ありふれた魔王と死の支配者 (せんせん)
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プロローグ

初めての二次小説なので更新がかなり遅くなるかもしれませんが気長にお付き合いをしていていただければ幸いです。駄文があるのですが、お楽しみください。


~???side~

 

 月曜日、それは一週間の中で最も憂鬱な日、数多くの学生や社会人が早く日曜にならないだろうかと願っていることだろう。

 しかしこの俺、鈴木(すずき) (さとる)にとっては学校が始まるこの日はとても楽しみな日である。だが今は焦っていた。

 

「まずいな、後10分ほどで始業の(チャイム)がなってしまう

…ったく、なぜ生徒会の仕事が朝からあるんだ!」

 

 彼は高校2年生ながら生徒会長に就任している。

 その理由は彼はあのハーバード大学から勧誘を受けるほど頭がよく、最近では彼のだした論文で世界中の科学者が度肝を抜かすほど素晴らしいものだったとか、そのため成績は学年では常に一位を取り、教えるはずの教師達も逆に教わることが多く、分からない所があれば他の生徒達にも丁寧に教えてくれるため、教師と生徒からの信頼が高かったため会長に就任しているのだ。

 

生徒会の仕事を終わらせた彼は急いで教室に向かう

そして後もう少しで教室が見える所で

 

「よぉ、キモオタ!また、徹夜でゲームか?どうせ

エロゲでもしてたんだろう?」

 

「うわっ!キモ~。部屋に引き込もって徹夜でエロ

ゲしてるとかマジでキモいじゃん~♪」

 

 すると廊下に下品で不快な声が響き渡る。このサルの方がまだマシな声をあげているのは檜山(ひやま) 大介(だいすけ)斎藤(さいとう) 良樹(よしき)近藤(こんどう) 礼一(れいいち)中野(なかの) 信治(しんじ)の4人組、通称「小悪党組」だ。

 そいつらから「キモオタ」と呼ばれているのは俺の友人の南雲(なぐも) ハジメだ。彼とは小説(ラノベ)に興味をもった時にどういった物が良いのか分からず困っていた所に声を掛けられアドバイスをもらいそれから友好を築いたのがキッカケだ。

 ちなみに悟がそのお礼に勉強を教えているためクラスでは悟とある問題児の次の3位という結果を残している。

 

 さて、ハジメは確かにオタクではあるがキモオタと呼ばれるほど身だしなみや言動が酷いというわけではない。平凡ながらも中性的な顔立ち、髪もきちんと整えており、積極的に話すわけでもないがコミュ症ではない、こうして見ると一般的な普通のオタクである。では、なぜ彼はこんなにもクラスから毛嫌いされているのか?

 それは一人の女子生徒の存在にある。

 

「南雲君、おはよう!今日もギリギリだね。もっと

早く来ようよ」

 

 ハジメに声を掛けたのは白崎(しらさき) 香織(かおり)。 

 腰まで伸びている黒髪、おっとりとした目が特徴の女の子でこの学校では「二大女神」と呼ばれ男女問わず絶大な人気を誇っている。そして彼女こそハジメが毛嫌いされている原因でもある。

 彼女は学校では誰にでも優しいのだが何故かハジメには特に優しい(まぁ、彼女がハジメに恋してるからなのが)。理由を知らない男子達(バカども)は普段から授業中居眠りをしているハジメに香織が構うため嫉妬と憎しみがこもった目で見ている、女子達は自分と一緒にハジメにも勉強を見て貰っているため男子達に呆れた目線を送っている。

 そんな二人に近づく足音が3つ。

 

「おはよう。南雲君。いつも大変ね」

 

 まず最初に挨拶したのは香織の親友の八重樫(やえがし) (しずく)

 ポニーテールにした長い黒髪がトレードマークで鋭い瞳ながらも柔らかさも感じられるためカッコイイという印象を与える。

 身長172cmという女子にしては高く、引き締まった身体つき、その凛とした佇まいは侍を想像させる。

 実際、彼女の家は八重樫流という剣道場を営んでおり彼女自身小さい頃から剣道をやっているため一度も大会では負けたことがなく美少女剣士として雑誌に載ることも多く熱狂的なファンもいる。後輩の女子からは「お姉様」と呼ばれているが本人はあまり嬉しくないようだ。

 

「おはようさん、ハジメ。親御さんの手伝いもいい

があんまり無茶すんじゃねぇぞ」

 

 次に挨拶したのは香織と幼なじみの坂上(さかがみ) 龍太郎(りゅうたろう)

短く刈り上げた髪に気合の入った目、身長は190cmもあり柔道部ではエースとして活躍している。

 一年の頃は正しく脳筋と呼ばれる人種だったのだが部活に入ろうと思い柔道部に仮入部した時に坂上と組み手をしたところ彼の動きはよみやすかったため勝負は一瞬で終わってしまい観戦していた物や負けた本人でさえも呆然としてしまった。

 その帰り際「なんでそんなに強いんだ?!」と質問を受けたので「君の動きは本能に従った動きしか出来ていないから考えて動けばもっとよくなる」とアドバイスしたのだがどうやら彼は勉強が苦手みたいだったので教えてあげることにした。最初は苦戦したものの慣れてくるとスポンジが水を吸うかのように知識を吸収しはじめ今ではクラスで10位以内に入る成績を残している。

 そんな彼も最初はハジメのことを毛嫌いしていたのだがテスト期間中に一緒に勉強することになりその時にハジメの親がゲーム会社の社長で技術を学ぶために親の仕事を手伝っていることを知り、人それぞれに努力の意味が違うことを知りハジメと和解。今では名前で呼び合う仲だ。

 

この二人は、ハジメと友好的な関係なのだが問題は()()()

 

「香織、また彼の世話を焼いているのかい?本当に、香織は優しいな」

 

 最後に嫌みったらしくキザなセリフを言ってるこの男の名は天之河(あまのがわ) 光輝(こうき)

 容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能な完璧超人だ。サラサラの茶髪と優しげな瞳、180cm近くの身長に細身ながら引き締まった体、誰にでも優しい。

 これだけなら女子にモテるのは頷けるのだがこいつにはある問題点がある。

 

「おはよう、八重樫さん、龍太郎君、天之河君。はは、まぁ、自業自得とも言えるから仕方ないよ」

 

「それが分かっているなら直すべきじゃないか?いつまでも香織の優しさに甘えるのはどうかと思うよ。香織だって君に構ってばかりはいられないんだから」

 

「いや~、あはは…」

 

「? 光輝君、なに言ってるの?私は、南雲君と話したいから話してるだけだよ?」

 

「えっ ……ああ、ホント香織は優しいな」

 

 こいつの問題点、それは自分の都合のいいように物事を考えることだ。今も香織がハジメに声を掛けるのは彼女が優しいからと解釈しておりハジメのことは頭がいいだけの不真面目な生徒と認識している

 しかも、こいつはいつも正義正義と語っているがハジメが小悪党組に暴力を振るわされていた時に俺がそれをカメラに抑え学校に提出しそいつらに罰則が決まろうとした時に何故かハジメではなく小悪党組を擁護し始め挙げ句の果てには、「鈴木と南雲が共謀し彼らを陥れるためにわざと挑発して怒るように仕向けたんだ!」と言った時はあまりの茶番に言葉が出なかった。普通なら証拠もあるためこちらが有利のはずなのに学校側は天之河の言葉を無下にするわけにもいかず小悪党組には厳重注意だけで済ませた。この事から俺は天之河を「正義感があるだけのクソ野郎」と認識した。

 

 これ以上聴いているとハジメが不憫な思いをすると考え急いで教室に向かった。

 

───────────────────────

~ハジメside~

 

 僕が白崎さんと天之河君をどう対処すればいいのか考えていると後ろの扉から誰かが入ってくる。

 

「おはよう、ハジメ」

 

 振り向くとそこには僕の数少ない友人の1人、悟がいた。

 

「おはよう、悟。今日は遅かったね?」

 

「ああ、生徒会の仕事が朝からあってね。それで遅れた。」

 

「生徒会長も大変だね」

 

「全くだよ」

 

 僕達が何気ない会話をしていると今度は白崎さんが声を掛けてきた。

 

「おはよう、鈴木君」

 

「おはよう、白崎。おや?何か朝からいいことでもあったのかい?」

 

「うん!また朝から南雲君と話せたから」

 

 白崎さんがまた爆弾発言を言うとクラスの男子達から殺意のこもった目で見られる…コワッ!

 すると悟は檜山君達に目線をやると…ハァっと大きなため息をついた。

 

「ああ?おい鈴木、なに俺達の顔見てため息ついてんだよ?」

 

「檜山、お前達の声が廊下に響き渡っていたぞ。それにハジメのことをキモオタと呼んでいたな?」

 

「キモオタをキモオタと呼んで当然だろ?」

 

檜山君が笑いながら言うと他の3人も笑う。

 

「ならばお前達はキモオタ以下の存在ということだな」

 

「……どういうことだ?テメェ」

 

4人は笑うのを止め悟を睨む。

 

「お前達は一度でもハジメよりいい成績を残したことがあるのか?……無いだろう?しかもお前らの成績は学年では最下位に近い。人をバカにする暇があるなら、まず自分達が努力しろ」

 

「グッ……」

 

 悟に一方的に言われ何も言い返せない彼らは歯ぎしりをする。だが、それに天之河君がまったをかける。

 

「おい!鈴木!」

 

「ハァ……何だ?天之河」

 

「檜山達に何てことを言うんだ!彼らだって彼らなりに必死に努力をしているんだぞ!」

 

「ほぅ?人をバカにし、暴力を振るうことがこいつらの努力とはよく見ているんだな」

 

「そんな事は言っていない!」

 

 2人の言い争いが頂点(ピーク)(たっ)しようとした時

 

 キーンコーンカーンコーン~♪キーンコーンカーンコーン~♪

 

「おっと、チャイムがなってしまったな。では天之河、HR(ホームルーム)が始まるからこれで失礼させてもらう」

 

「待て!話しはまだ終わって・・・」

 

「はいはい、さっさと席に着きましょう。光輝」

 

「早くしねぇと先生に迷惑がかかっちまうぜ。」

 

 その場を去ろうとする悟に天之河君はなおも食い下がろうとしたが親友の二人に言われ渋々ながら了承した。

 悟はそんな二人に向かってペコリと礼をすると龍太郎君は親指を立て、八重樫さんはパァ…と瞳を輝かさせた。

 

───────────────────────

~悟side~

 

 昼休み、午前の授業が終了しハジメを昼飯に誘おうとした時

 

「お義兄(にい)ちゃ~ん♥️」

 

俺に甘えるような声を聞きながら突如体に衝撃が走る。

 

「ぐふっ!…何だ恵里(えり)か」

 

「むぅ~ひっど~い!せっかく可愛い義妹(いもうと)がお昼に誘って挙げようと思ったのに~!」

 

 俺の腰部分にしがみつき頬を膨らませているこの少女の名は()() 恵里。

 ショートカットの髪にメガネをかけている女の子で前は中村(なかむら)という(せい)だったのだが()()()()()により今は鈴木家の養子となり俺の義妹となっている。

 それよりも先程から俺の腰に"むにゅん"と女性特有のものがあたっていた。

 

「おい、あたっているぞ」

 

「ええ~?あててるんだよ~♪」

 

「・・・」

 

 恵里はハジメとも仲がいいのだが、そのせいか最近ではこういったネタを使うこともある。俺達がこんなやりとりをしていると

 

「す、鈴木君。お昼一緒に食べない?///」

 

するとお弁当箱を持ちながら八重樫が声をかけた。

…頬が赤いのは気のせいだろうか?

 

「ああ、俺は構わないが…」

 

「ええ~でも八重樫さんは天之河君がいるから別にいいんじゃない?」

 

 俺が了承しているのに何故か恵里が不機嫌になりながら文句を言う。

 

「大丈夫よ。光輝は今、香織を追いかけるのに夢中になっているから」《ピキピキ》

 

「だったら別にお義兄ちゃんを誘う理由はないよね?」《ピキピキ》

 

 二人は眉間にシワを寄せながら睨みあっており、そんな二人を置いて俺はハジメの方に視線を向けると白崎と天之河が何やら話しているようだった。

 

「香織。こっちで一緒に食べよう。南雲はまだ寝足りないみたいだし、せっかくの香織の美味しい手料理を寝ぼけたまま食べるなんて俺が許さないよ?」

 

天之河は性懲りもなく白崎がハジメに近づかないようにしようとしたのだが

 

「え? なんで光輝君の許可がいるの?」

 

「「「ブフッ」」」

 

 白崎が素で聞き返したため、聞いていた俺や睨みあっていた二人も思わず吹いてしまった。天之河は苦笑しながらもめげずに話しているのだが、すると突然ハジメが床を見て固まっていた。

 俺もつられて床を見てみると天之河の足元を中心に魔方陣のようなものが浮かび上がっていた。それが徐々に光を増していき教室にいた全員が身の危険を感じた。その場にいた愛子先生が咄嗟に「みんな!教室から出て!」と叫んだが時すでに遅し。

 俺は少しでもその危険から二人を守るために抱き寄せた。すると光は教室全体を包みこんだ。ーー

 

 

 

 

 

ーー光が収まるとそこには生徒の姿はどこにもなく残っているのは倒れている椅子と食べかけの弁当、まだ飲み干していないペットボトルだけだった。




鈴木 悟
容姿:黒子のバスケの緑間真太郎(なのだよは言わない)
身長:188cm
体重:78㎏
誕生日:4月13日
血液型:AB型
詳細:警察署長の父と敏腕弁護士の母を持ち常に物事を冷静的に判断しないと気がすまない。勉強ができない人よりも常識を理解していない人を嫌っている。一見冷徹そうに見えるが大切な人がバカにされたり危険な目に遭うと熱くなる面もある。
普段は相手の考えることもわかるのだが自分に向けられた恋愛感情などは全然気づかない。ハジメからは「天才の朴念人」と評されるほど。


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異世界転移

遅れてしまい申し訳ありませんでした。なかなかこれといったオリジナル展開が決まらず時間がかかってしまいました。


~悟side~

光が収まるのを感じた俺はまず、抱き寄せた二人の安否を確認した。

 

「恵里、八重樫、無事か?」

 

「う、うん。大丈夫だよ」///

 

「……」///

 

何故か頬を赤らめていたが俺は二人の無事だと知るとすぐに周囲の状況を確認した。どうやらハジメや白崎、教室にいた全員はここにいるようだ。自分達がいる場所は何かの儀式に使うような広間でその台座の上にいるようだ。それを取り囲むかのように周りには祈りのポーズをしている大勢の人がいた。やがて一人の老人が近づいてきて

 

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会の教皇の地位に就いております。イシュタル・ランゴバルトと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

 

