目の腐った主人公が居ないんですけど。 (銀座)
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1話

すいません、そこの貴方。あ、そうです貴方です。すいません、つかぬ事をお伺いしますが、腐った魚のような目をした男子高校生を知りませんか?今の私と同じ制服の・・・?

 

あ、やっぱり知らないですよねすいません。突然失礼しました。では私はこれで、ありがとうございました・・・え?知り合いなのかって?い、いやー、面識はないんですよねこれが。ああ、すいませんお気になさらずに!では今度こそ失礼します!

 

 

そう言って薄桃色に髪を染めた女生徒から離れる。どうやらかなり気にしてくれているらしい。どんな人なんですか、と聞かれたが目が腐ってて犬庇って車に轢かれるような男子高校生です、と先程聞いた時の誰それ?っていう貴方の顔がもう全て何ですごめんなさい。

 

 

何となく予想はしていた。してはいたが外れて欲しい予想だった。

 

 

ヤバい、この世界の原作主人公居ないんですけど。

 

 

・・・いったいどういうことだってばよ!

 

 

 

 

 

 

◻️◻️

 

 

早いもので、生まれ直してからもうすぐ17年になる。

 

そう。生まれ直して、だ。今の俺は俗に言う転生者と言う奴だ。しかも神様にあって特典貰えるタイプの方。

 

当初はどんな世界か教えて貰えず、ある意味かなり厳しい世界だ、としか説明されなかったので、2つしかない特典で手堅く生きられそうなものを選んだ。

 

どんな恐ろしい世界なのかと戦々恐々としてたら普通に現代日本だったので、これはまさかゾンビ系とか言い出さないよな!?と心底ビビりながら特典をフルに使って色々備えながら生きてきた。

 

しかし一向にゾンビが日本に溢れることも無く、魔法少女が宝石みたいな石を巡ってゴン太レーザー撃ったりもしない。釈然としないまま生きて、14歳の頃、このまま普通に高校受験できるのか?と思ったらそこでようやく気付いた。

 

総武高校。

 

生まれ直して随分時間経ってたから直ぐに思い出せなかったが、どっかで聞いたこの学校の名前がどうしても気になって、必死こいて頭の中を掘り起こすように記憶を漁って、ようやく思い出した。

 

あ、これ俺ガイルだわ、と。

 

 

俺ガイル、正式名称は確かやはり俺の青春ラブコメはまちがっている、だったか。ちょっと既にうろ覚えだが、そんな感じの名前の奴だった筈だ。

 

目の腐ったぼっち系主人公が、何か凄いめんどくさい人間関係を経て青春しちゃう、そんな感じの内容だった気がする。うん、ヒロイン候補がたくさん居たのは覚えているが、顔は何となく思い出せるけど名前が全然出てこない。参った。

 

まぁでも、この世界に転生したからにはたぶん何か意味があるのだろう。主人公が原作と違って上手くヒロインと仲良くなれないとか。きっと俺はその仲立ちとかすればいいのだ。たぶん。

 

必要なければ傍観してれば良い訳だしね。うん。ならこの高校行くかー。いやまぁゾンビ系じゃなかったと分かって良かったな。うん。崩壊した世界でも生き抜けるように武器とか食料とかその他日用品スーパー備蓄しちゃったけど。うん。今までの俺の努力完全に方向性間違えてたけど良かった良かった。この時点で14年くらいの時間無駄にした気がするけど良かった・・・はぁ。

 

そんなこんなで俺は意外と偏差値高くてちょっとヤバいこの高校に頑張って合格した。いや、嘘。ごめん。特典の力で余裕のよしこさんでした。武力系の特典オンリーにしないでほんと良かった。

 

で、入学してから俺は1年間をぼちぼちぼっちでそれなりに過ごしてきた。いや、最初は主人公探したんだけど、全然見つからなくてさ。よくよく思い出してみたら、そういや主人公って確かヒロインのワンコ庇って車に撥ねられてしばらく登校してこないんだっけ?それでぼっちになったとかそんな感じだったなと思い出して、仲良くなるのは主人公が現れてからでいいやーって思ってたんだよね。

 

んで、その間にちょっと特典使って将来に備えて金儲けしてたら夢中になっちゃって、原作主人公とか完全に忘れてた。ヒロインもそういやそれっぽいの居るなぁと思ってはいたけど、原作主人公と一緒に絡もうと思ってたし向こうもぼっちに意味もなく構うような性格ではないから互いにガンスルー。唯一覚えている平塚先生は1年担当してないから絡み皆無って言うね。

 

そんで2年になってようやく思い出した。あ、そういや原作主人公見てなくね?って。いやー慌てて探したよね。初めて全クラス歩き回ったわ。

 

そして気付いた。どのクラスにも目の腐った男子が居ないって。ひょっとして学年間違えたのかと思って調べたら由比ヶ浜と雪ノ下(ようやく名前思い出しました)はきちんと居るし、何なら担任の先生は平塚先生である。

 

ここに来てやっとこさ俺は気付いたんだ。あれ、何かおかしくない?って。ひょっとして主人公再構成されて、苗字変わったり腐った目じゃなくなったり先輩か後輩になったりしたのだろうか、と今更焦って調べたんですよ。うん、唐突に全学年の中から1人の生徒探そうとしたから、やり方が全くわからず今までほぼ絡みの無かった平塚先生に名簿見せてくれ、何ならここ5年ほどの全部!っていきなりぶっ込んでしまった。

 

凄い怪訝な顔されたし何か怪しい人間と疑われた。正直自分でもやらかしたという自覚はある。反省した。

 

だけど流石に原作でもスーパー面倒見の良い先生なだけあって何だかんだ平塚先生は協力してくれた。でも分かったのは上の学年に城廻先輩と卒業生に雪ノ下陽乃の名前を見つけただけだった。

 

めっちゃ落ち込んだ。落ち込みすぎて協力してくれた平塚先生が凄い心配そうな顔してラーメン奢ってくれたくらいだ。その優しさに思わずウルっと来たけど、直ぐにそれどころじゃ無いってまた慌て始めた。

 

ひょっとしたらここは原作ではなくていわゆる二次創作の世界で、何か別の作品とクロスオーバーしてるのでは!?と思いついて、今度はその時たまたま思い出した知ってるクロスオーバーの元ネタを裏付けるものを探し出した。学園艦とかVRとかネイバーとか。当然の如く全然見つからなかった。

 

で、どうしようも無くなって、ひょっとしたら主人公死んだのか?と思って事故の原因であるピンク髪のなんちゃってビッチ由比ヶ浜さんに思い切って確認してしまった。

 

流石にあなたのわんこが原因で人間死んでませんか?とか聞けないので遠回しに聞くことになったけど。そして驚愕の事実が発覚した。

 

 

そもそもこの世界の由比ヶ浜さん、わんこ飼ってないらしい。

 

ウッソだろお前。

 

なので当然犬が原因での原作主人公の事故も無かった。そりゃそうだ。

 

 

・・・なので、非常に困った事に、どうやら俺が主人公のサポートの為にわざわざ入ったこの学校には、そもそも主人公が居ないようだ。その事に気付くのに1年掛かった俺が馬鹿すぎて辛い。

 

あまりにも自分が馬鹿すぎてちょっとヤケになって、今までを振り返って、みたいな作文に思わず「過去など要らない!ゼロにしてくれ!全部ゼロにッッ!」とかって書き殴って提出した。後先一切考えてなかったけど少しスッキリした。

 

当然の如く担任の平塚先生に呼び出しくらった。お前はどこの魚人族の王子なんだって凄い頭痛そうに怒られた。流石にここまではっちゃけた事書いた奴は他に居ないらしい。そりゃそうだ。

 

だがここでも俺はまたやらかした。この作文が何なのか完全に忘れていたのだ。そういや原作主人公もこんな感じで奉仕部に所属する羽目になったんだっけ?と何かふわっと思い出したと同時に平塚先生に罰を言い渡され、これはマズいとあーだこーだ言い訳してたら、衝撃のファーストブリットを食らわされ、あれよこれよといつの間にか空き教室に連れてかれてた。

 

うっわ、人気のない空き教室に生徒連れてきてどうするんですか!どうせ酷いことするんでしょ!?えろ同人みたいに!エロ同人みたいに!!

 

思わずこれまで平塚先生に口にした事の無い軽口が飛び出した。平塚先生は一瞬面食らった様だったが、すぐさま撃滅のセカンドブリットォ!と殴ってきた。痛い。

 

「どうやら未成年には不適切な書物の知識もあるようだな?・・・後で罰を追加してやる。感謝しろよ。」

 

まず暴力にしろエロにせよ、生徒に手を出すなよ・・・ってツッコミ入れたら抹殺のラストブリットまで飛んできた。だが甘い!ラストブリットがラストに使われたことは1度もないのだよッッ!なので避けた。バックステップで距離を取り、早く出せ、シェルブリットを・・・ッッ!って言おうかどうか悩みながら絶影とか傍にいそうな立ち方しておく。そのまま2人で睨み合ってたら突然教室の扉が開いて、美少女が現れた。

 

や せ い の び しょ う じょ! が、あらわれた!

 

大事なことなので2度言いました。凄い美少女が出てきた。

 

「平塚先生、部室の前で大声で騒がないで下さい・・・こちらの、野暮ったい彼は?」

 

「ああ、すまない雪ノ下。つい夢中になってしまった・・・紹介しよう、新しい部員の榊 貴一だ。榊、自己紹介しろ。」

 

え、何それ初耳。どーも榊です。何か新入部員らしいんですけど、この部ってそもそも何部ですか?入部特典とかあります?

 

 

脊髄反射でテキトーに返事したら原作主人公並になんか罵倒され始めた。その罵倒とかを聞き流しながら俺は思った。

 

 

あれ.原作主人公が居ないってことは、彼が関わることによって起こるはずだった青春イベントのあれこれや、人間関係の改善っていったいどーなるの?

 

 

・・・当然ながら、答えなどあるはずも無かった。



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2話

はい、てなわけで何だかんだ奉仕部に入部しました。

 

いや、入部したのか?入部したというか強制されたというかいつの間にか入部していたことになってたというか。まぁいいや、深く考えはすまい。

 

そして何かガンダムファイトやらロボトルファイトがどうこうって平塚先生が言い出したと思ったら、どうにも俺は野生の美少女・雪ノ下 雪乃さんとやらと人助け勝負?をしなくちゃいけないらしい。

 

だからそれ原作主人公の仕事だろいいかげんにしろ!って思ったけど原作主人公がどうやら居ないらしいので仕方ないね。てか何これ俺ひょっとしてオリ主的立ち位置なの?

 

冗談止してくれ。

俺にあんな自虐系ダークヒーローみたいな活躍出来んぞ。無茶言うな。

 

だいたいだな、そもそもオリ主とか踏み台ってのはチート持ちの神様転生者とかの仕事だろ!あれそれ俺だやべぇ俺オリ主だった。

 

ま、待て!慌てるな俺!まだ慌てるような時間じゃないッッ!

落ち着け・・・ッ、素数を数えて落ち着くんだッッ!

 

素数とはッ、1と自分以外で割ることの出来ない孤独な数字・・・!ぼっちの俺に力を与えてくれるッッ!

 

あれ何か悲しくなってきた。

馬鹿な、素数に力を奪われてる、だと・・・?

 

「ちょっと、聞いてるの榊くん。全く、見た目からして人間的に駄目そうだと分かっていたけど、人の話を聞かないのは人として最低よ。・・・ごめんなさい、今のは人間の場合の話だったわ。」

 

 

あらやだ、少しテンパっている間にいつの間にか非人間扱いされてるわ!まぁチート持ちだから人間かと言われたら心臓刺せば死ぬからまだ人だと思うとしか言いようがない。つまりてめぇコラ何人をバケモン扱いしてんだ猫耳付けんぞコラ!

 

「・・・いきなり性癖押し付けながら逆上しないでくれるかしらケモナギくん。というか、怒るならもう少し表情を動かして声に抑揚付けなさい。ただでさえ前髪長過ぎて目が見えないのだから。」

 

「そうだぞ榊。というかお前は髪を切るかせめてサラサラにしてこい。目隠れキャラが寝癖だらけのボサボサヘアーなんて私が許さん。」

 

俺はケモナーじゃないのでその罵倒は俺宛じゃないな間違いない。エア友達にでも話しかけたのかな?てかセツのん、ウチの顧問が教師のくせに性癖押し付けてくるんだけど。なんとか言ってやって。

 

「貴方は私を拗らせ幼なじみにしたいの?それともグルメ料理人にしたいの?後者ならごめんなさい、私料理は得意だけれどそんなに歳をとってないので名誉毀損で訴えるわそして勝つわ。」

 

なんだコイツ漫画とか意外と読むんだな。なるほど、平塚先生が顧問なだけあるぜ。趣味が合うんだな。

 

そんなの知らないわ、言いがかりは止めてくれるかしら?とか何とか言ってるけどもういいや。とりあえず落ち着いたから話を進めよう。

 

で、平塚先生。勝負がどうとか言ってましたが勝負の判定方法は・・・え、平塚先生が審判なの?うっわ何それ公平性の欠片もないじゃないですかヤダー!

 

「シェルブリット・・・ッッ!バーストォッ!!」

 

うわ地味に痛い。

 

この人なんで俺には即手を上げるんだろうか。以前体罰すると今色々めんどくさいんだ。世間がな、だから肉体的にボコる事はしない!とか言ってた気がするんだが。それで精神攻撃に重きを置いているとか言ってたよーな気がする。既にうろ覚えだが。

 

てかホント鳩尾は止めてよねー。結構パワーあったし俺じゃなかったら今の普通に呼吸止まってるぞ。暴力良くない。教師何だから言葉で戒めて下さいよ。これ本当に俺じゃなかったら体罰で訴えられてもおかしくないですよ。せっかく担任教師が美人なのにクビになったら悲しいじゃないか。

 

「えっ!・・・あ、ああ。すまん、気を付ける///」

 

「うわっ・・・、エロキくん、あなたの性癖に口出ししたくないのだけれど、ごめんなさい、担任教師を口説くのはどうかと思うわ。」

 

え、今ので口説いたことになってんの?セツのん意外とピュアっピュアなのね。こんなの軽口にも入らな・・・ちょっと先生、マジで照れ顔すんの止めてくださいよ。え、マジで照れてんの?こんなので?えっっ!?先生今までちゃんと恋人いた事ありますか?結婚とか大丈夫?

 

ぐはっ、とか胸を抑えて蹲る平塚先生。あれ、ごめん。その気は無かったけど酷いこと言っちゃった?ごめんなさい。いやだって平塚先生くらいの美人で恋人居ないとか流石にないかなって勝手に思ってたんだけど・・・すいません、勝手なイメージの押し付けでしたね。

 

「その辺にしておきなさい。それ以上は致命傷よ。」

 

「はぐっ」

 

むしろそれが止めだろ。見ろ平塚先生が暗い顔で部屋の隅っこに体育座りしてブツブツ言い出したぞ。

 

あ、どうやら今のはセツのんガチで無意識だったみたい。慌てて平塚先生に謝りだした。すげぇなセツのん、無意識で人を傷つけられるなんて生き方からナイフみたいだな。触れるもの皆傷つけそう。ギザギザハートの子守りとか歌いそう。これは強い(確信)

 

 

おっと、話が逸れまくった。つか平塚先生、俺こんな面倒なことさせられるほどの罪を犯した記憶無いのでやれと言うならせめて報酬を提示して下さいよ。目の前に人参ぶら下げないと走りませんよ俺は。

 

「自分を馬に例えるとか、意外と君は自意識過剰なのだな・・・まぁ良かろう。元々そのつもりだったしな。報酬、というか敗者は勝者の言うことに絶対服従。なんでも言うこと聞く、とい「ん?今何でもって言った?」うのはどうだ・・・って、榊、お前・・・。」

 

いっけね、ついノリで食い気味に反応してしまった。雪ノ下が凄いドン引きした顔で自分の体を抱きしめながら一気に後ずさった。あらヤダ、性犯罪者を見る目だわ。てか自分で言い出したくせに平塚先生まで引いてるのは酷くない?絶対分かってて言ったよねこれ。

 

ん?てか今サラッと馬より下扱いされた俺?いやまぁ力仕事ならだいたいの人間は馬より下だし仕方ないし。

 

とりあえず、ネタとは理解してもらえなさそうだし、テキトーに言い訳して報酬無しでやろって言うしかないな。残念だが仕方ないね!イヤ本当に残念だけど!

 

「先生、流石にそれはどうかと思います。正直雪ノ下さんの了解も取らずにそれは不味いです。違うのにしましょう。雪ノ下さんが負けてもまぁいっかと納得出来る程度の罰ゲームとかで良いでしょうよ。」

 

ふ、何気に良識を押し出しつつ平塚先生が頭おかしいことにしてやったぜ。完璧なリカバリーだな!と、思ったらセツのんが待ったを掛けた。え、嘘だろお前やる気なの?

 

「ちょっと良いかしら。それではまるで貴方に勝率があるみたいに聞こえるのだけれど・・・聞き間違いかしら?」

 

何言ってだコイツ。

そらあるよ。だって俺原作主人公と違ってチート持ちだもん。逆に勝ったらセツのんヤバいレベル。ガチで美食人間国宝に選ばれるくらい。言わないけど。

 

ないわけないだろ、と言う前に何か雰囲気で俺の言いたいことを察したらしいセツのんが聞き捨てならないわ!私が貴方に負けることなどありえない!的なこと言い出した。なんだコイツ負けず嫌いかたまげたなぁ

 

「やりましょう。私なら大丈夫です平塚先生。勝てばなんの問題もないですから。」

 

「良く言った雪ノ下。そう来なくてはな!いいぞ、燃える展開になって来た・・・では私は榊の入部届捏造してくる。そういうことで頼むぞ。」

 

おい今あの人普通に捏造って言ったぞ。やっぱりまだ入部してなかったじゃん騙したな!つーか何勝手に話進めてんの、俺の意見を・・・聞かずに平塚先生は去っていった。マジかー。

 

「ふふふ、今更怖気付いたのかしら?・・・今のうちに命乞いの練習をしておくことを進めるわ。」

 

すっごい楽しそうに言う雪ノ下。何それ俺殺されんの?

 

いや、待てセツのん。落ち着け、良く考えろ。そのルールで本気でやる気か?止めようぜマジで。言っとくけど俺勝ったらマジでエロい事するよ?流石に嫌だべ?

 

「・・・脅しのつもりかしら?貴方に負けることなどありえないから大丈夫よ。というか、本気でいやらしいことするつもりなのね。知ってたけど。私の半径50m以内に近寄らないでくれるかしら変態木くん。」

 

「?当たり前だろ何言ってんだ。ハッキリ言うけど、俺らの歳でお前ほどの美少女好きにしていいって言われて手を出さなかったらそれはもはやホモか不能だぞ。俺は健康な男子でホモじゃないから手を出す。」

 

「・・・ッ///、真顔で犯行予告とはやるわね。。いいわ、どうせ負けないのだし、やれるものならやってみなさい。」

 

なんだコイツやべー。

何で今までまともに会話したことも無いような人間にここまで敵愾心抱けるんだ。勝つとか負けるとか、見知らぬ他人が何ほざこうがどうでも良くね?いちいちその辺の人間にまで負けてたまるか!ってやってんの?どんだけ負けず嫌いなの?

 

・・・え、何?会話はした事ないけど1度俺に負けてる?え、ウソだ。だって俺セツのんと絡んだのが既にこれが初めてなんだけど。なんかで戦ったっけ?

 

「くっ、眼中に無かったというわけね。所詮ぽっと出のまぐれかと思っていたのだけど・・・たった3点差よ。そんな圧勝した訳じゃないわ。バカにしないで貰える?不愉快だわ。」

 

完全に言いがかりなんですがそれは。・・・てか3点差?

 

ん?んん〜〜・・・?

 

あ、テストか。そういや前回のテスト、99点で揃えた気がする。

ごめん、あの時はたまたま99の気分だったんだ。そんな気にしてたとは。すまぬ。そういやその件でカンニング疑われて平塚先生に詰められたっけ。チートだからカンニングじゃないけどズルはしてるからな。結局手を抜いてた扱いされてこれからは真面目にやれ、とか怒られた気がする。

 

「待ちなさい。99点で揃えた・・・?そんなまさか、貴方わざとあの点数に・・・ッッ!?」

 

ああうん。そうね。

なんかごめんな。ほら、俺のチートのひとつがアンサートーカーだからさ。テストとか問題見た時点で終わりなんだよね。だから最近は将来の金策の目処がたったのでテストとか狙った数字に揃えて遊んでるんだよね。99だったのはたまたま独歩さんがいつか1になると信じてた・・・ってやってたの印象に残ってただけなんだ。その前のテストじゃ確かカイジにハマってたから全部ピンゾロってことで11点で揃えた気がする。

 

「見てなさい、次の中間では私が圧勝してあげるわ・・・!」

 

あ、これ聞いてないや。

 

どうやらセツのんはかなりの負けず嫌いらしいです。まる。

 

 

◻️◻️

 

 

てかさセツのん。ノリで入部とか勝負とか決まったけどさ。やるやらないはもう別にいいんだけど、そもそも奉仕部ってどんな仕事してんの?ノルマとかある?

 

「貴方、そんなことも知らずに入部したの・・・?呆れた、そんなことで勝負になると思ってるのかしら。」

 

めんごめんご。ぶっちゃけセツのんが俺の入部知ったのと同時に俺も自分が入部したこと知ったからさ。平塚先生も罰とか言って何するのか教えてくれずにここまで連れてこられたし。だいたい平塚先生のせいだよ。

 

そう言うと頭痛そうに額を抑えるセツのん。読んでた本を閉じて、渋々ながら説明してくれた。助かるー!もう設定とかどんな事してたとか細かく覚えてないからね、うん。

 

で、詳しく聞いてみると要するにやってることはスケット団だった。つまりほとんどボランティア。まぁ名前からして奉仕部だしね。仕方ない仕方ない。一応完全解決よりは解決方法を教えていくのがメインとか言ってたが、無償奉仕には変わりないのでボランティアだ。本人はボランティアを凄い上から目線で持つものが持たざるものへ施す無償の慈悲とか何とか言ってるが結局ボランティアなのでツッコミはしない。うん。

 

む、待てよ?てことはちょっとスタイルは良くないけどセツのんがヒメコで俺がボッスン、平塚先生がチュウさんで・・・あれ、スイッチ役は?てか俺もゴーグル付けても集中力上がんねーしあそこまで器用じゃないな。ダメだ詰んだ。

 

「何の話をしているの貴方は・・・。まぁとにかく依頼人が来て、その依頼に対して私達は解決方法の提示、それによって依頼人自身での解決を図れるようにする。それが私たちの基本スタンスよ。他に何か質問は?」

 

この部活が何時から出来たもんか知らんけど、どのくらいの依頼が来んの?一日に一回以上くる?

 

「今までで2回だけよ。1回目は平塚先生の依頼で資材室の整理。2回目は図書委員の手伝いね。」

 

それはもうただの雑用では・・・まぁいいや。完全に解決方法の提示もクソもない依頼だったってことはよく分かったわ。てかそれだと勝負も何も依頼が来ないまま終了とかありそうだな。そもそもこの部活の事知ってるやつ少なそうだし。まぁ忙しいのは面倒いから良いけど。

 

「そうね。その可能性も十分にあるわ。依頼があれば私の勝ちは揺らがないと思うけれど、その場合は可哀想だから引き分けで許してあげるわ。」

 

うーん、この上から目線よww

 

とりあえず説明が一通り終わったからか、閉じていた本を再び読み始めた雪ノ下。原作でも主人公と並んでやたら本読んでるイメージなだけあって本当に本の虫だわこの子。体弱そう。

 

あ、そうだセツのん。もう幾つか聞いていい?この部活ってちゃんとウチの部室として登録されてんの?あ、登録されてんのね。それで、そこに置いてある電気ケトルはセツのんの私物?

 

「そうよ。・・・というか、流れで放置していた私にも責任はあるけれど、セツのんっていうの止めてくれないかしら。馴れ馴れしいわ、チャラキくん。」

 

いやだってセツのんもさっきから俺の事あだ名で呼んでるし。ぼっちっぽくてコミュ障の気があるセツのんの精一杯の歩み寄りかなって思ってたんだけど。え、違うの?まぁいいや。とりあえず俺も幾つか私物持ってきて良い?こんだけ広くてこれしか使ってないのも勿体ないしさ。

 

「貴方がそれを言うのかしら。まぁいいわ。貴方になんて呼ばれようと私には関係ないし、好きに呼んでちょうだい。私物についても好きにしていいわ。ただしゴミを散らかしたり、卑猥なものを持ち込んだりしたらセクハラで訴えるわ。」

 

逆に男なら何処にでも卑猥な何某を持ち込むと思ってるセツのんの発想の方が卑猥な気がするけど俺は優しいから追求しないでおこう。思春期だもんね、仕方ないよね。

 

とりあえず明日あたり幾つか持ってくるわ。さんきゅ!この部室の鍵はセツのんが持ち歩いてるのか?あ、毎日帰る時職員室に返却してんのね、了解。

 

よし、許可もでたし、多少力込めて部屋の改造しよう。何か秘密基地作ってるみたいで楽しくなってきた!

 

 

◻️◻️

 

それからしばらく、俺とセツのんは互いにたまに軽口挟んだり無言になったりしながら本を読んだりケータイでゲームして過ごした。

 

外の景色が茜色に染まる頃、セツのんが読んでいた本をパタン、と閉じて立ち上がる。今日はもう終わりか?

 

「ええ。依頼がなければ基本的にはこのぐらいの時間に上がって大丈夫よ。何らかの理由で私がいない場合はきちんと戸締りと鍵の返却を忘れないでね。」

 

あいよー。

ではまぁ帰りますか。

 

そのまま何となくセツのんと並んで職員室に鍵を返しに行く。無駄にニヒルに咥えタバコしながら(喫煙所では無いので火はついてない)ノートパソコンのキーボードを叩いてる平塚先生にやだイケメン!とお世辞を言いながら挨拶して帰る。

 

昇降口で上履きから外靴に履き替える。すっかり慣れてしまったが、前世では外仕事が多い職種で、会社に行っても上履きに履き替えることなどなかったので、転生者した当初はこれだけで感慨深い思いをしたものだ。懐かしい。

 

特に何があるわけでも無いので、そのまま2人で歩いていく。別に一緒に帰ろうとしてる訳ではなく、単純に住んでるところが違う以上、どこかしらで道が別れる。その時挨拶すれば良いかなーとお互いに思っているだけだろう多分。

 

特に話すことがあるわけでも無いので、僅かな時間の道連れに、偶にちょっと話しかけて一言二言返したらまた無言。ちらほらと同じ制服の高校生が周りに見える。時に自転車に乗って追い越し、時にコンビニで立ち止まってるのを追い越したりしながら歩く。・・・歩く。

 

 

そうして歩き続けて、流石に一つおかしな点に気付く。

 

 

「いや待て。何かずっとそのまま歩いて来たけど、セツのん何でまだ着いてきてんの?」

 

「何を言ってるのかしらストーカー君。それはこちらのセリフだわ。今日部員になったばかりとは言え、いい加減にしないと通報するわよ?」

 

「馬鹿言えこの希少価値系美少女が。俺は自分の家に帰ってるだけだわ。お前こそ何でずっと着いてきてんだ。分かれ道でさよなら言うタイミングずっと逃しっぱなしじゃねぇか。」

 

「希少価値・・・?まぁ確かに私は美少女だけれど、そんなに煽てても無駄よ。言われ慣れてるわ。それに何故貴方なんかに私がついていかないといけないの?私も家がこっちにあるだけよ。」

 

はは、こなた、希少価値でググッてみろこの美少女。

 

つかセツのんもこっちなのか。マジか。知らんかったけど意外と家近所だったのか。1年間ずっとこの道歩いて往復してたのに気付かなかったわ。

 

「あくまでもしらを切るつもりなのねこのストーカー。まぁいいわ。ホントに家にまで着いてきたら容赦なく通報するだけだもの。それよりも、こなた、希少価値、っと・・・?っっっ!!??」

 

誰がストーカーだこのストーカー。俺だって「殺すわ。」ってうぉお!?いきなり何しやがる!って、ああ、希少価値の意味が分かったのか。意外と調べるの早いな。

 

つーかちょくちょく思ってたんだが、セツのん意外とガハラさんみたいな事やってんな。今もハサミで襲いかかってきてるし。とりあえず避けるけど。

 

「くっ、当たりなさい!」

 

ははっ、嫌ですが何か?つーかセツのん貧乳気にしてたの?めんごめんご。スタイルがなだらかなだけで顔はトップクラスじゃん気にすんなよ。ってうお、勢い増した。ふ、だが甘いな。俺は武力系のチートも持ってるのだよ!

 

そのなわけで5分くらい避け続けてやったらセツのんが力尽きた。うーむ、運動神経は悪くないが、持久力が足りてないな。普段から勉強ばっかりであんまり運動してないだろ?少しは運動しなきゃダメだぞー!

 

「ハッ、ハッ・・・くっ、息ッ切れも、しない、なんて・・・!屈辱だわっっ!!一思いにッ、殺しなさい!」

 

なんかくっ殺女騎士みたいな事言い出して笑う他ないw

ふ、普段から運動はしないけど運動神経の良さ的にやろうと思えば運動も出来る!って思ってたタイプだな!馬鹿にしてた男に喧嘩売って返り討ちにあうとか・・・w今どんな気持ち?ねぇ今どんな気持ち?m9(^Д^)プギャーwww

 

あ、すっごい涙目でプルプルしてる。アクア様みたいで可愛ええ。

 

面白かったのでセツのんが息整えるまで程々に弄ってみたよ!

 

 

◻️◻️

 

いやー、面白かった。

 

あ、あの後はストーカー扱いが面倒なので俺がセツのんの前を歩いています。ちゃんと自分のウチに向かってますよアッピルですね。

 

後ろでくっ・・・!とかまだ先程の敗北を引きずってるセツのんには、お詫びを兼ねて午後ティーを奢りました。いや、原作主人公には悪いけど俺マッ缶は流石に無理だわ。あれだって入ってるのミルクじゃなくて練乳だぞ?甘いわ!頑張ってもボスのレインボーまでだわ!でも午後ティーは平気な不思議。午後ティーは悪魔の発明ですね!

 

 

とことこ、とことこ

 

 

つーかまだセツのんが後ろ着いてくるって事は、本当に家近所だったんだな。まぁうちの周辺にマンションやらアパートやら沢山あるし、こんなこともあるだろ。でも放課後は部活があったセツのんと時間的に合わないのは仕方ないにしても、朝一で遭遇した覚えがないとか凄いな。まぁ俺朝はギリギリまで寝るタイプなんだけど。

 

そうこうしてると、ようやくウチに着いた。そこそこ大きなマンションだ。俺は茨城からこっちの高校に来てるので一人暮らしなのだ!まぁそれでこんなしっかりした所を選んだのはセキュリティがどうこうよりも単純に部屋が広くて防音とかしっかりしてて、風呂トイレ別、スーパーが近いとか条件良い所を厳選した結果である。まぁ一月の家賃は高いがそこはそれ。俺はチート持ちなので自前で余裕なのだ!

 

ふ、やり方わからなくても、アンサートーカーにかかれば当たる株とか1発なのさ・・・(`・ω・´)キリッ

 

そんな訳で流石にここでお別れだろうとまだ着いてきてたセツのんを振り返り、また明日、と声を掛けようとしたら、あらヤダ、凄い渋い顔。

 

「悪夢だわ・・・!こんな性犯罪者予備軍と同じなんて・・・ッ!ひ、引越しを検討しないといけないわ。」

 

うわァ。

 

マジかよ、マジかよ・・・マジかよ!近所に住んでるどころか同じ建物かーい!そら帰り道一緒になりますよね!そりゃそうだわ!

 

うっわ、よく考えたらその可能性はあったな。この辺でセキュリティ1番しっかりしてんのここだし。言われてみれば原作でセツのん一人暮らししてたような気もするし、女子の一人暮らしで実家金持ちだったらここになるかもね!考えてみれば当たり前だった!全然考えて無かったけど!

 

なんとまぁ、流石にこれは予想外だったな。アンサートーカー使えば1発なんだが、疲れるから普段は切ってるからな・・・うーん、これはちょっとめんどくさい。分かっていたら鉢合わせないように気を付けてたんだが。

 

まぁやっちまったもんは仕方ないね!人生は諦めも肝心だ。やれやれだぜ、と肩を竦める。

とりあえず入口のオートロックを解除して、エレベーターへ向かう。

 

たぶん苦虫10匹くらい噛んだままの顔でセツのんも着いてきている。

 

ボタンを押して、すぐ開くエレベーター。このマンションは一定時間使用されないと1階に戻るようにエレベーターが設定されている。こういう時すぐ乗れて楽だ。

 

エレベーターに乗り込んですぐ9階を押す。最初は1番上の12階にしようと思った。このマンションの1番上はベランダが広くなってるタイプだったからだ。だが自分のズボラさは知ってるので、最初はそこにテーブルセットとかハンモックとか用意しても、全く手入れとかしないで放置して、片付けめんどくさくなる未来が見なくても予想出来たので止めておいた。

 

逆に9階まではベランダの屋根が広くて光が入りにくいが、防鳥ネットが張ってあって鳥などにベランダが汚される心配もない。洗濯物も余程強い雨が無いと干しっぱなしでも大丈夫、さらには9階位からは虫も来ない。かなりいい部屋なのだ。

 

無言でエレベーターに乗り込んで来たセツのんに、何回か聞く。10階、と渋るように言うので10階のボタンを押した。直ぐに動き出す。

 

てか一つ上の階かよ。このマンションは10階から斜めに切ったような形に変わり、一部屋ごとの広さが変わっていく。その流れでベランダも広くなり、最上階である12階に至っては一部屋である。つまり何が言いたいかと言うと10階からベランダの屋根が斜めになってくので防鳥ネットが張られていない。日差しは良く入るが運が悪いと洗濯物が鳥の爆撃を受けるし洗濯物は免れてもベランダは免れない。つまり余計な掃除が増える。はっはー、セツのんご愁傷さまだぜ!まぁ言わないけど。

 

「・・・貴方も、一人暮らしだったの?」

 

「ん・・・まァな。茨城から出てきた。」

 

何故?と問われたような気もするけど、流石に原作主人公のフォローの為とか言えないし、ましてやその原作主人公が居なかったなんてもっと言えない。さてね、と肩を竦める。チン、と音が鳴った。9階に着いた。降りる。ああ、そうだ雪ノ下。

 

「何?」

 

「また明日。じゃあな」

 

挨拶が遅れた。言い切ったと同時にエレベーターが閉まる。まぁいいか。

さて、部屋に帰るとしますかねぇ。

 

エレベーターに背を向ける、そして歩き出したその瞬間に。

 

掠れるような小さな声で、ええ、また明日、と聞こえたような気がした。

 

 

 

続く。

 

 

 



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3話

登場人物紹介

・榊 貴一
さかき きいち と読む。この作品のオリ主。
チート持ち。

・雪ノ下 雪乃
ゆきのした ゆきの 名前に2つも雪が入ってる筋金入りの氷属性。
何気に運動でも勉強でもオリ主に負けてるので地味に敵視してる。

・由比ヶ浜 結衣
ゆいがはま ゆい ガハマさんこと髪の毛ピンクという超不良系ギャル。
何故かこの世界ではワンコ飼ってない。ピンクは淫乱。たぶん。


はいはい、どうも俺です。貴一です。神様転生者やってます。

 

此度の人生は今度こそ「きーちっ!」って下の名前で呼んでくれるスポーツ大好き活発系ショートヘアのスパッツ女子を幼なじみにして、2人で海とか山とか探検したい。そんな夢がありました。

 

生まれた家の付近に女子は生まれませんでした。

 

同い年の野郎どもが毎日「きーちっ!遊ぼうぜ!」とやってきます。だが違う、お前じゃない。お前じゃ無いんだ・・・ッ!!

 

 

スポーツ大好き活発系ショートヘアのスパッツ女子幼なじみに、「きーちっ!今日も探検行こっ!」って連れ回されたいだけの、人生・・・だった・・・。

 

 

「聞きなさい!」

 

スパァンッ!

 

痛っ!ってなんだどしたんだセツのん。いきなり人を叩くなよ。しかもそれハリセンじゃん。ゴーレムでもスライムでも人間でも必ず5ダメージ与える不殺武器じゃん。どっから持ってきたのさ。え、話を聞け?何を言う、もう聞いたよ何度も。部室の話だろ?私物持ってきても良いって言ったじゃん。

 

「確かに私物を持ってきてもいいと昨日、私は言ったわ。でもね、散らかすなとも言ったはずよ?」

 

いや違うよ、ゴミを散らかすなってセツのんは言ったんだよ。目の前にゴミ袋や紙くず、その他ゴミを思い浮かべる何か落ちてる?無いでしょ?ほら何も問題無い。

 

「・・・問題無い?では聞くけど、何故部室に畳が敷いてあるのかしら?」

 

俺が畳好きだからだけど。あ、9畳敷いたから教室の3分の1くらい使ってるのに怒ってるのか?いやまぁ確かにちょっと大きくスペース取ったのは申し訳ないが、今までこの広い教室で長テーブル1個分くらいしか使って無かったしいいじゃん。ちなみにこれはこれから暑くなるから用意した、本物の琉球ビーグで編まれた目の荒い高級畳です。素足で上がると気持ちいいんだこれが。

 

「(イラッ)・・・ふぅ、ではもう1つ聞くわね?何故冷蔵庫が置いてあるのかしら?」

 

俺が置いたからだけど。飲み物とか冷やすのにあると便利じゃん。夏場とか弁当腐るの怖いとかアイス冷やしたい時はセツのんも好きに使っていいからね。

 

「そう、感謝するわ。もう面倒だからいっぺんに聞くけど、何故部室に本棚(漫画満載、小説類満載、空、の3つ)やら座椅子やら座布団やらちゃぶ台まで用意してあるのかしらっ?!」

 

全部俺が置いたからだけど。やっぱほら、日本人だからな!和室の方が落ち着くよね!あ、まだ時期じゃないからみかんは冷凍しかないんだ。食べる?

 

「(ブチッ)いい加減にしなさい!分かっててやっているでしょう貴方!私は、何故ウチの部室に!和室が出来てるのか!って言っているの!というかどうやって持ち込んだのよ!昨日の今日よ!?朝登校する貴方を見かけたけど、こんなもの持ってなかったでしょうっ!!」

 

「ふ、愚問だな・・・企業秘密に決まってるだろう(`・ω・´)キリッ」

 

「殴るわ。」

 

危なっ!いやだってチートですって説明しても理解できないじゃん?つまり言っても言わなくても理解出来ないのは一緒だし気にすんなよ。HAHAHA!

 

この後めっちゃ走って追い掛けられた。

 

 

◻️◻️

 

まだゼーゼー言ってる汗だくセツのんに座椅子を譲りながら、冷蔵庫の上に置いたプラスチックの編みかごからタオルを取って渡す。凄い恨めしそうな目で見てくるが無視して、冷蔵庫から水出しパックの冷えた麦茶が入った容器を取り出し、これまた冷凍庫でキンキンに冷やしておいたグラスに注いでセツのんの前にコースターと一緒に置く。あ、リップ付けてる?ストローいるかい?

 

「要らないわ。・・・無駄に手が込んでて気持ち悪いけど、戴くわ。ありがとう。」

 

ごくごくと音を鳴らして麦茶を飲むセツのん。分かるわー、運動して汗かいて、喉カラカラの時に飲む冷えた麦茶って真面目に美味いよな。ウンウン、分かる分かる。とりあえずこの高校が全教室エアコン付いてて良かったなーと語りかけながら私物の扇子で仰いでやる。エアコンで冷えた風が気持ちいいんだこれがまた。

 

「く、全く追い付けなかった上にあまつさえ至れり尽くせりで介抱されるなんて、屈辱だわ・・・!」

 

HAHAHA、まぁ俺チーターだからしょーがないね!

 

なおこの辺の私物は全部、この世界がゾンビパニックの世界かと警戒していた時に集めまくったものである。俺のもう1つの特典は時空間操作の出来るオリジナルスタンドだ。その辺に落ちてる家電ゴミを拾って時間を巻き戻し、新品同様にしてから空間操作でしまっておいて、いつでも何処でも自分の拠点が作れるようにしてあるのだ。

 

これにさらにアンサートーカーで当てた宝くじとか使って集めた食料やら飲料、調味料、日用品など、俺一人で20年は生き残れるくらい大量に用意してある。また、俺の空間は良くあるゲームのインベントリをイメージして作ったので、中に入ったものは時間経過も無い。流石に生き物は入れられない(というか入れると死ぬ)が、何故か受精卵などは入れておいても取り出して孵化機に入れたら孵化したので、最悪世界が滅んでも頑張れば俺だけ生きていける位の準備があるのだ。

 

まぁこの世界が俺ガイルだと気付いてからは完全に無用の長物と化してたので、こういう機会に使えるのはありがたい。

 

ちょっと趣味全開だが、便利なことには変わりないし、多めに見てくれるとありがたいね。わはは

 

 

「・・・はぁ、もういいわ。持ってきてしまったものは仕方ないし、便利なことに変わりはないのだもの。ところで、あの空の本棚は?」

 

ん?いや一人暮らしだと本が貯まりがちでな。古本屋に持っていっても二束三文だし、そういうのをここにちょいちょい置いておこうかと。要するに空き本棚にはこれから本が入っていきます。

 

「漫画も多いけれど、普通の小説も多いわね。意外だわ、結構読書家なのね。・・・この空本棚、私も本を持ってきて良いかしら。いつもは纏めて捨てているのだけれど、勿体ないと思っていたのよ。」

 

俺は乱読派なんだ。基本的にタイトルで興味引かれたらなんでも読む。ここに置いてあるのは捨てるには勿体ないけど何度も読む程じゃないかなー、ってレベルのものだな。あ、好きに使ってくれ。冷蔵庫の中も適当に入れておくから好きにしていいぞ。

 

「昨日の今日でいきなり部室が便利になったわね・・・まぁ、良いでしょう。食べ物とかに変なものは入れないで頂戴。タオルありがとう、洗って返すわね。」

 

入れねーよ。食べ物に悪戯とかする奴むしろ俺が殴るわ。

 

ああ、はいよ。別に使用済みタオル入れるカゴも用意してあるんだが、よく考えたらその方が良いな。このタオルも好きに使って良いけど、使ったら各自持ち帰って洗濯する、でいいか?

 

「了解よ。・・・間違っても私の使ったタオル持ち帰って匂い嗅いだりしないでね。警察に通報するわ。」

 

しねーよ。てかセツのん良くそれだけ変態的な嗜好思いつくね。アブノーマルに偏見はないつもりだけど、ちょっと引くわ。痛っ!

 

殴られた。解せぬ。

 

「人を変態扱いするからよ。当然の報いだわ。」

 

マジかよじゃあ俺昨日からセツのんに変態扱いされまくってるからセツのんも後でボコボコになんのか。誰だそんな酷いことすんの。安心しろセツのん、俺は基本的に美少女の味方なので俺が守るよ!

 

「結構よ。それより200mくらい貴方が離れてくれた方が安全だわ。」

 

同じ教室どころか同じ校舎にさえ居られないんですがそれは。

まぁいいけど。

 

てかマジで依頼人こねーなウケる。しょうがない、申し訳程度の活動するか。

俺は自分のバッグに手を突っ込んで、あたかもそこから出したかのようにノートパソコンを取り出す。WiFiルーターも一緒だ。

 

「・・・いきなりネットサーフィン?暇だから構わないけど、卑猥なサイトを観るのは家でやってもらえるかしら。」

 

ちげーよ。暇だから奉仕部のホームページ的なの作って高校のページにリンク貼りつけとく。ま、最低限の広告だけどな。人いっぱい来て欲しい訳でもないし、

 

「あら、あなたそんな事までできるの?意外ね・・・昨日から意外と有能な貴方を発見してばかりね。少し腹が立つわ。」

 

もはやただの嫉妬でワロタ。まぁ俺チートですしおすし。ゆーて最低限だけどな。専用メールと活動内容の説明、部室の位置だけ載ってりゃ十分だろ。

 

「そうね、あまり凝ったものにしても仕方ないし、それでいいわ。出来たら見せて頂戴。変なところがないかだけ確認するわ。」

 

そう言って席を立つセツのん。おーらい、っておよ、どったの?

 

「更衣室で体操服に着替えて来るわ。どこかの匂いフェチ君のせいで汗まみれで気持ち悪いもの。」

 

強めの香水すら苦手の俺に匂いフェチとか無茶を言いおるwwてかセツのんはホントその辺の知識詳しいな。思春期ガールめwってうおっ!?無言で筆箱投げて来んな!

 

「ごめんなさい、イラッとしたわ。」

 

そう言って扉を開けて出ていくセツのん。

 

いやてか平塚先生といいセツのんといい、俺に対する当たりがキツすぎじゃない?あんま覚えてないけど原作主人公だってここまで暴力振るわれてなかった気がするんだけど。俺がチート持ちでなかったらストレスで禿げてたかもしれぬな。わろすw

 

 

とりあえずセツのんのグラスを洗いにスポンジと洗剤のセットを持って立ち上がる。部室の近くにトイレがあるので、水道も目の前なのだ。便利!

 

さてさて、と扉を開けようとしたら、その前に扉がそろそろーと開いた。およ?と思ったら小さい声で、失礼しまーすの言葉と共に薄桃色の髪の毛がそろーりと擬音がつきそうな感じで入ってきた。ヘイラッシャイ!

 

「うひゃあ!び、びっくりした・・・あ、すいません、ここほーし部?って言うので合ってますか?先生に相談したらここへ行けって・・・」

 

ああなるほど、依頼人か。了解了解。まさか存在するとは思ってなかったわ。まあそんなこともあるよね。

 

どうぞ入って下さいな。今座布団出すから。

 

「あ、ありがとう、ってうわ、なんかすごい部屋!」

 

HAHAHA、ちょっと畳敷いてあるだけだよ。あ、すまんね、一応畳の上では上履き脱いでくれます?面倒かけて申し訳ないね、あ、飲み物は麦茶と緑茶、どっちがいい?ああ、暖かいのが良ければ紅茶もあるけど。

 

「麦茶で!あ、すっごい、冷蔵庫まである!他の部室知らないけど、こんな風になってるんだー!」

 

いやそれは俺も知らんけど、特に否定することもないのでそうだよーとテキトーに言っておく。セツのんのグラスに片付けは後回しにして、新しいグラスに麦茶を注いで、念の為ストローはいるか確認。要らんそうなのでコースターと共にピンクの女の子の前に置く。

 

すまんね、今もう1人ちょっと出てるから少し待って貰えますか?

そう聞きながらセツのんに連絡を・・・連絡先知らねぇわやっべ。ま、まぁ待ってれば来るでしょたぶん!

 

「あ、はい…だいじょぶです!」

 

ありがたい。とりあえず時間潰せるように興味があればと漫画の本棚を紹介しつつ、ただ待たせるのも何なので冷蔵庫からタッパーを取り出す。中身は俺の手作りクッキーである。ふ、一人暮らしのわちきはアンサートーカーを使って最高に美味い料理とかも研究しておるのだ!是非食べて驚愕するといいわ!

 

 

そう思って皿に並べたクッキーを、良かったら、と彼女の前に置いた。するとどうでしょう、いきなりちょっと難しい顔をしだしたではありませんか。

 

およ、クッキー嫌いでしたか?

 

「へっ?あ、いや、そうじゃなくて・・・このクッキー、ひょっとして手作り、ですか?」

 

いえすいえす。このワタクシのお手製にござんす。味は保証するでよ!あ、人の手が触れたものダメなタイプ?あ、違うの?

たまにいる潔癖な人かと思ったら違うらしい。どったの?

 

何か言いにくそうにしてる。まぁ無理に食べなくても他のお菓子もあるよ、と言いかけたところでピンクの依頼人は意を決した様にクッキーを掴むと勢いよくガリッと齧った。そしてもごもごと口を動かし、ごくんと嚥下。そしていきなりカッと目を見開いて叫んだ。

 

「うわっ!おいしー!何これすごい!ホントに手作り!?すごいすごい!あれ、でも何か食べたことあるような・・・?」

 

何この子ボキャブラリー貧困だけどめっちゃいい子やん!(ちょろ男)

てか満面の笑みで美味い!って言われるとそれだけで良い料理できたな!って分かって嬉しいよね。つまりこの子は料理人にとっては最高のお客さんですね間違いない。

 

「お気付きになられたか。それはカントリーマアムを参考に俺好みの大きさと味付けにしたものッ!つまりだいたいカントリーマアムと言って過言ではないのだ。」

 

カントリーマアムめっちゃ美味いよね。クッキーの最高峰と言って何ら過言では無い。しかし値段は庶民向け。これを食ったことない日本人は非国民に違いない(偏見)

 

なのでこのクッキーは正規国民である俺のカントリーマアムへのリスペクトを存分に込めつつさらに俺個人の理想を追求して出来た俺の手作りにして正規品に加えられてもおかしくない「だいたい本物のカントリーマアム」なのだ。異論は認める。

 

まぁそんな語りはさて置き、すごい夢中でパクパク食べてくれるピンクの子に調子にのって別の味付けのクッキーも出したり、セツのんの電気ケトル勝手に使ってクッキーに合う紅茶を淹れ、この食べ方が美味いぞ、とおすすめしたりしてみる。おお、ホントに美味しそうに食べてくれるなこの子。作り手冥利に尽きるぜ!

 

 

そんなこんなで20分程経った。依頼人はすっかりホクホク顔で、最初来た時の緊張感は既に消えている。うむ、依頼人の緊張解す任務は完了だな!

 

 

「美味しかったー!私、クッキーと暖かい紅茶の組み合わせって漫画の中だけかと思ってたよー!」

 

ふ、貴方に喜んで頂けたら幸いですよ、マドモアゼル。とかカッコつけて言ってみたらまどもあ・・・?えっと、なに?と伝わらなかったご様子。ちょっと悲しい。

 

「私が少し出ている間に部室にナンパした女性を連れ込むのは止めてくれるかしら。通報するわよ。」

 

とかやってたらようやくセツのんのお帰りである。いやナンパじゃないし依頼人だし。セツのん待ってて貰った間に暇にならないように精一杯もてなしてただけだし。あ、依頼人ピンク、私ナンパされてた?って引くのやめて貰えます?あれひょっとして君自分でここに来たのもう忘れた?

 

「依頼人ピンク!?へ、変な名前付けないで!キモイ!」

 

じゃあ淫乱ピンク。さて置きセツのん、もとい部長。どうやら依頼人らしいのでとっとと席に着いて下さい。何分待たせてんですか意識低いなーもう。

 

「い、淫乱ぴんく!?!?私まだ処ーじゃない!へ、変なあだ名付けないでよサカキン!」

 

「意識高い部員のつもりならまず依頼人が来た時点で連絡入れるのが普通よ。そんなことも分からないのかしら?」

 

何を言う。ピンクの髪の毛は淫乱と2次元では相場が決まっとる。だから君は淫乱ビッチでQED。つーかサカキンってだれ?まさか俺のこと?なんで名前知ってんのやだ怖い。

 

HAHAHA、ヤダなー部長。俺と連絡先交換した記憶あるんですか?

 

「そんなの知らないし!てかなんで名前知ってるくらいで驚いてんの!?同じクラスじゃん!」

 

「・・・(チッ)、そういえばそうね。貴方のような不審者に連絡先を教えるのが苦痛で控えて居たのだったわ。ごめんなさい、私の落ち度よ。」

 

 

え。驚愕の新事実。淫乱ピンクもとい、原作ヒロインの1人の由比ヶ浜さん、まさかの同じクラスだった件について。嘘だろ、原作主人公探してた時に手掛かり求めてこの人探して見つかんなくて帰り際に校門前で声掛けたのに、まさかの同じクラスだったとか。いやー盲点だったわ。

 

ヤダな部長、謝った振りして俺に原因があるって事にすんのやめてくださいよー。つーか忘れてただけでしょw何故なら俺も忘れてたからね!仕方ないね!まぁ俺から聞いたら結局部長が不審者扱いして教えてくれなかったと思うけど。だから俺はあんまり悪くない!

 

「気付いてなかったの!?わ、私結構皆と喋ってたのに・・・!サカキンは誰とも喋ってなかったけど。」

 

あ、ごめんなさい。ひょっとして何かいつも「っべーわーマジっべーわー」って言ってる語彙が死んでそうな人のいるグループに居た?あのキラっとしたイケメンのいるパリピグループ。ちょっと柄が悪いの伝染りそうなのであの辺一体ずっと見ないようにしてたわ。あー、なるほど、あのグループの一員ならビッチでも致し方無いね。可哀想に。

 

「可哀想!?た、確かに戸部っちは何時もそんな感じだけど・・・てかだからビッチじゃないし!サカキンキモイ!!」

 

「由比ヶ浜さんの下半身事情は置いとくとして、榊君。人として自分の非を認められなかったら・・・ごめんなさい、貴方に話しても詮のない事だったわね。忘れてちょうだい。」

 

だからサカキン言うなし。俺血筋のせいで見た目老けてるから小学生の頃とか榊菌、略してサカキンが移ると老けるぞー!って苛められたんだよ。ムカついたから本気で老けさせてトラウマになったんだぞ、相手の。

 

てか部長はことある事に俺を人の枠組みから外そうとするけど、何ひょっとして俺人に見えてないの?やった、じゃあ俺何に見えてる?悪魔とかに見えてるならそれを意識した言動にしよ。ふふふ、愚かな人間共よ・・・!みたいな?

 

 

「あ、ご、ごめん。そんなつもりじゃ・・・あれ?今相手のって言わなかった?」

 

「そうね、これと決まってる訳ではないけれど・・・ゴブリン、は小さい生き物とされてるから、オーク、オーガ、トロール、後は少し意味が違うけれど狼男、そんなところかしら。」

 

要するに性獣って貶したいんだろうけどセツのん、それらが女と見れば誰でも襲いかかる性獣扱いされてるのってエロ漫画とかエロゲとかの中だけだぜ。元は悪魔とか妖精とか魔物だし。やれやれ、セツのんが思春期なのはよく分かったから、いい加減依頼の話をしようぜ?あと、そういう卑猥な趣味は家でやるべきだと俺は思うな、部長。

 

 

いい加減に話が進まないから見事に軌道修正してみた。いやー、俺ってば有能な部員ですね!あれ、部長何プルプルしてんの?あ、ほらダメだよピンクの人。真面目そうな部長の意外な一面知ったからって唖然としてちゃ。こういうのは母の様に優しく、暖かい目で見てあげるのが1番傷付けないn「殺すわ。」

 

 

 

この後めちゃくちゃ襲いかかられたよ!

 

 

 

◻️◻️

 

 

「それで、確かF組の由比ヶ浜さん、だったわね?依頼、という話だったけれど・・・どのような話かしら?」

 

お、すげぇなセツのん。さっきまで顔真っ赤にしてゼーゼー言ってたのに、完全に無かったことにしていきなり話始めたぜ。つーか違うクラスなのによく名前知ってるなぁ。俺だって(原作知識無かったら)今名前知ったのに。

 

「シッ!言っちゃダメだよサカキン、せっかく落ち着いたんだから・・・あれ?今名前知った?」(ヒソヒソ)

 

「そこ、黙りなさい。・・・暗い夜道には背中に気をつける事ね、榊君。」

 

やだ、俺の事心配してくれるなんてセツのん優しい。ありがとね。まぁ俺に触れられる人間そうそう居ないと思うけど。気遣いは有難く受け取っておこう。

それはそうと初めまして由比ヶ浜?さん。どうも奉仕部部員の榊 貴一と申します。なおサラッと自己紹介を忘れたのは部長の雪ノ下 雪乃さんです。よろしくね!

 

何かいや初めてじゃないし!クラスメイトだし!とか淫乱ピンクもとい由比ヶ浜さん・・・長いな、ガハマさんでいっか。ガハマさんが叫んでるけどまぁ置いといて、ほらほらどんな依頼なのかね?早くしないと暗くなるよガハマさん。え、可愛くない?じゃあゆいにゃんね。あずにゃんみたいでビッチにはちょっと似合わないけど依頼人の頼みでは致し方ないな。

 

「ゆ、ゆいにゃん?そ、それなら・・・って!だから、あたしはビッチじゃない!むしろ処ーッて、言わせるなバカ!サカキンキモイ!!」

 

何も俺は強制してない件について。つか俺サカキンで決定なの、まぁ良いけどさ。

 

「榊君、話が進まないので黙ってて貰えるかしら。貴方も、いちいち騒がないで。別に恥ずかしがる様な事でもないでしょう。その歳でヴァージn「わぁー!やめてやめて!高二でまだとか恥ずかしいよ何言ってんの?!雪ノ下さん、女子力足りてないんじゃないの!?」・・・下らない価値観ね。」

 

お、今のはセツのんの地雷ワードに引っかかったらしい。いきなり機嫌悪くなったな。多分それでからかわれた事でもあるんだろうなー。セツのん美人だからその手の僻み多そうだし。しかし凄いなゆいにゃん。高二でまだとか恥ずかしい、って完全にビッチの発言じゃん。早ければ早いほど良い訳でもないのに。自覚無いのか?無さそう(確信)

無自覚ビッチとか何それ新しいジャンル。童貞が許されるのは小学生までだよねー!ウッ、頭が・・・!なにか嫌な事思い出した気がする。深く考えないようにしよう。

 

 

とりあえず多々ツッコミ入れたい所が多いが、部長に黙ってろと言われたので素直にお口チャックして、素直に2人の話を見守ることにする。するとようやく本題に入るのか、ゆいにゃんがおずおずと切り出した。何でも平塚先生にここで願い事を叶えてもらえると聞いてきたらしい。おかしいな、うちの部に侑子さんは居ないと思ったが。俺とセツのんの2人じゃなかったの?はっ!?ひょっとしてセツのんが将来侑子さんに・・・無いな。どう足掻いても無い。妖艶さとかエロさが足りん。具体的には胸が足りん。ゲシッ、痛っ。ちゃぶ台の下で見えないように器用に蹴られた。なんでバレたんだろ。すげぇなセツのん。

 

魚をあげるか魚のとり方を教えるかー、と部活活動内容の違いを説明しつつこちらを目だけでギロりと睨み付けるセツのん。とりあえずセツのんがさっきまた汗かいてたけど、汗引いたみたいだしそろそろエアコン止めるか。これ以上は冷えるな。セツのん身体弱そうだから風邪ひきかねない。ちょうど麦茶飲み終わったみたいだし、今度は暖かい紅茶でも入れておこう。2人の話を聞きながら、エアコンを切る。リモコン無いのでスタンドで押した。埋め込みパネルってこういう時面倒だよね。

 

あ、セツのんの分の紅茶カップ無いや。セツのんはいつも紙コップみたいだしな。それは味気ないのでせい!胸ポケットに手を入れてー?ちゃららららーらー、はいっ!明らかに胸ポケットに収まりきらない紅茶カップ・・・というか紅茶セットが出ましたー。わー、パチパチパチ。

 

よし、せっかくだから俺特製の焼きリンゴジャムと一緒に出してロシアンティーにしようか。本物のロシアンティーはジャムを紅茶に入れるのではない、ジャムを舐めながら紅茶を飲むのだ!って聞いた気がする。おっと、セツのん潔癖かもだし、カップ拭かないとね。消毒ウェットティッシュをまた胸ポケットから取り出して・・・っと?いつの間にか2人が話止めてこっちを見ている。およ、どったの?続けて続けて。大丈夫、ちゃんと話聞いてるよ。セツのんにそれだけキツいこと言われてカッコイイ!とかゆいにゃん変わってんな。マゾなの?

 

「誰がマゾだし!そんな話してないし!てか何今の!?どっから出したの!?」

 

「いや、それももちろんだけど榊君、貴方が今指差したらエアコン止まった様に見えたんだけど・・・?」

 

あ?まだそこまで言ってなかったか。あー、アレだよアレ。アレアレ。手品的なサムシングだよ。ハンドパワー!みたいな。そういや最近ミスターマリック見ないな。生きてるんだろうか。え、誤魔化すな?ヤダなー、何も誤魔化してないよ。え、種明かし?仕方ないなー、教えてあげよう。実は俺の制服の胸ポケットは四次元ポケットになっててだな・・・いや冗談だよ。何真に受けてんのゆいにゃん。いきなり胸ポケットに手を突っ込まれてめっちゃびっくりしたわ。つかドラえもんじゃないんだから四次元ポケットなんてある訳ないだろ頭大丈夫?現実と2次元の区別はきちんと着けないとアカンで!ゴスッ、アイタッ。殴られた。何故だし。つーかゆいにゃん顔真っ赤でプルプル震えて涙目で可愛い。ゴスッ、痛っ!今度はセツのんに殴られた。

 

 

「解せぬ。」

 

「黙ってなさいと言ったはずよ。話の邪魔しないで。目につく動きも止めなさい。」

 

 

あいまむ。紅茶をカップに注ぎながら、片手で敬礼して再びお口チャック。小皿にジャムを3つ用意して、ティースプーンを付けて2人にだす。飲み方知ってるかな?と思ったけどセツのんが普通に知ってたらしい。それを恐る恐る真似てゆいにゃんも飲み始めた。チ、間違えてたら後で弄ろうと思ったのに。あ、ロシアンティー美味い。さすが俺。2人もほっとした顔で美味しそうに飲んでる。うむうむ。さすが俺(大事な事だかry)

 

で、途中で何か俺に聞かれちゃまずい話もあるみたいだったので、2人の飲んだ麦茶のグラスを洗いに外に出たりして気を使ったりしてたら戻った時には話が終わってた。

ざっくり聞いてみると、何でもゆいにゃんはクッキーを作りたいけど自信ない、けど他の人にバレたくないから家庭科部とかには頼れない!手伝ってよセツえもーん!ということらしい。なお俺は味見枠。ほーん?

 

てかこれ本来原作主人公にあげるためにゆいにゃんが頑張るってのが動機のイベントじゃなかったっけ?原作主人公いないのに起こるんだ・・・いや待てよ?逆に言えばゆいにゃんが本気であげる相手が原作主人公の代わりのオリ主なのでは?もしくは目が腐ってない原作主人公が違う学校に通ってて、ゆいにゃんはその人の為に・・・お、有り得そう。いいね、これはしっかり協力しよう。ついでに原作主人公ポジの人間が見つかれば最高だ。

 

 

とりあえず学食から材料もらって家庭科室で準備がどうこう・・・とか悠長なこと言い出したので、ボッスン役の俺が今回はスイッチ役やるしかないな。突然だが!サカキンのー・・・?流石サカキン!のコーナー!

 

「は?サカキンキモイ。」

 

「榊君、後で構ってあげるから隅っこで遊んでて。」

 

辛辣で草。

 

「こんなこともあろうかと、クッキーに必要な材料は全部用意してあります。」

 

そう言って通学バッグから薄力粉やら砂糖やら卵やらその他もろもろを取り出す。

 

「・・・えぇっ!?なんで!?どーなってんの!?」

 

「・・・全部業務用?詰め込んだにしても卵も割れてないし、教科書類だって入っている。いえ、そもそも明らかに鞄に入り切らない量だわ。一体どうなってるのかしら。」

 

あ、ガチ考察とかそういうのは良いから。こういう時は流石サカキン!!って言っとけば良いんだよ。ほら、さん、はい。流石サカキン!・・・やってくれるのはゆいにゃんだけか。これだからセツのんは。やれやれだぜ。とりあえずちゃんと反応してくれた良い子のゆいにゃんは頭を撫でて偉い偉いと褒めておく。顔真っ赤にしたゆいにゃんにキモイと怒られた。めんご。

 

 

とりあえず先ずはやってみようと2人の背中を押して家庭科室へ。2人はゆるゆりな空気を出しながらエプロン付けたりしながらクッキーの調理を始めた。ぶっちゃけクッキーに関してはガチ勢の俺が教えた方がいい気もするが、味見役らしいので大人しくしておく。・・・今なんかゆいにゃんが家庭科室の冷蔵庫に入ってたインスタントコーヒーの粉を明らかに薄力粉より多く叩き込んだ気がするけど、俺は何も見てない。うん。セツのんの唖然とした顔初めて見たわ。慌てて口出ししてるけど、ゆいにゃんはそうなの?とか呑気なこと言いながら手を一切止める気は無い。それはつまり話を聞いてないのと同じである。

 

あ、これはアカンやつやん。胃薬用意しておこ。

 

とりあえず正露丸を取り出しておく。それだけじゃ足りなさそうなので、さらに口直しも用意しよう。今ある材料にちょっと足してホットケーキにするか。今日の気分はもっちりなので、餅を足して食感モッチモチにしよう。うん。

 

 

味見役ということの現実逃避では無いと思いたい。

 

 

 

続く。



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4話

登場人物紹介

・榊 貴一
神様てんせーしゃ。チート持ち。
意外と有能説あり。実は原作主人公をまだ探している。

・ 雪ノ下 雪乃
ゆきのんだったりセツのんだったり。
この世界では何者かの影響で少しだけオタク知識持ち。

・由比ヶ浜 結衣
ガハマさんだが本人の希望でゆいにゃんに。あずにゃんみたい!だがピンクだ。
無自覚ビッチ系処女。

・平塚 静
オリ主とゆいにゃんの担任国語教師。
オリ主が半端に有能なせいで原作主人公みたいに八つ当たりしてストレス発散出来ないので、原作よりだいぶ闇が深い。
おっぱいの付いたイケメン。


こんにちわ、貴一です。神様転生者やってます。

転生して初の女子の手料理が炭という難しい問題に直面しています。

 

 

 

・・・どうしよう、炭にしか見えない。

 

「クッキー・・・?おいセツのん、俺が聞いたのはクッキーの味見役だったはずだが。何で炭の試食なのイジメ?」

 

「信じられないわ・・・私が教えてる側でどうしてここまでミスを重ねられるのかしら。」

 

「2人とも失礼だよ!ちょっと失敗しただけで食べられるよ一応!・・・食べられるかなぁ?」

 

クッキーで一応食べられるって何だ。しかも自分で作った本人が断言できないのかー。マジかー。

 

「とにかく覚悟を決めて食べなさい。私も食べるのだから、貴方だけ逃げるのは許さないわ。」

 

おや、セツのんもちゃんと食べるの?意外。思わず素直に言ったら食べなければ改善点が分からないじゃない、と返答。あらヤダ真面目ねぇ。何かちょっと涙目だし心無しか手が震えてるように見えるが。

仕方ない、部長だけ見捨てる訳にもいかんし食べるか。うん。覚悟を決めよう。だから由比ヶ浜、え、ほんとに食べるの?とか不安そうな顔やめろ。誰のためだと思ってんだ。ていうか君も食え。自分の舌で自分が何作ったか思い知れ。

 

ザリッ

 

うわにっが。てか食感がもはや完全に炭。漫画みたいな食べたら気絶するとかそんな不味さでは無いが普通に焦げ臭くて苦い。要するにむちゃくちゃ不味い。これは、コーヒーパウダーの苦味に焼き過ぎのコゲの苦味が混じってるのか。苦味増し増しだな。多分コーヒーパウダーのせいで見た目で焼き加減分かんなかったのが原因だろうか。ていうかなんでコーヒーパウダー入れたの?は?男の子は甘いの苦手だから甘さ控えめに??それなら砂糖減らすのが先だろ何言ってんの?

 

「・・・そう見たいね。入れ過ぎたコーヒーパウダーを誤魔化す為に入れた大量の砂糖が原因で思ったより焼きが早かったのね。私が見ていて焼き加減のミスなんて・・・不覚だわ。」

 

「うう、苦いよ苦いよー!苦すぎるよー!」

 

2人とも涙目でザリザリとクッキーらしき炭を食べている。うっすら見える歯が真っ黒だ。お歯黒とかいつの時代ですかね。とりあえず苦味を抑えてくれそうな牛乳をグラスに注いで配り、先程作っておいたモチモチ食感のホットケーキにメープルシロップをかけて渡す。

 

珍しくセツのんまで明確に助かった!みたいな顔して食べだした。まぁ地獄から天国だよねこの状況。このクッキー食べた後なら何食べても天国かもしれないので料理の腕を誇るのは止めとこう。

 

2人ともが牛乳とホットケーキを平らげた後、深刻な面持ちでセツのんが切り出した。

 

「さて、これからどうやって改善していくか考えましょうか。」

 

うぅむ、これは難しい問題だな。1番早いのはゆいにゃんが手作り諦めて店で買ったのを渡す、だと思うんだけどどうよ?

 

「全否定された!?」

 

「ダメよ榊君。それは最後の解決策よ。」

 

「最後にはそれで解決しちゃうんだ!?」

 

まぁ冗談はさておき。これはゆいにゃんのやる気次第だな。うん。

 

「ふぇ?向いてないとか言わないの?・・・正直、自分でも向いてないのかなって思ったんだけど。周りの皆ももうこういうのしないって言ってたし、やっぱり私もそうなのかな、って・・・」

 

いや向いてないとは思うよ。普通は素人でここまでレシピも教師役のセツのんの言葉も無視とか無いし。これが爆薬の調合とかならゆいにゃん爆発してるわ。でもこれは料理なのでそうそう人が死ぬことも無いし、これから直していく覚悟があればなんとでもなるよ。だから努力次第ですね。周りのビッチの事は知らん。

 

「不本意だけど榊君に同意だわ。そもそも由比ヶ浜さん、たかが1度の失敗で向いてないとか止めてくれるかしら。せめて100回は失敗してから言ってちょうだい。」

 

「で、でも周りの「でももストライキも無いわ。その周囲に合わせようとするのとても不愉快なので止めてくれるかしら。自分の不器用さ、無様さ、愚かさの遠因を周囲に求めるとか恥ずかしくないの?」・・・っ!」

 

 

うわキツ。セツのんキッツ。言いたくなる気持ちは分かるがもうちょい言葉に暖かみを持たせてよセツのん。何?名前に2つも雪が入ってるだけにこおりタイプなの?ふぶきとれいとうビーム使いそう。ほら見てよゆいにゃん絶句じゃん。唖然とするって辞書開いたらこの顔が載ってそうな顔になってるじゃん。

 

「カッコイイ・・・!」

 

「は?」

は?

うわ思わずセツのんと被った。見ると今度はセツのんが辞書に載りそうな唖然顔である。そりゃそうだ。

 

戸惑ったようにセツのんが私結構キツいこと言ったはずなのだけど?って聞いたら、いや引いたけど全然建前とか言わないの、全部本音って感じで凄い!みたいなこと言って目をキラキラさせてる。ゆいにゃんやっぱマゾやん。

 

とりあえずセツのんは予想外のストレートな尊敬にタジタジなので、サラッと口を挟む。良いかねゆいにゃん、調理の基本は足し算引き算。でも理想値ってのがあってな。さっきみたい甘さ控えめ、でコーヒーを足したり、それに慌てて砂糖を山ほど足したりしてしまうと、それはそれでダメなんだ。ちょうどいい具合ってのがある。要するに足せばいい、引けばいいって訳でもないのさ。

 

と、言うわけでセツのん。今度は正しいお手本見せてから、もっかい教えてやって。

ゆいにゃん、君はとにかくセツのんのお手本と同じ様に作れるまで余計なアレンジ一切禁止。どの材料もg単位で同じになるよう手を抜かずにやるんだ。良いね?

 

「うん、分かった。ごめんねゆきのん。次からはちゃんとやる。もっかい教えて?」

 

「・・・はぁ、とりあえずは一通り私がやってみせるわ。しっかり見ていてちょうだい。」

 

そう言って手際よく作業を始めるセツのん。さっきのゆいにゃんと違って安心して見てられる、淀みない正確な作業である。ゆいにゃんも真剣に見てるし。うん、これなら心配いるまい。

 

案の定できたクッキーはパティシエなの?ってくらい美味かった。ま、まァ私のだいたいカントリーマアムには負けるけどね?(震え声)

 

ゆいにゃんもうわおいっしー!と喜んで食べた後、よし、頑張るぞー!と腕まくりしてもう一度作業に取り掛かった。うん、気合い十分だね。これはもう見てれば大丈夫そうだ。

 

そう判断して、俺は俺の仕事に取り掛かる。では正露丸を先に飲んで・・・行くぜ、クッキー(炭)・・・!

 

俺は、食べ物を粗末にしない男だッッ!!たとえ食べ物に見えなくても!俺はどんな食べ物も残さず食べるようにと俺を育てた農家の両親を誇りに思う!故に、例えこれで死んでもその教えにッ、俺はドンと胸を張るッッ!!

 

 

 

クッキー(炭)何かに、絶対負けないっっ!俺たちの戦いはこれからだァァ!!

 

 

 

 

 

◻️◻️

 

 

 

クッキー(炭)には、勝てなかったよ・・・

 

 

 

あの後何とかクッキー(炭)を全部食べきったが胸焼けになって瀕死。セツのんは何か感心したみたいな顔して、「頑張ったわね、偉いわ。」なんて褒めてくれたが、死にかけないとお褒めの言葉貰えないとか軍隊かな?

ゆいにゃんは何か英雄でも見たような顔して、凄い凄い!とはしゃいでいたが、食べただけで凄いって言われるようなモン作った自覚はあるのだろうか。っていうかその後もさっきよりは全然マシになったとは言え、自分たちで食べきれないからって試作品俺に持ってくんの止めて。また胸焼けしてるんだよ殺す気か。

 

そしてその後も何度かやり直してるうちに外はすっかり暗くなって、少し残業してたらしい平塚先生が様子を見に来た。だが瀕死の俺には一瞥もくれず、もう少しだけやりたいというゆいにゃんに「ふ、青春だな・・・あまり遅くならないうちに帰るんだぞ。」とニヒルに笑って白衣を翻して去っていった。何だあいつカッコイイな!だから男が尻込みして余計結婚出来ないんだろうな!とか考えてたらその後戻ってきた平塚先生が差し入れと称して持ってきた中身入り缶コーヒーを投げつけられた。めっちゃ痛い。

 

 

・・・そして、とうとう最後の成果が焼きあがった。

 

 

ふわ、とオーブンを開けた瞬間に漂う香ばしい匂い。取り出されたそれは2回目と違って形にも歪みはほとんどなく、1つとして焼き過ぎも無い。綺麗な仕上がりだった。少し冷めるのを待って、程なく3人で試食する。サク、という軽やかな食感と共にじんわりと広がるまろやかな甘み。確認のためもう何枚か食べてみるが、それぞれに焼きムラも無く、文句なしに美味しいクッキーだった。さすがにセツのんのお手本よりは味が落ちるが、十分に成功と言って差し支えないだろう。セツのんも満足そうに頷いた。それを見て思わず、と言った風にゆいにゃんが叫んだ。

 

「やった・・・やったー!!出来たー!私にも出来たよゆきのーん!!」

 

「ちょ、いきなり抱きつかないで由比ヶ浜さん!というかさっきから思ってたけど、貴方までそんな呼び方をするの?!」

 

いーじゃん可愛いじゃんゆきのーん!話聞いてる?と2人はゆるゆりな空気を出しながらじゃれあっている。微笑ましい光景だった。まぁ実際に苦労したし、嬉しいならいい事だ。うむうむ。

 

どうやら流石のセツのんでも、女子からの積極的な好意相手には無碍な対応も取りにくいらしい。若干困ったような顔で、チラチラとこちらに助けを求めるような視線を送るセツのんに菩薩のごとき暖かい微笑みを向けて手を振る。せっかくの青春イベントなんだからしっかり青春しなさい。セツのんもぼっちだからあまり経験ないんだろうし、良い機会だろう。別に見捨てた訳じゃないよ、うん。

 

まだまだキャーキャーやってる2人を後目に、俺は片付けを担当する。いやもう普通に夜だしね。早く片付けないとな。とうの昔に生徒は下校しなさいって放送は流れ終わったし、なんなら何時も1番遅く帰るらしいバスケ部が先程集団で校門を出ていくのが見えた。途中でゆいにゃんは親に連絡入れたくらいだ。俺とセツのんは一人暮らしだからあんまり関係ないけど。

 

ササッと片付けて、完成したクッキーは割れないように丁寧にキッチンペーパーで包んでタッパーに詰める。包装とかはゆいにゃんが自分で出来るらしい。女子って凄い。

 

使った器具の水気を拭き取って元の場所に戻し、調理台のガスの元栓をしめて、水道の蛇口を倒して蓋をする。これで片付けは終わりだ。エプロンを外した2人にそろそろ帰るぞ、と声を掛ける。ゆいにゃんがはーい!と元気よく返事して、セツのんがくたびれた顔で無言のままバッグを手に取った。

 

 

家庭科室の鍵を返しに行くと、1人で残ってた平塚先生がもう終わるから少し待ってろと言う。どうやら車で送ってくれるらしい。やだほんとイケメン。帰り道がほぼ一緒な俺とセツのんはともかく、ゆいにゃんは夜道の独り歩きになるので皆で先生を待つことにした。え、俺に送れって?セツのんどーすんだよ。

 

 

「えへへへ」

 

 

まだにっこにこのゆいにゃん。よっぽど自分の手で完成させたそれが嬉しいらしい。あまりにも嬉しそうな顔をするので、さっきまで疲れ切ってたセツのんも微笑ましいものを見る目で、良かったわね、何て優しく声を掛けている。うむ、青春である。

 

実際ゆいにゃんはかなり頑張った。誰にあげるのか知らんが、相手も喜ぶ事だろう。

 

「えへへ、そうかなー?あ、そ、そういえばサカキンも貰ったら嬉しいと思う?」

 

そりゃな。ぶっちゃけよっぽどのモテ男でもない限りゆいにゃんくらいの可愛い子にクッキー貰えたら、男なら誰だって喜ぶと思うで。うん、なんなら俺は2回目の奴でも有頂天になったと思う。そう言ったらゆいにゃんが固まった。あれ?どうかした?

 

 

「2回目の・・・?あんまり美味しくなかったじゃん!アレでいいの?!なんで!?」

 

「え、いや貰えるなら美味しい方がそりゃ嬉しいけど。そもそも俺なら可愛い女子からクッキー貰えた時点でもう嬉しい。なんなら手作りじゃなくても嬉しい。買ったやつを目の前で別の袋に移し替えて手作りだよって嘘ついて手渡されても何だかんだ喜ぶ気がする。要は気持ちが篭ってれば何でも嬉しい。」

 

そう言ったら何かゆいにゃんもセツのんも何言ってんだコイツ?みたいな顔で絶句してる。いや、理解出来ないかもしれんがモテない男子なんてそんなもんだぞ。可愛い女の子から毎朝笑顔でおはよ!って声掛けてもらえるだけでその子を好きになっちゃうぐらいチョロい生き物だからな。

 

俺は今でこそ転生者なのであんまり他者と関わりを持たずに生きているが、前世だって別にモテた訳じゃない。なんなら黒歴史的には原作主人公に共感してたくらいである。前世では彼女ができる前、バレンタインに初めて明らかに義理チョコと分かるチロルチョコ渡されたって大喜びした。この年頃のモテない男子なんてホントそんなレベルである。

 

そう言ったらえぇ、私の苦労は一体・・・!?と魂が抜けたようなことを呟くゆいにゃん。慌てて説明を追加する。

 

いやいや、あくまで相手がモテない男子だった場合の話だし。ゆいにゃんが誰に渡すのか知らんけど、仮にめっちゃモテる男だったら美味しくなければ1口かじってゴミ箱にポイ、だから美味しいに越したことはないし、何より今まで出来なかったことが出来るようになるって事は凄いことだぞ。苦労したかいがあったと思うよ俺は。

 

そう言って頑張ってフォローしてみたが、ゆいにゃんは一気に気が抜けたみたいな顔で放心してる。セツのんは余計なことを、と睨んでくるし散々である。なんかごめん。

 

「ねぇ・・・サカキンだったら、私からクッキー貰ったら嬉しい?」

 

「・・・?いや俺の意見要るそれ?「いいから答えて!」そりゃ嬉しいですけど。つか可愛い子からのプレゼントで喜ばないぼっちはおらんぞ。なんなら苦労してたゆいにゃん見てるから貰ったら小躍りすると思うよ?」

 

「そっか。・・・そっかぁ。なら、まぁ・・・いいのかな?」

 

良いのか。まぁそれで良いならいいや。とりあえずゆいにゃんも幾分か気も晴れたみたいなのでよしとしよう。セツのんもとりあえず良しとしたみたいだ。いや疲れてやる気失くしただけかもだが。

 

すると1台の車が俺たちの目の前に止まった。平塚先生が窓を開けて待たせたな、と手を振る。俺たちは3人で平塚先生の車に乗り込んだ。ようやく家に帰れる、と俺は息を吐いた。

 

 

 

◻️◻️

 

 

あの後、親御さんが心配してるゆいにゃんを先に家に送り届けた先生は、俺たち2人での初依頼達成を祝って、ラーメンを奢ってくれた。

 

コッテコテの豚骨ラーメンで、由比ヶ浜ブラッククッキーで胸焼けしてた俺にはキツイチョイスだったが、味はかなり良かった。この時間にこんな脂っこいものを、と、豚骨ラーメン自体あまり食べた事ないらしいセツのんが、最初難色を示したが、一口食べたら何だかんだ綺麗に食べ切ってたくらいだ。かなり良い店を教えて貰ったようだな。胸焼け治ったらまた行こう。

 

そんなこんなで再び平塚先生の車での帰り道である。俺たち2人が同じマンションに住んでいることはさっき話の流れでバレたので、現在はからかわれながら俺が助手席で道案内をしている所だった。

 

「そこ右です。で、その先の十字路まっすぐ行ってください。」

 

「はいよ了解。・・・2人はこっちの方なのか。知らなかったな。実は私もこっちの方なんだ。帰りが近くて良いな。」

 

「平塚先生も?何なら私と変わってくれませんか?こんな性犯罪者予備軍と同じマンションだなんて、いつ襲われるか怖くて眠れません。」

 

ははは、こやつめ(#^ω^)

俺の脳内はセツのんほど思春期に染まってないぞ。一緒にしないでくれ。

 

「は?」

「は?」

 

「はははは!2人とも仲がいいのは分かったが、車の中で暴れるのはやめてくれ。まだローン払ってるんだこの車。」

 

あ、それは大変だな。俺も前世で新車買った時は苦労したから気持ちは分かる。しょうがないので大人しくしてよう。納得いかないセツのんが生徒が不純異性交友に走る前に止めるべきです!とか何とか言ってるが、先生は避妊はちゃんとしろよ。でも出来たらきちんと責任取って結婚しろ・・・私も結婚したい、と取り合わない。

 

いやこれ取り合わないっていうか自爆してそれどころじゃないだけだな。うん。相変わらず結婚に見放されてるらしい。結婚を司る神様に唾吐いたりしたんだろうか。趣味と性格が男らしいのとタバコくさくて飲んだくれなのを除けば見た目も中身もいい人なんだがな。・・・あ、これ結構ダメか。仕方ないね。

 

 

とか何とかやってたらもうすぐ着きそうなので、先生、そこ左曲がって直ぐです、と声をかける。

 

「お?そうか左だな・・・ん?

・・・なぁ榊、雪ノ下。お前達の住んでる所ってラリパレスか?」

 

いえ違いますけど。マンションですよ。グレイスコンフォートっていう所です。結構セキュリティ良いんですよ。ってか俺はともかくセツのんはラリパレスじゃ無理でしょう。あそこは壁が薄いからなぁ。

 

「・・・そうか。」

 

「そうなの?確か意外と安くて設備整ってる所よね?私もセキュリティの問題で候補から外したけれど・・・」

 

お、珍しくセツのんが食い付いた。よし、せっかくだから説明しようじゃないか!後部座席のセツのんの方を向いて、俺の知る情報騙って見る事にした。

 

おお、昔住んでたんだがな。ある時から隣の部屋からギターの音が凄くて寝れない日々が続いたことがあったんだ。最初は我慢してたんだが、あるとき我慢出来なくなって朝一で文句を言いに行った。すると呼び鈴鳴らしてもドア叩いても出てこないから居留守使われたと思って、何日か掛けて何度も行ったのさ。しかし何日立っても顔を出しやしねぇ。でも毎晩ギターの音は鳴り止まない。流石に待ってらんねぇってんで、管理会社に電話した。するとなんて答えたと思う?

 

「入居者同士の問題は入居者同士で解決しろ、かしら。そうやって入居者のトラブルに関与しない会社も多いと聞くわ。」

 

「外れ。正解は貴方の部屋の隣に現在入居者は居ません、だ。」

 

「!?ちょっと榊君、ホラー話だなんて聞いてないのだけど?」

 

そう思うよな?実際俺も最初は超ビビった。だが事実はとてもしょーもないもんだった。

 

実はな・・・隣じゃなくて、一番端の部屋から聞こえてたんだよ。

 

 

「・・・それはおかしいわ。あなたの部屋と一番端の部屋が何部屋離れてたのか知らないけど、いくらなんでもそこまで音が届くなんて・・・」

 

その当時は俺も角部屋だったからな、1階5部屋だから3部屋離れてた事になるな。そして困ったことにそれが有り得たんだよなぁ。

 

知ってる?アパートとかの集合住宅って一部屋ごとの壁の厚さや断熱材の量がちゃんと建築法で決まってるんだと。だがその当時のラリパレスはその建築法をガン無視、壁の厚さは3分の1だわ、断熱材は入ってないわでなー。酷い目にあったわ、マジで。

 

「・・・ゾッとする話ね。これから先、何があって何処に住もうともラリパレスは選ばないと決めたわ。」

 

「あくまで昔の話だから、今は改善してるかもよ?知らんけど。」

 

「・・・着いたぞ2人とも。」

 

おっと、つい夢中で話してしまった。まぁ今の話前世の都市伝説とこっちで似たような物件の噂話があったから話したネタなんだがね。思いの外聞き入ってくれるからつい話し過ぎてしまった。いつかネタばらししよう。てかやべ、先生に場所教えるの忘れてた。・・・あれ、でも着いたって言ったよな。

 

あれ?駐車場?どこここ。

 

「グレイスコンフォートの地下駐車場だ。入口が正面ロビーの真裏にあるから、車を持ってないと知らなくても無理はない。」

 

ああなるほど。そうだったんですか。

・・・ん?じゃあなんで先生が知ってるんですかねぇ?

 

「あの、平塚先生・・・まさか、先生もここに?」

 

「ああ。・・・私としても予想外だったな。」

 

ふぁー!?

マジでか。え、ホントに?

 

あれ、原作で2人が一緒のマンションに住んでる設定とかあったっけ?ダメだ全然覚えてない。つーか大まかな内容すらうろ覚えなのに細かい設定とか覚えてるはずが無かった。

 

マジか。流石にこれは予想外だったわ。つーかセツのんの時もそうだけど、俺ここ入って1年経つのに先生とこの辺りで遭遇したことさえないんですけど。セツのん見た事あった?

 

「無いわ。あったらこんなに驚いたりしないもの。」

 

「雪ノ下との事は分からんが、私は基本的に出勤時間が生徒よりかなり早いし、帰りは逆に生徒よりずっと遅い。それに休日はあまり外に出ないからな・・・。」

 

先生ェ・・・!

 

つか凄い。このマンションに奉仕部の部員と顧問全員揃ってるわ。何の因果だろこれ。梁山泊?

 

「水滸伝?意外なチョイスね。でも私は榊君と戦友になるつもりは無いから願い下げよ。」

 

「史上最強の弟子か。私は岬越寺先生が好きだな。」

 

・・・先生ェ。

いや俺いつもだいたいネタのほうだから、今回は珍しくセツのんの方が正しいんだけど・・・。そこでノータイムで漫画の方が出てくるってやべーなおい。でも俺はそんな先生が結構好きです。ちなみに俺はアパチャイが好き。何だかんだあの人が1番誰かの為に身体張ってるからね。

 

そう言うと平塚先生は目だけで、ほう?やるな小僧。と語りかけてくる。俺も同じく目だけでふ、お前もな。と語りかけてみた。いや出来てるかは知らんけど。なんかノリで。とりあえずその空気に満足したらしい先生が手を差し出して来た。改めて宜しく、という事らしい。何かバトル漫画で今まで敵対してたライバルが仲間になったみたいなシーンだが、たぶんそのままズバリそんな感じのことを先生はやりたいんだと思われるので、とりあえず付き合ってあげよう。うん、やっぱまだ満足してなかったみたい。

 

つーか先生も結構厨二だよね。人殴る時必殺技とか叫ぶし。原作主人公の親友と話合いそうな気がする。俺まだ会ったことないけど。いやだって体育の授業とか暑い日とか普通にサボってるし。前世の高校生時代は体育好きだしあんま意識してなかったけど、今の俺としては汗まみれの男同士でペア組んでストレッチとかキモイから無理。吐き気がする。是非も無いネ!

