ハロに転生したからバナージ導くわUC (呼び水の主)
しおりを挟む

第一章 ユニコーンの日
#1 もしかして:異世界転生


 腹の底に響く振動が断続的に鳴り続けている。真新しい硝煙と血の臭いの中をくぐり抜けながら、カーディアス・ビストは照明の落ちかかった通路を走り抜けていた。

 

「やはり特殊部隊のようです!」

 

 横を行く側近の男がサブマシンガンを発砲し、おもむろに行手に飛び出してきたカーキ色のノーマルスーツを怯ませた。2体のそれらは鉛玉を受けながらもなお動きを止めず、こちら側に反撃してきた。防弾性に優れるとみれる特殊スーツ、そしてこの襲撃のタイミング。

 ロンド・ベルにしてはやり方が性急過ぎる。なるほどガエルの予想は的中しているのだろう。

 

「コマンドモジュールは既に抑えられたと考えるべきだな」

 

 プログラムの消去は諦めた。いかなビスト財団とはいえ、隠れ蓑のようにしてきたこのメガラニカにそれほどの私兵はおらず、軍隊のそれも特殊部隊と思わしき連中には時間稼ぎすら疑わしい。

 通路の揺れが、飛び交う弾丸が、計画に入った亀裂を大きく不可逆なものへと押し広げていくように感じられた。連邦の手に「箱」が渡れば、これまでの計画は全てが水泡に帰するだろう。

 

 宇宙世紀100年という節目に、野望とも夢とも違う己の中に宿った「熱」に賭けた身としては、何としてもこれを阻止せねばならないという想いが身体を前へと前進させていた。

 

「なんとしても、ユニコーンだけは……!」

 

 

 

 

 たゆたう意識が微睡の海からゆっくりと浮上していく。この瞬間が子供の頃から好きだった。ぼんやりとした頭で今日は何して遊ぼうか、なんてこれから始まる1日に想いを馳せながら、重いまぶたを開くのが好きだった。

 

 だったのだ。

 

 いつもとは違う。決定的に何かが違う。自分の中に大きなズレがあるような、無視できない違和感が覚醒した意識を支配していた。

 

「カラダガウゴカネェ……!」

 

 身体が動かない。すわ金縛りか。金縛りなんていつ振りだ。築数年のそこそこいいマンションに住み始めて半年。そのテの噂は聞かないが。なんてツラツラと現実逃避を始めたオレの背後で、モソモソと何者かが動く気配を感じ取り、オレは振り返った。──振り返ろうとして、ゴロッという嫌な音を立てて、視界が落下した。

 

「ギャーーーーー!?!?」

 

 首が!首が取れたァーーーーーー!?

 ギロチンで首を落とされても数秒は頭だけで生きていた、なんて与太話を聞いた事があるが、あれは本当だったのか……。なんか混乱し過ぎて逆に冷静になってしまったぞ。人間一周回るとこうなるらしい。常に冷静沈着。心がけていきたい。ならいつも回っていればいいって?まわりまわってさぁ!いまぁー!!聞こえるだろう……?ギロチンの鈴の音がさァーーーーー!(頭強化人間)

 突然の事に気が動転して、支離滅裂な思考が頭の中を転がり落ちていく。寝起きって偶にすごい発想になるよね。歯ブラシで髭剃ろうとしたりね。大丈夫?ファミ通の攻略本だよ?

 

「どうしたんだよ、急に叫んじゃってさ」

 

 なんだァ?テメェ……。

 さっき感じた気配の持ち主か。身体が動かせないから姿は見えないが、年若い男の声だ。青年、いや少年だな。

 一応弁解しておくがオレに弟なんていないし、そういう趣味もない。であるからその声の主は完全に不法侵入な訳でオレの不可思議な現状を作り出した犯人である確率がマジLOVE1000%。もしかして:刑事事件。ルパーン!逮捕だぁーーー!

 

「ほんとにどうしちゃったんだ?ハロ」

 

 急に視界が持ち上がり、目の前に寝ぼけ眼でボサボサ頭の少年が現れた。飛び抜けている訳ではないが平均点は超えている絶妙な整い方をした平凡と言えなくもないその顔は。(真流星胡蝶剣の解説並の早口)

 

「バ、バナー……ジ?」

 

「一回分解するか……」

 

「ヤメッヤメローーーーー!!」

 

 

 

 

 人類が、増え過ぎた人口を宇宙に移民させるようになって、一世紀が過ぎようとしていた。地球の周りの巨大な人工都市は、人類の第二の故郷となり、人々は、そこで子を産み、育て、そして死んでいった。

 

 ……宇宙世紀0096、『シャアの反乱』から3年、一年戦争から続く戦乱の世は、表面上には平穏を取り戻しているかのように見えた。工業スペースコロニー〈インダストリアル7〉に住む少年バナージ・リンクスは、ある日、オードリー・バーンと名乗る謎の少女と出会う。

 

〜略〜

 

 オードリーを探して戦火を走り抜けるバナージは、『ラプラスの箱』の鍵となる純白のモビルスーツ、ユニコーンガンダムとの運命的な出会いを果たす。──緑の玉野郎と共に。




それをバラすなんてとんでもない!
2020/9/23追記
誤字報告ありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#2 もしかして:ハロ

 朝起きて、準備して、学校にいく。当たり前のことが当たり前のようにできるということをありがたがるようになったのはいつ頃からだろうか。

 

 ──今だよ!

 

 察しのいい諸兄はもうお分かりだろう。目が覚めたらハロになっていた。いわゆる異世界転生というやつだ。もうこの説明すらテンプレートすぎて、未知の状況なのに既視感を覚えるというね……。おかげで混乱を免れていると思えば、やはり人間既知の物事に対しては果てしなく鈍感になれるものらしい。

 なろう作者諸君には感謝してやってもいいよ?(超上から目線)

 

 あれからなんだかんだとバナージと交流を深めて(バラされまいと暴れていたらとりあえずカバンに突っ込まれた)、今は学校に来ている。

 ハイスクールっていうより高専って感じ?アナハイム工業専門学校っていうんだって。(wiki調べ)

 

「学校なら専用の工具もあるし、放課後に工作室貸してもらうか……」

 

 バナージが何か怖いことを呟いていますが無視します。だからカバンから抜け出す必要があったんですね!(メガトンコイン)

 

 見せてあげようか。自分がハロであることを自覚した今、身動きの取れなかった今朝のオレとは違うということを。

 一見すると耳に見えるカバー部分が開き、そこからチューブ状のフレキシブル関節で保持されたアームが展開される。5指を備えたアームは人間と同等レベルの細やかな作業を可能とし──このようにジッパーすら開閉可能なのだァーーーーー!!しかも脳波コントロールできる!

 

「フハハコワカロウ!!グフッ」

 

 速攻で捕まったァーーー!?オレのボディをがっしりと両手で捕まえた少年──タクヤがバナージに近づいて声をかけた。

 

「よう、さっきはありがとなバナージ」

 

「いいよ、二人とも無事でよかった」

 

 タクヤの謝罪半分感謝半分の言葉に、バナージは半ば無意識に返事を返した。というのも、今朝から自分を苦しめる悩みの種──玉が今も無駄にアグレッシブに暴れまわっているからだった。

 

「HA☆NA☆SE!HA☆NA☆SE!」

 

 タクヤの腕の中で全身のカバー部分をこれでもかも開閉させて抵抗を続けるこのハロ(バグった機械)は、自分が子供の頃に買ってもらったペットロボットである。誰が買ってくれたのかは、もう覚えていない。ただ、一緒にいてほんのりと温かい気持ちを抱く程度には愛着があるらしいから、大方母親にでもねだったのだろうとひとり納得していた。──それも今は、愛着を鬱陶しさが上回る程度には厄介者と化しているのだが。

 

「ちょっと!騒がしいわよタクヤ!」

 

 騒ぎを聞きつけたミコット(黒髪ウェーブのまあまあ美少女。年齢は16歳。ヨシ!)がタクヤに詰め寄る。

 

「俺じゃないって!ハロがさぁ!」

 

 必死に弁解するタクヤだがミコットには通じないようで、チクチクと小言を刺されているのを横に、バナージはまたぼんやりと窓に視線を移した。窓の外には黒々とした闇が広がっており、時折デブリが横切る以外には何もない、文字通り誰もいない空間が広がっていた。

 

 バナージという少年は、時折日常にズレを感じる少年であった。そんなバナージに、大人はそういう年頃なのだと言う。そんなものか、と自分を納得させようとして、しきれずに、ぼんやりとズレを感じる生活を続けている。

 それなりに賢い彼は、納得とか意識の有無で無くせる感覚じゃないんだ……、と自分の中のズレと共生し続けてきた。だからこうして、ふと遠くに視線を投げるのが、彼の日頃のクセのようなものであった。

 

「……あれ?モビル、スーツ?」

 

 ふと視界を白いモビルスーツらしきものが横切った気がして、バナージは身を乗り出した。それは、不思議と目線を惹きつけるナニかがあったのだ。

 

「マジ!?どれどれ!」

 

モビルスーツオタクのタクヤがミコットの小言から抜け出しバナージの横から同じく身を乗り出す。

 

「ごめん、ただのデブリだったのかも」

 

「そっかー。まあ、ここら辺は航行禁止宙域だしなー」

 

タクヤがわかりやすく肩を落とす後ろで、ミコットがジリジリ近づいてくるのが見えた。

 

「タークーヤー?」

 

「ヒィ!もう勘弁して」

 

 微笑ましいものを見る目でバナージは二人のやりとりを眺め、ふと先ほどから大人しいハロを探して辺りを見回した。

 緑の玉は先のバナージよろしく窓を向いており、ツインアイがチカチカと赤く発光していた。

 

「……ハロ?」

 

「ナルほド、ソウいうコとか……」

 

 ゾッとする程生々しい"人間"の声を合成音声の間に響かせながら、ハロがバナージに振り返った。

 

「いくゾ、バナージ。危機ガ迫ってイル」

 




目を覚ませ僕らのコロニーが何者かに侵略されてるぞ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#3 もしかして:サイコフレーム

 ビーム・マシンガンを乱射しながら一つ目の巨人がブースターの尾を引いて飛ぶ。ジオンのザクを彷彿とさせるその機体は、ネオ・ジオンのギラ・ドーガに代わる量産機であるギラ・ズールである。

 

 もはや1テロ組織でしかないネオ・ジオンの懐事情で、新型の量産機とは全く不可解ではあるが、同時に理解の及ぶことでもあった。

 

 独立を勝ち取る。敵に居なくなってもらっては困る。戦争は儲かる。三者三様の思惑が絡み合い人類は未だ終わらない戦争に身を投じ続けている。

 

 多少なりとも政治をかじった身としては、理解はできても納得の出来ないことである。1パイロットとして戦場に生きる、リディ・マーセナスとしては。

 

「今更新型なんて持ち出してさ……!」

 

 巡航形態の機体を滑らせて宇宙を駆ける。機体下部にマウントされたビームライフルが火を吹き、極少出力に設定されたビーム粒子が敵機の脚部関節を射抜いた。

 

『コロニーが近過ぎる!接近戦で片付ける!』

 

 有翼の隊長機ともう一機がサーベルを奔らせて急加速した。ミノフスキー粒子が散布されて間もないこの宙域で接敵したからには、敵の母艦に自分達の存在が知れたのは明白であった。

 

『宇宙は、スペースノイドのもんだ……!』

 

 だから敵の無線を拾ってしまうこともあるし、味方の断末魔を聞いてしまうことにもなる。

 

『うぁぁぁあ!?』

 

 二機の連携は巧みだった。自分達は独立機動艦隊ロンド・ベルの所属である。シャアの反乱では最も前線で活躍した実力派集団である。それをギラ・ズールはビーム・マシンガンによる弾幕とハンドグレネードによる時間差攻撃で連携を崩し、先行した一機を接近戦で仕留めた。

 流れるような仕草だった。まるで吸い込まれるようにコックピットにビームが突き立ち、そして。

 

『よくも!』

 

 間も無くして、隊長機のサーベルが敵機のコックピットを焼いた。リディは肉の焼ける音と敵パイロットの断末魔を聞いた気がしたが、辺りはミノフスキー粒子の海で満たされて、無線はとっくに物言わぬ機械と化していた。静かになった宇宙で、自機であるリゼルのエンジンの唸り声だけがリディの鼓膜を震わせていた。

 

