ゼロの武偵 (滝瀬)
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始まった日

 

ピンクのツインテールを揺らしながら近づいてくる女

カメリア色の瞳をしており、見た目は小学生

 

「あまり、俺によるな」

 

そして、俺はこの女のことをある理由で嫌っている

 

「嫌よ。なんでアンタもキンジもアタシの奴隷になるのが嫌なのよ?」

 

この女、神崎・H・アリアは変な趣味を持っているのか毎日そう言う

 

「逆にそれの何処が良いんだよ?」

 

間違っても俺は女の奴隷になんてなりたく無い

男なら良いとかそんな問題でも無いのだが・・・

ともかく、俺としてはドMじゃないから他の奴と遊んでくれ

それだけの事である

 

こうなった原因は1日前に遡る

 


 

「秋風君、好きです!付き合ってください!」

 

まったくもって知らない人

その人に体育倉庫前に呼び出された

結果、このような事態になっているのだが・・・

 

「悪いが・・・君とは付き合えない」

 

今、俺はどんな表情をしているのだろうか

女の方は泣きながら何処かへ走り去っていく姿を眺め、罪悪感がある

 

 

突如として突風が吹き荒れた

足がよろけてしまう程で風の方向に顔を向けられない

 

今度は鳩尾から下腹部に掛けて何かとてつもない重み

そして、鈍い痛みがある

後頭部もぶつけたようでそれなりに痛い

 

何かが、俺にぶつかった

そして俺はその何かの下敷きになっているようだ

 

「いってぇ」

 

周りは暗いし狭苦しい

あと、腹の上に何かが乗ってるから息がし辛い

伊達眼鏡もレンズにヒビが入っている

 

「へ、変態!!この恩知らず!アンタなんか助けなきゃ良かった!!」

 

なんだ、この高いアニメ声?と言うのだろうか

とにかく少女の声が響いた

そして、鳩尾に何かが嵌ったような感覚がした

 

「ぐへっ!?」

 

なんか変な声がしたが、何気に痛い

ビリっとそこだけ変な痛みが一瞬、走った

 

「へ?」

「は?」

 

「お前ら俺の上から降りろ!重いんだよ!!」

 

俺の怒号が狭苦しい跳び箱の中に響いた

 

──────

 

キンジから大体の話を聞いた

武偵殺しの模倣犯が出たらしい

それで救助した女に救助されたキンジ

 

女の名前は神崎・H・アリア

容姿はわからないが、なんかよくわからないけど子供みたいな声だ

 

「というか良い加減、退けよ。キンジ」

 

遠山 キンジ

地味な奴で寮では隣の部屋の住人

仲はどちらかと言うと良い方であり、キンジの持病も知っている

 

先に俺の持病と素性もバレたからなのだが・・・

 

ガッ、ガッ、ガッ!!

 

外から突如として発砲音が聞こえる

 

「なんだ、この音は?」

 

こういう時こそは冷静にゆったりとゆとりを持つべき

そう思うので落ち着いて質問をする

 

「武偵殺しの玩具よ。アタシの火力だけじゃ足りないからアンタ達も力を貸しなさい!」

 

二丁拳銃を取り出して応戦しているアリア

 

いや、お前ら2人が俺の上に乗ってるから動けないんだ

何度も講義したが意味がなさそうなので実力行使対抗では無いか

 

キンジを上の方に押し付け、俺はアリアと一緒に体勢を崩させた

 

そして、俺は跳び箱を飛び出る

 

「アンタ何してんのよ!?」

 

まぁ、()()()()()()()自殺行為だよな

 

「キンジとアリア、お前ら2人を守るんだよ!」

 

機械銃は全部で13

思ったより数が多いな

 

ガンッ!ガンッ!

 

13台の中の内、7台が発砲しなかったぞ!?

何故だ

普通なら発砲するはずなのに・・・

俺の能力を知っているのか

 

放たれた弾丸は全て銃口の中に帰っていった

 

「6台しか破壊できなかった!すぐに戻ってくるぞキンジ!」

 

「上出来だよ、零」

 

秋風 零

それが俺の名前

だが、いつもならキンジは俺の事を秋風と呼ぶ

 

しまった

アリアに押し付けた時に発動のトリガーを押したようだ

 

「少しの間だけ、お姫様にしてあげよう」

 

うわぁ、絶賛黒歴史を更新中

後で謝りに何か作って持って行こう

それが1番、良いよな

 

「銃なんか振り回すのは俺だけで良いだろ?」

 

「な、何、アンタ急にどうしたの!?頭がおかしくなったの!?何するつもり!?」

 

まぁ、普通はそう思うよな

先程までの根暗っぷりが嘘のようなキンジ

突如としてキザになった

アリアは動揺しまくっている

 

「──アリアを守る!」

 

そう言ってキンジは体育倉庫から出た

武偵殺しの玩具とやらは外に出てきたキンジを撃つ

 

その弾丸全ては無駄になったようだな

 

頭を寸分迷わずに撃ったが、キンジはそれら全てを避けて機械銃を破壊

 

「凄い」

 

アリアがそう声を漏らした

 



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流石に

 

「別に感謝はしないわよ」

 

アリアは気づけば跳び箱の中に戻っていた

跳び箱の中、好きなのだろうか

関係無いけど猫って狭いところが好きだよな

 

「そ、それにアンタ私の胸見た!!これは間違いなく強猥の現行犯!」

 

おっと?

どういう事だ

待ってくれよ、キンジは自らあのモードになろうとしたのか?

いや、それは無いよな

 

「アリアちゃん、一旦落ち着こう。俺は高校生で今日から高校2年生だ」

 

なんか猛烈に嫌な予感がする

中学生であの銃のコントロールが出来るはずがない

出来たとして中国とかの武偵高の生徒だろう

 

「中学生のアリアちゃんを襲う筈がないだろう?」

 

「私は中学生じゃない!!」

 

地団駄を踏み出すアリア

妙に独特な地団駄だなと暫く観察

 

そのあと、キンジは幾度となくアリアの地雷を踏み抜いた

小学生では無く高校生だったとか・・・

 

そして、徒手格闘のバリツを使えるとはな

二丁拳銃に日本刀を2本

日本刀に関してはよく、あの長さの物を背中に隠せたなという事しか言えないが

 

──────────────

 

朝は災難だったし俺のせいでキンジは

その罪悪感で隣の感じの部屋にご飯ができたので部屋に誘い込みに向かった

 

「キンジー、ご飯作って来たぞ・・・は?」

 

ドアを開けた瞬間に、ピンクのツインテール

そして、武偵高の女子制服

 

「神崎・H・アリア!?」

 

「ちょうど良いわ」

 

何がだよ

というか、なんでここに居るんだお前

 

「アンタもアタシの奴隷になりなさい!」

 

俺を人差し指で指名するアリア

俺は頭がいなくなって来たぞ

 

「生憎そんな趣味は無い」

 

バタンッ

ドアを閉めて部屋に戻った

 


 

これが今、こうなっている理由だ

くっそ、俺は今年のおみくじ大凶だったんだよな

そして中には、女難の相が出てるって書いてあった

きっとそれが女難の相の原因だ

 

「というか、お前はいつまでキンジの部屋に居るんだ?」

 

「アンタとアイツが私の奴隷になるまで」

 

ピシッ!

効果音が付くならこんな感じだろうか

その言葉に思わず固まってしまった

 

俺は永遠に奴隷にならない=アリア死亡!?

 

キンジには尋常で無いストーカーが居る

 

名前は星伽 白雪

成績優秀、容姿端麗の美少女

普段はお淑やかで恥ずかしがり屋な、大和撫子を絵に描いた様な普通の女の子に見える

 

だが、それは見えるだけだ

心の奥底にはものすごい闇が潜んでいる

 

ミニマイク、超小型カメラ・・・

 

俺が白雪が異常だと感じて調べたらこれがあった

今までのを合わせて累計15台

ちなみにキンジには内密にしている

 

白雪はいかにバレないか

 

俺は白雪が隠しそうな場所を探す

 

そんな勝負になって来ており、これはこれで2人で楽しんでいる

 

「零、どうしたのよ?」

 

「いや・・・・・黙秘権を行使する」

 

どうしよう

アリアの命が危険かもしれない

まぁ、さすがの白雪でも本気で殺す事はないだろう

 

流石に無い筈・・・・多分

 



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了承しなければ風穴を

 

「よう、零!」

 

昼休みに学食を食べに向かう

今日に限って寝坊したんだよな

そんな事を考えいると黒髪の男が話しかけて来た

 

「武藤か。おはよう」

 

今年はクラスが違うからな

多少、背が高くなりイケメンに見える

 

「相変わらず女子の人気が凄いよな、お前」

 

前言撤回

こいつはイケメンじゃない

 

「お前、嫌な事を言うなよ」

 

「零、お前は他の奴らより圧倒的にモテてるんだぞ!?」

 

いや、知らないし

モテてると言われても理解は出来ないんだが

一部の人間にはモテてるだけだろ、どうせ

 

「そして、俺はお前がチョコを顔色一つ変えずに貰ってた時に殺意が湧いたからな!!」

 

確か、貰ってる所で武藤が来たやつか

目があった時に並々ならぬ殺気を感じたのは秘密だ

 

 

【挿絵表示】

 

 

お前、そんな事を言われてもな

 

「俺が全く興味も無い相手だっただけだ」

 

「お前、全人類のモテない男を敵に回したぞ!!」

 

大袈裟だな

武藤だって一部の女子には人気があるだろうに

俺はその一部の女子が何故か勇敢なだけであって・・・

 


 

今日は予想外の人物から呼び出された

 

狙撃科(スナイプ)の屋上へと向かう

 

文字通り、スナイパーの育成をする科

俺の中では危険人物育成所だ

 

例として俺がターゲットとしよう

狙撃手の弾丸は俺には届くが、俺の弾丸は相手には届かない

要するに場所さえバレなければ一人勝ちの様な物だ

俺としては敵対は何としても避けたい

 

「こんな所に呼び出してどうしたんだ、レキ?」

 

翡翠色の髪

アーモンド色の瞳

細身の黒い銃身のドラグノフ

ヘッドホンを付けてこちらを見据えるレキ

 

「零さん」

 

なんだ、妙に緊張する

レキがジリジリと近づいてくるので反射的に後ずさってしまう

背中に壁がついた瞬間────

 

唇と唇が重なった

 

ドクンッ───

 

心臓の音が耳元でしたように錯覚するくらいドキドキしている

 

シリコンのように滑らかな唇

それでいて、マシュマロのように柔らかい弾力

彫刻のように整った顔が目の前にある

 

「私と結婚を前提に付き合って下さい」

 

「不可能だ」

 

唇が離れた時に告げられた言葉

 

いろいろ言いたいことがある

 

順序をぶっ飛ばし過ぎているのだ

キスは普通、付き合ってる男女がする物だろう

それなのにただの知人がキスをする?

待て、アメリカではキスは挨拶だと聞く

レキの国ではこれが習慣・・・そんな国、無いよな?

 

手の甲で唇を隠しながらレキから離れていく

 

「逃がしませんよ」

 

────チャキ

 

ドラグノフを構えてこちらを見るレキ

間違いなく銃口は俺の心臓を狙っている

 

「・・・お前、意外と情熱的な奴だったんだな」

 

今、知りたくなかったよ

 

基本的に無口、無感情、無表情を貫くレキ

そんなレキにこんな形で命を狙われるとはな

考えもしなかった

 

女難ってこれも含まれてると考えて良いよな?

 

「断ると言うのであれば風穴を開けます」

 

どんだけ俺のことが好きなんだよ?

