転生したらハズレ斬魄刀の使い手だった件【完】 (ノイラーテム)
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ソウル・ソサエティ編
ファイト! 一角!!


●良くある転生前の末路

 生前、学生の時分はスポーツをやっていた。

幸いにも才能があり全国大会でも良い所まで行ったが、運悪く体を壊して何もかも台無し。

 

就職は縁を頼りに体育会系の会社に勤めたが、運悪くブラックな会社だったらしい。

働いて働いてその結果が病気になり、遂には死んでしまったという訳だ。

 

だからという訳ではないが、いわゆる転生した時。真っ先に確認したのは自分が健康かどうかだ。

 

生前の全盛期どころではない肉体に歓喜し、踊り出しそうになった。

 

そして踊っている最中に気が付いたのだが……。

 

「ここブリーチの世界じゃね? しかも俺一角かよ」

 気が付いたらブリーチの世界で斑目一角になっていた。

 

ブリーチは知っていても登場人物を良く知らない人に説明するならば、簡単な一言がある。

あの有名な斬魄刀ガチャで一番の役立たずを引いた男と言えば判るだろうか?

 

●俺が一角!?

 そのことに気が付いた俺は、混乱するよりも先にどうするかを悩んだ。

まず健康体でエネルギッシュな細マッチョ、この時点で恨むことなんかない。

 

だから悩むべきは、最も使えない斬魄刀と呼ばれる龍紋鬼灯丸をどうするかだった。

 

「確か本人を映して式神みたいにするんだっけ? ということは俺がルートを変えたら他の能力を持てるのか?」

 最初は悩んだ。実に悩んだ。

丁寧に剃っているはずの頭が、本当にハゲるのではないかと思うくらいに悩んだ。

 

「止め止め、考えるの止め。バカの考え休むに似たりだ。俺にゃあ無理だな」

 そして考えるのを止めた。

 

だってそうだろう?

理屈なんかエライ人にでも聞かなきゃわからない。

それが有効かどうかなんかO悦だか愉悦とかいうスーパー鍛冶屋じゃないと判らないし、それだって最中和尚だかシステム:レイオーだかで決まっていているとしたら、コントロールは難しい。

 

そんなコネなんかないし、コネを作るために出世する為に斬魄刀を鍛えるなんて本末転倒だ。

 

「それになんつーかなあ。……別に鬼灯丸が弱かったとは思えねえんだよな」

 まだ斬魄刀なんか持てないので、水辺で自分を映しながら考える。

 

座禅を組んで刀と対話するのではなく、自分自身の姿を睨みながら班目一角と対話する。

もし一角が原作を全部聞いて、己と龍紋鬼灯丸の一件を聞いたらどう思うだろうか?

 

『はっ! そいつは俺が弱かっただけだ。俺がそれだけ強く成れば問題ないね』

 きっとそう答えるのではないだろうか?

 

実際、自分も似たような考え方をするからだ。

スポーツで体を壊した件だって、自分が全国区並みの強さを持てたために夢中になったから。そして超高校級と呼ばれるほどの強さではなかったからだ。

 

人生をやり直したとしても……。流石に超高校級と呼ばれるほどの才能を身につけられるとは思わないが、プロで通用するレベルでフィジカルを丹念に鍛えた程度の差だろう。

 

もし生まれ変わったらあの時の選択をやり直したい……。

そう考える人間は多いと思うが、俺はそこまで器用な人間じゃない。

何度生まれ変わっても同じような選択肢を選ぶだろうし、精々が選択肢までの努力を少しでも積み上げるくらいである。

 

●俺が一角だ!!

 そういう訳で俺は斬魄刀の能力を変えるなんて無駄な努力をするよりも、俺自身が強くなる努力をすることにした。

 

それで強く成れるのかと思った人は考えて欲しい。

もし剣八が持ったら、鬼灯丸は上位に位置する強い刀に成ってはいないだろうか?

もし藍染が持ったら、他の弱いとされる能力だって強いと言われるのではないだろうか? あのイケ面とイケ声で『おはよう土鯰』なんて言ったら天相だって蹂躙するだろう。

 

「スッキリした顔してるけど……何か面白い事でも見つけたの?」

「おう。思う事があって一から自分を鍛え直してる所だ」

 原作でも良くつるんでいた弓親が話しかけてくる。

最近はずっと河原で睨んでいたのに、突如として体を鍛え始めたら何かを決めたと思うだろう。

 

そういえば原作とやや違うところがあるが、コイツが微妙に違う。

原作よりも年少なせいか、何か妙に色っぽく見える。少年が青年に変わる間の中性的な雰囲気というやつだろうか? これでヤマジュン……じゃなくて福山潤ボイスである。俺にそのケがあったら危ない所だった。

 

「機会があったら護庭十三隊にでも志願しようかと思ってよ」

「射場さんみたいに? 止めないけど先に霊術院に行った方が良いと思うけどね」

 俺らは二人以外でもつるんで、愚連隊みたいなことをやっている。

その中でも射場さんはグレてて知り合いだった。あと阿近とかもだな。

 

その射場さんは親への反発でグレてらしいが、突如真面目に成って死神になった。

元から霊術院には顔を出していたので、アッサリ十三隊に行ったらしい。……いま思えば、親御さんが病気になったのだろう。

 

「学院? 面倒くせえが……。強くなるのに必要ならそいつも悪くないかもな」

「へえ。珍しいね。一角が勉強しようだなんて。特に鬼道とか興味なさそうだったのに」

 目を丸くする弓親に俺は頭を振って見せる。

別に勉強が嫌いなわけではない。頭を使うよりも体を鍛えている方が性に合ってるし、色々と鍛えたいことが多いからだ。学問なんぞに時間を費やすくらいなら、その数分の一でも訓練なり実戦に充てたいとは思っている。

 

「知った上で使うかは別だろ? 自分と合っている合ってないとか理解した上で、俺向きの能力を伸ばすさ。それに鍛えるのに向いてる術とかあるかもしんねーだろ?」

「あははは。そういう所一角らしいね。いいよボクも付き合ってあ・げ・る」

 そう言って抱き着いてくるのだが、この弓親リリィは怖過ぎる。

危く道を踏み外す前に、引き剥がして素振りを繰り返した。煩悩退散・煩悩退散。俺はBLなんぞに興味はねえ!

 

●どの力が欲しいか?

 という訳でなんとか霊術院の枠に合格した。

正確には学校として入学したというよりは、流魂街から死神を目指す人間が一度は放り込まれる虎の穴的な存在としてだが。

 

「ひとまず基本は全部覚えとくか。まあ鬼道なんざ使うこたあないだろうが」

 斬・拳・走・鬼。そして鬼道は破道・縛道・回道に分化する。

斬魄刀の基礎攻撃力も主にこの順で一応は強くなる。まあ直接攻撃系よりも鬼道系・概念系の方がハマると強いのだろうが。

 

生憎と器用な生き方はしていない。

最初から鬼道系とかにする気はサラサラない。学院で費やす訓練もかなり絞って覚えていく予定だ。

 

まず鬼道は薬学を中心に回道をほんの少し。

原作でも鬼灯丸の柄尻に薬を入れて管理していたし、購入するよりも自分で覚えた方が便利ではある。回道に関しても止血だとか負傷で起きるペナルティを軽減する自己麻痺系の術だけ覚えればよいだろう。破道と縛道に至っては訓練方法や注意事項だけ倣って後は適当に聞き流した。

 

要するに鬼道に関しては、霊圧を上げる・発散する手段の一環として覚えたという訳だ。

自分自身を強くする。鬼灯丸を強くするという命題に関して、その答えは自分の中に合った。

 

『瞬閧』

 

あの夜一さんと砕蜂が使う格闘強化秘術である。

もちろん自分が覚えられるとは露とも思ってはいないが、参考にして霊圧を強化する訓練手段として取り入れたのだ。

 

食わず嫌いは良くない。

斬・拳・走・鬼を最低限覚えた後で、自分=霊圧を強化するために妥協をしないだけだ。苦手な部類である鬼道に関しても、時間を取られ過ぎない程度に頑張らねばなるまい。

 

「それでも時間が足りねえなあ。走術も捨てるか」

 何も瞬歩を覚えて高速移動する必要なんてない。

踏み込みを強化し、勢いを上乗せする。あるいは崩れた態勢からのリカバリー手段として走術を覚えるのだ。

 

戦いにおいて自分が常に全力を出せるはずがない。

同時に体のキレが悪い者が、全力を出せるはずもない。

それなりに鍛えておけば、戦いで困ることもなくなるだろう。走術に関して言えば自分の勢を殺さず、むしろ勢いを利用して強化する。その為に覚えようと思う。

 

後は斬術を基本として、拳術は体を鍛える一環として。

そして斬撃を強化する反動として利用することにした。

 

瞬閧は使えないだろうと諦めたが、他を利用してはならないという理由はない。

斬撃と拳打を組み合わせて強打し、斬撃と疾走を組み合わせて勢いを利用する。もちろん俺に才能があるなら鬼道だって使ったさ。

 

そんな流派があるかは別にして、この世界は特殊能力だの特殊な術が開発できる世界である。

斬・拳・走・鬼を併用して剣術として強くなる戦闘方法があっても良いのだと思う事にした。自分を鍛える手段はいくつあっても良いじゃないか。

 

●力が欲しいか?

 学問も多少はやらされたのだが、そこで他愛ない事実に気が付いた。

鬼灯という植物は毒草と薬草としての機能があるのだそうだ。主に痛みを和らげる薬や漢方なので、毒も神経毒として薬に取り込むのだろう。

 

そんな他愛ないことを適当に覚えたころ。奇妙な声が聞こえる事が度々あった。

 

あまりにも使い古された言葉であり、ブリーチが流行ったころにはその言葉が乗るARMSは漫画としては古典になってしまったこともあって、自己願望から来る幻聴かと思ったくらいだ。

 

『欲シイカ?』

 

『力が欲しいカ?』

 

 段々と近づいてくる声。

何度目かになると流石に俺の頭でも理解できた。

 

待望の斬魄刀と対話である。

 

「そりゃ欲しいがな。俺がまず欲しいのは自分が強くなることだ。人様の力を借りて強くなっても仕方ねえんだ。強くなるのに近道なんてねーだろ?」

 一角の卍解が脆かった理由として、ファンの間では幾つか考察がされていた。

 

いわく、隠していて鍛えていなかったから。

 

いわく、本当の名前ではなく仮の名前を教えてもらっていた。

 

いわく、壊れてから第二段階に移行する。

 

いわく、単に説明書を読まずに機械を壊すかのようである。

 

いずれにせよ、一角が弱かった。斬魄刀の能力を引き出せてなかった。使いこなしていなかったという事だろう。

 

「しかしよ……。てめえナニモンだ?」

 鬼灯丸じゃないのか?

そう思ってしまうような違和感がそこに存在した。闇夜の中に赤い目と巨大な闇がそこにあった。

 

狛村隊長の明王ほどじゃないが、デカクてゴツイのだ。しかも装甲でもあるのか太ましい。

まるでワタルかグランゾートの世界の魔神であるかのようだ。セリフも相まってARMSのジャバウオックを思い起こさせる。

 

『カ・カ・カ! 良い答えだ!』

 そいつは俺の問いには答えず大笑いをしやがった。

赤い瞳が揺れるのだが、その眼は炎の魔神のようであり龍のようでもあった。

 

そういえば鬼灯のホホとは、火。

そして例えの一つとして、ヤマタノオロチの眼が鬼灯の様であったという。

 

『確かに強くなるのに近道などない!』

「こいつ……人の話を聞いちゃいねえ」

 あ、こいつ俺だわ。

そう思った瞬間である。話半分に聞きながら、自分に興味がある所だけを抜き出すカクテルパーティ効果の申し子。

 

『だがあえて問おう』

 そいつの姿が一回り小さく成り、ロボットじみた魔神から鎧武者程度のサイズになる。

良く見ればガワも鎧ではなく、相手の姿が見極められていないだけらしい。もう少し理解し合えれば、原作のあの姿になるのだろうか?

 

『貴様ならばこの中から何を選ぶ!?』

「だから今自分を鍛えてる最中の奴に、能力選ばせんなつーの!」

 そいつが出したのは、無数の武器だった。

 

そこには名刀があった。巨大な剣があり、燃える刀がある。

そこには槍があった。薙刀に長巻に三尖刀までありがる。

そこには斧があった。叩き割る大振りな刃、自らも傷つけそうな両刃、あるいは山刀のような肉厚な刃だ。

 

ああ、これを突き詰めれば竜紋鬼灯丸のあの姿になるのではないだろうか?

もし状況に合わせて使うと言えば、原作で見たあの三節棍になるのではないかと思った。卍解に至れば姿だけは斬魄刀屈指のオサレと呼ばれるあの姿になるのだろう。

 

もしかしなくとも、ここで正解を選んで原作を短縮すれば……。

一足先に強くなって、原作よりも強く成れるのではないだろうか?

時間は有限だし、使いこなしていないのが問題ならば、あるいは卍解を鍛えていないから問題であるならば今からショートカットすれば強く成れる?

 

一瞬だけそう思ったのだが……。

やはり俺は自分を曲げられないらしい。

 

「だからよ。武装は手足の延長つーだろ? 俺はもっと強くなってから選びてーんだよ。俺はまだ……自分がどうすれば強くなるか迷ってんだからさ」

 斬・拳・走・鬼。それらを用いて自分を鍛える。

まだ道半ばであるし、本当に可能かどうかすら分からない。

 

それこそ鬼灯丸には先ほどの姿で俺とリンクし、黒縄天譴明王のごとく自己修復した方が強いかもしれないくらいだ。ワタルが竜神丸に乗るみたいな感じで『鬼灯丸!』とか格好良くね?

 

しかし。

しかし現実は残酷である。

中途半端な答えを良しとしなかったからか、あるいは心のどこかで既に選択してしまっていたのか……。

 

鬼灯丸は一つの能力を俺に示したのである。

 

『そうか。強く成りたければ呼ぶがいい。我が名は龍紋……』

「え? ちょっと聞こえねー。つーかまだ決めてねーよ! ワンモア・プリーズ!」

 そこにあったのは刀身に龍の紋様が描かれた一本の刀であった。

 

三節棍どこ?

ていうか鬼灯丸って名乗ってねーじゃねえか!

 

……ちなみに解号も良く理解できなかったので、探し出すまでかなりかかった。チクショウ。

まあ全力で俺のせいだから仕方ないけどな。

 

「そっか……。俺は健康な体が欲しかったんだよな」




 という訳で一角の話を思いついたので書いてみました。
今回は導入と能力説明会、次回は戦闘回になります。

良くある転生物ですが、不健康な死に方したので健康な体で暴れるだけで嬉しい。
一角も好みのキャラだったので問題ないという感じの性格になっております。

というかどうやったらハズレ能力強化できるか考えて……。
「あれ? 一角だったら小難しい能力欲しがらないよね。というか時間を巻き戻しても同じ決断するよな」
と思ったのがキッカケでもあります。まあ鬼灯丸を剣ちゃんが使えば普通に強いしね。というのもあり、一角が卍解で戦い慣れてないだけだと思う尾もありますが(あそこから強くなる可能性もありますが)。

斬魄刀『龍紋』
 龍紋鬼灯丸の異なる姿。
自己強化能力が先に来て、三節棍とかは後の強化になる。

解号:燃え上がれ!

始解能力:
 徐々に体力や霊圧が強化されていく。
テンションが限界に達した所で肉体強化は止まるが、そこから霊圧が一気に増える。
ただし卍解の霊圧上昇よりも、霊圧の上昇値が低く抑えられ、代わりに肉体も強化されているのが特徴。これは転生者が生前に体を壊したことで、どこか強い体が欲しいと持っていたことも影響しているかもしれない。
一言で言うと「俺自身が剣八になる能力だ」


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どうやら剣術と斬術は違うらしい

●鬼灯丸は強かった

 始解を得てから実感したのは原作における鬼灯丸の強さである。

薙刀・槍の中間の形状はリーチがあり、勝手に分解しないので突撃できる保持強度がある。

 

そのままでも大型の敵に通用するし、なんなら(ホロウ)の大半は大型とさえ言っても良い。

そして三節棍に分解すれば、変幻自在の動きで攻めたてたり、遠心力を上乗せもできるのだ。

 

しかも卍解で解号も要らなくなる。

一角は戦いを愉しみたいのと不意打ち嫌いだからやらなかっただけで、無言で変形させたら人と同じ意識を持つ敵は対処が難しいだろう。

 

「ようやくこの程度かあ。少なくとも、このリーチの差はどうにかしねえとなあ」

 流魂街の市中や郊外を回る時に、時おりだが虚や妖魔じみた獣と出くわすときがある。

その時に原作の鬼灯丸なら苦戦せずに倒せたような相手が居て、苦笑せざるを得なかったものだ。

 

なおオレは士官学校というよりは兵卒学校として、霊術院に行かせてもらった身なのでもう卒業している。

 

兵卒としての気安さからか、オレは十三番隊からのお呼びが掛かる前に、縁のある所に顔を出して都合よく動いていた。

 

「ハゲ! サボってんじゃねーよ」

「ハゲじゃねーっつーの! オレ達の担当は広いの知ってるだろうが、このデブ!」

 嬉し恥ずかし同期のサクラはなんとこのデブである。

大前田はこれでも金持ちのボンボンで親も副隊長だった為、普通に霊術院に行って卒業したエリート様だ。兵卒待遇で適当に出所したオレとは偉く扱いに差があるが仕方あるめえ。

 

もっともこのデブは意外に足が速く、原作でも素早い動きのできるデブとして活躍していた。

オレが覚えたい走術は、瞬間移動じみた高速移動ではなく、長距離歩法であり体術なので普通に尊重くらいはしている。単にお互い口が悪いので遠慮しないだけだ。

 

「それでこの後はどうすんだ? 飯でも食いに行くか?」

「さりげなく舎弟扱いするんじゃねーよ。この後は四番隊に顔を出して素材を提出して来る」

 このデブは面倒見が良い所があり、金持ち自慢も兼ねて同期や下の世代を連れ歩いている。

それが気に入らないわけでもないし飯にタカルこと自体は気にもしないが、ノルマは積極的にこなすのが信条だ。

 

「暴れ者のお前が四番隊で収まるわきゃねーだろ。さっさとウチに来いよ」

「暴れ者としちゃあ十一番隊も悪くないと思ってんだがよ。まあ覚えることを覚えるまではテコでも動かねえよ」

 警邏隊は隠密機動の区分であり、十三番隊とは別計算だ。

大前田はこっちを舎弟扱いしてるため、二番隊に来ると思っているようだが……。オレは普通に四番隊で修業と薬の備蓄をしていた。

 

警邏の傍らまずは情報収集を兼ねて、昔なじみの所に顔を出し下町やら郊外の連中に便宜を図ってやる。その後で危険地帯を巡ったり、薬草が生えてる所へ妖魔の類を狩りながら通っているのだ。

 

まあMMOで言う所の、ハック&スラッシュというやつだな。

警邏隊に所属しつつ四番隊に顔を出すと忙しいが、その分だけ余禄があるって寸法だ。

 

「そういえば弓親は何を習ってんだ?」

「霊圧回復かな? アレ覚えてると便利じゃない? ほら、ボクら死神って霊圧が体力に直結してるところもあるし」

 一口に回道と言っても色々ある。

それこそドラクエのホイミみたいな軽傷治療。消費は軽傷治療と同じだが、効率の良い変わりに重傷は直せない特化型の術。あるいは使い手の霊圧も相当に消費するが、負傷者を一気に直せる重傷治療なんかもある。

 

なおオレが覚えてるのは薬草学と、負傷時のペナルティを一時的に無効化する自己麻痺だ。

鬼灯の薬効にそういう効果があると知ったこともあり、せっかくなので専門化しそうな勢いで習得中。もう少ししたら、重症状態でも普通に戦えるようになるだろう。

 

まあ滅却師(クインシー)の奥義にあったやつの方が有用性は高いのだろうが、そこまで高度な術を覚えている余裕はない。警邏隊に所属しているのも走術と情報収集の為みたいなもんだし、四番隊も回道を通して自分を鍛えるためだしな。

 

「霊圧回復ねえ。普通の回復でついでに回復すると思うんだが……」

「まあその辺は得意分野もあるんじゃねえか? オレが覚えた薬学だってアカギレの薬とか評判なんだろ?」

「そういうことかな。後はヒ・ミ・ツ」

 原作の薬にはまだ及ばないが、血止めやら表面治療レベルでは習得している。

薬草造りの腕を上げるために量産して、大前田のツテで販売してるわけだが……。

 

弓親が霊圧治療覚えるのって、絶対アレの影響だよな。

斬魄刀の中で当たりとされる始解の一つ、瑠璃色孔雀。……ファンの間では直接攻撃系縛りは最近だけじゃないかとか、一角に遠慮してるのではないかという声もあった。

 

……大前田への借りなんざ気にもしないが、相棒ともいえるコイツに遠慮させてるとしたら何となく嫌だな。原作だと知らないし、知っていてもプライドの問題だとして気が付かないフリをしてるんだろうが……。

 

遠慮だったとしても、その必要もないくらいに強くなりたいものである。

 

●虚退治

 鬼灯丸は……というか今の名前は龍紋か。

龍紋は素直な斬魄刀で、名前を適当に呼んでも気にもしない。

 

龍紋だろうが大門だろうが、それこそリュッシモンでも反応するくらいだ。

代わりに小粋な解号で呼ぼうとするとすねるので、力は力であり、色を付けて余計な見方をするなということなのだろう。

 

「おっ? コイツ(ホロウ)か?」

 今週もノルマを果たそうと郊外に出たところで、一風変わった虚に出くわした。

その辺の虚のはずなのだが、いやに獣じみて素早い。もちろん狛村隊長の同族などではないだろう。

 

『ギャウー!』

「っと。速ええ! とはいえ霊圧は大したことねぇ。噂に聞く大虚(メノス)とかじゃねえよな」

 原作でいうと中級大虚(アジュカース)にも似た形状。

だがそれほどの力は感じないし、本当に中級大虚だったら既に死んでいただろう。

 

「さすがに大虚はないでしょ。変種なのかもね。突然変異とか」

「そんな珍しい奴相手に訓練できるなんて、まったく運が良いぜ。ツイているとしか言いようがねーなあ」

 原作知識を考えると、破面実験の一環だろうか?

能力の高い個体を生み出そうとしたとか、最上級大虚(ヴァストローデ)の前に中級大虚を真似て作ろうとしたとか?

 

いずれにせよ原作でこんなやつは見なかったし、もし実験結果であるならば、中途半端な性能から過渡期にある失敗作だろう。

 

数も居る事だし、せっかくなので訓練相手として楽しませてもらおう。

 

「燃え上がれ、龍紋!」

 火の点いた刀をブラリと下げ、手近な所ではなく外側の敵を見据える。

これだけ機敏で移動力の高い敵である。戦い慣れてない死神だと危険だし、町の住民に至っては論外だ。

 

「ったく数ばかり多いね。どっちが多く倒したかでも競ってみる?」

「やめとく。雑に斬るよか、上手く斬る練習でもしてー気分だぜ」

 弓親も見慣れた形状に始解している。

やはり藤孔雀のままで戦う気なのだろうが、全力を出せば一瞬なのに難儀なヤローだよ。

 

オレはそんな弓親を尻目に狙いすませた奴を目掛けて疾走を始めた。

 

「くらいな。死神(シジン)剣!」

 走り込んで崩れた態勢でも、勢いを利用して放てるだけの剣技。

面倒なので名前も適当に付けている。今のところ一番重宝している技なので、もう少し真面目につければよかったかと思わなくもない。

 

オレはそのまま周囲を走り回り、背中から、正面から獣……じゃねえや虚どもを屠っていく。

もちろん狙うのは逃走しそうな奴や、霊圧の低い雑魚からだ。

 

「ねーまだ続けるの? ボク飽きちゃった~」

「飽きちゃった~。じゃねえよ! つか、余裕かましてんな」

 見れば弓親は何体かを縛道で捕まえて、一体ずつ戦っていた。

それも途中から殴るのに飽きたようで、着火する鬼道を使って徐々に体力を削りながら戦っているようだ。

 

原作とは違う光景に多少の驚きを交えつつ、本来はこういう戦いをするのが弓親の本領なのではないだろうか? 戦果を稼ぐというよりは……。自らは決して傷つかないクレバーな戦いをしつつ、状況をコントロールして有利に導いていくのだ。

 

そんな姿を見ながら、ふと……。

 

(瞬間的に開放して、霊圧吸収しながら戦う方法を覚えたらサイキョーじゃね?)

 と言いたくなった。

とはいえそれには弓親が平然と瑠璃色孔雀を見せる必要があり、今のところ、オレの前だけでも解放する姿を見せたことはない。何となくもどかしい物を感じると同時に……鬼道を使うだけでも心を開いていてくれるのだろうなと思う事にした。

 

「後はこのデカブツ片づけたら終わる。ちっと待ってろ。どうやらコイツがボスみたいだからな」

「はー~い。早く終わるなんて期待しないで待ってまーす」

 最後に残ったのは水牛にも似た一回りか二回り大き目の奴だ。

こいつは素早く動き回るのが限界サイズに体を留め、思ったよりも早く攻撃してくる。あえて言うならば……大前田を劣化させたような奴と言えばいいのだろうか?

 

「ヒャア!! ホーッ!」

 俺は助走して大上段から切り掛かり、そのまま奴の体を抉りながら駆け抜けていく。

ただし真横に抜けるのではなく斜めに抜けて、程よい攻撃位置を無視して更に突き進む。

 

『モ゛!!』

「っとお!!! っぶねーじゃねーか!」

 すれ違いざまに頭が降られ、頭部にあった角は牛どころか山羊くらいにまで伸びていた。

ザケんな何がモーだ、この角ならメーだろうが! 危く胴体を串刺しにされるところだったわ!

 

容易く引きちぎられた死覇装と、掠っただけで血の滲む体を見て俺はニヤリと笑った。

 

こいつは何かしてくると踏んで、真っ直ぐ抜けたり足を留めたりせず一撃離脱で駆け抜けたのだ。予感が的中して大ラッキー! 今日の俺はツイてツイてツキまくってるぜ!

 

「いーねいーねえ。せっかくだから対人じゃあ使いたくねえ技でも試すか」

 俺は一歩で踏み込める限界の距離で斬撃を浴びせた。

そのまま次のステップに繋いで、再び距離を空ける。止まらずに態勢を整える半歩で位置と方向を変えつつ、そして再びの急突進。

次なる半歩は、同じ半歩でも微妙に間合いを変えて、その次の半歩も微妙に変えることでタイミングを変更する。

 

いわゆる一足一挙到の間合いを維持しながら、斬術と走術の連携を練習するためだ。

この獣型虚には工夫する頭はあるようなので、置物と違って実のある訓練ができるので丁度良い。

 

「あーもー。一角ってば~。やっぱり熱くなっちゃって。早く帰るんじゃないの~?」

「もうちょっと愉しむから、てめーもその辺で好きなように遊んどけ。俺ら戦士には親兄弟でも伝えねえ秘剣なり秘術の一つもあるってもんだろ? その特訓でもすればいいじゃねえか」

 隠し技の実験するから、お前もやってろと言外に告げる。

そもそも今やってる戦術だって、獣みたいな虚だからやってるだけだ。逃げ回りながら相手に何もさせずに勝つとか、忍者みたいで性に合わねえ。

 

……つーか警邏隊は一応、隠密機動だったな。まあいいや。

 

「……うん。そうだね。そうしようか。生き残りの奴らは適当にもらっていくね」

「おう。持ってけ持ってけ。こっちはメインディッシュをいただいてるからな、好きなだけ持ってって構わねーぜ」

 瑠璃色孔雀を開放するつもりなのだろう。

弓親は笑顔で敵を誘導しながら歩いていった。ホップ・ステップ・ジャンプとあまりの軽快さに心配になる。本当にあいつは弓親なのだろうか? 実は俺と同じ転生者じゃあるまいな……とか思いつつ、そういえば原作で69さんに勝った時はあんな感じだったなあと思い出した。

 

「……さて、行ったな? そんじゃあ、おっぱじめるか」

 破けた死覇装を脱ぎ捨てて上半身を曝け出す。

そして使っていなかった種類の霊圧も、徐々に引き出していく。

 

初歩の鬼道を使ってみようとして、適当な集中では小さな爆発で暴発したので諦める。

ちょっとした鬼道でもその様子を消す曲光だっけ? あれと組み合わせて地雷にすれば面白いとは思うんだが……やはり性に合わないのだろう。

 

「せいやさ! ……どっこい!」

 まずは鬼道を使う要領で手に集中しつつ、同時に殴りつけてみる。

暴発による爆発でもいいやと構わず殴るが、大した威力ではないどころか、むしろ衝撃を殺しているのではないだろうか? 仕方なくもう片方の手で至近距離から斬撃を浴びせつつ、距離不足なのを爆発で痛む拳を使って押し込むことで解決した。

 

「あー。やっぱりアレは無理だな。こっちの方が性に合うわ」

 刃の峰を拳打で押し込む斬術と拳術の融合。

どちらかといえば拳法家の使う剣術のようだが、こっちの方は他愛なく成功した。

 

『モ゛!』

「痛てえじゃねえか! ぶっ殺す!」

 同じ要領で試そうと、今度は峰を鞘で打ち付けてみる。

奴が攻撃を兼ねて動いた所で、軌道を変える意味もあってぶっ叩いた。

 

逃げずにその場で戦っており、奴の攻撃を食らうのは必然だ。

そこで覚えている回道を使い、痛みだけを無効化して傷は放置した。

 

「ふー。回道の方は修練しただけまだマシだな。流石に回復しながら戦うとか超人芸は上の連中じゃないと無理だろうが」

 同じような戦闘を繰り返せば、敵だけ痛みで動きが鈍る。

こっちは無効化するので元の動きのままだ。もちろん最初から痛みがないような奴や、少々のペナルティでは効果のない強者相手では意味がないのだが。

 

とはいえ実戦で有効だったのは大きい。

斬術に拳術を混ぜたり、回道で補う方法は有効だろう。

なんだったら神経系を麻痺させる術の他に、剛力を持たせる為に肉体活性化系の術でも覚えたら面白いだろうか? 四番隊の連中はその為の術ではないというだろうが、俺にとってはそのくらいにしか使い道がない。

 

「まあいいや。次だ次。間合いは譲ってやるから掛かってこいや」

 前から使っている走術の組み合わせ。

これは原作でも白哉とかやってるので、可能な事は知っている。使う奴は多いことから、俺もさっき使った死神剣とかやってるわけだが。

 

『ブモー゛!』

「うらああ! 見よう見真似の龍巻閃! 同じく掌破刀勢ってな!」

 突進して来る敵に合わせ体を回転させながら半歩前に出て、斬撃を浴びせるカウンター。

そして浮いた刀を掌底で押し込むことで、連続の高速斬撃を食らわせていった。

 

まあ、ハッキリ言うと何だ。

弓親を遠くへやったのは、隠し技の為なんかじゃねえ! 転生した強固な肉体で漫画の技を試してみたく何だろうがよ!? 俺は試してみたいね! つーかやったさ!

 

「……しかしなんだなあ。技を磨きゃあ『有効に戦える』のはいいが、ちいとばっかし軌道修正が必要だな。とっておきが全然『通じてねえ』じゃねえか」

 最後に試したのは剣圧、いわゆるソニックブレードだ。

龍紋が最大活性したところで、強化された肉体でのみ使う事の出来る奥義と言える。

 

しかしながら今まで圧倒していた虚に対して、まったくダメージを与えてなかったのだ。

月牙天衝などの技は霊圧を食わせて飛ばず斬撃だが、剣圧を放つソニックブレードは物理ダメージだ。

 

つまり霊圧の高い死神や虚には通じないので、何処まで行っても牽制にしかならない。

 

「つまりだ……。今まで色々試して来た技も、同じってことだよな。剣術は斬術と違うってことなのか? ヤッベー修行のやり直しじゃんかコレ」

 調子に乗って色々試したのだが……。

やはり生兵法は何とやらだ。色々試した結果が、実はあまり役に立っていないことが判った。

 

いや、先人の考えた剣理を用いることで有効打を与え易いから、上手く戦えはするんだ。

ただしそれが通じるのは同ランクまで。どんなに複雑な動きで刀を当てても、斬魄刀一本分の威力には変わらないってことなのだ。

 

「良く判んねーが、刀を上手く当てるのが剣術で、霊圧を載せて戦うのが斬術ってことなんかな」

 必要なのは刃に霊圧を載せる方法だったらしい。

切っ先に集中して切れ味を上げ、威力の底上げをして、相手の霊圧防御や鋼皮(イエロ)みたいな装甲を貫く必要がある。

 

霊圧の乗せ方や集中のさせ方、それらを自分の斬魄刀と組み合わせるのが斬術の本質なのだろう。

そういえば原作で剣八は終盤まで斬術を覚えていなかった。

当時は剣術なんか自己流で幾らでも覚えられるだろうと思ったが、剣術と斬術が違うものであるならば納得だ。

 

「ったく『本命』と戦う前で良かったぜ」

 勘違いは痛かったが、それでも肉体活性なんか意味のない術を覚える前で良かった。

そして情報を集めて探している『本命』……あの更木剣八(予定)と戦う前に気が付いて良かったというべきだろう。その為にこそ警邏隊なんかに所属して情報を集めていたのだ。




 という訳で修業編です。
次回は剣ちゃんとの死合いになります。

●内容
「何の。成果も、得ていませんでしたー!」と言う事実を発見。
剣術=斬術ではないので、組み合わせた剣技を磨いても霊圧は高くならないと気が付いて、大慌てで修業のし直し。
ここでの大失敗でやることを集中するので、原作よりも刃に霊圧を載せる技術は上昇するかと思います。

なお、今回であった獣型の虚は失敗作なので、原作の鬼灯丸があれば一瞬で片が付きます。
高速機動実験体であり霊圧はそこまで高くない相手なので、鬼灯丸が変幻自在の動きをすると簡単に命中できますから。

●現在の技術
破道・縛道:
 忘れてください。モノになりません。

回道(鬼道):
・薬学(治療薬各種・アカギレの薬など)
・神経の自己麻痺(ペナルティ無効化)

走術:
・歩幅の調整(長く)
・歩幅の調整(短く)
・態勢維持(リカバリーで態勢が崩れた時のペナルティ無効)
・足場作成(霊子の固定) →現在習得中(上手くいってない)

拳術:
・打撃(霊圧攻撃含む)
・打撃防御(霊圧防御含む)

斬術:
 まるで成長していない。

剣術:
・各種ジャンプ流剣術
・独自剣術(増やしている所)
・間違いに気が付いた!(今ここ)

人徳:
・下町コミュ:初級
・破落戸コミュ:中級
・大前田稀千代:初級(顔見知り)
・射場鉄左衛門:初級(顔見知り)
・綾瀬川弓親:上級(親友。なお特急になっても念友にはならない)


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ソード・ダンサー

●アバヨ剣術、また来て死客

 剣術を覚えてもあまり強くならないことには愕然とした。

良く考えたら霊圧によるオサレバトルの世界に、地味な剣術など意味が薄いのだろう。

 

もちろん同格同士では大いに意味がある。

顔を突き合わせる死神同士の野仕合などでは、護廷十三隊に正式な所属もしてない新米にも関わらず、俺はかなり強い方だった。

 

「コイツのお陰で強かったともいえるし、気が付くのが遅れたとも言えるな。まあ最悪の事態じゃねえ。ラッキーでいっか」

 全ての元凶は斬魄刀である龍紋の始解だ。

徐々に肉体強度と霊圧が上がる為、一太刀浴びせるだけで十分にダメージが通せたのだ。要するにソレを剣術を覚えて強くなったのだと誤解していたらしい。

 

「逆に考えりゃ、斬術を覚え直すだけで十分に強く成れるわけだしな。やっぱりラッキーだぜ」

 俺は深刻に考えるよりも楽観的に考える現金なタチだ。

時間は有限なので惜しいとはいえるが、死ななきゃ幾らでも鍛え直せる。それに明確な目標が決まったという事は、余計な考えで悩む時間も不要だという事でもある。

 

「よーし! そうと判ればさっそく特訓だな。弓親が戻るまでに素振り百回でも……」

「むーり♪」

 素振りに合わせて霊圧を集中させようとブンブンやってると、楽しそうに弓親が戻って来た。

一回目よりも二回目、三回目と振るたびに強くなっている気がした直後なので、とてもガックリ来る。まあ戦ってたのは雑魚ばかりだし、瑠璃色孔雀を開放したら一瞬だろうから仕方ないのだろうが。

 

「一角ってばゴキケンじゃない」

「まーな。てめーも技に手応えでもあったみてえだな」

 お互いに秘密特訓なので特に報告し合う事もない。

何となく察せるところはあるかもしれないが、やはりお互いに突っ込まないのが義理という物だ。

 

 

「見事に腰掛としていきましたね。いつでも他の隊に移れますよ」

「それも教官殿のお陰であります。これまでご教授ありがとうございました」

 この日も帰りに四番隊へ顔を出し、収穫した素材を提出する。

基本的に四番隊は直接戦闘しないので、収集ノルマは年間を通して行う物だ。

 

だが俺らは回道修行の為に在籍する気マンマンなので、修行がてらにサッサと納入したという訳である。

 

しかし俺が剣術と斬術の差に気が付けなかったのは、この人……卯ノ花隊長のお陰でもある。

俺が修行している姿を見ているはずなのに、ちっとも忠告してくれなかった。まあ隊長は忙しいし霊術院の講義でチラっとみただけ、そのままやって来た新米の面倒を見るはずもないので当然ではあるが。

 

(……もしかしたら、昔を懐かしんでいたのかもな。能力に天と地の差があったとしても、新しい剣術の開発なんだし)

 卯ノ花隊長は御存じ初代剣八という秘密持ちであるが(矛盾ではなく加年での忘却)。

全ての流派やら剣の流れ……要するに剣理は我が手に有りと、八千流と名乗ったそうだ。俺が調子に乗って剣術の基礎だけ上げてるの見て微笑ましく見守っていた可能性もある。

 

まあそれもここまでなので、気にすることもないのだが。

 

「過去にも四番隊への在籍をあくまで経過と捉えている者はおりましたが、ここまで明確な腰掛にする人も珍しいですね。何を望んでいるのですか?」

「そりゃあ俺より強い奴に逢いに行くってやつですよ」

 珍しく新米相手に言葉を重ねる卯ノ花隊長に俺は本心を吐露した。

ゲームで見てから行ってみたいセリフでもあったが、せっかく転生したのだ。自分の力がどこまでいけるか試す以上に楽しいことはないだろう。

 

「やられて死ぬのは仕方ありませんが、それで戦えなくなるのは惜しいですから。できるだけ愉しんでやろうと……おっと。失礼を申しました」

「言葉は飾らなくとも良いのですよ。実に佳いことです」

 ソレが卯ノ花隊長の望みでもあるのだろう。

裏表のない微笑みを見ることができた。この表情を表の意味だけ見てる奴が多いんだろうなーと、原作読者として内心でドヤ顔をさせてもらった。

 

ともあれ在籍というものは大きな事であり、腰掛にして移籍するのは会社のみならず嫌われる。

それを笑顔で送り出してくれる卯ノ花隊長には感謝しかなく、せっかく声をかけていただいたので深く頭を下げておくことにした。

 

「ちょいとヤバイくらい強い奴の噂を聞いたんで確かめてきます。本物なら勧誘してきますが、死んだら笑ってやってください。またお目に掛かれるかは判りませんが、これまでのご指導ご鞭撻。誠にありがとうございました」

「気にすることはありません。その人とともにまた逢いましょう」

 さりげなく更木剣八の所在を掴んだことを告げると、微笑みの闇が濃くなった。

 

もしかして察してるどころか嫉妬していらっしゃる?

……卯ノ花隊長が嫉妬マスクになって殺意を覚える前に、丁寧に辞することにした。

 

剣八と戦って生き残れるかは運不運も関わると思うので、改めて一期一会の礼をして下がる。

 

背中に感じる殺意の霊圧を受けながら、俺は避けては通れぬ……。いや、待望の剣八戦へと挑む。

 

●来いよ剣八! 挑戦者アリ!

 集めた情報で居所や動きを確定させつつ、突貫で斬術の稽古に励んだ。

素振りに霊圧を載せるとこから始まり、動かない目標相手ならば走術から至る斬撃に載せられるところまでを達成してタイムアップ。

 

いよいよ剣八の所在を掴んだので、後はぶっつけ本番で実践訓練するしかない。

 

「いよう! この辺で一番強いんだってな! てめえと戦ってみたかった!」

「あ? 取り込み中だ。気にするなら後にしろ。気にしねえならまとめて掛かって来な」

 更木剣八はいつものように誰かと戦っていた。

たいていは犯罪者だったり(ホロウ)だったりするので、気にせずにダイナミック・エントリー。蹴り飛ばして挑戦した所、別の相手と切り合っていた。

 

「それじゃあ後でタイマンしようぜ! 約束したかんな! 聞いてねえとか言うんじゃねーぞ」

「ウルセエ野郎だな。口より手を動かして愉しんでろよ」

 どう見てもカタギじゃない武装している連中を蹴散らしていく。

どう考えても選り分けて戦っているようには見えないので、攻撃可能な位置には入らずにその他大勢を蹴散らしていった。

 

「見たか俺の方が倒した相手は多いぜ」

「知るか。お前が勝手に割り込んで、獲物を喰ったくせによ」

 そして邪魔者をギャラリーに変えると、お互いに次の獲物を求めて相対した。

 

「俺は班目一角。ひとかどの男って感じの意味だと思えばいい。てめえは聞いてるぜ。更木で一番なんだってな! さあやろうぜ、ザラキィィィ!」

「ちったあ静かにできねえのかよ。しかしなんだな……。いいぜ、オレは更木だ!」

 間の距離ももどかしく、一気に走り込んで死神(シジン)剣を浴びせた。

刀で弾かれて掠った程度だが、やはり手応えが硬てえ。

 

直撃じゃねえとダメージを与えられない。そう踏んだ俺は一回ごとに異なる半歩のリズムを刻み踊る様に攻撃してみた。

 

「シャアア!」

「なんだ? 見た目とタイミングが違うのか? やるじゃねえか。もう一回やってみろよ」

 同じ半歩でも踏み込みが異なる。

一回目は10cm、二回目は20cm。三回目は15cm程度と攻撃直前にステップを変えて直撃させた。

 

なのにちっとも効いた様子はなく、『あー驚いた』程度の揺らぎしか感じていないようだ。

 

「チッ。いきなり見切りやがったってか? いいぜ、連撃でよけりゃあ見せてやらあ」

「能書きは良いっつってんだろ」

 次なる打ち込みはいきなり容易く弾かれ、予想して居なかったら大変なことになっていただろう。反撃を最低限食らって我慢しつつ、両手に構え直して右斜め上から左下に抜ける袈裟斬りを浴びせた。

 

「お? 今のは手元で伸びたな。別の技を組み合わせたってのか」

「そうだが……。なんで一の太刀を受けて無事なんだ? 最低限で済ませたこっちの方がよほど食らってんぞ」

 振り切った俺の刀は左手に持ち替えていた。

両手で柄元を抑えてから、左手一本で振り下ろす時には柄尻を握り締める基礎にして奥義に当たるフェイントの一つだ。

 

一の太刀というのは本来、一撃で決める渾身の一撃ないしフェイント技である。食らって無事な方がおかしいのだ。

 

「昔を思い出してちっとばっかし楽しくなってきやがったな。盛り上がっていこうじゃええか!」

「これでも強くなったつもりなんだがよ。自信なくすわあ。……まってめえを斬れば新しい自慢話もできるか!」

 今度は剣八の方から切り掛かってきた。

俺は自ら奴の方に倒れ込み、予想以上のタイミングですれ違う。縮地の理論には幾つかあるが、間合いを誤魔化すタイプの縮地に当たる。

 

そのまま倒れる寸前に起き上がり、回転を掛けて脇の辺りにある筋肉を狙った。

回転を掛けることで勢いを増し、かつ、刀の動きが予想よりも小さいのにフルスイング可能なのだ。

 

「よしっ。一角が巻打ちから流し斬りを完全に決めたね!」

「まだだ。つーかその解説は止めろ。フラグにしか聞こえねーだろうがよ」

 技名なんか連呼しないので、知り合いは俺の技を勝手に呼んでいた。

それにしても巻打ちはともかく、流し斬りはねーだろう。確かに流れるような動きで剣速を高めつつ、急所を狙う技なんだが……。どこかのゲームを思い出して気が気でない。

 

「ふう。今のは効いたぜ。……だいぶ掴めて来たな。てめえの技はタイミングと方向をずらすだけで、正面から来るってのは同じな訳だ」

「逃げ回って勝っても楽しくねーからな。斬ったり斬られたりするのは好きだがよ」

 恐ろしいことにこれまでの攻防で全部暴かれた。

なんか相手の方に才能があり過ぎて、剣術でFPSをやってる気分だ。やはり命中させるだけの剣術では、同格はともかく格上には効き難いのだろう。

 

「ホラヨ! これならどうするってんだ? やってみろよ!」

「やってやるさ! ヒュー!」

 剣八は自ら身を出し出すように迫りつつ、刀の軌道は俺の動きを覆うように放ってくる。

こちらがどう動こうともそのラインに居る事には変わりなく、同時に奴の剣速をどうするかを考えれば、タイミングの方も読めてくるという寸法だ。

 

一太刀ごとに手の内を剥かれていく、清々しい程の窮地。

だがまだ負けてない。それどころかヒット数だけならば俺の方が有利だ。ならばここは相打ち上等!

 

「痛っつああああ! りゃあ!!」

「押し切る気か! ハッハー! そいつはオレの方が得意だぜ!」

 斬撃は奴の刀にこそ浴びせる。

そのまま衝撃で奴の剣速を鈍らせ、二撃目にこそ本命を託して斬撃を放つ剣戟戦。これまでのソードアクションを放り捨てて、意地と意地のぶつかり合いを行うことにした。

 

動き回っての戦いではまだ斬撃に霊圧を載せるのは難しいが、この方法でならば十分に可能!

奴の方が基礎威力は高いが、霊圧さえ載せてしまえば互角の威力が出せる。先ほどまでの累積ダメージを考えれば、ダメージレースは有利に立ったはずだ。

 

ただし、ソレは基礎耐久力を考えなければの話だ。何もしなければ向こうの方が恵体であり、霊圧が上なのでタフさが異なる。

 

「はっはっは……ふー。お互い血が登って来たし、ひとまず次ので最後にしねえか? とっておきをくれてやるぜ」

「なんだよ、せっかく楽しく成って来たのにつれねーじゃねえか。しかしとっておきってのは面白そうだな」

 とりあえず回道で体の痛みだけうっちゃっておく。

ペナルティが無くなったとしても、この状態から治療するような術は覚えていない。そもそも俺は回復しながら戦うロードとか神官戦士ってガラでもないからな。

 

「フェイントとか気にすんなよ! 見ての通りただの担ぎ抜刀!」

 ここまで来たら余計な小細工は無用。

刀を担いで背中に構え、両手で縦にフルスイングすることで肩を発射台にする担ぎ抜刀。

 

少しでも霊圧を高め、刃に載せ、それもただ放つだけではなく切っ先に集中させる。糸の様に細く……。

 

「真・死神(シジン)剣!!」

「ハハハハ!! 楽しいよなあアア!!」

 あろうことか奴は高速の剣を無視して、我が身で受けながらこっちを叩き切って来た。

高めた霊圧を刀に集約し、ただひたすらに無心で放つ強者の剣だ。嫉妬するほどの才能が、余計な物を削ぎ落して俺に迫る。

 

「なあ? 本当にここで止めちまうのか? まだまだ愉しめそうじゃねえか」

「悪いが俺の方が限界だな。……良かったら正式な死神にならねえか? お前さんなら最強の死神……剣八に成れると思うぜ」

 未練たっぷりで告げる剣八に、俺はため息ついて予備の薬を投げて渡した。

自分もタップリ薬を使って治療を始めるが……ヤバかった。

 

そういえばこいつって無意識に手加減してた時期なんだよな。

こっちが出力上げたら、こいつも出力上げるに決まってんじゃん。下手すりゃこっちだけ死んでたし、運悪かったらダブルKOで二人とも原作前に死亡である。




 という訳で剣ちゃんとの戦いです。
出会う前に霊術院へ行って死神に成ってるので、こっちからスカウトしに行くコースに変更です。
やちるとの絡みは矛盾が成立しないように、特に描写して居ません。
(もう更木剣八と名乗っていてもいいし、今から名乗ってもいい)

頑張って戦いましたがまだ勝てませんでした。斬術と剣術を混同していたロスタイムは惜しかったですね。
それでも原作のまるで相手に成ってない状態から、七・三か六・四で不利なレベル。運が良ければ行けたかもしれん……くらいには善戦しています。

始解? もちろん雑魚戦で解放して剣ちゃんとの戦いの中では普通に発揮しています。
自分だけ解放して卑怯とか、そういう概念は死神の中に無いので。斬魄刀を手に入れた者同士、解放に至っていないとか解いていないとかは言い訳にならないという考え方ですね。
(最初から最強で弱くなってる状態。やちるが常時解放の卍解みたいなのはその為……と考えたら、最初から最高の才能と言う始解といえなくもないので、手加減なんかできないのもありますが)

●今週のでっちあげ剣技
『隠密歩法:すり足』
 幾つかある走術系の技の一つ。
踏み込みで位置を調整が、一歩と半歩を分けたり、半歩の距離を変える。
今回は微妙に歩幅の違う半歩で小刻みに誓って攻撃した。

『一の太刀』
 流派ごとに極意は違うが、要するに一撃で決める奥義。
威力重視の流派もあれば、確実に急所を狙うような流派もある。
今回使ったのはフェイント系の奥義で、柄の長さの分だけ見切りが狂う。

『倒れ込み縮地』
 この技は幾つかの理論があるのだが、今回使ったのは間合いの短縮。
カウンター移動とも言える行動で、相手の内側に入り込んでいく。
仮に五歩の間合いで相手が一歩詰めるのだとしたら、こっちも詰めて三歩に。
後出しから先手を取るために倒れ込み、そこから強引に起き上がる。

『巻き打ち』
 刀を振って勢いを増す技……ではなく、回転を掛けて動きを短縮。
自分の位置を強引に前にねじり込みつつ、短い距離でフルスイングする。

『流し切り』
 流れるような動きで相手を斬り、軽くなる分を急所攻撃で補う。
相手が霊圧防御高いと無効化されるので注意しよう。
なお、タフかつ技量が高いと完全に決まって筋肉を切っても、あまり意味がない。

『担ぎ抜刀』
 背中に刀を回し、肩を経由して引っこ抜くような斬撃を放つ。
居合に近いというか、抜き打ちという剣理の一つらしい。


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幕間での出来事

●幕間

 剣八が正式に死神に成り、そのまま十一番隊で決闘を始めた。

以前の剣八を倒し、そのまま新しい剣八に成る。なんだか剣八剣八言い過ぎて妙な気分だが、生前の知識と剣八のルール説明が混ざっているので仕方ない。

 

さて、俺の方の近況を報告しよう。

剣八騒動の時、無事に十一番隊に移籍してここでも愚連隊を作って、以前の剣八グループに楯突いたってわけだ。

 

新しい剣八体制に馴染むまで、朗らかに野仕合を繰り返したり雀卓囲んで睨み合ってる。

おっと麻雀は生前の体育会系生活の中で覚えさせられた物を、阿近を脅して作らせたものだ。

まだ体系化が終わってないから、俺の伝えた地方ルールが公式だぜ。

(大車輪や緑一色がヤクマン、喰いタンなし、流し満貫アリ)

 

阿近は以前からヤバイ薬の研究に手を出して捕まり蛆虫の巣送りだったんだが、最近になって普通に出所してた。おかげで便利遣いし易いし、薬品がらみの件で大前田と一緒になってズブズブの利権生活を楽しんでる。

麻雀で対戦することも多いのだが、阿近は偶にくだらないイカサマをやるから油断ならねえ。最近は麻雀中に霊圧探知を訓練するようになっちまった。

 

「という訳で指南役もどうぞ。射場さんや綾瀬川さんも参加されて構いませんよ」

「その指南役っつーのは止めてくださいよ。ガラじゃねえし」

 それと剣術指南役というありがたくもない役目を仰せつかった。

これは文字通り他の隊にも顔を出して、剣術を披露したり教授したりする役目だ。

 

何がありがたくないかって、まず斬術指南役ではなく剣術指南役(笑)なのだ。

霊圧を載せて戦う斬術は斬魄刀の固有能力とセットなので、あくまで剣術を教える役目であり、可能な範囲で斬術を教えるという訳だな。

 

「しかしその腕前はみなさんも認める程ですよ。十一番隊は最前線の担当ですし、講習会に参加してもおかしくはないと思いますよ」

「ちっとばっかし体格の差に慣れてるだけですがね……」

 他にも指南役は居るが、強いというよりも主に教えるのが上手い奴が担当する。

 

俺が任命されたのも、龍紋の始解能力で体力が徐々に向上するのが影響している。

考えたら判るかもしれないが、体力や霊圧が上昇すると歩幅やら筋力が変わるので、何も考えずに技を使うと色々狂って来るのだ。少なくとも繊細な動きを要する技は使えない。

 

最初は仕方ないと放っていたのだが……。

よく考えたら生涯で何百何千回どころではない数だけ訓練するのである。把握しないのもサボってるような気がしたので、訓練の一環で差を理解できるまで繰り返したのだ。おかげで能力値の差を配慮することに覚えて、教えるのもついでに上手くなったという訳だな。

 

「しかし、認めてくださるのに断るのも失礼ですか。藍染隊長にはよろしくお伝えください」

 ありがたくない理由の一つがコレだ。

斬術を含めた戦闘訓練の一環で、藍染が鏡花水月の開放を見せている。新しく隊長・副隊長になった者や希望者を中心に講義するのだが……この枠の中に入れられてしまったのだ。

 

(まあ、原作で直接顔合わせないし良いけどな)

 卍解に到達してると解号なしに始解を使用できるので厄介だ。

だが、せっかく教えてくれるのだ。どんな能力なのか漢見物といかせてもらおうじゃないか。

 

追記。

 指南役というのは当然、他の術にもあっても良い物だ。

後年、雛森が藍染が遺した鬼道を覚え易くする資料を基に、鬼道指南役として就任する。

つまり、鬼道指南役とか走術指南役が居る中……。俺は剣術指南役(笑)と呼ばれることになるのである。

 

●見たぞ聞いたぞ、その瞬間。サッパリ判らねえけどな!

 ついに来た講習会。

恋次や雛森たちは死神にこそなっちゃ居るが、まだペーペーなので参加してない。

 

指名枠に俺たちの他、四番隊とか十二番隊のメンツが混ざってるのは……。まあこういう機会で徐々に範囲を増やしていたのだろう。つーか、例の事件で死体見分する時に、鏡花水月見てない連中が一目で把握したら笑い話だもんな。

 

「始める前に説明しておくと鏡花水月は流水系の斬魄刀で、視界を歪ませることができる。ただし広範囲で味方を巻き込むので、無思慮に使う訳にはいかないんだ」

 原作を読んだ時は下位互換の能力で説明して、条件をクリアするとか頭良いなーと思ってた。

完全催眠だなんて強大過ぎる能力だし、弱めの能力であると主張しておく方がいい。同時に強大さの反動である発動条件の難しさを達成できるって凄い案だよな。

 

「なるほど。それでこんな講習会を開かれたのですね」

 こんな風に素直な反応をする奴も居るが、ここに集められたのは上位席官ばかりだ。

流石に疑問をそのままにせず、いちいち確認を求めてくる。

 

「……これはいつか見る事があるだけではなく、無思慮な発動が危険な術は多いという事への啓発でもあるのでしょうか」

「始解の解放には解号が必要ですので、初動で注意できませんか?」

「良い質問だね。では実際に試してみせようか」

 藍染は質問に対してにこやかに笑うと、抜刀して見せる。

 

「いいかな? 斬魄刀は霊圧を注ぎ込むことで強大化するけれど、隊長格はコントロールすることで大型化を抑えているんだ。戦闘中でも当然制御している」

「……」

(っ。今使ったかな? 少しずつ起動するように設定してんのか?)