「ハァ……ハァ……くそっ」

 

『ロメオ8、作戦行動中だ。自分が堕とされるぞ』

 

 ゴン、という音に続いて、接触回線が隊長機の声を運んでくる。

 

「ノーム隊長……」

 

『結果を出せ。そうすれば誰も親の七光りとは言わん』

 

声は硬く厳かだったが、隊長機のグリーンのバイザーが自分を気遣っているような気がして、リディは平静を取り戻した。

 

「了解」

 

『それでいい』

 

 どこへ行っても付いて回るのは、議員の息子という肩書きだった。日々シミュレーターに籠もっていたのは、いつか来る今日という日に自分の存在証明を打ち建てるためだ。一人の男として、周りに認めさせてやるためだ。マーセナスの名前は関係ない。自分は軍人で、パイロットで、ただのリディなのだから。

 

 

 

 

「アッ!アッ!アッ!バナージッ!ヤメロッ!ヤメロッ!」

 

 工作室に合成音声の嬌声が鳴り響いている。同室の生徒たちの視線が凄まじい。バナージは滝汗を流しながらかつてない程の集中力と速度でハロのボディを分解していた。そうでもなければこの部屋の雰囲気に耐えられないというのが1番の理由なのは考えるまでもないことである。

 

「バ、バナージ。これ電源切った方がいいんじゃね?漏電も怖いしさ」

 

「絶縁シート噛ませてるから大丈夫だよ。それに故障箇所をリアルタイムで確認できるから……」

 

 隣に座るタクヤが同じく滝汗を流しながらバナージに助言するが、バナージは「これが一番速いから……」と返すばかりである。そう言われてはタクヤも反論できない。早々にここから退散したいのはタクヤも同じなのだが、これでもバナージの親友を自称する身である。なまじ付き合うと言った手前、自分だけ退室するのは気が引けた。

 

「アッ!アッ!ソコッ!」

 

 宇宙でのプチモビ運転の授業後に訪れた展示室で、突然人間のような声で話し出したハロ。ハロの音声出力装置なら確かに人間そっくりの合成音声を出すことは可能である。しかしバナージはそんなプログラムを組んだ覚えはないし、この丸みを帯びた、可愛らしいとも言える球体から人間の声が出てくるのが非常にミスマッチ(大変気持ち悪い)だったので、騒ぎ立てるこの玉野郎を速攻で工作室に連れ込んだ(意味深)のである。

 

 ハロの嬌声にドン引く周囲の視線にも慣れてきた頃、ハロの中枢部に学校でも習ったことのない金属が埋め込まれているのを見つけた。淡く発光しているようにも見えるそれは、容易に触れることすら躊躇われた。

 

「ん〜、何かの触媒、か?ウチの学校で習ったことのないモンが市販品に使われてるのって妙じゃね?」

 

 タクヤの言も肯ける。アナハイム工専では市販品に関する知識は基礎知識として初年度から叩き込まれるからだ。自社・他社を問わずである。そんな自分達が知らないというのだから、よっぽど勉学をサボっていたか(真面目に取り組んでいたと言い切る自信はない)、もしくは未知の金属である可能性が高い。

 

 意を決して、未知の金属に絶縁グローブ越しにそっと触れてみると、僅かに温かいような気がする。そして、

 

(──逃げろ!)

 

「!?」

 

 バナージは電流が走ったかのようにその金属からパッと手を離した。

 

「だ、大丈夫か!?バナージ!感電か!?」

 

「ち、違う……。頭に直接、声が」

 

 訝しむタクヤになんと説明しようかと口を開けた瞬間、コロニー全体を揺らしたんじゃないかと思えるような大きな地震が工作室を震わせた。続けて壁にヒビがはしる。メキメキ、ミシミシという嫌な音が建物全体から響いている。

 

「な、なんだよ……!?」

 

「タクヤ!外に出よう!ここは危ない!」

 

 タクヤとバナージはハロの部品を持っていたカバンに突っ込んで、校舎を飛び出した。

 

「アブナイ、ニゲロ!アブナイ、ニゲロ!」

 

 学校を飛び出した二人を待っていたのは、地獄だった。瓦礫と赤い染みがブチ撒かれた、かつて学校だったもの。戦史に見る一年戦争が生み出したかのような破壊と暴力の跡。初めて嗅いだ何かが焼けたような臭いが、自分の躯にまとわりつていく。

 

次回「もしかして:戦争」

来週もハロと地獄に付き合ってもらう。




オードリーどこ?……ここ?

誤字報告ありがとうございます。リゼル隊長機は翼付きですので有翼と書いてます。よろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#4 もしかして:戦争

『搬入中断!搬入中断!』

 

『RX-0を渡すな!ウルフ隊は陣形を組め!』

 

 港湾ブロックにドッキングしている緑の貨物船が間も無く見えてきた、という頃。モビルスーツトレーラーを守るように随伴していたビスト財団の機体に向けて、突如として複数のビームが襲い掛かった。それらをシールドで弾きながら、護衛部隊の隊長機は無線に怒鳴りつけた。

 

「こちらウルフ1!管制室どうなっている!?」

 

『粒子ビーム!?連邦軍か!』

 

 僚機のバイザーが閉じていく隔壁の向こう側に緑と青の機体群を捉えていた。

 

「ザッ…を許可す…!各…、応…せよ!』

 

「ちっ、ミノフスキー粒子かい!」

 

 それも戦闘濃度だ。かつての大戦を生き抜いた身としては、懐かしいものではあるが。

 

 分厚い隔壁をみるみる押し破って、連邦の機体が雪崩飲んでくる。どこか見慣れたそのバイザー顔を撃つ日がくるとは。しかし、今の自分はビスト財団──否、カーディアス・ビストに恩を受けた一人の男だ。

 

「呼び鈴がうるせぇってんだよ……!」

 

 機体の双眸を瞬かせ、白銀の守護者達は己の主の為に戦いを開始した。

 

 

 

 

 インダストリアル7、未だ建造途中にあるこのコロニーの港口は、混迷を極めていた。ミノフスキー濃度が急激に上昇し通信機は意味をなさない。

 

 そんな中でも、ビスト財団子飼いの私兵が操る白い重モビルスーツ5機がハンドサインを駆使して巧みに陣形を組んでいるのには感心するばかりである。かなり練度の高い部隊であることが窺える。その内の一機、隊長機と思わしきガンダムヘッドを眺めながら、マリーダには見せられんな、と男はどこか緊張感のない感想を抱いていた。

 

「嗅ぎ付けられたな」

 

「くそっ、やっぱり嵌められたんだ!」

 

 コロニーから間一髪逃げおおせ、どうにか辿り着いた母艦の艦長席にどっかりと腰を下ろして、売られた訳では無さそうだったがな、と独りごちる。カーディアスなる人物は筋を通す男と思えた。ならば、間が悪かったということなのだろう。頬についた仲間の血を拭いながら、ジンネマンは決断を下した。

 

「マリーダはいつでも出られるようにしておけ。ガランシェールはコロニーから離脱する」

 

「箱はどうするんです?」

 

 操艦席に座る人の良さそうな顔がこちらを振り返って尋ねた。

 

「得体の知れんモノにこれ以上命をくれてやる必要はない」

 

 ちげぇねえや、というフラストの言葉を聞き流して、ジンネマンは号令をかけた。船のエンジンが唸り声を上げ、緑色の巨躯がゆっくりと前進を始めた。

 

「ガランシェール、発進!」

 

 

 

 

 その少女は、どこか浮世離れした存在感を放っていた。人目を引く美貌もさることながら、その気品のある立ち振る舞いが、より一層彼女の存在を見る者に印象付けるのである。

 

 少女の名を、ミネバ・ラオ・ザビという。かつてのジオン公国が遺した亡国の姫の名である。そんな立場の人間がなぜ辺境に近いコロニーにいるのか。身分を偽って一般民衆として生きているにしては、彼女は目立ち過ぎていた。

 

「はぁ……はぁ……何処かしら、ここ……?」

 

 彼女は方向音痴であった。無理もない。出歩く時は必ずお付きの者がいたし、歩き回れる場所は限られていた。街を出歩くという経験自体、彼女にとっては物語の中でしか知らない冒険に等しいものだったのである。であるから期待半分不安半分──否、使命感に満ち溢れた気持ちで居城と呼ぶべきパラオを抜け出し、ここまでやってきた。ちなみにここが何処かはわからない。

 

 彼女はやたらと高い隠密技能を発揮しガランシェールに密航。連邦からはテロリスト呼ばわりとは言え、乗組員は一応軍属である。それらの目を掻い潜り忍び込むのだから、なんらかの「素質」はあるのかもしれないが、本人にとってはどうでもよいことだった。

 

 己には為すべきことがある。ビスト財団の当主と直接面会し、ラプラスの箱をネオ・ジオンに渡すことを阻止するのだ。開かれれば連邦の支配を覆すという触れ込みで持ちかけられた今回の取引は、八方塞がりで四面楚歌、閉塞感に喘いでいた彼らにとって願ってもない都合の良い話だった。

 

 今更戦争なんて、と思う。父も、母も戦争で死んだという。そしてハマーンも。身近な人間はみんな戦争が奪ってきた。ミネバはジオンの姫として相応の教育を受けてきたし、そこに様々な譲れない主義主張があったことは十分に理解しているつもりである。

 

 しかし、やはり年相応の彼女個人の視点で、大切な人を失ってきた少女の視点で見てしまえば、箱はただただ迷惑な存在でしかなかった。

 

 ネオ・ジオンは行き場を失った憎しみの受け皿なのだ。テロ組織と呼ばれようとも、受け皿が無ければ待っているのは無秩序な暴走である。それを統率し、いずれは自然消滅させる。それを導くのが、自分の生涯の役割だと、彼女は密かに覚悟を決めているのである。

 

 よし!と気合を入れ直して足を踏み出したミネバだったが、すぐに立ち止まってしまった。

 

「コロニーの重力なら、慣れているはずだけれど……」

 

 パラオからここまで、備蓄されていた戦闘糧食を口にしたくらいで、ロクな食事も休息も取っていないのであるから、掛かる負担は相応に大きかったようだ。

 

 そんな彼女が立ち往生していたのは、商業ブロックにほど近い学園ブロックであった。年のほど近い者達から好奇の目線に晒されながらも、ミネバはとても感慨深い気持ちになっていた。自分と同じ歳の人間など、身の周りにはほとんどいなかったのだから、当然である。

 

 首をもたげつつある好奇心を必死に押し殺し、目的地である工業ブロック(の反対側)へと再び足を踏み出したのと、コロニー全体を揺るがす大地震が発生したのはほとんど同時であった。

 

「な、なにっ?きゃぁぁぁぁぁ!」

 

 周囲の建造物があっという間に耐震強度の限界値を迎え、倒壊していく。ミネバの姿が瓦礫の山に消えたのは、それから間もなくのことだった。




ちょっとポンコツ成分入ってる姫様


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#5 もしかして:ミネバ

 カバンに突っ込まれてから、オレは自分のバラバラになったボディを自分で組み上げていた。ガシィン!ギュイン!キュゥウン!ブッピガァン!グポーン……。(合体パンク並感)ジィィィィ(ジッパーが開く音)ズン!(オレ、大地に立つ音)

 

 オレは地面に降り立ち、かつては学校だった場所を見回した。空気の焼けるようなチリチリとした熱の残滓を、ボディに内蔵された高性能センサが伝えて来る。コロニーの中で戦闘が始まるのは分かっていたはずだった。例え原作知識があったとしても、今は丸く小さな球体に閉じ込められた自分に、それを止める力があったとは到底思わない。けれど、これから起こるであろう記憶に残っている惨劇は、未来の現実なのだ。物語なんかじゃない。──本当に、死んでしまうんだ。少年達の住む世界が、友達が、父親が。──オレに、どうしろっていうんだ。

 

 そんな時だった。瓦礫の中から、声がきこえた。それはか細くて、今にも消えてしまいそうな小さな囁きにも似ていた。生存者だ。これでも人命最優先を志した元人間である。例え血の通わぬ合成樹脂と金属の身体となろうとも、心だけは。

 

 きっと、目の前にあるわかりやすい正義の目標に飛び付きたい一心だったに違いない。それを現実逃避というなら、いくらでも逃げてやろうではないか。逃げて逃げて逃げまくって、オレは、一人でも多くの命を救いたいのだ。

 

「マッテロ!イマタスケル!マッテロ!」

 

