Re:腸狩りと魔獣使い救済ルート (青い灰)
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第1節「始まりの日」

この作品は「Re.ゼロから始める異世界生活」の
二次創作であり、フィクションです。



 

Re.ゼロから始める異世界生活という

小説/アニメを知っているだろうか?

 

 

この二次創作にはネタバレもあるから、

WEB版まで知っている前提で話をさせてもらう。

知らない人は「小説家になろう」様で

読めるから読んでみてほしい。

むっちゃ面白いから。

 

ネタバレあってもOK!

という方は進んでくださいね。

 

作者は長月達平さん。

様付けした方がいいのだろうか?

と、これの作者は考えております。

実は少し前のポケモンの映画で

構成補佐もやってたりする凄い人だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ごめん、話が脱線した。

 

Re.ゼロから始める異世界生活(次からはリゼロ)

において、私が好きなキャラが1人いる。

 

 

最初にリゼロの主人公、スバルを殺した本人。

〝腸狩り〟エルザ・グランヒルテ。

 

 

最後はご存知、ガーフィールが投げた豚に

潰されて死んだんだが…………物足りない。

と、私は思ったわけだ。

 

 

 

 

そういう訳で、

 

救いはないんですか!?

生き返れ生き返れ………

あァァァんまりだァァア

 

という私と同じ考えの人の

ために(いるのかは別として)、異世界へ

行くことになりました。はい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうやって行くか?……………結果論です。

だって目が覚めたらリゼロ世界だったからね。

生姜ないねっ。

 

「でも鬼かぁ………」

 

「どうしたの、お兄ちゃん?」

 

「…………」

 

目の前にいるのは青髪と桃色の髪の少女。

お気づきの方も多いだろう。

そう、レムとラムです。

お兄ちゃんとは呼ばれてるけど近所の子だ。

 

「ん、何でもない。

 ちょっと考え事だよ。美味しい?」

 

「ん」

 

「うん!」

 

レムの笑顔が眩しい。

ラムは少し感情の起伏がないけど、

おかわりを申し出てきたので蒸かし芋を追加。

たまにこうやって子守りをさせてもらっている。

そう、完全に転生しました。鬼族に。

 

滅ぼされるじゃん…………あっ、逃げればいいか。

何者かがさまよっているのは

鬼族でも何人か気づいている。

おそらく、襲われるのはそろそろの筈だ。

 

だけどこの2人を見捨てるのはアレだ。

ちっちゃい頃から兄として世話してきたし、

愛着が湧かない筈がない。

…………ロズワールが来る筈だ。せめて、そこまで。

 

「…………2人とも。

 これからも元気にやっていけよ?」

 

「うん!」

 

「………?」

 

ラム、勘が鋭いからな………

探ろうとするその目をやめて?

とにかく、今夜だ。

今夜、この2人をロズワールが来るまで守る。

まぁ全部アイツが仕組んだんだけどな。

 

実は結構、鍛練は欠かしていない。

お陰でヴィルヘルムさんと同じくらい?

には鍛えられている。

完全に鬼化すれば、の話だけど。

 

あっ、魔法?

炎魔法をちょっとだけ使えます。

戦闘は柳葉刀を使ってる。

刀とは少し違って、少し折れ曲がった形状だ。

刀で統一させてもらうけどな。

 

 

 

さてさて、今夜だ。

 

気合いを入れろ、オレ。

 

 

 

生きて、それからは急いでグステコに向かう。

エルザを助け、それから急いでメィリィの

記憶が始まっている森を探し回る。

 

それが、今回の目標。

 

 

あの魔女教の数、そして奴の言葉を考えると、

おそらく敵はペテルギウスの指先。

ロズワールにオレが排除されないよう

気をつけながら、指先を排除する。

 

 

 

「さて、と。

 姉妹いつまでも、仲良くな」

 

 

笑って、家へと帰る2人を見送った。

 

 



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第1節「魔女教戦、ロズワール」

 

 

「来たか………?

 風が一気に静かになったけど」

 

鬼族ってのは感覚に敏感で、

以外と変化に気付きやすい。

鼻とか耳も人間以上に効くのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最悪だ。

さっきので、一軍。

二軍がいるなんて知らんぞ。

 

「「「「「……………」」」」」

 

「………また、ぞろぞろと来やがったな」

 

ヤバい、援軍か。

正直、思った以上に数が多い。

こりゃ……下手すれば100はいる。

腰の柳葉刀を構え直し、再び無言で襲い来る

魔女教たちを迎え撃つ。

 

「と思ったか!

 『ウル・ゴーア』!!」

 

刀を触媒に炎の魔法、ゴーアを発動。

刀の鍛練ばかりしてたせいで

魔法の制御が上手くいかないので

オレはアル系統は使えない。

とにかく、魔女教へ火を放って

他の鬼族を叩き起こす…………筈だった。

 

「…………あ」

 

そういえば、気づいていなかった。

レム、ラムを守るのに夢中だったからか。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

それに気づくことができなかった。

既に、他の人たちの処理は終わって───

 

「………お、ォォォォォッ!!」

 

吠え、恐怖を振り払うように魔女教たちを

魔法で焼き、刀で斬りつける。

 

「ぜァ!!」

 

刀を教徒の1人に突き刺し、

そこから魔法を発動。

仲間の死を厭わない襲いくる魔女教徒を

焼き尽くして一掃する。

 

「死ねッ!!」

 

背後から来た奴の心臓を腕で貫く。

そのまま投げつけられたナイフを

死体を盾にし、炎弾を放って焼き殺す。

 

「!!」

 

飛びかかってきた教徒の首へ刀を突き刺し、

そのまま振り回して周囲の奴らを吹き飛ばす。

そこへ魔法を放って焼く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、おそらく数十分くらいが経過して。

二つ目の失敗を犯した。

 

「ぐ、がッ──!?」

 

怒り狂っていた思考が一気に覚める。

背後から死にかけの教徒にナイフを背中に

刺されたか───!この………っ!

 

「死に損ないがぁぁぁっ!!!」

 

頭を踏み潰し、粉砕する。

そして、三つ目の失敗。

 

「フーラ!!」

 

「!?」

 

「今、助けるから。兄さん………!!」

 

ラムが、出てきてしまった。

しまった、不味い、ヤバい、どうすれば。

このままでは、レムが。ラムが。

 

ゆらり、と。

ラムの背後の魔女教徒が起き上がる。

────!!!

 

「ラム!!逃げ───」

 

間に合わない。

そして、ナイフが振り下ろされ、

振り向いたラムの角が────折られた。

 

「あ」

 

「…………クソが……!!!」

 

炎弾を放って教徒を排除。

ラムを抱き上げる。

このままでは、レムも………いや。

まだ、オレにできることがある。

燃える家に飛び込み、

起きていたのか、呆然とするレムを

ラムの隣に、一緒に抱き上げる。

 

「おやおーやぁ、生き残りがいるのかい?」

 

声が、聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

声の主、道化師の風貌をしたロズワールが現れて、

外には教徒は既にいなくなっていた。

 

「災難だったねーぇ、

 魔女教たちは私が殺しておいた。

 名前を聞かせてもらえるかぁーな?」

 

「…………青髪の子が、レム。

 桃色の髪の子が、ラムだよ」

 

この時のオレは、

2人を傷つけてしまって気が動転していた。

ロズワールが何を言っているのか分からない。

 

「違う違う、キミの名前だぁよ。

 人間、と言ってもキミは鬼だけど、

 落ち着きが大切………無理かぁーな?」

 

「いや、悪い………」

 

頬を叩き、落ち着きを取り戻す。

オレの前に立っているのは、

道化師の化粧をした長身の男。

ロズワール・L・メイザースだ。

オレの腕の中の2人は眠っている。

 

「オレの、名前か」

 

「そうだぁーよ。流石にあるよぉね?」

 

「シルバ、だ。あんたは………」

 

知らないフリ、だ。

知られていると不審がられる。

 

「私はロズワール。

 シルバくんか、変わった名前だぁね」

 

「…………!

 そうだ、もしかしたら!!」

 

「おっと、突然どうしたのかぁな!?」

 

驚くロズワールを無視し、

オレは血が流れ出ているラムの折れた角を見る。

もしかしたら、まだ間に合うかも……!!

オレは鬼化し、二本の角を出す。

 

「ロズワール、頼みがある」

 

「なんだい?」

 

「オレの角………片方、折ってくれ。

 ラムの角はダメだ。マナがもうない。

 だけどオレの角はまだマナがある」

 

「……………本気かい?それを折れば、

 キミは魔法が使えなくなるかもよーぉ?」

 

「構わない。

 オレには自分でやる勇気が出ない。頼む」

 

これは賭けだ。

オレのマナが残った角をラムに接合する。

そうすれば、ラムは助かる。

オレは角が片方なくなるだけだ。

角は接合してもマナが足りないが、

実は補給手段も確保している。

 

「分かった。じゃあ痛いから我慢してねーぇ?」

 

「えっいや早い……ぎ、あァァァァァァ!!!!?」

 

ちょっとの覚悟の時間も許さずに、

ロズワールはオレの角をへし折る。

…………ロズっち雑だぁーよ?

涙出てきた。歯を無理矢理に折られた感覚だ。

 

「っっ………!!!

 てんめぇこの野郎……………!!」

 

「あははーぁ、いいじゃぁないか、

 接合は、キミがやるかい?」

 

「…………あぁ、どけ」

 

ロズワールをどかし、オレの折られた角を

ラムの折れた角の跡に押し付ける。

そして密かに習得していた精霊を呼び出す。

青い光が、ラムの頭を照らす。治癒魔法だ。

 

「精霊魔法かぁ……独学かい?」

 

「集中してんだから話しかけんな……!」

 

角へマナを流し込みながら、ラムのマナに

オレの角のマナを馴染ませる。

 

 

 

 

 

そして、永遠にも思える時間が過ぎ去った。

ラムの角はオレンジ色に輝いていた。

マナが馴染んだ証拠だ。

 

「はぁ……はぁ………

 ロズ、ワール……これを目覚めた、ラムに」

 

ロズワールへ懐から取り出した紅の魔石を渡す。

数十年分のマナがこの魔石込められている。

マナが不足する分を、この魔石で補給できるよう

万が一の時の対策だ。

なんでこんな危険物がウチにあったのか知らんが。

 

「………ほぉーう?

 これはまた……随分とマナを込めたねーぇ」

 

「ウチの家宝でな………オレは、

 行かないと、いけない場所が、ある。

 ロズワール、グステコ、ってどこだ?」

 

「あっちだぁーよ?

 でもそんな身体じゃ死ぬけぇーどね」

 

「少し、休んでから行く。

 あんた、その身なり、貴族か何かだろ?

 ラムとレムを、頼む。メイドにでも……」

 

「…………そうかい、わかったよ。

 その執念に、敬意を示そう。任せたまえ」

 

「助かる………」

 

正直、意識は限界だった。

遠ざかっていくロズワールを見送り、

オレは背中を木に預けて、眠った。

 



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第2節「見つけた少女」

 

それから、1年後。

オレはグステコ聖王国にたどり着いていた。

雪が深く、寒い。炎のマナで身体を暖める。

 

「さっぶ………!」

 

「全く貴方は………この程度で

 寒いだなんて笑ってしまいますよ?」

 

「てめぇは水属性だからだろうがよ……!」

 

「ほら行きますよ、さっさと歩く」

 

「今日のマナお預けな」

 

「全力でお手伝いしますご主人様」

 

今肩に乗っているコイツはオレが5年前から

契約していた(ラムを治療した)水精霊だ。

いつの間にか光だけの身体だった筈が、

気がついたら青い毛並みの手乗り狼になっていた。

名前はラン。メスだ。

 

「つか聖王国ってなんだろうな……」

 

「いきなり廃墟ですよね。

 これはお宝でも眠っているのでは?」

 

「お前そのポジティブ思考どっから来んの?」

 

「心の底から、ですかね」

 

「答えなくていいとこだからね、そこ」

 

今年でオレも13。

レムラムは元気だろうか。今年で8歳だったか。

身長が伸びたお陰で大人にも間違われる。

 

「さ、お宝漁りましょ?」

 

「完全に泥棒だよなこれ……行くけど」

 

一番大きな家に入る。

暗いな………雪のせいで空も曇っている。

明かりのない屋内ではそりゃ暗いか。

 

「シルバ、なんか来ますよ」

 

「守れ」

 

「はーい」

 

呑気な声と共に、オレの背後に氷の盾が出現。

廃屋の中に金属音が響く。

振り向くと、入口の逆行でよく見えないが

くの字の短刀……ククリナイフを片手で持った

髪の長い少女が1人。

これはまさか、さっそくビンゴか!?