 仕合で読み合いをするのが好きな、俺ら十一番隊だから気が付いたのかもしれない。

能力を発動するならば『今』だ。いけしゃあしゃあと発動していないフリをして、既に術中に嵌めているという方が面白い使い方だから、『俺たちならば今使う』という予想ができる。

 

だが全員がそうではないのだろう。

最初は藍染の言葉に頷いて会話に夢中になっており、既に発動していることに気が付いたのは、一部の戦い慣れている者。あるいは他の隊長の始解を見慣れている者だろう。

 

徐々に気が付く者が増えていたようだが、それでもまだ少数だ。既に解放されていることを大多数が知るのはここからである。

 

「さて、君たちはいつから私が始解を使っていないと思ってるのかな? この能力は霧を発生させて最大化するけれど、裏を返せば手元だけならば少し歪む程度。そして……必ずしも解号は必要ないことを覚えておくといい」

「まさか……」

「もう既に!?」

 藍染の周囲が徐々に歪み始め、発生する霧を中心に視界が乱反射を始める。

その場のままであったり、ほんの少し隣だったり、大幅に離れた位置に映し出される者もいればソックリ場所を入れ替わった奴もいた。

 

(あー。さっぱ判んねえなあ。なるほど、これだけの能力で広範囲の規模だと、これこそが鏡花水月の能力だと思うよな)

 見抜こうとしてみたが、まるで判らない。

最初に位置に留まっているなら当たりは付けられるが、こういった講義をする以上は……当然ながら移動しているだろう。ただ移動するという簡単な所作で、切りつける以上に度肝を抜かないと意味がないのだ。

 

「弓親、動くな。射場さんはちょいと歩いてくれますか?」

「……了解」

「おう」

 視界に頼るのを諦め、霊圧知覚を始めてみる。

もちろん先に出された状態で、しかも知り合い以外も参加しているのに、状況把握を霊圧探知で可能なはずはない。

 

……ただそれは、状況を把握しようとするならばの話だ。

 

(直ぐ傍で鳴動してるのは弓親だよな。徐々に乱れが収まって行くのは射場さんとして……)

 人ではなく場所を中心に霊圧探知を掛ける。

その場にある霊圧の揺らぎを観察してみた。興味津々というか霊圧探知やら総動員して見つけてみようと思っているのは弓親だろう。

 

そして徐々に混乱を収めて冷静さを取り繕おうとしている射場さんに歩いてもらうことで、揺れてない霊圧の相対位置を確認する。他にも揺れてない霊圧の奴は居るが……その中でも、静かに綺麗な波動をしている者を徐々に見比べていく。

 

(意外に冷静な奴も居る見てえだが……。この状況で動き回るやつが居るとは思えねえ)

 東西南北を無視して弓親の位置と、射場さんが動いている方向を相対的な基準にしてみる。

その上で動いている霊圧を探し、改めて射場さんの揺らぎと比べてみた。

 

もっと小さな霊圧だが、そちらの方がかなり安定している。

普通ならばただの席官だと思う所だが、混乱して歩き回ってしまう小物にしては安定し過ぎている。これは霊圧を抑えた藍染か、奴が用意したサクラである可能性が高いだろう。よく考えればこの能力はサクラが居た方が都合が良いのだから。

 

同じように安定していて、あまり動いていないが初位置とあえて場所を変えている者もピックアップしようとしたところで……。

 

「と、言う訳だ。判ってくれたかな? 能力はよく考えて使わないと迷惑になる。そして最小の使い方でも十分に有効な場合があるんだ」

「藍染隊長!?」

「いつからそこに?」

 思った通り、ピックアップした数名の中に藍染が居た。

動いたのは五番隊の席官だろうか? そいつが動いて突き飛ばされた者が出たことで、混乱を助長した者も結構いたようである。藍染はそいつと入れ替わり、崩れかけた態勢を支えてやっていたようだ。

 

「僕の見たところ状況を把握できたのは五名というところかな。もしここに居るのが僕ではなく(ホロウ)であれば、大惨事になったかもしれない。対処できたのはその五名のみ、それもあの霧の中で対処を必要とするんだ」

 もし殺意があって殺して回れば、大殺戮が起きたのは間違いがない。

逆に味方の使用だったとしても、何も告げずに実行しては援護しようもないし、霧の中で混乱する味方を守りながら戦うのは難しいだろう。

 

その事を参加者全員が理解できたところで、今回の講習はお開きに成る……はずだった。

 

「しかし僕の動きを見抜くとは流石だね、斑目指南。参考までにどう把握したのか教えてくれると後学の参考にできるのだけれども」

「大枠以外は全然見抜けませんでしたので、修行が足りないと痛感してるところです。……あえて言うなら、全員に番号割り振って、移動してるしてないとか霊圧の動きとか、比べる数を増やしたってところですかね」

 鏡花水月は三次元に関わる五感全てを操るが、霊感も弄れないわけでもない。

コントロールする情報が多すぎる為、これだけの数を操る場合は大雑把な管理に成る。だからこその、視界のみを操り、乱反射の範疇でしか引き起こせないという説明なのだろう。

 

だが裏を返せば三次元上にある五感、努力して霊圧感覚までである。

四次元情報……少し前の時間にこいつは何処にいた、今は此処にいるという情報が増えると把握が可能になる。もちろん情報量を増やして、五次元・六次元・六感・七感とやっていけば、いつか把握できるという寸法だ。

 

そんなのできるわけがないって? では可能だという事を簡単に説明しよう。

 

「麻雀ってご存じですかね? 別に将棋やトランプでもいいんですが。俺の知り合いに似たようなイカサマをした奴が居ましてね。普段から対策をやってただけです」

 麻雀は34種の牌が4枚ずつで136枚。トランプは1~13が4スートで53枚だ。

これらが今どこにあり誰が何を持っているのか、捨て牌や動きから想像しながらゲームを行う。

 

所詮は初歩的なカウンティングに過ぎないが、数回繰り返して個性を掴むともう少し把握できる。

 

そして重要なのは……イカサマをする人間にとっては、本当に見抜かれていなくとも脅威なのだ。

どこかでバレたらおしまいだし、当てずっぽうで指摘されたら後にやり難くなってしまう。つまり対策を練っておくだけでも、かなり有効な戦術だと言えるだろう。

 

今思えば、原作で主人公相手に鏡花水月を使わなかった理由も判る気がする。

対策されたら見抜かれる可能性があるのに、急場で試すだろうか? ドリフターズというコメディアン集団がショートコントをやる番組があったというが、「しむらしむら~」みたいな冗談では済まないのだ。

 

催眠が無くとも主人公に勝てる上に、対策されて当然なのだから最終決戦でワザワザ博打をしなくても良いのだ。

新たな存在に進化したら、それまでの対策を無効化するほどの能力に進化しているかも含めて、実験台にするくらいのつもりで残していても良いくらいだろう。

(実際にはまるで対策して居なかったので、読者の間では議論の一つになったけれども)

 

「なるほどね。今度時間があったら僕も参加させてもらおうかな」

「どうぞどうぞ。お忙しくない時であれば、お待ちしております」

 こうして阿近の胃痛が増えたのであった。

俺? 鏡花水月の対策なんかする気はねーよ。主人公たちに丸投げな。

 

●原作前にもう一つ

 ここに来てようやく原作に追いついてきた。

まずは恋次が十一番隊に転属し、猛烈な勢いで修業をし始めたのだ。

 

原作と違って隊員たちにも走術やら鬼道とか修業だけはさせているので、恋次もその波に乗って色々とやっている。

 

「一角さん。新しい始解を覚えたんですって?」

「おう。耳が早いな。まだ使いこなすまで至ってないんだが……」

 追いついた一環として、二つ目の解号を得た。

正確には原作の一つ目に近い奴なんだその前に……。

 

こんな話を知っているだろうか?

織田信長の配下の中に長槍隊があったというのだ。それも馬鹿みたいに長い。

 

重臣で武闘派の柴田勝家は、使いこなせない長さに意味はない。もう少し『短い槍を俊敏に使い熟す』方が良いと口にした。

新進気鋭の木下秀吉は、『足軽は腕がないので、長さを活かして圧倒する』方が良いと反論し、部下を使った対戦で示したそうだ。

 

「伸びろ、龍紋!」

「おおっ! 長物っすか。これで射程も広がりますね」

 長槍の話を踏まえた上で、槍化する龍紋を見てほしい。

前提として龍紋の初期解放をしないとならないのだが、ここでは割愛しよう。ひとまず妥当な長さで出してみる。

 

そのままブンブンと振ったり、腰を軸に体の周囲で大回転。

ホアッチャーとグルグルやってみた。

 

「全然使いこなしてるじゃないっすか」

「長巻とか薙刀サイズならな。こいつの真骨頂はここからだ」

 長さは調整できるのだが……。

実に信長が使っていたという三間半まで拡張できる。長過ぎっだろ!

 

「なんか6mはありますね……」

「だろ? 見ての通りこの龍紋自体も拡張しててな……。また一から修行し直しだぜ」

 原作の龍紋鬼灯丸をぶん回す時くらいはあるわ!

というか龍紋鬼灯丸の時に左手持ってる長刀、あれを細身にして6mサイズにしたと言えば判り易いだろうか?

 

2m近い刀身全体に龍紋が拡張され肉体強化の上限が拡張、霊圧強化も若干伸びている感じだ。

問題なのは強化上限が増えた分だけ最大化と、最大化してから始まる霊圧強化が遅く成る事。当然ながら強化された体での体感を覚え直す作業も必要だ。

 

メリットと言えば始解でも最大化さえすれば、剣八や藍染に通じそうなくらい限界突破したことだろうか?こいつを当てれるとかちっとも思わないのだが。

 

『どうせ訓練し直すならよう。最初から解放しちまおうぜ』

「前から言ってんだろ。借り物の力のままじゃあ意味がねえ。始解ともども、全部使いこなして行ってからだ」

 恋次を見送る俺の隣に、むさくるしい大男が居た。

原作というかアニオリの斬魄刀異聞篇でみた、燃えてないイフリートのような姿とは少し違う。

 

頭巾を被り仮面をつけマントを羽織ったような羅漢姿。

見れば顔の下半分を覆う仮面の下やマントが覆う体には、あちこち肉体が崩れたような部分がある。

 

体の腐敗は転生前の俺の影響を受けたのだろうか?

頭巾やマントは俺の虚栄心なのか、それとも過去の苦痛を新たな誇りで上書きしているということだろうか?和尚や王悦ならぬこの身に判るはずがない。

 

この卍解と共に歩んでいくしかないのだ。

余計なことを考えるよりも、手に入れた力を有効に活かし、最大限に活用すべきだろう。




という訳で、原作前の幕間です。

うちの一角は新しい解放を覚えて対虚相手の戦闘が安定すると思います。
対人性能ですか? 知らない子ですね(6mのサイズから目をそらせながら)

●鏡花水月
 見せられるイベントを挟んで、原作主人公に催眠を使わなかった理由を考えてみました。
藍染的にはドリフのコントをやっているようなモノです。「しむらしむらー」と画面の外に居る視聴者は笑えるのですが……。
もし対策されていたら、突如襲い掛かって後頭部を殴られます。笑い話にもなりません。

相手だけが把握できて使い手が把握できない情報が、増えれば増える程に催眠が扱い難くなる。
一対一で入れ替えるだけならまだしも、複数の相手が居ていて、それぞれ違い情報を持っていたら難儀です。そこまで苦労してコントロールする必要あるのかと言われれば、レベル=霊圧を上げて物理で殴った方が速い。
どうして浦原さんが対策してそうなのに、催眠で一発勝負をしないといけないのか意味不明だと思っている。……としておきます。
(卍解である紅姫・改めを使うと、その場で改造できるので、対策していなくても催眠に頼った瞬間に無効化されそうですが)

●新しい解号と龍紋鬼灯丸オルタナティブ
始解:
解号:伸びろ、龍紋
効果:
 長さ・大きさを調整可能になり、最大6mまで拡張できる。
普段は長巻や薙刀サイズの方が使い易いので伸ばしきっていないが、龍紋の拡張もできるのでサイズを伸ばした方が基本強くなる。

イメージ:
原作の龍紋鬼灯丸。
攻撃力。+3毎~
霊圧。+2毎~。最大まで上がると、+斬魄刀レベルx2

この話の龍紋(龍紋鬼灯丸の劣化互換)
肉体強化。+1毎~
攻撃力。+1毎~
霊圧。+1毎~。最大まで上がると+10

伸ばすと、上記の数値がサイズによって拡張される。

龍紋鬼灯丸オルタナティブ
 頭巾を被り仮面をつけマントで体を覆っている羅漢。
その姿の中は肉体が崩壊した後があり、今では直っているようだが痛ましい姿はそのままである。
イメージ的には戦国武将の大谷刑部。

 武装としての姿は原作に近い姿で、握りやら刃がスマートに成っているくらいである。
ただし重量バランスに変化が起きているので、重しとして輪のような飾りが移動して重心を変更できる。強化される内容は三節棍化、修正値の強化などなど。


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血闘

●原作までの道筋

 十一番隊は剣八ルールで好き勝手出来るので、臨時編成をやっていた。

副隊長相当の力があれば誰でも副長並みだし、三席とかが何人いても良い。逆に上位席官になるためのボーダーを上げて、見込みない奴を入れなくても良い。

 

そんな中で恋次は五席を当然とし、四席や三席も間近に見えたという所で六番隊に引き抜かれていくことになった。

 

「恋敵としちゃヤバ過ぎる相手だが、朽木隊長を乗り越えようって心意気に免じて良いことを教えてやる」

「こっ!? べ、別に恋敵ってわけじゃあ……」

 なんか鶏みたいな声を恋次が挙げたが、黙らせてとある場所に連れ出した。

 

「黙って聞いてろ。一つ目は、斬魄刀は手足の延長だ。新しい能力に辿り着くのは終着点じゃねえ。ただの出発点に過ぎないってのをよーく覚えときな」

「は……はい」

 恋次はちょうど二つ目の解号に至ったところだ。

自爆技みたいで使いたくないと言ってたが、蛇尾丸をバラバラにして飛ばす例の切り札を覚えたってわけだ。

 

ただ動きといい威力といい使える技だが、それでも技は技に過ぎない。

いつ使うかどのように使うか含めて、自分で工夫して組み立てなければならないと教えておいた。

 

「ここは修行場? ……もしかしてここを?」

「違えーよ。ここは阿近のやつに金を渡して作らせた俺用の修行場だ。霊圧を合わせて隠蔽してるから弓親でも使えねえ」

「ウン。ボクも専用に他の部屋を作ってるくらいだからね」

 イキって生前知識を試した黒歴史以外にも、他人に見せる気がない技を修行する場だ。

もちろん今から使うアレを修行するための場所だと言っても良い。

 

「もう一つは単に十一番隊の上位席官になるための基準。卍解を目指せねえ奴は入れてない。もちろんお前もだぜ恋次」

「ば……卍解? お……オレも?」

 俺は『何も言わず』に龍紋を6mまで伸ばして見せた。

第一段階で心を燃え上がらせ、第二段階で伸ばす。この手順でしか伸ばせないのだが……。

 

解号を必要としなければ、適当な段階で心を燃やし、一気に伸ばせるというだけだ。

 

「餞に俺の卍解を見せてやる。だが俺がコレで戦う気はねえ。他所の隊長格に成る気はないし……そもそもまだ、始解の方が強い程度にしか使いこなしてねーからな」

「こ……この霊圧は……」

 徐々に霊圧を上げていくが、今まで出したことのない出力に恋次が喉を鳴らす。

だがこんなものは出現させるための準備段階だ。それに卍解だからといって強く成れるわけでもないのは原作と同じ。

 

まあ範囲や強度の問題で、雑魚や大型を殲滅するのに向いてるのは間違いないけどな。

 

「この程度で驚くなよ。てめえにもできるつーたろ。……龍紋鬼灯丸!!!」

「す、すげえ!?」

 6mの長刀が巨大な三節棍に変化する。

右手は鑿のような突き切りに向き、左手は元の長刀を短くしたもの。背中へ斧の様な肉厚の刃が浮いている。それぞれが鎖でつながれ三節棍となっているのだ。

 

原作との違いは幾分か刃と握りがスマートになり、重心を移すための重りがある事。

そして何より、龍の紋様が枝分かれを始めている事だろうか。

 

俺は鬼灯丸ではなく龍紋として開放した為、おそらく攻撃力はかなり原作よりも低い。

代わりに肉体強化や硬度の上昇、そして霊圧上昇などの項目に枝分かれしているのだろう。

 

選択した別の可能性……オルタナティブというところだろうか。

 

「これだけの力を隠すのってもったいないっすよ!? 他の隊の隊長格に成る気はないっても……」

「慌てんなって。言ったろ。今はまだ始解の方が強いくらいだって。まるで使いこなしてねーし……だいたい、卍解ができるだけの奴は他の隊にも居るだろうしな」

 現状、力押しだけしかできない。

なのに攻撃力上昇は原作の半分程度、霊圧上昇は七割り程度だと予想している。この状態でどう誇ればよいのだろうか?

 

せめて格闘ゲームであるかのように、己を使いこなせなければまるで意味がない。

原作で初使用したエドラド戦でも勝てるかどうか、怪しいと思っているくらいだ。まあ始解で勝てるくらいに強く成ればいいんだけどな。

 

「他の隊にも? そんな馬鹿な。卍解っていやあ使えるだけでソウル・ソサエティの歴史に刻まれるって……」

「てめえの常識を押しつけんなよ。斬魄刀の望む試練や能力とかの相性もあるしな。……だいたい、過去に隊長格が戦死でゴロっと入れ替わるのはよくあったんだ。出来なきゃ嘘だろうがよ」

 破面に関する事件は公表されてないにしても、死んだことにして入れ替えたのだろう。

その辺りまで口を閉ざさせるのは無理だし……。そもそもあの浦原だって三席だからな。アニオリ・ゲームオリを合わせていいなら、この時代でもかなり居るだろう。

 

「確かに……」

「外でこの事バラすんじゃねーぞ。口が堅いと思った連中にしか見せてねえ。繰り返すが他の隊に行く気はねえしな」

「そういうこと。ここは居心地がいいからね」

 という訳で原作に近い流れになったようだ。

調子に乗って恋次を鍛え過ぎたかと思ったが、まあ何とかなるだろう。コイツの能力を基準にして現世で鍛えてないと、俺が殺す可能性もあるしな。

 

……おっと思わずイキリそうになっちまった。

陛下や白一護のことを考えたら勝てるかどうかも怪しいしな。ここは戦いを楽しみたいもんだぜ! と言い直しておこう。

 

●原作とつにゅーううう!!!

 という訳でいよいよ原作に突入だ!

もっとも俺の出番は殆どないし、旅禍騒ぎが起きるまでは修行以外にすることねーけどな。

 

「パパンがパン! だーれが殺したククロビン!」

「はっ?」

「なんだコイツ」

 ようやく訪れた出番に思わず踊り出してしまった。

拍手喝采から繋ぐ手刀のポーズ、そして回し蹴りのごとくバランスを取る足。完璧じゃねーか。

 

「なんだなんだ。てめえら。穴に埋まったままだから待ってやろうと、クックロビン音頭を踊ってやってるんじゃねーか。それとな……」

 ギャグ時空に突入しながら回避できる、ありがたいクックロビン音頭。

そいつを理解しないナンセンスな連中に、俺は忠告してやることにした。

 

「てめーらコマドリを殺すのは俺だと説明してやってるんだよ。だいたい、なんで今の説明の間にも登ってねーんだ?」

「だってなあ」

 俺の親切な忠告にも動こうとしない連中に対して斬魄刀を抜いてから、もう一度忠告してやることにした。

 

「戦う気がないならもう良い。死ぬなよ小僧?」

「っ!?」

「逃げるぞ一護!」

 解号なしで始解して貫いてやろうかと思ったが、流石に殺気は理解したようだ。

なんだ殺気が出てないから反応しなかったのか。しばらく虚しか斬り捨ててないから俺も甘くなったもんだぜ。

 

「逃げるだって!? ざけんな!」

「バッカ野郎。こいつらそこらの死神じゃねえ! 死んだうちの兄ちゃんくらいありやがる!」

 どっちも良い判断だ。

一護は抜刀してこちらに刃を向け、岩……ガンジュだっけ? ……は立ち止まらずにダッシュで遁走している。

 

どうやら一護は喰い止めないと死ぬと判断したようだし、岩なんとか俺が副隊長格だと見て勝てないと判断したようだ。

 

「お前一護ってのか。一っていう字が入ってるに相応しい大した判断だ。だがな、俺にも一っていう字が入ってる。いずれ、ひとかどの人物になる男! 斑目一角たあ、この俺の事だ!」

 刀を突きつけてその腹を見せ、ニヤリと笑って『燃えあがれ、龍紋』と解号を口にした。

もちろん唱えずとも解けるのだが……最近になって、龍紋が染まる速度の違いに気が付いた。どいうやらコイツは俺のテンションと一致しているらしく、解号というオサレ値が影響しているのだろう。

 

「刀にある刺青が赤くなる? 切ったら燃えるのかよ。形は変わらないみたいだけど」

「刺青じゃなくて龍紋な。一つ目の効果は単純。見ての通り俺が強くなるってだけだぜ」

 こちらを観察する一護に、目の前でお手玉を見せてやる。

斬魄刀と鞘をお手玉して、少々危かろうと巧みにキャッチする技前だ。そしてこれは戦いを長く愉しむために、見せている予習でもある。

 

「まずは試験科目だ。護廷十三隊で直接戦闘最強を誇る、俺たち十一番隊と戦うに相応しい実力を持っているかってな」

 普段は鞘も使って戦うのだが、最初は試験なので引っ込める。

そして判り易いように右手一本で構え、姿勢を落として突撃態勢まで見せてやった。

 

「俺たちはなるべく戦いを愉しみてえ。コレを受け止められたら俺を倒した後で隊長の所までは通してやるよ」

「そいつはありがとよ……」

 判り易い態勢だが、それは別に手加減に繋がらない。

初動を大きく取った方が踏み込みは早くなるし、斬撃速度も普通は早くなる。

 

まあ、普通じゃない技を見せるんだけどな。

 

「キィイエエエアアア!」

「っ! 刀が飛んだ!?」

 目の良い奴だ。

踏み込む瞬間に、右手から左手に刀を投げたのに気が付きやがった。まあ、さっきのお手玉はそのために見せた予習なんだけどな。

 

「それだけか? ならば死ね!」

「っ違う! 右じゃない。左のままかよ!」

 手を持ち換えたらそのままの方向で斬るかと思うだろう。

だが手首を返して斬撃角度を、『く』の字に曲げて斬る!

 

「これが片手だってのか!? う……おおお!」

「ははは! 止めやがった。飛燕からつないだ雲雀落としを止めやがったなてめえ!」

 常人の筋力でこんなことが可能なはずはない。

下手をすればすっぽ抜けかねない曲芸だが、龍紋によって向上した筋力と器用さ、そしてバランス力ならば難なくこなせる。

 

しかし飛燕も雲雀落としもフェイント系の奥義の一つである。

それを見切ってブロックで来た段階で、目も反応速度も大したものだと言えるだろう。

 

「合格だ。副隊長並み剣術指南として認めてやるよ。剣腕だけなら護廷で二番目ってところの俺が、お前に隊長格と戦えるだけの下地があると認めてやる」

「褒められてんのかな? まあ二番目でそれならなんとか突破できそうで助かった」

 ふっ。ははははは!

いや、悪い。とんだお笑い草で思わず爆笑するところだった。

 

「勘違いすんじゃねーぞ。死神に剣技なんか何の意味はねえ。ただチャンバラできるってだけだ。斬魄刀を使いこなして、初めて死神の戦闘ってやつよ!」

「くそ! 何て剛力だ。まだ力があがるってのかよ」

 鍔競り合いを行ったまま、俺は徐々に押し込んでいく。

龍紋が赤く染まるたびに体力や霊圧が徐々に向上する為、こんな芸当もできる。だが、こんなのは力持ちならば誰でもできるだろう。

 

「気を引き締めとけよ? こっからは少しも油断するんじゃねええ!」

「嘘だろ。この力のまま動くってのか?」

 鍔競り合いを実行したまま、右に左に揺らしてやる。

そのまま繋いでも良いのだが、一護の本気も見れないうちに不意打ちして倒してもつまらないだろう。

 

「そらよ。足元がお留守だ」

「痛っ! っヤベ!」

 今度はグルっと右側に移動して右の蹴りを奴の左足に食らわせてやった。

もちろん態勢が維持できるはずはないので、ガクリと来たところに腹を横薙ぐ。

 

慌てて態勢を戻そうとした一護は、間に合わないと見てむしろ俺の方にすれ違うような斬撃を放ってきやがった!

 

「スゲーな! 今の攻防で反撃に出るとか。俺が隊長並みの霊圧防御出来たら、お前死んでたぞ?」

「あんたも大概だよ。なんだ今の動き」

 俺の斬撃は体勢を崩した一護の額を掠め、俺は咄嗟に身を引いたものの腕を軽く斬られた。

負傷度としては運悪く俺の方が分が悪いが、蹴りも効いているはずなので痛み分けと言う所か。

 

気分が良いので額の血を拭う一護に忠告してやる。

 

「血止めしねーなら拭う意味はねーよ。こんな風にな」

「あっ汚ったね! 薬かよ!」

 戦いに汚いもないだろうと、高い薬を準備していることを教えてやった。

たしか浦原の言葉だったと思うが、死にたくなきゃ死ぬほど準備するのは当たり前だよなあ?

 

とはいえ原作と違って柄には仕込んでないので(堅くて無理だった)、懐に入れてる分だけだ。手に血が滲んで滑るのも嫌なので、タップリ使っって残りは放り捨てた。

 

「さあ盛り上がっていこーじゃねえか。ここからが斬魄刀を交えた戦いの始まりだぜ? 伸びろ龍紋!」

「刀が長槍に? ……だけどそいつは悪手だぜ!」

 龍紋が刀としての拡張限界まで達した所で、一気に6mの長刀として伸ばしてみた。

一段階を染まり切ってないと途中で止めるのが正解なんだが、ここまで体力が上がっていると少し違ってくる。

 

「へえっ。長物には手元ってな。悪い判断じゃないぜ? 普通はな」

「はっ? なんでこの角度で穂先が……」

 一気に懐に飛び込こんで、槍など長過ぎる武器の欠点を突こうとしたようだ。

だが俺は軽くため息を吐くと、柄を蹴り飛ばして強引に振り上げた!

 

「くそがっ……」

「よく居るんだよなー。長物は雑魚の持つ武器で、長さで機先を制してるだけだってな。でも思ったことはねえか? 長物を刀みたいに使いこなしたら最強じゃね? つかポール・ウエポンで強い武将なんか幾らでもいるだろ?」

 俺はそのまま長柄を回転させて、ビュンと振り切って先ほど変わらない速度で斬撃を浴びせてやった。

一護は蹴り上げた一撃こそ防いだものの、この二撃目は防げず直撃する。転がる様にその場を離れて、ゴロゴロと少しだけ遠ざかっていた。

 

「まだ腹斬られただけだろ? 筋肉と霊圧で最低限塞げばまだ戦える。みたところお前の霊圧は俺以上。更木隊長に匹敵しそうなくらいあるぜ。隊長なら余裕でこなす。立ち上がってきな」

 お前主人公だろ? 早く立ち上がれよ。

傷を塞いで刃に力を込めて、さっさと掛かって来いよ! ハリーハリーハーリー!

 

まあ結果を言えば、イキリが過ぎてトドメを刺さなかったのがまずいのだろう。

さっさと倒しておけば、やられなかったと思う。

 

「じゃあそうしてやるよ! いっかぁぁーく!」

「ぐお?! できるじゃねえか……」

 突如として膨大な霊圧が刃に載せられ、一気に叩きつけられる。

思わず防御してしまったが、危く龍紋を落としそうになり、肩口から一気に切り裂かれてしまった。

 

だが! まだ上半身が真っ二つになったわけじゃねえ!

余裕かまして重傷食らったのは俺がアホかもしれんが……最高じゃねえか!! こうでなくちゃあ死合を挑んでいる意味がねええ!

 

「良い事教えてやるぜ? 俺が戦い始めた時点で殆どの奴は下がってる。弱けりゃ俺が片付けるし、強けりゃ雑魚が何人いても勝てねえからな。雑魚に追い回されて死ぬこたあねえ」

「嘘だろ……まだ立ち上がるってのかよ」

 何言ってんだコイツ?

自分ができないことを、相手にだけ押し付けると思ってたのか? 剣八がやってるのを見て俺もできるように頑張ったんだよ。

 

まあ……龍紋が6mに伸びて第二段階に達してないとできないけどな。

じゃないとここまで伸ばす意味はないだろ。

 

「さてと。知ってるか? 槍の動きって突きと払いの二つしかねーんだってよ。そして素早く戦場を制するのが役目らしい」

「速度勝負か? まあこっちもヤバイんで助かるけどな」

 俺は長刀を構えて右手一本で保持した。

左手は添えるだけにして、一護の急激な動きに合わせて刃をスライドさせる。

 

「フウーー!!!」

「速ええ!? だが、予想できなかったわけじゃねえ!」

 走術から繋ぐ高速の踏み込み。

瞬間移動めいた移動ではなく、ただ一突きの踏み込みの為の予備動作。

 

それを予測していたかのように一護は紙一重ではなく大きく身を逸らせ、長刀の刃の無い方向へ回り込むようにして突進してきた。

 

「もらった!」

「馬鹿が。俺はこの間合いを使いこなせると言った!」

 添えていた左手も使って、フルスイングで追いかける。

だが一護は不思議なことに、途中で足を留めて斜めにガード態勢に入っていた。

 

「知ってるよ! 壁くらいじゃ足止めにもならないってさ!」

「堅てえ! 全霊圧を防御に回したってのか!?」

 容易く周囲の壁を砕いて一護に迫る。

だが膨大な霊圧が防御の為だけに消費され、しかも斜めに受け流されたことで衝撃を利用して逸らされてしまったのだ。

 

しかもそのまま、こちらの柄を利用して滑る様にやって来る!

 

「はは。なんだよ、その霊圧の切り替えの早さ。……反則だろうが」

「悪いな。……オレの勝ちだ」

 ここに来て俺は自分の敗因を悟った。

原作知識に捉われるあまり……一護がこの段階で滅却師(クインシー)的な霊圧操作を行うなどとは思わなかったのだ。

 

後に登場する滅却師(クインシー)の騎士団員たちは、霊圧を攻防で素早く切り変える戦闘法を使っていた。

おそらくは一護の中に眠る存在が、霊圧補助を行うだけではなく、コントロールも教えたのだろう。

 

そういえば……卍解で高速戦闘ほか色々仕込むんだから、今段階で少しずつ教えてもおかしくねえよな。そう思い至ったところで、俺は意識を失った。




 という訳で無事に一護に敗北しました。
原作より優勢に戦ったが、原作の先取りすると思ってなかったので負けた感じ。
冒頭の「てめえの常識を押し付けんなよ」 → さっそくブーメラン。

この段階で血装の亜流みたいな方法で戦うの反則だろ!? って感じですね。
死神としての戦闘方法で数値を冷静に図って戦っていたら……。
突如として変動値が急激に変わるクインシーの戦いをされてしまったと。

●十一番隊の編成
 外向きの席次は一応ありますが、内向きには副長・三席とか沢山います。
一角は副隊長級。弓親は三席級。射場さんは三席級から他所の副隊長へ。
同じように恋次も六席ではなく五席前後から、よその副隊長に移動。
十一番隊は、どいつもこいつも卍解できそうな連中ばかりという次第。

●今週の技
『飛燕』
 武装をジャグリングして、斬撃の方向を変えフェイント系奥義。
判り難くする場合は、右手→両手→左手と繋ぐ。

『雲雀落とし』
 最初のスイングとは別方向に切り返すフェイント系の技。
雲雀は外に出る時は巣から離れて出るが、戻るときは一直線に戻る。
そこを襲撃するという概念の剣理らしい。『く』ではなく『V』でもいい。

『蹴足加速』
 古くは伊賀の影丸、新しくはるろうに剣心に登場する加速技。
フェイントとしても使えるし、威力も上がるので便利。

『掌握』
 鍔競り合いなど動きを固定してから、自分だけが二の手三の手に繋ぐ手法。
最初の一撃を防いで安心しそうな相手に使うと有効。

『一の突き』
 刺突を大前提として、相手の攻撃は払いで軽く防御。
ただひたすらに突き、機先を制し長さでも制する槍の技。

●龍紋鬼灯丸オルタでの戦闘
 原作よりも火力・霊圧上昇が低く、体力・硬度も上昇している。
このままではパワー戦闘が無理なので、使いこなして大刀二刀流を行う。
背中の斧はむしろ尻尾であり、背中の防御と言える。


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逡巡と再起

●迷い

 ほぼ原作通りの流れだが、かろうじて自分の足で歩く余裕があった。

原作と比べて副隊長扱いになり強くも成れたが、とても満足できる結果ではなかったので不満はある。何しろ戦闘そのものは圧倒していたというのに、圧倒的な霊圧差で圧し負けたからだ。

 

「このままじゃいけねえよなあ……」

 今のままだと似たり寄ったりの流れに成る。

原作よりも強くなってるので悪いわけではないがスッキリしない上に、原作よりも上程度では役に立ってないのだ。

 

剣八戦・一護戦と負け越したが、原因はハッキリしている。

剣腕そのものは初代剣八である卯ノ花隊長を除けば俺がダンチだ。得意技に限れば隊長格の方が強い技もあるだろうが、有名な技なので対処はできる。

 

要するに霊圧。

霊圧による攻撃力と防御力の差が大きいため、ダメージレースに着いていけてないのだ。

 

(俺はスキル・マスター系の系譜だからな。このままだと、将来どうなるかまで予想できる当たりシュールだな)

 アーキタイプという言葉がある。

キャラ分けなどの分類みたいなものだと思えばよい。ジャンプで言えば技巧派のクリリンやロック・リーの系譜だと言えばよいだろう。

 

努力で多彩な技や修練を積み上げた技を誇り、なるほど見るべきところはある。

だが戦いが格段上の超人戦闘に移ると盤外で見守る他なく、解説屋になるのが精々なのだ。支援系じゃないから援護や治療役になれないのも痛い。

 

(問題はどの(・・)方法で解決するか……なんだよな)

 ありがたいことに、方法論は既に確立している。

ストーリーの種類というものはシェイクスピアの時代に掘り尽くされ、超能力物・バトル物などはクールジャパンと呼ばれた時代に出尽くしたと言われている。

 

魔王様がバイトするどこかのお話も、貴種流浪譚の亜流(エライ人が困って再起する話の一種)だと言えばどれほどパターンが解明されているか分かろうものだ。

 

(自分だけで何とかする方法は二つ。他人との協力に関しては色々と要因が……っと)

 一つ目は可能な事をさらに絞って、とにかく一点突破すること。

相手の突きに対してこちらも突きを放ち止めれるくらいの、神業ともいえる精巧さを目指すというものだ。夜一さんは鬼道でソレをやってのけるし、俺もチャンバラだけなら可能だと思うけどな。

 

二つ目は思考的なブレイク・スルー。

一護が原作に無い段階で血装を覚えたように、俺も原作で規定された壁を超えるのだ。ブリーチ世界のみで判断すると瞬閧くらいだが、他の漫画・アニメを考えれば手法は幾つかある。

 

転生で記憶が曖昧になっていく部分もあるが、入院生活で繰り返し読んだ漫画とかはある程度残っている。

HxHの念……は無理にしてもオーラ管理技術。あるいはナルトの八門みたいなリスクのある……と思索が達した段階で問題が起きた。

 

(ヤベ、そういえばそうだった。一護戦の後はコイツが居たんだ)

 ここで感じたのはある人物の霊圧だった。

状況打開に夢中になって忘れていたが、原作では軽いピンチが待っているのだ。今更こっちの霊圧を消して隠れるのも問題だろう。

 

「無様だね」

「お恥ずかしながら敗北してしまいました。せめて更木隊長に判ったことだけでも伝えようと恥を忍んで参る最中です」

 原作では見なかった、気が付かなかったで通したが……。

結局無理で剣八の介入で救われた形だ。他の理由を考える必要があるだろう。

 

「刃は腕の延長。腕は頭の延長であります。まずは更木隊長に報告する所存」

「ッチ。口だけは達者ダヨ。だがね。仮にも指南の役目を持つお前以上にあの野蛮人が気が付くとも思えないけどネ」

 直属上司への伝達が優先。守秘義務ではないが類似の教範を臭わせ切り抜ける。

しかし今になって剣術指南役(笑)に任命された問題がまた出て来るとはね……。

 

と、思ったところで少し考えを切り替えることにした。

先ほどまで考えていた案の延長だ。自分で実行可能な案はまた後で試せばいい。だが他人の協力が必要なことは状況をこねくり回して、事態をひっくり返さないと無理なのだ。

 

他人とのコネで成り立つ方法はおおむね三つ。

一つ目は合体技とはいわないが、バフを掛けてもらったり連携で何とかする微妙系。

二つ目は仮面の軍勢入りするために藍染の手下になるなり、浦原の協力を仰ぐ無理筋。

三つ目は目の前のマッドに文字通り魂を売り渡すという事だ。

 

「総隊長に切られたくないので命令系統の逸脱は出来ません。しかし……英知を持って知られる涅隊長のご協力を仰げれば情報精査と検討の手間が省けるかもしれませんが……」

「ホウ……。殊勝な心掛けだネ」

 まず総隊長の名前を出すことで、命令系統を盾に一方的な上意下達を避ける。

ブラック企業で身に着けた対処手段だが……。ここで条件次第で伝えても良いと臭わせた。仰ぐのは知恵を借りるという意味の『判断』『見当』ではなく、手段である『協力』『検討』というのがポイントだ。

 

それと大変重要な事だが、マッドはこれで護廷への忠誠心を持っている。偉大な自分がこれだけ尽くしているのだから、お前らも当然やるよなあ? ということなのだろう。

 

「ナニが必要かは後で考えるとして。良いだろう。先に情報を寄こしナ。それ次第デ考えてやる」

「ありがとうございます。ナリは死神でしたが、霊圧のコントロール方法が明らかに違いました」

 剣八と一護の邪魔にならない程度の情報を渡しておく。

人相のほか位置や考え方を伝えると問題だが、さっき覚えた程度の戦闘方法くらいは良いだろう。むしろ積極的に利用して情報攪乱と……未来への布石を幾つか打っておく。

 

「霊圧の?」

「はい。涅隊長ならば資料を持っておられるかもしれません。ご教授いただければ、対策の一環として疑似的な戦闘訓練を十一番隊で行いたいと思いますが……」

 先を促すが、報酬に関する確定が先だとお茶を濁しておいた。

ここで言う疑似的な実戦訓練というのは、その情報と技術を可能な限り身に着けてみて、アグレッサーよろしく教導戦闘で身内を鍛えるという意味だ。

 

「判った判った。手持ちの資料でよければくれてやるヨ。さっさと情報を寄こすんだネ」

「ありがとうございます。お手数をおかけするかもしれませんが粉骨砕身、必要とあれば護廷に血肉を捧げる所存です」

 OK出たがせっかくなので倍プッシュでレイズしてみた。

場合によっては人体改造とか、危険な道具の実験にも付き合うと述べておく。

 

そして説明するために手を広げて簡単に動きで示した。

右の指は四を示し、左の指は手刀を作る。

 

「死神は斬・拳・走・鬼などの系統で霊圧コントロールを覚えますが、奴は瞬時に振り分けました。おそらくは戦闘技術のみならず教育手段や生育課程が違うのでしょう」

「だとしたら恐るべきコントロールだネ」

 最初に指を四つ示し、次に右から左に手刀を動かしてみる。

四本の指は斬・拳・走・鬼を示し、右から左への動きは血装を示している。せっかく一護が目覚めた戦闘方法をばらすようだが、マユリは直接戦闘しないので良いだろう。陛下への意趣返しだと思っておくことにした。

 

「あまりにも死神と違いますし、もしかしたら旅禍だけではないかもしれません。イザとなったら自分の卍解に情報収集用の措置をお願いします」

「……っ。良いのダネ?」

 どうせバレるので今の内からバラしておく。

同時に対滅却師(クインシー)用の改造を施す事で、尖り過ぎて隊長には向かないという展開に持っていく予定。

 

そして何より卍解を持っているという他愛ない情報などではなく、ソレをソウル・ソサエティの為に投げ捨てる覚悟があると伝えるのが重要だ。

 

「連中だけならばともかく、組織立っている場合は卍解を破壊するくらいの対策はしているかもしれないヨ? 少なくとも私ならそうするカラネ」

「構いません。どうせ誰かがデータを取る必要があるならば、率先するのは隊長よりも自分ら尖兵でしょう」

 こうしてマッドによる改造、マ改造へのツテを作ったところで尋問を切り抜けることができた。

 

やはり状況は自分の思い通りにした方が気分良いよな(魂を売り渡すコストは考えない物とする)

 

●隊長格との戦い

 そして順調に進行していく。

おおむね原作通りに話は流れ、俺の出番を除けば一気に隊長格四人との戦いだ。

 

狛村隊長と戦ってみたかったが、流石に射場さんは見逃してくれそうにない。

となれば望みをかけるには、この人を倒して剣八よりも先に連戦するしかあるまい。

 

「頭の良い奴は直ぐ都合で考える。頭の悪い奴は真っすぐ行ってブっ飛ばす。刃が考える必要なんかないでしょう。どっちもおかしいなら隊長が付いた方に付きますよ」

「剣腕だけのお前が意見するたあ偉ろうなったのう」

 俺たちはともに斬魄刀を抜き、瞬歩で移動しながら睨み合った。

何かのキッカケがあったところで、解号唱えて戦闘に入るだけだ。

 

そして原作沿いの戦場に辿り着き戦闘をおっぱじめる。

 

「燃え上がれ、龍紋!」

 俺は心と刃を燃え上がらせると、刀身に刻んだ龍紋を赤く染めながら切り掛かる。

向こうもガードを固める為、サイズを一度刀に戻しながら上へ上へと昇っていく。

 

「渡る世間は鬼ばかり。油断をすれば背中より切りつけられる悪行三昧のこの世の中を。順逆糺して進むため、天道照らせ! 非理法権天!」

 どこまでがノリなのか、どこまでが解号なのかは分からない。

だがその斬魄刀、非理法権天は厄介だ。直接攻撃系ゆえに地味ながらとても強力な力を秘めている。

 

「ヒュウ!」

「何度も見ればよう判るわドアホウ!」

 俺の放ったフェイントを見切り、射場さんは枝分かれした部分で斬撃を受け止めた。

そのまま刃を流し、カウンター気味に突き刺してくる。

 

非理法権天は刺突・斬撃・打撃全てを実行可能で、盾としても使用できる厚みと形状をしている。

その厚さも重過ぎず軽過ぎず、サイズも変更可能。このため走術で疾走しながら戦い、あるいは片手で防御しながら拳術や鬼道を併用できる。

 

射場さん自身の能力はどちらかといえば体力傾向の万能型で。

自分の優位を活かしつつ、相手の不利を突くことのできる実に嫌らしい戦い方ができると同時に……。逆に言えば全てを併用しながら同時進行で漢らしいラッシュで攻め立てる事ができるのだ。

 

「技にこだわるあまり、一回撃ち終わってテンション切れたら止まる癖はそのまんまじゃのう!」

「射場さんはしつこいんだよ!」

 刃を留めても刺突攻撃が届き、防御に回り過ぎると膝が飛んでくる。

それをフットブロックで止めようとすると、『破道の一、衝』とバランスを崩された。

 

「ガハハ。こげな弱い術に追い込まれるたあ修行がたらんのう。まだまだ行くけえの!」

「ちっ! 空中歩くなよ気色悪い!」

 地味な能力なので上を取って優位を保つため、空中に小さな足場を作っている。

悔しいが斬拳走鬼を非常にバランスよく混ぜ合わせていると言えるだろう。

 

……だが、それだけだ!

拳術も鬼道も確実性とラッシュ性能を上げる為、威力が小さいが隙も小さな術を選ばざるを得ない。これまでの戦いで俺が大技を当てても、相手の霊圧防御を突破できないのとよく似ている。

 

「距離を取ったら大丈夫と思うたか! アホウが!」

「霊圧も飛ばせんのかよ! ……だが、好都合!」

 なんというか器用なことに、霊圧を飛ばす斬撃も可能らしい。

しかし霊圧攻撃は威力を向上させたりはしない。月牙みたいに食わせ霊圧上限が高いと別だが……あの器用さを考えれば、むしろ器用貧乏に成りかねなかった。

 

「飛んでくるのはお見通しじゃあ! ワシが小技使うとるのは、霊圧を貯められるけえよお! ごーっつい!」

「っ! 読まれてる!? だけどなあ!」

 ホント引き出しが多いなあ。と感心するところだ。

よく考えたらチャージしてぶつける技があっても不思議じゃないよな。

 

相当な威力の霊圧攻撃であることが伺えたが、比較対象が剣八や一護なので困るほどではない。

連中から見たら俺の技もこのレベルだったんだろうなあと苦笑した。

 

「そいやあ!」

「はっ! 剣風がなんぼのもんじゃあ! そんなんまとめてかきけしたらあ!」

 龍紋によって強化された体力ならば剣圧衝撃……ソニックブレードを放つことができる。何発か放つものの、所詮は物理攻撃。衝撃波が霊圧攻撃でかき消され土煙を上げながら戻って来るではないか!

 

「消えた? どこじゃあ!?」

 しかしこの様子は望んだ物でもある。俺は既に瞬歩で移動しており……。

 

「ここだよ!」

「なんじゃっとお! 相打ち覚悟かいな!」

 俺は消えてなどいない。

衝撃波が撃ち負けて消える時に烈風が起きることを予測し、土煙の中に飛び込んでいたのだ。

 

これは隠れることなど意図していない。

直線になる見え見えの軌道で飛び込むからであり、俺のレベルではまだ難しい霊圧防御から攻撃への集中変化を補うためだ。やはりHxHの攻防移動は修行しておくべきだろう。

 

「伸びろ、龍紋! 烈壊怒号撃滅破ってなあ!」

 俺は飛び込みながら龍紋を適当な2mサイズに拡張し、柄尻ならぬ石突辺りを持って振り回した。

 

そして一気に叩きつける!

既に剛腕と言って良い状態で放つ一撃だ。周囲に衝撃波ごと大上段からの唐竹割りを食らわせたのであった。

 

「ちょいと見んうちに危ない戦いするようになったのう」

「アイツの影響ですよ。今、朽木隊長と戦ってる旅禍。ってんですけどね一護……」

 射場さんは降参のポーズをして治療を始めていた。

それを見てもう大丈夫だろうと、俺は歩きながら薬を使いながら振り帰らずに笑って連戦を狙う事にした。

 

「射場さんの代わりに狛村隊長が加担しなくて済む言い訳に成ってきますよ」

「お前に相手が務まるかあ! ……間に合うとええのう。隊長は総隊長の為に動きたい思うとるはずじゃけえ」

 やはり射場さん達も今回の処刑騒ぎに微妙な気持ちだったのだろう。

どちらとも取れる曖昧な言葉だけを残し、特に止めることなく俺を送り出してくれた。




 という訳で強化へのフラグ回と、射場さん戦になります。

時間的に狛村隊長との戦闘時間はあまり残ってないので、弓親69戦を入れるかどうかってところですね。
しかし同じ副隊長でも恋次は一角・弓親の後輩で、檜佐木は当然の様に弓親を格下扱いしてます。
五席だから大したことないと思ったのでしょうが、恋次は元六席(この話だと五席前後ですが)。お互いに真面目に修行してれば何かしら侮れない技術があると思うのですよね。
まあ実際に対戦して自分は始解せずに、弓親だけ始解の状態だったので実際余裕だったのかもしれませんけど。

●強化案とマ改造
 強化プランは色々考えてましたが、概ね次の内容です。

1:一つの技だけを鬼の様に鍛錬して、別次元の上手さに成る
2:リスクのある限界突破を行う
3:霊圧の攻・防の高速振り分けを覚える。死神にはなくとも、新開発自体は可能なはず。
4:特殊な技術・装備を作る(3の振り分けの為に、クインシーの資料をもらう事も含む)
5:マッドサイエンティストに改造してもらう
6:仮面の軍勢化する(まず無理)

これらの中から現実的な範囲で自己鍛錬を実行しつつ、不可能な部分に関してはマッドにお願いする感じですね。なお前回の敗北は半分くらいこのため。
最悪、壊れても改造修復してもらえるようにする、クインシー戦では自分がみんなの前に卍解して、隊長格の代わりに鬼灯丸を奪われる……でも良いのですが。

●捏造した射場さんの戦闘方法と斬魄刀
 全てを兼ね備えた器用貧乏の刀と、それを補うチャージ能力。
この組み合わせを活かして、相手にフリで自分に有利な様にクレバーな戦い方をする。
十一番隊に居るころは、そんな逃げみたいな観察はせずに、果敢に突撃するラッシュ・キャラであるとしました。
イメージ的にはファイターズヒストリーの溝口。とヤンキー系の漫画。

『非理法権天』
始解:
解号:天道照らせ
効果:
 サイズ変形・形状変形。
斬撃・刺突・打撃・防御の全て(卍解習得後は遠距離攻撃も)が可能。
軽さと重さのバランスも良く、持ったまま走り回って戦う事が出来、防御しても折れることはない。

始解2:
解号:暁に刻め
効果:
 チャージ機能付霊圧攻撃。

『非理法権天、菊水刃』
 非理法権天の卍解。
個人戦には向かないので使ってないが、鬼道系の卍解で刀が旗指物のようになる。
旗になった鬼道の刃で攻撃することも、薄く広げて味方を守る様にはためかせることもできる。
なお、この卍解に目覚めた後は霊圧攻撃も覚える。

・漢魂(ヤマトダマシイ)
 攻撃系の技。
鬼道の刃が特攻服のような形状に変化し、拳でなぐったり走り込んで体当たりしながら攻撃できるようになる。
非理法権天と七生報尸魂の文字も当然、服に刻まれる。

・七生報尸魂(バンザイ)
 防御系の技。
鬼道の刃で防ぐ効果へリンクし始めることで、味方を守る効果をUPする。
このリンクには仲間も参加して、後方に居る仲間を守ることが可能。
そこまで書くかは不明だが、後にバインバインされて大変な目に合うかもしれない。
「癇癪玉みたいな娘じゃのう。おどれが如きワシが受け止めたるわ」


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それは余興などではなく

●短い逢瀬、殺し逢い

 来た道を戻る中で闇色のドームを見上げる。

射場さんと戦っている最中にできた物だが、時間的にまだ間に合うだろう。

 

そう思っていた所に待ち受ける影……狛村隊長だ。

 

「まさか鉄左衛門が退けられるとはな。腕を上げた物だ」

「相性の問題じゃないですかね? まだ総合力じゃ負けてましたよ。今はまだ、ですがね」

 縛道を上手く使われていたら負けていた可能性がある。

そんなことは言わなくても良い事だ。たられば何か仮定の話でしかない。白兵戦以外の鬼道で負けていたとしても、使わせなければよい話だ。

 

単純に俺の火力x速度が、バランス型の射場さんよりも短期決戦に向いていただけの話。

もちろん回道やら薬の準備のお陰で、特攻しても死ななければ何とかなるという算段もあったが。

 

「いずれにせよ、余計な手間を増やすわけにはいかん。東仙が本気に成っているようだしな」

「それなら早くした方が良いっすよ。隊長なら概念系以外は何とかするでしょうし……もう一人も駆けつけて来るから俺が戦闘を愉しめねえ」

 邪魔どころか手間ときたもんだ。

相手にならないのは正直判っている。俺が攻撃力特化型だが、速度以外のすべての面で狛村隊長は上位互換だ。欠点もあるがそんなものは格下に卍解を使わなければいい。

 

「驕りだな。貴公の腕は知っているが、まさか叶うとでも?」

「今はまだ、ね。ただ俺と違ってもう一人は鬼道も得意です。見たところあの卍解は縛道系で優位に立つものでしょ? 四方八方撃たれたら面倒な手間になるんじゃないですか?」

 余計な手間ではなく、面倒な手間。

想定以上の戦闘力だと告げてやった。弓親の総合力も上がってるし、やらないだけで表裏比興に戦えば剣八もヤバイまであるしな。

 

「それが驕りだと言うのだ。貴公とあの五席を合わせてもワシには届かん。まして……」

「五席では副隊長には勝てん……ですか? 言っときますけど恋次はこないだまでウチで六席でしたからね?」

 余裕かましていた狛村隊長が何か言おうとしたところでピクリと止まった。

おそらく弓親が檜佐木に勝利しつつあるのだろう。俺の霊圧探知は近距離に絞ってるつーか、攻撃範囲が限界だから判り難い。

 

「どうやらその様だ。さっさと片つけよう」

「そうすることをお勧めします。自分も精一杯の抵抗を……。っと。これじゃ弱気過ぎるな。踏み潰される虫にも五分の魂があることを知りやがれ!!」

 射場さんはバランス型なので攻撃型の俺にとって相性が良かった。

しかし同じタイプで上位互換の狛村隊長に対しては最悪だ。

 

そう思って弱気になりかけた自分を叱咤する。

目の前の小手先に捉われて小利口に動いた結果が今の自分ではないだろうか? 弱気な自分と共に中途半端な自分にオサラバするには、ここで奮起せずしてどうするのか?

 

正直な話、ブリーチはスパロボみたいな話だ。

スーパーロボット大戦で言えば、巨大ロボのスーパー系ストーリーにリアル系が混じり込んだようなイメージだと言えば良いだろうか?

 

剣術にこだわった自分はなるほど命中性の高い武器と、これまた命中を高めるコマンドがある。

だがしかし相手に対してダメージがなかなか通らないし、向こうの攻撃は無理すれば当たる。そして当たったらそれで終わりかねない大ダメージなのだ。

 

確かに俺は原作よりも強くなったかもしれない。

しかし龍紋鬼灯丸は原作の一角が持っていた特化ダメージよりも弱くなってしまった。

一発の華があり、原作ファンの中でも余計な能力がないシンプルさが美しいとまで言われた鬼灯丸ではなくなってしまったのだ。

 

「俺じゃ勝てない? だからどうした! そう言い続けてやるよ! そしていつか辿り着いて見せらあ!」

「良かろう! その心意気見せてみよ! できぬのであれば命と魂ここに置いていくがよい!」

 俺の気持ちとは別に、同時進行でソウル・ソサエティを巡る物語も進行している。

小を切り捨てて大を活かすことを疑問視しながらも、総隊長への恩に対して葛藤を押さえつける狛村隊長。

 

彼もまた揺れる自分を叱咤して此処に居るのだろう。

大義の為に揺れる狛村隊長と、自分一人の能力に固執する俺。

 

卑小なのは俺の方かもしれない。

だがしかし! 誰がそんなことを決めたのだ。そんなことは知らないと嘯いて俺は刀を抜き放つ!

