(ミニ小説)日神ジャスティオージ (地方創聖プロジェクト)
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日神ジャスティオージ外伝~Secret of Birth~(1~15話)

宮崎県内にてテレビ放映(全国にて配信)中の特撮ご当地ヒーロー番組「日神ジャスティオージ」。

その物語が産声を上げるまでの軌跡。
本編で活躍したキャラクターたちの記憶。大善が、石上が、卑弥呼が、ユタカが・・・。
テルヒコ(日神オージ)が―。

クラック(亀裂)し展開、各時代、世界に飛散する物語を熾烈に、強烈な色彩で彩ったキャラクターたちの
神秘に包まれた記憶の真相を解き明かす外伝ストーリー。

第3期となる未来記編(100年後)にもつながってゆく衝撃の「誕生の秘密」が記された
本エピソードを見ずして、この物語(本編)は語れない!そんなストーリーになっています。

伝承の最奥にある真実。
そこでほほ笑むのは、天使か悪魔か
創世の神か。

(後日ラジオドラマ化予定)


あらすじ(キャラクター紹介)

古代日本は消えた幻のクニ邪馬台国に秘匿された鏡、アマテライザー。
神秘の鏡の力に導かれた記憶を失った青年テルヒコ(海照彦)は人々を守るべく
突如としてその力を体現させた日神(にっしん)へと創聖(そうせい)し
迫りくる闇よりの使者(マガツカミ)を打ち祓うのだった。

失踪中の祖父大善の残した古文書など手がかりをもとに行動を開始したテルヒコは
自らの失われた記憶を探し人々を闇の巨大組織クロウの手より護るため
地域のNPO法人地方創生プロジェクトを運営する女性、ひなたと共に
表向き(ジャスティオージ/ひなた命名)というご当地ヒーローを名乗り
そのイベント事業の影に隠れ戦うことになる。

鏡のほかに存在していた剣(リューグレイザ―)、勾玉(サクヤイザー)という
三神器を手にする戦士、リョウとハナという仲間を得たテルヒコは
忽然と彼らの前に現れる卑弥呼と、鏡に封じられた謎の女神、ユタカ(アマテラスに関する力を持つ2人の女性)
らの声に呼ばれ、次々と現れるマガツカミたちと無軌道なバトルを展開してゆくのだった。
青年は自らのうちに眠るパワーと闘いの先に何を見るのか-。
この小説は、その謎の真相を密かに書き綴ったものである。


~主なキャラクター~

(本編に登場)

テルヒコ(本作の主人公/日神ジャスティオージ)

熱い激情、心を燃やし戦う記憶喪失の青年。外見年齢推定20代中盤。
太陽の神、アマテラスの力を持つ。(彼個人の立ち位置はスサノヲなどに近い)
鏡の力で本能的に闇を察知し、人類の闇がある限り存在するマガツカミと永遠ともいえる時の中で戦い続ける。弥生、平安、戦国、昭和、令和と様々な時代(老化せず)変わらぬ容姿で現れ戦いの中様々な人々と出会ってゆく。
かなり一本気でストイックなところがある青年で話題や流行に疎い、子供からオジン臭い趣味といわれるなど天然なところもある。現代にて学生時代は剣道部に所属した。
その正体は邪馬台国の戦火の中命を落とした亡国の王子でもある。
(魏志倭人伝に登場する卑弥呼の弟・補佐的立ち位置)
当時ユタカを守り切れなかったことが彼の中でおおきなトラウマとなっている。
単体でも強い霊力を持ち、邪悪を祓う言霊を祭祀用の古代剣に宿し戦う戦士でもある。

ユタカ(ヒロイン/麗神タチバナ)

アマテライザーを通し現れる女神。テルヒコにその日神の力を与える。
本作最大の謎とも言える存在。男勝りで気丈(クール)な面があり、邪神に畏怖されるほどの力を持つが
子供っぽく繊細な面もあり本質は情が深い人物。
敵の台詞から(封印された女神、マガツヒノカミ/アマテラスの荒魂)だと称されることもあった。

石上(冥王イブキとなる)

テルヒコの祖父大善のかつての親友。もと大日本帝国陸軍の歩兵連隊所属。
家に伝わる名刀、天狼丸を愛用する。戦後人類に絶望、魔界に魂を売ったものの一人として
日本を裏で支配する組織クロウ、工作員部隊のリーダーとして暗躍する。
カラスのような黒づくめにペストマスクをかぶり癖のある言動をする。
番組後半では黄泉の国の主九頭龍と契約し冥王イブキとなってオージと
死闘を繰り広げたライバルでもある。

九尾の狐 

本作最凶の敵ともいえる存在。本小説では性別不詳の少年、甲三に化け行動する。
様々な時代において陰から人々を己の意のままに操り世界を混乱に
陥れてきた。彼が滅ぼした邪馬台国もその一つであり、テルヒコからは相当な怒りを買っている。
闇の陰陽道を統べる尋常ならざる力の持ち主で、常に周囲を嘲笑いその心は冷血な悪魔のそれである。
人としてのライバルである石上とはちがい霊術という側面でテルヒコの仇である。

卑弥呼 

邪馬台国の女王。テルヒコに(火野琴美)という偽名を使い本編第1話でアマテライザーを託した。

大善 

テルヒコ(海照彦)の実の祖父。考古学者でもあり、神道にもその造形は深い。穏やかで寡黙な学者肌で
戦時中は衛生兵として戦争に参加していた。宮崎県の大学で教授をやっており、当時のテルヒコら友人たちを
自らの考古学サークルに招き入れ、全国各地を研究し古代の真相を解明すべく研究していた。
実家は日奉神社という神社であり、海家は(古代邪馬台国)の子孫にあたる。アマテライザーは戦前まで
神社の宝であり、別系統の同族である石上率いる陰陽連特務機関カラス会(のちの組織クロウ)に命を狙われる。

(番外編に登場)

リョウ(水神ジャスティオージ)

リューグレイザ―(剣)のちからにより蒼きオージへ創聖する、凄腕ダンサーの青年。
神話の神海幸・山幸の力を持つ。某韓流アイドルグループとコラボするなど有名な人物であり国内でも彼のファンは多い。
兄リュウが改良を加えたシステムである青のオージの力を短期間で引き出し、さっそうと現れて驚異的スピードと機動力で敵を撃沈させる。
水のようにどこかつかみどころがない人物で飄々とした楽天家、明るい自由人のような節があるが
初対面の人物の本質を見抜けるなど時折核心をつく発言をする。
大の特撮ヒーローファンであり性格からなにまで正反対であるテルヒコのよき「相棒」としてクロウと戦った。

ハナ(姫神サクヤ)

コノハナサクヤ姫を祀る宮崎の恒久神社の末裔である少女(小学5年生)。
代々神社の少女にそのパワーを与えてきたサクヤの力が宿る勾玉(サクヤイザー)の加護を受けており、
サクヤの神話通り、火山の如き威力を持つガトリング砲フローランチャーによる
援護射撃、小柄な体躯を生かした忍者のような隠密戦を得意とする。
ダンスにおいてはリョウの教え子でご当地アイドルをやっている。
周囲によく諫められることもある無邪気な年相応の少女であるが、かなり現実的な思考も持ち合わせており
テルヒコとリョウを兄のように慕っている。テルヒコには戦いに加わることを心配されているが
強気な性格とその素質により数多くの危難を乗り越えてきた。
ひなたと共にテルヒコの世話を焼き心配するなど結構しっかりしている。







 

~前奏~プロローグ

 

 

 

 

その昔、神々の物語があった。

 

最高の神である女王アマテラスの支配する天上の神を天津神族(あまつしんぞく)。

 

地上にもといた神を国津神族(くにつしんぞく)とよんだ。

 

アマテラスにつかえる部下の神々は天使とよばれた。

 

あるときひとりの天使が天上界に反逆をおこす。

 

その結果敗北し堕天したその最強の天使は魔王となり、ここに魔界がうまれる。

 

天上界と魔界、光と闇は果てしない時空のなかで火花を散らせ、

傷付いた神々ははるか宇宙の先、太陽系第三惑星地球の宮崎県へと天孫降臨(てんそんこうりん)した。

 

そう、ここは太陽のクニ宮崎。

 

 

彼ら神々の力は無限の可能性を秘めたライザーポータブルとして技術化され、令和の新時代いま、よみがえる!

 

創聖(そうせい)せよ!

 

-この物語は神話となる。-

 

 

 

 

※冒頭ナレーション

 

 

令和初頭、日本海海上・・・・・。

 

 

 

精彩に富んだ青き空の中より突如現れたその邪なる影、

黒き瘴気により次々と沈黙、破壊された海上護衛艦の残骸。

 

キィ―――――――ンッ!

 

遠くはるか彼方から飛翔し接近する光・・・!

 

「俺は貴様の禍(マガ)を打ち祓う!イブキ!俺はここだァア―――――――――ッ!(テルヒコ/日神オージ)」

※【台詞後方( )=キャラクターの名前】

 

日神オージ(テルヒコ)の握りしめる、十束の剣(アポロンソード)が

紫黒(しこく)の瘴気を纏った魔神(イブキ)へ振り下ろされた。

 

(来い・・・・・・・天狼丸!)※名刀・天狼丸を出現させた冥王イブキ/石上。このとき、イブキとオージとが鍔迫り合いとなった。

 

ガッキィイュイーンン!(飛び散る火花・鈍い金属音)

 

眩い光が乱反射する空の下、海の青、大気を切裂き咽ぶ怒涛の気迫のなかぶつかる二つの意志。

 

緊張感と死への高揚感そのコントラスト、二つの剣と男たち(テルヒコと石上)の魂が激しく交錯する。

 

(石上・・・・・・・・!!!)※テルヒコ心の声

 

黄泉の国の王、冥王として地上に君臨した因縁の敵、イブキと日神(アマテラス)の力を受けた王子、テルヒコの互いの全てをかけた戦い。

 

ぶつかり合うプライド、

悲しみと愛、憎しみのすべてがこの時、この空間を喰らい尽くしていた。

 

「それでこそ堕としがいがある!来い・・・オージよォオ!(冥王イブキ/石上)」

 

「ハァアアア―――――――ッ!(剣で空を斬るテルヒコ/日神オージ)」

※動きをイブキに読み切られ、振り向きざま火花を散らしぶつかる二体(王子/冥王)

 

「!!(テルヒコ/日神オージ)」

 

「私とお前は似ている・・・!共に呪われた宿命を背負う、同類なんだヨォオオ!(冥王イブキ/石上)」

 

「貴様がじいちゃん(大善教授)を・・・お前の産みだしたその業は、この剣の光が切り裂く!

テラセイバーはただの剣じゃないぜ!(テルヒコ/神技(しんぎ)を繰り出す剣、テラセイバーを出現させた日神オージ)」

 

「できるかなそんなモノでェエッ!非力な弱者共の祈り、それだけでェエ―――――!!!(オージに真空飛び膝蹴りを喰らわせるイブキ/石上)」

 

「再創聖!(テルヒコ/瞬間的に別形態へ変化する日神オージ)」

 

(チェンジ・ライトニング)※アマテライトニング形態=新・進化形態へと姿を変質させたオージ。

 

バキュイ――――ンッッ!!(変化、その光の膜で弾き飛ばされるイブキ)

 

「こざかしい男だ!だがそれがいい!その真の姿・・・

待っていたぞこの時を・・・・据え膳食わぬは男の恥だァア――――ッ!(裏返った声の冥王イブキ/石上)」

 

 

 

日神オージと冥王イブキ、宿命の戦いのさなか・・・・・・。

 

 

ワームホール、次元を繋ぐ異空間の中金色の翼を広げ美しく飛び舞う魔王(ルシファー)・・・。

 

それを迎え撃たんと剣(アメノサカホコ)を構えた巨大な真紅の武神(アマテラスコウタイジン/ユタカ)。

 

愛憎を巡る戦いは彼ら(ユタカと魔王ルシファー)の中でも平行線をたどっていた。

 

「こんなゴミ共(全人類)のためにィイ・・・あんなヤローのためにあんたは・・・!

ならなぜ、俺を・・・俺という存在を。(魔王ルシファー)」

 

(すべては、あんたが・・・・!)※魔王ルシファー

 

「その愛が手に入らねえなら、俺はあんたを殺す。追い詰めて・・・・・何光年かかっても・・・

なあ、答えてくれよ・・・!ッツ答えろよォオッ―!(少年の声・魔王ルシファー)」

 

眩い黄金の光に包まれた白き堕天使・・・魔王(マガツテンシ=曲天使ルシファー)と

 

時の狭間の中ぶつかり合う光の機神(アマテラスコウタイジン)。正邪の太極図を描くように飛び交う二つの光(コウタイジン/ルシファー)。

 

滞空間織りなされる閃光のドッグファイトは鮮烈を極めていた。

 

 

「ええ愛していた・・・今でもそうよ・・・。だから、お前だけは、この私の手で・・・!(アマテラスコウタイジン/ユタカ)」

 

「なら消えろよおお!!!!ガァアアーーーーッッ!!(魔王ルシファー)」

 

「ハァア―――ッ!(巨大な機神・アマテラスコウタイジン/ユタカ)」

 

命の起源、生命の樹に成る黄金の果実を探して。

 

君子、生者、愚人、死者たちもが求めたかがやき(存在の証)・・・。

 

全存在をかけた神々の闘争。

 

時が流れてゆく・・・・・すべては泡沫(うたかた)の夢のように・・・。

 

人の波がゆく現世(うつしよ)で、

 

愛の物語が紡がれる、この地球(ホシ)で・・・!

 

重なり音を立て空を舞う翼、戦士たちの胸の中に、瞬間的にそれまでの記憶が電光石火となり走り抜けていった。

 

「ユタカ、俺たちは何故・・・・・・!(テルヒコ/日神オージ)」

 

「チェストォオ!そこだァア―――――ッ!(飛び掛かる石上/冥王イブキ)」

 

(・・・・・・!!)※テルヒコ/石上

 

止まる一瞬の刻、その空白の中で彼は思い出していた・・・。

 

失われた記憶。

 

心に刻まれたその"歴史のすべて"を・・・!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

episode.1 業火

 

 

(※ナレーション=大善の記憶。)

 

 

(本作品はフィクションです。シーンをイメージできるようほとんどの台詞の後尾にキャラクターの名前( )が記載されています。youtubeに無料公開中の1話と共にお楽しみいただくとさらに本小説をお楽しみいただけますので興味のある方は是非ともチェックしてみてくださいね。)

 

 

 

 

奴の、石上(いそのかみ)の銃弾が僕の右胸を貫いた。

 

真っ黒い影が見える。

 

そこに居合わせた人、全員を空間ごと捻じ曲げ喰らい尽くしてしまうような禍々しい影が揺らめいて見えていた。

 

笑っている・・・それとも泣いているのか。

 

もはやそんなこともわからなくなってきた。

 

それくらいその時の僕の意識、精神は憔悴しきっていた。

 

真っ赤に溢れ出した鮮血と、もはや”ヒト”ではなくなってしまった彼自身の背負う意識がその時の僕を殺した。

 

彼の涙の雫と共に僕の記憶は遠く遠い、はるか彼方へと飛んでいった。

 

だが、死ぬ前に一言やつ(石上)に勝利宣言させてもらいたい。

 

唯一僕が期待していた出来事が達成されたようだ。

 

だってほら・・・・・・・

 

「姉さん・・・・・・・じいちゃん・・・!・・・・・・これは、この姿は・・・・(テルヒコ)」

 

死にぞこないの私(僕)のかすんだ視線の先に、散らばった壁面鏡の中に映る姿。

 

ついに本当の意味で復元されたか・・・。

 

あの鏡が、ついにようやく。

 

「みんな・・・・・・・・・(テルヒコ)」

 

炎。血。夜の研究室は真っ赤な絵の具がぶちまけられたように虚しく沈んでいるかのようだった。

 

姿見に映る存在。

 

人間の姿からははるか遠い物となった自分の”カタチ”にうろたえているテルヒコ(孫)の姿が見える。

 

(ざ・・・まぁあみろッ)

 

血に咽ながらニタあっとほくそ笑む私の顔を無表情の冷徹な目で見つめる者たちがいた。

 

工作員部隊だろうか。小銃を持った不気味な仮面の奴らに私は声にならぬ声で高らかに勝利宣言していた

 

・・・しかし。

 

惜しいなあ。もっと目に強く、深く焼き付けておきたかった。

 

もっと僕の方からキミに、君たちに言い残しておきたいことなんて、山ほどあったんだから・・・。

 

テルヒコ、キミが死んだら・・・。うち(海家)はこれでほんとうにおしまいだ。

 

もう、なにもかもおしまいのようなものかもわからない。

 

だけれど、きっと信じてる。キミたちが奴らに打ち勝つことを、私は・・・。

 

黒い仮面(ペストマスクと思しきカラス面)を装着している石上は闇のなかにたたずむ本物のカラスのようであった。

 

「先生・・・・・逃げて、ください・・・ぐへああっ(研究生のひとり)」

 

教え子である学生たちを踏みつけその足音はこちらへと近づいてくる。

 

影の奥からすうっとぼやけて現れた、白いもう一つの仮面が・・・。

 

「まだ息があったんだねえ。ジジイ。(九尾の狐)」

 

その奥から・・・聞き覚えのあるもう一人の澄んだ女性の声がした。

 

彼女は・・・・・・。?!

 

?!!!!!!

 

どうして・・・。

 

ズガガガガガガガガガガガ

 

重く鈍い銃声と共に森の中に狂乱する獣のような声がこだました。

 

「じいちゃん・・・・俺は・・・・・・・・うぁああああああああああああああああああ!!!!!!!!!(テルヒコ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

episode.2 意識の連鎖

 

 

 

(※ナレーション=メタ・第三者の視点)

 

「へ~、あんたが赤なのね。よろしく!」

 

いきなり差し出された握手に、テルヒコは戸惑った。

戦いの後、青い閃光と共に見ず知らずの青年が自分の前に立っていたからである。

普通に生活して接点のなさそうな雰囲気を漂わせるどこか飄々とした青年だった。

 

「いったい何者だ!俺のことを知っている・・・。」

 

十字に光るピアスを揺らせ、いたずら好きの少年のような笑顔で青年は笑った。

 

「ま、これからいろいろと知っていくことになるだろうけど!あんたの大活躍を期待してるぜ!

俺にヒーローの座をもってかれないようにガンバんな!(笑)」

 

一体冗談とも本気ともつかないカラリとした笑顔と共にテルヒコの背中をパ-ンと叩き、青いデニムの上着を羽織ったその謎の男は一人歩いてゆく。

 

「なんだあいつ・・・。」

 

ジャンパーを羽織り立ち上がるテルヒコ。

 

日没間近。町を出るとすぐそばに広がる廃工場で、これからも続くであろう終わらない戦いを想起し

 

一人複雑な思いが青年の胸の中を走り抜ける。

 

「最初の出会いが肝心てなーっ!」

 

その男、水騎竜(ミズキリョウ)は兄より継承したリューグレイザ―(水神召喚刀)の反応をもとに単身行動を始めていた。

 

「リョウ~!はやくこい!」

 

真っ黒くてんころぼしのように日焼けしたパーカー姿の小さな女の子が自販機の前にいたリョウの内膝に蹴りを入れた。

 

「ぉおハナ!わりぃわりぃ。お前もなんか飲む?」

 

「なんか飲む?じゃないでしょ。あんたが今日の講師なんでしょ?ほら早く!」

 

「あーはいはい!ちょっと最近面白いことがあってさ。それで遅れちゃって。」

 

「面白いっていったいどんなことよ?」

 

「まーそれは・・・。(一時の無言)・・・フフッ、面白いヤツと・・・あったっていうか。」

 

「全然わからん。」

 

「ま、今日の先生はいつになく上機嫌だからそれでよしってことで!な!いくぞー!」

 

リョウはハナと共にいつもどおり彼らの通うダンススクールへ入っていった。

 

「しかし、最近のクロウ怪神は以前よりどこかパワーアップしてきている。これは、スクラップじゃないか。」

 

廃棄物、廃工場の工業製品を取り込み実体化した機械的な容貌を持つ新たなメカ怪神。

 

「これは・・・現代版の付喪神(粗末にされた道具に命が宿り人々に危害を加えるようになった妖怪)だな。」

 

テルヒコが創聖した日神オージの破壊したメカ怪神たちのボディパーツから、溢れるドス黒いオイルにまみれ

 

禍々しい(蟲)だとか(鬼)などの奇妙な文字体で描かれた呪符が掻き出された。

 

「やはりこの機械もそうだ。ヨダキング(妖怪・件/くだん)の時も・・・・。この霊符みたいなやつが、バケモノたちに生命力を与えていたのか。」

 

「もしかするとこれが怪神の弱点・・・・!

こいつを研究してみよう。似た札の写真が研究室のファイルに載っているかもしれない!」

 

日が暮れる市街地の騒めきの中を真っ赤なバイクが走る。

 

何度もドアの前で気分が悪くなってしまっていた教授の研究室に今夜もやってきた。

 

あけ放たれ無人となっていた室内。カーテンの隙間から吹く冷たい風が頬にあたる。

 

残された友人たちの写真。友人の一人だった一宮がふざけておどけた写真。

 

割れた姿見を見て、テルヒコはつぶやいた。

 

「じいちゃん・・・・・・。これでよかったのか?じいちゃんはこれを望んでた・・・?」

 

アマテライザー(鏡)がなければ、自分はどうなっていたんだろう。取り留めない考えがよぎる。

 

「みんな今頃・・・。」

 

「あのとき、一体何が起こったんだろう。みんな、今も生きているんだろうか・・・。」

 

すべてはあの日の夜。一夜にしてすべては打ち砕かれた。

 

忘れ去られた大切なモノたち。そこから先の映像がどうあがいても浮かばない。

 

不意に思い出されるその断片の記憶。大学時代、友人たちと大善教授のもとで全国各地を飛び回り

 

旅していた日々。なにも不安なことも、迷いもなかった。

 

自分が平々凡々の人間で、きっとその先もそういう日々が続いて人生を終えていくのであろうと当然のごとく思っていた。

 

あのときが自分にとって最も幸福の日々だったのではないか。テルヒコはそんな過ぎし日の記憶と共に

 

もう自分がそんな思い出の中には帰れない、戦いの中にいることを強く実感するのだった。

 

「俺の中には、何もない・・・。」

 

本当ならば、とっくの昔に気なんて狂っている。

 

逃げる場所などはない。ましてやそれを理解する者も。

 

ただ、自分の意志、力だけが信じられる今。

 

すっかり現状に対し平常でいられてしまう自分の心理状態に恐怖を覚える。

 

闇を見続けることに慣れきってしまったからなのだろうか。

 

いや、ほんとうは気づいている。

 

その感情さえ斬りつける意思で進まなければ、到底これから先すすめる気がしない。

 

暗闇に浮かぶ鬼を斬り続ける中で、醜悪な人間たちが犯してきた罪が、マガそのものが瘴気となり自分に向かってくる。

 

それはそれは目を背けたくなるような光景が見えた。

 

人間の奥底に宿る闇の本質。それに抗おうとする光の意志。

 

その闘いが反映された、これは生、そのものではないか。

 

そしてうすら理解していてもたった一人の普通の人間たちの中にこれほどの闇が詰まっているものなのか。

 

受け入れがたい現実があった。

 

朝も昼も夜も存在し続けるマガツカミの気配。

 

いまでも奴らは自分を狙っている・・・・・。

 

鬼の気配。

 

それを叩き潰していくうちに自分が、いつしか本当の鬼になってしまうのではないかという予感。

 

それを滅ぼせと叫ぶ光からの声。

 

幻の中で今も生き続ける、優しかった思い出たち。

 

心の奥底に見える、自分を立たせる光の意志。

 

落ちる一筋の雫と共にその内側に信じられる確かな希望の火が

 

まだかき消えず残っていることを青年は実感した。

 

「この火を、消しちゃいけない。」

 

「奴らはすべて俺が祓う・・・・・・・・。それが、俺にしかできないことだ・・・。」

 

邪悪に対する強い怒りだけが男を正気でいさせていた。

 

 

 

 

 

episode.3 ~Encounter~二人の王子

 

 

 

 

「見てみて、テルヒコくん!すごいわよねあの人!大生部(おおふべ)愛理、またテレビ出てるわね。」

 

「すごい勢いよね・・・・愛理先生の占い・・・。」

 

創生プロジェクトのスタッフである真理恵とひなたが、かたずをのみテレビを凝視していた。

 

「みんな占い好きだな~。ほんとに"そんなもの″が視えているのかなぁ。」

 

「なに、キミは信じないの?ぜったい本物の超能力者よ!だって」

 

テレビ画面上に映された巷で話題沸騰中のサイキック占い師”大生部愛理”が、

 

とてつもない勢いで両手に持つチタン合金製のスプーンをへし曲げ、二輪車をグラスファイバーの外装ごと手刀で一気に一刀両断した。

 

「ぜったいにやらせじゃないわよ。あの人ほんとにそんな力もってんのよ。不思議な人もいるわよねえ。」

 

「この人魔法使いかなんかなんじゃないの?絶対そうに決まってるって。今宮崎に来てるんだよね。この女の人。

たしかオーシャンムード(総合レジャー施設)で・・・。」

 

自分の正体を知るひなたがそんなことを言うのも妙な気がしたが、テルヒコには彼女(大生部愛理)の雰囲気から何か

 

妙な違和感を感じ取っていた。

 

「どこの事務所のタレントさんか知りませんがね、あなたみたいなことをする人が平気で地上波の番組に出るから、いかがわしい連中が我も我もと巷にあふれるんじゃないですか!?(テレビに出演しているコメンテーター)」

 

「いきなりこんなことズバッと言ってごめんなさい。あなたはこの間伊豆の旅館に温泉旅行へ行きましたね。その不倫のことで今奥さんと別居状態。」

 

「・・・・・ちょっと、・・・そんなことは今関係ないだろ。こんなのきいてねえぞ!なんだ・・・この女!いやそんな、

彼女と旅行なんて行ってませんよ、行ってませんからね皆さん。いや絶対に行ってねー・・よぉ・・・なんだよおこの空気」

 

「私は透視(リモート・ビューイング)もできるんです。」

 

仕込みにしてはあまりに寒気のする大生部愛理の的中する透視結果にスタジオ内は凍り付いているようだった。

 

「は~これホントのヤツよね。すごい修羅場になりそうねぇ。あ、真理恵ちゃんは買ったんだ、そのペンダント・・・!可愛い~私もほしいなあ。」

 

「・・・・(コクリ)。先生のいる事務所も予約一杯だったんだけど、この間はじめて会えて。

多分このおかげだわ。彼氏と結婚することが決まったの。」

 

「先生、このチャームを私だけタダ(無料)でくれるって。私の近くにパワーの強い守り神がいるんだって!」

 

「よかったじゃなーい!ね、テルヒコくん。」

 

真理恵はひなたのリアクションを見てそれならこんなことも言ってもいいか、といつになく緩んだ顔でさらにこう言った。

 

「でも、ごめん。職場の気が悪いから・・・」

 

「厄除けに神棚のお札を捨てて、先生が1万で売ってるお札に変えたほうがいいんだって。」

 

「え?!そうなの?!うちの神棚氏神さんのやつだけど罰あたんないかしら・・・」

 

「・・・・」

 

「テルヒコくん、聞いてる?」

 

「・・ア、はあ・・・・・・(何か、おかしいぞ)。」

 

テレビ画面に映る大生部愛理が、レポーターと共に辻切りのように市街地の人々を次々と占ってゆく。

 

「あなたはズラですね。ポマードの塗りすぎ。」

 

「えっなんでそれを・・・でも、世のすべてのポマード(※整髪料のこと)がはげるわけじゃないんですよねえ?」

 

「健康診断の結果が良かったからといって飲みすぎは良くありませんよ。」

 

「ひなたさん、ポマードって・・・何?」

 

画面上に映る困惑した男性の顔を見ながら、真理恵はひなたに尋ねた。

 

次々とリサーチ会社や探偵が下調べしただけではわからないような事実を言い当てる姿に驚く人々。

「突撃!隣の運命デットオアアライブ!」

近所の民家の食卓に、それも食事中直撃して占いを始めるのだから仕込みタレントにしては、ゲリラ演出が過ぎる。

 

「なんか昔のバラエティを見てるみたいな感じだね~。」

「よくクレームにならないよな・・・・。」

一応最低連絡はされているとは思われるが、その家のスプーンや人力ではどうにもならないであろう電化製品まで手を当てるだけで捻じ曲げ、

お詫びに各家庭にひとつ、番組からのプレゼントとして得体の知れない水晶玉を置いてゆくのだから

見ているこちらがひやひやしてしまう始末であった。

 

「うう・・・・先生、ありがとう。俺これからはちゃんと働くよ。」

 

愛理に対し涙を流しながら感謝する暴走族のような雰囲気の不良たち。

 

「先生サイコー!ありがとぉおー!」

映し出される路上の歩行者天国に謎の蛍光色の服、蝶のTシャツを着た数千人の群衆が

法被を着た大生部愛理を神輿に担いで練り歩いている光景が映し出されていた。

 

「・・・・・・・・なんかちょっと気持ち悪い。」

 

コーナー終了と共にスタジオは通販番組のような様相を呈する。

 

「そんな愛理先生が全パワーを集中させて結晶させた、この天然の九頭龍王の彫刻が刻印された水晶玉!特別に皆さんに超特価でお届けしま~す!」

 

「でもお高いんでしょう?」

 

テルヒコはその時、スタジオの女性の声に妙な違和感を覚えた。

「あの女性の声、聞き覚えがある・・・」

 

「そこを特別にいまならなんと・・・!」

 

「えーすごーい」

 

「先生!それ買います!私も救ってください!私もー!」

 

うんざりするような通販番組特有のテンプレートのやりとりに反するほど、狂喜乱舞し喜び喝さいを送るスタジオ内。

 

なだれ込みぶつかり稽古のごとく一人一人警備員に制止される観客。

はたからみれば異常な光景であった。

 

「・・・あの女性の声は、クロウ幹部九尾の狐の声!・・・いや、俺の勘違いか?・・・」

 

「テルヒコくん、どうしたの?」

 

「・・・わたし、その先生が想いを込めた特別な水晶玉、買っちゃった・・・・。」

 

真理恵が見せた携帯の写真の中には、確かにその愛理が販売している水晶が撮影されていた。

 

「真理恵さん、それはちょっと、俺は・・・。」

 

「・・・テルヒコくんも興味あるの?」

 

「あ、ハナちゃ~ん!ひさしぶり~!」

 

元気な少女の声が画面に釘づけとなっていた三人の意識を現実へと引き戻した。

 

ドアの前に立っていたのは、ひなたらの知り合いであるハナであった。

 

「お兄ちゃん今いる?今日は約束してたイベントの当日でしょ?まさか忘れたとかいわないよね!」

 

「あ、そういや今日だったか・・・。ひなたさん、真理恵さんすまない!俺行ってきます。」

 

「わたしたちよりテルヒコくんのほうがいいわよね~!」

 

テルヒコは大生部のことが頭に引っ掛かりつつもハナと共に予定していたそのイベント会場まで向かうことになった。

 

「おれは頭数揃えか?」

 

「なに馬鹿なこと言ってんの?いつまでもオジン臭い趣味ばっかりやってるから寛大な心で連れてきてあげてるんじゃない!」

 

「おれはオッサンじゃない!20代だ!てゆうかキミの家も神社だろう!聖地巡りはれっきとした習慣だ!俺が行くのにも理由があってだなあ。」

 

「神社のことじゃなくていつもの行動よ!なんで仕事抜け出して水汲みに山に行ったりお坊さんじゃないのに何時間も精神統一したり

本読み漁ったりしてるのよ!服もずっとそれだし・・・。

そういうならもっと若者らしいことしなさいよ!」

 

「うっそれは・・・」

 

「いいから行こ行こ!」

 

「まいったなぁ。」

 

テルヒコとハナがやってきていたスタジオは、多くのカラフルでハイセンスなストリートファッションの若者で満員になっていた。

 

「あんまり俺こういうとこ興味がないんだよなあ。」

 

「おお~今日もいっぱい来てる!テルヒコ兄ちゃんにはこういう刺激が必要なのよ!そうしたら記憶も思い出すわよ!

・・・。ほらいくよ!」

 

「みんな楽しそうだな。で、そんなに人気なのかその人は。ごめん、俺あんまり芸能人とかよく知らないからさ。」

 

「とーぜんよっ!お兄ちゃんなんかが地球何億周しても見れないくらい有名なひとがきてるのよ!それにダンスしてるとこなんて超カッコいいんだから!今流行のBTX(韓流アイドルグループ)とも一緒に踊ってるんだから!」

 

「じゃ、アイドルなのか?」

 

「正確にはプロダンサーね。ほらほら見て、来たわよ!リョウ頑張れ!」

 

「あれが・・・」

 

「キャー!リョウ―!(ファンの歓声)」

 

女性ファンらしき黄色い悲鳴が聞こえる人だかりのなか、テルヒコは高速で回転しながら空を斬りバック転するその男が

 

笑顔で爽やかな汗と共に踊る姿を見て驚いた。

 

「あ、あいつ・・・・・この間の・・・!」

 

「ね?!凄いでしょ?!うわ~見入ってる!」

 

「あ、ああ確かにな。・・・・あの男、この前俺に話しかけてきた・・・!」

 

テルヒコは先日メカ怪神を倒した直後、目の前でダンスする彼と出会っていたことを思い出した。

「ハナちゃんは彼のことを知っているのか?」

 

「だってリョウは私たちの先生なんだもん!ぜったいリョウのことならテルヒコお兄ちゃんと仲良くなるはずよ。」

 

ハナも子供ながら、記憶のない自分が立ち直るよう気をつかってくれたのではないか、とテルヒコはその時感じたが、

同時に彼女の挙動不審な様相からなにか妙な感じがしたのだった。

 

「(以前のアマテライザーの時もそうだ。ハナちゃんは何か隠しているのか?)・・・。」

 

「ふぅん。楽しそうにやってるじゃない。」

 

アマテライザーの奥から、通信でテルヒコにユタカの声が音声となり聴こえた。

 

「っここは人ごみの中だぞ!しーっ!」

 

「何よ。別にバレはしないわ・・・あの青年のことが気になっているようね。」

 

「・・・・・」

 

「聞こえない?気になっているように見えるけど。」

 

「ぁあ、クロウと無関係だといいがな・・・。」

 

「この(鏡の)ことは防犯ブザーだとでも言っておけばいいわ。」

 

「お兄ちゃん、何ぶつぶつ言ってるわけ?あ、見逃した!」

 

小声で返すテルヒコに、ユタカはハナに声を聞かれる手前そっと通信を閉じた。

 

「あ、リョーウ!今日もすごい良かったよ!お疲れ!」

 

全力でぶんぶん手を振り青年のもとへと走りかけよるハナ。

 

テルヒコはどうすればいいのか複雑な面持ちで彼を見つめていた。

そんなテルヒコに対し読めぬ表情の笑顔で無邪気に笑いかけ白い歯を見せるその男、水騎リョウ。

 

「・・・フン。ハナからはきいてたよ。こないだはいきなりでごめんな!ほら!」

 

さっと手を差し出してきたリョウの握手にこたえていなかったことをテルヒコは思い出し、思い出すように即握手を返した。

 

「キミがハナちゃんの知り合いだったとは驚いた。とても楽しませてもらったよ。」

 

「(しかしなぜ彼は俺に・・・)」リョウの持つ一見天真爛漫にも見えるフレンドリーな雰囲気に安堵した表情を見せるテルヒコは

 

満足そうに二人を見るハナの顔を見てさらに安堵するのだった。

 

「おい、そこのやつ!おまえあんまり調子に乗ってんじゃねえぞ!」

 

観客の一人だろうか明らかにガラの悪そうな見知らぬ悪羅悪羅系のような

場違いの格好をした男たち二人がテルヒコとリョウが話している場に割り込んできた。

 

「おまえら何?俺の知り合い?」

 

「お知り合いだってよwwwwwここはいつも俺らチームが使ってる箱なんだょォ!

こんなオワコンのド田舎で騒がれてるからって王子様気取りしてんじゃねーよ!」

 

「キャー!だれか、喧嘩よ!」

 

バシィッ!

「安っぽい地方で悪かったな・・・。」

リョウめがけ飛び出した男の拳を片手でつかんでいたのはテルヒコだった。

 

「あんだァてめー。」

 

「こいつも修正されてぇようだぜ?」

 

はいはいぜんぶわかった・・・というかのように静かにリョウは顔を上げた。

 

「お前ら、興味があってきたんだろ?

おれさ~、生憎"そういうの”趣味じゃないんだよネ。

これでオッケー?」

 

そのとき一瞬で天高くジャンプしていたリョウの右足による蹴りがそれまでしつこく粘着していた不良の右顔面に直撃していた。

 

「ってめえな!」

 

つかんだ手を振りほどいた隙に付け入るようにもう一人の男の拳がテルヒコのみぞおちにクリーンヒットする。

 

「!」

 

「な~んだ威勢がいいだけじゃ・・・?!こいつッ」

 

「ぉいおい、総合やってる三島のボディブローを、こいつ・・・どーなってんだよ。」

 

何発腹部と胸部に直撃を喰らっても一切表情を変えずに、焦っているその男をテルヒコは見つめ続けていた。

 

「・・・・この程度で、やれると思ってんのか。」

 

ボスッ!

