GANTZ:F オニ星人編 執筆中 2024年4月 がんばる (うたたね。)
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ネギ星人編
0001 リスタート


お久しぶりの方はお久しぶりです。
初めましての方は初めまして。

パパ黒、いいよね、彼について語り出すと止まらなくなります。それ程までに魅力的なキャラ。


── 虚式『

 

 

 不可視の質量が、俺を貫いた。

 "静止させる"ノーマルな無下限術式でもなく。"引き寄せる"『蒼』でもなく。"弾く"術式反転『赫』でもない。

 腐っても俺も元禪院家だ。同じ御三家である五条家の術式も知っている。だが、こんな術式はどの書物にも記されていなかった。

 

 未知の術式。

 無下限術式の最奥。

 五条悟の──五条家の秘中の秘。

 

 やられた。とんでもねぇ術式だ。

 『蒼』と『赫』

 正反対の術式を掛け合わせることで生まれる架空の質量を押し出す術式──といったところか。

 

 視線を左下に向ける。そこにはあるはずの左腕はなく、胴体が大きくえぐれている。致命傷。どう足掻いても助かることはない。正直、意識を保てているのが不思議なくらいだ。

 呪力を排斥し、その代わりに他の人間とは一線を画したこの肉体は、どうやら俺が思っていたよりも丈夫らしい。

 ……まぁ、それもこの体たらくだが。精々が保って数分の命だろう。

 

 

 ────

 

 

 俺たちの世界では腐るほど溢れ返っているそれが、今、こうして俺に手を伸ばしている。

 

 ロクな死に方はしねえとは思っていた。

 

 死ぬことに何も思うことはない。そういう人生を歩んできたからだ。

 自分も、他人も尊ぶことのない、そういう生き方を選んで──

 

 ──選んだはずなのに、拾い上げてしまった。

 

「──自尊心(それ)は捨てたろ」

 

 俺に引導を渡したこのガキ──五条悟。

 俺を否定した禪院家。

 呪術界。

 その頂点に立つ男を、否定したくなった。

 

 いつもの俺なら迷わず逃げの一手を打っていた。

 ただ働きはごめんだ。金にならない仕事に、わざわざ命を賭ける必要性がねえ。

 だから、らしくもない自分の行動にずっと違和感を感じていた。

 だが、そんな違和感を否定して──自分を肯定するために、いつもの自分を曲げて戦いに挑んだ結果がこの様だ。

 

 バカをやらかした。

 覚醒した五条悟が相手でも逃げ切れる算段は幾らでもあった。一瞬でも視界を振り切れば、呪力のねえ俺を感知出来ないこいつは、俺を追うことは不可能になるのに。

 

「──最期に言い残すことはあるか?」

 

 五条悟は、つい数分まで見せていた興奮した顔つきと言動とは打って変わり、沈静な態度で俺にそう問いかけてきた。

 その表情からは、何の感情の色も読み取れない。

 俺に勝ったという達成感も、星漿体(あまないりこ)の仇を打ったという喜びも、何も。

 

「……ねぇよ」

 

 淡々と俺はそう答えた。

 俺には残しているものなんざ、何もない。

 "アイツ"が死んでしまった以上、伏黒甚爾(おれ)に残っているものなんて、何も──

 

 

『お父さん』

 

 

 何も、ない──

 

 

『ほら見て? 顔つきなんて、貴方にそっくり』

『……何処がだよ。俺はこんな(つら)してねぇっての』

 

 

 

 忘れてきた──いや、忘れようと努めていた。

 だというのに。

 

 

 俺と、『あいつ』の子供(ガキ)

 恵。

 最後に会ったのは、その声を聴いたのは、いつだっただろうか。

 

 

 

「……2.3年もしたら俺の子供(ガキ)が禪院家に売られる。好きにしろ」

 

 

 

 自然と、考える必要もなく、その言葉を口にしていた。

 らしくもない。

 今更、父親面をするつもりはない。ないが──今は、これで良いと思えた。

 

 視界が闇に落ち、意識が沈む。

 どうやら、ここいらが俺の限界らしい。

 

 

 ──ああ、これが死か

 

 

 そして──伏黒甚爾の人生は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──何処かのマンションにね、死んだ筈の人たちが集められる部屋があるんだって。

 

 

 そんな噂を楽しそうに話すクラスメートを玄野計は思い出した。

 当時は下らないと一笑に付していたが、今この瞬間、玄野はその噂が事実であるということをその身を以って証明してしまった。

 

 隣を見ると、玄野より頭一つ分高いオールバックの男──加藤勝がいる。彼も玄野と同じく自分が置かれている状況に整理がついておらず困惑している様子だった。

 

 

 ──つい先程、玄野計と加藤勝は()()()()()()()()()()

 

 

 駅のホームに泥酔したホームレスが転落した。偶々その場に居合わせた玄野と加藤は協力し、何とかホームレスを助けることに成功したが、迫り来る電車を二人は避けることが出来なかった。

 

 そして、気づいた時にはこの妙な部屋にいた。

 

 高層マンションの一室。窓から東京タワーが見えることから、此処が東京であることが分かる。

 だが、少なくとも玄野はこんな部屋に見覚えはない。彼の家は質素なアパートだし、加藤も知らないとかぶりを振っていた。そして、玄野達より先にこの部屋にやって来たという人たちも、自分たちが何故集められたのか分からないという。

 

 高校生、サラリーマン、初老の爺さん、チャラ男、中学生、ヤクザ──何の共通点もない人間がひとつの部屋にいる。そして、全員が死んだ記憶を所持している。はっきり言って異質だった。

 

 まぁ、何より異質なのは──部屋の中央に置かれてある、謎の黒い球体なのだが。

 

 ポツンと鎮座する、傷ひとつない漆黒の球。

 アレが一体何なのか、玄野たちは知らない。ただ何となく、自分たちがこんな状況に陥っている原因は、この球なのだと理解してる。

 

「なぁ計ちゃん」

「……何だよ」

「あの黒い球って、何なんだろうな」

 

 そんなこと俺が知りてえよ、と玄野は思った。

 

 そもそも、玄野が死んだ原因は加藤にある。あの時、もしも加藤が玄野に手助けを求めなかったら、少なくとも俺は死ななかったのに。ムカっ腹が立って仕方がない。

 

 ハァ、とため息を吐いた時だった。「お、おい計ちゃん、あれ……!」加藤が玄野に声をかける。無視してやろうかと思ったその時だった。

 

 ジ、ジジ、と。

 

 黒い球体からレーザーが照射された。

 

 この場にいた全員の視線がレーザーの先に向かう。

 

(えッ、何だこれッ!?)

「また一人来た!」

 

 何事かと驚く玄野と加藤だが、教師の男──山田雅史(さっき自己紹介をして知った)の言葉で悟る。

 どうやら自分たちは、この黒い球体によってこの場に呼び寄せられたらしい。

 

 黒い球体が発しているレーザーは3つ。その先から腕、脚、胴体と人間の身体が形成されてゆく。

 

 10秒も経たない内に、転送は終わった。現れたのは30代くらいの黒髪の男性だった。服装は身体にピタリと張り付いた藍色のコンプレッションシャツに、大腿部が大きく膨らんだ白いボンタンのようなズボンを履いている。

 少々奇抜な格好ではあったが、何より目を引くのはシャツからも浮かび上がっている筋骨隆々な肉体だ。素人である玄野から見ても、それがひとつの完成形だというのが理解出来た。

 

 男が閉じていた目を開ける。

 ギラギラとした肉食獣のような瞳が、死後に享受された世界を初めて認識する。

 

 

 

「──あ?」

 

 

 

 天与の暴君が今ここに、再臨した。

 

 

 




【呪術廻戦人物紹介】
『伏黒甚爾(ふしぐろ とうじ)』
端的に言うとフィジカルゴリラ。もっと詳しくいうと知性が非常に高いゴリラ。本来、人間が生まれ持っている筈の呪力を持っておらず、その対価として超人じみた肉体と身体能力を持つ。性格はクズ。顔が良い。
今回、何故かGANTZによって蘇生を果たした。

『五条悟(ごじょう さとる)』
最強の呪術師。一度、上記のゴリラに首を貫かれて身体を滅多刺しにされた後、脳天にナイフを貰ったが何か蘇生。覚醒する。作中屈指のチートキャラ。性格はアレ。顔が良い。なお、出番は今回で終わりの模様。


GANTZと呪術廻戦の世界線は一緒なのか。違うのか。その辺は次話で(たぶん)



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0002 黒い球体の部屋

お久しぶりです。
半年もお待たせして大変申し訳ございません!
理由につきましては、単純に僕の実力不足ですね。はい。申し訳ないです。
今回の話は、パパ黒のガンツに対する考察、ミッションへの準備回となっています。めっちゃごちゃごちゃしてると思います。
呪術用語が沢山出て何じゃこりゃ?となるかも知れません。なので一応、後書きにちょこっと説明を載せています。

それはさておき。
降霊術でパパ黒が蘇った時、速攻で自分が降霊させられたことに気がついたの、めちゃくちゃ怖くありませんでした?

それでは、どうぞ。


「──あ?」

 

 その状況に、伏黒甚爾は思わず怪訝な声を上げた。

 

 気がついた時、甚爾は見知らぬ部屋に立っていた。

 甚爾は先程、死んだ。覚醒した五条悟の虚式『茈』を受け、命を落とした筈だ。

 だが、今こうして甚爾は呼吸を行い思考している。まるで()()()()()()()()()()()()()

 

(──ハッ『降霊術』か? 何処ぞのクソが降ろしやがったか……何にせよ、面倒なことには変わりねえな)

 

 ものの数秒で、甚爾は自身が置かれた状況の考察を組み立てた。

 かつて"術師殺し"として名を轟かせた殺し屋──それが伏黒甚爾という男だ。卓越した肉体に特異な体質、しかし彼をそう足らしめたのはそれだけではない。

 豊富な知識と柔軟な思考、膨大な経験値──それこそが、甚爾が強者として君臨出来た理由だ。

 

『降霊術』は幾つか種類がある。イタコ式のものであれば、限定的ではあるが死者の受肉を可能とする。甚爾が甦らされたとすれば、おそらくイタコ式を扱う術者だろう。

 だが、それにしては解せない点が幾つかあった。

 

 周囲を改めて見渡す。

 家具ひとつ置かれていない簡素な部屋。そんな部屋の中央に鎮座したバランスボールのような謎の黒い球体。

 右手の窓からは東京タワーが見え、ここが都内の高層マンションの一室であることがわかる。

 そして、あとは──その周りにいる数人の男たち。

 彼らこそが、降霊術による蘇生という考察の否定材料となる。

 

(ここにいる奴らは全員が全員一般人。奥の二人はヤクザだろうが、場慣れしてるだけで()()()()じゃねぇ。ったく、ますます意味が分からねぇな)

 

 甚爾が降霊術による蘇生に対して、疑問を抱いているのはそれが理由だ。

 降霊術は、一人で何人もの魂を降ろせるわけではない。精々が三人程度だ。この場には甚爾を含めて七人と1匹。明らかに人数オーバーだ。複数人術者がいれば可能かもしれないが、イタコ式自体がそれなりにレアな代物。縛りを利用したとしてもそれなりの代償は必要。それに、甚爾以外は全員が一般人。肉体だけでなく精神の情報まで降ろしているのはメリットがない。

 つまるところ──あまりにも目的が不透明過ぎる。偶然偶々蘇らせた──という方が納得が出来る。

 

(まぁ、考えても仕方がねえか。情報が少なすぎる。降霊術にしろそうでないにしろ、後からわかるだろ)

 

 この先殺されるにしろ、甚爾にとってはどうでもいいことだった。

 一度は死んだ身。別段、生に執着なんてない。

 一泡くらいは吹かせてやろうとは思っているが。

 

「あのー、もしかして貴方も死んだ時の記憶が?」

 

 眼鏡を掛けた、冴えない雰囲気の男が甚爾に話しかけてきた。

 声は微かながら震えており、甚爾に対して恐怖を感じているのが分かる。

 甚爾の顔立ちは整ってはいるが、悪人面だ。怖がられてしまうのも仕方はないと言える。

 それに、傷は塞がっていても付着していた血は消えていない。それも恐怖を助長しているのだろう。

 

「はは、そんなに怖がんなよ。別に取って食いはしねえよ。よっぽど俺の癪に障らなきゃな」

「は、はは……それは、どうも」

 

 すっかり萎縮し切っている。面倒だな。そう思いつつも甚爾は好意的に接することに決めた。目的は情報収集。大した情報は得られないにしても、少なくとも甚爾が呼び出された時のことは知っている筈だ。

 

「で、死んだ時の記憶、だったか? あるぜ。ハッキリと。五条悟(バケモノ)に身体を抉られちまってな」

「ば、バケモノ……?」

「そう、バケモノ」

 

 呪術の核心を掴み、覚醒し、最強へと至った男。

 新たに手に入れた力を即座に掌握し、支配したあの男は正真正銘のバケモノ意外の何者でもない。

 

「ま、死因なんてのはどうでもいいだろ。聞きたいのは、俺が──俺たちがどうやってこの部屋にやって来たのか。予想ではそこの黒い球体なんだろうが、どうだ?」

「え、ええその通り。あの球体からレーザーが照射されて、貴方や僕たちを転送して来たんだ」

「へぇ。なぁそこのオールバックのガキ、今のは本当か?」

「え、ぁあ、はい。アンタがそうやって来たのを、見ました。なぁ、計ちゃん?」

「え、ええ俺!? う、うん。確かに……」

 

 疑ってはいなかったが、本当のようだ。

 だが、だからこそ──余計に解せない。

 この球からは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。つまり呪具や呪物ではなく、純粋な物質。術式の刻まれていないただの物質が、死者の蘇生を可能としていることになる。

 そして、それは──この部屋にいる人間も同じだ。全員──()()()()()()()()()

 

 人間は──生物は、多かれ少なかれ呪力というものを内包している。それは、天与呪縛によって呪力が排斥されている伏黒甚爾という例外を除いて、必ずと言ってもいい。

 

 ──君だけなんだよ、禪院甚爾くん

 ──君だけが、呪いという人である限りは決して外せない鎖から、解放されている

 

 ふと、頭に数年前に出会った、胡散臭い特級術師の女の言葉が頭をよぎった。

 

 九十九由基。

 気に食わない女だった。

 呪霊の生まれない世界を作る。

 人から呪力を排斥することで、その夢物語を本気で実現しようとしていた胡散臭い女。

 

 甚爾は彼女の研究対象になる道を断った。

 唯一の存在である甚爾は死んだため、彼女の目的を達成させるための狭き道は、より狭まったことだろう。

 

(……どうでもいいがな。とりあえず、今は現状把握だ)

 

 甚爾の脳内にある仮説を組み立てた。

 呪力を動力源とせず、死者の蘇生を可能とする謎の物体。

 天与呪縛ではなく、本当に最初から呪力を持たない人間。

 そして──五条悟の放った、虚式『茈』。

 

 笑えるな、と甚爾は口元を歪めて、情報収集に勤しむことにした。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 大体の情報を集め終えた甚爾は、一人廊下に立っていた。

 集まった情報は大体は予想していた通りだった。

 この部屋からは出られない。空間そのものに干渉しているのか、鍵やドアノブには触れることすら叶わなかった。そしてやはり結界などは用いられていない。

 ケータイなども使用出来ず、外との連絡は取れないようだった。

 

 このことから、どうやら甚爾たちを蘇生した存在は、相当なオーバーテクノロジーを扱うことが分かった。

 甚爾は術式による蘇生や空間への干渉といった仮説は切り捨てていた。あり得ない──と断ずるのは簡単だが、こうも呪いの関わらない超常現象を目にすれば、否応にも理解させられる。

 御三家の呪術師どもみたく、甚爾は頭の硬い存在ではない。だからこそ、こうしてすんなりと事実を受け入れることが出来る。

 

 そして──甚爾が立てたある仮説。

 これはほぼ間違いなく正しいと言っても過言ではない。

 

「──()()()()()()()()()()()()()()()……ハハッ、SFかっての」

 

 呪力を扱わないのではなく──()()()()()()()()

 呪力を内容しているのではなく──()()()()()()()()()()()()()()

 

 虚式『茈』

 

 引き込む『蒼』と弾き出す『赫』──その相反する力を混ぜ、発生した仮想の質量を押し出す、無下限呪術の最奥。

 

 おそらく、アレが空間そのものを削り取ったのだろう。その際、削り取られた空間が修復される前に俺の魂はそこに引き込まれた。あるいは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そして、多分後者だ。何で俺に死んだ時の記憶があるかは不明だが、そこは肉体が離れていても、まだ魂の繋がりがあったとかそういう感じなのだろう。甚爾も別に魂に詳しいわけではない。その辺りは推測の域を出ないが。

 

 しかし、自分の運の悪さにはつくづく嫌になる。

 死後もこうして無理矢理蘇生されて、何かに利用される。時雨が今の状況を知れば、流石にドン引きするだろう。

 

「はぁ……面倒くせ」

 

 ガシガシと頭を掻いて、ため息を吐く。

 とりあえず、リビングに戻ろう。これから何かあるとすれば、あの球だろう。

 リビングへと続くドアを開ける。すると、目の前に二人組のヤクザのうちの一人と彼に引っ張られる裸の女がいた。

 

 こんな女いたか? と思ったが、新しく転送されていたのか、と気づく。

 しかし、ツラと身体はいい女だ。生前、女遊びを繰り返していた甚爾だが、その中でもトップクラス。

 もしあっちの世界で出会っていれば、たぶん口説いていた。無論、身体だけの関係だが。

 

「おい。邪魔だ、どけ」

 

 そんな思考に耽っていると、男が甚爾を睨みつけて威嚇してきた。

 どうやら、これからその女を使って楽しむ魂胆らしい。

 周りは唾を飲み込んで、甚爾たちの様子を伺っている。山田は首を振って「よせ」とジェスチャーで伝えて来た。

 

 しかし、この場にある誰もが伏黒甚爾という男を知らなかった。

 その肉体から相当な手練れであることは素人目で見ても分かるが、ヤクザには拳銃という必殺の武器がある。所持しているかは分からないが、それでも危険であることには変わらないから。

 

 そして甚爾の顔から笑みが消える。

 代わりに彩るのは──怒り。

 

「──誰に命令してんだ、オマエ」

 

 刹那、ヤクザの男は吹き飛んだ。窓に凄まじい勢いで叩きつけられ、それから立ち上がることなく地面に突っ伏す。

 

「ッ、テメェ!」

 

 相方がやられたことを認識し、相方のヤクザが拳銃を取り出す。先程まで静まり返っていた部屋が悲鳴に包まれた。

 銃。

 人殺しの道具。

 実際に見たことある人間はいないだろうが、それでもその脅威は理解出来ている。たった一発で人体を破壊出来る、人類が生み出した最強の対人兵器なのだから。

 

 引き金に手を掛ける。

 1秒もかからずに弾は甚爾目掛けて飛んでくる。

 だが。

 

「遅えよ」

 

 それよりも早く──甚爾の拳が顎を砕く。

 ヒュン──と空気を切り裂く音が一瞬。バギリ、と硬いものが砕ける音が響いた後、ヤクザはばたりと倒れた。

 

 

「ハッ、戦って勝てる相手かどうかくらい分かれよ」

 

 ほんの一瞬。5秒と掛からず戦いは──いや、戦いと言ってもいいのか分からないそれは終わりを迎えた。

 

「す、すげぇ……」

 

 背の低い方の高校生が思わず声を落とす。

 拳銃を持ったヤクザなどものともしない、その強さ。そこにちょっぴりとはいえ憧れを抱いてしまうのは、男として仕方のないことなのかも知れない。

 

「ほら、とりあえずこれで隠して」

「っ、あ、ありがとう」

 

 その間にオールバックの高校生が全裸の女に学ランを渡していた。この状況ですかさずそんな行動に移ることが出来るのは、彼の善性──美徳なのだろう。甚爾もやるが、それは計算し尽くされたもの。自然に行うわけではない。

 

「この銃、貰っとくぜ。売ればそれなりの資金は手に入りそうだからな」

 

 気絶しているヤクザから銃を奪い取る。

 牽制にも使えるし、何より売れば金になる。そして売った金をギャンブルで増やす──完璧な計画だ。

 ほくそ笑む甚爾の頭の中には、生前に時雨なら忠告されたことなどすっかり頭から抜けている。ダメ男はそう簡単には変わらない。変わらないからこそ、ダメ男なのだから。

 

「えと、その……ありがとうございます」

「あ? 気にすんなよ。俺も枠で言えばそいつらと同じ類の人間だからな」

 

 学ランを羽織った女が感謝を甚爾は受け取りはしなかった。

 ヤクザの言葉が気に障ったから潰しただけ。そこには何の他意もない。

 女を取っ替え引っ替えして遊んでいた甚爾は、誠実な人間とは程遠い存在だ。

 

「あ、でもどうしてもって言うなら一晩抱かせてくれてもいいぜ?」

「えッ、ええッ、ええ〜!?」

「ちょ、何言ってるんですか!」

 

 最低だった。

 

 顔を赤くして驚く女と、庇うようにして女と甚爾の間に挟まるオールバックの高校生。

 ああ、俺が苦手なタイプだな、と彼に対して顔を顰めた時だった。

 

 

『あーたーらしい あーさがきた』

 

 

 突如、黒い球体から歌が発せられた。

 誰もが一度は聞いたことがあるだろう、ラジオ体操の歌。

 突然流れ出した歌に殆どがびくりと肩を揺らして、黒い球体へと視線を向ける。

 すると、視線に呼応する様に、球体に文章が浮かび上がる。内容を確認しようと気絶しているヤクザ以外が集まる。

 

「なんだ、こりゃ」

 

 

てめえ達のは、

 無くなました

 

 新し

 どう使おうと

 私の勝手で

 

 という理屈なわけだ

 

 

(文章としちゃあ壊滅的だが……言いたいことは何となくわかる)

 

 ここにいる奴らの殆どがこれをテレビ番組の企画か何かだと思い込んでいる──いや、そう思い込むことで、冷静さを保とうとしている。

 だが、もしもこの球が強いる『何か』が命を賭けるものだったら──きっと、生き残れはしないだろう。

 そして、甚爾も救うつもりはない。内容次第では手助けするが、基本的には一人でやる。足を引っ張られても困る。

 

 陰気な中学生が、面白そうに笑いながら口を開く。

 甚爾は目を細めて彼を見つめる。

 

「でもさー、この文章超バカバカしーけどさ。真面目に受け取るとすんげー怖い文章じゃない?」

(──このクソガキ)

 

 ()()()()()()

 確信する。

 先ほどから感じていた、こちらを観察する粘ついた視線。

 何か知っているとは思っていたが、間違いない。コイツはこれから起こることを知る"経験者"だ。

 巧く隠しているようだが、甚爾からして見れば杜撰だ。表情、仕草、目線、声──ありとあらゆる要素から、甚爾は他人の嘘や本音を読み取れる。天与呪縛により強化されたのは肉体だけではなく、五感でさえも。甚爾の前では 隠し事は不可能と言ってもいい。

 

 黒に限りなく近いグレー。

 陰気な少年に対してそう結論づける。

 球体を運営する側ではおそらくない。それにしては鍛えてなさすぎるし、スキルも拙い。そういう演技をしていても、何処かでクセが生まれるものだ。

 

(ま、何もしなくても向こうからそのうち近づいてくる。俺に向けているのは好奇の眼。好意的には見てねぇが、利用価値があると理解している。まぁ、その時は全て洗いざらい吐いてもらうがな)

 

 陰気な少年から意識を外し、黒い球体へと戻す。

 表示されていた画面が変わり、新たな文章、そして追加で写真が映し出された。

 

 

 

めえ達今から

 この方をヤッつけにって下

 

ネギ星人

 

 特徴

  つよい

  くさい

  きな

  ネギ.友情

 口癖

 ねぎだけでじゅうぶんですよ!!

 

 

 画面に表示されているネギ星人の画像を視界に収める。不気味なほどに白い肌に黄緑色の髪──確かに、一目見てネギ星人だと分かる。

 俺たちはこいつを狩るために、この部屋に呼び出された。おそらく、生者を甦らせれば問題が生じるから、死者を使ったのだろう。死者だから、死んでも構わない。この星人に殺されようと問題ない。

 ふざけた話だ。倫理観という面では、呪術界ともタメを張れるんじゃないだろうか。きっと、御三家の汚点が現代にいれば気が合ったことだろう。

 

(しかし、このクソみたいな情報量……本気で殺させる気があるのか? マトモに使えるものがない)

 

 見世物──そんな考えが頭を過る。

 だが、これ程までに高度なテクノロジーを使っておきながら、用途がそんな薄汚れた娯楽だけとは考えにくい。

 故に、見世物ではあるが、それはあくまで付随してきたものに過ぎず、目的はあくまで星人狩り──最もしっくりくる推察だ。他にも星人が生物兵器の可能性などもある。

 どちらにせよ、死者の蘇生に制限がないのなら、こんなバカみたいなことをしているのにも十分に頷ける。

 

 呪術師、呪霊──次は宇宙人と来た。

 本物かは知らないが、つくづくふざけた人生だな、と甚爾は苦笑する。

 

 暫くすると、黒い球体が変化が生じた。ギギ、という音共に球体が開いたのだ。開いた部分には形の大きな銃に、アタッシュケースが収納されていた。

 ケースには何か書かれており、それが個人のものを指すことに気づいた。

 

「"駄目ゴリラ"……ナメてんのか」

 

 額に青筋が浮かぶ。どうやら相当こちらのことを馬鹿にしているらしい。

 

 球の中には銃やケース以外にも収納されているものがあった。

 全裸の男。

 頭部に多くのチューブが伸びており、間違いなくこの球に干渉していることが分かる。

 操作しているのか? あるいは電池代わりなのか。どちらにせよ、ロクな代物ではない。

 他の人間は無用心にも触れていたが、特に反応はない。下手に触ってペナルティでも発生したら困るため、無視することにした。

 

「うお、ンだこのスーツ……ダッセェ」

 

 金髪の男がケースの中身を取り出し、広げていた。それはスーツだった。それも、全身にピッタリくっつく系統のもの。

 確かにこれはダサい。

 だが、何か意味はあるのだろう。事実、あの中坊が服の下に着込んでいるのが見えた。

 ミッションの必須アイテム──そう考えてもいいかもしれない。

 甚爾自身、異星人との戦いでも勝てる自信はある。

 ただ同時に不安もあった。

 戦う環境が地球ではなく、相手の星だった場合。地球と環境が違うその場所では適応出来ず、死に至るかもしれない。如何に天与の肉体と言えど、死ぬ時は死ぬ。無敵というわけではないのだ。

 

 そっと廊下に出て、服を脱いでスーツを着る。

 不思議なことに、サイズはピッタリだった。窮屈という感じはしない。むしろ動きやすいといってもいい。

 流石にこのままでは躊躇われるため、ズボンだけは履いておく。一応これも耐久性には優れている。それこそ、甚爾の高速戦闘には付いて来れるくらいには。

 

(とりあえず、スーツの機能でも確認しておくか。ご丁寧に説明があるわけじゃねぇだろ。死ぬやつは死ね。そういうスタンスだろうしな)

 

 情報の大切さは誰よりも知っている自負がある。

 甚爾は"術師殺し"として多くの敵と死闘を繰り広げてきた。今でこそ、特級以外であれば優位に立てる実力ではあるが、初めからそうではなかった。

 卓越した身体能力だけでは勝てない者もいる。そのために必要だったのは、技術と知識、経験──そして、情報だった。

 相手の性別、年齢、身長に体重から行動パターンまでも。術式などは大前提だ。

 それらを全て頭に叩き込み、自分の持ち得る手札と必ず勝てる環境を作り上げ、自分よりも格上の相手を殺してきた。

 今回は何もかもが未知の状況。

 ハッキリ言ってクソだ。

 戦場に飛び込み、敵と相対してから全てに対応しなければならない。だからこそ、今知れるだけのことは知る必要がある。

 

 そうして、スーツについて調べようとしたその時だった。

 

 ──ジ、ジジ

 

「! これは」

 

 甚爾の前腕部分が消失していた。

 いや、これは消失ではなく──()()()

 感覚は残っている。明らかに外の空気だ。冷たい空気が肌を撫でる。

 異世界であろうこの世界。甚爾がいた世界とは、時間軸がズレている可能性があることは予想していたが、どうやら間違いないようだ。転送先が地球であるという確証もないが。

 

「チッ……! サービス精神くらい少しは見せろっての」

 

 クソッタレな待遇に悪態を吐きながらも、甚爾は意識を切り替え集中する。

 

 天与の暴君──伏黒甚爾。

 かつて"術師殺し"として多くの呪術師、呪詛師から恐れられた男は、星人狩りの夜へと駆り出される。

 




【呪術用語】
《呪い》
人間から流れ出た負の感情、それから生み出されるものの総称。

《呪力》
人間の負の感情から生まれるエネルギーのようなもの。後述する『呪霊』は、肉体を持たずこの呪力で構成されている。
人間は多かれ少なかれこの呪力というものを内包しているが、基本的にこれらを見たり触れたりすることは出来ない。しかし、才能ある人間はこの呪力を扱うことができ、また呪いを視認でき、触れることも可能。
肉体の強化や呪術の使用が可能。

《呪術師・呪詛師》
呪術を扱い、呪霊や呪詛師と戦う人間。基本的に才能が無ければならないため、社会的にはマイノリティ。呪詛師はこの呪術を悪用し犯罪を犯す存在。本作主人公である伏黒甚爾も例外ではあるものの、呪詛師側である。
その実力に応じたランクのようなものもあるが、ここでは割愛。買って確認しよう!

《呪霊》
人間の負の感情が集まり、形を成したモノ。簡単に言えば幽霊とか妖怪とか。
人間を襲う危険な存在で、怪死事件や行方不明のほとんどはこれらや呪詛師によるもの。
呪力を伴った攻撃でなければどんなに弱くても死なないため、術師以外では太刀打ちが不可能。

《術式》
簡単に言うと、異能力。生まれながらに肉体に刻まれており、呪力を流して発動する。原作では呪力を『電気』術式を『家電』に例えていた。
呪術師になるには才能がいるが、さらに呪術師としてやっていくのにも才能が必要であり、その所以となるのがこの術式である。

《縛り》
呪術の戦闘の幅を広げたり、契約や交渉にも使える制約のようなモノ。
たとえば、自分の力を一定時間縛り続けることで、その時間外で実力以上の力を発揮を可能としたりする。
他者と縛りを結ぶ際は、自分自身に課す場合とはわけが違い、それなりのペナルティが発生する。
また、この縛りにも特異例があり、それは後述する。

《天与呪縛》
自分の意思で課す縛りとは異なり『先天的に肉体に課された縛り』のことを天与呪縛と呼ぶ。
天与呪縛の代償は非常に大きい反面、強大な力を得られる。
原作における天与呪縛は今のところ以下の二種類しか出ていない。

・己の持つ呪力を制限し、身体能力を底上げされる『天与呪縛のフィジカルギフテッド』
・身体能力の大部分を犠牲に、実力以上の呪力と広大な呪力の操作範囲を獲得した呪縛。

前者の天与呪縛のフィジカルギフテッドは、原作において二名存在しており、一人は『一般人レベルにまで』呪力を落とし、身体能力を底上げされている。その代わり、呪い見えないし祓えない。
もう一人は本作主人公である伏黒甚爾。彼は()()()()()()0()。肉体から呪力が完全に排斥されているため、身体能力の強化がとんでもないことになっている。
呪力を完全に捨て去っているのにも拘らず、五感で呪霊を認識。呪縛があまりにも強すぎるため、恩恵である強化が半端ではなく、逆に呪いの耐性を獲得した。とはいえ、呪力を持たないことには変わりないため、呪具などを用いなければ呪いを祓うことは不可能である。

《呪具》
呪力の籠もった武器。呪具によっては術式が刻まれているものもある。
伏黒甚爾は生前は多くの呪具を持っており、呪具の扱いは超一流だった。

《呪物》
呪いが籠められたモノ。基本的には呪具とは一緒だが、こちらは死後に人間が呪いと化し、物質化したりしたもの。


はい。長々と説明しました。
多分、これだけじゃ分からないと言う方もいるかも知れませんが、本編でこれらが扱われることはないので安心してください。

次回の更新はなるべく早くします。
来月はテストのため、もしかしたら更新出来ないかも知れませんが、二月中には必ず更新しますのでよろしくお願いします。

あ、あと『第二回呪術杯』なる企画を1月末より行いますので、よければ参加してください。レギュレーションは以下に載っておりますので。
https://twitter.com/utatane_h/status/1333669707350638594?s=21

ではでは!

現在進捗:6000文字


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0003 ネギ星人

今回は早く投稿出来ました!
なんか色も付いて、ランキングにも載ってお気に入りも増えて……ほんとに皆さんありがとうございます!


 飛ばされたのは夜の住宅街だった。匂いを嗅いでみたが、特に異常は見当たらない。どうやら、敵地──地球外というわけではなさそうだ。要するに、地球に侵略している星人を狩れ──そういうことなのだろう。

 

「つっても、敵の居場所、数が分からねえんじゃな……」

 

 ぼりぼりと頭を掻き、どうしたもんかとぼやいて、とりあえず途中で中断したスーツと武器の機能の確認を行うことにする。とはいえ、道路のど真ん中だ。流石に人目に映るのは面倒だと思い、近くの細道へと身を隠し、スーツに触れていく。

 

 スーツは上体と下体で分かれており、それぞれを着た後に重なることで装着出来る。

 レンズ型のポイントが所々に付いているが、これが何を意味するかは分からない。大腿部にはフォルスターのようなものが付いている。おそらく、これは銃の収納部分だろう。

 銃は小柄のものと大柄のものがある。小柄は拳銃程度だが、大柄なものは形状としてはショットガンに似ている。威力の違いは実際に撃ってみないと分からない。あとで試しておこう。

 

「そして、これか」

 

 スーツの腰の部分に付いていた、手のひらサイズの機器。部屋では電源が点かず、用途が分からなかった。が、今改めて確認すると画面にマップと残り時間が表示されている。

 タイマーは残り40分を指しており、これが切れればゲームオーバーと言ったところか。

 そしてマップには赤い点が二つ。おそらくこれが標的だ。ひとつは何かから逃げるように動き回っており、もう片方はゆっくりと徘徊している。味方の場所は表示されていないようだ。

 

「なるほどね。これを元に狩っていけばいいわけか。そんで多分──」

 

 ──マップ外にいけば、それなりのペナルティがあるハズ。

 

 まだ分からないが、このマップを囲う赤い線。あからさまだ。

 とはいえ、それを自分自身で確認するつもりは毛頭ない。あの中坊から聞き出すか、あるいは()()()()()()()だろう。

 

「あとはスーツの機能……ま、予想は出来るがな」

 

 経験者であろうあの中坊は、肉体を鍛えたりはしていなかった。そして、そんな彼がスーツを着ている──この時点で、何らかの恩恵があるのは理解出来ていた。

 

 ぐっ、と力を入れる。それとそれに呼応するかのようにスーツが盛り上がり、筋繊維のようなものが浮き出す。

 

「よし、とりあえず……」

 

 ぽん、と10分の1にも満たない力で地を蹴る。次の瞬間、甚爾は数十メートルほど高く跳んでいた。

 

()()()()()()()──はは、いいな」

 

 スタッ、と地面に降り立つ。

 スーツの機能は身体能力の補助──いや、この場合だと補正か。中々面白い。

 甚爾にとってしてみれば、肉体の強化など別になくてもいいが、普段よりも小さな力で強い力を発揮出来るという点は非常にいい。無駄な体力の浪費も防げる。

 

 再びマップを広げ、星人の位置を確認する。

 

「へぇ、1匹減ったか」

 

 残りの星人は1体。

 あとは、味方が何人残っているか。

 

「ま、いいか。俺も向かうとするか」

 

 星人の脅威はおそらくそこまで高くない。一般人でも殺せる程度、中坊が殺したのならスーツを着ていれば問題ない程度だ。残る一匹の星人の強さが分からないため、油断するつもりはないが。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

「ハッ、ハッ、ハッ……!」

 

 閑静な夜の住宅街を、玄野計は滝のような汗を流しながら走り抜けていた。その表情は何かに怯えているように恐怖に引きつっていて、眦には涙が浮かんでいる。

 

 玄野は、現在進行形で何かに──ネギ星人に追われていた。

 

 一緒にいた岸本と共に、ネギ星人の子供を追いかける金髪たちを止めに行った加藤を探している最中、二人はその現場を目撃してしまった。

 遠目から見ても分かる、あの惨たらしい惨状。

 肉片が散らばり、血が飛び散り、誰かの上半身が投げ捨てられていた。そこに加藤の姿が見えなかったことから、加藤も殺されてしまったということが分かった。

 地獄の中心には、大男が立っていた。人型ではあったが、明らかに人ではないそいつ。

 玄野と岸本は気づかれないように逃げようとしたが見つかってしまい、今現在、絶賛大きな方のネギ星人と鬼ごっこを繰り広げている。

 傍に岸本はいない。途中で逸れた──というより、走っていたらいつの間にか岸本の姿が見えなくなっていたというのが正しい。生きていてくれと願うが、正直望みは薄いだろう。

 

(クソ、クソ! ふざけンなッ! 畜生、死にたくねえッ!)

 

【おおおオォォォォォォ!!!!】

「ッ!?」

 

 ネギ星人は玄野の真後ろにいる。向こうも玄野についていくのがやっとなのか、攻撃も大振りで幸い一度も当たっていない。だが、当たらないにしても精神は疲弊していくわけで、まるで綱渡りしてるような気分だ。

 

「マジでッ、地獄かよ……ッ!」

 

 最悪な一日だ。

 ただのほほんと学校に通って、さっさと帰ってグラビア本を読んで寝るっていうくだらない日常を続けるつもりだった。

 けど、今日、この日。

 加藤勝と出会って。知らねえおっさんを助けて。死んだと思ったら変な場所に連れてかれて。訳もわからないうちにこんな化け物に追われてる。

 

(俺は、死んだのか。そんでまたあの鬼みてーなのに殺されんの? やな地獄だな〜、だとしたら)

 

 ふざけんな。

 

 思わず、涙が流れる。

 

 死んでいる。これから殺される。

 もう二度と、家にも帰れない。

 

(でも、俺が死んでも、悲しむ奴なんてこの世に──)

 

 ──計ちゃんッ!

 

(ああ、いや、加藤……アイツなら、何となく泣いてくれそうな、そんな気もする)

 

 あの善人なら。

 小学生の頃の俺に、今でも追いつこうとしてる馬鹿なアイツなら。

 きっと──。

 

「あっ」

 

 目の前は──行き止まりだった。

 

 振り返る。

 そこにはあの化け物の姿はなく──。

 

【ベガシ、ボキャゼッ!】

 

 ──そんな、都合の良いことはなく。ネギ星人の親は、怒りの形相でこちらを睨みつけていた。

 

 死んだ。

 終わった。

 もうダメだ。

 

 玄野の脳裏にそんな思考が過ぎる。

 諦めろ。オマエはこれから死ぬのだと、他でもない玄野自身が、それを悟った。

 

 しかし、同時に──

 

 

「そうだ、あの頃の俺は」

 

 加藤の言うように。

 

「俺は……怖いものなんてなかった」

 

 あの頃の俺は。

 玄野計は。

 

 屈強であればあるほどに。

 

「うおおおぉおおおおお!!!!」

 

 ──そこを乗り切った時のヒーロー的な自分の姿を想像し、興奮していた。

 ──そして、その通りになっていた。

 

 向かってくるネギ星人の横をスライディングで抜いていく。

 イメージ通りに身体が動く。追いて来る。

 

 ──力量差くらい、見れば分かるだろ。

 

 あの部屋で、唇に傷のついた男が言っていた。

 玄野には、ネギ星人に勝てるヴィジョンは見えない。

 

 だけど、それなら。

 

「逃げ切ってやる! たとえこいつが、地獄の鬼でも!」

 

 それから玄野は全力で街を走り抜けた。

 無我夢中。

 何も考えず、がむしゃらに走ることだけ考えていた。

 だから気づかなかった。玄野が、常人では考えられない速度で走っていることに。そんな無駄なことを考える暇さえ、今の玄野にはなかった。

 

 ネギ星人はすぐ真後ろにいる。この極限的な状況には似合わないネギの匂いが鼻につく。

 すると、突然ネギ星人が速度を緩めた。

 

「……?」

 

 諦めたのか、と背後を確認し、ギョッとする。

 あれは緩めたのではなく──力を溜めている。

 マズい──そう思った矢先、ネギ星人の速度が爆発的に上がり、玄野との距離を埋めた。

 

(ま、ッず……!)

 

 あの爪で引っ掻かれたら終わりだ。さっき見た、肉片にされてしまう。

 スーツの真価を認識していない玄野は、スーツを着ていればその攻撃も容易く耐えられることを理解していない。

 だからこそ、命の危険をより感じていた。

 

 クソッ、と悪態を吐き、気づく。

 目前には階段。

 そして脳裏に過ぎる──あの頃の記憶。

 考えるよりも先に、身体が動いていた。

 

「オオオッ!」

 

 ()()()

 

 正しくそうとしか思えない。

 想像していたよりも長い階段。だが、それ以上に玄野は5mも高く宙に跳躍していた。

 

 あ、死ぬ

 

 そう思ったが、何故か無事に着地出来た。ゴロゴロと地面に転がり、座り込む。傷はない。擦り傷ひとつ。

 頭がこんがらがる──が、それを打ち消すようにネギ星人が階段から転がり落ちてきた。ネギ星人は立ち上がり、やはり憎悪のこもった表情でこちらを睨みつけた。

 

(これは──ヤバイ!)

 

 その直感は間違っておらず。

 ネギ星人はその鋭利な爪が伸びている手をゆっくりと玄野の首に伸ばして──。

 

 

「──計ちゃんッ、逃げろッ」

 

 加藤勝が、ネギ星人を羽交い締めにしていた。

 

「加──」

「逃げろッ!」

 

 が、次の瞬間加藤は引き剥がされ、ネギ星人の爪によって腕を引き裂かれ、吹き飛ばされる。

 

「ぐ、ぅ……!」

「加藤ッ!」

 

 血が、流れすぎている。

 素人目で見ても分かる。その量は、死ぬ。早く治療しなければ、間違いなく。

 

「ハァッ、ハァッ、ハァッ……!」

 

 ──勝てない。

 ──逃げたい。

 ──無理だ。

 

 ──けれど。

 

「──ッ!!!!」

 

 玄野は、ネギ星人へと駆け出し、その顔面を殴り飛ばした。

 ぐしゃり、と。拳に響く、肉を打つ感触。不思議と痛みはなく、そのまま勢いに任せ振り切った。

 ネギ星人がのけぞり、口から苦悶の音が溢れる。

 

(効いてるッ! このスーツの力かッ!? これならッ!)

 

 はは、と乾いた笑い声をあげる。

 勝てる。

 これなら──未来が、見える。

 

 が、そのほんの一瞬の油断を狙い、ネギ星人が拳を振り上げた。

 しまった。だが、身体は動く。逃げる必要はない。対応できる!

 

 返す拳で玄野がカウンターを合わせる。

 不思議と恐怖はない。

 負ける気はしなかった。

 あの頃と同じで──興奮していた。

 

 

 ──ギョーン

 

 

 何処からか、そんな不可思議な音が響く。

 玄野の思考が止まる。それにつられて動きも止まり、ネギ星人の拳が容赦なく突き刺さった。ごろごろと地面に転がるが、すぐに立ち上がる。痛みは殆どない。スーツの効果だろうか。

 

「計、ちゃ……ん」

「だ、大丈夫……にしても、今の音は──」

 

「──ああ、そいつは俺だ」

 

 何処からか、声が聞こえた。

 辺りを慌てて見渡すが誰もいない。ただ、この声には聞き覚えがあった。あの部屋にいた時、ヤクザ二人を一瞬で打ちのめした、あの──。

 

 ばちばちばちばちばち、と。

 

 玄野の隣で雷光が瞬く。すると、何もない空間から突然人間が姿を現したのだ。

 玄野と同じく黒いスーツを着ており、下だけだが、部屋で履いていた白いボンタンのようなズボンを履いている。

 あの時、ヤクザ二人を秒殺した男。

 

「あ、アンタ、何処から」

「ずっとそこにいた。ああ、あと悪りぃな。オマエの獲物、戴いちまったよ」

「は?」

 

 男がくつくつと笑った瞬間、玄野の目の前でネギ星人の頭部が弾け飛んだ。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

「時間差での着弾──まぁ、使い方によっては(トラップ)としても使えるかもな」

 

 べちゃべちゃと緑色の液体──ネギ星人の血液が降り注ぐ。「汚ねえよ」と甚爾は顔を顰め、頭部を失ったネギ星人を蹴り飛ばし、念のためと持っていた小さい方の銃の引き金を落す。ギョーン、という独特の銃声が数回鳴った後、ネギ星人の肉体が弾け飛んだ。

 

「まさか、俺とあのクソガキ以外にもスーツを着てる奴がいたとはな。勘が鋭いのか、ただのバカなのか……」

 

 隣で呆然と立ち尽くす計ちゃんと呼ばれた少年を、甚爾はそれなりに評価していた。

 あの状況下で、殆どノーヒントにも関わらず、スーツを着るという選択をした少年。この先生き残れるかは知らないが、甚爾や中学生を除いた中では最も生存率は高いだろう。

 

「突っ立ってるのも良いが、そこのオールバック、止血しとかねえと死ぬぜ? まぁどのみちそう長くはないだろうがな」

「あっ、あ! 加藤! おい、しっかりしろ!」

 

 加藤──オールバックの高校生の下へと向かった"計ちゃん"から視線を外し、甚爾は階段の方へと視線を向ける。そこには人の気配はなく、加藤の血とネギ星人の血が付着しているだけだ。

 が、甚爾はそこに誰かがいるということを確信していた。

 

「オマエ、あの中学生だろ。さっさと出てこいよ」

 

 甚爾が飛び出した時のように火花が散り、誰かが出て来る。そこにいたのは、部屋にいた中学生。パーカーの下にしっかりとスーツを着ており、心底驚いたといった様子でこちらを見ていた。

 

「何で分かんの? 超能力者かよ」

「かくれんぼは得意でな」

 

 

 そう言って誤魔化したが、あまり意味はない。いずれ分かることだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、甚爾の天賦の肉体を知ることになる。であれば答えは自ずと見えて来る。

 呪縛により研ぎ澄まされた五感。本来認識出来ない筈のものさえも捉えてきたそれらは、ステルス機能程度を見破ることは容易い。

 

「部屋で見た時から只者じゃないとは思ってたけどさ。頭もキレるなんてな。俺もいろんな奴を見てきたけど、初見でここまで見抜いて適応したのはアンタが初めてだよ」

「男に褒められても嬉しくも何ともねぇよ。オマエみたいなクソガキからなら尚更な」

「ひっでえ。素直に褒めてんのにさぁ」

 

 肩を竦める中学生。

 

「アンタなら、()()()()()生き残れるだろうぜ。他は知らねえけど」

「やっぱり、今夜限りじゃねぇんだな。俺たちはこれからどうなる? 連戦か?」

「──はは、そこまで見抜けてるのは流石だ。答えはすぐに分かるさ。これから部屋に戻って"採点"が始まる」

 

 採点──予想するに、おそらくこの戦いの評価みたいなものだろう。

 

「ほら、始まった」

 

 

 ──ジ、ジジ

 

 

 金縛りにあったかのように身体が動かなくなる。部屋に飛ばされる時とは仕様が違うらしい。

 

(肉体状態の保存……それによる副作用みたいなもんか。つまり、転送に間に合えさえすれば生きて帰れる、ってことか)

 

 巧く出来ている。部屋に戻った後、中学生に尋ねておこう。もしも受けたダメージを全て解消して戻れるのであれば、かなり無茶をした戦いが出来るだろう。

 限定的な反転術式代わり──もしも甚爾と同等、あるいはそれ以上の敵が現れた際には、かなり有要だ。

 

 視界が夜の住宅街から、見覚えのある部屋へと移り変わる。

 どうやら一番乗りは甚爾らしい。ミッション前は大勢いたせいで窮屈に感じられた部屋が、広く感じる。

 

 続いて中学生、計ちゃんと呼ばれていた高校生、犬、巨乳女、そして──加藤という高校生。どうやらあの二人のヤクザは死んでしまったようだ。何処かでネギ星人に遭遇したのだろう。

 加藤の出血量はいつ死んでもおかしくなかったが、予想通りギリギリで回収されたらしい。運がいい──いや、この場合悪いのか? 彼のような人間からすれば、これからの戦いは地獄以外の何物でもないだろう。

 

 

「すげーな。今回、マジでこンだけ残ったのか? 俺以外で生き残ったのも久々だッてのに……」

 

 中学生が心底驚いた様子で呟く。

 どうやらこれまでもこの少年を残して新人は全滅していたようだ。それも当たり前か。この黒い球体は、お世辞にも丁寧に説明しているとは言い難い。ミッションの説明もアイテムの説明もない。何をすべきか、何をしたらいけないのか──それすらも与えられない。加えて、経験者も自身の愉しみと安全のために助けようともしない。

 生き残れるのは甚爾などの例外を除けばほんの一握りの存在だろう。

 

「今回は粒揃いだ。ガンツの野郎、今回は本気で集めたのか? にしては、ミッションはサービスレベルだッたけど」

「ガンツ? その球のことか」

「そ。俺が部屋に呼ばれた時からそう呼ばれてる。意味はよくわかんないけど」

 

 黒い球体──通称ガンツ。

 そちらに目を向けると、突如「チーン」とレンジが鳴るような音が響き渡り、その黒い画面に文字が表示される。

 命懸けの夜を生き残った五人と一匹の視線が集まる。

 

 

 

それぢわ ちいてんを はじぬる

 

 

 

 

 

 

 

 




回はパパ黒はあまり動きませんでしたね。
でも彼、慎重な男なのでそう簡単には動き回らないと思うんで……田中星人以降はバリバリ戦うと思いますので!