 

「燃え上がれ、龍紋! 燃え上がれ、俺の心!」

 正直、ヒーローには成れやしねえ。

SFの主人公みたいにビームサーベル抜いて主役にも成れない。

 

「天譴!」

「シュウっ!」

 危機一髪だって救えねえ。何しろ俺の方だって危機一髪だ。

片腕だけ出現して切り掛かる巨大な手を、ギリギリで回避しながらカウンターで長刀を伸ばす。しかし予想されていたのか、容易く回避されてしまった。

 

だが、だからと言って何もかもが駄目な訳じゃない。

瞬歩で消えゆく大太刀を追いかけるように大ジャンプ。そして大上段からの唐竹割りの態勢に入った。

 

「迂闊! ワシは動いて居らぬぞ。コレはどうする!」

「そりゃそうだろうよ! 絶!」

 カウンターで刺突を浴びせず、放ってからの大ジャンプは最初から囮だ。

二撃目で無防備な空中に向かって放たれる横薙ぎの天譴を、強引に前転して回避した。

 

足場無しで行われる動き。そんなことができるはずがない?

何を言ってるんだ。死神は霊子を固めれば空中で戦える。コレはそこまでの技術じゃない。ただ一瞬だけ足場を作って、前転するために踏み出しただけのことだ。

 

「悪足掻きだな。体制が崩れてしまっては折角の剣技も……」

「もう既にやってるよ!」

 前転から前転に繋げて、そのまま回転切りに移行する。

背中を発射台に打ち放った担ぎ抜刀。普通ならば前転中は足場がないゆえに無意味な動作。だが重い長刀を振り新たに足場を作ることで、新たな前転と共にそれを成し遂げたのだ。

 

 右も左も化け物ばかり。

知った事かと嘯いて、俺は刀を抜き放つ。

 

「完成しろ新しい剣技! 絶歩、担ぎ抜刀!」

「くっ……!!」

 狼を喰らう抜刀が、振り抜かれた!

立ち上る血飛沫に俺はやってやったと笑みが零れたが……。

 

次に視界に写ったのは、狛村隊長の傷が胴ではなく腕にある事。

そして腕だけではなく全身を現した明王が居る事に、俺は少しだけ残念に思いながら意識を手放した。

 

「惜しいな。あと少し、腕ごと胴を斬れば勝てたのに……よ」

「惜しいな。貴公との戦いはもはや戯言に成り下がった。……元柳斎殿!」

 原作を思い返せば他愛ない事実だ。

総隊長に何かあったと判断した狛村隊長が、黒縄天譴明王で防御しつつ決戦の地に向かったのだと……俺は後から駆け付けた弓親に聞くことになった。

 

●オマケ『弓親x69』アレキサンドライト

 時を遡る事、僅かな刻限。

踊るような剣戟が周囲に火花を散らせていた。その鮮やかさを剣戟ではなく剣劇と言った者もいるかもしれない。

 

「大した守りだが、そろそろ諦めろ。足運びや守りに比べて攻めが足りてねえ」

「十一番隊じゃあ負けを諦めるのは死ぬ時だけだよ。それにボクは勝てる喧嘩で引く気はないんだ」

 剣舞にも似た動きで綾瀬川弓親は檜佐木修兵の攻撃を凌いでいた。

だが反撃は一切通らず、頼みの藤孔雀も複数の刃が一つも届いてなどいない。修平の方が始解を行っていないにも関わらずだ。

 

「喧嘩で猶更死ぬことはないだろう。それに五席が副隊長には勝てねえ」

「良い事と秘密の事を教えようか? 十一番隊の内部評価じゃ恋次よりボクの方が評価が上でね。それは彼が副隊長になった今でも変わってない」

 ピクリと修平の眉が動いた。

修平にとって恋次は霊術院時代の後輩で、特待生同士だったし今では副隊長同士だから実力は良く知っているからだ。

 

「もう一つ。十一番隊じゃあ斬拳走鬼は自分を鍛え、死んでも戦いに勝つために学ばされる。でも、そうは言うけど戦いはあくまで斬術の事なんだ。みんなド突き合いに命をかけてる奴らばっかりでさ」

 そう言って弓親は荒い息を吐いた。

防御に徹するだけ……いや美を表すだけなら剣舞を幾ら続けても疲れはしない。違和感を持たせないために攻撃も行ったから披露しているだけだ。

 

杖の様にするため一直線に固めて長く伸ばした藤孔雀の刃を、一振りして元の扇状に戻した。

 

「ここからが内緒の話。十一番隊じゃあ鬼道系の斬魄刀や鬼道主体の戦闘は馬鹿にされる。だからボクは曲光の使い方だけは必至で磨いたね。だから今ではこの術だけは詠唱だけでなく術名も破棄できる」

「っ!? まさか!」

 弓親は刃の根元をサラリと撫でた。

そこには比礼……腕や肩を守る護身布がハラリと閃いたからだ。

 

「さて、ボクの本当の斬魄刀の能力は何でしょうか? そして呑気に踊っている間に何をしたでしょう?」

「くそっ! 刈れ、風死!」

 もう一度踊るようなポーズを弓親がした時、修平は飛びのきながら解号を唱えた。

そして鎖鎌を振り回しながら、鬼道の詠唱に移る。

 

「破道の五十三。てん……」

「遅い。ボクの方はもう展開し終わっている。咲き狂え、瑠璃色孔雀……とね」

 鎖鎌の刃が無数の風を起こし始めた時、その動きは突如止まってしまった。

まるでナニカに絡みついてしまったかのように……。いや、訂正しよう。

 

修平の動きまで、ナニカに絡み取られていた!!

 

「霊圧が吸い取られる!? こんなもの、何時の間に!?」

「そりゃさっきだよ。霊圧を極力下げて剣舞より下にすることで、霊圧探知に反応しないようにしておいたんだ」

 だからこそあんな派手な動きが必要だった。

斬撃を何処に設置し、何処に埋伏しているか全て記憶しながら舞い踊る。

 

美の化身であり芸術である弓親にとってその程度のことは何でもない。

 

「馬鹿な鬼道はともかく解号までは……」

「おっと。それ以上は君が知る必要は無い。咲き誇れ、瑠璃色孔雀!」

 詠唱破棄すれば威力は下がるが鬼道は唱えられる。

術名は怪しいが威力を無視して最低限で良いなら可能かもしれない。

 

だが斬魄刀の解号までは無理だと口にした時。

弓親は今度こそ二つ目の解号を唱えた。それは霊圧を吸収して蓄積する一つ目と違い、ただ相手の行動を捨て去るためだけの解号である。

 

喋る余裕のある一つ目と違い、二つ目は一気に修平から余力を奪い去って気絶させたのであった。

無解号。それができるのは、卍解に至った者だけである真実を秘匿するために……。




 という訳で、ソウル・ソサイエティ編での戦闘を終了します。
今回は時間の問題で短かったので、弓親の戦闘をオマケで居れております。いきなり視点変更して申し訳ありません。

●狛村隊長戦
 射場さんとの戦いが速めに終わったのですが、それでも時間がないのでこうなりました。
もし一角が無傷だったら、起きていてもう少し戦ったかもしれませんが……。まあどのみち、剣八戦を抜けたようにその場で抜けたでしょう。

●弓親と修平の戦い
 すまんな、卍解できるなら解号要らんのだ!
という訳で曲光しながら、影響度を抑え込んだ瑠璃色孔雀の羽を埋伏しながら戦闘。
剣戟戦が終わった時には、全てが終了しているという感じの戦闘でした。

というか声優が福山潤だったので、コードギアスのルルーシュのごとく、隠しておいた画面全体攻撃したかったんですよね。
それとアヨン戦で雛森ちゃんがやった曲光・伏火・赤火砲を練り合わせたコンボ。アレを見た時……「これで瑠璃色孔雀隠せば強くね?」と思ったのもあります。

●今週の剣技
『絶歩』
 一歩だけの空中足場。ジャンプ中の軌道変更用。
以前に覚えている最中で上手くいっていないと書いたけど、その時の反省を技として利用したもの。
空中戦するのではなく、空中で加速・軌道変えるだけなら一瞬でも良いよね、と。

『絶歩、貪狼担ぎ抜刀』
 空中に一瞬だけ作った足場で前転しながら、思いっきりグルグル回転して突撃する技。
抜き打ちの速さと強さを兼ね備えるが、基本的に隙だらけ。
なお、元ネタは狼やワンコが行う抜刀牙だそうな。

懐天剣舞(かいてんけんぶ)
 主にガード主体の剣舞で、足さばきと防御を向上。
その間に鬼道で色々と攻め立てる技。
ぶっちゃけ戦国物で軍師が踊りながら登場し、扇を掲げて策を述べる動きである。

『無詠唱』
 魔術物作品で登場する高速詠唱。
詠唱破棄よりも更に発展し、同時に強度を最低限まで落とした物。
とはいえ強度の全く関係ない曲光でならば問題ない。今のところ弓親専用の技。


●瑠璃色孔雀の二つ目の解号と、卍解
始解2:
解号:咲き誇れ、瑠璃色孔雀
効果:
 一つ目の解号のダメージ効率・速度効率UP版。
吸収とかしないので、その威力・霧散化速度は非常に速い。
もちろんおしゃべりできないし、行動する端から吸い上げるので、引き千切るとかも難しい。

『皇覧瑠璃色不二孔雀』
 瑠璃色孔雀の卍解。
効果:
 詠唱した鬼道、鬼道系斬撃を再現する。
発射角度・強度・場所は使用した時と全く同じ。当然ながら霊圧は余計に必要。
上手く使えば強いが、術を保存して持っていくこともできないし、相手にヒットするとも限らない。

解説:
 唯一無二の素晴らしい美を知り、一は至高の美、並び立つ二はいない。
ゆえに自分は三であるという美意識。
素晴らしいモノを眺め、素晴らしい光景を共に作り上げるモノ。
自分で美しさを表現するが、真に美しきは他者の煌きであるという真理に到達しなければ卍解できない。
一角たちのあがきもがく姿を見て、自分はそれを見守りたい、共にありたいと願っていると気が付いたことで体得した。

●本体の姿
アラビア風 + スペイン風の皇帝装束をまとった瑠璃色孔雀。色彩は透明度の高い赤色と緑色(アレクサンドライト)
FSSを知っている人には、フィルモア皇帝の着ている服と言えば判り易い。
孔雀が持つ瑠璃色(青と緑の中間で艶のある色)とは、皇帝自身ではなく皇帝が美しいと定めた色の事である。


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雌伏と蠕動

●マッド まだ? 待て次号!

 事件後は傷を癒しつつ、幾つかの案件をこなしている。

一護の傷が落ち着くまで麻雀したり、現世に帰るまで修行につき合ったり、そして何より自分の強化案を練る為だ。

 

その間に起きた原作の差異、あるいは一角が知らなかった話として臨時編成の話があった。

十三隊のフォーマットを崩さず、実力を維持と運営を適正化するため、臨時編成の特別態勢を行う。

 

急務に適応した隊長が、必要なメンバーを選んでこれに当たるのだ。

まずは長の居なくなった各隊の庶務であったが……。原作で後に編成される日番谷先遣隊もこの一環だったのかもしれない。もしヘビーな戦闘であれば剣八が隊長だったろう。

 

「あれが滅却師(クインシー)の技術だったとするなら、いきなりは難しいと思います。しかし似て非なる物であれば何とか可能なのでは?」

「ホウ……。随分と挑戦的だねエ。私ならその程度は些事ダヨ」

 さて肝心なのは強化案だ。

血装は失われた技術と言うよりは時間をかけて開発され洗練されたものなので、コピーは難しいだろう。そこで考え方を変えてみたという訳だ。

 

攻撃型と防御型、自在に二つの切り替えをしようとするから難しいのである。

オン・オフで状態切り替えなら問題ないのではないだろうか? というか実際にマッドはやった。オン・オフは無理だったというより効率悪いからやらなかったそうだが。

 

「限定霊印に付属してあるヨ。好きなのを持って行きナ」

「こいつはありがたいです。みんなにも新型装備として紹介しておきますね」

 原作で副隊長以上が現世に出る時に掛けられる霊印に付属することで、効率をUPしたらしい。

よく考えたら霊圧をコントロールする技術の延長だし、吹き出す霊圧の方向性をまとめるにはちょうど良いのだろう。

 

なお俺も弓親も副隊長に勝ってるので、普通に刻印されている。

原作で一角に掛けられていたかは良く判らない。もっとも霊に影響与えないために放出する霊圧の出力制限するのだから、直接攻撃系の一角にはあんまり関係なかったと思うけどな(そもそもみんな通常の攻撃・防御・耐久は変わってない)。

 

(問題なのはグリムジョーの従属官(フラシオン)は強さが良く判らねーんだよな。藍染はその他大勢としか認識してないし)

 所詮はギリアンと言ってるが、破面前の外見は二人を除いて中級だ。

おそらく破面したのに以前の最上級に達してない奴はその他大勢でギリアン扱い(そもそもギリアンを駒にする必要もないが)。最上級を越えたモノを現行の十刃連中と比べているとしか思えない。

 

という訳で贔屓目に見るというか、想定する脅威度は中級大虚(アジューカス)にした方が良いだろう。

加入時期的に見ても後期だし、描写から言って十刃落ちした連中によく似ている。間違ってもギリアンだからと油断はしてやられるのは愚かである。

 

(十刃落ち級と仮定してそれを倒せる火力があったのだとしたら、火力が落ちたのは何とかしねえとな)

 加入時期と比較対象の問題で十刃落ちに成らなかったという可能性はある。

 

仮にそうだ。と仮定した場合だが……。

原作における一角は十刃に通じる火力があり、勝てずに倒されるレベルくらいの強さはあったのかもしれない。

 

だとしたら、俺の選択はその火力を維持したまま壊れないように耐久値を上げるか、壊れても回復するようにするだけで強くなったはずだ。少なくともマッドの協力を得て改造するとしたら、判り易い方向性だったろう。

 

(だとしたら……ミスったのか? いや、俺がしたい道の延長がコレなら考えるだけ無駄だ。ならばその状況で強くなる能力を探す)

 そういって以前にもらった資料をゴソゴソと引っ張り出す。

一護が滅却師(クインシー)の家系かもしれないという資料とか、そうだとしたら分家で色々と失伝したのだろという推測。そういったものをすっ飛ばして……過去に回収した滅却師(クインシー)の武装一覧があったはずだ。

 

「その程度の情報は暗記しておきたまえヨ。……いや、違うネ。いったい何を思い付いたんだい?」

「あったあった。こいつです。データがあるなら、ソレを参考にした方が良いと思いましてね」

 マッドの眼がスウーっと細くなった。

俺の思い付きに興味を覚えたようだ。この男は嫉妬心とか探求意欲が暴走しないうちは頼りになる。もちろん甘い汁を吸うだけなんて無理には違いない。しかし研究者なので面白い研究課題には興味を示すのである。

 

「ホウ……。随分と古い武装に目を付けるのダネ。今じゃ役立たずだろうに。剣術指南が何に目を付けたのカネ?」

 選んだ武装は滅却師(クインシー)の武装であるアイゼンだかハイゼンとかいうやつと、ヴォコ? などだ。

元から補助武装な上に、滅却師(クインシー)が千年前・二百年前と時代を経る過程で強化され、段々とオマケ扱いに成っていた武装である。

 

しかもコレは滅却師(クインシー)の霊子集積力を前提とした武装なのだ。試しに死神が自己の霊圧から発生する霊子だけで使ってみたところ、蓄積すらまともにできないゴミみたいなレベルであったという。

 

「霊圧を無意味に喰う部分じゃなくて、僅かずつでも『蓄積する』って所です。さっきのと連動させたら面白いと思いませんか?」

「アァ~。日常的に無意味に発散するリビドーを溜めて放出するということカネ? 悪くないとは思うが今更……いや、待てヨ? そうだ。それが良いネ。そうしようとも」

 最初はこのアイデアに対し難色を示したようだ。

どうやらマッドの視点だと、日常で放出する霊圧を封印ではなく貯蓄に回すというアイデアは不評なようだ。個人的には1%だろうが2%だろうが、MP溜めておけるのは強いと思うんだがなあ……。

 

なお、俺は一つだけ忘れていたことがある。

マッドはマッド・サイエンティストの略であり、涅マユリの略称でも愛称でもないのである。

 

こういう人間に発注する時は、ちゃんと指定して『コレをお願いします!』と口を酸っぱくしておかねばらなならなかったのだ。後にこのことを死ぬほど後悔することに成る。

 

●人狩り行こうぜ!

 俺の勝手な想像だが、今の龍紋鬼灯丸は原作時よりも最大火力が低い。

直接攻撃力が半減、俺自身の霊圧上昇による余禄を入れても七割と言った所ではないだろうか?

 

動かし易く成っていて剣技の連続性を入れても、相手がノイトラのような防御も高い奴だと厳しい。もちろん高速移動と回復も所持しているウルキオラ相手にはまず勝ち目がないと言っても良いだろう。先に攻撃されて死ぬ可能性を入れたら一発に賭けることもできないのだ。

 

「そこでコイツの出番な訳だが……。弓親、周辺を封鎖してくれるか?」

 マッドにお願いした霊印に付属する兵装だが、面倒くさいのか龍脈印(チャクラ)という名前になった。

活性化させると任意の能力一つを特化するか、あるいは複数の能力が微妙に上がる。これに問題も存在するが強力なバリエーションが試験的に存在する。

 

もちろん俺が使ってるのはデメリット付きの特化型だ。

 

「了解。多分だけど、他のメンツもそろそろ使うと思うよ」

「そうだろうな。その為の封鎖用簡易結界だし」

 今回のデータ収集と、情報漏洩を考慮した結界も用意してある。

マッドがデータ収集し易いようにだが、第三者の様子見を避ける為でもある。俺としちゃあ、ありがたい限りだが……。あのマッド、『誰』を想定してんだ?

 

とはいえデータは技術開発局だけで管理され、総隊長にわたる様になっている。マッドに口止めはしているので、これならば卍解を開放して問題ないだろう。

 

「俺の名前は斑目一角! てめえをあの世に送る男だ覚えときな! 流儀に反しねえなら、墓に掘る名前を聞いておいてやるぜ?」

「そんな必要は無いだろ? それに、これから殺す奴を相手に名なんぞ名乗るだけ無駄だ」

 ニヤリと笑って刀を抜き合う。

原作との差もあるからか、エドラドは最初から刀を抜いていた。

 

まずは小手調べて愉しむとしようや。

瞬歩による歩幅を途中で変えて滑る様に接近した。

 

「殺す奴の名前を聞いとくのが俺の流儀なんだが……。まあいいや。トロフィー代わりに名乗りたいと思わせてやるよ!」

「っ……そうか? だがまだまだ大したことはねーな」

 踏み込み速度を変えるフェイントに間に合わないと察したのか、掌に霊圧を溜めて防いだ。

奴の反撃を鞘で防ぎつつ、手の中でジャグリングして逆方向から切りつける。腰を落として顔を逸らせ後ろに下がって、これを回避したようだ。

 

「大した曲芸だな」

「曲芸さ。だから……騙されんじゃねえぞ!」

 限定霊印による制限を知りたいこともあって、先ほどと同じ流れを試してみた。

バックダッシュから前に出ようとするエドラドに対し、カウンターで踏み込みつつ奴の横からに回る。

 

瞬歩で軌道を変える際に、霊子で空中に足場を作る時の要領で一瞬だけ作成。

小刻みなステップは先ほどと同じだが、歩幅を大きくして足場を使った反復横跳びで代用することで高速化。半ば分身じみた残像を残して切り掛かる。

 

「無駄だ。残像なんぞ見切れる」

(ちっ。前は分身できたのによ。やはり出力が下がってやんな)

 瞬歩そのものはあまり変わらないが、足場を作る技はうまく効果を発揮していない。

あくまで踏み込み方向とタイミングを変える程度で、足場を蹴った時のような反動が生じないのだ。もし特へ移動するために霊圧を放つような移動をしたら、もっと如実に下がっただろう。

 

とはいえ内側に回す霊圧はそれほど変わっていない。

やはり体の外側に放つ霊圧こそが制限されるものなのだろう。おそらく原作での描写で判別を難しくしているのは、RPGなどで言うならレベルと魔力を両方とも霊圧と称しているためだろう。

 

だから霊圧を限定していても、隊長格が奇襲で死んだりはしない。

ただし霊圧を外に放出するような戦いをする場合。RPGでいうなら魔力で強化能力を行うバフを重視すると、能力が下がってしまうのだ。

 

ゆえに能力が限定されてはいても、白哉は目にも留まらぬ動きで主人公を倒した。

主人公や破面たちが攻撃を浴びせようと、レベルから来る体力・防御力まで落ちていないから恋次は死んでないのだ。

 

「なるほどな。お前は攻撃と防御を……」

「だから騙されるなって言ってんだろ」

 原作通りにジャグリングしながら攻防を行い、成れたところで顔にズバン。

ここで終わるのも味気ないので、体を回転させて原作に無いもう一撃を加えた。一回転して放つ斬撃がエドラドの胴も薙ぐ。

 

ここから先の流れは知っちゃあ居るが、もう少し味わいたいので残念がる演技を入れておこう。

 

「あ~あ。なんでそこで気を抜くんだよ。牽制を浴びせたなら次は本命だろうがよ」

「今のが牽制だと? ……ククク。俺が悪かった。気を抜いたら駄目だよなあ、一角」

 荒い息を吐きながらエドラドが刀を握り込む。

普通ならば致命傷のはずだが、奴らにはアレがある。

 

「俺の名前はエドラド・リオネス。確か殺し合う相手とは名乗り合うのがお前の流儀だったな」

「いいねえ。まだ先があるんだな? 俺たちの解放とは一味違いそうだ」

 奴が集中を開始した所で、俺は足を留めて観察を始めた。

ここで追撃して何もさせないなんてオチは俺たち十一番隊にはない。だいたい……奴らは解放すると体力が戻るしな。

 

「熾きろ、火山獣(ボルカニカ)

「……燃え上がれ、龍紋!」

 ここからこちらも始解。

さすがに硬度を上げた鋼皮(イエロ)を貫くのは限定解除していないと難しい。なのでさっさと解放しておこう。

 

ノロノロとして龍紋が染まる足が遅いのだが、俺の性格もあるが霊圧出力が落ちているからだろう。まあ原作の再現くらいはできるかと、刀を担いで奴の動きを待つことにした。

 

「待たせたな」

「オウ。んじゃラウンド・ツーだ」

 両腕に霊圧を溜めると真っ直ぐ距離を詰めて来る。

同じ従属官でもポウが防御と怪力による攻防型なのに対して、こいつは急上昇する火力とそれなりの速度・防御力を持ったタイプだ。多少はバランスに気を使ったという事だろうか?

 

ブリーチではよく同じタイプの敵と出会う事がある。

一角とエドラド、そしてポウ。さらに言えばポウと狛村隊長も攻撃型で、やることがかなり似通っている。

 

「その強さ。試させてもらうぜ!」

「できるならな!」

 相性の差で一方的にどちらかが勝つ場合もあるが、同じタイプだと厄介さが出てくる。

より能力の高い方が一方的に勝つ展開になるのだ。解放したエドラドと一角ではエドラドだし、卍解まで行くと一角。ここで壊れた事と他人に見せたくない事から、ポウには卍解できずに負けてしまった。そのポウだって狛村隊長が卍解すると瞬殺に成ってしまう訳だ。

 

「硬い……か」

「痛てえがそれだけだな。解放した俺の鋼皮(イエロ)の敵じゃねえ。非力なんだよ!」

 原作は強く踏み込む強烈な斬撃だけは防御したが、俺は直撃させた。

『く』の字型に曲げた斬撃で奴の表皮を切り裂いたところで、手痛い反撃を喰らってしまう。

 

燃え上がる腕から後方に炎が放たれると猛烈な勢いで殴りつける。

咄嗟に防御しても急所を庇う程度で、馬鹿みたいに吹っ飛ばされてしまった。グルグルと吹き飛ぶ過程で脚を着き、瞬間的に別方向に瞬歩を掛ける。

 

「そらあ!」

「くそが! ……その堅さこじ開けねえとな! 伸びろ、龍紋!」

 俺の吹っ飛ぶ方向に追撃を掛けたエドラドが、次なる攻撃を放ったところだ。

危く直撃を避けたが霊圧による余波が大きく、こっちは立て直すので精一杯。そこで長さを2mほど伸ばして長刀を構え直す。

 

「最初からその大きさで来いよ。もしかしたら俺が解放する前に倒せたかもしれねえぞ?」

「んな戦いのどこが楽しいんだよ。生憎とな。俺はチャンバラするために生きてるんだ」

 チャンバラするために戦うのではなく、それが第二の人生だ。

せっかく強靭さと俊敏さを兼ね備え、技の修練を磨くこともできる死神人生。何が楽しくてパーミッション(カードゲームの邪魔系戦法)せねばいかんのか。

 

「ったく。俺らを前に戦いを愉しみやがって」

「抜かせよ。死ぬ瞬間まで俺は楽しみ続けてやるぜ」

 さっきの状態で刃が通るなら、この状態で当てればそれなりのダメージだ。

というかブリーチの世界では格闘・剣術物で言う見切り距離の回避ではなく、いったん距離を離すレベルの回避だ。切り合いだって熱中するよりは、霊圧を上げてガードする方が多い。だからこそ高い防御を持つ奴も多いのだが。

 

「その思い上がり。叩きのめしてやるよ」

「足止めやがったか。大好物だぜ!」

 霊圧を溜めてガードしながら攻めるピーカーブ・スタイル。

ボクシングで前面防御をしながら攻め立てる堅実な戦い方だ。余計な動作を除いた最初の動きでの攻めと、ここぞと言う時に放つ大技が痛い。

 

俺の長刀を大振り用の武装と見たのだろうが、俺はこの長さでも普通に扱える。

だから腹なり脇を狙っても良いのだが、まずは足を留めての打撃戦こそ最大の楽しみだろう。……走り回ったらどこかで限定の問題が出るのもあるけどな。

 

(しかし強ええなあ。タイプが似てるだけあるぜ。今もこっちの技を冷静に見切りながら観察してんだろうな)

 奴の攻撃を丁寧にさばきながら、直撃したらマズイという前提で打ち合う。

長刀を回転させながら振り回すとか、走り込んで使うと思っていたのだろう。俺の動きに冷や汗を流しながらも、奴の方も丁寧にガードしていた。

 

とはいえ小刻みに殴られると痛いのはこちらの方だ。

特にジャブめいたラッシュには耐えられないので、殴られて態勢が崩れたところで肘が燃え盛るのを見た。

 

「諦めて死んどけよ! 粉微塵になるまでしたくねえんだがなあ!」

「ウルセエ! もうちっとは楽しませろい!」

 できた隙に打ち込まれるマグナム・ブロー。

振り抜いたところで両肘を燃やし、こちらが立ち上がるまでに追撃する気だ。

 

俺は咄嗟に足場を作って回転し、長刀をカウンター気味に振るった。

再度吹っ飛ばされる俺。斬撃で傷付きながらも無視して飛び込むエドラド。

 

ああ、チクショウ……楽しく成って来たじゃねえか!

やはり自分と似たタイプは良い。心が折れるどころか、ますます燃え上がって来る。ポウには共感できなかったが……もしかしたら奴は、一角ならば何か持っているはずという気概でも見たのだろうか?

 

「そうか……。そうだな。そうだな。俺と似たタイプなんだから相性が良いのは当然じゃねえか。これが良い。いや、コイツが良い!」

「……?」

 さらなる追撃に対し、『限定解除許可』が下りたと聞いたこともあって防御で済ませた。

打撃に対する霊圧防御のお陰で無様に転がって逃げずに済み、即座に動けるのがありがてえところだ。

 

「おう! 俺が勝ったらてめえを寄こせ。てめえを喰らって俺はもっと強くなる!」

「何を言いやがるやら。まだ勝てる気でいるとはな」

 他愛ない戯言だろうが奴はむしろ楽しそうに笑った。

獰猛な笑顔は猛獣であるかのようだ。笑顔とは獣が浮かべる捕食の表情であるとは、いったい誰が言ったのか。

 

「できるもんならやってみな! そいつが俺たち(ホロウ)の生き様ってやつだ!」

「させてもらうぜ。卍解! 龍紋鬼灯丸!」

 このまま最後まで肉弾戦で殺し合っても良いのだが、マッドとの約束もあった。

幾らなんでも嘘はいけない。それにコイツに対して、どこまで通用するのか。卍解した俺の霊圧と、奴の霊圧の相性を調べておきたかった。

 

他でもねえ、卍解の強化パーツにエドラドこそが最高の相性だと思ったからだ。

 

「……凄げえじゃねえか」

「世辞は良いよ。まだあんたが感心するほどの霊圧は出てねえ筈だ」

 原作より柄や刃が細身なので大太刀を二本構えているような印象がある。

そしてマッドが観察の為に取りつけた、特殊な死覇装までがセットだ。まるでどこかの邪眼使いみたいな不気味極まる目が服のあちこちにあった。

 

「俺も鬼灯丸もノンビリ屋でな。この龍紋が全部燃え上がってから全開に成る。対処するならそれまでだぜ」

「馬鹿野郎。そんなみっともない真似ができるか。……それに俺も、お前を喰らって今より強く成ってみたくなった。」

 普通の二刀流は太刀と脇差が基本だという。

とある漫画に合ったのだが、大刀二刀流は剛力の武蔵一人が可能な大技だったとか。フィクションかもしれないが、あの話を見たとき思ったんだ。

 

デカイ武器を自在に使いこなせば、それだけで十分強いってな!

純粋なパワーはただそれだけで暴力に成る!

 

「ヒュー!!」

「嘘だろ……そのサイズで始めより速いとか」

 瞬歩で接近、やはり序盤のやり直し。

しかし同じ半歩が少しずつ違い、揺れるような動きで斬撃を浴びせる。もちろんそこからはジャグリングをする必要などなかった。

 

迎撃に出る奴の拳を弾き、もう片方で切り割く。

それを防ごうとしたもう片方の腕を引き割いて、直撃こそ防がれたものの、途中で叩き切ってやった。

 

「ヤベエな。勝てる気がしねえ。……ただし、このままの話ならだ!」

「……来るか」

 エドラドは腕を落とされて観念したように見えた。

だが、俺の信じる奴ならばそんなことをしないのは判っている。

 

ゴトンと音がした時、奴が何をしたのか何となく察した。

 

「エドラド・リオネス、生涯最大の拳! 受けてくれるか?」

「ああ、こっちも受けて立つぜ」

 奴は鎧の如き生態パーツを切り捨てた。

両腕から迸る霊圧は最低限が肘から、残りすべてが腕一本に集まっている。加速に邪魔なものは全て抜ぎ去り、少しでも速く、少しでも攻撃に回すために脱ぎ去ったのだ。

 

例え戻れなくなったとしても、この勝負に勝ちたい。

原作を知ってる俺は逃げれば良いと知っていたが、そこまでするエドラドに勝ってみたくなった。

 

「オオオオオ!」

「はああ!」

 余計なことを考えずにお互い直線で。

ただ振り被って殴り、ただ振り切って切り裂く。

 

相手の速度に対し、カウンターで放つのは僅か手前で。

回り込まれたら死ぬことを判っていてなお、誰も居ないタイミングで右手を解き放つ。

 

対してエドラドもそんなことは判っていたのか、自分が斬られることを前提に拳を伸ばして来た。

俺の一撃が、反動など生じない速度で奴を切り裂くという前提で。

神速の一撃が奴を引っ掛ける事もなく通り抜けた後、その拳が俺に迫ったのだ。

 

「まさか左右に区別がねえとはな……。俺をお前の糧に……」

 

 俺は左右持ち替えて戦う時、確かに左右で頻度に差がある。

だがそれはあくまで鞘を防御手段として使い分けているだけだ。最終的に大太刀二刀流で戦うのである。片方だけが本気の斬撃であるはずがない。どちらも必殺の粋まで高めてあった。

 

原作と違って余力を残し、壊さずに勝利した。

だがそれはくまで、エドラドが防御を捨てたからだ。もし鎧じみた鋼皮(イエロ)で守り続けて地味に戦っていたら、トドメを刺す前に壊されていたかもしれない。

 

やはり攻撃力を上げる手段は必要だろう。

 

「アバヨ、お前は良い強敵(ダチ)だったぜ。俺の血肉になりやがれ」




 という訳で強化案の試験と、エドラド戦です。

●装備1:龍脈印(チャクラ)
とりあえず血装を参考にしても簡単にできるはずがないので、特化型の装備を発注。
攻撃力だけあがるとか防御型とか一点集中タイプ。または攻防型・攻撃と速度が緩やかに上がるタイプがあり、一角が使った消費や反動などの欠点があるバリエーションがあります。

限定霊印に付属して実験している装備で、完成する時は普通の死神が刺青みたいな感じで使用するはず。
その時はオン・オフもできるはずですが、間に合わせでつくられているので、霊印を付けてる人でないと発揮できません(解除しなくても効果は出ますが、一角は反動付きなので解除後にしかオンにしませんが)。

●装備2:龍血玉(カーヴァンクル)
 滅却師(クインシー)の装備を参考にした、霊圧を溜めておく装置の提案です。
まだ完成してませんし、本当に口にしたまま完成するかは不明です。というかその予定はありません。
というのもクインシーは霊子を吸収できるので高速・高効率で蓄積できますが、死神は普通に自分の霊圧の中からだけでためる事に成るので。

●装備3:追加装備
 エドラドの体をドロップ品として、装備として再利用。
普通は戦った相手の体を利用するような外道な事はしませんが、エドラドならOKしそうな気がしたので、事前に確認しておきました。

●限定霊印の効果と、エドラドに関する考察
 霊圧がレベルと魔力(MP)みたいな扱いをされるので、判り難いのですが……。
出力のみを制限しているとしました。でないと隊長格がワンパンで倒される危険性もありますしね。
ですから素地の力でなら問題ない。『支払った霊圧に付き、ダメージ・防御UP』みたいな使い方をしてると問題が出るとしています。

エドラドはイールフォルトたちと並んで、中級大虚らしい状態の画像があります。
イールフォルトは限定解除したあとの恋次が、最初から解除して全力だったら勝てるかどうか怪しい(動揺を誘ったから勝てた)と口にしています。
どちらもかなり強い破面であることが伺えますが、最低でも最大級大虚・隊長格を前提としている藍染からすると、物足りないのでその他。なのではないかと思います。
あるいはギリアンの二名と、藍染視点では大した差はないという感じで、「ギリアン程度」と口にしているのではないでしょうか。

とはいえ強さはどこまで行っても、十刃落ちクラス。
破面になった時期的な問題で十刃 → 十刃落ちになっていない。それも攻撃力と防御力の問題で、高速で動くメンツや、動かなくともノイトラには勝ち目がないと考えています。

●卍解、龍紋鬼灯丸ver1.2
 あくまで改造のための前処理を施し、観察用の手を加えただけ。
後から改造して直すような都合の良いことはなく、前処理が必要。
それもその処理を施すだけで、総合能力は下がる物としています(原作よりも強いので誤差ですが)。

前からの表現通り、柄と刃が細身で大太刀二刀流 + 背中に斧?
これに加えて、死覇装に眼の紋様が無数に浮かんでいます。

●執筆ペース
 ストックがメモ書き程度になったんで、少しペースが落ちます。
とはいえノリで書いてるだけなので、止まると危険なので、無理に考え込まずに書いていく予定に成るかと。


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アランカル編
幕間の終わりと、マ改造


●ブラック・レーベル1

 戦いが終わると次なる戦いが控えている。

具体的に言うと書類の山だ。破面との戦闘レポートをまとめて、講評付きで提出することに成っていた。簡単に言うと剣術指南役だなんて大層なラベルに相応しい仕事をしろと言う事だろう。

 

「意外ねえ。あんたがこういうの得意だなんて」

「十一番隊じゃ誰もしねーからな。あと俺の報告書に白紙を紛れ込まそうとするのは止めろ」

 オッパイオバケ……じゃなくて松本乱菊がコッソリ暗躍していた。

山ほどある書類の中に、自分が書くはずのレポートを放り込もうとしていたのだ。

 

「けちー~」

「ケチじゃねーよ。他はともかくあんたの感想だけは代行できねえつーの。ホラこいつだけでも埋めやがれ」

 そう言って小さなメモ紙を渡す。

こういう人間は全部やらせようとしても無駄である。やるべき仕事をギリギリまで放置し、場合によっては他人を巻き込んで自爆してくれる。もちろんタダ減らしてもやらない。

 

「松本を甘やかすな。全部やらせろ」

「ええ~」

「ええじゃないって。その代わり、今日中にポイントだけでもまとめてくれたら、こないだ欲しがってた本を資料として購入してくっから」

 日番谷隊長が注意してくれるが、乱菊はまともに取り合おうとしない。

そこで後払いの報酬として、ファッションやエステの本を購入すると約束した。

 

「え、いいの?」

「大前田にも当世風の資料を頼まれてるからよ。そのついでに土産と一緒に買って帰るだけ」

 あのデブとはそういう取引をしているので、俺の懐には余裕があった。

最初は技術開発室の方にお土産が居るかなと思ったのだが、あそこの女連中がどこまで欲しがるかは微妙なので、正直デブの頼みはありがたかった。

 

「庶務が得意なだけじゃなくて、マメでもあったのね。ホント意外というしかないわ」

「さっきも言ったが十一番隊じゃ誰一人としてしてねえんだよ。おかげで提出期限切れの書類を俺が処分してるんだ」

 方々に頭を下げて回って納期を何とかしてもらい、時間的に取り返しがつかない物を優先して片つける。それで余裕をひねり出したところを、自転車操業で間に合わせていくのだ。もちろん誰も手伝ってくれないので結局やるのは俺なのだが(なお弓親はお肌が荒れると言って手伝わない)。

 

「ああ、うん。ご愁傷さま。……ところで戦闘レポートって何を書けばいいの?」

「まずは気になった単語の確認。自分が戦った相手の概要と、始解がどのくらい通じたかとか。……後はこっちで他の報告と同じものを捏造するわ」

 鋼皮(イエロ)だとか響転(ソニード)だとかは適当に済ませられる。

だが相手の特徴なんかは乱菊以外には判らないし、会話したのなら引き出した言葉はやはり本人だけのものだ。

 

同じような感じで日番谷隊長の単語・雑感をレポートのトップに入れて、番号の管理基準から破面たちは最上級を十人揃えることを目標にしているのだろうと、適当に原作を交えてまとめておいた。

 

「……次はいつくらいに来ると思う?」

「今回のが偵察として、次が本命……いや。遅延戦術か予備工作ってところですかね。なら向こうもレポートを出して判断してからでしょうよ」

 相手が日番谷隊長とはいえ、迂闊に口を出せないので適当にそれらしいことを言っておいた。

 

 

 なんとか書き上げたレポートを資料ともどもまとめて、お土産の山込みで一度戻ることに成る。気が付けば各方面へのお土産も購入したので、手持ちからも割と散財した。

 

そしてブラック企業による圧迫面接が始まった。聞いてねーぞコラっ!

 

「戦力選定中か」

「はい。かつての最上級大虚(ヴァストローデ)が十人以上、これに特務型を加えて隊長格に拮抗できる戦力を目指していると思われます」

 自ら破面化して人間に近い形になるのは最上級大虚のみ。

しかし崩玉のお陰でパワーUPも図れるので、意外と人間形態になるやつが多い。まあ十刃に関しては最低でも、以前のバラガンやハリベル以上を目標としているだろう。

 

「特務? 戦力予備では無いというのカネ?」

「総隊長や更木隊長の前には幾ら戦力があっても無意味でしょう。むしろ炎に対する特殊な結界を張れる(ホロウ)などが当たると思われます」

 ここで失敗したのは原作知識をひけらかしてイキリ顔をしたことだ。

次々に質問が飛び出てくるので、適当な単語に苦労しながら予測したのだと見せるのに苦労した。思えばこれもフォローとしてはともかく、自分の目的の為には失敗だったのだろう。

 

「必殺は撃たせねば、いえ撃っても直撃せねば意味がありません。要求する水準はこちらが総動員した隊長格に拮抗し、時間を稼いで目的を為す事かと思われます」

「ゆえに次は時間稼ぎと並行して遅延工作をしてくると」

 現世で口にした話に頑張って色を付け、それらしい理論にしてみた。

総隊長もマッドも黙って色々考え始めたので、この理論そのものは何とか形に成っていたのだろう。

 

「総隊長。ここはもう少し詳しい話を聞きながら、対策を練りたいと思いマス」

「よかろう。斑目一角、代わりに指名したい者はいるか?」

 アレ? 気が付いたら俺のターンが飛んだぞ?

ルピ戦で何とか活躍しようだとか、むしろ援護に回って日番谷隊長に倒させ、少しなりとも運命を変えてやろうと思ったのだが……。気が付いたら盛大に自爆していたでござる。

 

「あえて言うなら一人。そいつの行動に問題があるとするなら、副隊長級の戦力であれば誰でも構わないかと」

 俺は溜息を吐きながら、この後の展開に都合よい人物を上げておいた。

 

●ブラック・レーベル2

 俺はとある隔離施設に土産を持って向かい、カウンセラーを兼ねた監視要員を遠ざける。

 

「斑目指南! ちょうど良かった、あたしもう問題ありません。ちゃんと……」

「藍染隊長の為に働ける……ですか?」

 俺がやって来たのは雛森桃に役目を押し付ける為だ。

ルピの能力は誤解されるようだが、実は攻撃を引き受けるタンク役である。ヘイトを稼ぐ言動はともかく、触手は広域攻撃力だけでなく斬られても平気なので倒し難いのだ。時間稼ぎにはピッタリの捨て駒だろう。

 

「それはっ……。いえ、藍染隊長だって何か止むにやまれない事情がきっと……」

「腐敗貴族が問題だとしても、過激過ぎやしませんかね。まあそういう一面もあるのは真実でしょうよ。っとコレは現世の土産です」

 雛森の状態はまだヤバイので、カウンセリングが必要だ。

それも表面上だけしか無理そうな段階なので、強引に正気に戻すことにする。

 

テーブルの上に置いたのは二つ。

一つは他愛のない万華鏡。もう一つはこのころから徐々に非電源系ゲーム業界で流行り出した、オリジナル・ダイス(サイコロ)である。いつ・どこで・誰が・何をした。と六面にプリントされていた。

 

「万華鏡? それとも幻灯機? ……じゃなくて、こんな玩具をもらっても……」

「人には魂の形があるとして、藍染隊長は探究者……解決者だと思います。解決するのが面白い、だから誰かの為に役に立って居たとかね」

 俺には愉悦の趣味はないので判らない。だから叩いて戻すのが精々だ。

だが格好良くねじ曲がっていれば、元の道と違っても良いのじゃあるまいか?

 

「藍染隊長はそんな面白尽くじゃありません! それに解決するのが面白いというなら、だったらなんで……」

「必要だからでしょう? 反乱するから過酷になるとしても、連れて行ってさせる仕事なんざ幾らでもあります。しかし雛森副隊長にしかできない役目はある」

 こういう精神状態の時、どうせこちらの話は聞いてない。

過去に経験があるが追い込まれて捨てられた場合は新しい目標に飛びついてしまうものだ。

 

「あたしにしかできない役目……」

「ソウル・ソサエティへの思いもまた真実であるならば、この世界の為に残す。そして周囲に自然と同情されるためにあえて斬り捨てた。違いますか?」

 本当に藍染がそう思っているかだなんてどうでも良い。

今の雛森が望んでいそうな答えの中から、こちらの望む仕事を押し付けるだけだ。

 

「護庭に残した仕事を任せ、世界を任せ、もし自分が復帰した場合は色眼鏡をせずに協力してくれる人が欲しい。ほら……ピッタリの役目じゃないですか」

「そ……そうなのかな。でも、でも、あたしが裏切ったら……他の隊長たちに信用されなかったら……」

 まあそろそろ引導を渡すか、間違った方向であっても、正気には戻ったみたいだし。

 

「藍染隊長ならどっちでも対処できるでしょ? 雛森副隊長に恨まれても監視されても、切り掛かられても、味方として側にいても良い。どんな未来だって笑顔で立ち向かうと思いますがね」

 土産のサイコロを転がしながら、藍染の性格は破綻していると口にした。

サイコロのようにその場で起きたランダムな事件に、解決手段を見つけたい。解決するために目的を欲している。手段と目的が入れ替わっているのだと告げたつもりだった。

 

しかしこの状態の雛森ならば、善意の塊として藍染は行動しているのだと思い込みたいだろう。

まあ俺にとっては雛森が立ち直って、いきなり戦力として行動してくれれば助かるんだけどな。

 

「……あたし、どうすればいいかな? 今のままだと……」

「療養中でも可能なことをするのはどうですか? その行動を見て上が判断してくれますよ。……たとえば、藍染隊長がやり残した仕事とかね」

 こうして雛森桃は立ち上がる。

あとは仕事を押し付けるだけなので、その手腕を発揮してもらおう。

 

俺は部屋を出がけに、隠れている誰かさんに話しかけた。

 

「……という訳ですが、どんな塩梅ですかね」

「マア監視を幾つ増やすのも同じ事ダヨ。私としては雛森鬼道指南が何を完成させるかと……君が持ち込んだ土産の方が気に成るんだがネ」

 用意したポストは俺と同じ指南役だ。

藍染がこちらで残した鬼道を効率よく習得するためのマニュアル造り。そして練り合わせた新しい鬼道。それらがあれば新しい力に成るだろう。

 

「他の連中が残した破片と……俺のはカンピンに近い形で保存してます。気の良い奴だったんで、なるべくまともな使い道をしてくれるとありがたいんですがね」

「それは良いネ! とても素晴らしいィィィ! 面白い使い道を探してやろうじゃないかネ!」

 心の中でエドラドに手を合わせ、俺は自分が強くなるため新しい戦いに向かう事にした。

一蓮托生で俺も酷い目に合うだなんて、思いもしなかったのだが。

 

●ブラック・レーベル3

 その後で得た収穫は良い事と悪いことがあった。

判断が困るのは、信じて送り出した雛森鬼道指南がルピの死体と共に送り返された事。

 

ルピ狙いは俺もしたかったことだが、どうも弓親と一緒にフルボッコにしてきたらしい。

笑顔で『藍染隊長が送ってくれた品ですから、収穫を逃すわけにはいかなくて』と言う辺り、送り返されるに相応しい覚悟ガンギマリである。そうか、まだカウンセラー外すのは早かったか~。

 

ていうか原作知ってるんだから、ワンダーワイス狙って倒せれば後が楽だったのにな(町が燃え尽きるけど)。

 

「黒化兵装。大虚以上の外殻とその力を宿した代物ダヨ」

「こいつはスゲー。流石の涅隊長、任せておけば頼りになる男。……とでも言えば良いんですかね? 模範解答を教えてほしい所っすよ」

 良い点としてはもちろん頼んだ改造が成功したことだ。

追加武装として攻撃力の爆上げには感謝の言葉しかない。

 

しかし、しかしである。どこの世界に大成功したら暴走するクリティカルがあるというのか!?

 

「何か問題デモ? 我ながら渾身の力作なのだがネ? 全身全霊で感謝してくれても良いのダヨ」

「感謝してるさ! これからも色々持って来ても良い! でもよ、必要もない部分が色々変わってるつーのは、どういうことっすかね!?」

 龍紋鬼灯丸に追加するのだと思っていた。

そのために少しばかり改造するのだと思っていたのだが……。一部がバッサリと切られ、大幅な改造を施されていたのである。誰がここまでしろと言ったのか!?

 

よく考えれば、こういうタイプはキッチリと仕様を注文しなければいけなかった。

この能力とこの能力が必要で、これだけはしてくれるな。そう言っておいて、残りの幅を任せるべきだったのだ。あえていうならば、その辺のポイントをミスった自分が問題なのだろうか。

 

「勿論、強化に必要だったからダヨ。納期は半分で訓練する時間もアリアリ、強化値に至っては実に50%から……」

「俺としちゃあ反動が強すぎるとか、消耗で押さえておいてくれると助かったんですが……」

 あーこりゃ駄目だ。

自分の自信作に陶酔していて、まるで話を聞いちゃいない。少なくとも失敗作だと判断するか、新しいアイデアが生まれるまでは再改造も無理だろう。

 

「ところで使い方は判るカネ? 現世に行った君ならば一目で理解すると思うのダガ」

「みりゃあ判りますよ。ここに霊珠か何かを入れてぶっ放すんでしょ」

 鬼灯丸が変わっていたのは、主に柄だ。

シリンダーが装着され、弾丸の代わりに宝玉を入れるような部分がある。おそらくは前に行ったクインシー用の武装を強化……いや、変異させて発展させたのだろう。

 

1996年に開発された天羅万象というTRPGに登場する、八連斬甲刀。

1997年に開発されたファイナルファンタジーⅧに登場する、ガンブレード。

2004年に放映されたリリカルなのはシリーズの、各種兵装。

 

リボルバー銃と大剣、あるいは魔法の杖を合体させたスーパーウエポンである。

俺の頼んだ火力強化案を汲み取り、想定する原作の龍紋鬼灯丸以上の火力と使い勝手を思い起こさせる武装であった。

 

しかし……これで戦うのはソードアクションに当たるのだろうか?

チャンバラをしたい俺にとって、首を三回転半くらいしたい疑問が投げかけられた瞬間である。




 という訳で幕間というか一角の強化案です。
ついでに指南役システムを確立するとか、鬼道コンボ良いよねと言う事で雛森鬼道指南役が爆誕。

●ブラック企業
 十一番隊って明らかに庶務してないよね。
剣八ルールを最大限に活かしてると思う。転生者である主人公は元ブラック企業の出身なので、思わず仕事してますが。

●原作知識の悪用失敗
 イキリ顔で戦術予想したら、手元に残されてしましました。
主人公としてはルピを倒したいなーと思ったのですが、できなくなったので、代わりにしたくなった鬼道コンボの為に雛森ちゃんを指南役に指名。
藍染さんの残した資料ネタを元に、色々と作業に追い込んで立ち治らせたら、妙な方向に……。

「ねえ! 誰でも鬼道練り合わせる方法思い付いたんだけど、普及する良い方法ないかな?」
「あー。そうっすね。財布……じゃなくてデブに金を出させますわ」
「フフフ。デュエリスト魂の形をしているだろう? トラップカードセット!」
「今だよ、儀式魔法おーぷん! 藍染隊長の遺産!」
 という感じですね。

●追加兵装とマ改造
 アランカルの外殻つーか鋼皮は強度高い上に霊圧通し易そうなので、追加武装のブレードに。
マッドは一角が前回に出した微妙なアイデアを元に、鬼灯丸に設置して弾倉を満たします。
八連斬甲刀でもガンブレードでも、デバイスでも好きな感じで呼んでください。

これを二刀流して戦うのが新しい戦闘スタイル。
長槍とか三節棍とかどこ行ったんだよって言う驚愕の展開。切り取られた柄は弾倉になってます。もはや背中の斧はただのバランサーですね。
スパロボのアルトアイゼン・リーゼを知っている方は、思い浮かべてくださると幸いです。
(なお一角の理想はガオガイガーのゴルディオンハンマー)


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空座決戦:前編

●卍解出来ない理由が増えまして

 気が付いたら鬼灯丸の形状が変わってた。

何を言ってるかスパロボ知らない人には判んねーと思うが、ゴルディオンハンマーを注文したらアルトアイゼン・リーゼに成っていた気分だ。

 

「こいつはヤベエ。弓親に見たら笑われる。てか素地を上げて刀だけで勝てるようにしねーとな」

 俺はチャンバラしたいんだ、ガンブレードやパイルバンカーで切り合えるかっつーの。

 

それはそれとして状況は進み、表向きは見捨てる算段とか言いつつ、織姫を奪われて助けに行く組と現世を守る組に分かれるのは同じ感じだ。

 

能力の問題で放置するのも問題なのでこれは仕方ない。

原作と違う所は柱を守る四人のメンバー構成が違う事、そして俺と吉良が戦力予備として相手の行動に差し込む戦力となっている事だ。

 

おっと、檜佐木が柱組のリーダーとしてその後の指揮を執ると明確に決まってるのも違うところだな。

 

「俺が優男を止める。吉良はデカブツを頼まぁ」

「妥当なところだね」

 ひとまず俺はフィンドールの元に向かった。

こいつが一番剣士として強そうなのと、倒した時のドロップ品として面白そうだからな。

 

なお、原作で戦うはずだったチーノン・ポウは侘助で完封されました(合掌)。

相性最悪だから仕方ないね。

 

「小賢しいな。しかし……新手はどうするのかな?」

「柱に向かうなら別に構わねえよ。倒したら俺らも増援に向かうしな」

 こちらの介入に対して連中は手元に残した二名を柱に向けた。

予備戦力は拮抗状態を作り出しつつ、相手の弱点を狙うものなのでまあこんなものだろう。戦略予備ではなく逐次投入というミスになってるのは、単純に破面が戦術研究に疎いからだ。

 

「できるとでも? オレの力は……」

「能書きは良いから掛かって来いよ。できれば最初から帰刃しておくことをお勧めするぜ?」

 親切に忠告してやると、フィンドールは下手な挑発と思ったのか嘲笑を浮かべた。

雑魚がこいつ何言ってるんだとでも考えてやがるんだろう。

 

「帰刃に値するかを採点してからだ。まずは副隊長くらいまでの力で遊んでみるか」

「ナメプは止めとけって。忠告はしたからな」

 俺は力を抜いて相手に合わせてやることにした。

仮面を剥ぎ取りながら迫る奴に対し、霊圧を載せずに剣腕だけで抑え込みにかかる。

 

「副隊長クラスの力で来るってんなら、遊ぶなよ。これじゃ四席相当ってところか?」

正解(エサクタ)。君が止められる程度の力に抑えたからな。次は並んで見せようか」

 すると仮面を追加で剥ぎ取りながら、俺の一撃に合わせて鍔競り合いで押し返し始めた。

フィジカルは高い方なので剣速さえ合わせれば、こうやって圧倒できるという事なのだろう。

 

「これが三席相当の力だ」

「まあそんな所だろうな。俺も地だけならそんなレベルだ」

 コイツは自分の能力を根本から誤解してやがる。

漫画を見た時も思ったが、こいつ本当にアホだな。物凄いポテンシャルを持ってるってのに、自分の能力を根本から誤解しているのだ。

 

まあ俺らも良くやる勘違いなんだけどな。誰かが言っていたが、なまじ基礎性能が高いばかりに学習する機会がなかったのだろう。

 

「では行くぞ? これが副隊長相当の力! エスト、エスト、エスト!」

「んじゃあこっちも副隊長相当で行くわ。ついて来いよ」

 更に仮面を剥ぎ取り霊圧を上げて来る。

俺も刃に霊圧を載せて副隊長相当の力で暫くチャンバラを愉しむことにした。

 

鍔競り合いを止めて助走の為に一度下がるのを、軽い踏み込みを重ねて切り込んでいく。

舌打ちと共に高速の刺突を繰り返してくるが、丁寧に捌いて全て一定方向に流してやった。生じた隙を突いても良いが帰刃の前なのでやめておこう。

 

「くっ……。剣が流される? 馬鹿な今のオレは副隊長の剣を……」

「勘違いだ。てめえの力は霊圧以外、最初から少しも変わってねえよ」

 なるほど強大な霊圧を載せているから速い、パワーも中々なものだ。

確かにこれならば副隊長が放つ斬撃並みはあるし、更に霊圧の出力を強化して隊長格相当までいけるなら自分は強いと誤解しても仕方あるまい。

 

ポテンシャルだけなら真面目でストイックな東仙が監査してることを考えると、あながち嘘ではないだろう。しかし考えても見て欲しい。本当に隊長格の強さがあったら十刃か、藍染直属入りしているはずだ。

 

「どうする? 次は隊長格か?」

「……っ! 喜べ、全力を出してやる」

 おそらく、こいつの能力は巨大なホースなのである。

性能そのものは高いし、特に『最初』の鋼皮やMPとしての霊圧を含めたポテンシャルは隊長格と言って良い。その上で霊圧出力も同様に上げられるのだろう。

 

「水面に刻め。蟄刀流断(ピンサクーダ)

「ようやくか……燃えあがれ、龍紋!」

 普段は堅い鋼皮で守りつつ霊圧を溜め、必要に合わせて能力を調整する。

ホースを握り込んで小さくすれば勢いを増すようなもので、攻撃手段として高圧水流で霊圧を放てるから物理的にも霊圧的にも相性が良い。

 

防御しながら指揮を取ったり増援として控えたり、ここぞという所で高速で火力を費やすならとても強いのだ。問題なのはこいつが、自分の強みを投げ捨てて徐々に強くなっていくこと。凄い能力に振り回されているといって差し支えないだろう。

 

「行くぞ死神!」

「来いよ、俺の名前は班目一角。てめえを地獄に連れて行く男だ。まあ地獄は地獄でも、マッドの所にだけどな」

 マッドにお土産頼まれてんだよな。でねえと鬼灯丸を戻せねえし。

 

形状まで改造されてしまったが、実の所、要求水準そのものは間違っていない。

原作の龍紋鬼灯丸に匹敵する攻撃力と、壊れ難くするガワ。そして霊圧を溜めておける霊子兵装。それらを全て一つで済ませるとは思ってもみなかっただけで。こちらの要求は全て満たしているので、注文した仕様はキッチリ用意するタチなのだろう。

 

問題は龍紋鬼灯丸の原型が無くなりかけている事なのだ。

徐々に解決するのではなく、一息にできそうだからやってしまったのだと思われる(天才のひらめきってコエー)。だが方向性そのものは間違ってないので、あのマッドが無料で直してくれるはずはない。

 

「フハハハ。こうなれば貴様などに勝ち目は……」

「白兵戦かよ、望むところだけどな」

 余裕ぶっこく癖は止めろ。

っていうか、こいつの能力は高台で構えるスナイパーと言ったところだ。狙撃手が自分を守れる以上の白兵戦ができるのが凄いのであって、自ら接近して来るとかマジ判んない。せめて前に出るならこっちの後方陣地を狙うとか意味を見せてほしい所だ。

 

とはいえチャンバラがしたい俺には好都合なので、黙って白兵戦につき合ってやった。

 

「先ほどの様にはいかんぞ!」

「同じだよ。力で対抗したいならせめて隊長格クラスまで霊圧を上げてこい。もっとも……そいつをやった時がてめえの命日だがな」

 前回と違うのは、連続で切り掛かりつつ零距離射撃でも狙っているのかな?