 

「っ……今のは……」

 

「精霊だ。知らないか?

 …………ラン、攻撃するな」

 

「良いんですか?

 コイツ、ご主人を殺そうとしてましたよ?」

 

「…………!」

 

舌打ちが聞こえた。

何をそんなに怒っているのだろうか。

 

「さっさとお腹、切らして……!」

 

「見てろ、オレがやる」

 

「…………りょーかーい」

 

コートのポケットにランが引っ込む。

オレは腰から柳葉刀を左手で抜いて地面に垂らす。

少女はナイフを構えてこちらへ走り寄ってくる。

中々………というより、凄まじい速度だ。

まぁ弾けない速度ではない。

 

「ほっ」

 

「っ!?」

 

「おー、冷たいな……」

 

弾く………ではなくハグする。

ナイフは刀で受け止め、右手で抱き寄せる。

冷たい………吸血鬼、だからかねぇ。

 

「っ、う………」

 

「ん?」

 

「気絶したようですね………

 まさか、それを見抜いて?」

 

「いやびっくり。なんで?

 斬られるの覚悟してたんだけど」

 

「この変態に期待した私が馬鹿でした」

 

取り敢えず目的その1達成~。

刀を納め、少女が持ってる危険物を

布に包んで置いておく。そして

少女を抱えたまま古びたボロ椅子に腰を下ろす。

 

「言っとくけどオレはロリコンじゃないからな」

 

「ろりこん?」

 

「ちっちゃい子に欲情する人のことな」

 

「人間って年中発情期じゃないんですか!?」

 

「お前人間なんだと思ってんの!?

 あとオレ鬼だからな!?」

 

誤解を解いて背中のバッグから取り出した

魔石と水と鍋で湯を沸かす。

ランは巨大化して1.8mくらいの狼になった。

モフモフ。

 

「わーいモフモフだー」

 

「毛並み荒れるじゃないですか」

 

「モフモフー」

 

もふもふもふもふもふもふもふもふ………

ハッ、死ぬかと思った。

堪能していたら湯が早速沸いていたので

バックから行商から買っておいた肉を取り出す。

近いものを探すのに苦労した。

 

「お、しゃぶしゃぶですね!?」

 

「お前好きだよな。

 食べるなら小さくなれよ、勿体ないから」

 

「はーい!」

 

勿論、野菜も入れていく。

元々いた世界とは名前や味が少し違って、

鬼の里での料理も初めは失敗が多かった。

だがやはり日本料理は食いたいもの。

そのうち醤油とかも作りたい。

 

「ロズワール邸に行った後は

 食の探求をするのも悪くないかもな……」

 

片方は見つかったが、

どうにか懐柔(言い方悪いけど)できないだろうか。

メィリィは見つければどうにかなると思う。

カペラの福音書にエルザやメィリィの名前が

無いことを祈ろう。

 

「野菜も食えよ」

 

「えー?」

 

「えー、じゃない。

 ちゃんと栄養バランスってのがあってだな」

 

「………ん……」

 

「あ、目を覚ましましたよ?」

 

少女が目を開ける。

それはともかく、そろそろ丁度いい頃合いだ。

木の皿×3にタレ(作ったやつ)と肉を入れ、

スプーンを2つ置く。箸?んなもんない。

カララギに行けば別だろうがな。

 

「ご主人、人が好いにも程がありますよ?」

 

「精霊には分からんかも知れんが

 子供は流石に見逃せねぇからな」

 

「ご主人と同い年くらいですよこの子」

 

「身長差で誤魔化すんだよそこは」

 

こちらに気付き、

ナイフの代わりかガラスの破片を手に取った

少女の腕を掴んで制する。力強っ!?

 

「血と臓物以外にも暖まるもんはあるだろ……

 取り敢えず食え。冷めるぞ、勿体ない」

 

「…え……?」

 

しゃぶしゃぶの入った木の皿を渡す。

どうにかこれで殺意を緩めてくれれば

いいんだけどな………

 



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第2節「エルザ」

 

 

「………」

 

少女は黙って木の皿の中のしゃぶしゃぶを

スプーンで食べ始める。

『いただきます』文化はやっぱりないのか。

まぁともかく食べてくれたのでそれでいい。

 

「旨いか?」

 

「………うん」

 

その言葉にランは呆れたような顔で

しゃぶしゃぶに噛みついて器用に食べ始める。

オレも食べていると、少女が不思議そうに

こちらを見つめているのに気がつく。

 

「どした、おかわりか?」

 

「…………なんで、これを?」

 

「腹減ってたんだろ?

 目の前で倒れた奴を見捨てられないし」

 

まぁ、これから来る事態から助けたい、

というのが本音なんだけどな。

結局、オレもスバルと同じなのかもな。

助けたい人を助けたいだけの、自己満足。

 

「……………」

 

それから静かに、オレたちは食事を食べ終える。

少女は終始、オレをじっと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、暖かいだろー」

 

「うん」

 

着込んでモコモコになった少女。

なんかあれだな、可愛い。

そりゃあんなボロボロの服着てたら寒いし。

 

「ホント、お好しですね」

 

「悪くはないだろ?」

 

「こちらに得はないですけど」

 

「得ならオレが満足する、って点がある」

 

「どっちがポジティブ思考なんだか」

 

グチグチとうるさいランを

人差し指でわしゃわしゃして黙らせる。

それを見てクスリと笑う少女。

 

「お、やっと笑ってくれたな」

 

「?」

 

「ちょっと心配だったんだよ、

 顔に出してくれないからさ。

 笑った方が女の子は可愛いぜ?」

 

なんてキザなことを言ってみる。

かっこ悪いとは思うが、思ったことを言ってる。

するとどうだろう、少女は笑みを

深めてくれたではないか。

ロリコンではないが………ちびエルザ、マジ天使。

E(エルザ)M(マジ)T(天使)はここにもあった。

この笑顔はペテルギウスでも浄化しますわ。

 

「………あの、シルバ」

 

「尊い……………あっ、どうした?」

 

「シルバのお腹、切りたくない」

 

「うんそれが普通だ」

 

「エルザ、シルバが好き」

 

「あ゛っ゛」(尊死)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えへへ……」

 

「ちょ、ご主人!?

 なんでマジに死んでるんですか!?」

 

「ハッ!?あ、危ない……

 川の向こうで魔女教の野郎どもが手ぇ振ってた」

 

危ない危ない。

三途の川を魔法で焼き払うとこだった。

どうやら戻ってこれたようだ。

まさか尊さで腹を裂いてくるとは……恐るべし。

 

「さて、グステコには来たし、

 ルグニカに帰ろう、うん」

 

「えっ、ここにわざわざ来ただけですか!?」

 

「目的は達成したからな」

 

「私も行く!」

 

計画通り………ではあるんだけど。

罪悪感が凄まじい。

えぇ………なんかこれ狙ってやったみたいじゃん……

まぁ狙ったんだけど。

 

「まさか………ご主人」

 

「ぐ、グステコには雪を見に来ただけだぞ?」

 

「うっわぁ………最低」

 

「やめろォ!

 違う、誤解だぁぁぁぁぁぁ────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、ホントになんでグステコへ?」

 

「エルザを助けたかったから」

 

「なんで私のこと知ってたの?」

 

「さぁ、なぁ………」

 

とぼけておく。

今現在、オレたちはメィリィが

いる森を探し回っている。

森ってだけでどこの森か分からないから

全部を回るしかないのだ。

メィリィは確か、気がついてからも

言葉とか考えとかそんな概念のない本当に

小さい頃から森にいた筈だ。

 

「で、次は何をする気ですか?」

 

「子供探し」

 

「誰を探すの?」

 

「オレたちの妹だ」

 

「たち?」

 

「そうなる存在、ってことだよ」

 

そうして、エルザが仲間になった。

オレたちの次の目的は、メィリィだ。

 

 



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第3節「ロズワール邸」

 

 

 

「次はどこへ向かってるんですか?

 森ばっかり行ってますけど」

 

「俺の知り合いの家」

 

「貴方の?」

 

「おう」

 

現在オレたちはロズワール邸へ向かっている。

時々立ち寄る村で行商の地竜車に乗せて

もらったりしながら進んでいった。

現在は歩きだが、さっきアーラム村だったので

そろそろロズワール邸だ。

 

確かこの近くにはウルガルム………

ジャガーノートか?まぁどっちでもいいが。

〝魔獣がいる森〟これが鍵になる。

かなり探したが………まさか、な?

 

道を抜けると、かなり大きな屋敷が見えてくる。

あれがロズワール邸だ。

 

「うわっ、でか!」

 

「俺も実際に見るのは初めてか………

 それにしてもホントデカイなこりゃ」

 

「…………羨ましいわ」

 

「エルザ、頼むから抑えてくれ。

 ここの主には多分ここにいる全員で

 戦っても勝てるか分からん」

 

「そそるわね」

 

「やめてくれよ………」

 

エルザを拾って2年。

俺とエルザは15になったわけだが………

うん、まぁ色々変わった。

 

まぁ成長期だし身長は伸びた。

エルザに身長を越されそう。

ギリ俺が高いらしい。

まぁそれは些細な問題だ。

 

本題に入るが…………

どことは言わないがエルザが成長しずぎた。

なんで15でこんな色づくの?ってくらい。

いや艶が出てくるのが早い。

なんでそんなに人を惑わしたいんですかね。

 

「そんなに見つめられると照れるのだけど」

 

「お前が照れたとこ見たことないよ?」

 

「ならもっと私を見て頂戴?

 むしろ貴方の方が………」

 

「俺の方が?」

 

「…………ふふっ、なんでもないわ」

 

これだ。

この思わせ振りな態度。

何なの?俺に襲ってほしいの?

腸を斬られるのは全力で遠慮するが。

 

まぁともかく。

彼女の戦力について考えると、

暗殺者として天性の才能があるっぽい。

ちょっと教えればすぐに出来るタイプだ。

 

彼女は「貴方の教え方が上手いのよ」と

言ってはいるが、壁とか天井とか

蹴りまくって高速移動とか教えてないからね?

 

「なぁエルザ、

 この調子で料理にも挑戦とかどうだ?」

 

「遠慮しておくわ。貴方の方が上手でしょう?」

 

「花嫁修業の一環だぞ」

 

「行くつもりはないから安心するといいわ」

 

「さいですか」

 

「仲良いですよね、ご主人とエルザさん。

 もう結婚すればどうですか?」

 

「待って待って待って待って」

「………………どうかしらね~……」

 

「うわっ、これ凄い焦れったいですね」

 

顔真っ赤だから見るな見るな見るな………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………どうしたの?もう落ち着いた頃だし、

 屋敷に入るんじゃないのかしら?」

 

「うん落ち着いたけどさ。

 あー…………ちょっと怖いんだよな」

 

「怖い?何がですか?」

 

「いや覚えてるかなーって……

 あー、ちょっと形が違うけどこんな感じかぁ…」

 

スバルの苦しみが少し、

ほぉぉぉんの少しわかった気がする。

死んでもないのに分かったようになるな俺。

と、門が突然開く。

そこにいたのは────

 

「あっ」

 

「いらっしゃいませ、

 お客さ……ぇ、ぁ…………………兄、さん?」

 

「おやおーぉや、感動の再会じゃーあないの?」

 

見覚えのある顔2つ。

ムカつく道化師の格好の長身の男、ロズワール。

 

そして、桃色の髪をした少女、

─────成長した姿の、ラムがいた。

 

 

 



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第3節「ロズワール邸 その2」

 

「ねぇ、少しいいかしら?」

 

「なんでしょうかエルザさん。目が怖いよ?」

 

「何故その娘は貴方の腰に抱きついてるのかしら?

 不愉快極まりないのだけど」

 

「残念だったわね、兄様はラムのものだから」

 

「お前こんなフリーダムだったっけ?

 エルザさんお願いだから抑えて」

 

ロズワール、教育ちゃんとしてる?

まぁ俺がロズワールに

依存しないよう仕向けたんだけど。

なんで俺に依存したみたいになってんの?

頬をスリスリとか可愛い。

ラムは俺を萌え殺す気か?