そう言いながら優しく微笑むのだった。

 

~~~~~~

 

現在、我々は長さ十メートルもありそうなテーブルが幾つも並んである大広間まで案内された。全員が用意された椅子に座るとまるでタイミングを見計らったかのようにカートを押しながらメイド達が入ってきた。地球では見られない本物のメイドの姿に男子達は大興奮だ。

 

(なるほど、ハニートラップで俺達を籠絡させるつもりか。どうやらあのイシュタルという老人には警戒がひつよ(クイッ)いっ!?)

 

俺がメイドを見つめながら思考に耽っていると急に痛みが走った。横をみると隣に座っている恵里が頬を膨らませながら俺の脇腹をつねっていた。

 

何をするんだ?恵里

 

…だってメイドさん達に見惚てたじゃん

 

誤解だ。俺は観察していただけだ。だから放してくれ

 

………わかった

 

恵里は不服そうにしながらも放してくれた。全員が落ち着くのを確認するとイシュタルは事情を説明した。

要約するとトータスには人間族、魔人族、亜人族の3つの種族がいて、この内人間族は魔人族と何百年もの間戦争を続けている。

魔人族は個の力が強いが数が少ないため、人間は数の多さを活かしてなんとか魔人族と戦力の均衡を保っていたが最近になって魔人達が魔物を使役するようになり数のアドバンテージが崩れたそうだ。そのため、人間族は危機的状況に追い込まれている。故に、救いを求めるため神に祈りを捧げたとの事。

 

「あなた方を召喚したのは"エヒト様"です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方は喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される前にエヒト様から神託があったのですよ。あなた方という"救い"を送ると。あなた方には是非その力を発揮し"エヒト様"の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救っていただきたい」

 

「ふざけないで下さい!結局、この子達に戦争させようってことでしょ!そんなの許しません!ええ、先生は許しませんよ!私達を早く帰して下さい!きっとご家族も心配してるはずです!あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

 

説明をするイシュタルに反論したのはあの場にいた社会科教師の畑山(はたやま) 愛子(あいこ)先生だ。

彼女は今年で25歳になる年齢で150cmという低身長に童顔、それでいて生徒のことを誰よりも一番に考えている。そんな姿から生徒達から親しみを込めて「愛ちゃん」と呼ばれている。(本人は威厳のある教師を目指しているのでその名で呼ぶと怒るのだが)

 

「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」

 

「ふ、不可能って……ど、どういう事ですか!?喚べたのなら帰せるでしょう!?」

 

「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間には異世界に干渉する魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意志次第ということですな」

 

「そ、そんな……」

 

愛子先生は脱力したようにストンと椅子に腰を落とす。周りの生徒達が騒ぎ出す。

 

(なるほどな、()()()()()()()()()()()()()()と主張することでこちらが戦わない選択肢を無くす魂胆か。…ここは、安易に返事をするよりも保留にしていた方がいいな)

 

俺がなるべく傍観に撤していると安易に返事をするバカがいた。

 

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだそれを知って、放っておくなんて俺はできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない……イシュタルさん?どうですか?」

「そうですな、エヒト様も救世主の願いは無下にはしますまい」

 

「俺達には大きな力があるんですよね?ここに 来てから妙に力が漲ってくる感じがします」

 

「ええ、そうです。ざっと、この世界の者の比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」

 

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」

 

天之河(バカ)がそう宣言すると絶望の表情だった生徒達が活気と冷静さを取り戻し始めた。天之河を見る目はキラキラと輝いており、まさに希望を見つけたという表情だ。

 

「ハァ、それしか方法がないんなら……しゃあねぇ、俺も戦うぜ」

「龍太郎……」

「今のところ、それしかないわよね。……気にくわないけど……私もやるわ」

「雫……」

「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」

「香織……」

 

いつものメンバーが賛同したことにより他のクラスメイト達(俺と恵里、ハジメを除く)も賛同した。愛子先生はオロオロしながら「ダメですよ~」と涙目で訴えているが誰も聞いてはくれなかった。この状況を見た俺は

 

(……くだらん、なんてくだらない茶番劇だ)

 

イラついていた。それはそうだろう、いきなり別世界に連れてこられて「この世界のために戦ってくれ」と言われて素直に従えるわけがない。それなのにクラスメイト達は天之河に先導されて戦争への参加を表明している。これを茶番劇と言わず何という。

 

(しかも、こいつらは分かっているのか?俺達は戦争、すなわち人殺しを強要させられてるのだぞ。それをさせないために畑山先生は必死に止めようとしているのに、なぜわからない!?)

 

俺は現実逃避しているこいつらの目を醒まさせるために意見をする

 

「俺は、反対だな」

 

───────────────────────

~ハジメside~

天之河君が戦争への参加を表明しクラスメイト達が賛同したその時

 

「俺は、反対だな」

 

反対意見が出た。その声は特別大きく言ったわけでもないのにこの大広間に響き渡った。全員がそれを言った悟に注目する。

 

「……鈴木、話を聞いていたのか?このままではこの世界の人達が滅亡するかもしれないんだぞ!?」

 

「もちろん、聞いていたさ。…だがこれはあくまでもこの世界の人々の問題だ。俺達が関与していい問題ではない」

 

「なっ!?それはこの世界の人達を見捨てると言うのか!?」

 

「そうだ」

 

天之河君は激昂しながら話すも悟は涼しい顔で対応する。

 

「この人殺しめ!お前は人を助けたいと思わないのか!?」

 

「助けてやりたい気持ちはわかるが、別世界の人達を救うほど俺は善人ではない。それに人殺しと言っているが天之河、お前やクラスメイト達もいつかはそのレッテルを張ることになるんだぞ?」

 

「な、何を言って……」

 

「戦争とは殺しあいだ。武器を持って相手を殺さなければならない、そうしなければ自分が生き残ることができない。……お前達にその覚悟はあるのか?」

 

するとさっきまで活気に満ちていた生徒達の顔が一気に青ざめる。今ので気づいたのだろう戦争の恐ろしさを。それでも天之河君は皆を鼓舞する。

 

「皆、安心してくれ!俺がいる限りそんなことはさせない!」

 

「……どうやら、お前の意志が固いようだな?」

 

「当たり前だ!」

 

「ハァ……仕方ない、これしかないか」

 

悟はため息をしながらイシュタルの方に視線を向ける。

 

「イシュタル殿、我々はこの世界の戦争に参加しましょう。ただし、条件があります。」

 

「……ほう?」

 

「なっ!?待て、鈴木!何を勝手に……」

 

「いいから黙っていなさい!光輝」

 

「今は悟に任せようぜ」

 

天之河君が悟を止めようとしたが八重樫さんと龍太郎君がそれを必死に抑える。

 

「…先ほども畑山先生が述べた通り我々はあなた方のせいで誘拐された、いわば被害者だ。それなのに無条件で戦争に参加しろとは虫が良すぎではないですか?無論、今から出す条件は双方が納得するものなのでご安心を」

 

「……まぁ、良いでしょう」

 

「ありがとうございます。……では、そこの君」

 

すると悟は近くにいたメイドに声をかける。

 

「今すぐに紙とペン、それからインクに……あとはナイフを持ってきてくれ」

 

メイドはイシュタルがコクリと頷くのを確認すると悟の指示に従った。

…しばらくしてからメイドがカートに紙とペン、インクとナイフを乗せながら戻ってきた。

 

「君には代筆をお願いしよう……イシュタル殿、よろしいですかな?」

 

「ええ、かまいません」

 

「では、始めます。俺が出す条件は3つ。

・一つ目は衣食住の保障

・二つ目はこの世界のことについての地理、歴史などの資料、情報の提示

・三つ目は戦争に意欲的でない者は後方支援にまわしてもらう

これが条件です。」

 

「……まぁ、これなら良いでしょう」

 

イシュタルがペンを持ちその紙にサインをしようとした時

 

「ああ、それからサインをした後は血判もしてくださいね」

 

「……何故でしょうか?」

 

「確かにサインをしたなら血判なんてする必要はありませんがサインだけではあなたがこの条件を守るともかぎりませんからね。だから本人のものだとわかる血判をするんですよ」

 

「・・・」

 

イシュタルはその言葉に黙ってナイフで自分の指を切り血判を押した。

 

「どうやら、これで契約は成立ですね」

 

悟は満足そうにしながら紙を懐にしまいイシュタルに右手を差し出す。

 

「これからは共に魔人族を倒すために()()関係でいましょう」

 

「……ええ、こちらこそ」

 

「「フフフ・・・」」

 

二人は笑いながら握手をしていたが決して目は笑っていなかった。




というわけで主人公達は条件付きで戦争に参加するという話にしてみました。なんかただ黙っているのも主人公の性格には合わないかなと思いつきで書きました。すみません。
次回はハイリヒ王国の話を書いていこうと思います。


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ハイリヒ王国

大変長らくお待たせしました。最近大学が忙しくなっていると同時に豪雨が酷くてなかなか書く暇がありませんでした。時間を掛けた分ちゃんと書けてると思うのでお楽しみ下さい。それでは、どうぞ。


 

 戦争への参加を表明した以上、俺達は戦いの術を学ばなければならない。いくら規格外の力を潜在的に持っていると言っても元は平和に浸かりきっていた日本の高校生だ。いきなり魔物や魔人と戦うなど不可能である。

 

 しかし、その辺の事情は把握しているのか。イシュタル曰く、この聖教教会本山がある【神山】の麓にある【ハイリヒ王国】にて受け入れ態勢が整っているらしい。

 

 イシュタルの案内の元、聖教教会の正面門までやってきた。下山してハイリヒ王国に行くためだ。

 ちなみに大広間から出てから俺の腕には恵里が抱きついている………そんなにメイドを見ていたことがダメだったのだろうか?

 

 聖教教会は【神山】の頂上にあるらしく、凱旋門もかくやという荘厳な門を潜るとそこには雲海が広がっていた。

 

 クラスメイト達は太陽の光を反射してキラキラと煌めく雲海と透き通るような青空という雄大な景色に呆然と見惚れていた。

 

 どこか自慢気なイシュタルに促されて先を進むと、柵に囲まれた円形の大きな白い台座が見えてきた。美しい回廊を進みながら促されるままその台座に乗る。

 

 台座には巨大な魔法陣が刻まれていた。柵の向こう側は雲海なので大多数の生徒が中央に身を寄せる。それでも興味が湧くのは止められないようでキョロキョロと周りを見渡していると、イシュタルが何やら唱えだした。

 

「彼の者へと至る道、信仰と共に開かれんーー“天道,,」

 

 その途端、足元の魔法陣が燦然と輝きだした。そして、まるでロープウェイのように滑らかに台座が動きだし、地上に向けて斜めに下っていく。

 

 どうやら、先ほどの“詠唱,,で台座に刻まれた魔法陣を起動したようだ。この台座は正しくロープウェイなのだろう。ある意味、初めて見る“魔法,,に生徒達はキャッキャッと騒ぎ出す。雲海に突入する頃には大騒ぎだ。

 そんな彼らを置いて俺は不思議な感じがした。

 

(なぜだろう………俺はこの“魔法,,というものを見たこと、いや、使ったことがあるようなそんな感じがする………)

 

 俺がワケのわからない懐かしさを感じていると、やがて、雲海を抜けて地上が見えてきた。眼下には大きな町、否、国が見える。山肌からせり出すように建築された巨大な城と放射状に広がる城下町。ハイリヒ王国の王都だ。台座は王宮と空中回廊で繋がっている高い搭の屋上に続いているようだ。

 

(ブルブル………いかんな。今はそんなことよりもこの世界でどう生き延びるかを考えねば)

 

 

 俺は頭を横に振り、思考を切り替えてから、この先待ち受ける試練に向けて覚悟を決めるのだった。

 

 ~~~~~~~~

 

 王宮に着くと、俺達は真っ直ぐに王座の間に案内された。

 

 教会に負けないくらい煌びやかな内装の廊下を歩く。道中、騎士っぽい装備を身につけた者、文官らしき者、メイド等の使用人とすれ違うのだが、皆一様に期待に満ちた、あるいは畏敬の念に満ちた視線を向けて来る。自分達が何者なのか、ある程度知っているようだ。

 

 美しい意匠に凝らされた巨大な両開きの扉の前に到着すると、その扉の両サイドで直立不動の姿勢をとっていた兵士の二人がイシュタルと勇者一行が来たことを大声で告げ、中の返事を待たずに扉を開け放った。

 

 イシュタルはそれが当然のように悠々と扉を通る。天之河等一部の者を除いて生徒達は恐る恐るといった感じで扉を潜った。

 

 扉を潜った先には真っ直ぐ延びたレッドカーペットと、その奥の中央に豪奢な椅子ーー玉座があった。玉座の前で覇気と威厳を纏った男が立ち上がって待っている。

 

 その隣には王妃と思われる女性、その更に隣には十歳前後の金髪碧眼の美少年、十四、五歳の同じく金髪都眼の美少女が控えていた。更に、レッドカーペットの両サイドには左側には甲冑や軍服を纏った者達が、右側には文官らしき者達が三十人以上並んで佇んでいる。

 

 玉座の手前に着くと、イシュタルは俺達をそこに止め置き、自分は国王の隣へと並んだ。

 

 そこで、おもむろに手を差し出すと国王は恭しくその手を取り、軽く触れない程度にキスをした。どうやらこの世界では、国王よりも教皇の方が立場は上のようだ。俺は内心呆れていた。

 

(やれやれ、国を動かすのは人ではなく“神,,の意思で決めているということか)

 

 そこからはただの自己紹介だ。国王の名をエリヒド・S・B・ハイリヒといい、王妃をルルアリアというらしい。金髪美少年はランデル王子、王女はリリアーナという。

 

 後は騎士団長や宰相等、高い地位にある者の紹介がなされた。ちなみに、途中、ランデル王子がの目が白崎に吸い寄せられるようにチラチラ見ていたことから彼女の魅力は異世界でも通じるようだ。