しかし砲口ならぬ爪先を向けるよりも先に、俺は先ほどと同じ様に反らせていく。あえて言うなら同一方向ではなく外側へ、槍でも使う円の動きで反らせている分だけこいつの戦闘力は上がっていると評価しても良い。

 

「黙れ! 貴様なぞにそんな必要は無い!」

「そうだ。それで良い。スゲエ能力に頼らずちゃんと工夫して来いよ!」

 右手だけではなく左手も使い、回し蹴りまで放って来た。

霊圧任せの蹴りだが重心は低く抑えて態勢を崩さないようにしている。あくまで右手を自由に使うための組み立てなのだろう。

 

おそらくフィンドールは仮面を取るたびに霊圧出力が上がるが、防護力が落ちている。

脱皮しながら自己強化していると考えれば、ちゃんと強くなるというのが事実で、原作に檜佐木が逆転した理由も判る。トリッキーな動きで切りつけられると、薄くなった鋼皮では防ぎきれないのだ。

 

以前にも言ったかもしれないが、霊圧は複数の意味が混在している。

レベルであり、出力であり、魔力(MP)でもある。フィンドールのレベルは固定だが、出力のみが隊長格までの幅で調整できるのだ。剣撃や虚閃(セロ)に載せるだけで脅威となろう。

 

だが能力を発揮し長時間戦えば戦う程、最初にあった鋼皮や魔力としての霊圧は減っていく。

その間に仕留めきれなければ危うくなるのだが……フィンドールは相手に合わせて追い詰めるのではなく、相手に合わせて遊んでいるのでやがて底が見えるのだ。原作において檜佐木序盤の苦戦にもかかわらず、あっけなく倒したのも頷ける。

 

「地上か……。おあつらえ向きだな。俺はまだ空中戦が苦手でね。ここならもっと速く動ける。虚弾(バラ)なり虚閃(セロ)を撃てる距離を譲ってやろう」

「ふっ……ふざけるな!」

 面白いことを思い付いたので、あえて自分から離れてやる。

前にも言ったが俺は空中戦がまだまだ得意じゃない。訓練はしてるが原作よりも少し遅いだろうか? まあ白兵戦距離に留まって戦ってる方が好きだから仕方ないけどな。

 

「これでオレの力は隊長格のソレと同格。距離を離したことを後悔するなよ!」

「撃ち合いに限ってならその選択肢はエサクタだ。地上での俺の速度と腕前が隊長格なら俺の勝ち、そうでなきゃてめえの勝ちだ」

 奴は腕を構えて射撃態勢、俺は腰を落として突撃態勢を見せる。

もしこれが西部劇だとしたら、サムライが刀を構えてなぜかネイティブに同情的なジャパニーズ・ウエスタンだろう。

 

「落ちろ落ちろ落ちろ!」

「馬鹿が。ただぶっ放すだけじゃさっきと同じに決まってんだろ」

 虚弾にも似た高圧水流の連射。

その一撃一撃はただの虚弾とは一線を画する。それをガトリングガンの様に放つのだから、普通に攻撃を受ければたまらない。

 

だが高速のステップでかわすだけでなく、意図して撃ちに難いコースに誘導すれば当りなどしない。右左のジグザグだけでなく、時折に右右・左左と入れて再び左右と最低限のスウェーしながら疾走する。

 

ここは地上なので小刻みに距離の違う半歩を入れる事が可能だ。

そして奴がキレたフリして何を狙ってるかも何となく判る。

 

「それはノ・エサクタだ。受けよ海王の一撃! ティヘラス……ネプトゥネアァァァ!」

 奴は最初の位置から飛行し、残骸を回り込んで特大の一撃を放つ。

スピード勝負に端から乗る気はないのだから、まあ気持ちは判らないでもない。

 

だけどな、そんなのは当然予想するだろ?

空中戦が得意だったら、残骸のある地上で戦う訳がないんだから。

何も考えずに相手の隙を突こうと思うなら、コレが最適解だと思うのだろう。

 

「見え見えなんだよ。せめて最初からその後ろまで下がるんだったな」

「何っ!?」

 俺は奴の方向にターンしてから、避けるのではなく特大のジャンプで済ませた。

てっきり回り込むか空中に一度飛び上がるものだと思っていたらしい。意表を突くってのはこういう事だ。仮に予想されていても、距離が縮まるから損はない。

 

「だが、この位置と障害があればまだオレの方が速やっ……」

「伸びろ、龍紋!」

 燃え上がる紋様の効果は既に6mのサイズでも振り回せるほど。

ならば僅かな距離など意味はない。確かに残骸は威力を損なわせるだろう、しかし奴が自ら剥ぎ取った鋼皮ほどの防御があるとは思えない。

 

(ちっ。これなら原作のリベンジに向かうんだったぜ。つい自分の中で比較しちまう)

 見れば吉良は余裕でポウを倒しており他の援護に向かっている。

こんなことなら相性の悪い相手(防御高くて剣戟が効き難い)を倒せばよかったかと思わなくもなかった。

 

とはいえ従属官なら余裕、原作よりも強く成ったのでそんなことは判っている。

あとは虎とマンモス……名乗ったっけ? を残すのみだった。

 

なんとか十刃に食らいつくとか大将狙いをすれば良かったかと、自分の定めた目標の低さに愕然とする思いだ。




 という訳でいきなり破面編のラストへ。

一角が関わってない分だけ、すっ飛ばした感じです。
次回で破面編を終えて、たしいたことしてない完現術編は全体をカット。
まあ一角や弓親はお互いが敵に回っても、笑顔で切り合って腕試しをしそうなので。
(白哉が月島さんズンバラリンするのと大して変わりないし)

●柱を巡る戦いと、フィンドール戦
 逐次投入と戦略予備は似て非なる別の単語。
という訳で、死神側は腕利き数名の配置が違います。
総合力に優れた檜佐木がリーダーで柱組の守りとその後の動きを管制。
対応力の高い一角とイヅルが遊撃兵として、相手の陣容を乱しています。
まあその後で向こうもことをするのですが、原作通り柱狙いなので似た展開に。


その上でフィンドールの強さを多少考えてみました。
シチュエーション的には、強さ調整できる者同士の戦いがしたかっただけです。

 解釈としては豊富なMPを持っていて、MPを支払うごとに強化。
普通の死神・虚がダメージ+3とか移動力+2に対し、支払う毎に追加する。
霊圧を食わせるごとに強くなる能力があり、他にも似た技が使える物が居ても
その幅がフィンドールは高く、調整し易いのだと考えました。

この考え方が正しいのであれば、仮面を剥げば出力・上昇値が上がる。
最大で隊長と同じ強さならば、確かに隊長格のソレと同等でしょう。
でもMPはガンガン減っていくし、装甲も減るのだとしたら?
原作で檜佐木が最初は圧倒されて、最後は簡単に勝ってる理屈が通ります。
(真面目な東仙に育てられた同じく真面目な檜佐木は、限りなく隊長に近い能力があるなら特に)

今回は最大出力で瞬間的に隊長に並べるだけなら一角と同じと仮定すると。
同じ事できるならば、真面目に戦って対人戦の経験値で一角が上回った感じ?

次はアヨンと戦う……のかな?
ちなみに総隊長ですが……。
「にわか作りの結界で、流刃若火を抑えられるわけもあるまい」
「ア……」
「ここで滅火皇子! 補正オサレを発動。代わりに知性とかなくなったんだ」
「カワイソーヤネー」
 という展開です。
万解使うなよ、使うなよー。ええいもう良い。。と同じような展開ですね。


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空座決戦:中編

●前座の終了

 戦略予備というのは相手の動きを止め隙を突くものだ。

ゆえに良い勝負をする必要は全くない。俺は強敵の足止め役、吉良は相性の良い大型を仕留めて回る役だと言っても良い。

 

状況はマンモスに対して吉良の加勢で優位に立った所。

ならば虎に対して加勢してからアヨンに向かうかと、従属官戦(ぜんざ)に始末を付けに掛かった。

 

「俺の為にとっといてくれたんすか? 悪いっすね」

「おう、来たか。すまんのう」

 作戦上、柱組は自分の相手が強いと分かったら無理せず防御に回ることになっている。

原作と違ったメンバーをしているが、射場さんが虎に対して遅延戦術に出ていたようだ。

 

「なんだ? 二体一なら勝てるとでも?」

「んにゃ。俺が引き継いで一対一だぜ? 時間掛けたくない場合は鬼道で援護してもらうかもしれねえけどな」

 と口にするが相手に成る気がしない。

もちろん俺が強いんじゃなくて、向こうが弱いのだ。

 

ここまで戦ってアランカルと戦うコツがようやくわかった。

破面化して戦闘訓練くらいはしてるのだろうが、ロクな検討もしてないので『その先』を考えたことがないのだ。大抵は物凄いパワーと特殊能力で片が付く。霊圧さえあれば勝てる相手としか戦ってないこともあり、互角の相手と戦った経験がないのだろう。

 

「随分と長い槍だけどよ……使いこなせるのか?」

「無理なら一度引っ込めるつーの。気にせずに掛かって来いよ」

 虎小僧は俊敏性を活かして高速で飛び回り、俺の動きが普通と見て有利を確信したようだ。

長槍はそのサイズで他を圧倒するが接近戦には弱い。

 

奴の速度ならば懐に踏み込めるし、なんとか対応できたとしても武装は手甲剣の二刀流。

防御したり飛びのく前に、切り刻んでやれるという自身があるのだろう。

 

「おう、一角。わかっとる思うが」

「当然っすね」

「何が判ってるって言うんだ? さっきまでのはただの様子見だ!」

 俺が円運動で6mサイズの槍を定石的に振り回していると、奴は高速で突っ込んできた。

それもこれまで以上に速い。口にした通り、飛び回っていたのは様子見であり、射場さんもそのことを告げたのだろう。

 

「使いこなせるってのはどんな状況でも使えるってことなんだよ。近場で使えねえ武器なんか戦場に持ち込むんじゃねえ!」

「同感だぜ。……お前もな」

 こちらの回転運動での防御よりも速い速度。

このままでは腹を切り割かれると言ったところで、俺は石突きを蹴り上げた。

 

本当の意味で目にも留まらぬ速度などそうありはしない。

奴のは単に予測できても反応できないほどの超高速と言うだけだ。突っ込んで来る手前に置いておけばよい。

 

「苦し紛れだなっ! 間合いが遠いっ」

「てめえじゃねえよ。狙ってんのはソコ」

 奴は手甲剣を二刀で構えているが、接近戦で二刀と言うのは滅多にいない。

なぜかと言うと一歩間違えば自分の腕を斬るので、あくまで片方は牽制でありもう片方が本命。サイズの小さい武器ならどちらもが本命足り得るが……それはあくまで同時攻撃を意味しない。

 

では……二撃目に備えている左腕が、突如として右腕を邪魔したらどうなろうだろう?

 

「はっ? なんで……」

「お前、同格の相手が自分を出し抜くってことを考えたことねえだろ?」

 狙ったのは奴じゃなくて、奴より前にある奴の左腕。

跳ねあがった右腕を切り割いたりなどはしないが、それでも邪魔になる。その間に右腕での攻撃は止まるし、左側面のガードはがら空きだ。

 

あとは無防備なそこに刃をぶち込むだけ。

蹴ったことで浮き上がった柄を構え直し、横薙ぎにぶちかましてやった。

 

「チクショウ! こうなったらエル・サー……」

「勉強になったな。生き残れたら修行でもし直してこい」

 ウルキオラみたいな第二階層だったらサンプルに欲しかったところだ。

マッドにデータを渡せばさぞやハッスルして功績ポイントをくれただろう。だがパワーをため込んでギアを変えるだけなんで、足を留めてる間に全力でぶった切って終了する。

 

「状況終了。親玉どもも動き出しそうだし、檜佐木。援護に向かっていいか?」

「ああ。特に松本さんのところが苦戦している。基本的にはそれぞれの隊長に付きつつ、そうでないメンツを中心に向かってくれ」

「「了解」」

 柱方面の指揮官は修兵なので報告ついでに確認すると、そのままOKが出た。

No.1~3を抑えているこちらの隊長格を援護するため射場さんたち副隊長を戻し、檜佐木を中心に残りが苦戦している乱菊たちの方に集中する。

 

「あっ。そうだ。女性陣への援護に向かうなら、正面に割って入るのは止めた方がいいよ。吹っ飛びかねないから」

「は……?」

 原作よりも体力を温存した上で、早く集合しているが最中に弓親が忠告してくれた。

お陰で思い出したが雛森は二重の意味でヤバイ。原作でも鬼道コンボをやってるし、藍染の残した鬼道関連資料を基にメきメキ腕を上げていたからだ。

 

(あいつ……ホントに大丈夫だろうな。プライバシー覗くのは好きじゃないが……)

 プライバシーは見るべきじゃないが、データなら見ても構わんだろう?

と適当な理屈をつけて、マッドから渡された監視用ツールを懐から取り出す。

 

霊圧のHP・MPを示すゲージはそれほど減っていない。

一番重要な精神状態も味方を示すグリーンのシグナルを示していた。

 

「松本さん、大丈夫でしたか?」

「防御に徹してたし何とかね。それに雛森が随分と頑張っててくれたし」

「そんな……。あたしは大したことしてないですよ」

 修兵が挨拶と傷回りの確認してる間に周囲を眺める。

……訳なのだが、なんか防御に使える縛道が随分と浮かんでるので半分ほど納得。

しかし残り半分。先ほど見たMPゲージと話が合わないので確認しておくことにした。

 

「雛森指南。アレを?」

「はい。鬼道歌留多の形で用意していた縛道を使いました。この後の戦闘を考えれば霊圧は少しでも残しておきたいですし」

 歌留多というのは鬼道を封入するアイテムの新作だ。

原作でアイテム型鬼道を使って瞬間起動するシーンがあるが……。アレを瞬間起動できないという限定する代わりに、封入できる鬼道のランクを上げている。

 

カードゲームを参考に使い道の広い万能型の素地を用意。

封入する鬼道を使い分けてストックしておくことができる優れ物だ。もっとも封入時の霊圧消費やら作成コストが高いので、試作時にはデブを随分と泣かせた(護廷御用達になったので元は取れてるはずだが)。

 

封入時の消費霊圧は従来よりも多いが、戦場で消費は抑えられる。

瞬間起動という最大のメリットは無くなったが、それでも詠唱するよりは早い。

これらを長所と取るか短所と取るかは人それぞれだが、俺たちは連携(コンボ)のやり易さと覚え易さの点で長所であると判断した。

 

「なん……だと。あたしらを相手にして後先考えていただあ!?」

「……気に入らない」

「てっきり男どもに守ってもらうためだと思っていたらこれだよ。お前ら、数も増えたしアレをやるぞ!」

 向こうでは女従属官三人がイライラしていた。

せっかく縛道の防御陣地を突破して追い詰めたと思ったら、ただの時間稼ぎで消耗もしていなかったとなればそうもなろう。

 

身内でリーダーシップに対してギャーギャー文句を言いながら、それぞれ納得しつつ左腕に右手を添えた。千切り取り放り投げるソレを邪魔するのは流石に余裕がない。

 

混獣神!(キメラ・パルカ)

 ねじり曲がり、混ざり合う腕と空間。

血飛沫と砂塵が舞う中で奇妙な化け物が出現する。

 

「何よアレ?」

 それはカモシカの足、獅子の腕、蛇の尾を持つ化け物だった。

巨体はその辺りの大虚どころでは無い。底知れぬ不気味さを従者に爆炎の冷めやらぬ空間より現れ居出た。

 

「……フ。フフフ」

「良くもやってくれたね」

「名前はアヨン。解放したあたし達3人の左腕で創った、可愛いペットさ」

 女従属官たちは少し離れたところで勝ち誇っている。

まるで出現させた時点で勝利は揺るがないとでも言わんばかりだ。

 

「随分とヤバそうだが、どうする?」

「なんだったら後ろの三人から倒しますか? 制御を止めさせれば……」

「いえ。無理でしょう。そういうことができるならワザワザ左腕なんか捨てたのに残っちゃ居ませんよ。少なくとも後方にすっ飛んで逃げます」

 どうだろう? 原作では三人娘を先に倒してないので何とも言えない。

そもそも総隊長がぶった斬って駄目だったから、耐久力も半端ないしなー。

 

「じゃあまともにやり合うしかないか。まずは様子見と行くか?」

「……そうっすね。ただ獅子の腕力とカモシカの速度、ついでに蛇の再生や探知力があるのだけは覚悟しといてください」

「そんなのどう対処すんのさ……」

 原作通り檜佐木が風死を構えたので、俺は最大級に戦力を見積もってみた。

色んな作品の獣王サマとか、そのくらいを想定して戦えばよいだろう。

 

「なあに。狛村隊長の卍解だって本人が姿隠せばそのくらいできるでしょうが。単にあの人がチキンなことせずに男らしく前線に立ってるだけで」

「そうだな。そう言われてみれば何とかなる気がしてきた。なあ」

「なあ。じゃありませんよ。どう考えても僕が前に出る前提ですよね?」

 オレの言い分に檜佐木は笑い吉良は苦笑してジト目を送って来る。

まあ今までの戦いを考えれば、キーになるのは侘助の効果だもんな。とはいえ……。

 

「心配しなくても俺が一人でやるつもりでいきますよ。ただうちの隊長と違って自分ってものを知っているんで、援護を拒ばないだけです。ただ叩くなら同じ場所じゃなくて複数個所ですね」

「そこまで言われちゃ仕方ないね。たまには男らしく頑張るとしよう」

「あたしたちは中衛と後衛に分かれ鬼道を使い分けて牽制ですね」

 やはりこちらが次々にボロボロになっていないのが大きい。

ここに副隊長を数人張り付けているのは原作と同じだが、救護の為に一番有効な吉良が動けないとか、次々に負傷するサイクルに陥っていないのもありがたい。

 

「でも珍しいね。一角が一対一で戦おうとしないなんて」

「見た感じでヤベエと判るつーか。以前に隊長たちと一緒に戦った、増えるワカメみたいな虚が居たろ? ああいうのと同じ雰囲気がするんだ。っていうか涅隊長の所で似たようなのを見た」

 確かに首がドンドン植えるというか、分身体だったか?

アニメで見たのか原作なのか、よく覚えてはいない。ただ個人戦とレイド戦では愉しみ方が違うだろう。

 

それに一対一を愉しむ気に成れないのは、原作で頑張ったのは副隊長たちだし、倒したのは総隊長だ。俺が俺がと主張するのは何か違う気がする。まあ無双するついでに倒せる相手なら気にもならないけどな。

 

「という訳で弓親。すまねえが今回は背中を頼む。切り合うでもねえ、見物できるわけでもねえとロクでもない場所で悪いがな」

「っ! 何言ってるんだよ。一角はそそっかしい所があるからね。ボクが傍で見ていないと」

 俺は卑怯者なのかもしれない。

誰の援護の手よりも、弓親が斬魄刀の真の能力でアヨンを倒すことをどこかで臨んでいる気がした。それを弓親が望んでいないことを知っていても、あいつが活躍するところを見てみたいからだ。

 

っていうか! 瑠璃色孔雀が一番有効だからな!

クリティカルする相手何だから元読者としては見てみてーよ!!

 

「さてと……。鬼退治ならぬ獣王退治と行きますか!」

 俺を先頭にした三角形の陣形。

連中もアヨンを先頭に逆三角形で睨み合う。共に戦うのは戦闘の前衛のみ。中衛以降は鬼道や虚弾(バラ)などで牽制し合っている。

 

『……』

「本当なら突撃してズドンで終わりなんだけどなあ……。まあ様子見はナシだ!」

 相手はデカブツ、俺は長物。

穂先は長刀ではあるが槍の様に刺突できないわけではない。だから本来であれば走り込んで突き刺すのが一番ダメージが出る。

 

しかし耐久力が高く再生するアヨンにそういうのは禁物だ。

やった瞬間に激高し、柄を持って俺事振り回される未来が見えるようだ。

 

「ホーウウウウ!」

 なのでここは地道に削り取る!

遠心力も利用したいところだが折角相手がボケっと動きを留めているのだ。隙が少なく直ぐに反応できる技で位置を変えながら攻撃するとしよう。

 

死神(シジン)剣!」

『ギ……? ギエエエアア!!』

 瞬歩で踏み込み切りつけると、そのまま吉良とは反対側に抜けていく。

直前までボケっとしていた癖に、そのままこちらを追いかけて来る。そして半歩を繰り返して小さなターンで再突入を掛けようとした。

 

『ルルルア!!』

「うおっ!?」

 そこから先は先ほどとは段違い。

大型生物は機敏でこそないが、その移動力は凄まじい。俺が突っ込んでいくはずだったコースに、猛烈な勢いで右ストレートが打ち込まれたのが判る。馬鹿正直にUターンしていたら直撃していただろう。

 

「速い!?」

「なんてスピードだ。しかもあの動き」

「こいつはヤバイな。吉良は縛道で動きが止まるまで斬撃中止。一撃離脱後にも誰かが縛道で援護。生半可な攻撃は効きそうにねえ。破道での攻撃は、斬り飛ばすなり傷口を焼いてみる程度で頼まぁ」

 なんというか凄げえなあ。

レンジ・インしそうになった瞬間に、ノータイムでワンパンくれやがった。しかも掠っただけでなんてダメージだ。

 

俺の攻撃力が総隊長に及んでないのも大きい、奴も衝撃を気にせずに動き回れるのだろう。

 

「一角大丈夫?」

「この程度ならな。しかしマジで平常時の更木隊長とおんなじくらいの攻撃力がありやがるぞ。もしかしたら狛村隊長の卍解くらいあるかもな」

 さすがに眼帯外した剣八程はないが、それでも無視できるダメージじゃない。

挙句に獣じみたリーチと移動力の組み合わせは尋常じゃない。俺の6mと変わらないくらいに踏み込んで来やがる。

 

このままでは面倒なことに成るし、隊長たちと十刃の戦い次第ではロクなことにならないだろう。

仕留めるルートは大きく分けて三つ。総隊長を動かさないなら二つだ。

 

「俺は牽制と削り役に回る。奴が足を留めるか侘助の効果が効いたところで畳みかけるとして、雛森は大技の準備を頼めるか?」

「何とか行けると思う……。でもみんなに当てずに準備するには、罠を仕掛けないと」

 一つ目は気乗りしないが俺の卍解。

もう一つは原作で雛森がやった大規模爆破を、術を変更することで火力向上だ。

 

当然、俺は卍解なんか見せる気はないので、雛森に頼むことにしたわけだ。

総隊長の流刃若火並みの火力は出せずとも、切り割いた端から焼き払えば話は変わって来る。英雄ヘラクレスがやった十二の難行で、再生力を持ったヒドラを焼きながら戦ったのを参考にしようと思う。

 

「ってことは暫く空中戦か。苦手なんだがなあ……。あ、仕切って悪いな檜佐木」

「いや、構わん。お前の眼と勝負勘は確かだし……俺も気に成ることがあるしな」

 指揮官役は修兵なので、あまり口出しし過ぎるのは問題だ。

しかし原作知識によるデータ予測の裏付けと、やはり指南役という前提条件が効いている。

 

様子見をして鎖鎌で縛っていたらどうなっていたか、修兵自身が俺の動きを見て判断しているのも大きいだろう。

そこで俺に戦闘を任せ、自身は指揮官として全体の戦況把握……特に東仙隊長たちの動きを見守っているに違いない。

 

『ギィィィアアアア!』

「効いてる!? 行けそうじゃない」

「さすがに同じ場所を攻撃し続ければ効いてる。あと少し削れれば……」

 それから周囲を走り回りながら攻撃を続ける。

時に直線、時に左右に揺れながら神経を使って翻弄。吉良が縛道の援護を受けて侘助を直撃させたこともあり、同じ場所を斬りつけて腕を切断することに成功した。

 

すぐさま鬼道で焼き払って再生を阻害しようとするのだが……。

ちょっとしたアクシデントが起きたというか、忘れていたことが一つある。

 

「一角、行けそうだよ。このままいけば……って一角?」

「あ、ああ。悪い。デカイのもらっちまったな」

 相手の攻撃も当たるときがあるので、ダメージそのものは回道でスルーしながら戦っていた。

だから反応は鈍らないし、最低限の回復を薬や仲間の治療で行えばそれほど動きは鈍らない。

 

だが俺は忘れていたのだ。

痛みは信号であり、危険を知らせるサインでもある。

 

同格の相手ならばお互いに運動量が減るので問題ないが相手の方は全く鈍らないので、小さなダメージの累積はいつか動きを縛ることに成る。そこで避けそこね、大きなダメージをもらってしまったという訳だ。痛みによる低下は無効化できても、血肉の欠損による運動量までは無効化できないのだ。

 

「マズイな。使うか……それとも最後の一撃に賭けるか」

 卍解するか、それとも諦めずに白兵戦での勝利を目指すか。

そんなつまらないこだわりが最悪の状況を招いた。

 

諦めてスタコラし、一時的に下がって回復してもらえば仕切り直せたはずだ。

その間を素直に弓親と吉良に任せれば、二人とも縛道で障害物でも作って時間稼ぎをしてくれただろう。

 

転生したのだから原作に無い状況で活躍したい。

運命を変えてみたいという浅ましい思いが、ここで活躍したはずの仲間から手柄を奪い、そしてやってはいけない状況に追い込んでしまったのだ。

 

『ホーーーアアアア!!!』

「しまっ!? そこでソレをやるかよ!」

「一角!」

「避けろ、斑目!」

 アヨンは攻撃を喰らった場所に打ち、侘助を複数回喰らった方の腕を千切って捨てた。

そして開始直後と変わらぬ速度を取り戻して勢いよく迫る。油断と言っても良い。俺の動きが鈍るまでソレをやらないだけの知能があるとは思えなかった。

 

ここに来て全てを集約するという作戦の組み立てをアヨンが行い、俺に迫ったのである。

 

そして……。

 

「咲き狂え!! 瑠璃色孔雀!」

 燦然と輝く光の蔦が、アヨンを雁字搦めに拘束する。

その動きを縛り花をを咲かせつつ、引っぱってターゲットを変えようとすると、その部分の蔦を切り離してコレに備える。

 

「馬鹿野郎……そいつを見せたくなかったんじゃないのかよ……」

「一角が死ぬよりはいい。よっぽどね」

 俺が既に知っていたと口にしてしまった時、弓親の背中は一瞬だけ震えた。

その時にどんな顔をしていたか見はしない。だが相棒なのだ。余計なことは言って欲しくないのだと察することができる。

 

俺の我儘のせいで、けっして俺だけには見られたくない始解を見せてしまった。

俺が卍解したときはあくまで情報遮断を行う結界の中。その時とは比較にならないはずなのに。

 

(……そうか。原作のあの時……。使おうとしたのは俺……いや、一角を。自分が守りたい物の為だったんだな)

 クインシーとの決戦の最中、ゾンビ化した隊長格が襲ってきた。

その時に一瞬だけ瑠璃色孔雀を使おうとして、途中で倒されたシーンがある。咄嗟のことだと思っていたのだが、一角を守ろうとしたのだと思えば辻褄が合うような気がした。

 

「いかん綾瀬川! これ以上は止められん。そっちに行くぞ!」

「心配無用。これで終わりだ……咲き誇れ! 瑠璃色孔雀!!」

(……っ俺の知らない解放……。そうだよな、これはお前の戦いだ)

 先ほどよりも強く輝き、霊圧を吸い上げることでアヨンの動きすら無力化する。

それでも動けるのはアヨンだからこそ。しかし容赦なく降り注ぐ縛道や破道が一歩一歩その動きを鈍らせる。

 

その戦いの前に俺の出番が今更あるはずがない。

罪滅ぼしにここで卍解して参戦し、見せたのはお互い様だなんて恥ずかしいことができるはずがない。

 

弓親に自分への誓いを破らせた痛みを背負って、我儘と油断への罰を改めて噛みしめる事にした。




 という訳で中編です。
次回に藍染・仮面の軍勢の決戦を見ながら破面編の終了予定。

●ジオ・ヴェガ戦とバラガンの従属官戦
 戦い慣れたので無双しました。
従属官は強さが微妙なのが悲しい所ですね。
原作よりもアッサリ片が付き、檜佐木司令官の指示で戦力が4・2で移動。
女性陣の元に4名が援護に向かい、やはりサクサクと片つけに入ります。
アヨンさえ居なければ、簡単に前座が終わったことでしょう。

●雛森と鬼道歌留多
 カードゲームを参考にした、封入し易い鬼道装備です。
基本的には、東仙や檜佐木が使ってる装備の、ランクが上な代わりに問題がある物。
装備の調達コストにMP的な作成コスト、一番重要な瞬間発動が無理に。
他にも使い勝手がよさそうに見えて、他人にデッキを貸しても駄目という欠点があります。
しかしながら、それでも強力な術を割と簡単に使えるので強いという感じですね。

雛森はこういうのを藍染の資料とか、一角(転生者)の知識を利用して作成。
鬼道指南として活躍を始めた感じです。
最期に一角が持っていたアイテムは、ヒスイで出来た人形で
雛森のHP・MP・精神ゲージなどを示しています。

●アヨン戦の前後
 女性陣が余裕ぶっこいて、それに腹を立てて使用。
こちらが負傷サイクルに陥って居ない事と、原作知識による介入。
最期は弓親が瑠璃色孔雀を見せて終わりました。

何パターンかの戦いを書いては書き直したのですが、前回使いたくないと言って
即座に卍解というのもどうかと思い、フラグを幾つか入れた感じです。
それと他のキャラの手柄を奪いまくって、一角が活躍するのもなーと。
(最初から隊長より強くするなら、一人で活躍しても問題ないとは思いますが)

1:一角が卍解を使うフラグ
2:弓親が卍解を使うフラグ
3:アヨンが吸収対策を覚えるフラグ
4:?

というところですかね?
次回は藍染さまが無双して、一角が真っ二つに成る話になると思います。
「斑目一角、暁に死す!?」的な感じで。


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空座決戦:後編

●見切り

 俺が負傷退席から回復して復帰するまでの間に、状況はドンドン進行していく。

基本的には原作通りで、こちらのメンバーが重傷化していない分だけ僅かに良好だ。

 

僅かに。その表現が我ながら笑えて来る。

No1~3と相対する戦いはバックアップが居るのが大きく、負傷者も即回収。特にバラガン戦は鬼道での表面防御を雛森たちが思い付いた事で、皮一枚・二枚分ながら安心して見ていられた。

 

「だが……こっからだよな」

 仮面の軍勢が応援に駆け付け、十刃全てが倒れてなお藍染は余裕を崩さない。

これから始まるフルボッコ・タイムが、実は茶番でしたとか、逆にフルボッコにされるだとか知っていると苦笑しか出なかった。

 

「一角、もう大丈夫なの?」

「ああ。弓親のお陰でな。帰ったら酒でも奢るわ」

 ここで卍解して参戦することに意味はない。

藍染なら簡単に対処するだろうし、弓親が瑠璃色孔雀を見せた代償にも成りはしないだろう。

 

俺のプライドを守るためにだなんて、安い決意過ぎるだろう。

やはり俺が卍解するとしたら、クインシー戦で誰よりも早く実行すべきなのだ。例えば原作で未知の敵に対して解放した、雀部副隊長の様に。

 

だが、それはそれとして出番がないわけじゃない。

原作よりも一護が温まっていない。時間なり犠牲なりがもう少し足りないのだろう。原作に無いその時間を稼ぐのだとしたら、俺以外に居ないだろう。

 

(さてと。そろそろかな。頼むぜ雛森ちゃんよお)

 懐から取り出したソレは、先ほどと変わらない筈だった。

MPゲージが減っているがそこから止まっている。接近戦が始まると予想された時点で見守る体勢に移行していると思うので……。おそらくは縛道でのブロックなり、回道での治療の為に控えているのだろう。

 

そう、ここまでは……だ。

 

俺はその時に備えて、解放を一つ引っ込め斬魄刀を通常時の長さに戻した。

何度も振るってきたサイズ。長さも大きさもその触感さえも、手の延長の様に良く理解していた。理想を言えば無解放なら何万回か経験が増えるが、そちらでは流石に威力が足らないのでしょうがない。

 

「……っ!? みんな……」

「始まりやがったか! どいてな一護!!」

 味方のラッシュが始まったのに、一護が驚いた顔をしている。

原作を見ていればその理由が判るが……。この時の俺には、もう一つ確信があった。

 

俺は瞬歩というよりは霊圧を込めたジャンプで飛び込むと、大上段で構えて雛森の姿をした存在に切り掛かる!

 

「ちょっ! 一角。何してんの!」

「……」

「雛森だったら避けられねえよ! なあ、藍染!」

 乱菊が驚いている僅かな間に、俺は振り切ったはずの刃を跳ね上げる。

袈裟斬りから小さな弧を描いて振り上げられる逆袈裟は、Vの字を描いて雛森の姿に吸い込まれるはずだった。

 

先ほどまで手にしていなかったはずの斬魄刀で防がなければの話だ。

 

「……どうして判ったのかな?」

「前と同じだよ。歪めた幻影でも完全催眠でもこの際、大した差はねえ!」

「馬鹿な……それじゃあこの藍染は一体……」

 他のメンバーは原作通り驚き、重症状態の雛森保護に忙しいので無視する。

差があるとしたら、興味深そうに首を傾げる藍染と、見抜く方法を探り始めている総隊長のガン付けくらいだ。

 

「その対策は十分にしたつもりなのだがね。少しだけ興味が出て来たよ」

 藍染は少しだけ悩んだフリをして、チラリとこちらに目を向けて刀を構えた。

おそらくは話を聞いてやるから語れ、無視するなら鬼道で範囲攻撃に巻き込むと言った所だろう。判ったから脅すなよ。

 

「麻雀で俺はイカサマしなかったけど、実は盲牌も得意なんだよな。アレって周囲を探る訓練に丁度良いだろ?」

 盲牌というのは麻雀で牌の裏側を触って確かめる技だ。

それだけなら手品みたいなものだが、次に自分が手に入れる牌を予約するように触れて確認すれば、次に何が来るかを予想できるイカサマになる。

 

「後はあんたならどうするかを考えて決め打ちしただけだな。鏡花水月は条件付きで五感以外も誤魔化せるんだろ?」

 鏡花水月は五感を支配下に置く。

だが口にしていないだけで、実は霊圧なんかも誤魔化せるはずだ。その為には相手の事を良く知っていたり、その差を他の人間も知っているという常識を覆さねばならない。

 

「なるほど。雛森君の裏切りを警戒せずに、ワザワザ戦場に連れ込んだのはその為か」

「千差万別の状態で相手を探すよりもよほど確実だからな。あんただって苦労して失敗するよりも、確実に成功する相手の方が良いはずだ」

 さて、条件さえそろえば霊圧なんかも誤魔化せる。

位置情報や移動ルートなんかも、瞬歩や疑似転移で誤魔化せる距離なら何とかなるだろう。

 

だが混戦しており、お互いに必死な条件で可能な方法は?

しかもこちらは完全催眠対策をしている可能性があるのだ。その対策している相手を確実に黙すには、どうしたらよいのか?

 

その方法は、チェスで言うキャスリングが確実だろう。データと位置の完全入れ替え。

何もかも良く知っている相手なんか都合よく存在しないが、雛森のように手塩にかけて育てた相手ならば別だ。この場合は雛森を良く知っているというよりは、自分が誤魔化せる範囲の霊圧情報になるように育て上げたのだ。

 

良く似た人物がもう一人に変身するよりも、二人で同じ別人に変装した方が見分け難いという手法によく似ている。

 

「なっ! 斑目……てめえまさか雛森を囮に!」

「そう言わんでください。藍染風に言うならその方が無実は証明できますし……ちゃんと対策くらいはしてますから」

「形代人形とは……。今時古い手法を使うものだ」

 俺が取り出したのは雛森のマーカーだ。

雛森が監視を拒んでいない以上、手元のマーカーが彼女の減りゆく体力を示している。そしてそこまで雛森が覚悟しているのである(藍染が自分を有効活用することも含めて)。

 

ならば雛森の受けたダメージを、肩代わりする人形を用意しても良いだろう?

古い呪術だから人形を傷つけると、雛森が簡単にケガするけどな。だから人形そのものは此処にはない。

 

「呪術自体はマッド……じゃねえや涅隊長が見つけてくれましたよ。それが使えるというヒントはあった。鬼道はもともと死神の使う魔法みたいな技術の事じゃない」

「そう。かつて最古の死神たちがその手法を確立するまで。鬼道とは力を持つ幽霊・幽鬼の類を操る呪術という意味だった」

 鬼が力持ちというのは近年の話だ。

千年前、さらにその千年前には鬼とは幽霊などの霊的存在の事を示していた。

 

つまり、鬼道というのは死神の力を有効に使って術を放つという物なのだ。

鬼道を応用することで、形代人形を実際に使えるようにするのは可能だろう。だいたい、義魂技術・義骸技術ってものもあるしな。

 

もっとも仮に成立しなかったとしても、体力ゲージが減り切るまでに介入すればいい。

原作で死ななかった雛森を助ける方法が、僅かに増える程度でも意味はあるだろう。そういう意味で、死ぬ予定の人間に術を掛けるよりは確実なのである。

 

「面白いね。だからといって二回目があるとでも?」

「それはやってみないと判らねえだろ? それと知ってるか? 古い死神の中には未知存在の名前を付けて、管理とかを始めた連中が居るらしいぜ? 俺らが出来ても良いだろうよ」

 話は終わりだとばかりに藍染が構えると、俺も構えて相対した。

きっと恐怖よりも笑顔なんだろうなーと自覚しつつ、もう少し時間を稼ぐために剣術合戦に持ち込む。

 

「分類が終わるまで私が付き合う義理はないな」

「棒振りごっこにつき合ってくれたら、菓子のオマケくらいは出るかもだぜ!」

 藍染にソレへ付き合う必要は無い。

だが何となく、こいつは付き合ってくれるような気がした。そもそも剣術指南って地位は原作に無い。藍染が興味を覚え研究を開発させたかったくらいだろう。

 

だから奴自身ではなく、移動しているであろう場所に向けて振り抜く。

三連撃……。ただし全く同じ場所、俺が藍染ならばこう構えているという場所に向けて寸分狂いない軌道で斬撃を浴びせた。

 

「っ! まさか君如きに見抜かれるとは思わなかったな」

「俺だったら鏡花水月を使った剣術を磨くぜ。例え直接戦闘に向かなくてもね。それが斬術って奴だろう?」

 ガチンと奇妙な音がして、奴の斬撃を跳ね返しつつ逆撃。

三度目の斬撃が無防備になった場所に吸い込まれるはずだったが、小さな音がして体を背けたのが判る。

 

そして元の位置には誰もおらず、刃を向けた先に奴が居た。

そこが俺を葬って次の場所に移動し易いポイントだからだ。あえて言うならば、似たような場所よりも俺を総隊長への盾にし易いってのもあるかもしれない。

 

「俺なら最低二つは技を作って、いつでも使えるようにするね。一つ目は今と同じ攻撃用。もう一つは切り込んできた奴を切り刻むために」

「正解だ。褒美を渡せないのが残念だが……刃を延ばすなり可能ならば卍解しないのかね?」

 俺も奴も冷や汗を浮かべているが、理由は全く違う。

俺は一歩間違えば死ぬという事であり、奴は戯言につき合ってノーミス・クリアを逃すという程度に過ぎない。霊圧で防御すれば無傷なのに、剣術ごっこにつき合ったせいでカスリ傷がついてしまう程度の事だった。

 

「生憎と俺が完全に把握できるのはこの状態なんだ。間合いもこのくれえだな」

 例え洗脳されても間違う事のないのは龍紋を解いた状態までだ。

刃を伸ばしたり、卍解すれば騙されるどころか反撃で斬られてしまう。藍染の斬術は天井に届いているのだから。

 

だから始解だけでカスリ傷をつけるしかない。だが、それでいい。

その程度の傷であっても、時間を稼ぎつつダメージを与えられるなら意味があるだろう。カスリ傷を何万回と繰り返せば倒せるかもしれねえだろ?

 

「なかなか興味深かったが、まあそれもタカが知れた。他にも予約が控えている。座興はこれまでだ」

「そうかよ! 俺はまだそのつもりだぜ!」

 基本的に藍染の剣術は隙を持たぬ無拍子という技、これとスウェー移動の組み合わせだ。

催眠やその下位である幻覚と併用し、自分の姿を誤魔化しながら隙の無い斬撃を浴びせる。余計に振り被らなくとも、相手が油断している所に叩き込めばいい。

 

ゆえに戦いの初動は三つ。

何もない場所に幻影を残して移動しながら斬りつけての攻撃。

斬りつけて来た相手の攻撃をスウェーでかわし、斬りつけて攻撃。

最期にその場で留まり、催眠や鬼道を併用することだ!

 

「はっ!」

「君は勘違いをしている。予定を決めるのは私だ。それと……」

 僅かに動いた気配。

俺を斬るためにどうしたか? それとも元の位置に戻った? いいや移動はしていない!

 

おそらくは刃を立ててブロックしつつ、反撃で鬼道。

そう思って強打を行い、鏡花水月を跳ね飛ばしに掛かった!

 

「久しぶりの痛みだな。やはり素手で掴むのは無茶があったか」

「な……に?」

 気が付けば手で刃を握り込まれていた。

猛烈な霊圧防御で傷もついていない。痛みがあったとしてせいぜい衝撃の分だけだ。それも先ほどと違って、ワザと受けるつもりなのでプライドには瑕がつかない。

 

問題なのはどうして右手が空いているのか。

そして……どうして奴が左手に鏡花水月を構えているのかだった……これではまるで……。

 

「君に興味を覚えたのは、同じ技に至ったからだよ。私はそこで止めるのが効率良いと規定してしまったが、君は色々な技を生み出し続けた。選ばなかった道の先を見たようで面白かったよ」

「チクショウ……そういうことか。当然……想定すべきだった……な」

「一角!」

 右手の刀を左手に持ち替える技。

俺は曲芸の様にジャグリングしたが、藍染は鏡花水月で代用した。

 

斬魄刀が直撃すればそれだけで勝てる。

そんな戦場では俺もこれ一つで済ませることもあった。もっと素質のある奴ならば同じ術理を覚えていてもおかしくはない。

 

「ぬかった……ぜ」

「一角。そこで寝ておれ。おぬしの見切りはとくと見せてもらった」

「ならばこの茶番につき合った甲斐があるというもの。そろそろ本番といこうか」

 急速に意識を失う俺の脳裏に、ビリビリと震えるような霊圧が感じられる。

 

おそらくは総隊長が刀を抜き、他の連中を下げつつ前に出たのだろう。

 

その後は殆ど原作と同じ流れであったが、気を失う直前、原作よりも楽しそうな藍染を見たような気がした。

それなりに努力したはずなのに、刀を振るえば霊圧や霊圧だけで勝利して来た奴にとって、努力した甲斐があったと笑ったのだろう。

 

原作よりもマシな未来を目指してみたものの、ソレが報酬と言うのはいささか皮肉が過ぎるような気がした……。

 




 という訳で破面編終了。

藍染さんに挑んだものの『鏡花水月を見切った』という結末以外に得るものなく負けてしまいました。
まあレベル違い過ぎてしょうがないのでしょうが……。
原作は一護がいろいろ言ってましたが、この話では『見切られた以上は使う必要がない』という理由で使わなくなります。
対策されてる可能性があるのにやる必要は無い普通に戦えば勝てるんだし……という感じですかね。

●雛森のデータ
 原作知識だけでは不安だったので、理論付けの為です。
リアルタイムで更新される情報なら、鏡花水月で誤魔化せません。
五感以外にも霊圧も誤魔化せるとして、その相手は限られているはず。
雛森ちゃんを使ったのは、日番谷隊長を煽る以外にも理由はあったのかな?
と適当な理由を付けてみた感じになります。

形代人形とかは呪術物の小説・漫画などから適当に。
今頃技術開発室では、並べた幾つかの試験体の内、雛森人形が盛大に壊れてるんだろうなあと。
義骸とコピーした義魂とかの費用考えたら効率は悪そうな技術だと思います。

●藍染の剣術
 原作でやってる消えながら斬撃とかに理屈をつけてみました。
最期に右手から左手に持ち替える斬撃だけオリジナル。

一角も使える技を使えない筈はない。
むしろ、同じ技を思い付いたから興味を覚えて剣術指南に推薦してみた。
一角が剣腕で上に立ったものの、霊圧問題で勝てずに努力してるのを楽しく見てた感じですね。


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修業編:前編

●差異が引き起こす大きな流れ

 藍染との戦いが終わった後、原作との差異が少しだけ生まれた。

大きな流れが2つと、それに付随する小さな流れが幾つか。

 

その流れが何かは追々説明するとして……俺は絶賛水没中だった。

他の重傷者ともども薬液の筒に放り込まれている。生態科学とかロボ系のアニメに出てくる光景を思い出すぜ。

 

なんでかって?

そりゃこういう時に頼れる織姫ちゃんが、とある理由で消耗してたからだな。

 

重傷ではあるが危険水域に無い俺たちはマッドの所で薬液漬けなわけだ。

もうちょっとしたら四番隊に連れて行ってもらえるのだと信じたい。連れてってもらえるよな!? 俺自身が改造されたりしねーよな!?

 

「それで、そっちは問題ないんだな?」

『うん。今のところは平穏無事。雑多な連中はこないだの一件で自分を保てなくなってるし、狂騒した奴らは魂葬したものね』

 弓親から現世の話を聞きつつ、完現術にはまだ時間があることを理解した。

自分の目で見たわけでもないが、いきなり『月島さんのお陰でね』なんて言わないだけ良いと思っておく。

 

『という訳で今はゆっくり傷を治してなよ。話したりするだけなら今でもできるみたいだしね』

「おう。こっちは暇だしな。何かあったら相談には乗るぜ。んじゃ」

「……」

 こうして通信を切るわけだが、隣にいる連中からの目線が気になる。

随分と熱く灼熱の視線が弓親に注がれていた。

 

「なんだ。てめえらそんなに弓親の事が気に成んのか? 飯の席くらいは紹介してやれるが」

「アホか! あたしらのアヨンをやった奴と一緒に飯が食えるか!」

「……どちらかといえば苦手」

「好みでいえば犬の隊長さんの方がまだマシかねえ。逞しくて良い男じゃないか」

 薬液に使ってるお仲間の中に、従属官三人娘が居る。

原作では織姫に治療されて慣れ合わずに去って行ったのだと思うが、彼女が消耗していたおかげでこうなっちまった訳だな。

 

なお同じ様な筒に狛村隊長も収容されており、お互いにマッパなので見舞いに来た女性陣に男見物されると非常にツライ。

 

「てめーら何を呑気に飯だの合コンの話をしてんだよ!」

「合コンかは別にして、ハリベル様を交えて色々交渉しないといけないのは確かだけどね」

「エネルギー補給できるかはともかくとして、食事そのものには興味があるわね」

 三人娘の戯言は置いておいて、ハリベル達は捕虜というより残党として有条件降伏した形だ。

即時、滅殺せよとの意見もあったのだが上の方から(零番隊か?)ストップが掛かったのもあって、一時的に処分待ちとのことだ。

 

しかしこの処置は継続し、虚圏を穏健派に統治させたいという思惑で固まっていた。

世界のバランス問題もあるのだろうが……。

 

「度し難い愚図どもだネ。次の脅威に対するために、少しでも資料に成りそうなモノはかき集めておくんだヨ」

 という方便をマッドが口にした為である。

半信半疑の連中が多い中、原作を知っている俺としては、その頭脳がどういう理屈で結論を導き出したのかとても気になる。

 

冒頭で述べた、大きな流れの一つとはこの話に関連するのだ。

 

「しかし本当にク……アレが再起するのでしょうか?」

「そんなことも判らないのカネ? やれやれ。一から説明するのも面倒だ。斑目指南、説明してやりたまえ」

「え、俺ですか?」

 技術開発局では既に滅却師(クインシー)が敵になるものとして箝口令が敷かれていた。

俺は所属が違うのになあと思いつつ、薬液のある場所で会議されてるので逃げられない。

 

というかいきなり振られても困るんだが……。

 

「阿近。涅隊長の検体情報を並べ直してみろ。明らかな偏りが出るはずだ」

「お? こいつは……」

 俺がマッドに見せてもらった情報は、血装関連だけなので逆算は難しくない。

これに原作知識を重ねて判断するピースを増やすと、見えてくる物がある。

 

「この分布を見てみろ」

「これ、おかしいですね。近年になるほど技術が洗練されてるのに……総数がおかしい?」

 滅却師(クインシー)は千年前に敗北し、二百年前に掃討戦が行われたらしい。

マッドが下っ端に金を掴ませて人体実験したのは、おそらく二百年前の話だろう。時期的にその辺の理由危険視されて蛆虫の巣送りになり、浦原が出獄させたのか?

 

「涅隊長は石田の祖父で最後だと思っていた。実際には石田と……一護が居たわけだが、ちょいと技術が洗練され過ぎてるよな? あいつら二人が強いのは別にして」

 技術が後年になるほど洗練されていくこと自体は奇妙ではない。

しかし個人の技量ではなく、全体の技術レベルの向上にはそれなりの母数が必要なのだ。

 

絶滅しつつあったとしても、それなりの数が居たはずだ。

現に途中までの分布グラフは正常である。技術レベルもそれを裏付けている。だが不思議なことに、近年になってパタリと死んだ滅却師(クインシー)の報告例が絶えているのだ。

 

公式記録ならば穴があるだろう。実際にマッドは金を掴ませている。

だが、今見比べている資料はそのマッドが調べたデータそのものなのだ。限りなく検体を集めたはずなのにコレでは、どこかおかしいと思わざるを得ない。

 

「そういえば石田と虚圏で一緒になったらしいですが、聞いてみたので?」

「その辺りに抜かりはないヨ。ちゃんと聞き出しているさ。……石田雨竜の母を始めとしてあちこちで一斉に死んだそうじゃないか。死神の仕業だと思っていたようダガネ」

 原作における聖別を知らずとも、マッドはそこに辿り着いた。

おそらくは石田が見せた滅却師最終形態(クインシー・レットシュティール)と結び付け、魂と力を回収したのだと思い付いたのだろう。

 

どうして滅びつつある者がそんなことをするのか?

