原作知識のあるSPW財団員です (月暗)
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記憶とスタンド

ある日、私は強烈な頭痛によってぶっ倒れた。

 

すぐに病院に運ばれたからか大事には至らず、数時間して目を覚ました。

 

ぐらつく視界にまだほんの少し痛む頭……気分は最悪だ。

 

それに加えてよく分からない何かが頭の中にある違和感、自分のものかと疑いたくなる記憶

 

これは、いわゆる"前世の記憶"というやつだろうか。今さらになって思い出したとでもいうのか。

 

 

「ベラ、大丈夫か?わしが誰か分かるか?」

 

「ジョセフ・ジョースター」

 

「よかった、記憶喪失ではなさそうじゃな」

 

「あの、私、何だか頭の中がぐちゃぐちゃになっているみたいで……」

 

 

ベッドの横の椅子に座る人物は、私が間違っていなければ漫画の中の登場人物のはず。

 

なんで、どういうこと?

 

ああ、訳が分からない。頭の中がさらにこんがらがってしまう。

 

 

「さっきも言った通りわしはジョセフ・ジョースター、君と会ったのは数年前の事だ」

 

 

ジョセフが小さい子に絵本を読み聞かせるかのような優しい声音で説明してくれる。

 

数年前私が道端で途方に暮れているのを見たジョセフが耐えかねず私を拾い、あのSPW財団の職員にしてくれたとのこと。

 

そして数時間前に、仕事中だった私が突然頭痛で倒れて今に至る、らしい。

 

前世の記憶が強すぎて今世の記憶がふわついている。

 

 

「すいません、ジョースター様、断片的に覚えているのですが昔の記憶がサッパリなくて……」

 

「そうか、わしと出会った時も覚えていないのかね?」

 

「……すいません」

 

「謝らなくていい。人の記憶なんてそんなもんじゃよ」

 

 

そう言ってジョセフは私の頭を優しく撫でた。

 

昔の記憶がないと言うのにこの人は、ちと優しすぎるんじゃないか。

 

 

「起きたばかりでこんなこと言うのは酷だとは思うんだが、仕事の方は大丈夫そうか?財団での君は色んな人に頼られているような人物だ、でも出来ない状態なら無理をしなくてもいい。君の代わりを務めてくれるような優秀な財団職員はいる。それでも少しは劣るがね」

 

「いえ、新しい記憶はまだ私の中に残っているので仕事については気にしないでくれて大丈夫です」

 

「そうか!財団の人もそれを聞いたら安心するだろうな」

 

「はは、私そんなに頼られるような人物だったんですか?」

 

「そりゃあなあ、仕事もテキパキこなしてスタンド能力も強い、頼られない方がおかしいと思うぞ」

 

「じょ、ジョースター様、今なんと」

 

「うん?『頼られない方がおかしい』と言ったが……」

 

「そ、その前です」

 

「スタンド能力も強い」

 

「スタ、ンド」

 

 

嘘だろう嘘だろう待ってくれ。

 

一番大事な記憶がすっぽり抜け落ちているのは普通に無能なのでは!?

 

 

「……ベラ、まさかとは思うが」

 

 

じとりとこちらを見てくるジョセフに応えるように私はニコリと笑った。

 

こういうのなんていうんだっけ……ああ、アルカイックスマイルだ。

 

それを見たジョセフは大きなため息をついてしまったが、また、忘れた私に優しく説明することになった。

 

 

「__と、いうことじゃ。何かわからないところはあったか?」

 

「だ、大丈夫です。一応理解はしました」

 

 

ジョセフの説明によれば私のスタンド能力は時間を遅くする能力らしい。

 

DIOが一時停止なら私はスロー再生と言ったところか。うん、DIOの劣化版というか下位互換というか……使い方によっては強くも弱くもなれるんだろうけど。

 

いやいや、仮にも自分の半身だぞ。劣化版だの下位互換だのいうのは可哀想ってもんだ。自虐しているようなもんだろ……。

 

とにかく私のスタンド、『アット・ヴァンス』はそんな感じの能力らしい。

 

ちなみにこれは余談だが、私の中の時間を遅くさせることで寿命を長くしているとのこと。

 

前の私が何を考えてそうしたのかは分からないが、とりあえず常人より老いるスピードが遅くなったということだ。

 

だからといって能力を解除して即老けるという訳ではない、とジョセフは言っている。

 

 

「大体わかりました。本当ありがとうございます」

 

 

ジョセフに向かってぺこりと一礼すればジョセフはまた私の頭を撫でた。

 

 

「いやいや、わしにとって君は娘のようなものじゃからのう。世話を焼いてしまうのもしょうがないことじゃ」

 

「そう、ですか」

 

 

それだけ伝えてジョセフは帰っていた。

 

頭痛だけでここに来たので明日には退院できるらしい。

 

そんなことより、今私が確認すべきは自分のスタンドだ。どんな姿をしているのか見てみたい。

 

 

「アット・ヴァンス」

 

 

期待しながら私の半身の名前を呼べば、スタンドはすぐに私の目の前に現れた。

 

真っ白の人形のような、女性的なフォルム、そしてそれと対になるような黒色の長い髪、ロングスカートを履いたようにも見える上品なその見た目に思わず「きれい」と言ってしまった。

 

それを聞いた私のスタンドは恥ずかしそうにそっぽを向いた。

 

話せはしないが自我がある、ということだろうか。

 

それともただ恥ずかしがって話さないだけなのか……。

 

まあそれはそのうちわかることだろう。

 

 

「何はともあれ、これからよろしくね。アット・ヴァンス」

 

 

ヴァンスはニコリと笑った。



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牢獄と因縁

「ベラ、いきなりだが日本に行くぞ」

 

「……はい?」

 

 

ジョセフ、それはあまりにもいきなりすぎるぞ。

 

 

「じょ、ジョースター様?行くのは構いませんが説明してくれませんか?」

 

「わしの孫が牢屋に捕まってしまったらしい」

 

「えっ」

 

 

わしの孫、つまり、空条承太郎が牢屋に今いるってこと?

 

それって……今にも原作が始まるということ、だよな。

 

 

「なにか用意するものはあったか?あるなら待つぞ」

 

「いえ、特にありません。すぐに向かいましょう」

 

「ああ、それとベラ、あっちで座っているのはアヴドゥルだ。覚えているかもしれないが一応な」

 

「はい、名前は覚えていますが……」

 

 

私に気づいたアヴドゥルが近寄ってくる。

 

 

「やあイザベラ、軽い記憶障害だと聞いた。大丈夫か?」

 

「ええ大丈夫です。お気遣いありがとうございます。えと、アヴドゥル、様?」

 

「アヴドゥルでいい。さあジョースターさん、日本に向かいましょう」

 

「うむ、孫を牢から出さなくてはならん」

 

 

三人で日本に向かう。

 

そして空港に着くと、ジョセフはすぐさま娘のホリィの方にかけていった。

 

私はというとアヴドゥルの隣で大人しくちょこんと座っている。

 

いや"ちょこん"というほどの身長はしていないのだが、アヴドゥルが大きいから相対的に私が小さく見えてしまう。

 

170はあるはずなんだけどな……。

 

でも高いヒールを履いたらすぐに行動出来なくなってしまうからな……。スーツ姿だし、この位の動きやすくて濡れないブーツが丁度いいんだよね。

 

 

「どうした?靴なんか見て、痛いのか?」

 

「いえ、アヴドゥルさんの隣に立っているとなんだか私が小さく見えたのでもっとヒールのある靴を履いた方がいいのかと少し思っただけです」

 

「なんだそういうことか。イザベラは十分身長が高いだろう」

 

「そうなんですけどね」

 

 

__パチン

 

 

「合図だ、行こうイザベラ」

 

「はい」

 

 

牢屋に着くと、警官は怯えながら牢屋の中をちらりと覗いていた。

 

私はアヴドゥルの後ろに着いて歩く。

 

 

「承太郎!おじいちゃんよ!おじいちゃんはきっとあなたの力になってくれるわ。おじいちゃんと一緒に出てきて!」

 

 

二人が向かい合う。

 

ゴゴゴというフォントが見えたような気がした。

 

 

「出ろ!わしと帰るぞ」

 

「消えな。お呼びじゃあないぜ……俺の力になるだと?ニューヨークから来てくれて悪いが、おじいちゃんは俺の力にはなれない」

 

 

そして承太郎はもう一度ジョセフに「帰れ」と言った。

 

__パチン

 

またジョセフが指を鳴らす。

 

アヴドゥルが前に出るので私もつられて前に出た。さっきよりも承太郎の顔がよく見える。

 

 

「三年前に知り合ったエジプトの友人アヴドゥル、そしてこっちはお前さんもよく知っているSPW財団のイザベラだ」

 

「……ベラ??」

 

「お久しぶりです。承太郎様」

 

 

信じられないことだが、私は幼い承太郎に何度も会っている。

 

ジョセフの信頼度が高いからか、空条家に行くことが多かった。

 

 

「アヴドゥル、孫の承太郎を牢屋から追い出せ」

 

「フン、追い出せと目の前で言われてはいわかりましたと出てやる俺だと思うのか?逆にもっと意地を張って何がなんでも出たくなくなったぜ」

 

「ジョースターさん……少々手荒くなりますが、きっと自分の方から『外に出してくれ』と喚き懇願するくらい苦しみますが」

 

「かまわんよ」

 

「パパ、一体何を!」

 

「お、おい、騒ぎは困るぞ」

 

「静かにしてください」

 

「は、はい……」

 

 

警官が黙ったのと同時に、アヴドゥルのスタンドが浮かび上がる。

 

"魔術師の赤(マジシャンズレッド)"

 

それが、アヴドゥルのスタンドの名前だ。真っ赤な炎が承太郎を苦しめる。

 

 

「承太郎、お前が悪霊だと思っていたものはお前の生命エネルギーが作り出すパワーある(ヴィジョン)なのじゃ!傍に現れ立つという所からその(ヴィジョン)を名付けて……『幽波紋(スタンド)』!」

 

 

炎の鞭で締め付けられている承太郎が、それを水で消火し、鉄格子をひん曲げて外に出てくる。

 

だがアヴドゥルはそれを気にもせずくるりと背を向けその場に座ってしまった。

 

 

「ジョースターさん、見ての通り彼を牢屋から出しました」

 

「……ハァ、してやられたということか?」

 

「そうでもない。わたしはマジに病院送りにするつもりでいた。予想外のパワーだった」

 

 

かくして我々は、スタンドの説明やらをするためにカフェに移動した。

 

長ったらしい説明を経て承太郎は『関係ないね』と言いたげな表情でジョセフを見る。

 

そんな、お前の話なんか信じないぜ、って態度の承太郎を納得させるべく、能力"隠者の紫(ハーミットパープル)"で念写する。

 

フィルムにじわりと写ったのはジョースター家にとって切っても切り離せない因縁の相手である、『DIO』だった。

 

 

「DIO!わしの念写にはいつもこいつだけが写る!そして奴の首の後ろにあるのは!このクソッタレ野郎の首から下はわしの祖父、ジョナサン・ジョースターの肉体を乗っ取ったものなのじゃ!!」

 

「奴、DIOが甦って4年、ジョースター様や承太郎様の能力もここ1年以内に発現している事実……DIOが原因とみていいでしょう」

 

「我々の能力は世間で言ういわゆる"超能力"私やイザベラのは持って生まれたスタンドだが、あなた達の能力はDIOの肉体、つまりジョナサンの肉体と見えない糸で繋がっている」

 

「アヴドゥル、この写真からこいつが今どこにいるか分かるか?」

 

「分かりません、背景がほとんど写ってませんからな……」

 

「ベラは」

 

 

そう聞かれふるふると首を横に振る。

 

こんな真暗闇から場所を特定するなんてさすがに無理がある。

 

そして話はそこでおしまい、みなで空条家に向かうことになった。

 

 

「本当に私が泊まってもよろしいのですか?今からでもホテルや日本支部の方に向かいますが……」

 

「いい、いい。この間も言ったがベラはわしの娘同然の存在じゃ。ホリィだってベラが泊まることに賛成だろう?」

 

「ええもちろんよ!」

 

 

にこっと可愛らしく笑ったホリィさん。

 

この人たちは……ジョースター家の笑顔だけで我々SPW財団の職員のほとんどが消滅してしまうことをさてはご存知でない?