 

 ~~~~~~~~~~~~

 

 その後は異世界料理を振る舞われた。見た目は洋食と変わらないが、たまに出てくるピンク色のソースや虹色の飲み物に生徒達は興味深々のようだ。

 

 ランデル王子はしきりに白崎に話しかけているのをクラスの男子はやきもきしながら見ていた。

 

 また、この晩餐会には貴族等も参加しており、少しでも“神の使徒,,である自分達にお近づきになりたいのか、生徒達に積極的に話していた。彼らも悪い気がしないのか、男子は可愛い令嬢に言い寄られ鼻の下を伸ばしていたり、女子はイケメンの貴族がスマイルを見せると顔を赤くしていた。

 

 俺は、そんな彼らの様子を少し離れたテラスから眺めていた。

 

(本当にわかっているのか?あいつらは、こんなことをしている暇があるなら、さっさと明日の訓練のために休むべきだ。それに………)

 

 クラスメイト達に呆れた視線を注ぐとともに、俺は貴族達が嵌めている指輪やネックレスなどの宝石に注目していると

 

「パーティーには参加されないのですか?」

 

「!?」

 

 急に声をかけられ少し驚いたが、俺は心を落ち着かせ声が聞こえた方向を見ていると先程、自己紹介されたリリアーナ王女がいた。

 

「…これはこれは、リリアーナ王女ではありませんか。初めまして、自分は鈴木悟と申します。気軽にサトルとお呼び下さい。」

 

 俺は少しでも彼女に考えを悟られないように無表情(ポーカーフェイス)をつくりながら挨拶をした。

 

「はい、初めましてサトル様。(わたくし)のことはリリィとお呼び下さい」

 

「………よろしいのですか?」

 

「はい!親しい方にしか呼ばせませんが、これからは共に魔人族を倒すのですから、ぜひ呼んで欲しいのです」

 

 いくら別世界の住人とはいえ王族に気安くするなど普通なら死刑に値するものだが、王族の願いを無下にするわけにもいかず俺は言う通りにした。

 

「……では、ありがたく呼ばせて貰いましょう」

 

「はい!」

 

 彼女は何故か友好的に話してくれるが、こちらとしてもこの世界に住んでいる人と友好関係が築きたかったので正直助かる。

 

 すると、先程まで明るい顔をしていた彼女の表情は暗くなっていた。俺は具合でも悪いのか?と思い声をかける。

 

「どうしましたか?リリィ」

 

 彼女は恐る恐るといった感じで口を開く。

 

「その………サトル様は私達のことがお嫌いですか?」

 

 予想もしなかった質問に内心驚いた。

 

「………どういうことでしょうか?」

 

「その………先程から私達を見る目が疑ってるような視線で…それに今も笑顔をつくられていますが目が笑っていないので………」

 

「・・・」

 

 俺は内心、無表情(ポーカーフェイス)をしていたことを後悔していた。あまり感情をあらわにしないようにしたのが裏目に出てしまったからだ。これ以上隠していても仕方ないと判断し正直に話した。

 

「………あなたの言う通り、俺はあなた達を信じていない。……というよりも呆れている」

 

「………どうしてでしょうか?」

 

「あれをご覧ください」

 

 俺はそう言いながら今も晩餐会で盛り上がっている会場を指差す。

 

「まず、俺達は神の使徒と呼ばれていますが、元は人も殺したことがない自分の将来のために勉強していただけの子供です。それなのに突然この世界に連れてこられて戦争を強要させるなど呆れて言葉が出ません」

 

「そ、それは………」

 

 彼女が何か言おうとしたが俺は言葉を続ける。

 

「しかも彼らは我々を“選ばれた者,,と呼び持ち上げることで自分達は特別なんだと思わせようとしている。その証拠に見て下さい」

 

 俺が続けて指を指した方向には貴族達に言い寄られて幸せそうな表情をしている生徒の姿だった。

 

「それに正直に言ってこの世界の人々は本当に存亡の危機にあるのかどうか信じられないんですよ」

 

「そんなことはありません!実際私達は魔人の脅威に晒されていて「ならば何故、貴族達はあんなにも心の底からパーティーを楽しんでいるのですか?」!!!それは………」

 

 何故そんなことがわかるのか?って、それは彼の家族は、父は警察署長、母は敏腕弁護士を勤めており、自分も将来どちらかに就こうと思い時々父と母の仕事場を見学させてもらっているのだ。そこでは、犯罪をおかした者や冤罪で捕まった者、平気で嘘をつく者等様々な人がいた。そのせいか悟は相手の目、口、仕草などの動きだけでその者が何を考えているのかが分かるようになったのだ。

 ちなみに今の貴族達の表情からは(これで自分達は魔人族と戦わなくてすむ)という完全に戦争を悟達に丸投げするき満々なのだ。

 

「あの貴族達は自分達の世界の問題だというのに我々に押し付ける気なんですよ。実際戦争をしているのにあんなにも宝石を着けている時点で不自然なんですよ」

 

「・・・」

 

 彼女は反論の仕様がないのか黙っていた。

 

「つまり、この国の人達にとって我々は“神の使徒,,という名前の便利な戦争の道具ということで「申し訳ございません!」!!!」

 

 続けて俺が自虐的に言おうとした瞬間、なんとリリアーナ王女が王族でありながら自分に頭を下げたのだ。

 

「………なぜ、頭を下げるのですか?」

 

 俺は王族に頭を下げさせたことに、内心焦りながら質問をした。

 

「私達が不甲斐ないばかりに皆様をご家族から引き離してしまい、そればかりか私達の世界の事情に巻き込んでしまったからです」

 

「だが、あなたに責任があるわけでは「それでも、このトータスに生きる者として、ましてや王族として謝罪しなければならないのです!」………!!!」

 

 そう言ってガバッと顔を上げた彼女の目には涙が溜まっていた。俺が感じたのは王女を泣かせてしまったという焦りではない、彼女の表情からは決して嘘をついていない。本当に自分達に申し訳ないと心の底からそう思っているのだ。

 俺はリリィならば他の者達よりも自分達の手助けをしてくれる、確信めいた物を感じた。

 

「……リリィ、君が本当に申し訳ないと思っているならばお願いがあるんだ」

 

「私ができることであればなんなりと!」

 

 俺のお願いを彼女は即答する。これならば安心だろうと考えた俺は頭を深く下げ彼女に言った。

 

「頼む!もしも戦争で心に傷ができた者がいればその子達には戦争には参加させないようにしてくれ!」

 

 俺が彼女にこれを頼んだのには理由がある。戦争は人を殺すための場所だ、いくら自分達がこの世界の人の数倍、数十倍の力を持っているとはいえそれはあくまでも()()の枠での話だ。

 では、魔人族が人族よりも数倍、数十倍の力を持っているとすれば戦ってもこちらにも恐らく死人がでるだろうクラスメイトが殺された光景を目にすれば心が壊れる者が出るだろう。普通ならばその者達には戦争に参加しなくてもいいのだがあのイシュタルやそれに従順している国王が素直に療養させるとは思えない。下手をすれば、無理矢理にでも戦争に参加させる恐れがある。

 だが、自分の意思で謝罪してくれたリリィならばそんな者達を戦争に参加させることはないだろう。

 俺がいきなり頭を下げたことに驚いたのか彼女は一瞬固まったがすぐに復活して慌てていた。

 

「あ、頭をお上げください!私でよければ全力でご支援いたします」

 

「本当かい?!」

 

 彼女が了承してくれたのがよほど嬉しかったのか俺は無意識のうちに彼女の手を握ってしまった。

 

「!?……あ、あのできれば手を離して貰えないでしょうか」///

 

「えっ?…あっ!す、すまない」

 

「い、いえ大丈夫です」

 

 俺は今更ながら気づき慌てて彼女の手を離した。しばらく、何とも言えない空気が続いたがそれをぶち壊してくれる者が現れた。

 

「お・()()・ちゃ~・ん!」ゴゴゴ

 

 我が義妹、恵里だ。普段、自分には見せないそのあまりの迫力に背後には大きな鎌を持った死神のようなスタ○ド?のようなものを錯覚してしまった。

 

「パーティー会場にいなかったから探しに来てみれば、何この国のお姫様を口説いてるのよ!」

 

「ご、誤解だ。恵里、俺は彼女を口説いてなど「言い訳無用!」(クイッ)……イ、イテテテテテ!!!」

 

 誤解を解こうとした俺を恵里は問答無用と切り捨て俺の耳を引っ張り会場まで引きずった。………待って!恵里ってここまで力は強くなかったはずだぞ!?

 俺は会場に引きずり込まれる前にリリィに声をかけた。

 

「リリィ、さっきの約束忘れないでく「何、ちゃっかりお姫様の愛称呼んでるのよ!」(クイッ×2)……ギャーー!!」

 

 ただでさえ片耳を引っ張られて痛いのに今度は両耳を引っ張られてしまい俺はもう叫ぶことしかできなかった。

 その後は会場の中でクラスメイト達に正座して義妹から説教をくらうという恥ずかしいところを見られたがなんとか説得し許してもらえた。………今度から恵里を絶対に怒らせないようにしようと心に誓った。

 

 晩餐が終わり解散になると、二人に一室ずつ与えられた部屋に案内された。同じ部屋になったハジメは天蓋(てんがい)付きの高級ベッドに愕然(がくぜん)としていた。俺の家の部屋は天蓋はなかったがこのベッドにも負けない高級な物のため、そこまで抵抗感はなかった。

 俺は明日行われる訓練のためにさっさとベッドに潜り込むと同時に意識を落とした。




はい、というわけで悟とリリアーナのちょっとした絡み回にしてみました。読んだ人のなかには、あれ?悟のキャラなんか崩壊してない?と思う方もいるでしょうが正直に言って書いていた時に自分もそう思いましたがそこのところ見逃して下さい。

それでは次回、ステータスプレート
ついに悟のステータスが明らかに!こうご期待下さい。


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ステータスプレート

何とか早めに投稿する事ができました。
なにぶん、この話を書くのが一番楽しみにしてましたから急いで書きました。
それから、何と早くもお気に入り100件を超えました。登録してくれた読者の皆様、ありがとうございます。皆様のご期待に応えられるようにこれからも頑張っていきたいと思いますのでこれからもよろしくお願いします。
それではどうぞ。


 次の日から訓練と座学が始まった。

 

 まず、集まった生徒達に十二センチ×七センチ位の銀色のプレートが配られた。不思議そうに配られたプレートを見る生徒達に、騎士団長メルド・ロンギスが直々に説明を始めた。

 

 騎士団長が訓練に付きっきりでいいのかと思ったのだが、対外的にも対内的に“勇者様一行,,を半端な者に預けるわけにはいかないということらしい

 

 メルド団長本人も「むしろ面倒な雑事を副長に押し付ける理由ができて助かった!」と豪快に笑っていたのだが、団長という立場の者としてはそれはダメなのではないだろうか?と思ってしまうのは間違いではないだろう。

 

「よし、全員配り終わったな?このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」

 

 非常に気楽な喋り方をするメルド。彼は豪放磊落(ごうほうらいらく)な性格で、「これから戦友になろうってのにいつまでも他人行儀に話せるか!」と、他の騎士団員達にも普通に接するように忠告するくらいだ。

 

 これには俺も好感が持てた。自分達を神の使徒ではなく対等な人間として接するメルドとはこれからも友好関係を築きたいと思う。

 

「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。“ステータスオープン,,と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ?そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類いだ」

 

「アーティファクト?」

 

 アーティファクトという聞き慣れない単語に天之河が質問をする。

 

「アーティファクトって言うのは、現代じゃ再現できない強力な力を持った魔法の道具のことだ。まだ神や眷属達が地上にいた神代に創られたと言われている。そのステータスプレートもその一つでな、複製するアーティファクトと一緒に、昔からこの世界に普及しているものとしては唯一のアーティファクトだ。普通は、アーティファクトと言えば国宝になるもんなんだが、これは一般市民にも流通している。身分証に便利だからな」

 

 なるほど、と頷き生徒達は、顔をしかめながら指先に針をチョンと刺し、プクと浮き上がった血を魔法陣に擦りつけた。すると、魔法陣が一瞬淡く輝いた。俺も同じように血を擦りつけ表を見る。

 

 すると・・・・・

 

 =============================

 鈴木悟  17歳 男 レベル:1

 天職:魔導師

 筋力:30

 体力:30

 耐性:70

 敏捷:40

 魔力:1000

 魔耐:500

 技能:第1、2、3、4、5、6位階魔法・

 全属性適性・精神異常耐性・全属性耐性・物理耐

 性・詠唱省略・高速魔力回復・気配感知・魔力感

 知・言語理解

 ==============================

 

 表示された。

 

 んん?

 

 俺は表示された数値が信じられず目を何度もゴシゴシと拭いたが数値が変わることはなかった。(嫌々、イシュタルの言った通りこの世界の人々の数倍、数十倍の力があるとはいえこの数値はおかしいだろう!?)と思う俺は間違っていないだろう。頭の中が若干パニックになってる俺を余所にメルド団長からステータスの説明がなされた。

 

「全員見れたか?説明するぞ?まず最初に“レベル,,があるだろう?それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力を全て発揮した極地ということだからな。そんな奴はそうそういない」

 

 どうやらゲームのようにレベルが上がるからステータスが上がる訳ではないらしい。

 

「ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることができる。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。詳しいことはわかっていないが、魔力が身体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えている。それと、後でお前等用に装備を選んでもらうから楽しみにしておけ。なにせ救国の勇者御一行だからな。国の宝物庫大解放だぞ!」

 

 メルド団長の言葉から憶測すると、魔物を倒しただけでステータスが一気に上昇するということはないらしい。地道に腕を磨かなければならないようだ。

 

「次に“天職,,ってのがあるだろう?それは言うならば“才能,,だ。末尾にある“技能,,と連動型していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦闘系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ。非戦系も少ないと言えば少ないが……百人に一人はいるな。十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持っている奴が多いな」

 

 そう言われステータスを見ると、俺の天職は“魔導師,,と表示されていた。これならば魔力が高いのには頷ける。………それでもおかしいのだが。

 

「後は……各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな!全く羨ましい限りだ!あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」

 

 この世界のレベル1の平均は10らしい。では、ステータスは高くても3桁になるはずだが俺のステータスは一番高い魔力で4桁、普通におかしい。このまま報告すれば大騒動になる可能性があるので報告しづらい。

 

「お義兄ちゃん!ステータス、どうだった?」

 

 すると、恵里が近づいてきた。

 

「あ、ああ………そう言う恵里はどうだった?」

 

「うん?僕のステータスはこれだよ」

 

 疑問に感じたのか最初は首を傾げたが恵里は素直にステータスプレートを見せてくれた。

 

 ==============================

 鈴木恵里 17歳 女 レベル:1

 天職:降霊術師

 筋力:10

 体力:10

 耐性:30

 敏捷:20

 魔力:120

 魔耐:60

 技能:降霊魔法・全属性適性・全属性耐性・魔力

 回復・複合魔法・言語理解

 ==============================

 

 恵里のステータスは魔術師系統の天職のおかげか俺と同じように魔力が一番高かった。それでも俺の魔力の十分の1しかないのだ。…………やはり俺のステータスはおかしいようだ。

 

「え、へへぇ~!スゴいでしょう!さっきメルドさんに見せたら魔力だけなら一番高いな!って言われたんだ……あっ、お義兄ちゃんのステータスも早く見せてよ」

 

 褒められたのがよほど嬉しかったのか恵里はとても眩しい笑顔でいうのだが、俺のステータスをみていないのを思いだし、見せるように催促してくる。

 義妹にまで隠し事をするわけにもいかないと判断した俺は黙ってステータスプレートを渡す。すると………

 

「・・・・・・・・」

 

 先ほどの笑顔とうって変わり、恵里はそのステータスを見ながら口を大きく開けながら愕然としていた。

 

「……お義兄ちゃん!?これは異常過ぎるよ!?」

 

「……………………………だよな」

 

 恵里から見ても俺のステータスはおかしいようだ。

 

「これ、どうするの?」

 

「嫌、素直に報告するわけにもいかないだろう」

 

 二人でステータスについて話していると、いきなり周囲から「うわぁああ!」と歓声が巻き起こる。皆が注目している所を見てみると、どうやら天之河の番のようだった。

 そのステータスを確認すると………

 

 ==============================

 天之河光輝 17歳 男 レベル:1

 天職:勇者

 筋力:100

 体力:100

 耐性:100

 敏捷:100

 魔力:100

 魔耐:100

 技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合

 魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・

 気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解

 ==============================

 

 ステータスの数値がオール100に加え技能の数はこちらよりも多かった。

 

(それにしても、天職が“勇者,,か………フッ、目立つことと人を(無理矢理)導くという点だけに関しては、あいつにはお似合いの天職だな)

 

 俺は天之河の天職を皮肉げに評価すると、もう一度ステータスを見ても、数値は3桁までしかなかった。………どうやらここまでおかしいのは俺だけのようだ。

 

 そして、俺が自分のステータスについて考えているうちに、他の生徒達は次々に報告していき、ついには、俺とハジメ、それと畑山先生だけになった。

 

(そういえば、さっきから気になったのだかハジメは、なぜあんなにも青い顔をしているんだ?)

 

 俺は疑問に思ったのだがその答えはすぐにわかった。

 

 規格外のステータスばかり確認してきたメルド団長の顔はホクホクしている。多くの強力無比な戦友の誕生に喜んでいるのだろう。

 

 その団長の顔が「うん?」と笑顔のまま固まり、ついでに「見間違えか?」というようにプレートをコツコツと叩いたり光にかざしたりする。そして、ジッと凝視していた。

 俺も気になりプレートを確認すると…………

 

 ==============================

 南雲ハジメ 17歳 男 レベル:1

 天職:錬成師

 筋力:10

 体力:10

 耐性:10

 敏捷:10

 魔力:10

 魔耐:10

 技能:錬成・言語理解

 ==============================

 

 ステータスの数値が平均のオール10に加え、技能はたったの2つしかなかった。

 

 これは確かに顔が青くなるのも頷けるものだ。だが、俺はハジメの天職に注目した。

 

(“錬成師,,…おそらくは鍛冶師の職業。正にハジメのためにあるような天職じゃないか!)

 

 なにせハジメの親はゲーム会社の社長、その手伝いをしていたハジメの頭の中には様々な知識が詰め込まれている。もしかしたら、この世界に()()()()も造ることが可能なのだ。

 

 メルド団長はもの凄く微妙な表情でプレートを返した。

 

「ああ、その、なんだ、錬成師というのは、まぁ、言ってみれば、鍛冶職のことだ。鍛冶をする時に便利なんだが……」

 

 歯切れ悪くハジメの天職を説明するメルド団長。

 

 その様子にハジメを目の敵にしている男子達が食いつかないはずがない。その筆頭である檜山大介がニヤニヤしながら声を張り上げる。

 

「おいおい、南雲。もしかしてお前、非戦系か?鍛冶職でどうやって戦うんだよ?メルドさん、その錬成師って珍しいんっすか?」

 

「……嫌、鍛冶職の十人に一人は持っている。国抱えの職人は全員持っている」

 

「おいおい、南雲~。お前、そんなんで戦えるわけ?」

 

 檜山が実にウザイ感じでハジメと肩を組む。見渡せば周りの男子達はニヤニヤと(わら)っている。

 

「さぁ、やってみないとわからないかな」

 

「じゃあさ、ちょっとステータス見せてみろよ。天職がショボイ分ステータスは高いんだよな~?」

 

 メルド団長の表情から内容を察しているだろうに、わざわざ執拗に聞く檜山。本当に嫌な性格をしている。取り巻きの三人もはやし立てる。強い者には媚び、弱い者には強く出る典型的な小物の行動だ。事実、白崎や八重樫、ハジメと仲が良い恵里と龍太郎も不快げに眉をひそめている。

 

 白崎に惚れているくせに、何で気づかないんだ。こいつ?と思っていると、ハジメは投げやり気味にプレートを渡す。

 

 ハジメのプレートの内容を見て、檜山は爆笑した。そして、斎藤達取り巻きに投げ渡し内容を見た他の連中も爆笑なり失笑なりをしていく。

 

「ぶっはははっ~、なんだこれ!完全に一般人じゃねぇか!」

 

「ぎゃははは~、むしろ平均が10なんだから、場合によっちゃその辺の子供よりも弱いかもな~」

 

「ヒャハハハ~、無理無理!直ぐ死ぬってコイツ!肉壁にもならねぇよ!」

 

 次々に笑い出す生徒達に俺は不快げに感じ、ハジメのプレートを持っている近藤に近づき足を引っ掛け、転ばせてから体勢が傾いたと同時にプレートを奪って、ハジメの方に向く。背後から「グエッ」という声が聞こえたが今は無視した。

 

「ほら、ハジメ」

 

「あ、ありがとう。悟」

 

 ハジメにプレートを返すと背後から檜山が声をかける。

 

「鈴木、テメェ何しやがる!」

 

(こいつ、自分が何しているのか自覚がないのか?)人をバカにし、周りもそれに同調するかのように騒ぎ立てるということに最もムカついた俺は意見をする。

 

「そう言うお前は何なんだ?檜山。ハジメをバカにする権利がお前にあるのか。……お前達もだ。ハジメを笑う理由がどこにある?言ってみろ。ええ?」

 

 俺がドスの効いた声を発しながら嗤っていた生徒達を睨むとそいつらは一斉に視線を逸らす。

 

「ああ?南雲の天職とステータスが余りにもショボ過ぎて、嗤いしか出ねぇだろう」

 

 檜山は開き直るかのように意見をする

 

「さっきメルドさんが言っていたはずだ。天職とは才能だ。すなわちハジメには錬成師の才能があるということだ。……そうだろう?メルドさん」

 

「無論だ」

 

 俺の質問にメルドさんは肯定してくれた。

 

「で、でもそんなショボいステータスじゃ、南雲に強い武器なんて創れるわけねぇよ!」

 

 檜山はそれでもハジメをバカにする。

 

「確かに、今のままでは強い武器なんて創れない。……だが、成長次第によっては城の宝物庫にある物よりも強い武器が創れるはずだ」

 

 なんたって、ハジメは努力の塊のような男だ。しっかりと錬成について学び、訓練をすれば成果はちゃんと出るはずだ。役立たずと決め込むのは早計にも程がある。

 

「おお!確かにな。なんたって勇者御一行の一人だからな。成長すればアーティファクトも創れるかもしれん!」

 

 メルド団長が全力で賛同すると先ほどまで嗤っていた生徒達はバツが悪そうな顔をする。檜山も同じようにしていたが、俺に視線を向けると、またニヤニヤしだした。

 

「そういえば、鈴木~。お前のステータスはまだ見てなかったな?そう言うお前はどうなんだよ~?」

 

 どうやら、こいつは俺がハジメを庇うのは俺のステータスがハジメと同じように低いからと勘違いしているようだ。俺は呆れて何も言えず、このまま檜山に勘違いされるよりはマシだろうと思い自分のプレートをメルド団長に渡す。

 すると…………

 

「な、な、なんじゃこりゃ~~~!!!???魔力1000って既に国お抱えの魔道師を超えているぞ!それに詠唱省略って魔術系の天職持ちが喉から手が出るほど欲しがる程の技能じゃないか!?」

 

 案の定メルド団長は驚愕した表情でプレートを見入っていた。そして、周囲を見れば生徒達は「「「「・・・・・・」」」」(ポカーン)っといった感じに口を大きく開けていた。なにせ総合的に見れば勇者以上のスペックなのだ。驚くのも無理はない。ここで俺は気になったことを聞いてみた。

 

「メルドさん、この位階魔法とはどのような魔法なんですか?」

 

 そう、先ほどから確認したが位階魔法という魔法は誰も持っていなかった。メルドさんは「う~ん」と首を捻りながら考えているが

 

「すまん。俺も長年、色んな魔法を見てきたが、こんな魔法は初めてだ」

 

 どうやら、メルドさんでさえわからないようだ。少なくとも、位階ということからには 数字が大きくなれば魔法の威力が上がるとみて間違いないだろう。…………そういえば先ほどからハジメが静かだなと思いハジメの方を振り向くと

 

「・・・・」

 

 ハジメの目から光が失われていた。どういうことかわからず首を捻っていると

 

「いやいや、お義兄ちゃん。ハジメ君の精神ズタボロにしてどうするのよ?」

 

 恵里にそう言われ、最初はどういうことかわからなかったが、よくよく考えてみればハジメはただでさえ、周りがチート持ちなのに対し一人だけ平均なのだ。そこに勇者以上のスペックを持っている俺が見せることは、ただでさえ精神が傷ついてるハジメに追い討ちをかけるようなものだ。

 

(しまった~!やっぱり見せるんじゃなかった!?)

 

 俺は今更になって後悔したが、もう後の祭りだ。そんなハジメに畑山先生がフォローを入れる。

 

「南雲君、気にすることはありませんよ!先生だって非戦系?とかいう天職ですし、ステータスだってほとんど平均です。南雲君は一人じゃありませんよ!」

 

 そう言って「ほらっ」と畑山先生はハジメに自分のステータスを見せる。

 

 ==============================

 畑山愛子 25歳 女 レベル:1

 天職:作農師

 筋力:5

 体力:10

 耐性:10

 敏捷:5

 魔力:100

 魔耐:10

 技能:土壌管理・土壌回復・範囲耕作・成長促進

 ・品種改良・植物系鑑定・肥料生成・混在育成・

 自動収穫・発酵操作・範囲温度調整・農場結界・

 豊穣天雨・言語理解

 ==============================

 

(……違った。フォローではなくトドメを刺しやがったぞ。この先生)

 

 ついにハジメは死んだ魚のような目をしながら遠くを見だした。

 

「あれっ、南雲君!どうしたんですか!」とハジメを揺さぶる畑山先生。

 

 確かに、全体のステータス低いし、非戦系天職だろうことは一目でわかるのだが……魔力だけなら勇者に匹敵しており、技能数なら超えている。食糧問題は戦争には付きものだ。畑山先生の天職と技能はその問題を一気に解決してくれる程のチートぶりなのだ。

 

「あらあら、愛ちゃんったら、トドメ刺しちゃったわね……」

 

「な、南雲君!大丈夫!?」

 

 反応がなくなったハジメを見て八重樫は苦笑いをし、白崎が心配そうに駆け寄る。畑山先生は「あれぇ~?」と首を傾げている。相変わらず一生懸命だが空回る畑山先生の姿にクラスメイト達はほっこりとしている。

 

 俺はこの様子を見て(やれやれ、前途多難だな)と思っていた。




はい、というわけで主人公のステータスはこんな風にしてみました。読者の皆さんの中にはこれはやり過ぎだろうと思う方もいるかと思われますが、そこは大目に見てくれると助かります。
なお、使える魔法が第6位階までにした理由は主人公はまだ覚醒前なのでオバロの人間であるフルーダ・パラダインが使える第6位階までにしてみました。

次回は原作にはないオリジナルの話を書こうと思うので楽しみにしてください。


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覚醒への序章

なんとか今週中に書くことができました。
今回はオリジナルの話のため駄文が多くあると思いますが楽しんで読んでいただけると助かります。
それではどうぞ。


 自分達のステータスを確認した俺達は、今は城の宝物庫に来ている。

 自分専用の武器を選ぶためだ。何でも似た天職だからといって同じ武器が使えるとは限らないらしい。そのため俺達は自分に合う武器を探さなければならないのだ。

 

「う~ん?これも違うな」

 

 俺は魔法詠唱者のため杖を中心に選びながら探しているのだが、なかなか良いのが見つからなかった。

 

「お義兄ちゃ~ん!」

 

「うん?」

 

 すると先ほどまで俺とは違う場所で武器を選んでいた恵里が俺に手を振りながら近づいてきた。

 

「どうしたんだ?恵里。もう武器は見つかったのか?」

 

「うん!僕の武器はこれだよ」

 

 すると恵里が見せたのは日本の修行僧が使っている錫杖のような杖だった。

 

「へぇ、いい武器じゃないか」

 

「そうでしょ!一目見た時にビビッときたんだ。……そういうお義兄ちゃんはまだ決まってないの?」

 

 恵里は俺が武器を持っていないことに気づいたのか質問をしてくる。

 

「ああ、なかなかこれといった武器が見つからなさくてな」

 

「早くした方がいいよ。メルドさんの話だとそろそろここを出るらしいよ」

 

「わかっているさ」

 

 そうは言ったもののなかなか良い武器が見つからず探すのに難航していると宝物庫の端に目をやるとある武器を見つける。俺はメルドさんに声をかける。

 

「メルドさん、あの武器はなんですか?」

 

 それは他の武器と違い手入れをちゃんとしていないのか、とてもボロボロで見たところ、細長く上の部分が膨らんだ形があることからかろうじて杖に見える。

 

「ああ、何でも、何百年も前からこの城の宝物庫にあるらしい。色んな魔法師が使おうとしても反応しないからそのまま放置されたそうだ」

 

 俺はその話を聞き、本当に使えないのか、試そうと思い近づく。背後から「お、おい、そんなボロボロの武器なんて使えないぞ!?」と声が聞こえるが、俺は何故か無性にその武器が気になってしまい、そのまま近づく。

 

 そして、その武器が目の前にある距離まで近づくと俺はその杖を手に取った瞬間…………

 

 ピカーーーン!!!

 

 突如、杖が光輝きだし宝物庫を照らす。あまりの眩しさに恵里やメルドさん、近くにいた生徒達は眼を瞑る。近くにいた俺も例外ではなかった。

 

 しばらくすると、光は徐々に終息していき、俺はゆっくりと眼を開けてから注目すると、そこには先ほどまでボロボロだったはずの杖が変わっていた。

 

 それは黄金に輝き、7匹の蛇が絡み合った姿をしており、のたうつ蛇の口には様々な色の宝玉が咥えられていた。それはただの武器とは思えない美しさがあり、周りにいた人達は見惚れていた。

 

「すごい!すごいよ!お義兄ちゃん!!!」

 

 恵里はまるで自分のことのように喜んでいる。だが俺はそれに応えることはしないで、この黄金の杖に食い入るかように見ていた。

 

(なんだ……俺は……この杖を初めて触った感じがしない。むしろ、()()()()()()()()()()()()()って感じがする)

 

 俺がまた、ワケのわからない懐かしさを感じている瞬間…………

 

 ズキン………ズキン………

「グ、ァァアアアアーーー!!!???」

 

 突然、謎の頭痛に襲われる。その痛みは凄まじく立っていることも出来なかった。頭を抑えながら倒れ込んだ俺を見て周りは慌て出す。

 

「お義兄ちゃん!?どうしたの?しっかりして!?」

 

「サトル!どうしたんだ!おい!?」

 

 恵里とメルドさんが必死に呼びかけるが痛みで苦しい俺には受け答える余裕すらなかった。

 その痛みから少しでも逃れたい俺はゆっくりと瞼を閉じる。目に涙を溜めながら必死に呼びかける恵里の顔を最後に見ながら俺は意識を手放した。

 

 ~~~~~~~~~~

 

 頭痛が収まり、目を開けた俺が最初に見た光景は“闇,,だった。

 

(ここは……どこだ?)

