やはり俺の後輩が素直(?)になるのは間違っていない。 (秋人#)
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やはり俺の後輩が素直(?)になるのは間違っていない。



どうも、はじめまして秋人です。いろはすが可愛すぎて書いた小説です。よければ読んでいただけると幸いです。


 

 

 

 

あざとい

 

それは、小狡いさま、抜け目のない感じのあるさま、やり方があくどいさま、たちの悪い様子と、いった意味の表現。最近の俗な用法では、「あざとい」は、いたずらに情欲や胸のときめきを沸き立てるような 、しかもそれが計算ずくで行われている趣のある仕草やポーズなどを形容する言い方として用いられる傾向がある。小利口な立ち回りに対するかすかな苛立ちや、可愛いから許せるといった寛容さも、念頭に置かれていることが多い。

 

たとえば、両手をごく軽く握り、後頭部へ、頭上から少し覗くくらいの位置に置いて動物の耳を模し、さらに片目をつむってウインクしつつ口元は舌を出して「テヘ☆」とでも言うかのような表情を作り、加えるに片膝を内側に向けて少ししならせでもすれば、これはまごう事なき「あざといポーズ」である。何故これが「あざとい」のかというと、そこに「いかにも」な感があるからである。「仕草がかわいい」と感じられることは無論であるが、それが「かわいい仕草」として意図的に利用されてきたであろう事がまざまざと感じられるからであり、カワイイと自分で承知した上でそのうよにに振る舞っていることが見て取れるからである。意図しなければそんなポーズを取る者はいない。

 

さて、ここまで長ったらしくまるでネットから引っ張ったような説明文を語ったが、つまるところ何が言いたいかと言うと...

 

「先輩...?」

 

俺の胸の中で顔をほんのり赤くしながら、めいいっぱい力を込めて、抱きしめてくる上目遣いの一色いろはがめちゃめちゃ柔らかくてかわい...じゃなくて、はたしてあざとい行動なのかどうか分からないでいた。いやほんとどっちなんですかぁあ!!!!!

 

 

 




 

 

 

 

4月。別れと出会いの季節と呼ばれ、一年の中で最も目まぐるしく変化が訪れる月と言っても過言では無いだろう。俺、比企谷八幡は高校3年生になった。自分で言うのもなんだが......奉仕部は以前のような蟠りは無く、これまでよりも暖かい空間になっていた。常に日陰を歩いてきたエリートぼっちの俺が、表立って口に出したら、雪ノ下達に色々と言われるのは間違いないのだが、俺は2人の事を"友達"だと思うようになった。決して口にはしないが。...まあ、俺が口に出しても、2人は罵倒を投げつけながらも最終的には笑顔で頷いてくれるとも思っているが、いかんせん恥ずかしい事この上ない。いやほんと、今までぼっちを貫くとか言ってた人間が急にそんな事を言ったら病気を疑われるレベル。

 

とまあ、そんな風な心境の変化と友人関係に充実感を感じた俺はある感情が芽生えた。それは端的にいうと、彼女が欲しい。もっと本質の部分を言うとすると、恋愛がしたい、という事になるのかもしれない。なにいってんだこいつって思った方、俺も自分自身に驚いている。中学校の時、恋愛に関しては山のように黒歴史を積み重ねできた俺。ん?まてよ、何事にもよく言われる事だが、失敗は成功の元と言うぐらいだし、もしかしたら俺って恋愛経験豊富...?(白目)おっとあまりにつらい過去に思わず現実逃避をしてしまったようだ。脱線したので話を戻すと、中学校の時の原因は全て、"勘違い"によるものに間違いはない。それは例えば、少し優しくされただけで、「こいつ、俺の事好きなんじゃね?」という風な物が一番王道的な勘違いだろう。王道な勘違いってなんだよ...

 

この勘違いが原因で、数々の女性に告白してきたプレイボーイ(仮)の俺だが...なにそれ偏差値低そう。俺はその対抗策を思いついた。

 

相手に聞けば良くね?