マッドの回答は、死神を倒し三界を制覇することなのだと結び付けたようだ。現時点では可能性に過ぎないが、原作よりもよほど早い準備だと言えよう。

 

●物事の白と黒、呪術の白と黒

 ようやく重症状態を脱し、四番隊への移送が確定化した。

しかしその直前、ある程度は動けるようになった頃に尋ねて来た者が居る。

 

「条件次第で以前に話していた件を教えても良いぞ。奥義ではなくあくまで障りだがな」

「それだけありゃあ十分ですよ。あの時の見切りに関してですね?」

 砕蜂隊長と交換条件で色々教え合うことになった。

マッドの提言で隊長格もそれぞれ修行することになり、俺が鏡花水月を見切ったことで、少し見方を変えてくれたらしい。

 

代わりに瞬閧とはいわないが、鬼道を練り合わせる初歩を教えてくれることになったのだ。

……夜一も使う技であり最初はそこまでするか悩んだそうだが、京楽隊長が早々と見切りを覚えていたので、対抗意識か何かで踏み切ったらしい。

 

「最初は狭くていいんです。自分の周囲を完全に把握しつつ。相手の動きを予想してください」

「そのくらいは判っている! それで判らないから相談に来ているのではないか!」

 砕蜂は知っての通りクールに見えて湯沸かし器な性格をしている。

これでも瞬間。と付きそうな昔よりは沸騰しなくなっているのだと思われた。

 

「自分ならこう動くってのは判りますよね? なら特定の相手の行動を徹底的に想像するんです。夜一さんと浦原さんの……」

「夜一さまだ! ……だが言いたいことは判った。夜一さまがどう動くか、人の御姿でならどう動かれるか。猫の姿でならばと想像するのだな」

 俺の言葉を遮って早口でまくしたてる。

自分の中の妄想上の夜一との特訓を思い浮かべているのだろうが……鼻息荒く感情が昂っているようだ。ナニを想像しているんだか。

 

百合百合しくて尊さが溢れてきそうになるが、嫌いな相手である浦原の相手の特訓も思い浮かべてくださいねと忠告しておいた。

 

「それが終わったら後は世界に色を付けます。空気の形が見えはしませんが、地面に現れる陽炎で何となく判ります。花粉症の奴なら山から流れる風も把握するでしょうね」

「判断材料を増やすのだったか……京楽の奴が隠れ鬼とやらでしていたな」

 陽炎現象が起きる時、暖かな空気が立ち昇る姿が見えるのだが……。

実はそこまでのレベルに成らずとも、影を見れば舞い上がる塵で見える時がある。最初は見逃すことがあっても、見慣れるとこの影を簡単に見つけられるようになる。花粉症の人間が山の方を見て睨むのも、嫌悪感もあるが何となく空気の揺らぎが判るからだ。

 

「そうやって他人の行動に色を付け、世界の動きに色を付けて行けば判る様に成ります。まあ俺には4mが精々ですがね」

 つーかそれで十分。

刀の間合いだけでも完全に把握し、相手が何処に移動しても切れるのであれば白兵屋の俺としては問題ないと言える。

 

そんな感じで完全催眠の見切り方を教える代わりに、鬼道の混ぜ方を習った。

初歩でしかないがその初歩すら知らなかった俺としては物凄い成果があったと言えるだろう。ようやく転生していた時に考えた妄想が、コネを得る段階まで進んだと言える。

 

(これで少しは火力が上がるかな? まあここまでやっても陛下を切れる気はしねーけど)

 問題なのは陛下の持つ全知全能は進化する事。

今の段階までなら切れるかもしれない。何処に移動しても切れるのであれば、未来予知で避けようと当てる事が可能なので『回避』は無効化できるからだ。

 

問題が生じるのはそこからで、霊圧防御すれば防げるのであれば弾かれて終わりである。

ましてカウンターすれば攻撃が中断されて運命が変わる場合、攻撃が防がれてしまう恐ろしい防御法なのだ。これが進化して斬魄刀を折ったりできるのだからたまらない。

 

(その前段階で何とかするのが一番なんだが。王様が倒れる主な原因は毒殺……滅却師(クインシー)は完全に分解できるんだよな)

 正直な話、藍染以上に対処が思いつかない。

あえていうなら滅却師(クインシー)用の毒を刃に塗って命中させることくらいだろう。そんな外道を試すくらいならば、総隊長の卍解を奪われない努力の方がよほど建設的である。

 

そんな出口の見えないことを考えていた時、俺よりも数日早くラボを出立する人間が居た。

 

「狛村隊長。その節は申し訳ありません。本当のことを言えば東仙隊長も助けたかったのですが」

「言うな。今にして思えば東仙は断罪されることを望んでいたと思う」

 正確にはソウル・ソサエティに蔓延る悪を処分し、その後に断罪される……だろうか?

小説に関しては読んでは居ないので良く判らない。俺に判るのは例え自分の正義が通されたとしても、その正義が自分自身を許さないだろうという高潔さくらいだ。

 

「今は一人だけでも助けられた事を喜ぼうではないか」

「そうですね。準備の結果が無駄にならなくて済んだと阿近たちも言ってましたよ」

 苦笑しながらとある設備を見る。

それが義骸技術や義魂技術を使ったとある呪術だ。

 

それは雛森を監視しイザとなれば助け……裏切ったら呪殺するものだった。

 

古来の呪術は同じ物を白と黒で使い分けることができる。

雛森に付けられた傷を人形に移すことができるように、形代人形に付けた傷を雛森に移すことができるのだ。

 

「という訳で……今のところ、問題は山積してます。藍染隊長の考えた計画の中で、俺らに使えるものがあれば教えてくださるとありがたいんですが」

 さて、形代人形を使えば呪殺できる。

と言う事は材料や呪物などの条件さえそろえば、雛森以外を呪うために使えると思えないだろうか? 具体的に言うと反乱者に傷がつけられないか、だ。

 

呪い殺すことが不可能でも、位置情報だけでも把握できれば鏡花水月対策になると、試すだけは試したのだ。その時にデータを取るため、雛森・藍染以外にも形代人形を用意している。

 

東仙も助けたかったというのは、雛森を助ける予定の方法を応用できなかったからだ。

殺害が速攻で終わったこともあるが、確実に死なせるように配慮した霊圧の威力が強過ぎて助けられなかったのだ。生きていれば破面化した東仙の力は滅却師(クインシー)対策にうってつけだったろうに。

 

「ええよ。ボクの知っとる内容でええなら何でも聞いてえな」

「お願いしますよ」

 光り輝くその数字は、義魂ナンバー特103。

モッド・ソウルに偽装され、本体の修復を待つ一人の隊長であった……。

 

大きな流れの2つ目はこの男の生存。

呪術の応用でギリギリ助かった所を、後から合流した織姫が限界まで力を使って助けたのだ(ひより含む)。

その魂は義魂の形で保存され、表向きは死んだ事になっている文字通りの隠し珠である!




 という訳で完現術編をスルーして修業編です。
原作とは違う大きな変化が二つ置き、それに付随して流れが変わっています。

●大きな流れ
1:市丸がギリギリ助かった。
 ひより他の致命傷者の治療含めて織姫消耗してダウン。

2:マユリがクインシーの事に気が付いた。
 以前からの疑い含め、何がない会話の中で幾つか情報を採取。
何者かがクインシー復興の為に動いていると気が付いたようです。

●小さな流れ
1:三人娘とハリベルが、有条件付き降伏
 敗残兵をまとめて組織立って撤退、当面の対立を避ける。
場合によっては戦力供出。という流れで決着がつきます。
織姫ちゃんが治療できなかったかったから仕方ないね。

2:クインシーの技術・総数曲線がおかしい
 必ずしも霊魂になってソサエティに渡らないが、時期・総数がおかしい。
原作の流れで微妙に判り難かった部分は、聖別の影響だとしました。
その痕跡に気が付き、逆説的にクインシーの組織があると判明したとでっちあげ。

3:一角のコミュが上がった!
 鏡花水月を見切って藍染に迫ったことで株が上がりました。
まだまだだが、認めてやろう。という物ですが、マユリの新しい敵問題で変化。
京楽隊長は新しい技、隠れ鬼を体得。
砕蜂はヒントを求めてやって来て無窮瞬閧を思い付くキカッケにしつつ、一角も技術UP。

なお、今の一角の強さは普通の隊長並み。
強い隊長・仮面をつけた弱い隊長格 > 普通の隊長・一角 >弱い隊長格
4:市丸が義魂(義骸?)に隠れて生存!
 まだ体はダメと言うか、技術開発局に訪れた他の隊長格が見ても
「こりゃだめだ」と判るが、知っている人が見れば「可能性がある」と判る程度。


という感じになっています。
今は療養空けなのでこの位ですが、次回に本格的な修行と装備調整に成るかと。


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修業編:中編

●手段の捨拾選択

 体が動くようになってようやく四番隊の隊舎へ。

特訓始めると怒られるので、妥協案として日課の素振りやランニング以外は鬼道用の霊圧を混ぜる訓練だけ。

 

先に言っておくとそれほど都合の良いことは起こらなかった。

瞬閧とか陰も踏めやしない。もちろんソニックブレードが霊圧攻撃になったりなんて奇跡は起きなかった。期待してたから動けない間に遠距離剣技も考えたんだけどな。

 

「まあ俺も器用な方じゃないし、これで満足しとくか」

 向上と言うか改善されたのが鬼道を混ぜる過程で、霊圧の出し方が良くなった。

鬼道がそこそこ使えるようになり、付随して斬・拳・走がそれぞれマシになった感じだ。

 

まあ新しい鬼道覚えてる余裕なんてないから、前に行ってた体力強化を正式に覚えただけ。この際だが、出力が上がる事や訓練方法が増えた事だけでも良しとしよう。

 

「なんだ阿近。お前が経過観察なんて珍しいな。つーか妙な施術してねえだろうな?」

「んな暇人な事するか。『用意』が整ったと伝えに来ただけだ」

 回復しながら増やせる体力の幅で何ができるかを確かめていた。

今の俺は剣腕だけ飛び抜けていて、他の技術は隊長格以下。霊圧出力が上がったことで、総合して戦闘力は普通の隊長レベルってとこだろうと認識する。

 

そんな中で阿近が面会に来たのだが、もちろん傷の具合を確かめに来たわけではない。

破面たちの処遇が決まり、空いた時間で不自然なくあってもおかしくないタイミングを狙っただけだ。表向きが薬液治療による経過観察と、その診断と言う事になっているに過ぎない。

 

「例の件は?」

「問題ない。本物の義魂丸を経由してリアルタイムで交信する」

 実は生存している市丸の意見を聞く件に関しても、念には念を入れて直接会話しない。

あくまで俺たちは妙な個性の義魂丸と会話し、義魂丸同士で通じる会話を通して市丸と相談するのだ。

 

正直な話、俺は要らない気もするのだが……薬液に浸かってた仲間なのと原作を知っているがゆえに中立的な回答を続けたこともあり、虚側に列席を求められてる感じだ。俺も怪我御問題で特訓できないし、手持無沙汰だったから断る理由ないしな。

 

「しかしここまで徹底する必要があるのか?」

「仕方ねえだろ。何処に耳があるか判らねえって話だしな。……こっちだ」

 こんな面倒くさい手法を取っているのには理由がある。

滅却師(クインシー)の技術に陰に隠れる方法があるからだ。小さくは武装を管理するアイテムポケット程度だが個人も……原作を知ってる俺は国家すらも隠していることを知っていた。

 

陛下の全知全能で見た未来情報まで遮断できるか判らないが、それでもやっておくに越したことはないだろう。

 

そして通された部屋には俺と義魂を繋げたモニターが一つ。

義魂を通して会話が行われて整理されるので、この段階でワザワザ他に人などいない。今頃マッドたちは他の部屋のはずだ。

 

「アランカルの人ら強化するのに可能な事で、ボクがゆうたこと覚えとる?」

「主に戦闘技術、エネルギーの蓄積、能力の先鋭化でしたっけ」

 破面たちと交渉し、条件の一つとして共闘。

不利益の代償として滅却師(クインシー)と戦い得る能力を与える。そんな選択肢もあったが、馬鹿正直に話すわけにもいかない。先に市丸とだけ相談を行うことになっていた。

 

 整理するとだいたい、この案は以下の様になる。

戦闘技術の向上は、破面たちの組み立てが良くなるが戦力そのものは上がらない。

エネルギーの蓄積は、ヤミーやジオ・ヴェガの様にタフな重戦闘型に切り替えが可能になる。

能力の先鋭化は、要するに第二階層解放だ。圧倒的に強くなるが原作で語られてない消耗が予測されていた。

 

「ならボクが良く考えた方がええゆうた理由も判る? まさか自分が担当するとは思わず考えてへんとか」

「それぞれにメリット・デメリットがあるから、よく考えておけってことですよね」

 姿なきはずのモニターから、挑戦的な台詞が聞こえる。

しかしトーンにはそのイメージはなく、あくまで確認でしかないのだろう…… 。

 

●破面という名のサナギ

 当たり前だが、この間まで敵対していた相手を単純に強化するなどナンセンス。

強く成ってもらわないと戦力にならないとしても、選択肢を選ぶのはこちらだ。当然ながら熟考した結果として、ヤバかったらこの強化案そのものが無くなる段取りである。

 

「真っ先に消えるのが戦闘技術っすね。俺らの強みが無くなるので、後日の禍になる」

「せや。ボクらだけが持っとる強みは渡さん方がええ」

 戦闘技術というものは訓練やら戦闘で磨くことができる。

つまり相手からは感謝され難い上に……覚えられるとこちらがハメて一方的に勝つようなことができなくなる。将来を考えれば、一番教えてはならない選択肢だ。

 

相手の続きを待つ方がいいのかもしれないが、多面会話の問題ゆえか返信まで時間が掛かる。

面倒なので、直ぐに反応が判る会話に関しては適当に続けることにした。

 

「エネルギーの蓄積は攻撃力とタフネスだけが増えるので一番無難。しかし……」

滅却師(クインシー)相手ゆうのが難点やね。溜めた霊子ごと吸われかねんわ。正直ナイナイ」

 大して強くならないし強くなるのも個体だけなので一番問題がない。

だが残念なことに、敵は滅却師(クインシー)なのだ。足を遅くする重戦闘形態なんか的にしかならないだろう。

 

となると残るは一つなのだが……。これには物凄い問題が幾つか付属していた。

 

「では能力の先鋭化しかないっすね。問題は今の環境で可能かどうか。次にそんな御大層な力を与えても大丈夫なのか」

「藍染……さんも今の段階で可能やゆうてはったよ。アランカル達はサナギやってゆうてはった。期待通りいかへんかったんで癇癪起こしたようやけど」

 恨み骨髄である市丸も逡巡した後で敬称を付け足した。

今でも五番隊を中心として慕う者が多いとか、仮面の軍勢もそれほど嫌ってるわけでもないというのが何となく察せられる。

 

それはそれとして問題の検討だ。

能力の先鋭化を行って第二階層解放すると劇的に強くなる。滅却師(クインシー)にも勝てるようになるだろうが、強過ぎてしまうのだ。

 

「しかし四番さんがでけたとは意外やったねえ。いや、それも含めての重用やったんかも」

「知っていたかはともかく、藍染隊長のやり口なら狙っていたような気はしますけどね。本当に狙っていた……それが正しい回答であったのであれば色々できることもあるでしょう」

 第二階層解放に関しては一護たちから聞き出したようだ。

霊圧変化で気が付いた事で尋ねたのだろう。ウルキオラが偶然だとか才能で至ったのでなければ……意味不明に思われた原作知識も合わせて解決できるような気がしてきた。

 

「へえ……。おもろいな。キミ、彼の事知らへんかったと思うけど?」

 義魂丸をモニターに接続してるだけなので表情は見えない。

しかしスウっと蛇の様に目が細まったのではないかと思われるトーンが感じられる。できれば時間を変えて反応して欲しいと思ったが今回は即座に返答があった。

 

他の連中も興味がある話題だったのか、それほど時間がかからずに返信が返って来る。

とはいえ今回の話は以前(生前)から疑問に思っていたことなので、それほど躊躇せず話を続けられた。

 

「そいつの事なんか知りませんよ。俺が知ってるのは三人娘。あとはバラガンとかいうのが『老い』を司ってたという言葉だけです。その件で気になって尋ねたら……」

「ああ。三番さんは『犠牲』やったね。その従属官も似たような傾向にある者が多いちゅーことか」

 まず原作では意味不明な分類が存在する。

死の形がどうのことうの、なんか調べたらそれ以前は七つの悪徳であったという。

 

これはただのオサレなのか? それとも単に性格や環境のアーキタイプなのか?

だが、ここに第二階層という単語の条件を代入することで、見えて来る物があった。そしてハリベルが犠牲であり、三人娘は彼女に心酔しているから似たような傾向にあると思われるという一点が大きい。

 

「仮に三人娘も同じく犠牲を司り、単純に目立つから先に確立した。四番……ウルキオラでしたっけ? そいつが後から目覚めたばかりだとするなら、そいつの司るモノ、直近であるがゆえに環境が関係して来るかと」

「あーそうゆう事か、うん。四番さんは『虚無』やね。織姫ちゃんに一番影響されとったわ。納得納得」

 俺が適当に誤魔化しながらしゃべっていると、モニターが分割。

四番という単語にウルキオラという文字が付随した。どうやらマッドが手に入れた情報がこちらに回ってきているらしい(本人とは思えないのでネムかな?)。

 

「勝手に納得しないでくださいよ。まあ今回のは俺も判りますけどね。虚無がキーワードであるなら、どうして自分は虚無なのかずっとなのか、人と知り合って浮き彫りになったんでしょ」

「なるほどやね。アヨンくんは三番さんの為に働きたいゆう犠牲心から。三番さん自体が目覚めてないのは、忠誠心と犠牲は別もんゆうことやろ」

 おそらく司る死の形とか悪徳とかいうのは方向性のことだ。

崩玉で虚としての一度紐つけを失い、サナギとして再構成される。死の形や悪徳に寄ることで、あやふやになった魂を特定のベクトルに進ませる訳だ。第二階層というのは感情と寄り向き合うことで、深度が増したのだろう。

 

この流れに重要なのは斬魄刀と死覇装。

斬魄刀が己を映す鏡であるならば、死覇装は魂の形を破面として固定する物だと思われた。結果から見ればウルキオラだけが第二階層に到達できた理由として、検証サイトか何かでは死覇装の存在が大きいと書いていたような気がする。

 

「ここで重要なのは連中の方向性が犠牲ってことっすよ。他はともかく……話の方向によっては、穏健派の国家を作らせれるんじゃないっすか?」

 三人娘がハリベルの為。

ならばハリベルは獣から進化した破面という種族の王として自覚させれば良い。

 

元からハリベルは後ろ向きな性格をしているし、種族全体の母として自覚するならば進化も容易いだろう。そして何より……女王であるならば、ソウル・ソサエティとの対立は避けるはずなのだ。

 

●交渉と褒章

 マッドとも協議してハリベルに第二階層突破させる方向で話はまとまった。

だが真正直にそんな事をさせられないし、馬鹿でもない。あくまで協力するならばの見返りだし、こちらを出し抜いてしまわないように重しを付けなくてはならない。

 

具体的に言うと情報だけ伝えて逃走されても困るのだ。

レジスタンス化されると面倒だし、味方が増えずに将来の敵だけを増やしかねない。だから国家を成立させて女王として苦渋の判断をさせる必要がある。

 

「それで私たちに話を?」

「ああ。将を射んとすればつーだろ? 進化する情報を渡すにしても、元からできる奴なら損得も少ないって算段だ」

 存在強度の問題で先に薬液プールから出て来た三人娘と個別会談。

ちなみにアパッチは文字通り瞬間湯沸かし器なので後回しになっている。

 

俺は男なのでハリベルの胸を見たくないわけではないが、アレを見ながら話すと理性が保てなさそうだしな。

 

「織姫ちゃんがあんたらと仲良ければ個人的な付き合いで話した方が良いとは思うんだけどよ。そうでもなさそうなので損得で話してる」

「確かに。でも素直に頷くと思って?」

 思ってない。だからこそ相手を選んでるって寸法だ。

 

「今回の話で好都合なのは放っておいても暴走しない、動く方向が判ってるってことだな。そのうち敵は来るし容赦はおそらくない。そしてあんたらはハリベルに心酔している」

「……断る理由はないようですね」

 嫌そうな顔をしているが納得はしたようだ。

これが感情で先走るアパッチ相手には話せない。彼女の役割はむしろハリベルに奮起させる役目になるだろう。

 

「先渡しの報酬ってわけでもないが、実験も兼ねて教えとくぞ? 能力とスイッチ的に腕になったんだろうが、実験だけなら髪だとか薬液治療で済む範囲で適当に試してくれ」

「ソレ、女に話す内容でもないような……。いえ、女の命だからこそ?」

 最初は左腕ではなかったはずだ。

破面は一部を除いて超速再生が失われるため、破面化前に使った能力でない限り、徐々に小さいパーツから試したはず。そして同一の部分で混ぜるバランスが整い、より犠牲が大きい方が強度が強くなったのだと思われる。

 

なお、こいつらに話して実験させることには俺にも意味がある。

ミニ・アヨン改を相手に実戦訓練できるのと、倒した後の素材を龍紋鬼灯丸の外装打ち直しに使うためだ。何度も実験してできたパーツを使って、刀の鍛造に使う折り返しに使用する。

 

「あんたらのキーワードは犠牲。誰のための犠牲なのか、何のための犠牲なのかを理解して三人が三人とも納得すればいい」

「決まってる。ハリベルさまの為。新しい王国の為」

 思うに、もしこの考えが正しいのであればハリベルは後もう少しのはずだったろう。

藍染こそが破面の王国を作り上げ、ハリベルにその第一の剣を捧げさせれば良かったのだ。そうすれば彼女はその身を喜んで犠牲にしたはずだ。

 

逆説的に失敗した顕著な例がバラガン達だろう。

自分が指揮すると言いながらやったことは号令をかけ増援を出しただけだ。そこに老獪さはなく、技術の研鑽も、知識の蓄積もない。奴らこそ『老い』を上手く使えば強力な一団になっていたはずなのに。言葉は悪いがただの老害に成り下がってしまっている。

 

「それで足りなければハリベルの苦労を思い起こせばいい。あの外見と頼もしさを考えるから難しいんだ。責任感に押し潰されそう、誰かに変わって欲しいと思った結果が、藍染。だが奴には女を支える甲斐性が無かったってな」

「っ!?」

 そこまで思ったことはなかったのだろう。

まあ宝塚で男役を張れそうなイケメンぶりと、グラマラスさを持ったあの胸、そして母性溢れる思いを考えれば仕方ないだろう。原作を知るとある識者はハリベル・パイと呼んだが、あの胸が元凶だと思えば判るだろう?

 

 

 下ネタに流されたような気がするが、この話は此処までだ。

三人娘が納得して、どうやら成功したようだという成果が出た複数回確認できた所でストップ。あとはハリベルの説得待ちということになる。まあその後は監視付きで別れるわけだから、顔合わさないしな。

 

「オメデトウ! 君があの娘たちを誑かしている間に、私の研究も次のステージに進んだヨ」

「人をジゴロみたいに言わんでください。口説いたわけでも口説けた様子もないですしね」

 さて、マッドと馬鹿話をする理由はない。

ここに来ているのは鬼灯丸を打ち直して欲しいという希望の結果だし、その内容に関してちゃんと相談するためだ。次こそはキチンと話さないと不安でならない。

 

「私は浦原たちのように境界を曖昧にするなどいう不確かな方法に頼らない。死神の魂と虚の魂を折り合わせて叩き、私自ら定める方向に作り上げる事に成功したという訳だネ」

「具体的にはどんな能力があって、どこまでの強度に成るんです?」

 話すと長いので単刀直入に尋ねる。

もちろん元の形状が重要であることと、攻撃力を重視した上で容易く壊れないことは伝えてあった。

 

「以前からの奴は攻撃力主体。新しく蟹を使ったのが霊圧攻撃が可能になる物。まあこれは本人の鬼道によるから君向きではないと思うがネ。サーベルタイガーは単純に比重変化ダヨ」

「そいつはありがてえ。ぜひ最初のでお願いします。興味だけなら他のにも惹かれますがね」

 やはり俺と相性が良いのはエドラドを元にしたものだろう。

動けない間に考えていた技が無理だったので、フィンドール・ベースの物も使いたくはある。しかし俺にとって最も必須なのは原作に匹敵する攻撃力強化なのは間違いがなかった。

 

ともあれ外道な相談をしているのは間違いないので、形状と能力に念押ししてこの辺で終わらせておこう。後は体を癒しつつ、鬼道を混ぜて霊圧強化。総合強化された体に各種技を馴染ませていくだけだ。

 

治療されていく中でやって良いことも増えるが、相変わらず特訓の類は制限されている。

仕方ないので見つからないように小さな瞬歩を行って元居た位置に戻るダルマさんが転んだ状態。あるいは居合いの要領で瞬間的に斬術を練り上げていくという地道な日々が続いた。

 

俺が剣術指南役隊長並みとして扱われ、隊首会への出席許可と給料の微増が伝えられたのはその後の事である。




 という訳で治療と初歩修業が終了。

本来は昨日書き上げていたのですが、千手丸とマユリって家族じゃね? とかいう考察で半分埋まってたので書き直してました。
破面関連の伏線下積みが終わったので、次回にクインシー関連の布石を打ちながら修行して修業編終了です。

●破面たちと第二階層の話
 色んな考察とかヨタ話を見ながら、適当に取り繕って強化案をでっちあげ。
第二階層に至れた理由付けなので、筋だけ重視したので編だったらすみません。
とりあえずハリベル達は強く成ったぜ! 掛かって来いよキルゲ!(フラグ)。
原作よりも虚圏に出向する騎士団メンバーが増えるはずです。
破面王国 vs 狩人中隊 という感じですね。

●一角の順当強化
 とうとう霊圧と出力が隊長格並みに。
鬼道とか色々な面でまだまだ劣っていますが、剣腕は二番目なので隊長格。
ただし仮面組が復帰したことと、一角の地位はそのままの方が扱い易いのでそのまま格上げ。
戦術面での参謀扱い……。
ガンダムで言えばMS参謀でアムロ、トランスフォーマーなら航空参謀でスタースクリムかな。

『龍紋鬼灯丸ver1.3』
 形状が元に戻った上で炸裂用の宝玉が付随。
外せないのかと文句言ってますが、実戦で使ってからと言われてる状態。
原作の龍紋鬼灯丸を柄だけ細身にして、球飾りが紐でくっついてるイメージです。
(刃も太刀みたいな細身のはずなので、残りは全部破面由来の外装)



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修業編:後編

訓練期間(モラトリアム)の終わりに

 最後の戦いに向けて俺たちがすることは二つだけだ。

一つ目は言うまでもなく滅却師(クインシー)対策。二つ目は各自での修業である。

 

 修業に関しては悪いニュースと良いニュースがある。

悪いニュースはこれが最後の訓練になり、随分と判り難い訓練を受けた。

残念なことにそいつでは霊圧そのものは大して向上しなかった。俺には都合よく覚醒するような特殊性も才能もなかったので、劇的なパワーUPなんか起きえないという事だろう。

 

良いニュースはその訓練が卯ノ花隊長による斬術のコツ伝授だったこと。

剣八に教えるなと四十六室からきつく言われてるからか判り難い訓練だったが、それを隠して教えるためのモノだと理解できたことだろうか?

 

「体力が有り余っているようなので、今日はお料理を手伝っていただきます」

「随分と大量の小麦粉っすね……。うどんでも作るんすか?」

 安静にしてろと言われたのにコッソリ訓練を続けたせいで卯ノ花隊長直々に怒られた。

最初はそう思っていたのだが、妙な違和感はあった。止めるならもっと前だろうし、そもそも怪我が悪化しない程度にやってたからだ。この程度で怒られる奴は過去に居ない。

 

というか訓練の代わりに料理やらせるとか奇妙にもほどがある。

適当な理由を付けて男手を借りるだけなら、以前に居た時でも良いわけだ。そもそもこの人が初代剣八だと理解していることを、とっくの昔に気が付かれているだろうしな。

 

「今日は餃子を作ってもらいますよ。まずは五手から始めて三手くらいまで減らしてみましょう」

「この量全部っすか!? 四番隊全部の賄いくらい作れますよね!!」

 説明の仕方がおかしいのは斬術の専門家だからだろうと思っていた。

しかしそれは最初だけだ。この日は餃子であったが包みの作業だけ。タネ作りやら皮作りと言った一番労力の多い部分はやってない。

 

「これでもまだ足りないくらいですよ。なので次は御寿司です。そして最終的に一手も可能になった所で、状況に合わせた最適を選びますね」

 そして餃子の次は寿司で似たようなことをやらされた。

どっちも最終的に一手で握る奥義まで試させられたが、最速の一手にこだわるのは注意された。もちろん飯を炊くのも酢の合わせとかもやってない。

 

ここまで来ると明らかに料理をさせたいわけではなかったのは理解できる。

そう考えて思い返すと、色々と身につまされるモノがあった。自分の剣技は早いだけだったり、技巧に凝り過ぎて意味がなかったこともあった。

 

(そうなんだよなあ……。いくら素早く斬ろうと凝ったフェイントかましても効かねえ時には効かねえんだよな。逆に効くときゃあ、刃が通れば何だって殺せるんだし)

 技そのものはこの何十年かで積み上げている。

後はもう何百年も修練してようやく神業に至れるかどうか。当てるだけならばもう望むべくもない所に登り、見果てぬ頂に手を伸ばしているだけの状態だった。もはやいつ攻撃するか、どう攻撃するかを練り直すしかない。

 

隠れて不意打ちってのは好かないが、正面切ってからならソレは技に過ぎない。

白哉が得意とする敵後方に回ってからのターン、そこから来る刺突などはその最たるものだろう。あの技は相手の防御を潜り抜け、かつ、霊的防御を固めようとする『意思こそをかわす』意味合いがあるのだから。

 

極論を言えば静血装(ブルート・ヴェーネ)を発動していない時に斬るだけでも違う。

 

(戦いの組み合ってだけじゃなく、技そのもの構成を見直さねえとなあ)

 これまでの戦闘には無駄が多く、斬るだけならもっと力を抜ける。

その余力でタイミングを見切るなり相手の防御手段を何とかする。あるいは攻撃を弾いてから即座にカウンターという特殊な連撃もできたはずだ。何だったら可能な限りの霊圧を載せたり、切っ先に集中したって良い。

 

俺は残る期間を自分を見直し、技を見直すという事に費やすことにした。

 

●敵は滅却師(クインシー)

 一番こだわってたはずの技そのものが未熟だった。

ガックリ来る半面、残りの期間で強く成れる余地があったことにホっとしている。

 

十一番隊に戻ってからは同じ技を何度も何度も構成し直して、素振りの様に繰り返した。

俺は剣八の様に才能がない。俺のやってる訓練を見て初代剣八に合ってきたことを見抜いたり、雑ながらも真似れるような才能はないのだ。とにかく修練を重ねていた。

 

「更木隊長! 斑目指南! 総隊長がお呼びです!」

「ようやくかよ。何かつかめたのか?」

「多分そうじゃないっすか? でっけえヤマが来るかもしれねえ! てめえら悔いのないようにしとけ!」

 久々の試合形式の稽古をやったら速攻で殺され掛けた。

これで全盛期より弱いというのだから頼もしいと思う他ない。

 

それはそれとして既に完現術編も終わって間もない頃で、流魂街ではまだ何もないので原作よりも早い段階で気が付いたのだろう。

 

その予感は半分当たりであり、半分はハズレだった。

俺は虚圏に行かなかったので知る由も無かったが、マッドは石田に監視を付けていたとしか言っていない。付けていた細菌だか何かが除去されて、帝国に勧誘された事を知ったのだろう。

 

「諸君。各所に放った監視システムから続々と連絡が入っているヨ。敵は滅却師(クインシー)で間違いない」

「やはりか」

 映し出されたモニターには虚圏に侵攻する狩人部隊が見られた。

その戦闘力の前に虚たちは後退を余儀なくされているようだ。原作よりも一方的でないのは組織立っている事と情報を与えていたからだろう。

 

その後はおそらく二パターンに分かれる。

原作通りの部隊構成でキルゲが苦戦するか、原作以上の部隊構成で進軍速度を元に戻すかだ。前者であれば一護や浦原が向こうに行く必要が無くなり、後者であれば行く必要があるが騎士団を数名拘束できる。

 

滅却師(クインシー)の能力は次の三つ。霊的能力の瞬時変更、個人の才覚による斬魄刀的な特殊性。最後に霊子を従属させる秘奥義ダヨ」

 今のところ石田とその祖父、そして一護くらいしか確認例がない。

聖文字は判明していないが、その差を個性の差としたようだ。石田家であれば霊子操作力が高く、黒崎家では高速戦闘ではないかと記されている。

 

「霊子従属に関してはリスクが強すぎるので、よりマイルドに変更されていると思うネ。ゆえに問題はそこではない。連中は戦力に劣るがゆえに、何でもやってくるという点ダヨ!」

「これはまさか!?」

「卍解を破壊ないし吸収する?」

 以前に話た時は卍解を破壊するという予測だった。

しかしマッドの予測は進化しており、滅却師最終形態(クインシーレットシュテール)時に自らの能力と引き換えに、卍解を吸収する可能性が高いと記載されている。

 

(スゲエなあ。一護との対決で血装ッポイ能力があると言っただけなのに、原作に近い所まで気が付きやがった)

 俺の言葉や石田に付けた監視などを元に、徐々に考察したのだ。

最初は自分が滅却師(クインシー)だったらどんな開発をするかを起点に、その延長線で進歩させていったに違いない。

 

原作との差異はおそらく、聖別と聖文字で個人のレベルを一気に上げられることだ。

開発可能な才能を持ってる連中に聖別で力を与え、能力が低い者には不可能な開発をやらせたのだろう。卍解を奪うメダリオンを行使すること自体にもレベル条件があるのだろうが、開発者を始末して騎士団に力を移動させれば良い。進歩と進化の差はそうやってできたと思われた。

 

考えに差異があったとしても概ね問題ない範囲で的確に当てている。

 

「目下のところ対策は霊子操作の対策ともども考慮中ダヨ。それまで卍解は試行策を渡してある一部の者以外は控え給エ。奪われたら奪い返すとしても、破壊されたくないだろう?」

「なっ!? 他にも用意したなんて聞いてねえぞ!」

 これなら問題ないかと思ったところで、斜め上の回答が出現した。

マッドのマッドたる所以を見逃していたのかもしれない。あの野郎、俺以外にも被験者を用意してやがった!

 

「話す必要があるとは思えないがネ? それに忙しい中……能力に伸び悩む彼らの相談に乗ってあげたのはこの私だヨ? 護廷の為にならばとみな納得してくれたサ」

「だからと言って人身御供を増やす必要は……」

 原作よりも有利な状態で始められる。

そんな余裕は吹き飛んでしまった。俺だけならば良い。原作ではぶっ壊れたし、奪われても対個人用だと納得ができる。だが……。

 

「剣術指南。ご心配は判りますが、そこまでに」

「みな、覚悟はできておる」

「雀部さん……。それに総隊長……」

 原作で真っ先に卍解を奪われた男は清々しい顔をしていた。

今日、この日の為に自分の能力はあったと言わんばかりだ。男が死地に向かう表情はもしかしたらあんな姿なのかもしれない。

 

「涅隊長。間に合うなら自分にも処置ができますかいのう?」

「時間次第ダネ。それと能力次第では奪われると厄介な物も考えられる。後で開発局に来ナ」

「射場さんまで!?」

 使えそうだと予測はしていたが射場さんが名乗りを上げた。

それまで情緒的に考えていたが、言われてみれば能力次第では危険な対象もあるだろう。

 

「斑目指南……。あたしや吉良君も戦力になろうと相談したんです。気にしないでください」

「雛森……。てかイヅルもできたの?」

「それはヒドイなあ。必死で頑張ったに決まってるじゃないか」

 感動する半面、懸念も出て来た。

隊長格が奪われる未来は回避したが、副隊長たちによる簒奪祭りが始まるんじゃないだろうか?

 

そんな予想外の話が続く中、会議としては警備体制の見直しやら卍解が使えない場合の対策を始めだした。

 

十一番隊は鬼道衆と共に特殊礼装のサンプルを受け取って、仮想滅却師(クインシー)として戦闘訓練を行う教導隊(アグレッサー)を構成したのである。

 

歴史の歯車は徐々に軋みを上げて動き出した。




 という訳で修業編のラストです。
本来は昨日のと合わせて後編だったのですが、予想外に長かったので分割しました。
(当初の予定通り、千手丸の話を入れたらもっと長かったはず)

●一角の強さ
 霊圧とかは前回と変わらず。
戦闘面ではオートマ車の操作からマニュアル車の操作に変わったような差があります。
ガンパレードマーチを知ってる方だと、オート入力ではなく、行動コマンドごとの入力になったような感じ。

●虚圏と石田の監視
 この話では原作に無い監視網があるので、スカウトやら侵攻があった段階で気が付きました。
虚圏では組織立って後退しており、キルゲが前に出てきたところでアヨン改とかハリベル第二階層で戦う予定。

●護廷の対策とマッドの暴走
 下方フィルター掛かっているものの、おおよそ予測。
後は戦いながらデータを修正し、なんでこんなに強いの? という展開ですね。

マッドはこれまでのモラトリアムで何人かに声をかけています。
雀部さんは覚悟完了して総隊長の卍解が奪われるよりも良い。
雛森ちゃんは藍染隊長が戻って来る時に備えて護廷を守ろうとし、吉良君はそんな雛森ちゃんを守りたい感じ。

●おそらく描写されなさそうな副隊長卍解

『東風飛梅』(こちかぜとびうめ)
『黒化霊装/大羽扇』
 鈴が鳴り響く範囲や匂いの及ぶ範囲にメテオが降り続ける。
鬼道系の始解能力がそのまま強化された。
破面由来の装備はアビラマの能力を付与することで、匂いと音の範囲を風下に移動させる。

『寂庭侘助椿』(じゃくていわびすけつばき)
『黒化霊装/ショーテル』
 周囲の霊子が全て奪われる。
それらは瑠璃色孔雀の様に還元されることなくた、ただ単に失われる。
もちろん主人を除外することなく、何もかもが失われていく卍解。
破面由来の装備はジオ・ヴェガの能力を付与することで、失われる強度と速度が変わる。

飛梅の卍解イメージは菅公の歌、および祟り神化への畏れから。
侘助の卍解イメージは月姫という物語の吸血鬼にされてしまった報われないサブヒロインから。


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千年血戦編
血戦の始まり


●戦いの予感

 あれから状況は瞬く間に動き出した。

驚いたというか自分が舐めていたのだと身につまされたのが、護廷も帝国も動きが速く的確な事だ。

 

よく考えたら原作では立て続けに物事が起きて奇襲して居たり、どうしようもない状態で仕方なく愚策と知ってやってる面もある。有名な卍解簒奪祭りも状況を覆すために仕方なく、奪われるのであれば情報を得てやろうという面もあるのだ。

 

滅却師(クインシー)の本拠はいまだ不明。だが、かつて激戦のあった場所のいずれかだろう」

「なら流魂街や精霊廷も怪しいね。気を付けとかないと」

 相手の能力研究の一環で、影に物を隠すという技術が判明している。

前にも説明していたかもしれないが、これは本来はアイテムポケットであり、得意とする者でも隠密用に使う程度だ。

 

だが敵の本拠が判らない事から、この能力にバカみたいな霊子を費やしたのだと推測された。普通ならば浪費どころか維持管理もできないが、滅却師(クインシー)は霊子を吸収・再利用ができるので無駄がないのだ。

 

激戦地ならば生き残りがその能力をフルに使って隠蔽したと考えられる。

流魂街やら精霊廷もかつて戦いが起きた場所であったため、原作と違って警備体制の見直しが図られていた。

 

「虚圏の方は?」

「敵の上層部が引いた後にアヨンとかいう奴で押し返した。更にこれが特殊能力で分解され、いよいよ危くなったところで、頭のハリベルが先頭へ出張って何とか拮抗しているらしい」

 虚圏の破面たちは反撃に転じ、最初こそ上手くやっていた。

長引く戦いを嫌った陛下たちが一度下がった所で反撃に転じた。その後に帝国は帝国で狩猟だか狩人だかの部隊に即座に増援を派遣。これを打ち破り、改めて再侵攻をしている。

 

破面勢の方は瑠璃色孔雀で倒された反省で吸収対策をしており、キルゲに勝つ手前だったらしい。

だが危い所で別の聖文字持ちが駆け付け、アヨンを分解。せっかく押し返した戦況を維持するため、ハリベルが第二階層を使ってキルゲ諸共に倒したそうだ。戦況はそのまま一進一退かと思われたが、騎士団側の方が数と戦術面で圧倒し始めたとか。

 

「このザ・クエスチョンゆうのはどんな特殊能力なん?」

「おそらくは対抗能力だろうね。ボクなら美しくない事にこそ異議を見出すけれど……。まあ鬼道系や概念系が相性が悪いってのは素直に認めるよ」

 原作では使われる前に死んだ奴だが、今回は活躍したらしい。

ハリベルが速攻で潰したそうだが、放置するには危険なので第二階層を使わざるを得なかったようだ。

 

と、まあ。俺が何かを口出す必要すらなく隊長たちの雑談だけで予測が進んでいく。

やはり一流処は予測の範囲でなら恐ろしく的確だ。だからこそ藍染は策略を用いたし、帝国は過剰戦力を整えたのだろう。

 

「ここまで来れば涅の予測は正しかったということか。予想より強大なのが難点だがよ」

「そんなことは当たり前、常識、当然というものだネ。問題なのはどう対処するかだヨ……さて」

 面倒な話題になった所でこちらにお鉢が回って来た。

そこまでは原作知識で難なく答えられたのに、どうしようもない話題に関して振って来る。

 

「斑目指南。君はどう思うかネ?」

「連中は強大ですが、それだけなら難敵で済みます。喫緊の課題はやはり霊子操作でしょう」

 奴らは基本的に三パターン。

キルゲの様に滅却師(クインシー)の能力も特殊能力も卒なく高い者。

後から出て来た……誰だっけ? 原作で剣八が倒した奴みたいな聖別文字の使い方だけが強い奴と、逆に昔気質の滅却師(クインシー)の能力が洗練された石田みたいな奴だ。

 

もちろんキルゲ以上に全ての能力が高い親衛隊も居るには居るが、『現段階』では決して倒せないわけではない。問題なのはその先である。

 

「副隊長くらいの敵が二人居て、右の敵を倒したら左の敵が吸収して隊長に匹敵するような強さを持たれては対処に困ります。普通ならあり得ませんが、連中は霊子操作が上手いですからね」

 根本的な話になるが体内を巡る霊子が増えても、死神はさほど強くならない。

霊圧全体とその出力が向上しなければ、霊子が増えてもさほど変わらないのだ。

 

だが滅却師(クインシー)に関しては逆だ。

血装など霊子を直接操ることができるので、保有する霊子が増えると途端に強くなる。石田がマッドを倒した時、滅却師最終形態(クインシーレットシュテール)の効果があったとはいえ、いきなり強くなったのはその顕著な例だろう。

 

「それについては目下のところ検討中だヨ。他には?」

「……最終戦にもつれ込んでしまう場合。相手の誰を優先的に始末して、こちらは誰を温存するかくらいだと思います。最悪、総隊長と向こうの頭を例にとれば、消耗している方が負けという可能性もありますから」

 霊子を拡散するなり吸収できなくする結界は上手くいってないらしい。

極論を言うと聖別さえ防げればどこかで帝国は潰せる。だがそれが無理な場合、泥仕合だ。

 

そうなれば幽白の鞍馬じゃないが、トップを温存する形になる。

総隊長と陛下が戦闘面では同レベルとしたら、流刃若火で騎士団相手に無双したとしても、消耗の問題で原作同様敗北するだろう。これは上位の隊長格と親衛隊との対決にも言える。

 

こうして進まぬ対策にピリピリしながらも……。

全体としては原作よりもマシな状況で開戦にもつれ込んだ。

 

●開戦

 マッドに話を付けたつもりだったので、てっきり自分が真っ先に戦闘するのだと思っていた。

しかし警備の交代はするものだし、他のメンツにも声をかけていたという理屈は何となく判る。それに開戦時における帝国側の考えも不明なので結局はそれが正解だったのだろう。

 

滅却師(クインシー)と思わしき連中を発見! 敵前衛と接触しました!」

「直ぐに行く!」

 原作では描かれなかったので不明だが、宣戦布告時の戦闘に突入したようだ。

隊長たちは戦略予備で集中投入予定。副隊長と上位席官を中心に幾つかのチームに分かれて警備をしていたが、俺がトップバッターとかいう都合の良い展開は無かった。

 

(……雷撃合戦だと? バンビーズでも来てんのか?)

 狙われたのは原作通り雀部副隊長の様だが様子がおかしい。

もしかしたら原作と変え過ぎたのかもしれない。宣戦布告を兼ねた奇襲と考えるには明らかな過剰戦力。待ち受けている俺たちを諸共になぎ倒す考えが伺えた。

 

天を覆う黒雲がやって来たかと思うと、稲妻と稲妻のぶつかり合いが始まった。途中で銀英伝の要塞対要塞を思わせる巨大な雷撃の応酬に切り替わる。

 

互角かややこちらの有利かと思われた時……突如として黒雲が消えた。

 

「……無念! ですが効果はありましたぞ!」

「雀部さん! 一度下がってください! ここは俺たちが!」

 どうやら卍解が奪われてしまったようだ。

傷ついて今にも倒れそうだが、雀部副隊長は膝を着いても居なければ死んでも居なかった。俺がマッドにもらったのと同じ監視用の目玉模様だけが元気にハッスルしている。

 

「後はお願いします。……ただ、コレの効果は数撃分。その事をお忘れなく」

「それだけで助かります。直ぐに取り戻しますから。弓親」

「判ってる。もう始めてるよ」

 雀部副隊長はマッドが造ったらしきマンゴーシュを掲げて見せた。

形状と効果的にフィンドール由来の能力と思われる。それを使って強化しつつ撃ち合っていたことで、相手を圧倒して今までの時間稼ぎになっていたようだ。

 

俺は弓親に回道治療を任せながら敵を睨んだ。

 

「新手かよ。こいつら始末しても良いよな? あいつら逃げやがったしな。俺のジ・オ-バーキルが食い足りねえって言ってるぜ! てめえに負けねえくらい食い意地張ってるかなあ!」

「卍解出したら奪うの忘れないようにな。陛下のダーテン読んでないとかいうなよ?」

 どうやら卍解が一気に奪えず雷撃合戦になったことで、原作と大きく変わったようだ。

雷撃の撃ち合いで追い込んだために雀部副隊長が生き残っている他、奪ったのはバンビーズのロリっ子。オーバーキルな大男は途中から顔を出してきた。

 

見れば巻き込まれての戦死者が居ない。前衛同士の接触から小競り合いをしていたが、ゾルダート達の強さが伝わっていたことと、俺たち増援組が駆けつけていたことから次第に引いていたようである。

 

「ケっ! こいつらのチンケな卍解なんかいらねーよ! 近距離用にオレらと被りの吸収能力なんざな!」

「チンケで悪かったな。使えばてめーなんざ真っ二つだぜ? ……弓親、フォロー頼まぁ」

「了解。しかし連中も大したことないね。ボクの美しさを理解できていないようだ」

 弓親が普段使わない能力を卍解と勘違いしたらしい。

それにしてもデリカシーの無い奴らだ。チャンバラで愉しむのが好きなんだが、弓使いの集団ってことで付き合ってもくれねえだろうな。

 

しかしその実力は本物だ。

まともに相手して居たら傷つくどころか倒されるのはこちら。遠巻きにするのを止めて油断なく接近していた所……。

 

「オイ! てめえら、前進するぞ!」

「はっ! ドリスコール様! 先陣はお任せください!!!」

「あん? ……まさか」

 大男は突撃前にいやらしい目をゾルダート達に向けた。

普通ならば連中ともども突っ込んで来るだけだが、奴の能力が頭をよぎる。

 

「斑目指南! ここは我々も!」

「下がってろ、巻き込まれて怪我するだけだからな。……あのゲス野郎が」

 普通ならば何の事だか理解できないだろう。

だが俺には原作知識がある上に、磨いてきた戦闘考察がある。ジ・オーバーキルの能力は殺せば殺す程力が増していく物。フィンドールが仮面を剥ぐほど防御力を落として強くなっていくのとは違い、『誰か』を倒して強くなる能力だ。

 

そしてその対象に……敵味方の区別などない!

 

(味方ごとこっちを薙ぎ払って力に変えるつもりだろうな。ってことはこのまま敵味方が肉壁になるのは巧くねえ。俺だけで戦うってのは面倒だが……)

 例え原作知識があろうとも頭で考えるのは苦手だ。

何しろ状況と言うのは刻一刻と変わる上に、相手もこちらに合わせて動きを変えやがる。もとより優秀な前線指揮官ぶりなんざ必要とされてねえしな!

 

「ちっ! くそ雑魚がたった一人で何してやがる。一騎駆けのつもりかよ」

「その雑魚相手に大勢連れて怯えてんのかよ? ってことはお前は雑魚以下ってことだな。一騎当千って言葉を見せてやらあな! ……燃え上がれ、龍紋!」

 集団戦になると思っていたドリスコールは当てが外れたのか、大きく舌打ちをする。

だがこちらの陣営が下がったラインをチラチラ見ている当たり、ゲスい作戦を諦めてはいないのだろう。同じことを思ったのか見ればバンビーズ付きのゾルダートは、ロリっこの指示で前に出るのを止めていた。

 

「剣術指南役隊長並み。斑目一角、推して参る!」

「うわっ!?」

 馬鹿の考え休むに似たり。

ならば俺にできることは、当初の目的を果たすだけだ。一人でも敵を多く斬り、出来れば原作を変え得るほど大物を切り捨てるだけだ!

 

「二つ! 三つ!」

「ひっ! またやられた!?」

 さすがに精鋭である騎士団のならともかく、一般のゾルダートは相手にならない。

血装を使える奴も居るので下位の席官よりも強いが、それでも上位席官が苦戦するほどじゃなかった。まして剣腕だけなら俺は隊長格以上! ただのボロ雑巾と変わらねえよ!

 

「下がるな、押し包め! てめえの役目はソレだろうが!」

「なんだ? 部下がいねえとロクすっぽ戦えやしねえのか? それとも……生贄として流れる血は多い方がいいってことかね?」

「え? ……どういう?」

 続けざまに斬り捨てながら移動し、斜め斜めに味方が離れるようにして進撃する。

たった一人がやって来るだけなのに、ドリスコールはあからさまに顔を赤くしていた。巻き込む数が増えるどころか、目論見が外れてドンドン減っているからだ。

 

「ジ・オーバーキルだったか? 御大層な名前だが……もしかして、殺せば殺す程に霊圧が上がるイカサマじゃねえのか? だったらお前らも殺すつもりなんだよ」

「馬鹿……な」

「嘘……ですよね?」

 あからさまに動揺が走った所を、次々切り伏せて前に出る。

ただし今度は斜めに移動する必要は無い。陣列を崩して、やろうと思えばドリスコールのもとへ辿り着くために穴を大きくするためだ。

 

無解号で長さを長刀に伸ばしつつ、俺は一気に動き始める。

 

「だからどうしたってんだ! てめえら一歩も動くんじゃねえぞ! 逃げた奴は殺す。戦いを止めた奴も殺す!」

「どのみち殺されるなら逃げた方がいいぞ? 戦いたくない奴を切るのは好きじゃねえしな」

 できた穴に飛び込んで走ると、奴は取り繕うのをやめた。

躊躇せずに投げ槍を味方後列に向けて放ち、俺がそれ以上接近するのを……そして生贄どもが逃げ去るのを避ける。

 

同時にこちらに向けて前進してくるあたり、地頭自体は決して悪くない。

作戦の瓦解と同時に切り替えて、近距離から中距離で活躍する投げ槍の特性を活かすためだ。

 

「待ちかねたぜ!」

「何……跳んだ!? だと!」

 相手の性格と作戦は読めている。

長刀を地面に刺して棒高跳びの要領で肉壁どもを乗り越える。そして威力重視の長さではなく、最も扱い易い通常サイズまで長さを縮めて接近戦に備えた。

 

「だが遅せえ! この雑魚が!」

「お前がな!!」

 奴は投げ槍を振り回すのではなく、投擲に似たポーズで切りつけて来た。

それは霊子を固めた槍だからこそできる技であり、同時に滅却師(クインシー)が得意とする射撃戦に移行するための技だ。

 

確かに俺の速度そのものはそれほど早くない。

瞬神と呼ばれた連中に及ぶべくもないが、たった一つ。間違いなくそれ以上のモノを俺は自負していた。

 

「剣速だけなら俺の方が速かったようだな!」

「馬鹿な。早過ぎる……」

 そう、必ずしも全体速度に固執する必要は全くない。

接近までの読み合いや体術に自信があるならば、高めるのは剣速だけで良いのだ。

 

そして……狙うのは奴自身じゃない。

奴が構えている腕そのもの、その延長に胴体が入れば言う事はないだろう。

 

「い、一撃でドリスコール様が?!」

「正確には二撃だ。別に難しくねえだろ? いまコイツ、攻撃してたしな。切られると判ってから防御重視に切り替えるよりも、俺のトドメの方が早えよ」

 最初から二撃でトドメを刺すつもりだった。

一撃目は胴を切れれば幸いで、あくまで攻撃と防御を兼ねた腕を切り落とす為。二撃目を切り落とした腕のラインから脇に攻め入る予定だっただけだ。

 

お陰で脇を打たれた奴は喋ることもできずに、血の海に沈んでいる最中だった。

 

(惜しいな。霊子対策できてりゃ、こいつの分だけでも陛下への吸収を避けられたってのに)

 こればかりは原作知識があってもどうしようもない。

いや、あってもなくても無理だった可能性はある。何しろ聖文字なんてものがあるくらいだ。否応なく、死んだら自動的に吸収される仕組みでもおかしくないくらいだった。マッドが苦心しているのも、その辺が原因かもしれない。

 

「さあ、次はどいつだ? 死にてえ奴から掛かってきな!」

「その必要はありません。蛮勇なぞ総掛かりで磨り潰せばよいだけの事」

 雄たけびを上げる俺の前に無慈悲な声が聞こえてくる。

ドリスコールに加えてバンビーズだけではなく……さながら前線司令官の様に拳銃を構えた男が控えていた。




 という訳で千年血戦編の始まりです。

●隊長たちは別に無能ではない、陛下は短気でもない
 ジャンプベースで一回ごとに見ていくとアレですが……。
コミックベースで前後の流れ、その前の流れとか見ると、割りとしょうがない所があります。
隊長たちは追い詰められて、上位席官ですら崩れ去った指揮の中ではボロボロ。そんな状態で立て直す必要ありますしね。

陛下の方も基本みんなオマケですし、その他大勢を切り捨てれば親衛隊が確実に勝てるなら切り捨てる。
親衛隊を切り捨てれば自分が生き残り、霊圧レベルで確実に和尚・一護よりも強くなる……と思えばやるでしょう。
可能性としてはまだ勝てる可能性はあるでしょうが、負けるかもしれないし、自分が傷つくよりも圧勝する方が楽とも思えます。

●原作との乖離
 陛下は自分が関わる場合に未来を見れます。
つまり虚圏で戦いが長引き、ハリベルの第二階層による範囲攻撃を喰らうと判る。
それだけならばまだしも、第二階層以上の範囲攻撃ならば効くと判れば
総隊長がやって来て虚圏ごとボーボー燃やされかねない未来を見たので下がりました。
代わりにキルゲの狩猟部隊を派遣し、どうじに自分が見た脅威に備えて第二陣。
アヨンが消え去りハリベルが消耗しているものの、虚圏をほぼ制圧しつつあります。
(ハリベルは捕虜になってないけど敗走中。そのうち一護たちが援軍にやって来る=短期拘束)

・アヨン改
 対霊子吸収能力を備えたバージョンUP版。
三人娘はまだ第二階層には至れてないが、ハリベルを守り破面王国を守るために自覚。
そのことで以前よりも強く成りパワーPUしている。
なおザ・クエスチョンにより、「合体とか馬鹿じゃねえの? 常識で考えてありない」
と言われて分解されました。(腕は千切れたまま)

・雀部さん生存。リルトットが卍解入手。
 敵軍に対して雀部さんが卍解。キャンディスと雷撃合戦。
トールハンマーとXレイ・ビーム砲の撃ち合いをやった所で奪われました。
破面由来の装備を付けていると、奪うまでにタムラグがある感じですね。
なのでキャンディスは奪えずに、代わりにリルトットが回収しています。
これでバンビーズは範囲攻撃x3という恐ろしい陣容になりました。

・ドリスコール戦
 彼は判り易いほどゲスなので、ゲスなまま死んでいきます。
静血装張ってなければ騎士団もそれほど強くないという戦いで死亡。

・ロバートおじさん
 原作で出番がなかったので前衛部隊司令官として就任。
宣戦布告と一回目の襲撃の中間のような陣営になっています。
原作と流れが変わってるのに、帝国が作戦変更してないわけがないよね?
という訳で一気に殲滅だ! というノリですね。

次回はバンビちゃんを言葉責めしつつ、斬ったり撃たれたりする展開になります。


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勝利の代償

前線部隊(フロント・アルメー)

 改めて周囲を見渡すと、宣戦布告どころか完全な部隊編成による侵攻だった。

拳銃使いのナイスミドルを司令官として、バンビーズに先ほど倒したドリスコールを加えた七名もの騎士団が居る事になる。

 

残り六名、消耗したキャンディスを数えないとしても五名も残る大仕事だ。

加えて司令官のロバート・アキュトロン……だったよな? 通称カーネルは京楽隊長の目を奪ったツワモノであり、その能力が解説されてないのが若干不安だった。

 

「なによもう。こんな奴ら、あたしが一人居ればジ・エ……」

「よしなさい。先ほどドリスコールがどうなったか見なかったのですか? 迂闊に能力をひけらかすものではありませんし……何より陛下は確実な仕事を求めておいでです」

 自意識過剰でお調子者のバンビエッタは最初話を聞き流していた。

だが陛下と口にした瞬間、顔をしかめるあたり意識はしているのだろう。

 

「別に名前くらい知らなくても察せるぜ? つーか当て物のコツは判った段階で口にしねーんだよ。名探偵だって言ってるだろ。今はその時ではないってよ」

「アタマツルツルだから頭良いってアピールなんでしょうかねえ? イキッってますよお((´∀`))」

「そうかもな。頭茹で蛸にしていきなり切り掛かってきそうだし、ミニー。出番だ準備しとけよ」

 ムカツク!