「ッグホオッいったぃ・・・・」ドスッ。

 

瞬時に放たれた直線的なストレートな拳は遠慮なしに不良の顔面に直撃しめりこんでいた。

 

「鼻はやったな・・・こりゃあ~、よけい不細工になってかわいそ☆」

 

野次馬のごとくその様子を観戦するリョウ。

 

「おぇええっ!ぐぅおええ!・・・・?」

 

殴られた男が一人地面にうずくまり嘔吐を始める。テルヒコの背後に何かがもやとなり煙が赤黒く登り立っているのを

 

その男は見た。

 

「110番!け、警察よんだ!おまわりくるよー!」

 

後方から大声でハナが叫んでいるのをしっかり聞いていた男たちはよろめきながら立ち去っていった。

 

「ぅ・・・なんだこいつら・・・おおい立てるか、いくぞ・・・!」

 

二人が立ち去った直後、テルヒコはハナにびっくりした顔で尋ねた。「ホントに呼んだのか?」

 

「嘘よー!なんともない?」

 

「新品のシューズが台無しになるとこだった。よかった・・・援護射撃サンキュー。ハナ。

・・・あんたもなかなかやるじゃん。」

 

「面倒なことに付き合わせちゃったな・・・立ち話もなんだから、あっちで話そ。」

 

不良たちが去った後、何も言わず丸い屋外のテーブルにテルヒコ、リョウ、ハナら三人は静かに座った。

 

リョウはテルヒコに対し美しくもどこか危うさを思わせる切れ長の視線で笑みを浮かべ、ニヤリとこう言った。

 

「率直に言ってさ・・・・・あんた、〝創聖(そうせい)″するんだろ?」

 

笑顔の直後冷静な表情になるリョウを前にして、ハナとテルヒコの周囲に一線の奇妙な緊張感が走る。

 

「・・・・・・・・・!お前、なんでそれを知ってる。」

 

本気なのか冗談なのか判別できないそんな笑顔で、リョウは続ける。

 

「なかなか惹かれるよなー、あんな力があったら、俺だったらどうしよう!俺ならああするぞって誰だって思うじゃん?」

 

「いろいろ知りたいなあと思ってさ、あんたのこと。」

 

先日のリョウの意味深な挨拶。感じていた疑念はやはり当たっていたとテルヒコは思った。

 

「こいつ(刀)のこともな。」

 

テーブルの上にガンと青いその物体をリョウは差し出した。

 

「こいつは、リューグレイザ―・・・・!(水騎龍/リュウの持っていた・・・!)」

 

「キミがどうしてこれを・・・・!」

 

張り詰めた空気の中で、ポケットの中から即座にアマテライザーを取り出そうとするテルヒコ。

 

「で、そいつ(鏡)のこともな。」

 

「・・・・・ッ!」

 

「おりゃ全然ゲームでいうところのビギナーだからな。プレイ時間の長いあんたに聞いたほうが早いじゃん。そうだろ?」

 

青島の海中洞窟内で、手にした水神召喚刀リューグレイザ―。

 

リョウはウミヒコ・ヤマヒコ兄弟という神霊のサポートで知り得た知識以外の三神器(それら)についての情報に内心強く興味を抱いていた。

 

「そいつを持っていたら・・・危ない。俺に渡してくれ。」

 

「おっと(自らの神器を取り上げ)、そういうわけにはいかないんだな~。

ついに俺も変身できたんだモン、あんただけじゃ力不足なんじゃないの?」

 

ピリリと張り詰めた空気を和ませようと咄嗟にハナが割って入る。が、余計に空気を複雑にしてしまう。

 

「お、お兄ちゃん、これは!リョウはあの、ヒーロー物が好きなのよ!特撮ヒーローの大ファンなんだよ!

御面(ゴメン)ライダーとかヌルトラマンとかハイパー戦隊とかバーベルとか好きだから興奮しちゃって…、

お兄ちゃんも一応ヒーローじゃない!

だからテルヒコ兄ちゃんが創聖者っていうことも・・・。」

 

「それに、ハナちゃんもどうしてそれを知っているんだ?・・・二人とも一体・・・・。」

 

一方クロウ本部において白と黒の仮面をつけた二人の怪人(九尾の狐と石上)が怪しげな妖気の中恐ろしい計画を実行に移そうとしていた。

 

「占いはいい。財閥や政界の連中、芸能界も・・・

我々のクロウの暗黒呪法によりみんな人心掌握されちゃっている!」

 

「人間世界の言行一切は我々の手の中におさまってるといっても言いすぎではない。

お前も人間どもの最新の流行はちゃんとチェックしているのだな~。」

 

「時代がどんなに変わっても、人間たちは変わらないよねェ、石上。絶対かなうわけもない夢や、

己の欲望のために身を粉にして働いてくれる・・・。

こういう連中が多ければ多いほど、僕らは非常に助かるんだよね。」

 

「愚かな人類は昔から、見えもせぬ己の幸福や未来の安泰のため、占いという下等な呪法に手を染めてきた~!

時代によって手を変え品を変え、名を変えながらリバイバルされてきただけだ。」

 

「何の神が・・・・悪魔が力を与えるか、知りもしないのに惑わされる。

その心情はひとかけらも変わっていない!ほんと~に馬鹿な奴らさ。」

 

「人知を超えた力があれば無分別に群がる蛍光灯の蛾ども!

・・・それが誰でも己の利益となるモノのみを神と思う不誠実さ、人どものおぞましい醜態だなあ。」

 

暗黒渦巻く本部内、テーブルの上に置かれた大きな料理蓋を九尾の狐が指さしつぶやいた。

 

「その正体は・・・・こいつさ。」

 

開けた蓋の中にいた動く"それ"を見て石上は息をのんだ。

 

「これはなかなかコアな・・・意外なチョイスだな。」

 

「だろ~?そんな人間どもにふさわしい姿に、これからなってもらうよ!コーン!」

 

真っ白いテーブルを囲み、三人の神妙な空気は続く。

終始ライトなテンションで話し続けているリョウ。どうにか場を収めようと気をもむハナ。

 

「俺と手を組もうって話。別にそう悪い話じゃないと思うんだけどな!」

 

「私がさっき言ったことは、その・・・」

 

テルヒコは、リョウとハナ二人の顔を見て、息をつき静かに言い放った。

 

「キミたちは、俺と関わらないほうがいい。」

 

普段と違ういつになくあまりに真剣な表情に、ハナは言葉を挟むことができなくなっていた。

 

「どうしてそんなせっしょーなこと言えちゃうわけ?ずいぶんなやつだな~。」

 

冷静な表情でリョウが尋ねる。

 

「キミには自分の居場所や大切なものがあるだろ?悪いようには言わない。はやくそんなモノ(神器)は手放したほうがいい。」

 

「これは遊びじゃないんだぞ・・・!」

 

「じゃ、どんなことをすればオッケーなわけ?ぜったい面白くやれると思うんだけどなあ。」

 

「・・・お兄ちゃん、リョウは、すっごくいい人なんだから!だから」

 

「・・・ならなおさらだ。そのリューグレイザ―についても知っているんだろう。命が惜しくないのか?

それにキミ、それをどこで手に入れた?」

 

「教えてやってもいいけど、あんたがそうなら・・・どーしよっかなー♪」

 

「すまない、時間をとらせたな・・・。俺はこれで失礼する。ハナちゃん、行こう。」

テルヒコはいつになく深刻な顔で、リョウから目をそらしハナの手を引こうと席を立った。

 

「お兄ちゃん・・・・・。なんで。」

 

「おいおい、行くのかよー!ちゃんと俺の話、考えといてくれよ!」

 

ハナの手を引いたテルヒコは立ち止まり、何とも言えない表情で言った。

 

「キミには君を待っている日常がある。キミを待っている人たち。その人たちを感動させたり、喜ばせるために踊っているんだろ?

なら・・・それで充分幸せじゃないか。それをなんで・・・。」

 

「俺とかかわったヤツは、必ず不幸になる。」

 

かつてテルヒコの前にライバルとして現れ、己のやり方でマガツカミと戦おうとした青のオージ(水騎龍)の存在。

クロウの手により改良がくわえられ復元された神々の神器であるリューグレイザ―は、普通の人間であったリュウの肉体を蝕み

最終的には暴走を引き起こしてしまった過去があった。

 

自らの親友でもあるリュウの暴走を自らの手で、その拳で止めようとしたテルヒコにとって

目の前で玩具のごとく無邪気にリューグレイザーを振り回すリョウを見て、

なるべくこの一般市民をこの物騒な件に関わらせたくないという気持ちが募るのは当然であった。

 

その言葉を聞いてリョウはテルヒコの背に返した。

 

「格好つけんなよ~。」

 

「あんた、そんなこと言っといてこないだ(前日)・・・捨てられた犬みたいな顔してたぜ。」

 

その言葉を背に受け、一人静かに肩を振るわせてテルヒコは心配そうなハナを引き連れ歩いていった。

 

「ッ、俺とキミは違う・・・・・・・・!」

 

「ごめんリョウ!あとでテルヒコ兄ちゃん説得しとくから~!またね!」

 

テルヒコの背中を押すハナの活発な姿を見てリョウはいつものように笑い彼らを見送った。

 

「まったく~。ハナも一丁前だよな。いったいどっちが大人で、どっちが子供なんだか。」

 

「ま、最初の最初はこういうもんだよ、な。アニキ。俺たちうまくやれると思うぜ?」

 

リョウは亡き兄、水騎リュウの託したリューグレイザ―に微笑み語りかけた。

 

その直後、イベント会場から二人の女性が慌てて飛びだしリョウのもとへやってきた。

 

「ちょっと!さっきの奴らが・・・・」

 

倒れた二人組の男。先ほどテルヒコとリョウに因縁をつけてきた男が地面にうずくまりもがき苦しんでいた。

「おーい大丈夫かー?ちょっと大げさな・・・?!」

 

男の首からは謎の禍々しい文字と思しき刺青のような刻印が浮かび上がった。

 

「なんだこりゃ・・・・」

 

「省吾!しっかりして!・・・・うそ、こんなタトゥ無かったのに?!もしかして・・・」

 

「おいミカ、そいつ・・・」

 

男の女友達らしき女性が首からぶら下げていたネックレスのなかから、ガラガラゴロゴロと謎の異音が響く。

 

「グルル・・・・・!(リューグレイザ―)」

 

「リューグレイザ―!どうした?!(リョウ)」

 

リョウのリューグレイザ―がいつにない声で唸る。その声と波動にかく乱されるように

 

男たちは苦しみ出し、リョウは咄嗟に男たちのペンダントを勢いよく蹴りつけた。

 

「きゃ、なにするのよ!・・・・・きゃーーーーっ!(女性)」

 

「・・・これ・・・(リョウ)」

 

男たちのペンダントの中に入っていたのは、醜い緑の蟲。アゲハ蝶の幼虫だった。

 

「俺には理解できない趣味だな~・・・あんたもそう思うだろ?(リョウ)」

 

リョウの隣にいたのは、先ほど立ち去ったと思われたテルヒコとハナだった。

 

「ああ。ちょっと待ってくれ。(テルヒコ)」

 

テルヒコはポケットから取り出したアマテライザーをその虫にかざすと、黄色い光が照射された。

 

「ユタカ、こいつの正体を教えてくれ。(テルヒコ)」

 

「・・・・・・・(ユタカ)」

 

「おい、緊急事態なんだぞ!ユタカ!(テルヒコ)」

 

「さっき黙っておけと言ったじゃない。・・・これは常世の神ね。間違いないわ。(ユタカ)」

 

「常世の神?!(テルヒコ・リョウ・ハナ)」

 

「日本書紀にも出た真っ赤な偽物の神よ。かつて富士川のほとりで暮らしていた大生部多(おおふべのおお)という人物が

この虫(アゲハ蝶の幼虫)を神だと謳って人々に信じさせたの。(ユタカ)」

 

「でも、これただのキモい虫じゃないのよ。こんなのなーんの御利益もないでしょ?(ハナ)」

 

そそくさと鏡に近寄りのぞき込むハナの横顔へユタカは冷静に答える。

 

「そもそも、ご利益目当ての人間を助ける都合のいい神などいないわ。いるとすると(ユタカ)」

 

「マガツカミくらいだろうな。(テルヒコ)」

 

いつものごとくアマテライザーからの反応に一人こたえるテルヒコ。

 

「その人物は大生部っていったんだよな、大生部(大生部愛理?!)・・・・・・・・!」

 

「これ、先生の呪いなのかな?愛理先生のペンダント・・・。省吾最近すっかり人が変わっちゃって。

彼が先生のこと信じなかったから!・・・どうしよう!(女性)」

 

「おいそれ、どういうことだ?!あの女占い師か?・・・やはりこれもクロウの仕掛けた作戦か!(テルヒコ)」

 

「ハナちゃん、そこで待っててくれ!すぐ戻る!(テルヒコ)」

 

きがつけば、テルヒコのアマテライザーのやりとりを眼にした事件の野次馬たちが数人群がっていた。

「すげーな、それ(鏡)いったい何?(群衆の声)」

 

「防犯ブザーだ!(テルヒコ)」

 

テルヒコはバイクにまたがり大生部がいるオーシャンムード(総合レジャー施設)まで急行した。

 

「・・・・・・キミもなんで?!(テルヒコ)」

 

テルヒコがフェニックスロードを走り抜けるさなか、隣を同時に並走していたのはリョウの青いバイクだった。

 

「俺たちも置いてけぼりなんてごめんだぜ。なあハナ?(リョウ)」

 

「そーいうこと~!(ハナ)」

 

「ハナちゃんまで乗ってるし・・・・事故ったらお前・・・!(テルヒコ)」

 

「オンロードって意外だな。ヒーローは決まってオフロードだろ~!かっとばすぜ~!(リョウ)」

(※オフロード=荒地などでも走れる走破性の高いバイク。モトクロスなどで使われる。オンロードはスピード重視の公道・レーサー用バイク)

 

宮崎市街近郊にある総合レジャー施設、オーシャンムード。屋内に本物の海を模したプールや

巨大アトラクション、海に映し出される立体映像などが楽しめるバブル期に建設された本県においても有数の娯楽スポットである。

2000年台中盤に経営が立ち行かなくなり解体されることが決まっていたが、奇妙なことに解体される直前に存続が決まる。

 

存続は決定したものの娯楽施設ではなくなり、テナントを様々な企業へと貸し出すイベントスペースとなり生き残ることとなった。

以降何年間も近隣の住人でさえもよりつかなくなるような謎のスポットとしてオーシャンムードは形を残すこととなった。

 

「・・・ここが大生部愛理という女のいる場所か」

 

「しかし誰もいないのはおかしいな、結構有名じゃないか、あのアイリとかいう人。ほら!」

 

リョウが取り出したスマホのyoutude動画には大生部が映っていた。

 

「ネットの世界でも人気なのか・・・・。(テルヒコ)」

 

「わたしのクラスでも好きだっていう子がいるけど、私なんだか気持ち悪いって思ってて。チャンネル登録しないでよかった~。(ハナ)」

 

「子供たちの中でも知られてるんだな・・・。(テルヒコ)」

 

「神器の反応を悟られないようこちらからは通信を切るわ。(ユタカ)」

 

テルヒコら三人が会場屋内に向かい階段を上ってゆくと、その扉は開け放たれていた。

 

「ほんとに異様だな。もし万一ということがある。ここからは俺が行く。リョウ君、キミはこの子(ハナ)を頼んだ。(テルヒコ)」

 

「・・・しょうがないな。わかったよ!気をつけろよ。(リョウ)」

 

「リョウは意外とこういうの信じちゃう方だからね!やめといたほうがいいよ。(ハナ)」

 

「それとこれとは関係ないでしょー!お前もお化け屋敷苦手だろ?!(リョウ)」

 

「あれは音が苦手なだけだよ!あんなん作りものじゃない!(ハナ)」

 

「・・・・それはいいが、二人ともちゃっかり俺についてきてるじゃないか・・・。(どうしよう・・・)(テルヒコ)」

 

真っ暗闇の室内は想像以上に狭く、バロック調の椅子に座る大生部愛理の姿がスポットライトに照らされていた。

 

人気占い師の開催するイベントにしてはあまりにも陰気臭く、スポットライト頭上には無数の虫たちがたかり騒がしくぶつかり合っていた。

 

「よくぞお越しくださいました、私の鑑定ルームへ。あなたの最も欲するところの、願いを教えてください。(愛理)」

 

「・・・すべての人を、一人でも多くの魂を救うこと。(テルヒコ)」

 

「それは素晴らしい願いです。ですがあなたの魂はあまりにも傷つき汚れ切っています。(愛理)」

 

「終わることのない暗闇が見える・・・・・・・・。あなたは戦い疲れ、その心は限界を迎えようとしている。(愛理)」

 

その頃リョウとハナは完全にテルヒコと暗闇の中はぐれてしまっていた。

 

「どうなってんだよここ!さすがオーシャンムードを改装しただけはあるな!ひろすぎてわかんねえ!(リョウ)」

 

「おーいテルヒコにいちゃ~ん!(ハナ)」

 

「あっ、リョウ!・・・・あれ見てよ!キャっ!(ハナ)」

 

「ちょっとそこで待ってろ・・・確かめてくる。(リョウ)」

 

「グルルるるるる・・・・・・・・・(リューグレイザ―)」

 

暗闇の中スポットライトに照らし映し出されていたその光景は、あまりにショッキングなものであった。

 

「こりゃ、人間じゃねえか・・・。」

 

うめき声と共にのたうち回る奇怪な姿の人間たち。1人には蝶の羽のようなものが生え、標本のように

巨大な杭で磔にされていたのである。

 

「うっわあきっしょ!」

無数に地面を這う虫が奇怪な姿の人間たちの周囲に蠢いていたのを見てリョウは戦慄した。

 

「・・・貴様・・・私のお楽しみを覗きみたな~?カァアアアーッ!」

 

そこはかすかに実験室か何かのようにさえ思えた。

血に濡れたメスを持ったその男、石上が暗闇の中から黒いペストマスクを揺らし現れる。

 

「好都合じゃん!それ相当の対戦相手がいなくっちゃあはじまんねえからな!(リョウ)」

 

「こんなところに丸腰で来るわけないでしょ?!(ハナ)」

 

すかさず自らの神器、リューグレイザ―(剣)とサクヤイザー(勾玉)を取り出したリョウとハナは石上に対し

瞬時に戦闘態勢の構えをとった。

 

「・・・貴様ら、いったいどういうことだぁアーっ!(石上)」

 

そのころ、大生部愛理と対峙するテルヒコは闇の中問答を続けていた。

 

「わたしには、あなたの魂が暗闇に堕ちゆくのが見える。

あなたは大切な人を失い、そしてその時の想いがあなたを駆り立てる理由になっている・・・。違いますか?(愛理)」

 

「あんたは俺の祖父の話をいっているのか?(テルヒコ)」

 

「・・・おじいさん・・・。いいえ、もっと深い記憶。・・・それよりあなたがもっと・・・・??!!(愛理)」

 

「もう一つ、大切な願いを言い忘れていた。(テルヒコ)」

 

「??!(愛理)」

 

「お前らのような奴らを一匹残らず祓うことだ。(テルヒコ)」

 

「貴様・・・・・(愛理)」

 

それまで赤紫の刺繍が施されたローブに身を包んでいた大生部愛理の爪が、人間ではない魔性の物へ、生々しい音を立て変化した。

 

「俺の過去を覗き見たようだが、ほんとに"力"はあるんだな。だが狐憑きとたいして変わらない霊力だ。(テルヒコ)」

 

「そんな手品、三日で聴衆に飽きられるぞ。(テルヒコ)」

 

「うっるさいねえ、私の言うことを聞かない人間は、みんな地獄に堕ちるんだヨォオオッ!・・・・・(愛理)」

 

拍手と共にどこからともなく九尾のいやったらしい透き通った声がアナウンスとなり聞こえてくる。

 

「不十分で申し訳ないね。キミを欺くにはそいつはあまりに捨て石すぎた。(九尾の狐)」

 

禍々しい極彩色に彩られたアゲハ蝶の怪物(常世蟲大アゲハ)のような姿となった愛理は、狂気の中テルヒコに襲い掛かる。

 

勢いよくテーブルを天井に蹴り飛ばしたテルヒコはアマテライザーを勢いよくかざし創聖する。

 

「創聖!(テルヒコ)」

 

「ソウセイセヨ・アマテライジングパワー。(アマテライザー)」

 

「シャイニングフィールド!」

 

オージが創聖された直後、放たれた光が会場全体を包みオーシャンムードのイベントホールは日中のような明かりに包まれた。

 

「・・・・・あれは!(テルヒコ)」

その直後、巨大な蒼い斬撃がホール天井に走り、オーシャンムードは開けっ放しの屋外プールがあった全盛期のように

天井に大きな空間が開き、空から日の光が室内に差し込んだ。

 

「そんなに陰気臭くっちゃあ面白くない!これで三人そろったな!ハナ、テルヒコ!(リョウ)」

 

「・・・リューグランサー!青のオージ!(テルヒコ)」

 

「おいそこのなんか変な黒い怪人(石上=カラス男のこと)みたいなやつ!ちゃんとこっち見ろ!そうそれでいい!

俺は新たな青のオージ!水神ジャスティオージだ!(リョウ)」

 

「そんなこと、知るカァアアアーーーッッッ!(勢いよく羽を広げ向かってくるカラス男)」

 

「わからせてやるぜ!タアアーーーっ!(リョウ)」

 

鮮やかに空中に飛びあがり回転したリョウから放たれた蹴りは、古びた室内プールの水しぶきを浴び勢いよくカラス男の

胴体に連続で炸裂した。

 

「ドラゴンウォーター、ミサイルキック・・・!」

 

ドスーン!

「決まったぜ・・・・俺が命名した必殺技第一号・・・・!(リョウ)」

 

「お兄ちゃん、ごめん!(ハナ)」

 

いきなり頭上からピンク色の光の弾が飛んできたかと思えば、テルヒコの目の前に見たことのない黒い戦士が煙を吹く桃色の長銃を抱え

立っていた。

「・・・痛!いった!(弾が一部かすめる)・・・・お兄ちゃんって、キミは・・・(テルヒコ)」

 

テルヒコの後ろに倒れていた大生部愛理であった“その怪物”はよろめきながら奇声を上げ天高く飛翔した。

「やるじゃんかハナ!ナイスプレーだ!(リョウ)」

 

「なに?!あれは、ハナちゃんなのか!(テルヒコ)」

 

「いや、俺はあの戦士を覚えている・・・・・・・・あれは確か・・・・(テルヒコ)」

 

「姫神サクヤ?!どうしてあんなところにいるの?!(ユタカ)」

 

「サクヤ・・・(テルヒコ)」

 

「いっけええええ!!(ハナ)」

 

ハナが姫神サクヤの長銃(ガトリング砲)、フローランチャーを連射するその気弾の中

弾をすり抜けるようにその隙を縫うコンビネーションで水神オージが彼の持つ竜王剣ドラグブレイカーで

愛理の変化した大アゲハを斬りつけてゆく。

「いくぜ兄貴。次はこいつだ!アクアスティンガー!(リョウ)」

 

「・・・キェエーーーッ!(愛理/大アゲハ)」

 

大アゲハの毒気、妖気に包まれた鱗粉がトンファー、アクアスティンガーを振るおうとしたリョウの全身をとらえた。

「ッぐあああっ!(リョウ)」

 

ドサッ。

 

地面に叩き落されるリューグランサー。

黄色い鱗粉をまき散らし空を舞う4メートルはあるであろうグロテスクな大アゲハ蝶の生々しさは、およそ美とはかけ離れたものだった。

「いたた、やっぱりこれ(アクアスティンガー)俺に向いてねーのかなー。・・・しっかしあれで蝶かよ、グロいなあ。」

 

「世界を滅ぼすほど欲望を吸った常世の神の真形態!(カラス男)」

 

「なかなかのチート兵器だ!エクセレントだよ大生部愛理!最高だ!(九尾の狐)」

 

「ーーーーーーーーーーー!!!!!(愛理/大アゲハ)」

 

急激な、常世蟲への身体変化の影響で人間としての声帯を失い声にならない失望と絶望を主張しようとする愛理。

 

「新しい自分に、美しい姿になりたかったんだろ?

キミが手に入れたかった欲望の全てが、その肉体に詰まってるじゃないかーハハハハハ!(九尾の狐)」

 

「新たなマガツカミを産みだす計画のおっぱじめとしてその女には十分働いてもらった。

その女の売りさばいたアイテムは人の精神を依り代へと封じる力があるのだ!(カラス男)」

 

「もっともあれはただの虫だ。常世の神なんて存在しない。(九尾の狐)」

 

「幸せになれる、そんなまやかしに騙されて・・・手に入ってもいつかみな消える!

すべては一時のまやかしだ!この世にそんなものなんてないんだよ!(九尾の狐)」

 

「ハアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!(テルヒコ)」

 

ビシュっ!

 

日神オージのアポロンソードが大アゲハの片方の羽根をかすめた。

 

「!!!(大アゲハ)」

 

「ターゲット照準。マリナーズ、スプラッシュ!(リョウ)」

 

水神オージの神技、マリナーズスプラッシュが大アゲハのボディに直撃し、愛理の精神にさらなる激しい混乱と動揺が起こる。

 

「私たちもぼさっとしていられないわ!神技を決めろ!最大出力で飛ぶわよ?!(ユタカ)」

 

「できるか?!(テルヒコ)」

 

「神器の力を試すとき。せっかく三人そろったんだからゲン担ぎよ!(ユタカ)」

 

時間稼ぎとばかり遠距離より大アゲハを撃ち続けるサクヤ。

 

「はやく!隙ができてるうちに!(ハナ)」

 

「うぉーーーーーーーーーーーーッッツ!(テルヒコ)」

 

「行け!決めろォオ!(リョウ)」

 

テルヒコをスラスターの出力全開で押し出していたのは水神オージ、リョウだった。

 

「リョウ、助かる!こいつでどうだ!(テルヒコ)」

 

日神オージのテラセイバーが空中の大アゲハの脳天にエクスカリバーのごとく突き刺さった。

 

「救世神技!サンシャインズストライク!!!諸々のマガゴト罪穢れを、祓えたまえ、清めたまえ!(テルヒコ)」

 

「ア゛アアア゛アア゛!!!!!!!(大アゲハ)」

 

舞い散る鱗粉と共にその巨大な禍々しい姿のアゲハ蝶は空の中に消失した。

 

「よかった!みんな大丈夫みたい。(ハナ)」

 

戦いが終わり、オーシャンムードの中で実験材料にされかけていた人々は

無事そのほとんどの人数が解放されたかのようだった。

だがリョウたちが見た怪物化の進んでいたであろう人間たちがその中のいったい誰であるかということを

テルヒコたちは確認することがついにはできなかった。

 

「くそー!あの女俺のこと騙しやがって!もうちょっとで大台に乗れるところだったのによ!(男)」

 

「訴えてやる!あの詐欺師!(女)」

 

ギャンブルのことだろうか。自らの願いが、幸福がかなわなかったことを嘆き悔しがる人々の声が聞こえた。

それまで彼女(大生部愛理)を信じていたであろう常世の神に惑わされていた人々の姿があった。

 

「かわいそう。みんなただ信じてついていっただけなのに。(ハナ)」

 

テルヒコのアマテライザーから響くユタカの声。

 

「ほおっておけばいいわ。あんな連中は。(ユタカ)」

 

「・・・?!(リョウ・ハナ)」

 

「だってそうじゃない。幸せになりたいという願いも、見境がなくなれば醜い欲望よ。(ユタカ)」

 

「ある意味、自業自得よ。(ユタカ)」

 

「ま、アマテライザーにそう言われちゃかたなしかもな。だけど幸せになろうとするから頑張れるってこともあるんじゃねーの?(リョウ)」

 

「どんな理由であっても、幸せを求める人々の想いに付け入る奴らを。クロウを俺は絶対に許さない。(テルヒコ)」

 

「助かったよ、二人とも。(テルヒコ)」

 

「礼は要らないよ。だって俺たちこれからチームってことだろ?(リョウ)」

 

「・・・・それは、(テルヒコ)」

 

その時テルヒコの心の中に一瞬自分でも気づかない感情が芽生え始めていた。

 

「(仲間・・・・・・。)」

 

「教えてくれ、ハナちゃん。そしてキミのこと。一体何者なんだ?!(テルヒコ)」

 

「言い忘れてたな。俺の名前は水騎リョウ。あんたがダチだった水騎リュウの弟だ。これからよろしくな!相棒。(リョウ)」

 

 

 

 

 

 

 

episode.4 ~Legends~最後の約束

 

 

 

 

 

あの日から半世紀以上が経った。

 

部屋の窓の外じゃ子供たちが元気いっぱいに、あの日の私らと変わらない表情で遊びまわっていた。

 

「いま令和、ええと西暦2000何年だっけ、」

 

「ばあちゃん、令和はとっくの昔におわってる!」

 

会いに来てくれた子供たちも変わらず私たちに元気をくれる。

 

あまりに昔起こった出来事に心を向けすぎていたせいか。今の元号を忘れてしまうなんて。

 

今でも、当時のことは私自身が一番よく記憶している。みんな若かった。いろんな人と出会った・・・・。だけれど、みんなまるで夢のように私たちの目の前を走り去っていってしまったの。

 

彼のベッドの横にはいつも、生前彼が手放さず持っていた歴戦の神器が置かれている。

 

彼の寝室の花瓶の水を変える。十年前なんかは神器の力の影響でかなり体力的にも健康的だったんだけど最近体調が優れないからかこうやって私が見舞いに来ているの。

 

「先生、彼の容態は大丈夫ですか?」

 

「本当に驚いてますよ。脈拍も安定してる。一週間前まではあんなに悪かったのに、なんでこんなに変わってるんだ・・・・?!」

 

担当の医療スタッフ、看護師らが目を丸くしながら私に小難しい医学用語をかみ砕き優しく解説してくれた。

 

「リョウ、聞こえる?私がわかる?」

 

「・・・・(ハ・・・・ナ・・)」

 

私をよんでくれているのだろう。相変わらずの口元。変わらずの笑顔でニヤリと彼は私を歓迎してくれてるようだった。

 

「ねえ、こっちは台風の被害はなんともない。みんな相変わらずだよ。」

 

「(微笑む彼の顔)・・・・。」

 

「そういえば、て・・・・」

 

「寝ちゃったか。」

 

あれから60年の月日が過ぎ、世界は変わった。だが、変わってしまった世界の光景のなかで、私とリョウだけは違和感を感じ続けていた。

 

リョウの寝顔を横目に、私は過去の記憶を思い返していた。組織クロウとの埼玉鴻巣市での戦闘後、時空の裂け目から私とリョウはそれぞれ別の地に脱し再会したのは1ヶ月くらい後になってからであった。本当に奇跡としか言い表せないくらいのタイミングでまた出会えたことに本当に私はそれから10年くらいはその体験の話を知り合いに耳にタコができるほどしてしまったものだ。

 

讃岐の邪神アクルとの決闘。リョウは己の命を引き換えにするつもりで私たちに最後の力を貸してくれた。

 

すべての怪神は倒された。すべての決着はついた、はずだったのだ。

 

そのはずなのに。

 

なにかが違う。それまでの日常とは。

 

戦いの日々のあとに勾玉、サクヤイザーは実家神社に無事奉納されついに私の代で現時点のサクヤとしての使命の悲願を果たすことができた。

 

だが、全くマガツカミが存在しなくなったはずの美しい「青い空白い雲」は「どんよりと暗い」。

 

どう言えばいいんだろう。とっても綺麗なはずなのに。私が歳をとり感動する機会が減ってしまったから?そんなはずはない。今でも私の目の前の人たちは明るく輝いてみえるのだから。

 

ならば、どうして?美しいはずの世界に感じる既視感。何者かが(まだいる)と拭い去れない不気味にすら思える違和感。

 

それだけじゃないの。

 

私の中にあった思い出。リョウの記憶の中に確かに存在していた「彼」の姿がそっくり抜け落ちてしまっているのだ。

 

それだけが唯一気にかかる。

 

私の夢、幻の中に現れた彼の記憶。ビジョン。

 

私たちは、かつていっしょにそこにいた。

 

それなのに、何処へいってしまったんだろう。

 

「日下部さん!水騎さんの様子が?!」

 

看護師が私を呼びに血相変えて走ってきた。

「香さんどうしたの?」

 

「実は・・・・!2週間ぶりに」

 

「彼が喋ったの?」

 

「リョウ!」

 

私がチューブに繋がれた痩せたリョウのいる寝室に駆けつけた時、その頬には一筋の涙が溢れていた。

 

「ハナ・・・・。」

 

涙に濡れた頬を私はそっと手で包んだ。

私は驚いた。

私の手を強く、彼は握り返したのだ。

力がなかったはずのその手で。

 

「・・・・来てくれたよォ、相棒が。」

 

「・・・・リョウ、相棒・・・・!、まさか!」

 

わたしは全力でとり止めない感情を整理できずに走った。まだいるはず!そこに・・!

 

その後ろ姿を追いかけ、記憶の階段を裸足で蹴り散らして意識の深層へ下って。

 

施設の外はもう雪だった。

 

しんしんと降り積もる白い景色のなか、桜の木の前に私たちが探し歩いた彼はいた。

 

「お兄ちゃん・・・・!」

 

ウエーブがかかった髪に

景色に埋もれるような白い服。

なにも変わらないテルヒコ兄ちゃんの当時の姿。残酷なまでに止まっていた刻(とき)ー。

 

彼は目を潤ませながらシワだらけになった私の目を真っ直ぐ見つめ、何かを言い残したかのように頷き、消えてしまった。

 

子供だったころの私は、大人になっていた。

 

だけど、だからわかったのよ。

 

「いまでも戦っているのね・・・」

 

私は立ち上がることができなくなっていた。

 

「・・・・リョウ!」

 

リョウが自分の意思で立ち上がり、私の側に来ていたのだ。

 

シュウウ・・・・。

 

静かに煙を立て、リョウの神器は砂となり、光の粒になって消えた。リョウは本当に眠った。私は彼を抱きかかえ消えていった光に私たちの想いを乗せた。

 

「ありがとう、リューグレイザー。これまでリョウを守ってくれたんだね・・・。」

 

いまでもきっとどこかで戦っている。

 

お兄ちゃん(日神オージ)は。

 

彼はその魂を載せてー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

episode.5 夢幻のなかで宛てた手紙

 

 

 

 

 

時はさらに古の頃にさかのぼる。

 

平安時代末期。

 

奈良県高市郡は明日香村に今でも存在するのちのクロウ大和本部。

 

かつての日本の中枢でありクロウがかつて陰陽連特務機関、カラス会と呼称されていた時期より存在した霊場である。

 

都が陰陽連の手により着実に整備されだしたころ、霊的なバリアーともいえる結界の力、

 

各地の神社に鳥居が建立されたのもこの時期からであった。

 

巨大な霊波、地場のもとそびえる大和のとある地下にて

 

その神器、八咫鏡(やたのかがみ)は妖しく輝き、

 

見つめるものたちの眼にその光景を映し出しているのだった。

 

平安の終わり。最先端の霊的呪法のすべてが結集したこの地で、敷地内の玉砂利を蹴散らし、一人の青年が

 

聖徳太子の産まれた菩提寺である橘寺に血走った瞳で乗り込んできた。

 

「どけ!テメエら雑魚に用はねえんだ!」

 

ぼろぼろに汚れくすんだ白い着物を着崩した、無造作なヘアスタイルのその青年は天高く飛びあがり

寺に集う数十人の狩り衣をまとった男たち目掛け勢いよくその拳を叩きつけた。

 

「こ、この小童(ガキィイ)・・・・・何者だ!」

 

「どの寺の小姓(こしょう)だ!名乗れ!送り返してやろう!」

 

「・・・・こ・・・・・こやつ!このあいだ確かに討ち殺したはず!死人が息を吹き返すなど・・・・。」

 

数人の男たちに取り押さえられそうになるも、その青年照彦は半狂気じみた勢いにまかせ

何度も何度も狩衣の男どもを馬乗りとなり殴り続ける。

 

「ぐああっ!」照彦の右腕に激痛が走る。

 

「モエンフドウオウ、ナミキリフドウオウ、キチジョウミョウフドウオウ・・・・」

 

後方よりまるで精妙に動くロボットであるかのように狩衣の男たちが呪文めいた謎の言葉をまくし立て始める。

 

一連の騒ぎによりひっくり返された珍妙な臭気を放つ香炉から溝鼠色の煙が煙幕となって

 

この上ない不快感と、グロテスクな妖気となり漂っていた。

 

「うちしき(打ち式)、かやししき(返し式)、まかだんごく、けいたんこく(計反国)と、

ななつ(七つ)のじごく(地獄)へうち(打ち)おとす(落とす)。

 

おん・あ・び・ら・うん・けん・そわか。」

 

「マガリタマエ・ケガレタマエ!」

 

その腕に広がるドス黒い痣の中から、見たこともないような不気味な蟲のような腫瘍があふれ出、青年の皮膚の腕で暴れ踊った。

 

「慣れてんだよ、痛みにはッ、うぐっ、あァアアーーーーーーーーーーっ!」

 

腫瘍をもう片方の手で引きちぎると、傷口は急激な速さで修復された。

 

「こやつ、人外の者・・・・・もしや・・・・?!」

 

青年は両手を下方に合掌させ手印をつくり、

 

臍下丹田に自らの精神すべてを結晶させたその声で勢いよく男たち全員目掛けうち放った。

 

「道返玉!(ちがえしのたま)ァアー――――ッツ!!!」

 

本殿頭上に巨大な10メートルはあろうかというサイズの磨き上げられた巨大な岩石の球状の物体が

 

突如として落下する。

 

巨大な球(道返玉)が建物そのものを押しつぶし、瞬時に狩衣を着ていた男たちのほとんどの姿が消え

 

庭園に無数のヒト型をした紙片、呪法に用いられる所謂ヒトガタが散乱しているのを彼は見た。

 

「・・・・・なかなか、うまくはいかねーな。」

 

瓦礫の中、球に敷かれた足を引きずりながら

血にむせぶその男は、本部の損壊を生き延びた術師の男たちに対し変わらぬ血相でにらみつけ言い放った。

 

「すっかり面も割れてるようだし・・・。

あんたらにはたっぷりとこないだの礼をさせてもらうぜ!」

 

じりじりと彼らの距離は縮まってゆく。

 

「道返玉・・・我ら物部の十種・・・呪法。鴉天狗の真似事か!」

 

「ガキのくせにィ、どの山の験者(げんざ)だ!」

 

「我々とおなじにおい・・・。」

 

「いっしょにするなよ・・・バケ蜘蛛ども!(テルヒコ)」

 

勢いよく手刀で空を裂いたその時、半壊した建物の奥から無数の人骨とはだけた着物姿の女、乳飲子たちが

唖然とした表情で現れた。

「早く行きな・・・!やはり俺のアテは外れていなかった・・・・。

血の味を覚えたらもう人間ではいられなくなる。鬼の仕業という噂もふたを開けばこういうことだ。

都を魔境に改造しようなど・・・。」

 

「どの流派かはしらぬが、※朝敵は我々陰陽連が総力を挙げ潰す!