 

はいそこブラウザバックのボタン押さない〜。自分でも分かってるから、ほんとに。ただ、これしか対抗策が無いというのも理解してもらいたい。

 

具体的になにを聞くかというと、最も効果的なのは、「俺のこと好きなの?」なのだが、もし違った場合、これは告白と同等、もしくはそれ以上の黒歴史となる事は間違いない。そこで一番丁度いいラインなのは、何か優しくされた際に、何故その行動をしたのか?と聞く事じゃないかという結論に至った。まあ、これも自意識過剰である事に変わりはないが、前者に示した聞き方よりは大分マシだろう。

 

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

 

思考に耽っていると、授業の終わりの合図である音がなる。六限目なので、後はHRをやって放課後に至る。因みにクラスだが、ものの見事に誰一人知り合いがいない。まあ、俺の知り合いっつっても手で数えられるぐらいだから、誰とも同じにならない確率の方が高いわけだが...それでも俺は許さない。クラス発表の時、戸塚に「八幡、別々になっちゃったね...」と言わせ、悲しみの表情を浮かべさせた席替えの神を俺は許さない。絶対に許すまじ。そんな風にいるかも分からない(絶対にいない)神に怨念を向けていると、HRが終わったようで、俺は席を立ち奉仕部に向かって歩き出す。

 

授業中に恋愛における勘違いの対策を考えたはいいが、果たして実用する事はできるのだろうか?この対策は正直、余り関わりのない人間にやっても気持ち悪がられて終わりなので、必然的に俺と話す仲じゃないといけない事になるが、生憎俺はエリートぼっち。

 

仲のいい女性と言ったら...まあ奉仕部の二人はそれに当たるが、正直あの二人への恋愛感情は限りなくゼロだ。二人はどう思っているか分からないが、俺自身、あいつらに対しては家族に近い感情を持っている。由比ヶ浜の行動はかなり思わせぶりで、これは流石にそうなのでは?と思っていたが、ここ最近の奉仕部の雰囲気で、俺と同じように人間として、俺のことを好いてくれているのではないか?と思うようになった。まあ、流石に好きな人をあんなキモいキモい言わないしなぁ。小町のような罵倒だと思うと、いくらか辛さも減る。なんなら気持ちいいぐらいだ。あれ、俺小町に開発されてる?何かこの事はこれ以上考えるのは良くない気がしてきた。俺は頭を振り、正常な思考に戻す。

 

そうなると、仲のいい女性、もとい知り合いの女性か.....

俺は身の回りにいる女性を思い浮かべていく。俺が話した事ある女性って言うと、前のクラスでは、川崎、海老名さんにあーしさんか?後は平塚先生と城廻先輩。あー、後魔王はるのんぐらいか?他にも他校や、俺が一緒にいたら問題になる年頃の女の子もいたが、絶対にノーカンだ。yesロリnoタッチ。しかしこの中に思わせぶりな行動を取る女子は...

 

「せーんぱーい!!!!」

 

いた。奉仕部の2人と同じくらい話す関係で、かなり思わせぶりな行動を取る女子が。俺は声の方向に振り向いて挨拶をする。

 

「おう、一色か」

 

俺がそう言うと一色は目を丸くして、少しの間固まる。しかし、やはりというか何というかこうしてると普通に可愛いよな」

 

「なっ!!!い、いきなり可愛いとか言って何なんですか?ちょっとキュンとしちゃいましたけど、会っていきなり言われても心の準備もできてないですし、そんな口説き方じゃ落ちません、ごめんなさい無理です///」

 

一色が急に顔を真っ赤にしたかと思うと、早口でいつもの奴をやってきた。声に出していた、だと?八幡、一生の不覚。だがまあ、目の前でこんな分かりやすく慌てている人間を見るとこっちはかえって冷静になる。

 

「そうかよ、で、何の用だ?」

 

俺の言葉に一色はまた目を丸くして、俺をまるで新種の生物を発見したような目で見て、口を開いた。

 

「先輩、今日どうしたんですか?私の呼ぶ声にも一回で反応しましたし、何か変なものでも食べたんですか?」

 

その質問に俺はなるほど、と心の中で呟く。確かにいつもだったら何回か無視した後、ズケズケと歩き出すが...まあ、先ほど申した通り、俺は彼女が欲しいし対策を試してみたい。そのせいかいくらか素直になっているのだろう、と自分の行動の理由を心の中で確かめたところで、一色の質問に答えを返す。

 

「別に、気分だ。変なものも食べてない...どっかの誰かが毒を仕込んでる可能性はあるが...まあ安心しろ。」

「このご時世で毒殺決め込む人なんていませんよ...まあでも、先輩がもし毒にかかっても私が治してあげますからね♪」

 

キュピーンと効果音がなりそうなウインクをしながら言う一色。ふむ、あざとい...これはおそらく一色の普段の行動通りだろう。この行動に対していちいち理由を聞いていたらきりがない。はて、どうしたものか...と考えだすと一色が話しかけてくる。

 

「それよりも、新入生の歓迎会の準備が大変なんです!!助けてくださいよー先輩!」

 

これまたオヨヨとオノマトペが見えるぐらいの泣き真似をしながら言う一色。こいつは毎回あざとい行動をしなきゃいけないルールでもあるのか?しかし、これはチャンスだ。2人きりになればさっきの対策も試せるだろう。

 

「分かった。由比ヶ浜にメールしとくわ。」

「...先輩、本当にどうしたんですか?」

 

俺の答えに一色は驚きと不思議が混じった表情で質問をする。これは間違いなく素の表情だな、そこまで珍しいか?まあ、珍しいか。普段から仕事嫌々雰囲気を出している俺がこんなすんなりOKを出すとは思わなかったのだろう。しかしやっぱり、こういう素の表情はかわいいな」

 

「あぅっ!せせ、先輩本当に大丈夫ですか!?そ、そんな何回もかわいいなんて...そ、その嬉しいですけど...」

 

また声に出してしまっていたのか、ぼふっと聞こえるぐらい一色は顔を真っ赤にして、俺の安否を尋ねる。最後らへんのボソボソした声も俺は難聴系では無いのでしっかり聞き取れてしまった。

......こいつ、こんなに可愛いかったっけ?戸塚や小町と並ぶぞ...くっ!俺の天使は2人だけのはずだ!しっかりしろ!!

 

「と、とにかく生徒会室に行きましょう!」

「お、おう。」

 

今もなおほんのり顔が赤い一色が声を張り上げて俺の背中を押して生徒会室の方向へと向かった。

 

 

 


 

 

 

生徒会室に入り、仕事に取りかかってから約20分。部屋は深い沈黙を守っていた。というのも、普段ならばちょっかいなり、相談事をけしかけてくる一色が先程からぼーっと、うわのそらであり、仕事にも全く身が入っていない。たまに思い出したかのように、顔を赤くしては、「先輩が、かわいいって...私にかわいいって...えへへぇ。」と呟くので、その度に俺は悶え、転げ回るのを我慢していた。

ちょっと、いやかなり。一色さん可愛すぎませんかね?かわいいなんて普段から言われなれてる人の反応じゃないよね。うぶないろはす、改めうぶはすの破壊力まじっべーわ。思わず戸部になってしまうくらいやばい。

しかし、このまま何も話さずに終わってしまうのでは、対策の試しようがないな...どうしたもんかと悩んでいると、一色が立ち上がり俺に話しかけてくる。

 

「先輩!こ、今週の日曜日って空いてますか?」

 

どこか慌てた様子の一色を怪訝に思いつつも俺は返事を返す。

 

「いや、日曜は朝からプリティーなキュアをだな...」

「空いてるんですね、分かりました。」

 

俺の答えを遮り勝手に了承を得る一色。それに対してさらに抗議しようかと思ったが、よく考えたら早速対策を試せるチャンスじゃないか?

 

「それで、ですね。また葉山先輩とのデートの練習をしたいので、どこか遊びにいきましょう!!」

 

どうやら俺の予想は当たったようだ。一色、それだ、国士無双!!

 

「...思ったんだが、なんで葉山の練習相手が俺なんだ?」

 

俺の疑念に、答えを用意していなかったのか、「ぐぬっ」と一色がたじろぐ。一色の今のお誘いは勘違いに値するものだと思う。俺がもし一色の立場だったら、練習のためとは言え、好きでもない異性と遊びに行くなんてごめんだ。百歩譲ってそれができたとしても、葉山の練習相手に対象に位置する俺を選ぶ理由が謎だ。考えられる理由としては、俺のことが好きということ。しかし俺は散々勘違いしてきて失敗してきた。今こそ挽回の時だ。面を上げろ、侘助。あれかっこいいよね。

 

「俺と遊びに行ったところで、葉山の好みとかデートに必要な行動なんかわかんねーだろ。」

「そ、そんな事ないです!同じ男性として、参考になる部分はあるかと..」

「それなら尚更俺じゃなくていいじゃねえか。お前なら色んな男を捕まえられるんだから、以前遊びに行った俺とは違う奴の方がいいんじゃねーの?」

「そ、それは...」

 

俺の正論に一色は口をわなわなさせなんとか言葉を捻り出そうとする。目は若干潤んでいる。あかん、罪悪感が...くっ、許せ一色!これはお前のためでもあるんだ!(大嘘)今すぐ遊びに行く事に肯定したくなる気持ちを抑え、一色の反応を伺う。

 

「むぅー!とにかく!先輩は私とデートしてください!それとも、本物...」

「おい」

 

急遽脅しにくる一色を黙らせて、この後の事を思案する。何故誘ったかという理由は分からなそうだな...仕方ない。黒歴史1ページ分は勉強ということにしておこう。

 

「...今からキモい事を言うから、罵倒なりなんなりして構わない。ただこの事は周りに言わないでくれ。」

「え?なんですか?急に。」

 

俺の発言の内容を理解できずにいるのか、一色が首を傾げ尋ねる。いちいち可愛いな、こんちくしょう。しかしこれを言っとかないと俺のダメージがっべー事になるのでしょうがない。...よし。言うぞ。

 

「...勘違いだと思うんだが、一色って俺のこと好きなのか?」

「......ふぇ?」

 

俺の言葉に一色は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔になり、素であざとい反応をする。素であざといってなんだよ、生まれた頃からなんかしらの教育を受けてるのか?俺が一色の反応に疑問を浮かべていると、一色はようやく俺の発言を理解したのか、慌てて口を開く。

 

「な、な、いいいいきなりそんな事言われてもなんて言ったら分からないと言うか何というか、別に先輩のことは好きでも嫌いでもないと言うか、いやどちらかと言えば、好き...じゃなくて!、あれ?と、とにかくごめんなさい!」

 

まるで2倍速のような速さでいつものやつをやる一色だが、まるでキレが無い。俺は慌てている一色を見て思わず微笑んでいると、一色はぷくーっと頬を膨らまし、手を上下に振る。

 

「なんで笑ってるんですかー!!」

「悪い悪い、珍しい一色を見れたもんでな。」

「むぅ、大体今日の先輩が変なのがいけないんです!!なんで今日はそんなに素直なんですか!!?」

 

一色の言葉に俺は手を顎にやって思考する。素直、か。実に的を射ている。確かに普段ならば聞かないような事を俺は惜しげもなく口に出してる。何故そうなったのかは死んでも教えられないけどな。なんて答えるかな...そんな風に考えていると、先ほどまでの慌てた様子の一色を思い出し、俺の嗜虐心が沸き立つ。よし、これで行こう。

 

「まあ、もう高3だしな。ちょっとぐらい素直に生きようと思っただけだ。...お前も、あざとい言動をやめて、素直になったらどうだ?そっちの方が良い感じだと思うぞ。」

「なっ!...」

 

こんな歯の浮くセリフ我ながらキモい。小町にバレたら一生ごみいちゃんって呼ばれる気がする。普段ならば絶対に言わないが...まあ慣れないことをしてテンションが変になっているのだろう。俺はそう判断して一色の反応を伺う。しかしそれは俺の期待したものではなくて、驚きの声を上げたかと思うと、俯き、ボソボソと呟き始めた。

 

「す...に......ですね?」

「ん?」

「素直になっても良いんですね?」

 

顔を上げたかと思ったら、それはもう真っ赤になっていて、今にでも倒れるのでは無いかと心配するが、一色の声色で大丈夫だと判断する。しかし、素直になっても良い?何故わざわざそんな質問を...

 

「別にいいだろ、なんでそんな事聞くん...」

 

ギュウ。俺が質問を終える前に1人の人間に遮られた。気がつくと目の前にいたはずの一色が俺の胸の中に顔を埋め、両手を俺の背中に回し、きつく抱きしめてきた。なっ!!!

 

「急にどうしたんだ、お前!!」

 

俺は思わず叫びながら、一色を突き放そうとする。だが、予想以上に抱きつく力は強く、なかなか引き剥がせない。

 

「どうしたって...先輩が言ったんですよ?素直になれって...だから抱きついちゃいました...」

「っ!」

 

胸の前に顔があるので自然的に上目遣いの一色と目が合う。くそっ、なんだこれ体が熱い...それにこいつこんな可愛いかった...って違う違う。今はそんなことよりこいつを離さないと。俺がなんとかして一色を引き剥がそうとすると、それに反応するようにきつく抱きしめてくる。

 

「なっ、一色!」

「いやです!先輩と離れたくありません!!素直になれって言ったのは先輩じゃないですか...先輩も素直に答えてください。私とハグするのは嫌ですか?」

 

少し涙を浮かべながら上目遣いで尋ねてくる一色に俺は体の熱が一段階上がるのを感じとる。一色の顔の色は誰が見ても赤くなっており、かくゆう俺も間違いなく赤くなっているだろう。一色に抱きつかれている俺は手を置く場所を探しているため何もない空気中にわきわきと動かしている。

 

「先輩...?」

 

という訳で冒頭に戻る。

いやどういう訳だよ!!うっ、しかしやっぱ女の子って良い匂いするよな...それに体に密着している全てが柔らかい。特に俺のあばらあたりにある2つの山が...ってダメだ!!俺は頭を横にぶんぶんと振り煩悩を退ける。そんな俺の様子を見てなのか一色は拘束する力を弱めた。ん?なんだ?

 

「や、やっぱり、嫌ですよね。私なんかにハグされても...」

 

とても弱々しい声音で話しながら俺から離れようとする一色の目には一粒の涙が浮かんでいた。......そんな顔されたら無理だろ。反則だ。

 

俺は離れようとする一色の腕を掴み、自分の体へと引っ張る。そしてそのまま両肩から背中にかけて抱きしめた。

 

「きゃっ!せ、せんぱい?」

「.........嫌じゃない。」

「ふぇ?」

 

ったくこんな時まであざといのかこいつは。

 

「だからお前とハグするのは嫌じゃない。」

「っ!」

 

今度は俺の言葉を聞き取れたのか、驚きの表情を見せたかと思うと、その頬には目に溜まっていた涙が流れ出し、俺の背中に手を回してグリグリと顔を俺の胸に寄せてきた。

 

「あざといです、ずるいですよ、先輩。私がこうなったのも全部先輩のせいです!」

「ああ、そうだな。悪い。」

 

俺の胸の中で締め付けられたような声で叫ぶ一色に俺は右手を頭に乗せ、ポンポンっと頭を撫でる。

 

「う〜、それもずるいです!!なんでそんな事するんですか!?」

「なんでって...そりゃお前が泣いてるから...」

「泣いてません!それに先輩は泣いてる人ならハグしてなでなでするんですか!?」

「ぐっ!」

 

一色の言葉に今の状況を確認させられ、恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだったが、一色の質問に思わず口を紡ぐ。

 

「あー、やっぱりするんですね!!」

「い、いや、しないと思うぞ......多分。」

「もう良いです!!先輩がその気なら私だって...」

「あ、あの一色さん?」

 

一色は俺から離れたかと思うと、少し腫れた目で怒るような表情を取る。あ、まずいこれビンタや!!俺はきたる衝撃に備えるため、おまわず身構える。だが、衝撃はこず、かわりに一色が猛々しく口を開いた。

 

「私は先輩の事が大好きです!!!だから先輩に特別扱いして欲しいんです!!私以外の人にハグもなでなでもしないでください!!!」

「......はっ?」

 

ひとしきり叫び終えたかと思えば、フーフーフーと、肩を上下させ息を整える一色。今こいつなんて...

 

「い、一色お前今の言葉...」

 

俺がそういうと一色は何かに気づいたようにハッと表情を変え、まるでメーターが埋まるように顔を赤くしていく。

 

「い、今のはちが...」

「だよな...びっくりし...」

「くないです!!」

「ハァ!?」

 

俺はころころと意見の変わる一色に驚愕せざるおえない。あの小悪魔系女子の一色がこんな事に...そんな事を考えていると、一色は他所を向きボソボソと「こんな予定じゃなかったのに......」と呟いていた。聞こえてるんですが...

 

「そ、それで!先輩はどう思ってるんですか!?」

「な、何をだよ?」

「む〜〜!!私の事です!!どう思ってるかちゃんと言ってください!!」

「そ、そんな事言われてもだな...」

 

俺が言葉を続ける前に一色はまた泣き出しそうな表情を見せる。

 

「ちょっ!ちゃんと言うから!言うから泣くな!」

 

俺が慌てるように伝えると一色は表情を締めて、俺に真剣な眼差しを向けてくる。

 

「...俺からしたらお前が俺のことを好きなのが信じられないっつうか...」

「ぐぬぬぬ、あそこまでしたのに...とにかくそんなことはどうでもいいです!!先輩は私の事をどう思ってるかの方が大事です!」

 

先ほど同様、いやより真剣な眼差しで言う一色。

はぁ、俺が素直になれって言っといて自分が素直に答えないのはダメだよな。心の中で覚悟を決めて、俺の思いを伝える。

 

「......今まで、一色の事を女として見た事はない。」

 

俺の言葉に一色は表情を歪ませる。だが俺はそれでも続きを話す。

 

「ただ、お前のことは後輩としても...じょ、女性としても可愛いと思ってる。それに何より、人間的にちゃんとしているお前を尊敬してるし、い、一緒にいると、た、楽しいかもしれん...」

 

おそらく今俺はとてつもなく気持ち悪い顔なんだろうなぁ。しかしなんでこんな事になったんだ...ああ俺のせいですよね、はい。恋愛がしたいとか柄にもない事考えるんじゃなかった...そんな風に後悔していると、俯いていた一色は顔を上げ不敵な笑みを浮かべる。な、なんだ?

 

「そうですか..."今まで"ならこれから見てください!」

「はい?」

「だ・か・ら!これからは私の事を1人の異性として見てください!今は好きじゃなくても、先輩の事必ず振り向かせて見せます!」

 

その言葉に俺は益々頭を悩ます。だが

 

「だから先輩、覚悟してくださいね?先輩の事必ず落としてみせますから。」

 

そう言いながら微笑む彼女に俺は一つの答えを出した。ああ、あざとい演技をしなくても、素であざといのだろう、と。そのせいなのか、俺は既に落ちているのかもな...なんて柄にもない事を思ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んで頂きありがとうございます。感想の方頂けると大変嬉しいです。人気だったら続けるかも。続きが見たいという方は感想の方で言ってくれるとありがたいです。


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