グラブル短編 (偽馬鹿)
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小さくて、とても綺麗な旋律を

ニオの小さい頃の話と、その後の話。


トクントクンと音がする。

それは人によって違う音で。

それに気付ける人は他の人と違うモノで。

 

そんなモノだったのが彼女だ。

そんなモノだったから彼女は怖がられ、恐れられ、排除された。

 

両親なんてものは本当にただの他人のようなもので。

ただその旋律が、彼女にとってはとても不快なものだった。

 

 

 

ガタンガタンと揺られる中、彼女はじっと身体を縮ませていた。

彼女がいる場所はたくさんの子供が乗った馬車の仲だった。

誰かと関わることすら億劫だった彼女は、じっと時間が過ぎるのを待っていたのだった。

 

辿り着いたのは孤児院。

古びた建物で、誰かが住んでいるとは思えないものだった。

 

「ようこそいらっしゃい、みなさん」

 

そこで出会った院長先生。

彼女はその院長先生の旋律が気に入った。

優しい、優しいそれは、誰かが怒っても泣いても変わらなかった。

そして、彼女が大変なモノだと知られた時も、院長先生の旋律は優しいままだった。

 

 

 

「それで、私に相談したんだね?」

 

ノビヨ、という男の人を紹介された。

その人の旋律もとても優しく、森の中にいるかのようだった。

 

その人は旋律と同じように優しくて。

旋律を奏でる方法を教えてくれた。

それは彼女の求めるものであり、手段であり、目的であった。

 

新しい旋律を奏でれば褒めてもらえて。

美しい旋律を奏でれば褒めてもらえて。

彼女はとても幸せだった。

 

この幸せをもっと感じてみたい。

そう思ったところで、かつての記憶が呼び起こされた。

暗い旋律、怖い旋律、気持ちの悪い旋律。

その全てが、彼女の心を苛んだ。

 

 

 

しかし、その旋律を覆い隠すようなほど、美しい旋律も知ることができた。

ノビヨはそれほどの旋律を生み出すことのできる人間だった。

凄いと思った。

もっと聞いていたいと思った。

真似したいと思った。

 

しかし、真似だけではいけないとも言われた。

自分自身の旋律を見つけなさい。

そんな風に言われたのである。

 

彼女にはよく分からなかった。

自分の旋律とは一体何なのか。

あの暗い旋律だろうか。

それとも怖い旋律だろうか。

それとも気持ちの悪い旋律だろうか。

 

色々と試してみた。

色んな楽器を。

色んな歌を。

色んな手段を。

しかし、それらのどれも納得のいくものではなかった。

 

 

 

「そうかい。行くんだね」

「……うん」

 

少し経ち、彼女は旅立つことにした。

自分の旋律を探すために。

自分の求める旋律を見つけるために。

 

院長先生はそんなときでも優しい旋律のままだった。

それがとても嬉しくて。

それがとてもつらかった。

 

なんとなく、引き留めて欲しいとも思った。

なんとなく、綺麗に送り出して欲しいと思った。

そしてそれらは少し違う形で叶えられた。

 

涙だ。

院長先生は涙を流した。

その時の旋律はとても悲しくて。

それでいてとても美しかった。

 

つられて彼女も泣いてしまった。

ポロポロポロポロ泣いてしまった。

だけどそれは何だか心地よくて。

院長先生の胸の中でわんわんと泣いた。

 

 

 

そして、旋律を探す旅へと出た。

何度も何度もくじけそうになった。

そのたびに、院長先生とノビヨの戦慄を思い出して自分を奮い立たせた。

 

例え暗い旋律に包まれても。

例え怖い旋律に覆われても。

例え気持ちの悪い旋律に見舞われても。

彼女はずっと探していた。

 

 

 

そして見つけたのだ。

十天衆と呼ばれるようになって。

全空の脅威と恐れられるようになって。

そしてそこまでの存在になってまで。

漸く、漸く辿り着いたのである。

 

 

 

「……団長?」

 

彼女は身動きをしない、その旋律の持ち主を見遣る。

その旋律の持ち主は、すやすやと眠っていた。

 