 

 左右上下を確認してもそこには闇しかなかった。俺がどうしようかと考えていると、突然、光が差す。俺は咄嗟に瞼を閉じた。

 

 しばらくすると光が収まり、瞼を開けて視界がクリアになると、そこに映ったのは、中央には真紅のカーペットが敷かれていて、壁の基調は白、そこに金を基本とした細工が施されている。天井から吊り下げられた複数の豪華なシャンデリアが幻想的な輝きを放ち、壁には大きな旗が天井から床まで垂れ下がっている、どこかの玉座の間のようだ。視線が高いことから、どうやら自分がいる場所が玉座の近くだということもわかった。ハイリヒ王国の玉座の間のように煌めいた雰囲気はなかったが、それとはまた違った美しさがあった。

 

(それにしても……なんとも心地よいところだ)

 

 最初は別の場所に変わったことに対し少し焦りはしたが、この光景を見た途端、心が安らいだ。

 

 そして俺は視線を下に向けると、そこには膝を曲げて忠誠の儀をしている者達がいた。影に覆れはっきりとはみえないが、それは明らかに()()ではなかった。

 

 まずは先頭に、頭に角を生やし、背中には翼が生えた者。

 

 その後ろに、腰の部分に尻尾のような物が生えている者。

 

 昆虫のようなような見た目をした者。

 

 耳が異様に長い二人の子供。

 

 いわゆるゴスロリのような服を着た者。

 

 その更に後ろには、執事が一人とメイドが複数人、軍服を着ている者がいた。

 

 そんな異形の者達がまるで従順するかのように(こうべ)を垂れていた。そしてそれが自分に向けられている物ではないと気づいた。俺は玉座と思われる場所に視線を向けると同時に後悔した。

 

 そこには“死,,そのものがいた。

 

 そいつは漆黒のオーラをようなものを纏い姿こそわからないが、俺の本能が(逃げろ!逃げろ!そいつから早く逃げろ!!!)と何度も告げていたが俺の体は金縛りにあったかのように動かず、冷や汗が止まらなかった。

 

 すると、その“死,,は俺の存在に気づいたのか、その赤い視線を向け、ゆっくりとその手をこちらに近づける。俺はそれから逃れるために必死に抵抗したがやはり体は動かず気づけば、その手はもう目の前まで来ていた。

 

 その“死,,が顔を掴んだと同時に俺の視界は再び闇に覆われた。

 

 ~~~~~~~~~~

 

 あれから俺は闇の中をさ迷っていた。何にも無い空間をただ歩いていると不意に声が聞こえた。

 

『・・に・・・ん』

 

(誰だ?)

 周りを見ても誰もいない。

 

『おにい・・・・・』

 

(いったい、誰なんだ?)

 俺はこの声主を必死に探す。

 

『おにい・・・・ん』

 

(……ああ、そうか)

 俺は思い出す。大切な存在を。

 

『お義兄ちゃん』

 

 俺の大切な存在である恵里(義妹)の存在を。

 

 そして闇の中に一筋の光が差すのだった。

 

 ~~~~~~~~~~

 

「お義兄ちゃん!!」

 

 俺がゆっくりと瞼を開けるとそこには恵里がいた。最後に見た時と同じように目には涙が溜まっており、俺が目を覚ましたのに驚いていた。

 

 俺はゆっくりと上体を起こし、周りを確認すると簡易なベッドが何個もあることから病室であることがわかった。そして恵里の方に顔を向けて

 

「おはよう、恵里」

 

 と挨拶をする。

 すると恵里は更に目に涙を溜めながらついには俺の胸に飛び込み泣き出した。

 

「うえぇぇ~~~ん!!よがっだよ~、お義兄ぢゃん。このまま、めざめないんじゃないかっておもっだっよ~!!」

 

(やれやれ、恵里をこんなにも泣かせるとは俺も最低な兄だな)

 

 恵里をこんなにも悲しませた自分に自己嫌悪しながら、事情を聞くために恵里の背中をトントンと軽く叩きながら落ち着かせる。

 

「恵里、もう大丈夫だ。俺はここにいるぞ」

 

 すると恵里は少しずつ泣き止んでいった。

 そして事情を聞くとなんと俺が倒れてから丸3日経過しているそうだ。道理で体が重いわけだ。

 

 恵里は思い出したかのように質問をしてくる。

 

「お義兄ちゃん、その眼はどうしたの!?」

 

「眼がどうかしたのか?」

 

 俺は言われた通り眼を触ってみたが特に痛みは感じなかった。すると恵里は近くにあった手鏡を渡してくる。鏡を見てみるとなんと俺の眼の黒い部分が赤くなっているのだ。そう、夢の中で見たあの“死,,の存在と同じようになっていたのだ。そして俺はあれに触れられた時ののことを思いだし、「まさか!」と思い、急いでステータスプレートを確認すると………

 

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 鈴木悟(◼️◼️◼️◼️・◼️◼️◼️・◼️◼️◼️) 

 17歳 男 レベル1

 天職:魔導師(死の◼️◼️◼️)

 筋力:30

 体力:30

 耐性:70

 敏捷:40

 魔力:1000

 魔耐:500

 技能:第1、2、3、4、5、6、◼️、◼️、

 ◼️、◼️位階魔法・◼️位魔法・全属性適性・精神

 異常耐性・全属性耐性・物理耐性・詠唱省略・高

 速魔力回復・気配感知・魔力感知・アンデット創

 造[+下位]・◼️◼️のオーラ・魔道具作成・

 巻物(スクロール)作成・言語理解

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 俺のステータスはあり得ないことになっていた。ステータス自体は変わっていないが、技能が一気に増えており、名前と天職の横にも文字は見えないが何かが追加されている。ただし、天職のところには“死,,という文字が見えており、それを見るとプレートを持った手がガクガクと震えていた。

 

「どうしたの!?お義兄ちゃん」

 

 俺の手が震えているのに気づき恵里が心配そうな顔で見ていた。俺は、恵里の顔を確認すると気づけば恵里を抱きしめていた。

 

「ふえっ!?お義兄ちゃん!?////」

 

 恵里は急に抱きしめられたことに驚き、顔を赤くしていたが俺はそれに応える余裕がなかった。

 俺は怖いのだ。あの“死,,の存在に触れられたことで、自分ではない何かになったのではないか、それで自分の周りから誰もいなくなり一人になるのではないかという恐怖に襲われたのだ。

 

「恵里、頼む!俺を……一人にしないでくれ!!」

 

 俺は訴えかけるかのように恵里に懇願した。恵里は普段兄が見せない震えた姿と弱音を初めて聞き何かあったのを察したのだろう、そして優しく微笑みながら抱きしめ返す。

 

「大丈夫だよ。たとえ、周りから誰もいなくなっても、僕だけはお義兄ちゃんを絶対に一人にしないから」

 

 恵里の慈愛に満ちた声を聞き、安心したのだろう。徐々に体の震えは収まっていた。そして落ち着きを取り戻した俺は恵里の温もりを感じる。

 

「………恵里の体は暖かいな」

 

「え、へへぇ~。僕としてはこのまま襲って欲しいんだけどな~♪」ニコッ

 

「っ!?……………あ、兄をからかうな」

 

 恵里が見せた笑顔に正直ドキンっとした俺は、顔が熱くなるのを感じ、恵里から顔を背ける。

 

「「・・・・・・」」

 

 しばらく、そのまま抱きしめ合いながらお互いの温もりを感じていると………

 

「エリリン、サトルンの様子はど……う…………」

 

 すると、間が悪いことに病室の扉が開き、恵里の友人の一人である谷口(たにぐち) (すず)が姿を現す。そして俺達が抱きしめ合っている姿を目にし、最初は固まっていたが何かを察したのか一人でうんうんと頷き、ゆっくりと扉をしめて走り去る。

 

「みんな~!!今、病室でエリリンとサトルンが乳繰りあって…………」

 

「ちょっと待て~~~~~~~~!?」

 

 走り去りながら、とんでもない事を口走っている谷口を止めるため、まずは恵里を離してから病み上がりの身体で病室を出て谷口を追いかける。

 

 なんとか、すぐに捕まり城中の者達には聞かれていなかったが、ちょうど俺の見舞いをするために近くまで来ていたハジメや龍太郎、白崎と八重樫に運悪く聞かれてしまった。

 最初は四人とも俺の眼が赤いことに驚いていたが、俺の身体に特に異常は無いと知ると安心したが、先ほど谷口が言ってた事にハジメと龍太郎はニヤニヤしながらからかってきて、何故か落ち込んでいる八重樫を白崎が慰めるという事態になった。

 

 ちなみに、この時の恵里は谷口にそう言われ満更でもない顔をしていた…………勘弁してくれ!




今回の話は主人公を半覚醒状態にしてみました。展開が早すぎると思う読者様もいるかと思いますが自分としましてはいきなり覚醒するよりもこういった展開があった方がいいんじゃないかと思い書いてみました。本当に申し上げございません。

さて、次回はイジメと愚か者
ついに主人公の実力が明らかに!その力で子悪党組に猛威を振るいます。お楽しみに!


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イジメと愚か者

長らくお待たせいたしました。
今回はかなり長い文字数を書いたためかなり遅れました。
また、この作品のユーザーアクセス数が1万を突破しました。読者の皆様が見てくれるので励みになっております。


 ~ハジメside~

 

 悟が目を覚ましてから約二週間が過ぎた。

 

 悟の眼が赤くなっていたことに最初はクラスメイト達も驚いていたが悟の様子がいつもと変わらないことに皆、ほっとしていた。

 

 目を覚ました悟は次の日には国お抱えの魔法師達に指導を受けに行ったのだが、最初は全員、悟が自分達より魔力があることが信じられず邪険に扱っていたが、悟が全員にプレートと位階魔法の一つ、「〈龍雷(ドラゴンライトニング)〉」の威力を見て愕然とし、次の瞬間、魔法師達全員が一斉に謝罪をし「弟子にしてください!」と頼み込んできた。これには悟も面食らい、珍しく狼狽えていた。

 

 また、そんな自分にはメルドさんが派遣してくれた錬成師の人達や悟が何かとアドバイスをしてくれるおかげでステータス自体はそこまでの成長はなかったものの錬成師としての腕はかなり伸びた。

 

 そんな、僕は先ほどまで図書館で本を読んでいたのだが、そろそろ訓練をする時間が迫っていたので訓練施設に向かっている。同じように、悟と恵里ちゃんも図書館にいたのだがまだ調べたい事があるらしく少し遅れてやって来るそうだ。

 

 訓練施設に到着すると既に何人もの生徒達がやって来て談笑したり自主練したりしていた。自分は二人が到着するまで待っていようと思った。

 

 と、その時、唐突に後ろから衝撃を受けてたたらを踏んだ。顔をしかめながら背後を振り返ると予想通りの面子に心底うんざりした表情をした。

 

 そこにいたのは、檜山大介率いる小悪党四人組である。訓練が始まってからというもの、悟がいない時に ちょっかいをかけてくるのだ。

 

「よぉ、南雲。なにしてんの?お前が訓練しても意味ないたろが。無能なんだしよ~」

 

「ちょっ!檜山言い過ぎ!いくら本当のだからってさ~、ギャハハハ」

 

「なんで毎回訓練に出てくるわけ?俺なら恥ずかしくて無理だわ!ヒヒヒ」

 

「なぁ、大介。こいつさぁ、なんかもう哀れだから、俺らで稽古つけてやんね?」

 

 一体なにがそんなに面白いのかニヤニヤ、ゲラゲラと笑う檜山達。

 

「あぁ、おいおい、信治、お前マジ優し過ぎじゃね?まぁ、俺も 優しいし?稽古つけてやってもいいけどさ~」

 

「おお、いいじゃん。俺ら超優しいじゃん。無能のために時間使ってやるとかさ~。南雲~感謝しろよ?」

 

 そんなことを言いながら馴れ馴れしく肩を組み人目につかない方へ連行していく檜山達。それにクラスメイト達は気がついたようで女子の何人かが檜山達を止めようとする。それを僕は首を振って制し、「ダメだ」と目で伝える。自分のせいで彼女達が傷つくわけにはいかないからだ。

 

「いや、この後は悟と一緒に訓練をやる予定だから大丈夫だって。僕のこと放っておいてくれていいからさ」

 

 一応、やんわりと断ってみる。

 

「はぁ?俺らがわざわざ無能のお前を鍛えてやろうってのに何言ってんの?マジ有り得ないんだけど。お前はただ、ありがとうございますって言ってればいいんだよ!」

 

 そう言って、脇腹を殴る檜山。「ぐっ」と顔をしかめながら呻く。

 

 檜山達も段々暴力にためらいを覚えなくなってきているようだ。思春期男子がいきなり大きな力を得れば溺れるのは仕方ないとはいえ、その矛先を向けられては堪ったものではない。かと言って反抗できるほどの力もない。

 

 やがて、訓練施設からは死角になっている人気のない場所に来ると、檜山は自分を突き飛ばした。

 

「ほら、さっさと立てよ。楽しい訓練の時間だぞ?」

 

 檜山、中野、斎藤、近藤の四人が周りを取り囲む。自分は悔しさに唇を噛み締めながら立ち上がった。

 

「ぐぁ!?」

 

 その瞬間、背後から背中を強打された。近藤が剣の鞘で殴ったのだ。悲鳴を上げ前のめりに倒れると、更に追撃が加わる。

 

「ほら、なに寝てんだよ?焦げるぞ~。ここに焼撃を望むーー“火球,,」

 

 中野が火属性魔法“火球,,を放つ。倒れた直後であることと背中の痛みで直ぐに起き上がることができないので、ゴロゴロと必死に転がりなんとか避ける。だがそれを見計らったように、今度は斎藤が魔法を放った。

 

「ここに風撃を望むーー“風撃,,」

 

 風の塊が立ち上がりかけた自分の腹部に直撃し、仰向けに吹き飛ばされた。「オェッ」と胃液を吐きながら蹲る。

 

 魔法自体は一小節の火球魔法だ。それでもプロボクサーに殴られるくらいの威力はある。それは、彼等の適性の高さと魔法陣が刻み込まれた媒介が国から支給されたアーティファクトであることが原因だ。

 

「ちょ、マジ弱すぎ。南雲さ~。マジやる気あんの?」

 

 そう言って、蹲る自分の腹に蹴りを入れる檜山。込み上げる嘔吐感を抑えるので精一杯だった。

 

 その後もしばらく、稽古という名のリンチが続く。痛みに耐えながらなぜ自分だけ弱いのかと悔しさに奥歯を噛み締める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前等…………なにをしている?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すると、この場に重圧(プレッシャー)がかかるような声がかかる。檜山達がビクッとなりながら振り向くとそこには悟がいた。