 

心の中でつっこんだ

これは自意識過剰かもしれないが、俺の何処が良いんだ

お前とは話した事は数える程しか無いだろ

一緒の仕事も5回しかしていない訳だし・・・・

 

というか、隣の部屋でよく聞くんだよな『風穴』って

 

「レキ、落ち着いて話し合おう」

 

ここは一旦、落ち着いてもらおう

そうでないと話が噛み合わない気がする

 

「お断りします。異性とは話し合いで手に入れるものではなく───」

 

即答したレキはそのまま言葉を続ける

俺は頭を抱えてしまうが・・・

 

()()()()ですから」

 

それがレキの男女感のイメージか

 

まぁ、それは俺もそう思うがな

 

「やり方が盛大に間違ってるぞ!?」

 

奪うって心の事だと思うんだ、俺は

異性の身柄を先に奪ってどうするんだよ

 

「間違ってなどいません」

 

いつもより、強めの口調で告げるレキ

どんだけ身柄を確保したいんだ

こいつが刑事とかじゃなくてよかった

もし、刑事だったら手錠をずっと付けてきて了承するまで監禁ENDだろうからな

 

「落ち着いて聞けよ、レキ。俺はお前の事を知らない。だから付き合えない」

 

「では、付き合ってから知って下さい」

 

それじゃ意味がないんだよ

どうしよう・・・

ロボット・レキと言うだけはあるな

誰かが誤った情報でも教えたのか

それでこんな事になっているのかもしれない

 

「よし、じゃあこうしよう」

 

これしかないよな

急遽思いついた事がある

 

「明日から1日に1回。1分間、お前が俺の狙撃をする」

 

狙撃科の麒麟児レキ

これで挑むのは流石に難しいが・・・

 

「もし、俺に弾丸が当たるもしくは掠ったらお前と付き合ってやる」

 

反撃をしなくて良い

これが1番の利点だ

スナイパーの強みを1つ奪う

その代わり、俺はいつ狙撃されるかわからない

 

「わかりました。では、その言葉を忘れないで下さい」

 

レキは了承して、銃を肩にかけた

そして、屋上から去っていく

 

はぁ、どうにかしてレキから嫌われなければ・・・

 



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呼び出し

 

家から出れない

出た瞬間に狙撃されるとか真面目にあり得る話だ

というか、あのレキならやるだろうな

 

学校に行かなければいけないよな

 

そう自分の中で割り切って、外へと出た

 

奇襲は狙撃手の常套手段だからな

それなりに気を付けなければ・・・

いや、そんなに気を張っていれば流石に疲れる

 

精神的に疲労させた後でレキは俺を仕留めるという事も可能だ

 

───プルルル、プルルル♪

 

携帯の着信音が鳴り響いた

話している途中に狙撃されては困るので早々に部屋に戻る

携帯の画面の表示

それを見た時に頭を抱え、電話を壊すと言うことも考えた

だが、それでは金と資源の無駄

諦めて電話に出た

 

『零、今すぐ秋月に戻って来い』

 

電話がつながって開口一番それか

俺が話しているのが自分の父親であり、クズだ

 

「それはなんでだ?俺は武偵高に入っているからそちら優先にしたい」

 

『今、ここで言うのは非合理的だ。会って話そう』

 

父が自ら会う事を悲願している?

あり得ない

どんな状況であろうと自分の仕事を優先した父が

明日は槍が降ってくるのかもな

 

『今、迎えに車を向かわせた。もうじきお前の寮の前に着く』

 

それだけを言い残して電話を切る父

なんとしても俺に会うつもりなのだろうな

まぁ、会うのが嫌な訳じゃない

俺は別に父が嫌いな訳じゃないし・・・

 

「お久しぶりです、零様」

 

眼鏡をかけた几帳面そうな男

この男は元は武偵だったが、護衛兼執事として雇われている

 

「サイラスか。会うのは何年ぶりだ?」

 

黒のスーツに身を包み、白の手袋をつけたサイラス

エメラルドグリーンの瞳

後ろで結んだ長髪

紛う事なきサイラスだと再確認

 

サイラス・フォルベッジ 

 

それが、彼の名前だ

 

「確か2年145日ぶりかと」

 

懐中時計を開きながらそう言うサイラスも相変わらずだな

そう思いつつ、車のドアを開かれたので大人しく乗り込む

 

レキにはメールを送った

明日は2分間にしてやるから今日はやめてくれと

快く了承したレキの返事を確認した時に着いたようだな

 


 

高い高層ビルの一室

100階建てのビルの1番上の部屋

その部屋の一室で威張ってるのが父だ

 

白銀の髪に黒い瞳の男

無精髭を少し生やしているが、それがなんとも言えない魅力になっている

 

「単刀直入に言う。お前はフランス王室の王子だ」

 

ついに頭がおかしくなった父

どうしてだろうか

何か、変な漫画の影響を受け出したのかもな

 

「頭がおかしくなったのか?」

 

真顔で聞く俺に父は青筋を浮かべたがすぐに消えた

確かに事情を省き過ぎたと父も気づいたのだろう

遅すぎるがな

 

「違う。まず、私は第ニ王子だったが王位継承権は兄にあった」

 

初耳だぞ、それ

というかなんでそんな事を言い出すんだよ

父の言動に不安を覚えながらも大人しく聞く

 

「まぁ、兄には子供が出来なくてな。それで弟の私の息子。つまりはお前だ。お前が次の王様になるかもしれん」

 

「は?やだよ、そんなの」

 

国のための政治?

そんな物は生憎、俺は好きじゃない

 

「それと、お前の双子の兄は行方知れずになって5年だ。淡い期待は捨てろ」

 

兄の事を今、出すな

というか、あれは多分生きてるぞ

普通に俺より強いし・・・

逆にあれを殺せるやつを見てみたいよな

 

「・・・国民が認めないだろ」

 

精一杯の逃げの言葉

これくらいしか、今は思いつかない

第一王子の息子ならまだしも、第二王子の息子に国を仕切られるんだぞ

国民からしてみれば面白くないと思う

 

「国民からの意見だ。お前は王族の血が入っている。それなのに役目を放棄するつもりか?」

 

断りづらいように圧力をかけてきやがった

今すぐどうという事もないだろうしここは応じるのが吉だろう

まずは大人しく言う事を聞く

タイミングを伺って逃げるのが早い

 

「わかった」

 

渋々了承した

すると、目に目薬をさした後に手帳を開く父

 

「では、2日後にイギリス行きのチャーター便に乗って王子に会いに向かえ」

 

「2日後!?それに、王子って誰だよ?」

 

「逢えばわかる。俺は忙しいからもう行く」

 

そう言って部屋を後にした父

嘘だろ、身勝手にも程があるぞ

 



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狙撃

 

母が亡くなったのは5歳の時だった

 

死体は変死

 

俺と兄が母を殺したのだ

原因は力の制御が出来ず、止めようとした母を超能力を使って殺した

父は悲しみに明け暮れ、冷徹な仕事人間へ変貌

 

その後、すぐに武偵を養成する施設へ送られた

 

呼吸をする様に銃を発砲する訓練や体術などを習い、日々を過ごしたが兄には勝てない

日を重ねる事にそう痛感していく

 

俺の能力と兄の能力は根本が似ているようで違う

 

兄が本気になれば、恐らくキンジにもレキにも誰にでもなれる

 

そんな化け物が、小学6年の時に消えた

“跡形も残らず、その場に存在していた事が疑わしい”

調べられた書類にはそう書かれる程

 

『こんな筈は無い!兄さんはあの場所へ行くと俺にメールまでしたんだぞ!?』

 

小学6年生

それにしては良く、俺は証拠を集めようとした

結果は虚しく何一つとして成果は出ない

多少なりとも苛立ちは覚えていた

 

『零君、君の気持ちもわかるが君の兄・一夜君は優秀だ。だが、優秀だからこその苦悩があったんじゃないかな?』

 

このオヤジはなにを言ってるんだ

兄の名前を気安く呼ぶな

確かに兄は、一夜は優秀だ

 

常に一位を狙ってる訳じゃないのに一位になっている

俺はずっと座学も実技も兄の次だ

 

その為、周りからは言われる

『秋月の失敗作』

これが何より不名誉で腹立たしかった

 

他の奴らよりかは出来ている

 

俺は1人でなんでもできるんだ

一夜の方が少し出来るだけで・・・

 

『何が言いたいんだ!?』

 

回転椅子を使って後ろを向いた教師を睨みつけた

懐の拳銃を出そうかと考えたが、それは犯罪の為に出さなかったが

 

『零君、君は一夜君とは違って努力型の天才だ。人はその努力では無く結果を見る』

 

確かに兄に勝つために血の滲むような努力をした

銃を扱う時に呼吸と同時に発砲するように努力もしたしスポーツだって頑張ったんだ

 

『だが、そんな事をしても君は一夜君には勝てない』

 


 

水の底から救い上げられるような感覚

 

それと同時にベットから飛び起きた

 

「っ!はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・」

 

息が荒く、酷く汗を流しており時計を見ると

 

“午後1時32分”

 

学校はもう始まっているし行こうとも考えなかった

明日から少なくとも1日はイギリスなのだ

それを考えると準備をした方が良さそうだよな

 

シャワーを浴びに向かう

 

服を脱いで風呂場の扉を横に開いた

シャワーから噴出される水を適温にしてからゆっくりと頭から浴びる

汗が流れる感覚とは違い、爽やかで心地が良い

 

テストの結果でもいくら勉強したか

それはその結果、つまりは点数を取るまでの過程

だが、点数ではその過程の様子を見る事が出来ないのだ

 

結局はあの男の言った通りなのかも知れない

 

ピシッ!

 

「は?何、このヒビ?」

 

急な出来事にシャワーの水を止め、窓を見た

意外にも風呂場の窓も防弾だったんだな

ベランダの近くにある風呂場

その為、外に面した窓があるのだがその窓にヒビが入った

 

ピシッ、ピシッ!

 

なんだ、この音は・・・

 

やはりというべきかやっぱりというべきか窓の全く同じ位置に弾丸が当たっている

 

こんな事ができそうな奴は1人しか知らない

 

「レキか!?」

 

思わず声に出したが俺を狙撃する奴はそいつしか居ない

 

ん?待てよ、俺は今どこにいるんだ

風呂場だよな?

という事は当然・・・・

 

「〜っ!」

 

なんとも言えない羞恥心

そして、レキへの少しばかりの恨み

 

すぐに、風呂場の外へと出た

 



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因縁の再会

 

レキに羞恥心は皆無だった

逆に俺が意識しすぎたんだなと痛感

 

そして、今日はイギリスへと向かう日

飛行機に乗った事が無いんだよな

 

「零様、お迎えにあがりました」

 

几帳面そうな男が玄関を出ると立っていた

それは、執事のサイラスだ

 

「?迎えが来るって聞いてなかったんだが・・・」

 

今から空港に向かうけど、サイラスの迎えが来るなんて聞いていない

 

「はい。ですが、やはり迎えに行くようにと言われましたので」

 

スケジュールを確認するサイラス

手帳を開いて中身を確認し、再び俺の目を見る

 

「まぁ、良い。じゃあ、頼んだ」

 

「仰せのままに」

 

サイラスってこんな事いう事があるんだな

俺が知らなかっただけなのか

 


 

貴族が好きそうな印象を受ける部屋

飛行機の中にこんな部屋があるだなんてな

知らなかった

飛行機に初めて乗るが、怖いという感情は無い

 

「飛行機の中にまで乗るのか?」

 

サイラスはまだ、一緒にいる

 

「はい、イギリスに着いた時に零様が困らない為に」

 

「そうか・・・なぁ、なんか作ってくれよ。俺はスープが飲みたい」

 

サイラスにそう頼むとすぐに了承された

スープをつくる為にお湯と紙コップをもらいに行くサイラス

出来るまで本を読んで待ってるか

 

そして、出来たスープ

一見するとトマトスープだ

 

「・・・なぁ、サイラスじゃないだろ。お前」

 

「何をおっしゃりますか?私はサイラスです」

 

悪魔でシラをきるつもりか

そっちがそう来るならこっちにも考えがある

 

「兄さん・・・バレバレだ」

 

サイラスを知っている

それでいて、完璧なまでの変装

今、作ったトマトスープ

 

「このスープ、兄さんの血が入ってる。俺を呪うつもりだったね?」

 

兄の血は呪いの効果が含まれている

口にもし、兄の血を含めば吸血鬼などは直ぐに死ぬだろう

 