 バナージは突然カバンから飛び出していったハロを見て、ようやく現実に引き戻された。頭が目の前の光景を理解しようとして、バナージは無理やりそれを止めた。胃の底から這い上がって来る酸っぱさをなんとか抑え込んで、ハロを追いかけることにした。ここで立ち止まっていてはいけないと、本能が急かしているかのようだった。

 

「バ、バ、バナージ……。これって」

 

 タクヤの震える声なんて、初めて聞いたと思う。だめだ、自分たちは、ここで足を止めちゃだめだ。周りを見ずに、心を水に沈めるように、バナージはただ緑色の球体だけを見つめて歩き続ける。

 

「行こう、タクヤ。ハロが呼んでる」

 

「け、けどさ……」

 

「行くんだ!」

 

 意図しない大声が、タクヤの肩を震わせた。ごめん、と言おうとして、生温い水滴が頬を伝って地面を濡らしているのに気がついた。なぜ、と考えてから、バナージは見知った顔が何人か動かなくなっている光景を思い出してしまって、涙と胃液が止まるまで、その場に蹲って動けなくなってしまったのであった。

 

 タクヤに背中をさすられながら、バナージが落ち着きを取り戻した頃である。小型エンジン特有の駆動音を響かせながら、無人のプチモビがこちらに歩いて来るのを二人は発見した。よく見れば操縦席にはハロが取り付いて、口から伸ばした配線がコックピットに接続されている。今更ながら、もうこのハロは自分の知っているペットロボットではないのだな……とバナージは胡乱な目をしながら謎の球体Xと化したハロを見つめた。

 

 プチモビが二人の横で停止して、焦った様子の合成音声が急かすように話しかけてきた。

 

「バナージ!ノレ!バナージ!」

 

 どうしてとかなぜとか、様々な疑問が溢れてくるが、その勢いに負けてハロの言う事に従う事にした。先程頭に直接響いた声が、バナージにそうさせたのかもしれない。

 

 今朝から無駄にお喋りになったハロ曰く、生存者を見つけたが自分の操作では瓦礫ごと押し潰してしまう、だから早く動かせということである。

 

「ユーハブコントロール!」

 

 自分にできることがある。それだけでなんだか救われたような気持ちになって、バナージはただ操縦する事だけに集中した。プチモビが巧みなアーム捌きで瓦礫を取り除いていくのを、タクヤの腕に抱えられたハロの赤い瞳がじっと見つめていた。

 

 

 

 

 結論から言う。

 ──ミネバでした。

 

 やったー!みねばをほりだした!びょういんにつれていこう!ってうぉぉぉい!?もしもしマリーダさん?姫様回収の任はどうしたぁ!

 

 なんでこんなところ(学園ブロック)をフラフラ歩いてるんです?観光?観光なの?そしてなぜガランシェール隊の面子が姫様の捜索してないの?もしかして:誰も気づいてない。お労わしや、姫様……。お辛いでしょう、お辛い……。だからプチモビを持ってくる必要があったんですね!(例の構文)お前ら満足か?こんな展開で。瓦礫から掘り出される姫様とかオレは、嫌だね……。(狙い撃つ人並感)

 

「うっ……」

 

 フッ、まさに眠り姫だ……。(公)どうやらミネバ様が目を覚ましたようだ。オレ知ってるよ?これからバナージが酷い目にあうってこと。

 

「きみ!大丈夫!?」

 

 主人公いったぁーー!

 

「誰かッ!!?」

 

 そしてビンタされたぁーー!理不尽に負けるな!ヒロインと初遭遇した主人公の明日はどっちだ!君は導くことができるか?




我々の業界ではご褒美です

2020/9/6追記
誤字報告ありあとあす!でもハロ→バナージへの操縦権移譲なのでユーハブコントロールであってるます。(スパイファミリー語)
わかりにくいけどハロのセリフだったの。ややこしくてごめんね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#6 もしかして:陰謀

「あ、ご、ごめんなさい!驚いてしまっただけなの!」

 

 起きがけに主人公を平手打ちしたヒロインのセリフである。ガンダム史において平手打ちは様々な名シーンを生み出してきた。「この軟弱者!」とか特に有名である。往年のファン達はこのセリフで何かに目覚めた者も少なくないという。きっと綺麗所にぶたれるというのはこう、クるものがあるのだろう。あっけどオレは見る専で結構です。

 

 うーん、オヤジにもぶたれたことないのに!って言おうと思ったけど、父親を覚えてないバナージにこのセリフ劇重ォ!!誰かファミパンおじさん呼んできてー!お前も「家族」だ……!

 

 それにしても必死に謝る姫様はかわいいなぁ(超人事)。咄嗟に手が出るあたり、実にドズルの娘感あるよね。いやぁ親子親子。

 

 当のバナージはといえば、左頬にかわいらしい紅葉を咲かせて、茫然と尻餅をついている。ありゃ痛いなぁ、なんてボヤくタクヤの腕をするりと抜け出して、オレはバナージに転がり寄った。これでもキミのペットでね。傷心の飼い主を労わるのもオレの勤めなのだ。オレがバナージゲンキカ?を連呼していると姫様がバナージに歩み寄って手を差し伸べた。

 

「大丈夫?えと、バナージ?」

 

 その美しさも相まって、まるで舞台の一幕のようである。これじゃどっちがヒロインかわかりゃしないよ。

 

「俺の名前……?」

 

「その子が呼んでたから」

 

 まあね!連呼したもんね!俺の名前……?じゃないよ!いつまでたっても話が進まんでしょが。ほらバナージ、さっさと自己紹介しな!オレの名前はハロ!んでこっちの天パがタクヤ!3人揃ってアナ工の三連星とは、まさにオレたちのことよ!

 

「モガモガ……!ムッーー!」

 

 HA☆NA☆SE!HA☆NA☆SE!

 バナージ、貴様ぁ……!

 

「俺はバナージ。バナージ・リンクス。君は……?」

 

「……オードリー。オードリー・バーン」

 

 ミネバはすこし逡巡するように俯いて、意を決したように真っ直ぐバナージ(とタクヤとオレ)を見た。(画面に無理矢理インする2人)へへっ、バナージ一人にいいカッコはさせませんよ!だからかな、つい調子に乗ってしまっていたのかもしれない。他人のセリフにセリフを重ねるなんてことをしちまったのは。

 

「私をコ「甲子園」ルダーまで連れていって欲しいの!」

 

 メコォ!!(顔面パンチの音)

 

 

 

 

 ドビーは悪い子!ドビーは悪い子!……ふぅ、落ち着いた。さて、話を戻そう。

 

 あれは今から36万・・・いや、1万4000年前だったか。まぁいい。あの後、バナージと焦った様子のミネバのやりとりをまとめると、だ。

 

 ミネバをビスト家まで連れてって!ということである。グーパンはやめてよね……。オレのボディに勝てるわけないだろ。手怪我するからねマジで。(ハロの半分は優しさ)

 

 だがちょっと待って欲しい。現状を整理してみよう。コロニー内で戦闘が始まっているということは、おそらくミネバとカーディアスが面会することにもはや意味はない。箱の奪取を目論んだ連邦と、箱を受け取りに来たガランシェール、それを極秘にしたかったビスト財団の、下手したら三つ巴の乱戦になっている可能性が高いからだ。既に戦争の引き金は引かれてしまったのである。

 

 つまりミネバの目的はこの時点で既に破綻してしまっている。悲しいね、バナージ……。これも全部乾巧ってやつの仕業なんだ!なんだって!?それは本当かい!?

 

 そんな時だった。頭上から一機、MSが急降下してきたのは。

 

「見ろよ!RGZ-95リゼルだぜみんな!」

 

 MSオタクのタクヤが弾んだ声でそいつを指差した。可変機構を有するその青い機体が、人型に姿を変えてこちらに赤いバイザーを向ける。目の前の開けた場所に着地して、コックピットハッチからパイロットスーツを来た何者かがこちらに歩み寄ってきた。

 

「連邦軍だ!助かった〜!」

 

 喜んだり安心したり、忙しいやつだ。このタイミング、機体はリゼル。もしかして:リディ少尉。間違いないね!俺の占いは、当たる……。

 

 パイロットは腰に手をやったかと思うと、おもむろに小銃をこちらに向けた。オレたちの顔が強張る。そいつは硬い男の声音でこう告げた。

 

「ミネバ・ラオ・ザビだな。一緒にきてもらおう」

 

 え、マジで誰……?

 

 

 

 

「どうなっている!コロニー内での戦闘など許可していないぞ!」

 

 インダストリアル7の目前で待機しているネェル・アーガマの艦橋に怒声が響き渡った。声の主はオットー・ミタス。クルーからは密かにタヌキ親父と揶揄される、冴えない中年の風貌をした男である。オットーは艦長席から身を乗り出して、傍らでほくそ笑む男に掴みかからんばかりの威勢で問いただした。

 

「アルベルトさん!これは一体どういうことか!」

 

 アルベルトと呼ばれた男は笑んだまま、目だけをオットーに向けて口を開いた。

 

「連邦も一枚岩ではないということです。もちろん、ロンド・ベルとて例外ではない。政治に疎い貴方には少々難しい話でしたかな?」

 

 馬鹿な。僚艦のキャロットを見、オットーは愕然とした。ミノフスキー粒子によってコロニーの内情は知れないが、アルベルトの言を認めるのなら戦闘を始めたのはキャロットのMS隊ということになる。

 

 政治の息苦しさを嫌った自分が流れ着いた先がこのロンド・ベルだった。艦隊司令の色が出ているのだろう。流石に無縁とは言わないが、ここには派閥争いというものはほとんど無かった。──3年ほど前までは。

 

 シャアの反乱以来、戦闘といえばせいぜいが小規模なMS戦程度。"戦争"は終わった。口にはしなくとも、誰もがそう感じていたに違いない。だからだろう。この3年の平穏が、ロンド・ベルというシェルターの内部に、政治という名の怪物の侵入を許してしまったのである。

 

 オットーは折れそうになる心を奮い立たせた。たとえ日陰者と指差されようとも、それでも自分は、誇り高い連邦軍人だ。誰かを守るために、その為に自分は軍人を志したのではなかったのか。

 

「MS隊に連絡!コロニーで暴れる馬鹿どもを止めろ!」

 

「艦長……!」

 

 副長のレイアムの感極まったような声が聞こえた。そうだ、俺は、やる時はやる男なんだ。普段腑抜けだと言われようとも、譲れない部分が俺にもある。

 

「ミノフスキー粒子で、MS隊とは連絡がとれませんが……」

 

 直後のレイアムの指摘に、オットーは現実に引き戻された。艦長席にドッカと腰を下ろし、恥ずかしさを誤魔化す為に最近前線を下げ始めた頭髪を撫でる。そういえば、自分は食いっぱぐれないという理由だけで軍人を志したのだった。

 

 フン、というアルベルトの鼻を鳴らす音が、やけに艦橋に響くのだった。




オットーすこ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#7 もしかして:ガンダムもどき

「バナージ!」

 

 俺の一声で、バナージが動いた。こちらに銃を向けているパイロットに俺のボディを蹴り上げる。内蔵スピーカーからキュィィィン!というなんかすごい爆発する寸前っぽい音をが鳴りたてながら、俺は野郎に突撃した。

 

「子どもが!」

 

 あぁん……。けど顔面突撃してきた俺を銃床で払い除ける反射神経は、流石に軍人だ。けれど俺とバナージのコンビネーションの前で、それはあまりに無防備に過ぎるぜ!

 

「このぉ!」

 

 バナージがちょっと常人離れした初速で駆け出し、男に体当たりを試みる。遅れてタクヤがオードリーを守る様にその身体で射線を切った。友情・努力・勝利の3つを揃えたアナ工の三連星は無敵だぁ!ここで死ねよやァーー!

 

 パァン!直後、乾いた銃声が廃墟に響いた。民間人相手に発砲とかウッソだろお前!?

 

「警護に強化人間だと!?」

 

 刹那の差で銃身を男の外側に弾いたバナージ。いやマジで側から見たら強化人間と疑われてもしょうがないレベルでちょっと学生の動きじゃないですね……。学生に扮した近衛に誤解されてもしょうがないよね?あっけどこれダメだ。反射神経レベルマだけど身体が追いついてないわコレ。

 

「かっは……!?」

 

 バナージのみぞおちに強烈な拳が食い込む。僅かな取っ組み合いの末にバナージを払い退けたパイロットは、迷う事なく彼に照準を合わせた。男の目は、もう目の前の脅威しか見えていない。強化人間相手に余裕を持てるやつなんて、この世界にそう何人もいるもんか。そんな男の後ろをコロコロと転がって、オレは配置についた。

 

 そうだ。軍人とやりあうなら注意を逸らして隙を作るしかない。オレはこの時を!この瞬間を待っていたんだーっ!

