルビー、グリム。布団代わりになるかはわからないけど、蔦を編んで作った布団まがいのものがある。入り口側に置いておくから、良ければそれを使ってくれ。オレは、洞窟の奥で眠るよ」

「あ、わかりました。それじゃあ、おやすみなさい。寝る前に火は消しておきますね」

「助かる。それじゃあ、おやすみ。良い夢を」

 

 こうして、どたばたとした長い1日は終わった。

 この後、起きた直後、というか、パニック気味の彼女にたたき起こされるハメになるとは、この時思いもしてなかった。

 



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5話

|・ω・*)チラ

|彡サッ!

|・ω・*)チラ

|彡サッ!

タイヘンオマタセシマシタ

一部表現を追記


 

【寂しいなあ】

 

 こえがする。さみしそうだ。

 

【見られたくないなあ】

 

 こえがする。こわがっているみたい。

 

【でも、また会いたいなあ】

 

 こえがする。あきらめきれないのかな。

 

【……いや、身勝手だよな。最後に会ったのだって、もう2年以上だよ】

 

 こえがする。あきらめたみたい。

 

【音信不通で、死んだと思われてたとしても不思議じゃない。それに……こんな外見だしな】

 

 こえがする。ないているのかな。

 

【ダイアークの手先だと思われて、家族や知り合い、友達らが余計な差別とかに巻き込まれるくらいなら、会わないほうがいいよな……】

 

 こえがする。くやしそうだ。

 

【でも、せめて。……母さん、父さん……】

 

 こえがきえた。

 

 どうして?

 ⬛︎にはわからない。

 

 わからないけど。とてもとてもとても、いやだった。

 

 だから、なかないで。あきらめないで。さみしがらないで。

 

 ⬛︎が、てをかすから。

 

 あなたがいいひとなのは、⬛︎がしってるから。

 

 きらきらひかる、ほしみたいなねがいは、まちがいじゃないから。

 

 だから、だから、だから!

 なかないで! あきらめないで! さみしがらないで!

 

 ⬛︎は、あなたをたすけるために、いるんだから!

 

 

 

「もうダメだ……お終いだぁ……」

「リョーマさん落ち着いて!! 大丈夫です!! まだ大丈夫です!!」

『ルビー。あなたもかなり焦りがみえます。一度深呼吸を。ほら、ヒッヒッフー』

「それは妊婦さんの!! ノー・ラマーズ!!! プリーズ・カーム!!!!」

 

 それは絶叫のように俺たちに冷静さを求めている君も、人の事は言えないんじゃないんだろうか。

 

 全方位視野に意識を飛ばして意識の片隅で虚無って冷静になった結果、現実と戦わざるを得なくなり内心で何処か他人事のようなツッコミを飛ばしていた。

 

 いやだって。考えてほしい。目が覚めた直後から『やけに地鳴りや地震が頻発してるな』なんて思っていたら冷や汗ダラッダラのルビーが、それはもう冷静さの欠片もないような顔をして言うのだ。

 

『リョーマさん!!!! どうしましょう!!!』

『全く伝わらんけど、とりあえずやべーってことだけはわかった!』

 

 そこから解説を受けたわけだけど。

 この地震の理由を懇切丁寧に説明された時の、俺が感じた胃の痛みは計り知れないものだった。

 ──俺が住んでいたこの無人島そのものが、生き物になっているってどういう事だよ。

 

 いや、話は事前にルビーたちから聞いていた。島全域、ましてや周りの海にまで影響を及ぼす質・量共に問題的な魔力だ。

 指揮性を持たせるためとは言え、最後の一押しは自分でやった事。だけどまあ、規模としてここまでの大きい存在が使い魔になるとか誰が思うよ……。擬人化とか言ってたやん……。

 

 もっとこう、少年少女味ある感じのエルフっぽいのが来ると思ってたんだよ俺ぁ……。

 

 …………過度な緊張か、或いは別の何かなのか。バクバクと音を猛り鳴らす心臓の鼓動が、一周回って頭を冷静にさせてくれた。

 

「よし。ルビー、グリム。手を貸して欲しい」

「……リョーマさん、凄いですね。こんな状況なのに、すぐ冷静になって」

「焦っても仕方ないって割り切れるだけさ。社畜の精神衛生の保身術とも言う。……ここ、笑うところだよ?」

『懐疑。何処に笑える要素が?』

「まっっっっったく笑えませんからねそれ!?」

「よし、とりあえず、2人とも。情報を俺に下さい」

 

 

 『それ』は、元々はただの島だった。

 無人島。日本の経済水域内に無数に存在する内の1つ。

 ただ少し大きく、自然豊かで、ちょっとした山があって、目敏い者が見れば観光ツアーでも考えつきそうな程度には状態がいい。そんな島。

 

 そんな島に、流れ着いた怪人が影響を与えた。

 

 怪人が島の恵みを食べる度、感謝の形として自らの脚を残した。その行いを、怪人は続けた。

 

 気晴らしの一環だったのだろう。育ちの良さもあったのかもしれない。そこに悪意は全くなかったのだ。

 

 やがて、残された脚から溢れた魔力は島中を巡り、その外の海まで魔力が侵食し、やがて島は、自我を得た。

 

 それは弱い弱い、何かの影響で消えてしまう程度には脆弱なそれだったけど。

 魔力に乗せられた「ありがとう」の思いが嬉しくて、だから守ろうと決めた。

 いくら使っても余りある魔力を他の生き物がより良く成長する為の栄養に変え。外から島に近付こうとする第三者を排除する為に天候や波、凶暴な魚を誘導する等々、様々な術を得た。

 