「ふーん、頭が良くなったじゃん」

 

ドロドロと体の表面が溶けていくように段々、兄さんが見えて来る

ついにはジャージ姿の男が見えてきた

金髪碧眼

そして、歯が見えるように笑う兄

 

 

【挿絵表示】

 

 

「今まで一体どこに「そんな事より」

 

兄が話す暇を与えたくないらしい

話を遮ってきた

 

「零は武偵に居ちゃ駄目だよ」

 

突然、告げられた言葉

そして何気に話が噛み合ってない気がする

 

「なんでそうなるんだ?」

 

「零、君は別側面があるだろ?それは武偵では活かせない。だからイ・ウーにおいで」

 

「なんだ、そのイ・ウーって?」

 

聞き慣れない単語

まず、その意味を知らないと答える事ができない

 

首を触りながら兄を眺める

兄はピアスが付いた片耳を触りながら

 

「来るか来ないか分からないのに連れて行ける訳ないだろ?」

 

正論を言ってくる

当然的に知らない単語なんだ

何かしら隠されてると考えるのが普通だろう

 

「わからないのに返事できると思うか?」

 

しまった

言った後に気づいた

兄は話し合いなんかするつもりは無いと言うことに

 

「いや、思わない」

 

そう言って、ポケットから金属類を5個くらい取り出した兄

 

咄嗟に俺は右手で左の二の腕を掴んだ

 

次の瞬間、鉄と思わしき物体が突如として矢の如く飛んでくる

 

頬を少し掠った鉄

貫通するくらいの威力だったぞ、今のは・・・

壁に小さな鉄球がめり込んだ

 

「だから、力尽くで連れて行く」

 

実力行使で俺を捕まえるつもりだ

 



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飛行機にて

 

「前より動きも良くなったみたいだね」

 

手の中で金属の繋がった紐を投げる兄

本当に化け物かお前は・・・

直系で5センチくらいの鉄球を弟に投げつける兄

そんなのがどの世界に居るんだ

 

この世界というか目の前に居るけども

 

「一夜・・・」

 

「もう兄さんって呼んでくれないんだ?良いよ、その方がやりやすいから」

 

徐に懐から石のような物を取り出した兄

石のような物質は段々、溶けていき兄の事を守るように包み込んでいる

その様子を茫然と眺めるだけだった

 

「久しぶりにパンクラチオンで勝負しよう」

 

パンクラチオン

ギリシャであった格闘技

目潰しと噛み技は禁止の格闘技だったはず

一夜はそれを今でも守っているのか守っていないのかはともかく警戒はしよう

 

「零、早く構えないと死ぬぞ」

 

低い声と先程は感じなかった程の殺気

目は笑っているが口は笑って居らず、構えない一夜

 

その言葉を聞くと自然に体が戦う構えをしていた

 

目線を上げるのは、相手の一挙一動を確認する為

顎は急所の一つでもあり、強打を受けると失神する可能性もある

左腕は、目線より少し上に拳がくるようにして、肩で顎を守れるようにした

右腕は、横腹にくっつけるように構えることで体を守るようにする

 

両腕はほぼ90度に曲げる事で相手のパンチを防ぎやすくなり、防御面では完璧な筈

 

「ボクシングで勝負するんだ。というかボクシング出来たんだね」

 

普通の会話

それに交えて殺気を殺し、右脚を俺の顔に目掛けて蹴り上げてくる

 

普通に左腕で顔を守るようにガードするも、固い

 

先程、身にまとった金属

その物質が硬く、元々の脚の力

 

この2つのせいで、攻撃が完全には防げない

 

少し左によろけたが持ち前の体幹で、なんとか転ばずに済んだ

 

「前だったらすぐに転んだのに。少し鍛えたんだ」

 

「生憎とあの時の俺とは多少は違う」

 

少し、後ろに後退

一夜の左足を、掴み後ろへと背負い投げる

 

「柔道も使うのずるく無い?」

 

空中で1回転し着地

再び、こちらを見る一夜

俺は油断はできないので再び構え直す

 

「兄さんは超能力まで使ってるだろ」

 

兄さんは屁理屈が得意だ

パンクラチオンは目潰しと噛み技を使ってはならない

 

だから、()()()()()()()()()()使()()()()()

 

「まぁ、そうなんだけどね」

 

大振りで再び左脚を俺の右側頭部を狙って振り上げた

 

咄嗟に防ぐ為に右腕を上げ、脚の動きを止める

 

だが、一夜の右腕が俺の鳩尾を打った

 

「ぐっ・・・・!」

 

片手を使って後ろへとバク転

だが、後ろにはすでに一夜が待ち構えていた

 

右側頭部に蹴りを入れられ、正面の壁の近くまで転がる

 

「こんなんじゃ、すぐに殺されるぞ」

 

歩いてこちらまで来て俺を見下ろす一夜

 

その姿はまるで、獰猛な野生動物が獲物を見つけたような姿だった

 



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8話

 

あれからずっと俺は攻撃を避ける事が出来てない

 

一撃、一撃が重すぎて体があまり動かないのだ

 

「零、早く()()()()()()と死ぬよ?」

 

ビリリリッ!

そんな効果音が付きそうな速さで背筋に悪寒が走る

自然と呼吸が荒く、心拍数も上がり血流も早くなった

ヤバイ、このままだと飛行機が墜落する

 

一夜目線

 

遠目に零を見かけた時は驚いた

何しろプラチナブロンドの髪が銀髪になっていたから

だが、あまり違和感は無かったし逆に嬉しく思う

双子だから周囲に比較され続けた

お互いにそれが苦になっているのは事実

髪の色が違うだけでも見分けはつくし、何よりすぐに双子だとはわからない

 

零は努力型の天才だ

その為、俺は零よりも努力する事が必要だった

だから誰にもバレないように必死に零を観察

勉強方法も運動の仕方だって完全コピー

元々、並外れた身体能力を持つ零に運動で勝つのは苦労したが僅差でなんとか勝っていた

 

それだけで満足で、それ以上もそれ以下も望まなかったが零は努力を続ける

だから必然的に俺も努力しなければいけない

 

ある日、身体障害者が車椅子に乗って居たが転んだのを見かけた

零と下校中の時で、あまりこの時間を減らしたくは無い

足が不自由なようで、必死に踠いて車椅子に近づいて行く

正直、見ているのは楽しく無いが助けるのは面倒くさい

 

「零、行こうか」

 

そのままその場から離れようとした時

 

「大丈夫ですか?」

 

零は俺の隣じゃ無くて身体障害者の隣に居た

駆け寄って行くなんて事はこの場にいた誰も出来なかったのにそれを成し遂げたんだ

無性に悔しくなったし苛立ちも覚えた

 

なんで、駆け寄ったのか

それを後で聞いた時に零は滅多に見せない笑顔を浮かべた

何がそんなに笑えるのだろうか

 

「だって、身体障害者に俺らがなった時に誰かに助けて貰わないと嫌だろ?」

 

そう言って俺の前を歩く零

酷く羨ましくなった

優しさも考え方も・・・

こんなに羨ましいのは双子だからなのだろう

俺にも理解できる考えを言い放ったから尚更、苛立った

 

久しぶりに会った零はあの頃とは比べ物にならないくらい強い

だけど、これじゃあ駄目なんだ

これだと俺の呪いを受け取れない

俺の呪いを受け継いで貰わないと困るんだ

 

5歳の時、零に初めて嘘をついた

俺が指を切った時に、零が消毒で俺の指を舐めようとする

それを見て咄嗟に止めた

 

『血を舐めたら呪われるよ』

 

昔から頭が良い零に対抗して居た

国語辞典など普通に読んでいた零に対抗して母に英和辞典を読んでもらっていたから俺もそこそこ頭は良かったと思う

 

『母さん、舐めてたけど呪われてないの?』

 

『この血だけだから』

 

血を舐められると俺にとっての不都合が起こる

それだけは昔から反応がそう訴えてくるので知っていた

最近、それの正体は理解している

だから俺は零に預けようと思うんだ

 

一夜目線終了

 



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機内では

 

一夜目線

本来、人間には良くも悪くも表と裏がある

そして今、俺が前にしているのは宛ら零の裏だろうか

 

本来、白目の場所が黒く瞳孔が血のように赤く染まっている

 

「・・・死に狂え、愚者が!」

 

何というか零とは想像の付かないが一様、零だ

酷く好戦的で、それでいて話が通じない

 

右ストレートを顎に向かって迷いなく打ってくる

 

そう見て、零の腕を捕まえる為に腕を伸ばすと零の腕の周りに異変が起きた

 

緑の四角が群がり、視界から零の腕が消える

 

そして、後頭部に強打が入った

 

「・・・空間を、置換したのか」

 

そうとしか考えられない

 

俺の超能力は変換

先程、俺が身にまとって見せたのはウルツァイト窒化ホウ素

地球で最硬度を持つと言われる物質だ

 

零はそれを簡単に突破して俺に攻撃を与えた

 

「変な物だな?ダイヤモンドよりも硬い」

 

そう言って手の中にある物質

恐らく、少し取っていったのだろう

やはり化け物じみている

 

病院に連れて行こうにもこの状態で連れて行くと病院は潰れる

そして、この人格は中々出てこない

恐らく零自身が押さえつけて隠しているのだろう

 

ヒステリア・サヴァン・症候群(シンドローム)

 

これである可能性が極めて高いと聞く

だが、発動のトリガーが何かを掴めていない

なにより、零が自分でコントロールも出来ていないんだ

 

身体能力の脅威的向上

元々の超能力の使用の幅が広がっている気さえもする

 

「あんた、弱くなったな?手加減は必要ない。俺も本気で行く」

 

舌舐めずりをする零

それを見て頬を少し掻く事しかできない

 

「それは困ったなぁ。零に本気で来られたら俺死んじゃうよ」

 

俺は冗談めかして笑う

だが、実際に本気でやれば死ぬ

 

飛行機の船体が大きく揺れた

 

上手く行ったのか行ってないのかわからないが引き際はここだな

 

早めに居なくならないと俺も死んじゃうし

 

「零、また遊ぼうね」

 

「けっ、誰が遊ぶか馬鹿兄貴」

 

そんな事は言いつつ遊んでくれるくせに

心の中ではそう考えて、部屋の一部を爆破

そして、飛行機から飛び降り足元の空気を床のように固めた

 

一夜目線終了

 


 

何が起きてやがる

面倒くさい

とにかく、ここは部屋から出て状況判断をするべきだ

 

「ったく、めんどくせぇ」

 

ドアを蹴破り、廊下に出る

弁償は親父がやってくれるだろう

 

とにかく今の衝撃の正体を探らなければならない

 

「・・・来い、狼牙」

 

その言葉を言うと青い炎が現れた

炎はだんだんと黒い炎へと変わっていく

瞳と思わしき部分だけは水色となっている

 

「狼牙、兄貴を追え」

 

それだけを伝えると火は消えていく

恐らく、兄を追ったのだろう

あのくそ兄貴は絶対におれが捕まえる

 

パイロットが居ると思わしき操縦席へと向かう

手で開けるのが面倒くさいのでドアを蹴破る

 

「れ、零!?何してんのよあんた!?」

 

「うるせぇよ、チビ」

 

「!な、何ですって!?」

 

そりゃ、チビだろうけど

だろうな

その身長の高校生がいる時点で驚きだよ

 

「おい、状況は?」

 

「ガソリンが漏れ続けてる。残量が少ない」

 

さっきの振動でか

なんで、そんな事になってんのかは知らんが喧嘩を売られてんだな

よし、そいつは後でぶっ飛ばす

 

「それで太平洋側に不時着するのよ」

 

アリアが不吉な事を言っている

 

「馬鹿か、お前。そんなところに空港があるとでも?」

 

「航空自衛隊が「アリア、それは俺達を見捨てようとしてるんだ」

 

事態の大変さ加減に気づいたようだな

生憎、そんな生温く優しくするつもりなんて無いからな

 



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ハイジャックの後

 

あれが3日前の出来事

 

