人間と悪魔が契約したら魂を取られる? そりゃそうだが俺たちにもクビってのがかかってんだよぉ!! (暁シドウ)
しおりを挟む

クビをかけた闘いへ

ハーメルンでの初投稿をさせていただきます、暁シドウです。
これからどうぞよろしくお願いします。


~プロローグ~『クビをかけた闘いへ』

 

 

「一ヶ月、一定のノルマこなせなかったら、そいつはクビ。うん、そうしよう」

 

 旧魔王様が死去され一ヶ月前に新しく王位に就いたヨデル様は魔界全軍を前に、耳をほじりつつ告げた。

 ここは魔界。そして俺――アンデル・ライドはそこに住む一介の軍所属悪魔だ。

 魔界は完全な軍国主義。政治などはその軍のトップ、魔王が実権を握る。

 もちろん、魔界に住む悪魔全員が軍属というわけではない。一般には軍属悪魔とその他の悪魔だ。まあ、その他っつってもいろいろあるんだが……。

 

 俺が軍属を志望した一番の要因――それはやはり給与の高さからだ。いや、金があれば何不自由なく暮らせるじゃん? なんて軽い考えを持ったのが間違いだった。最初給与が高くてうははーだったのに魔王交代から出来高制だぜ? チクショウッ!

 と、そんなことを考えていた俺はヨデル様の厳しい言葉で一気に現実に戻された。

 

「いいか? 前魔王は甘すぎたんだ。給与はバカ高い割には働かず、ここへ魂の流入が減る。そして魔界は廃れる……。こんな状況、見ておれんのだよ、私は」

 

 いや、全くその通りだと思います……。現に俺、給与に惹かれて軍に入っただけですもん。

 

「魂か……最近、契約する人間が少なくなってきたんだよなぁ……今は向こうじゃ科学が進歩して大抵の事は自分たちで出来るようになっちまったってのに……」

「本当、まったくだ。人間界での大規模な戦争もなくなって俺たちも戦力として参加するようなこともなくなった。このご時世はキツイんだって……」

 

 俺の前方の方にいた二人の軍属悪魔が愚痴をこぼす。

 そう。俺たち悪魔は人間と契約してその願いの分相応の魂を人間からもらっている。悪魔は人間の欲望を叶え、人間は魂を渡す。この等価交換を通称『悪魔の囁き』とも言う。だが、悪魔に願いを叶えてもらうのが愚かだ、低俗だといった風習が人間界に流れつつある。そして人間界の科学技術の発達によって悪魔に頼まなくても大抵のことが出来るようになったことから、さっき前方の悪魔が話していたようにそれが魔界を衰退させている原因のひとつでもある。

 整列している悪魔たちの間に沈黙が走る。

 そりゃそうだよな……。さすがに君主の方針が違いすぎる。

 

「ん? どうした? 動かないならばやる気がないと見なし魔界から追放するぞ?」

 

『ええっ!?』

 

 さっきよりなんか厳しいんですけどっ!

 全員が驚愕の表情を隠せないでいると、ヨデル様は更に――

 

「ああ、ったく! 四十秒以内に支度しないとお前ら死刑だ。ほら、早くしろ」

 

『りょ、了解!』

 

 全員が全員見事にハモった。うん、俺も相当焦ってるから! つーか段階ごとに刑罰重くなってるのは何故!?

 ヨデル様の台詞が終わると、全員は散っていった――。

 

 

「旧魔王様はあれで結構ダラダラだったけど、これはこれでヨデル様、エグイな……」

「つーかアンデル。テメエがそういう才能がないのが悪いんだろ? ったく、いくらしごいても魔力も、体術も、洗脳術も上達しねえ弟子ってのは愛想が尽きそうになるぜ」

「ちょ、ベンデズブさん、それはないっすよ……」

 

 隣にいる黒ひげを蓄えた初老の男性――ベンデズブさんの顔を見て俺は精一杯の笑顔で返す。

 魔界では通例、下っ端悪魔には師匠がつく。その師匠は弟子を10人近く持つ。まあ、人間界で言う少人数制のゼミみたいなもんだな。

 そしてヨデル様の言葉の後、俺とベンデズブさんが行った場所は『門(ゲート)』。ここから5メートル大の黒い渦の中に次々と荷物をまとめた悪魔が入っていく。皆、足早へと人間界へ赴いている。相当焦ってるな……。

 と、ここでベンデズブさんが『門』の前に立つと、俺を含め弟子たちが四方八方から10人ほど集まる。

 ベンデズブさんは、特に俺の方を見ながら、ニコッと笑う。

 

「えーっと、まずは……一ヶ月内のノルマだが……お前らはとにかくまだ半人前だ。契約数もまだ二桁に言ってない者がほとんどだからな。まあ、三年ぐらい修行してる奴らの平均契約数が五で、お前らは七だ。優秀なほうではあるものの一人前とは言い難い。まあ、若干一名、えらく足引っ張ってる奴もいるんだが……」

「面目ないです……」

 

 俺は頭をポリポリと掻きながら言った。

 だって、しょうがないだろう! 軍属になってみて魔力が極端に少ないって言われたんだからさ! 魔力がなけりゃこの世界生きていけないのに! 死活問題なのに!