 そして、島は転換期を得た。

 これまで以上に、怪人が魔力を与えてきたのだ。

 

 その魔力の意図には、島は気が付いていた。本来は排除するつもりだった、島を訪れた来訪者の話を聞いていたのは、怪人だけではなかったのだから。

 

 島はそこで、魔力と共に流れた怪人の、『ありがとう』の思いで隠されていた諦念を、寂寥を……諦め切れない、諦めたくない、それでもどうしようもない絶望感を、味わってしまった。

 

 だけど、共に。そんな奥の奥、底の底に封じられている家族への想いを、確かに聞き届けていた。

 

 島は、決めた。幼い子供の我が儘にも、偏屈で頑固な年寄りの意固地にも似た決意だ。

 だから、躊躇わない。

 

 島は、自分の形を変える事にした。

 海を泳ぎながら、島を背負える形に。

 

 木々を、土を、岩を、塩を織り混ぜて。大海原を泳げる脚と、大地を踏みしめられる脚を4つずつ。

 

 外の様子がより分かるように、一対の眼を持つ頭を作った。

 そして、より怪人が姿を隠しやすいように、島自体をより大きくした。

 

 この時点で、来訪者の方が気が付いて島へ干渉を試みた。

 が、島はこれを無視し、そして、変生した。

 

「はっ……はっ……やっべ脚つりそう!!」

「触手の下半身でもつるとかあるんですか!? ちょっと後で詳しく聞かせてください!」

「そんなこと言ってる余裕、あるなら! 俺も! 乗せて!!」

『申し訳ありません。ミスター。重量オーバーです』

「だよねー!!!! はっ! はあっ!! あと、何キロ!?」

『既に600mは切っています』

 

 触手をこれ以上なく、忙しなく動かして前へ前へと這い進む。無いはずの脹脛や太腿が悲鳴を上げているような気がする。それも2本以上。精神的な苦行はデスマーチとかで慣れてたけど、これはキツイ。運動不足な状態でかつ、準備運動を怠った結果だけどそんな事は今気にしていられない。

 

 見慣れなくなった、鬱蒼と茂る木々の隙間を縫うように、土を穿ちながら目的地目掛けて一直線。

 

 目指すのは、使い魔となった島の『頭』

 

 ルビーやグリムの暫定的な考察を聞き、とりあえずやるべき事を決めた。

 と、いうのも。グリムの言葉の通りのイメージであれば、俺の使い魔は、俺の地元を目指して遊泳しているという。

 ……最低でも、現状10k ㎡はある存在がそんな場所に突っ込んだりしたら大変な事になるだろう。

 それは困る。非常に困る。

 

 木々の隙間を抜けて、記憶の中に似た配置で岩礁が並んでいた。

 その、やや先。島そのものから伸びるように、生物的なそれが見えた。

 無理やり引き伸ばした蔦や木々を一纏めにして、亀か蛇にも似た頭を形作っていた。

 目にあたるところは空洞で何もない。それが逆に迫力を増している。

 ましてやそれ単体で、縦に10mはありそうなものだから思わず怯んでしまう。

 

 それでも、脚は止められない。

 

「あれだな!?」

「そうです! あれがこの島の意識に、1番近いもの!」

「で、俺はあの頭に根を突き立てればいいんだな!?」

『その通りです。折らずに、そのまま』

 

 俺は今回、自分の改造された意図に沿う形で魔力を使う。洗脳するつもりはないが、それでも不安で不安で仕方がない。

 まあそもそもからして、うまくいかないとどうしようもないのだが。

 

 首を構成する植物たちに脚を引っ掛け、突き刺し、するりするりと駆け上がる。痛覚はないのか、特に振り落とされるような事もなく、やっと使い魔の頭に辿り着いた。

 

「はーっ……! はーっ……! …………よし、ルビー、グリム、いくぞー!」

「はい!」

『補佐は任せてください』

 

 一声掛けて、触手を2本、草木で作られた頭へと突き立てる。

 それでも島は動きを止めない。ここまでは、予定通り。

 だから、言葉にする。

 

「【俺と、話を、してくれ!】」

 

 そして、頭に雪崩れ込んでくるような情報が────




●『島亀による本土襲撃未遂事件』について
・本年四月十日頃、怪人『Monotheism』(以下Aとする)が意図せぬ形で変生させた無人島による本土襲撃未遂事件。

・異能連管理下の魔法使い『ルビー』及びそのサポートデバイス『グリム』の指示の下、魔力を島に与え続けた結果、全長約6k㎡の島そのものが巨大化し、約10k㎡まで到達。魔獣に変生。暫定として個体名『島亀』とする。

・その後島亀は本土を目指し遊泳、、接近し、A、ルビーによる説得により鎮静化に成功。現在は太平洋内を回遊している。

・Aは今後島亀の背の上で過ごしながら、暫定的に異能連の監視下に置かれるものとする。

【報告書に付箋がいくつも貼られている】
【ルビーの直筆メモのようだ】

 知っての通り、魔獣は創造主である魔法使いに基本として絶対服従です。ある種野生動物の刷り込みに近いものがあります。自分を生み出した魔力と同じ魔力を持つ者を親、創造主と判別する。

 しかし、今回のような例は『本魔獣の持つ魔力があまりにも膨大だったこと』『魔獣として生まれた直後故の無垢さ』『竜馬さん自身の無意識化の願望を汲み取った』等々の様々な要因が重なった為だと思われます。

 あと、触れ合った個人としては『善良で、ちょっと抜けてる人』『強大な力を持ってしまっただけの被害者』です。それ以上もそれ以下もありません。

 この報告書に、怪人として名付けられる予定だったコードネームで、彼を示す事そのものに、忌避感が沸く程度には。


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