俺はあの状態の俺の事をRough man(ラフマン)

そう呼んでいる

あのラフマンは荒々しい

どうしてあそこまで性格が荒いのか理解出来ない程

 

ドアを蹴破るなどの愚行

その羞恥に悶えそうになった俺は寮を出た

 

イギリスの王子と会うのはまた別の日になったがフランスに呼ばれているのだ

 

今度こそ普通にフランスに辿り着いた

 


 

床に引かれたレッドカーペット

大きなステンドグラスには2人の赤ちゃん

かなり広い部屋を歩き続けており、衛兵達にめっちゃ見られている

 

奥の部屋に誰か居るようだ

 

「これが余の孫なのか!?なんと!」

 

なんだ、このジジイ

とりあえず車で宮殿らしき物の近くまで連れてこられた

すると、なんかよくわからんが喜んでるおじさんがいる

 

エメラルドグリーンの瞳に金髪

王冠のような物を被って椅子に座っている

 

「この子が・・・アランの息子」

 

もう1人、金髪で白が基調の服

いかにも王子様という見ため

エメラルドグリーンの瞳と父と同じセリアンブルーの瞳

両目が色違いだ

 

俺にジリジリ近寄ってくる

気まずいので後ろに下がると肩を掴まれ

 

「嘘でしょ?こんな可愛い子供があの堅物から産まれるの?」

 

グワングワン揺すられる

 

頭の中は疑問符で一杯だ

なんで俺はこんなに揺すられる

意味がわからないんだが

 

「いや、元から顔だけは良かったけど信じらんないな」

 

「アル、そろそろその子を話してやってくれ」

 

その声で肩から手が離れた

なんだ、ここ

 

「我が孫、ジーク・シリウス」

 

いや、誰だよそれ

俺は秋月 零なんだよ

 

「アランの息子であるお前を王子にしたいと我らは思っておる」

 

誰だよ、アランって

そして王子なんて物になりたがる奴は居ない

居たとしても相当な目立ちたがり屋だ

 

俺だけ差し置いて話はどんどん進む

 

「この剣の名前はグラム。北欧から取り寄せた魔剣」

 

それは伝説の存在だろ

というか魔剣って

もうどこからツッコメばいいのか

 

「この剣をもしお主が抜けたのなら我らはお主の事を諦め、時期王子となるべき人材を探そうと思う」

 

いや、最初から探せよ

というかなんだ、この剣は

 

銀色に鈍く光り、握る重の部分は石となっている

 

丸太だろうか

とにかくよくわからないが木に刺さっている

なんだ、これは

 

「どうした?さっさと抜いて見よ。聞いたぞ、お主が王子というのを嫌がっておると」

 

なるほどな

接着剤か何かでひっつけてんのかこれ

丸太に刺さった剣って絵面的にどうなのさ

 

「そんじゃあ・・・まぁやってみます」

 

とにかくそうとしか言えないので丸太に向かって歩く

王子はやりたくないので抜くしかない

それに、この人たちは話を聞かないのだ

取り敢えずやるだけやって話をできるようにしなくては

 

剣の重に手を添えて見るとなんか、しっくりきそうでこない

 

「抜けないであろう?それは我が国の怪力「あっ、抜けた」なに!?」

 

“怪力でも抜けない”

恐らくそう言おうとしたのだと思う

なので、力を込めて抜いてみると抜けたのだ

王子をやりたくない一心でやったのだが、火事場の馬鹿力とはこの事だろうか

 

ポカンとしている2人を見て俺は困った

 

だって、剣が緑色の淡い光を放っているのだから

 

魔剣って本当にあったんだな

 

「えっと・・・これはどうすれば」

 

「・・・取り敢えず、誰も使えないからジーク。君の物だよ」

 

なんかよくわからんがジークって俺だよな

魔剣とやらを入手したらしい

なんとも言えずわからないまましばらく過ごしたのだった

 



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11話

 

「まさか、フランスの名前を教えてないとかアランらしい」

 

そう言いながら苦笑いする男

アルフォンスさんというおじさんだ

俺はこの人と父の相性の悪さをそこはかとなく感じる

 

「アランって昔からなんでもできたけどコミニュケーションが下手でね」

 

アラン、とは父の方だったらしい

父の兄のアルフォンスさんはアルというあだ名で呼ばれている

正直いって長い名前だしな

 

紅茶を飲みながらクッキーを食べたりと談笑を開始したアルフォンスさん

 

対して俺はぐったりしている

ジークという名前だったとかそこら辺から驚きだ

 

「アランの奥さん、君のお母さんのメアリはルクセンブルクの第三王女でね」

 

なんだよそれ

初耳だぞ

というか、俺は王女を殺したのか

それはそれで凄いことしたな、俺

 

「とても綺麗な子だった。『一生枯れる事のない花』そう言われる程だった」

 

思い出に浸るように俯きながらそういうおじさん

おじさんはまだ結婚もしていないと聞く

それを聞くともしかして母さんの事が今もずっと好きなのか

 

「アランは王様になる寸前だったけどメアリを選んで日本へ逃げた」

 

逃げた

そう聞いた時は信じられなかった

父は決してそんなタイプの人間じゃない

 

「他国の王子と王女の結婚なんて争いの元にしかならないって言って。あの時のアランは凄かったよ」

 

無意識に歯を食いしばっている

 

普通にその・・・母さんの事が好きだったんだな

 

なんというかものすごく気まずい

 

「本当、恋は人を変えるってよく言うよね」

 

まぁ、よく本とかに書いてあるよな

現実問題、優しい奴が実は嫉妬深いとかって恋愛面に関してだし

そこを考えていると特に()()という名の()()が浮かんでくる

 

喉が乾いてきたので、カップを手に取り紅茶を口に含む

 

甘い後味の紅茶だな

あまり紅茶に詳しくはないが嫌いでは無い

 

「ジークも誰か好きな人が居るから断ったんでしょ?」「ごほっ!ゲホッ!」

 

突然、変なことを聞かれてむせた

好きな人、えっ、なに?

あまりよく聞き取れなかったことにしよう

 

「な、なんて言いました?」

 

「恋だよ。こ・い」

 

濃い、鯉、故意、虎威、恋・・・!?

頭の中はパニックに陥っていく

何事だ、突然

 

「日本の学生の恋愛物語を最近読んだばかりでね。だからジークの事も気になって」

 

いや、そこを照れくさそうに話すなよ

それはともかく間違いなく恋愛面の話だな

好きな人?

そんな者は居ただろうか

 

ここ最近の女性関係を考えてみる

友達の部屋にあってはならない物を仕掛ける女

謎の求婚と一緒に狙撃をされ、奴隷にならと言われた

あとはまぁ写真を求めてくる女共

 

「居ない・・・ですね」

 

「じゃあ、異性で1時間だけ一緒に居ても良い人って居る?」

 

居るだろうか

この場合は身の安全の確保が先決だ

白雪は何故か大量の武器を所持している

それを考えると白雪の逆鱗に触れる事が有れば確実に瀕死だろう

 

アリアは癇癪をどこで起こすかわからない

二丁拳銃に2本の刀

それがなによりも危険そうに見える

だが、バリツという徒手格闘も出来ると聞いているからわかるのだが・・・

バリツは小指一本でも相手の動きを封じる奴がいるらしい

 

レキの場合は間違いなく狙撃関連だろう

徒手格闘については疑う余地も無い

狙撃手なので恐らく格闘は出来ないだろう

仮に銃剣を使われても距離を詰めればなんとかなる

それを考えるとレキが一番の安全だろうか

 

「レキ・・・ですかね?」

 

何故か目をキラキラさせてこっちをみるおじさん

もはや女子に見えてきたぞ

というかなんで恋バナになったんだろう

 

「じゃあ、その子の事が好きなんだよ!!」

 

詰め寄ってきてそう告げたおじさんはどことなく満足そう

そう告げられた俺はとてつもない感情の嵐だった

何故か、羞恥の感情とレキに会いたいという感情とそれと

 

「絶対にそんな事は無い!!」

 

その感情の存在を否定する感情

結局、朝方まで話を聞かされ話を言わされたのだった

 

そして、日本の寮に帰ると

 

「なんだ、このドアは?」

 

部屋のリビングの壁に前までなかったドア

それはキンジの部屋の方向に付いている

よく見れば家具の配置も多少なりと違うし

 

こんな事があろうとも部屋に防犯カメラをつけている

早速それを見よう

パソコンをいじり出した俺は知らなかった

この動画で胃と頭が痛くなる事を

 



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12話

 

監視カメラの映像を回し始めた

 

ベランダの鍵は閉め忘れており、アリアがベランダから入ってきた

お前か、俺の部屋を荒らして壁にドアを取り付けたの

アリアが銃に弾入れをしている

その銃でなにをするつもりだお前は

どういう原理か分からぬまま壁が破壊された

 

アリアはその瞬間、顔をかなり引きつらせている

実際、俺も顔を引きつらせておりなにが起きたのか理解してない

壊れた壁だった所から白雪の姿が見える

 

白雪が壁を破壊しやがった

 

『この泥棒猫、逃げるなー!!』

 

泥棒猫=アリアだと考えると俺の部屋にアリアは逃げてきたんだな

 

白雪は斬りかかったなんでも斬れる不思議刀を持ってアリアを襲う

 

それを軽々と避けつつ、銃で応戦を開始しながらソファの上に乗ったアリア

 

『だからなんなのよー!』

 

 

アリアはなんか白雪に追っかけ回されてるし何事だこれ

俺に何か恨みがあるかのように家具を壊すな

アリアと白雪が居るのにキンジが居ない

恐らく、キンジのせいでこの有り様なんだ

 

喧嘩が2人の体力が無くなった時に終わった

 

SSRの武偵とSランク武偵が戦ったら当然、こうなるよな

 

動画の部屋の有り様を見て少し泣きそうだ

アリア達が散らかしてキンジ達が片付けたから良いけども

 

キンジが仲裁に入り喧嘩は終わるように見えた時

 

『大丈夫だったのよ!赤ちゃんは出来てなかったから!』

 

思わず絶句した

白雪が何かを言ったがそこはマイクの不調で聞き取れず、ここだけ聞こえる

 

『はぁ!?』

 

キンジのその声で映像は終わった

 

なんだろう、物凄くこの後の続きが気になる

だけど知りたく無い

俺、この時に家に居なくてよかった

 


 

「おい、キンジ。なんで白雪とアリアが居る?」

 

試しに壁のドアを開けてみる事にした

何というべきかアリアと白雪とキンジという奇妙なメンバー

理由を逆に聞きたくなってきた

 

「それは俺が1番、聞きたい」

 

「零、帰ってきてたのね。じゃあ、早速だけどアンタも白雪の護衛に着きなさい」

 

なんだ、その命令口調は

その前に普通は『どこ行ったの?』的な事を普通の人は聞く

まぁアリアに普通を求めてはいけないのだが

 

「あのなぁ「というかアンタも護衛されるんだけどね」

 

話を聞くとデュランダルとかいう変な奴がいるらしい

しかもそれが超偵、SSRの武偵しか狙わないのだ

そこで俺と白雪を狙うと予言が出たらしい

中々に的中率は高い

 

俺を奴隷にしたいアリアはどういう訳かやる気は凄い

白雪はキンジと居れれば何でも良いという感じ

キンジは2人のせいで疲れている

まぁ、何気にこの女2人は喧嘩をしてくれちゃってますもんね

 

「断る。お前らに護衛されるくらいなら死ぬ」

 

目を見開いて驚く3人

特にキンジなんかは絶句してる

 

「はぁ!?アンタ何言ってんのよ!」

 

キレたアリア

怒られる意味がわからない

俺は俺の身の安全を確保してるんだが

 

「そうだよ、秋月君。いくら何でも死んだらダメだよ」

 

そう言いながらキンジ見るの辞めろ

何だその良い人アピール

 

理由を口に出せば恐らく俺は間違いなく風穴

 