 

車に揺られながら、そんなことを思った。



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肉の芽と少年

承太郎を牢屋から引きずり出した翌日、ジョセフとアヴドゥルと3人で茶室にいた。

 

すると承太郎が花京院を背負って茶室に来た。

 

 

「……私、救急箱持ってきますね」

 

 

ジョセフが何か言っていた気がするが、気にもとめずホリィさんに救急箱を貰いに行った。

 

部屋を出る瞬間、ちらりと花京院の額に目をやる。

 

気味の悪い肉の芽がヒクヒクと動いている。この肉の芽に花京院は支配されてしまっているのかと思うとなんとも言えない気持ちになる。

 

『彼が何したって言うんだ』

 

そんなことを言いたくもなった。

 

 

「ホリィさん。救急箱ありますか?」

 

「あるわよ!」

 

 

様付けはやめろと本人直々に言われたのでさん付けをしている。

 

……ちなみにだがこれは承太郎とジョセフにも言われた。でもジョースター家バンザイの財団職員が呼び捨てはどうかと思い、とりあえず敬称はつけている。

 

 

「さっきの男の子の手当をするの?」

 

「はい。一応ホリィさんも来てくださいますか?私は応急手当が苦手なので」

 

「あらそうなの?ベラちゃんのことだから出来ないことなんてないと思ってたわ」

 

「まさか、私も人の子ですから苦手なことや出来ないことの一つや二つありますよ」

 

「うふふ、なんだか可愛いわね」

 

「や、やめてください……」

 

「うふふっ」

 

 

ホリィさんが小さい子を甘やかすように私の頭を撫でる。

 

恥ずかしいから手を振り払おうかと思ったが、この聖母の優しい手を振り払える人間なんかそういないだろう。

 

救急箱を持って茶室に小走りで向かう。ホリィさんは洗濯物を取り込んでから来るらしい。

 

 

「救急箱、持ってきました」

 

 

花京院の血を拭き取り、簡単な手当をする。

 

 

「包帯きつくない?」

 

「はい、大丈夫です」

 

「そっか。あ、自己紹介忘れてたね。私はイザベラ・ポズウェル、君は?」

 

「花京院典明です」

 

「いい名前、典明くんって呼んでもいい?」

 

 

私がそう聞くと花京院、もとい典明くんは恥ずかしそうに目を逸らしながらこくりと頷いた。

 

 

「花京院くん、調子はどう?」

 

「あ、だ、大丈夫です」

 

「そう!よかったわ。あと花京院くん、今日は泊まっていきなさいな」

 

「いいんですか?」

 

「もちろんよ。さ、お布団の準備をしましょうね。ベラちゃん手伝ってくれる?」

 

「はい」

 

 

ホリィさんは夕飯の準備をするからと台所に行ってしまった。

 

 

「……あの、イザベラさん」

 

「ん、なに?」

 

「イザベラさんはどうしてこんなに良くしてくれるんですか?私は敵として来たというのに」

 

「そんなこと言ったって、今は違うんでしょう?」

 

「そう、ですけど、でも」

 

「年下は年上に甘えるものだよ。何も考えず眠ったら?」

 

「…………はい」

 

 

心做しかしょんぼりする典明くん。

 

なにかかける言葉はないかと言葉を探していると、あることを思い出した。

 

 

「あのさ、典明くん。私も生まれた時からスタンド使いなんだよ。君もなんでしょ?さっきジョースターさんが言ってた。だからさ、なんだか仲良くなれそうじゃない?私たち」

 

「!!……そうですね。僕もあなたと仲良くなりたいです」

 

「ぼく……」

 

「?、何か言いました?」

 

「ううん、なんにも。私ホリィさんの手伝いしてくるね」

 

「わかりました」

 

 

典明くんの一人称が「僕」になってた。

 

つまり素を出してくれたということだ。私に、今のところ、私にだけ。

 

……こんな嬉しいことがあるだろうか!無意識なのかは知らないが、とにかく仲良くなれたんだ。

 

そう思うと同時に、彼がこの先の旅で命を落としてしまうという事実が頭をよぎって思わず吐きそうになった。

 

私が、私がこの先の展開を変えないと。私が守らないと。

 

誰一人殺させない。生きて日本に帰ってきてやる。

 

そう心に誓った。



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聖母とその息子

……今日はホリィさんが倒れてしまう日だ。

 

どうしても落ち着かなくて今日は朝からずっと彼女の近くにいる。

 

 

「ベラちゃん、花京院くんの様子を見てきてくれない?」

 

「はい……。わかりました」

 

 

出来れば離れたくなかったのだが、彼女からの頼みだ。断れるわけが無い。

 

典明くんの寝ている部屋に行くと、丁度彼がでてきた。

 

 

「イザベラさん、どうしました?」

 

「ホリイさんに様子を見てきてって言われたから来たの。それで、具合はどう?調子悪いとかない?」

 

「特にないですよ」

 

 

典明くんがニコ、と笑う。

 

その時だっただろうか、空条邸の中が嫌な静けさに包み込まれた。

 

 

「やけに静かですね。何かあったんでしょうか。」

 

「……ホリィさんが」

 

「ホリィさん?彼女がどうしたんです?」

 

「ああ、なんてこと。きっと倒れてしまったんだ」

 

「イザベラさん?」

 

 

典明くんの声を無視して私は慌てて台所へと走る。

 

そこにはもうみんな集まっていて、中ではホリィさんがぐったりした様子で倒れていた。

 

 

「ホ、リィ……さん……」

 

 

分かっていたことのはずなのに頭がどんどん真っ白になっていく。

 

呆然と立ち尽くす私を見てアヴドゥルがこの場から離れるよう言う。

 

頭を冷やした方がいいのかもしれない。

 

その場を離れる足取りは信じられないほど重い。

 

 

「イザベラさん!急に走り出してどうしたんですか、心配しましたよ」

 

「典明くん、ホリィさんが倒れてしまったの」

 

「どうして、疲労かなにかですか?」

 

「疲労だったらどんなに良かったか。ホリィさんにスタンドが発現して、でも穏やかな性格の彼女にはそれが毒になってしまっているの」

 

「スタンドが、毒に……ですか」

 

「うん、私は過去にそれのせいで命を落としてしまった人の記録を見ている」

 

「記録?」

 

「私SPW財団の職員なんだ。だから、見た事あるの」

 

「イザベラさん、ホリィさんはこのまま死んでしまうんですか?」

 

「多分だけどまだ大丈夫、まだタイムリミットがあるはずなの。元凶であるDIOをどうにかすれば、ホリィさんはきっと助かるはず」

 

「……DIOは、エジプトにいます」

 

「エジプト?」

 

「あの時から移動していなければ、の話ですけどね」

 

 

典明くんと一緒にジョセフの元に向かう。

 

私が介入したことにより物語が変わっていないことを確認するためにも。

 

 

「やつはエジプトにいる!それもアスワン付近と限定されたぞ!」

 

「やはりエジプトか。いつ出発する?私も同行する」

 

「同行する?何故?お前が?」

 

「……そこんところだが、なぜ同行したくなったのかは私にもよくわからないんだがね。お前のおかげで目が覚めた、ただそれだけさ」

 

「フン」

 

「私も同行します。いいでしょう、ジョースターさん」

 

「もちろんだ、君がいてくれるとわしも心強い」

 

 

そして承太郎がタロットカードで自分のスタンドの名前を決める。

 

"星の白金(スタープラチナ)"なんて美しく力強い名前なんだろう。

 

私も旅の為に準備した方がいいかと思い買い物にでも行こうとした時、後ろから声をかけられる。

 

 

「ベラ、どこに行くんだ?」

 

「買い物です。一応女性なので準備するものが少し多くて……」

 

「そうか」

 

「……他になにかあるんですね?」

 

「記憶を失くしたって本当か?」

 

「はい、古い記憶がすっぽりと抜け落ちてしまいまして」

 

「だからそんなよそよそしい話し方だったのか。納得したぜ」

 

 

帽子のつばを下げてふっと笑う。

 

私には何故かその笑顔が寂しそうに見えた。

 

 

「ごめんなさい」

 

「何故ベラが謝る?」

 

「なんだか謝らなくてはいけない気がして」

 

「ふ、いらねー謝罪だったな」

 

「ふふ、そうですね。いらない謝罪でした」

 

 

承太郎は優しい。

 

記憶を失くした私にこんな風に接してくれるなんて、やはり彼らは美しい。身も心も全て美しい。



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クワガタムシと墜落

必要なものを買い終え、すぐに出発する。

 

飛行機に乗ったはいいが、ジョセフの取った席が2人ずつだったため、必然的に私が1人になってしまった。

 

ちょっと寂しい……とか言ってる場合ではないことは百も承知だ。

 

そんな時、ブブと虫の羽音が聞こえてきた。

 

弱ったな、これから出てくる敵スタンド使いは把握しているけど一番最初に出てくるコイツが何気に嫌だ。

 

傍観者(読者)としてあのクワガタムシを見るのならまだいい。だが実際にその場に立って大きなクワガタムシを見るのはかなり苦痛だ。

 

相手が強いとかじゃない、ただただ虫が嫌いなだけ。ただそれだけ。

 

ブーンと羽音を我々の目の前に現れた。

 

 

「かぶと……いや、クワガタムシだ!」

 

「アヴドゥル!スタンドか!?は、早くも新手のDIOのスタンド使いかっ!」

 

「ありうる、虫の形をしたスタンド……」

 

「座席の陰に隠れました」

 

「どこだ……?」

 

 

全員が辺りを見回し、耳を澄ませる。

 

私が立ち上がったのと同時に典明くんが声をあげる。

 

 

「JOJO!きみの頭の横にいるぞ!」

 

「異常な大きさ、やはりスタンドですね」

 

 

クワガタムシがヂュルヂュルと不快な音を立て、口針を出す。

 

 

「気持ちわりぃな、だがここは俺に任せろ」

 

「き、気をつけろ!スタンドだとしたら人の舌を好んで食いちぎる虫のスタンド使いがいると言う話を聞いたことがある」

 

 

スタープラチナの攻撃を避け、承太郎の舌を食いちぎろうと口針を伸ばす。

 

 

「承太郎さん!!アブドゥルさん、やはりアイツ」

 

「ああ、間違いないヤツだ。タロットで"塔のカード"!破壊と災害、そして旅の中止の暗示を持つスタンド灰の塔(タワーオブグレー)!噂には聞いていたスタンドだがコイツがDIOの仲間になっていたのか!」

 

「金か何かで雇われたのではないでしょうか」

 

「……十分ありえる話だな」

 

「全員が全員DIOの信者として動くわけではないでしょう」

 

 

承太郎がタワーオブグレーを仕留めようとするが、ソイツはそれすらも躱した。

 

なんていう速さだ、その場の全員が思ったことだろう。

 

 

「たとえここから一センチメートルの距離より十丁の銃から弾丸を撃ったとして弾丸は俺のスタンドに触れることすらできん!もっとも、弾丸でスタンドは殺せぬがな」

 

 

そう言ってタワーオブグレーはフッと消える。

 

まずい、このままだと乗客が殺されてしまう。

 

私は急いで時の流れを遅くし、乗客を軽く移動させる。

 

 

「ヌゥ!?」

 

 