「ふふ……綺麗な旋律」

 

ふわりと彼女は笑う。

あの頃では考えられなかった、自分の笑顔。

そして、自分から溢れ出る心地よい旋律。

そうか、これが自分自身の旋律なんだと、何となく感じた。

 

「……」

 

ぎゅ……っと彼女は眠っている誰かに抱き着いた。

もっと近くで感じていたい。

もっと大きな音を聞いてみたい。

そう思って抱き着いた。

 

「ん……」

「あ、起きちゃった?」

 

すると、誰かは大きく背伸びをして起き上がる。

その誰かは彼女の顔を見て旋律を僅かに乱れさせるが、すぐに元に戻った。

その様子に、彼女は小さく笑った。

 

「もう少し、このまま……」

 

彼女が小さく呟くと、誰かはそのまま後ろに倒れ込んだ。

既に旋律は美しいそれに戻っていた。

 

ああ、あの時院長先生に出会わなければ。

あの時あの先生に出会わなければ。

こんな心地の良い場所で、心地の良い旋律を聞くことはできなかっただろう。

 

 

 

そう思いながら彼女――ニオはゆっくりと眠りに落ちていったのだった。

 

 



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マギサと小さなグランの話

マギサさんと、小さくなったグランの話。


カリオストロが用意した肉体調整薬を飲んで身体が縮んでしまったグラン君!

その解毒剤を作るのに忙しいカリオストロを除くと、船に残っているのはマギサのみ!

さあどうなるのか!

(雑な導入)

 

 

 

「あの……マギサさん?」

「あら、何か気になることでも?」

 

今現在、グランの身体は120cm程度にまで小さくなっている。

そのグランを、マギサは両手で抱えるように抱きしめていた。

 

「あのですね……」

「どうしたのかしら、顔が赤いわよ?」

 

クスクスと、楽しそうに笑うマギサ。

その様子と、背中に感じる温かく柔らかい感覚に顔を真っ赤にするグラン。

 

「もう! わかってて言ってるでしょう!」

 

じたばたと暴れてマギサの腕から逃げようとするグラン。

しかし、体格差から全く逃れることができない。

それどころか、マギサの腕は更にぎゅっと力強く抱きしめようとしていた。

 

「ふふふ、可愛い」

「あわわわ」

 

グランは慌てているが、どうしようもなかった。

暫く暴れていたが、観念したのか項垂れるようにがっくりと肩を落とした。

 

 

 

「いつもは凛々しい姿の貴方だけど、こういう姿も新鮮ね」

「うう……」

 

グランはマギサに抱きかかえられたまま移動させられる。

グランは辺りを見渡すが、いつもと視点が違っていて違和感がある。

何処に連れていく気なのか。

 

「大丈夫よ。食べたりなんかしないわ」

「……なんか冗談に聞こえないんですが」

「そうかしら?」

 

ふふふ、と笑いながらマギサはグランを抱えて歩き続ける。

グランは何となく不安になってくる。

いや、身の危険を感じるというか、貞操の危機を感じるというか。

そんな感覚が彼を襲っていた。

 

 

 

そして、辿り着いたのは1つのドア。

可愛らしく彩られたそこは、カリオストロの部屋のドアだった。

 

「さて、そろそろじゃないかしら?」

「え、あ」

「ふふふ。食べたりしないって言ったじゃない」

 

グランを放し、マギサアはドアを開けた。

どうやら鍵は閉まっていないようだ。

グランの手を握りながら、ゆっくりとマギサは中へと入っていった。

 

「ん? ……ああ、ちょうど出来たところだぜ。ほらよ」

 

カリオストロはすっと机の端に置かれた謎の液体を指さす。

コポコポと音を立てて未だに煮立っているように見えた。

 

「……飲めるのこれ?」

「飲むんだよ」

 

コポコポ音を立てている液体が入ったコップを手に、グランはじっとしていた。

いや、これは、無理。

グランは薬を抱えたままじっとしていた。

 

 

 