 

 

とりあえず握手から流れでジョジョ風ピシピシパンパングッグッの挨拶までやって先生も今度こそ満足したみたいで、行こうか、と歩き出した。ちなみにセツのんはネタが理解出来なかったみたいでとうの昔に自分の部屋に帰った。

 

あの子はイマイチ知識にムラがあるんだよな。原作ではこの辺の知識ゼロだったはずだから、少しでもある今がおかしいんだろうけど。どれくらいネタに対応できるかまだ把握しきれぬ。そのうち布教するかなんかしよう。

 

エレベーターの前で先生と2人並んで待つ。どうやらセツのんの他に利用者が新しくいたようで、電子パネルには12の表示。最上階なのでちょっと待つだろう。ここ地下だし。すると平塚先生がおもむろに口を開いた。

 

「どうだ、榊。まだ2日目だが依頼をこなした感想は。やっていけそうか?」

 

・・・さて、どうでしょうね。

まぁ俺のことは何とかなると思いますよ。俺の事ならね。俺基本的にぼっちですが、別にコミュ障じゃないし。人間関係やる気ないだけで。

 

 

「・・・まぁ、そうだろうな。君は何だかんだやれる男だ。正直見てる方からすればもっと真面目にやれと言いたくなる時もあるが、意外と君は考えて動いている。小賢しい奴かと思えば、何故か空恐ろしく感じることもある。何ともあやふやだが、あるいはそれすらもあえてやってるのか?」

 

ははは、まっさかー。俺がそんな凄い人間に見えますか?ノリで生きてるだけですよ。まぁ、買いかぶられて褒められるならそれも悪い気はしないのでもっと褒めてくれても良いですよ?

 

そう言うと、平塚先生はチラ、と俺に一瞬だけ視線をやって、すぐに戻した。そして抜かせ、と一言だけ言って笑った。ちょうど目の前の扉が開いてあかりが漏れる。エレベーターがついたのだ。

 

平塚先生が先に乗り込んでボタンを押す。そして、俺が乗ると何階だと聞くので、9階とお願いする。すると先生はまた笑い、今度は何号室かと聞いてきた。おやまぁ、これは。

 

「907。角部屋ですよ。先生は?」

「おいおい、女の部屋を確認するのか?エロ猿「あ、じゃあいいです。」・・・冗談だ。906だよ。ホントにこんな事もあるんだな。」

 

女性と男性って今マンションで隣になるとか無いって聞きましたけどね。例外もあるって事でしょうか。てか隣の部屋で思い出した、何時も7時ぐらいに出ていく音がしてたの平塚先生だったんですね。朝早いなーと思ってたら。高校教師もブラックだなぁ。

 

「聞こえてたのか?ここは防音しっかりしてるイメージだったんだが。教師に限らず今は何処もそんなものさ。君もいずれ味わう。今から備えておくことだ。」

 

や、しっかりしてますよ。扉の開閉音だけですね。あれだけは何故か聞こえます。あ、俺はそういうのしないんで。

 

前世で散々やったからな、という言葉だけ隠しつつ、9階で平塚先生と並んで降りる。そのまま部屋まで僅かな距離だが、話しながら歩く。

 

「そういうのしないってなんだ。まさかお前、ニートとかヒモとか言い出さないよな?アイツらみたいなのは駄目だぞ!恐ろしいくらいに駄目な生き方だ!奴等はな、結婚をチラつかせていつの間にか家に上がり込み、気付いたら合鍵を作って自分の荷物を運び込み!そして人がちょっと家事苦手だと知るや否や君を支えたいんだー、とか何とか言ってろくに仕事もしなくなり、家事だけしてるから問題ないでしょと言わんばかりに平日でも家でゴロゴロ!挙句の果てには人の部屋に浮気相手の女まで連れ込んで、さも1人で必死に働く私が悪いみたいな事を言って逆上し、別れたら私の家具まで一緒に持っていくようなとんでもないろくでなしなんだぞ!?」

 

うわいきなり何?!さっきまでのちょっとシリアスな空気今の一瞬で吹き飛んだんだけど!思わずビックリして足を止めて先生を見る。一気に捲し立てたせいなのか、単純にそれぐらい気持ち籠ってるのかは分からないが、何時もクールにかっこ付けてる先生が涙目だった。うっわ、マジかよガチじゃん。

 

・・・ん?あれ待って。今怖い事に気付いた。その話、先生の体験談ってのはよく分かったんですけど、よく聞いたらアイツら、って複数形ですよね。平塚先生、まさか・・・

 

「うぅぅ・・・だっでな"ぁ"ぁ"、アイヅら、ぼんどにずるいんだぁぁ!わ".わ"だじが結婚じだいってわがっででざぁー!」

 

ガチ泣き!?あ、哀れすぎる・・・!

 

いきなり泣き出した平塚先生にマジビビる俺。いやだってこの人ラーメン屋で酒飲んでないよ!?そりゃ運転手だからね!つまり素面でこんな情緒不安定になるくらいのトラウマって事でしょ!?あかん、俺も泣きそうなレベル・・・!

 

どんだけ溜め込んでるんだろうこの人。普段はあんなにかっこいいのに・・・あれ、ひょっとして普段のアレもかなり無理してたりするんだろうか。

 

うん、止めよう。深く考えたら平塚先生見る度俺が泣いちゃうかもしれん。うん。俺は何も気付かなかった。

 

「ぞれでざぁ、アイヅらざぁ、何かあるとずぐ言うんだよぉ、やっぱり結婚止めるっでぇぇ!!」

 

あ、いかん全然治まらない。つーか段々声でかくなってきた。コレはあかん、傍から見たら俺が事案扱いになる気がする!俺のチートは世論とかSNSの炎上とかには無力なんだ。これはまずい。何がまずいって今俺たちがいるの904号室前なんだけど、玄関のドアがちょっと開いて不審者見る目でこっち見てる部屋の住人さんがいることだよね!マジでやばい!

 

 

とりあえずギャン泣きしてる平塚先生の頭を両手で胸に引き寄せる。すると思いの外すんなり引き寄せられたっていうか胸にすがり付いて来たので、なるべく優しく抱きながら、左手は背中に、右手は頭にやってそれぞれ優しく撫でる。何気に落ち着くように優しーく波紋を流す。特典でスタンド貰ったから波紋の呼吸も使えるんじゃないかと思ってアンサートーカーで調べたら頑張れば使えるようだったので密かに練習してたのだ!ゾンビとかグールみたいなもんだから効果高いだろうと思ってね!まさか実戦ではなくこんな風に使うことになるとは思ってなかったけど練習しておいて本当によかった!!

 

とりあえずそのまましばらく撫でて波紋を流し、それとなく先生の話に相槌うっておく。合間で覗いてる904号室の方にすいませんと目線と頭だけ動かして謝っておくことも忘れない。そして多少落ち着いた所でもう休みましょう、と先生を促し歩いて先生の部屋の前まで行く。

 

まだ少しぐずる先生を頑張って促し、鍵を出してもらってドアを開ける。一人暮らしの女性の部屋の中を見るのも悪いので、先生だけ押し込んで帰ろうと思ったら、急に平塚先生は俺の胸にすがり付いてた腕を背中に回し、ぎゅうっとしがみつく方向にシフトした。頭を胸に強く擦り付けて、まるでイヤイヤ!と駄々をこねる子供のように離れるのを嫌がる。

 

 

「もう"ぢょっど、ごのままぁぁ"・・・」

 

「・・・左様でございますか。」

 

そうしてあげたいのは山々なのだが、流石にこのままだと俺も困るんだよね。だってまだ904号室の人覗いてるからね!俺スタンドあるから前向いたまま後ろ見れるからね!分かるんだよね!

 

どうしよう、平塚先生情緒不安定過ぎる。ここまでいくとギャップ萌ですまないレベル。平塚先生の心の闇がヤバい。原作主人公は周りのJKのヒロインより平塚先生を真っ先に救わなければならなかったのでは??

 

仕方ないので、先生の部屋に足を踏み入れる。先生は大人しく着いてきた。離れる気配はないっぽいので、諦めて玄関を閉めて中に入らせてもらう。平塚先生が抱き着いたままなのでやりにくいが、何とか革靴を脱いで廊下に上がり、暗くて見にくい廊下の灯りを付けるため、スイッチを探す。基本的には俺と同じようなへやだから、この辺に・・・あった!

 

カッ!!

 

「いやマジかよ。」

 

思わず声が出た。

玄関に、ゴミ袋の山。別に散らかっている訳ではない。明日がリサイクルの日なので、纏めてあるだけだってのは分かるんだ。分かるんだが・・・ざっと見で5袋くらいあるうちの4袋が全部缶ビールのゴミなんですけど。何なら残り1袋は日本酒の瓶である。

 

要するにぜんぶ酒。え、これ全部1人で飲んだの?うっっわ、いやでもリサイクルって2週間にいっぺんだから・・・いやそれでも多いよ!この人もうアル中になっててもおかしくないな!やべー!つーか知れば知るほど平塚先生の心の闇深過ぎな件について。全然底が見えないんだけどどういう事なの?いや本当まじヤバい。どれくらいヤバいかっていうと、ヤバい以外の語彙力消え去るレベルでヤバい。

 

平塚先生が泣き止んだらサラッと退場しようかと思ってたけど、これを見たら逆に怖くて先生1人置いて帰れねぇー!気付いたら取り返しのつかない所まで沈んでそうだなこの人!もう手遅れかもしれないけど!!

 

 

・・・くっ、仕方ない!正直かなり怖いが、波紋を流してるせいか少しずつ落ち着いて来ている!このまま波紋で身体の疲れをとって、栄養のあるもん食べさせてぐっすり眠れば多少は精神も回復するはずだ!・・・回復するよね?いや、回復すると信じよう!

 

 

ふ、今日が金曜日で良かったぜ。明日は休みだからな・・・!こうなったら俺の本気のリラクゼーションを見せてやるぜ!俺の全身全霊をもって平塚先生を甘やかし!そして癒す!名付けて平塚先生完全回復計画!

 

そうと決まったら善は急げ、未だにしがみついてる平塚先生の腕を波紋で緩めてササッと外し、何か言われる前にお姫様抱っこで抱え上げる。そのまま移動してリビングのドアを開け・・・お、おう。ここは結構服とか下着とか散らかってるのね。ま、まぁ一人暮らしなんてみんなこんなもんでしょ!前世の俺の部屋ならもっと酷かったからへーきへーき!

 

平塚先生を角ににぶつけないように最新の注意を払って、比較的綺麗なソファーにジャンピング着席!!着席の瞬間に床ごと空間を固定したので、振動とかは響いてないはずだ!たぶん!

 

そしてお姫様抱っこ状態だった平塚先生の体を起こして、膝の間に入れて必殺のあすなろ抱き!え、やだ?正面から抱きしめられたい?りょ、了解ぃ!!

 

御本人からの要望により、ちょっと体勢を入れ替えて、先生は両足で俺の腰を抱え込むようにして膝に乗り、再び正面から抱き合うような形にする。先程と同じように左手は背中に、右手は頭の上に置いて撫でる。さらにもう一度優しくじんわりと波紋を流す・・・が、これで終わりではない!

 

ここでさらに!追撃である!

 

波紋の呼吸で生んだ波紋エネルギーを、呼吸のリズムと共に全身へ流し、酸素のように血管をかけ巡らせたあと、二酸化炭素のように、口から吐く。この時!アンサートーカーによって導き出された平塚先生専用の声の波長に併せて耳元で囁くことで!!鼓膜を伝う声の振動とともに、波紋のエネルギーを伝えるっっ!

 

すると波紋エネルギーは鼓膜を伝って脳へと流れ、波紋エネルギーを受け取った脳は、強烈なリラックス効果のある脳内麻薬を分泌し・・・要するに声で相手を落ち着かせることができるぞ!

 

これぞ波紋によるリラックス効果のある癒しボイス!名付けて、ウィスパー・キュアボイス!(適当)これに左手からの波紋と右手からの波紋を併せて三位一体!癒しの砂塵大嵐!!

 

なお効果とかその辺の話は実はよく分かりません!何故ならたった今アンサートーカーに平塚先生を落ち着かせる方法を、とぶん投げしたら答えとしてこれがでてきた!つまりぶっつけ本場だよ!なので効果があるかどうかは実は不明だが、効果があると信じよう!

 

では行くぜ!せーのっ!

 

「平塚先生・・・貴方は良く頑張っていますよ。」

 

「・・・ざがぎぃぃい、!」

 

「大丈夫、今日は俺がずっと傍に居ますよ・・・。だから、安心してくださいね?」

 

「・・・・・・ウン。」

 

 

や っ た ぜ !!

 

勝った!第3部完っっ!!

 

凄い効果だなこれヤバい!効果高すぎてむしろ引く!何これ暗示か催眠かってぐらい効果あるんですけどキモイ!これマスター出来たら余裕で犯罪者になれるじゃん!なんておっかない技だ、封印指定食らうなこれは。

 

何が怖いって今の技で俺中身あること一切言ってないからね!つーか俺が傍に居たから何だよ!どう安心できるんだよ!そういう説明一切しなくても平塚先生落ち着いちゃったよ!こっっわ!

 

この技使えれば誰でも新宗教起こせそう。どちゃクソ危険な技を覚えてしまった。俺のモラルにかかる負担ヤバい。マジ気をつけよう!

 

 

でも1ついいかな!

 

・・・ここから先はどうしたらいいんだろうか!

 

 

このまま先生落ち着かせて、寝落ちするまでこの体勢だとしたら、俺動けないんですけど!

それにノリと勢いでここまで来たけど、普段の平塚先生からは想像も出来ない柔らかさといい匂いがする!

前世で初めて彼女出来て、初めて2人きりで良い雰囲気になって慌てた時を思い出す!今体が若返ってるから耐性なくて地味にキツイぞ!

 

く、つまりこれはアレか。昔のコッテコテの恋愛マンガくらいにしか存在しない、好きな女の子と何でか同衾することになったけど手を出せずに悶々とした夜を過ごすっていう、現代の恋愛マンガじゃ読者の大草原不可避なアレなんだな!?そ、そんなもん出来るわけ・・・!

 

で・・・できらぁ!!

 

いいぜ、やってやんよ!俺の頑丈なメンタル舐めてんじゃねーぞ!何なら平塚先生より精神年齢高いかんな!見た目は子供、精神は大人を地で行くリアルコナンくんだかんな!

 

 

行くぜ、俺の男気見せてやる!

 

うぉぉ、野郎・オブ・クラッシャー!!!

 

 

この後めちゃくちゃ素数数えた。

 

 

続く。



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5話

登場人物紹介

・榊 貴一
オリー主。チートを使ってチート生み出したチーター。
波紋の呼吸・常中とか使うらしい。
身近なダメな人間に世話を焼いちゃうタイプ

・雪ノ下 雪乃
でんせつポケモン並の冷気を起こす。
意外と面倒見が良い?
オリ主の唐突な挙動にはとりあえず乗ってみる事にした。

・由比ヶ浜 結衣
ゆいにゃんにゃんにゃーん!
人間関係で1番頑張ってるのこの子説あり。
オリ主には口で勝てないから殴る蹴るしかないと思うようになった。

・平塚 静
11歳歳下男子高校生オリ主にバブみを感じちゃう女教師。
大人なので体を使った誘惑は結構得意。
タバコの代わりにオリ主の体臭を吸い出す闇深系ヒロイン

・三浦 優美子
みうら ゆみこ と読む。主人公達のクラスにおいてトップカーストに君臨する見た目もスタイルも良い金髪ギャル。
意外と面倒見も良い姉御肌だが伝わりにくいぞ。
オリ主は本気で名前覚えて無いので未だにあーしさんと呼ぶ。
葉山くんというイケメンが好きらしい。

・トップカーストその他の人達。
キラキラの葉山くんを筆頭にだいたい顔面偏差値高めの少年少女。
雪ノ下と三浦のバトルは流石の友達でも口出しがはばかられた。
気が付いたらオリ主が原因ごと連れ去って行った。
空気に徹していたので本文に一切出てこない。


前回のあらすじ。
オリ主、平塚先生にだいぶ攻略される。


おはようございます。どーも貴一です。転生者やってます。

 

 

今日は月曜日、学生の選ぶ1週間のうち1番サボりたい曜日ランキングにて永遠の1位を獲得した曜日です。だいたいの地域じゃジャンプの発売日でもあります。

 

個人的には昔はだいたいの地域でジャンプの発売日は火曜日だったことを知ってる人が減ったことが時代の流れを感じるぜ!

 

 

そういえば朝一にゆいにゃんから手伝ったお礼にと可愛くラッピングされた少し歪なクッキーを貰った。何か結局あの時の出来のいいクッキーはお父さんに上げたとかで、原作主人公は関係無かったご様子。残念だ。

 

形が少し歪なのは、一人でやったら少し失敗しちゃった!との事でした。まぁあの時セツのんと一緒に作ったやつよりはちょっと味が落ちるけど十分美味しかったのでモーマンタイ。

 

その後普通にお礼言ったら嬉しくないの?と何故か悲しそうな顔をされて困りました。何言ってんだコイツって思ったら理由が小躍りしてないから、と言われた時は焦りました。や、確かにそれ言ったの俺だけどまさか本気にするとは思わないよね。

 

無言の圧力がキツかったので、仕方なく衆人環視のなかゾンビダンスやった。だがしかし、一人でゾンビダンスとかしても当然映えないし、曲が流れてないからそもそも初見で気付く人いないし、スリラーだって分かんなければカッコよくないので目立つだけ目立って終わりである。結局近くにいたゆいにゃんが衆人環視の巻き添え食らってやっぱ止めて!って叫んだんですが、きちんと1曲フルで踊りきってやりました!

 

踊り終わったあと涙目で思いっきり叩かれたけど反省も後悔もしていない(`・ω・´)キリッ

 

あ、なおゾンビダンスが出来た理由は、この世界がゾンビパニック系の世界かもとビビってた頃に、追い詰められた時最後の手段でゾンビと仲良くなれるかもしれないと錯乱して覚えました。今考えると何であんなに追い詰められてたのかは俺もよく分かんないけど。

ただあの当時はガチだったので、一切手を抜いてない。スリラーダンスの為だけにマイケル・ジャクソンのDVD買ったし、何なら一時期狂ったように踊って練習してたので家族から悪霊に取り憑かれた!と慌てて寺に担ぎ込まれたこともある。今となってはいい思い出である。・・・いや良くはないな。うん、全然良くはない。

 

 

さておき、普段は教室でだいたい空気と化してる俺氏。それが先程いきなりゾンビダンスなんかしたのでものすっごい注目を浴びている。それはもう視線に貫通力があったら俺は蜂の巣になってるんじゃないかってくらい注目を浴びている。

 

皆揃ってアイツあんなことする奴だったんだー、と言いたげな顔をしてるが、少し鬱陶しい。正直、普段誰とも喋んない奴がいきなり踊り出したくらいで騒ぎ過ぎである。

これがなろうのテンプレだったらいきなりヤンキーをボッコボコにして厨2な特殊能力使ってクラスのアイドルを手篭めにしたりするはずなので、それに比べたら俺のした事なんてただ踊っただけで別に大したことはないのだ。

 

だから見よ!なろう展開に慣れているオタク達を!彼らはこの程度の事では全く驚かずマイペースにオタク談義を・・・あ、してねぇや。周りと一緒でこっち凝視してる。か〜、ペッ!なんだアイツら、急展開くらいで驚いてたら転生なんかしたら即死じゃねぇか馬鹿なの?オタクの風上にも置けぬ虫けらどもが!(辛辣)

 

 

ちなみに、先程同じくらい注目を浴びたゆいにゃんはずっと席に着いて肩身狭そうに縮こまっているぞ!まるで穴があったら入りたいと言わんばかりだが、そもそも君が!踊るまで!見つめるのを!止めないっっ!って感じで俺を無理矢理踊らせたのはゆいにゃんなので完全無欠に自業自得である。むしろ被害者は俺と言っても過言ではない。

 

なので俺も周りのヤツらみたいにゆいにゃんをガン見する権利があると思う。

 

そうと決まればせっかくなので周りの視線に合わせてゆいにゃんをガン見してみる。しばらく見詰めてたら、少しだけ周りをキョロキョロと見渡し始めたゆいにゃん。助けを求める目だ。やがて俺に気付いてあっ!仲間がいた!って顔をしたが、俺が周りの皆と同じ視線を向けていることに気付いたのか、一瞬唖然とした後、顔真っ赤にしてめっちゃ睨んできた。

 

とりあえず容赦なく(^Д^)m9プギャーと返しておく。もう少しからかいたい所だが、予鈴がなってしまった。ホームルームの時間なのでゆいにゃんを弄るのは後に持ち越しにして、前を向ハッ!殺気!?

 

咄嗟に手を後ろに回して飛んできたものを掴む。なんぞ?と見てみたらコンパスだった。ちょ、殺意高過ぎない?!というかこれ外して他の人に当たったら大惨事なんですがそれは。

 

流石にシャレにならんので慌てて後ろ向いたら涙目のまま次弾のハサミを構えていたので手を合わせて謝罪の意志を見せる。土下座したら余計注目浴びてもっと怒られそうなので止めた。おっと、口パクで何かを伝えようとしている!いや口で言えし。

というかこれ俺が読唇術覚えてないと伝わらないことに気がついて欲しい。まぁ俺はアンサートーカーで1発なんですがね!!

 

えーとなになに?後で話がある?ふ、俺にはない(`・ω・´)キリッ

 

とりあえず話があるのは理解したので了承の意を返しておこう。行かないけど。

いや話があると聞いただけで俺は来いとは言われてないから何も問題はない。あ、平塚先生きた。ホームルームの時間ですね。よし、今日も頑張ろう!

 

 

この後男子トイレの中まで追いかけて来たゆいにゃんに普通に捕まったぜ!

 

 

 

 

◻️◻️

 

 

「今ユイと話してんのはウチなんだけど?」

 

「話す?がなり立てるの間違いではなくて?貴方、あれで会話のつもりだったの?ヒステリー起こして一方的に自分の意見を押し付けてる様にしか見えなかったのだけれど。」

 

「はぁ!?」

 

「気付かなくてごめんなさいね。あなた達の生態系に詳しくないものだから、てっきり類人猿の威嚇と同じものとカテゴライズしてしまったわ。」

 

 

・・・なんかよく分かんないけど、とりあえずウチの教室が超修羅場で草生えるw

 

 

 

 

昼休み。

 

朝のホームルーム後に男子トイレでゆいにゃんに捕まったので仕方なく話を聞いてみると、セツのんも誘ってお昼ご飯一緒に食べよ!という話だった。普通の話すぎてメールで言えば?って話だけど連絡先交換してないから仕方ないね!

 

それでせっかくなので四限サボって1時間前から昼飯の準備をしていたのだが、肝心要のゆいにゃんが来ないので空きっ腹を抱えてセツのんと2人で待ちぼうけをしている。

 

「・・・ねぇ榊君。質問があるのだけれど。」

 

ん?なんだねセツのん。聞かれても呼び出した本人が来てない理由は俺にも分かりかねるぞよ?

 

「そっちじゃないわ。・・・なぜ私達は部室で鍋を囲んでいるのかしら?」

 

なんかゆいにゃんが3人で昼飯食べたいって言うからだけど。あ、ひょっとしてなんの鍋か分からないのかな?これはね、秋田の家庭料理の1つで、だまこ鍋って言うのさ。秋田の有名な郷土料理のきりたんぽ鍋ってあるだろ?そのきりたんぽの原型と呼ばれているのがだまこと呼ばれる米で出来た団子で、秋田のお米、あきたこまちを半分潰して、団子状に丸めた物なんだ。これを比内地鶏で採っただし汁に、醤油で味を整えた鍋の中に入れると、色んな具材の出汁を吸ってそれはもう極上n「そうじゃない、そうじゃないわ榊君。私が聞きたかったのはそういうことじゃないの。」あ、そう?じゃあ何?

 

「他に言いたいことはたくさんあるけれど、キリがないから一つだけにするわ。

・・・学校のお昼ご飯って、普通お弁当だとか学食だとか購買パンだとか、そういったものだと思うのだけれど、何がどうなったら学校の部室で、よりにもよって鍋という選択になったのかしら?」

 

「こないだ漫画で読んだだまこ鍋がすげー美味そうだったから。」

 

「困ったわ。想像してたものより100倍は下らない理由で目眩がしそう。」

 

そんな理由でこんな手の込んだ真似を・・・っ!と呻くように言うセツのん。分かってないなー、ご飯は美味しいものを美味しく食べた方が良いんだよ。美味しくないものを食べながらじゃたのしくないし、会話も弾まないもんだ。

 

だからご飯を美味しく食べる為の努力は惜しんじゃいけない。美味しいご飯の為なら学校で鍋を美味しく食べるためにエアコン全開にして冬の寒さ演出したり、万が一火災警報器ならないように感知器にラップ巻いたり、授業サボって1時間前から鍋の用意したりなんて全部些事だよ些事。

 

「価値観が違いすぎて目眩を通り越して頭痛がしてきたわ。・・・これ以上1人であなたと会話してると精神を悪くしそうだし、由比ヶ浜さんを探しに行ってくるわ」

 

何を言うか失礼な。俺との会話は新鮮な驚きに溢れてると言ってくれ。精神悪くしそうな価値観ってのは巷のパーリーピーポーの事を言うんだ。アイツら今が楽しければ少しくらい悪いことしてもいい、とかほざいて麻薬に手を出すからな。楽しければ悪いことしてもいいって、そもそも誰がそんな許可出したんだよ全く。あ、頼んだ。ゆいにゃんに貴様自分で誘ったくせに遅刻とは良い度胸だなって伝えといて。

 

「あれは価値観が違うのではないわ。生態が違うのよ。同じ霊長類だからと言って、人間と猿が本当に分かり合える日なんてこないのよ。由比ヶ浜さん本人を連れてくるから、それは自分で伝えなさい。」

 

それもそうか。じゃあゆいにゃんは梅干しの刑にしよう。

てか一応同じ人間なのに他種族って断言しちゃうセツのんが容赦なさすぎでわろた。だがそこに痺れる憧れるゥ!行ってらっしゃい。

 

「すぐ戻るわ。昼食の時間が無くなってしまうもの。」

 

そう言って颯爽と去って行ったセツのん。

 

・・・を、待って既に15分が経過しました。あと30分も昼休み無いんだけど。どこまで探しに行ってしまったのか。男の俺は本気出せば5分で昼飯なんか食べ終わるけど、女子二人は分からんし、そもそも鍋は皆で和気あいあいとゆっくり食べるものだ。これ以上はまずい。

 

てかもしかして俺だけハブられたとかないよね?もしそうだったらオコだお!激オコだお!!・・・これ以上ふざけながら待ってても仕方なさそうだな。俺も探しに行くか。

 

 

だけどこの広い校内をくまなく探すのはめんどいのでアンサートーカー!2人の居場所はっ!・・・なんだ、ウチの教室じゃん。2人ともいるみたいだし、なんか揉め事かしらねー?

 

 

っていざやって来たら先程の修羅場だったでござる。

 

揉め事も揉め事、超修羅場でホント笑うwなんなのこれバトルなの?ゆきタイプとギャルタイプのポケモンバトルなの?ゆきタイプもギャルタイプもないけど、見た目的にはフリーザーとルージュラの戦いに見えなくもないなwどっちもこおりタイプだからか教室の空気が凍り付いてて大草原不可避www

 

あ、よく見るとゆいにゃんが二人の間でオロオロしてはる。なるほどアレがポケモントレーナーかwさしずめゲットしたフリーザーが言うこと聞いてくれなくて困ってるんだな?ウケる。

 

でも流石にでんせつポケモンのフリーザーにルージュラでは厳しいみたいだな、ルージュラの方に勢いが既にない。だがルージュラはまだ目に闘志が残ってるな。これは手に汗握る展開ですね!

 

「さっきからブツブツうるせぇよ!何あんた関係ないから引っ込んでろ。」

 

「サカシ君、人を勝手にポケモン呼ばわりするの止めてくれるかしら。マスターボールでも貴方の仲間にはならないわよ。」

 

誰がサカシ君か。てか俺とサトシを混同するな。あんなふうに数十キロのポケモン片手でひょいと持ち上げられる超人じゃないぞ俺。(出来ないとは言ってない)

つか矛先がこっちに向いた。ごめんごめん、せっかくのポケモンバトルに水を差して悪かったな、続けて続けて。あ、やんないの?そっか、じゃあそっちのでんせつポケモンとダメダメトレーナーのゆいにゃんは引き取るね。お騒がせしてごめんねごめんね〜

 

と思ったらギャルタイプの かみつく を くらった!なんかまだ終わってないとか。え、終わってないの?まぁでも後にしてくれ。昼飯がまだなんだ。あ、ゆいにゃん、自分から誘っておいて遅刻した君は人として不出来だと思うので罰ゲームね!後でめっちゃ酸っぱい梅干しを食べてもらいます。次からは遅刻の前にきちんと連絡するように。

 

「梅干しの刑ってそっちなのね・・・こめかみをぐりぐりする方かと思ってたわ。」

 

「俺がそれやったらゆいにゃんの頭半分になっちゃうから。」

 

「ゆきのんにも言ったけど、私2人の携帯知らない、かな。えっ、半分??」

 

そりゃ俺も教えた記憶無いからね、知ってたら変態だよね。変態ピンクだよね。あれ、思ったより違和感無いな。イケるかも知れぬ。淫乱ピンクは変態ピンクでもあったのだ!!

 

「次淫乱ピンクとか変態ピンクとか呼んだら蹴るよ。」

 

アッハイ、すいません。なんかゆいにゃん遠慮なくなっててわろた。

 

「ちょっ!待てよ!まだあーしの話が終わって・・・!」

 

何だよもうしつこいな、分かった分かった、人見知りのセツのん居るから今日は3人でと思ってたけど、仕方ないからあーしさんも来ていいよ。ほら行くよ、昼飯の時間なくなるだろバカなの?は?食べない?俺が1時間前から仕込んだ鍋を食わないとか無いから。

 

え、なに?なんか文句あんの?よく分からんけど何時も一緒に遊んでるゆいにゃんが違う奴と飯食うって言い出したから寂しくて切れてたんじゃないの?だから一緒に飯食えれば解決じゃん。はい論破。で、ゆいにゃんもいまいち上手く断れなくてオロオロしてたんでしょ?あ、違う?まぁ何でも良いよ。早く行こうぜ、急がないと鍋のシメまで終わらなくなる。

 

「だいたい合ってるけど絶妙に違うわね。」

 

「いや全然違ぇし!何なんアンタ?!手ぇ離せし!つか鍋ってなんだし!!」

 

「えっとえっと、どうしよう!話の流れが早すぎてあたしじゃ着いていけない!!てかサカキン、鍋とか私も知らないんだけど!」

 

 

セツのん、だいたいあってれば大丈夫だよ。何も問題は無い。あ、知らない人がいるけどセツのん我慢してね?まぁ俺の鍋美味すぎて会話しないと思うから大丈夫だよきっと。え、鍋は楽しく会話しながら食べるものって俺が言った?俺のログには何も無いな。

 

あーしさん、鍋食べたこと無いの?じゃあ今回が初体験じゃんやったね!気に入ったら家でもやるといいよ!え、違うの?鍋くらい食べたことある?なんだ、じゃあ何も問題はないな。さ、行こいこ。

 

ゆいにゃん。鍋に理由なんてない。ただそこに鍋があり、それを食べると美味いという事だけ分かってれば何も問題は無い。え、意味分かんない?大丈夫大丈夫、俺も分かんないから。だって適当に言ったし。それに鍋だと言ってないから知らないのは仕方ない。

 

 

 

この後めちゃくちゃ急いで皆で鍋食べたよ!

 

 

◻️◻️

 

 

あの後結局あーしさんも含めた4人で鍋を食べました。

 

あーしさんは最初、「本当に鍋がある!?何で学校に鍋の用意があんだよ!」とかブツクサ文句言って居たが、エアコン効きすぎ寒い!って文句言ってたゆいにゃん同様、1口食べたら「うわウマっ!」って叫んだのを最後にずっと無言で鍋を食べてたので何も問題は無かった。本当に美味しいものを食べた時人は無言になるものだからネッ!ちなみにエアコン効きすぎなのは熱々の鍋をより美味しく食べるためです。他に理由などないっ!

 

なおセツのんはセツのんで最初空中からいきなりあーしさんの分の食器を取り出した俺に訝しむ様な目を向けてたが、俺がかっこよく「イリュージョンッ(`・ω・´)キリッ」って言ったら生ゴミを見る目をした後黙々と鍋を食べていた。特に感想は無かったけど〆を含めて1番食べたのセツのんだからたぶん味に文句は無かったはず。

 

そして最後に時間なくて食べれなかった食後のデザートであるお手製杏仁豆腐をそれぞれに渡すと同時に予鈴がなり、みんな杏仁豆腐片手に自分の教室に帰っていった。俺?俺は鍋とかの後片付けあるから。後片付けを後に回すとズルズル後回しにしがちだからね、仕方ないね。そう、次の授業体育で珍しく男女合同でマラソンだから、満腹で走りたくないとかそんな理由でサボった訳ではないのだ。そこの所勘違いしないように!

 

 

「おい榊、授業始まってるぞ。」

 

うわびっくりした。密かに満腹でマラソンとかゆいにゃんとあーしさんファイトwwとか考えてたら人の接近に気付かなかった。誰かと思ったら平塚先生だ。先生こそ授業ないんだろうか?

 

「月曜の5限は私のコマは無い。というか教師の前で堂々とサボりとは関心しないな?」

 

サボりではありません。ちょっと昼ごはん食べ過ぎたのでこのままマラソンなんかしたら体調崩すと冷静に判断した結果です。つまり体調管理。若いうちからちゃんと体調管理するとか俺偉くない?あ、酒の飲みすぎで健康診断で肝臓の数値ヤバめの平塚先生をディスってる訳では無いのであしからず。ゴスっ!うわ痛い。ディスってないって言ったじゃないですかヤダー!

 

「知らないのか榊。ハラスメントは受け取り手がハラスメントと感じた時点でハラスメントになるんだ。つまり満員電車でたまたま隣の女性の巨乳をチラ見しただけでもセクハラで逮捕されるからな。気を付けろよ。」

 

え、なにそれこわい。俺二度と電車利用しないわ。

てかどしたんすか平塚先生。なんかそわそわしてますけど。あ、弁当美味しくなかったですか?

 

「いや、そんなことは無い、むしろとても美味しかったぞ、ありがとう。欲を言えばもう少し味付けは濃い方が好みなのだが・・・」

 

それはダメです。

平塚先生、貴方の健康診断の結果を見ましたが、肝臓だけでなくて血圧も尿酸値も高いじゃないですか。どうせ普段から酒のつまみに味の濃いものや揚げ物ばかりなんでしょう?おまけに好物は脂でコッテコテの豚骨ラーメン。酒、塩、脂でトリプルアウト。生活習慣病待ったなしじゃないですか。次の健康診断で何処にも異常無しとなるまでは文句は言わせません。平塚先生まだ28なんですから、今から健康を疎かにしてたら40歳になった時後悔しますよ?

 

 

「君まで実家の母親みたいなこと言わないでくれ・・・大丈夫、分かってる。分かってるから。言われた通りアレからタバコも吸ってないんだ、勘弁してくれ。」

 

ならいいです。ではすいませんが後片付けがありますので失礼しますね。あ、マラソンは見学の予定ですがこの後きちんと授業には行くのでご安心下さい。それではまた!

 

そう言って鍋を手に歩いていこうとしたら後ろから衝撃。見たら平塚先生が思いっきり背中に抱き着いている。ちょ、ここ廊下なんですけど!!

 

 

「うるさい。さっきからわざと話逸らしてばっかり・・・私が注意しに来た訳じゃないのぐらい分かってるだろ。」

 

 

 

・・・はぁ、やれやれである。

 

もちろん分かっていたか否かと言われたら分かっていた。だが意図的に気付いてないふりしてただけである。せめて部室まで入ってからにして欲しかった。

 

もう我慢出来なくなったんですか?昨日の夜も散々してあげたじゃないですか。

 

「・・・・・・。」

 

返事がない。離れる気は無さそうだ。仕方がない、後片付けは後回しにする他ないな。俺はため息をひとつ吐くと、スタンドで周りを確認する。運良く誰にも見られて居ない様なので、平塚先生を背中にくっ付けたまま部室に戻り、入口の鍵を閉めて、覗き窓から見えないように布も取り付ける。ついでにカーテンも全部閉めて、外から完全に部室内を見れない様にした。これで準備完了である。そこで一旦平塚先生の腕を振りほどく。腕を無理矢理離された平塚先生が、少し潤んだ瞳で抗議してきた。

 

 

「意地悪、しないでくれ・・・!限界なんだ、分かるだろ?」

 

ハイハイ、分かってますよ。別に意地悪した訳ではなく、ただブレザー外すだけなんで我慢してください。そう言ってブレザーを脱ぎ、ネクタイも外すとワイシャツのボタンを2、3個外す。大きく腕を広げて、と。さて。

 

「こっちの方がお好みでしょう?・・・はい、どうぞ。」

 

「ーーーッッ!!」

 

そう言うが早いか、我慢できなくなった平塚先生が飛びついてきた。そのままの勢いで俺は押し倒され、和室側の畳の上に背中から倒れ込んだ。

 

そして平塚先生は強引な勢いのまま俺に馬乗りになり、力強い動きで俺の胸に飛び込んだ!

 

「あぁぁぁ〜〜!昨日ぶりだっ!すぅぅぅ、はぁぁぁ!あー、落ち着くゥ〜〜〜っ!あ、榊何やってるんだ、早く撫でてくれ!いつも通り頭と背中同時に頼むぞっ!」

 

そしてこの有様であるッ!

 

 

あ、俺が押し倒されてエロい事始まると思った?

 

残念!ただのハグだよ!むっちゃ胸に顔擦り付けられて匂い嗅がれてるけど、やってる事はただのハグでしかない。期待したみんなごめんね!

 

 

さて、どうしてこんなことになったかと言うと、超簡潔に言って、平塚先生は俺にバブみを感じたらしい。

 

は、何言ってんだこいつ頭大丈夫か?と思った貴方。残念ながら大丈夫だ。正直俺も頼まれた時は平塚先生の精神状態を真剣に危ぶんだので気持ちは分かる。

 

 

事の経緯を説明すると、前回平塚先生を抱っこしたまま一夜を過ごした後、土曜日の朝まで話は巻きもどる。

 

 

◻️◻️

 

世界最強のハーレム主人公であるリトさんみたいに、1晩平塚先生という誘惑を頑張って耐えきった俺は、俺の胸の中で安らかに眠ってた平塚先生が目を覚ますと同時にトイレに駆け込んだ。あと少しで尿意に負けて尊厳を失う所だったので割とギリギリの勝負だったが、何とかかんとか俺は勝った。

 

その後少しスッキリした平塚先生が顔を赤くしてすまないとか忘れてくれーとか色々言ってたのだがとりあえずそれはさておき俺は平塚先生を正座させた。え、何で?と言う顔をしていたが当然である。

 

「平塚先生、失礼ですが、この部屋の惨状について御説明をいただきたい。」

 

「うぐっ!い、いや、ココ最近忙しくてな?片付けようとはしたんだが、最近の掃除機って扱いが難しくて・・・」

 

ほう。なるほど。

ではこの明らかに何かを温めすぎて爆発させたと思われる電子レンジや、カビが生えてきてるシンクの三角コーナー、散らかった下着類。そこかしこに散乱するコンビニおつまみの残骸も掃除機が関係してると?

 

「い、いや!ただ、そう。他の電化製品もなかなか取り扱いが複雑でだな。」

 

なるほど。

ではこの灰皿の上でピラミッドを築いているタバコの吸殻は、電化製品がもっと使いやすくなればここまで積み重ならないと?

 

 

「・・・・・・すいません。」

 

・・・平塚先生。片付けますよ、この部屋。異論は御座いませんね?

 

「・・・はい。分かりました(´・ω・`)」

 

 

そんな訳で俺と平塚先生は休日の朝からご飯も食べずに部屋の片付けを始めた。だがそれがとても大変だった。

 

 

~~キッチン(魔境)~~

 

「埃だらけの炊飯器には何時のかも分からない紫色に変色した米、カップ麺の容器やらコンビニ飯の容器やらで埋もれたシンクに、埃を被った洗い物ラックと洗ったまま放置されてた食器類。冷蔵庫を開けてみれば調味料とチーズやら生ハムなどの1部酒のツマミしか食料はなく、あとは大量のビールのみ。平塚先生、普段の食事はどうしてますか?」

 

「えっと、だいたい、すき家とか居酒屋とかラーメン屋で・・・。」

 

面倒なので使ってなさそうなもの(調味料とかほぼ全部!)を纏めてゴミ袋に入れて2人して拭いたり磨いたりしまくった。1番時間かかった。

 

~~リビング&廊下(普通に汚い)

 

「何処も彼処も埃だらけだな・・・平塚先生、掃除機が動かないんですが箒とちりとりは?無い?お掃除シートががそこの物置に閉まってある?・・・乾燥して使い物にならないんですが最後に使ったのは何時です?」

 

「おそらく2年くらい前だったと・・・」

 

クイックルワイパーで取り切れないレベルの埃って何事なのか。つーか埃まみれの所にあるからって下着とか肌着とか諦めんな!小学生ぶりに真面目に雑巾がけした。腰が痛い。

 

〜~掃除中に発覚した各所棚とか収納とか(なんでか物が詰まってるぞ!)〜~

 

「先生、この棚の中のキッチンペーパーやらラップやら開封した形跡がないのに黄ばんでたり箱がくしゃくしゃだったりするんですが、新しい物の保管場所移動したりしたんですか?」

 

「い、いや。単にここに引っ越してきた時から1度も使ってないだけだ。」

 

掃除してたら汚れてるというか散らかってるというか置き場所に困ってゴミとか入れて放置された棚の数々に気付いてしまった。仕方ないので掃除した。地味に時間がかかった。

 

~~脱衣場(なんかカビ臭い)~~

 

「先生、洗濯機を開けたらカピカピの洗濯物らしきものが出てきたんですが、最後に洗濯したのは?」

 

「1週間前・・・だったと思う。まとめ洗い派なんだ。でも先週は酒飲んで寝ちゃってそのままにした気がする?」

 

俺今日この人の部屋来て既に20回以上下着見てるんだけど??こんなにいくら女性の部屋だからってこんなに頻繁に遭遇するもんだっけ???とりあえず洗濯機に残ってたものと各所に詰まってたり放置されてたものを纏めてもう一度洗濯機に放り込ん……前に洗濯槽がカビ臭かったのでそちらから洗剤叩き込んだ。余計な時間だが脱衣場各所も埃&ゴミだらけだ。同時に清掃しておく。

 

~~浴室内部(排水溝に詰まった髪の毛と陰毛の塊は薬剤かけて見なかった事に)~~

 

「先生、風呂場の浴槽、水垢で変色してるんですがちゃんと使用前に掃除してますか?というか風呂場の掃除用洗剤とか何処ですか。」

 

「い、いやシャワーしか使わないから気にしたことない・・・」

 

マジで何を言っとるんだコイツ??と思った俺は悪くない。洗剤撒いて擦ってカビキラー、2番目に時間かかった。

 

 

~~集合ポスト(ここは俺も詰まりがちなので仕方ないね!)~~

 

「先生、郵便受け見に行ってみたらいくらか先生宛の手紙とか入ってるんですが。あれ、これ結婚式の招待状ですね。」

 

「全部捨てておいてくれ。それがあるからポスト開けるの止めたんだ。水道光熱費は銀行引き落としに変えたし。」

 

うっかり平塚先生の闇を見てしまったのでそっとしておいた。

 

 

そんなこんなで部屋が綺麗に片付いた頃にはお昼になっていた。俺はむっちゃ頑張った。先生の部屋にはまともな掃除用具さえなかったので隣の俺の部屋から持ち出して来ての大掃除である。最終的に1番大きいサイズの燃えるゴミの袋が7袋くらい溜まったので、どれくらい荒れていたかは推して知るべしである。

 

いや、このマンションがゴミ袋を置いておける物置を用意してくれて本当に助かった。ビールの缶とか詰まった袋と合わせたら、先生の部屋の玄関、人が通れなくなる所だったのだ。ちなみに先生は掃除が終わって綺麗に片付いた部屋を見て、こんなに綺麗な自分の部屋を見たのは久しぶりだ、と目を丸くしながら感動して家が綺麗になった記念、などとビールのプルタブを開けやがったので、奪い取って俺がミートソースパスタに使ってやった。もちろんビール以外の材料やら調理器具は全て俺の私物である。パスタの理由?平塚先生の部屋に残っていた米の袋の中身覗いて見たら、小さい虫と蛆で溢れてたんだよね。思わずスタンドで空間ごと削って消滅させた。だが、それ見て米を食うガッツがあると思う?俺は思わない。

 

 

そして、朝食兼昼食を食べ終わった後、ミートソースパスタの皿を片付けていると、先生が平然とタバコを吸い出した。あれだけ苦労したタバコの吸殻をもう増やそうとする先生にちょっとイラッときたので俺は言った。

 

「平塚先生、タバコ臭いです。」

 

「何を言う。それがカッコイイんじゃないか。タバコと硝煙の匂いのする傭兵・・・とか、憧れたことあるだろ?」

 

「ありますよ。カッコイイですよね。でも先生、タバコの匂いする女性って結婚率低いですよ。」

 

「ふぐっ!そ、そそそそんな馬鹿な!?確かに今まで女がタバコを吸うことに難色を示す男もいたが、自分がタバコを吸ってるからと気にしない奴だってたくさん居たぞ!適当な事を言うんじゃない!」

 

「いやそれはタバコの匂いを気にしないだけで好きな訳ではないのが殆どです。平塚先生だってキスする時タバコ臭いよりもいい香りした方が嬉しいでしょ?要するに気にしない人にとってはプラマイゼロなだけで、タバコ苦手な人からしたらただのマイナスです。ほら、これだけでお相手の幅が狭まった。」

 

「ぬ、ぬぬぬ・・・い、いや!それならば気にしない男と結婚すれば良いだけだ!だいたい自分と趣味の合わない男と結婚するつもりもないしな!」

 

「?何を言ってるんですか平塚先生。今までタバコの匂いなんて気にしない、なんてほざいて言い寄ってきた男の中に、貴方と真剣に結婚しようとした男が1人でもいた事あります?いや、居なくてもいいのでそんな連中の中でまだお付き合いのある男性います?」

 

「がはっ・・・!い、いやそれは今までの男がたまたま外れだっただけで、皆がみんなそういう訳では・・・」

 

「それはそうですけど、そんなのがどれだけ希少だと思ってるんですか。そもそもですね、タバコの匂いなんて気にしない、けれど君と将来幸せな家庭を築きたいとかほざく奴はだいたい身体か金目的だと思った方がいいですよ。だって幸せな家庭を築きたいって言ってるのに、将来子供産む時とか色々悪影響出るって分かりきってる相手のタバコ問題放置してる時点で将来の事とか全然考えてないですから。」

 

「グワァァッ!!お、おい・・・もうその辺で「というかですね。」ひいっ!」

 

「そもそもの話、平塚先生の周りで結婚した女性で、平塚先生程のヘビースモーカーって居るんですか?」

 

人の振り見て我が振り直せって言葉、国語教師なら知ってますよね?

 

 

 

「ぐぎゃぁぁぁあ!!」

 

とうとう平塚先生は胸を抑えてのたうち回り始めた。その間俺は火のついたタバコをサラッと回収し、灰皿に押し付けて火を消す。結構容赦ないこと言った自覚はあるが、俺の経験上平塚先生並のヘビースモーカーの女がまともな男と結婚した事例は存在しないので嘘は一切ついてない。まぁそもそもそう言う女性が皆必ずしも結婚願望を持っていた訳でもないのだが、それは言わずとも良いだろう。

 

ところで平塚先生、先程掃除してる最中に、面白いものを見つけたんですが。

 

「うぎゃぁぁぁ!こ、今度はなんだ!これ以上は止めてくれ!私のライフポイントはもうゼロなんだ!ってそれは!私の健康診断結果・・・!?ま、待て!」

 

平塚 静。検査の結果、一部要再検査とありますが・・・おかしいですね、再検査の日程予約用の封筒と書類、残ったままなんですけど?検査の日付、去年の10月ってなってますが。平塚先生、ちゃんと行ったんですか?

 

「い、いや・・・その。あの・・・そ、そう。色々忙しくてな!?」

 

ほう。確かにこの診断結果が来たのは年末前ですもんね。予約取るの難しいかもしれませんね。・・・などと言うとでも思いましたか?今何月だと思ってるんですか!?5月ですよ5月!入学式もとうに終わって教師の1番のピークは終わってるはずですよね?今まで休日は何してたんですか?

 

「え、えぇと、その、だな。まず前日に朝まで飲むだろ?そして朝寝落ちして昼まで寝る。で、起きたらまた飲んで、夜には寝る・・・みたいな感じ?」

 

なるほど、よく分かりました。

 

「この買い置きのタバコ3カートン分と大量の缶ビールは没収します。」

 

「わぁぁぁ!!待て!待ってくれ頼む!それが無いと私はは本気で生きていけないんだぁ!」

 

駄目です。というかもう消しました。

それと今から検査の予約入れましょう。今の時期ならそんなに混んで居ないはずですし、割と早く予約取れるはずです。大丈夫、消した酒とタバコの分のお金はお支払いするので検査費用に当ててください。なお拒否した場合はここにある先生のケータイを使って、先生のお母様と思われる方に一切合切報告します。

 

「あああ!本当にもう無い!馬鹿な、何処にやったんだ!

しかもそれは私の携帯!いつの間に!母親に連絡だけは止めてくれぇ!」

 

当然スタンド使って空間倉庫に放り込んだ。俺が許可しない限り二度と日の目を見ることは無い。

 

さて、先生。この母親らしき方の電話番号をタップされたくなければ、私の要求は分かりますね?

 

「う、うぐぐ・・・!こ、こうなったら最後の手段だ!くらえ、これが私の!自慢の拳だァァ!!」

 

「回し受け。からの渋川流合気術。」

 

愚かにも実力行使に出た平塚先生をさっくり鎮圧する。ちなみに技名は適当だ。もちろん床に叩きつけたりだとかそういう事は一切していないが、足で平塚先生の腕を拘束したのでもう暴れられない。

 

「ば、馬鹿な。こう見えても私は特技に格闘技と書けるぐらいには戦闘技術を納めているのに・・・さ、榊!貴様、普段は手を抜いてたのか!?」

 

「いや当たり前でしょう何言ってるんですか?いくら平塚先生が強くても、俺が女性に悪ふざけでも手を上げる訳ないでしょう。」

 

「そ、そんな・・・。じゃあ今まで素直に殴られていたのは・・・?」

 

単に避けなかっただけです。他の生徒ならともかく、俺なら先生の攻撃くらいでいちいち学校にクレーム入れるようなことも無いですし、そういうやり取りの方が先生も気楽に見えたので。

 

そう言ったら平塚先生が負けた・・・とか言って愕然としてしまった。いやこう言ってはなんだけど平塚先生がかなり強いのは間違いないと思う。女性なので筋力とウェイトの関係で、ゴリゴリの男性格闘家にゃ分が悪いと思うけれど、そんじょそこらの変質者じゃ瞬く間にボコボコにされるはずだ。俺はほら、転生当初から突然チートが使えなくなった時に備えて体もかなり鍛えてるから。

 

とりあえず腕の拘束を外して、平塚先生の体を起こす。するとガッ!と両肩を掴まれた。まだやる気なのか、元気だなこの人。

 

「わ、分かった。再検査は受けるし、酒もタバコもこれから量を減らす!約束する、だから頼む!いきなり全部無しはやめてくれ、本当に頼む!それが無いと本当に困るんだ・・・!」

 

違った、どちらかと言うと命乞い的な方だった。ものっそい悲壮な顔である。ふと昨日の夜の平塚先生がフラッシュバックした。やはり平塚先生の闇の深さが尋常ではない。どんだけ普段からストレス溜め込んでたんだろうこの人。うーん、確かにアル中からいきなり酒を全部断つのはかなりの覚悟がいる。しかし、かと言ってここで緩めたら結局悪化するだけな気もする。難しいところだ。

 

「だ、駄目か?・・・やっぱり榊も、私の様に酒やタバコに逃げる様な女は嫌いか?」

 

「は?むしろ俺は平塚先生のことかなり好きな方ですけど。何言ってんの?」

 

「・・・ふぇっ!?」

 

あ、やべ。つい脊髄反射で返してしまった。まぁ嘘は言ってないのでいいか。実際俺は前世から俺ガイルの中で1番好きなキャラは?と言われたら平塚先生一択だ。転生した時、かなり曖昧だった原作知識の中で唯一名前も顔も覚えて居たのは平塚先生だけであるから、それはガチである。

 

つーかそれより今平塚先生やっぱりって言った?何、今までそんなこと言ってきた男いんの?あぁ、いたのね。平塚先生本当に男運ないねー。いや見る目がないのか?どっちでも一緒か。

 

とりあえずまだ目を白黒している平塚先生を昨日の夜と同じように、頭を胸に抱え込む様に引き寄せて、背中と頭をこれまた昨日と同じように波紋を流しながら撫でる。強いようで結構脆い、よく分からんメンタルだな平塚先生。さっきタバコの事で結構弄ったときは大丈夫そうだったのに、今になって昨日の夜みたいに若干錯乱した状態になってる。

 

とりあえず、平塚先生にも分かって貰えるように心を込めて話す。ヒールボイスは使わない。あれ、ヒールボイスだっけ?昨日適当に名前付けたから忘れた。とにかく波紋を使った囁きは効果高すぎで良くないので使用を控えて、普通に説得を試みる。

 

 

いいですか平塚先生。貴方にどう見えているかは分かりませんが、俺としては先程言ったように、平塚先生みたいな女性は結構好きです。いちいちカッコイイし、俺や雪ノ下みたいな生徒にも何気なく世話を焼こうとする優しさも教師として素直に尊敬しています。

 

え?えぇまぁ気付いてますよもちろん。俺を雪ノ下と引き合わせたのも、学校で周りと馴染む気の無い俺や、しっかり自立しているようで結構余裕無くて不安定な雪ノ下に、せめて気楽に話せる友人にでもなれたら、とかそういう事でしょう?俺や雪ノ下はこうして強制でもされない限り、自分から進んで友人なんて作りませんし、雪ノ下に至っては余程のことがない限り他者を傍に置こうとはしないでしょうしね。

 

そうやって何気なく、何だかんだと理由をつけて、何かと色んな生徒のフォローをする先生は本当にいい先生だと思います。俺だって別に先生がただ酒癖悪いとかタバコ臭いとかで平塚先生からそれを奪おうとしている訳では無いです。むしろ本当ならタバコ吸ってる平塚先生カッコイイし、酒飲んでヘベレケの平塚先生も人間臭くて好きなので、そのままにしておきたいくらいです。

 

ですが、あの健康診断結果を見て考えを変えました。平塚先生、私の親戚に僅か30歳で糖尿病を発症した人がいます。なった経緯を聞いたら今の平塚先生とほとんど同じような状態です。若いから大丈夫、とは限らないのです。それならば例え今先生に恐れられ、嫌われても、容赦無くこれらを絶つべきだと俺は判断しました。別に一生絶てと言う気はありません。もちろんその方が健康でいいですが、先程も言った通り、タバコ吸ってる平塚先生の姿、似合ってますしね。

 

差し当ってはそうですね、再検査を受けて、その結果が次の健康診断で改善されたとなったら、健康を害さない範囲でお好きな様になさって下さい。それでいかがでしょうか?

 

 

「・・・うぅ、落としてから上げるのはズルいぞ・・・!」

 

 

そうやって恨めしそうな顔をする平塚先生。だが普段はクールで切れ長な瞳を潤ませて言われると可愛いだけですので効果はないです。

 

とりあえず、そろそろ落ち着いたみたいなので平塚先生を離す。いや昨日もそうだったけど平塚先生いい匂いするし柔らかいしでこれ以上密着してるのはあんまりよろしくない。具体的に言うと平塚先生に攻略される。

 

なのでとっとと離れて立ち上がろうとしたら、一瞬の隙をついて平塚先生が抱き着いてきた。いや、あの、これ以上は困ります平塚先生。

 

「やだ。これ落ち着くから、もう少しこのままがいい。」

 

うわ可愛い。はっ!?まずい今一瞬攻略されてた!

ていうか今のはズルくない?クール系の美人が上目遣いで口窄めて子供みたいにやだ、って言うのズルくない!?思わずギャップ萌えちゃったよ!

 

あ、だから止めて下さい平塚先生!猫みたいに俺の胸に顔擦り付けないで!あーッ、困りますお客様!あーっあーっ困ります困りますお客様!!おやめ下さいお客様!あー!困ります困りますお客様!!

 

 

ひとしきり平塚先生にスリスリされて余裕を失った俺はこの後何とか早く離れてもらおうと色々交渉した結果、次の様な流れで、平塚先生といくつかの契約を結ぶ事になった。

 

・今から自炊して健康なもの食べろと言われても困る

→では俺が代わりに3食用意するので先生は食費をお願いします。

 

・酒もタバコも頑張って止める!けどいきなり晩酌とか無くしたらストレスで死ぬ!

→ではタバコは頑張って貰うとして、晩酌は決められた本数を守るなら許可します。

→正直自分だけだと自制心に自信が無い。

→分かりました。言い出したのは俺なので俺が見張ります。どうせ夕飯用意するのも俺ですし、これからなるべく夕飯はなるべく一緒に取りましょう。

 

 

・ぶっちゃけこれ凄い落ち着く。ストレス凄い薄れていく。母親の腹の中にいるみたい。オギャれる。休日はずっとこうしていたい。

→流石に無理です。諦めて下さい。

→日給8000円でどうだろうか?

→金銭交渉!?お金には困ってないので、お断りします。

→そこをなんとか。代わりにちょっとくらいなら触ってもいい。

→体も対価にするの早!?自分を大事にして下さい。

→所詮私なんてろくでなしに甘い言葉でコロッと股を開いた汚れた女だ。今更大事にするほどの価値などない。

→何言ってるんですか。どんな生き方をして、どんな失敗を重ねたとしても先生は先生ですし、俺はそんな平塚先生を美人だと思っていますよ。

→本当か?私にはまだ価値があると思うか?

→当然でしょう。断言してもいいです。

→じゃあ正直今の状況どう思う?

→やたらと柔らかいし意外といい匂いするしで実は結構ヤバmはっ!?

→そうかそうか、嬉しいな。もっと私を感じてくれて良いんだぞ?

→あー!困ります平塚先生!あー困ります困ります!

→では休日、ずっとこうさせてくれるな?

→い、いえそれは流石に・・・って何してるんですか!?

→なに、ちょっと息苦しくなったのでブラだけ外しただけさ。服は着ているから何も問題は無いだろう?

→あー!困ります平塚先生!それ以上は困ります!ホントやめてくださいお願いします!

→私が聞きたい言葉はそれじゃないな。分かるだろう?

→くっ・・・分かりました!休日はなるべく平塚先生と一緒にいます。だから離れて!

→そうかそうか、嬉しいな。ところで榊、タバコ止めるとなると学校でストレス感じた時はどうしたらいいと思う?

→そ、それはほら、ニコレットとか禁煙ガムを利用したら良いと思いますよ?

→そう、か。・・・ところで、ずっとこうしていたら汗をかいてしまった。ちょうど掃除したばかりだし、一緒にシャワーでもどうだ?

→あーあー!聞こえなーい!もうこんな所に居られるか!俺は自分の部屋に帰るぞ!

→じゃあ私もこのままついて行っていいか?正直、今離れるのは寂しいな。

→あー困ります!あー!あー!困ります平塚先生!

→ふふふ、それならば、学校でもたまにこうさせてくれるなら、我慢出来るかもしれないなぁ?

→ーーーッッ!!わ、分かりました!周囲に人がいない時だけならいいです!

→よしじゃあ交渉成立だな♪ちなみに今日も明日も休日だし、もちろんこのまま付き合ってくれるんだよな?

→なっ!?・・・は、嵌めたな!卑怯だぞ平塚先生!鬼、悪魔、静!

→大人は時として卑怯なものだよ。勉強になったな、少年?

→せ、せめて家の用事を片付けさせて下さい。

→おお、それならば私も手伝おう。何せ私もガッツリ手伝って貰ったしな!

→く、急に元気に・・・!やられたぜ・・・!

 

 

・・・と、まぁだいたいこんな感じのことがあの後起きたのだ。

 

正直後ちょっとで平塚先生に攻略されてた可能性の高い俺だが、ぶっちゃけそれが先延ばしになっただけのような気もしている。

 

まぁ結果論ではあるが、何だかんだこれが平塚先生のストレス解消に役立っているのは間違い無いみたいなので、なるべく協力してあげようとおもっている。

 

いやだって即金で交渉だぜ?性別が逆だったら即豚箱行きの事案である。普通にドン引きしたわ!

だが、逆に言えばどんだけ平塚先生必死だったんだという話で、平塚先生の抱える闇の深さも洒落にならなさそうだと言うのはアンサートーカーを使わなくても分かる。平塚先生は原作に置いて重要なキーパーソンだし、原作主人公がいないこの世界でも、たくさんの学生になくてはならない存在だと思う。俺一人が色々な誘惑に耐えれば良いだけだと考えれば、そこまで悪い取引でも無かったのだ。・・・そうだと思いたい。

 

 

そんなことをフワッと考えて居たらチャイムがなった。5限の終わりだ。何だかんだ1時間近く平塚先生がくっ付いたままだった。回想しながらだったので半分くらいは聞き流していたが、何か今日は教頭先生が朝から機嫌悪かったとか、空き教室で逢い引きしてる生徒見てイラッと来たとか色々あるみたいだ。教師もたいへんだなぁ、と思うが、空き教室云々は傍から見たら俺らも変わらないと思うので先生も気をつけて欲しい。

 

ほら平塚先生、5限終わりましたよ。次の授業は無いんですか?

 

「むぅ、もう一コマ終わってしまったか。時間が経つのは早いな。・・・しまった、次の授業の準備を忘れてた!私はもう行く!榊もあまり授業サボるんじゃないぞ!」

 

そう言って慌てて走っていく平塚先生。廊下は走ってはいけません。とはいえさすがの俺も理由もなく授業をサボるつもりは無いので、脱いだ制服をさっと着ると、途中で止めた後片付けをささっと終わらせて教室にもどるのだった。

 

教室に戻って直ぐに俺と違って満腹でマラソンしたゆいにゃんとあーしさんから凄い睨まれたが、容赦無くm9(^Д^)プギャーってやっておいた。授業中やたら投げられた消しゴムの破片とか丸めたノートの切れ端とかはダメージ皆無なので全スルーしてやったぜ!

 

ゴスっ!痛!

・・・いや、流石に中身入りのペットボトルはズルくない?ねぇズルくない?

 

 

 

 

◻️◻️

 

 

 

放課後。

 

俺は今セツのんと2人で、とある教室の前で聞き耳を立てている。

 

教室の中ではある2人が大事な話をしてるからだ。

 

まぁ、誰だって言ったら普通にゆいにゃんとあーしさんなんだけどね。

 

 

昼休みの時は時間が迫ってたから少し強引に話を有耶無耶にしたが、アンサートーカーでざっくり確認した感じだと、一方的にキレ散らかしてたのはあーしさんだが、友達相手に自分の意思1つ言い出せずウジウジしてたゆいにゃんにも責任が無いとは言えない感じだった。

 

それをゆいにゃんも分かっていたからこそ、こうしてあーしさんと向き合って話をすることを選んだのだろう。たぶんだが、人に合わせるということに必死だった彼女は、こうして本音で語って失敗して、仲間外れにされたりする事を恐れていたのではないかと思うのだが、相手はクラスカーストのトップグループ。当然その可能性を考慮した上でこうしている筈だ。かなり思いきった覚悟が必要だったと思う。

 

俺は今でこそチートがあるので精神的だいぶ余裕があるが、それが無かった前世では、ゆいにゃんの似たような苦労をした事もある。その時、俺にあんな事が出来ただろうか。

 

ーーーだからさ、あたしも無理しないでもっと適当に生きよっかなーとか・・・そんな感じ。あ、でも別に優美子の事が嫌だとか、そういう訳じゃないから。だから、これからも仲良く、したい、かなー?

 

ーーーふーん。そ。ま、別に良いんじゃない?

 

ーーーごめん、ありがと。

 

 

「大したものだな。」

「そうね。」

 

由比ヶ浜が振り絞った勇気に、思わず素直な気持ちが口をついた。雪ノ下も同じ気持ちだったのだろうか。同じタイミングで相槌があり、思わず雪ノ下の方を見てーーーすこし、驚いた。

 

・・・なんだ、ちゃんと言えるじゃない。

 

そう独りごちる様に囁いた彼女は、一瞬だけ、笑っていた。

初めて見た彼女の微笑みだった。

そこに初めて彼女本来の表情を見た気がした。

 

ーーーとても綺麗だと、そう思った。

 

「・・・そろそろ行けよ。この後、由比ヶ浜と待ち合わせなんだろ?」

 

「言われなくてももう行くわ。分かってると思うけど、私はここに居なかった。良いわね?」

 

口には出さず、両肩を竦めて返事をした。だが、雪ノ下の方も返事など興味も無かったのだろう。こちらを一瞥することも無く早足で歩き去って行った。

 

さて、俺はどうするかな。セツのんと違って普通に俺は誘われてないし、かと言って平塚先生は今日は職員会議の日とかで帰りは遅くなるらしい。夕飯はどっちにしろ平塚先生と一緒に摂る予定だが、その間の暇潰しが必要だな。

 

とか考えてたら教室の扉がガラッと開いて、件のゆいにゃんが飛び出してきた。あ、やべ。

 

「うひゃっ、ごめんなさーーサカキン?えっ、なんでサカキンがここにいんの?・・・まさか、聞いてた?」

 

む、これは良くない状況だな。よし、誤魔化そう。

 

「何が?俺はたまたま教室に荷物を忘れたので取りに来たら、たまたま青春イベントが始まったので終わるまで待ちぼうけを食らっただけだ。」

 

「聞いてんじゃん!!要するに全部聞いてたんじゃん!うっわ信じらんない!バカなの?ありえない、キモイ!マジでキモイからほんと無理!!」

 

しまった、俺素直だから嘘つけなかったわ。でもWAWAWA、わっすれもの〜♪って歌いながら乱入するよりはまだ扉の前で待ってた方が良心的だよね。

 

ていうか教室は別にゆいにゃんのものではないし、勝手に人が入りにくい空気を作って独占してたゆいにゃんが悪いのでは?むしろ俺被害者では?謝って!勝手に青春イベント開いた挙句俺に逆ギレしたこと早く謝って!

 

「えっ!えっと、あの、ご、ごめんなさーーって謝るかー!!何度も何度もテキトーなこと言って言いくるめられると思わないで!盗み聞きしてた方が悪いに決まってんじゃん!!バカ!キモイ!モサモサ!」

 

お、そうだナ。

残念、今回は引っかからなかったか。ちょっとは成長したではないか。褒めてつかわす。ほほ。

 

「何で上から目線だし!もう、なんでもいつもそうなの!?いっつもいっつもあたしのこと馬鹿にしてー!」

 

は?してないんだが?

ゆいにゃんは弄ると可愛い反応してくれるから弄ってるだけだし。何なら俺がゆいにゃん可愛くするために頑張ってるだけだから何時だってゆいにゃんに真摯に向き合ってるし。つまり好きな子にかまって欲しい小学生男子のイタズラみたいなもんだし。

 

「ふぇっ!?えぇ!?え、えっとそれって・・・つまり?」

 

ん?俺は小学生じゃないからそんなつまんないイタズラする訳ないだろ何言ってんの?

 

「え?・・・あー!また騙したなー!!」

 

いやいくら何でもちょろ過ぎだろゆいにゃん大丈夫?飴ちゃん貰えるからって知らないおじさんに着いてっちゃダメなんだよ分かる?

 

着いてくわけないでしょ馬鹿にすんな!と切れるゆいにゃんを白々しくまーまーと宥めつつ、ちら、と教室の時計を確認する。ま、これぐらい時間稼げば雪ノ下も追い付かれてなんでまだここにいんの?とかそういう話になったりもしないだろう。もういいか。

 

うぅぅぅ!と顔真っ赤にしてうなり声あげてるゆいにゃんに、さも今思い出したかのように声を掛ける。

 

唸ってるのも良いけどさ、セツのんの放課後待ち合わせの相手ってゆいにゃんじゃなかったの?ホームルーム終わったらすぐ出て行ったから今頃待ってるんじゃねーの?

 

「あっ!しまった!あー、でも・・・ぐぬぬ!仕方ない!今日はゆきのん待たせてるからここで終わりにするけど、また後でメールするからね!忘れないでよ!」

 

ハイハイ、わかったわかった。はよ行け。

 

まぁまだ俺と連絡先の交換してないこと忘れてるあたりまだまだ、だなゆいにゃん。これだけ啖呵切って連絡出来ないことに気付いた時、明日どんな顔で来るのか今から楽しみである。

 

じゃあね!と、駆け出そうとする由比ヶ浜に、一言だけ伝えたいことがあったのを思い出した。

 

「あぁ、そうだ。由比ヶ浜。」

「ふぇ?どうかした?」

「よく頑張ったな、おつかれ。」

 

ーーー!ふふ、でしょっ?でも、ありがとっ!!

 

弾けるような笑顔で、彼女は走り去っていった。

・・・廊下は走ってはいけません。

 

 

にしても、今日はやけに身近な知り合いの、色んな初めての顔を見る日だなぁ。

 

 

・・・さて、今日は部長ももう居らんし、既に結構な時間が過ぎた。部活動自体今日は休みで構わんだろう。鞄を取ったらどっかその辺ぶらつきながら帰るとしますか。

 

どこいくかなー?と頭の中で幾つか候補を上げ、机に置きっぱなしだった鞄を取ると、教室を出るーーーの前に、声が掛かった。

 

「おい、そこのモサ男。これからちょっとツラ貸せ。」

 

・・・やれやれ、今日はイベント過多だな。困ったもんだ、全く。

 

俺はモサ男、なんて名前では無いので無視して帰っても良いのだが、それはそれで面倒そうなのでしぶしぶ振り向く。そこには先程までケータイを弄ってたトップカーストの女が、腕を組んで仁王立ちしていた。

 

俺の一日は、まだ終わらないようだ。

 

 

続く。



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6話

登場人物紹介

・榊 貴一
チートマンだがアダ名はモサ男。
煽れる時に全力で煽るタイプ。
キスくらいなら冗談で女友達とかに出来ちゃう。

・雪ノ下 雪乃
ゆきのんゆきのーん!と呼ばれると少しほんわかする。
一人暮らしだけどあんまり夜遊びしない真面目ちゃん。
今回は出てこない。

・由比ヶ浜 結衣
なんか結構本音で話せる様になっちゃった。
でもまだ加減はうまくない。オリ主には奇襲で攻撃する。
ゆきのんと放課後デートしたけどすぐ終わってあんにゅい。
実は昔オリ主と絡んだらしいが・・・?

・平塚 静
既にオリ主と半同棲状態にまで持ち込んだ凄い人。
なのに恋愛能力クソザコナメクジチョロイン。
割とテキトーなセリフで攻略可能なタイプ。
オリ主の体臭をタバコに出来ないかなとか日々考えてる。

・三浦 由美子
一人称はあーし。見た目はビッチ。中身はまとも。
そしてめちゃくちゃ良い奴。これもうわかんねぇな。
原作より面倒見が良い説。
作者としては口調が難しいキャラNo.1

・猫カフェ「にゃんにゃんランド」
最近オープンしたばかりだが、名前が風俗みたい。
そのせいで早速業績不振気味。
しかし店にいる人間もにゃんこも凄い有能。
猫まみれコースの人気はとても高く、一部愛好家には天国、と絶賛される。にゃんこ達もチュール舐め放題で幸せなのでwin-win。


はいどーもこんばんは、貴一です。転生者やってます。

部屋が隣の歳上の優しいお姉さんに甘やかされる系の漫画が好きで、リアルでもこんな事ないかなーと妄想してたら、いつの間にか部屋が隣の歳上のダメなお姉さんのお世話をしてました。現実って残酷ですよね。

 

 

 

 

みゃー、と茶トラ模様の猫が、膝の上で鳴いた。とりあえず頭を撫でてみる。手のひらに頭を擦り付けて来た。

 

は?

 

やば可愛い。なにこれ素敵!

 

とりあえずにゃんこが満足するまで頭を撫でる。そこでふと思った。待てよ、平塚先生にやったみたいにここで波紋流したらにゃんこに安らぎ与えられるんでね?そこんとこどうなのアンサートーカー。

 

効果絶大!?・・・む、個体によって心地よい波紋強度が異なるため難易度大?

 

ふ、どうということはない。俺は猫に好かれるためなら野良猫にチュールをダースで貢ぐ男。少しばかり操作難易度が高い程度でこのチャンスを逃すような事はしない!なぁに、ガキの頃から波紋の鍛錬は積んでるし、何も問題は無い!くらえ虎太郎(茶トラの名前)!俺式ゴッドフィンガー!

 

ふみゃァァ・・・╰(╰ .ω.)╯コテン

みゃー・・・( ^=ω=^ )…zzZ

 

は?天使かよ。

 

てか寝た!にゃんこが俺のナデナデ中に寝た!ヤバい超嬉しい!こ、これが神の手・・・!!俺は辛く苦しい鍛錬の果てに神の手を手に入れた!やった、やったぞ!俺の努力は無駄ではなかったんだ!

 

バンッ

 

「聞けしっ!」

 

ふみゃっ(*ΦωΦ*)─=≡Σ((( つ•̀ω•́)つバビューーーン!!

↑音に驚いてダッシュで逃げた猫。

 

は?

・・・は?

 

「いやなんか言えよ!つか何でここに来たんだし!」

「ぶち殺すぞヒューマン。」(睨)

 

折角の至福の時間を消し去った下手人に思わす殺意が漏れた。相手は思わずビクッと肩を竦めたあと、恐る恐る虚勢を吐いた。

 

「は、はぁ?何でいきなりキレてんの?こんなとこ連れてこられてムカついてんのはこっちなんだけど?」

 

連れてこられても何も、ツラ貸せっていうから校舎裏で告白か喧嘩かとウキウキで着いて行ったら、特に何処に寄るでもなく、その辺の人の居ない道端で、いきなり出た言葉が「で?」である。なんだコイツ頭大丈夫かなと思った俺は悪くない。

 

だがまぁ俺は精神的には大人なので、何となく彼女の言いたいことは理解出来た。要するにゆいにゃんの事が聞きたいのだろう。だが、何を語るにしてもこんな所で立ったままというのは少しダルい。なので俺はこう言ったのだ。何を聞きたいのかは知らないが、長くなるなら喫茶店でも行こう、と。

 

すると目の前の彼女は不承不承、と言った顔はしたものの、そ。と一言だけ呟いて着いてきた。

 

なので俺は最近出来たばかりの猫カフェに来た。

 

 

何か不思議な点があるだろうか?いや無い!

猫カフェだってカフェとつく以上は喫茶店だし、1文字とはいえ着いてくると了解したのは彼女である。別に全然いきなりでもない。なので俺は彼女を許さないし罰を与える資格がある。だからやる。

 

「すいませーん、こっちの子に猫まみれコースお願いしまーす。」

「え?」

「はーいかしこまりましたー!」

 

猫まみれコース!それはマタタビを原料とする猫の好む香料をスプレーで吹き掛けることによって、店のにゃんこ達が一気に寄ってくるコースだ!そして両手には大量のチュールが塗りたくられ、両手を猫に舐めまくられる猫好き垂涎のメニューだぞ!尚お値段1回8000円にして同時注文不可、猫の体力の問題もあって回数制限ありでスプレーの効果時間は僅か10分!猫好きでも豪の者は1時間分とか買うらしい!この店の看板メニューだぞ!

 

要するに猫でもみくちゃにされる夢のような時間だ。

本当は俺が受けたかったんだが、猫を大事にしない奴にはまず猫の可愛さを叩き込まねばならない。なので現在進行形で店の猫全てにもみくちゃにされ、手のひらぺろぺろされまくってひゃ!?なに?ひゃぁぁ!!と可愛い声を上げまくってる彼女の姿を写真に収め、その後動画に収める。

 

10分が経った頃には息も絶え絶えになった彼女に、猫はどうだ?と訊ねると、彼女は力なく呟いた。

 

「・・・超もふもふだった。後くすぐったかった。」

 

ふ、宜しい。これで君も今日から猫好きの一員だ。

ところでひとつ良いだろうか?

 

「何か聞きたいことあったんじゃないのあーしさん?」

 

早く話しなよ何時までも猫に塗れてないでさ。

全く、彼女は一体何しにここに来たんだろうか。

 

「どの口が言ってんだアンタッッ!!」

 

あらやだ顔真っ赤。でもちょっと涙目でプルプルしてて可愛い、とりあえずm9(^Д^)プギャーと返しておく。ガスっ!いった!殴られた。なんて酷いことをするんだ。そんな余裕が無いのだろうか。ダメだなー、そんな事じゃダメだわー。とりあえず猫のお腹に顔埋めて落ち着きなよ。

 

「するか!いい加減に・・・!」

「だから落ち着けというのに。というか俺に話させたいならまず何を聞きたいか教えてくれ。ゆいにゃんの事ってのはわかるけど、ゆいにゃんの何が聞きたいの?」

 

それを教えてくれないと俺に話せることなど何も無い。というか何でわざわざ俺に聞くし。よく知らんけどあーしさんなら自分でゆいにゃんに聞くタイプだと思ってたんだが。

 

そう聞いてみたら、彼女は何度か深呼吸して意識を切り替えたらしい。浮いてた腰を椅子に深く座り直して、ついでに脚を組んで背もたれにギシリと勢いよくもたれかかった。

 

「・・・別に、そこまで聞きたいことがあったわけじゃねーし。」

 

え、そうなの?

じゃあ一体何がしたくてツラ貸せなんて言ったん?

 

「・・・ユイは、」

 

うん?ゆいにゃんが何か。

 

「ユイは、あーゆう性格だから、普段からあんま、自分の言いたいこと言ったりしないし、押しに弱いとこあってナンパとかされると、あんま上手くあしらえない奴、だった。」

 

あー。

うん、そうね。凄い想像つくね。確かにそういう子だね、うん。

それで?

 

「だから、なるべくあーしが引っ張らなきゃ、って思ってたし、あまり変な奴は代わりに追い払ったりしてた。・・・けど、ウチらの中なら、だいたい言いたい事言えてるって、思ってた。」

 

おや、そうなのか。びっちクイーンみたいな見た目で結構姉御肌何だなこの子。口調はキツいが意外と良い奴なヤンキータイプか。

 

「でも、いきなりあーゆー事言えるようになったの、アンタやあの女を見てたら、って、そう言ってた。アンタらが本音で話してるの見てだって。でもさー、あーしは別に、ユイに本音隠してたつもりは無いっていうか・・・」

 

そうなのか。まぁ俺はともかくセツのんは確かにパンチあるキャラしてるしな。影響受けるのも仕方ない気がするけど。

 

「でも、あーしだって言いたいことは言うし、自分でも強気な方だと思うっつーか・・・その。」

 

んん?何かイマイチ言いたい事が分からんってかあーしさんがモジモジしてんの凄い違和感あるな。ええと、今の話を纏めて見ると、えー。

ん、んー・・・?ひょっとしてアレか。

 

「つまり自分だって雪ノ下みたいなキャラだと思うのに、自分の影響ではゆいにゃん自分の言いたいこと言えないままだったのに、なんで雪ノ下の影響は受けたのか?って話?」

 

「・・・そんな感じ。あと、アンタも今まで誰とも喋んなかったのに、ユイの話に出てきたし。」

 

うーん。

正直それは俺に聞かれてもという感じなんだが。

俺だってゆいにゃんが手作りクッキー作りたいって部室に来てから初めて会話したし、時間にしてまだ1週間も経ってないから俺に聞かれても何が影響したのかなんてさっぱりだ。

 

「手作りクッキー?何それ、あーし知らないんだけど?」

 

俺もよく知らんが、手作りクッキーを渡したい相手が居るとかなんとかで、でも自分1人じゃ出来んからって平塚先生に相談した結果うちに来て、俺とセツのんが指導しただけだ。細かい理由は本人に聞いてくれ。たぶん今ならゆいにゃんも普通に話せるだろうし。

 

「そういえばそんな事言ってた時あったような・・・?あー、あーし自分でやるとかないわーって言ったかも。」

 

なら、それで君らには相談しにくくなったのかもな。ゆいにゃんそーゆー細かいこと無駄に気にするし。そう言ったらなんか悩むような顔して黙ってしまった。

 

まぁゆーてそうだったとしても、それはあくまで彼女に相談しなかったと言うだけであって、何故セツのんの影響受けてあーしさんの影響受けなかったのか、ということの答えにはなんないけど。強いて言うなら、言葉の影響力ってのは「誰が」言ったのか、というのが1番影響してくる。仲間を作って言いたいこと言える位置にいる彼女と、仲間なんぞ1人も居なくとも言いたい事言えるセツのんとでは、本当の意味で強さが違う。

 

実際にはあーしさんは仲間作ってお山の大将気取りってよか、見た目と性格と面倒見の良さでいつの間にか周りに人が居たタイプっぽいので、そういう求心力的な能力値ではセツのんの惨敗だと思うけども。あの子は身内の面倒見は良いけどそもそも身内になるまでの審査がルナティックすぎるからな。ゆいにゃんがその中に入りつつあるのはある意味ゆいにゃんだからだと思う。

 

まぁそんなことまで教えんのめんどいからなんも言わんけど。

 

つーか喉乾いた。すいませーん、このジャンボブルーベリーシェイク1つ!あ、あーしさんなんか飲む?

 

「・・・トールバニラノンファットアドリストレットショットチョコレートソースエクストラホイップコーヒージェリーアンドクリーミーバニラフラペチーノ1つ。」

 

お、呪文かな?

 

かしこまりましたー!

 

え、今の1回で聞き取ったの!?店員さんやべー!つーか何処に書いてあんのそんなメニュー。ヤバい。

 

「・・・てかさ。」

 

ん?何かなあーしさん。

 

「それ。何でアンタあーしの事あーしさんって呼ぶの?」

 

「え?あーしが名前なんじゃないの?」

 

いやてっきり俺、とか私、の代わりに一人称に自分の名前使っちゃうタイプなのかと思ってたんだけど、違うの?何か強気なキャラの割に幼い子供みたいな一人称だったから、ギャップ萌え狙ってるのかなって。

 

「はぁっ!?そんな訳ねーし馬鹿なの?普通あーしのことあーしって言って名前だと思うとか有り得なくね?つーかギャップ萌えってなんだよ!アンタあーしの事なんだと思ってんの?」

 

「え、ゆいにゃんのボス的な?つまりビッチ。いやボスだからビッチクイーン?」

 

「は?ビッチじゃねぇし。きっも。」

 

えぇ、その見た目でビッチじゃないとか逆にないわー。とんでもない見た目詐欺だわー。詐欺過ぎてマイナスのギャップだわー。そんな事されたらせっかくの美人でも逆にイメージ悪くなるわー。なんか好きな男に相手にして貰えてないとかありそう。

 

「はぁ?アンタ、何言って・・・ねぇ、そういう事ってホントにあんの?」

 

ん?何が?

 

「いやだから、その、見た目とイメージ違うと逆にダメ、みたいなこと。」

 

んー。人による、ないとは言わない。でも受け取り手の問題だから、たぶんだけどよっぽど腹に何か抱えてない限り、あーしさんに言い寄られて悪く思う奴はそうそう居ないと思うけど。え、受け取り手の問題って何かって?

 

そうさなー、見た目スーパービッチのあーしさんが、実は中身はハイパー堅物負けず嫌いのセツのんみたいだったら、何かガッカリするじゃん?どうやっても人間は初対面の相手を見た目で判断するから、ナンパ野郎がビッチっぽいあーしさんは簡単にヤレそう!って声掛けたら全然違くて、ふざけんな!ってなる。この場合あーしさんは悪くないじゃん?でもナンパ野郎からしたらあーしさんの見た目がスーパービッチなのに!と納得いかないわけだ。

 

そんなこと知るかって?そりゃそうだ。でもそれが言える相手ならそれで済むでしょ?それで済まないから困ってるんじゃない?違う?え、なぜ分かったってあーた、自覚ないの?

 

「あーしさん今思いっきり恋する乙女の顔してたけど。」

 

「は?してねぇし。つーかアンタ人のことビッチビッチ言い過ぎだし。キモイ。あーしは別にビッチなんかじゃないし、男取っかえ引っ変えして自慢する趣味なんか無いから。」

 

ほう、あーしさんにとってビッチってそんなイメージなのか。なるほどねぇ。でもあーしさんレベルの女に迫られてうんと頷かない何てよっぽどのイケメンしか・・・そういや1人居たな。なんかキラキラしてる奴。言われてみればべーわの人とキラキラのとあーしさんでよく一緒にいるところ見たようなみてないような?

 

「・・・モサ男、アンタあーしだけじゃなくて隼人の事すら名前も覚えてないの?一応同じクラスじゃん。」

 

おっと、そのセリフは俺の名前をフルネームで言えてからにして貰おうか!

 

「は?モサ男みたいな陰キャの名前なんてあーしが知るわけないじゃん。」

 

言えねーんじゃねーか。まぁなので俺が知らなくても仕方ないよね。つーかあのキラキラ、やたらキラキラしてるし周りにあーしさんやゆいにゃんみたいなヤンキー侍らせてるからガラ悪いので近付きたくない。

 

「隼人はガラ悪くなんかねーし!つかあーしらもヤンキーじゃねーし!」

 

見た目ヤンキーだからヤンキーでいいよもう。てかあのキラキラ狙ってんだったら、今のままじゃ多分無理だぞ。よく見てないけど何となく分かる。アレはその他大勢と同じ目で見てくる奴には靡かんタイプだ。

 

「はぁ?知った風なこと言ってんな。モサ男アンタ何様だし。」

 

あっそ。まぁそれならいいや頑張れ。

つーか確かに俺が口出しすることでもねぇわ。悪かったな変なこと言って。お詫びにここは払うよ。元々そのつもりだったけど。

 

「要らない。別にアンタに奢らせようなんて気、さらさらないし。ワリカンで。」

 

お待たせしましたー!ジャンボブルーベリーシェイク1つと、トールバニラノンファットアドリストレットショットチョコレートソースエクストラホイップコーヒージェリーアンドクリーミーバニラフラペチーノ1つでございまーす。ご注文は他にございませんか?こちら伝票になりまーす。

 

ほーん?俺は別に構わんけど、ほんとにいいの?ここが猫カフェって事忘れてない?

 

「ウザッ。良いから伝票よこせ。・・・はぁっ?!何これ!?」

 

ふははは!だから言ったろうに。猫カフェは入店するだけで料金掛かるし猫と触れ合うグッズにも金が掛かるんだよ!しかも先程君が味わった猫まみれコースは1回8000円だ!どーだ知らなかったろー?ふーはははは!

 

「ぐっ!・・・ちっ、しゃーない。」

 

およ、ホントに払うの?真面目なんだな。それで何でそんな見た目なのか。

 

「うっさい。モサ男には関係ない。」

 

それもそうね。ところで俺も伝票見たいんだけど、貸してくれる?

そう言って伝票返してもらったらそのまま店員さんを呼び、カードで、と言ってカードと伝票を渡す。割り勘しようと携帯で計算してたあーしさんが俺の早業に苦虫噛み潰したような顔をした。

 

いやそんな顔されても元々払わせる気ないし。払わせる気があったら普通の学生のあーしさん連れてこんなとこ来ないし。心配しなくとも俺はこう見えて結構稼いでいるのだ。

 

「だから何?どんなバイトで稼いでるか知らないけど、その金はアンタが働いて手に入れたもんで、それで金持ってるから払って当然だなんて言うような奴とあーしを一緒にすんな。払うったら払う。」

 

「・・・うわぁ。」

 

「・・・何その顔。なんか文句でもあんの?」

 

いやゴメン。素直に良い奴過ぎてびっくりしてた。何なのあーしさんヤバいくらいいい女なんだけどどうなってんの?

