僕のチートってなんですか? (冬霞)
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僕のチートってなんですか?

だいたいはあらすじと一緒。
テンプレなオリ主ですが普通に海鳴で生まれたオリキャラです。
あとカッコいい厨二ネームも追加で。
では性格自体はというと‥‥?
本文をお楽しみください!


 

 

 

 麗らかな春の気配が、海鳴の街中に、いや、この国のあちらこちらに満ちていた。

 緑がほころび始める木々。暖かな、すこしばかり乱暴な風。そして今にも咲き誇ることが待ち遠しいかのような桜の蕾。

 少し前まではコートをしっかり着込んでマフラーで首元を防御しなければならかったというのに、今日は薄手のセーターただ一着で事足りる。もちろん寒くなる可能性だってあるからジャケットぐらいは欠かせないけれど、随分と過ごしやすい季節になったもんだ。

 

 

「おーよしよし、わかったわかった撫でてやるから。そっちのお前は後回しな。こら吠えるなって、お前は昨日たっぷり構ってやっただろうに」

 

 

 そんな春も近い公園には、多くの人が集まっていた。

 まだ学校は始まっていないけれど、部活はしっかりとある中高生。休日だからか、仕事が休みで子どもを連れて遊びに来ている家族連れ。あるいはお爺ちゃんお婆ちゃんの組み合わせ。

 そして、一番多いのがコイツらだ。

 

 

「こら、喧嘩するんじゃない。僕の前で喧嘩したらお前達、もう遊んでやらないからな」

 

「―――」

 

「―――?」

 

「大丈夫、止めたらもう怒らないから。ホラこっちおいで、次はお前達の順番だろう?」

 

「―――!」

 

「―――!!」

 

「‥‥やれやれ、図体ばっかり大きくなって根っこは変わらないんだから。二年前はもっとこう、小さくて可愛らしかったのになぁ」

 

 

 僕にちょっと大きな声で窘められた小さな犬と猫が揃ってシュンと頭を垂れる。やっぱり犬と猫は決して仲がいいわけじゃないらしい。

 もっとも叱ったあとはしっかりと撫でて、遊んでやることも忘れちゃいけない。動物の躾の基本だ。しっかりと愛情を注いでやるのは、人間相手でも変わらないことだけれど。

 

 

「小さかったのは月クンも一緒だろうに」

 

「そうそう、公園に来たらあっちこっちから犬やら猫やら来て、もみくちゃにされてさ。飼い主のアタシにだって、あんなにじゃれついてきたことはないのよ?」

 

「ちょっとちょっと、人間相手に昔のことを持ち出すのはマナー違反じゃないですか? 僕に反論なんて出来ないんですから」

 

「そう言っても、月クンも本当に大きくなったからねぇ」

 

「そうそう、もうかれこれ五、六年も公園に来ちゃウチの子たちの相手してくれてるもの」

 

 

 大きなセントバーナードを飼っているおじさんと、ミニチュアダックスフントを室内飼いにしているおばさんが揃って笑い、コーギーとマルチーズを飼ってるおじいさんとおばさんもそれに頷いて笑った。

 いったいいつからだろうか、こうして僕が公園で動物達と遊ぶようになったのは。

 多分おじさんやおばさん達はしっかり覚えているんだろうけど、僕自身はほとんど覚えていない。もっとも子どもの年月感覚なんてそれこそ嵐のように過ぎ去っていくようなものだから、覚えていないのも道理なのだろう。

 立派な中学生になった今でも部活に入らずフラフラと公園に屯しているのは、多分に小さかった子どもの頃から僕の数少ない遊び相手だったこの犬や猫達が、いつでも僕を待ってくれているからだったのかもしれない。

 

 

 

 ‥‥あぁ、自己紹介が遅れてしまったみたいだね。

 僕の名前は九頭竜蒼月。蒼い月と書いてソウゲツと読む。ちなみに小学校の頃は誰も名前を読めなくて、ずっときゅーちゃんだの月クンだの呼ばれていた。もっとも、それもごく僅かな時だけだったけど。