なんでこうバンビーズの連中はこういう奴ばっかりなんですかね!?

怒り頂点なりって大爆発しても良いですかね!?

 

「剃ってるだけだからツルツルでも蛸でもねーよ。いいか、そこのピンク髪は近接戦重視型で俺の卍解と相性良いんだろ? んでそれを促したロリが四天王の実質的なリーダーだ。んでそこの女が外見特化型で四天王一番の小物枠!」

「こいつ、オレ達のこと初見で見抜きやがった!? 注意しろよ!」

「はあっ!?」

 俺が原作知識を隠すためにでっちあげた察相術を披露すると、その反応は様々だった。

リルトットは普段面倒くさいからバンビが前に出るのを放置している。一歩引いて周囲を見てるわけだが、今回ばかりは本気で驚いたようだ。バンビを建てるおためごかしを捨てて忠告を放った。

 

「あたしが小物だって言いたいわけ!?」

「もし四天王ポジだとすりゃあ、昔から付き物なのは五人目だ。居るんじゃねえの? 厄介な能力で味方からも恐れられる奴。てめえはそいつを隠すための派手派手担当ってことだ」

 恐ろしいことにバンビは自分が美人だという事を否定しなかった。

まあバンビーズはみんな外見だけならグンバツだからな。ミニーニャとキャンディスはちょっとばっかり好みから外れるが、みなベッピン揃いだ。

 

「ふ、ふ、ふ……ふざけんな!!」

「戦場でふざけてるのはてめえだよ」

 激高して霊圧を上げるバンビに合わせて、俺は往復で衝撃波を二発放った。

威力よりも距離と範囲重視。ソニックブレードが左右から交差することで、ストームブレードとでもいうべき真空波が奴の周囲に着弾する。

 

「物理攻撃? こんなもの……っ」

「馬鹿野郎! さっさと逃げろバンビ!」

 ストームブレードは物理攻撃なので奴には効かない。

だからダメージ目的じゃないし、だいたいその手前で着弾させている。では何が目的か?

 

それは土煙を上げて視界を遮断させ、同時に……誘爆させるためだ!

ジ・エクスプロードは霊子を撃ち込んだ対象を爆発させる。つまり土煙の層が厚ければ、十分に物体として認識されるし場合によっては真空断層も役に立つだろう。霊圧攻撃ではない剣圧が、初めて役に立った瞬間である。

 

「お前らも離れろ! 誘爆するぞ!」

「範囲攻撃だとは思ったが爆発系かよ? 自業自得だぜ」

「っ!?」

 大爆発を起こしてバンビの周辺が吹っ飛んだ。

まさか手前で爆発するなどとは思ってもみなかったのだろう。だが油断は禁物だ。全部が全部土煙で爆発するだけでは無いし、距離も至近ではないので殺しきれないだろう。

 

「ファーああああああああああっっっっくく!! コロス殺すころす! 全部の皮を引っぺがして塩水を塗り込んでやるわ!! その後でチョンギッて、あいつの後ろにぃぃ!!!」

「おっ。生きてた。ああなると手に負えねえから近寄るんじゃねえぞ」

「は、はい!」

 出て来た出て来た。

爆炎の中から火傷の痛みに耐えながら、バンビが完聖体で出現する。そして血走った目で高い位置まで移動し、土煙に隠れて移動する俺を探し始めた。

 

っていうか、何の皮を引っぺがして斬るおつもりなんですかね?

女の子が口にして良い言葉じゃないと思うんですが。ていうか、あいつビッチだったな。

 

「悪いな。アバヨ嬢ちゃん。逃-げるんだよーっ!」

「逃がすわけないでしょうが! やあぁぁっってやるわよ!!!」

 確認もせずに次々と放つ爆発を回避するため、俺は衝撃波を放ちながら左右に移動。

ジグザグに移動して見せつつ、衝撃波を盾にしたりゾルダートに紛れてとある場所を目指す。

 

しかし面倒なのはゾルダートではない。

連中はバンビの攻撃に巻き込まれまいと右往左往しているが、バンビの爆撃だけなら霊子に当てる物さえあれば何とでもなる。だが『それ以外』はどうしようもないので、ジグザグ移動で回避パターンも入れているだ。

 

「くそ。また命中しやがった。どうやって当ててんだテメー」

「教えるわけはないでしょう? 貴方ならば避けてしまいそうです。今も致命傷は避けているようにね」

 俺が目指しているのは前線部隊司令官(フロント・アルメー・コマンダン)のロバート・アキュトロンだ。

バンビーズを伴っての行動は宣戦布告だけにしては過剰戦力過ぎる。威力偵察を兼ねているのだとしたら、相当な被害を出さねばならないだろう。具体的に言うと、司令官の戦死とか大多数の重傷化とか。

 

とはいえそれが簡単であるはずがない。奴直衛のゾルダートも居るしな。

そこで仕方なくバンビを怒らせて、一斉に掛かって来れない状況を作り出したはずだった。なのにこいつは平然と射撃を撃ち込んで来た。

 

(何の能力か知らないが厄介過ぎる。俺が転生者じゃなかったら詰んでるぞこれ)

 ロバート……通称カーネルの攻撃は四方八方からやって来る。

ジグザグで避けているのに、真横から斜めから撃ち込まれたことは二度や三度ではない。ダメージを負い過ぎて足を留めれば、バンビの爆撃で一撃死しかねない。

 

この状況で俺が足を留めないでいられるのは、俺に原作以外の漫画知識があると言う事だ。

シチュエーションはシェイクスピアの時代に、特殊能力の類はクールジャパンの時代に出尽くしたと言われる。ジョジョの奇妙な冒険だけでも、銃に関する能力……応用できるモノを含めれば無数にあった。

 

しかし決定的な情報がない。

それさえあればもう少し特定し、奴の使い方を逆算して何とでもできるものを。……そんな時にまさに天女の一助がもたらされた。

 

『斑目指南。すみません遅れました。現在二か所以上で襲撃を受け、そちらに向かってるのは、あたしだけです』

(雛森の天挺空羅! やっぱり本格的な侵攻か。厄介だが、それでも援軍が来ると知れただけで助かった。返信を弓親に頼むとして……? あ……?)

 天挺空羅は一方的な通信だが、中継者を介して返信できなくはない。

後方に弓親を置いて援護してもらってるのは、ハンドサインで連絡を入れて、あいつから送り返してもらうためだ。

 

そしてどんな作戦で介入してもらおうかと考え、簡単なサインで伝えれるかと苦心した。その事がカーネルの能力に気が付かせてくれた。到着よりも先に天挺空羅を使った雛森をマジに天女かと思え始めて来る。

 

「理解したぜ! てめえの能力をな!」

「馬鹿……な。こんな短い時間。こんな状況でどうやって!?」

 俺は奴の視線を見ながら、どこが攻撃ポイントなのかを適当に判断した。

それだけでなく攻撃ポイントから俺に対して向かって来るラインから離れるように瞬歩で飛び抜ける。

 

そうして接近する間に片手はソニックブレードでバンビへの牽制を放って爆発を遮り、もう片方の手を敵の目から隠した。弓親にハンドサインを送る為である。

 

こんな状況で複雑なサインなど送れるはずがない。

ゆえに指示は一つ。以前から決めていた『卍解を使用する』『援護を頼む』という文言だけである。

 

「てめえの能力は転送能力か何かだろ? それもただ指定地点に送るだけじゃねえ。モーションも方向も無視して、好きな位置に砲口を開くことができる能力だ。能力名はザ・ノーティファイってとこか!」

「そんな……ありえません! 特記戦力でもないただ席官風情が!?」

 伝達するだけで攻撃できるはずはないが、奴らの弓も弾も霊子製だ。

どちらかといえばジョジョに出て来た拳銃系ではなく、ガンダムのファンネルやリフレクターに近い使い方だろう。それゆえにただ攻撃ポイントとして転送するだけではなく、そこから砲口を開き二次的にも使える射界を創る二種類の使い方があるのだと考えられる。

 

だからこそ殺気を感じて避けるだけではダメなのだ。

避けてもそこから別方向に飛んでいくのであれば、そのラインも避ける必要がある。

 

だが、まだ届かない。

ドリスコール戦を見て警戒している奴を倒すには、ただ切り込んでも、ここで卍解してもまだ届かない。もう一枚・二枚の作戦を立てる必要があった。

 

「卍解! 龍紋鬼灯丸!」

「来ましたか! ですが……ここまで来るのは予想済みだったのですよ。能力を見抜かれたのは予想外でしたがね」

 俺が飛び込みながら卍解するのと、奴がバックステップを掛けるのは同時だった。

本来ならば当たるべき速度と軌道。それを無視して、不可解な軌道をカーネルは掛けた。

 

天へと召されるかのように、四角い翼を煌かせて。

 

早い話が完聖体を使って避けたのだ。先ほど焦って見せたのは芝居だったのだろう。

おそらくは奴の完聖体は転送能力を強化し、自分自身を無反動で移動させることができる……飛廉脚の上位互換化か? ならば俺の攻撃を見てから避けるのは容易いのだと思われた。

 

「この程度、我が神の歩み(グリマニエル)を持ってすれば何とでもなります。……やりなさい」

「は~い。潰れてくださーいツルツルさ~ん><」

「死ねえええええ!」

 カーネルの指示で周囲から攻撃が一斉に撃ち込まれる。

過剰攻撃も良い所で、俺に逃げ場はない。四方に撃ち込まれるバンビの爆撃、上からは投げつけられた巨大な瓦礫。他にもカーネル自身の攻撃もあるだろう。

 

文字通りの殲滅攻撃。

出て来た時に口にした『総掛かりで磨り潰せば良い』という言葉に偽りなどなかった。

 

「終わりです。死角などありませんよ」

「あるだろ? 死地であっても想定外ならば都合が良い場所がよ!」

「躊躇せず前進した? あいつ、死にに行きやがった。狂ってやがる」

「はあ? 馬鹿じゃないのあいつ?」

 それはただのパズルだった。

どこに移動しても危険ならば、危険を覚悟すれば良いだけの話である。

 

刀の攻撃だって、仕方がない時は急所を避けて刀を受けることもあるのだ。直撃さえしなければ爆発の中に飛び込んでも良いだろう? 致命傷でさえなければ良い。

 

「馬鹿な……死ぬ気ですか!?」

「自爆とはいえ女の肌を焼いたんだ。焼かれる覚悟の一つくらい出来てるよ!」

 バンビの爆撃よりも前に出て、その爆風に乗って更に速度を上げる。

死んで当然の攻撃を受けて火傷くらいならばお釣りがくる。そのために死地と判って飛び込んだのだ。

 

奇襲といえば奇襲であるが正面突破なので対応できる時間はあった。カーネルは驚いた顔で何とか軌道を変更し、回避に成功したようである。それが間違った選択肢であるとも知らずに。

 

「しかし! 見えてますよ! この程度で……!?」

「じゃあ……これは見えるかよ?」

 俺が振り抜いた龍紋鬼灯丸が突如として消える。

奴の間違いは龍紋鬼灯丸が直撃すれば耐えきれないと思ってしまったこと。そして完聖体で強化した移動力を使って良ければ、回避できると思ったことだ。もしイチかバチかで静血装で全力防御していたら倒せなかったかもしれない。

 

「刃が消えた!?」

「刃が消えるか。消えたのは……卍解だ」

 静血装していなければ卍解していなくても倒すことは可能だ。

だが普通であれば、こんな短時間で解除できるはずがない。それゆえの盲点。大仰な卍解を回避してしまえば何とでも対処可能と思ったやつの敗因である。

 

「こんな……ところで。申しわ……けありません。へい……か」

「……すまねえ鬼灯丸」

 俺は奪われていく龍紋鬼灯丸を見ることもなく走り出した。

今頃はメダリオンに回収されている頃だろう。だが今だけが脱出のチャンス。こんなところで足を留めるわけにもいかない。

 

囲まれているのは同じだが、そろそろ雛森の援護が始まるころだ。

指揮官を失ったことで出来る僅かな隙。望んで死地に飛び込み、相打ち覚悟で飛び込む殺し屋と戦いたいかという隙。それを突いて俺は逃走するはずだった。

 

実際に俺を攻撃しようとした連中の殺気は感じられない。

このまま逃走できる。移動経路に居る連中だけ片つければ良いと思った俺は、一つだけ失念していたのである。

 

俺を攻撃する気もなく……カーネルを助ける気もない。

どちらが死んでも利益を得ることができ、そもそも攻撃する必要のない奴が居たことを。

 

そいつが一度も姿を現していないことを忘れていた。

 

「邪魔だ! どけ!」

「きゃっ。痛った~い」

 立ち塞がる連中を切り捨てた時、その一人が平然と笑っているのを見てしまった。

流れるような黒髪はバンビと同じだが、小柄で華奢な姿が一つ。体に大きな傷ができたというのに微笑んでいる。

 

「どうしようボク、穴を空けられちゃった。瑕モノにされちゃったよぅ。責任取ってもらわないと」

「ぬかった……呪術屋……かよ。コイツが……五人……目」

 そこに居たのはジゼル・ジュエル。

Zの聖文字が示すはザ・ゾンビ。死神を含む死者を操る特殊能力である。




 という訳で一角は負けてしまいました。
死んでしまうとは情けない。まあ死神は最初から死者扱いなんですけどね。
一人称が基本ですが、一角がゾンビ化してしまったので、次回は三人称になる予定です。

●前線部隊
 戦線布告するだけではなく侵攻部隊です。
そこで一角は突撃して、かき回せるだけかき回して撤退予定でした。
手加減できる相手でもないし、カーネル強いから忘れても仕方ないのですが。
というか攻撃する気がないから殺気がないし、斬っても駄目なのは相性悪いですね。

なお数に囲まれて活躍してますが、原作知識あっての事。
バレると大変なので察相術とか戦術眼とかフカしてますけど。
なお他の方面にもタイムラグを付けて襲撃されており、そちらは原作知識ないので大変。

・前線部隊の現状:
ロバート・アキュトロン(死亡)
ドリスコール・ベルチ(死亡)
バンビエッタ・バスターバイン(負傷中)
キャンディス・キャットニップ(負傷後退)
ジジ・ジュエル(治療活動中)
ミニーニャ・マカロン(龍紋鬼灯丸を取得)
リルトット・ランパート(黄煌厳霊離宮を取得)

・部隊編成
親衛隊:計三名
狩猟部隊:キルゲ(死亡)他、計四名(本来は遊撃隊)
前線部隊:ロバート(死亡)他、計七名
右翼大隊:ハッシュ他、計六名(ロイド兄弟含む)
左翼大隊:グレミィ他、計五名(現段階のアスキンは此処)

●カーネルことロバート・アキュトロンの能力(捏造)
 原作では不明なので、notify=知らせる・届ける。を採用。
適当にNで調べた結果なので、ノーモーションくらいで良かったかも?
色々と解釈可能なので、カーネルが口にするのではなく、一角が適当に命名。
いずれにせよ、弾道や射角が存在しなくなる転送能力です。
完聖体はこの能力が自分の体にも影響し、一切の負荷なく急発進やターンが可能。
いきなり移動し始めたり、奇妙な方向に移動することが可能になる。


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一角の居ない日

●男たちのシンパシー

 斑目一角が汚染され洗脳されていく中、その姿を見つめる男は驚愕した。

殺されるのは良い、本人が望んだことだ。汚染されるのも良い、どうせ血で汚れている。洗脳に至ってはどこかで解除すればよいのだから放置しても良いとすら言えた。

 

だから男が驚いたのは、とある冒涜的な現象についてである。

 

「ゾンビ化……だと」

 目は虚ろで意思を感じられず、命令を与えられるまで直立不動で立ち続けている。

その体には爆風で出来た火傷に無数の弾痕があるのに微動だにしていない。

 

明らかに本人の意識を奪って従属せしめる蛮行だった。

 

斑目一角に対して男は親近感など抱いては居ない。

ましてや友情など抱くはずもなく、自分を高みに押し上げる方法として手段を択ばぬその態度にのみ、ある種の共感性があるくらいだ。

 

共感性と言えば、偉大な先達の後を追い掛け、同世代の後塵を拝していると言えれ苛立ちを覚える。

その点に関してだけは同じ思いを抱いたかもしれない。

 

自分が時折に顔面をかきむしり、グチャグチャにしたくなるように、あの男は黒髪を剃り上げているのかもしれない。

 

しかしそれだけだ。

『友』ではなく『朋』というべきか。

 

朋がどこで死のうと洗脳されようとかまうものか、どこかで活躍して居れば笑い合うだけだ。

 

「斑目……一角……」

 だが男は呆然とした表情で心底驚いていたのだ。

一角が洗脳されたことでは当然あり得ない。この場合はゾンビ化に対して。

 

それを見せつけた一角に対して思う事はただ一つである。

 

「素晴らしい!! これ以上にない成果ダヨ!! 破面素材の装備が滅却師(クインシー)の卍解簒奪に耐性を付けるのを見せてくれただけでなく! まさかゾンビ化の実例を見せてくれるだなんてネ!」

 男は狂喜した。

必要なデータが揃い、状況を作り上げるに足るピースが次々と揃っていく。これぞまさに天祐であり、この状況を作り出した一角には感謝すら捧げても良いと思った。十秒くらい。

 

「ゾンビ化しつつある実例! これが最後のイチジクの葉だ! これで私の研究も完成するというものだヨ!」

 研究の完成。

そう、この男もまたゾンビ化の研究を行っていた。

 

他人の能力を一から十まで利用するなど気色が悪い。

特に死神と(ホロウ)の境界を乗り越えることなど、偉大な先達がやったことの後追いになり、浦原や藍染もやったことなので興味も湧かなかった。

 

だがゾンビ化は違う。

自分でも研究していたし、他の作業に手を取られて一気に完成させる時間が足りなかっただけだ。

 

「まるで私の為に花道を用意してくれたかのようじゃないかネ。今だけは感謝するとしよう。可能ならば所有権を取り戻してやるとも誓ってやっても良い。そう奴の輩に伝えな。一度引かせて再編成するヨ」

「了解しました涅隊長。綾瀬川三席に伝達します」

 その男、涅マユリはこの戦いで勝利するための道筋を見つけた。

どうやっても消耗戦にならざるを得ない。ならばゾンビ化で兵士を増やせるならば、用意の多いこちらの勝利は揺るがないのだから。

 

『相手の誰を優先的に始末して、こちらは誰を温存するかくらいだと思います』

(ああ、まったくその通りダヨ。駒をぶつけ合って勝負しようじゃないかネ)

 興奮に酔っていてもマユリの思考は常に計算し続けている。

五つある分割思考の半分を使って研究を続け、残る二つで手段を検討していた。

 

「元仮面組の隊長格に伝達。虚由来の力があれば卍解の簒奪を防げると算定。まずは誰か一人のみ解放を推奨する。そう伝えナ」

「了解しました涅隊長。折り返しのデータ送信も要請しておきます」

 まずこれで一つの懸念が片付く。

雀部副隊長の卍解簒奪が遅れたことでもしかしたらと思ったが、一角の卍解が奪われるペースはやや早かった。それが爆風による影響……破面由来の外装が壊れていたことならば回答が導ける。

 

虚に対し滅却師(クインシー)がなんらかの拒否反応を持っている。

そう結論付けた上で、出戻り組に誰か一人の卍解のみを許可する。そのデータが取れれば、解決手段を見つけるのは難しくないだろう。

 

そのための手段も、破面どもをゾンビ化させる研究の途中でやっていたからだ。

 

「敵部隊は依然として侵攻中。一隊は流魂街との接点を遮断。あちらから戻る組を足止め。別の一隊が精霊廷を伺って迎撃班を狙う構えかと」

 モニターに映し出される敵軍の動きは三つ。

一角たちが戦っていた部隊、流魂街との境目に出現し、どちらにも侵攻可能だと陣取る部隊。そしてこちらの迎撃隊を阻む専用部隊である。

 

「ヤレヤレ。ウスノロどもが。そこまで判ってるなら、とっとと移送の準備をしナ! ここにも雪崩を打ってやって来るに決まってるだろうが!」

「っ!? 了解しました。現作戦に関する物は即座に破棄」

「移送できない問題のあるモノは数年ほど『断層』に沈めます!」

 技術開発局のメンバーが急ぎ行動を始める。

戦いには技術の向上が必要不可欠だ。こちらができることはあちらもできる。あちらもできることはこちらもできるのだから。

 

(さて。アレは何時使うべきか。……いや、ここで手札は晒さない方が良いネ)

 勝手に飛び出した更木剣八は別にして、総隊長を始めとして隊長格の上位陣は温存している。

今は敵軍の編成を確認し、倒すべき相手を選定している所だが……。相手も同じことを考えるはずだ。

 

こちらの刺客を返り討ちにしつつ、同時にこちらの急所を押え、総隊長たちを消耗させればあちらの勝利なのだから。

 

(ゾンビ化なんて手段を前に出すのだ。……まだあちらにも手札はあると見るべきだヨ。アレを使うのは向こうの『切り札』を見てからでも良いのだからネ)

 消耗戦にゾンビは向く。

だから今から使っているのだろうが、戦いの本質は上澄みがどれだけ生き残るかだ。一般兵がどれほど死のうとも構わない。

 

ゆえに敵軍の頭目や、幹部連には別の手段があるだろう。

例えばゾンビ化以外の『疑似的な不死』……。こちらの切り札である『アレ』を使うならばその時だろう。

 

「斑目指南の隊と交戦していた敵が、流魂街方面の敵と合流します!」

「ホウ。……それは好都合だネ。幸いにもこちらの監視は……」

 新しい報告にマユリが一角に付けた監視を改めて注視した。

戦況が止まっていたので通り一遍にしか眺めなかったが、確かに移動を始めている。

 

確かこの隊の指揮官を倒して、戦況を留めたはずだ。

弓親たちに引けと指示し、雛森鬼道指南の指揮で再編成しつつ様子を伺っているはずだ。こちらはどう動くかと思っていたのだが……。

 

その時に、奇妙な光景が見えたのである。

 

『貴様……見ているな?』

「!?」

 最後に見えたのは斬撃の応酬。

西洋風の大剣が振り下ろされ、それを迎撃する形で斬魄刀が一閃した姿である。

 

それ以上は監視に付けた目玉の霊子が吸われ、見ることができなかった。

 

●天秤

 何が起きたかを説明するため、視点を変え時間を少し巻き戻そう。

ちょうど涅マユリ達が情報伝達や研究を行っていた頃の事である。

 

「どいてリル。そいつ殺せない」

「ダメだっつーの。せっかくの戦力だぞ」

 バンビエッタ・バスターバインは直したばかりの火傷を手で押さえていた。

視線の先に居る男を見るとその肌が痛む気がする。もし目の前にリルトット・ランパートが居なければとうに木っ端微塵にしてやっただろう。

 

「数なら居るじゃない!」

「数だけじゃ意味がねーよ。そいつは一人であいつらをやったんだぞ?」

 それがゾンビになった斑目一角が原型を留めている理由だ。

ドリスコール・ベルチとロバート・アキュトロン、そしてゾルダート達。彼らを倒したのは一角であるし、まとめてゾンビにはしたが思考力を含めてかなり戦力は低下している。その穴埋めと言う訳である。

 

「それに……必要ないから殺すってんならミニーがやる。それが陛下の命令だからな」

「くっ……」

 それを強力に補強するのが、首魁であるユーハバッハが下した命令だった。

奪った卍解で持ち主を殺せ。戦力にならないと判断するならば、龍紋鬼灯丸を奪ったミニーニャがやるべきなのだ。いつでもそれが実行可能だからこそ、戦力になる内は活かしているに過ぎない。

 

もしバンビエッタが一角を粉砕したいのであれば、ゾンビ化した瞬間に有無を言わさず行うべきであった。もっとも……それをやったが最後、戦利品を獲たと喜んでいるジゼル・ジュエルの機嫌を損ねる事になり、火傷の治療は永遠に行われなかっただろう。

 

「そーそー。まだ使い道あるんだからいつもみたいに殺すんじゃねーって話。 これだけの細マッチョは中々いないしねー」

「うわっ。ゾンビ相手にその気になっちゃうんだ? ちょービッチ~」

 ようやく負傷が癒えたキャンディス・キャットニップの言葉にジゼルは思わず苦笑した。

キャンディスは良い男を性的な意味でつまみ食いするのが好きで、今も興味津々で一角の筋肉を眺めている。剃り上げた頭もファッションであり、ハゲではないと見ているのかもしれない。

 

「変だなー。いつものバンビちゃんならそんなゴミ好きしろって言うのにね~」

「……」

 しかしその話を聞いて、ジゼルは意味ありげな笑顔を浮かべる。

そしてニターっと口元が吊り上がるのを自覚し、袖口で口元を覆った。

 

「もしかして死の恐怖(ハジメテ)の相手だからかな?」

「……っ」

「なんだバンビ、ビビってんの?」

「バンビちゃん可愛いですう( ´艸`)」

 何かを言いかけてバンビエッタは口籠った。

少し意味は違うが、恐怖を与えたという意味ではその通りだからだ。

 

「……そうよ。この距離でこいつが正気に戻ったらアッサリ殺されちゃうのよ。今の内に先に殺したいと思うじゃない」

「やだなーそんなことあるわけないじゃな~い。でも、しおらしいバンビちゃん見たら、ボクちょっとだけ興奮してきちゃった」

 正確には違う。一角に対して恐怖は覚えているが克服できないわけではない。

今言った通り、先に殺してしまえばよいし、それがバンビエッタにはできる。

 

では何が怖いのか?

まるでエイリアンでも見るかのような目で見つめているのは……。

 

「あ、そうだ。ボクも怪我してたし、ボクもバンビちゃんも靴が汚れちゃってるんだよね。君がやったんだし、責任取って舐めてくれる?」

「うう……あー」

「ちょっとジジ!? 止めてよ、もうっ」

 ジゼルが命令すると意思を無くした男は靴を舐め始める。

血の飛び散ったブーツを丁寧に舐めさせ、最後の尊厳まで奪おうとするかのようだ。

 

そんなジジの様子は段々と興奮しているかのようで、キャンディスは羨ましそうな顔で見ている。

ミニーニャは無関心でリルトットに至っては誰かと通信しているのか、明後日の方向に向かって喋り続けていた。

 

「ねえ、バンビちゃんも綺麗にしてもらえば? 自分を殺しかけた相手に屈辱を合わせるなんて素敵だと思わない?」

「そんな訳……相手がゾンビじゃなければ三回戦くらいはシてたかもね! それよりもこの後どうすんの?」

 バンビエッタが怖いのはジゼル達だ。

今までは自分の引き立て役くらいにしか思っていなかったが、冷めた目で自分を見ているのが判る。いつでもこちらを切り捨てられるし、自分がそうであった様に友情など抱いては居ないだろう。

 

それをこの男に気が付かされてしまった。ロバートたちがいまゾンビなのに、自分が死んだらならない訳はない。恐怖に突き動かされるように、ソレに気が付いていないと思わせるために声を荒げてしまう。

 

「なんでお前が仕切るんだって言わねーんだな? まあ素直なのは助かるぜ。とりあえずはポテト達と合流する」

「グランドマスター様さまサマと?」

「せっかくおっさんが死んで好き勝手出来るのにか?」

 リルトットはキャンディスの質問に頷いた。

ジゼルにゾンビたちを動かすように指示を出し、この集団を別の集団に合流させるために移動を開始する。

 

「死神どもの動きが妙に速い。明らかにこっちの出現を予測しやがってたな。……連中は倒された隊長格の死体を即座に回収したそうだ」

「うえ。それって此処も見られてるってこと?」

 戦時下なのに死体を即座に回収する理由など一つだ。

この戦場が見張られており、ゾンビ化能力を見られたとしか思えない。だからこそ即座に移動し、死神側の策を警戒しつつ合流という事らしい。

 

「指示分は終わったが……陛下の性格を考えると少し怪しいからな。道々戦いながら戦果を上げていくぞ」

「「了解」」

 先頭に一角、両脇にドリスコールとロバート。

三体のゾンビたちに壁役を任せ一同は移動。見張られていることを示すかのように、散発的に襲い掛かって来る隠密機動たちを迎撃しながら進んだ。

 

そうして流魂街方面に進むと、燃え尽きた街の中で佇む仲間を見かける。

 

「戦果は?」

「特記戦力の一人である更木剣八を含む隊長格五人を退かせ、三人を討ち取ったよ。更木剣八がその中に入っていないのが惜しい所だけど」

「ヒュー♪ 大戦果じゃん」

 唇に傷のある男、蒼都が荒い息でキャンディスの質問に答える。

かなり消耗しているようだが、余裕そうな表情は崩れていない。どうやら剣八の攻撃を完聖体で防いだことで自身を回復したのだろう。

 

「こっちの被害は誰が倒されたんですかぁ?」

「ロイドだけだが、死体を即座に焼却されたのが痛いな。やはり戦場が見張られていたか」

「だねー。これじゃあボクの出番が半分もないや」

 廃炎という鬼道は火力はともかく焼却能力が高いらしい。

剣八に化けたロイドが蒼都をタンク役にすることで相打ちに持っていったそうだが、その場にいた別の隊長格が死体を燃やし、即座に倒れた剣八を回収したそうである。

 

そして今後の相談をしようと、リーダーであるグランドマスター。

ユーグラム・ハッシュヴァルトに報告しに向かった所……。

 

「貴様。見ているな?」

「はあ?」

 突如として両手剣で切り掛かって来た。

その動きに反応して一角が斬撃を弾いたのだが……。

 

気が付けばユーグラムの脇に一条の傷痕。

代わりに一角の服に付いていた気色悪い目玉が消えていたのである。

 

「あらー。ツルリンちゃんって本当に剣だけは凄いんですねー」

「ってわけだ。使えそうなんで無礼は許してもらえると後で使い潰せると思うんだがな。攻撃さえしなきゃ自動反撃なんてしなかったと思うんだけどよ」

「……そうだね。これ以上の『攻撃』は止めておこうか」

 何時の間に斬ったのか分からない。

だが一角は瞬間的にユーグラムの剣を掻い潜って逆撃を浴びせていたのだ。

 

そして処断の為の『攻撃』は中止したユーグラムは……。

その傷を盾に移動させ、僅か後に首を傾げたのである。

 

「……世界が調和しない?」

「その死神の事は見たことあるけど、藍染事件の最初の時に既に相当なものだったよ。きっと幸運じゃないから機能しないんだと思う」

「ははっ。無敵の能力にも思わぬ落とし穴があったもんだな」

 首を傾げるユーグラムに石田雨竜が一つの案を提示する。

この距離ならば避けても当たる、剣で防御しても当たる。運不運が挟まる余地がないので、幸運と不運を定義するザ・バランスや盾の能力が機能しないのであろうと告げたのだ。

 

自身にとって天敵ともいえる存在が現れたことに……不思議とユーグラムは静かな笑顔を見せた。

 

「それは使えるかもしれないな。我々の”見えざる”帝国の為に」

 この日の戦いは滅却師(クインシー)側の有利に進む。

だが依然として、その勝者は見えないでいた。




 という訳で舞台裏です。

マユリ様から始まるのは途中でやっている「貴様見ているな?」をしたかったからだけです。
後は浦原さんよりも先に虚由来の力ならば簒奪を防げる。ゾンビ化に興味示す。
そんな光景を書きたかっただけですね。

●マユリが一角に共感を覚える理由
 まずネムの外見を思い浮かべてください。
親子なので仮装を止めたら割りと似ているんじゃないでしょうか?
特に十代前後くらいの性別が判り難い時代ならば特に。
その上で、ネムの目つきを釣り上げて、性格の悪い研究者にしてみましょう。
良く似た人が居ませんか? 赤ん坊を研究室に連れ込んで、実験素材を玩具に与えて
片手間で育てても違和感なさそうな毒親ッポイ候補。
という訳で千手丸は1000年前の研究者で、マユリの親とでもしておきます。

つまり何をやっても千手丸の七光りと見られた時代があって、浦原の弟子扱いされている。
一方で、一角は初代剣八とやってることは同じだけど遥か格下な訳です。
現在の剣八にも及ばないので、コンプレックスを抱えているお仲間と言う視点。
そんな彼がマユリ様の為に、卍解簒奪を防ぐためのデータと、ゾンビ化のデータくれたので満足してるわけですね。

研究用補助脳たち。
「はーっはは!」は
「イヒヒヒヒ!」ひ
「ううふふふ♪」ふ
「えへへへへへ」へ
「オーホッホホ」ほ

という感じで大はしゃぎしている事だと思います。

●ダウナーバンビちゃん
 別に一角に調教されたわけでもなく、単純に自分が格下で相手にされてもなかった。
いつゾンビにされてもおかしくない環境だと気が付いた感じですね。

●ポテト達
 真面目に戦陣を組んでるので有利です。
蒼都がタンク役やって、ポテトが指揮官。BG9・バズビー・石田が専任。
という訳で剣八が負けたほか、隊長格が三人ほど死んでおります。ホントウだよ?

なおザ・バランスが確定事項に対して弱いというのは捏造設定。
概念系の能力なので、100%命中する攻撃は幸運ではないので逆転できない。
としております。


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終局に向けて

●報連相

 不眠不休でにらみ合いと小規模な戦いが続く。

その状況が一転したのは翌日になってからだった。

 

「賊軍が移動を開始しました!」

「四十六室より伝達! 防備を固めた上で追撃を許可するとのこと」

「あの無能ども。足を引っ張っただけでは気が済まぬのか!?」

 砕蜂が激高するのも無理はあるまい。

昨日の戦いは本来、一角らと戦っている敵部隊を後方から襲撃するはずだった。これが急な転身命令のせいで無駄な犠牲を出したのだ。

 

流魂街と精霊廷の結節点は四方にあるが、滅却師(クインシー)たちが襲撃したのは四十六室に縁深い所謂……行政エリアであったというのも大きな影響を与えているだろう。

 

「そこまでしておけ。唸りたいのは貴公だけではない」

「お前の所は被害が少なかったから! ……いや。なんでもない」

「善後策を考えようや。それが死んだ拳西たちに向けた餞やがな」

 狛村左陣に怒鳴ろうと掛かろうとする砕蜂だが、平子真子が睨むと黙り込んだ。

彼の友人である六車拳西。そして日番谷冬獅郎・松本乱菊……実に三名もの戦死者が出たのだ。

 

相手は陣地を作って待ち受けており、連携して攻防を巧みに使い分けていたために、想像以上の被害が出てしまったと言える。

 

「当初の予定は必ずしも上手く行くとは限らへん。今回の結果で横車には抗議するとして、何かええこと判ったん?」

「勿論ダヨ。もう少しで卍解簒奪を防ぎ、奪還する手段が完成する。それまでは復帰組以外は解放を遠慮願いたいものだネ。完成し次第に転送措置を行う」

 九番隊の隊長である六車拳西は戦死したが……。

その際に卍解が奪われなかったことが新事実として発覚した。技術的な問題なのか、それとも滅却師(クインシー)側の問題なのかは不明だが、(ホロウ)由来の力が混じっていると卍解を奪えないとの事だ。

 

そこで涅マユリは技術開発局の粋を集め、急ぎその対策を行っている。

 

「諸君らに渡した内の片方はその際に使う転送マーカー。そしてもう片方は敵を倒した際の処理を簡便化するモノになる」

「処理用の薬品が三つあるんは何なんや?」

 マーカーがあれば掴趾追雀で位置情報を補足する必要が無くなる。

首を傾げるのは処理役が三種類ある事だった。今まではワザワザ廃炎を使っていたのだが、その代用だけなら一つで良いだろう。

 

「一つは周辺の霊子ごと焼き払う物。一つは周囲の霊子を攪拌する物。最後の一つは適当な場所に霊子を転送する物だヨ」

「一角が言っとったやつですかいのう」

 これは以前に斑目一角が頼んでいた物だった。

滅却師(クインシー)は霊子吸収能力があるので、倒した敵の霊子を吸収しかねない。そういう懸念があったので提案されていたのだ。

 

「昨日の戦いで敵隊長格の滅却師(クインシー)数名を倒したはずだが、測定結果が合わない。そこで急遽誂えた。まったく忌々しい連中だヨ」

「それで三つですかい。……あいつも自分の意見が役立って満足して逝ねるでしょう」

 普段は口を挟まない射場鉄左衛門の言葉にマユリは軽く頷くだけで済ませた。

ゾンビ化しただけで彼の力を持ってすれば所有権を奪取できるだろうし、元に戻すことも可能であるかもしれない。しかしながら、それは興味の一つでしかない。あえて口に出して約束してやる義理などないだろう。

 

「それと、これが敵軍の新情報だヨ。連中の特殊能力の詳細が分かった。その強度は破面以上、完現術以下。君たちにはその対処を的確に……」

「もう良い」

 マユリの言葉を総隊長である山本元柳斎が遮った。

ここまでは必要な情報だったので黙っていたが、これだけの情報があればもう良いと判断したのだろう。

 

「奴は。ユーハバッハの居所は掴めたか? 儂が求めておるのはそれだけよ」

「……申し訳ありません。候補が絞れた程度です」

 元柳斎は温厚になったが昔は無茶ばかりを行う男だった。

一罰百戒・一族滅殺などは可愛い物で、賊をかくまった者もろともにその地方を焼き払って族滅を行ったことも一度や二度ではない。

 

そして温厚になったという事は、必ずしも牙が抜けたとは限らないのだ。

親しい者を次々と傷つけられ、殺されて、黙って居られるほど涼しい男ではない。

 

「賊軍自体の対処はおぬしらに任せる。総員で出払っても構わん。一刻も早くユーハバッハを探し出せ!」

「はっ! しかし……四十六室の方はよろしいので?」

 思わず首をすくめるように皆頷いた後で、当然のことを聞き返した。

行政エリアを固めろという命令が出ているのだ。横車で作戦を曲げたこと自体には抗議するにしても、既に発行された命令自体はどうしようもない。

 

「儂自身が出向く。それ以上の警備などあるまい。お主らは資料を基に確実に賊軍を葬っておけ」

「そういうことでしたら」

 どうやら四十六室に腹を立てているのは元柳斎も同様らしい。

大将ゆえに自重を求められている事を逆用し、警備しろと言われた場所へ自身が赴くことで片付けるとのこと。まさに睨みを効かせるということだろう。

 

「しかし元柳斎殿を一人にするわけにもいかん。奴らの方が目的を変え兼ねんからな」

「それについては私に案がある。あそこの地区ならば鬼道衆やご意見番たちにツテが使えるからな。それよりもお前たち、耳を貸せ」

 狛村たちに砕蜂が提案したのはひどく単純な事だ。

行政エリアの防御ならばご意見番……引退した大前田稀ノ進らや、鬼道衆を動かすに足る理由になる。十三隊とは独立している隠密機動の長でもある砕蜂ならば、鬼道衆の長に援護を要請しても不思議ではないだろう。何より四十六室の命令で守備に就くのだ。協力を要請してなんの問題があろう。

 

「む?」

「拳西たちの仇が討てるならボクも協力させてもらうよ」

滅却師(クインシー)が連携して戦うのであれば死神が連携して悪い道理はあるまい。私は暫し、隠密機動の本分を活かす。手柄はお前たちが持っていけ」

 砕蜂は狛村たちを表に、陰に潜んで戦う事にした。

影から影に隠れて戦う事こそが、隠密機動の本領だ。何も真正面から一対一で戦う事だけが死神の戦いではないのである。

 

●逆転

 それから護廷十三隊は守りが主であるかのように戦い始めた。

代わりに動くのは隊長格たちで、狙うは滅却師(クインシー)の左翼大隊。まずは才能が高過ぎるがゆえに個人プレイに走りがちな者を狙い討ったのである。

 

彼らは滅却師(クインシー)の中でも聖文字で得た特殊能力に長けた者。

その能力は強大だが、能力さえ理解してしまえばそれほど脅威でもない。

 

「嘘……だろ。あのグレミィがこうもアッサリ……」

「別に不思議では無かろう? 想像したことが何でも引き起こせるとしても、相手の位置が判らぬままに攻撃されてはどうしようもあるまい」

 アスキン・ナックルヴァールにとって悪夢が起きていた。

滅却師(クインシー)の中でも最狂最悪を唄われるグレミィ・トゥミューが至極簡単に葬られただけではなく、自身の位置が補足されてしまっているのである。

 

グレミィに関しては最初、相性や順番が悪かった。運が悪いだけと思っていた。

だが実際には他の戦いで能力を確認した後を狙われた。音楽を聞かせた相手に幻覚で攻撃する鳳橋楼十郎との戦いに夢中になった所で、砕蜂の弐撃決殺を本体に受けてしまったのだ。

 

「デスヨネー」

「こらっ!? 逃げるな、貴様!」

 そんな中でアスキンはスタコラサッサと逃走を開始した。

正面から戦うようなポリシーは持っていないし、味方を壁にして裏から攻撃するようなやり方は彼自身も認める事だ。滅却師(クインシー)の中でも屈指を誇る逃げ足の速さで逃走しようとした。

 

「なんという腰抜け。……いや。足の速さを褒めるべきか。あの速さには本気を出した夜一様以外は追いつけまい」

 追いかけようとした砕蜂だが、あまりの速さに絶句してしまった。

何が問題かと言って、戦いもせずに初手で逃げ出したことだ。同時に走れば夜一の方が速いとしても、戦う準備を始めたところで逃げられたらどうしようもない。まして未熟な己では仕方あるまいと思う事にした。

 

「こちら砕蜂。第二目標には逃げられた。次の目標に向かおうと思うが?」

『最寄りの敵には吉良副隊長が向かわれました。現在、同士討ちで被害が出ている区域が……あ』

 奇しくも滅却師(クインシー)たちの多くは戦いのポリシーなど意に介さぬ者が多い。

同様の心情を持つ砕蜂は遠慮なく、一人を複数の隊長格で戦う方法を提案したのだ。それもただ戦うだけではなく、まずは戦闘型の隊長格が戦い、その間に対応能力を持った者をピックアップして送るという二段構えだった。

 

『涅だ。今の報告は忘れ給え。まともに戦う相手には厳しい相手だヨ。こちらで何とかしておく』

 砕蜂が連絡を入れると、返信の途中で割り込みが入った。

おそらくは情報を管制している場所にマユリもいるので、研究の手を留めて待ったをかけて来たのだ。技術開発局を一時的に放棄しているので、こんなこともあり得るのだろう。

 

「あいつ忙しいとか言っていなかったか? まあ良い。ひとまず吉良の後詰めに向かう。その間に次の標的を頼んだぞ」

『了解しました。判明している情報含めて送信します』

 砕蜂は首を傾げながらも研究成果が使える対称なのだと思う事にした。

 

 

「立ってくだサイよスーパースター! あんたは……倒れちゃ、駄目、なんda……」

「ジェーイムゥーズ!? おのれ、いたいけな一ファンを攻撃するとは!」

 バラバラにされても蘇っていた小男が、枯果てるように死んでいく。

その声援を受けて戦っていた男は、怒りに燃えて激高した。

 

「そいつの声援を含めてキミの能力なんだろ? 僕が手加減する訳ないじゃないか。檜佐木さんの仇も討たないといけないしね」

「まだ……死んでねえよ」

 援護に駆け付けた吉良イヅルの近くで檜佐木修兵が死にかけている。

正確には重傷を負って気絶しかけていたのだが、死の窮地に際してオチオチ気絶して居られなかったのだ。

 

何しろ、まさしく死の淵ともいうべき場所に立っているのだ。

ここで気絶したら、先ほどの小男と同じ末路だろう。

 

「この卑怯者め! ジェイムズやワガハイから奪った力で戦う気だな! だが見ておれワガハイとて、そこの男から卍解を奪って……」

「奪った力で戦う? 馬鹿言っちゃいけない。この力はそんなに便利な物じゃあない」

 メダリオンを掲げて卍解化しようとする大男……マスク・ド・マスキュリン。

だが吉良は思わず苦笑した。戦いの中で会話に夢中になり、ベラベラ喋りながら戦うなど苦笑物だ。

 

だがあえて説明することにした。

彼が使った『卍解』は、時間こそが最大の味方だったから。そして檜佐木が降下範囲から逃げるまでの時間を稼ぐためだ。

 

「ただ全ての霊圧が失われるだけさ。そこに区別などないよ。敵も味方もこの僕ですらも」

「なにぃぃ!?」

 吉良は伸びて来る鎖を受けただけでガクリと腰砕けになった。

だが、それはマスキュリンも同様である。いや、卍解する前は元気だったことを考えればその差は明らかだ。

 

「ぬおお!? 馬鹿な。ワガハイの鉄拳が効かぬだと!?」

「力を振るう時は、その力の恐ろしさを十分理解するべきだったな」

 そもそもマスキュリンは誤解していた。

檜佐木から奪った卍解、風死絞縄はダメージを与える能力ではない。多大な攻撃力を持つマスキュリンを束縛するのに絶好な、縛道を究めた卍解なのだ。

 

本来は倒された鳳橋の代わりに檜佐木が足止めに来たのだが、マスキュリンの方が一歩上手だっただけ。いや……こうなることも含めて、檜佐木は計算していたのである。

 

「チクショウ! 騙しやがったな!」

「ウルサイな。だけれど、やがてこの領域は静寂に包まれる。椿の花が朽ちるように……誰も彼も力を失い機会を失い枯れ果て、詫びるかのように蹲る」

 フラフラになりながらも吉良は卍解を解かない。

このまま戦えば勝てるというのに、解くはずがない。例えこのまま相打ちで倒れるとしても、これほど屈強の滅却師(クインシー)である。副隊長が二人死んだとしてもお釣りがくるだろう。

 

「ゆえに侘助。……寂庭侘助椿」

 ガクリと吉良もマスキュリンもうなだれる。

力なく膝を着き、吉良に至ってはシャムシール化した斬魄刀を杖にしなければ倒れそうだ。

 

何処にも行きつけない、報われもしない無情の力。

それがこの卍解の能力であった。

 

「ええい! そんなの関係ねえ!! おまえが先に死ねい!」

「っ!?」

 マスキュリンは最後の最後で卍解を捨てた。

メダリオンを砕くと一気に完聖体化して、残りの力を振り絞って霊子を一点に集中させる。

 

そして神聖滅矢が迸る瞬間……背中から大きな針が突き立てられた。

それも二度。

 

「何人……汚ねえぞ……チクショウ……めえ……」

「弐撃決殺……砕蜂隊長か」

「無事ならば戦列に復帰しろ。無理なら四番隊に救護してもらえ」

 放たれる瞬間、ギリギリのところで援護が間に合った。

 

蜂紋華が刻まれ消えゆく中で、華奢な女性が一人佇んでいる。

あまりに都合の良いタイミングに、思わず尋ねてみる事にした。

 

「スイマセン……何時から?」

「吉良が卍解してからだな。防御用の霊装を解除して攻撃に集中するのを待っていた」

「……お手数をおかけします」

 二人の男は苦笑しながら去っていく砕蜂に頭を下げるのであった。

ゆえに侘助とはだれが言った言葉だろうか……。




 という訳で逆転開始です。

砕蜂無双というよりは……。仲間の死神が死んでる最中にも、情報収集して戦闘傾向とデータ集めた隠密機動の活躍になるでしょうか?

●被害
 六車拳西・日番谷冬獅郎・松本乱菊が前日の戦闘で死亡。
この三人が前回のラストで討ち取ったと言っていたメンバーです。
これに追加で鳳橋桜十郎が死亡。重傷者は狛村左陣・檜佐木修兵の二人。
本来は死ぬはずなかったし檜佐木も重傷の予定じゃなかったのですが、マスキュリンとジェイムズが二人で一組。生き返るというのを知らなかったのでこうなりました。

クインシー側はマスク・ド・マスキュリン以外に、グレミィ・トゥミューが行殺、舞台裏でペペ・ワキャブラーダとエス・ノトが死んでます。
この四人が死んだ事で左翼大隊は壊滅。

●死神側の動き
 集団戦・ゲリラ戦を挑んでくる相手にタイマンで戦う理由はないので、こちらもやってやるよ状態。雀部さんは生きてるのでマシに見えるけど、シロちゃんとか死んでるので総隊長ゲキオコ。四十六室の命令ブッチして、総員でぶっ殺してこいと命令してます。

●クインシー側の動き
 左翼大隊は基本的に大火力の持ち主ばかりで、個人で行動しないと味方を巻き込みかねない連中なので仕方ない面もあります。アスキンは右翼に合流するか、それとも単独で任務続行するか悩んでる感じですね。

残った右翼大隊と前線部隊は目的に沿って行動中。
陛下と親衛隊が原作通りに藍染さんに会った後、帰還なんかせずに目的を果たす予定です。

●卍解
 69さんは小説で出たとのことなので、wikiから少し持って来ました。
奪われても構わない卍解として作戦に組み込んだ感じ?
侘助の方は幾つか前の話の後書きで出た、何もかも失われる卍解。
月姫の格闘ゲームを知ってる方には枯渇庭園がモデルと言えば判り易いでしょうか。
持ち主含めてだ柄もが頭を下げて、詫びるように死んでいきます。

●一角の復帰は?
 能力の判明したペペとエスノトが語られることなく死亡。
これをやったのはマユリの手勢。……という辺りで察していただけると幸いです。

次回に復帰するというか……当初の予定では時系列飛ばして復帰。
その後にあの時こんなことがあった……とする予定でした。
しかしながら順番通りにやった方がいいのと、隊長たちが報連相しつつ、どんな作戦で倒していったか?
そういうのを解説する回を入れるために書き直した感じですね。
今思えば何も考えずにその後(今回の話)を書いて、次回の頭の一角の話・その後の話を書いておけばよかったなあと思わなくもないです。


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道筋

 滅却師(クインシー)の本隊は健在だった。

規律のとれた右翼大隊が後背を守り、バランスの取れた前線部隊が蹂躙していく。左翼大隊は火力こそ高いがはみ出し者ばかりだったこともあり、それほど被害を受けた印象はない。

 

それぞれが隊長格に匹敵するがゆえに、進撃そのものは快調。

一同に懸念があるとしたら、何のための成功なのか不明だという事だ。

 

「そろそろ目的を話してくれても良いんじゃないか?」

「目的は当初から霊王宮への進軍、それは変わってない。……だがそんなことを聞いているわけじゃないようだね」

 石田雨竜の質問にユーグラム・ハッシュヴァルトは頷いた。

他のメンバーも同様の疑問を浮かべていたからだ。

 

「霊王宮へ行くには王鍵とかいうのが必要なんだろ。藍染だってそのために空座で事件を起こしたんじゃないのか?」

「その指摘は正しい。だが我々は最初からある裏道を使用する」

「裏道? そんな都合の良いモンが隠されてるってのか?」

 石田に加えて今度はバズビーも会話に参加して来る。

そんなものがあるのであれば、藍染はとっくに奪って利用しているはずではないか?

 

「確証がないだけで隠されてなどいないよ。そうだな……一方通行の道があり、それを逆用するのだと言えば判り易いかな?」

「一方通行の道? まさか……」

 ユーグラムの言葉に石田は内心で青ざめた。

自分が持つ聖文字の能力が、起きた現象をソックリ相手に返すモノだとは告げてない筈なのだから。

 

「少し話は変わるが、死神の王族特務は全員が歴史に残るほどの創作物を作り上げた者だという。その創作物はあまねく死神たち全てに分け与えられ、その力を強化している」

「……?」

 突然話が変わったことで、一同は首を傾げた。

これだけではまるで判断ができないため、黙って続きを促した。

 

「この図式は逆だと考えられないか? 王族特務にしたからこそシステムに取り込まれて、その能力を効率的に死神たちが利用できるようになっている。そして、それを受け取る場所があるんだ」

「確かに本来であれば王族特務は強者であるべきだ……」

「作り上げた物を渡すために、霊王宮を空けるなど言語道断。そういうことか!」

 ここに来てようやく他のメンバーもその歪さを理解した。

近衛兵と言う意味では滅却師(クインシー)における親衛隊の様に強さが基準であるべきだ。なのに霊番隊は全員が生産者である。

 

「幾つか候補は考えられるけれど、本命はおそらく……」

「「真央霊術院!」」

 毎年少なくない数の死神が護廷に努める。

候補という意味だけで良いなら、その数倍が存在するのだ。その全てに斬魄刀と死覇装が渡されることになっているが……霊番隊がその都度に降りてくるという話は全く聞かない。

 

精霊廷で普通に生産できるという話も聞かないし……。

死神のその後を決定付ける程の性能と、その特殊性を考えればおかしなことだらけであった。

 

「我々数名による聖隷ならば強制的にこじ開けることも可能だろう。無論、陛下が全霊を傾けられれば瞬時に開くだろうが、そんな状況は唾棄すべき展開だ」

「当然だね。我々聖十字騎士団は陛下の手足であるべきだ」

「陛下のお手を煩わせるなど言語道断」

 冷めた目で見る者も居る中、忠誠心に篤い蒼都やBG9は声を荒げる。

ユーグラムは満足そうに頷いて指を三本程伸ばした。目的を果たすための条件が三つあるという事だろう。

 

「陛下が用件を終わらせるまでに確保すること。かといって焦り過ぎて通路を閉鎖させないこと。そして聖隷による逆行儀式を滞りなく運営することだ」

「要するに時間と余裕が必要と言う事だね?」

「陽動だろうが壁役だろうが任せてもらおう」

 ユーグラムは自身が全霊を賭して実行すると言い、背中を任せると口にした。

だがそんな話に誰もが頷けるわけではない。

 

「段取りが出来ているのは良いさ。……そこにオレ達の出番はあるんだろうな?」

「勿論だとも。こちらが考えることを相手が考えないと過信するのは愚か者のすることだ。逆行通路を構築できると判った段階で、総員で待ち構えるくらいの事はするだろう」

 リルトット・ランパードが警戒するのも当然のことだ。

見えざる帝国が三界に覇を唱えるのか、それとも新しい世界を築くのか分からない。だが、活躍できない者に明日の目はないだろう。

 

問題なのは明日があるという言葉を、字義通りに捉えているかどうかだ。

昔なじみのロバート・アキュトロンならいざしらず、まだ若いリルトット達スカウト組には役立たずは処断される程度の認識でしかないだろう。だがユーハバッハを良く知る者にとって、ソレは文字通りの言葉である。

 

活躍するような必要性を持たない者は、その時点で活動する者のエサでしかない。

全ての力と命を奪われて再配分されてしまうのだ。その意味では、リルトットの直観は冴えていると言っても良い。

 

「判った。少し戦力をくれ。罠に関してはゾンビたちを先行させて代わりに嵌らせた後で、一気に突破する」

「……了解した。ここで編成を少し改める」

 リルトットの現実的な提案にユーグラムは意外な物を見た気がした。

実に立派な指揮官ぶりで、言わずとも罠の可能性も考慮して作戦を考える。これまでロクに話などしていなかったが、話していれば有益な相談もできたかもしれない。

 

「部隊の壊滅したアスキンとナナナをこちらに組み入れ、代わりにバズビーを手勢込みで前線部隊に入れて攻撃力を補強する。足りるか?」

「十分だ。オレ達の活躍でも楽しみにしててくれよ」

 ユーグラムは部隊編成を修正する。

左翼部隊の生き残りであるアスキン・ナックルヴァールと、狩猟部隊の生き残りであるナナナ・ナジャークープを組み入れ本隊として編成し直した。

 

またバズビー達を前線部隊に組み入れて、高い戦闘力とそれを守るための壁を配置する。

戦いは既に消耗戦になって来ており、敵味方共に全盛期の六割りを切っている。この布陣はその対策であり、『消耗戦になっているフリ』をするものであった。

 

こうして戦いは双方の思惑の内に進む。

ゾンビの反応が消えたところでリルトット率いる前線部隊が突入し、戦いは本格的な物になったのである。

 

 久しぶりの目覚めだった。

正確には起きているような寝ているような不思議な感覚が続いており、起きていると実感したのが今と言うだけなのだが。

 

「意識はハッキリしているカネ?」

「お手数をかけしました。……俺が使えそうなので色々急いでくれた感じの状況っすかね?」

 目覚めた後、最初に見たのはマッドの顔だった。

例の発光する衣装なので、まだ最終段階ではないようだ。

 

「賊軍は霊術院を占拠した後で、無間より出て来た敵の大将が合流に向かってるところダロウ。覚えていることがあったら、さっさと報告するんだヨ」

「了解です。連中の能力とグダグダなコミュニティくらいっすけどね」

 いやーサッパリ記憶にないわ。

とはいえ素直にそんなこと口にしたら、治療を中断されてこの後はフェードアウトになりかねない。乗り遅れないためにも、情報をでっち上げておこう。

 

「一番やばい情報は、例の吸収能力の行き先は親玉に紐付けされてるってこと。そして付与能力もあることから部下は個性のある水風船くらいの扱いで、不満に思ってる連中も多い感じでした」

「ということは逃した霊子は全て奴のところへか……」

 もし俺に意識があったらこの程度の事は理解していたはずだ。

詳細を誤魔化しつつ適当に修正して報告しておいた。

 

しかしマッドの表情が不満と満足の入り混じった感じなので、霊子吸収対策はそれなりにしていたようだ。これは安心できる情報だった。

 

「連中の生き残りとその能力はこの程度把握しているヨ」

「別格なのはやはり親玉と上位隊長格っすね。あくまで連中の会話を聞いたレベルですが、親玉は予知能力。騎士団のリーダーは親玉の能力が反動を負荷を起こしている時の代行。他には親衛隊とか言うのが、どいつもこいつも頭おかしいとか」

 出逢っていない俺が知っているのも変だが、伝えないと意味がない。

原作知識を活かせる千歳一隅のチャンスなので、連中が誇っていた・恐怖していたという態で、程ほどに能力を説明していく。

 

こうして公然と原作知識をひけらかせるなら、ゾンビニなった甲斐があったなあ……。とか自分を誤魔化していると、現時点で判明している撃破情報に驚かされた。

 

(グレミィを覚醒剣八抜きで倒してる……だと?)

 どうやったんだよ……。

思わず驚愕したというか、総隊長生きてるしこのまま行けば原作知識なんか要らねえんじゃ? と思う瞬間だった。

 

「基本的には詳細なんか掴めるような状況ではありませんでした。ですが奴らはアルファベット管理しているようなので、おおよそ想像はつきます」

「全知全能。天秤。命令。破壊。毒物。通り抜けは貫通能力として……奇跡? 良く判らない能力ダネ?」

 当てずっぽうであるという態で、強引にこじつけて能力を予想したことにする。

ミニーニャはパワーの代わりに破壊力でD、代わりにアスキンをポイズン。キャンディスをライトニングのLにして、Tを貫通か何か具合にすれば説明は容易い。

 

幸にも俺の戦術予想はそれなりに当たっているし、過去にも原作知識で補強した事もあるので信用されたようだ。そういえば占い師の卜占は二割当たっていれば、当たっているような気がするという話を思い出した。

 

「そこは奴らの言ってた無敵の力に当て填めただけですね。進化とかはアルファベットをもう使ってるので」

「と言う事は攻撃を逸らせた歪曲能力はWあたりか。だいぶ掴めて来たネ」

 陛下が無間から出て、合流までに遠距離攻撃を仕掛けたらしい。

その時にこちらの攻撃が当たらず、連中の反撃で防御したはずの攻撃が貫通したりと、補強材料はあったようだ。マッドの方で適当に組み立ててくれたのは正直助かる。誤魔化すのにも限界はあるしな。

 

「後はいかに親玉の能力で霊子の入れ替えをさせないかじゃないでしょうか? 前にも言いましたが、倒したはずなのに別の奴が強化されたんじゃあ意味がありません」

「それについては解決しているヨ。色々試したが攪拌して認識を誤魔化すか、即座に転送して除去してしまえばいい」

 マッドが不満なのはそれでも万全ではないという事らしい。

聖別で十割、死亡で八割として、六割に抑え込む程度にしか過ぎないとのことだ。

 

だが原作を知っている俺としてはそれで十分に凄い事だと思えた。

ひとまず騎士団の連中を屋内に誘い込んで、霊子吸収対策や認識攪乱の掛かった結界内で倒すという案を相談して穴だらけの報告を終えた。




 という訳で捏造ルートと、一角の復帰回です。

●捏造ルート
まずはクインシーが霊王宮に突入する方法をでっちあげてみました。
というか斬魄刀と死覇装が特殊過ぎて、精霊廷で生産できそうにない。
その辺の違和感を活かして一方通行(投下専用)……。
またはアイテム転送専用のルートがあるとしてみました。
聖別でそのルートを乗っ取ってしまえば、霊王宮に行けるだろう。
無理でも強引に飛んでいくための道標にはできるという感じですね。

なお死神側は狛村隊長が総隊長を庇って死亡。砕蜂・大前田が長距離狙撃で重傷退場。
クインシー側はロイドのもう一人とロアーなお猿さんが死亡しております。

●晴れ時々嘘情報
 ゾンビ化されてる時に何がない会話を聞いた。 = 凄い強いというくらい。
あとはアルファベット管理なのを逆用して、単語をでっち上げで説明しています。
あの時にとっ捕まったことで、原作知識を活かせる布石になってる感じですね。
ザ・デストロイヤーとザ・ポイズンとか大ウソこいてる情報もありますけど。

●霊子対策
 実のところ、あんまり対策の影響は出てません。
どっちかというとこのままいけば霊王を吸収しないので……。
全知全能で刀狩りカウンターできないってことの方が重要でしょうか。

なので頂上決戦は無視して、次回からは一角が配下の大物と戦う予定です。


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最終決戦の始まり

 現場復帰までに俺がしたのは、簡単にリハビリしながら現在の情報を聞いておくことだった。

俺が回収され早々に復帰できたのは、お互いの戦略がぶつかり合った結果だったようだ。

 

「罠を張って待ち構えてたら最初にゾンビの集団がやって来てね。今はお互いに二枚目三枚目の手札を切り合ってる」

「なるほど。俺はゾンビだったし、そこで回収されたってわけだな」

 使い捨てのゾンビに相応しい役目であり、俺の回収は別に運不運では無かったようだ。

護廷にとって罠は足止めに過ぎなかったし、ゾンビの集団しか嵌らなくとも動きを留めればそれで十分。滅却師(クインシー)側にとっても罠を潰して動きを読めれば十分ということらしい。

 

戦略と言うのは一つ駄目でも、最初から複数の手札を用意しているものだ。

最初の一手が状況把握までの時間稼ぎであれば、次なる手を打っていくのは当然の事。動きを止めた敵に対してお互いが火力で撃ち合って合っているらしい。

 

「すまねえな。俺が不甲斐ないばかりに不本意な解放までさせちまって」

「ボクにとっても扱い難い卍解を万全の態勢で使える珍しく絶好のタイミングだったから構わないよ。ただ最初は一角だって判らなかったんだ。何しろ御洒落をしてたからね」

 弓親の卍解は既に使用された鬼道を再現する物らしい。

それだけならば便利な様に聞こえるが、場所や方向まで固定されるので地雷のような使い方しかできないらしい。今回は張っていた罠が縛道系の大規模術式であったため、再構築することは都合よかったそうだ。

 

本当に弓親が満足しているかは別にして、相棒がそう言っている以上はここまでにしておく。

 

「それがコイツか」

「剥がす? 服はともかくその銀メッキは綺麗だからそのままにしてたけど」

 俺は変装というか、コスプレさせられていたらしい。

斬魄刀の切っ先には銀メッキが施され、服は死覇装ではなく騎士団の制服。あげくに鬘を付けてロンゲだったので、これは俺だと気が付かなくても仕方あるまい。

 

しかしこの銀メッキは非常に判断に困る代物だった。

 

「いや、止めとこう。もしかしたら石田が暗号か何かを仕込んでるかもしれねえ」

「一角が良いならそれでいいけどね」

 これがただの銀メッキならならば良い。

騎士団というか滅却師(クインシー)の装備には銀色は付き物だし、装備の中にも霊子を溜めておく銀筒とか色々と使用していたはずだ。

 

問題なのは採集シーンで登場した『静止の銀』である場合だ。

 

「……聞かなくちゃならねえことが増えちまったな。連中の幹部と死合に行くとするか」

 静止の銀であれば非常に助かる。

だがそれには幾つか矛盾が存在した。石田かそれとも……。ポテトなりモヒカンに尋ねてみなければなるまい。

 

静止の銀の事を知っているのは石田親子だけで、渡してくれる可能性も彼らだけだ。

 

「それなら敵の配置図があるから参考にして。今のところ判っている範囲で書いてある」

「挟撃作戦とは手抜かりねえなあ。しかし望む相手と出会うにゃあ、前座を倒さないと無理か」

 状況が固定化したことで相手の布陣も判って来た。

こちらは誰かが犠牲になって足止めし、そいつに得意な能力持ちで攻めるという身も蓋もない相性戦術を組んでいる。

 

どこの十絶陣対策かと苦笑しそうになったが(フジリュー版じゃない封神ネタ)……。

千年血戦のラストはカードゲームじみた戦いなので、仕方ないとも言えた。あえていうならばタイマンしたい剣八が不満を覚えていそうだと今から溜息が出るくらいだ。

 

「ゾンビ野郎に復讐するんじゃないの? あ、あいつはねえ……」

「男の娘なんだろ? マッドと似てるから判ったよ。俺が聞かなきゃならねえのは石田か……下剋上しそうな奴」

 単純に石田に何か問題があって、奴が持ってる鏃を加工しただけかもしれない。

だがもう一つの考えとしてバズビーの存在が居る。奴ならばその場で鍍金くらいはできるし元は陛下と敵対していた。そしてなにより彼の親友であった過去を持つハッシュヴァルトが重要だ。

 

奴らが元鞘に収まって反旗を翻す場合……。

とても大きな変化になると言えるだろう。だが、その確証がない以上は最終戦に割って入るわけにはいかない。特に石田親子以外は知らない筈の静止の銀をどうして知っているのか?

 

外伝の小説でポテトがバンビーズを助ける準備をしていたらしいが、俺は読んでいないので判らないのが痛かった。仮に反乱の準備をしていたとしても、原作と道筋を変えた理由が不明なのだ。

 

「仕方ねえ、コイツと戦ってからだな。平子隊長とあいつらに後詰を頼むか」

 ここで先ほど言った別の問題が出て来る。

バズビーは前線でボーボ-燃やしてるので接近しにくいし、知らない可能性がある。ならハッシュヴァルトだが、奴は首領補佐なので直接戦えるはずがない。

 

だから敵幹部なり親衛隊の中で、俺が倒せそうな相手を戦って潜り抜ける必要がある。

だがそいつは逃げ足が速く、平子隊長の能力がないとタイマンすらできないのだ。他の連中は原作に準じて結界の外から行う攻撃役というわけだ。

 

 敵陣に対する攻撃は一斉に行わなければならない。

逐次投入は愚かだし、相性戦術をする以上は手の空いたメンバーが援軍に来られても困るからだ。

 

「隊長。タイマンの許可が出てる時間を忘れねえでくださいよ? お互いに病上がりですが、俺の方がそっちの獲物を喰いに行くかもしれません」

「言いやがる。こんところ爺さんと試合しかしてなかったしな。少しくらい楽しませろよ」

 なんと剣八は総隊長とチャンバラやってたらしい。

なんて羨ましいというべきか、総隊長が死んでないので、卯ノ花隊長との訓練ができなかったようだ。

 

それはそれとして総隊長も不満を抱えたまま燻っており、剣八と試合することでウサを晴らしていたそうだ。斬術教えるなとは言われているが、試合形式で遊ぶのは無問題という強弁らしい。

 

「なんだ隊長なら不満の一つも言うかと思ったらゴキゲンじゃないですか」

「まあな。何しろ無敵だかミラクルだか言う奴なんだろ? ちったあ楽しませてくれそうだ」

 戦いは大詰めなので親衛隊が出て来る可能性がある。

そこで剣八の相手は、あのジェラルド・ヴァルキリーということになっていた。足止めとしては贅沢なくらいだし、倒せれば御の字ということなのだろう。

 

問題は倒せるかどうかなのだが、聖別で強化される前ならばワンチャンありえるだろうか?

本人は倒す気マンマンだが、再生して強化され続ける相手とは最悪の相性な気がする。応援を差配するマッドとしては増援で片を付けさせるつもりなので気にしないらしいが。

 

(まあ倒せるか怪しいのは俺もだけどな。多分……先に倒されなければ行けると思うんだが)

 勘違いでなければ自力で倒せる相手だ。

問題があるとすれば先に攻撃されて完封される場合と、相手の能力を勘違いしている場合だ。後者の場合が一番問題なので、俺が予定している増援はその対策メンバーで組んである。

 

そして戦いは次のステージに進み、相手の一部が儀式らしき物を始めたところで横槍を入れに掛かった。

 

 

「よう。他の増援に向かう途中で悪いが、いっちょここで俺と死合おうや」

「悪いけどノーサンキューで。せめてこないだのネーチャンにしてくれ」

 俺が選んだ相手は恐ろしく警戒心が高い。

能力的に楽勝で勝てる可能性があるのに、即死攻撃を恐れて即座に転身した。

 

アスキン・ナックルヴァールと戦う際の最初の問題は、実にこの逃げ足であった。

 

「確か砕蜂隊長だっけか? その逃げ腰も考えものだよな。あの人の能力は段階制だから、てめえの方が相性良かったと思うんだが」

「……オレの能力説明したっけ? つか、見た目よりも足早えなあ」

 そんな訳はない。

砕蜂どころか夜一さんより速いこいつに俺が普通に走って追いつけるはずがない。

 

そう……普通に走るならばだ。

こいつの足に追いつくために、一人目のサポートを頼んである。

 

「他の連中の能力が判ったから逆算でな。お前はポイズンのPだろ? で、自分の毒を必殺にすると同時に、相手の攻撃を毒とみなして耐性を得る」

「……惜しいな、オレはD。ザ・デスディーリング、致死量を操るんだよ」

 アスキンは雑談に付き合いながらも様子を観察している。

どうやら何かしらの詐術があり、俺が追い付けている理由を探っているのだろう。

 

「オレの能力を知ってるなら通しちゃくれねえか? こっちの攻撃は必殺。そっちの攻撃は無力化できるんだぜ?」

「逆に聞くけどよ。俺が取っ捕まってる間にBの能力をもらって、ブックメーカーとかいう何もかも思い通りにできる能力があったとする。でも、てめえは諦めねえだろ」

 諦めるとしても楽に勝つことくらいだろう。

聖文字で得られる能力は完現術とは違う。一定のルールが存在するし、その法則や強度を理解すれば何とかできるからだ。

 

俺がそのことを指摘すると奴は嫌そうな顔をした。

筋書き通り(ブックメイカー)という能力があったとしても奴がなんとかできると思えるように、俺もまたデスディーリングを突破できると理解したのだろう。

 

「じゃあ仕方ねえなあ。とくと味わってくれよ、オレの切り札をよ!」

「よーし、じゃあ勝負と行こうか!」

 奴は逃げることを諦めたのか、怪しげなポーズで能力起動を示唆する。

だがこいつの用心深さから言って狙うのは別のことだろう。まずは今どうして逃げれないのかを理解し、勝つ道を探りながら同時に逃走手段も探っているはずだ。

 

「あらよっと!」

「ホイサ!」

 まるで餅つきのような掛け合いで最初の攻防がすれ違う。

奴は弓を作り上げて速射し、俺は変則的なステップで斬撃を浴びせる。

 

奴は攻撃を避けると同時サイドステップを掛け、後ろにのけぞりながら静血装で防御。

俺は最初から矢を避けもせずに、通常状態のまま首元へ袈裟切りで切りつける。結果として首ではなく肩口を切り割くに留まった。

 

「チッ。この周辺……見た目通りじゃねえな?」

「おうよ! 直進しねえ空間ってやつだ。慣れりゃ当てられると思うぜ」

 逃走を封じるタネは平子の逆撫だ。

あの斬魄刀の力で視線と体感方向を曲げて、攻撃や移動を直進できないようにしている。

 

ただあくまで方向の認識が把握できないだけなので、藍染戦でやったことの延長として、感覚に頼らず戦う方法を身に着けていれば問題ない。百年以上振り続けた棒振りのお陰でこの距離ならば問題なく命中させられる。

 

「二回目の仕方ねえなあ……だ。今度こそ切り札でお前をぶっ潰してやる。先に言っておくが、お前の攻撃は効かねえぞ」

「そうかよ? 気を抜くんじゃねえぞ、もうちょっと肩慣らしをしてえからな!」

 そこからの見た目だけは先ほどの焼き直しだった。

違うのは共に二撃目を工夫している事。奴は効かないとか言いつつ同じように防御態勢で身を反らし……何かを腕から外した。

 

俺は地雷の様に置かれたソレをそっと外野に流しながら、無解号で龍紋を開放して切りつけた。

 

「あ痛ててて。どうなってやがる?」

「投げつけたやつのことなら、てめえは見た目が頼りにならねえこの空間で目に頼るのか? 攻撃が効いてるって事なら、単にこの刀がさっきと同じ状態じゃねえからだ」

 アスキンがやったのは毒入りの腕輪を放り投げたのだ。

サイズが小さくなった上に、地雷の様に置いたので当たると思ったのだろう。だが今のように目で判断してはいけない状態で、俺が指輪サイズになったからといって逸らせない筈はない。

 

「お前が相手の必殺攻撃を毒……じゃなくて致死量扱いだったか? 耐性を付けられると想像できるのに、対処できない奴が来るわけねえだろ。ヒントその一、鯉の滝登りって知ってるか?」

「っ!? 成長してんのかよ。つーか成長してたって同じ物質だろうが」

 しかし慎重な野郎だ。

さっきの攻防だって、耐性を付けていると思てったはずなのに静血装で防御を固めてやがった。ご丁寧にフェイントを兼ねて再度ステップとかも繰り返したので、首を刈りに行ったのに致命傷になってない。伊達に原作で親衛隊入りしてねえなあ。

 

「常識で考えて鯉がストレートに龍になるわきゃねーだろ。蝶と同じで変態してるんだよ」

「ふざけろよ……。変態したって鯉が龍になるかつーの!」

 三度目の正直、今度こそ奴は能力を使用した。

思えばこれまでの攻防は、視線や体感の曲がり具合を確かめる物だったのだろう。それで片が付かないと見て、計測した方向に毒入りボールを放って来る。

 

もし俺が視線コントールを過信して居たらあっけなく死んでいただろう。

だが原作でこいつの厄介さを理解しているのに油断するはずがない。

 

あえていうならばこいつは完聖体で一気に決めるべきだったのだ。

やらなかったのは単純に、致死量設定を変更したことを悟られないようにするつもりだったのだろう。

 

「くっ……またあ!? いい加減にして欲しいなあ。てめえの霊子振動に合わせたんだぞ」

「お。物質の霊子振動に気が付いたのか。スゲーなあ」

 龍紋が変態するとしても、物質的に変わるはずがない。

それが可能なのは、斬魄刀が霊子を固めて作られた疑似物質だからだ。霊子の構成パターンや振動パターンが変化し、馴染んでいくことで別の物質の組成になっているに過ぎない。

 

ジャンプの漫画でバスタードという魔法バトル物がある。

その後編では物質が持つ固有の霊波動だっけな? その振動に逆異相の振動をぶつけて相殺するとかいう、ブリーチで言う反鬼相殺の上位互換技がある。アスキンは似たようなことを思い付き、そのパターンを特定して致死量設定したのだろう。

 

「進化するとしても、霊子振動の調整にゃあ霊圧の微細な調整が必要だから無理だと思ったんだろ? 俺は借りにも剣術指南だぞ? 俺が何百人の教練相手を務めたって思ってるんだよ」

 というか龍紋は霊圧と体力強化が微妙に上昇していく。

先ほどとまったく違う能力になるので、ちゃんと訓練して修正できないと、いつものように剣技を使いこなせないのだ。自分で自分の手足を切ったら笑い種である。

 

「なんだったら、てめえらがつかうゼーレなんちゃらの振動を抑え込めるぜ」

「なあ。……そこまでできるなら鬼道で攻撃した方が速くねえか?」

 攻撃できたら苦労してないんだよなー。

何のかんのと訓練はしたが、自分の体から話すのがとことん苦手なのだ。ハンターxハンターで言うと放出系とは相性が悪いらしい。

 

そんなこんなで切り合っているのだが、奴の用心深さの為に中々致命傷を浴びせられない。

見れば離れた場所でジェラルド兄貴がウルトラマン並みにオッスオッスしてるので、あちこちで戦いが進展しているのだろう。

 

……というか、死んだはずの狛村隊長が卍解してるし。

しかも鎧を着てないモードなので即死級の攻撃を不死身でカバーしているようだ。もしかしたらリジェ辺りもその場にいるのかもしれない。

 

「親衛隊まで出張ってんのか。このままじゃあオレも見限られそうだし、ほんっとーに仕方ねえなあ。今度こそ本気で行くぜ。疲れるから使いたくなかったんだが」

「じゃあこっちも本気出すわ。いっせーのーでいくか!」

 この後の展開は何となく読めるが、俺は前のめりでいくことにした。

範囲から逃げ出すなんざ性に合わないし、こちらの攻撃が上手く直撃すれば倒せるからだ。

 

毒入りプール(ギフト・バート)

「卍解、龍紋鬼灯丸!」

 奴は予想通りに完聖体化。そのまま巨大な毒入りボールを形成するはずだった。

予想と違うが……俺は構わず卍解で奴の静血装ごと突破できる火力を得て粉砕しに掛かった。

 

二本の大太刀を振りかざし、一本目の保護パーツを二本目で砕きながら叩いて攻撃を加速。逃げ足よりも早いスイングで捉えた!

 

「ちっ。少し遅かったか」

「そうだ。俺の神の毒見(ハスハイン)は高速で変調に適応する。霊子振動が変化しようが……ガフっ、背中から……だと」

 奴は完聖体の能力を防御に当てたらしい。

龍紋鬼灯丸を設定することで、耐性を得ると同時に、持っている俺が中毒になる技を掛けたようだ。ただ俺にだけ気を取られ過ぎたようだ。奴の背中から胸にかけて透明な刃が現れる。

 

技の組み立て自体は良い。

俺が二撃目三撃目を繰り出しても耐えられるし、こちらは振るう事すら難しくなるだろう。

 

一応は白打も強くなってるので殴り殺せないこともないが、それでは時間が足りない。

何が足りないかって……毒で死ぬよりも先に、増援が到着するからだ。

 

「そういえば……破面どもと手を組んでたっけ……。ぬかった……ぜ」

「その回答はエサクタだ。正確には第二階層、死踏蟹(カングリージョ)蟄刀流断(ピンサークーダ)というのだがね」

「……お疲れ。助かったよ」

 俺が指定した増援はゾンビ化して復活した破面。

以前に行った忠告を理解して第二階層を突破した、フィンドール・キャリアスだ。

 

奴はパーツ取りに使って失われた鋏の代わりに、水分子を重合させて作り上げた透明な剣でアスキンにトドメを刺した。

自分で倒したかったが仕方ない。時間をかけ過ぎたのは他ならぬ俺のせいだしな。




 という訳で残り数話で終了です。

前回の後半で何が起きたかを簡単に説明。
霊術院で待ち構えて罠を張り、縛道トラップでゾンピを拘束。
そのまま白兵戦やら鬼道で攻撃していたのですが、一角はその時に回収しています。
とはいえそんな都合の良い隙があるはずはないので、弓親が卍解。
他のメンバーも虚化による卍解奪回を行い、無理やり作った隙に回収しました。

●謎の銀メッキ
 静止の銀か? はたまた別物か。同じものだとしたら何のために?
一角の目標としてハッシュヴァルトまたは雨竜に合うというのがインストールされました。
まあ静止の銀だったとしても、クインシーが居ない使えなさそうな半端なですが。

●アスキン戦
 逆撫の能力で逃走を封じて、耐性を龍紋の力で突破して攻撃。
あとは地道に攻撃するという戦術です。
最期に毒入りボールだったら自分で倒したのですが、アスキンは防御優先で攻防一体のプール。
二手目でボールを放って倒そうとしたために、時間切れで増援が倒しました。
(時間があった場合は、白打と斬魄刀を使い分けて攻撃。霊子酔い対策したと思います)

●親衛隊とゾンビ破面
 逐次投入しても仕方ないので復活した隊長格とゾンビ組を一気に投入。

対ジェラルド:剣八 + ??
対リジェ:狛村(不死)+京楽
対ペルニダ:乱菊・日番谷+浮竹(能力を停止させる卍解?)

という感じです。ゾンビ破面たちは適当に協力してます。

第二階層、死踏蟹(カングリージョ)蟄刀流断(ピンサークーダ)
 以前に思った第二階層の条件で、死の形またはご悪徳と向き合う事だと書きましたが
バラガンの従属官は老練さだと思ったので、一点突破の技術力と言う意味で
フィンドールを第二階層にしてみました。


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聖別

 アスキン戦への援軍二人目は破面のフィンドール・キャリアスだった。

原作でもゾンビ化して参戦したメンツが居たが、俺が奴の能力の誤用を惜しいとレポートしたこともあり、運命が変わってメンバー入りしたのだろう。

 

原作で見た時は酷い冗談だと思ったが、ある意味でマッドらしい禁断の実験だ。

おそらくは破面たちを人体実験にして、隊長格のゾンビ化と蘇生を行う試験的な意味合いもあったのだろう。黒縄天譴明王が動いているあたり、日番谷や乱菊も蘇生しているはずだ。

 

「平子隊長はもう移動したのか?」

「エサクタ。君の相手が動きを止めた辺りでね」

 視界の歪み対策で全面攻撃は予想できた。

平子の力が最終段階で必要ないと判っていたこともあり、他の援護に向かってもらったのだ。

 

「となると雛森の攪乱が始まるのもそろそろだな。間に合ったって所か」

「それもエサクタだ。口述での伝言で一斉に仕掛けると聞いている。確かに伝えたぞ」

 親衛隊の一斉排除であり総隊長以外の戦力一斉投入。

ゾンビ化した破面だけでなく、蘇生した隊長格たちも含めて相性の良さそうな連中はみんな動員する。オールキャスト・オールイン・マジックパレードとでも言うべきだろうか。

 

フィンドールも戦闘への介入と伝言を終えた後は、前線部隊の方へ向かう事が決まっている。

俺がハッシュヴァルトのもとへ向かうのとは微妙にルートが違うのでここまでになるだろう。

 

「あんがとよ。そんじゃ運が良ければ次の対戦で」

「その自由があればな……アスタ・ラ・ビスタ」

 そう言って別れた後、走りながらでも見える明王の姿を眺めた。

リジェの攻撃で次々に貫通されながらも、不死化したことで耐えて少しずつ接近しているようだ。

 

それでもまだ遠い。

リジェの攻撃は威力もあるので動きが縫い止められている。これでは一気に接近できない……誰もがそう思うであろう悲しき奮闘の中で、戦場の周囲が真っ赤に染まり始めた。

 

「煙幕……僕の視界がこの程度で遮られるとでも?」

「構わぬ! そもそもこの戦いは……ワシが貴様の所に辿り着けば終わる戦いよ!」

 例え姿を隠そうともリジェの能力は貫通だ。

多少移動した程度では弾道調整の方が速く、しかもその周囲を削り取っていくので次の移動先も判り易くなる。

 

ハッキリ言って、これが一対一の戦いならば詰んでいただろう。

だがこの煙幕、赤煙遁の役目はただの着色でしかない。明王の姿を覆い隠すだけならこれほどの範囲で展開する必要は無いのだ。隠しているのは奇襲ではない、『誰が』『何をしているか』を覆い隠しているのである。

 

(今頃は他でも始まってるはずだな。日番谷たちはともかく浮竹と檜佐木の卍解見たかったなあ)

 ペルニダ戦は遠距離攻撃のできる日番谷と乱菊。

この二人を支援するために浮竹が卍解を使う予定になっている。なんでも相手の特殊能力に干渉する能力があるそうで、霊王の右手が『静止』を司っていたのを思い出した。

 

「おお!? おのれ羽虫が!」

「……馬鹿なっ。ジェラルドの霊圧が消えた!?」

「やりおったな檜佐木。見ておるか東仙よ。おぬしの部下は、おぬしの愛弟子は成長しておるぞ!」

 突如ジェラルドの霊圧が乱れ、姿と共に霊圧が小さくなっていくのが感じられる。

その理由は檜佐木の卍解だ。これは双方の霊圧と命を連結し、お互いを再生し合って決着をつけることなく戦い続けるらしい。

 

最初に聞いた時は何の為にあるのか分からない能力だったが……。

こうして無敵のジェラルド兄貴を拘束している以上、味方がいるなら前提で恐るべき能力だったのだなと思わざるを得ない。剣八以外は羽虫と侮ったことでこの結果になったのだろう。

 

「いかなるダメージも神の尺度に変換するはず……」

「ダメージなど与えておらぬ。奴の攻撃を奴自身の霊圧で治療させたのよ。お主たちの力……決して無敵などではないぞ!」

 親衛隊最強であるジェラルドが弱っていく状況に、冷静なリジェも焦る。

それでも射撃の手を留めず確りと命中させて大ダメージを与えているようだが……今の狛村は不死だ。そして次々に命中する事実には変わらないが、先ほどまでの様によろめかずに済んでいる。

 

頭を撃ち抜かれても胸を撃ち抜かれても明王は走り続ける。

そしてとうとう、攻撃可能な飛び込んだ!

 

「ゆけい!!!」

「無駄だ。ジ・イクサクシスは相手の攻撃をも貫通できる! 神の力を授かった僕らを圧倒できるはずない!」

 リジェは明王の斬撃と誰かの放った援護攻撃を、自らの体を貫通させて無効化した。

 

原作では聖別で力を注がれているから気が付き難いが……。

この段階までは原作終盤ほど強くない。あれはあくまで聖別で強化され、完聖体を使用することで可能な異常ぶりなのだ。だからこそ奴の三度の制限は、保有霊子の限界や、自分を戒め鍛えるためなのかもしれない。

 

もちろん言及されていないだけで霊王の欠片を持っている可能性はある。

だが、少なくとも聖別前なら奇襲攻撃で倒せることは王悦が証明していた。奇襲からの一撃、あるいは回避不可能な概念攻撃でなら倒せるのは間違いないだろう。

 

「なんやキミ、神なんか? もしかしてボクとキミの相性。最悪なんちゃう?」

「何!?」

 そして奴にも最後の時が訪れる。

いつの間にか明王の上に誰かが居た。

 

細身の男が役割を終えた斬魄刀を下げて佇んでいる。

その刃は刀と言うには短く、不思議なことに一部が欠けていたのだ。

 

「馬鹿めどんな攻撃だろうと僕には……」

「あかん。その認識はあかん。さっきのボクはもうキミの中に置いてきた。そしてもうソレは始まっとるよ」

 ここからでは詳細に見えないが、それは市丸のはずだった。

疑似的な不死を持つ親衛隊戦で最も有効な力を持つ男だった。こいつは原作と違って瀕死だったこともあり、義骸と義魂に移して今まで治療していたのだ。

 

先ほども言ったが、赤煙遁はあくまで『誰が』『何をしているか』を誤魔化すために過ぎない。

狛村も言ってたじゃないか。明王が接近した段階で終わっている……と。明王の攻撃で倒すなどとは一言も言っていない。おそらくは先ほど誰かの放った援護攻撃の気配は、市丸の神殺槍だったのだろう。

 

「これは体が溶ける!?」

「せや。死せ(ころせ)神殺槍(かみしにのやり)

 こうしてリジェは親衛隊で最初の戦死者になった。

全身が溶けて消え去り、その『霊圧すらも』消え失せようとしていた。

 

「市丸隊長……」

「あかんよイヅル。今のキミの隊長は鳳橋サンやろ? ボクは反逆者で司法取引の為に頑張っとるだけやからね」

 煙幕に隠れ、明王の陽動に隠れていたのは市丸だけではない。

そこには吉良も赴いており、遅れて解放した奴の卍解で霊圧を消滅させているはずだった。察知されて神殺槍が効かなかった場合、リジェの霊圧を消滅させて倒す為である。

 

(この様子なら大丈夫そうだな。あの二人が居りゃあジェラルドも簡単だろ。問題はペルニダか)

 俺はそれ以上、上空を見上げるのをやめた。

今頃は霊圧が相当下がってるであろうジェラルドを倒すこと自体は難しくないだろう。能力的にも蘇生することなく抹殺できる。

 

問題なのは静止と進化で拮抗しているだけのペルニダだ。

日番谷も乱菊も遠距離戦ではバランスの良い能力なのだが、必殺能力に欠けていた。日番谷の必殺宣言は何時だってフラグだと読者はみんな言っている。

 

やがて落ちる閃光が戦況を変えるだろう。

だが原作と違ってペルニダを強化される程度ならばマシな結果だと思っておく。

 

 稲妻の如き閃光が落ち、不要とされた者の生命と霊子を奪い去り再分配する。

聖別と呼ばれる無慈悲な振る舞いであり、千年血戦編の難易度を上げた最大最悪の要因である。

 

「嘘……だろ」

 だがそのタイミングと光の方向を見た時……。

俺は自分の想定が甘いことを思い知らされた。まさかフラグでもあるまいし、親衛隊をなんとかできると安心した直後に起きるなど思いもしなかったのだ。

 

ましてやその力の矛先が原作と大幅に違うなどと思いもしなかった。

こちらが大きく戦術を変えたのだ、相手もまた大きく行動を変えないという保証などなかったのに。

 

「あれほどの力を誇っていたはずの、親衛隊から真っ先に潰すなんてあり得ねえだろ!」

 ジェラルドに市丸と吉良が向かった直後、ペルニダが遠距離戦で五本の矢で圧倒した時。

まだまだ役に立ってる最中で、いきなり力と命を徴収したのだ。

 

落ち着いて考えて見れば判らなくもない。

メタが張られればもう無敵ではない。これ以上時間を掛ければ倒されてロスが激しくなる。ましてや連中には霊王のパーツが宿り、エネルギー保有量は凄まじいのだ。

 

『こちら雛森。大変です! 儀式の進捗が進み、最前線のバランスが崩壊しました! 至急、次の作戦を実行してください!』

(くそっ。この場に合わせた最適メンバーに霊子を振り分けやがったのか。しかし……できるからってやるか普通?)

 能力といいその熟練度といい親衛隊は別格だ。

己の特殊能力を良く理解しているし、滅却師(クインシー)としての地力も高い。そして何より忠誠心が段違いだった。普通ならば最後まで残しておく切札であり、おいそれと捨てて良いモノではない。

 

だがそれを判断できるのがユーハバッハの無情さなのだろう。

総合的に見れば良い判断とは思えないが……最初から自分一人で良いと考えているならば、今の状況を打開できるかの方が重要なのだろう。

 

(問題は聖別した相手をもう一度復活させられるかだな。できるなら霊王宮に上がった後で残りを始末して、改めて親衛隊を甦らせばいい)

 さすがにそこまで無茶苦茶できるとは思えないが、できるなら厄介だ。

親衛隊の忠誠心ならば復活を約束されているからノーカンとか言いかねない。仕えてきた年期から言っても、バンビ達と違って狂信の域に達していた。

 

「伝令! 隔離して戦闘していた演習場は既に崩壊! 正面回廊にて射場副隊長率いる本隊が応戦しております。斑目指南は急ぎ敵首魁の元へ、更木隊長はまもなく到着との事!」

「判った! 直ぐに向かう!」

 考え事をしながら進む俺に、移動力に長けた隠密機動や鬼道衆の連中が伝令を寄こす。

射場さんの卍解は範囲防御ができるらしく、連携して戦う席官たちを指揮して戦っているとのことだ。本来ならば上位席官以外は参戦させたくないのだが、ここが決戦なのでみな連れてきている。

 

そして目的地が近いのか、足止めに回った連中の死体がそこらかしこに転がっている。

様々なタイプの矢に貫かれ、あるいは爆炎や雷撃で黒焦げになった死体も見かける。死後時間が経っているので、前線部隊が通った時の物だろう。

 

滅却師(クインシー)を発見。負傷後退中と思われます。如何がしますか?」

「隠密機動と鬼道衆は手を出すな、怪我するぞ!」

「御意!」

 上位の鬼道衆は隊長格と戦える連中も居るが、相手が滅却師(クインシー)とあっては力不足だった。

負傷中とはいえ荷が重いだろうし、もし聖別で負傷したとするならば戦いを前提にしてる鬼道衆たちは居ない方がいい。

 

そう思って近づくと……あまりみたくないモノを見てしまった。

 

「チっ。てめえか……まさか元に、戻せる……とは思ってもみなかっ、た」

「喋るな、傷に響く。通してくれるなら治療させる。そっちの子は俺と同じ方法での蘇生なら掛け合っても良いぜ。……頷くだけでいい」

 そこに居たのは右側が半欠けになったリルトットと、ミニーニャだった物だ。

下半身の骨盤がむき出しに成り、男とは違う骨格を見てハアハアできるほどに俺はリョナじゃない。師匠とは違うんだ、信じてくれ。

 

「くそったれ。こんなザマにされて、まで。護る義理があるか、よ。勝手に通れ……。ただ、バンヒの面倒、見てくれると助かる。……暴走、して……んだ」

「喋るなつったろ。任せとけよ。それに射場さんは漢の中の漢だ」

 どう考えても死にかけなのにリルトットはバンビの事を頼むと最後まで言い切った。

原作ではゾンビにされることに無関心だったが、何かしらの差ができたのだろうか? ゾンビ化している間の記憶がないので判断が付かない。

 

とはいえここからでは援護に向かう時間がないし、交戦中の射場さんに丸投げしておく。

霊子を爆弾化させる能力の事は説明しているし、攻撃よりも防御で時間稼ぎする方が確実なので何とかなるはずだ(再度の聖別は除く)。

 

「降伏者だ。情報提供できるから絶対に死なせるなよ! 俺は先に行く!」

「はっ! 結界内に後送して治療に当たります!」

 見守っていた連中を呼びよせると、俺は戦いに専念して最終決戦に向かった。




 という訳で最終戦手前で親衛隊がリストラされました。
メタ張ったら役に立たないから仕方ないですね。

●対リジェ戦
 煙幕張って明王が囮になっている間に市丸が接近してました。
貫通防御に重ねて神殺槍を置いて、戻ってきたところで溶かした感じです。
あとはイヅルの枯渇庭園モドキもありますが、まあオマケで。

●対ジェラルド戦
 小説で出て来た風死絞縄の話を聞いた時に最初は微妙な能力だと思いました。
しかし、よく考えてみたら不死に近い親衛隊戦では有効なので活躍してもらいます。
攻撃力が高いけど、注意不足なことも多いジェラルド用に頑張ってもらいました。
最期は勝てないと判断されて聖別で死亡。

●ペルニダ戦
 日番谷・乱菊の二人が遠距離戦。浮竹隊長の卍解が特殊能力封じとして戦闘。
持久戦で倒せるだろうけど、途中で聖別強化されるのでみんなでフルボッコ。と考えていたら
状況的に無理と考えられて聖別で死亡。

●聖別で強化された人たち。
 バンビ・キャンディ・BG9・バズビー・ナナナ・ポテトの六人が強化。
前四人は範囲攻撃で圧倒するため。ナナナはプロテクトの弱点を発見させるため。
ポテトは言わずもがなの総括となります。
代わりにリルトット・ミニーニャ・ジジ・蒼都が力と完聖体を奪われました。
リルトットは腕足だけで済みましたがミニーニャは下半身が巻き込まれて死亡。
ジジは行方不明(捕虜)、蒼都は死亡となっています。
なお雨竜は儀式中なので保留、ニャンゾルは護衛なので保留。

●オマケ浮竹の卍解
淼淼裏鯤島(びょうびょうりこんとう)
 島のように巨大な魚が、敵味方を書き割りのような二次元空間に招く。
この裏の世界では二次元の様に単純化され、特殊性はただのパワーに変換。
ペルニダはただの強いクインシーになり、神経は扱いやすい鞭に過ぎなくなる。
この能力を使えば特殊性は静止するが、元から強い相手には意味がない。
なのでジェラルドやリジェではなく、ペルニダが対象になった。

●ヘーカ
 一護・剣八が向かっていて、総隊長が姿を隠して見守り中。
いざとなれば全て焼き払える総隊長が伏札になることで、クインシー側を警戒させる。
この段階の陛下ならば一護や剣ちゃんの斬魄刀を折れないので、まだ勝てると目される。


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予知能力

 後もう少しで目的地と言うところで彼方の空が輝いた。

原作で言うと完聖体が連鎖した時だというべきなのか、それとも聖別で誰かが強化された時だというべきなのか。

 

 あえて違うとしたら種類の違う絶叫が周囲に木霊したことくらいだろうか?

四つのエネルギーが前線で迸り、直ぐ近くでも二つ。近い方の片方は揺らぎが大きく、もう一つは微動だにせず霊圧の強大化だけを感じられた。

 

Take That You Fiend(これでも食らえ)!」

「ふふふはははーHAHAHA!!」

「……」

 最初の四つは判り易い。

凄まじい雷撃が天空を光で染め上げ、無数のミサイルがサーカスの様に踊り始める。

そしてマグマの様な炎が、空に掛け橋を造った。

 

それをやったのは稲妻の翼を持つ女であり、ヘリコプターのような異形。

そして見慣れた男がいつもの姿で炎の翼を広げている。

 

だが四人のうち最後の一人はどうにも歪な姿を晒していた。

 

「い……やーっ……!?」

「なんだ、ありゃ。姿がブレてやがる……」

 バンビの姿だけが一定化してない。

BG9のように機械化はしてないが……。その姿が元の姿から幼女まで明滅しながら移り変わっていた。

 

こんな姿は原作で見たことない。……ていうかロリ・バンビって誰得なんだ?

 

「さっさと制御しろよバンビ。てめーの力が一番この戦況におあつらえ向きなんだからよお」

「判ってるってば直ぐにあいつらを倒して……」

「お姉ちゃんたちに褒めてもらうんだ……」

「死ぬのはヤダ! ミニーは死んだ。リルだってあんなに頑張ってたのに、あたしも殺されちゃうの!?」

 姿が変遷し、心も移り変わっている。

建前と本音が入交り、明らかに幼児退行した言葉まで飛び交っていた。

 

そして雫の様に、あるいは涙の様に霊子が零れては周囲を爆発させていく。

 

「そういや暴走してるって言ってたな。そうか……もしかして」

「教えてもらえるとありがたいな。せっかくの戦力が不安定で困っているんだ」

 後もう少しで目的地。

それは逆に言えば、向こうが迎撃に出て来るなら直ぐにでも出会えるという事だ。

 

困った事に合流するはずのサポートが間に合っていない。

バカバカしいとは知りながら少し歓談して時間稼ぎに励むとする。

 

「てめーらの領地から出てくるときに制限時間とかないか? 死神や破面と違って死覇装……魂を固定化する装備がないだろ?」

 ここはソウル・ソサエイティ、全てが霊子で作られている世界。

一護たちだって霊子に肉体を変換して来ているのだ。体の芯がブレ、霊子に強制的に書き換えられて行っても仕方あるまい。死神だってその存在を固定化するために死覇装なんてものがあるのだ。防御機能なんざオマケである。

 

「許容時間はまだあったと思うが……。聖別で受け入れた霊子を制御できていないのかな」

「50が150になるのと400が500になるんじゃ意味がちげーよ」

 涼しい顔で首を傾げるハッシュヴァルト。

まあこいつには理解できないと思う。騎士団の長であり、陛下不在時の全権を預かる存在だ。霊子の制御に劣っているはずもない。天才ゆえの無知というやつだ。

 

 50が150になる場合、+100ではあるが総量は元の三倍である。

対して400が500になる場合、増えた量は元の三割弱に過ぎない。ハッシュヴァルトのような天才では想像もしなかったのだろう。この天然チートやろう、頭の中身ポテトなのも大概にしやがれ。

 

「そういうものかな? まあ良い。バンビエッタに関しては放っておけ。BG9、お前のザ・キリングフィールドで制御すればよい」

了解しました。総司令官閣下(ヤー・ヘル・コマンダン)!!!!」

 ハッシュヴァルトの命令にBG9は冷静なのだか興奮状態なのだか判らない返事を返してくる。

かなり遠距離の言葉なのに返事したから、大声を出しただけかもしれないが。

 

見ると雫の様に落ちていた霊子が、意思を持つかのように本隊の方へ向かっていた。

おそらくはザ・キリングフィールドというのは、放った力を誘導弾の様に使う能力なのだろう。完聖体化すると仲間の攻撃も誘導できるのだろうか?

 

「あ、こいつ、人の意見を参考にしやがって。汚ったねーぞ!」

「……そうだな。君が一撃入れるたびに、君の質問に答えようじゃないか。できるならば、だが」

 俺がツッコミを入れるとハッシュヴァルトは原作で見たこともないような笑顔を浮かべる。

何かしら企んでいるのか、逆に吹っ切れて戦いに専念したいのだろうか?

 

とはいえこいつには幸運と不運を入れ替える力がある。

どうしたものかと迷っていると、奴の方から切り掛かって来た!

 

「来ないならばこっちから行こう。ただ私は司令官でもある。同時に指示を出させてもらうがね」

「そうかよ! 随分と余裕だな!」

 浅い一撃は明らかに囮。

俺の攻撃を誘っているのに、ワザワザのってやる必要は無い。だが迷っていても仕方ないのでとにかく一撃入れてみる事にした。時間稼ぎをしつつ情報が得られるならば御の字だ。

 

まずは牽制の斬撃を刀の峰で跳ね上げながら、『<』字状に首を狙った斬撃を入れる。

首筋に浅い傷。追撃したいところだが、囮である以上は奴も次の一撃を放つはずだ。

 

盾の死角から放って来た蹴りに逆らわず態勢をワザと崩した。

そしてブリッジ気味に胸を反らすことで奴の本命である盾攻撃をかわし、こっちの蹴りで盾を蹴って飛びのいておく。

 

「今の傷は一撃に入れて良いのか? どうせ治療しちまうんだろうが」

「こちらも確認の意味合いがあったから構わないが……やはり起動しないか。面白い」

 俺が質問して良いのか確認すると、奴はサッパリした表情で頷いた。

そして不思議そうに盾に移した傷を眺める。

 

「そんじゃあコイツについてだ。なんで俺の刀に鍍金した? こいつは滅却師(クインシー)由来の銀だろ?」

「そうだ。君のお陰であの通路を思い付けた。まあ、その褒美のような物だな。死神と言う魔物退治には銀が良く似合う」

 俺が鍍金された龍紋の切っ先を見せると躊躇せずに頷く。

静止の銀とはいっていないこともあるだろうが、特に嘘を吐く気はないようだ。

 

(しかし先ほど機能しないと言ってたが、こっちにダメージを跳ね返しも写してもこねーな。小さな傷じゃあ効率悪いからか? それとも本当に機能不全なのか?)

 自分の不利になることを口にする必要は無い。

何か罠を仕掛けているのだろうが、このままではラチがあかない。それに……この銀メッキが静止の銀だとすると、奴の思惑が変わって来る。

 

仮にそうだとするとこのまま睨み合うべきではないだろう。

俺には陛下を倒すだけの霊圧がないこともあり、グダグダ羨むよりは、ハッシュヴァルトに傷をつけて有意義な質問をする方がマシかもしれない。

 

「俺のお陰だと?」

「それは次の質問をする権利を得てからにしてもらおう。それなりに意味があるのでね」

 爽やかな笑顔を浮かべたままハッシュヴァルトは切り掛かって来る。

やはり原作で見たこともなく、しかも俺に向ける意味がない。こいつに同性愛のケがないのは知ってるし、あったとしても標的はバズビーのはずだ。訳も判らずに決闘じみた戦いを繰り返す。

 

「そうさせてもらうさ!」

 まずは片手で切り結び、鍔競り合いの途中で両手を添える。

突如変わったバランスに盾で殴ろうとした奴は眉を顰め、盾を胸の前に移して俺の追撃を遮りに掛かった。

 

「温いな。時間が掛かれば状況は変わるぞ? 例えば……ナナナ! そろそろのはずだ」

「ビンゴだぜ! 術式の弱点が見えて来たところだ!!」

「しまった! 強化した奴の中に、弱点看破使いが居たのかよ!」

 俺はその軌道で刀を振らず、自ら倒れつつ盾を無視する。

そして立ち上がりながら逆袈裟で奴の剣に浴びせるが、ハッシュヴァルトは無視して厄介な奴に声を掛けた。

 

だが、その力は俺に向かったモノではない。

ナナナ・ナジャークープの力は相手の防御を下げ、あるいは麻痺させるものだ。俺を捉えていれば楽に倒せたはずなのだが……。

 

「ちっ! 仕方ねえ。本気で行くぞ! 質問に答えやがれ!」

「……良いだろう。『その時』が来た。これが未来を見るという事だ」

 俺に『無防備』の力が向けられなかったこともあり、なんとかなった。

衝撃が消えぬままに同じ場所を切りつけ、先ほど鍔競り合いで造った隙を広げて、隙間を縫うように刺突を入れる。

 

天へ龍が登るような道筋ができたのは、その時だった。

 

「一定以上の能力と言う物はパズルのようなものだ。私のザ・バランスは幸運と不運を入れ替えるが、運の寄らない君の攻撃は入れ替えることができない。同じように……能力をパズルのように使えば、道は開けてくる!」

「まさか……。弱点看破をセキュリティに使いやがったのか!?」

 思いもしなかったが、術式のセキュリティに無防備が効くならば予定時間を早められるだろう。

マッドを含めて奴らが総力を結集しても時間は掛かるし、陛下が参加しなければ時間は掛かると踏んでいた。

 

だが、親衛隊を始末してまで得た能力をその為に使うとは思わなかった。

ということは前線の四人に与えた力は、あくまで時間稼ぎのオマケのようなものなのだろう。

 

「絶望するが良い! ナナナ、ニャンゾルを連れて陛下の露払いをしろ。私と雨竜は奴らが用意している対滅却師(クインシー)結界を潰してから行く」

「嘘……だろ。そいつまで見抜いたってのかよ!?」

 原作で伊勢さんが身に着けた対滅却師(クインシー)結界。

ハッシュヴァルトはご丁寧に『自分以外が覚える事が可能な様に洗練すべきだった』みたいな事を得意げに告げていた。

 

だから俺は対策会議に伊勢さんが考案していると言った時、雛森ほか得意な連中を紹介して大規模に開発していたのだ。原作で見抜かれた様子はなかったので、安心していたのだが……。ハッキリいってこいつはショックだった。

 

「くそっ……最後の最後で僕に負担を押し付けたな……」

「へへへ。ここまで先を読んでるたあ流石は次期皇帝陛下。怖い怖い。それじゃあ先に活かせてもらうぜ」

 どうやら石田も儀式に参加していたが相当疲労している。

石田を疲れさせて反逆を防ぐつもりなのか、単にナナナと違って強化されてない事が影響しているのか分からない。だがかなりマズイ状況なのは間違いがない。

 

っていうか、親衛隊を復活させなかったとしても……。

零番隊と範囲攻撃って相性悪いよね? 立ち上がりの速いバーンデッキは対処に困るというのがカードゲームでは良くある話だ。

 

「ちっ。迷ってる暇はねえようだな。……燃え上がれ龍紋!」

 本当のことを言えば卍解で奴の防御を突破したい。

だが確定しているから運が挟まる寄りが無いというならば、ソレを実行できるのはこの状態までだ。奴が静血装を使っていない一瞬を突いて倒すしかないだろう。

 

「そうだ。それが見たかった。滅却師(クインシー)で最も剣を得意とする私を上回り、追随を許さぬほどの剣腕。是非に見せて欲しいものだ」

「そうしてやるよ。時間切れにならねえ内にな」

 陛下たちが滅却師(クインシー)だけで上に行っても駄目、ハッシュヴァルトが聖別されても駄目。

二重の意味で面倒くさい戦いが始まろうとしていた。

 

最初は先ほどの焼き直しから。

奴の刃と鍔競り合い。ただし片手のままで圧倒して見せる。

 

龍紋の解放で強化された体力で筋力を強化するのみならず、柄を掴む指に絶妙な力を掛けることで把握力を増したのだ。

 

「重い……その斬魄刀の力か」

「そうだ。そして、ここからが真骨頂だぜ?」

 体力が増えるという事は別に馬鹿力だけが売りではない。

鍔競り合いの態勢のまま刃を刃の上で走らせ、奴が一番バランスを重視してないところを把握。その段階で俺は体を入れて踏み込んだ。

 

皮肉にも斬術指南ではなく剣術指南として培った経験だ。

俺は何人もの死神を相手することで、鍔競り合いの経験だけでも相当なもんだと自負している。というか鍔競り合いなんか狙わねえと普通は起きないからな?