 

「その股ぐらにロケットパーーーンチッ!」

 

「ォ!ーーーーーッッッッッッ!?!?」

 

 いくら鍛えても決して無くせない男の弱点。股間という秘孔をついた……。きさまはもう動けない。フハハハ!惰弱だな!ヒューマン!

 

「男に生まれた君の不幸を呪うがいい」

 

 殺しはしない。けど今度またオレの飼い主を害そうとするなら、容赦はしない!

 

 

 

 

 未だに震えが止まらない。バイザーごしに見えたあの男の眼。初めて感じた純粋な殺意。それはもはや衝動だった。こちらに向けられた銃を見て、恐怖するよりも、考えるよりも先に身体が動いていた。オードリーやタクヤを守るためだとか、まったく頭になかったかと言われれば……どうだろうか。まるで自分の中の獣性が、本能に従って生存を求めたかのようだった。そして気がついた時には自分は動けないくらいの衝撃を体に受けて、相手の指の動きひとつで、なす術もなく命を散らそうとしていた。腹の中に冷たい石を詰められたような、あの独特な感覚が、バナージの脳裏から離れないでいた。

 

 そんなバナージを、オードリーとタクヤが介抱しているが、その2人も心ここにあらずといった具合である。

 

「ミネバって言ってたよな、連邦軍のパイロット。ってことは、えぇ……。いや、まっさかなぁ」

 

(私の名前を知っていた……?それに、何故ここだと?)

 

 先刻からコロニー中でけたたましく鳴り響くサイレンが、この巨大な筒の限界が刻々と近づいていることを知らせていた。

 

「バナージ。脳波レベル落ちてる。落ちてる」

 

 バナージはどこか落ち着きのあるその男とも女とも、老人とも赤ん坊ともとれる不思議な、それでいて無駄にイケボな声に、ゆっくりと顔を上げた。

 

「ハロが、また喋ってる……」

 

「おっ、ようやくマトモにオレと口をきいてくれたな」

 

 その緑の球体はそう言ってどこか嬉しげに赤いカメラアイを瞬かせた。

 

「……このコロニーはもう限界だ。酸素濃度が人間の活動限界値を下回るまで推定120秒」

 

 インダストリアル7。第二の故郷とも呼べるここは、空はひび割れ、既にあちこちから炎を上げて、崩壊まで文字通り秒読み段階に入っていた。まだ生きてる者は避難を完了したか、はたまた皆どこかで力尽きたのか。この一帯には3人と1匹以外、動く者は誰もいない。

 

「死ぬのか、俺たち……」

 

「さあ、それはバナージ。キミの選択次第だと思う」

 

 え?とバナージは自分の目を見張った。ハロのボディから、白とも赤とも緑とも言えない淡い燐光が漏れ出ていたからだ。

 

「立てよご主人。死にたくないなら立ち上がれ。そっから先は」

 

 そこで言葉を切って、ハロがバナージの手を握った。その手は小さくて、無機質で、そして温かった。

 

「オレが導いてやるからさ」

 

 

 

 ロンド・ベルのキャロット所属のリゼルが遂に最後のシルヴァ・バレトを撃墜しトレーラーに取り付いた。

 

「この数相手によくも耐えたものだ」

 

 こちらも数機失った。あちらが本来の火力を出し切っていれば、自分たちの数の差では覆せない戦いだった。コロニーへの被害は無視していいという命令だったが、あまり気分のよいものでもない。まさかインダストリアル7全ての住民がテロ組織の構成員だなどとは部隊の誰も思っていない。命令を遂行する上での、コラテラルダメージというにはコロニー1基は大き過ぎる。

 

 ただ「鍵」とコードネームで呼ばれるMSの奪取と、ミネバ・ラオ・ザビの捕獲の任務が、彼らを命令の背景に異議を唱えない模範的な軍人にさせただけの事だった。詳細は説明されなかったものの、ジオンから放逐された最後のザビ家の保護という名目は、彼らを任務に忠実な兵士にさせるには十分だった。

 

「ザビ家の娘が、ジオンに見捨てられるとはな」

 

 連邦が彼女の身柄を保護すれば、今のネオ・ジオンに大義はない。一年戦争から続く戦乱に、ようやく大きな終止符が打たれようとしているのだ。そして自分の隊がそれを為す。

 

「トレーラーのセキュリティロックは解除できたんだな?よし。先行させたジュリアス2も目標を確保した頃合いだろう。テロリストどもの切札とやら、ここで中身を拝ませてもらうとするか」

 

 トレーラーを操作していた部下が解析したセキュリティコードを打ち込むが、しかし一向にハッチが開く様子がない。焦れる気持ちを抑えつつ、彼は腕のウェポンラックからサーベルを引き抜き、極小出力のビームを発振させた。

 

「下がれ、多少手荒にいくぞ」

 

 部下が自分の機体に戻ったのを確認し、ハッチに手をかけたその時である。自機の隣で再起動しかけたリゼルの胸部装甲にビームが突き立った。

 

「ジュリアス3!?」

 

 部下の突然の死を自覚する間も無く、高速で迫る純白のMAが一機、体当たりを仕掛けてきた。敵機の機首がシールドと激しくぶつかり合って火花を散らし、接触回線が呻き声を拾った。

 

『ユニコーンはやらせん!』

 

 男の声、と頭が理解すると同時に機体の左腕に更なる負荷がかかった。MAから突然生えた脚が、リゼルのシールドを蹴り付けたのだ。

 

「まだMSが残っていたか!」

 

 敵機の形状・推定出力をデータベースが解析し、コンソール画面に表示する。推定機種はリ・ガズィ。ビスト財団のエンブレム・ユニコーンが描かれた大型のシールドを前面に構え、バイザー奥のデュアルアイがこちらを睨みつけていた。

 

「こ、の!出来損ないがぁ!」

 

 サーベルを閃かせて突撃したリゼルを巨大なシールドでいなしたリ・ガズィは、ナイフのように短く伸ばしたサーベルでリゼルのコックピットを複数突いた。四肢をダラリと投げ出した機体を押しやって、コックピットハッチから2人の男が姿を現した。

 

「時間がありません。お早く」

 

 トレーラーに降り立ったカーディアスは、ガラクタと化した5機の護衛機にチラと目を走らせ、すまん、と一言呟くのだった。




リ・ガズィ・カスタム(ガエル機)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#8 もしかして:パンドラの箱

「ここの配線はさ……こう……」

 

「なんでペットロボットに軍用規格の相互通信コネクタなんて付いてるんだ……?」

 

「……こんなこともあろうかと」

 

「いやその理屈はおかしい」

 

「機体側からのシグナル受信。プロテクト解除。ハッチ閉じる!」

 

 機体前面のハッチが閉じ、球体状のコックピットを覆う全周囲モニターに崩壊していくコロニーが映し出される。

 

「んーっ!んーっ!」

 

「パイロットが目を覚ましたわ!」

 

「いまそれどころじゃないよ!」

 

「おおお、動いたァーーーー!!」

 

 グォングォングォン……

 

 細かい瓦礫を跳ね除けながら、蒼い機体がその巨躯を身動ぎさせて、周囲を確認するようにバイザーを赤く明滅させた。

 

 感じる、感じるぞ。遥か遠くまで見通すレンズの瞳。オレの意思にそって力強く動く機械の四肢。肉の身体では得られないこの万能感。己が拡張されたような不思議な感覚だ。

 

「リゼル、飛ぶぞ!」

 

 オレの中で生まれた電気信号がプラグを通してリゼルを駆け巡り、バックパックに装備されたスラスターが点火する。

 

 視界が一気に飛んだ。立っていた場所は遥か遠く。一度の跳躍でこれかよ!

 よし!この勢いのまま港湾ブロックに突入だ。そこで救命ランチに拾ってもらえばとりあえずこのエピソードは全員生き残れる。

 

 バナージとの契約は「全員無事に生き残ること」。

 

 この世界が小説もしくはアニメどちらに準拠しているかはわからないが、原作だとなんやかんやあってバナージがユニコーンに乗ることになる。でもさ、もうそれ無理じゃね?今の流れ見て?原作改変ってレベルじゃないよ?

 

 なんかバナージくん微妙に人間離れしちゃってるし(銃弾見てから回避余裕でした)、なんかタクヤ同行しちゃってるし(いいやつすぎて涙出てくるわ)、そもそも姫さまなんでここいるの?(姫さまガバチャート走者説)、さらにさらにリゼルのパイロットその辺に落ちてたケーブル類でぐるぐる巻きにしてますけど?(捨てるに捨てれない。呪いのアイテムかな?)俺ハロですけど?(ほんとなんでだろね)

 

 変なMOD入れまくった某オープンワールドくらい混沌としてる!ストーリー進行狂って先に進めない致命的なバグ満載のラフレシアだよ!(実際は積んでない)うおーん!ビルギットだけを殺す機械かよぉ!

 

 むーん。あとさぁ、会話の時に「クク…契約」とかちょっと変なテンション入るのなんなんですかね?俺の趣味じゃないかって?違うよ?なんかこう、勝手に口が開く時あるんだよね……。なんだか意識がフワーッてなって、大きな星が、ついたり消えたりしている・・・。あははは・・・大きい!彗星かな?いや違う、違うな。彗星はもっと、バァーって動くもんな!(無垢な笑顔)

 

 ……モウヤメルンダ!いやマジで。俺の中に分割された女の子の意識とか入ってないよね?エグザムシステム スタンバイ...。ニュータイプはみんな抹殺だぁ!

 

 契約した後「そのギアス、確かに承った!」とか言っちゃったのは完全に俺の趣味だけどね!アイデンティティは大切していけー?例えそれが借り物だとしても!何故ならこれは、決して。 ───決して、間違いなんかじゃないんだから……!

 

 まあ契約なんてなくたって、俺は命を見捨てねーぜっ!きっと生きて帰すぜご主人!日常にはもう戻れそうにはないけどな!ガハハ!(憂鬱)

 

 そんなこんなであっという間に港湾ブロックに到着。さぁこんな目立つもんサッサと乗り捨てて無垢な民間人に戻ろうぜ!俺はハロ!無害なペットロボットさ!グッ、しかし一度得た強大な力が俺を迷わせる。おぉぉ、闇の力が疼く……!

 

 ドンッ!轟音。

 続けて衝撃。視界が激しく揺れノイズがはしる。意識を内側に向けると、機体の状態を示す姿勢指示器が、自機が転倒した事を知らせていた。

 コックピットの皆は幸い無事のようだ。この時代の衝撃吸収システムは優秀だな。突然の事態に混乱する中で、拘束したパイロットとバナージだけが何かに気付いたようだった。

 

「ハロ!後ろだ!」

 

 バナージの指示で咄嗟に突き出したシールドが、黄色に迸る粒子を受け止めていた。タクヤが叫ぶ。

 

「すげぇ!RGZ-91リ・ガズィだぜバナージ!」

 

 タクヤァ!ちょっと黙ってろォ!

 

「ぬぅ!子どもの声!?」

 

 お肌の接触回線でリ・ガズィのパイロットの声が聞こえた。ガエルくん!ガエルくんじゃないか!ガエル操るリ・ガズィが困惑気味にサーベルをひく。こちらも後退して両手を上げ、抵抗の意思はないことを示す。

 

 これは保護してもらうチャンス!かと思ったけど、今回の騒動の原因はビスト財団だ。ユニコーンを目撃されない限り見逃してくれるか……?リゼルに乗ってたのはどう説明しよう。あっしかもミネバ姫同乗してるわ!しかもしかも現当主の息子も相乗りしてるわ!ぬっ!?そこにあるトレーラーは?あ、ダメダメ!触らぬ神にたたりなし!だからそのパンドラの箱閉めろよぉーーー!あーーーっ!あーーーっ!中からユニコーン出てきたーーー!!もうやだぁーーー!!