 小学校の時は私立聖祥大学付属小学校に通っていたけれど、今は公立の中学校だ。聖祥は小学校の内は共学なんだけれど、中学からは男女別別の学校に通うことになる。

 それ自体は特に気にしないんだけど、スクールバスが存外に不便で、大学はレベルの高いところに進学したかった僕としては敢えてエスカレーターの中に留まることに意味を感じなかった。‥‥まぁ、他にも色々と理由はあるんだけど。

 

 

 自分のことをどう説明するかと言われれば、すごく

 もっとも実際は大した人生は送ってないのだ。普通の子供と、さして変わらない。まぁまだ中学生に過ぎないしね。

 

 髪の毛は背中の半分ぐらいまで届く、銀髪。‥‥ゴメン嘘を言った。ただの白髪だ。普段は邪魔になるからゴムで縛ってるけど、手入れが大変でしょうがない。

 瞳の色は赤。光の加減で黄色にも見える。太陽の光が苦手だから、ごくごく薄い茶色のサングラスをいつもかけている。

 身長はすごく低い。クラスでも女子を含めて下から数えた方がいいぐらいだ。もちろん運動もからっきし。走るのとか、単純に体を使うものはいい。走ったり飛んだりする類の身体測定では今に至るまでクラスで一番なんだけど、競技種目になると途端に運動神経が切れてるのが発覚してしまう。

 バスケをすればボールが逃げるし、サッカーでは足をボールに当てることが出来ない。他も似たり寄ったりだ。

 強いて自慢出来るところといえば、中学でもずっと学年で一番の成績を維持していることぐらいだろう。ただ、それも家に帰ってしまえば趣味らしい趣味もなく、他にやることがないからと黙々勉強をしていたからにすぎなかった。

 

 多分、見目は良い方だと思う。けど小学校の内に、こんな派手な容貌をしてたら末路は必然的に決まっている。

 自分で言うのもなんだけど、子どもから見たら僕みたいな容姿はまるで化け物だ。外国人だって大の大人が喋りかけることを躊躇うのに、真っ白い長髪に赤い目。しかもそれが、たまに黄色く光るんだから、どれほど怖かったことだろうか。

 はっきり言わせてもらうけど、もし僕だったら間違いなく怖がる。あるいは僕が陽気でお喋りで、人好きのする性格だったらよかったのかもしれないけど‥‥。

 残念なことに、僕はどこまでも根暗で、自分の内に篭る性格をしていた。それに大人びていたせいか、何処か同年代のクラスメイト達を見下していた。

 

 こういう時は先生か親に泣きついてしまえば、どうにかしてくれたのかもしれない。けどそれは僕のちっぽけなプライドに障ったし、何より僕の親も結構特殊な性格をしていて、僕の悩みをこれっぽっちも理解してくれなかった。

 いや、正確に言えば理解してくれようとはしてくれてたんだと思う。けど、決定的に観点と理解力が欠けていたんだ。いつもどうしようといった困った笑みを浮かべていたような気がする。

 

 その二人も今は、揃って家にいない。誤解されないように言っておくけど、我が家の家族仲はかなり良好な方だと思う。ただ単純に、二人とも少しだけ長い出張に出かけてしまっただけだ。

 次に帰ってくるのは夏で、夏休みが終わったらすぐにまた海外へ飛んでしまうらしい。それでも可能な限り頻繁に帰って来てくれると約束はしてくれたし、近所に住んでる親戚の人が色々と面倒を見てくれていた。

 僕も幸いなことに、自分一人ぶんの家事をこなすぐらいには器用で、今のところ生活には困っていない。昔から黙々と、淡々とこなす作業は得意だったのだ。

 寂しいとは思う。でも、それも慣れた。もともと小学校ではずっと一人だったから、家で一人でも、別にどうってことない。

 

 何かが変わるかと思った中学校への入学も、感じていた疎外感がれっきとしたイジメに変わっただけで、一年間を無為に過ごしただけだったように思える。

 幸いだったのは僕の髪と瞳の色、そしてすごく悪い目つきがイジメを始めた人間にとって予想以上に不気味だったことだろう。集団になれば人間は残酷なことが出来るって話はよく聞くけど、中学生程度の集団行動力では感じた不気味さを克服するに至らなかったらしい。