白雪とアリアがいつ戦うのかわからない

そして、この2人が戦うとなると確実にキンジが関わってくる

まぁ、そうなるとキンジはどこかしらに逃げるだろう

俺とキンジの部屋に着いたドア

そこは鍵をかける事が出来る

 

もし、アリアと白雪のどちらかが俺の部屋に踏み込んでみろ

部屋の惨状に加えて弾丸の1発くらい俺に当たるかもしれない

トバッチリを俺が貰う可能性が高いのだ

 

はぁ、どうやって逃げようか

 



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同居人はロボット少女

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

すっごく気まずい

レキが狙撃も終わった後にスコープで俺を監視カメラかのように見てくる

隣の席なのでスコープいらないと思うのは俺だけだろうか

 

“逃げたら殺すぞ、お前”

 

そんな感じの脅しを無言で行ってるのだろうか

周囲からの視線がすごく嫌だ

 

耐え兼ねた俺が

 

「レキ、いくら何でもスコープで人を覗くのは良く無いと思うんだ、俺は」

 

そういうと素直にドラグノフを修めたレキ

はぁ、なんか周囲も安心したようだ

何気にずっとこっちを見てくるレキは何も言わない

 

1回、別の子に告白された時に毎日毎日それはもう呪文のように『恋人になれ』連語をされた物だ

それとはまた違う意味で嫌だが

 

休み時間となり屋上へと逃げるように向かう

だが、後ろにレキ(背後霊)が着いておりなんか行動しづらい

 

「着いてくんな」

 

首を縦に振りもしないし返事もしない

なんだ、俺に何か用事があるのか

無駄に俺だけ疲れてる気がするんだが

 

「レキ、お前は何をしたいんだ?」

 

「零さんの護衛を依頼されました」

 

俺の護衛

つまりはあのデュランダルか

面倒くさいな

 

「誰から?」

 

教務課(マスターズ)からです」

 

諦めさせないと

そう考えた矢先にこれか

余程、教務課達は過保護だな

 

「わかった。後ろに居られると気色悪いから横に立って歩け」

 

「はい」

 

そう言って大人しく横に立ったレキに多少なりともドキッとしてしまったのは内緒だ

女子って隣に来るとドキッとする人が居るんだな

 


 

レキと普通に話す事も無いので無言で寮へと帰る

郵便ポストを見てみると真っ赤な封筒があった

仕方がないので開けてみると

 

《狂おしく愛おしい花よ》

 

そんな事が書いてある手紙が投函されていた

意味が理解できなかった

俺は間違っても花なんかでは無く人間だ

そして、次にはメールが

 

差出人は不明

そして、本文の部分に《564219》

語呂合わせで“殺しに行く”

そう取る事が出来る

 

メールを見たいのか近寄ってきたレキ

さりげなく見えるように見せてみると第一声が

 

「零さん、今後は私のそばから3分以上は離れないで下さい」

 

レキが平然とそう答える

何故だ、理解ができないんだが

ただの悪戯だと思うんだが

 

「は?いや、待て。ただの悪戯だろ?」

 

「悪戯などではありません。零さん、貴方は狙われています」

 

間違いなく断言できる

そんな様子で話すレキには何故か焦りのような片鱗を感じた

いつも通りのレキなのだが何故だ

 

「話を聞かせろ」

 

「風が危険だと言うのです」

 

誰だ、その風って

風ってあの台風とかの風?

 

考える事を放棄した

レキは不明な点が多い

それを詮索すると俺が詮索された時に困る

 

「そうか・・・それは信用できる物なのか?」

 

「はい」

 

レキが結構、早めに返事をした

そこまで信用ができるのか

心なしか胸の辺りがチクリと痛んだ

 

「まぁ、なんとなくはわかった。だが、どうするんだ?」

 

「?」

 

コテンと首を数ミリ傾げるレキ

くっそ、可愛いな、こいつ

表情なんかはいつも通りだけど、多少の動きが小動物みたいだ

 

グチャグチャに表情を崩したい

 

うっさい、だまれ

もう1人の自分が危ない事を言い出して檻から出そうなので考えをリセットする

 

「3分以上、お前から離れないと言う事は不可能だ」

 

「でしたら私が零さんの部屋に泊まります」

 

普通嫌がるよな

そして何を平然と言ってるんだ

考える事を再び放棄

 

「・・・わかった」

 

この無表情なロボット少女・レキと暫く一緒に住むようだ

 

 



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花火大会

 

あの日から2日

今日は夏祭りというものがあるらしい

花火なんて炎色反応が起こした物

今まであまり興味はなかったが・・・・

 

「レキ、夏祭りに一緒に行こう。浴衣でな」

 

そう言って秋月が経営する服屋に入店した

社長の息子というのは何故か広まっており、かなり待遇が良い

レキなんか男の人に待遇がいいな

 

レキに似合う浴衣を見繕って貰い、会計は終わらせた

後はレキが出てくるのを待つだけ

女子は時間が掛かるってよくいうよな

携帯をいじりながら待つ

 

「お待たせしました」

 

無機質な声が聞こえた

携帯のゲームを終わらせようとログアウトを開始

 

「いや、あまり待って・・・・・・/////」

 

携帯を閉じて振り向いた時、レキに見惚れてしまった

 

普段は制服だからわからなかったのかもしれない

金魚の模様の入った水色がベースの浴衣

ヘッドホンも外しているのも新鮮だ

 

言葉を失った次には頬に熱を感じた

 

「零さん、どうかしましたか?」

 

レキに心配されてしまった

相当な時間、黙っていたのだろうか

 

「いや、なんでもない。じゃあ祭りに行こう」

 

そう言って自分の赤い顔を隠したいので、手を繋いで先を歩く

レキもちゃんと歩けるようにスピードを落とし気味で

 


 

レキは何事にもハイスペックだな

 

射的を見てたのでやりたいのかと思えば全発、命中させるし

 

金魚救いをさせれば店員が泣くまで救う程

 

極め付きはやはりこれだろう

 

「お前って案外食うんだな。意外だ」

 

たこ焼きを3パックと焼き鳥を50本くらい

今は隣で綿菓子を頬張っているので、今のうちにとかき氷を買ってきたところだ

2日も一緒に過ごしてるけど食事は一緒じゃなかった

それと、この小さい体のどこにその量の飯が入るのか気になる

 

「アレルギーとか嫌いな食べ物は?」

 

「ありません」

 

そうか、ないのか

ふーん

レキはつくづく俺の好みの女性とはかけ離れている

そう思っていたのにたくさん食べるし好き嫌いがない

ここは良いところだな

 

「俺、料理するのが好きなんだ。今度、作ったら食べてくれるか?」

 

「はい」

 

いつもの会話

何気ない会話だけどなんか嬉しい

フワフワして胸が熱くなる

 

「あと少しで花火が上がるな。良いところがあるんだ」

 

そう言ってレキの開いた左手を掴んで歩く

少しの接触でも心臓はドキドキいうのがわかる

それに、他の奴らがレキを見てたくらいでこんなに急いで歩く事は無いだろ

 

祭りの随分、騒がしい所から変わって静かな所に来た

近くのベンチに腰掛けて花火が上がるのを待つ

袖を何やら控えめな力で引かれた

何かと思いレキを見る

 

「・・・・・」

 

虚空を眺めているようだ

そっちに何が

 

「っ!?///////」

 

ブワッと一気に顔が熱くなった

 

カップルがキスをしている

 

レキは良くこれを無表情で見ていられるな!?

 

「私たちもしますか?」

 

なる程な!?

そう言う意味で虚無だったんだな

俺が人気のない場所に連れてきたからキスしたいとでも思われたのか

 

「い、いや、し、しなくていいでしゅ!」

 

なんだ最後の『でしゅ!』って

おもいっきし噛んでるじゃねぇかよ

そんな俺を横目にレキは何やら俺に『ヘタレ』とでも言いたそうな顔

レキにそんなつもりは無いのだろうがなんとなく苛ついてきた

 

「レキ」

 

そう短く呼んだ後すぐにレキの唇を奪った

 

短い時間のふれるだけのキス

それがいつまでも続いているように感じた

ドキドキする

花火が上がる音が聞こえたので、名残惜しいが唇を離す

 

兄さんが言ってた事があった

好きな人と居るとドキドキすると

これが“恋”って物なのか

 

「なぁ、レキ。俺の彼女になってくれ」

 

自分からキスした

何故かキスをしたくなったのだ

理由がわからない

ただ、暫くの間はレキと一緒にいたい

 

「・・・・はい」

 

控えめにだが、レキはそう返事をした

 

『私と結婚を前提に付き合って下さい』

 

そういえばレキは最初の方にそんな事を言っていたな

俺が告白しなくても弾丸に当たればよかったんじゃないか

そんな事、言われたら何故か恥ずかしくなってきた

 

夜空に炎の花が咲き誇る

 

この光景を一生忘れられないのだろう

 

今まで見てきた中で1番綺麗な花火だ

 



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現れた殺人犯

 

祭りの次の日

買い物から帰ってくると突然、雨が降ってきた

誰かが雨乞いでもしてたのかもな

そんな事を考えつつレキも俺もシャワーを浴びた後

 

手紙の差出人と思われるAを待つ

人間の体の一部が花に埋め尽くされて死ぬ

そんな変死体が多く見つかった

変死体のどれもが近くに必ず木で作られたAという文字

犯人はその事からAと呼ばれている

 

犯人は捕まっており今は刑務所の中

冤罪の場合はAはまだそこら辺を歩いてるのかもしれない

本当に模倣犯だと良いのだが

 

「レキ」

 

「はい」

 

「お前もそろそろ飽きないか?俺と一緒に居て」

 

雷が鳴り響いた

あまりレキは動じた様子は無い

その途端にベランダに変な影が現れた

焼け爛れたような顔面を満面の引きつった笑みで飾った男

黒いマントを羽織り、俺を見るなり仮面を付けた

 

窓に触れたと思えば窓に草のような物が生えていく

何をするんだ

窓を破り、中に入ってくる

 

耳が少し尖っている?

柔道などを経験している人間は投げられた時の受け身で擦れて少し耳が尖ると聞く

 

手からマジックのように大きな鎌を出現させ、そしてレキに一直線で向かう

俺が先程、ドラグノフを直したのを見た

その為にレキは銃剣を使った攻撃ができない

 

「お嬢さんの血は・・・何色だ?」

 

近接戦には向いてないレキもヤバイ事を察知している

そのおかげで、後ろに下がって攻撃は避けてくれた

 

なら、今のうちにこいつを外に落とす

 

外なら流石に他の武偵が気づく可能性もある

追加で仲間が来てくれれば勝率も100とはいかないが上がるはず

 

真正面から男をタックルする形でベランダまで押し出す

男も突然の事であまり身構えては居なかった

指に花の蔓の様な物が生えてくるのでそれを引きちぎりながら

 

「レキ、今すぐ逃げろ!」

 

タックルをしていた相手が突如として蛇のように腕の外に出て俺に蹴りを振る舞ったのだ

 

体重を乗せた思い一撃が腹に入った

蹴りの威力が強かったのと不安定な空中に居たせいで部屋の端まで飛ばされる

内臓の一部が傷ついたのかどう言う訳か口の中が鉄の味で充満した

 

「ごふっ!」

 

喉の奥底から込み上げてくるような熱い感覚

咄嗟に手で口を抑えた時に手に付着した液体を見る

真っ赤な液体の正体は、血だった

気づくと吐血していたようだ

 

「くっ・・・・ふはははは!」

 

人が吐血したのを見て笑ったぞ

お前は相当いかれてるんだな、俺も言えたもんじゃないけど

 

「何が、おかしい・・・」

 

人が苦しむ様を見て笑うとは・・・

狂った奴だ

 

時間切れだ、残念だったな?

 

なっ!