 

 

 




のんびり更新再開


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#9 もしかして:SENTINEL

 崩壊が進むスペースコロニー『インダストリアル7』。その燃え盛る港湾ブロックに横たわる搬送用トレーラーの中で、チロチロと照り返す炎を鈍く反射しながら、白亜の一本角が横たわっている。その機体は、見た者から一瞬呼吸を忘れさせるほどに危うく、そして妖しげな美しさを放っていた。

 

 リゼルのメインカメラを通してそれを見ていた俺は、無いはずの心臓がドクンと跳ねたような錯覚を覚える。

 

「ユニコーン……、ガンダム」

 

 リゼルのコックピットにいた3人と1匹の視線がユニコーンに集中している一瞬の隙だった。俺の意識がリゼルから強制的に引き剥がされた。

 

「アババババ!?」

 

「きゃっ!?」

 

 俺の有線接続を物理的に毟り取り、ミネバを拘束した連邦のパイロット。足元には体を縛っていたはずのコードが落ちており、タクヤは殴られたのだろうか、気絶したように動かなくなっている。縄抜けされるとは、軍人を舐めていた……!

 

「しまった!」

 

 気付いた時には手遅れだった。リゼルのコックピットハッチが開く。蹴り出され、空を舞う俺とバナージ。吹き付ける熱風と火の粉に全身を包まれながら、俺たちは落下する。閉じていくコックピットハッチから、ミネバの絶望する顔が見えた。リゼルがバーニアを噴かし急速に離脱していく。

 

「オードリィィィィ!!」

 

 リゼルの生み出した突風にもみくちゃにされながら、バナージが叫ぶ。ちっくしょお、この距離から落ちたら、流石に助からねぇ!俺はマニュピレーターを限界まで伸ばしてバナージを掴んだ。せめてクッションがわりにはなってくれーーー、俺!

 

 ──ゴンッ。覚悟を決めた俺の全身に、鈍い衝撃がはしる。思ったより衝撃が軽い。俺たち、生きて、る……?直前に聞こえた駆動音は、モビルスーツ?

 

 俺たちが横たわっていたのは地面じゃなかった。巨大な機械の掌の上。白亜の機体が、トレーラーから身を乗り出して俺たちを支えていた。空想上の一角獣を思わせるその頭部のスリットの奥から、鈍い光が漏れている。

 

 ソレと目があった気がした。今は無いはずの、脊椎の上を電気が走り抜けていくような、はたまた頭を矢で射抜かれたような強烈なイメージが、俺の電気基板の上を駆け抜けていく。足元を支える機体の手が、僅かに震えた気がした。

 

「お前は、誰だ……?」

 

 遠のいていく意識の中で、問いかける。機械仕掛けの獣がその問いに応えることはなかった。その言葉を最後に、俺の視界は急速に暗転した。

 

 

 

 

 視界いっぱいに自分の状態を示すパラメーターやウィンドウが陳列されている。それらは展開された端から処理を終えては閉じられていく。最後に残ったウィンドウが俺に再起動を促していた。グングン伸びていた緑色のゲージが、70%で固まった。なんだか懐かしい、ヒトだったあの頃を思い出した。

 

 ──タクヤを、オードリーを、友達を救いたいんだ!

 

 声が聞こえる。この1日で、よく見知った声だ。76%。

 

 ──コロニーの中を見たでしょ!みんな、明日の予定だってあったんだ……。それなのにあんな!あんなの、人の死に方じゃありませんよ!

 

 少年の悲痛な叫びが、誰かに向けられている。82%。

 

 ──ここまで来たその気持ちが、揺らがぬ自信はあるか?

 

 初めて聞く男の声。違う、俺はこの声を知っている。最後に聞いたのはヒトだった頃?それとも……。91%。

 

 ──自信とか確信なんてない。けどオレは。

 

 ──ならばコレを持っていけ。その端末が、お前を導くだろう。

 

 100%。

 一対のメインカメラが目の前の2人の人物を捉えた。1人はバナージ。そしてもう1人は鋭い眼光で俺を見ている銀髪の男、その名はカーディアス・ビスト。バナージの実の父にしてビスト財団当主。原作通りならユニコーンをバナージに託す時に死別するキャラクターである。まあ、この通りピンピンしているが。そんな人物がなぜ俺を見てるのかな?

 

「はじめましてってわけじゃ、なさそうだな?」

 

 オレの問いかけに目を見開くカーディアス。

 

「よもやこれほどとは……。聞くが、君は、自分が何者か認識できているのか?」

 

 何か知っている様子の、というか明らかに仕掛け人だろうカーディアスに俺は詰め寄った。

 

「俺を知っているのか?俺はなぜハロになっている?いや、そもそも、俺は、ナニモノなんだ……?」

 

 詰め寄る俺のまんまるボディを凝視していたカーディアスが、ゆっくりと瞼を閉じる。明らかにこいつは真実を知っている。

 

「なんと言ったらよいのか……。あまりにも埒外に過ぎる故、心乱さず聞いて欲しいのだが」

 

 え、なに。なんか思ったより重そう。まさか機械の身体を依代に人間の魂を定着させましたとかトンデモオカルトじゃありませんよね?ここガンダムの世界だよ?……よくよく考えたらガンダムって結構オカルトだった。いやちょっと待っていざ聞くとなると心の準備が──。

 

「──発展型論理・非論理認識装置。かつてALICEとも呼ばれた、モビルスーツの完全自律稼働を目指した人工知能。その完成形にして、このユニコーンの頭脳体。──それが君なのだ」

 

 

 

 

 

─────────は?

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#10 もしかして:覚悟完了

「姫様が行方不明……?」

 

 なぜ、今になって?姫様が行方不明になってから、既に数日が経っているという。

 

 ジンネマンはガランシェールの艦橋に設置された大型のモニターに映る仮面の男─フル・フロンタル─を見上げた。その瞳は猜疑と疑念、不審と畏怖を僅かずつ滲ませていた。

 

『そう睨まないでくれ、キャプテン。私としても甚だ認め難い状況であることに変わりはない』

 

 今や世間ではテロリスト呼ばわり、さらには制服に袖すら通さない、偽装貨物船の船長の皮を被っているジンネマンだが、この瞬間だって自分は1人の軍人のつもりだ。表立って態度に出さない努力はしていたつもりだが、この男の前では無意味らしい。

 

「我々の船に忍び込んだというのは、確かなので?」

 

『君たちが出港前の記録映像が残っている。見るかね?』

 

 結構です、とかぶりを振ってジンネマンは無精髭を指でなぞった。船の中はくまなく探した後だ。その際ジンネマンとフラストの怒号が乗組員たちを震え上がらせたのは言うまでもない。

 

「となれば、今はコロニーの中ってわけか……」

 

 最悪だ。コロニーは外から見てもわかるくらいにボロボロだ。もう一度人が住めるまでにどのくらいかかるか。普通に考えれば、生存の希望などあるはずがない。

 

「マリーダ、なにか感じるか?」

 

 背後に控えるパイロットスーツに問いかける。マリーダは“勘がいい”。彼女はニュータイプほどでないにしろ、自分たち只人よりも遥かに気配に敏感だ。

 

「……申し訳ありません」

 

『いくら強化人間とはいえ、コロニー外から特定の人間を探し出すことはできまい』

 

 強化人間、という言葉に思わず眉を顰める。それすらやってのけそうな男が何を言うか。

 

 謝るマリーダに気にするな、と手を振ってみせた。いずれにせよ、この船がやることはもう決まっているのだから。

 

「我々はミネバ様救出の為にコロニーに戻ります。構いませんね?」

 

『勿論だ。──ああ、それともう一つ。《箱》についてなのだが』

 

「それについては申し訳ありません。事前に動きを読まれていたようで」

 

 思えばパラオを出て、そう時間をおかずに連邦に見つかった件といい、姫様の失踪をやすやすと許した件といい、あまりにも不可解な事が多すぎる。どこぞの“誰”かがかいたシナリオの上で、まんまと動かされているかのような。

 

『──私も出よう』

 

「……本気ですか?』

 

『連邦の動きを見たまえキャプテン。ロンド・ベルに筋金入りの特殊部隊まで出してきている。中身はどうあれ、アレはおそらく“本物”だ。ならばこちらも相応の動きはしてみせねばならん』

 

 暗転したモニターを前に数秒敬礼の姿勢をとったままだったジンネマンは、ようやく腕を下げた。振り返り、キャプテンシートに座る。マリーダは既に艦橋にはいなかった。自分の次の命令を察しての事だろう。

 

「マリーダ、出撃だ。近くまでいけば感じ取れるな?」

 

『了解、マスター』

 

 ノーマルスーツのヘルメットを被りながら、ジンネマンはマリーダにもう何度目かもわからない台詞を返した。

 

「マスターはよせ」

 

 

 

 

 ばーーーーっかじゃねーの!?

 ユニコーンのコックピットに俺(ハロ)専用のシートが設けられているのを知った一番の感想である。デュナメスのコックピットじゃないんだからさぁ……!

 

 しかもコックピットの収納スペースから出てきたパイロットスーツはバナージにピッタリときた。さてはカーディアスおめー、最初から息子乗せる気まんまんだったな?

 

「俺は認めないからな!わかってるのか、戦争なんだぞ!ミネバやタクヤを助けてハイサヨウナラなんて都合のいい話じゃない!それにこの機体は──」

 

「自分から飛び込んでいって、守ってくれなんて勝手なのはわかってる。けどこれ以上、見てるだけは嫌なんだ。オレはオレの意思で、タクヤやオードリーを救いたい。その力が、このモビルスーツにあるのなら」

 

 だーーーっ!これだから嫌だね!ガンダムの主人公ってやつはさぁ!運命に導かれたようにみんなホイホイモビルスーツに乗っちまう。ユニコーンガンダムは確かにお前に無類の強さをくれるさ。けどその力はお前や、周りのやつらを不幸にする。望まないのに殺して、殺されかけて。ハイスクールの学生が背負うには重すぎるんだよ!

 

『この子を、頼む』

 

 別れ際のカーディアスの言葉だ。あいつ、まだ為すべき事があるとか言って燃え盛るコロニーに戻りやがった。たぶん《メガラニカ》に戻ったんだろう。

 

 チッ、詳しい説明全部はしょって全部俺に背負わせていきやがった。《箱》の正体、その場所だって知ってる俺はこのまま暴いてやろうかとも思ったが、やめた。状況があまりにも原作とかけ離れているからだ。この分だと、《箱》がマジで《メガラニカ》にあるかも疑わしい。

 

 それにガエルが追ってくれているとはいえ、ミネバとタクヤをこのまま放って置くわけにもいかないのも確かなのだ。

 

 バナージが俺を見ている。なんだその目は。覚悟完了ってか?

 

「契約内容は全員無事に生き残ること、だったっけ?オレの望みを一つ、叶えてくれるんだろ?」

 

 〜〜〜〜〜ッ!その言葉はずりぃだろうがぁ!チクショウめ……。俺が何者なのかはこの際どうでもいい。というか気にするだけ無駄っていうかもう意味わからんので、俺は、考えるのを、やめた。

 

 それでもひとつだけ確かな事は、俺はバナージのペットロボットで、親父に仕組まれたシステムで、異世界からの転生者で、けどそのいずれも向いてる方向が同じだってこと。バナージを守護る。その一点においてのみ、俺に迷いはないってことだ。

 

「ああ、分かったよ!連れてってやるよ!どうせ後戻りはできねぇんだ、連れてきゃいいんだろ!途中にどんな地獄が待っていようとお前を・・・お前らを俺が連れてってやるよ!」

 

 みんなが笑って迎えられるハッピーエンドまでなぁ!!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#11 もしかして:NT-D

 宇宙空間では音は伝わらない。音とは波動であり、空気を媒質にして我々の耳に届いている。宇宙には空気がない。だから音はきこえない。アースノイドの私でも知っている常識だ。

 しかし当時のことを知る数少ない証人たちは皆、口を揃えてこう言うのだ。

「自分は確かに獣の産声をきいた」のだと。

《月刊宇宙世紀の歴史Vol.100》
※宇宙世紀0123発行。検閲後、抹消。


『ここからっ!ここからッ!でていけぇーーーーー!!』

 

 ユニコーンの駆動系が力強く唸りを上げ、相対するモビルスーツの腕を異音と共に徐々に圧壊させていく。対峙する緑の巨人に比べると随分小さく見えるその白い体躯のどこにこれだけの膂力があるというのだろう。背部のバーニアから青白い残光を曳いて、幻獣がとぶ。

 

 なんて美しく、幻想的な光景だろうか。鉄と油で動く機械仕掛けの獣にこんな感情を懐くとは、きっと狭い居城で過ごしていた過去の自分には想像できなかったに違いない。

 

 その白き獣は緑の巨人を跳ね飛ばし、ただまっすぐに此方へと駆ける。誰かの息を飲む音だけがやけにハッキリと耳朶をうった。それは自分を拘束していたパイロットの声か、偶然居合わせた少年の声か。

 

 確かなのは自分ではない他の誰かということ。だって、自分は。

 

 ──息をするのも忘れて、その姿に視線を奪われていたのだから。

 

 

※ ※ ※

 

 

 ──時は少し遡る。

 

「「あばばばばばばばばばば!?」」

 

 スレッガーさんかい?速い、速いよ!ユニコーンがバックパックのメインスラスターを瞬かせながら弾丸のようにコロニー内を駆ける。殺人的な加速だ!ちょっとマジ意味わかんない!俺の思考が機体についていけてない!マグネットコーティング前のガンダムの逆バージョンだこれ!