 あとはみんなと関わらないように上手に立ち回ればいいだけだ。休み時間にはフラフラと何処か散歩に行けばいいし、給食ではわかりにくいように端っこへと移動する。

 あとは黙々と必要なことをこなしていれば、先生だって深く気にすることはなかった。目立ってイジメられてるわけでも遠ざけられてるわけでもないんだから、ちょっと陰気だけど学業と運動(陸上種目に限るが)優秀な生徒というだけだ。

 

 ‥‥普通なら自暴自棄になってしまったり、それこそ本当の引きこもりになってしまってもおかしくない環境だとは思う。

 けど、学校ではこんな有様でも、別のコミュニティがあれば、人間どうにでもやっていけるものらしい。

 子どもの頃、人恋しさに訪れた公園で出会ったたくさんの動物たち。そして僕よりも二周りも三周りも年上の飼い主さん達。

 みんなのおかげで、僕は比較的楽しい毎日を過ごせていた。‥‥それが、逃避に近いことだったとはいえ。

 

 

「月クン、今日はおはぎを作ってきたのよ。食べない?」

 

「あ、ありがとうございます、いただきます。あの、僕も燻製を作ってみたので‥‥初めてだから上手に作れてるか分からないんですけど、よかったら、この子達に‥‥」

 

「あらあらあら、まぁまぁまぁ。月クンの作ったものならウチの子が喜んで食べないわけないじゃない! ホラ、月クンお手製のおやつよ、よーく味わって食べなさい」

 

「―――!!」

 

「あ、コラがっつくなよ! 他のみんなの分がなくなっちゃうだろ!」

 

 

 僕が公園に来始めた、その時からの長い付き合いになるお祖母さんがパックに詰めたおはぎをくれた。

 この人は、いや、この人に限らずみんな僕を孫のように、息子のように可愛がってくれている。

 もしかしたら甘えているのかもしれない。本当ならちゃんと同年代の友達を見つけて、遊ぶべきなのかもしれない。けど、どうしてもそれが出来なかった。

 だからこうしてズルズルとこの理想郷で微睡んでしまっている。実に無様な有様だろう。自己嫌悪を、禁じ得ない。

 

 

「しかし本当に月クンは不思議だねぇ。その手で撫でれば、どんな暴れん坊だっておとなしくなるんだから。

 触らなくたってさ、月クンが笑顔でおいでおいでってすれば、みんな自然と近寄るんだもの」

 

「それだけじゃあないよ。この前腰が悪くなったんだけどねぇ、月クンにさすってもらったらなんだか楽になった気がするんだよ」

 

「ほ、そいつぁいい。ワシも今度髪の毛をさすってもらおうかねぇ」

 

「クソジジイ、あんたのそりゃ手遅れだよ!」

 

「違いねぇや。ハハハハハハ!!」

 

 

 そう、昔から何故か僕は動物にだけはモテた。

 此の手で撫でてやれば、近所では有名な猛犬だった大人しく他のみんなと一緒に仲良く遊んだものだ。犬に限らず、猫も、小鳥も、蛇だってそうだった。

 流石に昆虫はその限りじゃないみたいだけど、不思議と僕の周りには動物が集まる。‥‥あと、赤ん坊も懐くみたいだ。あんまり相手してあげたことはないけれど、公園で愚図る赤ん坊がいたら僕が呼ばれて、抱き上げ、頭を撫でれば自然と大人しくなったものだ。

 撫で方が上手いとか、そういう範疇には収まらないと思う。こういうことを言うと自惚れとか自意識過剰に聞こえてしまうかもしれないけれど、多分、これは僕だけの力なんだ。

 

 

「月クンの手は、緑の手じゃな」

 

「緑の、手‥‥?」

 

「そう、緑の手じゃよ。それで悪いところを触るとな、不思議と楽になる魔法の手じゃ。だからこそ、動物たちにも好かれる。彼らは好い物に敏感じゃからなぁ」

 

 