 ただし、今は全ての感情が抜け落ちたような表情で檜山達のことをその赤い瞳を輝かせながら冷めた目で見ていた…………

 

 ~~~~~~~~~~

 ~悟side~

 時は少し遡り~

 

 図書館での調べものを終えた俺と恵里は訓練施設まで向かっていた。

 

「結局、その杖に関する文献とか見つからなかったね」

 

「そうだな」

 

 俺は、そう言いながら手に持っている黄金の杖を見つめる。俺達が先ほどまで調べていたのはこの杖に関する情報だ。だが何百年も宝物庫にあるはずなのにこの杖についての情報が一つも無かったのだ。(無論この国の上層部が情報を隠している可能性があるが)

 

 まぁ、瞳の色が赤くなっていること以外は体に影響はないし、この杖で魔法を放つとかなりの威力が上がることは上がったので特に不満はなかった。また、この二週間で俺のステータスにも変化や発見もあった。

 

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 鈴木悟(◼️◼️◼️◼️・◼️◼️◼️・◼️◼️◼️)

 17歳 男 レベル:10

 天職:魔導師(死の◼️◼️◼️)

 筋力:130

 体力:130

 耐性:170

 敏捷:140

 魔力:2000

 魔耐:1000

 技能:第1、2、3、4、5、6、7、◼️、

 ◼️、◼️位階魔法・◼️位魔法・全属性適性・精神

 異常耐性・全属性耐性・物理耐性・詠唱省略・高

 速魔力回復・気配感知・魔力感知・アンデット創

 造[+下位]・◼️◼️のオーラ・魔道具作成・

 巻物(スクロール)作成・言語理解

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 まずは、位階魔法が第7まで使えるようになった。どうやら魔力が上がれば使えない魔法が解放されるようになるようだ。

 また、この魔法は段階ごとに魔法の威力が上がりその分必要な魔力量が増えるようだ。威力で言えば第1~3までが下級、第4~6までが中級、第7までが上級くらいの魔法であることがわかった。第7位階魔法は魔力のほとんどを使うため連続で使うことはまだ不可能のようだ。

 

 次に〈アンデット創造〉という技能は言葉の通りアンデットを造ることが可能のようで試しにスケルトンを喚ぶと12体ほど出てきた。だがどうやら自分よりもレベルが高いのは喚べないようで今のところはレベル8が限界のようだ。

 しかし、メルド団長からは今後使うのは控えるように言われた。何せ俺がしていることは魔人族がしている魔物を操るのと同じことなのだ。下手をすれば聖教教会から「魔人族と繋がっている」などと冤罪を突き付けられるからだ。あの糞ジジイ(イシュタル)なら躊躇いなくやるな。

 

 後は〈魔道具作成〉や〈巻物作成〉は魔力を通した道具が造ることが可能なようでメルド団長に頼んで魔力が通っていない使わない武器や道具、紙などがあれば使わせてもらっている。無論、無事につくることができれば騎士団に渡すと条件を付けたのでメルドさんも快く了承してくれた。

 

 それよりも………

 

「恵里……そろそろ離れてくれないか?」

 

「えぇ~?いいじゃん、別に」

 

 そう、俺が目を覚ましてから恵里は俺から離れようとしないのだ。今も俺の腕にしがみついている。訓練や食事をするときもそうなのだが、ひどい時には俺がベッ ドに眠っている時に部屋に侵入しいつの間にか隣で眠っていることもあるので何度驚いたことか。

 

「いや……歩きづらいのだが」

 

「えぇ~。一人になるのは嫌なんでしょ?」

 

 すると、恵里はニヤリとしながら二週間前のことを口にする。

 

「い、いや、あれは!………何と言うか……言葉の綾と言うか……」

 

 あの時はかなり冷静さを欠いていたため、本音を言ってしまったのだ。だが、思い返してみても自分がどれだけ恥ずかしいセリフを言ったことかと後悔していた。

 

 恵里にからかわれながら歩いていると訓練施設についた。皆それぞれが自主練をおこなっているようだ。だが何故かクラスメイト達は俺の姿を目にすると一斉に訓練を止めた。不思議に思い周りを見渡すと先に訓練施設にいるはずのハジメの姿がなかった。

 

「あれ?ハジメ君、いないね?」

 

 恵里もハジメがいないことに気づいたようだ。するとクラスメイトの一人、園部(そのべ) 優花(ゆうか)や複数の女子生徒が慌てた様子で声をかけた。

 

「鈴木!実は南雲が檜山達に……」

 

 その言葉だけでハジメがいない理由がわかった。

 

「園部、君達は檜山達を止めようと思わなかったのか?」

 

 俺は黙って見ていたかもしれない彼女達を責めるような言い方で質問をする。

 

「したよ!でも南雲の奴、止めようとしたら首を振って……」

 

 園部は声を荒げながら意見をする。他の女子生徒達もウンウンと首を振る。

 

(……なるほどな。優しいあいつのことだ、彼女達に被害が及ばないようにしたんだな)

 

 俺はハジメの不器用な優しさに嬉しさを感じながら、彼女達に謝罪をする。

 

「すまなかったな。責め立てるような言い方をして、ところでハジメ達はどこに?」

 

 園部は訓練施設から死角になっている場所に指を差した。するとそこから「ドカーン!」と爆発音がなった。どうやらあいつらは魔法まで使っているようだ。

 

「……恵里。すまないがメルド団長を呼んで来てくれ。それから、白崎も」

 

「わかった」

 

 俺が指示を出すと恵里はすぐさま走っていく。

 

「鈴木。私達はなにをすればいい」

 

 園部達も手伝えることがないか聞いてくる。

 

「園部達はこのまま待機してくれ。メルド団長が来たら案内してやってくれ。」

 

 俺は園部達にそう指示すると急いで死角になっている場所に向かう。一応、檜山達が言い逃れできないようにするための()は用意しているが下手をすればハジメの命の危機があるからだ。

 

「〈下級筋力増大(レッサー・ストレングス)〉〈鎧強化(リーン・フォースアーマー)〉」

 

 俺は念のため筋力と耐性を上げる強化(バフ)魔法をかけておく小悪党組のことだ、このまま平穏に事を解決できるとは思えないからだ。

 死角となっている場所に着くと、そこには檜山達にリンチされているハジメの姿があった腹を殴られたのか近くに吐瀉物(としゃぶつ)が落ちていた。ハジメにゲラゲラ笑いながら暴力を振るっている檜山達の姿を目にしたとき、ブチッとなにかが切れた。

 そして、自分でも驚くぐらいの低い声を発する。

 

「お前等…………なにをしている?」

 

 すると、檜山達はビクッとなりながらこちらを振り向く。俺の存在に気づくと檜山が弁明する。

 

「いや、誤解しないで欲しいんだけど、俺達、南雲の訓練に付き合ってたたけで……」

 

「黙れ!お前達の醜い言い訳など聞きたくもない!!!」

 

 俺はそれを一蹴する。当たり前だ一人に対して複数でいたぶる訓練なんて聞いたこともない。俺は檜山達を押し退けハジメの側による。

 

「ハジメ、立てるか?」

 

「うん、……大…丈夫……だよ、グッ!」

 

 そう言いながら、ハジメは立とうとするが骨の何本かは折れているのか痛みで立てないようだ。俺はすぐさま回復魔法で治そうとすると

 

「てめえ~、いつも俺達をバカにしやがって!」

 

 檜山が声をあげながら手に持っている剣の鞘で俺の頭を背後から殴ろうとしていた。それを見ていたハジメが「あっ」と声をあげようとするがもう遅い。

 

 ガコン!!!

 

 俺の頭からなってはいけない音がなる。すると檜山は声をあげながら笑う。

 

「ギャハハ!ざまぁみろ!」

 

「お、おい!檜山、さすがにこれはやり過ぎじゃ……」

 

「ハッ!いいんだよ。いつも俺達をバカにした罰だ!」

 

 取り巻きの一人の斎藤が怯えながら声をかけるが檜山がそれを笑いながら一蹴する。すると他の取り巻き達も同意する。

 

「……やれやれ、これがお前達が俺に対する罰ならば、俺もお前等に対して罰を与えていいんだな?」

 

「「「「!?」」」」

 

 俺が振り向くと頭を殴られたのにが平然と声をかけたのに驚いたのかギョッとした顔をしながら檜山達は離れる。物理耐性を持っているうえ、念のために防御力を上げていたので余り効かなかったのだ。もちろん、全く効かなかったわけではないので頭からは少しばかり血は出ていた。

 

「ふむ……俺はお前達と違い弱いものイジメをするのは嫌いだからな」

 

 俺はそう言いながら手を上げながら手の甲を檜山達に向け、クイクイっと手招きをする。

 

「全員でかかってこい。そうしたら、攻撃が当たるかもしれないぞ?当たればの話だが」

 

 俺の挑発的な態度に檜山達は最初はポカンとしていたが癪に触ったのか、すぐに顔を赤くし、怒りの表情となる。

 

「なめんじゃねぇぞ!ここに焼撃を生むーー火球」

 

 まずは中野が魔法を使い攻撃をしてくる。俺は杖を掲げて魔法を唱える。

 

「〈石壁(ウォール・オブ・ストーン)〉!!」

 

 すると、地面から巨大な石壁が現れ、中野の火球を防いだ。

 

「なっ!?」

 

 中野は俺が一瞬で魔法を防いだ事に驚いていた。そして、石壁がなくなると

 

「なんだ?こんなものか、俺が本当の“火球,,を見せてやるーー〈火球(ファイアーボール)〉!!」

 

 俺は反撃として魔法を放つ。俺の火球は手のひらに乗るぐらいのサイズだが元々魔力が高いこともあってか、杖を使いながら放つことでバスケットボールと同じ大きさで中野に向かった。

 

 ドカーン!

 

「ギャーー!!」

 

 火球は見事に直撃して爆発をおこし、中野は全身に火傷を負いながら気絶した。

 

「てめぇ!よくも中野を!」

 

 中野をやられた瞬間、先ほどまで怯えていた斎藤が剣を振りかぶりながら俺に近づいてくる。どうやら、俺に魔法攻撃が通じないと判断したのだろう。その判断は正しいのだが……

 

「もう少し、鍛えてからするんだったな」

 

 俺はそう言いながら杖で応戦する。斎藤はそれにニヤリと笑みを浮かべるが……

 

 ガキン……!

 

 俺の杖と斎藤の剣が当たると火花が飛び散った。そして、斎藤の剣は手元から弾かれてしまった。

 

「な、なんで!?」

 

 斎藤は自分の剣が弾かれた事に驚愕していた。確かに素の筋力ではこいつの方が上だが、俺は魔法で筋力を上げているため天之河に匹敵する位になっているのだ。

 そして、俺はそのまま杖を振り斎藤の身体に叩きつける。バキバキと骨が砕ける音が聞こえたが振り切った。

 

「ぎゃ!!」

 

 斎藤は壁にぶつかり頭をぶつけたのか、そのまま意識を失った。

 

「ヒィ!た、助けてくれーー!?」

 

 仲間が二人やられたのに怖じ気づいたのか、近藤は情けない声をあげながら走って逃げようとする。

 

「……俺が大人しく逃がしてやると思っているのか?」

 

 こいつらに慈悲をやる気などない俺は近藤の足に向かって人差し指を差す。

 

「〈雷撃(ライトニング)〉!!」

 

 俺の指から発生した電撃は目にも止まらぬスピードで近藤の足に命中し、その足を貫通した。

 

「ギャー!?お、俺の足がーーー!?」

 

 突然、自分の足に穴ができたのに悲鳴をあげながら、近藤は足を抑えてその場にうずくまる。

 

「な、何なんだよ!お前!?」

 

 取り巻き三人が呆気なくやられたのに、檜山はひどく狼狽し腰を抜かしたのか、尻餅をつきながらズルズルと後ずさっていた。俺はゆっくりと檜山に近づく。

 

「く、来るなー!?化け物!」

 

 檜山は必死に俺との距離をとろうとしていたが、距離はどんどん縮まっていた。

 そして、ついに俺の腕が届く距離まで縮まった時、魔法を放とうとしたが、俺は檜山にあることを聞く。

 

「……檜山、なんでお前達はそこまでハジメを目の敵にする?」

 

 そう、いくら白崎がハジメに構っているから嫉妬しているとはいえ、こいつらは暴力をするなど普通ならそんな事をしなくても積極的に白崎と話をするなど白崎に好印象を与えれば良いものを何でそんな愚かな行いをするのか理解できなかった。

 すると、檜山はヨロヨロになりながらも立ち上がった。

 

「ああ、言ってやるよ!」

 

 檜山は俺の後ろにいるハジメを指をさしながら

 

「そいつはキモオタのくせにいつも白崎に構って貰いやがって、ふざけんな!キモオタはキモオタらしく教室で惨めに縮こまっていればいいんだよ!だから俺達がそれをわからせるためにやってんだよ!むしろ感謝してほしいね!」

 

 吐き捨てるかのように自分の思いを叫んだ。実に醜い理由だった。

 

(……そんな、くだらない理由でハジメを傷つけているのかこいつらは!)

 

 俺の心は、これを聞きどす黒い感情になった。そして、どうすればハジメがこれ以上傷つかないようにどうすればいいのか考える。

 

(……ああ、そうだ。ハジメを守るためにこいつらを

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殺せばいいんだ

 

「ガッ!?」

 

 俺は気づけば檜山の首を絞めていた。そして、そのまま上へと持ち上げる。

 

「ヤメ……カヒュ……ハナ……セ」

 

 虫けら(檜山)が必死にジタバタと抵抗していたが筋力が上がっている俺には無意味だった。

 

「ヒュー……ヒュー……」

 

 どんどん首を絞める力を強くしていくと先ほどまで顔を赤くしていた虫けらは青白い顔になっていき息もまともにできないようだ。俺がそのまま首をへし折ろうとした時

 

「ダメ…だよ、悟」

 

 俺の服の裾を引っ張りながら声をかける者がいた。視線をそこに向けると先ほどまで倒れていたハジメが傷ついた身体を這いずらせながら俺の下まで来たようだ。

 

「……離せ。ハジメ」

 

 

 俺は虫けらから手を離さず、視線をハジメに向けながら話す。

 

「いや……だ」

 

「なぜだ?こいつらを殺せばお前がイジメられることはないんだぞ?」

 

「それ以上やったら、悟が悟でなくなる!」

 

 ハジメは傷ついた身体で大きな声を出した。

 

(………俺が俺でなくなる?…………………ハッ!?)

 

 俺はその言葉を聞き我に返ると檜山を離した。余程苦しかったのか「ゴハッ……ガハッ……」と息を吐いているが俺は自分の手を震えながら見つめていた。

 俺は檜山を躊躇いもなく殺そうとしていた。しかも、まるで虫のように簡単に 殺そうとしていた。自分がそんなことをしていたことに恐怖を覚えたのだ。

 

「よかった。正気に戻ったんだね……さと……る…」

 

「ハジメ!?」

 

 傷ついた身体を無理に動かしたせいかハジメは気を失った。

 

「まずい!早く治さなくてはーー〈重症治療(ヘビーリカバー)〉」

 

 魔法を唱え俺の手から緑色の光が発生するとハジメの火傷や打撲などの傷はすぐに消えた。

 

「………うっ」

 

「ハジメ!しっかりしろ、おい!」

 

 なんとか治療は終わりハジメは少しずつ意識を取り戻していった。俺はハジメをすぐにでも安静にできる場所に運ぼうとしていると

 

「何をやっているんだ!!」

 

 すると訓練場から叫び声をあげる天之河を筆頭に龍太郎や八重樫、恵里と白崎そしてメルドさんが駆け寄ってきた。

 

「おい!鈴木お前何を……」

 

「すまない、白崎。ハジメを治してくれないか?俺も魔法を使って治したが念のために君の回復魔法で治してくれ」

 

 天之河が何か喚こうとしたが俺はそれを無視し、白崎に頼んだ。

 

「えっ!?……な、南雲君、大丈夫!?」

 

 するとハジメが倒れている事に気づいた白崎がハジメに近づき魔法で治療を始めた。

 

「……何があったんだ?」

 

 メルドさんは周囲を見渡し、魔法が使われた形跡や檜山達が倒れていることから何かあったのかを聞いてくる。

 

「そこの檜山達(バカ共)がハジメをリンチしてたので、俺が傷ついたハジメを介抱しようとしたら襲いかかってきたから応戦しました」

 

 俺はシンプルに起こったことを事実として喋った。だがここで我らが勇者(笑)が噛みついてきた。

 

「嘘をつくな!どうせ、またお前と南雲が共謀して檜山達を陥れようとしたんだろ!二度も同じ手に引っ掛かると思うな!」

 

(俺は事実無根を話しただけなのにコイツはどれだけ俺とハジメを悪者にしたいんだ?)

 

「どうした!どうせ図星をつかれて何も言えないんだろ!」

 

 俺が黙っていると天之河は容赦なく言ってくる。これ以上聞くのもバカらしくなった俺は意見をする。

 

「……天之河。つまりお前は檜山達には何にも非はなく、全て俺とハジメが悪いと言いたいんだな?」

 

「そうだ!」

 

 俺が質問すると天之河は間を置くことなく返事をした。俺はこれに「ハァ~」とため息をするのと同時に「パチン」と指を鳴らした。

 すると俺の肩に一匹の鳥が止まる。

 

「「「「???」」」」

 

 俺が指を鳴らしたと同時に鳥が止まったことに不思議に思って皆が首を傾げていると

 

「ねぇ、あれって……」

 

「ただの鳥……じゃない?」

 

 八重樫と龍太郎はこの鳥が普通ではないことに気づいたようだ。

 そう、普通の鳥ならその体を羽毛で覆われているのだがこの鳥は違う。この鳥は羽毛、いや、体全てが結晶でできているのだ。何せこの鳥は俺が作った自立型の魔道具なのだ。この体には俺の様々な魔法を付与している。

 

「天之河。お前に真実を見せてやる。……お前達もよく見ておけ」

 

 俺は天之河とついでに白崎に治療してもらったのか回復した檜山達に声をかける。

 そして鳥は俺の肩から地面に降りると「パリン!」と砕け、一つの魔法陣が現れた。そこから映像のようなものが出て、するとそこには……

 

「え、これって?」

 

「南雲君!?」

 

 そう、そこにはハジメの姿が映っていたのだ。これには元々知っている恵里とハジメ以外は驚いていた。これは云わば異世界版監視カメラなのだ。檜山達がこのままハジメに何もしないとは限らないと思い作ったのだ。

 すると映像の中のハジメが突然倒れる。後ろには檜山達が映っていた。これに檜山達はこの後起こる出来事を察知し瞬時に顔を青くする。

 

 その後は予想通り、檜山達がハジメをここに連れていき囲んで不意打ちからの魔法による攻撃と集団暴行をしていた。これを見ていた天之河以外は檜山達を軽蔑の目で見ていた。特に白崎はどす黒いものを垂れ流していた。そして、そこに俺が現れハジメを介抱しようとした時に檜山が俺を剣の鞘で殴った所で映像は終わった。

 映像が終わる頃には檜山達の顔は青から完全な白に変わっていた。まるでこの世の終わりとでも言いたい顔で。だが、そんなこいつらを置きメルドさんは烈火のごとき顔で震えていた。

 

「貴様ら、どうやらかなり体力が有り余っているらしいな?」

 

 するとメルドさんは地面を思いっきり蹴ると

 

「こんなことをしている暇があるなら、さっさと訓練してこい!こんの、バカタレども!!!」

 

「「「「ひぃっ!!??」」」」

 

 メルドさんの余りの迫力に檜山達は逃げるように訓練施設に戻った。だが、ここでも天之河が食いつく。

 

「待ってください、メルドさん。これには南雲にも非があります。いつも図書館に籠っている南雲を檜山達は何とかしようとしたんですよ」

 

「「「「「はぁ?」」」」」

 

 さすがの俺も言葉を失った。あの映像を見て何でそんな考えを思い浮かぶとは、コイツ、ついには頭だけでなく目までおかしくなったのではないかと疑ってしまった。現に龍太郎は何言ってるんだコイツといった目で、恵里と白崎は信じられないといった感じで、八重樫は手で目を押さえながら天を仰いでいた。

 

「ただ、殴りたかっただけだろう」

 

 さすがのメルドさんも天之河に呆れていた。

 天之河の醜態をこれ以上見たくないのと、コイツの勘違いを正すために俺は意見をする。

 

「天之河。お前は何を勘違いしてるのか知らんがハジメはちゃんと努力しているんだぞ」

 

「なにがだ?実際に南雲は訓練の時以外は図書館か部屋に引きこもってるらしいじゃないか」

 

「ハァ~。仕方ないな。ハジメ、プレートを」

 

 ハジメからプレートを受け取り、今のハジメのステータスを表示する。すると………

 

 ==============================

 南雲ハジメ 17歳 男 レベル:5

 筋力:15

 体力:15

 耐性:15

 敏捷:15

 魔力:15

 魔耐:15

 技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱

 物分離][+高速錬成]・言語理解

 ==============================

 

 一見ステータスはそこまで上がっていないがある変化が起きていた。

 

「あっ!技能の数が増えてる!」

 

 そう、白崎が指摘した通りハジメはこの二週間で派生技能を4つも得ているのだ。これには指導を行っていた錬成師も驚いていたほどだ。

 

「ほぉ~。一気に4つも派生技能を得ているとはやるな!」

 

「へっ!さすがはハジメだぜ!」

 

 メルドさんは感心し、龍太郎もハジメを誉めていた。恵里や八重樫もハジメの努力が実を結んでいることに喜んでいた。

 

「で、でもそんな技能じゃ戦闘には何の役にもたたないじゃないか!」

 

 天之河はそれでもハジメを否定していた。

 

「当たり前だ。ハジメには後方支援にまわってもらうんだからな」

 

「なっ!?皆が前線で戦っている時に一人だけ安全圏に入れるつもりなのか!?」

 

「無論だ。無理に不慣れな戦場にいるよりも自分ができる範囲でサポートに徹してもらう方がいい」

 

 俺はこれ以上、天之河と口論になるのは時間の無駄と判断し訓練施設に向かう。

 

「白崎、ハジメを治してくれたこと、感謝する。行こうかハジメ、恵里」

 

「う、うん」「わかった」

 

 俺は二人を連れその場を去ろうとすると

 

「待て!話しはまだ終わって「〈麻痺(パラライズ)〉!!」ガッ!?」

 

 天之河が俺の肩を掴もうとしたため、反射的に弱体化(デバフ)魔法をかけて動きを封じた。そのおかげで天之河は倒れた。

 そのまま立ち去ろうとすると「ガシッ」と足を掴まれた。そこに視線を向けると

 

「ま…て………はな……しは…おわ……………って」

 

 何と天之河は身体が痺れて動けないはずなのに必死に俺の足を掴んでいるのだ。これはコイツが持っている“全属性耐性,,のおかげか、それともコイツの執念がゴキブリ並みにしつこいだけなのか、少なくてもうんざりするほどの事なのは確かだ。

 俺は足に力を入れて天之河を引き剥がした。

 

「龍太郎、このゴキブリ(天之河)の始末は任せた」

 

「……ああ、さすがにこれは光輝が悪い。すまねぇな、ハジメ」

 

 龍太郎はハジメに謝罪をし、天之河の身体を担ぐ。八重樫もハジメに謝罪をし、ハジメはそんな二人に「気にしないで」と言った。

 その後の訓練では小悪党組はメルドさんや他の騎士の人達から罵詈雑言を浴びせられながらいつもの十倍の訓練メニューを泣きながらおこなっていた……………ざまぁみろ。

 