次回の更新は、田中星人編を描き終えてから投稿しようと思ってるので、少し遅くなるかもです。


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0004 採点の時間

パパ黒のガンツからの呼び名を『駄目ゴリラ』に変更しました。

あと、お気に入り500件突破!評価も二十人の方にいただきました!ランキングもまさかの10位へ……。
更新の力か? これが……。
ありがとうございます♪


「ガンツが採点? どういう意味だ?」

「さ、さぁ……?」

 

 中学生の言葉とガンツに表示された画面を見て、高校生二人が困惑している。

 

「さっきの戦い──ミッションの評価、ってとこだろ。どれだけ活躍したか、貢献出来たか──それをこの球、ガンツが採点するんじゃねぇの?」

「なるほど……」

「アンタ、マジで何者だよ……その通りさ」

 

 甚爾の言葉に呆れながらも中学生が頷く。全員から「一体何者?」と言った視線を向けられるが、一切合切無視する。こんなものはただの推察だ。細かい情報を繋ぎ合わせて予報を組み立てただけに過ぎない。

 

 画面が変わり、簡易的に描かれた犬のイラストとバラバラなフォントを使われた文章が表示される。

 

 てん

 るき、な

  出し

  ふり

 

 部屋全体に何とも言えない空気が充満する。

 一体、この球は犬に何を求めているのだろうか。人の言葉ならまだしも、文字なんて理解出来る筈もない。ミッションの内容などこの犬は分かっていないだろう。

 そもそも、何故犬を連れて来たのか。ミッションの説明といい、評価の内容といい、ガンツがかなり適当であることが分かった。

 

(ああ、そういや高専の傀儡師が魂の宿った呪骸を造ったともっぱら噂になってたな……ありゃあパンダだったか? 確か)

 

 まぁ、この犬はそんな例外とは違い、ただの犬であることは間違い無いのだが。

 

 しかし、どうやら星人を倒さなかったからと言って、何らかのペナルティがあるわけではないらしい。ガンツの理不尽さから星人を狩らなければそれくらいはしそうだったが、杞憂だったようだ。

 

 続いて、画面が更新され次の生存者が評価される。

 犬と同じく簡単に描かれた写真と、評価と呼んでもいいのか分からない評価文。

 当人に目を向けると、顔を赤くして混乱していた。

 

 てん

 ち でか

 はかづうろつき

 

「あたしィ!?」

「オマエしかいねぇだろ、露出狂。よかったな、俺たちの姿が周りには見えなくて」

「露出狂じゃないッ!」

「ちょっとおもしれーかもこの採点」

「おもしろくないッ!」

 

 ケラケラと笑う甚爾と計ちゃんと呼ばれた学生に噛み付く巨乳女。こいつは揶揄い甲斐があると、甚爾は確信する。

 

かとう(ちゃ)(笑)

 てん

 かとうち死にかけとわ

 にごと

 

「あ、俺だ……」

 

 オールバックの学生が小さくつぶやく。

 "かとうちゃ(笑)"というあだ名にこの文章。いよいよ評価もクソもない上に一丁前にウケを狙ったであろう文に、部屋が静寂に包まれる。

 甚爾は生前参加した合コンで、思いっきり滑り倒した名も知らない男のことをふと思い出した。あの時の空気に似ている。

 

「う〜ちょっとドキドキして来たぞ。俺、何点だろ」

「0点でしょ……」

 

 計ちゃんと呼ばれた少年がソワソワとし始め、巨乳女が冷静に彼の呟きを切り捨てる。

 甚爾も彼女に内心同意する。この採点で評価されるのは、ミッションでの活躍ではなく星人を倒したか否かだ。もし活躍が評価されるのであれば、あの時ネギ星人に掴みかかり隙を生んだ加藤はもう少し点数を貰えた筈だ。

 

 ワクワクしている少年を焦らすように、次に表示されたのは中学生だった。

 

西くん

 てん

 TOAL7てん

 13てんでお

 100てんまでもーこしだね がんば

 

 87点。かなりの点数だ。それなりに修羅場を潜って来たのだろう。尤も、その殆どが新人を囮に使っての不意打ちだろうから、経験値が貯まってるかは別だが。

 そして──気になることがひとつ。

 あと13点で終わり。

 100点を取った時、何かがある。ボーナスと言ったところだろうか。ますますゲームのようだ。

 

「100点取ったら何があるんだ?」

「採点が終わったら教えてやるよ。つーか、どうせなんとなく分かってんだろ?」

「まぁな」

 

 中学生──西と話していると、いつの間にか次の評価に移っていた。

 

くろの

 てん

 みて んこ たち

 

「フハッ……!」

 

 思わず甚爾は吹き出した。

 計ちゃん──くろの(玄野)。まさかあの危機的状況で勃起するとは流石としか言いようがない。脳が下半身に付いているのではないだろうか。変態の素質がある、と甚爾は腹を抱えて笑いながらそんな評価を玄野に下す。

 

「ちょ、アンタ笑い過ぎだろ!」

「これが笑わずにはいられるかよ。ハハッ! オマエ大物になれるぜ。変態界隈の大物だけどなッ!」

「ぐ、ぅ……!」

 

 恨めしそうにこちらを睨みつける玄野に、どこ吹く風といった様子で笑い続ける甚爾。玄野の側からいつの間にか巨乳女は消え、加藤の背後へと移動していた。懸命な判断だ。

 

「あー、腹が痛ぇ……順番的に次は俺か」

 

 まだひくつく腹筋を押さえながら、甚爾はガンツに注目する。

 甚爾が倒したのはネギ星人一匹。点数はもらえるだろうが、あの弱さだ。高得点はないだろう。高くても5点程度が限度だ。

 

 ガンツによる玄野の密告文が消え、甚爾の評価へと移る。

 

駄目ゴリラ

 てん

 97てんでお

 初参加なのに てきおう

 

  3点、というのはあのネギ星人の点数だろう。やはり、その程度の強さだったということだ。これから戦うであろう星人はネギ星人よりも手強い。そう思っておいた方がいいかもしれない。

 

「だ、駄目ゴリラ?」

「ああ、俺ヒモだったから」

「……」

「んだよ」

 

 巨乳女の零した呟きに甚爾は答えると、蔑むような視線が返ってきた。

 ヒモの何が悪いのか。住まわせてもらっている間の生活費や娯楽費などは全てこちらが払ってやっていたというのに。そもそも、きちんとした合意の上だ。

 リターンのあるヒモ。

 プロのヒモ。

 駄目ゴリラという評価は間違いだ。

 

 しかし、どうやら玄野はそうは思わなかったようで。

 

「いや、ヒモとか、嘘だろ! 絶対にやべー仕事してただろ!?」

 

 空気が凍る。

 加藤も巨乳女も「嘘だろ?」といった表情で玄野の方を向き、西は「すげーよおまえ……」と呟き呆れていた。当の玄野もしまった、と口を手で覆っており、どうやら思わず思っていたことを口にしてしまったらしい。

 甚爾が玄野を見つめる。ヤバいと思っているからか、額に大量の大粒の汗が滲んでいる。

 

「……」

「……」

 

 それから何秒経っただろうか。先に口を開いたのは甚爾だった。

 

「してたな」

「え?」

「殺し屋をやってた」

「は?」

「だから、殺し屋をやってたって言ってんだ。二度も言わせんな」

 

 殺し屋。

 非現実的な単語だったからか、西と犬以外は怪訝な表情を浮かべ、数瞬後にその意味を理解して顔を青くする。

 そんな彼らを見て甚爾は笑う。

 

「え、ええ……マジ……?」

「マジだ。ま、信じるか信じねぇかはオマエら次第だがな」

 

 本来なら冗談だと笑われるだろうが、状況が状況。かつ甚爾の異常な適応能力を見ているからか、玄野たちはそれを真実として受け取ったようだ。

 

「ま、別にオマエらを殺しはしねぇよ。()()()()()手を合わせることもあるだろうしな」

「これから……?」

「ああ。なぁ──西?」

 

 このまま甚爾のことを話しても時間が経つだけでなんの意味もない。この部屋のことに最も詳しい人間──西へと注目の的を移す。

 玄野たちも西には聞きたいことがあったらしく、彼に詰め寄り質問責めにした。西も面倒臭がることはなく、玄野たちをバカにしながらもひとつひとつ質問に答えていった。

 

 何が起こっているのか。おまえは何者なのか。何故、この状況について詳しいのか。

 その答えはどれも甚爾の推察通りだった。

 西がこの部屋にやって来たのは一年前のこと。西が来る以前からも今夜のようなことは繰り返されており、自分は経験者というだけでガンツの正体などは知らないということ。

 途中「何故そのことを最初から教えなかったのか」と加藤が西を非難し一悶着あったが、甚爾が話が進まないと二人を組み伏せたりもした。その時に西がオリジナルの自分達は死んでいて、ここにいるのは人格と肉体だけがコピーされた別人だということも言った。

 その後は滞りなく話は進んでいき、そこでそれまで傍観に徹していた甚爾もひとつ質問することにした。

 

「おい、さっきの俺の質問に答えろよ」

「さっき……? ああ、アレね。ちょっと待ってて」

 

 西がガンツに向かって「ガンツ、100点メニュー」と囁くと、球体に新たな画面が表示される。

 

 

『100てんめにゅ〜

 

 1.記憶を消されて解放される

 2.より強力な武器を与えられる

 3.MEMORYの中から人間を再生できる』

 

 

「これが100点取ったやつへの報酬さ。こん中からひとつ選ぶんだ」

「へぇ」

「記憶を消されて、解放……」

「武器……つか、再生って蘇らせるってことか……?」

 

 100点を取った者の恩恵。

 これは確かに──()()

 特に1番と3番。この二つは部屋の住人を積極的にミッションへと参加させるカードだ。

 早くこの地獄から解放されたい──だったら100点を取れ。

 あの人とまた一緒に生きたい──ならば100点を取れ。

 蜘蛛の糸。地獄から抜け出すために用意された、一糸の希望とも言えるだろう。

 それを掴むために、多くの人間が必死になって星人を狩る。実によく出来たシステムだ。

 

 甚爾としては2番の武器の内容が気になるところだ。甚爾には1を選ぶつもりはない。この世界は甚爾のいた世界ではなく、 西の言っていることが本当なのなら、自分は偽物だ。記憶を消して日常に帰ったところで意味はないのだ。ならば、当面の暇潰しとして星人を狩るのも悪くはない。

 

(それに、ガンツを作ったクソ野郎のツラも、拝んでおきたいしな)

 

 何処かでこの部屋を視聴し、こちらの様子を高みの見物しているであろうクソッタレ。

 どうせこの肉体も記憶も偽物だ。飽きるまでの暇潰しとしては及第点といったところか。

 

「もう質問はない? あ、そうそう。ここのことは喋らない方がいいぜ。頭バーンだからよ」

 

 そう言い、西はスーツに搭載されたステルス機能を利用し、部屋から出ていった。

 残されたのは四人と一匹。玄野たちもとりあえず一度家に帰るようだ。甚爾もこの部屋には用はない。まだ調べていない部屋はあるが、それは今度呼ばれた時でいいだろう。それよりもまず、やらなくてはならないことがある。

 

 玄関へ向かい、ドアを開け外へ出る。どうやら本当に次のミッションまでは自由なようだ。

 

「んじゃ、オマエらとはここでお別れだな。次のミッションまで会うことはねぇだろ」

「あ、はい。えっと……」

「あ? そういや名前言ってなかったな。甚爾。伏黒甚爾。それが俺の名前だ」

 

 甚爾が女以外に名前を教えるのは非常に珍しい。これからのミッションで『駄目ゴリラ』なんて呼ばれるのも困る。ガンツの付けたセンスのないあだ名よりも、普通に本名で呼んでもらった方がマシだ。

 甚爾の名前を聞き、加藤たちも自分の名前を伝える。オールバックの学生は加藤勝、勃起学生は玄野計、巨乳女は岸本恵と言うらしい。女の名前以外を覚えるのが苦手なため、次回会った時に覚えているかは別だが。

 

「ま、もし街中で会うことがあれば、そん時は金貸してくれ。今の俺は一文なしでな」

 

 言い捨て、西と同じくステルスを起動し、飛び降りる。その時、岸本が蔑んだ目をこちらに向けていたことは気にしない。地面まで相当離れているが、甚爾には何も問題はない。

 

(とりあえずは金集めだな)

 

 懐にはヤクザから奪った銃と、その時どさくさに紛れて盗んだ財布が入っている。これを競馬辺りで増やして、手早く資金を手に入れよう。

 

 

 

 

 ──次の日、甚爾は持っている有り金全て溶かした。

 

 

 




【ガンツのコピーについて】
ガンツは割と適当なんですよね。基本的に部屋に呼ばれるのは死人のみなんですが、たまーに死にかけの人間を蘇生しちゃう時があります。その場合、オリジナルがその後亡くなれば問題は無いんですが、生きていた場合、生き残った蘇生された人とオリジナルが遭遇したりすることもあるんです。
これが意味することはひとつ。ガンツの蘇生はあくまで蘇生ではなく、人格と肉体をスキャンして、現実にペーストするという擬似蘇生にあたるんですね。
今回、そのことについてパパ黒の言及は省いていますが、パパ黒は部屋に転送され、蘇生に気づいた時点で何となくそこを理解していました。
だって、何故か服も修復されてるしね!


とりあえず、これでネギ星人編は終わりです。
ガンツ文字のフォント弄りが一番きついぜ……これだけで軽く1時間かかる。次回からは何人か省略しようかな……。
次回からは田中星人編です。
田中星人編ではパパ黒にガンツソード振り回させます。

というか西くんの口調が無限にわからん


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田中星人編
0005 恐怖


普通に難産でした。
あと、昨日呪術の公式垢が111話の扉絵の伏黒親子のプロ画を提供してくれて助かりましたね。

なんか前話を投稿した後、日間ランキング5位まで駆け上り、お気に入りも1000件超えて、総合評価も2000を超えた──なんなんだこれは……!
感想もたくさん貰えて嬉しいです。感想は作者の栄養分。

皆さんありがとうございます……!

文章力を上げたいと思う今日この頃。


 ──これは、伏黒甚爾が命を落とす日よりも数年前に遡ったある日の話だ。

 

 平日の競馬場。上下ともに黒のスウェットに下駄という格好で、()()甚爾は万馬券を握り締め、視線の先で芝生の上を駆け抜ける馬たちを熱意の籠った瞳で見ている。

 甚爾が賭けている馬は今のところ一位だ。まだまだ油断はならないが、このペースでいけば間違いなく首位を取れる。それに彼が賭けているのはこの馬だけではない。他にも3つの馬の順位を予想立てる三連単などにも投資していた。

 

 もしも当たれば──などと考えると、不意に背後から声を掛けられた。

 

「ありゃ外れるな」

「あ? んだよ……時雨、オマエか」

 

 振り返ると、そこではスーツの男性が煙草を吸っていた。几帳面に切り揃え、ワックスで整えた、甚爾とは正反対に誠実そうな雰囲気を醸している。

 彼は孔時雨(コンシウ)。甚爾に依頼を持ってくる、術師殺しの仲介人だ。

 

「昨日に引き続いてまた競馬か。オマエ、昨日ボロ負けしたのを忘れたのか? それに金はどうした?」

「そりゃあ、いつものアレよ」

「ああ、いつものね」

 

 時雨は、甚爾の強さを知っている。その人間離れした身体能力は、一般人では到底叶わない。蟻が戦車に挑むようなものだ。

 甚爾が使った手段──それはおそらくカツアゲだろう。

 

「こっちからは手ェ出してねぇからな。俺は被害者だ」

「そうなるように仕向けたのはオマエだろ。ホント、狡猾なやつだよ」

「ハハ、感謝しろよ? その狡猾さのおかげで俺もオマエもこの業界でウハウハなんだからよ」

 

 甚爾は身体能力だけではなく、頭も並外れて良かった。

 天賦の肉体を過信せず、必ず事前に情報を集めてから動き、そして目的を達成する。

 そんな知性の高く慎重なヤツが、何故最終的には必ず負けるギャンブルなんぞにハマっているのか理解出来なかった。ろくでなしの典型のようなヤツだ、と時雨は甚爾を評価している。

 

「で、だ。負けるってどういうことだ」

「何でかって、昨日も言っただろうが」

 

 煙草を口から離し、紫煙を吐き出す。

 

「オマエは幸運の女神から見捨てられてる」

 

 その言葉に流石に甚爾もカチンときたのだろう。額に青筋を浮かべ、時雨を睥睨する。

 

「じゃあ賭けようぜ。もしも俺がこのレースで勝てば、オマエには昨日の負け分を払ってもらう」

「乗った。なら俺が勝ったらオマエに女を紹介してもらう、どうだ?」

「上等だ。とびきりの女紹介してやるから感謝しろ」

 

 

 ──それから数分後、合コンのセッティングをする甚爾の姿がそこにあった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 珍しく、伏黒甚爾は焦っていた。

 ガンツにより蘇生され、この世界が自分がいた世界とは違うということに気がついた時よりも、甚爾は焦りに焦っていた。

 ヤクザの財布の中に入っていた10万、そして拳銃を売って手に入れた5万。計15万が、半日も持たずに消し飛んだ。

 その後、ヤンキーからカツアゲするなどし、漫画喫茶やホテルで何とか一週間過ごして来たが、流石に限界がある。

 不良専門のカツアゲ犯の男の噂は瞬く間に広がり、甚爾は今では不良界隈ではもっぱら有名人。手を出してはいけない危険人物として恐れられ、甚爾の姿を見るなり逃げ出す始末だ。収入源がなくなり、甚爾は再び一文無しへと返り咲いた。

 

 いつだったか、時雨に言われたことを思い出す。勝利の女神から見捨てられている──当時は笑い、吐き捨てたものだが、今の現状からしてマジで嫌われてるのではないか、と思わないでもない。

 

 公園のベンチに座り、のほほんと夜空を見上げて現実逃避すること早三時間。甚爾の頭は、これからどうやってお金を稼ぐべきか──それだけにリソースを割いている。

 

(アルバイト──はねぇな。めんどくせえし、今の俺には戸籍がねぇ……クソが……あの時、三番に賭けてればなぁ……)

 

 速攻でたられば論に逃げる辺り、甚爾の駄目男具合がよくわかる。

 とはいえ、実際これから彼が仕事をするとなると、現実的にはかなり厳しいのだ。

 その最もな障害が、戸籍がないこと。裏のルートで新しく作れることは知っているが、それなりの金がいる。まぁ元より、アルバイトなんて甚爾には向いてない。

 

「ハァ……まぁこんなところにいても仕方ねぇか」

 

 とりあえず、今日一日くらい住めるところを探すとしよう。適当に女を捕まえても良し、最悪スーツのステルスを使って、適当な空き家にでも住めばいい。

 

 甚爾の今の格好は、黒い上下のスウェットに下駄という、生前の時と同じ格好だ。ギャンブルに賭ける前に一応何着か買って置いたのだ。流石にあのスーツや戦闘服を表立って着て日常を過ごすのは無理がある。勿論、いつ呼び出されてもいいように服の下にはスーツは着ているが。

 買っておいて正解だったな、と半日前の行動を自画自賛する。

 

(しかし、本当に妙なことになったもんだ)

 

 夜の町を歩きながら、そんなことを思う。

 

 死後の世界。降霊術というものがある以上、そういうものがあるとは思っていたが、まさか異世界に蘇生されるとは思ってもみなかった。厳密には伏黒甚爾ではない──伏黒甚爾という肉体と人格をコピーした別人ではあるが。それを含めても妙な人生だ。

 

(つーか、あのガンツという球、ありゃマジで何だ? それなりにデカイ組織が運営してるんだろうが……)

 

 純粋な科学力で運用されているのが分かるが、明らかにこの世界の技術と釣り合いが取れていない。甚爾の世界でさえ、術式という異能を使用しなければなし得なかった業だ。

 

(それに、あの星人は本物なのか。ガンツなんて代物を作れてるんだ。生物を一から作り出していてもおかしくはねぇ。生物兵器の実験かつガンツの試験運用──なら、ああしてゲーム風にする意味がねぇ。ああ、でもあの様子を賭博として利用しているのなら納得はいくが……)

 

 どれも想像の域を出ない。情報が足りな過ぎる。

 やはり、あと数度ミッションを熟す必要があるだろう。あるいはまだまだ甚爾の知り得ない情報を持っているだろう西に聞くか。とはいえ、西がメリットなしに教えてくれるとは思えない。それなりの対価を提示する必要がある。

 

 

 そんなことを考えていた時だった。

 

 

 ──ギョーン

 

 

「あ?」

 

 聞き覚えのある音が、甚爾の聴覚が捉えた。

 方角は南西。距離は200──それなりに近い。誰かが、あの部屋の武器を使っている。

 

(バカか……? もしバレたらどうするつもりなんだか)

 

 その辺はステルス機能で何とかなるだろうが、リスクが高いことには変わりはない。

 しかし、いったい日常でどんな時に銃を使う時があるのだろうか。スーツならば分かる。このスーツの力は凄まじい。運動、仕事などもスムーズに行えるようになるし、日常動作における体力の浪費も大幅に削ることが出来る。

 銃は殺傷目的以外では使えないだろう。いらなくなった物を破壊するにしても、破片が弾けて後片付けが大変になるだけだ。

 

(まぁ、十中八九、西(あのクソガキ)だろうがな)

 

 予想は容易い。

 あの夜の生存者のメンツの性格からして、スーツはともかく日常で銃を使用するような奴はいない。加藤や岸本は無論、玄野は星人に対しては向けられるだろうが、人間に対しては()()無理だろう。犬は論外だ。

 あとは残っているのは西だけになる。ほんの数回しかまだ会話を交わしていないが分かる。アレはイカれている。加虐行為や人の生死に興奮する異常性癖者──そしてそのためならどんな非道な行いも平然とやってのけるであろう。

 ただの力を手に入れて助長しているガキ──という評価は少々甘いといえる。

 ……甚爾にとっては何の障害にもならないが。

 

 目的地へ近づくと、まだ人の気配が残っている。

 好都合だ。仮に逃げたとしても、臭跡、足跡(そくせき)などから簡単に追うことが出来る。それでも、その場に留まってくれているならそっちの方が楽でいい。

 

 甚爾は自然に気配を殺し、曲がり角を曲がる。そこには人の姿はない。暗がり目立たない場所だ。が、ひとつ異様なものがあった。

 先ほどから甚爾の鼻腔をくすぐる、生臭く鉄臭い香り。甚爾にとっては嗅ぎ慣れた──血と肉の匂いだ。そして、その中に混じっている()()()()()()()()()──先にいるのが西であると確信する。

 

 向こうはまだ甚爾に気づいていない。そもそも気づかせるつもりもない。

 足音を立てず、空気の揺らぎすらも調整し、近づき──そして、何もない空間に向かって手を伸ばす。

 

「よぉ、何してんだ」

 

 刹那、 西がその場から離れようと跳躍する。

 が、甚爾はそれを読んでいる。そこにあるであろう脚を掴み、思い切り地面に叩きつける。「ぐっ」と呻き声が聞こえた。

 そして遅れて、ばちばちばちと電流の火花が瞬き、西の姿が明らかになる。

 

「ッ、おまえ……何のつもりだッ!」

「別に。聞き覚えのある銃声が聞こえたから、きただけだっての」

「はぁ?」

 

 意味がわからない、と困惑を露わにする西。

 

「それにしても、面白いことしてんな。それ、猫か? ハハ、歪んでんなぁ」

「……チッ、うるせえよ」

 

 そう言って、西は甚爾の隣を抜けようとするが「待てよ」と甚爾がそれを妨害する。

 

「オマエに聞きたいことがあるんだ」

「聞きたいこと? それなら全部話しただろ」

「それはあくまで俺たちが質問したことに対してだろうが。オマエが聞いてもないことを口にしたのは頭の中の爆弾のことだけだ。まだ話してないことがあるハズだろ」

 

 それに、あれらの情報は部屋に呼び出され生き残り続ければ、余程の馬鹿ではない限り()()()()()()()()()()()()()()。西が持っている情報(カード)は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だろう。

 勿論、西が持っていない可能性もある。が、ほぼ間違いなく持っていると甚爾は半ば確信している。

 西の性格。サイコパスの気質があり、何よりプライドが高い。そんな彼が一年も部屋に囚われていて、なるがままにされているだろうか。あり得ないだろう。

 たかだか中学生に期待し過ぎかもしれないが、今こうしてニヤニヤと笑っていることが何よりの証拠だ。

 

「知ってるけど、ただじゃあ教えられないな。俺にメリットがない。そこまでお人好しじゃあないぜ、俺は」

 

 そう言って勿体ぶる西。

 正直なところ、ここで容易く教えてくれると楽で良かったのだが、やはり現実はうまくいかないか。

 とはいえ、西がそういう情報を持っていることは探れた。

 それを引き出すのは別の機会でもいい。

 適当に断るか──甚爾が口を開こうとした、その時だった。

 

 

 ──ゾワッ

 

 

 首筋に悪寒が走る。

 突然の出来事に甚爾は眉を顰めた。

 

「あ? これは……」

「ああ、今夜がミッションだぜ、おっさん」

 

 西が笑う。

 どうやら、ミッションのある日には、ガンツから虫の知らせのような前兆が送られてくるらしい。

 もっと不快感のない呼び出し方法はないのかと思ったが、ミッションの作りからして親切心のカケラもないのだ。そこを期待するだけ無駄だろう。

 

 そして、悪寒に続いて金縛りが起こり、肉体の転送が始まり、視界が移り変わる。

 

 インテリアも何も置かれていない質素な部屋。

 部屋の中央には黒い球体が置かれている。

 一週間ぶりの帰還だ。

 

 

「久しぶりだな──ガンツ」

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 前回、初めて部屋に呼び出された時、甚爾はまだひとつだけ調べていない部屋があった。ガンツのすぐ近くに設置してある扉。ガンツが開いたと同時にガチャリと鍵の開く音が聞こえたのを、甚爾の耳はしっかりと捉えていた。

 

 転送が完全に終了し、身体がようやく自由になる。部屋には誰もおらず、廊下にも人の気配はない。どうやら一番乗りは甚爾だったようだ。

 例の扉に近づき、ドアノブを回すがやはり鍵が閉まっている。一度本気で引っ張ってみたが、びくともしない。どうやら条件を満たさないことには開かない仕組みになっているようだ。

 

(一体、何が入ってるんだか)

 

 最も考えられるのが、銃以外の武器。ガンツが開いたと同時に鍵が開くため、同期していると考えられる。次は星人の詳しい情報という可能性だが……。

 

「ま、あり得ねぇだろ」

 

 続いて転送されて来たのは西だった。彼は甚爾に気づくなり「さっきの話、考えてくれたか?」と聞いてきた。

 

「オマエ、交渉する相手のことをちゃんと考えた方がいいと思うぜ」

「は?」

 

 意味がわからない、と言った様子で西が困惑の表情を浮かべるが、甚爾はこれ以上話すことはないと言わんばかりに彼から背を向け、ガンツの側に立つ。西がこちらを睨みつけてくるが、甚爾にとっては屁でもない。

 

 そして、西が呼び出されたのを皮切りに部屋に次々と人が転送されて来た。

 玄野に加藤、岸本と犬。甚爾とは同じタイミングで呼び出された、同期と言ってもいい三人と一匹。

 加藤は転送が終わると話しかけて来た。

 

「あの、伏黒さんですよね……?」

「あ? 何がだよ」

 

 加藤の要領の得ない質問に、甚爾は首を傾げる。

 

「いや、不良から金巻き上げてる唇に傷がある男ッて……俺の学校でその、噂になってて……」

「あー、たぶんそりゃ俺だな」

 

 ベンチに座っている甚爾をいいカモだと判断した不良が金を巻き上げようとし、逆に巻き上げられたのだ。それ以来、甚爾は不良から付け狙われるようになったが、当然敵うはずもなく全て返り討ちにしている。

 

「俺が噂流しておいたんで。伏黒さんには手を出さない方がいいッて」

「オマエ何余計なことやってくれてんだ!?」

「え!?」

「くっそー! 貴重な資金源が──ッ!!」

 

 嘆く甚爾に、部屋の住人から冷たい視線が向けられるが、当の本人は気にせず呻く。

 加藤勝。苦手な男だとは思っていたが、まさかここまでとは……。

 

「オマエ、次学校に行った時、アイツは今弱ってるみたいな噂流しとけよ」

「はぁ」

「加藤くん、流さなくていいわよ」

「黙れ露出狂」

「露出狂じゃないッ!」

 

 そんな茶番劇もある中、更に追加して死者が転送されてくる。

 最初に呼び出されたのは柄の悪いチンピラが四人。彼らは部屋に来るなり喚き散らかしたが、甚爾が一睨みすると黙り込んだ。

 次はモデルのような美形の男子学生に、彼にくっついている貞子みたいな女。バイクの事故で死んだのだろう。ヘルメットを被った状態で、跨るような格好で二人はやって来た。

 最後は白髪の老人とその孫らしき少年。少年は仕切りに「ママ」と泣き叫んでおり、祖母であろう老人は彼を一生懸命あやそうとしている。

 

 この八人で追加の転送は終わったのだろう。それっきり誰かが部屋にやって来ることはなく、歌が流れ始めた。

 その間に甚爾は新しくやってきたメンツを観察するが、どれも光るものはないと評価を下す。とはいえ、玄野のように危機的状況で力を発揮するタイプもあるため、まだ分からないが。

 まぁ、少なくとも老婆と少年が生き残ることはないだろう。スーツの機能による強化倍率は高いが、二人の年齢からして大した力は発揮できない。

 

 歌が終わり、画面に前回と同様にめちゃくちゃな文章が表示され、新規メンバーはその様子に困惑し、玄野たちは固唾を飲んでいる。

 

 次は一体、どんな星人と戦わされるのか。

 ネギ星人の強さはおそらくだが、平均よりもかなり低い筈だ。あの程度のレベルでが毎回なら、1年で西が87点を稼げるとは思えない。今回の星人は少なくともネギ星人よりはもっと強い、あるいは難易度が高いと甚爾は予測している。

 

 

 

めえ達今から

 この方をヤッつけにって下

 

田中星人

 

 

特徴

 つよい

 わやか と

もの

  

口ぐせ

 ァー

 ァー

 ァー

 

 

 ガシャン! とガンツが開く。同時に例の扉の鍵が開く音を甚爾の聴覚が捉えた。

 だが、すぐには部屋に向かわずにとりあえずガンツに表示された星人の情報を見る。田中星人、見た目は星人というよりかは人を模したロボットだ。何処かで見たことがあるのは気のせいだろうか。

 特徴に『つよい』と書かれているが、これは前回のネギ星人も同じだった。やはり、ガンツから提供される情報は役に立たないものばかりだ。

 

「ここにいる全員が生きて家に帰るために、出来るだけ情報をみんなに伝えたい。聞いてくれ」

 

 どうやら加藤が新規メンバーに部屋の最低限のルールを教えるようだ。正義感の強い彼らしい選択だ。一週間前のように、何も分からず死んでいく人達を救いたいのだろう。

 西が加藤を止めようとするが、加藤は無視して話を続ける。西からしてみれば、新規メンバーはより点数を取りやすくするための貴重な餌。加藤の行いは彼の戦略にそぐわない。

 

 西は確かに一年もミッションを潜り抜けてきたベテランではあるが、強者ではない。ただこの極限的な環境に適応し、倫理観を度外視した安全策を取ることで生き残れてきただけ。

 知性はあるが、肉体は彼の同年代の平均よりも下。スーツによる強化で超人じみた力を手にしているものの、正面戦闘は得意ではないだろう。だからこそ、彼はステルスで不意を打つという戦術を使っているのだから。

 

 加藤が聞く耳を持たないと分かったのだろう、西は大きく舌を打ち壁に背を預け静観することにしたようだ。

 他のメンバーは、一部を除いて加藤の言うことを聞いたようで、着々と準備をしている。その一部のメンツ──チンピラ達は、岸本の着替えを覗きに行ったようだ。

 猿かよ──と呆れながらも、助けに行くつもりはない。加藤が彼らの後を追いに行った。

 

 ──と、そこで甚爾の思考がぴたりと止まる。

 

「ッ!?」

 

 ゾワゾワ、と背筋に悪寒が走る。ガンツに呼び出された時とは違う、本能的な恐怖。

 あの五条悟を相手にしてもなお、恐怖などは感じずむしろ楽しんですらいた。甚爾が恐れていたのは、今は亡き妻に説教された時くらい──なんだ、一体何が──。

 

 そして、気づく。

 

「……ぁ」

 

 あの貞子のような女と一緒に飛ばされてきた、モデルのような学生。

 彼は甚爾と視線が合った途端に目を逸らす。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(──あいつ、ホモ(そっち)側かッ!)

 

 甚爾は性格こそ終わっているが、顔立ちは非常に整っている。それ故にモテる。女だけでなく──(ホモ)からも。

 

(アイツが俺を襲ってきたら躊躇なく殺そう)

 

 チラチラとこちらを見ている彼の視線から逃げるようにして、甚爾は奥の部屋へと向かう。

 

「……(スーツがねぇ……!)

 

 その時、玄野がそんなことを呟いていたが、甚爾は気にすることなく扉の奥へと姿を消した。

 

 




この作品で、GANTZという漫画に初めて触れた方っているのかな。
原作めちゃくちゃ面白いんで、よければぜひ読んでくださいな。
ハメにもめちゃくちゃ面白いGANTZの二次創作が幾つかあるので、ぜひぜひ。
観察日記とほむほむGANTZはいいぞ……!

あと、呪術杯という、このサイトに呪術廻戦の二次創作を投稿する祭りを、今月の末辺りに開催します。
皆さん良ければ参加してくださいな。
こちらレギュレーション
https://twitter.com/utatane_h/status/1333669707350638594?s=21


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0006 滅多刺し

GANTZ Manuelという公式ブックを確認したところ、ネギ星人編と田中星人編の間が一月ではなく一週間であることが分かったので、ちょこっと直しました。

それと、誤字報告ほんとに皆さんありがとうございます!意外と読み直しても、気づかないもので。大変助かります。


 部屋の中には、ガンツに収納されていた銃やスーツ以外の道具が置かれていた。

 床に乱雑に転がっている鍔から先の刃がない漆黒の刀に、同じ色のホイールバイク。バイクには後で触れることにして、甚爾は刃のない刀を手にする。鍔に付いてあるボタンを押すと、刃が飛び出した。

 

(どうやら、銃とは勝手が違うみたいだな)

 

 ガンツが提供する武器にはX型の形状の銃が二つとY型の形状の銃が一つ。計三種類存在する。

 X型──Xガンは、殺傷性のある銃だ。タイムラグこそあるが、敵を内部から破壊出来る。

 もうひとつはショットガン型と甚爾は呼んでいる。威力も高く射程も長いが、Xガンよりも大きく、取り付けも出来ないため持ち運びに難が生じる。

 そしてYガン。これはまだ星人相手に利用したことがないためなんとも言えないが、撃ってみたところワイヤーが射出された。その後もう一度トリガーを引いたところ、ワイヤーが何処かへと転送されていったため、おそらくは捕獲用のものだと予想する。

 

 これらの武器は非常に軽量だ。スーツを着ていなくとも楽々に持てる。質量と釣り合っていない気もするが、気にしたところで意味がない。

 しかし、この刀にはしっかりとした重さが存在する。甚爾の膂力であれば問題なく持てるが、スーツを着ていない常人にはそれなりに重く感じる筈だ。

 

(西が使わなかったのも納得だな。刀の特性上、星人に近づかなきゃいけねぇリスクがあるし、そもそも初心者じゃ満足に振れねぇだろ)

 

 ロックオン機能が存在し、技術がなくともある程度は使えるXガン等とは違い、刀は技術を要する。そういった方面の補助はないため、初心者がいきなり使うのは難しいだろう。

 とはいえ、技量面は問題にはならない。甚爾は生前、多数の呪具を扱ってきた一流の殺し屋。刀もその例に漏れない。

 腰のホルスターに二振り装着する。今回のミッションで刀──ガンツソードの性能を存分に試すとしよう。

 

「で、バイクだが──」

 

 まぁ、必要ないだろう。普通に走った方が早い。

 

『きゃーーーーー!!!!』

 

 耳をつんざくような悲鳴が、ガンツの部屋から響いた。

 ついに襲われたのだろうか。なんて下らないことを考えていると、何やら血生臭さが甚爾の嗅覚を刺激した。

 

「……誤発でもしたか? あるいは西か」

 

 Xガンの銃弾を喰らっても、スーツを着ているならば数発は耐えられる筈。だが着ていないなら、当たりどころ次第では一発でお陀仏。良くても欠損だといったところだ。

 

 扉を開けると、質素な部屋が随分とカラフルに彩られていた。床や壁、天井に付着した血液や肉片。耐えられなかった者たちの吐瀉物。

 見渡すと、西の姿はない。どうやら先に転送されたらしい。

 

「おーおー、随分と暴れたなぁあのクソガキ」

「伏黒さん……どこにいたんですか」

「あそこの部屋」

 

 加藤の疑問に甚爾は親指で指し示す。

 

「そこの部屋にスーツはありましたかッ!? 計ちゃんがスーツを忘れてしまったらしくて!」

「ねぇよ。あったのは刀とバイクだけ。まぁ使うのはオススメしねぇけど」

「そう、ですか」

 

 加藤の期待には応えられなかったようだ。

 ガンツは親切ではないのだ。二つ目のスーツなんか用意したりはしない。

 

 すると、加藤が「あっ!」と声を上げる。

 

「伏黒さん、その……よければ、俺と一緒に計ちゃんを守ってくれませんか?」

「ああ?」

「伏黒さんは、強い。あなたがいれば、きっと計ちゃんも……!」

「加藤……! あ、ああ! 頼む! 頼みます!」

「……」

 

 加藤の言葉に玄野が感無量とばかりに涙を滲ませる。

 二人は必死になって甚爾に頭を下げ、頼み込む。

 死なせたくない。

 死にたくない。

 そんな強い意志を感じる。

 一度失った命。地獄のような場所にとはいえ、再び生を受けた。だからこそ、人一倍死ぬことに恐怖を感じ、生きることを渇望している。当たり前に生きることの尊さを実感したのだろう。

 

 だが。

 

「断る」

 

 そこまでする義理は存在しない。

 甚爾の返答に、二人の顔が絶望に染まる。

 

「そんな……!」

「頼むッ! なんでもするッ、何でもするから!」

「知るか。死ぬなら勝手に死んでろ」

 

 しかし、そこまで突き放してもなお、二人は諦めない。

 思わずため息を吐く。

 

「あのな。ミッションの時間は有限なんだ。制限時間にクリア出来なかった場合のリスクを少しは考えろ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そいつにばっか構ってる暇はねぇんだよ」

 

 玄野が生存したとしても、ミッションを達成出来ずに死ねば意味がない。

 達成出来なかった場合のペナルティが不明である以上、戦力を一人の生存に回すのは愚策でしかない。

 ……尤も、ペナルティがあるかろうが無かろうが、甚爾は玄野を助けるつもりはなかったが。

 

 そうこうしている間にも転送は続く。運が悪いことに玄野の番だ。加藤と岸本が玄野にそこを動かないように言い、玄野は転送されていった。

 それから次々と転送されていく。残ったのは甚爾だけ。あのホモと二人っきりになることがなくてよかった。心の底から安心した。

 

 甚爾は転送を待っている間、田中星人の情報を再度確認する。

 

(田中星人、ねぇ。ボスはこいつとは違う可能性も考えておくか)

 

 ネギ星人の時もそうだった。あの写真のネギ星人と甚爾が相対したネギ星人の見た目は、同じ種族であることは分かるものの別物だった。今回もそういうことがあると視野に入れておいた方がいい。

 ガンツは適当だ。それは前回を含めて理解している。不測な事態にも対応出来るよう、ある程度の予測・予想は不可欠だ。

 

 ガンツが甚爾に向かって光の線を照射する。

 いよいよだ。最悪、もうこの時点で誰か死んでいてもおかしくはないな、なんてことを考えている間に転送が完了した。

 

 

 転送先は前回同様に東京の住宅街だった。マップを確認したところ、別の地域ではあるようだ。

 

(ミッションがまた東京……まぁ、偶然の可能性はあるか。ただ、もし次回も東京なら、ガンツは全国……世界にもある可能性を考えてもいいかもな)

 

 地域ごとにガンツが置かれてある可能性。そしてそこから、星人が本物の宇宙人であるという説の信憑性も高まる。

 星人が侵略者だとすれば、東京だけに留まるとは考えにくい。世界各地にそれぞれ適応しやすい環境に星人が居座っているのかもしれない。

 

「ま、今は目先のミッションだな」

 

 マップに表示されている星人の数は、全部で13体。ネギ星人よりも遥かに数が多い。そのうち一体はガンツ側に囲まれている。おそらくは加藤たち。少し離れたところには7体確認でき、残りの5体は疎らにマップの各所を移動していた。

 

(7体の星人が集まっている場所──そこに今回のボスがいるハズだ。突っ込んでもいいが、その前に適当に一匹狩ってから向かうか)

 

 ボスの居場所の当たりを付け、方針を決める。

 ボスとの戦闘の前に、まだ使用していない武器の性能を確かめておきたい。これからも使うことになるのだ。今回の戦いで完全にできることを把握はしておきたい。

 

 閑静な夜の住宅街を、甚爾は素早く駆けていく。丁寧に道に沿って歩く必要はない。塀を乗り越え、屋根を走り。一直線に最短距離を走る。

 そして、ボスの場所なら500m辺りのところで甚爾はピタリと脚を止めた。

 

 ──ウィィィィ

 

 駆動音が、夜空から聞こえる。見上げると、人の形を模したロボットが此方を見下ろしていた。赤と白のボーダーの服にその見た目──間違いなく、田中星人だ。

 ずん、と田中星人は降りてくると、田中星人は甚爾の方を向く。機械故に表情が変わらず、瞬きもせずにこちらを見つめてくるため不気味に見える。呪霊程ではないが。

 

「よお、オマエが田中星人か?」

【裕三くん!】

「俺は甚爾だっての」

 

 Yガンを取り出し、田中星人に標準を向ける。XガンにもYガンにも搭載されている機能は二つ存在する。ロックオン機能とレントゲンのような透過機能だ。

 

(こいつ、中に何かいるな)

 

 ロボットのような見た目は外殻。中に人間大の鳥のような生物の骨格が可視化された。ガンツスーツと同じく肉体を強化するものなのか、それとも環境に適応するものなのか、あるいは両方か。

 どれにせよ、甚爾がやることは変わらない。

 

「ま、時間がねぇんでな。さっさと倒させてもらう──ぜッ!」

 

 地を踏み抜く。スーツが動きに合わせて隆起し、甚爾の加えた力を補正する。それにより発揮される力は、実際に加えた力の十倍以上のもの。甚爾は全力の力を加えていないため、本気には程遠いが田中星人相手には十分だったらしい。

 

【裕──】

「──遅え」

 

 ──一閃

 

 田中星人の反応よりも早く、甚爾は攻撃を済ませている。

 居合抜刀。

 鞘はないが、ホルスターから抜き放つ動作ですれ違いざまに田中星人の脚を切り裂いた。

 田中星人の中身が、悲鳴の声をあげる。それを無視して、脚を切断され機動力を失った田中星人へとYガンを撃つ。するとワイヤーが射出され、田中星人へと巻きついた。

 トリガーを引くと、空から赤いレーザーが田中星人へと放たれ、みるみるうちに転送されていった。

 

 YガンはXガンとは違い、殺傷が目的とした武器ではないと推測していたが間違いではないらしい。

 ただ、転送に時間がかかるのが難点だ。強靭な星人ならば転送までの間に振り解くことも出来るかもしれない。無限に分裂する相手などには有効だろうが、転送よりも攻撃に時間を割いた方がロスも少なくていい。

 

「さて、それじゃあボスを倒しに行きますか」

 

 ボスの位置はあれから変わっていない。星人の数も数匹減っており、どうやら誰かが倒しているようだ。西か加藤たちだろう。

 

  移動を開始して間もなく、星人の根城へと到着した。見た目はただのボロアパート。こんなところに星人がいるのか、と思ってしまうが、レーダーは間違いなくここを示している。何より、甚爾の五感が中にいる生命体の存在を捉えていた。

 数は7。ノーマルな田中星人が六体とより巨大な個体が一体いる。反応は二階からだ。

 

 ご丁寧に玄関から入るような真似を甚爾はしない。

 近隣への被害など何のそのと言わんばかりにガンツソードを躊躇なく振るう。その間に10m程刃を伸ばし、斬撃の距離を拡張する。伸ばしたぶん重さが増すが、そんなもの甚爾の膂力の前では誤差だ。

 先ほど使用して分かったが、ガンツソードの斬れ味は非常に高い。豆腐のようにアパートが両断され、盛大な破壊音と砂煙と共に倒壊する。

 だが、星人はまだ倒されていない──()()()()()()()()()()()()()()()

 手応えはあったが、それはボスの護衛をしていた六体の田中星人のみ。ボスはまだ生きている。

 煙の先に、巨大な鳥のシルエットが瓦礫を押し除けながら現れる。

 

【グオララァ!! グオオオオ!!】

 

 咆哮と共にビリビリと空気が震える。煙が晴れ、その姿が明らかになった。

 3mはあろうかという巨大鳥。鳥は、憎悪の籠った双眸で甚爾を睨みつけている。

 そんな怪鳥に、甚爾は獰猛に笑いかける。

 

「ハハッ! 悪ィな、お仲間を殺っちまって」

【グァオオオオオオア!】

「ちったぁ俺を楽しませろよ、クソ鳥」

 

 まぁ、無理だろうな、と甚爾は苦笑する。

 敵の強さなど、大体みれば分かる。それは異形でも変わらない。

 生前の甚爾は術師専門の殺し屋だ。かと言って、呪霊と全く戦わなかったわけではない。

 遭遇することもあったし、相手の術師が呪霊と契約していることもあった。

 人ではない存在との戦闘経験は、しっかりと積み重ねている。

 このボス星人の戦闘能力は、呪霊で言うならば精々が二級程度だろう。それも下の層の。甚爾の相手にはならない。

 

 巨大鳥がその大きな翼で空を飛び、鋭利な爪で命を刈り取らんと勢いよく向かってくる。知性はそれなりにあるらしく、一点に留まらず縦横無尽に動き回っている。

 正直、Xガンでロックオンして撃てばそれで終わりなのだが、試したいことが出来た。

 

 ガンツソードを取り出し、前方へと駆けながら地面に突き刺す。そのタイミングで柄のボタンを押す。すると刃渡りはみるみるうちに伸び、甚爾も高く打ち上げられる。

 巨大鳥と同じ高さまで来たところで刃の伸長を止め、巨大鳥へと乗り移る。

 

「よお」

【!】

 

 そして。

 

 ──ドチュッ!

 

 大腿部から取り出した二振り目のガンツソードを、巨大鳥の頭部へと突き刺した。

 

【グァァァァァァアオオオオオ!!!??】

 

 東京の夜空に、怪物の絶叫が響き渡る。

 甚爾は笑みを深め、追撃を加える。

 ほんの一秒。

 その間に10を超える刺突を巨大鳥へと加えた。絶命した巨大鳥は、ピクリとも動くこともなく地面へと墜落。ぐちゃり、と衝撃に耐えられず肉塊へと姿を変え、その上に甚爾が飛び降りる。

 

「まぁ、こんなもんか。ネギやロボよりは遥かに強いが……相手にはならねぇな」

 

 獣臭え、と顔を顰めながらレーダーを取り出す。マップには星人の反応は残っておらず、つまるところこれでミッションはクリアとなった。

 甚爾が倒したのは計8体。うち1体はボス星人だ。今回は星人の量も質も前回とは比べ物にならなかった。それなりの高得点は貰えるだろう。

 

 数分もたたない間に甚爾の転送が始まった。

 

 




戦闘描写って難しいね。
コツとかってありますか?

次回で田中星人編は終わりです。



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0007 憧憬

大変お待たせしました!
そして申し訳ございません!!!!

遅れた理由につきましては、活動報告にも書いてあったんですが、簡単に言うとこれです。

ダークソウルリマスタードとダークソウルⅢです。脳筋最高。刀最高。

どハマりしてしまったんです。
大変申し訳ございませんでした……!!!!

はい。
というわけで、続きです。
クオリティが不安。

PS.
Wi-Fiが切れて、ガンツ文字が全て消え去った時は泣いた。


 玄野、加藤、岸本、北条(ホモ)は民家のガレージにいた。

 

「クソッ! 助けられなかった……!」

 

 自分の膝に拳を振り下ろし、不甲斐なさに嘆く加藤の側には、老人と子供が倒れていた。今日、あの部屋に呼ばれた新規のメンツのうちの二人だ。

 二人は、加藤の説明をきちんと聞いていたからか、ガンツスーツを着ていた。ガンツからふっかけられるミッションにおいて、最低限必要とされる代物だ。身体能力を強化し、超人の如き力を発揮することが可能だ。

 だが、スーツは無敵というわけではない。コンクリートを砕く程の一撃を喰らってもピンピン出来るほどの耐久力を誇るが、どうやら限界があるらしかった。

 あのイカれた中学生──西も、田中星人による攻撃にスーツを破壊され命を落とした。

 この二人も、そうだった。

 スーツの各部位にあるポイントからゲル状の液が溢れており、目と鼻、口から血を噴き出して死んでいた。

 

 ガンツのミッションは命懸けだ。それは、前回から参加した玄野でも十分に身に染みている。

 一度死んで、蘇った。初めは喜んだが、今ならあのまま死んだままの方がマシだったんじゃないかと思う。こんな恐ろしい思いをして死ぬなんてまっぴらゴメンだ。

 

 ただ。

 

 玄野は人の死に慣れていっている感覚を感じていた。

 ネギ星人に虐殺された人たちを見て、死の恐怖を感じた。

 西に殺されたヤンキーを見て、気分が悪くなった。

 田中星人に殺された西を見て──確かに不快な気持ちにはなったが、その感覚が薄れていっているのを確かに実感した。

 

 そして──今。

 

 二人の死を見ても、悲しいとか怖いだとか、感じなくなっていた。

 

 間違いなく、この異常な空間に慣れてきている。

 

(それだけじゃ、ねぇ……)

 

 慣れてきてるだけでなく。

 変わっていっている。

 そんな自覚が玄野にはあった。

 

 西を殺した田中星人は、加藤が押さえ、玄野がYガンで転送する形で"上"へと運ばれた。その後、その加藤や岸本は次の田中星人を倒すために移動を開始したのだが、加藤は玄野にはここで待機するように指示した。

 当然と言えば当然のことだ。スーツがなければ星人とは渡り合えない。それは、前回のミッションで身に染みている。しかも、今回の田中星人は、スーツを着ていれば勝てるような相手ではない。玄野と加藤よりも経験豊富な西が命を落とすほどだ。

 だから、安全を考慮して待機するのは最善と言ってもよかった。無論、一人でいるところを田中星人に襲われる可能性はあれど、見つからない可能性もある。加藤たちについて行けば田中星人と遭遇する可能性も高く、交戦すれば玄野は間違いなく死ぬ。

 

 だが──玄野は、そんなリスクを背負ってまで加藤たちに付いてきた。

 

 その結果、玄野はここまでで3()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 玄野の胸中に宿る、不思議な感覚。

 これはいったい何なのだろうか。

 

 死の恐怖?

 生還できた喜び?

 

 ──違う。

 

 これは──。

 

「あと7体くらい居たよな、こいつら」

「うん……キリがないよ」

「時間は?」

「待て、確認する──ッ!?」

 

 玄野が考え事をしている間に、加藤たちはこれからどうするかを話し合っていたが、レーダーを見るや否や話し合いは中断された。

 異常に気づいた玄野も、慌てて輪に加わる。

 

「どうしたんだ?」

「もう、星人がいない!」

「ハァ!?」

「ええ、ウソでしょう!?」

 

 加藤のレーダーを3人で覗き込むと、確かに星人の居場所を指し示すアイコンは消えている。玄野が時間の方を確認してみようと提案し、タイマーを見れば残り15分で止まっていた。

 つまり、ミッションは終了したということになる。

 

「誰かが、倒したんだ。7体の、田中星人を……」

「あのヤンキーたちか……?」

「いや、たぶん──伏黒さんだ」

 

 加藤が、ミッションクリアに大きく貢献したであろう人物の名を呟いた。

 

 ──伏黒甚爾

 

 玄野たちと同じく、前回からの参加者。

 自称殺し屋であり、嘘か本当かは分からないものの、その実力は玄野たちを大きく上回る。

 確かに彼ならば、あり得る。

 

 

 ──ジ、ジジ

 

 

 ミッションが終わり、生き残った者だけが無事にあの部屋に帰ることができる。

 岸本たちが喜びの声を上げる中、玄野は胸の奥底から湧き上がる強い感情。

 

 ガンツ。

 ミッション。

 非日常。

 

 つまらない人生だった。

 何もかもが灰色に見えて、ただただ日々を過ごしていただけの何の意味もない日々。

 だが、あの日。

 全てが変わった。

 

(俺の居場所は──)

 

 日常ではなく。

 

(──俺も、強くなりてぇ)

 

 

 玄野の口角は、無意識のうちに吊り上がっていた。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 転送が終わり、甚爾は部屋へと帰還した。部屋には加藤を始めとする玄野と岸本の3人と、ホモに貞子みたいな女、それとヤンキーが二人いた。

 先ほどレーダーで確認していたため、驚くことはなかったが、前回のネギ星人を上回る難易度だった此度のミッション。それをこれだけの人数が生還出来たのは、半分以上を甚爾が倒したとはいえ奇跡と言ってもいいだろう。

 

(この辺は加藤の手柄だな。アイツが声かけしてなけりゃ、もっと死んでただろうし)

 

 スーツの力は、甚爾のような例外を除けばミッションにおける必須の装備だ。それがなければ生き残れる可能性はグッと下がる。が、そのコスプレじみた見た目故に新規のメンバーは着ない。前回もそうだった。

 ただ、今回は加藤が説得したことにより、前回と比べてスーツを着た人間が多い。ミッションにこれだけの人数が生き残れたのは、加藤の尽力によるものだ。

 

 そのまま甚爾は玄野に視線を向ける。

 正直なところ、玄野が生き残ったのにはほんの少しだけ驚いた。幾ら加藤たちがカバーしていたとはいえ、彼らはまだまだ甘く隙だらけ。死ぬ可能性は非常に高かった。

 運が良かったのか、それとも実力か。

 ただ言えるのことがひとつだけ。

 玄野は、このミッションで()()()()()()()。瞳の奥で揺らいでいた恐怖や不安というものが薄らいでいるように見える。

 ガンツのミッションは過酷だ。極限的な状況下にあることが玄野の精神面に何らかの影響を及ぼしたのかもしれない。

 

 とはいえ、だ。心の持ち用で強くなるわけではない。呪術師のように感情の発露によって力を発揮するわけでもないのだから。

 結局のところ、戦いというものは才能とそれまで積み重ねてきた鍛錬や知識、経験がものをいう。

 術師殺し──伏黒甚爾は、そうやってこれまで弱者も強者も喰らってきた。

 

「万年発情期、よかったじゃねぇか、生きて帰れて」

「ンな名前で呼ぶな! 俺は玄野だッての!」

「男の名前を覚えるのは苦手でな」

 

 揶揄ってくる甚爾に玄野は噛み付くが、甚爾はものともしない。すると加藤が話しかけてきた。

 

「あの、伏黒さん」

「ああ?」

「もしかして、ボスを倒したのって伏黒さんですか? それと、残りの星人も」

「まぁな。大したことはなかったが」

「ありがとうございます……!」

「やめろやめろ。男の感謝はいらねぇ」

 

 頭を下げて感謝する加藤に、甚爾は嫌そうに顔を歪める。

 やはりこういう輩は苦手だ。礼儀正しさとは無縁である甚爾とは正反対の存在。相性が悪く、生前も忌避していたものだ。

 

 善人

 

 そう呼ばれる人間が、甚爾はどうしようもなく受け入れられない。

 どうしても『彼女』のことがチラつくのだ。

 伏黒甚爾という人間の人生を、短い間ではあったが変えた。彩った。

 彼の最愛の──。

 

(……ハッ、らしくもねぇ、)

 

 思考を切り替えよう。

 どのみち、もう彼女に会うことは出来ないのだ。

 あの世があったとしても、この世界は別の世界で。自分は伏黒甚爾のコピーに過ぎない。

 今こうして、無駄な生を貪っているのは、ただの暇つぶしと憂さ晴らしのためだ。

 

 改めて辺りを見渡すと、西がいないことに気づく。くたばったのだろうか。加藤に訊ねると、重々しく頷いた。

 

「助けられませんでした」

「そうか。ま、死んじまったんなら仕方ねぇな」

 

 おそらくステルスが通用しなかったのだろう。外殻は機械で出来ていたから、サーモグラフィのようなものが付いていてもおかしくはない。

 田中星人の強さからして、スーツを着ていれば必ず勝てる──とは言わない。田中星人の機動力は高く、動きを止めなければXガンやYガンで狙うのは厳しい。

 尤も、ロックオン機能を使えば問題ないだろうが、冷静さを失っていたならばそこまで頭が回らなかった可能性はあり得る。西のようなタイプは想定外の状況に弱いことが多いのだ。

 

(情報源を失ったのは痛いが──まぁ最悪()()()()でいいか)

 

 西の蘇生は、"3番"を使用すれば可能だ。優先順位として"2番"には劣るが、視野には入れておく。

 ただ、それは甚爾がガンツの裏側の情報を手に入れられなかった場合に限る。それさえ手に入れることが出来たのなら、西丈一郎の価値は地に落ちることになる。そうなれば甚爾が西を蘇生させることはまずない。

 "3番"の使用に当たっては、これからの情勢で大きく変わっていく筈だ。

 

 そういえば、と。

 甚爾はふと思い出した。西丈一郎──彼は確かスーツを着ていた筈だった。

 

「加藤、西はどうやって死んだ?」

「……田中星人に至近距離で超音波……? のようなものを食らって。その後、スーツが壊されて、トドメを刺されました」

「……なるほどな。スーツにも一応は耐久限界があるみてえだな」

「そうみたいですね。俺も、壊されましたし」

「よく生きてたなオマエ……」

 

 超音波による攻撃がどれほどの威力だったかは、実際に目にしていないため分からない。が、ある程度の負荷が掛かればスーツは容易く壊れるのなら──甚爾の本気の動きに果たして耐えられるのだろうか。

 

 天与呪縛のフィジカルギフテッド

 肉体から呪力を完全に排斥することで得た、何ものにも縛られない天賦の肉体。甚爾が全力で動けば、それこそ音速など目ではない程の速度で動き回ることが可能だ。

 その動きにスーツが耐えられるとは思えない。

 最悪、スーツを温存して動く限り甚爾は本気を出せない可能性もある。

 

(試す必要があるな)

 

 採点が終わり次第、人気(ひとけ)のない山奥などで試してみるとしよう。

 

 すると、ガンツからチーンという音が鳴り、黒い画面に文字が浮かび上がる。

 

 

それぢわ ちいてんを はじぬる

 

 

 採点の時間。

 甚爾の討伐数は8体。ボスも狩っているため、20点は間違いなく超えている筈だ。

 

「採点って何だよ」

「この球がミッションの生還者を評価するんだ……たぶん、星人を倒した人に点数が付けられる」

「点数ゥ〜?」

 

 意味わかんねぇ、とチンピラがため息を吐く。

 初心者は意味が分からないだろう。無理もないことだ。

 加藤が軽く説明をして、半信半疑といった様子だがチンピラは渋々と言った様子で受け入れた。

 前回同様に、淡々とガンツは採点を行なっていく。

 犬、ヤンキー(ちんそうだん2人)、サダコと呼ばれた女性が0点。加藤、岸本、北条(ホモ)が5点ずつ。

 その際、ガンツによりホモと暴露された北条が必死に否定していたが、説得は叶わず、岸本と犬以外の全員から警戒されることとなった。甚爾でさえ「ガチだったか」と冷や汗をかいていた。

 

 ガンツが次に表示したのは玄野だった。

 

 

 15

 TTOTAL15て

 85おわり

 

 

「俺が、15点……」

「計ちゃん、3体倒してたもンな。スーツ無しで。すげーよ」

「んで俺が0点なんだよ……」

 

 玄野の点数を見た加藤たちが、それぞれ思ったことを口にする。当人である玄野は特に驚いており、未だに自分が15点もの点数を取ったことが信じられないようだった。

 甚爾も玄野の点数を見て、表情や言葉には出さないものの素直に感嘆していた。

 スーツ無しで生きて帰ったこと。それは運が良ければあり得ることだ。事実、加藤や岸本は前回はスーツ未着用で生き残っている。

 だが、星人と戦闘を行いながらも生還するのはただごとではない。今回のようにスーツを着ていても死者が出るような難易度であれば特に。

 

 玄野の肉体は一般人の域を得ないもの。秀でている面は特にない。加藤やホモ、チンピラに比べれば貧弱とも言える。

 ただ、ことこのデスゲームにおける適応者は、甚爾を除けば玄野であるのかもしれない、と甚爾は思った。

 

 そして、画面が切り替わり表示されたのは甚爾の点数だ。

 

「えっ……」

 

 その点数を目にした誰かが、思わずそんな声を上げた。

 驚愕、尊敬、困惑、恐怖、好意──多種多様な感情を含んだ視線が甚爾に集中した。

 

 

 

駄目

 43てん

 TOたL46

 54てん

 

 

 

 その点数──43点。

 前回の点数の約14倍。50点に近い点数を甚爾はたった一度のミッションで稼いだのだ。

 

 玄野と加藤、岸本は、その規格外さに呆然とする。

 甚爾の強さは前回のヤクザとの一悶着とミッションで目にしていたが、ここまでとは思わなかった。

 あの西でさえ命を落とした今回のミッション。田中星人の1体の点数は5点──つまり、少なくとも甚爾は7体もの田中星人を葬っていることになる。

 

 規格外

 

 そんな言葉が、三人の脳裏を過ぎる。

 固唾を飲み、信じられないものを見るような目で甚爾を見つめる。

 ただ玄野だけが、その視線に羨望の念を抱いていた。

 

「43点っつーことは、あのボスが8点か。あんまり旨くはなかったな」

 

 10点はあるかと思ったが、高く見積もってしまったようだ。

 とはいえ、一度のミッションで43点も稼げていたのは大きい。それもこの程度のレベル。甚爾にとってはボーナスミッションと言っても過言ではないだろう。

 ボスの点数は渋かったものの、結果としては満足だ。

 

 採点が終わり、ガンツの画面が元に戻る。ガチャリと玄関の鍵が開いた音が響いた。

 今回のミッションは、甚爾、玄野、加藤、岸本、北条、貞子、チンピラ二人の八人が生き残った。死者は少なくなかったものの、半数以上が帰ってこれたのなら十分だろう。

 

 もうこの部屋にいる必要はない。上着を着て、甚爾は玄関へと続くドアに手をかける。

 

「んじゃ、俺は帰るぜ」

「帰る……? おい、おっさん、帰れんのか!?」

「あ? まぁな。詳しい話はそこのオールバックに聞いとけ」

「え、俺!?」

 

 チンピラが甚爾の言葉に反応し、噛みついてくるが、それを加藤に押し付ける。面倒ごとはごめんだ。初心者の説明などは善人に任せるに限る。押し付けなくとも勝手に説明したことだろうが。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 マンションから出た後、甚爾はこれからどうするかを考えていた。

 甚爾が直面している問題は幾つかあるが、その最たるものが金銭的な問題だ。

 気がつけばあの部屋に呼ばれていた甚爾は、一銭も持っていない。それに加えて戸籍もないため、職に就くことも出来ないのだ。就く気があるかどうかは別として。

 

(裏の仕事を探すのはアリだな。面倒だから探しちゃいなかったが、この際しのごの言ってらんねぇ)

 

 時雨のようなやつがいればいいが──そんなことを思いながら歩いている時だった。

 誰かが此方に向かってきているのを甚爾は察知した。

 気のせいではない。明らかに目標は甚爾だ。振り返ると、息を切らしながら走ってくる少年が一人。

 

「玄野……?」

 

 甚爾がこの世界に来て初めて出会った人間の一人。

 ガンツのミッションにおける同期とも呼ぶべき少年。

 珍しく甚爾が感心を抱いた者でもある。

 

 甚爾が足を止めた数秒後、玄野は甚爾の下へと到達し、呼吸を整えながら顔を上げる。

 

「伏、黒さん……!」

「……何の用だ? まさか、オマエもそういう趣味か?」

「ち、ちが……! 俺はホモじゃねえッての!」

「……」

「本当だッて!」

 

 北条というホモに目をつけられた甚爾は、玄野に疑いの目を向ける。玄野は慌てて弁解するも、余計に怪しく感じる。

 

「冗談だ。早く要件を言えよ」

「あ、ああ……伏黒さん、アンタに頼みがある!」

「あ?」

 

 そういうや否や、玄野は地面に膝と額を付け──

 

 

「──俺を、アンタの弟子にしてくれ!!!!」

 

 

 ──渾身の土下座で、天与の暴君に弟子入りを志願した。

 




しかし、伏黒甚爾がただで弟子入りなんて受け入れるわけがなく──。

原作との田中星人編との乖離点
・玄野が3体田中星人を始末。それにより、北条と岸本の点数が5点ずつ減っています。
・珍走団二人の生存。
・玄野のパワーアップフラグ。

次回からは千手編です。
初期のガンツにおけるターニングポイントとも言えるミッション。ようやくパパ黒と勝負になりそうな星人が。
活動報告にも書いておりましたが、千手編は全部書いてからまとめて投稿したいなぁと思ってるので、また更新が空くかもです。あまりにも長くなりそうだったら、書けた部分だけ投稿という形になるのかも?