「じゃあ、こういうのはどうかしら?」

「え?」

 

ひょい、とマギサはグランの持つ薬を取り上げ、おもむろに飲んだ。

 

「え?」

「あん?」

 

そしてグランの口を開いて、思い切りキスをした。

そのまま飲み干した薬をグランの口に流し込んだ。

 

「むぐ、むー!?」

「中々やるな……」

 

バタバタを手足を動かして逃げようとしたが、やはり体格差で逃げられないグラン。

その様子を、興味深そうに見るカリオストロ。

そして、その結果に満足そうなマギサ。

 

すると、ポンという音と共に煙が巻き起こり、グランの姿が見えなくなる。

そしていつも通りの、元の姿に戻ったのだった。

 

 

 

「ふふふ。あの小さい姿も可愛らしかったけれど」

 

グランが薬を飲んだ直後にぶっ倒れて寝室へと運ばれた後、マギサは寝ているグランの横顔を眺めていた。

さらりと前髪を触り、流す。

 

「やっぱり、こっちの方が凛々しくて好きよ」

 

頬にキス。

そしてそのままグランの目が覚めるまで、ずっとその寝顔を眺めているのだった。

 

 

 



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フォルテ、弟子を取る

フォルテとコルルの話。


「あ……ふ……」

 

フォルテは今日、暇であった。

なにせ団長含め、ほぼ誰もが依頼を受けたり個人的な用事で出かけているからだ。

甲板で空を眺めながら、フォルテは暇をつぶしていた。

 

「ふぁ……」

 

鍛錬でもしようかと思ったが、そんな気分にもならない。

誰かが言っていたが、そういうやる気のない日はゴガツビョウ、というらしい。

何度も言うが、フォルテは暇であった。

 

 

 

「ん……?」

 

暇を持て余していたフォルテは、不意に何かが振るわれているような音が聞こえてきた。

彼女は甲板の先端の方でぼうっとしていたが、その音は甲板のちょうど反対側から聞こえてきていた。

どうせ暇なのだ。

フォルテはそう思って、音の聞こえる場所まで歩いていくのだった。

 

 

 

「はあっ! せいっ! とりゃっ!」

 

そこには、練習用の槍をぶんぶんと振り回す少女がいた。

確か、コルルと言ったが。

フォルテは少ない記憶から思い起こす。

 

見れば、荒々しい動きながら、非常に力強い槍の振るい方だ。

中々に筋がいい。

フォルテはそう思い、ゆっくりと近づいていった。

 

「ちょっとそこの君」

「……ん? わたしでごんすか?」

「そうだ」

 

フォルテはちょいちょいと手招きをし、コルルを呼び寄せる。

すると、トテトテとコルルが寄ってくる。

か、可愛い……とふんわり頭の中にそんな感想が思い起こされるが、すぐさまかき消すフォルテ。

 

「ああ、コホン。コルル……だったか」

「そうでごんす」

「かわ……いや、なんでもない」

「?」

 

ブンブンと頭を振るフォルテに不思議そうな顔をするコルル。

なんでもないと仕切りなおそうとするフォルテだったが、どうにも調子が狂う。

 

すると、近くの壁にもう1本の練習用の槍が立てかけてあった。

それを見つけたフォルテは名案を思い付いた。

 

「そうだ、槍の練習相手が必要じゃないか?」

「練習相手……?」

 

 

 

 

 

 

「あ、ありがとうございました! でごんす!」

「いやいや、こちらもいい運動になった」

 

暫くの間、練習試合を行った2人はふんわりと笑いながら呼吸を整えていた。

実際、いい運動になった。

フォルテは思った以上にしっかりと戦えるコルルに驚きつつも、それ以上に楽しさを覚えていた。

ここには中々の使い手が集まるからな、と思いながらフォルテはコルルの頭を撫でた。

 

「な、なんでごんすか……?」

「あ、ああ済まない。嫌だったか?」

「そういうわけではないでごんすが……」

 

何となく不思議な感じがする、とコルルは言った。

嫌な感じではないとも言っていたので、フォルテは更にわしゃわしゃと頭を撫でるのであった。

 