ついこの間分かったことだが、この遅くなった時の流れを認識できるのはどうやら私だけらしい。

 

確か5部のキング・クリムゾンも本人だけが認識できるはずだったから、またそこも被っている。

 

いや、それとは少し違う点があるな。私が触れていれば最低二人にこの時の遅れを認識させることができるらしいが……私の体力が持つかどうかの話になってしまう。

 

……なんて心の中で冷静にスタンドの解説なんかをしているがヤツに肩を少しだけ食いちぎられてしまった。傷跡が残らなければいいけど……。

 

 

「乗客の舌を引き千切るはずだったんだが、まあいい!俺の目的はただ一つ!」

 

 

タワーオブグレーが原作通り壁に血文字を書き殴る。

 

Massacre!(皆殺し)

 

よくその血液量で文字が書けたものだと何故か感心してしまった。

 

 

「貴様、よくも!焼き殺してくれるッ!」

 

「待て、待つんだアヴドゥル!」

 

「そうですアヴドゥルさん!私の怪我だって痛みはしますが大したものではありません!」

 

「うーん、なんか騒々しいのォ……何事かな」

 

 

老人が席から立ち上がり、壁の血文字に触れ悲鳴をあげる。自分でやったくせによくそんな顔が出来るなと言ってやりたい。

 

その老人は花京院の手刀で強制的に気絶させられる。

 

 

「アヴドゥルさん、あなたの炎のスタンドはこの飛行機までも爆発させかねない。JOJO、きみのパワーも機体壁に穴でもあけたりしたら大参事になる!だからここは私のスタンド、法皇の緑(ハイエロファントグリーン)こそヤツを始末するにふさわしい」

 

「クク、花京院典明か。DIO様からよォく聞いているよ。やめろ、貴様のスピードでは俺をとらえることは出来ん。俺に下を食いちぎられ、苦しみ悶えるのが目に見えているわ!」

 

「果たしてそうかな、アット・ヴァンス、私と典明くん以外の時の流れを遅らせろ」

 

「ッ!これは」

 

「これが私の能力、世界の時の流れを遅らせる能力」

 

「すごい……僕ら以外の時が遅くなっている」

 

「そういう反応をしてくれるのは大変うれしいことなんだけどたった一人でもこれを認識したら能力の維持なんかが難しくなるようでね、悪いけど早くソイツを捕まえてはくれないかな」

 

「わ、わかりました。ハイエロファントグリーン!」

 

 

典明くんはすぐにハイエロファントの触脚でタワーオブグレーをとらえる。

 

どんなに素早くても時間自体を遅くしてしまえば全てが無意味になってしまう。

 

まあ、止められてしまったら私も何もできない奴らの仲間入りしてしまうんだけどね。

 

 

「能力を解除してもいいですよ、イザベラさん」

 

「了解」

 

 

解除した途端、タワーオブグレーは驚くことになる。

 

さっきまで自分が優位に立っていたはずなのに気づけば自分の体が引き千切られる寸前の状態

 

 

「私のハイエロファントグリーンは引き千切ると狂い悶えるのだ、喜びでな!」

 

「なん、だとッ!?どういうことだ!どういうことだァッ!!」

 

「お前ごときが理解できるわけがないね」

 

 

痛む肩を抑えながらそう吐き捨てる。

 

さっきの老人の舌がクワガタムシの形にえぐれ、そして裂ける。

 

 

「さっきのじじいが本体だったのか、フン、おぞましいスタンドにはおぞましい本体が付いているものよ」

 

「……肉の芽が付いていない、ということはやはり金で雇われた人間みたい」

 

「変じゃ」

 

「どうかしましたか?」

 

「さっきから機体が傾いて飛行しているぞ」

 

「なんですって」

 

 

しまった、スタンドの事で頭がいっぱいですっかり忘れていた。

 

乗客の命は無理矢理ではあるが助けたというのにパイロットは……くそ、やっぱり全員を救う事なんてできるわけないのか。

 

 

「お、お客様どちらへ?この先は操縦室で立ち入り禁止です」

 

「知っている!」

 

「お、お客様……」

 

「どけアマ」

 

「きゃあ!」

 

「おっと、失礼。女性を邪険に扱うなんて許せん奴だが、今は緊急時なのです。許してやってください」

 

「はい……」

 

 

酷い茶番を見た。

 

とか思ってる場合じゃない、操縦室に向かうとそこは、地獄絵図とでもいえばいいのか、パイロットは舌を抜かれ、自動操縦装置も破壊されていた。最悪の状態だ。

 

 

「この機は墜落するぞ」

 

「ぶわばばばァ、お前らはDIO様の所には行けんッ!たとえ助かったとてエジプトまでは一万キロ!その間四六時中DIO様に忠誠を誓ったスタンド使いが貴様らをつけ狙うのだァ!!」

 

「ヴァンス、黙らせて」

 

 

ヴァンスはコクリと頷き渾身の力で老人をぶん殴った。

 

……いや、我がスタンドよ。命令したのはほかでもない私自身だが他にもっとやりようがあったんじゃないか。殴ったらその殴った拳の痛みが私にも来てしまうんだぞ。

 

 

「流石スチュワーデス、プロ中のプロ、悲鳴をあげないのは鬱陶しくなくていいぜ。指示で頼むがこのジジイがこの機をこれから海上に不時着させる。他の乗客に救命具をつけて座席ベルトしめさせな」

 

「は、はい!」

 

「うーむ、プロペラ機なら経験あるんじゃがの」

 

「プロペラ……」

 

「しかし承太郎、これでわしゃ三度目だぞ、人生で三回も飛行機で墜落するなんてそんな奴あるかなあ」

 

「……二度とテメーとは一緒に乗らねえ」

 

 

これも最悪だ、ジョセフには悪いがもう一緒に乗りたくない。



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銀の騎士

救助され、私たちは香港に上陸することになった。

 

SPW財団に連絡をかけたジョセフに私が連絡しますとは言ったがジョセフがいいと言ったので大人しく待つことにした。

 

 

「そこのデカい兄ちゃん!」

 

「ん?」

 

「あんたら観光客かい?どうだいお粥!香港へ来たら点心かお粥食べなくちゃ、ホットコーラもあるでよ」

 

「お粥か、悪くない。知っているかJOJO、日本と違って香港では主食として食べることが多いんだ」

 

「典明くんは物知りだね」

 

「そうですか?じゃあ、ポピュラーな皮蛋と豚肉のお粥を貰おうかな」

 

「まいど!」

 

「では私は、」

 

「おーい!お前ら何を食おうとしているんじゃ!これからわしの馴染みの店に行こうというのに!」

 

「お!そこのダンディな旦那!香港名物ホットコーラはどうだ?」

 

「ホットぉ!?コーラは冷たいもんだと相場が決まっておるじゃろう!」

 

「ま、まあまあジョースターさん。早くお店に向かいましょう?」

 

「フンっ」

 

 

中華飯店に向かい、私はアヴドゥルさんの隣に座る。

 

ジョセフが地図を開き、これからの事について話す。

 

 

「わしは海路に行くのを提案する。適当な大きさの船をチャーターし、マレーシア半島を回ってインド洋を突っ切る。いわば海のシルクロードを行くのだ」

 

「私もそれがいいと思う。陸は国境が面倒だしヒマラヤや砂漠があってもしトラブったら足止めを食らう危険がいっぱいだ」

 

「私はそんな所両方とも言ったことがないのでなんとも言えない」

 

「同じく」

 

「ジョースターさんの決定に異議なんてありません」

 

 

そんなこんなで海路を渡ることに決定した。

 

すると向かいの席から銀髪の男性が話しかけてくる。

 

 

「すみません、ちょっといいですか?わたしはフランスから来た旅行者なのですがどうも漢字が難しくて、メニューが分かりません。助けてほしいのですが……」

 

「やかましい、向こうへ行け」

 

「まあまあ承太郎、いいじゃないか」

 

 

ジョセフが料理を注文する時、そのフランスから来た旅行者と名乗る人物は私にニコリと笑いかけた。

 

 

「隣に座っても?」

 

「えぇどうぞ」

 

 

そして運ばれてきたのは蛙の丸焼き、魚を煮たもの、お粥、貝料理……全然違うなあ。

 

だが不味いということはないだろう。そう思い蛙の丸焼きにかぶりつく。うん、問題なく美味しい。

 

もぐもぐと食べ進める私を見て典明くんが貝料理に口をつける。

 

 

「んっ、これは……!」

 

 

口にあったようだ。

 

ほんの少し食べたところでフランス人の旅行者が星形の人参を箸で掴んでこんなことを言い出した。

 

 

「手間暇こさえてありますなぁ。ほら、この人参の形、(スター)の形……なぁんか見覚えあるなあ~~そうそう、わたしの知り合いが(・・・・・・・・・)首筋にこれと同じ形の痣を持っていたなァ……」

 

 

その場がシィンと静まり返る。

 

 

「貴様!新手の!」

 

「ッ!ジョースターさん!」

 

 

ボコボコと異常な反応を見せるお粥に反応し咄嗟に動く。

 

今度は右腕……この旅中に私は何枚のシャツを犠牲にするんだろうか。

 

 

「マジシャンズレッド!!」

 

 

マジシャンズレッドの真っ赤な炎が現れた銀色のスタンドに繰り出されるがその炎はスタンドのレイピアで絡めとられてしまう。

 

 

「俺のスタンドは戦車のカードをもつ銀の戦車(シルバーチャリオッツ)、モハメド・アヴドゥル、始末してほしいのは貴様からのようだな。そのテーブルに火時計を作った!火が12時を燃やすまでに貴様を殺す!」

 

「恐るべき剣さばき、見事なものだが……テーブルの炎が"12"を燃やすまでにこの私を倒すだと、相当自惚れが過ぎないか?あーっと、」

 

「ポルナレフ、名乗らせていただこう。J・P・ポルナレフ」

 

「メルシーボークー、自己紹介恐縮の至り。しかし」

 

 

アヴドゥルさんがふっと軽く腕を動かすと火時計の下半分だけが燃えてしまった。

 

 

「ムッシュ・ポルナレフ、私の炎が自然通り常に上の方や風下へ燃えていくと考えないでいただきたい。炎を自在に扱えるからこそマジシャンズレッドと呼ばれている」

 

「フム、流石始まりを暗示しその炎を操るマジシャンズレッド!しかし、この俺を自惚れというのか?この俺の剣さばきが、自惚れだと!?」

 

 

5枚のコインを宙に投げ、それを一瞬で貫く。

 

しかも、だ。そのコインとコインの間に宙を舞っていた火炎をも取り込んでいる。

 

素晴らしい、思わず目が奪われてしまうような剣さばきだ。

 

 

「全員表へ出ろ!!順番に切り裂いてやる!!」

 

 

今回はアヴドゥルさんだし、全て任せても大丈夫だろうな。

 

彼は頼りになる人だ、私が過度に関わる必要はないだろう。もちろん、何か原作と違いがあれば容赦なく首を突っ込ませてもらうつもりだが。



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騎士と魔術師の戦い

ポルナレフの後ろについて歩き、辿り着いたのはタイガーバームガーデン

 

 

「ここで予言をしてやる。まずアヴドゥル、貴様は貴様自身のスタンドの能力で滅びるだろう」

 

 

占い師に予言をするポルナレフ、よほど自分に自信があるのだろう。

 

じゃなきゃそんな事言えっこない。

 

ポルナレフは挑発するようにレイピアでマジシャンズレッドに攻撃を仕掛ける。

 

そしてマジシャンズレッドにそっくりな石像を彫り、また挑発の言葉を投げかける。『この庭園にぴったりマッチしているぞ』と。

 

 

「承太郎、何かに隠れろ。アヴドゥルのアレが出る。とばっちりでヤケドするといかん」

 

「アレ、ですか。実際に見たことはありませんが話を聞く限り相当なものらしいですね。典明くん、私の後ろに」

 