それでは、次回もお楽しみに〜!


あと、更新していない時に総合評価2600突破、評価数80人になるとは思わなかったです……。
本当にありがとうございました……!!!!


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あばれんぼう星人・おこりんぼう星人編
0008 弟子入り


3月に投稿する予定が、セキロウにハマって4月になった侍。
申し訳ないです。
とりあえず、千手編全部とまでは行きませんが、導入部まではほとんど書けたので、そこまで投稿します。
次話は明日の夜には更新されるかと!

あと、いつもいつも誤字報告ありがとうございます……!
書いてると意外と気づかないもので。本当に助かってます。ほんとに誤字多い。

それでは!

PS.
ユニ先輩かわいい


 玄野計は、とある高層マンションの建設現場にやって来た。数年前に建築される予定だったこのマンションは、担当していた建設会社が倒産し、計画が頓挫。それっきり放置されたままとなっていた。

 昼間も人気(ひとけ)が少なく、夜はより一層顕著だ。人目を気にする者たちが集まるにはうってつけの場所だった。

 そんな場所にやって来たのは、ある男──伏黒甚爾と待ち合わせしているからだ。

 

 田中星人との戦いの後、玄野は甚爾に弟子入りを懇願した。

 ガンツの部屋、ミッション──あの場所こそが己の居場所なのだと気づいた玄野は、同時にある不安を覚えていた。

 確かに今回は無事に生き残ることが出来た。だが、それは運が良かったからだ。確かに玄野にはセンスがあるかもしれない。それでも、実力が不足していることは明白だ。

 経験値のあった西でさえ死んだ。まだたった二回しかミッションに参加していない自分が、これからも生き残れるのか。

 

 ──生き残るための力がいる。

 

 力を、身につけなければならない。

 だから、玄野が知る限りの最強の男──伏黒甚爾に強く惹かれたのだ。

 彼のようになりたいと、ならなければならないと。

 

 残念ながら、了承の返答は得られなかったが、代わりに二日後にここに来いと言われ、玄野は約束の場所へとやって来た。

 集合時間は19時であり、現在の時刻は18時40分。少しだけ早く来すぎたかもしれない。

 

(岸本、大丈夫かなぁ)

 

 道中で購入したホットコーヒーを飲んで身体を温めながら、ふと岸本のことを思い出した。

 一応、夕飯は置いておいたが、少しだけ心配だ。

 

 岸本恵。

 あの部屋で出会った、玄野が絶賛恋している女の子。顔も整っていて、スタイルも良く、性格も可愛い。そんな彼女と玄野は同棲している。

 恋人というわけではない。岸本には帰る家がなく、玄野の家に居候しているだけだ。

 

 ──ここにいる人間は……FAXから出て来た書類なんだよ

 

 西があの時言っていたこと。

 話半分程度に聞いていたが、それが事実であることを玄野と岸本はその目で見た。

 

 ()()()()()()()()()

 

 ガンツは適当だ、と西は言っていた。

 生死の細かい確認をせずに部屋に死者を誘うことがあるらしい。()()()()()()()()()()人間を蘇生させる──その場合、()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 ガンツの蘇生は蘇生ではなく、肉体と人格をコピーしてあの部屋に吐き出している。

 信じたくはないが──普通に生活している岸本を、玄野は目にしてしまった。

 であるならば。

 玄野と過ごした岸本恵は、()()()()()()()()()

 そして。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それを証明する手立てはない。

 岸本が、幼い頃にやんちゃした時に出来た傷が消えていたと。それは玄野も同じだった。

 ゾワリ、と背筋が凍る。

 世の中には、知らない方がいいこともある。

 気づいてはいけなかったことに気づいたようなそんな感覚を、玄野は確かに感じていた。

 

(──まぁ、考え過ぎか。俺は俺だし〜)

 

 玄野は、その辺は図太かった。現実逃避しているだけかもしれないが、気が狂っておかしくなるよりはマシだろう。

 

「……あれ?」

 

 ふとそこで、あることに気づく。

 伏黒甚爾──彼は部屋に呼び出された時、口端に傷痕が付いていた。

 

(なンで消えてないんだろ)

 

 ま、いいか。

 ガンツは適当だと言っていたし、そういうこともあるだろう。

 

 浮かんだ疑問はすぐに消え、時計を見ると既に集合時間の19時を過ぎていた。

 待ち人の姿はなく、遅刻かよ、とため息を吐く。

 

 

 ──伏黒甚爾が姿を現したのは、それから30分が経った後だった。

 

 

「悪ぃな。用事があってな」

「いや、それはいいんすけど」

「スロットやっててな。辞められなかった」

「ざけんな!」

 

 悪びれずにそう言う甚爾に、玄野は声をあげる。

 ロクでもない男であることは知っていたが、やはり実際に直面するとより一層ダメ具合を感じる。ガンツに駄目ゴリラなどというあだ名を付けられるのも仕方がないのかもしれない。

 

「細かいことは気にすんなよ。これからする話は、オマエにとっても悪い話じゃねぇんだ」

 

 ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

 

 

「弟子入りつってたよな? ──いいぜ、その話受けてやる」

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 甚爾が参加した、たった二回のミッション。

 星人と呼ばれる異形を、身勝手に蘇らせた死者を使って殺し合わせるという悪趣味なゲーム。

 甚爾が戦ったネギ星人と田中星人は、ハッキリ言って雑魚と言わざるを得ない存在だった。等級換算で言えば三級レベルの存在。高くても二級下位程度だ。

 だが、いつまでもそうはいかないだろうと甚爾は思っている。

  理由は100点メニューの"2番"。もしもネギ星人や田中星人程度の敵しかいないのであれば、部屋の標準装備以上に強い装備など配布する必要性はない。

 甚爾の推測通りにミッションを賭け事で遊んでいる輩がいたとして、そんな奴らから見ても面白くはないだろう。

 

(少なくとも、田中星人なんざ目じゃねえレベルの星人が出てくるのは間違いねぇ。それこそ、俺がヤバいと思っちまうくらいの奴だって十分あり得る)

 

 考え過ぎかもしれない。それでも、対策は練って置いて損はない。

 これまで部屋で行われたミッションの内容が分からない以上、推測で動く他ないが、最悪のケースを想定して動く方がそれ以外のケースでもより楽に動けるようになる。

 

 そのためにはまずは戦力の増強だ。

 "2番"の武器はその詳細こそ不明だが、持っていて損はない筈。強い武器という文面を信じるならば、部屋の標準装備を超える実用性と効果は搭載されていると考えていい。100点を取った際は、よっぽどの事情がない限りは"2番"を選ぶつもりだ。

 そして、武器以外の戦力──つまり、部屋の住人(プレイヤー)の実力だが、これが1番の問題でもある。彼らは甚爾とは違い、元々一般人。喧嘩程度が精々で、命を賭した殺し合いに参加するには、経験不足だ。

 甚爾としては正直なところ、甚爾を頼らずとも星人と十分に戦えるレベルには育ってほしいというのが本音だ。

 

(1()()1()()()()()()()()()なんざ現れたら、俺でもお手上げだしな)

 

 そんな星人がいないとは信じたいが、生前の経験則から断言は出来なかった。術式を巧く活用することで擬似的な不死を再現した呪霊や呪詛師は実際にいたのだから。

 それ抜きにしても、ミッションは個人戦ではなくチーム戦。協力した方がクリアの効率は高い。

 術師殺しを知っている者ならば、甚爾の考えに驚きを見せるかもしれないが、それは()()()()()()()()()()()()()()()だけに過ぎない。元々、利用出来るものは全て利用する戦い方だったのだ。やっていることに変わりはしない。

 

(ま、とりあえずものは試しだ。そういう意味じゃ、玄野が弟子入りして来たのは僥倖だった)

 

 視線の先──そこには玄野がいた。軽く身体を動かしながら、ウォーミングアップをしている。

 

 ──甚爾は玄野の弟子入りを受け入れた。

 

 その理由は単純。メリットが大きいからだ。

 前述した戦力の増強。放って勝手に育つのを待ってもいいが、それなら戦闘に関してのノウハウを所持している甚爾が指導した方が早い。その際に取られる時間や手間は、まぁ必要経費といったところだ。

 そしてもう一つはお金。

 これは玄野の弟子入りを認める際に甚爾が()()()()()()が関係する。

 

 その条件とは──()()5()()()()()()()()()()()()()

 

 端した金でもないよりはマシだ。欲を言えば、最低値でも10万は欲しかったが、玄野が学生であることを考えれば支払える値段は限られてくるためにこの値段で設定した。それに、予定としては()()()()()()()()()()()()()()。1人あたり5万として、6人集まればそれだけで30万も集まる。

 しかし、5万は決して安い金額ではない。多少はごねられると思っていたが、意外にも玄野は二つ返事でその契約を了承した。命を守るためと考えれば安い金、と判断したのかもしれない。玄野以外がそれに了承するかは、その時次第だ。

 

 問題は、玄野を次のミッションまでにどれだけ使い物に出来るか。現状、玄野がどれほど使えるか、だ。

 甚爾が持っている玄野の情報は少ない。性格程度しか把握しておらず、その実力というものを実際に目にしたのはネギ星人の時だけだ。

 現段階でもそれなりには戦えるだろう、とは思っている。ネギ星人にも臆することなく星人に立ち向かっていたし、田中星人はスーツ無しで3体も葬り、生還している。その事実から、あの部屋の住人の中では、最も生存出来る可能性が高い。

 それでもまだ未熟であることは否定できないが。

 

(ま、最低限使えるようにはするさ)

 

 今はまだ、運とセンスだけの戦闘スタイルをしっかりとした形に組み立てる。当面の目標は、その程度でいいだろう。

 

 玄野、と呼びかけると運動をやめ、すぐにこちらへ向かってきた。

 

「えーッと?」

「方針が決まった」

 

 よく聞いておけよ、と忠告する。

 

「とりあえず、今日から毎日──っつうわけにはいかねぇが、二日に一度程度は俺が訓練をつけてやる。オマエの自由時間は潰れるが、構わねぇよな?」

「あ、ああ」

「ならいい。つっても、俺が本格的に教えるのはまだ先だがな」

「え?」

 

 甚爾の言葉に玄野は疑問符を浮かべる。どうやら、最初から本格的な訓練に入ると思っていたようだ。

 

「オマエがどんな想像してたかは知らねぇが……何かを身につけることにおいて、一番大事なものが何か知ってるか?」

「……基礎と基本?」

「そうだ。基礎と基本。いきなり高度なことをやらせても無理だ。才能あるヤツも同じだ。大元がしっかりしてねぇと、いずれ何処かで破綻しちまうんだよ」

 

 骨組みを頑丈に作らなければ、どれほど立派なものを作り出しても崩れ落ちる。

 呪術師は前提として呪力と術式(さいのう)が必須だが、それはあくまで資格だ。そこから強くなっていくには、呪力操作や術式の理解、体術などが重要となっていく。

 甚爾は特にその辺りが顕著だ。

 頼れるのは己の肉体のみ。解釈による術式の拡大などが出来ない。ひたすら肉体を強化し、知識を蓄え、経験を積む──基礎基本の積み重ねしか出来なかった。

 だからこそ、甚爾はその重要性を誰よりも知っている。

 その果てに、一度とはいえあの五条悟を下すことに成功している。

 

 だからまずは大元である身体の使い方──戦闘に適した動きを教える。

 

「でも、身体の使い方って言っても、スーツがあるならどうにかなりそうな気がするけど」

「いきなり、向上した身体能力を使いこなせるわけねぇだろ。まぁ、これに関しては実際に動いてみないと分からないだろうがな」

 

 スーツ着用時と未着用時の差は大きい。向上した身体能力に感覚が追いつかないこともある。スーツの最大パフォーマンスを発揮するには、慣れる他ない。

 

「あとは筋トレも並行してやってくぜ。スーツは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってのがあのスーツの力だ。つまり──」

「──素の力が強ければ強いほど、スーツの効力はより発揮される」

「そうだ」

 

 でなければ、甚爾の身体能力は大幅に下がっている。甚爾の肉体は、常人がスーツの恩恵を受けても到達出来ない領域にある。

 天が与えた呪縛の肉体。

 如何にスーツがオーバーテクノロジーの結晶だとしても、再現できるものではない。

 

「だから、初めのうちは基礎体力と運動能力の向上、その過程でスーツの動きに慣れるのが目標だ。そのうちスーツに振り回されずに恩恵を最大限に発揮出来る様になる」

「あ、ああ…!」

 

 玄野は強く頷く。

 

 さて。一通りの説明は終えた。到達点(ゴール)筋道(プラン)については、オマエの成長具合によってまた変えていくつもりだ。

 

「なんか質問はあるか?」

「あー、他の奴らには声掛けなくてもいいんすか?」

「ああ、必要ねぇ。まずはオマエ一人からだ」

 

 これには理由がある。玄野には、あの部屋を率いるリーダーになってもらいたいからだ。

 適正自体は加藤に軍配が上がるが、アレはダメだ。根底が善人であり、冷酷になれない。チーム内の仲が深まる代わりに、従った結果に破滅する可能性が大いにある。

 星人との戦いの最中に一般人が紛れ込めば、自分の命を顧みずに助けるだろうし、最悪の場合星人にすら情けを掛けることもあるかもしれない。

 加藤の在り方は人を惹きつける。

 だが、その果てにあるのは希望とは限らない。そんな漫画のような展開が起こりうるほど、現実は甘くない。

 

 その点に関しては玄野は問題ない。

 力を得ようとする貪欲さに、星人に対して容赦なく在れる。

 星人を倒し続けていけば、自然と部屋の住人は玄野についていくようになる筈だ。

 

「俺も人に教えるのは素人。いきなり大人数を相手取るよりも、オマエで経験を積んでおきたい。それにオマエがある程度成長すれば、俺がいけない時でも代わりになれるしな」

 

 リーダー云々に関しては、玄野には黙っておく。重荷となり、悪影響が出ても困るからだ。

 前者は虚言。後者は本音。それらしい嘘と真実を混ぜて説明すると、玄野は納得したようだった。

 

「他にはあるか?」

「いや、特には」

「OKだ。じゃ、さっさと始めるぜ」

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 訓練自体は2時間ほどで終わった。

 やったことといえば単純で、全力で走り回ったり、思い切り跳躍してマンションに着地したり、そこから飛び降りたりなど、子供の遊びの動きを大幅に増大させたようなものばかりだ。

 

「意外と良かったな。スーツ着てても高所から飛び降りたり、飛び乗ったりするのにビビったりするかと思ったが、杞憂だったな」

「まぁ、昔歩道橋からトラックに飛び乗ったこともあるし……その辺はあまり」

「手間が省けていいこった」

 

 褒められることになれてないからか、少し気恥ずかしくなった。

 家族も学校も玄野を認めてはくれなかった。だから、自分を認めてくれる存在に、玄野はありがたみを感じていた。

 

「んじゃ──()()()()()

「え?」

 

 ──次?

 そう思って甚爾の顔を見ると、玄野の顔が引き攣った。

 何故なら、甚爾は非常に悪どい笑顔をその整った顔面に貼り付けていたからだ。

 

「ボーナスステージみたいなもんだ。これから訓練の終わりに、オマエには()()()()()()()()()()()

 

 ああ、勿論本気じゃねぇから安心しろ、と言われたが、安心出来る筈がない。

 何故なら玄野は一度見ているからだ。スーツを着ていなくとも、あのヤクザを一撃で昏倒させた甚爾の実力を。

 

「何で、ってツラしてるな。簡単な話だ。格上との戦いに慣れておくためだ。星人がいつも自分と同等以下と思うなよ」

「た、確かに」

 

 それに、甚爾の動きから盗めるものもあるかもしれない。

 これもより強くなるため。

 ならば。

 

「やってやる──!」

 

 玄野が拳を構える。

 甚爾は笑う。

 

 

「──ちなみに、俺に一発も入れられなかったら夜飯はオマエの奢りだ」

 

 

 その日、玄野は一度も甚爾に触れられずに地面の上に何度も転がされた。

 

 

 

 

──それから二週間が経ち、玄野たちは再び黒い球体の部屋へと呼び出された。

 

 

 

 




やる夫ガンツ読み直しましたが、ほんとに面白いですねぇ。
興味がある方は是非、読んでくださいな。

それと、活動報告にも載せましたが、掲示板回をいつか書くかもです。
プロットもどき通りに行けば、おそらくかっぺ星人あたりで投稿できるんじゃないですかね。
まぁ、ほんとに番外編みたいな感じなので、本編に本格的に関わったりはしないです。

一応、アンケートも取っておこうと思うので置いときます。


PS.
プリコネにハマりました。
ユニ先輩かわいい。


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0009 仏像バトル

お気に入り減ってぴえん。
でも評価が増えたのでヨシ!
いつも誤字報告ありがとうございます 

千手編読み直したけど、やっぱり面白い。早く大阪編まで行きたいですね〜。

それでは、どうぞ。


「おやすみ、玄野くん」

「ああ、おやすみ」

 

 就寝の挨拶を交わし、布団に入る。勿論、違う布団だ。玄野がベッドで岸本が敷布団。部屋は一つしかないため、同じ部屋で寝ている。

 

 岸本と生活を始めて1ヶ月が経ったが、結構慣れてきた。最初こそドギマギしていたし、そういう雰囲気と勘違いして間違いを犯してしまいそうにな(胸を揉んでしま)ったこともあるが、今ではもうそんな気分にすらならない。

 岸本のことは好きだ。今でもそうで、告白されたらたぶん秒で返答するだろう。

 けど、岸本が玄野に告白することはない。彼女の好意は別の人間(加藤)に向いている。玄野など視界の外側だ。最初こそ、加藤加藤と加藤のことしか喋らない彼女にイラついていたが──

 

(なんか、どうでも良くなったな)

 

 というのも、おそらく甚爾との鍛錬がストレスの解消になったからだろう。テレビか何かで身体を動かすのはリフレッシュにもなると言っていたのを聞いたことがある。

 無論、岸本が玄野に好意を向けてくれるのなら、それに越したことはないけれど。

 そんな感じで、玄野と岸本の関係性はそれなりに良好だった。

 

 さぁ、今日も鍛錬で疲れた身体を癒そう──目を閉じて、夢の世界に入ろうとしたその時だった。

 

 

──ゾクゾク

 

 

 首筋を這う、悪寒。

 

「岸本!」

 

 玄野は起き上がり、岸本に声をかける。彼女も気づいたらしく、頷く。その腕にはスーツの入ったケースが抱かれている。

 玄野と岸本は、予め決めていたことがある。それは、ミッションの予兆が現れた時、すぐにお互いに確認し合うことである。トイレなどでミッションの準備ができない時、片方がそれを補うことで前回の玄野が陥った事態を防ぐことが出来る。

 

「ミッション……」

 

 岸本が、心配そうに眉尻を下げる。

 ミッションに対して恐怖を覚えているのだろう。おそらく、それは前回のミッションが原因。

 田中星人との戦いで初めて人の死を間近で見た彼女は、自分の死を幻視してしまった筈だ。一度自ら命を絶ったとはいえ、死が怖くないわけがない。

 

「……岸本、俺や伏黒さん──加藤もいる。だから、あんまり怖がンなよ」

「玄野くん……」

 

 ここで俺が守ってやる、とでも言えれば良かったが、玄野はヘタレた。それでも、及第点と言ってもいい。

 

「うん、ありがとう」

 

 安心したのか、表情が若干柔らかくなった岸本は、そのまま「着替えてくるね」と脱衣場へと向かっていった。

 玄野も同じく準備を始める。向こうで着替えてもいいが、甚爾からなるべく着替えて来るように言われている。前回のように新人が悪ふざけで武器を向けてくる可能性があるためだ。

 

 準備を終えると、狙っていたかのようなタイミングで転送が始まった。

 

(何だろう──すげェ、ワクワクするぜ)

 

 岸本とは違い、玄野はミッションに対して高揚していた。

 ミッションという居場所。いつかの自分に戻ったような気がするのだ。ミッションでなら、ヒーローになれる。

 それに、甚爾から受けた指導の成果を試したくて堪らないのだ。どれだけ自分が戦えるようになったのか──気になって仕方がない。

 

 転送が終わり、いつもの部屋へと飛ばされる。部屋にいる住人を確認した玄野は、思わず目を見開いた。

 

(なんだよコイツら……知ッた顔一人もいねーぞ……)

 

 最初のミッション以来のことだった。いや、最初のミッションでも隣には加藤がいたし、田中星人の時は西がいた。知らない人間に出迎えられるのは、今回が初めてだ。

 

(1、2、3……9人、多いな)

 

 テレビで見たことがある坊主にチャラ男、迷彩服を着たデブ、空手服を着た外人にスタイルの良い女性──これまた共通点のない者たちばかりだ。

 彼らは怪訝にこちらを見つめているが、特に気にはならなかった。このスーツの強みを知っているからだ。

 先にいた面子を特に気にすることなく玄野は座り込む。ミッションが来るまでは休憩しておこう。

 すると、坊主が「ここは死後の世界だ!」などと言い始めた。彼は坊主。死後の世界を信じているのだろう。新人たちから投げかけられる質問に次々と答えていくが、その様子を見て思わず玄野は笑ってしまった。

 何も知らない彼らからしてみれば、そう思うのも無理はない。ネギ星人の時もこの部屋が死後の世界だと信じていた者がいた。ただ、この部屋がどういう場所を知っている身としては、失笑する他ない。

 

 そんな坊主を中心とした珍光景を眺めながら待っていると、再び転送が始まった。まず転送されて来たのは加藤だ。続いて、北条、犬、岸本と経験者組がやって来る。

 

「計ちゃん、伏黒さんはまだ来てないのか?」

「ああ、まだみたいだな。あとヤンキー二人も」

 

 甚爾と別れたのは3時間ほど前──そういえば「これから打ってくる」なんて言ってた気がする。

 

「あっ」

 

 噂をすると何とやら。転送されて来たのは、甚爾その人だった。

 彼は腕を組んだまま転送されてきており、その顔は不機嫌そのものだった。

 

「──ガンツ……! マジでふざけんなよオマエ……」

 

 転送が完全に終わり、動けるようになった甚爾が膝をついた。彼の纏う雰囲気は怒りからか刺々しいが、何処か哀愁漂っているようにも感じる。

 ただごとじゃないと思ったのか、加藤が甚爾に話しかける。すると、甚爾は大きくため息を吐いて気の抜けた声色で一言。

 

 

「──全回転中だったんだよ。だってのに転送始めやがって……」

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

「おーおー、今回は随分と新人が多いじゃねぇか」

 

 ショックから何とか立ち直った甚爾は、ようやく部屋の状況を認識し、新人の多さに驚いた。

 集められているメンツはやはり性別も年齢もバラバラだが、今回は一人外人がいた。それに明らかにその他のメンバーとは違う、()()()()()()()()男も。おそらく軍人なのだろう。座りながらも周囲の警戒を怠っていない。

 もしかしたら今回は、それなりに難しいミッションなのかもな、などと思った。根拠は特にないが。

 

「新人? 貴様、何を言っておるのだ」

「あ?」

 

 甚爾に噛み付いて来たのは袈裟に身を包んだ坊主だった。怪しむようにして甚爾を見上げている。

 

「俺らはこれから殺し合いに行くんだ──つったら、オマエは信じるか?」

「信じるものか! やはり貴様は煩悩の化身──!」

「まぁ、坊さんなら仕方ねぇか」

 

 こういう何かを信仰している人間は思想が凝り固まっているため、何を言おうとも無駄だ。期間があれば説得も不可能ではないが、短期間では不可能だろう。

 暴力で従わせたとしても役に立つとは思えないので、放って置いていいだろう。

 

「その人の言う通りだッ!」

 

 声を張り上げたのは、加藤だった。

 

「これから俺たちは殺し合いに連れて行かれる! 生き残りたいのなら、俺たちに従ってほしい!」

 

 前回と同様、加藤は新人を導くつもりらしい。

 前回とは違い、これだけの人数だ。スーツを着れば戦力になるし、それだけで住人の生存率が上がる。

 

「耳を貸すな! 其奴も煩悩の化身! 耳を傾けるな! さすれば、我々は無事に極楽浄土へと誘われる。耐えろ、耐えるのだ……」

 

 しかし、その説得を坊主が邪魔をする。いや、本人からすれば導いているつもりなのだろう。同時にこの非現実的な状況から目を背けるために自分に言い聞かせているように見える。

 やはり社会的信用としては、高校生程度の子供(加藤)得体の知れない男(甚爾)よりも坊主の方があるのだろう。チャラ男、中学生、ミリタリーデブ、空手外人、サラリーマンと、新人の過半数は坊主と共にお経を唱え始めた。

 

「クソッ」

「ほッといた方がいい。たぶん、コイツらは耳を貸さない」

「ホm……北条」

「オマエ、今ホモッて言おうとしなかッたか?」

 

 北条は、新人は諦めろと言う。説得は不可能だと判断したのだろう。

 いや、まだだ、と加藤が諦めずに再び説得に向かう。

 

 面倒な気質だな、と甚爾は加藤を冷めた目で見つめる。加藤はひたすら善人だ。ただ、善人にもいくつか種類があり、加藤は正義感が強いタイプだ。

 誰にも傷ついてほしくない。死んでほしくない。そうして、他人の思いを、命を背負い──そして、最後には耐えきれずに壊れてしまう。

 リーダーになれる素質を持つと同時に、崩壊するリスクを背負う人間──それが加藤勝だ。

 

(一般人が巻き込まれたら、庇いそうだもんなぁコイツ。面倒くせ)

 

 自分の大切な人間ならまだにも、見知らぬ人間を救おうとする気概は甚爾には分からなかった。

 

 

 それから数分が経った。

 加藤の説得は意外と上手くいった。ガンツが歌を流すこと、球が開くことなど、これから起こることを伝えることで信用を完全にとは言わないが勝ち取ることが出来たのだ。

 また、前回生き残ったヤンキーたちが転送されてくることはなく、どうやらミッション外で命を落としてしまったようだ。大方、違反行動でもしてガンツに始末されたに違いない。

 新人たちはガンツから提供されたスーツや武器を手に取り、興味深そうに観察している。

 甚爾はそんな彼らを尻目にガンツに表示された星人の情報に目を通していた。

 

 

あばれんぼう星人

 特徴

  つよい

 おおきい

 きな

  せいとこ おこりんぼう

 ぐせ

  ぬん

 

 

 おこりんぼう星人

 特徴

  つよい

  おおきい

きな

  せいとこ あばれんぼう 

 口ぐせ

  はっ          』

 

 

(金剛力士像、か。置かれてるのは東京だったら、浅草寺、観音寺、本門寺、か)

 

 ネギ星人、田中星人の例を見るに、星人は基本的に人間社会に上手く溶け込んでいる。今回のおこりんぼう星人とあばれんぼう星人は仏像に扮していると考えられる。

 特徴につよいと記されているが、ネギ星人や田中星人にも同じことが書かれていた。気にするだけ無駄だ。

 

(さて、今回は何人生き残るだろうな)

 

 全員が助かることはない。少なくとも坊主は確実に死ぬ。ネギ星人や田中星人レベルであれば、庇いながら動くことも出来るかもしれない。ただ、甚爾たちを敵視している彼がこちらに近づいてくるとは思えない。

 甚爾の予想では、経験者はほぼ全員。新人だとあの軍人や冷静に物事を見ている眼鏡、それと玄野に何故か熱い目線を送っている女くらいだ。尤も、難易度によって増減はするかもしれないが。

 

「あっ!」

 

 どうやら転送が始まったようだ。最初は北条(ホモ)から。その様子を見た加藤がスーツを着るように促すが、反応は薄い。武器とは違い、スーツの着用に抵抗があるのは何となく分かる。

 スーツの重要性を知っている経験者からすれば、しのごの言ってはいられない。ただ、新人からすればコスプレをしているようにしか見えないのだ。

 ただ、眼鏡の男と軍人はスーツを着ることを決断したようで、ケースに手を取り着替えに向かった。

 

 転送を待っている間、特にすることがなかったのでいつものスウェットを脱ぎ、カンフーパンツに履き替える。

 甚爾の高速戦闘にも耐えられる優れものだ。

 

「お、次は俺か」

 

 着替えると同時に甚爾の転送が始まった。

 

「ねぇ、キミ。そのスーツ、やッぱり着た方がいいの?」

「え、俺? うん、着た方がいい」 

 

 転送される直前、玄野と新人の女性が何やら話していたが──まぁ、どうでもいい。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

「ああ? 何処だ、ここ」

 

 転送された先にあったのは、確かに寺院だった。しかし、この寺を甚爾は見たことがなかった。

 寺の名前を確かめると、羅鼎(らてい)院と記されてあった。聞いたこともない。小規模なものならまだしても、これ程大きな寺であるならば知らない筈がない。東京ともなれば尚更だ。

 

(マジもんの異世界っつーことか)

 

 これまで見てきた建築物などは以前いた世界と変わらなかったため、特に気にしてはいなかったが、甚爾の知らない寺院があったことで改めて認識出来た。

 ここはやはり、甚爾がいた世界とは違う場所なのだと。

 

(とりあえず、ミッションを進めるか)

 

 ただ、そんなことは今考えても仕方がないことだ。思考を切り替え、目先の集中することにする。

 

 今回ガンツが提示した星人はこの仁王だ。特に動く素振りを見せないため、とりあえずマップを確認することにした。

 レーダーマップを開くと、星人の居場所と今回の行動範囲が表示される。どうやら今回は羅鼎(らてい)院全体が範囲となっているみたいだ。

 星人の数は全部で18体。ネギ星人や田中星人よりも多い。

 ただ、そのほとんどは寺院の中に点在しており、今のところこちらに気づいている素振りはない。問題は、最も近い箇所にいる──というより、目の前にある2体の反応。

 チラリと視線を向けると、確かに見た目は普通の仏像ではあるが、注意深く見ればその瞳がこちらに向いているのが分かる。

 

「伏黒さん」

 

 全員の転送が終わり、さっきまでは静かだった空間が一気に騒がしくなった。加藤や岸本が新人に気を掛ける中、玄野が甚爾に話しかけてきた。

 

「コイツ、星人ッすよね?」

「ああ、反応も出てる。さっさと殺すぞ」

「待ッてよ。殺すッて……これ、壊すの? 大丈夫なの?」

「誰だオマエ」

 

 甚爾の言葉に驚いたような反応を見せたのは、玄野の後ろに立っていた新人の女だった。すらりとしたスタイルに、岸本と同じくらいの胸。顔は愛らしいというよりは美しいという言葉が似合う美女で、スーツを着ていることでそれらがより際立って見える。

 

「桜丘聖。玄野クンから少し話を聞いてるけど、これから殺し合いするッてホントなの?」

「俺は伏黒甚爾。本当だ。ま、説明するよりは見てもらった方が早い」

 

 やるぞ、と玄野に声を掛けると玄野が頷く。

 二人はXショットガンを仁王に構え、躊躇いなく引き金を引いた。

 

「何も起こらないけど」

「タイムラグがあんだよ」

 

 そう言った途端に仁王の顔面が破裂し、血や肉片を撒き散らしその巨体がぐらりと崩れ落ちる。

 その様子に桜丘だけでなく、加藤たちも驚きを露わにした。

 

「計ちゃん、伏黒さん、なにして──!」

「星人狩り──行くぞ」

 

 一々、加藤たちに構ってはいられない。

 甚爾は門を容赦なく蹴破り、寺院の中へと侵入する。

 今の破壊音で中にいる星人たちがこっちに気づいた可能性がある。門の近くはマップの範囲内ギリギリであり、物量で攻めてこられた場合、こちらが圧倒的に不利だ。

 今回もこれまでのミッション同様、別格のボス星人がいると考えれば、リスクはあるが戦いやすい寺院内に入った方がいい。

 

 寺院に入ると、囲うようにして10体の星人が現れた。

 武器を持っているもの、そうでないものと特徴は様々だ。ただ、大した相手ではない。田中星人のボスよりは確実に弱い。

 

「玄野、オマエは3体やっとけ。俺が残りをやる」

「了解ッす」

 

 一人でも全員相手取れるが、玄野の経験値のために数体を譲る。油断さえしなければ倒すことが可能だろう。

 玄野から目を離した甚爾は、即座に仏像星人へと距離を詰める。狙ったのは、長槍を持った個体。リーチもあり、遠くから投擲で狙い撃ちも可能。他の個体は殆ど素手か鈍器のため、後回しで大丈夫だ。

 狙われた仏像星人は、槍を振るうが甚爾はそれを体を捻ることで避け、ガラ空きとなった顔面へと拳を振るう。

 甚爾の膂力は、岩をも容易に砕く。仏像星人の首は砕かれ、そのまま機能を停止した。

 だが、甚爾の攻撃はまだ終わらない。仏像星人の死体をもう一体に投げつけ、視界を塞ぎその隙にガンツソードで突き刺した。そのままソードを手放した後、地面に置いていたXショットガンを掴んだ。ひとつ、試してみたいことがあったのだ。

 

(多重ロックオン──たった今思いついたが、出来るか?)

 もしも多重ロックが出来るのならば、星人の殲滅効率は格段に上がる。試してみる価値はある。

 だが、そこで甚爾にとって想定外の事態が起こる。

 

「すじょぬるまぬ」

 

 甚爾を囲っていた仏像星人たちが一斉に逃げ出したのだ。

 葬られた仲間を見て、自分たちでは勝てないと判断。勝てないのならば──()()()()()()()()()()()()()()()。彼らが向かった先は、加藤たち、新人がいる場所だ。

 

「星人のくせに、中々人間臭えことしやがる」

 

 だが、折角の点数だ。1体2点としても14点は手に入る。逃がすつもりはない。

 それに残ってる星人やボス星人も控えている。もしかしたら今回で100点を狙えるかもしれない。

 

 星人の死体から刀を引き抜き、天与の暴君は星人狩りを再開した。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 甚爾が逃げた星人を狩っている頃、玄野も無事に3体もの星人を倒していた。

 いきなり3体を任された時は驚いたが、意外にも弱かった。周りを見た感じ、スーツを着ていない連中でも渡り合えているので、そこまで強い個体ではないのだろう。

 

「キミ、すごいね。ピンチになったら助けようと思ったけど、気にしすぎだったみたい」

「そ、そう?」

「うん、カッコ良かった」

 

 玄野の戦いを見届けていた桜丘。玄野の目から見ても美女である彼女に褒められて、恥ずかしそうに頬をかく。

 

「あの人──伏黒って言ってたけど、あの人はキミの師匠?」

「ああ……前回のミッションが終わった後から色々教えてもらってる。すげー人だよ」

「私も格闘技には自信があるけど……あれは別格ね」

 

 二人の視線の先には、逃げ出した星人を次々と殺している甚爾の姿があった。格闘は勿論、武器の扱いも卓越している。未だに何故死んだのかが理解出来ない。

 

「俺も、あの人みたいになりたいんだ」

「え?」

「あの人みたいに強く」

 

 そういう玄野の目は、爛々と輝いていた。桜丘は、まるで吸い込まれるように、その瞳から目を離せない。

 そして。

 

「ねぇ、このミッションが終わったら、付き合わない?」

「え、ぁ……はぁ!?」

「んふ、その反応、可愛い」

 

 そう言って桜丘は玄野の唇を奪う。

 

「お、オマエ何、して……ッ!」

「あ、初めてだった? ゴメンね?」

 

 訳がわからなかった。玄野の脳は見事に混乱していた。

 けど、何故だろう──不思議と、悪い気分にはならなかった。

 我ながら単純な男だな、と思う。

 

「いいよ……俺で……いいならさ……」

「よし! 約束ね? 免許取りたてだけど、ドライブ連れてッたげる」

「ああ」

 

 二人は笑い合い、立ち上がる。

 生き残るためにミッションを終わらせるのだ。

 

 そんな決意をした時だった。

 

 

 ──ベキベキベキベキベキベキベキベキ

 

 

 そんな強烈な破壊音と共に、寺院の蔵が破壊され、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 仏像星人と戦っていた者たちの動きが一瞬だけ止まる。甚爾は星人を倒しながら「マジかよ」と笑っていた。

 そしてそれは──玄野も同じだった。

 

 好戦的な笑みを浮かべて──一言呟いた。

 

 

「──アイツは俺が殺る」

 

 

 




指摘を頂いたので、パパ黒の転送シーンを修正しました。
転送の予兆が始まったので、急いでトイレへと駆け込んだ模様。



原作との相違点
・玄野に精神的余裕が出来ているので、岸本との関係は良好。なお失恋。
・岸本が出ていかないので、メンタル弱弱玄野くんじゃないので桜丘さんとセックスしない。でも、それはそれで「玄野くん可愛いね♡」ってなったのであんまり変わらない。

補足
羅鼎院は、GANTZオリジナルで原作には存在しない。呪術廻戦は、建築物などは私たちの世界に準拠しているので、本作では羅鼎院は存在しないものとして扱うことにした。


おこりんぼう星人・あばれんぼう星人編 新人一覧

《桜丘聖》
バイクで事故って死んだ巨乳美人。岸本は違う感じで美形なお人。
母性本能が強いらしく、原作では童顔で泣いてた玄野のことが好きになったみたい。
キックボクサーらしく、普通に強い。ステだけなら運と力以外はマックス。成長速度はSであり、原作では相手が悪かっただけで、何かが違えばいきのこれたかもしれない。

《宮藤清》
眼鏡の男。頭が良く、冷静に状況を把握できてたりしたのでガンツ適正能力はそれなりにある。
原作ではボスに喰われて死んだ。

《東郷十三》
自衛隊員の男。原作ではスーツを着ていなかったために死んでしまったが、遠距離で星人を次々と葬って来た射撃の腕は確か。
スーツさえ着ていれば生き残れてたんじゃないかなって。
割と二次創作では生存しがちな男。


《JJ》
空手にハマった外国人。スーツ着てなくても星人と戦えるなど、素の戦闘能力は非常に高い。スーツを着ていなかったため原作では死んでしまったが、もし着ていれば生き残れるかは別として、かなり戦力になっていたのではないだろうか。


《岡崎明俊》
サバゲーが好きなサラリーマン。デブ。
銃の扱いには慣れているが形だけど評されている。たぶんスーツ着てても死んでた。

《トマオ》
DJに憧れた中学生。けど、あんまり中学生には見えない。後述する近藤裕太とはミッションを通じて意気投合した。本作でも死ぬんじゃないかな。

《近藤裕太》
渋谷では名の知れたDJらしい。喧嘩慣れしてるか、星人をスーツを着ずに一人で倒すなど、それなりに活躍した。

《徳川夢想》
坊主。僧ではあるが、信仰心などはないらしく、金と女と名誉が好きな強欲男。たぶん呪術にいれば、夏油傑にいいように使われて殺されてたと思うんだ。

《池俊一》
サラリーマン。突出したところはない。実は今話で死んでる。エリア外でバーン。




続きに関しましては、またでき次第投稿します。
実習中ではありますが、まぁ頑張ろうと思います。

感想、評価、お気に入り、お待ちしております〜!


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0010 絶望の仏

本当は明日投稿するつもりでしたが、なんかランキングに乗ってたので投稿します。

それはそうと皆さん、今週の呪術廻戦読みました?
僕はニコニコでした。
フォロワーさんに生死を心配されました。

感想、評価、お気に入り、そして誤字報告──いつもいつもありがとうございます!

ps.
ユニちゃん音頭が頭から離れない。


 甚爾との修行で教えてもらったのは、身体の使い方と戦い方。

 最初はスーツの動きに振り回されっぱなしだったけど、鍛錬を重ねる度に段々と動けるようになって来た。

 

 基礎と基本の積み重ね──それこそが、強さの秘訣だとあの人は言っていた。

 その通りだ。

 だからこそ──俺は、今もこうして生きて、戦えている。

 

 目の前に聳え立つ、20m近くはありそうな大仏。

 さっきの二体の金剛力士像もこれまでの星人より遥かにデカかったが、コイツは奴らの倍近くある。

 殺す──とは息巻いたものの、果たしてやれるかどうか……。

 

(バカッ! やれるかどうかじゃなくて、やるンだよッ! 俺なら、やれるッ!!)

 

 冷静に観察しろ。甚爾は相手の脅威を経験則から察知出来ると言っていたが、玄野にそれはない。元々はただの一般人。一挙一動を見て、動くしかない。

 大仏星人は巨大だが、動きは鈍い。見て避けることもやろうと思えば可能かもしれない。ただ、問題はこちらの攻撃力。Xショットガンの威力は高いが、流石にこのサイズともなると心細い。地道に撃ち続けたら日が暮れてしまう。

 

「無茶よ──流石に、このサイズは」

「いける! 勝てないわけがないんだ。殺せないわけがない。やれるはずだ」

「無茶だって──あッ!」

 

 桜丘が止めようとするが、玄野は止まらない。

 大仏に迫りながら、足首にXショットガンを連射する。

 

「チッ、やっぱり火力が足ンねー!」

 

 削れたのは表面だけ。やはりあまり効果はない。念のため頭部も狙ってみたが、これも同じだ。

 それなら、次にやるのは弱点探し。銃撃にはダメ。殴っても効かないだろう。

 大仏星人が玄野を潰そうと拳を振り下ろし、足を振り上げるがギリギリで掻い潜り避けていく。その間に思考を回し、大仏星人に有効打を与える方法を考える。

 

 そして。

 

「中身──!」

 

 おこりんぼう星人、あばれんぼう星人、仏像星人。

 彼らは見た目だけが仏像で、その中身は肉があり骨があり血があった。同じ種族であるのなら、この大仏星人も同じ筈だ。

 大仏星人の足元を駆けていた玄野は一転して後退の姿勢を見せる。その間にその中身をスキャンし──見つけた。

 やはりそうだ。

 この星人にも他の星人と同じだ。

 殺れる。

 

 十分な距離を取り、立ち止まった玄野は全身に力を入れる。

 スーツの使い方は、鍛錬でよくわかった。力を加えれば加えるほど、より強力なパワーを発揮できる。それを意図的に行い、ため技のように全身を力ませ──発射する。

 ネギ星人の時の走りなど目でもない速度で玄野は寺院内を走り抜ける。加藤たちが心配そうな目でこちらを見ていたが──無視して抜き去る。

 

(ここだ!)

 

 ぐっ、と地面を強く踏みつける。地面にヒビが入り、スーツが更に軋み膨らんだ。

 そして、そのまま玄野は高く跳躍し、弾丸のようにして大仏星人の頭部の傷に飛び込んだ。

 

「外からダメなら、中からッてなー!」

 

 連射、連射に次ぐ連射。

 十発近く撃ったあたりで、大仏星人の体がぐらりと揺らいだ。そのまま力なく崩れ落ち、その中から血塗れになった玄野が這い出てくる。

 

「ハァ、ハァ……! やッた、俺が……俺が、やッたンだ!」

 

 最高の気分だった。アドレナリンが脳の奥底から溢れて仕方がない。

 気分が高揚し、高々と笑った。

 そんな玄野に桜丘が近づき、抱きしめる。

 

「無茶して……帰ったら、ドライブするんでしょ……?」

「大丈夫だよ……別に死なねーッて」

 

 大袈裟だな、と笑う玄野。

 そんな玄野の下へ甚爾がやって来た。

 

「おーおー、お熱いこった」

「伏黒さん!」

「ちらっと見てたが、中々良い戦い方だったな。ま、中身を見る判断はもう少し早くてもよかった」

 

 甚爾からも今の戦いはよかったらしく、良い評価を貰えた。

 これから、もっともっと強くなる。

 どんどん強い星人を倒し、ヒーローになってやる──ぐっ、と拳を握りしめ、静かに決意を固める。

 

「そういえばアンタ、相手していた星人は?」

 

 桜丘の問いかけを聞いてハッとなる。確かに言われてみればそうだ。甚爾は先ほどまで逃げ出した星人を追いかけていたはずだ。逃げ出した星人は5体いたが……。

 

「ああ、それなら全滅。加藤が新人を誘導してたからな。割と簡単にやれた」

「加藤たちは何処に?」

「本殿の方に行ったな。俺たちばかりに任せてられない、だとよ」

 

 加藤なら言いそうなことだ。今回のミッション、星人は甚爾と玄野によって倒されている。それはつまり、命の危険を二人に押し付けていることになる。それはダメだと感じたのだろう。

 おそらく、新人を何処か安全な場所まで送り、スーツ組で残りの星人を狩りに行ったに違いない。

 

「俺もこれから追うが、どうする?」

「行くッすよ」

「なら私も」

 

 甚爾が行けば問題ないだろうが、玄野としては甚爾の戦い方を観察したかった。

 

「なら、さっさと行くか。どうにも嫌な予感がする」

「嫌な予感?」

「ああ。俺たちが倒した仏像共は、仲間が殺されたとなるとワラワラとゴキブリ見てーに釣られて来たが、本殿の星人共は結局こっちに来る素振りを見せなかった。数が減れば不利を被るのはそっちだろうに」

 

 レーダーマップを取り出しながら甚爾が答える。

 確かにそうだ。あの仏像星人たちには知性があった。だから甚爾に勝てないと判断するや標的を切り替えたし、それに呼応するかのように大仏の星人も出てきた。

 よっぽど弱い星人なのか──あるいは()()()()()()()()()

 じわりと嫌な汗が滲んだ。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 玄野と甚爾が星人を倒している頃、加藤たちも別で動いていた。

 流石にこのまま何もせずに傍観するのは無責任だと感じ、彼らも星人を倒すべく、残りがいる本殿の方へと突入していた。

 

「コイツら、だよな……?」

「ああ、たぶんな」

 

 残りの星人は、本殿の中に入るとすぐそこにいた。

 まだXガンのレーダーで確認していないため確証はないが、間違いなく目の前にいる四体の仏像──そして、その中心にいる千手観音像こそが残りの星人だろう。

 

 ここにいるメンバーは8人だ。

 岸本と北条(ホモ)、貞子にチャラ男(コンタ)中学生(トマオ)、そして空手外人(JJ)眼鏡の男(宮藤)サバゲーデブ(岡崎)。僧侶は戦力外のため除外だ。

 幸いだったのは、宮藤がスーツを着ていること、そしてコンタとトマオがスーツを持って来ていたことだった。玄野と甚爾を見て、スーツの有用性に気づいたようだ。

 JJにも僧侶と同じように後方で待機してほしかったが、本人がそれを頑なに拒否。説得を試みたが諦めざるを得なかった。カバーしながら戦うしかない。

 ただ、全員で入るわけにはいかず、前衛に加藤、岸本、北条、貞子。後衛に新人たちを配置している。

 

「よし、撃つぞ」

「うん……早く倒して、帰ろう!」

 

 倒せば帰れる──そんな安心感もあってか、岸本の表情は明るかった。

 だが、何故だろうか。

 加藤は不安を覚えていた。

 今すぐこの場から離れた方がいいと──本能が訴えかけている。

 

「いや、これでいい」

 

 ──いい筈だ。

 

 全員で一斉に引き金を引こうとした──その時だった。

 

【くぬゆふ むぬつち うくぬしむすふ】

【けゆつる おるぐくるす おるぐくるす】

【むぬ しごすいむ むとひ】

【あいう おむちくず すい】

【はとくすぐ いきむせう】

 

 星人が一斉に何かを唱え始めた。

 お経にも似た言葉を羅列する仏像たちに、加藤たちは呆気に取られる。

 不気味。

 ゾワリと背筋に悪寒が走る。

 

 そして。

 

 トン──と。

 

 千手観音が、台座から降りてきた。

 

 

「貞子、加藤、岸本! 逃──」

 

 

 その刹那、北条の首が消えた。

 

「は……?」

 

 いや、正確には違う。消えたのではなく──()()()()()()()

 クルクルと空中で回転する何かが、貞子の足元に転がった。

 それは紛れもなく、北条の生首だった。

 

「ああああああああああああ!!!!」

 

 貞子が叫び、千手観音に向かって銃を向ける。しかし、トリガーを引く直前に、千手の取り巻きの星人がXガンを蹴り上げそれを防ぐ。

 体幹が大きく仰け反り、ガラ空きとなった胴体へレーザービームのようなものが射出され、貞子の心臓を貫き斬り裂く。

 

「あ……北、条……く──」

 

 最後に愛する者の名を呟いて、彼女は力なく崩れ落ちた。

 偶然にも貞子が倒れた先には北条の生首があった。二人は見つめ合うようにして──そのまま二度と動くことはなかった。

 

「北条、貞子……!?」

 

 一瞬だった。ほんの10秒にも満たない時間で、命を預け合った仲間が死んだ。

 

 北条が最後に言おうとしていたこと──おそらく、()()()

 直感的に分かったのだろう。この星人は、自分たちでは勝てないのだと。

 千手観音──これは確かに、これまでの星人とはわけが違う。

 周りの側近らしき4体の仏像星人も外にいたヤツらより十分に強いが、千手観音はそれよりも遥かに上だ。

 勝てない──まだ戦ってもいないのにそれが分かるほどに、この千手観音は怪物だ。

 

「クソッ……!」

 

 不甲斐なさに思わず悪態を吐く。

 状況は一気に悪化した。数で優位に立っていた筈なのに、今では数も質も負けている。強力な個には凡夫な数が合わさったところで勝てるはずがない──そう思い知らされた。

 このまま戦っても勝ち目はないだろう。

 それでも今は戦わなければならない。背後には岸本や新人たちがいるのだ。それに、このレベルだと玄野や甚爾でさえも危ういかもしれない。

 

(勝てなくとも、削る──!)