 

 

 

 

「ふぁ、あ……」

 

数日後、フォルテはまた暇であった。

今度は仕事が早く終わってしまい、空き時間ができたためだ。

別にいつも暇なわけではないぞ、と誰もいない甲板で呟くが、ふるふると首を振る。

 

「あ、フォルテさんでごんす!」

 

少し経つと、何処からともなく声が聞こえた。

この声はコルルか、と振り返るフォルテ。

すると、トテトテと歩いてくるコルルが甲板の向こう側にいた。

 

「ああ、コルルか。何か用か?」

「うう、どうして撫でるでごんすか」

 

寄ってきたコルルの頭をわしゃわしゃと撫でると、若干嫌がりながらも受け入れるコルル。

その様子を見て、更に手をわしゃわしゃと動かすフォルテであった。

 

「……じゃなくて! また稽古をお願いし申す!」

 

暫く撫でられていたコルルだが、意を決して話す。

するとフォルテの顔がゆるゆるのそれから、きりっとした表情に変わる。

戦士の顔だ。

 

 

 

「わかった。手加減はしないぞ」

「頼むでごんす!」

 

 

 

2人はこの間と同じように、ぶつかり合うのだった。

 

 



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花と仮面

ガウェインとレナさんのお話です。


「……」

「……あらあら」

 

本日は晴天なり。

しかし気分は曇天なり。

そんな風に思いながら、ガウェインは隣に座る女性――レナをチラリを見た。

 

 

 

本日は依頼でとある島での魔物退治だった。

その依頼自体は簡単に終わった。

しかし、グランサイファーが到着する時刻まで時間があるのだ。

その時間が来るまで、ガウェインはレナと一緒に待つしかないのである。

 

「……」

「どうしたのかしらー?」

「ええいなんでもない!」

 

ガウェインはレナが苦手であった。

正確には、少し前に苦手になったというべきか。

呪いに関する価値観の違いというか、なんというか。

その辺りの話が噛み合わなかったのである。

 

「……あらー」

「……どうした?」

「綺麗なお花ねぇー」

「……」

 

苦手だ。

のんびりとした雰囲気といい、ふんわりとした口調といい。

そして纏う呪いの感覚といい。

 

 

 

「……いや、今は違うんだったな」

「なにかしらー?」

「なんでもない」

 

そう、今はその呪いが解けたのだった。

団長から説明されたのだが、彼女の呪いは解けたのである。

その話を聞いて改めて雰囲気を探ったところ、実際に呪いの気配はなくなっていた。

 

そう、呪いは解けているのだ。

しかし、服装はいつも通りのまま。

気配以外に彼女の呪いが解けたということがわからないのであった。

 

「……おい」

「なにかしらー?」

「呪いが解けたっていうのは本当なのか?」

 

面倒臭くなったガウェインは、当人に直接聞くことにした。

何せレナのメンタルは頑強だ。

ちょっとやそっとでは揺るがないだろう。

そういう思いもあって、ガウェインはレナ本人に呪いについて尋ねたのである。

 

「そうよー」

「そうか」

「その代わり、魔物になってしまったのだけれど」

「そうか。……?」

 

よくわからない単語が出てきた。

魔物。

魔物と言ったか。

それになったというのはどういうことか。

 

確かに、呪いが解けたというのは聞いた。

しかしその経緯に関しては聞いていなかった。

まさか、その理由が魔物になったからだとは分からないだろう。

実際ガウェインにはよくわからなかった。

 

「おい、どういうことだ」

「あ、綺麗なお洋服ー」

「聞けっ!」

 

聞いてみれば、とぼけた発言をするレナに苛立つガウェイン。

悪気はないのだろう。

しかし、どうにも苦手だ。

 

 

 

ふらふらと服屋へと寄っていくレナに苛立ちながらも、ガウェインはあとを追っていく。

少し疲れてきたのは気のせいだろうか。

それもこれもこいつのせいだ。

ガウェインは頭を抱えながら歩いていく。

 

