ポケットモンスター Re:Union (鮭猫)
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プロローグ 叛逆の兆し

大幅に改定しました。ストーリー設定とか今までのやつ全部取っ払ったので最初から見てくれると嬉しいです。多分前よりはよくなってるはず...


-???-

 

[side ???]

 

「はぁ、はぁ...っ」

 

何とか森の中に逃げ込むことができた。奴らはきっと、俺が今まで書いてきた記録を抹消する気なのだろう。これが広まれば、巨大勢力とて立場が危うくなるのも事実なのだから。だからこそ、これは奴らに渡すわけにはいかない。

 

「待て!今すぐ隊に戻るんだ!」

 

後ろで、俺の上司――いや、もう上司と呼ぶべきではないか――が、俺の後を追いながら叫んだ。相当なご身分なのだろう、護衛らしきスピアーとドンカラスが後ろからついてきている。勿論俺が何者なのかはすでに上層部まで知れ渡っているとの情報を得たため、自分が身を置いていた部隊に戻るのはほぼ自殺行為に等しいと言える。こんな状況で、素直に応じる方が馬鹿だろう。

 

「はぁ、はぁ...っ、くそ...このままじゃ本当に殺される...!!」

 

昔から体力はあるほうだ、と自負してはいたが、なにせ彼らの本拠地からここまで来るのに、ほとんど道なき道を通ってきたのだ。さすがに息も上がってきた。俺を追ってきている奴らはというと、地上を低空飛行する機械でこちらを追ってきているため、その機械のバッテリーが切れない限り疲れなど知らないのだ。

この圧倒的不利な状況、このままでは本当につかまってしまう。だが、この資料だけは奴らに取り戻されるのはごめんだ。俺が入隊してから今日までの25年間で積み上げてきたことが、すべて無駄になってしまう。誰に渡すという当てはないが、せめてここから少しでも遠くに...奴らに見つからない"どこか"に――

 

「ハッ、そうだ!!」

 

腰につけていたモンスターボールを投げる。中から飛び出してきた俺の相棒は、今まで俺が何をしていたかを瞬時に理解したらしい、すぐに俺と共に走り始めた。俺は帽子を脱ぎ、その中に奴らに関する資料を詰め込んで、最後に彼らが手にしていた手のひらサイズの機械も押し込んだ。ヒラにその機械は配られない。俺が持っている物は、今俺を追っている男から拝借したものだ。

帽子というのは、いざというときに役に立つ。奴らの資料を散々詰め込んだ帽子を相棒に託すと、俺は簡潔にこう言った。

 

「いいか、ここからなるべく離れて安全な場所へ行くんだ。その帽子と中に入っているものは絶対に落とすなよ。それから、俺のことは気にするな、すぐにあとを追いかける。」

 

相分かった、とでもいうように、相棒は何も言わずに軽くうなずいた。流石は腐ってもポケモン、俺よりもずっと速く走りすぐに見えなくなった。

安心したと同時に疲れがどっとやってきて、オレはその場にがくり、と膝をついた。その場で動けなくなった俺に、上司だった男が近づいてきて、気持ち悪い猫なで声でこう言った。

 

「さてさて、君が持ち去った資料はどこにあるのかな?言わないと全身をバラバラにして隅々まで調べることになるけど?うん?」

「何をされようと、俺はあれの場所を教える気はないぜ。第一、もうここにはないんだからな」

 

その男はひどく驚いたようだ。慌てながらも、彼は護衛として連れてきていたスピアーとドンカラスに命令を下した。

 

「何だと...!?お前達、今すぐ付近を調べてこい!」

 

が、すぐに冷静さを取り戻すと、

 

「さて、君の処理についてだが...これは我々の機密事項を侵したことになる。これは大逆罪だ、君は本部で死刑の執行を待つのみ、と言いたいところだが――」

 

周りから足音が聞こえてきた。見渡すと、周りからその男と同じ服装を身にまとった団員達がじりじりと迫ってきていた。驚く俺を見、その男はひどく満足したようだ。

 

「ッハッハッハ!!これでもう君は袋の中のコラッタ、まな板の上のコイキング状態さ!!っと、それはさておき...彼らも君を()()()()そうだからねぇ。勿論私もその一人だ。さぁ、それでは...」

 

その男が輪の中に混じると、大きく息を吸い込んでこう叫んだ。

 

「これより、"誰が一番先にこいつを殺るか選手権"を行うッ!!」

 

たまったものではない、こちらからしてみればただの処刑場だ。まぁいい、こちらもすでに手は打ってある。が、少し様子見をした方がよさそうだ。体力も少し戻ってきたことだし、少し遊んでやるか――こうして、俺vs彼らの鬼ごっこ(デスゲーム)が始まった。

 

 

 

 

 

度々、ドキッとするような場面もあったが、うまく逃げきれている。途中、ポケモンの技が飛んできたときはさすがによけきれず、足にかすり傷を負ったけれども。俺に傷を負わせたのはアメモースだ。"ねばねばネット"でけん制し、そのすきを"エアスラッシュ"で突いてきた――なるほど、よく育てられている。普段から相手の動きを止める戦術を使っているのだろう。それでも、あまり支障は出なかった。こう見えて反射神経はいい方なんですよ。

 

「あぁもう、何でこうもちょこまかと!!」

 

さっき叫びすぎて声がガラガラになっている俺の上司だった男が、イラつき気味に叫んだ。彼のパートナーは先程辺りを探索しに行ったドンカラスだということが判明し、彼は恐ろしい形相(だと本人は思っているようだが傍から見ると完全に変顔)でこちらに向かって短刀を振りかざしている。何とも可哀想な男だ...などと同情するとでも思ったか、ざまぁみろ元上司。

と、突然"ねばねばネット"が飛んできた。どうやら、先程のアメモースが飛ばしたものと同じようだ。まぁこれぐらいならすぐに避けられると思った矢先、自分の体が突然思うように動かなくなってしまった。まるで痺れているかのように。

 

 

 

「まさか..."でんじは"か?」

 

 

 

アメモースが地上付近で動いているのが見えたのと同時に、その横にエレザードがいるのが見えた。どうやら"でんじは"を撃ったのはアイツのようだ。2人の団員が、勝ち誇ったような顔でこちらを見ていた。

痺れとネバネバで動けなくなった俺のまわりに、奴らがぞろぞろと集まってきているのが見えた。その先頭には、さっき叫びすぎて声がガラガラになっているキレやすい体質であろう俺の元上司がこちらを見、例のごとく吐き気がするような猫なで声でしゃべりかけてきた。

 

「フッ、もう動けないようだな...選手権とは言っていたが、真の目的は君の体を拘束すること。その後は僕が直々にこの短刀で手を下すだけの簡単なお仕事さ」

 

彼は自分が持っていた短刀に両手をかけた。彼の腕が小刻みに震えているのを、俺は見逃さなかった。

 

「おい、手が震えてるぞ...そんなに俺を殺すのが怖いか?」

「――!?そ、そんなことは――」

「そうかい、だったら早くやっちまいなよ。こっちはとうに覚悟できてんだ」

 

その男は、まだ迷っているようだった。その間に、俺はまだ痺れの残る体で、ネバネバの中を立ち上がることができた。ついでに、"奥の手"の準備も。

彼はようやく心を決めたようだ。

 

「この野郎...死ねぇぇぇぇ!!」

 

さっき叫びすぎて声がガラガラになっているキレやすい体質であろう吐き気がするような声を持つ俺の元上司が短刀を振り上げたのと同時に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は羽織っていた上着に火をつけた。その裏地には、これでもかというほど爆薬が仕込まれている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――お前もな!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その男が短刀を振り下ろすよりも早く、上着についていた爆薬が爆ぜた。その直前、俺の脳裏に今までの冒険が波のように押し寄せてきた。走馬灯を見るのは初めてではない。これまで幾度となく死を覚悟したことはあった。そして今日、俺は間違いなくここで死ぬ――

 

 

 

 

まるで、時間が止まったかのようだった。爆薬は下の方から爆発しているらしいく、俺の意識は最後の最後までうっすらと残っていた。俺の脳裏によぎったのは、帽子と共に奴らの資料を持っていった、俺の相棒だった。届くはずもないと分かっていたが、意識が途絶える直前、俺はかすれた声でこう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「むか...の......しを、たの......よ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-???-

 

[side ???]

 

――もう、何も聞こえなくなった。いや、先の戦闘で耳がおかしくなってしまった、と言った方がいいだろう。おそらく、ドンカラスに耳を突かれて鼓膜が破れてしまったのだろう。奴は倒したからもう追ってはこないはずだが、それでも俺はあの人に言われたことをやるだけ――ボロボロになった帽子を抱えて、俺は森を抜けた。近くに町の明かりが見えたが、そこには向かわない。あまりに近すぎるのだ。俺はもっと先を目指す。もっと、もっと遠くへと。あの方の知らない場所まで走り続けるんだ。たとえこの命、尽きようとも――

 

 

 

 

 

 

 

 

-カントー地方 マサラタウン-

 

[side カイ]

 

「続いて、トキワの森で起こった謎の大爆発についてですが、いまだ真相はt――プツン」

 

突然、家の中が暗くなった。停電だろうか?もう日がすっかり暮れていたため、ほとんど何も見えない。が、他の家の明かりがついているのを見ると、停電が起こったわけではなさそうだ。誰かがいたずらをして、ここの家のブレーカーだけを落としたとしか考えられない。まったく、これでは記念すべき15歳の誕生日が台無しではないか。折角、幼馴染のトレニアとガーベラも来てくれているというのに。

 

「カイ、家のブレーカー見に行ってきてくれる?」

 

一緒に住んでいる叔母に言われ、俺は家を出て町のはずれまで向かった。マサラタウンでは家にブレーカーを設置せず、別の場所で共同管理している。そのため、ひとたび今のようなことが起こると、復旧するために町の端から端まで歩いていかなければならない。なんでもその方が地方行政の管理がしやすいんだとかなんだとか...こっちの身にもなってほしいものである。

30分歩いて、ようやく町はずれのブレーカー共同管理施設が見えてきた。管理とはいっても基本ここの鍵はフルオープンなので、「どうぞどうぞ、お好きなブレーカーをご自由に試してみて下さい」状態なわけだ。いくらなんでも酷いなぁ、などと役所に対する愚痴をつぶやきながらドアを開けて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その場で立ち尽くした。目の前で、一匹のポケモンが傷だらけで倒れていた。その手には、同じぐらいボロボロになっている帽子を抱えていた。糸がほどけていて一部の文字は判別不可能だったが、帽子の脇に「Sat×s×i」と文字が刺繍されていた。




はい、例のごとく初手で主人公死亡。使いにくいからしょうがないね、うん。これから一切出てこない(とは限らないかもしれない)のでそれが嫌な人は回れ右してくださいね。


さて次回は...

「誰だ、お前ら...?」

カイのもとに突然現れた、謎のポケモン。それとほぼ時を同じくして現れた、謎の集団。
今、世界を覆う闇に反旗を翻す大冒険が始まる――!!

次回:始まりの夜

お楽しみに!


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第1章 -約束-
第一話 始まりの夜


テスト終わったので執筆再開していきます。第一話の方もちょーーっとだけ変えたんで時間ある人は見ておいてください。


-カントー地方、マサラタウン-

<side カイ>

 

目の前で、一匹のポケモンが倒れこんでいた。その体から電気がバチバチと火花を散らし家のブレーカーを刺激しているのを見、家の電気が途絶えたのはコイツのせいか、と確信した。しかしこのポケモンは…

 

「ゼラ――オラ?」

 

俺の言葉に反応したのだろう、果たしてそのポケモン――《ゼラオラ》は少し体を持ち上げて俺の目を見つめ返してきた。

ゼラオラは電気タイプのポケモン。その珍しさが故に"幻のポケモン"とも称されている。

で、何で俺がそんな珍しいポケモンの名前を知っているかというと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-日本、山梨県某所-

<no side>

 

「いってきまーす」

 

何の変哲もない昼下がり、一人の高校生――斉藤圭はクラスメートの家でゲームをする誘いを受けて家から出ていくところだった。彼の背負うリュックの中にはポケットモンスターシリーズの最新作、「ポケットモンスター カラクレナイ」が入っている。

彼は言わずと知れたポケモン好きだった。アパート暮らしのため自分の部屋こそ持っていないものの、家のリビングにはいたるところに人形が置かれているほど。勿論全キャラの名前は熟知しているし、何ならポケモン図鑑の暗唱だってやろうと思えばできる。

そんな彼は家を出て自転車にまたがり、友人の家に向かおうとしてアパートから出て

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬の出来事だった。突然急ブレーキの音が聞こえてきて、横を見ると大型のバイクがハンドルを切り損ねてこちらに向かってきていた――いや、隣にいた。

その後はすぐだった、彼はバイクに撥ねられ、病院に搬送された。バイクの運転手はどうにか無事だったようだが、圭の息はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-???-

<side 圭>

 

「う、うぅ…?」

 

何だかひどく呼ばれたような気がして、俺は目を開けた。バイクにぶつかった時の衝撃が、まだ頭痛となって残っている。一体あの後どうなったんだ、ここは病院なのか、アパートの外なのかと辺りを見回して、気づいた。

 

 

人がだれもいなかった。それだけではない、俺が家族で暮らしていたアパートも、俺とぶつかったはずのバイクも、何もかもがすべて消えていた。あるのは、ただ不思議な空間のみ。いくつものうねりが、右へ左へ動いていた。

 

「お、来た来た!」

 

 

 

 

突然後ろから声がして振り返る。見ると、そこには一人の少女がこちらを見つめて立って――いや、飛んでいた。

長い髪は膝のあたりまでかかっており、全身を白い制服姿で包んでいる。それとは対照的に、彼女の背中から身長の倍はあろうかという一対の巨大な翼がはためいて、彼女の体が上下に動いていた。

が、俺はこの超自然の怪異を何の抵抗もなく受け入れている。後になって考えてみれば不思議なことだ――目の前にいるのは、翼を付けた人間、いや、もしくは人間ではないそれ以上の存在であるかもしれないというのに。

そんなことを考えていると、不意に彼女が話し始めた。

 

「私の名前は転生神マリア。最初に行っておくけど――急に殺しちゃってごめんね?それはそうと、君は今からとある世界を――」

「ま、待て待て!いくら何でも話すスピードが速くないか?」

「え、そう?じゃあ最初から…わーーたーーしーーのーーなーーまーーえーーはーー」

「そういうこと言ってんじゃねぇ!話が飛び飛びすぎてこっちの整理がついてないんだよ!」

「あぁ、そういうことね。じゃあもうちょっと詳しく話すと――」

 

 

 

 

彼女はパワーバランスをつかさどる神、なのだという。1シプテム(1シプテム=約二週間らしい)前、前任の神が突如倒れ、その代役として2ダイズ(1ダイズ=約三日)前に交代したらしい。そして、これが彼女の初仕事なのだという。だが転生させたかったのは俺ではなくあのバイクの運転手だったらしい。何でも、俺のような家に引きこもってゲームに明け暮れている貧弱者よりも彼ほどガタイがいい方が都合がいいのだとかなんだとか。

 

「――とりあえずこんなとこかな。それで、ここからが本題なんだけど――」

 

マリアが急に改まって、俺の方を見てきた。思わず後ずさりしてしまう。

 

「な、なんだよ…?」

「あなたには――カイ君には、ある世界を救ってもらいたいの」

「へぇ、だったら人違いだな。俺の名前は圭だ、カイじゃないからな」

「ううん、人違いじゃないよ。だって

 

 

 

 

 

 

君はもう、斉藤圭じゃなくてカイなんだから。」

 

思わず、は?と口を開けた。いつの間にか名前が変わっている――これも転生したときの影響なのだろうか。が、なんだか実感がない。心の中で何度も自分の名前を呼んでみる。カイ、か。うん、なかなか悪くない。俺は思わず口角を上げ、マリアと再び話し始めた。

 

「カイ、か。気に入ったぞ、この名前!」

「はいはい、名前が一文字変わったぐらいなんだからそれぐらいのことで騒がないの」

 

さっきとは打って変わって、マリアがまるで汚物でも見るかのような目でこちらを見てきたのでおとなしくすることにした。

 

「ふぅ、さてと…そうだ、さっきも言ったけど、君にはある世界を救ってもらうよ」

「そうだ、さっきも気になってたんだけど、その世界って?」

「ふっふっふ、聞いて驚くなよ…」

 

マリアは人差し指をこちらにばーん!と近づけてこう言った。

 

「君に行ってもらうのは、『ポケットモンスター』の世界なのだッ!」

「ゑ、

 

 

 

 

 

 

 

えぇぇぇっっっ!?!」

 

 

思わず変な声が出てしまった。それもそのはず、ポケットモンスターと言えば俺が愛してやまない世界だからである。どっかのアニメのように、巨大な仮想空間を作ってその中にはいれたらどれほどよかったか、などという妄想は数えきれないほどしてきた。

こちらの反応に、向こうも満足したようだ。

 

「ま、せいぜい楽しんできてよ。私は影から君を見守っているからね、じゃ、あとはよろしく――あ、そうそう。転生後の君の姿は歩くのもままならない幼児だからね、頑張ってねー」

「おいちょっと待て、なんで12歳も若返らなくちゃいけないんだ!?」

「んーまぁ向こうの生活に慣れてもらうってのと、周りの人の認識も変えないといけないからね。んじゃ、今度こそよろしくね。"素質"を持つ人」

「え?ちょ、待っ」

 

まだ頭が混乱している俺に向かって、マリアが親指を立てて(*'ω')bグッ!のサインをした。

 

「いやいやいや(*'ω')bグッ!じゃなくてもう少し詳しく…うわぁぁぁぁぁぁぁ――」

 

気づけばマリアの姿も消え、俺は光に呑まれて何も見えなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-???-

 

 

(――ん、ここは…)

 

 

目を開けると、そこはどこかの住宅地だった。とりあえず周りの状況を確認しようと周りを見渡そうとするも、何故だかうまく立てない。それに、体の大きさが一回りも二回りも小さくなっている気がする。と、何やら一枚の紙きれが俺の目の前に落ちてきた。一番後ろにマリアと書いてあるため、どうやら書いたのはあいつらしい。俺は少し急ぎ気味に読んだ。

 

 

――カイ君、転生お疲れ様!早速だけど、君は多分うまく体が動かせずに戸惑っていると思う。まずは自分の姿がどうなっているのか、窓とか鏡とかで確認してね  マリア――

 

 

 

思わず苦笑する。流石は転生神、俺のことは常に監視して見守っているらしい。まぁいい、とりあえず自分の外見だ。マリアは幼児とかなんだとか言っていたが――。

鏡が見当たらなかった(見つけられなかった)ので、窓に自分の姿を映そうと、窓辺まで這って行って始めて気が付いた。

 

 

 

 

窓の外に、ポッポがいる。何度目をこすっても、俺の目の前にいるのはやはり画面を介して見てきた、慣れ親しんだ姿の鳥ポケモンだ。ここにきてようやく、本当にポケモン世界に来てしまったのか、と身をもって実感した。

おっと、そんなことを確かめに来たんじゃない。俺の姿がどうなっているか、だったな。そう思いながら窓ガラスに目のピントを合わせて

 

 

 

 

(うぉっ!?)

 

 

 

 

俺の体がこんなんでもなければ、おそらく尻もちをついていただろう。三歳ぐらいだろうか――男子だとは思えない、可愛らしい顔がこちらを覗いていた。思わず声を上げてしまうところだったが、その幼さのせいか、うまく発声できない。出てきたのは、高音の呻き声だけだった。それを聞きつけたのだろう、階上から誰かが足早に下りてくる音が聞こえる。やれやれとんでもない世界に来てしまった、と俺は思わずため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、この世界で前世と同じ年齢、つまり15歳になった俺は、ブレーカー共同管理所でゼラオラを見つけた、という訳だ。あの後、どういう訳だかマリアが前世の記憶はさっぱり消してしまったので、ホームシックのような衝動に襲われることはなかった。が、彼女も変なところで気を利かせたのだろう、俺の中にあるポケモンに関する一切合切の記憶だけは消さずに残しておいていたようだ。つまり、前世で俺が蓄積してきた戦闘パターンや育成論、その他諸々の情報はすべて覚えている。もう一種のチートと言ってもいいだろう。であるから、幻のポケモン一匹の名前を思い出すことなど、俺にとっては造作もない。

 

 

ゼラオラはちらりとこちらの方を見た。どうやら、こちらを警戒している様子はない。無理もない、傷だらけの状態でどうやって警戒しようってんだ。

俺達は時間を忘れて見つめあったが、突如ゼラオラがまた地に伏したことで現実に引き戻された。

 

「あっ!!ゼラオラ!?」

 

いくら呼び掛けても、反応がない。が、まだ息はある。俺はまだバチバチと火花を散らしているブレーカーの様子など目もくれず、ゼラオラを抱えて夜の闇へと再び駆け出していった。

 

 

 

 

家に着くと、戸口に立っていた叔母が俺を見つけて慌てて駆け寄ってきた。相変わらずブレーカーは復旧していないが、家の随所に電球を張り巡らせ、叔母のポケモンであるサンダースが発電する、ということをやっていた。

何とかベッドにゼラオラを寝かせて、トレニアとガーベラにまた明日、と別れ、俺はゼラオラの横で眠りについた。誰のポケモンなのか分からないが、必ずトレーナーを見つけてあげないと。きっと、どこかでまだ探しているだろうから――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-カントー地方、マサラタウン付近-

<side ???>

 

「…そろそろか」

 

手元の懐中時計を見ながら呟いた。周りには、俺と同じ格好をした連中が火を焚いている。その中の一人が、俺に話しかけてきた。

 

「まったく、何でこんな外れの田舎町を焼け、なんて命令が出たんでしょうね」

「知らん。そんなことは俺の管轄外だ」

「それにしても、ようやくあなたも昇進のチャンスがやってきたんですねぇ。この任務を成功させれば団員組頭でしょう?」

「…汚れ仕事は嫌いなんだがな」

 

隣にいたやつが焚火の周りに戻っていったのをちらと見、俺はすぐ近くの町に目を細めた。家々の電気は灯っておらず、町を照らしているのは淡い光を放っている街灯だけ――いや、俺たちのいる場所からすぐ近くで、何やらバチバチ言っている。見ると、ガラス張りのプレハブ小屋のような建物の中で、白い火花が絶え間なく散っていた。そういえば、この町では全体の電気を共同管理していると聞いたことがある。何らかの衝撃で短絡でもしたのだろうか?いや、そんなことはいい。これはむしろ好都合かもしれない――

 

 

 

「フッ、これが俺たちの"本来の"姿なのかもな…」

 

不敵な笑みを浮かべ、俺は指示を仰ごうと連中の元へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<side カイ>

 

突然、ゼラオラが起き上がった。急に飛び上がったのでうっかり俺の手を踏んづけてしまい、俺も一緒に起こされる羽目になってしまった。時計を見ると、時刻はまだ午前2時。周りの家の電気は全くついておらず、町を照らしているのは月明かりと街灯ぐらいだ。その中に、ひときわ輝く建物が一つ。俺の部屋からもはっきり見えたそれは、あのブレーカー共同管理所だった。

 

「やべぇ、ちゃんと見てなかったからショートしてるかも!?」

 

が、今一番気がかりなのはゼラオラの方だ。家にあったきずぐすりをいくつか使ったものの、まだ傷は完全には癒えていない。言ってしまえばまだ傷だらけの患者だ、そんなものを野放しにしようなどだれが考えるものか――無論俺もその一人で、窓から飛び出そうとするゼラオラを俺はベッドに押し戻そうとした。が、所詮はろくに外に出ることもない15歳の少年、相手は幻のポケモン。どちらに軍配が上がるかなど、初めから明確だった。ゼラオラは逆に俺をベッドに押し返し、こちらを向いて低く唸ったかと思うとすぐに飛び出してしまった。

しばらく呆然としていたが、俺もあわてて玄関から飛び出し、ゼラオラの後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗闇の中、俺は遠くに見えるゼラオラを追いかけるのに精一杯だった。ほとんど何も見えない中、町を照らしているのは弱い街灯と月明かり、そして火花を放つプレハブ小屋のみ。が、ゼラオラの後を追いかけるには十分すぎる光量だった。俺とゼラオラはかなり離れていたが、それらの光のお陰でゼラオラの輪郭ははっきり映し出されていた。それにしても、皆が寝ている時に誰にも気づかれず散策するというのもいいものだ――おっと、深夜徘徊とか言ってはいけない。が、何だろうこの感覚。この風景、この暗さ…なんだか前にもあった気がする。前世の記憶がまだ残っているんだろうか?