子々孫々末代未来永劫まで滅ぼすのみだァア!」

※(既成権力に敵対するものという意味)

 

「白々しく・・・。俺はそんなもんに興味はねえ!殺してみろよ!生憎慣れっこだ・・・!」

 

「こうしてやるよッツ!」

 

照彦がうちはなったその拳の先端にしたたる、ジュースの如き粘質の不気味な体液。

 

「貴様~・・・。・・・よほど、遊ばれたいらしい・・・!」

 

テルヒコに殴られた男の頭部は、変貌していた。

 

青年により殴打された頭はすでに人間の相ではなかった。

土蜘蛛の艶やかな複眼は昆虫、爬虫類の持つ本能めいた行動原理によりらんらんと輝いていた。

 

「うっむご、ごいぅああああああ!!」

 

奇怪な音をたて、緒を引く体液とともに無数の触角、節足動物の四肢、間接らしき生体が男どもの背中から現れる。

その悍(おぞ)ましい容貌、およそもう二度と元には戻ることができない、人としての認識と理性の一切を忘れ去った

本能と衝動のみに突き動かされる姿がそこにあった。

 

「ぉい、お前ら・・・・・・・・・・・・・。」

 

「なんでそうもいとも簡単に捨てられるんだよ!人間の姿を・・・!」

 

その空間には、もはや青年をのぞき誰一人として人間であるものはいなかった。

己の任務密命のためならば自らの存在意義さえ軽微にうちすてられる闇からの使者たちがそこにはいた。

 

「そんなにいいかよ、バケモノであることが・・・・・・・どうして、

・・馬鹿野郎、・・・・バカヤロォオーーーーーッツ!」

 

赤い瞳の輝きは青年を捉えていた。

本性を現した土蜘蛛たちを相手に、青年にとっての平常運転での乱闘がその日も始まった。

 

「ぐっぁああああ!」

 

先ほどまでの大暴れが嘘であるかのように地面深く叩きつけられ、頬をすり剥き血みどろとなる白い服。

 

「くそ・・・こたえろ・・・・・・・」

 

「・・・ちくしょう・・・・・・ユタカは・・・・・・ユタカはどこにいる!」

 

自らに問うようにその声は虚ろに響いた。

 

地面に生えた草を掴みながら朦朧とする意識を揺さぶりかけるように

テルヒコは衣の下に括り付けていた帯をほどき、錆びついた古(いにしえ)の神器を土蜘蛛たちにめがけ天高くかざすのであった。

 

「???!!!!(土蜘蛛)」

 

「お前たちの元居た場所に帰れ・・・・!」

 

突如として現れた障壁が光を放ち、妖魔どもの蠢く寺院と、粗野な青年周囲の気配を一気に静寂に変える。

 

(たかあまのはらにかむづまります

高天原に 神留坐す

 

かむろぎかむろみの

神漏岐神漏美の

 

みこともちて

命以ちて

 

すめみおやかむいざなぎのおほかみ

皇親神伊邪那岐の大神

 

つくしひむかのたちばなのどの

筑紫日向の橘の小門の

 

あわぎはらに

阿波岐原に

 

みそぎはらいたまうときに

禊祓ひ給ふ時に

 

あれませる

生坐せる

 

はらえどのおおかみたち

祓戸の大神等

 

もろもろまがごとつみけがれを

諸々禍事罪穢を

 

はらいたまえきよめたまうと

祓へ給ひ清め給ふと

 

もうすことのよしを

申す事の由を

 

あまつかみくにつかみ

天つ神地つ神

 

やおよろづのかみたちともに

八百万神等共に

 

きこしめせと

聞食せと

 

かしこみかしこみももうす

畏み畏みも白す)

 

「諸々のマガゴト罪穢れを、祓えたまえ、清めたまえ・・・!」

 

照彦の唱える天津祝詞の言葉は、庭園に散らばった醜悪な土蜘蛛共の腐臭を鮮やかな日差しの暖気と共に消失させていた。

 

体力の全てが尽きたテルヒコは、がれきの山に大の字のごとく倒れた。

 

死力を尽くし乗り込んだその場所も、結局彼の探し求めていたものを知りうる手掛かりなどは一切なく

 

彼の戦っているものが、想像をはるかに超越する規模の組織で

 

その闘いがその先の未来まで続いていくであろうことを

 

容赦なくがんがんと照り付ける日の光と、その澄み渡る空は教えているようだった。

 

「ユタカ・・・いったいどこにいるんだ。」

 

青年の願望はこの日も叶えられることはなかったのである。

 

失ったものは、あまりにも大きすぎた。

 

 

 

 

 

episode.6 瞳の傍らで

 

 

 

交差点ー。

 

黒いニットにロングコートを羽織ったその男は、朝の人混みを掻き分け一人人波の中を歩いてゆく。

 

病的なまでに白い肌に、美形なのか個性的な顔なのか人により評価がわかれそうな雰囲気のその30代くらいの男は、謎の異臭をコートから漂わせながらカフェへと入店した。

 

「ベーグルとアップルパイをひとつ。」

 

「それとミルクコーヒーも。」

 

奇妙な挙動でコーヒー牛乳を啜るその男性は、市街の行き交う人々を見つめ、物憂げにこう呟いた。

 

「俺が子供の頃には、この交差点には銀杏が生っていたな。」

 

宮崎市街はかつて戦後闇市から発展した歴史がある。

戦前戦後の日本の復興期、空襲の災難を逃れた街の人々はその生存競争において他者に構う精神の余裕を持つものは少なかった。

 

神風が必ず吹く。そう信じたのは戦時中の子供たちのみならず、その男、石上(いそのかみ)自身も同じであった。

 

当時大日本帝国陸軍のとある歩兵連隊にて鬼のような先輩の扱きに耐えていた石上は現代人の感覚を逸して、外見に似合わず潔癖な面があった。

 

「あちらのアベック・・・・。(視線を感じて)ああそうか、ちょっとエチケットがな~。」

※アベック=カップルのこと

 

自らの体臭に眉をしかめる隣席の夫婦。あわてて黒いエナメルのバッグから謎のスプレーを散布する石上。

意識しなくてもこうした人々の刺すような不快の眼付は気になってしまう。

 

自らの肉体は黄泉送りの儀式によってとうに死者のそれとなってしまっていること、腐敗した臓器よりあふれる体液を特注の黒装束によって拘束しなければ、たちまち日常の活動にさえ影響が出る始末であった。

 

ブゥーン。

 

聴こえるエンジン音。どうやらバイクの音らしい。

 

「・・・・」

 

スタッ・・ガチャッ。

 

「あなたね、呼んだのは。」

 

いつにない緊張感が男の胸をおそう。なんだかこのおんな、怖い。石上の落ち着きのなさはいつにない挙動不審者のそれであった。今日のため文句たらたらこけにされながら九尾に散髪してもらったのは正解だったなと思いながら、(幻術にて今日限り復元した)己の顔をあげににやあとほほ笑む。

 

「ごきげんよう。」

 

付近の席に座っていた学生たち。釘付けとなる女子高生集団の目線は、石上の前に現れた、彼女へと移り行く。

 

「かぁぁーっこいいぃいー!」

 

「・・・・キレー!」

 

なんて綺麗な女性(ひと)なのだろう!

 

背中を覆うほどの整った黒い髪が白いヘルメットを取り外した彼女(ユタカ)の前髪と共に動き、女学生らの羨望と、仄かな思春期特有の不安定な嫉妬心(女性のジェラシー)を烈火の如くくすぐった。

 

だが、多分逆立ちしても勝てないであろうくらいの美(オーラ)の完膚なきまでの開きに感情もさっさと顔を潜め、それはただステンドグラスの美でも眺めるが如き諦観に変わった。

 

「ねえねぇ、あの人カップルやっちゃろうか?!」

 

「どんげやろ~ぜったい違うやろ、多分・・」

 

「でもよくみたら男の人もカッコ良くない?!歌舞伎役者の◯◯◯三郎みたいじゃね?!キョどってるけど・・・・。どうしたんやろ。」

 

不要な詮索に花を咲かせるある種の幸せな学生たちは当然二人がどういう関係(命を懸け戦う仇敵)か全く知るよしもなかった。

 

突如の敵襲来に、なんとも思わぬかの如く平常心を取り繕い煙草をふかせようとした石上は全力でむせかえった。

「カァー!カッカ・・・・?!」

 

以前のサイボーグ特有のダミ声は黄泉送りにて克服したものの、代わりに石上の臓器はいよいよタバコの主流煙にすら耐えられなくなっていた。

 

それはそうと、そのバイク(HONDA-GB250)である。彼女の車両はなかなか控えめながらも憎い洒落たものであった。丸目一頭、黒のフレーム。よく見なければ美観に気づけない白いタンクのネイキッド型の車両には、優しい朱色のラインと散る花のような転写が美しい。話の本題を忘れ石上は彼女が乗ってきた車輌を何度となくチラ見するのだった。

 

美しい黒髪の麗人そのものといった彼女の雰囲気は毅然とした物腰のなかにどこか脆く儚いものを感じさせた。

 

「なかなか・・・70年前なら恋に堕ちていた(バイクに)のだがな。私も惜しいことをした。いいやつだな。生産年はいつだ?」

 

「とんちんかんなのは変わらないのね。こんな風にしてたらテルヒコが嫉妬しちゃうわ。はやく話を終わらせて頂戴ね。」

 

「なに、あいつも嫉妬などするのだな~。石仏のような男だと思っていたが、親近感がわく。て貴様、嘘をはく冗談をいう余裕はそちらもあるようだ。あいにく貴様ら(オージたち)とは仲睦まじくなれないようだ。」

 

「私より彼(テルヒコ)の性格を知っているのね。あなたもよほどご執心じゃない。」

 

「カッカーラカウア(からかうな)、この私を。」

 

そのとき、咽ぶ石上は奇妙な感覚に襲われた。自分は目の前のこの女の、ペースを奪い去る独特の喋り方を覚えている。そんな気がしていた。

石上はさらに動揺していた。自分がなぜ動揺しているかもわからないからよけいたちが悪かった。

 

「クロウのカラスさん。なぜわたしをこんなところまで呼んだのかしら。」

 

「いまここで戦いをおっ始めてもいいわよ。あなたは私に瞬殺されるでしょうね。(ユタカ)」

 

「その覚悟はあってのことでしょう。三途の川の船頭にはよろしく言ってあげるわ。(ユタカ)」

 

「(なかなか変わった女だな~。←自分を棚にあげて思う)大した自信だなあ。なぜ確信がある~?(石上)」

 

「私が何者かあなたはよく知らないのね。そうでなければ私のような人間は来ないでしょ。(ユタカ)」

 

「口も達者なようで何より。あやつもよほどそなたには手を焼いているようだ~。察っせる。(石上)」

 

「あら、わかるのね?油断できないわ。(ユタカ)」

 

「私が質問したいことはひとつだ安心しろ。なぜ"あの場所"にいた?!(石上)」

 

「貴様は大善の・・・なんなのだ??!(石上)」

 

「彼は私を呼び覚まそうとした。ただそれだけよ。そして私が彼とはじめて接触したとき、テルヒコもいたのよ。

あなたの話ばかりテルヒコがよくするから来てみたけれど、あなたも思ったより気が小さいようね。もうこれでいいかしら。(ユタカ)」

 

「なるほどな、ならば思い過ごしか・・・。(石上)」

 

「私からも質問いいかしら。ずけずけ呼びつけておいてあなただけ一方的なのは癪にさわるから。(ユタカ)」

 

「テルヒコの動向をチェックしていたでしょ。何かにつけて気にかけている。まるで息子かなにかのような気にかかりようね。あなたこそなんなの。(ユタカ)」

 

「そりゃーやつは宿敵(ライバル)だ・・・だが、もし波長(フィーリング)が合えば黄泉軍(よもついくさ)の味方内に欲しいとさえ思う。

どうだ?戦士(やる気のある奴)なら他にはいくらでもいるであろう。

なぜよりによって奴を選んだのだあ?(石上)」

 

「・・・・!(ユタカ)」

 

「時節は来たり、やつの魂は擦り減り、混沌のなかだ。好都合にも私は黄泉送りにて超人化したものでいろいろよぉお~く見える。やつが超人的な死ねない化物だというのを知ったとき、戦慄したよ。化物、だ。しかもまともな人の一生が送れない。そりゃー人生に絶望もする。神を恨みたくはなる。わたしとその想いは、イコールだ。(石上)」

 

「彼・・・・照彦青年の心中(しんちゅう)で、「神は死んだ、」なんてな。(石上)」

 

※黄泉送りにより石上は冥王イブキとなった

(「神は死んだ、」※ニーチェの言葉)

 

「そこにおそらく、貴女(きさま)の影はいない。(石上)」

 

「やつの原動力は(かつてユタカを救えなかった)罪悪感だ。わたしは知った。(石上)」

 

「もう一度いうぞ(石上)」

 

「神は・・・・!(石上)」

 

「やめてッ!(ユタカ)」

 

パシィン!

 

カフェのベランダで思い切り平手を打ちかますユタカの姿があった。

 

青白いごつごつした皮膚がほんのりと赤く腫れる。

 

「・・・・。いっった・・・・なかなか戦闘力は、あるのだな確かに認めてやる。落ち着け、事実の比喩みたいなもんだ。(石上)」

 

「彼は私を信じてくれてる。そんな容易く悪魔のささやきに乗るような男ではないわ。やっぱりまだまだあなたは彼をよく知っちゃいないわね。(ユタカ)」

 

「嫉妬深いのは貴様のほうではないのかァア~?(石上)」

 

「そうよ。妬けちゃうわ?聖書にもあるでしょう?「私はねたむ」って。

私と彼の付き合いはあなたが思うよりはるかに長いのよ。(ユタカ)」

 

※(私は妬む=聖書で神が自らを信じず悪魔である異教の神々を信じた人々にめがけいった言葉。

自らを唯一の神とする聖書の神、いわゆるゴッドの厳格さを表現している。)

(※そのためその思想に対する批判もある。)

 

「神がかった返しだな。だが面白味はない・・・。

貴様らという坊さんと尼さんにより結成された奇跡のコラボレーションは。(石上)」

 

「お前らはファンタスティックな仲なのかと正直疑っていた。(石上)」

 

「あなたたちと戦っているとそんな夢みたいな暇はないの。詮索したらぶっ飛ばすわよ。(ユタカ)」

 

あきれた表情のユタカは、ふと遠くを見つめ忘れ去られた当時を回想した。

 

「・・・・・ただ、戦国時代くらいの頃かしら。あのとき一度だけ訳あっていっしょに暮らしたことがある。」

 

「そなたたちは同じ一族の出であったなア。(石上)」

 

「こんな話興味ないでしょうけど、(ユタカ)」

 

「魂は輪廻転生するから。私の方はそれで。彼に限っては単にそのまま若返ったり復活するだけ。(ユタカ)」

 

「私も※ホラー系はなんでも読み漁るほどオカルト主義者だ。蟲毒専門だがそっち系にも興味はある。夢ある話じゃないか~~~へェエ~。(石上)」

※(病院や床屋に置いてる恐怖系少女漫画)

 

敵との謎の時間が流れる。ミルクコーヒーをストローでぐるぐる回す真剣な表情の石上。

 

「そ、それで?!!(石上)」

 

「あまりに長く旅して一緒にいすぎると、不思議なものよ。(ユタカ)」

 

「・・・・・・。(石上)」

 

「もっぱらみんな彼は記憶にすらない昔話だけど。(ユタカ)」

 

「でも、そんじょそこらの人(能力者)には鏡の縁、その力はわからないわ。あなたにも。

それが私はわかる・・・。

知ったような口をきくあなたを私は許さない。いつかその鼻っ柱も絶対にへし折ってあげるわね。(ユタカ)」

 

「こわいやつだな貴様も。そんなの黒い冗談に決まってるではないか。さっき言った奴の心は真っ黒な嘘だ。(石上)」

 

「が、おそらく貴女(きさま)は奴にとっては後悔の象徴(シンボル)にほかならない。

やつは今でももがいているからな。深層心理ではそなたを邪魔のように思っているかもしれぬぞ。(石上)」

 

「その心を利用して揺さぶるのは雑作もない。(ニチャアと微笑む)(石上)」

 

「あなたはどうなの?苦悶の塊のような気がするのは気のせいかしら。男(ライバル)に執着して、女々しいのね。(ユタカ)」

 

「女々しいのはヤツも私も似たようなもんだ。」

 

「我らは所詮宿敵(おとこ)だからな。

いつの日かその女々しさにかけ決着をつけなければなるまい。(石上)」

 

「もうひとつ知らないようだから教えるわ。テルヒコはああ見えて・・・強か(したたか)なの。

感情に惑わされることはない機械(マシン)よ。

そうでなければ戦えない。(ユタカ)」

 

「・・・・・・・(この女・・・・・するとなんだ、海照彦・・・奴の本性は。)(石上)」

 

「やつは・・・?!(石上)」

 

「比喩よ、察しなさい。

あれだけ信じた正義のためだけにハイリスクノーリターンで戦える者はそういないでしょ。(ユタカ)」

 

「だから、創聖者候補だった者たちとも何度も闘ってる。みな途中で脱落していくのよ。

そして愛した仲間だった者たちが、マガツカミに落ちぶれる。彼はそんなモノをずっと見てきたのよ。」

 

「普通の人間(やつ)ならあなたのような殺人鬼にでもなってるわ。(ユタカ)」

 

「ふふッ・・・ハハハハハ!結構だよ、なかなか面白い話を聴かせてもらったなあ・・・・(いったいどういうことなんだ?!)。(石上)」

 

「だから、ほかに神器を手に入れた二人も、彼の真実(すべて)はわからなかった。(ユタカ)」

 

「それを知っているのが私。(ユタカ)」

 

「弱点を探ろうとしていたようだけど残念ね。」

 

興味津々な石上を見かねたユタカはため息まじりに軽蔑したかのような美しい眼で石上(冥王イブキであるその男)を見た。

 

「日光に当たりすぎると毒よ?彼の、いえ私の意志があなたを必ず討つから。(ユタカ)」

 

「覚悟なさい、クロウのリーダー、石上少佐。」

 

微笑みと共にユタカの乗るバイクは靡く黒髪と共に音をたて公道の中を走り抜けていった。

 

石上が見えなくなったころ、彼女はバイクを停止させ林道の中一人思っていた。

 

「ぜったいに・・・ない・・・・ぜったいそんなことない!そんな事、彼は思っていたりするはずないわ・・・!(ユタカ)」

 

石上の言葉は意外にその胸に効いているようだった。

 

三時間ほど後。郊外の浜辺にて、青年(テルヒコ)はテトラポット付近にて小さくうずくまる、見覚えのある女性を発見した。

 

「・・・・あ!(突起物が額にあたる)痛っってー!・・・かみ、ひこうき?(テルヒコ)」

 

「誰だ・・・・・??!(汗)ユタカ?」

 

紙飛行機の先端が額にあたる。

 

視線を向けると、無表情で海をじっと見つめ次々と紙飛行機を折り、黙々と飛ばし続けるユタカの姿があった。

 

「・・・私の呪いよ。(ユタカ)」

 

「ユタカじゃないか・・・!(ノロイって何だ?!)どこ行っていたんだ?(テルヒコ)」

 

「・・・・・・・・・(ユタカ)」

 

「どうしたんだよ・・・?怒ってるのか?(テルヒコ)」

 

「べつにぃ、怒ってないわ。シュッ!!(ユタカ)」

 

「・・・・・・・・(あっ!また飛ばした!)(テルヒコ)」

 

「あなたも折ってみる?けっこうおもしろいのね紙飛行機って。(ユタカ)」

 

どこか不機嫌そうな彼女の顔色を見て複雑な面持ちとなるテルヒコだったが、

その直後いつもどうりの雰囲気に彼の顔もほころんだ。

 

「なんだよそれ!あはは!(テルヒコ)」

 

いつものごとく笑う彼であったが、次第に海辺を見つめるその顔は曇る。

 

「・・・・・・どうしたの?(ユタカ)」

 

「いや・・・・。あいつら(リョウとハナ)がいたらどんなだったろうなって思ったらさ。(テルヒコ)」

 

「ねえ、また・・・もし今ここで私がパッて消えて、いなくなっちゃったらお前はどうする・・・?(ユタカ)」

 

美しく輝く砂浜に、両腕を後ろに組んだユタカは冗談のような質問を彼に投げかけた。

 

風が吹き抜ける。海辺で海水に浸されたテルヒコと白いドレスの彼女のあいだ、千何百年という隔たりにその切ない風は流れているようだった。

 

「・・・・そんときゃ、どうするかなあ。日本一周の旅にでも出ようかな。(テルヒコ)」

 

「フフッなにそれ。・・・寂しかったり、しないの?(ユタカ)」

 

「縁起でもないこというなよ!・・・・・またどこかにいなくなるのか?!やめてくれそんな冗談は・・・!(テルヒコ)」

 

テルヒコは恥ずかしげに嘘っぽい大きな笑い声でユタカと歩いた。

 

ユタカはその時みた表情を見て思った。この男たち二人にたいした差異はないのかしら、と。

 

「でもさ、なんで・・・」

 

真剣な顔で青年は彼女を見ていった。

 

「もうそんな話するなよ。」

 

時間が停止したかのように鮮やかに碧(あお)く波が光った

 

 

 

 

 

 

 

 

episode.7 証言

 

 

 

町から少し離れた山村集落のとある邸宅で、地方創生プロジェクトのスタッフである石井十蔵(いしいじゅうぞう)はそこに住んでいる老婆から昔起こった戦争体験にまつわるとあるエピソードを聞いていた。

 

安村鞠子女史(89歳)

彼女が出版社より企画出版している戦争体験を綴ったその書籍は話題で、教育系(N○K)のテレビ局や新聞などが頻繁に彼女の自宅へと出入りしていた。今日の仕事は郷土資料館の企画で戦争体験の文字起こしを含めた聞き取り取材であった。そんななか十蔵は、眼が見えない彼女(鞠子氏)のするとある昔話に異様に食い付いてしまった。

 

「あ、あんた赤飯たべるぅ?チンすれば出来るやつがあるから、そこの引き出しに、うん。(鞠子)」

 

チン!(レンジの音)・・・

 

「うわーおいしそう!なんかすみません!(石井十蔵)」

 

「そう?こんなんそこのマタックス(スーパー)のやつよ。食べていいのいいの。だれも若い人は来ないんだから。もう~昔のことよォ。沢山はおぼえてないんだけれどごめんねー。その・・・・・」

 

「(一時間ほど経過)石上さんとこも金持ちやったんよ・・けど旧家のご両親が亡なくなって、息子さんが・・・。」

 

「名前はなんやったか、マーくんや、そうやあのマーくんが軍に招集礼状で行ったのが最後やったかな・・・。マーくん昔はよくうちにご飯を食べに来ていたんだよ。一緒に銭湯にも行ってたし。よく食べたねえ。」

 

(※マーくん=石上(カラス男)の幼少時のあだ名)

 

「いいひとだって、いたのにねえ。はあ。」

 

鞠子氏はため息をつく。

 

「だけどもーあんときゃ中学あがってから財産ごと持ってかれたりして。井上家の養子になったでしょお。井上さんとこのぼっちゃまがまーひどく扱ってねぇ、もうわたしも泣いて泣いて。あんときゃ時代がね。人間が人間じゃなかったからねえ。」

 

「ひぇー!その子そんなとこにいたんですか?!(石井十蔵)」

 

「うん多分記憶がただしけりゃね。井上さんとこの家の犬小屋に夜おって・・・。息子さんが精神に問題があって。何でかねえ、人じゃない鬼畜よあん人らは。可哀想でね。」

 

「虐待じゃないっすか・・・。(十蔵)」

 

「そんで闇市で妙ちきりんな商売したり、見世物小屋で客引きしてたとかもきくし。あーあと・・・。」

 

「えっ?!そんなのも・・(十蔵)」

 

「それくらいかな。(鞠子)」

 

うっ・・・

不快をもよおす十蔵の表情。

 

「ほ、ほんとに?!」

 

「いや本当に本当なんやから!ちょっとおかしな趣味のやつも通りにはいたのよォ~!たぶん貧乏でお金に眼が眩んでたんやろね。たぶん。マーくんも・・。あのときはそんげな男もおったから。(目をぬぐう鞠子)」

 

「人懐っこい子やったんよ。荒んで、

変わっちゃってね・・。なんかあったら私も坊っちゃんたちとかかわんのが怖くてねえ。」

 

「で坊っちゃんがさー、変死体で見つかってから大騒ぎになってね。鎌鼬(かまいたち)にやられたみたいに。」

 

「葬式でマーくん笑ってて。ご主人にぼこぼこにやられて。」

 

「何とかしてやれなかったかなーって。」

 

「ヤバかったんですねえ。当時は。(十蔵)」

 

「そう、ヤバかったのよお。いやジョーダンじゃなくって、本当に。(鞠子)」

 

お婆さんの昔話はあれよと脱線しいつしか彼女の祖先の絵師の話になっていた。

 

安村英彩というその絵師は児湯地方の秋月藩に支え、藩お抱えの絵師として神社の絵馬などを多数奉納した。

 

なかでも有名なのが付近の日奉神社(ひまつりじんじゃ)で、別宮の拝殿の天井画の黒髪の女性が夜になると抜け出すという言い伝えを、老婆は青年に語った。

 

「ちょっとお婆さん、その神社・・・大善さんって、・・・!」

 

「なに、あんた知ってるの?!そうそうそうよー!あ、なーんだあんた海さんとこの知り合いなの?!なーんだ私の知り合いじゃんせまいねえ田舎は!」

 

そう、日奉神社とは他でもないテルヒコ(海照彦)の祖父、大善の祖先、「海家」の祖神をまつった古社のことであった。

 

日神(天照御魂神/アマテルミタマノカミ)を祭る神社で、12キロ先に別宮を持つ。

 

神宝は「鏡」。大善が生涯通って古文書を研究した神社である。創建は戦国時代の中期とされているが、実際はかなり古く、戦国時代の大友宗麟の耳川の戦いの神社襲撃の被害を受け旧社殿といった「歴史」は焼失してしまっていた。古社たる微かな傍証として、別宮の山中に自然信仰を伝える「岩船」という神々の乗ったとされる岩石、滝のある祭拝場があり、本当の歴史は神話時代まで遡るともいわれる。

 

「こりゃ連絡せなならんぞ!まてよ・・・!あ、もしもしテルヒコか!お前いますぐこい!(十蔵)」

 

「(十蔵からの連絡を受け)え?!じいちゃんのことを知ってる人に会ったんですか?!すぐ向かいます!(テルヒコ)」

 

「あんたら興味あるようだけど・・・」

 

「行く?神社。」

 

ニヤリとしたり顔で笑う鞠子おばあさん。なにかを感じたような、なにがしかの勘を働かせたかのような表情であった。

 

「ええとたしか・・・(箪笥から手探りで)あ、これや。」

 

鞠子が手探りで探した鍵は、神社の古文書などを納めたケースの鍵であった。

 

「本当は※橘さんとこの管理なんやけど。20年くらい前からうちが預かっとるんよ。」

※橘家=海家の分家

 

 

 

episode.8 もうひとりのアマテラス

 

 

 

 

アマテラスは、日本の祖先神であり太陽の女神とされる。

 

弟に海原を統べる武勇の神、スサノヲ。

 

月、夜を支配する神ツクヨミがいる。

 

(※アマテラス・スサノヲ・ツクヨミを三貴神という。)

 

神話においてアマテラスは弟であったスサノヲの乱暴狼藉に怒り、ストライキとばかりに洞窟、すなわち天岩戸にひきこもってしまう。

 

この際おこった事件を(天岩戸伝説)という。

 

宮崎県の高千穂に伝わるその岩戸伝説が最も有名なそれである。

 

闇に包まれた世界に光を取り戻すべく、八百万(たくさん)の神々が協議した結果、アメノウズメが艶かしい舞いを踊りアマテラスを誘い出し、「あなたよりも尊い神が現れたので皆で宴会をしていたのです」と嘘をつき、八咫鏡を天照へと見せた。

 

鏡に写る自ら(アマテラス)の美貌に見とれた大神を、タヂカラオ(力自慢の神)が力ずく引き出したために世界に光は戻ったとされている、これが伝説の内容である。

 

宮崎県山村集落から数キロ離れたとある空き地。

 

「ここか・・・。いまはだれもいないのか。」

 

その男石井十蔵(プロジェクトスタッフ)は汗吹く額を拭いながら日中の日奉神社へやって来ていた。日光をより集めてしまう黒いTシャツを着てきた己の今朝の選択を彼は後悔していた。

 

今回十蔵が来たのはほかでもない。ちょっとだけ己の趣味の範疇でもあった。

 

それも神社に向かうまでの道のりが楽しいからである。最近買ったお気に入りの自転車でサイクリングして帰りの風景を写真にし事務所のカレンダーにしてやりたいという秘めた理由であった。

 

「空気がきれいでサイコー!どんだけぇ!・・・・・・って言っても誰にも聞かれねえしサイコー!」

 

「しかしロマンあるよなぁ。なんかこういう奥宮のある神社ってのは・・・。(十蔵)」

 

神社の祭神を描いたものだろうか。いくつか絵馬らしき極彩色の板が屋内上部に立ち並んでいる。

 

目の前にドンと見えたA2サイズの絵馬。

 

「・・・(高千穂の天岩戸伝説を描いたやつか?!)・・・なんだ?」

 

十蔵は、神社の神を描いたとおぼしき、その「岩戸絵図」を見て、思わず見入ってしまった。

 

「・・・ヒゲ・・・じゃないか」

 

そこに描かれていたもの。八百万の神々に囲まれ岩戸から出てきた天上界の日神(天照大神)とおぼしき神の顔にはあろうことか、男しか生えるはずのない「髭」が描かれていたのだ。

 

「これ最近の手直しや贋作じゃなくってマジのアマテラスだよな。あのカミサマってたしか女・・・じゃなかったかな?(髭ってそっち系ってこと?!)・・・落書きじゃないみたいだけどな・・・。俺の彼女でも髭ははえるけど作者のオリジナルかな。」

 

十蔵はその風変わりな絵馬の髭を生やしたアマテラスを食い入るがごとく見つめた。

 

しかし目を凝らし何回見ても

 

アレンジにしてはスパイス過多に思われた。

 

「天照男神説・・・。」昭和に大善がみずから出版したとおぼしきカラーの本が置いてあった。

 

「先生もこんな本よく書いたなあ。」

 

アマテラス男神説ー。

 

考古学者大善が邪馬台国の女王(二人の天照大神説)説と並び、生涯をかけ研究していたテーマである。

 

こと日本は、日の丸の国旗やその(ひのもと)という名に因むように(太陽)、すなわち日の神を中心に国体が成立した歴史がある。

 

人々は太陽の慈愛に満ちた光の恵みにより獲られる収穫に感謝し、採れた作物や米を太陽神に捧げた。

 

この日奉神社もそんな弥生時代からの古き信仰とは無縁の場所ではない。

 

女神とされる日神アマテラスは、その原型としてギリシャの太陽神アポロンのような男性の神だったという説もある。

 

ほかには、卑弥呼など太陽を祭るシャーマンを死後、女神アマテラスとして神格化したともいわれる。

 

時代によって様々な像や絵画が描かれているが性別から記述も多様でその実体はいまだに不明点が多い。

 

現在の挿し絵などで描かれるアマテラス像が成立したのは意外にも明治に入ってからといわれる。

 

エジプトなどでもそうだが、「王の系譜」を表すものに太陽が用いられる例は多かった。日本もそうであった。

 

そもそも太陽に関連する神は多い。「天照」の字を冠する太陽神は日本神話に数えて二柱登場し、高千穂峰に天より降臨したアマテラスの孫、皇祖ニニギノミコトの兄にあたる日本の初代(ゼロ号)王「ニギハヤヒ」がまたの名を太陽神「アマテル」といった。

 

(神話では)男神アマテルは女神アマテラスの孫であり、見方を変えればある意味もうひとりの(影のアマテラス)ともいえる。

 

この話はマイナーな古史古伝を知るもの以外にあまり一般的にはほぼ知られていない。

 

(十蔵がやってきた日奉神社の本殿の祭神はこの天照御魂神であったためこういった絵馬が残されていたのだろう。)

 

古来祖母にあたるアマテラスから十種の神宝を託されたアマテルことニギハヤヒは、天の岩船(神の乗る岩でできた空とぶ船)で宮崎や河内、近畿大和地方へ数度にわたり天孫降臨し「日本」という国名の名付け親となり、王になったというがそれ以降影は薄く、同じアマテラスの末裔とされた親戚の神武天皇に皇位を渡した。

 

同じく太陽神と関連するヤタガラス、三種の神器の中核になる八咫鏡も太陽神崇拝と関連は深い。

 

ニギハヤヒ(アマテル)の子孫である一族はその後皇室を守護する軍事刑罰を司るボディガードの(物部一族)となる。

 

つまり、ある時代において君主につかえる番犬だったということになる。

 

戦争が起これば天皇は物部の連中を、逆らうものたちを軍事力(&霊術)で撃退する戦闘要員として駆り出していた。

 

物部は、「モノノフ・武士」であると同時に「モノノケ・物の怪」と呼ばれ常に歴史の影にいた。

 

その物部一族、出自を同じ祖先とするが、厳密には全く異なる信仰を持った氏族・血縁の連合といっても過言ではなかった。そのため彼らのなかで激しい争いが絶えなかった。

(※各氏族の発祥については諸説ある)

 

物部同盟のなかでも、とりわけ海家はその信仰における神事・祭拝のコアパーツ(心臓部)であり、“女たち(巫女=シャーマン)”の生き残りであった。

 

さらに物部一族は陰陽道の名門でもあった。かの知れた役行者(えんのぎょうじゃ)を輩出した(鴨家)、有名な土御門一門(陰陽師の安倍晴明)もこれら一族の出である。そして大化の改新以降滅亡した石上(いそのかみ)家も。

 

カラス男(石上)も、海家(大善)とは腹違いの同族だったことになる。

 

彼らふたりがライバルとなりぶつかるのも天が定めし因縁かもしれない。

 

日本の歴史的暗部におとされた漆黒のナゾ。

 

時はながれ、平安戦国時代と呪術において多数の流派を輩出した物部一族は、京都に支部をおき結界(五芒星)のパワーで日本という国を霊的に守護してゆく。

 

変わりゆく歴史の影で、陰と陽・・・光と闇の力。一族同士の長きにわたるその確執、彼らは激しい血で血を洗うバトルを繰り広げていたのだ。

 

争いの背後には、九尾の狐の影があった。

 

魔界と天界の戦いは、物部一族が求めたとある(鏡)を巡るその「内部抗争」として反映されていた。

 

真実を写し出すその(鏡)ー。

 

滅亡した邪馬台国の残党勢力(海家)は、闇の陰陽道を駆使する一族の敵勢力(カラス会)の手により土蜘蛛といった霊術兵器を差し向けられ歴史のなかで何度となく攻防を繰り広げることになる。

 

陰陽特務機関カラス会(組織※クロウ)。 

※クロウ=英語でカラス

 

クロウの狙いは、日奉神社の神宝である神獣鏡(天照伊弉=あまてらいざ)。それがアマテラスの精神が宿る八咫鏡の原型(プロトタイプ)、“アマテライザー”であった。

 

その頃安村邸宅にて。

 

「あの優しいじいちゃんが・・・?!(テルヒコ)」

 

「・・・昔は大善くんも戦争の夢にうなされて毎夜飛び起きて奥さんの首を絞めかけたりね。後遺症が大変だったそうよ。反動か知らないけど共○党てあだ名がついて近所から言われた程おっかなかった。背中に刺青して。軍隊で舐められんようにしていたんやろうね。」

 

「晩年のイメージからは想像もつきません。うちのじいちゃんはたしか・・・(テルヒコ)」

 

「いやもとはかなり、やっぱりおとなしいっていうのか学者肌だわね彼は。物腰もそうやし、娘や孫がうまれてからじゃないの?もとに戻ったんよ。」

 

鞠子がなんとも言えぬ複雑な顔で続ける。

 

「戦争はそれほど、人を変えるほど・・・恐いんだよ。大善くんはたしか前線には出とらんで救護兵やったんかな。たしか。でも敵が来たら殺りあわないけんしこわいよね。マーくんもなんか戦争から戻ってからイキイキした顔で・・・。」

 

「マーくん・・・。(テルヒコ)」

 

「マーくんはね、マーくんもかなり頭良かったよねえー。ほんと・・・向こうの棚にマーくんの写真がね。・・・ま、いいかもう昔のことやし。(鞠子)」

 

何かに躊躇った表情となった鞠子はテルヒコに頼む。

 

「テルヒコちゃん、よね。あんた。ごめんテルちゃん私眼がこんなん(盲目)だから、さ。横にお茶碗あるでしょ。あなたも食べなさい。」

 

「あ、いや俺は・・・!良かったら、なんか作りましょうか!?・・・ええと」

 

「頼んじゃっていいかなあ。助かるわあ。(鞠子)」

 

テルヒコは黙々と野菜を剥き始めた。

 

「・・・上機嫌ねえ。あっ美味しい!(鞠子)」

 

テルヒコは自らに関係する人物と出会えた気がして内心嬉しかった。そして、いつになくキッチンでいつにない明るい表情(かお)になっていた。

 

「え?!あの神社にそんな絵馬が?(テルヒコ)」

 

「おもしろいでしょ。大善くんかなりはまりこんで調べとったねえ。神社の伝説は・・・。(鞠子)」

 

「あそこの祭神は、たしかアマテラスだったはず。(テルヒコ)」

 

「橘家が管理する頃には色々わからなくなってたんだけども。(鞠子)」

 

「あんたも、橘の血が入ってるんだよ。(鞠子)」

 

「千里(せんり)ちゃんの、ね。大善くんの一人娘だからあんたの・・・。(鞠子)」

 

「オレの、お袋・・・!(テルヒコ)」

 

クロウの手により断たれた記憶の接点が目の前の彼女(鞠子)の記憶の中に微かに残っていた。

 

テルヒコは忘れた母親の名前(千里)をそのとき再び知ることになる。

 

「もう家がバラバラで橘→野村姓だから、野村千里だけどね。彼女も・・・。(鞠子)」

 

「じゃ、橘家はいまもあるんですか?(テルヒコ)」

 