 

「あはーぁ、ハーレムでも作るのかーぁな?」

 

「ちょっとこれは予想外なんだけど?」

 

一応、ランは引っ込んでもらっている。

自然の精霊なので空気に溶け込んだりできる。

ロズワールが精霊と関わるとロクなことに

なってない気がするし。

 

「レムはどこだ?」

 

「ここにいます、兄様」

 

「おっと背後を取られた。

 久しぶり、レム。元気してたか?」

 

「はい。兄様、あの時はありがとうございます」

 

「……………ごめん、皆も助けたかったんだけど」

 

「いえ、私たちがこうやって生きているのは

 兄様とロズワール様のお陰です」

 

………………感情、薄くなったな。

図らずともレムからラムを

取ったみたいになってしまった。

可哀想だが狙い通りだ。

レムとはいい感じで仲直りして

スバルを好きになって助けてもらわないと。

 

「もう1人メイドがいるんだけどねーぇ。

 悪いけど2人と会わせたかったから

 仕事を押し付けてある。

 2人は戻らせてもいいかーぁな?」

 

「いいけど………もう1人?」

 

「少し前に拾ってねーぇ」

 

そうか、もうフレデリカが来ていたのか。

フレデリカは確か21、

ここに仕えていたのは12歳から。

俺とエルザがスバルが来る頃に23、

今は15だから来ていてもおかしくないのか。

 

「上がってくといーぃよ。

 長旅だったんじゃないかーぁな?」

 

「そうさせてもらうよ。

 ほらラム、レム、仕事だろ?」

 

「姉様、行きましょう」

 

「わかったわ」

 

…………レムはともかく、

この世界線、ラムは家事できるのだろうか。

早足で去っていく2人を見送る。

 

「本当に兄妹なのかーぁな?」

 

「血は繋がってないけどな」

 

「見慣れないのもいるけど

その辺も屋敷で聞かせてほしーぃな」

 

エルザを見て、ロズワールは言ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

広い屋敷を案内され、俺とエルザは

ロズワールの執務室へと入る。

 

「本当はまだ住人もいるんだーぁけど、

まずは話でもしようじゃーぁないか。

遠慮しないでゆぅっくりするといい」

 

「じゃあ遠慮なく」

 

「ほんとに遠慮ないねーぇ」

 

ソファにどかっと座り、

テーブルの上にあったリンガを手にとって齧る。

エルザは本棚の本の物色を始めた。

 

気になっていることが1つある。

俺がいるこの世界線はパラレルワールドの1つだろう。

問題は、ロズワールの福音に俺の記述があるか、

という話だ。

ロズワールの福音は『強欲の魔女』

性悪魔女ことエキドナが渡したものだが、

あの魔女の事だ、俺の記述があっても

おかしくはないだろうが…………

いつか、聖域にも行ってみないとな。

とにかく、コイツとは慎重にいかないと。

 

「じゃーあ質問しても?」

 

「どうぞ」

 

「その娘について、聞かせてもらえるかーぁな?」

 

「旅の途中のグステコで拾った。

 エルザ・グランヒルテだ」

 

「ふむ、なるほどねーぇ」

 

俺の話にエルザの眉がピクリと動く。

最初からエルザについて知っていた、

というのを話したからだろう。

エルザのことは福音に記述があるのだろうか。

 

「じゃあ質問2つ目。

なぜここまで来たのかーぁな?」

 

「お前に礼を言うのと妹に会いたかったから」

 

「まーぁそうだよねーぇ」

 

「うわその当然、って感じ腹たつ」

 

「恩人に酷い言い様だーぁね、

 嫌いじゃないけども」

 

笑いながらロズワールが頷く。

 

「質問3つ目。

 君たちはここに住みたいのかーぁな?」

 

「拠点として、はな。

 少ししたらまた気ままに旅をするつもりだ」

 

「こちらの招集にはおうじてくれるのかーぁな?」

 

「出来たら、な。

 ま、レムとラムの恩もあるし」

 

恩義を感じていないわけではない。

受けた恩は返す。それが悪事だろうとな。

 

「2、3日滞在させて欲しい。いいか?」

 

「構わないよーぉ?

 こちらもいいメイドを雇えたし、ねーぇ。

 メイザース領での自由もある程度は許すよーぉ」

 

「そか、助かる」

 

「私の素性は知ってるだろう?

 あまり悪いことは考えないようにねーぇ?」

 

「わーってるよ、確実に。

 久しぶりに会って何となく分かる。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………まるで獣のような瞳だねーぇ。

 戦いと血に飢えた、魔獣よりも狂暴な、ね」

 

「おっと、悪いな。

 これでも俺、鬼だからな」

 

 



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第3節「書庫と鬼と」

 

こうして、俺たちはロズワールの屋敷に

居座らせてもらうことに。

ラムが作ったという夜飯(蒸かし芋)を

半強制で口に詰め込まれたりした。

エルザは隣の部屋で寝ることになり、

俺は寝るために部屋を開けた。

 

「あ?」

 

そこは、図書館だった。

……………ベアトリス忘れてた。扉渡りか。

知らないフリ知らないフリ………

 

「なんだ、ここは……?」

 

「ベティーの書庫にづかづかと入り込むなんて、

 全くニンゲンは礼儀がなってないかしら」

 

「残念だが俺は人間じゃないんですよね。

 お初にお目にかかります、ベアトリス様」

 

慣れていない()()()敬語で

なんとなく敬意を示してみるが

ベアトリスは苦い顔。

 

「慣れていないのが丸分かりかしら。

 逆に気持ち悪いのよ。

 ベティーのことはロズワールに聞いたのかしら」

 

「そうだな。書庫だろここ。

 本を読む許可を貰っても?」

 

「まさかベティーの扉渡りを破ってきたのかしら」

 

「偶然だ。持ち出しは

 しないから少し寝る前に読書でも」

 

「自分勝手な鬼かしら………」

 

書庫に上がり込み、

面白そうな本を見ていく。

魔女に関する文献は、と。

前の世界で得た知識も忘れかけだし、

再確認はしっかりしとかないとな。

 

「……………お前、何者なのかしら」

 

「ん?」

 

唐突に背後のベアトリスから声がかかる。

そういや名乗ってなかったな。

 

「シルバだ、よろしく」

 

「───鬼。しかも男。

 …………そんな筈がない、のよ」

 

「は?」

 

「────お前に身に覚えがないなら

 ……………今から言う言葉は忘れるかしら」

 

そして、ベアトリスは────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お母様…………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

な……………!?

ベアトリスは、今、何と………

 

「っ!!!」

 

しまった、反応を間違えた!!

ベアトリスが俺へ掌を向ける。

 

「………───、───悪いかしら、

 つい、カッとなったのよ」

 

「…………」

 

どうやら攻撃を納めてくれたようだ。

掌を戻す。

しかし、何故俺をお母様、エキドナだと……

気にはなるが、あまり追及するのは良くないな。

 

「…………俺は何も聞いてない」

 

「───礼は言わないのよ。

 それで、それでいいかしら」

 

「じゃあ『ごめん』とだけ言っておく」

 

「……………出ていくかしら。

 その3冊は持ち出しを許可するのよ」

 

「あぁ」

 

扉から出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺も少し考えたいことができた。

扉渡りが発動し、俺は部屋へと再び入る。

 

「あら、遅かったわね」

 

「あぁ、ちょっと書庫に………

 なんでナチュラルに人の部屋にいるの?」

 

ラムがベッドでゴロゴロしていた。

何をしてるんだお前は。

テーブルに本を置いて

 

「マーキングよ」

 

「猫かな?」

 

「ラムは可愛い子猫だから」

 

「流石は子猫。自由すぎる」

 

苦笑いを浮かべていると、

なんとラムにベッドに引きずり込まれる。

力強っ!?

 

「!?

 お、おいラム!?」

 

「眠いわ。今夜は一緒に寝て…………Zzz」

 

「寝るの早っ!?」

 

どうやら爆睡しているようで、

ラムが腕に抱きついたまま寝る。

………まぁたまにはいいか。

実際、久しぶりに2人に会えて嬉しいし。

寂しかったりしたのだろうか、ラムも。

 

「…………おやすみ、ラム。良い夢を」

 

明かりを消して、俺も眠りについた。

 

 



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第3節「強欲の魔女との契約」


今回はかなり長めです。




 

時折、こうやって夢を見る。

どこかふわふわとしており、

懐かしいような、嬉しいような、悲しいような。

感情すらも曖昧だが、それでも。

なんというか、この空間が好きなんだ。

 

「…………」

 

で、だ。

夢に他人が出てくるなんてよく聞く話で、

俺もよくあるので別に珍しくもないんだが。

 

「……………なんでいるのさ」

 

「悪いかい?ボクも今は結構暇していてね。

 たまにこうやって他人の夢を

 覗いているんだけど気づかれたのは初めてだよ」

 

喪服のような黒衣に、長い雪のような白髪。

『強欲の魔女』エキドナが、そこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君には他の人の夢で会ったことがあるね。

 それと同じように、君はボクを知っている。

 何故かは知らないけどね。───違うかい?」

 

「違わないけど勝手に

 人の夢を茶会に変えてんじゃねぇ」

 

広がっているのは平原。上には青空。

その真ん中にエキドナが座る椅子があった。

それに歩み寄り、エキドナを見据える。

 

「なんだい?

 そんなに見つめられると照れるな」

 

「大罪魔女一の性悪がどんなのか観察してた」

 

「じゃあボクも自由で

 横暴な君をじっくり観察してもいいよね」

 

「ざけんな」

 

「酷いなぁ」

 

取り敢えず観察をやめ、椅子に座る。

エキドナは2つのカップに茶を注ぐ。

 

「いらん」

 

「あれ?まだ何も言ってないんだけど」

 

「お前の前では俺の知識も無駄だ。

 だから言っておく。他人の体液なんか

 知ってて喜んで飲むような奴は変態だ。

 い・ら・ん!!」

 

「まるで飲ませるボクが変態みたいじゃないか」

 

「知識欲の変態だろ」

 

「はは、それもそうだね」

 

エキドナは軽く笑って咳払い。

俺も椅子に座り、テーブルの上の

茶菓子に手を伸ばすがこれもエキドナの

髪の毛やらなんやらだったことを思い出し、

伸ばした手を戻す。

 

「ダフネなら喜んで完食するんだけどね」

 

「死にそうなほど腹減ってたら別だ。

 それが食い物の形してたら食欲に従うだろ」

 

「そうか、ならこのままずっと

 夢に閉じ込めてみようかな」

「おいやめろ」

 

「じゃあ本題に入ろうか。

 ボクがこうやって君に会いに来た理由とかね」

 

ロズワール同様、いや

奴よりも油断はしてはならない。

何故なら。

 

「喋ろうと思えばいつでも出来るのに

わざわざこうやって来たんだからな。

そんなに大事な話ってわけか」

 

「…………へぇ、中々鋭いじゃないか」

 

「今ので確証取れたんだけどな。

あと無許可に人の精霊乗っ取ってんじゃねぇ」

 

コイツ……というか、

俺と契約している精霊、ランの正体がエキドナだ。

俺はロズワールにレムとラムを預けた後、

実は偶然近くにあった聖域へ立ち寄った。

 

「あの時………墓所に近寄った時だな?」

 

「そうだね」

 

ガーフィールに邪魔され、

その場を離れたがその時からだ。

微精霊とはマナの譲渡の契約を交わしていた。

その日から、徐々にマナの譲渡量が増えていった。

その結果、微精霊は中精霊となり、

今の狼の姿になった。

 

「なんで俺と契約していた精霊に……

 ってのは今から話してくれんだろ?」

 

「なに、君も分かってるだろう?

 ボクはね、君が

 ()()()()()()()()()()()()()()見える」

 

「……………」

 

「叡知の書については君もボクを知ってるなら

 分かるだろうけど、ボクは未来をそれに記した。

 だが、君の行動はボクの叡知の書よりも正確だ。

 それも、遥かに、ね」

 

「成る程な、お前は未来が見える俺に

 興味を持って、乗り移る対象が現れたから

 こうやって干渉してきた、ってわけか」

 

簡単に言うと、

原作を知ってる俺に興味が湧いたから。

エキドナはクスリと笑い、頷く。

 

「どうやってるんだい?