視界の一面が黒で塗り潰され、意識が遠のいて行く

しまった、さっきの吐血で気を取られすぎたようだな

 


 

「あぁイッテェなぁ?」

 

腹の一撃が思ったより重いな

なる程、戦闘経験はそこらの一般人よりは確実にある訳か

これは戦いがいがありそうだな

 

「レキ、テメェはさっさと部屋から出ろ。邪魔だ」

 

そういうや否やレキの足元をすぐ様、隣のキンジの部屋へと飛ばす

少なくともこれで10秒は得た

 

音もなく俺のそばにやってきたA

鎌を振り上げるとその鎌は破裂しワイヤーへと変わる

俺の体を縛るようになったワイヤー

ワイヤーに苔のような物が生えていく

 

「なっ!」

 

Aは俺を抱えてどこかへと向かう

超能力を持っているのか、空を飛んでいる今

生憎今は、本調子じゃない

後、15分待つべきだったんだ

タイミングが悪かった

 

顔のすぐ横を弾丸が通り抜ける

危なっ!

だが、なんとなくだがありがたい

弾丸の向きと位置を置換させて、足に撃ち込む

 

「があっ!」

 

「うおっ・・・・!」

 

しまった、Aに手を離されたぞ

 

コンクリートに向かって自由落下が始まった

 

「レキ!!」

 

俺の声に応えるかのようにワイヤーを撃って切ったレキ

レキの2051mの範囲内に居る限り、Aも運が悪いようだな

 

「逃がしはしない・・・!」

 

落ちている途中で、上を見てみるとAが急降下して向かってきている

左手にはさっきと同様で大鎌が握られており、俺を斬りつけるき満々だ

 

今度は下を見る

コンクリートはもう目前

こうなってしまうとタイミングが重要だ

 

「て、物体操作(テレキネシス)!!」

 

この際、もうやけだ

 

空間と空間を繋いで置換し、コンクリートのすぐ上に繋げた

 

そして、海岸にあるであろう大量の石を相手に()()()に投げつける

 

Aは一瞬だが、反応が遅れた

 

瞬きをしていたのだ

空間を置換して俺が逃げるとするならAが俺を触っている限りは逃げられない

だが、俺は逃げる筈だ

俺を相手取る時は確かに瞬きは命取りだからな

 

地面に背中が預けられた時

鎌の刃が顔のすぐ横に掠れた

 

すぐに横に転がって立ち上がり、左側に出てきた空間に手を突っ込んだ

 

「魔剣グラム・・・力を貸して貰うぞ」

 

淡い緑の輝きを放ちながら現れた魔剣

 

魔剣っていうくらいなんだ

白雪の何でも斬れる刀を斬るようには言ってない

あの邪魔でしょうがない鎌を切ってくれればそれで良いんだ

 

「仕切り直しといこうか・・・勝負だ!」

 



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仕切り直し

 

刺の生えた蔓がこちらへと大量に伸びてくる

 

量が多い為に致命傷以外は気にせずに致命傷となる部分だけ切り捨てて行く

 

超能力の使いすぎは体に毒

相手の超能力が使えなくなる限界

そこまで、俺が持ち前の身体能力で耐えるしか無い

 

───パァン!

 

Aの肩に風穴が空いた

レキが狙撃したのだ

恐らく、レキの残弾もこれが最後だろうか

 

武偵法の9条では殺人は禁じられている

それを守っているのだろう

 

傷口から血が溢れており、その傷口をよろけながら抑えるA

 

「あぁ!!痛い、痛いー!!この痛みが、さらなる高みへと誘う!あぁ、嫌だ、この子の皮を剥いでマネキンを作るんだ!」

 

恐らく、この子というのは俺の事だろう

という事は俺、殺されてたらマネキンになってたのか

考えるだけでキモい

 

戦意喪失してくれていれば良いんだがな

 

それにしても・・・殺人者本人にしては弱いよな

超能力なんか特出した才能らしき物はある

だが、そんな切り札をバンバン使ってまるで戦い慣れしてないような

まぁ模倣犯なのだろう

 

立っていると視界が一瞬、真っ暗になった

 

なんだ、一体

超能力の使いすぎだったのだろうか

 

「良いよなぁ、痣も傷も無いんだから・・・そうだよ、何で俺が負けなきゃいけねぇんだよ!?」

 

薔薇の蔓のような物が一直線に向かってくる

 

その為に、また致命傷以外は避けて斬っていく

 

斬って、避けて、斬って、また斬って・・・

 

再び、目眩が起きた

 

片手突きバック転(アラビアン)で蔓の届かなさそうな所まで逃げる

 

「うえっ・・・!」

 

嘔吐した

 

足元をよく見てみると吐いたのは胃の中の物では無く血

 

体を見てみるとダラダラと血が流れているが、痛みなどを全く感じない

 

「チョウ、セン・・・・アサガオ」

 

丁度、この植物の発病症状だっただろうか

とにかくその植物の毒にそっくり

 

「最初に俺に触れただろう?その時にな刺しておいたんだ」

 

そう言って出した注射器のような物

針はここからは見えない

 

という事は最近の医療で作られた極細の注射器

患者が自分で注射を打つ時に痛みがないように作られた物だ

傷口も恐らく小さい

 

ここはもう短期決戦だ

長期戦においては勝率は限りなく低い

 

その場でグラムを横にふり、空間と空間を繋げてAの前に剣を出現させて斬った

 

だが、斬ったのはマント

 

「!お前、()()()()()・・・・!」

 

マントの下

なんでこんな季節にマント着てるのか気になっていた

 

最初に顔を見せたのもそこしかまだ完全じゃ無いんだ

植物のようになっていた部分の肉

そこを剥いで自分に植え付けた

 

火傷のように見えていた場所は乾いたA自身の肉だったんだ

 

こうなっては仕方ない

アンデッドを殺す方法なんて生憎、今は持ってないんだ

 

グラムで自分の腕の皮膚を少し斬る

先程、痛みが無いのは確認していたが、これはこれで怖いな

 

「・・・・・血が、お望み、なんだろ?」

 

肉を切らせて骨を断つ

聖水なんて物は生憎だが持ってないんだ

 

「◾️◾️◾️◾️◾️!!」

 

言葉を発する余裕もないのだろう

目の前に大量の血が流れているのだからな

 

走ってこっちに来るA

 

その時には仮面も落ちた

 

俺の血を求めるかのように腕にかじりつく

 

発火能力(パイロキネシス)

 

Aの顔が白い業火に包まれた

 

発火能力は生憎、俺自身の血しか燃えない

なので、この方法を取った

モロに俺の血を吸ってたようだな

左手が全く持って動かないがこの際、腕の一本くらいやるよ

 

白い炎は太陽とほぼ同等の温度を保つ

 

発動条件としては俺の血と俺以外の人が側に居ないことが条件だ

 

キリストでは『天使の祝日』なんかに使うらしいからな

それなりに苦しいのだろう

必死にもがいて火を消そうとしているが

 

「俺の、血を、舐めたろ?だから、消えない」

 

皮膚が多少なりとも吸収している

全て無くならない限りは燃え続けるぞ

 

とにかく、俺の勝ちだ

 

後ろに倒れ込んでコンクリートの上で寝た

 



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退院

 

見知らぬ天井が視界に入った

消毒液の匂いもするので病院だろうか

 

───チャキッ

 

隣をみると無言で俺にスコープを向けているレキ

 

「あー、俺がなんかした?」

 

「はい」

 

即答

右手に繋がれた点滴

左腕は包帯でぐるぐる巻きだ

 

物凄い、惨状だったんだな

 

「なんか、悪かったな」

 

「怒ってはいませんので謝らなくて結構です」

 

じゃあ、なんで銃を向ける?

反論をしたいがしたら怖いので何も見なかった事にしよう

 

「あの後、どうなった?」

 

「Aは逃げました」

 

あの状態で逃げるとか・・・化け物かよ

いや、実際にアンデッドなんだから化け物だけど

聖水とか常備した方が良いだろうか

 

一夜とかが居たら面白がって海水を聖水に変えたりしそうだけど俺は出来ないんだよな

 

「アドシアードはどうなった?」

 

「明日です」

 

そんなに寝ては居ないか

今日中に退院も俺のこの状態ならできそうだ

 

起き上がろうとすると銃で軽く突かれた

銃剣は付いていないから良かったけど、なんだよ

 

「どこにいくつもりですか?」

 

「どこにって退院の手続きに「ダメです」なんで?」

 

「なんでも何も零さんは左腕を15針も縫っており、O型の血液が足りなくて死にかけていました」

 

まじ、なんだその惨状は

というか、その惨状の中で良く俺は生きてたな

余程、処置が良かったのだろう

 

呑気に考えていると

 

「監禁も考えましたが院内の方が清潔であり、容体の急変にもたいおうできます」

 

無表情で言うなよ

責めて黒雪みたいな表情か満面の笑みで言いやがれ

無表情だからめっちゃ怖いんだが

 

「おい、さりげなく物凄いこと言ってるぞお前」

 

病室の部屋が開き、ツインテールの女と根暗男

あと、白雪が来た

 

「なんだ、もう随分元気そうね。心配して損したわ」

 

「大丈夫なのかお前。15針縫ったって聞いたぞ」

 

「血液も足りなかったって聞いたよ」

 

三者三様の言葉を聞く

だが、レキの言ってた事は案外に本当だったらしい

いや別に疑ってた訳じゃないけど

 

異様にキンジとアリアが気まずそうだな

何かあったんだろうか

 

「もう退院しても俺は大丈夫そうだから先生と相談してくる」

 


 

「本当に退院の許可を貰うだなんてな」

 

帰宅中

キンジとアリアは何故か別方向に行った

喧嘩でもしたのだろう

そんな事に首を突っ込もうとは思っていないが

 

「長い事、入院してても意味ないしな」

 

「だけど、どうしてそんなに怪我したの?」

 

「アンデッドに俺の腕を噛ませたりとかしたからそれじゃねぇかな」

 

2人はすぐに固まって歩みを止めた

どうした、何かおかしな事を俺は言ったか?

いや、言ってない

 

「零君、今すぐ病室に戻ろう」

「秋月すぐに病室に帰れ」

 

「2人揃って酷くね?」

 

何はともかく、退院も出来た

明日のアドシアード

かなり、楽しみだ

世界各国の武偵で優秀な奴が集まってるからな

 

心配してくれている2人を横目に自室に戻っていった

 



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アドシアード終了

 

キンジのやるはずだった係を手伝わされて疲れた

 

「秋月先輩、これどうぞ」

 

茶色いお茶のような物・・・紅茶か

見知らぬ人から貰うのはあまり良くないな

だが、俺の場合は左腕が今は痛い

何より、左利きの俺は昨日や一昨日は外食した程の激痛もあった事だ

 

ここはありがたく貰っとくのが吉だろう

 

それに、喉も乾いていたことだしな

 

「あぁ、ありがとう・・・・この紅茶は君が淹れたのか?」

 

甘ったるいが、後味はスッキリしており好みの味だ

 

上の階から無表情で見つめてくるレキをガン無視して資料をまとめていく

とにかく、忙しいな

 


 

秋月家

父親は第二王子で母は第三王女

絵に書いたような家族構成だ

 

しかも父親は王子という立場を捨てて日本へ逃げた

 

そして、今は社長という地位を得て暮らしている

 

「流石に、出来すぎてるって思わないか?なぁ、父さん」

 

「全ては俺の実力だ」

 

パソコンをカタカタと打ちながら話を進めていく

そんなにも忙しいらしい

まぁ、その冷静さも今から崩れる

 

鞄の中から分厚いホチキスで止めた資料

 

それを父のパソコンの横に置く

ピタリと父の動きも自然と止まった

 

「アラン・フォード・シリウス。それが、父さんの本名だよね?」

 

「それがどうした?俺は忙しいんだ、早く帰れ」

 

カタカタとまだパソコンを触る手を止めない

それどころか、帰れとまで言ってきた

 

「父さんは()()()()()()()()()()()

 

ピタリ

父さんの動きが止まり、こちらを見てくる

その瞳はいつもよりも冷たい視線だ

 

「父さんはSSRのSランク武偵で能力はテレポート」

 

瞬間移動

そう言った方がわかりやすいだろう

俺の場合は能力の根本がよくそっくりなのだ

 

空間と空間を繋げて飛ばす

物の作られる過程を吹っ飛ばして必要な物だけを取り寄せる

 

「何日か前にアンデッドにあったんだ。その資料にざっと目を通してみてよ」

 

英国貴族に貧民街の住人

それに一般人などの死体の写真

 

父の顔が一瞬、歪んだ

 

「被害者が父さんの知り合い、もしくは同じ名前の人達なんだ」

 

そう、Aが殺したと思われる人物

全員が全員、何故か父さんという原点に辿り着く

Aが殺した人の中で女性が殺された事も無いのだ

 

「最後の一個の死体に至っては母さんのと死因が似通っている」

 

父さんが武偵として活動していた時期

Aの活動が活発だった時期が丁度重なっている

偶然?