 ‥‥そう言われるとなんとなく納得がいく。そうか、これは緑の手なんだなと。

 じゃあ僕は一体この手をつかって、どうすればいいのだろうか。これまでみたいに、何の目的もなく漫然と過ごしていいのだろうか。

 ‥‥バカバカしい、何を妄想しているんだ。そういうのは現実を見据えない馬鹿のすることだ。よろしくない。

 普通に勉強して、普通に仕事につくのだろう。きっっと僕は、それで十分に満足出来る人間だ。

 冒険をしたくない、っていうわけじゃない。けど音楽家や芸術家を目指した人間の、どれくらいが安定した生活を送れることだろうか。真っ当に、真面目に、そうやって地味にコツコツ生きていく人間がほとんどで、多分それが一番僕に似合っている。

 きっと十年後も二十年後も、地味に目立たずコツコツ働いて、きっと空いた時間にはこうして動物たちと戯れているはずだ。

 

 

「いやいや月クン、君はまだまだ世界を知らない」

 

「え?」

 

「真面目に堅実に生きていくことが、どれほど大変なことか。途中で頑張ることを諦めてしまったり、少しズルをして楽しようと思えばそれだけで道を踏み外す。

 最後まで頑張り通すことは、実はとても難しいことなんだぞ? それこそ、夢に生きることのどれほど簡単なことか。目の前だけを見ていれば、それでいいのだからね」

 

「ちょっと待てぃ、ワシとて昔はミュージシャン目指して頑張っとったが、貴様の考えには納得いかんぞ!

 いや、頑張り通すというのは確かに大事だ。しかし夢に生きるというのも決して悪くない。むしろ堅実に生きることは大人になってからでも出来るッ!」

 

「貴様そんな調子で大学やめてギターひきまくって、挙句のはてには出戻りで親父の会社に就職したクチじゃろぉが!」

 

「なんだとぉ?!」

 

「ふ、二人とも喧嘩はやめてぇっ!!」

 

 

 普段から仲の悪い二人のおじいちゃんがここぞとばかりに睨み合う。頼むから、僕をダシに喧嘩をするのはやめて欲しい。

 こうやって喧嘩しても次の日にはまた互いに会うことがわかっていても公園に来るんだから、よっぽど暇なのか実は仲がいいんだか‥‥。

 

 

「まぁ喧嘩出来るのも仲がいい証拠よ。

 でもね、月クン。あまり深く考えることはないわ。君にはまだまだたっぷり時間があるんだもの。やりたいことを、やりたいようにやりなさい。それまでじっっくりとやりたいことを考えてみればいいわ」

 

「やりたいこと‥‥?」

 

「そうよ。それは決して自分勝手なことじゃあないわ。たった一度きりの人生なんだもの、自分の好きなように、後悔のないように生きなきゃね。

 結局は月クンが思うところの“普通の”人生になるかもしれないけれど、その時に後悔しないように、今のうちから準備をしておかなきゃ」

 

「準備って‥‥具体的にはどうすればいいんでしょうか?」

 

「簡単よ。先ずはしっかりお勉強! おいしいものをたくさん食べて大きくなること! それに私たちと一緒にいるのもいいけれど、同い年のお友達もたくさん作らなきゃね。お友達は、将来必ず君を助けてくれるわ」

 

 

 おばあちゃんはそう言って、もう一つのおはぎを僕に差し出しながらニッコリと笑った。

 成る程、確かにそのとおりかもしれない。しっかり勉強しておかなかったら、この先で後悔することもあるだろう。不摂生も将来の病気の元だし、きっと友達だって必要になる。

 ‥‥頭では分かってる。けど、じゃあ必要だからといって実際に実行出来るわけじゃない。勉強が嫌いな人はやりたくないだろうし、体を動かすのだってそう、食べものだって好き嫌いはある。

 

 

「‥‥僕に、出来るかな」

 

「今すぐじゃなくていいのよ? ゆっくり、時間をかけて出来るようにすればいいの。どれもすぐに結果が出るものじゃないんだから。

 あら、でもお友達は別かしらね」

 

「それが、一番難しいですよ。僕、今まで友達なんて出来たことがない。いつだって一人で、ここに来てるのも、学校でひとりぼっちだから‥‥」

 