「は、はい……」

 

「クロスファイヤー!ハリケーン!」

 

 

あまりの熱風に思わず目を瞑ってしまう。

 

そして次に開けると攻撃をしたはずのマジシャンズレッドが雄叫びをあげながら燃えていた。

 

その状態でもまだ、攻撃を続けようとするアヴドゥルさん。

 

この先を知っていても、思わず目を瞑りたくなる光景だ。

 

 

「やれやれやれやれだ!悪あがきで襲ってくるか、見苦しいな」

 

 

スパンッと斬られてしまうが、斬った感触に妙な手ごたえを感じるポルナレフ、気づいたときにはもう自分自身が炎に包まれていた。

 

 

「ばかな!切断した体内から炎が出るなんて!」

 

「あれは人形だ、スタンドではない!」

 

「炎で目がくらんだな。貴様がさっき斬ったのは貴様のスタンドが彫った彫刻の人形だ。私の炎は自由自在と言っただろう?自分のスタンド能力にやられたのはお前の方だったな!そして私のクロスファイヤーハリケーンを改めてくらえッ!」

 

 

また、まばゆく大きなアンク型の炎をチャリオッツ目がけて打ち出した。

 

 

「占い師の私に予言で戦おうなどとは10年は早いんじゃあないかな」

 

「恐ろしい威力、ですね……」

 

「ああ、ひでぇヤケドだ。こいつは死んだな。運が良くて重症、いや、運が悪けりゃかな」

 

「どっちみち3か月は立ち上がれんだろう、スタンドもズタボロで戦闘は不可能!ジョースターさん、われわれは飛行機には乗れぬ身、先を急ぎましょう」

 

「……待ってください」

 

「どうしたんじゃベラ?」

 

「何か、様子が……」

 

 

わざとらしさが若干あるが、全員が足を止め、再度ポルナレフの方を向いた。

 

銀の甲冑が分解され、ポルナレフが寝たままの姿勢で空へ飛んだ。

 

 

「ブラボー!おお、ブラボー!」

 

「軽傷?いやそれよりも、何故奴の体が宙に!?」

 

「フフフ、感覚の目でよーく見てろ!」

 

「うっ、これは!?」

 

「甲冑を外したシルバーチャリオッツ」

 

 

思わずポルナレフと声が重なった。

 

紙越しや画面越しでは到底伝わりそうにないこの感覚、声が出ない方がおかしいというもの。

 

ポルナレフが自身のスタンドの説明をする。

 

 

「今はプロテクターがなく、今度再び食らったら命はないということ」

 

「ウイ、ごもっとも。だが無理だね」

 

「無理と?試してみたいな」

 

「なぜなら君にゾッとすることをお見せするからだ」

 

 

シルバーチャリオッツがズラりと7体に増える。

 

残像、それが出せるほど早いとは確かにゾッとする。

 

そしてアヴドゥルは何も出来ずに攻撃を受けてしまう。

 

 

「アヴドゥルさん……」

 

「心配するなベラ、アヴドゥルが負けるはずがない」

 

「そう、ですが……」

 

 

妹のために10年も修行したなんて、普通じゃ簡単に出来ることではない。

 

……もしアヴドゥルさんではなく私が戦っていたら、私は彼に勝てるのだろうか。

 

胸を張って「彼に勝利した」と言えるのだろうか。

 

 

「騎士道精神とやらで手の内を明かしてからの攻撃、例に及ばぬ奴。故に私も秘密を明かしてから次の攻撃にうつろう」

 

「ほう?」

 

「実は私のC・F・Hにはバリエーションがある。十字架の形の炎だが一体だけではない、分裂させ、数体で飛ばすことが可能!C・F・H・S(クロスファイヤーハリケーンスペシャル)かわせるかーッ!」

 

 

無数の炎が襲いかかったがポルナレフはまたそれを弾き返そうとする。

 

だがそれは出来なかった。

 

先程アヴドゥルが開けた穴から、丁度チャリオッツの下にある穴からCF・H・Sが飛び出してきたのだ。

 

 

「さっき炎で開けた穴だ。さっきの炎はトンネルを掘っていた、そこからクロスファイヤーハリケーンを……」

 

 

アヴドゥルは炎で焼かれるポルナレフに短刀を投げ渡した。

 

 

「炎で妬かれるのは苦しかろう。その短剣で自害するといい」

 

 

喉元に短剣を持っていくが、それはカランと音を立てて地面に落とされた。

 

 

「自惚れていた。炎なんかにわたしの剣さばきが負けるはずがないと。フフ、やはりこのまま潔く焼け死ぬとしよう。それが君との戦いに敗れた私の君の『能力』への礼儀……自害するのは失礼だな」

 

 

静かに目を閉じるポルナレフ、DIOの命令をも上回る誇り高きその精神にアヴドゥルは感心した。

 

炎を消し、額に植え付けられている肉の芽を取り除くことになった。

 

やはりこの場では私の出る幕はなかったようだ。

 

原作との大きな違いも今のところない。

 

安心して、というのは少し語弊があるかもしれないが旅を続けられそうだ。



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家出少女と船長

「チャーターしたのはあの船じゃ、我々の他は乗組員だけ。他に乗客は乗せない」

 

「財団とも話して乗組員の身元等も明らかになっています」

 

「……ムッシュ・ジョースター、ものすごく奇妙な質問をさせて頂きたい」

 

「奇妙な質問?」

 

「……詮索するようだが、あなたは食事中も手袋を外さない。まさかあなたの『左腕』は『右腕』ではあるまいな?」

 

「左が右?確かに奇妙な質問じゃ……」

 

「両方とも右手、ということでしょうか」

 

「ああそうだ」

 

「ジョースターさんの左手は右手ではありませんよ」

 

「一体どういうことかな?」

 

「妹を殺した男を探している。顔は分からない。だがそいつの腕は両方とも右手なのだ」

 

 

ジョセフは手袋をはずし、義手をキリキリと動かす。

 

 

「50年前の戦いによる名誉の負傷じゃ」

 

「…………失礼な詮索であった。許してくれ。もう、三年になる」

 

 

――妹は雨の日の下校時、クラスメートと二人で歩いていたらしい。

 

ポルナレフの故郷、フランスの田舎道でだ。

 

そして、不思議な男にそのまま嬲り殺されたという。――

 

なんて胸糞悪い事件だろう。

 

そして、そんな妹思いのポルナレフを取り込んでしまったDIOも、また許せる存在ではない。

 

彼は必死に仇を探していたのに。なのに……。

 

「俺はあんたたちと共にエジプトに行くと決めたぜ、DIOを目指していけば妹の仇に出会える!」

 

「すみませーん!ちょっとカメラのシャッター押してくれませんかー?」

 

「お願いしまーす」

 

 

いきなりだなぁ、こちらが真面目な話をしているのを空気で読み取れないものか……。いや、承太郎を見ればそうなってしまうのもしょうがのないことだけど。

 

そんな女性たちにポルナレフが対応する。さっきまでのシリアスキャラはどこへいったのやら。

 

 

「なんか、わからぬ性格のようだな」

 

「随分気分の転換が早いな」

 

「と言うより頭と下半身がハッキリ分離しているというか」

 

「……面白い方ですね」

 

「やれやれだぜ」

 

 

何はともあれ、我々はチャーター便に無事乗ることが出来た。

 

ここからシンガポールまで丸三日は船の上らしい、ゆっくりと英気を養おうとジョセフは言ったが、生憎そうはいかない。

 

溜息をつきながらただただ広い海を眺める。

 

 

「どうしたんだ?」

 

「あ、ポルナレフさん。いえ、特に何も。疲れたなあ、と思っただけです」

 

「こんな旅に女性が同行するのは辛かろう。だから気分転換に泳ぐのはどうだい?水着もあるんだってさ」

 

「御遠慮させていただきます」

 

「ちぇ、まあそう言うと思ったさ。えーと、名前は」

 

「まだ名乗っていませんでしたか?私はイザベラ・ポズウェルです。好きに呼んでくれて構いません」

 

「じゃあジョースターさんも呼んでいたベラ、で」

 

「ふふ、じゃあ私はあなたの事をなんてお呼びしたらいい?ポルナレフさん?ポルナレフ?それともジャン?」

 

「任せるぜ」

 

「じゃあ、ジャンね。それの方が親しくなった気がしていいから」

 

「親しくなるのなら敬語も外してもらわなくちゃな」

 

「確かに、対等じゃないもんね」

 

「離せ、離しやがれ!このボンクラが~~!!」

 

「何かあったのかな」

 

「行ってみようぜ」

 

「うん」

 

 

大声のする方へ向かうとそこには船員に捕まっている子供がいた。

 

じたばたと暴れる子供は船員に「警察に言う」と言われるとすぐに態度を変え、お願いだから船に乗せてくれと頼む。

 

だが船員は子供の鼻をちょんとつつき嫌だと言った。乗せられない理由があるとはいえ意地悪だな……。

 

乗せてくれないと分かると子供は船員の腕を噛み勢いよく海に飛び込んだ。

 

 

「おほ〜〜飛び込んだぞ!元気だなぁっ」

 

「陸まで泳ぐ気か?」

 

「心配ですね……」

 

「けっ、ほっときな。泳ぎに自信があるから飛び込んだんだろうよ」

 

「ま、まずいっスよ!この辺はサメが集まっている海域なんだ」

 

「嘘でしょ」

 

 

ああ、あの子の後ろに大きくて黒い背びれが!このままだと食い殺されてしまう。

 

 

「じょ、じょうた……」

 

 

私では助けられない。

 

原作であの子が無事に助けられることなんて知っている。

 

だがそれは『私がいない』原作だ。私が加わることによって何かが変わり、あの子が食い殺されるようなことがあったら私は……。

 

承太郎はすぐにあの子の元へ向かいサメを殴り飛ばす。

 

良かったとほっとしたのも一瞬、別の何かが二人の後ろにゆらりと近寄る。

 

 

「承太郎!下だ!か、海面下から何かが襲ってくるぞ!サメではない何かが!!」

 

「間に合わない、典明くん!」

 

「任せてください、あの距離なら僕のハイエロファントは届きます」

 

 

二人をハイエロファントグリーンで引き上げ、全員子供、女の子から一歩、二歩引く。

 

私以外今この子を疑っている。

 

だが、トンチンカンなことを言う女の子に一行の警戒は解ける。

 

 

「この女の子かね、密航者というのは」

 

 

大柄な男、この船の船長が女の子の肩をガシッと掴み、下の船室に連れていこうとする。

 

 

「船長、お聞きしたいのですが船員10名の身元は確かなものでしょうな」

 

「間違いありませんよ。全員が10年以上この船に乗っているベテランです。ところで!」

 

 

船長が承太郎の吸っていたタバコを勢いよく取り上げる。

 

 

「甲板での喫煙は御遠慮願おう。君はこの吸殻をどこに捨てるつもりだったんだ?まさかこの美しい海に捨てるつもりだったのかね?」

 

 

承太郎の帽子で煙草の火を消す船長

 

ああ、気に入らない。

 

灰皿を用意して消せばいいじゃないか。

 

どうしてそんな小さな女の子を力ずくで連れていこうとする?