生憎だが俺には共通点があるようにしか見えないんだよ

 

これを理論付けて証明するのは難しい

だが、俺はそんな能力はもってないんだ

謂わばこれは推理

俺は推理なんてする頭脳タイプじゃない

 

「俺の母さんを殺したのはAだよな?」

 

「・・・・零、お前は何をするつもりだ?」

 

眼鏡を外し、こちらをまん丸とした目でみる父

 

だけど、そんな事に構っている暇はないのだ

俺が知りたいのは真実だけ

はっきり言って父親は情報源でしかない

 

机の引き出しを引く父

 

対して俺は腰に刺していたグラムを抜いた

 

────ガンッ!

 

父親は引き出しから取り出した拳銃のトリガーを引いた

 



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親子喧嘩

 

────カァンッ!

 

ベレッタM84FS

滑らかなラインを描くトリガーガード

緩やかに先へ細くなるダストカバーの曲線美

装弾数は確か17だった

 

銃弾を切れた自分の身体能力

それと、グラムに感謝しながら父を見る

 

「父さんってそんな脳筋馬鹿だっけ?」

 

いまだに冷ややかな目で俺をみてくる

その静かな瞳で俺ではない誰かを見ているかのようだ

 

「本当、俺はその眼の事が嫌いだよ」

 

普段は黒い瞳

だが、今は金色の光彩が入り乱れている

 

「それが・・・千里眼か」

 

千里眼

 

過去、未来そして現在

その全てを見通す眼

父は生まれ持った時からなのか千里眼を持っている

 

「その通りだ。お前がここまで行動力があるとは・・・予想外だった」

 

「嘘つけ・・・わかってたから銃なんて持ってんだろうが」

 

父親と殺し合う為にここにきたのではない

俺は父に聞く為に来たのだ

あの野郎を意地でも捕まえて俺と兄さんと母さんに土下座させてやる

 

その為にはまず父親に勝つしかない

 

机を蹴って父に真っ直ぐに斬りかかった

 

「鏡花水月。その場にいるようで実はその場には居ない」

 

斬ったはずの父は空気に溶けていく

 

なんだ、これは・・・

後ろを振り向くと父が何やら面白そうにこちらを見ている

 

「技を教えるつもりは無いが千里眼は教えてやる。ついて来い」

 

──────

 

目隠しをつけられ、グラムは没収

極め付きは

 

「ぐっ・・・!」

 

息子を後ろから跳び蹴りしたのだろうか?

よくわからないが体重を乗せた蹴りを息子にしている父親

 

「何をしている?早く俺から逃げろ」

 

殺す・・・!

心の中で中指を初めて人に立てた

 

──────

 

顔は酷く腫れ、口の中は切れた

そして、頭からは血を流し左腕の傷も開いたのか左腕からも血が流れている

くっそ・・・ボロボロだ

先程は痛くて死にそうだったが、麻酔を刺されてあまり痛くは無い

 

「何故、出来ないんだ?」

 

「あのな、日本ではこういう時にこういうんだ。『出来る奴には出来ない奴の気持ちがわからない』要するに教え方が下手」

 

これはどうしようもなく下手だ

いきなり実戦ってどんなだよ

そして、俺はほぼこいつのストレス発散に殴られていると感じた

 

「未来と過去は見れないのに動体視力だけ馬鹿みたいに良くなっているが、お前は脳筋なのか?」

 

「真顔でそんなこと言うなや」

 

くっそ、このジジイ殺す

何回、この父を殺すのだろうか

本当に・・・

 


 

夏休みが始まり数日が経つ

 

その間、俺とレキも連絡を取り合う事も無く

傷も順調に回復しつつある

毎日のように押しかけてきた隣の部屋のバカップル

最近、見かけないし煩くない部屋

多少なりとも怪しさを覚えてくる

 

俺は星伽神社にたどり着いた

 

まぁ、あの2人はそれとなく強い

 

死ぬ事はないだろう

 

それにしても・・・・

 

「白雪、この盗聴器とカメラの山は?」

 

お風呂場を重点的にあった物だ

合計で34台

 

畳の上で机を挟んで対面する俺と白雪

障子の向こう側には白雪の妹が何人かいる

 

因みに、俺は全員の事を把握はしていない

 

山になった盗聴器達を横目に白雪を見る

 

「とりあえず、お前は一回カウンセリングに行くか」

 

「な、なんで私がカウンセリングに行くの!?」

 

涙目になりながら正座で飛ぶ

そんな器用技をやってのける白雪

 

「あのな、どこの世界の女が幼馴染みの部屋にミニマイクに超小型カメラを取り付けるんだよ?」

 

「ここ?」

 

「何故疑問形でお前だってわかるんだよ!他だ、他!」

 

「だ、だってキンちゃんの部屋にアリアが居るんだもん」

 

アリアが来る前からやってただろ

 

「何が『だもん』だ。お前の本性を知ってる俺からしてみれば恐怖しかねぇよ!」

 

「酷いよ、秋月君!私に本性なんて無いよ」

 

俺に黒雪とか見せておきながらよく言う

優等生という名の仮面を被ったヤンデレが・・・

 

 



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出校日

 

 

 

学校に向かうのは誰だって嫌だろう

今までダラダラしていただけあって学校に向かうのはあまり好ましく無い

そう思うのは人間の本能だ

だが、学校には向かわなければならない

 

「おはよう、レキ」

 

隣の席のレキ

速いな

学校に来るのが意外と速いとは・・・

全く眠そうでは無いのを見ると生活は規則正しいのが読み取れる

 

鞄を置いて掲示板の方へと向かった

新学期早々

キンジは面白い問題に直面しているのが予測できるからだ

 

銀髪の女性とアリア、そしてキンジ

なんとも奇妙な3人

よく目立つメンツが掲示板の前に集合していた

 

【2年A組 遠山 金次 専門科目 (探偵科(インケスタ))1.9単位不足】

 

その数字に頬が引きつっているキンジ

武偵高も一応は日本の高校なので規定の単位を取らないと進級が出来ない

その事がよくわかっているキンジは当然、困る

 

「どうやらお前は問題児のようだな、遠山。しかし安心しろ」

 

【夏期休業期・緊急任務(クエスト・ブース)

 

単位不足はよくある事なので休み中に解決すべき任務が大量に張り出される

報酬は安くなる分、単位は高くなる

 

「キンジアンタ留年するの?馬鹿なの?」

 

「うっせぇ!そうならない為にこれを見てるんだ!」

 

横から横へと掲示板を見るキンジ

だが、生憎とキンジが好むような内容の任務がないようだ

 

何故って?

キンジの場合は自分の単位を1回で埋めようとするだろうな

そして、その任務は1個だけでありその紙を俺が持っているのだから

 

「キンジ、おはよう。早速だが任務、手伝おうか?」

 

俺の手には掲示板から取った紙をキンジに見せるように突き出した

キンジは目を一瞬丸くし、なにかを怪しんでいる

 

「お前・・・なにを考えてるんだ?」

 

まぁ、俺は滅多にこう言う事はしないからな

それが逆に怪しいのだろう

 

「俺はカジノに行く。だが、生憎と他の奴らにはバレたくないんだ。そこはお前も分かるだろ?」

 

チラリとHSSの事をほのめかしながらそう言う

 

キンジは無言で了承してアリアを任務に誘った

やけに積極的だな

内心、何かあるんじゃないか

そう思い、アリアが気になり出した

 

【港区 カジノ『ピラミディオン』私服警護 (強襲科 探偵科 他学科も応相談)】

 

武偵の世界じゃ腕の鈍る仕事だと言われるがキンジ的にはこれが良いのだ

女子が必須で被服は支給され、4人は欲しいという事が書いてある

度々に引っかかるところはあるがまぁ、いっか

 

だって、俺は任務を受けないし

 


 

武偵高には裏サイトという物が存在する

 

強襲科でアリアが女子と殺り合っており、その相手は札幌武偵高(サツコウ)

 

そんな所に凄い奴が居るなんて聞いた事がない

しかも弾丸が見えないしアリアが負けているときた

これは・・・信じられないとしか言いようがない

 

強襲科の体育館という名ばかりの戦闘訓練場

そこへ俺は急いで向かう

走って向かう途中にキンジと合流した

 

お互いに急いでいるので喋る事は無いが、キンジが焦っている?

 

まるでこうなる事を予知していたかのように

 

闘技場(コロッセオ)と言われる楕円形のフィールド

その前に野次馬という名の生徒が沢山いる

防弾ガラスの向こう

 

つまりは闘技場の中心から銃声が響く

 

「ど、どけ!どいてくれ!」

 

人々をかき分けるように銃声の方へと走るキンジ

それに俺も続いて押し除けていく

押し除けていく生徒達の興奮気味の声

 

「やれややれや!どっちか死ぬまでやれや!」

 

突然の大声に顔を上げると2メートルはある長刀を何本も背負った女性が見えた

 

蘭豹先生!?

この人ってこういう人だっけ

普段はもう少し大人しい人だけど・・・

 

カットジーンズから長く伸びた脚でガンガンと衝立を蹴っている

 

「アリア!!」

 

キンジが衝立に飛びついた

そして、パートナーのアリアの名前を呼ぶ

やはりというべきか向こうはこちらには気づかない

 

「おいで神崎・H・アリア。もう少し貴方をみせてごらん」

 

なっ・・・・!

目眩がするほど美しい顔に憂の色を浮かべた女性

 

───パァン!

 

バシィ!

アリアが鞭で叩かれたような音に背筋がゾクゾクする

なんだ、今の・・・

 

「うっ!」

 

ズシャッ!

短い悲鳴を上げ、前のめりに倒れた

防弾制服に()()()当たったのだ

 

銃弾か?