「知ってるわよ、そのくらい。伊達に皺くちゃのお婆ちゃんじゃないのよ?」

 

 

 もう一度ニッコリと笑って、おばあちゃんは僕の頭に広くて暖かい掌を乗っけた。

 本当なら、もう中学二年生になる男の子にするような真似じゃない。けど昔から僕はこの場所で、ずっと変わらないこの場所で過ごしていたから、そういう恥ずかしさとかとは無縁だった。

 不思議なもので、学校では不気味とか大人びてるとか思われているだろう僕が、ここではこんなに子ども扱いされて、僕自身も甘えている。学校の連中が今の僕を見たらどう思うだろうか?

 ‥‥きっとその時になって初めて、僕は恥ずかしがるんだろうな。

 

 

「友達になるなんてね、友達を作るのなんて簡単よ。だって友達は努力して作るものじゃない。何時の間にか、なってるものなのよ。だってホラ、御覧なさいな」

 

「‥‥え?」

 

 

 歳に似合わない、あるいはこれ以上ないくらい似合っている意地悪そうな笑みを浮かべて、お婆ちゃんが公園の入口の方を指差した。

 言われるがままに首を回して視線を向けて、重わっず僕は固まってしまう。

 

 そこに立っているのは、薄いベージュのブレザーとチェックのスカートを着込んだ少女。

 僕と同い年。茶色が混じった長い髪の毛を頭の横側でサイドテールにしていて、誰もが目を見張る、思わず道で通りすがったら振り向いてしまうぐらいの文句なしの美少女。

 いや、多分絶世の美人というわけじゃない。顔立ちは整ってるけど、アイドルとかモデルとかとは方向性が全然違う。

 世間一般の男性なら守ってあげたくなる可憐さの中に、誰かを守るための凛々しさ、目を見張るような鮮やかさが同居しているんだ。

 ただ立って、こっちを見ているだけで心を奪われてしまう。鮮やかな衝撃が胸の中を走り抜ける。

 そこにあるのは、清冽な憧れ。僕が男で彼女が女だとか、そんなこととは関係なしの、目が覚めるような凛々しさ。

 あるいはそれを、人は一目惚れというのかもしれない。

 

 

「‥‥九頭竜君、だよね? ホラ、小学校で何回か一緒のクラスになった」

 

「君は、高町さん。僕のことを、知っているの‥‥?」

 

「うん。いつも、淋しそうにしていたから‥‥」

 

 

 そうだ、僕は彼女を知っている。

 いつもクラスで僕と同じくらい目立ってた三人組。

なにをするにも一緒で、何をするにもみんなの中心にいたクラスのまとめ役。

 男女問わず、彼女達を認めていた。そして僕も、こんな僕も誘ってくれたことがある。‥‥その時は、捻くれた根性のままに断ってしまったけれど。

 

 ああ、でも、あの時見た彼女はこんなに清冽な存在だっただろうか。あの時は一緒にいた金髪の少女や、清楚なお嬢様の方が目立っていたのに。

 今は全然違う。まるで御伽噺の英雄だ。誰もが目を奪われずにはいられない。

 

 

「どうして、ここに?」

 

「お仕事の帰りに中学校に寄って‥‥その帰り道。本当に偶然なんだ。公園の中を覗いたら、真っ白い光が見えたから、なんだろうと思って‥‥」

 

 

 にゃはは、と何かを誤魔化すように笑う姿は、不思議と普通の女の子。

 でもやっぱり、僕には彼女が輝いて見えた。いったい何故かは、分からないけれど。

 

 

「いつもここにいるの? 部活とかはしてないの?」

 

「‥‥晴れの日は、大抵ここにいるよ。昔から、そう、ずっと前から。部活は、してないんだ。肌に、合わなくて‥‥」

 

 

 言葉が詰まる。上手く口から出てこない。そういえば僕はここ数年間、自分と同じくらいの年頃の子とは必要最低限の会話以外したことがないんだった。

 ど、どうしよう、何を喋ったらいいのか全然分からない。本当なら顔を見て話すのだって恥ずかしくて仕方がないのに、何故か視線が離せない。

 ベンチに腰掛けて、長い前髪の隙間からオドオドと見上げている様は、どれだけ陰気で根暗に見えることだろうか。というか、近い。いつの間にかこんなに近づいている。

 そんな風に、自分が他人にどう見られているのかを気にしているのが、滑稽だった。けれど、それも事実である。

 