 

「は、はぁっ!?いきなりなんだし!!きっも!うざっ!」

 

いやだってねぇ?これは本気で驚いた。思わず声が出たレベル。普通の高校生だったら必死にバイトして金貯めた友達に平気で金持ってんだろ奢ってくれよって言う奴多いんだけどな。

でもその金が、自分たちが部活で汗流したり遊んだりゲームしたりしてる間に、その友達が自分のそういった部活やら遊びやらの時間削って稼いだ金だって理解してる奴は本当に少ない。それが分かってるあたりあーしさんは凄い。かなり人の事きちんと見てる。ヤバい。

 

「〜〜ッッ///うっさい!もう分かったから黙れし!あとこれ!」

 

あ、それは本当に仕舞って。マジで。

もしかしたら勘違いしてるかもしれないが、俺はこういう時ポンと金を出せる男に憧れて金を稼いでる。つまりこれは俺の為にやってる事なので、むしろ逆にここで俺が払わないと俺のプライドが許さない。なのであーしさんには涙を飲んで俺の顔を立ててもらおうか。

 

そう言って納得いかなさそうなあーしさんとちょっと睨み合い。だがこればっかりは俺が引く気ないので、一切譲らない。いやその辺の勘違い女とかに奢るほど俺もお人好しじゃないが、こんないい女に金出させたらチート使って金稼いでる意味無いよねホント。

 

少しの間睨み合いは続いたが、結局俺の本気を知ったのか、それともこんな事で意地張る俺に呆れたのかは分からないが、あーしさんは引いてくれた。しぶしぶ、といった表情でだしたお金をサイフに仕舞い直すあーしさんにありがと!と笑顔でお礼を言っておく。正直面倒事かと最初は思ったが、あーしさんがこんないい女だと知れたので非常に楽しい時間になった。

 

うん、イケメンがモテるのとか正直最近はどうでも良かったんだけど、こんないい女に言い寄られて靡かないキラキラはやっぱ爆発した方がいいわ。なんで俺特典にキラークイーンって頼まなかったんだろ?

 

 

「・・・次は、あーしが払うから。」

 

「なんだ、次も一緒に来てくれるのか?キラキラに嫉妬されちゃうな。」

 

「・・・調子乗んな。アンタなんか隼人の相手にもなるかっつの。」

 

いやまず俺と2人で来るってことを否定しろよ馬鹿なの?というかよく考えたらなんで今日も俺と2人で来たの?別に俺呼び出すにしたってキラキラとゆいにゃん以外はいたって良くない?

 

え、今日は誰も予定合わなかった?キラキラ達は部活で国体目指してるから練習の邪魔したくない?はぁー?何それ良い奴かよ。あーしさん最高に良い奴かよ。これでもうちょっと素直ならゆいにゃんもあーしさん相手に怯えないのに。

 

「うっさい。ユイはあーゆーところ含めてユイだから、アレでいんだよ。」

 

ほーん。

ま、それもそうね。にしてもゆいにゃんももったいない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とは。あ、いや、完全に気づいてなかったらそもそもゆいにゃんもあーしさんに近付かないか。

 

「・・・は?アンタ、なんでそれ」

 

すまんね、俺チート持ちだから。ぶっちゃけ最初から知ってたよ。

あのセツのんと自分の違いがどーとかいうのも割と本音みたいだったけど、1番知りたかったのは、ポッと出の癖にあれだけゆいにゃんに影響与えた俺らが、正確には男の俺がか?とにかくまともな人間かどうか知りたかったんでしょ?ゆいにゃんは押しに弱いし流されやすいから、変な奴の影響受けたらどうなるか分かんねーもんな。

 

まぁ、付き合いの浅い俺でさえゆいにゃん放っておいたらダメ男に金貢ぐために身売りとかしてボロボロになって、それでも中々放り出せなくて苦労しそうだなとか思うからね。そーゆーとこひっくるめてゆいにゃんだと思ってたりすると余計に心配になるよねー!あっはっはっ!

 

まぁ心配しなくとも、俺別にゆいにゃんと恋人でも何でもねーし。友達でさえ無いから悪影響もクソもないんだけどね。・・・どうよ、安心した?

 

「ふん。・・・嘘つけ、友達じゃなかったらユイがあんな楽しそうに喋ってるわけねーだろ。」

 

そんな事言われても俺現にゆいにゃんと連絡先の交換さえしてないけど。あ、携帯見る?マジで入ってないよほら。

 

「は?うわ、本当に入ってない・・・てかアンタ、家族以外だと平塚先生しか入ってないってヤバくね?つかあの女すら入ってないじゃん!むしろなんでこれで平塚先生は登録されてんだし。」

 

隣に住んでて、家事全般が壊滅的な平塚先生の代わりに、先生の日常生活を管理してるのは俺だからです。・・・いやこれ言ったら平塚先生の教師としての威厳が消し飛ぶな止めとこう。俺が授業よくサボるから面倒見の良い平塚先生はわざわざ連絡事項とかメールで送ってくれるのさ、と言って平塚先生の株を上げておく。

 

 

ま、何にせよそんな訳なので安心しておくれやす。今度からは無理して2人で来る必要も無いよ。というかそもそも来る必要が無いよ。なので出来たらいつもの皆と来たらいいんじゃない?ゴスっ。痛!いや待って今なんで俺蹴られたの?俺変なこと言ってなくない今?!むしろ珍しくまともなこと言ってなかった?

 

「うっさい!大きなお世話だっつの!・・・ユイは犬派だし、姫菜はこーゆーとこ興味無いし、隼人は・・・どうせ2人じゃ来てくれないし。とにかく、アンタなんかに気を遣われる筋合いないっ!」

 

 

ハイハイ分かった分かった、それは悪うござんしたー。変な気を回して大変申し訳ございませーん。つーかそれは良いんだけどそろそろ帰らね?いつまでその呪文ドリンク飲んでんの?は?俺のブルーベリーシェイクもまだ全然減ってない?ははは、あーしさんに合わせてただけですぅ。こんなもん俺にかかれば秒ですぅ。

 

「は、嘘つくなし。その量のシェイク一気とか出来るわけないし。」

 

はっ、愚か者め。俺は波紋の呼吸・常中が出来るくらい強力な肺活量を持つ男だぞ?見てるがいい。ふんっ!

 

ギュオッッ!!

 

「・・・は?何今の消えたんだけど。ありえねー・・・」

 

ふーははは!見たかこれぞ俺の努力の成果!

それに比べてあーしさんは・・・はぁー。ま、あーしさんはそんなもんよね。まぁ女子だからね。仕方ない仕方ない。あ、俺先帰っていい?

 

 

「てめっ・・・!舐めんな、女子だからってチビチビ飲むことしか出来ない訳じゃないっつの。あんなもんキャラ作ってるだけだから。家じゃ麦茶ガブ飲みしてっから。モサ男みたいな陰キャは女に幻想抱き過ぎなんだよきっっも!」

 

ほーーーん?

まぁ口だけならなんとでも言えますからねぇ、な・ん・と・で・も!!

 

と、煽ったらとうとう我慢の限界に達したらしいあーしさんは、いきなり飲んでたストローで呪文みたいな名前の飲み物をかき混ぜ始めた。みるみる上に乗ってたチョコやらホイップやらが溶けてなくなり、完全に溶けきったところで、混ぜるのに使ってたストローを抜き、トレイの上に置いた。そしてガッとグラスを掴むと一気に呷った!おお、なんという飲みっぷり!流石あーしさんカッコイイ!ところで、一気飲みしてるとこ悪いんだけど、1ついい?

 

 

「実はさっきからゆいにゃんがそこの窓からこっち見てるんだけど、知ってた?」

 

 

ブハッッ!!

 

うわ危なっ。

 

「ゲホッゲホッ!〜〜ッッ!?ユイ?、は?・・・何時から?」

 

あーしさんがユイはそーゆーとこ含めユイだから、あれでいーんだよってツンデレ言ってるところから。セツのん居ないところ見ると、意外とあっちははやくおわったみたいだねー?

 

「はぁっ!?早く言えし!なんで今言うんだっつの!」

 

まーまー、それよかあーしさん、はいこれハンカチ。何って、顔拭いた方がいいよ?呪文ドリンク鼻から垂れてるし、何なら軽く化粧剥げて凄い事になってるから。

 

「ッッッ!?!?〜〜っ、よこせっ!!///」

 

「激写。」ピローン。

 

「は?」

 

かーらーのー?

 

「撮影開始。」ピローン。

 

「は?・・・ちょ、ちょちょ待てっ!なんで今撮ったし!?つか動画もやめろ!ま、待った!今顔拭く、拭くから・・・やめっ!やめろォ!」

 

だが断る。

 

はっはー!

まさかあの勝気なあーしさんのこんな姿が撮れるとは!今日はあーしさんの色んな素顔が見れてとても嬉しいです!ところで、陰キャ陰キャと馬鹿にしてたモサ男に鼻から呪文ドリンク垂らしてる顔激写されるとか今どんな気持ち?ねぇどんな気持ち?m9(^Д^)プギャー

 

「ぐっ、アンタ・・・後で覚えてろよ?」

 

お?覚えてていいの?なんだ、消そうと思ってたけどやっぱりこの画像残しておくか。え?大丈夫大丈夫ちゃんと毎日この画像見て忘れないようにしておくよww

 

お?顔真っ赤で涙目プルプル!今にも泣きそうだけどどしたの?何か悲しいことでもあった?ちょうど良かった、今ちょうど凄い面白い画像を手に入れてね、これなんだがはっ、殺気!だが甘いな!そんな攻撃は当たらんのだよ!

 

ブン!

ヒョイー

フ、アマイナ!

ゴスっ

 

いった!馬鹿な、何処からってゆいにゃん!いつの間に!?

 

「うっさい!優美子涙目じゃん何してんのサカキン!優美子を苛めたらあたしが許さないからね!!」

 

はぁー?苛めてませんー。むしろ苛められたのは俺の方ですぅー。言いがかりはやめてもらえますかー?

「うそつけー!どう見たって優美子が被害者でしょ!サカキンに苛められたときのゆきのんやあたしみたいな顔になってるもん!絶対サカキンが悪い!」

 

ちょ、人聞きの悪いこというのやめて貰えますか?俺がいつお前たちを苛めたというのか。むしろ何時も苛められてるのは俺の方である。だって何時もキモイとかモサモサとか言われてるし。はい論破。

 

「うっさいうっさい!とにかくサカキンが悪い!ねぇ優美子大丈夫?サカキンってあんなモサモサのくせに結構えげつない奴だから・・・」

 

「ちょ、ユイ、大丈夫だから今こっち見んなし!」

 

「何で!?サカキンになんかされたの!?サカキン女の子の顔にイタズラなんてサイッテー!馬鹿!」

 

「ちょ、違っ・・・とにかく本当にこっち見んな!今化粧落ちてブスになってっから!!」

 

「・・・え?化粧?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「・・・へ?まじ?」

 

「うん。ほら、鏡。」

 

おもむろにバッグから手鏡を取り出して、あーしさんの方に向けるゆいにゃん。そこには、先程まで呪文ドリンクで滲んだり剥げたりしてたはずの化粧が、まるでそんなことが無かったかのようにそのまま残っていた。

 

「・・・なんで?仮にドリンクで落ちたのが嘘だったとしても、あーし、確かにこのハンカチでかなり顔拭ったのに・・・?」

 

 

簡単である。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。俺はあくまで相手を揶揄う為に煽っているので、こう言った場合の様に、揶揄う相手が他者にガチで見られたくない姿を晒すような事になりそうな時は、一応フォローするのだ。

 

まぁそんなこと説明する気は無いので、?顔をしてる2人に声を掛ける。

 

だから言ったろ?苛めてないって。そもそもさっきだってあーしさんが、ゆいにゃんは私の方が大好きだー!とか抜かすから、俺のゆいにゃんへの愛がお前なんかに負けるかー!って言い争ってただけだし。まぁ結果として俺が勝ったので、ゆいにゃんへの愛は俺の方があーしさんより上です。

 

「いや負けてねぇし!!」

 

ほら、そんな訳であーしさんもゆいにゃん大好きって事を認めたので本当に苛めとかは無いです。

 

「え、ホントに?そうなの優美子!?・・・えへへ、恥ずかしいけど、うれしいな。」

「い、いやちがっ「あ、やっぱり、そうだよね・・・そんなこと、あるわけ」わ、なくも、無いけど・・・」

 

はい撃沈。

 

まぁゆいにゃんのあの悲しそうな顔食らったら否定できないよね。仕方ない仕方ない。という訳で俺の完全勝利です。お疲れ様でしたー。

 

じゃあ俺帰るね。ちょうどもういい時間だし、暇つぶしに付き合ってくれてありがとねあーしさん。2人ともビッチなのは分かるけどあまり夜遊びすんなよ。じゃ、また!

 

「「ビッチじゃないしっ!!」」

 

ビッチは皆そういうんですぅー!

 

そう叫ぶと殴られる前にダッシュで逃げた。

 

 

 

 

「・・・行っちゃった。くっそー、サカキンめー!次ビッチって言ったら蹴るって言ったのに、蹴る前に逃げられたぁ!!明日学校で絶対蹴ってやる!」

 

 

そう言って自分の前で憤る彼女は、今まで見た事もないくらい素のままの彼女のような気がした。

・・・あーしの前で怒るとか、今まで見た事無かったのにな。

 

 

「・・・ねぇ、ユイ。、」

 

でもそれがとても自然に見える。ならばこれはきっと、良い変化なのだろうとも思った。

 

「あ、優美子本当に大丈夫だった?サカキン割と女の子でも容赦無いから・・・。」

 

「へーき。それよか、あのモサ男、何て名前だっけ?」

 

「へっ?榊 貴一だけど・・・あ!もしかして優美子の名前も覚えてなかったとか!?うー、あたしの時も名前覚えてなかったし、アッタマきた!電話で文句言ってやる!」

 

そう言って携帯を取り出した由比ヶ浜に、いーよもう、と優美子が声をかけた。

 

「どうせ明日も同じクラスだから、明日あーしが直接文句言う。だからいーって。・・・つーかユイはあいつの連絡先知ってんの?アイツの電話帳にユイの名前無かったけど。」

 

「・・・あー!そういえばお昼に聞こうと思ってたのに、鍋のインパクトで忘れてた!だから後で連絡するって言った時小馬鹿にしたように笑ってたんだ!ま、またやられたー!」

 

 

うがー!と地団駄を踏むユイ。とても自然で、さりとて初めてみる自分の友達の姿。けれども、その騙されやすさに変わらない彼女らしさも見えて、何故だか少し笑いが漏れた。

 

色々言いたい事もあるけど、何だかんだ自分に遠慮しなくなったユイはこれはこれで悪くない、と思う。だから、明日会ったらまず出会い頭に思いっきり引っ叩いて、さっき撮った画像と動画を削除させる。そのあとはまぁ、ちょっとくらい会話してやってもいいかな?

 

「優美子・・・?どしたの?」

 

「ん?何が?」

 

「なんか、凄い上機嫌に見える・・・ような?」

 

もしかして、苛められて喜んでる?

流石にそれは遠慮なくなりすぎ(#^ω^)

 

「ユイ、引っぱたくよ?」

「わぁー!ごめん、ウソ!嘘だから!!」

 

やれやれ、と呆れつつ。たった数日でここまでユイを変化させた男にはもう1発増やそう、と思った。そこでふと、とあることを思い出した。良く考えてみれば、あのモサ男・・・榊はどこかで見たことがあったのだ。あれはそう、一時期ずっと別の何処かを見ていたユイの視線、それを追い掛けていた先にーーー

 

「ね、ユイ?」

 

「ふぇ、なに?」

 

「そいやさー、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?確か1年の頃に、しつこいナンパから庇ってもらったー、とか、言ってたじゃん?」

 

ピシッと、目に見えてユイが固まった。なるほど、どーりで最近妙に浮ついてる訳だ、と思った。ならば最近の彼女の変わり様は、ひょっとしたらあの女よりも榊の影響の方が強いのかもしれない。あるいは、自分から見てもあの女と榊は気さくな関係に見えたから、あの女みたいに榊と気さくに会話したくて、が原因なのかも。

 

あの、とかその、とか、まだしどろもどろのユイにこれ見よがしににふーーーん?と嫌らしく笑って見せると目に見えてユイが怯んだ。うん、こっちのほーがユイっぽいし!

 

「・・・手作りクッキー、作ったんだって?ちゃんと、渡せたん?」

 

そう聞くと彼女は一瞬顔色を悪くして、けれども直ぐに真っ赤に染めた。そして、見たことがないほど乙女のような、そんな顔をして。

 

「えっと・・・一応?」

 

 

はにかむように、とても可愛く笑ったのだった。

 

 

 

 

◻️◻️

 

 

夜。

 

あれから家に帰って、夕食の準備も終わる頃にで平塚先生も帰ってきた。

 

平塚先生の三食面倒を見ている関係上、平塚先生の部屋のキッチンもこっちのキッチンもどちらも俺の領域だが、わざわざまともな調理器具やら何やらのない平塚先生の部屋で調理する利点はほとんど無いので、食事の時はもっぱら俺の部屋に来てもらうことになっている。

 

あとは本来自由時間なのでどっちに居ても良いのだが、土曜日のあれから、平塚先生はこちらで夕食をとった後、だいたいそのまま俺に引っ付いて(*´д`)スーハースーハーとやってるので、自分の部屋にはほぼ着替えと寝る為に帰ってるだけの状態だ。

 

正直普通に匂い嗅いでるのとかドン引きだし、基本的には休日だけの話なのにこうして平日も家でなでなでを要求されてるのでちょっとどうかと思ってはいるのだが、3日目となると正直慣れてきて、先生の身体やら匂いやらに反応しなくなってきたのでまぁいいかと思うようになり、だいたい好きなようにさせている。

 

 

現在は夕食も終わって、そのまま俺の部屋でソファーに座ってダラダラしているのだが、ソファーに横になって読書していた俺に当然の様にのしかかり、胸に顔を擦り付けて俺の匂いを嗅いで、おちつくぅーと悦に入ってる平塚先生も一緒だ。

 

・・・家に着いて夕飯の前に風呂入っておいてよかった。ひょっとしたら平塚先生なら汗の臭いとか気にしないかもしれないが、匂いが強い方が良い!とか言い出されたら流石の俺も逃げる自信がある。

 

にしても本当によく飽きないなこの人。少し猫みたいだ、と思ったら昼間の猫カフェを思い出した。そういやあそこには癒された。という事は、平塚先生にも効くのではないだろうか。別に癒される方法は俺でないと駄目、と言うこともあるまい。

 

という訳で早速提案してみた。「んー、やだ。」即決である。いや何故だし。猫可愛いじゃん。超癒されるじゃん!

 

「猫より私は榊の方が癒される・・・人前では抱き付けないし、何ならむしろ私が猫になって榊に全身撫で回されたい・・・!」

 

うわぁ。

ダメだこいつ早く何とかしないと。

 

というか俺一応次の健康診断までに平塚先生を健康体にしたら、平塚先生の世話焼くのも辞める予定なんだけど、これ大丈夫なんだろうか。てか平塚先生契約内容覚えてるんだろうか。・・・まぁ、深く考えたら疲れそうだし、先のことは後回しでいいか。平塚先生の完全快復計画はまだ始まったばかりだし、ゆっくりやろう。

 

「てか平塚先生、そろそろお風呂入って来たらどうですか?ぼちぼち9時ですし、今入らないと昨日みたいに寝ちゃって、また朝一慌ててシャワー浴びる羽目になりますよ?」

 

「え〜。まだこうしてたい・・・!あ、何なら一緒に入るか?「もう入りましたので。」・・・つれない(´・ω・`)」

 

「ほら、アホなこと言ってないで、早く入りましょう。昨日寝落ちした平塚先生をベッドまで運んだの俺なんですからね?」

 

「ああ、意外と逞しい腕に優しく護るようにお姫様抱っこされて嬉しかった( • ̀ω•́ )✧」

 

起きてたんかい。それなら自分で歩いて欲しいんですがそれは。

 

「惜しむらくはそのままベッド中まで護りに来てくれなかったことかな。」

 

それ、廃棄王女のチョイ役貴族のセリフやん。しかも性別違うし。本当に先生の趣味いちいちおっさん臭いな。まぁ何でも良いですけど、地味に読書の邪魔なんでそろそろ本当に離れて下さい。あとはよ風呂入れ。

 

「むぅ、仕方ないな・・・。所で、ずっと夢中で読んでいるが、なんの本なんだ?」

 

ネットショップで適当にジャケ買いした本です。帰ってきたら届いてたんですが、中々に内容がぶっ飛んでて面白いです。タイトルは「恋の百戦錬磨!ありとあらゆる恋を経験した超人気少女漫画家が教える恋愛の必勝法!〜これで貴方も勝ち組リア充間違いなしっ!〜」です。何が凄いって調べたらこの少女漫画家の漫画どれも売れてない上に、必勝法を教えるくらい勝ってる筈なのに独身なんですよねこの人。というかよくこの内容で出そうと思ったな。これで恋愛が成功したら相手は異性じゃなくて異星人だと思うんだが。

 

「要するに恋のハウツー本か?意外な本を読むんだな。というか、読んだだけで馬鹿にするのは良くないぞ。何事もまず大事なことは実践だ。疑ってかかる前にやってみるのが成功の秘訣なんだぞ?」

 

何いきなり教師モード入ってんですか。教師モード入る前に風呂入って下さい。というかそのセリフはこの本を読んでから言ってくださいよ。

 

「いや、これは私の経験談だぞ。意外と意味不明な行為に見えても、何故か上手く行くことがあるのだ。かく言う私もこの手の本には結構世話になった。」

 

ジャケ買いした俺が言うのもなんだけど、この手の本結構買った上に実践してんのか平塚先生・・・。というか、それに釣られる程度の男にしか効果がないって事に気付かないんだろうかこの国語教師。だってそれ以上の男に効果があったら今ここで俺の胸にしがみつきに来てないだろうし。

 

まぁそれはいいか。どうせ言ったところで変わりは・・・待てよ?

 

確かに言ったところで何一つ変わりは無さそうだが、果たしてこの問題を放置していいのか?何とかしてしっかりとこの手の本を鵜呑みにしないようにさせないと、何だかんだと結婚できず、俺が高校卒業してもこうして俺に引っ付きに来ちゃうのでは?

 

それこそ今度の健康診断なんかで終わらない未来が確定しちゃう気がする!うーむ、まずいな。何がまずいって凄いその想像に違和感がない。普通に有り得そうな未来だ。

 

そうなるとどうにかしてここで訂正しておきたいな。しかしこういうのは1回でも成功しちゃうと意外と訂正が効かない。何故なら成功したことによって本人が効果があると思い込んでいるからだ。

 

うーん、なんかいい方法はないだろうか、と、いうところで自分が読んでいる本に気付いた。そうか、これもその手の本のひとつだしな。これを俺が平塚先生に実践して、あまりのくだらなさが伝われば多少の認識に変化があるかもしれない。ふむ、思い付きだが、試してみてもいいかも知れないな。

 

よし、そうと決まれば実践あるのみ。でもどうせだから1番くだらないのにしてみよう。

 

えーと、なになに?

 

『王道にして邪道!しかして効果絶大!身体でする誘惑術!』

 

正面から身体で誘惑とか書いてるのもアレだが、この本の内容と比べたら比較的普通だな。却下。

 

『愛され体質になる為に!バレない追跡法!!(※悪用厳禁!』

 

愛され体質とストーカー行為の関連性はどっから来たのか。意味が分からん。これはかなりの地雷臭がして一見良さげだが、ざっと見た感じ今平塚先生に実践するのは無理そうだな。残念だが却下だ。

 

『超簡単喪女脱却術!人の男の奪い方!~幸せは、案ずるより盗むが易し~』

 

これ働いて自分の欲しいもの買うより、持ってる奴から奪えば良いみたいな話か?自分では彼氏作れないのに、彼女がいる男から奪えるのか?いや、そんな魅力あるならとっくに彼氏居るのでは……?まぁだいぶネタとしては面白そうな話だが、こちらも現状平塚先生に恋人が居ない以上今使えないし、そもそも平塚先生に恋人がいるならこんなことになってないから却下だな。本当に面白そうだけども。

 

 

『これで貴方も必ずリア充!一撃必殺!無敵の必勝告白法!』

 

 

これだ!告白なのに無敵とか一撃必殺とか明らかな地雷しかない!一応告白術だからこの状況でもやれない事はないし、これにしよう!これに決めた!

 

『レッスン1、まずは唐突に俺様キャラになりましょう!普段大人しかったり気弱だったりすればするほどギャップ萌えで効果が高まります。』

 

のっけから何言ってるかもう分からないけど、まぁだからこそ平塚先生の認識を変化させるには効果があるだろう。これは逆に期待してもいいかも知れない。

 

『レッスン2、俺様になり切ったら唐突に相手の異性に冷たく当たりましょう!それはもう荒々しく、相手を傷付けるくらいの勢いで!』

 

いや、傷付けたらあかんのでは?まぁ、いい、やってみよう。

 

「おい、邪魔だ静。いい加減に退け、駄目女。」

 

「!?ちょ、え?あ、・・・ああ、ごめん!嫌だったか?今退くから!」

 

『レッスン3、相手が豹変した貴方に驚いたらチャンス、怯えて腰が引ける相手の腰を力強く抱き寄せ、相手の顔5センチの距離まで顔を寄せて相手の目を睨みつけましょう!この時、居丈高に離れるな、と言うのを忘れてはいけません!』

 

冷たくして退けたのにすぐに自分で引き寄せちゃうの?情緒不安定な奴じゃんそれ。つーかその距離で睨みつけるってヤンキーのケンカみたいだな。やるけど。

 

「あ、あの、ごめんな榊?私重かったか?嫌な思いさせてごめん、これからは気を付けるから、嫌いに「何してる。俺から離れんな」ひょえっ!?」

 

グイ、じー。

 

「え、えっと、その、さ、榊?顔が近い、んだが・・・///」

 

『レッスン4、しばらく睨みつけて、相手の防御力が下がった気配がしたらすかさず上から目線のままこう言い放ちます。「今からお前にキスをする。額なら友達として、唇なら恋人として。お前がして欲しい方を選べ。」この時、腰に回してない方の手を何気なく相手の顎に添えて、クイッと持ち上げましょう。効果が抜群に上がります!』

 

相手の防御力が下がった気配ってなんだ?(困惑)ポケモンかな?てかキスを異性にできる時点で相手はもう友達ではないと思うんだが。やるけど。

 

(防御力が下がった気配が分からん!もういいか、いっちゃえ。)

 

クイッ

「静。」

「・・・はい…。」

「今からお前にキスをする。額なら友達、唇なら恋人として、お前がして欲しい方を選べ。」

「え?!そ、そそそそれは・・・私たちは教師と生徒いやでも、えっとえっと、そ、それなら・・・!///」

 

『レッスン5、相手が何処を差し出しても1回全部無視!抱いていた腰を離して少し突き飛ばし、冷酷に冷徹に「俺がお前如きにキスなどすると思ったのか?身の程を弁えろ」とこき下ろしましょう!こうすることで相手のプライドやら精神やらを粉々にして、次のステップにて暗示を受け入れやすくします!』

 

暗示って言っちゃったよ!告白ではなくなってるよもう!やるけど。

 

「さか、き・・・んっ///」←唇を差し出す

 

ドンッ!

 

「きゃ、榊?何を・・・?」

 

「なんて顔をしている。俺が本気でお前如きにキスなどすると思ったのか、身の程を弁えろ。」

 

「・・・っ!?そ、そんな・・・やっぱり私じゃ」

 

『レッスン6、相手がショックで呆然としたらすかさず距離を詰めてください!そして、もう一度顔を近付けて顎をクイッとします!そこで目と目を見つめ合わせて、ポツリと呟く!「どうした?そんなにキスして欲しかったのか?』

 

暗示はどこに行ったんだ?(困惑)というかすかさず距離詰めろって、突き飛ばしたの自分なのに。何だこの著者頭イカれてんのか?まぁやるけど。

 

スっ←もう一度平塚先生の懐に入る

「えっ・・・?」

「どうした?そんなにキスして欲しかったのか?」

「そ、それは・・・!」

 

『ファイナルレッスン!相手が言葉に詰まったその瞬間!この瞬間を待っていた!視線を逸らそうとする相手をここぞとばかりに両手で顔を掴んで、しかし軽く触れるようなフレンチ・キス!当然相手は物足りない!なので最後にこう言いましょう!「これ以上欲しければ・・・お前が何を差し出せばいいのか、もう分かるな?」これで勝ち確!もう相手は貴方の愛の奴隷です!後は煮るなり焼くなりお好きにどうぞー!』

 

とうとう奴隷とか言い出したぞ(驚愕)

というかそもそもこれは告白なんだろうか?ボブは訝しんだ。

まぁこれで最後だしやるけど。

 

ぎゅ ←両手で顔を挟むように掴む。

 

「え?さ、榊・・・ンっ」

 

スっ ←本当にすぐ離れる

 

「あ・・・そんな、まだ・・・」(物足りない)

 

「もっと欲しいのか?・・・これ以上欲しければ、お前が何を差し出せばいいのか、もう分かるな?」

 

「・・・コク。」

 

 

よし終わり!

いやー、やったのは良いけどあまりに馬鹿馬鹿しすぎて羞恥心で死にそうになるなこれ。考えた奴馬鹿じゃねぇのマジで。俺の強いメンタルでこれならまかり間違ってこれ実践したやつは死ぬな。間違いない。成功すれば死なないかもしれないが、これが成功するとか絶対にないので確定で死ぬ。ザキより怖いなこの本。

 

「サカキ・・・」

 

あ、平塚先生、なんか急にすいませんでしたね変なことして!でもこれで分かったでしょ?この手の本がどれだけアホなこと言ってるのか。分かったら先生もこの手の本を鵜呑みにするのはやめて・・・何で服脱いでんの?

 

「榊・・・いえ、榊さま。言われた通り、私の全てを捧げます。だから、だからどうか、私に情けを・・・!」

 

 

「分かった、疲れてんだな?よし寝ろ!」(ラリホーマ)

 

 

「榊様・・・ッッ!_(ˇωˇ」∠)_ スヤァ…」

 

 

び・・・びっくりしたっっ!!

 

転生して17年間で1番びっくりしたッ!!

 

 

思わず使用を控えようと思ってたキュアトーク使っちまった!あれそんな名前だっけまぁいいや!

 

つーがあれ、今もしかして平塚先生この馬鹿みたいな告白に引っかかってた?何か最終的に愛の奴隷とかにするとかいう告白はどうなったの?とか言いたくなるこの馬鹿な本のアレに引っかかってた?

 

ウッソだろお前・・・

 

本の通りの演技するだけで恥ずかしいから我慢するのが精一杯で平塚先生の事全然見てなかった・・・!まさか効果出てたとは、予想外過ぎるッ!

 

いや、ハウツー本鵜呑みにして効果がどうとか言ってるから大丈夫かな、とは思ってたけどそうか、今までそんな胡散臭い恋愛ハウツー本で効果が出るような相手も相手だが、それが効果あると感じちゃう程度に感性がアレな平塚先生も似たようなもんなのか!!

 

マジかよ、マジかよ・・・!

 

この人もう28歳でそれなりに恋人がいた事のある大人の女性何だぞ?いくら何でも恋愛弱者過ぎない?これじゃ確かにまともな男捕まらんかもしれぬ・・・。

 

どうしよう、健康とかそういう事に関しては俺にも手助け出来るけど、恋愛能力に関しては俺は無力だぞー?セツのんだってモテるだけで恋愛能力が高い方には見えぬ。つまり現在の奉仕部では助力出来ない。平塚先生が結婚出来る可能性が・・・!だ、駄目だ俺!ここでアンサートーカーは使うな!俺のアンサートーカーは普通のアンサートーカーじゃないんだ!落ち着け俺!

 

・・・よし、深く考えるのは止めよう。うん!未来のことは未来の俺が何とかする。深く考えてはいけない。うん。

 

 

・・・とりあえず、半裸の平塚先生が風邪引かないうちに部屋に戻して、パジャマでも着させてベッドに放り込んでおけば大丈夫だろう、うん。

 

 

まぁ、流石に寝て起きれば平塚先生も正気に戻ってるだろ。たぶん。きっと、めいびー。

 

戻ってなかったらどうしよう・・・?

 

が、頑張れ明日の俺!

 

 

 

 

続く。




書籍名
「恋の百戦錬磨!ありとあらゆる恋を経験した超人気少女漫画家が教える恋愛の必勝法!〜これで貴方も勝ち組リア充間違いなしっ!〜」
著者
台場・フランソワーズ・薫子
著者紹介
「パリは萌えているか?よろしい、ならば結婚だ」「いとも容易く行われる完全完璧なお見合い術(※ただし相手の意識は無いものとする」「猿でもできる異性の落とし方〜古代ローマ編〜」など、数々の恋のハウツー本を世に送り出してきた恋の鬼才。46歳独身既婚歴なし。あまりにも突飛なタイトルと理路整然ならぬ理路漠然としたハチャメチャな論理、そして著者の精神状態を危ぶみたくなる意味不明を通り越して日本語なのに言語不明と呼ばれる文章、なのに何故か警察が有害指定図書と出版社に抗議するほど緻密で完璧な犯罪計画(誘拐術や監禁術など)を描写してみせることから「これ本当に恋のハウツー本?ギャグ小説じゃなくて?」とネットで話題に。この手の本が大好きな一部の変態とネット民の間で大人気になり、彼女の生み出した作品は全て「女神の恋愛指南書(※ただし異星の者に限る)」と呼ばれる様になった。シリーズ累計60万部のベストセラー作家。これで落ちたら人の終わり(笑)、むしろ実践したら一周回って新人類wなどと1部のファンは毎回呟きながら最新刊を楽しみにしてると言う。作中の「錯乱してこそ恋」は流行語大賞候補にも選ばれた。


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7話

登場人物紹介

・榊 貴一
チートを隠してるようで隠さない転生者。
精神的には歳下の少年らを怒りに任せてチートで打ち負かした。
動物に良く効く癒しのゴッドハンド持ち。

・雪ノ下 雪乃
抜群の運動センスを持つがなんでも出来過ぎてすぐ飽きる為、ひとつの事が長く続かない。その為スタミナがかなり低め。


・由比ヶ浜 結衣
実は最近部室で美味しいもの食べ過ぎて少し肥えた。
依頼にかこつけて短期集中ダイエットした結果、胸が大きくなった。
ストレッチでオリ主に合法的に触れると気付いてからは毎日ストレッチをオリ主にせがむ。

・平塚 静
オリ主と余り関わらない学校では、だいたいイケメン女教師。
自分で持ってきた依頼にオリ主が忙殺されて構って貰えず不満げ。
たまに自分の為にオリ主に授業サボらせる良くない系の女教師。

・材木座義輝
言わずと知れた剣豪将軍。女子が苦手。
この世界線では原作主人公が居ないので雪ノ下に追い返された。
大きな理由としては作者がこいつの口調書くのがキツいせい。

・戸塚 彩加
小柄で線の細い体。女の子よりも女の子の様な動き、端正で儚げな容姿。もうまるで女子にしか見えないが、だがオトコだ。
可愛い見た目に似合わず、熱い心とガッツを持つ少年。何やらオリ主に技を教えられた様だが?

・三浦 優美子
容姿端麗、スタイル抜群、されど見た目はくそビッチ。なのでやりたい盛りに男子によく告白される。
詳細は不明だがセツのんが嫌いらしいぞ!

・葉山隼人
オリ主達のクラスどころか学年全体でナンバーワンの男。
関わりの浅い人間が彼と話すとキラキラしたものが舞ってるように見えるらしいぞ!


おはようございます。どーも、貴一です。今日も元気に転生者やってます。ビッチとボッチって語感が似てるのにどうしてこうもボッチの方が負け犬みたいな感じがするのか不思議ですよね。

 

 

 

2週間が経った。

 

最初の頃の奉仕部に強制入部されたりゆいにゃんにクッキーの作り方教えたり平塚先生がヤバかったりあーしさんに呼び出し受けたりとイベント目白押しだったのは何だったのか、というくらいにこの2週間、至って平穏な日々を過ごした。

 

まぁ当然の様に平塚先生は毎日うちに来てダラダラしていくし、セツのんやゆいにゃんと奉仕部で依頼人来ないねーとだべったりたまに俺が殴られたりしてるが、そんなもんである。強いて言うなら朝一あーしさんに挨拶されるようになったくらいだろうか。

 

ちなみに、実を言うと奉仕部に依頼人が1回だけ来たのだが、たまたま俺が部室ではなく保健室で平塚先生にスハスハされてた(丁度保険の先生不在だった。)時に来てたらしく、セツのんに部室に不審者が居ると思われて冷たい対応を受けて去って行ってしまったらしい。どうにもセツのんと目を合わせないなど挙動不審だったとかで、きっと原作にも居た中2君だと思うのだが、それ以来来ていないので詳細は分からない。今からでも来てくれれば俺が対応するのだが、来ない奴まで追っかけて依頼を聞くのもなんか違うので、とりあえず彼次第と言うことになっている。

 

 

「それにしても暇だねー。今日もお客さん来ないのかな?」

 

まぁ暇なのはそれはそれで良くない?こうして本を読む時間もあるし。勉強もソシャゲも、やりたいだけやれるじゃん?

 

「そうね。傍にいるだけで何となく不安な気持ちになる人がいて、少々読書に身が入らないと言う不満はあるけれど、暇なのは悪いことではないわ。だってそれだけ困ってる人が居ないということだもの。」

 

おいゆいにゃんゆいにゃん、セツのんが俺の事意識してるらしいんだけどどうしたらいい?せめてもう少し胸育ててから来いって言うべきかな?あ、でも育たなかったら一生来れないな。

 

「あなたの事など微塵も意識してないわ。いた事さえ今気付いたくらいね。貴方だいぶ自意識過剰よ。可哀想に、誰にも相手にされなさすぎて、皆が自分の悪口を言ってるように聞こえてしまうようになったのね。」

 

「サカキンサイッテー!女の子の身体のこと言うなし!まじキモイ。」

 

おいおい良いのかゆいにゃん。今セツのんは傍にいるだけで不安になる奴は俺じゃないって言ったんだぞ?この場に居るのが3人で、言った本人であるセツのんと、全く意識してないらしい俺を除くとゆいにゃんしかいないんだけど。言ってる意味分かる?

 

「えっ・・・ゆきのん、そう、なの?」

 

「えっ!?違っ・・・榊くん!由比ヶ浜さんに責任転嫁しないで貰えるかしら。私は貴方の事を言ったのよ!」

 

「じゃあやっぱり俺の事意識してんのか。まいったなー照れる。」

 

「そうなのゆきのん!?」

 

「だから違っっ・・・あーもう!」

 

うわっ危な。ちょっとちょっとセツのーん。何かあると暴力に訴えるのやめて貰えますー?人類なんだからもっと対話で解決を試みてよ。最近ちょっと暴力に訴えるのが早いし、ひょっとしてカルシウム足りてないんじゃない?ちゃんと牛乳飲んでる?はいこれウエハース。カルシウム入だよおたべ。

 

「誰のせいだと思ってるのかしら貴方は・・・!というか、毎度毎度人の神経逆撫でしておいてお菓子を与えれば解決すると思ってないかしら?お生憎様、私は末代までこの恨みを忘れないわ。ずっと夜道は背後を気にして生きる事ね?」

 

「おぉー!さすがゆきのんカッコイイ!良いぞ良いぞー!いつもいつも私達を馬鹿にしてくるサカキンをとっちめろー!」

 

なに!?それは怖いな。

だが、セツのん。セツのんはそれで本当に良いのか?武力に訴えるなんてそこらの原始人にもできるぞ?現代人と原始人の違いはなんだ?理性と知識こそが違いじゃないのか?

 

その違いこそ現代人の力で、だからこそセツのんは力をつけんと今まで色々勉強してきたのに、それを投げ捨てていいのか?お前のしてきた勉強は、そんな軽いもんだったのか?違うだろう?今セツのんがやるべきは、武器を手に感情のままに相手を攻撃することではなく、まず俺に殴った事を謝罪し、今度は知恵と勇気を武器に、苦しくても対話を諦めずに言葉で戦うのが正しいセツのんではないのか?ならばやるべき事はなんだ?このウエハースを食べて、交渉の席に着くことだ。違うか?

 

「悪いけどその手には乗らないわよ。私はやると言ったらやるのよ。懺悔は地獄でお願いするわね?」

 

そうか、じゃあ言い方を変えよう。

 

俺の周りでセツのんを除くとすぐ手が出るのはあーしさんとゆいにゃんだけ。つまりそのカテゴリにセツのんも入ると見ていいんだな?カテゴリ、ビッチギャルにセツのんも入ると思っていいんだな?

 

「だから人をビッチって呼ぶなー!ビッチじゃないし!だいたい私とゆきのんはもう友達だもん!同じビッチじゃない普通のギャルのカテゴリだもん!ねぇゆきのん!」

 

「ごめんなさい榊君。私が間違ってたわ。ウエハースいただけるかしら?」

 

「ゆきのん!?」

 

「違うのよ由比ヶ浜さん、貴方の貞操観念の緩さとかそういう事に偏見があるわけではないの。私はただ単に不良に見られるのは嫌なの。」

 

「それ私が不良に見えるってこと!?というかゆきのんあたしのこと不良だと思ってたの?!」

 

「えぇと、その・・・大変言い難いのだけれど・・・。」

 

ゆいにゃんその髪色で不良じゃないと思ってたの?逆に凄いんだけど。つーか世間一般の真面目な学生のイメージでまずピンク髪とか有り得ないでしょ?だいたい黒髪か良くて茶髪でしょ?ゆいにゃんだったら頭の中で黒髪の女子高生とピンク髪の女子高生並べてどっちがまともに見える?

 

「私のイメージ完璧に不良にされてる!?い、いや!確かに見た目は不良に見えるかもだけど、人って大事なの中身だから!私は中身で勝負だから!」

 

「え、えぇそうね。確かに由比ヶ浜さんは中身はその、不良では無いわね。・・・その、なんと言えば良いのかしら。知性的ではないというか。」

 

早い話が中身は不良じゃないけど、ゆいにゃんアホだから中身で見てもアホと一緒にされたくないってセツのんは言ってるぞー。

 

「あたしの事全否定!?」

「駄目よ榊君。真実は時に人を傷付けるのよ?」

「はぐっ」

 

うわ何て鮮やかなトドメ。

たまにセツのん暗殺者なのってくらい容赦ないクリティカル叩き込むなー。見ろあれ、ゆいにゃんが胸押さえて蹲っちゃったぞ。

 

何か今更慌ててフォローしようとしてるけど今のは心臓を綺麗に一刺ししたからな。シャルロットコルデーかと思うくらい見事な手際だった。残念だがあの傷ではゆいにゃんは多少のフォローでは回復できまい。

 

「・・・ど、」

「ど?どうしたの由比ヶ浜さん?」

 

「どうせ私は見た目不良で中身もアホだよーー!ゆきのんとサカキンのばかーー!!」

 

「由比ヶ浜さん!?」

 

ダメージが入りすぎてゆいにゃんが泣きながら逃げ去ってしまった。セツのんはまるで戦場に行く恋人を引き止めるみたいに手を伸ばしたまま固まっている。ちょっと間抜けな姿でわろす。

 

ゆいにゃん行っちゃったけどまぁいいか。そろそろお茶でも飲もうと思ってたところだし。あ、セツのんアイスピーチティーのむ?今日はちょっと凝ってみようと思って桃のドライフルーツ使って作ってみたんだ。

 

「榊君、随分落ち着いているけれど、これは追いかけなくても良いのかしら。」

 

ゆいにゃんが走り去ったことを気にしてるセツのんが、彼女が出ていった扉の方をチラチラ見ながら聞いてくる。

 

何オロオロしてんの?大丈夫大丈夫、ゆいにゃんだから。どうせすぐ戻ってくるよ。で、飲むの?

 

「・・・えぇと、そうね。あまり甘くないのならいただくわ。」

 

ドライフルーツ使ってるから甘味はあるけど、市販のみたいな甘さは無いから安心してくれ。はいよ。

 

「ありがとう。いただきます・・・あら、思った以上に桃の香りがするわね。」

 

「うむ。たっぷりの桃のドライフルーツを、ティーパックのピーチティーに漬けて、香りが飛ばないように細工したものを冷蔵庫で冷やしてみたんだ。桃もティーパックも安物だが、意外と悪くないだろ?」

 

「ええ。香りも良いし、優しい甘さで読書が進むわ。」

 

それは良かった。ついでにこれ茶菓子な。砂糖漬けのオレンジピールにチョコ塗ったやつ。テレビでたまたま見たやつ作ってみた。名前は忘れたけど。

 

「オランジェットね。毎度思うけれど、貴方も結構マメね。毎回飲み物もお茶菓子も用意してるなんて。」

 

そんな名前だったなそーいや。食べることは人生において大きな楽しみのひとつだし、つまらない時間も美味しい食べ物と飲み物があればそれなりに華やぐものさ。まぁ何も要らないってんなら下げるが?

 

「そうは言ってないわ。だから皿を下げるのは止めなさい。単にいつもいつも色々用意してあるものだから感心してるのよ。・・・飲み物はともかくお菓子やら食器やらが急に出てくる手品だけはどうかと思うけれど。」

 

「イリュージョンの達人なんで(`・ω・´)キリッ」

 

「恐らく自慢げな顔してるんでしょうけど、髪の毛で隠れて見えないわよ。」

 

(´・ω・`)そんなー

 

とか何とかセツのんとやってたら、いきなり部室の扉がバーンと音を立てて開いて、先程走り去って言ったゆいにゃんが飛び込んできた。おや、随分早いお帰りだな。

 

「探しに来てよーーーっっ!!なんで追いかけてこないの!?てゆーか私を無視して2人だけでお菓子食べてるし!?なんで?!なんであたしだけ仲間外れにすんの!!酷いよ!」

 

おやゆいにゃんお帰り。大丈夫大丈夫、どうせまた来ると思ってたからちゃんとゆいにゃんの分も用意してあるよ。はいこれ、少し走って喉乾いてるだろうと思って、氷少し多めにしておいたよ。

 

「わぁ!ありがとサカキン!ちょうど喉乾いてたんだーって違う!そうじゃないよ!そこが問題なんじゃないよ!なんであたしを仲間外れにすんのって言ってるの!」

 

・・・?いまいち何を言ってるのか分からないが、俺は仲間外れに何かしてないぞ。そもそも仲間外れとは仲間である人間に使う言葉だから、ゆいにゃんには当て嵌らない。

 

「!?!?どーしてそんな酷いこと言うの?!同じ奉仕部の仲間でしょあたしたち!?」

 

「えっ。そうなの?」

 

「何でそこで本気で不思議そうな顔するの!?たった2週間だけどほぼ毎日一緒にやってきたじゃん!!」

 

「いや確かにほぼ毎日居たけど、依頼も無いのに毎日来るからよく来る変なお客さんだなーとは思ってた。」

 

「これまでずっとお客さん扱いされてたのあたし!?もう、サカキンのバカ!あたしだって奉仕部の一員なんだから!ねぇゆきのん?」

 

と、ゆいにゃんは申してますが、そうなのセツのん?だとしたら俺その話聞いてないんだけど。

 

「あの・・・大変申し訳ないのだけれど、由比ヶ浜さん?貴方奉仕部の一員では無いわよ。」

 

やっぱり違うんじゃねぇか。騙したなゆいにゃん!

 

「そんな!?ゆきのんまでそんなこと言うの!?」

 

「いえ、だって私はあなたから入部届を受け取ってないし、顧問の平塚先生からもそんな話は聞いてないもの。」

 

「書くよ!?それくらいいくらでも書くよ!?というか必要なら教えてよ!!今すぐ書くからあたしを仲間外れにしないでよー!!」

 

そう言ってカバンから勢いよく取り出したルーズリーフから切り離した紙片に、女の子らしい丸っこい字でにゅうぶとどけ、と慌てて書き始めた。いやあの、多分ちゃんとした用紙あるよ?・・・まぁいいか。俺も別に入部届けとか書いてないし。

 

とりあえずこれで晴れてゆいにゃんが奉仕部の一員になった。ほぼひらがなで書かれた入部届けをセツのんが受理したからか、セツのんとは比べ物にならない豊かな胸を張って、むふー!と元気いっぱいである。おっと。

 

(っ’-‘)╮ =͟͟͞͞ブォン

=͟͟͞͞( ˙-˙ )サ

 

危ないな、いきなり物投げるなよセツのん。

 

「チッ、とうとう焦りさえしなくなったわね。」

 

そりゃ俺の周りの女性皆がやたらと唐突に暴力振るうからね!俺だって慣れちゃうよね!てか何で心の中で貶したことが分かるんだ?ひょっとして負けず嫌いだから?やべーなセツのん。

 

「サカキンって本当サイテーだよね。サカキンがヤンキーって呼んでる、とべっち達だってサカキンみたいに堂々と女の子にセクハラしないよ?」

 

と、思ったらゆいにゃんも俺の心を読んできた。まさかっ!コヤツもさとりか!え?口に出ててた?……あらやだうっかりてへぺろ!

 

「ええ、本当に榊君には困らせられるわ。平塚先生も一体何考えているのかしら。こんな破廉恥な生き物を無理矢理入部させるなんて。おかげでスタンガンを購入する羽目になったわ。」

 

ハッ、そんな女子に嫌われたくないだけのボーヤと俺を一緒にするな。この歳頃の男子で女子の体に興味無いなんて本気でほざくのはゲイか不能だけだ。生物学的にもこのくらいの年齢時が1番生殖能力が高く、それに伴い繁殖欲・・・つまり性欲が最も強いのもこの時期と証明されている。

 

なのにそいつらがそれを外に出さないのは、それでドン引きされて近寄られなくなると本当にそういった関係になれる可能性が無くなってしまうからだ。要するに女子に引かれても構わん俺と違って、なるべく見せないように隠してるヤツらの方が性欲強いから気をつけろよ?

 

あとセツのんのスタンガンは俺に当たると本気で思ってるなら認識が甘いぞ!だがその辺の不審者には効果的だろうからちゃんと持ち歩けよ!あと興味あっても無駄にスイッチ入れるな、あれ1回ごとにかなり電池使うから、肝心な時電池切れで使えなくなるぞ。

 

「そうなの?!え、じゃあ今まで・・・あー!何かちょっと他の男子が怖く思えてきたじゃんなんて事すんのサカキン!」

 

「言われなくても隠してようが隠してなかろうが皆ケダモノだと思ってるから問題ないわ。・・・私としてはスタンガンに造詣が深い榊君に色々疑問なのだけれど。」

 

 

俺は事実を述べただけですぅ。むしろ今までゆいにゃんが認識を間違ってたのが良くないと思いまーす。

 

ふ、実は昔電撃を浴びて動けないって初見でやられたら詰みだよな?生き残るためにも耐性つけておかないとって態とスタンガン腕に押し付けたりして訓練してたことがあってな(遠い目)

 

「貴方は一体何と戦おうとしてたのかしら。」

 

・・・ゾンビとか?

 

「ごめんなさい、わけが分からないわ」(困惑)

 

 

 

とかやってたらコンコン、とノックがされた。おや、随分行儀の良い依頼人がきたのかな?と思ったら平塚先生が邪魔するぞ、と入ってきた。

 

なんだ平塚先生か。どうしました?ゆいにゃんがさっき廊下を走り回ったことを叱りにでも来たんですか?

 

「それは私ではなく生徒指導の厚木先生の領域だな。今由比ヶ浜を追いかけていったからそのうちここに辿り着くだろ。そうじゃなくて、依頼人を連れて来たんだ。感謝しろ。」

 

顧問が依頼人連れてきたって普通に仕事しただけでは・・・?まぁいいやありがとうございます。して、肝心の依頼人は?あ、ゆいにゃん流石にちゃぶ台の下に隠れても見つかると思うよ?諦めて怒られて来たら?ヤダ?まぁ頑張って。

 

「由比ヶ浜・・・ちゃぶ台で無理なんだから榊の背中に隠れたって無理に決まってるだろう。素直に諦めろ。」

 

「いや、サカキン意外と背中広いから頑張れば・・・おおー!サカキン意外と体ガッチリしてる?何か思ったより首とか肩幅とか広く感じる!あっ、腕も触ってみるとけっこー太い!」

 

「分かる。意外と着痩せするよな榊って。」

 

「えっ?」

「えっ?」

 

何故そこで同意してしまうのですか平塚先生!あれだけ普段の事は内緒だって言ったでしょ!見られたらヤバイのは俺じゃなくて先生の方なのに。因みに俺の体はスタンドで常時周りの空間歪めて一回り小さく見せてるから、ホントに抱き着く位の近くに来ないと実際のサイズは分からないのだ。

 

まぁいい、とりあえず誤魔化すしかないな。

 

「それよか、依頼人はどうしたんですか?」

「ああ、そうだったな!戸塚、入ってくれ。」

 

「失礼します・・・」

「あ!さいちゃんだ!やっはろー!」

「あ、由比ヶ浜さん、やっはろー。」

 

平塚先生が扉の方に声をかけると、静かに扉が開いて、大人しそうな顔の生徒が入ってきた。どうやらゆいにゃんの知り合いらしい。随分と可愛らしい顔の子だ。ん?なんだアンサートーカー……だが男?おお、言われてみればそんなキャラいた気もする。

 

「戸塚 彩加さんね。どんな依頼かしら。」

 

と思ったらセツのんも知ってるらしい。相変わらず友達いないくせにクラス外の人間まできちんと覚えてるのは凄い。にしても小柄で線の細い子だが、髪の毛の色は灰色っぽい銀髪である。こんな子まで不良なのか(遠い目)

 

「こんにちわ、雪ノ下さん・・・だよね?ここでお願いごとを聞いてもらえるって聞いたんだけど、あってる?」

 

「少し違うわね。あなたの願い事を聞いて、其れを実現するための手助けをするのが私たちの仕事。だから、あなたの願い事がなんであれ、真に叶えるのは貴方自身、ということになるわ。」

 

これまで通りうちの部の説明をして依頼内容を聞くセツのん。

これ聞くと依頼が来たなぁと言う感じがするから不思議なもんだ。たぶん前世の記憶がどっかで引っかかってんだろうけどなぁ。リアルでこれ聞いたのまだ3回目だし。

 

とりあえず依頼の話はセツのんに丸投げして、俺は邪魔しないように聞き役に徹する。あ、飲み物とお茶菓子位は出しておこうか。俺たちの分だけ置いてあるのもなんだし。ゆーてピーチティーはゆいにゃんの分で無くなってしまった。なんか他に作り置きはあったかな・・・冷蔵庫には紅茶とかのお湯用の水しかないな。

 

うーん、空間倉庫になにか入れてたか?えーと・・・あー、ものが多過ぎて探すのめんどいな。1回くらい整理せんと。あ、ゆず茶があった。これにしようそうしよう。平塚先生もゆず茶で良いですか?それともホットコーヒーに・・・ん?皆さま、ゆず茶がなにか?

 

「サカキン、今・・・」

「榊、お前今何してた?」

「えっ?ええ!?今腕が消え・・・!?あれ、ある?!」

「榊君、あなたの奇行はいつもの事だけど話の邪魔はしないでと何度言ったら分かるのかしら?」

 

あ?あー。なんだ皆して真面目に話してるフリしてそうでもなかったのか。1人端っこの方で飲み物用意してる俺のこといちいち見てるなんて。真面目にやりなよもう。まぁいいや、こういう時はこうだな。

 

「ふっ・・・イリュージョン(`・ω・´)キリッ」

 

「もうサカキン奇術師になったら?」

 

だが断る。

 

とりあえず誤魔化すのにスタンド使って、手を触れずにシェイカー振ってゆず茶作ったりして平塚先生と依頼人を目でも喜ばせるというバーテンダーの鏡みたいなことをしながらも話は進む。

 

で、依頼内容を纏めてみると、どうやら戸塚君はテニス部なのだが、他の部員のやる気が無くて困っている。自分が強くなってみんなを引っ張って行けるようになりたい。強くなる方法を教えてください!って事らしい。いや最初は他の部員のやる気を何とかしたかったみたいだが、ダメなやつは自分で変わらないと絶対変わらないとかいうセツのんの実体験から来る力の篭もった説明で方針変更となった。つーかセツのんもぼっちストーリー結構持ってるよねウケるww

 

そしてこの中で唯一のテニス経験者のセツのんが明日からしばらくの間、昼休みに戸塚君にテニスの指導する事になったのだが、テニス部じゃない人間がテニスの指導??しかも何故か俺達も一緒に集まることとなった。いやなんでだよ。俺昼飯はゆっくり食べたい派なんだけど。依頼受けたのセツのんやん。雑用にしてもゆいにゃんいるし、俺必要なくない?

 

「駄目よ。私が依頼で頑張ってる時に貴方だけが1人ゆっくりご飯を食べてるとか想像するだけで腹が立つもの。部長命令よ。」

 

どちゃクソ暴君でわろたwま、部長命令と言われたら仕方がないな。一応俺も奉仕部の部員だし。仕方ない、しばらく昼飯は手軽に食べれる物を作るしかないな。

 

「話は纏まったようだな。では、私はそろそろ戻る。後はよろしく頼むぞお前たち。」

 

「ええ、任せてください。」

「はーい!がんばりまーす!」

 

おお、意外とゆいにゃんがやる気だ。初依頼だからだろうか。まぁ指導するのがセツのんで頑張るのは戸塚君である以上ゆいにゃんの仕事は応援くらいしかないのだが、まぁ楽しそうだしやる気もあるみたいだから突っ込みは入れずにおこう。

 

すると立ち去ろうとした平塚先生に戸塚君が慌てて立ち上がってお礼を言った。すると平塚先生は両手を白衣のポッケに入れたまま上半身だけ捻って戸塚をちら、と見てニヒルに笑って。

 

「なぁに。ま、頑張れよ戸塚。応援してる。」

 

そう言って白衣を翻して、こちらを見ないまま片手をヒラヒラ振って帰っていった。うわ本気でカッコイイなあの人。何あれハードボイルドじゃん。ヤバい。隣で思わずゆいにゃんも平塚先生って本当カッコイイなぁとか呟いてる。その気持ちは俺も非常によく分かる。だが、普段の色々だらしない姿も見ているとギャップで非常に残念な気持ちになるから不思議である。

 

とりあえず、そんなこんなで戸塚少年の修行パートが幕を開けた。

 

 

 

◻️◻️

 

 

翌日・昼休み。

 

昨日の約束通り、今日の昼休みから早速特訓なので、少しでも時間を無駄にしない為に皆、昼食は片手間に食べられるものを用意するか、早弁してしまうことになっている。

 

いつもなら自分の弁当とか面倒くさがって部室で炊き込みご飯とかセットした炊飯器とか用意しちゃうのだが、仕方ないので平塚先生の分作る時に自分の分も用意した。

 

とはいえ、俺のと違って平塚先生にはバランスよく、されど満足感のある物を作らないとならず、俺のようにおにぎりやサンドイッチだけという訳にはいかないので、別におかずとかデザートとかも用意してる為、少し手間が増えてダルい。

 

なお、俺がおにぎりとサンドイッチにした理由は、単に少し行儀が悪いが、やろうと思えば歩きながら食べられるからだ。なので今はもちろん食べながら歩いている。恥ずかしいとかはアレだ、そんなこと気にしてたらぼっちなんてやってられないので問題は無い。

 

とはいえ、昼休みに入ったばかりだと、皆基本的に購買や学食、もしくは教室などで食事をとるのが先で、それが終わらないと外に遊びになどこない。なのでテニスコートのあるグランドへ向かってるような輩はほとんど居ない。ごく稀に通りがかる人達は流石に食べながら歩いているこちらを見て変な顔をするが、わざわざ行儀の悪さを咎めるような真似をする者はいない。まぁ俺だってしないからそんなもんだと思う。

 

「サカキーン!」

 

と、そんなことを考えながら歩いてたら大きな声で呼ばれた。この絶妙にアホっぽい呼び方はゆいにゃんしか居ないので、後ろを振り向いたらこちらに小走りで向かってくるゆいにゃんと戸塚少年が。どうやら昨日結局体育教師にして生活指導の厚木先生に捕まって説教されたせいか、廊下で全力疾走はきちんと控えてるらしい。あらやだ可愛らしい。

 

「教室出るのが早いよ!同じクラスなんだから一緒に行けばいいじゃん!」

 

そんな事言われても。正直一緒に行く理由もないと思うんですがそれは。つーか戸塚少年のクラスが分からなくて先に着いてて待たせたらどうしようかと思ってたんだよ。まさか後ろから来るとは想定外だったが。そう言ったら2人が固まった。有り得ないものを見たような顔をしている。どうかしたのか?

 

「マジで言ってんのサカキン・・・うわマジだ。髪の毛邪魔で見えないけど何となく分かる。マジ顔のきょとんしてる。あたしや優美子の時も思ったけど、サカキン本当に同じ教室なの?さいちゃんもあたしも同じクラスなのに。 ・・・」

 

なんと。そうだったのか。済まなかったな戸塚少年。アレだよほら、まだこのクラスになって2ヶ月経って無いから上手く馴染めてないとかそんな感じだよたぶん!

 

「あ、あはは・・・僕1年の時も榊君と同じクラスだったんだけどなぁ。気付いても貰えなかったか。」

 

・・・ま、まぁそーゆー事もあるよね!

ほら俺基本的に人の名前とか覚えないからさ。なんなら未だにゆいにゃんと戸塚少年以外のクラスの顔と名前全然言えないレベル。・・・うん、ごめんね?

 

うん、戸塚少年にものすごい苦笑いされたぜ!まぁどう考えても俺が悪いから仕方がないね!

 

とりあえず、セツのんより遅く着くと怒られそうなので、3人でトコトコ歩く。俺は戸塚少年に許可貰ったので部室で体操服に着替える予定だが、2人はもう着替えが終わっていて、2人のやる気が見た目に現れている。うむうむ、やる気があるのはいい事だね!俺?俺はほら、まだご飯食べてるから。うん。

 

「いや、食べながら歩くとかどーなのサカキン・・・。」

 

学校帰りの買い食いだと思えばえーやろ。てか2人とも昼飯は?え、早弁?やる気あんなァ。

 

「そりゃ初依頼だからね!・・・でも目の前でサカキンにパクパク食べられるとちょっと食べたくなってきた。サカキン、何かないの?」

 

今食ってる最中の俺に聞くのかそれ。まぁあるけど。サンドイッチとおにぎりだったら何が食べたい?

 

「あはは、いやほらサカキンって頼めばなんでも出てくるイメージだから・・・って、あるの!?」

 

「あはは、流石にそれは無茶振りだよ由比ヶ浜さん・・・えっ、あるの?」

 

あるけど。ただし俺の手作りなのでそれで良ければだが。

 

そう言って残りのサンドイッチを口に放り込んで、両手を叩く。練…成ッッ!!とかテキトーな事言いながら、あたかも何も無い両手の中に突然現れたかのように、空間倉庫からサンドイッチとおにぎりの詰まった運動会用の重箱を取り出す。いやまぁ調子に乗って具材作りすぎて、うっかりパンと米の方増やしたら凄い量になっちゃったんだよね。2人が食べてくれるなら助かるわぁ。

 

「うわぁ、本当に榊君の手品どうなってるの?何も無いところからお重が出てきた!凄い凄い!」

 

「イリュージョンの達人ですから(`・ω・´)キリッ」

 

「分かったから早くちょうだい。おにぎりは中身なに?」

 

ゆいにゃんの反応が冷たくて切ない(´・ω・`)

まぁ結構見せてるから仕方ないんだけど。とりあえずおにぎりはエビマヨ、ツナマヨと半ナマ焼きたらこ、肉巻きかな。サンドイッチはたまごサンドとソースカツサンド、BLTサンドです。

好きなだけ食べて良いけど、これから運動だからその辺は自分で気を付けてね。

 

「おにぎり全部ガッツリ系だ!?・・・いやでもサカキンの料理美味しいからなぁ。じゃあ、これから運動だしこの肉巻きもらうねー!」

 

「僕もいいの?えっと、それなら運動前だしBLTサンドもらうね?」

 

おっと、性格が出たな。たぶん戸塚少年が普通だと思うんだが、ゆいにゃんのあれはなんだろう。要するに運動前だから力のつくもん食べようって事かな。これはセツのんの事がまだ分かってないな。後で地獄を見るだろう。作ったの俺だけど。

 

それはそうとして、お味は如何か?

 

「・・・うっわ、肉巻きめちゃくちゃおいしー!何コレやばい!もうサカキン料理人になれるよ!」

 

「BLTサンドもとっても美味しい・・・!これ榊君が自分で作ったの?本当に凄いね!」

 

 

そうだろうそうだろう(。・ω´・。)ドヤッ

まぁ俺氏チーターですからなフホホホ!

 

とかやってたらテニス部の部室に着いたのでサラッと着替えてテニスコートへ。すると先に行ってた2人にセツのんが合流していた。何だ、始めてても良かったのに。あ、訓練内容の説明してたのね。はいはいなるほど、これがメニューね。流石セツのん、ちゃんと紙にメニューを纏めてくるなんて優等生極まりないな。どれどれ・・・?

 

・・・なぁセツのん、ラケットを使った練習1個も入ってないというか、ほぼ筋トレばっかりなんだが。そしてこの回数の欄にある力尽きるまで、と言うのは?

 

ちょっと意味不明過ぎだったので聞いてみた。するとセツのんは自信満々に筋肉の超回復とかの説明をしてくれた。言ってることは間違ってないかもだが、死にかけるまでやったらパワーアップは発想が戦闘民族すぎるだろう・・・。

 

いやまぁ、基礎代謝も上げて運動に適した体を、というのは賛成だがどれもこれもひと月ふた月で結果が出るものではない。確かに今からやれば、後々絶対に戸塚少年の力になるが、そもそもこれは特殊な昼練であって戸塚少年は放課後も部活の練習があるんだが。

 

セツのんに容赦が無いのは知っているし、戸塚少年もゆいにゃんも地獄を見ることになるなーとは思っていたが、思った以上に容赦がない。というかこれいきなり全部やったら戸塚少年強くなる前に体壊すのでは?

 

「四の五の言わずにまずはやるのよ。大丈夫、人間の体多少の無理が聞くし、死にかければ何かと覚醒するし、それに本当に無理なラインを見極めるには必要な事よ。人間は命ギリギリの1歩先を乗り越え続けると早く強くなるのよ。」

 

「発想がバトル漫画の修行パートなんだが。」

 

これ修行パートは修行パートでもスポコン漫画の方なんですが。死にかけて覚醒とか、テニプリでも参考にしたの?あれ公式ではスポーツ漫画って言ってるけど詐欺だよ?

 

多少の抗議を入れてみたが、肝心要の戸塚少年と体脂肪が付きにくくなると聞いたゆいにゃんがやる気を見せている。これはもう止まらない。うーん、これは俺もフォローしないとダメな奴だな。しょうがない、ちゃんと用意しておこう。

 

とりあえず俺は脚力とスタミナ強化の為のランニングメニューにだけいくらか訂正を入れて、戸塚少年昼特訓に付き合うことにするのだった。

 

なお、あまり代わり映えしないので以下日記風ダイジェスト。

 

 

1日目

 

セツのんの無茶振りがエグい。

 

ダイエットにもなると聞いて、初依頼なのと二重の意味で気合い入ってたゆいにゃんが途中でくたばったのでそこからは俺と戸塚少年だけが運動してた。

 

戸塚少年は見た目にそぐわぬ体力とガッツで食い付いていたが、最後までは持たなかった。それでも部活で運動してるだけあってなかなかやる。多少回復が早くなるように呼吸法を教えておく。

 

なおセツのんは腕立て伏せをやる俺が斬新な土下座みたいだとご満悦だった。いや、セツのんもやれよ。

 

 

2日目

 

ゆいにゃんが筋肉痛で初めからくたばってたので2日目にしていきなり見学になった。

そりゃ普段運動なんか体育くらいしかしない普通のJKがいきなりあれだけ筋トレしたらそうなる。当たり前だ。

 

だがあまりにもキツそうなので、途中途中ストレッチを教えてやりながら、軽く波紋を流してやった。多少の鎮静効果の他に治癒力を向上させたりする効果があるので多少は楽になるだろう。本人はストレッチまじ気持ちいい!と勘違いしていたが、そのままにしておいた。

 

戸塚少年はやはり運動部だけあって筋肉痛はあるがゆいにゃんほどキツくないらしい。今日も隣で一緒に筋トレをする。教えた呼吸法を必死に練習してるようで感心した。なので、肺活量をあげるためにとにかく深く呼吸するように指導しておいた。ついでに薄らぼんやりと全集中の呼吸法も教えてみたりしておく。

 

途中戸塚少年の疲労回復の為に蜂蜜レモンを用意していたのだが、戸塚少年よりもゆいにゃんとセツのんがパクパク食べてた。明日はもうちょっと量を増やした方が良さそうだ。

 

 

3日目

 

ゆいにゃんは今日から特訓に復帰。

流石に若いだけあって回復が早いな、と感心していたら特訓よりもストレッチを強請られた。凄い体が軽くなって気持ちいいらしい。仕方ないのでやった。途中興味を示した戸塚少年にもやってあげたら、可愛く喜んでいた。いちいち女の子っぽい少年だなと思った。

 

3日目なので多少慣れてきたのか、戸塚少年も結構メニューをこなしている。ゆいにゃんも初日に比べたら頑張っていた。しかしこの日も最後まではやってるのは結局俺だけだ。というか最後まで終わるのがまず俺だけだ。あと、流石に力尽きるまでという回数はアホすぎるので、この2日間の動きをみて限界より少し上目に回数を設定しておいた。こちらは体力上昇具合によって随時回数変更予定だが、流石にしばらく先になると思う。

 

セツのんは相変わらず指示をしているだけである。ちょっとイラッとしたので、カロリーの高いものをいくらかおやつと称して食べさせたあと、そのカロリーを教えた。ランニングは一緒にするようになった。

 

 

5日目

 

戸塚少年がもう体重落ちたとか言い出したので、食事量を聞いてみた。小柄な見た目に違わぬ小食っぷりだった。これはまずい、体作りは運動と睡眠と食事の3つが大切だ。今度から疲労回復用の蜂蜜レモンの他に食事も差し入れしよう。

 

ゆいにゃんも体重が落ちたと喜んでいたが、逆に何故か肩がこったと不思議そうな顔をしてた。いやそりゃ、あれだけ揺れてたらなぁ。セツのんが少し悲しげな顔で自分の胸に触れていたのは見なかったことにしておく。

 

なんかもう2人に波紋ストレッチを付けるのが日課になってきたなーと思ってたらセツのんにも要求された。しかし触られたくないので触らずにやれとか言われたので容赦なく全く体に触れずに体を伸ばしてやった。何故か痛気持ちいい!と困惑していたが多分満足してたと思う。

 

最近蜂蜜レモンもの消費が良すぎて在庫が急速に減っている。そこそこ一緒に運動してるゆいにゃんはまだ良いとしてもランニングオンリーのセツのんは食いすぎではなかろうか。しかし俺の蜂蜜レモンは調理がシンプルな為、原材料にこだわり抜いた特別品である。その違いに気付いて美味しいと喜んでくれるのは俺も満更でもない、何も言わぬ事にした。

 

 

7日目

 

ようやくラケットを使った素振りがメニューに加わった。ここからは流石経験者、セツのんの指導は素人が聞いていてもなんか凄い。多分戸塚少年はテニスが強くなると思う。いや、なんなかったら問題なんだけどね。

 

ようやくゆいにゃんが自分も戸塚少年と同じ練習をやる必要が無いことに気付いた。そりゃ君テニス部じゃないしね。しかし、せっかく体重が減ったのと、セツのんにどう鍛えるとどうプロポーションが変化するのか教わったせいか、ランニングと一部の筋トレは指導期間中はやるらしい。まぁ、運動することはいい事だ。しかし、時間が余ったからってストレッチをより長く付き合わせようとするのはやめて欲しい。俺は俺でメニューあるんだよね。あと君ストレッチ中はボディタッチ多いから反省してね。

 

セツのんは何か未だに自分のトレーニングメニューをクリアするのが俺だけなことに納得がいかないらしい。俺の腕立て伏せ中に背中に座ったり、ランニング中に俺だけタイヤ引かせたりとしてきたが、俺の普段の鍛錬量に比べたら遊びの範疇である。余裕でクリアしたあとm9(^Д^)プギャーっしたら叩かれた。

 

おにぎりとサンドイッチの差し入れは大好評で大変結構なのだが、戸塚少年よりもセツのんとゆいにゃんの方が食べてるのは何故だ。

 

10日目

 

戸塚少年のスタミナが目に見えて増えて来た気がする。効果が出るには成長期を考慮しても早すぎるので、メニューに慣れただけだと思う。しかし指導が終わっても続けばかなり効果が出るだろう。そもそもセツのんの無茶振りをある程度こなしてるのは本当に凄いガッツだと感心する。

 

 

最近ではセツのんどころかゆいにゃんも腕立て伏せの時上に乗るようになった。いやあの、2人とも乗るのは構わないんだけど筋肉すごーいとか言って筋トレ中に体触るのは止めて。セクハラで訴えるぞ。セツのんも意外と鍛えてるのね、と感心した声だしても上に乗ったままあちこち触ったのは許さん。

 

 

いつもいつもセツのんとゆいにゃんが戸塚少年よりも食べてしまうので、最近は更に多めに差し入れを作っているのだが、結局戸塚少年よりも2人の方が食べている。いや、美味しそうに食べてくれるのは嬉しいんだけどね?

 

今日もメニューを完遂したのは俺だけだ。メインの戸塚少年に合ってないとか誰の為のメニューなんだ。このメニュー考えたやつアホなんじゃないか?

 

 

 

14日目

 

セツのんとゆいにゃんが鬼気迫る顔でランニングしている。

 

そりゃ最近はゆいにゃんも飽きてきたのか運動量がかなり減っている。セツのんに至っては最初の頃と同じくランニングすらしていない。2人揃って俺のストレッチを受けてただけだ。それであれだけの量食ってたらそりゃ太りもするだろう。

何でと言われても、俺の料理は低カロリー高タンパクって言うと聞こえは良いが、タンパク質は大量に摂っても使われないと脂肪に変わるのだ。申し訳程度にしか筋トレしない自称意識高い系が、調子こいてプロテイン飲んで激太りしてることを知らんのか。知らなかったらしい。死にそうな顔で走り続ける2人に自業自得なので頑張れ、とだけ言っておく。

 

なお、ひっそり戸塚少年が初めてメニューを完遂した。もちろん彼用に量を調整されたものだが、それでもすごい。お祝いに部活後、平塚先生に教わった美味しいラーメン屋に連れていった。とても喜んでくれた。しかし着いてきたセツのんとゆいにゃんはアホだと思う。え?どうせ運動するから今食べたって同じ?いやそれは明日からちゃんとする奴の理論で、失敗したらただのデブ理論だぞ。

 

なお、俺のランニングメニューをいつの間にかタイヤからコンダラに変えた奴誰だ。流石の俺もキツかったぞ。やったけど。

 

 

17日目。

 

平塚先生が拗ねた。子供か。

確かにここ最近は戸塚少年の依頼に使う差し入れ料理のバランスやら分量やらを計算してかつ味も美味しく飽きないようにと色々工夫してたので、家での時間をその勉強に当てていた。当然平塚先生と夕飯は毎日一緒に取っているが、対応はややおざなりだった事は間違いない。だが、学校でも家でも俺の反応に構わずスハスハは毎日してる。なのに拗ねた。私にも構え!と子供のように騒ぐので、仕方なく平塚先生が授業の入ってないらしい四限一コマ丸々サボって平塚先生と一緒にいた。なんか妙に甘えて来るので何がしたいのかと思ったら、上書き、としか教えてくれなかった。オレはUSBメモリじゃないんだが。

 

そんなことがあって気が付いたら昼休み始まってた。携帯を見ると鬼電と鬼メールの跡がある。慌ててテニスコートに走った。

 

ようやく着いたテニスコートでは、何故かギャラリーが盛りだくさんだった。何事?戸塚少年のファンでも集まったの?って思ったら何か試合してた。いや何でだし。

 

話を聞くと、よく分からんがテニスの練習してる所を見てあーしさん達トップカースト組がテニスさせろ!ってやって来て、しかしセツのんはいや昼休みのテニスコートの使用許可めちゃくちゃ苦労してとったの戸塚少年だし、ぶっちゃけ練習の邪魔だから帰れ!と普通に正論で追い返そうと試みた。

 

しかしそこであーしさんが我儘を言い、隣のキラキラが俺たちの方が上手けりゃ俺たちが代わりに教えるぜ!それを判別するために試合だ!とか言い出して、それがよく分からん周りの取り巻きの一方的多数決で可決し、試合となったらしい。説明にはなかったが、この人数の同調圧力程度にセツのんが首を縦に振るはずがないので、たぶん負けるのが怖いの?とか言われて喧嘩買ったんじゃないかなと思ってる。

 

そして気が付いたら試合があること、参加者がキラキラであることが拡散されこのギャラリーになったらしい。なんだコイツら暇人か。

 

しかも試合は戸塚少年に教えるのにどっちが上手いか、という話なせいで戸塚少年は試合に参加していない。何で部員が蚊帳の外なのか真剣に理解苦しむ。更に向こうは文武両道を地で行くキラキラと中学時代はテニス部で全中行ったあーしさんのペアなのに、こちらはゆいにゃん(テニス未経験)とセツのんの女子ペアである。そりゃ勝てない。

 

オマケにゆいにゃんはお蝶夫人と化したあーしさんに場外プレイでそっちに付くって事はあーしに喧嘩売るって事だよな?とか精神的プレッシャーをかけられた上で、顔面ギリギリを狙うラフプレーを受け、次は当てるぞ?と脅されて、腰を抜かしてしまったらしい。なんだあーしさん鬼かなんかなの?こないだの良い奴評価返してくれます?

 

だがしかし流石セツのん。ほぼ置物と化したゆいにゃんという新たなハンデにも負けず、途中までは一進一退の点差にしてたらしい。しかしここで悲劇が。なんと彼女、才能の塊過ぎて今まで長期間トレーニングした経験がなく、体力の無さが私の唯一の弱点!とか言い出すくらいにはスタミナがない。よって一瞬で逆転され、今大絶ピンチ!という状況で俺登場、という感じみたいだ。なるほど。

 

 

◻️◻️

 

 

「バカなの?」

 

「うぐっ。ま、まぁ多少は私にも落ち度があったことは認めましょう。だけど、あのままだと好き勝手されて練習にならなかったわ。」

 

いやそんな話してんじゃねーし。何で戸塚少年の事が関わる話で戸塚少年を蚊帳の外にした喧嘩を、依頼を受けただけの部外者のお前が受けてんのって聞いてんだ俺は。

 

「サカキン、そんな言い方しなくてもいいじゃん!ゆきのんだって頑張ってくれたんだよ!?」

 

アホか、頑張るべきところが違うだろ。そもそもこんなことやってる時点で特訓の妨げになってるだろうが。やるべき事は試合で勝って黙らせることじゃなくて何としてでも追い返して、特訓の邪魔させない事じゃねーのか?

 

「それは・・・そうだけど。」

 

お前らがその時どんな状況で、どんな事言われてこの結果になったか知らねーし、遅れた俺も悪いからあんま言いたくないけど、お前ら誰のどんな依頼でこの時間にここに居るのかホントに分かってる?

 

「おーい、内輪揉めは良いけど、続きはー?あーしら待ってんだけど?」

 

うるせーな、こっちで話してんの分かんねーか。つーかお前らテニスがやりたかっただけなんだろ?ならもう気が済んだろ?帰れ。どこでどんな風にお前らが楽しもうが勝手だが、真面目にやってる人間の邪魔すんな。

 

「はぁ?なんでモサ男にそこまで言われなきゃいけねーんだし。お前こそいきなり来て邪魔すんなよ。」

 

「優美子の言う通りだ。どんな理由があれ、試合を受けたのはそっちも同じだし、試合に負けそうだからって今更文句言われても困る。・・・まぁ、確かにそっちに不利な状況だったし、今からやり直すか?君と雪ノ下さんでやれば、もう少し勝負にもなるだろう。」

 

その言葉を皮切りに、周りのギャラリーからも文句の声が上がる。良いから続きしろ、早く負けろ、グダグダ言うなだのなんだのと、まぁやかましい事この上ない。

 

ふと周りを見渡す。どいつもこいつも無駄に熱狂的で、数が多いからかこちらに遠慮のない罵声も飛んでくる。当然だがスポーツマンシップもクソもない。だが、ある意味ではこうして弱いものを集団で叩くのも青春の一幕なのかもしれない。

 

向こうからしたら勝ちの決まった勝負で、勝った方が偉いのだ。勝つ側に付けば何してもいいと思っても仕方がない。そんなものは別にこいつらに限った話でもない。負ける側に無理矢理付かされた人間の気持ちなど考えるはずもないのだ。

 

「・・・・その、ごめんサカキン。」

 

・・・いい。色々言ったが、アイツらがあっちに居て、由比ヶ浜がこっちに居るだけ大したものだ。それに、文句言ってももう遅いしな。やれやれ、仕方ないな。おい、戸塚!

 

「えっ、な、なに?」

 

「お前はどうしたい?このまま俺たちと特訓するか、アイツらも一緒にやるか。好きな方を選べ。あぁ、この状況は考慮しなくていい。本当にお前のしたいことを言え。」

 

「・・・本当に好きな方言ってもいいの?」

 

「構わん。これだけの騒ぎ起こした詫びに、何であろうと俺が叶えてやる。」

 

「じゃあ・・・勝って貴一!僕は君たちとがいい!」

 

「任せろ。」

 

さて、戸塚の許可も降りた事だしやりますか。おい由比ヶ浜、ラケット寄越せ。俺が出る。雪ノ下、ルールと勝つのに必要な点数は?

 

「・・・やるの?今更言うのもなんだけど、ほぼ勝ち目ないわよ?」

 

まだ負けてないんだろ?なら問題ない。良いから教えろ。はよ終わらせる。

 

「・・・由比ヶ浜さんがいたから、細かいテニスのルールは使ってないわ。コート内に入れて、相手が取れなければ1点。10点先取した方が勝ちよ。」

 

分かった。じゃあお前は後ろに下がって突っ立ってろ。動かなくて良いが、始めた責任で最後までいてもらう。

 

「馬鹿にしないで。まだ動けるわ。」

 

必要ない。そのガックガクの足で無理して怪我でもされたら面倒だ。後ろに下がれ。

 

「それは流石に相手を舐め過ぎ「雪ノ下、俺は必要ないって言ったんだ。下がれ」・・・分かった。任せるわよ?」

 

「・・・よく分からないけど、やるんだね?じゃあ、最初からやり直「要らん。やり直す時間が勿体ない。」正気か?こっちはあと1点だぞ?」

 

だからなんだ?なんだお前ら、勝つ気でいるのか?なんとまぁ、それなら俺が出る前に勝負つけときゃ良かったのに。

 

「・・・いきなり出てきて随分調子に乗ってんな、モサ男。後悔すんなよ?」

 

「まぁ、君が良いなら良いけどね。後で文句は言わないでくれよ?」

 

くどい。既にかなり時間を無駄にした。とっとと始めろ。

 

 

「ふん。どーせこの一球で終わりだし。せいっ!」

 

口調は軽かったが、その時三浦には油断などなく、あと一点という事もあって容赦なく、素人が反応出来ない速度で、榊からもっとも遠く、もっとも取りにくいラインギリギリを、テニス部員の戸塚でさえ自分なら取れないと思ってしまうほど見事なコントロールで撃ち抜いた。

 

なのに。

 

なのに、三浦が打った瞬間には榊は既にボールの着弾地点に立っていた。そして、右手を引いて左足を前に、腰をやや落として全身に力を込めー

 

 

 

「波動球。」

 

 

 

ガシャァンッッ!!

 

「・・・えっ?」

 

音が聞こえた時には、葉山の腕からラケットは無くなっていて。

コート内に1度落ちた球は、跳ねてその勢いで後ろの金網を突き破ってさらに向こうの方へ飛んで行った。

 

見ると、運良く球が自分の頭の上を通り過ぎたらしい男子生徒が、尻もちをついて呆然としていた。

 

否。

 

誰もが呆然としていた。

 

・・・彼らは、今の今までこれっぽっちも疑ってなかった。自分たちは勝つ側なのだと。負けるのは向こうだと、信じて疑ってなかった。

 

当たり前である。

 

現実には本来チートなんて存在しないし、あそこまで有利な状況では普通点差が覆ることはない。彼らでなくてもそう考えてなんらおかしいところは無いだろう。

 

 

だから、気付かなかった。

 

勝ちたければ絶対に敵に回していけない男が、

 

普通なら有り得ないものを持った男(大人気ないチート持ち)が、敵に回った事にーーー!

 

 

 

「悪いな。」

 

声が響いた。

いつの間にか野次は止んでいて、誰もが言葉を発せなかった。

故にその声はよく通った。

 

「恥ずかしながら、体育の授業は苦手でね。サボってばかりなんだ。」

 

だから・・・

 

「テニスはおろか、ラケットを持つのも初めてだ。」

 

ーーー力加減を間違えてしまっても、文句は言わないでくれよ?

 

 

 

◻️◻️

 

 

とゆーわけで勝ちました。

 

 

あのあと結局俺に必要な点数は5点だったんだが、波動球に誰も反応出来ないのでもはやワンサイドゲームより酷い何かだ。そして3点目を入れた段階でギャラリーに被弾者が出て、そいつが気絶した。そして当然色々ブーイングが出たが、フェンスが脆いのが悪いので俺のせいではない。なのでこう言っておいた。

 

「見学は自由にしてもらって構わないが、こちらは真剣にやっているので流れ弾には自分で気をつけてくれ。怪我?お前達が居るのはフェンスの向こうだろ?文句があるならフェンスの中に入ってからにしてくれ。」

 

まぁ入ったらフェンスで減衰しない球が当たるかもしれんが。まぁこっちは見学してくれと頼んだ覚えもないし、勝手に入って来たんだから何が起きても自己責任だよね?

 

そう言ったら4点目がフェンスを貫通した段階でギャラリーは全員逃げた。それはもう全員蜘蛛の子散らすかのようにダッシュで逃げた。

 

残ったのは試合中のキラキラとあーしさんの2人だけだった。この時点でもう勝ちみたいもんだったが、そこでゆいにゃんにボール当てる振りしてプレッシャーかけたりされた事を思い出した。

 

なので俺はにっこり笑って、努めて優しい声でこういった。

 

「そういやあーしさん、由比ヶ浜の顔にボール当てようとしたんだっけ?」

 

「し、ししししてないしてない!ギリギリを狙っただけで、あんなんテニスの試合じゃ誰でもッッ!!」

 

ふーん。

まぁとりあえず最後の一球だから当たらないように頑張ってね?

 

そう言ったらキラキラもあーしさんもコートの外に逃げたので、普通にぽんと玉を入れて試合終了。俺達の勝ちである。

 

青春ごっこに酔ってたアホ共がひょっとしたら教師に文句言いに行ったかも知れないが、先程の会話は全て録音済みだし、いざとなったら一人一人丁寧に黙らせればいい。これにて一件落着である。

 

「はい終わり。さ、もう昼休みも終わりだ。戻るぞお前ら。」

 

そう言って使ってたボールを集め、まだ呆然としてるキラキラペアやセツのんからラケットを回収して、どこかぼーっと見てた戸塚に纏めて渡す。

 

すまんな戸塚、1回分特訓の時間無駄にさせた。

 

「・・・ううん。そんなことどうでも良くなるくらい凄いもの見させてもらったよ。ありがとね、貴一。勝ってくれて。」

 

詫びと言っただろう?礼は要らんよ。身内が招いた不始末だしな。それよかはよ着替えてこいて。午後の授業に遅れるぞ?お前らも!はよ着替えて戻るぞ!いつまでボケっとしてんだ!