 

 

 

 

どんッ!!

 

 

 

 

おっと、余計なことを考えすぎていたようだ。周りを見渡すと、ゼラオラの姿はいつの間にかどこにもない。そして、あのブレーカー共同管理所はかなり近い場所でなおも火花を散らしていた。心なしか勢いが強くなっているような気がする。しかし何にぶつかったんだ、相手が人だったことも考えてとにかく謝らないと――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「小僧、こんな夜に走り回ッてどうしたァ?」

 

 

 

 

 

 

 

突然、野太い声が聞こえてきた。見上げると、坊主頭の色黒コワモテ男が俺の前に立っていた。思わず、息をのむ。何より目を引いたのは――彼の胸のあたりにある五色の「R」の文字だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、俺はこの男が何者なのかすぐに察した。

 

 

 

 

 

レインボーロケット団――通称RR団。アローラ地方に突如として現れエーテルパラダイスを征服するもすぐに消滅したポケモンマフィアだ。目を引くイニシャルは、画面越しに何度見たことか。それが今、俺の目の前にいる。アローラではなく、カントー地方で。そして気づいた――奴の後ろには、他にも数名の団員が、釣り上がった目でこちらを見ている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰だ、あんたら…こんなド田舎まで、はるばる何をしに来たんだ?」

「お前のような若造の知ることではない。さぁ、帰った帰った」

 

その威圧感に押され、俺が踵を返しかけたその時――

 

 

 

 

「オラァァーッ!!」

 

 

突然、近くの茂みからゼラオラが飛び出してきた。俺もその男も他の団員も、皆が驚いて目を丸くする。ゼラオラはその拳を固く握りしめると、俺の前に立っていた男に向かって拳を突き出した。

が、すぐに避けられてしまう。図体のわりにこの男、随分と反射神経はいいらしい。

まだボーっとしている他の団員に向かって、その男が叫んだ。

 

 

 

 

 

 

「えぇい、こうなっては仕方ない!お前ら、少し早いがやっちまえ!!」

 

 

 

 

 

一体何をするんだろうか、と俺が首を傾げた刹那、突然あのブレーカー共同管理所が激しく火花を散らし始めた。俺は何か嫌な予感がして家の方へと戻っていった。小さなプレハブ小屋から小さな炎が出ているのにも気づかずに。




だいぶ長くなりましたがとりあえず終了!(もうテスト明け一週間近くたってるのに何してんだ)
キャラ紹介とか近々書いて行けたらなぁ、と思ってます。


さて次回は...


「畜生、動け、動けよッ!!」


RR団の企みによって、その存在を消し去らんとするマサラタウン。燃え盛る炎、逃げ惑う人々の中、カイが目撃した人物とは――!?


次回[その男、残虐につき]


お楽しみに!


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第二話 その男、残虐につき

文化祭も終わったので今週からは投稿頻度上げていきます!

...投稿頻度あげるって何回言ってたっけ、、、あ、本文どうぞ。


-カントー地方、マサラタウン-

〈side カイ〉

 

ゼラオラのことなど忘れ、俺は家へと急いだ。後ろから誰かの足音がするが、振り返って確かめる暇などない。今は一刻も早く、ここから離れないと──

 

「──!!」

 

目の前の光景に、思わず俺は足を止めた。ここに来て初めて、マサラタウンが──俺にとって最初で最後の、地に足の着く憩いの場が──その存在を、吹き上がる炎によって消し去らんとしていることに気づいた。あのブレーカーだけではない――町へと放たれた炎は、暴走したポケモンたちによるものでもあったのだ。どうして暴走しているのかは分からないが。

 

「クソっ...とにかく急いで、あいつらを見つけないと!!」

 

俺の頭の中は、ガーベラとトレニアのことしか考えていなかった。この世界でできた初めての友人を、こんな呆気ないことで失いたくはない。俺の両親は俺がこの世界にやってくる前からなくなっており、叔母に引き取られるまでは孤児だったのだ。後の叔母の話によると、二人の死因は"殉職"だったそうだ。ともかく両親がいない俺にとって、俺の休める場所はこの街であり、あの家であり、叔母とガーベラ、トレニアなのだ。それを見捨てて逃げるなど、俺にはできなかった。

俺は直ぐに家にたどり着いた。周りの家は既に火の手が上がっており、この街の住民は火事だ、どこから火が上がったなどと騒いでいた。幸い俺の家には火の手が上がっておらず、容易に中に入ることが出来た。

 

「おーい!ガーベラ、トレニア!ここにいるのか!?」

 

しかし返事はなかった。代わりに、2回から大きな物音がした。

 

「そこに誰かいるのか?」

 

なおも返事はない。俺は警戒しつつも階段を昇って二階へ上がっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〈side トレニア〉

 

「──ッ!!」

 

私はもう動けなかった。目の前にいるサンダースは、もうカイの叔母さんのポケモンではなかった。数分前、停電の続く家の中を明るく照らしてくれた面影はどこにもなかった――サンダースは私の目の前で実のトレーナーをショック死させ、ガーベラを気絶させ、そして今は私を狙っていた。ついさっき瓦礫に躓いて足をくじいてしまったらしく足首が痛むため、ここから逃げることもできない。このまま膠着状態が続いても、いずれこの家に火の手が回って仲良く一緒に丸焼きにされるのが関の山だろう。

流石に丸焼きは嫌だったのだろう、ここで決着をつけるまいとサンダースの全身がバチバチと音を立てて光り出した。数分前だったら部屋が明るくなった、ありがとうとでも言いたいところだが、もちろんそんなはずはない――これは技を撃つサインだ。暴走したポケモン相手に私が敵うはずがない――そう悟った私は、震える声で叫んだ。

 

 

 

 

 

「たす...けて...」

 

 

 

 

 

が、それは叫びはおろか、きっと耳元でささやかないと聞こえないほどかすかな声だった。辺りを包む炎のせいで喉が渇き、かすれた声しか出せなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悔しかった。 泣きたかった。 ガーベラも叔母さんも、君だけは逃げてくれと言ってくれた。だけど、私は動かなかった。他人を見捨てて逃げることなどできない――誰に似たんだか、私は昔からそうだった。そのせいで叔母さんは死に、ガーベラは気絶し、私は動けなくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

声を上げて泣きたかった。が、燃え盛る炎がそれを許さない。涙腺は乾ききり、喉は枯れて声がほとんど出ない。おまけにサンダースの体のバチバチは最高潮に達したようで、サンダースが叫び声を上げた。

もう、私はここで終わりなのかもしれない――最後に浮かんだ顔を、精一杯かすれた声で呼んでみる。

 

 

 

「カ、イ...」

 

 

意味なんてない、きっと彼もどこかで同じような運命にあっている――彼は来ない、そう分かっていても信じたかった。最後かもしれない、今にも切れてしまいそうに細い望みを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「助けて...カ....ィ...」

 

 

 

もう、十分だった。返事をしたのはサンダースだった。

部屋の中を飛び回る稲妻を呆然として見つめることしか、私にはできなかった。その一筋がまっすぐ私を貫かんと迫ってきた。私は目を閉じ、短い人生に幕を下ろそうと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

急に聞こえてくる音が変わった――これが"死ぬ"ということなの?が、雷が私の体を貫く衝撃はない。まして全身が痺れる感覚さえも、ほとんどなかった。

私はもう一度目を開けた。まだ部屋の中にいた。どうやら、サンダースの放った稲妻はある一転に集中しているらしい。ゆっくり首を傾けて、私はその方向を見上げた。瞬間、

 

 

 

 

私はこのまま気絶するのではという、強烈なショックを覚えた。

 

 

 

 

 

 

あの稲妻を、人影がまともに受けている。サンダースの力に抗おうと右手を一心に伸ばしている――それは、よく見慣れた顔だった。私の隣でいつも笑っていたその少年は、歯を食いしばって稲妻の衝撃に耐えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<side カイ>

 

 

 

 

 

階段を上りかけて、すぐに俺は二階の状況を悟った。サンダースの叫び声、そして稲妻がほとばしる音――誰か生きているという保証はないが、少なくともあのサンダースをあのまま暴れまわらせてはおけない。俺は急いで階段を駆け上がり、右手を突き出して飛び出した。

 

 

 

 

 

 

「間に合えぇぇぇぇェェェェ―――ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、天地が逆転するほどの衝撃が俺の脳天を貫いた。

 

 

 

 

冷静に考えてみれば当たり前である。あれほどの電撃を喰らい、無事でいられる人間などスーパーマ●ラ人ぐらいだろう。少なくとも俺はただの人間だ。

 

 

 

 

 

(これは...非常にまずいッ!!)

 

 

 

 

と、脳天に何やら声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(こんにちは...私は今、あなたの心に直接語り掛けています...)

(よくこんな時にそんなコントがましいことを言えるな...なんだ、マリア?)

 

声の主はマリアだった。流石にこの状況(執筆開始三話目で主人公死亡という最悪のエンド)を彼女もまずいと感じ取ったのだろう。

 

(今からあなたの真上に大量の土砂を振りかけます...)

(俺を窒息死させる気か!?)

(細かいことはあとで。それじゃあ、1、2...)

(ちょ、待っ)

 

(...3)

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、マリアの声は消え、俺の意識は再び部屋の中に戻った。

 

 

 

 

(――ッ!!お、重...ッ!?)

 

 

 

 

マリアの言ったとおりだった――俺の上には、これでもかという量の土砂が俺の動きを封じていた。お陰でサンダースの猛攻は止まったケド。

 

 

 

 

 

土砂が突然降ってきた衝撃で、サンダースはどこかへ逃げていったようだ。俺は何とか土砂の中から顔を出し、目に涙を浮かべながらどんな反応をすればいいか分からない、とでも言いたげにこっちを見ているトレニアに大丈夫、と笑いかけ((ギシッ

 

 

 

 

 

 

炎で脆くなった木造の床に突然大量の土砂が流れるとどうなるか――まぁご想像の通り、陥没するんですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

地面が突然ぱっくりと大口を開き、俺たちは仲良く土砂に埋まって動けなくなった。おまけにその衝撃で家はガラガラと音を立てて崩れ落ち、辺り一帯に大きな音を拡散させて瓦礫の山と化した。

 

 

 

 

「何だ!?」

「地震...ではなさそうだ、様子を見に行くか?」

 

 

 

周りにいる例の黒服集団らしき声が辺りに集まってきた。俺は何とか目だけを出して、外の様子をうかがうことができた。

周りにはやはり、"R"のイニシャルを胸に付けた黒服が大勢集まってきていた。

 

(これは...見つかったらヤバそうだ)

 

と、やけに辺りが騒がしくなってきた。女性らしき声も聞こえる。

 

 

 

「ボス、危険です!」

「少し様子を見てくるだけだ」

「しかし...!ここの視察をしに来ただけだとおっしゃっていたのに!」

「心配なら護衛を連れて来い。いつ爆発するかもわからんがな」

 

その女性は、どうやら上司らしき人物と会話しているようだった。しかしどうにも、俺はあの野太い声に聞き覚えが...

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その声の主が――俺がこの先、幾年と憎むべきその男が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(──!?あれは──)

 

 

 

 

 

 

 

 

それはまるで、悪の中の悪――「悪のカリスマ」とでも形容するのがふさわしいだろう。その護衛の多さから、絶対的な信頼を周りから寄せられていることが分かる。釣り上がった目、そして口元に浮かぶ不敵な笑みを、俺は一生忘れないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

(──サカキ!!)

 

 

 

 

 

 

 

ロケット団のボスは、俺のすぐ近くまでやってきた。どうやら、ある場所を調べているらしい――と、俺はここで初めて、俺とトレニアの他にガーベラも同じ空間にいたことを知った。普段おとなしいその顔からは、恐怖の色が伺えた、さらに先ほどの陥没のせいだろう、頭から血を流しているのも見えた。死んではいないようだが、どうやら気絶しているらしい。先程のサンダースによる電気ショックの影響だろう。無論俺も今、先の戦闘のせいで少し痺れているのだ。

と、サカキが口を開いた。

 

「この少年は...?」

「ガーベラという少年です。ポケモンについては博識なようです」

「ほう...我らレインボーロケット団の新たな戦力となるやもしれぬ。この少年は連れて行こう」

 

 

 

 

 

サカキの言葉が、俺の頭の中で何度も響いた――ガーベラを連れていく――ガーベラを連れて――

 

 

 

 

 

 

許せない、あの男は今ここで殺るべきだ――

 

 

 

 

 

俺はその場で立ち上がろうとした。が、土砂の重みと手足のしびれのせいで動けなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「畜生...動け、動けよッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当然といえば当然である。が、その時の俺は冷静さなんてなかった。

この土砂がなかったら、今頃俺はあの喉笛にとびかかることができたはずなのに――この手足のしびれがなかったら、今頃奴らはパニック状態になっていたはずなのに――

 

 

 

 

 

 

 

俺は自分の力のなさを呪った。少しづつ消えゆく意識の中、俺は炎の中で揺らめくサカキの背中をいつまでもにらみつけていた。




はい、文字通りマッサラタウンになりました(は?)
それはともかく、サカキが登場!これからちょくちょく顔を出しに来る...かも。




さてさて次回予告!


「R、R...レインボーロケット...」


カイとトレニアが目を覚ますと、そこにはゼラオラがいた。彼から渡されたものを見、二人はある恐ろしい結論にたどり着くことになる――

次回[表と、裏と]


お楽しみに!


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第三話 表と、裏と

第3話です!まだまだクソみたいな駄文をどしどし書いていく予定なので引き続きお付き合いくださいまし。


〈side カイ〉

 

 

「──!!──ィ!!」

「ん、ん...?」

「──イ!!──てよ、カイ!!」

「ファッ!?」

 

気づくと、俺はベッドの中だった。それも大分くたびれているらしい、俺が動く度あちこちでギシギシと軋む音が聞こえる。

と、誰かがこちらを見ている。寝起きのせいかしばらくぼやけて見えなかったその影は、時間がたつにつれてはっきりしてきた。

 

「ん、トレニア...?お、おはよう」

 

瞬間、トレニアがわんわん泣きながら俺に抱きついてきた。

 

「うわぁぁぁぁぁ――ッ!!良かった、良かったよぉ!!ガーベラは連れていかれるし、カイの叔母さんは死んじゃうし、お母さんも見当たらないし、カイまで死んじゃったら私...私...ッ!!」

 

どうやらそれで感極まったのだろう、トレニアは俺の首をがっちり絞めにかかってきた。もちろん呼吸なんてできない訳で。

 

「ちょ、やめろトレニア!!俺を殺す気か――ッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後、トレニアもようやく落ち着いてきた。俺はのどぼとけのあたりをさすりながら辺りを見回した。

 

「ここは、どこなんだ...?どうやら、建物の中みたいだけど」

「廃墟だよ。奇跡的に燃えることのなかった、マサラタウンの一番外れにある家」

 

トレニアがこちらに背中を向けたままそうつぶやいた。

瞬間、昨晩の出来事が俺の頭の中にありありと浮かんできた。燃える故郷、動かない身体、そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ガーベラ...」

 

 

燃え盛る炎の中、気絶したまま連れていかれた、俺の一番の友人は――そして、あの不敵な笑みを浮かべていた男は――一体どこに?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、一つ聞いていいか?」

「ん、どうしたの?」

「俺はあの後、どうやってここに運ばれてきたんだ?」

「私も、覚えてない...急に空から土が降ってきて、そのまま気絶しちゃって、目が覚めたらこのベッドに、カイと一緒に寝かされてたの」

「――ッ!!」

 

俺はこの時トレニアに放った言葉を一生後悔するだろう。何のことはない、まぁ俺だって年頃の男子だ。

 

「じゃ、じゃあ俺とトレニアは一緒のベッドで寝てたってことに――」

「な、何を想像してるのよバカァッ!!」

 

瞬間、耳まで真っ赤に染まったトレニアの左手が俺めがけて飛んできた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うっ右頬が痛い。自業自得だ、その件については何も言ってはいけないと自分を抑えながら、俺はトレニアにもう一つ質問を投げかけた。

 

「な、なぁ...」

「何よ、まだ何かあるの?」

「ここ、どこなんだ...?」

「だからさっきも言ったじゃない、廃墟だって」

「そうじゃなくて、もともと何の施設だったんだろうってこと。周りを見る限り、ただの民家ってわけではなさそうだけど」

 

その通りだった。まずこの建物、異様に広い。さらには、壁伝いに普通の家にはおいていないはずの何やら高そうな機械がずらりと並んでいる。

俺は真相を確かめるべく、外に出ようとした。

 

「ちょっとカイ、危ないって!またあの人たちが来たらどうするのよ!?」

「大丈夫だ、ちょっと外の様子を覗きに行くだけ――」

「オラァァーッ!!」

 

 

 

 

ドアノブに手をかけた瞬間、何かが俺を地面に押し付けた。トレニアも相当慌てているらしく、背中越しでも彼女が建物の中で走り回っているのが分かる。

 

「誰だッ!!」

 

俺は押さえつけている腕を掴んだ。が、それは人ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黄色い毛でおおわれた腕、水色の髭、そして長い尻尾――俺を押さえつけていたのは、ゼラオラの腕だった。

 

「オラッ」

 

まるで「静かに」とでも言うように、ゼラオラは俺を抑えていない方の手を口元にやった。

 

「分かった、分かったから――ここでおとなしくしてればいいんだろ」

 

その言葉に満足したようだ。ゼラオラは俺を離すと、少し煤けた紙袋を取り出した。

 

「なんだ、これ――俺にくれるのか?」

「オラ、オラッ!」

 

ゼラオラはその紙袋を渡すと、建物の端の方に走って行った。どうやら、テレビらしきものをつけようとしているらしい。

それはともかく、俺は紙袋の中身を取り出した。中に入っていたのは帽子といくつかの書類、そして――

 

 

 

 

 

「――?何だ、これ...?」

 

 

 

 

紙袋の奥から出てきたのは、手のひらサイズの発信機のような機械。スピーカーのようなものが付いており、側面にはアルファベットで"Zeraora"と彫られている。

 

 

 

 

「うーん、分からんな...で、こっちは何だ?」

 

俺はさっき見えた書類に目を通した。どうやら誰かの手記らしく、ところどころ文字がかすれてしまっている。それを少しずつ読んでいくにつれ、俺は冷や汗が噴き出てくるのを感じた。

 

 

 

 

「――ここに配属されて×年が経った。この仕事に×だいぶ慣れて×たが、それでも×酷だ。レイ×ボーロ×ット団の表の×しか知らない×々は、裏でこ×なことをやってい×ことなど知ら×いだろう。

 

 

――遂にマ×ラタウン焼失命令×下った。×の故郷でもある×ら守ってやりた×が、今の俺は何の×もない、ただの労×力に過ぎない。ここは次の世×に託すほかないだろう、ゼ×オラと共に。

 

 

――最後に、この×記を次に拾ってくれる人がこの×界を根底から覆したいと思×ている人に届くよう祈って×る S×tos×i」

 

 

 

 

 

 

と、ゼラオラのいる方向から音声が聞こえてきた。どうやらゼラオラ自身が電力の供給源となっているようだ。そのテレビからコマーシャルが流れているのが見えた。

 

「――なんとポケモンたちが巨大化!?でっかいポケモンたちとコースターを駆けまわれ!RRリゾート、ポケモンランドへみんな遊びに来てね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はその場から動けなかった。

 

「R、R...レインボーロケット...」

「あら、最近オープンしたポケモンランドのcmじゃない。どうしたの、これを見た途端に動かなくなっちゃって?」

「間違いない、奴らは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レインボーロケット団は、水面下でこの世界を支配していたんだッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

あまりに大きな叫び声を出したせいで、トレニアはビクッと肩を震わせた。

 

 

「どういう...こと?レインボーロケット団は、この世界を支えている巨大な会社じゃないの?」

「そんなものじゃない――奴らの生み出す平和には、常に破壊と殺戮が付きまとっている。これを見れば明らかだ」

 

トレニアもその手記を見、顔から血の気が引いていった。

 

「――!?これは――」

 

 

 

 

 

ちょうどその時、テレビのコマーシャルが終わり、ニュース番組に変わった。

 

「――ただいま速報が入ってきました。カントー地方の南西に位置する町、マサラタウンが先日未明、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山火事により全焼しました」

 

 

 

 

 

 

これで、確信がついた。俺とトレニアは顔を見合わせ、頷いた。

 

「これで、分かっただろう?あいつらは、自分たちに不都合なものは容赦なく消していくんだ」

「うん...こんなことで、私のお母さんもガーベラも連れていかれるなんて...」

 

 

 

 

さらにニュースが続く。

 

 

 

「――この山火事により、マサラタウンの住民全員が亡くなりました。現在、調査団を派遣し、詳細を調べているところです。さて次はお天気です。パキラさん、よろしくお願い――」

 

 

 

 

 

ここでテレビが切れた。いや、ゼラオラがテレビを消した。

 

「どうしたんだ、ゼラオラ?疲れたなら休んで――」

 

ゼラオラは俺に向かって、もう一度「静かに」の合図を送った。どうやら、外の様子をうかがっているようだ。

 

 

 

 

 

「――!!」

 

 

 

 

瞬間、ゼラオラは俺とトレニアを掴んで二階に駆け上がった。

 

「何だよゼラオラ、別にそんな急がなくたって――」

 

 

 

 

 

おれがそう言いかけたその時、突然ドアが勢いよく開く音がした。そして、何人かの足音。さらに、野太い声も聞こえてきた。

 

「いいか、生存者がいたらちゃーんと保護してあげるんだぞ。我々の貴重な

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

労働力、だからな。ハッハッハッハ!」




ちなみにポケモンランドの元ネタは初代アニポケのやつです。「何も心配はいりません、ポケモンたちは壊れてございまぁ~す♪」のやつね。
さてさて次回予告!!