「いはするけど、若いのはほとんどみんな県外に出ちょるし、古参の存命の連中はみんな頭の固い年寄りで音信(おとさた)は途絶えちゃったかなあ。(鞠子)」

 

「海さんのところも連絡先がみんな急に消えてて。バッタリ。」

 

「親戚の琢磨くんも消えて会社から、なくなってたんだって。そういうスジの連中ともめたのかしら。(鞠子)」

 

「クロウがやったんだ・・・やつらならやりかねない。(テルヒコ)」

 

「つまりは、海家はオレだけなのか・・・。(テルヒコ)」

 

「お袋の住所は今は・・・?!(テルヒコ)」

 

「エッあんた千里ちゃんの、知らないの?!(鞠子)」

 

「そりゃーさすがに私も・・・。アラまぁー。(鞠子)」

 

希望を見出だしかけたつかの間肝心の手がかりが消失しテルヒコは落胆した。

 

(大善が宮崎に隠居生活をして、大学の若者と積極的に関わろうとしたのも後進を育てるための思惑だったのでは。神社にある神宝のことも・・・。他の親類と距離をあけたのはクロウから守るためでは、と思えてきた。)

 

すべてを知り得る傍証はない。

 

「うわっ。カミサマの名前ってありすぎるんだよなあ、いまだに誰が誰だかわかんねーし・・・。(十蔵)」

 

神社のケースの中から出てきた三冊ほどの古文書。十蔵はかすかに読み取れる記述から、その神アマテラスの名を見つけた。

 

「・・・なんだ・・・天照皇太神の荒魂(あらみたま)って・・・」

 

膨大な情報のなかには、アマテラスの荒魂(アマテラスの勇敢な心=荒魂)の別名とされる海家の祖神の名前(マガツヒノカミ)が載っていた。

 

マガツヒノカミはアマテラスの悪を憎む強い心を表現した女神とされるが、神話にて「※黄泉の国の穢れからうまれた女神」とされた。

 

※黄泉の国=死者のゆく穢れた国。日本神話では女神イザナミが黄泉にゆきその体は腐敗し蛆がたかり、夫のイザナギは逃げ出してしまったという。

 

(八十禍津日神は大祓詞のみに登場する川の女神(瀬織津姫)とされる。伊勢神宮においてもアマテラスの荒魂は祭られている。)

 

(注・マガツヒノカミとマガツカミは別の神。)

 

江戸末期の写本であろう古文書の中に描かれていた着物を纏った女神らしい姿の絵。

 

「(何枚かページを捲る)・・・豊(ユタカ)?これが神社の・・・。(十蔵)」

 

「いや・・・読めねー、まったくわかんねーなー。」

 

古文書に記載された文書を詳しく読み取ることができなかった十蔵は、携帯にて写真を三枚ほど撮影し書類を整理して神社を後にした。

 

 

 

 

 

 

episode.9 戦いのすべて

 

 

 

 

テルヒコの拳は固く握りしめられていた。

 

「つまりこれは・・・。一族もろとも、弾圧ってコトかな・・・。俺たちがクロウになにをしたってんだろう。」

 

どうしてここまでやれるんだろう。男はそのとき改めて悟った。それが原動力だったのだと。

 

自分を突き動かす怒り、ただならぬ執念でクロウを、九尾を。石上を追い続けたこれまでの戦いの日々に想いを馳せる。

 

自分の命を棄てようと、「組織クロウを打倒する」という意思。目覚めたときからオージ(テルヒコ)は迷いのない戦士だった。迷いなどなくその剣(テラセイバー)を振るえた。

 

邪悪への怒り、それは理屈ではない。

前世からの戦いの記憶。敵をこの魂が理解していた。

 

アマテライザー(ユタカ)の意志が呼んでいたからということでもあった。

 

「・・・あんた。(鞠子)」

 

「鞠子おばあさん、うちのじいちゃん考古学者だったじゃないですか・・・。」

 

「だから聞いていいですか。千年以上も前、戦争なんてやっぱり昔からたくさんあったと思うんだけれど・・・。(テルヒコ)」

 

「うん・・・。(鞠子)」

 

銀色のキッチンで、テルヒコの片手には赤いリンゴ、そして反対の手には冷たく光る包丁があった。

 

いつも武器を握るテルヒコの手に握られた包丁は、自らの古代女王国から戦火を逃れたあの日の禍々しくも、おどろおどろしい記憶となりフラッシュバックし、イメージの中に溶けてゆく。

 

絶望の火。

 

あのときも自ら所持していたのは護身用の剣くらいだった。あとは何の用途か知れぬ鏡だけ。

 

生身で炎の中をくぐり抜け。

 

彼はあのとき、見た。

 

人間の真実(カルマ/業)をー。

 

戦いに破れたものが、どんなラストを迎えてしまうかを。

 

そして、自ら最も愛した世界さえー。

 

男は回想する。今でこそ平常を保てるが、あれから150年くらいは自分もなりふり構っていられなかった・・・。

 

ジャー。水道の水が、ボタボタと流れおちる。

 

「刃物で指切ったときって痛いですよね。たまたま手違いで皮がビッて剥げたりしたら最悪だ。(テルヒコ)」

 

「あーぞっとするわよ。痛いよねえ。(鞠子)」

 

「昔の人っていうか、戦って捕虜になった人たち。・・・どんなに大変だったんだろう。(テルヒコ)」

 

静かに指を滑らせ、彼はリンゴの皮を、強く剥(は)ぎ取るようにして包丁を動かした。

 

まるで獣の硬い皮を強く剥ぎ取るように。

 

それは彼の・・・当時捕虜となり捕らえられた(その記憶)をリアルに誘発させた。

 

「(ハハハハ!こいつこんなになってもまだ生きてやがる!)※敵の声」

 

「心もからだも・・・。助けてくれとか言う間もないくらい。」

 

「苦しくて辛い、痛かったんじゃないかな、そう思うんですよ・・・!(テルヒコ)」

 

傷付く指から流れた血。

 

「大丈夫かい?怪我したの?(鞠子)」

 

「なんでもないです・・・。(テルヒコ)」

 

戦うべき存在がいること。

 

全身の血、細胞が知っていた。

 

忘れるものかと告げていた。

これまでのすべて、その本能が告げていたのだ。

 

「アンタ、泣いてんの?(鞠子)」

 

「いえ、ぜんぜん。本当痛くって刃が・・・。(テルヒコ)」

 

「すみませんちょっと水を・・・」

 

その鮮血の炎のなか嘲笑する魔物、敵兵たちの笑顔がのし掛かるようにフラッシュバックする。

 

そしてなにより。

 

自分のことならまだいい、まだ忘れられるー。

 

大切な存在がそうなったら、果たして人間は正気でいられるのだろうか。

 

そしてまた。

 

そんな筆舌に苦しむほどの、罪なき人が絶望の渦中に堕ちる状況を「楽しめる」「観賞できる」人間が存在する恐ろしさも男は知っていた。

 

「ぜったいに許せない」

 

そのとき、人間は人間でなくなるー!

 

無言のテルヒコをよそに鞠子は続けた。

 

「ねえねえ、あんた。ちょっといいかしら。みんないないから言うけど。(鞠子)」

 

「こないだ神社に知らない女の子がね、来たのよ。不思議でね。(鞠子)」

 

「笑わないで、聞いてくれる?びっくりしてさ。(鞠子)」

 

「はい。(テルヒコ)」

 

「わたしその子に。80年前子供んときも出会ってんのよ~。覚えてますか?って。本当にびっくりして。(鞠子)」

 

「あの、奥宮さんにね、親戚とみんなで行ったとき、身内のね康子も初枝も・・・みんな私がボケたボケた言うから怒ったのよ。(鞠子)」

 

「鞠子さんはボケてない。・・・・・そのこと、教えてくれませんか(テルヒコ)」

 

「キオクしてんのよ。私が子供の時にはよく見てたんだけどね。いつぞや見えなくなっちゃって。」

 

「最近目が見えんごとなってからまた。もうほんとに、とってもきれいな。弁天様みたいな美人さんやった。浮世離れしとったわね。(鞠子)」

 

「・・・知ってます。その人。(テルヒコ)」

 

「特徴言える?(鞠子)」

 

「優しい顔をしてたでしょ。(鞠子)」

 

「よく子供らも遊んでもらったりして。みんな貧しかったし、嬉しくって。不思議に思ってたけど、なんか居心地良くって夢見てるみたいでね。私も子供だったから・・・。大人がくるとそそくさと、ひょいっと消えちゃって。(鞠子)」

 

「悪霊退散するわ!とか冗談いって。(笑)(鞠子)」

 

「本当に、弁天様なんやったとかな。なあんてね。(鞠子)」

 

「ユタカがそんな、知らなかった・・・。(テルヒコ)」

 

「いまそんなことあってもなかなかそんな信じられんけどね。私も汚れてきたから。アハハ。(鞠子)」

 

人生の酸いも甘いも知り尽くしたある意味(老兵)とも言える鞠子。

 

シワの刻まれた優しいその顔、テルヒコは彼女の(自分の姿が映らない)眼を見つめていた。

 

「でもときどき・・なんか寂しそうな顔してね。(鞠子)」

 

「でも。大人んなってみんな町を出ていってからそれっきり。(鞠子)」

 

「・・・・・なんだかそのしゅんとなった、顔を思い出したら居たたまれなくなって、すごく気になって。またいつか会えるかなって。だから今は安村の家でも私が、神社の当番をしてるんだ。(鞠子)」

 

「眼がひらいとったらどんなによかったか。(鞠子)」

 

どんなに傷だらけになっても、心は。

 

いつも傍で笑って

 

辛いときもそう

 

ユタカは昔から。

 

男勝りで強く、優しかったけれど、

本当はガラス細工のように脆かった。

 

人を動かすほど、その透き通った心は美しかった。

 

「ああ見えて、繊細だから・・・。(テルヒコ)」

 

「あんた、何だかよく知ってるのね。・・・

なんかあんたと話してると大善くんと話してるみたいよ。(鞠子)」

 

「俺のじいちゃんは彼女を知ってたんですか?・・・(テルヒコ)」

 

「いや、多分知らなかった・・・と思うよ。(鞠子)」

 

「そっか・・・(テルヒコ)」

 

「なによ、急にだんまりしちゃって~(鞠子)」

 

「いえ、俺もいろいろ思い出して。(テルヒコ)」

 

鞠子のペースに圧倒されながらもテルヒコはこれまでの戦いの日々を想い出していた。激動の戦争期を生きた彼女の横で人間の闇から産まれるその影と戦いつづけた青年の思い出。

 

「自分にとって忘れられない記憶だから・・・。」

 

長い時間、その闇を共に戦い抜いたユタカとの記憶を。

 

 

 

 

 

 

 

episode.10 怪人だった。

 

 

 

路地裏を出たその男は、目に染みる程立ち上る工業スモッグで濁った、

 

第二次大戦前夜の妖しいケダモノ共が蠢く夜の街をふらふらと歩いてゆく。

 

時に昭和16年。1941年-。

 

「旦那さま、僕が・・・戦争にいくんですか?まだ」

 

雅也(その男、まさや)は町一番の資産家であった井上秋健(いがみあきたけ54歳)に対しはじめて人間らしい驚きの顔で答えた。

 

「タダ飯を喰わせてもらったせめてもの償いだ。やつの身代わりになるのは当然だ。貴様がシュウジ(息子)を殺したんだからな・・・。(井上)」

 

「ぼ、ぼボクはそそんな。ただ坊ちゃまと遊んでいただけ・・・(雅也)」

 

「これもなんだ?石上家(いそのかみ)の因縁か。お前にはその生き方が似合ってるよ。(井上)」

 

井上の眼は、のちのカラス男である石上雅也(いそのかみまさや17歳)をまるで

 

人ではない人畜以下の豚の食料(堆肥)か何かであるかのように見つめていた。

 

当時軍への召集は満20歳以上とされていた。雅也はこの時まだ未成年である。(※自ら志願すれば17歳から徴兵検査を受けることができた。)

 

「お父様、こいつをこれ以上育てる必要ないよ。うちの血が汚れるヨ・・・。(利樹)」

 

井上の息子である利樹(18歳)が成長しない悪戯(ざんこく)な目線を雅也に送り、

 

父(井上)の座るソファをジメジメとしたその手つきで撫でまわす。

 

理髪師の手によって綺麗に剃りあげられた、油臭いしんさい刈りの利樹(井上の息子)。

 

「そうだな、もう用はない。このゴク潰しがっ・・・・・・・(井上)」

 

奈良県で生まれた雅也は、幼い時節母親を亡くし、優しくも厳格(スパルタ)な神道研究家の父、

 

かの有名であった石上西湖(いそのかみせいこ)のもとで神道の知識や郷里の自然に触れ

 

虫取りなど子供らしい遊びをしながら育った。

 

明治期、かの超能力者である御船千鶴子の念写実験などで世間を騒がせた

 

福来友吉氏(高野山大学教授)の思想や研究、主に彼の著書などに雅也の父は傾倒していた。

 

神々の伝説発祥地である宮崎(このばしょ)に興味を持つ父の長年の夢ということもあって

 

雅也が産まれた数年後石上家は宮崎へと移住することになる。

 

父と子は穏やかな愛情と記憶のなかしばらくの間ささやかに、平和に暮らしていた。

 

14歳の頃、西湖が窃盗犯を捕まえようと乱闘した際に犯人より刺され、

 

結果雅也の父は死に、彼は親戚であった井上家に引き取られた。

 

二人の息子、利樹と修司から数年にわたり受けてきた迫害の数々は、常軌を逸していた。

 

優しかった雅也のこころを支配し粉砕するのはのちの戦争よりも、彼ら二人から受けた精神的ショックのほうが

 

はるかにその割合を占めているといっても言い過ぎではなかった。

 

「・・・・・(雅也)」ガチャリ。

 

アールデコ調の洋館、重い空気の部屋を出た雅也はその奥でなにやらけたたましい笑い声を聞く。

 

その頃の彼には幻覚の兆し、幻覚と入り混じるように見える魑魅魍魎の声が聴こえ始めていた。

 

「奴が・・・やつが俺を呼んでるんだ・・・・(雅也)」

 

半裸になった傷だらけの雅也は、あてがわれていた自分の部屋に引きこもり、父が好きだった本や、大正、明治期の超能力者の

 

新聞記事を食い入るような目で見つめていた。

 

父の読んでいた古書の中には石上家の家伝にまつわるものもあった。

 

そのうちの一つには、古代ソロモン王が呼び出した72人の悪魔各々の印章が記載された(ゴエティア)にまつわるものがあった。

 

父が本来廃棄するつもりで一緒に風呂敷の中に片づけておいたものだったが、雅也の興味はもっぱらその内容にあった。

 

「・・・へえ、こうすればいいんだ・・・・父さんの本に載ってたやり方と同じだ。えへへ。」

 

雅也の部屋に置いてある無数の瓶に詰められた虫たちが不気味に蠢いていた。

 

雅也はこの時から本格的におかしくなってしまっていた。

 

町のとある一角で、なにやら仰々しい色彩のペンキで塗られた見世物小屋の看板が

 

人々の視線をさらっていた。闇市のはずれで商売をやっていたのは、雅也とその若い仲間たちであった。

 

「なんでも今日は、クダンが見れるらしいぜ!(その噂にテントへと寄ってきた人々)」

 

「なんでも今度の戦争が起こるって預言したっていうんでしょ?そのクダンはあ。」

 

※件(くだん)=第1話登場した怪神ヨダキングのもととなった妖怪。

不吉な未来を予言する力がある件は宮崎椎葉村でも産まれ第二次世界大戦を予言したという。

 

全身にかけ黒いハイネック、黒いズボン、ステッキという装いの雅也は

 

爽やかな汗を流しながら、小屋の看板以上にひきつった仰々しい笑い声で観客にたいし呼びかける。

 

「は~い寄ってらっしゃい見てらっしゃい!蛇女、人間ポンプにろくろ首、

今度のめだまは妖怪「件」の剝製だ~!(雅也)」

 

「すげえ!ニイちゃん、ほんとに件(くだん)の剥製なんてあるの!(町の子供)」

 

「お~ぼうや件を知ってるのかい。そうだよぉお、くだんがくるんだ!おもしろいぞぉお~(雅也)」

 

「・・・・・・楽しみ!クダンだクダンだー!(子供)」

 

井上兄弟からの折檻に怯えいつもおどおどしていた雅也は、それとは正反対に自分の商売の時や、

 

とりわけ大勢の前に立つと人が変わったように明るくオープンな性格に豹変していた。

 

それまでの自信の無い自分を隠したいという反動からというのもあったが、井上家の抑圧から解放されるという気持ち、

 

見世物小屋という場所が持っている妖気のようなモノが皮肉にも格別級の好奇、高揚感となり

 

雅也の心を高ぶらせるのだった。

 

見世物小屋を仕切る若き日の雅也は、好奇心が抑えられず集まった子供たちに、

 

摩訶不思議な奇術の数々を見せその目を楽しませた。

 

アクロバティックなサーカスを披露する者、そのなかにやたらと生々しくグロテスクな存在感を放つ(化け猫)がいた。

 

「ニ゛ャ―!そんなもぞなぎいことするな!(炎に包まれた化け猫)」

 

「うわあ怪物だー!」

 

「心配するな取って喰いはしない。みんなみてな!(雅也)」

 

小屋の裏にいるのであろう甲高い声の男によって説明(ナレーション)がはいる。

 

「きたぞきたぞ~!」

 

「わ~!かっこいい~!がんばれカラス男!」

 

「怪奇極まるファンタジイ!夜のマチに現れたピカレスク大神秘!悪党どもをバッタバッタとなぎ倒す、闇より来る怪人!」

 

「私の正体はなんと、セイギの怪人!大夜叉ガラスなのだ~~!(雅也)」

 

「うわ~すげえ!か~っこいいぜ!(ぱちんと指を鳴らす子供たちの歓声)」

 

「カーーーカッカッカッカ!そうだろう?!かっこいいでしょう?私が来たからには、もう安心だぞ・・・!それェエーーーっ!(雅也)」

 

黒いペンキで塗られたブリキのお面。多分翼をイメージして作ったのであろう主翼。

 

「ェエエエええいいイイイイ゛ッ!!(怪人カラスの奇声)」

 

当時の大人の眼をして見ても貧相(チープ)で手作り感にあふれた"カラス男"の面をかぶった雅也は子供たちの歓声を背に

 

炎に包まれた化け猫めがけ、外見に反して七転八倒キレの良いアクションを展開した。

 

「にゃーやめろー!だれかそこの箱に、(わかってるでしょ、そこに、お金を入れてね♪というゼスチャー)ぁああたすけてくれぇえくるしいよー!(化け猫)」

 

「はよう改心せい!おまえが悔い改めたら、とどめにこれ(スルメイカ)をやろう!(雅也)」

 

「ぐぁあーーーー!やられたあー(化け猫)」

 

「・・・これやらせなんじゃないのお?・・・・(子供たち)」

 

当時時代は所謂サブカルチャー、30年代流行したエログロ・ナンセンスの空気が町のなかかすかに漂っていた。

 

舞台裏にて。

 

「・・・タイショー、もう殴られるのも疲れたにゃ。人間どもやガキンちょ相手にずっとこんなヤクザなお仕事続けていくのかニャ?(化け猫)」

 

見世物小屋で怪人カラスと切れの良いアクションを繰り広げていたその化け猫は、実は作りものでない本物であった。

 

のちの化炎神モゾナギンガー(本編第2話登場)となる猫、どこではぐれたのか。魑魅魍魎のうちの一匹である。

 

「安心しろ。こ今度墓場に連れていってやるから・・・。そこでたァんと(死人の魂を)喰らえばいい。それに井上の息子も・・・。(雅也)」

 

「ほん、ほんとニャのかそれはぁあー!やったー!やっぱりそれでこそ俺たちのおやぶんだぁあー!大好きニャヨーん!(化け猫)」

 

「ニャよーん、てなんだ。わかりやすい猫なで声だあ。(雅也)」

 

「おいマサ!火輪(かりん/猫の名)!メシメシ、メシの時間だぞ!(見世物小屋の仲間)」

 

「あら、やだ~!(人間の姿へと化けた化け猫)」

 

のちの(本物の怪人)カラス男として暗躍することとなる雅也の脳裏にあったこのころのやりきれない情景。

 

見世物小屋にあった張りぼての小道具。友人たち、子供たちの楽しげな顔。

 

様々な奇怪でおどろおどろしくもほろ苦い愛憎(あいそう)の光景がのちの着ぐるみの如き容姿の怪神(かいじん)軍団を産みだす源泉、

 

そのインスピレーションとなっていたのかもしれない。

 

 

 

 

 

episode.11 闇夜を翔ぶ

 

 

 

そのほろ苦い記憶も戦時下において、一瞬のうちに忘れ去られてしまった。

 

1945年。

 

昭和20年3月18日、宮崎市は初の米国による空襲の被害を受けることになる。

 

戦時下の争乱期のなかで繰り広げられた命の駆け引きー。

 

人々の貧困はさらに激しいものとなり、必要となる物資は戦争のためその多くが担ぎ出されていく。

 

※「八紘(あめのした)を掩(おお)ひて宇(いえ)にせむ」出典『日本書紀』より

 

八紘為宇。日本の古き神話においても登場する世界を一つの家にする、という平和のスローガンは大戦下において

 

日本軍による侵攻を正当化するものとして間違った方向に解釈されていた。

 

ズガガガガ!

 

戦地の果てで飛び交う銃撃音。

 

雅也は人間の理性を崩壊させる地獄(そこ)にいた。

 

ブシュウ!

 

飛び散る人間の臓物(パーツ)を勢いよく引きちぎりその胴体ごと即座に蹴り飛ばす。

 

「うぁあ・・・わあああああああああ!!!!」

 

軍刀を振るうかつての彼、石上雅也は「剣を振るう喜び」に酔いしれる自らに恐怖した。

 

経験値=戦闘のポテンシャルを獲得すればするほど、自分は着実に人から遠ざかってゆく。

 

中国戦線のさなか。

 

第50師団(台湾歩兵第一連隊)のメンバーは、東南アジア、南方方面の戦いののち、

 

とある大陸の現地民に対する掃討戦のため、この地に送り込まれていた。

 

その場所において、正気でいられるものはどこにもいなかった。

 

それでも当時自分の心を支える絆(モノ)がなかった雅也は曲がりなりにも

 

みずから軍が掲げた唯一の正義を信じることによってその歪んだ精神に安楽を得ようとした。

 

それも彼はある意味免罪符として、雅也は戦地における闘いの中、(自分が自分で無くなるハイな感じ)に

 

憑りつかれてしまっていたからである。

 

それは雅也(かれ)にとって聖戦であった。

 

この戦いが続いたらどうなるだろう・・・

 

そんな恐怖、妄想がじわっと彼の胸の中に去来する。

 

無抵抗な弱者へ向けられた銃口。雅也は赤ん坊を抱えた母親に向け銃を突きつけていた。

 

ついにこのときがきた。

 

「・・・・!!」

 

日が暮れた。

 

彼の周囲に流れる時間はあっという間に過ぎ、光の如き速さで流れる死人の魂が

 

彼を冥府へと誘っているかのようであった。

 

雅也自身の心はもう既にこのころには死んでいた―。

 

倒し、倒された者たちの呼び声。

 

禍々しい闇よりの使者を呼び出すエネルギー

 

非業の苦しみ、無念の死を遂げた死者の魂は怨念となり、黄泉の国の蓋をひらくに相応しい霊気(パワー)となって

 

その主たる九頭龍王(くずりゅうおう※九本の首がある竜)の眠れる力を現世へと呼び戻さんとしていた。

 

「・・・・・・おまえ、だれだ?(雅也)」

 

「・・・ワレハイブキ(九頭龍)」

 

赤く光る眼光。亡霊(ファントム)・・・。

 

その巨大な雅也の心に出現していた闇は自分を見つめ、微笑んでいるように思われた。

 

雅也は、虚無の空間の中でその巨大な黒い影と対峙していた。

 

それらはある意味ではピュアな漆黒、屈折した・・・まるで子供の時に母に抱かれ、

 

寺で見た地獄の獄卒の如き亡霊のビジョンであった。

 

「石上・・・・!おい石上起きろ!(奥寺)」

 

中国の農村解放区-。

 

夢の中で笑みを浮かべていた闇に堕ちゆく雅也の魂は、

 

戦友(とも)であった仲間である奥寺の揺さぶり起こす大声によって瞬時に現世へ引き戻されていた。

 

「・・・日本軍(みんな)・・・(雅也)」

 

援軍が、同胞が来る―。それは彼にとって、けして嬉しい状況ではなかった。

 

日本兵、石上雅也は、ついに逆上し上官を射殺したのだから。

 

「おい雅也、こいつ(上官)は俺がどうにかしとくから。わかってるよな。」

 

「・・・・・・・アッハハハハハ!(雅也)」

 

転がる上官、そして人々の遺体を見た石上は、何かの張りつめたものが断ち切られたかのごとく

 

周囲へ撃ち散らかし、死人の山が出来上がるのにそう時間はかからなかった。

 

死者の国より向けられるその瞳は、雅也へじっと向けられていた。

 

戦後の復興期。依然として町の中に闇市は残っていた。

 

「あ!オヤブンだぁ!ぉおおーいオレだよォ―!(火輪/化け猫の人間態)」

 

町の中で怪しまれぬよう女性へ変身していたかの化け猫(雅也の当時の仕事仲間)は、

 

同僚であった雅也を街中で発見し嬉しさのあまり笑顔の全力で駆け寄った。

 

(化け猫はもともととある老夫婦に飼われていたオス猫だったが、人間界に蔓延する

 

邪気の干渉によって怪物化し、魔性を持った赤猫として人里で悪事を繰り返していた。)

 

最初こそ己の単なる本能で活動していた赤猫であったが、まるで飼い猫が人に慣れてゆくように。

 

自分の姿を見て一切驚かなかった雅也や見世物小屋にやってくる子供たちと交流するうち

 

どこか人間臭さを獲得しているようだった。

 

子供に突っ込まれ容赦なくイジられ、ひどい場合ポコポコ叩かれても、楽しかった。

 

だって仕事が終わればみんなでコタツの上で鍋を囲めたから。

 

それくらいの時間が荒んだ当時の現実の中彼の中に流れていたのである。

 

「・・・・・(雅也)」

 

「ど、どうしたんニャ!おまえなんか印象変わったにゃあ・・・。(赤猫)」

 

自分にやさしく接していた雅也の表情が、眼付が変わっている。

 

それこそ凄まじい、※真蛇(しんじゃ)の如きの眼差しに。

 

※真蛇=能における鬼女の最終形態。生成→般若などと進み最終的に真蛇となる。

 

魔性を持つ赤猫にはそれが見抜けた。

 

オヤブン怖い。だが同時に、どこかで何よりそれを喜んでしまえる心があった。

 

やったーこいつは俺らの同胞(なかま)になるぞ・・・・。

 

という確信が一瞬うかんだ。だが・・・それでいいのかしら。ほんとうに、そんなになっていいのか。

 

俺はそれでいい、でもオヤブンは人間だろ?

 

どうして俺は躊躇う?オヤブンが仲間だからか。どうしてなんだろう。

 

彼はまだ気づけなかった。

 

「おい!オヤビン!まてーーーーーーーい!!!(赤猫)」

 

全力で走り雅也の影を追う赤猫だったが、闇市の人ごみの中ついにその姿を見つけることはできなかった。

 

雅也たちの見世物小屋は無くなり、雅也を知る友人たちと彼の音信はぱったりと途絶えていた。

 

「おい、いくらなんだよ?(路地裏の男)」

 

虚ろな表情で歩く雅也は路地裏で屯する男たちに手を掴まれ、どこかへと行った。

 

「お兄さんたち、そいつ、ボクが買ったよ。(銀髪の少年)」

 

色素が抜け落ちたかのような白髪(アルビノ)の如き銀髪。

 

茶色のハンチングに品のいいベストを着たその10代後半くらいくらいの雅な雰囲気の美少年は

 

雅也を囲む屈強な男たちめがけつぶやいた。

 

「ほう、いいぜ、おめえさんはいくらだよ・・・?(男)」

 

「値段をきける口かい。官僚のジジイ相手だったら教えてやってもいいけどぉへへ。(少年)」

 

少年は鼻を指でこすり何の事を指すかわからぬ"その値段"について答えず、

 

一人雅也の肩に腕を回し優しく男たちから引き離そうとした。

 

ガッ!「そう固いこと言わずにぃい~!(男)」少年の腕をつかんだ男を見つめる彼の眼の中には、

 

金の虹彩の中に獣のような縦線がピシり走っていた。

 

「う・・・ぐぅう・・・・このガキ、なんちゅう力・・・(男たち)」

 

一人の男の首を掴んだ少年は、皮肉を並べ立て挑発する。

 

「そんなに・・・自信過剰なこと言われてもさあお前。(謎の少年)」

 

「すまないね、キミらみたいな土工は興味ないんだよ。よそあたってくれ。(謎の少年)」

 

「これやるからさ、いいでしょ?風邪薬。意味わかんでしょ。フフ(謎の少年)」

 

少年が男らに渡したのは、得体の知れないカプセルであった。

 

戦後の日本全体を覆っていた暗闇(ダークサイド)。

 

その銀髪のハンチング帽の少年と黒づくめの雅也は旧知の顔なじみであるかのように二人路地裏を歩いていった。

 

泥にまみれた靴。二人のあいだ無言の時が続く。

 

昭和初頭の暗黒に覆われた街並みで、性別はもとより出自・不明を絵にかいたかのような容姿の少年はいきなりこう切り出した。

 

「ボーイミーツ・・・なんとかってね。(少年)」

 

「楽しい仕事紹介しようか。困ってんだろ。(少年)」

 

「・・・ちゃんと食べてるぅ?こんなにげっそりしてさ。(少年)」

 

パシン!少年の手を振り払う雅也。

 

「触れんじゃねえよ・・・!どど、どっかいけ・・どっか。(雅也)」

 

「あんな商売。キミも随分とまあ、ケガれてるようじゃないか~・・・。(少年)」

 

「しょうがねえだろう。・・・同業者か。貴重な売り上げなんだ、なんてことしてくれやがる。

・・・金はあんだろな。(雅也)」

 

「へへ・・・それより、おいそこの!(赤猫を指して)

居るのは分かってんだよ・・・!出て来いよ。(少年)」

 

電柱の影にひょっこりと隠れていた赤猫であったが、

そのやりとりを見続けているうちにうっかりと体の大部分が電柱からはみ出してしまっていた。

 

「にゃー、ニャンで俺のことが分かったんだー!(赤猫)」

 

「わかるよ、そりゃ。(少年)」

 

「おまえ、火輪(カリン)じゃないか・・・元気だったか。(雅也)」

 

「オヤブン、俺に・・・気づかなかったのかニャイ?(赤猫)」

 

目をぱちぱちさせる赤猫(カリン)。

 

「お前(赤猫)もボクの手下になれ・・・。(少年)」

 

「怪しい商売じゃねえだろうな。おめえさん、なにもんなんだ・・・(雅也)」

 

「・・・興味あるでしょう?ボクの下で働いてみないかい?(謎の少年)」

 

「むろんさっき言ったのは・・・ボクが支払う下請けのギャランティだ。

キミを虐待した井上家もぜ~んぶ買収しちゃえばいいサ~。

それにっ、キミのお父上・・・石上西湖の古文書もあんだろ?」

 

「そこを僕たちの事務所に。とっかかりの前線基地にしようヨ!(謎の少年)」

 

「どこで俺の身柄を知ったんだい?チビ助、見るからにお前、探偵家業か?いいー身なりだが(雅也)」

 

「食うには困らぬ、金はあるようだな。(雅也)」

 

「ぼくにかかればなんだって造作もないことさぁ~。生かすのも、"殺すのも"ね。(少年)」

 

「・・・?!っ・・・じゃあ、テメエが・・俺ん父さんを?!(雅也)」

 

「ギャハハッ!!いっくらなんでもそんな無算(むさん)はやらない。

欲しいものはないかい?僕に言ってみればいい。すべて思いどうりさ。(少年)」

 

「それじゃ、(雅也)」

 

「人の・・・心は?(雅也)」

 

「それもいずれ手に入る、僕と来るならばね。(少年)」

 

「殺したい、人間とかいないの・・・?(少年)」

 

「お、お前にゃんてことを・・・!(赤猫)」

 

「あはは!けなげだネお嬢ちゃん・・・・・此奴(こいつ)のこと好きなの?誰だってぶっ潰したい奴の一人や二人いるでしょ?(少年)」

 

「シャー!て、てやんでぃ!だだだだだだっだだ誰がおめえなんかと!もぞなぎい~!

・・・俺はこれでもれっきとしたヤロー(男)だーい!シャー!

オヤブン(雅也)の子分なんだぞぉお、(赤猫)」

 

咄嗟に訴える赤猫の突き出た(猫の尻尾)を凝視した少年の笑顔が、

一瞬ヤクザのようなドスの効いた表情(カオ)へと変わる。

 

「キミも"そんな芸(人への変幻)"ができるんだ。」

 

「・・・ならよ、ォイ、ズが高いってもんじゃねーか?

このボクが誰か知ってお前、そんなことが・・・・言えるんだ・・・。(白銀の尻尾を出す少年)」

 

「・・ぁああ・・あ、アニャタは俺らの中で伝説の・・・!(赤猫)」

 

赤猫はそのただならぬ美貌の少年のオーラから、同じ魔性の物が放つ特有のサガで察した。

 

あまりに危険

 

このお方は、自分たちなどでは到底太刀打ちできぬ。

 

※凶党(きょうとう)だニャ・・・。

(※凶党=悪党、悪いヤツの意味)

 

震える赤猫を見つめる少年の瞳は、真っ赤な血のアカに変わり

 

妖しく不気味な妖気が突風となって放たれ、雅也、赤猫、靡く少年の九つの巨大な尾を揺らしていた。

 

「石上雅也、召集令状の次はこっちだ。僕の懐へ来なよ。(鴉の絵が描かれたカードを彼のもとへ投げる)」

 

「キミは無意識にカラス天狗を模倣していた・・・・・。(少年)」

 

「これは定めなんだよ。血が騒いでいるはずさ。奴らを根こそぎ倒せってね。(少年)」

 

「陰陽連特務機関・・・・・・・お前も、ぉおおおおおおまえも魔物(そう)なのか?!(雅也)」

 

そのカードに描かれたカラスを見た時、いつになく精神異常者の如く沸き立ち興奮する雅也。

 

そのとき彼の人生は、産まれて初めて一抹の真実の光の中にあるかのようだった。

 

雅也の眼が、何かを悟ったように生気を帯び、黒く見ひらかれる。

 

「ぁはははは・・・・・・・あはははハハッハーーッハハハハーーーーーーーーーーーーーーーー

超絶・ラッキイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!