 

「鍔競り合いの最中に腕相撲ってのは初めてだろ?」

「くっ。刃筋が流される。面白い。上には上が居るという事実。その相手に剣腕以外でならば有利だという事実。そして今まで見向きもしなかった、剣戟中の中に行程を入れるという作業!」

 このままでも斬れる。

だがそこに意味はない。もはやこの程度では何も答えてくれないだろう。揚げ足を取れば口にするかもしれないが、真実を保証するすべはない。あくまで奴を満足させつつ、深いダメージを与える必要があるだろう。

 

奴が盾の裏で何かしているのは判るので、ひとまず小さな弓を作っているのだと思っておく。そして盾で強打と見せかけて、放って来たところで転がった。立ち上がって逆袈裟というところまでは同じだが、狙うはその手前。ソニックブレードを放ったのだ。

 

そして放った剣圧に追いつき第二撃。

焼き直しでありながら別の行程。そして両手を添えて無解号で龍紋の長さを一瞬だけ伸ばす。即座にサイズを戻そうとするが流石に神槍ほどの速度では戻らない、奴が二発目の矢を放ったところでワザを受ける事にした。

 

「痛てえ! だが耐えられねえほどじゃねえ!」

「貫通してるんだぞ!? 狂ってる。だが納得はできる。私の切り替えに間に合わないと判断したのか」

 もし避けてから放ったのでは確実では無かった。

どうせ反射されるのであれば、自分の攻撃を二倍喰らうよりは良い。奴が静血装を解いていたら、喉元にキツイのを一発入れていられたはずだ。

 

「勉強になる。物事を為すには犠牲無くして進めない事が良く判った」

「俺と同じでワザと受けたのか。そうだよな、防御を固めりゃ刃はそれほど通らねえ」

 相変わらず奴は静血装を解きもしねえ。

それでも先ほどよりダメージを与えられたのは、龍紋を伸ばした分だけ大きさと霊圧が一瞬上がったからだ。とはいえ隙をワザと作った分のダメージを考えれば、元が取れるかは怪しい所だが。

 

「褒美だ、次の質問をするが良い。だが急げよ……陛下は今まさに、霊王宮に向かわんとされている」

「仕方ねえ。……ひっかけを交えて聞きたかったんだが時間が足りねえか」

 正直に答えるとは限らない。

だからなんとか引っ掛けておきたかったが、ここで賭けに出るしかないだろう。どっちみち一護や剣八が突き放されたなら手詰まりだ。

 

「このメッキ。石田家の開発した静止の銀だな?」

「その通り。……私も今、思い出したよ。そうか……君から攻撃を受けることを開放のキーにしていたのか」

 帰ってきた答えは意味不明な物だった。

何かの賭けをハッシュヴァルトもしていたらしい。

 

だが……ユーハバッハが儀式で造った道に踏み込むところだった。

何かを計画していたとしても、聞き出すのが少し遅かったのかもしれない。




 最終戦の前編です。一角はハッシュヴァルトと戦って終了予定。

●聖別による異形化
 いきなり霊子が増えたけど親衛隊ほど自我が確立してないので仕方ないですね。
キャンディス:ネコ目になって翼や服装が無数の稲妻になる。(まとも)
BG9:ヘリコプター化。(異形枠)
バズビー:原作のまま。(変化なしだけど、ちょっともらった力が少ないの)
バンビ:姿が異形化し小学生から大学生まで姿が変遷していく。(暴走枠)
ナナナ:ゴーグルが目玉になり、弱点を見抜き易くなる。翼がオセロ。
ポテト:たくさん増えたけどまるで変わってない。

『ザ・キリングフィールド』
 今週の捏造能力。弾丸やミサイルの機動を自在に操る。
完聖体と強化により、味方の攻撃も操れるようになる。
なお相手によっては跳弾の方が効くというオチも。(殺気を読める人は)

●対クインシー結界
 七緒さんが覚えてた術。
一角の入れ知恵で大規模化の術と、強固にした術の二種類を造った。
ユーゴ戦のサポーターは彼女なのだが……。そこまで大規模にすると予知できるよね?
●一撃入れるたびに質問に答えよう
 答える義理はないですな。ただ時間稼ぎには成ります。
ただし記憶を封じておき、一撃入れるたびに思い出す仕掛けを造ることもできます。


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終末にして、創造の剣

 静止の銀の存在について機能面での謎と、出自についての謎がある。

 

前者についてはそれほど悩まなくても済む。

滅却師(クインシー)の霊装技術……それも生態を経由するモノが異様に発達している事を考えれば、何かしらヤバイ薬でも使っていると推測できる。それが聖別によって吸い上げられる過程で、作用だか反作用が一点に集中したのだろう。鏃にして撃ち込めば過供給なり反発が起きてショートするのも頷ける。

 

問題なのは後者、何者が影響を与えたのかと言う事である。

石田竜弦が完成させたのは間違いがないが、本当に彼が独力で完成させたのか? それとも親の宗弦や他の滅却師(クインシー)なのか? その答えが目の前にあるような気がした。

 

「てめえが供給元か。ならもう一組あってもおかしくねえだろうよ」

「その回答は半分ほど正解かな。私はヒントが正しく渡るようにしただけだ。元より石田宗弦は帝国のありように疑問を抱いていた。それに私が直接手を出しては色々と問題が出る」

 先ほどまでのやり取りが嘘のようにハッシュヴァルトは口を開き始めた。

もはや死合をやって剣技を繰り出し合う必要はないと言わんばかりだが、不思議と静かな殺意はそのままだ。先ほどまでは笑顔が不思議だったが、今度はその殺意が不思議である。

 

「ジ・オールマイティーは予知能力だけではない。未来を改変する力がある。だがその方法は独特でね、判るかな?」

「自分が干渉した結果で良い未来を築き、紐付ける。紐付けたことで扱い易くなった未来を吸収するんだろ? だから知らない事実は覆せねえ」

 自分が関与可能な範囲では全知全能だが、関与不能な事ではそうでもない。

だから石田竜弦は舞台に上がらないことで、ユーハバッハの予知から外れた。石田雨竜は視界外から撃ち込むことで回避しようとする意思を突破した(静血装での防御は静止の銀で突破できる)。

 

ゆえにジ・オールマイティーに察知されないためには、ギリギリまで関与を控える必要がある。

滅却師(クインシー)結界に気が付かれたのは、作戦の一環として組み込んでしまったからだ。伊勢さんを操って仕掛けさせれば、もしかしたらワンチャンあったかもしれない。

 

「その通り。だからこそ私たちは記憶を封じていた。君に斬られるまで私もバズも雨竜も全てを忘れている。今が……その解放の時……だ」

「っ!? 急に疲労した!?」

 ハッシュヴァルトの顔色が急に悪くなり、今にも膝を着きそうになる。

もしかして静血装を張ってなくて出血させていたのかと思ったが、そういう訳でもない。

 

代わりに飛び出し、元気に走りながら霊圧を上げて行くのは石田であった。

 

「石田!?」

「話は後だ! アンチサーシス!」

 石田の力が天へと掛かる光の橋に及んだ時。

その現象は突如として正常に戻った。おそらくは破壊でも消去でもなく、儀式の行使後と前の状態を入れ替えたのだ。まだこれだけの力を発揮できるのも驚きだが、不自然だからこそ理解できることもある。おそらくはハッシュヴァルトが霊子を譲り渡したのだろう。

 

「どういうことだ?」

「ジ・オールマイティーは万能の様に見えるが、まったく関与の方法がない、関与しても意味がない事であれば機能しない。そして考えてもおらず、実行できないことも予知しない」

 奴の言う事を信じるのであれば、石田もまた記憶が封じられていたらしい。

急に役目を思い出したのか、あるいは目の前の大問題を見て咄嗟に判断したのか。どちらにせよ、ユーハバッハは予知できない状況だ。

 

そして儀式後とその前を入れ変えるのであれば、まったく干渉する意味がない。

連中が操作していた『道』は一方通行で下に降りるだけだ。この道に干渉しても降下速度が変わるだけ、道を吸収しても下に落ちるだけでしかない。石田の行動そのものを止めようにもユーハバッハ本人はとっくに移動中である。

 

「そして間に合わない筈だった、破棄される予定だった対滅却師(クインシー)結界が起動する。それでチェックメイト、吸血鬼狩りの始まりだ」

「あれは疑似六重詠唱? てーことは大前田のおやっさんか! 鬼道長や雛森も……」

 六枚の断空が霊子の矢を無力化しながらユーハバッハへの援護を喰い止める。

同時に総隊長らしき霊圧が膨れ上がり、その後ろに居た別の誰かが何らかの結界が起動するのが伺えた。邪魔するはずだったハッシュヴァルトや石田は何もしてないので作戦通りに発動しているのだ。

 

そして俺たちが戦っているエリアの周辺にも、同様の結界が広がっていく。

 

「斑目指南、遅れました」

「助かったよ。もしかしたら……、コレで説得できるかもしれねえが……」

 伊勢さんが到着し原作でも見た結界を起動する。

その内部に似たような結界が発生するが、発展形で能力を抑える物だろう。

 

「なあ、ユーハバッハを吸血鬼って呼ぶってことは、最初から反乱起こす気だったんだろ? だったら……」

「無理だ。それに頷くには幾つもの障害がある」

 爽やかな笑顔に皮肉気なモノが入り混じる。

先ほどから続く殺意から考えても、此処で終わるはずはないのは良く判っていたが……。

 

「まだキャスリングの可能性があるだろう? 私をベースに再生される可能性を打ち消すには、常に静止の銀の影響下にある必要がある。それに……」

「それで俺の刀にメッキを……。それに、なんだ?」

 ジ・オールマイティーをハッシュヴァルトが預かることがある。

知性や叡智を復活させてない間に預かり、帝国を導くための処置だ。だが同時に、ハッシュヴァルトにユーハバッハと言う自我が紐付けられていることもである。

 

この状態で俺が静止の銀を塗った刀で奴と死合っていれば、こちらの道もまた閉すことができるということなのだろう。

 

「あの吸血鬼を退治したならば、私は皇帝ということだ。戦っている部下がいるのに逃げ出せないとは言うまい。……だが、道を示す必要がある!!」

「判ったよ。能書きはもういいよな」

 俺たちは誰にも促されることなく前に出た。

この期に及んで勝負する必要ないなんて嘘だ。一度始めたら決着つくまでやりたいのが戦士のサガである。そこに御大層な理由があるならば止める理由もないだろう。

 

出入りを止める結界の中に俺が自ら侵入し、決着をつけるための戦いを開始した。

 

「能力は下がっちまったようだが、手加減はしねえぞ」

「ふっ。だからこそやり様はあるという物だ。それが剣術というものだろう?」

 結界の中では全力防御しても意味がない。

先ほどまでカスリ傷だったものが、今では軽傷くらいにはなるはずだ。俺の方が手数が多いので、繰り返せばあっという間に血だらけである。

 

だからこそ奴は静血装を起動しっぱなしということはせず、適宜に配分して攻め掛かって来た!

 

 先ほどまでの戦いが策謀の一環であるならば、ここからはハッシュヴァルトとしての意地なのだろう。笑顔ではなく吹っ切れてはいるが、どこか緊張の入った表情だった。

 

「もう無いかもしれねえ機会だ。愉しんでいこうぜ、皇帝陛下!!」

「そういう訳にはいかないな!」

 刃と刃を打ち鳴らし鍔競り合いに持ち込む。

当然ながら焼き直しではないのでお互いに一工夫を入れながら打ち合った。

 

俺は身を翻して盾に体当たりを掛けつつ、不自然な態勢でありながらも今まで以上の力を入れる。

二点に力が掛かる奇妙な状態にも関わらず、ハッシュヴァルトは僅かに後退して力の作用を一点に絞った。

 

「聞け! 生き残りし全ての同胞よ! 陛下亡き後、私が指揮を執る。バズビーを先頭に包囲網を打ち破れ!」

 奴は盾で俺の動きを誘導しながら、どうにか腕を自由にして鍔競り合いを打ち切った。

そのまま盾を引いて斜めに剣閃を浴びせて来るが、さっきの不自然な態勢はこの状況を奴の手で作り出させるものだ。慌てる必要などない。

 

俺も斜め下からすれ違うようにして一閃、その途中で軽く跳ね上げて奴の軌道は逸らせる。

奴の刃は俺のすぐ横を薙ぎ、俺の刃は腹を切り割くはずだった。いや、確かに切り裂いたのだ。

 

だが奴の傷は思ったよりも深い。

おかしいと思った瞬間に、こちらにその傷が移って来た。それも同じような傷がもう一つ。

 

「何? まさかここに来て機能し始めただと?」

「手を抜いていたわけではないよ。安全圏に引き籠るのを止めて、まともな勝負に出たことで霊圧操作に運不運が出て来たんだ」

 ザ・バランスによる幸運と不運の入れ替え。

これに加えて盾の機能を使う事で、こちらの攻撃を二倍にして跳ね返してくる。今まで機能しなかったコンボだが、奴の言葉を信じるならば異様な戦闘法だった。

 

「まさか……。てめえ、霊圧操作が間に合うかどうかの博打をしやがったのか」

「そうだ。私は剣の勝負だけではなく、静血装と動血装の切り替えを瞬間的に行っている。綱渡りだが……どうやら君は運が良いらしい」

 静血装を全開にしても防げないし、確定事項だから入れ替えれない。

だが間に合うか危い状態で切り替えを行っていれば、そこに運不運が挟まる余地がある。大抵の奴ならば俺の方が確実に隙間へ差し込めるが、ハッシュヴァルトならば良い勝負ができるだろう。

 

「まさか俺がツイてるって事実がこんな所で裏目に出るたあなあ。しかし、そいつは一歩間違えば死にかねないぞ?」

「博打は痛い目に合うから面白い。前にそう聞いたことがあってね。いや、未来の君から聞いたんだったかな?」

 今のは軽傷だから奴も平気な顔をしていられる。

だがこれが間に合わないほど、あるいは集中力を乱されるほどの致命傷だったら話は別だ。手を抜いたら一瞬で意識が削がれることもあり得るし、俺がその隙を見逃すはずはねえ。

 

「てめえも狂ってるよ。よくもまあそこまでダチ公の為に命を懸けられるもんだ」

「これまで散々欺いてきた反動さ。掛け替えのない親友の為に命を張りたくなった」

 自嘲気味だが緊張感がほぐれて良い笑顔に成っている。

実に清々しい独りよがりだ。今の奮戦がバズビーに届くはずがない。

 

だからこそ、俺は奴が自分の為に愉しんでいると理解できた。

情けは人の為にあるんじゃない。巡り巡って自分のため、結果的に周囲の為に成ればよいんだ。

 

「キャンディス! バズビーの開けた穴を広げろ! BG9に殿軍を任せる!」

「「Ja!!!」」

 見れば天空に炎の柱。

その穴の中をゾルダート達の生き残りが走り、その上からキャンディスが雷撃を放って近づく死神を牽制している。ヘリコプターは追いすがる隊長格を牽制するために必死で応戦しているようだ。

 

「逃がしてやりてえところだが、そうもいかねえしスッキリしねえ。運が良かったら捕虜にしてやるから取引でもするんだな」

「願い下げだね。それでは吸血鬼が復活するかもしれない。私は絶望の中で希望を求めて銀の剣を振るう!」

 俺たちは笑って最後の一撃の為に準備運動をすることにした。

奴が振るう高速の剣を、後から動き出した俺の斬魄刀が打ち落とす。そこから隙間を狙って首を狙う一撃には、流石に盾で防いで血装を間に合わせた。

 

傷をこちらに移す小さな隙。

そこを狙って俺は身を翻し、連続で三度の刺突を放った。

 

「やっと穴が判って来たぜ。てめえは傷を移せても、出血による体力までは入れ替えられねえ」

 奴はどうして盾を構えているのか?

それは盾の能力が強いからではない。傷を移す行為には幾つかの穴があるからだ。

 

まず認識している攻撃一つ、または一括りの連続攻撃のみ。

だから三度の刺突は防いだり反射はできる。だが、三度に隠した慮外の四撃目はどうしようもない。だからこそ普段は盾で状況をコントロールしているのだ。そして血を失ってフラフラな意識は当然の事象なのでどうしようもない。当然、崩れた態勢は言わずもがなだ。

 

「こちらもようやくわかって来た。君の攻撃は速いんじゃなくて早い。所作に無駄がないんだ」

「そうさ。俺の攻撃は言うほど速くねえ。他人の半分の隙で、他人の半分の予備動作で、他人の半分のタメ。それを組み合わせてるのに、不思議と半分の速度にしかならねえんだ」

 攻撃は速ければ速い程良いという物ではない。

当たらなければ意味がないし、当たってもこうして反射されては意味がない。反射を躊躇う程の重傷であり、あるいは軽傷でも次につながる一撃でありさえすればいい。

 

「小動物は人間よりも早い思考速度と初動があるんだったか。なるほど、まともにやって勝てない筈だ」

「おうよ。一寸の虫にも五分の魂ってな」

 いきなり剣豪が切り掛かれば、燕だろうが蠅だろうが切り捨てられる。

だが今から斬るというサインを出して切り掛かっても無理だ。奴らはこちらの剣が届く前に、そもそもこちらの刃の範囲から逃れているのだ。究極の後の先は、後から動いて先の先よりも早いという感じだろうか。

 

「さて、そろそろ終わりにしよう。私も合流しないといけないのでね」

「名残惜しいがそうすっか」

 滅却師(クインシー)たちの生き残りが一気に郊外に向かった。

そこからどう生き延びるのか知らないが、俺の知ったことじゃねえ。外伝小説を読んでないこともあるが、俺には剣の届く範囲しか興味がないんだ。

 

「てめえは滅却師(クインシー)最終形態(レットシュテール)を使う」

「ふふ……。死神に予知されたのは初めてだ。君の卍解は、龍紋鬼灯丸と言うのだったか」

 俺が霊圧を上げて行くと奴は盾を捨てて剣を両手で構えた。

卍解を開放し両手にずしりと言う重みが加わり、対して奴の周囲が全て失われていく。真央霊術院の一部であったものが消え、その全てが一枚の翼に変わった。

 

天を覆う程の光の剣。

それを見て俺はかつてないほどの笑みを浮かべる。

 

「その剣は絶望が深い程、夜の闇が濃い程に燦然と輝く銀の剣。ゆえに希望と言う……だったかな。番組が違うが見れて満足だ」

「私はこう呼びたい。終末にして創世の剣……BLEACHと」

 あまりにも巨大な剣の出現に護庭の全員が止まった。

このままでは巻き込まれる。そう思って追撃の手が止まる。その切っ先の前であり、対峙するのは俺ってことだ。

 

誰よりも前に出て、誰よりも強い奴と出会う。

 

死合いって奴はこうじゃねえと面白くねえよな。

 

「「さあ!」」

「「これが最後の一撃だ!!」

 互いの剣が一閃される。

もはや全ての余技は必要ない。ただ振り抜くだけで良い。

 

そして互いの一撃が炸裂し合う。

俺の一撃は奴を切り殺し、奴の一撃は俺ごと霊術院を切り割いていく。

 

それほどの一撃を受けて俺が生きているのは大した理由じゃない。

 

奴には守るモノがあり、可能ならば自分も脱出するための時間を稼がねばらない。目晦ましも含めた横薙ぎの一閃。

 

俺には守るモノがなく、ただ自分が愉しむだけ。縦に振り下ろす殺人の一閃であれば良い。

 

どちらが先に届くのかは言うまでもない。

俺の一撃が先に決まった分だけ奴の攻撃が弱まり、その事を理解した奴は笑って目晦ましにこそ力を注いだのだ。

 

試合にも勝負にも俺が勝ったが、それは俺が身勝手な戦士であったからだ。

だが勇敢で理知的な皇帝にとって、味方が生き延び民が蘇るのであれば、それはそれでまた勝利であろう。

 

そこに価値の差などないのだから。




 という訳で一応の最終回です。
次回はエピローグというか、その後にどうなったか?
あとは何か書きたいことがあれば、外伝を書く程度かと思います。

●静止の銀について
 あまりにもクインシーの技術が進んでおり、しかも血管を通してるとか
最終形態以上の完聖体があり、それもユニット化して扱い易そう。しかも聖別で奪える。
とか便利過ぎたので、むしろヤバイ薬を投与しているのだと判断しました。
聖別でこのコントロールするしやすくする薬を過剰反応させてしまい、血栓ができる。と。

そしてユーゴがヒントを渡したとか言ってるのは想像ですが、一応の理屈はあります。
静止の銀は聖別した相手の血と混ぜることでその者の能力を一瞬止めるとあります。
しかしクインシーの能力を止めるのではなく、聖別した者。というのは不思議です。
これを判断できるのって、作者を除けば未来を見れる陛下とユーゴだけですよね。

●記憶封鎖による未来予知・未来改変の脱却
 原作でも知らないことは改変してません。
あくまで新卍解の脅威を知って先に折るとかですしね。
なので自分の手で関与したことが改変可能な範囲だとしておきます。

まあ原作よりも早く進んでるので、この時点での陛下はあまり強くないのですが。
後はクインシーの能力を下げる結界込みで、総隊長・剣八・一護がぼこぼこにするだけ。

●ユーゴとの二戦目
 対クインシー結界や疲労もあって静血装でも防ぎきれないので戦術を変更。
血装の切り替えを勝負に持ち込むことで、運不運を介入させてザ・バランスを起動。
一歩間違ったら一撃で終わる戦いながら、上手くやって一角に上回っています。
「俺はツイてる!」
「君は幸運だなあ。じゃあ私の不運をあげよう」

その後はクインシー全員を助け出して、しかもできれば死神と話し合う余地を残したい。
そんな贅沢な悩みをユーゴが持ったことで、ギリギリの勝負ではなくなりました。
なので単純に戦いたいだけの一角が勝利。
でも仲間も逃げてるし、満足できたのでユーゴもまた勝利です。

なお完聖体ではなく滅却師最終形態を使ってる理由は簡単で
前者はユニト化しているがゆえに同時操作が難しく、後者は古い物の操作力が多いため。
そしてユーハバッハが最後の賭けをして、体のコントロールを奪っても意味なくするためです。
(ユーハバッハは三重苦なので、奪い続ける能力がないと自滅する)

●終末にして、創世の剣。BLEACH
 ブリーチという名前が使いたかっただけです。
後はここで一切を白紙にして、仕切り直すという感じですね。


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BLEACH

 あの後の事を話すとしたら、終末にして創世の剣については外せねえだろう。

御大層な名前だったが、それだけの影響を与えていた。

 

ここでまず重要なのは『ハッシュヴァルト』が『滅却師(クインシー)最終形態(レットシュテール)』を使ったことだ。

滅却師最終形態は完聖体よりも原初的な分だけ出力・吸収力が高く、霊子操作はとても強力だった。奴はソレを自分の為と言うよりは、滅却師(クインシー)のために使った。

 

「しかし、随分とデッカイ爪痕だな」

「学院としては暫く使えないらしいよ。影響範囲に居た連中の中には、まだ霊子酔いしてる人も多いって」

 さて、終末にして創世の剣BLEACHには攻撃的な名前が入っていない。

では何をするための剣であったのか? それは霊子操作によって、周辺を攪拌する作用があったと言っておこう。

 

周辺の霊子がかき(・・)乱され、形状崩壊・霊子吸収・発散と再構築の嵐が起きた。

真央霊術院の一部に馬鹿でっかい空洞と、それを覆う程のトンネルが出来てしまっている。その外壁は崩れやすい場所もあるし、逆に強固な場所も多い。

 

「狛村隊長みたいに良い影響のあった人も居るけど……そういえば一角も経過観察中だっけ?」

「構わねえよ。アレについては俺の失言だからなあ。自分でまいた種だから、文句も言えねえ」

 バンビが暴走して姿かたちを変えた時……。

死覇装がないから魂が固定化されてないと言った。死覇装の防御機能は、装甲と言うよりも魂を固定化して死神という枠を守るための物なのだ。

 

何が言いたいかと言うと、食らった人間の中には霊子をかき混ぜられたモノが居るという事だ。

再び総隊長を庇った狛村隊長は人化と犬化が中途半端に起きている。結果として原作程に犬化が行われていないとも言えるし、今までとは違う部分が犬化して困っているともいえる。

 

俺に関してはゾンビ化とその後の蘇生によって、寿命が減っていたと思われるが、それがさらに減った可能性があるし逆に増えたかもしれない。これに関しては魂が混ざった状態の調査なのでマッドも何とも言えないらしい。

 

「しかし……。せっかく卍解の事を大っぴらに言えるようになったのに、また言えねえことが増えちまったなあ」

 そして次なる問題は、この現象を起こしたのがハッシュヴァルトと言う事だ。

奴は与える力を持った滅却師(クインシー)であるがユーハバッハほどじゃなかった。だが、滅却師最終形態を使ったことで、一時的に似たような力を有したのだ。

 

一番の難題がコレである。

コレってなんだ? と言うと思うが、ブリーチ的に一番ヤバイ案件である。まあ一護ほどの素質じゃないからマシなんだけどな。

 

「ああ、滅却師(クインシー)化してるんだっけ? ボクとしては良い影響だと思うけどなあ」

「他所で口にすんじゃねえぞ? 少なくとも同じ症状の連中が増えるまではな。あー狛村隊長が満月の夜にでも変身しねえかな」

 霊子をかき混ぜられた時、近くに居た滅却師(クインシー)の影響を受けた連中がいる。

影響を受けた全員が全員そうなったわけではないし、範囲を考えればむしろ少ない方だろう。だが、滅却師の力を持った死神と言うのはそれだけで問題なのだ。

 

直撃を受けた俺ほどじゃないが、霊子を吸収してるとかちょっとした変化が起きているそうだ。血装は後天的に覚えられるらしいが、マッドの作った偽モノで十分機能するので覚えるかどうか微妙なところである。

 

「それじゃあ別の話として、昇進おめでとう。一角」

「……っち。おめえじゃあ文句も言えねえじゃねえか。とりあえず、あの恥ずかしい名前は止めて欲しいんだがな」

 話は変わるが、色々あってワンランク昇格した。

といっても隊長になったわけではなく(断ることができた)、剣術指南としての格が一つ上がってチャンバラが苦手な隊長にも指導する立場になったのだ。

 

「良い名前じゃない。大剣道、斑目一角だなんてさ。妙な部下が付いてるのが気に入らないけど」

「どこがだよ。まあ大剣術長よりマシだけどな」

 最初は大鬼道長と同じような大剣術長だったのだが、泣いて止めさせた。

仮にも卯ノ花隊長が存命中なのに、その名前を名乗ったら恥ずかしさで死ねる。実際にそう口にしたら、卯ノ花隊長に殺されそうになった。やはり女性に年齢を想起させる話題は禁物なのだろう。

 

ちなみに部下は死神だけではない。

武器を持って突撃する役目は十一番隊が既にあるし、俺もそこに在籍しているからだ。

 

「それにしてもあの(・・)連中はどうにかならなかったの?」

「そういうなよ。どっちも結構勢力が残ってるし、穏健派を中心に小さくまとまった分だけ様子見もあるんだから」

 捕虜の中で比較的に話の通じる連中を組み入れてある。

目的が戦術を教練するための教導団(アグレッサー)なので、(ホロウ)滅却師(クインシー)が居た方が都合が良いのだ。

 

不倶戴天の敵だから処刑となってないのには大きな理由がある。

ハリベル一派を中心に虚たちは虚圏の奥底に移動してるし、似たような感じでバズビーを中心とした滅却師(クインシー)が存在している。

 

不思議なことに滅却師(クインシー)の勢力は死神との敵対を中断。虚に関してもだが、襲って来る者に反撃するとだけ一方的に通告して姿を消してしまった。

 

連中が生き残って穏健派ばかりになっている事と、テロとかされても困る事。

そしてなにより、仮面勢のような虚化した連中に加えて、新たに滅却師(クインシー)化した死神が出たことが大きいだろう。そいつらも全部処刑するというには、ソウル・ソサエティは傷つき過ぎた。

 

(まっ。実際にそう決めたのは、四十六室じゃなくて零番隊だろうがな)

 世界の安定化を行うためには、大虚が一気に減らない方がいい。

加えて滅却師(クインシー)化した死神が増えれば、霊王の代用品となるパーツが増えるのだから零番隊ならば処刑を止めるだろう。

 

ついでに言うと、そいつらを使って十三隊が表向きにできない事をやれということになった。

なんというか隠密機動向きな話だと思うのだが、戦力を無駄にすることはない。奇妙な敵が出た時に死神が死ぬよりは、元捕虜であり元敵である連中が死ぬ方が良いという事なのだろう。

 

こうしてまとめてみると、ハッシュヴァルトは巧くやった。

あたらしい世代には滅却師の才能を持つ者も増えるかもしれない。古き時代に終末をもたらし、あたらしき時代を創世したという訳だ。

 

「それにしたって外でうろつき回るとか勝手が過ぎない? ほら、噂をすれば影だ」

「ジジか。お前あいつに点数カライよな。そりゃまあゾンビ化させられて嫌な思い出はあるが、あいつのお陰で涅隊長が蘇生を思い付いて……」

 艶のある黒髪で、てっぺんには触覚みたいなアホ毛。

どう見ても美少女な男の子が興味深そうに空洞を眺めている。

 

何が面白いのやらと思っていたのだが、とても不思議なことがあった。

あいつ、こんな場所を見て愉しむタイプだったか? それならまだ傷に苦しんでる重傷の死神たちの前でナースの格好でもして取引を持ちかけてる方があり得るくらいだ。

 

それに歩き方や動きにどこか見慣れたものである。

何よりも袖口が萌え袖ではないとか、服装の着崩し方に媚びたところが一つもないのだ。猛烈に嫌な予感がする。っていうか、話の通じるリルトットやパワーだけのミニーニャならともかく、ゾンビ化させるジジが監視抜きで出歩いてる?

 

「コラ! 勝手で歩いちゃダメじゃないか。それにここは許可がないと……」

「許可? 許可ならばあるとも。邪魔をしないでくれたまえヨ」

「っ!? 弓親、そこまでにしとけ」

 嫌な予感というものは大抵当たるモノである。

ゴリっと半回転する首筋からは、男の娘らしき色気がちっとも見えない。そっち方面は興味ないけどな。

 

「涅隊長。今日は随分とお若いファッションですね」

「うむ。実に九百年ぶりダネ。こういう若向きな格好は」

「え? 嘘、涅隊長? 変装……なんですか?」

 よく見ると動き方がマッドの物だった。

問題なのはマッドの首は回転しないという事だ。強制的に治癒させて機能不全を回避しているのを見ると、ロクでもない想像ばかりができる。

 

「違うぞ、弓親。これは……」

「そう。これはあの娘、いや少年の体ダヨ。ちょっと前の体が戦闘でボロボロになってしまったものでネ。面白そうだったから憑依転生という概念にチャンレンジしてみたんだ」

「悪趣味ですよそれは」

 普通ならば思ってもみなかったアイデアに弓親はドン引きしている。

どう考えても体を乗っ取っているわけだし、同じことをしてる俺としては後ろ暗いが、まともな方法ではない。

 

「どこがかネ? 私は研究が続行できる。この少年も自由の身だ。滅却師(クインシー)の監視だって同時並行できる。Win-winの関係性というやつさ」

「そんなわけないでしょう。どう考えたらこんな方法を実行するんだか。親の顔が……」

「それ以上は止せ。ナリはコレでも涅隊長だ」

 ヤバイ話に首を突っ込む前に弓親を止めておく。

もしマッドの親が修多羅千手丸だったら目も当てられない。地雷原の上でタップダンスすることになるだろう。

 

「捕虜を解放するってことに成っても大丈夫なんですよね? そこんとこだけ確認しときます」

「問題ないとも。誠心誠意説得したからネ」

 この男の誠心誠意だけは信用したくない。

だがジジと違ってマッドはまだ話が通じる。ゾンビを増やさないだろうし、リルトットたちと一緒に開放する段階で両者に線引きがなされてまともになっていれば問題ないだろう。

 

 そーれから? なんかあったっけ。

いや、あったあった。有耶無耶の内に続いていた関係が正式に決まった。

 

理由は幾つかあるが、一つ目は破面たちの第二階層に副作用が判明したこと。

使えば使う程に存在エネルギーを消費し、緩やかに消滅に近づいていく。放っておいても脅威にならないので、使ってくれた方が世界に影響を与えずに消えてくれるのでありがたいそうだ。

 

次に原作通りユーハバッハの復活と、その消滅が確認されたことだ。

また同じことが起きるかもしれず、そうなるならば監視できる状態の方がやり易い。ついでにいうならばコントロールし易い相手の方が良いという、実に現金な判断である。

 

「いつになったらオレらは解放されるんだ? 口で良かったら良い思いさせてやるからさあ、ちったあ教えてくれよ」

「お前の口ほど洒落にならねーものはねえよ。つか、次で終いだ」

 リルトットがバンビーズらしいジョークを飛ばしてくるがゾっとしない。

大きな口で何でも食べるこいつが、口で奉仕するとか言っても寒気しかしねえ。つか、あれから十年以上経ったのにちっとも育たねえな(何処とは言わないが)。

 

「……本当か?」

「本当だよ。まあ四十六室らしい回答で飽きれるばかりだが」

 御終いというのは始末するという意味かと目を細めるリルに俺は肩をすくめた。

そうするくらいならジジ辺りはとっくに始末しているだろうし、もっと有効な使い道ができたから解放するってわけだ。

 

「新しく大使館を作って大使館員を蘇生させるから、てめえらの代表にそのことを伝えろってよ」

「今更かよ? ていうか、オレらの役職勝手に決めんな」

「でも……それって誰なんでしょう? みんな燃やされちゃいましたよね?」

 基本的にアスキンとリジェまでのメンバーは焼却処分してある。

ジジの能力があるから、非情ではあるが当然の処置ってやつだな。逆にこっちの隊長格は即座に回収することで、ゾンビ化と蘇生で戦力比で逆転したのだから。

 

「まさか……ポテトか!?」

「そのまさかさ。ハッシュヴァルトなら話は通じるし最後に滅却師最終形態を使ったからな。色んな意味で都合良いって事だろう」

 奴はもう霊子を外に出す事ができない。

つまり反逆されることはないし、それほどの覚悟で生き残りを助けた英雄でもある。古い序列を無視したとしても滅却師たちがありがたがるだろうという判断だ。それと大使館を精霊廷に造ることで、滅却師もユーハバッハの依り代も監視できるという事だろう。

 

「クソだな」

「クソさ。それも聳え立つ、な」

「……。(∩´∀`)∩」

 お互いに顔を見合わせてロクでもない表情をする。

まったく反吐が出る決定だが、この話の面倒なところは断るに断れないということだ。

 

ハッシュヴァルトが蘇生されること自体は良い事だろうし、敗軍の将に対して温情なのに断れば滅却師の株が下がる。大使館を設定して連絡を取り合えば、当然ながら隠れている滅却師のグループは捕捉されることになるだろう。

 

「まあそうブーたれるな。前報酬を出すし、ちゃんと見つけたらボーナスもやるから」

「ハア? こんな時に口説く気か?」

「宝石ですよお。結構珍しいですねえ。でも焦げてると価値があんまりない気も。贈り物には向きませんよお」

 俺は大前田経由で手に入れた宝石を転がした。

こいつは最近になって見つかった鉱山で、少々遠い場所にある。

 

「バーカ。俺の好みはバランスの良いナイスバディだっつーの。……こいつを運んだ飛脚は相当な健脚でな。ちょっとした問題がある以外は凄い便利な女なんだと」

「それが何の関係が……。焦げ跡?」

「えーと、これは燃えた後というよりは、別の現象かな?」

 たまーに、焦げ跡を造っちまうので怒られて値引きさせられるらしい。

だが他の連中には難しい場所を、もの凄い勢いで駆けることができる。というか……この鉱山ってかなり危険地帯にあるんだよな。

 

「確かお前らの仲間に自分の体を光に変えて移動できる奴が居たろ? 俺はそいつじゃないかと踏んでるんだが」

「キャンディスか。言われてみればそうだな」

「了解しましたー。見つけてくれば良いんですね('◇')ゞ」

 どうも滅却師の連中は国ではなく会社みたいなもの(見えない王国)を作っているらしい。

組織としては体制を維持できるし、護廷から逃れるには良い方法だ。万が一見つかっても、戦闘行為をする気はないと……思わせることができる。

 

「言いたいことは判った。使われてやる。だがお前に何の利益があるんだ? それにオレ達が返って来なかったらどうする気だ?」

 リルは別れ際にそう疑問を投げて来た。

もちろん俺の回答は決まっている。

 

「次はハンデ抜きで勝負してーからな。戻って来たら魄睡(ハート)を撃ち抜くコツを教えてやるよ」

 俺もあれから強くなったからな。

組織のリーダーじゃなくて、戦士の貌をしたハッシュヴァルトと良い勝負ができるだろう。

 

俺より強い奴に逢いに行く以外、こんな面倒な仕事やってられるかっての!




 という訳でこれで最終回になります。
長々とした駄文にお付き合いくださり、ありがとうございます。

今回は事前にある程度書き貯めて、修正しながらUPしてましたが
割りと早いペースで終われたのは良い経験になりました。
もっとも最初に書いたイメージが強過ぎて、判り易り難かったり描写が足りなかったりしましたが。

反省点としては、キャラを出し過ぎた。
序文と終章から思い付いたからといって、長々とやる必要はなかったというところでしょうか。
最初から強い剣豪状態にすれば無双できましたし、本編に登場したからと言って
こんなにキャラを出す必要は無かった。藍染編で終わっておけばよかった気もします。

この後は書いても外伝か、設定をまとめた物になりますね。
なお、私の思い付いたアイデアに関しては、誰もが思い付く物なので
使いたい方がおられましたら、必要なら使ってください。
教えてくだされば読みに行かていただきます。


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オマケ
TRPG風・RTA風のキャラ作成


 この項目には読み物のストーリーは入っていません。
あくまでRPGの攻略本風の解説なのでご注意ください。


●BLEACH恋の千年血戦

 知っての通りこのゲームは男女問わず敵味方問わず恋愛感情が発生するクソ仕様です。

チンタラとゲームを進めていると、直ぐに怪しい雰囲気になって見つめ合い、楽屋裏でナニしてるのだか判らない危険なゲーム。

 

普通にプレイしていると妙な相手に顔を赤らめ、痴情のもつれで刺されるので注意してください。

今回はスピードクリアに向いた『斑目一角』をサンプルキャラとして選択します。

 

●転生特典

 まずは転生特典を選びましょう。

超レアな能力を目指せるランダム。バランスの良いセミ・プレロールドに、原作キャラ再現できる総合力の高いプレロールド。そして一から自由に決められるフル・スクラッチの四種類があります。

 

『ランダム作成』:

 レアな能力を有したり、能力を一定の範囲で自由に決められます。

欠点としては生まれ表によるセミ・プレロールドや、全てポイントを消費するプレロールドほどのボーナスはないので注意が必要です。

 

このゲームの初期能力は基本的にポイント・バイ。

フリーポイントを消費してスキルなどを決めていくわけですが、そのポイントも含めてランダムに成っています。ランダム作成の優れた点は、フリーポイントが非常に多い事です。ただし、注意が必要なのはレア能力などを取得分を引いた上でポイントが決まること。いきなり超レア能力だったが選べる範囲の低い『日番谷冬獅郎』のようなキャラも居るので注意してください。

 

『セミ・プレロールド』

 色々な傾向が既に決まっています。

武芸者系、芸術家系、知識系、技術系などなど、様々なアーキタイプがあります。

これに基本種族や性格により決まる基礎能力値を組み合わせることで、初期能力が決まります。

 

セミ・プレロールドは能力決定の後、生まれや学園生活で得られるボーナスパックを選択取得。

自由に使えるフリーポイントは、それらの特徴を差し引いてから振り分けます。

 

注意が必要なのは、例えば貴族系だとスキルや特殊能力を効率良くもらえますが、不要な能力や習熟期間も押し付けられてしまいます。幼少期での出会いや学園で恋愛に期待するなら、貴族で始めるのはオススメになります。

 

『プレロールド』

 原作登場キャラのことです。

ほとんど全てのポイントを消費しているので、転生前の『経歴』『生前の心残り』『趣味』くらいしか自由度はありませんが、複数のボーナスパックを既に購入しています。

他のビルドでは得られない総合ポイントになっており、完成度の高い『朽木白哉』などを使いこなした場合の爽快感は高いでしょう。

 

サンプルに選んだ斑目一角は、プレロールドの中では比較的に自由度の高いキャラです。

最低限の修業期間で一定水準の戦闘力。さらにボーナスパックを自分で選べる段階からスタートできるのが魅力的です。セミ・プレロールドに極めて近い構成だと言えるでしょう。また、斬魄刀の能力などが幅広く、良い結果がなくともリカバリーが得やすいのでスピードクリアに向いています。

 

『フル・スクラッチ』

 全ての能力をフリーポイントによる購入で決定するビルドです。

ランダム作成のような超レア能力は得られませんが、そこそこのレア能力ならば自由に選択できます。極めて高い自由度がこのビルドの売りになるでしょう。

 

なお唯一注意が必要なのは、斬魄刀と能力決定チャートです。

ポイントを支払ってレア能力表を振ることができますが、あくまで表であることに注意してください。『灰猫』のようにレアであっても、アンコモン最優秀な『瑠璃色孔雀』より使い難いことは普通にあり得ます。逆に同じレアでもレアリティ詐欺と名高い『鏡花水月』も同じランクなのですが。

 

●決定の例:

 転生特典として斑目一角への憑依転生を行います。

プレロールドなのでこの時点で選べるのは、『生前の経歴』『死亡時の心残り』『趣味』の欄だけ。

 

生前の経歴は能力値ボーナスの選択幅にのみ影響します。

ここでは『スポーツマン』を選び、体力全体の底上げを選択。

 

死亡時の心残りは斬魄刀解放・帰刃の能力決定時に、ランダム選択幅が拡大します。

ここでは『ブラック企業で体を壊し、より肉体を求めた』を選択。バフ系・デバフ無効系を選べる場合、選択可能になります。

 

最期に『趣味』は知識チートや戦闘行動など特殊に影響します。

ここでは『剣術バトル漫画』を選ぶことで、剣技の取得コストに低減ボーナスが入ります(-10%)。

 

能力傾向:

 斑目一角は武芸者系のアーキタイプです。

体力全体に秀で、そして何より戦技スキルの購入コストにボーナスが付きます。趣味の剣技コスト低減と合わせて、剣術取得時にポイントを安く抑えられるでしょう。

 

ちなみに綾瀬川弓親は芸術家系で、技と鬼道の両方が高くフリーポイントが多め。

そのままでも十分鬼道で戦えますし、フリーポイントで伸ばしても良し、剣を伸ばして両刀で活躍を狙えます。ただし芸術家系は白打が苦手で走術が若干低いので気を付けましょう。もちろんフリーポイントでバランスを取る『吉良イヅル』の様な戦い方も可能です。

なお、芸術家系は気難しいので扱いに注意しましょう。

 

 

●各スキルの成長と、霊圧の成長

 さて、死神からゲームを始める場合。

筋肉や敏捷性を身付けるように、斬・拳・走・鬼を鍛えなければなりません。例外はありますが、転生特典によるランダム作成やフル・スクラッチである必要があります。

 

ここでのポイントは二つ。

一つ目は経験値問題。各スキルの経験値は累進性でレベルが高くなれば高くなるほど、当然増えて行くこと。次に得意分野ほど経験値が易く成り、苦手な傾向ほど増えていきます。

 

二つ目は斬・拳・走・鬼の累積レベルが霊圧に関係すること。

つまり得意分野をメインで鍛えつつも、苦手分野もちゃんと鍛えないと、霊圧が上がってくれないという事ですね。ちなみに経験値は日常的に使う事で増え、途中でもらえるフリーポイントは、効果的成功(クリティカル)体験か致命的失敗(ファンブル)体験をしないと割り振れませんので注意が必要です。

 

一角の場合はメインが斬術で、白打と走術がそこそこ。

鬼道は致命的に上がり難いのですが、何とか鍛えましょう。ここでお助け知識ですが、専門化と専念というファクターです。

 

専門化は選んだ以外の系統を上げない代わりに一点突破するという物。

専念化は選んだ系統にボーナスが付く代わりに、他の系統が上がり難くなるという物です。

 

鬼道は内部で破術・縛道・回道と枝分かれしているので、そのうちの一つを専念化。あるいは最後まで一本延ばしする気があれば専門化してしまいましょう。

 

一角の場合は鬼道を回道専門化。回道さえ使ってれば鬼道のスキルは増えますし、霊圧への経験値も蓄積されます。走術の中ではステップ系に専念化します。長距離を走り込んだり隠密したりする気はありませんからね。

 

●コミュ

 このゲームでスキルを効率よく鍛えるためには、他人からコツを聞かねばなりません。

アイテムや情報を得たりする以外にも、ちゃんと対人会話をしましょう。もちろん恋愛する気があるなら十分に時間を掛け、する気がないなら最低限に効率よくです。

 

例として、一角が最初に持ってるコミュは弓親。

彼と付き合ってると気難しい芸術家系・技術屋系とのコミュが上げ易くなります。何気に特技をコッソリ使う方法も教えてくれますが、別に隠す気ないので最低限で済ませます。

 

射場さんと阿近も下町コミュをあげてると知り合いに成れます。

残念ながら彼らはスポット参戦というか、一時期に理由があって下町に居るだけなのでコミュを造るなら早めに。教練相手やアイテム購入だけならば知り合いレベルで十分です。

 

『霊術院での講義』:

 ボーナスパックにも含まれますが、これもコミュの一種です。

ここでの内容は兵卒待遇の最低限のパックと、上位席官コース、貴族コースと三つあります。

 

それぞれに拘束期間と講義の割り振りが変わってきます。

兵卒パックは、メインで上げたいスキルが主体ですが、各分野も少しずつ取得する必要があるのと、礼法も最低限学ばされます。それ以外はフリーで学習期間は短め、かつ、現世組以外は入学義務があるので早めに入っておいて損はありません。

 

次に上位席官コースは、いわゆる選抜組です。

全体的に学んでいくことで霊圧も上がり、このコースには居れれば卒業後に下位席官への任命は堅いでしょう。学習期間もそれなりですがボーナスが大きいのが特徴。なお一応は飛び級で早めに卒業できますが、難しい任務に割り当てられることもあるので、成長効率・自由度は悪くなります。

 

最期に貴族コースは特殊です。

幼年期から入りびたることが許され、かつ飛び級が存在しないので学習期間がかなり長くなります。ボーナス値は最大で上流階級とのコミュも選べるので美味しいですが、不要なスキルも多いので注意しましょう。特に社交系・交渉系の特技は使わない人には無用の産物です。

 

特殊講義:

 偶に隊長格が講義を行ってくれます。

能力値が全般的に上がり易い藍染隊長は人気で事前に並ぶ必要があり、逆に戦闘ではあまり使わない回道の卯ノ花隊長は並ばずとも受けることができます。

 

体験コース:

 卒業後に隊務に馴れるための予備期間があります。

一応は卒業した扱いですが、この期間でどこの隊に所属するのが良いかを選択していきます。注意が必要なのは、飛び級してもこの体験期間が増えるということです。実践経験を得られる代わりに成長度は劣るので、無理して飛び級しないのも手でしょう。

 

例として、一角は四番隊に仮入隊します。

学院時に卯ノ花隊長の講義取ることで、最低限の回道(鬼道)をこの時点で上げる事が可能です。

 

それとは別に警邏隊にも所属してしまいましょう。

警邏隊も区分は隠密機動の一つですし、面白いことに二番隊の上位席官が班長を兼ねているだけで、他の隊でも所属できます(これは鬼道衆も同様です)。

 

ここで警邏隊にも所属する理由ですが、大前田コミュの為です。

何気に彼は金持ちであり、警邏隊の分班長でもあります。ここでコミュを作っておくと後々に『阿近にやらせるか』という時に、大前田に金を出させることができます。阿近を脅すこともできますが、その場合は間接的にマユリ様とのコミュが上がらなくなるので注意が必要です。

 

大前田コミュは走術のダッシュ系・ステップ系、白打の体当たり系が上がります。

一応は斬術と普通の白打も教えてくれますが、既に一角の方が上なので意味がありません。ダッシュ系はそこそこに、ステップ系と体当たり系を幾つか教えてもらいましょう。

 

それと忘れてはいけないのが、コミュの二次派生です。

先ほど阿近を脅すとマユリ様のコミュが上がらなると記載しました。当然ながら彼らを通して噂が広がるので、大前田なら砕蜂や大前田パパにもコミュが少しずつながら増えるわけです。逆に悪評も広まるので、無茶振りは避けるようにしましょう。

 

それはそれとして、大前田と付き合っていても砕蜂とのコミュは繋げません。

そうする為には二番隊に所属するしかないのですが、やったが最後、忍者みたいな重い掟を要求されるので止めておきましょう。恋愛しないと瞬閧を教えてくれないとかかなり重い女の子なのです。

 

十分にスキルが上がり、警備区域のコミュで情報を得たら本格始動開始。

四番隊におさらばして十一番隊に所属しつつ、剣八と会いに行く予定で居ましょう。四番隊は離れる人が多いので腰掛にしても怒られることなく、逆に十一番隊は危険任務が多いのでいつでもウエルカムなので移動がやり易いです。

 

●斬魄刀の能力決定

 ここまで鍛えてくると斬魄刀と会話ができるようになります。

天才系の特徴持ってると『市丸ギン』であるとか、貴族のパックで長々と修業してると『朽木白哉』のように霊術院時代に会話可能です。

 

なお霊圧に関して実のところ誰でも並みの隊長くらいまでは上がります。

ちゃんと考えて鍛えていれば死なない限り誰でもそこまで行けるというか、死ぬからこそ無理だというか。特に一本延ばししてるとサクサク前線に出て十分に成長するまでに死んでしまいますので。もちろん並みの隊長格にまであがったら、後は実戦以外は裏技だけです。

 

ともあれこの時点でようやく斬魄刀の能力を得ることができます。

最初は障りだけなので、どの程度選べるかが何となく判る程度。本格的な会話で具体的な能力を選べます。

 

『斬魄刀は能力取得時には決定済み』:

 重要なことなのですが、始解決定時には既に斬魄刀は決まっています。

会話が始まった段階で既に傾向が決まっており、会話が進むことで、そのどれを選ぶかが決まるわけです。

 

斬魄刀の設定は本人の精髄を写し取り……とあります。

この精髄ですが、要するにアーキタイプや能力値。そして『浅打』を学院で得た後の行動で派生が決まっているという訳です。プレロールドは原作キャラなので完全に固定、セミ・プレロールドもチャート表の系統までは固定化しています。完全に自由になるのは、ランダム作成とフル・スクラッチのみになるでしょう。

 

決定チャ-トは本人由来が80%前後。

既存の斬魄刀の取得が20%前後、そして特別な場合が5%以下になります。既存の斬魄刀は家系伝来だけではなく、世界に登録されたモノが年々増えていきます。やがては六割・三割となり、最終的には五割になるかもしれません。特別な場合と言うのは、既存の斬魄刀の中でも『鞘伏』などのような、特別な存在でなければ使いこなせないモノになります。

 

なおソウル・ソサエティで唯一・唯二・随一というのは、斬魄刀の歴史的に発見例が少ない事、チャートからずれる事がランダム作成やフル・スクラッチのような希少例でなければ存在しないのが原因です。

 

選べる始解能力は能力リストの内から、能力値に見合った一つと、隣接する能力のどれか。

この隣り合う能力は、対話を続ける事が始解2などのように分化可能。また死亡時の願望でその枠をずらす権利があります。

 

例として一角の場合、この時点で龍紋鬼灯丸になるのは決まっています。

決まっていないのは、具体的な能力値修正。そして始解の決定と言う段階になります。

 

・一角のリスト(左ほど選び易く、右ほど難しい。長柄や大刀内の小分類は、能力値による)

技系:長柄武器(槍・斧槍・パイクなど含む)・三節棍・九節棍

心系:自己バフ・自己再生・炎付与・毒付与

体系:大刀(名刀・長巻など含む)・剣鉈・斧

 

一角の原作は長柄武器。隣接するのは三節棍・自己バフ・大刀。

実際には死亡時の願望でずらして自己バフ。隣接するのは自己再生・長柄武器・大刀。もし回道を一気にあげれば自己再生・炎付与とかできたかもしれません。

 

なお卍解は当然、龍紋鬼灯丸。

関節・投げを除く全ての剣技・体術技を使用でき、大威力・自己バフを備えた攻撃力特化型の直接攻撃系になります。

 

●実践編

 体験コースから順次、学習経験値ではなく体験型の経験に変わっていきます。

スキルの伸びは非常に緩やかになり、コミュによる効率化がないと訓練でも大したことはできなくなります。

 

一角の場合は四番隊・警邏隊で回道・走術・各種コミュを訓練。

後は剣技などの戦術オプションを増やしつつ、何度も使う事で斬術を上げていきます。武芸者系のキャラは余暇を訓練や戦闘に割り当てても気力が減り難いので、それを活かしてハック&スラッシュ。四番隊を抜けるためのノルマをこなしつつ、各種コミュで剣八を捜索します。

 

『戦術オプション』:

 剣技や破道の●番などを増やしていくと、幾つかのオプションが増えます。

剣技なら全力攻撃や連続攻撃、鬼道ならば同時詠唱や詠唱破棄などになります。もちろん成長するにつれ技の修正や、その発展である技の改造に同時併用可能なオプションだとか、練り合わせたりカウンターなどの大技、やがては奥義も増えていく形になります。

 

なお、悲しいことに戦術オプションでは霊圧は増えません。

あくまで戦闘時に使える特殊行動が増えて行くだけになります。ただしFPSじみた直接入力での戦闘では体感が大きく変わりますので、馴れれば強く成れるでしょう。霊圧が二倍とか言われたら大人しく諦めてください。

 

『ボス戦』

 ストーリーモードを進めて行くと、途中で中ボス・大ボスと出会えます。

一介のシナリオではあまり上がらない経験値ですが、ボスたちとの戦いでは試行回数の差があるのでそもそも経験が違います。加えて上手くボスを倒せれば、多大な経験値とフリーポイントがもらえるでしょう。

 

一角の場合は野良ボスとして、破棄された改造(ホロウ)

当然ながら大ボスとして、更木剣八と出会えます。もっとも彼は攻防全般的に高い上に非常にタフなので、普通にやってたらまず勝てないでしょう。サンプルの一角はリロードを繰り返せば勝てる程度。タイムアタック中なのでリロードはしません。

 

注意!:

 ボス戦は野良で中ボスと戦える可能性が増えます。

しかし、時間とルートを間違えると大ボスとの戦闘がない・スキップされてしまうので気を付けましょう。サンプルの一角は先に霊術院の兵卒パックに入ってコミュで探したので、剣八の成長前に戦えました。しかし、上位席官パックであれば逃していたでしょう。

 

逆に行動によっては、本来出逢わない大ボスとも出会えます。

この行動では各行動での名声値・功績値が非常に重要です。選べるセリフ・行動なども大幅に増える半面、上げていないとフラグが立たないばかりか、喋ったセリフすらスルーされてしまいます。卍解を奪われるとか、対策しているという言葉が無視されたのもその影響でしょう。

 

例として、一角が原作で副隊長らを招待して行う鏡花水月のイベントに呼ばれました。

名声が高いとここに呼ばれる可能性があり、さらに功績値も高いと、どうして対処できたのかを尋ねられます。もちろん答える事ができれば、名声と共に藍染コミュが僅かに上がります。

 

同様に一護戦後にマユリに意見を求められ、意味のある意見を言うためには功績値や名声値が必要です。

原作知識を喋ろうとしても功績値が低いと中々通じません。ここでは一角の戦闘功績値が高いので特殊な霊圧操作だった。という言葉が通じています。研究家としての功績値が高ければクインシーらしき能力だったと言えたでしょう。

 

この後に続く副隊長戦・隊長戦も重要なファクターです。

彼らに通じる戦闘力があれば現世行きに加わったり、逆に呼び戻されたりします。

その時に誰を代役にするかなども、名声値・功績値が大きくかかわってきます。

そして藍染戦のラストで鏡花水月を破ることで、千年血戦に繋がる戦闘参謀ポジションの流れになるのです。




 終わりましたがネタで一本入れてみました。

最初はフィンドール第二階層とかバンビーズ降伏組とかの戦闘加工と思いましたが、
思いつかなかったのでこんな形になりました。
数値とかリストも作ればそれっぽいのでしょうが、まあその辺は専門ゲームには劣るのでここまで。


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