 

「蘭豹、辞めさせろ!こんなのどう考えても違法だろ!また死人がでるぞ!」

 

実弾・実銃を使った模擬戦は強襲科のカリキュラムの1つ

その実施には体中を完全に防護するC装備の着用が義務付けられているのだ

明らかな武偵法違反

 

「おう死ね死ね!教育の為に大衆の前で華々しく死んで見せろや!」

 

長いポニーテールを揺らし、瓢箪の中の酒を飲む先生

 

俺は防弾ガラスの扉をICキーで開け放つとキンジが勢いよく飛び出た

 

「カナ、辞めろ!」

 

アリアじゃ無い方の女性、カナの所へと走るキンジ

 

「くォらこの遠山!授業妨害すんなや!脳味噌ぶちまけたいんか!」

 

咄嗟に最近、父に無理矢理送られたネックレスを外しグラムを抜いた

 

見える

 

落雷のような発砲音を上げ、キンジの足元を狙った弾丸を断ち切った

 

流石に肩が痛くなった

真正直に斬ったので反動が来たのだ

 

世界最大の拳銃で“象殺し”

そう言われる程の銃のM500だ

 

キンジも発砲音に驚いてはいたが、走るのを止める事は無い

 

「先生、邪魔をしないで下さい」

 

淡い緑色の光を放つグラムを鞘に収める

そして、俺もアリア達の方へと向かう

これは俺の推測だが、アリア達にはあの人に勝てそうに無い

逃げるくらいの時間稼ぎはやってみるが・・・

 

なんで、アリアは決闘なんかやってんだ

 

どうしようもない疑問点を無視して俺もアリア達の方へと向かう

 



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七夕

 

結局、意味がわからない女同士の争い

 

アリアとカナの共通の知り合いのキンジが中心だと考えてもいいだろう

だが、何故あの時のキンジは銃を撃ってでも止めなかったんだ

パートナーが殺されかけているのに

 

ネックレスに埋め込まれた黒い石

なんかよくわからないが父に

 

『この石を肌身離さず持っていろ』

 

その一言だけ言われ、大人しく身につけている

封じ布と似たような効果があるのか、何故か先程も取った途端に銃弾が見えるようになった

 

それに、最近はラフマンにいきなり話しかけられたからな

脳内に居る2つの人格

俺の別側面とでも言えるあいつ

奴の事もこの石で抑えつけてくれたら助かるのにな

 

学校の屋上で壁に背中を預けながら呆然とネックレスを見ていた

 

「零さん」

 

澄んだ声がいきなり横から聞こえた

 

ち、近い

 

レキがほぼゼロ距離で話しかけてくる

暴力的なまでにレキは可愛いと不覚にも思ってしまう程だ

それ程までに心は動揺している

だが、それを顔に出さないように

 

「レキか。どうした?」

 

用件をさっさと聞く

ネックレスを首につけて、立ち上がった

 

「七夕の日にお祭りがあるのですが一緒にどうですか?」

 

「すまない。その日は用事があるんだ」

 

彼女からの誘いを断るのは辛いが・・・

 

「そうですか」

 

そう言ってトコトコと帰っていくレキ

話しかけるべきなんだろうけど、なんというか話しかけづらい

優先すべき用事なんだ

 


 

7月7日

 

家で待ち人を待っていた

扉の開く音が響くリビング

咄嗟に指輪に変えていたグラムを展開して辺りを警戒

 

「せっかく兄さんから会いに来たのにその態度は酷いよ」

 

戦闘の意思は無い

それをアピールするかのように両手を上げた一夜

グラムをしまって一夜を横に座るように誘導しておく

一夜は意外とすんなり横に座って来た

俺もソファに座ると

 

「一夜・・・なんのようだ?」

 

「炎の狼の式神っていつから居るの?」

 

確かに言われてみれば一夜のいる期間には居なかった

だが、そんな事はどうでもいい

一夜はなんで、きたのか

それしか興味がないのだ

 

「どうでも良いだろ、そんな事よ「どうでもよく無い!!」

 

声を荒げた一夜に驚く

一夜は何か必死な様子だ

 

「・・・兄さんが居なくなって直ぐ。雨の日に会ったんだ」

 

───────

 

〜回想開始〜

 

轟々と降りしきる雨の日

外を傘もなしに歩き、兄の事を探し続けていた

 

「なんで居ねぇんだよ、兄さん・・・・!」

 

下唇を噛みしめ、そう言った

雨でわからなかったが、正直言って泣いていたと思う

 

心の真ん中にポッカリと空いた穴

その穴がなんなのか理解もできずに悲しさを埋める方法を考えた

 

───ボッ!

 

後ろからこんな音が聞こえた

火が着火するかのような音

ハッとして後ろを振り向いたら居たのだ

 

黒炎の狼の式神が

触れてみると淡い緑色の光を放って、消えた

それが狼牙だ

 

〜回想終了

 

───────

 

一部抜粋しながらも伝えると頭を抱えた一夜

なんだよ、まったく

お前が今更になってそんな顔をしたってなにも変わらないだろ

式神に嫉妬でもしてるのか

 

「零・・・これからは絶対に武偵の活動をしてはいけないよ」

 

俺の肩を掴んで無理矢理目を合わせてくる一夜

正直言ってどうでも良いが、何言ってんだこいつは

勝手に俺の活動を制限するつもりか

 

「な、なんでだよ!兄さんには関係ないだろ!?」

 

「とにかく、一般校に通って普通の幸せを「お前が俺の幸せを決めるんじゃねぇ!」

 

「零、僕はもう帰るからゆっくり考えるんだ」

 

くっそ、馬鹿じゃねぇの

あの兄貴が自由なのは元からだ

それに今になって振り回されるなんて・・・

冗談じゃない

 

あと少ししたら狼牙が教えてくれたカジノ

そこに向かわなければならない

 

一夜とそこで全面戦争になりそうだ

 



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カジノ

 

7月24日の昼頃

 

自分の銀行からチップに変える予定の1億程を引き出した

武偵業でも稼ぎは良い方だし、それに秋月家の資産運用などを俺も少しやっている

家の手伝いなので副業では無いし、お小遣い稼ぎということになっているらしい

 

台場

公営カジノに用があって来たのだ

 

俺は、青みがかかった黒のビジネススーツを着用している

 

私服て入る訳にはいかないのでサイラスに手配させた

すると、なんとも言い難いのだが堅物感が否めない

そういうコメントを父からもらった

だが、この格好はこの格好でいいんじゃなかろうか

 

わざわざ、防弾製の繊維にしたのだから

防弾、防刃、防火・・・

この三拍子が揃っている服も中々に少ない

 

ただ、防火の服が存在するんだな

そう思ったのは確かだ

 

【ピラミディオン台場】

 

名前通りにピラミッドの形をした建物

作りも結構、面倒くさそうだ

ギャンブルと聞いただけで頭痛がするのに・・・

 

「ボヤいても仕方ないか。狼牙、道案内を頼む。だが、姿は隠せ」

 

────ボッ

 

青白い炎が手の平の上に現れたがすぐに消える

 

ここは悪魔で公共施設のカジノ

それであればマナーは守るべきだ

 

配慮の結果、視覚の共有

 

頭の中に刷り込まれていく記憶と情報量

その速度は尋常で無いくらい早い

だが、その程度で根を上げる訳にはいかないのだ

 


 

カウンターを抜けると、大金を賭けなくても良い場所

 

横を通り過ぎるだけでこちらをみる人たちは集中力がないな

海辺のカジノってだけあってホールを囲むように海につながるプール

水路のような所は水泳用ではなく、水上バイクでバニーガール達が渡る道だ

 

「キンジとアリアか。2人して何してるんだ?」

 

成金に見えそうなキンジ

アリアはなんというかバニーガールの服が似合ってないな

そう思いつつ、苦笑いを浮かべて話しかける

 

「秋月、お前も来たんだな」

 

「これでも俺は結構な稼ぎはあるからな。アリアはあれに乗らないのか?」

 

あれ

指を指して水上バイクを指摘する

アリアなら喜んで乗りそうだが、本人は乗っていない

ぶっちゃけ、アリアの長所を生かす為には水上バイクがこの場においては有効だ

 

「あぁ、そういえばなんで乗らないんだ?」「うるさい!」

 

ぴょん!

 

跳ねたアリアはキンジの両目に向けて自分のうさ耳カチューシャでキンジの目をついた

 

うわぁ、痛そ

 

「・・・・・・」

 

なんかアリアが黙りこくってるな

何故だ

今のどこに黙る要素が・・・・あったな

 

耳打ちでキンジに何か言っている

 

「あとで風穴ルーレットだわ!あんた!」

 

危険な単語が聞こえた

かなりの大声で最後ら辺は叫んでいたので、堪らないというばかりにキンジはどっかへ行く

 

「アリア。泳げないなら今度、教えてやるからキンジ達と一緒に来いよ」

 

そう言ってポケットから連絡先を出す

実は最近、やっと建設が終わったのだ

男子寮のすぐ近くに家を建てた

金を出したらものすごい勢いで建設を考えていく女デザイナー

それか面白くて気づいたらかなりの額を出していた

 

室内プールが屋上に着いているのを確認しているのでアリアが友達を連れて来たら満員になるだろう

次いでに料理の評価をしてもらう事ができる

 

「べ、別に泳げない訳じゃないけど・・・まぁ行ってあげないこともないわ」

 

そう言って俺の連絡先をちゃっかり受け取ったアリア

こういうのってなんというかアニメとかでは人気だよな

実際はどうか知らないけど

 

歌手つきのジャズバンドをガン無視して歩く

面白い事にここは高額のチップをかける場所らしい

ここにいる女性は生まれつきあまり集中力がないらしく俺とめっちゃ目が合う

 

ホールの一角

携帯でバニーガールの撮影をしてる変態の群れを発見

そんなに綺麗な人なのか

どんな人だろう

興味を惹かれて近づいていく

 

妙な人の集まりの原因は白雪のバニーガール姿だ

白雪は性格は“アレ”だがスタイルなどは良い

今、見た感じだと恥じらっている感じがあるのでそれが男心を擽ったのだろう

ドンマイだな、俺は助けないぞ

 

カジノの2階

特等・ルーレットフロア

最低の賭け金は100万でなんかよくわからないが入るだけでも別料金がかかるらしい

 

そのフロアの一角で人盛りができている

今度は一体なんだ

金ボタンのチョッキを着た小柄なディーラー(ゲームの親)

 

「れ、レキ・・・?」

 

聞いてないぞ・・・嘘だろ、おい

なんでこんな場所にレキが居るんだ

よりにもよって今日のこの日に

 

「では、プレーヤーは次の賭け金(ペット)をどうぞ」

 

そんな俺を他所にレキは無機質な声で言う

周囲の観客はその声に盛り上がった

カジノによっては少しルールが違うらしいが、ここはプレーヤーが金を賭けた

その後にディーラーが玉をルーレットに投げ入れる

 

「は、ははッ・・・こんなに強くて可憐な、ディーラーは初めてだよ」

 

だろうな

多分だがレキは自分で好きなところに玉を投げ入れている

それができない前提のルールだけどな、これは

レキの人並外れた動体視力はそれを可能にするだろう

 

「この僕が、1時間も経たないうちに3500万も負けるなんてね」

 

そこまで負けたら諦めろよ

というか、今日は運が悪いなとかそういう次元じゃないと思う

俺は男がやっていることに頭を抱えた

 

「・・・残りの手持ちは負け分と同じ3500万ある。これを全て(ノワール)に賭けよう」

 

熱のこもった声と目つきで積み上げたチップをテーブルの【黒】に置いた

ギャラリーは拍手喝采しているがなんなんだろうか

いまいち、俺は状況をわかっていない

 

「【黒】ですね。では、この手玉が【黒】に落ちれば配当金は2倍です。よろしいでしょうか?」

 

相変わらず表情にも口調にも変化がないレキは白のピンポン玉のような物を持っている

 

「あぁ。だが、配当金は要らない。代わりに()()()()

 

イラッときた

 

レキを金で買うような物じゃないか

物品なんかじゃないぞ、レキは

どう貰うのかは知らないが・・・この男

俺は大嫌いだ

 

「僕は強運の女性を得ることで運を得て来たんだ」

 

自然と足は動いていた

人混みを掻き分ける形で進んでいく

 

「・・・・」

 

レキは黙りこくり、何故か異様に俺と目が合う

だが、俺は今はそれどころではない

今のレキはギャラリーから見たら怒っているようにみえる

ニコリとも笑わないからな

 

「この勝負、俺もやらせてもらうぞ」

 

軽く手を上げて席に着く

女性は盛り上がり出したが、男性はやけに嫌そうな顔をしている

隣のどこぞの社長はもっと嫌そうだ

俺をジェルで固めた前髪の間から睨んでくる

 

「誰だ、お前もディーラー目当てか?」

 

「俺は秋月家の者で、ディーラー目当てじゃない。アンタと勝負して勝ってみたくなった」

 

会場は一気に騒めき出す

俺は気にしないが、若干だが隣の社長の興奮も覚めてるように感じる

それ程の名前なんだな、秋月は

 

「アンタがディーラー目当てなら俺もディーラー目当てという事で行くから配当金は要らない」

 

若社長が睨んで来るのでそれに対して俺は喧嘩を売る

レキはまぁ、世間一般ではあり得ない程の状況で無表情だ

何を考えているのかわからない

 

(ルージュ)の23にそうだな、全額賭けよう」

 

そう言って手持ちのアタッシュケースを開いて全額を出す

まぁ、手持ちは1億くらいなのだが

金だけは持ってる人間だというのがわかると周りが拍手する

何故か、その中でレキが俺と目を合わせようとしないが・・・

 



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