 ~~~~~~~~~~

 訓練が終わった後は、いつもなら夕食の時間まで自由なのだが、今回はメルド団長から伝えることがあると引き止められた。何事かと注目する生徒達にメルド団長は野太い声で告げる。

 

「明日から、実戦訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行く。必要な物はこちらで用意してあるが、今までの王都外での魔物との実戦訓練とは一線を画すと思ってくれ!まぁ、要は気合いを入れろってことだ!今日はゆっくり休めよ!では、解散!」

 

 そう言って伝えることだけ伝えてさっさと行ってしまった。ざわざわと喧騒に包まれる生徒達。

 

(………ついに、きたか!)

 

 俺はついに訪れた試練に気合いを入れるために、手に力を込めて握り締めるのだった。




はい、今回は戦闘?回にしてみました。
やっぱり戦闘の描写って書きにくいですね。最初は書いてるうちにどこ書いてるかわからなくなりました。それでも自分なりに書けていたと思います。
これからも応援、よろしくお願いします。
また、ハジメの派生技能数を少しだけ原作より増やしてみました。少し修正も入っています。


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もう一つの月下の語らい(前編)

大変お待たせしました。
いや~。気づけば1ヶ月近くたっていようとは、自分で書いててわかったことですが小説を書いてる人たちの苦労がよくわかりました。特にオリジナルの話を考えている人たちはもっと大変なんだなと思いました。
それから、この作品のお気に入りがついに300を超えました。登録してくださった読者の皆様本当にありがとうございます。これからもよろしくお願いします。


 翌日、俺達は【オルクス大迷宮】に挑むためにメルド団長率いる騎士団員複数と共に冒険者達のための宿屋町【ホルアド】に来ていた。新兵訓練によく利用するようで王国直営の宿屋があり、そこに泊まるそうだ。

 

 二人に一部屋なので王宮と同じように俺とハジメは同室となった。本来なら錬成師であるハジメには城で待機してほしいのだが、メルド団長曰く「何事も経験するのが大事」だそうだ。まぁ、俺としてもハジメがどれぐらいやれるのか見たいので良しとしよう。

 

 そんな俺達は明日のための荷造りをしている。迷宮(ダンジョン)では何がおこるかわからないのでしっかりと準備をしなければならないのだ。ある程度準備を終えた俺はハジメにあることを確認する。

 

「ハジメ、例の()()はできたか?」

 

「うん。試運転も済ませたから後は実戦で使えるか確認できればバッチリだよ」

 

「そうか」

 

 この遠征はハジメが創った()()を試せるよい機会なのだ。これを見た時のクラスメイト(特に天之河と小悪党組)の驚く顔が目に浮かぶようだ。ク、ククク………

 

「…………悟、笑顔が怖いよ?」

 

「っ!?」

 

 ハジメに指摘され慌てて顔を触りながら元に戻す。これは最近になって解ってきたことだが、どうやら俺はあくどいことを考えていると無意識に不気味な笑顔になるそうだ。初めて指摘してくれた恵里が言うには「なんか~、悪の親玉みたいな顔だったよ」だそうだ。

 

「ゴホン。……それよりもハジメは荷造りの最終確認は済ませたのか?明日は早いんだしっかりと睡眠を取らねば」

 

「うん。後もう少しで終わるよ」

 

 ハジメは陽気に返事をしていたが、その手は微かに震えていたのだ。これは………

 

「ハジメ……明日のことを考えているのか?」

 

 するとハジメは先程までの笑顔から一変し暗い顔になった。

 

「………うん。正直生き残れるかどうか不安で…」

 

「ハジメ…………」

 

(本当に自分が嫌になる。ハジメが荒事を嫌っていることを知っているのに、なぜ俺はもっとメルド団長を説得しなかったのだ)

 

 俺は自分が友を危険な目に合わせていることに今さらになって後悔した。だからこそ俺は………

 

「…………ハジメ。もしもお前が危険な目に合う時は必ず俺が守ってやる」

 

「えっ」

 

 俺の突然の言葉に驚くハジメ。

 

「い、いや悪いよ。そんなの」

 

「遠慮するな。これは俺がやりたいから言っているんだ」

 

「でも…………」

 

 俺の提案をハジメは余り心から喜んではいなかった。

 

「……ハジメ。お前は自分の事をどう思っているのか知らないが、俺はお前の事は凄い奴だと思っている」

 

「えっ!?」

 

 俺の言葉にハジメは目を大きく見開いた。

 

「お前は、俺でも考えつかないことをするしお前は周りから何を言われても諦めない努力家だ。正直俺にもそこまではできない。だからこそーー」

 

 俺はそう言いながらハジメに手を差し出す。

 

「親友と認めているお前と共にいたいんだ。そして無事に生還して地球に帰ろう」

 

 俺の言葉にハジメは最初は面を食らっていたが、次の瞬間、笑っていた。

 

「おい、ひどいぞ。人の言ったこと笑うなんて」

 

「ハハハ、ごめんごめん。なんか告白みたいな事をいってるから、つい」

 

 確かに傍目から見ればそう思われても仕方ないな。俺が自分の言った事に恥ずかしさを感じていると

 

「でも、ありがとう。悟のおかげで少し肩の荷が下りたよ」

 

「そうか」

 

「正直、嬉しいよ。悟がそんな風に僕を思っていたなんて考えてなかったからさ。そして親友として見てくれたことも」

 

 そして今度はハジメから手を差し出す。

 

「だから、もしも僕が危険な目にあった時、その時は助けて。そしたら、今度は僕が悟を助けるから。親友として」

 

 そう言いながら力強い目でこちらを見ながら宣言するのだった。

 

(……まったく、かなわないなハジメには)

 

 俺はハジメの手を握りしめて誓いの握手を交わすのだった。

 

 そして互いの荷造りが終わりそろそろ就寝しようとしたその時、扉をノックする音が響いた。

 俺とハジメは瞬時に飛び起き、突然の夜の訪問者に警戒をする。

 

(まさか、檜山達か!………嫌、この魔力の感じからしておそらく…………)

 

 俺は“魔力感知,,を使い、その魔力が誰のものか分かると警戒を解く。

 

「南雲君、起きてる?白崎です。ちょっと、いいかな?」

 

 やはり、予想通りその夜の訪問者は白崎のようだ。するとハジメは一瞬硬直するも、慌てて扉に向かう。そして、鍵を外して扉を開けると、そこには純白のネグリジェにカーディガンを羽織っただけの白崎が立っていた。

 

「……なんでやねん」

 

「・・・」

 

「えっ?」

 

 ある意味、衝撃的な光景に関西弁でツッコミを入れるハジメと黙りこむ俺。よく聞こえなかったのか白崎はキョトンとしている。

 ハジメは、慌てて気を取り直すと、なるべく白崎を見ないようにして用件を聞く。

 

「あ~いや、何でもないよ。えっと、どうしたのかな?何か連絡事項でも?」

 

「ううん。その、南雲君と話しがしたくて……やっぱり迷惑だったかな?」

 

「………ええっと…」

 

 白崎に言われハジメは俺の方をチラッと見てきた。どうやら同部屋の俺に確認をしたいようだ。

 

(…いったい白崎は何をしに、まさか夜這いか!………いや、あの天然の白崎がそんなことするわけ………ないよな?)

 

 白崎が何をしに来たかはわからないが、俺みたいなおじゃま虫は、ここはしばらく去るとしよう。

 

「いいぞ。白崎、ちょうど俺もメルドさんに用事があるのを思い出したからな。ゆっくりとハジメと話しをしてくれ」

 

「えっ!?」

 

「ありがとう!鈴木君」

 

 俺の言葉にハジメはショックをし、白崎はパァッと喜んでくれた。

 部屋を出る間際、俺はハジメの緊張を少しでも和らげるためと二週間前にからかわれた仕返しとしてハジメの耳に口を近づけてささやく。

 

「男になれよ、ハジメ」

 

「なっ!?///」

 

「?」

 