 

 やれることはあるはずだ。

 加藤は持っていたYガンを構え、千手に向かって放つ。が、それも貞子の時と同じように取り巻きの星人が弾き飛ばした。

 

「ッ!? くれてやるよッ!」

 

 想定外の出来事ではあったが、臨機応変に立ち回る。ホルスターからすかさずXガンを取り出し、蹴り上げた体勢のままの星人に撃ち放つ。殺せたかどうかを気にしている暇はない。

 そのままXガンを千手に向かって撃ち込む。ロックオンもした。絶対に外すことはない。間違いなく、その顔面を破壊出来る筈だ。

 

 取り巻きの仏像星人のうち1体が崩れ落ちる。次は千手観音──これで終わりの筈だ。終わらなければおかしい。

 ぐにゅり、と千手の顔面が歪む。

 倒した──! そう思った次の瞬間、不可思議な出来事が起こった。

 千手の持っている道具──時計の針が逆回りとすると同時に、歪んだ千手の顔がみるみる内に再生していったのだ。

 

「は?」

 

 唖然とする加藤に千手は容赦無く鉄槌を下す。北条の首を撥ね飛ばした、スーツの防御性能すら無視する剣。ハッとなり、避けようとするがもう遅い。剣は既に振り下ろされ、加藤の体を切り裂かんと迫っていた。

 

(ごめん──歩)

 

 最後に思い浮かんだのは、弟のことだった。

 一人、家に残していった唯一の家族に謝罪しながら、諦めたように目を瞑り──。

 

 

「加藤くん──ッ!」

 

 

 岸本が飛び出し、加藤に庇うようにして抱きつく。

 何が──と加藤の思考が真っ白になる。

 

「岸、本……なンで……」

 

 岸本が、加藤の間に割って入ることで盾となった。切り裂かれた彼女の背から血が噴き出す。

 そのままぐったりと加藤に体重を預ける岸本。

 最期に彼女は加藤の目をまっすぐと見て──

 

 

「好き……加藤くん、好き──」

 

 

 岸本恵の最期の言葉。それは、ずっと伝えたかった、けれど伝えられなかった小さな恋心。

 皮肉にも自分自身の死によって、彼女はその想いを告げることができ、加藤も自分の想いに気づいた。

 けれど、もう二度と彼らが共に笑い合える日は来ない。そんな未来は来ない。

 岸本恵は──死んだのだ。

 

 そして──絶望は終わらない。

 

 ズシュッ、と。

 

 柔らかいものに何かを突き刺すような音が本殿に響き渡った。

 その音の発生源は、加藤の首よりも下の辺りからだった。

 視線だけ下に向けると、そこには加藤の胸で眠るようにして目を閉じている岸本の姿が。

 そして、そのまま前方に視線をズラすと──

 

 

「──ぁ」

 

 

 千手の剣が、

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 加藤、岸本、北条、貞子を葬った千手観音は、取り巻きの仏像星人を連れて本殿の外へと飛び出した。そこにいたのは、五人の男たち。

 彼らはこちらに気づくとぎょっとした表情を浮かべた。本殿から加藤たちが出て来ず、代わりに星人が出て来たことの意味が分かったからだろう。

 

「やッぱり、やられたみたいだな……!」

 

 加藤たちの声が外にまで聞こえていたのだろう。それでも逃げなかったのは、彼らのプライドか、それともミッションをまだ甘く見ているのか──おそらくその両方だろう。

 その証拠に、背後に控える僧侶以外はXガンをこちらに向けて好戦的な笑みを浮かべている。JJは武器を持っていなかったが、いつでも動けるように拳を構えている。

 

 そんな彼らを見ても、千手は表情を崩さない。菩薩の如き微笑を貼り付け、彼らを嘲笑っている。

 自分たちと彼らの間にある格の差に気づいていない。その点、先程殺した男は優れていた。いち早く彼我の差を察し、仲間を逃がそうとしたのだから。まぁ、それも無駄足となってしまったが。

 

「撃て撃てッ!」

「応ッ!」

 

 コンタが叫ぶと同時に、トマオと岡崎も引き金を引いた。

 だが、悲しきかな。()()千手はたとえ粉々にしようと死はない。千手の持つ多くの秘具──そのひとつである円盤時計がある限り、無限に蘇生することが出来る。

 針が逆に回れば逆再生のように身体が修復されていく。

 その光景に目を見開くコンタ達に千手は香炉を突き出す。ピカッ、と香炉が輝きを見せた途端、そこから一筋のレーダーが放たれ、コンタ、トマオ、岡崎の三人が体を輪切りにされ絶命する。

 JJは何とか避けることに成功したが、いつのまにか接近していた取り巻きの仏像星人の蹴りを顔面に喰らい、首の骨をへし折られ地面に倒れた。

 

 残るは僧侶──徳川夢想だけだ。彼は震えてその光景を見ることしか出来なかった。自分よりも強い男達が一瞬のうちに殺された。逃げようにも足が竦み動けない。

 

 千手は怯える僧侶に近づき、見下ろす。

 この男の姿には見覚えがあった。同じように髪を刈り、袈裟に身を包んだ者たちが毎日のように手を合わせ祈っていたことを千手は思い出す。

 徳川もまさに今──彼らと同じように、手を合わせて一心不乱に念仏を唱えていた。

 

「ナム……シンキ……ーライ……ミョウライ…………ナム」

【……】

 

 おそらく、この星では意味のあることなのだろう。だが、千手は星人──()()()()()()()()()()()()()()()()。いくら念仏を唱えようとも、届きはしない。

 

 ──ミッションには、神も仏も存在しないのだから。

 

 ()()()使()()()、スッ、と千手が徳川に触れた。

 そっと撫でるような、たったそれだけの動作。

 それだけで──徳川夢想の肉体は、頭からみるみるうちに消滅していき、頭部が完全に消えたところで崩れ落ちた。

 

 では、同胞を葬った残りの不届者を始末しに行こうとしたその時だった。

 

 千手の周りに居た取り巻きの仏像星人3体が一気に破裂した。

 

 刹那、即座に気配を察知した千手は、数百メートル離れた箇所の屋根を視る。そこには人間がいた。うつ伏せの状態で銃を構え、こちらを睨みつける一人の狩人。

 香炉を取り出し、レーザーを照射しようとし──

 

 

「させねーよ」

 

 

 上空から振り下ろされた黒刀が、その腕を斬り飛ばした。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 千手観音の腕を斬り飛ばした甚爾は、即座に其処から距離を取る。千手が瓶のような容器に入った液体をこちらに浴びせようとしたためだ。その懸念は正しく、甚爾のいた場所に放たれた液体は、じゅわっ、と地面を溶かした。

 念のため、宙をクルクルと回る腕を片手に持ったXガンで撃ち破壊する。

 

「よう。随分と派手に殺しまわったな、バケモノ」

 

 地面に転がる多数の遺体、肉片、血液。

 これまでのミッションとは比べ物にならない。今回はスーツを着ている人間が多数、しかも経験者がやられている。

 間違いなく、今目の前にいる星人──千手観音は、ネギ星人や田中星人とは比べ物にならない強敵だ。

 

 千手は欠損した自分の腕を修復すべく、再び秘具を使用して腕を修復する。

 それを見た甚爾は忌々しいものを見るように顔を歪めた。

 自己修繕能力──反転術式により、死の淵から復活を遂げた五条悟が頭をよぎったのだ。

 

「──イヤな相手だな、まったく」

 

 まぁ、とはいえ。

 あのクソ野郎には劣るどころか比べることすら烏滸がましい相手だ。

 さっさと倒してミッションを終わらせるべく、甚爾は地面を踏み締め、千手観音へと肉薄した。

 

 




正直すまん、加藤。
原作よりも酷いことなってる気がするけど、気のせいかな。


頑張って、明日投稿します。無理だったら明後日で。
本来は投稿するつもりじゃ無かったのでね。頑張るぞい。


あと、アンケートちょっと内容を変えました。
よければ投票してくださいな。

それでは!

PS.
ユニちゃん先輩が可愛い。


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0011 決着と帰還

戦闘描写難しすぎて頭が破裂した。

感想、評価、お気に入り、誤字報告、いつもいつもありがとうございます!


ところで皆さん、聖学祭のクロエちゃん引きました?
僕はは勝てないです。
課金も視野に入れています。


 甚爾が千手観音と戦っている間に、玄野と桜丘は本殿の中へと向かっていた。複数あった星人の反応はひとつになっており、その唯一生き残っている星人は、甚爾が相手している。

 本殿の外には遺体が転がっているのが見えた。その中に加藤たちはおらず、もしかしたらまだ生きているかもしれない──そんな希望を胸に抱きながら、中へと入る。

 本殿に入ってすぐのところにある台座。おそらく千手観音たちがいたであろうそこに、加藤が倒れていた。

 死んでいる、そう思ったが、微かに彼の胸が上下しているのが確認できた。

 

「かと──!」

 

 急いで加藤の下へと駆け寄ろうとして、気づく。

 

「ああ……」

 

  

 覚悟はしていた。

 覚悟をして、この場所までやってきた。

 だが、同時に思ってもいたのだ。

 

 ──もしかしたら、みんな生きているんじゃないかって。

 

 加藤の胸元に、眠るようにして寄りかかっている少女──玄野が恋した、ひとりの少女。

 

「岸本……ッ!」

 

 背中を深く斬り裂かれて死んでいた。千手観音の持っていた剣でやられたのだろう。

 周りを見渡すと、北条や貞子の遺体もあった。北条は首を刎ね飛ばされ、貞子は体を上下に寸断されていた。確認するまでもなく死んでいる。

 

「玄野クン……」

「分かッてる!」

 

 今は死んでいった者たちよりも、生きている者だ。

 

 加藤の傷はかなり深かった。胸を貫かれたのだろう。口元に耳を近づけると、微かに呼吸音がした。出血も酷いというのに、まだ生きているのは奇跡といっても過言じゃない。

 

「加藤、よかッた! まだ生きてるッ!」

「とりあえず、体を起こして出血の量を減らしましょ。この傷だと、気休めにしかならないでしょうけど」

「それでも、やらないよりはマシだ」

 

 加藤のスーツの一部分を引きちぎり、傷に押し当て出血を少しでも減らし、生存の確率を上げる。

 玄野と桜丘は加藤に「死ぬな!」と懸命に語りかけ、甚爾が千手を討伐するのを待ち続けた。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 落雷の如き爆発音と共に、甚爾が千手に急激に接近した。その雷を思わせる程の速度に千手は反撃をする暇がなく、振り下ろされたガンツソードを二つの剣で防ぐ。

 だが、甚爾の力は速さだけではない。

 天与呪縛のフィジカルギフテッド。

 呪縛により手に入れた天賦の肉体が生み出す膂力は、如何に星人といえど耐えられるものではなく。

 二つの剣をへし折り、ガンツソードで千手を真っ二つに断ち切った。

 

【きょーッ! きょーッ!】

「うるせえ」

 

 甚爾の攻撃はまだ終わっていない。悲鳴を上げる千手を更に水平に一閃。4分割した千手の肉体へXガンを放ち、肉塊へと変える。

 だが、地面に転がっていた時計型の秘具が動き出したかと思うと、まるで()()()()()()()()()()肉体が修復された。

 再び距離を取り、千手を観察する。

 

(なるほどな……まぁ予想はついてたが、あの道具を壊さねえ限り、どんなに破壊しても無意味らしい)

 

 反転術式のような再生能力とは違う──自分限定の時間遡行。

 原理は分からないが、あの秘具は限定的ではあるが時を戻す力があるようだ。

 まるで呪具。

 もしもそんなものがあれば、間違いなく武器庫呪霊の中に収納していただろう。

 厄介だが、やりようはある。要するに再生される前にあの時計を破壊するか、破壊した後に千手を殺せばいいだけのことだ。

 

 今のところ確認出来ている千手の攻撃手段は4つ。

 ①剣による斬撃

 ②香炉による(おそらく)遠距離攻撃

 ③瓶に入っている硫酸のような液体

 ④時計による復元能力

 

 それら以外にもまだ切っていない手札はあるだろう。

 それを踏まえて、甚爾が千手に対して下した判断は──

 

 

 全て

 

 

「──問題無し」

 

 

 ①斬撃は元より、膂力、敏捷、技能ともにこちらが上回っている

 ②遠距離以外にも使えるとしても、発動までに1秒程度のラグがある。視て避けることは容易

 ③これも②同様に予備動作がある。動作は更に遅いため対処の必要は無し

 ④最優先事項。千手本体への攻撃よりも時計の破壊を優先、あるいは再生前に時計を破壊する

 

 残りの未知の手札に関してはその場その場で対処。注意深く千手の動作を見ておくしか方法はない。

 

 千手の持つ香炉が光る──が、それは既に甚爾は見ている。

 発射されるよりも先に甚爾が動く。Xガンを取り出し、二つの香炉を()()()()()()()し、破壊する。

 多重ロックオンが可能なのは、先程東郷が取り巻きの仏像星人を同時に破壊したことで証明されている。

 レーザーは発射されたが、すぐに破壊され消える。

 本来であれば、ここで時計もロックオンしておきたかったが、バレていたのか複数の手で守っていた。

 ただ、そんなものは所詮焼石に水でしかなく、一息の間に接近しガンツソードを振るう。

 千手もすかさず二振りの剣で対処しようとするが、瞬く間に破壊される。

 

【きょーッ!】

 

 本殿から位置を遠ざけるため、千手の胴を蹴り飛ばす。

 めぎり、と。

 大樹ですら軽くへし折る甚爾の蹴り。

 それをまともに食らった千手は、上半身と下半身が泣き別れながら、クルクルと宙を飛んでいく。

 甚爾はそのまま屋根に飛び移り、吹き飛んだ千手を追跡し──()()()()()

 そのまま地面に叩き落とそうと蹴りの体勢に入ろうとした時、千手が再び再生を始めた。

 そんなものは知ったことかと踵落としを繰り出そうとし──

 

 

 ──ゾクッ

 

 

 天与呪縛により強化された五感とは違う──伏黒甚爾が積み重ねた膨大な経験値。その果てに研ぎ澄まされた()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 直感を信じよう。空中で体を捻り軌道を変え、千手とは少し離れた位置に着地する。

 

(分からねぇが、再生中に()()()()()()()()()())

 

 千手の背から生えている無数の腕──正確には手から嫌な感じがする。

 ならば手に触れなければいいだけの話だ。

 未だ再生途中の千手。ここで殺す、と甚爾は飛び出した。

 距離を詰めて来る甚爾にレーザーを放つが、甚爾の速度を追い切れていない。あっさりと接近を許し、体を刻まれる。

 千手は体を復元させながらあらゆる手段を用いて甚爾を殺そうと手札を切っていくが、その全てを無為に返していく。

 対策は既に済んでいる。あとはそれに対応した行動を取ればいいだけのこと。

 千手の再生能力の源である時計を二つとも破壊し、ついに千手の再生が止まる。

 

 これで千手はもう再生出来ない。

 あと一度殺されれば終わり──もう巻き戻すことは出来ないのだ。

 

  千手が一旦距離を取ろうと後方へ跳躍するが、()()()()()()()()()()()

 千手はガンツソードの性能の全てを見ていない。

 このミッションにおいて、それを使っていたのは甚爾だけだからだ。

 ガンツソードはただ斬れ味がいいだけの刀ではない。()()()()があることを千手は知らなかった。

 

 ガンツソードは──()()()

 

 無論、伸びた分だけ重量は増す。そのため、横薙ぎに振るう時はあまり好んで使われない機能なのだが、その点は甚爾には関係ない。増した重さなど気にも止めず、振るわれた黒刀は千手を斬り裂いた──

 

 

 ──()()()

 

 

 甚爾は視た。

 千手の身体を寸断したその直後、その断面からずるりと異形の怪物が飛び出して来たのを。

 

「チッ、寄生型だったか──!」

 

 Xガンで見た限りでは異常は見当たらなかった。おそらく、不定形タイプの寄生生物。その姿形は、宿主に依存するのだろう。

 

 ずちゃり、と地面へと降り立った千手の中身は、爬虫類と霊長類を掛け合わせたような見た目だった。

 全長はは2m程。大柄な肉体で、そこから六本の腕と大きな尻尾が生えてあり、光沢のある粘液に包まれていた。そして不気味なのが、その長い首の先にある顔のようなもの。目も耳も鼻もなく、引き裂かれたような口だけがそこに存在していた。

 不快感だけなら呪霊に似ている。

 

 千手の中身が甚爾に気づく。

 が、異形の星人は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それを見た甚爾は、()()()()()()と心の中で呟いた。

 

「ぎやぁぁぁぁああ!!!! や、やめッ──」

 

 バチバチバチ、と()()()()()()()()()()と同じ火花のような音が寺院に響く。どうやらステルスは攻撃を喰らえば解除されるらしい。露わになったのは、新人の一人──唯一スーツを最初から着ていた新人──宮藤だった。

 彼は聡明な男だった。おそらく、加藤達が突入した後もレーダーを見て中の様子を探っていたのだろう。そして、加藤達がやられるや否やステルスを使用し、身を隠していた──と言ったところか。

 

 宮藤はそのまま頭部を丸ごと齧られ絶命し、星人がこちらを振り向いた。その顔は、先程の口だけしかなかった姿とは打って変わり、人間の顔が浮かび上がっている。

 その顔には見覚えがあった。というより、()()()()()()だ。

 

(さっき後退しようとしたのは、コイツを取り込むためだったか。本殿から離れてて正解だったな。最悪、玄野たちが食われてたかもしれねぇ)

 

 宮藤は運が悪かったという他ない。

 星人に食われた彼を哀れに思ってると──甚爾の予想外のことが起きた。

 

【やぁ、こうして話すのは初めてだね】

「ああ?」

 

 異形の星人が、突如として言葉を使い、流暢に話しかけて来たのだ。

 

【僕は宮藤──君は伏黒さんッて呼ばれてたよね】

「ハッ、脳を取り込むことで()()()()()()()()()()()

【……すごいな。もう分かるなンて】

 

 くつくつと『宮藤』は笑う。

 

【この体はとても気分がいい。何ていうか、全てがクリアに感じる。力もみなぎッてくる】

「そうか。それで?」

【急かすなよ。それよりも仏像から聞きたいことがあるンだそうだ】

「!」

 

 さっさと殺すか、そう思いガンツソードに手を掛けたが、『宮藤』の言葉に甚爾は手を止めた。

 星人とのコミュニケーション。

 星人が何者であるか知ることが出来るかもしれない。

 

【キミ達は何なンだ? ナゼ、現地の生物なンだ? キミ達には何にも迷惑かけていなかッたのに……とうとう僕一人になッてしまッた……】

「その口振り、まるでこの星の生物じゃないみたいだな」

 

 甚爾が答えると、『宮藤』は俯いて肯定した。

 

【そうさ。僕らは遠い場所(ほし)から来た。キミ達に害を与える気もなく、ただひッそりと生きていられれば、それでよかッたンだ】

 

 けど、と。

 宮藤の遺品であるメガネを掛け、顔を上げた『宮藤』の顔は──獰猛に笑っていた。

 

【そッちがその気なら僕らも容赦はしない……それにキミは強い。キミを取り込むことが出来れば、僕はもッと────あ゛?】

 

 ()()

 

 いい終わるよりも先に、『宮藤』の首は落ちていた。

 

「オマエらが異星人だって知れただけで十分だ。もう用はねーよ」

 

 Xガンで首と体を数回撃ち、念入りに破壊した後レーダーを確認する。カウンターは止まっていたため、じきに部屋へと転送されるだろう。

 

 今回のミッションは難易度が一気に上がっていた。

 雑魚の星人はともかくとして、ボスの星人──千手は、これまでのボスとは比べ物にならないくらいに強かった。

 ただ武器を振るうだけでは倒せない、特定の手順を踏まなくてはいけない相手。

 呪霊換算でいえば一級はあった。

 それでも甚爾の相手ではなかったが、懸念していることが現実を帯び始めている。

 

 

 転送が始まった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

「……」

 

 甚爾と千手の戦いを1キロほど離れた位置に聳え立つ五重塔から見届けていた男がいた。

 彼の名は東郷。

 現役の軍人であり、素の能力はもちろん高く、特に射撃の腕に関しては随一のものを持つ。

 彼は甚爾からある依頼を受けていた。

 それは、多重ロックオンが可能であるかの確認。狙撃で取り巻きの星人を倒すついでに試しておいてほしいとのことだった。

 無論、断る理由もない。

 彼は見事に仕事をこなし、3体もの星人を葬ってみせた。

 

 見事な戦いだった。

 甚爾と千手との戦い──いや、このミッション全体での戦いを見ての総評だ。

 卓越した身体能力に、それに裏付けされた技量。戦いを見るだけで膨大な経験を積んだ強者であることが分かる。

 

 彼が言うには、ミッションが終われば()()()()()()帰還することが出来るらしい。詳しいことは部屋に戻れば大体分かるそうだ。

 

 ならば今は、勝利の余韻に浸るとしよう。

 

 

「任務、完了」

 

 

 

◆◇◆

 

 

 そして本殿では、玄野と桜丘が必死になって加藤の生存に手を尽くしていた。

 ──いや、もう尽くせるだけの手は尽くしたのだ。あとはもう加藤の気力のみ。玄野たちに出来るのは加藤に話しかけ、脳に刺激を与え続けることだけだった。

 加藤を見つけてから5分ほど時間が経つ。ミッションはまだ終わる素振りを見せない。加藤の息は出血量に反比例して、あれからどんどんと小さくなっており、いつ死んでもおかしくはない。

 

「加藤ッ! 生きろッ! 絶対に死ぬンじゃねー!」

 

 涙が溢れ落ちる。

 玄野と加藤は再会したとはいえ、別に親しかったわけではない。加藤はこちらに友情を向けていたが、玄野からは特に何もなかった。むしろ、加藤のせいで死んだのだから、怒りの矛先を向けていた。

 だが、ミッションを重ね、一緒に生き延びていって、玄野はかつてと同じく、加藤に対して友情を感じていたのだ。

 それを死にかけた加藤を見て、ようやく自覚した。

 

 岸本が惹かれた理由が分かる。

 加藤勝はヒーローだ。

 玄野の目指すそれとは違う、困っている人間に手を差し伸べ、ひたすらに救おうともがき続ける生粋の善人。

 そんな奴がこんな場所で死んでいいはずがない。死んじゃ、ダメだろう!

 

 すると、加藤がスッと目を開いた。

 先ほどまで意識を途絶えさせ、浅い呼吸をしていた彼は、目だけ動かして周りを見渡す。

 その瞳は虚だ。おそらく、満足に見えていないのだろう。だがそれでも彼は、自分の目の前にいる男の名を──口にした。

 

「け……い……ちゃ、ん」

「加藤ッ! 俺だ! もうすぐミッションが終わる! 伏黒さんがやッてくれてる!」

「加藤クン、喋ッたら──いや、喋り続けてッ! 意識を保つのよ!」

 

 西は言っていた。どんなに酷い怪我を負っていても、生きてさえいれば帰還することが可能だと。

 玄野と桜丘は、加藤の意識を継続させようと話しかけ続ける。

 

「そ……か……伏……黒、さ……ンが……」

「ああ! あの人ならやッてくれるさ! だから頑張れッ!」

 

 とはいえ──だ。

 玄野──いや、桜丘も焦りを覚えていた。

 確かに甚爾は強いが、相手の星人も10人近い人間をあっという間に殺したのだ。

 ないとは思いたい──それでも、嫌な予感というものはどうしても頭から離れない。

 

 そして──そんな不安を払うようにして、桜丘の転送が始まった。

 

「あ、これッて──」

「伏黒さんがやッたンだ!」

「! 玄野クン、先に行ッて待ッてる。加藤クンのこと、よろしくね」

「ああ!」

 

 桜丘の転送が終わると同時に、玄野の転送も始まった。

 ふざけるな、と玄野は叫んだ。

 俺なんかいい、先に加藤を連れて行け──だが、そんな懇願も虚しく玄野の転送は継続していく。

 クソッ、と悪態を吐き、最後の言葉を加藤に伝える。

 

「加藤、絶対に戻ッてこいよ。待ッてるからな」

 

 そして、玄野の転送は完全に終了した。

 本殿に残された加藤。

 混濁した意識の中、ふと頭の中を過ぎったのは歩のことだった。

 そうだ。

 歩──弟が、帰りを待っているのだ。

 絶対に独りにさせないと、そう誓った──大切な。

 

「そう、だ……俺、は──!」

 

 震える手を伸ばす。

 その手を、誰かが掴んだ気がした。

 

 

 ──生きて、加藤くん

 

 

 そこで加藤の意識は、完全に途絶えた。




パパ黒vs五条悟の二回戦目好き。

果たして加藤勝は生きて帰って来れるのか。



次回『100点への到達者』

明日か土曜日に投稿しますね。


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0012 100点の到達者

GANTZフォントで遊んでたら1時間半も遅刻……申し訳ない、

感想評価お気に入り誤字報告ありがとうございますー!
なんと評価数100を初めて超えました。
本当にありがとうございます!


 ミッションが終わり、いつも通り部屋へと帰還する。どうやら甚爾が最初らしく、部屋には誰もいなかった。

 

「あー、かったり。再生持ちは本当に面倒だからやめてくれよ、ガンツさんよ」

『──』

 

 暇つぶしにガンツに語りかけてみるが、やはり反応を示さない。中にいる人間に自由意志はないらしい。完全にガンツを動かすためだけの電池(ぶひん)として扱われているのだろう。

 

(今回は随分と死んだな)

 

 ミッションの難易度の急激な上昇。

 甚爾が相手だったからこそ千手は呆気なく殺されたが、常人であれば相当に危険な星人だっただろう。それこそ、現段階のこの部屋の実力であれば全滅もあり得るほどに。

 西が一年間もの間一人でも生き残り、点数を稼いでいた例をみるに、今回のような高難度のミッションはかなり少ないのだろうが、対策は練っておいて損はない。

 もとより、玄野の鍛錬に付き合っているのもその一環だ。

 

 千手と交戦していたメンバーは誰か一人でも生き残っているのだろうか。可能性は低いが、あるとすれば北条か加藤であろう。加藤の性格上、新人と共に突撃するとは考えられず、であるなら経験者だけで本殿へと侵入した筈だ。岸本と貞子が千手相手に生き残れるとは考えられないため、消去法的に二人になる。

 まぁ、二人が彼女らを庇ったのだとしたら話は変わるが、その辺りを考え出したらキリがない。

 

「お、オマエか」

 

 次に転送されてきたのは、軍人の男──東郷だ。

 

「よう、いい射撃だったぜ」

「俺は任務をこなしただけだ。気にするな」

 

 そう答えて、東郷は部屋の周囲を見渡す。

 

「本当に戻れるのだな」

「生きてさえいればな。どんな大怪我を負っていようと、とりあえず生きてたら無傷でこの部屋に戻される」

「……なるほど」

 

 ネギ星人の時、加藤は腕を斬り裂かれていたが無傷で戻ってきていた。

 その際、一部記憶を失っていたが、おそらく大きすぎる怪我の場合は、治すのではなく怪我をする直前の状態に巻き戻すのだろう。

 

 ところで、と東郷が話題を切り替える。

 

「あの怪物との戦いを見ていたが、その肉体、身のこなし……オマエは、只者ではないだろう?」

「ハハ、聞かれるとは思ってたよ」

 

 部屋にいた時も射撃の依頼をした時も、東郷からはこちらを観察するような視線を感じていた。

 気になっているのだろう。甚爾の完成された肉体に洗練された技量。どうなってそれを身につけたのか、そして甚爾が一体何者であるのかが。

 

「フリーの殺し屋、といえば信じるか?」

 

 勿論、その全てを教えるつもりはない。

 異世界で能力者のようなものを狩って生計を立てていました、などと言っても信じはしないだろう。頭がイカれてると思われて再度問い質されるのがオチだ。

 だから、今のようにある程度は正直に答えるつもりだ。異世界云々などはぼかし、伝えられる部分を伝えるだけでいい。

 

「……信じよう。そういう存在がいることは知っているからな。"リスト"に載っていることもある」

「へぇ、意外とブラックな仕事もしてんのな」

「まぁな。相手にしたこともある」

 

 日本の軍部の闇が垣間見えたが、大きな組織となるとそういう側面は絶対にある。呪術総監部でさえそうだ。保身や利益が大好きな老害どもが牛耳っているクソみたいな組織だった。

 平気で呪詛師とも繋がっており、時雨(シウ)つてに依頼が転がり込んだことも多々あった。

 あそこまで腐った組織は中々にあるまい。

 

 そして、次なる生還者が現れる。

 転送されて来たのは、ミッションにより一気に玄野との距離が縮まった桜丘だった。

 彼女は甚爾と東郷を見ると、驚いたように目を見開いた。

 

「転送されたから分かってたけど……ホントに倒したのね」

「面倒な相手だったけどな。まぁ、退屈凌ぎにはなったさ」

「……私、アンタと話したのは数十分前からだけど、規格外さが理解出来たわ……」

 

 実際にボスと遭遇したわけではないが、10人近くの人間が、それも半分近くがスーツを着ていたのにも関わらずに千手に敗北し、そのほとんどが命を落としたのだ。相当に強い相手だというのはなんとなく分かる。

 そんな相手を退屈凌ぎと言えるのは、この男くらいのものだろう。その発言からして、まだまだ底を見せていないようだし。

 

「そういえば、オマエに聞きたかったんだ。本殿の生き残りは誰だったんだ?」

「加藤クンだったわよ。他はみんな死んでた」

 

 やはり、加藤だったようだ。

 

「胸を貫かれて、酷い出血だった。けど……奇跡的に心臓は外れてたわ。不幸中の幸いね」

「あとは運次第、か。ボス自体は5分程度で終わったが……」

 

 血液の1/3が失われれば生命の危機に瀕する。そうなればただでさえ低いというのに、加藤の助かる見込みはぐんと下がるだろう。

 桜丘は、心臓を外れていたとは言っていたが、重要な血管にダメージがいっている可能性もある。少なくとも肺は確実にやられているであろう。はっきり言えば、加藤の生存は絶望的だ。

 

「……来たぞ」

 

 東郷が指を差す。

 桜丘の次に転送されて来たのは、玄野だった。

 顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにし、転送が終わるや否やぺたりと地面に座り込んだ。

 桜丘が掛け寄り玄野を抱きしめ、あやすようにして頭を撫でる。玄野は仕切りなしに、加藤と呟いている。

 その様子に甚爾は少し驚いた。

 玄野は別段、加藤に対して友情や愛着といったものを見せていなかったからだ。ネギ星人の時などは悪感情すら向けていたほどだ。無意識下のうちに気に入っていたのだろう。

 

 とはいえ、別に慰めたりはしない。何が悲しくて男を慰めないといけないのだろうか。そういう役目は桜丘が買って出てくれる。

 甚爾としても、玄野の精神的支柱になりつつある桜丘の存在は非常にありがたい。問題としては、互いに依存してしまい、片方を失うと使い物にならなくなる可能性があることだが……まぁ、その辺りはどうとでもなるだろう。

 

(加藤、オマエはどっちに転がるだろうな)

 

 玄野から目を離し、ガンツに視線を向ける。

 もしもこの後、ガンツが採点を行えば加藤は死んだことになる。"3番"を使用して復活させるしかないだろう。

 甚爾としては加藤を復活させる旨味はそこまでないため、蘇生をするつもりはない。

 加藤の死が玄野へプラスの方向に繋がるか、それともマイナスな方向に行ってしまうかが少々気になるところではあるが。

 

 

(──さて、どうなる?)

 

 

 そして、ガンツは──

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

『コイツだよな?』

『ああ、たぶんな』

 

 

『よし、撃つぞ!』

『うん……早く倒して、帰ろう!』

 

 

『いや、これでいい』

 

 

 ──いい筈だ

 

 

 

『貞子、加藤、岸本! 逃──』

 

『あ……北、条……く──』

 

 

 

『岸、本……なンで……』

 

 

 

 

 

 

 

 

『好き……加藤くん、好き──』

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

「──ッ!?」

 

 気がつくと──『彼』は見慣れた部屋に立っていた。

 やってくるのは今日で3回目。人の命など、軽く消えてゆく地獄の戦場の入り口がこの部屋だ。

 何故、どうして自分はここにいる?

 そうだ、先ほど北条たちと残りの星人を倒しに本殿に乗り込んで、そして──

 

 ──フラッシュバックする、惨状。

 

 まず北条が死んだ。いち早く千手の危険性を悟り、逃がそうとしたがそれは叶わず、首を飛ばされた。

 次は貞子だった。北条を殺されたことに激昂した彼女は千手に突撃したが、あっさりとレーザーで心臓を穿たれ命を落とした。

 

 そして──岸本恵

 

 彼女は『彼』を庇い、最後に自分の想いを伝えて死んでいった。

 

 その後──そうだ!

 

 俺はその後──俺は──

 

 ──()()()()()()()()()()()()()

 

 

「──加藤!」

「!」

 

 その言葉に、『彼』は振り返る。

 そこには小さな頃に『彼』が憧れた、今でも憧れている、幼馴染の少年がいた。

 涙で眼を腫らし、鼻水を垂れ流しながらも──笑顔で『彼』を出迎えた。

 

 

 『彼』──加藤 勝は、生還した。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

「け、計ちゃん……」

 

 加藤はまだ上手く状況を飲み込めていないようだった。困惑しながら、部屋の中を見回している。

 

「俺は、岸本に庇われて……それで……」

「ギリギリ生きてたのよ。意識も朦朧としてて、ほとんど覚えてないでしょうけど」

「そう、か……」

 

 加藤自身も死んだと思ったのだろう。それもそうだ。胸を貫かれてしまえば誰もが死んでしまうと思う筈だ。九死に一生とはまさにこのことだ。

 

「……北条も貞子、他の人たちも──岸本も、死んだんだな」

「……ああ」

 

 玄野が首肯すると、加藤は静かに涙を流した。力が抜けた手からXガンがこぼれ落ち、床に落ちる。

 加藤のような人間には辛いはずだ。既存のメンバーも新人も加藤は救おうとしていた。

 だが、結果はどうだろう。加藤に付いていったメンバーは、誰一人として生きて帰って来なかった。

 いずれこうなるだろう──甚爾はそう悟っていた。

 加藤のような存在は、弱者にとって光であると同時に、絶望を連れてくることだってあるのだ。

 

 そして──終わりの音が部屋に響く。

 ミッションの締め切り。

 今現在、この部屋にいるメンバー以外は全員死んだという残酷な知らせだ。

 

 

それぢわ ちいてんを はじぬる

 

 

 今回のミッションは前回の田中星人の数を上回る18体もの数の星人がいた。雑魚の仏像星人は田中星人には劣るもののそれなりの点数は期待できるだろうし、何よりあの千手観音はその強さ相応の点数が与えられるのなら、高得点が期待できる。

 ミッション中にも考えていた100点の数字──本当に辿り着くことが出来るかもしれない。

 

「これって……」

「採点……ミッションの評価、と言ったところか?」

 

 今回のミッションが初参加である桜丘が首を傾げる。

 彼女も彼女でポテンシャルは高いが、一般人ではある。いきなり採点などと言われても困惑するだけだろう。

 東郷は軍人ということもあり、観察や推察することは長けている。ある程度の予想はついたようだ。

 

「説明するより見てもらった方が早え。ま、大体は東郷が言ったことで間違いはねえ」

 

 ブン、と画面が切り替わる。

 最初に表示されたのは東郷だ。

 

軍人

 15

 TOたる15

 85てん終わり

 

 

「15点……俺の活躍が15点として評価されたのか、それともあの星人が1体5点だったのか?」

「後者だな。星人それぞれに点数が振られている」

「なるほど」

 

 初回のミッションで15点を取れたのなら十分だろう。

 しかし、こうして振り返ると、ネギ星人はボーナスゲームだったのだと思い知らされる。星人の数はたったの2体。常人でもスーツを着てれば余裕で倒せるといった具合だ。

 田中星人や今回のミッションが初参加だった者たちは運が悪かったとしか言いようがない。

 

「あ、私だ」

 

 次は桜丘の番だった。

 

美形

 てん

 とーたる0てん

 あと100てんでお

 くろのことすきすぎ

 

「あ、そうだ。玄野クン、私と付き合うッて約束、忘れてないわよね?」

「あ、ああ……その、よろしくお願いします」

「んふ、カワイイ」

 

 笑って、桜丘は玄野に抱きつく。玄野は「おい!」と叫ぶが、その顔は真っ赤に染まっており満更でもなさそうだった。

 

「私も次のミッションからやるわ。玄野クンたちばかりに頼るわけにはいかないもの」

 

 そう言って強気の姿勢を見せる桜丘。

 立ち姿や筋肉の着き方から、彼女も何らかの格闘技をやっていることが分かる。ミッションでも活躍は期待出来る。

 

 桜丘の次は玄野の採点だった。

 

 17

 TTOTAL32て

  68おわり

 

 17点──おこりんぼう星人と仏像星人を3体、そして大仏星人を玄野は倒した。その成果としては十分すぎる結果だろう。

 

「17点……計ちゃん、やっぱりすごいや」

「すごくなんてねーよ。俺一人じゃ、きっと無理だった」

 

 以前の玄野なら自慢げにしていたかもしれないが、彼はこの短期間で精神的な成長を遂げていた。

 スーツを使いこなし始めた玄野は、調子に乗ってしまった時期があった。だが、それを甚爾がスーツすら着ずに一方的にボコボコにしたことで鼻っ柱を折られ、自分のアホさ加減をその身に刻み込んだのだった。

 まだまだ年相応なところはあるが、これからもっと成長していくだろう。

 

 そして、次の採点は甚爾の番だった。

 画面が切り替わり、その点数が表示され、甚爾以外のメンバーは驚きに目を見開く。

 

 

 

駄目

 69てん

 TOtaL115

 100点~か下さい

 

 

 

 ついに現れた100点の到達者。

 西でさえ1年かけて90点しか貯めていなかったとというのに、甚爾はたった3回のミッションで掴んでみせた。

 69点──それほどまでに今回のボス、千手は強大な相手だったのだろう。あばれんぼう星人と仏像星人が3点だったとして、千手の点数は45点。

 相応しい点数だと言える。

 

 

100点めにゅ~

 1 記憶けされて解放れる

 2 より強力武器与えられ

 3 MEMORY中から人間

 

 

 自動的に画面が切り替わり、100点メニューが追加される。

 東郷と桜丘は、初めてその画面を目にしたため、興味深そうにまじまじと見つめている。

 

「これが100点を取った時のボーナスだ。俺も詳しいことは知らねえがな。まぁ、文字通りだろうよ」

 

 さて、と甚爾は思案する。

 まず"1番"だがこれは初めてメニューを見た時に結論を出したが、論外だ。異世界人である甚爾には戸籍もないためメリットがない。状況としては命の危険はあれど今の方がマシだ。

 だからこそ選ぶのは"2番"か"3番"だ。

 "2番"は戦力増強にもなるし、点数は取りやすくなるのだろうが、どういう武器か全く予想がつかない。使えない武器が出てくる可能性はもちろんある。

 "3番"も人手を集めるという点では有用だ。特に西丈一郎──彼は甚爾では手に入れることが出来ない情報を持っている可能性がある。予定が狂わなければいずれは再生させるつもりだ。

 

 玄野たちが甚爾はどれを選ぶのだろうかと好奇心にも似た感情を向けてくる。

 まぁ、元々決めていたことだ。

 ガンツ、と黒い球体へと語りかける。

 

「"2番"だ。強い武器を寄越せ。今すぐにだ」

 

 ごとん、という大きな物体が床に落ちた音が奥の部屋から響いた。

 確認しにいくと、乱雑に置かれたガンツソードの中にXショットガンと同程度の大きさの直方体型の銃のような武器が置かれていた。

 

「これが"2番"の武器か」

 

 かなり大きいが、重さは不思議とあまり感じない。どういった性能かはまだ使っていないので分からないため、一度試す必要があるだろう。

 

「"1番"じゃなくてよかったんですか?」

 

 新武器の持ち応えなどを確認していると、ふと加藤がそんなことを問いかけてきた。

 その質問を甚爾は鼻で笑う。

 

「俺はオマエが"3番"で岸本を生き返らせてくれ、なんて言うと思ったがな」

「……確かに、一瞬頼もうとしました。けど、岸本が生き返っても、また地獄(ミッション)に呼ばれるだけ……それなら、もう俺は楽にしてあげたい」

 

 たとえ加藤は100点を取ったとしても、岸本を蘇らせる選択は取らないだろう。

 そして、それはある意味正解だと甚爾は思う。

 岸本は二人いる──それは、玄野から聞いたことだ。それが意味することは、ガンツの再生は蘇生ではなく、西の言っていたようにコピーであるということだ。

 肉体と人格と記憶だけが同じの別人──再生させたところで甚爾たちの知っている岸本とは違う。

 それに、オリジナルが生きているのなら、再生された岸本に居場所はない。誰も幸せにならない、無意味な選択だ。

 

「加藤……」

「計ちゃん、俺は100点を集めても、岸本は復活させない」

「ああ、俺もだよ」

 

 岸本とは親密な関係だった二人だ。思うところはたくさんあるのだろう。だからこそ、二人は岸本の再生はしないことに決めた。

 

 部屋に戻り、採点を待つ。

 最後は加藤だ。

 

 

かとう(ちゃ)(笑)

 5てん

 TOtaL10てん

 あと90てんおわり

 

 

「5点……あの星人か」

 

 おそらく、千手の取り巻きの星人のうちの一人だろう。千手と戦った際に倒してたらしい。

 100点まであと90点。長い道のりだ。

 これからのミッションで10点ずつ取ったとしても、あと9回生き残らなければならない。

 それに、甚爾に玄野、東郷、それに桜丘と、強者たちが集っている。点数を取るのは難しいだろう。

 

 採点は終了し、画面が暗転する。

 

「伏黒、俺たちはこれからどうなる?」

「分かってんだろ。解放されたきゃ100点取って"1番"取るしかねえ」

「やはり、か。つまり、ミッションはこれからも続いていくんだな?」

「そうだな。今のところは1ヶ月に1回、多くても2回は呼ばれる。今のところはだがな」

 

 東郷も確認のつもりで質問したのだろう。返答に満足したのか、口を閉ざした。

 甚爾もこれ以上は質問はないと判断し、廊下へと向かう。

 

「んじゃ、俺は帰る。生きてりゃまた次のミッションで会うことになるだろ」

 

 そう言って甚爾は、完全に部屋を後にした。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 甚爾が去っていく姿を、加藤はジッと見ていた。

 今回のミッションで自分のせいで多くの人間を死なせてしまった。自責の念が重りのようにのしかかり、気を抜けば崩れ落ち、吐いてしまいそうだった。

 だが──そんなことをしても意味はない。

 死んでしまった彼らに加藤が出来るのは、生き残った自分に出来るのは、その責任を果たすことだけだ。

 

 岸本たちが繋いだこの命を──どう使うべきなのか。

 

 加藤は考え、ある結論に至る。

 

 

 

「計ちゃん、桜丘さん、東郷さん──提案がある」

 

 

 

 




というわけで加藤は生存です。
感想欄でも散々言われてましたが、東京チームマジで強くなってて笑う。
早く大阪編まで書きたいンゴ。



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チビ星人編
0013 チームマッチ


チビ星人編開幕。
千手編よりは短くなる予定──たぶん全3話か2話で終わる予定ですが、少し特殊ギミックを用意しました〜。

GANTZのSS増えろ増えろ……私もそのうちクラスじゃないノーマルGANTZ書くからな……。
たぶん観察日記とほむほむGANTZ、やる夫スレのGANTZを読んだら皆んな書きたくなるはず。




ps.160連回したのにクロエが来てくれない。
あと40連で天井なのでこのまま頑張るぞい。


 羅鼎院でのミッションから数日が経つ。ミッションで戦っている姿はステルスで隠されているため、一般人には見えないようにはなっているが、破壊痕は残る。多くの仏像を始めとする貴重な文化財が納められている羅鼎院の崩壊は、非常に騒ぎになっていた。

 甚爾からしてみれば知ったことではないが。

 

 そして、甚爾は今日も今日とて玄野ヘと鍛錬をつけるためにいつもの建設現場へと向かったのだが──そこにはいる筈のない者たちが三人。玄野と共に待っていた。

 

「伏黒さん」

「……何でオマエらがいるんだ?」

 

 緊張した表情で声を上げたのは──加藤勝だ。彼の両隣には桜丘と東郷もおり、前には玄野が立っていた。

 前回のミッションで生き残った、甚爾を除いた4人の人間。

 甚爾は玄野に鍛錬をつけていることを他人に教えたことはない。つまり、玄野がバラしたか、それともつけられてバレてしまったのかの二通りとなる。

 玄野に目を向けると、びくりと体を震わせて気まずさに目を逸らす。

 

「いや、その……あの後、伏黒さんが帰ッた後、加藤に相談されてさ……それで……」

 

 あはは、と誤魔化すように笑う玄野だが、焦燥に駆られているのがすぐにわかる。滝のように汗を流して、よく見れば瞳が潤んでいるように見えた。

 

「ハァ……」

 

 甚爾は思わずため息を吐いた。

 

「まぁ、連れて来たのはいい……加藤、だいたいは分かるが、要件はなんだ?」

「──俺たちを、計ちゃんと同じように鍛えてほしい」

「やっぱりか」

 

 採点が終わり、甚爾が帰ろうとした時、加藤からずっと視線を感じていた。何となく予想はついており、ただ自分から切り出すことでもないので無視をしていた。

 

「計ちゃんから聞いた。毎日夜にここで訓練してるッて。

 俺はもう──後悔はしたくないンですッ!!」

 

 そう言って頭を下げる──いや、どころか地面に頭を付けて加藤は甚爾に頼み込んだ。

 後悔の念。自責。

 加藤はもう二度とあんな悲劇を起こしたくなかった。

 だが、気持ちだけでそれを実行できるほどミッションは容易くはない。そのために必要なのは、力だ。力がいる。

 そして、それを最も持っているのは加藤の知る限り甚爾だけだった。

 

「──金が払えるなら構わねえよ」

 

 甚爾は加藤の頼みを承諾した。

 

「元々、声を掛けるつもりではあったしな」

 

 千手の一件で、高難度のミッションに参加させられることもあることは確定した。少し悠長に考えていたが、予定を早めて戦力の増強に力を入れようとは考えていた。

 桜丘と加藤だけでなく、東郷までやって来たのは想定外だったがラッキーだ。彼もそれなりの修羅場は潜って来ている。部隊を率いていたこともあるだろうし、有用な存在だ。

 

 甚爾の言葉に加藤は顔を上げ、再び頭を下げた。

 

「で、だ。問題は金だが──玄野は月に5万払っている。東郷はともかくとして、オマエら二人は払えんのか?」

「私は大丈夫よ」

 

 桜丘は頷く。どうやら彼女は格闘技でそれなりに稼げているらしく、その辺りは特に問題ないらしい。

 東郷を除外したのは彼は職に就き、安定した高収入を手に出来ているためだ。

 しかし、加藤は厳しそうな表情を浮かべていた。

 

「その……俺、両親がいなくて……弟と二人暮らしで、あまり余裕がなくて……」

「なるほど」

 

 確かにそれなら5万は高過ぎるだろう。玄野でさえ、仕送りをもらい、そこにバイトを注ぎ込むことで払うことが出来ている。仕送りもなく、アルバイトのお金で何とか生活を続けている加藤には払えない額だ。

 すると、東郷が「いいか?」と話に入ってくる。

 

「なら──()()()()()()()()()

「!?」

 

 加藤が驚いたように東郷を見る。

 東郷はそんな加藤に小さく笑みを浮かべ、話を続ける。

 

「元々俺は、伏黒に相応の金額を払うつもりだった。構わない」

「へぇ、気前がいいな」

「オマエは、俺からはもッと取るつもりだっただろう?」

 

 バレていたらしい。

 甚爾が玄野たちに譲歩していたのは、彼らがまだ収入を得ておらず、大金を払えないからだ。その点、東郷は安定した高収入を得ている。五万というのは安い金だろう。

 

「ミッションが終わった翌日、"上"から大金と共に休暇を言い渡された。金に関しては問題はない」

「ほお、面白えな。"上"ねぇ……」

 

 思いがけない拾いものだ。やはり予想していたようにガンツは上層の人間が操っているらしい。

 軍部に所属している東郷に指示を出せるとなると、政界の連中はほぼ黒だと言ってもいいだろう。

 と、同時に甚爾は東郷を羨ましく感じた。休暇にプラスして大金も貰える──そんな素晴らしいことがあるだろうか。東郷に掛け合い、こっちにも渡すように言ってもいいかもしれないな、なんて半分本気で思ったりもした。

 

「東郷さん、そんなわざわざ……」

「構わない、と言った筈だ。収入とは別であるし、元々手を得ることのない金だ。いくら使おうとも俺には関係ない」

「ありがとう、ございます……!」

 

 頭を下げる加藤の肩に東郷が手を乗せる。

 

「どうせなら、君らの分も払おう」

「ええ!? いいンすか!?」

「ああ」

 

 玄野が涙を流し、東郷に感謝する。

 

「おい、何か俺が悪役みたいな感じになってねえか?」

「感じじゃなくてなッてるわよ。アンタ、命を盾に金を取ろうとしてみたいなものだし……」

「収入ねえんだから仕方ねえだろ」

 

 タダ働きだけは絶対にしない甚爾の性質上、収入があったとしてもおそらく金を取っていただろうが。

 

「俺が払うのはその大金全てだ」

「どれだけあるんだ?」

「7桁は堅い、とだけ言っておこう」

「7け──!?」

 

 途方もない金額に玄野が唖然とする。

 だが、これくらいは安いものだろうと甚爾は考える。術師殺しとして生計を立てていたのだから、数百万程度は見慣れている。

 

「どうだ伏黒? 満足か?」

「ああ、そんだけありゃあな」

 

 今回は東郷に交渉のペースを掴まれた。まさか、それほどの大金を持ってくるとは思ってもなかったのだ。

 しかし、甚爾にとってマイナスではなく、プラスでしかないためよしとするとしよう。

 

「伏黒さん、これからよろしくお願いします」

 

 加藤が甚爾に手を伸ばし、握手を求めようとして──引っ込めた。

 

「男とは、しないんでしたね」

「まぁな。ま、使える程度には鍛えてやるよ」

 

 甚爾はニヤリと笑い、加藤も微笑みを返した。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 それから一週間が経った。

 訓練は順調だった。加藤も桜丘もポテンシャルが高いため、動きはどんどん洗練されていった。そして、それに触発されたのか、玄野も更に鍛錬に身を入れ始め、急速に成長していった。

 東郷に関しては特に問題はなく、スーツを着た状態で動くことにもすぐに慣れ、甚爾と戦術やガンツについての考察などを語ることが多かった。

 

 そして──再び彼らは部屋に呼ばれた。

 

 鍛錬中に呼ばれたため、身体も適度に温まり、コンディションはバッチリだ。

 加藤は前回のこともあり、緊張しているようにも見えるが、その瞳には覚悟が定まっているように見える。

 玄野と桜丘はやる気に溢れており、東郷は今回はスーツを着用し、冷静に武器の確認をしていた。

 

「今回は、新人がいないのか?」

「確かに、今のところ俺らしかいねーしな」

 

 玄野と加藤がそんな疑問を落とす。

 確かにこれまでのミッションでは必ず新人が数人呼ばれていた。近郊で一人たりとて死ななかったとは考えにくい。必ずしも追加メンバーがくるとは限らないのかもしれない。

 桜丘や東郷のように新しい戦力がやって来ないと考えれば損失だが、下手に足を引っ張るメンツに来られても困る。それに、新人の手助けをしなくてもいいのなら、ミッションもスムーズに進めることが出来るだろう。

 

 甚爾は二人から目を離し、その手に持っている"2番"の武器──玄野名称"Zガン"に目を向ける。

 前回のミッションで持ち出し、玄野たちとの鍛錬で使っている場所とは違う人気(ひとけ)のない場所で使用したが、確かにこれは強力だった。()()()()()()()()()()()()()()()を誇る代物。

 今回のミッションでもきっと役に立つだろう。

 