「この洋服、わたしに似合うかしらー?」

「知らん」

「じゃあこれはどうかしらー?」

「わからん」

「あらあらー」

 

ふんわりと笑いながら、街頭に飾ってあった服を指すレナ。

それにそっけなく返事をするガウェイン。

 

実際、似合うかどうかなどガウェインにはわからなかった。

姉はいるが、そういう話をする関係ではなかったし、何より呪いを解いてもらって以降出会ってすらいない。

 

「そういうこと言ってるとモテないわよー」

「必要ない!」

「あらー」

 

ひらひらしたワンピースを身体に当てながらレナは笑うが、ガウェインは一蹴する。

実際、ガウェインには必要のない話であった。

国に帰れば相手はいる。

それも国が選ぶ相手である。

恋愛感情など必要などない。

 

「でも、本当にいいのかしらー?」

「なんだと?」

「やっぱり、誰かに好かれることって必要でしょう?」

「……」

 

そうだろうか、とガウェインは自問自答する。

確かに呪いによって他人を気遣うようにはなった。

なったがそれは副次効果であり、本来の彼の感覚ではやはり必要のない項目であった。

 

しかし何故か。

今の呪いが解けたガウェインの心には何故か重く感じた。

 

「ふん……まあ、考えてやってもいい」

「あらあらー」

 

レナはぽん、と両手を合わせて喜んだ様子。

ガウェインはその様子にふん、と鼻を鳴らす。

まったく、この女と話すと疲れる。

ガウェインはそう内心でため息を吐いた。

 

 



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お昼寝ダヌア

まったりした感じです。


「ねぇむぅ……ぃ」

 

今日の陽気は最高だ。

日向ぼっこするにはいい天気だろう。

そう思ってふらふらと歩いていると、いつの間にかグランサイファーの外にいた。

 

「えぇ……っと」

 

ダヌアは今日停泊している島のことを思い出す。

確か魔物も出ない平和な島だったはずである。

つまり安全である。

 

「だんちょう……?」

 

そういえば、とダヌアは思い出した。

確か団長は散歩中。

つまり探しに出るのもいいだろう。

そう考えて、ダヌアは団長を求めて歩き出した。

 

 

 

「だんちょう……どこ……?」

「むやみやたらと探すのは得策ではないぞ」

「ああ、ちゃんと目標をきめとけ」

「もくひょ……?」

 

ダヌアはヘンゼルとグレーテルの台詞を聞き、少し考えた。

確かに、むやみやたらと歩くのは得策ではない。

しかし、そうなるとどこへ行けばいいのか。

 

ふと周囲を見渡すと、何やら高台が見える。

そうだ。

高いところから見渡せば、見つかるかもしれない。

そう考えて、ダヌアはゆっくりと高台に向かって歩き始めた。

 

 

 

「い、たぁ……」

 

高台を登りきると、なんとそこには団長がいた。

すやすやと、寝息を立てて眠っているようだ。

 

「あ、れぇ?」

 

ヘンゼルとグレーテルは喋らない。

いや、今喋るのは野暮だと分かるからだ。

2人きりにしてあげようという気遣いである。

 

不審に思いながらも、ダヌアは団長に向かってゆっくり歩く。

何となくだが、起こさないように静かにである。

 

ダヌアがすーっと近寄って顔を覗き込んでも、団長は起きる様子がない。

ダヌアはその無防備さに少し笑い、団長の横に腰を下ろした。

 

「あ……ふ」

 

しかし、それにしても眠い。

ダヌアは大きく欠伸ををして、そのまま寝転がることにした。

 

ちょうど真横に団長が寝ている。

その事実に多少不思議な感覚に陥るが、すぐに眠気に負けた。

ああ、それにしても気持ちがいい。

 

 

 

仲間がいて、ヘンゼルとグレーテルがいて、団長がいて。

そんなグランサイファーにいて、ダヌアは幸せだった。

 

「ふへへ……」

 

ダヌアは笑う。

そしてその幸せをかみしめる。

かつての自分は消えないけれど。

これからの自分も消えないから。

きっと団長たちと一緒に旅をするから。

 