 

そう言うとようやく意識を取り戻したのか、慌てて全員が動き出した。遅れてきた俺や、単に遊びに来ただけのキラキラは制服姿のままなので問題ないが、無駄に気合いの入ってた女性陣は全員体操服に着替えている上、激しい運動の後で汗まみれだ。このまま授業を受けるのは汗でベチャベチャで気持ち悪いだろうしな。

 

とりあえず服を着替えに言った女性陣と、道具を置きに部室に行った戸塚を見送って、汗を浮かべたままのキラキラにタオルを投げる。ほれ。

 

「っと!・・・タオル?ああ、そうか。ありがとう。」

 

洗って返せよ。つーか自分の女と取り巻きの手綱くらいちゃんと握れ。出来ないなら出来ないで構わんが、せめて人の邪魔にならんところで騒げ。

 

「・・・そうだな。次は気を付ける。済まなかった。」

 

「謝る相手が違う。後で戸塚に謝っておくんだな。」

 

そう言って歩き出す。ちょうど戸塚と女性陣も戻ってきたので、合流してみんなで教室に戻る。

 

「・・・あんなこと、出来るのね。」

 

あ?まぁ俺チーターだしな。ゆーて波紋の呼吸と全集中の呼吸を合わせてついでにスタンドの腕を重ねて強化した身体能力のゴリ押しだが。要は単に強くボールを打っただけ、という事になるが、テニプリの本家波動球も似たようなものなので波動球と言っても問題はなかろう。

 

それよか、分かってるよな、雪ノ下。

 

「・・・ええ。もちろんよ。」

 

そうか。

 

ならいい。次はするなよセツのん。

 

「あ、あの、サカキン・・・あたし、」

 

いーよもう。さっきも言ったが、ゆいにゃんはまぁ結構頑張ったみたいだしな。でも、今回の事で分かったとは思うが、セツのんは完璧に見えて案外そーでもない。次セツのんが間違えた時、近くに俺が居なきゃゆいにゃんが今度はちゃんとやるんだぞ。君も奉仕部の一員なんだから。

 

「うん。・・・次はちゃんとやるね。」

 

おう。頑張れ。

そう言ってしょげてるゆいにゃんの頭を撫でて、ゆいにゃんの好きな波長で波紋を流す。すると若干頭を手のひらに押し付けてきた。ワンコみたいで可愛ええ。

 

ふと違和感を感じて残った腕を見ると、セツのんがちょこんと袖を摘んでいた。よく分からんかったのでセツのんを見ると、なにか言いたそうにこちらを見ているセツのん。だが何も言わないので結局よく分からない。まぁ好きにさせとこう。俺はゆいにゃんの頭を撫でるので忙しい。

 

と、思ったらまた袖を引かれた。今度は先程よりも少し強く。なのでもう一度セツのんを見る。しかしやはり何も言わない。ただ、さっきよりも何かを伝えたそうな顔をしている。何が言いたいのだろうか。

 

よく分からん。と、思ったが、よくよく見るとセツのんの視線が俺を見てないことに気付いた。視線を追うと、ゆいにゃんの頭に辿り着く。正確にはゆいにゃんを撫でている俺の手に視線が向いている。ふむ?

 

ゆいにゃんを撫でていた手を止めて、持ち上げてみる。セツのんの視線が上に動く。ふむふむ?また下ろして撫でる。視線が下に動く。ほうほう?

 

何度か繰り返して確信を得たところで、ゆいにゃんが両手で俺の手を掴んだ。流石に鬱陶しかったか?と謝罪しようかと思ったら、俺の手を自分の頭に乗せて、グリグリと動かし始めた。どうやらもっと撫でろと言うことらしい。なんだコイツやば可愛いな!?

 

なのでなでなでを再開したのだが、ゆいにゃんは俺の手を離す気配がない。うーむホッコリする可愛さである。と、そこで再びセツのんが袖を引く。何となくして欲しい事は分かったのでこちらも頭を撫でてみる。すると目を細めて頭を手のひらに擦り付けてきた。いつもならセクハラだなんだと罵倒されてもおかしくない行為だが、今日はいいらしい。なんだコイツも可愛ええな!

 

そんなことしてたらキラキラが驚いた顔をした。なんぞ?あ、羨ましいの?残念だったな!代わってやらんぞ!諦めてあーしさんでも撫でておくが良い。

 

「え、いや。そうじゃなくて・・・雪ノ下さんがそんな顔してるの初めて見たな、と思ってさ。」

 

違うのか。負けて落ち込んでたあーしさんが一瞬で元気になってまた落ち込んだけどしないのか。そうか。なんか期待させてごめんねあーしさん。

 

てかセツのん?元々セツのん表情結構豊かでね?他人を蔑む様な冷たい表情してる時が1番多いだけで。まぁゆーて今みたいに顎下撫でられた猫みたいな顔は俺も初めて見るけど。

 

「そうか。・・・そうなんだな。」

 

なんか納得してる。ならいいか(興味無し)セツのんも今の話に少しだけ眼を開いたが、すぐまた細めしまったので会話を広げるつもりは無いらしい。それで会話が終わってしまったので、そこからしばらくは無言だった。時折羨ましそうな顔であーしさんが頭を撫でられてる2人を見るが、隣のキラキラはそもあーしさんを見てもいない。とりあえずm9(^Д^)プギャーしておく。すぐ顔が真っ赤になったが隣にキラキラが居るので攻撃は出来ないらしい。よってプルプルしてる。ざまぁwwww

あと実は戸塚少年も撫でられてる2人を羨ましそうに見ていたが、ごめん俺はホモじゃないから。性別変えて来て、どうぞ。

 

とかなんとかやってたら教室は目の前だ。予鈴はもう鳴っているので、下手したら次の授業の教師が来ているかもしれない。そう考えると少し・・・いや結構ダルい。

 

・・・つーか自分で教室戻るぞとか言っておいてなんだが、シリアスし過ぎて授業とか受ける気飛んでったな。無茶苦茶ダルい。というかよく考えたら昼飯食ってねぇや俺。よし、サボろう。

 

そうと決まれば話は早い。2人を撫でてた手を離すと、皆に授業ふぁいとー!と適当な応援して踵を返す。

 

「え、教室戻らないの貴一?」

 

「唐突に授業に出たら死ぬ病気にかかったので自主休講です。あと昼飯まだだった。」

 

そう言ったらええ、と引いた様子の戸塚少年。だが彼は真面目なので分かった、またね!と手を振って教室向かった。同じクラスらしいキラキラも苦笑いして続く。あーしさんだけは残ってこちらに何か言いたげだが、俺に言いたい事は特にないのでいいや。

 

それで部室に向かおうとしたらセツのんとゆいにゃんも何故か着いてきた。いやお前ら授業は?

 

「先程の試合で体調不良なので自主休講よ。」

「あたしもあたしも!てかさ、それよりも今日のおにぎりの中身何?」

 

ああそう。別に何でもいいけど。・・・え、食うの?

思わずそう聞いたら怒られた。何でも俺が昼飯持ってこないから空きっ腹で練習したり試合したりで大変だったらしい。いや自分の弁当食えば?・・・え、最近は持ってきてない?!何で?俺のと自分のどっちも食べたら太ったから!?何故そこで俺の差し入れ食べる方を選んじゃうの?

 

「だってサカキンのご飯お母さんのお弁当よりも美味しいし。」

 

「母親に謝れ。そしてたまには自分で作れ。」

 

「そんな事よりお腹が空いたわ。早く行きましょう。全く、お昼ご飯が来ないから力が入らなくて試合に負けそうになるし、散々な目に遭ったわ。」

 

セツのんがまさかのスタミナ不足を俺のせいにしてきた。つーかお前らアレ、少食な戸塚少年の為の差し入れなんだけど。いやお前らの分も考慮して多く作る俺も俺だが。

 

「・・・・・・。」

 

そして何故あーしさんはまだ着いてきてるの?授業行きなよ。キラキラは戻ったでしょ。

 

「うっさい。そんなの、あーしの勝手だし。つーかあーしはあーしなんて名前じゃねぇし。」

 

ほーん。まぁ好きにしたら?じゃ、俺らこれから部室で昼飯なんで。そう言って置いてこうとしたら制服が引っ張られた。見ると不満げな顔のあーしさん。なにか?

 

「三浦さん、悪いけれどここからは部員「セツのん、いいよ。」でも・・・」

 

大丈夫大丈夫。ゆいにゃんもそんな心配そうな顔すんな。悪いけど先部室行っててくれる?すぐ行くから。そう言って2人を先に行かせる。で、なに?

 

「なんでそんな言い方だし。・・・まだ怒ってんの?」

 

怒ってないよ。呆れてるだけ。言いたい事は色々あったけど、それもなんか言う気も失せた。だから俺から言うことはなんも無い。そっちにも無いならもう行くけど?

 

「ちょ、待てって!・・・その、ごめん。」

「君もあいつも、謝る相手が違う。」

 

そう言って今度こそ行こうとしたら、やはり背中が引っ張られる。だから何だって。要件があるならはよ言え。

 

「優美子。」

 

・・・あ?

 

「だから!あーしの名前!!三浦 優美子!あーしさんじゃねーっての!!」

 

ああ、そーなんだ。どうもどうも、榊 貴一です。え、知ってる?ならいいや。で、要件はそれだけですか三浦さん。仲間が待ってるんですけど。

 

「優美子だっつってんの。・・・ユイはともかく、隼人もアンタも、他の連中も・・・何で皆、あの女ばかり。」

 

やだよ下の名前で呼ぶなんて恥ずかしい。

キラキラや他の男どもの事など誰一人として友達のいない俺が知るか。つーかなんだ?そんな理由でセツのんに喧嘩売ったのか?どーりで、三浦さん見た目と違って思慮深いのに、あんな事したら誰に迷惑掛かるかも分かんないヤツだったかなーとは思ってた。

 

「見た目と違っては余計だし・・・悪い事したとは思ってるし。」

 

ならちゃんと戸塚に謝っとけよ。君がどんな理由でセツのんに嫉妬しようが君の勝手だが、それならセツのんと2人だけか、せいぜい原因のキラキラいれた3人でやりなさい。今を変えようと必死に努力してる戸塚の様なヤツを巻き込むんじゃない。

 

「分かったってば、もう・・・。」

 

はぁ、やれやれだぜ。である。まぁ随分しょんぼりしてるし、この分なら次は多分大丈夫だろう。何だかんだ彼女は思慮深いヤンキーので、悪い事したと認めたならちゃんと反省する子なのだ。たぶん。

 

とりあえずしょんぼり下がったままの頭を撫でてみる。ついでに彼女の好む波紋強度をアンサートーカーで調べて流し込む。キラキラじゃなくて悪いが、さっきはして欲しそうにしてたからな。

 

「・・・ふん。今日は特別に、隼人じゃなくても我慢してやるし。」

 

ハイハイ。早くキラキラと仲良くなって、ちゃんとキラキラに撫でてもらえる様に頑張れよ。つーかもうチャイム鳴ったな。これは確実に先生来てるぞ。早く戻れ。俺ももう行くから。

 

「・・・あーしもお腹空いた。」

 

「ふーん。帰りにキラキラ誘ってラーメンでも行けば?」

 

ガスっ、痛!何故殴るか。俺は遠回りに応援してるのに!

 

「うっさい!あーしは、今!お腹空いたの!!」

 

ハイハイ分かった分かった。要するに着いてくるのね。全く、素直に一緒に食べたいって言えばいいのに。ビッチみたいな見た目でホントに奥ゆかしい子ねぇ。

 

「だからあーしはビッチじゃないって何度言ったら・・・!だって毎日毎日ユイとあの女ばっかり・・・ズルじゃん。」

 

何が?・・・ああ、飯の話?いやあれ、別にゆいにゃんやセツのんの為に作り始めたモンじゃないんだこれが。いつの間にかあいつらの方が沢山食べるようになっただけで。

 

「何でもいーけど、手、止めんなし。」

 

えぇ?歩きながら頭撫でるのって地味にやりにくいんだぞ?そういうのはキラキラに頼んでくれよ。・・・ああハイハイ、分かった分かった、やりますよってば。

 

なお、そのまま部室まで頭撫でながら行ったらセツのんとゆいにゃんに怒られた。それはもうめっちゃ怒られた。けど俺は多分悪くないと思った。

 

 

続く。

 

 




セツのんは黒猫枠、ゆいにゃんは小さいワンコ枠、あーしさんは野良犬のボス枠。そしてオリ主のゴッドハンドは動物特攻持ち。


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8話

【注】WARNING【注】

・今回は趣味と愛を思う存分ぶっ込んだ結果、文字数が何時もの二倍くらいあります。

・後半はもはやオリジナルなの?ってぐらいキャラ崩壊があります。

以上の2点に注意して、納得出来た方だけお読み下さい。


おはようございます、どうも貴一です。転生者をしています。

最近よくキャンプ飯動画を観るんですが、外国人の方々が、日本では売ってる店を探す方が苦労しそうな大きな肉を豪快に焼いてるんですよね。それは良いんですが、パンに挟んで食べる場合厚いままだと食べにくいのか、凄く薄くスライスしちゃうんですよ。最初からスライスした肉買えば?と思うのは間違いでしょうか。

 

 

 

「職場見学?」

 

「そうそう、サカキンはもう行くとこ決めた?」

 

いや、決まっては居るんだが通りそうにないらしいので他の人間に合わせることになりそう。平塚先生にそう言われた。今年から何か3人1組が固定らしいので、俺が行きたいところはおそらく俺1人しかいないから他のとこに合流だとさ。

 

「・・・貴方、また突拍子も無い所を希望したの?」

 

失礼な。俺は何時も現実的ですぅ。何ならゆいにゃんだって知ってるくらい有名なところですぅ。

 

「由比ヶ浜さんが知ってるくらい有名な・・・?まさか観光地とか言わないわよね?あのね榊君、今回は職場見学だからディスティニーランドとかを職場と言い張るのは無理があるわよ?」

 

「えぇっ!?・・・ってなんだー。出来るならあたしもそれにすれば良かったとか考えちゃったよ。」

 

ゆいにゃんェ・・・。まぁそれはそれで面白そうだが、生憎俺ディスティニーランド嫌いなんだよね。遊びの選択肢にも入れないレベル。

 

「はぁっ!?なんで!?超楽しいじゃんディスティニー!何が不満なの?!」

 

「人混みと待ち時間。ウォータースプラッシュひとつ乗るのに3時間待ちはやる気なくす。二度と行かない。」

 

「あぁ・・・それは私も同感ね。あれだけの人混みに長時間居るのも辛いのに、アトラクションひとつにそんなに待たされたら私でも嫌になるわ。」

 

「えぇっ!ゆきのんまでそんなこと言うの?それ絶対行く時期間違えてるよ!ちゃんと空いてる時期に行けばアトラクションそんなに待たないし、人もそんなに多くないよ!・・・ていうか誰と行ったの?友達?」

 

友達?・・・んー、まぁ友達かなぁ。

平塚先生って友達の範疇に入れていいのだろうか。いや別に恋人でもないしな。実は先週の土曜日に、朝一急にドライブに付き合わされたと思ったら行き先がディスティニーランドだったのだ。

 

いやまぁ、平塚先生が随分気合いの入ったカッコだなーとか思ってはいたが、ちょうど戸塚の依頼であるテニスの指導期間が終わった直後で、戸塚と奉仕部メンバーで軽く夜遊びしたのだ。その後何か不機嫌な平塚先生に深夜までダル絡みされ、ようやく寝れたと思ったら早朝に叩き起されて眠気MAXだった俺は、普通に平塚先生の車の助手席で寝た。そして起きたらディスティニーランドだった。

 

なんかよく分からないが平塚先生は最初やたらウキウキしてたのだが、なんかのイベント期間中だったのか単に土曜日だからなのか分からないが、とにかく混んでいた。そのせいでアトラクションひとつが最短で1時間待ち。何処も彼処も人だらけで中の飲食店も使いにくく、仕方なく乗るアトラクションをメインの幾つかに絞ってさっさと帰る、という事にしたのだが、それで3時間待ちのウォータースプラッシュを引いた時は俺よりも平塚先生がイライラしてしまっていたので、やる気なくして結局アトラクション2つくらい乗っただけで帰ってきた。

 

当然ウキウキで2人分の1日フリーパスを買った平塚先生はお通夜状態だったので、家に着いた後はこれまためんどくさい事になっていた。おかげで機嫌直してもらうために今度は違う日にちゃんとデートする事になってしまったのだ。うん。もう行かなくていいかな。

 

とか回想してたら何か沈黙してる2人。なに?何か変なこと言ったか俺。あ、待て分かったぞ。どうせあれだろ?俺にディスティニー一緒に行く友達いたんだーっていう話だろ?ふ、こう見えて俺はたまに遊ぶくらいの友「ねぇサカキン。」あ?何よ。

 

「その友達って、もしかして女の子?」

「そうだけど?」

 

いや、幾ら俺でも男と2人でディスティニー行くくらいなら1人で遊園地行くわ。まだマシ。まァ平塚先生が女の子?って言われたら大人の女性ですと答えるしかないけど、まぁあえて言わずとも良かろう。

 

「へ、へー、そう・・・なんだ。何か、意外。」

 

「そう、ね・・・。私はてっきり、1人で行ったものかと思って、いたわ。」

 

・・・?何か動揺してるけど?なんかあった?そんなに俺に遊び友達いた事が意外か?まぁ平塚先生は友達じゃないとか言われたら俺は1人で行ったことになるのでセツのんの考えもあながち間違いでもないが。つーか君らは何処に行こうとしてんの?職場見学。

 

「あ、ああ!職場見学ね!あたしは1番近いとこ!」

 

「そ、そうね。まずは職場見学よね。私は・・・まだ決めてないけれど、何処かシンクタンクか、研究開発職かしら。」

 

職場見学で1番近いとこってなんぞ???初めて聞いたなそれ。セツのんはまぁセツのんらしいが。え、何ゆいにゃんどったの?ヒソヒソ話?・・・シンクタンクって何ってあーた・・・(憐憫の目)

 

「由比ヶ浜さん、シンクタンクというのは・・・ごにょごにょ」

 

「あ、そーなの?や、やー!知らなかった!そういう事もあるよねっ!てかサカキンは結局希望どこに出したの?希望通らなかったって奴!」

 

「そう言えば・・・貴方が先生にどんな無茶振りしたのか気になるわ。何処にしようとしたの?」

 

「ん?築地。」

 

「・・・榊君、貴方魚介類の仲介業者か漁師にでもなるつもりだったの?」

 

「えぇっ!そうなのサカキン!?なんで!?」

 

いや全然違うけど。単に食品加工場とか見学行くと、商品試食させてくれること多いじゃん?普段築地まで足伸ばすこと無いし、せっかくだから新鮮な魚介類食えたりしないかなーって。

そう行ったらセツのんが頭痛そうにこめかみを抑えた。逆にゆいにゃんがそれも良いかも!みたいな顔をする。

 

「榊君、貴方ね・・・はぁ、由比ヶ浜さんの近い所、もどうかと思うけれど、貴方も大概だわ。貴方、職場見学が何のためのものか考えた事があるの?」

 

将来何になりたいか、なりたい職業の実際の仕事がどんなものか職場を見て、その職業に就くにはどんな努力が必要か、とかを調べる為のものかな。それが分かってるならって?いやだって俺にそういうのしないし。あ、ヒモやニートになる訳では無いから悪しからず。では何になるかって?秘密。まぁ気が向いたら教えてあげよう。

 

「分かってるのなら良いけれど・・・貴方が何になりたいのかは知らないけれど、本当にやりたいことがあるなら今のうちに真剣に考えておいた方が良いわよ。」

 

大丈夫大丈夫、もうなってるから。詳しく言う気は無いが、既に平均的なサラリーマンの生涯年収の20倍は稼いでいる。まぁ俺が凄いんじゃなくてアンサートーカーの力だけど。てか俺よりゆいにゃんの方がヤバいと思うんだ。

 

「あ、あたしはまだそういうのは考えてないかなー。あはは・・・進路かぁ。みんなちゃんと考えてるんだ・・・。」

 

いや全然考えてないが。俺はもう余程のことが無い限りわざわざ働く必要もないからな。とはいえ、前世の俺はいつまでもやりたいことが見付からず、惰性で入った会社で苦労した。なのでゆいにゃんはしっかり考えて行き先を決めて頑張った方がいいと思うので、一応人生の先輩としてスーパー悩んで決めろと言っておく。

 

さておき、俺ちょっと用あるからそろそろ帰るわ。あと任せた。

 

「え?今日は早くない?どっか行くの・・・ってまさか、デート、とか言わないよね?」

 

ははは、まさか。ちょっと呼び出し受けてるだけだよ。俺もよく知らんが、向こうに用事があってこのくらいの時間まで暇潰ししてろってお達しでな。

 

「呼び出し・・・?御家族の方でも来たの?」

 

いや何でそうなったの?え、電話帳?まぁ確かに俺の電話帳とか家族抜いたら片手で足りるくらいしか入ってないけど。セツのんとゆいにゃん入れてそれだから俺の電話帳の中身の薄さが、よく分かるよね!

 

ん?家族じゃないなら誰かって・・・あれだよあれ、ビッチクィーン・・・じゃなかったあーしさん、もダメなんだっけ、ユーミンからだよ。

 

「はぁっ!?優美子から?なんで!?って言うかいつの間に連絡先交換したの?」

 

「・・・どういう事かしら、榊君。」

 

ん?何そんなに苛立ってんの?別に連絡先の交換くらい誰だってするやん。まぁ何時かと聞かれたら少し前だな。ほら、先週の火曜日市教研で部活やらずに帰ったろ?あの時、暇だからその辺散策してたら何か遭遇した。で、何か2人でカラオケ行ってそこで?

 

「カ、カラオケ?2人で?あたし達とも行ったことないのに!?」

 

や、だって俺カラオケ嫌いだし。俺音痴だからさー。まぁユーミンの奴に無理矢理連れていかれたんだが。アイツ俺の得点見て爆笑しやがって・・・!

 

「・・・榊君。ひょっとしてディスティニーランド一緒に行ったのは・・・」

 

あ、それは違う人だぞ。てかディスティニーに俺と2人で行くわきゃなくね?ユーミンはキラキラにお熱じゃん。ま、上手くいってないみたいだが。こればっかりはな・・・ってかセツのんはともかく、ゆいにゃんはユーミンから話聞いてないの?聞いてないのか。へー。

 

「ゆきのん、先週の火曜って確か、2人で買い物行った日?そっか、あの日に・・・。」

 

・・・?

なんかよく分からんけど俺そろそろ行くね?「待ちなさい。誰が行って良いと許可したの?」えぇ・・・むしろなんでダメなの?どうせ今日も依頼人来ないと思うんだけど。

 

「来なくてもダメだよ!部活はちゃんと最後までやらないと!」

 

ゆいにゃんまで!?君そんなに真面目なこと言うキャラと違うだろうに。つーかこの部活の最後までって、何時もテキトーやん。だいたいセツのんが本閉じるまでじゃん。

 

「とにかくダメよ。早退の事前連絡を怠った貴方が悪いわ。三浦さんにはお断りの連絡を入れておきなさい。良いわね?」

 

(´・ω・`)そんなー

 

・・・ま、確かに俺も事前連絡を忘れてたのは事実だしな。仕方ないか。分かった、ユーミンにはメールで連絡入れとくよ。

 

「(ホッ)・・・そうそう、部活はちゃんとやらないとね!」

 

や、ゆいにゃんも普段真面目に部活やってないと思う・・・いや、なんでもないです。ピピピあ?電話・・・ああ、ユーミンからだ。「!?」

 

すまんね、ちょっと電話するね?ってうわ何すんだ!え、何スピーカー?何故だし。まぁ別に聞かれて困るような話もないからいいけどさ。もしもーし。

 

『もしもし、じゃねーんだけど?やっぱ無理ってなに?』

 

部活ー。何か今日は最後までいる日っぽい。すまん勘弁!

 

『は?仕事がなければ抜けれるって言ってたじゃん。なんで今言うの?』

 

面目次第も無い。いや、俺だって行く気はあったんだよ?マジマジ。

 

『チッ!・・・分かった。今度、ちゃんと埋め合わせしろよな?』

 

ええ?元々がキラキラの代わりだし、俺がやる必要ある?埋め合わせはキラキラにさせたら?・・・あーはいはい、分かりましたよ。ちなみに、何時がいいとk「榊君、何時まで長話しているの?」「そうだよサカキン!ちゃんと部活真面目にやって!」あ、ちょ、お前ら!!な、何をするだァー!す、すまんそんな訳で又後でメールするわ!申し訳!

 

ブツッ

 

「ふーん?そーゆー事か。・・・ま、別にいーけど。」

 

 

◻️◻️

 

・・・あの。なんなの?さっきからやたら不機嫌だけど。

文句があったら口に出していただけるとありがたいです。

 

「何も無いわ。」

「なんでもない。」

 

えぇ…なんだよもう。女子高生の気持ちはホントによく分からんな!やれやれ、今日は久しぶりの猫カフェだったというのに「猫カフェ?」およ、どったんセツのん。猫カフェに興味アリアリ?え、ないの?なんだ残念。

 

「待ちなさい。確かに興味はないけれど、後学のために聞いておくわ。猫カフェとは猫と触れ合える喫茶店の事よね?何処にあるのかしら?」

 

うわ食い付き強っ!それで興味無いは無理あるだろ。まぁいいけどさ、前戸塚連れて4人で行ったラーメン屋の近く。ゆいにゃんも知ってるんじゃね?前にちょっとだけ来たことあったし。あそこのにゃんこ可愛いくてさぁ。名物猫まみれコースがまた素晴らしいのよ。

 

「あー、あそこかぁ!思い出した!サカキンが優美子苛めてた店だ!」

 

「可愛いとは?どんな猫がいるのかしら。猫まみれコース・・・興味深い名前ね。どのようなものなのかしら(メモメモ)」

 

俺は苛めてない。人聞きの悪いこと言わんで貰えますかー?そしてセツのんはガチすぎ。メモとる程の内容じゃないよ。つーか興味深いって言っとるやん。まぁ猫まみれコースは猫好きにとっての天国と言っても過言じゃないが。そしてどんな猫がいるか・・・って愚か者!お前はいる猫で行くかどうかを決めると言うのか!この猫は無理!とか言っちゃう気か!真に猫が好きならどの猫も好きだと言ってみろ!なお俺はスフィンクスだけは無理。毛がない猫とか見てて悲しくなる。虎とかライオンは可愛いと思う。

 

「おおー、凄い、サカキンが元気だ!・・・ん?今普通に無理って言ったよね!?」

 

「た、確かに。私とした事が・・・まずは自分の目で確かめないといけないわよね。」

 

俺のログには何も無いな (すっとぼけ)

 

そうだセツのん!肝心なのは実体験だ!とにかくまずは行ってみないと始まらない!なんなら今度俺が一緒に連れて行ってm「あたしも行く!」お!おう。ゆいにゃんも行きたいの?全然いいけど。あれ、でもユーミンがゆいにゃんは犬派だって言ってたような?あ、猫も好きなの?そっか。

 

「待ちなさい。まだ私は行くとは言ってないわよ。」

 

え、セツのんこないの?あれだけ猫が好きそうなのに。・・・あ、そうか。人前で猫にデレデレ出来ないタイプか。居るよねそーゆー人。漫画だとヤンキーに多い。

まぁ、それなら仕方ないな。場所は教えるから1人で存分に楽しんでくれ。ゆいにゃんはどーする?一緒に行く?

 

「え?・・・うん。あたしは、サカキンと行こっか…な。」

 

そう?じゃあ何時が良い?なんなら明日の部活後とかでも「待ちなさい、私はまだ行かないとも言ってないわ。」ええ、優柔不断なの?結局どーしたいのって、ああもう良いや。何かどうしようか悩んでるのは分かった。面倒くさいから一緒に行くべ!はい決まり!

 

「ふ、ふん。仕方ないから一緒に行ってあげるわ。感謝する事ね!」

 

「良いかゆいにゃん、あれがツンデレだ。良い見本だからよく覚えてくんだぞ?」

 

「ほ、本当だ。サカキンの漫画で読んだのとほぼ一緒のセリフだ。ゆきのんがツンデレって本当だったんだ・・・!」

 

そうだ。これで信じたろ?たまにゆいにゃんに酷いこと言うように見えても、セツのんは思ったことを口にしてるだけで本心は何時もあんな感っっ殺気!?

 

(っ’-‘)╮ =͟͟͞͞ブォン

=͟͟͞͞( ˙-˙ )サ

 

何だよもう。照れ隠しに物投げるの止めろって何時も言ってるだろ?あと俺がチーターだからいいけど、せめてゆいにゃんに間違って当てても問題無いような物を投げろし。

 

「大丈夫、貴方が避けなければ由比ヶ浜さんに当たる事はないわ。」

 

それ恋人を庇うヒーローに敵対する悪役のセリフっっ!!

 

 

 

この後散々物投げられた!

 

 

◻️◻️

 

 

「それ、でッ?何の、御用かしら・・・葉山、隼人くん?」ゼーゼー

 

「あ、いや。頼み事ならここに行けって・・・あの、雪ノ下さん?大丈夫?何なら出直すけど・・・?」

 

「問題、無いわ・・・!」ゼーゼー

 

問題アリアリで草。

 

あの後しばらくセツのんの猛攻をゆいにゃん庇いながら捌いたり、そもそも俺の近くにゆいにゃんが居るから庇う必要があるのであって、俺が移動すれば問題無くない?よし瞬間移動だ!でセツのんの背後を取ったり、投げられるものが無くなったセツのんが格闘戦を仕掛けてきたりしたけど、物もセツのんの手も足も全部紙一重で避けてやって、セツのんが俺を見失う度に超必殺技の、背中を指で縦につーっとやるヤツ!で敏感肌のセツのんにひゃうぅん!って3回ほどやった結果、まぁ俺の勝ちでセツのんは息も絶え絶え、という訳ですねウケるww

 

そしてその直後にキラキラが依頼だとかで来てしまったので、息を整える間もなくセツのんはあーしてキラキラに向き合っていると言うわけだ。ぷーくすくす!ねぇセツのん今どんな気持ち?照れ隠しで人に物投げ始めた挙句格闘戦まで仕掛けたのに1発もカスりもせず一方的にやられ、そのまままさかの依頼人来ちゃって汗だくで息も絶え絶えで対応するのとかねぇ今どんな気持ち?m9(^Д^)プギャー

 

「いつか・・・いつか見てなさいよ榊君・・・!」

 

いつか?何セツのん、ひょっとして俺に攻撃当てるのはそう簡単じゃないって認めちゃうの?あのスーパー負けず嫌いのセツのんが?今は勝てないって負けを認めるの?!ほほーん?それは凄いなー!俺ついにセツのんに負けを認めさせちゃったかー!っべーわぁー!マジっべーわぁー!俺ホントに偉業を成し遂げちゃったわぁー!セツのんごめんねー?強くってさぁー?

 

「・・・〜〜ッッ!」プルプル

 

お、泣いちゃう?泣いちゃうのセツのん!あの強気で負けず嫌いのセツのんが涙目でプルプルしてるけど、まさか負けを認めた上で泣いちゃうの?良いのか?そんな自分にまで負けて良いのkゴスっ!いっった!え、今俺なにに殴られって、おまっ!ゆいにゃん!、それ俺が買ったカルピスの原液瓶!え、今それで俺殴ったの?お前それビール瓶並の硬度だぞ?!

 

「うっさいサカキン!それ以上ゆきのん苛めたらあたしが許さないかんね!!大丈夫ゆきのん?よしよし、もう大丈夫だかんね!ゆきのんはあたしが守るから!」

 

やだカッコイイ!でもゆいにゃん、そうは言うけど、そやつは俺が守らなければゆいにゃんに直撃するルートでハサミとか投げてんで?いーのかそれは。当たらなかったら問題ない!?シャアかな?

 

「・・・えぇと、その。3人とも仲がいいんだな?」

 

あ、ごめんキラキラ、存在忘れてた。まぁ俺達の仲の良さは抜群だから。それはそれはもう仲良しだから。どれくらい仲良しかって言うとゆいにゃんの入部歓迎会とか一切やってないけど何かもう幼馴染なの?ってレベルでやり取りができるくらい。なんなら俺が入部した時もセツのんは歓迎会とかしてくれなかったけど、俺達皆仲良しだから!

 

「えっと、それは仲良しなのか?」

 

それは誰にも分からない。そう、俺たちにさえも・・・!

 

「もはや唯の自称じゃないの。」

「てか気付いてたならやってよ入部歓迎会!」

 

ふ、やっても良かったのだが、どうにもセツのんがぼっち生活に慣れ過ぎて歓迎会という選択肢が浮かびもしなかったみたいで、しかも最初は地味にこう、壁のある子やからやってもたぶんゆいにゃんが気を使うだけでつまんないだろーなーと思って。まぁ今ならやっても大丈夫かなとは思うけれど。

 

「・・・あー。どうしよう、あたしにもそんな感じになってそうな想像ついちゃった。」

 

「2人とも失礼なこと言わないでもらえるかしら。私はこれでもそれなりに知識はあるのよ?社交辞令くらい言えるわ。」

 

ほら見ろ。ご覧の有様だよ!・・・まぁいっか。セツのんがぼっち気質なのは今に始まった事じゃないし。今はゆいにゃんいるから何とかなるでしょたぶん。きっと。おそらく。メイビー。

 

「榊君、貴方本当にいつか覚えていなさいよ・・・?」

 

いいからそろそろ依頼人の話聞いてやりなよ。さっきから会話に加わっていいか困った様な顔でこっち見てるだろ?依頼人放置とかそれでも部長なの?もう呼吸も整ってる筈でしょうに。・・・あれ?それともまだだった?

 

「・・・ッッ、要件を、聞きましょうか。葉山君。」

 

(なるほど、今までのは彼女に呼吸を整えさせる為の・・・)ああ、じゃあすまないが聞いてもらえるだろうか。最近出回ってるメールの事で・・・」

 

 

と、ようやく依頼の話になった所で、いつも通りセツのんに話は任せる。ゆいにゃんが一緒になって聞いてくれてるので、俺は大まかな内容だけ聞きながら、お茶でも出そうかと思い・・・先程俺を殴るのに使われたカルピスが目に入った。ふむ?

 

これでカルピスを作って、ついでにアンサートーカーを使って皆の好みの濃度を調べればそれはそれで好評な気がするが、それだと捻りが足りんな。どうしよう・・・ん?キラキラは部活終わってすぐ来たのか。なるほど?

 

そう言えば今は6月。まだ暑くてエアコン無いと死ぬ!というほどの暑い日々にはなっていない。なってはいないが、2ヶ月ほど前の気温に比べたらだいぶ暑くなって来た方だし、今日だって風がなければ汗をたっぷりかいてもおかしくない。なんなら先程激しい運動をしたセツのんは普通に結構な汗をかいていて、話を聞きながらたまに俺が渡したタオルで汗を拭いている。ふむふむ?

 

よし、じゃあカルピスでかき氷にしようそうしよう。季節的にはまだちょっと早いけど暑けりゃ美味いのがかき氷。構いはすまい。とゆーー訳で、かき氷機を取り出します。電動の方が楽だけど、あれは音がうるさいので昔ながらの手動タイプの方が話を妨げないだろう。となれば、氷はやはり天然氷がいいよね。そういや確か栃木かどっかの山で天然氷買ったな。

 

そんなことを考えながら懐からマジシャンが被ってそうなシルクハットを取り出し、そこに手を突っ込んで古めかしい大きな手動かき氷機を取り出す。そしたら、シルクハットを上からペタンと手で押しつぶす。するとあら不思議、ペタンコになったシルクハットが消えたので、パンと両手を叩くとそこには大きな天然氷が出てきます。そこでさっそく氷をセット。削った時にどうしても氷が器から漏れてしまうので、テーブルと床が水で濡れないようにタオル敷いて、器は・・・んー?なんかちょうど良いのないな。うーん、ちょっと小さいけどサンデーグラスに、ってあ!使い捨てのお椀があった。この器見ると祭りのかき氷思い出すよね。これでいっか。で、スプーンは使い捨てのスプーンでいいや。

 

ーーーさて、かき氷にかけるシロップ、カルピス以外に今ならイチゴとメロン選べるけどどっちがいい?

 

「あたしイチゴ!少し多めにかけて!」

 

「練乳はないの?じゃあ私はカルピスだけでいいわ。」

 

「いやその反応は流石におかしいと思う。」

 

お?キラキラかき氷嫌いか?天然氷だし昔ながらの手動かき氷機だから、氷がサラサラで美味しいぞ?さすがに抹茶氷の用意は無いから宇治金時は勘弁してくれ。あんこはあるんだけどね、不完全なもの出すのはちょっとね。

 

「違うそうじゃない。そこじゃない!今もっと色々おかしい所あっただろ!?いきなり出てきたシルクハットとかそこに入り切らない大きさのかき氷機とか色々!!」

 

お?おー!なんだそんなことか!そういや最近2人とも慣れちゃって反応薄いから忘れてたわ!そりゃそうだね!じゃあそんな時にはこうだ!

 

 

「ふ、イリュージョンさ(`・ω・´)キリッ」

 

「もうサカキン完全に言いたいだけだよね。」

 

 

んなこたぁない。

 

 

このあと皆でかき氷食べたよ!

 

 

 

 

◻️◻️

 

あの後皆でかき氷食べながら詳しくキラキラの話を聞いてみると、なんでも今特定の人物を中傷するチェーンメールがクラス内で回っていて、それがキラキラの仲のいい友達なんだとか。

 

これで人間関係ギスギスさせるのも嫌だから止めたいんだけど、犯人を見つけず穏便に解決したい、というのがキラキラの依頼だった。

 

 

そこでセツのんがその依頼を受けて、早速犯人探しに踏み切る判断をした。いやなんでだよ。キラキラもいきなり依頼を無視されて思わず話聞いてた?とか聞いてる。俺もそう思ったから気持はよく分かる。

 

しかしセツのんによると、その手の犯人は1度ボコボコにしてそういうことするつもりが無くなるまで叩き潰さないとダメなんだ、と、自分の過去の経験を元に強く語ってくれた。何かセツのんも結構地雷あってウケるな。

 

そこで犯人探しの為に、情報整理してたら、意外なことにゆいにゃんが原因を突き止めた。原因は職場見学だと。

 

そう、中傷されてるキラキラの友達は全部で3人。しかし今年から職場見学は3人1組。キラキラを入れると1人余ってしまうのだ!それが原因でその中の誰かがやったんじゃないか、とゆいにゃんは友達同士の人間関係の面倒くささを実体験を交えて語った。1部友達のいた経験のないセツのんは話が理解出来なかったみたいだが、まぁそれは問題ない。

 

 

「ふむ・・・。なぁゆいにゃん。今言ってたキラキラの仲のいい友達って、何か何時もっべーわーって言ってる金髪カチューシャと、茶髪の目の細い筋肉と、坊主頭の眉細い奴であってる?」

 

「わ、凄い。サカキンが人の顔覚えてた!そうだよ!」

 

「意外ね。貴方がクラスメイトの特徴を覚えているなんて。」

 

「いや戸部と大和と大岡な。というか、それで2人ともそれで驚いちゃうんだな・・・」

 

 

よせよ照れる(*´д`*)

 

さておき、そういや前見た時印象に残ってたから思い出した。たぶん今回の事の解決なら簡単だぞ。ただキラキラにはなんの利点もないけど、それでいいなら。

 

「・・・内容を聞かせてくれ。」

 

「職場見学のグループ、お前が抜けろ。」

 

前に見た時、お前がトイレか何かで席外したらあいつらいきなり会話無くなってた。うるさいのがいきなり静かになったから何となく覚えてる。たぶんあいつら同士は友達じゃないんじゃないか?お前という共通の友達に集まってるだけで。ならそのグループからお前が抜ければ、お前が仲のいい友達と職場見学行けなくなる代わりに争う理由もなくなると思うよ。

 

今からだとどこも職場見学のグループも決まってるだろうし、そいつらも今更他のグループには入れんだろうから、運が良ければその3人で行ってちょっとぐらい仲良くなるんでない?まぁキラキラは今からグループ探し直しで面倒だろうけど、その気になればお前なら何処にでも入れるだろ?

 

と、言ったら考えてこんでしまった。たぶん俺の言葉の信憑性と実際にこの提案を受けた時のことを考えているんだろう。俺としても必ずとは言えないが、アンサートーカーに確認したら原作ではこうやって解決したらしいし、たぶん問題ないと思う。それに、ゆいにゃんはおろか、セツのんも口出ししてこないので、妥当だと判断したんじゃないかな。

 

ちら、と外の様子を見る。

すると、最近日が伸びてるにも関わらず外が薄暗くなりつつあった。時計を見ると・・・18時か。バスケ部も練習終わる頃だな。まぁ元々キラキラが部室に来たのが部活終わってからなので、このくらいになるのは仕方がない。仕方がないが、これ以上は遅くなるのも事実だしな。ふむ。

 

よしじゃあこうしよう。明日、件の3人といつも通り会話してみて、それで何だかんだ言い訳して離れて、それで離れたところからこっそり3人の様子を伺ってみたらどうだ?それからどうするか決めたら良いと思うぜ。だから今日のところはもう帰ろう。これ以上は遅くなるし。

 

「ん、そう、だな・・・ああ、もうこんな時間か。分かった、そうしてみる。遅い時間まですまないな。今日のところは帰るよ。」

 

「気にしなくていいわ。依頼だもの。どうするかは葉山君に任せるけれど、他の方法を取りたい、という場合は早めに言ってもらえると助かるわ。」

 

「分かった。じゃあ、また明日な、3人とも!」

 

「うん、またねー!」

 

・・・うむ、行ったな。では俺達もそろそろ帰るか。俺はかき氷機と食器類を洗ってから帰るから、2人とも、先帰っていいぞ。鍵は俺が職員室に返しとく。

 

「あたしも手伝うよ?サカキンには何時も美味しいものご馳走になってるし!」

 

「そうね、私も自分の分の食器くらい自分で片付けるわ。」

 

要らん要らん。つーかセツのんはともかくゆいにゃんは暗くなる前にはよおかえり。女の子なんだから親御さん心配すんぞ。

 

「いやそれは嬉しいけど、サカキン言ってることがお父さんみたいなんだけど。てか、いくらゆきのんが一人暮らしだからってともかくは無いでしょ!」

 

「や、もちろん一人暮らしで怒る親居ないってのはあるけど、俺とセツのんは帰り道一緒だから。同じマンションだし。」

 

「あっ。」

「えっ?」

「えっ?」

 

・・・あれ、どうかした?あ、そっか言ってなかったっけ?俺も一人暮らしなんですよね。あ、それは知ってるの?そういや言ったような気もする。どっちだっけ?まぁいいや。だからゆいにゃん、セツのんは最悪俺が「ちょっと待った。」おっ?どした。

 

「ゆきのん?」

「な、何かしら由比ヶ浜さん。」

「ゆきのんとサカキン、同じマンションだったの?」

「そ、そうね。誠に遺憾なことに、同じね。」

「じゃあ、これまで部活終わりの帰り道も?」

「そういうことに・・・なる、かしら。」

「この間ゆきのんの家で勉強会した時、なんで教えてくれなかったの?」

「それは、その・・・特に教える必要もない、と思って。」

 

お、なんだ2人で勉強会なんかしたの?仲良いねー。

なお俺氏は普通に呼ばれてない。いや、呼ばれてもテストとかアンサートーカー任せなので勉強とか教えらんないし、アンサートーカーがある以上教わる必要も無い訳で、実際呼ばれても困るから断ったと思うけど。

 

とかやってるうちに片付け終わってしまった。まぁ元々かき氷機がデカいだけで、洗い物の数は少ないからな。使用したもの全て空間倉庫に放り込んで、部室の電気を消して鍵を占めると、2人はまだ何かやってる。いやもう早く帰れば?

 

「誰のせいだと思ってるのかしら・・・?」

「サカキン、ゆきのんと同じマンションだったんだ・・・そうなんだ・・・」

 

いや俺のせいなの?つーかそれを言うなら、そもそも奉仕部で住んでるとこ違うのゆいにゃんだけだぞ。顧問の平塚先生も同じマンションだし。何なら平塚先生に至っては俺お隣さんだし。

 

「えっ。」

「えっ。」

「えっ?」

 

なんでセツのんも驚いてんの?え、同じマンションなことは知っててもお隣とは知らなかった?・・・言われてみればそうか、最初に平塚先生に送ってもらったときセツのん先帰っちゃったもんね。ま、不思議な偶然もあるもんだよね。ともかくもう帰ろーぜ。

 

「あたしだけ、仲間外れ・・・?」

 

いやそれは仕方なくねってかそこ気にする?たまたま俺達が一緒だっただけであって、家が別々なの当たり前じゃん。え、それでも気になる?そんな事言われてもなぁ。実際、俺とセツのんは部屋が1階分離れてるんだが、それだけでもう会うことほとんどないぞ。部活一緒じゃなきゃ帰り道にも遭遇しないし。これマジだぞ。俺もセツのんも2年になって奉仕部になるまで互いに同じところに住んでるって知らなかったからな。何なら隣の平塚先生にも気付いたの最近だし。真面目に同じマンションに住んでるねってだけ。

 

それでもなんか羨ましい?うーん、まぁそういうのは理屈じゃないからまぁ、そういうこともあるか。でもそうなると同じマンションに住むしかないんだが、あそこ家賃高いから、俺や平塚先生みたいに独立してるか、セツのんみたいに家が金持ってないといきなり一人暮らしするには無理があるしな。

 

うーん、たまにセツのんちにでも泊めてもらうか、もしくはルームシェアするかかな。うちのマンション、千葉の物件の癖に高いだけあってかなり部屋広いから、2人でルームシェアとか余裕でできるよ。それともうちに泊まる?なんつって。

 

「それは駄目よ。」

「それだ!」

 

えっ。

 

「由比ヶ浜さん、貴方・・・?」

「や、ち、違う違う!ゆきのん!ゆきのん家の方にお泊まりしたいな!って、そういうこと!いくらあたしでも流石に男子の家に泊めてとか言わないから!」

 

 

あ、あー!なるほど。それはそうだよね!いや自分で言っといてなんだが有り得ないよね普通!でもびっくりした。ちょっと本気でドキッとした。でもそりゃそうか。いくらゆいにゃんでもそこまでビッチじゃないよね。

 

「そ、そこまでも何もあたしは全然ビッチじゃないから!!でもそっか、ドキッとはするんだ。・・・今だけはビッチでも良かったかな。

 

「ま、まぁ私の家にならそうね、たまにならその・・・泊まりに来ても構わないわ。」

 

「ほんと!?やった!じゃあ今度泊まりに行くからね!また勉強教えて!」

 

仕方ないわね、なんて言ってるがセツのんも満更でも無さそうな顔してるので、多分楽しみにしてる。うむうむ、仲良きことは良きことかな。というか友達の居ないセツのんに友達が出来るって微笑ましいな!まぁ俺は未だに友達何か出来てないんだが、それはさておき。・・・さっきのはマジでびっくりした。ヤバい。ゆいにゃんマジでビッチになったかと思った。いやほんと女子の発言ってこの年頃だと簡単に男を勘違いさせるよね。ある意味皆で魔女だよほんと。

 

 

おっと、つかそろそろ帰らんと本当に遅くなるな。早く帰ろーぜ。ゆいにゃんも途中までは道一緒だっけ?ってうわ、なんだよ急に。腕に抱き着いて何がしたいの?誘惑?ちなみにその場合は平塚先生で慣れてるから無駄だぞ。

 

「や、サカキン!ものは相談なんだけどー?」

 

む?珍しいな。何かね?

 

「たまにはあたしも家まで送ってって!」

 

「別に構わないけど。」

 

「そこを何とか!・・・え、いいの?なんかあっさり。」

 

「や、よく知らんが、確かゆいにゃんの家の方が遠いし。セツのんというかウチらのマンション大通り沿いだから人通りも結構あるし、何ならセツのんはゆいにゃんと違って護身術もスタンガンも持ってるからな。安全面ではゆいにゃんの方が不安だし、送れと言うなら別に構わないけど。」

 

「まぁ・・・それは確かね。私ならその辺の変質者2、3人相手でも遅れをとることはないと思うわ。それはそれとしてこんなか弱い女の子を見捨てるのはどうかと思うわよ、榊君。」

 

セツのん自分が強いと胸を張りたいのか、か弱い女の子ですアピールしたいのかどっちなの?や、女の子は複雑なんだよとか言われても困るよゆいにゃん。まぁあれじゃね、たまにはゆいにゃん送ってくのも良いんじゃね。どうせ途中までは道も一緒なんだし。とりあえず歩きながら考えようぜ?

 

 

「お前ら、何してるんだ・・・?」

 

 

「ひゃあっ!」

「ひぃうっ!」

 

うわびっくりした!・・・なんだ、平塚先生じゃないですか。そこの暗がりからいきなり声掛けるのやめて下さいよ。つーかなんで声しゃがれてんの?一瞬ホラーかと思ったじゃん。

 

「ん"ん"ッッ、すまない。少し喉に唾が絡んだみたいだ。それにしてもまだ残ってたのか?もう暗くなるぞ?」

 

「やー、珍しく遅い時間に依頼があったんですよ。今から帰るところです。」

 

「そうか、ならば良いが・・・その腕はなんだ?教師の前で不純異性交友とはいい度胸だな?」

 

「へっ?あっ!ち、ちが!これはそうゆうんじゃないです!」

 

平塚先生の言葉に慌てたゆいにゃんは俺の腕をバッと離し、両手を上に上げて弁明する。ああ、ゆいにゃんの巨乳の感触が・・・や、誘惑には屈しないけどそれはそれとしておっぱいの柔らかさってずっと触れていたい気持ちになるよね。ギリ!うん。うん?今なんか変な音しなかった?

 

なんかあったかと周りを見渡すと特に何も無い。気のせいだろうか。と、見るとセツのんとゆいにゃんが何か変な顔して俺と平塚先生を交互に見ている。どったの2人とも。なんかあった?

 

「っ!・・・いえ、何でもないわ。・・・まさか、ね。

 

「う、うん。・・・今のは、気のせい、だよね?

 

まぁいいや。平塚先生にも言われたことだし、今度こそ帰ろうぜ。ほら、ゆいにゃんも送ってってやるから。じゃあ平塚先生、俺ら帰りますね。お疲れ様でーす。

 

「待ちなさい、榊。私ももう終わりだから、ついでにお前達も車で送ろう。校門前で待ってなさい。」

 

うぇっ?や、それはありがたいけど俺今日はスーパー寄るから大丈夫・・・って、もう行っちゃったし。何だ平塚先生、やけに急いでるけどなんかあったんだろうか。まぁ行っちゃったもんは仕方ない。なんかそういうことになったけど良いよねゆいにゃん。歩かなくて済むぜよ!と、思ったらゆいにゃんもセツのんも消えていった平塚先生の背中を追うように暗がりの先を見つめている。なんぞ?

 

「サカキン。・・・平塚先生になんかしたの?」

 

は?いきなり何言ってんのゆいにゃん。どちらかと言うと俺は何時も平塚先生になんかされてる方なんだけど。強いて言うなら1回冗談でキスした事あるくらいだけど、ラリホーヒーリングで寝かしつけたら落ち着いていたのであれはノーカンだ。なので俺はたぶん何もしてない。最近は煽ったりからかったりしてるのもセツのんやユーミンくらいだし。あとたまにゆいにゃん。

 

「本当かしら・・・貴方の表情、髪の毛が邪魔で分かりにくいわ。今度切りなさい。」

 

「あ、それいい!あたし前からサカキンの顔ちゃんと見てみたいと思ってたんだ!ずっとモサモサだし、いつも寝癖もそのままだし!葉山君くらいにバッサリやっちゃいなよ!」

 

え、やだ。俺は少なくとも高校卒業するまで髪を切る気はない。例えモサモサと呼ばれようとこれは変える気ないぞ。

 

「えー!なんで?!サカキン身長も高いし、身体も触ってみるとがっしりしてるし、そのモサモサの野暮ったい髪の毛切れば人気出るかもよ?」

 

「榊君。由比ヶ浜さんの言う通りだわ。貴方の顔がコンプレックスを抱かざるを得ない果てしない醜さの塊であったとしても、野暮ったくて清潔感のないその頭よりはマシだわ。人気は出なくとももう少し近寄る人間が増える可能性があるのよ?」

 

 

いやセツのんはそれ優しくフォローしてるようでお前ブサイクだから素直に諦めろって言ってるよね?いやまぁ、顔がコンプレックスなのは本当だから良いんだけどさ。

 

「やっぱそんな酷い顔なの?・・・サカキン可哀想。」

 

すまんゆいにゃん、ガチの哀れみは止めてもらえる?俺だって傷付く事もあるんだよ?え、なにセツのん、顔が全てじゃない?ああ、ありが・・・ただ凄く人生に不利なだけ!?お前、もはや俺をバカにしたいだけだな?

 

はぁ、と溜息が漏れる。とりあえず校門前までは行かなきゃなので、歩きながら顔のコンプレックスについて話をする。

 

「別に俺自身は自分の顔をそこまでブサイクだとは思ってない。たとえブサイクだったとしても親から貰ったもんだ、それをいちいち気にしない。」

 

「・・・?では何故貴方は今顔を隠してるの?」

 

「・・・近所のガキ共に泣かれるんだ。」

 

「え。なにそれどゆこと?」

 

簡単な話である。単純に俺の顔は超強面なのだ。それこそ気の弱い小学生の女の子なんかは、俺の顔見ただけで涙目になるくらいに。自分でもたまに鏡見るとヤクザが居る!って思うから気持ちはよく分かる。

 

「・・・よく分からないわね。それならそこまで気にする必要もないじゃない。」

 

や、それが俺の顔は中々にトラブルを生むのだよ。顔が怖いってのは言ってみれば老け顔にみえるんだな。それに加えてガキの頃からぼっちでそれなりに運動も勉強も出来たから、こう・・・なんつーのか。俺は意外とモテた。

 

「は?なにそれ自慢?キモイんだけど。」

 

や、そう聞こえるのは分かるんだが、違うんだよね。ほら、こういっては何だが、小学生で女子にモテるには足が早いとか運動出来る事で、中学生で女子にモテるにはちょっと悪っぽいとかだろ?そんで、何故か幼い頃の女子は同い歳の男より精神的に大人だから、歳上を好きになりやすい。

 

「・・・まぁ、分からなくは無いわね。私はそういうの興味なかったけれど、同い年の男子が動物に見えるくらいには精神の成熟度に差があったと思うわ。いえ、私に限っては今もそうだと思っているけれど。」

 

セツのんはそれだといつか動物みたいに思ってる奴と結婚するとか大変だな。まぁさておき、そんな訳で俺はモテたんだが、そうなると当然同性からやっかみを受ける。ぼっちなせいで味方も居なかったから、余計にイメージだけが広まるわけだ。女子からは何か凄い大人っぽくてちょっと悪い男みたいなイメージ押し付けられるし、男子からは女に媚び売るスカした奴と言われる訳だ。

 

「うわぁ・・・。それ、もしかしなくても余計に孤立しない?」

 

した。それはもうした。しまくった。実を言うと少し話すくらいの友達の1人2人居たんだが、中一のバレンタインでチョコ貰いまくった辺りで男子からの嫌がらせが一気に加速して、俺と仲のいい奴まで攻撃受けそうだったから仕方なく俺から近付くの止めたくらい孤立した。アイツら何で俺に嫌がらせすれば女子の目が自分に向くと思ってたんだろ。つーかそういう所がガキみたいでヤダって言われてるんだから、逆に俺への嫌がらせ率先して止めたらそれだけでモテると俺は思うんだが。

 

「・・・よく分かるわ。私に嫌がらせしてる暇あったら、山田さんも吉田さんも自分磨きの1つでもするべきなのよ。本当に底意地の悪さだけ存分に見せ付けるから意中の相手に見向きもされないことになぜ気が付かないのかしら。」

 

分かってくれるセツのんも悲しみ背負ってることが分かって何か凄く親近感湧く。けどまぁとにかくそんな日々を送っていたんだが、1つ問題があってな。俺実は先祖返りなんだ。

 

「先祖返り?あー、部室の漫画で見たかも!え、じゃあサカキン妖怪とかが先祖にいたの?」

 

「由比ヶ浜さん・・・。そんなわけないでしょう。この場合は、外国人とか、そういうことかしら。」

 

そうそう。俺もよく知らんけど、俺のジジイはアイヌの血を引いてるらしいんだが、昔の北海道ではアイヌは外の人間との結婚を全然拒んで無かったとか。で、その当時は結構樺太からロシア人とかが北海道に来てたらしいんだよね。俺も詳しくはないけど。

 

「なるほど・・・それじゃあ貴方の変わった色の髪の毛、染めた訳じゃなかったのね。」

 

「ね、何かくすんだというか汚れたというか、変な色の金髪だなーとは思ってたけど。・・・あれ、それがなんで問題なの?」

 

実際昔はよく、センスのない染色だとかなんちゃって外国人とか言われたわ。

や、問題になるのはここからでな。それまでも人目の無いところで数人にちょいちょい絡まれては居たんだが、一人一人懇切丁寧に心をへし折ってやったら、それが少し甘かったみたいで、1度PTA会長の親とか言うのに泣き付いたバカが居て、俺の両親が学校に呼び出されたんだわ。するとほら、俺は両親と顔が全然似てないから、これ幸いとばかりにそれをやり玉に挙げて騒ぐ訳だ。そのPTA会長とやらはそれはそれはもう俺の母親を不貞者扱いしたし、父親はそんな母親に強く出れない小物扱いされた。俺の両親引くぐらい大恋愛の末の恋愛結婚なんだけどな。

 

「なにそれ、最悪・・・!」

 

「それはまた、どうしようもない劣悪な人種ね。」

 

そんなんになっても俺の親は俺を責めなかった。なんならお互いがお互いを愛し合ってるから気にしないし、お前が意味もなく暴力を振るう人間じゃないって分かってる。何も気にするなって言ってくれた。けど、俺の両親は先祖から受け継いだ田んぼと畑で日々農家やってる普通のおっさんとおばさんだ。そういう周囲からの悪意に対抗できるような人じゃない。しかもPTA会長とやらは何がしたいのか、うちの周囲の家にまであることない事吹き込んで、そっちからもウチが責められるようになった。

 

「・・・それは。その、大変だったわね。」

 

「まぁな。それくらいからかなー?髪の毛伸ばし始めたの。」

 

「そう、だったんだ・・・。」

 

「・・・。」

 

「・・・。」

 

 

あ、やべ。ちょっとシリアスな話過ぎたか?何か凄い静かになってしまった。

別にそんな気にしなくても良いんだけどな。ちゃんとそいつら綺麗に叩き潰したし。むしろやり過ぎで俺が両親に怒られたくらいだし。

 

いやだってさ、散々俺の家族の事適当な悪い噂とか流して、オマケにどんな権力持ってたのか知らないけどうちの野菜だけ売れないようにとか色々やりやがるから、これはもう俺も黙ってる必要ないよね。ってなるよね?元々は子供同士の喧嘩に首突っ込んできた相手の親もどうかと思うし。

 

だからネットと町内放送の両方で、ご自慢の息子達が俺に何しようとしたか録音していた音声や、隠し撮りしていた俺が30人に囲まれてリンチくらいそうになって返り討ちにした映像とか全部流した。そのついでにPTA会長とかいう奴らの家がどんな風に周りの家に悪評流したのかとかそういう映像も流し、更におまけでたまたまその家がやってる建築会社が溜め込んでた不正の証拠も流して、更には反社会勢力とも繋がりあったからそのへんも全部警察に流した。

 

すると面白いくらい変化があって、実は色んな家がPTA会長の家とやらと様々な面で繋がりがあったらしく、まぁ色々荒れる荒れる。本当なら地元の有力者だから警察も無かったことにしたかったんだろうけど、ネットにも流したからそうも出来ない。

 

そのついでのゴタゴタで絡んできた子分の家の細かい余罪も全部流して、ついでに地元の警察の署長にも繋がりがあったから監察にも流した。そんで進退窮まってうちの家に火をつけに来た浅はか過ぎる同級生とその親連中、まぁ原因全部燃やして証拠隠滅図ろうとしたんだろうけど、俺が当然待ち構えていてその映像も撮って流し、ついでに現行犯はボコボコにした。

 

その結果、俺の通っていた中学校は、実に50人もの生徒が一気に消え、1度クラスが再編成されることになった。ついでにPTA会長とやらの家と会社はもう完全な更地になって最近コンビニになった。

 

やー、こういうのって普通は泣き寝入りな訳なんだけどね、俺氏チーターだからさ。彼らも相手が悪かったよね。まさか俺がチート持ちとは想定してなかっただろうし、想定できるわけもないとは思うけどさ。・・・まぁ地味に最後警察にも関係者がいた事が発覚したせいで、警察がかなり情報規制して火消しに掛かったのか、新聞やテレビにはほんのちょっとしか流れてないけど。

 

 

まぁまさか俺もこんな厨2のいじめられっ子が妄想する復讐ストーリーを自分でやることになるとは思わなかったけど!いやだってしゃーないんや!何か前世で務めてた個人建築企業の社長みたいに、これ見よがしに反社組織の名前使って嫌がらせしてくるんだもんアイツら!前世は泣き寝入りだったけど今はチートあるからね!そりゃ仕返しできるならやっちゃうよね!

 

ただちょっと思ったより関わってた人間多くて、ただでさえ人が減りつつある地域だったから、一気に人が減りすぎて結局うちは白い目で見られるし!両親やじじばばも流石にこれはやり過ぎってんでスーパー怒るし。そのせいで半分逃げるように俺こっちの高校受験する羽目になるしで実は原作主人公の事がなくとも俺こっちの高校受験するしかなかったんだよね。うん。所詮俺みたいな一般人はチートを持つと使っちゃうのよね。うん。

 

そんな訳で実際問題俺自身はあんまりもう気にしてないっていうか、チートをガンガン使ったのあれが初めてでいい実践経験になったというか、とにかく別に悲惨な過去とは思ってないんだけど・・・まぁこれは別に言わなくてもいっか!

 

ついでに言うならそれは目元を髪の毛で隠してる理由であって、髪の毛がモサモサなのは単純に切るのが面倒なだけだったりもするんだが、それも黙っておこう!うん!

 

 

とかなんとかやってたら校門前前について、少し待ったら平塚先生の車が来たので皆で乗り込み、そのまま何事もなく家まで送り届けて貰うのだった。

 

あ、いや。そういや別れ際ゆいにゃんが何か言いたげな顔してたが、まぁ明日聴けば大丈夫だろう。たぶん。

 

 

 

 

◻️◻️

 

 

マンションのエレベーターで、1人だけ上の階のセツのんに平塚先生と2人で別れの挨拶をする。

 

「じゃなセツのん。また明日。」

 

「おやすみ、雪ノ下。」

 

「ええ、榊君も平塚先生も、おやすみなさい。」

 

そう言って分かれる、いつもの光景。強いて言うなら仕事で終わり時間が違う平塚先生がいるくらい。それだけの違い、だと俺は思ってた。でも今日は何故かちょっと違って、珍しくセツのんが俺を呼び止めた。

 

「榊君、ちょっと!」

 

「うん?何か?」

 

咄嗟にエレベーターの延長ボタンを押して、扉が閉まるのを防ぐ。で、セツのんの方を振り返ってみると、だいたいの場面で言いたい放題言えちゃうセツのんが、珍しく言いにくそうな顔をしている。なんぞ?先に降りた平塚先生も、角の所で止まってこちらを不思議そうに見ていた。

 

「貴方と、平塚先生って・・・」

 

おっと、セツのんが勘付いたか?実は俺が毎日三食平塚先生のメシ用意してるとか、ほとんど毎日俺に抱き着いて匂い嗅いでるとかバレたら、肉体関係とか一切ないけどそうは見えない、というのは俺も理解している。最近じゃ風呂掃除の手間が増えるからって風呂もウチで入るし、何ならいつの間にか俺の部屋に平塚先生の着替えとかが入った衣装ケースが置かれてるくらいなので、学校にバレたら普通に平塚先生はクビになる。俺は別に一生暮らすのに問題ない金額の貯金もあるから高校なんか退学になってもそんな気にしないけど、平塚先生はまずい。社会的信用とかも含めていきなり地に落ちる。

 

なのでバレないように結構気を使ってるんだが、どこで勘付いたのか?何にしても流石セツのんだ。やりおる。さて、どうやって誤魔化すか・・・。

 

「・・・いえ、そうじゃないわね。少なくとも、貴方はそうじゃない。」

 

「や、意味が分からんのですがそれは。」

 

何か凄く訳分からんことを言われたでござる。せめてもうちょっと分かりやすく言ってくんない?とか思ってたら唐突にネクタイを引っ張られた。自然身体は前のめりになり、目の前にはセツのんの顔。お?何事?

 

「貴方が何をしたのかは分からないけれど、平塚先生に気を付けなさい。」

 

「・・・え、どゆこと?」

 

「それは私が聞きたいくらいよ。もういいわ、ではまた明日、榊君。」

 

そう言って俺の体を押してエレベーターの外に押し出すと、セツのんはそのまま扉を閉めて上の階へ行ってしまった。いや本当にどゆこと?

 

もうちょっと説明が欲しかったかな、と、とりあえずセツのんに気を付けろ扱いされた平塚先生を見ると、呆れたように肩を竦めてる所だった。

 

「雪ノ下と仲良さそうで何よりだが、教師の前で不純異性交友とはいい度胸だな?」

 

「それさっきも言ってませんでした?や、つーかそんな良いもんじゃないですよ。そりゃ最初の頃に比べたらだいぶ打ち解けた気はしますが。」

 

「ふ、冗談だよ。何より今の私は教師じゃないしな。営業時間外で。」

 

「そういや教師にもタイムカードとかあるんですか?」

 

「あったら、いや、それで付けた時間で給料が増えるなら私は今頃朝練のある部活の顧問をしている。」

 

「あー・・・。高校教師も大変ですね?お疲れ様です。」

 

「ははは、そう思ってくれるなら今日は美味しいものが食べたいな。」

 

だが残念!今日はスーパー寄ってないので、適当に在庫食材を使って料理を作ります。確か豆腐とひき肉が余ってた気がするので、最有力候補は麻婆豆腐です。

 

「なに、問題ない。なんたって君の料理は美味いものしかないしな。」

 

フホホホ!よく分かってるでおじゃるな平塚ティーチャー!ま、わちきチーターですから(。・ω´・。)ドヤッ

 

とかなんとかやってたら、俺の部屋の前に着いた。まぁエレベーターからの距離なんてたかが知れてるから当然だが。家の鍵を開けて、平塚先生にまた後で、と声を掛けようとして。

 

 

不意に鍵を掛けたばかりの扉が開かれる。平塚先生だ。

 

そりゃそうだ、この状況でそんなことするのは平塚先生しかいない。なんだ、ひょっとしてまた風呂うちで入る気だろうか。着替えも最初は下着と寝巻き1セットしか無かったのに、最近では4セットくらい置いてあるのだ。正直年頃の男子高校生の部屋に平塚先生くらいの美人の下着が置いてあるとかいつか魔が差しそうで怖いのでやめて欲しいのだが。

 

とか考えながら平塚先生に抗議してやろうと思い、平塚先生を見る。そして気付いた。あれ?平塚先生、笑顔が固いってか・・・何か無理してる?どうかしました?

 

「ーーバレてしまったか。じゃあもう仕方ないな。」

 

その言葉と同時、俺は平塚先生に突き飛ばされ、自分の部屋の玄関に押し込まれた。お?と疑問に思ったのもつかの間、平塚先生は後ろ手に鍵を閉めると、そのまま俺に飛び付いてきた。

 

なんだ、また我慢できなくなったのか。やれやれ仕方ないなー?といつものあれかとこの時もまだ呑気に考えてた俺は、胸に飛び付いてきた平塚先生を普通に抱き留めると、いつも通り背中と頭に手をやって、優しく波紋を流そうとしてーーー異変に気付いた。流す波紋が肉体に抵抗されるような感覚・・・これは、いつもと平塚先生の望む波紋の波長が全然違う?え、なにこれ?

 

 

と、思った次の瞬間には、平塚先生の口が俺の首に強く吸い付いていた。ヂュゥゥ、と音がするほど力強い吸引。地味に痛い。てかこれ絶対に跡になるやつ!ちょ、平塚先生?!見える所は止めてって、うわもっかい!?

 

 

思い切り吸い付いたと思ったら、唐突に口を離して、労わるように、跡のついたところに舌を這わす。そしてまた徐ろに別の場所に強く吸い付く・・・を、繰り返す。

 

 

とりあえず落ち着くまで、と思った俺はそのまま放置していたが、中々終わる気配がなく、最初は右側だけだった吸い付きは、そのまま左側にも及び、だいたい吸い付ける場所が無くなると、今度はくまなく、まるで汗を拭き取る様に丹念に舌を這わせ始めた。たぶん今鏡を見たら俺の首筋はまだら模様になっているだろう。

 

そして、隅々まで丁寧に丁寧に、それこそ首筋どころか胸元から耳まで舐め尽くした平塚先生は、ようやく顔を上げた。

 

 

だがその顔は、いつも俺が見ている顔では無かった。

 

 

平塚先生はいつも、学校やこの家で、俺に抱き着き、俺の胸元に顔を擦り付け、俺の匂いを胸いっぱいに吸う。正直結構変態だと思うけど、それでもその時の平塚先生は、目を細めて口元は緩み、んふふとだらしない笑い声を漏らしながら、それでも酷く満足気で・・・何と言うか、親戚の幼い子が、大好物のハンバーグを口いっぱいに頬張った時のような、幸せそうな顔をしている。

 

それはつまり幼子の様でもある訳だが、だからこそ俺は、童心に帰るような心地になることで先生が癒されるのならば、まぁ少しくらい変態的な事をされても構うまい、と思っていた。

 

というかぶっちゃけ、子供みたいだと思ってた。何より俺の精神が実年齢とズレているせいか、11個歳上の平塚先生を歳下の様に思っていたところもある。

 

 

だからだろうか。

 

 

その顔を見た時俺が思ったのはある意味で大きく的外れだったと思う。

 

 

顔を上げた彼女の眼はどうしようもなく潤んでいた。

 

彼女の長い髪がかかる頬は上気して赤く染まり、俺を丹念に味わった口からは荒い呼吸と共にうっすらと涎が垂れている。

 

不思議なことに、その表情は変わらないのに幾つもの感情が読み取れた。それは嫉妬に、悲しみ、苦しみ、恐怖や喜び、そして何よりも強い興奮が伝わってきた。そう、その時の彼女はーーー

 

 

誰が見ても分かるくらいに発情した女の顔を、浮かべていた。

 

 

 

一方俺は。

 

ーーーもうこんな顔するくらい成長したのかぁ。

 

非常に的外れなことを考えていた。

 

 

◻️◻️

 

 

 

ーーーどうしたもんか。

 

俺はこの段階になってまだ、そんなことを考えていた。

 

 

何でこうなったか、というのはとりあえず棚上げしておいて。よく考えたらその兆候はあったと思う。

 

以前あのくだらない恋のハウツー本というほとんどネタ帳みたいな本を使って平塚先生に実践した時、割とあっさり平塚先生は引っかかった。

 

あの時は正直引っかかった平塚先生に気を取られて、平塚先生こんなのに引っかかったちゃうのかー、と残念に思ってただけだった。が、たぶんあれは逆に考えるべきだったのだ。そう、あんなもんに引っかかるくらい、平塚先生は俺を意識していた、とそう考えるべきだった。

 

・・・いや考えられるか!そりゃ今生では小中とモテた。だがそれはあくまでチートを持って転生したアドバンテージありきの話で、こんな事を言っては何だが、あの年頃の女の子はそもそも大人っぽい落ち着いた男子、と言うだけで好意的に見てくれる。仮に俺の精神が周りの男子と同じ、普通の子供だったら、あんなにモテたはずは無いと断言出来る。だって俺周りにチート見せてないし、あの頃本当にただのぼっちだからな!

 

そして、相手は平塚先生。それこそ実際の精神年齢では俺の方が歳上だが、それにしたって数歳だ。平塚先生の細かい男性遍歴は知らんが、チラッと愚痴を聞いた限りだと歳上もいた。平塚先生にとっての歳上なら、それこそ俺の実の精神年齢と変わりないわけで、チートが無ければ俺はそれらの男性と大差ないはずでーーなどと考えていられたのはそこまでだった。

 

しばらく見つめ合っていたが、不意に平塚先生が両手を俺の首に回した。そして、そのままゆっくりと顔を近付けて来て、その唇はまっすぐに俺の唇へとーーー!

 

 

「ストップです。」

 

 

唾液で濡れた唇に、目を奪われていた。

 

あと少し遅かったら、あの艶やかな唇を止められなかった。

 

間一髪、指一本間に挟む事が出来た。

 

 

でも平塚先生は、止められた事に少しだけ悲しそうな顔を浮かべたが、それで止まることはしなかった。

 

べロリ、と挟んだ指に舌が絡み付いた。

付け根から、指先へとゆっくり舌が上っていく。

 

そして、やがて舌が指先を通り越そうという時に、バクり、と俺の指は飲み込まれた。

 

 

温かい。同時に生々しい粘膜の感触。

 

俺の人差し指に、平塚先生の舌が絡みつき、舐めまわし、甘噛みし、ストローのように吸い・・・それが俺の指を何に見立てての事か、いとも簡単に分かってしまう。

 

たっぷり1分。

 

それだけの時間をかけてしゃぶり尽くされた俺の指は、ちゅぽんと平塚先生の唇から抜け出た時、彼女の唾液でぬらぬらとテカっていた。

 

平塚先生の唇には、俺の指と繋がる様に、唾液の糸が見えた。彼女はどうしようもなく熱を含んだ声で、たった一言。

 

 

「ーーーやだ。」

 

 

子供のように、けれど情欲に濡れた女の顔で、たった一言。そう彼女は呟いた。

 

そう、その一言で彼女は俺の静止を振り切った。もう一度俺の指を咥え、今度は俺の目を見つめながら、見せつけるようにゆっくりと丹念に舐め上げる。

 

 

その姿に、どうしようもなく目を引かれる。反応が遅れていると自覚する。けど、ぼんやりとその様子も見てしまう。否、目を離せない。

 

するとそれに気を良くした彼女は、俺の指を咥えたまま、着ていた白衣を脱ぎ捨てた。床に白衣がストンと落ちた。互いにまだ玄関に立ったまま、けれど平塚先生は少しずつ、自分の衣服を脱ぎ捨てていく。

 

やがてネクタイを外し、ワイシャツを脱ぎ捨てて、透けるような薄手の黒いキャミソールと黒いブラジャーだけの上半身になると、腰のベルトを外して、ズボンのホックを外し、チャックを下げる。元々少し緩めのを履いていたのだろうか、それだけでズボンがストンと落ちた。下には黒いショーツだけだった。

 

目が吸い寄せられるように、平塚先生の下着姿をじっと見つめた。正しくガン見、という状態だったと思う。

 

すると彼女は俺のその視線に気付いたのか、口に含んだままだった指を離して、嬉しそうに言った。

 

「気に入ってくれたか?」

 

俺は咄嗟に反応できなかった。つまりそれは、言葉もない程に彼女の身体に見入ってしまったという事で。当然それは平塚先生にも伝わって、彼女は艶やかに、嬉しそうに笑った。

 

「良かった・・・!ここ最近は、毎日・・・勝負下着にしてたんだ。君に、何時見られても良いように。」

 

そう言うと、未だ彼女の身体から目を離せない俺を置き去りに、平塚先生は更に進んだ。

 

優しく、されど大胆に彼女は俺に抱き着いた。先程と同じように、いつもと同じように、無意識に彼女を抱き留めた。されど、否応なく伝わってくる、平塚先生の温もりや、匂い。いつもより服が無いだけでここまで違うものか、知ってるけど知らない、普段と今の差異。

 

そこに意識を奪われた。

 

そして彼女は俺の首筋に再び唇を寄せ・・・肩に齧り付いた。

 

「ッッ!!」

 

一気に痛みが走った。甘噛みではない。ブレザー越しに硬い歯が肉を押し潰す感覚。何故、と思う間もない。何故ならそれだけで終わらなかったからだ。

 

俺の肩から口を離し、平塚先生は更に手を動かした。ゆっくりと、されど手際良く俺の制服のブレザーのボタンを外すと、あっさりとブレザーは床に落ちた。帰り道に大きく緩めたままだったネクタイを引き抜いて、ワイシャツのボタンを1つ1つ、丁寧に外された。

 

やがてボタンを全て外すと、平塚先生は俺の首元に両手を差し込み、左右に広げる様に、滑らせるようにワイシャツをズラしていき、やがて俺の上半身はタンクトップ1枚になってしまった。

 

ああ、と感極まったかのように平塚先生は声を漏らし、撓垂れ掛かる様に胸に顔を擦り付けた。

 

「ああ・・・ああ!これが、これが榊の身体!!はぁ〜・・・凄い服がないとこんなに違うのか!今まで散々抱きついてたから、何となく分かってたけど、凄い引き締まって、それでいて隆起した筋肉・・・!なんて、なんて雄々しい・・・ッッ!!」

 

うっとりと、心酔するように、溺れるように。彼女は一頻り生の感触を堪能すると、もう一度首筋に吸い付いた。

 

今度は先程と違って、優しく、啄むような吸い付きだった。少しずつ、少しずつ、唇は啄む場所を変えていき、やがて先程、思い切り噛み付いた肩へと辿り着くと・・・

 

ガリッッ

 

「〜〜ギッ!!」

 

今度は容赦なく歯を立てた。硬い歯が肉に突き刺さる感触。間違いなく血が出ているだろう。その血を、平塚先生が啜る音がするから間違いない。

 

けれど、その痛みのおかげで、ようやく少し意識が晴れた。

 

色々言いたいことはあるけれど、まずは・・・。

 

 

「平塚先生、あんまり血を飲むとお腹壊しますよ。」

 

「ジュルルル・・・っ、大丈夫だ。私が榊の血で体調を崩すことなんて無い。分かるんだ、なんとなく。」

 

「・・・後でお腹壊しても、俺は知りませんからね。」

 

 

痛みほど大した傷では無かったのか、どうやらすぐ血は止まったようで、平塚先生は名残惜しそうに、己の歯の形に付いた傷跡をぺろぺろと舐めまわしていた。しかし、口を離すと、嬉しそうに俺の肩を見てーーー

 

「ふふふっ、これなら誰が見ても分かるな♪」

 

と、満足気に笑った。

 

 

◻️◻️

 

痛みのおかげで一周回って落ち着いた。

 

けどそれは別に状況が改善した訳では全くない。

 

平塚先生は嬉しそうに肩の傷跡に何度か頬擦りしたかと思えば、鬱陶しくなったのか、俺の上半身最後の守りだったタンクトップを剥ぎ取った。そしてそのまま自身もキャミソールとブラジャーを無造作に外すと、辺りにパサっと落とした。

 

薄暗い玄関の明かりの中、平塚先生の端正な身体が綺麗に浮かび上がった。大きな曲線を描きつつ、それでいて重力に逆らう張りと、思わず吸い付きたくなるような艶やかな肌。そして、僅かに濃い色素の頂点は、見てわかるくらいに屹立としていて、彼女の強い興奮が見て取れた。

 

これまで以上に、目が吸い寄せられる。気を抜いたら目どころか手が吸い寄せられて、そのまま力強く揉みしだいてしまいそうだった。それだけ俺自身の理性が溶けてきている証拠だった。このままではまずい、とどこか冷静な頭で考える。けど、自分の股間に、熱く血が集まっているのは、もうどう頑張っても誤魔化しようがない。

 

突然、平塚先生も俺の股間の怒張にはすぐ気付いた。そして艶やかにニンマリと笑った。そのまま、嬉しそうに、互いに守るものの無くなった上半身をくっ付けた。

 

熱い。

平塚先生の興奮が、そのまま熱になったかのような、体温。

 

触れ合う部分が、熱を移されたかのように汗をかき、それに気を良くした平塚先生が、俺の体で自分の体を擦るように、ゆっくりと体を擦り付けていく。身体に擦り付けられ、上下に動く度、俺の胸でひしゃげ、潰れ、なのにその固く尖った乳首だけは必ずムクリと顔を出す。その光景が、とてもやらしく見えて。俺のパンツの中で、息子が更に大きくなった気がした。

 

 

俺の身体に自らの身体を擦り付けていた平塚先生は、いつの間にか身体を擦り付けるのに合わせて、俺の肌に舌を這わせていた。淫靡に濡れる瞳が、上目遣いに俺を見る。何故だか少し、俺の中の嗜虐性が顔をもたげた。

 

 

この女を自分のモノにしてしまおうか。

 

 

そんな思考を、かぶりを振って振り払う。そういうのはナシだ。そんなことやろうと思えばたぶんいつでも出来た。それこそ精神的に弱ってる平塚先生ならやろうと思えば簡単に受け入れてくれたと思う。だが、そんな事したくないから距離を保ったんだ。

 

・・・そんな思考が、漏れたのか。

 

平塚先生は、擦り付けてた身体を見せ付けるように、ゆっくりと身体をはなして、俺の肌を舐め上げていた舌を、大きく伸ばしたいやらしい顔のまま、両手を広げて、言った。

 

「良いんだ、榊。君なら、この身体を好きして、良いんだ。君の思うように、やりたい様に嬲って、蹂躙して、滅茶苦茶にしてくれて構わない・・・いや。

 

ーーー私は君に、犯されたい……っ!」

 

 

あ、これは駄目だ。

 

うん……少し、お仕置きだな。

 

 

「ーーあっ♡」

 

弾かれた様に手を伸ばした。

 

平塚先生の脇の下に肩を差し込み、腕を反対の脇へ伸ばす。

肩を差し込んだ勢いのまま、彼女の上半身を後ろに崩し、その瞬間に反対の腕で両方の膝裏を刈り取った。そのまま一気呵成に平塚先生を横抱きに抱え上げ、態と荒々しい足取りでベッドのある寝室まで向かう。

 

蹴り破る勢いで扉を開け、ベッドの前まで行くと彼女を放り投げた。

ギシリ、とベッドが軋む。しかし、そこは最高級のキングサイズベッド、なんの問題もなく平塚先生を受け止める。

 

平塚先生は投げられた場所がベッドの上だと知ると、より嬉しそうに、笑みを深くして、再び両手を広げて、俺を招き入れる様に、蠱惑的に囁いた。

 

「きて、榊。

……君に、私の全部をあげる。」

 

その言葉に誘われる様に、俺は彼女を押し倒した。

 

両手首を掴む様に押し倒すと、彼女の胴体を馬乗りになるように跨る。

 

体重を全てかける訳では無いが、動けなくなる程度には乗る。

 

そして、平塚先生の身体が、完全に動けなくなったのを確認して、逃げ場のない彼女へ、まるで無理矢理口付けするように顔を近付けていきーーー!

 

平塚先生は、とても嬉しそうに、俺の口付けを待った。

動けない様に拘束された事を、喜んでさえいた。

 

だから俺は、もう何も容赦しない事に、決めたんだ。

 

 

「……このままキスして貰えると、思いましたか?」

 

「……えっ?」

 

うん、散々好き勝手やってくれたけど、俺がこのまま平塚先生を犯すと思ったら大間違いだぞっと。

 

「え、ええ?な、…えっ、なんで?」

 

あ、どうしました平塚先生。ようやく希望が叶うと思ったのに、寸前で止められてしまった気分はどうですか?キスして欲しいですか?犯して欲しいですか?11歳も歳下の高校生捕まえて、思う存分ぐちゃぐちゃになるまで蹂躙して欲しかったですか?

 

「ざーんねーん。今のままじゃ貴方の願いを叶えてあげられませんねぇ。」

 

「え、そん…そんな!や、やだ!やだやだ!」

 

おやおや、そんなに暴れても無駄ですよー?何だか駄々こねる子供みたいですね平塚先生、可愛いですよー?でもそれだけじゃちょっとねー。手を出すには足りないかなー?

 

「え、あ・・・う、うそ、だ!嘘だ、駄目なの?やっぱり私じゃ駄目なのか!?そんなの嫌だ!やだやだ!抱いて、抱いてくれ榊ぃ!!」

 

ンン!うーん。どうしよっかなー?抱いてあげたいけどなー。こんなに必死な平塚先生隅々まで可愛がってあげたいけどなー?その為には平塚先生に教えて欲しい事があるんだけどなー?

 

「あ、ああ!ほんとか!?抱いてくれるのか?私を捨てないでくれるのか!?な、何でも答える!なんでもっ!!」

 

顔色に変化なし、されど半錯乱状態・・・ふむ。

そーですねー。じゃあ今から言うことに嘘偽りなく答えてくださいねー?ウソついたら・・・まぁ、それはその時教えてあげますよー。じゃあまずは手始めにぃ、

 

「なんで今日いきなりこんなことしたんですかー?」

「そ、それは、その・・・」

 

おや、いきなり詰まっちゃうの?ふーん。じゃぁもういっかな。うん。何でも答えるって言ったのにねー。

 

「あっあっあっ、ま、待って!言う!言うから!取られたく、なかったんだ!・・・榊を、他の誰にもっ!!」

 

お?ふむふむー?

いいね、その調子でお願いしますよ平塚せんせー。じゃあ次ね?

 

「何でいきなりそんな話になったんですかー?こう言っちゃ何だけど、今俺に最も身近な女って先生しか居ないはずですけどー?」

 

「だ、だって、前に1回、軽いキスしてからっ、何も!何もしてくれないし!ここ最近ずっと・・・他の女の匂いがするんだぁ!」

 

あー、確かにあれからしてないけど、あの時は冗談だって言ったでしょー?本気にしちゃったの?つーか他の女の匂い??

 

「やだ!あれが嘘なんて絶対嫌だあ!私にはもう榊しかいない!榊に嫌われるくらいなら死んだ方がマシだ!・・・なのに、なのに!最近ずっとずっと、榊から他の女の匂いがするんだ!何度も何度も、上書き、したのにぃ!」

 

えぇー?いやどんだけ進退窮まってんの?平塚先生くらいの良い女ならいくらだって良い男いるだろうに。言っちゃなんだけど俺人間としてそこそこ底辺よ?チート持ってるからマシに見えるだけで。

 

んー、匂い、匂いねぇ。あ、上書きってそっか、身体擦り付けてたのがそういう事なのなら、その匂いが着いたってのはアレか、ここ最近戸塚の依頼でテニス部の練習してた時、言われてみたらほぼ毎日ゆいにゃんやセツのんのストレッチで結構触れ合ったな。・・・でもあれ平塚先生が連れてきた依頼人じゃん。

 

「嫌だ!他の男なんてもう要らない、榊、榊がいい!榊の他に誰も欲しくない!・・・なのに、榊から毎日、他の女の匂いしてて・・・最初は気にしないようにしてた!けど、どんどんどんどん胸が痛くなって・・・」

 

む、少しマシになってきたか?

ふーん?それで俺の肩にこんなでっかい歯形付けたの?

 

「え、あっ!ご、ごめん!痛かった!?痛かったよね、ごめんなさい!ちが、違うんだ。怪我させたかった訳じゃ…でも、その。」

 

や、俺が聞きたいの今それじゃないんだよなぁ。人の体にこんなでっかい歯形付けて、満足気だった理由を聞きたいんだよねぇ?

 

「あ、あぅ……それ、は。その……」

 

お、顔色が悪くなった。少し頭まわってきたな。よしよし。

答えられないの?別にいいけど。うーん、でも理由も無しにそんなことする人の近くに居られないなー。引越しも検討しなきゃかなー?

 

「それは嫌だ!それだけはッ、それだけは止めてくれ!「じゃあ何故?」それは、その・・・ま、マーキング、というか。」

 

マーキング?それはつまり、俺は貴方のものだと?他の女に向けて、そう主張しようとしたの?俺に無断で、俺の身体に傷付けて?

 

「・・・だって。だって!嫌だったんだ、榊が、君が他の女のものになるのが、本当にやだったんだ!私はあれからッ、初めて君に抱きしめてもらって眠ったあの時から、ずっとずっと君に惹かれてて!君に、振り向いて欲しかったんだ!けど、私が必死にアピールしてたって、私と君との時間の差は埋まらないのに、同じ歳だってだけで、あんな簡単に・・・っ!」

 

「や、俺前も言ったけど平塚先生の事かなり好きですよ?何か勘違いしてるみたいだけど。てかそれたぶん奉仕部の2人のことだと思うんですけど、あいつらと俺別になんもないですけど。」

 

「嘘だ!だって、あんな・・・あんなにたくさんアピールしたのに、全然君は気にもとめてなかった!私がノーブラで抱きついたって、素知らぬ顔で読書してるのに、さっき、由比ヶ浜に抱き着かれてた時は口元緩んでた・・・!私があんなに必死にやったって見ても貰えないのに、他の女はあんな、あんな簡単に・・・!」

 

あ。あー・・・。そういう事かー。あーなるほどねー・・・うん。

 

「それ見てたら怖くなったんだ!あんな、あんな風に距離を詰められるなら、あっという間に彼女は榊と結ばれて、初めてとか、私がもう榊にあげられないもの、たくさん持ってる相手と比べられたら、私じゃもう届かない!こんな年増で、駄目な男に騙されてばかりの馬鹿な女じゃ、傍にも置いて貰えなくなって・・・そんなことばかり考えてたら、今すぐ何とかしなきゃって・・・」

 

で、いきなり俺の首にキスマークつけまくって肩に歯型付けて、そのままの流れで関係持とうと?