 

「とまあ、こんな感じなわけだが――とりあえず、皆、目標契約数としては――そうだな、今回は9だ。6以下の者には罰則を与える。いいな?」

 

『はい!』

 

 俺以外の皆が声をそろえる。

 と、

 

「あれー? ベンデズブのおじさんじゃなぁい! こんなダサいおじさんの所なんてむさくて、やってられないんじゃない? 良かったら私のとここない? 身体方面でも教えられること多いよぉ?」

「出やがったな、小娘。ったく。お前みたいな奴がいるから魔界は廃れていくんだよ」

「ん? なんか言った? おじさん。私とあなたじゃ契約数の桁が違うんですけど?」

「テメエは色仕掛けの契約がほとんどだろうが……」

「傭兵関連もたまにはありますよー。べーっだ!」

 

 ベンデズブさんと口論中のこの女性――エスティーナさんは、左手の人差し指をまぶたにあて、ベンデズブさんを挑発していた。

 

 ベンデズブさんの元弟子でもあるエスティーナさん。身長は百六十二センチと少し小柄でもある。が、身にまとっている死神軍属専用の制服にお胸が入りきらずに当別仕様で個人の服をまとっている。とはいえ、本人が露出狂だから制服の時よりもさらに激しく露出しているが……。

 凛とした顔立ちと立ち振る舞い、スラと伸びた紅髪のロングストレート。彼女のその紅の髪からくるあだ名――『返り血のエスティーナ』。最近こそ戦争が少なくなり色仕掛けの契約が多かったものの、戦争のとき、この人は武神となっていた。左眼は赤、右眼は緑のオッドアイ。銃の照準を合わせる為に左眼は改造していて視力は相当のものらしい。自身の愛用二丁拳銃を駆使し、一発で確実に一人の命を奪っていた魔界屈指の狙撃手だ。銃を持たせたらこの人の右に出るものなど誰もいない。ただ唯一近接格闘は苦手らしくそうなった場合は高速移動術を使って精一杯逃げるらしいが。だからこの人は魔界で畏怖されてきた。今はそんな影は微塵もないが……。

 つかこの二人前々から相性悪いんだけどなぁ……。どうしたらいいんだろ、この二人。

 

「お、おい。エスティーナさんの所はこの前弟子が独り立ちしてるから、空きがあるらしいが……ヤベ、行きてぇ!」

 

 俺の隣にいた一人が呟く。まあ、実際のところ美しいんだが。

 

「じゃ、おじさん。今回も契約数バシっといっちゃうから! そろそろ隠居したら? 歳には勝てないよぉ? じゃぁねぇー」

 

 笑顔を見せながら去っていくエスティーナさん。ベンデズブさんの額に青筋がいくつも見えている。ヤベェ、ブチ切れ寸前やん。

 

「お前ら……全員合わせてあいつに勝てよ? あと、特別にさっき誰かが向こう行きたいみてぇなこと言ってたが、見逃してやるよ……」

『は……はい……』

 

 あ、さっき向こう行きたい発言した奴、顔、青ざめてるよ。

 

「よし、いい返事だ……。ヨデル様の一ヶ月のノルマは二桁だが、そこはまだ半人前だということで俺が口利きしとくから、安心しろ、お前ら。まあ、とにかくアイツには負けんな」

 

『はい!』

 

「で――アンデル」

「? はい、何でしょう?」

 

 ベンデズブさんは、他の弟子を退かせ、俺の眼前に立つ。……何だ? 俺は疑問の念を抱いていたが、ベンデズブさんはとんでもない一言を放った。

 

「お前は……代価数五以下なら問答無用でクビな」

「マジでっ!?」

 

 いつもの状態に戻ったベンデズブさんは俺の額に野太い指を埋めながら、ドスの利いた声で言った。

 

「当ったり前だ。テメエ、危機感なさすぎんだっつの。大方たっかい金で雇われるの目当てで入ってきたんだろ? もらうんならその分働きな」

「いや、そういう問題ッスか!? ちょ、もう少し緩めていただかないと……」

「不平不満文句言い訳ひとつにつき契約数はマイナス一からのスタートに――」

「わっかりましたぁ! アンデル・ライド。人間界で五個は魂とってきまーっす!」

 俺はベンデズブさんの最後の言葉を聞かないままに黒い渦の『門』へと飛び込んだ!

 

「んじゃ、お前らも行ってきな。もう一度言うが……あの色仕掛け腐れ小娘には負けんなよ?」

『は……はい……』

 

 




酷評批評罵倒お褒めの言葉。どんな感想にも真摯に向き合っていきたいと思っています。
よろしくです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。