 

「ハロ!減速だ、減速!」

 

「バナージおまっ、ちょっ、まっ!」

 

 バナージがフットペダルを思いっきり踏み込む。お前ェェェェェェェェ!!お前お前!!それ踏むと加速するやつーーーーッ!!ユニコーンは操縦者の意に反した誤操作に忠実に応え、そのスペックがカタログ上だけでは無いことを遺憾無く示した。つまりわかりやすく言うと、俺たちは仲良く白眼を剥くことになったと言うことだ。(俺に白眼はないが、そんな気分だったのである)

 

「「あばばばばばばばばばば!?」」

 

 俺たちは止まらない、加速する。景色が飛ぶように流れていき、コロニーの外に繋がるゲートがみるみる迫ってきた。それでもひたすら前へ、前へ。っ!この暴れ馬がっーーーー!

 

 ぶつかる!俺がそう強く意識した瞬間。ユニコーンの右腕からビームが閃いてゲートに風穴を開けた。コロニーから飛び出したユニコーンが勢いよく静止し、腹の底まで響く唸り声を上げながら、メインエンジンをふるわせた。

 

 オォォォォォォォォォ──。

 

 さながら獣の咆哮か遠吠えのようである。大丈夫?これほんとに俺の身体?俺の意思に従ってる感ないんだけど?

 

 コックピットのモニターにはAI同調率41.3%と表示されていた。つまり半分くらい勝手に動くってコトカナ?それとも残りの58.7%はバナージ担当なの?なに?黒と緑の半分こ怪人かなにか?冷静に考えたら思い通りに動かないとかとんでもねぇ欠陥兵器だよコレ!カーディアス、お前の罪を数えろ!!

 

 クン!ユニコーンのメインカメラがバナージの知覚に敏感に反応し、ある一点を凝視した。首ゴキッってなるから急に動かすのはやめろ。ユニコーンの瞳は随分遠くまで見渡せるようだ。オードリーを攫ったリゼルがクシャトリヤの前で四肢を散らして沈黙している様子がはっきりと見えた。ガエルのリ・ガズィもだ。マリーダさんがエクバ全一だってはっきりわかんだね。

 

 その光景を見てしまったバナージからフツフツと高まる怒りを感じた。ま、まずい。この感じは……!

 

「バナージダメだ!落ち着くんだ!」

 

 思わず突っ込んで行きそうになるユニコーンを必死に静止させる。

 

「けどこのままじゃ2人が!」

 

 猛るバナージに俺が「鎮まれ、俺の右腕ッ!」していると、達磨になったリゼルを抱えたクシャトリヤが、花弁のように広がる羽根からファンネルを解き放った。クラップ級がメガ粒子と機銃をばら撒きながら、クシャトリヤに肉薄したのだ。後には引けないというがむしゃらな、冷静さを欠いた突貫。

 

 ファンネルがクラップ級の装甲が薄いであろう部分を次々と貫いていく。たちまち蜂の巣になったクラップ級が、音もなく轟沈した。

 

 その時である。沈みゆく艦から、聞こえるはずのない呼吸、声、叫び、それらが失われていく生々しい感情が波のように押し寄せて身体に入り込んでくる感覚が、バナージを襲った。

 

「っ……、あっ、あぁぁ……!?たくさんの人が、オレに入り込んできてっ!?」

 

 バナージが苦悶の声を上げ、両手で肩を抱いた。

 

「どうしたんだ!バナージ!おい!しっかりしろ!」

 

 その時俺は訳もわからず、ただバナージに叫ぶことしかできなかった。バナージがユニコーン・ガンダムのフルサイコフレームを介して人の死をダイレクトに感じ過ぎてしまったのだと気付いた時には、もう手遅れだった。

 

『NT-D』

 

 妖しく光るディスプレイに表示された無機質な英文字が、俺たちの意識を支配しようと手を伸ばしていた。

 




連休中に第一章完結予定。※誤字報告ありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#12 もしかしなくても:ガンダム

ちょっと急展開過ぎるので注意。


 暗闇に囚われている。闇の中で、無数の手に全身を捕われている。

 

 闇の中で、たくさんの声が聞こえる。無数の唇が、耳元で囁く。

 

 助けて、どうして、なぜ私が、任務のため、死にたくない、目が見えない、息ができない、苦しい、苦しい、寒い、寒い、寒い、なぜ、苦しい、死にたくない、寒い、苦しい、なぜ、殺された、誰に、袖付きに、死にたくない、憎い、憎い、憎い、憎い、殺す、殺してやる、コロシテヤル。

 

 闇の塊がねっとりと全身を覆い尽くしていく。塊には無数の顔が浮かんでいる。そのどれもが憎悪と苦悶を刻みこんだように歪んでいる。

 

 自分と闇の境界が曖昧になってゆく。自分の輪郭がぼやけていく感じがした。突然、叫び出したい衝動にかられて、バナージは大きく口を開いた。

 

「──────────!」

 

 声が出ない。そこでようやく、バナージは恐怖を思い出した。

 

(うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?)

 

 開いた口めがけ、闇がドンドン入り込んできて、バナージの臓腑と神経と意識を侵食していく。誰か助けて!袖付きを殺せ!タクヤ!オードリー!ジオンを殺せ!俺を助けて!敵を殺せ!!俺を!お前の敵を!ニュータイプを殺せ!!俺の敵を!!殺せ!!

 

 ぐったりと動かなくなったオードリーを抱えた、4枚の羽根を生やした化物がオレたちを見ている。敵だ。オードリーが捕まっている。助けないと。どうやって?アイツを。殺さなければ。

 

「──コロシテヤル」

 

 視界が真っ赤に染まっていく。全身を包む万能感と高揚感が心地よい。

 

 バナージは一歩足を踏み出した。全身に力が漲る。すごい、まるで自分の身体じゃないみたいだ。この力があればアイツの羽根を全部毟り取って装甲を一枚ずつ剥いでコックピットをこの手でじわりじわりと、中のニンゲンの悲鳴がよく聞こえるようにゆっくりと潰してやれる。そうすれば、きっともっと気持ちいい。

 

「コロシテヤ──」

 

『そんな大人修正ぱーーーーーんちッッッッッッッ!!』

 

 闇を突き破り突如真っ白な手首が無駄にスナップの効いたモーションでバナージの横っ面にグーパンをたたき込んだ。

 

「へぶっっっっっ!?」

 

 頬が焼けるように熱い。バナージは思わず顔を押さえて、自分を殴りつけた張本人を睨みつけた。そこには白髪赤目の少女が腕を組んで仁王立ちして立っていた。はたはたと白いワンピースをはためかせ、白く細い足を惜しげもなく晒している。なんで風ないのにワンピースはたはたしてんだ?と思ったが今はそんなこと言ってる場合じゃない。

 

『なにやってんだミカァァァァァァァ!!』

 

 その細身のどこから出しているのかわからないほどの大声で、少女は叫んだ。たじろぐバナージだが、負けじと言い返す。

 

「それはこっちのセリフだろ!ミカって誰だよ!」

 

 少女のこめかみがピクピクと痙攣する。

 

『うるせぇよばーか。お前らに用はねぇ。さっさとバナージを返せよ亡霊どもが』

 

「俺たちがバナージだ!」

 

『情けないこと言ってんなよバナージ。そんな奴らとっとと振り切って、こっちに帰ってこい』

 

 少女が哀しみをたたえた瞳で俺たちを見た。──なんで。なんでなんだ。俺たちだって帰りたいよ。俺たちは死にたくなかった。死にたくなかったのに!殺したのはアイツだ!

 

「復讐してなにが悪いんだよ!」

 

 バナージの慟哭を聞いて、少女は俯く。そして呟くように、絞りだすようにして答えた。

 

『いいぜ。てめぇら亡霊がそんなにもヤツが憎いってんなら』

 

 小さく踏み出した一歩が、やがて大股での一歩に変わる。ズンズンと少女が近づいてくる。右手をグーに固めながら。

 

『まずはそのふざけた怨念をぶち殺す』

 

「俺たちに近づくなぁーーーへぶぁ!?」

 

 顔を殴られた。熱い。

 

『復讐だぁ!?お前ら軍人だろうが!殺し殺されの命のやりとり上等だろうが!』

 

 思考がカッと熱くなる。軍人だからなんだ!俺たちだって人間だ!死にたくないのは当たり前だ!

 

「いわせておけばべぶぉ!?」

 

『お前らコロニーぶっ壊したよな!それで何人!死にたくない民間人殺したんだ!?』

 

 そこからは一方的だった。一本一本、牙を折るように言葉と拳が顔に叩き込まれていく。殴られた顔が、ドンドンと熱を帯びていく。熱い。

 

『何が復讐だ!そんな感情で今を生きる人々の!これから歩みだす子どもたちの未来を!』

 

 少女がこれまでになく大きく拳を振りかぶった。顔から全身に、熱が伝わっていくのがわかる。臓腑と神経と意識が、熱くなっていく。

 

『死んだ人間がっ!生きてるやつらのゆくてをはばむんじゃあないっ!!』

 

 ドコンッ!という気持ちの良い音と共に、バナージの全身から暗闇が叩き出された。死者の怨念は人の形をとって、尻餅をついたように茫然と少女を見上げた。全身を苛む寒さはもう消えていた。

 

『それでも憎しみが止まらないっていうんなら、俺が背負ってやるよ』

 

 差し伸べられた手を握り、闇はほどけるように少女の身体に消えていった。残されたのは、唖然としているバナージと、謎の少女だけである。

 

『あー、マジ疲れる……』

 

「え、もしかして、ハロ、なのか……?」

 

『そうだよっ!!』

 

 白い少女がキレ気味でバナージへと振り返った。

 

『陰陽師一級のおかげで怨念消せました!って予想外すぎるわ!なんだあの黒いモヤモヤした化物は!ちゃんとガンダムしろ!あっでもAGEで似たようなことあったな!』

 

 支離滅裂な言葉を叫びながら暫定ハロが壮絶なジェスチャーを繰り出している。さっきまで自分を支配していた負の感情がストンと抜け落ちているのに、バナージは気付いた。ハロが自分を気遣っているのかな、とどこかボンヤリとした頭でバナージは思った。

 

『つーかなんだこのヒラヒラ!手首細っ!声高っ!視線低っ……いやハロより高い!あとなんか目がいやらしいこっち見るな』

 

「ごめん、そのモデル、オレが作ってインストールしといたやつなんだ……」

 

 バナージの趣味はもっぱらハロの魔改造であり、色々なギミックを仕込んでいく過程で擬人化にも手を出したことがあった。ホログラム機能で人間の姿を投影できるようにとモデリングまで行った本格的な改造である。タクヤの力も借りて初挑戦とは思えない出来映えとなったのはいい思い出だ。その時はただの遊び心だったのだが、まさかこんなことになるとは。

 

『お前……。それはオードリーには言わない方がいいよ……』

 

「……うん」

 

 ハロが一歩後ずさったのが、結構心に刺さったバナージであった。

 

 

 

 

『わかりやすくいうとここは精神世界的な感じなんだよ』

 

「いやわかんないよ」

 

 まあそうだろうね。俺だってよくわかんないもん。ガンダムによくある不思議空間ってやつだと思うけどね。全裸で宇宙っぽい空間をふわふわするアレね。ちなみに俺はちゃんと服を着ている。なぜかって?人間じゃないからかなぁ?ワンピースのヒラヒラ感がすっげぇうざい。足がスースーする感覚がすごく気持ち悪いんだよこれ。落ち着かねぇ……。ちなみに目の前のバナージは全裸です。へぇ、歳の割にけっこうがっしりしてんじゃん。……ほぉーーーん。勝ったな。あとなんか若干照れ臭そうに俺と喋るのやめてくれない?調子狂うわマジで。

 

 話を戻そう。あれは今から36万・・・いや、1万4000年前だったか。まぁいい。つまりこのまま現実に戻るとユニコーンがデストロイでみんながヤバイ。

 

 バナージが異様に高い感応でクラップ級のクルー達の死を感じちゃったせいでユニコーンのNT-Dがトリガーしちゃったんだわ。あの場には強化人間のマリーダさんもいたし、遅かれ早かれだったとは思うけどね。

 

 原作、もう原作知識まったく役に立たないと思うが、一番違うのはオードリーとタクヤがクシャトリヤに抱えられたリゼルの中にいることだ。マリーダさんもガンダムに敵意抱くような刷り込みされてるから冷静さを失うだろう。そうなるとまあ、ユニコーンとクシャトリヤの戦闘に巻き込まれたリゼル絶対無事では済まないと思うのね。

 

「つまり暴走しないようにすればいいってことか……」

 

 そうなんですよ。ものわかりいいねぇ主人公。

 

「その、NT-Dってやつは解除できないのか?」

 

 できたらこんな相談してないよぉ!今すごい頑張って抑え込んでるけど、装甲めっちゃガタガタしてる!開いたり閉まったり繰り返してちょっと気持ち悪い感じになってるもん!