 

きっと本物は、こんな人間じゃないのだろう。

 

 

「待ちな、口で言うだけで素直に消すんだよ、大物ぶってカッコつけてんじゃあねえ!このタコ!」

 

「おい承太郎!船長に対して無礼な態度はやめろ!ベラ、お前もなんとか言ってくれ!」

 

「……すみませんがジョースターさん、私も承太郎さんに加勢したい気分です」

 

「なんじゃと!?」

 

「承知の上の無礼だぜ。たった今分かった、スタンド使いはこいつだ!」

 

「スタ……ンド??」

 

 

どうして敵はこうも分かりやすくすっとぼけるのか。

 

 

「ベラ!テニール船長はSPW財団の紹介を通じているんじゃあなかったのか!」

 

「ええ、確かにSPW財団が紹介した人物です。全員の身元もハッキリしています」

 

「だったら!」

 

「ですが、この船長が偽物だったとしたら?」

 

「ッ!!」

 

「それに、スタンド使いに共通する見分け方を承太郎さんが発見したようです」

 

「見分け方?」

 

「スタンド使いはな、煙草の煙を少しでも吸うと鼻の頭に血管が浮きでる」

 

 

女の子以外が鼻の頭を触って確認する。

 

 

「嘘だろ承太郎!」

 

「ああ嘘だぜ」

 

「でも、マヌケは見つかったようだね。ねえ?船長?」

 

 

偽物船長はやってしまったと目を丸くして驚いた。



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偽物船長と思いがけない遭遇

「な、なぜこの船長が怪しいと分かった?」

 

「いや、全然思わなかったぜ。もともと船員全員にこの手を試すつもりでいただけだ。だが、ベラが乗ってきたからな」

 

「シブいねぇ、全くおたくら、シブいぜ。確かに俺は船長じゃねえ、本物は既に海の底で寝ぼけているだろうさ」

 

「それじゃあてめーは地獄の底で寝ぼけな!」

 

「俺のスタンドの暗示は月、水のトラブル!嘘と裏切り!未知の世界への恐怖を暗示している。その名は暗青の月(ダークブルームーン)!」

 

「きゃああああ!!」

 

「ッ、ベラ!」

 

「わかっています、ヴァンス!」

 

 

また時が遅く流れる。

 

遅くなった時の中、ダークブルームーンから引き剥がす。

 

原作にはもっと展開があったはずだが、生憎私は頭に来ている。

 

何もせず、女の子が攫われていくところを見るつもりなんざさらさらない。

 

女の子を自分の後ろにやり、時の流れを戻す。

 

 

「なッ、人質は!」

 

「あなたが喋っている間に助けたよ。だって敵の文言をいちいち聞いてやる必要は無い、そう思わない?」

 

 

船長は私をキッと睨んだが、怖くもなんともない。

 

睨んでいる暇があるなら誰か一人を殺す気で攻撃すればよかったのだ。

 

なのにそんなにタラタラしているからスタープラチナのラッシュを食らう羽目になった。

 

これで大丈夫だろう。女の子を引き上げる必要も無いから腕にフジツボだってつかない。

 

 

「はぁ」

 

 

そうため息をついたのもつかの間、船が爆発し始めた。

 

クソっ、あの偽船長爆弾をしかけていたのか、ただでさえ私には二人分の記憶があるようなものなのに、そんな細かいこと覚えているわけないじゃないか!!

 

私と承太郎以外の時を遅くさせ、急いで船に乗っている全員を救命ボートへと移動させる。

 

こうすれば爆発の被害を受けることはあまりない。

 

暫く海の上をボートで揺れることになる。

 

 

「救難信号は出した、もうじき助けが来るだろう」

 

「そう、ですか……安心しました……」

 

「ベラ?気分が悪いのか?」

 

「少し……旅が始まってから早数日、満足に休めていないので睡魔が」

 

「そうか、わかった。少しでもいいから眠るといい」

 

「すみません……」

 

「いい、お前さんはよく頑張ってくれているよ」

 

「もったいない、お言葉です」

 

 

そう言って私は眠りについた。

 

 

 

――夢を見た。

 

目の前にはこの旅の原因であるDIOが立っていた。

 

 

「貴様がイザベラか」

 

「……DIO」

 

「なぜ私がいるのか、そう言いたげな顔だな」

 

「夢の中ならなんでもありって言うけど、この旅の最中にあんたが出てくる夢だけは見たくなかった」

 

「フフフ、イザベラ、これは夢であって夢じゃない」

 

「……どういうこと、スタンド能力?」

 

「あぁ」

 

 

そういえば夢の中に強制的に引きずり込むスタンド使いがいたな。

 

でもこんな早くに干渉するってどういうこと?

 

 

「特定の人間に夢のような空間で語りかけるだけの能力だ」

 

「てことは、今私は本当にあんだと話してるって言うの?」

 

「そうだ、だからこんなことも出来る」

 

 

DIOは私の首元に爪を立てる。

 

 

「言え、この先の未来を」

 

「っぐ、な、んのこと……だ……」

 

「貴様は知っているんだろう。この先、私が勝つのか、それとも負けるのかを……なあ、知っているんだろう?」

 

 

DIOが甘い声で囁いた。

 

なぜ知っている?私はジョセフにも前世の記憶があることを言っていないのにどうして?

 

まさか、この夢のような空間を作り出したのは私の知っているスタンド使いではない?(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

「っく……ぁ」

 

「……時間切れか、まあいい。言うまで私は何度でも来てやるぞ、イザベラ」

 

 

クイっと長い指で私の顎を上げる。

 

世間一般的に言うDIOの『綺麗な顔』も今の私から見れば最低最悪の極悪人の顔にしか見えない。

 

 

「ふざ、けるな……お前が勝つわけが無い!!この旅の勝者はジョースターだ!!」

 

「……フン、そうか。お前はそう言うのだな。イザベラ」

 

「そう言うもなにも、これは事実だ。あんたに勝ちを譲る気なんてない」

 

「その事実は私の手によって虚しく散ることになるだろうな。勝者はこのDIOだ」

 

 

DIOが勝ち誇った笑みを浮かべた瞬間、私は目が覚めた。



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貨物船とオランウータン

「ベラ、ベラ!イザベラ!!」

 

「ジョースター、さん?」

 

 

目を覚ますと、そこはまだ救命ボートの上だった。

 

 

「酷く魘されていたぞ、汗もびっしょりだ。悪夢でも見ていたのか?」

 

「DIOが、私の夢にDIOが出てきたんです」

 

「DIOだと!?詳しく話してくれ!」

 

 

私は夢の中の出来事を一行に全て話した。

 

 

「未来を知っているってどういうことだ?ベラにそんな能力あったか?」

 

「そんな能力はないよ」

 

「かと言って私のような占いなどでもないのだろう?」

 

「はい、私に占いはできません」

 

「じゃあなぜDIOはそんなことを言ってきたんだ」

 

「……わかりません、DIOの配下であるスタンド使いに能力がわかる人間がいたとして、それに私は間違った形で引っかかってしまったのかもしれません」

 

「ふむ、ありえない話ではないな」

 

 

じジョセフ達に言ってしまおうか迷ったが、それを言ってしまえばおかしくなり始めている原作が更におかしくなってしまうかもしれない。

 

デス13以外の夢を作るスタンド使いって誰だ?

 

私の想像通り、能力がわかるスタンド使いがいるのかもしれない?

 

私の知らない敵スタンド使いって誰?何人いるの?二人?三人?

 

得体の知れない敵に対する恐怖にふるりと体が震える。それに首元にはまだDIOの冷たい感触が残っている。

 

 

「み、み、みんなあれを見て!」

 

 

そう女の子が声を上げ、指した指の方にあったのは大きな貨物船

 

どこか嫌な空気を纏ったその貨物船にみんな乗っていく。

 

……ここでは確か、船員一人がやられてしまうはずだ、助けなければ。

 

 

「イザベラさん、大丈夫ですか?」

 

「うん、もう大丈夫、心配してくれてありがとう」

 

 

全員が船に乗り、ジョセフが船に誰かいないか見回る。

 

すると、一人の水兵の上でクレーンがくわんくわんと不自然に動く。

 

 

「ヴァンス、お願い」

 

 

水兵をクレーンから離れたところに移動させる。

 

もちろん、他の水兵もだ。

 

時を戻すとクレーンは誰を攻撃する訳でもなく、ただ静かに上に上がっていく。

 

 

「だ、誰も操作レバーに触っていなかったのに!」

 

「気をつけろ、やはり誰かいるぞ……」

 

 

典明くんがハイエロファントグリーンで船内の隅々を散策する。

 

だが、夕暮れになってもオランウータン以外の生物はどこにもいなかった。

 

私は水兵たちの護衛のために一緒にいた。

 

耳をすませながら、何かあればすぐに対応出来るようにしていた。

 

――キリキリ……

 

私は音が聞こえた瞬間にヴァンスを発動させる。

 

オランウータンの脳天に思い切り重たい機械を落とす。

 

時を少し戻してみるとギャインとオランウータンの悲鳴が聞こえ、走り去っていく音もした。

 

流石動物、なんとなく私がやったと分かるのだろうか。

 

 

「今、あの猿の鳴き声が聞こえたぞ……?」

 

「檻の中で何かやってしまったのでは?気にせず作業を続けてください」

 

 

あとは多分、原作通り承太郎が何とかしてくれる。

 

アット・ヴァンスはあまりパワーがないけれどこの水兵たちを守ることは出来る。オランウータンが変な気を起こしてまた水兵たちを襲わぬようちゃんと見ていなければ。

 

 

「イザベラさん……何やら外が騒がしい様ですが……」

 

「外に出ることは私が許可しません。どうかここにいてください」

 

「わかりました」

 

 

水兵がそう返事をした時だろうか、ズブズブと足元が沈んだのは。

 

全員身動きが取れなくなってしまった。

 

だが"まだ"私たちを殺す気ではないようだ。顔が埋まるか埋まらないかのところで沈まなくなった。

 

あの猿はどうしても先に承太郎を仕留めたいらしい。

 

たかが猿に承太郎が殺せるわけないのに。

 

しばらくして拘束が緩み船がぐにゃぐにゃになっていく。

 

 

「こっ、これは!」

 

「みなさん早く、こうなっては逃げるしかありません!乗ってきたボートで脱出しましょう!」

 

 

私たちと、少女と、水兵を乗せたボートがまた海に出る。

 

無事シンガポールに着くよう、今は祈るしかできない。



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同室と人形

無事シンガポールに着き、ポルナレフの荷物は警官にゴミと見間違えられ、女の子も取り敢えずは我々に着いてくる一連の流れがスムーズに進んだ。

 

 

「部屋は……ベラ、あの子と同じ部屋でいいか?」

 

「あの子がいいのなら」

 

 

ちらりと女の子のほうを見るととくに嫌な顔はしていなかった。

 

 

「別に、あっちのフランス人よかずっとマシだわ」

 

「なんだとガキ」

 

「なによ!べーっ!」

 

「ま、まあまあ、じゃあ部屋は4つですか?」

 

「そうなるな、よし、君、部屋を4つくれ」

 

 

鍵が4つ出され、いの一番にジャンが鍵をとる。

 

 

「アンちゃん、って呼んでいい?」

 

「いいわよ」

 

「先に部屋に行っていてくれる?私あの人について行かなきゃ行けないの」

 

「フーン、わかったわ」

 

「一応、鍵は閉めておいてね。女の子なんだから」

 

「わかってるわよ!」

 

「それじゃあね」

 

 

軽く手を振ってジャンの後を追う。

 

 

「待って、ジャン!」

 

「どうしたんだ?お前はあいつの子守りだろ?」

 

「あの子はもう子守りする年齢じゃないでしょ。それに敵スタンド使いに狙われている私があの子の近くにいたら逆に危ないよ」

 

「それもそうだな、で、俺のところに来たと?」

 

「年長のお二人で1ペア、学生組で1ペア、じゃあ残った私たちでもう1ペアってわけ」

 

「ははっ!なるほどな」

 

 

雑談をしながらジャンの部屋に向かう。

 

ドアを開ける瞬間、部屋の中から嫌な空気がした。

 

ここにも敵スタンド使いがいるんだよね。

 

私の知らないスタンド使いのことを考えれば、ここシンガポールでも気が抜けない。

 

 

「結構綺麗な部屋だね」

 

「そうだな」

 

「……人形」

 

「結構ホテルにこういう人形置いてあることあるよな」

 