 そして、ガンツがいつものように歌を流し始めた。

 どうやら今回は本当に新人は来ないようだった。どういった条件で決めているのか気になるところではあるが、今はミッションの方が優先だ。

 歌が終わり、画面に星人(ターゲット)の情報が表示される。

 

 

チビ星人

特徴

  つよ

  

してる

  

特技

   人マネ

   

 

 

「チビ星人……なんか弱そうだな」

「つよい、って書いてるけど?」

「ああ、それは毎回だ。気にすることはねえよ」

 

 チビ星人のビジュアルは、田中星人や仏像に比べれて宇宙人に近い。体色は真っ白であり、米粒のような形の頭部に頬には赤い渦巻きの模様。玄野が弱いと判断してしまうのも無理はない。

 ただ、今回はガンツが提供するにしては使えそうな情報が二つほど転がっている。

 

「人マネ、心を通わす──ね」

 

 人マネというのが動きを真似ることを指すのか見た目を変えるのかは分からない。ただ、後者だった場合は厄介だ。甚爾であれば五感などで察知出来るが、玄野たちはレーダーかスコープで中を透かして確認するしかない。躊躇った隙を狙われる可能性はある。

 それに心を通わす──前回の千手の中身同様、もしかしたらコミュニケーションが取れる星人なのかもしれない。そしてそれは、知性が高いということを示す。

 

 そのことを伝えようと思ったが、辞めた。玄野たちが甚爾たちに依存しすぎても困るためだ。

 同じ星人が軍隊としているのではなく、仏像星人のように様々な個体がいることもある。これから先、一人で星人と戦わざるを得ない状況もあるだろう。その時のために洞察力はある程度鍛えておいた方がいい。

 

「よし、みんな絶対に生き残るぞ!」

 

 玄野が拳で手のひらを叩き、ミッションに対して意気込む。それに対し、加藤、桜丘、東郷は頷いた。

 リーダーらしくなって来たな、と甚爾は笑う。

 

 

 ──転送が始まった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 転送された先は、東京の何処かの市街地、そこに立つ中層ビルの屋上だった。

 柵から身を乗り出し、下を見下ろすと普通に通行人が歩いているのが見えた。下で戦うのは流石に辞めとくか、と玄野は思った。知らない人間なんてどうでもいいが、自分のせいで死んだとなると流石に目覚めが悪い。

 

 とりあえず、自分と星人の配置を確認しよう。

 レーダーマップを取り出した玄野だが「はぁ!?」と思わず叫んでしまった。

 

「さ、30体はいるぞ……何だよ、今回は」

 

 マップに表示されている、大量の星人の反応。前回のミッションの2倍近くはある。

 

「嘘だろマジで……こんだけ居てボスがいるとなると、流石に厄介だぜ……」

「どうしたの、玄野クン」

()か。どうもこうもねーよ。見ろよ、この星人の数」

 

 続いて転送されて来た桜丘。ちゃっかり彼女のことを名前で呼びながら、マップを見せつける。彼女も驚嘆を声を上げた。

 それから加藤と東郷も転送が完了し、玄野が事情を説明する。

 

「こんなに星人が……」

「ああ、面倒だな」

「どうする? 玄野クン」

 

 4人で思い悩むが、あまり悠長に時間を掛けられない。ミッションは最初の一人が転送された時点でカウントが始まる。最初に転送されたのが甚爾であり、既に10分は経っている。

 

「伏黒はもう動いてるな。星人の数が減っていってる」

「駄目人間だけど、ミッションや鍛錬の時は頼りになるわね」

「伏黒さんに全て任せるわけにもいかないし、俺たちも早く動かないとな」

「そうだな……」

 

 加藤の言葉に玄野は頷く。甚爾に任せていてはダメだ。それでは何のために鍛えてもらったのか分からない。

 玄野は思考を回し、考える。

 甚爾から教えてもらったのは、何も身体の動かし方だけじゃない。立ち回り方などの戦術も教え込まれている。

 今回の星人は質よりも量の敵。ただ、質も低いとは限らないため、一人で立ち回るのはリスクがある。甚爾のように個として完成していたり、東郷のように戦いの経験が深いわけでもない玄野たちは、誰かしらと組んで動いた方がいいだろう。

 

 ならば。

 

「俺と聖、加藤と東郷さんで分かれて動こう」

「分かれて?」

「ああ。この数だ。まとめて動くよりもバラけた方が効率がいい。けど、一人だと対応できないかもしれない。だから二人組になってそれを補うンだ」

 

 これが正しい選択なのかは分からない。

 けれど、無策よりかはマシな筈だ。

 

「その案に乗ろう」

「!」

「俺たちが一人で動くのは危険だ。だから、4人まとめて動くか2組ずつ分かれるかしかない」

 

 玄野の案に東郷が乗る。それに続いて、加藤と桜丘も首肯する。

 

「ただ、ヤバそうだったらすぐに合流すること。その場合は4人で行動しよう」

「了解」

「わかったよ」

 

 それを最後に4人は二手に分かれ、星人を撃破しに向かう。

 

「絶対に生き残るわよ!」

「ああ……! 俺だッてやれるンだッて証明してやるッ!!」

 

 

 玄野を中心として、この部屋が初めてチームとして動き始める。

 リーダーの兆し。

 甚爾がその方向性を示すために植え込んだ種が、本人の預かり知らぬところで芽生え始めていた。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 玄野たちと分かれた加藤と東郷たちは、マップを確認しながら星人の下へと向かっていた。ミッション範囲は特に広くはなく、星人の数からして遭遇までにそうは時間は掛からないだろう。

 一番近いところにいる星人は3体。向こうがどんな能力を有しているかは分からないため、油断は出来ない。念のため遠くから狙おうという東郷の意見に加藤は賛成した。

 

「東郷さん、いけそうだったら俺が突っ込みます。射撃でカバーして貰えますか?」

「了解した。だが、君は星人を殺せるのか? この前、苦手だと言ッていただろう」

「それは……」

 

 確かにそうだ。ネギ星人、田中星人、仏像星人──段々と抵抗感は薄れていったとはいえ、消えはしなかった。

 覚悟は決めた筈だ。

 だが、人の性根はそう簡単には変わらない。実際に星人に手を掛けようとして、加藤は引き金を引くことが出来るのか。

 じり、と汗が滲む。

 

「……分かりませン。けど、俺はもう後悔はしたくないッ!」

「そうか。なら、カバーは任せろ」

「……ありがとうございます」

 

 加藤の苦悩は、東郷にとってはリスクでしかない筈だ。それでも彼はそれを受け入れ、全力でカバーすると答えてくれた。

 だったら──

 

(俺も、乗り越えなくちゃいけない)

 

 岸本に助けられた命。

 今は東郷の命も背負っている。

 何より加藤には、帰りを待つ弟がいるのだ。そのためにも星人は絶対に倒さなくてはならない。

 

 射撃ポイントにつき、星人の反応がある道路を見る。しかし、そこで加藤と東郷は眉を顰める。

 

「東郷さん、これッて──」

「……ああ。()()()姿()()()()()()()

 

 視線の先──そこにはガンツの提示した星人の姿はなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 そして、玄野たちも同じ状況に陥っていた。

 星人の反応がある屋根の上にやって来たが、星人の姿は見当たらない。そこには一般人がいるだけだ。

 

「どういうことだ……?」

「分からない、けど──」

 

 嫌な予感がする。

 二人の視線の先、そこにいる五人の一般人は──()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 同時刻、そこから1キロほど離れた場所。

 人気(ひとけ)のない路地裏に甚爾は一人立っていた。路地は酷い有様だった。

 大きく抉れた壁。ぽっかりと大きな円形の穴が空いた地面。

 壁と地面には夥しい量の鮮血と肉片が付着している。そして、彼の足元には不気味なほど真っ白な、人間ではない生物の頭部や四肢が落ちていた。

 

『貴様、よくも同胞を──!』

「あ゛ー、頭に話しかけてくんのやめろよ気持ち悪い」

『破壊する! 解体する! 貴様を必ず!』

「ハッ、解体されるのはオマエらだろうが」

 

 仲間を殺されたチビ星人が甚爾に襲いかかってくる。凄まじい速度だ。仏像星人の中にも速い個体がいたが、その比ではない。

 だが、甚爾にとっては欠伸が出る程度のもの。タイミングを合わせ、真っ二つに切断する。

 

「これで5体目。アイツらはどうしてんだろうな」

 

 油断さえしなければ、この程度の星人にやられることはないだろう。

 そう結論付けたところで、更なる敵がやって来る。

 

 

『破壊する。破壊する』

 

『同胞を殺した。ただでは殺さない』

 

『同胞と同じ──それ以上の目に遭わせてやる』

 

『四肢を捥ごう。首も引きちぎろう』

 

『──許さない』

 

 

 玄野たちが発見した個体と同じく、表情の消えた不気味な一般人の姿をしている。

 気持ち悪いな、と甚爾は吐き捨てた。

 

 

 

 




続きは明日の21時に予約投稿しております

原作との相違点
・チビ星人の数が3倍に
・一部のチビ星人の様子が違う。チビ星人の能力を知っている人は察しがついてるかも?


パパ黒、大金ゲット──! なお、東郷にその面は信用されていないので、月額で少しずつ渡されてゆく模様。
東郷の性格は完全にオリジナルです。イメージが違うかもしれませんが、その辺は流してくれると助かります。

東郷が大金を手に入れ、休暇を言い渡された理由ですが、完全に裏設定です。
本作では、政界のトップ層はもうガンツ側に染まっており、『来たる日』に備えて東郷を戦士として育て上げることに。
まぁ、死んでしまえばそこで終わりですが。

あと、これは別件ですがTwitterとかやってるので気になる方はフォローしてくださいな。
適当になんか呟いたり、進捗とか載せたりしてますのでぜひぜひ。
うたたねのTwitter

それでは!
あ、お気に入り、感想、評価、良ければお願いします〜




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0014 成長の証

チビ星人の数が増えた今回。
はてさて、どうなることやら。


なかよし部の復刻イベントが始まりましたね。
私はとりあえず190連目を引きましたが、クロエはまだ出てくれません。大概だぞクロエくん。もう天井まで一歩。
あの、天井ギリギリで来たりしないよね?そんなことないよね?

ps
気づけばお気に入りが1900突破!
評価も3600突破!
一体何が起こったというのだ……ありがとうございます!!!!
これからもよろしくお願いします〜!

p.s
4/25
何故かランキングに載っててびっくり。
誤字報告も感謝です!
現在、かっぺ星人編6話中の4話まで出来ておりますので、お待ちくださいな。


 ()()()姿()()()()()()

 これまでのミッションにはなかった事態。加藤と東郷は不審に思いながらも混乱することはなかった。

 冷静に状況を観察し、整理する。

 

「向こうもステルスを使ってる、とか……?」

「あり得る話だな」

 

 ステルス機能を有しているのはこちら側だけとは限らない。星人の能力はこちらの常識を大きく逸脱している。千手観音がまさしくそれであり、バラバラになっても元に戻る自己復元能力、人体を容易く切り裂くレーザービームなど、様々な力を持っていた。

 

(だが……)

 

 東郷の直感が違うと訴えかけている。

 ──違和感。

 そう、今持っている情報の中に、何かが混じって──

 

(……!)

 

 そして、気づく。

()()()()を覗いて星人の反応があった先にいた()()()()()()

 そこにあったのは──

 

()()()()

 

 部屋の標準装備であるXガン、Xショットガン、Yガンのスコープには、レントゲン機能が搭載されており、生物の肉体を透かして見ることが可能だ。

 Xショットガンの銃口の先。そこにいた人間の体の中に異物──チビ星人が収まっていたのだ。

 

「! 東郷さん、もしかして」

「ああ。()()()()()()()()()()()()

 

 特徴、人マネ。

 ガンツが寄越した情報のひとつ。

 その理由が今にして明らかになった。彼らは人の動作を真似るのではなく──姿()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そうやって人間に擬態していたのだろう。悪趣味だな、と東郷は一言呟いた。

 

「人マネッて、そういうことかよ……!」

「ああ、おそらくな。おそらくガンツの標的にされたことを察知し、急いで擬態した。姿形を変えても、動きの不自然さというものはどうしても残るものだ」

 

 東郷は自衛官──つまり、プロである。

 日々体を鍛え、多くの戦闘経験を積んできた。甚爾ほどではないが、人間の身体については詳しく知っている。だからこそ、彼らの違和感に気づくことが出来た。

 

「確かに。歩き方も不自然ですね」

「サイズが違うからだろうな」

 

 近くで見れば、もっと顕著に分かる筈だ。

 

「──まずは数を減らそう」

 

 ロックオンし、トリガーを引く。

 時間差で3体の人の形を模したチビ星人の身体が飛び散る。人の肉塊の中にチビ星人らしき白い肉片が混じっていた。

 そしてやはり人の真似をしていたとはいえ、ガンツのステルスの影響下にはあるらしく、周りの人間は気にせずに歩道を歩いていた、

 

「加藤。全てとは限らないが、奴らは人間に化けている。だからまずスコープで覗いて中身を確認しろ」

「……はい!」

 

 動きに不自然さはあるが、確実に看破できるわけではない。スコープを使い、中身を確認してから戦闘に入るべきだ。

 誤って常人を撃ってしまえば、それこそ取り返しのつかないことになる。

 

 

『──破壊する』

 

 

 ──突如、加藤と東郷の脳内に声が響いてきた。その直後、二人の間に何かが飛び降り、加藤の身体を殴り飛ばした。

 

「がッ!?」

「加藤!」

 

 加藤はフェンスに背中を打ち付け、東郷は目の前に現れた襲撃者から距離を取り、引き金を引いたが、そこには既に襲撃者の姿はない。

 

「速い!」

「大丈夫か、加藤」

「はい、スーツのおかげでなんとか」

 

 立ち上がり、二人は襲撃者の姿を確認する。

 襲撃者は人の姿をしていた。リクルートスーツに身を包んだ一般人──だが、瞬きを全く行わず、表情筋はピクリとも動かない。

 確認するまでもない、間違いなくチビ星人だろう。

 

 東郷がチビ星人に銃口を向け、撃とうしたその時、再び脳内に言葉が囁かれる。

 

『貴様らは同胞を殺した。許されない』

 

 そして。

 声は一つだけではなかった。

 

『殺してやる』

『許さない』

『このような……許さぬ』

『死よりも辛い目に遭わせてやる』

 

 5匹。いつの間にかチビ星人に囲まれていた。

 人の姿をした個体もいれば、そのままの個体もいる。だが、彼らは皆等しくこちらに殺意を向けてきていた。

 すると、前者個体の身体が真っ二つに分かれ、中からチビ星人の本体が現れる。油断は出来ないと判断したらしい。

 

 チビ星人たちが一斉に動き出す。

 彼らが狙ったのは東郷だ。仲間を屠った憎き仇。まずは彼を殺す。テレパシーにより怨嗟の念を囁きながら、東郷に迫る。

 ──が、それをカバーするように加藤が体当たりして妨害する。

 

「ここに固まっていたら囲まれます。動き回りながら迎撃しましょう」

「そうだな」

「だけど、相手は俺たちより速い。追いつかれた時は俺が対応します。だから東郷さんは、行けそうな時に射撃してください」

「了解した」

 

 方針を定めた加藤と東郷は、囲まれることを防ぐために移動を開始する。

 スーツの力は鍛錬で学んでいる。何メートル飛ぶことが出来るかは既に身体が覚えていた。

 ビルとビルの間だろうと、二人は躊躇することなく跳躍し渡っていく。

 チビ星人もそれを追う。

 

『逃がさん!』

「遅いッ!」

 

 2棟ほど移動した辺りでチビ星人が追いついて来たが、加藤が迎え撃つ。

 チビ星人の動きは確かに素早い。銃はロックオンを使わなくては捉えることは出来ないだろう。

 だが、速いと分かっているのなら対応は十分に可能だ。

 何故なら加藤たちは知っている。

 チビ星人など目ではない──伏黒甚爾という存在を。

 

 2体のチビ星人が巧みなコンビネーションで近接戦を仕掛けて来るが、加藤には当たらない。避け、いなし、カウンターを決め、多少の攻撃は喰らいながらもしっかりと対応出来ている。

 

 そして、残りの3体のチビ星人は東郷を狙おうと動くが、東郷の姿が突如として消えた。

 何処に行った──と思った矢先、1体の身体が破裂した。

 ステルス。

 周波数を弄ることで他者から自分を見えなくするコントローラに搭載された機能。無敵というわけではないが、初見殺しとしては十分に機能する。

 ステルスを起動した東郷は既に別のビルへと移動しており、そこから狙い撃ったのだ。

 2体のチビ星人は東郷を一旦諦め、加藤を殺そうと飛び出そうとするが──既に遅い。

 ロックオンされていたため、2体の体は同時に吹き飛んだ。

 

(流石、東郷さんだ)

 

 チビ星人が射撃された音が聞こえ、東郷が倒していっていることを確認した加藤は、チビ星人の1体を投げ飛ばし、Yガンで固定する。

 Yガンは攻撃用ではなく捕縛用。"上"と転送することで殺さずに点数を得ることの出来る武器だ。

 1体を転送した加藤だったが、もう一匹のチビ星人にYガンを蹴られてしまう。Yガンはそのままビルの下へと落ち、加藤に残されたのはホルスターにあるXガンのみ。

 

『よくも、我が同胞を──!』

「くッ、うぉぉぉぉお!!!!」

 

 そのままチビ星人が横薙ぎの蹴りを放つ。加藤はそれを腕でガードし、踏ん張りながらチビ星人の脚を掴み地面に叩きつけた。すかさずXガンをホルスターから抜き、倒れるチビ星人に突きつける。

 引き金を引けば銃弾が発射され、チビ星人は死ぬ。

 その思考が過った瞬間、加藤は一瞬だけ動きが止まった。

 

 チビ星人。

 彼らだって仲間がいる。加藤たちと同じようにコミュニティを形成し、生き延びようと必死だ。もしかしたら、家族だっているのかもしれない。

 そう思うと、軽く感じていたXガンが重く感じた。

 オマエはこれからコイツの命を奪うのだと、加藤と同じ声で、加藤の耳元に囁いている。

 千手の時とは違う──感情に任せてがむしゃらに振るうわけではない。

 自分の意思で。

 加藤はこの星人に手を掛けなければならない。

 

(殺す……けど、本当にそれが──いや)

 

 加藤は、覚悟を決めた。

 こちらから手を出してしまッたとはいえ、彼らを放っておけば多くの人間に危機が及ぶ。

 それは加藤の大切な人──家族にも襲ってくるかもしれない。

 だったら。

 やらなければならないだろう。

 

 

「すまない」

 

 

 謝罪──それが加藤に出来た精一杯の贖罪。

 数秒後、チビ星人は物言わぬ死体となった。

 

「加藤、大丈夫か?」

「東郷さん……はい、大丈夫です」

 

 東郷が加藤の精神状態を気にかけるが、加藤は頷いた。

 もう、殺さないとか殺せないとか言ってられない。

 ()()()()()()()()()()()のだと知った。

 誰かを救いたいのなら、誰かを切り捨てなければならない──なら、加藤が救うのは星人ではなく、この星の人間だ。

 

「俺はもう──迷いません」

 

 4回目のミッション。

 加藤勝はついに決心した。

 

「いい顔だ──ではまず、()()()()()()()()()()()

「はい!」

 

 再び現れた5匹のチビ星人。

 加藤と東郷はお互いに背中を預け──飛び出した。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 そして、玄野たちも次々とチビ星人を倒していっていた。

 チビ星人たちが人に化けていることはすぐに分かった。人ではないと分かった刹那、玄野と桜丘は彼らを倒すべく動き出した。

 最初こそは玄野と桜丘でお互いに背中を預けながら戦っていたが、3体ほど倒したところでさらに追加で5体ものチビ星人が襲来。流石にマズイと思った玄野たちは一旦その場を離れることにした。

 その時に玄野は気づいた。チビ星人の決定的な弱点──彼らを効率よく屠る方法を。

 

 チビ星人の身体面の特徴としては、スピードが速く、スーツを着た人間を吹き飛ばすほどのパワーだ。攻撃手段自体はシンプルであり、それに交えて彼らはコンビネーションを組みながら襲いかかってくる。

 ただ、その辺りは問題ではない。甚爾との鍛錬で感覚が慣れている。

 問題はコンビネーション。まだ2〜3体なら対処出来るが、7体は流石に不可能だ。

 だから、玄野は()()()()()()()()()()()()()()()で狙い撃つことにした。

 

 その場所とは──

 

 ビルに着地し、振り返る。

 こちらに飛びかかって来る3体のチビ星人。それを見た玄野はニヤリと笑みを浮かべた。

 

「──空中(そこ)なら、()()()()()()()()

 

 多重ロックオン。

 そして、発射。

 

 チビ星人たちは玄野の目の前で破裂し、肉塊へと姿を変える。

 

「流石ね、計ちゃん」

「そうでもねーよ」

 

 桜丘が感心したように言うが、玄野は照れ臭そうにそっぽを向く。

 とはいえ、玄野の戦闘に対するセンス──いや、生き残るセンスは抜群だ。

 特別秀でたところはないにもかかわらず、星人の弱点や詰まった状況を打破する方法を見つけ出す。

 日常では決して開花することのない、玄野の隠された才能だ。

 

「けど、アイツらも馬鹿じゃねー。同じ手段は通じないと思う」

「そうね。じゃあどうする?」

「そりゃあ──ここで倒すしか、ないンじゃね?」

 

 そう言って玄野は新たな武器を取り出した。

 戦闘にも慣れ、体捌きや銃の扱い方にも慣れて来た。そろそろ使いどころだろうと言うことで、玄野は甚爾からガンツソードの扱いを習っていた。

 

「ウフ、似合うわね」

「揶揄うなよ──俺がこッちに行く、そっち任せてもいいか?」

「勿論」

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

(Zガン──中々の威力だな。市街地で使うもんじゃねえけど)

 

 一通りチビ星人を片付けた甚爾は、ビルの屋上に座り込み、新しく手に入れた武器、Zガンの性能を想起していた。

 Zガン。

 双銃身の大型銃である"2番"の特典であるこの武器の性能は、簡単に言えば重圧で敵を押し潰すというもの。

 使い方自体はXガンなどと変わりはなく、ロックオンも可能である。

 ただ、Xガンとの最大の違いは威力と範囲もそうだが、タイムラグが存在しないこと。

 撃った瞬間に直径3mほどの範囲に標的直上に円形上の不可視の重圧が降下する。チビ星人に撃ってみたが、一瞬で粉砕された。

 弱点らしい弱点はなく、唯一の欠点は連射すると威力が低下してしまうというもの。とはいえ、この威力に耐えられる星人はそうそういない。頭の片隅程度に入れておく程度でいいだろう。

 

 レーダーを確認すると、チビ星人たちの数はもう残り数体となっていた。

 制限時間も残り20分とまだまだ余裕だ。

 チビ星人の得点は読めないが、1体2点としても15体倒したため30点は貰える。十分すぎる。前回の千手と比べれば温いと言わざるを得ないだろう。

 

(戦力の向上は順調。あとは情報だけ。()()1()0()0()()()西()()()()()()()()()()()())

 

 再生される西は甚爾の知る西とは別人だろうが、甚爾としては西の人格には用はない。必要なのは彼の持つ情報。倫理がどうとか語るつもりは更々なかった。

 それに、西自体も再生を望んでいたようだし、本人が了承しているのであれば問題はないだろう。

 

「お。終わったか」

 

 誰かが最後の一体を倒したのだろう。転送が始まった。

 一度確認していたが、今回はボスと呼ばれる星人はいないようだった。そういう類のミッションもあるということだろう。

 

 

 転送が完了する。どうやら甚爾が最後だったようで、部屋には全員が揃っていた。

 達成感溢れる表情をしており、特に加藤はこれまでとは顔つきがいい意味で変わって見えた。今回のミッションで何か変わるきっかけがあったのだろうか。

 

「あッ! 伏黒さんどこにいたンすか!?」

「普通に星人がいっぱいいた方に。15体くらい引きつけてやったんだから感謝しろや」

「15ッて……まぁ、アンタだしね」

「流石だな、伏黒」

 

 玄野たちも甚爾の規格外さには慣れたらしく、特に驚くようなことはなかった。

 

「こうして全員生きて帰れたのは初めてだな……」

 

 加藤が、感慨深く呟いた。

 これまでのミッションでは新人や経験者関係なく多くの人間が死んでいった。今回は新人はいなかったとはいえ、全員が生還出来たのは大金星と言ってもいい。

 

「これからもぜッてー生きて帰るぞ……!」

「計ちゃん……ああ、そうだなッ!」

 

 玄野が加藤に拳を突き出し、加藤も笑顔で答えた。

 その様子に桜丘と東郷は笑みを浮かべた。甚爾は青臭えと辟易としていたが。

 

 そして訪れる採点の時間。

 

「今回は1体何点だろうね」

「個体差はなかったから、一人分かれば自ずとわかるだろう」

「確かにそうね。もう採点いらないんじゃない?」

「えー? 俺、結構採点好きなんだけど」

 

 目、瞑っておこうかな、なんていって本気で目を隠す玄野。そういえばまだガキだったなこいつ、と甚爾は思ったりした。

 そして玄野の言葉に反応したのか、最初の採点者は玄野だった。

 

 

くろ

 

 TOtaる

 7てんでおわ

 

 

「玄野、オマエ何体倒した?」

「7体ッすね」

「じゃあ、1体3点か~。私は9点ね」

 

 玄野の採点から点数から、それぞれの点数が割り出される。

 桜丘が3体で9点。東郷が8体で24点。加藤が5体で15点だった。

 

 そして甚爾は——

 

 

駄目ゴリ

 45

 TOtaる60

 0てんでおわ

 

 

「ま、ボーナスゲームだったな」

「そンなこと言えるの伏黒さんだけッすよ」

 

 玄野に呆れた目で見られる甚爾。

 甚爾はそれを無視して、

 

「ま、ボーナスゲームっつっても、収穫はあった。ミッションには必ずボスがいるわけじゃねーってことだ」

「あー、確かに」

「だが、逆に言えば()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ということにもなる」

「!!」

「そうだな」

 

 東郷のその一言に部屋に緊張が走る。

 ありえないことではない。星人の生態は不明。その中に強力な個体しかいない星人もいる可能性は否定出来ない。

 もしも千手クラスの星人が多数いるミッションだったら、下手すれば壊滅すらあり得る話だ。

 

「ま、そういうミッションが来た時は来た時で受け入れるしかねえよ。どのみち避けられやしねえんだ」

「まぁ……極論そうね」

 

 ガンツから逃れるためには"1番"を選ぶか死ぬかだ。避けられないのなら、その時生き残れるように鍛錬を重ねるしか方法はない。

 玄野たちもそれもそうだと思い、より一層鍛錬に励む決意をした。

 

「とりあえず、今日は解散するか」

 

 東郷が言うと、桜丘が頷いた。

 

「そうね。私も明日は朝早いし」

「何かあるのか?」

「事故で壊したバイクの受け取り」

 

 そんなたわいのない話をしながら、5人は部屋を後にした。

 

 こうして、4回目のミッションは犠牲者なしという結果で終わりを迎えた。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 桜丘にバイクで家まで送ってもらった玄野は、ベッドに入り、眠る直前にふとあることを思い出した。

 

 

(あ、そういえば、伏黒さんに()()()()()のことを伝えるの忘れてた……)

 

 

 

 




別に玄野の言い忘れはフラグでもなんでもないです(たぶん)


というわけで、チビ星人の編終了ー!
本当は玄野たちの成長を見せて淡々と終わらせるつもりだったんですが、どうせなら、二次創作ではあんまり使われないチビ星人の擬態設定を使うかってことでこんな感じに。
楽しんでいただけたかな……?

裏設定として、チビ星人が増えた理由に他県のガンツに認識されたことを察知して逃げた、みたいなことを考えましたが、まぁあんまり関係ないです。

次は待望の『かっぺ星人編』
新人は、誰がやってくるかな?
完成次第、あるいは気分次第で投稿します。もしかしたら導入部だけ書いて更新するかも。

あと、これは別件ですがTwitterとかやってるので気になる方はフォローしてくださいな。ハメ民ってわかれば即フォロバします。
適当になんか呟いたり、進捗とか載せたりしてますのでぜひぜひ。
うたたねのTwitter

それでは!
あ、お気に入り、感想、評価、良ければお願いします〜


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かっぺ星人編
0015 『黒い球の部屋』


かっぺ星人編が9割くらい完成したので投稿します。
ゴールデンウィークですしね。

それはそれと!
なんか分かんないんですけど、チビ星人編を投稿した3日後くらいに何故かランキング7位あたりに乗りまして……総合評価が4500を超えちゃいました!
本当に皆さんありがとうございます……! マジで嬉しいです。ニヤニヤが止まらない。

誤字報告も毎度毎度本当にありがとうございます 

目標の5000まであと少し!


ちなみにですが、かっぺ星人編からはGANTZ:Fは第二部に入ります。
だからってなんかあるとかいうわけでもないですけど。
第二部の理由につきましては、たぶんかっぺ星人編3話のあとがきに書かれてあると思います。

p.s
プリンセスガチャでクロエ(通常)が来てくれた。
あとはちえる、お前だけだよ。





 チビ星人との戦いが終わったある日のこと。甚爾は玄野から「大事な話があるから至急来てください」と連絡をもらい、玄野の家までやって来ていた。ちなみに携帯は東郷からもらったものだ。

 玄野の自宅は住宅街にあるごく普通のアパートだ。新築というわけではなく、かと言ってボロくはない。普通程度の外観。ほんの少しだけ錆びた階段を登り、玄野の部屋へと向かう。

 

「あ、伏黒さん。来てくれたンすね」

「くだらねえことだったら承知しねえぞ」

 

 インターフォンを押すとすぐに出てきた。靴を脱ぎ、リビングへと向かう。1LDKの普通の内装。男子高校生の割には綺麗に片付いており、意外だな、と思った。

 玄野は甚爾を椅子に座らせ、パソコンを甚爾の前に置いた。

 

「パソコンが何か関係あんのか?」

「まぁ、はい。けど、それについて話す前に説明しなくちゃいけないことがあるッす」

 

 おそらくガンツ関連のことだろう。

 焦りが見えている。

 

「この前、伝えるのは忘れてたンすけど……チビ星人のミッションの日に転校生が来たンすよ」

「転校生?」

「はい。ソイツはまぁ、顔はいいし運動は出来るし頭もいいッていう男何ですけど、まぁ色々あッて仲良く、とまではいかないンすけどそれなりに話すようになりました」

 

 話が見えてこないが、とりあえずそのまま続きを促すことに。

 

「で、その日の放課後、ソイツがあることを聞いてきたンです」

「あること?」

「ええ。それが──」

 

 ──オマエ、ガンツッて知らないか?

 

 甚爾は初めて表情を変えた。

 その転校生──名前は知らないが、その男はガンツのことを知っており、それだけでなく玄野にそれを訊ねた。確かに玄野が甚爾に相談を持ちかけてきた理由が分かった。

 玄野だけの問題ではない。甚爾、加藤、桜丘、東郷──あの部屋の住人全てに関係することだ。

 

「で、聞かれた後に、オマエの部屋に行きたいッて言われて。まぁ、鍛錬があるから断ッたンですけど。そしたら昨日、ソイツが俺の家に来て、そのパソコンであるサイトを見せてきたンです」

 

 そうして玄野はパソコンを立ち上げ、その転校生が見せてきたというサイトを開く。

 それを見た甚爾は目を見開いた。

 サイト名は『黒い球の部屋』

 間違いなくあの部屋のことであり、よくみるとガンツについての考察やミッションの内容が書かれていた。

 そのサイトを誰が作ったのかはすぐに分かった。最後の更新は2ヶ月ほど前──ネギ星人のミッションの話で終わっている。

 

「西の野郎か」

「たぶん……」

 

 軽く内容を見てみると、小説風に事細かくミッションでの出来事が書かれていた。ただ、傍迷惑なことに西は地名はもちろん、登場人物の名前を隠さずに普通に使っていた。

 これでは身バレの可能性もある。その転校生が玄野に対して興味を持ったのもこれが原因だろう。

 

 それよりも驚いたのは、こうも堂々とガンツのことを記事にしておきながら、西に対して特に制裁が行われていないことだ。

 てっきりネットでも完全に規制されているだろうと思っていたのだが、まさか逆に抜け道でもあったとは。

 

「ソイツは何か他にいッてたのか?」

「いや、俺にスーツ着てるかどうか聞いて、やッぱなンでもないッて言って帰りましたよ」

「まぁ、オマエらの時期だったら、そういう偶然に何か意味を見出してはっちゃけることはよくあるからな」

「伏黒さんもあッたンすか?」

「……あ?」

「いや、なンでも」

 

 だが、どうしたものか。

 その転校生がどういう人間かは分からないが、下手に嗅ぎ回られて鍛錬などを見られても困る。聞く限りスペックも高く、行動力もありそうだし、嗅ぎついてくる可能性はあり得ない話ではない。

 ()()()()()()の延長だったとしても厄介だし、何より──

 

(──何か引っかかるな)

 

 根拠もないただの直感だ。

 ただ、これが意外と当たるのだ。ギャンブルではマトモに働かないというのに。

 

「玄野、とりあえずその転校生──ああ、一応名前教えろよ」

「和泉、和泉紫音」

「和泉紫音、ね。和泉には関しては別に一応気をつけとけ。ソイツに誘われた日は鍛錬には来なくてもいい」

「ええ!?」

「下手に嗅ぎ回られても困るんだよ。まぁ、桜丘に迎えに来てもらって逃げるのもいいけどな」

 

 彼女とデート、なんて言えば流石に付いては来ないだろう。

 

「ま、何かあれば俺か東郷に連絡しろよ。最悪、そいつは俺が殺る」

「殺るッてまさか」

「殺す」

 

 不穏因子は消しておくに限る。取り返しがつかなくなる前に動くのは当然のことだ。

 

「ええ……?」

「冗談だっての。俺もそこまで非情じゃねえ」

 

 ただ、一応誤魔化してはおく。玄野に下手に意識はさせたくない。

 

 

 じゃ、帰るわっと伝えて甚爾は玄野の部屋を後にした。

 

 思いがけない収穫とハプニングだった。

 まぁ、結果的に見れば得たものの方が多いため、問題は特にはない。

 

(とりあえず、黒い球の部屋──ここから潜ッてみるか)

 

 西の遺品とも言っても差し違えのないもの。

 何か重要なものが記されているかもしれない。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 それから2ヶ月近くの時間が経った。

 ガンツからの音沙汰は全くと言っていいほどなく、一周回って不気味に感じるほどだ。

 ただ、鍛錬は欠かすことなく続けており、玄野たちは著しく成長を遂げている。

 そして、甚爾と東郷はこの二ヶ月間、西丈一郎が運営していた『黒い球の部屋』というサイトを中心にガンツについての情報を集めていた。

 黒い球の部屋──そこには西が過去に参加したミッション全てがまとめられており、他にも甚爾たちが知らない単語がちらほらと載っていた。

 そこで甚爾と東郷が注目したのは二つ。

 一つは過去の参加者に『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。彼は甚爾たちが部屋にやってくる数ヶ月前に"1番"を選んで解放されており、それっきり出てきてはいない。

 西のミッションでの描写が真実であるなら、『和泉くん』は相当な手練れであり、数々の強力な星人を倒していた。

 流石に本人の容姿について書かれている描写はなかったが、おそらくこれは転校生『和泉紫音』本人であると甚爾は半ば確信していた。

 ガンツについて興味を持つ同名の人物。関係がないはずがない。

 今のところ、玄野によれば和泉には不審な動きは特に見られないとのことだった。

 ガンツについて訊ねることは殆どなく、普通に休み時間や休日に遊びに行ったりしているらしい。

 玄野にはこのことを伝えてはいない。すぐに感情が表情に出るし、腹芸は苦手だろう。

 

 次に気になったことは、サイト内で度々登場する『Katastrophe(カタストロフィ)』という単語だ。

 西はどうもカタストロフィについて重要視しており、「終局が訪れる日は近い」などといずれ何か大きなことが起こることを仄めかしている。

 思春期特有の病気とも取れるが、あのイカレサイコパスに真っ当な成長発達段階など訪れているとは思えない。知性も高いようだったし、何かしら意味があると考える。

 ただ、このカタストロフィに関しては情報が全く謎であり、サイトを調べていても特にめぼしいものは見当たらなかった。

 

 それから甚爾と東郷でガンツに対する情報を探って見たが、意外にもネットの海に情報は転がっていた。

 全国各地──いや、世界各地に不自然な破壊痕や殺傷事件が起こっているのだ。

 破壊痕を見れば、ガンツの武器によるものだとすぐに分かった。どうやらガンツはかつて甚爾が推測したように世界中に存在するらしく、多くの人間が殺し合いを強いられているようだ。

 その過程で甚爾たちは、どうやら日本中のガンツの住人たちが集まっているコミュニティのようなものがあることを知った。

 しかし、情報秘匿に対しては相当に警戒しているらしく、機械にそこまで詳しくない二人では厳重なロックを潜り抜けることが不可能だったため断念。西が復活するまで待とうという結論に至った。

 

(しっかし、カタストロフィ──終局ね)

 

 一体何が起こるというのやら。

 甚爾のいた世界で言うのなら、やはり盤星教の者たちが行った星漿体の暗殺による天元の同化の妨害だろうか。

 天元は不死の術師。だが、不老ではない。そのため、年齢を重ねる度に肉体が人ではない上位存在へと昇華してしまう。

 その段階の天元にはまともな意思が存在するかは不明。そうなった場合、日本という島国の基盤となる結界が崩壊する可能性もあり、その末路はどうなるかは想像に難くない。

 あの後、呪術界がどうなったかは分からない。

 ただ、天元が暴走したとしても、五条悟がいればなんとかなるだろう。死んだ身である甚爾には、どうでもいいことではあるが。

 

 ──お父さん

 

「……」

 

 ふと過ぎる、甚爾の忘れ形見。

 最愛の妻が遺した呪いを、甚爾は果たすことが出来たのか。

 

(チッ、今更考えたって無駄だろうが)

 

 気にしたところで、何になるというのか。

 今こうして思考を回している伏黒甚爾は、伏黒甚爾ではない。肉体と記憶を貼り付けられただけの別人だ。

 彼女も息子も、記憶にあるだけで会ったことはないというのに。

 

「……あー、らしくもねぇ」

 

 雑念を振り払うようにして頭を振るう。

 

(……気晴らしでもするか)

 

 

 

 

 

 実は甚爾は家を購入した。無論、戸籍がないため東郷の名義でだが。ようやく拠点を手に入れ、彼は女の家に泊まったり漫画喫茶で寝泊まりする生活から解放されたのだ。

 

(外に出たはいいが、散歩っつっても暇だしな……打ち行くか)

 

 甚爾、散歩開始数分でパチンコ屋に行くことを決意。

 時間を潰すのならギャンブルに限る。下手をすればあっという間に1日が終わっている時もある。

 当たっても当たらなくとも、遊びと思えば()()()()ストレスは溜まらない。

 

 それに、以前のように玄野やチンピラから得ていた頃とは違い、今の甚爾にはそれなりの金がある。

 東郷の手により、月の上限額は決まってはいるが、ギャンブルに注ぎ込める分には十分すぎる。財布の紐も緩むというもの。

 膨らんだ財布の感触を大腿部で味わいながら、近くのパチ屋へとさっさと向かうことにする。

 

 羅鼎院でのミッション以降、甚爾は夜にギャンブル──少なくともパチンコに行くのは辞めた。

 当たっていたとしてもガンツに呼ばれればパーとなる。換金直前であれば問題はないが、あまりにもリスクが高すぎる。であれば、最も白熱するレースを見れないとはいえ、結果をミッション後に調べれば後日でも換金出来る競艇に行った方がマシだ。

 現在の時刻は正午ちょうど。ガンツに呼ばれる可能性は限りなく少ないだろう。昼にミッションがないことは『黒い球の部屋』で確認済みだ。

 

 歩くこと苦節15分。ようやく目的のパチ屋へと到着した。

 信号が変わり、ウキウキと交差点を渡り、数十メートル先にあるパチ屋の扉へと足を踏み出した──その時だった。

 

 

「ちょいとよかか?」

 

 

 何者かが、甚爾の前に立ち塞がった。それは男だった。

 袖のない長ランに下駄という古臭い衣装。そこら覗く鍛え上げられた巨躯。顔を見ると、濃ゆい髭と眉が特徴的な甚爾よりもオッサンらしいオッサンな顔立ちだった。

 

「オマエ、強か男ばい。見りゃ分かる。俺と勝負してくれんか!?」

「……見た目だけじゃなく、言動もイカれてるらしいな」

 

 変なやつに絡まれたな、と顔を歪める。

 こういう輩の考えは短絡だ。

 自分よりも強い者と戦いたい──ただ、それだけだ。

 その鍛え上げられた肉体を見れば分かるが、只者ではない。おそらく純粋な殴り合いであれば、東郷でさえこの男には敵わない。

 呪力を纏えばそのまま呪術師として活躍することが出来るだろう。

 

 さて、どうしようか。

 正直、スルーするのもいいが、おそらくパチ屋の中だろうと付いてくる。中で問題を起こせばこの男だけでなく、甚爾も出禁の令を喰らい兼ねない。

 だからといって相手をして叩きのめせば、気に入られて付き纏われる可能性もある。

 勿論、パチンコに行かず全力で振り切るという手もあるが、打ちたくて堪らないので却下だ。

 

「……いいぜ」

「本当かッ!?」

「ああ、ただし条件がある。俺は只働きはゴメンなんでな」

 

 臨時ボーナスだ。コイツから巻き上げられるだけの金を盗る。

 

「つまり、金が欲しいッちゅーコトか?」

「ああ。俺にはメリットがねえからな」

「そうか──断る」

 

 乗ってくるだろうと思っていたのだが、予想外の答えに甚爾は目を点にする。

 

「金が欲しけりゃ──俺を倒せばいいだけの話じゃ」

「なるほど……ま、それでもいいか」

 

 どうせ金が手に入ることには変わりはない。

 

「一応、俺が年上だしな。オマエから来いよ」

「……舐めとうンか?」

「オマエこそ──俺を舐めすぎだろ」

「!」

 

 ほんの少しだけ殺意を向けた。男の身体が一瞬だけ強張り、驚きに目を見開いた。

 甚爾としてはさっさとこんな無駄な喧嘩を終わらせてパチンコに向かいたいのだ。対等な勝負など求めてはいない。こういう手合いはさっさと実力差を見せつけるに限る。

 

「はッはッはッ! 舐めとッたのは俺の方か」

 

 男は高笑いを上げ、構えを取る。その目に油断はなく、真っ直ぐと甚爾を捉えている。

 人差し指を曲げ、「来いよ」と煽る。

 次の瞬間、男は甚爾との距離を一気に詰めた。殴るのではなく、背中から全体重を乗せてぶつける体当たり──八極拳、鉄山靠。

 男の体格から放たれるそれは、成人男性であろうと軽々と10mほど吹き飛ばせるだろう。

 

 だが──甚爾にそれは通用しない。

 

 技は完全に直撃し、男の目論見では甚爾は今頃吹っ飛んでいる筈だった。そうでなければおかしい。だというのに、全力の鉄山靠を喰らっても、甚爾はビクともしない。

 

「よし、次は俺だな」

 

 呆然とする男へ甚爾も同じく鉄山靠を放つ。甚爾の戦闘スタイルは男と同じ我流のものだが、大元は存在する。使えそうな武術を甚爾は会得出来るだけ会得し、それを巧く組み込むことで独自のスタイルを獲得していた。そのうちの一つに八極拳があったというだけだ。

 男は数十メートルほど吹き飛んでいき、電柱に背中をぶつけた後、動かなくなった。

 死んではいない。手加減はしたし、運が悪くても骨折しているくらいだろう。

 甚爾は男の下へと歩み、彼の持つバックから財布を取り出して中身をくすねる。そういう契約だったはずだ。

 財布の中には身分証明書が入っていた。興味本位で確認する。名前──どうやら風大左衛門というらしい。驚くことに年齢は17歳、玄野の一つ上のようだ。

 

「……お、俺より……強か、男が……おッた……かいな……」

「まだ意識があったか。ま、約束通り金はもらってくぜ」

 

 正直、驚いた。死に至るような大怪我はしないように調整したが、そこそこの術師だろうと気絶する程度の威力でやった筈だった。

 とんでもない肉体と気力だ。

 

「好きに、しィ……」

 

 そう言って男──風は気を失った。

 コイツがあの部屋にいれば、相当な戦力になるなと思いつつ、甚爾はその場を後にした。

 

 

 

 ──ちなみにパチンコは負けた。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 風との戦闘から二日が経った。暇潰しに『黒い球の部屋』で過去のミッション──"ひょうほん星人編"を読んでいると、机に置いてあったケータイが鳴った。

 手に取り、画面を開くとそこには『玄野』という名前。

 電話に出るとつんざくような大声で玄野が甚爾の名を呼んだ。

 

「うる、せぇ!」

『あ、すいませン……ッて、ンなこと言ッてる場合じゃない! ()()()()()()()()()!』

「ああ……?」

 

 面倒なことになって来たな、と甚爾は思った。

 

 

「とりあえず、話を聞かせろ」

 

 




風とかいう明らかなバグキャラ。


というわけで、おそらくこれからかっぺ星人編は6日間──来週の木曜日までは連続更新できると思います。
最終話だけまだ半分しか書けてないので水曜日で終わるかもしれませんが。

感想お気に入り評価よろしくお願いします〜!


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0016 新宿大虐殺

オニ星人編を早くやりたいと思うこの頃。
パパ黒をもっと動かしたいんや……あそこまでは前哨戦だったり。
GANTZ:Oが一番書きたいですが。


 話はこうだった。

 和泉紫音。奴は相当にイカれていた。玄野を疑いながらも決定的な行動に出ていなかったが、ついに我慢が利かなくなったのだろう。玄野を突如銃で撃ち、無傷なことを確認すると、玄野が部屋の住人であることを確信。

 和泉はガンツから特別な依頼を受けており、手のひらサイズのガンツを持っていた。そこに書かれてあったのは──

 

 

 ──できるだけ多くの人を連れてきてくだちい

 

 

「──()()()()()()。新宿で大量に人を殺す。それが嫌なら止めてみろ、ッて」

「なるほど、な」

 

 過去の解放者。

 あの部屋の帰還。

 ガンツの目的──多くの人間をあの部屋へと誘うこと。

 

 考えられることは、これからもっと人数がいる──高難度のミッションが増えるという可能性。

 

 そのために必要な戦士を、ガンツは求めている。

 

 だが、和泉の行動には不可解な点がある。

 

「本当にやる気があんのか? わざわざオマエに教えるメリットがねぇだろ」

 

 止めてください、と。そう言っているようなものだ。呪術とは違い、これから行うことを開示することで術者やそれにまつわる儀式の成功率を上げるとか、この世界では出来ない。

 それに対して玄野は「それは」と切り出す。心当たりがあるようだった。

 

「あいつはたぶん、俺に殺されたい……いや、勝ちたいンじゃないかッて」

「勝ちたい?」

「はい……まぁ、勘……スけど」

 

 理由も根拠もない。ただ、確かにそれなら筋は通る。

 話を聞く限り、和泉という男はガンツに対して並々ならぬ執着を持つようだった。だから、既にそれを目にしている玄野のことが妬ましく、羨ましいんだとしたら。

 止めてみせろ

 

 新宿で大虐殺。

 それが終わった後に和泉は玄野に対してもう一度勝負を挑む筈だ。

 殺し、殺されるか。

 そこで玄野が和泉を殺しても、和泉が玄野に勝った後に自殺しても、ガンツに呼ばれた時点で和泉の目的は達成出来る。

 確実にやりたいなら玄野に黙っておけば良いのに。合理性に欠けたやり方だ。まぁ、人間の心理というやつはそう簡単には作られていないということか。

 

 ただ、わざわざそれに乗ってやる必要もないだろう。玄野にはメリットがない。多くの人が死ぬという事実にさえ目を瞑れば、問題ない筈だ。

 それを伝えると、玄野が「けど……」と渋ったような声を出す。

 

「俺のせいで死ぬッて考えると……部屋に行ッた時、和泉が殺した奴らがいたら、俺は……」

「……」

 

 そういえばこいつ元々普通の学生だったな、と思い出す。

 非日常に関わってはいるものの、その辺りは割り切れないのだろう。

 ただ、それだけなのだろうか。

 甚爾と会ったばかりの頃の玄野は、他人に関心のない少年だった。

 今はどうだ?

 こうして他人が殺されるかもしれない状況をどうにかして止めようとしている。数ヶ月前では考えられない行動だ。

 桜丘や加藤と出会ったことが、何か影響を及ぼしたのだろうか。

 

「ま、止めるなら止めるで良いだろ。何時何分に、どういう手段で行われるかは知らねえが、スーツを着てりゃ未着用の人間に負けることはほぼねえよ」

 

 ただ、と甚爾は話を続ける。

 

「和泉ッて奴は感情や本能に直球的だが、頭はキレる。()()()()()()()()()()()()()

『えッ』

「当たり前だろ。スーツの効果は今日のことでバレている。オマエがそれを着ているだけで勝負は成立しねえ。だったら、どうにかして生身で戦うように仕向けるだろ」

 

 スーツの力は、常人同士の戦いであれば、体格差や技量を覆して戦える。和泉が如何に優れていようと、スーツを着ている玄野に勝てる要素はない。

 

「ま、頑張れよ。俺の知ったこっちゃねえんだし」

『ええ!? 何のために甚爾さんに聞きに来たと思ッてンすか!!』

「アドバイスだろ。そもそも誰が手伝うって言ったかよ。勝手に都合の良い方向に持ってくな」

 

 あとアドバイス料金として1万は貰うぞ、と伝えると、悲鳴のような声を上げた。

 

「チビ星人の時みたく、俺に頼らずやってみろよ。んじゃ、切るぜ」

『ちょッ──!』

「ああ、ひとつだけサービスだ。()()()()()()

 

 最後にそう伝え、甚爾は電話を切る。

 玄野も運が悪いな、と思いながら、和泉の件について考えてみる。

 

 甚爾が玄野へ協力しなかったのには理由がある。それは簡単な話、和泉を止めてもおそらく無駄足だからだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 甚爾はそう考えている。

 和泉にやらせようとしたのは、単純に都合が良かったからだ。わざわざ手を出さなくても参加希望者が勝手に動いてくれるのならガンツ側としては楽が出来る。

 たとえ和泉が失敗しようとも、別の人間、あるいは別の策で大量の人間を部屋に呼び込む筈だ。

 

(けど、こんなことがあるんだな。サイトにも今回みたいにガンツがミッション外で命令を下すようなことは書かれていなかった。例外中の例外ってわけか)

 

 ──カタストロフィ

 それが近づいていると西はあのサイトに書いていた。

 ならば、和泉に下した命令は、そのための準備と捉えることが出来る。

 西を死なせたのは痛手だったな、といつかのミッションでの出来事を若干と後悔しながら、ベッドに寝転がりそのまま睡眠に入った。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

──()()()()()()()宿()()()()()()()()()

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 その日──新宿は一人の男の手によって地獄と化した。

 逃げ惑う人々。

 つんざく悲鳴。

 響く銃声。

 地面を彩る鮮血に。

 その上にある二度と動くことはない人間だったもの。

 その惨状の中心に、一人の男が立っていた。

 3月にしては着込みすぎてると言っても良いほどの厚着に身を包んだ、サングラスを掛けた黒人。その手にはマシンガンを二丁ずつ握っており、彼がこの地獄を生み出した張本人にであることは明白だった。

 

(何人殺したか、わかンねーな……)

 

 まぁ、良いか、と男は再び歩みを進める。

 細かい数は問題ではない。

 

 ──()()()()()()()()

 

 あの『球』が彼──和泉紫音に求めたのは、それだけのことだ。

 

 和泉は変装し、自分の姿を偽りながら、『球』からの命令を遂行するために新宿で大勢の人間を殺していた。

 

 和泉紫音は、渇望している。

 黒い球の部屋(あの部屋)にどうしても惹かれてしょうがなかった。

 理由はわからない──いや、分からなかった、というのが事実だろう。今はもうわかっている。

 あの荒唐無稽なのに何故だかリアルな日記──和泉の心を惹き寄せたのはそこではない。

 

 ──懐かしさ、とも呼ぶべき感覚。

 

 常に脳裏を走るイメージ。

 それと合致(リンク)する。

 スポーツも勉強もなんだって出来た。けれど、胸の中に空いた虚無を唯一埋める──熱く激らせるその空想……いや、実在した、かつてのイメージ。

 記憶にはない。

 だが、それでも──肉体が、心が覚えているのだ。

 

 あの夜──狩りをして新宿を駆けめぐる記憶を!!

 

 だから。

 羨ましかった。

 妬ましかった。

 和泉がかつて解放され、今は渇望しているあの部屋の住人である人間が──玄野計のことが。

 

 玄野が部屋の住人であることは確実だ。

 ()()()()()()()

 玄野は服の下に例のスーツを着ており、銃弾で撃ち抜こうとも無傷で立っていた。

 和泉はその事実に歓喜した。

 自分の記憶が妄想などではなく──歴とした現実のものであるのだと、証明されたから。

 

 手元にある、小さな黒い球。

 ガンツからの指令──多くの人間をあの部屋に呼べ。

 和泉はそれを実行する。

 正気の沙汰ではないことは分かっている。玄野が狂人だと和泉を罵ったが、それは覆しようのない事実。認めよう。

 だが、それでもやめられない。

 やめる気はない。

 

 本能が!

 心が!!

 魂が!!!!