 

「あ・・・うう・・・っ!」

 

ふむ。やったこと落ち込むくらいには落ち着いたし、理由も何となく分かったからもういいか。そう思った俺は平塚先生を拘束していた両手を離して、馬乗りになってた身体からどいて、ベッドから降りた。さて、まずは・・・

 

「え・・・!ど、何処に行くんだ?や、やっぱり私なんか抱きたくないか!?や・・・やだ!待って、置いてかないで!」

 

何か勘違いした平塚先生が慌ててベッドから起き上がって、飛び付いてきた。や、違うって。別に置いていこうとかそういうのじゃないから一旦離して。

 

「嫌だ!そう言って出ていく気だ!そしたらもう2度と戻ってこないんだ!・・・勝手に傷跡付けたのは謝る!私にできることなら何でもする・・・だ、抱きたくないって言うなら、それも我慢するから!だからせめて、嫌いにならないでくれ・・・ッッ!!」

 

や、出ていくも何もここ俺の家だし。唐突に平塚先生のトラウマ挟むの止めて。俺はそんな馬鹿な男と違うし。つーかさっきから勘違いしてるみたいだけど、別に歯型付けられたこと気にしてないし。

 

「じゃ、じゃあどうして離れて行こうとするんだ?わ、私は君にだけは置いてかれたくないんだ!そ、そんなことされるくらいなもう・・・!」

 

「や、電気つけるため。」

 

カチッ

 

「えっ?」

 

んー!絶景かな絶景かな!やっぱ薄暗い玄関の照明よりも、ちゃんとした明かりの元で見た方が良いね。年増だって?とんでもない!こんなに綺麗な身体してるのに?馬鹿なの?それ本気で言う奴は阿呆だと思います。つーかこんないい女置いて出ていった平塚先生の元彼共はスーパー馬鹿。断言できるわ。

 

「ふふ、綺麗ですよ平塚先生。」

 

「え、あっ・・・あぅ///」

 

そういえば、忘れてました。平塚先生、顔上げて下さい。

 

「え?ぁ…んぅっ!ん…んちゅ……んぅ♡」

 

今度は冗談にしない。啄むような真似もしない。唇と唇を触れ合わせてから、一気に舌を差し込んで、平塚先生の口腔を好きな様に貪ったあと、引き出すように平塚先生の舌に自分の舌を絡めて、引き寄せるようにより深く、より濃密に口付けを交わし、唾液をたっぷり混じり合わせて、平塚先生の口の中に流し込んだ。ゴクリ、と喉が鳴るのを聞いてから、平塚先生の目を見つめながら、ゆっくりと口を離した。

 

「んぅ…はぁ…はぁ…」

 

とろん、と潤んだ瞳でこちらを見る平塚先生を、優しく抱きしめて、その身体の感触を素肌で味わう。

ふふふ、随分待たせてしまったみたいですね?きちんと言えたご褒美です。どうでしたか?

 

「あ、その……凄い、幸せで、気持ち良かった……けど。」

 

けど?

 

「なんか、手馴れてる感じがして……やだ。」

 

「あははは!それは申し訳ないです。」

 

まぁある程度の経験はある。前世ではそれなりに恋愛とかしたし。でも今生では童貞なので見逃してもらいたいところ。つーか俺が前世でも今世でも童貞だったら、とうの昔に平塚先生に溺れてる自信がある。うん。

 

誤魔化しを兼ねて、平塚先生を抱きしめて居た腕を1本離して、彼女の顎を持ち上げた。潤んだ瞳が、こちらの瞳を揺らすように見つめた。

 

今度は、平塚先生にもタイミングが分かるようにゆっくり、けれど先程よりも想いを込めて。

 

「……んぅっ」

 

優しく、平塚先生に合わせるように舌を絡める。一転して穏やかなキスに、平塚先生が一瞬だけ目を丸くした。けれど直ぐに自分のペースで出来ることに気付いたのか、自分から積極的に舌を動かし始めた。

 

しばらく平塚先生に合わせて舌を動かし、平塚先生が慣れてきたところでもう一度余裕を崩しにかかる、

 

背中にあった腕を使って、尾てい骨から背中の半ばまで、背骨のラインに沿ってつつー、と指を走らせた。平塚先生が落ち着いた事で、波紋の好みも元に戻ったので、平塚先生の好みより少し強め、ピリピリと痺れる程度の強さで指先から波紋も流す。

 

「・・・んぅ…んっ!?ひゃぁぁああ!?」

 

ついでにアンサートーカーで平塚先生の性感帯も確認し、指と波紋の相乗効果で反応してしまった彼女の腕を掴み、身体固定して逃げられない様にしながら、もう一度唇を奪って最初と同じように口腔を蹂躙する。

 

背中の指はそのまま少し強めの波紋を維持しながら、指先でステップを取るように、まばらに背中を指先で突つく。その度に彼女の嬌声があがり、少し楽しくなって波紋の強弱をランダムに変えて、彼女の感覚の隙をついて最大限の反応を引き摺り出す。

 

「ひゃ、まっ、んぅっ……ぷはっ、ちょっとま、…榊っ、これ、ダメ!」

 

だが止めない。背中を突ついて遊んでた指先で、もう一度滑るように背骨をなぞり、再び大きな反応を呼び起こした瞬間に、何気なく手を横から、平塚先生の耳と髪の毛の間に入るように差し込んだ。

 

アンサートーカーで調べた結果、背中と耳の裏が弱いらしいので容赦なく責めて行こう。差し込んだ手の指全てを使って、髪と耳の両方を弄りつつ、唇を離せない様に頭を引き寄せる。

 

「んぁうっ、んん…っ!はぁっ、なにこれ、あ、まっんぅぅ……ッッ!!」

 

逃がさない。波紋の呼吸の為の息継ぎついでに、平塚先生の呼吸を少し息苦しいくらいまでに調整しつつ、口腔を絶えず蹂躙する。刺激によって反応が弱くなって来たら、腕を掴んでいた手を離し、その指先を今度はデタラメにぐねぐねと曲がりながら、鼠径部からへそを通って胸へと登る。

 

「んんんーッッ!!」

 

けれど指先は絶対に乳首に触れず、くすぐるように、乳輪の周りを滑りまわる。当然波紋を流したままなので、平塚先生には今1番気持ちいい所をほんの少しだけカスり続ける様な、何物にも耐え難いもどかしい感覚を襲って居るはずだ。もちろん彼女の乳首は痛いほど充血して、ピンと屹立している。

 

「〜〜〜っっっ!?んぅー!!」

 

そうやってもどかしさでたまらなくなったギリギリを見極め、唐突に唇を離して彼女の耳元に寄せ、一言。

 

「イけ!」

 

波紋を強めに込めた、脳髄に電気を走らせるような快感を耳から流し込んだ。その時、固く充血した、1番触って欲しかったであろう乳首を同時に強めの波紋と共に抓りあげる!

 

「〜〜っっっ!?!?んああぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」

 

ビクビクビクッ!!

 

プシッー

 

耳と乳首から、直接脳に駆け上がるような強烈な快感を、焦らしに焦らして絶頂に飢えてた身体に叩き込まれた平塚先生は、強烈な絶頂を迎えた。堪えきれなかった奔流が、少しだけ漏れて彼女のショーツを超えて、太ももから流れ落ちた。

 

 

「ふぁ……ぁ……」

 

 

あまりの快感に足の力が抜けたのか、へたり込む様にペタンと尻もちつく平塚先生。その顔は快感と情欲の涙で濡れていて、口はだらしなく開いたまま、端からつぅーと涎が垂れていた。

 

 

「おや平塚先生、どうしました?まだまだ軽く触っただけじゃないですか。そんなことで()()に耐えられますかねぇ?」

 

 

俺はそう言ってへたり込む平塚先生の前に、ズボン越しに大きく膨らむ股間を見せ付けた。

 

「あ、ああ……♡」

 

それを見た平塚先生は更に興奮したようにだらしなく表情を蕩けさせた。そして、たどたどしい動きで、腰のベルトに手を伸ばそうとしてーーー

 

「残念、お預けですよ?」

 

「・・・えっ?」

 

俺はその手を掴み取って、彼女を絶望に叩き込む言葉を吐いた。

 

「今日はここまでです。ふふふ、期待しました?でもダメです。残念ですねぇ?」

 

「ふぇ、な、なんで……?や、やだ!やだぁ!ここで終わりなんて絶対やだぁぁ!!」

 

「煩い。」

 

「ひゃっ!!……あ、ご、ごめんなさい!でも、でもぉ……!」

 

ふふふ、大丈夫大丈夫、怒ってるわけではないですよー?あくまで今日は、です。でも何でここで止めるか分かりますか、平塚先生?

 

「え……?あ、その、私が噛んだり、我儘、言ったから……?」

 

全然違いまーす!そんなこといちいち気にしてませーん。何ならやたら気にしてるこの歯型、波紋の呼吸で生命力上げるなり、スタンドでこの部分の時間巻き戻すなりで直ぐにでも無くせるし。まぁ平塚先生はこの歯型があった方が良いみたいだから敢えてこのまま残すけど。

 

「正解はお仕置きの為です。平塚先生、貴方が効果無いと勘違いしていた日々の色仕掛け、俺がどれだけ苦労して我慢していたか知っていますか?傷心の平塚先生の心の弱みにつけ込むような真似はすまいと、どれだけ苦心して平静を保っていたか知っていますか?」

 

「えっ?……そうなの、か……?」

 

そうだよ(ガチギレ)

当たり前だわ!年頃の高校生が日々あんなに平塚先生みたいな歳上の美人に触れられて、おまけにちょいちょい風呂上がりとかで下着姿とか見せられて我慢出来るわけないだろ!でもほぼほほ毎日ウチに来るから下手に部屋で抜けなくて、俺が我慢すんのどれだけ苦労したと思ってんだ!何なら俺転生者である程度前世で耐性作ってなかったら本当にもうとっくの昔に押し倒してたわ!

 

それをしなかったのは何故かって!?平塚先生の身体を知ったら溺れる自信があるからです!!(断言)それはそれは猿のように毎日学校も行かず、何なら学校でもところ構わず平塚先生を抱き続ける。うん。自分で言うのもなんだが、平塚先生を抱くためだけにスタンド使う自信ある。何故なら俺の身体波紋の呼吸・常中のせいで身体能力だけじゃなくて生命力も上がり続けてるから!俺の一物とかそのせいで前世よりずっとずっと成長しちゃってるから!余計に我慢すんの大変だったから!

 

それでも何故我慢してたかって?そんなことしたら俺はともかく平塚先生の生活無茶苦茶になるだろいい加減にしろ!別に平塚先生くらい余裕で養えるだけの金はもうあるけど、それでは平塚先生の為にはならない。ただでさえ俺が生活のほとんどに手を出しているのに、仕事まで奪ったらもう本当に平塚先生は生活の全てを俺に依存する、俺無しで生きられない様になる。俺はチートだから基本的に普通の人間よりも遥かに死ににくいけど、それだって絶対ではない。ある日いきなりぽっくり逝く可能性がない訳では無いのだ。その時、平塚先生も連座して、というのは俺が嫌だ!

 

「だから自己暗示までかけて色々我慢してたんですけどねぇ・・・っっ!!」

 

「そ、そんなに真剣に私の事を・・・?さ、榊ぃぃ!!」

 

そうだよ真面目に考えてたんだよ!まさかここまで好いてもらえてるとも思って無かったけど、色々台無しにしてくれたので、お仕置きです。良いですか平塚先生!

 

「え、あっ……///分かった、何でも、する。」

 

今、何でもするって言ったね?二言はないね?もう取り消させないよ。・・・ところで唐突ですが、平塚先生。貴方、俺に隠れてたまーに、煙草吸ってますね?

 

「ぎくっ!な、何故それを・・・!?あ、やだ!ごめん!違うんだ!た、確かにたまに吸っちゃったけど、本当に少しだけだ!君に止めるよう言われてから、本当にほとんど止めてたんだ!た、たまに寝起きとか、うっかり癖で火を付けて吸ったりしちゃっただけで!本当なんだ!君との約束を破ってしまったことは謝る!けど、裏切ろうと思ったわけじゃないんだ!だ、だから許して、捨てないで!」

 

平塚先生が認めた瞬間、思わず冷たい視線を送ってしまったら、ものすごい平塚先生が怯えてしまった。だが、敢えて誤解を解かず、腰に縋り付く平塚先生を振りほどいてしゃがみ、平塚先生に目線を合わせる。平塚先生の顔に右手を添えて、左手は僅かに浮いた彼女の腰へ伸ばし、ショーツの中へと入り込んだ。

 

「え、あっ!や……ぁん!んぅ、ひぅ……!」

 

「良いですか平塚先生。2週間です。2週間後、俺は貴女を抱きます。それまで貴女はずっと煙草を我慢すること、そしてそれまでの間、俺の焦らしに耐えて貰います。」

 

「んっ♡はぁぁん、それは、どういう……んゃぁあ!」

 

ショーツの中で軽くなぞる様に彼女のクリトリス周りを親指の先で撫でながら、陰唇の中へ中指を這わせ、けれど入口の上を優しく引っ掻く様に上下させるだけの、絶妙に快感を覚えるけれど絶対に絶頂には到れない。そんな愛撫をしつつ、耳元でお仕置のルールを説明する。

 

「これから毎日1回、今日したみたいな事を平塚先生にします。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。けれど、毎日1回こうやって貴女に快感を与えます。与えるタイミングは完全に俺の気分にします。特に何時、という決まりはありません。そして、その時は拒否を認めません。俺の気の向くまま、何時いかなる時も俺の思うように快感に悶えて貰います。」

 

「そして平塚先生自身には、煙草の他にオナニーを禁じます。俺は嘘を見抜けるので、これを破った時点で2週間後貴女を抱くことはありません。俺の言葉を信じず、敢えてバレないようにやる事を止めはしませんが、その場合は慈悲を期待しても無駄です。そして、これが最も重要なポイントですが・・・()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

「んんっ♡はぁ、そ、そんな……それじゃぁっっ♡わた、しっ、ずっと生!殺しッッ!!」

 

その通りです。最も長いセックスと呼ばれるポリネシアンセックスでさえ最長で5日ほど。詳しくは知りませんが、誰かに聞いた話によると1度吸った煙草の影響がだいたい抜けるまでに2週間。お仕置きなので、より長い方に合わせました。この2週間の間に、平塚先生には煙草の影響の抜けたキレイな身体と、どうしようもなく絶頂に飢えた、最高のセックスを味わうに相応しい身体に自らを仕上げて戴きます。

 

きっととてもとても苦しいと思います。何でも良いからイキたくなって、でもそこでオナニーしたりしたらアウト。ストレスで煙草吸ってもアウト。2週間、片時も休まず、朝起きた瞬間から学校で授業してる時もご飯食べてる時も、風呂やトイレに入ってる時も、それこそ夢の中ですら、俺に抱かれる瞬間を夢見て、毎日一回、中途半端な快楽に震えながら、()()()()()()()()()()()()()2()()()、ひたすら悶々とした日々を送って貰います。

 

「ぁうん♡ひゃ、ま、そ、そんなの……私、壊れちゃ♡あ!ぁん!や、やだ、おねが、ぃん♡いじわる、しないでぇ……♡」

 

駄目です。それに意地悪ではありません。お仕置きです。ですが、2週間きちんと言われた通りにできたら、ご褒美も用意してあります。そう言って平塚先生のショーツの中から手を抜くと、立ち上がって腰のベルトを緩めて、パンツごとズボンをずり下ろして平塚先生の前にそれを勢いよく放り出した。

 

ビタン、と勢い余って平塚先生の顔を叩いたそれは、俺の一物は平塚先生の顔の半分程を覆い隠す太さで、明らかに平塚先生の頭より大きかった。

 

「あ、うそ……こんな、私の腕より…?こんな凄いの、見た事ない……!!こんなので、こんなのでされたら、…私ッッ♡♡」

 

「2週間、ちゃんと我慢出来たら、()()で平塚先生をめちゃくちゃにします。少し特殊なサイズなので、余程のことが無い限り平塚先生は俺以外で満足出来ない身体になるでしょう。当然俺も貴女を二度ともう離しません。そう、貴女の望み通りに。・・・ああ、ついでにその時、俺の特殊サイズ用の避妊具も用意しときますが、()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

さて、平塚先生。ルールを理解出来ましたか?ちなみに言うと、実はお仕置きを拒否も出来ます。何なら今から俺を襲って、お仕置もルールも知ったことか、と無理矢理挿入するという選択肢もあります。その場合は俺は抵抗しませんので、どうぞお好きなように。その他には俺に拘らず、他の手頃な男を引っ掛ける、という方法もありますねぇ。ただそれをした場合、今後俺が平塚先生に干渉することはもう無くなるので、それを承知の上でお願いします。

 

「……ずるい、ずるいぞ榊…!こんなの見せられて、そんなこと言われたら、そんなこと言われたらっ!地獄みたいなお仕置きなのに、絶対絶対、苦しくて辛くて、泣いてしまうくらいに恐ろしいのに……受けるしかっ、受けるしかないじゃないかぁ♡♡」

 

「宜しい。ではお仕置きを受けると合意戴きましたので。平塚先生、少しサービスです。()()、口でなら好きにして良いですよ。」

 

そう言った瞬間、平塚先生は弾かれたように俺の一物にむしゃぶりついた。根元から鈴口まで、丹念に舌で舐め上げ、玉袋を吸い、俺の首筋にしたように、一物に跡をつけるかのように強くキスの雨を降らし、大き過ぎて口に入り切らないと泣きそうな顔で嬉しそうにはしゃぎながら、大口を開けて亀頭を口に含み、頭を動かすようにしてカリを唇で扱きあげた。

 

俺自身も見た目は余裕振っていても、散々平塚先生の痴態を見て、その身体に触れたのだ。挿入出来なくても限界だったのは変わらない。直ぐに絶頂を迎えーーー

 

「〜〜〜ッッ!?!♡♡♡」

 

夢中でしゃぶっていた平塚先生の口内で爆発し、溜まっていたせいかエロ漫画でしか無さそうな量と勢いで一気に彼女の口から溢れた。それでも平塚先生は漏らすまいと喉を鳴らして勢いよく飲んでいたが、元々波紋の呼吸・常中で極限まで高められ、禁欲によって限界まで抑えられていた射精だ。それで間に合うはずも無く、勢いに耐えかねた平塚先生の身体から逆流し、鼻から精液が飛び出した。その時流石に呼吸が出来なくては咥え続けられなかったのか、口から飛び出た一物は、されど最後の噴火を見せて、白濁が開いたままの顔面を汚した。我ながらほんと漫画みたいな量を出してしまったが、ある意味これもチートの産物なので仕方あるまい。

 

「んぅっ、ゴホッゴホッ……けほっ、なにこれ、凄い量……こんなの、生で中に出されたら、絶対……絶対、妊娠、するぅ♡♡」

 

「さて・・・()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ですが、その味、その温度、その匂いを忘れないで下さいね?貴方はこれから2週間、それにどうしようもないほど思い焦がれながら生きていくのですから。」

 

俺が言った最終通告。これが本当に最後の分岐点。これを受け入れたら最後、彼女はもう、これから2週間後まで、気の狂うような淫獄に、自ら落ちてゆかねばならない。

 

けれど、彼女は。

 

平塚先生は、顔に掛かった白濁を舌で舐めとると、どうしようも無く発情した、艶然とした笑顔を浮かべて。

 

「………んぅっ!ゴクン。ああ、分かった♡♡」

 

その味を確かめるように飲み下しながら、嬉しそうに了承した。

 

 

続く。

 

 

 

 




唐突にエロをぶっ込んでくスタイル。

登場人物紹介のネタバレが嫌いな人がいるみたいなので、とりあえず今回は後書きに。

登場人物紹介

・榊 貴一
神様転生者にしてチートからチートを生み出したチーター。
生み出したチートによって、ハーレム系エロ漫画の主人公みたいな肉体を手にした男。
与えられたチートも、生み出したチートも、余すことなく全てのチートを使って女に好き放題快感を叩き込めるエロ無双系オリ主。理論上快感を感じる機能が壊れてるとかでない限り全ての女はセックスでこいつに歯が立たない。まさに淫獣である。
ついでに言うなら生粋のメンヘラキラー。弱点は一物が大きくなり過ぎて初心者には向かないこと。

・雪ノ下 雪乃
最近なんだかんだゆいにゃんとオリ主を身内認定しつつある。だが、それ以上には自分から踏み込めないので、オリ主から来て貰えるように無意識に甘えてしまうクセが出来たことに気付いてない。
なお、エレベーターでオリ主に忠告した時、オリ主にキスした?と勘違いした平塚先生の殺気を食らった。しかし合気道やってたので耐えた。凄いぞセツのん!
猫大好き。きっと前世は呉でくノ一みたいなことしてた。

・由比ヶ浜 結衣
色々めっちゃ頑張ってる。多分1番正当なヒロイン。
しかし今回で完全に平塚先生に先を越された。
オリ主の腕に抱き着いた時、嫉妬に狂う平塚先生にスーパー病み睨み食らって状態異常、怯むになった。それが敗因。

・平塚 静
歪んだまま、自らの全てをさらけ出して、結果としてオリ主と禁断の契約を結んでしまった。もう完全に彼女はオリ主の傍から離れられない。オリ主自ら頑張って遠ざけてたのに、自分からオリ主に近付いてしまったから。なお、これからの事は割とノープラン。オリ主に抱かれる事で今は頭がいっぱい。
本作のメインヒロイン。なのに最大最強のチョロインという闇深情緒不安定系ヒロイン。これもうわかんねぇな。

・三浦 優美子
前話から飛んだ時間の中で、いつの間にかオリ主と交流を深め、ごくごくたまーに2人で遊びに行く中になった。なお、何度も何度もあーし呼びを否定し、下の名前で呼ばせようと画策。やがて面倒になったオリ主からユーミンというあだ名で呼ばれるようになる。ビッチ極まりない見た目のくせに、松任谷由実の曲とか歌うと凄いという設定捏造。なのでユーミン。ごめん嘘。それは後付け。葉山君が好きだが、オリ主といる時の居心地の良さに、何となく癒されている。
なおオリ主は実は1番いい女こいつじゃねーかなと思ってる。

・戸塚 彩加
完全無敵の男の娘。彼を傷付けるものは裏で密かに彼を守る紳士淑女の会に闇へと葬られるという。前回テニスの時騒いでいたギャラリーが、僅かでも彼を馬鹿にしていたら、彼らは永遠にパリピに戻れないところだった。
オリ主から全集中の呼吸もどきを教わり、ついでにテニプリを借りた結果、ツイストサーブと白鯨を使えるようになりつつある。しかし本人としてはあの一戦で見たオリ主の波動球が忘れられず、適正のない己の身体に歯噛みしている。

・葉山 隼人
なんでこの子の名前カタカナで変換されがちなん?通称キラキラ。
正直原作では割とキーパーソンの類だが、書くのがめんどくさい作者が推敲を重ね、最終的にあーしさんを出したい作者が諦めて出す決断をした結果、彼関係の依頼はだいたいマキで進む宿命になった。

・大岡くんアンド大和くん。
べっちと違って作者が顔とか全然知らない上に興味がなかったので、作者の中でラグビー部と野球部の知り合いを勝手に当てはめられた容姿を持つ。出番はもはや完全にないぞ!


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9話

前回より随分短め。
基本的には1話これくらいで行きたいけどその辺はノリ。

感想欄で言われた機能を試して見てるが、全部直すかはやる気次第。

この話からエロがちょいちょい入って行くのが常態化していくのでお気を付け下さい。

追記
何時も誤字報告してくださる皆さんありがとうございます。非常に助かっております。


どうも貴一です。転生者だったりします。

なんだかんだ言いますが、ジムよりザクの方が好きです。

 

 

翌日早朝。

 

「オムレツには、お好みでこのメチャ辛明太マヨをかけて下さい」

 

「分かった。……相変わらず、朝から結構重いの出してくるなぁ」

 

現代人は本来朝こそ1番ご飯を食べるべきだと俺は思ってます。寝起きで胃の中は空だし、朝と夜ではこれから仕事の朝とともう寝るだけの夜では必要になるエネルギー量が違い過ぎる。世の女子はダイエット、などと抜かして朝を抜いて夜食べる、とか意味不明なことをしていますが、逆にした方が絶対痩せます。なので俺は3食しっかり食べさせます。

 

「今までの説明は一体なんだったんだ…?まぁ、なんだかんだ美味しくて全部食べてしまうんだが、朝から夜までこの量を食べてて太らないのが自分でも不思議だよ、全く」

 

そりゃあ平塚先生の体調改善の為に俺の手が直接入ってますから。アンサートーカーで朝昼晩の基礎カロリー消費の違いや日々の気温や時間による基礎代謝能力の差異、月経によるホルモンバランスの乱れ及びそれによる体調の変化や必要な成分の変化、及び現在の体調に合わせた過不足ないエネルギー量と、その効率の良い吸収に必要となる適切な調理。

 

より正確な動作にはスタンドを使って精密かつ完璧な速度で食材の加工と調理を行い、最後に必要な睡眠時間と質を確保する為の精神的リラクゼーションを促す波紋法による全身マッサージ……で、ついでに全身の血行を良くして基礎代謝も若干強化している。つまりまぁ控えめに言って最新機器と専門の整体師及び医師による全身のケアを受けているトップアスリート並のサポートをしている。

 

平塚先生が一般教師であることを考慮すると、過剰を通り越して異常なほどに力込めて平塚先生の体を管理してるので、やり方は違うとはいえ似たようなサポートを受けているトップアスリートが知ったらマジ顔で「え、必要??」って言うこと間違いなしだ。まぁトップアスリート何ぞより平塚先生の方が大事なので残当である。なお、甘やかし過ぎてる自覚はある。反省も後悔もしていないが。

 

まぁこんなこと全部説明しても意味は無い。下手したらガチ過ぎてドン引く。ので、平塚先生には端的に愛の力です、とだけ伝えておく。

 

「そ、そうか。……そうなのか。ふへへ」

 

何今更喜んでるんですか?もうひと月以上受けてるのに。まぁ良いですけど、そろそろゆっくりしてる時間なくなりますよ。早いとこ教師モード入って下さい。

 

「ん、そうだな。昨日は火照ってなかなか寝付けなかったし、寝汗も酷いから念入りにシャワー浴びないと。勿体ないけど手早く食べてしまうとする」

 

まぁ未だに寝巻きですしね。……ふふふ、平塚先生の熱が凄すぎてエアコン入れましたからねぇ。俺もシャワー浴びないと。

 

「……誰のせいだと思ってるんだ、馬鹿者」

「はて。勘違いして勝手に暴走し、11歳も歳下の教え子に無理矢理手を出そうとした平塚先生のせいじゃないですかね?」

「うぐっ」

 

まぁ会話でも分かるように、昨日は一緒に寝た。というかこれから2週間後までは平塚先生と俺はほぼ完全な同棲生活には入る。最初はあえて1人で部屋に帰して、オナニーを誘発させて精神的にも虐めようかと思ったが、平塚先生の性質的に目の前に俺がいる方が、手を出せる距離なのに手を出せないという感じでずっと苦しいらしいので、そっちを採用することにしたのだ。もちろん昨日はあれから一切触ってない。

 

なお、平塚先生の日課である俺への抱きつきからのクンカクンカプラス波紋式なでなでは今までどおり好きな様にしていいので、あの後シャワーを浴びて汚れを落とした平塚先生は、いつも通り俺にしがみついていたが、ずっと内腿をモジモジと擦り合わせながら、荒い息を何度も吐いて、ひたすら何かに耐えるように目をギュッと閉じていた。たまに酷く潤んだ瞳で上目遣いしてくるものだから、俺の方も耐えるのに結構必死だった事を報告しておこう。

 

さて、朝食を終えたら俺は食器の片付け、平塚先生は朝シャワータイムだ。これは俺が平塚先生の分の家事を担当している、という事の他に、教師と生徒の出勤と登校時間の差がある。朝練のない生徒は8:45にホームルームが始まるので、まぁだいたいそれぐらいまでに行けばいい。しかし教師の方はそれより1時間以上早い7:30に出勤し、各授業の用意や教師だけの朝礼があるらしく、結構朝早く家を出るらしい。

 

とはいえ、朝食に使った器具や食器等大した量はない。やる人や作業スペースにもよるだろうが、慣れてさえいれば時間はそうかからない。俺はチート持ちなので本気出せば30秒で終わる。

 

「なのでやって来ました!」バンッ

 

「うひゃあ!」

 

シャワーを浴びてる真っ最中の平塚先生の元へ押し掛けてみた!平塚先生は普段よく風呂一緒に入らないか?とか、風呂上がりにバスローブ1枚とかで出てきたりする上に、昨日はあれだけ俺に裸身を見せ付けるようなストリップ紛いの事までしてた癖に、いざ風呂に一緒に入ってみたら凄い驚いている。何故だろうか?

 

「お、驚くに決まっているだろ!?なんで急に…!」

 

や、1回一線超えちゃうと2回目は特に呵責なくやれちゃうもんですね!ほら、巷のJKが最初は凄いドキドキしながら慎重に万引きしたのに、1回成功した途端にガンガンやるようになるアレみたいなもんですよ!

 

「そ、その例えはどうかと思うぞ?…それに流石の私も急に来られたら恥ずかしいといぅんぅっ!」

 

ごちゃごちゃうるさいので問答無用で唇を奪った。そのまま口腔を舌で蹂躙する。

 

「ん〜〜〜!はぁっ、ちょっ、まんぅぅ!…」

 

ひとしきり平塚先生の口腔で暴れた後、彼女の舌を大きく絡め取り、軽く吸い出すように無理矢理外に引き出す。そこで1度口を離して、平塚先生にもよく見えるように舌をべろりと大きく出してみせると、彼女は潤んだ瞳でこちらを睨みながら、それでも殆ど躊躇することなく、自ら舌を出してこちらの舌へ絡ませて来た。

 

「んちゅ、はむ……全く、んぅ!教師、モード…ジュルル!レロ、はぁ♡入れって、んぅぅぅン、言ったの、君なのに……♡」

 

裸の平塚先生を抱き寄せて、より深く、より濃密に舌を絡ませながら、互いの体をくっつけた。胸と胸があわさり、柔らかい彼女の乳房がムニムニと形を変えた。既に固く勃起した乳首だけはまるでしこりのように残り、身体が少しズレる度に擦れて、ピクピクと反応する平塚先生。

 

シャワーの水滴がお互いの体に降りかかる。平塚先生のなだらかな曲線を勢いよく流れ落ちていく水滴が、より一層彼女の身体を艶美に飾る。それに悪戯心を刺激されて、両手で平塚先生の水蜜桃のような尻を鷲掴みにした。思わず絡めていた舌を離して、ひゃう!と声を漏らす彼女が、とても愛らしく見えた。

 

「ふふふ、今日は初日ですからね。何事も初めが肝心ですし、これから何時如何なる時にやるかはその時の俺次第ですが、早めに教師モードと並行して俺の女になる準備も出来るようにしておかないと、ね?」

 

そう言って尻を掴んだ両手から、同時に波紋を流した。

 

「はぁぁぁぁぁんっ♡わ、私がぁ、榊の……女♡」

 

流された波紋が尻を起点に背中を駆け、脳まで快感を運ぶ。同時に、彼女自身の口で俺の女、という言葉を口にした事でその姿をイメージしたのか、自然と声に深い熱がこもった。自分の口が勝手につり上がったのを俺は自覚した。

 

右手だけ尻の割れ目に指を滑らせて、背骨に沿って指を走らす。その時に波紋を点滅するように強弱交互に入れ替えながら流していく。一直線に走る指の動きとは違う波紋の流れに、ちぐはぐな感覚が彼女の性感帯を強く刺激して、ビクビクビクビクッと勢いよく痙攣する平塚先生。

 

その反応に更に気を良くして、背筋に這わせた指を1本から5本全てに変えて、線を引くように、背中から腰、脇腹を通って腹、へその周りで回り、そのまま彼女の左胸をすくい上げるように揉み込む。波紋の流れは少し強めで固定して、優しく、されど大きく形が変わるように胸を揉む。

 

「ぅぅん、はぁん!すごぃぃ、榊の手が、触るとこぉぉんっ♡ビリビリって、感じるぅ」

 

ふふふ、可愛いですよ、平塚先生。喜んでくれて嬉しいです。けどまだこんなもんじゃないですよ?

 

そう言って揉んでいる左胸を少し持ち上げるように掴み、先程からガチガチになっている乳首を、優しく、ねっとりと舐め上げる。甘噛みして大きな反応を見たいが、今の平塚先生だとそれだけで絶頂に達してしまいそうなので、涙を飲んで舐め上げるだけにする。

 

「んああああ!きもち、ぃぃんぁう♡」

 

それでも平塚先生の快感はとどまることを知らず、どんどんと反応が大きくなってきた。そろそろかな?そう感じた俺は平塚先生の痴態に反応してとうに臨戦態勢の一物を見せ付けるように、体を少し離して彼女に声を掛けた。

 

「平塚先生……見えますか、これ」

 

「んんぅ……ぁあ!もちっ、ろん!榊のッ、本当にすごいぃぃ♡」

 

ふふふ、よーく見てて下さいね。なんなら触っても良いですよ?

そう言うと直ぐに平塚先生の両手に掴まれた。熱い…と嬉しそうに呟く平塚先生。その目が完全に俺の一物に釘付けになったことを確認して、そのまま腰を動かして、そそり立つそれを平塚先生のお腹に軽く擦り付けるように、優しく這わせた。

 

「わかりますか……?2週間後、俺のコレは、貴女のココまで、入ります。楽しみにしといてください、ね?」

 

「〜〜〜ッッ♡♡♡あああ、意地悪っ!酷ぃぃ!もう、欲しいのに、今もう欲しいのにぃぃ♡♡」

 

「駄ァ目。お仕置き、なんですから。これから2週間、頑張って下さいね?俺も、楽しみに待ってますよ……?」

 

そう言って腰を落とす。平塚先生の手が触れたまま、自分の一物をあえて触れてなかった彼女の股間に目掛けてゆっくりと差し込む。平塚先生の太ももと女陰に挟まれた一物に、熱くどろりとした液体が絡み付いたのがすぐわかった。事前に触るまでもなく彼女の身体は俺を求めて大量の涎をこぼしていた。

 

「おやおや?触ってもないのに、びちゃびちゃじゃないですか。そんなに期待してたんですか?今からこんなにしてて、2週間後まで保つんですか?」

 

「あっあっあっ♡こ、これ凄いぃ、入れてないのに、熱がお腹の中にまで届くぅぅぅ!!」

 

聞いちゃいねぇ(笑)

入れる前から俺の一物に夢中になってくれるのは嬉しいし、俺の方もなんかお仕置きとかどうでも良くなりそうなくらい昂って来ているのだが、気合と根性で押さえ付けて、大きく、それでいてゆっくりゆっくりと腰を前後させる。常時アンサートーカーを使用して、慎重に慎重に平塚先生の快感を調整する。両腕を平塚先生の腰に回して、正面から見せ付けるように、ゆっくりゆっくりピストン。

 

「〜〜〜〜〜っっ!?!?♡♡♡」

 

もう声にならない平塚先生。こんなにゆっくりとした弱い刺激でも、彼女自身がこの状況に、この光景に興奮して勝手にどんどん昂っていく。比例するように一物にまとわりつく愛液の量が増えていくのが分かる。我慢出来ずに彼女自身も腰を動かし始めた。その動きはすぐ様早くなっていって、彼女の身体が細かく痙攣し始める。そして、今こそ大きな快感が彼女を襲うその瞬間に!

 

「んぁ、んぁぁぁアア「はい、終わりです」ああ、……あ、え…?」

 

「どうしました?言ったはずですよね?絶対にイかせないって。分かってると思いますが、自分で弄っちゃダメですからね?」

 

後ほんの少し、それこそ2、3回腰を動かせば大きな絶頂が平塚先生を満たしていただろう。正しくそんな瞬間を狙って腰を大きく引いて、一物を一気に引き抜いた。当然彼女は盛大に梯子を外された形なので、訪れかけていた絶頂の波が消えたことに困惑し、やがて理解するとこれ以上ないくらい情けない顔をした。ぞくりと俺の背筋に興奮が走った。自分で言うのもなんだが、俺ホント鬼畜やな。

 

「あ、ああ!やだ、やだやだ!あとちょっと…後ちょっとだけ、お願い、さかきぃぃ!」

 

「駄目です。そういうルールですから。これから2週間、頑張りましょうね平塚先生。さぁ…、そろそろ時間ですよ。着替えて仕事しないと、ね?」

 

そう言って涙目で縋り付く彼女に優しく声を掛けて、震える唇に軽いキスを落とした。口角が吊り上がるのが止められない。ヤバい、1度踏み外すと本当に止まらん。平塚先生虐めんの凄い楽しい!

 

俺がこれ以上する気がないのが理解出来たのか、泣きそうな顔のまま呆然とした平塚先生が、よろりと俺の体に撓垂れ掛かる。波紋が流れないように気を付けながら、その体を優しく抱き留めて、その耳元で小さく呟く。

 

「これから大変ですよ……2週間後が楽しみですね?()()()

 

その呟きを聞いた平塚先生は勢いよくこちらを振り向いて、今にも泣きそうな、とても情けない顔でふるふると震え、何かを言いたそうに口を開いて、けれども何も言えずに黙って俺の体を抱きしめた。俺も優しく抱きしめ返して、いつものように頭を撫でた。

 

 

あー、ヤバい。思ったより俺の方がハマってるかも。

 

 

 

◻️◻️

 

 

あの後、何か物足りなさそうにソワソワモジモジとする平塚先生を手伝いながら何とか着替えさせ、化粧をさせると熱の篭った目で俺を見詰める平塚先生に軽くキスをして家から送り出した。とても名残惜しそうに、何度も何度も振り返りながら彼女は歩いて行った。

 

時間的にはギリギリだが、平塚先生は車なので時間は大丈夫だろう。俺のせいだが、上の空で事故を起こす方が怖いので、事前にスタンド使って平塚先生の愛車にマーキング及び簡易の空間防壁を張っておいた。余程のことがない限り事故っても怪我は無いし、何かあればマーキングを通してすぐ感知できる上、マーキングの位置へ空間繋げて瞬間移動も可能だ。備えは万全である。

 

 

さて、生徒(おれ)の方はもう少し時間的余裕があるとはいえ、ぼちぼち準備をせねばならない時間だ。なのでそろそろ着替える訳なのだが……

 

「うーん、これは酷い」

 

思わず鏡を見てそう呟いた。昨日平塚先生に思いっきり吸い付かれた首筋が悲惨なことになっている。朝一起きた時にそのままでないと平塚先生が悲しがりそうだったので、波紋の呼吸による治癒をしなかったのだが、余程強く吸われたらしい、キスマークは赤色ではなくうっすら青色になっている。

 

たまに青くないやつもあるが、そっちはこれでもかという程真っ赤だ。余程俺にでっかくマーキングしたかったらしい。赤青咲き乱れてまだら模様でありながら花柄なの?ってレベル。肩に付いた歯型なぞ要らんのではないか?と言うくらいキスマークが激しい主張を見せている。ここまで来るとキスマークではなく怪我か病気を疑われそうなレベル。

 

まぁ、肩の歯型はワイシャツを羽織れば隠れるから問題は無い。結構大きな傷だから、ひょっとしたら透けて見えるかもしれないが、まぁ俺はぼっちなのでそこまで注意して誰かが俺の事を見ることは無いと思う。けどこの首筋は駄目だな。注意するも何も普通に目に付く。中学生ならともかく高校生では既にセックスの経験がある生徒も多い。ただでさえ最近ユーミンが朝一わざわざ挨拶するせいでちょっと注目されがちなのだ。たぶんバレる。

 

実際俺がそういう相手がいるって思われるのは全然問題ないが、平塚先生がその相手だとバレるのはスーパーまずい。ただでさえ2週間後まで平塚先生を焦らしまくる気なのだ、どこからバレるかわかったものではない。もちろんだからと言ってやめる気もない。いや、エロが関わると男子高校生は無敵なのでちょっとやそっとじゃ止まるわけがないから。

 

でもなぁ、包帯じゃ余計目立つし、ネックウォーマーは時期が合わなすぎて逆に突っ込まれそう。地味にこういうのをいちいちユーミンがツッコミ入れるからな。俺ファッションとか全く興味ないから文句言われても困るんだが。

 

タートルネックのシャツなんて持ってないしな……面倒臭い、サボるか?いや、今日は絶対学校で平塚先生が抱きつきに来るな。確信ある。別に律儀に抱きつかれに行かなくても良いのだが、あれでタバコの代わりになってるようで、するとしないとじゃ夜の抱きつく時間が大きく変わる。なるべくならこまめにやってやらないといけない。

 

「いいやもう、暑苦しいけどネックウォーマーにするか。知り合いに突っ込まれたら首部分のダイエットとか適当に言うことにしよう」

 

要はキスマークが見られなければ良いのだ、と俺は開き直ってコンビニで買った安物の黒いネックウォーマーを引っ掴んだ。

 

 

 

◻️◻️

 

 

そろそろー、となるべく人の意識の死角を突くように歩く。人間の目は意外と優秀で、本来目の端に僅かでも写ればそれを脳は記録しているらしいのだが、それをいちいち記憶として引き摺り出せるほど優れた脳を持っている人は極わずか、何だとか。だから人の目に写っても、人の意識が向いてる範囲は意外と狭い。意識のしていない範囲は、脳が記録していてもその時は結局認識出来てない。

 

まぁ要するに気付かれない訳で、妙なカッコをしてる自覚のある俺はぼっちなので多分必要ないとは思いつつも、人目を避けて歩いているわけだ。自意識過剰だと分かっちゃいても、こう、何だろう…就活スーツを着て大学を歩いてた前世を思い出す。周りみんな私服なのに、就活の帰りでスーツ着てると、実際は特に誰も気にしてないけど何か見られてる気がしちゃうような?

 

そんなソワソワの巻物を使われたモンスターみたいな気分で、ホームルームの開始ギリギリに、トイレから戻ってきた他の生徒と共に何気なく教室に滑り込む。よし、ミッションコンプリート!

 

「何してんのサカキン?」

 

うわびっくりした!?馬鹿な、教室で挨拶以外で俺に話しかける奴など──!?って何だゆいにゃんか。驚かすなよもう。つーかおはようございます。

 

「あ、やっはろー!何そんなに驚いてんの?何か変な動きしてたけど」

 

ぬ?馬鹿な、ゆいにゃん俺の動きに気付いてたの?あのゆいにゃんが?……あ、教室の窓から見えた?そういや上からの視線に対してはアンサートーカーに死角探させてなかった。じゃあ仕方ないね。

 

「何かこう、唐突に人の目についたら死んでしまう病に掛かってしまってな」

 

「じゃあもうサカキン死んでるじゃん」

 

そこに気付くとは、やはり由比ヶ浜結衣、天才か?!普段の阿呆な言動は世間を騙す演技だったんだな?食えないヤツめ!

 

「え?ふふふ、実はそうだったのだ!あたしが馬鹿じゃないってようやくサカキンも分かってきたんだね!」

 

そうだね頭良いよねゆいにゃんチョー頭いい。ところでセツのんからこの学力でどうやって総武に合格したの裏口入学かしら?とか言われてた由比ヶ浜さん、早く席着きなよホームルーム始まるよ?何してんの?

 

「珍しく褒めてくれたと思ったらやっぱり馬鹿にされてた!?確かにゆきのんにはそんなこと言われたけど……って違う、聞きたいことあったんだ!」

 

あ?聞きたいこと?何かあったのてか何故メールで聞かなかったのか。まぁいいや、なんざ「遅れてすまない、ホームルーム始めるぞ、席に着け」んしょ?って平塚先生来たな、後でで良いか?……って、あれ、ゆいにゃん?どこ見てんの?

 

「平塚先生……?」

 

ん?平塚先生が何か……ってあれ、よく見たら周りの人間もゆいにゃんと同じ方向見て固まってる。なんか微かに何だあれとかユーミンの声が聞こえた気がする。何かな、と思ったけど白衣姿の平塚先生しかおらん。え、何?

 

「…んっ。どうした由比ヶ浜、早く席に着け。ホームルームだぞ?」

 

「…あっ!す、すいませんすぐ戻ります!」

 

「宜しい。ではホームルームを始める。日直、号令を」

 

 

起立、礼、着席!

 

日直がいつものように号令を掛けてホームルームが始まった。平塚先生が連絡事項を話し出す。まぁ職業見学の話とかがメインで、要はいつも通りなんだが、妙に困惑した空気が教室に流れている気がする。原因は平塚先生っぽいんだが、よく分からん。俺の目には朝と変わらん平塚先生にしか見えない。何だろう?……まぁいっか。

 

見ても考えても分からんし、さして興味もない。俺はそうそうに諦めて、次の時間の予習をするフリして教科書にケータイ隠してソシャゲをする事にした。くくく、やはりブーディカママこそが最ママよ……!!星5ママ大好き高ステータス優先の実用性がないと使えないニキとエレナおばぁちゃまをママとか言い出すロリにバブみを見出す性的倒錯者ニキはちゃんとした愛を知ることから始めて、どうぞ。(全方位爆撃)え、嘘だろ頼光ママ来た。はぁー、やっぱ頼光ママが最ママっすわ。愛深いママとか最高かよ(掌ドリル)

 

 

とかやってたらいつの間にホームルームが終わってたでござる。ふごーやってて全然気付かなかったわ。とりあえず次の授業は移動教室じゃないみたいなので、もう少し骨が欲しいな。でもどちゃクソ周回だるいよぉ。

 

ガン!

「うぃーす、あーしに挨拶がまだだぞモサキチー」

 

うわ何だよもう誰かと思えばユーミンか。机蹴るなよってゆいにゃんと戸塚もいんじゃんぐっもーにん!つーか朝一来たら挨拶しに来いとか番長かなんかなの?流石ですねあーし番長!ガラ悪いの伝染るんでマスクして貰えます?

 

「あーしはヤンキーじゃねーし、ヤンキーはウィルス性でもねーよ。てかさー、アンタ、あーしに言うことあんじゃねー?」

 

ごめんなさいね2人とも、こういう子なのよユーミンは。ガラは悪いけど根は腐っちゃ居ないから、ウチの子をよろしくねガン!いたっ、何すんだよユーミン!あ?言うこと?……あっ!

 

「やっと思い出したか……で?」

 

「すまんユーミン、こないだ1年の男子から三浦さんに渡してくれってラブレター預かったんだけど、素でユーミンの本名忘れてて知らない子ですねってラブレター返しちゃったわ!」

 

「いや、それじゃねーし!むしろそれは良くやったし!いやあーしの名前忘れたのは殴っけど!」

 

え、じゃあ全然心当たりないな。俺に特に言うべきことは無いと思う。うん。え、昨日の埋め合わせ?あはは、何言ってるのユーミン、そんなのメールで連絡しろよね馬鹿なの?ゴスっ、痛!なぜ殴るし。

 

「その、メールを、返信、しないのは、誰だつってんの!!」

 

うわちょっと文節ごとに殴るのやめてくれます?ちょっと殴り過ぎなので当たってやらないぜ!ふ、俺氏武力チート持ちですから!つーかメール?……ああ!

 

「いやあんな専用の解読プログラム必要そうなメール送る方が悪くない?なんなのギャル文字とか馬鹿なの?なんであんな普通に文章書くより数倍は時間かかりそうな文字打って俺より返信早いの?ユーミン指の動き目で見えなさそう。ヤバい」

 

「ラケット振った動きがリアルに目に映んねーおめーが言うなし!この、当たれ!」

 

だが断る。戦場で敵に当たって下さいとか惰弱極まりない!恥を知れぃ!でもちょっとうざくなってきたので飛んできた文鎮パンチを掴んで止め…文鎮?!とか驚いてたら反対の手からスティック糊パンチが来たのでそれもってうわこれ糊伸ばしてあるじゃん掴んだらベタベタするやつ!を何とか糊に当たらないように拳を掴んで、同時に波紋を流し込んでユーミンの筋肉を勝手に動かし、その場で腕を交差するように反転させる。周りからはからはたぶん何もしてないのにユーミンが独りでに反転したように見えたはず。そして膝裏を軽く押し込んで膝カックン。しゃがみ込むユーミンの頭に手を置いて、喰らえ!猛獣鎮圧式波紋なでなでっ!相手は落ち着くゥ〜!

 

「誰が猛獣!!か、ぁ……?何これ、和む……」

 

勝った!第3部完っっ!つーか物理攻撃力の高い文鎮と精神的攻撃力の高いスティック糊とか火力意識し過ぎじゃね?俺の周りの女子は何でこうも凶暴なのか。

何時もならここで煽り入れるところだけど、他の2人も用あるみたいなのでユーミンを鎮圧したまま話を聞く。どったん戸塚、何かあった?あ、職場見学?知らね、多分どっかに余り物で入ると思う…あ、一緒に行く?えーで!行き先は任せた!築地はダメらしいぞ?

 

「なんで築地なのさ……。え、新鮮な魚介類を食べれそうだから!?流石貴一、発想がグルメだ!」

 

ふ、そう褒めるでない<( ¯꒳¯ )>え、でもそんな理由で職場見学先を選ぶのは良くない?そりゃそうだ(正論)なので戸塚の好きなとこ選んでえーよー。

 

で、そこでモジモジくんのゆいにゃんはどったの?そういやさっき聞きたいことがどうとか言ってたけど。

 

「や、あの……昨日のこと、なんだけどさ。あの後、何もなかったのかな…って、思って。その……」

 

やたら声が小さくて聞こえにくいなと思ったら、ちょっと周りをキョロキョロした後、俺の耳に口を近付けて、小さな声で言った。

 

「平塚先生と、なんかあった?」

 

おっと、そう言えば昨日の別れ際既にゆいにゃんは平塚先生のヤバい状態を察知仕掛けてたんだったか。女子って凄いのね、俺なんか襲われる直前まで気付かなかったわ。

 

でも全部話すと当然アウトなので、少し誤魔化しておこう。ナニも(本番をしてないと考えたら確かにセックスはしてないので)ないです。強いて言うなら平塚先生のストレス大爆発攻撃(かみつく)を食らったくらいだな。全く、職場のストレス教え子にぶつけるとか酷いティーチャーよな。

 

「いや多分それはモサキチが悪い」

「僕も原因は貴一にあると思うよ」

「絶対サカキンが悪い」

 

「解せぬ」(`・ω・´)キリッ

 

だからそれだよ!って言われたけど僕は悪くない。たぶん。いや実際は職場のストレスとか関係無しにだいたい俺が原因なので戸塚の言ってることは正鵠を射ているのだが俺はシラを切るぜ!

 

「そう言えば貴一、今日の平塚先生綺麗だったね!何かあったのかな?」

 

「!!そ、そうそう、あたしも思った!昨日車で家まで送ってもらった時はいつも通りだったのに、今日は何か……」

 

?何故そこでチラりと俺を見るかゆいにゃん。わちきは何も関係は無い!(ハッタリ)

つーかそんなに変わってたか?俺の目にはいつも通りにしか見えなかったけど。ほら、平塚先生イケメン過ぎるだけで元から美人じゃん?

 

「いや嘘でしょサカキン、あれで気付かないとか目が見えてないんじゃないの?やっぱ髪切ったら?…それともやっぱりサカキンが何かしたのかな?

 

酷い言われようなんですけど。明らかにゆいにゃんに疑惑の目で見られててちょっと焦りつつも頑張って無関係を装っていると、唐突に足元で頭撫でられてたユーミンがぶっ込んできた。

 

「や、あれはオトコっしょ。すげー色気出てたし、昨日の今日で変わりすぎだし。何かイイコトあったんじゃねー?知らんけど」

 

ぎくっ。

 

「お、男?!優美子、それって彼氏ってこと?平塚先生に!あの?!」

「わー、凄い。流石平塚先生、大人の女性って感じだなぁ」

 

おいゆいにゃんそれ以上はやめて差し上げろ。お前この間まで平塚先生カッコイイって言ってただろ!戸塚の反応が普通だろどう考えても!確かにちょっとアレなところはあるが、あれで美人だし、男ができたって何も不思議は無い。……いやあの掃除前の部屋見たら男できてもすぐ別れそうではあるけど。

 

 

とか何とかやってたらチャイムがなって、平塚先生が入ってきた。一限国語だったか。席に着け、という平塚先生の言葉に、3人とも自分の席に戻って行った。ゆいにゃんだけはまだ疑わしそうな目でこっちを見ていたが、華麗にスルーした。なお授業が始まる前に青い髪の女の子が遅刻してきて平塚先生に怒られてた。青髪とかなんなの?ヤバい不良じゃん。このクラスヤンキー率高くない?ねぇ高くない?ていうか総武って進学校の癖にその辺ゆるゆるだよね!俺の頭も地毛だけどパッと見染めてる部類だから助かるけども。

 

まぁいいや、我らが平塚先生の授業だが差し当ってわちきはハンティングクエストをやらねばならぬ!うぉぉ!待ってろ頼光ママ!スキルマレベル100にしてみせる!!

 

 

この後めちゃくちゃ周回した。

 

◻️◻️

 

昼休み。

 

じゅわぁぁぁ

 

「……ねぇ榊君。1つ質問しても良いかしら?」

 

なんだねセツのん。

 

「……貴方は今何をしてるのかしら?」

 

え?セツのん見てわかんないの?ゆいにゃんならともかく、セツのんが見てわかんないとは思わなかったなー。仕方ない、教えてあげよう。

 

「鳥の唐揚げ作ってる」(`・ω・´)キリッ

「そんなの見ればわかるわ。何故、部室で、作ってるのか!と私は聞いてるの!」

 

ははーん?さてはセツのんアホだな?なぜ唐揚げ部室で揚げるのか?そんなのことも知らないなんてまだまだだなセツのん!仕方ない教えてあげよう!いーかよく聞くがいい!

 

「揚げ物は揚げたてが1番!」(`・ω・´)キリッ

 

「由比ヶ浜さん、この揚げ終わったの食べてしまいましょうか」

 

「わーい!待ってました!」

 

ちょっ、おま!?それは止めて!てかそれ俺の昼飯!あ、ちょ、おま止めろ!やめっ、やめろォー!

 

※めちゃくちゃ食われた!

 

 

……おおお、なんという事だ!俺の昼飯の炊きたてご飯と揚げたて唐揚げが……!少しなら分けてあげても良かったのに!食べ過ぎだぞお前ら!

 

「やー、最近はお昼ご飯サカキンから貰うのが一日の楽しみになってるよあたし!明日もお願いね!」

 

「腹立たしいけれど、口臭に影響する大蒜とか使って無いのに下味もしっかりしてるし、外はカリッと中はとてもジューシィ。このオリジナルスパイスとの相性も抜群。認めましょう榊君、唐揚げは確かに揚げたてが1番美味しかったわ」

 

引っぱたくぞ貴様ら(#^ω^)ビキビキ

 

つーかな、戸塚の依頼あたりからお前ら俺の飯奪いすぎだぞ!別に分けるのは吝かではないけど、いくらなんでも最近はちょっと目に余るぞ!ここ最近はセツのんはサラダしか持ってきてないし、ゆいにゃんに至っては箸しか持ってきてないやないか!

 

「仕方ないでしょう?貴方の作る食事はいつも野菜が足りてないのよ。今日なんて白いご飯と唐揚げだけとか馬鹿にしすぎよ。いちいち野菜を持ってくるこちらの身にもなってもらえるかしら?」

 

「や、大丈夫!ここで沢山食べる分家で食べるご飯は減らしてるから!」

 

はは、こやつら(^ω^#)

 

つかセツのんは元々自分で作って弁当持ってきてたやろ!?え、味で俺に負けてるの悔しいからしばらく持ってこない?何の話をしてるの君は(困惑)

 

ゆいにゃん、君はお母さんに謝ってきなさい。いやマジで。つかゆいにゃんの腹回りの事情とか知らねーよ。いたっ、なぜ殴るし。え、太ってない?いやお前俺の目を誤魔化せると思ってるの?こちとら眼のチーターやぞ!

 

「わぁぁぁ!止めてやめて!あたしマジ太ってないから!つーか腹を凝視すんなキモイ!」

 

「えーと、ゆいにゃんの腹回りは2週間前に比べて2セ「死ねっ!」うわ危な!おいコラゆいにゃん、簡単に死ねとか殺すとか言うなよぶっ殺すぞ!」

 

「え、あ、ごめん!……って言ってるじゃん!めっちゃ殺すって言ってるじゃん!」

 

「2人とも食べた直後に暴れないでくれるかしら。埃がたつわ」

 

えーとセツのんの体重はここ1週間で2キ「殺すわ」おっと危ない、そんなのが俺に当たると思うなよ?「隙ありっ!」無いんだなーこれが。よっと。ふ、まだまだだな2人とも。

 

「チッ、腹立たしいけど1人では無理ね。由比ヶ浜さん、準備は良いかしら?」

 

「任せてゆきのん!2人で今日こそサカキンとっちめよう!」

 

おやおや2人がかりか?それはそれは……全くもって役不足だね?俺を倒したければ最低でも1個師団は持ってきな!かかって来い肥え太り女子共!腹ごなしに脂肪燃焼させてやるよ!

 

「「野郎ぶっ殺してやる!!」」

 

この後めちゃくちゃ汗流させた!

 

 

◻️◻️

 

キーンコーンカーンコーン

 

お、予鈴だ。この辺にしとくか2人とも。

 

「.ぐっ!……まさか、ふたっ、り!掛りで、掠りもしない、なんて……!!」ゼェーゼェー!

 

「うぅ、お腹いっぱいで沢山動いたから脇腹痛い……!そしてちょっと気持ち悪ぃぃぃ!」

 

ふーはははは!愉快愉快!この2人がかりなら勝てる!と思っている奴らを完封してやった時の負け犬のこの顔!ふーはははは、実に愉悦!ねぇねぇセツのんにゆいにゃん今どんな気持ち?俺を今日こそボコボコにしようと意気込んで、2人でやったのにも掠りもせず、最後にはゆいにゃん犠牲にしてまでセツのんが不意をついたつもりだったのに読まれて余裕で避けられた挙句、得意の合気を完璧に返されてパンツ丸出しで倒れ伏してる今ってどんな気持ち?ねぇどんな気持ち?m9(^Д^)プギャー

 

お?2人とも涙目でほっぺパンパンにしてプルプルとか本当にアクア様みたいで可愛ええな!でもいい加減パンツ隠しなよ恥ずかしくないの?全く、2人とも女子力以前に歳頃の女の子としての常識が欠けてるね!これだから近頃の女子高生はモラルが低いって言われるんだよ。お?何泣いちゃう?泣いちゃうの?2人がかりで襲いかかって来ておいて1度も手を出してない男にボロ負けしておいて泣いちゃうの?良いのか?それで良いのか2人とも!?どーしてそこで諦めるんだ!諦めんなよ!まだいける!もっといける!もっと熱くなれよォォォ!!

 

ガラッ

 

「いや鬼か貴様」

 

誰が鬼か!って、平塚先生、どーしたんですか?……ああ、今日この時間は授業入ってないとか言ってましたっけ。どしたんすか?

 

「覚えてたのか?……いや、たまたま近くに来たらまだ3人とも居るみたいだったから授業に出ろと言いに来たんだが……2人は無理そうだな?」

 

「うぅ、平塚先生……サカキンがぁ……」

「く、屈辱です……!この男にこんな惨めな姿を晒すなんて……!」

 

ふ、全良な一般男子高校生である俺に2人がかりで襲いかかって来ておいて何も出来ず、何もされずに返り討ちにあった哀れな負け犬2匹です。せめて一思いに介錯してやって下さい。

 

「悪魔か貴様」

 

いいえチーターです。……さて置き、仕方ないから俺特製蜂蜜レモンの炭酸割り作ってやるからせめて着替えて来いよ2人とも。体操服は持ってきてるだろ?あ、動けない?大丈夫大丈夫、今動けるようにするから。あ?連れてけ?ヤダよお前ら汗だくじゃんばっちぃ。

 

「終いには泣くよサカキン!」

「…いっそ殺しなさい」

「まったく、お前たちと来たら……!」

 

ハイハイ、パンツ丸出しのスカート直して、くらえ超秘技・波紋マッサージ&対象の時間加速!相手は疲れが早く取れるぅー!

 

「うわ、超気持ちぃー!ってあれ?なんかもう動く!ウソ!?」

「相変わらず意味不明な特技を……ッッ!!」

 

説明しよう!波紋マッサージによって肉体の治癒力を上げ!更に対象の時間を加速する事で疲労が一瞬で治った気がするぞ!実際には2人は波紋マッサージ受けながら15分くらい休んだようなもんだぞ!もちろん実際にこんなこと言えるわけないのでここだけの秘密の話だぞ!

 

「これが奇跡のイリュージョンッ!」(`・ω・´)キリッ

「その顔腹立つ」

「礼だけ言っとくわ」

「!?」

 

最後までグチグチ言いながら2人は更衣室へ向かって行った。何か授業は後で平塚先生が担当教師に体調不良と連絡してくれるらしい。そして俺は女子を虐めたのでサボり扱いらしい。なんということでしょう…ッッ(血涙)

 

「……由比ヶ浜も雪ノ下も、随分明るくなったな。特に雪ノ下は、このひと月あまりで最早別人の様だ。最も、後者はほぼ君の前だけ、という条件は付くが。でもまぁ一応、流石だな、と言うべきか?」

 

さて、なんの事だか分かりませんな。元々2人ともあんなもんですよ。ゆいにゃんはガッツが無かっただけ。セツのんは環境が悪かっただけ。元から自力はあったんでしょ。知らんけど。

 

「くくっ、あくまで2人の力だと?普段の立ち位置といい、まるで保護者みたいだな、君は。本当に17歳なのか?」

 

何を仰る。こんなにぷりちーな男子高校生が他に居ますか?つーかあの二人より世話が必要な大人が何いってんですか。

 

「耳が痛いな……ま、私は一生世話になるがね」

「もう俺の人生を絡め取りに来たか……なんて教師だ」

 

てかそれより、早く本題入りましょうよ。2人とも着替えて化粧も直して来るからある程度余裕はあるとはいえ、一コマ丸々は空きませんよ。要らないってなら構いませんが。ってうわ早い。

 

「んぅ……すー、はー……あぁー、ようやくこの時が来たか。要らない訳ないじゃないか、ばかものぉぉ……!」

 

はいはい、分かってるとは思いますが、2人が来る前には終わりにして下さいね。こんなん見られたら1発アウトなんですから。

 

「すぅぅぅはぁぁぁ……分かってる。けど、夜その分補填してもらうからなぁぁ……!絶対、だぞぉぉ」

 

はいはいご随意に。

……どうです?初日を過ごしてみての感想は?

 

「……分かってる癖に」

 

「さて?俺は平塚先生じゃないから分かりませんね」

 

「鬼!……身体が、疼いてるんだ。ずっとずっと、子宮が、震えてるのが分かる。身体の奥が燃えてるみたいに、火照りが治まらない。榊のが…私のココを擦った感触が、まだ残ってる。どうしてくれるんだ……職員会議の時も、授業の時も、トイレの時も、お弁当食べてる時でさえ……榊のちんぽの感触が、熱が、味が……ずっと、頭から離れないんだぞ?朝から、本当に!ずっと……!」

 

それはそれは、何よりでございますね。朝から念入りに仕込んだ甲斐があります。そのまましっかりと飢えてくださいね?

 

「本当に…本当に、するのか?2週間も、こんな……ことを?わ、私、きっと駄目に、なるぞ……?今でさえ榊の事が、欲しくて、欲しく、てぇ……!2週間、後とか、もうきっと、榊の事以外……何も、考えられなくぅ、なってぇ!そんな状態で、あんなの入れられたら……!」

 

ふふふ、楽しみですねぇ?その頃にはきっと、平塚先生の身体も心もぐちゃぐちゃになってる事でしょう。俺の事が欲しくて欲しくてたまらない、その他の人間が何していても俺のことしか考えられない。そんな状態の貴女が、俺に抱かれる……どうです?きっと素敵な一日になりますよ。

 

そう言って平塚先生に口付けする。無論スタンドで周囲は確認済みだ。平塚先生はいきなりのキスに驚いているが、一日一回はあくまで快感を与える回数であってキスしないとは言ってない。

 

「んぅっ……んん、ぷはっ。あぁぁ、酷い、本当に酷いぞ榊……♡壊す気なんだな?私のこと♡徹底的に、本当に徹底的に、私をめちゃくちゃにしちゃう気なんだな?♡こんなキスまでして……絶対、私を逃がさない気なんだな♡♡」

 

さぁて、それは2週間後には分かりますよ。ちゃんと2週間我慢出来れば、平塚先生はもう、俺の同級生に嫉妬なんかすることも無くなるでしょう。我慢出来なかった場合は……まぁ、後は自分で全部頑張って貰うことになりますが。

 

「そんなのやだ!頑張るから、私頑張るから……ッッ!!」

 

「……ええ。待ってますよ、静さん」

 

そう言ってもう一度、俺は彼女にキスをした。平塚先生は泣きそうなほど潤んだ瞳でそれを受け入れると、きつく、きつく俺を抱きしめた。俺が同じくらいの力で抱きしめ返せば、彼女は更に蕩けた顔になり……そこで、自ら体を離した。

 

「おや、もう良いんですか?珍しいですね」

 

「良くない!全然良くない!全然、良くない……けど、これ以上したら、この後もう、たぶん教師の顔に戻れない。そういう、自制もしなきゃいけないから。榊の女に、なるには。……そうだろう?」

 

エクセレント!その通りですよ、平塚先生。貴方はあくまで、教師のまま俺の女になっていくんです。俺の求める姿に近付いてくれて、嬉しいです。この調子で頑張りましょうね!

 

「……2人がそろそろ戻ってくるからもう行くが、今晩は本当にしっかりと補填してもらうからな。……それはそうと榊。その、季節に合わないネックウォーマーは……」

 

「昨晩大きな蛭にやられましてね」

 

「せめて蚊とかだろう……まだ残ってるよな?」

 

その言葉に俺はネックウォーマーをずらして、首筋の惨状を平塚先生に見せ付ける。蚊じゃこの痣にはなりませんよ。朝より色がハッキリしちゃいました。どうですか?ご自分でつけたマーキングは。

 

「……本来、教師が生徒にしていい事ではないが。その、なんというか。君の体に、私の跡が残ってるというのは……とても興奮するし、この上なく満たされるな!」

 

……うわぁ。平塚先生本当に独占欲強いですね。何か今まで色んな男に逃げられたのも分かる気がします。ま、やったのが俺で良かったですね。

 

「……やっぱり嫌か?こういうの。嫌なら、できるだけ我慢するから……嫌いには「なりませんよ」本当、か?」

 

やれやれ、余程過去の男どもは馬鹿ばかりだったらしい。すっかり変なトラウマを持ってしまっている。仕方ないので、平塚先生が自ら離した距離を、今度は俺が詰めた。右手で彼女の長い髪を持ち上げる様にして、その隙間に顔を差し込み、正面からは見えにくいところを選んで、その綺麗な首筋に吸い付いた。んぁ!と平塚先生が悶えた声が聞こえたが、無視して吸い付き、ちゅば、と音を立てて離した。真っ白で綺麗だったそこには、今の行為の証明──ー赤い跡が残っていた。

 

「だって、俺も独占欲超強いですから」

 

心配しなくても、もう貴女を離しませんよ?

 

 

 

◻️◻️

 

あの後、平塚先生は火照った身体と蕩けた感情を抱えて、俺が付けたキスマークのある辺りを手を置いたまま、表情だけどうにかこうにか教師モードに戻すと、ふらふらと去って行った。見るからに危ない足取りだったので、念の為空間防御を更に重ねておいた。

 

それから昼飯に使った鍋やら油やらの処理をして、みんなで食べた食器を洗い終わったあたりで化粧直しの終わった体操服姿の2人が戻ってきたので、何時も戸塚の練習に差入れていた俺特製蜂蜜レモンの漬け汁を強めの炭酸水とミントを加えて、たっぷりの氷と共に出す。

 

セツのんは何も言わず、けど満足気に。ゆいにゃんは風呂上がりに冷えたビールを飲んだおっさんぐらい弛緩した声で染みるぅ〜と幸せそうだった。ゆいにゃんは歳頃の女の子としてどうかと思わないでもないが、自分で作ったものを喜んでもらえるのは俺としても悪い気分では無いので、特にツッコミは入れないでおく。

 

「さて榊君。貴方には慰謝料を請求するわ」

 

「仕方ないな、はいこれサーターアンダギー」

 

「わぁ!さっすがサカキン準備いい!!」

 

「あら本当。こんなにポンとお茶請けが……違うわ由比ヶ浜さん。そうじゃないでしょう?」

 

「美味しー!サーターアンダギーって何処のお菓子だっけ?え、なにゆきのん?……あっ、サカキン!良くもやってくれたな!ほてんして!」

 

お、偉いな由比ヶ浜。苦手な国語の勉強ちゃんとしてるんだな?今言った補填っていう単語、漢字で書いてみろ?意味がわかってれば漢字見たことなくてもまぁ何とかなるだろ。あ、書けないの?なるほど、じゃあこれはセツのんの入れ知恵か。とりあえずセツのんはサーターアンダギーでは違うってのならこれは下げますね。

 

「待ちなさい、そうは言ってないわ。私はただ…っ、だから、皿を下げるなと言っているの!」

 

「サカキンストップ!あたしまだ1個しか食べてない!」

 

なんだ、これでいいの?紛らわしい事言うんじゃないよ。まったく。ちなみにサーターアンダギーは沖縄のお菓子です。本当はちんすこうの方が俺の好みだけど、あっちよりも作るの簡単だったので。

 

「まったくもう……あら?これ、黒糖じゃないのね?」

 

「俺は黒糖より白砂糖派。意外とイケるだろ?」

 

「えぇ、この飲み物にはこちらの方が合うみたい。美味しいわ」

 

「サカキン、あたしこの蜂蜜レモンおかわり!」

 

それは構わんがゆいにゃん、いくら動いたばかりでもあんま食うと意味ないぞ。それ以上太った理由を俺のせいにするなよ?え、太らないデザート?あんこ抜き砂糖抜きの羊羹でも食べてみる?要するに味付けしてない寒天だけど。まぁそれはさて置き、俺に何がさせたかったの?

 

「……分かってたなら無駄な手間を掛けさせないで貰えるかしら」

 

「や、あれだけの醜態晒しといて、何事も無かったかの様な顔して慰謝料を請求するわ!とか言い出すから。つい?」

 

「やめて!その事はもう忘れてサカキン!あたし達のライフポイントはもうとっくにゼロなの!」

 

お、ゆいにゃんそのネタが分かるってことは遊戯王読んだの?それはそれは、順調に理解を深めてくれて嬉しいぞ。よーしよしよし、偉いぞーゆいにゃん!

 

「わ、ちょ、髪整えたばかりなのに……!そうそう、優しく撫でて。あと意外に面白かった。クリボー可愛いし」

 

「初代遊戯を読んでから今のアニメの遊戯を見ると、ライフポイントを大事にしなさすぎると私は思うわ。私は櫛入れやってくれるのなら今のままで大丈夫よ」

 

え、いやセツのんまだ撫でてないけど……アッハイ、片手空いてますからね。そうね。で、いい加減話を……今更入部歓迎会?今日の放課後に、って随分急やな。さっき着替えてる時に決まったの?ふ──ーん?

 

「あー、何でかサカキンに撫でられるの気持ちぃー…」

「な、何かしら。なにか文句でもあるの?」

 

いや?2人が仲良さそうで何よりだよ。で、場所は?え、サイゼ!?了解!!

 

「サカキンってサイゼ好きなの?なんか意外!」

 

「……私はあまりそういった店に経験はないのだけれど、そんなに良い店なのかしら?」

 

「どーかなー?安いしそこそこ美味しいし、エアコン効いてて夏でも友達とお喋りして長居できるからあたしは好きだけど……ぶっちゃけご飯もドリンクもデザートも、たぶんサカキンの方が普通に美味しい、かな?」

 

何を言うか。最近色々あってあんま行けてないけど、俺はめちゃくちゃ好きだぞサイゼ。料理にしたってそうだが、あのチープな味がいいんだよ。ファミレスで中途半端に本格派を意識するよりずっといい。値段も他のファミレスに比べたら破格だし、正しく学生達の為にある店だと俺は思ってる。強いて言うなら辛味チキンが全然辛くなくなったのが悲しい。

 

「おおぅ、予想外の絶賛だ!でもあたしは辛味チキン手がベタベタになるからあんま好きじゃない。サカキンの唐揚げの方が美味しいし」

 

「なんだお前可愛いやつか?仕方ないな、こないだ試作したこの鳩サブレーをやろう」

 

「可愛いっ!?や、そ、そう?って何これデカっ、そして可愛くない!」

 

「鳩は鳩でも鳩山幸雄首相じゃないの……何を思ってこんなものを作ったのかしら。とにかくそういう訳だから、今日は部活は無しよ。いいわね?」

 

や、字は違うけど前世と同じ名前の首相だったことに感動してしまってつい1から手で整形してしまった。りょーかい!や、サイゼ楽しみだな!久しぶりだし、いつものハンバーグに1番高いステーキも食べちゃおっかな!

 

 

◻️◻️

 

放課後。

 

あの後最後の授業だけちゃんと出て、例のチェーンメールの3人が仲良く職場見学行く事になったり、キラキラが俺と戸塚と職場見学一緒に行くことになったり、キラキラが行くところに結局ほぼ全員集まったりしてそれアリなの?みたいな感じの事が起きたりしたがまぁ、高校生だしね。そんな事もあるよね。

 

俺たちは当初の予定通り、3人で入部歓迎会という名目で駅前のサイゼに向かっている途中だった。ここ最近の俺は余程のことがない限り買い物は徒歩か平塚先生の車かネット通販で、後は基本的に遠出をしないので、駅の方に行くのが割かしもう久しぶりだった。なのでサイゼは後回しにして、少し駅前のデパートを冷やかしがてら3人で散策していた。

 

「や、俺の服は面倒いからいい。ユニクロとかしまむらとか、着れれば特に問題は無い」

 

「駄目だって!サカキンせっかく背が高くて身体もガッチリしてるんだから、これを機にモサモサなの強調する服装は止めようよ!」

 

「そうね、正直隣に野暮ったさの塊が歩いていると私達まで変な目で見られるわ。よく分からないけど他人に奢れる余裕があるなら、自分の身だしなみに気を使うべきよ」

 

馬鹿野郎お前俺のこの若さあふるる新鮮な制服姿が目に入らんのか!ていうか今まで俺、制服姿さえモサモサ強調するとか思われてたの!?俺2人と休日に会ったことないよね?俺の私服見たことないよね!?えぇい!とにかく離さぬか!俺は自分の服には興味無いんだよ!つーか自分らの服探せよ!

 

「え、やだよ荷物になるじゃん」

 

「貴方の見た目が問題なのであって私達はこのままでなんの問題もないのだから必要ないのよ」

 

くそぅ、2人の見た目に問題ないのは事実だから文句言い辛い!だがぶっちゃけ服とか着れれば良いかなとか思ってるタイプ!こんなよく分からんブランドの服なぞ買ったところで普段着ないのは必定!要らな……あ、普段じゃなければ使うのか。ふむ。そういえばそうだな。俺にファッションセンスとかないし、2人が選んでくれるならこれは確かに良い機会だ。前世でもファッションに関しては彼女に一任してたし。よし、任せた。1式コーデで頼むよ。

 

「うぇっ!?何か急にやる気になった!ま、まぁ良いけど」

 

「急に掌返したわね。まぁ抵抗しないのなら構わないわ。せっかくだから店員さんも呼んで、この際徹底的にやりましょうか」

 

セツのんの言葉を聞いて、ゆいにゃんが店員さんを呼びに行く。え、そこまでやるの?ま、まぁ2人が必要だと言うなら任せるのが1番だよね!たぶん。あ、そうだ。出来れば何かこう、色んな場所に行けるように3、4種類くらいコーディネートを頼むぜ!

 

「色んな場所?貴方何処か出かける予定でもあるのかしら。出来ればその場所を教えて貰えたらイメージしやすいわ」

 

「ん、んー?何処とは決まってないな。でもよく聞くのは水族館とか映画館とか、なんかそういうイメージ?たぶん遊園地はもうないと思う」

 

「店員さん呼んできた!何か水族館とか映画館とか聞こえたけど、何の話?」

 

「榊君のコーディネートの話よ。行きたい場所があるからそこに合った物を、と言われたのだけど、場所が決まってないというのが要領を得ないわね。水族館に映画館、遊園地、まるでデートに行くみたいだけれ、ど……?」

 

「いやそりゃデートに行く服頼んでるし。行くことは決まってるんだが、行先はまだ決めてない、みたいな?」

 

「えっ」

「えっ」

「えっ?」

 

何故そんなに驚く。いやそりゃ普通は驚くか。ぼっちがデートとかいきなり言い出したら正気かどうか疑うよなそりゃ。だがとりあえず俺は前回平塚先生とディスティニィーランド行った時の補填でそのうち平塚先生と、今度はちゃんとしたデートをしなければならない。

 

前回は突然だったから普通に持ってた服を適当に着ていったが、一応もうすぐ恋人みたいなものになる。流石に服装くらいちゃんとしないとな。そんな訳なので店員さん、だいぶ無理難題だとは思いますがお願いしても良いですか?

 

「畏まりました!ご予算は如何程ですか?」

 

「あ、その辺の相場もよく分からないんですが、どのくらいが丁度良いんですかね?基本的に必要なら幾らでも構わないんですが」

 

「えっ?あ、あのそれは具体的にどのくらいまで大丈夫なんですか?」

 

「へ?あ、あー。あんま金掛けすぎても良くない感じですか?それならうーん、とりあえず1式で5万くらい?出来れば4種類くらいお願いし「出よっかサカキン」えっ」

 

「そうね、服を買うのは中止しましょう。呼んでおいてすいません、失礼します」

 

えっ。

 

なんかよく分からないけど2人に両手を取られてそのまま店から連れ出された。疑問を口にするどころか抵抗する間も無かった。何この早業。てか君たちさっきまで嫌がる俺を無理やり店に押し込んだのに、なんて鮮やかな掌返しを……!店員さんが口開けたままポカーンとしている。気持ちは分かる。たぶん俺も同じ顔してるから。

 

何かよく分からないけど、そのまま流されて2人に手を引かれるまま無言で着いていく。道行く人が先行く2人の容姿に目を引かれ、その後連れられる俺の顔を見ては?みたいな顔して2度見する。や、大きなお世話だが気持ちは分かる。たぶん俺も立場が逆なら同じことする。

 

やがてデパートの外に出てようやく2人が止まってくれたので、声を掛けてみる。あのう、御二方、なんで急に?

 

「別に何も無いわ」

「そうそう!何となくもうサイゼ行きたくなっただけ」

 

アッハイ。何か知らんがそれ以上聞くなと二人の目が語っているのでとりあえず納得しておく。前世からの経験で、こういう時の女性に文句言ってはいけない。今世では初体験だけど。とりあえずもうサイゼに行くみたいなので、また俺の手を引いて歩き出した2人に着いていこう、そう思って踏み出そうとして。

 

 

 

思わず足が止まった。

 

 

視界の端を横切る、遠目に見えた人の顔。あれは。

 

 

 

考えるより早くアンサートーカーが答えを返す。確定だ。足を止めた俺に2人が怪訝な顔をして振り向くのが分かるが、今はそれどころではなくなった。2人の手を振りほどく。すまん2人とも。

 

「急用が出来たので悪いが失礼する。この埋め合わせはまた今度だ」

 

言うが早いか、俺は走り出した。

 

 

 

◻️◻️

 

いきなり彼が走り出した。

今までに見たことがないくらい、余裕のない姿で。

 

「ちょ、サカキン!?どうしたの!?」

「追いましょう、由比ヶ浜さん」

 

慌てる彼女にそう声を掛け、私も走り出した。後ろから慌てて着いてきた彼女が、何故と問うてくる。道行く人の隙間を抜けるように走りながら、凄い勢いで去って行く彼を見失わない様に気を張りながら、叫ぶように答えた。

 

「私にも分からないわ!でも、尋常ではない様子だった!あの榊君が!」

 

あのいつもぬぼーっとしていて、誰と話している時も無表情。長い髪の毛に目が完全に隠れているせいもあるのだろうが、余計に感情の見えない彼。唯一分かるとすれば、意外と饒舌な声の抑揚からなんとか感情を捉える事くらいだろうか。それだって何時も飄々としているという事くらいしか分からない。

 

誰かに唐突な暴力を振るわれようと、暴言罵声に晒されようと、こちらがそうと判別できるほど明確に感情を出したことなど1度しか無かった。

 

その彼が、ああまで取り乱して走り去るなど、どう考えても尋常ではないなにかがある。時間にして僅かひと月と少しの短すぎる経験則だが、何故だか当たっている気がした。理由は、きっと……!

 

「確かっ、に!サカキンが、あんな風にっ、あたし達置いてくこと!今までっ、無かった!!あーもうサカキン速すぎ!!」

 

そう。そうだ。

何故かは分からないが、先程の彼は私達を見ていなかった。まるで、それどころではないと言わんばかりだった。それがおかしい。おかしな事を考えてる自覚はある。けれど、何故だか間違ってないと思った。だって、彼は何時だって──ーそこまで考えたところで彼の姿が見えた。少し離れた所を走る由比ヶ浜さんも気付いたようで、ゆきのん、あれ!と声が聞こえた。

 

 

そこに辿り着いた時、状況がよく飲み込めなかった。

 

短い距離とは言え、彼に追いつく為に全力疾走して呼吸が乱れていたので、思考力が低下していたのもあるとは思う。けれど。

 

目に付いたのは中学生と思われる1組の男女と、4人ほどの柄の悪い男達。そして、中学生の男女の片方、女の子の方の両肩を掴んで、何事か詰め寄る彼の姿。

 

 

その姿が。

 

「あの、すいません……何の話ですか?私、生まれた時から今までずっと、一人っ子なん、です……けど……?」

 

 

 

女の子のその言葉で、膝から崩れ落ちた。

 

 

 

続く。




登場人物紹介

・榊 貴一
神様転生者。割と普通にドS。
前世も今世でも平塚先生が一番の推し。
好みのタイプの女性は年上の黒髪ロングでカッコイイ系の美人。スタイルが良いとなお良い。つまり平塚先生はドストライクの模様。
チートをフルに使って学校で出来たてのお昼ご飯を食べる事に全力を注ぐ。しかし基本は自分の飯なので米とおかずあればいいかと割と適当。最近は女子二人がよく強奪してくる上に他に持ってこないので、バランス考えたらちゃんと作るべきか悩み始めた。


・雪ノ下 雪乃
最近は良くオリ主と昼ご飯を一緒に食べてる。
というか強奪してる。
ゆいにゃんとはたまに勉強会をしてる。

・由比ヶ浜 結衣
色々気になることが多くて大変なことに。
平塚先生とオリ主の様子がおかしいと怪しむ。
最近は結構運動してたおかげで意外と走れる。
セツのんに勉強を教わっているがあまり成果はない。

・平塚 静
狙ってた男をなんだかんだ落としつつある。
独占欲はめっちゃ強い。
ナチュラルにオリ主に調教されてるがノリノリ。
オリ主は身近で見すぎてよく分かってないが、いきなり色気が出たと周りが驚いている。
今日だけで5回くらい前方不注意で何かしらにぶつかっているが、オリ主の愛の守りで全然無傷。

・三浦 優美子
オリ主がユーミンと呼ぶのを止めないので、ムカついてオリ主のアダ名を考えた。結果としてオリ主をモサキチと呼ぶようになった。
「モサモサ」でさかき 「き」い「ち」なのでモサキチ。
仲のいい友達には名前で呼ばれたいタイプ。

・戸塚彩加
ここ数週間で凄いスタミナがついてきているらしい。
オリ主に教えられた呼吸法を愚直に練習している。
テニプリの技を大真面目に再現しようとしている。
波動球が使いたい線の細い系男の娘。


・最後の男女

一体なに町ちゃんとなに志くんなんだ……!!




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10話

説明回。
要はオリ主の無駄な設定が出てくるので、適当に読み飛ばしても問題ありません。みんな分かってたであろう伏線の回収でもある。

それと書きたいことぶっこみ過ぎてまた長くなってしまったのでその辺はご了承ください。


そしていつも誤字報告ありがとうございます。大変助かっております。
ただ、敢えて言わせてもらうとすれば、この小説の表現方法が気に食わないからと、誤字報告システムを使って変えようとするのは止めてください。
気に食わないなら違うの読むか、自分で書くか。どちらにせよこの小説を自分の好きな形に変えようとする方の御要望には添えません。どうぞ御理解をお願いします。


どうも、貴一です。神様転生者に分類されます。

結局として、チーターって人間として弱いんですよね。そのままの自分で勝つ自信が無いからチートを求める訳で。

 

 

 

 

アンサートーカー。

別名『答えを出す者』漫画・金色のガッシュで主人公高嶺清麿が修練と死線をくぐり抜けたその先で目覚めた能力。『答えを出す者』(アンサートーカー)の能力は、学問では数学や物理などの答えも瞬時に出すことができ、危機回避、難病の治療法、憎い人間の殺し方などにも答えを出す事が可能。また、初めて見るマシンであっても完璧に使いこなせたりする、要は知らない事を瞬時に知ることが出来る、と考えればおそらく間違いではない。

 

俺のアンサートーカーはこの『答えを出す者』(アンサートーカー)に憧れて特典にしてもらったものだった。そう、だった、のだ。

 

原点である『答えを出す者』は本来、天才的な頭脳を持つ高嶺清麿や、同じく天才的な頭脳を持つ、ライバル的存在のデュフォーの様な、際立って頭脳の優れた者にのみ発現した能力だ。それでも主人公の高嶺清麿は最初は持っておらず、1度心臓が完全に停止するという、文字通り死んでようやく発現した様な、超特殊なスキルだ。それ故に性能も破格だったが、力が強力過ぎて、1度能力が発現した主人公高嶺清麿でさえ、自身の脳が負荷が重すぎて危険と判断し、無意識の夢で1度封印してしまった。それくらい危険な力だった。

 

だが、生まれ直した当初の俺はアホだった。

 

そんな危険な力を、転生特典というチートという形で与えられたから、なんて理由で、愚かにも当然の様に使えるものだと勘違いしていたのだ。生まれたばかりの、満足に長時間起きていることさえ出来ない、貧弱な赤子の体で。

 

だが俺に力を与えた神は、やはり曲がりなりにも神という超常存在だったのだろう。あろう事か、能力に耐えられない状態の体で能力を使った結果として、能力の負荷に耐えられない俺の体を傷付ける、などと言う真似はせず、逆に能力の方を体に合ったものとして改変することで、俺への負担を無くしたのだ。

 

その結果俺のアンサートーカーは『答えを出す者』(アンサートーカー)から僅かな、しかし致命的な改変と共に、愚かな俺でも扱える能力に変化した。変化、してしまった。

 

 

改変された俺のアンサートーカーは似て非なるもの、その名は『答えと成る者』(アンサートーカー)。皮肉にも、音だけは変わらなかった。否、敢えて変えなかったのかもしれない。

 

 

数多の問いの中の、様々な答えを瞬時に処理しきれるだけの容量の無かった俺の体に適応した、アンサートーカーでありながら『答えを出す者』(アンサートーカー)では無いもの。その能力の基本はアンサートーカーとほとんど変わらない。違うことはただ1つ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そういう能力だ。

 

これはどういうことか。例えば、単純な数学の問題で、複数通りの解答がある問題に使うなら、単に一度に一つしか答えが出せないだけだ。少々のタイムラグはあるが繰り返せば全て正答に辿り着く。

 

だが、これが複数通りの結末に繋がる未来の予測に使われた場合。俺の『答えと成る者』(アンサートーカー)は、その時()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。例えそこに未来を知る俺が改変しようとしても、何があってもその未来に辿り着く。辿り着いてしまう。

 

何故そんなことが分かるのか?俺がそうだからだよ。赤子の俺が、愚かにも生まれた瞬間にアンサートーカーで見ようとした答え。それは、ある意味単純で、ある意味では転生者の誰もがやるはずだと思う。

 

それは、転生特典の確認。

 

俺は、生まれ直した俺が、本当に神から特典を貰えて、それが使えるのかが知りたかった。たが、その瞬間はそんなこと確認してはならなかった。恐らく、俺が3歳になるまでその事を我慢できてたならば、こうはならなかった。与えられた能力が自ら形を変えて、俺の能力として俺の未来を固定し、それのことを含めて全て説明する。そう、あの時に俺の能力は『答えを出す者』から『答えと成る者』へと固定されてしまった。あれから17年経って脳が成熟しつつある今でも、俺の『答えと成る者』は本物の『答えを出す者』となることは無い。あの瞬間に完全に変化して固定されてしまったからだ。

 

 

だからこそ、俺は14年もの間、この世界がどんな世界なのかアンサートーカーで調べられなかった。もし、本来ならば様々な偶然を経て、奇跡的に起こる戦争やバイオハザード、それらが普通に生きているだけならば天文学的確率よりも遥かに僅かな可能性で起きるようなものだったとしても、俺の目が、『答えと成る者』(アンサートーカー)が見たらそれはもはや確定事項になってしまうから。

 

例えばターミネーター世界の様に、世界で機械と人間の戦争が起きるとして、それを阻止するために様々な人が動いて、本来なら危なげなく回避されるものが、俺がその未来を観た瞬間に、奇跡的な偶然が起きて様々な人の努力を嘲笑う様に悲劇が起こる。

 

例えば交通事故にあう人が、本来様々な要因でもしかしたら助かっていたとして、俺が死んだ未来を見た瞬間に何をしても死ぬ。それこそ無理やり交通事故を回避したとしても死因が交通事故では無くなるだけだ。何が起きても絶対的に死ぬ。何故ならこの目は『答えを出す者』(アンサートーカー)ではなく、『答えと成る者』(アンサートーカー)数多の答えの中から正答を見つけ出すものではなく、数多の答えの中の一つだけを正答へと仕立てあげるものだからだ。

 

…本来ならばそれでも、探そうと思えばきっと原作主人公を……比企谷八幡を探せたのかもしれない。だって逆に言えば俺の能力が、見た相手が助かる未来を見たならば、絶対に助かるのだ。もしかしたら、俺のように誰かを死なせる事に怯えて力を使わないよりも、犠牲を出しても必ず人を救えるのならと、この力を使える者がいるのかもしれない。

 

結局俺は、逃げていただけだ。俺が見た瞬間の比企谷八幡が、もうすぐ死ぬ場所にいる、とか。もう死んでいる、とか。あるいは、初めから居ない、なんて答えを見るのが怖かった。現実を突き付けられるのが嫌だった。

 

だってそうだろう?