 叡知の書に記されている死に戻る者とも

 ロズワールたちとも違う。

 ボクは君が()()()()()知りたいだけさ」

 

「………なら、これが絶好の機会(チャンス)

 あぁ、良い機会だぜ?『強欲の魔女』」

 

「………………」

 

実の所、()()()()()()()()

俺はまだ完全にこの世界を理解した訳じゃない。

その理解しきれていない分は

どうすることもできない。

───なら、それを知っている人物は誰か。

この世界の知識欲の権化は、目の前にいる。

 

 

 

 

「俺の知識と、『強欲の魔女』の知識欲。

 俺なら貴女が知りたいだろう、〝未来〟。

 貴女なら俺の足りない〝知識〟を埋められる」

 

 

 

俺は、賭けに出る。

 

 

 

「お前に魔女としての

 誇りがあるのかは知らない。

 それを知るのはお前だけだよな」

 

「……………成る程。確かにそうだね」

 

「お前は俺の知る確定された未来が欲しい。

 それはいずれ来るものだが、

 それでもエキドナ、お前は欲しいか?

 いずれ、『今』として手に入る『未来』が」

 

「…………ふ、っ、あははははははっ!」

 

エキドナは笑い出す。

俺は真剣さを緩めない。

 

 

「成る程ね、全ての未来を

 知ってる訳じゃないのか」

 

「流石にそれは容量オーバーだ。

 俺が知っているのは、

 〝死に戻る者〟に関する者たちだけ」

 

「……………ワタシを試しているね?

 それがどれだけ愚かなことか知っているかい?

 この『強欲の魔女』を試すだなんて」

 

「あぁ、それだけの覚悟はしてる。

 今、俺がここでお前に殺されれば

 俺は廃人になってある意味死ぬだろ」

 

 

事実、エキドナが現れてから

軽口を言っていたのは落ち着くためだ。

それまで、覚悟を決めるためだけの時間だった。

 

 

「聞かせてほしい。エキドナ。

 俺と契約を交わす気はないか?」

 

 

エキドナが妖しく口端を吊り上げる。

 

「いいよ。単純におもしろそうだからね。

 契約の対価としては、ボクは君に未来を

 問うていく、これでいいんだね?」

 

「あぁ。俺はお前に知識を求める。

 お前は俺に未来を問う。これでwin winだ」

 

エキドナの差し出した手を取る。

 

「悪友同士、仲良くやろうじゃねぇか」

 

「お互いに利益のあることだ。

 更にボクは久しぶりに外に出ることが

 できるようなものだからね。楽しみだよ」

 

 

 

 



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第3節「目覚めて」

 

「……………」

 

「おはよう、いい朝だね」

 

「…………エキドナか」

 

身体を起こし、目の前の狼の精霊、ラン………

もとい、エキドナを軽く指で撫でる。

エキドナとは分かっているが、

もう癖なので放っておく。誰かが言っていた。

『クセなんて直さなくていい』

まぁ面倒なだけだが。

 

「んん………やっぱり気持ちいいね」

 

「そうなのか?」

 

「慣れたもんさ。最初はくすぐったかったけど」

 

実際、触り心地はいいので

気にする必要も、特にデメリットもない。

すると、扉が開く。

 

「おはよう兄様、朝食ができたわ」

「おはようございます兄様、朝食ができました」

 

「おはよう、2人とも。

 わざわざありがとう。エルザは?」

 

「いるわ。行きましょう」

 

「あぁ、悪い。少し待っててくれ」

 

寝ているうちにラムも出ていったようだ。

ベッドから出る。

そして服を脱ごうとしてエキドナが

いることを思い出す。

 

「着替える。エキドナ」

 

「うん。見てるよ」

 

「よし…………じゃなくて!

 何お前の男の着替え見ようとしてんの!?」

 

「いやだって興味あるし」

 

「何に!?」

 

今までランに徹していたから

エキドナが全面に出てきやがった。

ランの時は消えてくれたんだがな………

 

「まぁいいか」

 

「……………ほう」

 

「『ほう』じゃねぇ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (エキドナ、出てくるのはいいが

 俺はお前をエキドナとは言わないし

 お前も『ラン』を今まで通り演じてくれ)

 

 (なんでさ?)

 

 (ロズワールが発狂するぞ)

 

 (それはそれで面白そうだね。

 ………そんな睨むことはないだろう?)

 

正直不安だ。

外で待っていたエルザと共に屋敷内を進んでいく。

エキドナにはロズワールやベアトリスに

勘づかれると(俺が)殺される可能性すらあるので

黙っておいてもらうことに。

 

「しかしエルザ、なんで道知ってるんだ?」

 

「朝早くに目覚めたから散歩に行っていたの。

 ここ、見た目以上に広いものだから」

 

「俺も起こしてくれてもよかったのに」

 

「いえ、貴方はあのメイドの子と

 気持ち良さそうに寝てたから」

 

「え、エルザさん?

 目が怖いです…………」

 

顔は笑ってるけど目が笑ってない………

エルザさん怖いって。

 

「仲良くお腹を裂いてあげようと思ったのだけど」

 

「さ、裂かれなくて良かった………」

 

「今度は私も一緒に寝ることにするわ」

 

「うん?いやそれは

 ちょっと寝れないといいますか」

 

色んな理由で寝れないよ?

くっつかれたりしたら特に。

ラムは子供の身体だったからいいけど

エルザさんは結構洒落にならないんだけど。

 

「冗談だろ?」

 

「あら、本気なのだけど」

 

「えぇ……まぁいいか」

 

役得だと考えればいい。

別に寝ている時にお腹を

ザックリやられる訳じゃないし。

その辺はエルザへの信頼と親愛だ。

……親愛……愛……見えざる手……うっ、頭が………!

 

(そういや俺はアレ見えるのか?)

 

まぁ見えなくても対処法は考えてるし大丈夫か。

別にエキドナでもいけると思うし。

 

鍛練はかかしていない。

自慢ではないがエルザ以上は力があると思ってるし

最悪、鬼化すれば大抵は押し潰せるだろう。

…………聖域でラムが折れた角で鬼化してたが、

実は俺も鬼化は最後の手段になってしまった。

 

角が片方折れているせいで

かなり鬼化が不安定な上にかなり精神を削る。

おそらく1分………いや、30秒持たないだろう。

大気中のマナを取り込みすぎて魔力が暴走する。

 

 

まぁスバルとユリウスに任せよう。

あれは2人の仲良くなる一部の

イベントみたいなもんだし。

 

 



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第3節「レム」



ラン(エキドナ)の魔法について

彼女はヒューマ系統の魔法を使いますが、
精霊が水属性なため使えるのは
治癒魔法とヒューマ系統のみです。

ヒューマ(氷属性系)は火属性だと思われている
方がいるようなので説明すると、
エミリアやパックの火属性のヒューマは
超低温の熱による氷です。

対して、レムや水精霊エキドナが使う
ヒューマは水属性ですね。
(レムは水属性。激動の一週間、白鯨戦を参照)

よって、火、水属性では
ヒューマはどちらも使えます。

元々エキドナは全属性に適正があるらしく、
リゼロ世界の全魔法を使えるらしいのですが
乗っ取ってるのが水属性の精霊だったので
ヒューマ系、治癒魔法しか使えません。

結構な頻度で氷魔法出てきますが
猫さんがヒューマ系好きなんですかね?



 

 

2日後……

俺とエルザはロズワール邸を出ることになった。

ロズワールはいないらしく、

見送ってくれるのはメイドの3人。

 

「さて、そろそろ行くか。

 レム、ラム、フレデリカ、元気でな」

 

「お気をつけて、シルバ様」

 

「…………」

 

「行ってらっしゃいませ、兄様」

 

この3日でフレデリカともある程度は

仲良くはなった。

しかし本当に背が高いな………

絶対ガーフィール身長吸われただろ。

それにしてもラムが黙ってるのだが。

 

「兄様」

 

「どうした?」

 

「また来るのよね?」

 

「おう。何時になるかは分からないけどな」

 

「分かったわ。気をつけて」

 

「お前も皆と仲良くな」

 

扉を開け、エルザと共にロズワール邸を出る。

そして門から出て、

アーラム村へと歩き始める。

途中で精霊エキドナが出てきた。

 

「…………案の定、ですね。

 やはり合ってたようです」

 

「私がやらなくて本当にいいのかしら?」

 

「あぁ。予定通り、エルザは森を探してくれ」

 

「了解したわ」

 

エルザが道を外れ、森に入っていく。

その瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の背後に現れた氷の盾が、鉄の凶器を防いだ。

弾かれた音が響き渡り、俺はゆっくりと

振り向いた。

 

「手が滑ったということで………今なら許すぞ」

 

「必要ありません。

 許される前に肉塊になって頂きますので」

 

その、視線の先にいたのは。

凶悪なトゲ付きの重々しい鉄球、

手からそれに伸びるのは鉄の擦れる音を鳴らす鎖。

 

 

 

 

「じゃあ、殺し合いだな。レム」

 

「あなたはもう必要ありません。兄様」

 

 

 

モーニングスターを構え、

レムはこちらへそれを振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よくもまぁ、そんな小さい身体で

 器用にそれを振り回せるもんだ、なッ!」

 

鬼化して襲いかかってくるレムの

モーニングスターを刀で弾く。

 

 

~~~~~~~~数時間前~~~~~~~~~~

 

 

部屋で屋敷を出る準備をしている時のことだ。

エキドナが出てくる。

 

「シルバ、気づいてるだろう?」

 

「何が?」

 

「あの青髪の鬼のことだよ。

 君への敵意が隠しきれてない。

 背中から刺されるタイプだからね、君は」

 

……………まぁ否定はできない。

エルザにもいつか後ろから刺されるかもしれん。

そのうちメィリィも見つけるわけだし……

困ったな、俺のせいなんだけど。

 

「長年共にいて尊敬している姉をとられたんだ、

 そりゃあ後ろから刺したくもなるだろうね」

 

「なんかお前が言うとムカつくな。

 悪意しかねぇだろ」

 

「まぁね」

 

「おい」

 

もう否定もしなくなったエキドナを睨む。

とにかく、スバルの時と同様に襲って来る。

エルザは森の探索に当てて

1人の俺を襲いやすい状況を作ればいい。

 

「嵌めるようで悪いけど……ごめんな、レム」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「それっ!」

 

「エル・ヒューマ!!」

 

エキドナとレムの氷魔法が衝突する。

勿論エキドナは本気を出していないが、

それは俺も同じこと。

 

「ゴーア!」

 

「っ!?」

 

レムが更に氷を周囲に装填したが、

火魔法なら氷程度なら楽に溶かせる。

俺が魔法を使えないと思っていたのか、

レムは驚愕の表情を浮かべた。

そのまま至近距離まで接近し、回し蹴りを放つ。

レムもそれに反応し、しゃがんで回避する。

 

「やるね」

 

「舐めないで下さい!」

 

至近距離から放たれる銃弾のような速度の

拳を首を傾けて回避し、

その腕を掴んで投げ飛ばす。

 

「………っ!」

 

「レム、やめよう。

 それとも意味があるのか?」

 

「意味ならあります!

 もう……私から奪わないで下さい!!」

 

「…………」

 

「私と姉様の居場所を……

 姉様を、もう私から取らないで!!」

 

なるほど、そう言うことか………

しかし3年会ってない間に俺嫌われたのか。

悲しみ。

 

「八つ当たりも甚だしいね」

 

「黙ってろ性悪」

 

エキドナを黙らせる。

なんでコイツは余計なことばかり言うのだ。

 

「だから……!!」

 

レムがモーニングスターを再び振り上げる。

エキドナに何もしないように制止させて、俺は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

肉が、潰れる音を聞いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第3節「鬼の思い出」

いつの間にかお気に入り150、
UA5000達成してました!

皆様、ありがとうございます!



 

 

 

 

 

自分が、嫌いだ。

 

 

無力で、無能で、個性もなくて。

 

ただ、守られる弱い自分が、嫌いだった。

 

 

…………そんな時だった。

 

 

 

「強くなりたいのかーぁな?」

 

 

 

目を覚まして泣いている自分に手渡された

その『凶器』に、私は知った。

 

 

────強くなるとは、傷つけることだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だけど、何故。

 

何故、私は。

 

 

兄様を───────お兄ちゃんを、

傷つけて、泣いているのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大好きだった。

 

姉様について行くだけだった私を、

姉様と同じように見てくれた、兄様が。

 

 

本当に、お兄ちゃんができたようで嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

だが、今となっては。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ぐぎ、あ、ぁぁぁぁ!?」

 

沈んでいた意識が覚醒し、

身体の潰れた腹から走る電撃のような

痛みが脳を支配する。

────何だ、今のは。

 

「シルバ!!」

 

「ぐ、あ、あぁぁぁッ、がぁ、あ………!!」

 

「あ、ぁぁぁぁぁ…………」

 

エキドナが治癒魔法で治療してくれている。

それは分かった。分かるくらいにはなった。

だが、なんだ、今のは。

────レムの、記憶、感情、か?

 

「感情の、共有………!」

 

思い当たる節がある。

『憤怒』の大罪司教の権能だ………!!

 

「何故攻撃を避けないんだ!

 馬鹿じゃないのか君は!?」

 

「エキ、ドナ………!

 周囲に『憤怒』の大罪司教がいないか……!?」

 

「!?

 …………いや、魔力を探ってみたけどいない、

 一体どうしたんだ!?」

 

『大罪』の権能じゃない!?

なら別の力………ネクトは………違う!

なんだ、今のは………!?

────────────いや、今は。

 

「あ、ああああ、ああああああ!!!!」

 

「!」

 

「…………まぁ、でも。

 そこまで悩んでたのかよ、レム」

 

「………ワタシが戦ってもいいんだけど」

 

「いや………いい。

 もう十分に治療もできた。

 手を出さないでくれ」

 

暴走を始めたレムを見据えて、立ち上がる。

立てる。剣も握れる。魔法も使える。

そして、レムへと剣先を向ける。

 

「行くぞ、レム。

 兄貴として、お前を倒す」

 

「ああああああああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こちらも鬼化し、身体能力を強化する。

襲いくる氷柱を炎弾で破壊し、

薙ぎ払われる鎖を剣で弾いて接近する。

 

「あああッ!!!」

 

「やればできるんだよ、お前も」

 

腐っても、鬼の娘。ラムの妹なんだ。

それが無能なわけがあるまい。

頭を狙った飛び蹴りを首を捻って回避。

 

「なぁレム、覚えてるか?」

 

「ああああああッ!!!」

 

レムの追撃の回し蹴りが再び頭部を狙ってくる。

一撃でも貰えば頭蓋ごと砕け散るだろう。

足を掴んで防御する。

 

「確か魔法の使い方が知りたいって

 オレの所に押し掛けてきたんだったよな」

 

「うるさいっ…………うるさいっ!!!」

 

「懐かしいよなぁ、お前はすぐ覚えて

 …………魔法が暴走して2人揃ってびちゃびちゃ。

 ラムが珍しく爆笑してたよな」

 

撃ち込まれる鉄球を手の甲で弾き、

そして鎖を掴んでレムからそれを奪う。

モーニングスターを投げ捨てる。

 

「いつだったか、ラムに美味しいものを

 作って食べさせてあげたいって言い出して

 村の皆に内緒で森に入ったんだよな」

 

「やめてっ!!!」

 

「そこで綺麗な滝を見つけてさ。

 景色に見とれてオレが川にドボン。

 レムも入ってきて水遊びだよ。

 探しに来たラムも混じって遊んだんだ」

 

レムが離れ、氷の槍が空から降り注ぐ。

剣で弾くが、剣の刃が欠ける。

必要ないのでそれも捨てる。

 

「勉強が分からない時は一緒にやったよな。

 物覚えがいいんだろうな、

 すぐに足し算と引き算ができるようになって」

 

「黙れ!!!」

 

「料理がしたいって言い出した時は

 本を見ながらオレも初めてやったんだ。

 一緒になって本と睨めっこだよ」

 

少しずつ歩みを進める。

足も話も止めはしない。

 

「楽しかったよ」

 

「う、あ」

 

「レム。お前はラムの影なんかにいないよ。

 ずっと、オレとラムの間にいたんだからな。

 オレが知ってるよ。全部。

 オレがこんなことを言うのは違うけどさ」

 

鬼化を解除し、手を差し出す。

崩れ落ちたレムの顔は見えない。

 

「レムは、レムだよ」

 

それでも、手を伸ばした。

やろうと思えば簡単にへし折れる。

 

「…………お兄ちゃん」

 

「………………あぁ、お兄ちゃんだ」

 

腰を下ろし、レムの頭を撫でた。

差し出した、血で汚れていない左手で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうよ、ラムもラムで、兄様も兄様。

 ────レムも、私たちの大切な妹、レムよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ったく、なんてタイミングだよ。

来るのが遅ぇぞ。

 

「お前もオレの妹だからな。

 来て当然だろ、おい」

 

「お姉ちゃん………っ」

 

「もう、兄様に泣かされたのね。

 ほらもう大丈夫よ」

 

「お前なぁ………」

 

レムが、ふとこちらを見上げて。

 

 

 

「ごめんなさい………大好き………っ!!」

 

 

 



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第3節「事後~魔獣使い」

 

 

 

「ごめんなさい姉様」

 

「レムは謝る必要はないわ。

 ラムのためのことを思ってくれてのことだもの」

 

レムが年齢に合わない鬼化で疲弊して

動けなくなったのでラムがそれを背負っている。

それを聞いて俺は苦い顔。

 

「代わりに俺の扱い酷くない?」

 

「流石に兄様よりレムよ」

 

「美しい姉妹愛。仲良くな。

 だけどラム、兄様背中が痛いよ」

 

傷が完全に癒えきっていない俺は

屋敷へ戻ることになり、

今はラムに引きずってもらっている。

まぁ仕方ないけどさ?

 

「兄様、精霊使いだったんですね」

 

「ま、そうだな」

 

「知らなかったわ」

 

エキドナに大きくなってもらって

背中に乗せてもらおうと思ったが

マナを使いすぎて引っ込んでいる。

かなりの速度で傷が回復したので当然だが。

と、道の外れから茂みが揺れ、エルザが出てくる。

 

「あら、揃ってどうしたのかしら?」

 

「あ、エルザか。どうだった?」

 

「えぇ、貴方の見立て通りね。

 拾って来たわ。かなり大変だったのだけど?」

 

エルザが抱えているのは小さな幼女だ。

確かナツキ・スバルが来る頃には

エルザと俺が21、メィリィは12だったから、

逆算すればメィリィは3~4歳になる。

 

「大変、っつーのは?」

 

「魔獣よ。魔獣がこの娘を守るみたいだったわ。

 腸が沢山見れたから満足はしたけど」

 

「お前それ人前で言うなよ」

 

レムとラムが困惑している。

どう説明するべきかねぇ…………

考えていると、ラムが口を開く。

 

「何がなんだか分からないけど、

 取り敢えずは全員で屋敷に戻るわよ。

 話はそれからでいいから」

 

「流石ラムだ、話が分かるな」

 

「誘拐についてゆっくり聞かせてもらうわ」

「前言撤回。誤解だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ10歳のラムに背負われた挙げ句、

 その娘を誘拐したことについて聞きたいわ」

 

「やめてくれラム。心にグサグサ刺さってる。

 誤解だから。誤解だから。

 大切なことだから二回言ったからな」

 

動けるようになったレムに

包帯を巻いてもらい、

俺は取り調べのようなものを受ける。

弁明については考えていたので大丈夫。

 

「じゃあ話すが………ちゃんと聞けよ?

 ラムさんの理解力に期待してるからね?」

 

「さっさと話しなさい」

 

「反抗期かなぁ…………わーったよ。

 屋敷を出てレムが来る前にな、

 森で子供の泣き声が聞こえてな」

 

エルザにも話を合わせてくれるように頼んだ。

騙すのは心苦しいが、仕方ない。

俺の都合なんだけどな………罪悪感が凄い。

 

「俺はレムに気づいてたし、

 エルザに頼んでた、ってわけだ」

 

「……………どうやら本当のようね。

 それで、あの娘はどうする気かしら」

 

「育てる」

 

「………………、…………まぁいいわ。

 どうせ屋敷に置いていかれても困るし」

 

エルザから嫌そうな視線を感じる。

えっ?どしたのエルザさん?

 

「私、加護持ちは嫌いなのだけど」

 

「そこは俺も加護持ちだから我慢」

 

「嫌いになりそうなのだけど」

 

「お願い嫌わないで」

 

「冗談よ」

 

「心臓に悪いからやめて?」

 

言ってなかったが、一応俺も加護を持ってる。

角が片方無くなったのに

魔法が使える理由はこの加護のお陰だ。

『紅蓮の加護』

簡単に言えば炎の影響を受けなくなる。

熱い所に行っても平気だ。炎の中でも。

後は魔法が使えて一段階上昇、というもの。

氷魔法は無理。

 

「加護はよく分からん。

 魔獣に襲われなくなる加護じゃないか?」

 

「それは便利ね」

 

取り敢えず保護。

子育て?したことないけど?

まあ成り行きだ。流されてけ。

横のベッドで寝てるメィリィだが、

記憶の本の中では言葉も

知らないくらいだったらしいがどうなのだろう。

 

「………ぅ…」

 

どうやら目覚めるようだ。

さて、どうすべきか。

 

 



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第3節「事の終わり」

 

 

「おはよう、気分は最悪か?」

 

目が覚めて最初に聞くのがそれだった。

あの獣たちの言葉ではない。

言葉の意味は分からないが、声は穏やかで、

敵意がないことは理解できた。

……………驚くほどに、優しい声だったから。

 

「………あ………ぅ」

 

「言葉の意味は分かるか?」

 

身体を起こす。

腕を交差して顔を傾ける目の前の青年。

声の主はその人だった。

何か聞いてきてるようだが、