 

 和泉をあの部屋へと向かわせていた。

 

 良心の枷など、無いにも等しい。

 今の和泉を止められるものなど、和泉自身でさえも不可能だ。

 計画は練った。

 計画通りに行けば確実に成功する。

 玄野には教えたが、止められるなら止めてみろ。無策で伝えたわけではない。

 

 だが──ひとつだけ、不安要素が和泉にはあった。

 

 黒い球のサイト──最後の更新であるネギ星人編。

 そこに登場した、トウジと呼ばれる男。

 管理人曰く殺し屋とのことで、その実力はサイト内のミッションの参加者の中でもぶっちぎり。唯一彼の存在だけは空想のものだとサイト内の感想欄では言われていた。

 和泉とて、眉唾物の存在だとは思っているが、事実である可能性は捨てきれない。もしも彼が実在し、玄野が助けを乞うた場合、和泉の計画に支障が出てしまう可能性は捨てきれない。

 

 だから和泉はある策を練った。それは玄野の携帯に『仕込み(盗聴)』をすること。

 やり方はネットで調べればすぐに出て来た。何度か自分のもので試し、可能だと知るや否や玄野が教室にいない間に細工し、情報を手に入れられるようにした。

 そして、玄野に事実を打ち明けた今日──和泉は知った。

 

(──()()()()()()()()()()()()()()()())

 

 玄野と会話する文章越しにしか知らない、男の声。

 どうやら玄野は和泉の情報を以前から伝えていたらしく、トウジは和泉を既に認識しているようだった。

 

 話を聞いていただけで、容姿も知らないし、実力だって分からない。

 だが──和泉の本能が、()()()()()と訴えかけていた。

 

 だから、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 トウジの気が変わり、玄野へ協力する前に。

 和泉は、先手を打って出たのだ。

 その目論見は成功と言っても良いだろう。ガンツがどれだけの人数を求めていたかは知らないが、少なくとも3桁以上は殺った。

 その中には、何人かの強者もいた。数打てば当たると言うが、質もいいものが揃っているのではないだろうか。

 

(特に最後に戦ったおっさんヅラと変な能力を使う二人──危うく殺られるところだッたな)

 

 この辺りでいいだろうと判断し、トイレへと駆け込み、慣れた作業で変装を解いていく。

 この辺りにカメラがないことは確認している。銃火器などを隠し、着替えた和泉は外へと向かう。

 

「さて……あとは死ぬだけだが……」

 

 自殺すればすぐに終わることだが、どうせなら──試してみたい。和泉紫音は、玄野計に優っているのだと。それを、証明したい。

 

 携帯を操作し、ある男に電話を掛ける。

 ワンコールで目的の男は出た。

 

「よォ──玄野」

『和泉、テメェ……本気でッ!』

「信じてなかッたのか? まァいいさ。それより悪いな、約束を破ッちまッて」

 

 こういう事態を踏まえて、一日時間を空けて置いたのだ。次善策を準備してよかった。

 

「ガンツが求めていた人数は、たぶん達成した。あとは俺が死ぬだけだ」

『……何が、言いたい』

「分かッてるだろ。昨夜──言ッてたじゃないか、フシグロトウジに」

『!?』

 

 玄野は和泉の行動に納得はしていなくとも理解は出来ていた。話していない本心を──玄野に勝ちたいという想いを、知っている。

 

『オマエ、盗聴してたのか!?』

「ああ、ちなみにメールも見ていたさ。悪かッたよ。あとで処分してくれて構わないさ。まぁ、ンなことなどうだッていい──本題に入るとしようか」

 

 問題は乗ってくれるかどうか。だが、玄野はほぼ確実に乗る。いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「──俺と勝負しよう、玄野」

『やッぱり、そうか……!』

「話が早くて助かる。今から新宿に来い──いや、もう向かっているのか? これから座標を送るから、そこに()()()()3()0()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 スーツは勿論、フシグロトウジを始めとする部屋のメンバーが揃えば、和泉にはどうしようもない。

 だから、盗聴器という形で連絡手段を封じた。メールに関しては嘘であるが。

 

「もしも今の条件を破れば、あるいは来なければ、オマエがあの部屋の住人であることをバラす」

『!?』

「ンなことしても無駄だッて思ッただろ? けど、()()()()()()()()()

 

 信じる人間などいない。あのサイトでミッションなどの情報を解放している時点で、バラされたところで無意味だ──だが、万が一を考えるのなら。

 バレて死ぬよりは、従った方が絶対的に安全だ。

 余程の馬鹿ではない限り、和泉の提案──脅迫には確実に乗ってくる。

 

「じゃあ、また後で会おう」

 

 何か玄野が喋っていたが、無視をして電話を切る。座標を送り、和泉もその場所へと向かう。

 

(もうすぐだ……もうすぐで、俺もあの部屋に──)

 

 自然に笑みが浮かぶ。

 和泉の渇望が、潤い叶う。

 その時は、近い。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 玄野は全力で街を駆け抜けていた。

 和泉が宣言した日の前日に動くとは思っても見なかったのだ。ニュースを見た直後、スーツに着替えて玄野は家を飛び出していた。

 

「クッソ! 切りやがッた!」

 

 電話を切られた玄野は、苛立たしげに舌を打った。

 やられた。

 完全に出し抜かれてしまった。まさか盗聴器が仕掛けられていたなんて思いもしなかった。

 ペースは既に和泉が完全に握っており、玄野が取り返すことはもう不可能だ。何故なら和泉の目的は達成している。ガンツからの指令をこなしたからだ。

 さらに言えば、和泉は玄野の命綱を『情報の開示』という形で握っている。玄野は和泉に従う他はない。首筋に刃物を突きつけられているような嫌な感覚だ。

 

(クソッ! 連絡手段は封じられた! 加藤たちも来てくれるみたいだけど、これ以上は連絡が取れねー!)

 

 ここからは一人だ。

 思えば、完全に一人で思考し、行動に移すのは初めてかもしれない。ミッションでは甚爾や桜丘たちがいた。

 そう考えると、少しだけ不安だ。

 

(スーツを脱いで戦えば俺は負ける! 伏黒さんに鍛えてもらッちゃいるけど、スポーツとかはてんでダメだしな……)

 

 和泉は強い。日本人離れした身体能力。そして、かつてのガンツメンバーというのだから、体に動きが染み付いている可能性だってある。それなりには戦えるだろうが、敗北の色は濃いだろう。

 

(……いや、待てよ)

 

 新宿へと向かっていた足を止めて、玄野はふとあることに気がついた。

 

(──なンで俺、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()())

 

 甚爾から鍛錬中に教わったこと。

 ──使えるものは全て使え

 

 そして、先日の最後のアドバイス。

 ──手段は選ぶな

 

 自分が持っている手札を総動員に活用し、玄野はある作戦を練った。

 

(これなら──いける)

 

 今日は和泉の思惑通りに進んでいる。その事実はもう覆しようがないだろう。

 ならば──せめて最期に、一杯食わせて見せようじゃないか。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 チラリと時計を見ると、約束の時間まで残り5分と言ったところだった。おそらく電車も止まっているし、交通規制も掛かっているだろう。

 玄野の家から新宿は遠いとは言えないが近いとも言えない距離。30分の猶予は少し厳しかったかもしれない。

 まぁ、スーツを着ていれば問題はないかもしれないが。

 

「ぅ……」

「……」

 

 和泉の側には、気を失った女性が一人。先ほど、たまたま見かけたクラスメートだ。名前は確か小島だったか。

 彼女を側に置いているのは、俗に言う人質というやつだ。玄野は自分と同じく他人に興味のない男だ。有効に働くかは不明だが、念のためだ。用意しておいて損はない。

 

(さぁ、来い玄野……俺は、オマエなンかよりもずッと優れている。あの部屋に相応しい人間だ……それを、証明してやる)

 

 手には拳銃。離れすぎていなければ、狙った場所に撃てる程度には使いこなせている。

 

 和泉はいわゆる天才だ。出来ないことなど皆無に等しく、だからこそ退屈で、刺激に飢えていた。そして、その飢えを満たすためならば人殺しだって厭わない。そんな破綻者だ。

 だから、今日だって数百人単位の人間を殺しても気が狂わずにいられるし、これから自分が死ぬのだと知っていても、恐怖すら感じず、むしろ興奮を覚えるほどだ。

 大きな力は何かを代償にしてしてしまう。

 和泉のその才能は、彼の持つ人としての心を犠牲にしてしまっていた。

 

 玄野の到着を今か今かと待つ和泉。彼にとっては一世一代の大勝負だ。彼を待って既に25分──もうすぐで30分──が経つが、彼にはそれがもっと長く感じていた。

 

 

 

「バカな、何故だ……!」

 

 玄野は和泉が指定した時間内に姿を表すことはなかった。

 その事実に和泉は困惑する。

 あり得ない。あの条件では来ない場合よりも来た場合の方が玄野にとってはデメリットが小さい筈だ。確定ではないにしろ、微かでも死んでしまう可能性があるのなら、普通ならばやって来る。現に玄野は、こちらに向かってきている様子だった。

 

 想定から外れ、計画が狂い始めた和泉は冷静さを失っていた。

 ()()()()()気づけない──いや、たとえ和泉が冷静であったとしても、気がつくことなど出来なかっただろう。

 

 

 ──バチバチバチ

 

 

 和泉の背後で、電気が弾ける音が響いた。

 

「ッ!?」

 

 ──反応、いや、反射。

 考えるよりも先に肉体が動き、振り向くと同時に引き金を引いた。音を聴き、位置を割り出し、体に染み付いた動きで寸分違わず()()()()()()()()()()()()()()()

 流石は和泉だと言うべきなのだろう。

 だが、それが決定打にならないということを、和泉紫音は誰よりも理解していた。

 

 振り返った先──そこにいたのは、()()()

 私服の下に見えるのはガンツスーツ──玄野が何をしたのか、和泉は理解した。

 

「ステルスか──ッ!」

「和泉ィ!!」

 

 コントローラによって周波数を弄ることで、他人から自分を見えなくする部屋の標準装備。

 完全に失念していた。玄野やフシグロを出し抜いたという達成感からか、詰めが甘くなっていた。

 

 玄野は既に和泉に接近し、拳を振り上げている。避けようとしても間に合わない。咄嗟に腕をクロスし、防御の姿勢を取るが、それが無駄であることを和泉は知っている。

 スーツにより強化された膂力はコンクリートすら容易く砕く。人間の骨など、小枝を折るよりも簡単だ。

 防御などもろともせず、和泉の腕はあらぬ方向へ曲がり、そのまま10メートルほど吹き飛ぶ。ギョーンという音が聞こえ、遅れて何かが壊れる音がした。おそらく銃を破壊されたのだろう。

 荒い息を吐き、倒れ伏せる和泉の側に玄野が立つ。

 

「……殺せよ」

 

 両手は折られた上に、相手はスーツを着ている。万が一にも勝ち筋は残されていない。

 目を閉じ、死を受け入れる姿勢を見せる。

 それに対し、玄野は言葉を放つ。

 

「……俺は、オマエを殺さない」

 

 和泉の目的は、死んであの部屋へと戻ること。

 ()()()()()()()

 殺さないことで、和泉の目的は達成できなくなる。

 

 その言葉を聞き、和泉はため息を吐いた。

 自分に対して失望と怒りを抱いた。

 俺は、こんな甘いやつに負けてしまったのか。

 

「そうか──なら、()()()()

 

 折れているとはいえ、痛みを我慢さえすれば促すことは出来る。懐の中に手を突っ込み、予め仕掛けて置いた『あるもの』のピンを引く。

 和泉はあらゆることを想定していた。

 それこそ、玄野が和泉を殺そうとしなかった場合のことも。

 

「──あの部屋で会おう」

「何を──」

 

 

 ──次の瞬間、爆音と全身を覆う痛みと灼熱を最期に、和泉の意識は完全に途絶えた。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

「──がッ!?」

 

 爆音、爆風、爆熱。

 突如として襲ってきたそれらは、玄野を吹き飛ばした。

 ごろごろと地面に転がった玄野はすかさず立ち上がり、和泉の側にいた少女の安全を確認する。どうやら意識を失っているだけで外傷はない。あの部屋に呼ばれることはない。

 

 だが、そんなことを気にしている場合ではなかった。

 玄野は目の前で起きた現象に目を見張った。

 

「和泉……オマエ、そこまでするかよ……」

 

 おそらく、爆弾か何かを自決用に体に仕込んでいたのだろう。一介の学生がどうやってそんなものを入手したかは知らない。興味もない。ただ、玄野は和泉のその執念に対し、イカれてるとは思えど不思議と恐怖を感じたりはしなかった。

 何となく──和泉の気持ちが分かるからだ。

 

 玄野と和泉は似ている。

 お互いに正反対の存在でありながらも、二人とも自分を満たせる特別な場所を求めていた。

 あの部屋は確かに地獄だが──二人にとっては、光といっても過言ではないのだ。

 

 和泉がいた場所を見ながら、玄野はなんとなくそんなことを思った。

 

 

 ──ゾワリ

 

 

 そして、やはりミッションの予兆が始まった。甚爾が予想していた通りだ。ミッションが行われるなら、和泉が行動に移したその日だろうと言っていた。

 

 転送が、始まった。

 

 

 

 

 

 

 ──そうして、玄野たちは二ヶ月ぶりに黒い球の部屋へと誘われる。

 

 

 

 

 




玄野の行動原理が原作と離れているのは、加藤の生存と岸本の死ががキーです。親しい人間の死を千手編にて実感した玄野は、人の死を重く受け止めるように。
だから、今回の新宿もタエちゃんという鍵がないのにも関わらず、和泉を止めようと飛び出しました。

玄野と和泉、割と似た者同士なので好きなんですよね。
ゲーム版だと、100点を取った後、解放を選んだ玄野は、和泉と同じ選択をするみたいですし。

才能に恵まれなかった者と恵まれた者でありながら、根っこのところが同じなお二人さん。そういう関係好きよ私。


感想、お気に入り、評価、よければよろしくお願いします〜!

次回は明日の21時更新だす。


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0017 大人数

なかよしセンセーションとかいう中毒性があまりにも強すぎる曲。

感想、誤字報告、お気に入り、評価──本当にありがとうございます!

GANTZのSS増えろ増えろ……


「ハッ、ハハハッ──!」

 

 和泉は歓喜した。狂喜と言ってもいい。

 周りに人がいることなど気にせず、ひたすらに笑い続けた。

 彼の視界に広がる見覚えのないワンルーム。その中心にある1メートルほどの黒い球体。

 初めて見る──だが、和泉紫音はそれを知っている。誰よりも知っている。賞賛でも憧憬でも嫉妬でも満たされることのなかった和泉の心が今、確かに満たされていた。

 

(()()()──! 本当に、あッた……!)

 

 初めて見るにも関わらず、訴え掛けてくる強い既視感。

 間違いない。確信に至った。

 和泉は間違いなくこの部屋の住人だった。

 

(ようやく──ようやく俺は……!)

 

 心臓が落ち着かない。

 血液が逆流しているような錯覚さえ覚える。

 

 これまでの人生、こんなにも笑ったのは初めてかもしれない。

 

「ッ!」

 

 そんな和泉の様子など気にも留めず、ガンツが新たな住人を呼び始めた。

 

「──おいおい、予想はしてたが今日は随分と多いじゃねえか」

 

 転送されて来るや否や、そんなことを言う筋肉質な大柄な男。顔立ちは整っており、その唇の傷だけが特徴的だ。

 その格好は非常に奇抜だ。白いカンフーパンツを穿いていて、上にはぴっちりとしたスーツ──いや、ガンツスーツを着ている。

 和泉は笑みを浮かべた。

 その声を知っている。

 

 

「……伏黒、トウジ──!」

「あ?」

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

(なるほどな……こいつが和泉紫音か)

 

 笑みを浮かべながらこちらを見ている青年を視界に捉えた甚爾は、彼が和泉であると断定する。玄野が言っていた特徴と一致しているし、何より甚爾の名を知っているとすれば部屋のメンバーを除けばあのサイトの閲覧者くらいだろう。

 一見するとただの好青年にしか見えない和泉だが、こうして相対してみるとその異質さがよく分かる。自分の欲のために、平気で他人を傷つけられる──甚爾たち呪詛師と同じ眼をしている。

 確かにこの男ならば、この部屋に来るために大虐殺くらい起こせる。そして、本能のままに動く獣というわけではなく、目的のために計画を練り、実行に移るという冷静さも併せ持つ。

 甚爾も驚いたものだ。まさか玄野のケータイに細工することでこちらの動きを盗み聞きし、先手を打って出るとは。

 この部屋の人数と和泉がやって来たことから、彼の作戦は見事に成功したということだろう。

 

 和泉から視線を離し、部屋の住人を見渡す。

 その人数は21人。これまでの比ではなく、2.3倍近くも新規メンバーが追加されている。

 もしも新人がこれで最後で、呼ばれるのが既存メンバーのみだとしても30人近くにはなる。

 やはり、これから高難度のミッションが増えるということなのだろうか。

 

「つーか、オマエもこの部屋に呼ばれてんのかよ」

「……まさか、こんなところで再会するとは思わンかッた」

 

 新規メンバーの中には知っている顔触れがいた。

 風大左衛門。

 つい二週間ほど前に甚爾に喧嘩を売り、有り金を全て徴収されたオッサン顔の高校生である。風が事故などで死ぬとは思えないため、和泉の虐殺に巻き込まれたに違いない。

 

「なぁ、アンタ。この部屋のことについて知ッてンのか? だッたら、ちと情報を共有してくれてもいいンじゃねーの?」

 

 そう言って話しかけてきたのは、右目の泣きぼくろとサングラスが特徴的な男だ。

 

「知ってるけど、教える義理はねぇよな」

「そりゃあ、まァな」

「そろそろリーダー様がやってくる。詳しいことはそいつらに聞いてくれや」

 

 甚爾はこの部屋のメンバーを引っ張っていくつもりはない。なるべく自由に動きたいからだ。何より、甚爾の強さに依存して戦いに挑まないようになっても困るのだ。

  だからこそ、共に戦い、引っ張っていくリーダー等の役割は玄野たちに押しつけている。

 

「リーダー様?」

「待ってりゃ分かる。そら、言ったそばから」

 

 指を差した方向に、新たなメンバーが転送されてきた。

 やって来たのは玄野だった。

 転送されてきた直後、和泉に気づくや否や彼に詰め寄った。

 

「玄野……よくもやッてくれたな」

「それはこッちのセリフだッつーの! テメェ、この部屋で好き勝手はさせねーからな」

「……フン」

 

 和泉と玄野は転送されてくる直前に何か一悶着あったようだ。和泉が玄野との勝負を望んでいたのは知っていたが、あの様子だと、勝利したのは玄野だったようだ。

 

 甚爾に気づいた玄野が側にやって来る。

 

「伏黒さん、あいつが和泉です」

「知ってる」

 

 和泉は甚爾と玄野をジッと見つめている。

 

「なぁ、そいつがアンタが言ってたリーダーさん?」

 

 サングラスを掛けた男が話に入ってきた。その後ろには中学生くらいの茶髪の少年がおり、彼も少し不安げに甚爾と玄野を見つめていた。

 

「えッ、リーダーッて……何?」

「その男が、これから来る奴がリーダーだッて言ッてたぜ」

「間違いじゃねえだろ」

……面倒くさいからッて俺に押し付けやがッたこの人……

 

 玄野がぶつぶつと呟いているが全部聴こえている。次の組手はスーツ無しでやらせるとしよう。

 

「で、どうなンだ、リーダーさん?」

「……人数が揃えば、あの黒い球が歌を流す──ラジオ体操の歌だ」

「歌?」

「ああ。その後に色々あるンだけど……まぁ、見てもらッた方が早いから……その都度説明するよ」

「……なるほどねぇ」

 

 そう言ってサングラスの男は顎に手を当て、考え込むような仕草をする。

 

「あ、また来る」

 

 誰かがポツリと呟いた。

 ガンツが呼び出したのは、加藤だった。

 

「計ちゃん……! 無事だッたか!」

「まぁ、何とかな」

 

 玄野は新宿へ向かう時、加藤に連絡を取っていたらしい。この分だと桜丘や東郷にも連絡をしていたと思っていいだろう。

 俺に頼らずやってみろ──だから、仲間を頼った。玄野たちには甚爾のような個としての絶対性はないが故の選択だ。

 

「伏黒さん、この人数はやッぱり」

「ああ、新宿の奴らだろうな」

「そう、ですよね……」

 

 加藤は悔しそうに歯軋りする。

 正義感が強く善人である加藤は、知っていながら止められなかったことに悔しさを感じている。玄野はその辺り割り切ることが出来るが、加藤には難しいのかもしれない。

 ただ、その性質を星人に向けていた加藤はもういない。千手の一件、そしてチビ星人との戦いででその覚悟は出来ていたようだった。

 

「ああ! 貴方はッ!」

「? ……! 桜井と坂田さん」

 

 突如、サングラスの男──坂田とその後ろにいた少年──桜井は、加藤を指さし、驚きの声を上げた。加藤はほんの一瞬困惑の色を見せ、少年を見て目を見開いた。どうやら顔見知りだったようだ。

 

「こんなところで再会するなンてな……ま、何か縁があッたンだろ」

「すごい偶然ですね、師匠、加藤さん」

「ああ……けど、出来れば俺は、こんな場所で再会したくなかッたですけど」

 

 加藤はこれから何が起こるかを知っている。それを考えれば当然のことだ。

 

「オマエさんも、何か起こるのか知ッてる口か?」

「ええ、はい。……計ちゃん、伏黒さん、まだ教えてないのか?」

「とりあえず、口で説明するよりは見てもらッた方が早いと思ッて」

 

 そして、再び転送が始まる。

 次は同時に二人。現れたのは桜丘と東郷だ。

 

「……やはり、今回は多いな」

「そうね……あれだけのことがあッたンだし」

 

 部屋にいる新規メンバーを見た二人は、その数に少し驚いて見せた。

 桜丘と東郷が最後だったのか、ガンツが歌を流し始めた。その様子に新規のメンバーたちがざわざわとしだす。

 和泉は『黒い球の部屋』で知っているからか、あるいは記憶を思い出して来ているのか、特に動揺は見られない。

 

「皆、話を聞いてくれ! これから起こることを俺たちが教える!」

 

 玄野が両手を大きく広げ、注目を集める。その声に新規メンバーは反応し、玄野の方に視線を向けた。

 

「俺たちはこれから宇宙人との殺し合いをさせられる! 生き残りたかッたら、俺たちの言うことに従ッてほしい!」

 

 だが、やはりというべきか一部の人間を除き、誰も玄野の言うことを信じていない。無理もない話ではある。突然こんなところに連れて来られて、殺し合いをさせられると言われても信じられるわけがない。

 

「計ちゃんの言うことは本当だ! 頼む!」

「……師匠、これは」

「ああ、信じた方がいい」

 

 加藤が頭を下げると、桜井と坂田が頷いた。加藤の人となりは知っているのだろう。そんな彼が頭を下げて頼んでいる。二人は玄野の言葉を信じることにしたようだ。

 しかし、他の人間はそうではない。全員が玄野たちを訝しげに見ており、こちらを信用していないのは丸わかりだった。

 そうこうしているうちにガンツの画面が切り替わり、いつもの文が──と思ったが、その後にいつもと違う文章がひとつ。

 

 

:》もッさんおもしい人

 めてようまつ

 ツメしまいちた

 

 

(面白い人ってのは建前だろうな。要は戦力の増強だろ)

 

 カタストロフィが近づいている。ガンツの向こう側にいる人間からしてみても、戦力は多い方がいいに決まっている。

 実際、今回のミッションでは和泉といい風といい、かなり良いメンツが揃っている。和泉は勿論、特に風はスーツさえ着れば即戦力になることが出来るレベルだ。

 画面が再び切り替わり、星人の情報が表示された。

 

 

かっぺ

特徴

  

  汗かき

きな

  トカゲ 

口ぐせ

  おーらの

  どーごが

  

  いっでみろっ

 

 

「コイツを俺たちはこれから倒しに行く! そのためにこのスーツを着てくれ!」

 

 説明は玄野たちに任せよう。

 甚爾は星人の情報を見る。星人は漫画のキャラのような顔立ちだ。麦わら帽子に白いタンクトップを着た、ゆるキャラのような見た目。汗と頬の赤い丸が特徴的だ。

 そのほかには普段と特に変わったことはなく、使えそうな情報は何一つとしてない。チビ星人の時は例外だったのだろう。

 

(こんだけの大人数を呼んだんだ。それなりに難しいミッションなのかもな。あるいは肩慣らしにそこそこの奴か……まぁ、実際に戦ってみねえと分かんねぇか)

 

 ミッションの面倒なところは、実際に戦ってみないことには敵の強さも何も分からないところだ。必ず初見での戦闘を強いられるため、千手のような星人が現れたら厄介なのだ。

 ガンツから離れ、奥の部屋へと向かう。そこには和泉がいた。どうやら先に入っていたようだ。

 

「初めましてだな……伏黒トウジ」

「ハッ、随分と暴れたみてえだな、和泉。盗聴器は予想外だったぜ。やられたよ」

 

 あれは予想外のことだった。甚爾は別に無敵というわけではなく、出来ないことや出し抜かれることだってある。

 

「伏黒、俺はオマエにも、そして玄野にももう負けない……俺が上であることをこのミッションで証明してやる」

「勝手にやッてろ。俺は暇じゃねぇ」

 

 北条といい、風といい、和泉といい、何故甚爾は男に目をつけられるなのだろうか。

 男には興味はない。女だ女。どうせ目をつけられるのなら、ヤバくてもいいから女の方がいいに決まっている。

 

 和泉の視線を無視し、ガンツソードを二振り、そしてZガンを拾い部屋を出る。

 部屋の装備が解禁されてから10分ほど経ったが、スーツを着ている人間は一握りしかいない。坂田と桜井にグラマラスな体型の黒髪の少女だけ。その他は皆それぞれ座り込んだりして駄弁っているだけで玄野たちの説得に耳を傾けていなかった。

 

「まぁ……そうだよな、信じねーよな普通……」

 

 玄野はため息を吐いた。それもそうだ。こんなことを言って信じる人間なんてほとんどいない。誰もが信じるのなら、この部屋にはもっと人がいた筈なのだから。

 そんな彼らを見ていると、甚爾の下に男──風がやって来た。

 

「そのスーツを着とッたから、オマエ──伏黒は俺に勝てたンか?」

「あ?」

「俺は、東京に来て()()()()()。伏黒とあそこにいる玄野ッちゅー奴に」

 

 どうやら風は玄野にも勝負を挑んだらしい。そういえば、玄野は何故か学校では裏番扱いされていると聞いたことがある。風のことだ。おそらく道場破り的な形であらゆる学校や格闘技のジムに勝負を挑みに行ったのだろう。そして、スーツを着ていた玄野に負けたと。

 

「玄野はスーツを着てたからだが、俺はあの時スーツは着てねえよ」

「そうか……スーツは着た方がいいンか?」

「自分で考えろ。ま、玄野と戦ったンなら答えは見えてるだろうが」

 

 甚爾の場合、スーツを着ているのは武器を収納出来るホルスターがあることとステルス機能があるからに過ぎない。

 

「ガンツ! 俺たちを先に転送してくれ! その次にスーツを着てる奴だ! 着てない奴は最後でいい!」

 

 玄野がガンツに向かって叫ぶ。

 良い判断だ。スーツを着てくれないのはもうどうしようもないことだ。なら、少しでも新人の生存率を上げるために出来るのは早くミッションを終わらせること。

 微々たる時間差だが、無いよりはマシと言える。

 

 そして間も無くして、転送が始まった。

 

 

 

 転送先は幕張メッセだった。甚爾はその事実に怪訝な顔を見せる。

 

(東京じゃねぇ。そんなことがあるのか? いや、これまでが偶々東京だッたッてことか……)

 

 甚爾の予想では、それぞれの都道府県にガンツが配置されており、その地域を担当するものだと思っていた。実際、各地でガンツ装備による破壊痕が残っている。『黒い球の部屋』でも東京以外の地域に行った描写はなかったため、その考察はほとんど間違いないと思っていたのだが。

 

(東京近郊の地域もあの部屋が担当しているのか。あるいは──)

 

 ──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 星人の数が多く、ひとつの部屋では対応出来なかったか。

 あるいは部屋のメンバーが全滅してしまえば、次の死人を呼んで来るまでミッションは行えない。

 どちらにせよ、そのカバーをする形で東京の部屋が駆り出されたと考えることは出来る。

 

(まぁ、今は別にいいか)

 

 とりあえず今は目先のミッションに集中することにしよう。

 

「伏黒、今回のミッションは前回よりも星人の数が多いぞ」

 

 そう言って東郷がレーダーマップを見せて来る。

 マップには夥しい量の星人の反応が出現しており、その数はチビ星人の倍近くある。そのくせして時間は1時間と普段と変わらない。面倒なミッションだ。

 今回のミッションは、どういう形式なのだろうか。ガンツが和泉を使い、イレギュラーな招集を行なっているため、注意しておいた方がいいのかもしれない。

 

(星人よりも反応は全て博物館の中……千手みたく展示物に取り憑くタイプか?)

 

 前々回のミッションでは、千手を始めとする星人たちは仏像に寄生する形で潜んでいた。今回は博物館と、寺院と同じく展示物が多く存在する場所だ。似たタイプの可能性は十分にあり得る。

 

「とりあえず、俺は突っ込むがオマエはどうする?」

「……俺は射撃地点に向かおう。外に出てきた星人を撃つ」

「りょーかい」

 

 東郷は接近戦も行えるが、やはり彼の強みは遠距離からのスナイプにある。その利点を殺すのは非常に惜しい。

 

「俺たちはどうする、計ちゃん」

「新人たちを誘導してから動こう。その間は伏黒さん一人になッちまうけど……」

「問題ねえよ。ヤバそうだったら撤退して来る」

 

 その言葉に玄野たちは「何言ってんだコイツ」という目で見て来る。

 

「おい、なんだその目は」

「いや、伏黒さんが勝てない星人なンていンのかなッて」

「むしろアンタの方が星人な気がするわ」

 

 普段から甚爾の強さを知っている故の反応だ。まだその一端しか見せていないとはいえ、甚爾の規格外さを彼らは身をもって知っている。

 だが、それは油断とも言える。たとえ強い星人が現れても甚爾がいるから大丈夫だと、強者へと依存してしまう可能性。それはこれからのことを考えると避けておきたい事態だ。

 

「オマエらには言ってなかったが、()()()()()()()()

「!!」

 

 その言葉に玄野たちは固唾を飲み込んだ。

 言われてみればそうだ。

 スーツを着た玄野たちすら、スーツを着ずに上回るこの男が、一体どうやって死んだのか。

 

「俺だって死ぬ時は死ぬ。俺を殺せるバケモノも存在するってことだ──あんまり頼りにすんなよ」

 

 そう言って甚爾はステルスを起動し、博物館へと向かった。

 

 




鈴木のおっちゃんと稲葉、パンダは本作ではこの部屋に呼ばれていません。
甚爾の介入によって虐殺の日にちがズレたことが原因だったりします。他にも理由はありますが。
ほんとはね。彼らも入れたかったんだけどね……。
おっちゃんと稲葉辺りは、何処かでポロッと出てくるかもしれない。

本作では加藤は桜井と坂田と出会っています。その辺は閑話あたりで書こうかなと思っております。あるいは回想とか。
閑話の場合は、たぶん完結後に書くことになるんじゃないですかねえ。


では、今回ちょっとだけ触れた、僕なりのGANTZ原作に対しての考察です。第二部と書いた理由もこれが理由だったりします。

【ミッションが幕張メッセの理由】
GANTZ原作のネタバレも入ってますので、お気をつけください。

かっぺ星人編の舞台は幕張メッセ。東京部屋であるにも関わらず、何故か千葉に玄野たちは呼ばれました。
東京近郊も範囲に入るのかな、ってと思ってだけど、別の考えも浮かんできました。

それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

今作でも甚爾がここに触れましたね。

具体的に言うなら、かっぺ星人編の前のミッションで千葉部屋が壊滅したんじゃないかって。
カタストロフィにも近いことがあり、遊んでる場合じゃなく、東京部屋を至急呼び出しました。
そして、おそらく千葉部屋を壊滅させたのはオニ星人。だと思っています。

東京の星人自体はおそらくゆびわ星人しかもう残っていなかったんじゃないかと思います。あれ以降、東京を根城としている星人は現れないんですよね。たえちゃんはに人間。オニ星人は地域からやってきた星人ですし。
ちなみに吸血鬼はその昔、東京チームに壊滅状態に追い込まれた星人みたいです。

ほとんどの星人を狩り終えた東京部屋+千葉部屋が壊滅、カタストロフィも近いし、暇な東京部屋を千葉に向かわせようぜ!って財閥組が判断した結果がかっぺ星人編なんじゃないかなって。

まぁ、深読みかもしれませんけどね。なんか知らんところで矛盾もありそう。まぁ、ガンツは適当だからで説明がつく話ではあるんですよね()
とりあえず本作ではそういう扱いにしようと思っています。

東京編がほとんど終わり、新規メンバーが続出!そんなわけで第二部という形を取りました


【坂田100点解放者疑惑】
これはまぁ、かっぺ星人編の坂田の台詞を見ると分かるのですが、彼、ガンツを見たときに既視感を覚えているんですよね。「見たことあるなー」的な感じで。
テレビかどっかで、とは言ってたので、そっちの可能性も高いですが、結局明らかにはなりませんでした。
この作品では触れるかどうかはわかりません。今回は描写してませんし。
触れなかったら、坂田のミッション参加説は棄却されたということで。


感想お気に入り評価、よろしくお願いします〜!


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0018 ジェ(ジュ)ラシック・ミッション

前回までのあらすじ

パパ黒「俺は他殺で死んだ」
玄野達「マ?」
読者様「実質カタストロフィに襲われたみたいなもんだろ」
ぼく「考察を気に入ってくれてて嬉しい」

感想、お気に入り、誤字報告、評価、ありがとうございます!


【謝罪】
17話にて、鈴木のおっちゃんがいるかのような描写がありました。
すいません、消し忘れです。
本作では鈴木のおっちゃんは部屋に呼ばれていません。
勘違いさせてしまった方には大変申し訳ないです。


 博物館へと侵入した甚爾に、突如として複数の星人が襲い掛かってきた。その数は6匹。彼らは甚爾を囲おうとするが、それを容易く潜り抜けた。甚爾はそのまま星人がギリギリ動けない速度で博物館内をぐるぐると回る。

 

「恐竜か」

 

 チラリと敵の姿を確認した甚爾が、つぶやいた。

 全長2メートルほどの小型の肉食竜。鋭い鉤爪と牙が特徴的な恐竜だ。名前はたしかラプトルだったか。その昔、肉体関係であった女が恐竜好きであり、そのせいで微妙に知識があった。微かながらに残っていた記憶からその名前を引っ張り出す。

 ラプトルは、知性が高く好戦的な恐竜だ。ジュラシックパークでも主人公たちの敵としてよく現れる。

 やはり、千手と同じタイプのようだ。展示物に寄生し、ひっそりと生きてきた星人。もしかしたら近位種なのかもしれない。

 

(つーか、コイツらステルスが効かねぇのか)

 

 甚爾は今もなおステルスを起動している。だが、ラプトルたちはきちんと甚爾を認識しており、視界の中に捉えている。

 別に驚きはしない。ステルス自体の仕組みは単純で、あくまで視界から消え失せるだけ。五感が鋭い生物であれば認識することは可能なのだ。事実、甚爾は西のステルスを破っている。

 

 ただ、ステルスが効かないからと言って不利に働くわけではない。甚爾にとっては楽に敵を倒せるからという補助道具的なものでしかなく、戦闘のメインに据えているわけではない。

 

「やるか」

 

 持っていたZガンを上に放り投げ、ガンツソードに手を添え、振り返りながら立ち止まり、()()()

 ラプトルたちはそれを跳躍して避けるが、全ての個体が避けられたわけではない。後方の個体は間に合わず胴体を斬り飛ばされ、地面に転がった。

 残りは4体。

 跳躍したラプトルたちを多重ロックオンし、引き金を引く。彼らは瞬く間に弾け飛び、肉塊へとその姿を変えた。

 やはり、複数体を相手取るなら多重ロックオンは非常に使いやすい。そればかりに頼るのも良くないが、使い所を間違わなければ強力な機能である。

 

 Zガンを拾い上げ、甚爾はレーダーを確認する。転送直後では博物館内に大量にあった反応が、かなりの数外に流れ出ている。部屋のメンバーも半分程度は消えており、やられたのはおそらく新規メンバーだろう。

 玄野たちも実力はかなり上がっているが、交渉や説得などはさっぱりだ。そもそも、ガンツのことを新規のメンバー全員に信じてもらうなど絶対に不可能。夢物語だ。

 加藤は納得しないだろうが、信じない新人は切り捨てるべきだ。

 

(博物館に誰か一人いるな……まぁ、十中八九和泉だろうな)

 

 そちらに向かうと、予想通り和泉がいた。彼が戦っているのはトリケラトプスだった。しかし、甚爾の知るトリケラトプスではない。筋骨隆々の肉体で二足歩行をしており、拳で和泉を攻撃していた。

 何というか、非常にシュールな光景だ。

 和泉はこちらに気がついたが、特に声をかけることなく戦いに没入している。

 その動きは玄野たちよりも優れており、彼が昔あの部屋で戦っていたという事実の証明でもあった。ブランクもあるのだろう。動きにはまだまだムラがあるが、それもどんどん修正されていく。

 ガンツソードを伸ばし、迫るトリケラトプスを一刀両断した和泉はふぅ、と息を吐いた。

 

「どうだ? ブランクは消えたか?」

「……伏黒」

「あのサイトでオマエは実力者として描写されていた。嘘じゃなかったみたいだな」

「サイトに、俺が……?」

「あ?」

 

 和泉が困惑した顔を見せる。

 

「オマエ、サイトを全部見たわけじゃないのか?」

「あ、ああ……何個か見てないのは、ある」

 

 本当に見ていないらしい。その言葉が嘘でないことは分かる。

 おかしな話だ。あれほどミッションに参加することを渇望していて、サイトに惹かれていたと言っていたのにも関わらず、見ていないところがある。それも細かいところならまだしもミッションの話を、だ。

 

「……オマエはこんなところで無駄話していていいのか、伏黒? 点数が欲しくないのか?」

「まさか。今回で100点を取るつもりだしな」

「……ボスか」

「御名答」

 

 博物館に残っている反応はあと7体。そのうち動いていない反応が2つ存在する。それがボスであると甚爾は思っている。

 

「ボスを倒すのは、俺だ」

「止めてみるか?」

「……」

 

 甚爾が笑うと、和泉はガンツソードを静かに構えた。緊張からか、表情は強張っているが、目は本気だ。

 冷たい殺気を纏い、いつでも動けると言わんばかりにスーツがミシミシと軋んでいる。

 しかし。

 

「……やめだ。実力差くらいは……分かるさ。今の俺では、オマエには勝てない」

「へぇ」

 

 構えを解き、ガンツソードを収める和泉。

 

「だが、ボスは俺が倒す。オマエよりも先に、俺が絶対にッ!」

 

 だが、諦めたわけではなかった。和泉の瞳は轟々と燃えている。それはもう決意というよりは、衝動だ。

 

「そうか──けどまぁ、それは叶わねぇ話だな」

 

 何、と和泉が怪訝に眉を顰めたその刹那。

 

 ズン! 

 

 そんな大きな足音と振動と共に現れた2匹のトリケラトプス。彼らは仲間の死体を見ると同時に大きく咆哮し、 みるみるうちにその体を隆起させ、先程の個体と同じ姿となった。

 

「じゃ、ソイツらは任せたわ」

「! オマエ──!」

 

 跳躍し、甚爾は2匹のトリケラトプスの間を潜り抜け、ボス星人の下へと向かった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

「やッてくれたな、伏黒──!」

 

 甚爾が逃げていった方向を睨みつけながら、和泉は刀を構える。

 一刻も早く追わなければ、甚爾にボス星人が倒されてしまう。ボスがどれほどの星人かは分からないが、あれほどの実力者であれば並大抵の敵では相手にならないだろう。

 

【ツーテンカク グルルロロコロロロ】

【グルルルル……トリケラサン……】

「……チッ」

 

 こちらを睨みつけるトリケラトプス2匹。和泉もガンツソードを構え、迎撃の姿勢を取る。

 トリケラトプスたちの動きは既に見た。この2匹も見た目は微妙に違うが、戦闘スタイルはおそらくほぼ同じと見ていい。違っていれば対処すればいいだけの話だ。

 2匹同時にかかって来られようと負ける気はしなかった。恐怖や絶望など、そんな感情は湧かない。

 これだ。

 スポーツや勉強では味わえないスリル!

 和泉紫音の居場所──望んだ世界だ。

 

「クク……ハハッ……!」

 

 トリケラトプスの怒り。

 和泉の喜び。

 両者の感情がぶつかり合い、一歩前へ足を踏み出したその直後のことだった。

 

 ──ギャアアァァアオオオオオオオオン!!!!

 

 空気が震える。

 地が揺れる。

 

 和泉とトリケラトプスの下へ──最強の恐竜がやってきた。

 

「T-レックス……か」

 

 それも──3()()

 

 トリケラトプスとT-レックス──合わせて5体だ。

 流石に厄介だな、と和泉は顔を歪める。

 負けるヴィジョンは見えないが、確実に甚爾には追いつけなくなった。このままこの星人たちから逃げ、甚爾の下へ向かうのはリスクが高い。最悪の場合ボス星人との板挟みになる。

 ここで倒す他ない。

 

 ふぅ、と息を吐き、ガンツソードを振り抜こうとしたその時──!

 

「なッ──!?」

 

 T-レックスとトリケラトプスが仲間割れを始めた。

 いや、確かに2匹の生態を考えれば普通のことではあるが、あくまで彼らは星人。そういった肉食動物だの草食だのとは無関係だと思っていた。

 2匹のトリケラトプスが自慢の剛腕でT-レックスを殴り付けるが、すぐに形勢は逆転する。残りの2匹のTレックスがトリケラトプスに向かって火球を浴びせようとし始めたのだ。

 その瞬間、和泉はガンツソードを振るった。あの火球の威力をすぐに悟ったのだ。このままではトリケラトプスがやられる、と。

 

(点数は、俺のモノだ)

 

 火球がトリケラトプスに当たるよりも早く、ガンツソードがその首を撥ね飛ばした。

 そこで和泉にとって予想外のことが起こる。

 標的を失ったT-レックスがトリケラトプスに向けていた口をこちらに向けてきたのだ。

 

「!」

 

 火球が和泉に向かって放たれる。

 その時には和泉は駆け出していた。

 直後、和泉が立っていた場所が爆音と共に消し飛んだ。その凄まじい威力から生じた風圧に和泉は吹き飛ばされる。

 急いで受け身を取り、先ほどまで立っていた場所を見ると、クレーターがひとつ出来上がっているのが見えた。

 

【グルルル……!】

 

 そして、こちらをジッと見つめて唸るT-レックス。

 トリケラトプスよりも遥かに強い個体が3匹。

 和泉はそんな絶望的な状況にも関わらず──笑っていた。

 

「殺ッてやるさ……!」

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

「クッソ! 数が多過ぎンだろ!」

 

 そしてその頃、玄野たちも博物館から急に現れた大量のラプトルたちと戦っていた。その数40体近く。遠くから東郷が撃ってはいるものの、流石にこの量を一人では無理がある。

 幕張メッセ前は、人間と恐竜が殺し合うという何とも奇妙な空間と化していた。

 

 新規メンバーはそれなりの数の死者が出てしまった。玄野たちも安全な場所に誘導しようとしたが、何人かはそれを振り払いエリア外へ。ラプトルたちにやられてしまった者もいる。

 今、生きているのは玄野たちの言うことを聞きスーツを着た者と身体能力に自信のあるものだけだ。

 

「計ちゃん、大丈夫?」

「ああ、数が多いだけで1体1体は大したことねー。時間はかかるだろうけど、やれる!」

「そうね。けど、あの駄目ゴリラが不安ね」

「……まぁ、あんなことを言われたらな」

 

 ──俺の死因は他殺だ

 

 あの甚爾を殺した人間がいる。その事実に、玄野たちはハッとなった。

 いつの間にか、甚爾ならば誰にも負けないと思い込んでいたのだ。だから、自分たちが勝てなくても甚爾がいれば大丈夫だなんて、甘いことを無意識のうちに考えるようになっていた。

 その思考は、玄野の原点とはかけ離れたものだ。

 強くなりたい。

 ヒーローになりたい。

 そう思って、甚爾に弟子入りをしたというのに。

 あまりの不甲斐なさに死にたくなるくらいだ。

 

「──まだまだだな、俺も」

「けど、諦めるつもりないんでしょ?」

 

「当たり前だろ。俺はもっと強くなる」

 

 

 

「右胸だ! 右胸を狙え!」

「はい!」

 

 坂田と桜井が拳を握り締めると、ラプトルが苦しみ始めばたりと倒れる。

 それを見た加藤は、やはりすごい能力だな、と思った。

 加藤が二人と知り合ったのは、つい最近のことだ。加藤が困っているところを彼らが超能力を使い解決してくれ、その日一緒に夕飯を囲ったというだけの話だ。

 彼らの超能力はすごい。透視も出来るし物も触れずに動かすことが出来る。そしてそれを悪用することなく、他人のために使えるその善心を加藤は尊敬する。

 だからこそ、そんな力を星人を殺すために使わせてしまっている現状に申し訳なさを感じていた。

 

「加藤さん、危ないッ!」

 

 桜井の言葉にハッとする加藤。振り返ると、ラプトルがこちらに飛びかかってきていた。

 咄嗟に避けようとしたその時、勢いよくラプトルが吹っ飛んでいく。

 

「油断大敵ばい」

「あ、ありがとう。助かッたよ」

 

 風大左衛門。

 手加減していたとはいえ、スーツを着た玄野と渡り合うことが出来たというとんでもない男。その力はスーツを着ることで更に高められ、この場において向かうところ敵なしだ。

 

「よし! このまま押し切るぞ!」

 

 玄野が叫び、鼓舞する。

 加藤もそれに頷き、答えた。

 

 

 

 彼らは次々とラプトルを倒していった。

 最初は混乱の渦の中にいたが、段々と冷静さを取り戻していったのだ。そうして10分ほど経ち、玄野が最後の一匹を倒したことでラプトルは全滅した。

 

「やッたな、計ちゃん……」

「ああ、そうだな。みんなのおかげだ」

 

 玄野と加藤が振り返ると、共に戦ってくれたメンバーが笑みを浮かべてこちらを見ていた。いや、それだけではない。戦いに参加していなかったメンバーも玄野たちを褒め称え感謝を述べている。

 

「俺、こんなに褒められたの初めてだよ」

 

 最初は地獄だと思っていたこの場所が、次第に玄野の中で新たな居場所となっていた。

 いつも褒められるのは弟ばかりで、誰も玄野のことを見ようともしなかった。

 けど、今はどうだ?

 彼らはきちんと──玄野を見てくれている。

 それが玄野には、嬉しくてたまらなかった。

 

 玄野は照れ臭そうに頬を掻いた。そんな様子を見た一人の少女が玄野に近づいて、その手を握った。

 

「え」

「ありがとう……あなたのおかげで、生き残ることができた」

「えッと……その……」

 

 桜丘と付き合っているとはいえ、玄野に女性との関わりは多いわけではない。整った顔に豊満な体型の少女に詰め寄られて、ドギマギしてしまうのは無理はない話だ。

 だが、ここに桜丘がいることを玄野は失念していた。

 

「計ちゃん……?」

「せ、聖……! いや、違うンだッて! び、びッくりしちゃッてさ……は、ははは」

「……」

「はい、すいませン」

 

 殺されるかと思った。

 後のガンツメンバー男会で玄野はそう語る。

 

「……」

 

 そんな二人の様子を、少女はジッと見つめていた。

 それに気づいた桜丘が少女の目を見る。

 

「……」

「……」

 

 ぶるりと玄野の背筋に寒気が走った。

 

「オマエさんも罪な男だな」

「はぁ? 意味が分かンねーよ」

 

 玄野の肩に手を置き、やれやれと首を振る坂田。意味が分からず、玄野は困惑する。

 

 

 そして、彼らの下に東郷がやってきた。遠くからラプトルたちを撃ち、玄野たちのサポートをしていたのだ。もうラプトルがいなくなったため、降りて来たのだろう。

 

「一応、ガンツが表示していた"かっぺ星人"らしき個体は狙撃して倒した。俺はこれから中に向かうが、オマエたちはどうする?」

「俺も行くッす。甚爾さんばかりに戦わせるわけには行かないッすから」

 

 かっぺ星人を倒したのにミッションが終わらないということは、やはりボス星人は別にいるということなのだろう。レーダーを見る限り、()()()()()()()()。星人の周囲に反応が一つと、そちらに向かっている反応がもう一つ。おそらく片方は和泉だろう。

 

「ぁ……なら、あれを使ッたらどうかしら?」

 

 少女が指を差した方向にあったのは、奥の部屋にガンツソードと共に置かれてあったホイールバイクだ。

 

「転送される直前に、たまたま触ってたら一緒に……」

「助かる。えーッと、名前は──」

「レイカ。下平玲花」

「ありがとう、レイ──レイカァ!?」

 

 玄野だけではない。その場にいた加藤と東郷以外の全員が目を飛び出すのではないかとばかりに見開き驚く。それは同性である桜丘も例外ではなく。

 

「ええ!? あのグラビアの……?」

「有名な人なのか、計ちゃん」

「俺も知らないな」

「嘘だろオマエら……」

 

 加藤と東郷の言葉に玄野たちは信じられないという目を向ける。

 杉本レイカ。

 ここ最近、急速に有名になったグラビアアイドルだ。

 CMなどにも多く活用され、テレビを付けていれば目にしない日はないくらいだ。

 バイト三昧の加藤や仕事人の東郷は流行りに疎いので、知らないのも無理はないかもしれないが。

 

「まさかこンなところでレイカと会えるとはなぁ……死ンでも悪いことばかりじゃねーなぁ」

「何言ッてンですか、師匠……気持ちはわかンなくもないですけど」

 

 男であれば一度は憧れてしまう少女だ。

 端正な顔立ちに絶妙なプロポーション。惹かれない筈がない。

 握手会では二度と手を洗わないと宣言する者やレイカの側の空気を持ち帰る狂信者もいるほどだ。

 

(……強力なライバルが現れたわね……)

 

 桜丘は、千手以上の危機感をレイカに向けていた。

 

「雑談はもういいだろう。早く伏黒の下へ向かうぞ」

「そうだッた。東郷さん、バイク運転出来るンすか?」

「ああ、問題ない」

 

 バイクは二人乗り用だった。一人が運転席へ乗り、もう一人はバイクの後方に後ろ向きで座るようになっている。

 東郷たちもこのバイクに乗るのは初めてのため、エンジンの起動方法が分からなかったが、適当に弄っていると電源が付いた。

 

「計ちゃん、俺たちも行った方がいいんじゃないか?」

「いや、流石にボスは危険だろ。新人は特に」

「けど……」

「大丈夫だッて。そンなに心配なら、10分だ。10分経ッたらこッちに来てくれ」

「……わかッた。気をつけてな」

「ああ!」

 

 加藤も先程の甚爾の言葉が気になっているに違いない。

 

「いくぞ」

「お願いします」

 

 バイクが動き出し、凄まじい速さで博物館へと向かっていく。

 そこでふと、玄野は気がついた。

 一体どうやって中に入るのだろうか。

 

「東郷さん、まさかこのまま突ッ込む気?」

「……しッかり掴まッていろ」

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

【許すまじ……小さき者ども……我が子を殺めた者ども……この身亡びるまで滅してくれよう】

 

 甚爾の前に君臨する巨大な恐竜──ブラキオサウルス。

 羅鼎院で見たあの仏像よりも大きい。

 だが、既存のブラキオザウルスと違うのは、その頭部についている大きな刃だ。その点だけが異質。コイツこそがボス星人であると甚爾は悟った。

 

「我が子ってのは、そこで転がってる奴か?」

【そうだ……よくも……よくも……】

「悪ぃな。無防備に寝てやがるもんだからよ。つい殺っちまった」

 

 甚爾とブラキオの間に転がる死体。身体の大部分が押し潰されているが、このブラキオと同じ個体であることは辛うじて分かる。

 この場所に辿り着いた瞬間に甚爾が躊躇なく寝ている子ブラキオにZガンをお見舞いしたのだ。

 

【我々は……静かに暮らしていただけだ……先に手を出したのは……貴様らの方だ……】

「不法侵入して来たのはオマエらだろ。文句言われても仕方ねぇな」

 

 異世界からやってきた甚爾がそれを言うのもおかしな話ではあるが、甚爾の場合は拉致されてきたみたいなものなので仕方ないといえば仕方のないことではある。

 その言葉を聞いたブラキオは、頭部を高速で振り回しながら一言呟いた。

 

【ならば──去ね】

 

 とてつもない速度でブラキオは頭部を振り下ろした。その速度は音速にも迫っており、たとえスーツを着ていようと直撃すれば一撃で耐久を持っていかれるだろう。

 ただ、甚爾はそれを五感で視認している。タイミングを合わせ、ガンツソードでその攻撃を弾く。

 中々に重い一撃だ。何より、この巨体でこの速度。遠心力を巧く利用していいる。

 ただ、その分動きは単調だ。視覚で十分に捉えられるし、タイミングも合わせやすい。それに速度が速いといっても、それは首の振りによる攻撃だけで全体的な動きはそこまでではない。

 攻撃を弾き、時には避けながら、そこで生まれる隙を狙い的確にブラキオに傷をつけていく。

 

【ぐ、ぬ……!? 貴様……ッ!】

「千手よりは弱いな、こりゃ」

 

 デカイ図体だけだ。

 スピードも膂力も千手よりは上。それでも、甚爾には敵わない。

 そもそも、基礎基本のゴリ押しは甚爾にはあまり効果はないのだ。何せ、その超人じみた身体能力で誰も対処できるから。どちらかと言えば搦手を使われたり、物理攻撃を無効化されたりした方が厄介だ。

 だからこそ、それらに対応出来るように生前の甚爾は多くの呪具を所持していた。

 

 ブラキオの攻撃は当たらない。怒りからか、はたまた焦りからか。更に速度が上昇し、重みが増していくが関係はない。

 甚爾とブラキオでは性能(スペック)からして差が大きく開いている。

 加えて甚爾には積み重ねた経験値があり、ブラキオには万が一にも勝ち目はない。

 

【馬鹿、な……ッ!】

「そろそろ終わらせるか」

 

 ブラキオが首を振るうよりも先に甚爾がガンツソードを振るう。ブラキオの最大の武器である頭部はあっさりと斬り飛ばされた。

 しかし、ブラキオの本体はそこではない。脳や心臓といった部位はブラキオの腹部に内包されている。

 首を振る攻撃を封じられたブラキオは、その大きな動体で踏み潰そうとするが、その時既にブラキオの死は確定していた。

 甚爾が片手に持っていたZガン。

 それは既にブラキオの胴体を撃ち抜いていた。

 

【ッ!? ち、……き……者……】

 

 

 最後まで甚爾に対して呪詛を吐きながら、ブラキオは倒れた。

 

 




ブラキオさんはあっさりと終了。
まぁ、攻撃手段が物理だけなので大した相手ではないよね、っていう。

【和泉について】
和泉、何故あのサイトを見ていたのに自分がミッションに参加していたことに確信を持っていなかったんだろうとずっと疑問に思ってました。
西はあのサイトに他人の名前を書き込むことに躊躇なんてしてないので、和泉の名前も確実に書かれているはず。
あのサイトを読み込んでるであろう和泉が、その方に気がつかないはずがない。実際に玄野のことを特定していますから。
では、何故和泉が自分が住人であったことに確証を持たなかったのかと言うと、あり得るのは二つです。

①単純に和泉が解放された後にサイトを書き始め、それ以前のミッションは書いていない。

けど、これは何だかなぁって感じもします。
西くんなら確実に書いてると思うんですよね。あんまりしっくりこない。

②和泉が無意識のうちに避けてた可能性。

正直、これを推してます。
和泉の解放の理由は、ひょうほん星人が映し出した未来を見て、自分の末路を見てしまったから。
無意識のうちに1番を選んで解放されちゃったんですね。
なので、自分が参加したミッションを無意識下で避けてたんじゃないかって。トラウマとも呼ぶべきものなのかもしれません。

今作では②を採用させてもらっています。
もし他に意見があれば、じゃんじゃか教えてくださいな〜。


感想、お気に入り、評価、よければお願いします〜!