「たまにね」

 

「しかし、てめーら俺たちに休む暇も与えてくれないというわけか……出てこい!」

 

 

すると冷蔵庫の扉がゆっくり開き、中から傷だらけの男が出てきた。

 

 

「なかなか鋭い殺気をしているな、ひとつ名乗っておきな。このポルナレフに殺される前にな……」

 

「おれの名は呪いのデーボ、スタンドは『悪魔のカード』の暗示呪いに振り回され精神状態の悪化!不吉なる墜落の道を意味する。なぜおれが冷蔵庫の中にいることがわかった?」

 

「あんたもしかしなくてもマヌケ?冷蔵庫の中のものが全部外に出てたら誰だって不自然に思うでしょ?」

 

 

私がそう言うとデーボはほんの少しだけ顔をしかめた。

 

 

「エボニーデビル!」

 

「シルバーチャリオッツ!」

 

 

ジャンはすぐさま呪いのデーボの顔面をぶっ刺す。

 

止めようとしたが、チャリオッツのスピードを私が止められるわけが無い。

 

 

「つ、ついにやったな……フヒヒ、よくも、よくもこんなんしやがって!ウヘヘヘヘ、痛え、痛えよお~~~とっても、痛えよお~~~!!!!」

 

 

呪いのデーボは一人笑いながら落ちていった。

 

急いで外を見たジャンの足がぱっくり切られる。

 

 

「ッ!いつの間に切りやがった!?おいベラ!俺の足が切れる瞬間を見ていたか!?」

 

「見ていた、けど、本当に突然切れたの、あのスタンド使いが何かしたんだろうけど私には何が何だか」

 

「とりあえずジョースターさんに連絡しなくては!」

 

「なら足、こっちに寄越して、手当するから」

 

「助かるぜ」

 

 

自分の持っている小さめのショルダーバッグから救急箱を取りだし、ジャンの足を手当する。

 

これでホテルの人間が殺されないはず。

 

 

「ベラ、話は聞こえてたか?」

 

「5分後にジョースターさんの部屋」

 

「ああそうだ」

 

「早く行って損はないしもう部屋を出る?」

 

「そうだな……あれ、部屋の鍵がないぞ確かこの台に置いたはずなんが」

 

「どこ落としたの?」

 

「ちっ、ベッドの下だ。さっきのドタバタで吹っ飛んだか?……ん、意外と狭いな、ベラ、ベッドの下の鍵取れるか?」

 

「取れると思うけど、私別に小柄なわけじゃないからね。170ある女だからね?」

 

「俺から見たら小さいっての」

 

「そーですか」

 

 

ベッドの下に落ちている部屋の鍵を取るべく手を伸ばす。本音を言ったらこのベッドの下に行きたくないけど、頼まれたんだから断る訳にも行かない。

 

鍵を取り、ベッドの下から出ようとすると、両手両足が何かコードのようなもので縛られ、ベッドに張り付けの状態になる。

 

 

「ッ、ジャン!さっきのスタンド使いが現れたかもしれない!!」

 

「ああ、何か小さいのが……さっきの人形か!?」

 

 

ジャンが人形に向かってチャリオッツの攻撃を仕掛けるがちょこまか動く人形になかなか当てられない、というより下手に攻撃してベッドの下にいる私に怪我をさせてはいけないと思っているのかもしれない。

 

そしてギゴギゴとのこぎりの音が響く。

 

 

「ジャン!!」

 

「わかってらぁ!!」

 

「ウケケケケ!お前らに捕まえられるわけがない!よくも俺の片目を潰してくれたな!よくもよくもよくも!!!」

 

 

原作とは違い、今のチャリオッツはちゃんと見えているからエボニーデビルに攻撃がよく通る。

 

ボロボロになったデーボに剣先を向けながらポルナレフが質問をする。

 

 

「おいデーボ、聞きたいことがある。俺は両手とも右手の男を探している。その男のスタンドの正体を喋ってもらおうか」

 

 

「馬鹿か?スタンドの正体を人に見せる殺し屋はいねえぜ、見せたときは相手か自分が死ぬ時だからよ!てめーらのように知られちまってたらよぉ~~!弱点まで知れ渡っているのさあ~!」

 

「このド低俗野郎が」

 

 

エボニーデビルがばらばらに刻まれてしまった。

 

 

「お、終わったの?」

 

「ああ」

 

「それならさ、助けてくれるととても嬉しいんだけど」

 

「今助ける」

 

 

ジャンに助けられ二人でジョースターさんの部屋に向かう。

 

『やっと来たのか』なんて言われて何とも言えない感情に襲われた。

 

ちょっとぐらい休ませてくれてもいいのに。



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偽物とハンサム

――コンコンコン

 

 

人が気持ちよく寝ている時に……この旅でこんなに休まる時はないって言うのにさ……。

 

そんな風に思いながら自室のドアを開ける。

 

 

「あ、承太郎さん」

 

「JOJO!」

 

 

私の後ろからアンちゃんが首を出す。

 

 

「ジジイとアヴドゥルに頼まれた。インド行きのバスか列車を手配しろってな」

 

「わかりました、少し準備するので待っていてください。あと他には?」

 

「花京院だ、ロビーにいる」

 

「そう、ですか」

 

「どうした?」

 

「いいえなんでも」

 

 

洗面台の方へ向かい、軽く寝ぼけている頭を起こすために顔を洗う。

 

そして髪をいつもの様に緑のリボンで一つに結ぶ。

 

 

「よし、準備オッケー」

 

「終わったか?」

 

「はい、バッチリです。行きましょうか。アンちゃんも行くんでしょう?」

 

「ついて行っていいの?」

 

「行きたくないのなら無理強いはしないけど」

 

「行くわ!」

 

 

そう言って私と承太郎の真ん中に挟まるように歩き出す。

 

私を承太郎の隣に立たせない、と言うよりも私と承太郎のどっちとも歩きたいから真ん中をとったように見える。

 

子供らしい欲張りに思わず笑ってしまった。

 

 

「……花京院、ぼーっとしてると置いていくよ?」

 

「ん、ああ。すみません」

 

 

やっぱり偽物じゃないか。

 

親しい人間が偽物に変わっているというのは、かなり頭にくるものである。

 

今にでも殴り飛ばしてやりたいほどに、だ。

 

だがそんなことをしてみれば悪者になるのはどう考えても私だ。

 

ひとまずは何もせず、みんなについて行くことにした。

 

何でもかんでも早く終わらせればいいってもんじゃない。

 

 

「ベラ」

 

「なんですか?あ、ヤシの実、ジュースですか?」

 

 

承太郎は私に渡したものと同じものを飲みながらコクリと頷く。

 

一口飲んだか飲んでいないかぐらいに原作とは少し違い、財布をスられた花京院がそのスリの顔に一発膝蹴りをかます。

 

 

「てめー俺の財布を盗めると思ったのか?このッ」

 

 

汚い言葉が花京院の口から出る前に能力を使った。

 

偽物といえど私の友人から汚い言葉を言わせるわけにはいかない。

 

盗人を離れたところに置き、流れを戻す。

 

 

「ビ、ッ!?」

 

「どうしたの花京院、青ざめたりなんかして、私の能力は知っているはずでしょう?」

 

「そ、う、ですが……急に使われると戸惑います」

 

「それは悪かったわ。ごめんなさい。でも、あなたの財布を盗んだ相手をあんなふうに蹴り飛ばす必要はなかったんじゃないの」

 

「あいつは僕の財布を盗ったとっても悪い奴なんですよ。懲らしめて当然でしょ!違いますかねぇ、ベラさん(・・・・)?」

 

「……さあ、でもやるにしたって頻度があるんじゃないの?少なくとも私はそう思うけど」

 

「ベラさん、僕は今日はちょっとばかりイラついていたんだ。旅に疲れはじめてね。機嫌が悪いって日ですよ」

 

「良さそうに見えたけど?」

 

「ベラ、行くぞ」

 

「あ、はい」

 

 

……私あのスタンド使い嫌いだ。

 

少し下を向いて歩いていると承太郎に声をかけられた。

 

 

「花京院と何かあったのか?」

 

「典明くんとは何もないですよ。ただ、あれとは一悶着ありましたね」

 

「……やっぱりあいつ、花京院じゃねえな?」

 

「はい、敵スタンド使いでしょう」

 

「いきなり"承太郎くん"なんて呼んだからどうかしたかと思ったぜ」

 

「ふふ、もしかしたら本人もそう呼びたがってるかもしれませんよ」

 

「呼びたきゃそう呼べばいい」

 

「そうですね」

 

 

話しているとアンちゃんがハァハァと息を切らして承太郎にしがみついた。

 

 

「どうかしたか?」

 

「な、なんでもないわ」

 

 

また少し歩き、私たちはケーブルカーのある所に来た。

 

 

「よお承太郎、そのチェリー食うのかい?食わないならくれよ。腹が空いてしょーがねーぜ!」

 

 

そう言って花京院は承太郎を突き飛ばす。

 

 

「承太郎さんッ!」

 

 

ヴァンスも使って承太郎を引き上げる。

 

 

「冗談、冗談ですよぉ」

 

 

ふざけた顔でチェリーを食べる偽物

 

――パンッ!

 

私はその顔を思い切り平手打ちした。

 

 

「……は?」

 

「もうその顔で喋らないで」

 

「い、イザベラさん!何も叩くこと……」

 

「典明くんなら私だって叩きはしないわ!でも、敵スタンド使いとなれば話は別よ」

 

「敵スタンド使い~~??何言っているんだ、目の前にいるのは正真正銘仲間ですよ?」

 

「……乗れや、花京院」

 

「?」

 

「ケーブルカーが来たから乗れと言っているんだ、この俺のチケットでな。偽物のてめぇはこの拳でブッ飛んで乗りなということだ」

 

 

偽物が反応する前に承太郎が思い切り殴り飛ばす。

 

ぐぱ、と顎が割れるその姿にアンちゃんが悲鳴をあげた。

 

 

「いつ……いつ気づいた?俺が偽物だと」

 

「最初っからよ最初っから、会った瞬間にわかったわ」

 

「ふざけたことを」

 

「ふざけてるのはあんたでしょ?典明くんはそんな汚い目をしてないわ。言っておくけど私、かなり頭にキてるのよね」

 

「何者だ?お前」

 

「俺は食った肉と同化しているから一般の人間にも見えるし触れもするスタンドだ。"節制"のカード、イエローテンパランス!そしてこれが、俺の本体のハンサム顔だ!」

 

「ハンサム?あんたハンサムって言葉辞書で引いて赤線引きなさいよタコ」

 

「ぐッ……貴様……!そんなことを言っている暇か?お前にも、承太郎にも俺の肉片がついている」

 

 

ケーブルカーに乗り込む二人、承太郎の名前を呼べばすぐにその手を引っ張ってくれた。

 

 

「ありがとうございます、承太郎さん」

 

「馬鹿が、乗り込んでこなきゃ助かったのによ」

 

「どうかしら、危ないのはあんたじゃないの?」

 

「俺が?危ない?俺のスタンドに弱点はない」

 

「弱点の無いスタンドなんて存在しない」

 

「ほう?なら俺のスタンドの弱点を言ってみろよ」

 

「本体よ。スタンドが無敵だろうがなんだろうが本体が死んだらスタンドも死ぬ。分かりきってることでしょ?」

 

「だからそのスタンドが最強だったら本体を叩けねえっつってんだろうがよ~~!!!!」

 

「叩けないなんて誰が言ったの。アット・ヴァンス、私と承太郎さん以外の時を遅くさせて」

 

「流石だな、ベラ」

 

「ふふ、褒めていただき光栄です。今イエローテンパランスの防御はぱっくりと開いています」

 

「ああ、これを見逃すバカはいねえだろうさ」

 

 

――オラァッ!!