 

「‥‥ね、もし良かったら隣に座ってもいいかな?」

 

「と、隣? 隣って、僕の?!」

 

「そう。邪魔じゃなかったらでいいんだけど。‥‥少し、お話してもいい?」

 

「う‥‥あ‥‥そ、その‥‥」

 

 

 思わず動揺してキョロキョロと周りを見回す。

 いつもなら遊んで遊んでと言わんばかりに尻尾を振りたくって僕の周りではしゃぐ動物たちは、何故か「空気読んでますよ」とでも言いたげに静かに纏わり付いている。あろうことか、エスコートするかのように高町さんにまで。

 お爺ちゃんお婆ちゃん、小母さん達は何時の間にか少し離れたところでビニールシートを広げてお茶会モード。ニヤニヤとこっちを見て、サムズアップまでしてくれていた。

 ていうかあの二人、喧嘩してたんじゃなかったの? 人の不幸‥‥いや、不幸かどうかは分からないけど、とにかく苦境の僕を見世物にするなんて、随分と薄情じゃないかなッ?!

 

 

「‥‥‥‥?」

 

「う、うぅ‥‥。わ、わかったよ、どうぞ‥‥!」

 

「ありがとう! それじゃあ失礼します」

 

 

 肩が触れ合うような距離でもない。ただ三十センチぐらい近くに同い年の女の子がいる。それだけで僕の心臓は無闇矢鱈に鼓動を早め、握りしめた掌には汗が滲む。

 中学はどこにいったの? とか、アリサちゃんもすずかちゃんも元気にしてるよ、とか、そんなことを自分から楽しげに話し出す高町さんの言葉も、残念ながら半分も聞こえてなかったように思える。

 そもそも僕としてはこの場に留まっているのが精一杯で、気の利いた返事なんて出来るわけがない。容量を得ない、呻き声のような相槌を打つだけで精一杯だった。

 

 だからこれが、おそらくは僕の人生に訪れた最初のターニングポイント。

 夢がどうとか、堅実な生活がどうとか、そういう小さなレベルの話を完全に超えて、あるいは世界すら超えて、人生が変わり出す最初の一歩。

 このあと随分と経ってからも、僕と高町さんはこの時のことを話す。もちろん僕はガッチガチに緊張していたから何も覚えてないわけだけど、高町さんは、最初に会った時みたいに楽しげに。

 

 僕の中の小さな力が、小さな種が、芽吹くための最初の光と水。

 それを与えてくれたのは神様でも誰でもなくて、目を見張るような輝きを発する、一人の戦女神だったんだ。

 

 

「いやぁソーゲツ、ありゃ魔王だぜ魔王」

 

「ちょ、ヴァイスさん! そんなこと大きな声で言うのやめて下さいよっ?! 高町さんに聞かれたらなんて言われる、もとい何をされるか―――」

 

「―――月クン?」

 

「ひ、ひぃっ?!」

 

「ヴァイスさんもそうだけど、月クンにまでそう思われてたなんて、心外なの。ちょっと、お話しようか‥‥?」

 

 

 魔法少女リリカルなのは外伝、僕のチートってなんですか?

 リリカルマジカル、始まるのかな‥‥?

 

 

 

 




ナデポ、ニコポは動物、あるいは発育途上の幼児にしか効きません。
カコポはオリ主がそういう性格じゃないので打ち明けることはなく、というかぶっちゃけ大したことじゃないので効果激減。
魔力チートはそもそも原作なのはからしてユーノと出会わなければそのまま普通に育っていたので、今の今まで一切意味なし。
性格が性格なので容姿もイジメの原因に。カッコいいとか、ないです。

ウジウジしながらもなのはとの関わりの末にとある事件に遭遇し、魔法の世界へと入って行くオリ主。
彼の未来は‥‥どっちだッ!!


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