 

「あの人は、父さんはハロがいれば大丈夫って言ったじゃないか!」

 

『甘ったれるなっ!』

 

 パァン☆パァン☆(さり気ない2度打ち)

 

『覚悟してこいつに、ガンダムに乗ったんだろ?乗りこなしてみせなきゃ親父に笑われちまうぜ』

 

 俺の煽りを聞いて、ぐっ、と力の籠もった瞳で見返してくるバナージ。うん。良い目をしているな。

 

『男は度胸。やってみれば、案外なんとかなるもんさ』

 

 人生そんなもんだ。俺の短い人生なんて参考にならないかもしれないが。それに、流石に生死をかけた場面でこんな事言うのは無神経かもしれない。けどな、バナージ。お前はやらなきゃいけないんだ。みんなを救いたいっていう想いをお前自身が消しちゃダメだ。大丈夫。どんな困難が待ち受けていようと、お前は1人じゃない。たくさんの仲間がいる。支えてくれる友達がいる。あとは、まあ。ペットロボットも1匹いるからさ。役に立てるかわかんないけど。付き合うぜ、地獄の底まで。

 

「ありがとうハロ。オレ、やってみるよ」

 

 バナージがニコリともニヤリともつかない不敵な笑みを浮かべた。よぉーしよく言った!ほんとバナージも何度も何度も覚悟と挫折で大変だわな!そうだ。何度転んだっていい。何度でも俺が起き上がらせてやるよ!

 

『よし!いくぞバナージ!今から俺とお前は一心同体!2人で1人の運命共同体だ!』

 

 装甲の隙間から赤く漏れ出ていたサイコフレームの光が激しく明滅した。全身を覆っていた脚、腰、胴、腕、頭の各部装甲が展開していく。装甲の中からサイコフレームで象られた内部骨格が露出し、全身を駆け巡る血潮のように赤く染まりかけたソレを、やがて激しくも穏やかな白色へと変貌させた。最後にユニコーンをユニコーンたらしめていた一本角が縦に割れ開き、マスクの下に隠されていた鋭い両眼が覚醒したかのように発光する。

 

 まさしく白亜の巨人の腹の中で、1人と1匹が力強く命の鼓動を鳴らした。

 

「ユニコーン、お前にみんなを救う力があるのなら!今だけでいいっ!俺に力を貸せーーー!!ガンダム!!!」

 




かなり賛否わかれるかと思いますがこんな感じで第一章完結です。お疲れ様でした。
戦闘結果は11話冒頭で判明してますのでジャイアントキリングされました。連休中に間に合ってよかったです。
一応性転換タグ追加しました。
〜追記〜
誤字報告ありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二章 赤い彗星
#13 亡霊きたる


長らくお待たせしました。
仕事の都合で突然の引越しやら引き継ぎやらでまだまだ忙しさから抜け出せない様子ですが、ぼちぼち再開していこうと思います。


「……つまり、君は偶然巻き込まれてあのMSに乗り込んだだけの被害者だと。そう言うわけなんだな」

 

 もう何時間経っただろうか。バナージはネェル・アーガマの何処かにある狭い一室で、何度も何度も同じ質問を繰り返されていた。

 

「ウソだ。ただの民間人がモビルスーツを、ユニコーンを動かせるわけがない」

 

 自分を尋問しているガタイのいい男、たしかダグザとか呼ばれていたか。その横で踏ん反り返っていたもう一人の男がバナージを睨め付けた。

 

「いい加減本当の事を言ったらどうだ!バナージ・リンクス!」

 

 ダンッ!男の手が簡素な机を叩く。振動で立派に張り出た腹を震わせながら、男がどんどんヒートアップしていく。

 

「学生という身分も隠れ蓑だな?カーディアス・ビストとどんな契約を交わした?ユニコーンは《鍵》と言ったな?では、《箱》は?どこに隠した!早く答えないか!さもないと……」

 

「そこまでだ」

 

 ダグザという男の静止に、アルベルトが怯んだように呻く。

 

 しまったな……。とバナージは思った。最初にうっかり口走ったことがよくなかった。ユニコーンの中でハロに聞かされた《箱》と《鍵》の話。使い方次第で世界を転覆させるほどの力を秘めた、新たな争いの火種。それを紐解くシステムがユニコーンに搭載されているらしい。

 

 なんて迷惑な話なのだろう。父、カーディアスは何を思って災厄の《箱》の《鍵》となるユニコーンをテロリストなんかに渡そうとしたんだろう。真意を問いただそうにもインダストリアル7は既に遥か後方だ。この艦は今、月面都市に向かっているらしい。よく喋る太った尋問官にダグザが渋面を作ってこめかみをひくつかせていたのを思い出して、バナージは思わず笑ってしまった。

 

「何がおかしい!」

 

 アルベルトが激昂し拳を振り上げたあたりで、艦内にけたたましい警報が響き渡った。

 

 

 

 

 「何事か!?」

 

 副長のレイアムが発した問いに、周囲の状況把握に努めていたセンサー長のサーセル・ミツケールが応える。

 

「わかりません!索敵範囲に反応なし!」

 

 センサー長の言葉に、レイアムの眉間が鋭くなっていく。

 

「艦の被害状況は!」

 

「──こちらブリッジ。応答してください。こちらブリッジ。……ダメです。右舷第二エンジンブロック応答ありません!」

 

 ネェル・アーガマは戦闘艦であり、通常速度での航行によるデブリとの接触程度での損傷などほぼありえない。

 

「狙撃された……?」

 

 ヒヤリとした感覚がレイアムの脊椎を走り抜けた。その直後、先より大きな揺れがブリッジを揺らした。

 

「左舷スラスター群脱落!ああっ!センサーに感あり!モビルスーツと推定!後方より近づく!」

 

「もう追いつかれたのか!?」

 

 モニターにかじつくようにしていたセンサー長が、呆然とした顔でレイアムを振り返った。

 

「せ、先頭の一機は……、通常の3倍の速度で接近中!」

 

 その言葉に、艦橋が一瞬凍りつく。艦長席から帽子が落ちる音がして、レイアムは振り返った。

 

「シャ、シャアだ……、シャアの亡霊だ!」

 

 艦長席で驚愕に目を見開くオットーを責める気には、とてもではないがなれなかった。シャアの亡霊。つい先日も民間の輸送船団を護衛していたクラップ級2隻がヤツ一人の為に撃破されている。

 

 逃げ出したくなる衝動に、どこへ逃げろというのか、と自嘲してレイアムは覚悟を決めた。

 

「ぼさっとするな!第1種戦闘配置!戦闘ブリッジへ移行!オットー艦長!」

 

「な、なにか!?」

 

 たじろぐオットーに、レイアムは喝を入れるべく問いかけた。生きるか、死ぬか。艦はクルー全員一丸となって一つの生き物。我々を生かすも殺すもこの男次第なのだから。

 

「よろしいですね?」

 

「ぬぅ!そ、総員!だっ第一種戦闘配置!」

 

 オットーの一言で、ブリッジが慌ただしく動き出した。

 

(今日で死ぬかもしれない)

 

 誰も声に出さずとも、みんなそう思っているだろう。軍人になってから、何度も覚えた嫌な感覚だ。だからこそ、ここで竦んでしまう者は誰一人としていない。どんなに相手が強大であろうと。

 

(今日も生き残ってやる)

 

 いまこの瞬間、ブリッジの心は一つだった。

 

「だ、誰か!私の帽子知らないか!?」

 

 ──艦長以外は。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#14 メタルハロソリッド

 微かに漏れ出る光を頼りに、薄暗い通気孔の中を転がり進む。ここは戦艦ネェル・アーガマの奥深い何処か。囚われの身となったバナージとタクヤ、オードリーを救出すべく、なんとかここまで身を潜めながら侵入してきた。

 

 前方から聞こえる、バナージと思わしき声。ようやく目的地に辿り着いたらしい。通風口のカバーごしに、室内を見下ろせば、バナージがガタイのいい軍人と水色スーツの太い男(たぶんアルベルト)に囲まれて尋問されている真っ最中だった。どうやら、俺の現在地は尋問部屋の真上らしい。やれやれ、ここからどう連れ出したものかな。

 

 ──事の顛末を説明しよう。

 

 マリーダさんのクシャトリヤを撃破してオードリーとタクヤを保護した俺とバナージは、そのまま超警戒体制で状況を見守っていたネェル・アーガマに拿捕されてしまった。崩壊するコロニーから飛び出してきた、ネオ・ジオンのニュータイプ専用機を一方的にボコったIFF応答なしのアンノウン。それに自分たちが運んできた特殊部隊から入る警告や騒ぎまくるアルベルトを見れば、自分たちの任務の内容がおぼろげに見えてくるはずだ。拘束やむなし。むしろ有能まであるね。

 

 クシャトリヤはまだまだやる気だった様子だが突然退いていった。あのままオードリー達を抱えたまま戦闘にならず本当によかった。それからしばらく、俺たちを誘導するリゼルごしに、クシャに木っ端微塵にされた僚艦から要救助者を探す作業が行われていた。あれ?ネェル・アーガマに僚艦なんていたっけか?と疑問に思う。どうやらこの世界は本当に原作とはかけ離れまくっているらしい。

 

 「機動戦士ガンダムUC」と大筋は同じの現実世界。そう、現実だ。賑わう校舎、生徒たちの会話や笑い声、そして崩れていく地面、人々の悲鳴、躍動するモビルスーツ、バナージの苦悩と覚悟。俺にとって、すべてがリアルだ。ここは小説やゲームの世界ではない。俺たちにとっての現実なんだ。

 

 改めて理解する。前世の俺は、おそらく死んだのだ。心のどこかで、俺はただ、醒めない夢を見ているだけかもしれないと思っていた。これは寝ている俺が見ている夢で、普段通り目覚まし時計の音で叩き起こされて、うーんあと5分だけ、なんて言いながら布団で寝返りをうつ。それが今では。……なんだろな。やっぱ実感わかねーわ。だってハロなんだぜ?

 

 まあそうしてなんやかんやあって、最低限目的は果たしたとばかりに尻尾を巻くようにしてネェル・アーガマがインダストリアル7から離脱したのが数時間前の事である。あの場に留まっていたらなんとなくイヤな予感がしたから、正直ほっとした。これでカーディアスとはしばらくお別れだろうな。やはりというか何というか、彼の目的はやはり《箱》の開放だろう。ラプラス事件。初代連邦首相と共に失われた宇宙世紀憲章のオリジナル。

 

 たしか宇宙に適応した新人類(めっちゃ定義が曖昧)も冷遇しないよ!じんるい みんな ナカヨク。みたいな内容だったはず。それが世間に公表されちゃったら連邦困っちゃうらめぇ〜!で宇宙戦争ドーン!コロニーレーザーバーン!隠された《箱》を探して歴史探訪しよう!っていうのが機動戦士ガンダムUCの大筋だったはず。詳しくはアニメ本編か小説を読むんだよォ!