 

 

殴った瞬間に流れを戻す。

 

 

「は、ハヒ……」

 

「さっきなんて言ってたっけ、"スタンドが最強だったら本体を叩けない?"」

 

「確かに言っていたな。だがきっちり叩き込んだぜ」

 

「まあ、聞いていないと思いますけど」

 

 

イエローテンパランスは何も出来ずに無様に下に落ちていく。

 

 

「どうします?私達も下に行きますか?」

 

「あぁ、降りる。聞きてえことがあるからな。ベラ、掴まってろ」

 

「すみません」

 

 

一言言って承太郎の腕に掴まり、一気に下に降りる。

 

下に着くと、イエローテンパランスは気絶していた。

 

起きた時に暴れないように縄で縛り、そして頬をベシベシと叩く。

 

 

「起きろ」

 

 

承太郎の低い声でそう言われた時、イエローテンパランス、本体の名前は……ラバーソールだったかな。

 

ラバーソールがビクリと飛び起きる。

 

 

「っは!はぁ、はぁ……」

 

「おい、これから来るスタンド使いのことを教えな」

 

「そ、それだけは、口が裂けても言えねえ。"誇り"がある。殺されたって仲間のことはチクらねぇ」

 

「なるほど、ご立派だな。ベラ」

 

「はい」

 

 

その辺に置いてあった重そうな石を振りかぶる。

 

 

「あ、あーっ!思い出した!『死神』『女帝』『吊られた男』『皇帝』の4人がお前らを追ってるんだ!」

 

「ふーん、で、どんな能力だ?」

 

「し、知らねえ。これは本当だ、本当に知らねえんだ!スタンド使いは他人に能力を話したがらねぇ、たとえ味方でも見せることはそうねぇ。ただ、吊られた男、J・ガイル、こいつは両方とも右手だ。ポルナレフの仇だろ?そいつの能力だけは噂で聞いた。鏡を使うらしい」

 

「鏡か……」

 

「ありがとう、ラバーソール、なにか企んでいることはお見通しよ。大人しく寝てなさい」

 

 

私のその言葉を合図に承太郎が死なない程度にラバーソールの頭を殴る。

 

 

「あとは財団に渡せばオッケー、ってとこかな」



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復讐と約束

シンガポールを出て、列車で移動してついたのはインド、カルカッタ

 

ジョセフが歪んだ知識でアヴドゥルに大丈夫かと質問する。

 

 

「あ、典明くん、財布ポケットの中に入れない方がいいよ」

 

「え?どうしてです?」

 

「スられるから、なんなら私のカバンに入れとく?」

 

「お願いします……スられるのはちょっと」

 

 

そんなこんなで列車からおりると凄まじい騒音と、何かと理由をつけてお金を恵んでもらおうとする人だかりに思わず大きなため息をついてしまった。

 

 

「ベラ!能力を使ってくれ!」

 

「ジョースターさん、無茶言わないでくださいよぉ……我々一行全員に時の流れを認知させてしまっては私が倒れてしまいます……」

 

「ぐぬぅ……」

 

 

そして一行はヘロヘロになりながらレストランに入り、食事をとることにした。

 

 

「要は慣れですよ。慣れればこの国の懐の深さが分かります」

 

「な、慣れることが出来るでしょうか……」

 

 

そんなような弱音を吐いているとトイレの方からガシャンと鏡の割れる音が聞こえた。

 

 

「どうしたの、ジャン」

 

「何事だ?」

 

「い……今のがスタンドだとしたらついに!ついにやつが来た!俺の妹を殺したドブ野郎のスタンド使いが!ついに会えるぜ」

 

 

ジャンは店を飛び出した。

 

衝動的にともとれるその行動を仕方ないと思うと同時にふざけるなという怒りも込み上げてきた。

 

 

「ジャン、待って、待ってよ!」

 

「なんだベラ!俺はやっと妹の仇を見つけたんだ!今行かなきゃいつ行くって言うんだ!」

 

「何も行くなとは言わないわ!もう少し考えて行動しろって私は言いたいのよ!」

 

「フン、ジョースターさん俺はここであんたたちとは別行動を取らせてもらうぜ」

 

「ジャン!」

 

「こいつはミイラ取りがミイラになるな」

 

「えぇ、確実にね」

 

「ポルナレフ、別行動は許さんぞ」

 

「なんだと、つまりおめーらは俺が負けるでも言いたいのか?」

 

「ああ!敵は今!お前を一人にするためにわざと攻撃したのがわからんか!」

 

「いいか、ここでハッキリさせておく。俺は元々DIOなんてどうでもいいのさ。香港で俺は復讐のために行動を共にすると断ったはずだぜ。俺は最初から一人さ、一人で戦っていたのさ」

 

 

――パシッ

 

 

「ふざけないで……」

 

「ほぉ、プッツンくるかい。ベラ」

 

「ええ!頭にきたわよ!行くなら行けばいいわ!一人で戦っていた?そう思うのも好きにすれば?残された人の気持ちはあなたがよく知っていると思っていたんだけどね!」

 

 

くるりとポルナレフに背を向ける。

 

 

「イザベラさん……」

 

「知らない。私は自分の命を粗末にするやつが大嫌いなの」

 

 

私の後ろではまだポルナレフとアヴドゥルが口論している。

 

そういう私は言いたいだけ言って、背を向けて、そして泣いている。

 

まるで小さな子供じゃないか。

 

典明くんが遠慮気味に私の背中を撫でる。

 

 

「ごめん典明くん、私弱すぎるみたい」

 

「十分強いですよあなたは」

 

 

一瞬だけ後ろを見るとポルナレフはもう歩いていってしまっていた。

 

 

「……ジョースターさん、ポルナレフの後を追おうと思います」

 

「アヴドゥル、何故だ?」

 

「あのまま死なれては夢見が悪い」

 

「そうじゃな、分かれ手行動しよう」

 

 

二手に分かれ、私は承太郎と一緒に行動することになった。

 

よりにもよって承太郎……心臓が持つかどうか……。

 

 

「なあベラ」

 

「なんですか?」

 

「お前はポルナレフをどう思っているんだ?」

 

「どうも何も大切な仲間ですよ」

 

「……質問を間違えたな、ベラ、お前は何に怯えてる?」

 

「怯えてる……私がですか?」

 

「この旅が、いや、旅が始まる前からもお前は何かに怯えているように見えた」

 

「私が脅えているとすればそれはあなたたちが居なくなってしまうかもしれない恐怖にやられてしまっているんだと思います」

 

「俺たちがいなくなる?何馬鹿なこと言って」

 

「前にも言いましたが、私は夢の中でDIOに会いました。それはそれは、とても恐ろしかったですよ。首に手をかけられた時は、情けないですが"死ぬ"と思いましたね」

 

「殺させねぇよ」

 

「承太郎、さん?」

 

「絶対だ。約束するぜ、俺はお前を守る」

 

 

ぽす、と頭に大きな手が乗っかる。

 

その暖かい手に安心してゆっくりと目を閉じる。

 

 

「それは……とっても頼もしいですね」

 

「大人ぶりやがって」

 

「大人ですから。なら承太郎さん、私も約束します」

 

「何を?」

 

「あなたたちジョースターを、いえ、私の大切な人を守り抜くと。守られるだけの人間じゃありませんよ、私は」

 

「ふっ、んなこと昔から知ってる」

 

 

そう言うと承太郎は歩き出した。

 

私はそれについていく。



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ガンマンと倒れた魔術師

「ベラ、ポルナレフが心配か?」

 

「アヴドゥルさんがついて行ったから大丈夫だと思いたいんですけど、やっぱり心配です……」

 

「そうか」

 

「空条承太郎、それにイザベラ・ポズウェルか」

 

 

名前を呼ばれ、私たちはその声の方を向いた。

 

そこにはテンガロンハットをかぶった西部のガンマンのような格好をした男が立っていた。

 

一言声をかけてやろうと思ったとき、先に承太郎が私を庇うように前に出た。

 

 

「なんだ」

 

「いやなに、あんさん達を殺しに来たんだよ。だが女は殺せねぇな……」

 

「へぇ、優しいのね」

 

「あぁ、女に"だけ"な」

 

「ッ、承太郎さん!!」

 

 

慌てて承太郎を突き飛ばす。

 

人間、焦ると何をするか分からないものである。焦りすぎて能力を使えなかった。

 

落ち着いて冷静に考えれば能力を使い弾丸をずらすことも、承太郎をもっと安全な場所にうつせたのに……

 

エンペラーの弾丸が肌をかする。貫かなかっただけマシだと思う。

 

またシャツをダメにしてしまった。

 

 

「ベラ!」

 

「何してんだ!!」

 

 

ホル・ホースが真っ青になりながら私に近寄り、私の腕の手当をしようとする。

 

承太郎がそれを止めようとしたが、私はホル・ホースを知っている。だからきっと大丈夫だと承太郎に言った。

 

 

「あなたは私を殺さなきゃいけないんじゃないの」

 

「関係ねえ。俺は女には世界一優しいんだ。なのに怪我させちまった」

 

「……名前は?」

 

「ホル・ホースだ」

 

「ねえホル・ホース、どうしてDIOの下にいるの?」

 

「金だよ。それに俺は1人では動かねえ」

 

「フーン、ねえホル・ホース、あなた財団職員にならない?」

 

「は?……ははっ、綺麗なあんたに誘われたから思わずOKしそうになったが、お断りだな。あんさんらに寝返ったら俺がDIOの旦那に殺されちまう」

 

「あら、残念。でももう一度インドとは別のところで会えたらまた勧誘してもいい?」

 

「会えたら考えてやるよ、イザベラ」

 

 

手当を終えたらしいホル・ホースがスタンド、エンペラーを発現させこちらに構える。

 

 

「会えるわよ。だって私たちは死なないし誰にも殺されないもの」

 

 

私は静かに能力を発動させる。

 

もちろん承太郎にも流れを認知させている。

 

 

「走れんのか?ベラ」

 

「馬鹿にしないでください。私の怪我は大したものじゃないですよ」

 

「アホ、そうじゃねぇよ。1人でも許可すると能力維持が辛いんだろ」

 

「確かに辛いですけど……」

 

「仕方のねぇやつだ」

 

「えっ、うわわっ、じ、承太郎さん!」

 

「口閉じてろ、舌噛むぞ」

 

 

ひょいと持ち上げられ、俵担ぎにされる。

 

お腹が圧迫されるかと思ったが意外とそうでもない。さすがハイスペック、私に負担がかからないようにしてる……のかな?