そう考えて、しかし眠気がダヌアを襲う。

ふわりふわりとした感覚に身を任せて、ダヌアは寝ることにした。

魔物もいないし、団長もいるし、きっと大丈夫。

 

 

 

暖かい気候に揺られ、心地よい風に揺られ。

ダヌアは団長と一緒に眠っていた。

 

 

 

その後、夜になっても帰ってこない2人を探しに団員達が総動員で探しに出たのはご愛敬。

 

 

 



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ジャスミンのヒーリングDay's

ジャスミンさん大活躍。


ジャスミンは激怒した。

必ずあの大怪我をした団長の傷を治し、叱らねばならぬと決意した。

 

昨晩依頼をこなして帰って来た団長だったが、様子が変だとビィに言われて色々な団員に診察してもらったのであった。

すると、何でもないと言っておきながらかなり大きな傷を負っていたのである。

それも、魔法などが効かない、特殊な毒が混じった怪我である。

 

 

 

とにかく。

ジャスミンはその毒に効く薬草を取りに森へと入っているのである。

勿論危険であるが、ジャスミンは森のスペシャリスト。

夜の森でもない限りそうそう迷いはしないのであった。

 

 

 

暫く歩くと、何やら声が聞こえてきた。

小さな子供のようだ。

それが数人、泣き声も聞こえてくる。

 

「どうかしたの?」

「ふぇ?」

 

彼らは遊んでいる最中に転んで怪我をしたらしい。

しかも全員だ。

膝肘顔をすりむいて、仲良く泣いていたところであった。

 

ジャスミンはむん、と力こぶを作る。

これはわたしの出番である。

バッグに入っている傷薬から湿布などを駆使して子供たちの怪我を処置していく。

 

「大丈夫ですよー。ほーら、痛くなーい痛くなーい」

 

 

 

「ありがとーおねーさん!」

「はーい。気を付けるんですよー」

 

治療を終えたジャスミンは、子供たちを町に送ってからまた森へと足を向けた。

急がなくてはならない。

団長の怪我は外傷はひどくはないが、身体を徐々に蝕む毒のようなもの。

今すぐ死を迎えるようなものではないが、苦しみは続くのだ。

治すなら早い方がいい。

 

と、考えていると木の根元に目当ての薬草を発見。

辺りはやや暗くなってきている。

夜になれば魔物が出てきてもおかしくはない。

手早く摘み取り、即座にグランサイファーへと走っていく。

 

 

 

「―――――これで大丈夫……です!」

 

ベシン、と傷口を叩くように湿布を張り、ジャスミンはふん、と鼻を鳴らした。

 

「いたた……!」

 

団長は叩かれたところをさすりながら、困ったように笑う。

周囲の団員はそこそこ怒っていた。

というか全員が怒っていた。

 

「というわけで、お説教は他の方々にお願いしますね」

 

そう言って、ジャスミンはその場を離れる。

ばたんと扉を閉めた瞬間、部屋の中から怒る声がいくつも聞こえてきた。

そうだ、少しは自分の身体を大切にするべきだ。

しっかり怒られてなさい。

 

「ターコイズ! 薬は見つかったのか!?」

「……」

 

そこに駆けつけてきたのはウェルダーである。

しかし、ジャスミンは応えない。

むすっとしたままウェルダーを睨みつけていた。

 

「? ……ああすまん! タイガーアイだったな!」

「……もうっ!」

 

ジャスミンはぷりぷりと怒り出すと、ウェルダーはすまんすまんと両手を合わせて謝り倒す。

すると、仕方なさそうにその謝罪を受け入れたジャスミンが、ウェルダーに向かい合う。

 

すると、ウェルダーの頬に小さな傷があった。

それに気付いたジャスミンは、バッグの中から絆創膏を取り出してぺたり。

小さく笑いながら歩いて行った。

 

 

 

「……なんだったんだ?」

 

 

 

ウェルダーが小さく呟くが、それに答えるものは誰もいなかった。

 

 



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