 

原作の彼は、ひねくれてて、面倒くさくて、色々駄目な奴で。でも誰かに手を差し伸べられる優しい男で、なんだかんだやる時はやる男で、常識の斜め下から、とんでもないやり方で色んな事を解決してきた。何度も間違えて、何度も苦しんで、それでも足掻いて、自分の力で誰かと繋がって、自分の力で誰かを救ってきた。そんな彼だからこそ色々な登場人物達は救われ、成長し、未来へと進めるようになったんだ。

 

そんなカッコイイ男だからこそ、大人気ライトノベル「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている」は大人気作品足りえた。

 

そんな彼が何処かにまだきっと居ると、そう信じたかったからこそ、俺は奉仕部に入った。

 

 

俺がいるせいなのかは分からないが、原作が始まってもまだ彼は出てこなかったけれど、彼が出てくるまでは何とか代役に成ろうとそう思った。俺は所詮特典を与えられただけの偽物で、彼のように誰かの成長を促しながらは出来ないかもしれないけど、大まかなストーリーさえ同じに進行出来たら、比企谷八幡が現れた時に交換するだけで原作と同じようになるに違いない。

 

それで、彼が現れたらサッと立ち位置を交換して、俺はギャルゲーによく居る謎の高スペックな親友ポジになって、なんだかんだと彼らの青春ラブコメを見守りながら共に生きていきたいと……そう、なれるのだと信じたから今までやってきた。

 

だって、そうじゃなければ俺はどうすればいい?

 

所詮俺は特典(チート)を貰っただけの凡人だ。頑張って使いこなせる様に努力は重ねていても、きっと俺は空条承太郎やDIOのようなスタンド使いにはなれないし、波紋使いとしてもジョナサン・ジョースターには遠く及ばない。かといってこの目は既に『答えを出す者』ではなく、『答えと成る者』だ。どう足掻いてもデュフォーや高嶺清麿の様にはなれない。

 

そもそも俺は犬を庇って車に撥ねられても無ければ、単に比企谷八幡と仲良くなれそうだからぼっちをしていただけの男だ。本来あるべき立ち位置すら、既に彼と同じにはなれない。

 

自分の中の力すら特典(チート)ありきで生きてきたから、積み上げたものなんてほとんど無い。前世のことなんて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

……だけど。きっとこれは俺のせいだから。特典(チート)なんかないと生きて行く自信が無かった俺の弱さのせい。だからもう、逃げずきちんと知らなければならない。そうだろう、『答えと成る者』(アンサートーカー)

 

 

問.原作主人公、比企谷八幡の居場所。

答.この世界には比企谷八幡は存在しない。

 

問.原作主人公、比企谷八幡が存在しない理由。

答.転生者、榊貴一が超常存在◼◼◼◼◼◼から望む特 典(チート)を与えられた際、この世界に転生させるには世界のリソースが不足した為、超常存在◼◼◼◼◼◼がリソース確保の為に、最も大きなリソース源となる原作主人公、比企谷八幡を含む一部の存在をデリートしたのが原因。

 

……ふふ、やはり全ての原因は俺が生まれたことか。

そりゃそうだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それが崩れるとしたら、それを壊すとしたら、本来この世界に居ない存在以外に、原因などありえない。

 

 

ならば、俺のすべき事は……!

 

 

 

◻️◻️

 

比企谷 小町

 

 

うーん、今日はちょっと厄日だなぁ。

 

 

思わず私はそんな事を考えた。

 

だってその日は朝から運がなかった。まず、ここ3年ほど愛用している、お気に入りの目覚ましが今朝になって突然お亡くなりになって、今まで無遅刻無欠席だったのに遅刻する羽目になった。

 

朝ごはんを食べている余裕も無いので、通学に使っている自転車で立ち漕ぎフルスロットル、一路学校を目指したというのに、今日に限って途中で何かを踏んだのか突拍子パンクしてしまい、私は手押しで学校まで向かう羽目になった。

 

そんな朝から体を動かしまくった日なのに、今日の気温は30度越えらしい。汗が止まらなくて、朝から制服が汗でびちゃびちゃになってしまった。最悪である。

 

けれどいざ学校に辿り着いてみれば、今日の一限は遅刻やら居眠りやらに寛容な国語のおじいちゃん先生が急遽遅れてくるとかで、熱血で暑苦しくて、無駄にデカい声で生徒を叱責する体育教師の吉田に変更になっていた。

 

それはつまり、授業が国語から体育になったということでもあり、ついさっきまで汗だくだった私は更に汗をかく羽目になった。そして当然の如く朝からデカい声で説教された。正直私が悪いのは分かるけど、私だってしたくて遅刻した訳ではないので、そんなに怒られると嫌になってくる。

 

というか、この先生自分が昔ワルだったとかいう謎の自慢話をするのでも有名なのだけれど、そのせいなのか中学生なのに髪を金髪に染めている不良の生徒にはやたらと甘い。

 

今だって必死になってやって来て怒鳴り散らされてる私と違い、あからさまに悪びれなく遅刻してきたクラスの不良の3人がやってきたけど、吉田先生は「お、今日は結構早いな?ちゃんと準備体操はしろよー」なんてにこやかに話し掛けている。

 

正直贔屓が酷すぎてPTAに文句言いたいくらい。共働きの両親に迷惑かかるからやらないけど。というか普通贔屓する方逆じゃない?なんで普段から真面目な私がたまの遅刻で延々と説教されて、遅刻サボり常習犯の不良共があんなに優しくされているのだろう。世の中って不思議だ、昔散々悪い事した人間が真面目な職に就いただけで絶賛されるのに、散々真面目に頑張ってきた人が仕事に挫折してニートになると罵倒される。

 

そんな大変な思いを朝からしたのに、朝ごはんを抜いた私にとって今日初めての食事である給食は、私の嫌いなメニューだった。いや、母親から好き嫌いは駄目って躾られているから残さず食べるけど、嫌いなものは嫌いなので、テンションはどうしても下がる。

 

 

そして、極めつけはコレだ。

 

「あー、痛ってーなー!これは絶対に腕折れてるなー?どーしてくれんのかなー君たちー?」

 

最近ちょっと仲のいい男子の川崎 大志くんが、何か今日は妙に元気がなくて落ち込んでるみたいだったので、軽い気持ちで相談に乗るよと話し掛けた。

 

それで2人で駅の方の喫茶店に向かっていたら、普段より元気の無い川崎くんが、たまたま道行く人にぶつかってしまったのだ。当然普通なら謝って終わりだったのだが、今回は歳上の、ガラの悪い人達だったので、因縁をつけられてしまったのだ。

 

いやでも、私も前に似たような事あったけど、見た目ガラの悪い不良の人達だってぶつかったくらいでこんな風に絡んできたりしなかった。明らかに胡散臭い演技でアイタタ!骨が折れた!なんて漫画みたいなこと言い出す不良なんて、少なくとも私は見たことない。ならきっとこれも運が悪い、の部類なのだろう。

 

幸いなことにここは人目があるし、何とかなるだろうと思ったのだが、予想に反して誰もがこちらをチラチラと見るが、明らかに中学生に因縁付ける大人(たぶん大学生くらいの年齢?)という構図でも助けに入ってくれる様なことは無い。何と言うことでしょう、昨今の日本の人情味ってやつは何処へ行ってしまったのか。

 

そんな事を考えているうち(現実逃避してたとも言う)に、何やらガラの悪い人達の何人かが私のことをじっと見詰めていることに気付いた。同時に下卑た笑みを浮かべていることも。

 

その意味に気付いた時に怖気が走った。だってあれ、学年1番の発育である横山さんの胸の揺れを見つめるクラスの男子達の目の10倍は下卑た笑みだった。

 

 

嘘でしょ、この人たちロリコン!?確かに私は可愛いけどまだ中学生だよ!?そんな大人実在しちゃうの?おまけにこんな往来で因縁つけてくるとか、千葉にそんな頭の悪い不良がいるなんて信じたくない!それは茨城の役目でしょ!?

 

 

そのうち、ガラの悪い人達が向こうで話そう、なんて明らかに人気のない所へ誘導しようとしてきた。それもぶつかった本人である川崎くんを無視して私の方に声を掛けた。

 

それに反発した川崎くんが、咄嗟に庇おうとしてくれたけど、1発お腹を思い切り殴られて悶絶してしまった。ああ、庇ってくれようとした事は小町的にポイント超高いけど一瞬でやられたのはポイント超低いのでギリギリプラスになるかどうかだ!

 

お願いもっと頑張って川崎くん!というかせめて周りの誰か警察に通報してよ!と思ったら、携帯を取り出してたオジサンが、ガラの悪い人達の1人に睨まれて携帯をしまっていた。もっと頑張ってぇぇ!!

 

 

なけなしの抵抗も虚しく、私は3人のガラの悪い人達に囲まれ、川崎くんはお腹殴った人に首に腕を掛けられ、引き摺られるように、そのまま人気のない路地まで連れてかれそうになった時……その人は来た。

 

 

凄い勢いだった。

 

猛烈な足音が響いて、思わずガラの悪い人達と一緒になってその方向へ顔を向けたら、彼は一直線にこちらへ向かって走ってきていた。見間違いかもしれないが、横を走る車と並走しているように見えた気がした。

 

何だろう、と思った時には私の横に居たガラの悪い人を「すまんちょっと退いてくれ」とまるで、スーパーで取りたい商品の前でケータイ弄ってる人を退かすみたいに押し退けて、いきなり私の両肩を掴んできた。凄いびっくりした私は悪くないと思う。というか押し退けられたガラの悪い人が吹っ飛んだ気がするけどそれどころじゃないので分からない。

 

 

初めて間近で見たその人の印象は、何と言うかモサモサしてる、だった。かなり背の高い人で、多分185cmは絶対超えてる。だって隣のクラスに居る、バスケ部の巨人で通ってる山下くん(女子ネットワークによると182cm)より大きいもん。

 

私の両肩に置かれた腕は太く、よく見ると肩幅も広い。あれだけの勢いで走ってきたのに全然息は乱れてなくて、でも表情が分からない。だって前髪長すぎっていうか髪の毛が全体的に多すぎて目が全然見えなかったから。でも何となく笑っているのだと思う。口の両端が若干上向きだったし。

 

そして、その人は驚く私を無視して話し始めた。

 

「すまん、比企谷 小町だよな?」

 

私は名前を知られてる事に気付いて直ぐに恐怖を覚えた。ひょっとしたら助けに来てくれたかも?と思ったが、心の中でいきなり周りのガラの悪い人達より危ない不審者に格上げした。正直普通に怖くてひっ、って悲鳴が漏れた。

 

それに気付いたその人は、慌てた様に両肩を離して、まるで手を出す気はないと言わんばかりに両手を上に上げて言った。

 

「す、すまん!怖がらせた!だ、だが不審者では無いんだ。いや、たぶん今のところ不審者にしか見えないと思うんだが、えーと、何と言うか、君に興味がある訳では無いというか、用があるのは君じゃないと言うか……!」

 

見た目にはあんまり変化がなかったが、その大きな体が、何となく慌てているのは声で分かった。でも、私の名前まで知ってるのに私に用がある訳じゃないってどういうことだろう?あまりの事にかえって私の脳は落ち着きを取り戻したのか、そんな事を冷静に考えている余裕があった。後で気付いた時に、やっぱり私は凄いと自画自賛したくらい。

 

ひょっとして家族の関係者だろうか、と思って聞いたら、その人はとても嬉しそうに()()()()()()を言い出した。

 

「そ、そう!そうなんだ。いや、実を言うと今は全然関係ないと言うかたぶん俺が一方的に知ってるだけと言うかともかくそんなんだが、誓って悪意があっての事じゃない!信じてくれとも言えないし、到底信じられないかもしれないが、ともかく今は全部おいといて、会わせてほしいんだ!君の、お兄さんに!」

 

この人は何のことを言っているんだろう。そう思った私を誰が責められようか。いきなり現れて、何故だか私の名前を知っていて、それで要求は私の兄に会わせてくれ?意味が分からない。それが表情に出たのか、彼は更に焦ったように言葉を重ねた。

 

「いや、変な事を言っている自覚はある!だが本当に俺は君のお兄さんに会いたいというか、会わなければならないというか、いや、会わなければならない訳でもないんだけど、俺が会ってみたいというか……ああしまった咄嗟に追い掛けて来たけど上手い言葉を考えてなかった!」

 

危ない人では?正直、凄い本気でそう思ったけど、何故だか相手が必死なのは分かって、これも何故だかこの人が嘘をついていないと思った。だけど、だからこそ、余計に不思議で仕方がない。この人は本当に何を言っているのだろう。そう思って、怖かったけど、何とか声を絞り出した。

 

「あ、あの…すいません、私に兄は居ないんですけど……?」

 

「……え?」

 

目に見えて目の前の人が硬直したのが分かった。ピタッって擬音が聞こえたような気がした。その後、まるで信じられないことを聞いたかのように、そんな馬鹿なって小さく呟いた。そして再び私の両肩に手を置くと、怯えるように震えながら、恐る恐る私の顔と目線を合わせるように体を屈めて、震えた声で聞いてきた。

 

「すまない…。すまないが、もう一度言ってくれ。よく、聞こえなかった……!」

 

震えた声。まるで信じたくないと言うような問いかけ。けど、私はとにかく答えなくちゃと思って、何とか今の私の気持ちを口にした。

 

「あの、すいません……何の話ですか?私、生まれた時から今までずっと、一人っ子なん、です……けど……?」

 

 

その言葉を聞いた瞬間、その大きな人は力無く両膝を着いて項垂れてしまった。私の肩に両手を置いたまま。まるで悲しみに暮れるように。

 

ふと見るともの凄い美人の女の人と、かなり可愛い女の人が息も絶え絶えで側にやってきていた。2人ともひょっとして目の前の人の関係者だろうか。あの制服は知ってる、この辺りで有名な進学校の総武高校のものだ。一応私も受験生だし、進路を調べた際に制服が可愛かったからよく覚えている。

 

そんな事まで考えられる様になって、ようやく私は自分の思考が落ち着いてきていることに気付いた。そして、とあることに気付いて愕然とした。

 

 

……ひょっとして今、私がこの人虐めた様に見えてる?

 

 

勘弁して下さい。

 

 

◻️◻️

 

 

「……榊君」

 

その声に気が付いて、思考の渦から意識が外に戻る。

 

ふと顔を上げてみると、困惑した表情で、愛想笑いを浮かべる少女の顔。よく見るとガッツリ彼女の両肩を俺の手が掴んだままだった。あたりを少し見見渡して、状況を確認する。

 

……なるほど。見知らぬ人間にいきなり話し掛けられて、それが身に覚えのない話の挙句、正直に答えたらその見知らぬ人間が自分の肩に捕まって途方に暮れ始めたらそりゃあこんな風な顔にもなるだろう。

 

正直由比ヶ浜以来の唯一の手掛かりで思わず先走ってしまった自覚はある。というかよく考えなくてもいきなり知らん男がやってきて、君のお兄さんに会いたい!でも面識はない!とか言われたら普通に通報案件だ。

 

テンパって居たにしても限度がある。恐らく少女の恐怖は尋常ではなかったはずだ。非常に申し訳ない事をしたな。少女の両肩を離して立ち上がり、いきなり変な話をした事を謝る。

 

 

「すまない、取り乱した。……どうやら俺の勘違いだったようだ。いきなり変な話をした挙句、迷惑を掛けて申し訳ない」

 

「へっ?あ、いやー、私は大丈夫ですけど、お兄さん……その、大丈夫ですか?」

 

 

どうだろうか。まぁ、多分大丈夫だよ、ありがとう。突然だったから怖い思いをさせてしまったな。本当にすまない。今日のことは気にしないで貰えると助かる。

 

「あ、えーと、はぁ……分かりました?」

 

「ね、ねぇサカキン、大丈夫?その、様子が変だったけど……?」

 

む、由比ヶ浜もいたか。いかん、ちょっとまだ衝撃が抜けてないな。どうやら雪ノ下も由比ヶ浜も心配して咄嗟に追い掛けてきてくれた様だ。2人にも突然変な事してすまないと謝罪する。

 

「…別に良いわ。榊君が突拍子もないことをするのは今に始まった事でもないもの。よく分からないけれど、もう大丈夫なのよね?」

 

ああ、問題ない。どちらにせよ何とかするしかないしな。とりあえずは戻ろうか。すまんな少女、本当に迷惑を掛けた。俺達はもう行く、と声を掛けようとして、短い悲鳴。見ると、見知らぬ男に捕まっている由比ヶ浜の姿が。ふむ?

 

「話は終わったかァ?いきなり出てきて人の事を突き飛ばすわ、訳のわかんねー話をするわ……どうしてやろうかと思ったけどよ、いい女2人も連れてるから許してやんぜ」

 

「きゃあっ!!ちょ、やめてよっ!触んないで!キモイ!」

 

どう見てもチンピラにしか見えない男が、由比ヶ浜の胸を揉みながら、今どきなろう系チーレムの雑魚敵でも中々言わないような事を言い出した。現実にもこんな頭の悪いことを言える奴が居るとは思わなかったので、少し驚く。

 

ふと周りを見ると少女の他に、少女と同じくらいの少年が1人と、由比ヶ浜にセクハラしてるチンピラみたいな人間がもう3人。こちらを囲む様に位置取りながら、皆ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべていて、どうやら雪ノ下や由比ヶ浜の見た目にエロい妄想でもしてるようだった。ふむ。

 

「そこのチンピラ、どうやら歳上の様だけど、セクハラで逮捕されたくなかったら今すぐ由比ヶ浜さんを離しなさい。潰すわよ?」

 

「おー?この子由比ヶ浜ちゃんって言うのかー!いーもん持ってんなー!最高だぜこの揉み心地!」

 

「や、やめっ……触んな!」

 

由比ヶ浜の様子を見て、雪ノ下が止めに入るが、チンピラは取り合わずに由比ヶ浜の胸を揉み続ける。ほう?

 

「……いきなり変な事をした俺が言うのも何だが、友人はもうちょい選んだ方が良くないか?」

 

「へっ!?それ私に言ってます?!や、やー!誤解ですって!むしろ私達もさっきまで絡まれて危なかったと言いますか正直お兄さんのおかげで助かったと言いますか……」

 

何と。じゃああのチンピラってロリコンなの?普通にキモい。ヤバい。そしてそろそろ由比ヶ浜の胸から手を離せ。その巨乳はお前みたいな社会不適合者如きが揉んでいいもんじゃないんだよ。つーか俺も揉んだことないから即刻手を離さないとどうなっても知らんぞ。

 

「あぁ?何1人でイキってんだよ!これはもう俺「じゃあもういいな」の……?あ?」

 

 

とりあえず時間を止めて由比ヶ浜を奪い返し、ついでに由比ヶ浜の胸を揉んでいたチンピラの腕を綺麗な球状に丸めて潰しておいた。そして戻るついでに今にも飛び出しそうだった雪ノ下も連れて、少女の側へ戻る。

 

そこで時間を元に戻した。時は動き出す、ってか。

 

「っ!あ?何でそこにその女が……あ?」

「お、おい、お前、手が……!?」

 

直後に響く汚い悲鳴。うるさいのでチンピラ全員の周辺の空間を固定して声の振動をカット。これでどんな声も響かないし漏れはしない。ついでに女の子の精神的に良くないので空間を歪めて腕の先がいまいちよく見えなくしておく。

 

「ふぇ?あ、あれ?あたしなんで……サカキン!?えっ、なにこの状況!どうなってんの?」

 

「えっ?えー!?なんで?今あそこに居たおねーさんがここに!?ていうかリアルお姫様抱っこ!凄い初めて見た!」

 

「私まで移動して……?榊君、また貴方が何かしたの?」

 

なに、イリュージョンだよイリュージョン。助けが遅れて悪かったな由比ヶ浜。ちょっとここで待っててな。そう言って腕の中の彼女の時間を巻き戻す。胸をもまれる前に。何故か意識があると記憶は消せないが、感触とかは触る前に戻したから感じないと思う。

 

「えっ、あっ、……う、うん。っていうか恥ずかしいから早く降ろして!」

 

「ええ〜?せっかくのリアルお姫様抱っこなのに勿体ない……や、なんでもないですよ!」

 

いや、全部聞こえてるから。物凄い余裕だね君。どうやらこの少女はかなり豪胆な性格らしい。原作の方をあんまり覚えてないから何とも言えないが、大したもんである。ところで少女よ、あの辺のチンピラ、迷惑料代わりに片付けて行こうかと思うんだけど、大丈夫?

 

「え?やー、正直そうしていただけると助かるんですが、良いんですか?」

 

「ああ、ついでに奇跡のイリュージョンを見せてあげよう。見ていてくれ、一瞬で方が着くぞ?」

 

そう言って腕を潰されて蹲ってた男の元に歩いていく。だが同時に空間と時間を操作して、チンピラと俺だけ別空間へ移動する。

 

俺が作った時間を止めた異空間の中を自由に行動できるのはスタンドを持つ俺だけで、他の生き物が入ると死んでしまう為、切り離した空間内の時間は止めない。

 

けれど、元の世界の時間は止めてきたので、戻った時はさぞ驚かれる事であろう。さて、ササッと八つ当たりでもしちゃうか。

 

や、何時までも蹲っちゃってどうしたの?何か悲しいことでもあった?

 

「て、てめぇぇ!よくも、よくもタツヤの手をー!」

「お、俺の腕がァァ!痛てぇよぉぉぉ!」

「待て、なんかヤベぇぞ!こいつ!」

「ンなことは良いんだよ!〆んぞこのガキを!」

 

なんだこいつら、ヤンキー漫画世界の住人か何かなの?言ってることもやってることも正直現実の人間とは思えないんだが。正直驚愕だ、こんな馬鹿が現実に存在する事に!それはさておき、腕がどうしたって?まるで腕が無くなったみたいなこと言ってるけど?

 

「てめぇ、白々しいことを抜かしやがって!コイツの手をこんな風にしといて…あ?」

 

「俺の腕ぇぇぇ……あれ?ある?」

 

「…は?」

 

「どうなってんだよ、こりゃぁ……!?」

 

なんだなんだ、揃いも揃って夢でも見たような顔をして?まさか本当に腕が無くなったようにでも見えていたのか?

 

おいおい、頭大丈夫か?普通の男子高校生にそんな事出来るわけないだろ?どうやれば人間の腕を簡単に無くせるんだよ馬鹿なの?白昼堂々と女の胸揉むわ、女子中学生コマそうとするわ、ヤクでもキメてんのかい?

 

「て、てめぇ、調子に乗ってんじゃねぇぞコラ!」

 

「な、なんで?さっきまで確かに飛んでもない痛みがあったのに!?な、何が起きてるんだよォォ!!」

 

確かに自分の腕は潰されて、気が付いたらドス黒い球状になっていた。そして確かに全身を駆け巡るような激痛があったのに、またしても気が付いたら腕は元通りで痛みもない。

 

そんな意味不明な出来事に、チンピラ達は混乱し、恐怖していた。だが、今更ビビっても遅すぎる。いやー、由比ヶ浜の胸、揉んでなければ八つ当たり相手にしなかったんだけどなぁ。

 

 

何が起きてるのかって?そんな事も分かんないのか?イリュージョンだよイリュージョン。お前たちみたいな馬鹿なチンピラには少々勿体ないが、まぁ構うまい。

 

諸事情で少々気が立っているから、多少の八つ当たりも含まれている。その代わり最高のイリュージョンを見せてやるから感謝してくれていいぞ!

 

そう言って更に一歩踏み出すと、チンピラの1人が覚悟を決めた顔で飛び出してきた。なので、優しく声を掛けてあげる。

 

「お?勇ましいのは結構だが、お前、足折れてんぞ?大丈夫か?」

 

「アア!?何言ってやがっ!?いてっ!…なんで転んでんだ今……?ああ?なんで?俺の足……変な、ほぉぉこぉぉいいぎぃぃぃ!」

 

「な、なんだ?!何なんだよおまえぇぇ!!!」

 

何と言われてもね。通りすがりの奇跡イリュージョ二ストにして正義の暴漢だよ。足くらいで騒ぐなよ、そっちのお前、腹に穴空いてんぞ?大丈夫か?あ、そっちのお前は背骨が折れてんな!大変だ!

 

途端に鳴り響く絶叫の嵐。だが、誰も反応はしない。それはそうだ。今この空間は、俺とチンピラ達を除いて完全に切り離された空間で、元の世界の時間は停止している。俺が先程そうやって切り分けたからな。要は位相結界みたいなもんだ。

 

どんなに叫び、苦しみ、絶望しようが、その声が俺達以外に届くことは無い。ここは今、驚くほどに元の世界に身近な場所にありながら、地球から月に行くよりも遠い遠い世界の果て。この中で起きたことが何であれ、元の世界には何一つ影響出来ない。

 

そう説明してあげてみたが、痛みで叫んでうるさい上に全然聞いてない。仕方ないので全員の時間を巻き戻して怪我を無くしてやる。

 

「何叫んでんだ?どこも怪我なんてしてないだろ?」

 

「あぁぁぁ!?ま、また治ってる!なんで!確かに今飛んでもない痛みがあったのにぃぃ!!何が起きてんだよ本当にぃぃ!」

 

「お、おいヤバい、こいつマジやべえって!逃げようぜ!こんな奴関わっちゃいけねぇよ!!」

 

おやおや、自分達で絡んで来ておきながら、ヤバくなったら逃げるのか?そりゃあないぜ。せめて謝罪してもう二度と関わりませんって誓約書書いてから逃げなよ。……まぁそもそも逃げ場が何処にあるのかって話だが。

 

「何言ってやがるてめぇ!くそ、本当にぶっ殺して「な、なぁ!」なんだようるせぇ、な……?」

 

「ま、周りが……どこだよ、ここ!」

 

「おい、なんだよここ!さっきまでそこそこ人歩いてただろ!?なんで誰も居ねぇんだよ!!」

 

あ、本当に今頃気付いたの?今散々説明したじゃあないか。この場所はもう元いた世界とは別の世界だって。なぁに大丈夫大丈夫、この世界はほぼ俺の意のままに動くし、どんなに手酷く破壊して、どんなにぐちゃぐちゃになってもすぐ元通りだよ!

 

それにほら、元の世界では如何にお前らみたいな最底辺ゴミクズチンピラと言えど、居なくなったら問題になるからな。だからちゃんと五体満足で返してあげるから安心してくれ!

 

 

彼らはその時になってようやく、本当にようやく気付いた。

 

目の前に居るのが、ただのカモでも無ければ、ただのヤバい奴でもないと。

 

ざわ、ざわ、と背中を冷たい焦燥が駆け巡る。

 

目の前の、見た事ない程にモサッとしていた男の、大量の髪の毛が、独りでに沸き立って行く。

 

それによって顕になる顔と、全てを見透かすように渦巻く瞳。

 

やがて独りでに沸き立っていた髪が、くすんだような色の金髪が、蠢くように、悶えるように伸びていく。

 

頭皮から色を吸い上げるように、くすんだ色の金髪が、紅く、紅く、地面まで伸びた髪の毛先まで一切を染め上げた。

 

かぶりを振って、伸びた髪を鬱陶しそうに跳ねあげると、誰に言うでもなく男は呟いた。

 

「相変わらずこれだけは理解出来ん。いや、理由は調べたから分かっているけど、要る?この余計な変身。まぁいいけど」

 

そんな風に平然とした男の姿が、逆に恐怖を呼んだ。

 

何故なら、それは男にとってこの場所は未知では無いということ。

 

それはつまり、この意味不明な場所そのものが目の前の男の仕業と言うことで、そんな事は本来有り得ない。

 

だってここは現実のはずだ。漫画やゲームの世界じゃあるまいし!

 

そう思っていた。いや、そう思いたかったが、そんな事は男がさて、とこちらを見た瞬間に吹き飛んだ。まずい、とにかくまずい!

 

 

 

──ーでは、ちょっと八つ当たりに付き合ってくれ。大丈夫大丈夫、何度死にかけても、全部元通りになるから!

 

 

 

……これは、ヤバい奴どころか絶対に手を出しちゃいけない類の存在だった!

 

 

 

そう考えた直後に、彼らの意識は激痛で塗り潰された!

 

 

◻️◻️

 

パチン、と指を鳴らす。

 

「え?」

 

その瞬間にはもう全てが元通りで、俺の髪も元のくすんだ金髪モサモサに戻り、相変わらず髪の毛で塞がれた視界が戻ってくる。いや、本当になんで空間を完全支配する時だけ髪の毛伸びる上に赤くなっちゃうのか。俺蒼月潮じゃないんだけど。獣の槍持ってないんだけど。

 

 

さておき、少女達や雪ノ下達には俺がイリュージョンを見せると言って、指を鳴らした音が聞こえた瞬間には、並んで深く土下座するチンピラ共がいきなり現れた様に認識した筈である。

 

ハイ終わり。以上、いつの間にか相手が負けているイリュージョンでしたー!

 

「え、えぇー?見どころも何もなくていきなり相手が土下座してるだけとかドン引きなんですけど……?」

 

お?そう言われたらそうかもしれない。確かに合間合間に前衛的なアートになったり、絶望の表情で石になったり、そういう状態を段階的に見せてから土下座に辿り着かないと面白くないとか以前に観客には何が起きたのかも伝わらないか。なるほど、参考になる。

 

やるな少女よ。お主さてはエンターテイナーだな?きっと我々はオーディエンスの居ない試合はしなーい!とか言っちゃうルチャドールだな?

 

「え、ルチャ…?すいません、なんですか?」

 

アッハイ。ごめんなんでもないです。

そりゃそうね、皆がみんな漫画とかアニメの事知ってるわけじゃないよね。何か最近通じる相手ばかりで忘れてたよ。

 

とりあえずチンピラ共は反省の意を込めて、しばらくああしてるらしいから、そこで固まってる男子連れてもう行きな。もうこういうのに絡まれるないように気を付けてな。

 

「え、ええ!?ちょっと待ってサカキン、あたしが着いていけないんだけど!」

 

「大丈夫よ由比ヶ浜さん、私も理解は出来ていないから」

 

「それ全然大丈夫じゃないよゆきのん!しっかりして!?」

 

およ?ゆいにゃんもセツのんも分かんないの?はっ、駄目だなー!見たまえ、こっちの中学生達の方が落ち着いてるじゃないか。つまりこっちの子達はちゃんと分かっているのさ!そう、これが……!

 

「超・イリュージョンッッ!!」(`・ω・´)キリッ

 

「いや、それは無理があると思うっす」

「流石にそれは小町的にもドン引きかなー」

「というかイリュージョン関係なくない?」

「知らないの榊君。こういうのは怪奇現象っていうのよ?」

 

 

なん…だと…?

まさかこの場でセツのんとゆいにゃん以外からツッコミが来るとは。実に将来有望な中学生達だぜ!つーか少女はそっちが本来の一人称なの?え、昔の癖?たまに出る?そうか。そしてようやく口開いたな少年、大丈夫だったか?あ、腹殴られた?よし、じゃあ俺が……痛いのいたいのとんでけー!

 

「いやそんな子供騙しな……あれ?痛くなくなった?」

 

「またまたそんな……流石に効かないでしょってウソ!?」

 

ふ、これぞ忍法痛いのいたいのとんでけされたら何故か治ってる!の術!掛けられた相手は痛いのいたいのとんでけされていつの間にか治っちゃう!そんなイリュージョンだっ!(`・ω・´)キリッ

 

「凄い!その術の説明全く要らない!」

「名前が全て表してるじゃないの」

「というか忍法なのかイリュージョンなのかハッキリしてよ」

「なんかよく分かりませんが、ありがとうございます」

 

それはさておき、今頃になって人目が増えてきたからはよ離れよう。2人とも、気を付けて帰りなさい。セツのん、ゆいにゃん、俺らはどうする?やっぱりサイゼ行く?

 

「うっわ、ガン無視で話元に戻した。でもあたしお腹空いた!」

 

「そうね、誰かさんのせいで走ったから喉も渇いたわね」

 

ハイハイすみませんでした。というかセツのんは素直に行くって言えよもう。勉強ばっかりしてると表現が迂遠になるのか?そんなんだから何かと勘違いされるんだよチミは。

 

何て話しながら元来た道へ歩き始めた俺達だったが、唐突に服を引かれて足を止める。振り返るとにへら、とあどけない顔で少女が俺の服の背中の当たりを引っ張っている。あれ、どした?

 

「ああいや、よく考えたらお兄さんだけ私の名前知ってるのなんかなーと、思いまして!」

 

おっとそれは失礼。俺の名前は榊 貴一。総武高校2年F組、奉仕部所属のごくごく普通の一般人です。どうぞよろしく……あれ、しない方がよいかな?

 

「さかき、きいちさん……よし、覚えました!改めまして、比企谷小町です。中学3年生ですっ!うーん、仲良くしていいのかはまだ分かんないので、1つ提案があるんですがー、如何ですかー?」

 

いやいきなり話しかけた俺が言うのも何だけど、ここはまず怪しい人には関わらないが正しい選択だと思います。自分で自分を怪しい人間っていうのなんか結構ダメージあるけど、歳上のお兄さんからの大事な提案だゾ!まぁいいけど。で、提案ってなに?

 

「助けてくれたのはお兄さんですけど、よく考えたら私が怖い思いしたのはお兄さんのせいでもあると思うんですよー!仲良くするにはどっちかまだ判断しにくいですしー。だからここはまず、お互いを知る必要があるのではないかと思うんですがいかがですかー?」

 

お、おう。俺の提案ガン無視なのね。というか、君の隣でえ、これ以上こいつらに関わんの?マジで!?みたいな顔してる少年は……ああオーケー、黙殺しちゃうのね。すまん少年、気持ちは分かるが諦めろ。女は基本すべからく暴君だと思え。たった数年だが人生の先輩からのアドバイスだ。で、少女よ、本音は?

 

「や、今気付いたんですけど、私財布忘れたみたいでして!」

 

朝寝坊して慌ててたんですよね!と少女が言う。なるほど。つまり奢れと。ふむ、まぁいいよ。

 

「いや、比企谷さん流石にそれは……えっ!」

 

「いやー、やっぱり?流石に私も無理があるかなって、ええっ?」

 

なぜ驚く。いや驚くか。まぁでもほら、俺が君らに迷惑掛けたのは事実だしね。食いもん奢るくらい別に構わんよ。もちろん少年も一緒においで。というか君真面目そうだから最初からこの状況で女の子一人で行かせるつもりはないだろうけど。あ、それとすまん2人とも、歓迎会はやっぱり今度にしよう。今日はこの子達も含めてただの寄り道、では如何か?

 

「はぁ……まったく、仕方ないわね。確かにウチの部員が迷惑掛けたのだもの、お詫びはちゃんとしないとね」

 

「まったくサカキンは本当にしょーがないねー。良いけど、もちろんあたし達もサカキンの奢りだよね!」

 

おお、ありがとう2人とも。元より2人にも迷惑掛けたしな、好きなだけ頼んでいいぞ。なんなら店のメニュー全部注文しようぜ。俺1度店員さんに、ここからここまで全部って注文してみたかったんだよね。

 

「誰がそんなに食べるのよ……」

「知らんのか?男子中学生の胃袋は宇宙なんだぞ」

「え、俺すか?」

「やー、女子中学生の胃袋も馬鹿にしたもんじゃないですよ!」

 

ほほう、それならば見せてもらおうじゃないか!俺は沢山食べる子は好きだぞ。ほら、デブ猫とか可愛いし。病気で長生きできないとかの制約とか無ければ世界中の猫がデブ猫になってもいいと思うくらい。

 

「それは私に太れってことですか!?」

「まぁ確かに丸々とした猫も愛らしいというのは分かるわ」

「ゆきのん違う、そうじゃない!」

 

なんて話をしながら、俺達はサイゼに向かうのだった。

なお、土下座しっぱなしのチンピラは多分そのうち帰ったと思うよ。うん。

 

 

◻️◻️

 

サイゼにて。

 

6名がけの席に座った俺達は、とても楽しく和気あいあいと談笑していた。

 

「サカキン…!手と口止まってるよ…!」

 

「貴方だけ楽になるとか許さないわよ榊君…!」

 

「うぷっ、まさか本当に全メニュー頼むとは思わなかったっす…!」

 

「ごめんなさい私もうほんとに無理ですぅ……!」

 

……楽しく談笑していた!

 

「誰も会話する余裕残ってないんだけど?!」

 

「榊君、こういうのは死屍累々と言うのよ…!」

 

ちっ、空気だけでも明るくしようとしたがやはり無理か。

 

あの後5人でサイゼに来たんだが、冗談抜きで店員さんにメニュー渡してドリンク以外全部で!ってやったら仲良く話してられたのは最初だけで、途中から絶え間なく来る料理に封殺されていたのだ。

 

いやー、サイゼの底力舐めてたな!5人も居れば全メニュー余裕だと思ったんだが。つーか思ったよりセツのんとゆいにゃんが食べないのなんで?何時ももっと食ってんじゃん!

 

「人を食いしん坊みたいに言うのやめてくれるかしら?」

 

「というかサカキンの料理と違ってそこまで美味しくないものを食べ続けろとかただの拷問だよ……」

 

え、味の問題なの?ふむ、なるほどなァ。まぁ次は考慮に入れるとしよう。ま、なんだかんだ後ハンバーグとパスタとピザだけだし、何とかなるよ。

 

「や、やー。一番きついのが残ってしまってる気がするんですけどー?」

 

「すいません、俺ももうギブっす」

 

む、育ち盛りコンビもやられたか。まぁ大丈夫大丈夫。これくらいなら俺一人でいけるし。とは言うものの、流石に夕飯は入らなさそうだな。平塚先生に怒られないといいけど。まぁいいや、早く食べてしまおう。見よ!これぞ秘技ジャックハンマー風ハンバーグの一気食い!ピザをカットした後重ね食い!パスタを普通に食べる!

 

「うわ、ハンバーグ無理やり口に押し込んで一口で全部食べてる…!」

 

「…正直汚い食べ方だけど、この際残さないなら何でもいいわ。というか、そんなに余裕があるなら何故もっと早く……!」

 

「すっげー、ピザ全部重ねてハンバーガーみたいな厚さになってる。先輩、流石っす!」

 

「いや、そこでなんでパスタだけ普通の食べ方なんですか…?」

 

ふ、優れた闘士は食う量も多いものさ。まぁ俺地下闘技場に参加したことはないしなんなら闘士でもないけど。ちなみにバキみたいな大規模なものはないけど、地下闘技場自体はこの世界にも実在する模様。主にヤクザとかの関係者が賭け事とかに使っているとかいないとか。

 

なんだかんだ全メニュー制覇に成功した俺達だったが、セツのんが言った通りその代償はご覧の通り俺以外死屍累々で、飲み物さえ口にしたくないレベルらしいので当然今歩くのも無理、ということで食べ終わった後もしばらく店に居させてもらうことにした。まぁ店側としてもアルコールメニュー以外全品頼んだ連中を無下に扱ったりしないでしょたぶん。

 

ところで川崎少年、料理が来て中断してたが、お姉さんが俺達の学校に居るんだって?何年なの?

 

「や、先輩達と同じく2年っすけど……うぐ、すいませんまだ会話キツいっす」

 

およ?まぁ川崎少年は頑張ったからな。ヒキコの代わりにドリアシリーズ制覇してたし。1人だけ回復が遅いのも川崎少年が誰よりも食べたからに他ならない。うん、ナイスガッツだぜ川崎ボーイ。

 

「貴一先輩、そのヒキコって言うのやめてくださいよー。引きこもりの女の子みたいじゃないですかー。もっと可愛いあだ名を所望しますっ!」

 

じゃあこまっちゃんね。はい決まり。てかそもそも比企谷って苗字が可愛いあだ名に向いてないよね。ウチのセツのんを見習いなさい。彼女は苗字でも名前でもゆきのんセツのんって呼べるんだぜ凄くない?

 

「むむむ!それを言われると辛い…!確かに私の苗字は可愛くしにくい……だけどこまっちゃんは無いです!トリコの相棒みたいじゃないですかやだー!というか雪乃さんを引き合いに出すのはずるです卑怯です!」

 

「何が狡いのよ……。別に私が凄い訳ではないでしょう……というか、私は別にそのあだ名可愛いと思ってる訳では無いのだけれど」

 

「えぇー!そんな事ないよゆきのん!ゆきのんは可愛いーよ!」

 

「そうですよー!というかもうあだ名とかじゃなくて雪乃さんが可愛いですっ!これと比べられたらだいたい可愛くなくなっちゃうと私は思いますがどうですか貴一先輩!!」

 

「貴方は何を言っているのよ…?」

 

何を言うか、セツのんがちょっとヤバいレベルの美少女だというのは認めるが、こまっちゃんも別に見劣りしてる訳ではなかろう。というかタイプが違うだけでこまっちゃんも大分レベル高め。学校でかなり人気あるんじゃない?その辺どうなの川崎ボーイ。あ、話すのもキツいんだっけ?仕方ないな、食らうがいい!波紋式なでなでによる生体機能強化&時間加速!相手は一瞬で消化が進むゥ!!

 

「うわ、なんすかやめて下さい先輩、今そんなに強く頭撫でられるだけで吐き気が……あれ?なんか腹が楽になった?!」

 

「ふ、これぞイリュージョンッッ!」(`・ω・´)キリッ

 

「ええ!?これ先輩のマジックすか!?やべー!すげー!いやマジ凄いっす!先輩本当に凄いっす!」

 

えっ?お、おう。あれ、なんか凄い嬉しい!普段と違ってちゃんと評価されると何かすごい照れる!ヤバい!セツのんとかゆいにゃんとか最近めっちゃ冷たいから凄いなんか気分いい!こ、これが敬われるということか……!今までぼっちだったから知らなかったが、これは確かについつい後輩に見栄張っちゃう先輩の気持ちが分かっちゃうかもしれない!おいセツのんとゆいにゃんも見習うが良いぞ?これがイリュージョンへの正しい評価だ!……あれ?

 

「あ、アハハ…真顔で言われるとちょっと照れますねー!」

 

「………」ムスー

 

「……榊君?いきなり中学生を口説くとか警察呼ぶわよ?」

 

いや何の話だし。っていうかゆいにゃんはなんで不機嫌なの?セツのんはなんだか満足気だが。こまっちゃんはまぁいいや。え、何川崎ボーイ。こまっちゃんは実際かなりモテる?あ、やっぱり?可愛い見た目してるし、その上なんか愛嬌ある子だしね、色んな奴に好かれそうだよね。お、てことはアレか?今日2人で居たのはアレか?デートなのか?良いねー青春だねー?

 

「貴一先輩、もうその辺で!これ以上は逆に小町的にポイント超低いです!具体的には私の方に結衣さんの痛い視線が……ッッ!!」

 

「いや、違うっす。比企谷さんには相談したいことがあって、話を聞いてもらおうと……。それで今日付き合ってくれたんですけど、途中であのチンピラ達に絡まれて……」

 

ほう、相談事とな?一応聞くけど好きな人が居るんだ、貴方のことです!みたいな少女漫画でも余り見ない展開を狙った訳じゃないよな?あ、違うのね良かった。で、何があったんだね?何、たまたま通りがかった歳上に話すのも、何か変わるかもしれないし、変わらなくてもただの通りがかりだから何に影響与えるものでもないよ。思い切って話してガスっ、って痛ッッ!何すんだこまっちゃん!タバスコの尖ってる方で殴んな打突面積小さい分威力が集中して痛いんだぞ!?

 

「人の話を無視する貴一先輩が悪いですっ!というか女子を無視して男子だけで盛り上がらないでもらえますかー?」

 

いやそんな事言われても。お兄さんとしては後輩から頼られたい欲が今すごい湧いてきてるんだが。あ?こまっちゃんの頼み?何だね、聞こうじゃないか。え、ゆいにゃんはどう思うか?そりゃ可愛いよね。巨乳だし。見た目がビッチじゃ無ければ会話すんのに緊張するレベル。え、その理屈で何故セツのんに緊張しないのかって?ははは、緊張するほど目を引く盛り上がりないじゃん何言ってんの?

 

「うわぁ、貴一先輩結構最低ですねー……」

 

「う、うぅ。喜ぶべきなのか怒るべきなのかすごい複雑……!」

 

「榊君、貴方今私が満腹で動けないことに感謝しなさい。危うくこのナイフで首を切り裂くところだったわ」

 

ははは、首を切った程度で俺が死ぬか。というかセツのんの発言が最近本当に猟奇的。いつか犯罪起こしそうでお兄さん心配です!……まぁそれはさておき、ちょっと静かに。今から青少年のお悩み聞くから。先輩ムーブするから。

 

「首を切られて死なないとか言い切る貴方に正直ドン引きなのだけれど、川崎君の相談と言われては榊君だけに任せては置けないわね。いいわ、ウチの部員が迷惑掛けたお詫びもまだだし、私も奉仕部部長としても話を聞きましょう」

 

や、セツのんには話してないから。これは先輩として俺にだけ相談されたことだから。

 

と思ったら川崎ボーイが良いんですか!?ありがとうございます!とかセツのんの介入にすごい嬉しそうに反応してしまった。嘘でしょ俺の時よりも嬉しそうなんですがそれは。え、なにこまっちゃん。…貴一先輩の見た目胡散臭い!?雪乃さんの方が頼りになりそう!?な、なんということでしょう。これが容姿による格差社会かッッ!!

 

「いやサカキンは髪切ればいいんじゃない?」

 

だが断る。何故なら最近この見た目に慣れてきたので今更変えるの凄い面倒だから!さておき、我らが部長が奉仕部としてやる気出したなら仕方ないな、俺も個人としてでは無く部員として対応しよう。

 

「というか貴一先輩、奉仕部ってなんですか?」

 

簡単に言えば人助けする部活。要は学生ボランティアみたいなもんだ。ただし、ウチの部長曰く、困っている人の悩みを解決するのではなく、悩みを解決する手段を教えるのがウチのやり方だ。要はやり方教えてやるから魚は自分で捕れ、みたいな?

 

「あー、なるほど!アドバイスはするから自分で解決しろって事ですね。はー、そんな部活あるんですねー!」

 

や、普通は無いぞたぶん。ウチは普通じゃない先生が居たから作られたけど。

 

「榊君、奉仕部の仕事の説明は私がするからいいわ。……それより、その、私にも…」

 

ハイハイ、いつも通り黙ってますよー。ん?何ゆいにゃん、お腹苦しいから話に集中出来ない?だからなに、ってああ、川崎ボーイにやったやつをゆいにゃんにもやれば良いのね。ハイハイ、波紋式なでなで〜!あ、ゴメンセツのん、なんか言った?

 

「う〜、やっぱサカキンに頭撫でられるの気持ちいぃ……あ、もう少し強く撫でて」

 

「……」

 

いやもう腹楽になってるはずだけど。え、もうちょっと?えぇ…まったく、しょーがない子ねぇ。相変わらずワンコみたいで可愛いけどさー。え、なにセツのん。こっち見てないで川崎ボーイから話聞いてやりなよ。部長でしょ何してんの?

 

「……コホンッ。その、榊君?私も誰かさんが店のメニュー全部なんて馬鹿なことするから、お腹が苦しくて川崎君の話に身が入りにくいのだけど?」

 

あ?あー、まぁそりゃそうね。ゆいにゃんがやられてたらセツのんも苦しいよね。ちょっと待ってね今何とかしよう。喰らえ秘奥義、消化一瞬の巻物!セツのんの胃の中の物に直接時間加速!胃液で解ける時間を短縮ッッ!一瞬で消化されてさらに身体機能上げて吸収も早い!相手は即お腹が楽になるゥッッ!!

 

ふ、どうだセツのん。もう終わったぞ!より早く話を聞けるようにゆいにゃんより早くお腹が楽になる方法を使ってみたぜ!もう満腹の気持ち悪さ無いだろ?ふふふ、褒めてもいいんだよ?……え、なに?頭撫でないのかって?いや何言ってんの?相談してる相手が頭撫でられてたら依頼人が対応に困るでしょ。当たり前じゃん。良いからほら早く相談に乗ってやりなよ。何のために一瞬で治したと思ってんのさ。

 

「治ってないわ。恐らくやり方が良くなかったのね」

 

「は?何言ってんのセツのん?もう既に終わったってば」

 

「治ってないわ。恐らく頭を撫でないと効果が無いのね」

 

「いや、そんなはずは「治ってないわ」アッハイ」

 

そうね!本来スタンド能力がメインだから波紋とか半分くらいおまけなんだけど、どうやら頭撫でないと効果出ない体質もあるみたいですねHAHAHA!えーと、あの、分かったから人の手無理矢理頭に載せようとしないでセツのん。分かったから。ちゃんといつも通り好みの強さで波紋流して頭撫でるってば。まったく、何故どちらかを撫でると結局両方撫でる羽目になるのかってああハイハイ、強めに撫でるのね。分かった分かった。だからそんな頭掌に押し付けなくても良いってば。

 

「ねぇねぇ大志くん、私達さっきから何見せられてんのかな?ちょっとブラックコーヒーが欲しくなってきたんだけど」

 

「いや、俺に聞かれても。とりあえず、2人分コーヒー取ってきます……」

 

や、待てお前達。違うから。いつもはもうちょいキリッてしてるから。今日はほら、たまたまだよたまたま。こういう事もあるんだよきっと。あ、全然信じてないなこれは。ま、まぁ仕方ないね!

 

この後結局撫でながら話聞いたぞ!

 

 

◻️◻️

 

川崎ボーイの相談内容を纏めると、要するにお姉ちゃんが不良になっちゃった!毎日家に全然帰って来ない!助けて!という事らしい。ふむふむ。ではまずそのお姉さんを探さねばならんな。2年って言ってたけど2人とも知ってる?

 

「ええ、知ってるわ。貴方のクラスね。川崎沙希さん、だったかしら」

 

なにっ!?うちのクラスなの?ほほー、これはまた偶然ですな。

 

「え、いや…あの、同じクラスなのに知らなかったんですか?」

 

「あはは、まぁサカキンだから。ほらサカキン、あの子だよ。今日遅刻して平塚先生に怒られてた子が川崎さん。居たでしょ?」

 

……?居たような居ないような。うーん、言われてみれば何か青い髪のヤンキーが居たような気もする。どうでも良いけどうちのクラスヤンキー多いよね。皆髪の毛染めすぎじゃない?

 

「え、それ先輩が言うんすか?」

 

「あれぐらいじゃサカキン的には記憶すら怪しいんだね……。でもあたしもあんまり話したことないかも。というか、川崎さんが他の誰かと仲良く話してるの見たことない、かも。何となくいつも静かに窓の外見てるイメージ」

 

ああ、俺のこの変な色の髪の毛、これでも地毛だから。先祖返りとか隔世遺伝とかって奴らしいぞ。随分前にロシア人の血が入ってるらしい。つまり俺は真面目な一般ピープルだよ。というかあのクラスに俺以外にぼっち居たのね。知らんかったわ。

 

「残念だけれど、貴方は不良でないだけで一般人でも無いわよ。むしろかなりの変人、いえ、変態だわ」

 

なぜ言い直したし。ていうか何時もスカした態度のくせにむっつりスケベのセツのんには変態とか言われたくないですしおすし。あ?なにセツのん自分はエロくないって本気で思ってんの?あんだけアブノーマルに造詣が深いのに?はは、ご冗談を。

 

「貴方と一緒にしないでもらえるかしら。このオーク木くん」

 

「はは、そこの中学生2人。オークと聞いて思い浮かべるものは?」

 

「え、俺らっすか?なんだろ、確か前に読んだ漫画だと、豚の頭持ったモンスター、でしたっけ?」

 

「槍持ってる奴ですよね!地味にザオラルがやっかいな!」

 

ほれみろこれが普通の感想だよセツのん。前にも言ったけどオークが性獣扱いされてるのなんて基本的にエロ本かエロいゲームの中だけだから。つまりそれを知ってるセツのんもどちらかを知ってるのは確定的に明らか。やーいこのスケベ!ってうぉぉ!待てセツのん!やめろ!謝る、俺が悪かったから俺のドリンクにタバスコ入れまくんのやめてくれ!あああ!俺の野菜ジュースがァ!?

 

「なにやってんのサカキン……。ゆきのんも、サカキンに報復は後にしよ、ね?今は依頼をどうするかが先でしょ?」

 

「…そうね。ごめんなさい川崎君、取り乱したわ。とりあえず、まずはお姉さんに何があったのか明日調べて見るわ。それが分からないと対処のしようもないし。なにか分かったら連絡するから、連絡先を教えてもらえるかしら?」

 

「分かりました。すいません、よろしくお願いします。最近は変な店からも姉ちゃん宛に電話掛かってきたりして……俺、本当心配で」

 

「あ、ついでに私のも連絡先教えますね!乗りかかった船だし!」

 

おお、姉思いのえー子やな川崎ボーイは。それはそうと、何て店だったか名前分かる?エンジェルなんとか?ああ、名前は全部聞き取れなかったのね。や、それだけ分かればなんとかするから安心おし。こう見えて我々今んところは依頼の達成率100%だから、信じてくれていいよ!まぁそもそも依頼がまだ3回しか来てないけど、うん。これは言わんどこう。

 

とりあえずゆいにゃんとセツのんが2人の連絡先を登録したところで今日は解散しよっか。俺の連絡先?俺はほら、スマホだから。赤外線通信とか無いし手打ちでメルアド打ち込むとかだるくてやってらんないから。まぁ二人が知ってれば十分でしょ!

 

「えぇ…そんな理由で断られたの私初めて…。というか、こんなに可愛い子と連絡先交換できるんだからもう少し喜ぶべきでは?」

 

「あ、僕ロリコンじゃないんで」

 

「それは私の体が貧相だと言ってるんですかね?」

 

何言ってだこいつ。

 

や、どう考えても歳の方だと思うんだけど。中学生だろこまっちゃん。というか体のメリハリならセツのんも大して変わらなうぉ!?お前マジでナイフ振りやがったな!?それステーキとか切るためもんで人に向けるもんじゃないんですけど!?

 

ああすまん、話が逸れたな。ていうかアレだ、逆に言えば可愛い中学生なんだから見知らぬ歳上の男とポンポン連絡先交換すんなよ。もうちょっと危機感持つべきでは?

 

「あ、それは大丈夫です。私その辺の見極めは凄いんで。てかもう面倒なんでこっちでやるんでケータイ借りますね」

 

「あ、コラ!」

 

「ええと、電話帳は…あ、これか。えっっ少な!ちょっ、喜一先輩、家族と思われる榊の苗字の人除いたら3つしか登録されてないんですけど!?」

 

や、だって俺ぼっちだし。新しいクラスの時の連絡先交換会みたいなの普通にトイレ行ってスルーしたし。というか人のケータイを勝手に取るでない。あ、もう登録完了したの?え、川崎ボーイのもメールで送ってくれる?あらヤダ助かるー!

 

「いやサカキンもうちょっとケータイの使い方覚えなよ。前にあたしの連絡先登録した時も打ち込んだのあたしだったじゃん」

 

ふ、ケータイなんてね、要は電話出来れば良いんですよ。大人なんでね。え、連絡先登録出来なきゃ電話出来ない?そりゃそうね!

 

そんな事やりながらお会計を済まし、皆でサイゼを出る。頼んだ量が多過ぎて流石に少し遠慮したのか、皆も少しくらい払おうとしてくれたが気にせずカードで一括払いしといた。どうでも良いけどこういう時「カードで!」って言えるのカッコいいよね!カッコよくない?俺はそれに憧れて無駄にカード使ってるんだけど。

 

「や、かなりカッコイイですよ貴一先輩!これからもちょくちょく奢って貰えると小町的にポイント超高い!」

 

フホホホ!そうじゃろそうじゃろ!

欲に素直なお子様は嫌いじゃない!良かろう!次も奢ってやろうではないか(。・ω´・。)ドヤッ

 

「わー、貴一先輩ちょろーい!そう言えば貴一先輩、会った時から疑問だったことがあるんですけど質問いいですか?」

 

おお、なんじゃねこまっちゃん後輩。なんでもこの御大臣さまが答えてあげようじゃないか!フホホホ!

 

「完全に良いようにされてるじゃないの……(呆れ)」

 

「知らなかった、サカキンって年下にはこんなに甘いんだ!」

 

「いや、これは甘いとかそんなレベルじゃなくないすか?」

 

後ろのやっかみは無視しよう!ふ、後輩に慕われるのもできる先輩の特権だからな!ふーははは!

 

「なんで今日暑いのにネックウォーマーなんか付けてるんですか?ぶっちゃけ季節外れ感エグいです」

 

「ふ、それはな。首だけダイエットと言う奴だよ!首周りの発汗促して顎とか首とかシェイプアップするのさ!」

 

「ええー?なーんだ、普通 !!貴一先輩、こんな見た目でタラシっぽいから実はキスマークがヤバくてそれ隠すため、とか期待してたのに!」

 

 

ぎくっ

 

「あはは、もー何言ってるの小町ちゃんたら。サカキンに限ってそんなこと……ねぇサカキン、なんで今ぎくってしたの?」

 

「ふふ、面白い冗談ね小町さん。そんなことあるはずが……榊君?」

 

 

ば、馬鹿な!何だかんだ学校では張本人の平塚先生以外誰も突っ込んで来なかったと言うのに、何故こまっちゃんが気付いた!?い、いや待て、慌てるな。ここは下手に弁明すると余計にボロをだしかねん。まずは、そうまずは笑って誤魔化す所からだっ!

 

「HAHAHA!何を言い出すかと思えば「あ、先輩の声めっちゃ震えてる。マジっすか!流石ッスね先輩!」か、川崎貴様ッッ!?」

 

おいよせ止まれ少年!お相手は先輩たちのどっちすか?とかセツのんとゆいにゃんに聞くんじゃない!どっちでもないから!ていうかこまっちゃんなんて事を…楽しそうにしてんじゃねぇよ!

 

「いやー!半分くらい冗談で言ったんですけどまさか図星だとは!これは凄い、流石ですね貴一先輩!で、どっちとやったんですか?あれ、でもお二人の反応が芳しく……ハッ!?まさかどちらでもない!?そ、そんな、こんなに可愛いお二人を差し置いて他にお相手が!?す、凄い!本当に凄いですね貴一先輩!どんな人なんですか?!ねぇねぇどんな人なんですか!?」

 

ちょ、待て!違う誤解だから落ち着け!今日一眼をキラキラさせて寄ってくるんじゃない!何も無い!何も無いから!ただ付けてるだけだからこのネックウォーマー!

 

「何も無い?ふーん、じゃあ取ってよそのネックウォーマー」

 

「そうね。何も無いのなら取る事にも問題は無いはずね。外しなさい榊君」

 

ちょ、二人まで!?何楽しんで……ないな。あれ?寧ろなんか怒ってる?え、何故に!?い、いやー、汗かき過ぎて汗疹になっちゃって恥ずかしいから外すのはちょっとなー!

 

「あ、それならあたし汗疹にも効くクリーム持ってるから塗ってあげるよ。だからそれとって?…ね、サカキン」

 

「あら、良かったじゃない榊君。むしろ汗疹が出来てるのにまだ汗かくものを付けてるのは皮膚に良くないわ。早く外しなさい。…早く」

 

ぐぐぐ、まずい、これは誤魔化しきれない……!こうなったら時間加速でキスマークを治すか!?いや、1度治した傷は巻き戻しても元には戻らない。俺の時間操作は、生物には謎の働きを見せるからな!そんでもって昼にあれだけ残ってますアピールしたんだ、平塚先生は絶対夜にも確認する!それが消えてたら今日以上にキツい跡を付けられかねん!出来ればこれからの季節にネックウォーマーなんて毎日つけるのは勘弁願いたい。ど、どうする俺、考えろ、この場を切り抜ける方法を……!!おいこまっちゃん修羅場だ♪ってニヤニヤすんな!

 

「もう、自分で取れないの?赤ちゃんみたいだなーサカキンは。仕方ない、あたしが取ってあげるよ」

 

「まったく、往生際が悪いわよ榊君。由比ヶ浜さん、私が押さえてるわ」

 

ぐっ、駄目だ考えてる時間が無い!か、かくなる上はッッ!!

 

「あっ、逃げた!」

 

「くっ、逃がさないわよ榊君!どうせ帰り道は同じなのだから!」

 

これは逃げではない!戦略敵撤退である!では諸君、また会おう!サラダバー!!

 

後ろから結局逃げてますよとか聞こえた気がしたが無視だ!セツのん流石に今日はもう走って追い掛けて来る事はないみたいだし、自分の部屋に入ってケータイの電源落とせば大丈夫!のはず!

 

後ろを振り向くことなく俺は駆け抜けた!

 

 

 

◻️◻️

 

「……駄目ね、あれはもう追えないわ」

 

く、相変わらず無駄に運動神経の良い……!

 

「仕方ないよゆきのん。さっきお腹いっぱい食べたばっかりだし、明日学校で追求しよう」

 

由比ヶ浜さんが冷静にそう告げるが、恐らくあれはこの後メールか電話で確認する気だ。恐らく彼の事だから、電源切ってしまう気がするけれど。

 

「そうね、そうしましょう。では私達もそろそろ帰りましょう。これ以上は暗くなってしまいそうだし。2人も、気を付けてね」

 

「私は自転車ですから!お二人共、今日はありがとうございました!」

 

「俺も慣れてるんで大丈夫です。ご馳走様でした。姉の件、よろしくお願いします」

 

別に私がお金を払った訳では無いのだけれど、2人の中学生は律儀にそう言って帰って行った。なるほど、よく出来た子達だ。彼が甘くなるのも分かる気がする。

 

私と由比ヶ浜さんは途中まで帰り道が一緒だ。2人で並んで歩きながら、取り留めのない話に相槌を打つ。こういう時、あまり彼の話題はでない。勉強会でも、彼への愚痴がたまに出るくらいで、あまり長々とした話のネタにすることは無い。それはきっと、お互い分かっているからだろう。

 

ふと、隣で歩く由比ヶ浜さんの横顔を見る。

 

いつも通り楽しそうに止めどなくこちらに話かけながら、されど何処か憂いが混ざる。少しだけ、その気持ちが理解出来た。

 

「ゆきのんはさ……」

 

唐突に変わる声のトーン、こちらに向けた言葉に、思わず少し身構えた。なにかしら、と返した。たぶん声は震えてはいないはずだ。

 

「……んーん、ごめんやっぱ何でもない」

「……そう」

 

煮え切らない態度。でも、何となく私もそれ以上に踏み込みたくないと、そう思ったから、何も言わずに歩いた。

 

やがて、彼女が私こっちだから、と指をさして立ち止まった。別れ道であった。なので、また明日、と手を振って別れる。彼女は、明日はサカキンとっちめよう!と明るく言って去っていった。

 

そのまま1人で帰り道を歩く。何故か違和感を覚えた。何だろう、そう疑問に思い、少しだけ理由を考えたら、驚くほど簡単に答えが出た。

 

「そういえば……ここ最近、一人で帰ることなんて無かったわね」

 

2年になって少ししてから彼が入部し、ほぼ毎日部活がある。それは同じ場所に帰る彼とほぼ毎日一緒に帰ると言うことだ。なんなら、お互い自炊してるから、帰りにスーパーに寄るのも一緒であった。

 

そうでない時は彼と別れて由比ヶ浜さんと寄り道した時で、ギリギリまで彼女と一緒にいたり、彼女が家に泊まることもあった。

 

そう考えると、1年の時とは比べ物にならないほど一人の時間が減ったな、と。そう気付いて。思わず何故だか笑ってしまった。

 

「ふふ、おかしなものね。一人でない事に違和感を覚えるなんて。……ずっと一人でやってきたのに」

 

それはつまり、自分でも知らない間に一人では無いことに慣れてしまっていたのだろう。あるいは、そんな事に気付かないくらい、私はこの時間を──

 

「なんて、ね。……いえ、やっぱり明日こそ榊君を懲らしめましょう」

 

よく考えたら、自分を一人で帰らせた彼に腹が立ってきた。その原因は自分達であるとか、そういうのは意識して意識の外に追いやっておく。

 

 

そう、私を置いて帰った彼が悪いのだ。

 

 

……そういうことにしておこう、と思った。

 

 

だって。

 

 

独りだという事の違和感なんて、

 

 

───二人なら、気付く事もないのだから。

 

 

◻️◻️

 

 

バタン!

 

あれから走って逃げて、一人で帰ってきた。帰り道が同じセツのんを置いていった事には若干罪悪感が湧かないでもないが、まぁまだ明るいし、この辺りまでは人通りもある。問題はないだろう。

 

「………フゥ──」

 

思わず溜息が出た。同時に肩の力が抜けて、玄関の扉にもたれ掛かる。正直、空元気もいい所だった。あの時は咄嗟に、気持ちを……

 

 

咄嗟に切り替えた?

 

切り替えれるわけが無い。

 

この世界に、比企谷 八幡(原作主人公)が、居ないなんて。

 

そんな事、あってたまるか。

 

 

今でもそう思いたい自分が居る。

 

俺はそれをどうしても否定出来なかった。

 

だって、俺なんかが主人公の代わりなんて出来るわけがない。

 

痛みも苦しみも味わいたくないからチートを貰ったのだ。そんな人間が、痛みと苦しみを乗り越えて答えを出した彼と同じ結果なんて出せる訳がない。模倣する事さえ烏滸がましい。

 

「そう、烏滸がましいんだ……!」

 

だから、俺は彼の真似はしてはいけない。俺如きに彼の代わりなど務まらない。この世界を、彼以上に良く廻すことなど俺には無理だ。

 

けれど。

 

俺がこの世界から比企谷八幡を奪ってしまった。

 

俺が、俺自身の存在が、この世界の最も重要なピースを奪ってしまったのだ。

 

ならば俺は、俺の出来うる限りの事をして、彼が関わる筈だった全てを解決して行かなくてはならない。

 

……重い。

 

代役のつもりで今まで奉仕部にいた。心のどこかで彼がいつか現れるはずだと信じてた。()()()()()()()()()()()()なんて、思いたくなかった。だから、今までずっと代役なんて軽い気持ちでいたんだ。

 

だが、どんな理由であれ、原因は俺であると、もう現実を知ってしまった。知ってしまった以上、俺は俺なりのやり方で、彼女達と向き合って行かなければならない。

 

それはつまり、俺にあの子達の運命が掛かるということでもある。それが途方もなく重く感じる。

 

自分の運命さえ自分一人で何とかできる自信がなくて他者からチートを貰ったようなこの俺が、他者の運命に影響を及ぼす位置にいる。そんな事が、許されるのだろうか。

 

「……いや、そうじゃないな。許されなくても、もうやるしかない。何故なら、もう既に影響が出ているんだから」

 

そうだ。もう影響は出ている。

 

それも、ずっとずっと前から。

 

──ー比企谷小町。

 

原作主人公、比企谷八幡の妹にして、重要な登場人物の一人。彼女は要所要所で彼を支え、ある時は叱り、間接的に彼女達をも支えたと言える大事な存在である。

 

それと同時に、比企谷八幡という兄を大事に想う、兄想いの優しい少女だった。

 

彼女には兄が居たのだ。本来ならば。

 

生まれてからずっと一緒に居る家族。その一人を、俺が奪っている。

 

生まれる前から居なかったことになったから、その事に関して何も感じることもないなんて、慰めにもならない。兄という頼れる家族を一人失っただけで、彼女の人生は大きく変わってしまった筈だ。一人称が私、という時点でそれはもう間違いない。

 

「いや待て、アンサートーカーは比企谷八幡を含む、と言ったんだ。という事は、由比ヶ浜の犬が居ないのももしかして俺のせいか?……くそ、影響が大き過ぎて何処から如何して行くべきなのか分からん!」

 

だが『答えと成る者』(アンサートーカー)は使えない。誰かを傷付けて終わりの未来が見えたらそれで終わりだ。答えのない未来を手探りで探すという不慣れな作業に、既に俺の脳は限界いっぱいだった。

 

だがそれは本来、皆が普通にやっている事だ。否、やらなければいけない事だ。つまりこの苦しみは、焦燥は、恐怖は、今までそれら一切を『答えと成る者』(アンサートーカー)に頼り切っていたという自業自得に、他ならない。

 

だからこれは罰だ。俺自身が背負うべき当然の負債だ。

 

ああくそ、そんな事は今はいいんだよ!悲劇の主人公気取りなんて後でも出来るだろ!余計な自虐は後にしろ、考えるな!そんな事より、彼女達の未来を───!

 

ガチャリ

 

「うぇっ?」

「おっと!」

 

気が付いたら平塚先生に支えられていた。どうやら今帰って来た所の様だった。思考に没頭し過ぎて、扉一枚の向こう側の気配さえ感知出来なくなって居たらしい。

 

「……えっと。おかえりなさい、平塚先生」

 

「ああ、ただいま榊。……どうかしたのか?」

 

どきり、と鼓動が高鳴った。

こちらを心配するように見る瞳に、バレてはいけないと、反射的に思った。原作主人公が居ないという影響を受けたのは、平塚先生も一緒だ。ひょっとしたら、俺が彼女とこんな関係になった切っ掛けの、平塚先生の心の傷でさえ、原因は俺にあるかもしれないのだ。

 

そう考えたら、俺のやった事は彼女を救ったなんて烏滸がましいどころの騒ぎでは無い。マッチポンプよりも遥かに酷いなにかだ。だから、咄嗟に嘘をついた。

 

「や、何でもないです。それよか、飯「嘘つくな」なにを仰います。俺がそんな嘘つく意味が無いでしょう?」

 

「それでも嘘だよ。私には分かる。他の誰よりも君を見ているからな。……酷い顔をしている」

 

そう言って、彼女は俺の額に手を当てて、熱を測るように髪を掬いあげた。髪の毛が無いと平塚先生の顔が良く見えた。その切れ長の目が、優しい光を讃えてこちらの目を見詰める。

 

どくん。先程より大きな鼓動。先程固めた決意が直ぐにひび割れて、彼女に抱き着いてしまいそうになった。なんて弱い心か!と己で己を罵倒して、無理矢理奮い立つ。それでも、声が震えるのだけは隠しきれなかった。

 

「なんでも、ないですよ。俺は、大丈夫です」

 

絞り出すような声。自分に言い聞かせるようだった。それでも、これ以上追求されたら簡単に折れてしまいそうだったから、額に置かれた彼女の掌から逃げるように身体を翻した。彼女との関係も自分で始めた事だ。全部ちゃんとやるのだ、俺が。

 

振り向かずに廊下を歩く。リビングの扉を開けようとして、後ろからドタドタと足音。なん、だー?!

 

「榊っ!!」

 

「いぃっ!?」

 

振り返った瞬間に目の前に飛び込んできたのは靴下に包まれた2つの足裏。ドロップキック!?考えるより先に身体が動いて、開けそうだった扉を左手で突き飛ばすように開け放ち、右手で押さえる様に飛んできた足の裏を受けて、上半身を丸ごと開くような動きで身体を半身に、相手の勢いを利用して受けた腕は衝撃の行き先だけを変えていく。

 

ズバッ、と風を押し出すような音ともに間一髪顔の脇と両足が通り抜る。このままだと、テーブルに直撃してしまうので、通り抜けた足を流した右手で自らの頭を蹴らせるように掬いあげ、逆に前に突き出る形になっていた左手で平塚先生の頭を下から足へ向かうように押し込む。

 

その結果平塚先生は勢いよく一回転し、その運動エネルギーを使い尽くした。するとそのまま下に落ちてしまうので、落ちる直前で背中と膝裏に腕を差し込んだ。いわゆる横抱きである。

 

「……まさかこうも完全にいなされるとは思わなかった」

 

「いやアホですか。俺が何も出来ずに直撃しても、ただ避けただけでも怪我しますよこんなの。何考えてんですか」

 

ドロップキックは本来衝撃を吸収するリングの上とか、マットの上とか限定の技だ。こんな硬いフローリングの上で、しかも色んな障害物がゴロゴロしてるリビングでやるような技ではない。

 

「何を考えて居るかだって?無論君の事だ。というか、自慢じゃないがここ最近の私はだいたい君のことしか考えてないぞ。昨日と今日に至ってはほぼ完全に君の事で頭がいっぱいだった。」

 

や、それは本当に自慢にならないんで胸を張って言わないで下さい。好きになった相手の事しか頭に無いとか恋に夢中な中学生じゃないんだから。

 

「うるさい。大人だって恋に熱狂する事もある。それこそ相手の事なら何でも知りたくて堪らなくなるくらいに、いてもたっても居られなくなるのが恋というものだ。理性的な恋など、逆に恋と呼べるものか」

 

「むっ!……一理ありますね」

 

「当たり前だ。今の私の実体験だからな。……そう、知りたくて堪らないんだ。君の事は全部。君の事で知らないことがあるのが嫌だ。君が苦しんでるのに、何も出来ない、何も知らないなんて──ー絶対に嫌だ」

 

「………!」

 

「だから教えてくれないか?全部じゃなくてもいい。いや、いつかは全部知りたいけど、いきなり全部教えろなんて言わないし言う気もない。いつも君に甘えてばかりで、いつも君に情けないところを見せてばかりで、私なんか頼りにならないかもしれないけれど……それでも!」

 

 

「私は君の全部を知って、胸を張って君の隣に立ちたいんだよ」

 

 

……不覚にも、と言ったら失礼か。

だけど、これは参った。今のは本格的に心を撃ち抜かれた気がする。だって心臓から血がだくだく漏れるような、大きな鼓動が止まらない。全身を巡る血の流れが、音を立ててるような気がする。

 

ヤバい、前世で好きだったキャラどころの騒ぎでは済まないな、コレは。もう言い訳も浮かばないレベル。

 

だからだろうか。口が上手い言い訳を並べてくれなくて、思わずポロリと本音が漏れた。

 

「平塚先生……自分の存在が無意識のうちに他の誰かに取り返しのつかない傷を与えていた場合、どうすればいいんですかね。情けない事に、今日になってようやく知りまして」

 

詳しくは言えない。でも。

これぐらいは良いかと思ってしまった。

これが甘えだと、分かってはいたけれど。

 

「そうか。……君は真面目だなぁ。意識してやったのならともかく、無意識ならばそのまま気にしなければ良いだけだろうに」

 

そんな事は出来ない。してはいけない。俺という存在が生まれてきた罪は、そんな軽いものではない。相手がその傷に気付くことはなくとも、俺には償う義務がある。

 

「いいか榊、世の中のほとんどの人間は、自分が他者に与える影響なんて気にしちゃいない。だから平気で皆誰かの誹謗中傷をネットに書き込めるし、人が汗水たらして働いて得た金を騙し取れる。その結果として誰がどうなったとしても、 皆自分の責任だとは捉えない。何故か分かるか?……責任を認めてしまったら、償いをしなくちゃいけないからだ」

 

それは……そうだろう。誰もが自分の行いの責任をとれ、なんて言われたら怖い。俺だってその責任が取りたくなくて、取れる気がしなくてずっと答えから逃げていた。今日だって現実を突き付けられなければこんな覚悟を、決められてなかったかもしれない。

 

「でもな榊。結局は、何処までを誰の責任にするかって話なのさ。ぶっちゃけた話、人間は人間社会で生きている以上綺麗事だけでは生きては行けない。自分がしたくないことはしない、なんて皆ができる余地があるのならそもそも縦社会なんて構造は生まれない。誰かが損をする、誰かが割を食う、そんな事が無いと社会は回らないんだ。歪んでいるけどな」

 

「………」

 

「それを否定して、割を食った全ての人間を救済するとして、今度はでは何が救済なんだという話になる。金か?それなら何処から用意するんだ?用意出来たとして、被害者全員で山分けするのか?それは皆被害が一緒なのか?違うとしたらそれでも山分けにしたらそれこそ割を食ってるんじゃないか?……まぁ金だけの事をとってもこんな感じに、キリがないわけだ。それがもしそこに住まう全ての人間で、様々なことで起きたら、全部解決するのに何百年って掛かるしその何百年の間に同じかそれ以上積み上がってイタチごっこ。おまけに最初の方に解決された奴はいいけど、そうでなかった奴は最悪、死んでから解決される事になる。それになんの意味がある?それは結局その人が割を食うことに変わりないだろ?」

 

「長くなってしまったが、要はそんな事いちいちやってられないし待ってられないから、だいたいの事は自分で何とかしましょうって言うのが今の日本の基本的な在り方だ。闘うにしても守るにしても、ただ生きるだけにしたって知識が必要になるから学校があって最低限の義務教育があり、私みたいな教師で飯を食うものも出てくる」

 

それはつまり、他人を傷付けた事など気にするなって事ですか?それでどうするかは相手次第だと?俺は何もしなくていいと。

 

「ははは、それは穿ちすぎだよ。要はそれら全て引っ括めて相手の人生だ、という事だよ。一人で戦うにせよ複数で戦うにせよ、或いは戦わずにさっさと別な事をするにせよ。それを選ぶのはあくまで傷付けられた被害者の方であって、君がどうこう考えるのは相手がどうしたいか、どうするのか知ってからであるべきじゃないか?詳しい事情は分からないが、そもそも相手は君に何かを望んでいるのか?」

 

それは……そもそも、相手は俺に傷つけられた事さえ知らない。俺が生まれた事で無かったことにされた存在など、気付くことさえ出来ない。ましてや、これから救われるはずだったなんて事、知ってる方がどうかしている。人は皆、俺と違って転生特典(こんなもの)持ってなんかいないのだ。そんなものが無くたって人は前に進める力を持っている。

 

 

「いいか榊、君のその優しさと誠実さは美徳だが、求められてもないうちから償いをする、というのは逆に侮辱だよ。償うべき相手を見ていないのだから。そんなものは償いではなくただの君の自己満足さ」

 

 

自己満足………そうか。俺は罰が欲しかったのか。この世界から比企谷八幡を奪ってしまった、その結果ある筈だった様々なことの責任から逃げる為に。罰を与えられればそれで終わりだ。その()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から。なるほど、反吐が出る。無意識でまで俺は逃げようとしていたのか。何が現実と向き合う、だ。向き合う気なんてないじゃないか。

 

そうだ、分かっていたはずだ。比企谷八幡の代わりなど俺には出来ない。だから、彼が居ないことの償いなど、そもそも俺に出来るはずがない。

 

だから俺は、他の誰でもない俺として生きなければならない。償い、なんて考えがそもそも間違っているのだ。だって彼女達は、俺なんか居なくたって彼の居ない時間を乗り越えて来たのだから。それなのに償いなど、平塚先生の言う通り、ただの侮辱にしかならない。

 

出来ることをしよう。俺に出来る生き方を。そうだ、そもそも俺如きが居れば何かを改善できる、代わりに何が出来るなんてのがそもそも傲慢だ。上から目線極まりない。そんな考え自体捨ててしまえ。この世界に生きる一人の人間として、彼女達と精一杯生きることこそが、俺がすべき始めの一歩だ。

 

 

……と、そこまで考えて気付いた。急速に楽になっていく己の心に。

 

それ故に疑問が湧く。こんな簡単に楽になってはいけないと、何処かで警鐘が鳴らされてる気がする。そもそも、こんな簡単に答えが出るものなのか?俺の存在とは。俺が生まれたという事が生んだ罪とは、そんな簡単に終わっていいものなのか?

 

頭の中がどんどんぐちゃぐちゃになっていく。思考が複雑に渦巻いて、何が正しくて何が悪いのかさえ曖昧になっていく。考えががまとまらない。俺が、俺がすべきことは──?

 

「落ち着け」

 

ポン、と頭に軽い衝撃。見ると平塚先生が優しい瞳でこちらの頭にチョップの形で手を置いていた。そう言えばまだお姫様抱っこ状態だった事さえ忘れていた。思考に没頭し過ぎて居たのだ。慌てて平塚先生を降ろす。少し残念そうな顔をして、けれど直ぐに彼女は立ち上がって俺を抱きしめてくれた。

 

「答えが出ないみたいだな。まぁ仕方が無い。誰かの言葉一つで解決する様な悩みばかりではないしな」

 

それはそうかもしれない。でも、この答えだけはきちんと出さないといけない気がする。

 

「そうか。ならば仕方ない、しっかり悩め。だけどどうせ今すぐ答えは出ないから、せめてゆっくり時間をかけて悩め。安易に答えを出したくないならば、早い解決をそもそも求めるな。大丈夫、どれだけ時間を掛けてもいい。悩んで悩んで悩み尽くせ。己の答えを、納得するまで悩み続けろ。……どんなに時間が掛かったとしても、私は傍で君を見ているよ」

 

 

「平塚先生……」

 

 

抱きしめられた箇所から、彼女の身体の温度と感触が伝わる。こちらを見詰める瞳に見える優しさが、心を揺さぶった。正直、2週間後とかまだるっこしい条件を付けた自分を早くも後悔している。

 

我慢できなかったのでその優しさに甘えるようにキスをした。平塚先生も受け入れるように迎えてくれた。愛おしい、と素直に思った。どうしよう、チョロいの俺の方だわこれ。

 

唇を離すと、俺の方からも強く平塚先生を抱きしめた。何となく、離したくない気分になってしまったのだ。そのまま無言でしばらく抱き合う俺達。

 

 

「ところで榊、話は変わるんだがひとつ聞いてもいいか?」

 

 

どれくらいそうしていただろう。体感で30分くらいはそうしていた気がするが、意外とそこまで経っていないのかもしれない。ともかく平塚先生の言葉に反応を返す。

 

はい?どうかしました……ってすいません、飯の準備忘れてました!ごめんなさい、すぐ用意しますね!

 

自分で言っててその事に気付いた。いかん、俺は寄り道して来たから良いけど、先生はそうじゃないし、家に着いてからも結構な時間が過ぎている。お腹が空いて当然だ。

 

慌てて離れようとして、ぎゅ、と平塚先生の抱き着く力が強くなった。あれ?

 

「いや、確かにお腹は空いているが、この際それは良いんだ。そんな事よりずっと気になることができた。なぁ、榊……何で今日も私以外の女の匂いがするんだ?

 

ファッ!?何の話……って、あ。

 

「心当たりがあるんだな!?戸塚の依頼以外でまた女を抱きしめたり抱きつかれたりしたのか!?私以外に!!」

 

あ、いや!確かにしたけどちょっと事情があるんですよ!聞いて下さい平塚先生!決して疚しいことはありません!ただの人助けです!ちょっとチンピラに絡まれて、襲われてた中学生と胸揉まれまくってた由比ヶ浜を助けた時にこう、横抱きで救出しただけです!

 

「は?何だそれは。ガラの悪いチンピラに襲われているところを颯爽と助けられるとか少女漫画では無いか!それを由比ヶ浜が味わったのか!?それもお姫様抱っこで!?何だそれは何だそれは何だそれはァ!!ふざけるな冗談じゃないぞ!そんなの私がされてみたい!何で由比ヶ浜にそれをやったんだ!」

 

ちょ、何言ってるんですか落ち着いてください平塚先生!つい先程の優しくかっこいい平塚先生を思い出して下さい!落差が、落差が酷い!あと由比ヶ浜も別にされたくてあんな事態になった訳じゃないと思います!

 

「うるさいうるさいうるさい!そんな事言われても羨ましいし嫉妬するんだよ!私以外が私の知らない榊のかっこいいとこ知ってるの嫌なんだよ!くっ、こうなったらちょっと今から出掛けるぞ!私相手にそういうことしてくるチンピラ探して私も榊にカッコ良く助けられたい!」

 

「は?何言ってるんですか嫌に決まってるでしょう。というかですね、俺は俺の目の前で俺の許可無く平塚先生の胸に触れる男なんかいたら即その腕を引きちぎってそいつの目の前で挽肉にして、そいつ自身に全部食わせた後にボコボコにします。というか俺がそんな許可出すわけないのでやった奴は容赦なくその後の人生まともに送れなくします。何ですか平塚先生、俺をわざわざ犯罪者にしたいんですか?」

 

俺があんなもんでチンピラ共を解放したのは、あんまりやり過ぎて逆に彼女達のトラウマになる事を警戒したのもあるが、そもそも俺が理性を保てる相手にやったからである。あの時もしあの場にいたのが平塚先生で、胸を揉まれたのが平塚先生だったらあのチンピラ共は既に生きてはいない。俺は独占欲が超強いのだ。何なら平塚先生に悪影響を残した元彼連中も現在調査中である。その後どうなるのかなんて誰にも言わないが。

 

「うぐっ……そ、そうか?そこまで言われたら仕方ないな……くふふ。あ、いや!で、でもやっぱりずるいぞ!私だってテンプレみたいなイベントで榊に助けられたりしてキュンキュンさせられたい!もっとこう、青春みたいな思い出榊とたくさん積み上げたい!」

 

ワガママ言わないで下さい。現状どうやったって俺と平塚先生の年齢差だとこの関係は誤解されます。更にこれから2週間後には誤解ですら無くなります。今は青春的な日常よりも背徳的な日常で満足して下さい。

 

平塚先生の大型連休には俺の方も予定合わせるんで人目につかない所まで一緒に行けます。それまでは我慢して下さい。というか俺だって我慢してるんだから我慢してもらわないと困ります。それとも何ですか?平塚先生は一時の感情で俺と離れ離れになっても良いと?