 俺の言葉にハジメは顔を真っ赤にし、突然ハジメが顔を赤くしていることに白崎は首を傾げていた。俺はそんな二人の様子をニヤニヤしながら部屋を立ち去るのだった。

 だが、この時の俺は少し浮かれていたのか、気づかなかった。俺達の部屋をどす黒い眼で視ていた存在に…………

 

 ~~~~~~~~~~~

 

「さて、どうしたものか」

 

 ある意味、部屋を追い出された形となった俺はすでに明日の準備以外する事がなかったので手持ち無沙汰となってしまった。

 

「……仕方ない。さっき言った通りメルドさんに明日の日程を詳しく聞いておくか」

 

 そうと決めた俺は早速メルドさんが使っている部屋に向かうのだった。

 しばらく、歩いていると噴水がある中庭にたどり着いた。今日の天気は晴れていて、空にある月が幻想的な輝きを放ち、噴水の水が光を反射していて、とても綺麗だった。

 すると中庭からブンッ!ブンッ!と何かを振り回すような音が聞こえた。誰かが素振りをしているのかと思い見てみると

 

「フッ!……ハッ!……タァッ!!!」

 

 そこには剣で素振りをおこなっている八重樫の姿があった。他が寝ているこの時間帯にやるとはマジメな奴だな。だが俺はある違和感に気づく。

 

(あれ?八重樫の素振り………少しブレがあるな)

 

 以前にも剣道部で彼女の剣は見たときは一切の曇りのない美しいものであったが、何故か今の剣技には少し迷いのようなものが見えた。気になった俺は彼女に近づきながら声をかける。

 

「精が出るな。八重樫」

 

「……す、鈴木君!?」

 

 彼女はかなり集中していたのか俺がこうして近づくまで気づかなかったようでかなり驚いていた。

 

「まぁ、立ち話するよりもあそこの長椅子にでも座ろう」

 

「え、ええ」

 

 俺は噴水の近くに設置してある長椅子を指差しながら彼女を促す。彼女はそれに従い一緒に座る。

 

「こんな時間に素振りをしているなんて珍しいな。王城でもそんなことはしなかっだろう?」

 

「……ええ、少し眠れなくて………そう言う鈴木君は?」

 

「ああ、その…なんだ。白崎がネグリジェ姿でハジメに会いに来てな。話したいことがあるらしくてこうして部屋を出たんだ」

 

「……………まったくあの子ったら」

 

 頭を抑えながらブツブツと言っているその姿からハジメがたまに八重樫のことを「オカン」と言ってるのが頷けた。

 

「明日はいよいよ実戦だな?」

 

 ここで俺は話しを変えようと明日のことについて話す。

 すると彼女はビクッとなりながらブツブツ言うのを止めた。

 

「………ええ、そうね」

 

 彼女は暗い顔になりながら返事をした。その姿から先程のハジメの姿を思い出した。もしかして彼女も………

 

「……八重樫。明日の実戦が不安なのか?」

 

「っ……やっぱり、あなたにはバレるものね」

 

 やはりそうか。普段、凛としている彼女も1人の女の子なのだ。突然こんな世界につれてこられて戦争に参加するなど思いもよらなかっただろう。気持ちの整理がまだ整っていないはずだ。

 

「そう言う鈴木君はどうなの?」

 

 今度は彼女から質問が来た。

 

「俺は…………」

 

 ここで俺は最初は嘘をつこうと思ったが、それは彼女のためにならないだろうと判断し、自分の思いを正直に話す。

 

「俺だって、不安だよ……」

 

「……意外ね」

 

 俺の返答が予想外だったのか八重樫は目をパチクリとさせていた。

 

「俺だって1人の人間だ。いきなり、こんな世界に連れてこられて戦争に参加してくれなんて、今まで平和的に生きてきた者としては不安にならない方がおかしいさ。それでも………」

 

「元の世界に還るためには俺は戦わなくてならないんだ。……正直、イシュタルが言うように神エヒトが無事に俺達を還してくれるとは思えない。だが、この世界は広い。戦っていけば他に元の世界に帰る方法はあるはずだ。皆が無事に帰るために俺は戦う!!!」

 

 俺は拳を握りしめながら空に向かって宣言するのだった。

 

「……やっぱり、あなたは()()()()()わね。」

 

 最初はキョトンとしていた八重樫は俺の宣言を聞くとフッと笑みを浮かべた。

 すると俺はある疑問がわいた。彼女は()()()()()と言ったのだ。まるで昔、どこかで会ったことのあるような言い方だ。思い返してみれば、彼女は初めて会った時から不思議な人だった。

 

 それは高校の入学式の日、入学試験で一位とった俺は新入生の代表挨拶を済ませてクラスを振り分けられ同じ教室の同級生とお喋りをしているとクラスが一緒になった彼女から声を掛けてきたのだ。その時は、初対面だったため「初めまして」と挨拶すると、彼女は突然、目に涙を浮かべ泣き顔になったのだ。これには俺もさっきまで喋っていた同級生の子達も驚いてしまい、どうすればいいのか分からずオドオドしていると、「雫に何をするんだ!!」と言いながら同じくクラスが同じになった天之河に殴られたのだ。これには周りの生徒達が騒ぎだし、騒ぎを聞きつけた先生方が天之河を取り抑えてくれたのですぐに騒ぎは収まった。

 その後は先生方が事情を聞き、天之河は「雫がイジメられていたから助けるためにやりました」と言っているが俺は挨拶をしただけなのでそんな事実は無く、周りにいた生徒達が証言をしてくれたので事なきを得た。俺を殴った天之河は勘違いとはいえ人にケガを負わせたので一週間の停学となった。この事がきっかけで天之河は俺に噛みつくようになったのだ。

 その次の日、八重樫は自分のせいでケガを負わせてしまったことに対して謝ってくれた。俺も特に気にしていなかったのだがどうしてもお詫びがしたいとのことだったので彼女に剣道について指導をお願いした。それからは八重樫に剣道の指南をしてもらいながら充実な学校生活を送っていた。

 

「……八重樫、もしかして俺と君はどこかで会ったことがあるのか?」

 

 思い返せばあの涙には理由があるのではないかと思い八重樫に質問をすると八重樫は顔を暗くし落ち込んだ。

 

「……………やっぱり、あなたは覚えていないのね」

 

 どうやら俺の疑問は当たっているようだ。

 八重樫は落ち込んだ顔を下に向けていたがすぐに顔をあげた。

 

「いいわ。話してあげる。あなたと私の出会いを」

 

 まるで独り言のように空に向かってゆっくりとその過去を話すのだった。




今回は4000文字を超えるため前編と後編に分けてみました。後編のほうはすぐに投稿するので楽しみにしてください。


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もう一つの月下の語らい(後編)

 ~雫side~

 

 私は小学生の頃イジメを受けていた。別に誰かの悪口を言ったり、素行が悪かったりした訳でない。所謂“女の嫉妬,,だ。

 光輝は小学生の時から人気があり、私も初めて会った時は王子様がやって来たと心が弾んだ。正義感と優しさに溢れ、何でもこなせる光輝は女の子の注目の的だった。

 当時の私は髪は短く、服装は地味で、女の子らしい話題についていけない、そんな私が光輝と一緒にいることが、女の子達には我慢ならなかったのだろう。彼女達から次第にイジメを受けた。悪口を何度も言われ酷いときには「あんた女の子だったの?」と言われ、とてもショックを受けた。

 

 もちろん、最初は光輝に相談した。光輝は女の子と話をつけてくれると言ってくれて、次の日聞くと「あの子達は悪い子じゃない」「雫の勘違いだ」「ただ、雫と仲良くなりたかっだけ」と私が期待していた物と違う言葉がとんできて私は絶望に落とされた感覚になった。

 

 しかも女の子達からは「あんた、泣き落としができたのね?ならもっと、遊んであげる」と言われ、次の日からは物を隠されたり、遊びと称して叩かれたりもしていた。しかも光輝や先生達にバレないように巧妙さを増して。

 

 なんとか、幼なじみの香織が支えてくれたがもう私の心は限界だった。親や先生にも相談することができず、いつまでイジメに耐えなければいけないのかと何度も思ったが、ある日、転機が訪れた。

 

 

 

 それは、いつもと変わらない学校の日、この日は転校生が来るとのことだ。その子はうちのクラスにやって来るそうなので先週から話題になっている。だが、私にとっては関係ない話なのでどうでもよかった。

 

 キーンコーンカーンコーン♪キーンコーンカーンコーン♪

 

 そして朝のチャイムがなり、先生が入ってきて挨拶をして出席をとってから先生は本題に入った。

 

「それでは、今日この教室に新しいお友達を紹介します…………入ってきて」

 

 先生が呼ぶと教室の前方の扉がガラガラと開き、そこにはメガネを掛けた少し目付きが鋭い少年が入ってきた。そして教卓の前に立つと先生が紹介を始める。

 

「ええ~、今日からみんなと同じクラスになった転校生の…………」

 

「鈴木悟だ。よろしく頼む」

 

 その子は先生の言葉を遮り、とても子供とは思えない威風堂々とした言い方で自己紹介をおこなった。これには先生や私達クラス全員はその姿に圧倒された。

 

「じ、じゃあ自己紹介も終わったので、君の席は雫ちゃんの隣だからあそこに座ってね」

 

「はい」

 

 いち早く正気に戻った先生は私の隣の空席を指を差しながら案内をした。彼はそれに返事をしてこちらに向かった。そして自分の席に座ると私に手を差し出す。

 

「よろしく頼む」

 

 短くもシンプルに挨拶をした。

 

「………よろしく」

 

 私はその手を握り返し彼に挨拶をする。

 

 

 

 一時間目が終わり休み時間になると、彼の周りに人が集まると思ったのだけど何故か皆、彼を遠くから見ているだけだった。恐らく、最初の挨拶に圧倒されたせいで近づきにくいのだろう。正直に言って助かった、おかげで私にイジメをする女子達も簡単には近づかないので久しぶりにゆっくりできる。そんな彼は周りを気にすることなく何やら難しい本を読んでいた。すると彼は私にじーっと視線を向けてきた。

 

「な、なに?」

 

「……………別に」

 

 私が尋ねると彼は何でもないかのように返事をして視線を本に戻した。

 

 キーンコーンカーンコーン♪キーンコーンカーンコーン♪

 

 あっという間に1日が終わり、放課後になるとさすがに彼も帰らなければならないので私はいつものように女子達に呼び出しをくらい、体育館裏に向かった。

 

「アンタ、いい加減光輝君から離れてくれない?」

 

 開口一番にそんなことを言われたが、光輝自身が私と一緒にいるのでこちらとしても困る。すると周りの女の子達もそれに便乗して更に言ってくる。

 

「そうよ。光輝君から離れなさいよ、このブス」

 

「アンタが光輝君の迷惑になっているのわからないの?」

 

「どうせアンタ、光輝君から女の子として見られてないんだから諦めなさいよ」

 

 四方八方から言われるその言葉に私は耳を抑えることしかできず涙を流さないようにするが、それでも心が折れそうになりその場に蹲る。

 

「君達、何をしてるんだい?」

 

 すると、とても落ち着いた声が聞こえわたしを含めた全員が視線を向けるとあの転校生がいた。

 

「あ、あら。転校生君じゃない、どうしたの?」

 

 流石に転校生の彼に見られたので女の子達は慌てふためいていた。

 

「いやなに、少し彼女に用があるのでね。探していたんだよ」

 

 そう言いながら、私に指を差す彼。

 

「そ、そう。なら私達は彼女に用は終わったから帰るわね。それじゃあ!」

 

 女の子達はずいぶん慌てた様子でその場を去り、残ったのは私と彼だけだった。

 

「立てるか?」

 

 彼は蹲る私に手をさしのべる。

 

「……ええ、ありがとう」

 

 私はその手をとり、立ち上がる。

 

「君はいつも、あんな事をされているのか?」

 

「……そうよ。酷いときは私物を隠されたり、壊されることもあるわ」

 

「……………そうか」

 

 その後はしばらく、気まずい空気が続いたが、帰りが途中まで同じだということなので一緒に帰ることにした。勿論、会話は一切していない。その帰り道が途中で別れる所に差し掛かったので彼に言った。

 

「じゃあ、私は帰りこっちだから」

 

 そう言って別れようとすると

 

「待て」

 

 突然、彼に呼び止められる。帰り道では一言も喋らなかったのに声を掛けてきたのだ。

 

「な、なに?」

 

 そんな彼に不気味さを感じながら返事をする。すると彼は私に指を差す。

 

「髪………少しは伸ばしたらどうだ?」

 

「え?」

 

 何故か私の髪の話になったので困惑していると

 

「さっき、あの女の子達が言っていた通り君は女の子らしくない」

 

「な!?」

 

 会って間もない私に彼は図々しい言い方をし、それに対し一瞬腹が立ったが

 

「君はあのまま、あの子達に言われっぱなしでいいのか?悔しくないのか?見返そうとは思わないのか?このままあの子達の言いなりになるつもりか?」

 

 彼はまるで私に訴えかけるかのように私に話す。そんなの私だって………

 

「私だって、言われぱなしで良いわけないじゃん!私だって女の子だよ!あんなこと言われて悔しいに決まってるじゃん!」

 

 私は今までつもりに積もった不満をぶちまけた。すると彼は満足したのか私に背を向けながら

 

「ならば、髪を伸ばして、服装をもっと女の子らしくしろ!そうすればあの女子達も強くは言えないはずだ」

 

 そう言いながら彼は自分の帰路を進むのだった。その言葉に動かされた私はすぐに帰路を走り早速女の子らしくなるために頑張るのだった。

 

 しばらくの月日が流れ~

 

 あれから3ヶ月がたった。あの日から女の子らしくなるために私は母や親友の香織に相談し、女の子らしい服装がどのような物があるか勉強し、前までは地味だった服も今ではピンクの可愛らしい服に変わった。無論、髪も元々私は生えるのが早いため短かった髪も今では肩にかかるぐらいにまで伸びた。

 だが、イジメがなくなることはなかった。「どうせ、光輝君に色目を使う気でしょ」「今さら可愛くしても遅いのよ」と言われたが何故か気にすることはなかった。おそらく、イメチェンしたことで自分に自信を持てて来たのだろう。実際、香織から「凄く可愛いよ」と言われた時はとても嬉しかった。

 ただ、転校生の彼から何も言われることはなく、何だか私は無性に腹が立った。あれだけ私を鼓舞したくせに何にも言ってくれないのだ。そんな彼は一週間前から欠席を続けている。私は何度か先生に彼がどうしているのか聞いてみたが何にも応えてくれなかった。

 この時の私は知らなかった、この後あんな大きな出来事が起きるなんて…………

 

 

 

 それは日曜日の朝、私はいつものように道場で素振りをしていると父から声がかかる。

 

「雫、ちょっと来なさい」

 

 何だろうと思い父に近づき尋ねると何でも玄関に私に会いたい子がいるとのことだったので私はあの転校生の彼だと思い、急いでシャワーを浴びて汗を流し、可愛らしい服を着てから玄関に向かうと、そこには私をイジメてきた女の子が親と一緒にいるのだ。私はついに親までつかい自分をイジメにきたのかと思い微かに足が震える。

 そしてその子の親は私が来たのを確認するとその子の頭を掴み

 

「家のバカ娘が本当にスミマセンでした!!!」

 

 何とその場で土下座をしたのだ。それには私も両親も呆然としてしまった。

 

「い、一体どういうことでしょうか?」

 

 父はすぐに正気に戻り、すぐさまその親に事情を聞く。

 

「…実は家のバカ娘があなたの娘さんをイジメていたことがわかり、親として娘の不手際に対して謝罪するために参ったのです」

 

 その言葉に父と母は驚き、私に確認をとってくる。

 私はそんなことよりも何でその事を知ったのか確認をすると何でも先日メガネをかけた小さい少年が家に訪ねてきて、ビデオを見せてきてその中には自分の娘が複数の女の子達と一緒になって私に暴言を吐いたり、私の物を奪っている姿が映し出され、すぐに確認して最初はしらばっくれていたが映像を見せた瞬間顔を青くし今まで私にしてきたことを自白したとのこと。

 そして彼から今日までに私に謝罪しないとこの映像を世間に公表すると脅されたとのことだ。

 

 そのメガネの少年とは、彼のことだろう。しかしなぜ?会って日が浅い私のためになぜここまでしてくれるの?私の頭の中は彼のことでいっぱいだった。

 

 その後はその子の他にも私イジメていた子達が親同伴でやって来る。それは夜まで続いた。イジメていた全員の謝罪が終わると今度は両親に今までの事を話す。「何で話してくれなかったんだ」「今まで気づかなくてごめんね」と言われ抱き締められた。私はそれに涙し今まで溜めていたものを一気に流した。

 

 

 

 次の日の学校では何と私をイジメていた子達が一斉に謝ってきた。「今までのことごめん」「あなたの気持ちを考えてなかった」と言われ流石に戸惑ったが許してあげることにした。そして彼女達と友達になり可愛い物や最新のファッションなどについて話すようになり、香織は自分のことのように喜んでくれた。

 私は彼の事が気になり何度も視線を向けるが当の本人はどこ吹く風という感じで一度も視線を向けてくれなかった。私が勇気を持てず彼になぜあんな事をしたのか聞くことができず一週間がたった。

 いつものように学校の日、先生は今日は大事な話があるそうなのでいつもより早めにみんな席に着いていた。そして先生は彼と一緒に教室に入ってきて教卓前に立つと話を始める。

 

「ええ~、今日、悟君はお父さんの仕事の都合で転校することになりました」

 

 私はその言葉が信じられなかった。このまま卒業まで一緒にいるのではないかと思っていた。まだお礼も言えていないのにこのまま別れてしまうなんて思わなかった。

 

 キーンコーンカーンコーン♪キーンコーンカーンコーン♪

 

 私は彼にどう言えばいいのか分からず悩んでいると、気づけば放課後になってしまい彼はランドセルを背負いへ下校する。私はすぐさまその背を追いかけた。

 

「待って!!!」

 

 彼が校門近くまで行くと私は大声で呼び止めた。彼はその歩みを止めてこちらに振り向く。

 

「ねぇ……何で私を助けてくれたの?」

 

 私は最初に疑問に思った事を聞く。何で、会って間もない私にわざわざあんな事をしてくれたのかわからないからだ。

 

「………泣いてる女の子を助けるのに理由がいるのか?」

 

「……えっ」

 

 彼は何て言ったのだ?私を女の子だとあんな地味で女の子らしくなかった私のためにわざわざあんな事をしてくれたのか。しかもそれを当たり前かのように言ったのだ。すると彼は私の姿をじっと見ると満足そうに頷く。

 

「前よりも可愛くなったじゃないか」

 

「っ!?」

 

 彼にそんな言葉を言われドキンとなってしまった自分。そりゃあ、彼にも可愛いと言わせたかったがいきなりの不意打ちに流石に対処できなかった。

 

「そのまま可愛くしていれば誰も君をイジメることはないだろう。……………じゃあな」

 

 そう言いながら背を向けて歩く彼。私はその姿にかつて自分が夢見た王子様の姿が見えた。その姿は白馬に乗ったきらびやかな姿ではなくかつて絵本で見たことのある漆黒の鎧を身に纏った騎士のような姿だった。

 

「ねぇ!!!」

 

 私は大声で叫ぶ。彼は歩みを止めたが後ろを振り向くことはしない。

 

「また………会えるよね?」

 

 私はお礼ではなくそんな言葉がとぶ。

 彼は言葉を返してはくれなかったが、まるでその言葉に応えるかのように腕を上げて振りながら立ち去って行くのだった。

 そして私は決めたのだ。今よりも可愛くなり彼に振り向いてもらうと決意するのだった。

 

 ──────────────────

 ~悟side~

 

「それでやっと、高校で再会できたと思ったら他人行儀に挨拶されたのが悲しくて泣いちゃったの」

 

 ごめんねと言いながら昔話を終える八重樫。その話で俺は思い出した。確かに小学生時代に少し男の子の見た目をした女の子を助けたのだ。それがまさか、八重樫の事とはわからなかったので少し驚いたが。

 

「それから、あの時はありがとう。あなたのおかげで私は変われる事ができたわ」

 

 お礼を言いながら笑顔を浮かべる八重樫。

 

「その、すまなかったな。小さかった頃の記憶はあまり覚えていないんだ」

 

「ううん、いいの。私が勝手に覚えてるだけだから」

 

 そう言う八重樫の顔を俺はじっと見つめる。

 

「な、なに?」

 

 流石にじっと見つめられるのが恥ずかしいのか若干顔を赤くする。

 

「いや……こうして見ると二大女神と呼ばれているのも頷けるなと思ってな」

 

「な!?///」

 

 俺の口からでた言葉に八重樫は耳まで赤くする。

 

「な、何を言って……」

 

「ん?ただ純粋に綺麗になったなと思っただけなんだが」

 

「っ!?」

 

 この言葉に目を大きく見開いたが今度は今まで見たことのないような笑顔をみせた。

 

「よかった。あなたにそう言われたら今まで頑張ってきたかいがあるわ」

 

 それから彼女は長椅子から立ち上がりこちらに振り向く。

 

「ねぇ。これからお互い、名前で呼び合わない?」

 

「ん?構わないが……何故だ?」

 

「そ、その……ほら!お互い、これからは背中を預けながら一緒に戦うんだし、他人行儀になるよりはいいかなって……」

 

(確かに、彼女の言う通り互いの信頼関係を結ぶためにもいいかもしれんな)

 

「わかった。これからよろしく頼むぞ、雫」

 

 俺が早速、名前の方で呼ぶと彼女はまたも笑顔を咲かせた。

 

「それじゃあ、悟君。明日もお互い頑張りましょう」

 

 そう言いながら彼女は嬉しそうにしながら走り去るのだった。

 一人になった俺は彼女が話してくれた過去について思いを馳せていると。

 

「……お義兄ちゃん!」

 

「うわっ!?」

 

 突如、背後から恵里に声を掛けられ驚く。

 

「隣、いい?」

 

「あ、ああ、もちろんいいよ」

 

 ありがと、と言いながら恵里は隣に座る。

 正直、あの会場での出来事に恐怖を未だに覚えている俺は今度はどんな仕打ちがまっているのかと冷や汗が止まらなかった。

 

「…………ねぇ」

 

「はいっ!?」

 

 恵里の言葉に思わず身構える俺。

 

「あの話、本当なの?」

 

 すると恵里が寂しそうな声をあげる。

 

「……ああ、本当だよ」

 

「どうして?」

 

 俺の瞳を見つめながら恵里は詰め寄る。

 

「いつか、父さんが言っていたんだ。『誰かが困っていたら、助けるのは当たり前』ってね」

 

「……………」

 

 恵里はその言葉を黙って聞く。そして俺は続ける。

 

「俺は小さい頃からその言葉を胸に警察として頑張る父さんの姿はいつしか俺の憧れになった。そして俺もその言葉を胸に転校してはイジメを受けていた子達を助けていたんだ。せめて、自分の手が届く範囲にいる子は助けたかったんだよ」

 

 俺はそう言いながら恵里の頭を撫でる。恵里は俺の顔をじっと見つめてからフッと笑みを浮かべる。

 

「やっぱり、小さい頃からお義兄ちゃんはお義兄ちゃんだったんだね」

 

「フッ、なんだそれは」

 

 俺達は互いに笑いあうとそのまま星を眺める。こんな風にゆっくりとした時間を過ごせるのは最後かもしれないからじっくりと眺めた。

 

「…ねぇ、お義兄ちゃん」

 

「ん?何だ、んぐ……!?」

 