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0019 黒服の襲撃

【謝罪】
17話にて、鈴木のおっちゃんがいるかのような描写がありました。
すいません、消し忘れです。
本作では鈴木のおっちゃんは部屋に呼ばれていません。
勘違いさせてしまった方には大変申し訳ないです。


実は昨日のジェラシックって誤字と思った人も多いんじゃないでしょうか?
実はジェラシーとジュラシックで掛けたんですよね! 感想欄でバレちゃって嬉しかったです。
嘘です。普通に誤字です。
けど、なんかちょうど良かったのでそういうことにしときます。

オニ星人編をまた読み直してたんですが、おっちゃんがほんといいキャラしすぎて、本作で部屋に呼ばなかったのを若干後悔。
稲葉も、ミッションに適応できなかった一般人感が好きだったんですけどねぇ。


なんかランキングに載ってたみたいです!
皆さんありがとうございます!


 T-レックス3体を何とか倒し、ボス星人の下へと駆けつけた和泉は甚爾とブラキオの戦いの一部始終を見ていた。

 

(何だ、何なんだ……アイツは)

 

 ズン、とブラキオの巨躯が地面に沈む。それに追い討ちをかけるようにして、甚爾がZガンを使用し、その遺体を徹底的に破壊した。

 和泉はその様子をただ呆然と見ることしか出来なかった。

 

 和泉がこの場所に来た時、既に戦いは始まっていた。

 ボス星人──ブラキオは、和泉からしてみても強敵だと評価を下す程の星人だった。少なくとも油断すれば確実に負けるだろう。

 長い首をしならせ、頭部の刃のようなトサカと顎を高速で振るう攻撃。少なくとも和泉にはその動きを目で捉えることが出来なかった。それほどまでに速く鋭い攻撃だったのだ。

 しかし、甚爾はそれを易々と防ぎ、避け、しかも片手にZガンを持っていたため、()()()()()()()()()()()()()()()。そして、その合間合間の隙とも言えない僅かな時間に反撃し、的確に星人へとダメージを与えていっていた。

 その後はあっさりと決着がついた。甚爾が攻撃に移った途端にブラキオはあっさりとその首を刎ね飛ばされ、Zガンで弱点部位を撃ち抜かれて死亡した。

 

 和泉には分かる。

 あの男はまだまだ底を見せていない。今回のミッションだって、彼からしてみればほんの一端の実力でしかない。

 

 ()()()()()()()()──和泉は、先程そう言った。

 

 だが、あの男に勝てる日など、本当に来るのだろうか。

 そんな未来を和泉は想像出来ないでいた。

 

(バカか俺はッ! 何を弱気になッている! そうだ……俺は、一体何のためにここに戻ッてきた……!)

 

 ほんの一瞬、弱気になった自分を叱咤する。

 そう。

 和泉紫音がこの部屋に戻った理由──人の倫理など捨て、多くの命を奪ってまで戻って来たその理由。

 それを思い出せ。

 未知の感覚──普通に生きているだけでは絶対に手に入れることが出来ない刺激を求めて、和泉はこの部屋へと帰ってきたはずだ。

 

 伏黒甚爾──現実離れした強さを誇るあの男が、その刺激でなくて何というのか。

 

(ああ、そうだ……俺が求めていたのは──!)

 

 和泉は笑う。

 初めて笑った気さえもした。

 

 これまで壁という壁にぶつかったことのない和泉。

 初めて現れた、超えられないかもしれないと思わされた、伏黒甚爾という名の大きな壁。

 気がつくと、弱気な自分は消えていた。

 全身が喜んでいる。

 

 

 和泉の心は、これまでにないくらいに満たされていた。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 親ブラキオ。

 点数は推定でしかないが、20点以上は確実にあるはずだ。

 しかし、ミスったかもしれない。ラプトルが1点として、6体で6点。親ブラキオが20点として、子ブラキオが5点だとすれば、31点とギリギリ100点には届かない。

 レーダーを見ればもう星人はおらず、そろそろ転送が始まってもおかしくはない。

 

 歩いていると、その先に和泉がいた。

 

「何だ、見てたのか」

「……ああ、見事な戦いぶりだッた」

「うぇ、男に褒められても嬉しかねえよ」

 

 甚爾は舌を出し、嗚咽を上げながら和泉の横を通り過ぎる。

 すれ違い様、和泉があることを聞いて来た。

 

「なァ、アンタはどうやッてそこまで強くなれた?」

「ああ?」

「何、少し気になッただけだ」

 

 強くなった理由──そんなものはない。ただの反骨精神だ。

 掃き溜めみたいな家に生まれ、価値がないと虐げられてきた人生。その中でただやさぐれ、腐っていくだけだったが、だからこそ自分を鍛えた。誰からも傷つけられないよう、呪われないように。

 結局、その果てに得たものは何もない。自分も他人も守ることは出来なかった。

 残ったのは、空っぽになった強さだけだ。

 

「呪い」

「呪い?」

「そう。ただそれだけだ」

 

 呪縛により呪いから解放された。だが、結局誰よりも呪いに縛られていたのが伏黒甚爾という男だ。

 

「おーい、伏黒さーん!」

 

 何やらものすごい勢いでこちらへ向かってくるホイールバイク。あの奥の部屋にあったものだ。東郷が運転しており、玄野が後部座席から手を振っていた。

 キキィッ、と車校の教員が見れば発狂間違いなしのやり方で東郷が停車する。真面目な男だと思っていたが、もしかしたら車に乗ると暴走気味になるのかもしれない。

 

「運転荒いな、オマエ」

「……そんなことはない」

「……」

 

 少し気恥ずかしそうに目を逸らす東郷に、甚爾は冷たい視線を向けた。

 

「ボス星人はもう倒したンすね」

「まぁな。オマエらも倒したみたいだな」

「はい。まァ……死ンじゃッた人もいるッすけど……」

 

 それは仕方のないことだろう。スーツを着ていない奴が生き残ることは稀だ。着ていても死ぬことだってある。一々気にしていては心が保たないだろうに。

 

「でも、スーツ組は全員無事ッす」

「そいつは僥倖」

 

 スーツ組が全員無事なのは成果としてはかなり大きい。特に風。あの男はスーツの恩恵を最も受けるタイプの強者だ。パワーでゴリ押すタイプでもなく、技量もある。戦力としては申し分のない逸材だ。

 

(……どいつが生き残ったのか、少し興味があるな)

 

 部屋でガンツが見せたあの特異なメッセージ。

 面白い人材が、どの程度のものなのか。

 部屋に帰れば確認出来るが、転送までの時間はそれなりに長そうではある。

 暇つぶしにはちょうどいいかもしれない。

 

「東郷、どうせならそいつらがいる場所に乗せてけ」

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

「何なンだ、オマエらッ!」

 

 加藤は、突然の事態に混乱していた。

 ミッションが終わり、転送が始まった。そこまではよかった。坂田たちを始めとする新規メンバーが転送されていく最中、そのイレギュラーは突如として現れた。

 

 

「俺たち? そうだな──()()()とでも呼んでくれよ、ハンター?」

 

 

 黒いスーツを着た、4人の男たち。

 最初は偶々この辺りを歩いている一般人だと思った。しかし、あろうことか彼らは()()()()()()()、生き残ったメンバーを殺し始めたのだった。

 

(何故、コイツらは俺たちが見えるッ!? ミッションの標的!? けど、転送はもう始まッてる……何がどうなッてンだよ!)

 

 もうこの場に残っているのは加藤と桜丘しかいない。スーツを着ていなかったメンバーは、転送されていった一人を除いて全員この謎の襲撃者たちに殺されてしまった。

 せっかく生き残ったのに、こんなことになるなんて。

 

「加藤くん、どうする?!」

「俺が……時間を稼ぐ。桜丘は計ちゃん達を──」

「バカッ! 殺されるわよ!?」

 

 桜丘だけでも逃そうとするが、彼女には加藤を置いて逃げるという選択肢はない。彼一人置いていけば、必ず死ぬ。

 だが、このままだと二人とも全滅する。

 ガンツに速く転送をする様に願うが、まだその予兆は感じられない。

 

「コイツらはスーツを着てる。油断はするなよ?」

「もちろん」

 

 そうこうしている間に、吸血鬼たちが動き出す。

 4人のうち二人が何処からか取り出した日本刀を手に、後方の二人が拳銃で援護する。

 スーツを着ていれば銃弾など大したダメージにはならないが、メーター部分を撃ち抜かれた場合は別だ。加藤と桜丘は全力でその場から離脱する。

 それを当然吸血鬼たちは追ってくる。

 しかも驚くことに、彼らは見た目は人間であるにも関わらず、スーツを着ている加藤たちに追いつき並走してきた。

 特に金髪の吸血鬼は動きが速い。会話から察するにおそらくリーダー格なのだろう。

 

「逃げるなよ、ハンター。もう少し遊ぼうぜ」

「ふざけるなッ!」

「そりゃ残念、だッ!」

「ッ!?」

 

 ──速い

 

 一瞬で加藤の懐へと潜り込んだ金髪は、加藤の腕を斬り飛ばさんと刀を振るう。加藤はそれを大きく転がることでなんとか避けるが、間に合わず肩の一部が裂かれた。

 

「加藤くんッ!」

「おいおいお嬢ちゃん、俺らのこと無視して貰ッちゃ悲しいぜ」

「うッさいわね──!」

「おおッと!?」

 

 残りの吸血鬼が桜丘に殺到する。

 得意の脚技で何とか応対しようとするも、彼らはその攻撃を軽々と避けていく。明らかに戦い慣れている。チビ星人よりも動きは遅いが、対人戦闘の経験が豊富なのだ。

 

(けど──私も負けられないッ!)

 

 スーツの力を最大限に発揮するためには"溜め"が必要だ。スーツに力を蓄えれば蓄えるほど、より高いパワーを発揮することが出来る。

 だが、別にスーツの力を常に最大に発揮する必要はない。

 ほんの一瞬。

 攻撃を放つ直前──その瞬間だけ、力を溜めて放てば。

 

「シッ──!」

「な、速ッ」

 

 瞬間強化された桜丘の蹴りが吸血鬼の一人の首を飛ばした。

 仲間が殺されたことに金髪と残す二人の吸血鬼たちに動揺が走るが、彼らとて素人ではない。即座に冷静さを取り戻し、桜丘に銃を向ける。

 

「死ね」

 

 銃弾が放たれたと同時に桜丘はその場を飛び退く。が、避けることは叶わず、一発がメーターに当たり、スーツは忽ち効力を失う。どろり、とジェルのような液体が溢れ出る。

 

「しまッ──」

「遅い」

 

 その隙に吸血鬼が銃を撃つ。咄嗟の判断が遅れ、大腿部に一発貰ってしまった。苦悶の声を上げ、膝をつく。これで機動力は失われた。二人の吸血鬼が桜丘に迫り、その首を刎ねようとして──

 

「やらせるかッ!」

 

 ──加藤が弾丸の如きスピードで駆け抜け、桜丘を救出する。

 甚爾などの例外は除き、人間は初動から最速のスピードを出すことは不可能だ。助走という滑走を得て、最速へと到達することが出来る。

 ただ、ガンツスーツはその特性上、"溜め"の時間があれば初動からの最高速度を出すことを可能とする。

 金髪が仲間の死にほんの一瞬動揺したその隙──それを加藤は、仲間を助けるために利用した。

 

「…加藤くん、助かッたわ」

「礼はいらない。仲間なら、当然のことだよ」

 

 そのまま桜丘の転送が始まった。

 基本的に触れているものであれば共に転送してくれるガンツだが、ミッション終了時の転送では、生物に対してのみであるがそれが適応されないらしい。

 それもそうか、と加藤は納得する。

 そんなことができるのなら"3番"の価値が大きく下がることになる。

 

 だが、その事実は加藤を苦しませる。

 

「やッてくれるじゃねーか、オールバック」

 

 3人の吸血鬼を、加藤はこれから転送までの間、相手取らなくてはならないのだから。

 

(頼むガンツ……早く、転送を──!)

 

 金髪を出し抜けたのは、彼の気が一瞬緩んだからだ。二度同じ手が使える相手でもないし、もう油断などしないだろう。

 絶体絶命──千手以来の命の危機を、加藤は感じ取っていた。

 

「──いくぜ」

 

 身体を沈め、吸血鬼たちが動き出そうとしたその時。

 

「!? 避けろ!」

 

 ──吸血鬼たちはその場を飛び退いた。

 

「ッ!?」

 

 その真下を、何かが通り過ぎる。

 たらり、と金髪の吸血鬼の頬に汗が伝う。

 

 

「おいガンツ、コイツら倒したらボーナスポイント入るンだろうな……」

 

 

 タダ働きはゴメンだぞ、と小さくぼやきながら、甚爾はため息を吐いた。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

(面倒なことになってやがるな)

 

 明らかにイレギュラー状況だ。玄野と東郷が途中で転送されたため、ミッションの終了は確定している。つまり、この襲撃者たちはミッションとは無関係の存在であることを示していた。

 

(人間……じゃねぇな。雰囲気が違え。チビ星人みたいな擬態型の星人なのか?)

 

 こちらを見つめる暫定星人の品定め。

 全員が全員強いが、特に真ん中の金髪はその中でも特上──和泉に迫る実力者だ。

 なるほど、確かにそれならば加藤たちが苦戦したのも理解出来る。実力も実戦経験も向こうが上なのだから。

 

「……とんでもない奴が現れたな」

「そんな大層なもんじゃねぇよ、俺は」

「ほざけ」

 

 金髪の吸血鬼は甚爾の実力を悟ったのか、冷や汗をかく。

 その間に加藤は転送されていく。

 

「オマエら、何者だ? 俺たちのことを目の敵にしてるっつーことは、星人なんだろうが」

「まぁ、な。吸血鬼──なんて呼ばれてたりもする」

「吸血鬼、ねぇ」

 

 史実通りであるならば、太陽の光や十字架、聖水などが弱点になるのだろうが、彼らはどうなのだろうか。確かめる手段は今は手元にはない。聞くにしてもわざわざ答えてはくれまい。

 ただ、存在としてはかなり目障りだ。

 ミッションとは関係なしの襲撃。彼らはこちらの動きを読んでいるということだ。

 ミッション外で狙われるとなれば面倒なことこの上ない。

 

「奴らか……イレギュラーは」

 

 和泉が隣に立つ。

 相手はかなりデキるが、甚爾の敵ではないし、そこに和泉が加われば確実に殺せる。

 分が悪い──そう感じたのか、吸血鬼が仲間に撤退を指示する。

 それを易々と見過ごすほど、甚爾たちは甘くはないが。

 

「……逃すと、思うのか?」

「チッ……!」

 

 和泉が真っ先に金髪の吸血鬼に飛びかかる。その間に甚爾は残りの吸血鬼を殺すべく接近する。

 

「クソ、ナメンじゃねー!」

「オマエらこそな」

 

 甚爾がガンツソードを振るい、吸血鬼が刀でそれを受けようとするが、刀ごとへし折られ真っ二つに寸断される。

 残りは一人。

 拳銃を構え、引き金を引くが甚爾からすれば欠伸の出るようなスピードだ。銃弾を避けながら距離を詰め、あっさりと殺す。

 

 チラリと和泉の方を見ると、彼らは鍔迫り合いの最中だった。しかし、金髪の吸血鬼の方に余裕はない。仲間が殺され、その相手がフリーになっているからだ。

 

「久々にオマエに会ッたと思えば……災難だな、まッたく……」

「俺はオマエなンて、知らねーな」

 

 金髪は、どうやら和泉と面識があるようだった。和泉が覚えていないということは、かつて部屋にいた頃、こんな風に襲撃され、斬りあったということだろうか。

 

 甚爾はZガンを金髪に向けるが、その瞬間身体が動かせなくなった。甚爾の転送が始まったのだ。

 タイミングが悪いことこの上ない。

 

「じゃあな金髪──次会う時はしっかりと殺してやるよ」

 

 

 

 転送が完了し、甚爾はあの部屋へと戻ってきた。

 甚爾と和泉以外の転送は終わっている筈だが、そこにいる人数は非常に少ない。半分にも満たない数だ。

 新人は豊満なスタイルの少女──レイカと風、坂田と桜井しか生き残っていない。

 

「ガンツッ! どうなッてンだよ!」

 

 加藤と桜丘からことのあらましを聞いたのだろう。玄野がガンツに怒鳴り、詰め寄っているが、黒い球は何も答えない。

 

「面倒なことになッたな、伏黒」

「ああ」

 

 現状において、新規メンバーよりも古参メンバーの方が混乱が大きかった。特に玄野と加藤はそれが顕著だ。一緒に生き残ったメンバーが殆ど彼らの手によって殺されてしまったのだ。ショックは人一倍大きいだろう。

 

 甚爾としても今回の出来事は想定外も良いところではあった。ただ、同時になぜこれまで考えつかなかったのかと自身の詰めの甘さを笑いたくなった。

 星人だって人間と同じく考える頭があり、感情がある。これまでの星人がたまたまひっそりと過ごしていただけで、好戦的な星人がいないことにはならないのだ。

 彼らは自分たちが狩られる側にあることに気づき、標的にされる前に攻勢に出ることにしたのだろう。部屋の住人はミッション以外で星人と関わらないという固定観念が植え付けられている。だからこそ、ミッション外からの襲撃は有効打となり得る。

 

(たぶんあいつらは、これからも俺たちを狙いにくる。ミッションとは関係なしの日常でもだ。

 俺は問題ねえが、こいつらはちとキツいかもな。なるべく早く手を打っておく必要がある)

 

 戦闘能力の大部分をスーツで補っているため、一部の実力者を除けばスーツが破壊されたらそこで詰みだ。それだけでなく、日常的に襲撃に遭うと考えればスーツを着ていようといずれ押し負けるのは目に見えている。

 カタストロフィのことといい、やらなければならないこと尽くしだ。

 

「あ、誰か帰ッて来る」

 

 桜井が指を差す方向に、最後の帰還者──和泉紫音が転送されてきた。

 金髪の吸血鬼と1対1だったが、あの様子だと大した怪我もなかったみたいだ。

 

「倒したか?」

「いや、途中で転送された。指を一本持ッてッたが、大して痛手じゃないだろうな」

 

 少し悔しげに語る和泉。

 

「まぁ、あいつらとはいずれまた(まみ)えることになるだろうぜ」

「また……ッて、そうだよな……一度で終わるとは思えねーし」

 

 玄野が納得したように言う。それもそうだ。わざわざただちょっかいを掛けにきただけの筈がない。ノリこそ軽くはあったが、そこに混じ入る殺意は本物だった。

 

「あの、話の途中ですまないンですけど……これから俺たちはどうなるンですかね?」

 

 恐る恐ると言った様子で訊ねて来たのは桜井だった。

 そういえば、新人にはまだミッションのことはすべて話していなかったことに気づく。玄野に目配せすると、頷いた。

 

「ミッションが終わった後、この球が採点を行うンだ」

「採点?」

「ああ。星人を倒した数に応じて、点数が貰える。まぁ、見た方が早いとは思うけど」

 

 ちーん、という音が鳴る。

 ミッションの締め切りの音。

 そして、採点の始まりの合図だ。

 

 

 

それぢわ ちいてんを はじぬる

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回でかっぺ星人編は終わりです。

さて。
今回やってきた吸血鬼──金髪は氷川と呼ばれているのですが、実は彼らは過去に東京チームと激突して壊滅状態にまで追い込まれた星人の生き残りなんですよね(奥先生のTwitterより)。
その割には数が多くない?って思うかもしれませんが、その謎は吸血鬼の正体について本作で明らかにした時に話そうかと。まぁ、話すと言っても僕の勝手な推察なんですけど。

それでは次回、かっぺ星人編 最終話
タイトルはネタバレになるのでお楽しみに!

もしかしたら21時じゃなくて昼の12時に登校するやも。

感想お気に入り評価、本当に励みになってます。特に感想は色々とおしゃべり出来るので好きです。
いつも助かっております。

なんかランキングに載ってたみたいです!
皆さんありがとうございます!


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0020 "3番"

13時に投稿しちゃいました!

沢山の感想、お気に入り、評価ありがとうお願いします!


 今回100点メニューを選択出来るかどうかは運次第と言ったところだ。前回までの持ち点は60点ジャスト。つまり、今回のミッションでは40点以上を獲得する必要があった。

 星人の点数はこの採点時に予想を立てるしか方法はない。

 ラプトルを6匹、親子ブラキオを1匹ずつ今回倒している。そのうちボスは1匹であり、それなりの高得点を獲得出来ると予想出来るが、20点〜30点とブレが激しい。ラプトルを1点とし、子ブラキオを5点と換算すれば、少なくとも親ブラキオは29点以上なければ100点に届かない。

 前回と比べ、ミッションの間の期間が空いている以上、西の復活は後回しとなり、情報の獲得が遅れることになる。

 "カタストロフィ"と呼ばれる何かがいつ起こるか分からないため、西の復活は早急に行いたかったのだが、今回ばかりは甚爾のミスだ。

 吸血鬼の点数もミッションの標的外のため、おそらく鑑定には入れられていないだろう。

 

(……今更後悔しても遅いが。仕方ねえ)

 

 あとはもうなるようになるしかない。もし100点に届かなかったとしても、その結果を受け入れる他ない。

 

「今回はほとんどの人が星人を倒してるから、差はあっても点数は貰えてると思う」

「星人を倒さないと点数はもらえないのか?」

「ああ。まぁ、点数がなかッたからッて、罰があるわけじゃないけど」

 

 ミッションに関わることでペナルティがあるとすれば、星人を倒しきれずにミッションを失敗してしまった場合。尤も、試す気はない。そんなものを検証するバカは何処にもいない。メリットがないからだ。

 そんなものを試す奴がいるとしたら、よっぽどのバカかあるいは狂人かだ。

 

「その……点数が溜まったら、何かあるの?」

「100点を貯めると、ガンツから特典を選べるンだ。そこの伏黒さんは、一度100点を取ッてる」

 

 視線が一気にこちらに集まってきた。

 

「特典の内容は?」

「この後教える。実際に見てもらッた方が早いしな」

「だな。採点も始まることだし」

 

 タイミング良く、ガンツの画面が切り替わる。

 

 

アホの、、、

 15てん

 TotaL15てん

   あと 8

    

 

 

「15点……そういや、恐竜そんくらい倒したかも」

「1体1点ッてことか……」

「85点で終わりッて……?」

「後でわかるわよ」

 

 

くろののふぁん

 てん

 ライばる 美形

 TotaLてん

    あと 100

 

 

 

 ガンツのコメントを見た瞬間、レイカは顔を赤く染め上げて叫んだ。

 

「えッ、えーッ、えーッ! うそッ、うそッ!」

「え? え?」

「え、俺?」

「……やッぱり警戒が必要ね」

「モテ期じゃねぇか、玄野」

 

 とぼけた顔をしていることは多いが、玄野の顔つきは悪くはない。整っていると言ってもいい。確か桜丘も、玄野の顔が気に入ったから好きになったと言っていた。

 玄野の気づかぬところで巻き起こっている修羅場に甚爾は笑いが溢れそうだった。面白そうなので黙っておくことにしよう。

 

 

いなかっぺ大将

 16てん

 TotaL16てん

   あと 84

   

 

 

「……あンまり倒せンかッたばい」

「ラプトル、めッちゃ逃げてましたもンね……」

 

 風はどうやらその気質故に恐竜から恐れられていたようだ。

 甚爾のように巧く気配を消す術を持っているわけではないので、それも仕方のないことだ。まぁ、ただ強いだけの一般人がそれほどの気迫を纏っていること自体、中々おかしなことではあるが。

 

 

チェリー

  10てん

 TotaL10てん

   あと 90

   

 

 

「10点かぁ。まだまだですね」

「いや、"能力"覚えたてであれだけ出来れば十分さ」

「能力?」

 

 聞き慣れない言葉に甚爾が疑問を呈す。

 坂田がニヤリと笑いながら、

 

「俺たち、超能力が使えンのよ。ほら」

 

 ピン、とコインを指で飛ばすと、飛ばされたコインは地面に落ちることなくくるくると空中に浮遊している。

 その光景に甚爾は目を見開いた。

 コインが浮いたことにではなく、坂田の持つ超能力という存在に、だ。

 呪力という概念の存在しないこの世界。それ故に"術式"のような特殊能力は存在しないと思っていた。

 甚爾のいた世界では術式や結界術以外で異能力というものは存在しなかったからこそ、その驚きは非常に大きい。

 

「どういう原理だ?」

「さァ? 俺もよく知らねー」

 

 嘘はない。代わりに何かを隠してはいるが、そこに悪意は感じられないためスルーしても構わないだろう。

 

(星人を殺せるっつーことは、それなりに強力な力場を生み出せるんだろうが、代償はあるみたいだな)

 

 左肩で鼻血を拭く坂田を見て、甚爾は目を細める。

 代償は身体機能への負担と言ったところか。坂田の内臓機能はかなり衰えているのが分かる。ガンツによって回復されないのはおかしな話ではあるが。

 その辺りをこの二人は気づいているのだろうか。

 おそらく坂田の方は何となく察してはいるだろう。甚爾もそれを伝えるつもりはない。戦力の低下はなるべく避けておきたいのだ。

 

 

和泉くん

  18てん

 TotaL18てん

   あと 82

   

 

 

「……」

 

 新人の中では最も高い点数を取った和泉。その表情は満足していないように見える。

 和泉はスリルを味わいたいがためにミッションを熟す稀有な存在だ。点数に一喜一憂したりはしない。ただ、新人たちの点数を見て驚いているようではあった。

 

「強い人間……そういうことか、ガンツ」

 

 ポツリと呟いた和泉は、何やら納得したように口を閉じた。

 

 

くろの

  20てん

 TotaL73てん

   あと 27

   

 

 

「おおーッ、20点! やるねー!」

「さすがリーダー!」

「ちょッとリーダーッて、やめてくれよ」

 

 玄野の点数に、新人たちが感嘆の声を漏らす。

 いい傾向だ。部屋のメンバーが玄野をリーダーと認め始めている。

 チビ星人の時から玄野のリーダーとしての素質は芽生え出していた。玄野の秘めた才能──生き残る道筋を見つけ出す、特異な力。

 それこそが他人を惹きつけ、玄野の後ろを他者が付いていくようになる。

 

 甚爾や東郷ではリーダーにはなり得ない。

 甚爾はその強さが個人として完成されているが故に。

 東郷はその在り方が兵士であるが故に。

 

 甘さが消えた加藤もリーダーの資質があるが、彼自身が玄野をリーダーとして認めているため、どの道この部屋では自然と玄野になる筈だ。

 

 当面の目的であった甚爾のチーム作り、その基盤はもうほとんど完成したと言っても過言ではない。

 

(100点まで27点……まぁ、桜丘がいる限りコイツが解放を選ぶことはあり得ねえか)

 

 懸念は玄野が解放されることであったが、桜丘という存在がいればこの部屋へ繋ぎ止める鎖として十分に作用する。

 手を打つ必要はない。

 

 

 それから、採点は次々と進んでいった。

 

 

美形

  15てん

 TotaL24てん

ラいバル登場(笑)

 られないようにね

   あと 76

   

 

 

   26てん

 TotaL65てん

   あと 3

   

 

 

かとうちゃ(笑)

  17てん

 TotaL37てん

   あと 63

   

 

 

 桜丘たちは経験を積んでいることもあり、かなり点数が取れていた。

 特に東郷は標的であったかっぺ星人も倒していたらしく、他者よりも多い点数となっている。

 玄野同様、近いうちに100点を取る可能性も見えてきた。

 

 今回の新人はかなり優秀だ。ガンツが強い人間を多く呼んできたと言っていたが、その言葉は普段のように適当をほざいてるわけではなく事実だった。

 新人がこれほど生き残ったのは、初回のネギ星人以降初めての出来事だ。それもその殆どが10点以上の点数を獲得しているという具合。

 これからミッションが非常にこなし易くなると予想出来る。

 ただ、それと同時にミッションの難易度が上がるのではないかという不安はある。

 尤も、そのための戦力の強化ではあるのだが。

 

「次は伏黒さんですね」

「今回も100点取れたんじゃない?」

 

 加藤と桜丘が2回目の100点獲得を期待した視線を向けてくる。

 

「さぁな。半々ッてとこだ」

 

 何せ、正確な点数が見えないのだ。そういう武器があればいいとは思うが、実用性は正直なところ、点数管理くらいにしか使い道はない。

 どのみち、星人を壊滅させなければ全滅の道を辿るのだ。点数が高かろうが低かろうが戦わなくてはならない。

 

「その人、そンなに強いンですか……?」

「ああ、俺たちの中だッたら一番。俺らがスーツ着て、甚爾さんがスーツ無しでも勝てねーし」

「バケモノか……?」

 

 とんでもないものを見るような目で新人たちが甚爾を見つめる。あの和泉でさえもだ。

 今回のミッションでスーツの力を身を以って実感した彼らだからこそ、その異常性がより実感出来るのだろう。かつての住人であり、100点を取ったことのある和泉なら尚更だ。

 

 新人たちの視線を無視し、甚爾はガンツに目を向ける。

 残すは甚爾の採点のみ。

 100点に到達したか否か。先ほども言ったように、半々の確率だ。情報源の獲得が遅れる可能性が50%もあると考えれば、心許ない数字である。

 

「あッ」

 

 誰かが声をあげた。

 甚爾も一瞬目を見開いた後──ニヤリと笑みを浮かべた。

 

 

「──()()()

 

 

駄目ゴリ

   

 TotaL106てん

 100てんにゅ~からんで下さい

 

 

 二度目の100点。

 ギリギリではあったが──無事に到達することが出来た。

 ジジジ、と新たな文字列が表示される。

 

 

100点めにゅ~

 1 記憶けされて解放れる

 2 より強力武器与えられ

 3 MEMORYの中から人間を再生で

 

 

「これが、100点メニュー……」

「"1番"を選べば、文字通りこの部屋から解放されるンだ。もう二度とこの部屋に呼ばれることはない」

「……逆に言えば100点を取るまでは逃げられないということだがな」

「……」

 

 新人たちは、100点メニューの報酬を見て多種多様な反応を見せた。

 希望を目にし、やる気を見せる者。

 興味深そうに見つめる者。

 まだこの部屋に囚われるのかと絶望する者。

 かつての己の選択が脳裏に過り、顔を顰める者。

 そもそもあまり興味を示さない者。

 そんな彼らを他所に、玄野たちは甚爾に問いかける。

 

「今回も"2番"を選ぶンすか?」

「"2番"を2回選べば同じ武器が出るのかしら?」

「確かに……」

「……」

 

 東郷だけは、甚爾がどれを選択するかを知っている。

 倫理を踏み躙る最低最悪の選択肢。

 ただ、甚爾がそんなことを気にする男でもないのは知っているし、これからのことを考えれば気にしている場合ではないのだ。

 

 甚爾は、その選択を口にする。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

「──"3番"だ、ガンツ。西丈一郎を再生させろ」

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

──ジ、ジジジ

 

 

 "3番"

 

 メモリーに保存された人間の再生を可能とする、100点メニューの報酬。

 甚爾が呼び出したのは、かつての部屋の住人──西丈一郎。

 甚爾達より一年も前からあの部屋におり、『黒い球の部屋』の部屋の管理人。あと一歩というところで命を落とした彼は、数ヶ月ぶりに蘇った。

 

「は……? な……んだ?」

 

 西は状況を飲み込めていないのか、キョロキョロと周囲を見渡す。あれから部屋の顔ぶれも変わった。彼が知っている人間は、甚爾と玄野、加藤しかいない。

 

「よう、西」

「おっさん……それに、玄野と偽善者……」

「何が起こったのか分からねえ、ってツラだな」

 

 思うに、再生されて来るのは死ぬ直前──ダメージを負う前なのだろう。おそらくこの西には死んだ時の記憶は存在しない。仕組みはミッション後の回収と似たような感じらしい。

 

「あ……チッ、まじかよ……」

 

 西の端正な顔立ちが苦虫を噛み潰したように歪む。どうやら状況を察したようだ。

 

「おっさん……俺は死ンじまッたのか……」

「ああ。数ヶ月前にな」

「ああッ、だッせェッ、ちくしょうッ……くッそ……」

「ハッ、あんだけイキって死んだんだ。確かにダせぇよなぁ?」

「……うッせ!」

 

 しゃがみ込み、西はため息を吐く。

 あれは確かに恥ずかしい。あれだけ余裕ぶっておいたのにも関わらず、無様に死んでしまったのだ。

 まだ、死に際の言動を覚えていないだけマシだろうが。玄野から聞いた話を伝えれば悶絶間違いなしだ。ママ、ママ、と情けなく連呼しながら命を落としてしまったとのことだった。

 ()()()()()()

 

(いや、まだ早いな。コイツが調子に乗り始めたら使うか)

 

 口元を隠し、くつくつと笑う甚爾。

 

(伏黒さん、ぜッてーロクでもないこと考えてる)

 

 そんな甚爾を呆れた目で見つめる玄野。

 

「……で? 誰……? 俺…再生したの……」

「俺だ」

「……納得」

 

 立ち直った西の問いかけに甚爾が答えると、納得したかのように呟いた。

 全てを知っているわけではないが、西も甚爾の実力の一端を知っている。数ヶ月という短期間で、100点を取ることが出来る可能性が最も高いのが誰であるかは推測出来る。

 

「なンか魂胆があンだろ、なァおっさん」

「まぁな。じゃなきゃオマエなんて再生させねえよ」

「ハッ、半年前に死んだ俺にアドバイス求めンのかよ…情けねー」

「あ?」

 

 その言葉に部屋の空気が悪くなった。

 甚爾だけではない。桜井やレイカといった新規のメンバーも西の言いようにムッとする。

 

「……玄野、コイツ覚えてねぇみたいだし、教えてやれよ。死に際の時のことをさ」

「え? あー、そうッすね。泣きながら、ママ、ママって言いながら──」

「ああッ! いい! それ以上は言うなッ、玄野!」

 

 慌てて玄野を止める西。まさか自分がそんなにも哀れな死に際を辿っていたとは思ってもいなかったのだろう。

 くそ、と悪態を吐きながら甚爾に向き直る。その目は睨みつけているように見える。

 

「で、何が聞きたいンだよ」

「今は別にいい。後で俺の家に来い。そこで話す」

「ふーん……まァ、内容の予想はつくけど」

 

 自分が持っている情報については把握している。通常では手に入らないルートからも手に入れているため、甚爾が欲している情報はそこにあるものだと分かる。

 

「!」

 

 と、そこで西の表情は驚きに彩られた。

 さっきまでは再生されたことによる衝撃で状況を正確に把握することができていなかったが、冷静さを取り戻したことであることに気がついたのだ。

 

「和泉……オマエ、なンで戻ッてンだよ……」

「……」

「なンだよおい、記憶失くしてンのか?」

「知らねーッつの」

「チッ……」

 

 和泉紫音。

 あのサイトにも和泉の名前は出ていた。であるならば、和泉と面識があるのは当然のことだ。

 ただ、和泉は西に対して何の反応も示さない。

 何故なら彼は一度記憶を消されている。段々と思い出してはいるようだが、全ては思い出していない。西のことはまだ知らないのだ。

 

「まぁ、和泉はいいか……つーか、やッぱり0点からか……」

 

 西がガンツを見ながら呟く。

 

西くん

 てん

 あと 100

 

 

 90点を超える点を所持していた西からすれば、ショックは大きい筈だ。コツコツと貯めてきた一年が無駄になったと言っても過言ではないからだ。

 それに、部屋の戦力はかなり整っている。

 甚爾は勿論、和泉も帰ってきているし、玄野や加藤も生存しているということは、ミッションにも慣れてきている筈だ。はっきり言って戦闘が得意ではない西がこの部屋で点数を取るのは難しいかもしれない。

 奪うことが出来ればその限りではないが。

 

「なぁ、俺たちはこれから帰れるのか?」

「ああ、次のミッションが始まるまでは自由だ。あ、でも禁止事項とかもあるから教えるよ」

 

 古参メンバーと西とのやり取りを黙って見ていた新規メンバー──その一人である坂田の疑問に玄野が答え、ガンツのルールを説明する。

 

 

 そうして新規メンバーに説明を終え、鍛錬のことなどを伝えた後、今夜は解散となった。

 これまでとは比べ物にならないほどの新規メンバーの投入に、吸血鬼(イレギュラー)の登場、2回目の100点の到達。

 千手の時とは違う意味で波乱に満ちていたミッションは、甚爾たちとは別に7人の生還者と1人の再生という結果を残して、終わりを迎えた。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 そして、ミッションから3日が経ったある日のこと。

 甚爾の自宅。

 リビングのソファに、甚爾と西が向かい合って座っていた。

 

 西は不敵に笑いながら、問いかける。

 

「で、俺に聞きたいことッて何だよ?」

 

 

 

「──Katastrophe(カタストロフィ)について、知ってることを話せ」

 

 

 

 

 




これにてかっぺ星人編は終了です!
連続更新、疲れたけど楽しかった〜! 色々調整もしやすいですしね。

この後、1話か2話程度、ミッションとは関係のない話(バトルがないとは言ってない)を書いた後、ゆびわ星人編、そして待望のオニ星人編へと入っていこうと思っています。
ゆびわ星人はダイジェストになるかと思いますが。
間に挟む話は一応決まっていて、

・西との情報交換
・パパ黒を殺した奴を追及せよ&vs吸血鬼

となっております。

病院実習もありますので、更新がかなり遅れるかもしれません。ただ、なるべく早く更新はしようと思っていますので、気長にお待ちしていただけると幸いです。
それでは!


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ゆびわ星人編
0021 利用価値


この作品がきっかけで原作を読んだという感想、控えめに言って作者を容易く嬉しさで殺せる。

さて、今回は重大発表があります。
なんとですね。
GANTZ:F、まさかの総合評価5000突破しました〜!!!!
ほんとびっくりしました。
皆様のおかげです。これかも拙作をよろしくお願いします〜!

というわけでゆびわ星人編開幕です! ちなみに全3話。
ただまぁ、ゆびわ星人との戦う描写はほとんどないと思います。



「──カタストロフィについて知ッてること、ね……おっさん、いきなりぶッ込ンでくるじゃん」

 

 西は不敵に笑う。

 

「当たり前だろ。オマエを生き返らせた理由の八割はソレだ。わざわざ"2番"の選択肢を潰してまでな」

 

 その返答は言外に西の持つ情報が"2番"よりも価値があると示しているようなものだ。

 そして、それは事実だ。

 "2番"を選択し、手に入る武器は確かに魅力的ではある。()()()()()()()()()、強力な武器であることは間違いない──が、それよりも今は、情報を手に入れることが賢明だと判断した。

 

「ふーん、けど、俺の狂言だとは思わなかッたワケ? 現実的じゃあなかッただろ」

「ハッ、そもそもガンツ自体が非現実的だろうが」

「それもそうか」

 

 元より、甚爾は非現実的なものなど見慣れている。術者に呪霊、呪具に呪物──そのどれもが、何も知らない人間からしてみれば空想の産物に過ぎないものばかりだ。

 そも、甚爾は擬似的なものではあるが、こうして異世界への転移を果たしているのだ。現実離れしたことなんて今更のことだ。

 

「それに、たとえ嘘だと思っていてもそれを証明する手立てがねぇ。()()()()()()()()()

 

 嘘だと判断し、再生しないという選択肢も勿論あった。

 だが、()()()それが真実だったとしたら?

 念には念を。

 何事も、起こってしまった後に行動しては遅い。何も知らぬままに先手を取られるのなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ただそれだけのことだ。

 

「逆に俺から聞くけどさー、アンタはカタストロフィが真実だと思う? それとも、俺がふざけて書いた妄想だと思う?」

「腹の探り合いは無意味だぜ、西。オマエの反応からカタストロフィが真実であることは分かってる。知ってるか? 悟られまいと嘘を隠しても、僅かな身体の動きにそれは出るもんだ」

「チッ……チートかよ」

 

 甚爾に隠し事は通じない。微かな肉体の動き、発汗、心拍数など、あらゆる生体反応をその五感は逃さない。

 甚爾を出し抜くには、それこそ和泉のような盤外から攻める他ない。真正面からはほぼ不可能だと言ってもいい。

 

 西は観念したのか、拗ねたようにして真実を口にする。

 

「あー、もうバレてンのならいいや……アンタの言う通り、カタストロフィは真実さ。いずれ確実に降り注ぐ厄災──ッて、()()()()勝手に思ってるけどな」

「俺たちってのは、他のガンツの奴らのことか?」

「ああ」

 

 カタストロフィが真実であると分かった時点で察してはいたが、やはり西はあのコミュニティサイトのロックを突破していたようだ。

 再生させたのは正解だったな、と賭けに勝ったことに少しばかりの喜びと苛立ちを感じた。

 いつもそうだ。ギャンブルとは関係のない賭けをする時に限り、勝利の女神は甚爾に微笑む。

 その笑みを、もう少し広く向けてくれてもいいだろうに。

 

「で、おっさんが聞きたいのはカタストロフィの詳細についてだったよな?」

「ああ」

 

 改めて確認をしてきた西に甚爾は頷く。

 

「まずカタストロフィが何なのか──詳細は俺も知らねー。海外のコミュニティの奴らが勝手に騒いでるだけだしな」

「やっぱりか」

 

 期待していなかった、と言えば嘘になるが、これはガンツ側からしても相当な極秘事項と予想できる。そう易々と詳細をバラすような真似はしていないだろう。

 

「つーか、あり得ねえとは思うが、まさか海外が騒いでるからって真実だと思い込んでるわけじゃあねぇよな?」

 

 甚爾は懸念を口にする。

 西は愚かだが、同時に聡い人間でもある。噂を丸々信じ込むような愚者ではないとは思うが、念の為だ。

 

「ンなワケ。確かに最初は噂だッたさ。発端は確か……えーッと、ギリシャだッたッけな。まァともかく、勿論みんな信じてなかッたンだが……それも一瞬のこと。すぐに皆ンな信じたさ」

「何故だ?」

「カタストロフィ──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 嘘じゃあない。

 薄く笑って語る西の言葉は、全て事実だ。

 

「変化?」

「そう。つッても、変形するとか大幅な変化じゃないけどな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 西は語る。

 そのタイマーは時間の経過を示しており、段々と減っていっているとのことだ。おそらく、それが0になった時、カタストロフィが始まるのではないかということらしい。

 西が最後に確認したのは甚爾たちが来る前のミッション。その時の残り時間は、37000000秒ほど。それから4ヶ月ほど時間が経過しているため、大体あと1年後にカタストロフィが訪れることになる。

 ただ、これには多くの説があるらしく、星人の駆除が完了する予定時刻、あるいはガンツの中にいる人間の寿命──など、未だに確証は得られていないようだった。

 

「核戦争ッていうのが今のメジャーだけど……アンタはどう思う?」

「あり得ねえとは言わねえが、確率は低いだろうな。陳腐過ぎる」

 

 カタストロフィの正体──甚爾の予想では大きく分けて二つ。

 ひとつは西の言うように核戦争──というよりは、ガンツ装備を着た兵士たちで殺し合わせる方が現実的だ。"3番"の制限を解けば無制限の再生が可能となる。実質的な不死の兵団の完成だ。

 ともすれば、勝利条件は他国のガンツの掌握といったところか。妄想の域は出ないが、もしカタストロフィが人間同士の衝突を意味するのならそんなところだろう。

 そしてもうひとつは、異星人との全面戦争。

 ミッションはあくまでその予行練習、あるいは邪魔者の一掃──カタストロフィの時に、最も強大な星人がやって来るのではないか、と。

 

(まぁ、今出来ることと言えば、()()()()()()()()()戦力を整えておくことくらいか)

 

 何が訪れるかは分からないが、ほぼ間違いなく殺し合いになると思っている。

 球男の電池残量にしろ、星人の駆除完了時刻にしろ、その後にガンツの裏側にいる奴らが、素直に兵隊を解放するとは到底思えない。

 

 西にカタストロフィについての仮説を伝えると、彼も大体同じ推察をしていたらしく、特に否定はしてこなかった。

 

「ま、カタスについて俺が知ッてるのはこンなもンだけど……満足したか?」

「概ねな。欲を言えばより深く知りたかったが、時期が分かっただけで十分過ぎる。それに、オマエが他のチームと連絡が取れるなら釣りが来るレベルだぜ」

「あ? おっさん、他のチームに用があるのか?」

「まぁな。知りたいことがある」

 

 ガンツはブラックボックスの塊だ。カタストロフィのタイマーのこともそうであるが、知らないことが多すぎる。甚爾が知っていることと言えば、基本的なルールくらいだ。

 だが、他チームと連絡が取ることが出来れば、更に多くの情報を手に入れることが出来る。

 

「……言ッとくけど、日本の奴らは辞めといた方がいいぜ」

「あ?」

「奴らは基本的にミッションのことしか話してねーからだよ。カタスのことなら海外に聞くのが手ッ取り早い」

 

 他県のチームを嘲る西。

 おそらく、日本の連中のほとんどは海外のコミュニティのセキュリティを破れていないのだろう。カタストロフィについての情報が集まり難いということか。

「ああ、()()()()()()()

「はぁ?」

 

 意味がわからない、と西は怪訝に眉を顰める。

 

「西、オマエはガンツについて多くのことを知ってるが、それでも全てじゃねえだろ」

「……まァな」

「俺が知りたいのは、1()()()()()()"2()()"()()()()()()だ」

「!」

「理解出来たか? 他にも聞きたいことはあるが、一先ずはこれだな」

 

 "2番"──より強力な武器を得ることが出来る、100点メニューの選択肢のひとつ。

 これを再び選択した場合の結果を知りたい。

 実際のところ、日本でなくともそれを知ること自体は可能ではあるのだが、()()()()()()()()()()他の部屋の奴らとコミュニケーションを交わすことは重要だろう。

 それ次第では、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。勿論、2回目以降の武器が使えるのであれば、これまで通り殺れる星人は殺るつもりだ。

 尤も、ミッションの難易度次第では、そんなことを言っている暇もないだろうが。

 

「一々オマエづてで聞くのも面倒だしな。それならオマエに海外の方を任せて、国内を俺が漁った方がいい」

 

 甚爾とて、いくつかの言語を習得してはいるものの、全てではない。西も各国の言語を全て理解しているわけではないだろうが、どうにかする手段は持っているはずだ。

 

(さて、あとは西が協力してくれるかだな)

 

 西はタダでは動かない。

 何かしらのメリットを提示しなければ動いてはくれないだろう。カタスについて語ったのは、"3番"により再生されたことに対する彼なりの礼儀──いや、プライドか。

 そのまま無条件でこれからも協力してくれるのが一番楽だが。

 

「……アンタのやりたいことは分かッた。いいよ、協力してやるよ」

 

 意外なことに、すんなりと西は甚爾の協力を受け入れた。何か条件を迫る素振りもない。

 そのことは少なからず甚爾は驚く。

 

「驚いたな。何かしら条件を提示してくると思ったが」

「別に。俺にとッちゃ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 今の俺は貴重な情報源──それだけで俺の生存率は大きく上がる」

「へぇ、そこまで考えてたか」

 

 甚爾と西の協力。

 互いが互いに必要な存在だ。

 甚爾は西の情報収集能力を買っており、西は甚爾に情報を提供することで己の価値を証明する。

 田中星人との戦いで西を失ったのは甚爾の失策。その失態を再び起こさないために、ある程度のカバーはするつもりではあった。

 ミッションへの適応能力はあれど、戦闘自体が得意というわけではない西にとって、今の甚爾はある意味ボディーガードのようなものだ。

 

「つっても、俺はつきっきりでオマエをカバー出来るわけじゃねぇ。分かってるよな?」

「ああ。そこまでは求めたりはしねーよ」

 

 その辺りは流石に分かっているようだった。

 甚爾という戦力をただ一人を守るために使うのは宝の持ち腐れだ。

 

 話は終わりだ。

 甚爾と西は、薄く笑い合う。

 

「それじゃ、これから都合良く利用させてもらうぜ、西」

「それはこッちの台詞だッての」

 

 伏黒甚爾と西丈一郎。

 本来交わることのなかった二人の間に、信頼も信用もない──打算だらけの契約(しばり)が結ばれた。

 

 

 

 

 西の手により、無事にコミュニティにアクセスすることが可能となった。甚爾の目的のひとつは叶い、次のステップに進むことが可能となった。彼との関係はそれなりに続くであろう。その人間性はどうでもいいが、その才能には利用価値がある。

 

「やることはやッた。もう帰らせてもらうぜ、おっさん」

「少し待てよ、西」

 

 帰ろうとする西を甚爾が引き止める。

 西を呼んだ目的は、カタストロフィについての情報提供と協力関係を結ぶこと──()()()()()()

 カタストロフィという巨大な災禍に目を奪われがちだが、その前に甚爾たちがやらなければならないことがある。

 それはガンツのミッション。

 これを乗り越えなければ、そもそもその果てにあるものに到達することは出来ない。

 玄野を始めとし、彼らはチームとして強くなっている。メンバー全員が強化武器を持つことだってあり得るだろう。

 

 ──だが、そんな彼らに今、ある危機が訪れている。

 

「西、過去に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……ある。俺は先に転送されたから、遭遇したわけじゃねーけど、和泉たちが一戦交えたッつッてた」

「そいつらがまたやってきた」

「!」

 

 かっぺ星人での出来事を話す。

 ミッションとは関係のない、別の星人の襲撃。ガンツの隠蔽をものともせずにこちらを認識し、敵意を持って甚爾たちの下へとやって来た彼ら。

 吸血鬼、と彼らは自分たちのことを名乗っていたらしい。

 

「奴らは間違いなく再び俺たちを狙う。おそらく、ミッション外でも襲われることもある筈だ」

「……まァ、わざわざ装備が整っている時に狙う意味がねーもンな」

 

 納得したように西が呟く。

 甚爾が吸血鬼の立場なら、ミッション中だけでなく日常生活を狙う。ガンツによる転送という手段が使えず、準備が整っていないところを叩いたり、数の暴力で制圧することが出来るからだ。

 あの金髪はバカではない。おそらく同じ方法でこちらの全滅を図ってくるだろう。

 

「それで? 俺に話したのはなンでだよ。悪ィけど、()()()()()()()()()()()()()()、断らせてもらうぜ」

「そこまでオマエに求めちゃいねぇよ。話したのはあくまで注意喚起みたいなもんだ」

 

 そもそも戦闘に関しては西に期待などしていない。

 ただ、気をつけておけと言っただけ。星人に顔を見られたのは、甚爾と和泉、加藤に桜丘の四人のみ。ミッション後に再生された西が認識されている可能性は低いが、警戒を怠らないに越したことはない。

 甚爾だってタダ働きはゴメンだ。ただ、厄介ごとはさっさと終わらせるに限る。

 

 話は終わりと判断したのか、西が立ち上がる。

 

「話はそれだけ?」

「ああ。情報が落ち次第、随時連絡しろよ」

「わかッてるッての」

 

 鬱陶しそうに答えた後、ステルスを発動して西は去っていった。

 甚爾はケータイを手に取り、ある男に電話を掛ける。数コールして、応答が返ってくる。

 

 

『──伏黒か』

「俺も用事を終わらせた──()()()()()()()()()

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 甚爾と東郷はミッション終了後に吸血鬼対策を練っていた。

 ミッションとは関係無しに星人が襲ってくるという事例が生じた以上、これからの日常生活にも侵食してこないという保証はない。

 ミッション外では転送という逃走手段がないため、こちらはかなりの不利を強いられることになる。

 一度や二度の撃退は可能でも、回数を重ねればゴリ押されることは明白。実力者である和泉や東郷でもそれは同じだ。

 だからこそ、何らかの対応を考えるのは当然の帰結と言えた。

 

 まず考えたのは、吸血鬼たちがどうやってこちらを特定したのか。考えられるのは二つ。

 ひとつはこちらの位置を特定する手段がある可能性。レーダーなどでこちらの位置を把握出来ていることが考えられる。

 だが、これに関しては謎が残る。何故、わざわざこのタイミングだったのか。そんな方法があるのなら、もっと早く行動が出来た筈。仮に使用可能になったのがかっぺ星人のミッション当日だったにしても、わざわざ敵が固まっているところを狙うのは良手だとは思えない。一網打尽に出来るチャンスとはいえ、浅はかだと言わざるを得ない。

 ふたつは()()()()()()()()という可能性。根拠もへったくれもないが、あり得なくもない。もしもこちらの位置を知っていたのなら、4人という少人数で動く必要もなく、もっと多くの人数で襲撃を試みるべきだ。それが出来ないのなら、ミッション外で個々に撃破するのがベストと言える。

 

 ともあれ、ここから考えられるのは、吸血鬼たちはこちらの位置を特定する手段を持っていない可能性が高いということだ。

 そのため、甚爾と東郷は一先(ひとま)ずは、吸血鬼たちがこちらの動きを知らない体で動くことにした。無論、知っている可能性も視野には入れているが。

 