 

「それは嫌だ!ぜーったいに嫌だ!!今更榊と離れ離れになるなら私は学校の屋上から飛び降りる。そんでもって全てに呪いを振りまいて私達を引き離した存在全てを絶望にたたき落とす!1人も逃がさん」

 

「いや、それはそんな事させる前に俺が全部引きちぎって平塚先生攫っていくんで頑張って待っててください。でもそんなに嫌なら今は我慢して下さい」

 

「うぐぐぐ……ッ!くそぅ、仕方ない。2人で旅行とか行ける時まで耐えるしかないか。はぁぁ。その代わり、浮気は絶対に駄目だぞ。私以外に優しくするのも本当は良くない。何なら私以外の女のいる所に居るのがもう良くない」

 

俺に中卒になって引き込もれとでも言いたいんですか貴方は。というか俺を女子と二人っきりになる奉仕部に放り込んだの平塚先生でしょうに。今は由比ヶ浜が居るから二人っきりではないけど。

 

「正直ちょっと真剣に後悔している!……けれど、女としては後悔しているが、教師としてはこの上ないベストな選択だったと思っている。凄い、凄い複雑な気分だ……!!」

 

えぇ……そんな事言われても。というかですね、これだけ執拗にマーキングされた身としてはそんな心配不要だと思うとしか言えないんですが。そう言ってネックウォーマーをずらす。当然そこには大きく咲き乱れる平塚先生の跡が残っている。

 

「……くふっ。やはり榊の身体に自分の跡が残っているのは良いな!虫除けにもなるし、これから毎日付けておこう」

 

「や、勘弁して下さい。バレないように大変なんですよ?今日だって危うくバレそうだったんで慌てて逃げてきたんですから」

 

「見せつけてやれば良かったんだ。君が誰のモノなのか、周囲の人間に知らしめる必要がある。……やはり、ネックウォーマーは要らないんじゃないか?」

 

アホですか?流石に誤魔化しきれませんよ。万が一平塚先生と過ごしてる所見られたら連座してお相手が平塚先生ということも分かってしまいます。そしたら翌日には淫行教師で平塚先生の名前が紙面に乗ることになります。というか、知らしめた所でただのバカップルアピールにしかならないでしょうに。俺みたいなの欲しがるのなんて平塚先生くらいですよ、そんな物好き。

 

「何を言ってるんだ君は。本当にそうなら私がこんなにやきもきしてるわけないだろう。……気付いてない訳じゃないだろ、君なら」

 

「……ノーコメントで。今はまだ、どうしていいか分かりませんし」

 

それが答えじゃないか、と平塚先生は呆れたように言った。そして唐突に首筋に吸い付くと、昨日よりもずっと強く、それでいて激しく苛烈に跡を残そうとする。いや、ちょ!流石に明日の朝までに消しておこうと思ったのに!

 

ふるはいっ(うるさい)!……ちゅばっ!今ので胸の奥から燃えてしまいそうになってる!んぅ、責任取れ!本当なら、今すぐ押し倒してしまいたいくらいなんだからな!ぢゅるるる!こうなったら、見えるところも見えない所も、私の跡だらけにしてやるっ!」

 

そう叫んで平塚先生は首筋にガブリと噛み付いた。容赦なく皮膚を噛み切り、血を啜る。むっちゃ痛い。ギリギリ食いちぎられてはいないみたいだが、たぶん結構血が出ている筈だ。声が出なかった自分を褒めたいくらいである。というか、これではキスマーク所ではない。波紋で治療をしなければキスマークとは比較にならない時間、跡が残るだろう。

 

「……やっぱり蚊なんて可愛ものじゃなくて特大の蛭じゃないですか」

 

「ぢゅるるるっ……ぷはっ!うるさい、何とでも言え!どんなに浅ましい真似をしたって、君を他の誰かに盗られたくないんだ。じゅるる、そうだ、誰にも譲るものか……榊は……貴一は私のだ……!」

 

はぁ、そんな事いちいち言わなくても。平塚先生を俺のモノにする以上、俺が平塚先生のモノになるのは当然のことだ。俺は鬼畜だがなるべく屑では無いように心掛けている。何処ぞの俺様キャラみたいに気に入った女は自分のモノ扱いしといて自分は違う、なんて事を言う気は無い。なので安心して欲しいんですが。

 

「……やだ。私が我慢する2週間後までは、榊もこの面倒臭い私を我慢しろ。そうしたのは榊なんだぞ」

 

「なんとまぁ。元々俺のはお仕置きですのに。……まぁ良いですよ。確かに少し不公平でしたし。それに2週間後からは本格的に平塚先生と付き合って行く予定ですし、どちらにせよ面倒臭い平塚先生を受け入れられるようにならないとね」

 

「うぅ……わ、分かればいいんだ!でも、出来ればあんまり嫉妬させないでくれ。自分でもここまで一人の男に入れ込んだのは初めてだと思ってる。ぶっちゃけいつ我慢出来なくなって襲うかわからない」

 

「ははは、その時は以前言った通り抵抗しませんのでお好きな様に。ま、この程度も我慢できないようではその先は無いかもしれませんが」

 

「〜〜っっ!鬼っ!悪魔っ!榊っ!!」

 

ははは、何とでも言ってください。俺は貴方と劇的な一日の為には容赦しないと決めましたので。ああでも、一つだけお願いがありますね。

 

「……ふん、どうせ断れないんだろ。2週間後まで好きなように私を虐めれば良いさ!言ってみるがいい」

 

「では遠慮なく。2人きりの時は名前で呼び合うのに憧れているんですが……駄目ですかね、静さん?」

 

「……ほら見ろ、やっぱり私には断れないじゃないか。貴一の、馬鹿……っんぅ」

 

 

そのまま結構な時間キスしてて、夕飯がめっちゃ遅くなったのは別の話。

 

 

 

 

続く。

 

 

 

 




登場人物紹介

・榊 貴一
神様転生者。好き勝手やりつつもヘタレ。
今までずっと現実から逃げていた。
色々なことに向き合う決意をするが、何をするべきなのかは答えが見つかっていない。これからスーパー悩む羽目になる。
着実に平塚先生に攻略されている。

・雪ノ下 雪乃
オリ主のやった事で「ウチの」部員と呼んだことをまだ自覚していない。
オリ主に頭撫でられるとぽわぽわして落ち着く。
オリ主の空元気には気付いているが、とりあえず今はそっとしておこうと思っている。
一人で帰る道のりが寂しいものだと感じ始めた。

・由比ヶ浜 結衣
オリ主が誰かとデートするかもと内心だいぶ穏やかじゃない。
チンピラに胸を揉まれた事はオリ主にお姫様抱っこされた衝撃で吹っ飛んだ。もう少しお姫様抱っこされてれば良かったと後悔した。その結果チンピラの顔ももう忘れてしまった。
サイゼよりオリ主のご飯の方が良いと再認識した。
オリ主のキスマークについてこの後鬼電鬼メールしたが、その際オリ主は料理中で、平塚先生が代わりにそれに気付いた。もちろん平塚先生は容赦なく電源を切ってケータイを隠してしまったゾ!
オリ主の空元気には気付いたが、敢えて今は触れず、オリ主の落ち着きを待って力になりたいと思っている。
オリ主の探している人、という言葉にいつかのことをティン!ときた。


・平塚 静
オリ主をもうほとんど攻略している人。国語教師。
教師としても凄い人だが、この小説ではヒロイン部分がメインなのであまりそっちを出せないかもしれない。
オリ主に調教されながらオリ主を落とすという離れ業をやってのけた。でも若い女への嫉妬心はなかなか抑えられない。
実はヤクザにも出来なかったオリ主の身体に明確な傷を付けた初の人物。既に2週間後は休むつもりで調整を始めている。

・比企谷 八幡
言わずと知れた原作主人公。小町の兄でもある。
オリ主の分のリソースの為に消されてしまった。
彼が消えたことによる影響は計り知れない。

・比企谷 小町
ひきがやこまち、と読む。兄と違ってフルネームで読むと何故か違和感ある。違和感ない?俺だけ?
この小説では兄が無かったことにされてしまったので一人っ子。その為一部精神は大人っぽくなっており、一人称の変化など、原作との相違が1番激しい。
性格は原作とそんなに変わらないが、妹キャラでは無い、という大き過ぎる改変のせいで扱いが難しい。
オリ主は変人だが良い変人だと思っている。
オリ主からの愛称はこまっちゃん。

・川崎 大志
かわさきたいし、と読む。
まさかの姉より先に名前が登場してしまった。
何だかんだ助けてくれて奢ってくれたオリ主に悪感情はない。
イリュージョンマジやべーと思っている。
最近小町と仲が良いが、シスコンなので小町がボンキュッボンに進化しないと仲はこれ以上発展しないと思われる。
今回めっちゃ頑張って食べたが、何気に由比ヶ浜が言ったオリ主の美味い料理が気になっている。

・チンピラ達。
話を進めやすくする為にいるような存在。ある意味踏み台転生者みたいなもん。
当初の予定ではオリ主が小町に絡んだ後ササッと逃げる予定だったが、由比ヶ浜のおっぱい巨乳過ぎて触りに行ってしまった。そして終わってしまった。
オリ主の全力のイビリによって心を粉砕骨折されてしまったので、この後は植物のように穏やかに余生を過ごしたとかなんとか。

・超常存在さん
オリ主を転生させた神様的存在。超すごい。
だが結構適当なのでオリ主以外の後処理は雑。
オリ主の望む特典を与えまくってリソースが足りないことに気付いたが、あろうことか原作主人公を削るとかいう暴挙にでた。
これによって世界が俺ガイルのジャンルの枠から半分出てしまい、管理がすごく面倒なことになったので、オリ主を送り込んで遊ぶのも面倒くさくなり、現在は別な転生者に夢中。
なお、オリ主が最初ゾンビパニックを散々警戒してたのは、この神に転生させられる際、ふざけ半分で魍魎地獄巡りをさせられて、大量の死者が動き、迫ることの恐怖を刻みつけられてしまったため。転生時の衝撃でその事は覚えていないので、ただただゾンビパニックに対して過剰反応するオリ主だけが残った。

つまりだいたいこいつのせい。



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11話

何故か1話の最大文字数更新したのでくっそ長い。読まれる方は覚悟の上でお願いします。

サキサキとの出会いは力込めようと思ったら込めすぎた。だが反省も後悔もしていない。


 どうも、貴一です。神様転生者です。

 個人的な事を言わせてもらえば、甘いカレーは苦手です。

 

 

 じー

 

 それで、ゆいにゃんが失敗したのは見てたけど、セツのんはどうだったの?直接本人に話を聞きに行ったんでしょ?

 

 じー

 

「…そうね。少しだけ話してみたけれど、駄目ね。夜更かしの理由やそれに近い事を聞こうとすると、はぐらかされたり無理矢理話を打ち切られたりされたわ。聞かれたくないって感じね」

 

 じー

 

「…あたしの時もそんな感じ!よく分かんないけど、かなり頑なな感じだったよ」

 

 じー

 

 ああ、そっちは見てたから分かる。実は俺の方でも動いてみたんだが、あんま効果無かったな。

 

 じー

 

「…聞いてないのだけれど。貴方が動く時は事前に連絡を入れなさい。何を仕出かすかわかったものではないのだから」

 

 じー

 

 や、そんなに褒めるなよ照れる(*´д`*)

 ゆーて大したことはしてない。今日も遅刻してたみたいだから平塚先生に確認したら最近遅刻増えてんだってよ。なのでそのまま平塚先生に話をして貰ったんだが……まぁ手痛い反撃貰って平塚先生では無理だった。

 

 や、まさかあんな当然のように結婚の事を出せるとは。お陰で平塚先生を宥めるの大変だった。昼飯の時間無くなるかと。

 

 じー

 

「…それでお昼遅かったんだね。お陰であたし達までお昼遅くなっちゃったじゃん、バカ」

 

 じー

 

 いやそれは俺悪くなくない?俺の飯を横取り狙って自分の飯持ってこないのが悪くない?というか用意してあっただろ炊飯器に炊き込みご飯!冷蔵庫内にチンして温めるハンバーグもサラダ付きで入れてあったやないか!

 

 じー

 

「……貴方を待っていてあげたのよ。感謝しなさい。じー」

 

「そうだよ!サカキン来てからの方がトッピング増えるし!じー」

 

 じー

 じー

 

 明らかにトッピング目当てやないか!というかな、トッピングにハンバーグもう1枚って何だし!ただでさえ2枚あったやないか!400gあったやないか!おまけにとろけるチーズ3枚も追加とか…!いや2人とも最近ホントに食いいね!俺としては嬉しいけど体重大丈夫!?俺朝と夜は管理してないからあんま食べ過ぎるとどうなっても知らんぞ?

 

「じー、うぐっ、だ、大丈夫だし!つーか女の子に体重の話すんなしサカキンのバカっ!…あっ、じー!」

 

「じー……余計なお世話よ。これでも最近は夜を減らしているし、家に帰ってからのランニングも始めたわ。なんの問題もないわ。じー」

 

 じーじー

 じーじー

 

「いや問題アリアリだろ。あんま遅くに女子一人でランニングとか良くないぞ。気をつけろよ?」

 

「じー、そう思うのなら夜のランニングの時間を、もう少しハッキリしてくれないかしら。あと速すぎよ。もっとゆっくり走りなさい。…それで、何時まで無視してるつもりかしら?じー」

 

「え、何それズルい!あたしも一緒に運動する!!あっ、じー!そうそう、早く楽になっちゃった方がいいよサカキン!じーじー!」

 

 じー!

 じー!

 

 ふーははは、なんの事だか分かりませんなぁ!ぼっちの鋼メンタルを舐めてもらっちゃあ困りますな!こちとら一人で焼肉屋とか行けるんでね!人の視線がどれだけ刺さっても平気なんですぅー!無駄無駄無駄ァ!ふーははは!

 

 てか最近ちょっとランニングの時間被ってんのわざとだったのか。またストーカーだのセクハラだの言われっかと思って敢えて時間合わないようにしてたのに。ゆーていつも後ろからひっそり着いていってはいたんだが。毎回ダッシュで後ろ回ったりして。ほら、やっぱ心配だしね!

 

「…全然気が付かなかったのだけれど。貴方ストーカー能力高過ぎじゃないかしら。というか、そんな事するなら最初から声を掛けなさい!」

 

「な、なんかあたしだけ運動してない……あ、あたしも!あたしも一緒に運動する!2人だけダイエットなんてさせないよ!って、あ!駄目だよゆきのん!じー!じー!」

 

「あ、そ、そうね。…じ、じー!」

 

 えぇ?なんかまた明日って別れた奴とその後に遭遇しちゃうと恥ずかしくない?というか声掛けて良かったのか。次は気を付けよう。あと俺はダイエットじゃないぞゆいにゃん。というかもう良くない?効果ないぞ、それ。

 

「くっ、強情ね榊君…!」

 

「良くない!早く観念しろサカキン!」

 

 ヤダね。悔しかったら取ってみるがいい!

 最も?それが出来ないから俺の首を親の仇のようにただ睨むしかない訳ですがねぇ?

 

「ぐぬぬ、そのネックウォーマー早く外しなよサカキン!見てて暑苦しいよ!」

 

「そうよ榊君、貴方の見た目が著しく景観を損ねているのよ!いい加減外しなさい!」

 

 だが断る!何故なら俺の見た目は元々モサモサしてると言われている!今更ネックウォーマーひとつで景観に与える影響が変わるものか!元々俺の存在が空間に最大限野暮ったさを与えている!外した所で変化などない!俺は俺のままで既に!既に暑苦しいんだよォォ!!

 

「いやだから髪切りなよサカキン」

 

「良い美容院を紹介するわよ榊君」

 

 や、丁重にお断り申し上げるぜ!なんか美容院とか響きがもう面倒臭いし。その辺の1000円カットで十分。てか男が美容院行くって何かチャラい感じしない?床屋の方が硬派な響きあるよね。

 

「美容院にどんな偏見持ったらそんなイメージを抱くのかしら。私としては床屋という場所に馴染みがないから分からないけれど」

 

「あたしも床屋は行ったことないから…でも床屋って見た目気にしてない男子が行くイメージ?」

 

 いや、見た目を気にしてる男子がもうなんかチャラいと思う。トイレの鏡の前で前髪何十分も弄ってるような奴ってだいたい髪の毛染めてる奴だし。女子のそーゆーのは許せるが男子のはキモい。つまり美容院行ってる男に好印象なゆいにゃんはチャラい。ビッチ。

 

「ビッチじゃないっ!!サカキンのバカ!というか女の子は見た目に無頓着な男子より気にしてる男子の方が基本的に好印象だから!ねー、ゆきのん?」

 

「えっ、私に同意を求めるの?そ、そうね、まぁ何日もシャワーを浴びないような男性相手では好意的に見ろ、という方が無理ね」

 

「ほら、ゆきのんもこう言ってるじゃん!」

 

 いや見た目に無頓着、と不潔かどうかはまた別な気がするが。というか俺は男女問わず何日も風呂入んない様な奴は無理。それが女なら許せるとか女子って凄いね。ちょっと引くわ。悪いけど俺はゆいにゃんだろうとセツのんだろうと何日も風呂入ってないとか言い出したら普通に距離取るぞ。臭いが改善されるまで物理的に3mは離れる。

 

「!?いやいやいや!そんな事言ってないから!というか何でもう距離取ってんの?!あたしはちゃんと毎日お風呂入ってるから!」

 

「由比ヶ浜さん……流石にそれは、ちょっと」

 

「ゆきのんまで何言ってんの?!入ってる!あたし毎日ちゃんとお風呂入ってるってば!何なら朝もシャワー浴びてから学校来てるってば──!」

 

 

 いや知ってるけど。むしろ毎日風呂入るとか日本人の常識ですしおすし。そんな事大声で宣言されてもちょっと対応に困る。てかゆいにゃんもセツのんも風呂入ってなかったらすぐ気付くわ。俺チーターだし。何ならゆいにゃんが戸塚の依頼のあとくらいからシャンプーだかリンスだかを変えたことも知ってるわ。撫でる時ふんわり鼻にくる香りと髪の毛の質感違うからな!セツのんは元からサラサラだけども、最近のゆいにゃんつやっとすべっとしてるのだ!

 

 とか言ったらセツのんに唖然とした目で見られた。ゆいにゃんは真っ赤な顔で酸欠の鯉みたいに口をパクパクさせてる。お?これ言い過ぎたやつ?チラッと彼女達の手元を見ると、2人とも本を読んでいたのでそれぞれ漫画を手に持っている。最近はオタク知識の布教も進みつつあるなと思いつつ、あれが飛んでくると予想。

 

 だが甘いな!今日の俺にはこの懐かしの防災頭巾があるんだよ!しかも俺が小学生の時に自作しためっちゃクッション性を高めた分厚いタイプ!彼女達の膂力で放たれる単行本など怖くはない!さぁこい!見事防いで……いや、アレ?全然来ないな。時間差攻撃?

 

「サカキン、気付いて…くれて、たんだ。なんかちょっと意外かも」

 

「貴方、そういうのは分かるのね……」

 

 あれ、何か攻撃する気配ないな。いつもならセクハラ扱いなんだが。女子の琴線分かんねぇなほんと。え、香りの違い?や、そこまで詳しくは分からんよ。違う事は分かるけど。強いて言うなら今のやつの方が髪の毛の手触りはいい気がする。香りの好みとか言われても、シャンプーの香りに好みができるほどシャンプーに詳しくないので分かりません。俺はメリット以外使わないし。

 

 というか、俺は人の顔と名前を覚えないだけで覚えた人間の変化に気付かない男ではないぞよ。いや、平塚先生のアレは分かんなかったけど。そう、何気なく俺は人を見ているのだっっ!え、セツのん?セツのんはよく分かんない。いつ見てもだいたい美少女だし。ほんの少しだけ髪の毛切ったぽい事しか分からん。

 

「……本当によく見てるのね。少し、いいえ、普通に気持ち悪いわ」

 

 ふ、それほどでもあるぜ!自分でも言っててちょっと気持ち悪いと思ったから言われる心構えは出来ていた!なのでダメージは少ない。

 

 つかそろそろ話戻そうぜ。実際どーすんの、川崎姉の方は。

 

 なお、何か戸塚に聞いたら毎日学校が終わったらそっこーそそくさと帰ってるらしくて、平塚先生に聞いたら遅刻が増えてる。そんでもって川崎少年に聞いたら家に全然帰って来てない。つまり学校帰りになんかやってる訳だ。

 

「それに川崎君の話にあったエンジェル何某という店からの電話、という情報を加味すると、十中八九バイトかしら?」

 

「ま、だろうな」

 

「え、いや。そうとも限んなくない?なんの店か分かんないけど、川崎さんって何となく凄そうな感じするし、バンドとかかも……」

 

 や、たぶんそれは無い。川崎少年の話だとほぼ毎日朝5時過ぎに帰ってくるらしいし、バンドだとしたらそう毎日朝5時まで居るとも思えん。皆普段の生活がある訳だし。最も、その普段の生活を犠牲にした夢見るミュージシャンと、という可能性が無いわけではないので、バンド説も可能性はゼロじゃないが。

 

「そうね。川崎君によると、お姉さんの川崎沙希さんは、元々かなり真面目な人だそうだし、今やっていることが真面目な理由か、不真面目な理由かでだいぶ対処が変わるわね」

 

「え、どゆこと?」

 

 んーと、例えばゆいにゃんのバンド説だったとして、さっきも言ったが毎日朝5時まで、というのはちょっとやり過ぎなわけだ。と、するとそこには余程の理由がある訳だろ?それが駄目な男に入れ込んだからー、とかだったりするとすごい面倒臭い。そこ何とかしないと行けないからな。そうではなくて、単純に上手くなりたくて熱中してるだけなら、真面目に説得すればあっさり聞いてくれるかもしれんだろ?

 

「あー!なるほど!確かにそうかも!」

 

 まぁ俺としては1番面倒なのは真面目な理由でバイトしてる場合だが。エンジェル何とかって店の名前が何かやな予感がする。風俗か飲食店のどっちかでよく使われる名前だし。

 

「…そう、ね。もしバイト先がそういう場所なら、帰ってくる時間を考えると、のっぴきならない理由があってお金が必要、ということになるものね。それはそうと榊君、風俗によく使われる名前とか分かるほど経験があるの?変態」

 

「ええっ!?そうなのサカキン!こ、高校生なのに!?……すっ、すけべっ!変態っ!サイテー!!」

 

 事実無根で草。単に実家の方にそういう名前の店が多かっただけだわ。風俗に関しては前世は何回か利用したけど、流石に今世はない。つーか俺まだ未成年だぞ馬鹿なの?何でセツのんは頭の中そうピンク色なんだ。思春期にしてももう少し隠せよもう。女の子だから性欲が無い、なんてアホなこと言わんけど、もうちょっとこう、な?興味があるのは仕方なハッ!殺気!?

 

( っ'-')╮ =͟͟͞͞ ブォン

 =͟͟͞͞( ˙-˙ )サ

 

 ふ、甘いなっ!って、うぉぉ!?

 

( っ'-')╮ =͟͟͞͞ ブォン =͟͟͞͞ ブォン =͟͟͞͞ ブォン =͟͟͞͞ ブォン

 

 ‪( ◜௰◝ )サッ=͟͟͞͞ ‪( ◜௰◝ )サッ=͟͟͞͞( ˙-˙ )サ(; ・`ω・´))))))ササッ

 

 いや投げ過ぎだろ!いい加減にしろこのむっつりスケベ!図星突かれたからっていちいち切れんなよ!というかちゃぶ台挟んだこの距離で投げんな危ないだろ!俺はいいけどゆいにゃんに当たったらどうすんだよ!っていうか俺が喋ってる時まで投げるなってうぉっ!

 

 

「図星?なんの事だかさっぱり分からないわ。私はただ不快だったから始末しようと思っただけよ。だからいい加減当たりなさい!」

 

 と、その時ちょうど投げてた物が尽きて、たまたま手元に残ってたグラスをセツのんの手が掴んだ。

 

 だが、暑いから飲み物には氷を入れてある。つまり汗をかいていたのでグラスが滑ったのか、投げたセツのんの手からグラスがすっぽ抜けた。

 

 そしてそれはまるで、吸い込まれるようにゆいにゃんの顔に向かって──ー!

 

 

「わっ、すごいサカキン全部避けてる!って、わぁ!……あ、あれ?サカキン?」

 

 

 ……おいこら雪ノ下。今の、俺が防がなかったら由比ヶ浜に直撃してたぞ。いつも言ってるよな。他の誰かがいる時はぶつかっても問題ない物を投げろって。今まで投げてたマンガ本はともかく、これガラスのグラスだぞ。何考えてんだお前。

 

「!あ、や、やー!大丈夫だよサカキン!あたし頑丈だし、サカキン守ってくれたし!本当平気だから、ね?」

 

「ふん、貴方が居るのに他の誰かが傷付く訳ないでしょう。それに、元はと言えば貴方が…!」

 

 そういう問題じゃねぇだろ。おい、まさか俺が言ってる意味分かんねぇとか言わねぇよな?それとも分かった上でそんな話してんだとしたら、俺も本気で怒るぞ。

 

「ちょ、ちょっとサカキン、そんな怒んないでよ。ゆきのんだって何があってもサカキンが居れば大丈夫だって信じてるからやったんだし、実際大丈夫だったんだし、ね?」

 

「由比ヶ浜、少し静かにしてろ。今は雪ノ下に言ってるから。おい、雪ノ下。お前俺が言ってる事本当に分かんないの?」

 

「ッ!……えと、その…ごめんなさい、由比ヶ浜さん。私のせいで、危ない所だったわ。その、つい、カッとなってしまって…悪気があった訳では無いのよ。本当に、ごめんなさい」

 

「ゆきのん…。うん、大丈夫だよ。サカキン守ってくれたし。でも、次からは気を付けてね?」

 

「ええ、…気を付けるわ」

 

 ……宜しい。いつも言ってるが、俺相手に多少の無茶をするのは構わん。けど、周りを巻き込む時は危険のないようにしろ。それが出来なくばするな。分かったか?

 

「……ええ、もうしないわ」

 

 ならいい。

 

 さて、じゃあとりあえず話し合いはここまでだな。川崎姉についてだが、俺ちょっと情報室のパソコン使ってエンジェル何某とやらの店を調べてくる。それ次第でこの後どうするか決めよう。2人はちょっと待っててくれ。

 

 あ、飲み物とお菓子はいつも通り冷蔵庫内にあるから。勝手に取ってね!

 

 そう言って俺は部室を出て、情報室の鍵を貰いに職員室へ向かったのだった。

 

 

 

 ◻️◻️

 

「行っちゃった……はぁぁ〜、あービックリしたー!」

 

「その、本当にごめんなさい、由比ヶ浜さん……」

 

 もう一度、今度は心から彼女に頭を下げる。先程は頭に血が上っていた。確かに彼の言う通りだ。もしこのグラスが顔に当たって割れてたら、大怪我だったかもしれない。今更だが自責の念が湧いてくる。私は何と愚かな真似をしてしまったのか。

 

「へっ?あ、やー!大丈夫だってゆきのん!さっきも言ったけどサカキンがグラス止めてくれたし。何事も無かったんだからもーいーじゃん!終わり終わり!」

 

「でも、一歩間違えたら大怪我だったかもしれないし……」

 

「それでもいーの!それに、何となく分かるんだ。セツのんの気持ち。たぶんサカキンが何とかしてくれるって思ってたんでしょ?……分かるよ、私も何となくそう思ってるもん。あたしもたまに教室とかでコンパス投げたりするし。なんなら、さっきのグラスで大怪我してても何とかしてくれそうな気がするよね!」

 

「それは……」

 

 事実だ。確かに私は何かあっても彼が何とかするだろう、と心のどこかで思っていた気がする。実際あれだけの至近距離で、あれ程唐突な出来事だったのに彼は驚くほどの素早さで、いつの間にか由比ヶ浜さんに向かったグラスを受け止めていた。本来あれはもっと驚くべき事だ。それに気付かないほど彼なら出来る、と私は思い込んでいたのだ。

 

 だが、それこそまさに彼の言う通りだ。そんな事は問題ではない。彼がいれば大丈夫だからどうこう、では無く、そもそも由比ヶ浜さんに危険があるのなら止めるべきであった。我ながら浅慮が過ぎる。本来彼に言われるまでも無いことであるのだ。気を付けなさい雪ノ下雪乃……!

 

「ね、それよか聞いてよゆきのん。あたし最近サカキンにあだ名じゃなくて由比ヶ浜って普通に呼ばれるとビクってしちゃうんだけど!」

 

 深く反省し、自分を戒めていると、ふと由比ヶ浜さんがそんな事を口にする。だけれど、困ったことにとても共感出来た。何ならビクっとするどころか普通に恐怖を感じるくらいだ。

 

「……彼は、その、怒ると普通に呼ぶものね。滅多なことでは怒らないけど、怒り出すと私でもたまに肩が竦むわ」

 

「あー……。なんか分かる。あたしがサカキンに直接怒られたことはまだないけど、見てるだけでも何か怖いもん。小さい頃親戚の怖いおじいちゃんに怒られた時のこと何か思い出しちゃう」

 

「!言われてみれば確かに。榊君が怒る時はどちらかと言うと叱られている気分になるわ。だから身が竦むのかしら?」

 

 目から鱗だ。確かにそう言われるとしっくりくる。彼は怒っているというより叱っているのだ。まるで大人が子供に叱るように。随分小さい頃、躾に厳しかった祖母に叱られた時の事が頭をよぎる。あの時は祖母が無性に怖かったような気がする。……と、そこまで考えて気付いた。そうすると、私は無意識に……?

 

「この私が、精神的に彼を歳上と無意識に認めている……!?な、何という屈辱かしら……ッッ!!」

 

「ええっ!?いきなりどうしたのゆきのん!なんでそうなったの?!」

 

 

 あまりにも認めがたい考えに行き着いてしまった。慌ててそんな事は無いと頭の中で否定してみるが、何故だか上手くいかない。これは駄目だ。何故か負けた気分になりそうだ、と思い、由比ヶ浜さんに心境を吐露してみた。彼女ならそんなことは無い、と言ってくれるのではと期待したのかも知れない。

 

「あ、あー。どうしよう、あたしもそれなんか分かるかも。サカキン、普段は訳わかんないことばかりやってるけど、時々妙に大人っぽいというか、同い年に見えない時あるし……」

 

 なんという事だ、肯定されてしまった。見ると由比ヶ浜さんも何処か落ち込んでいるように見える。気持ちはよく分かった。あの榊君に精神年齢で負けている、と考えると非常に悲しい気分になるのだ。

 

 いついかなる時でも暖かいご飯が思春期の体と心を健やかに保つ!故に炊きたて!(`・ω・´)キリッとか言って毎日お昼ご飯を部室で作るような男に精神年齢で負けている……?嫌だ!そんな酷い話があってたまるか!

 

「由比ヶ浜さん……提案があるのだけれど」

 

「…なに、ゆきのん」

 

「私達の心の安定の為に、今の話、無かったことにしましょう」

 

「大賛成……!」

 

 

 何故かこの時、由比ヶ浜さんとの絆が深まった気がした。

 

 

「あれ?結局サカキンネックウォーマー外してなくない?」

 

「あっ」

 

 

 ……またしてやられた!

 

 

 

 

 ◻️◻️

 

 

「それで、ここがそうなのかしら?」

「えぇ……マジ?」

 

 みたいだね。や、ホームページだと分かんなかったけどこれは凄いなー。

 

 あの後パソコンで調べてみたら、どうにもこの近辺でエンジェルと名前に付く店は数店舗しか無くて、そこから更に朝までやってる店、で調べたら2店舗しか残らなかった。

 

 それが最近出来たばかりのメイド喫茶と、今俺がいるここ、ホテル・ロイヤルオークラだった。で、アンサートーカーで確認したらこっちだった、というわけである。

 

 まぁ最初から全部アンサートーカーで調べろって話ではあるのだが、たまにはこういうのも使わないとやり方分からなくなってしまうからな。

 

 何かメイド喫茶の方へ行けばこの2人のメイド姿が見れた気もするが、付け焼き刃のメイドさんとか価値ないからね、仕方ないね!俺氏はメイドさんはエマさんくらいガチなのが好きです。

 

 

 いや、半端な露出とかメイドさんにさせるくらいなら普通にエロいカッコさせた方がマシ(真剣)

 

 それはさておき、これは一旦出直さないと無理なタイプじゃないの?ホームページで見た時普通に見逃してたが、このクラスのホテルに入ってる店とかどう考えても学生服じゃ入れないよね?そもそも朝までやってるみたいだし、1回着替えに帰らね?ちょうどウチのマンションすぐ近くだし。

 

「そうね……これは、制服どころかある程度のドレスコードが要求されるタイプね。私服でも普通のでは無理じゃないかしら?」

 

「え!?あたしそんなの持ってないよ?……2人は持ってるの?」

 

「んー、俺も無いからそこの店で買ってくるか。セツのん、男はスーツとかなら大丈夫だよね?」

 

「そうね、と言っても安いリクルートスーツみたいなのは止めた方が良いわ。大丈夫なの?」

 

 それは問題ない。本当ならちゃんと身体に合わせたものをオーダーメイドした方が良いんだろうが、俺まだちょっとずつ身長伸びてるからな。今回は出来合いので大丈夫だろ。

 

 で、それはそれとして、セツのんは持ってんの?ゆいにゃんは持ってないみたいだし、最悪俺一人で行ってくるけど。

 

「貴方一人で行ける訳ないでしょう……私は大丈夫よ。こういうのも何度か経験あるから。由比ヶ浜さんさえ良ければ、私の服を貸すけれど……?」

 

「えっ!いいのゆきのん!?ぜひぜひ!お願いします!ありがとー!」

 

 ……セツのんの服?ゆいにゃんが着れるのか?胸とかどう考えても無理がある気がするが……まぁいいか。たぶん何とかなるんだろきっと。深く突っ込んではいけないよね!うん。

 

 さて、じゃあ後で合流するとして……ああ、もうこんな時間か。しまった、適当に買うにしても平塚先生が帰ってきてしまうな。んんんー、あ、どっちにしてもアレの確認しなきゃならんのか。2人共、結構夜遅くでも大丈夫?

 

「ええ、問題ないわ……と言うよりも、流石にドレス着てそれで終わり、という訳にはいかないから、1時間やそこらではどうにもならないわ。そうね、今が18時だから…夕飯をとってからと考えて、21時半くらいで どうかしら?」

 

 そうだな。確認すること的にもその時間で丁度よかろ。では後でな。ゆいにゃん、「え、そんな時間かかんの?」って顔してるけど頑張れよ。セツのん完璧主義者だから下手したら軽いマナー的なことまで覚えさせられるかもしれんけど。そう言ってさっさと歩き出す。

 

「え"っっ!?」

 

「大丈夫よ由比ヶ浜さん、そこまで難しい事は言わないから。きっとすぐ覚えられるわ」

 

 

 ちょ、嘘でしょ!?そんなの聞いてな──とか何とかゆいにゃんの声が聞こえた気がするが、多分気のせいだよね。何でサカキンは良いの!?とかも聞こえた気がするけど俺のログには何も無いな。うん。ゆいにゃんは犠牲になったのだ!セツのんの完璧主義の犠牲にな……ッッ!

 

 

 この後無茶苦茶ゆいにゃんからメールきたよ!

 

 

 

 

 ◻️◻️

 

 

 

 ザァー、と絶え間なく流れるお湯が艶やかに身体を流れていく。

 

 うっすらと赤く染まった肌。

 

 風呂の熱気のせいか。

 

 それとも……

 

 

「はぁんっ、んぅ……ッ、ぷはっ、き、貴一……ッ!♡」

 

 

 この行為のせいか。

 

 

 シャワーのお湯を浴びながら、彼女の身体を浴室の壁に押し付けて、両手を握り合うように重ね、それでいて身動き取れないようにこちらも壁に押し付ける。

 

 

 少し腰を落として真正面から唇を奪う。同時に、彼女の柔らかな胸の感触がこちらの胸に伝わってくる。

 

 微かな身動ぎ。俺の体の表面を走る微弱な波紋に、ピリピリとした刺激を感じているのだろう。たちまち触れ合う胸に硬い感触が2つ生まれた。

 

「ンンッ!?あ、ま、待って貴一、んぅっ!」

 

 小さな抗議、完全に口だけだと分かっているので、より強引に、より深く舌を彼女の口腔に侵入させ、無理やり黙らせる。

 

 大きく、ゆっくり、動きが緩慢に感じる程にねっとりと舌を絡ませ、とてもとても弱く、ともすれば皮膚ならば感じない様な程に弱い波紋を舌先から流す。

 

 とても微弱なその波紋は、柔らかく鋭敏な粘膜だからこそほんの僅かに、甘く微かな痺れとなって感じ取れる。絡まる舌と舌。元々形だけの抵抗が一瞬で消え、気丈に振舞っていた目がとろん、と蕩けた。

 

 弱々しく、それでいて快感を逃すまいときちんとこちらの舌に合わせてくる彼女に、内心ニヤリと笑う。もうこちらのなすがままだ。

 

 

 舌の動きを激しくする。壁に押し付けられた体が、少し下へとズレた。腰から力が抜けてきている、と確認すると、壁を滑らせながら両腕を上に持っていき、降伏させるかのように万歳の状態になると、彼女の手と手を繋ぐように合わせて、左手1本で両手を抑えた。抵抗など蕩けているので、本当にただ抑えているだけだ。

 

「んんんー!はふっ、んぅっ……ハァッ、じゅる……♡」

 

 絡め合う舌と舌、やがて溜まってきた唾液を、何度も互いの口の中へに流しては戻し流しては戻す。2人分の唾液が、たっぷり混ざりあった所で、全て彼女の口の中へ流し込む。

 

 そして全てが彼女の口の中へ入った所で、素早く唇を離す。すると、唇どころか口の周り全てがお互いの唾液に塗れててらてらと光った。

 

 彼女の口は名残惜しそうに舌をこちらに突き出したまま、だらしなく開いている。その中に、大量の唾液があるのを視認する。空いていた右手、その人差し指と親指でそっと突き出た彼女の舌を摘む。

 

 痛くないように細心の注意をはらいながら、優しく、ほんの少しだけ下に伸ばすように舌を引く。こちらの舌から流れていたものよりもほんの僅かに強い波紋を指先から流し込む。途端に舌先から痺れるように僅かに痙攣し、ビクリッと腰が跳ねた。快感が背筋を伝って腰まで反応したらしい。

 

 その反応が可愛くて、摘んだ舌の表面を優しくなぞるように親指で擦る。ビクビクッ、と彼女の腰が連続して跳ねた。

 

 先程よりも蕩けた瞳に、顔の高さを少しだけ上にして至近距離で視線を合わせる。蕩けた瞳に意志を確認するように見詰める。僅かな頷き。準備は出来ているようだ。指を離す。

 

「飲め」

 

「ンっ……ごきゅ。は、ぁぁ……♡」

 

 強く。それでいて端的に、且つ居丈高に。

 

 それは正しく命令だったが、彼女は躊躇なく2人分の唾液を嚥下した。

 

「良い子だ……さぁ、次は脚を開きなさい」

 

「ふぅ、ん………はい、分かり、ました……♡」

 

 耳元で小さく囁くように命令を下す。おずおずと彼女が脚を広げ始めるのを見ながら、柔らかく形の良い胸を、下から掬うように揉んだ。

 

 さわさわと震えさせるように動かしながら、胸の付け根のあたりを輪郭に沿って小指でなぞる。既にもう指先からは絶え間なく、それでいて彼女の好みよりほんの少しだけ強めの波紋が流れていた。

 

「あぁん!ふわ、…-んぁ、ちょ、ちょっと、待っ……♡」

 

 流される波紋と、指の動きによって彼女の体を走る快感が、彼女のの動きを何度も阻害する。脚を少し開くだけの僅かな動きが未だ完遂出来ない。

 

 あまりにも不甲斐ないので舌に少し強めの波紋を流しながら、彼女の特別弱い性感帯である耳の裏をべろりと舐め上げる。途端に上がる嬌声。それを無視して、柔らかく挟むように彼女の耳を甘噛み。ビクビクビクッ、と先程よりも

 大きく腰が跳ねた所で、耳の中に直接喋りかけるようにボソボソ、と呟く。

 

「どうした…?脚を開くだけなのに、まだ出来ないのか……?」

 

「ひ、アッ…、そ、んなこと……ひゃんっ!いわ、れてもぉ…!」

 

 そんなこと、なんだ?この程度の命令も聞けないなら、今日はもう止めにするか?それならそれでも構わないが。

 

「んぁっ、それ、はぁ!やだ、やる…や、るぅっ!からぁ♡」

 

 絶え間なく襲う快感に振り回されながら、咄嗟に閉じてしまう脚を、ガクガクと膝を震わせながらなんとか広げ、膝を開いて見せる彼女。蕩けながらも何処か期待する様な目でこちらを見る。

 

 宜しい。では弄って欲しい所を自分で広げて、何処をどんな風にして欲しいのか言ってみろ。そう言って、頭の上で拘束していた腕を離す。

 

「えっ?あ、そん、なぁ……!」

 

「出来ないのか?」

 

 自分で、という事が余程恥ずかしいのか、流石の彼女も戸惑いを見せた。言われた通りに広げるかどうか、お腹のあたりに手を置いて、悩むように僅かに上下させた。

 

 では終わりだな。そう言って密着していた身体を離し、踵を返して浴室の扉へ手を掛けた。

 

「あっ!や、やだ、待って!する、するから!」

 

 途端に慌てた声で引き留められた。扉に手を掛けたまま顔だけ振り向くと、先程よりも大きく股を開き、自らの手で性器を広げてみせる彼女の姿があった。

 

「こ、ここを……私のここを、き、貴一の手で、弄ってほしい……です」

 

 消え入りそうな声。顔は真っ赤に染まり、羞恥のせいか体がぷるぷると震えている。絞り出すような嘆願を、更に突き放す。

 

 聞こえないな。なんだって?

 

「ッッ!う、うぅ……わ、私の!ここ、弄って欲しい、ですっ」

 

 何処を?ちゃんと言ってみろ。

 

「うぅ〜ッッ……わ、私のヴァギナ、を弄って、ください!」

 

 駄目だな。

 

 そう言って扉から手を離して振り返り、唖然とする彼女にもう1度近付くと、絶頂させないように波紋を切る。そして唐突に彼女の両乳首を抓り上げて、言ってやる。

 

「んぁぁあああっ!!ま、なん、っで……?」

 

 ヴァギナだぁ?何お上品ぶってんだよ。アンタ、自分が分かってんのか?11個も歳下のガキのちんぽ欲しさに14日間も好き好んでお仕置きされてるド変態だろうが。もっと相応しい言い方があんだろ?オラ、言ってみろ。飾らず、ド変態のアンタに相応しい言葉でちゃんとオネダリしてみろ!

 

 

「〜〜ッッ!!ぁん!あ、あああ……!わ、私のっ!おまんこっ!弄って、くださいっ!」

 

 泣きそうな目、羞恥で真っ赤に染まった顔。震えた声。それでも、絞り出すように、吐き出すように自ら性器を大きく広げてそう叫ぶ彼女の姿は、普段の凛々しい教師としての姿とは比べようもないほど無様で淫靡だった。

 

 だが、更に強く乳首を抓りあげて拒否を伝える。冷たく笑って、目だけでまだカッコつけてる、と教えてやる。もっと無様な姿を見せろ、と声には出さずに命令する。

 

「……ッッ!わ、私のぉ!、11個も歳下のおちんぽ欲しくて仕方ない、スケベで下品なド変態まんこっ!貴一の手でっ、ぐちゃぐちゃに……バカになるまで!好きなようにお仕置してくださいっ!お願いしまずぅぅぅ!!」

 

 

 ヘコヘコと腰を振りながら、自らの女性器を大きく広げて、涙なからにそう懇願してみせる彼女。嫌がっているようでその実、辱められることにこれ以上ないほど興奮しているのは、広げられた性器からぽたぽたと垂れる大量の愛液が教えてくれる。

 

 実にみっともなくて、とても無様で、この上なく惨めな姿。しかしそんな彼女が、この上なく愛おしく見えた。良いだろう、そう言って乳首を抓りあげていた右手だけ離して、彼女自ら広げたままの性器へ手を伸ばす。

 

 最初から波紋を流しつつ、しかし常に強弱を入れ替えながら、一切の遠慮なく中指を彼女の中に突き入れた!

 

 ぐちゅ!

 

「んきゅぅぅっ!!はぁんっ!き、気持ちいいですぅ……私のド変態まんこ、弄ってくれてありがとうございますぅぅ♡」

 

 1度自分で言わせたら、理性が焼き切れてしまったのか、命令してもいないのに指を入れたことにお礼を言う彼女。律儀にも自らの性器を広げる手を離すことなく、無防備に晒すように、捧げるように、こちらの指の動きに合わせてヘコヘコと腰を振る。

 

 ぐちゅぐちゅ

 

 自分の口角が、ひとりでにつり上がっていくのを自覚する。彼女の情けない姿がもっと見たくて、沸き立つ嗜虐心が止まらなくなる。指の動きがより大きく、より早くなっていく。しかし、彼女の中の1番いい所をあえて強く触れることなく、少しずつ、本当に少しずつ絶頂へと導いていく。

 

 ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅっ!

 

「あっあっあっあっ、ああああ!いっっ………!」

 

 そして、とうとう彼女が絶頂する。正しくその直前に!一際強く突き刺した指を引き出さずにピタリと止めて、波紋も一気に全部消す!

 

 

「っっっく♡………え、あ?…え?」

 

 

 あと少し。本当に後ほんの少し、という所で快感を与えるのを一切止める。同時に、彼女自身が動いて勝手に絶頂するのを阻止する。これはあくまでも彼女のへのお仕置きだから、絶頂させる事は絶対にないのだ。

 

 

「あっ、うそ?そんな……っ!や、やだやだ!後ちょっと!後ほんのちょっとなの!お、お願いします!もう少し、もう少しだけ弄って下さい!お願いします、お願いします貴一さまぁぁぁ!!」

 

 

「………」

 

 

 先程とは違う意味で泣きそうになりながら、俺の指が入ったまま先程よりも大きく激しく腰を振る。もどかしさで堪らないのだろう。しかし、中指以外の指で彼女の股間にピタリと張り付いた右手は、どれだけ激しく動こうと、ピタリと張り付いて一切動かない。ただ振られる腰に合わせて動くだけで、絶対に絶頂へと辿り着くことは無い。

 

 俺はあえて何も言わず、ただただニヤァ、と笑って、みっともなく腰を振りながら懇願する彼女を見詰めている。これがそう言うお仕置きだと何度も説明したはずなのに、どうしても我慢できないのか、遂には涙を零しながら榊様お願いしますと叫ぶ彼女。いつの間にか様までついている。しかし何も言わず、ただひたすらに懇願する彼女を見ているだけ。

 

 

 やがて完全に快感の波が引いてしまったのか、悄然とした彼女は、ふるふると唇を震わせながら、それでも律儀にまだ自分の性器を広げている。

 

「そんな、あと、後ほんのちょっとだったのにぃ……ひどい、ひどいぃぃ………っ!ふぇっ!?あっ、ふぁぁんっ!うそっ、なん、でぇっ!?あっあっあっ♡」

 

 呆然と何故、と呟く彼女を無視して、再び指の動きを再開する。1度完全に快感の波が引いてしまったので、それを叩き起すように波紋を流した指で、彼女の1番喜ぶ所を、Gスポットを容赦なく突く。

 

「はぁぁぁぁんっ♡なんでっ?なんで急にぃっ!あっあっあっ、凄いっ、一気に、くるっ!あっあっいくっ!イクイクイクイクッ♡」

 

 先程とは違い、容赦のない責め。1番完全に波が引いた筈の彼女の体は一瞬でふるいたち、一気に絶頂まで上り詰め──!

 

「イッッッ……えっ?あ、うそ、また!?や、やだやだ!こんなのやだぁ!」

 

 しかし無慈悲に手を止める。再び逃した絶頂。今度こそ絶頂に達する筈だった体が、再び梯子を外されて、その切なさに、そのもどかしさに激しく暴れるが、容赦なく快感を途絶する。そしてまた、快感の波が治まった頃に………

 

「あ、またっ?あっあっあっあっあっあっあああ──っ♡いっっ……い、え?あ、ああ、あああああ──!!やだ、やだやだやだ!こんなのひどい!ひどいよぉ!お願い、お願いだからちゃんとイかせてっ!おまんこっ!私のド変態まんこイかせてっ!貴一さまっ、貴一さまぁ!お願いしますからぁぁぁ!!」

 

 

 もはや完全に羞恥などかなぐり捨てて、無様に泣き喚くように懇願する彼女。

 

 

 そのどうしようもない姿に、俺の嗜虐心もまたどうしようもない程に高まってしまい、結局この後、平塚先生は1度も絶頂することが出来ないまま、何度も何度も辛い責めを受けたのだった。

 

 

 

 

 ◻️◻️

 

 

 いやー。

 

 ついやり過ぎた。大丈夫ですか平塚せんせー?

 

 

「……鬼、悪魔、鬼畜!貴一の、バカ……ッッ!」

 

 や、申し訳ないです。流石にちょっと虐めすぎましたね。まぁ明日からもするんだけど。それにほら、平塚先生が魅力的過ぎるのがいけないと思うんですよね。

 

「クッ……!そんなこと言っても誤魔化されないからな!今朝はしなかったから今日はもうご飯食べて寝るだけだと思ったのに……どうしてくれるんだ。これじゃまた火照って眠れないじゃないか……!」

 

 

 あっはっはっ!まぁその、頑張ってください?

 

 

 そう言ったらとうとう平塚先生はソファーに寝転がったままクッションを頭から被ってそっぽ向いてしまった。完全に拗ねている。まぁ今回は俺が悪いからね、仕方ないね。だが反省も後悔もしていないしなんならまだまだ追い込む。平塚先生は完全に俺のものにすると決めたのだ。容赦などない。

 

 

 セツのん達と別れた後、ちょうど目の前にあったよく分からんけどブランドらしい成人服のお店で、それなりに大人っぽく見えるスーツを店員さんに選んでもらってササッと一式買ってきた。地味に高くて15万くらいしたけど、まぁ仕方あるまい。幸い俺は今世では小金持ちなのでどうということも無いし。

 

 そしてササッと家に帰ってダッシュで夕飯の準備を済ませると、帰ってきたばかりの平塚先生を風呂に押し込んで、この後出掛けるから今日の分のお仕置きをこれまた唐突にやったのが先程までの話である。

 

 そして現在は色々な意味で逆上せそうだった平塚先生を見て慌ててお仕置きを終了し、何とか彼女を着替えさせてソファーで休ませながら温め直した俺特製ビーフシチューとその他もろもろをテーブルの上に並べているところだ。

 

 地味に平塚先生を虐めるのに時間を掛けすぎて、この後着替えてそれなりに準備することを考えると時間的にギリギリである。何とか早く食事を済ませたいが、平塚先生が拗ねてしまったのでちょっと困っている。

 

 おーい、平塚せんせー?ご飯の準備出来ましたよー?一緒に食べませんかー?

 

 

「………フンッ」(`^ ´ *)プイッ

 

 俺の声に反応して、少しだけこちらに視線を戻したが、直ぐにクッションを被り直して向こうを向いてしまった。どうやら流石に堪えたらしい。まぁやり過ぎたかな、とは俺も思うので自業自得ではあるのだが。

 

 ほーら、謝るからご飯食べましょーよ平塚せんせー。俺が悪かったですって。

 

「…………」ムスッ

 

 反応がない。どうやら本気で拗ねてしまった様だ。これは参った。たぶん時間を掛ければ何とでもなる気がするが、今日はその時間がない。これはどうしようもないな。

 

 やれやれ、じゃあご飯はここに置いておくので、好きな時に食べてください。ビーフシチューは冷めてたら適当に温め直して下さいね。それと、今日は俺この後出掛けるので、こちらで寝ても向こうで寝てもどちらでも構いませんが、向こうで寝るなら合鍵を置いて行くので、戸締りをお願いします。

 

 そう言って俺は席につき、1人で頂きます、とてを合わせた。するとそこで平塚先生が跳ね起きた。

 

「なに?どういう事だ貴一。これから出掛けるって、何処へ行く気だ?もう高校生が出歩いていい時間じゃないぞ!」

 

 や、実は奉仕部の依頼でして。ほら、昼間平塚先生に協力をお願いした川崎……川崎……えっと、川崎姉子?の弟から、姉が夜帰ってこないから何とかして欲しいとの事でして。で、調べたらどーもこの近くロイヤルオークラで深夜バイトしてるみたいなので、奉仕部の3人で様子を見に行くついでに原因を探りに行こう、ということになりまして。

 

「川崎沙希、だよ。姉子って誰だ馬鹿者。ロイヤルオークラって、あの高級ホテルか?しかも深夜バイト……なんだそれは、どうなってるんだ」

 

 や、俺らもまだよく分かっていません。そもそもの依頼が、その川崎何某の弟から、姉が夜帰ってこない理由が分からない、その理由を調べて、出来るなら止めさせて欲しいって話でして。え?そもそも川崎少年の依頼を何故受けたか?あ、やー。それは俺がちょっとやらかしまして、迷惑掛けたお詫びにって感じです。全部説明しても良いんですが、今日は時間ないんですいません、今度でお願いします。

 

「馬鹿者、お前ら高校生だけでそんなところ行かせられるか。というか、そんな所お前らが入れる訳ないだろう。あそこもの凄いエリートだけが集まる婚活パーティーとかじゃないと使われないような高級なホテルだぞ。ドレスコードだって当然……ああ、だからそこに見慣れないスーツが掛かっているのか」

 

 ですです。まぁそんな訳でそういうのに経験があるらしいセツのんがゆいにゃんの分のドレスも用意出来るとの事だったので、この後変装してちょっくら潜入してきます。地味にそろそろ時間ないんで、すいませんがお説教は後でお聞きします。

 

 そう言って食べ始めると、平塚先生は呆れた様にため息を1つついて、結局ソファーからこちらへ来てテーブルに着くと、頂きますと両手を合わせてシチューを食べ始めた。

 

「全く……今日はもう時間もないし、私もドレスを前回使ってからクリーニングしてないから仕方ないので許可するが、本来依頼とは言えお前達も未成年なんだからな?次は事前に私の許可を取るんだぞ!いいな!」

 

 うっすうっす。了解でやんす。

 すいませんねぇ苦労をおかけします。いや、最近未成年なのに未成年がしては行けない行為を歳上の女教師としまくってるせいか自分が未成年って忘れがちでして。

 

「うぐっ。………その歳上の女教師を良いように嬲り尽くしてる奴が、被害者面するんじゃない!第一、セックスになるとお前キャラが変わり過ぎだろう!このドS!ベッドヤクザ!」

 

 「そういう平塚先生はドM過ぎでしょう。何ですか貴一様って。俺そんな事命令してないですよ?歳下に様付けとかどんだけ変態なんですか?」

 

「うぐぐぐ……く、口の減らないヤツめ!」

 

 平塚先生も流石に先程の自分の痴態がヤバすぎる自覚があるのか、あまり強く言い返しては来れないらしい。まぁあれだけみっともない姿じゃなぁ。

 

 ま、ゆーて俺はそんなドMな平塚先生も好きですけどね。それに、ドSとドMって相性抜群な感じがして俺は嫌いじゃないし。まだ本番してないけど、俺ら絶対身体の相性も良いと思うんですよ。勘ですが。けど、オタク的趣味も好みが似通ってて、更に性癖も噛み合ってて身体の相性も良いとか凄いですよね。

 

「……うるさいっ。そんなこと言っても私は安易に誤魔化されないからなっ!そんな言葉で私が喜ぶと思うなよっ!……それに」

 

 めちゃくちゃ頬緩んでますけど。何ですか分かりやすいそのツンデレは。まぁ、何でも良いですけど。ご馳走様です。では俺着替えますね、平塚先生。

 

 

「………むぅぅぅ!」

 

 あれ、どうかしましたか平塚先生「それだ──!!」うぉっ、なんすか急に。

 

「2人きりのっ!時は名前で呼び合うって貴一が言ったんじゃないか!何で私が貴一って呼んでるのに貴一は平塚先生って呼ぶんだ!」

 

 え、あー、それで怒ってたんですか?すいません、実はそれやっぱり止めとこうかと思いまして。あ、いや平塚先生の方は好きにしてもらって構わないんですが。

 

「止める!?何故だ!!な、何か嫌な「や、違います。単に問題が発覚しまして」……問題?なんだそれは」

 

「や、平塚先生を静さんって呼ぶの、思ってたよりしっくり来すぎて何気なく学校でも静さんって呼んでしまいそうでして。普段から平塚先生って呼ばないとうっかりやらかしそうだな、と」

 

 それくらい2人で生活するのに違和感感じてないって事なんだけども。ま、今はまだそれがバレちゃまずいですからねー。恋人同士で名前で呼び合うの、好きなんですけどね。流石に平塚先生の生活壊す訳にも行きませんから、もう少し名前呼びは我慢しておきますよ。

 

「……やだ。名前で呼べ」

 

「いやいや、話聞いてました?」

 

「それでもやだ。私は貴一に名前で呼ばれたい。多少のリスクには目を瞑る。だから名前で呼べ」

 

 や、そういう訳にもいきませんって。俺から言い出しておいてなんですが、すいません我慢してください。バンッってうわなにんぅっ!

 

 平塚先生がテーブルを叩いたと思ったら、身を乗り出してこちらを引き寄せ、無理矢理キスされる。そういやキスは向こうからも禁止してなかったな、と頭の片隅で考えつつ、ビーフシチューの味がする彼女の舌を受け入れる。

 

「……ンチュ、っはぁ……つべこべ言わず、名前で呼べ。……名前で、呼ばれたいんだ。他でもない、貴一に」

 

「……知りませんよ、どうなっても。覚悟してくださいね、静さん」

 

「うるさい、問題な、んぅっ!……ぷはぁ。元より、リスクのある関係じゃないか。今更だ」

 

 お返しにこちらからもキスをしつつ、何となく嬉しくなって意味もなく彼女の名前を口にした。

 

「静さん」

「貴一」

 

 額が触れ合う程の至近距離で、俺たちはそうやって何度も名前を呼び合い、キスを重ねて……あ、やべ。時間ないんだった!

 

 すっかり恋人モード入ってしまってたが、元々着替えなきゃなんだった!すいません静さん、とりあえずイチャイチャはこの辺で。続きはまた明日で!

 

 

「あっ………はぁ、忙しないな、もう。仕方の無い奴だ、まったく……!」

 

 

 そう言って再び不貞腐れる彼女を置いて、洗面所に駆け込む。風呂に入った時からあまり乾かしてない髪をもう一度濡らして、無理矢理押し潰すと、タオルを押し付けて潰したままざっくり水分を取る。買ってきた無茶苦茶ハードなタイプのワックスをベッタリ使って潰した髪を全て後ろへ流していく。

 

 途端に顕になる視界。要はオールバックだが、風呂上がりでも髪の毛を全て持ち上げるのは久しぶりなので、この視界も結構新鮮に感じる。良くなった視界に、未だ首筋に残る跡が強烈にアピールしてくるので、波紋とスタンドを使ってサッと治す。そしてそのままドライヤーで髪の形を固めると、着ていたものを全て洗濯カゴに放り込み、自室で買ってきたばかりのスーツに着替えた。

 

 ワイシャツに袖を通し、ネクタイを締める。前世ぶりにスーツを着るが、何処か懐かしい感覚と共に気が引き締まる。やはり自分にとってスーツは仕事服なのだろう。ま、前世とは顔が全然違う訳だが。

 

 そう内心で独りごちて、鏡に映る今世の自分の顔を見て苦笑する。彫りが深めの、日本人だけど純粋な日本人には見えない、中途半端にロシア人めいた、鋭い目付きの怖い顔。自分で見てもパッと見その筋の人だ。

 

 こればっかりは仕方ないので、いつだったか、髪を伸ばし始める前とかに印象を変えようと試行錯誤していた時があった。その時、店員さんに掛けると印象が柔らかくなる、と言われて購入した丸い伊達眼鏡をかける。……まぁ、無いよりはマシだろう。買った時でさえ進めてくれた店員さんも顔が引き攣ってたが。

 

 準備は終わったので、玄関に買ったばかりの革靴を置いて、平塚先生に声をかける。すいません、それじゃこれ合鍵、置いときますね。

 

「ああ。気を付けて行って──ー…………なぁ、本当に、それで行くのか?」

 

 え?まぁ。流石にいつものモサモサでスーツ着ていったところで、ですからね。あ、すいませんが流石にスーツにネックウォーマーは合わないので、キスマークは消しましたよ。御不満ならまた後で付けて良いので、今は勘弁「今付ける」ってうわ!ストップストップ!

 

 慌てて彼女から離れる。今付けられたら何のために消したのか分からない。しかし彼女は我慢できないと言った様子で、怒ったように距離を詰めてくる。ちょ、ちょっと待って、どうしたんですかいきなり!俺の顔見たの、静さんは別に初めてじゃないでしょう!?

 

 そう、彼女だけは結構俺の素顔を見ている。最初はそれこそお前ヤクザみたいだな、とか言われたが。昨日、俺の髪をかきあげて目と目を合わせた時に何も言わなかったのは、普段から見ているからだ。それにちょっとスーツ着てワックスつけたくらいである。何でそんなに……あれ、もしかして今嫉妬してます?

 

「当たり前だ!私だってそんなにきっちり決めた姿の貴一を見るのは今が初めてなんだぞ!?それなのにこれから私じゃないドレス姿の女2人と深夜のホテルに行く!?……嫌に決まってるだろ!ああ、今からでもドレス……うぅ、無理かっ!化粧もしてる時間……ぅぅぅっ!む、虫除け!せめて虫除けしないとっ!」

 

 や、落ち着いて下さい。キスマークが虫除けって他の女性は虫ですか。てかどう見たってヤクザもどきでしょう俺。そんな気にしなくても大丈夫ですよ。むしろ怖がって誰も寄っては来ませんよきっと。なんせほら、俺ですし。

 

「やだ!……なぁ、やっぱり行くの止めないか?ほら、雪ノ下は慣れてるんだろ?それなら彼女達だけでも……なっ?ってんぅっ、んん〜〜〜〜!?」

 

 静さんが嫉妬してめんどくさくなるのは、実を言うと俺は嫌いじゃない。むしろ可愛いと思っているのだが、今は時間が無いので本気のキスで無理矢理黙らせる。しばらく続けて、彼女の体から強ばりが抜けた所で唇を離した。

 

 や、ほら。流石に夜のホテルの上の店とか、女子高生2人で行かせる訳にも行かんでしょうよ。逆ならともかく。それにほら、丁度いいのでこの変装で高級ホテルの店を騙せるか確認してきます。大丈夫だったら、今度は二人で行くのはどうですか?静さんさえ良ければ、ですけど。

 

「………うぅぅ、行く。絶対、行く。う〜ッ!浮気!浮気はするんじゃないぞ!それは絶対許さないからな!」

 

「や、俺らまだ付き合っては居ないんで浮気にはならないのでは?……ウソウソ、冗談ですよ。そんな不安そうな顔しないでください」

 

「……本当か?嘘だったら、泣くからな。冗談抜きで、人前でわんわん泣いてやるからな………ッ!」

 

 そりゃ大変だ。じゃあ泣かせないように頑張りますよ。さて、そろそろ本当に時間なんで行ってきますね。朝ごはんの用意はしてないので、遅くともそれまでには帰りますよ。

 

 そう言って静さんの顔に手を当て、今日何度目か分からないキス。舌は入れない、唇だけのキス。たっぷり30秒、唇を触れ合わせたあと、彼女の頭を一撫でして、家を出る。よく考えたら今の行ってきますのキスだな。やっべ新婚生活みたい。

 

 正直、静さんのおかげで今世楽しくなってるよなぁ、と思う俺だった。

 

 

 ◻️◻️

 

 

 ホテル•ロイヤルオークラ

 

 

 えーと、たぶんこの辺にいると思うんだけども……?

 

 

 あの後普通にマンション出て徒歩でここまで来たのだが、笑えるほど周りの人間が俺を避けて通っていくので正直俺モーセかな?とか思いながらやっぱり見た目って大事だな、と思いました。第一印象は見た目が8割、とか断言してた前世の高校は正しかったなぁ。

 

 などと思いつつ、先程送られてきていたメールを確認する。平塚先生とイチャイチャしてた間に着てたみたいなのだが、おかげで全然見てなかった。内容は「皆居るとこ同じマンションなんだから一緒に行く(´・ω・`)?」とゆいにゃん。そして少し後に「先に行きます」とセツのん。の2つ。うん。ちょっとイチャイチャしすぎたよね!だが私は謝らない!

 

 とか言いつつメールでは「ごっめーんっ!ちょっとケータイ見てなかったてへぺろ!」と送ったんだが、返ってきた言葉は「きも」の2文字のみ。なんでいきなり顔文字消してしまうんですか由比ヶ浜さん!

 

 とりあえず、2人が今居る場所とやらに向かっているんだが、ホテルそのものはぶっちゃけ変装とか全然要らないみたいだった。普通の服の家族連れたくさんいる。そりゃそうか、庶民だって偶には贅沢して高いホテル泊まることもあるもんな。

 

 そんなこんなで連絡された場所で2人を探してるのだが、何処だろうな……って居たわ。後ろ姿だけど、あれは間違いない。いや、日常生活では絶対に目にすることはないようなドレス着てるし髪型も普段と違うけど、あの淫乱っぽいピンクヘアーはどう考えてもゆいにゃんしか居ないので間違いない。なのでその隣にいる黒髪の優雅だけどどこか怜悧な感じのする美人はセツのんに違いない。ハッキリわかんだね。やっぱ髪染めるにしてもピンクは普通じゃねぇな。流石ゆいにゃん!

 

 

 とか思いつつ2人に声を掛ける。よっすよっすー、おまたー。

 

「へ?ひゃっ!?……あ、あの……?」

 

「………申し訳ないのだけれど、ナンパは他所でしてくれるかしら。人を待ってるの」

 

 待ち合わせの筈の2人に声を掛けたらとても酷い扱いを受けた件について。というかゆいにゃんビビり過ぎてセツのんの背中に隠れてるんですけど。よく見るとセツのんもちょっと足が震えてる。

 

 えっ、俺そんな怖い?ヤクザっぽい見た目なのは自覚あるけど、嘗て店員さんが選んでくれた雰囲気優しくなる伊達眼鏡も掛けてるのに………!と、とりあえずガチで警戒されてるので誤解を解く。

 

「や、2人ともビビり過ぎだから。ま、慣れてるけど」

 

「ふぇっ?………え、その声、サカキン、なの…?」

 

「むしろ他に誰が居るというのか」

 

「驚いた……!貴方、本当に榊君なの?普段とは別人じゃない」

 

 何を言うか。ぶっちゃけスーツ着てワックスで髪型変えただけだぞ。というかセツのん会ってから今までで1番の驚きっぷりですね。え、違いすぎ?そうでも無い……ああいや、伊達眼鏡があったな。ん?……そうか、だから2人とも気付かなかったのか。眼鏡って凄いな。だから芸能人って変装って言うとサングラスとか掛けたがるのか。

 

「うわ、本当にサカキンだ……!あたし怖い人に声掛けられたかと思っちゃったじゃんもー!っていうか変な変装しないでよ!なんでそんな怖い顔にする必要があるの!!」

 

 え、何それ。ひょっとしてゆいにゃんこの顔特殊メイクかなんかだと思ってる?地顔なんですけど。

 

「えっっっ!?うそっ!サカキンって本当にこんな顔なの!?」

 

「なにそれ傷付く」

 

「仕方ないわよ榊君。私も正直暴力団関係者かと思ったもの」

 

 くっ、自覚あるから文句言い難い…!い、いや待て!よく考えたら今の俺は伊達眼鏡をしている!流石にヤクザは言い過ぎだ!もう少しこう……マイルドな表現にだな、えっ?外してみろ?い、良いけど…はい。

 

「もう一回掛けてみて」

 

「はいよ。……どうよ、雰囲気柔らかくなったろ?」

 

「………なるほど。よくわかったわ。普通のヤクザと頭の良いインテリヤクザの違いね。確かに結構印象変わるわ。眼鏡って凄いのね」

 

「そういう違い!?」

 

「あ、ホントだ。そう言われるとしっくりくる!」

 

 しっくり来てしまったらしい。なんということでしょう!眼鏡の印象操作能力は頭が良さそうに見える以外に無いらしい。ヤクザはヤクザにしか見えないって事だネ!……道理で店員さんが顔を逸らす訳である。

 

 とても悲しい事実が発覚してしまったが、嘆いた所で顔が変わるわけでも無い。肩を竦めてため息を1つ着くと、行こうぜ、と2人に声を掛けた。

 

 返事を待たずに先に歩き出すと、2人が少し後ろから、気持ち早歩きで着いてくる。2人が待ち合わせ場所として指示してきたのはここ、ホテル・ロイヤルオークラのエレベーターホール。

 

 これから向かう川崎少年の姉が居るらしい店の名前は、エンジェル・ラダーというらしいのだが、オシャレな名前過ぎてこういう機会が無ければ行こうとは考えないだろうな、と思いつつ、エレベーターのボタンを押す。高層ホテルだけあって、恐らく目的の階まで行ったら直ぐに呼ばれない限り一旦1階に戻るタイプだ。直ぐにエレベーターの扉が開いた。

 

 中はガラス張りで、中途半端に東京にありそうな感じが千葉だなぁ、なんて思いつつ、エレベーターに乗り込んで目的階へ。2人とも無言だが、何故か何処か落ち着かない様子だった。流石に緊張しているのだろうか。ゆいにゃんはともかくセツのんは慣れてるんじゃなかったっけ?まぁいいか。

 

 ポーン、と音がする。着いたようだ。少しの停止の後、エレベーターの扉が開く。降りようとして、ふとマナーを忘れていた事に気が付いた。そうだ、2人とも。

 

「え、な、なに?」

 

「…何かしら」

 

「正直最初は誰かと思ったよ。綺麗だぞ、2人とも」

 

 女性の格好はとりあえず褒めるのがマナーらしい。出来れば具体的に。とはいえドレスの具体的な良いところとか俺に聞かれても困るので、2人一緒に褒めただけのおざなりなやり方だが、それ以上は俺に求められることはないだろきっと。というかゆいにゃん普通に着てるけど、あれほんとにセツのんの服なんだろうか。胸部分が倍は違うんですけど。いや、深く突っ込みはいれまい。

 

 とりあえず、マナーは済ませたので先にエレベーターを降りる。レディファースト?いや、そういう貴族みたいなマナーは知らんです。

 

 そのまま止まらずに進むと少し先に大きな扉。その前にスーツ姿のガードマンが2人立っている。うわ、本当に高級感出てきた!とか思っていると、少し慌てた様に2人が着いてきた。ふと見ると2人ともちょっと耳が赤い。2人とも髪をまとめているので今日は形の良い耳がよく見えるな、と思いつつ。

 

「コホン……そ、その、榊君。貴方もよく似合っているわよ。……顔は堅気に見えないけれど」

 

「うんうんっ!サカキンもカッコイイよ!……見た目はヤクザだけど」

 

 お、男の姿も褒めるマナーとかあるの?とか思いかけたが、ちゃんと聞いたら顔がヤクザだとディスられただけだった。やれやれである。とりあえずありがとうとだけ返して、先へ進む。

 

 するとガードマンっぽい2人は何も言わず…それこそ何名様ですか?ご予約ですか?遂にはいらっしゃいませとすら言わずに普通に扉を開けて、手でどうぞ、と店を差して頭を下げた。

 

 とりあえず何事も無かったかのように、無表情で入店してみるが、何も言われずに普通に入れた。なんだろうこれ、いい事なんだけどあっさりしすぎてこんな変装する必要があったのかと肩透かし感も半端ない感じ。

 

 薄暗い様に感じる程度の照明がなされた店内は、落ち着いた雰囲気でありながら何処か荘厳で、映画でしか見たことの無いような高級感溢れるバーラウンジだった。少し先のステージでは、白人女性が何の曲か知らんけど凄いなーと感じちゃうほどに見事にピアノを弾いていた。何これ凄い。そんな言葉しか浮かばない。

 

 とりあえず俺自身の顔は動かさずにスタンドの目で周りをキョロキョロしていると、隣でゆいにゃんがセツのんにキョロキョロするなと静かに窘められている。良かった俺スタンドでやって。

 

 それが終わると、少し照れたような顔で、いきなりセツのんが俺の右腕を取った。なんぞ?と俺が聞くより先に、セツのんがゆいにゃんに自分と同じようにしろ、と指示をだす。言われたゆいにゃんは少し戸惑っていたが、やがておずおずと同じように俺の左肘に手を添えた。よく分からんけどこういうものらしい。俺は?

 

「そのまま……背中を丸めず、自信を持って歩けばいいわ。あと、もう少しだけ、顎を引いて」

 

 こういった店のルールなんかさっぱり分からんので、セツのんに言われた通りにする。や、セツのん居て本当に良かったな。そのまま、ゆっくりと3人で店内を歩く。両手に花でしかもどっちも綺麗。この姿記念に写真に納めたいなーと思ったけど、平塚先生に見つかったら怒られそうだから止めとこう。

 

 何となく雰囲気的にベラベラと話しながら歩ける店ではなさそうなので、無言で進むと、カウンターを見付けた。そこには1人の女性ギャルソンが、黙々とグラスを磨いている。左隣でゆいにゃんが居た!と小さく声を上げだ。セツのんも目を細くして、見付けたと言った。どうやらアレらしい。言われてみればあんな顔だった気がする。2人が川崎姉に声を掛けた。

 

「雪ノ下……!に、由比ヶ浜か。2人ともどうしてこんな所に、と言うべきか?」

 

 何かセツのんの名前呼ぶ時だけ恨み籠っている感じがするけどとりあえず置いておいて、俺だけガンスルーされた事を少し悲しんでいると、川崎姉が唐突に小馬鹿にしたように笑って、とんでもない事を言い出した。

 

「知らなかったよ、あんた達2人がヤクザの女だったなんて。あ、だれにも言わないから安心しなよ。その代わり「誰がヤクザか」……えっ?」

 

 しばらく2人に任せようかと思ったが、失礼過ぎて思わず口を挟んでしまった。や、そう見える自覚はあるけど、お客さんにヤクザと言っちゃ駄目だと思うんだよね。というか、本当に俺がヤクザだったとしたらそれこそヤクザだって言っちゃいけないと思うんだけど、店員さんはどう思う?

 

「……!失礼しました。それで、お客様はどなたでしょうか」

 

「クラスメイトの顔も覚えてないとか正気か」

 

「それサカキンが言うの!?」

 

「というか、今の貴方は普段同じ部活の私達ですら言われないと同一人物には見えないのだけれど」

 

 おっと、俺としては真っ当な事を言ったつもりだったのだが、何故だか川崎姉よりも俺が責められてる。どういう事だろうか。ふと見ると先程まで澄ました顔でバーテンダーしていた川崎姉がとても驚いた顔で呆然としている。とりあえず取り落としそうだったグラスを身を乗り出して受け止める。気を付けなギャルソン。

 

「っ!あっ、ありが、とう……。え、えっと、由比ヶ浜?本当にその、クラスメイトなのか?」

 

「あ、あー…うん。分からなくても仕方ないとは思うけど、サカキンだよ。ほら、いつも髪の毛モサモサの、目元が見えないあれ!」

 

 どんな説明だよそれは。もっとこう、色々あるだろ?その……あれ、自分でも他に自分の説明が出来ない?や、でもそれじゃ伝わらないだろうに。

 

「モサモサ?あ、あー!居たなそんなの!確か榊……えっ、これがアレ!?マジ?」

 

 伝わってしまった。なんだろう、好き好んでぼっちしてる俺が言うのもなんだけど、俺ってやっぱモサモサで覚えられてるんだな。もう名前もモサモサでいい気がしてきた。ふとセツのんが静かだなと思って見ると、顔を背けて長手袋をした右手で上品に口を抑えながら笑い声を堪えてた。俺の印象がモサモサで通じたのが面白かったらしい。酷い話だ。

 

 とりあえず3人でカウンター席に座ると、気を取り直した川崎姉が注文は?と聞いてきた。まぁこういう場ではまず注文しないとだよね。

 

「私はぺリ「俺はカミカゼ。2人にはノンアルコールカクテルを。そうだな、雪ノ下は甘過ぎるのは苦手だから、少し酸味が効いたのを。逆に由比ヶ浜には甘めのを頼む」……ちょっと、榊君?」

 

 セツのんが注文しようとしたのを遮って、代わりに俺が注文する。当然セツのんが厳しい視線を向けてくるが、ニヤリと笑って誤魔化す。

 

「や、せっかく来たんだから、依頼の話だけするのはもったいなかろ?俺たちがちゃんと入れるようになるのはまだ先の話だし、少しは楽しんで帰らないとな。特にゆいにゃんは完全未経験なんだから、酒を飲む場の空気くらい味わっておかないと」

 

 というか、ペリエとか美味しくないもん頼むな。あんなもんほぼただの炭酸水じゃないか。どうせここの雰囲気に呑まれてるゆいにゃんはセツのんと同じもん注文するに決まってんだから。

 

「なんでわかっ……ふ、雰囲気に呑まれてなんかないし。なんか大人な雰囲気だなーって思ってただけだし!……でも、その、ありがと」

 

「……まぁ良いわ。それはともかく、私達は全員未成年なのよ。貴方もノンアルコールにしておきなさい」

 

 え、やだ。それにほら、多分この中で俺が未成年だと思われなかったからこそ入店出来たんだと思うし、未成年っぽい事はしない方針で行こうかなと。

 

「榊君、貴方「頼むよセツのん。今日だけ、な?」……ッッ!!こ、今回だけよ!」

 

 目を見て真摯にお願いしたらセツのんも引いてくれたので、それで頼むと川崎姉に頼む。彼女は呆れたように畏まりました、と言って3つドリンクを作り始めた。どうやらクラスメイトの飲酒は黙っててくれるらしい。ありがたいね。

 

 しばらく待つと俺の前には注文通りにカミカゼが、ゆいにゃんの前には紫とオレンジの対比が綺麗なカクテル……たぶんカシスコンク使ってたからカシスオレンジのノンアルコール版だろう。そしてセツのんには小さなグラス中に琥珀色の液体と、それを隠す様にレモンの薄い輪切り、そしてこんもりと盛られた砂糖……っておい。

 

「わぁ、きれー!あたしカクテル飲むの初めて!って、これノンアルコールなんだっけ?まぁ何でもいいや!」

 

「これは……初めて見るわね。なんというドリンクなの?」

 

 嬉しそうに色んな角度からノンアルカシオレを見るゆいにゃんはさておき、興味深そうにしげしげとグラスを見詰めるセツのんの前から、グラス事カクテルを取り上げる。この匂い、やっぱりか。さっきのことと言い、セツのん川崎姉になんかしたの?めっちゃ嫌われてるじゃん。

 

「ちょっと榊君、興味深いのは分かるけれど人のドリンク取らないで貰えるかしら。飲みたければ自分で注文なさい」

 

「アホか。おいギャルソン。これニコラシカだろうが。ノンアルコールを頼んでんだよこっちは」

 

 そう言ってギャルソン川崎に作り直し要求する。琥珀色の液体は普通にアルコールの香りがしたのでブランデーだった。つまりノンアルじゃない。てかニコラシカはほぼ原液でブランデーを飲むかなり強めのカクテルだ。1杯だけとは言え、酒を飲みなれてない未成年がいきなり飲むもんじゃない。

 

 とりあえずノンアルコールじゃない普通のカクテルを出された事を理解したのか、セツのんの川崎姉に向ける視線が鋭くなるが、当の本人はそちらを一切見ることなく驚いた様にこちらを見て笑った。

 

「へぇ、意外。分かるんだ。勉強してたの?……そんな怖い顔すんなよ、これでも援護してあげたつもりなんだけど。ヤクザじゃなかったみたいだけど、アンタの女には変わりないみたいだったからさ」

 

 これは地顔だっつの。勉強という程でもない。昔結構好きだっただけだ。そしてこの2人と俺は付き合ってないし、大きなお世話だ。俺はその辺のしょーもない大学生とは違うので、女口説いてベッドまで連れてくのに酒の力なんて要らん。

 

 そう言って目の前のグラスから、砂糖の山を零さない様にレモンスライスを折り畳んで口に放り込み、少し噛んで口の中に甘酸っぱさが広がった所でグラスに残ったブランデーを一気に呷る。途端に広がる複雑で芳醇な香りと、コクのあるまろやかな甘み。そうしてそれらが口の中で混ざりあって初めて出来上がるカクテルを、味わうように舌の上で転がしてからゴクリと飲み込んだ。レモンと砂糖があってもほぼほぼ原液のブランデー。喉を焼く様な感覚と共にカクテルが食道を流れて行った。

 

 

「レミーマルタン?しかもこの香りと味はVSOP?……いや、ニコラシカみたいなカクテルで使う?こんなの」

 

「うわ、銘柄まで分かるの?飲み方も分かってるみたいだし、高校生の癖に結構飲んでんの?普段はモサっとしてんのに、結構遊んでるみたいじゃん」

 

 

 遊んどらんわ。前世では一時期無駄に高い酒飲むのとか、無駄に癖の強い酒飲む俺かっこえー!とか頭の弱いこと考えながらハマった時期があったけど、今世ではそういうことは流石にしていない。や、食料とか日用品とか大量に集めた時酒も色々な奴空間倉庫に放り込んであるけど、流石に調理酒以外手を出したことは無い。若いうちにカッコつけて飲んだってどうせ味もよく分かりはしないからな。

 

 つーかそれよかセツのんに新しいドリンクはよ作れこの不良ギャルソン。あとニコラシカにするなら個人的にはコニャックよりカルヴァドスが好みだ。それもこんなに高級なの使わんでいい。高級品出すならロックかストレートで出せ。もったいない。

 

「はいはい、失礼致しましたお客様。直ぐに新しいのをご用意致します……モヒートでいい?」

 

「アルコール抜いたらほぼただのミント炭酸水じゃねーか。さっきのレミーマルタンといい、実はお前まだよく分かってないだろ……?いや、よく考えたら俺が悪かった、酸味が効いたカクテルでノンアルコールとか言われても困るか。ピーチコンクある?ならノンアルレゲェパンチ頼むわ」

 

「流石にまだ味が良く分からない……というか、味の良さが良く分からなくてね。助かる、今作るよ」

 

 よく考えたら酸味が効いた、と言うとジントニックとかその辺が真っ先に浮かぶがあの辺は酒を抜いたらただのライム入り炭酸水みたいなもんだ。トニックは若干甘いけど、大きな違いはない。素直に甘さ控えめって言っとくべきだったな。

 

 そんなこと考えてたら両サイドから袖を引かれる。どったの2人とも。あ、セツのんはもう少し待ってね。俺のオーダーが悪かったよごめん。ゆいにゃんはカシオレは綺麗だけどそのまま飲むと美味しくないからしっかり混ぜてからお飲み。大丈夫、それノンアルコールだから。

 

「そうじゃないよ!……なんて言うか、サカキンが手慣れすぎててちょっと引くんだけど」

 

「そうね。それに随分とお酒にも造詣が深いみたいじゃないの。あなた未成年よね?不良木くん」

 

 誰が不良か。俺はズルして経験豊富なだけで、不良とかそういうのはゆいにゃんや川崎姉みたいな事を言うんだ。一緒にするでない。

 

「あたしも別に不良じゃないし!というか、その顔とそのお酒の知識で不良じゃないのは無理があるよサカキン……今だってそのお酒の飲み方、妙に様になってるし」

 

「それは私もだよ。こんな所で働いてるのだって別に遊ぶ金欲しさじゃない。そこらのバカと一緒にされんのは心外。……お待たせしました、レゲェパンチでございます」

 

 や、そうは言うけど2人とも髪色ヤバいじゃん。ゆいにゃんのピンクもヤバいけど川崎姉の水色もヤバい。綾波レイじゃないんだから。不良じゃなかったらバンドマンかレイヤーくらいしかしない髪色。つまり2人とも超不良。俺はこれ地毛なのでノーカンです。ああセツのん、それはレゲェパンチ。別の名前はピーチウーロン。そんなに不味くないと思うよ。川崎姉の腕が悪くなければ。

 

「そうなの?……あら、桃と烏龍茶って意外に合うのね。悪くないわ」

 

「うっさいな、髪の色は趣味だよ。それに最低限マニュアル通りに作れないとこんな所でバイトにドリンク任せられるわけないだろ」

 

 それもそうか……で?なんでこんなとこでバイトしてんの?家に全然帰ってないらしーじゃん。川崎少年がスーパー心配してたぞ。姉ちゃんが家に全然帰ってこない、姉ちゃんが急に不良になっちゃった!って。

 

「川崎少年?…大志か。あー、最近その2人や先生が急に絡んできたのはそのせいか。いや、さっきも言ったけど別に遊ぶ金欲しさにこんなことしてる訳じゃない。アンタらが大志に何言われたか知んないけど、あたしから大志に言っとくから気にしないでいいよ。……だからもう大志に関わんないでね」

 

「はいそうですか、と引くとでも思ってるの?弟さん、心配してたわよ?」

 

「だから?友達でもないアンタらにそれを言われて、こっちもじゃあ辞めます、なんて言うと思ってんの?関係ない奴に口出しされる事じゃない」

 

 そう言って睨み合う2人。何これ険悪ゥ。セツのんとゆいにゃんが川崎姉を説得しにかかっているので、俺は黙って酒を飲みながら見ていることにする。

 

「あの、川崎さん、なんでそんなにお金が必要なの?……いや、あたしもたまにお金ない時とかバイトするけど、川崎さんみたいに夜中までとかはしないし、理由が、その、……気になって」

 

「そんなの必要だからに決まってんじゃん。細かい理由は赤の他人のアンタに話す必要は感じないね」

 

 にしても流石は高級ホテルの中の店。ドリンカーの背後の棚に並ぶ酒の銘柄はかなりいい物が揃えられている。この体が未成年じゃなかったら今世は金もあるし、シャボーのXOとかストレートで飲みたいところなのだが。如何せんまだ酒の味を楽しめる舌とは言い難い。やはりここは軽めのカクテル辺りでお茶を濁すのが正解かな。

 

 とかやってたら話が結構進み、ゆいにゃんに再び袖を引かれる。どうやらセツのんがいきなりシンデレラがどう人魚姫がーとか言い出したので話に着いて行けなかったらしい。なので制限時間過ぎてるよって説明をしてやる。

 

 今は労働基準法で未成年は夜10時以降は本来働いてはいけないのだ。現在の時間はもうすぐ夜の11時。当然俺達も川崎姉もアウトだ。しかしこれ程レベルの高い店がその辺のルール守らないわけないので、川崎姉は年齢詐欺ってると思われる。セツのんはそれをバラすぞって言ってる訳だね。

 

「そういうことか。ありがとサカキン!」

 

「まぁ、そういうことなのだけれど、辞める気はないの?」

 

「ないよ。ここがダメでも他に行く。あたしは進学する気だからね。邪魔された所で止まる気はないよ。悪いけど」

 

 

 ほーん。なるほどねー?

 

 とりあえず川崎姉がなんで働いているかはだいたい分かったが、まだセツのんとやり合ってるのでもう少し様子見よう。と、思ってたら突然川崎姉がキレた。

 

「アンタの父親県会議員なんだろ?金に困ったこと無いあんたみたいな奴にあたしの気持ちなんか分かるわけない。部外者は黙ってろ」

 

 そう言い放った川崎姉の顔はとても憎々しげだった。なるほど、さっきからやたらセツのんの事を嫌ってるみたいだったのはそれが原因か。成績とか容姿とかでセツのんに噛み付くタイプには見えないし、セツのんぼっちだから元々友達で仲悪くなったパターンもないよなーとは思ってたんだよね。

 

 しかし呑気に聞いていたのは俺だけで、言われた当の本人は余程言われたくない言葉だったのか、思わずグラスを倒してしまった。幸い割れてはいないが中のドリンクがドレスに掛かったら大変であるのでササッと拭き取っておく。見るとセツのんは唇を強く噛み締め、カウンターに目を落としている。あまり見ない、明確にセツのんが傷付いた姿だった。そして今度はそれを見たゆいにゃんがキレた。

 

 カウンターをバンと叩いて立ち上がり、今ゆきのんの家の事は関係ないじゃん!と吠えた。周りの注目集めそうなので咄嗟に俺らの周りの空間固めて声が響くのを止めた俺は超えらい。

 

 普段のゆいにゃんからは想像もつかない剣幕に、流石の川崎姉も少したじろいでいたが、顔も背けながらも一言、じゃぁ、あたしの家のことも関係ないじゃん、と呟いた。それはその通りなので、途端にゆいにゃんも勢いを失って俯いてしまった。

 

 そして始まるお通夜みたいな空気。まぁそらそうなるよね。お金の問題なんて本来部外者が口を出すことでは無いし、出していい事でもない。ましてや俺らはただの学生で、法を犯して働く川崎姉を咎めるのすら俺たちのすることでは無い。まぁ、そもそも現在進行形で飲酒してる俺が言うことじゃないけど。

 

 

 ………ま、本来ならな。

 

 とりあえず、セツのんは大丈夫か?