まってぃた~~~~おれはっこれを・・・・イットウこの日を・・・・!!(雅也)」

 

「「浪漫」、だよね。会えた、大化の改新以降滅びた石上家の末裔・・・。(少年)」

 

雅也の瞳に、凛凛とした冬空に光る星のような輝きが戻っていた。

 

「キミしかいないんだよ。ボクはキミのようなのを待っていた。(少年)」

 

「誰よりも、素質のある奴を!(少年)」

 

獲物を見つめるかの如く、紅潮し舌なめずりする少年の眼は雅也の存在ただ一人に向けられていた。

 

「"僕の"・・・カラス会へようこそ!」

 

念波に呼応するかの如く、街の黒い鳥(カラス)たちが一斉に飛び立つ。

 

不気味な声を上げる鳥たちの群れ。

 

にやあっと笑う雅也の顔は、雅也ではなかった。

 

突如として雅也を勧誘(スカウト)しにやってきた謎の少年。

 

それが昭和初期の日本にて、石上雅也と行動を共にしていた、後の九尾の狐の姿であった。

 

 

 

 

episode.12 ~Inspire~交錯点

 

 

1938年、戦前の市街地-。

 

「・・・・・!お前、"あの時"の・・・。(雅也の父、西湖)」

 

後のカラス男である石上雅也の父、その男石上西湖の着衣に瞬時ひろがった赤黒く滲む血。

 

「これで万事整ったってことさ、石上西湖・・・!(謎の少年)」

 

突如現れた暴漢(謎の少年=のちの九尾の狐)に刺された西湖(マサヤの父)は、路上に崩れ落ち

 

ついに彼は、息絶えた。

(※雅也には、父西湖はひったくりに刺され死んだと伝えられている)

 

憎しみは時を超え連鎖、そして伝染(Inspire)する。

 

西湖がその少年(九尾の狐)に刺されたそのわけ、西湖と九尾の接点をつなぐその記憶は、6年前の出来事までさかのぼる。

 

―6年前、場所はとある森の中で。

 

その時少年雅也(8歳)は世にも言い表せぬ光に包まれたその存在(かのじょ)を目撃した。

 

橘の社。日奉神社、奥の院といわれた自然崇拝の跡がのこる巨大な谷、

人が歩いて容易に入れないような巨大な絶壁に流れる滝。

 

その奥で。

 

「だ・・・・だれかいる?・・・!(美しい!)(少年ふたり)」

 

激しい透明な水にうたれ、空から差す輝く木漏れ日に包まれた姿。

 

長襦袢と思われる白い着物を纏った人ならざる気配の彼女(当時のユタカ)がいた。

 

「・・・お、おいマー坊あの人知ってるか?!(雅也の友人)」

 

「わかんねえ。(少年雅也)」

 

茂みの中から遊びはぐれてしまった二人の悪ガキ、雅也少年と友人のミツルは

 

その神秘的な美しさともいえる、神々しい光景に目を奪われてしまっていた。

 

「あ、あのぉおー!(少年雅也)」

 

「?!(ユタカ)」

 

視線を感じた少年は、おそるおそる滝つぼの中佇んでいた彼女に大きな声で呼びかけた。

 

「ご、ごめんなさい!俺たち・・・うわ~!(少年たち)」

 

動揺のあまり茂みの中から落っこちてしまった雅也は、滝つぼの中へ落ち、

どうにか打撲を数か所受けたのみで助かった。

 

数分後、祠の下にある整地された広場に、少年らは連れられていた。

 

「すげー、こんな場所が山奥にあるんだなぁ。(友人ミツル)」

 

「大丈夫?あなたたち・・・よくこんなところまで来れたわね。(ユタカ)」

 

「俺たち、迷っちゃって。

お姉さんこの近くの人?・・・どうやってここにきたの?」

 

「・・・あの、山に住んでるわけじゃないよね?(雅也)」

 

少年たちの心は安堵のつかの間、得体の知れぬ恐怖に脅かされだしていた。

 

さすがにこんな誰も、人っ子一人寄り付くはずがないであろう・・・人里から遠い山奥。

 

移動手段も生命維持ツールも現代ほど発達していない当時、

 

昔の山は、今より遥かに命の危険と常に隣り合わせであった。

 

絵に描いた昔ばなし。どこかから恐ろしい容貌のカラス天狗が出てきそうな、

 

肉体的、精神的に自らをいじめ抜く修行者たちにしか好まれぬであろう絶壁。

 

ざわざわと不気味に動く木々と葉っぱ。自分らは、ほぼ遭難しているというのに。

 

こんなところに、こんな街中に絶対いないような上品な女性(ひと)が生活してるとは考え難い。

 

子供でもわかった。

 

ありえねえよな、ふつう。

 

それにこの異様な雰囲気はなんだ。

 

無垢な心を持つ少年たちの瞳をしても、彼女からは単に、容貌や雰囲気が美人というだけではない

 

言い得ぬ何か(表現不可能な力)が放たれている気がした。

 

(この人は、自分らの知る普通の人間と違う)雅也

 

(ケガれてない?・・・白、水晶?)ミツル

 

語彙力で表現するのに難しい、そんな・・・虹彩を刺すような目力。

 

表現できない漂白(センタク)された清涼感を、ユタカから少年たちは感じ、

 

茫然と圧倒されあっけにとられた。

 

驚きをよそに、ごく普通の返答をするものだからギモンは募った。

 

綺麗な人だけど・・・。

 

二人の心に同時にある、思いが浮かんだ。

 

人間じゃ、ないんじゃないか。

 

この人、もしかしたら雪女とか山姥とか、そういうのなんじゃねえか…。

 

もしかしたら俺たちさらわれちゃうんじゃねえか・・・あわわ。

 

いやそんなことない。こんなきれいな人がさ、悪そうには見えないし。

 

「住んでるわよ。ここに。(ユタカ)」

 

「え、ぇえーーー?!そうなの。(少年たち)」

 

「・・・食ってぇやるぅうぞー!(ユタカ)」

 

「うゎああああああああーーー!!!!!(少年たち)」

 

「!!!!!(笑い転げるユタカ)」

 

「はあ?(雅也)」

 

「・・・オモシローい。(ユタカ)」

 

笑みを見せたユタカは、穏やかな表情に戻り雅也たちに言った。

 

「だいじょうぶ、オバケじゃないから。・・・場所が場所だけど、迷わないよう抜け道がいっぱいあるよ。(ユタカ)」

 

「ほらそこにも・・・お行きなさい。わたしと会えてよかったわね。(ユタカ)」

 

ユタカが指さした先には、確かに修行者たちが交通のため整備したのであろうと思われる

 

茂みの踏みならされた通路が見えていた。

 

その奥には、無数の不動明王や救世観音らしき石仏たちが多数並んでいた。

 

ここは古来からの修行地で、魔物は寄り付けはしないのだ。

 

少年たちは、彼女たちの守りで命拾いしていたのだ。

 

「お姉ちゃん、ありがとう!ほほらおまえも礼言えよ!(雅也)」

 

「あ、ありがとうございます。(ミツル)」

 

ほほ笑むユタカを背に少年たちは石仏の並ぶ通路を潜り抜け家路に続く山道を帰っていくのだった。

 

「・・・ユタカ、あの子たちを狙っていた奴らは・・・。(テルヒコ)」

 

茂みの中から出てきたのは、修験者(やまぶし)の装束を羽織ったテルヒコであった。

 

(※日光で照らされ傷んだ黒髪は色素が抜け、この時代も髪の毛はくせ毛でウェーブがかっていた。)

 

「助かるわ、テルヒコ。あてにしてるわよ。(ユタカ)」

 

現れた山伏姿のテルヒコと、ユタカを待ち構えていたかのように黒い烏天狗(からすてんぐ)の面を

 

装着した忍者らしき密偵部隊たちが茂みの中から無数に顔を出す。

※当時のカラス会の構成員。同じ修験者、工作員部隊の亜流と思われる。

 

「・・・縄張り争いに子供まで巻きこむとはとんだ非常識ね。(ユタカ)」

 

ズガガガガ(機関銃で一斉にハチの巣にされるテルヒコ)

 

「・・・ッ!ハアーっ!(飛んできた2本のクナイを蹴り飛ばすテルヒコ)」

 

ガッガッガ!

 

遠くから凄まじいスピードで投げられた無数の鎖鎌がひんやりと冷たく輝き、

 

蜘蛛の巣を張り巡らすように鎖のバリアが周辺の木々へと展開される。

 

ぎりりと鎖鎌を引くカラス面の男が、テルヒコの眼を憎らしげに見つめ言い放つ。

 

「殺虫剤をいくら炊いても死なぬ。ゴキブリの如き生命力・・・羨ましいよ・・・」

 

「・・・しっかし所詮貴様らも生身の男と女。我々も日々進化をしているんだ・・・。(烏天狗の面をつけた男たち)」

 

煙幕が山中焚かれ、数名のカラス面をつけた男たちが衣を脱ぎ去った。

 

「その首を頂くとしよう・・・やれるか・・・。かくなる上は!(烏天狗の面をつけた男たち)」

 

脱ぎ捨てられる無数の黒い衣。瞬時に秒速で多角関節に変形した魔性の土蜘蛛が奇妙な音を立て現れる。

 

体液にまみれ迸る唾液、一斉にとびかかる異形のクリーチャー(土蜘蛛)たち。

 

一触即発の事態は瞬時にしてバトルフェーズへと移行する。

 

「いくぞ!創聖!(テルヒコ・ユタカ)」

 

「その姿・・・・・・・・化け物が、かかれェエーーーっ!(カラス面をかぶった男)」

 

ユタカが即座に姿を変えた女戦士、麗神タチバナの輝く薙刀(マガツヒ)が土蜘蛛たちの胴をカオを粉砕してゆく。

 

テルヒコの振るう十束の剣(とつかのつるぎ=アポロンソード)の斬撃が血と共に勢い化け物の手足をむしり取り、叩き切る。

※十束の剣は神話内にて天孫の神々、(海幸山幸・スサノヲ・イザナギ)が共通の携帯武器として使用した。

 

「・・・・・ギッギャ嗚呼アア!!!!(光の矢で刺された土蜘蛛たち)」

 

「・・・・・いたのか、八幡神(ハチマンシン)!おそいぜ!(テルヒコ)」

 

「おいおい静かにしといてくれよ。手もとが狂うだろお。(ごにょごにょ)殺虫剤とは不届き者が・・・。

あっ姫様危ない!(八幡神が矢をうち放つ)」

 

木の上にまたがり巨大な弓矢を冷静に撃ち続けていた坊主頭の(オリーブの袈裟に数珠を着用した)僧侶らしき男

 

八幡神が、オージ(テルヒコ)とタチバナ(ユタカ)をみてマイペース極まりない穏やかなる口調で話し続ける。

 

「こんな世になっても土蜘蛛退治に精を出さねばならぬとは・・・・。(八幡神)」

 

土蜘蛛たちを一網打尽に薙ぎ払うかつての戦士たちの群像、風土記などにて、変わり伝えられる"伝承の実相"がそこにあった。

 

戦いの後で―。

 

テルヒコは祝詞を静かに唱え、塚のような小山を数個周囲に盛る。

自らが葬った土蜘蛛、それはかつて生身の人間たちであった同胞の墓であった。

 

ただ、祈るしかない。心に同情の余地を開ければ、付け入られる。

 

だから、強くなるしかない。強くなって、その全てのマガを光へつなぐ仏の慈悲の領域まで。

 

金剛(ダイヤモンド)に変える鎧武者のようなその心は、その装甲(戦士の輝くボディ)となり

 

日神となったかつての亡国の王子(テルヒコ)の雄姿を天の下憚らせていた。

 

泣きながら鬼神に成り果てても、戦う。仲間(タチバナ、ハチマン)と共に剣を握る。

 

そこに自らを包む光が、やさしさがある限り。戦い続けていくしかない。これからも・・・。

 

自分にできることはそれだけ。

 

「優しいのね。(ユタカ)」

 

「優しいもんかよ。・・・この俺が(テルヒコ)」

 

「いや、ユタカにいわれたら、案外正しいかもな。(両指を鬼のように己の額に立てるテルヒコ)」

 

「どーいうことよ~怒るわよ!(ユタカ)」

 

「冗談だよジョーダン!むきになるなよ!(テルヒコ)」

 

「まるであの頃のようだな、姫様は・・・。(八幡神)」

 

ほほ笑む八幡神の姿は瞬時に老紳士の姿へ変化し、二人を見守りながら茂みをくぐりどこかへと消えていった。

 

「マイフレンド(テルヒコ・ユタカ)、山での修行も結構だが、里の行も忘れるなヨ。(八幡神)」

 

「そうだ・・・!俺はいかなくちゃいけないところがあった。

また通信を送る!八幡神ありがとう!(テルヒコ)」

 

「俗に戻るなら、滝に浸かってきなさい。(ユタカ)」

 

その日の午後、テルヒコは当時大邸宅であった石上家の門の前にいた。

 

「ここか、西湖(かれ)の道場っていうのは。(テルヒコ)」

 

天照皇太神-。

 

掛け軸が掛けられた石上家隣の武道場(試合中)。

 

「てぃやあああああああああああああっ!(テルヒコ)」

 

「はあああああッ!小手ッエーーーー!(西湖)」

 

剣道の試合を終えたテルヒコと石上西湖(雅也の父)は、手拭いで爽やかな汗を拭き

 

温かい日差しの中、武道場の庭で談笑していた。

 

「いやあ!先生の剣の腕は一流だ。さっき、あえて手加減しましたね?

私の眼は騙せませんよ。(テルヒコ)」

 

「滅相もない!私はそんなだまくらかしはしない。なかなか気合の入れ方が違うな、

合気柔術の盛芝先生に会わせたいほどだよ。あはは!(西湖)」

 

「盛芝先生はたしか生身で銃弾をお避けになったんですよね?

そんな人ともトモダチなんて、こりゃ敵いっこないや。(テルヒコ)」

 

西湖は、生前武道と学問(とりわけ当時の神道学)の両方を極めた文字どうりの超・文武両道人間だった。

 

「先生、私みたいな無名の人間をどうして先生のお屋敷に呼んでくださったんですか?(テルヒコ)」

 

「それが・・・深刻な話でな。キミと行場で出会った時、何か違う気配がした。

私も行者であるからそれくらい分かる、騙せんぞ。(西湖)」

 

「私も狐やタヌキの類じゃありませんよ。先生(あなた)がそういうことだから、よほどのことらしいですね・・・。(テルヒコ)」

 

「うむ、だからキミだけには伝えておこうと思ったんだ。(西湖)」

 

驚きの声は、洋館内に大きく響きわたった。

 

「果し合いだってえ?(テルヒコ)」

 

西湖は長く蓄えた髭に手を当てながら、深刻な顔でテルヒコに打ち明けた。

 

「私の命も・・・・・どうなるかわからない。

わたしにそれを挑んできた少年も視点の奥より一切何も読み取ることができなかった・・・。(西湖)」

 

「1か月ほど前だ。私の元に一通の封書が届いた。なかにはうちの道場の門下生たちが・・・(西湖)」

 

西湖を自らのもとへと勧誘すべく封書を差し出したのは、他でもなく陰陽連特務機関カラス会であった。

 

当時の神道文化の末裔、ある種その生き証人である石上氏。

 

大化の改新以降滅びたとされる石上家は古代におけるカラス会の中枢を担っていた。

 

平安以降の仏教国となった日本において、カラス会及び石上一族は時代とともにその影、力を衰退させていった。

 

わずかに残るその子孫が石上西湖であり、

 

彼の息子石上雅也(8歳)は、明治維新以降に復活を果たさんと再び活動を開始した

 

カラス会の新たな指導者候補として組織に身柄を狙われていたのだ。

 

「陰陽連め・・・おっしゃる通り、カラス会のものたちならそれはやりかねません。

戦国の世ならばいざ知らず、弟子の首を師のもとに送るとは・・・。(テルヒコ)」

 

「許せん、奴らは人間じゃありません。(テルヒコ)」

 

「それに、果し合いをするため息子も人質にとられている。人質を殺してどうするのだ・・・。

死人をまさか生まれ変わらせるとでもいうか。

ほんとうに彼奴ら(きゃつら)の考えていることが私にはわからない。(西湖)」

 

鋭いまなざしでテルヒコは西湖に言った。

 

「死返玉(まかるかえしのたま)ならばできる。(テルヒコ)」

 

西湖の眼の色が、変わった-。

 

「先生は知っているのでしょう。そこから先の奥義を・・・。(テルヒコ)」

※死返玉=十種神宝(とくさのかんだから)の一つ。死んだ人間を蘇生させるパワーを持つとされる。

 

「十種(とくさ)・・・君も心得があるのだな、そういうことならばもはや隠し事はできんな。(西湖)」

 

「教えていただけませんか、その事情を私に。(テルヒコ)」

 

「ハァ・・・・・奴らは多くの邪法を駆使し、式神と呼ばれる小間使いを使役して・・・今でこそ本部を京都に張っているが

やってきたその数々の儀式は、とても人の道にかなうものではない。本当に今の奴らはバケモノだ。(西湖)」

 

物部一族は石上家そして、奈良にある石上神宮が代々伝えてきた十種神宝(とくさのかんだから)、

 

神宝の正体は、本来海家(邪馬台国)の祖先が超古代、飛行船イワフネで地球に降臨した際積んできた

 

超能力(サイキック)を発動させる、未知数の霊力を秘めたオーバーテクノロジーである。

 

「先生の前ではナマイキかもしれませんが、これでも私も腕に覚えはあります。

・・・先生の考える通り、奴らは魔界から妖魔をおろすべくこれまで何度も行動していました。

私も奴らには手を焼きました・・・。(テルヒコ)」

 

当然ながらそれを本流たる海家の子孫であるテルヒコも体得していた。

 

そして絶大なその力。

 

完全なる十種の活動力、神霊のパワーを解放するということは、この国日本の命運を左右することに等しく、

 

転覆そして隆盛を決める事に匹敵することであった。

 

「私は伝承の末裔として、奴らをどうにか討たねばならぬと考え行動してきたつもりだ。(西湖)」

 

「果し合いの日は1週間後。霊術に通ずる一人者として、勝負は一対一の一騎打ちで望む。

キミはそれを見届けてほしい。(西湖)」

 

「どちらかが生きどちらかが死ぬ-。息子を守るためには、勝負を引き受けるしかないと思っている。(西湖)」

 

 

 

 

 

 

episode.13 バイオレンス・タイム

 

 

 

西湖(後のカラス男となる石上雅也の父)より石上邸宅にて、果し合い

すなわち霊術を用いた一対一の決闘の話を聞かされテルヒコは、悶々としたいつにない険しい表情で

 

昭和初期の宮崎市街を歩いていた。

 

「・・・?!(あの少年?!)(テルヒコ)」

 

ワイワイとにぎわう通りの中で民衆に交じりなにやら女性たちの声であろうか、甘く黄色い、華やかでなよやかな声がした。

 

「甲三(こうぞう)くんぅう~次どうしよォゥウフフフ~?(厚化粧をしたけばけばしい女)」

 

「やあ~~んこっちみておくれよ~」

 

なにやら両手に花といわんばかり3名くらいの化粧のどぎつい女達が

 

真っ白いスーツ姿の少年(甲三というらしい)の周囲に集まっている。それも催眠術でもかけられたかのように、

 

不気味にさえ見える甘え声でうっとり寄りかかっている。

 

「おぉおおお゛~~~い甲三、聞いてくれよ~もお~」

 

中には(態度はナヨナヨしい感じの)体格の良い筋骨隆々の男もさらに2名ほど混じっているようだった。

 

(余計なことだが)金持ちの放蕩息子か。それにしてもかなり若い学生のようだが。

 

彼らは何ものなのだろうと一瞬テルヒコはこの絵を不思議に思った。

 

「(とんでもないキツイ香りだ・・・。ちかごろの風紀は乱れてるな。)(テルヒコ心の声)」

 

「(※社交カフェーじゃあるまいし。)(テルヒコ心の声)」

※戦前の社交カフェーは現代でいう水商売またはスナックのようなものもあった。

 

他人ごとだが遠く離れていてもその香りはこちらまで飛んでくる始末であった。

 

ハーレムのように男女に囲まれた中心の、細い少年。

 

彼の顔を見た瞬間テルヒコは凍り付いた。

 

(や、やつだ・・・・・・!)

 

やつは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

九尾の狐だ-!

 

少年の放つ怪しげな芳香(フェロモン)の正体、テルヒコはその白スーツをまとった少年を見た時に、

 

全身を大量の百足(ムカデ)が何往復するかの如き不快感と憎しみにも似た激しい感情に襲われ

 

体の震えと精神の高まりを抑えることができなくなっていた。

 

「・・・・・探していた・・・・・!!!・・・・・・・・(おそらく違いない、奴は・・・そうだ・・・)(テルヒコ)」

 

※伝説において「九尾の狐」は美女など人間に化け権力者や利用できる人々を惑わし篭絡するという。

 

「ねぇーコーちゃん、つれないこと言わないでおくれよォ。・・・どうしたの?(女)」

 

テルヒコと少年が、通りの中ですれ違う、その時

 

「ヘヘッ(九尾が化けた少年)」

 

そのとき九尾は、目の前をゆっくりすれ違おうとしていた青年(テルヒコ)の足に、おもいきり蹴るように自らの足をかけた。

 

「!!(テルヒコ)」

 

九尾がテルヒコに対し、それ(足掛け)をやる上で理由らしい理由はない。

 

気分(きまぐれ)、発作的な、ふいな悪意であった。

 

「・・・・?!(少年)」

 

勢いよく横転するかと思いきや、青年(テルヒコ)は少年の白いスラックス(足)をその足で受け止め、

 

かがみこんだまま砂利道を踏みしめ、ジンジンとした痛みに表情を変えず立っていた。

 

そこに、自らの王国を滅ぼした敵がいる。こいつらにすべては壊された・・・。

 

怒りで真っ白となった頭の中にあるものはその感情と千年以上昔の記憶だけだった。

 

このとき九尾は目の前の人物がテルヒコとは気付いていなかった。それほど卑弥呼らに比較して

 

テルヒコの印象は、日常的に殺戮を繰り返す九尾の狐にとって全くと言っていいほど薄かった。

 

九尾を討つべく追いかけようとするテルヒコ、テルヒコのことを周囲のゴミクズと同次元と認識する九尾。

 

その、接点・・・。

 

このときも九尾は、彼を街をゆくただの人だと思っていた。

 

「・・・・・!(少年を睨む目)」

 

「なんだよぉ~?・・・(足元を見て)ああ、これはすまないねえ。ボクがあまりに気づかなかったから・・・。(少年が化けた九尾)」

 

皮肉めいた口調だったものの、少年の素直な謝罪、男女数名に囲まれていた状況から一瞬テルヒコの心に

 

瞬間的にだがコンマ一ミリの複雑な疑念の間が開いた。・・・いや、こいつはやはりそうだ。人違いではない、そう思いかけたその時

 

ズガァアっ!(天高く足を上げテルヒコの背に踵落としする少年)

 

「がぁハアッ!(血を吐き、地面にたたきつけられ踏まれるテルヒコ)」

 

「何あっけにとられてんだよ。(少年)」

 

「ボクは僕のズボンに謝ったんだよ。・・・それと、靴にねぇえ。(少年)」

 

「・・・オッマエ・・・・・(少年に踏みつけられたままのテルヒコ)」

 

やはり彼の前にいたのは、九尾であった。

 

「・・・フフフ・・・・ハハハ・・・(少年)」

 

化け物じみた力で踏みつける少年の足、弥生時代の当時と変わらないあの時の痛みと怒りが

 

何倍にもまして青年の内にふつふつと呼び覚まされようとしていた。

 

「うっ・・・!」ズズズ・・・・・

 

だがそのとき、テルヒコを見つめる少年はなにかに触発されたかのように真っ青な顔となって

 

後ろにいた男たちにもたれかかるように後ずさった。

 

「この感じ、なんだろう・・・。(少年)」

 

不気味に感じた九尾は、テルヒコを見下ろした。

 

「・・・・・・!(九尾)」

 

自ら踏みつけ、見下ろしているはずのテルヒコの横顔。動いた髪の毛に隠れ見えない目から真意は見えない、

 

わずかに見えた口元は、フッと不敵に笑っているかのようだった。

 

九尾が踏みつけた青年の片手には、鏡(アマテライザー)が握りしめられていた。

 

「・・・・ついに見つけたぜェッ・・・・・・・・(テルヒコ)」

 

「なんだよお前~。なんなんだよおまえはよおおおおおおっ!(九尾の狐)」

 

「きゃあ!コーちゃんやめて、どうしちゃったのよ!」

 

「おいそれ以上は死ぬぞ!」

 

「・・・・・・はは、はははついに、ついに・・・・・!!(テルヒコ)」

 

自らを襲う焦燥感を理解できず、半狂乱のようになってテルヒコを少年は蹴り続けていた。

 

俺は忘れない、あの時のこと。

 

この痛みを、この血を、もう一度感じて。

 

そんなふうに過去を回想しながら。

 

テルヒコは最大の仇敵と再会できたことを、その苦痛さえも心から天に感謝するのだった。

 

徹底的に何度も蹴られ続けながら、泥まみれになったテルヒコの顔は、微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

episode.14 最後のモノノフ

 

 

果たし合い当日。

 

石上家に隣接する武道場にてー。

 

「ボクもそのつもりできた。(甲三)」

 

「まさかキミが石上西湖(かれ)と親しかったとは意外だよ。このあいだは悪かったね。(甲三)」

 

「俺は今日限りの後見人だ。しかと見せてもらう・・・。(テルヒコ)」

 

3日前テルヒコを路上で踏みつけた少年、甲三(九尾の狐の化けた姿)がリラックスした面持ちでテルヒコ、そして西湖(雅也の父)に言い放った。

 

天照皇太神の掛け軸ー。

 

西湖が取り出した木箱のなかから、七支刀(ななさやのたち)が現れる。

※石上神宮に伝承される百済から授かった七本の刃がある宝剣

 

「ほォ~んものを拝めるとは・・・。さすがは石上西湖だ。目をつけてきた甲斐があった。(甲三)」

 

「願わくば。私は未来あるキミを殺めるわけにはいかない。(西湖)」

 

「私が勝てば、キミには一生技を使えないよう、呪をかけさせてもらう。遺書は預けてある。今日は制約なしの格闘(ノールール)でいく。(西湖)」

 

「そりゃ、とっても助かる。ボクはァ貴方を殺害しに来たんだ。審判不在、生存をかけた超能力勝負(サイキック・バトル)でいいね。ボクの大好物だ。(甲三)」

 

「それに蠱毒の解き方に精通してるとはすごいすごい!(甲三)」 

※蠱毒(または蟲毒)とは共食いさせ負の力を貯めた虫を呪いに利用する邪法

 

「騒がしかったのはキミが放ったものだったか。(西湖)」

 

「石上さん、これは。(テルヒコ)」

 

西湖の腕にはミミズが暴れたかのようなアザが有刺鉄線のように張り巡らされそれは見た目にも痛ましい傷であった。

 

「・・・(テルヒコ)」

 

戦前を生きた神道家のひとりとして知られていた西湖は、長年にわたる修験道の修行により霊験(人知を越えた力)を持っていた。

 

西湖はあまり公にしてはいなかったものの、本質的に物質に干渉を与える程の力をもつサイキックの素質も持っていた。(※神道家内でも、西湖程の超能力者となるとそれを邪道とする意見もあり、彼自身が内心一番それをわかっていたため。)

 

そしてその息子(雅也)を仲間に引き抜かんとカラス会が雅也(当時8才)を狙うのは当然であった。

 

テルヒコは今日こそ九尾の狐を伐つ絶好の機会と思い西湖に先日の次第を伝えたが、かつては権威を振るった石上家。武人として自らカラス会の代表と戦い組織本部へ向かう旨を聞き、その気迫からは自分では止めることは不可能だと悟った。

 

武道場周辺の子供や通行人、なにか挙動が怪しい。

 

いかにも現代の密偵らしい、

彼らは九尾の狐(甲三)と西湖の戦いを監視に来た一般人を装うカラス会の工作員と思われた。

 

テルヒコは意を決した西湖の覚悟を尊重し二人の間に座り見守った。

 

テルヒコはユタカのいる奥宮にて、精神を鎮魂法(魂を鎮めパワーを得る技法)により鎮め、果たし合い後の九尾との戦いに気を静かに練りながら備えていた。

 

「(先生の御身になにかあったら俺が・・・!)(テルヒコ)」

 

テルヒコの横神棚奥には、石上家に戦国より代々伝わる名刀、天狼丸(てんろうまる)が祀られていた。

 

「では、はじめッ・・・ー!グッ!(開始早々ガードする西湖)」

 

ダダダッ!ギューーーン!(開始即ダッシュする少年)

 

突如裸足で床を蹴り上げ駆け出し、目を血走らせ突撃した甲三(九尾)による眼球を狙った2本指が、西湖の顔面直前ギリギリで西湖の指(手印)により受け止められていた。

 

「(・・・八束の剣!)(テルヒコ)」

 

西湖のガード時に形作られた作法、その型は邪神を切り裂く神の剣、八束の剣をイメージした手の印(両中指を合わせ刀をつくる)。

 

まるで九尾の狐にたいし両中指を立て(ファック)とやっているかのような西湖のガードは精確であったが、その顔に流れる冷や汗は彼の本心を表しているかのようだった。

 

「・・・!切れている。(テルヒコ)」

 

プシュー!

 

甲三少年の舌が、一センチ深くびりりと鋭利な刃物のような(力)により切り込みが入っていた。

 

「これで、・・・観念なさいッ!(西湖)」

 

「ぶへぇ!へへへ(甲三)」

 

口から赤い血を吐き出す甲三は美しい顔を悪魔のように歪ませヒトクイ鬼のような容貌の微笑をたたえ、西湖を見つめた。

 

(・・・あいつ、なにを・・・!)

 

テルヒコは戦慄した。

 

ゴリリッ!

 

(肩の間接がはずされたー!)

 

「ウフフ・・・!(甲三)」

 

甲三の目を見た西湖は、全身の力を何者かに吸収されて奪われるかの如く外された肩ごと脱力してしまい、指で攻撃を受けたまま袴からドスンと武道場の床に崩れ落ちた。

 

だがさらにテルヒコをドン引きさせた光景はここから先である。

 

「坊や。只ではすまぬよ。(西湖)」

 

ずり落ちた西湖の手刀の、指のラインに沿うように少年の両眼球が引きずり出されていたからである。

 

バチィン!

 

「危なかっタアー!(甲三)」 

 

首を後ろに降るだけでリールを巻くように目を元につけ直した少年。

 

「(どういうことだ?!)ぐうあー!(西湖)」

 

(次は、足も!)

 

折れ曲がる足。

 

踏みつけんと振り落とされた少年の膝を

寝ながら咄嗟によけ、間接がはずされているにも関わらずタコのごとき柔軟な動きでカサカサと

仰向けとなりながら少年を翻弄する西湖。

 

あり得ないほどの跳躍力でジャンプし少年をリードしている。その筋肉のしなやかさ。

 

モハメドアリとアントニオ猪木の戦いのような、いやそれよりさらに異様であり、変則的(トリッキー)な光景。

 

「うわ!(甲三)」

 

少年の足に容赦なく噛みつく西湖。

少年を見上げニヤリ笑う。

 

「こいつー。(甲三)」

 

振り回されても離さず咬み続け、

 

7回目ようやく蹴られて弾き飛ばされる。

 

「ぬアーッ!(西湖)」

 

そして直後涼しい顔で叫び声と共に、体をゴリゴリいわせ全く何事もなかったかのように立ち上がった。

 

「ウソだろ?!(テルヒコ)」

 

(身体どうなってんだこのオッサンは。)

 

「えい!(少年)」

 

立ち上がる途端、少年の小指の中から出た刃らしき金属が途轍もない疾風の速さで西湖の頸動脈にカウンターとなり撃ち込まれた。

 

スパアン!

 

飛び散る鮮血ー!

 

「それくらいじゃ死なないかあ(少年)」

 

苦しみに耐えながら刃をかわし続ける西湖の胴体および足首を少年は何度となく膝ゲリ、脚気検査のようにローキックし、異様な構えで再び態勢を崩そうとする。

 

「どこからでも来なさい。(西湖)」

 

(なにをやってるんだ・・・・・・そうか、石上さんは!・・)

 

不動の構えから縦横無尽、体幹をぶれさせることなく、気配を先読みするかのようにあらゆる攻撃をかわす西湖。

 

(やはりな、速くなってる。)

 

(彼は動きを読もうとしない。動きを読もうとしたら反対に敵に会わせる運びとなる。いい加減だから気配がわかる。しかも相手の体から出た霊気を取り込んで自らに引き付け操っている、なんて力だ!)

 

部族の儀式、シャーマンのトランス状態に酷似した舞いにも似た二人の戦いは平行線をたどる。

 

5分が過ぎていた。

 

「(今度は、死返の手印だ・・・。足さばき、ステップ間に振魂をやってる。回復だけじゃなく速さも得ようというのか。)(テルヒコ)」※死返玉

 

※振魂=魂を活性化させる動作

 

「じゃ、今からよろしく。はじめるよ!(甲三)」

 

「なにィ?!(テルヒコ)」

 

ぱちん!

 

少年が指を1度ならしただけで、生命力を回復しかけていた西湖はいとも簡単に、糸の切れたマリオネットが如く再びドサッと倒された。

 

「いまから。殺ってやるよ・・・。(甲三)」

 

「(まずい、このモノノ怪は・・・!)(テルヒコ)」

 

九尾の狐(甲三)により突発的かつ成す術なしにくり出される妖魔の術は修行を重ねた人間(西湖)の力を持ってしても、よもや測れぬ深淵の恐ろしさがあった。

 

西湖の目に映る甲三を含む世界が上下逆転し襲い掛かる。悪魔の笑顔を浮かべる甲三の幻影がくっきり抜き取られたかのように影となり西湖の心臓を締め付ける。

 

「どうする、どうなるんだ・・・(テルヒコ)」

 

「・・・!(西湖)」

 

勝負ありかと思われたが、西湖が数を数え目をぐるぐる回し体を揺らしたその時、甲三は思い切りのスピードで(フィギュアスケーターのように)半時計回りに吹き飛ばされた。

 

このとき西湖は、全神経を研ぎ澄まし身体中を利用した鎮魂の儀を行い、倍増させた己のサイキック力を少年目掛け爆発(バースト)させていた。鎮魂はそれそのものが邪気を祓う技(ワザ)である。

 

「キミは、ハア・・・ハア・・ひ、人でない、魔性の・・・“モノノ怪”だな!(西湖)」

 

殺人の域に到達する角度(まはんたい)へと曲げられた少年のクビ。

 

「いいよ、そういうことなら(ゴキン!)ボクも!(甲三)」

 

西湖の念波を読み取った甲三は、あり得ない反対側へと折れた首を戻し、さらに嫌らしく笑う。

 

笑顔の少年が手をかざすと西湖は右に左に操られるかのように振り回され、反対に西湖が反対側へと揺れ出すと念力の力か、神棚が倒れ少年の姿勢が崩された。

 

「キエーッ!覚悟!(西湖)」

 

ドスゥッ!!!

 

「グゥウアアアーッッー!(少年)」

 

西湖の飛び蹴りが少年の顔面に直撃し、天照皇太神の掛け軸が勢いよくはずれ落ちる。

 

すると絶好なタイミングで少年の目、口、鼻から溢れる炭酸飲料のように音を立て血が吹き出し少年の目はグロテスクな赤へと変わった。

 

それは歴史の陰に生きた異能者達の、

 

達人の戦い。

 

命を懸けた最後の戦いだった。

 

(中枢神経系を破裂させたか・・・石上西湖め!)

 

テルヒコは感嘆と衝撃の綯交ぜとなった感情を彼らに感じた。

 

「・・・!(甲三)」

 

突如攻撃の一切をやめ、座禅をくみ出した少年。

 

同時に微動だにせず目を薄く開き少年の影を追う西湖。

 

彼と少年、二人の沈黙の時は20分にわたった。

 

「精神を離脱させ戦っているんだ・・・(テルヒコ)!」

 

一見全く地味なやりとりに見える。

 

何も起こってはいないかのように普通の人間の目にはみえるこの状態。

 

だが、互いに異常なまでに汗を流し何百キロにも続くマラソンのように苦悶の表情を浮かべ互いに一歩も引かない。

 

このとき、二人の精神は肉体を一時離れ魂となり高速な気弾となってぶつかりあっている。

 

強烈な重圧感がテルヒコには見えた。

 

ヒビがはいる武道場のガラス窓。

 

魂の戦いは肥大するバリア状の膜となり、肉眼では見えぬ光となり武道場の隅々をポルターガイスト現象のように破壊しつくす。

 

互いに張られた膜(エネルギー)が西湖と少年の互いの臓器、神経を食いつくし、

 

体のすべて、精神を食いちぎり言わば共食いに近い気弾の鬩ぎ合いのような状態に突入していた。

 

(コロス)

 

数秒沈黙の後、道場のなかに突然、空気中から無数の刃物や食器、虫やカラスの群れが出現(物理移転、アポーツと思われる)し一斉に西湖を襲う。

 

拳、手刀によりすべてを凪ぎ払い

 

西湖は冷静に道返玉(ちかえしのたま)を唱え手印を下方に形作る。甲三の引き起こした物理移転現象をそのまま謎の異空間へと放り投げる。

 

「・・・ハア・・・ハア、きさま、思っていた通り。(西湖)」

 

「地味な技ばかりでつまんないからさ~。西洋にはこんなやつら(サイキック)がごまんといて愉しいよ!キミもカラス会(うち)にくればさらに修養(パワーアップ)できるというのに・・・!(甲三)」

 

西湖の口から出てくるバッタ。「※香取の神ィ!」彼の短く放たれる言霊により打ち消される。※香取の神=魔を祓う剣の神様

 

油断すれば互いにどうなってしまうかわからない。

 

押し返すように広がる甲三の傷口。

 

「魑魅魍魎め。私は神道家としての誇りがある。貴様ら魔物の力など自然の摂理(おきて)に逆らう邪法にすぎない!命に替えても(西湖)」

 

西湖の体力は限界を迎えはじめていた。

 

「うあ゛アアアア゛ギィヤアアアア!!(西湖)」

 

西湖の念力により、千切れ回転する少年のクビ。

 

ぐっちゃ・・・

 

瞬時に繋がるそのパーツ。

 

「素晴らしいヨ・・・キミも素質があるのかな、ボクらと、おんなじぃー!キャハハハハハ!(少年)」

 

グサッ!!!!!!!(飛来した刀の刃が少年の二の腕に刺さる)

 

「?!!(テルヒコ)」

 

「痛・・・!なんだよこれ。いてえじゃねえか、

イッテエーナァアーー!!!(甲三)」 

 

はじめてキレた、甲三の赤い瞳。

 

切り落とされた少年の腕。

 

援軍(その刀)は、彼(西湖)の掌のなかにあった。

 

少年の腕で再生されはじめる生体組織。

 

「(治りがかなり、遅れている・・・!勝機が見えた!)(西湖)」

 

西湖の手には、自らの意思で飛来した刀、(天狼丸)が、血と共に握り締められていた。

 

「こそばゆいな。(甲三)」

 

「があー!(西湖)」

 

切断された少年の五本指。

 

眼から血を流し凄まじい目にも止まらぬ俊敏さで刀を振るう西湖。

 

その迫力は、真剣(マジ)の死を意識した男のそれ。

 

天狼丸の力か、殺気に満ち溢れた西湖の勢いが完全に別人のようになってゆくことに、テルヒコは勘づいた。

 

「あの刀、血に飢えている?!(テルヒコ)」

 

「これはどうかなァアーッ!!!(甲三)」

 

次の瞬間、大きく手を広げ逆立つ髪の甲三から放たれた大型台風クラスに匹敵する念波が確かに眼に見える残像として、武道場そして西湖の邸宅にかけ半径数十メートル四方を喰らい尽くした。

 

「ぐうわあーーーーッ!(西湖)」

 

「うわァアッーー!!(テルヒコ)」

 

屋敷のすべてのガラスが粉砕した。

 

ブドゥルシャリレルララアッ!

 

拡がる赤。

 

血飛沫、臓物、脳、眼。歯・・・。

 

屋敷で働く人間たちの中身が飛沫のようにネジ切れ、甲三の念力により石上家は血祭りに塗り上げられ、また、染まり上がっていた。

 

「・・・・・バイオレンス・タイム。(九尾の狐)」

 

ついに本性を見せた九尾。

 

白い毛並みの奥から溢れるどす黒い殺気。

破滅即享楽を体現したそのエネルギー。

九つの触手のごとき妖魔の尻尾は蠢いていた。

 

膝をつき九尾の姿を睨む西湖。

 

彼の隣(その奥)から、その対決を待ち構えていた一人の男が現れる。

 

「馬鹿め、尻尾をみせたな・・・!(テルヒコ)」

 

「ああ?!(九尾の狐)」

 

「お前が忘れたとしても、俺は忘れない!(テルヒコ)」

 

男(テルヒコ)が握っていたのは、七支刀であった。

 

「・・・戦国の時節(とき)より、この日を待っていたぞ!九尾の狐!(テルヒコ)」

 

「今度こそ・・・こんどこそキサマをォオオオ!!!!!!調伏する!!!!!(テルヒコ)」

 

衝撃波によって身体中の臓器が破裂したテルヒコは、血に濡れながらすべての意識を込め、全力で奉られた錆び付いた宝剣(七支刀)を握り、物部一族の奥義、(布瑠の言)を瞬速で解き放った。

 

※フルノコト=十種の神宝の力すべてを一斉に発動させ邪神を祓う石上神宮に伝承されるニギハヤヒの神が用いた最大の奥義

 

「一二三四五六七八九十(ひふみよいむなやここのたり) 布瑠部 由良由良止布留部(ふるべ、ゆらゆらとふるべ)・・・!(テルヒコ)」

 

「地獄へゆけえエェエーーッ!!(西湖)」

 

テルヒコのフルノコトによる雷撃(エネルギー)。

 

すかさず武道館空中へ跳び、刀(天狼丸)を九尾の狐の腹部へ貫いた石上西湖は思った。(俺は負けた!)