 あの時、吸血鬼と相対したのは、甚爾と和泉、加藤に桜丘の四人だけ。狙われるとすれば、この四人だろう。

 そのため甚爾は、まずこの四人のうち三人──和泉と加藤、桜丘を囮として利用することにした。

 彼らを釣り餌として使用し、吸血鬼たちを釣り上げる。東郷には彼らの監視を頼んでいる。同時に三人を監視するのは不可能なため、数時間ごとに監視対象を変えてはいるが。

 

『今のところ音沙汰は全くないな』

「まぁ、昨日の今日だからな。それに、リーダー格の金髪は俺を警戒していた。慎重にはなってもおかしくはねぇ」

 

 あの金髪の吸血鬼にとって、甚爾は最も危険視されている。藪を突いたらヘビではなく龍が出て来たようなものだ。

 

「ま、引き続き監視は頼むぜ」

『ああ、任せておけ』

 

 ブツッ、と通話が切れる。

 東郷は使える駒だ。ああいう人間を仕事人というのだろう。下された命令を黙々とこなしてくれる。何より金が掛からないのが素晴らしい。利用価値のある存在だ。

 

 

 

 

 ──和泉が吸血鬼に襲われた

 

 

 そんな報告がやって来たのは、それから数日後のことだった。

 

 

 

 




パパ黒がガンツスーツ着てる姿を妄想してニマニマしてるこの頃

というわけで、西くんと契約を結んだ甚爾。
意外とバカにされがちな西くんですけど、コイツ中学生なんですよね……。優秀が過ぎる。

掲示板スレのフラグが立っていますが、載せるかは分かりません。本編完結後に載せるかもしれませんし、番外編的な感じでふらっと載せたりするかもです。

【吸血鬼の謎】
コイツら、どうやってミッション現場を特定したのか未だに分からないんですよね。
オニ星人みたいにレーダーを持っているわけでもないですし。ミッション後に和泉を見つけたのも偶々でしたし。
なんか面白い考察があったら教えてくださいな。

次回
『0022 黒スーツの狩人(ハンター)
明日の21時に更新です。

感想、お気に入り、評価、良ければよろしくお願いします〜



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0022 黒スーツの狩人(ハンター)

なんか昨日の更新後、評価が増えててびっくりしました。
ありがとうございますー!
それと、吸血鬼の襲来の皆さんの考察、非常に参考になりました。やっぱり色んな人とあれこれ語るの楽しいですよね。

GANTZ SS増えろ増えろ……最近、若干増えてきてるので嬉しみ。


(……厄日だな、まったく)

 

 

 渋谷の街のある通り。

 和泉紫音は、そこで一人戦いを繰り広げていた。

 彼の周りに転がる黒服の男たち。そのどれもが四肢のいずれか、あるいは首が斬り飛ばされており、酷いものは上半身と下半身が泣き別れていた。

 下手人は無論、和泉だ。

 何となしに付き合った、特に情が湧いているわけでもない彼女と形だけのデート中──少女はそうは思っていない──に、突如彼らに襲撃されたのだった。

 彼らが前回のミッションの終盤に襲いかかってきた、吸血鬼を名乗る連中の一味であることはすぐに分かった。

 ガンツとは無関係である彼女が早々に気を失ってくれたのは助かった。流石のガンツもこの状況下では斟酌してくれるとは思うが、万が一がある。この場において、彼女は和泉にとって最も邪魔な存在だった。

 

 吸血鬼たちの能力は、あの時のぶつかり合いで既に理解している。

 スーツとタメを張る怪力に、素手から刀や銃といった武器を出す。それらの武器は、直撃するだけではスーツを破ることは出来ない。が、刀に関しては怪力も合わさることで、食らい続ければスーツを持っていかれてしまうのは間違いない。

 厄介なことに彼らはスーツの弱点(メーター)を知っているようで、先ほどから執拗にそこを狙ってきている。数はだいぶ減らしたが、まだまだ不利であることには変わりはない。

 

(特にあのハゲの吸血鬼──アイツは他の有象無象どもより"やる"な)

 

 おそらく、この集団の中では最も地位が高い。的確に命令を下し、和泉を追い詰めようとしている。

 

「捕まえろ!」

「スーツ、スーツを狙えッ!」

 

 和泉のスーツを破壊しようと、数人の吸血鬼たちが和泉に群がる。

 奴らはステルスを破る道具を利用しているようで、撹乱出来たのも最初のうちだけだ。

 メーターに手を伸ばす吸血鬼たちを何とか振り払い、斬りつけながら和泉は冷静に状況を打破する方法を考える。

 このままいけば、スーツが破壊されるのも時間の問題。そうなれば、ただでさえ劣勢な今の状況が更に悪化する。

 

 しかし和泉は──そんな状況にもかかわらず笑みを浮かべていた。

 

 ──生きるか

 ──死ぬか

 

 そうだ。その日常では味わうことの出来ないスリルを求めて、和泉紫音はあの部屋へと戻ってきた。

 そして、表の世界ではついぞ出来ることのなかった壁が、和泉の前に現れた。

 生まれて初めて──悔しいと感じた。

 だから。

 こんなところで死ぬわけにはいかない。

 

 精神の高揚に合わせて、更に動きが研ぎ澄まされてゆく。

 加速していく和泉に吸血鬼たちは置き去りにされ、気がついた時には首が飛んでいた。

 優勢だった筈の状況は一気に崩され、30人近く存在していた吸血鬼たちは、たったの二人となっていた。

 

「さ、斉藤さん……」

「まさか、ここまでやるとはな」

 

 斉藤と呼ばれた吸血鬼は口角を吊り上げるが、その表情はどこか硬い。まさか、スーツすら破壊出来ずに二人を残して全滅するとは思ってもいなかったのだろう。

 

「武田……オマエは氷川の下へ行け」

「で、でも……」

「いいから行けッ! オマエがいても変わらねェ……!」

「は、はい……!」

 

 殿は任せろと、斉藤は言外に伝えたのだ。

 背を向け、去っていく武田。だが、それを許すほど和泉紫音は甘くはない。強く踏み込み、武田を追おうとするが、すかさず斉藤が間に入り、和泉のガンツソードを受け止める。

 

「やらせはしねェよ」

「……チッ」

 

 仲間を呼ばれても面倒だ。さっさと片付けておきたかったが仕方がない。この吸血鬼をさっさと殺して後を追うとしよう。

 

 和泉と斉藤の決着は一瞬で着いた。

 スーツの恩恵がない時ならまだしも、純粋な技量は和泉の方が高みに位置する。

 刀ごと斬り裂かれた斉藤は地面に崩れ落ちた。

 そんな彼に目を向けることなく、和泉は武田を追おうとするが、ふと足を止めた。

 和泉の目が驚きに見開かれる。

 

「オマエは」

「……追う必要はない」

 

 そこにいたのは、軍人の男──東郷だ。

 

「……何故だ。あの吸血鬼は仲間を呼びに行ッた。まさか、逃げる敵を追うな、なンて甘ッたれたことを抜かすンじゃねーだろうな」

「無論だ。()()()()()と、俺は言った。()()()()()

「……何?」

 

 東郷の言葉に、和泉が怪訝に眉を顰めるが、すぐにその理由がわかった。

 上空から()()()()()()()()

 それは、あの武田と呼ばれた吸血鬼だった。ご丁寧に四肢の骨をへし折られ、身動きが取れないようになっている。

 

「これは……」

「よう、和泉。災難だったみてえだな」

 

 上から降り注ぐ聞き覚えのある声。見上げると、ビルの上からこちらを見下ろす男の姿──伏黒甚爾がいた。

 甚爾は躊躇なく飛び降りる。

 

「伏黒、どういうつもりだ?」

「なに、吸血鬼(コイツ)に用があっただけだ。とりあえず、ここは人目に付く。場所を変える」

「チッ……仕方ないか」

 

 この場で尋問を行うには、リスクが大き過ぎる。

 警察のお世話になるのはまだマシで、最悪ガンツに処罰される可能性もあり得る。

 ミッション外での星人との戦いなど、自殺行為に等しい。

 心は昂るが、同時に鬱陶しいとも思う。

 

「あれ、オマエの女か?」

 

 少し離れたところにいる少女を甚爾が指さす。

 成り行きで付き合っただけの女だ。特に思い入れはない。故に、このまま放置しておいても問題はないが──

 

「……ああ。少し安全な場所に移してもいいか?」

「構わねぇよ。放置して面倒ごとに巻き込まれるのはゴメンだろ」

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 甚爾と和泉が訪れたのは、先程の場所から数キロ離れた先にある廃墟だ。

 気を失っている吸血鬼を二人で取り囲んでいる。

 東郷は念のため、桜丘と加藤の護衛に向かわせた。これから行うことに数は必要ない。

 

「それで、コイツをどうするつもりだ?」

「大体分かってるだろ」

 

 和泉が疑問を投げかけるが、甚爾は答えない。わざわざ分かっていることを教えるのは無駄だ。

 

「……尋問か」

「そ。構成員の数、根城の位置、ボスは誰か、こちらをどうやって特定しているのか──聞きたいことは盛り沢山でな」

 

 叶うことなら、次のミッションで標的にされることを願うが、それを待っているだけの時間はない。次いつ招集されるか分からないため、先に手を打つ必要がある。

 ミッションではないため、レーダーも通じない。だから、尋問して聞き出すか地道に吸血鬼を探すしか方法はない。それなら、尋問の方が手っ取り早くはある。

 

「ぅ……こ、ここは……?」

 

 気を失っていた吸血鬼──武田が目を覚ます。どうやら現状を把握出来ていない様子で、倒れたまま首だけを動かし、辺りを見渡している。

 

「そ、そうだ……俺、斉藤さんに頼まれて、その後──」

「お目覚めか、クソ吸血鬼」

「だ、誰だ!」

 

 甚爾が武田に声を掛ける。しかし、武田には甚爾の姿が見えていない。何故なら、二人ともステルスを起動しているからだ。

 ステルスを見破るサングラスも既に破壊されている。

 

「ど、何処に……ッ! ステルスか!」

「遅えよ。ま、んなことはどうでもいい。俺はオマエに聞きたいことがあるんだ。答えてくれるよな?」

「だ、誰が答えるか!」

 

 武田の返答に甚爾は目を細める。美しい仲間意識だ。それが()()()()()()()()()()()()()

 

「これからオマエが俺の質問に答えない度に、少しずつ身体を刻んでいく」

「……は?」

「まずは1回目」

 

 瞬間、武田の右手にガンツソードが突き刺さった。一瞬、呆けたような顔を見せた後、襲ってきた激痛に武田が叫び声を上げようとするが、甚爾が下顎を蹴り、無理やり黙らせる。

 

「が、ご……ッ!?」

「オマエは黙って俺の質問に答えろ。そうすれば、一先ずは苦しまずにはすむ」

 

 話して楽になれよ──そう言外に伝える甚爾。それでも武田は首を縦に振らない。ため息を吐いた甚爾は、次は右の手指を数本斬り飛ばす。

 

「ま、時間はたんまりとある──頑張れよ」

 

 

 

 苦痛を伴う尋問──即ち拷問は、情報を集めるのには向いていない。苦しみから解放されようと、出鱈目を吐いてしまうことが殆どだからだ。

 だが、嘘を見抜ける人間がいるならそれは別だ。情報の真偽を見極め、取捨選択が可能となる。

 叩けば叩くほど情報を吐いてくれる都合のいい道具の出来上がりだ。

 

「中々にいい情報が手に入ったな」

 

 武田から引き出せた情報は有用だった。

 初めは強情にも口を閉ざしていた。しかし、足の腱を切ったあたりで突如情報を吐き始めた。ただ、それは全て真っ平な嘘。甚爾には嘘は通じないため、すぐに破られることになる。

 そこからは脆かった。泣きながらぼろぼろと情報を吐き始め、甚爾の望む情報が手に入った。

 

①構成員の数は把握していないが、100人以上は確実にいる

②根城の位置は複数あり、武田は新入りのため全てを把握しているわけではない

③ボスの名前は氷川。金髪の吸血鬼である

④こちらの位置を特定する手段は有していない

 

 ①→予想以上に数は多いが、③の情報から問題なく対処可能

 ②→全てを分からずとも芋蔓式で自ずと全てわかる。問題はない。

 ③→最も強いのが金髪であるならば、程度が知れている。潰すのは容易いだろう。

 ④→位置は特定出来ないが、人海戦術であちこちを監視させ、「誰もいない場所に破壊痕が出現した箇所」を見つけたら、すぐに上に連絡がいくようにしているようだ。

 

 特に四つ目の情報を得られたのは大きい。

 警戒するのが甚爾、和泉、加藤、桜丘の四人で済む。

 

「ぜ、全部話した……だ、だから、お、俺は殺さないんだよな?」

「あ? あー、そういうこと」

 

 息も絶え絶えといった様子だ。生き残れたことに安心したのか、薄らとした笑みを浮かべている。

 そんな哀れな吸血鬼に、甚爾は残酷な宣告を与える。

 

()()()()()()()()()()()()()()()

「は? なにを──」

 

──一先ずは苦しまずにはすむ。

 

 殺さないなんて、一言も言っていない。

 そもそも生かす理由などない。

 

 武田の首がごろんと落ちる。

 

「随分と手慣れていたな、伏黒」

「まぁな。専売特許っつーわけじゃねえけど」

 

 和泉の言葉に甚爾は頷く。

 標的が個人ではなく、組織であることも少なくはなかった。その際は特に情報が大事だった。そも、術師同士の戦いは相手の手札を知っていれば知っているほど有利に立ち回れる。

 情報を吐き出させるために、今回のようなことを行うのも少なくはない。

 

 東郷に連絡を入れ、手に入れた情報を伝える。

 加藤や桜丘の方に襲撃はなかったようだ。

 

『これでより大胆に動けるようになッたな。俺は護衛に専念するが、任せてもいいか?』

「ああ、問題ねえ。()()()()()()()

『了解した』

 

 情報通りボスがあの金髪──氷川程度ならば、その他の吸血鬼もたかが知れている。潰すのは容易い。

 あとは如何に氷川の位置を突き止めるか、だ。根城は複数ある。そこを狙い、中にいる吸血鬼を全滅させることは出来る。が、そこに氷川がいなければ意味はない。

 最初の数回の襲撃は難なくこなせても、何度も繰り返せば警戒する筈だ。

 氷川は甚爾を警戒しており、勝てないと判断すれば撤退を選べる冷静さもある。

 

(まぁ、俺たちに手を出すのはマズイ──そう思わせれば十分ではあるけどな)

 

 とりあえず、今知った支部は全て潰すとしよう。

 相手にとって相当な痛手になることは間違いないのだから。

 

「待て、伏黒。俺も連れて行け」

 

 和泉が同行を願い出る。

 そういえば、氷川と因縁があるんだったか。当事者である和泉は覚えていないようだが、記憶には無くとも何となく覚えてはいるのだろう。

 

「足さえ引っ張らなけりゃな」

「問題ない。ただ、あの金髪の奴は俺に殺させてくれ」

 

 やはり、それが目的だったようだ。

 肉食獣のようにぎらつく双眸。

 執着心だろうか。一際強い感情がその瞳の中でぐるぐると渦巻いている。

 

「それくらいなら構わねえよ」

 

 どのみち、甚爾が止めたところで勝手に動き出すのだ。別にこちらに損はないし、浮かせておいた方がいい駒だ。

 

「とりあえずはしらみ潰しだな。その過程で氷川の居場所を索敵していく」

「手分けしてやるか?」

「いや、スーツが破壊されりゃこれからの動きに支障が出る。長期的に見れば二人で行動したほうが効率はいい」

「確かにな。それに、()()()()()()()()()()()()()()()()

「あ?」

「こッちの話だ」

 

 意図は読めないが、別段気にすることでもないかと結論付ける。

 

「まずは渋谷の支部から潰す。異論はねえな?」

「ああ」

 

 

 ──甚爾と和泉による吸血鬼狩りが始まった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 新宿のとあるクラブ。

 黒服の男たち──吸血鬼の根城のひとつであり、普段はパーティーや喧嘩、人間の解体ショーなどで賑わっているその場所だが、今日はガラリとその雰囲気が変わっていた。

 シン、と静まり返り、重苦しい雰囲気が漂い、場に充満している。

 吸血鬼のリーダーである氷川は、煙草を吸いながら険しい顔を浮かべていた。彼の側にある灰皿には、大量の吸殻が積まれており、今の彼の心情が窺える。

 

 数日前から武闘派幹部である斉藤と連絡が取れなくなった。不審に思い、彼の部下とも連絡を図ったが、これも通じない。

 それを境に、次々と仲間たちが音信不通となっていった。

 最初に潰されたのは渋谷。次に池袋、品川──と、根城が次々と消え、今は全体八割が壊滅状態だ。

 

 執行者が誰かは語るまでもない。

 氷川たちが目の敵にしている集団──黒スーツの男たち。

 かつて、氷川たち吸血鬼を壊滅状態にまで追い込んだ、因縁深い者たちだ。

 

 あの日の敗北からどれくらいの月日が経っただろうか。

 前リーダーからこの地位を託され、東京から離れて多くの仲間を見つけ、チームを復活させた。

 それに、今の黒スーツの集団には氷川が目に掛けている和泉紫音(おもしろいヤツ)もいた。

 これからだったはずなのに、全てを壊されてしまった。

 

(……あの唇に傷がある男、だろうな)

 

 幹部二人を瞬殺したあの男。

 氷川が手強いと判断したあの青年よりも遥か上に存在する怪物。

 根拠のない推論だが、あの男がこの状況を作り出したと半ば確信していた。

 

「どうします、氷川さん」

「どうすッかね……」

 

 手の打ちようがない。

 詰みだ。

 今、奴らに挑んだところで敗北するのは目に見えている。

 

(けど──()()()()()()()()()()()()()())

 

 氷川が千葉で黒スーツの集団と遭遇したのは偶然だ。ただ、千葉にいたのは目的があったからだ。たった4人で襲ったのも、最低限のメンバーで訪れたからだ。

 

 ──目的は、ある星人との同盟。

 

 氷川の知る中でも最強の星人だ。

 

 気は乗らないが、しのごの言ってはられないか。

 ため息を吐き、氷川は立ち上がる。

 

「このままいけば俺たちは全滅する。()()()()()()()()

()()とですか?」

「ああ。千葉の連中を壊滅させて暴れたがッてただろ。ちょうどいい遊び相手だ」

 

 あの星人が負ける姿など想像も付かない。万が一負けたとしても、その時は連中(ハンター)も相当に削れている筈だ。

 取れる手段は、もうこれしか残っていない。

 氷川は生き残っている吸血鬼たちに千葉へ向かうように連絡する。

 

 惨敗だ。

 それは認めよう。

 だが、まだ諦めるわけにはいかない。

 

 

 その日、東京から吸血鬼たちの姿が消えた。

 

 彼らが再びこの地に訪れるのは数ヶ月後。

 オニと呼ばれる星人と共に。

 

 

 

 

 

 




ワートリで学んだ尋問術
パパ黒、容赦ない。

吸血鬼は壊滅状態に。ついでに和泉も強くなってます。
とりあえず、氷川たちが千葉にいた理由は『ある星人』とやり取りしてたから、ってことにしました。

【吸血鬼について】
いつかも語りましたが、奥先生曰く、氷川たち吸血鬼はかつて東京チームに壊滅させられた星人らしいです。
それにしても数が多くね?と思いますが、それに関しては彼らの出生が他の星人とは違うからだと思われます。
原作でも少ししか触れられていませんが、彼らは()()()()()()。ナノマシンが人間に付着し、適応出来た者だけが吸血鬼になれる──もとい身体を作り変えられるわけです。
なので、おそらく吸血鬼だけはその大元であるナノマシンがなくなるまでは生まれ続けるんじゃないですかね。あるいは、吸血鬼の数が完全に0になった場合とか。
おそらく、本作ではナノマシン云々に深入りすることはない──いや、もしかしたらするかもしれませんが──と思うので、あとがきで書かせていただきました。
ふと、このあとがきを書きながら、面白い考察が浮かんだので、それをカタストロフィかラストミッションあたりで書くかもですね。

明日は更新できるか分かりません。もしかしたら明後日になるかも?
更新するとしたら21時になるかと!

感想、お気に入り、評価、良ければよろしくお願いします〜


──追記──

なんとフォロワーさんからファンアートをいただきました。
次の更新の際に紹介しようと思います、


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0023 Who killed you?

ハメ作家のコースティック「感想の返信を行う時が1番生を実感する」


ゆびわ星人編最終話です。

さて。昨日あとがきにも書いてありましたが──
なんと!!!!
Twitterのフォロワーさんであり、ハーメルンの作家さんである『柴猫侍』さんからファンアートをいただきました〜!!!!
というわけで、こちらです!


【挿絵表示】


GANTZの表紙風のイラストです!
かっこいいですよね。30分くらいやってた作業が止まっちゃうほどに嬉しかったです!
柴猫侍さん、本当にありがとうございました〜!!!!
汗が止まらない。



「久々だな、加藤」

「ああ、一週間ぶりだな」

 

 かっぺ星人との戦い以降、中止となっていた訓練が再開した。

 吸血鬼がこちらの位置を掴めているのかどうかが明らかになったことがきっかけだった。

 今回からは既存のメンバーに加え、新規メンバーであるレイカ、風、桜井、坂田──そして、意外なことに和泉が訓練に参加している。西同様に絶対に来ないと玄野は思っていたのだが、一体どういう風の吹き回しなのだろうか。

 聞いても「関係あるか?」とはぐらかされ、まともに答える気はないようだった。

 しかし、和泉に関しては玄野からしてみれば懸念があった。

 何故なら、今回の新規メンバーのほとんどは、和泉の起こした大虐殺の被害者であるからだ。不和を起こさないように玄野たちは黙っているが、バレるのも時間の問題だ。

 面倒なことにチームのリーダーは玄野ということになっており、揉め事が起こった場合、火の粉がこちらに降ってくるのは火を見るよりも明らかである。想像するだけで憂鬱だ。

 

(まァ、その時はその時か……腹を括るしかねーよなー)

 

 その時はその時だ。

 もうなるようになれ!

 

「ねぇ、玄野クン」

「れ、レイカか。ど、どうした?」

「ふふ、そンなに緊張しなくていいのに」

 

 考え事に浸っていると、レイカが話しかけてきた。

 やはり、まだ慣れない。星人より現実味がない。あのスーパーグラビアアイドルが目の前にいるなんて。

 すっごくいい匂いがする。

 いや、桜丘もいい匂いがするけども。

 

「鍛錬ッて言ッてたけど、どンなことするのかなッて」

「ああ、基本的には走り回ッたりとかそンな感じ。たまに講義みたいなこともするけど」

「講義?」

「そ、講──「戦術とかを教えてくれるのよ。ね、計ちゃん?」──せ、聖か」

 

 ぬるっ、と背後から現れたのは、玄野の恋人である桜丘。レイカが玄野に好意を抱いてるのを見抜き、恋人として牽制しているのだ。

 二人が対峙している時は周囲の温度が下がり、あの東郷と風が冷や汗を浮かべるほどだ。甚爾はゲラゲラ笑っている。

 当人である玄野はレイカの恋心には気づいておらず、聖が嫉妬してるだけだと思っている。

 

「そうなンですか。教えてくださッてありがとうございます」

「いいのよ。私たち、チーム仲間でしょう?」

「ええ」

「うふふ」

「ふふふ」

 

 

 

 そんな修羅場を加藤、桜井、坂田は遠巻きに見ていた。

 

「恐ろしいですね、玄野さん」

「いつか刺されてもおかしくはないね、ありゃ」

「計ちゃん……」

 

 自分たちのリーダー、あるいは幼馴染が背負った宿命に三人は戦慄する。

 特にこの中で年齢が上であり、人生経験も豊富である坂田には、くっきりと玄野が背後から刺される姿が見えていた。同時に少し羨ましくも思う。

 スーパーグラビアアイドルであるレイカは勿論だが、桜丘もそれに負けていない。胸もあるし、ウエストはキュッと締まり、脚も健康的でスラリと長い。あんな美女たちに囲まれている玄野に、男として憧れを抱いてしまうのは何もおかしくはないだろう。

 そもそも、このチームは男女共に顔が整っている者が多い。レイカや桜丘は勿論、桜井や玄野は童顔であり、あどけない顔立ちなものの、保護欲をそそる。加藤も高身長で体も風ほどではないががっちりしており、凛々しい顔立ちだ。そして、今はまだこの場にいない甚爾も、性格は終わっているが顔は非常に整っており、あれで女を引っ掛けているのは容易に想像がつく。

 そして、キ○タクに若干似ている筈の自分──何故モテないのかは、未だに謎だ。

 

「まァ、いずれな。いずれ俺もモテる筈だ」

「師匠?」

「……気にするな」

 

 まだ、希望はある筈だ。

 

 

 

 そして、そこから少し離れた場所に和泉と風はいた。

 風は黙っておにぎりを食べており、そんな彼を和泉は視線だけ向け観察していた。

 

(コイツはあの時の奴か……あのパワーがスーツで強化されるとなると、とンでもないな)

 

 渋谷で虐殺を行った際、和泉の前に立ち塞がった者が三人いた。その一人がこの男──風大左衛門だ。

 銃を乱射する和泉に立ち向かい、一度吹き飛ばすことに成功した男。

 最終的には殺害に成功したが、一歩間違えれば負けていたのはこちらだっだ。八極拳の技を食らったが、銃に臆して威力が下がっていたにも関わらず、決して軽くはない和泉を数メートル押し飛ばした。

 流石にあの時は肝を冷やしたものだ。

 

 総合力で言えば和泉が勝るが、純粋な殴り合いであるならば、この男には敵わない。

 喧嘩をするためだけに生まれた肉体──この男はきっと、武器など使わずにスーツで殴った方が確実に強い。

 だが、負ける気はない。

 和泉が超えようとしている壁──伏黒甚爾は、風などよりもずっと高みに位置する。

 

(そのためにわざわざ奴の指導する鍛錬に志願したンだ……あの男から何かを盗むなら、これが一番手ッ取り早い)

 

 ここ数日間、甚爾と行動を共にし、吸血鬼狩りを行っていた和泉。そこで彼は、甚爾との実力差を改めて知った。

 才能だけではない。経験値も何もかもが圧倒的に劣っている。その差は遥か彼方まで開いており、その背中すら見えない。

 だが、そこに絶望などしなかった。

 怒りもあった。悔しさもあった。同時に喜びもあった。

 彼の一挙一動から多くのことが学べる。

 成長していく実感──和泉紫音はまだまだ強くなれるのだと。

 

 焦る必要はない。

 少しずつでいい。

 今はまだ果てしない差があれど、いつかきっと。

 

(その前にまずは玄野──俺は、お前を超える)

 

 凡人でありながら、和泉を出し抜き、敗北を味わわせた同級生。

 玄野計を超えることが出来なければ、伏黒甚爾など夢のまた夢だ。

 

 玄野を見据える和泉の瞳は、轟々と燃えている。

 あの部屋にやって来るまで色褪せていた世界は、彼の瞳には既にない。

 

 

 そして、そんな彼らの下にその男はやって来た。

 

「……いや、多いな」

 

 伏黒甚爾は、辟易とした表情を浮かべていた。

 

 

 

◆◇

 

 

 

 人数が増えてもやることに変わりはない。彼らが訓練する姿を見て、気になったところが有れば指摘し、修正するだけだ。

 東郷に加え、玄野たちも経験を積んだことである程度は他人に指導が出来るようになってきている。作業効率は大幅に上がり、新人たちの動きも良くなってきている。

 

 今回の新人はかなり良い。

 坂田と桜井はスーツの力とは別に超能力という特異な力がある。頼り切りになるのは良くないが、スーツと合わせれば相当に強力なものになる筈だ。

 風は元々の身体能力が高く、手加減していたとはいえ、スーツを着ていた玄野と渡り合える程だ。それがスーツを着ることにより更に強化され、無類の強さを誇っている。

 レイカは特に突出するところはないが、立ち回りに長けている。ただ、桜丘と不和を生じる可能性があるため、注意が必要だ。

 和泉は特に問題はない。強いて挙げるなら単独プレイをしがちなところだが、和泉の性格を鑑みればそっちの方が優位に働くかもしれない。

 

 

 ── もッさんおもしい人

 めてようまつ

 ツメしまいちた

 

 

 面白い(つよい)人を集めてきた、とガンツは言っていた。

 毎度毎度適当なことしかほざかないあの球体だが、たまには役に立つこともやるらしい。

 ここに来て一気に東京チームは強くなった。あと数回ミッションをこなせば、チームとして完成するだろう。

 欲を言えば、あのコミュニティサイトで知った()()()()()()()()()()()()()くらいまでには育てたいところだが、100点メニューを複数人が獲得しなければならないため、難しいところだろう。

 甚爾としても点を譲ってもいいが、少なくともあと一回クリアし、2()()()()"2()()"()()()は手に入れておきたい。使用するかどうかは分からないにしても、あの機能は唯一無二のものだ。

 

 彼らの訓練を観察しながらそんなこと考えていると、玄野がこちらへやって来た。

 

「どうした?」

「いや、その……気になッたことがあッて」

 

 そう語る玄野の表情は何処か固い。緊張しているように見える。目は合わせないし、心拍数も上がっている。

 不可解な玄野の行動に疑念を抱いていると、大きく息を吸い込み、深呼吸を行った後、意を決したように彼は口を開いた。

 

「伏黒さん、前回のミッションの時のこと、覚えてるッすか?」

 

 前回のミッション──かっぺ星人の時のこと。

 あの時に玄野と関わったことと言えば、部屋で無理矢理リーダーにしたてあげたこと、そして──

 

(……なるほど、そういうことか)

 

 ── ()()()()()()()()

 

 甚爾という戦力に依存しつつあった彼らを突き離すために語った、甚爾の死因。

 あれ以降、甚爾に依存するような素振りは消えたようだが、それでも彼らの中では甚爾が最も強いという認識は残っている。

 そんな彼が()()()()()()()

 一体誰が? 

 どうやって?

 確かに、玄野たちの立場からしてみれば、気になるのも無理はない。

 

 どうしたものか、と甚爾は悩む。

 教えたところで、五条悟(あの男)はこの世界にはいない。説明する意味もないが、はぐらかすと不安を煽ってしまう結果に繋がるかもしれない。

 

(……適当に誤魔化すか)

 

 確かめる手段はないし、問題はないだろう。

 

「オマエが──オマエらが気になってんのは、俺を殺した奴か?」

「……そ、そうッすね。伏黒さんが殺されるなンて、正直想像もつかないというか……」

「まぁ、別に一方的に殺されたわけじゃねえからな」

 

 天与の暴君と最強の術師の戦い。

 その内容を少し脚色しながら、甚爾は語る。いつの間にか他のメンバーも集まっており、甚爾の話を聞いている。

 

 

「──そういうわけで、殺したと思った奴が生きてて、殺されたってわけだ」

「相討ち、ってことッすか」

「そんな感じ」

 

 厳密には違うが、一度甚爾は五条を下しているので間違ってはいない。まぁ、五条に対して万全にとどめを刺さず、その結果としてあの結末を引き起こした時点で、甚爾の負けではあるのだが。

 

「俺たち以外の超能力者、か」

 

 坂田が興味深そうに呟いた。

 五条については超能力者ということで話を進めた。

 

「オマエらと同種の能力かは知らねえけどな」

「ああ。それに、俺たちにはソイツほどの出力、精度は出せないさ。やろうとすれば脳が焼き切れる」

「ええ!?」

「驚いてるけど桜井、オマエも覚えがあるだろ? 能力を使い終わった後の鼻血や頭痛とか」

「……あ」

 

 桜井にも心当たりがあるようだった。

 

「オマエらの能力、自前のもんじゃなくて他人から受け継いだものなんだったよな」

 

 甚爾の問いかけに坂田は頷く。

 

「桜井は俺から。俺は昔にあッた婆さんから継いだ」

「つまり、本来の持ち主じゃねえわけだ。適応出来てねえから、拒絶反応が出てるんだろうな」

「なるほど……」

 

 原理としては受肉タイプの呪物と同じだ。器ではない人間に取り込ませた場合、その末路は二つ。呪物に宿る呪いに耐えられず自壊するか、身体を乗っ取られるか。

 坂田たちに与えられた『超能力の種』は、呪物ほどの毒物ではないため、ある程度の融通は利く。ただ、器ではないため、副作用が肉体への負荷として現れる──といったところか。

 

「なら、頼り切るのはよくない……ですよね、師匠」

「まァな。けど、生死には代えられない。いざという時は使うべきだ」

 

 出し惜しみをして命を落とすなど、無駄死に以外の何物でもない。

 

 

 その後、訓練は終わりを迎えた。

 話しているうちにそれなりの時間が経ったからだ。

 

 そして、それから1ヶ月後、甚爾たちは再びあの部屋へと集められる。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 ──迫り来る黒刃を躱し、カウンターの要領で黒騎士の首をガンツソードが斬り裂く。

 地面に倒れる星人をZガンで念入りに潰した後、甚爾は周囲の状況を確認する。

 

「コイツら図体だけだ! けど、油断はすンなよッ!」

「わかッた!」

「了解リーダー!」

 

 玄野の声に、他のメンバーが反応する。

 加藤たち古参組は勿論だが、前回からの参加者である坂田たちもかなり動けている。本当に前回参加したばかりなのか──そう思ってしまうくらいに、彼らは上手く立ち回っていた。

 それはやはり、坂田たちのポテンシャルの高さもあるのだろう。ただ、一番の原因は東京チームがチームとして機能しているからだ。

 

 ──ゆびわ星人

 

 それが、今回の標的だ。

 10m近い図体の、黒い馬に乗った黒騎士のような見た目の星人だ。

 見た目から手強そうなイメージがあったが、その実態はただの見掛け倒し。スーツさえ着ていれば問題なく倒せる程度のものでしかない。

 数は10体。ボスのような個体も確認出来ず、形式としてはチビ星人と同じだ。

 経験を積み、甚爾の施した指導により鍛え上げられた彼らの相手ではない。

 あっという間にゆびわ星人は倒され、開始10分も経たずにミッションは終わりを迎えてしまった。

 

「うッひょー、なンだアイツら」

「すッげ」

 

 新人たちが、甚爾たちが星人を全滅させたところを見て驚きを見せる。

 今回の新人は6人だ。

 チーマー四人と女子高生が一人。意外と聞き分けがよく、玄野たちの指示を聞き、スーツを着用させることに成功していた。

 戦力になるかと言われると、正直微妙なところだが。

 

「まだ油断しちゃダメだッ! アイツらがまた来るかもしれない!」

 

 星人を全て狩り終え、弛緩した雰囲気が玄野の一声で再び引き締まる。

 ──吸血鬼

 前回のミッションで突如として乱入してきたイレギュラー。甚爾と和泉がかなり手痛いダメージを与えたとはいえ、襲って来ないとは限らない。

 

 しかし、今回は吸血鬼が襲撃してくることはなく、全員が無事にあの部屋へと転送された。

 今回は誰一人として欠けていない。新人が参加したミッションで全員生還出来たのは今回が初めてではないだろうか。

 

「今回の星人、弱かッたな」

「ええ。チビ星人の方がよッぽど手強かッたわ」

 

 段々とミッションの難易度が上がっていく傾向にあったため、玄野たちもそれなりに緊張していた。甚爾もカタストロフィが近づいているため、より強い星人が来ると思っていたのだが、杞憂だったようだ。

 拍子抜け。

 ゆびわ星人は完全に見掛け倒しの星人だった。この分だと、点数もあまり期待出来ないな、と甚爾は思った。

 甚爾が倒したゆびわ星人の数は8体のうち3体。強さからして1体5点あればいい方だろう。

 

 採点が始まり、それぞれの獲得点数が表示される。

 今回、ゆびわ星人を倒したのは5人。甚爾、玄野、和泉、風、西だ。

 新人たちのうちチーマー5人は自分たちの点数を見てケラケラと笑い、女子高生は困惑した様子でガンツを見つめていた。

 視線がチラチラとチーマーたちの方に向いており、恐怖に怯えていることが見てとれる。もしかすると、彼女の死因には彼らが関係しているのかもしれない。

 

 点数獲得者で最初に表示されたのは甚爾だった。

 想定外の点数に甚爾たちは驚きの声をあげる。

 

 

駄目

 30てん

 TOたL36

 64てん

 

 

「30点!? アイツらが!?」

「正直、そんなに強くなかったよな……」

 

 ミッションの難易度、星人の強さから考えると、破格の点数配分だ。

 あの程度で1体10点。

 もしも一人で全て倒していれば、合計で80点取れることとなる。

 ボーナスステージと言っても過言ではない。

 

 採点が終わり、部屋の鍵が開く。

 甚爾以外の点数獲得者も10点ずつ点数を加算された。合計点はそれぞれ以下の通りとなる。

 

 玄野→2体撃破により93点

 和泉→2体撃破により38点

 風→26点

 西→10点

 

 西はどうやら坂田と桜井が追い詰めていたところを横取りしたらしく、桜井が憤っていた。西はどこ吹く風と言わんばかりに無視を決め込んでいた。

 東郷が点を取っていなかったのは驚いたが、おそらく新人の経験のために譲ったのだと推測する。

 

(玄野があと7点でクリア、か。まぁ、その辺りは大丈夫か)

 

 "1番"を選び、この部屋から解放された時、記憶を代償に命の危機から解放される。

 だが、玄野の恋人である桜丘はそうではない。

 彼女はあと76点もの点数を取らなければ解放を選べない。

 それを抜きにしても、彼ら彼女らは解放を選ぶことはない。何故なら、玄野と桜丘は()()()()()()()()()()()()()()。その期間の記憶は消え、赤の他人に戻ることになるから。

 

 甚爾としても桜丘の存在は望外だった。

 玄野を引き止める楔として十分に役に立ってくれている。

 尤も、彼女がいなかったところで、カタストロフィという情報をちらつかせることでこの部屋に縛っていたので問題はなかったと思われる。

 

 カタストロフィに関しては次回のミッション終了後にでも伝えようとは思っている。玄野は次回で100点を超えるはず。タイミング的にもちょうど良いだろう。

 

 いつも通り、我先にと部屋を出た甚爾は、これからのことに思考を回す。

 

 ゆびわ星人──あまりにも温いそのミッションに甚爾は懸念があった。

 甚爾の推測では、カタストロフィに近づけば近づくほどに星人はより強くなっていくと考えている。

 もしそれが正しいのであれば、以降は今回のミッション──いや、これまでのようなミッションは行われないかもしれない。

 

 コミュニティサイトで手に入れた、()()()()()()()()()()()()()()()

 玄野たちは勿論──甚爾でさえ、遅れを取ることになる可能性もある。

 

 

(近いうちにあるかもな──1()0()0()()()()()()()()()()())

 

 

 




というわけでゆびわ星人編終了です!
え、ゆびわ星人の描写がほとんどない……? げ、原作でもほとんどなかったですし……(震え声)

さて、玄野たちがついに甚爾を殺した人物について知りました。
ちょうど良かったので、超能力者の設定も上手く混ぜ込めたんじゃないかと思います。

次回からは待望のオニ星人編です。ここからようやくパパ黒と勝負が成立する星人がで始まるんじゃないですかね(勝てるとはいってない)。
来週から病院での実習が始まり、埼玉県に飛ばされるので、課題に追われたり新しい生活に慣れたりと忙しくなると思いますので、1ヶ月〜2ヶ月ほど投稿までの期間が開くかもしれません。
拙作の更新を楽しみにしてくださってるみなさんには大変に迷惑をおかけします。
ただ、感想の返信などは普通に行う予定なので、本作の感想や気になったことなどは遠慮なくお聞きくださいな。前書きでも言いましたが、感想の返信を行う時が1番生を実感するので。

それでは、また次回の更新──あるいは別作品でお会いしましょう!

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オニ星人編
0024 兄弟




お ま た せ し ま し た


 言い訳と謝罪、いただいたファンアートは後書きに。
 とりあえず、生存報告も兼ねてオニ星人編の第一話だけを更新しました。
 


 

 

 憂鬱とした表情で、少年は電車に揺られていた。

 抜け出したのはまずかったか、と思ったが、それでも、と張り切って東京へと足を運んだ。

 今の東京は危険だ。いつ襲われてもおかしくはない。だから、近づくのは、少年の属する組織のボスから禁止にされている。

 少年はバカではない。寧ろ、聡明な部類に入る。今、自分がやっている行動がどれほどまでに命知らずのものであるかは理解している。こんなことをしていることがあの男にバレれば、相当な叱責を受けることは間違いない。

 

 しかし、同時に殺されることはない、とも少年は冷静に分析していた。

 

 何も無根拠というわけではない。それなりの根拠があっての判断だ。それを含めても、バカな行動であることには違いないが。

 今、少年の所属している組織の戦力はかなり落ちている。新入りである少年の耳にもそのことは入っている。組織が目の敵にしている『黒スーツ』という存在にやられたとのことだった。

 それを踏まえ、ボスは徒らに戦力を減らすことを恐れ、温存に徹することにした。故に、罰を受けても処刑など、命を取られる心配はない。如何に少年が新入りとは言えど、今の組織にとっては貴重な戦力の一人であることには違いない。

 

(ただ、俺が死ぬのも時間の問題なんだろうな)

 

 組織の敵に襲われる可能性が高い、というのもあるが、そう思い至ったのは、ここで会敵しなくとも、いずれ殺し合いになることは分かっているからだ。

 

 

──俺は神に愛されている

 

 

 ふと、いつの日か思ったことが頭を過ぎった。

 

 なんて。こんなことを大真面目に考える奴がいたら、そいつはきっと思春期特有の厨二病に違いない。口に出して誰かに聞かれでもすれば、間違いなく笑い者だ。

 けれど、偶に思ったことがあった。

 もしも神が、特定の人間を愛すというのなら──きっと、自分は愛された存在なんだろうな、と。

 

 自意識過剰。ナルシスト。

 けれど。

 そう思わざる得ないのが、自分のスペックだ。

 14歳なのに背が180cmもあるし、勉強なんて苦労しなくとも聞いていれば頭に入ってくる。身体だって、特にトレーニングなんてしなくたってしっかりと筋肉が付いている。その筋も見せかけのものではなく、スポーツだって万能だ。

 顔もモデルみたいに整っているから女にだってモテる。今付き合っている彼女も年上で顔もスタイルもいい。

 恵まれている──というのは、間違いではない。

 

 もしも。もしも人間が神の味方か悪魔の味方か、どちらかに付くような選択を迫られたとして。

 神と悪魔。

 善と悪。

 自分がどっち側なのか。

 きっと、自分は神側だろうな、と何となく思う。

 

 だからあの頃は、俺の人生は順風満帆で、何一つ躓くことなく駆け抜けていくんだろう、と。

 

 そう、思っていた。

 あの時までは。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 正直なところ、今でも信じ難い。事実であることは分かっているのに、少年の心がそれを受け入れきれていない。

 そうだ。分かっているのだ。

 自分が人ではなくなっていることなんて。

 

 車に轢かれても骨折どころか痛みすらない。

 擦り傷程度なら瞬く間に回復する。

 

 何より──人の血が、美味しく感じる。

 

 そんな受け入れ難い事実が、幾ら少年が否定しようとも、オマエは人間じゃないのだと囁くのだ。

 そして、受け入れたくない事実は──いつの間にか、少年の中で"当たり前"へと変わってきている。

 

(……いてェ)

 

 頭痛が、酷くなっている。

 そういえば、最後に血を飲んだのはいつだったか。

 吸血鬼へとなった人間は、定期的に人血を摂取しなければひどい頭痛に苛まれることになる。

 氷川と呼ばれる吸血鬼のリーダーが言っていたことだ。

 まだ少年に吸血への拒否感があるのは、未だナノマシンが身体に完全に馴染みきっていないからだ。

 いずれは。

 彼らのように見境なく──愉しそうに、人を殺して血を吸うようになるのだろうか。

 それは。

 そうなれば。

 果たしてどれほど甘美で、気持ちよく──

 

(ふざ、けン な……オレは──!)

 

 ギシリ、と。

 手に力が入る。

 持っていた吊革──輪っかの部分に、少年の手形が残った。周りから驚きの目線が向けられるが、少年にそんなことを気にする余裕なんてなかった。

 

 近々、戦争が起こるという。

 その戦争で生き残れるかわからない。

 いや、可能性は低いだろう。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。新入りの少年が、そんな奴らを相手取って勝てるとは思えない。

 だから。

 最後に家族や友人に会いに行こうと。

 そう思って、リスクを冒してでも東京へ戻ってきた。

 それは不正解だった。

 血を摂取していなかったせいで、冷静さを失っていたのだろうか。

 ここは、あまりにも血の誘惑が多過ぎる。

 

 いつのまにか、電車は停車していた。

 少年は逃げるようにして、電車から飛び出す。ここが何駅であるかなんて、関係なかった。

 とりあえず、外に出て、人気(ひとけ)が少ない場所へ行かなくては。

 衝動を落ち着かせ、人が少なくなった時間帯に千葉に戻ろう。

 

 心の底から湧いて出てくる本能を必死に抑え込む。それ以外何も考えられない──そんな時だった。

 

 

「──()()()?」

 

 

 振り返る。

 そこには、()()()()()()()()()()()()()──玄野計がいた。

 

「えッ、計ちゃんのお兄さん?」

「ちょッ、ちげーよ! 弟ッ、弟だッて!」

 

 少年──玄野アキラは、思わぬ存在の登場に少なからず驚いた。

 最後に見たのは、2年も前だ。

 計が中学を卒業し、家を出て行ったあの日以来。

 

 ただ。

 あの頃の兄と今の兄は大きく違う。

 見た目ではない。

 中学の頃は死んでいた、瞳。

 今はそこに、強い意志が宿っている。アキラの彼女にも負けないくらい美人な恋人もいるし、どうやらしばらく見ない間に何かがあったようだ。

 

「……変わったな、兄貴」

「えッ」

 

 まさか、返答が返ってくるとは思ってもなかったのだろう。間抜けな声を兄はあげる。

 仕方がない。兄弟らしい会話なんて、最後にやったのはいつだったかだろうか。少なくとも、アキラにそんな記憶はない。もしかしたら、一度だってないのかもしれない。

 

「じゃあな」

 

 最後にそう呟いて、アキラは二人に背を向けて、エスカレーターを昇ってゆく。

 今日はもう、ネット喫茶か何処かで時間を潰すとしよう。

 こんな調子じゃ、家族たちと会っても面倒をかけるだけ。問題も起きかねない。

 

 

 

 ──この日を境に、玄野アキラは姿を消した。

 

 

 

◆◇

 

 

 

「計ちゃんの弟くん──アキラくんだッけ? 中学生なのにとッても背が高かッたわね」

 

 玄野宅。

 玄野と桜丘は、一緒に作った夕飯を食べながら、今日の出来事について語り合っていた。

 今日は二人で新宿へデートしに行っていた。普段は桜丘のバイクに乗って行くのだが、たまには歩いて行こうということで、この日は電車やバスなどの交通機関を利用していた。

 生姜焼きを口に運びながら、玄野はやはりその話を切り出すか、と顔を顰めた。

 家族との関係を桜丘にはまだ話していない。

 玄野の両親は玄野には関心を持たず、才能あふれるアキラにばかり愛を注いでいた。だからと言って、アキラを恨んでいるわけではないが、何となく気まずい関係なのだ。兄弟らしい会話など殆どしたことがない。

 そのため、桜丘にアキラのことを聞かれると、何というかその──困る。複雑な家庭事情を聞いて、冷めた雰囲気になるのが目に見えている。

 だが、そうといって嘘をついて話を合わせる、というのも何だかといった感じだ。玄野としても、なるべく桜丘に嘘は吐きたくない。

 

「そう、だな。俺も久々に見たけど、180はあったと思うぜ」

「やッぱりそれくらいはあるわよね〜。あ、でも、計ちゃんの方が私は好みよ♡ 可愛いし」

「男に可愛いッて、褒め言葉じゃねーンだけど」

「あら、そう? けど、そうね。戦ッてる時の計ちゃんは、めちゃくちゃカッコいいわよ」

 

 面と向かってそう言われると、恥ずかしい。

 頬が熱くなる感覚を覚えながら、玄野は目を逸らす。

 

「ね、計ちゃん」

「な、なンだよ」

「別に、話したくなかッたら、話さなくていいから」

「──」

 

 ()()()()()()

 桜丘の言葉に玄野は驚いた。

 彼女にこれまで、家族のことは話したことはない。仄かしたことすらだ。

 いや、だからこそ気づいたのかもしれない。

 

「聖……」

「計ちゃん、家族のこと全然話題に出さないからさ。そーいうことなンだろうなッて」

「ゴメン」

「謝らなくていいの!」

 

 そう言って、桜丘は玄野を抱きしめた。

 ああ、やはり彼女は優しい。

 ガンツによって甦らされた先は地獄だった。けれど、彼女と出会えたことは、とても良いことだったと思う。

 それは、感謝してもいい。

 

「ただま、計ちゃんが話したくなッたら、話してよ。だッて、私たちが結婚するなら、挨拶しに行かなくちゃいけないじゃない?」

「ぶーッ! け、結婚!?」

「え、結婚する気はないの?」

 

 うるうると瞳を潤ませる桜丘に、うぐっ、と玄野はたじろぐ。

 

「い、いや……別に結婚はその……したいけどさ」

「ふふ」

 

 玄野の知るよしもないが、今の発言はレコードによって録音されている。

 

「あ、でも伏黒さんが、別に結婚する時に親の承認はいらないッて言ッてたぜ」

(「あの駄目ゴリラ、余計なことを……」)

「せ、聖……?」

「何でもないわ、計ちゃん」

 

 本能的に玄野は女の怖さを知った。

 

「けど、挨拶に行きたいッてのは本当よ」

「そンなに?」

「そンなに」

 

 どうやら、桜丘は本当に玄野の両親に会いに行きたいらしい。理由を訊ねると、微笑みを添えて彼女は答えた。

 

「計ちゃんにとッては、あンまりいい人たちじゃないかもしれない。それでも、その二人がいなかッたら、私は計ちゃんと出会えなかッた」

「……」

 

 それは、確かにそうだ。

 世間一般的に言われるような、素晴らしい両親ではないと思うが、それでも最低限のことはしてくれていた。もしも玄野に興味がなかったのなら、仕送りなんてしないだろう。まぁ、世間体を気にしての可能性もあるが。

 

「それにね、計ちゃんは立派な人だッて──伝えてあげなくちゃ」

 

 その言葉に、玄野は目を見開いて──そして、笑った。

 

(そうだ、俺にはもう……俺を見てくれる人が、いるンだ……!)

 

 もうあの頃の玄野はいない。

 ひとりぼっちで、ただただ惰性と諦観で生きていた頃とは違う。

 仲間がいて、恋人がいる。

 

 久々の弟との邂逅は、悪いことじゃなかった。

 いつか、アキラに聖のことを紹介出来る日が来ればいいな、と。

 なんとなく、そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 一夜にして地獄と化した()()

 スクランブル交差点には、多くの人間の死体と()()()()()()()()があちらこちらに転がっている。

 血肉の生臭さが充満するその場所で、二人の少年が立っていた。

 

 困惑。

 焦燥。

 疑念。

 

 それらの感情を孕んだ表情を浮かべた彼らは、震える声で目の前に立つ『敵』の名を口にする。

 

 

「アキラ……なんで……おまえが、ここにいるんだよッ!」

 

「……兄貴」

 

 

 本来、出会うはずのない時、場所で。

 彼ら兄弟は『再会』する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






ご め ん な さい


前回の更新から1年半ってマジか?ってことで、この度戻って参りました。
 PTの国試の実習で更新遅れるぜ。来週更新するぜ。来月更新するぜ。年末に更新するぜ。国試終わった3月に更新するぜ。GWに更新するぜ。
 と、更新するする詐欺をしてたら、こんなに期間が経っちゃいました。終わってますね。

 近況報告をするとですね。Twitterなどを見てた方などは分かるかもしれませんが、国家試験は無事に合格し、今は理学療法士として働いている所存です。勉強しながらも、ホワイト企業に就職出来たことでうっきうきで過ごしておりました。
 で、そろそろ執筆しなくっちゃなぁ、なんて思いながらも、ウマ娘したりブルアカしたりスプラ3したりとなんかやってたら、令和4年度始まって半年経っていたという事実。

 それでですね。

 一応、この一年半の間にオニ星人編を3万文字は書いてたんですが(パーフェクト言い訳)、どうしたもんかどうしたもんかと悩んだり執筆の意欲が上下したりしてたらですね

 呪術廻戦 死滅回游編 

 ここで何と、天与呪縛のフィジカルギフテッドの新情報が盛りだくさん出てきたですね。
 おい!これ組み込めまくれるじゃねぇか!と意欲が湧いて来て、最近めちゃくちゃ書き始めました。

 もはやこれで何度目の宣言かはわかりませんが、オニ星人編は遅くても今年中に更新するつもりです。
 誰と誰が戦う、どんな展開、どういう結末にするかは漠然ときまってるので、あとはそれをアウトプットするだけです。

 そして、一年半ぶりにはなりますが、ファンアートの方を紹介させていただきます。
 GANTZスーツ、Zガン、ガンツソードを装備したパパ黒です。

 作者さまははんたー様。
 遅くなって申し訳ありません。素敵なイラストを本当にありがとうございます……!

 画像は保存しているのですが、利用申請をしなくちゃいけないみたいなので、許可が降りるまではこちらのURLの方から閲覧してください。

https://www.pixiv.net/artworks/90987761


 これからの進捗ですが、進捗の方は、下記Twitterで随時載せていくので、チェックされる方はどうぞ!

うたたねのTwitter


 
 あと、いつものごとく。少し最新話の内容について触れようかと。
 気づいた方もいるかもしれませんが、オニ星人編は原作と流れが大きく異なります。
 これに関しては、オニ星人編終了後に後書きでネタバラシする予定ですが、呪術廻戦を読んでいる勘のいい方には、どういうことなのかわかると思います。
 あと、GANTZ:F オニ星人編をより楽しみたい方は、GANTZ:Oと実写版GANTZを見るとより楽しめると思う、とだけ。


 というわけで、それでは皆様、また次の話で!
 ちなみに次の話は、お遊びで書いた掲示板──というよりは、チャットルーム回が前半にあります。



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