 

「え?え、ええ……問題ないわ。由比ヶ浜さんも落ち着いて。ただグラスを倒してしまっただけよ」

 

「ゆきのん……」

 

 とりあえず大丈夫そうなので2人のことはさておき。なあ川崎姉よ。

 

「……なに?まだなんかあんの?」

 

「とりあえず500万あれば足りる?」

 

「えっ?」

「えっ?」

「えっ?」

「えっ?」

 

 なんかおかしな事言っただろうか。や、俺口あんまり挟まなかっただけで別に聞いてないわけじゃないよ?で、俺なりに話纏めた感じ、要は金が必要だってだけじゃん。違う?

 

「い、いや違わないけど、うちの親が用意できないものをアンタなんかに……ひょっとしてアンタも雪ノ下みたいに家が金持ちってこと?」

 

 いや全然違うけど。俺の実家はただの農家だし。農家だから持ってる土地はそれなりに広いが、それだってちゃんとした大農家と比べたら微々たるものだ。間違っても金持ちではないし、見ず知らずの他人にポンと数百万円も払えるわけはない。

 

「それならなんで……まさか借金でもしてあたしにくれるとでも?はっ、馬鹿なのアンタ」

 

「榊君、流石にそれは私も川崎さんと同意見なのだけれど」

 

「アホか。俺の金だわ。なんで俺が借金してまで川崎姉に貢がなならんのか。俺に貢がせたかったらせめて髪の毛黒くしてこい不良娘が」

 

 不良じゃないとか何とか言ってる川崎姉は置いといて、セツのんもゆいにゃんも俺が金に困ってないことは知っていても、流石にそこまで金持ってるとも思ってなかったみたいで疑惑の目で見てくる。まぁ平塚先生にも教えてないしな、当然だ。

 

 面倒なので、両手の掌を川崎姉に見せる様に広げて、ゆっくりと重ねる。それを見た川崎姉がなんだコイツ?みたいな顔をしてくるが、無視して召喚……ッッ!とか適当な事を力を込めて言います。するとあら不思議、腕の中から銀色のアタッシュケースと1つの銀行通帳が!

 

「えっ!?何これ手品!?ちょ、アンタ今何やったの!?」

 

「フッ……イリュージョンさっ!」(`・ω・´)キリッ

 

 これは決まりました!流石ですね俺氏!あまりの見事なイリュージョンっぷりに川崎姉も2人も度肝を抜かれています!!

 

「そういうのは今いいから」

「ふざけてないで本題に入りなさい」

 

 2人が冷たい(´・ω・`)

 

 さておき、この通帳はいくつか分散させた預金のうちの1つで、このアタッシュケースは念の為常備してる現金のうちの一つだ、と説明する。

 

「は……?いや、そんな訳ってうわ、バカ!」

 

 面倒だったのでアタッシュケースを開いて見せたら慌てて身を乗り出してきてバタンと閉じられた。いや、そんな心配しなくても俺らの周りの空間歪めて外からはよく見えなくなってるし、話してる声も聞こえないので大丈夫なんだが。

 

 とりあえずこんな所でそんなもん広げんな、と怖い顔で川崎姉が言うので、仕方なく中から札束3つくらい取り出して見せる。ほーら、本物ですよー?

 

「う、わ……マジだ。玩具の銀行券とかじゃない。なんでこんな金、アンタが……?」

 

「や、基本は株とかなんだが、最近たまたま電子マネーで大当たりしまして。その通帳見てもらえれば分かるけど、結構俺こう見えても稼ぎいいのよ?」

 

 まぁ前世と違ってこのタイミングで電子マネーが跳ねたのはびっくりしたけどな!名前もボットコインだし。なんかザコ敵っぽい名前だよね。いやビットでもそれは変わらんか?だがしかし我がアンサートーカーさんにこう言った事で負けはないのだ。名義だけは一応親のものを借りているが、全部俺がやっている事なのは事実だ。

 

「え、じゃあ本当にこれ、サカキンが?嘘……!」

 

「貴方、一体幾つ引き出し持ってるのよ……!」

 

 フッ。俺氏チーターですから!フホホホ!(。・ω´・。)ドヤッ

 

 ま、そんな訳で金を出せと言われれば別に出せる訳ですが。なんだっけ?君の親が用意できないものを俺に出せるわけがない、だっけ?ならこれで文句無いな。あっ、もちろんタダではあげないよ!それをすると魚の取り方を教えるタイプのうちの部の方針と違っちゃうからね!それなら文句ないだろセツのん。

 

「い、いえ、それは確かに無いのだけれど、そもそも貴方のお金の使い方に私が口出しできる訳じゃ……!ま、まぁいいわ。続けてちょうだい」

 

 だそうだ。部長の許可も出たし、後は俺と川崎姉の話し合いですね。で、君はどーする?

 

「ドヤ顔してる所悪いけど、あたしはあんたの施しを受ける気はないよ。例えタダだって。あたしは自分の力で何とかする!」

 

「ふーん。で、足りるの?()()()()()()

 

「!?……アンタ、なんでそれを……ッ!大志だって知らないはず。両親だってアンタなんかに話すわけないし……?」

 

 俺がチーターなのもあるけど、川崎少年の話と川崎姉の話をちゃんと聞いてれば誰だって何となく分かるよ。要するに君は進学したいけど、君の親は川崎少年の学費までで精一杯ってことでしょ?兄弟多いらしいし、まぁ仕方ないね。それに川崎少年にだけは何も教えないってのもよく分かる。そりゃ言えんわな。良い姉ちゃんじゃねぇの。

 

 でも、現実として足りるの?歳誤魔化してここで働き初めてどのくらいになるのか知らんけど、調べた限りじゃここのバイト代は深夜手当付けても最大時給1500円くらいか。まぁ千葉だからな。高級ホテルとは言ってもそんなもんか。

 

 ま、アルバイトとしちゃ高額だが、受験勉強することを考えたら今の生活ずっと、って言う訳にも行かんだろ。どこ狙ってんのか知らんけど、必死こいて働いてるところを見るにおいそれと奨学金狙えるところでもないっぽいな。となると、勉強の時間は必須で、スーパー頑張ってもこのバイトを続けられるのは今年いっぱいぐらいか?現実的に考えて。

 

 今がこの店の開店から閉店までフルで毎日働いてるとして、この店17時開店だから閉店の朝3時まで、それに店の閉め作業があるからまぁだいたい朝の4時までかな。開店1時間前からと計算すると最大で14時間。それに時給で計算すると約21000円だけど、時給1500円は最大値だし、実際深夜手当は10過ぎないと出ないはずだからまあ2万は行かないかな。

 

 そしてひと月に何日働けるか、っていう所だけどこれは店が年中無休だったとしてもこれだけの高級店だと休み無しでは入れてくれんだろ。月6日休みだったとして……おお、40万位になるのか。凄いな!12月までの6ヶ月で240万!確かにこれならギリギリ足りるかも知れんな。……このまま行けばだが。

 

 当然こんな無茶なスケジュールだと月の残業時間がヤバすぎるので36協定でも庇いきれんだろし、よしんばこの店がそれをよしとするブラック企業だったとしても、年齢詐欺は店には通用しても国には通用しない。すると未成年が半年で200万も稼ごうとするとくそうざい税金の問題で絶対国税庁が口を挟んでくる。あいつらこういう事にはくっそうるさいからな。すると違法労働で何言われっか分からんだろう。

 

 それにそもそもこんな無茶なスケジュール計算で働いて体が持つわけないしな。今だって睡眠時間2、3時間くらいしか無いみたいだし。そりゃ遅刻も増えるわ。学費の為に必死にアルバイトして結果学業疎かにしちゃあ本末転倒だろう?なら──ーって。あれ?どしたの3人とも。なんか固まってるけど。なんなの?俺今嘗てないくらいシリアスな話してんだけど。

 

「え、あ、いや……サカキンが突然頭良い感じ出してきてちょっと驚いてるというかなんというか。正直さっきのお金持ちってことよりもこっちの方が意外過ぎて呆然としちゃったっていうか」

 

「率直に言って貴方がそういう計算や会話が出来ること自体が違和感を覚えるわ。貴方、本当に榊君よね?」

 

「あたしはなんか見た目がヤクザみたいだし、話し方もなんかこっちを追い詰めるみたいで、アンタが本当に堅気の人間か疑ってるところ」

 

 酷くない!?

 俺めっちゃ真面目に話してたんだけど!!それなのにこの扱い酷くない!?お前らな、俺がいつも陽気なスーパーイリュージョ二ストと思ったら大間違いだぞ!謝って!こんなに真面目に会話した俺に酷いこと言ったこと早く謝って!

 

 

「あ、良かったいつものサカキンだ。ごめんごめん!」

 

「そうね、やはりこっちが榊君ね。疑ってごめんなさい」

 

「や、なんかごめん?」

 

 謝罪が軽い!?

 

 ……や、もういいわ。何か真面目に会話すんの疲れた。で?足りんの?いや、出来んの?

 

「……それは。でも、やるしかないんだよ」

 

 なんだ、流石に無理があることは分かってるのな。良かった、安心したわ。そこまで馬鹿じゃないのね。川崎少年が姉ちゃんは真面目だ、って言うのが本当で良かったよ。

 

「うっさいな。言ったろ、そこらのバカと一緒にすんなって。あたしだって考えてるんだ」

 

「ああ、とても真面目だ。そういう所は俺から見てもカッコイイ。良い女だな、アンタ」

 

「なっ!?い、いきなりなんだよ!」

 

 何って素直な感想ですが。って痛い痛い。ちょ、2人とも俺の耳を引っ張るんじゃない!別にナンパじゃないから!単に褒めただけだから!

 

「駄目だよサカキン、川崎さん困ってるじゃん。いきなり変なこと言うのは良くないよ!」

 

「ここに入店するための口実とはいえ、私達2人を傍にはべらせておいてナンパとか流石ねエロキ君。だけど今は一応依頼中だからそう言うのは控えなさい」

 

 

 人をナンパ師扱いするでないわ。というか褒めただけだって言ってるだろ。実際凄くない?高二でもう親に頼らず自分で学費稼いで大学行こうとしてんだぜ。しかも結構無茶なスケジュール組んで。俺が川崎姉ならたぶん普通に諦めて高卒だと思うよ。頑張っても何年か後に大学入るかどうか。

 

 下手したら親か兄弟恨んでるかも知れぬ。でも川崎姉は恨み言一つ言ってないじゃん?諦めもあるだろうけど、それでも俺は素直に凄いと思う。

 

「……止めろ!なんかそれ以上言われると背中が痒くなる!別に誰かに褒められる様な事じゃない!自分の為に自分で出来ることしてるだけだ!」

 

「良いじゃないか自分の為で。自分の為になる事でも、自分から動ける若者って意外と今少ないんだぞ?」

 

 具体的には前世の俺。仕事で使う資格とか何だかんだ理由つけて手に入れる勉強とかするのめっちゃ遅かった。だから昇進も遅かった。逆に早くにそれが出来る奴は当然早く昇進した。周りにも俺と同じような奴は沢山いたから、きっと出来て当然なものではなく、自ら努力し続けたからこその結果なのだろう。だからきっと川崎姉も凄い女なのだ。うんうん。

 

「〜〜っ!なんなのよ、もう…ッ!」

 

「………」ジトー

 

「………」ジトー

 

 なんか1人で勝手に感心してる間に川崎姉が不貞腐れてるがそれはさておき。後途中から黙り込んでる2人から凄いジト目向けられてるがそれもさておき。川崎少年は姉ちゃん超頭良いって言ってたけど川崎姉は実際どれくらいの成績なの?特別奨学金とか、もしくは予備校のスカラシップとか取れるくらいには成績良かったりするの?

 

「……正直に言えば、結構厳しい。総武は進学校だけあって全体的なレベルが高いし、総合順位で15位より上は取れたことない。……あと、そろそろそれ止めろ」

 

「え、それでも凄くない!?あたし総合順位なんて100位以内にも入ったことないけど!!」

 

「由比ヶ浜さん、貴方の順位はこの際参考にならないから置いておきましょう」

 

 や、普通にかなり良いと思うけど、ここに学年1位を譲らない女がいるから感覚狂うね!でも学費免除みたいなスーパー良い補助は受けられないかもな、それだと。その上更にこれだけバイトしてると勉強してる時間取れないよね。こっから上は難しい。うーん、え、なにゆいにゃん?俺の成績?よく覚えてないな。結構浮き沈み激しいから。

 

「あ、やっぱりそんなもんだよね。良かったー、サカキンがインテリキャラだったらあたしはどうしようかと思ったよー!」

 

「ふ、俺をセツのんや川崎姉と一緒にするでない!俺はもうぶっちゃけ普通に生きてく分には働く必要なんてないのでテストとかノリでやってるのだ!」

 

「いや、それはそれでふざけてると思うけど。……ていうか、それ止めろって言ってるだろ」

 

「由比ヶ浜さん、その男の言葉を真に受けてはいけないわ。その男、本当にテストの点数の浮き沈みは激しいけれど、あくまでノリでやってるからよ」

 

「ふぇ?ゆきのん、それってどゆこと?」

 

「簡単に言えばその男の浮き沈みの上限は1位で、その逆は最下位よ。つまり、腹立たしいけれどやる気になれば私より成績が上になるわ。とても腹立たしいけれど」

 

「え""っっっ」

 

 てへぺろ(´>∀<`)ゝ

 

 ま、まぁほら俺氏チーターですしおすし?テストとかアンサートーカーで1発ですし?ただ俺自身は普通に英語とか苦手なんで本当に頭良い訳では無い。単に答えが分かるだけである。というかまだセツのん根に持ってたんだ。あれからちゃんとセツのんより上の成績行かないように気をつけてるんだけど。え、それがダメ?負けず嫌いってめんどくさいねぇ。

 

 とりあえず涙目でサカキンの裏切り者ー!とかこちらをポカポカ叩いてくるゆいにゃんは適当に波紋式撫でなでで鎮圧しつつ、話を戻そうか。結局どーするかは当人の問題になるけど、川崎少年が割とガチで思い詰めた顔してたので俺としては手っ取り早く金貸すよと言いたい。

 

 ぶっちゃけ寄付にしてもいいんだが、あまり無償でそういうことされても真面目な川崎姉は逆に居心地悪くなりそうだから、無難なところでってうわ、こらやめろブルーキュラソーの瓶でいきなり殴り掛かるでない。いきなりなんだと言うのだ。

 

「人の話を聞け!それ止めろって言ってるだろ!」

 

「は?そんな理由でバーテンダーが客に殴り掛かるとかそっちのがヤバくない?やはり川崎姉はヤンキーやな!やーいヤンキー!ってうお、バカよせ!ジャックダニエルの角は俺でも痛い!」

 

「なら1発当たれこら!っていうか椅子に座ったままでなんで当たんないんだよ!」

 

 ふはははは!女性の中では武闘派の平塚先生ですら俺に一撃も入れられないのにこの程度の動きで俺に当たるわけが無かろう!スロー過ぎて欠伸が出るぜ!ってこら2人とも両サイドから抑えるのは卑怯だぞってうぉぉ!?く、くそう負けるか!まだだ、まだ終わらんよー!喰らえ奥義!いつの間にかピコハン!相手の武器がいつの間にかピコピコハンマーになるぅッ!!

 

「は?そんな訳ないだろ馬鹿か?「ピコッ!」えっ?うわ、何であたしピコピコハンマー持ってんの!?ジャックダニエルは?」

 

 ふ!これが奥義いつの間にかピコハン!この技を使われたものは例外なく皆武器がピコハンになっちゃうのさっ(`・ω・´)キリッ

 

「くっ!この……訳わかんない手品ばっかり使いやがって……ッ!」

 

 ふーはははは!負け惜しみですね!いやーすいませんね勝っちゃって!ところで今どんな気持ちか聞いてもいいですかぁ!?座ってる相手に武器まで持って殴り掛かり、その上2人に協力してもらって身動き封じたのにそれでも有効打与えられなかったとか今どんな気持ち?ねぇ今どんな気持ち?おっ、顔真っ赤ですねー!悔しいですか?ねぇ悔しいですか?悔しいですよね!実は運動神経いいタイプでやればだいたい出来ると思ってそうだもんね!でも残念!現実はそんなに甘くありませーんっ!おお?ちょっと涙目になってきたねその顔可愛いね!泣いちゃうのかな?店員の癖にお客さんに一方的に襲いかかってきて返り討ちにあった挙句泣いちゃうのかな?いいガスって痛っっった!!?

 

「え、今何で殴られたの俺?俺が殴られる理由あった今?っていうかそれディサローノ!?えっ、俺ディサローノで殴られたの!?なんて事するんだゆいにゃん!」

 

「うっさいサカキン!いつも女の子虐めるなって言ってるでしょバカ!もう!川崎さん大丈夫?ごめんねサカキン無神経だから……!」

 

「だ、大丈夫っ!大丈夫だから……!くっ、アンタいつか覚えてろよ…!って不思議そうな顔で後ろ見てんな!アンタだよアンタッ!」

 

 アンタ、さん?私ちょっとロシア人の血が入ってはいますが名前が違うので人違いだと思いますが……あ、ひょっとして知り合いに似てます?いやーよく言われるんですよね!

 

「誰に言われるのよ……というかそもそも貴方、ぼっちじゃない」

 

 失礼な!ぼっちだが言われることもあるよ!俺はよく庭園とかにある龍の髭とかいう草によく似てるって言われる。家族に。

 

「くっそ、何処までもバカにして……ッ!アンタ、名前は?」

 

「名前を名乗る時はまず自分の名前からが礼儀でしょ?そんなことも知らないなんてやっぱりヤンキーなの?やーい川崎姉はヤンキー!」

 

「だから川崎姉じゃない!………はぁ、あたしは川崎沙希。アンタは?」

 

 それはどうもご丁寧に。私は榊 貴一と申します。ちなみにこっちが雪ノ下雪乃さんと由比ヶ浜結衣さんです。あ、知ってる?あらそう。とりあえずよろしくね!

 

「ふん!………で、条件はなんなの?」

 

「あ?……あ、俺から借りる気になったの?無利子無担保有る時払いの催促無しだから安心してね!」

 

「違っ、ま、まだ話を聞くだけだ!話を聞いてから少しは考えるってだけ!……っていうか条件を聞いてんの!」

 

 条件?あ、そういやそんな事言ったかも。しまった、何も考えてなかった。ねぇセツのんセツのん、こういう時ってどんな条件提示すれば良いのかな?

 

「貴方、自分で勧めておいて内容詰めて無かったの?……はぁ、何で私こんなのに負けたのかしら」

 

「ふ、それは俺がチーターだからですね!」(。・ω´・。)ドヤッ

 

「黙りなさい。というか、お金の貸し借りでこの場で適当に決めるとか論外でしょう。後日また改めて話し合いの場を設けるのを私は勧めるわ」

 

 む、それが妥当な所か。じゃあそれで良い?……って、あれ、何でちょっと安心した顔してるのゆいにゃん。

 

「え、いや、大丈夫信じてたよあたしは!サカキンがお金貸す代わりに川崎さんにエッチな事要求したりしないって!」

 

「はっ倒すぞ淫乱ピンク」(´^ω^`#)

 

「榊君、それは流石に外道過ぎて私も警察に通報するしかないわ。覚悟はいい?」

 

「ふぇっ!?あ、アンタそんなこと考えてたのか!?ぜ、絶対そんな条件応じないからなっ!」

 

 いや考えてないし。セツのんは携帯電話仕舞え。淫乱ピンクのピンク色の思考に汚染されてるんじゃないこの思春期JK共が。まぁそういう年齢なのは分かるけど、あんまり妄想を人に晒すんじゃないよこのむっつり少女達。ゴンって痛った!お前2度もぶったなゆいにゃん!親父にも殴られたことないのに!

 

「ぶったがどうした!私は淫乱じゃないって言ってるでしょバカサカキン!」

 

 ふ、淫乱じゃなければ自発的にピンクにはしないんだよ!それはさておき、細かい条件は後に決めるとして、やっぱ体にしよう。あ、めんどくさいから引くなサキサキ。心配しなくてもエロい事じゃないよこのむっつり。あ、むっつりだと逆に残念だった?ごめんねー、期待に添えなくて。

 

「残念じゃないしむっつりじゃないっ!……え、えっちな目的じゃないなら体ってなんだよ!」

 

「ん?これからの夏休みとか長期休暇は茨城の塾で講習受けてもらおうかな。そしてうちの実家の手伝いを頼みたいなと思って。塾の講習費用は借り入れではなく俺が別に出すし、住む所も用意して食事もちゃんと3食出すし、何なら更に別にバイト代も出そう。ただし期間中はあんまり家には帰れないかも。どうだ?」

 

「え、何だそれ。逆にそんなに好条件で良いのか不安なくらいなんだけど。なんの仕事すんの?」

 

「それあたしも思った!……あれ、サカキンの実家の手伝いって?」

 

「確か、農家だと聞いた気がするけれど……榊君?」

 

 それで合ってるよセツのん。いや、2人はちょろっと話したけど俺の実家農家やっててさ。少し前に色々あって周りの農家と関係があまり良くないんだよね。おかげでアルバイトも回して貰えないから、人手が足りなくて、夏休みとか実家帰って俺も家の手伝いとかするんだけど、それでも足りなくてね!人手どうしようかと思ってたんだよね!ただ夏休みとか暑い時期の外の仕事だから、下手したら並のバイトよりも厳しいかも!農業は基本体力勝負の力仕事だからね!

 

「いや、それでも塾の費用とか別途で持って貰えるなら全然良いけど……あれ?住む所はどこになるんだ?」

 

「当然うちの実家だが?大丈夫大丈夫、部屋は沢山余ってるよ!」

 

「ちょっ、サカキンそれって同棲ってこと!?」

 

 人聞きの悪いこと言うでない。ただの住み込みアルバイトだよ。本当は体力ありそうな川崎少年にお願いしたい所なんだが、こっちで夏期講習決まってるって言う話なんだよね。ま、とりあえずそんなもんでどうだろうかね。無理なら無理でも代案考えておくから安心して。なんにせよ金は貸すから。

 

「何でそこまで……?本当に変なことはしないんだよね?」

 

「口で言ったところで信用出来ないと思うけど、しないから安心しろ。というか、そういうことする相手にこんなまどろっこしいやり方しないし。ま、理由はそうだね、良い女に甘いのが男のサガって事で」

 

「分かった……考えておく。返事は何時までに返せばいいの?」

 

 あほ、気が早いわ。まずは具体的な金額やら返済方法やら色々決めることがあるだろ。俺はぶっちゃけなくたって構わないが、こういうのはちゃんと書類に起こしてやらないと、俺がもし気が変わって悪どいことしたら、証拠が無くて泣きを見るのは自分だぞ。セツのんにそういう面倒いの纏めて用意してもらうから、それが出来たら1度部室に来い。細かい話はそれからだな。

 

「うぐ、確かに。……意外と気が利くんだな」

 

「というか、しれっと私に仕事を押し付けないで貰えるかしら?」

 

 俺は元から気が利く男なんで。

 なに、セツのんこんな仕事ゆいにゃんに出来ると思ってんの?え、なぜ俺がやらないか?ははは、俺がやったらそれこそどんな悪どい書類用意するか分からないじゃん?依頼人が被害に遭わないように配慮するのも部長の仕事でしょ?

 

「……はぁ、仕方ないわね。確かに貴方一人にそう言う書類を任せたらどうなるか分からないし、川崎さんを見殺しにするのも弟さんに悪いわ。……でも最低限は働いてもらうわよ?」

 

「え、ちょっ、ゆきのん!?さも当然のようにサカキンの発言流さないで!!あ、あたしだってやればできるよ!?やればできる子なんだよ!?」

 

「ははは、仕方ないね。部長に仕事押し付けてやろうと思ったのに。ま、元は俺が出した話だしね」

 

「そうよ、責任取りなさい」

 

「2人とも!?なんで無視するの!?……ちょ、ほんとに出来るってばー!」

 

 ははは、ゆいにゃん、嘘はダメだよ?ははは!

 

 ま、とりあえず今日のところはそんなもんか。じゃあ小難しい話は無しにして、せっかくだしもう一杯くれ。2人はどーする?

 

「う〜っ!もうっ!サカキンのバカっ!サキサキ、あたしにもお酒!あたしも飲んでみたい!」

 

「よしなよ由比ヶ浜。アンタ弱そうだし、適当にノンアルカクテルだしてあげるからそれで我慢しときな。雪ノ下、アンタは?」

 

「……そうね、同じの貰えるかしら」

 

「レゲエパンチね、了解……って、今気づいたけどいつの間にかピアノ止まってる?何かあったのか?」

 

 あ、ごめんごめん、金の話するからね、他の人間に見せるのも聞かせるのも良くないからね。ここに来る客が金に困ってるとも思えなかったけど、念の為にね。ちょっと待って。

 

「は?榊、アンタ何言って「パチンッ」っっ!?!?ええっ!?ピアノの音が!?なんで!?」

 

「ふ、イリュージョンッ!」(`・ω・´)キリッ

「もうサカキン何でもありだよね」

「川崎さん。この男のする事に驚くだけ時間の無駄よ」

 

 なんでこの2人はこんなに冷たいのか。最初の頃の新鮮な反応はどこへ行ってしまったんだい?え、毎日見てれば飽きる?それもそうね!

 

「……なんかよく分かんないけど、アンタがなんかしてたの?なんだ、こんな所で周りも気にせず大金出すくらいだからよっぽど危機意識無いのかと思ってたけど……?」

 

「俺は信頼出来そうな人間にしかこういう事はしない。ま、初対面のサキサキにしたのは、真面目そうだし、説得には現ナマあった方が分かりやすいし、あと川崎少年の頼みでもあるからだけどな」

 

「あっそ。……っていうかそれなら横の2人は良かったの?」

 

「なにが?あ、ひょっとしてこの2人が大金見た程度で何かすると思ってる?ははは、今言ったろ?……俺は、信頼出来る人間の前でしかこういう事はしないんだよ」

 

「……そ、仲良いのね。はい、カミカゼお待たせ」

 

 まぁな。なんたって我々は……あれ、なに?2人とも。どうかした?何か顔赤くない?酒飲んでないよね?

 

「んんっ……何でもないわ」

 

「そ、そうそう!何でもないよサカキン!」

 

「ふーん?なんだ、あってんじゃん」

 

 何かよく分からんけどまぁいっか。そういやふと思ったんだけど、もう零時回ったんだけどゆいにゃんどうやって帰るの?家に帰るならタクシー代出すけど?

 

「や、大丈夫!今日はゆきのんち泊まるから!それにゆきのんの作るご飯も美味しいんだよ!サカキン知ってた?」

 

 知るわけないだろ。というかゆいにゃん自分で作るという選択肢は無いの?あ、たまに一緒に作ってるんだ。そっか。え、食材のカットと米とぎ?……お、おう。大変だな、セツのん。

 

「少しずつは上達してるもの。最初のクッキーの時に比べたら今は普通に食べられるだけずっといいわ」

 

「そーだそーだ!あたしだって成長するんだよサカキン!何なら今度お弁当作ってあげよっか!?」

 

 じゃあ任せた。美味しいお弁当よろしくね!

 

「……へっ?」

 

 何固まってんの?上達したんでしょ?じゃあたまには良いじゃん。何時も俺が君らに作ってばっかだし。女子の手料理食べたいし。期待して待ってるよ!

 

「……榊君、酔ってるの?」

 

「この程度で俺が酔うか。単純に、たまには誰かの手料理も良いなってだけだよ。最近は俺が作ってばっかりだしね。……自信ないなら無理にとは言わんが」

 

「……や、やるよ!大丈夫、めっちゃ美味しいお弁当作ってあげるから!期待しててねサカキン!」

 

「どうしようセツのん。急に不安になってきた」

 

「なんでよ!?」

 

「骨は拾ってあげるわ、榊君」

 

「ゆきのんまで!?」

 

「あははははっ!本当に仲良いねアンタ達。ま、あたしも話聞いちゃったから胃薬位は用意しといてあげる」

 

「サキサキまで!?」

 

 ははは、正露丸だけじゃ突破されることが確認されてるから、2つくらい頼むわ。……ま、たまにはこういう夜も良いよね。うん。

 

 

 

 この後結局遅くまで大人な世界を楽しんだよ!

 

 

 ◻️◻️

 

 川崎 沙希

 

 

「いやー、凄かったねぇ。川崎さんの大学の友達だっけ?あの子達」

 

「は、はぁ。まぁそんな感じです」

 

 実際は高校の同級生だが、それを言う訳には行かないので、職場の先輩の話に適当に相槌を打つ。この人は気さくなのはいいのだが、口より手を動かして欲しい。この店で働いてるとは思えないほどチャラいのは仕方ないけれど、仕事はちゃんとしてくれないと困る。

 

「凄いよねー!あの男の子、最初は凄いの来たな!って思ったけど、まさか川崎さんと同じ19歳とは思わなかったよ!それでウチの会計、ポンと払っちゃうんだもんなぁ。可愛い子を2人も連れてるだけあるよね!よっぽど裕福な家の子なんだなあ」

 

 気持ちは分かる。確かにあれはヤクザにしか見えなかったし、同い年であんな大金持ってたらあたしでも金持ちのボンボンだと思う。つーか普通はそうであるはずだ。だから、あの歳で自分で一定以上の稼ぎがある、というのはかなり異常だと思う。それもエリートサラリーマンの年収よりも稼いでるとか、頭がおかしい。

 

 ……だからだろうか。

 

 自分でも途中からは気付いてた。いつの間にかあの男には誰にも話さないつもりだったことをペラペラ喋っていたのを。成績に始まって、見ず知らずの人間に借金をするとか、普通じゃ有り得ない。冷静に考えればおかしい筈だ。なのに、何故かあの男を思うと不思議と私は話を受けてもいい気になっている。

 

 無利子無担保有る時払いの催促無し、なんて、いくらお金持ちだからって普通じゃない。それこそ身体を要求されてもおかしくない気がするのに、何故かアイツはそんな事しない気がしている。アイツの異常性に危機感が麻痺してるのだろうか。そうだとするとあまり良くない状況だ。

 

「それよりも驚いたのは川崎さんだけどね!普段の川崎さんってクールな印象だったけど、友達の前だとあんな風に笑うんだね!」

 

「……えっ?」

 

「えっ、何驚いてるの川崎さん!驚いたのはこっちだってば!普段大人びてる川崎さんがすっごい楽しそうにしててさー。あ、でも気を付けなよ?チーフは少し難しい顔してたから。僕はすっごいいい笑顔だなと思ったんだけど、店の雰囲気に合わないからってさ!チーフは頭硬いよねー?」

 

 楽しそうに笑ってた?あたしが?……そう言われれば最後の方は普通に笑ってた気がする。いやいや、当たり前だ。あたしだって人間だ。普通に笑うことだってある。だから別におかしなことじゃない。

 

 ……あれ?では何に驚いたんだあたしは。驚くような事じゃないのに。

 

 ……止めよう。今日は色々あり過ぎて頭が混乱してるんだきっと。それにここ最近は身体に疲れが溜まっている気がする。そうだ、早く家に帰って休もう。どうせ数時間しか寝れないけれど、少しは寝ないと流石にもたない。まだ一月目だ、この程度で倒れてたらこの先どうなるか分からな……

 

「……駄目だ。弱気になるな、あたし」

 

「えっ?ごめん今なんか言った?」

 

「いえ。なんでもないです。それより、終わったのであたし帰りますね。お先に失礼します」

 

「え、あっ、もう?あ、ちょ待って!今度の休み一緒に──」

 

 自分の仕事は終わったので、あたしはさっさと帰ろうと思った。後ろから先輩が何か言ってたが、自分の仕事は自分でやってもらうことにした。

 

 タイムカードを切って、女子更衣室に入る。女性スタッフはもうあたしだけだ。早く着替えて出なければ。そんな事を考えて、先程頭に浮かんだ気持ちを振り払う──ー………!

 

 ……駄目だ。どうしても暗い気持ちになる。考えないようにしていても、どうしても考えてしまう。

 

 本当は分かってる。自分が思っていた以上に、今の生活はキツい。こんな生活をしながら、勉強なんて出来る気がしない。アイツの言う通り、自分の行きたい大学は結構な難関だ。下手したら今の時期から勉強を始めた方がいい。今のバイト止めて来年も勉強しながらバイト、なんて真似したら絶対落ちる。浪人なんてしたら余計に無駄な金が掛かる。だから1発合格以外にチャンスは無い。その為にもちゃんと勉強に専念する時間が必要だ。だから今こうして必死にバイトしてる。けど、そのバイトをやり切れるかどうかが分からない。まるで綱渡りだ。ゴールは見えている。たった数ヶ月後だ。けれど今にも落ちてしまいそうだった。

 

「だから、あんな話がこんなに魅力的に見えるんだろうか。あんな、胡散臭い話……」

 

 そうだ、胡散臭い。あの時は思わず大金に目がくらんでしまったが、普通に考えて普段話もしない人間に数百万もの大金を貸す?無利子無担保有る時払いの催促無しで?有り得ないだろう。ニュースでこんな話に食いついて騙されたバカが居たらあたしは心底バカにする自信がある。なのに、今のあたしは思わず乗りそうになっている。バカなのかあたしは。

 

 でも、だとするとアイツの目的が分からない。部活だとか言ってたが、そんな理由で人に大金を貸す人間がいるだろうか。いやいない。大志の事だって1度しか会ってないらしいし、口実だろう。だとすると何だ?株とか電子マネーが嘘だったとしたら、アイツがどうやって稼いでるのか分からないけれど、見せ金にしたってあれだけ稼げるならあたしみたいな貧乏人を借金漬けにしてどうこう、なんて無駄な手間でしかない、と思う。とするとやはり私の身体が目的?

 

「それにしては雪ノ下も由比ヶ浜も何もされて無さそうだったし……」

 

 そう。あの二人は最初アイツの女かと思っていたが、見ている限りでは本当に違うみたいだった。まぁ、それはあくまでアイツだけの話で、由比ヶ浜と、意外なことに雪ノ下もアイツには何かしらの感情があるのは見て取れた。たぶんきっかけがあれば泥沼になる気がする。

 

 だからこそ疑問だ。自分の見た目がそれなりに異性を惹き付ける自覚はあるが、かと言って傍にあの二人が居てわざわざ大金かけてまで私を狙うだろうか。他の同級生の男子みたいに胸に視線が1度も来なかった程度には、あたしはあの男からの執着を感じなかったし、あれだけ稼げて、見た目が怖い事を除けば顔立ちだって整っている。おまけに身長も高い。それでもあたしに拘る理由があると思えるほど、あたしは自意識過剰にはなれなかった。

 

「駄目だ、考えれば考えるほどどつぼにハマってる気がする!本当にもう帰ろう!」

 

 ボタンを外す途中で止まっていた手を急いで動かし、サッと着替えてロッカー閉める。バタン、と大きな音がなってしまった。少し力を込めすぎた、と思ったが、それよりもロッカーの上から衝撃で本が落ちてきてあたしの頭に直撃したのでそれどころじゃなくなった。

 

「〜〜っ!痛っった……ちっ、ツイてない!」

 

 自業自得だが苛立つ。それをグッと堪えて落ちた本を拾う。だいたい何でこんな所に本を置いておくんだ全く。と、苦々しく思っていると、ふと本の表紙が目に付いた。

 

「なにこれ、カクテル言葉?……花言葉みたいなアレか」

 

 そう言えばチーフに研修の時少し教わった。流石にあの当時は覚えることが多くて全部覚えきれなかったが、お客との話の種になるから少しは知って置いて損は無いとか何とか。確かにこの職場は基本的に静かな客が多いが、たまに蘊蓄好きの客もいて、どこそこの酒がどうとか、賢しげに語ってたりする。そういう時、こちらもある程度話が出来ないと駄目なんだとか。幸いカクテル言葉はまだ誰にも語られた事は無いけれど。

 

 正直なことを言えば、歳を誤魔化してるのもあってあまりお酒は好きじゃなかった。多少飲めない事は無いが、良さが分からないからお客にどれがいいか聞かれた時に、簡単に説明できる程度にマニュアルを覚えただけだ。それで何だかんだこれまで働けてるから問題も無いと思う。

 

 そんな事考えながら、何となく本を捲る。特に勉強しようとか、興味があった訳ではなかった。本当になんとなくだった。ペラペラと適当にページを捲りながら、流し読み。覚える気は別に無かった、それなのに、とあるページで手が止まった。

 

「カミカゼ?あ、アイツやたらこればっかり飲んでたな。そんなに美味しいもんなの……か?」

 

 いや。いやいや、そんな。流石にこれは偶然だろう。ちょっと出来すぎであるし。というか、カクテル言葉って飲む方に意味があるの?っていうか、アイツはそんな事一言も………。

 

「そう言えばあたし、2年に上がってから家以外で笑ったの初めてかも」

 

 そうだ、1年の終わり頃に両親と話して、それから自分の将来のことを考えたらとても拙いことに気付いて、何とか高給のバイトに入れたと思ったら、バイトと学校両立させるのに必死で……気が付いたら、周りの連中がなんの苦労もなく学校生活を送っているのが腹立たしくなってて。

 

 そんな事誰かに当たっても仕方ないから、見ないようにしてた。関わってる暇も無かったし。そんな状態だったから、高校に友達なんか当然いない。元々口下手な方だし、1年の頃も友達なんか数える程度だったから、2年に上がってすぐ独りになった。それを今まで気にした事も無かったけど。

 

 ふと、何も気にしないで勉強していた中学時代を思い出した。あの頃は友達も結構いた。けれど同じ中学から総武に入った人には仲のいい友達はいなかった。仕方の無いことだ。自分の選んだ進路に後悔は無い。

 

 ………なのに、何故あの3人が居た時間を楽しかったと感じてしまうのだろう。

 

 

 あんな喧嘩みたいなやり取りしてた筈なのに、気が付いたら最後には私も笑ってた。お金の話が終わった後は、ほとんどくだらない話ばかりだった。普段ならそれこそ馬鹿な連中だと切って捨てて、さっさとその場から立ち去った。今日だって他の仕事を口実にあの場を少し離れていれば彼らも帰ったかもしれない。でも、それをしなかったのは何故だろうか。ひょっとして、その時間が終わるのが惜しいとでも思ってしまったのか。それでは、それではまるで……!

 

「あたしが、寂しがってたみたいじゃないか……っ!」

 

 バカバカしい。あたしはそんな弱い人間じゃない。それこそくだらない。こんな事を考えるなんて、本当にどうかしている。ああもう!それもこれもアイツが変な事ばかり言うからだ!だから最後にあたしもおかしくなってしまったんだ!そうに違いない!

 

 ──あんた、良い女だな。

 

 

「〜〜〜ッッ!!やっぱ1発思いっ切り入れときゃ良かった……!」

 

 唐突にアイツのヤクザにしかみえない顔と、思いの外優しい声がフラッシュバックした。こんな事を思い出してる時点で疲れてるに違いない!きっとそうだ!早く帰って寝よう!

 

「………ふん」

 

 もう一度だけ本を見る。そこには、とあるカクテルのカクテル言葉が書いてあった。とてもキザったらしいその一文をもう一度読んで、投げ捨てるようにロッカーの上に置いて、直ぐに更衣室を出た。

 

 まだ残っていたチーフに一言挨拶して、そのまま店を出る。ホテルのエレベーターに乗って、駐輪場のある地下駐車場へ。自転車に乗ってそのまま外に出ると、外がもう白んでいた。すっかり慣れてしまったが、まだ明るいうちに店内に入って、休憩中もホテルの外には出ないので、夜を飛ばしていきなり朝になったようなこの感覚は、結構な疲れがどっと来る。きっと過ごした時間を一気に自覚するからだろう。

 

 頭を振って気持ちを切り替える。早く帰らねば、と思い直した瞬間に、やらかした。

 

 何も考えずにそのまま道を渡ろうとしてしまった。半分無意識に青信号だから動いた。だがここの信号は困ったことにこの時間は結構危険なのだ。

 

 朝方だから人がほとんど居ないのをいい事に、大型トラックとかがたまに信号無視をするのだ。だから、信号が青になっても油断せずに車がいないか確認しないと、猛スピードのトラックが赤信号で止まることなく突き進んでくる。本来車の方が歩行者に配慮すべき筈なのだが、この時間の一部大型トラックは歩行者が配慮しろ、と言わんばかりだった。

 

 だから普段は気を付けている。

 

 だが今日は忘れてしまった。

 

 なるほど、こんな風に人は事故に会うんだな、と。何処か冷静に、鳴り響くクラクションと目の前に迫る大型トラックをあたしは見ていた。足は竦んで動かなかった。

 

 これは死んだかも知れない、せめてもの抵抗で、目を瞑った。その程度の事しか出来なかった。

 

 そして、止まることなく大型トラックがあたしにぶつかって──ー!

 

 

 

 

 轟音。

 

 

 

 とても近いところで、大きな何かがぶつかったような音。ああ、すごい音だ。これが自分の体の音だと言うのなら、やはり助からないだろう。そんな確信があった。せめて顔だけでも綺麗なままだと良いんだけど。家族が悲しむから。

 

 一瞬の浮遊感。気が付いたら身体が横向きになって居たのが分かった。ああ、知らなかったな。大型トラックに撥ねられると痛過ぎて痛みを感じないんだ。そんな事知りたくもなかったけど。

 

 てか凄い、ほんとに全然痛くない………ってあれ?

 

「焦った。今のは本当に焦った……!ま、間に合って良かった…!ギリギリっ!本当にギリギリっ……!」

 

 ふと上から声が聞こえて、恐る恐る目を開ける。すると目の前にはとてもおっかない顔したヤクザみたいな同級生の顔があった。冷や汗をダラダラ流しながら何事か呟いているが、あたしは何が起きたか理解出来なかった。

 

「………ふえっ?」

 

 自分の口から馬鹿みたいな言葉が漏れた。でも仕方ない、それぐらい意味不明だったのだ。だって、あたしは今確かにあの大型トラックに撥ねられたと思ったのに、気が付いたら同級生に横抱きにされてるなんて……横抱き?

 

 

「ふえぇっ!?な、なんで?ていうか何コレ!?」

 

「うおっ!?わ、待てコラ!暴れんな!今降ろすからとりあえずちょっと落ち着け!」

 

 いや待ってあたしそういうの考えたこともないっていうか憧れた事はあったけどいきなりは無理っていうかこんなに突然になってもぜんぜん受け入れられないっていうかもうちょっとムードが欲しいっていうかやり直しがしたい!

 

「何言ってんだお前!?待て、落ちるから!ていうか落とすから!だから暴れんなー!」

 

 ◻️◻️

 

 

 くっそ焦ったでござる。

 

 川崎少年の依頼でサキサキに会いにすごい感じのバーみたいなとこ行って、やたら綺麗に決めたセツのんとゆいにゃんと3人でサキサキを説得して、その後は大人の雰囲気を楽しむというか、背伸びして遊んだというか、まぁ俺は前世を思い出しながら酒飲んでただけなんだけど。とにかくこう、ちょっと悪い遊びみたいな気分で楽しんだ後、気が付いたら俺の酒1口飲んでたゆいにゃんが顔真っ赤になってたので慌てて会計済ませてゆいにゃん連れてセツのんと店を出た。

 

 その後はタクシー拾ってマンションまで戻り、ゆいにゃん背負ってセツのんの部屋まで行って、そこで2人と別れた。それで自分の部屋に帰ると、俺のベッドで静さんが寝てたので、起こさないように着替えてたら、そう言えば日課のトレーニングを忘れてたことに気が付いた。

 

 アンサートーカーで失敗したので、波紋にせよスタンドにせよ、使いこなせるようにトレーニングはなるべく欠かさないようにしている。なので気がついてしまったらやるしかないと、翌日の授業はサボることも視野に入れて、朝ごはんの準備だけ済ませたら、トレーニングウェアに着替えてランニングに出た。

 

 時間が時間なのでいつもよりペースを早めて走ってたら、ふと長い水色の髪が見えて、ああ、サキサキこんな時間までバイトしてるのか。そりゃ川崎少年も心配するよなぁ、なんて呑気なこと考えてたら明らかに信号で止まる気のないスピードで大型トラックが走ってきた。正直危険運転だが、これだけ見通しが良ければ流石に気付く。まぁ大丈夫だろう、と思ってたら横断歩道の信号が青になった瞬間フラフラとサキサキが進み出して唖然とした。どうやらかなり疲れて居たんだろう。

 

 ぶっちゃけあと2秒俺の意識が戻るの遅かったら助からなかったかもしれない。俺のスタンド能力は時間の巻き戻しが出来るが、死者は蘇らない。死んでなければ何があっても助けられる。だがあのスピードの10tトラックに撥ねられたら即死でもおかしくない。そうしたら俺に出来ることは死体を綺麗な状態にしてやる事だけだ。

 

 なので慌てて時を止めて俺だけ加速してトラックを全力で蹴り飛ばし、その反動でサキサキ拾って歩道に戻った。思わずトラックぶっ飛ばしちゃったけど、トラックがサキサキに既に触れて居たから仕方ない。スーパーギリギリで、まだ皮一枚触れたばっかり、という所だったので、念の為サキサキの時間を少し巻き戻したけど、多分しなくても平気だったかもしれない。間一髪には変わりないけど。

 

 トラックの運ちゃんは仕事熱心なのは分かるけど、赤信号無視したのは運ちゃんが悪いと思うので、トラックが壊れたのは自業自得と思って諦めて欲しい。そうでなかったら人一人殺してた訳だし。運ちゃん自体は空間防御張ったから多分無傷の筈だ。うん。

 

 

 そんな訳で意識が戻って暴れ出したサキサキを1度降ろした後、落ち着くまで波紋式撫でなで。ついでキュアボイスも使って完全に鎮静化した。

 

 それが済んだら念の為痛いところ無いか確認する。まぁ俺が巻き戻しかけてるからあるはずないんだけど、それから不注意を軽く説教した。流石に死にかけたからか割と大人しく聞いてくれたのでサッと切り上げて、トラックと一緒に木っ端微塵だったサキサキのチャリをイリュージョンとか言って直す。そして携帯で警察と救急車を呼んだ。

 

 この時点でサキサキは家に帰そうと思ったのだが、何と当人が大きくひしゃげたトラックを見たあたりでようやく死にかけた事を実感してしまったらしく、気が抜けたというか腰が抜けてしまった。

 

 タクシーで帰しても良いが、そうするとチャリを直した意味が無い訳で。本人も自転車が無いと通学にもバイトにも困ると言うので、仕方なく俺がサキサキを後に乗せて、サキサキ自転車を運転してサキサキの家に帰っているところだ。なんかサキサキがゲシュタルト崩壊しそう。

 

「……その、色々、ありがとう。助かった」

 

「別にいい。でも次はマジで気を付けろ。普段はこの時間には走ってない」

 

「……分かってる。あたしだって、死にたくないし」

 

「ならいい。それと掴まるのはいいが、少しくっつき過ぎだ。さっきまで走ってたばかりだと言っただろう。汗まみれになるぞ」

 

 なお汗臭いのはもうどうにもならん。乗せる前に時間巻き戻すの忘れたし。面倒だから我慢してもらった。タクシーを嫌がったサキサキが悪い。たぶん。

 

「…別にいい。それに、腰に力入らないからこうしてないと、落ちそうだし」

 

 そうか。ならいいけど。……まぁ俺のスタンドが臨戦態勢でサキサキ落ちても大丈夫な様に見張ってるんだけど、そんな事言われてもって話だしな。

 

 俺はもう何も言わず、無言で背中に抱きつく彼女の感触を楽しむ事にして、ペダルを踏み込んだ。

 

 

 

 

 ……なお、サキサキは結局家に着いても腰が抜けてたので、彼女を背負ってインターホンを押したら、着替えた時にこの後どうせ汗かくならシャワーは後でいいやって後回しにしたことが災いして、ヤクザが娘を連れ帰ったとサキサキの両親がゴルフクラブを持って現れ。髪の毛上げてたせいで寝惚けた川崎少年も俺に中々気付かずに結構な時間無駄に修羅場になった。

 

 

 何とか抜け出した頃には6時を回っていて、仕方なくトレーニングを切り上げて空間転移でマンションの自室に戻ったのだが、風呂に入る前に起き出して来た静さんに遅いと怒られながら捕まった挙句にゆいにゃんとサキサキの匂いを察知されてしまい、またしても嫉妬モードに入った彼女に首筋とそのまわりにキスマークと言うにはあまりに毒々しい真っ青な跡と、幾つもの血が滲む歯型を付けられてしまったのだった。

 

 

 ………不貞腐れて部室でずっと授業サボってた俺は多分悪くない。

 

 

 続く。

 

 

 

 

 

 

 




エロはいついかなる時もぶっ込んでいくスタイル。最初が最後にきて、次が初めの方。そして今回が真ん中らへん。これで次からはどこに来るかは真に気分次第じゃ!

なお、カクテル言葉は興味がある方だけググって下さい。

恒例の登場人物紹介

・榊 貴一
神様転生系チーターオリ主。
普段はモサモサだが髪の毛を上げるとヤクザ顔。
ベッドの上でもヤクザ。
電子マネーで稼いだ金額は宝くじの20倍くらい。
好きな子は虐めちゃう小学生男子みたいな男。
色々なトラブルに巻き込まれるが、綺麗な2人女の子連れて高級ホテルに行くくらいにはリア充なので自業自得。
平塚先生には無茶苦茶甘い。

・雪ノ下 雪乃
ドレスとか普通に何着も持ってる上流階級。
オリ主の顔はヤクザだと思うけど何故か嫌いじゃなかった。
何気にゆいにゃんが頭撫でられてた時自分は撫でられなかったのが不満だったので後日ゆいにゃんが居ないところでオリ主に撫でさせたりしたらしい?
オリ主が金持ちなことには「こいつ、相変わらず無駄に有能だな腹立つ」くらいにしか思ってない。

・由比ヶ浜 結衣
さすがにドレスとかは持ってない一般階級。
念願のオリ主の顔が見れたが怖すぎて作り物かと思った。
綺麗なカッコでオリ主と大人な空間に行って夢見心地だったが、目の前でオリ主がサキサキばっかり褒めるので内心イライラしてた。
でもオリ主がお金持ちだと知ったとき、信頼してるって言われて一気に超ご機嫌になった。
オリ主が金持ちなことには「サカキンと結婚してもお金には困らないんだ……えへへー」と未来の事を妄想するのに忙しくて良く考えてなかった。
一瞬の隙を突いてオリ主の酒を飲み、間接キスに成功するもアルコール耐性ゼロだったので直ぐに落ちた。朝起きたときオリ主に背負われた事を知ってチャンスを逃したことに愕然とした。
オリ主の弁当はすっごい頑張って作った。

・平塚 静
優秀な国語教師にしてオリ主とゆいにゃんの担任。
同時に生徒たるオリ主にガチで手を出すヤバい奴でもある。
ドMにしか見えないが、ドMにもなれる、が正しい。
オリ主から他の女の匂いがすると病んで面倒くさくなる。しかしオリ主はそんなとこも好きなのでなんだかんだイチャイチャしてる。
良く考えたらサキサキが居る場所にオリ主と一緒に行ける訳ないと後で気付いてスーパー荒れた。オリ主の肩に歯型を3個増やした。

・川崎 沙希
川崎少年の姉にして髪の毛が青い不良娘
だが態度はともかく根は凄い真面目。
でも中学生時代は優等生だったとは思えない口調。
オリ主に怪しい取り引きを持ちかけられた。
オリ主に川崎姉、と呼ばれてイラついた理由は自分でもよく分かってない。
日々の忙しさから、本人も知らず知らずのうちにストレスを溜めて居たが、何故かオリ主達と絡んでたら少し気楽になって戸惑い、そんな時に死にかけて恐慌状態になり、そこでオリ主に波紋式撫でなでとウィスパーキュアを掛けられて鎮静化した。あれ?これ誰かと似てる気がする。
この後、カクテル言葉を勉強し始めた。
オリ主が初めて原作と同じあだ名で呼ぶ人でもある。

・川崎 大志
真面目で評判の川崎沙希の弟。
通称川崎少年。
寝起きはそこまで良くない?
寝ぼけ頭でオリ主の顔見て誰だこいつと素で思った。
声を聞いても直ぐには気付かなかった。
オリ主が姉の命を救ったと聞いてこの後土下座した。

・サキサキの先輩
チャラい。必殺技はごめんなサイクロン。
だが外面は完璧なので高級ホテルの高級バーでも働ける。
最大6股。
サキサキを狙ってたが、口説くために仕事サボってた所をチーフに見つかってぶちギレられた。反省はしていない。
この後ちょろちょろのちょろ、と背後霊たくさんの女の子口説こうとして心霊現象にあった。
口調は場所によって変えてる。

・チーフ
クソ真面目。
自分の働く店にこだわりのあるフリーター。
御歳42歳。

・川崎家両親
子沢山で今もラブラブ。
しかしハッスルし過ぎて貧乏暇なし状態。
大学は行かせてやれないけれど娘は超絶愛してる。
なので例えヤクザが相手でも娘に手を出すならば容赦はせん!と父親のゴルフクラブ二刀流、2人合わせて四刀流!と言ってオリ主を倒そうとしたがサキサキ背負ってたオリ主に1発も掠らせることもなく体力切れで敗北した。
その後娘と息子の話を聞いて全力で土下座した。
サキサキに似てというかサキサキの親なので根は真面目で面倒見の良い、人としてよく出来た人達。
だがしかしその後の娘の様子に父はそわそわと不安そうに、母はアラアラと楽しそうにしてるという。



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12話

久しぶりにエロ虹漁ろうと思ってRー18のランキング見たら月間1位にこの作品あって笑ってしまった。皆俺ガイル好き過ぎでしょww

それはさておき、皆さん色々な感想やら応援コメントやら、そして誤字報告。本当にありがとうございます。俺ガイルアニメ2期の再放送が終わったのにまだこの小説を書いているのは皆さんのおかげです。この場を借りて感謝を。


それはそれとして転職に成功したのでしばらく更新速度激落ちくんすると思います。何ならそのままエタる可能性もあるのでその時は諦めて下さい。

そして作者に文章を纏める能力がないことが発覚しました。全然25000字以内で収まらなかったので気を付けてください。


 どうも、貴一です。神様転生者です。

 やっぱり犬は日本犬が好きです。

 

 

「ではここに判子を貰えるかしら」

 

「分かった。………ねぇ、本当にこれでいいの?」

 

 なにを今更。別にいいってば。無利子無担保だって初めに言ったし、その時点で保証人なんて居てもいなくても一緒だよ。サキサキに踏み倒されたら俺の見る目が無かったって事で構わぬ。

 

「そんな事するか!……何年かかっても、絶対返す」

 

「ならそれでいーじゃん。それに、もうこの内容でセツのんが書類作ってくれたんだし、今更俺が文句言うことは無いよ」

 

「でも、こんな…あたしばっかり得する内容で、榊に利益なんて全然無いじゃん」

 

 そうか?農作業はかなりハードだぞ?俺としては実家を手伝ってくれるだけでもう別にいいと言うか。

 

「それだって塾の講習優先じゃん。あたし、朝と夕方に少しずつ働くだけで、学費も講習費用も食事もバイト代も出して貰ってるのに……やっぱりもっと講習期間減らした方が!」

 

 要らん要らん。両親にはこの間最新のトラクターとアタッチメント買い与えたばっかりだしな。ちょっと手伝ってくれれば後は俺がやるし。本当に気にするな。

 

「でも……!」

 

「無駄よ川崎さん。その男は絶対にこういう事では引かないわ。諦めてなるべく早く全額返済出来るように頑張りなさい」

 

 そういう事ですね!運が良かったと思って後は勉強頑張りなさいな。誰にでもする訳ではないし。とゆーわけでとっとと判子を押すがいい!

 

「……分かった。ありがとう。……でも」

 

「ん?」

 

「この恩は、絶対返す。……待ってて」

 

 ははは、真面目だねぇ。ま、期待して待っているよ。では確かに。ではこちらの方は俺が。そちらは自分できちんと保管よろしくね。

 

「ではこれで無事に契約終了ね。もうお金は受け取ったのだったかしら?」

 

「ああ。……聞いてたよりもずっと多く入ってたけど」

 

 いや俺サキサキがどこの大学行こうとしてて、そこの進学にいくら掛かるか知らんし。まぁ一千万入れたし、流石に足りるんでない?余ったら留学とかそういうのしたくなった時とかにでも使えば?どうせ使った分は返してもらうって契約だし。あ、逆に足んなかったら言って!

 

「いや、これで足りないような大学、進学候補に入れないから」

 

「もはや裏口入学が出来そうな金額ね……はぁ、まぁ貴方のお金の使い方に口出しする気は無いけれど、お金の事でやりすぎはあまり良くないわよ?」

 

 わはは、権力者が贔屓するのは良くないが、一般人が誰かを贔屓するのは自由だからな。なんの問題もあるまい!俺は美人には甘い男だからな!ぬははは!

 

「びっ!?〜〜ッッ!と、とにかくありがと!今日は予定あるから、もう行くっ!」

 

「ああ、行ってらしゃい。またな」

 

「………うん、また」

 

 控えめな声でそう言った彼女は、何故か名残惜しそうな顔で一度こちらを振り返り、何かを振り切るように頭を振って部室を出ていった。……飲み物だけじゃなくてお菓子も出すべきだった?

 

「そんな訳ないでしょう。……1週間前とは別人のようだわ。一体何したのタラシギ君?」

 

 特に俺自身は何もしてないと思うが。強いて言うなら腰を抜かした彼女を背負ってインターホン押したら、彼女の両親に誤解されてゴルフクラブで殴り掛かられただけだよ。というか俺がタラシだったらセツのんとゆいにゃん口説いてないの不自然じゃね?

 

「一千万ほぼ見返り無しで貸してる時点でダウトでしょう、それ。……私を口説きたければ命を賭ける事ね?」

 

 ははは、命を賭けて口説くくらいの価値はまぁ有りそうだな!ま、気が向いたら挑戦しよう。それはそうと、セツのんも色々ありがとね!お疲れ様!

 

「ええ、お疲れ様。まぁ、元は奉仕部としての依頼だから当然の事だけれど……分かってるとは思うけれど、本当は専門家を間に挟むべき事よ?」

 

 分かってる分かってる。というかもう挟んだ。じゃなきゃサキサキは出元が不明の怪しい金で受験したことになってバレたら大変だからね!この書類はあくまで俺とサキサキの間で取り交わした個人的な約束だよ。どっちかが約束破ったってなんの効力もないのさ。

 

「……はぁ。そんな事だろうと思ったわ。どうせ川崎さんが気にすることの無いように、ご両親の方を説得したんでしょう?」

 

 てへぺろ(´>∀<`)ゝ

 

「……流石に甘すぎだと思うけれど、寧ろご両親もよく得体の知れない貴方の説得に応じたわね?」

 

「ははは、それは不幸中の幸いってヤツかね?ま、これで川崎少年も高卒にならずに済むだろ。……あの家、さらにまだ下に子供居るからな」

 

 実は、サキサキをギリギリ救出に成功したあの日、彼女を家まで送った時に色々あったが彼女の両親にとそれなりに打ち解けることに成功したので、思い切って事故になりかけた理由とか、川崎少年の思いとか、色々な話を本人達に内緒でご両親に打ち明けて、ついでにこちらからも色々な話をしてみた。

 

 その結果、軽い紆余曲折を経て、サキサキは無茶な深夜バイトを辞め、俺からの借入を受ける決意をした。そして両親には専門家を間に挟んで、俺が初めに言った通り、無利子無担保有る時払いの催促無し、ついでに保証人も返済開始期限とかも全部無しのほとんど寄付みたいな条件を保証した書類、ようは返済しなくても大丈夫な事を証明する証拠を作って渡してきた。というか恐縮する両親無視して押し付けてきた。俺から両親に頼んだことは、この件の口止めだけだ。

 

 これでもし何かあってサキサキが返済する事が出来なくなったとしても、彼女には返済義務が無いことになる。ま、本来はその辺しっかり取立てる方がいいんだろうが、あの子真面目だからね。下手するとそれで潰れそうだし、それが原因で潰れられたら何のために助けたか分からんし。それに何事も無ければ彼女はちゃんと返すと思うし。……この世界では原作の方法じゃ少し無理があったしな。別に良かろう。

 

「そんな所まで?……お人好しにも程があるでしょう」

 

「奉仕部のやり方としては外れてたか?」

 

「そうね。……でも、他に有効な方策も無かったのは確か。どんな形であれ、結果としてあの2人を救ったのも、また」

 

「そうか。では依頼達成だけど今回の勝負は引き分けって事でどうだ?」

 

「仕方ないわね。私は優しいからそれで見逃してあげるわ」

 

 ははは、そりゃあ感謝しますよ部長サマ!よ、さっすが部長!かっこいー!では俺も今日は帰るから後よろしくね!お疲れ様でーす!

 

「褒め称える語彙が足りてないわ。もっと色々な言葉で称賛なさ──ー待ちなさい。どこへ行こうというのかしら?今日は由比ヶ浜さんも居ないのよ?」

 

 ああ、何かユーミン達と遊びに行くとか言ってたねー。まぁだからこそ都合が良いんじゃないか。今日ならゆいにゃん着いてこないし。

 

「……部長を一人残して何処へ行こうと言うのかしら?納得出来る理由がなければ帰さないわよ」

 

 えぇ……寂しがりなの?相変わらず素直じゃない猫みたいな子ねぇ。ほら頭を撫でてあげよう。ほーらよしよしー。おお、相変わらず頭撫でると猫みたいに目を細めるの可愛ええな。やれやれ、しょーがないなー、セツのんも着いてくる?

 

「私は猫ではないのだけれど。……んっ、もう少し強くても大丈夫よ。……それで、どこに行くの?」

 

「ん?女子中学生とデート、かな?なんっち「は?」……冗談だよ」

 

 マジで冗談なのでそのびっくりするくらい冷たい目で見るのやめてもらえる?今一瞬俺ですらビクッとしたんだけど。あと撫でさせる気なら手首握り潰しそうな勢いで掴むのも止めて?すっごい撫でにくいから。

 

「……手は止めずに、詳細を話しなさい。早く」

 

 だから、手を……ああはい。分かりましたよ。逃がす気はないって事ね了解。ゆーて単純な話ですよ。セツのんが言ってたゆいにゃんの誕生日、あれのプレゼントを、こまっちゃんに選ぶの手伝ってもらおうってだけ。ついでに彼女も一応は関係者だし、詳細はさておき、川崎少年の依頼達成したことくらいは説明しに行こうかと思ってね。

 

「こまっちゃん?……ああ、比企谷さんね。それは確かに貴方のセンスで選ぶよりもずっといい考えね。というか、それなら最初から私も誘いなさい。由比ヶ浜さんのプレゼントは私も買うのよ?」

 

 や、俺は女子の欲しがるもの分かんねーからこまっちゃんに協力依頼したけど、セツのんは同い歳なんだから……俺が悪かった。今までそういうイベント参加したこと無さそうだもんな、セツのん。それなら分かるわけないよな。分かった、次からは最初からちゃんと誘う。とにかく今日は一緒に行こうぜ!ガスっ!痛っ!蹴るなよ!

 

「黙りなさい!私は好きで1人なのよ。1人では何も出来ない人達と一緒にしないでもらえるかしら」

 

 ハイハイ、めんごめんご。俺が悪うございました。確かにセツのんは1人でも頑張ってるもんな。それは本当に凄いと思うよ俺も。

 

「……ふん。分かればいいわ。それじゃ、早く行きましょ」

 

 え、結局着いてくるの?ああはいはい分かりました。何も言わずに行きますよ。やれやれ、まったく……最近のセツのんはお淑やかさを何処かに置いてきてしまったらしい。いや、よく考えたらセツのんがお淑やかとかそんなの1度も見たことないな。俺の気の所為か。じゃあ仕方ないね!ゴス!痛っ!急に足を踏むなよ!

 

「くだらないこと言ってないでさっさと歩きなさい。時間は有限よ」

 

「じゃあこの手離しても「は?」……いや、撫でながら歩くの結構大変なんだけど。……へーい。了解でーす」

 

 まったく、そんなに警戒しなくてたって、今更置いてったりしねーっつの。

 

 

 

 

「ふん………一人にしたら、許さないわよ」

 

 

 ◻️◻️

 

 

「どーもどーも!お久しぶりです雪ノ下さん!」

 

「こんにちは、比企谷さん。急にお願いしてごめんなさいね?」

 

「なんのなんの!きーち先輩と2人きりより華やかでずっと良いです!むしろ良くぞ来てくださいました!」

 

「俺ポイントが下がったのでこまっちゃんデザート無しな」

 

「わぁー!ちょ待って下さい嘘です嘘です!きーち先輩が来てくれて小町ちょーうれしー!来てくれただけで小町感激ですっ!小町ポイント超高ーい!」

 

 いや、来てくれたも何も呼んだの俺だから。

 

 とりあえず一人っ子だから金銭感覚しっかりするようにお小遣い厳しいんですー!とこちらにしがみつく女子中学生を引き剥がしつつ、呆れた顔のセツのんに指で行くぞ、とジェスチャーする。

 

 ここは千葉の高校生がデートによく使うらしい、東京BAYららぽーとである。知ってるような知ってないような名前だが、違いがわからんので気にしないことにした。

 

 この場所は俺やセツのん、ついでにこまっちゃんの家からも少し離れてるので、学校帰りに電車に乗った乗ってわざわざやってきたわけである。なお、こまっちゃんとは現地集合だった。

 

 今回こまっちゃんにはゆいにゃんの誕プレを選ぶのを協力してもらうに当たって報酬を用意してある。まぁ原作主人公と違ってこまっちゃんは俺の妹では無いので当たり前の事ではあるが。

 

 報酬内容はこのららぽーと内のよく分からんけど女子に人気?のカフェらしい。本人がそれでいいなら何でも構わんが、別にもっと高いところでも平気だぞ?と一応確認したら、

 

「きーち先輩はお金持ってそうなので、1回だけ高いところ連れて行って貰うより、こまめに程々の所連れて行ってもらった方が結果的に色々食べられそうです!」

 

 とメールが来た。凄い強かな考えだったのでこいつは恐らく大物になると思う。

 

 

 困った事に、無闇に歩き回るにはららぽーと内は広すぎるのと、学校帰りだから時間はあまりない。俺達2人は揃って一人暮らしだから問題ないが、こまっちゃんは普通に中学生で実家暮らしだから仕方ないけど。

 

 なのでまず構内地図で入ってる店舗を確認し、結構な頻度でゆいにゃんとメールのやり取りをしているこまっちゃんが、ゆいにゃんの好きそうなブランドに当たりを付けてくれたので、その辺を重点的に回ることになった。

 

 右手でセツのんの腕を、左手で俺の腕を抱えるように引き寄せたこまっちゃんが、妙にウキウキで俺たちの半歩先を歩き、まるで俺たちを引っ張るように歩く。もう少し年齢が違ってたら幼い子が両親の腕をとってずんずん探検に行きたがってるみたいな構図だ。微笑ましいがぶっちゃけ歩きにくい。

 

 

「あ、ほらきーち先輩!あそこにハラダさんがいますよ!猫係長ハラダさんですよ!」

 

「ああ、相変わらずいいくたびれ具合だな。流石公式設定で社畜なだけある」

 

「猫が苦労する様な会社は滅びるべきよ」

 

 お前はなにを言ってるんだ。

 

 

「あ、見てみてきーち先輩!あそこに地方名産品ショップありますよ!小町雷鳥の里が好きです!」

 

「ふむ?じゃあ後で買ってやるから両親と一緒に食べな。俺も仙台銘菓の萩の月と水戸ののし梅買うわ」

 

「貴方、茨城出身なのに茨城の銘菓買ってどうするのよ……」

 

 地元茨城を応援してんだよ。何ならセツのんにも買ってやるから茨城を応援するがいい。え、やだ?まぁそう言わずに。今なら萩の月も付けるよ!あ、ごめんやっぱ無し。萩の月の印象しか残らない!

 

 

「あー!きーち先輩きーち先輩!あそこにハーゲンダッツ専門店がありますよ!小町アイスが食べたい気分です!」

 

「後でな。この後飯食うんだからその後食えそうなら買ってやる」

 

「ええー!?それはつまりアイス1つ分は食べられるお腹残しとけって事ですか!?酷いですっ!」

 

「別に甘いもんは別腹って言っても構わないぞ。出来るなら」

 

「前回のサイゼみたいな事はもうやめてね。あの時よりも人数少ないのだし」

 

「うぐぐ、雪ノ下先輩にそう言われては……!この私としてもあの時のような無茶はもう出来ませんし……うぐぐ!」

 

 どんだけ食いたいんだアイス。あ?ハーゲンダッツ専門店だから?……また今度来た時にでも好きなだけ買ってやるから、今回は我慢しとけ。はいはい、約束約束ー

 

「……」

 

「あ!きーち先輩これ!これです!オススメの香水です!小町この香りきーち先輩に合うと思います!というか小町がこの香りのするきーち先輩に飛び付きたいです!」

 

「!?」

 

「こまっちゃんはマタタビに飛び付いちゃう猫かなんかなの?……買うけど自分で使えよ?」

 

「それじゃ意味無いですー!あ、ほら試供品あるじゃないですか!これを、こうして手に取って、はいきーち先輩!首に香水付けるんでネックウォーマー外してください!」

 

「だが断る」

 

「ええー!じゃあ胸元に付けます!ボタン外してください。ええー?これもダメ?じゃあもういいです。仕方ないので服に匂いつけます。ごしごしっと、じゃあちょっと抱き着くのでそのままでお願いしまーす!」ガバッ

 

「………」

 

「……満足したか?」

 

「すんすん……や、ちょっと今小町飼い主の膝の上から動かない猫の気持ちを味わってるんでもうしばらくこのままでお願いします」

 

「……左様か。全く仕方のな「ちょっと待ちなさい」え?」

 

 え、なに?どしたのセツのん?

 

「どうしたの?ではないわ。色々聞きたいことがあるのだけれど、榊君?」

 

「ふみゃぁ、これ癖になる〜〜」

 

 聞きたいこと?別にいいけど。ああほらこまっちゃん!あんまり頭を擦り付けるな、髪の毛ぐしゃぐしゃだぞ。はいはい、代わりに頭撫でればいいのね。了解了解。食らうがいい!波紋式・撫でなでっ!

 

 

「あっ……コホンっ!まず初めに、随分と比企谷さんと仲がいいみたいだけど?」

 

 

 え?あー、3日くらい前だったかな。あの雨でセツのんがランニング諦めた日の夜。あの日何となく気分で何時もより遠くまで走りに言ったんだけど、唐突にファミチキ食べたくなって帰り道でコンビニ寄ったんだよね。そしたら何故かこまっちゃんに遭遇して、なんかこう……話し込んでるうちに?ま、元々初めて会った時から毎日LINEしてるからってのもあるかも。

 

 

「(イラッ)毎日?……先程から、色々買い与えているのは?」

 

 

 なんかこう……娘を甘やかしてる、みたいな?なんかこまっちゃんにはつい買っちゃうよね。こないだもコンビニでお菓子を買い与えてしまった。こまっちゃんは甘え上手だよね(`・ω・´)キリッ

 

「小町もきーち先輩なんでも買ってくれるから大好きですっ!小町こんな優しいお兄ちゃんが欲しかったなー?あ、今の小町的ポイント高い!」

 

「ふ、俺ポイントも超高いぞー?俺もこまっちゃんみたいな妹が欲しかったわー」

 

「榊君、知ってるかしら?そういうの、援助交際っていうのよ?このロリコン犯罪者!」

 

 何を言うか。援助交際ではない援助交遊だ!付き合ってないしただの後輩だからな!第一中学生とか守備範囲外です。俺としては先輩ムーブ出来れば満足。

 

「そーですよー雪ノ下先輩!私はただきーち先輩にこうして抱き着いて頭撫でてもらったりご飯奢ってもらえれば満足です!付き合いたいとかこれっぽっちもございませんっ!」

 

「それで、じゃあ問題ないわね、ってなるとでも思ったの?いいから直ぐに離れなさい」

 

 「えぇー?それは横暴ですよ雪ノ下先輩!あ、そうだ、雪ノ下先輩も一緒にきーち先輩に甘えまし「比企谷さん?私は、離れろ、と。そう言ったのよ?」ははははハイっ!了解しました!」

 

 うわ怖っ!久々に見たなセツのんのマジ睨み。耐性がないとむっちゃビビるよね。だから耐性のないこまっちゃんが即飛び退いた。そして直立不動の敬礼体勢だし。ワロタw

 

「榊君?何故貴方が他人事のような顔をしてるのかしら?」

 

「ふ、俺は後輩に甘い先輩という自覚があり、その事にどんと胸を張るッッ!」(`・ω・´)キリッ

 

「処刑するわよトムキ君?それともバスターコールがお好み?」

 

 アッハイ。世界政府は許して下さい。それはそうと、とうとうワンピースも読み始めたの?偉いなーセツのん!どんどんネタに詳しくなっていくね!よーしよしよし!凄いぞーセツのん!

 

「読み始めれば意外と直ぐだったわ。主人公達だけ誰も殺せないとか無駄なお子様向け要素があるけれど、歴史上の海賊からオマージュされたキャラクターが数多く出るのは中々面白いわ。……ん、もう少しそのまま撫でてちょうだい」

 

 そーかそーか、どんな形にせよ漫画を楽しめるのはいい事だ!その調子でガンガン読む事を勧めるぜ!また部室の漫画を入れ替えないとな。さて、それじゃそろそろ真面目にゆいにゃんの誕プレ選び頑張ろっか!

 

「ええ、そうね。ではあの店から行ってみましょう。行くわよ、榊君!」

 

 え?ちょ、手を引っ張るな人が多いんだからここは!待てってセツのん!ちょっ、こまっちゃん頑張って着いてきて!

 

「りょーかいでーす!……うわぁ、あの超おっかない顔してた雪ノ下さんが秒でデレッデレになった。ホントに凄いなーきーち先輩」

 

「というか貴一先輩連れてかれた。やっぱり独り占めしたかっただけかー。素直じゃないなー、もう。そんな雪ノ下先輩も可愛いけど!」

 

 ◻️◻️

 

 

「……これなんてどうかしら?」

 

「わー!雪ノ下先輩可愛いです!その猫のエプロンよく似合ってますよ!」

 

「そ、そう?……あの、嬉しいけれど私ではなく由比ヶ浜さんへのプレゼントなのだけれど……」

 

 あの後色々な所を巡ってみたが、ゆいにゃんへの誕生日プレゼントが中々決まらない。セツのんは最初、普通の服をプレゼントしようとしてたが、どうもゆいにゃんの好みが分からないのか耐久性とか機能性とかメインで選ぼうとするので、俺とこまっちゃんとの話し合いにより、最近ゆいにゃんが頑張ってるらしい料理に関係するものをプレゼントにすることにしたらしい。

 

 それでエプロンを選んでいるのだが、まぁ確かに猫のエプロンはセツのんによく似合ってる。でも多分あれ自分が気に入ったから手に取っちゃっただけだな。ゆいにゃんは猫とか明確に可愛いものじゃなくもっとこう……ふわっとした可愛い物が好きそう。

 

 自分で言っててなんだそれって感じの説明だが、上手く説明出来ないのでそのまま伝えたらセツのんとこまっちゃんに何故か伝わり、2人でピンクっぽいエプロンを選んでいた。なお、猫のエプロンは結局セツのんが自分用として購入していた。なんかセツのんの家猫グッズ多そうだなって思った。

 

 

 さておき、俺は俺でゆいにゃんの誕プレを選んでいるのだが、これが難航していて困っているところだ。いや、最初は原作主人公と同じでいっか!と思ってアンサートーカーで原作主人公が選んだ誕プレ調べたんだよね。そしたらさ。

 

 まさかの犬の首輪。

 

 いや、なんかチョーカーと勘違いしてゆいにゃんが自分の首に巻くとか作中屈指の名シーンとかも調べた時出てきたけど、この世界のゆいにゃんワンコをそもそも飼ってないからね!贈れないよね!

 

 そんな訳でこまっちゃんにアドバイスを受けながら探しているのだが、中々これと言うものが見つからない。なんでも贈り物のイメージでよくあるネックレスとかイヤリングとかそういうのは駄目らしい。よく分からん。

 

「ヘアピンとかシュシュみたいな、頭に付けるものはどうですか?女の子にとって髪の毛を飾るアイテムは実用性も高いですし、よっぽど派手とかでなければ学校とかに付けて行ってもあまり咎められにくいので気軽に身に付けられて良いのでは無いかと思いますが!」

 

「それ採用。というか、これ以上悩んでいても俺一人じゃ一生決められなさそう」

 

「良いんじゃないかしら。私はあまり髪型を変えたりはしないけれど、由比ヶ浜さんはそれなりの頻度で変えてるみたいだし、余程センスのないものを選ばなければ大丈夫よ」

 

 ふむ。ではちょっと見てくるので、選んだものを確認して貰ってもいいか?よっぽどあれだったら遠慮なく文句言ってくれ。

 

「ええ、それぐらいは構わないわ」

 

「りょーかいですっ!あ、小町にもプレゼントしてくれても構いませんよっ!」

 

「考えておこう。では少し見ながら待っててくれ」

 

 そう言って2人から離れ、ヘアピンやカチューシャなど、頭に付けるアイテムが所狭しと並ぶコーナーへ足を踏み入れた。なお、先程から物凄い他のお客さんから視線が突き刺さるが、モサモサな見た目でこんな所に1人で商品見てたらそれはもう不審者に見えるのは仕方ないので諦めている。

 

 なお、セツのんとこまっちゃんの2人と一緒にいた時はもう少しマシだった。マシだったというか視線の種類が違ったというか。なんでこんなのがこんな可愛い子2人と!?みたいな。まぁそれはユーミンでもゆいにゃんでも変わらないんだけどね。

 

 ぼっちメンタルを全力で発揮させて周囲の視線を無視しつつ、目の前の多種多様なアイテムも物色してみる。うわ、種類豊富過ぎてどうしたらいいか分かんねぇ…!

 

 頭の中でそれぞれのアイテムをゆいにゃんがつけてる所をイメージしながら似合いそうなものを探しているが、使い方がわからん物とかはどうしようもない。正直コスプレグッズの中に置いてある犬耳が一番似合いそう、とか考えつつ、諦めずに物色を続ける。

 

 うーん、こっちの動物とかキャラクターの顔みたいなやつは流石にガキっぽ過ぎるし、かといってメッキみたいな金とか銀とかの装飾の着いた物は流石にないなーと俺でも思う。シュシュはなんかこう、どれ付けても似合いそうだけどいまいち気に食わないしなー。

 

 うんうん唸りながら端から端までくまなく見ていく。しかしふと見ると途中で棚が途切れてしまった。どうやらここまでで終わりらしい。むむ、今の中から選べと?参ったな、いまいちピンとくる物が無いな……およ?

 

 頭をかきながら周りを見渡してみると、今までどちらかと言うと安価なアイテムばかりだったのに、急にギラっと光る光り物が並ぶコーナーに出てきた。どうやら高めのシルバーアクセサリーとかのコーナーに着いてしまったらしい。

 

 置いてあるものを軽く見ると、ネックレスとかピアスとか、先程駄目だしされた物ばかりが並んでいる。駄目だ、良さげだけど女友達に送るものじゃないとか言われたばかりだ。止めとこう、そう思って──それを見つけた。

 

 理由は分からなかったが、何となく目を引いたので近付いて見てみると、どうやらそれは簪だった。銀色の二股に分かれたスティック部分に、白い小さな花が連なるように枝垂れる飾り。見ると花はミモザと言う説明文。や、簪とかいつの時代だよと思ったが、ふとイメージが湧いた。

 

 普段のゆいにゃんは髪の毛を頭の右側でぐるっと一巻にして纏めてるが、パッと見お団子ヘアーに見えなくもない。そんなお団子ゆいにゃんに頭の中で浴衣とか装備させてみる。そしてそこに刺さる簪……むむっ!似合ってる気がする!

 

 何となくピンと来た!なんかこのちっちゃくて白い花連なっているのが儚げというか、ちょっと弱々しい印象なのに、しっかりとした可憐さがある感じがなんか良い!

 

 普段はアホっぽいけど、結構人間関係とか苦労してて、困ったように、でも頑張って笑ってるゆいにゃんと、セツのんと2人で元気いっぱいのゆいにゃん。どちらのゆいにゃんの笑顔が頭に浮かぶ。何となくこの花がその笑顔と重なる気がした。

 

 お、よく見たらミモザってアカシアって別名があるのか。つまり蜂蜜!ふわふわのパンケーキと蜂蜜と考えたら何かふわっともしてる!いやこれはちょっと強引か。値段は5万。ちょっと個人プレゼントには高いか?…バレなきゃそんな気にはしないだろきっと。うん。

 

 簪って時点で普段使いは出来なさそうだったが、気が付いたら買ってしまっていたので、これは誕プレの1つという事にしてプレゼント用にラッピングしてもらう。店員さんに値札はしっかり取ってもらった。あ、2人に確認してもらうの忘れた!ま、まぁいいか!どうせ念の為にもう一つ買うしな!

 

 慌てて元のコーナーに戻り、個人的にはギリギリこれが一番似合いそうなシュシュを選んで持っていく。明るい黄色と白の模様が、何となくひまわりの花を想像させて、元気いっぱいの時のゆいにゃんには似合いそうな気がしたのだ。まぁゆいにゃんは何時だってにこにこしてる訳じゃないので、俺的にはギリギリかなぁと思わなくもないのだが、こまっちゃんとセツのんはまぁ普通に良いと思うよ?くらいの反応だったのでとりあえずこれも買った。

 

 というかうんうん唸ってる間に結構な時間が立っていた。具体的には30分くらい。ごめん待たせた!と謝ったが、何故か戻って来たらセツのんとこまっちゃんが凄い仲良くなっていて、お互いの呼び名もいつの間にか小町さん、雪乃さん、になってる。凄い、この短期間に何があったんだろう?

 

「特に何もないわ。……でも、そうね。強いて言うなら、女の子の秘密、かしらね?」

 

 なにそれ?……ま、何でもいいか。セツのんがそんなこと言えるくらい仲良くなれたなら。今までゆいにゃん以外で女の子にこんな顔した事ないしな。このまま楽しそうに話せる相手が、俺やゆいにゃん以外にも少しずつ増えていったら良いな、と思った。……奉仕部、なんて特殊な空間なんぞなくても、彼女達が気負わずに居られる様になれば、きっとそれが1番良いはずだから。

 

 なんて、くだらないことを考えたせいだろうか?少し表情に出てしまったらしい。セツのんに思いっきり怪訝な顔をされた。

 

「……何か変なこと考えてないかしら。顔の半分以上は見えなくても、少しくらいは分かるのよ?」

 

 ははは、滅相もない。さっきからそこの棚に並ぶディスティニーランドの人気キャラ、パンダのパンさんが気になって仕方ないセツのん可愛いなーと思ってるだけだよ?というか猫以外にも好きな物あんのね。

 

「なっ!?き、気になってなどいないわ!……別に好きでもないし!」

 

「そう?さっきから色んなところでパンさんのぬいぐるみを目で追いかけてるから好きなのかと思ったよごめんねー。じゃあセツのんが誕プレ選んでる時に密かに取ってきたこのゲーセンのUFOキャッチャー限定モデルの特大パンさんぬいぐるみは要らないか。そっかー」

 

 そう言って後ろを振り向いて、セツのんの上半身ぐらいありそうなぬいぐるみをさも後ろに置いてあったかのような動きで空間倉庫からぬるっと取り出す。

 

「なぁっ!?そんなものいつの間に……!くっ!……ええ、要らないわ」

 

「そっかー……じゃあ俺も要らないしこまっちゃんいる?」

 

「え?小町パンさん別に好きじゃないのでこんな大きいのは要らないですっ!って言うかきーち先輩、雪乃さんとイチャついてばっかいないで小町へのプレゼントはどうしたんですかー!」

 

 はは、そこの鏡見てみ?

 ……しかしセツのんもこまっちゃんもいらないとなるとどうすっかな。仕方ない、そう言えばサキサキに小さい妹がいたとか聞いた気がするからそっちに聞いてみるかー?

 

「あれっ!?いつの間にか小町の頭にヘアピン付いてる!?なにこれかわいー!」

 

「えっ……?」

 

 ふふふ、やっぱりこまっちゃんに似合うなそれ。ビーズで出来た星型のパーツが着いたヘアピンで、ビーズだが鮮やかな彩りの星が、何となくこまっちゃんの髪に似合う気がしたのだ。うむ、俺の見立てに狂いは無かったな!

 

「ありがとうございますきーち先輩!くふふ、まさか半分冗談で言ったのに本当に買って貰えるとは思いませんでした!!お礼にハグしてあげます!動かないでくださいね!」

 

「え?今日はもうハグは別にいいです。そろそろ行きたいカフェとかいうの行こうぜ」

 

「問答無用!くらえ小町タァ──ックル!ポスッ!……ふみー!やっぱこれ落ち着くー!」

 

 どう見てもこまっちゃんが俺に抱きつきたいだけでわろりーぬ!てか、こまっちゃん本当にこれ好きだよね。はいよ波紋式撫でなでー!ん?どったのセツのん。何か用?

 

「んふふふー、きーち先輩ってホントに謎に癒されますねー!何か変なもの出てるんじゃないですかー?」

 

「っ!い、いえ……その、い、要らないなら」

 

 いや出てないから。……あれ?よく考えたら普段から波紋の呼吸・常中はしてるよな。今こうしてこまっちゃんに波紋を流し込みながら頭撫でてるけど、それは好みの波紋の強さが違うだけで波紋自体は俺の体全体を流れてる訳で……あれ?

 

 いや、それだと皆の好みに合うはずないから関係することもないか。と、いうことにしておこう。深くは追求すまい。うん。

 

「え、何で急に悩み出してるんですか?まさか本当になんか出てたり……?」

 

「いや?多分何もないよ。たぶん。きっと。恐らく。めいびー」

 

「めちゃくちゃ曖昧じゃないですかーもー!……まぁ、なんでもいっかー」

 

「そ、その……榊君?」

 

 何でもいいのか。あ、落ち着く効果あるならなんでもいいの?そっかー。まぁそれならそれでいいとしよう。でもこまっちゃん1回抱きつくと離れるまで長いよ。……ん?何セツのん、どったのそんな顔真っ赤にして。

 

「話をっ、聞きなさいっ!」

 

「うん。なに?」

 

「そ、そのっ、要らないならっ!……要らないなら、私が!ぱ、パンさ「はいこれ」ひゃっ!……あ、パンさん……!」

 

 ふふふ、やっぱり欲しかったんじゃないか。素直じゃない子ねぇー?ま、見ててよく分かったとは思うけど、セツのんはこんな感じにツンデレなので、たまにキツい事言うけど気にしないでやってな?こまっちゃん。

 

「っ!?榊君、何を言ってるのかしら?」

 

「いやー!本当ですねぇ!歳上でクールな感じの雪乃さんがこんなに可愛い顔するとは思いませんでした!随分わざとらしくスルーしてるなーと思ったら……こんなに可愛い雪乃さんが見れるなんて!!」

 

「ちょ、小町さん!?」

 

 そうなんだよ、セツのんの可愛さは初見では分かりにくいからな!みたまえ、このちょっと戸惑ってるけどパンさんを両手でぎゅっと抱きしめて、絶対離さない!って感じ!顔も真っ赤で目がウルっとしてるけど普段とのギャップがあってヤバ可愛いよね!?

 

「よく分かりますっ!小町ちょっとさっきから胸キュン止まらなくて胸が痛いです!はぁー雪乃さんちょー可愛い!」

 

「……2人とも?」

 

 むっ!よしこまっちゃん、逃げるぞ。ちょっと弄りすぎた。でもセツのんが可愛いのがいけないよネ!だから僕は悪くない!

 

「そう雪乃さんが可愛いのが悪いっ!だから小町も悪くなーい!」

 

「……辞世の句はそれで最後かしら?2人共ちょっとそこに正座しなさい」

 

 ふ、だが断る!では俺達は行くぜセツのん!こまっちゃんの言ってた喫茶店に先に着いた方が勝ちな!店で暴れちゃあかんぜよー?ま、最もそんなでかいぬいぐるみ持ってまともに走れる訳ないけど!ではな!あでゅー!

 

「あでゅーでーす♪」

「っ!?ちょ、待ちなさい貴方達──っ!」

 

 

 この後めちