ナツメグ探訪記 (Almin)
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魚を巡り地底へ潜る
「涙光の地底湖?」
シクセンベルトへと向かう道、神代の鐵遺跡を歩きながら、ケイ……オイカッツォに訊ねる。
「ああ、ペンシルゴン……ってのがプレイヤー名なんだけど、
ペンシルゴン……どこかで聞いた気がするけれど誰だったかしら。少なくとも
「聞いたことのないエリアね」
「情報の抱え込み、ってやつだね。
ケイの問いに頷きで返す。
このゲームを短期間ながらプレイして分かったことは、
ラック・ピニオンから教わったプレイヤークエストも、その一つと言ってもいいかしらね。一部の生産職以外にはほとんど知られていない情報だろうし。
……あと、アルミラージ"
「
そうかもね、とケイが笑みをこぼす。
「ただ、それは
「なるほど。覚えておくわ」
ブゥウン、という風切り音が、
「たしか名前は…デルダユニットドローン、だったかしら?」
「そうそう。このエリアのノーマルエネミーだね……そういえばペッパーは薬剤師だって聞いたけど、錬金術師狙い?」
ケイの【拳気】を帯びた拳がカウンター気味に放たれ、それを正面から受けたデルタユニットドローンが砕け散る。
「そうよ。あなたとシ……アージェンは前衛格闘タイプだって聞いて……」
「僕たちに合わせて決めたってこと?」
「いや、その、ほら!私って
「あぁ、そういうことか。」
「それにサブで剣士は取ってるから、薬剤師だけど多少は近接もできるのよ?」
「それはいいね」
そうして
「ねぇ、カッツオ?」
「言いたいことは分かるよ。」
「これ、本当に大丈夫なのよね?」
「そこは保証するよ。何せ一度
「それでも気になるって言うなら……そうだな。手でも繋いで降りてみるかい?」
一瞬、思考がフリーズする。
「なんてね。冗談だよ」
そして加速する。
「あー、ケイ?」
「なに? 」
「その、良ければ、なんだけど……」
頑張れ私。
「流石にちょっと不安だから、手を繋いで貰えると嬉しいかな~、なんて……」
◇◇◇
驚いた。というのがその言葉を聞いた正直な感想だ。
メグも(格ゲー限定とはいえ)フルダイブに慣れているし、
ただ、能動的に底知れない穴に身を委る、と考えると、恐怖することも納得できる。
「そう? メグがそう言うなら……はい」
そう言って俺はゲームの主人公みたいに手を差し伸べた。
◆◆◆
「そう? メグがそう言うなら……はい」
そう言って手を差し伸べるオイカッツオの姿には見覚えがあった。確か……そう、昨年のゲーム雑誌の表紙が、ちょうどこんなポーズをしたケイの写真だった。
「ありがとう。助かるわ」
そう言いながら、鼓動が少し速くなるのが、自分でも分かった。ケイに気づかれなければ良いのだけど。
「よし、行こうか」
視界が真っ暗になる。
胃が持ち上がるような不快感に襲われ、思わず目を閉じる。
暗闇の中、ケイの手の感触だけが鮮明に感じられる。
「……ぃ……ぅ……?」
ケイの声が聞こえる……なんだろうか?
気付けば、先ほどまでの浮遊感が無くなっていた。いつの間にか到着していたらしい。
さっきは気付かなかったけれど、心臓の鼓動の速さだったり、落下時の浮遊感だったり、些細な現象に至るまで
心を落ち着けてゆっくりと目を開けると、そこは洞窟のような場所だった。湖も見えることを考えると、ここが
「大丈夫? ペッパー」
「あ、ええ。大丈夫よ。心配かけたわね」
「いや、大丈夫ならよかった」
「ありがとう」
「……」
「どうしたの?ケイ」
「……これ」
そう言ってカッツオが挙げた腕の先には……
……
……
しっかりと、私の手が絡み付いていた。
「あっ、その、ご、ごめんなさい?!」
「いや、いいんだけど……ね。」
慌てて手を離すと、ケイは空いた手でインベントリを操作し始めて……
「はい。これ、使って」
私は一本の釣竿を手渡された。
「ええと、確か釣り中にたまに出現するモンスターの経験値が良い、だったっけ?」
名前は「ライブスタイド・レイクサーペント」というらしい。この後、休憩中にWikiも探してみたけれど、どこにも載っていなかった。このユニークエリア(と呼ぶのが正しいのかしら?)にしか出現しないレアモンスターなのだろう。
「そうそう。前はサンラクと兎ちゃんと一緒に戦ってなんとか倒せたレベルだったんだけどね」
「一応薬剤師も魔法使い系列だから、多少の補助は出来ると思うけどまだまだレベルは低いし、期待しないでね?」
「分かってる。倒し方はもう判ってるから、多分倒せると思うんだよね」
「それに、ペッパーには後々別のことも頼みたいし、ね」
釣りを始めて早一時間が経過していたが、地底湖は思ったよりも慌ただしくなっていた。
「はいシャケー!」
「こっちにちょうだい!」
「よし、サーペント!」
「頑張って!」
「シャケー!」
「こっちにちょうだい!」
「やっば、ロブスター来たぞ!」
「……援護するわ!」
◇◇◇
釣竿を渡されたすぐ後のこと。
「頼みたいこと?というか、1人で倒せるのね。てっきりもっと強いモンスターなのかと」
「多分倒せる、って感じかな。ただ、もうひとつ上のレアモンスターのほうは、多分手伝ってもらうと思う」
「ただ、ペッパーにメインで頼みたいのはそっちじゃなくてね」
これ。と今さっき釣り上げた魚を手渡される。モンスターではなくアイテムのようで、UIには「ライブスタイドサーモン」と表示されていた。
「これは…回復アイテムかしら?」
「そう。前にここでレベリングした時も、かなり手に入ったんだけどね……薬剤師ならポーションか何かの材料に出来るんじゃないかと思ってね」
◆◆◆
ライブスタイド・デストロブスターと格闘するオイカッツォに、サーモンから作った回復ポーションを投げつつ、【ファイアボール】での援護攻撃を行う。
と言っても、
続けざまにスキル・スクーピアスを発動し、ロブスターの甲殻の隙間を狙って威力の強化された斬撃を打ち込む。
「カキンッ」
剣が弾く音が、ダメージの小ささを物語る。
それもそうだ。今の私のビルドはメイン
でも、これで良い。
ロブスターのヘイトさえ奪えれば……
「サンキュー!ペッパー!」
ロブスターのすぐそばまで移動したカッツオが拳を握り直す。
「赤、黒……足して緋色、混合拳気【火緋彩】!」
緋色を纏った拳が、無警戒のロブスターの腹に突き刺さり、吹き飛ばされる。
一撃必殺とまでは行かなかったようだが、HPを大幅に削られたロブスターの怯みモーションを見逃す私たちではない。
「ペッパー!畳み掛けるよ!」
「当然よ!!」
「お、レベルアップ」
「おめでとう」
数分の後にロブスターは倒れ、経験値を得たカッツオのレベルが上がった。
「そっちの調子はどう?」
「順調よ」
生産職はアイテムの作成でも経験値が溜まる。
戦闘こそロブスターの援護しかしていないものの、それ以外の時間は魚を釣るか、魚からポーションを作成するを繰り返していたので、結構な経験値が溜まっていた。
「やっぱり、素材が潤沢にある、というのは良いわね」
「回復アイテムが潤沢にあると、効率も上がるし、助かるよ」
釣れば捕れる
何よりケイと
「あと、1つ良い誤算だったのは、この鮭ね」
「ライブスタイドサーモン?」
「ええ。まさかHP回復ポーションだけでなく、MP回復ポーションも作れるとは思わなかったわ」
全てのサーモンから作れる訳ではないけど、アイテム説明文の「その卵は優れた魔法触媒となる。」という表記を考えると、恐らく子持ち個体のみが素材にできるだろうことは容易に推測できた。
MP回復ポーションがあれば、もっと周回効率は上がりそうだ。
生産数が限られるので、今はまだ節約している。
「説明文にも意味がある、って言うのも新鮮ね。格闘ゲームのキャラ説明なんて、大抵は簡単な性能の説明か、経歴と性格の描写程度だし」
私がそう言うと、ケイは少し笑ってからそんなことはない、と私の意見を否定した。
「ここまでフレーバーを深読みしなきゃいけないゲームなんてシャンフロくらいだよ」
世界観の作り込みが恐ろしく深く、なおそれが破綻していないのがシャンフロなのだから。
とケイは補足した。
「一度休憩してから、また続きをやろうか」
「そうね。そうしましょう」
気力とテンションは悪くなかったけれど、流石にお互いに集中力が落ちてきていたのが分かった。
それじゃあ一時間後に、またここで。
と、再開の予定だけ告げて、ケイがログアウトする。
……しかし、幾らなんでもポーションを作りすぎた気がするわね。
◇◇◇
用意しておいたドリンクを飲みながら今日の
ケイと手を繋げたことを思いだし、思考がホワイトアウトする。
……いや、私だってリアルでもVRでもケイと手を繋いだことはある。でもそれは、対戦後の握手だったり、仕事上の関係から来るもので、
そう考えると、理由はともかく
生放送企画のおかげで、(物理的な距離はともかく)
イーブンってことは、これから何をするかが重要なのよ。
今のところ、完全にプライベートで付き合えるゲームはシャンフロしかない。
だからこそ、大切にしていきたい。ケイと一緒に行動するためにも、自己分析は重要だ。
「そういえば、ほとんどケイが釣ってたわね……」
序盤こそ2人で釣りをしていたが、サーモンが貯まってからはポーションを作り、MP回復しながら釣りをして、またポーションを作り…の繰り返しだった。
釣りをしていた時間と、そもそもの経験不足もあって、サーモンの8割以上はケイが釣っていたように思う。
冷凍庫から
「釣りが趣味、なんて聞いたこと無いんだけどな……」
冷蔵庫からケチャップとマヨネーズ、香辛料を取り出す。
「でも、薬剤師の段階でもそれなりに支援できるって分かったのは僥倖ね」
ジョブの性質上、インベントリの容量と事前準備がかなり重要だと言うことは分かっていたけど、実際にケイと行動してみると、尚更それを実感できる。
「格納鍵インベントリア、やっぱり欲しいわね……」
温めたポテトを取り出す。
最悪廉価版でもいい。とにかく錬金術師を目指す以上は、アイテムを
「ポーションはともかく、
なにもつけずに、口に放り込む。
入手方法はまた今度調べておこう。
取り敢えず残ってるサーモンは全部ポーション化かな?
ポテトをつまんで、炭酸飲料を一口。
今ケイは何してるのかしら?
こういう時は
もぐもぐ。
あと家賃。
忘れてはいけないけれど、あのマンションに住んでいるのは
もぐもぐ。
家賃も相当な額の可能性がある。
「……無くなっちゃったわね」
新しい袋を取り出そうとしたところで、そろそろ良い時間になっていることに気付いた。
そろそろ再開の準備をしないと……
仕方ないので冷蔵庫にあった、ハンバーガ店の
……SNSに着信が来ていた。
◆◆◆
サンラク:へい、カッツオ。なんかインベントリアに大量の魚があるんだけど、ついに魚類に改宗したのか?
鉛筆騎士王:あれ、ライブスタイドサーモンでしょ?別に良いけど、隠しエリアに行くならお姉さんに一言連絡は欲しかったなー?
サンラク:ん?……あー。あそこか。懐かしいな。
サンラク:それとポーションが増殖し続けてるんだがどうした?今度は生産職をサブにしたのか?
鉛筆騎士王:……はーん。
鉛筆騎士王:なるほどね。
鉛筆騎士王:ところで良ければなんだけど
鉛筆騎士王:そのポーション私に売ってくれないかな?友達価格で相場の2倍で買うよ?
サンラク:今度は何を企んでるんだ?
鉛筆騎士王:前に話したアレだよ、アレ。
サンラク:あぁ、アレか。まぁリソースは大切だよな。
鉛筆騎士王:結構大変なんだよ?今も生産職向けにプレイヤークエスト出したりしてさ
鉛筆騎士王:でもそのお陰で、ペッパー・カルダモンちゃんとか駆け出しの子も、たくさんポーションを納品してくれるの。お姉さん嬉しい限り!
サンラク:いや、何でそのペッパー?だけ名指しなんだよ。
鉛筆騎士王:話を戻すけど、そういうことだから溜め込んでるポーションをお姉さんに売ってくれないかなぁ?
サンラク:無視ですかそうですか
鉛筆騎士王:そのお金で装備を買ってあげれば、喜んで貰えると思うよ?
サンラク:ん?
鉛筆騎士王:もしくは蛇の林檎でケーキを奢ってあげるのも良いんじゃないかな?
サンラク:あぁ、そういうことか。
◇◇◇
「……はぁ」
「どうしたの?カッツオ」
「あー、いや、大したことじゃないんだけどね」
大したことでも無いなら、なぜ何度もため息をつくのか。
「なによ」
「ペ……
「あぁ……」
以前見た、あの煽り合いを思い出す。つい表情に出ていたのか、カッツオが苦笑する。
「まぁ、無断で使ってた訳だからね。仕方ないよ」
今の私たちがレベル上げに使える程度なら、彼らが使う必要も無いだろうし、大きな問題は無さそうなのだけれど。
「そう……ならいいけど」
単純にバレた相手が
……あぁ、そういえば
「あなたのインベントリアに保管して貰ってるポーションなのだけれど、良かったらそのまま貰ってくれないかしら?」
カッツオの顔が、一瞬で驚愕のそれに変わった。これ、中々
撮影アイテムを……と思う間もなく、カッツオはすぐに元の顔に戻って訊き返してきた。
「ええと……どういうことだい?」
「いえ、私のインベントリには入りきらないし、今回の御礼と思って、ね?」
「御礼も何も、ポーション作成を提案したのは僕だし……」
「……」
「……」
「ダメだったかしら?」
「いや、ありがたく貰っておくよ。ただ、代わりに……」
今度デザートでもご馳走するよ
録音機を持ってないことを後悔した。
????:ここで恩を売っておけば次の約束が取り付けられるかもよ?
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快速への憧れ
苦手な方はご注意ください。
王国争乱イベント、
そして、
つまりニーネスヒル通過ルートを避ける人が一定数出るのは当然で、その中に
つまり、これは私の不手際とも言えるのだけれど
……だとしても。
「あー、思いっきり走りてぇー!」
「やめとけ、やめとけ」
「多分途中で転ぶよ?」
「分かってる。言ってみたかっただけだって」
「ペッパーさんは薬剤師なんですよね?回復任せても良いですか?」
「構わないけど、回復アイテムには限りがあるし、即死は治せないから、無茶はしないで欲しいわ」
「だってよ、
まぁ、私の確認不足でもあるので追及は出来ないのだけれど。
取り敢えず、
なおこの三人、シャンフロを始めてから偶然視聴仲間にあったとのことで、別にリアルで知り合いとかではないらしい。
「ペッパーさん、レベルも高いですもんね。もしもの時はお願いしますね」
「分かったわ。サブに剣士を置いてるから、いくらかフォローもできると思うわ」
「俺たちはほぼ最短ルートだもんなー」
「ただでさえ平日は学校や仕事で進められないからな。なるべく急がないと、改崎さんに置いていかれる」
「日程はまだ分からないけど、なるべく良い装備を準備しておきたいもんね」
ここ、雲上流編の雲海地は、シクセンベルトからテンバードへ抜ける道であり、
その大きな特徴と言えばやはり、
地面が見えないほどの濃い霧は、私たちの腰元までを覆っており、迂闊に走ろうものなら、何に躓くか分かったものではない。
つまりここは、
「とは言え、ここまで霧が濃いとは思わなかったわね」
ウィキを軽く流した程度だったけれど、こんなことならこの前カッツオに聞いておけば良かったかしらね。
「しかたないだろー。栄古斉衰の死火口湖は
カッツオが向かうって言っていた場所ね。確か……
「レイドモンスターが出るって噂なんだよ。それにこの先の気宇蒼大の天聖地は
確かに、レベル上げやユニーク狙いでなければ、目に見える危険は避けた方が効率は良いでしょうね。
「じゃあフォスフォシエ経由は?って提案したら、ケイカが嫌だって言うし?」
「だって、そっちだとアンデッドと戦うことになるじゃない……」
たしかに、
「ケイカさんってホラーが苦手みたいだけれど、改崎さんがホラーゲームやってる時はどうしてるの?」
「……部屋を明るくして画面から離れて観てる」
VRギアで見てるんじゃないの?と聞くと、
「それ、明るくして離れたら画面ほとんど見えないんじゃね?」
「改崎さんの声を楽しむからいいのっ!」
ケイカと桜蘭の言い争いが始まる。とは言え(街中で見てきた限り)、すぐに落ち着く筈なので、ここは少し待って……
「ぎゃっ?!」
ケイカではない。もっと低い声だ。そもそもケイカと桜蘭は言い争いの最中で、つまりこの叫び声は……
「!!どうしたST-ライト!」
「今!なんか!足に触っ……あっ、ひっかかれた!」
ST-ライトが足元に向けて片手斧を振り回すが、目えないモンスターに当たるかどうかは運次第だろう。
むしろ……
「まってろ!すぐに行く!」
と意気込み、剣を抜いて駆け寄る桜蘭。いや、すぐにもなにも、数歩の距離でしょうが。現在進行形でパーティー行動してるんだから。
「どこにいるの?!全然見えないじゃない!」
ケイカも足元にクナイを振り始め、軽いパニックを起こしている。
カッツオの対応力の高さを再認識しつつ、剣を抜いて、じっと霧の
ここはパニックを静めるより、モンスターを抑えてしまった方が早い。
ケイカ達の起こす霧の波紋は少し邪魔だけれど、引っ掻いたのが
「あれね!」
真っ直ぐパーティーに突進する霧の流れ!
スキル、スライドムーブでモンスターの直進ルートへ割り込み、同時に剣を地面に突き刺す!
「ボアアァァァ!」
剣に
次の瞬間には、霧の流れが180度反転し……あ、これは逃げられたわね。
「え?なに?なに?」
依然パニック状態のケイカがこちらに駆け寄る。
寄って来ない2人を確認すると、桜蘭はスタミナ切れ、パニックから落ち着いたのはST-ライトだけだと分かった。
「名前は忘れたけど、多分イノシシ型のモンスターね。逃げられちゃったわ」
モンスターが居なくなったことを告げたことで、ケイカの表情が若干だか和らぐ。
「ああ、パニックになってすまなかった。どういうモンスターなんだ?」
「確か、霧の中を突進移動するモンスターだった筈よ。移動時は霧が押されて表面が
「なるほど……」
「多分だけど、すれ違いざまに牙を引っ掛けられたのね。傷は大丈夫?」
「あぁ、ほとんど掠り傷だ」
「詳しいですね、ペッパーさん」
ケイカも落ち着いて来たらしい。
桜蘭は……まだ息切れしてるわね。STM足りてないんじゃないかしら?
「ありがとう。と言っても、ウィキ情報だけどね」
「私たちも確認しようとしたんですけど、最近特に重くて……」
「ああ、なるほど……」
最近
「ペッパーって結構いい回線使ってるんすね」
「あー、まぁ、見たのも結構前だしね。お蔭で細かい情報までは思い出せないのだけれど」
噂によると
「俺達もそうすれば良かったんですけど、どうしても、直前にならないと調べる気にならなくて…」
「仕方ないって。あそこ重すぎなんだよ」
「画像表示切っても物凄く重いもんね」
「え?画像って消せるのか?」
「「「……は?」」」
「えっ?」
◇◇◇
その後、何度もモンスターに会いつつも、なんとか倒したり逃げたりしながら、私たちはエリアの8割ほどを進んでいた。
改めて実感したが、
レベリングの時はポーションも潤沢にあり、カッツォ自身のプレイヤースキルもあってダメージ自体も少なかったが、今回はそうもいかない。
視界と足場が比較的良好な神代の鐵遺跡では、足の速さと手数を生かした
「あっ」
「ケイカー!!」
こんな感じに転ける。
「二人は攻撃続行!私がフォローするわ!」
「了解!」
「イエッサー!」
スライドムーブ、ジャストパリィを連続起動、ケイカを対象に飛んで来た
「大丈夫?!」
「ありがとうございます!ペッパーさん!」
ケイカが立ち上がったのを確認して、私は全員をサポートできる位置まで後退する。
「やっぱり厄介ねこの霧……!」
さっきのも、別にわざわざスキルを二つも消費してパリィする必要は無かった。アイテムを消費はするが、氷弾の着弾に合わせてブルズアイ・スローで
むしろこの距離ならブルズアイ・スローも要らないくらいだ。
そう、
霧で隠れるのはモンスターだけではない。隠れてしまったパーティーメンバーへの投擲は確率が大きく下がるし、ブルズアイ・スローも使えない。
「バォオオォォオオオオ」
ST-ライトの投げた斧が後ろ足に刺さり、クラウダイブ・エレファントが悲鳴を上げる。
「喰らえっ!」
ST-ライトの方へ方向転換するエレファントの脇腹に、今度は桜蘭が切りつける。
「よし、斧回収!」
「ほら象さん!こっちにもいるわよ!」
すかさず桜蘭に向かったヘイトを、後方に回ったケイカがクナイによる連続切りで奪取する。
実を言うと
クラウダイブ・エレファント、レアエネミー故に、軽くWikiを流した私でも名前を憶えているそれは、最高速度はともかく、初速がかなり遅い。
つまり、このパーティーの主戦略たる
なので私の仕事は、さっきみたいな
「ST-ライト!右後方から来るわよ!」
「了解!」
「ボアァアアァァア!!」
ST-ライトが斧を右後方へ振り回すと、今度は
「あっ!また逃げた!」
「放っておいて、まずは象を倒すわよ!」
このイノシシの進路を予測してメンバーに伝えることだ。
そもそも、クラウダイブ・エレファントは本来温厚なモンスターらしい。
距離を置いて移動すれば、まず襲われることもないとウィキにもあったし、
そこで出てくるのが、あのイノシシ型モンスターだ(流石に別個体なのだろうけれど)。
あれがクラウダイブ・エレファントに激突し、あろうことかこちらへ方向転換して突っ込んできたのだ。
あとの経緯は言うまでもなく、アクティブ化したエレファントとイノシシのMvMに巻き込まれてしまって今に至る、というわけだ。
「桜蘭!スタミナ大丈夫?!」
「そろそろきつい!交代頼む!」
「「「了解!」」」
攻撃のメインをST-ライトにスイッチしつつ、私は桜蘭に近い位置へ移動し、サポート体制を整える。
「みんな!体力大丈夫?!」
「すみません!お願いします!」
今度こそブルズアイ・スロー起動。
「ポーションの残数は……まだなんとかなるね」
「うっしゃあスタミナ回復ぅ!こいつ倒してボスまで特攻じゃー!」
象よりもイノシシに苦戦した。
「……だっる」
「何してるのよ桜蘭、結局最後スタミナ切れじゃないの」
「仕方ねーだろ、ケイカ……騎士は装備重量もあって、走るとスタミナ消費が激しいんだよ……」
「それ込みでスタミナ管理しろって話だろー」
「まぁまぁ。取り敢えずスタミナ回復させたら、先に進みましょう?」
「そうすね」
「そう言えばペッパーさん、体の使い方上手いですよね。他のゲームとかやられてるんですか?」
「ん゛っ」
格ゲーを少々、なんて言ってしまうと、好きな格ゲープレイヤーは?という流れになるのは目に見えている。
とは言え、嘘をつくのもちょっと……
あ、そうだ。
「いえ、(VRMMO系の)ゲームはこれが初めてよ。普段から(格ゲーのために)体を動かしているから、それで動かしやすいのかもしれないわね」
「へー、そうなんですね!私もなにか初めて見ようかなぁ」
……
「スタミナ全快したぜ!」
「やっぱり霧が邪魔ですね。全力で走ると躓いて転けそうになる」
「でも走るけどな!」
「もろに受けるとダメージが洒落にならないからな。回避と撹乱に必須というか」
「この先がエリアボスで合ってますよね?」
「たぶんそうね」
「ボスはどんなモンスターなんですか?」
「ここのエリアボスは…」
◇◇◇
その後、辛くもエリアボスを倒した私たちは、無事テンバード入りを果たしたあと、パーティーを解散した。
「今回はありがとうね」
「ペッパーさんはどうするんですか?」
「取り敢えず、道具屋でアイテムの補充と、この周辺の素材を採集するつもりよ」
「随分とポーションを使わせてしまいましたね」
「いいのよ。元から使うのは想定内だから」
「そうですか。また機会があればよろしくお願いします」
「ええ。またね」
彼らはこのまま、フィフティシアを目指すようだ。
……次に会うときは敵同士かしらね。
彼らには言っていないが、私は
派閥争いの中で出会えば、戦わざるを得ないだろう。もちろん、負けるつもりは微塵もないけれど。
……AGI偏重ビルド増えそうだし、改崎速手対策も兼ねて、一応対応を練っておくかなぁ……
そんなことを考えながら、私は道具屋の扉を叩い……
チリンチリン……
「あの
ん?
「そうだなー。でも、シャンフロって味覚制限あるはずだよな?他の料理は薄味だったのに……」
「あー。言われてみれば、あのポテトだけちゃんとピリピリしてたね。なんでなんだろう?」
「不思議だよなー」
二人組を見送って、道具屋の隣を見ると、そこはレストランになっていた。
「……そう言えば満腹度が減ってるわね」
チリンチリン……パタン
中毒になった。
たぶんこのパーティは
流石にエリアボスは創造できないのでユザパです。
配信者の真似をしてAGI振りするカイ速視聴者は多いんじゃないかな、と。
なお彼らは
あと、
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ゼンイチ一本勝負
メグに勝ってもらいたいという「強い
によって構成されています。
また、この二次小説はシャンフロ漫画化記念アンソロジーへの投稿作品となっております。
※企画主よりハーメルンへの投稿は可と聞いております。
~♪
「ん? 着信だ……メグから?」
「もしもし?」
「あ、ケイ?」
「どうしたのさ、こんな時間に」
「あ、あの、その、ね?」
「ケーイー!ワタシ、hungryネ!」
「シ、シルヴィア?!」
「ケイ、どういうことよ!」
「あー、いや、これはその「Oh!メグ!こんばんわ!」
「シルヴィア、なんで貴方ケイと一緒に……」
「いや、シルヴィアがほっとくとジャンクしか食べないから……」
「メグ!こんどhamburger食べに行こ!」
「シルヴィア?!話聞いてた?!」
「まぁ、食べに行くのは構わないけど……」
「シルヴィア」
「What's?」
「明日、ケイオースシティで合いましょう」
「……」
「OK」
「ちょっと待って?何の話?」
「ケイは知らなくて良いわ」
「えぇ……」
◇◇◇
ツー…ツー…
やってしまった。
これでは宣戦布告だ。
モグモグ……ここのポテトも悪くないわね。
強いて言えばもう少し塩気が欲しいところだけれど。
ケイに連絡することがあったから掛けたのに、伝える前に切ってしまった。
切ってすぐにまた掛けなおすのも忍びないし、シルヴィアと一緒にいる様を想像すると私の心も持たない。対した内容でもないし、代わりにメールで済ませてしまおう。
「それより問題は明日の対戦ね……」
負けるつもりは更々無いが、相手は
ケイが成し遂げた前人未踏の勝利でさえ、
……ん?
ここは塩気が強いわね。振り方が荒いのかしら……じゃなくて。
「良いこと思い付いたかも」
◇◇◇
ピコン
「hmm?」
「シルヴィア、食べながら喋るのは……」
モグモグ……ゴクン
「mailがきてるワ……メグからネ」
「ん?メグからシルヴィアに?」
「Ah……」
「どうかした?」
「ケイにも、mail送った、だっテサ」
「あぁ、……ほんとだ。ありがとう」
「さっきの電話の件かな?」
「maybe.And…」
「ん?まだなにかあった?」
「This chicken…テリヤキ?オイシイ!」
◇◇◇
「……できた」
この作戦なら、もしかしたらシルヴィアに勝てるかもしれない。
……完璧に作戦が成功したら、だけどね。
「このままじゃダメね」
中国拳法で更にパワーアップしたシルヴィアに、
ポテトを掴む手が空を切った。
新しいのを出してこないと。
シルバージャンパー?ないわね。
あれは
私は
「あとはユグドライアか……」
あら。チキンナゲットがあるわね。
ただ、同じカウンタータイプとして扱うにしても、ユグドライアは足が遅すぎる。それこそ
こんな時
JGEでは一緒に仕事をしたけれど、未だに同一人物なのが信じられない。
そう言えば
「クロックファイアとカースドプリズンかぁ……」
無い。はっきり言って無い。
私には
何より、
チキンナゲットも美味しかった。
◇◇◇
「ごきげんよう。こんなところで会うなんて奇遇ね」
「奇遇?あなたが会いに来ただけでしょう?」
私は今、
「私も目を疑ったわよ?まさか
「あんなの真似したくないわよ」
そう言いながら、
◆◆◆
ピコン
「hmm?……」
着信音、メールね。
「シルヴィア、食べながら喋るのは……」
分かってるわ。ケイ。
モグモグ……ゴクン
「mailがきてるワ……メグからネ」
さっきの電話の件かしらね。
Subject: about GH:C
翻訳機にかけるから日本語でいい、って言ってるのだけど。
やっぱり、明日の対戦の話ね。
Text:
Silvia,
I'll wait in the W-delta.
Look forward to it!!
p.s. Tell K to check his mail.
「Ah……」
「どうかした?」
「ケイにも、mail送った、だっテサ」
◇◇◇
立ち込めていた爆煙が、少しずつ風に流されて行く。
「要件を聞こうかしら?」
その言葉に振り替えると、いつの間にか背後に回っていたシルヴィアの姿があった。
「……あのタイミングから避けれるの?
「場所とタイミングが分かれば余裕でしょ?」
シーカータイプとは言え、Ms.プレイ・ディスプレイはそこまで足の速いキャラクターではなかったと思うのだけれど?
「わざわざ対戦申し込むくらいだもの、何かあるんでしょ?」
「……」
「んー?メグ?もしかして昨日のはその場の勢い?」
「あー、もう、そうよ!悪い?」
貴方ばっかりケイと一緒で少しイラついたのよ!
「いいえ。メグのそう言うとこ、私は好きよ」
Ms.プレイ・ディスプレイの画面が、笑顔のそれに切り替わる。
「特に無いのね?」
「いえ、折角だから決めましょう」
「そう?」
ディスプレイの顔が切り替わる。「なんでもいいよ。どうせ私が勝つから」という顔だ。
「……こうしましょう。私が勝ったら、一緒に料理教室に通いましょう」
「料理教室?」
「料理を憶えれば、ケイも少しは安心するでしょ」
それに
「私もケイに手料理を振る舞いたいし?」
「OK。メグが勝ったら、一緒に行ってあげる。その代わり、私が勝ったら……」
起爆。
ドンッっと言う音とともに、今度こそ
「メーーーグーーー!!!」
「油断してる方が悪いのよっ!」
宙を舞うディスプレイに向かって
「ぐぅぅぁあ!!」
これぞシャンフロリスペクト、
錬金術師ジョブ目指してアイテムを投げ続けている分、私個人の投擲スキルも上がっているのよ!
因みにクロックファイアユーザーは基本設置使いだ。理由としては
・可視爆弾は投げても見てから避けられる
・不可視爆弾は投げると起爆タイミングが分からなくなる
・そもそも当たらない
・そんなことよりビルドミノしたい
そりゃあ、
とにかく、次弾投擲、起爆!投擲!
「くっ
流石にゲーム的配慮でDr.サンダルフォンの携帯端末などの装備機械は爆発しないが、設置アイテム扱いになるクロックファイアの爆弾は爆発させることができる。
先ほどまで爆発で上へ上へと打ち上げられていたシルヴィアが地に足を着ける。
対策される前になるべく減らすつもりだったのだが、想定が外れた。とは言え、不意打ちの攻撃も含めて、シルヴィアの残り体力はおよそ4割。
「やってくれるじゃない」
「あら。私としては、
「否定しないわ。でも、それは負ける理由にはならないわ」
シルヴィアがこちらに詰め寄るべく走り出す。
「こっち来ないでもらえる?!」
「近づかないと殴れないでしょ!」
中国拳法使いと至近距離?冗談じゃないわ。
「逃げるの?メグ!」
クロックファイアの
◇◇◇
「見つけたよ!ミス・クロックファイア!」
ドォォ…ン
爆弾と爆風の嵐を、
「どこを狙っているんだい?」
「だったら避けないで貰えるかしらね?!」
シーカータイプの中でも、情報収集に長けたMs.プレイ・ディスプレイとは異なり、シルバージャンパーは移動能力、特に空中ジャンプに長けたキャラクター。
「僕に簡単に攻撃が当てられると思ったら大間違いだよ」
加えて、
「これならどうよ!」
さらに回避先に
「それじゃあ軌道が見え見えだよ!」
避けられてしまった可視爆弾を視界に入れて
視界に入れて……
「なっ……」
ジャストタイミングで起爆した筈の爆炎は、それでもシルヴィアには届かない。
起爆の瞬間にステップを刻まれる。
「ノンノン。起爆タイミングさえ分かれば避けるのは簡単だよ?」
「今度は逃げても無駄だよ?」
「分かってるわよ!!」
これは逃走ではなく、そう、戦略!
「何か言い残すことは?」
一瞬で捕まった。
シルバージャンパーの腕が、クロックファイアの襟元を掴み、持ち上げる。
「そうね……」
項垂れるように
言う前に起爆!
「ちょっ、メグ!?」
至近距離での爆破にさしものシルヴィアもその手を緩め、私は吹き飛ばされた。
クロックファイアの残り体力が3割を切った。シルバージャンパーは8割以上残っているかしら?
実質捨てゴマ運用とはいえ、Ms.プレイ・ディスプレイを落とせただから、クロックファイアはよくやった方だと思う。
「今のは効いたんじゃないのかしら?!」
硬直から復帰し、立ち込める爆煙の先にいるであろうシルヴィアに問いかける。
「あら、
次の瞬間、霧を掻き分け出現したシルバージャンパーの脚が|クロックファイアの胸を打ち据え……
シルバージャンパーのゲージ技「
爆音とともに、
◇◇◇
「ここは俺に任せな!」
「あ、ありがとうございます」
WΔ限定の敵性NPC「
WΔではこの第三勢力の撃破でヒーロー・ヴィラン問わずゲージが溜まる。そして市民を救出する
「まあ、
取り敢えずこの元トカゲは倒して……おっと
「来たな
「あんたが中々来ないから、こっちから来てやったんだよ」
「そりゃほとんど動いてねぇからな。遠かったろ?」
WΔルールでは3つのうち、K.O.された場所からもっとも遠い開始地点からの引継ぎとなる。
「それはそうと、久しぶりだね。アムドラヴァ」
今までアムドラヴァが議論の中心だった対
「
「だとしても、やることは変わらないよ」
先手を取り、最短距離で蹴り込んできた
視界右隅に消えた白銀の
いない。
……上?
考える前に
反射的に上方をガードした
「あら、残念」
シルヴィアが?着地点に留まる?あのシルヴィアが?
一瞬浮かんだ疑問。
微かに聞こえた地を踏みしめる音。
視界の
動き始めてしまった上半身の旋回そのままに、自由な両の脚が、右へ一歩ステップを踏む。
上下あべこべな動きでバランスを崩したアムドラヴァを、シルヴィアが見落とす筈もなく。
「ぐっ……あぁ!」
崩れた体幹では銀の脚を受けきるには程遠く、ビルの壁を突き破り吹き飛ばされる。
硬直は……無い。
シルヴィアを警戒しつつ、瓦礫で溶鉄弾を補充する。どうせ当たりはしないだろうが、無いよりはよほど良い。
「仕切り直しと行こうぜ。
「そうだな……折角の天気だ。外でお茶でもどうだい?」
「けっ……男に言うセリフじゃあねぇな」
「ははっ。ごもっとも」
シルバージャンパーが跳躍し、アムドラヴァが構えるのと同時、
「キュァアアァグァォアアァア」
◇◇◇
「……」
体力、残り3割。
結果だけみれば、アムドラヴァはシルバージャンパーを倒した。ただし、体力の半分以上を失って。6割を削るのに7割、
そもそもクロックファイアが自爆込みで4割しか削れなかったのが……止めておこう。
まだ勝負は終わっていない。
「キュァァ……」
「引っ掻き回してくれてありがとう、
◇◇◇
「やあ、久しぶりだねアムドラヴァ」
そして純白の
「さっきぶり、の間違いじゃないかしら?」
そうでしょ?
……ここからが
「キュォオオァアアアア」
おっと、もう
そして彼女が降り立った瞬間、
ターゲットエネミーのヘイトは、他のターゲットの討伐数に大きく影響される。
つまりシルヴィアにとってこいつは
だから、
「あんたにやるよ。ミーティアス」
旨味のほとんど無い
だがそれでも、
「さて、
◇◇◇
ミーティアスが跳躍する、脚に蒼い粒子が収束しその輝きを増すのが見える。
体は完全に硬直している。
「また会うときを楽しみにしているよ」
そして
アムドラヴァの体内から光が溢れ出た。
『カウンター戦術は、変化し続けるリズムに対応し切れなくなり、いずれコンボを喰らう。』
こうして
◇◇◇
「さあ
僅かに残っていた
「うるさいわね」
すぐ側にあった瓦礫を持ち上げ、投擲。
尾翼を損傷したヘリコプターが視界の外へと消える。爆発音とともにヴィラニックゲージが溜まったが、たぶんきっとおそらく関係ないことだろう。
その時、シャラシャラという馴染みのある音が聞こえた。
「あぁ、折角騒音が止んだと思ったのに」
「その子を離して貰おうか」
「嫌。これは私のものよ?」
「そう。それなら「いいえ。やっぱりやめておくわ」
拉致していた
「……良かったわねぇ」
「ひっ……うわぁぁああんんんん……」
ニタリ、と笑うと女の子は泣きながら逃げていった。
「随分と
「仕方なく、そう。仕方なくよ」
思い入れのあるキャラって訳ではないのよ?ただ、
イベントでGH:Cをやると、
っと、そんなことを考えている場合ではなかった。
既に
「あぁ、そうだ。メグ、1ついいかしら?」
ミーティアスの初撃を
「こんな時に何かしら?」
「私が勝った場合の報酬、まだ決めてないでしょ?」
「それ本当に今必要な話!?」
ミーティアスが宙を蹴り、ピンボールの如く加速を始める。
「先に決めておかないと不公平でしょ?」
歪んだ標識を踏みしめ、跳躍。
「いい?」
ビルの窓枠を踏んで更に加速。
「私が勝ったら」
そして
「ハンバぐはぅぁ!」
「隙ありっ!」
自前の触手で攻撃!攻撃!攻撃!
さらに
硬直から復帰した
「なっ……」
突如
「メグ、一体何を……いえ。瓦礫に
「それを避けるあなたも大概よ?」
「問題はその前の爆発……」
「そうだ、シルヴィア」
「なに?」
「あなたが勝ったときは、何をすればいいの?さっきはよく聞こえなかったのよ」
「ハンバーガー」
ん?今なんて?
「ハンバーガー、今度奢って貰おうと……そうか」
「ハンバーガー……って、それだけで「クロックファイアね?」
ん゛っっ
「そう、そうよね。ダストの銃と弾丸が持ち越せるなら、クロックファイアの爆弾もできるわよね」
速すぎて当たらない?当たっても
ならシルヴィア自身が攻撃に当たりに行けばいい。
「そのために、アムドラヴァは
手品の種はバレてしまったが、同じ種でも
『多数の
らしい。
普通に走るだけならともかく、
駆ければ駆けるほど、起爆率は上がり、自らの足が起爆剤であるが故に、避けることは敵わない。
その対策か、数歩早く攻撃に転じたミーティアスに
「おっと」
空中ジャンプで躱されたが、確信した。
このミーティアスになら大技も当てられる。
「
シルヴィアが着地する瞬間、
「だれが
そして、ミーティアスが始動する。
地面を蹴り一歩。
消える寸前の
ビルの側面にて三歩。
空中に四歩目、五歩、六歩……
ちがう!これは
「
「これなら足場なんて関係ないわ」
ミーティアスのスターロードは、発動から五秒間
「ぐっ」
対応が追い付かない……!
「ほらほら!メグ!もうネタ切れかしら?!」
連撃をうけて、一瞬の硬直がユグドライアの体を襲う。
通常なら
「あら、
「生憎ゲージが足りなくてねっ!」
アムドラヴァが爆散してから、まだ数分と経っていないのだから。
よし、硬直が解けた。
すかさず瓦礫を数個投げつけるが……
「そこにあったのね!これで2個目!」
全て避けられた上に、爆弾付きの瓦礫を看破される。
「いや、なんで分かるのよ?!」
「んー、ナイショ?」
スターロードの効果時間残り1秒未満というところで、再び硬直を受ける。
が、先ほどとは違う。
硬直から数度の通常攻撃の後、
「さっきは悪かったね。今度こそ
まだだ、まだだ!
このタイミングなら、ミーティア・ストライクが当たる直前に硬直は解ける!
今の状態は、奇しくも
動けるが、避けられない。
なれば、対処もまた
直前で硬直の解けた蔦を最速最高効率で動かし、体の下に隠しておいた
瞬間、
「はははっ!ミーティア・ストライク破れたり!!!」
蒼き閃光と爆発がユグドライアを……襲わない。
代わりにクロックファイアの爆弾によるダメージを受けるが……これは必要経費だ。
「今のでもうゲージも無いでしょう?
◇◇◇
翌日、私はシルヴィアにハンバーガーを奢っていた。
「……で、なんで分かったのよ?」
ポテトを頬張りながら訊ねる。
「bombあるとき、少しヤサシク?投げてるでしょ?」
「そっちじゃなくて、最後のよ」
「サイゴ?」
「最後、爆弾の位置全部把握してたでしょ」
そう、ミーティア・ストライクを封じて、少しだけ、ほんの少しだけ慢心した私を襲ったのは、
「あー、アレ」
あっ、それ私のポテト……
「見えなくても、ふんだら
私のポテトを摘まみながら、シルヴィアが答える。あぁ、ここの特製ソースは美味しいのよ。付けてみなさい。
「いや、踏んだら爆発するでしょうが」
「だから、bombしないspeedでふみ……マクッて?場所覚えたの」
あー、途中まで少し遅めだったのはそういう……化け物かな?
でもまぁ
「次は負けないわよ。シルヴィア」
「んふふ。楽しみに待ってるよ」
あ、店員さーん!ポテト追加で!
……いや、違うのよ?
「そうだ、ここソースがもう1種類あるのよ。試してみる?」
「イイね!サンキュー、メグ!」
たまにはポテトをシェアするのも、悪くないと思った。
この二次小説は
でもやっぱりシルヴィアには勝てないでしょ?という「強い
によって構成されています。
アンソロジー投稿のためにハーメルンフォーマット12,000字強を10,000字以内になるよう調整しましたが、蛇足的な説明文が減ったので結果的に良かったと思います。
メグの作戦を改めて書くと
①特殊ルール:
②勝利条件を「ミーティアス二人」から「ミーティアス一人とその他二人」に変える
③二人以上持ち越しでミーティアスと対峙し、2対1で戦う
④クロックファイアの爆弾持ち越しで跳弾起動を封じる
⑤ミーティア・ストライクを爆弾を身代わりにして回避する(先に爆弾が爆発・消失するため、ミーティア・ストライクの爆発が発生しない)
というような感じです。
それはそれとしてGH:Cの3戦分を10,000字に収めるのは大変だと思いました。
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神話の森と林檎のケーキ
『「錬成士」への転職が可能になりました。転職しますか? はい、いいえ 』
躊躇わず、『
「おめでとう、ペッパーくん」
その言葉に振り向けば、そこにいたのはラック・ピニオン ー 以前サードレマで
「あなた、どこにでもいるのね……」
「いやいや、ただの偶然だよ。ちょっとこの街に用があってね」
「なにはともあれ、錬成士転職おめでとう」
「どうも」
正直、そこまで言われるほどの内容でもない。錬成士への転職は、薬剤士として一定の
シクセンベルトの時点でも転職可能だったのよ。ただ
「次は遂に『錬金術師』だね。……と言いたい所なんだけど、ここで重要な
耳寄りな
表情に出ていたのか、ラック・ピニオンは私に問うまでもなく話を続ける。
「錬金術師の転職クエストを受けるには、特定のアイテムを複数個、複数種類作らないといけないのは知ってるね?」
「ええ、調べてあるわ」
「じゃあ、『ハイエスト・ポーション』も知っているね?」
それについても、ウィキで調査済みよ。
「ハイグレードの回復ポーションね。メイン素材は神話の大森林のレアモンスター、アセンション・ホーンの
「そこまで分かってるなら話が早い」
「というと?」
「単刀直入に言うと、その
「品切れ……ってどういうこと?」
アセンション・ホーンの聖角(前)は、高額で取引されるが故に、絶対数は少ないものの、常に一定数の流通が確保されているアイテムだと聞いていたのだけれど。
可能性があるとすれば、
「もしかして、神話の大森林で何かあったの?」
ラック・ピニオンが頷く。
「どうやら
なるほど。
「それで角狩りする人が減っているのね?」
「立ち入り禁止ではないんだけどね。いずれにしてもそういう事情だから、落ち着くまで待つか、相当な出費を覚悟した方がいい」
「覚えておくわ」
「個人的には、大枚を叩いてでも素材は買った方が良い、と助言しておくよ。レイドモンスターはいつ討伐されるか分かったものじゃないし、ハイエスト・ポーション自体も品薄で高騰しているから元は取れるはずさ。因みに
商売上手ね。
とはいえ、アセンション・ホーンを買う元手も、
「ハグルマン、そろそろ行くか?」
「ああ、そうしようか」
振り向けば、二人のプレイヤーが立っていた。いずれも装飾に赤い鉛筆の紋章があり、RPAの一員だと分かった。
「……あぁ、ハグルマンってのはあだ名だよ。ピニオンの名前は
頭に疑問符の浮かんだ私を見兼ねてか、「死皇コショウ」というプレイヤーが補足する。
「ペッパー・カルダモンさんだね?ピニオンから聞いて、少し気になっていたんだ。ほら、
「行くんじゃなかったのか?コショウ」
「あー。そうだな。じゃあ最後に1つだけ」
「なにかしら?」
「アセンション・ホーンの
それじゃあ、また。と去っていく3人組を見送り、私も出発の準備を始めた。
◇◇◇
「あ゛ー。眠い」
騎士装の女性が唸る。
「ニンフェアさん、大丈夫ですか?」
「い゛やぁ、一昨日から生放送見てたからほとんど寝でな゛くて……」
それを聞いた
「自業自得だな」
「眠くてもちゃんとタンクするから凄いよな」
「こんな面白いなら、もっと早くに始めておけば良かったなぁ」
気宇蒼大の天聖地の山の中腹まで来たところでぽつりと、僧兵の
聞けば
「結局、どうしても気になって洋服代を我慢して買っちゃったんですよね。で、始めてみたらびっくりで。中々センス良い服も並んでて……」
「……で、そこで永遠様が……」
「……この衣装とかコーデが永遠様っぽくて……」
「……なんでも永遠様そっくりのプレイヤーが……」
聞いてしまったのが運の尽きで、そこから山頂までほとんど天音永遠語りが続いた。
要約すると、彼女は
「……なんでモンスターがいるんだ?」
「事前情報だと、ここはモンスターが出ないって話だったよな?」
気宇蒼大の天聖地の山頂は、本来モンスターが発生しないと言われていた場所。雛羽柔と
「もしかしてアレじゃないです?ほら、なんとかジークっていう」
「あ゛ー。ジークヴルム、でしたっけ」
「そうそう、それです。それですよ。確かJGEに永遠様を見に行ったときに、中継であったんですよ。こう、すっっごく大きい金色のドラゴンが!」
あれは憶えている。中継でもかなり大きかったから、現地では相当な大きさだったのだと思う。
「それなら知ってる。確かユニークモンスターだよな?随分前に倒された」
「それが何だって言うんだよ?」
「確か、ジークヴルム?がよく来るんですよ。休息のために、だったかな?それで、そのジークさんってものすごい強いらしくて、なんでも、新大陸?海の向こうにあるユニオン?ちがうか。とにかく海岸沿いに街があって、それを吹き飛ばせるくらい強いんだとか、それで……」
「要約すると、ここは元々、そのユニークモンスターが根城にしてた場所なのよ。だからモンスターが寄り付かなくて安全地帯になってたらしいの」
MIZUKIの話が逸れていくのでざっくりとウィキに書かれていた内容を要約する。
「つまりなにか?そのジークヴルムが倒されたから、モンスターが出現するようになったってことか?」
「ま゛あ゛…そういう事だと思います……」
「そういうことなら、何も気にするこたぁねえな。全部射ぬきゃいいだけだ」
◇◇◇
「マスター、フルーツケーキを一つ。あと個室は使える?」
「畏まりました。お部屋は右手奥をどうぞ」
部屋は存外広く、2人で使うには些か広すぎるようにも感じた。
お互いに譲り合いながら対面に座ると、
「ドリンクは何がいい?メグ」
「急に呼び出してどうしたのよ。あ、コーラってある?」
「コーラね。了解」
「さっきも話したけど、
「それは良かったわ」
ケイが注文のために扉へ向かい、店員を呼び出す。
技術レベルが中世に設定されているためか、直通電話なんて便利なものは無いみたいだ。
蛇の林檎、フォルティアン支店。私も入るのは始めてだけれど、路地裏の奥まった場所にある場末な酒場、という印象を受ける。そもそも他の飲食店にもほとんど入らないので、ウィキ以上の情報は分からないし、さほど重要ではないので調べてもいない。
「さっきも聞いたけど、なんで私が
カッツオから
「あれはペンシルゴン……いや、
踏破済みエリアとはいえ、このためにケイは街を少なくとも1つは移動している。それはつまり、
そもそも私は
何かカラクリがあるのだとは思うが、考え付くより先に飲み物とケーキが来てしまった。
「まあ、取り敢えずは食べながら話そうか」
「……ええ。そうしましょう」
「格ゲー以外は初って話だったけど、楽しめてるかい?」
「予定より少し遅れたけど、錬成士に転職したわ。それと、私自身も投擲が上手くなって……」
ふと、気付く。
個室で二人きりで会話しながらスイーツを嗜む、これは俗に言う
レベリングの時も二人きりではあったけれど、あれはどちらかというと、作業的な意味合いが強かった。それに比べて今は、お返しと言うプライベートな時間。
これはもはや、間違いなく、デー……
「メグ?大丈夫かい?」
「え、ああ。ちょっと考え事を、ね」
「楽しめてるわよ。それに、格ゲーにも応用できる部分があって新鮮な気分だわ」
「それはよかった」
ケイからケーキを1切れ渡される。
スポンジの微かな弾力を感じながらもすっとケーキに沈んでいくフォークの感触が、
「相変わらず、凄い感触再現よね。前にフライドポテトみたいな料理があったから食べてみたけれど、食感そのままで驚いたわ」
「
妙に納得したような顔のケイからは、同時に諦めのような、哀愁のような感情が漂っているように、私には感じた。
「何よ?悪いかしら?」
「いや、そういう意味では……」
「まあ、
甘い。口に入れたケーキが甘い。
「ねえ、ケイ?」
「ん?メグ、どうかした?」
先ほどまでの雰囲気はどこへやら。一変して
『称号【美食舌】を獲得しました。』
「このケーキ、甘いわね」
「そうだね」
「【美食舌】を獲得したわ」
「それはおめでとう」
「ケイ、あなた知ってたわね?」
「もちろん。だから
堪えきれなくなったケイの顔が崩れるように笑みに変わる。
「かなり大雑把ではあるけど、ちゃんと甘さがあって美味しいだろ?」
「そうね。ちゃんと甘いってなんか新鮮ね」
今まで食べてきたものに比べれば、確かにこれは
あぁ、でも
「あのポテトは美味しかったわね」
なによ。そんな顔しなくても良いじゃないの。
「スパイスの良く効いたフライドポテトが街のレストランにあったのよ」
あれ?と、ケイが首を捻る。
「メグは
「そうよ?私も味覚制限があるのにおかしいな。って思ってね。ログアウト後に調べたら、
「……毒による刺激なら、【美食舌】関係なく感じることができる。ってことか」
「そういうことみたい」
「食事中に戦闘と同じ処理が入るのか……」
「少量なら刺激だけでHPは減らないから美味しく食べれるわ。でも食べ続けると
「主食にはできないわけだ」
「残念ながら、ね」
また微妙な顔をされた。
◆◆◆
シルヴィアもそうだが、メグの
そう考えた魚臣慧は「そういうことなら」と席を立つ。
「どうしたのよ?急に」
「折角だから他にも何か食べようと思ってね」
扉を開け、ちょうど近くにいたウェイターに声をかける。
「どうされましたか?」
「追加注文を」
「かしこまりました。……もしよければ、あちらもご利用下さい」
と、ウェイターがペッパーのいる個室の中を指し示す。
その先の
あんなベル、いままであったっけ?
「気付かなかったよ。ありがとう。次からはアレを鳴らせばいいんだな」
取り敢えず、フライドポテトを山盛りで。それから、チキンナゲットを1皿……あ、いえ、チキンは大盛りじゃなくていいです。普通サイズで。
「メグのことだから問題ないとは思うけど、錬金術師にはなれそうかい?」
「もちろん。チャートはもう用意して……あ。」
「どうかした?」
「いえ、ちょっと問題があったことを思い出してね。神話の大森林は知ってるわよね?」
「もちろん知ってるよ。そこが何か?」
「そこに出現するアセンション・ホーンの素材が欲しいのだけど、品薄で価格が高騰してるのよ」
メグがケーキを一口頬張り、続けてコーラを一口。……どうやら、コーラの甘さにも気づいたみたいだ。
「へえ、それはまた厄介だね」
だが、外道相手ならともかく、メグを相手に終わった話題でおちょくるほど自分はひねくれてはいない。と魚臣慧は自負していた。
「これがまた、レイド関連らしくてね」
ここで
取り敢えずフライドポテトはメグにの前に並べ、チキンナゲットを一口。
「
ペンシルゴンから軽く聞いた記憶はあるけど、まぁ
「要するに、レイドモンスターにやられて聖角が集められないわけだ」
「そういうことね。それ以上は噂に聞いただけだから詳細は分からないわよ……ただ、かなり苦戦しているみたいね」
お、フライドポテトを食べた。やっぱり
そう思ううちにも、メグの手は次のポテトへと伸びていく。
◇◇◇
「ふぉういえは」
ケイにが少し怪訝な顔をするので、急いでポテトを飲み込む。塩味の効いた良いポテトだ。
最近ケイが食事中のマナーに厳しい。……特に、口いっぱいにものを入れて喋ると露骨に機嫌が悪くなる。前はそこまでは気にしてなかったと思うのだけれど。
「ケイこそ最近はどうなの?」
「んー、まあ、順調だね。
と言って、ケイはインベントリから一本の武器を取り出す。
「剣?」
「ユニーク武器だね。元々は使い道のないようなアイテムだったんだけど、レイドボスの攻撃を当ててみたら武器を
「ユニーク武器ねえ。種類が多過ぎて、ウィキでも追いきれないのよね」
そもそもプレイヤーのハンドメイド武器が全体的に
「こいつも、性能は検証中ってとこかな」
ケイがインベントリへと剣を戻すのを横目にもう一口。
ここのポテトも塩味が効いてて美味しいわね。
「ここの料理は気に入ったかい?」
「どうしたのよ、いきなり」
感想を言うからには食べないとね。
確かに
もうひとつ。
付け合わせのソースも味があるし、なにより状態異常にならないのは純粋に嬉しい。
うーん。もうひとつ。
もちろん、現実の料理と比べられるようなレベルでは無いけれど、ゲーム内で比較するならかなりの優良店だと……
「ぴゃっ!?」
どう答えようかと思案していると、ケイがずいっ、と身を乗り出した。突然のことに硬直していると、ケイの左手が私の顔の方に伸びて
いやそこは、くちび……
「ソースついてる」
「え、あ……?」
「あぁ、ごめん。つい癖で」
「……あの、そのっ、ゅびのソー……その、」
ゆびでぬぐったソースはどうすりゅんでしか……?
「ん?なんだって?」
「……そう、お花!お花を摘みにぇ行ってくるわ!」
いちどへやをでて、れいせいになろう。そうしよう。
「あっ」
「あー、メグ、大丈夫?」
「……ええ。大丈夫よ。騒がせたわね」
焦って立ち上がったせいでバランスを崩した。椅子ごとひっくり返ってしまうなんて
視線を向けると、ケイはおしぼりで手を拭いていた。ソースは今ごろあの白い布の中だろう。
「ところで、さ」
「なに?」
「
「え、あぁ!そ、そうね!」
◆◆◆
なにやら
いや、これはかなり赤いな。真っ赤だ。風邪でも引いたか?
元々VRシステムにはプレイヤーの体調を測定する機能がある。ほとんどのゲームでは緊急ログアウトのシステムでしかないが、シャンフロならそれがアバターの反映されたとしても疑問ではない。
そもそも、椅子から転げ落ちるなんて
「メグ、本当に大丈夫?体調が悪いなら休んだ方が……」
「あー、いえ、ちょっと考え事をしてたらバランスを崩しただけよ。大丈夫」
「ならいいけど」
「そんなことより食べましょう?ほら、フライドポテトも無くなっちゃったし」
……いつの間に。
皿に山盛りにあった筈のポテトはものの数分で綺麗さっぱり無くなっていた。
「……もう一皿頼もうか?」
俺は壁掛けのベルを鳴らした。
気宇蒼大の天聖地はジークヴルム以外の情報がろくにないので、バトル描写できないことに書き始めてから気付きました(連続でオリジナルモンスター出すのもどうなんだ?という葛藤の末にカット)。
配信関係のプレイヤーとペッパーの絡みが書けなかったので、オリジナルモブの再出演方法、なんか良いのないかなぁ。と考え中。
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これもある意味では錬金術
この三人にはなるべくわちゃわちゃしてて欲しい。
シャンフロには満腹度というステータスがある。
食事に心血を注いでいるプレイヤーならまだしも、
つまり、なにが言いたいかというと、
「ごめん、メグ。頼みすぎだったね」
流石にステーキにピザとスペシャルパフェは頼みすぎだった。ちなみにフライドポテトは合計3皿頼んだが全て空になった。
「別に私は構わないけど、お金は大丈夫なの?私も払いましょうか?」
「その点はご心配なく。メグの
数が数だったので、それはもう引くくらい高く売れた。買い取るペンシルゴンが満面のニヤニヤ顔でなければ完璧だった。
というかペンシルゴン、まだPKペナルティの借金が残ってたと思うんだが、どこからあれだけの額を用意してるんだ?まさかサードレマの財政を握っているわけじゃあるまいし……いや、あいつならやりかねないな。
出会ったら口を開く前に殺せ、とはサンラクの言葉だが、全くもってその通りだと思うね。
外道のことをあれこれ考えていても仕方ない。目下の問題は目の前に広がる料理の数々だ。
ゲーム内とは言え、この量を残すのは忍びない……そうだ。
「どうしたの?ケイ」
「いや、もしかしたら『お持ち帰り』出来るんじゃないかと思ってさ」
呼び鈴を鳴らすとすぐに扉がノックされ、ウェイターがやって来たことを知らせた。
「失礼します。如何致しましたか?」
「この料理を包んで貰うことは出来るかい?」
「……少々お待ち下さい」
数分して、テーブルの上には、蓋付きの、弁当箱のような容器に詰めらた料理が並んでいた。
ゲーム的な処理で言えば、元の料理を消して箱を新たに表示するか、『お持ち帰り』そのものを出来ないようにするだけのことだと思うのだけど、流石はシャンフロと言うべきか。
俺たちが見たのは、ウェイターが一度箱を取りに行き、その箱に一つずつ菜箸で料理を詰めていく、という光景だった。
◇◇◇
「ペッパーはこのままフィフティシアに向かうのかい?」
「いいえ。明日はちょっと用事があってね。早めに寝ようと思うわ」
「
「そうだね。もう今日は終わりかい?」
「いえ、折角だからあと1時間は素材集めをしようかと思ってるわ」
「それなら俺も手伝うよ。今から一時間だけってなると、野良パーティは難しいだろうし」
延長戦、突入……!
◇◇◇
「はい、皆さん集まりましたか~?」
先生の声が室内に鳴り響く。
「オールオッケー!!」
そして高らかに挙手する女性。
ほらシルヴィア、あまりにも元気が良すぎて先生が驚いてるわよ。
「VRお料理
「はい」
「はぁーーーい!!!」
VRお料理
登録は実名のみ、アバターも本人再現アバターのみ、利用ごとに料金が発生するという、中々に制約の多いVRソフトだが、それらは全て『教育』に特化したためだといえる。
「メグ、
「……両腕だけポリゴン数がやたら高いわね」
「そうでしょう?私も最初に講師に来たときはびっくりしましたけど、このソフトの
「では最初に、これまでの料理歴を教えていただけますか?」
それを思えば、NPCではなく人間の講師を採用し、受講者と同じプレイヤーとしてログインするシステムであるのも頷ける。
因みに実名限定と都度料金が発生するのは、講師に都度講習料が支払われるためで、講師の指名も可能なようだ。
「特にないわ!」
「小学校の授業以来です……」
今回はシルヴィアと私の
「……では、超初心者コースですね!」
次の瞬間、私たちの目の前にキッチンが出現した。エフェクトも一切無く、虚空から突然に、である。
「ワオ!?」
「作りたい料理の希望などはごさいますか?」
どうやら料理と関係ない部分はとことん簡略化しているらしい。私たちのアバターも、
「チキン南蛮?ってのが気になるわ!」
「定番どころで肉じゃがを……」
「なるほど。本日は四時間コースですので、両方作ってみましょう」
そう言って先生がコンソールを操作すると、食材と調理器具が出現する。こちらも出現エフェクトなんてものはない。
「いきなり揚げ物も危ないですから、肉じゃがからやってみましょう」
「イエスマム!!」
「材料と道具はテーブルに並べた通りです。まずはじゃがいもの皮を剥きましょう」
なるほど。見ればじゃがいもと包丁、その他の諸々が置いてある。まずはじゃがいもと包丁を取れってことね。
「ふんふんふーん」
「シルヴィア?!どんな持ち方してるの?!格ゲーじゃないのよ?!」
「ご家庭にあるのであればピーラーを使った方が安全ですよ」
「ピーラー?」
「これですね。見たことありませんか?」
なんか見たことない道具が出て来たのだけど、なにそれの大きな栓抜きみたいなやつ。
「んー。昔々、ママが使ってた気もするわね」
「ピーラーを使えば、包丁よりも簡単に皮が剥けますよ」
なるほど。後で購入品リストに入れておこう。
「皮がむけたら、一口大に切っていきますよ。包丁を右手で持って、左手は
「
「にゃにゃーー!」
「そうそう。そうやって指を丸めて押さえて」
「一口大ってこれくらい?」
「大体3cm四方くらいです」
「端っこってどうすれば3cm四方にするの?」
「こういうのはざっくりよ、ざっくり!」
「にんじんはらんぎり……らん……ランゾウ?居合切り?」
「それは絶対に違う」
「アタタタタタタタ!」
「まさか高速でみじん切りを!?」
「玉ねぎはフライドポテトみたいに切ればいいのね?」
「水をどーん!!」
「あれ?!なんで繋がってるの?!」
「…炒める?煮るんじゃなくて?」
「ねえねえ!
「焦げないよう慎重に……」
「取り敢えず
「んー、ちょっと味が薄い気がするわね」
…………
………
……
…
…
……
………
…………
「シルヴィア、
「Meow~」
「じゃがいもは一口大、にんじんは乱切り」
「eggは?」
「……あと3分」
「じゃ、玉ねぎが先ネ。半分クシギリにするよ?」
「……シルヴィア、油の温度は?」
「180」
「…℃?F?」
「℃!」
「油が回ったら水を入れて煮る。と」
「メグ、
「こっちもお願い」
「なんでこんなことに……」
俺は部屋のキッチンで料理する二人を、ただ呆然と眺めるしかなかった。
つい1時間ほど前、俺の部屋のインターホンが鳴った。
◆◆◆
「ケイ、開けてー」
シルヴィアの声に、またか、と思いながら玄関へと赴き、ロックを外し、扉を開ける。
「こ、こんばんは……いや、こんにちは…かしら?」
「メグ……どうしたの?二人揃って」
「オジャマシマスー」
「あっ、シルヴィ?!また勝手に!てか靴は脱いで頼むからっ!!」
「まだ馴れてないのね」
「自室から外は土足が基本だからね
以前自分の部屋はどうしてるのか、土足で生活してると敷金が返ってこないぞ、と忠告はしたのだが、戻ってこなくても大丈夫、と
「で、メグ。その荷物は?」
「あー、気付いちゃった?」
気付くもなにも、段ボールを両手で抱えてたら誰だって気になる。
「まあ、今日の本題はこれでね。ちょっと失礼するわ」
シルヴィアは常に自由だが、メグも時々自分を譲らないことがある。こうなると俺にはもう止められない。
メグが段ボールを抱えたまま、奥の部屋へと向かっていく。
「メグ?リビングはこっち」
と指差し声を掛けたが、メグはそのままキッチンへ入っていった。
そう言えばシルヴィアは?と思ったが、廊下に脱ぎ捨てられた靴以外に痕跡はなかった。
◇◇◇
その後、靴を整理してからキッチンに行ったときは本当に驚いた。まさかシルヴィアとメグが二人して料理するなんて言い出すとは思わなかった。
「「どうぞ」」
机の上に並べられたのは大鉢に入った
用意された小皿と
しかし、人の手料理なんていつぶりだろうか。
出前だってお手製には違いないが、やはり作った人と対面して一緒に食べる、なんてことは実家に帰省した時以来やっていない。
「……頂きます」
まずはチキン南蛮から。
南蛮だれの染み込んだ揚げ鳥を、タルタルソースと一緒に頬張る。
まず感じたのは南蛮だれの甘味と酸味、それをタルタルソースが優しくまとめあげ、玉ねぎの食感と唐辛子の刺激がアクセントとなり、口の中いっぱいに広がった。
全ての要素が奇跡的なバランスで合わさり、とてつもなく美味……ん?
なんだ?
一筋の違和感の正体は至って簡単なものだった。
……揚げすぎている。
味付けが完璧なだけに、少し硬めの肉と、若干の衣の苦味が浮いている。
「ドウ?オイシイ?」
当然、シルヴィアに返す言葉は一つ。
「ああ。美味しいよ」
わざわざ出向いて手料理を振る舞ってくれる女性を無下には出来ない。
そもそも気になる、という程度で全体で見ればかなり美味しいのだ。あえて指摘するレベルじゃない。
リザルト画面よろしくガッツポーズを決めるシルヴィアを横目に、今度は肉じゃがに手をつける。
今気付いたけどあれだな。白米が足りない。後でパックのごはんを温めよう。
気を取り直して、見るからに味の染みていそうなじゃがいもを頬張る。
「……ど、どう?」
「……うん。美味しい」
なんというか
良くある肉じゃがというか、
「……良かった」
メグがほっとしたように一言を呟いたのを皮切りに、シルヴィアとメグも食事を始める。
話題は
◇◇◇
「それじゃあ、また今度」
「ああ、またな」
久々のゆったりとした夕食の後、今度のチーム戦やらシャンフロの話をするうちにいつの間にか夜も更け、解散の時間となっていた。
途中何度もシルヴィアから対戦の誘いがあったが、そもそも私のVR機器は自分の部屋にあるので無理な話だ。
最終的には帰宅後三人でGH:Cで落ち合う流れで落ち着いた。
「また今度、何か作るわ」
「ああ、うん。でもまあ、期待せずに待ってるよ。毎回
やっぱり引っ越そうかしら?隣は無理でも1つ下とか、近くのマンションとか……シルヴィアが休暇を終えたら入れかわりで入るとか。
「じゃあ今度はお弁当でも作るわ。チーム戦の時は難しいけど、イベントの時くらいならいいでしょう?」
なお金銀はこの後通い妻とかにはならない。だってジャンクフード美味しいんだもの。
なお慧はお弁当を食べる姿で加速した魔境を擦れた目で見ることになる。南無三。
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昇り坂の先に果ては無く
閃霆万里の坂道はオールカットです。
本編でも特に描写の少ないエリアなので仕方ない。
「カルダモンさん、ありがとうございました!」
「いえ、こちらこそありがとう」
閃霆万里の坂道を越えた私達は、遂に旧大陸最後の街、フィフティシアに到着した。
編成時の役割を完遂した野良パーティは早々に解散され、各々街の雑踏に消えていく中、私はある場所を目指していた。
それは未だ抽選待ちの続く
私のアバター、ペッパー・カルダモンのレベルはまだ
故に、フィフティシアのもう1つの特徴である
「……そういえば、何も聞いて無かったわね」
しかし、そもそも誰がどこで売っているのか分からない。
「失念してたわ」
それならやることはひとつしかない。
「まずは情報収集ね」
◇◇◇
「で、ここに来たわけね」
「まあ、そういうことです」
私が最初に扉を叩いたのは、当然と言うか必然と言うか、薬剤士系職業が集まるギルドだった。
餅は餅屋というが、薬の材料については薬剤士ギルドに聞くのが一番早い。ウィキという手も無くはないが、とにかく重いし、本格的に閲覧するには一度ログアウトしなければならない。
リアルタイムの情報としてはおそらく掲示板がもっとも早いのだろうが、どうもこれまでの経験からしても、情報の早さと正確性を両立するのであれば、ギルドが最適だろうという結論に至った。
「それで、どういう状態なんですか?」
私が尋ねると、おそらく先輩であろう女性プレイヤーは少し苦々しい顔を見せた。まあ何となく理由はわかる。
「聞いてるとは思うのだけど......アセンションホーンの角、特にあなたが求めてるものは完全に品薄な状態よ」
「神話の大森林にレイドモンスターが出現した影響と聞いたわ」
「こちらにもそういう話が来てるわ。ウィキはまだ検証段階みたいで、詳しい情報は載ってないけれど、聞く話によると『緑色の昆虫』が出るらしいわ。それもたくさん」
「うわぁ......あまり近寄りたくないですね」
「まあそんなこんなで、アセンションホーンの流通量が激減してるのよ。より正確には、NPCの正規店ではまず取り扱ってないわ」
ここまではおおよそRPAから聞いた内容と合致する。
「そうすると、非正規のNPCかプレイヤーから直接買わないといけないんですね」
「そういうこと。それに関してはギルドに
おや、これは意外だ。
「紹介までしてもらえるんですか?」
「一応ギルドの方針があってね。ここまで品薄だとどうしても買えない人は出てくるから、当面の間はどうしても必要な人......あなたみたいに『ジョブチェンジに必要なプレイヤー』優先ってことになったのよ。私たちとしてもある程度錬金術師が増えてジョブの研究も活発化してほしいしね」
「ありがとうございます」
それから、商人プレイヤーと取引を行っている路地裏を教えてもらった私は、共有設備でポーションを作成し、ギルドを後にした。
◇◇◇
「なるほどなるほど」
商人プレイヤー『ヨルム』に事情を話すと、まず所持金の確認を確認された。
「残念ながら金額が足りませんねぇ」
「……高騰してると聞いて、かなり用意したつもりだったのだけれど」
「いや、惜しい線いってますよ?ええ。あともう少しあれば足りますからぁ」
「……因みに値引きとかは……」
「残念ながらこれ、値引き後価格なんですよぉ。あなた、薬剤士ギルドの人でしょ?これでも仕入れ値ギリギリでさぁ」
しばらく待ってますから、貯まったらまた来て下さいなぁ。と頭を下げるプレイヤーにそれ以上の値引き交渉をする気も起きず、私はその場を後にした。
「取り敢えず、さっき作ったポーションはRPAに売るとして……それでも少し足りなさそうなのよね……」
高騰に高騰を重ねた価格に対する
◇◇◇
モグモグ……
いや、これは違うのよ。
モグモグ……
RPAを探して蛇の林檎フィフティシア支店を見つけ(どうも各街にあるチェーン店みたいなものらしい)、無事ポーションを売却して路地裏を抜けたところで見つけてしまったのだ。
モグモグ……
……ポテトフライの屋台を。
目算通り、ポーションの売却額は目標には足りなかったので、別で稼がなきゃいけない。ポテト一個くらい誤差だから大丈夫。
モグモグ……
大丈夫大丈夫。
「……ん?」
ふと目が合ったプレイヤーがこちらに手を振っている。
「……どうやら私みたいね」
後ろを振り向いて見たが、誰もいないので、やはり私に対して手を振っているのだろう。
勧誘や出会い目的で来られても困るので、こういう時は無視するに限る。
「はじめまして。えっと、ペッパーさん」
踵を返したところで先手を取られた。
「……なに、かしら?」
「装備を見るに、薬剤士系の方ですよね?」
「……まあ、そうだけど」
「アセンションホーンの聖角、買いませんか?」
「前?後ろ?」
「もちろん前角ですよ」
なるほど。買い取り手を探しているところに、私が通り掛かって手を振っていたのね。
「金額は?」
「おっ。買ってくれますか?」
「金額を聞いてから考えるわ」
マニュラが手招きする。はいはい。こっそり耳元で言いたいのね……
……安い。とても安い。
「……随分安いのね」
「え?あ、あぁ。……そう、かもな。……実を言うと僕は商人プレイヤーじゃなくて……友人、パーティメンバの狩った角の販売窓口みたいな?形なんですよ。だから、そう、実質直売みたいなものなので、他より安いのではないですかね」
「なるほど。そういうことね」
それでも幾らか安すぎる気もするけど、私の手持ちでもなんとか買える金額だし、悪くは無いわね。
「それで、角の受け渡しなんですけどね」
「ん?何かあるの?」
「ついさっき狩ったところなので、まだパーティメンバーが森の中なんです。神話の大森林の入り口で受け渡しになるので、ついてきてくれませんか?」
いや、私はまだ買うとは……いや、そこまで安かったら買いたくなるけどね?
返事も聞かず歩き始めるマニュラに軽く不平を覚えつつも、私は付いていくことにした。
◇◇◇
「おぉ……」
フィフティシアから開かれる門の一つをくぐり、エリア『神話の大森林』に出た私は息を呑んだ。
跳魎跋扈の森とは違う。文字通り
「もう来る筈なんですが見えませんね」
マニュラが取引場所として指定した、森の前の空き地には、軽く見た限り人影はない。
「ちょっと呼びに行ってくるので待っていてください」
マニュラが森に消え、私は一人になった。
……いや、違う。
背後から微かに空き地の土を踏む音がする。
背後からだけではない。よく聞けばまるで
「……っ」
地を踏みしめる音に体をずらせば、直剣が先ほどまで私がいた空間に滑り込む。
「
「ちっ、仕留め損なった!」
「なにやってんだよ!」
「バレたら仕方ない」
「
「1、2、3……4人かしら?」
「ずるいとは言わせねぇぜ」
相手の武器はそれぞれ直剣に両手剣、クナイにメイスって感じね……おっと
メイス使いの上段大降りを最小限のステップで回避しつつ、カウンター気味に斬撃を叩き込む。
「かふっ……」
「うぉらぁぁあああ!!!」
入れ替わりに薙ぎ払われる両手剣を屈んで回避、逆サイドから来ていた直剣も、屈むとは思わなかったのか空振りする。……クナイ使いは射程外ね。投げる素振りも無い。
「ちっ、躱しやがって!」
空振った直剣使いに足払いをかけ、そのまま体勢が崩れたところを蹴り飛ばす。
「……っつ!!」
「こっち来んな!邪魔!」
クナイ使いと直剣使いは衝突、メイス使いはまだ怯んでいる。となれば
「お前、
先に両手剣の対処!
直進して斬撃、防がれる直前でスライドムーブ起動。武器の無い左側面へ移動してラッシュスラッシュを起動!
「あっ?何処に行きやガッ……」
連撃を浴びせつつ見やれば、メイス使いが起き上がり初めている。今起きられると面倒ね。
ラッシュスラッシュの終了と同時にインベントリを操作開始。起き上がりかけのメイス使いとついでに直剣使い達に向けスプラッシュボムを投擲する。
これでもう数秒は怯んだままだろう。
「てめっ、ふざけやがって……!」
両手剣のこれまた大振りの薙ぎ払いをしゃがみ回避、からの足払い。体勢を崩したところにドリルピアッサー、怯んだら斬撃、斬撃、斬撃、起き上がりに足払い……
あ、これループ入ったわね。
「こいつ、よくもガナーを!」
メイス使い達が起きる頃には
「あなたたち、随分軽装なのね」
武器は質の良い量産品に見えるが、斬った感触からして、防具は安物だろう。でなければ嵌め殺しでもこんな早くは倒せていない。
「だからどうしたぁ!」
私の対人戦闘の経験は9割9分格闘ゲーム、特に最近はGH:C、もっと言えば
肉薄するクナイを剣で弾き落とす。
「!!……このっ」
反射的に打ち込まれたもう片手のクナイの軌道を左手で反らし、そのまま腕を掴み……
「ちょ、あっ……」
返しの刃でクナイ使いの胴を下から掬うように斬り上げる。
懲りずに大上段に振り上げたメイス使いに向かってクナイ使いを蹴り飛ばせば……
「ゴトー!ナンベ!!大丈……あっ」
端的に言えば、このPK集団は強くない。
直剣使いを
「てめぇ!アリリベをよくも……!」
プロと一般の差はあるにしても、とにかく
武器の射程や特性を理解していなければ、当然空振りや隙は増えるし、有効打は減る。……稀に筋の良い動きはしているが、あれは恐らくスキルなのだろう。 とにかく武器に合わせた体の
立ち上がったクナイ使い……もとい忍者プレイヤーの右手には刀……確かあれも
「いくぞ!ナンベ!!」
絶妙なディレイを挟んだ同時攻撃……だが、恐らく偶発的なものだろう。これが狙ってできるなら
メイスの一撃をワンステップで躱せば、直後の刀の一線にカウンターを叩き込める。
私はシャンフロ以外では格闘ゲームしかやらないが、格闘ゲームにだって武器を使うものはある。そして、格ゲーに置ける武器は一部のキャラクターの
そんな格ゲーにも『素手よりも武器の方が強そうだから』『射程が素手より長いから』という理由だけで武器使いを選ぶビギナーは一定数居たりする。
……そして地方の対戦イベントでそういうプレイヤーに会った時は、決まってこう返すのだ。
「結局のところ、
◇◇◇
まぁ、シャンフロは格闘ゲームではないのでステータス差とユニーク持ち出されると厳しい部分もあるのだけれど。
「あったわ。これね」
特に苦戦も無くギルドに戻った私は、PK情報掲示板を覗いていた。
237:名無しの開拓者
ナンベ、アリリベ、ゴトー、ガナーって四人組なんだよあれ
森の前で待ち伏せされた
238:名無しの開拓者
>>237
また来たな
241:名無しの開拓者
>>238
俺、純騎士だけど初耳
243:名無しの開拓者
↑さっきから生産職しか被害者がいない件
見立ての通り、プレイヤースキルはあまりなく、専ら
250:名無しの開拓者
>>237
待ち伏せって言ったけど、なんで森なんか行ったん?
259:名無しの開拓者
そういえば生産職がソロで行く場所じゃねぇよな
265:名無しの開拓者
>>250
待ち合わせ
「ん?」
290:名無しの開拓者
聖角買う約束だったんだよ
294:名無しの開拓者
あれ、原産地あそこだっけ?
296:名無しの開拓者
>>294
らしい。俺は見たことないけど
311:名無しの開拓者
>>290
もしかしてそいつマニュラ?
320:名無しの開拓者
お?
328:名無しの開拓者
ん?
340:名無しの開拓者
流れ変わったな
なるほどそういうことね。
◇◇◇
「ヨルムさん」
「おお、ペッパーさんじゃないですかぁ」
あの路地裏に行ってみると、タイミングよく商人プレイヤーのヨルムがそこにいた。
「もしかして、お金集まったんですかぁ?」
「ええ、なんとかね」
インベントリを操作してマーニを取り出し、ヨルムのインベントリ操作を待つ。
「ペッパーさん強いんですねぇ。PK四人相手に快勝は中々ですよぉ?」
「あら、知ってたのね」
「最近出てきた人たちでしてぇ、
「お陰様で、なんとかお金も集まったわ」
お互いに譲渡処理を行い、マーニと聖角の交換を行う。
他にも必要な素材は幾つかあるが、最高難度のコレを手に入れられたのはかなり大きい。
「四人分ともなるとぉ、結構な額になったんじゃないですかぁ?懸賞金」
「まあ、それなりには、ね」
ヒュンッ
「……?!」
風切り音と共に、HPが減少した。足元に刺さった矢に、右腕に走る僅かな痺れ。
……屋根の上ね。
路地裏の壁となっている家屋の上を見上げると、弓を引き絞るプレイヤーの姿。
「はへぇ?!あ、あれマニュラじゃないですぅ?!!」
◆◆◆
くそっ、外しちまったか。
「まぁ、次で仕留めりゃ問題ねぇか。「天眼の一矢」」
あたんねぇなら、スキルで命中をあげりゃいいだけだ。
「ちっ。避けやがった」
命中が当たるって言ってもホーミングじゃねえしな。
「ほかに命中上げれるスキルは……めんどくせぇ。適当に使うか。「鶴瓶射ち」「
あとは引き絞って……ん?
「あ?どこ行きやがった?」
大通りに向かったか?流石に人混みに入られると殺りにくい。
「取り敢えず出口塞いで……ん?どこにもいねぇぞ?」
んなバカな。たかが生産職にこの一瞬で路地裏抜けれるほどのアシがあるとは思えねぇ。
となると脇道に逃げられたか?
パリン
「ん?なんだ今の音……」
一本手前の脇道からだな。
「なるほど。さてはそっちでポーション浴びてやがるな?」
「今度こそワンショットキルしてやる」
そうと決まりゃぁ、話は早ぇ。弓引きながら脇道を見下ろして……
「ん?」
いねぇぞ?
◇◇◇
「ヨルムさん、大丈夫ですか?」
「いやぁ、こっちは大丈夫ですけどぉ。どうするんです?」
屋根の張り出しの
「まぁ、時間の問題でしょうね。あの高さじゃ投擲は届かないし……ヨルムさんはインベントリに何かない?」
「んー。そうですねぇ……」
「あぁ、
なるほど。ラインナップは……
◆◆◆
28:ヨルム@聖角あります
マニュラ捕ったどー
[添付画像…]
31:名無しの開拓者
>>28
え?これマジもん?
33:名無しの開拓者
>>28
つか、ヨルムって商人ロールプレイヤーじゃ?
36:名無しの開拓者
>>28
kwsk
38:ヨルム@聖角あります
ほぼほぼペッパーさんの功績ですねー
41:名無しの開拓者
>>38
ペッパーis誰
43:名無しの開拓者
>>41
前板の752で四人組PKK報告した人
45:名無しの開拓者
>>43
あれマジだったのか…
48:ヨルム@聖角あります
PKKへの報復だったみたいけど、最終的にアポートショックボム落下スタンから私が縛ってそっち系のプレイヤーに引き渡したよ
まさか鑑定用で取ってた考古学ジョブが役に立つとは
50:名無しの開拓者
>>48
落下スタンってどこで戦ったんだ
51:ヨルム@聖角あります
>>50
街中
屋根の上から弓打ってきたのよ
54:名無しの開拓者
つまりアポートで屋根上まで転移→ショックボム当てて屋根から落とす→ヨルムっちが縛って終わりって流れか
57:名無しの開拓者
シャンフロって重力がちゃんと働いてるから遠距離だと高台有利になりがちなんだよな
◇◇◇
ごくり。と炭酸が喉を通り過ぎる。
「ふぅ」
冷蔵庫を開け、
「時間は……まだあるわね」
こうして定期的にシルヴィアと対戦しているものの、当然のように全戦全敗で、ケイも巻き込んで反省会の毎日が続いている。
温め終わったポテトフライをつまみ、ふと
「PKであのレベルなのよね」
やっぱり対人に関しては格闘ゲームをした方がいい気がするのよね。
「でもイレギュラーが多いのは確か、かな」
特にマニュラというプレイヤーに無警戒で攻撃を受けたのは良くなかった。可能性は十分あったことなのに、勝手に
「カリカリになるまで温めても美味しいけど、ちょっと温めてしんなりしてるのもいいのよね」
そもそも、最初にPKに囲まれた事そのものが、想定不足と油断が招いたようなもので
「安すぎるとは思ったのよね……」
相手の思考を読む、引き出す会話術も勉強しないとダメかもしれない。シャンフロだけでなく、格ゲーにも活かせる技能には違いないわけだし。
……流石に
PK5人組は、元阿修羅会でも所謂オルスロット側のPKです。阿修羅会でも特に目立った位置でもなく、取り巻きみたいな状態でトップクランの襲撃を受けました。根本的にプレイヤースキルが高くなく、ユニークアイテムを得られるほどの運も地位も無かったため、弱いものいびりに徹しています。
元々は低レベル狙いでしたが、聖角の高騰を機に戦闘能力の低く、それでいて聖角購入のための資金を集めていた生産職、特に薬剤士系プレイヤーを狙うようになります。生産職はパーティーを組んでのエリア攻略が基本のようになっており、高レベルでも戦闘に秀でていないプレイヤーが多かったのも理由でしょう。
今回はマニュラが仕掛人として立ち回っていましたが、偶然にもPKKされていてレッドネームが外れていた状態だったためです。最初の1人がやられた時点でマニュラも戦闘に参加していれば、もう少し善戦できていたかもしれませんが、レッドネームになると仕掛人として立ち回れなくなるため、静観を決め込んでいました。実際は1人がPKKされた時点で仕掛人を交代できるため、特にデメリットは無かったのですが……
ちなみに彼らは今回限りのモブの予定です。
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天駈けるポテト
「……
「わかったわ!」
急旋回は確か……サイドジェットを使って……こう!
……いた!中距離型ならここは射程外ね!遠距離ミサイルをロックオン……発射!
「よし、これで一機……って、えぇ?!」
▲▼▲
「皆さん今日もこんばんは!TVユーガッタから愛を込めて、笹原エイトのチャンネル8エイト! 始まりますよーっ!!」
笑顔の女性の挨拶と同時、無味乾燥なスタジオが一瞬にして
「さあ、気づきましたか?そうです!今日はTVユーガッタ第二スタジオからのお送りになりまーす!凄いですね、ここGH:Cの放送以来ですよ?!どうなってるんですか??」
高層ビルが人ほどのサイズの都市の中に佇む光景は少しちぐはぐしていて、まるで特撮番組のミニチュアセットに迷い込んでしまったようだ。
「あ、流石にカンペは紙なんですね……なになに?『※当企画はBLACK DOOL様の御厚意で全日第二スタジオでの収録となります byディレクター』だそうです!BLACK DOOLさんありがとう!」
笑顔で手を振る彼女の真後ろのビルが
「では、本日のゲストをお招きしましょう!」
GH:Cの時ほどではないが、それでも華美な演出がスタジオの一角を彩り、その先から1人の女性が登場する。
「
「そうね。今日はよろしくね」
「前回は魚臣さんでしたし、第二スタジオと爆薬分隊は何か縁があるのかもしれませんね」
「ご期待に答えられるよう頑張ります」
「さあ、BLACK DOOLと聞いてピンと来た視聴者の皆さんも多いんじゃないですか?今回のゲームはこちら!」
スタジオ上空から
「
「あれ、このゲームって
「そこらへんの細かい部分は、こちらの方にお話いただきましょう!」
その掛け声に合わせるように、
そして白煙が消えるとそこには
「助っ人ネフホロプレイヤーのルストさんでーす!って、その被り物はどうされたんですか??」
「……流石に素顔は止めた方がと友人に止められたので。ちなみにこれはネフホロ……2との区別のために敢えてネフホロ1とする……でプレイヤーのアクセサリーとして使えるいわゆるネタ装備。設定上はネフィリムと融合する実験における初期に用いられた道具というロマン溢れる代物で……」
かくして妖怪ネフホロ女……もとい
◇◇◇
「……というわけで、ここまでが『
怒涛の操作説明に若干あたふたしていた私だったが、彼女の言うとおり私はネフホロ1を一度だけやったことがある。
「別のゲームの知り合いに誘われて一度だけ
「……なるほど」
コックピット越しに(本来感じるはずも無いのだが、流石はシャンフロシステムということだろうか)、熱い視線を受けた気がした。
「基本的にはネフホロ初心者は簡易操作をオススメする……けど、Na2megならマニュアルも悪くないと思う」
ネフホロ1の操作は、端的に言って
「……それで、Na2megはどっちにする?私はどちらも出来るので問題ない」
「
悪くないと言われたら試さない手はない。
ピコン
ん?これは……番組ディレクターからのメッセージ?
『尺も良い具合なのでそろそろストーリークエストを始めましょう』
「……操作方法も教えたから、そろそろ実践に入る」
◆◆◆
サンラク:流石トレンド入りした早口少女。説明の質が違うね。
鉛筆騎士王:他人が聞き取れるギリギリの高速詠唱で一度も間違えずかつ分かりやすく説明するのって実際すごいよね
カッツォ:メグがネフホロプレイヤーがサポートに来るって言ってたの聞いてまさかとは思ったんだけどね
サンラク:そりゃこうなるわな
【鉛筆騎士王 さんがモルド さんを招待しました】
サンラク:で、モルドもこれ見てんの?
モルド:見てるというかその……
モルド:付き添いで来て楽屋待機です……
カッツォ:まさかの保護者枠
鉛筆騎士王:体格いいからボディーガード向きだもんねぇ
サンラク:しかしヤカン頭はどうかと思うぞ
カッツォ:ヤカン頭が何言ってるんだか
モルド:っく、ははははは
サンラク:え、こわ
カッツォ:笑う要素あった?
モルド:ちが……あは、っ、あははははは
鉛筆騎士王:サンラクくんのヤカン頭思い出して吹き出してるんじゃない?
サンラク:あ゛?
▲▼▲
『……難易度はHARD。初期装備の初心者にはかなり厳しいけど、そこは私がサポートするので気にしなくていい』
「そろそろストーリークエストが始まるみたいですよ!難易度高そうですが、大丈夫なんでしょうか?」
スタジオのARが1stステージへと代わり、画面端にNa2megのコックピットの状況がワイプで映し出される。
「メグちゃんはちょっと緊張してるように見えますねー……出てきましたよ!」
ステージに投影されたのは、さっきぶりのNa2megの初期機体と、ルストの深緑の
『……Na2megの選んだ素体の武器は
「メグちゃんは格ゲーのプロですし、熱い近接戦闘に期待ですね。ルストさんの機体はかなりカスタムしてますが、どういった動きをするのか楽しみです!」
◆◆◆
カッツォ:ねぇ、モルド。落ちついた所で悪いんだけど、あれどういう構築なの?
モルド:あれは
サンラク:格ゲーのプロなら近接ロボ戦得意らしいな。そこの魚類はボロボロだったけど。
カッツォ:どこ行っても変態挙動するクソゲーマーとは違うからね。苦手分野くらいある。
サンラク:あ゛?
カッツォ:お゛?
モルド:えっと
鉛筆騎士王:バカ二人はほっといていいから解説お願い。
サンラク:なお一番下手だったのはこいつ↑
鉛筆騎士王:戦争がお望みかな?
カッツォ:戦争ジャンキー
サンラク:シャンフロで十ぶ……あ。
モルド:あの機体は今回の番組専用で組んだ機体で
鉛筆騎士王:サンラクくぅん?何を思い出したのかなぁ??
モルド:移動は遅くなった比翼連理をイメージするとサンラクには分かりやすいかも。左右非対称のブースター配置で不規則挙動をして相手を撹乱したり、回避に用いたりするのが基本かな。装備は夏目さんのサポートを大前提にしてネフホロ2でも特に火力の低い中距離手持ち式連射砲台をメインの火力に据えてる。火力面で見ればもっと優秀な装備は沢山あるけど、相手の攻撃に挟み込んで妨害することに向いている火器って感じかな。その他はネットランチャー、高射程レーダー、リフレクションバリア、拘束・索敵・防御を想定している構築だね。
鉛筆騎士王:ルストちゃん、サポート特化とかできたんだね。
サンラク:サポート=モルドのイメージが強すぎるのが悪い。
モルド:ちなみにソロになった場合に備えた隠し装備が背部に……
◇◇◇
5thステージは拠点防衛戦。ステージ説明によればほぼ無尽蔵に現れる
「多対一、ってわけね」
ここまでは立ち回りとルストさんのサポートで1対1を作り出して戦っていたけど、流石に今回は多対一で戦わないといけなさそうね。
「……来たわね」
右前方に最初の
さっき購入したレーザー砲は……右小指がトリガー。
操作方法を巡らせながら操作した直線軌道のレーザーが
「これは使いやすそうね」
「……正面から2体、左前方に1体。右の
「レーザーでも一撃は無理、ってことね」
レーザーは遠距離対応だが、数発打つとエネルギーチャージに入るらしい。
こちらの装備は中・近距離用だが、接近すると防衛ライン前ががら空きに……いや
「……Na2megは確固撃破を狙って。防衛線はこちらで維持する」
後ろは任せていい。
噴脚出力最大、正面の遠距離型
私は可及的かつ速やかに給与を底上げしないといけないのよ……!
進路を一歩右にずらして敵のミサイルポッドを躱す。……っと、遠距離レーザー。
被害は許容範囲内に、能率は最大限!
レーザーが右肩を掠める。……オーケー。装備損壊は軽微。そしてここまで来れば私の
「チェーンソーの威力、見せてもらうわよ!」
ギャリギャリと、金属の擦れ合う甲高い音が響く。
左足に喰い込んだ右腕一体型チェーンソーはその装甲を削り取り
「いいじゃない多段ヒット!物理ブレードから変えて正解だったわ!」
「……前作に比べてネフホロ2では多段ヒット武器が強くなっててダメージ効率から見て初心者にもオススメなジャンルの1つ。……一方でチェーンソーは可動部分がある関係上武器の耐久が低めかつ、射程も少し短いので装備種類の少ない内は物理ブレードを使い回すのもアリだと私は思う。あと背後注意。後ろの
なら左足が損壊した
咄嗟に左手を伸ばし、
◆◆◆
サンラク:あ。
モルド:あぁ……
鉛筆騎士王:直撃したねぇ
サンラク:格ゲーマーの悪癖が出たな
カッツォ:クソゲーマーに言われるとなんかムカつく
▲▼▲
『……ネフホロ2は武装と立ち回りで戦うのが基本。格ゲーのノリで近接格闘を試みると
「メグちゃん大丈夫でしょうか?!見たところミサイルポッドとレーザーに直撃したように見えましたが……」
『
「あっ、見えました!……うわぁ。ギリギリ耐えてますが、かなりボロボロですね」
『……Na2meg、損壊状況』
ミサイルが残した白煙から、Na2megの機体が飛び出し、
『えーと……見ての通り、噴脚は無事よ。他はこの通り』
上げた右腕には肘から先が無く、当然そこについていたチェーンソーもない。左手は残っているが、肩口のレーザー砲は見る陰もない。
「どうやらまだ動けるみたいですが、攻撃用の装備が壊れているようです!このステージは一度リタイアになるのでしょうか?!」
『……咄嗟に右腕でガードしたのは正解。続行する』
「おっと、なんとなくそんな気はしてましたが、ルストさんスパルタですね?!」
『……武器が無いなら、奪えばいい』
その言葉よりも早く、深緑の
「ルストさん一瞬で近づいて……あれ?Uターンして戻って来ましたね」
『……取り敢えずこれ使って』
「あれは……ブレードですか?あれ ?いったいどこか、……あー!!左の敵の武器がなくなってます!!!いつのまに?!そして
◇◇◇
「あ、ありがとう」
「……質問は後。片腕が無い分バランスに気をつけて」
さも当然のように一瞬で武器を強奪してきたルストさんには舌を巻いてしまうが、相手の
「ん、これは確かに」
先ほど逃げるときに違和感を感じたが、ブレードを持つとそれ以上の動きにくさを感じる。
「……片腕の場合、直線移動は両腕とほぼ同じでいい。問題はカーブ、旋回時。……肩装備が
「大人しく斬られなさい!」
鈍い金属音が響く。
「……浅い。」
まだまだぁ!バランスが何よ!
右に逸れたブレードの勢いそのままに一回転し、そのままの勢いで袈裟懸けする。
再びの金属音。
回転の軸が左へと引っ張られていくのを感じながら、更にもう一回転。
三度の金属音とともに、ブレードからの圧力が
「っっ!」
「ちょっと、止ま……止まりなさい!」
半ば横倒しになりかけていた機体の水平を無理矢理矯正し、顔を上げれば、先程まで戦っていた
反転、加速。目標は遠距離型。
残り
◆◆◆
鉛筆騎士王:いやぁ、惜しかったねぇ
モルド:ま、まぁ、隻腕であそこまで粘れたら凄いです
サンラク:ルストは初手隻腕からでも勝てるけどな
鉛筆騎士王:あー、JGEのやつ?凄いよねぇアレ
サンラク:ジャンキーポテト、ネフホロに限ればカッツオより才能あんじゃねーの?
◇◇◇
VRマシンから体を起こして見渡す。
スタッフの安堵の顔、不安の顔、心配を装う顔。
「いやぁ、惜しかったですね!夏目ちゃん!」
笹原さんのいつも通りの心配顔。
「えぇ、もう少しだったけど残念だったわ。練習しなきゃね」
「……筋は悪くない。慣れれば大丈夫」
ルストさんは……
軽く伸びをして屈伸するあたり、大物のように感じる。それにしても界隈では変な被り物でも流行っているのだろうか?シャンフロにもやたらハシビロコウと馬の面が多かった。
『放送終了まであと10分です。フリートークお願いします』
「ルストさんから見て夏目ちゃんはどうですか?って聞くつもりだったんですが先手を打たれちゃいましたね~」
「今回ルストさんにはゲーム内から解説してもらっちゃいましたが、初心者向けのオススメ構成とかありますか?」
あっ、笹原さんその質問は……
………
……
…
SNSで「早口少女」と「フェードアウト」がトレンド入りした。
つづく......?
ナツメグは「ルストさんの早口長文はもはや視聴者向けの解説と割り切る。頭の片隅に留めておいて後々聞き直せばいい。」と早々に開き直ってます。
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空飛ぶポテトの果ての先(深淵)
企画タイトルは「チャンネル8ネフホロ2チャレンジ」。
『さあ、始まりました
放送
『夏目ちゃん調子はどうですか!』
「上々かしらね!」
第1回放送のあと、BLACK DOOL社に思うところがあったのか、ネフホロ2に実況リンクシステムなるものが導入された。
事前の申請は必要だが、イベントなどで特定のマイク音声をゲーム内プレイヤーにも出力できるというもの。
このお陰で第2回は大盛り上がりとなったのだから、BLACK DOOL社の判断は正しかったと言えるだろう。
「ルストさん、今どこですか?!」
「……B-17-24。こちらから合流するから
その位置だと私よりボスに近い。視界に映るのは廃ビルばかりで見えないが、ルストさんはレーダーでこちらの位置も
『夏目ちゃんがボスに向かうようです!ルストさんB-17-24と言ってましたがまだ見えません!』
『こ、今回のルストの機体はレーダー搭載なので……ルストは夏目さんとボス双方の位置を把握してます。このステージは合流後はボス一択なので、移動しながら合流しようと』
『なるほど……っと、そうこうしているうちにルストさんの機体が見えましたね!』
笹原さんとモルドさんの声を聞く前に、私は確かにルストさんを見つけていた。そして、その間に割り込む
『野良
ブースター出力
「野良
「……」
近距離は
これで互いに
シザーハンドの薙ぎ払いは屈んで回避可能!
ギョリン!
『レーザーブレードの
継ぎ目を破壊されたシザーハンドがただの鉄塊となってビルの下へと埋もれていく。
『……あ、はい。そうですね。……これで相手
『展開……あぁ!攻撃の直前にブレードを出してましたね!』
『レザブレは展開中燃料を喰うので、展開時間は短い方が理想的です。回復アイテムがあるストーリークエストとはいえ、節約は大事です』
『あ、説明しているうちに倒しましたね!グッジョブ夏目ちゃん!』
「……いい感じ。このままボスまで行く」
「もちろんよ!」
◆◆◆
鉛筆騎士王:モルドちゃんもテレビ慣れしたねぇ。先週はもうそれはコチコチだったのに
カッツォ:宣伝に逃げるそこの鳥頭より優秀だよね
サンラク:悪魔が猫被った上に化粧してるようなお前らとは違うんでな
鉛筆騎士王:次言ったらスクショを瑠美ちゃんに転送する
サンラク:おまっ、きたねぇぞこの
鉛筆騎士王:この?
サンラク:ルストに至ってはJGEから素全開だよな
カッツォ:露骨に逸らしたね……まぁ、ルストはペンシルゴンと同じで物怖じしないタイプだよね
鉛筆騎士王:番組の流れや尺を無視して語り続ける辺りまだまだだけどね
サンラク:素人に求めるライン高すぎねぇか?
カッツォ:戯れは構わないけどそろそろボスだよ
◇◇◇
「えっと……なんとなく分かってたけど、大きすぎないかしら?」
「……
ミサイル……!
右下方へ旋回し、ミサイル同士の間に滑り込む。
『ギガントの装備その1、左肩の遠距離ミサイルランチャーです』
まだギガントまではかなりの距離がある。私の
「……
「全部避けろってことでしょ!」
要するに直撃したら十中八九ゲームオーバーってことでしょ!
どこかの
とにかく一発を堅実に避ける!
「……次、
オッケーチャンスね!!
ここからは中距離武器での攻撃が通るはずね。
今はエネルギー残量は気にしない。とにかく攻撃と前進あるのみ!
「……3WAYレーザー、避けて」
『夏目ちゃんギガントの攻撃を避けながら接近を試みます!ここまでダメージゼロです!』
『あ、ミサイルが来ます』
『至近距離からのホーミング!これは避け』
『易いです。いえ、あれは遠距離のルスト狙いなので』
『あっ、ホントですね!あっさり避けてミサイルは後方へ!』
『次のバラ玉は夏目さん狙いなのできっちり避けたいところです』
『……ボスの攻撃パターンを憶えているんですか?』
『前作ではボスでもパターンは数えるほどだったんですけど、2の動きはほとんど対人レベルです。流石シャンフロシステムです。……とはいえパターンには限界はあるので、ギガントの各部位を注視すれば予備動作からの予測は可能です』
私も同じ質問を控室でルストさんにしたことがある。
曰く「やってればそのうち覚える」らしいが、マイナー含む全装備の予備動作をそらで言えるまでには一体どれだけの経験が必要なのか、
っと、また3WAYね。
流石にそこまでは憶えていないけど、銃口を向けられれば次の攻撃に備えるくらいのことはできる。
銃口の傾きからレーザーの拡散方向を確認して、発射と同時に垂直方向に避け……
「……ホーミング注意」
「え?」
直後、発射されるホーミング弾が
しまった、3WAYレーザーはフェイント……
いや、
ちがう。
これはディレイだ。
爆風と白煙が視界の片隅を遮る。
「……っルストさん!」
「……ホーミング残り7」
「了解!」
見えているのは5発、残り2発は煙の向こうね!
3WAYは……チャージまで目測2秒?
置きレーザーを考慮してルートを再構築、マージンを考慮して……
ええい、とにかく駆け抜けるわよ!
レーザー光が
3WAYを壊すにはあと数発必要だろうけど、もう関係はない。
「やっとここまで来たわよギガント……!!」
レーザーブレード展開!一気に畳み掛ける!
1HIT、2HIT、素手薙ぎ払い、回避
6HIT、回避、そうだゼロ距離レーザー撃ってみよう
7、8……多分17HIT、
遠距離武器でもゼロ距離多段ヒットならそれなりにダメージ出るのね。ブレードの方が効率がいいけれど。
25HIT、ギガントの3WAYが左腕から明らかな異音が鳴り響く。
「もうそろそろ限界でしょ!!!」
エネルギー残量は……
ホーミングは
バラ玉も問題ない。
刀のように振り回される3WAYレーザーの根元を、腕の内側に回り込むように旋回する。攻撃は止めないし止まらない。
……
…………
舞飛ぶ光線が、突如その軌道を変える。
それは腕の動きとはまるで連動しておらず、3次元的に回転しながら私の機衣人《ネフィリム》の横を通り過ぎていった。
3WAYが地上へと落下していくのを音と空気で感じながら、私は視線を、未だ不動のギガントへと向ける。
ギガントが、いやギガントの背中から轟轟と金属の擦れる鈍い音が響く。
ガコン、と何かが開く音。
『ギガントの
『ギガントの
ええ。真正面の私にもようやく見えたわ。
ギガントの上半身が唸りと共に捻上がる。
次の一瞬には
一度距離を取って……
「……ギガントは
「え、ちょっと?!」
もしかして
あわててバックステップした私の眼前を、チェーンソーが通り過ぎる。
……さっきまで当たり判定が大きいだけの
ネフホロ2では多段ヒットの仕様が追加されたことでチェーンソーは高火力武器に化けている。おそらく
背中から伸びた一本腕がチェーンソーの装備部位。右手に見えるけど左右のリーチの差はほぼなし。
バラ弾とホーミングを回避しながら、ギガントの攻撃動作を観察するしかないわね。
動きを観察して隙を探し、そこを突く。シルヴィア相手だと観察する余裕は無いけれど、
とはいえやっぱりあのリーチの長さは厄介なのよね……
近接武器がないから割と楽に倒せるんじゃないかと思っていた私が恥ずかしい。
…………
……ん?
「これ弱くなってない?」
待機から一転攻勢、ギガントの懐、胸部パーツの目の前に滑り込み、ブレードを連打する。
標準型の機衣人《ネフィリム》ならここにコアがあるはずだ。
ギガントの身体が唸る。もう一度チェーンソーが来る。
が
届かない。
そもそも背中から生えた腕で
要点を纏めると
「ギガントは真正面胸元が安置!」
「……正解。……この構成なら」
……
…………
………………
VRマシンから起き上がり一言。
「いや、硬すぎでしょ、あれ」
「えっと、最短ルートは
あぁ、モルドさん落ち着いたのね。笑いだすとスタッフがマイクを切るから状況が分からないのよね。
「もちろん、安置を維持して攻撃するのも、正攻法、です」
「皆さんお疲れ様でした~!いやぁ、流石でしたね夏目ちゃん!」
「……近接の立ち回りのセンスは流石」
「おっとルストさんからも良い評価が出ましたね!夏目ちゃんはどうでしたか?!」
どうでしたか、と聞かれると……そうね。
「うーん。相性に助けられた感じね。体格差も苦じゃなかったし」
「……ギガントが遠距離型だったのは幸運。近接型ギガントだと
「私としても予定時間ギリギリでクリアできたのでひと安心……あっ……いや、仕込みとかじゃないですよ?今のカット……生放送?えへへへへ」
「ルストもお疲れ様」
「……ん。私はここから
スタジオが一度暗闇に満たされ……そしてスタジオのMRがその様相を変える。
「さて!本今日はスペシャル長時間生放送!ご支援ありがとう
映し出されたのは格納庫、そこに鎮座する深紅の
「
5thステージ再戦~7thステージまでは第2回でしたが、尺の都合もあり8~9thステージはネット配信の裏特番として限定配信されました。
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サウスtoウェストonフライドポテト
彼女は知らない。
語り継ぐまでもなく其処に生きる偉業を。
彼女は知らない。
古参プレイヤーの殆どが敢えて避けるその色の意味を。
その深紅の意味を。
彼女は知らない。
さっきMRで映っていた
不安なのは
そうなるとこっちの武器構成は……
◆◆◆
鉛筆騎士王:ルストちゃんって背後が見えるウェザエモンだっけ?
サンラク:後ろの目はモルドがサポートする場合、だな
鉛筆騎士王:ぶっちゃけ勝率は?
サンラク:0:10
カッツオ:根拠は?
サンラク:銀色覆面少女とのダイアグラム
カッツオ:そりゃ0:10だけどさ
サンラク:だろ?
サンラク:まあネフホロは機体を自分で構築する分、相性差はかなりデカいから、構築次第ではあるが
サンラク:ルストの比翼連理はアレだ、流星の速さを得た妖精真拳
鉛筆騎士王:あー、ティンクルピクシーだっけ?
◇◇◇
眼前のスクリーン一面に敗北の2文字が浮かぶ。
ルストさんとの1戦目は一瞬だった。
当たらない。
見失った。
接近を許した。
敗因をざっくり纏めるとこんなところね。
ルストさんの赤い機衣人……比翼連理は確かに近接特化だった。その読みは外れていない。ただ、対策で入れた遠距離装備が尽く躱されてしまった。
次の対戦までのインターバルは10分……生放送だから仕方ないけれど、あまり考える時間もない。とりあえず一度遠距離は捨てて中・近中心でやってみよう。
◇◇◇
「皆さんこんばんは!さっきぶりのエイトちゃんでーすっ!」
「……
「『ネットでエイト』始まりますよ~!ということで早速本題ですが、先程は大変でしたね夏目ちゃん!」
「いや、あそこまで強いとは思わなかったわ」
「あ、視聴者コメント来ましたよ!『9割準備画面は草』まぁ、はい。『夏目ちゃんがんばれ』がんばれ~!『強すぎる……バグかな?』いや、バグじゃ無いですよ~。『久々に比翼連理見た』……これはネフホロ1からのプレイヤーの方ですかね?」
「正直なところ、ルストさんが強すぎて方向性が見えないのよね……」
コメントを見るにやはりルストさんは相当強い……が無敗という訳でも無いらしく、あの比翼連理も敗けたことがあるらしい。
……視界の端に映る『罵って欲しい』は見なかったことにした。
「前回まではストーリークエストを進めて貰いましたが夏目ちゃん!」
「えぇ。今回からは対人戦の練習をしていくわ」
「それでは、これから夏目ちゃんには準備に入って貰います!運が良ければみんなも対戦できるかも?!」
◇◇◇
ネフホロ2にログインし、対戦ロビーに降り立つ。
幾つかの視線がこちらに向けられていることを認識しつつ、そのどれもが
「まぁ、これは仕方ないわね……」
プライベートならともかく
「番組の趣旨としても対戦相手が欲しいのだけれど……」
対戦募集はえっと……
「これでアイコンが出るのね」
……
「あ、対戦よろしいっすか?」
「あ、えっと『ヘリング・ロー』さん、ね。これネット配信の放送なのだけれど問題ないかしら?」
「え?撮影?これテレビ映ってんの?ウェーイwwwあ、えぇ、えぇ、かまいませんっすよ。うん全然放送しちゃって。はい」
なんか微妙に言動が怪しいのだか大丈夫かしら……変な被り物してるし
「あ、これっすか?これは『WMH』っつー旧型の通信機のレプリカっす。視界は普通っすよ」
「そうなのね」
「フィールドはどうするっすか?」
………………
…………
……
「ヘイヘイヘイヘイ!動きが鈍いっすよー!」
なにあの機体!
突然
ホント何なのアレ?!?!
「くっ、右に左にちょこまかと……」
ヘリング・ローの――対戦開始時に出てきた機体名称をそのまま引用するなら――『オピリオネス』は通常の
「それでもプロっすかー???」
わ
「この……待ちなさい!」
くっ、ここからだと狙いが定まらない……
あと少しというところになるとビルの裏に回り込まれる。
「あくまでかくれんぼするって言うなら……こうよ!!」
「なんだっけ
なんでいないのよ!さっきまでこの建物の裏にいたはずよ!!
「
「正義の味方がビル壊していいんですかぁ~??」
「あんたが逃げるのが悪いんでしょうが!!」
この建物でもないのね!!
「おっと失敬、
それはGH:Cの話でしょうが!
「そもそもユグドライアは持ちキャラじゃないのよ!!!」
こうなったらここ一帯更地にしてあげるわ!
「というか、あなた、私のこと知ってて声かけたのね?!」
「そりゃそうっすよ?あれもしかしてご存じない?」
ご存知ないわよ!
「……いない」
「……」
応答はない……見渡す限り瓦礫の山にしたのだけど、流石に埋まったのかしら?だとしたらもう少し降りないと視認は難しいわね。
周囲を警戒しつつ、高度を下げ……
ザリリッ
「え?」
「なっ、どうし……」
続けざまに頭部が破壊され視界がブラックアウトする。
どういうこと?姿が見えないのは光学迷彩で説明がつく。でも、ここは
◇◇◇
「対戦ありがとう……もう一戦お願いしても?」
「構わないけど……」
ヘリング・ローが手をちょいちょいとこまねいて……なに?あぁ、一端CMに入れって?仕方ないわね……
「では、これから……そう、機体の調整をしたら再挑戦させて貰うわ!という事で一端CMー!」
「……アドリブ苦手かよ」
「で、わざわざ配信切った理由は?」
「いやな、てっきりタネ明かしを求められると思ってから」
「それだけ?」
「ほら、JGEでも真っ先に攻略見てただろ?」
「そりゃあ説明書と攻略書は先に呼んでた方が効率いいもの。これは
JGEでシャンフロのWikiなんて見たかしら?
あぁ、そういえば昼休憩の時に……
「……
「………………バレてしまっては仕方がないな!」
「あなたココでも
「まあ、Wiki見てないならむしろ好都合かもな」
「どういうこと?」
「
実際そうだったので否定はできない。
「
「
じゃあなんで出してきたのよ……。
◇◇◇
『ルストを研究してメタを張れ』。カオナシの言いたいことは要約するとそういう意味だったらしい。
「ある意味いつもどおり、ね。問題はセオリー通りじゃ対処できない、ってことだけれど」
その前に顔隠しとの再戦だ。
8脚あった手足には全て接地歩行用で、噴脚や重力浮脚はおろか、飛行用ブースターも見えなかった。
どの脚もブレード系の武装で中・遠距離の武装も無かった。仮に有ったとしても、本体から離れた弾にまで迷彩がかかるとは思えない。
でも確かに、射程圏外の筈のオピリオネスに私の
「また建物の陰に隠れてるわね?」
「どうだろうな?」
…………
……
「今は隠れてないわね?」
「無い陰には隠れられないと思うんだが?」
そうは言うが、やはりオピリオネスは影も形もない。やっぱり「光学迷彩」は確定でしょうね。センサーは確かに
私は確認のために
仕組みはまるで分からないけれど、
「確かにセンサーを見れば居場所はバレバレだものね」
居場所は分かるのだから、絶対届かない上空から弾を撃ち続ければいいだけなのよ。要するに。
「……いた!」
運良く「光学迷彩」ユニットに被弾したのか、オピリオネスが姿を表したが……あれは……
「えぇ……?」
剣、ね。剣が2本、地面に刺さっている。その上にブレードが1本ずつ
ブレードは脚に装備されていて……視線を上にずらすと胴……つまり
「腕か長い……?」
腕自身も伸縮してるの???
手品のタネは分かったけれど、よけいに謎が増したというか……それ歩けるの?そもそも前見えてる?
「動きに馴れてきたくらいの初心者によく刺さるんだよなこれが」
「最初から狙ってたわけね……!」
腕を伸ばして武器を積み重ねてもなお、私の
「ところで知ってたか?「光学迷彩」は『ネフィリムを見えなくする』装備じゃない」
「じゃあなんだって言うのよ」
一斉砲撃!
「『接触しているモノを透明化する』装備さ」
瞬間、目の前で光が爆ぜた。
視界がブラックアウトする。メインカメラをやられたのね。
衝撃と立ち眩みで落下して……落下?
「あ、ちょっとまって?!どっちが上?!」
射程圏内に
◇◇◇
「……「光学迷彩」爆弾?」
ふと言葉に出てしまった一言は、多分正解なのだと思う。
結局あのあと、ロビーに戻ると対戦希望者の列ができていて、
だからこそ今こうして、
「光学迷彩」は
「
最後の対戦、オピリオネスの頭部が忽然と消えていた。
――ところで知ってたか?「光学迷彩」は『ネフィリムを見えなくする』装備じゃない――
――『接触しているモノを透明化する』装備さ――
光学迷彩と爆弾を装備した頭部を
相手の攻撃に併せてやれば、光学迷彩が破損したと勘違いさせられる。油断して砲撃しようとしたところに、投げた爆弾がズドン。
「よく考えるわね……」
世間的な評価は分からないけれど、『パフォーマンス用の自爆装置』だと思っていた爆弾をこんな風に使うなんて……どうかしている。
「でも、そのおかしなヤツに負けたのも事実なのよね」
Wikiに伸びそうな手をポテトに進路変更。ここのは美味しいのだけど、なんとなくケチャップを付けたくなる。
「んー。残り少ないわね。今度買い足さないと」
対ルストさん対策はまた録画を見るとして……
「まずは打倒
そう心に決めて、私はスマホを開い……あ、ケチャップついた。
『WMH』の正式名称は『
んー、こんな長編にするつもりは無かったのだけれど、なぜ?
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万全を期して休養に走る
①番組企画でネフホロ2をやる夏目ちゃん
②無事ストーリークリアし、ルストと対戦することになった
③次回までになんとか対策しないと!
「対人ランク最近1位……1位保持期間1位……累計勝率1位……過去作ランク1位……『過去作での使用
テレビ局とブラックドール社からWiki等の使用が許可された(どうも初見プレイはストーリーモードだけの話だったらしい)のでルストさんについて調べているが、本当にこの人アマチュア?という情報ばかり出てくる。
過去作は操作難度のせいで過疎化状態だったらしいが、それでも、いやだからこそ、それを乗り越えたプレイヤーの中で無敗を続けたことは偉業だろう。
「フィドラークラブ構築……なにこれ隠密と奇襲の塊じゃないの」
ただ、その隠密奇襲が
「これをそのまま、ってのは番組としては無しよね……」
プライベートならいざ知らず、ゲームを紹介する番組でやることではないだろう。
「とは言え、
あちらもプロではないが、昨日の
「うーん……………………」
チーン
あ、フレンチフライ。
このメーカーのはサワークリームを出さなきゃ……
◇◇◇
どうにも考えが煮詰まらないので息抜きにシャンフロをさわることにした。
言っておきたいのは、これは行き詰まって逃げたのではなく、あくまで気分転換だということ。
そもそもネフホロ2の演算システムは通称シャンフロシステムと言われる通り、GH:Cやもちろんシャンフロとほとんど同じ。つまりシャンフロをやることで、ネフホロとGH:C両方の肩慣らしが出来るのよ。
「まさに一石二鳥、ってね」
「……やっぱり無いとダメね。チェストリア」
インベントリの所持制限を実質取り払うという、アイテムを大量に保持する必要がある錬金術師にとって、必須級のアイテム。
『おかえりなさいペッパー・カルダモン』
「第四階層まで行くわ」
ベヒーモスに乗り込んで
「……筍狩り、だったわね」
『よく憶えていましたねペッパー・カルダモン。ですが折角ですから復習しましょう。この階層の突破条件はフィールドに存在する「カンムリタケノコ」を私の元へ持ってくることです』
ライブラリの攻略情報のおかげで第一、第二階層はソロでもクリアできた。一方で第三階層と第四階層は「モンスター討伐」という目的も相まって、パーティープレイが要求される。
ギルドに所属していない私は必然的に野良パーティーを募集することになるのだけれど……
「パーティー募集の方ですね?」
ここには
「ええ。ジョブは錬金術師でサブ剣士よ」
「これから
問いとともに送られてきた申請に「はい」を返し、4人パーティーが完成した。
元々予定していたパーティーに割り込んだ形。ライブラリなので他メンバー同士は連携はできると見込んで良いでしょう。
…………
……
「……」
私は何をしているのだろう。
「見たところ6体はいそうですね」
「……8体じゃないか?ほら、あっち」
「ああ、本当だ」
騎士と聖職者を横目に、下を見下ろせば忍者。
今私たちは樹の枝に立っている。
歩行音と振動を抑制する「
そして、接敵しても【
「うん、そこ、足元」
ジェスチャーを受けた忍聖が足元にエフェクトのかかった大太刀を突き刺し……
ドン
ドカカカカカカカ……ン
…………
「ごめん。ダメだった」
「アイテムは?」
「見えた範囲は」
忍者の拾ってきたアイテムは先ほどまでと同じ「爆泳魚の堀地鰭」と「爆泳魚の礫鱗」。
ライブラリの見立てでは爆発特性に関わるレアドロップがある筈……なのだが、入手報告が全くない……らしい。
「やはり、爆発させずに倒さないとダメなんでしょうね」
「ただ、即死火力を当てるんじゃダメなんだよな」
「攻撃から体力0までの
「……自爆そのものを止めるのは?……」
「……拘束魔法はどうだろう?」
「……あれは厳密には行動を封じる訳じゃないから……」
「……例えば麻痺系毒やスタン系の魔法とか……」
「次はそれで……」
回収したアイテムを手渡された
「作れるアイテムは変わらず……爆弾と耐爆ポーションね……」
レアドロップが無くても爆発系アイテムが作れるのは、
「爆発範囲も耐性もほぼ変わらず……ね」
使用アイテム数を増やしても性能が大きくは変わらない……と言うことは、ライブラリの見立て通りレアアイテムがないと上位版アイテムは作れないのだろう。
…………あれ?
「……ちょっといいかしら?」
「はい。どうしました?カルダモンさん」
「「
あっ。という擬音が聞こえそうな表情が3つ。
これは完全に忘れられてたわね……。
「そうでしたね。すみません。議論検証に集中し過ぎるのは私たちの悪いクセですね。こちらはまだかかりますから、先に狩りに行きましょう」
「カンムリタケノコはドミネイト・グリズリーという熊のようなモンスターの頭に生えているタケノコになります」
「Wikiで見たわ」
「なら基本行動については問題なさそうですね」
「まだ検証段階ですが、ドミ……長いので竹熊としましょう。竹熊の移動ルートはおおよそ推測できています」
そういうのは『検証中』項目としてWikiに載せてもいいと思うのだけど、そこはポリシーなのかしらね。
「……っと、いましたよ」
◇◇◇
「詰めますよ!」
掛け声に合わせて前衛が一斉に溜めモーションに入る。
ドミネイト・グリズリーの外殼は既にひび割れ、パンダのような造形ももう見られない。
それでも、ドミネイト・グリズリーは咆哮を上げ、腕を挙げる。
「「ブルズアイ・スロー」!」
「【エンチャント:ヴァー・ミリオン】!」
「
「「覇山鳴動」!」
よしっ!怯んだ!
「【エンチャ……っ!!」
「カルダモンさん!爆泳魚来てます!」
リキャスト!間に合うわけない!
「伊達に投げ続けてないのよ……!」
「ありがとうございます!……【エンチャント:フレイザード】!」
さっきの連係でドミネイト・グリズリーはあと一押し、なら私は爆泳魚に徹するのみ!
とはいっても
「これ以上来られると投擲じゃ間に合わない」
私の腕は2本しかないのよ!
「どうする?使う?というか使える?」
2体、3体爆破。残る敵影は……たくさん。
「セスナさん、
回答は詠唱によって返される。
それを確認して、私は踊る。
いくわよ。エグゾーディナリースキル、「
地雷源でタップダンスなんて正気じゃないと普段なら思うけれど、ここはシャンフロ。ケイオスシティじゃない。
「『生態系を再現した』からには
踏みしめる足が大地を揺らし、呼び起こされた
幻覚を得た熊は虚空へと腕を振り回す。
幻覚を得た魚は……一斉に起爆した。
「え、これ攻撃判定なの?!」
酔って動かなくなる予定だったんだけど?!
「いえ、爆泳魚の自爆は攻撃を受けた際の反射行動ではなく、どちらかといえば種子を遠くへ飛ばそうとする植物のような、子孫を多く残そうとするための行動のようでして……」
「個人的には今使ってたスキルの方が」
「はいはい。説明も質問も後回し!次が来る前にドミネイト・グリズリーを倒すよ!」
あぁもう、よく分からないけど今は動くしかないわね!
やってて良かった
ラウンド中常に
タップ、タップ、タップ、
直剣用意、ヨシ!射程距離、範囲内突入!
喰らいなさい渾身の回転上段斬り!
ドシッ
バファッ
「カルダモンさん?!」
「サブ剣士って言ったでしょ!」
とはいえバフ無しじゃ火力が
「なら纏めて掛けますよ!【エンチャント:ハイストレングス】!」
新しい
「「兜割り」!」
「「覇山鳴動」!」
「【獣爪乱華】!」
◇◇◇
『はい。確かにカンムリタケノコですね』
「ありがとう。お蔭で次に進めるわ」
「いえいえ。こちらこそ
『進む子と留まる子、我が子も様々ですね……彼女は快く思わないでしょうが、私は歓迎しましょう』
Wikiによると次の階層は……
…………
……
『素晴らしい働きです、我が子よ。第六階層へと転送しましょう』
「お願いするわ」
「アイテム補給は……次の階層には要らないわね」
なんたって
狙うはただ1つ。
…………
……
「え?売ってない???」
「私たちも散々探したんですけどね、どうも
◇◇◇◇◇
「……どうしたものか」
あ、マスター、ポテト追加で。
「無限インベントリはリヴァイアサンにしかない、と」
リヴァイアサンは新大陸にある。
新大陸へはリアルに数日かかる船旅が必要。
そこからリヴァイアサンを攻略して、スコアを稼いで、チェストリアを探して、
王国の戦争イベントはもうすぐそこだから……
「間に合わないわよね……うーん」
売ってもらうか、諦めて
ズゴゴッ
考えながら飲んでいたら、
マスター!これおかわりね!
「あれ?お姉さんどうしたの?
やけに顔の整った男性――VRでは珍しくもない――はそのまま隣の席に座る。
え?なに?この人?
「あぁ、
そう言い指差した先に書かれていたのは、あるプレイヤーネームだった。
『アーサー・ペンシルゴン』
名前を見たのを確認し、男は笑みを浮かべた。
「1つ、耳寄りな話があるんだよねー」
踊らないとゲージが溜まらない、踊らないと技が出ない、踊りを止めると硬直が発生する、とことん踊ることに焦点を当てた格闘ゲーム。
キャラクターはそれぞれが異なる舞踏モチーフの鎧を纏っており、日本舞踊の場合はまんま鎧武者。
見た目に反した摺り足と緩慢な動きと、そこから一転して強打を放つカウンタースタイルが主流。
キャラクターごとに舞踏の種類が決まっている以外は一切制約がなく、リズム感や踊りの美しさが勝敗に一切関係しないため、音ゲーやダンスゲーが苦手な人でも気軽に楽しめるゲーム、と評される。
もっとも、踊るゲームとしては対戦部分が余計で、格闘ゲームとしてはダンス部分が難点、と需要に微妙に嚙み合っていないためか、それぞれのゲーム内では『珍品』もしくは『意欲作』に分類されている。
※作品単体の評価は比較的高い準良作。
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マインスタイル
真紅の不死鳥が天を駆ける。
右へ左へ、などという二次元のレベルではない。
上下左右前後、XYZ軸、動きの一切予測できない高速三次元挙動。
研究し、見慣れた筈の挙動が、瞬く間に変わっていく。
眼前の比翼連理に、私ができることはもう、1つしかない。
この機体を信じる。
そして不死鳥を倒す!
◆◆◆
正直に言えば、高速の三次元挙動というだけなら、私にも心当たりが大いにある。
ただそれはあくまで数多の直線の組み合わせだった。かつ、足場を要するために、その組み合わせには上限があった(あるはずだ)。
これには上限がない。
加えて、私はその有限の組み合わせにも勝てたためしがない。
いや、
しかし、その
ただ、比翼連理の三次元挙動がおおよそ無限のパターンを持つというのであれば、対する私の
現に
そしてそれは、
ゲーム性は私に味方している。つまり今、私がまずやることは
「……
そのためには熱々のフライドポテトとコーラよね!
(冷たいポテトも美味しいわよ?)
◆◆◆
恵:ということで、
慧:あー、まぁ速さに慣れたいっていうのは分かるけど……シルヴィアは?よくGH:Cで対戦してるよね?
恵:とっくにやってもらったわよ。ただ、こう、速さの
恵:それこそネフホロ版ミーティアスみたいな動きなの。贅沢な文句なのはわかってるわ。
慧:つまり、仮想ルストにはならないから顔隠しはどうか、ってことね。
慧:たしかにあいつならそれなりに再現出来るかも。
慧:でもそれなら直接アポ取ればよくない?シャンフロの
恵:目撃情報が錯綜しすぎてて捕まらないのよ。察して。
慧:あぁ、フレ登録してないのか……。
慧:分かった。連絡しとく。
恵:ありがとう。助かるわ。
◆◆◆
サンラク:そこの魚類じゃ相手にならないと聞いて
カッツオ:それもしかして喧嘩売ってる?
サンラク:ロボゲー苦手なのは事実だろ。
サンラク:京極には負けるね。
カッツオ:
カルダモン:……本題に入って良いかしら?
サンラク:要するに
カッツオ:サンラクならできるでしょ?ほら、なんだっけ。炭酸入りの造花みたいな名前の……
サンラク:
カルダモン:シャンフロとか
サンラク:まあできなくはないが……
カッツオ:なにかあるの?
サンラク:ユニークが控えてるんでな
カッツオ:甘いねサンラク。僕はもうレイドに生きると決めたんだ。
サンラク:で、本音は?
カッツオ:後でペンシルゴンにチクる。
カルダモン:……ねえ、
サンラク:まあ四六時中ってわけでもないしな……
◆◆◆
『さぁ始まりました!夏目ちゃんはいったいどんな機体でルストさんに挑むのでしょうか!』
『本日はメグちゃんの所属する爆薬分隊から、魚臣慧さんにお越しいただきました!』
『どうも、魚臣です。こうして出演させていただくのは、
『……ソウデスネ』
『あっ、出しちゃいけない話題だったかな?えーとモルド
『……あ、ええと、初心者は完全に脱してます。カ……魚臣さんはネフホロをやられたことは?』
『1の頃に数回ほどやりました。ただ、ロボゲーは肌に合わなくて……今の
『……あれは初心者はかなり苦戦します。ただ、ネフホロ2は操作性がかなり良くなってるので、カ……魚臣さんもできるようになると思います』
『あ、カンペ助かります。今回はネフホロ2でも特に広いステージをメグが選んだ、と』
『緋翼連理は近距離機体なので、接近に時間のかかる大型マップを選ぶのはベターです。ただ、その割にはメグさんのネフィリムに遠距離武器が見当たらないのは不思議です』
『あっ、そうですよね!遠距離なら一方的に攻撃できますもんね!』
『メグがそこら辺気付いてない筈はないけど……』
『そうこうしているうちにルストさんが視界に入ってきました!』
『え?!早くない?今広域マップって言ったとこだよ?』
『緋翼連理はかなり機動力の高いカスタムなので……普通のネフィリムなら倍以上かかります』
『お、メグもルストを視認しました!中距離砲で迎撃してますが、これは当たらない』
『ルストさんは本当に被弾しないですよね。なんて言う間にぐんぐん距離を詰めていきます!』
◇◇◇
分かってはいたけど、当たらないわね。
今日は真剣勝負のため、スタジオの声はこちらに入らないようになっている。
けど、今頃当たらない、って言われてるんでしょうね。
「でもこれは想定内……!」
過去の対戦動画とストーリーモード、前回の試闘、そして実績。こうなるのは目に見えてた。
だからこそ、
いくわよP-CORN!
◆◆◆
『これは恐らく、なんですけど』
『はい?』
『メグは「当たらない前提で」広域マップを選択したんじゃないかな』
『えっと?』
『……
『
『可能性はありますけど……それらしい装備があの機体には見当たらないです。ほかには……あれ?』
『モルドさんなにか?』
『エイトちゃん、気付かない?ほら、メグの回りに』
◇◇◇
……これは気付かれたわね。
急接近してきたルストさんが、接近軌道を直線から旋回に変えた瞬間、そう感じた。
牽制とまぐれ当たり、そして
「……珍しい装備」
その当のルストさんから通話が通る。
「
◆◆◆
『初めて聞く装備ですね。よく見えませんけど……?』
『
『ルストはこれを察知して接近をやめたわけだね』
『
『メグちゃんの作戦としては、爆弾で距離を取らせつつ中距離から攻撃ですか?』
◆◆◆
「
メグがそう言ったとき、モルドが一瞬目線を逸らしたのを僕は見逃さなかった……が、指摘することでもない。
エイトちゃんが気付いてないならこのままで良いだろう。
その方が多分、番組としては
◇◇◇
正確には使っている人がいないわけではないが、レーダーで感知可能ゆえにほとんど初心者しか引っ掛からない地雷、というのが、Wikiでのこの武器の評価だった。
その点、
どちらの索敵にも引っ掛かる
ルストといえども、迂闊にこの機雷ゾーンには突入できな……
「!!」
突っ込んで来た!なんであの数の地雷を避けれるのよ?!
「
そう来るならこっちにも考えがあるわ、ルストの移動先を予測して任意起爆を……
「……遅い」
幾らなんでも軌道が複雑すぎる!
あんなのどうやって予測しろって言うのよ!
爆風をことごとく躱した緋翼連理が私の眼前に現れる。
やっぱり遠距離なんて性に合わないってことね!
◆◆◆
『ここでメグちゃん、両拳を構えた!』
『僕と同じく、専門は格ゲーですからね、あれが結局は一番馴染むんでしょう』
『ですがメグちゃん、押されています!』
『……設置型武器を
ルストの機体が速度偏重なのもあって、後手後手になっているのは、素人目でも分かることだろう。
『あーっと!体勢を崩した!ルストさん見逃さず追撃!』
三度の轟音と同時に、スタジオが白く染まる。
『……』
『…え?』
『……あ、大丈夫ですよ~。スタジオで火事はありません!』
『いや、流石に分かるよエイトちゃん』
『そ、そうです?……あ、見えてきました!』
ARによって投影されていたスモークが晴れていく。
そこに映るのは、
『あーっと!ルストさん右手がない!メグちゃんはダメージはあるようですが両手完備!』
◇◇◇
損傷は……まだ許容内ね。左腕部は次やったら流石に危ないか。
でもそれだけの価値はあったわ。緋翼連理を片腕にできたのはかなり大きい。
再び接近を仕掛ける緋翼連理にカウンターを合わせにい……きたいけどまだ。今ではない。
引き付けて、引き付けて、……ここにカウンター!
「……っ!」
お互いの攻撃が空振る。
「……
幾つか設置済みを爆破しないと、右は使えない。設置可能上限だ。
「お互い片手ならなんとかなるって算段かしら?」
そうはさせるか!
任意起爆!遠方3基!
リロードまで3秒、
「……よそ見厳禁」
爆音と爆煙に、視線が逸れた一瞬。
その一瞬で、ルストは確実に私の懐に潜れる。だから
再びの破裂音と爆煙
「敢えての先行自爆ってわけよ!!」
爆発の衝撃で、実際のダメージ以上に私の
「……逃がさない」
「いいえ逃げるわ!」
私の設置した機雷は元々、相互に干渉しないよう配置していた。でも、ここまでの戦闘と、何より
位置ズレを起こした機雷は誘爆する!
「当たれば上等!ダメでも煙幕ってね!」
「……煙幕は」
黒煙の雲から飛び出た影が迷うことなくこちらを見据えて旋回する。
「
当然見えないうちに機雷は増やしてあるわ!
起爆、起爆、起ば……全然当たんない!!!
この人ホントどういう軌道してるの?!右腕を損壊してバランスなんて最悪の……
違う!
そうだ!
《……まあ言ってしまうと、》
《あのルストを1番簡単(?)に倒す方法は、初見殺しだ》
《そして、次点は……》
瞬く間に超接近した緋翼連理の、左腕の一撃に、同じく左腕でカウンターを合わせる。
速度が足りない
私の拳が胴に届く前に、私の左腕が溶断される。
いや、これでいい。
起爆タイミングは
◆◆◆
『またしても大きな爆発!ルストさんとメグちゃん、完全に白煙に呑まれました!』
『放送としてはどうかと思うけど、勝ちに拘ってるのは良いことかな』
『爆発の直前、メグちゃんの左腕が壊されましたね、どう見ますか?』
『……
『この場合、設置済みの機雷はどうなるの?』
『消失せず、残ったままになります。起爆指令は恐らくヘッドにもオプション搭載してるでしょうから、起爆もできるでしょうけど……』
『まあルストなら既存の起爆の位置は把握仕切ってるだろうね』
『はい。なのでほとんど使えな……あ、スモークが晴れます』
◇◇◇
やった、やった!
燻ったソレの晴れた先、見える緋翼連理には
あの機体の不規則かつ柔軟性の高い移動力は、半分はあの背中のブースターによるものと言っていいはず。
「……ブースター損壊確認」
その呟きと共に、緋翼連理が加速する。
来る!!
先ほどと同じ、左腕のブレードによる攻撃、に右腕を被せる!!
起爆!!
距離を取った緋翼連理には、確かにダメージが見える。被せるように打った中距離用エネルギー弾は……当たらない。
ならこちらは待ちの姿勢を取らざるを得ない。
エネルギーを節約しつつ……いや、緋翼連理は移動にエネルギーを割いた高燃費機体、節約せずとも相手の方が先にエネルギー切れになる!
再び迫り来る緋翼連理に、僅かに軸をずらし……合わせて来たところにパンチ!
ブレードでのカウンターはさせない!起爆!!
パンチの軌道上、拳が通りすぎ、肘と重なる位置での起爆により、ダメージと引き換えに拳は加速する!
ゴガン!という音と共に、緋翼連理が弾き飛ばされる。
「よし!」
これ連発はできないわね。カウンター重点……!
◆◆◆
『これで
画面の向こう、Na2megの乗る機衣人の拳が、緋翼連理の胴を打ち抜いた。
「おいおい……マジかよ……」
練習に付き合った身として言うのはなんだが、正直9:1でルスト有利だと思っていた。
現に序盤は速度に翻弄されていたし、カウンターで緋翼連理の片腕を取ったあの場面も、最適手では無かったと思う。
「そういや特訓でもやけに直線の軌道には強かったな」
ブースターをもいだ後から、カウンターの精度が格段に上がっていった。
ネフホロ1からの再現機体とはいえ、ルストを倒したことは純粋に称賛すべきだろう。それも
もしや緋翼連理の天敵は鈍足……!
まあそれはないな。
取り敢えず祝砲は送っておくか。
◇◇◇
……サンラクからだ。
メグが勝利した直後に差し込まれた短いCMの間にメッセージが来ていることに気付いた。
因みにCMは対戦後に高揚したルストが長々と話すと尺がおかしくなるためその対策らしい。
受信はつい先程、まあアイツも練習手伝って貰ってたし、放送を観ているんだろう。
まあ内容はおめでとうとかそんなところだろうし、ちゃちゃっと読んで……
…………
「ケイさん、どうしました?」
「ん、いや?CMそろそろ終わる感じ?」
「はい。あと10秒程で……だいぶ顔をしかめてましたけど……」
「ああ、大丈夫、もう始まるね」
そこまで言うならロボも乗りこなしてやるよ。後でメグにコツとか聞こう。
よし、切り替え完了。
…………
「メグちゃんおめでとうございます!ルストさんは対戦して如何でしたか?」
「はい。機体の構成としては……」
この後ルストの長文コメント(CM中語りとの内容被り無し)により尺は押しに押した。
後日、CM中語りを含めたルストコメント集が番組公式からアップロードされた。
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赤く赫く蝶にむけて
私が目覚めたのは、ベヒーモスの休憩所。
「期限は、っと、まだ余裕あるわね」
アーサー・ペンシルゴンからの依頼――
「あれ、カルダモンさん?」
「あぁ、セスナさん。今日も爆泳魚の調査?」
「メンバーが今日は来れないので、図書館で文献漁りの予定です。カルダモンさんは?」
「材料集めにソロで爆泳魚を狩るつもり」
「そうでしたか。ドミネイト・グリズリーにはお気をつけて」
◇◇◇
「ペンシルゴンさん」
「いらっしゃい。
「なんとか用意できたけど、こんなに何に使うのよ」
「んー、ナイショ」
「まあこっちも懐が潤うからいいけど」
「そういうさっぱりしたところ、好きだよ」
譲渡……ではなく、プレイヤー間での売買処理が行われる。
「強いて言うなら『相手に使わせないため』かな?」
まあ確かに、これだけ高値を出されたら、大抵の生産職はアーサー・ペンシルゴンもといサードレマ、旧国王側に持ってくるだろう。
「でも、それなら……まあいいわ」
「あと、カルダモンちゃんには特別に教えてあげるけど、」
なにかしら
「カッツオくんは初日から
「そ、そうなのね」
なんで私とカッツオの間柄を知ってるのよ
喉元まで出かけた言葉を呑み込んで、部屋を後にする。
◆◆◆
――やっほー。例のブツ、確保したよー
夏目ちゃんが部屋を出たのを確認して、一報を送る。
「これで
――やあやあ同士諸君。首尾よく進んでいるかな?
――侵食率50%であります!
――G班が
――既に応援を手配しております!
――b。さっすが~
――P班ははまもなく完遂予定。
――よろしい。
――ただ、L班によると効果は予定より下がるとのこと。
――L班説明して。
――【報告】
…………
……
「おおよそ問題はなさそうかな?」
あとは
「ま、なんとかなるっしょ」
◇◇◇
レイドボス、か。
ケイに直接訊いてもいいけど、折角なら独自に集めたいわね。
ログアウトしてWikiを開く。
この環境ですらロードに時間がかかる。一般のプレイヤーはまともに見えてるのかしら?
「……
ポテトと今日はこの後もう少しやりたいので珈琲を片手に、ようやく
「……あんまり情報無いわね」
出現位置、確認されている攻撃パターン、……普段は待機状態なのね。
「……」
ポテトが無くなった。
◇◇◇
「セスナさん」
「……あ、カルダモンさん!どうされたんです?」
体重を気にせず、食べる感覚だけ味わえるのはフルダイブVRの旨味よね。まあ、
「ちょっと訊きたいことがあってね」
「なんでしょうか」
「
「ライブラリに対して『詳しいか』ですか」
ちょっと待っていてください、と。
席を外して数分。戻ってきたのはセスナさんと、別のプレイヤー……おそらくライブラリの人ね。
「ちょっと待ってよ。セートさん」
セートと呼ばれたその人には先客が居たらしく、顔を向ければ3人分のプレイヤーネー、ム……が……
「あれ?ペッパーじゃん、どうしたの?」
「オイカッツオこそ」
うーん。こっそり情報を集めるつもりだったのだけど……まあ言わなければレイドモンスターを追ってる事はバレないわよね?
「僕はレイドモンスターのことで相談に、ね」
タイミングが完全に被ってしまった、と。
取り敢えず、アーサー・ペンシルゴンの情報が、正しかったことは分かったわね。
「オイカッツオさん、ですか。奇遇ですね。カルダモンさんもなんですよ。なんでも
あ、セスナさんそれは秘密――
「……ペンシルゴンから聞いたの?」
「その通りよ」
「そうか。まあペンシルゴンは後で絞めるとして、ペッパーも協力ってことでいいの?」
「もちろん。じゃなきゃ来ないわよ」
バレたなら予定変更。がっつり一緒に対策会議でもしましょうよ。
「あの、そろそろよろしいですか?」
あ、すみませんセートさん。どうぞどうぞ。
「では先ほどまでオイカッツオさんにお伝えしていた情報の要約からですが……」
◇◇◇
「あー、疲れたーー!!」
セートさん丁寧だし分かりやすいけど話がなっがい!!
でもこれでケイと会う約束が1つ増えたわね!
取り敢えず貰った情報まとめて……まだポテトあったかしら。
「ディップソースが欲しい気分ね」
ケチャップ、バーベキュー、本場風にカムバック……
ハニーマスタードにしよう。
とはいえ、だ。
どうやらケイは
特に錬金術士はそこまで火力のあるジョブでもない。選択肢を増やしてサポートの幅を広げる方がいいかもしれないわね。
「そうなると調達元かぁ」
あ、ポテト切らしてたんだった。
冷蔵庫にも冷凍庫にもポテトがない。
「仕方ない、外食ついでに買いに行くか……」
◆◆◆
「あれ、メグがいる」
セートなるプレイヤーから説明を受けたのがつい先ほど。
情報の整理も兼ねてジョギングに、とログアウトしたのだけど、まさかまた会うとは。
「いらっしゃいませー」
声を掛けようと思ったんだけど……いや、僕も入れば良いのか。小腹も丁度空いているし。
「やあメグ」
「えっ、ケイ?!なんでここに?」
「ジョギングしてたら小腹が空いてね。メグは?」
「私も小腹が空いたのよ」
何にするかな……うん。コーラとハンバーガー下さい。
「メグは?」
「コーラとポテトのXXL……なによ?2人でつまめばいいでしょ?」
「はいはい」
「あとコーラとWチーズバーガーセット1つネ」
「はいはい。えー、すみませんコーラ3つとハンバーガー、ポテトXXLにWチーズバーガーセット下さい」
それぞれの注文品を
「いや待って。なんでいるのさシルヴィア?」
「ココ、私のテイバン、オキマリの店ネ!」
日本に休暇に来て1番馴染みの店がハンバーガーチェーン、というのは、文化的にも健康的にも気になるところだけど……
「人のこと言えないか」
「?」
結局日本料理とか中華料理屋に帰結するんだよね。長期の海外遠征。
「そう言えばシルヴィア、
「OK」
「そっか。ありがとう」
快諾って感じでは無さそうだけど、取り敢えず我らが魔王の機嫌は損ねなくて済みそうだ。
別に機嫌を取りたいわけではないが、最近サンラクのせいでヤバそうなんだよなぁ。君子危うきに近寄らず、だよ。
僕らは君子じゃないから危うきに近寄るし道理ごと蹴っ飛ばすこともあるけど、それはそれ、これはこれ。今回はサンラクにはデコイになって貰うと決めているんだ。
「まあそういうわけで、シルヴィアは期間中別行動だから、レイドはよろしく頼むよメグ」
「任せて」
頼もしい限りで。レイドモンスターはどうも基本的に人海戦術ありきな気がするし、出来る人間は多いに越したことはないだろう。
「それともう1つ、
「えっ?」
「2人1組でプレイできるゲームでね。できれば
煽られるがままそれで約束してしまったので、誰かしら誘わなければいけない、というのは黙っておこう。
「ケーイー。それワタシもやる!」
「いや、シルヴィアはダメでしょ」
「Why?!」
「今テレビ出たら、またマネージャーに怒られるだろ。それに……」
「それに?」
「ARは現実の体格でやるわけだからね。身長差がありすぎて多分できない」
「そういうのって、ゲーム側で対応してないの?」
メグの言うとおり、あるにはあるんだけど……
「
「むー」
「ああ、それはキツいわね」
納得いただけたようで。
「で、メグはどう?日程この辺りなんだけど」
「そこなら余裕で空いてるわ」
「オッケー。じゃあ連絡しとく」
「ところで、なんてゲームなの?」
「言ってなかったっけ?『スクラップガンマン』だよ」
結局ポテトは全部自分で食べた。
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屑鉄の街
屑鉄の案山子
「メグ!そっち1体行った!」
「了解!」
迫り来るソレに放った弾丸が空を切る。
――あぁ、もうなんで当たらないのよ!
「残弾は?」
「もう分かんない!とにかく節約するわ!」
グローブを装着した手に屑鉄を掴み、同じく屑鉄で構成された
流石に素手ではろくなダメージにならないどころか、自傷判定になってしまうが、こうして間接的に殴るのは有効だ。
◇◇◇
1時間ほど前。
「……番組収録?」
ケイと私は顔を見合わせていた。
「えっと……聞いてないのだけど?」
「いやいや、メグ、僕もそうだってば」
スクラップ・ガンマンの大会前に、練習をしよう、という話だった筈なのだけれど……
ゲスト枠とは言え参加する以上、未プレイはまずいということは分かるから快諾はした。こちらとしても初心者丸出しの動きは格好悪いし、別ジャンルとは言えゲームのプロとしてよくない。
複合ARという関係上、できる場所は限られているので、オープンなレジャーランド内の施設での練習になるのも仕方ない。
「フルダイブVRに否定的なお年寄りや自然主義者には、実際に体を動かすARゲームの方がウケがいいらしくてね。
と弁明するのはスクラップ・ガンマンの開発元、スワローネストの社長、津羽目風矢。
「今ディレクターと話してきたよ。うちのゲームも撮るけど、あくまでレジャーランドの宣伝だから、一般利用者として、30秒画面に映るかどうかくらいだって」
「……マネージャーに確認してみます。まあ、その程度なら多分大丈夫かな」
ケイと2人で練習に来ること自体は通っている話なので、あとはギャラ関連で揉めるかどうか、なのだけれど……
◇◇◇
結果としては問題はなかった。
ケイのことも私のことも、番組内では一切言及しないという約束のもと、練習プレイが始まる。
代わり――もなにも、そもそも元から予定など無かったのだけれど――に制作会社代表として津羽目社長へのインタビューを挟む運びになったようだ。
「一番奥のルームが貸しきりにしてあるから、二人は気にせず練習しててよ。」
スクラップガンマンの文字を掲げた建物の1番奥――ARゲームというのは現実の空間を使って遊ぶものだ。その上でフィールドを駆け回ることを想定したこのゲームは、さらに広い空間を必要とする。
「こうやって見ると贅沢なゲームだよね。ARってさ」
「どう考えても一般家庭には置けないわよね」
それこそ大きな部屋1つ……戸建なら建物の階1つをゲーム専用にするくらいの覚悟がないと、スクラップガンマンは遊べないだろう。
「ゲームセンターにも多分無理だろうね。設定でプレイエリアの広さとか変えれるんだろうけど……広い方が楽しめるタイプでしょ?これ」
AR空間を視るためのゴーグルとプロテクター、それとこのゲーム専用らしいグローブと拳銃のようなアイテムを装着する。
ゴーグルを現実視からARモードにに切り替えれば、装備の見た目がゲームのそれに上書きされる。
「ARゴーグルって結構軽いのね。メガネくらい?」
「あまりメガネは着けないから分からないけど……これを着けて走り回るわけだからね。軽くないと困るでしょ」
「確かに。ゴーグルタイプのVRはもっと重いなと思ったけど、あっちは寝た状態でやるものね」
ゲームモードを選択
――デュオプレイ
プレイヤー種別を選択
――大人2名
難易度を選択
――
「難易度はどうするの?」
「んー。僕は一回だけやったことあるけど、メグははじめてだよね。ノーマルで行こうか」
「イージーって言ったらぶっ飛ばすところだったわ」
――ノーマル
チュートリアルステージを開始しますか?
――はい
◇◇◇
「……明日筋肉痛かも」
「ほどほどにね」
「でも動きは大体分かったわ。ステージに行きましょう」
「そうだね。あとは実戦練習ってことで」
チュートリアルを終了しますか?
――はい
――ミッション1――
「いきなり市街地戦か」
「障害物が多くてやりにくいわね」
………………
…………
……
――ミッション6――
「ここまでやって分かったことがある」
「なに?」
「このゲーム、障害物が多い方が楽かも」
「……そうかも。こう、リアルのスタミナを使うから……」
岩場の陰、現実にはブロックの上にARが重ねられているそこに、背中をあずけ、一息つく。
「隠れる場所が無いと思ったより辛いね」
というケイも、私の息もだいぶ粗くなっている。
「私、これ終わったら……ケイ!後ろ!」
スクラッド!もう来たのね!
障害物、というか平坦なステージだと、とにかくスクラッドの速度と密度が高い。
ここで私たちも移動が大変になる……のはフルダイブVRの話。
ここは現実空間で映像と実際の地形は合致しない。
大きな障害物や段差はこのレジャーランド側の設備である程度再現されるのだけれど、もっと細かい、例えば砂利道なんかは、現実には存在していないわけで。
「走り回るゲーム性なのに悪路の方が戦いやすい、ってのは感覚が変になりそうね」
スクラッドは路面の設定を忠実に受けるため、相対的にプレイヤーの機動力が上がる。
「考えてるとこ悪いけど、そっちにも来てるよ!メグ!」
……ととっ。
振り向き様に1発、脚を止めたところでヘッドショット。
「相当良くなったんじゃない?命中率!」
「流石に5面もやればね!」
「次来るよ!」
………………
…………
……
GAME OVER
「このゲーム、弾の節約というか、相当シビアじゃない?」
「最後は完全に
キリもいいので一度部屋を離れて、自販機横のベンチで休むことに。精神力以上に体力の限界を感じる。
「6面って妙に弾数少ないわよね……」
「体感だと2割ヘッドショットし損ねたらもうアウトなのかな……あの先どこまで続くのかだけど」
おそらくフルダイブでも厳しい部類の難易度なのではないか、そんな空気が漂い始める。
津羽目社長はどうやら撮影を追いかけて各レジャー施設の説明をしているらしい……スタッフでも無いのに分かるの?
ともあれ、一般客も見当たらず今はケイと二人。
荒くなった息を整え、深呼吸をする。
「30分休んだら再開しましょう」
「そうだね。……到達してれば続きからできるみたいだ。6面からでいい?」
ええ、そうしましょう。
脳もだけれど体がカロリーを欲している。
自販機で割高なジュースを買いつつ、ケイにもなにかいるか、と声をかける。
「エナドリはある?できればバックドラフト」
「――エナジーカイザーならあるわよ」
「じゃあそれで。僕もライブラジャンキーはどうかと思ってた」
「そういえば」
ふと思い出した。
「どうしてケイのところにこの話が来たの?」
「あー……まあ話してもいいか。この前シャンフロの
オフ会……羨まし――いやいや、オフどころかオンも一緒に働いているのよ私は。シャンフロのオフ会ってことは、
「天音永遠さんとカボチャさんも一緒に?」
「そうだね。一泊二日でレジャーランドに行ってさ」
「その時にたまたまスクラップガンマンがあってね、そこであの社長に会ったんだよ」
「よくスワローズネストの社長って分かったわね」
一時の間
何かまずい質問だったろうか、とお互いに飲み物に手を付ける。
「それがサンラク……
「あいつの人脈はどうなってるんだか――まあそこから芋づる式に僕らもバレてね」
笑いながら苦虫を噛み潰す器用な表情に、こちらも失笑してしまう。
……普通は逆だと思うのだけれど。プロゲーマーとモデルより先に身バレする一般(?)人ってなに?
「で、その流れでオファーが来た、と」
「まあそんなところ」
「天音さんや顔隠しは参加するの?」
「いやー、無いかな。ペンシル……ん。
「顔隠しはなんかできそうだったけど、本人は顔を出したくないって言ってたし、マスク着けたままこのゲームするのは無理があるし」
まず間違いなく
JGEでも
「勿体ないわよね。
「あいつはあいつで色々あるってことだよ」
そう言いしながらもぼそりと「……テレビまで出ておいて今更な気もするけど」と聞こえるあたり、ケイも思うところは大きいのかもしれない。
「ま、スターレインに入らないなら全然オッケーだけどね」
「あー……シルヴィアタイプが2人は勘弁願いたいわね」
「それもあるけど……ちょっと見たいと思わない?」
「なにが?」
「
あー……見たい、気はする。
「まあ問題はあるんだけどね」
深く頷いてケイがおもむろに立ち上がるのを見て、僅かながらに残っていたジュースを飲み干す。
「もう30分?」
「まだ疲れてるなら待つけど?」
「まさか。続きをやりましょう」
6面、挑戦2回目。
…………
7面。
…………
GAME OVER
「また弾切れで終わり……これなんかおかしくない?」
「今度は明らかに弾が足りてないよね」
「やあやあ、苦戦してるみたいだね」
足音に目を向ければ、津羽目社長がガラス扉を開けている。
「津羽目さん、インタビュー終わったんですね」
「なんとかね。いつものことだけど注文の多い料理店だ」
それはそれとして、と言葉を続ける。
「7面で詰まったか。これはヒントが要るかな?」
「7面はまだ1回失敗しただけです」
「初ゲームオーバーは6面、ってとこかな」
「……なんで」
「FPSに慣れた人はここら辺で詰まるのさ。魚臣くんはFPS得意な方だろう?
そちらもそうだけれど、それより今……いや、この人ならあのスポンサーから直接聞いた可能性もあるか。
「
「中々に引っ掛かる言い方だろう?」
「……ゲーム仕様から見直すか」
それなら私も……と棚に置かれていた待ち時間用のルールブックを取る。
――――
このゲームの根幹は、タイトルにガンマンとあるようはシューティングだ。
つまり実際の使用可能な弾丸数は、初期所有+取得可能な弾数+剥ぎ取った素材数になるわけなのよね。
これだけ聞くと、倒した敵から剥ぎ取って弾にして敵を倒したら剥ぎ取って……と無限に撃てるように思えるけれど、実際はそんな簡単ではない。
なぜなら、剥ぎ取りにはグローブが届く
敵が多数いる中、倒れた敵に近寄って剥ぎ取るのは危険だし、かといって一掃してから、と考えていると剥ぎ取りのタイミングを逃す。
「……これだ!」
何か見つけたらしい。えっと、ケイが見てるページは……
「うわっ、メグ、そこにいたの?」
ちょっと覗き込んでただけじゃないの。シルヴィの方がいつも近いでしょ。
「やりながら説明するよ。あと社長」
「ん?なんだい?」
――これのどこがガンマンなんですか
そう言われた津羽目社長は、満面の笑みを浮かべていた。
と思ったら半年以上経ってた
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