私は意味が分からず首を傾ける。

 

「………そうか、もう怖くないぞ」

 

あの森でのことだろうか。

何がなんだか分からなかったが、

近づいてきた獣たちを

黒い何かが倒したのは覚えている。

彼は、私へ手を伸ばす。

それに反射的に身体を縮めてしまうが………

 

「…………ぇ……ぅ?」

 

「………大丈夫」

 

言葉の意味こそ分からない。

だが…………声の優しさと、

頭を撫でられる心地好さに、

私はその手を取って、頬擦りをする。

 

──────とても、とても暖かかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「変態」

 

「ラム、心壊れる」

 

メィリィ(仮)に頬擦りされ、

ラムに言われた言葉がそれだった。

あのさぁ………精神的に死ぬって。

 

「人に好かれる体質ではないけど、

 だけど貴方の隣が一番落ち着くのよね」

 

「声が優しいからでしょうね。

 私も聞いていて安心します」

 

「子供をあやすのが上手いわ」

 

まぁ精神安定の声かけは絶賛されている。

照れるってー。

それにしても何この可愛い生き物。

人生の癒し。

 

「んぅ……」

 

「これが天使ですか」

 

撫で回したい。

いやー背後からの視線はキツイけど。

エルザとラムの視線で背中焼け焦げそう。

なんでそんなに俺のこと凝視してるの?

 

「兄様、たらしですよね」

 

「…………えー?」

 

レムが耳打ちしてくる。

いや、まぁそうだけどさ…………

仕方ないって言うか、男成分が足りないだけだ。

ロズワール?必要だとは言ってない。

今の状況で十分に両手に花だけど。

 

「姉様も兄様のことを尊敬しています。

 どうか気に掛けてあげてください」

 

「…………まぁ、そうだな。

 何年も会ってなかったわけだし」

 

「はい、兄様の前でこそ見せませんですが、

 寂しがっていたんですよ?」

 

「え、マジで?」

 

エルザの好意にはなんとなく気づいてたけど

まさかラムも?

両手に花どころじゃなくね?

幸せいっぱい、そして背中に突き立つナイフ。

後ろから刺されるのは嫌だなぁ………

 

「マジです」

 

「…………………」

 

「何?ラムの顔に何かついてる?」

 

「可愛い目と口と鼻がついてる」

 

「な………っ………」

 

……………おぉう、マジすか?

ヤバい、エルザからの視線がヤバい。

今日は機嫌を取るので忙しくなりそう。

 

「えーと、エルザさん?」

 

「………………気分が悪いのだけど」

 

「お願いだから機嫌直して」

 

「1つ…………何でも

 聞いてくれるなら許してあげてもいいわ」

 

「分かった…………何でもって言ったか今?」

 

今分かったって言ってしまったよね?

エルザさん笑みが怖い。死なないかな俺。

お腹ザックリとか嫌だよ!?

 

「ふふっ」

 

「…………あなた、前から

 思っていたけど気に入らないわ」

 

「あら、貴女もかしら?

 生憎こちらもそうよ、どう?全力で───」

 

「お前らマジで洒落にならんからやめろ!?」

 

白鯨を単騎で落とせる鬼(今は知らん)と

原作以上に異常なくらいな強化された腸狩りが

本気で戦うとか屋敷が終わるんですが。

 

 

まぁ、なにはともあれ。

俺たちは明日、出発することになった。

 

 

 



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第4節「家を求めて」

 

 

 

「なぁ、家が欲しくないか?」

 

「貴方、いつも突然よね」

 

「君、たまに計画性が全くないような気がするよ」

 

「シルバ、暇なんじゃないのお?」

 

「ちょっと願望言っただけだよね!?

 俺フルボッコなんだけど酷くない!?」

 

エキドナはわざわざ出てきてまで言いやがった。

お前ら俺を弄るの好きだよね!

 

 

 

 

 

 

屋敷を出てから1年くらい経過。

それまで王都で汚れ仕事で金を稼いでいた。

ついでにメィリィに言葉と勉強を教えた。

加護も自覚があるので魔獣も従えている。

 

「いやさ、メィリィも魔獣を

 従えるようになったし、拠点が必要なんだよ」

 

「まぁ妥当だろうね。

 魔獣の多さで気づかれでもしたら事だし」

 

エキドナの知恵、俺とエルザの戦闘能力、

そしてメィリィの操作による魔獣の力によって

王都での殺人事件は全て未解決、

もしくは魔獣によるものとして処理されている。

まともな仕事は残念ながら出来ないし。

 

「素性が素性だからな………」

 

「それもそうね、その貴方も鬼なのだし」

 

「私もねえ」

 

メィリィの魔獣の背中に乗り、

俺たちは現在カララギとルグニカの国境周辺、

つまり鬼の集落跡地へと向かっていた。

 

「だから鬼の集落跡地なんだよ。

 俺は場所を知ってるし、

 あそこは場所を特定しにくいからな」

 

ちなみに村の皆の死体だが、

ロズワールの野郎が魔女教徒ごと焼き払った。

俺はロズワールにレムとラムを預けた後、

皆をしっかり纏めて埋葬したが。

あの道化野郎は脛を蹴ってやった。

 

「ふぅん………貴方、大丈夫なの?」

 

「大丈夫だ。

 少し離れた場所に小屋があるんだ、

 そこを増築すれば問題ないさ」

 

「そう、ならいいわ」

 

エルザが随分と心配してくれて嬉しい。

それを見てクスクスと笑うメィリィも可愛い。

子供ができたらこんな感じなのかねぇ。

それかレムやラムより下の妹みたいな感じだ。

 

「エルザったらあ、

 ほんとにシルバが好きなのねえ」

 

「メィリィ、揶揄うのはやめて頂戴」

 

「揶揄ってなんかいないわよお?

 だってシルバに髪を結んでもらってる時

 顔真っ赤じゃないのお」

 

「……………、………慣れないだけよ」

 

「そんなエルザも可愛い………ごぶあっ!?」

 

痛っ!?

言った瞬間にエルザの短剣の腹で

頬をぶっ叩かれ魔獣から転げ落ちる。

ニヤニヤと笑って見下ろしてくるメィリィに

顔が赤く息が荒いエルザ。思春期かな?

立ち上がって魔獣の横を歩く。

 

「………………」

 

「もー、シルバのせいで

 エルザが拗ねちゃったじゃないのお」

 

「俺のせい?」

 

「全く、君は乙女心が分かってないね」

 

「エルザ、悪かったって。許してくれよ」

 

前へと回りこんでエルザと向き合おうとするも

再び顔を逸らされる。

耳まで赤いの隠しきれてないのも可愛い。

……………良いことを思い付いた。

背中によじ登ってメィリィの後ろへ座る。

 

「あれ、どうしたの?」

 

「メィリィも三つ編みにしたら

 似合うだろうなぁ、と思いまして」

 

「……………」

 

「そうねえ、お願いしようかしらあ」

 

エルザがピクリと反応する。

それを見てメィリィとニヤニヤしながら髪を結ぶ。

ちなみにエルザは自分で結んでいるが、

たまに結んでやっている。

いやー顔を赤くしてるのは知らなかったなー?

 

そんなこんなでまた頬をぶっ叩かれ、

しばらくしてから集落が見えてくる。

途中からは獣道を利用した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………酷い有り様ねえ」

 

「……………本当に大丈夫?」

 

「─────、──少し墓参りに行ってくる」

 

皆を埋めた場所へと歩く。

エルザやメィリィは来なかった。

彼女らなりの優しさだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、背後からの気配に気づくが、

俺は歩みを止めない。

 

「…………何も言わないということは、

 それくらいは信頼してくれた、と解釈するよ」

 

「そうだからな」

 

「それは嬉しいな。

 実は少し寂しかったよ?」

 

「はっ、仲間外れにして悪かったな」

 

横に現れたのは青毛の狼、エキドナだ。

話の通り、そこそこ信頼は出来るようになった。

2人で村の跡地、その奥へと向かう。

 

 

 



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第4節「鬼と魔女」

 

 

 

そう言えば、聞きたいことがあったのを思い出す。

歩きながらエキドナに話しかける。

 

「なぁエキドナ」

 

「なんだい?」

 

「お前、俺と契約を結んだが理由はなんだ?

 本来なら俺と契約するつもりはなかっただろ」

 

「……………それも、未来を見る力かい?」

 

「ま、そうだな。その知識からの考察だ。

 お前は〝死に戻る者〟を知っていた。

 元々はそいつと契約を結ぶつもりだった」

 

俺の言葉にエキドナは軽く苦笑を溢す。

顔は合わせない。

 

「なんで俺と契約を結んでくれたんだ?」

 

「なんでだろうね。

 それは───寂しかったからかな」

 

「…………墓所の魔女たちには?」

 

「ワタシの本体はあそこだ。

 君と精霊の契約を介して、現界している

 間だけ精神をこちらに移しているのさ。

 彼女らとのお喋りも出来ているから便利だね」

 

「なら寂しくはないだろ?」

 

「違うよ。

 寂しかったのは───君さ」

 

虚をつかれ、俺は目を丸くする。

俺が、寂しかった───?

 

「そうだ。見ていられなかったからね。

 何かは知らないけど────

 誰かを助けたいようだったから」

 

「………………まぁ、目的は達成されたがな」

 

「なら良かった」

 

──────あぁ、そうだったな。

彼女も、助けるために奮闘していたのだった。

いつの間にか、墓場についていた。

座り、手を合わせて黙祷。

 

「……………」

 

「……………」

 

沈黙が続く。

やがて黙祷は終わり、目を開ける。

 

「…………これから言うのは、

 ただの独り言だと思って聞き流してくれ」

 

「………………」

 

エキドナが語り出す。

 

 

 

 

 

 

───女がいた。

女には力があったが、

それを人々を庇護するために振るった。

 

だが女は気づく。

独りでは限度があると。

手の届かないものがあると。

 

女は力不足を呪った。

危機が見える。だが足りない。

何もかもが足りなかった。

 

願うことは不相応な程に遠く。

力は願いに届くことはなく。

知識は道を示すことはない。

 

過程など、どうでもよかった。

どれだけ傷つこうと、失おうと、

諦めるわけにはいかなかった。

 

この犠牲の積み上げられた道を、

振り返り、戻ることは、もうできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………哀れなものだね」

 

「そうか?」

 

「─────は?」

 

どこが哀れなのか。

俺は足元の小枝を拾い上げ、草の上に寝転がる。

空は雲一つない晴天、小枝で影を作る。

 

「確かに、女は犠牲は仕方ないと切り捨てた」

 

「…………」

 

「だけどそれが、どれだけ

 苦しいものか分かってた筈だ」

 

「…………だけど、失われたものは戻ってこない」

 

「それを許容することが、って話だ。

 どれだけ悩んだ?どれだけ考えた?

 俺は知らないけど、それこそ死ぬほどだろ」

 

「…………犠牲なんてワタシも出したくなかったさ。

 全てを救いたかった。だけど全てが足りない。

 それを欲すること、それこそがワタシの───」

 

「…………」

 

つくづく、思う。何が大罪、何が罪か。

サテラを含めた彼女らは、誰もが被害者だ。

人の罪───七つの大罪。

誰かを、全てを救おうとして、何が〝強欲〟。

誰にも罪を責められる理由はない。

 

「人の罪は七つに分けられる。

 傲慢、嫉妬、怠惰、憤怒、暴食、色欲、強欲」

 

「────」

 

「強欲、ってのは一番の欲望に関するものだ。

 人は欲に弱いし、目が眩んだら

 他のことは疎かになる」

 

「何を………」

 

「だけどさ、お前らはその逆なんだよ。

 一見、全員がそれを体現したみたいだけど

 本質的には全員が逆なんだ。

 テュフォンとかな。どこが傲慢なんだあれ」

 

まぁ謙虚ってわけでもないけど、と後付けし、

俺は小枝を親指でへし折る。

 

「だってお前は自分の力を驕ってなんかいない。

 寧ろその力で皆を救おうとしたんだろ?

 それのどこが〝強欲〟なんだ。

 俺はな、エキドナを否定するつもりはない。

 俺が否定してるのは〝強欲の魔女〟だ」

 

「……………まるで、

 ワタシの人生を知ってるみたいだ」

 

「詳細までは知らん。

 それ聞くと嫌がりそうだから聞かねぇ」

 

「ありがたいね。

 あまり話したくはないし」

 

エキドナがどんな顔をしてるのか

なんて知らないし、興味もない。

だけど。

 

「1人で出来ることなんて限界がある。

 お前が一番知ってることだろ?

 抱え込むなよ、辛くなったら言え」

 

「……………じゃあ、抱き締めてくれるかい?」

 

「………………………誰にも言うなよ、刺されたくない」

 

エキドナをそっと包む。

 

 

 

小さな嗚咽が、聞こえた。

 

 

 

 

 

 



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第4節「家」

 

 

 

2日後……

 

 

「これで完成だな」

 

「えぇ」

 

俺たちは完成した家を前に、感嘆の声を漏らす。

木造二階建ての大きめの家。

流石にロズワール邸と比べるわけにはいかないが。

しかしまぁ、自ら作ったものだが、

十分過ぎるほどの出来映えだったわけだ。

 

「お疲れさまあ、はい、お水」

 

「ありがとう、貴方も」

 

「おう、サンキュ」

 

メィリィから貰った水筒をエルザが投げ渡す。

それをキャッチ、蓋を開けて呷る。

 

「食糧はこの辺は動物がいるし、

 適度に狩っていけばいいわね」

 

「野菜は………農園でもするか。

 明日にしよう、種は王都で買ってきたし」

 

「とにかく入りましょお?」

 

エルザと食糧相談をしながら家に入る。

メィリィが先行して扉を開けて入っていく。

 

 

家の建築だが、思った以上に大変だった。

木材はメィリィの指揮する魔獣たちに運ばせたが、

それを切って削って組み立てるのは俺とエルザだ。

エキドナは面倒だと言って消えやがった。

やっぱアイツ魔女だわ。

更に作ったのは家だけではない。

エルザと反対側の木の椅子に腰かける。

 

「ベッドは仕方ないよなぁ………

 こりゃ夜営具で寝るしかないか……」

 

「カララギに買いに行きましょうか。

 あそこならあるでしょうし」

 

「そうだなぁ」

 

カララギといえばワフー建築だとか

ダイスキヤキ(お好み焼き)だとか、

日本感があって故郷が恋しくなる。

お米食べたい。

 

「米か………パンばっかりだしなぁ……

 やっぱり鍋には米なんだよなぁ………」

 

「しゃぶしゃぶ?

 また食べたいわ」

 

「多分すぐ食えるぞ」

 

エルザが日本文化に染まっていく………

日本人として誇らしい。

もうイメージ変えて着物でも着せるか?

似合う。きっと、いや絶対似合う。

ちなみにしゃぶしゃぶ、メィリィにも好評だった。

 

「あそこの料理は癖があるけど

 それがまた良いのよね」

 

「どハマりしてんじゃねぇか」

 

…………アナスタシア陣営につくことも考えるか?

リカードとかミミたちの傭兵団〝鉄の牙〟に

所属してればもっと日本文化が見つかるかも。

給料も入ってくるし。

 

「まぁ、また今度でいいか。

 今はスローライフだ、のんびり暮らそう」

 

ナツキ・スバルが来るまでやることは特にないし、

それまではここでのんびり生活を送るつもりだ。

来る時にはロズワールから依頼が来るだろうしな。

別に気負う必要もない。

 

「シルバあ!

 お風呂!お風呂があるわあ!」

 

「おう、ロズワールのとこ以外なかったからな。

 浴槽もあるからゆっくりできるぞ」

 

「やったあ!」

 

「魔獣は入れんなよ、毛が凄いことになるから」

 

「はーい!」

 

喜んでんなぁ…………

仕事のせいで血がつくし、毎回川とかで

洗わないといけないからだと思うが。

暖かい風呂はやっぱり心地いいしな。

 

「じゃあ早速浴びてもいいかしら?

 汗をかいたものだから」

 

「別に俺たちの家だから

 わざわざ許可取る必要ないぞ」

 

「…………私たちの家、ね…………

 ────分かったわ、メィリィ」

 

「うん!」

 

エルザとメィリィが風呂へ向かっていく。

近くの川から水を引いてきて魔石で濾過、

暖める簡単なものだが、

やっぱり風呂に入れるのはデカイと思う。

サプライズとして全部2人に内緒でやったから

かなり大変だったが。

 

「さて、俺は夜食の準備でもしますかね」

 

赤く染まり始めた空を見て、

俺は台所へ向かうのだった。

 

 



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第4節「水門都市へ行こう」

 

 

 

椅子に座ってテーブルの上の地図を眺め、

茶の入ったカップを啜る。

 

「どうしたの?」

 

部屋に入ってきたエルザが話しかけてくる。

家が完成して一週間だ。

そろそろ買い物に行こうと思うのだが………

エキドナとの会話によりとある事が分かった。

 

「ん、カララギに行こうって話したろ?」

 

「そうだったわね。

 いつまでも寝袋で寝るのもだし」

 

「プリステラの方が近いんだよな。

 知ってる?」

 

「えぇ、水門都市プリステラ。

 ルグニカ五大都市の1つよね」

 

「あぁ、地図を見たらそっちの方が近いんだよな。

 そっちでもカララギ飯食えるし、観光ついでに

 プリステラに行って見ようかと思って」

 

「別にいいんじゃないかしら、

 メィリィも楽しめるだろうし」

 

観光もするつもりだ。

お菓子とかも買い込んだらメィリィも喜ぶ。

ちなみに魔獣は餌が必要ないので餌代は

必要ない。いいペットである。

だが、問題が1つ。

 

「カララギの予定の時もだったが、

 問題はそこまで行くための足なんだよ」

 

「メィリィの魔獣に乗っていけばいいじゃない」

 

「検問の時どうするの?

 食い殺して突入とかするの?制圧するの?」

 

「それもいいわね」

 

出来そうだから怖いんだよぉ………

メィリィの魔獣はギルティラウさんより

ヤバいのが増えたし、

エルザも何故か更に強くなってるし。

 

「ダメだから。どうするか…………

 …………しまった、俺も思い付いたのがヤバい」

 

「どうするの?」

 

「途中で竜車を襲撃して奪う」

 

「いい感じに思考が犯罪者ね」

 

「平和に暮らしたいんだよ俺は。

 お前らがいれば正直何もいらない」

 

「ふふっ、そうね」

 

「…………まともに返すな、恥ずかしいだろ」

 

前言撤回したいところだが、

本音なのでしないでおく。

顔が赤くなっているのは分かるので顔を隠す。

エルザはポーカーフェイスが上手くなってるので

いつものようにニコニコしているだけだが。

扉が開いてメィリィが入ってくる。

 

「あーっ、2人とも

 なにお昼からラブラブしてるのお!?」

 

「メィリィさんラブラブとか言うの

 恥ずかしいからやめてくれない!?」

 

「否定しないじゃないのお!

 もー、お手紙来たから持ってきたのにい!」

 

「は?」

 

居場所特定されんの早くね?

どうせロズワールの野郎だろうがな。

メィリィが持ってきた手紙を見る。

やっぱりロズワールじゃないか…………

内容は………領内の森に魔獣を放ってほしい、ね。

あー………激動の一週間のウルガルムの件か。

 

「予定が出来たな、2年後くらいでいいだろ」

 

「………彼の領内に魔獣を?」

 

「あぁ、あの道化の考えは理解できないな。

 メィリィ、犬はいるか?」

 

「犬って……ウルガルム?

 それともギルティラウ?」

 

「ギルティラウは過剰戦力だからな……?

 ウルガルムで頼むわ。

 あと何匹かの牙に呪い仕込んでくれればいい」

 

「はあい」

 

「あ、メィリィ少しいいか?」

 

とてとてと走っていこうとする

メィリィを呼び止める。

 

「どうしたのお?」

 

「明日プリステラってとこに行くから

 準備しといてくれ。

 あと魔獣は連れていかないからな」

 

「わかったわあ、遠足?」

 

「そんな感じ。旨いもん食いに行こう」

 

「やったあ!

 準備してくるわあ!」

 

風のように走っていくメィリィ。

ちなみにあの娘、6歳です。

全く子供というのは色々覚えていくもので、

最近は文字の読み書きが完全になった。

お父さん嬉しいよ。

 

「あぁいう所を見ると

 やっぱりまだ子供なのよね」

 

「そんなこと言って俺らも16歳だけどな」

 

「そうだったわね」

 

大人ぶってるが16だ。多分。

だってオレもエルザも年齢覚えてないし。

オレは旅の期間が長くて忘れた。

エルザは単純に覚えてない。

彼女の分のカップを用意して茶を注ぐ。

ありがとう、とエルザは向かいの椅子に

座り、茶菓子を手に取る。

 

「……………平和なものね」

 

「どうした急に」

 

「いいじゃない。

 私だって幸せに浸ることくらいあるわ」

 

そう言って、エルザは笑った。

 

 

 



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Ex「魔女教対策について」

 

 

 

今回は憎き魔女教大罪司教の

対策を考えようと思う。

 

()()襲われたら逃げるしかない。

仕方ない。だってスバルが来るの7年後よ?

 

スバルには原作通り死んで進んでもらわないと

オレの未来が狂う。

勿論、少し手を加えることはするが、

最初にスバルを殺すのはエルザだし

ロズワール邸を襲撃するのもある。

 

スバルには大罪を倒して経験値を得てもらう。

オレに『見えざる手』が与えられても困るし。

エキドナ曰く、魔女因子の継承らしいが

オレに継承される可能性もちゃーんとある。

 

だから最終的にはスバルに殺してもらう。

まぁ対策ってだけだ。

倒す方法は一応考えてある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まずは『怠惰』ペテルギウス・ロマネコンティ。

鬼族のオレたち以外を滅ぼしやがったクズ。

『脳が震える』『愛愛愛愛!』『デス!』

などなど、様々な名言のある大罪司教。

 

権能は『見えざる手』。

不可視の岩すら砕く手を沢山伸ばす権能。

これ実は一番攻略が簡単だったりする。

オレの場合は炎魔法で陽炎を作り

揺れていない場所が手の位置で、

相手に熱でジワジワダメージも入る。

オレは加護の影響で問題なし。

後は強火(アルゴーア)で焼却してやれ。

 

エルザとメィリィには指先狩りを頼む。

メィリィはエルザとギルティラウと行動し

あらかじめ指先を虐殺してもらう。

あの2人なら心配ない。

 

過去知っちゃうと殺し難いが殺す。

世界は無慈悲なんだよ、ペテ公。

 

 

 

 

 

 

 

次に『強欲』レグルス・コルニアス。

自己中クズ野郎。童貞(嘲笑)。

 

権能は『獅子の心臓』と『小さな王』。

簡単に言うと時間停止による防御貫通即死攻撃だ。

これは………スバル無しの突破には人間性を捨てろ。

花嫁皆殺し。これが一番楽で手っ取り早い。

花嫁たちに覚悟を決めてもらう必要がある。

まぁオレもなんだが。

『覚悟とは…………犠牲の心ではないッ!

 覚悟とは!!暗闇の荒野に!!

 進むべき道を切り開くことだッ!』

犠牲出さねぇと勝てねぇから…………許せ。

 

これは2人にも協力は厳しい。

あの2人が死ぬ可能性はない方がいい。

オレの魔法で全部焼け。覚悟決めろ、オレ。

 

 

 

 

 

 

 

次は『憤怒』シリウス(・ロマネコンティ)

自称ペテ公の嫁、ストーカー。

感情共有を強制させるクソ。

フォルトナさん疑惑とか怖すぎねぇか?

 

権能は『感情・状態の共有』?

これは情報が少なすぎる。

相手の動きを完全に停止させたり

纏う炎が権能かもしれない。

チート英雄ラインハルトでも防ぎようがないとか。

 

これも2人はダメだ。権能がヤバい。

あの2人を殺すくらいならスバルを殺す(無慈悲)。

 

しかも単純に戦闘能力が高い。

ラインハルトをして『熟達した技術の持ち主』。

まぁオレもそこそこ剣は自信がある。

炎もヤバいが、オレは炎を実質無効化できる。

権能の炎なら死ぬが。

エキドナ曰く、「加護<権能」らしいし。

 

 

 

 

 

 

『暴食』ライ・バテンカイトス。

    ロイ・アルファルド。

    ルイ・アルネブ。

クソ野郎三兄弟。ゴミ、クズ、カス。

記憶を奪って自分のものにする豚野郎ども。

 

権能は『食事』。クソ。カス。

豚どもの権能に相応しいクソ能力。

『名前』『記憶』を奪う権能だ。

『名前』を食われれば周囲から忘れられ、

『記憶』を食われれば記憶喪失。

両方奪われれば永久に眠ったまま。

対策は『名前』が正確に分からないと意味がない。

名前を間違って食われるとあっち側がゲロる。

隙だらけだ。焼かねば(使命感)。

 

実は対策がもうしてある。

1つはオレという存在に隠された『秘策』。

言っておくがカッコつけではない。

2つはエルザは自称で本来の名前は分からない。

メィリィにはポートルートという名もあるが

誰にも、それこそエルザにすら言っていない。

 

戦闘ではエルザを頼りにする。

オレとエルザの共闘で翻弄、焼く。

あのクソ豚どもは焼かないと(使命感)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後に『色欲』カペラ・エメラダ・ルグニカ。

ゴミカスクソ豚。ありのままの君が好き(煽り)。

 

ていうか化物にならなくても

そのままの方が(見た目)いいんじゃね?とは思う。

トラウマがあるっぽいからそれを解消すれば

味方につけられる可能性が微レ存……?

 

権能は『変貌』。

何にでも変身が可能(?)ニャル様かよお前。

これは………秘策があることはあるが、

かなり難しいと思う。

ベアトリスの『アルシャマク』で

別次元に吹き飛ばすというゴリ押し。

だって対策思い付かないし、

水に沈めて溺死も考えたが水棲生物に

変身されたら終わりだし。

 

2人は少し危ないか。

奴の権能が分からない限りは仲間の参戦は

避けさせたいところだ。

 

 

 

 

 

 

 

こんな所だろうか?

出会すことはないと思いたいが、

気を付けるに越したことはない。

 

 

 

 

 

 



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第5節「水門都市」


投稿遅くなりました。





 

「シルバあ、私疲れたわあ。おんぶ」

 

「はいよ」

 

 

メイリィを背負って歩く。

もう水門都市の外壁も見えてきた所だ。

ちなみにここまで徒歩で来ている。

 

 

「まさか竜車が通らないなんて………

 考えていなかったのだけれど」

 

「まぁ面倒事も嫌だけどな。

 お前グステコ生まれだから暑いのダメなのか」

 

「………おんぶ」

 

「帰りなら別にいいぞ。今はメィリィがいるし。