 

テルヒコは見た。西湖の刀の先にあるもの。

 

それは(人形=ヒトガタ)だった。

※陰陽師が使う身代わりの紙人形

 

戦いは終わった。

 

「うぅわあああああー!(西湖)」

 

涙と共に崩れ落ちた西湖を、血をはきながらテルヒコは見た。見届けた。

 

「(石上さん。あんたの勝ちだ。)(テルヒコ)」

 

戦いの被害、周囲の市民に変装して

張り込んでいた連中。

 

カラス会の工作員部隊により戦闘の騒ぎさえ

徹底し隠蔽と回収がなされていた。

 

数時間がたち、呆然とする西湖をみてテルヒコは

 

邸宅を後にした。

 

夕焼けに包まれた無惨な、悲しい光景。

 

武を護り抜いた石上家に吹く風はあまりにも救いがなかった。

 

3日後。

 

「本当に新聞記事にさえなんねーんだなあ。言ってやりたくないが流石の、とんだ連中だな。(テルヒコ)」

 

戦いのほとぼりが冷めやらぬ後、西湖(かれ)からテルヒコの住み込みで働く料亭宛に手紙が届いた。

 

「あんた、ほらあの石上さんから手紙が・・・!(女将)」

 

宮崎(ここ)に帰ってきたのも、ほんの数年前。テルヒコにとって稀に会う仲間たち、家族同然に自らに温かく接してくれる瀬川家(料亭を営む一家)との交流が、彼にとって唯一の安らぎであった。

 

看護学生だった料亭の娘アキ(瀬川亜紀枝。実は彼女の娘が大善に未来嫁ぐことになる。)がテルヒコに手紙を渡した。

 

「ダイちゃん、今度は・・・どこに旅にいくの?(アキ)」※ダイちゃん=テルヒコの偽名。当時は橘姓を名乗った。

 

「この傷だってサ・・・そうよ。不良と喧嘩でもしたの?!(アキ)」

 

「子供じゃあるまいし、大丈夫だよ。(テルヒコ)」

 

「もうやめてってあんだけいったじゃない。(アキ)」

 

「これは自転車でスッ転んだだけだよ。余計な心配せず、行ったいった。(テルヒコ)」

 

「オートバイ好きなあんたがすっ転ぶはずないじゃない!隠し事しないでいって頂戴よ。(アキ)」

 

多くを言わず働く自分を雇ってくれた優しい女将さん、旦那さん。アキ、みんなありがとう・・・。

 

彼の目の前を覆うモノ。言葉にはできない感情。

 

「どうして・・・(アキ)」

 

時代を反映した髪型、アキは薄紅のセーターを着ていた。季節はもうすぐ冬。瀬川一家はテルヒコにとってよき理解者だった。

 

いつか別れはやってくるー。

 

これは解放されることのない呪い、

輪廻なのか。

 

(これから先オレは幾度となく戦って、いつか感情すら忘れてしまうのか?!)

 

「(人類が滅びた誰もいない世界で。

永遠に化物と戦うのかー?)(テルヒコ)」

 

目の前にはいつもと変わらぬ彼女がいる。

 

「なあ、もしオレがいっしょに旅に出ようっていったらアキは付いてきてくれるか?(テルヒコ)」

 

「そ、それってどういうこと?!もちろんいくわ!だって、ダイちゃん面白いから道中ずっと楽しそうじゃない・・・!(アキ)」

 

「じゃ、そんときゃ女将さんたちも。約束だからな。世の中が落ち着いてまたいつか、この家に、帰ってこれたら。(テルヒコ)」※当時戦争が頻発していた為

 

また、皆にあえたら。

 

(また、生まれ変われたらな・・・!)

 

黙りうなずくアキ。

「・・・嘘がへたくそね、そんなこといって・・・二度と帰ってこないんでしょ?!ねえ!(アキ)」

 

「知ってるんだよ。あたし、全部知ってんだから・・・。(アキ)」

 

「・・・・・・・・・。(テルヒコ)」

 

涙の余り訴えるアキの表情が変わる。

アキは、先日の戦いのことも何も知らない。

 

「ううん。・・・わかんないよ。わからなくなる。(アキ)」

 

「ホントのダイちゃんは、何処にいるの?(アキ)」

 

その言葉がテルヒコの心に突き刺さった。

 

その精神と体は闇の瘴気、繰り返す戦いのなかで蝕まれ磨耗していった。

 

数百年周期に限界を迎えて蘇る体。

 

歴史の断片のなかで記憶の大半(おおく)を失い、全国を流離う日々が続いていた。

 

これ以上深く関わったら彼らも巻き添えにしてしまう。

 

「・・・・・・(テルヒコ)」

 

「ねえ、あぁあたし・・・(アキ)」

 

「おい、アキさん~!・・・あ、橘さんとこの。(2階の窓から見えるアキとテルヒコに路上から挨拶する青年)」

 

「(青年を見て微笑む)大丈夫だよ!また落ち着いたらすぐ、帰ってくるさ!(テルヒコ)」

 

「な~に暗い顔してんだ、ほら俊行くんが来たぞ!頑張れヨ!(ガッツポーズし青年に目配せする)ほれ、元気だして!(テルヒコ)」

 

ただならぬ気配を察したテルヒコは、涙を押さえて彼女の頭をはいはいとわしわし撫で、なんでもないように爽やかに荷物をまとめ料亭を出ていった。

 

「いかせてやんな・・・。(女将)」

 

「こ、この・・・!!人でなし!フーライボー!碌でなしのアンポンタン!

ダイッキライよ!なんでよ・・・なんで・・・?(アキ)」

 

「ダイちゃんがそんなナマクラもんに見えるかい?(女将)」※ナマクラもん=いい加減な人(切れ味の鈍った刀をナマクラという)

 

その絆が何よりも嬉しく、手放すまいと思うほど怖かった。

 

テルヒコとかつて暮らしていた料亭の女将とアキは、去り行く影を小さくなり消えるまで見送った。

 

「人でなし・・・か。ま、遠からずかもな。(テルヒコ)」

 

それから駅までの道のり、テルヒコにはとても堪えられるものではなかった。

 

「いつ、俺の旅は・・・・・・・・。」

 

握りしめたアマテライザーを見て、鏡を覗きこむ。

 

無人駅に見える白い帽子。

その空気をおもんばかりそっと陰に隠れたユタカがいた。

 

「さようなら、テルヒコ。(ユタカ)」

 

その姿が風と共にきえてゆくー。

 

再び逢いに時を越えやってきた。

 

また、さようならさえ言えなかった。

 

姿(しょうたい)を、見せられるはずもない。

 

数百年ぶりに。体を得て、

 

砂時計をひっくり返すように、何度あがいても

 

すべてが無駄になる。

 

光であると同時に穢れた(黄泉)の住人。

 

彼女(ユタカ)に与えられた刻も、

儚いものだった。

 

「・・(腐敗が進んでいく体)・・・!(ユタカ)」

 

ガラスの靴は砕けた。

 

「・・・追い続けて・・・私の影を・・・

(ユタカ)」

 

テルヒコが振り向いたそのとき、

その幻が微かにみえた。

 

鏡に映されるモノ

 

闇と光が激しくせめぎあうはざまで

 

翻弄される人間たちが織り成す綾。

 

テルヒコは、

彼らのなかに灯るその光を信じた。

 

ー陰陽連特務機関カラス会が再び台頭しようとしてきている。ー

 

その後、テルヒコは一人渡された封書を開き、これから待ち受けるさらに力を増した闇の中に向け歩きだした。

 

「行こう・・・。俺たちを待つ、その炎の先へ。(テルヒコ)」

 

西湖のテルヒコに宛てた手紙の内容は、文書ではなく紋様、そしてある書物であった。

 

「・・・受け取ったぜ。たしかに。(テルヒコ)」

 

それは石上家に祭られた、十種神宝のパワーが封じられた、神札。

 

「海君へ。武運を祈ります。

君なら彼奴(九尾)に剋(か)てる。」

 

倒された武道館の奥にあるものであった。

 

妖魔と戦った最後のモノノフ(物部)、

石上西湖は6年後路上で謎の死を遂げることとなる。

 

 

 

 

 

episode.15 卑弥呼の鏡

 

 

神話のふるさと宮崎のとある秘境、持田古墳にて。

 

戦後そこから一つの鏡が発掘された。

 

のちの日神降臨器、アマテライザー(天照伊弉)の現物である。

 

その鏡は魏から授けられた卑弥呼の鏡とされコレクターの間を通じ

 

総合博物館へと収蔵されることになる。

 

その鏡は、日本各地より出土する卑弥呼の鏡と異なる点があった。

 

一つの刻まれた、不可解な点。それは(歴史にあるはずのない年号)が鋳造されていることであった。

 

邪馬台国が存在していた時代、倭国(卑弥呼の支配した当時の大和)は海外からの力の後ろ盾をもらうため、魏と交易をしていた。

 

海外と交流することで自国へ様々な支援を受け、国内での権威強化を図ったのである。

 

古代魏(中国の年号)は本来、景初3年までである。3年の際、魏の王はこの世を去り、景初という時代は終わる。

 

その鏡には、その年号について景初(4年)と彫り込まれていた。

 

誰がいかなる理由で埋葬したか理解に困るような、幻の鏡。

 

学者の間では、景初4年はあったとか、解釈の問題、日本製で、中国の物ではないという意見も当然出た。

 

存在しない年号は、当時国内の学者たちを驚かせ、驚いたのは大善も同じであった。

 

まるで存在しない歴史、別の時空へ・・・。

 

こことは異なる世界(並行世界)とこの地上を決定的に二つに分かつ鏡のような・・・。

 

戦争から帰還したテルヒコの祖父、大善はそれが海家に伝承されていた秘宝とされる

 

神の鏡ではないかと考えていた。

 

鏡は伝承においては本来日奉神社に存在すると言い伝えられていた。

 

だがその本来の現物は神社内にはどこを探しても現存しておらず、その鏡は戦国時代の神社再興時以前には戦火により失われたものだろうとも言われていた。

 

書によれば戦国時代、橘家の祖先により神社を再興、伝承が編纂されたと伝わる。

 

神社には神鏡を模したレプリカのご神体があり、大善が子供の頃はそれが一応の神社の伝承を象徴する宝(カタシロ)とされていた。

 

大善(当時24歳の青年)は、ある日夢を見た。

 

「・・・・ここは、あれは・・・。(大善)」

 

皇室(万世一系とされる天皇家)の祖、天孫ニニギノミコトが天界より降り立ったとされる山の頂上、

 

高千穂の峰(たかちほのみね)。山頂には宝剣エクスカリバーの如く、天の逆鋒(さかほこ/ぬまほこ)が天をめがけ突き刺さっていた。

 

※伝説にて、"地上を統一した後ニニギノミコトは二度と剣が振るわれぬことを願い

この山頂に鉾を逆さまにつき刺したとされている"(※ニニギは十種神宝に関係するニギハヤヒの弟にあたる)

 

※イザナギとイザナミが天より地上を形成する際使用した沼鋒ともいわれている。

 

雲海・・・・・。それから下の景色が何も見えない完全な乳白色、その場所そのものが高天原(たかあまはら)であるかのような光景。

 

大善は山中の白い煙の中で、一人ぽつねんとサカホコを見上げながら、鉄骨で守られたその剣の前に立っていた。

 

空を見上げると、なにやらスウッと人の顔が見える。

 

赤い唇に、大きな濡れた瞳。張った長いまつ毛。

 

その人物。女の顔がグラデーションとなり、かすんだ空一杯に浮かんでいる。

 

女はこちらを見ている。

 

大善は一瞬で夢の意味を読み取った。

 

「この人物(じょせい)は・・・・・・!」

 

驚き空を見つめていた大善(かれ)に、その女神は告げた。

 

「それ(サカホコ)を、取れ。」

 

バッ!

 

目が醒めた・・・。

 

その翌日、大善は例のその古墳(鏡の出土した場所)に

 

なにかに憑りつかれたがごとく早足で到着していた。

 

「・・・・・・・・・・・・!(大善)」

 

その夢を見てからというもの動揺も何も、言葉はなく、突き動かされているかのような

 

行動が意識の決定などより先にある体であった。青年大善の行動は感覚を越えていた。

 

ゴッゴッゴッ!(石仏を彫り刻む音)

 

「・・・・・・おまえ、また来たか。(石像を掘り続ける老人)」

 

鏡の出土したその古墳で、もう5年となる。その老人(清吉)は、その場所に住居を構え、黙々と

 

ただ一人何も語らぬ寡黙な顔で、その石造群を掘り続けていた。

 

巨大な天照大神の像、スサノヲの像。風神そして雷神・・・。

 

まるでスフィンクスやモアイのような、巨大なロボットのような・・・

 

巨大な方形の八百万の神像が無数に建造される不思議な空間となった古墳-。

 

なぜ、彼はこんなものを造ろうとしたのか。

 

実質この石像たちが出来上がるのはこの先十年後であった。

 

石像といっても、よくあるタイプの神社に奉納されるような小さいものではない。

 

それは巨大なもので、アマテラスだけでも10メートルはゆうに超えていた。

 

近隣の住民は一切彼が石像を掘る理由を知らず、信心深い住民や子供が時折やってくることをのぞいて

 

その時ここに来たのは大善くらいであった。

※テレビ版第1話でテルヒコがやってきた天照の像がここにあたる。

 

石像によじ登る幼い子がいても、清吉は怒りもせず黙々と仕事を続けていた。

 

この数年は佐賀県より手伝いに来た仏師も昨年仕事を投げ出し来なくなっており、

 

よほどこの作業を理解し付いてくることができなかったものと思われる。

 

その異様な光景。

 

「あの・・・おじいさん、あなた、なんでこんな所で石像を掘ってるんですか。(大善)」

 

「・・・・・・・・俺に興味あるとは、お前もよっぽどの者なんだな。・・・・いや・・・(清吉)」

 

「お前も見たのか、あれを。(清吉)」

 

「・・・・・・(コクリと頷く大善)」

 

ぼやけていた老人の眼に、生気が戻ったかのように見えた。

 

「・・・・・よし、わかった。俺に、ちょっと・・ついて来い。見せちゃる。(清吉)」

 

清吉は、鏡が出土した古墳、石像の横にあった彼の暮らす小屋に大善を案内した。

 

そこには、地獄の業火で焼かれる人々が彫り刻まれていた。

 

"ひところしたひと、かがみ、うつる。"

 

ひらがなで石像の裏側には、そう彫り込まれていた。

(※閻魔大王の罪人への審判を再現したものと思われる)

 

整備された延々と続く洞窟の闇のなかを

 

トロッコでくだる。薄暗い明かりの中を・・・。

 

それは非現実世界、異界への入り口。地下数十メートルにもおよぶ長い通路に思われた。

 

通路横に転がる白骨死体。

 

「・・・・・・・こっから先は、俺でもどうにもなんねえ。ただあの夢を見てから、ちょっと俺もな・・・。(清吉)」

 

その"謎の啓示"を受けたであろう老人、清吉は一人トロッコに乗り、諦めたかのような表情で砦を後にした。

 

トロッコが消えた、明かりが消えた今、大善は家に戻る方法がなくなった。

 

それほどよく掘ったなという器用さで通路は入りくんでいた。

 

(携帯用のライトをつけた大善)

 

大善の意識のすべては目の前の扉に向いていた。

 

その、扉の前には・・・古代神代文字が彫り刻まれている。

※神代文字(漢字伝来以前、神話の時代より存在したといわれる日本の古代文字。記号のような形をしている。)

 

「・・・・!(大善)」

 

そこは、(一つのシェルターとしての)天岩戸であった。

 

鏡の発掘された石室と枝分かれした別ルートにあった地下の扉。

 

その古墳に課せられた役割を直感した彼は、

 

扉の前でその文字を読み取った瞬間にその(扉の先)に誘われていた。

 

そこは何かの不思議な施設のように整えられた空間であった。

 

板のつなぎ目がわからない鉄板、金属で形成されたフィールド・・・。

 

分かりやすく表現すると、それこそラボ(研究施設)に似ているが、異質な宇宙船の中のような景色である。

 

少なくとも大善青年の知る現実世界の中の物質ではない。

 

そんな世界、部屋の中に彼はいざなわれていた。

 

無数に広がるガラスの槽のようなものの中に、液体の中多数の人間たちが

 

クローン人間のように眠っている。数えて30体・・・・・。

 

よく見ると全員同じ髪形の・・・女性か、いや、おそらくまだこの先の空間に、存在しているかに思われた。

 

闇に隠れその先の全貌は大善には見えなかった。(この女達・・・同じカオ・・・?)

 

目を凝らしみると、骨格や顔立ちは異なり別人である。だがその全体的なもの言わぬ雰囲気、

 

顔の雰囲気がどれも共通し、なんとなく似通っているのだ。このとき大善の背筋に寒気が走る。

 

すると勢いよく大善の目の前を、無数の全面天井からなにから鏡張りの部屋が出現し、その奥に

 

鏡を通して左右逆転した美しい白い女の面(かお)が現れた。

 

凍り付くガラス玉のような女の瞳、その視線は静かにしんと男を捉えていた。

 

さすがにこの時は大善の心には、疑心暗鬼に満ちた不穏が芽生え始めていた-。

 

「また逢えましたね。(その女性)」

 

大善の視線の先にいたのは、先日夢でみた、黒い髪の女であった。

 

「あなたがその、・・・なのか?!(大善)」

 

時代錯誤と思しき古代の真っ赤な幾何学的文様の民俗装束らしきものを着たその女性は、

 

大善を見て微笑んだ。年齢推定30代ほどであろうか、真っ赤な唇に黒い髪。

 

それを覆う薄暗いトーンの中映る彼女はどこか妖しげな雰囲気を持っていた。

 

大善のもと歩み寄るその女の額には、第三の眼を模して描かれたのだろうか、瞳のような幾何学のペイントが

 

細いバンダナのように施されている。(入れ墨か・・・いや、あれは描いているのか。)

 

その女は静かにその(女たちが眠る)液体に浸されたガラスらしき槽の中から、

 

勾玉のような形に見える肌色の生物を取り出し、付近にあった布に包み込んで

 

愛おしげに抱きかかえ、大善に渡した。(これは、人間の・・・胎児か?!)

 

「蛭児(ヒルコ)だ。(謎の女)」その胎児は体内にいる未熟な姿というよりは、皮膚が乾いて丈夫になり、

 

ほとんど赤ん坊と同じで生きているかのように思われた。

 

女が乾いた胎児の額にキスすると、その姿はごく普通の赤ん坊となり、大善の腕の中ですやすやと可愛らしく眠るのだった。

 

「お前のもとにまた来るのは、8年後だ。(微笑みかける謎の女)」

 

「あなたはもしかして・・・?!(大善)」

 

女の姿は光となり、大善の眼の中へ吸い込まれるようなエネルギーとなって突き刺さるように入っていった。

 

「・・・・(女)」

 

聞き取れない早口の現代語と思えない言葉、無数の記号と思しき絵図が強烈な電流となりスパークし、

 

脳裏にそそがれる。「ぅぐっうぉおおあああああああ!!!!(大善)」

 

強烈な電流。その光と共に見えた世界-。

 

それは大善青年の予想そして意識をはるかに超える場所からのものであった。

 

その映像の送り主(女)がかつて見た未来のビジョン(警鐘)。時代がひとつの終わりを迎え、また新しく変わる・・・・。

 

この先たくさんの命が失われてゆく・・・。

 

大善(そのおとこ)がみたもの

 

広大無辺の記録映像(アカシックレコード)のように彼の脳裏に押し込められる未知なるビジョン。

※アカシックレコード=全宇宙のはじまりから終わりまでを収録したレコード盤。

 

銀河惑星の消失、そして誕生。地上そして海中にはじめて産まれた多くの命、ジュラ紀、白亜紀。

 

人類の創世と神々の堕天・・・・・失楽園。

 

映像はそれまで大善が知ることのなかった、想像もつかないものであった。

 

これまで見たこともない無数の物体、生物と思しき何かが、ブラックホールより大規模な群れを成し出現する。

 

無機質に大量発生する未確認なるその飛行物体。

 

実際得体の知れないそれを目にすると、うすら恐ろしい光景として彼には思われた。

 

宇宙、そして空からこの地上へとやってくる絵(こうけい)。

 

(紫電改、航空機か?)

 

その異様な物体をいったい自分は何と表現すればいいか大善はわからなかったが、その

 

およそ航空機と思しき物体(もの)の軍団が地上へ向け強烈な悪意を抱えた存在であることを直感した。

 

それを追うように飛んできた、輝く鎧武者のような古代の武人のような真っ赤な巨神がその物体の群れを

 

剣により切りつけ、撃墜させていく。航空機の中から射出された大量の真っ白い翼を生やした光の軍団と

 

その赤き武神は戦闘を繰り広げ、無数の光たちが繰り広げる上空での戦争は、第二次大戦から帰還した大善にとって

 

不思議なシンクロでもって自らの血塗られた戦争体験を同時に想起させてゆく。

 

それは、神話時代の神々の闘争であった。

 

「いったいあの敵は・・・・・ともすると、あれは・・天使か?!天使となぜ、あの赤いヤツは闘っているのだろう。

天使でないならば、鬼・・・?」

 

その中で最も輝く天使。

 

その一つ・・・グロテスクに輝く黒い邪悪な"マガツカミの祖"へと変異したその天使と

 

赤い武神は激しくぶつかり合い、光が地上の全てを照らし強大な大爆発が引き起こされる。

 

世界は真っ白となった。

 

二体は光の中、海上を突っ切り地平線の果てへと消えてゆくのであった。

 

「見たことがある・・・・・あれは・・天照皇太神だ・・・・・・(大善)」

 

その巨神が握りしめ、邪悪なる存在と戦っていた剣が、先日夢の中見た高千穂の峰に刺さっていた

 

あの天の逆鋒だったと悟った時、

 

大善の胸のうち、彼を動かしうる決意が産まれた。

 

(これは密命(ミッション)だ―!)

 

その直後、彼を見つめるようになぜだか学童期の友(雅也)がこちらを振り向くようにして映った。

 

 

その翌日、大善は突如として帰還した。

 

「ぅあぁあ~~~~~~~~~~~~ぁああああ~~~!!!!(清吉)」

 

忽然と家の前に立つ大善を見た清吉(先日であった老人)は彼を見つめたとたん、何を思ったか叫び声をあげ

 

よろけ落ちながら走り去りどこかへと逃げていった。

 

その8年後、海家に初となる長女が誕生する。

 

女の子の名を、大善は千里(せんり)と名付けた。

 

のちの海照彦の母にあたる人物である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明かされぬ謎

 

 

 

 

 

かつて栄えた古代都市たち。

 

そのはるか昔国内には無数のクニが巨大な地方勢力として各地に栄えていた。

 

(東北から大和、伊勢湾全域、奴国の存在した北九州~日向など)

 

数度に分け敢行された原初の天孫降臨。ある一団は星空の向こうから、そしてまたある者は、異なる次元からやってきた。

 

高天原(たかあまはら)より降りた神々。

 

古来より暮らした原住民。精霊。これら森羅万象の精神を総括し、この国ではそれいっさいを神(カミ)と呼んだ。

 

それはのちに歴史において、天津神族、国津神族

 

彼らと果てしない戦いを繰り広げることになる、

 

マガツカミ(禍津神族)としてその系譜をつないでゆく。

 

彼らの歴史は神秘の神器(ライザーポータブルシステム)となり現代へ継承される。

 

その力をダイレクトに人体に受けることができる者だけが、(創聖者/そうせいしゃ)

 

とよばれた。彼らの剣、その拳はあらゆる一切の邪を祓い、神々の力を受けた人(ヒト)として

 

彼らの戦いは古代の英雄伝承としてその時代において人々の記憶に刻まれ、また後世へと語られた。

(※すべての創聖者は神の末裔であり神器と運命を共にする。)

 

(呪法)武力主体でなく霊術主体でクニを武装・防衛しようとした古代邪馬台国(倭国)は、その闘争(古代起こった霊術大戦)に敗れた。

 

王国を滅ぼした魔軍の影・・・・・。

黄泉の国にて蠢く者の声。

 

のちに没落した石上一族。

 

石上雅也はカラス会入会後、石上一族のルーツにまつわる歴史に触れた。

 

苦しみの業火の中で見る憎しみのビジョン。

 

「石上。彼だよ。僕らの王さ・・・(甲三)」

 

輝く金色(こんじき)の翼。

 

「あなたが、我らの主なのか・・・!(雅也)」

 

邪神の祖である魔王の羽根(白き堕天使)に包まれ抱き締められた雅也の頬には、涙が流れていた。

 

それは、歓喜の涙ではない。

 

絶望と一切の屈服。

 

倫理の死。

 

世に真実の光と呼べるものは存在しないという信念。無常なる世界において、マガこそ摂理。

 

雅也は自らを戦いに駆り立てたルーツでもある当時の正義

 

“日の神こそ諸悪の元凶”であると広大なマガの渦の中確信するのであった。

 

永遠の闇に落ちた魂。

 

人の世に反逆の狼煙(のろし)を上げるべく

 

彼はこの日から、自らこれまで信じていたすべてを殺すべく

 

(自ら悪魔となる)決意をするのだった。

 

戦後、京都の市街地にマサヤはいた。

 

ビチャッ!ビチャアッ!・・・。

 

人の平衡感覚、三半規管を殺すような、吐しゃ物を発酵させたような強烈な汚臭がする。

 

美しい街はその日はじめて闇、ファントムフィールドにより包まれた。

 

巨大なハリケーンと共に、当時のカラス会本部地下祭壇は木っ端微塵に破壊され、

 

町を歩く人、モノ、あらゆる対象物はその瘴気の干渉で空中破裂を引き起こし

 

美しかった京の景観も日中のうちに残酷凄惨(グロテスク)な様相を呈していた。

 

青天の霹靂、その存在は、対象物すべてを粉砕しながら

 

一人美しい京の都を闊歩する・・・。

 

亡霊(ファントム)、イブキ。

 

彼(マサヤ)の魂に降りた抑制の効かない強大な(呪霊)は、カラス会本部を破壊し、

 

本格的にいよいよこの地上世界に繰り出さんとしていた。

 

伊吹の神。それは古来の書、記紀神話に登場する。

 

クトゥルー、666のケダモノ、バビロンの大淫婦、多頭の毒龍ヒュドラ・・・。

 

それは、古代のあらゆる預言者達が記録した書、おとぎ話や神話類に登場した全ての邪龍を産んだ祖神(九頭竜王)である。

 

そして万古より不変の「死」をこの先も体現し続ける魔獣ともいえる。

 

突如として現れたその魔神により、人々は次々と異形の怪物(クリーチャー)

 

闇に住まう使者(土蜘蛛)と変化し、その侵攻は各地域の中心部、山村集落へも及んでいた。

 

土蜘蛛に襲撃を受けた人々の魂は、魔軍の将でもあるイブキの実体を

 

その鮮血によってより一層黒光らせるのであった。

 

日本神話において、かの英雄の祖といえる日本武尊(ヤマトタケルノミコト)の

 

命を奪った伊吹(いぶき)の神。

 

一説にその正体はスサノヲノミコトに退治された、八岐大蛇の変化、転生した別の姿ではないかともいう。

 

スサノヲに因縁を持つ存在でもあり、無敗の勇者であった往古の王子ヤマトタケルも、

 

伝承では油断した一時(ふい)の隙をつかれ、伊吹神が引き起こした氷雨によって体力を奪われ、

 

病で亡くなってしまったという。

 

悪夢の権化にして「英雄の殺し」の因縁を持つイブキ。

 

マガツカミ史上、最悪の表現を以て余るほどのパワーを持つその存在は数多くの人々の血、瘴気、その怨恨の魂を吸収し続け

 

長きにわたる年月のなか再び地上世界に君臨せんと時節を待っていた。

 

京都カラス会本部の最奥にある逆五芒星魔法陣、その奥底(ファントムフィールド)内で眠り続けていた九頭龍王(イブキ)。

 

今日に至るまで多くの生者、死者の魂が竜王を地上に呼び戻すための生贄とされた。

 

テルヒコがかつて王国(クニ)にて友と呼んだもの、愛した者たちも例外ではない。彼らも同様に

 

黄泉の王イブキを世に顕現させる礎として、その対象とされていたのだ-。

 

そして、この世界そのものに最大の憎悪の念を募らせる石上雅也(マサヤ)も彼(九頭龍王)が復活する最良の器として

 

幼少の頃よりイブキ(九頭龍)自身の意志により運命を選定されていた・・・。

 

体内、魂を邪龍に侵されていた雅也の頬に流れる涙。彼の記憶の中には、友がいた。

 

先日の出来事であった。

 

当時生活のため一時期は新聞社で記者として働いていた大善は、

 

仕事場の窓の向こうに見えたかつての友人、雅也が町に1人立ち尽くしていることを発見し

 

懐かしさのあまり咄嗟に話しかけてしまった。

 

以前の雅也であれば、こちらがふざければ恥ずかしそうに手をあげるものだが。

 

「おい!お~~い!・・・(大善)」

 

不気味だったのが、雅也は大善の呼び掛けに応じこちらを見た。見たにもかかわらず、数十秒間こちらを見つめ、なにも言わずに不気味な笑みを浮かべていたのである。

 

「人違い・・・か?!(大善)」

 

雅也が何かを言っている。

 

彼の唇を見ると、こう読み取れた。

 

(わざわいだわざわいだ)

 

なにやら様子がおかしい。

 

雅也は自らが戦争のトラウマが抜けず、精神安定剤を服用しているなどの話を大善に伝え、2人会社の休憩室でお茶を囲み話した。

 

「お前今ここで働いてたんだな。何もなくて、無事で何よりだ。(雅也)」

 

「なんか顔色が優れないようだけど、ちゃんと寝てるのか?(大善)」

 

「ああ、大丈夫・・・。心配ないさ。ご覧の通りだよ。」

 

「俺も子供がうまれてさ。こんど俺んち遊びにこいよ!(大善)」

 

「そいつぁ良かったじゃないか。男の子か?(雅也)」

 

「いや、女の子。千里っての。千里の道も一歩からって。(大善)」

 

「先越されちゃったなあ。アハハ(雅也)」

 

「・・・・・・(雅也・大善)」

 

愉しげな会話。

 

会話を通しての雅也は今までとさほど変わらないようだった。

 

だが前より増して、

 

何とも言えない不気味な余裕と影をまとったかのような彼のいいえぬ空気を見て、大善は何かよほどの変化がこの男に起こったと感じとった。

 

大善と雅也は幼少期よりの級友であった。

 

彼らが遊び場としていた日奉神社一帯の森には、大善自身も当時から

 

よく悪ガキどもと遊びに通っていた。年上の学童たちを兄や姉のように慕い

 

幼い時期の雅也、大善は分かちがたい無二の友だったともいえた。

 

中等学校に進学し大善と雅也は地区の違いからそれぞれ別の校に通うこととなる。

 

雅也が父西湖を失ってから、井上兄弟は痛烈な虐待を通し雅也を長年いじめ抜いた。

 

数年とは言え虐待の内容は人の尊厳を粉砕するレパートリーの一辺倒であり

 

当時の地域コミニュティはもとより、とりわけおどろおどろしい妖気が国内を包み込んだ当時の日本社会において

 

彼がえらべる立場は従属のほか選択肢がなかった。

 

今とはまた違った形で無関心を貫いた閉鎖的地域(エリア)の持つ邪悪な特性が

 

彼の精神を奴隷根性を発酵させた末の卑屈さへ育て上げたといえる。

 

そういっても過言ではなかった。

 

そんな雅也の心が人で居続けられたのは、他校に通う友人たちの存在、影響があったからであった。

 

それを無くしてしまうことは彼にとって恐怖以外のなにものでもなかった。

 

自らの状況をよく知らない大善らに、必死に井上家の現状を悟られないため彼はあらゆる手段を講じた。

 

闇市にて法より逸脱した商売に手を染め人脈を獲得した雅也はそれ以降、大善と交流することはほとんどなくなっていた。

 

十数年ぶりの再会とは思えない穏やかな顔で雅也はつぶやいた。

 

「なあ、新聞記者もいいがお前・・・俺んところに来ないか。(雅也)」

 

「なんだいこれは・・・・(大善)」

 

それは闇への誘い。

 

大善はその答えを保留にしたまま、雅也より渡された新生カラス会、

 

すなわちクロウの地下第17エリアへの承認手形を見つめるのだった。

 

大善がカラス会の地下祭殿にやってきていた時には、暴風により破壊された施設の散らばった内壁跡、

 

戦時中に撮影したと思われる写真があった。

 

捻じれた目、大きく化け物のように広がった口、シュールレアリスムのような姿。

 

それは戦友たちの写真。

 

もはやその写真に写り込む人々は、正常な形をしていなかった。

 

「呪い、なのか・・・(大善)」

 

目の前の祭壇に散らばる無数の液体、固形の赤、

 

蠢く言葉で表現できないその悲惨なモノ(生物)たちを眼にした大善は、その場で思わず嘔吐してしまった。

 

「まさか、これ(人々)をあいつは、このばしょに・・・?!(大善)」

 

「・・・・・(ニタリ)(雅也/イブキ)」

 

後ろを振り向くと、イブキ(雅也)がいた-!

 

ガッドシャアアッ!

 

「・・・?!(こいつが、・・・やったのか・・・・)(大善)」

 

イブキは無言でかつて雅也の親友であった大善(かれ)を見つめ、にやりと赤い瞳を輝かせ

 

問答無用で襲い掛かるのだった。

 

「うっぐわーーーーーーッ!(大善)」

 

「ひっ、ヒィイイッ・・・・・・!(大善)」

 

最悪の事態-。

 

自らの首を絞めつけるその黒い手、真っ赤に光る瞳。

 

その正体がまさか友人の雅也であったとは、大善は知るよしもない。

 

地面に叩きつけられた大善の額から流れる血。

 

這いつくばりながら、ただいまは恐怖から逃れる策を探すしかない。

 

「はあ、はぁ・・・!(大善)」

 

「なんでこんなことにっ俺が・・・!(大善)」

 

「ぬぐっうあああああああ!!(心臓が締め付けられる音)」

 

幻惑の音とともに響く奴の足音。

 

亡霊、イブキ(雅也)の影がやってくる・・・。

 

「・・・・・・・(無言の雅也)」

 

命の危機・・・立ちふさがり続ける眼前の邪悪なる夢。

 

どうか本物の夢物語であってほしいと大善は祈った。

 

それも当たり前である。人知をはるか越えたマガツカミを前にして、平常心を保つことができる人間はいないのだから。

 

このとき、大善は完璧に腰が抜けてしまい、目の前の怪物がゆっくりとした動きを繰り返すことに感謝するほかなかった。

 

黒煙に染まったその魔神(イブキの神)の姿は、半透明な気体のようであり、どす黒く穢れた色をしていた。

 

まるで体中を這うような縄文土器を彷彿とさせる蛇のごとき紋様(体全体を波、縄が無数に交差する)は体に定着せず動いているようだった。

 

※まだ冥王(紫のイブキ)とはなっておらず、雅也より(九頭竜)としての意識が優位になった未覚醒状態。

 

未だ完全に(実体化しきれていない)未成熟のその体をズルズルと引きずりながらも、

 

力任せに腕を振るうだけで目の前のあらゆる物質は粉砕し、力は、イブキの神に取り込まれた雅也に新たな生命としての歓喜を与えるのであった。

 

イブキは、ゆっくりとその受肉し完全新生された己の力に酔いしれ本格的な蹂躙を心の赴くがまま愉しんだ。

 

「わァアあああー!!(大善)」

 

「・・・・・・!(微笑むイブキ)」

 

その時。

 

ピキュィーン!