 

とりあえずホル・ホースが見えないところまで逃げて能力を解く。

 

解いてすぐにジョセフから連絡が入る。

 

 

「はい、どうしました?」

 

『アヴドゥルがやられた』

 

「ッ、アヴドゥルさんが?」

 

『すまん、語弊があった。アヴドゥルは死んではおらん。とりあえずわしが今から言うところに来てくれ』

 

「わかりました」

 

「ジジイだろ、なんて言ってたんだ」

 

「アヴドゥルさんが攻撃を受けたみたいです」

 

 

死んでいないとはわかっても"やられた"と言われればさすがに動揺する。

 

ここでアヴドゥルさんは一時離脱になってしまうだろう。

 

それはなんというか……不安だ。この先大丈夫だと例え分かっていたとしても、頼りになるアヴドゥルさんがいるのといないのとじゃあ違う。

 

とにかく、アヴドゥルさんの代わり、とまではいかないが私が頑張らなくては。



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腕の怪我と美女

アヴドゥルと少し話してから私たちはすぐに戦っているであろうジャンと典明くんのもとへと向かう。

 

向かうとちょうどホル・ホースが逃げようしていた。

 

それを承太郎が思い切りぶん殴る。

 

 

「……アヴドゥルのことはすでに知っている。彼の遺体は簡素ではあるが埋葬してきたよ」

 

「卑怯にもアヴドゥルさんを後ろから刺したのは両右手の男だが直接の死因はこいつの弾丸だ。さて、この男をどうする?」

 

「俺が判決をいうぜ、死刑!」

 

 

私が止めようとしたのと、女性が飛び出してきたのはほぼ同時だっただろうか。

 

 

「お逃げください!ホル・ホース様!わたくしには事情はよく分かりませぬがあなたの身をいつも案じておりまする!それがわたくしの生きがい!お逃げください!早く!」

 

「承太郎!ベラ!何ぼさっとしてんだ!ホル・ホースを逃がすなよ!」

 

「もう遅い」

 

「よく言ってくれたベイビー!おめーの気持ち!ありがたく受け取って生き延びるぜ!そしてイザベラ!また会おうぜ!」

 

 

私はホル・ホースのその言葉には何も返さず、ただにこりと笑った。

 

 

「ジャン、その女性が可哀そうよ」

 

「そうだぞポルナレフ、その女性も利用されている一人にすぎん。我々は先を急がねばならんのだ、奴一人に構っている時間はないんじゃ」

 

 

そんなこんなでジャンの調子もすっかり戻り、一行には少しの平和が戻ってきた。

 

アヴドゥルは一時離脱してしまうのには変わりないけれど。

 

 

「チュミミーン」

 

「ジョースターさん、何か言いましたか?」

 

「いや、わしは何も」

 

「俺だってなんも言ってないぜ?」

 

 

この声って確か、スタンド、エンプレスだったかな。

 

次から次へと、私たちが安心できる日なんてこの50日の間にあるんだろうか。

 

バスで聖地ベナレスへと向かう。

 

 

「イザベラさん」

 

「ん?なに?」

 

 

私は典明くんの隣に座る。

 

 

「いえ、大したことではないですけど」

 

「いいよ、どうしたの?」

 

「ホル・ホースが『また会おうぜ』と言ったのが少し気になって」

 

 

ちら、と後ろのジャンを見てから典明くんに小声で話す。

 

 

「勧誘したのよ、SPW財団に」

 

「えっ、なんで」

 

「純粋に彼が欲しかったんだよね。でも断られちゃった」

 

「そりゃあそうですよ」

 

「でも私は一回振られたぐらいじゃめげないよ。もう一度会ったら次は最初よりも熱烈な勧誘をしてやりたいわ」

 

「な、なんだかイザベラさんらしいですね」

 

「そう?」

 

「はい」

 

 

典明くんがいつものようにくすくすと笑う。

 

この子供らしい笑顔が私は大好きなのである。

 

 

「ジョースターさん腕の悪化したんですか?」

 

「う、うむ……」

 

「それ以上悪化しないうちに医者に見せた方がいいですよ」

 

「私が同行しましょうか」

 

「病院に行くだけじゃ、何もそこまでしてくれなくても大丈夫じゃぞ」

 

「そうですか」

 

「みんなはホテルで待っていてくれ」

 

「わかりました」

 

 

そう言ってジョセフを除いた4人でホテルに向かう。

 

心配だ、無理にでもついていくべきだったか……。

 

 

「ベラ」

 

「な、なんでしょうか」

 

「背負いすぎだ」

 

「……そう、ですね」

 

「少しぐらい休め、俺がいてやるから」

 

「ありがとうございます」

 

 

あの日夢にDIOが出てから眠るのが怖くなっている自分がいる。

 

でも、今なら、この人が隣にいてくれる今なら眠れそうだ。

 

私は、背負いすぎているのだろうか。自分ひとりこの先を知っているからというだけで全部を救おうだなんて傲慢すぎるだろうか……。

 

そんなことを思いながら静かに目を瞑った。



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雑談とスタンドの可能性

「……あれ?ポルナレフは?」

 

「移動のバスでもずっと喋ってたあの女と外に行ったぜ」

 

「ああそう」

 

 

ホテルのロビーにあるソファに座る。

 

しばらくして承太郎が外の方に目を向ける。

 

 

「やけにパトカーの音がしねぇか?」

 

「そういえば、何か事件が起こったんですかね」

 

「……ジジイじゃねぇだろうな」

 

「ジョースターさんが?まさかそんなわけ……い、いや、敵スタンド使いにはめられたという可能性を考えれば」

 

「様子を見に行くか」

 

 

そう言って承太郎がホテルから出ようとするとホテルのスタッフが慌てて承太郎を止める。

 

ため息をつきながらソファに座っている私たちの方に戻ってくる。

 

 

「殺人犯が逃走中だから警察が出るなとよ」

 

「ああ最悪……敵スタンド使いに狙われているとはいえ私たち少し不幸すぎやしない?」

 

「これも全てDIOって野郎のせいなんだろ」

 

「そうですね、はあDIO……」

 

 

ジョースターの敵であるDIOのことを考えると私は頭が痛くなってくる。

 

彼の過去を知ってしまっているからだろうか。

 

環境が作り出したものではない、根っからの悪人、なんだろうか……。

 

自分の中の悩みやもやもやを全部吐き出すように大きなため息をついた。

 

 

「ため息をつくと幸せが逃げますよ」

 

「なら二人が私の幸せをもらってちょうだい」

 

「嫌だね」

 

「あら、残念です」

 

「ただでさえ自分を後回しにするお前の幸せを俺たちがもらったらお前の分がなくなる」

 

「確かに、イザベラさんって自分のことは二の次って感じですよね。僕らが最優先というか」

 

「そりゃあ、自分の大切な人には生きていてほしいって思わない?」

 

「思いますけど、自分のことも大切にしてください」

 

「してるよ、してるから自分の命を粗末にするような行動はあまりしないじゃない」

 

 

数分間そんな話をしていたら典明くんが立ち上がる。

 

 

「……もうそろそろ行った方がいいでしょうか」

 

「そうね」

 

「3人いけんのか?」

 

「数秒ならなんとか」

 

「思ったんですけど、イザベラさんの能力って一部分にかけることとかってできないんですか?」

 

「一部分?」

 

「はい、落ちてくるものにかけて落ちるのを阻止する、みたいな」

 

「できると思うよ」

 

「そうなんですね!疑問が晴れました」

 

 

そうか、何も私たちに限定して能力をかける必要はないのか。

 

さっきのようにホテルの出口に行くとまたスタッフが駆け寄ってくる。

 

私はそのスタッフの足だけに能力をかけてみる。

 

 

「ヴァンスできる?」

 

 

そう聞けばアット・ヴァンスはこくりと頷きスタッフに手をかざす。

 

するとスタッフの足は急にカタツムリのように遅くなってしまった。突然足が動かなくなってしまったスタッフは驚きのあまり立ち止まって自分の足をじろじろと見る。

 

 

「思ったよりすんなりできた」

 

「敵の動きをああやって遅くできたら簡単に撒けるな」

 

「確かに、これは強みですね」

 

「ふふっ、じゃあジョースターさんを探しに行こうか」



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家出少女とおかしな車

報告的な言い方にはなるがあの後私とジョセフは無事再開できた。まあ警察に追っかけられながらではあるが。

 

先頭車両あたりの時の流れを贈らせて混乱させている間にスタコラサッサと逃げてきた次第だ。

 

 

「本当にびっくりしました。敵スタンド使いにハメられたとはいえ警察に追いかけられるだなんて」

 

「僕もです。こんな思いは二度としたくない」

 

「というかこの車、ちと狭くねぇか」

 

「しょうがないでしょう、170越えの人間が5人も乗っているんですから。私あなたたちといると小柄に見えるけれど普通に見ればデカいんですからね」

 

 

座席は基本原作と何ら変わりない。

 

後部座席に座っているのがジョセフ、承太郎、私というだけである。

 

だからと言ってなぜ私が挟まれる形になっているんだ。浄化されそう。

 

ここの聖なる空気をあまり吸わないよう精神を削って呼吸に意識を持っていくと急に止まった。

 

 

「じっ、ジャン!急に止まらないでよ!びっくりするじゃない!」

 

「おい、あれ、あれ見ろよ」

 

「よっ!また会っちゃったね!乗っけてってくれる?」

 

 

アンちゃんは私たちの答えも聞かずに窓から乗り込み私の膝の上に座った。

 

まあ狭い車内私の上に座るしかないわな。

 

そしてぎゃあぎゃあと私の膝の上で承太郎と私以外と口論する。

 

耳が痛くてしょうがない。

 

 

「やかましいッ!うっとおしいぜ!おまえら!」

 

 

耳が、耳がビリビリする。

 

 

「国境までだ。そこで飛行機代渡してその子の国まで乗せてやればいいだろう。香港だったな?」

 

 

そんなこんなで車は再度走り出した。

 

アンちゃんは自論を語りだすが、私たちには君を連れていけないわけがあるんだよね。

 

一つ、それをわからせてあげるためにも同姓である自分が諭すべきか、放っておくべきか。

 

 

「ねえ!イザベラさんもそう思わない?」

 

「え?えぇ、うーん……アンちゃんは世界を見たくて旅をしているのかもしれないけど、私たちはそういうんじゃないのよ」

 

「どういうこと?」

 

「私たちの旅は人を救うためのものなの、命がけよ?そんな旅にあなたみたいな可愛らしい女の子を連れて行くのは心の痛むことなの。だからあなたを帰すの」

 

「じゃあイザベラさんはどうして旅に着いて行ってるの?あたしと同じ女じゃない!」

 

「そんなこと私だって百も承知よ。自分が男だったらもっと楽に動けたのかもなぁ、って思うこともある。でも私はこのたびに参加しなくてはいけない。ついていかなきゃいけない運命なのよ」

 

 

だから、分かって頂戴、ね?私がそういうとアンちゃんはきゅっと自身の手を握った。

 

 

「あ、あたし、イザベラさんにそんな表情させたわけじゃあなかったの、ただ、みんなと一緒にいたくて」

 

「この旅が終わったらまた会いに行くわ」

 

「本当?」

 

「本当、SPW財団上位職員にできないことなんて早々ないのよ」

 

 

アンちゃんの目がぱあっと明るくなり勢いよく私に抱き着いた。

 

 

「ありがとうイザベラさん!」

 

「ふふっ」

 

 

一通り話し終わった後、私とアンちゃんを他所に原作は静かに始まっていた。

 

まあ私もそれを認知していなかったわけじゃないのだけど。

 

 

「ベラ!時を!!」

 

「はい!」

 

 

承太郎から短い指示の言葉を得て、私は時の流れを遅らせる。

 

能力の発動が少しでも遅れれば私たちは即死だ。

 

それにゆっくりになったことで少々考える時間もできるのだ。

 

 

「どうします?」

 

「スタープラチナで殴る」

 

「……修理代が出ますね」

 

「はっ、死ぬよかマシだろうが」

 

「それはそうですけど」

 

 

承太郎が相手のトラックをスタープラチナで殴り、強引に移動させる。

 

そのまま私たちの乗っている車をちょっと押すだけで完了、というわけだ。

 

能力を解除する。

 

 

「ッあ、し、死ぬかと思った……」

 

「なあベラ、お前はあの車の野郎を『追手のスタンド使い』だと思うか?それともただの精神のねじ曲がった悪質ななんくせ(・・・・)野郎だと思うか?」

 

「決まっています。追手ですよ」

 

「あったりまえだろうが!!俺たちは殺されるところだったんだぜ!!?」

 

「だがしかし、今のところ"スタンド"らしい攻撃は全然ありませんでしたよ」

 

「うーむ……とにかく用心深くパキスタン国境へ向かうしかないじゃろう」

 

「ではもう一度何か仕掛けてきたら追手とみなして問答無用に行きましょう。承太郎さんもそれでいいです?」

 

「あぁ」

 

「あのトラックはどうします?スタープラチナが殴ったんですごいことになってますよ」

 

「知らんぷりしとけ。ほっときな……」



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