 途中からは魔獣に乗って帰るからそこまでな」

 

 

エルザとメィリィはどうやら暑いのが苦手らしい。

基本的にルグニカは四季の影響が薄いが、

カララギ側なら話は違ってくる。

 

カララギは夏や春の影響が強く、

春は過ごしやすくていいのだが、

今の時期……夏は本当に暑いのだ。

 

ましてや俺たちが今着ているのはカララギの着物。

眼福ではあるのだが、やはり暑そうだ。

下にはいつもの薄い服を着ているのだが

あれは些か刺激が強すぎる。

 

 

「そろそろ着くぞ。

 中は涼しいだろうから頑張ってくれ」

 

「分かったわ……」

 

 

水門都市の外壁が見えてくる。

確かにあれは要塞のようにも見える。

 

それにしても正直、エルザが

ここまで辛そうなのは初めてかもしれない。

可哀想だ。…………エキドナを叩き起こすか。

 

 

「エキドナ、起きろ」

 

「どうしたんだい………って暑いなぁ、

 まさか冷房代わりにボクを呼んだのかい?」

 

「そのまさかだ。冷房魔法とかないのか」

 

「ボクを誰だと思っているのかな?

 かの〝強欲の魔女〟だよ。

 その程度の魔法なら心得ているさ」

 

「御託はいいから出来るならさっさとしてくれ」

 

「酷いなぁ………ボクも暑いからやるけど」

 

 

俺の頭に乗る青い小さな手乗り狼(魔女)が

魔法を使う。

すると、暑い風が少しずつ

涼しくなっていくのが感じられた。

 

 

「………感謝するわ」

 

「涼しいわあ~………」

 

「エキドナ、ありがとう」

 

「あぁ。しかし水属性だけなのはやはり不便だね。

 火属性も使えたら気温ごと下げられるんだけど」

 

「へぇ、魔法ってやっぱ便利なんだな。

 その魔法の使い手もだが」

 

「そう言われると魔法使い冥利に尽きるね」

 

 

そんな感じで水門都市へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

検問までたどり着き、順番を待つ。

そして、次は俺たちの番だ。

 

 

「止まりなさい。

 入都審査を行いますので誓約書にサインを」

 

 

衛兵に簡単な誓約書を渡される。

内容は、都市へ来た目的、

後は都市のルールが書かれており、

それを守るという同意するか、というものだ。

それは思ったよりも簡単で、

意識する必要はないくらい。

後は名前くらいか。

 

エルザにも渡され、俺がメィリィの分まで書く。

ちなみに精霊は構わないらしい。

しっかり実態のあるエキドナに周囲の人々は

「大精霊か………?」などと驚いていたが。

衛兵も少しビビっているように見える。

 

 

「これでいいかしら?」

 

「いいんじゃないかな。………よし。

 メィリィ、都市じゃ水を汚したりするなよ?」

 

「はあい」

 

 

衛兵へ誓約書を提出する。

少し確認がされ、監査官から入都を許される。

 

正門を抜けると、

そこには、驚くほどの美しい光景が広がっていた。

 

 

「おぉ………こりゃ凄いな」

 

 

水が流れる円形の都市。

都市の中央へ行くほど高低差は低くなっており、

簡単に言えば

『クレーターの地形にそのまま町が出来た』

という感じだろうか。

 

水門都市、と呼ばれるだけあり、

水は透き通るほどに美しく、陽光を反射して

キラキラと輝いている。

 

 

「綺麗ね………」

 

「ほんと凄いわあ、楽しみ!」

 

 

こうして、俺たちは水門都市へとやって来た。

 

 

 

 



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第5節「荒れ地のホーシン」


投稿遅くなりました。
FGO爆死ショックがですね……ちょっと辛かった。




 

 

 

「よっこいせ、と」

 

 

水路の水竜船から荷物を運びあげる。

エルザとメィリィにも少し手伝ってもらい、

宿………というか、ほぼ旅館の入口に持っていく。

 

 

「これで終わりね」

 

「2人ともお疲れ様。

 宿でゆっくりしようか」

 

「うん!」

 

 

町を流れる冷たい水の影響だろう、

都市の中は涼しく、2人も快適そうだ。

家具などを買い込んで来るのは大変だったが、

水竜船に乗るのは初めてで興奮した。

どうしよう、地竜でも飼おうかな………

 

 

「まぁ飼ったら飼ったで

 メィリィの魔獣の餌になりそうだな……」

 

「他のペットを飼うのは無理ねえ、

 多分みんなが食べちゃうし」

 

「乗るなら魔獣でいいじゃない。

 私はやっぱり魔獣が心地いいわ」

 

 

さりげなく物騒な話になっているのに気付き、

従業員たちが困惑しているのを誤魔化しながら

床張りの廊下を進む。

やはり畳と障子がないのが少し違和感。

すると、エルザが指で背中を突っついてくる。

 

 

「どうしたの?」

 

「ん、何が?」

 

「何か物足りなさそうだったけれど」

 

「何も言ってないのによく分かったな………

 畳と障子がない。後は襖も再現が微妙というか」

 

 

襖に関しては扉が横開きではあるのだが、

やはり扉が洋風なのが少し残念。

従業員たちは「おもてなし」精神を感じるものの、

服がバッチリファンタジーしている。

和洋折衷、とも言うべきだろうか………

和風ファンタジー感。

 

 

「………よく分からないのだけど」

 

「まぁ色々あってな。

 今度機会があったら話すよ」

 

「でもシルバあ、床にそのまま座るのお?」

 

「あー……そうだな。

 座布団、っていうクッションの上に座るんだ。

 寝る時も床に布団を敷いて寝る」

 

「へぇ……何だか新鮮ね。楽しみだわ」

 

「そうねえ、不思議ー」

 

 

まぁ異世界(日本)生まれなら当たり前なのだが。

懐かしさは感じるし、俺も実際かなり楽しみだ。

 

それにしても『荒れ地のホーシン』か…………

ここは流石に俺も分からないが、

エキドナに聞くべきだろうか。

いや、何処かで情報が漏れる可能性があるし、

聞かないでおくべきだろうな。

…………しかし、魔女たちの生きていた時代、

そしてホーシンが現れた時代は同じ400年前。

彼女らの誰かが面識があるかもしれないが………

 

 

「謎は深まるばかりだな………荒れ地のホーシン」

 

「荒れ地のホーシンって言うと、

 カララギの創設者、みたいなものだったかしら。

 確か商業の基準を作ったとも聞くわね」

 

「あぁ、このワフー様式やらカララギ弁やらも

 そのホーシンが持ち込んだとか言ってたな」

 

「むうー、難しい話はよく分かんないわあ」

 

「おっと悪いな、除け者にしちまった」

 

 

メィリィの脇に手を入れ、持ち上げて肩車する。

まだ10いかない年齢なのだ。

メィリィにはまだ少し難しいだろう。

 

……10いかないくらいから殺しさせてんのか、俺。

救済すんじゃねぇのかよ………趣旨が………

よし、プレアデスまで終わったら

メィリィとエルザと遠くに逃げよう、うん。

逃避行だ。

 

そんな感傷に浸っていると、

いつの間にか部屋についていた。

エルザが扉を開け、

荷物が運び込まれているのを確認する。

 

 

「まぁ考えるのは少し休んでからにしない?

 たまには温泉にも入ってゆっくりしましょう」

 

「そうだな。さて、短かったけど」

 

「むー、詰まんないの。

 また後で肩車してねえ?」

 

「はいはい」

 

 

エルザの言う通り、温泉にでも浸かって

今はただ、この幸せを享受するとしよう。

 

 

 

 



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第5節 「月夜の語らい」



3ヶ月振りのクソ遅投稿です。
待たせた読者様たち本当にすいませんでした。

リゼロスは開始から石を30000まで
貯め続けてエルザを完凸させました。
ついでにWebの原作小説では彼女がついに………!
やったぜ。(糞遅二次作者)




 

 

 

砂利の敷き詰められた庭園の前の縁側(?)で、

空に浮かぶ丸い月を見上げていた。

すると、背後から声がかかる。

振り向かずにそのまま月を眺め続ける。

 

 

「何を考えてるのかしら?」

 

「ん……いや別に、何を考えてるワケでもないかな」

 

「隣、良いかしら」

 

「駄目って言うはずないだろ?」

 

「ふふ、それもそうね」

 

 

振り向いてそう気障ったらしく笑って言う。

そこにいたのは、やはり和装のエルザだった。

微笑みながら彼女は隣に座る。

距離は無く、少しアレだが良い匂いがする。

もっと前ならば顔を赤くしたものだが、

今はその肌が触れ合う距離がとても心地好い。

 

 

「あら、顔を赤くして慌てると思ったのだけれど」

 

「あ、同じこと考えてた。

 ちっと前なら赤くなって慌てふためいてたな」

 

「残念。慣れてしまったのかしら?」

 

 

悪戯っぽく、妖艶な笑みを浮かべて

こちらを覗き込んでくるエルザに視線を向ける。

それに笑みを返しながら

エルザを拾った頃を思い出して言う。

思えば色々なことがあった。平和だったなぁ。

 

 

「慣れた……のかな。

 心地好さすら感じるくらいだけど」

 

「私と同じ、ね。

 でも、確かに私は貴方が好きよ」

 

「ド直球」

 

 

流石にそれは卑怯だと思う。

しかも肩に頭を乗せて言われると

やはり顔が少し熱くなる。

突然の直球な告白は想像してなかった。

 

 

「貴方は私が嫌いかしら?」

 

「あー…その…大好きだけどさぁ……

 もう少し言い回しがあるんだよ、俺の故郷に」

 

「へぇ、興味あるわね」

 

「なら、思った通りに返してくれ。

 反応が見たい」

 

 

そういえば〝元〟でもスバルがエミリアに

教えていたのだったか。

さて、これはどうなるだろうか。

エルザの反応を楽しみにしながら、

一度月を見上げ、再び彼女に横目で視線を戻す。

 

 

 

「─────月が綺麗ですね」

 

 

 

その言葉に目を丸くした彼女は、

少し悩むように微笑んで。

彼女が本当に希にしか見せない、

月夜の花が咲くような満面の笑みで言うのだ。

 

 

 

 

「貴方が隣にいるものね」

 

 

 

 

あぁ、もう。

やはり卑怯ではないか。

何故そんな時だけ、そんな笑顔を向けるのか。

こちらが反応を楽しむ側だと言うのに。

 

 

「お前には口で一生敵う気がしねぇよ」

 

「ふふっ、光栄ね。

 いつもはメィリィがいるけれど、今くらいは」

 

 

そして、彼女はこちらを向いたまま目蓋を閉じる。

恥ずかしいにも程がある。

程があるが、嫌ではない。

彼女が誰かを前にして目蓋を閉じるのは

最大限の信頼の証でもあるのだし。

 

なら、まぁ、吝かではない。

 

 

 

「…………あいよ」

 

 

 

 

 

 

息がかかる距離まで、顔を近づけて目を閉じる。

 

お互いの心音が聞こえ、高鳴るのが分かる。

 

そっと彼女の背に右手を回し、

左手で華奢な肩に触れる。

 

彼女の手が首筋を撫でるのが分かる。

早く、と催促するようにもう片方の手が背に回され

抱き合う形になる。

 

 

そして、互いの息の熱が感じられる距離。

 

 

 

 

 

 

 

 

そっと、唇を重ね──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「!!」」

 

 

重ねようとした、瞬間だった。

背後から聞こえた物音に一瞬で

俺もエルザも手と距離を少しだけ離して

何事もないように縁側に座り直す。

 

 

「う~……ん」

 

 

錆び付いた機械のようにガチガチの首を動かし、

その声と物音の方を振り返る。

少しだけ開いた横開きの扉の隙間から、

モゾモゾと布団の中で動くメィリィが見えた。

 

 

「………寝返り、ね」

 

「最悪のタイミングだったな………」

 

 

そして、お互いの顔を合わせる。

数秒の沈黙が続く。

 

 

「「…………………」」

 

 

そして、エルザが溜め息をついて苦笑いを

浮かべて口を開く。

 

 

「寝ましょうか」

 

「そうだな」

 

 

それにこちらも苦笑い。

縁側から立ち上がったエルザを横目に、

俺も縁側から立ち上がる。

夜風にも当たれたし、よく眠れるだろう。

少し………かなり残念だったが。

 

 

「…………」

 

 

こちらを待っているエルザの方を向こうとして、

また気障っぽい考えが脳裏をよぎる。

カッコつけが過ぎるかも知れないが、

まぁ、ムードを無視すればいい。

 

 

「どうしたの?」

 

「いや」

 

 

振り向き様に、さりげなく。

 

 

 

 

 

 

 

彼女の唇を奪う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

「なんてな。おやすみ」

 

 

そして、硬直する彼女を置いて

先に部屋に入って布団に飛び込む。

自然体の表情を保ちながら、

眠ったような息を立てる。

 

 

正直、めちゃくちゃ恥ずかしいが、まぁ。

 

 

 

 

「カッコよく出来た、気がするな」

 

 

 

その時の表情が、脳裏に染み付く。

 

顔を真っ赤にして、目を見開くという

エルザにしてはかなり珍しい表情も見れた。

 

 

ゆっくりと沈んでいく闇に意識に任せて、

そのまま眠りについた。

 

 

 






R-18でも書こうかと思ったけど需要あるかこれ?



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