 

 いやしかし……改めて考えるとビスト財団マジ頭おかしーんじゃねーの?資格ある奴に歴史探訪させて《箱》を開けるかはお前が決めるんだヨォ!ってのが目的なんでしょ?考えがぶっ飛びすぎてて理解が及ばん。人類愛拗らせすぎでは?人を信じることは美徳だが、行き過ぎればそれは悪徳になる。もはやロマンチストも超越してテロリストだよ。悪のジオン星人もビックリだわ。

 

 そもそもの話、ジオンが消えて連邦一強になったら人類衰退するって飛躍しすぎでは?俺はのんびりだらりと生きていきたいよ。困難に立ち向かわないと閉塞した未来になるってんなら、俺は立ち向かわない方を選ぶ。毎日ゴロゴロゲームしてたい。頑張りたいやつだけが頑張ればいいのだ。常に世の中を動かしてきたのは一握りの天才たちなのである。俺はその一握りじゃないし、過酷な生存競争なんてくそくらえである。人類の発展とかやがて行き着く先なんて今の俺には関係ないし?……え?そうすると文明が停滞して異聞帯として切除されちゃうって?そんなアプリゲーみたいな設定なんてナイナイ!

 

 話を戻そう。

 

 ネェル・アーガマに着艦した後、バナージとタクヤ、オードリー、あとオードリーを拉致ったリゼルのパイロットが拘束されて艦内に連行されていった。そしてユニコーンからこっそり抜け出した俺は見つからないようにミッションインポッシブル。ハリウッド顔負けの超スタイリッシュスパイアクションを披露しながら今に至るってワケ。

 

 よかったなバナージ!俺たち、ちゃんと生き残れたよ!なお原作より待遇が悪い模様。これは……やばいですね☆

 

「学生という身分も隠れ蓑だな?カーディアス・ビストとどんな契約を交わした?ユニコーンは《鍵》と言ったな?では、《箱》は?どこに隠した!早く答えないか!さもないと……」

 

 アルベルトさんが色々機密っぽい事を漏らしつつバナージに詰め寄っている。だいぶ熱くなってるな。ユニコーンが《鍵》。これは原作通りだった。La+システムは俺のボディたる“この世界"のユニコーンにも搭載されていたのだ。

 

 マリーダさんと戦った後、システムが示した座標はかつて首相官邸ラプラスと呼ばれたコロニーの残骸が漂う、地球の大気層に近い危険な宙域。宇宙世紀始まりにして呪いの発生源。うわ辛気臭っ!俺としてはまともに歴史見学ツアーに付き合う気はない。このままユニコーンは連邦にポイして俺たちはちょっと機密に触れた哀れな民間人としてサヨナラバイバイ。そういうことにならねーかな。ならねーよなぁ……。今のところ成り行きに任せるしかないってのが辛いところだ。

 

 尋問部屋の様子を監視しつつ一人思案していると、突然大きな揺れが艦全体を襲った。次いで出て行く軍人とアルベルト。俺の記憶が正しければ、この揺れはフロンタルの襲撃に違いない。部屋には戸惑うバナージ一人になった。イスから立ち上がり不安そうにオロオロしている様は見ていて居た堪れない。……さーて、俺もお仕事しますかね。通風口のカバーを蹴破り、バナージの目の前にスーパーヒーロー着地をキメる。突然の登場に目を見開いて驚くバナージに、顔?を上げて事前に考えていた決め台詞を言ってみた。

 

「待たせたな」

 

 1回言ってみたかったんだコレ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#15 モビルスーツ乱戦!

久々の投稿になります。皆様のコメントのお力と閃光のハサウェイが筆を取る活力をくれました。またお付き合いいただければ幸いです。


 赤い彗星の襲来。生き残りをかけた最大の山場。それを乗り越えるべく、ネェル・アーガマの艦橋がにわかに慌ただしくなる。しかしその中にあって、別の理由で冷や汗をかいている2人の男がいた。2名は怒号飛び交う艦橋の隅で、その筋肉質ながらも無駄を極限まで省いた洗練された肉体に焦燥と困惑を滲ませながら、やや汗ばみ始めた手で通信機を握りしめている。地球連邦軍特殊部隊・ECOAS(エコーズ)に所属するダグザ中佐とコンロイ少佐である。エコーズ専用のチャンネルに合わせた通信機は今もリアルタイムで部下の悲鳴を吐き出している。

 

『み、緑の丸いのが暴れて!うわっ』

 

『くるなっ!くるなーっ!!』

 

「何が起こっている!状況を報告しろ!」

 

 部下の断末魔とともに無線が途絶する。もう何度目だ。事の始まりはガンダムに乗っていた少年、バナージ・リンクスがいる尋問室の監視要員からだった。

 

『中佐!監視下にあった少年2名と少女が消えました!至急応援を!うわっ!?』

 

 その通信を最後に、艦内で続々とエコーズの断末魔が上がり始めた。自分たちはいくつもの修羅場をくぐり抜けてきた特殊部隊だ。大胆かつ油断のない動きでどのような状況でも相手に遅れをとることはない。自惚れではなく、それだけの自負と経験が自分たちにはある。しかし──

 

『ネオ・ジオンの新兵器かッ──』

 

 今、最後の1人からの通信が途絶えた。一体、何が起こってるのだ……。

 

 

X   X   X

 

 

 黒煙を吐き出す白亜の船体を、最大までズームされたカメラが捕捉した。宇宙を漂うデブリを蹴り付けながら、通常ではあり得ない速度で宇宙を駆けるのは、赤い装甲に身を包んだ《袖付き》のモビルスーツ、シャアの亡霊フル・フロンタルが操ると噂されるシナンジュである。シナンジュが補足した映像を即座に照合・解析し、己の腹の内に座す主人へと情報を伝達する。

 

 連邦軍の強襲揚陸艦ネェル・アーガマのレーダーの補足距離、その更に外側から放たれたビーム狙撃は完璧に敵の意表を突いていた。やや遅れて艦載モビルスーツを発艦させる敵艦に対し、フロンタルは冷笑した。

 

「残党狩りはよほど諸君らの腕を鈍らせたと見える」

 

 瞬く間に防空圏内に飛び込んできたシナンジュに対し、ネェル・アーガマの対空機銃座が火を噴き上げる。当たればモビルスーツとて致命傷である鉛玉の嵐の中を、シナンジュは嘲笑うかのようにくぐり抜けていく。迎撃に出てきた1機のリゼルが砲火の縫い目を鋭く突き込んで、ビームサーベルを振りかぶった。その動きに連動した隊長機らしい有翼のリゼルとジェガンタイプの2機は援護射撃で巧みにその突撃をカバーする。

 

「ほぉ……」

 

 シナンジュは左腕に装備したシールド先端からビームアックスを発振させ、リゼルのサーベルを受け止める。ビーム同士の鍔迫り合いによって互いの粒子が撒き散らされ、シナンジュの赤とリゼルの青の装甲を激しく叩く。

 

『──袖付きの首魁がノコノコと!』

 

 接触回線越しに敵パイロットの声が伝わってくる。──若いな。それでいてよく訓練されている。無謀に思える対空砲火中の突撃は、味方機の発艦を援護する為の陽動とみた。鍔迫り合うリゼルは背後の母艦を庇うように立ち位置を操作している。

 

「賢しいな、ロンド・ベル……!」

 

 ネェル・アーガマから3機目のリゼルが飛び立つのを、フロンタルは暗い微笑を持って迎える。次の瞬間、鍔迫り合っていたシナンジュのビームがかき消え、リゼルのサーベルが空を切った。ビームアックスの発振を収め僅かに後退したシナンジュが、リゼルが見せた致命的な隙を見逃すはずもない。シナンジュは右脚を猛烈な勢いで叩きつけた。繰り出された蹴りをなんとかシールドで受けるも、リゼルは大きく後退する。

 

「まずはひとつ」

 

 咄嗟に制動をかけ体勢を立て直そうともがくリゼルをカバーする為、ジェガンタイプの意識が僅かに逸れる。そのほんの僅かな意識の隙をついて放たれたシナンジュのビームライフルの閃光がジェガンタイプのコックピットを焼いた。リゼルはまだ宙で溺れたままだ。流れるような仕草で、その目の前でシナンジュはビームライフルを今まさに発進しようとしている艦上のリゼルへと向けた。

 

「ふたつ」

 

 イエローの粒子が吸い込まれるようにしてカタパルトレールを滑るリゼルへと伸びた。

 

∀   ∀   ∀

 

「ガロム中尉か!?」

 

 一瞬で味方が撃破された。自分の直線的な動きが連携に綻びを生み、味方に犠牲を強いたというのか。しかし後悔する時間すらシナンジュは与えない。次に狙いを定めたのは自分ではなく、発艦途中のホマレ中尉のリゼルだ。己の眼前で、赤い機体──アナハイムによれば強奪前の機体名を《シナンジュ・スタイン》と呼んでいたらしい──がビームライフルをネェル・アーガマへと向ける。やけにゆっくりとした感覚の中で、シナンジュと格闘戦を演じてみせたリゼルのパイロットであるリディ少尉はただ叫ぶことしかできない。

 

「ちくしょう……!」

 

 蹴飛ばされたリゼルに制動をかけるも、大きく後退させられ体勢を崩した自機での援護は間に合わない。ノーム隊長のリゼルからシナンジュへの射線上には自分がいる。隊長の狙撃も届かぬ最悪の位置。否、自分はここに誘導されたのだ。

 

 手玉に取られている。厳しい訓練を潜り抜け、最新鋭の可変モビルスーツのパイロットに選抜された自分たちすら歯牙にも掛けないプレッシャーがあの赤い機体にはある。赤い彗星の再来とまで言われた男が、自分の目の前で仲間を奪わんと牙を剥く。──自分たちでは、この男には勝てない。直感にも似たその考えがリディの頭をよぎる。その瞬間、モニターに映る赤い機体がモノアイを歪ませ嗤ったかのように見えた。無限に引き伸ばされた時間が再び動き出す。収束された粒子ビームがホマレ中尉の命を跡形もなく葬り去らんと加速した。

 

『『やらせるものか!』』

 

 突如として、熱に溢れた少年と透き通るような少女の声が戦場を奔った。ホマレ中尉のリゼルを追い越すように飛び出してきた白い機体が射線上に躍り出た。シナンジュの放ったビームが、白い機体の構えたシールドを直撃するも、そのビームは装甲を焼くことなく不自然に歪曲し霧散した。

 

「あれは!?」

 

 バリアーが盾になったのか……!?リディと同じく、目を見張るように僅かに固まったシナンジュに急加速をかけた白いマシーンが突撃する。──それは悪手だ。真正面からの突撃がシナンジュに通用しないのを先程身をもって経験したばかりのリディである。後退しつつ放ったビームを再度シールドで弾いた白いマシーンに対し、シナンジュが後退から急制動をかけ加速する。シールドの死角から掬い上げるように放たれた下段からのビームアックスが白いマシーンに迫る。流石のバリアーもあの距離ではビームを減衰できないのか、シナンジュの振り抜きと共にシールドが弾き飛ばされた。しかし、既にそこに白いマシーンの姿はない。バックステップするかのように身を引いて、両手に保持した専用らしいビームライフルを正眼に構える姿があった。

 

『たとえニュータイプでも、初めて見るコイツの威力を見切れるかッ!?』

 

『当たれよっ!』

 

 少女の啖呵と少年の裂帛の気合と共に銃身が輝いて、まさしく火球と形容できるような巨大なビームの塊がシナンジュ目掛けてかっ飛んでいく。シナンジュもまた未来予知じみた脅威的な反応速度を持って回避したが、煮え立つマグマのようにエネルギーを射線上に撒き散らしながら直進したビームのマグナム弾は、その余波でもって掠めただけのビームライフルごとシナンジュの右腕の肘から下を喰い千切った。

 

「すごい……!」

 

『ネェル・アーガマのモビルスーツは援護を!』

 

『赤いヤツはユニコーンガンダムの俺達が叩きます!』

 

 少女の声とその背後から聞こえる少年の荒い息遣いが、リディ達の動きを現実へと引き戻す。

 

「ガンダム……」

 

 およそガンダムらしくないその外見を横目にしながらリディは呟いた。ガンダム。それは特別な名前。アレはまさしくスペースノイドの、ジオンの天敵なのだ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。