「トレニア──ここから逃げよう」

遂にマサラタウンを離れざるを得なくなったカイ達。必ず戻ってくると誓い、新たな一歩を踏み出す。


次回[すべて捨てて、2人で]


感想、評価等お待ちしています!次回もお楽しみに!


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第四話 全て捨てて、2人で

こっから2人と1匹の大冒険が始まる…はず。わからん、まだカントーにいるかも


〈side カイ〉

 

「我々の大切な──労働力だからな!ハッハッハ!」

 

瞬間、俺は奴らの裏の顔がどんなものかを確信した。トレニアの方を見ると、彼女も同じらしく、いつになく真剣な目付きをしている。

 

「オラッ」

 

ゼラオラが静かに、俺達を建物の二階の最奥の部屋へと手招きした。恐らく先の火事の影響だろう、その部屋の中央には外へと通じる大きな穴が空いていた。

 

「なるほど、ここから脱出すれば、奴らに見つからずに済むって訳か!」

「じゃあ、急いで──」

 

 

 

 

 

「――ここから逃げられる、とでも思ったか?」

 

トレニアが言い終わる前に、聞きなれない男の声がした。

見下ろすと、その大穴の先で黒服に身を包んだ男がこちらを見ている。あの火事の日に見た黒服のやつらと同じ格好だ、とすぐにわかった。

 

「そのポケモン、脱走個体だよな。何でお前達と一緒に行動してるんだ?」

「俺たちを助けてくれた。それ以上でもそれ以下でもない」

「そうかい、ところで俺たちは今、ちーっとばかし人員が足りてないんだよな」

「――何が言いたい?」

 

 

「言わなくても分かるだろう!お前達は俺と一緒に来てもらう!!」

 

 

その言葉と同時に、その男――レインボーロケット団の団員――は、俺たちに向かってモンスターボールを投げた。中から現れたのは――。

 

 

「やれい、アリアドス!そいつらの動きを止めるんだ!」

 

 

アリアドス――もちろん知っている。その体から放たれる糸と毒針で獲物を捕まえ、動けなくなったところをゆっくり頂く虫ポケモンだ。

 

 

「捕まえろ!」

 

男の大声とともに、アリアドスはその口からトレニアに向かって糸を吐き出した。

 

「トレニア、避けろッ!!」

 

だが目の前の状況にまだ困惑していたらしく、トレニアはその場から1歩も動かずに、アリアドスの糸にがんじがらめにされてしまった。

 

「次はお前だ、小僧ッ!!」

 

もう一度、アリアドスが身構えた。

 

(来るッ!)

 

奴の動きに合わせ、俺は横へ飛んでアリアドスの放つ糸を避けようとした──が、やつが放ったのは糸ではなかった。

 

 

 

 

 

俺が横に飛んだ直後、やつの放った糸は四方に広がり、俺の動きをガッチリ止めた。

 

「これは──ネバネバネットか!?」

 

身動きの取れない俺たちに向かって、その男はこう言った。

 

「今から、お前たちの上司となる人を連れてこよう。決して逃げることなんてしないようにな。まぁ──その状態で逃げられると言うなら別だが」

 

男はニヤリと笑うと、どこかへ去っていった。アリアドスは、未だ警戒をとかずに、口から糸を出しながら俺たちを見張っている。

 

「くそっ、何だこれは!?トレニア待ってろ、すぐ助けに行くからな!!」

 

俺は体に絡まった糸をほどこうともがいた。が、そう簡単に抜け出せるはずもなく、俺は悪戦苦闘していた。その横でトレニアは心配と恐怖が入り交じった顔でこちらを見ている。焦る俺を、アリアドスが嘲笑うかのように──

 

「オラァァーッ!!」

 

突然、アリアドスの体が吹き飛ばされた。そのお陰でアリアドスが出していた糸が切れ、俺たちがこれ以上糸に襲われることはなくなった。俺は何故アリアドスが吹き飛んだのかと辺りを見渡し──

 

「ゼラ──オラ?」

「オラッ!!」

 

そうだ、とでも言うように、ゼラオラの爪が俺の体に絡まっていた糸を断ち切った。自由の身になった俺は、すぐにゼラオラとトレニアを救出した。

 

「大丈夫か?」

「うん、平気…。けど、これからどうするの?」

 

俺の考えは決まっていた。トレニアの目を見、

 

 

 

「トレニア──ここから逃げよう」

 

 

 

「えっ?」

「俺たちはいつまでもこんなところであいつらに捕まるのを待つ訳には行かない。それに、ここでドンパチやったらこの建物が潰れてそれこそ命があるかどうか、だ。だからもう一度言う──ここから逃げるんだ。俺とお前と、ゼラオラで」

 

トレニアは俺の話を聞き、しばらく黙り込んだ。無理もない、昨日から色々なことが起こりすぎている。一晩で自分の故郷と、母親と、そして友人を1人失った悲しみはとても想像など出来ない。

が、トレニアは俺に向かって満面の笑顔を作ってみせた。

 

「分かった、私も行くよ!カイは昔から、私がいないと何も出来なかったもんなー」

「む、昔のことを掘り返さないでくれ…」

「例えばほら、私がカイの家に泊まりに来た時だって──」

「やめろやめてくれ──ッ!?」

 

 

 

 

数分後、トレニアは俺の前で正座していた。

 

「これからは他人の黒歴史をベラベラ喋らないこと。いいね?」

「はい、すみませんでした…」

「よろしい──そんなことより、だ」

 

俺は外の様子をちらりと伺った。

 

「奴ら、こっちに戻りつつあるみたいだな」

「それじゃあ、早くここから逃げないと──」

「あぁ、行こう2人とも!」

「うん!/オラッ!」

 

 

 

 

「オラッ」

 

ゼラオラが周りを確認したあと、俺たちに向かって手招きする。俺とトレニアは急いでゼラオラに続いた。

あの建物を出てしばらく経つが、幸運にも奴らに見つかることは無い。程なくして、俺たちは森に着いた。

 

「よし、ここまで来ればひとまず大丈夫だろう」

「でも、これからどうするの?いつまでもこの森の中にいたって、見つかるのは時間の問題だし──」

「あぁ、何かしら策を考えないといけない。マサラから──いや、俺たちがカントーから脱出できる術を」

「それじゃあ、歩きながら何かしら使えそうなものがないか探してみよ!」

 

それからは誰も話すことなく、俺たちは歩き続けた。皆必死に森の中で右へ左へと目を走らせている。無論俺も同じく目を走らせている。が、今のところ何か気になるものは見当たらない──

 

「いたぞ!こっちだッ!」

 

突然だった。俺たちの後ろで、聞きなれない声がした。が、当然()()だということは分かっている。トレニアもゼラオラもそれに気づいたのだろう、後ろを警戒しつつもなお走り続ける。

 

「待てやゴラァァァ!!」

「待てと言われて待つ奴がいるかァ!!」

 

後ろに向かって大声で叫び、再び前を向いて走ろうとしたその時、俺は視線の端──俺たちが走っている脇で、何かオレンジ色がキラリと光ったのを見逃さなかった。

 

(あの光り方──あれは炎タイプの技を撃った時の!?)

「トレニア、ゼラオラ、伏せろッ!!」

 

俺とゼラオラはその場で伏せることが出来た。トレニアは「ふぇ?」と聞き返したのもつかの間、運良く足元の木の幹に足を取られてその場にコケる形で地面に伏せることが出来た、直後。

 

「ぐぉぉぁぁぁァァァァッ!?」

 

後ろから先程の声の主が出したであろう悲鳴が聞こえると同時に、背中が焼けるのではと思うほどの熱が襲ってきた。

 

「──何だ!?一体誰が──」

 

と、俺は急に、なにかに背中を叩かれたような気がした。振り返ると、ポケモンのものらしい手が手招きをしている。

 

「ゼラオラ、トレニア!俺について来てくれ!」

「どうしたの、カイ──」

「いいから早くッ!!」

 

俺たちは手招きをしたポケモンの方向へ、急いで向かった。森の奥深く、道なき道を。

 

 

 

 

 

「ねぇ、どこまで走ればいいの?」

 

疲れと沈黙に耐えかねたトレニアが、俺の背中に呼びかけた。

 

「分からない…けど、確かに何かが俺たちを呼んでいることは間違いないんだ」

 

俺はそう答えるしか無かった。実際、「間違いない」と言っていても自分で不安になる。もしかしたら、もうこの先に先程のポケモンはいないのかもしれない──

 

「ねぇ、何か聞こえない?」

 

声の主はトレニアだった。俺も立ち止まって周りに耳を澄ますが、聞こえてくるのは森の中で木が揺れる音だけだ。

 

「この木々が擦れ合う音か?」

「ううん、違う──何かが話してるの。何かが──私のことを呼んでる──ッ!?」

 

突然、トレニアは走り出した。俺とゼラオラは慌てて追いかける。

 

「おい、一体どうしたんだよ、トレニア!?」

 

俺の問いかけに、トレニアは先刻俺が彼女に対して答えたことと全く同じことを言った。

 

「分かんない──でも、聞こえるの、お母さんの声が。私のことを呼んでるのが」

「呼んでるって──俺には何も聞こえないぞ!?」

「オラ、オラッ!!」

 

ゼラオラにも、何も聞こえないらしい。どうやらトレニアの言う"声"とは、彼女だけに聞こえるものらしい。俺は先日、某転生神サマから言われた事を思い出していた。

 

──私は今、あなたの頭に直接語りかけています。

 

あんな感じでトレニアにも脳内に直接声が届いているんだろうか、ということは彼女の母親が実は神様で、そのトンデモパワーを使ってRR団の本拠地をいきなりぶっ壊してくれないかなどとあるはずもないことを考えていると、不意にトレニアが立ち止まった。俺とゼラオラはスピードを落としきれず、やむなく手ごろな岩に激突せざるを得なかったが。

 

「うぅ、いてて…急にどうしたんだよ、トレニア?」

「あそこ――」

 

と言ってトレニアが指差した先は、不自然なほど開けている場所だった。その一点だけ、太陽の光が差し込んでいる。

 

「あそこに何かあるのか?」

「うん…きっと、あそこにいるんだ…」

 

そう言って、トレニアは歩き出した。俺と、やっとスタン状態から回復したらしいゼラオラも、その後に続く。

そのまま10分ほど歩いただろうか、漸く俺たちの目の前に開けた場所の正体が現れた。

 

そこは、とても不思議な場所だった。まるでここだけが隔離された別世界なのかと思えるほど、その場所は異質だった。

光が差し込んでいるその真ん中に、RR団のマークが入ったプロペラ機がとまっている。そして、そのそばには一匹のポケモン。尻尾に木の枝をさし、耳をぴくぴく動かして歓迎しているようだ。

 

「あのポケモンは――」

 

俺が言い終わる前に、トレニアが遮った。

 

「私を呼んでたのは、あなただったのね…」

「知ってるのか、トレニア?」

「うん、知ってるよ。よく知ってる――」

 

トレニアの目には、涙が浮かんでいた。

 

「だって、いつもお母さんの側にいたんだもん。よかった、無事だったんだね――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テールナー!!」




結局まだカントーにとどまったままだァ…()
もうこいつら一生カントーに居座らせようかな(駄目です)


さてさて次回予告!

「まずい、落ちるぞ!?みんな、どこかに捕まっているんだッ!!」

RR団のプロペラ機を見つけ、空からの脱出を図るカイたち一行。
果たして、彼らは無事にカントーを脱出できるのか?そして、子供が飛行機の操縦なんて出来るのか!?

次回[逃亡、それは抗いの始まり]

お楽しみに!


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第五話 逃亡、それは

こっからメインストーリーが本格的に胎動!そろそろ夏休みにも入る(投稿はじめて一年が経つ)しいい加減安定して書けるようになりたいですねぇ…

((予告))そのうちR18指定が付くかも。作者まだ18じゃないのに


「テールナー!会いたかったよ、テールナーッ!!」

 

喜びの涙と共に、トレニアはテールナーに抱きついた。テールナーの方はというと、最初は驚いたものの、だんだんまんざらでもなくなってきたようで、耳をぴこぴこ動かして歓迎した。

 

そして俺はというと、テールナーの近くにたたずむプロペラ機を調べていた。

 

どうやらこの機体はRR団のものらしかった。機体の側面に、RRの文字が浮かび上がっている。

が、分かったのはそれまでだ。俺は転生前にプロペラ機を操縦していたわけではないし――少なくとも記憶の中では――ましてこちらの世界でだってそうだ。

 

「くそっ、ここから脱出できる格好の期待なのにッ!!」

 

俺は宙を見上げた。雲がどっさりと覆いかぶさり、空の青さは皆無だ。俺の心も今の空模様と同じで憂鬱だ、と思ったその時――

 

自分でもよく分からない、不思議なことが起こった。

 

過去の記憶の一部が引き出されたらしいのだ――まるで早回しの映画でも見ているみたいな感覚だ。何故そんなことが起こっているのかは分からないが、気が付くとカイは、このプロペラ機の操縦法を熟知していた。

 

「なっ…これは一体、どういうことだ――?」

「どうしたの、カイ?」

 

トレニアが不思議そうに近づいてきた。隣にはテールナーがいる。もうすっかり意気投合、と言った感じだ。

 

「あぁ、なんか俺、こいつを──」

「ようやく見つけたぞッ!!」

 

カイの声を遮って現れたのは、先程カイ達を追い回し、最後はテールナーの炎で燃やされたあの偉そうなRR団員だった。

 

「はぁ…はぁ…まさかこんなところまで逃げ込んでいるなんてなぁ──俺たちがどんなけ苦労して見つけてやったと思ってるんだ、あぁ?」

「いちいちしつこい奴だな──悪いけど俺たち、あんんたと遊んでる時間はないからさ、じゃな」

 

そして俺はトレニアの手を引いて、プロペラ機の助手席に乗せた。

 

「ちょっとカイ、まさかこれで逃げるつもりなの?いくらなんでも無茶だよ」

「無茶ではあるが無理ではない──少なくとも、この胡散臭い連中から逃れるぐらいはできるさ」

「でも──」

「おい、俺を置いて一丁前に作戦会議か?」

 

RR団員の男は目に見えて苛ついていた。このままでは増援を呼ばれるのも時間の問題だ。そうでなくてもあいつは、今の俺たちに勝てる相手ではない──カイは初めてその男にあった時から、本能的にそれを感じていた。

 

「時間が無い、トレニア。今は俺の言うことを聞いて欲しい。」

 

トレニアはちょっと考え、頷いた。

 

「分かったよ、カイ。私、信じる」

「ありがとう、トレニア。さぁ、ゼラオラとテールナーも──」

 

2匹のポケモンは後部座席に乗せた。万が一追撃された時、頼りになるのは彼らだけだ。

 

「よし、行こうみんな。こいつが俺たちを、新たな場所に連れていってくれる──それじゃあ、アデュー!」

 

俺は偉そうなRR団員の男に手を振ると、エンジンを回した。たまらず後ずさりした男を尻目に、俺たちはゆっくりと上昇した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても、これどこに向かってるの?」

 

空の旅の途中──あまり快適ではないが──トレニアが聞いた。

 

「分からない。今は俺が操縦できてるけど、RR団の船だ。いつハッキングされて連れ戻されるかも分からない──」

 

分からない──今の俺は、そう答えるしか無かった。

俺は分からなかった。今自分が遂行している、自然の摂理に反するかのような行いすらも、正しいのかわからなかった。

 

「まぁ、そうだよね。今の私達、地図なんてないし」

「そうだな──着陸した時は、どこか地図をくれる人のところがいいな」

 

俺は冗談交じりに行った。トレニアも笑う。

後ろではテールナーとゼラオラがなにやら話している。表情を見るに、どうやら彼らも冗談目いた事を言い合って笑いあっているようだった。

このままでいい、と思った。

隣にはトレニアがいて、俺の横で笑っている。後ろでは俺たちのパートナーが笑っている。

ずっとこのままでいい、と思った。

このままどこまでも飛んでいって、誰も追いかけてこない、誰も知らなかった場所まで飛んでいきたかった。が、それは追ってきた者たちによって、叶わぬ願いになってしまった。

 

突然、爆発音とともに機体が揺れた。エンジン部分から煙が出ている。後ろを振り返ると、そこに居たのはあの偉そうなやつだった。

 

「待てやゴラァァァ!!」

 

彼はサザンドラにまたがり、ものすごい殺気でこちらを追ってきている。

 

「まずい――ゼラオラッ!!」

 

俺の言わんとしていることを瞬時に理解し、ゼラオラは戦闘態勢に入った。続けて、テールナーも戦闘態勢に入る。

 

「焼き払え、サザンドラ!!」

「ゼラオラ、10万ボルト!!」

「テールナー、かえんほうしゃ!!」

 

三つの技が空中でぶつかり、巨大な爆発が起こった。辺りに煙が立ち上り、何も見えなくなる。その瞬間を見計らい、俺はプロペラ機を大きく旋回させた。

やがて煙が晴れ、相手の姿が互いに見えるようになった。が――向こうはこちらに気づいていないようだ。

 

「畜生、にげたかッ!?」

「まさか。いいか、覚えてろよ――」

 

たまらず、俺は言葉を発した。

 

「俺たちが逃げるなんて――」

 

同時に、ゼラオラとテールナーの体が輝きだした。

 

「絶対にありえないからなッ!!」

 

同時に、二匹が全力の技を放つ。サザンドラは反応が遅れてしまったようだ――奴の腹に、攻撃が命中した。

 

「ぐぅ――っ!?」

 

サザンドラの体がぐらりとよろける。その影響で、上に乗っていたRR団の男はバランスを崩し、真っ逆さまに海へと落ちていった。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ――」

 

主を失ったサザンドラは、辺りをきょろきょろと見回すと、どこかへ飛び去って行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幸いにもその後追手が来ることもなく、俺達は逃げ延びることができた。が、一つ心配事がある――エンジンから立ち上る煙だ。

あの後、このプロペラ機の動きは格段に悪くなり、バランスもとりにくくなっていた。心なしか、高度も少しずつ下がっているような気がする。

 

「ねぇカイ、私たち、このまま落っこちたりしないよね?」

「あぁ、いくら何でもさっきのRR団の男みたいにはならn――」

 

俺の言葉はそれまでだった。突然、エンジン部分に衝撃が走ったからだ。

大きな爆発音とともに、機体がぐらりと揺れる。きっと、先程のエンジン部分に当たった攻撃のせいだろう、その時出ていた煙は今や炎でも出そうな勢いだ――いや、すでに出ていた。

 

「こ、これは…」

 

 

 

 

 

 

そして、俺の悪い予感は的中してしまう。

 

 

 

 

 

「きゃぁぁぁぁっ!?」

 

トレニアの悲鳴と共に、プロペラ機は突然下降し始めた。エンジンが完全に止まり、もはや成す術もなし。一か八かに賭け、俺はみんなに叫んだ。

 

「まずい、落ちるぞ!?みんな、捕まっていろ!!」

 

全員が、目の前にあるものにつかまる。その間も、機体はぐんぐん高度を下げていった。機体についていた速度メーターが降り切れるほどに。

俺たちを乗せたプロペラ機は雲を突っ切り、鳥ポケモンの群れと衝突し、どんどん地面が見えてきて――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は、マサラタウンにいた。

 

「ここは――何で、マサラタウンが復活しているんだ?」

 

そして、窓に移った俺の姿を見て、さらに驚く。

 

「なっ――俺が、小さくなってる!?」

 

目の前にいた男の子は、どう見ても年齢は10歳より下だった。頬が丸く、目は大きく、体つきにもまだ幼さが残っている。

が、その後階段から降りてきた姿を見て、俺は一番の衝撃を受けた。

 

 

 

 

ガーベラが、そこにいた。

 

 

 

 

かつて、俺とガーベラ、そしてトレニアの三人でたくさん遊んで、たくさん探検して、今までもこれからもずっと三人一緒にいられると思っていた。そして、今はRR団に――サカキに捕まり、今はどこにいるかもわからないはずのガーベラは、俺の目の前で不思議そうに小首をかしげて立っている。

 

「どうしたの、カイ?そんなに僕がいることが珍しかったの?」

 

ガーベラの問いかけに、俺の口がひとりでに動く。

 

「ううん、ちょっと窓の外を見てただけだよ。急に人が来たから驚いちゃって」

「そうだったんだ――ねぇ、ちょっと探検しにいかない?」

「探検?どうして?」

「ほら、今はトレニアが風邪を引いて寝込んじゃってるからさ。僕たちが探検に行って、トレニアの為に綺麗な花を見つけるんだ。どうかな?」

 

ここまで会話して、俺はようやく気が付いた――これは、過去の回想、つまり俺の記憶の中だ。確かに一度、風邪を引いたトレニアの為に俺とガーベラの二人だけで探検しに行ったことがある。

 

「それで、どこに行くつもりなの?」

「この前、すぐ近くの小川を上っていったところに綺麗な花が咲いているのを見たんだ。あそこに行こう」

 

あぁ、思い出した――確かに俺とガーベラは、トレニアに内緒で緒川をずんずん上っていった。そこで確か――ここで、俺の記憶が大きく飛ぶ。

 

 

 

 

 

気が付くと、俺は草の上で仰向けになっていた。すぐ近くで水の流れる音がするので、どうやら先程話していた小川の近くに来たようだ。それにしても、何故だか息が苦しい。まるで、1時間ずっと走り続けているような苦しさだ――そこまで考えた俺の頭に、ガーベラの声が響いた。

 

「カイ…大丈夫、か…?」

 

先程とは打って変わって、ガーベラの声は弱弱しかった。いったい何が、と辺りを見渡すと、空に巨大な影が見えた。

 

「あれは――ピジョット!?」

 

そうだ――探検に出た俺たちは、ほどなくして綺麗な花を見つけた。が、そこはピジョットの縄張りだったのだ。そして俺達はピジョットの逆鱗に触れてしまい、今この状況、という訳である。

 

「カイ、いいか…」

 

ゆっくりと、しかしはっきりとガーベラが話し始めた。

 

「お前は、ここから逃げろ…俺があいつを引き受けるから、お前は戻って、助けを呼んできてくれ…このままじゃ2人とも駄目になってしまうから、早く…」

 

俺はすぐにそうしようとした。が、無意識に動く俺の体と口が、それを許さなかった。

 

「駄目だ!俺がガーベラをおいて逃げるなんて、そんなことできない!!」

「けれど、一体どうするつもりなんだ…?」

 

俺は近くに落ちていた長めの木の棒を拾って、ガーベラの前に立った。

 

「俺があいつを引き受ける。その間に、お前が呼んできてくれ」

 

が、ガーベラは動かなかった。俺の隣に立つと、少し笑ってこう言った。

 

「まったく、君も僕と同じ気持ちだったとはね、カイ――いいよ。僕たち二人で、ピジョットを追い払うんだ」

「あぁ、もう何も怖いものなんてない!!行くぞ――」

 

が、勇敢な少年たちの決め台詞は途中で終わってしまう。

突然、横から一匹のガルーラがピジョットめがけて突進してきた。見事にピジョットに当たり、一撃でピジョットはどこかへ飛び去って行ってしまった。

 

「な、なんだったんだろう…?」

「とにかく、これでトレニアにあげる花はゲットできる!さぁ、早く帰って――」

 

俺の言葉は、またもガルーラにさえぎられることになる。

ガルーラは俺の前に立つと、自分のお腹の子供を指さした。その子供は、顔に熱を帯びていた。額に手を当てると、少し熱い。どうやらこのガルーラは、子供の為に薬草を持ってきたようだった。

それを理解したガーベラが、ガルーラ親子に駆け寄る。

 

「カイ、これは彼らのものだ。僕たちはこの探検の思い出をトレニアへのお土産にしようよ」

「そうだな。ほら、これを探してたんだろ?」

 

俺とガーベラは、今まで俺たちが探していた花を摘み、ガルーラに渡した。

 

「早く元気になってくれよ、ガルーラ」

 

ガルーラが手を振って感謝と見送りを同時にやってくれているのを背にして、俺達はマサラタウンに戻った。

俺達が戻ると、もうすでに夕方だった。時間も遅いしまっすぐトレニアの家に向かおう、と決め、トレニアの家について玄関をノックし、「すいませーん」と声をかけた、刹那。

トレニアが飛び出してきて、俺たちの顔を見、ぶわっと泣き出してしまった。

 

「とっトレニア!?」

「二人とも…私をおいて、どこ行ってたの…?待ってる方からすれば、不安で仕方ないんだよ…」

「おいトレニア、風邪はどうしたんだ?治ったのか?」

「まだだよ…けど、ガーベラが帰って来たんだもん…カイも…そんなの、出迎えるしかないじゃん…」

 

嗚咽が漏れ出てきて、トレニアはそれ以上何も言うことができなかった。俺達は少し申し訳ないと感じたが、すぐさま話題を今日の冒険の話に変え、トレニアが泣き止むように試みた。

 

 

 

「――それで、僕とカイの二人で大きなピジョットに立ち向かってね」

「かっこいいとこ、全部ガルーラにとられちゃったけどな」

「もーっ、本当に二人とも向こう見ずなんだから」

 

ようやくトレニアにも笑みが戻ってきた。そうだ――こうして三人で、とりとめもない話をしてずっと笑っていた。あの時の俺たちは、三人ならどこへでも行けると思っていた。俺が戦い、トレニアがサポートし、ガーベラの知識で俺とトレニアの足りない部分を補う――俺たちは最高の友人であり旅の仲間になるはずだった――

 

 

「――!――ィ!」

 

 

不意に、誰かが俺を呼んでいる。これは――トレニアの声だろうか?

 

「――イ!カイ!」

 

どうしたんだよ、トレニア。なんでそんなに焦っているんだ?お前は俺の目の前で、こんなにも笑っているじゃないか。

 

「駄目だよカイ!お願い、こんなところで死なないでッ!」

 

 

 

俺は、はっと目を覚ました。

 

 

 

しばらく足元の地面をぼーっと見ていたが、やがて顔を上げ、辺りを見回す。どうやらここは、砂浜のようだ。隣にはトレニアが、今にも泣き出しそうな目でこちらを見ている。周りには誰もいなく、きっと閉鎖された場所なのだろうか、と思った。そしてどうやら雨が降っているらしいとそこまで考えた俺に、不時着したプロペラ機の残骸が残されていた。

それを見た瞬間、俺の頭は高速で回り始める。今の状況、つい先ほど俺たちが何をしていたのか、それがありありと思いだされる。

 

「っつ、いてて…」

「カイ…大丈夫、なの…?」

「あぁ、大丈夫だトレニア。俺はこの通りぴんぴんしてるよ。しかし、ゼラオラとテールナーは――あいつらは今どこに?」

「二匹には、ここがどこなのか調べてもらってるわ。そろそろ帰ってくると思うけど…それよりッ!」

 

トレニアは怒り半分、さびしさ半分のような顔をしてこっちを向いた。

 

「どれだけ寝てたのよッ!!私、ここでずっとカイのこと呼び掛けてたのよ?あーもうほんとにまったくやんなっちゃうわよ」

「そうかトレニア…お前、そこまで献身的に…将来はいいお嫁さんにあるぞ、きっと」

「な、何言いだしてんのよ急に!?それより――」

 

トレニアは、打って変わって不安そうな表情を見せた。

 

「大丈夫なの?私が気付いた時、カイ、苦しそうにしてた。どこか体の痛みとか、大丈夫なの?」

 

トレニアからの問いかけに、俺は立ち上がって歩いてみせた。

 

「あぁ、特に異常はなさそうだ」

「よかったぁ…」

 

トレニアはほっとして、その場にぺたんと座り込んでしまった。

 

「本当に、良かったよ…カイ、こんなところで私のこと老いてっちゃうかもしれないって、ずっと不安だったから…」

「トレニア…」

 

と、ゼラオラとテールナーが戻ってきた。なんだか、何か重要なものを見つけた様子だ。

 

「ゼラオラ、何か見つけたのか?」

「オラ、オラッ!」

 

マサラタウンの時と同じく、ゼラオラは手招きをした。俺は頷くと、ゼラオラの背を追い始めて森の中へ入っていった。後ろでは、トレニアとテールナーが続く。

そこから10分ほど歩き続けただろうか、俺たちの目の前に、明らかに異質なものが目に入った。

 

 

 

建物だ。周りの木々を押し倒して、その存在感を周りに知らしめている。白塗りの壁には塗装が剥げ堕ちた様子はなく、まだ新しいようだ。

 

「これは、一体…?」

「誰かいるのかな――すいませーん」

「お、おいトレニア、RR団の手先だったらどうするんだよ」

「でも、ここがどこなのか知っておきたいじゃない」

 

しばらく待ったが、返事はなかった。何度も呼びかけるが、やはり返事がない。恐る恐るドアを開けると、鍵は開いていた。

 

「ごめんくださーい…」

 

俺を先頭に、列になって少しずつ進んでいく。どうやらこの建物は二階もあるようで、俺達は入り口のすぐ両脇にある階段を上っていった。

 

「誰もいないみたいだね…廃墟なのかな?」

「いや、それにしては新しすぎる。外からこの建物を見ていたが、まるで空から降ってきたような――」

 

俺の言葉はそこで止まった。足も止まった。危うくぶつかりそうになったトレニアが、俺の背中からひょこっと顔を出す。

 

「どうしたのカイ?何か見つけ――」

 

トレニアも言葉を失った。俺達は目の前のものに絶句するしかなかった。

 

 

 

 

人が倒れていた。

 

 

 

 

「どっどうしようカイ!?」

 

俺は倒れている人に駆け寄ると、すぐさま口元に手を当て、同時に手首のあたりに指を添えた。

 

「浅いけどまだ息があるし、脈もある――みんな!!何か食べるものを持って来てくれ!あと水も頼む!」

 

俺の言葉に、トレニアとゼラオラ、テールナーは急いで建物の外に飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

<side ??>

 

 

 

 

 

 

 

「――!――て!」

 

 

これは――お母様の声?

 

 

 

 

 

 

「――げて!早く逃げて、こっちに!!」

 

 

 

 

 

 

駄目です、私は一人じゃ――

 

 

 

 

 

 

「いいのよ、困ったら誰かに頼りなさい。今は生きることだけを考えて。それじゃ――いってらっしゃい」

 

 

 

 

 

 

あぁ、お母様がどんどん遠くへ――私は、誰を頼ればいいというのですか?

 

 

 

 

 

私は、目を開けた。

どうやら私は眠って――いえ、気を失っていたようだ。周りには、知らない人が並んで、私の顔を見ている。

 

「俺の言葉が分かりますか?」

 

そのうちの一人の男の子が話しかけてきた。

 

「え、えぇ…あなた達は一体…?」

「良かった…!えっと、俺達はたまたまここを通りかかった者です。あなたがここで倒れているのを見て、いてもたってもいられなくて」

「ありがとうございます、えっと…」

「あぁ、自己紹介が遅れました。俺はカイ、それでこっちはトレニア。」

 

隣の女の子が、ぺこりと頭を下げた。

 

「それから、俺たちの仲間のゼラオラとテールナーです」

 

瞬間、私の目は大きく見開いた。

疲れも忘れ、私は飛び上がった。

 

「ゼラ――オラ?」

 

確かにそうだった。目の前にいたのは、黄色と水色の毛をもったポケモン。確かにゼラオラだ。

 

「ど、どうしたんですか急に?」

「何であなた達は、RR団からの脱走個体を連れているのですか?」

「――ッ!?」

 

途端、全員の目が警戒の色を発した。彼らは私から離れ、戦闘モードに入る。

 

「あんた――さてはRR団の追手だな?」

 

その問いかけに、私はすぐさま反論した。

 

「いいえ、私をあんな奴らと一緒にしないでください。私はRR団ではありません。むしろその逆です」

 

 

 

 

 

 

 

<side カイ>

 

 

 

 

「私はRR団ではありません。むしろその逆です」

 

一体どういうことだ?RR団の逆――あいつらに逆らっているものなのだろうか?だが、なぜゼラオラのことを知っているんだ?

 

「あんたは一体、何者なんだ?ここで、何をしているんだ?」

 

数秒後、俺は目の前の女性が、とんでもない人物だったことを知った。

 

「私はリーリエ。かつてはエーテルパラダイスの支部長をしていました。そして今は――何かをする気力もなく、ただひっそりと隠居しています」




七夕に「ちゃんと安定して小説投稿ができますように」ってTw●tterでお祈りしてたからまぁ今年こそは安泰でしょ(は?)

それはそうと次回予告!

「私も、私の家も――もう、あの時の輝かしい姿は少しも残っていませんよ」

リーリエと邂逅したカイ達。彼女の口から語られる、アローラで起こった悲劇とは!?
アローラ編スタート!

次回 [雨に打たれた白百合]

次回もお楽しみに!


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第二章 -Hello, new … -
第六話 雨に打たれた白百合


試験も無事(?)終わったので活動再開です!
今年の夏休みまでには15話ぐらいまで行けるといいなぁ…


俺は目の前の人物から発せられた言葉に、しばらくの間絶句していた。

ただ驚いただけではない――信じられなかったのだ。エーテルパラダイス次期代表取締役ともいわれていたあのリーリエが、こんな人気のない森の中で静かに暮らしているという事実が。

 

「ほ、本当にあなたが、あのリーリエさん、なのか…?」

「えぇ、間違いなく。証拠ならいくらでもありますよ。ほら――」

 

そう言って、リーリエは部屋の壁を指さした。そこにはたくさんの写真が飾ってある。近づいてみてみると、それはリーリエとグラジオ、そして元エーテルパラダイス代表取締役であるルザミーネの姿も映っていた。

 

「これは――」

「私が以前、エーテルパラダイスに遊びに行った時の写真です。あの頃は楽しかった。スクールの友達やお兄様、お母様もみんな笑っていて…」

 

リーリエは天井を見上げた。

 

「…それなのに、あの事件は突然起こってしまったのです。お兄様とザオボーの2人がウルトラワープライドの調整をしていた時でした――」

 

リーリエは俺たちに背を向けた。その背中が小さく震えているのを、俺は見逃さなかった。

 

 

 

 

「突然ウルトラワープライドが暴走して、お兄様が向こう側に飲み込まれてしまったのです。そのことを知ったお母様は大いに嘆きました。それをザオボーは見逃していなかったのです。完全に精神が崩壊してしまったお母さまをその手にかけ、次は私もとなった時、お母様の最後の足搔きで、私はここに一人、エーテルパラダイスの居住スペースの緊急脱出用エンジンによって、ここまでやってきました。現在、エーテルパラダイスは完全に彼が掌握し、部下も全員、彼の傘下となっています」

 

 

 

 

リーリエは顔を上げた。少し目頭が赤くなっている。

 

「私ったら、一体どうしたんでしょう?会って間もない人に、ここまで自分の過去を話すなんて――」

「それは、俺たちから同じ匂いがしたからじゃないのか?」

 

リーリエは驚いて目を見開いた。

 

「えっ?それは、どういう…?」

「私とカイは、カントー地方から逃げてきたんです。RR団の追手から」

「そして、俺達は幼馴染を一人、あいつらに連れていかれた。大切なものをやつらに奪われ、許せないのは俺たちも同じだ」

 

俺はリーリエに手を伸ばした。

 

「リーリエさん――俺達と一緒に来てくれないか。俺たちに必要なのは、頭の切れる仲間なんだ」

「私は…」

 

リーリエは少し迷っているようだが、やがて俺の手を――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

払いのけて、こう言った。

 

「私は、あなた達とはいけません」

「えっ――」

 

俺は思わず、驚嘆の声を漏らしていた。

 

「どうしてなのか、理由を聞かせてほしい」

「私は、もう何の力もありません。家族も、外に出る気力すらも失ってしまった――私には、この世界を変えることはできない…ッ」

「そんなことないですよ」

 

声の主はトレニアだった。

 

「私たち、別に世界を変えようなんて思っていませんもん。私たちはただ、消えてしまった幼馴染を連れ戻して、また昔みたいに三人で笑いあえる日常が欲しいんです。我儘で動いてるだけですよ――リーリエさん、あなたはどうしたいんですか?」

 

リーリエは酷く迷っているようだった。

 

「私は…私は――ッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう一度、お兄様と――きゃっ!?」

 

リーリエが突然可愛げな悲鳴を上げたもの無理はない、突然建物全体が揺れたのだから。次いで、外から声が聞こえる。

 

「こっちだ!急げッ!!」

「まずい――奴らだ!!」

 

部屋の窓から外を見ると、黒服の集団が俺たちを取り囲んでいた。その数、およそ50人。

 

「あぁ…私は、もうここで――」

 

ふらふらと床に倒れ伏しかけたリーリエの腕を、俺はつかんだ。

 

「ダメだ!!リーリエさん、まだあなたにはやるべきことがある!!そして何より、自分の願いのためにも足掻いてくれ!!あなたがこんなところで死ぬはずないんだ!!だから――まだ倒れないでくれッ!!」

 

俺の叫びに、リーリエの目が輝きを取り戻した。

 

「そうだ、私は――」

 

再び、リーリエが立ち上がる。その目には、決意の色が浮かんでいた。

 

「まだ、死ねません!!私はもう一度、お兄様と――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お兄様と、一緒にいろいろなところを旅したいんだからッ!!」

「あぁ、そうだ!!あんたはまだ死んじゃいけない――ここで諦めていたら、お兄さんも喜ばないだろう?さぁ――」

 

俺の伸ばした手を、リーリエは掴んでくれた。

 

「感謝します、旅の人達。私の目はあの日からずっと、曇っていたみたいだ――」

 

リーリエは、持っていたモンスターボールを投げた。現れたのは、白いキュウコンとピクシー。

 

「ピクシー、シロン、久しぶりのバトルです――頑張りましょう!」

「ピクシー!!」

「コン!!」

 

リーリエの気合は、2匹のポケモンにも伝わったようだ。リーリエと2匹は階段を駆け降り、すぐさま一階へと消えていった。

 

「よし、俺たちも行こう!!」

「うん――テールナー!!」

 

俺とゼラオラ、そしてトレニアとテールナーはグータッチを交わすと、それぞれ別方向に走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が外に出ると、外は雲が重い影を傾けていた。そして、俺の姿に気づいたRR団員達が、一斉に各々のモンスターボールを投げる。その数、20人。

 

「ゼラオラッ!!」

「オラァッ!!」

 

俺の呼びかけにゼラオラはすぐさま反応し、俺の前にやってきた。

 

「行くぞ、ゼラオラ――プラズマフィスト!!」

 

ゼラオラの全身に、電気が迸り始める。

 

「ゼラァァ――ゥオラァァァッ!!」

 

ゼラオラの叫びと共に、全身に蓄積されていた電気はゼラオラの両手に移動した。すぐさま、ゼラオラは両手を地面に叩きつけた。

刹那、ゼラオラから放たれた電撃が地面を駆け巡り、相手のポケモンたちを一斉に攻撃していく。そして、余った電気は天に舞い上がり、電気のシャワーが降り注いだ。

 

「チィ…ッ、小癪な真似を――」

 

最早残っている団員は3人だった。流石は伝説ポケモン、馬力が違いますよなどと感心していると、その数人のうち一人が技を仕掛けてきた。

 

「元フレア団幹部の俺に勝てるもんかッ!!マタドガス、ダブルアタック!!」

 

赤髪の男の指示を受け、マタドガスがゼラオラに襲い掛かる。

 

「ゼラオラ、かわしてもう一度プラズマフィストだ!!」

 

ゼラオラはマタドガスの初撃を避けると、再び攻撃しようと近付いたマタドガスに電気を纏った両手を叩きつけた。たまらず、マタドガスは撤退しようとする。

 

「逃がすな!飛び蹴り!!」

「オラッ!!」

 

ゼラオラの放った渾身の一発が、マタドガスにトドメを刺した。マタドガスはふらふらと地面に倒れ、そのまま動かなくなった――戦闘不能だ。

 

「ち、畜生…」

 

マタドガスをボールに戻した後、再びポケモンを繰り出そうとするRR団員に、俺は少し圧をかけた。

 

「まだやるのか――無駄な抵抗を?」

「ひぃっ…!?」

 

素っ頓狂な声を上げた後、奴らは「覚えてろよ!」などとありきたりすぎる捨て台詞を吐いて逃げていった。俺の前に残っているRR団員はもういなかった。

 

「よし、こっちは片付いたな。あとは向こうの様子を――」

「きゃぁぁぁっ!?」

「――!?」

 

声の主はトレニアだった。急いで建物の反対側へ向かうと、トレニアが座り込んでいるのがほどなくして見えた。彼女の腕には、傷だらけで戦闘不能となったテールナーが横たわっていた。

 

「これは――」

 

騒ぎを聞きつけ、リーリエもやってきたようだ。どうやら彼女も、俺とほぼ同じタイミングでRR団員を蹴散らしたようだ。

 

「トレニア、一体何があったんだ?」

 

トレニアは何も言わず、近くの茂みを指さした。目を凝らすと、確かに何かが潜んでいるのだろう、不自然な揺れ方をしている。

 

「ゼラオラ、あの茂みに向かってプラズマフィスト!!」

「オラッ!!」

 

ゼラオラが放った一撃はすぐさま茂みを包み、爆発を起こした。

 

「どうだ…?」

 

が、俺の予想は大きく外れた。茂みからぬらりと現れたのは――1人の少女だった。その姿が完全に見える前に、リーリエが声を発した。

 

「――!!あなた、は…」

「およー?なんか聞きなれた声がすると思ったら、やっぱりいたんだー」

 

そんなあどけない声と共に、茂みの中から現れたのは――

 

「――アセロラ、さん!?」

 

間違いない、目の前の少女はウラウラ島のキャプテンの一人、アセロラだった。彼女の右肩には、灰色のミミッキュが乗っている。

 

「へぇー、アセロラのこと知ってるんだ、嬉しいね。それなら話が早いな――」

 

アセロラは笑顔で両手を広げると、そのしぐさとは裏腹にとんでもないことを言った。

 

 

 

「リーリエお姉ちゃんを、こっちに頂戴」

 

その瞬間、俺は彼女がRR団の一味だと悟った。

理屈ではない、彼女の体から発せられた身体的な恐怖が、俺の体を包んだからだ。たまらず俺は言い返した。

 

「残念だけど、それはできない相談だな。お前たちのとこに、リーリエは連れていかせないさ」

「あららー、残念。それじゃあ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

力ずくでも、奪うまでだねッ!!」

 

先程とはうって変わって、いかにも邪悪な声でアセロラは叫んだ。

 

「気を付けてください、カイ君――彼女はアローラリーグでもトップクラスの実力を誇っていた。今の私たちにとって、相手は間違いなく格上です」

「あぁ、分かってるよリーリエさん。しばらくそっちでトレニアのことを頼む」

 

俺はリーリエがトレニアを建物の影に連れて行ったのを目の端で確認すると、目の前の敵を凝視した。アセロラの方は、いかにも楽しそうにモンスターボールを握っている――まるで、新しいおもちゃでも手に入れたかのように。

 

「リーリエお姉ちゃんは諦めたけど――君は楽しませてくれそうだしまぁいっか!いっけー、ジュペッタ!」

 

彼女が繰り出したのはジュペッタだ。が、俺のゼラオラも先の戦いにより消耗は少ないようだ――相手にとって不足はない。

 

「やるぞ、ゼラオラ――俺たちで、アセロラを追い払うんだ!!」

「オラッ!!」




アセロラ:RR団(アローラ地方)の実力者。ゴーストタイプ使い。大概のトレーナー(特に男)は彼女の可憐さについ気を許してしまいがち。
上の命令よりも自分が楽しいと思ったことの方を優先する。

さぁさぁ次回予告!

「カイ!!死んじゃだめだよ、お願い――応えてッ!!」

RR団によって洗脳され、忠実な部下へと成り下がってしまったアセロラ。彼女の凶刃に倒れるカイ。トレニアとリーリエが絶望の淵に立たされる中、ゼラオラは怒りに体を震わせる――。

次回[はるか昔、人とポケモンとが一つだった――かの日]

漸くこの小説のタイトルらしいことができそうです!次回もお楽しみに!


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第七話 はるか昔、人とポケモンとが一つだった彼の日

今回からメモ帳による事前執筆を始めました!これで少しは効率が上がる、、、はず


「オラァァァッ!!」

「ジュペェェッ!!」

 

お互いの技と技がぶつかり、巨大な爆発を起こす。ジュペッタもゼラオラも至近距離で爆発を受けたため、互いに吹き飛ばされた。

 

「ゼラオラ!!大丈夫か?」

 

俺が駆け寄ると、ゼラオラはすぐに立ち上がって応えた。

 

「よし――ゼラオラ、プラズマフィスト!」

「こっちも行くよ――ジュペッタ、シャドークロー!」

 

再び、爆発。両者ともに吹き飛ばされるが、お互い倒れることはない。

 

「もう、いつになったら倒れるのよッ!?」

「それはこっちの台詞だ!いい加減くたばれッ!!ゼラオラ、飛び蹴り!!」

 

そう指示してすぐ、しまったと思った。ジュペッタはゴーストタイプのため、かくとうタイプの技は効かない――戦闘に熱くなりすぎて、つい忘れていたことだった。

が、ゼラオラの技は止まらない。ぐんぐんジュペッタに突っ込んでいく。

 

アセロラはにやりと笑うと、すぐさま追い打ちの指示を出した。

 

「どうやら判断を間違えたようだけど、慈悲はないからね――ジュペッタ、シャドーボールの準備!」

 

俺はもう、どうすることもできなかった。ただ、ゼラオラが地面に衝突するのを見ていることしかできなかった。

よろめきながら立ち上がったゼラオラに、ジュペッタの《シャドーボール》が炸裂した。

 

「オラァァァ――ッ!?」

「ゼラオラ――ッ!!」

 

慌てて駆け寄ると、ゼラオラはもう傷だらけで歩くこともままならない状態だった。俺はゼラオラを抱きかかえると、すぐに建物の中へ駆け込もうとした。が、アセロラがそれを黙ってみているはずがなかった。

 

「おっとぉ、建物に入って状況を改善してから挑み直そうという心の声が駄々洩れですよー?まぁそんなことしたって、このアセロラに勝てるわけがないんですけど」

 

アセロラとジュペッタが俺を邪魔する間に、アセロラの後ろでトレニアがテールナーに指示を出していた。完全回復とはいかなかったものの、どうやら戦闘に復活できるまでには回復したようだ。

 

「――!!」

 

俺には何の指示を出しているか聞こえなかったが、どうやら放った技は《かえんほうしゃ》のようだ。テールナーの放った炎は一直線にアセロラへと伸びていき――

 

「ジュペッタ、シャドーボール!!」

 

――が、彼女も気づいていた。すぐさまシャドーボールで威力を相殺すると、再びシャドーボールを放ち、テールナーを戦闘不能へと追いやった。

 

「そんな…」

 

トレニアはその場に座り込んでしまった。近くではリーリエがその様子を黙って見ていたが、テールナーが倒れたのを見ると、すぐさま立ち上がって二匹のポケモンに指示を出した。

 

「だったら私が――シロン、ふぶき!ピクシー、マジカルシャイン!」

 

指示を受けた二匹がエネルギーを溜め始めた。しかしそれより早く、ジュペッタが動いた。

 

「――どくどく」

 

ジュペッタは目で追えないほどの速さで、ピクシーとキュウコンを《もうどく》状態にした。

二匹はたまらずその場で倒れ、痙攣してしまった。

 

「そんな――あの速さは何なのですか!?」

 

驚愕するリーリエを前に、俺はすでに一つの答えにたどり着いていた。

 

「――いたずらごころ」

 

俺とアセロラは同時にそう言った。そう――ジュペッタの特性は《いたずらごころ》、つまり相手よりも早く変化技である《どくどく》を撃てたのだ。

 

「さてさて、アセロラの背後を取ろうとした人はお仕置きが必要かな」

 

アセロラはトレニアに歩み寄り、指示を出した。

 

「ジュペッタ、シャドークロー」

「――!!」

 

ジュペッタの振り上げた手が妖しく輝きだす。思わずトレニアは目を覆った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、トレニアに刃が届くことはなかった。それより早く、俺の体が動いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ぐぁッ!!」

 

みぞおちのあたりに激痛が走った。俺が痛みに腹を押さえるなか、トレニアとアセロラ、そしてリーリエは驚愕しているようだった。その間にも、腹から血は止まらなかった。恐る恐る手を離すと、俺の腹は綺麗に引き裂かれ、腸やあばら骨が剝き出しになっているのが見えた。やがて、トレニアがぽつりと言った。

 

「そんな、カイ――」

 

そうだ、これで、いいんだ。トレニア――君だけは、生きて――

 

 

 

 

 

 

 

俺の意識はそこで止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[side トレニア]

 

「そんな、カイ――」

 

私の目の前では、凄惨な光景が広がっていた。唖然とするアセロラの前で、カイは血を流して倒れていた。意識はすでになく、呼吸もか細いものになっている。

 

「へぇ、まさか君を庇って自分が死ぬなんてね。よっぽど好きだったんだろう、君のことが」

 

死――今まで身近に感じたことのない言葉だ。だが、彼は実際に、私の目の前で死を迎えようとしているのは確かだった。無意識のうちに、私の目から涙が出てきた。

 

「あらら、そんなに悲しいのかな?でも安心しなよ、すぐに会わせてあげるから」

 

そう言って、再びシャドークローを放とうとしたジュペッタを、一筋の電撃が襲った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アセロラの後ろで、ゼラオラが立ち上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おやおや、これは驚いたなぁ。まさか至近距離で放ったシャドーボールを耐えるなんて」

 

アセロラは口ではそう言いつつも、この状況を楽しんでいるようだった。まだ口元には笑みが浮かんでいる。

 

「それともあれかな?主人を殺された怒りで力がみなぎったとかかな?」

 

その言葉が、ゼラオラの逆鱗に触れたようだった。ゼラオラは体を震わせ、歯をむき出しにして怒りの咆哮を上げた。

 

「オラアァァァァ――ッ!!」

 

その瞬間、カイの体が少し動いた。どうやらゼラオラの咆哮に対して反射的に体を震わせたようだった。相変わらず意識はないようだが、確かに彼はまだ生きようとしている――私はカイに近付いて、彼の名前を呼び続けた。その時彼の懐が光っていることに、私は気づかなかった。

 

「カイ――カイ!お願い、死んじゃだめだよ!私の声が聞こえてるなら、お願い――応えてッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[side カイ]

 

気が付くと、俺は不思議な空間で、大の字になって寝転がっていた。無数の光が、星のように瞬いている。俺の体は薄くなっていた。

俺は記憶が曖昧になっていた。確か、リーリエと会って、それからアセロラと会って――

 

――ここは、どこだ…?

 

声を発すると、俺の声は遠いところから響いているかのように、この不思議な空間の中で反射を繰り返していた。

 

「あなたの意識の中よ」

 

声のする方を見ると、そこにはマリアがいた。俺と違って、彼女の声ははっきりしている。

 

――あぁ、あんたか…何だよ、俺の意識の中って?

 

「あなたは今、瀕死の状態にあるわ。この場所であなたの体がはっきりしていないのは、そのためよ」

 

マリアからそう言われて思い出した。俺はアセロラからトレニアを助けて、彼女の代わりにジュペッタのシャドークローを受けたのだ。

 

――そうか…俺は、死んじまったのか…

 

「いいえ、死んではいないわ」

 

マリアの一言に、俺は驚いた――あれほどの一撃を受けてなお、まだ生きていられるとは。

 

「あなたは死んではいない――いいえ、死んではいけない存在なのよ。私があなたをこの世界に呼んだのは、この世界を救ってもらうためだもの。それを成し遂げるまでは、あなたが死ぬことを私が許さないわ――さぁ、立ち上がりなさい、小さき勇者さん。この世界を――あの少女を、救うために」

 

そう話すマリアの横に、トレニアの姿も浮かび上がった。

 

「カイ!!死んじゃだめだよ、お願い――応えてッ!!」

 

トレニアも俺が戻ってくることを信じて、必死に呼びかけてくれている。この瞬間、俺の心は決まった。

 

「ありがとう、マリア、トレニア。俺、もう一度戦ってみるよ」

 

俺の声は、もう反射し続けることはなかった。姿もはっきりしている。

 

「そう言ってくれるとあの子も喜ぶわよ。それじゃ――いってらっしゃい」

「あぁ、行ってくるよマリア」

 

俺のいた場所には、いつの間にか扉が出現していた。それを押し開け、俺は向こう側に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこは、真っ白な空間だった。俺の目の前にはゼラオラがいた。

 

「ゼラ…オラ?」

「オラッ」

 

不意に彼が何かを差し出してきた――俺達が初めて会った時ゼラオラが持っていた、あの小さな機械だった。今までとは違い、光り輝いている。

 

「これは――」

 

あの時と同じだ――俺はこの機械の使い方が、分かるような気がした。

 

「ありがとう、ゼラオラ。もう一度、俺と戦ってくれ」

 

俺の突き出した拳に、ゼラオラは同じ動作で拳を合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来い、ゼラオラ!"Re:Union"!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、俺の視界は晴れ、再び森の中に俺は戻ってきた。

驚くほど体が軽くなっている。目の前では、驚愕の色を隠しきれないアセロラが立ちすくんでいた。そういえばゼラオラの姿が見えない気がするが、一体どこに行ったんだろうか?

 

「か、カイ…なの?」

 

そう言われて後ろを振り返ると、同じくひどく驚いているトレニアがいた。

 

「あぁ、俺だよトレニア。ありがとう――お前の言葉、ちゃんと届いたぜ」

 

そんな中、アセロラが驚きつつも再び警戒態勢を敷きながら言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ、ふんっ!!ただポケモンと合体しただけじゃない、だから何だっていうのよ?」

「ぽ…」

 

 

 

 

 

 

 

俺は、彼女の言ったことが信じられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「ポケモンと、合体…!?」

「へぇ、君、自分に何が起こったのか分かってないんだ?これは好都合だね――ジュペッタ!!」

 

再び、ジュペッタのシャドークローが飛んできた。ゼラオラではなく、俺に向かって。当たり前だ、ゼラオラは今、俺と合体している――らしい――のだから。

 

「うぉっ!?」

 

俺は成す術もなく、反射的に手を翳した。無論そんなことで防げるわけもない――と思われたが、なんとシャドークローが当たる寸前、(ゼラオラ)の腕に電撃が走り、エネルギーを相殺したではないか。そしてそのまま爆発により吹き飛ばされたのは言うまでもないが。

 

「うぅ、いてて…」

 

俺は背中をさすりながらゆっくり立ち上がった。心配そうに駆け寄ってこようとするトレニアに俺は大丈夫だ、と手を上げて知らせると、再び建物の外へと向かった。

 

「来たね!ジュペッタ、シャドーボール!」

「くっ…ゼラオラ!!」

 

俺が叫ぶと、体の内側から力がみなぎってくるような感覚が現れた。そして、俺の両手に電気が迸り、火花が散り始める。

 

「これは――」

 

プラズマフィストの構え。そう直感した俺は、飛んできたシャドーボールを両手で受け止めた。案の定それによる衝撃は一切なく、俺はシャドーボールを投げ返した。

 

「うわぁぁぁ!?避けてジュペッタ!!」

「ジュペッ!!」

 

ジュペッタもあわてた様子だったが、何とか飛んできた(投げ返された)シャドーボールをかわした。

 

「あの感覚…もう一度、試してみるか」

 

俺は先程プラズマフィストを放った時の感覚を取り戻そうとした。体の内側で電気が作られ、それが両手にたまっていくイメージ。すると、微弱ながら俺の両手に電気がたまり始めた。そして俺は、どこで電気が作られ、どのように体を伝っているかを感覚的に理解した。俺が再びイメージをすると、先程以上の電撃が走り、火花が飛び始めた。

 

「おぉっ、こうか!!」

 

これで準備完了だ――俺は両手を、地面に叩きつけた。

俺の両手から伸びた電気は地面を這い、その後ジュペッタめがけて伸びていった。今までゼラオラだけで放っていたプラズマフィストとは、早さも威力も段違いだ。

 

「きゃぁぁぁっ!!」

 

アセロラの悲鳴が聞こえる中、俺は人生初の技を撃った余韻に浸っていた。上出来だ――どこからか、そんな声が聞こえたような気がした。

 

「これならいける――あの技もッ!!」

 

俺は確信した――ゼラオラと感覚をリンクさせた今なら、四つ目の技も出せるかもしれない。俺はゼラオラと融合した瞬間、彼の覚えている技も把握した。そしてすぐ、四つ目の技はゼラオラだけでは放つことはできない、と確信した。

 

「行くぞ、ゼラオラ!はぁぁぁ――」

 

気合を入れながら、俺は目を閉じてさらに集中力を高めた。体内で作られた電気が、今度は右手のみに集中するイメージ。が――

 

「カイ、危ないッ!!」

「――!!」

 

ジュペッタの放ったシャドーボールを、俺はよけきることができなかった。そう、この時は極限まで集中力を高めているせいで、周りからの攻撃にも気づかないのだ。

 

「畜生、どうしたら――」

「だったら私が守る!!」

 

驚く俺の目の前に、トレニアが躍り出た。

 

「私がカイのことを守って、カイが技を撃てる時間を作るから!!」

「それなら私も!!」

 

次いで、リーリエも歩み出る。

 

「私も、彼のことを守りましょう――信じていますよ、カイ君」

 

2人から期待のまなざしを向けられ、俺は頷いた。

 

「あぁ、ありがとう2人とも。すまないけど、少しだけ頼んだ!!」

 

そして、俺は再び集中した。辺りで爆音が飛び交っているが、恐らくトレニアとリーリエがジュペッタと交戦しているのだろう。2人のことが少し気がかりだ――が、今はそのことに気を向けてはいけない。集中力を極限まで高めてこそ、あの技は顕現する。今は彼女らを信じ、彼女らの信頼を無駄にすることのないようにしなければ。

 

「よし…」

 

俺はそう呟くと、電気の充満した右手を後ろに振りかざした。

 

「ありがとう2人とも!あとは俺に任せてくれ!!」

「分かったよカイ!!頑張って!!」

 

トレニアの声援に、応えている余裕はなかった。何しろ真正面から、ジュペッタが左手に最大限のエネルギーを溜めてこちらに向かってきているのだ。そのシャドークローは、先程までのものの二倍近くの大きさをしていた。

 

「けど、俺だって――」

 

タイミングを合わせ、俺は走り出した。ジュペッタめがけて、思い切り右手を引き下げる。

 

「俺だって、こんなところで負けてられないんだ――ッ!!」

 

その言葉と共に、俺は一筋の槍となった右腕を、ジュペッタに突き刺した。同時に、ジュペッタのシャドークローも俺をめがけて振り下ろされた。二つの技は膠着し、俺は空中で留まった状態になった。

 

「みてろよアセロラ…いや、ガーベラ!!」

 

俺はありったけの力を右手に込めた。ゼラオラも、同じことをしているような気がした。これが、俺たち全員の想いを込めた、必殺の一撃。暗く沈む今日を光さす明日へと導く、一筋の希望――《サンダーランス》。

 

「これが俺の、いや、俺達のッ!!この世界を照らす――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

必殺の、撃槍だぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の右腕が、俺とゼラオラの叫びが、そして――俺とゼラオラだけでなく、トレニアとリーリエの想いも束ねた槍が、遂にジュペッタを貫いた。ジュペッタは少し離れたところに叩きつけられ、チャックの開いた口から無数の魂のようなものが空へと昇っていったかと思うと、次の瞬間には動かなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてこの瞬間、アセロラの首もとで何かが紫色の光を散らして砕けたことは、俺もトレニアもリーリエも――そしてアセロラすらも、意識していなかった。




そう言えばゼラオラのステータスを乗せてませんでしたね、、、

<ゼラオラ>
特性:ちくでん
技:プラズマフィスト、サンダーランス(オリ技)、とっしん、とびげり

(サンダーランス:右手に体中の電気をため、相手に叩き込む技。
直前に電気タイプの攻撃を受けると威力が上がる。
相手をまひ状態にすることもあるが、電気が右手にたまっているときは体の他の場所は無防備になるため、使いどころが難しい技でもある。)

ユニオンスキル[雷の加護]:自身が電気技を使った時、次の相手の攻撃による状態異常を無効化することがある。
※ユニオンスキル:ポケモンと一つになっているときにのみ発動するパッシブスキル。

出逢い:マサラタウンの発電所でカイと出逢う。


こんな感じでしょうか?
次回以降も新キャラとかが出たらその都度ステータスとかは乗っけていきます!




さてさて次回予告!

「それなら、私にいい考えがあるよ!」

死の淵に立たされたカイが発現させた謎の能力、"Re:Union"。新たな戦力となったカイは、トレニア、リーリエと共にエーテルパラダイスへと向かうが…


次回[未来を貫く、希望の光槍となりて]

お楽しみに!


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第八話 未来を貫く、希望の光槍となりて

ついにRe:Union実装!そういえば最近出たポケモンの新作ゲームの名前、「ポケモンユナイト」ってなんかこの作品のタイトルに似てる気が、、、


ぴくりとも動かなくなったジュペッタを見、アセロラはしばらく硬直していた。が、

 

「そ、そんな…ジュペッタ…ねぇ、返事してよ…」

 

まるで迷子になった子供のように、彼女はその場に座り込んで泣き始めてしまった。いつの間にかゼラオラとの"繋がり"も解けた俺は、彼女が敵だということも忘れ、隣に座って頭を撫でた。

 

「すまない…俺には、こうすることしかできなかった…」

「うっ…分かってる…分かってるけど、でも…ぐすっ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うわぁぁぁぁぁぁんっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくすると、アセロラは少しずつ落ち着きを取り戻していった。俺達はリーリエのいた建物の中に入り、そこで彼女と話をしようと決めた。

 

「アセロラ、私のことが分かりますか?」

 

リーリエが静かに言う。アセロラは小さく頷いた。

 

「うん、リーリエ――昔からの友達だもん、忘れるわけないよ」

「なぁアセロラ、君はどうしてRR団に入ってたんだ?」

 

俺からの問いかけに、アセロラは小さく首を横に振った。

 

「もともとは私、ザオボーを止めに入ろうとしていたの。それでそれぞれの島のキャプテンたちで、2日前にエーテルパラダイスに乗り込んだんだけど――」

 

アセロラは顔を落とした。

 

「結果は最悪だった。戦いの中でカキとマーマネは亡くなった。マオとスイレン、それからプルメリさんは私と一緒にザオボーに連れていかれた。その時は私たちももうボロボロで、戦えるポケモンもいなかったからね、すぐに地下に連れ去られちゃって」

「それで、地下では何をされたんでしょうか?」

「…よく覚えてないんだ。何回か質問をされて、気が付いたらザオボーの言うことが全部正しいって思えるようになっちゃってて…でも今はそんなことないよ。リーリエとの昔の思い出も、全部思い出したもん」

 

アセロラからの答えに、俺達は肩を落とした。

 

「そうか、これが洗脳か…」

「彼が得意な戦法ですね。まったく、どこまでも薄汚い――ところでカイ君、さっき君がやっていた、あのポケモンと合体するのはどうすればできるんでしょうか?」

「あぁ、それアセロラも気になってたの!急に君が消えちゃうからびっくりしたよ」

 

急に話題を振られ、俺は少し戸惑いながらも答えた。

 

「あぁ、えぇと…俺もよく分かってないんだ。意識が消えたら、トレニアの声がずっと聞こえて、その後ゼラオラと会って――」

 

彼女らにマリアの名前は伏せておいた。彼女の存在がばれれば、俺がこの世界にいる理由も知られてしまうかもしれない――トレニアとの思い出を、今は大切にしておきたかった。

 

「――それで、気が付いたら俺はゼラオラになってた。それだけだ」

「うーん、抽象的過ぎてよく分かんないやー」

 

アセロラが頭を抱える横で、トレニアはあることを思い出したようだ。

 

「そういえば、カイと一つになった時のゼラオラ、ちょっと姿が変わってたよね?」

 

トレニアに続いて、リーリエも同じことに気が付いた。

 

「あぁ、そういえばそうでしたね。青かった毛や目が、カイ君の目の色みたいに赤くなったり、あとちょっと黒い毛が増えたり」

「うーん、トレーナーの見た目にポケモンが似る、か…」

 

俺はどこかで見たことある光景だな、と必死に考えていた。が、俺が答えにたどり着く前に、リーリエがいち早くたどり着いた。

 

「――私、本で読んだことがあります。強い絆で結ばれたトレーナーとポケモンが心を一つにして戦う――その本には、"キズナヘンゲ"とありました」

 

そうだ、キズナヘンゲだ――これはアニポケXY編でのこと、サトシと心を通い合わせたゲッコウガの姿が変化し、能力も上がっていた。俺とゼラオラの間にも、それと同じことが起こった。が――

 

「なんで、会って間もない俺とゼラオラの間にそんな絆が生まれたんだ?」

「それに、カイ君は"Re:Union"と叫んでいました。キズナヘンゲにそんな掛け声は要らないはずですが、何故カイ君は、その言葉を発したんですか?」

「うーん、口が勝手に動いたとしか言いようがないなぁ…」

 

もう分からないことだらけだが、今の俺たちの持つ情報量だけでは理解できるとは到底思えない。とばして、俺達は本題に入ることにした。

 

「それより、俺達はザオボーを何とかしないといけないんだろ?一体どうするんだ?」

 

リーリエはちょっと考えてから、

 

「奴らの牙城に――エーテルパラダイスに乗り込む。それしか方法はないでしょう」

「けど俺達は――正確にはあんた一人だけかもしれないけど――奴らに追われてる身だろ。そんな大胆に乗り込めるもんなのか?」

 

全員がうーん、と頭を抱えて考え込んでいる――リーリエは本を読みながら「あそこを爆破して、そこに誘導してから」などと自分の世界に入ってしまっている――と、アセロラが急に大声を出した。

 

「だったら、いい考えがあるよ!みんな私の捕虜になればいいんだよ!」

 

裏切りともとれる突然の意見に、俺はアセロラから一歩下がって尋ねた。

 

「それはどういう意味だ――俺達が捕まればやすやすと入れる、ってことか?」

「捕まった"ふり"をするんですよ、カイ君」

 

反論したのは、一歩も動じることのないリーリエだった。彼女はアセロラの言わんとしていることを、瞬時に理解したらしい。そのリーリエの発言を聞き、俺はようやく理解した。

 

「確か、エーテルパラダイスの地下に地下牢があったはずだから――長らく使ってないせいで誰も入ってないけど――そこにつなぎとめたふりをしておけばいいよー」

「そこから俺たちの力で登ってくるってことか。いいんじゃないか?」

「私はちょっと不安だけど…」

「でもそれ以外にいい方法はないだろ?今アセロラが俺達と共にいるのは絶好のチャンスだ、多少は危険を冒す価値があるよ。ウィンディの縄張りに入らずんばガーディを得ず、ってな」

「ハイリスク・ハイリターン、ってやつですね」

 

俺のことわざめいた適当な発言を理解できたのは、またもリーリエだけだった。アセロラもトレニアも、俺達の話が何一つ分かっていないというような表情をしたが、それを見なかったことにして俺は続けた。

 

「ともかく、今はこの作戦が一番有効だ。俺達ならきっとできる!全員でザオボーを倒すんだッ!!」

 

 

 

 

「おぉ――ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かくして俺達は、アセロラに捕まったというふりをして、エーテルパラダイスへの侵入を何の障壁もなく果たした。

 

「後は私が適当に話をつけておくよ。あいつは多分、1階のゲートを抜けた先――昔のリーリエの家にいると思うから」

「私の、家…」

「リーリエの居場所も、まとめて取り返そうよ。――それじゃあ、また後でね」

 

そう言ってアセロラはエレベーターを上っていった。

 

 

「それじゃあ俺達も行こう。さっさとザオボーを倒して、エーテルパラダイスを取り戻そうぜ」

「しかし、そんな首尾よくいくでしょうか…」

「まぁ私たちならあっという間に終わるでしょ!」

「ちょ、おま、それフラグじゃ」

「何者だッ!!」

 

突然後ろから声がした。振り返ると、俺達を怪訝そうな目で、エーテルパラダイスの職員がこちらを見ていた。気が付くと、俺達は彼らに取り囲まれていた。

 

「見ない顔だな…地下から上がってきたということは、お前たちは牢から出た者か!?」

「いや、そう言う訳じゃ――」

 

言いかけた俺の言葉を、リーリエが遮った。

 

「カイ君、今は話をややこしくしないように。何とかうまく言い訳をしてください」

 

リーリエの真面目な顔を見て、俺は普段はさほど使わない頭を高速回転させた。

 

「え、えーっと…俺達、ザオボーさんに呼ばれてここに来たんだ。施設を見に来てほしいって」

 

すると、俺達を取り囲んでいる職員のうちの一人が、隣にいたもう一人の職員と話すのが聞こえた。

 

「へぇ、そんな話は知らないな。お前、なんかそういう話聞いてるか?」

「いいや、まったく。それに、ザオボー様は客人に地下牢は見せないだろ」

 

まずい、あっけなくバレたか――俺は焦って、今の自分たちのこの状況を逆手に取ることにした。

 

「あぁ、そうだ!次は二階のポケモン保護区を見てもらうんだった!早速行かないと!」

 

そう言うなり、俺はエレベーターの上昇ボタンを押した。たちまち周囲に落下防止用ゲートが展開され、俺達とエーテルパラダイスの職員たちとを切り離した。俺たちを乗せたエレベーターは、そのままゆっくりと上昇を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――とりあえず追手は撒けたけど、一階には行きづらくなったな…」

「カイ君の機転はいいものでしたよ。あのまま戦闘になるより、ずっと良い対処法だと思います」

 

エレベーターの中で、俺達は今後の方針を練った。

 

「どちらにしろ、俺達はもう一度一階に戻らないといけなくなったわけだが――」

「リーリエさん、エレベーター以外にこの建物を建て移動する手段はありますか?」

「えーっと…」

 

リーリエは少し考え、すぐに何思い当たるものを見つけた。

 

「そうだ、各階のフロアには非常階段があります。そこからなら、エレベーターの時ほど気づかれにくくはなるでしょう。ただ…」

 

リーリエは顔を落とした。

 

「非常階段を使うのは、その名の通り非常時のみなので…出入り口となる自動ドアは、その時にしか開かないようになっています」

「扉を壊すことはできますか?」

「かなり頑丈ですが、時間をかければ壊せると思います。ですが、その間に向こう側から気づかれたら、非常階段の出口で待ち伏せをされるだけです。それに、無理に壊そうとするとザオボーに警告が入るのです」

「だったら――俺達で非常事態を引き起こしたらいいんじゃないか?」

 

俺の突拍子な意見に、二人ともしばらくぽかんと口を開けていたが、すぐにリーリエが口を開いた。

 

「でも、どうやって引き起こすのでしょうか?いくら私たちにはポケモンがいるとはいえ、あなたが言うほどの大きな力は生み出せないと思いますが」

「うーん、そこまでは考えてなかった…」

 

しかし他にいい案が浮かばないまま、ポケモン保護区のフロアは目前というところまで来た。

 

「ところでカイ君、あなたは前にここに来たことがあるんでしょうか?」

 

リーリエの突然の問いかけに、俺は質問の意図が見えぬまま聞き返した。

 

「えっ、何でだ?」

「だって先ほど、君は"二階にポケモン保護区がある"って言っていたので、以前もここの見学にいらしたのかと」

 

たまらず、俺は喉からングッという変な声を出した。俺がこの場所のことを知っているのは前世で蓄えた膨大なポケモンの知識のお陰であって、直接この目で見たことは一度もないのだ。

怪訝そうな目でこちらを見つめるリーリエに、実はそうなんだ、と言おうと口を開きかけたその時、頭上から声がした。

 

「おっと、ギリギリセーフだね。そこから動かないでよ、侵入者さん」

 

同時にエレベーターは二階についた。そして、俺達の目の前にいたのは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アーカラ島キャプテン、スイレンだった。




最近はラノベとかの後書きも見るようになってきたんですが、皆さん量が多くてすごいです…
私もいつかそれぐらいかけるよう日々精進していきます。


それでは、キャラクター紹介第二回!今回はこの物語のヒロインであるトレニアのパートナー、テールナーです!

<テールナー>
特性:もうか
技:かえんほうしゃ、だいもんじ、ひかりのかべ、ブレイズトーチ(オリ技)
(ブレイズトーチ:木の枝の先端に炎をまとわせ、相手に叩き込む物理技。連続使用時、威力が上がる。
自身のとくこうの上昇率に応じて威力が上がる。(最大3倍)
相手をやけど状態にすることもある。使った後、自身のとくこうが下がる。)
ユニオンスキル[魔力増幅]:自身が炎タイプの特殊技を使った後、確率で自身のとくこうが上がる。
出逢い:カイとトレニアが逃げていた森の中で、彼らを誘うように出逢いを果たす。

※パッシブスキルの性質上、彼女がオーバーヒートみたいな炎タイプの高威力特殊技を覚えることはきっとないでしょう…きっと。



それでは次回予告!

「私の灯はまだ――消えないッ!!」

スイレンの策略により、彼女のコレクションケース――冷凍室に閉じ込められたカイ達。少しずつ凍えていく中、トレニアに秘められた力の一端が姿を見せる。


次回[心のトモシビ]

お楽しみに!


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第九話 氷獄

前回の後書きを見てくれた方は分かったかと思いますが、タイトルを変更しました(一気に話を進めると一話分の量が多くなるから…)。
という訳で予定変更して2話分に分けます!前編と後編に分かれているようなイメージでお楽しみいただければ嬉しいです。

それでは本編どうぞ!


俺達の目の前で、アーカラ島キャプテン――スイレンは微笑を浮かべた。

 

「君たち、見ない顔だね。もしかして先月ここに配属された新人さんかな?」

 

どうやら俺達の正体に、彼女は気づいていないようだ。俺はすかさず口を開いた。

 

「あぁ、そうだ。まだここでの仕事が分からないから、俺達の上司であるあんたを探してたところだよ、スイレンさん」

 

すると、彼女は一層笑みを強めた。

 

「分かった、じゃあ教える。こっち来て」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ここ」

 

数分後、今まで黙って歩いていたスイレンが突然指をさした先は、通路の一番奥にある、小さな部屋だった。中から漂ってくる冷気のせいだろう、俺もトレニアも、そしていつもキュウコンと一緒にいるであろうリーリエでさえも震えている。

 

「君たちの仕事は、この中に入って掃除すること。先代の人がだいぶ前にいなくなっちゃったから、埃とか余分な氷とかいっぱい溜まってて――だから、お願い」

「分かった、やっておくよ」

 

部屋の中に入ろうとした俺に、スイレンがもう一言付け加えた。

 

「あーあと、部屋に入った後は必ずドアを閉めてね。ずっと開けてると、この階の植物たちに影響が出ちゃうから。扉はいつ開けてもいいけど、あんまり長く開けないようにね。それじゃあ、頼んだよ」

 

そう言うと、スイレンは廊下の角を曲がって行ってしまった。そのタイミングを見計らい。俺は二人に合図する。

 

「トレニア、リーリエさん――気づいてるよな?」

 

俺の願い通り、二人は頷いた。

 

「えぇ、もちろん」

「とっくに気づいてますよ――これが明らかなワナだってことぐらい」

 

2人に頷き返し、俺は反対側――スイレンが去っていった方向に向かって歩き出した。

 

「それじゃあ行こう、二人とも。一刻も早く、ザオボーのもとに向かうんだ」

 

2人は頷いて、俺の後ろをついてきてくれた。俺は再び歩き出す。一歩、二歩、三歩――そして四歩目を歩きかけたところで、俺は足元から嫌な予感を感じた。

 

(――!?まずい、罠か!!)

 

そう思い、慌てて足を引こうとしたものの、下がり始めた足は、まるで地面に吸い寄せられるがごとく俺の言うことを聞かず、地面をしっかりと踏んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

直後、俺の足元から鉄格子が飛び出し、俺をぐるりと囲んだ。

 

「カイ!?」

 

慌てて駆け寄ってくるトレニアに、近寄るな、と口を開こうとしたが、

 

 

 

 

 

ガゴン!!

 

 

 

 

 

直後、トレニアも俺と同じように鉄格子の中に閉じ込められていた。

 

「そん…な………」

 

冷え切った顔でトレニアがこちらを見つめる、返す言葉の見つからぬまま口をぱくぱくさせていると、不意に後ろから声がした。

 

「あーあ、捕まっちゃった」

 

驚いて振り返ると、そこにはさっきどこかへ行ったはずのスイレンが、今度は怪しげな笑みを浮かべて立っていた。

 

「どういうことだ…最初からこうするつもりだったのか?」

「えへへー、それはどうだろうねー。でも、一つだけ言えるのは――」

 

途端、彼女の顔が歪んだ。そこから放たれる殺気によって、俺は危うく尻もちをつくところだった。

 

「君たちの目論見は、ここで潰えるということだよッ!!」

 

突然口調の激しくなった彼女が、一つのモンスターボールを投げた。そこから出てきたのは――

 

「――フリージオ…?」

 

水タイプ使いであるはずの彼女が、氷タイプのフリージオを操っている。これは一体どういうことなのか、と俺が首をかしげる間もなく、

 

「フリージオ、《こごえるかぜ》!」

 

トレーナーからの命令に無言で答えたフリージオの冷気が、俺達の動きを瞬時に止めた。

 

(くっ…これは――!?)

「さぁ、君たちの仕事場に――私のコレクションルームに戻ろうか?」

 

抵抗するすべもなく、俺達はスイレンと彼女のフリージオに連れていかれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ!!」

 

乱暴に部屋の中へと放り出された俺達の後ろで、スイレンの声が聞こえた。

 

「鍵は私が持ってる。まぁ手に入れられたとしても、凍って動かないドアを必死に握りながら凍え死ぬ未来がありありと見えるけどね、ふふっ」

 

可愛げな声とは裏腹に恐ろしいことを言っているスイレンに、トレニアが質問した。

 

「さっき、ここが『私のコレクションルームって言ってたけど、どういうこと?』」

 

スイレンはなおも口元の笑みを崩さず答えた。

 

「いいよ、君たち面白いから教えてあげる。――周りを見てごらん」

 

直後、部屋の中に小さな明かりが灯り、部屋の奥までぎりぎり見渡せる状態になった。俺達はすぐさま辺りを見渡し――絶句した。俺達の周りには、氷漬けになった人ばかりがいたのだ。

 

「これは、一体…」

「すごいでしょ?私のコレクション。集めるのに結構時間がかかったんだから。特にとっておきは――あれだよ」

 

スイレンが指差す方角に目を向けた刹那、リーリエが小さく悲鳴を漏らした。

 

「なんで――なんで、ここにいるのよ――

 

 

 

 

 

 

 

マオッ!?」

 

その名を聞いて、俺は全身が粟立つのを感じた。マオと言えばスイレンと並べて語られるアーカラ島のキャプテンであり、彼女とはとても仲がいいはずだ――それなのに、なぜ彼女はスイレンに囚われ、氷漬けにされている?

 

「何で彼女がここにいるか、知りたい?」

 

不意にスイレンが話しかけ、俺はその場でスイレンの方を向いた。全身をめぐる恐怖のせいか足が冷たくなっているように感じて動けず、やむなく首だけを回すしかなかったのだ。

 

「私はね、美しいものが好きなんだよ。だから、こうしてとっといてあるんだ。私は、彼女のその表情が――希望で輝きかけた目が、絶望に打ちひしがれて再び翳る瞬間がたまらなく好きなんだよ…」

 

頬にうっすら赤みをともして、スイレンは恍惚した表情を作りながら語った。

 

「待って、スイレン!」

 

声を上げたのはリーリエだった。

 

「あなたは彼女のことが好きだったんじゃないの!?だったらどうして、こんなことを――」

「いつから人の話を聞かなくなったの、リーリエ?私はさっき言ったよ、彼女のことが好きだって。今まで曇ることを知らなかった彼女の目が初めて輝きを失った時、私は計り知れない好感を抱いたんだよ――"濡れる"ほどにね」

 

彼女の話を聞いていた俺の目が違和感を覚えたのは、その時だった。スイレンの首元に、妖しく光る紫色の物体がついていた。あれはペンダントだろうか?だが彼女があんなものをしている姿は、俺の記憶では一度もない。とすれば、なぜペンダントをしているのか?ファッションをしたくなるお年頃なのか、それとも洗脳されたことで眠っていた厨二病の人格が現れたのかなどと俺の思考が今の状況から外れかけたその時、

 

「――狂ってる」

 

小さく、しかしこの場にいる全員に聞こえるほどはっきりとした声でリーリエが呟いた。それを聞いたスイレンが、不思議そうに首をかしげる。

 

「うーん、そうかな?私からすれば、私の趣味を理解し、尊重してくれないあなた達の方が狂ってると思うけど」

「違う!私の知ってるスイレンなら、こんなことはしないッ!お願い、目を覚まして――」

 

半ば泣き叫ぶように言い放ちながら、リーリエは彼女に駆け寄ろうと足を動かそうとした。しかし――

 

ぎしっ、と音を立てただけで、リーリエの足は動かなかった。二度、三度と足を上げようとするが、まるで地面に貼りついてしまったかの如く動けない。いや、本当に地面に貼りついてしまったのでは――

そこまで考えて、俺はようやく気付いた。俺の足元から膝の少し下まで、青白い氷が一部の隙間もなく包んでいることを。先程感じた冷たさは恐怖心からではなく、物理的なものだったのだ。足が動かなかったのも、その時すでに床に貼りついてしまったためだと思われる。

 

「クソッ…ゼラオラ!!」

 

慌ててゼラオラに氷を壊してもらおうと声をかけたが、ゼラオラも足を氷に取られて動けないようだ、何度も拳を打ち付けているようだが、薄く広がっているはずの氷にはひび一つ入らない。

その様子に気づいたスイレンが、先程とは違い残忍な笑いを浮かべながら、俺達の目の前にやってきた。

 

「フフ、私の氷は、そんなものでは砕けないよ。この氷はイッシュ地方に住む伝説のポケモン、キュレムの生み出した氷から作り出したものだから――今のあなた達には砕くことも、溶かすこともできない」

 

それを聞いて、俺は全身の力が抜けていくのを感じた。それが相手の思うつぼだと分かっていても、俺は尻もちをつくことを止められなかった。

口を少し開いたまま震えが止まらなくなった俺の隣で、スイレンが囁いた。

 

「君は分かりやすいね。それに流されやすい――君は絶望に打ちひしがれながら、ここでゆっくりと凍っていくことになるよ。体も、心も――そして最後は三人仲良く私のコレクション入りだ。フフッ、君たちのその表情を明日から思う存分眺められると思うと、体の震えが止まらなくなってくるよ――ッ!!」

 

荒い吐息を繰り返すスイレンの隣で、俺は動こうとしない頭を、必死に鞭をうって回転させていた。

 

――リーリエが先ほど言っていた通り、彼女はもともとこれほど非人道的な横行はしないはずだ。やはり洗脳された際、"別の人格"を強制的に宿された、と考えていいだろう。が、問題はその洗脳を解く方法だった。思えばアセロラの時も、よく分からないまま洗脳が解け、もとの彼女に戻った。あの時、俺達は何かをした覚えもないし、彼女に何が起こったかもはっきり分からない。そして今、スイレンは新たな人格を宿されて普段とは違う言動を繰り返しているが、彼女の容姿には何ら違和感など…

 

「……ん?」

 

いや、ちょっと待て。俺は何か、大事なものを忘れている気が――だが、俺の思考はそこで、厨二スイレンの声にさえぎられた。

 

「それじゃあ、鍵はここに置いておくよ。出たくなったらいつでも出ていいから――もっとも、君たちがこの氷の牢獄の中から出られるとは思わないけどね――アッハハハハハ!」

 

 

 

 

 

 

彼女の容姿には全く似合わぬ高笑いが尾を引き、俺の耳にいつまでも響いた。気が付くと部屋のドアは既に閉じられ、部屋の中にいるのは俺達3人になっていた。




今回も読んでいただきありがとうございます!
前書きでも言いましたが急な路線変更すみません…だから小説を見切り発車で書き始めるのは良くないとあれほど((

さて、今回のキャラクター紹介は、今までと変わって(まだ2つしかやってないけど)人物紹介となります!今回は主人公であるカイ君!

<カイ>
・手持ち:ゼラオラ
・性格:一度決めたことは曲げない。すぐに一人で突っ走る。
・今作の主人公。もともとは斉藤圭という名のただの高校生だったが、不慮の事故によりポケモン世界にカイとして転生する。レインボーロケット団(以下、RR団)にさらわれた幼馴染(ポケモン世界での)であるガーベラを助け出すため、RR団との戦いに身を投じる。初めての戦いの中で、ゼラオラとの"Re:Union"の力に覚醒する。

次回は影の薄い女神サマのマリアです!お楽しみに!



それでは次回予告!

「ごめん、トレニア――せめて君だけは、ここから脱出して…くれ……」

スイレンの策略により閉じ込められてしまった3人。脱出は難航し、不穏な空気が漂う中、3人の体に異変が起こる。

次回[心のトモシビ]

急にタイトル変更してすみません!こんなグダグダな作者ですが次回も読んで下さいね!


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第十話 心のトモシビ

本文書いていたらいつもより多めになってしまいました…ちょっとだけ読みごたえが増した(気がする)ので時間がない人はいったん後回しで!

それでは本編どうぞ!


「――くそっ!!」

 

俺は自分の体を包む氷との格闘を諦め、止めていた呼吸を再開した。部屋を満たしている冷気が俺の肺を包み、思わずびくりと震える。

俺達がスイレンに捕まりこの牢に閉じ込められてから、既に20分以上が経過していた。俺達の体を包む氷は腰のあたりまで広がり、一歩も動くことはできなくなっていた。

 

「ただ力で氷を砕こうとしたら駄目なんだ…何か別の方法が…」

 

考えることは正直あまり得意ではないが、今回ばかりは必死で知恵を絞らねばならない。辺りを見渡した俺は、あることに気が付いた。

 

「ん?トレニア――何でお前、氷の侵食速度がそんなに遅いんだ?」

「ふぇっ?」

 

確かに、俺とリーリエさんは既に腹部まで氷がやってきているが、トレニアはまだ足の付け根に到達してすらいない。俺の言葉に自分の体をぐるりと見渡し、そして俺達の方も見た彼女は、「本当だ…」とぽつりと呟いた。

 

「何か心当たりとかあるか?」

 

少々尋問めいた問い方になってしまったが、彼女はそんなことはまるで気にせずにちょっと考え、

 

「うーん、私って昔から体温が高かったからかな…?」

 

と、なんだか正当性に欠ける答えを導き出した。思わず苦笑してしまう。

 

「た、体温が高いだけでこれほどの違いが出るのかよ、、、」

 

次いで、トレニアと俺達との違いに気づく。

 

「…そういえば、トレニアのパートナーはテールナーだったな?炎タイプのポケモンを連れているから、氷の進みが遅いのかもな」

 

すると、今まで黙って氷と格闘していたリーリエが突然、大きな声を上げた。

 

「それですよ、カイ君!」

「うわぁぁリーリエさん!?急に大きな声出さないでくれよ!!」

「何で今まで気づかなかったんでしょう――テールナーの炎なら、この氷も溶かせるのではないでしょうか?」

 

それを聞いた俺は、自分は何という大馬鹿ものだろう、と思った。仮にも俺は"チート系転生者"――前世で蓄えた膨大な量のポケモンの知識を、この世界でも保持している。その情報量はリーリエに勝るとも劣らないものだろう。が、大事な時に限って俺の頭は固くなってしまうようだ。氷は溶けるもの、という単純な自然現象すらも意識の範疇から抜け落ちていたのだ。

 

「それなら――テールナー!」

 

俺達とは違いまだ両手が自由なトレニアがモンスターボールを投げる。飛び出してきたテールナーは、一瞬ぶるりと身を震わせたが、すぐに自信たっぷりに笑顔を見せた。

 

「よし、テールナー――まずはリーリエさんから頼む」

「いいえ、まずはカイ君がやるべきでしょう」

 

少々予想外の返答に、俺はしばし戸惑った。

 

「…?リーリエさん、何で――」

「カイ君が元に戻ったら、ゼラオラと一緒に私の氷を砕いてください。私が先に助かっても、あなたの氷を溶かすか、砕く助けとなるポケモンは私の手持ちにはいません。全員助かるなら、その方が確率は上がります」

 

そこまで言われてしまったら仕方がない――「それじゃあよろしく頼んだ」とテールナーに一言伝え、俺は今までに起こったことを頭の中でまとめるために目を閉じた。

 

「カイ…?」

 

心配そうにトレニアが話しかけてきた。俺は一言大丈夫だ、と言って再び目を閉じる。

 

 

 

 

 

これまで、アセロラ、スイレンの二人と戦ってきて――スイレンとは直接戦ってはいないが――俺は幾つか、違和感を感じていた。普段とは全く異なる言動、加えてスイレンの首についていた妖しく光るペンダント――前者はザオボーによって洗脳されていた影響だろう。普段は眠っている人格が呼び覚まされたのか、もしくは全く別の人格が支配しているのか定かではないが、少なくともこれについては理由が説明できる。だが問題は後者だ。前述のとおりスイレンに今まで眠っていた、もしくは植え付けられたドS人格によるものと言ってしまえばそこまでなのだが、俺はそれだけではないと思っている。根拠はないが、いわゆる"嫌な予感"だ。何だか、それ自体に意思が宿っているような――

 

 

 

 

 

 

「あぁーッ!?テールナー、リーリエさんをッ!!」

 

俺の思考はそこで中断された。トレニアの涙交じりの叫びによりはっと目を開けると、そこにはリーリエが、顔の半分以上が氷に覆われた状態でこちらを見つめていた。俺も必死に体をよじって分厚い氷を割ろうとしたが、既に感覚の鈍っている俺の四肢は、動くことはなかった。

 

「駄目、です……私の前に、カイ君を――」

 

それを最後に、リーリエは氷の中に囚われた。その直前まで、体の感覚がなくなっていきながらも必死に俺達に指示を飛ばした、苦しそうな顔が張り付いたままで。

 

「許されないぞ、スイレン――いや、ザオボー!!」

 

体から猛烈な怒りが沸き上がってきたが、その熱は体現されることなく、俺の体は相変わらず感覚が鈍っているままだ。氷の冷たさからか俺の怒りもすぐに静まり、テールナーが必死に炎を出す音と、トレニアのすすり泣きしか聞こえなくなった。テールナーも必死だが、それで氷が解けることはなかった。リーリエと比べると氷の侵食速度は遅くなっているもののそれは止まることを知らず、俺の意識を徐々に奪っていく。それに気づいたトレニアが、嗚咽を漏らしながらこちらを見た。

 

「カイ、私――」

 

目に涙をこれでもかと浮かべ、泣きはらして真っ赤になった目でこちらを見つめるトレニアに、俺は先程と同じように大丈夫、と言った。が、実際は何ら大丈夫ではなかった。視界はぼやけ、目の前でテールナーが出しているはずの炎が燃える音も聞こえなくなっていた。そして、すごく眠たかった。それでも何とか震える唇を動かし、

 

「ごめん、トレニア――せめて君だけは、ここから脱出して…くれ……」

 

言い終わる前に、俺は深く冷たい眠りへと堕ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<side トレニア>

 

「ごめん、トレニア――せめて君だけは、ここから脱出して…くれ……」

 

その言葉を言い終わるか終わらないかのうちに、カイは分厚い氷の向こう側へと消えていった。

リーリエさんも既に氷の中に囚われてしまっている。残ったのは私一人だが、きっとすぐに、二人と同じ道をたどるだろう。

私の心を読んだのか、心配そうにテールナーが駆け寄ってくる。

 

「テールナー…」

 

きっと、自分を責めているに違いない。カイとリーリエさんを助けられなかったのは自分のせいだ、と。

 

「大丈夫だよテールナー。あなたのせいじゃない」

 

泣きたくなる衝動を必死に我慢しながら、震える声で慰めの言葉をかける。それに応えるようにテールナーはしばらく私を覆っている氷に向かって炎を撃ったが、ほどなくして力尽きてしまったようだ。テールナーはその場に座り込んでしまった。

 

「私はいいから、テールナー――せめてあなただけでも逃げて」

 

しかし、私の声に反して、テールナーは私を――正確には私を覆っていた氷を――震える手で抱きしめた。

 

「テールナー、あなた――」

 

足元から氷に包まれていくのも気にせず、テールナーは私の顔を見、満面の笑顔を見せた。

 

「分かった、テールナー。最後まで一緒にいようね」

 

私を覆う氷は、既に口元まで達していた。完全に意識が消えるその瞬間まで、私とテールナーは互いを見つめ合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこから先は何も覚えていなかった。気が付くと私は燃え盛る炎の中、カイとリーリエさんと共に、エーテルパラダイスの二階と一階を繋ぐ非常階段の前で立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<side ザオボー>

 

突然警報が鳴ったのは、私が外の空気を吸おうとバルコニーへの扉に手をかけた時だった。

サイレンの音とともにエントランスの扉をくぐって走ってきた職員の話を聞きながら、私はこの建物の地下にある管制室へと急いだ。

 

「――何!?突然炎が上がっただと!?」

「はい、それに火元はスイレンさんの冷凍室だと推測されています」

「何だと!?あそこを満たす冷気は温度の上昇など許さないはずなのに、まさかあそこで火が昇るとは…」

 

管制室についた私は、急いで冷凍室に設置した防犯カメラのログをチェックした。

 

「――こいつらは?」

「侵入者です。冷凍室の中に閉じ込められていたようです」

「ふむ…」

 

注意深く録画を見るが、変わったことはなかなか起こらない。そうこうしているうちに一人、また一人と侵入者の体は氷に包まれていく。防犯カメラの角度のせいで顔は見えない。

 

「ここまでは何も起きていないが…?」

「いいえ、ここからです」

 

そう言われ、再びスクリーンに視線を戻す。映っているのは先程凍った侵入者2人、そして体の大部分を氷に包まれた少女と、同じく氷で覆われているテールナーだ。しかし、テールナーごときの炎では警報を鳴らすほどの炎を生み出すことなど不可能だ。ましてあのスイレンの冷凍室の中でその威力の炎を放つなど、数万年前に眠りについたとされている伝説のポケモンであるグラードンにしか出来ない所業だろう。

 

「――?」

 

頭に次々と浮かんでくる疑問を処理しようと腕を組んで天井を見上げようとしたその時、

 

「あっ、ここです!」

 

隣の職員の叫びで再び録画に目を戻すと、そこには信じがたい光景が広がっていた。

 

 

 

 

 

体を覆っていたはずの氷が跡形もなくなっているテールナーと、その周りから広がっていく炎。見る見るうちに部屋の氷は溶けていき、侵入者である三人の氷もほどなくして解けた。が、

 

「ん?ここにいた娘はどこへ行った?」

「分かりません。彼女の所在は、今のところ不明です」

 

そんなやり取りを返す間にも、状況はめまぐるしく変わっていく。燃え盛る炎は扉を突き破り、そのまま外へと出ていった。様子を見に来たスイレンは炎と、なぜか雷に包まれ――すぐに通路の端まで吹き飛ばされて動かなくなってしまった。

 

「おい、別角度の防犯カメラの映像を見せてくれ!」

 

すぐに映像が用意される。これは冷凍室に繋がる通路を正面から写した防犯カメラだ。つまり、ここに侵入者の正体が映っていることになるが、果たしてそれはすぐにやってきた。

が、その正体を見破ろうと画面に近付こうとしたその瞬間、私は一歩も動けなくなっていた。

 

「――!?」

 

画面の向こう側に移っているのは、先ほどのテールナーだ。が、その目を見た瞬間、私の頭の中に信じがたい感情がせりあがってきた。

 

この私が、ポケモンごときに畏怖の念を抱いているだと!?

 

にわかには信じ難かった。目の前にいるのは何の変哲もないテールナーのはずなのに、私はそれ以上画面に近付くことができなかった。

何とか画面から目を離すと、私は"彼女"を呼んだ。ほどなくして現れた彼女は、このような状況にもかかわらず笑みを浮かべていた。

 

「どうしましたか、支部長?」

「そう呼ぶのはやめてくれと何度も言っただろう――ともかく、逃げ出した侵入者三人を足止めして来い。今の状況であいつらを止めるのは、君が一番適任だ」

 

私の指示を聞いた彼女は、顔に貼りついた笑みを崩すことなく頷いた。

 

「分かりました、ザオボーさん。私が行って、足止めを――いいえ、戦力の分散を行ってきます」

 

 

 

<side カイ>

 

――少し時間を遡って、15分ほど前――

 

「――ん?」

 

気が付くと、俺は何だか訳の分からない場所に立っていた。

 

「あれ、確か俺は――確か、氷の中で――」

 

それが突然こんなところまで飛ばされてしまったのだろうか?だとするとこれは夢か、それとも走馬灯のどちらかだ。

実際、この場所は見覚えがある――俺が初めて、マリアとあった場所だ。あの時も今と同じように地面がなく、自分の足が地についていることが不思議だった。

 

「おいマリア、いるなら返事してくれー」

 

俺の呼びかけに応じたのか、転生神サマはすぐに現れた。「よいしょ!」と神らしくない言葉と共に。

 

「なぁ、俺は氷の中で意識を失ったんじゃないのか?」

「うん、そうだよ」

 

どストレートな返答に、思わずがくーとなってしまう。気を取り直し、再び質問をする。

 

「それなら、ここはどこなんだ?俺の意識だけを、神の空間に持ってきたのか?」

「んー、ちょっと違うかな?正確には、君の意識が体を離れて、ここに()()()()()んだよ」

「えっと、、、それはつまり、、、?」

「つまり、君はもう一度死んだんだよ」

 

あとになってこのことを思い出した俺は、あの時叫ばなかった自分はとても偉い、と思ったものだ。あの時は氷で思考が鈍ったままなのが幸いしたのか、さほど衝撃を受けることなくすんなりと飲み込むことができた。それに俺は、もう一つ気がかりなことがあったのだ。

 

「じゃ、じゃあ、俺ってもうあの世界には戻れないのか?別の世界に、もう一度転生することになるのか?」

 

神様の答えは、俺の想像通りのものだった。

 

「普通ならそうだね。君はまた別の世界を旅することになる」

 

薄々わかっていたはずのその答えに、俺は膝を落とした。リーリエやトレニア、それにガーベラの顔を思い浮かべると、自然と涙が出てくる。

 

「そ、それじゃあ俺は…」

「待った待った、話は最後まで聞くものよ。さっき『普通なら』って言ったとこでしょ?」

「へっ?」

 

呆然とする俺を尻目に、神様は話を続ける。

 

「今回あなたをあの世界に連れて行ったのは、あなたがあの世界を救う"救世主"だからよ。今回の仕事は私のこれからの進退にもかかってるから、必死で上に請け負って特別にあんたをもとの世界に返してもいいことになったのよ」

「なッ…何ですと!?」

「今回だけは特別だからね。次に死んじゃったら、もうあの世界には帰れなくなるかもよ?次は十分気を付けてね」

 

再び涙があふれてきたが、これはうれし涙だろう。ほどなくして俺の体は輝き始め、転生の準備が整ったことを悟った。

 

「それじゃあもう一度頑張ってね、救世主くん」

 

少しずつ薄れていく俺に向かって、マリアは前と同じように(*'ω')bグッ!のサインを出した。

 

「あぁ、今度はちゃんと見せ場を作って見せるさ!」

 

おれもマリアに(*'ω')bグッ!と返した次の瞬間には、俺の意識は元の体に戻り――燃え盛る炎の中で、リーリエと並んで立っていた。

 

 

 

 

 

 

「おわぁぁ!?」

「きゃぁぁぁ!!」

 

俺とリーリエは同時に叫ぶと、出口目指して一目散にダッシュした。




今回も読んでいただきありがとうございます!
さて、今回でvsスイレン編は終わり、次回は雰囲気が優しげなあの人が登場します!
ちょっと途中文章がグダってる気がしますがちゃんと内容が伝わるものとなっていますでしょうか、、、

それでは前回に引き続きキャラ紹介!今回はしばらく出番のなかった女神マリアさんです!

<マリア>
・神界において、死んだものを次の世界に送り届けるという"転生神"の仕事を行っている。仕事の時以外は基本的に酒ばかり飲んでおり、神界中でついたあだ名は"酒吞童子"。仕事では大体なんかやらかしているため、次の転生が上手くいかなかったらクビとなる、と上から脅されていた中でカイと出会う。カイが死んだときはあぁもう終わりだと思いながらもダメ元で上に媚びを売りまくって何とか神界の掟に背ける特例として認められた。ちなみに神界でクビになった者がその後どこへ行くのかは、誰も知らない。


今後は存在を忘れられない程度にはちょくちょく出していく予定…です。多分。

さてさて次回予告!

「あらあら、皆さんお疲れでしょう?」

スイレンの牢獄を何とか抜け出した三人。ザオボーの待つエーテルパラダイスの奥へと進もうとしたその時、三人の前に意外な人物が!?



次回[こんなところで気を許す馬鹿がいるかァ!]

お楽しみに!


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第十一話 こんなところで気を許す馬鹿がいるかァ!

今回の話ですがかなり長くなってしまいました、、、その分いつもの倍ぐらい時間をかけて書いたので、是非いつもの二倍ぐらいの時間をかけてじっくり読んでいただけると嬉しいです。

それでは本文どうぞ!


一体何なんだ、この状況は。

先ほどの冷たく寂しい空間とは違い、俺の周りでは炎が燃え上がっている。俺が目覚めた時も、スイレンの氷の牢獄は炎で覆われていた。

 

「うぅ…」

 

道の脇から女性の呻き声が聞こえた。思わず大丈夫ですか、と声をかけそうになったが、相手がスイレンだと分かった瞬間、俺はぐっとこらえた。彼女は相当怒っているようだった――発言の中にも、その様子が見て取れる。

 

「あなたたち、どうやってあそこを出たのか知らないけど――私はこの炎を、瞬きする間に凍らせることができる。すぐにあの部屋に戻りなよ」

「悪いな、スイレンさん。俺達は行かなきゃいけないところがあるんだ――ゼラオラ!!」

 

先ほど俺の隣で俺と同じように凍り付いていたゼラオラは、その余韻を全く残さず、いつものようにバチバチと手から小さな稲妻を出して威嚇した。

 

同時に俺は、思考を巡らせていた。気のせいかもしれないが、これまでスイレンが話すたび、彼女の首についているペンダントは妖しい光りを帯びていた――俺の予想が正しければ、きっとあれがトリガーだ。

 

「首元のペンダントを狙うんだ!」

 

ゼラオラはちょっと頷くと、まずスイレンに電磁波を浴びせて動かなくなったところを、プラズマフィストで確実に屠った。ペンダントはスイレンの首元から離れたかと思うと、次の瞬間にはあっけなく砕け散った。

 

「う…ッ!?

 

 

 

 

 

 

ああああぁぁぁぁぁぁァァァァァァ――」

 

断末魔の悲鳴のようなスイレンの叫び声と共に、彼女の体は紫色の――ペンダントと同じ色だ――雷に包まれた。しばらくしてそれが消えると、スイレンは気絶したのだろう、目から少しだけ涙を流しながら眠っている。

 

「これは――?何をしたのですか、カイ君?」

 

後ろで一部始終を見ていたリーリエが不思議そうに俺の顔を見つめてきた。

 

「ちょっと不思議に思っただけさ。リーリエさん、スイレンは普段からあんなペンダントをつけていない、そうだろ?」

「え、えぇ…」

「だったら話は簡単だ。あのペンダントは、恐らくザオボーが誰かを操るための装置だったんだ。まぁ、ゼラオラの一撃ですぐに砕けちまったけどな」

 

少し信頼性に欠ける発言だが、先のスイレンの身に起きた事象が、俺の予想は正しいということを証明していた。リーリエはすぐに理解してくれたようだ。

 

「つまり、首元にかかっているペンダントを壊せば、相手を傷つけずに洗脳を解くことができる、ということですね」

「まぁ、そういうことだ。とにかく、俺達はトレニアを探そう――どうしてこんな炎を生み出せたのかは分からないが、こんな事態になった要因としては、彼女が一番その可能性がある」

 

ほどなくして、俺達はすぐにトレニアを見つけた。彼女の周りには誰もおらず、彼女はひたすら前進を続けていた。

 

「トレニア、俺だ!非常階段から一階に向かうぞ!」

 

しかし、トレニアは止まることはなかった。こちらを振り向こうとせず、同じペースでひたすら歩いている。

 

「お、おいトレニア――」

 

そこではじめて、彼女は俺の方を見た。彼女と目が合ったその刹那、俺の中に今まで感じたことのない感情が生まれた――幼馴染である彼女に対して、よもや恐れを抱くなんて。さらに俺は同時に、彼女の服装が変わっていることに気が付いた。長い振袖に身を通し、手には彼女の体の半分はあろうかという木の杖を握っている。

まるで、彼女に別の人格が乗り移ったようだ。しかし彼女の胸元にペンダントは見当たらない。洗脳されずに、別の人格が宿っているとは――

 

「――まさか」

 

俺の頭の中に浮かび上がってきた考えを嚙み砕きながら、俺は冷や汗を流していた。

 

「テールナー!俺の声が聞こえるなら、ついてきてくれ!」

 

ここで、トレニアは明らかな反応を見せた。驚いたかのように一瞬こちらを見つめると、表情を崩さぬまま俺に向かって頷いた。

またも俺の予感が当たった――そう、彼女は俺と"逆"だったのだ。ここからは俺の仮説だが、彼女は凍り付いていく中でRe:Unionの力に目覚め、テールナーとその身を一つにした。しかし、俺とは対照的に、トレニアの体にテールナーの人格が宿ったのだ。俺が名前を呼んでも反応しなかったのはただ無視していたからではない、自分が呼ばれていると思っていなかったためだ。そこまでをリーリエに道すがら話すと、リーリエは少し眉を寄せた。

 

「うーん、それだと戦闘中のコミュニケーションが難くなりますね。何かいい方法でもあればよいのですが…」

 

話しているうちに、俺達は目当ての場所である、下へとつながる非常階段を見つけた。火災により電気が消えているのか、出口までは暗くて見えない。

 

「うっ…」

 

それと同時に、俺の後ろでトレニアの声が聞こえた。彼女の隣ではテールナーが眠っているようだ。

 

「テールナー…いや、トレニアか!!」

「カイ、これは一体…?」

「詳しいことは降りる時に話そう、でも今はここからの脱出が先決だ!」

「う、うん!」

 

俺達は急いで階段を駆け降りて、安全だろう一階へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<side トレニア>

 

「――!!それは、本当なの…?」

「あぁ、俺もリーリエさんも見てるんだからな」

 

非常階段を駆け降りている最中、私がカイとリーリエさんから聞いた話は信じがたいものだった。曰く、私はテールナーと一体化――つまり、カイと同じ力に目覚め、それにより増幅された力であの部屋の氷を溶かすほどの炎を生み出し三人とも助かったが、その余波が外にも伝わり火事を起こしたのだ、と。

 

「でも私、そんな記憶は何も…」

「えぇ、そうでしょう。なぜならテールナーと一体化している時、あなたの体に宿っていたのはテールナーの心だったのですから」

 

リーリエさんのこの返答も信じがたいものだったが、私は無理に飲み込み、二人の話を信じることにした。

 

「っと、そろそろ出口みたいですね」

 

リーリエさんの言葉に私は顔を上げた。確かに、薄暗い階段の先で光が漏れ出ている。向こう側はかなり騒がしくなっているようだ。恐らくエレベーターがまだ機能していたのだろう、非常階段の出口付近で人が固まっていなかったのは幸いだった。

 

「きっと向こうでは混乱してるはずだ。トレニア、リーリエさん――絶好のチャンスだ、これに乗じて一気にエーテルパラダイスの奥に急ごう」

 

カイの提案を否定する人は誰もいなかった。私たちはそのまま階段を一気に駆け降りると、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外ではカイの予想通り、人でごった返していた。

 

「…ここ、こんなに人がたくさんいたんだ」

「あぁ、そうだな――そしてここにいる俺達を除いた全員が、ザオボーの手下に()()()()()

 

しばしの沈黙。

 

「こいつらは悪くないからな――全員、俺達の手で開放してやろうぜ」

「うん、もちろんだよ。その為にも、今は急がないと」

 

私の視線の先には、エーテルパラダイスの奥へとつながる扉が開いていた。上の騒ぎのせいか、幸い警備はいない。

 

「準備はいいですね、二人とも。走りますよ」

 

そして私は、カイとリーリエさんと一緒に、振り返ることなく走った――突然、声をかけられるまでは。

 

「お待ちください、皆さん」

「え…誰?」

 

私の知らない女性が、優しそうな笑みを浮かべてこちらを見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<side カイ>

 

「お待ちください、皆さん」

 

突然後ろから声をかけられ、俺は思わず足を止めて振り返った。そこにいたのは、少し予想外な人物だった。

 

「ビッケ、何でここに…?」

 

リーリエの呟きと全く同じことを、俺も感じていた。

 

 

 

 

ビッケ――彼女はエーテルパラダイスの副支部長である。つまり肩書ではザオボーの部下なのだが、彼女は彼の目論見に反発し、リーリエや彼の兄であるグラジオと一緒にそれを阻止したという――そんな彼女は一体どうしてここにいるのだろうか?前と同じように俺達を助けに来てくれるのか、あるいは――。

などと考えていると、ビッケが突然口を開いた。

 

「あらあら、皆さんお疲れでしょう?」

「――どうしてそれを?」

「あなた達の顔を見ればわかりますとも。さぁ、こちらにベッドを用意しておりますので、しばし休息をしてはどうでしょう?」

 

ビッケはその笑みを崩すことなく、俺達を見つめてきた。確かに俺達はかなり疲れている。が、急にこんな話を持ち出され、怪しくないと言える奴は正気の沙汰ではないだろう。が、そんな大馬鹿者がここに一人いた。

 

「助かります、ビッケさん!カイ君、トレニアさん、行きますよ」

「え…?ちょっとリーリエさん!?」

 

慌てて俺は、ビッケには聞こえないほど小さい声で反論した。

 

「どういうことだよリーリエさん、どう見ても怪しいだろ?」

「えぇ、しかし彼女の首元にはあのペンダントはありません。それに彼女はいい意味で前科がある――私は、彼女を信じたいのです。それに彼女はポケモンを持っていませんから、万が一のことがあってもすぐに無力化してペンダントを破壊できるはずです」

「わ、分かったよ…」

 

小声ながらも気迫のある声に押され、折れたのは俺の方だった。

 

「それでは皆さん、こちらです!見失わないようにしてくださいね」

 

こうして俺達は、向かっていた方向とは別の方向へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ビッケさん、まだなのか?」

 

歩き始めて十数分後、俺は痺れを切らして尋ねた。あれ以来、彼女は一言も発することなく歩き続けていた。

 

「いえ、もうすぐですよ!もうしばらく――あっ、あの部屋です!」

 

ビッケが指差す先には、小さな部屋が二つ用意されていた。それぞれの部屋に、ベッドが二つずつ用意されている。その他にも小さめの机やテレビまでついており、ホテルのワンルームのような部屋だった。

 

「カイさんとトレニアさんは前の部屋を、リーリエさんを後ろの部屋を使ってください。それでは、ごゆっくり」

 

その瞬間、俺の頭からは湯気の一つでも出ていただろう。その場を去ろうとするビッケに、俺は思わず声をかけた。

 

「おい待て待て待て待て!俺とトレニアが一緒の部屋で寝るだと?仮にも健全な男子であるこの俺が女子と同じ部屋でマトモに寝られると思うなよ!それに――」

「しかし、カイさんとトレニアさんはついこの前、同じことをされたと聞いていますが?」

 

今度はトレニアが顔を赤くする番だった。そして何故か俺の方に向かって一瞬なく寸前のような顔を作ると、次の瞬間には俺の頬に向かって彼女の手が唸っていた。

 

「がはっ!!」

 

急激な感情の変化のせいか、それとも彼女の平手打ちの衝撃のせいか分からなかったが、俺は鼻血をまき散らして床に倒れた。慌てた様子のビッケに対して「大丈夫です!」と大声で抗議するトレニアと、その様子を見てやれやれと首を振るリーリエが見えた。直後、俺は服の襟を彼女に捕まれ、そのままずるずると部屋の中に引きずられていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったくカイってば、余計なことを思い出させてくれたわね」

「あれはビッケさんの方から言ってきた話だろ!?」

 

部屋の中で、トレニアは散々俺に向かって文句をたれていた。

 

「第一、カイがあんな話題を振らなかったら――」

「でもお前だっていやだろ?同じくらいの年の男子と同じベッドで寝るなんて」

「それは…別に、カイとなら、嫌じゃない…けど…」

 

何故か語尾をどんどん小さくしながら目線を下げていくトレニアを不思議に思いつつ、俺は相変わらず怪しいと踏んでいるビッケのこれまでの言動について振り返ってみることにした。こう見えて、俺は直前の会話などはすべて記憶することができる。その中から、怪しいと思う点をいくつか割り出していく。

 

「…?あれ――」

 

そうしていると、おかしいという点はすぐに見つかった。

 

「そういえば、何で俺とトレニアが一緒のベッドで寝たことがあるって知っているんだ?――そもそも、俺とトレニアの名前を、何で最初から知っているんだろう…会ったことがないのに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その通りですよ、カイ君」

 

不意にどこからかビッケの声が聞こえ、俺もトレニアも顔を上げた。声の出どころはテレビだった、そこに移っていたのは、ビッケと――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女に縛られている、リーリエだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「リーリエさん!?」

「リーリエさんはこちらで預かっておきます。大丈夫、殺すことはしませんのでご安心を」

 

予想していたことだが、いざ目の前で起こっているこの状況に、俺は思わずつぶやいていた。

 

「なんで、あんたまで…あんたの首元に、あのペンダントはなかったっていうのに」

「ペンダントがない、ですって?うふふ――」

 

不気味な笑い声を漏らしながら、彼女は首元に手をかけ――服の下についていたペンダントを、俺達に見せた。

 

「――!!」

「いいですね、その顔。この際だから話してあげましょうか、カイ君。私はポケモンは持っていない…ですが、情報収集と話術はエーテルパラダイスの中では一番の達者でしてね。あなた達のことは、直前に調べ上げておきましたよ」

 

そう、彼女の狙いはこれだったのだ。言葉巧みに俺達を騙した後、戦力を分裂させて各個撃破する――かくして彼女の目論見は、ものの見事に成功したのだった。

 

「それでは頑張って取り返してきてくださいね、カイ君、トレニアさん」

 

その言葉を最後にテレビの画面が消えた。同時に俺達の部屋の床が真っ二つに割れ、俺達を暗闇へと飲み込んでいった。




最後まで読んで下さりありがとうございます!
そういえば今回の話のタイトルですが、脳死で考えてたので変わるかもしれないです…この前別小説でも同じことやってましたすいません。


それでは次回予告!

「知らないね。あたしに家族なんて、誰もいないさ」

ビッケの策略により、リーリエとはぐれてしまったカイとトレニア。彼女を探す最中、二人が迷い込んだのは――。

次回[愛を忘れた陽だまり]

お楽しみに!


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第十二話 愛を忘れた陽だまり

そういえばこの話がBDSP発売以降初更新ですね!買いませんが。

それでは本編どうぞ!


「うぅ、いてて…」

 

背中をさすりながら、よろよろと立ち上がる。隣で倒れているトレニアは、着地、もとい落下の衝撃からまだ復帰できていないようだ。

俺達とリーリエがビッケの策略によりバラバラにされ、俺達が床に空いた穴に落とされてから、早くも十分が経とうとしていた。そろそろ行動を起こさないと、リーリエがどんな目に遭うか想像もつかない。

 

「トレニア、立てるか?」

 

俺は足元で倒れているトレニアに声をかけた。が、「うぅ~ん…」という返事が返ってきただけで、彼女は全く動かなかった。

 

「しょうがない――トレニア、ちょっと失礼するぞ」

 

俺は彼女の華奢な両腕を掴んで立ち上がらせると、そのまま自分の背中へともたれかけさせ、彼女をおんぶして歩くことにした。背中に乗せる時「あ゛ぅっ」と声がしたのは気のせいだろう。彼女の体はお世辞でなく軽かった。

そのまま俺はトレニアを背中におぶったまま無言で歩いた。どうやら俺達は地下牢の一つ上のフロア――研究フロアに着いたようだ。

 

「エレベーターはどこだ…?」

 

が、歩けど歩けど現れるのは無機質なデザインの部屋ばかりで、エレベーターらしきものは見当たらない。各フロアに設置されているエレベーターは、フロア中央にある巨大な正三角形のもの一つのみだから、フロアの中心部まで行かないとエレベーターに乗ることはできない。だが、俺は今、フロアの中心部へと向かっているのか、それとも端へ向かっているのか分からなった。ただ今は、自分の勘を信じるのみ。

そうしてしばらく歩いたころ、トレニアが「んぇぁ…」と変な声を出しながら伸びをした。背中から降ろしてやると、彼女は目をこすりながら立ち上がって辺りを見回し、まだ眠気の残る目で俺と目が合い――顔が瞬時に耳の先まで赤くなり、目がかっと見開かれた。

 

「なっ…私…カイ…おんぶ…」

 

ふらふらと再び倒れそうになるトレニアを何とか立ち上がらせると、俺達は再び歩き出した。そうしてさらに三十分は迷っただろうか、俺達は遂に、他とは明らかに違うものを見つけた――エレベーターではないが。

 

「カイ、これ…」

 

不意にトレニアが指差した先には、まるでこの空間だけ別世界から引っ張り出してきたかのような違和感があった。

 

 

制服のようなものを着た男女が多数、何やら筋トレや走り込みなどをしている。その周囲では、恐らく彼らの手持ちだろう、ポケモン達が同じようにトレーニングに励んでいた。

そして彼らの中央には、朝礼台のようなものが設置されており、その上には女性が立っていた――特徴的な、ピンクと黄色の鮮やかな髪。

 

「プルメリ――!?」

 

驚きのあまり思わず発した声は、どうやら彼女の耳にも入ってしまったようだ。彼女の体がピクリと震え、次いで俺達を、猫のように鋭い目が睨みつけてきた。

 

「まったく、あんた達かい。ザオボー様の鼻先を飛び続けてる害虫ってのは」

「害虫、だと?」

 

俺の返答に、プルメリはフンと鼻を鳴らした。

 

「そうさ、あんた達は害虫だ。鼻先を飛び続けるくせに力もない――ザオボー様の、そしてあたしの手下になるとここで誓えば、ここで面倒を見てあげるけど」

「ザオボー様、だと――お前には、あんな外道より大事な人がいるんじゃないのか!?」

 

俺の叫びに、またしてもプルメリはフンと鼻を鳴らすだけだった。

 

「知らないね。あたしに家族なんて、誰もいないさ――お前たち、やっちまいな」

 

彼女の一声と共に、周りの男女とそのポケモンが、声を荒げながら一斉に襲い掛かってきた。同時に、背後の扉が音を立てて閉まった。どうやら、俺達はこの場で始末するらしい。

 

「くっ――ゼラオラ!!」

「お願い、テールナー!」

 

俺とトレニアはすぐさまゼラオラとテールナーを繰り出し応戦した。ここの力で見ればこちらが有利だが、それでも相手は数の多さで仕掛けてくる。先頭が終わった時には、俺達は疲弊しきっていた。

 

「へぇ、意外と骨があるじゃないか。あんた達は害虫ではなかったようだね」

「そうかい、それじゃあ訂正してくれよ、さっきの言葉」

「あぁ、訂正するとも。あんた達は害虫じゃない――」

 

そしてプルメリは、一つのモンスターボールを投げた。そこから出てきたのは――エンニュートだった。それも、かなり大きい。きっと"ヌシ"に匹敵するほどの大きさだ。

 

「――あんた達は、私たちの計画を邪魔する"叛逆者"だ。ここで始末させてもらうよ」

 

同時に、凄まじい圧が俺達を襲った。テールナーはこれに耐えきれず、その場にがくりと膝をついてしまった。

 

「テールナー!?」

「トレニア、テールナーはモンスターボールの中に戻しておいてくれ。万が一何かあったら危険だ」

 

俺の言葉に、トレニアは首を縦に振った。

 

「…分かった。カイ、負けないで」

 

そうしてトレニアはテールナーをモンスターボールへと戻すと、少し下がって入り口辺りまで来た。当然扉は閉まったままなので、脱出することは叶わないが。

 

「こいつを倒したら、あんたとも相手してやるよ。それまでせいぜい、自分の仲間の灯が消えていくのをそこで見ているんだね――スモッグ!!」

 

突然、エンニュートが仕掛けてきた。技は《スモッグ》――広範囲に毒を混じらせたガスを放出し、相手を毒状態にする特殊技だ。

 

「ゼラオラ、プラズマフィストだ!!」

 

対して、俺は《プラズマフィスト》でスモッグをかき消し、カウンターの攻撃を狙った。見事に俺の狙いは的中し、紫の煙は爆散した。そして視界が晴れた時、エンニュートには確実にダメージが入っていた。

 

「よし、いいぞ!!そのまま続けて――」

 

言いかけた時、俺の視界が歪んだ。軽く頭を振って試合を続行しようとするが、

 

「なっ…何が起こって――」

 

そのまま何もできず、俺は膝をついて倒れた、意識が遠のく直前に俺が見たのは、勝ち誇ったかのようなプルメリの笑顔だった。




今回も読んでいただきありがとうございます!

今回はかなり短めとなってしまいましたがストーリーの進行上ここで区切らないと話が面白くならないのでごめんなさい許してください。代わりに次のお話は少しボリュームを並盛りからちょい大盛り程度に増量しますから…

それでは次回予告!

「いい加減、あなたにはお仕置きが必要のようですねぇ…」

カイ達とはぐれてしまったリーリエ。ポケモンも奪われた彼女は成す術もなく、ビッケに連れて行かれた先は――

次回[RE:EDUCATION]

お楽しみに!


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第十三話 RE:EDUCATION

そういえばさっきこの作品を見返してたんですが、第六話だか第七話だかの感想で「夏休み中には15話ぐらいまで行きたい」って言ってたんですね、、、要するにフラグ建築ダメ、ゼッタイ。

それでは本編どうぞ!



――そうか。

 

膝をつき、朦朧とする意識の中、俺はようやくプルメリの意図していたことが分かった。先程彼女が放ったスモッグの対象はゼラオラではなく、俺だったのだ。ゼラオラであれば威力の低いスモッグなどいとも簡単に脱出できると見込んだのだろう、果たして俺達は、彼女の策略にまんまとはまってしまったのか――そこまで考えたところで、視界が暗転した。

 

倒れ込んだ俺の懐の中身が、激しく光っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<no side>

 

――勝った。

 

目の前の少年が膝を突いた時、プルメリは確信した。いくら相手がゼラオラ――幻のポケモンと言えど、全方向に注意を向けられるわけがない。このままあとはこの部屋をスモッグで満たし、後ろにいる少女もろとも瀕死の状態に追い込む。そしてザオボー様の元へ連れて行けば、私はさらに力を得ることができる。そうすれば――。

 

「ん……?」

 

そうすれば、何だったか――ザオボー様の下でこの活動を始め、今と同じようにして手下を増やしていった頃から感じ続けていた疑問だった。何か、大切なことを忘れている気がする。とても大切なことを――。

 

「……チッ」

 

考えれば考えるほど、頭の中で紫色の光がごうごうと渦を巻き続ける。彼女は仕方なく考えるのをやめ――これも何回目だろうか――目の前で倒れている敵をザオボー様の下へ連れて行こうと一歩踏み出し――

 

 

 

「――!!」

 

 

視界の端から飛んできた電撃を、プルメリは危ういところで躱した。先程のゼラオラが、スモッグをかいくぐってやって来たのだろう。だが体内への吸引は少なからずしてしまったようで、苦しそうな表情が見える。

 

「……フッ。所詮――」

 

こんなものか、と独り言を口にしようとした途端、彼女の目の前にいる少年が――正確には、その少年とゼラオラが――突然輝きだした。

 

「なっ……!?」

 

思わず目を覆う彼女の目に、初めて恐怖の色が浮かんだ。何だ、これは――困惑と怯えで身動き一つとれなくなった彼女の前で、光は互いに引き合って一つとなり――火花を散らして、爆散した。いったい何が、と思ったのも束の間、そこに立っていたポケモンを見、彼女は思考すらも止まってしまった。

 

 

目の前に立っていたのは、先ほどと変わらずゼラオラである。だが、先ほどのそれとは全く違うものであることを、プルメリは全身が粟立つほど感じていた。

 

 

 

――この私が、怯えている!?

 

 

 

「…ッ、エンニュート!!」

 

恐怖心をごまかそうとするかのような彼女の呼びかけに応え、エンニュートが先ほどよりも威力の高い技《ヘドロウェーブ》を繰り出す。だが、目の前で佇む《焔眼のゼラオラ》は、右手を一振りしただけで全身から電撃を放ち、ヘドロウェーブを相殺していった。

 

「くッ…!エンニュート、もう一度――」

 

だが、ゼラオラの方が早かった。右手に電撃を集め、一閃の槍と化したその手で、エンニュートを一撃で部屋の端へと吹き飛ばしたのだ。エンニュートはしばらく痙攣したと思うと、やがてその場でぐったりと動かなくなった。

 

「そんな――」

 

怖れから身動き一つとれない彼女の首元に、一筋の光が閃いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<side カイ>

 

「――やったか」

 

目の前で動かなくなったプルメリを一瞥し、俺は小さく呟いた。いつの間にかトレーニングをしていた下っ端たちはどこかへ退散したらしく、部屋の中には俺とトレニア、そしてプルメリの三人しかいない。

 

「カイ――大丈夫?」

 

ゼラオラとの融合が解けた俺に、トレニアが話しかけてきた。

 

「あぁ、俺は平気だ。…さて、こいつの処理だけど――」

 

考え込む俺の横で、トレニアが笑顔で答えた。

 

「そっとしてあげようよ。プルメリさんも、ここにいるのが一番いいんだと思う」

「あぁ、そうだな。俺達は、早くリーリエさんを見つけないとな」

 

 

 

意識を失っているままのプルメリの横で、壊れたペンダントが断末魔の光を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――けれど、リーリエさんはどこにいるんだろう…?」

 

エレベーターを探す最中、トレニアが不意に口を開いた。俺は今までの出来事とエーテルパラダイスの構造を結び付けて考えていた。

 

「――ザオボーの近くだ」

「え…?」

「初めて俺達がリーリエさんと会った日の夜のこと、覚えてるか?」

「うん、なんとなくだけど…」

「あの時襲撃に来た奴ら、全員エーテルパラダイス(ここ)の制服をしていたんだ。つまり、ザオボーはリーリエさんを――自分の目的を遂行する上での危険因子を、排除したかったんだろう」

「確かに…けれど、なんでそれでザオボーの近くにいるって思うの?」

 

俺は、ザオボーの言動や性格――あくまでゲーム中での、だが――を想像していた。

 

「あいつのことだ、最後は自分の手で葬りたいと考えているんだろう」

「そんな…」

 

落ち込むトレニアの横で、俺は再び唸った。

 

「しかし、それが分かったところで、ザオボーはどこにいるんだ?まずあいつが保護区に行くことはないとしても、この広さから人間2人を探し出すのは、いくらなんでも――」

 

そこまで言ったところで、俺の目に、今まで見たことのないものが見えてきた。同時に、トレニアが叫ぶ。

 

「あっ、カイ!あれってもしかして…」

 

少しずつ進んでいくにつれ、俺達の予想は確信へと変わっていった。

 

「あぁ、間違いない。地上階に通じるエレベーターだ」

「やったね、カイ!それじゃあ、早く上に――」

 

その時、俺はエレベーターの近くに人影を見た。どうやら寝そべっているようだが、明らかにリーリエのものではない。

 

「トレニア、待て!!」

 

エレベーターへ駈け込もうとする寸前で何とか止まったトレニアが、ふくれっ面でこちらを見た。

 

「もう、何なのよ?これですぐにリーリエさんを探しに――」

「待つんだ、トレニア。あそこに誰かいる」

 

俺が指差す先を見、トレニアも気づいたようだ。

 

「本当だ…それに、あの人影は――」

 

トレニアが言い終わる前に、「うぅ~ん…」と言いながらその影が起き上がった。

 

「トレニア、隠れろ!」

 

しかし、存在を悟られないためにおれが出した小声の叫びは、トレニアには届かなかった。彼女の目の前で、その影はゆっくりとこちらに向かっていき――

 

「!?び、ビッケさん!?」

 

素っ頓狂な声を上げたのはトレニアだった。彼女もさすがに危険を感じたのだろう、じりじりと俺の下へ下がってくる。

 

「あなたは…」

 

まだ意識が朦朧としていたビッケは、トレニアの顔を見、目を見開いた。そして、驚くことにその場で涙を流し始めたのだ。

 

「あぁっ…私は、あなた達になんてことを…ッ」

「び、ビッケさん!?いったん落ち着いて――」

「いいえ、その前に謝らせて!本当に、ごめんなさい…私のせいで、あなた達はリーリエと…」

 

明らかに、今までのビッケとは様子が違う。不審に思った俺は、警戒しつつも彼女に一歩近づいた。

 

「ビッケさん…首元を、見せてくれ」

 

少し頷いた彼女は、上着を脱いで首元を露わにした。そこには――紫色の、壊れたペンダント。彼女は、既に何者かによって洗脳を解かれた後だった。

 

「どういうことだ…?ザオボーなら、決してこんなことはしない。まさか、リーリエさんがやったのか…?」

 

独り言を続ける俺に、ビッケはかぶりをふった。

 

「いいえ、私は確かにリーリエをザオボーの下へ送り届けました。そして、あなた達も始末しようとエレベーターに乗って――気が付いたら、ここで倒れていました」

 

何も分かっていないのは、彼女も同じのようだった。その疑問を後回しにし、俺は一番聞きたかったことを彼女に聞いた。

 

「なぁ、リーリエさんをどこに送り届けたんだ?」

 

その答えは、真っ先に俺が思いつくべき場所だった。

 

 

 

 

 

「エーテルパラダイスの奥――リーリエとその母親が、すんでいた場所です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待ちしていましたよ、お二人とも」

 

俺達が屋敷に入った途端、ザオボーの姿がホログラムで映し出された。

 

「ザオボー、貴様…」

「まぁまぁ、そう怒らないで。あなた達を、歓迎しようと思ったのですよ。お二方に、最高のショーをお見せしようと思いましてね」

 

今度は、トレニアが声を荒げた。

 

「歓迎、ですって…?リーリエさんは、どこなのよッ!!」

 

しかし、ザオボーは一言言っただけだった。

 

「屋敷の奥に来なさい。ここまで頑張ったお二人に免じて、教えてあげましょう。それでは、次は面と向かって話すとしましょうねぇ…」

「待て、ザオボーッ!!」

 

しかし、ザオボーの姿は消え、奴の声も聞こえなくなった。

 

「カイ…」

 

心配そうにこちらを見るトレニアに、俺は視線を変えずに答えた。

 

「あぁ、行こう。ザオボーを倒しに――そして、リーリエさんを助けるために」

 

部屋の奥に設置されていたワープを抜け、俺とトレニアは決戦の地へと赴いた。




最後まで読んでいただきありがとうございます!気が付けば年が明けてから一月が立とうとしていました。ようやく更新できたけど月一ペースはまずい…テストも近いですが何とかやっていきます。まだ死にたくねぇ…

それでは次回予告!

「──やって下さい、カイ」

彼女は、悪夢の中で魘されていた。解放される術は、ただ一つ。けれど、それは諸刃の剣。

命を散らす、その前に――。

次回[光りて]

お楽しみに!


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