 

「んぐっううあああああ!!!(イブキ)」

 

突如謎の強烈な光、一瞬のうちフラッシュ何百個分にも匹敵する輝き。

 

大善の後ろに力強く仁王立ちしていたのは、少女千里(大善の娘)だった。

 

「父さん!(千里)」

 

放散された力に、未覚醒状態のイブキは気体となり塀をすり抜け一目散に逃げ出してゆく。

 

「・・・お、おまえ・・・それ(鏡)、どうしたんだ。(大善)」

 

「あ、あたし・・・・・(千里)」

 

イブキの神をその光により撃退させていたのは、千里の掌に握られていた、日神降臨器アマテライザー(鏡)であった。

 

イブキが現世へと覚醒したことを予感したその鏡は、少女の掌に再び出現したのである。

 

「・・・・・ま・・・・マサヤ・・・!おお前、

マサヤじゃないかよ!し、しっかりしろ!おい大丈夫か!(大善)」

 

イブキの支配を一時的にであるものの逃れた(人間雅也)は、友の目の前に倒れた。

 

「俺は、いったい・・・(雅也)」

 

「(大善と千里の顔を見た雅也)・・・来るなッ・・・・・」

 

「お、おい!(大善)」

 

「昔の俺は、一度死んだ。いや、“殺された”・・・・・!(大善を振り払う雅也)」

 

「やっぱりお前・・・・・(大善)」

 

「俺はな、憎んでたんだよ・・・・・(雅也)」

 

「なんで産まれてきたのかって・・・。俺たちみたいな奴が。」

 

人類へ注がれた熱い呪詛のまなざし。

 

雅也の目は、空のなか厳然として輝く日の光を呪っていた。

 

「本当の“わざわい”はこれから起こる。(雅也)」

 

「な、なに言ってんだ!・・・(大善)」

 

「・・・いい加減友達面はよせ・・・俺の、なにを知ってんだ。(雅也)」

 

「引き金も引けない、そんな甘い野郎に・・・!(雅也)」

※大戦当時大善は衛生兵=否戦闘員だった。

 

「うっ・・・!(吐き気を催す大善)」

 

「そのザマじゃ、お前も存分やったクチだな。・・・なら俺と同・・・(雅也)」 

 

「違う!(大善)」

 

咄嗟に放った否定だった。

 

挑発するかのような雅也の瞳が、この“否定”によりさらに色を失った。

 

その"日々"が灼熱の暖気の中、二人(大善と雅也)を敵に変えていた。

 

「俺は・・もう、お前らと同じ“場所(ばしょ/光の下)”にはゆけない・・・・・・・・(雅也)」

 

「雅也・・・!(大善)」

 

その光景、周囲に倒れた人々から目を逸らすように雅也は続ける。

 

「こんなに・・・。」

 

「井上の息子も、俺がやったんだ。あんときゃせいせいしたな。(雅也)」

 

「・・・お前、今からで遅くない!出頭しろ!俺もついてってやるから。(大善)」

 

「やめろよ・・・そういうの(雅也)」

 

「いっそ、お前が俺を殺してみろよ!(雅也)」

 

雅也が泣いている。

 

大善にははっきり見えていた。

 

だが、彼は止められなかった。

 

雅也の手、その肉体の一部はもうその時、人の形状を逸脱する魔物となっていた。

その指先は猛禽を思わせる黒い爪に生えかわり、

 

破けた衣服から微かにのぞく、憎悪が具現化したような、禍々しい黒き羽根。

 

背から生える、堕天したものの象徴を大善は見たからである。

 

その翼は大善の中で、数年前に古墳の中で見せられた神話時代の闘争を思い出させた。

 

「消してやる・・・なにもかも、殺してやるよ・・・お前も、お前の娘二人の首も。すべて俺の手で・・・。(雅也)」

 

雅也のぼろぼろに破けたロングコートは、炎天の中注がれる日の光さえも、渦巻き溢れる禍なる気と共に力に変え吸収し

 

彼は大善らふたりに対し呪詛の台詞を吐き、その体を引きずりながら去っていった。

 

その姿が完全な漆黒となり遠く消えるまで、大善の目の前は真っ白となっていた。

 

「呼んでも無駄だよ?彼はもうすでに・・・・僕らに選ばれたのだから。

すでに君らとは違う次元(ステージ)にいる・・・。(甲三/九尾の狐)」

 

「ヤツはもう僕らと同じに染まったのさ!!(甲三)」

 

大善にそう告げる少年甲三の不気味な笑み。

 

「ナニ嗤ってんだよ・・・・・・人が死んでんだぞ。(大善)」

 

「・・・・・なんで、そう笑えるんだよ!(甲三の胸ぐらをつかむ大善)」

 

「熱くなるなよ。どんな人間も笑うじゃないか。誰かが不幸になればよりいっそう元気よくね!(甲三)」

 

「まさか自分だけは良いヤツだなんて、思ってんの?(ガンをつける甲三)」

 

「悪魔め・・・!

オレが・・・・・必ず貴様らを・・・。(拳を握りしめる大善)」

 

「おじさん、教えてやろうか!悪魔はね、人間どもを糧に育つんだよ!

あいつ(雅也)はこれから育つぞお!オンモシロイヨネェ!キミもそう思うでしょー!ハハハ・・・・・ヒャヒャヒャ!(甲三)」

 

異常なまでに顔を歪ませ爆笑する甲三。

 

「(許さない・・・・・・)(千里)」

 

少女千里の瞳は雅也のそれとは違えども、彼より強烈な憤怒の相で少年をとらえていた。

 

「お~、まるで殺してやるって目をしているね。こわいこわい・・・。ヒュ~。(立ち去る甲三)」

 

唖然と立ち尽くす二人を残し立ち去る少年・・・。

 

「(また始められる・・・!クフフ)(甲三)」

 

少年はあえてのちに最大の脅威として成長するこの二人に対し何も手を下さず、それより一切先語ることはなかった。

 

その理由はとても明白(ピュア)なものだった。

 

憎しみが憎しみの記憶を、

 

新たなその闇を呼び起こすからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クニノマホロバ~prince eyes~

 

 

 

 

 

戦い疲れていたのかー。

 

夜のキャンプ場で・・・。彼はマガツ神たちとの戦いに備え、ラジオの電波を消して仮眠に入った。

 

決戦間近ー。

対イブキ戦に備え夜営のため用意したテント。

 

買い物を終え、目的地に関するガイドブックなどを捲りながら青年テルヒコは孤独な夜、天井を見上げていた。

 

とりとめない過去、うつろう意識のなか、潜在意識に紛れ込み強烈な思い出がフィードバックされる。

 

その夢の中で。

 

ある日見た夢の中で男(テルヒコ)は思い出した。

 

(だれか、いるー?!彼女は・・・!)

 

見覚えある美しい黒髪の人影。

 

荒野のなかで一人佇むその後ろ姿。

 

二人はそこに残されていた。

 

次の瞬間にテルヒコは電車のなかにいた。いつも乗る、日豊本線サンシャイン号のなかに。

 

緑の座椅子に平時の白い洋装のユタカがいた。

 

彼女はなぜかとてもリラックスしていて、殺伐とした日々には似合わぬほど笑顔だった。

 

「ねえ、私たちこんな風に旅するの久し振りね。(ユタカ)」

 

「あ、ああ・・・。いつから俺たち、ここに?(テルヒコ)」

 

「ほら!きれいな景色。(ユタカ)」

 

「ほんとだ!いい眺めだな。(テルヒコ)」

 

・・・・・・・

 

「あれ?!・・・(テルヒコ)」

 

彼女の姿が見あたらない。

 

どこを探しても、走り続ける電車内に人ひとりとして乗っていない・・・。

 

青年は急激な恐怖におそわれた。

 

「・・・・・・(テルヒコ)」

 

わけもわからず、溢れるもの。

 

込み上げるもの。

 

「俺、なんで・・・?(テルヒコ)」

 

爽やかな夏の海岸沿いを、サンシャイン号は走る。

 

風景は切り替わる。

 

トンネルを抜けて・・・・・・。

 

とたんに。

 

彼の周囲は地下無辺に続く真っ暗闇に変わり

 

鈍重な影法師となったそのイメージは、青年テルヒコを圧殺していた。

 

彼を圧殺するもの。

 

ドバァーっと・・・

 

黒い昆布のような。

 

何メーターにかけ髪の毛が広がり、終いには肩に絡まる。

 

「・・・・・・!(また、おんなじ夢だ、なんなんだこのイメージは・・・!)」

 

追ってくる、

 

消し去りたくても消えることのない幻。

 

ビジョンはその魂深くまで彼を揺さぶる。

 

消えたはずの彼女が見えた。

 

長い髪を掻き分けた、優しげな昔見たようなしぐさ。

 

その口から無限に溢れるハエ・・・腐臭。

 

そこにいるのは。

 

自分が追った、彼女のまぼろしなのか。

 

疲れた自分のイメージが投影されたこれはただの夢なのか。

 

「ユタカ・・・・か。(テルヒコ)」

 

ガッ!

 

男の腕をつかんだ彼女の細い腕が、より深い白

 

土気色の白骨へ変わる。

 

(ねえ)

 

「笑ってよ・・・。(ユタカ)」

 

「・・・・・・!!!!(テルヒコ)」

 

その顔は土中の骸(むくろ)となり、体中、骨の隙間からはおびただしい数の蛆があふれ出る。破損した肉体。

 

迫る幻影が、鮮やかにのし掛かり青年の魂を脅迫する。

 

まるで、自分をのこして1人生きる男を追う黄泉からの使者であるかのように。

 

「う、うわあ゛あーーーーっ!(テルヒコ)」

 

「・・・どうして・・・?(ユタカ)」

 

戦慄した彼の顔を見た骸は、暗闇の中薄暗く寂しげに光り、

 

闇は広がった。

 

テルヒコの首にかけられた手はもう消えていた。

 

西暦239年の弥生時代。

伊勢湾周辺のとある高原。

※伊勢湾付近には現在の伊勢神宮がある

 

太古存在した国家、女王国(邪馬台国)は海上に浮かぶ大地、"とある、聖域(サンクチュアリ)"に存在した。

 

海を渡り伊勢湾から大和(三輪山)、九州(奴国から吉野ヶ里・故郷の日向)まで続く邪馬台国の防衛拠点を交通のため多数の船が通っていた。

 

長く結ばれたみずら(長髪)を小刀で切り落とし、無造作なヘアスタイルのまま1月が経過していた海(天)族の王子、照彦(テルヒコ・24歳)は宮殿付近の小さな屋敷で、女王のため食事の用意をしていた。

 

「・・・・・(テルヒコ)」

 

猪の肉、魚介類、穀類を煮炊きしたスープをよそい、立ち昇る香しい磯の臭いを嗅ぎながら

この日の彼はどことなく楽し気であった。

 

「なにやってるの?(ユタカ)」

 

彼女の関心はその手元にあった。

 

「・・・・姫様。今は準備中ですよ。・・・また、どっから侵入なさったんですか?!(テルヒコ)」

 

「堅苦しいわね。(ユタカ)」

 

「ねえ、なにか気付かない?(ユタカ)」

 

試してやろうといわんばかりの質問を投げ掛けるユタカは、なぜか嬉しそうだった。

 

「いいことでもあった?・・・なにか変わりました?!(テルヒコ)」

 

いまだ慣れない敬語を話すテルヒコ。まったく神事や、日常の義務的諸事にしか関心を持たない青年に彼女は呆れた顔でため息をついた。

 

「・・・・・・いいわよっ。相変わらずなんだから。(ユタカ)」

 

長く伸びた髪に手を当てながらその視線は目の前の彼から、きらびやかな宝石のような海の幸山の幸へ向けられていた。

 

ぎゅるる・・・。

 

「(その目線は・・・!)(テルヒコ)」

 

「うわーい!なにこれおいし~!(ユタカ)」

 

「・・・あー!なァ~にやってんだこいつ!こ、こらダメだろ!ユタカ!おいちょっとやめろったら、わー!(テルヒコ)」

 

「元に戻ったわ!(ユタカ)」

 

「このお転婆娘が・・・!(テルヒコ)」

 

「うふふ、楽しいな!(ユタカ)」

 

「楽しかないよ、またこれ作んなくちゃ~!・・・ま、・・・いいか。(テルヒコ)」

 

「へへ、ごめんなさい!(ユタカ)」

 

その日もいつも通り、テルヒコは村の祭りが行われた賑わいの中を抜けてゆく。

 

村には鳥などの動物の仮面を被り踊るもの。

 

農作業に勤しむものたちなどがまばらに見えた。

 

「よっ!」

 

無造作な髪を後ろで束ねた古き親友(とも)、シマコ(嶋子)がテルヒコにフランクな笑みで話しかけてきた。

※嶋子=魏志倭人伝にも(兕馬觚/しまこ)という大官として登場する。

 

「これはこれは若様~。今日もボウクン、いや姫君にこき使われてるのか?(シマコ)」

 

「自由の時間も全く無しだよ。ま、なんとかやってるよ。(テルヒコ)」

 

「ナシメ様が帰ってくるまで、だな。また釣りにでも行こうや。俺が港に案内するからさ!(シマコ)」

※ナシメ(難升米)=中国に朝貢に行った卑弥呼の使い。

 

「まいにちあんなじゃじゃ馬どもに囲まれてたら命がいくらあっても持たないだろ?

たまには息抜きしろよ。(シマコ)」

 

「お前にゃ負けるよ。(テルヒコ)」

 

シマコは海族の漁師であった。(※後の浦嶋子=浦島太郎)海をわたる一族であった(海族)は、漁業を中心に栄え、人々は穏やかな暮らしを営んでいた。

 

彼らは王族の表象として、純白の装束に、朝焼け=太陽の神を表した真っ赤な衣服や旗をシンボルとした。

その影響なのか周辺の人物や、平時よりユタカも優しい朱色の装いを好んでいた。

 

「あら!シマコが帰ってきてるわ!あれ(魚)あんたが捕ったの?(ユタカ)」

 

「おうよ!俺に嫁ぐなら今のうちだぜ!(シマコ)」

 

「うまいこといって!(ユタカ)」

 

「お前らも痴話喧嘩せずうまくやれよー!(シマコ)」

 

「余計な世話だよー!(テルヒコ)」

 

テルヒコは相も変わらず自分たちをからかう友(再び漁に出る)を見送り、宮殿へ帰っていった。

 

「堅苦しいから、そんな話し方やめてよ。(ユタカ)」

 

同じ一族の遠い親戚となるシマコ、そしてテルヒコ、ユタカは同じ血を受け継ぐ家族のような、友人また他人にして、幼なじみのようなとても不思議な関係であった。

 

現代の親戚や兄弟と似ているが、当時はそれぞれの姓のルーツとなる(氏族)が集団となり暮らし、皆がひとつの神を信じ暮らしていた。王子といえプライベートで変わらず接してくれるシマコらはテルヒコにとってかけがえない友であった。

 

当時倭国の実権は、女王である卑弥呼(ひみこ/日の巫女・神子)が握った。

 

青年は幼少より父、祖父、そして卑弥呼らのもとで、その一族の日嗣(ひつぎ=系統を継ぐこと)を

護るための教育のいっさいを受けていた。

 

彼女の教える"いっさい"はその真理のうちわずかなごく一部でしかなかったが

当時人々の常識では到底理解に苦しむビジョン、恐ろしいまでの知識を卑弥呼は持っているようだった。

 

彼女のテルヒコに対する教育は厳しく、その教えは自然界の森羅万象、様々な事象に通じ女王自身の言行も徹底していた。

 

いつの日敵に変わるやもしれない周囲とのかかわりにおいて、

 

テルヒコにとって素顔で自らの本心を打ち明けられるのは、

そんな家族しかいなかった。

 

成長した彼は、女王の下す数々の予測不能な言動を疑うことなく忠実に信じ、ときにはマガツ神との霊術戦の軍師として

 

またあらゆる外交といった行動面、政治の駆け引きにおいて

 

彼女の神女、巫(かんなぎ)としての活動を全面的に補佐して全力で助けた。

 

若くいまだ粗削りな面は多かったが、忠実に彼女を信じて行動するテルヒコのそんな素朴な面を卑弥呼はかっていた。

 

テルヒコらが信じたものは、(日の神)。太陽を朝夕眺めることもテルヒコとユタカの自然の習慣であった。

 

そんな彼ら。テルヒコとユタカが暮らし8年が経過したある日。

 

テルヒコは宮殿の廊下から、機織り小屋で作業をしていた女たち(巫女)たちのざわつくような噂話を聞いた。

 

「間違いないわよ。私たち騙されてたのよ。(巫女)」

 

「女王は妖術を使って何万年も歳をとらないんですって!(巫女)」

 

「ねえ、ほんとうはヒミコ様なんてもう世にいらっしゃらないんじゃないのかしら?(とある巫女の声)」

 

「ありえるわ!出不精だしね。弟君様以外会いもせず、宮殿から一向に出てこない。ここ数年凶作続きだし・・・力も衰え始めたんじゃない?(巫女)」

 

「いまの私たちならもしや卑弥呼も・・・(巫女)」

 

「やっぱり"あの方"の言う通りだったのよ!ねえ!(その他の巫女)」

 

「おい・・・キサマら!・・・・・・!(テルヒコ)」

 

「あ、これは弟君さま・・・・!わ、わわわわ私たちは、ただよかれと老婆心で!(巫女)」

 

「なんて無礼だ。そなたらには、人としての、誠(まこと)がないのか?(テルヒコ)」

 

テルヒコの鋭い目つきを見た巫女の一人が、付近に大声で騒ぎ立てことを大きくかく乱しようとする。

 

「きゃぁあー!誰かァ!弟君様が暴れて機織り小屋を!(巫女)」

 

「誰か来てぇ!誰かー!(巫女たち)」

 

「な・・・なんて奴。・・・天罰が下るぞ!恥ずかしくないのか!(テルヒコ)」

 

「誰か~!だ・・・れ、・・・うっうっぐゴガッガアァアア!!・・・(巫女)」

 

彼女らが叫びおののく突如、テルヒコの横で悪口を告げた先ほどの巫女らが、青ざめた顔で、もがき苦しみ嘔吐しのたうち回りだした。

 

「ぎゃぁア~~~~!あがっがアアアー!ー!ー!ッー!ッー!ー!!・・・。(巫女)」

 

(ダマレ)※残響する力

 

「うあー!痛い痛いやめて!(何故か嘔吐し白目をむく巫女)」

 

「大丈夫か?!(テルヒコ)」

 

「き、気絶している・・・(振り向く)こ、この娘!(巫女)」

 

テルヒコは何が起こったかわからず呆気にとられていた。

 

巫女たちを弾き飛ばした、強烈な、殺気の主。

 

「ダマレ・・・。(ユタカ)」

 

呪力のセンス。振り向いた傍には、ユタカが静かに、ぽつんと立っていた。

 

髪の艶やかな黒色は、この時に不気味な脅威を同じ巫女であった女たちに牽制するかの如くうち放っていた。

 

「あがっ・・・ぎゃぁああ!(巫女)」

 

引きちぎれんばかりに広がる巫女の口は狼、狐のように歪んでいた。

 

「次は、・・・二度と喋れないようにしてやる。(ユタカ)」

 

その目は鋭利で、異様な気配に満ちていた。

 

「・・・この狐。わかっているのよ、女王の悪口をいったのはお前であろう・・・。(ユタカ)」

 

「キ、キツネですって?!なんの話なの!(巫女)」

 

「卑弥呼をいじめる女狐・・・・・・。(ユタカ)」

 

「ぎゃ~~~!!!なんなの、なんなのこの子!はやくいきましょ!(巫女たち)」

 

ユタカの人知を越えた力とその雰囲気。

 

恐れおののく巫女たちはとてもかなわぬとばかり一目散に走り逃げだした。

 

「姫様・・・」

 

ユタカの力、その存在は邪馬台国においても卑弥呼や彼女の親類をのぞき、極力は秘密にされ育てられていた。

 

卑弥呼を継ぐ才能。

 

強大な力をもっていた彼女は、周囲の卑弥呼らをいぶかしむ迷妄な人々からアヤカシかなにかの類いかと勘違いされ、非常に恐れられた。

 

「ねえ・・・。(ユタカ)」

 

恐怖に満ちた顔で、いつになく弱気な顔のユタカは彼に訪ねた。

 

「・・怖くないの?(ユタカ)」

 

「慣れたよ。王になるなら、それくらいなくっちゃな。(テルヒコ)」

 

「信じてくれてるの?(ユタカ)」

 

「・・ああ。(テルヒコ)」

 

「眼を見て、話せ!本当は心のなかでアタシが、お化けみたいに思ってたりしない?!(ユタカ)」

 

「ねえったら!(ユタカ)」

 

必死に真面目な顔で訴えるユタカに対し何となく、目もあわさずテルヒコは反面真剣な口調で言った。

 

「大丈夫。俺は味方だよ・・・。(テルヒコ)」

 

険しいユタカの目に、少女のような晴れやかな気が戻った。

 

「・・・・!(ユタカ)」

 

「うちの王が十二分におっかないから、慣れっこだ。(テルヒコ)」

 

女王。卑弥呼の力は人並外れていた。

 

彼女のそれ(能力)は一国の軍事力に匹敵するほど、思念のみで地を割り人心に干渉するなど規格外の霊力・戦闘力をもっていた。

 

のちの歴史上の超能力者クラスのサイキックたちが束となろうと敵わぬ力。

 

自軍及び敵にさえ、極力被害を与えず最小限に抑え、争いに勝つ彼女の霊力は奇跡としか表現しようがなかった。そして国内を束ねるカリスマ性。

 

のちの時代(神功皇后)と称されるほどの傑物-。

 

テルヒコもその血から同様の霊力を授かってはいたが、卑弥呼に遠く及ばず、

神事や戦闘に参加する際は大部分は必ず後方から女王のサポートを必要とした。

 

彼女の力が加わった時に初めて、テルヒコが持つ霊剣(十束の剣)の力は輝きを放つのだった。

 

卑弥呼が王になる前、男たちがその権力を求め覇権を争い、国内は乱れた。

 

また同胞の中でも嫉妬・猜疑心に刈られ王の力を疑う巫女たちや、

その霊力を自ら手に入れんと欲していた者たちは敵味方とわず数知れなかった。

 

「私もあんなふうになれるかな・・・。(ユタカ)」

 

彼女をきらう民たちが邪推するほど私利私欲に動かない高潔な人格、圧倒的な霊力を備えた女性であった師、卑弥呼をテルヒコは1人の人として尊敬し世に二人とおらぬ絶大な人物であると誇りに思っていた。

 

「なれるさ。(テルヒコ)」

 

「私が卑弥呼様みたいな王になったら、ちゃんと言うことを聞いてちょうだいね!(ユタカ)」

 

「当然だ!・・・ユタカも頑張って彼女みたく修行しないとな。だがあんまり気負うなよ。(テルヒコ)」

 

「じゃあ、私神様にお願いする。(ユタカ)」

 

「いったいどんな事をだ?(テルヒコ)」

 

何を思うか、悲しいのか、彼女の瞳は不思議と揺れていた。

 

「神様が、いたずらでお前をどこかへ連れていったりしないようによ。(ユタカ)」

 

「お前が、私を忘れないように・・・。(ユタカ)」

 

「そんなこと・・・(テルヒコ)」

 

矢継早に、なにかを見悟った顔で言った。

 

「私が先に死んだらそのときはぜったい・・・あんたの守り神になって守ってあげる。(ユタカ)」

 

「何があっても・・・ぜったいよ。(ユタカ)」

 

彼女の顔は、真剣だったー。

 

その夜、かがり火がゆらゆらと揺らめく中彼は急ぎその場へ駆け付けた。

 

宮殿内、赤い仕切りに覆われたベールの向こう側。

 

この日の女王(卑弥呼)は、普段の正装と違うようだった。

 

現代人が和服でなく洋服を常用するように、交易の際に仕入れた、魏にて織られた真っ赤な装束を彼女はルームウェアとして纏っていた。

 

透き通った威厳溢れる声。

 

女王は、青年に告げた。

 

「・・・いつも世話になっています。ユタカはどうだ。お前に預けて既に8年。(卑弥呼)」

 

その声に向かい深く手をつき、何度あっても拭えぬ緊張感の中男は答える。

 

「は・・・・。姫様はもうすぐ成人を迎え立派になられました。本当に、元気すぎるほどです。(テルヒコ)」

 

「そんなに、か。(卑弥呼)」

 

「はい。(テルヒコ)」

 

「それは良い。(卑弥呼)」

 

「あの子は・・・・まさに運命の神子(みこ)だ。(卑弥呼)」

 

「私をこの先越えてくれるだろう。

安心してこの座を渡せるのはあの子だけだ。(卑弥呼)」

 

「やはりそれほどの素質がユタカさまには・・・!(テルヒコ)」

 

喜びを隠せないテルヒコに向けられた、女王の顔は悲壮感に溢れていた。

 

そのとき、邪馬台国の女王に見えていたはるかなる未来のビジョンは真っ赤に血塗られていた。

 

彼女は一抹の希望を、祈りをその鏡に込め封印し青年に託した。

 

「この鏡は・・・・・・(テルヒコ)」

 

この先自ら守っていた世界が滅亡すること、その継承者である一族の身にも永劫に続く危機が及ぶ。

 

これは新たな戦いの歴史の夜明け。

 

彼女は最後の言伝を残した。

 

「もうすべて、見えている・・・・(卑弥呼)」

 

「マガなる神を宿す者ども(内通者)は、この太刀で祓い清めるのみです!(テルヒコ)」

 

テルヒコと卑弥呼の前には、当時の彼らが祭祀(さいし)に用いた、戦闘には用いられぬ不思議な形の銅剣があった-。

 

剣は古来、殺傷(ころしあい)の武具以外の目的としてー、

 

魔物を切り裂き祓い、さ迷えるモノたち、苦しめる善良な魂たちを鎮め救う目的に使われた歴史があった。

 

テルヒコにとっての(剣)とは、邪悪を断ち、魔に堕ちゆく人の魂を救う為のもの。彼は、そう強く信じていた。

 

争いを越えた平和な日々をこの剣が護る。これからも。

その自負こそが、一族の誇りだった。

 

「な、何だって・・・。(テルヒコ)」

 

「この先、災いがある。(卑弥呼)」

 

「な、そんなまさか!いまの我らならば必ずや・・・!(テルヒコ)」

 

(卑弥呼の眼は、いつもの精神的な余裕、冷静さを失っている。)

 

テルヒコは戦慄した。

 

「私の力だけでは、もう・・・。(卑弥呼)」

 

「敵は、それほどのモノ(魔)だというのですか?(テルヒコ)」

 

「日神が眠りから目覚めぬ現在、我々にそうする他はない。(卑弥呼)」

 

はるか古代天より降臨し、一族に代々人知を超えた技術とパワーを与えていた天の船。

(アメノイワフネ)が(地球に擬態するため岩石となり)眠りについて数世紀。

 

一族のテクノロジー、一部の実力を持つ継承者数名をのぞいて、この国を守る力はほかにはなかった。

 

テルヒコは、前日のユタカの例え話を思い出した。

 

(もしや、彼女・・・!)

 

「奉じたものを見捨てる神など・・・?敵将に頭を下げ、軍門に下れとでも?(テルヒコ)」

 

「それだけは・・・私は我慢なりません。そんなことになるくらいならば、まだ討ち死にしたほうがましです・・・!(テルヒコ)」

 

「これは私の命令だ。(卑弥呼)」

 

「戦いの輪廻は神代の昔からある。(卑弥呼)」

 

「これも神代の因縁だというのですか・・・?!(テルヒコ)」

 

「すべては連動する。(卑弥呼)」

 

「お前は未来、ユタカの振るう剣となるべき御魂(みたま)だ。お前たちは生きよ。(卑弥呼)」

 

「わからない・・・わたしには、ナニもかも。(テルヒコ)」

 

「あの子の願いを・・・。私は知っている。

守ってやれるのはお前だけなのだ。

ユタカと共に、逃げなさい。(卑弥呼)」

 

宮殿の奥底で眠る巨大なカミ、アマテラスコウタイジン(日神)の瞳は見ひらかれていた。

 

国家を揺るがす存在。

 

その隠されたる力を知るのは、女王ただ一人であった。

 

この時期のテルヒコは、まだ未来、闇の使者たちと戦い続ける戦士としての己の運命を知らずにいた・・・。

 

その数日後、預言は的中した。

 

奴ら(魔軍)は、仲間であったはずの巫女どもが内通したことにより内部から侵入していたのだ。

 

滅ぼされる王国。巫女たちも一部を除き徹底的に利用され権利が保証などはされるはずもなく。

 

破滅の火だけが、

美しい国の緑の大地を、海を汚した。

 

争いの元凶ともいえる、妖しく輝く鏡を、憎らしくテルヒコは見つめていた。

 

(こんなものさえなければ・・・!)

 

争いの火のなか鏡がそのカオをうつす。

 

青年の瞳に昨日までうつっていた、優しい彼女の笑顔は、土気色に汚れていた。

 

彼の拳は、怒りに震えていた。

 

兵士の笑い声がこだまする戦禍のなか、魔物(九頭竜)の咆哮がきこえた。

 

幻聴などではない。

 

ましては幻覚でも。

 

争いに重なるように黒い霧となった九本首の龍が、残虐の限りを尽くす兵士たちの心の声、よろこびの声を代弁しているかのように、青年は感じ取れた。

 

「ちからが、力が欲しい・・・(テルヒコ)」

 

見える無数の魔軍の影・・・。

 

悪夢に覆い尽くされた大地で。

 

「ユタカアァーーーーッッ!(テルヒコ)」

 

敵兵が去った後の緑の地、テルヒコは横たわる彼女(ユタカ)の亡骸を抱え絶望した。

 

彼女は、尊厳を守るため自ら命を断っていた。

 

テルヒコは女王が残した先日の遺言を想起した。

 

「何があろうとも、ユタカの傍にいてやれ。(卑弥呼)」

 

(大丈夫。私はここにいるよ・・・。)

 

彼女の幻影を、彼は見た。

 

自分一人で戦っている、とんだ思い違いだった。

 

その優しさにはじめて気が付いた。

 

かれを駆り立てる存在は近くに居た。

 

だが、誰よりも遠い場所へー。

 

引き裂かれた運命の意識によって彼女の魂は連れ去られた。

 

千何百年という時の中消えることない、

 

それは、呪いにさえ似ていた。

 

王子の瞳にかけられた永遠の呪い。

 

失ったモノ

 

その激痛の中で、信じた世界は砕けた。

 

その翌朝、

 

友(シマコ)に最後の頼みを託したテルヒコは、

彼が用意した漁船に乗り卑弥呼の言い伝えていた筑紫(九州)は日向の地を目指した。

 

「また、落ちあおう・・・。お互い生きてたらな。(テルヒコ)」

 

「そんな、嘘だろ・・・(シマコ)」

 

シマコの掌には、テルヒコより彼とは異なる神器(刀)が託されていた。

※リューグレイザ―(竜宮霊斬)

 

ザッパーン!

 

悲しみに包まれた海の中を船は進む。

 

戦禍のなか、炎に包まれた邪馬台国(ふるさと)は、一夜のうちにして滅ぼされた。

 

 

夜が明け、目覚め。

 

テントから外の景色を見たテルヒコは、なにも言わず目の前の湖を眺めた。

 

水の輝きは、優しく彼の心を癒すように静かに浮かんでいる。

 

あの日みた、ユタカの顔をはっきりと思い出したテルヒコは、自らを待ち受ける冥王のもとへなにも言わず、発(た)つのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

darkness dream

 

 

 

 

平安末期、大江山。

姫君たちの若き血が注がれた盃(サカヅキ)、

とある峠の奥深く、謝肉祭(カーニバル)は開かれていた。

 

ビュッ!!

 

シュパーン!(※振りかざされた刀の音)

 

「ッ!ガアーーーッ!(赤鬼=酒呑童子)」

 

「いまだ、かかれ!(源頼光)」

 

その武将、頼光の目の前にいた巨大な赤鬼(酒呑童子)は、砦のなか彼らを睨み付け、暴れもがき苦しみながら、屋敷のなかを生命力の限り逃げ回る。

 

数ヶ月前から都を襲う彼ら鬼を討伐すべく朝廷により選ばれた5人の男たち。(頼光ほか渡辺綱、坂田公時、碓井貞光、卜部季武)

 

名刀、童子切安綱が、悪鬼の首を脊髄の根からこそぎとった。

 

彼らは騙し討ちとばかりに悪鬼と共に酒を酌み交わし、今まさに酔ったその隙を狙い、ここぞとばかり討ち取らんとしていた。

 

「・・・・・・やったか!(頼光)」

 

ピクッ(目を閉じ、口角をあげる酒呑童子の生首)

 

ビクビクビクッ!

 

生臭い鮮度、艶めき動く肉塊・・・

 

ビチビチビチ!

 

跳ねる首。悪魔は彼らの前に再び立ちふさ塞った。

 

「マガモノめえっ!!(頼光)」

 

「ギャー――ハッハッハハハ!(刀に噛みつく酒呑童子の生首)」

 

刃を嚙み砕かんと迫るその気迫に、圧倒されそうになる。

 

往古の昔、軍神(スサノヲ)が八岐大蛇を倒した

 

その奇策(酒に酔わせ首を刈る)をもってしてもいまだ力の差は、大きく開く。

 

そしてただでさえ童子の従がえる無数の雑鬼は一匹一匹が尋常ならざる剛力をもっていた。

 

毒矢に勝る魔性のツメ。

 

「うっがあー!(渡辺綱)」

 

「残すは頭だ!ここは任せて奴を追え!(坂田)」

 

次々と現れる配下の土蜘蛛は武将ら人間たちの数を越えていた。

 

「こんのなまくらがあッ!くそぉー!(碓井)」

※なまくら=鈍り使えない刀

 

人がマガツカミに打ち勝つことは、近接兵器の中で最高峰と評される日本刀をもってしても、容易なことではなかった。

 

ピキュガァーン!(射し込む白い閃光)

 

「な・・・!(頼光)」

 

狂乱を遮るように空間を包む眩しい白。

 

光の暖気が砦のなかで鬼どもの四肢を破裂させ、その勢いのまま屋内にて熱気は爆発した。

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!(炎の渦)

 

「(誰かが火を放ったのか?!)(頼光)」

 

「ガッアガァアー!ッーーーンァガー!(発火する酒呑童子)」

 

「・・・助かったのか。い、いけるぞ、我らに軍神の加護あり!いくぞォ!うぉおおおォーッ!!!(肉を削がれ生傷を負った武将たち)」

 

「ガアァアーッ!(燃え滾る鬼)」

 

数時間にわたる、血を削ぐ死闘の果て、攻防が続いた。

 

ゴゴゴゴ!(燃える酒呑童子の棲み家)

 

ついに、死線を越えて。

 

瀕死の生傷を抱えながらも源頼光たちは鬼(酒呑童子)の一味を討伐することに成功した。

 

「やった・・・!ついに打ち勝った!(坂田)」

 

「しかし、全くの油断はできんぞ・・・滅ぼしたとていずれ・・・。奴らは※鬼なのだ・・・。」

※古来鬼とは、超常的力をもつもの、人ならざる特性を持つ物の怪としての意味合いが強かった。

 

「滅びたように見せ、変幻自在な術で身内に化けているやも知らん。(渡辺)」

 

「・・・・・・ああ、肝に命じておこう。(頼光)」

 

後に鬼どもにおそれられる渡辺綱の忠告、都に帰還して数日が過ぎた日。

 

いまだ彼(源頼光)はその胸騒ぎから逃れられずにいた。

 

彼は寝所にて一様に眠れぬ夜を過ごしていた・・・。

 

「(・・・なんだこの生臭いニオイは)・・・ぅぐう・・・ワァアーッッー!(頼光)」

 

布団から跳ね起きるとそこは平常の現実(リアル)をこえた延長に続く現実世界であった。

 

やたらに、やけに色鮮やかな彩度の世界。

 

この屋敷は・・・・・この、砦は。

 

この散らばる白い腕・・・血は。

 

直ちに頼光はその胸騒ぎの意味を知ることとなる。

 

「こ、ここは先日来た・・・!(頼光)」

 

気がつけば彼一人だけが誘われていた。

 

「じょ、冗談ではない・・・!!!」

 

数日前の地獄(あくむ)の中に。

 

「先刻は~よくも・・・・やってくれたなあ。(酒呑童子)」

 

「あっはっはァアア!!!!!(酒呑童子)」

 

「俺は、なぜこんなところに・・・・・・・!(頼光)」

 

まるで猛者の魂をポッキリへし折る無間地獄(ループ)のように、武将は地獄に取り残されていた。

 

道に迷った幼子のように彼は、そんな心境に加速度的に逆行していた。

 

その時、平安の武将源頼光は

 

自ら討ち取ったはずの、悪鬼たちの住む巣窟に逆戻りしていたー!

 

頼光は咄嗟に真っ白な頭の中から、自分を助けるその刀を探し出そうと手をばたつかせた。

 

「はぁーーーぁあーーーー・・・・・・・!!(頼光)」

 

「か、刀・・・!(刀は、どこだ?!)(頼光)」

 

散らばる仲間たちの死体。

 

全員見るも無残な姿となり、その血肉を食む土蜘蛛により頼光は完全に取り囲まれていた。

 

眼前には先日討ち取った赤鬼(酒呑童子)の首が、憎らしげに頼光を見つめている。

 

首を跳ねられようと、いっこうに何の心のぶれも感じさせないクールな目付きはいっそ頼光を爽快な恐怖の世界に引き込んでいた。

 

「(そうだった・・・こいつ、は鬼だった・・・・・・・)(頼光)」

 

スウッ・・・・

 

薄暗い明かりの中から、あらわれるものは見覚えある影の群れであった。

 

かつて自ら共に闘い散った戦士たちの姿が、無数の鬼となり現れる。

 

「俺は、ほんとの修羅道に、いや餓鬼、畜生道に堕ちたとでもいうのか・・・・・。(頼光)」

 

こいつは、そんな滑稽(イージー)なモノじゃなかった・・・。

 

「宴(うたげ)の続きだ・・・!(酒呑童子)」

 

「う・・・うわぁああぁあああああああああああ!!!!!(頼光)」

 

ビシュッッ!

 

闇を追う一線の太刀-!

 

「・・・・・・・・(テルヒコ)」

 

ブシャアッ!(※鬼の脳天に強く差し込まれる剣)

 

突如放たれた青年の太刀は垂直に酒呑童子の脳髄に串刺しに差し込まれていた。

 

ギリッギリリッ!