 俺が恵里の方に向くと、何と恵里は顔を近づけてから軽く唇にキスをしたのだ。人生初のファーストキスと言うものだ。

恵里のしっとりとした唇の感触を感じながら俺の頬は今までにないくらい熱くなる。

 

「な、な、な、な!!??///」

 

 突然の義妹の行動に流石に冷静さが保てるわけもなく錯乱してしまう。

 

「お義兄ちゃん……僕、負けないから」

 

「ふぇ?」

 

 まるで何かを決意している恵里の言葉にワケが分からず困惑する。

 

「確かに、八重樫さんの方が先にお義兄ちゃんと出会うのは早かった。でも、お義兄ちゃんを好きな気持ちは誰にも負けないよ」

 

 そう言って俺の耳元に顔を近づける。

 

「もちろん、女として、ね?」

 

「*#%※!?」

 

 耳元で囁かれたその言葉に俺は声にもならない声をあげる。そして恵里は立ち上がってから妖艶な笑みを浮かべる。

 

「それじゃあ、明日もよろしくね。()()

 

 そう言って去っていったのだが俺の頭の中は大パニックとなっており、返事を返すこともできなかった。

 

(えっ!少し待ってくれ!確かに恵里は大切な子だがそれはあくまでも義妹としてであって決して……あっ、でも中学の時に比べれば可愛くなって……って!何考えてるんだ俺は~!?)

 

 恵里に男として見られていたことを知ってしまった俺は、頭が真っ白になってしまいその後の記憶が残っていなかった。

 気づけばいつの間にか自分の部屋に戻ってきており、俺は頭に枕を被せながら「恵里は義妹、恵里は義妹、恵里は義妹」と何度も同じ言葉を繰り返し布団に潜った。その様子に何かあったと気づいたハジメはニヤニヤしながら俺を見つめていた。

 

そして、この日は一睡することもなく朝を迎えてしまうのだった。




はい。というわけで雫の過去回にしてみました。いやぁ、やっぱり話を考えるのも大変だなと思いました。
そして次回はついに迷宮の話が書けそうです。読者の皆様、楽しみに待っててくださいね。


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迷宮と罠

皆さんお久しぶりです。遅くなってすみません。楽しみにしていた方々には大変お詫び申し上げます。


 恵里の衝撃的なカミングアウトを聞いてしまった俺は、現在【オルクス大迷宮】に来ている。迷宮の中は緑光石という特殊な鉱石が埋まっている鉱脈のおかふげで松明やランタンもいらないほどの明るさだった。

 

 しばらく進んでいるとドーム状の広間に出た。七、八メートル位はありそうな場所だ。

 その時、物珍しげに辺りを見渡していると我々の前に、壁の隙間という隙間から灰色の毛玉が這い出てきた。

 

「よし、光輝達が前に出ろ。他は下がれ!交代で前に出てもらうからな、準備しておけ!あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが、たいした敵じゃない。冷静に行け!」

 

 その言葉通り、ラットマンと呼ばれた魔物は結構な速度で飛びかかってきた。

 

 灰色の体毛に赤黒い目が不気味に光る。ラットマンという名称に相応しく外見はネズミっぽいが・・・二足歩行で上半身がムキムキだった。八つに割れた腹筋と膨れ上あがった胸筋の部分だけ毛がない。まるで見せびらかすように──正直に言ってキモチワルイ。

 

 正面に立つ天之河達──同じパーティーメンバーである恵里と雫はそのあまりの見た目に頬を引き攣らせている。

 

 間合いに入ったラットマンを天之河、雫、龍太郎の三人で迎撃する。その間に、白崎と恵里、谷口が詠唱を開始し魔法を発動する準備に入る。

 

 天之河は純白に輝くバスターソードを視認も難しい程の速度で振るって数体をまとめて葬っている。

 

 龍太郎は、天職が“拳士,,であることから籠手と肘当てをつけている。どっしりと構え拳を放ったり、柔道部ということもあって相手を引き付けてその勢いを利用して地面に叩きつけてから頭蓋骨を粉砕するという正に“柔と剛,,を使った戦いをしている。

 

 雫は“剣士,,の天職持ちで刀とシャムシールの中間のような剣を抜刀術の要領で抜き放ち、一瞬で敵を切り裂いていく。その動きは洗練されていて、騎士団員を感嘆させるほどである。

 

 しばらくその戦いぶりを見ていると、詠唱が響き渡った。

 

「「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ──“螺炎,,」」」

 

 三人同時に発動した螺施状に渦巻く炎がラットマン達を吸い上げるように巻き込み燃やし尽くしていく。「キィィィッ」という断末魔の悲鳴を上げながらパラパラと降り注ぐ灰へと変わり果て絶命する。

 

 気がつけば、広間のラットマンは全滅していた。他の生徒の出番無しである。どうやら、天之河達召喚組の戦力では一階層の敵は弱すぎたらしい。

 

「ああ~、うん。よくやったぞ!次はお前等にもやってもらうからな、気を緩めるなよ!」

 

 生徒の優秀さに苦笑いしながら気を抜かないように注意するメルド団長。しかし、初めての迷宮の魔物討伐にテンションが上がるのは止められない。頬が緩む生徒達に「しょうがねぇな」とメルド団長は肩を竦めた。

 

「それとな……今回は訓練だからいいが、魔石の回収も念頭に置いておけよ。明らかにオーバーキルだからな?」

 

 メルド団長の言葉に恵里達魔法支援組は、やりすぎを自覚して思わず頬を赤らめる。

 

 そこからは特に問題もなく交代しながら戦闘を繰り返し、順調に階層を下げて行った。

 

 

 

 そうして十階層あたりでついに俺とハジメの番となった。

 

「よ~し、次はハジメとサトルの番だ!気合い入れていけ!」

 

 メルド団長の気合いの入った言葉を聞きながら俺達は前に出る。

 

「ハジメ。援護はいるか?」

 

 俺は念のために援護がいるか確認をとる。

 

「ううん。大丈夫」

 

 ハジメはそう言いながら前に出る。

 そうすると新たな獲物が来たと認識したラットマンが三体程ハジメに襲いかかる。ハジメは慌てることなく落ち着いた様子で地面に手を着く。

 

「“錬成,,」

 

 ハジメは自分が唯一使える技能を発動させる。するとラットマンの足元の地面に穴が開く。突然の出来事に対処できるわけがなくラットマンは穴に落ちるー

 

 ーっと思ったらハジメはもう一度錬成を発動させ穴を閉じる。完全に落ちる途中で閉じたためラットマンの体は上半身だけ動ける状態で下半身は身動きが全くとれていなかった。

 ハジメは地面から手を離すとゆっくりと近づく。ラットマンは脱出しようと何度も腕を地面に振り下ろすがびくともしなかった。そうしてハジメはラットマンの側まで近づくと懐から武器を取り出す。

 それを見たクラスメイト達は目を見開き、メルド団長達は疑問を浮かべる。そしてハジメはラットマンの頭に標準を合わせてから引き金を引く。

 

 バン❗❗

 

 その武器から発砲音がなるとラットマンの頭から血が流れ絶命する。

 

「銃⁉️何で南雲が持ってるんだ!?」

 

「銃?ハジメが持っているアーティファクトのことか?」

 

 クラスメイト達は一部を除きざわつき、メルド団長を含めた騎士達は疑問の声が飛ぶ。

 そう、ハジメが独自に創っていたのは“銃,,だ。形は警察官が使うような拳銃と似たような感じで、ハジメが持っている知識を使って構造や弾薬を創り何度も試運転をして何とか試作段階まで創ることができたのだ。

 

「はい、あの武器は俺達の世界で創られている武器で、弓矢以上の威力と飛距離を持ち、魔法のように詠唱も要らずの画期的な武器ですよ」

 

「そんなにか?」

 

「ええ、まだ試作の物ですが完成して量産することが出来れば一般の兵士でも魔物を簡単に倒せるようになるでしょう」

 

「ほぉ~、それは楽しみだな」

 

 俺がメルドさんに銃の説明をすると後方ではクラスメイト達がハジメのことを「スゴイ!スゴイ!」と誉めまくっていた。だが、予想通り驚きつつも天之河と小悪党組はハジメが活躍したことに面白くなさそうな顔をしていた。

 そんなことをしているうちにハジメは残り二体を片付けていた。さすがに生物を殺したことに精神的にきたのか少し疲れが見え始めていたのでそろそろ交代することにしよう。

 

「ハジメ。そろそろ交代だ」

 

「え、でも……」

 

「まだ、階層は下まで行くんだ。ここで弾を使いきってしまえば本末転倒だ。それに、帰るまでが今日の任務だ」

 

「そうだろう?」と優しく声を掛けながらハジメの肩に手を置く。ハジメは最初は渋っていたが少し考えてから「わかった」と言いながら後方に下がる。

 

 するとハジメを警戒していたラットマン達はハジメが後方に下がるのを確認すると一斉に襲いかかる。その数は十体以上、後方から「お義兄ちゃん!?」と恵里の声が聞こえメルドさん達もさすがにマズイと感じたのかこちらに駆け寄ろうとする。それに俺は手で制止し落ち着いて魔法を放つ。

 

「〈脱水(デハイドレーション)〉!!」

 

 すると襲いかかってきたラットマン達は突然苦しみだしその場にうずくまる。

 

「い、いったい何がおこってるんだ?」

 

「この魔物達の体から水分をなくしたんですよ」

 

「水分を?」

 

 メルド団長は目の前でおこっている出来事が理解できていないようなのでそれに答える。

 

「どんな生物もその体の中には水があります。それは生命活動をするうえで必要なものです。俺は魔法で体内の水分を蒸発させました。すると……」

 

「すると、どうなるんだ?」

 

「急激に水分が失われることで脱水症状に陥ります。めまい、頭痛や吐き気、筋肉の痙攣など身体に異常が起こります。また体の20%の水分がなくなった場合、生命維持活動ができなくなり死にいたります。」

 

 そう説明するとメルド団長は若干冷や汗を掻いていた。恐らくこの魔法を自分達に使われた時のことでも想像したのだろう。まあ、俺はそんな事をする気など微塵もないが。

 説明を終える頃には先ほどまで苦しそうな声をあげていたラットマン達は既に事切れていた。どうやら急激に水分がなくなった事に耐えられなかったのだろう。

 

「さて、行きましょう」

 

「あ、ああ全員出発だ!!」

 

 俺が出発を促すとメルド団長は慌てながらも指示をする。

 

 

 

 そして順調に魔物を倒しながら階層を降りていくと、一流の冒険者か否かを分けると言われている二十階層にたどり着く。

 

「よし、お前達。ここから先は一種類の魔物だけでなく複数種類の魔物が混在しており連携を組んで襲ってくる。今までが楽勝だったからと言ってくれぐれも油断するなよ!今日はこの二十階層で訓練して終了だ!気合い入れろ!」

 

 メルド団長のかけ声がよく響く。

 

 そして小休憩に入ると、ハジメは前方を見ていた。俺も同じ方向に目をやるとそこには白崎がいた。彼女はハジメの方を見て微笑んでいる。そして目をそらすハジメ。

 昨夜は何もなかったと言うがどうにも気になるな。

 

「ハジメ。本当は昨夜、白崎と大人の階段を登ったんだろう?」

 

「だ、だから何もなかったって言ってるだろ!」

 

「ホントか~?」

 

 俺がニヤニヤしながら質問するとハジメは顔を真っ赤にしながら全力で否定する。

 その様子に白崎は拗ねたような表情をする。それを横目で見ていた雫が苦笑いし、小声で話しかけた。

 

「香織、何南雲君と見つめ合ってるのよ?迷宮でラブコメなんて随分と余裕じゃない?」

 

「もう、雫ちゃん!変なこと言わないで!私はただ、南雲君大丈夫かなって、それだけだよ!」

 

「それがラブコメしてるってことでしょ?」

 

 何やら、白崎は顔を赤くしながら否定しているみたいだがどう見てもハジメの事が気になっているのは確かなようだ。

 

「そう言う、雫ちゃんだって鈴木君の事チラチラと見てるじゃない!」

 

「バ、バカ!?そんな事してないわよ!」///

 

 今度は雫が顔を真っ赤にしながらワーワーと騒いでいる。こんな場所でもあんなに騒げるとは相当仲が良いことが窺える。

 すると隣にいるハジメが突然背筋を伸ばし、キョロキョロと周りを見回す。

 

「どうした?ハジメ」

 

「うん、何か嫌な視線を感じて」

 

「……またか」

 

 どうやらハジメは今朝からねばつくような、負の感情がたっぷり乗った不快な視線を感じるそうだ。それも何度も。まぁ、その視線を向けている者が誰なのか、見当はついているが。

 俺が視線を向けるとそいつはビクッと体を震わせる。

 

(あいつ……まさかとは思うがここでハジメを襲う気か?)

 

 さすがに騎士達の前で銃を持っているハジメを襲うなど自殺行為に等しいのでそんなバカな事をするとは思えないが俺は警戒をすることにする。

 

 休憩も終わり俺達は二十階層を探索する。

 

 二十階層の一番奥の部屋はまるで鍾乳洞のようにツララ状の壁が飛び出していたり、溶けたりしたような複雑な地形をしていた。この先を進むと二十一階層の階段があるらしい。

 そこまで行けば今日の実戦訓練は終わりだ。一応、俺は転移魔法が使えるのだがこの人数を一気に転移することはできないので地道に帰らなければならない。

 

 すると、戦闘を行く天之河達やメルド団長が立ち止まった。訝かしむ生徒を余所に俺は“気配感知,,や“魔力感知,,を使い、そこに魔物がいるのに気づき天之河達と同じように戦闘態勢に入る。

 

「擬態しているぞ!周りをよ~く注意しておけ!」

 

 その直後、前方でせり出していた壁が突如変色しながら起き上がった。壁と同化していた体は、今は褐色となり、二本足で立ち上がる。そして胸を叩きドラミングを始めた。どうやらカメレオンのような擬態能力を持ったゴリラの魔物のようだ。

 

「ロックマウントだ!二本の腕に注意しろ!豪腕だぞ!」

 

 メルド団長の声が響く。天之河達が相手するようだ。飛びかかってきたロックマウントの豪腕を龍太郎が拳で弾き返す。天之河と雫が取り囲もうとするが、鍾乳洞的な地形のせいで足場が悪く思うように囲むことができない。

 

 龍太郎の人壁を抜けられないと感じたのか、ロックマウントは後ろに下がり仰け反りながら大きく息を吸った。

 

 直後、

 

「グゥガガガァァァァアアアア────!!」

 

 部屋全体を振動させるような強烈な咆哮が発せられた。

 

「ぐっ!?」

「うわっ!?」

「きゃあ!?」

 

 体をビリビリと衝撃が走り、ダメージ自体はないものの硬直してしまう。ロックマウントの魔力を乗せた咆哮で一時的に相手を麻痺させる固有魔法“威圧の咆哮,,だ。

 

 まんまと食らってしまった天之河達前衛組が一瞬硬直してしまった。

 

 ロックマウントはその隙に突撃するかと思えばサイドステップし、傍らにあった岩を持ち上げ白崎達後衛組に向かって投げつけた。見事な砲丸投げのフォームで!咄嗟に動けない前衛組の頭上を越えて、岩が白崎達へと迫る。

 

 白崎達が、準備していた魔法で迎撃せんと魔法陣が施された杖を向けた。

 

 しかし、発動しようとした瞬間、白崎達は衝撃的光景に思わず硬直してしまう。

 

 なんと、投げられた岩もロックマウントだったのだ。空中で見事な一回転を決めると両腕をいっぱいに広げて白崎達へと迫る。その姿は、さながらル○ンダイブだ。「か・お・り・ちゃ~ん!」という声が聞こえてきそうである。しかも、妙に目が血走り鼻息が荒い。白崎も恵里も谷口も「ヒィ!」と思わず悲鳴を上げて魔法を中断してしまった。

 

「〈雷撃(ライトニング )〉!!」

 

 俺はすぐさま魔法を発動させ、指から発生した電撃はダイブ中のロックマウントの眉間を居抜き貫通した。その個体は絶命し白崎達の目の前で落ちた。

 

「無事か?恵里、白崎、谷口」

 

 ロックマウントを倒した俺はすぐさま三人の安否を確認した。

 

「あ、ありがとう、鈴木君」

「いや~、助かったよ」

 

 白崎と谷口は俺がロックマウントを倒したのだと気づくと感謝を述べた。

 そして、恵里は

 

「いやぁ~ん♪ありがとう、お義兄ちゃん!」

 

 俺の腰に抱きついてきた。

 

「うわぁ~!?く、くっつくな~!!」///

 

 抱きついてきた瞬間、昨夜の事を一気に思い出した俺は余りの恥ずかしさに思わず大声で叫んだ。

 俺の取り乱しが昨夜の事だと察したのか、恵里は嬉しそうな顔をしながら更に力を強めて俺の腰に抱きつく。

 

「いつもならエリリンのハグを素直に受け止めるのに今は何故か顔を赤くしながら拒絶し、そんなサトルンに対してエリリンは嬉しそうな顔を………まさか!?昨日の夜、帰りが遅かったのって遂に二人は大人の階段を登って…「フンッ!!」グエッ!?」

 

 そんな俺達の状況を見て、またも誤解が生じかねない事を言っている谷口の頭に手を乗せアイアンクローを喰らわせた。

 

「谷口~?それ以上何か言うつもりならお前の只でさえ低い身長を更に低くしてもいいんだぞ?」

 

「ギブ!ギブ!ギブ!ギブ!ギブギブ!!!」

 

 俺達のこんな様子を見て先ほどまで顔を青ざめていた二人は苦笑し、何故かクラスメイトの何名かは俺に生暖かい視線を向けてくる。

 そんな中でキレる若者が一人。思い込みの塊、我らが勇者(笑)天之河光輝である。

 

「貴様・・・よくも香織達を・・・許さない!」

 

 どうやら気持ち悪さで青ざめているのを死の恐怖を感じたせいだと勘違いしたらしい。彼女達を怯えさせるなんて!と、なんとも微妙な点で怒りをあらわにする天之河。それに呼応して聖剣が輝き出す・・・て、はぁ!!??

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ──“天翔閃,,」

 

「あっ、こら、馬鹿者!」

 

 メルド団長の声を無視して、天之河は大上段に振りかぶった聖剣を一気に振り落とした。

 

 その瞬間、詠唱により強烈な光を纏っていた聖剣から、その斬撃となって放たれた。逃げ場などない。曲線を描く極太の輝く斬撃が僅かな抵抗も許さずロックマウントを縦に両断し、更に奥の壁を破壊し尽くしてようやく止まった。

 

 パラパラと部屋の壁から破片が落ちる。「ふぅ~」と息を吐きイケメンスマイルで白崎達に振り返った天之河。その顔を見た瞬間、俺は谷口を離し天之河に近づき拳骨を喰らわせた。

 

「へぶぅ!?……な、何するんだ、鈴木!?」

 

「バカか、お前は!?こんな狭い所であんな大技を放つ必要があるか!?」

 

「でも、香織達が……」

 

「いや、サトルの言う通りだぞ光輝。お前の気持ちはわかるが、運が悪ければあの技で壁が崩落して生き埋めになっていたぞ!」

 

 最初は俺の言葉に反論しようとした天之河だが、メルド団長から指摘され「うっ」と声を詰まらせ、バツが悪そうに謝罪する。白崎と谷口が寄ってきて苦笑しながらも慰める。

 

(やれやれ、冷静的に状況判断もできないあんな奴が俺達のリーダーとは先が思いやられる)

 

「はぁ」と俺が天之河の無能っぷりに呆れていると、ふと白崎が崩れた壁の方に視線を向けた。

 

「……あれ、何かな?キラキラしてる……」

 

 その言葉に、全員が 白崎の指差す方へ目を向けた。

 

 そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。まるでインディコライトが内包された水晶のようだ。白崎を含め女子達は夢見るように、その美しい姿にうっとりとした表情になった。

 

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

 

 グランツ鉱石とは、言わば宝石の原石みたいなものだ。特に何か効能があるわけではないが、 その涼やかで煌びやかな輝きが貴族のご婦人ご令嬢方に大人気であり、加工して指輪・イヤリング・ペンダントなどにして贈ると大変喜ばれるらしい。求婚の際に選ばれる宝石としてもトップ三に入るとか。

 

(……嫌、どう見ても罠だろう……)

 

 俺はそう結論した。そもそも、そんな貴重な鉱石がまだまだ深層とは呼べないこの階層に簡単に見つかるものなのか?それにここは迷宮だ。おそらくあれは人間の醜い欲求を刺激するために配置されている可能性もある。

 

 ハジメの方に視線を向けると彼は首を振った。どうやら『鉱物鑑定』を使ったのだろう、ここにいる中で鉱物に詳しいハジメが否定するのだから間違いないだろう。俺は罠の可能性が高い事をメルド団長に伝えようとすると

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

 そう言って唐突に動き出したのは檜山だった。グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁をよじ登っていく。

 

「こら!勝手なことをするな!安全確認もまだなんだぞ!」

 

「あのバカ!」

 

 しかし、檜山は聞こえない振りをする。俺は魔法で檜山の動きを止めようとするが既に遅く、とうとう鉱石の場所にたどり着いてしまった。

 

 メルド団長は、止めようと檜山を追いかける。同時に騎士団員の一人がフェアスコープで、鉱石の辺りを確認する。そして、一気に青褪めた。

 

「団長!トラップです!」

「ッ!?」

 

 しかし、俺も、メルド団長も、騎士団員の警告も一歩遅かった。

 

 檜山がグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる。

 魔法陣は瞬く間に部屋全体に広がり、輝きを増していった。まるで、召喚されたあの日の再現のようだ。

 

「くっ、撤退だ!早くこの部屋から出ろ!」

 

 メルド団長の言葉に生徒達が急いで部屋の外に向かうが・・・間に合わなかった。

 

 部屋の中に光が満ち、視界を白一色に染めると同時に一瞬の浮遊感に包まれる。

 

 空気が変わったのを感じた。次いで、ドスンという音と共に地面に叩きつけられる。

 

 すぐに立ち上がり周囲を見渡し警戒する。

 

 どうやらあの魔法陣によって転移されたらしい。その場所は、巨大な石造りの橋の上だった。ざっと百メートルはありそうだ。天上も高く三十メートルはあるだろう。橋の下は全く何も見えない深淵の如き闇が広がっていた。

 

 橋の横幅は二十メートルくらいはありそうだが、手すりどころか縁石すらなく、足を滑らせれば真っ逆さまだ。俺達はその巨大な橋の中間にいた。橋の両サイドにはそれぞれ、奥へと続く通路と上段への階段が見える。

 

 それを確認したメルド団長が険しい顔をしながら指示を飛ばした。

 

「お前達、すぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」

 

 雷の如く轟いた号令に、わたわたと動き出す生徒達。

 

 しかし、階段側の橋の入り口に魔法陣が現れ大量の魔物が出現した。更に、通路側にも魔法陣は出現し、そこからは()()の巨大な魔物が……

 

 その時、現れた巨大な魔物二体を呆然と見つめるメルド団長の呻く様な呟きが明瞭に響いた。

 

「──まさか……ベヒモスと……骨の竜(スケリトル・ドラゴン)……なのか」

 

 




今回はオーバーロードの魔物を出して見ました。ベヒモスだけじゃ何か味気ないなと思いやってみました。また、スケリトル・ドラゴンを登場させるために原作より橋の横幅と高さを大きくしてみました。
次回も頑張って書いていこうと思うので楽しみにしてください。


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