 

「ガッアガ・・・ガ(酒呑童子)」

 

「ギィイィィィィイ!ギャアアアア!(悪鬼の部下たち)」

 

騒めく狂気、マガモノの群れ。

 

ブシュウッ!(※剣を鬼の頭蓋から引き抜く音)

 

ピンク色の脳が、一面に暴れ出た。

 

「貴様は・・・(頼光)」

 

「心を惑わせるな!付け入られるぞ。(テルヒコ)」

 

引き抜かれた力。

 

放つ言霊と共に携えた(十束の剣)は霊気を宿し光を帯びていた。

 

切り裂かれたその直線の太刀筋は鬼となった亡霊共の邪気をうち祓い、邪悪な熱風を溶解させていった。

 

「(あれは見たことがある、軍神スサノヲの・・・剣だ・・・!)(頼光)」

 

「諸々の禍事罪穢れを、祓えたまえ・清めたまえ!・・・・・・・うッ・・・。(体力が尽きかけるテルヒコ)」

 

「オモイダシタゼ!!!(酒呑童子)」

 

「まさかこんな所(夢幻の中)で出会うとはなア・・・なあ~ケケケ、オレだよ!覚えてるかあ?ボウズ(赤鬼=酒呑童子)」

 

斬りつけられた首は180度回転し、武将の夢の影より現れた青年にケタケタ笑いながら告げた。

 

「いいじゃねえかよ、お互い様だぜぇえ~。おめえ(頼光)ら人間も卑怯クセえ罠張りやがるからよ・・・。(酒呑童子)」

 

「これで終わったと思うなよ・・・グッギャガアアア!(突然現れた青年に踏みつけられる赤鬼=酒呑童子)」

 

「・・・くっそ・・・クッソオオ!!!!必ず滅ぼす!地獄に下っても・・・。(テルヒコ)」

 

幾度も頭蓋を踏みつける青年の容貌(かお)に、頼光は鬼の影を見た。

 

「(否、神ではない。こいつも・・・・・・!)(頼光)」

 

「キサマさえ・・・貴様さえいなければァア!(テルヒコ)」

 

散らばった肉、生ぬるい返り血を浴びた青年は、躊躇などなく鬼の首を踏みにじった。

 

「・・・お前は何奴だ?!(源頼光)」

 

「フフフ・・・・・・ハッハハハハハハ!!!!(テルヒコ)」

 

「・・・・・・・この程度でヤツは死なない・・・!(テルヒコ)」

 

追っていた対象を逃がしたとばかりに、失意呆然となった姿の青年は、振り向き武将に言った。

 

「・・・・・油断するな。(テルヒコ)」

 

「やつはまた必ず来る、身内に害が及ばぬよう気をつけろ。・・・(テルヒコ)」

 

「・・・まさか貴様もここに住み着くモノノ怪か?!・・・これは、夢なのか?(頼光)」

 

「俺のことはじき忘れる・・・。これはただの悪夢だ。(テルヒコ)」

 

とってつけたように、青年は立ち止まり彼(頼光)にこう教えた。

 

「自らを加護する力に感謝することだ・・・。

明日の朝一番、産土の社にいくといい。危ないトコだったな。(テルヒコ)」

※産土神社=自分が産まれた地の神様のこと

 

武士(もののふ)たちが力を持ち、台頭しはじめたこの時代-。

 

かつて平安の世において京の都を襲撃し、

源頼光(みなもとのらいこう)ら、名刀童子切安綱(どうじぎりやすつな)を携えた武将に討たれた悪鬼、酒呑童子(しゅてんどうじ)。

 

赤鬼の姿で描かれることの多い彼は数多くのマガツカミ=鬼の部下や土蜘蛛たちを従え、都に出現しては若い姫君や貴族を誘拐し、隠れ家にてその生き血をすすり肉を生のまま喰らったという。

 

酒呑童子(かれ)の幼い時期の名が、(伊吹童子/いぶきどうじ)といった・・・。

 

そう、あのイブキである。

 

邪馬台国を滅ぼし、のちの時代昭和~令和と幾度も甦り王子テルヒコと因縁の戦いを繰り広げることとなる、九頭竜ことイブキ。

 

イブキの分身あるいは転生(その息子)といえる存在、酒呑童子は武将たちによって討たれたかに思われた。

 

(※酒呑童子は、八岐大蛇あるいは九頭竜の子=伊吹童子と言われている。)

 

 

はるか時は下り、戦国時代ー。

 

栄華を求め血で血を洗う欲望、憎しみが国内全土を支配するこの時代、魔軍の将イブキの影が、再び甦ろうとしていたー。

 

広がる野望の果てに・・・。

英傑たち、兵(つわもの)どもの残した強烈な願望、夢の残り香を嗅ぎ付ける蟲たちの大群、

人がストレートな願望に基づいて生きた衝動の時代、何事もないかのように

 

(やつらがそのまま眠っているはずもなく)

 

変わる時代の中、邪神もその力を吸収しては成長し、

(野望滾らせる猛者どもを媒介の土壌として)その勢力を拡大させていったのである・・・・。

 

騒乱の前夜、九州の関ヶ原ともいわれた、かつての耳川の地にて・・・。

 

ダッダッダッ!(蹄の音)※ヒヅメ

 

夜のなかを駆ける一騎の若武者の影・・・。漆で染まった黒の甲冑が鈍く光る。当時の封建社会の流行りからは外れた、風のなか流れる粗野な前髪。その当時、各地に出没する邪神たちを休まる暇もなく追い続けていたテルヒコは、愛馬に跨がり遥かにひろがる肥沃な草原を駆けていた。

 

永劫に続く、修羅の道ー。錆び付いた神獣鏡を抱え、かれは旅した。

 

「ここもじきに、魔軍の、蟲共の温床になるな・・・・・。奴もかならずや・・・!(テルヒコ)」

 

意図せぬ郷里への帰郷-。

 

彼はそのとき、邪神討伐の士として全国諸国を行脚していた。

 

そのため当然マガツカミの間では一種の噂となり、そうとうな恨みも買った。

 

彼らが倒した鬼や土蜘蛛など魑魅魍魎も、当時を生きた彼を本能的につけ狙った。

 

数多くの死体が山積みとなった戦地、無傷で倒れていた自分の肉体に彼は戦慄する。

 

多くの人々との出会い、愛したぬくもりの記憶も邪神共の干渉で、必ずそれらは壊されてしまう。

 

平穏は決して続くことはなかった。そして、敵となるはずの邪神は人を介して現れた。

 

邪神は際限のない人々の欲望。人の夢、負の記憶に干渉し現れる。

 

現れ続ける・・・。生きることそのものが戦い。

 

どれだけの闇を見せられようと、人の側に立ち続ける、そう思わなければ戦えなかった。

 

そうでなければ、己こそが最も強い闇となってしまうのだから・・・。

 

その日信じた者たちの中にも、愛した人の心の中にもその力(ヤミ/マガツカミの種)はある。

 

次々と現れる闇よりの使者。戦いの相手に事欠くことはなかった。

 

その肥大化した邪悪な力が具体化し、青年を容赦なく呪殺せんといつでも群れを成す。

 

彼の眼は、この戦国の世において、完全に修羅のものとなっていた。

 

戦い続けるたび、肉体が新生(リストレーション)するごとに薄れる記憶。

 

また、この時代において致命的なことがあった-。

 

(彼はユタカの記憶を忘れていた)。

 

「(いつから俺は・・・。)」

 

人の側に立ち、目の前の"やつら"をこの自分がすべて祓う-。

 

そうさせる意志が、自らの奥からマグマのようにあふれ出る。

 

(奴らを一匹残らず倒せ―!)

 

己を導く光を失ったいま、地獄の中その声だけが自らを導く力になっていた。

 

彼はすでに、闇と戦うことそのものを目的とする、機械(マシン)と化していた。

 

鏡から聞こえる過去からの声に苦しみ、男は数百年という戦い日々のなかで、

いつしか自分がなんのために生き、なんのために戦っているのかさえも記憶を欠落してしまっていたのである。

 

彼を突き動かす声の主。

 

戦い続ける戦士の裏側で、日は沈み、満ちる月の涙がこぼれ落ちた。

 

イブキの神、ひいては魔王を奉じる、カラス会祭壇に集められた血。

 

怨念の歴史。

 

その、数百年の意志といえる結晶体。

 

「・・・・・・」

 

ドサァッ!・・・

 

グチャッ!

 

腐臭漂う死者の国で、邪悪な音をたて異様な生物のような巨大な魔の空間から干からび腐敗した女性のミイラが落とされた。

 

痛ましく刺すような風、彼女(亡骸)にふく風は、容赦なく救いのない現実を突きつける。

 

真っ暗闇のなか、一度や二度なんてものでは数えられぬほど絶望した。

 

涙は二度と出ぬほど。

 

喋ろうにも、もうすでに口内は砂漠のようにかさつき無数の蛆やムカデしか存在せず、自分の意識も狂気を越えて半分現実を拒否していた。

 

彼は助けには来なかった。

 

別の自分になって・・・。

 

その美しい幻想的な夢の世界で自分をいきれば、きっと忘れられる。

 

彼女(亡骸)の手元には、錆び付いた鏡が握られていた。

 

神様に。かれがけして闇のなかでも、自分を忘れないように・・・。

 

それは女王の部屋からこっそりいたずら心で彼女が持ち出したものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第1話「創聖せよー!」

みなさんこんにちわ!宮崎県の地方創聖プロジェクトです。
本日より短期間小説を執筆、連載させていただくことになりました!
宮崎よりWEBドラマや東京や京都、埼玉など全国各地のFMラジオで放送されている
ヒーロー番組「日神ジャスティオージ」!これまでにない全く新しいご当地ヒーロー作品として
製作された本作のモチーフである、日本神話や伝承をベースにつづられる物語の導入部(1~2話)を
全国の視聴者やリスナーの方々などにお届けできたらとおもい連載を本日よりスタートさせていただくことになりました!
youtubeやFC動画などでもものがたり第1話の内容をチェックいただけます^^

「日神ジャスティオージ」~宮崎にてテレビ版近日放送予定~
「日神ジャスティオージ上京編」~東京府中FMで毎月第3土曜午後9時15分~放送中~
「日神ジャスティオージ陰陽大決戦編」~京都三条FMで毎月第1月曜深夜0時00分~放送中~
「日神ジャスティオージ百花繚乱!姫神サクヤ編」~埼玉鴻巣フラワーラジオで毎月第4水曜午後8時30分~放送中(番組は毎週水曜に再放送されます)~

まだまだこれからはじまったばかりの企画ですが、どうかご応援なにとぞよろしくお願いいたします~!



 

【挿絵表示】

 

 

 

(宮崎県を創聖(そうせい)するニュヒーロー!

日神(にっしん)ジャスティオージ!新たな時代、太陽のクニで繰り広げられる

これは運命に導かれた人々と神々が繰り広げる真実のものがたりである。)

 

その昔、神々の物語があった。

 

最高の神である女王アマテラスの支配する天上の神を天津神族(あまつしんぞく)。

 

地上にもといた神を国津神族(くにつしんぞく)とよんだ。

 

アマテラスにつかえる部下の神々は天使とよばれた。

 

あるときひとりの天使が天上界に反逆をおこす。

 

その結果敗北し堕天したその最強の天使は魔王となり、ここに魔界がうまれる。

 

天上界と魔界、光と闇は果てしない時空のなかで火花を散らせ、

傷付いた神々ははるか宇宙の先、太陽系第三惑星地球の宮崎県へと天孫降臨(てんそんこうりん)した。

 

そう、ここは太陽のクニ宮崎。

 

彼ら神々の力は無限の可能性を秘めたライザーポータブルとして技術化され、2020年のいま、よみがえる!

 

創聖(そうせい)せよ!

 

-この物語は神話となる。-

 

 

 

(砕けた鏡)

BROKEN MIRROR

 

 

 

はるか古代に滅んだ邪馬台国。その戦火より残った三つの神器。その中核を構成する鏡、日神降臨器アマテライザー。

 

「敵襲!なんて数だ!同盟を反故にし我々に楯突くとはあああ!」

 

「落ち着け。既にわかっていたことです。

 

もうすぐ私の見たすべてが誠になる。

再び出逢う幾千年後の世で、またお前たちにこれを託す日がこよう。」

 

「この状況で落ち着いていられますか?!ついに本当に狂ったか?!」

 

「卑弥呼さま!いったいなにをおっしゃるのです?!あなたのいうことはいつも私にはわからない。」

 

「よく聞け。私からお前にあの鏡を託す。日向の地へとユタカを連れ逃れよ。お前の命を棄ててでもこれをまもりとおせ!」

 

「日向?!我々の祖先の地にですか?!これは、魏から贈られた鏡、ではない?!」

 

「鏡を私の形見だと思い手放すな。」

 

「ああ・・・私が見た夢、すべてが起こる日は近い。」

 

 

 

「・・・さらばだ、懐かしき者たちよ。」

 

 

 

「はっ!」

 

青年はその瞬間に、白昼夢をみていた。

 

 

 

(めざめる鏡)

AWAKENING MIRROR

 

 

 

刻(とき)は令和2年。西暦、2020年ー。

 

宮崎県は児湯郡付近のある浜辺に、白いシャツの青年が打ちながされていた。

 

サーファーたちも人っ子一人として遊びにやってこないその日

 

ベンチに集まっているのは野良猫だけであった。

 

青空が無限に広がる此処(宮崎)の日常はそれ以外のどの場所とも違う空気に満ちていた。

 

そしてその日起こったその奇妙な出来事さえも、

 

宮崎の太陽は何の疑問もなしに受け入れていた。

 

「!・・・・・あんた!・・・だ、大丈夫ですか~!

うわあちょっとどうしたのよ!あなたどうしたの?!」

 

一人のやたら元気のよさそうな50代くらいの女性が、ベタアッと寝ころんでいた青年を発見し

 

心配そうに駆け寄り砂を払いのけた。

 

女性の名前は日向夏(ひなたなつ)といった。

 

彼女は地域における青年部の地方創生プロジェクトというコミニュティを運営している。

 

見ず知らずではあるが知らぬ人間が倒れている状況を見て見ぬ振りすることにも気が引けたか、

 

それほどにそそっかしいひなたの性格がさせた行為であった。

 

きがつくとひなたに連れられ青年は、彼女の遠い親戚という少女ハナと共に暮らす

 

彼女の自宅のソファにいた。

 

横たわる自分、見覚えのないおばちゃんのかっと開いた鼻の穴。そそっかしそうな顔。

 

ここは、田舎なんじゃないかな・・・。なぜか彼はそう思ってた。それに重なるように

 

にこりと笑う小さな女の子がおばちゃんの顔の横に見える。

 

いったい自分はどうしてしまったんだろう。

 

「お、俺は・・・・・・・。」

 

「気がついた?!って、あっ!ちょっと君!」

 

ひなたの家を飛び出して、自宅の周辺を見渡すと、さらに彼の知らない景色が

 

広大に広がっている。

 

それこそ壮大な田んぼに続く田んぼ。ここは、田舎か・・・・・・・。

 

そう思い安堵しかけたその瞬間、青年の脳裏に得体のしれぬ女性の声がこだまする。

 

「創聖せよー!」

 

 

時は流れ。

 

ひなたはある日、小学5年生となる少女ハナと、その友人であるヒロキのもとにいた。

 

「それでひなたおばちゃん、テルヒコお兄ちゃんの鼻につまようじをさしこんじゃってさ~!もうほんと、顔真っ赤になっちゃって!」

 

「きったね~な~!なんで兄ちゃんのことになるとそういうはなしばっかりなんだよ!」

 

ハナがヒロキにそう喋りかけているころ、公園に真っ赤な丸い謎の物体が落ちているのを

 

みつけてしまった。

 

「あれ?!これ、なんだろう・・・。」

 

ヒロキとハナ、そしてひなたが駆け寄った先にあったもの。

 

「これは・・・・。」

 

「こ、これは・・・アマテラ・・・・・・・・・・・・」

 

ハナは急にそのことばをさけんでしまいそうになったとき、驚きと共に声を奥のほうに

 

無理くりにおしこんでしまうのだった。

 

「うわ~!鏡になってんのかな!おいハナ、これみろよ!なんだよこれ~!」

 

「ヒロキ、それは・・・・・・。」

 

少年ヒロキとひなたがそれが鏡か何であろうかとしげしげとみつめ、首をかしげていた

 

その場所で、少女だけは明らかに。何かを知っていたかにみえた。

 

「アマテライザー。あの鏡が奴らの手に渡ったら・・・・・!」

 

「でも、今回は前のようにならないはず・・・・・・・・。」

 

浜辺に流れ着いていた記憶喪失の青年は名をテルヒコといった。

 

彼はそういうことを、なぜか覚えていた。

 

それも彼の見る夢、脳裏に思い出される声のなかの「女性」

 

その人物が語りかける声の中に、テルヒコという人物がいたからであった。

 

それが自分なのではないかという推測はできていて、それは自分の知る唯一の人物名であった。

 

テルヒコは記憶のない中でも、訪れた日常の楽しさと平凡さに心の奥底で感謝していた。

 

その夜、テルヒコは夢を見ていた。

 

はるか悠久の時の中で、なぜか自分は泣いている。

 

強く何者かに後頭部を殴打されたかとおもうと、無数の映像が飛び飛びに移り変わってしまう。

 

かとおもうと、真っ赤な朝焼けのような世界。白い太陽のような光が、テルヒコに語り掛けてきた。

 

「テルヒコ・・・まだ何も知らないお前はただの青年。

 

私は多くの者たちからアマテラスと呼ばれるもの。

 

ユタカから授けられた神宝である、アマテライザーはあるか。」

 

「まただ・・・またこの夢だ。もうこれでいったい何度目だというんだ!

 

どうしてあんたたちは、俺をそうまでして苦しめる?!

 

あの鏡は・・・やはり俺に関係があるというのか?!

 

これが幻想でも夢でもかまわない、神よ、こたえてくれ!

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

答えろォオオッ!」

 

目の前の世界そのものがガラスのように割れ、テルヒコは涙と共にベットから転がり落ちていた。

 

「朝か・・・。まったく、ただの、夢なのに・・・。」

 

そのころ、とあるビルの屋上に、暗黒のオーラに包まれ降り立った一人の男がいた。

 

「ツクヨミの言っていたことは、本当だったんだなあ。」

 

「俺様の知らない間に、新しいヒーローが出たようだな・・・。ちょっと遊んでやろうか。」

 

不敵な笑みを浮かべるその男、そのいでたちからわかる通りこの世を生きる人間ではない彼は

 

名を黒天使ゴエモンといった。「おっと・・・・噂をすれば、だな。待っていたぞ。」

 

何者かが仕組んだとしか考えられないほどのタイミングで、その時ゴエモンのいる屋上に

 

来ていたのはテルヒコだった。リモートコントロールされているような幻影にさいなまれ

 

その声に導かれ、気が付けばビルの屋上に来てしまった。

 

「・・・・・・この声は・・・。思い出せない・・・・・・・。」

 

「創聖せよー!」

 

脳裏を引っ掻くような強烈な女の言葉。

 

どこかで聴いたことがある。でも、わからない。

 

あまりに大きすぎるその謎はブラックホールのように、底なし沼の如く胸の中に去来する。

 

そして恐ろしい速さでそれは不安となり、自分の存在証明としての疑問になる。

 

気にしなければいいのかもしれない。このまま過ぎる日々を生きていけば。

 

でも、それではだめなんだと思ってしまう自分がいる。何かとてつもない重たい十字架が

 

この心にのしかかっている。

 

声が聞こえる。すべてを解き明かせと自分に告げているかのように。

 

「いったいなんだ・・・・。いったい誰だ・・・・。」

 

「この声は・・・・なんなんだ・・・・・・。」

 

ビルの屋上まで導かれるように歩いてゆくと、

 

そこにたたずむゴエモンの姿。

 

「思っていたよりも、なかなかの甘ちゃんじゃねえか。

 

フン・・・お前闘えるか?これからお前を試す運命に。」

 

ほくそ笑むその男は青年を見つめ問いかける。その強烈なゴエモンという男の

 

蛇を喰ったかのような目力に圧倒されてしまう。パンク、メタルバンドか何かのようなその容貌。

 

こいつは人間じゃないぞ。一目会っただけで、なぜかそんなオーラはテルヒコに伝わっていた。

 

明らかに自分について何か知っている。

 

「あんたは俺を知っているのか?」

 

「まあいい、俺様からひとつアドバイスしてやろう。」

 

「”鏡からけして目をそらすな。”

 

でないとお前、死ぬぜ―?」

 

すべてこいつに理解できるわけはないか、まあせいぜいがんばれよ、といわんばかりに

 

黒天使(男)はテルヒコ(青年)の肩を叩き、どこへとなく去っていった。

 

鏡の言葉が意味するもの-。

 

さらにヒートアップして響き続ける女の言霊。

 

「創聖せよー!」

 

「俺は、やらなければいけないことがあった。倒さなければいけないもの、守らなければいけない何かがあったんだ・・・。」

 

「確かに俺は・・・・・・・・・・・。おれは、俺はだれだぁアッ!」

 

叫びに対する返答もなく虚しい声は空にこだまし続ける。

 

とある日。

 

「これあげる・・・。このままだとガラクタになっちゃうだけだから。乗ってもいいわよ。」

 

ひなた宅の縁がわには、ミニバイクレーサーだったひなたの甥っ子のユージが乗っていた

 

真っ赤なバイクが置いてあった。ひなたの甥、藤岡ユージはバイクマンという名のバイク屋家業を

 

継いでいたが旅に出たっきり家を留守にしていた。

 

彼が弄っていたというその赤いバイクも一見すると何の変哲もない原付二輪車だが

 

エンジンから何から彼独自の「藤岡式フレーム」として

 

丸ごと店のガレージで外装以外のすべてを取り換え改造しているものであった。

 

真っ黒い排気がしばらくマフラ-から出たかと思うとおそろしい爆音が聞こえてくる。

 

「うぉお、これ原付の手ごたえじゃあないですよ・・・。

 

改造してたって、甥っ子さん、レーサーだったんですね。」

 

「ほんと旅に出たっきりあの子も帰ってこないし・・・私スクーターがよかったんだけどな・・・。これで買い物はねえ。」

 

「ひなたさん。すみません。なんかこんなものまで。

いいんですか?俺みたいなのがお世話になっちゃって。」

 

「お世話もなにも、わたしも仕事の人手を探してたところなのよ。

テルヒコくん、あんた記憶がもどるまで、ここにいていいわよ。

そのかわり、自分の記憶がはっきりするまで私の仕事手伝ってもらうからね。」

 

「はあ・・・仕事?!」

 

「そう。わたしの青年部がやってる地方創生プロジェクトっていうんだけれど。」

 

そのころ、暗闇の中で蠢きだす強大な魔の影があった。

 

「破壊と創造は、表裏一体!

我々クロウの最終目標地点は、のこすところここ最大の聖地、宮崎県のみとなった!

 

お前たち選ばれたる超エリ~ト・選ばれたる幹部のつわものどもには、商業観光など

 

地域の衰退のためひと仕事してもらいたいとおもいま~す!

 

はい衰退!衰退!衰退!スイタイ!エッハッハッハッハハ~~~!

 

吸い取るだけ吸い取って

 

最後に残るのは我々組織、ク~ロウのみ!

 

我々こそが新たな世界の中心となり、ここみやざきに

 

眠る三神器をこの手につか~~~~~~~~~~~~~~~~む

 

日は近いのであ~るー!」

 

「と、いうことをお前たちに説明しておこう!」

 

異常なまでにハイテンションな声で演説している奇怪な人物。

 

天守閣型の要塞で声高らかに笑う魔神、その男は八竜院。

 

組織、クロウの大幹部(長官)である。

 

黄金(黄銅もしくはブラス)の鎧にも似た、鈍くきらめく8頭の竜神のレリーフがその体に浮かび上がっている。

 

「カっカっカ!今日から宮崎支部の長官として就任したこと、大~いに祝おう。

 

八竜院。お前のいう創造とやらが体の良い妄想で終わらぬよう、わたしが三神器の居場所を

 

ちゃっかりと、つきとめておいたぞ!」

 

その八竜魔神に負けず劣らず、それとは違うこもりかすれたサイボーグのようなだみ声。

 

超元気かつ何か嫌味っぽい、ダーティな

 

ハイテンションでまくし立てるその男、石上(いそのかみ)。

 

カラスのごとき真っ黒い仮面をかぶった全身黒づくめの彼もまた怪奇なる人物である。

 

彼ら怪しすぎる連中の会話を遮るかのように、真っ白いキツネの面をかぶった

 

立ちふるまいからして男とも女ともつかない白スーツの人物が

 

柱の影からぬっと顔を出す。その狐仮面(?)は9本の白い尻尾が生えていた。

 

「その声が聴きたかったよぉオ~!八竜院。

 

キミは東京で退屈な時間をつぶしていたんじゃなかったのかい?

 

ここに来たからにはわかっているよね?もっともっと新たな血がみられる。

 

もっと僕だけにとって楽しいことがこれからも続きそうだよっ・・・。

 

まずは手始めに僕が可愛がっている怪神軍団に、ひとあばれしてもらおう!」

 

「いでよ僕の怪神!牛奇神(ぎゅうきしん)ヨダキング!」

 

『マガリタマエ・ケガレタマエ』

 

その人物、クロウにおいて妖どもの親玉である、九尾の狐が取り出した

 

陰陽道を想起させる謎の札から、牛鬼または土蜘蛛のような

 

奇怪極まりない化け物が出現した。九尾は全国にあるクロウ京都支部において

 

闇の神道、陰陽寮を率いている現役の統領である。

 

「ヨダキィイイイイ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」

 

「説明しよう!怪神(かいじん)ヨダキングとは、宮崎は超田舎の椎葉村にあらわれ、戦争が起こることを予言したという妖怪、件(くだん)に方言である、よだきぃい~!(めんどくさい)が融合し生産された我々クロウが誇る最新型の神霊兵器である!(石上自身の声)」

 

「太初に言葉あり。言葉は神なり。日本人が大切にしてきた言葉に眠る禍(マガ)のちから、それは神そのものになり得る!」

 

「悔しいが・・・それにしても考えたなァ、九尾~。お前が作る言霊怪神のちから、この私がさいごまで見届けてやろうではないか!」

 

「俺に宮崎の全産業の衰退はまかせろぉお~!ヨダキ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~イ!」

 

「はっはっは!いいよお~~~~!ヨダキングだって~!お腹が痛いよ!僕の中でも選りすぐりのセンスが光る逸品だ!

行け!ヨダキング!まずはそうだなあ・・・・・手近にそのへんの朝市でも襲撃しちゃって、お前の力をみせつけてみるかい?!」

 

「よだきぃい~~~~~~~~~~んぐ!」

 

「楽しく明るくおもしろく!地方をどん底に叩き落すがいいさ!」

 

そのころ、ひなたの家では。

 

「なに?!町中の子供たちが、やる気をなくしている?!

ハナちゃんが化け物を見た?!」

 

怪物が街で大暴れをしている情報を聴きつけたテルヒコは、ある直観に突き動かされ当のバイクを走らせた。

「ひなたさん!これ(バイク)借ります!」

 

「俺は・・・・知っている!

やらなければいけないことが、俺にはある!」

 

「確かにここだ!・・・夢で見た場所。」

 

テルヒコの直観は確かに合っていた。

その場所は、得体の知れない古代遺跡のような石像群のある土地。

 

人けも全くない場所。異界のようなそこで、気がついたときに

テルヒコは、その真紅の鏡を手にしていた。

 

「あれっ、さっきまで俺は・・・。」

 

脳裏に飛び込む映像に無限の世界を暗示するかのように割れる鏡、黒髪の謎の女の幻影が見えた。

 

「ユタカ・・・・・・はっ、いま俺はどうして・・・。俺の記憶は、どこまでが幻でどこからが・・・。」

 

目の前にそびえる女神の巨像。

 

「・・・・・・これは、日本神話の、岩戸伝説のものだ。」

 

そこに刻まれていたメッセージは、神話における天照大神の天の岩戸神話に関係する、

能楽「三輪」の一文だった。

 

(※能・三輪におけるものがたりの筋書き)幽玄の世界で翁の夢に現れる三輪明神。

 

伊勢の神ことアマテラス。国を守護する三輪の神と皇祖神

 

これはそのふたつの関連性を語ったものがたりである。

 

(能・三輪※)

 

「天の岩戸を。引き立てゝ。

神は跡なく入り給へば。常闇の世と。早なりぬ。

八百万の神たち。岩戸の前にてこれを歎き。神楽を奏して舞ひ給へば。

天照大神其時に岩戸を少し開き給へば。又常闇の雲晴れて。日月光り輝けば。人の面白々と見ゆる。

面白やと神の御声の。

妙なる始の。物語。」

 

テルヒコが回想の中をくだってゆくー。

 

そのとき、彼の背後に下駄の音がする。

 

「思へば伊勢と三輪の神。思へば伊勢と三輪の神。」

 

幻影ではなかった。夢で見た謎の女の声とシンクロするかのように

 

同じトーンで喋りかける声があった。

 

そこにはいつしか、赤い髪をした着物姿の女性がいた。

 

「一体分身(いったいぶんしん)の御事(おんこと)今更何と岩倉や。」

 

この世とあの世を隔てるかのように、小さな橋がかけられている場所で

 

青年と女はただなにもいわず、神妙な面持ちでにらみ合っている。

 

「いったい、あなたは何なんだ・・・。」

 

女はわらったかと思うと、一言こうつぶやく。

 

「久しぶりだな、テルヒコ。私は火野琴美(ひのことみ)。

 

これからおまえが見る世界。すべては新生し、”つくられる”。」

 

彼の目を見てきっぱりと、毅然とした声で断言した彼女を見て、テルヒコは直感した。

 

「かく有難き夢の告(つげ)。」

 

これは、俺の・・・アマテライザー!

 

はるかな昔に聴いた声。

 

いつか誰かが俺に、こう呼びかけた。

 

「鏡を太陽にさらし、その姿を世に表せ。

 

神の力と一つとなりて。あらゆる御魂の穢れよりなりいでた、マガツカミを祓う神(カミ)となれ!」

 

テルヒコの記憶の底でその力が彼自身に強く要求する。

 

懐かしい、あまりに自らにとって強烈な色彩を帯び記憶に残っている

 

その人物の声が脳裏に響いたその時にシンクロするように

 

その女、火野琴美は告げる。「行け!ときは来たー。」

 

 

 

町中に出現したその怪神、ヨダキングは人々を容赦なく襲撃する。

 

着ぐるみなどではないリアルな怪物の攻撃方法は、ただゆらゆらと揺れて高周波によだきぃい~と

 

叫んでいたり、抱き着いて失神させてしまう、突っ込んでぶち当たってくるという

 

その姿に実に見合ったものであった。

 

一見するとシュールなゆるキャラ的何かに見えなくもないヨダキングの極悪非道な大暴れに

 

街はパニックに陥っていた。

 

「ヨダキィイ~~~~~~~!」

 

「うわ~!なんだこいつ!化け物だ~!(一般市民の反応)」

 

パタリ・・・。

 

「(小さな女の子)うわ~クマさんみた~いかわいい~」

 

パタリ・・・。

 

ヨダキングが吐き出す得体の知れないエナジーに町民はことごとく倒れ気を失っていく。

 

無気力になり宙を見つめ寝ころび始めてしまう人々も。

 

みんなの大切な何かが非常に緩くなってしまっているではないか。

 

「もういいや・・・今日はいい。明日から本気だすよ・・・」

 

もともと過疎化していた町は余計過疎化してしまいかねないような鬼気迫る事態に陥っていた。

 

「ヨダキィイ~~~~!」

 

ヨダキングの猛進撃が公園付近にいたハナとヒロキにもせまってくるのも時間の問題だった。

 

「・・・・・・(ヨダキングの姿を見てあく謎の間)うわ~~~~!」全力でのがれるふたり。

 

「よだき~!」ヨダキングの念波を受けたヒロキはうずくまり

 

あろうことか動けなくなってしまった。

 

「おい!ヒロキ!しっかりして!おい!」ハナが一生懸命揺さぶっても微動だにしないヒロキ。

 

「よだき~。もういいよ、なんかもうどーでもいいよ。」

 

「馬鹿じゃないの!ばけものが来てるのよ!」

 

「化け物キテルノヨ!」

 

あまりのピンチにカタコトになってしまっているハナ。

 

ヒロキもついに、ヨダキングのエネルギーに生気を吸い取られてしまった。

 

その時ちょうどよいタイミングで、テルヒコがやってきた。

 

「ハナちゃん!ヒロキくん!あぶない!」

 

バイクで駆け付け勢いよくヨダキングめがけ突っ込み、数メートル怪神は吹っ飛んだ。

 

怪神に対峙するテルヒコ。

 

「なんだぁ~お前は?!みんなをどうするつもりだ!」

 

「ヨダキ~~~!」

 

「教えてやろう!俺様の名は、怪神ヨダキング!

この地域に住む宮崎県民は全員根こそぎ無気力なヨダキンボ~になってもらうぞ!

すべての生命エネルギーは我々クロウの大事な生産力としていただく!」

 

「みんな永遠にまだみぬ明日から本気を出すため、生きることになるだろう!

 

ヨダキ~~~~~~~~~!」

 

「何頭のおかしいこと言ってんだ!そんなふざけたことはさせるか!はーっ!」

 

バシィイッ!

 

「それが攻撃か?度胸だけはたいした芋がら木刀(いもがらぼくと・宮崎の方言で見かけだおしの男)だな!人間の分際で、この俺様に勝てると思っているのか~!」

 

テルヒコはヨダキングとのふれあい、否格闘もむなしく一人

 

森の中、高所から突き落とされてしまった。ほとんど格闘らしい格闘になっていなかったが

 

それほどに至近距離で怪神ともみあうということは、野生の熊などと取っ組み合うより

 

あまりに危険な状況を意味する。冷静にハイキックなどしていられる方が

 

おそらく異常だといえる。だがこの男は普通に格闘しようと思っていたのだから、

 

それもよくよく考えたら芋がら木刀的勇気かもしれない。

 

その挑戦は無力にも打ち砕かれてしまったが・・・。

 

「ぐっ・・・うわあ~~~~~~~~~~~~~~~~~!」

 

ドスーん。・・・しばらくの無音、生まれる空白の時間。

 

「はっはっは!この高さなら生きているはずはあるまい!

 

もう今日はこの辺にして、ずらかるとしよう!

 

ヨダキ~!」

 

だが、ヨダキングの超適当な判断は命取りとなった。

 

それから小一時間、まったくの無傷で青年は倒れていた。

 

テルヒコは死んではいなかった。

 

「この鏡、ただものじゃない・・・・・

 

生かされた、そういうことなのか・・・。」

 

強大なそのちからに俺は護られている、テルヒコは信じた。

 

そして謎の鏡が男に、目醒めの時を告げていた。

 

「できる・・・・・・・

 

いまならできるぞ!」

 

そのとき、真っ赤な神獣鏡は近未来的な太陽の姿を模した別の何かへと変化(モーフィング)した。

 

真の姿を現したアマテライザー、”すべてはいまはじまった。”

 

「創聖(そうせい)!」

 

構えと共に掛け声を瞬時に叫び、光に包まれた神の姿の巨像(神霊)が出現し、青年自身を

 

のみこみ、太陽そのものを具現させたカミそのものへと変貌させていた。

 

「・・・・・・・・・・」

 

宮崎の太陽のように輝くイエローバイザー。

 

ご来光の如く印象的なそのショルダーアーマーからは光が放散され、

 

周囲の時空がにわかに歪んでいる。

 

「展開・シャイニング・フィールド」

 

一瞬にしてそれまでと全く同じように思えるバリアの如き時空間が周囲に形成され、ゆっくりと

 

その存在はヨダキングに向かって近づいてゆく。

 

「・・・・・・・」

 

なにともつかない、その真紅の神は、この世に存在してはいけない異形の妖に向かって

 

なにかに憑りつかれたかのような勢いで語気強く宣言した。

 

その動きはテルヒコとは別のもののようであった。

 

「牛奇神ヨダキング!宮崎の地を衰退させようなど、この俺がゆるさん!」

 

「お、おまえはなんなんだ!・・・ヨダキ―!」

 

いきなりわけのわからない赤い存在が現れ自分に宣戦布告してくる。

 

そのよくわからない状況を差し置いて、得体の知れなさ以上の重みとして

 

のしかかってくる静やかなる恐怖心がヨダキングの心を支配しようとしていた。

 

なんなんだ、このわけのわからない物体(やつ)は。

 

「ふんっ、宮崎の奴ならどーせ大した奴じゃあるまい。お前もついでに襲ってやるー!」

 

おもいっきり自分のことを棚にあげているような気がすることを言いつつも

 

さっきまでのように襲い掛かり始めるヨダキング。

 

「いくぞっ!」

 

「こい!よだき~ん!」

 

その赤い存在から放たれる攻撃の一つ一つはすべてが精妙に連動し、言霊の振動数と共に

 

ヨダキングにクリティカルヒットし当たるほどに出る、「ヨダキ~!」の悲痛な叫び声。

 

「日神剣!テラセイバー」その声と共に蛍光色にひかり輝く真っ赤な剣があらわれる。

 

ヨダキングの吐く蜘蛛の糸は付近の器物をことごとく溶かし、まきあがる煙はことごとく視界を奪ってゆく。

 

獣のように突進してくるヨダキングは、思いのほか俊敏でパワーに優れている。

 

「ハッ!」キックを決めたその直後に、タイミングを同じくして異変が起こる。ゴゴゴ・・・・

 

突如として戦士の周囲にあるすべての空間が歪み、地形が変形し瞬間的にせりあがってゆく。

 

まるで都合のいい昭和ヒーローものでありがちな”特撮ワープ”を

 

現実的に再現してしまうかのように、地形や世界そのものが変形し

 

数メートルの謎の小高い丘が出現する。ヨダキングを見下ろすようにその赤い戦士は

 

天から降りる光を剣に受け、祝り上げる。

 

「悪しき人の業から産まれた曲津(マガツ)の神よ!」

 

「大自然へと、帰るがいい!」

 

妖魔を前にその戦士は高らかな声で叫んでいた。

 

「救世神技(きゅうせいしんぎ)!サンシャインズ・ストライク!」

 

剣が大地に突き刺さる。

 

鮮烈にして絶対的な叫び声のもと、その祝詞が響く。

 

「かけまくも畏き伊弉諾(イザナギ)の大神!

みそぎ祓いたまいし時に成りませる祓戸(はらえど)の大神達・・・!

諸々のマガ事・罪穢れを・・・祓えたまえ!清めたまえ!」

 

それは神道において最も重要視される禊(みそぎ)の言葉であった。

 

「おのれ、ヨダキ~~~~~~~~~~!!!!!!!」

 

強烈な地割れと共に半径数キロメートルの振動波がすべてを包み込む。

 

すべてが終わり、光の中に怪神は姿を消していた。

 

力を無力化しその場から姿を消した怪神のあとにたったひとりテルヒコは

 

これから始まる底知れぬ闇との闘いの日々を見つめるように

 

青空の光の前で立つのであった。

 

「この感覚・・・・・・・・・はじめてじゃない!なんども(これまで)闘っていた!

 

そして俺はこれからも巨大なモノたちと闘っていかなければならない!

 

大切な居場所を護る、そして、真実を知るために!」

 

「お兄ちゃん!こっちこっち!」

 

「みんな、無事だったか!」

 

子供たちやひなたの無事を遠くに確認し、ただ一人あるいてゆく。

 

これから起こる闘い、それはあまりに長く、想像を絶する苦しみを伴うものであったことを。

 

そのときテルヒコは気づいていなかった。

 

「幻・・・いや違う」

 

「すべてははじまってしまったんだ!」

 

「この鏡、アマテライザーが呼ぶ限り」

 

「俺はこの世界に闇をもたらすものたちと闘い続けてやる!」

 

記憶を失った青年テルヒコは、人々の希望と未来への可能性を秘めた太陽の神、

 

日神(にっしん)ジャスティオージへと創聖(そうせい)した。

 

これから起こるすべてのものがたりを目撃するのは、キミ自身だ!

 



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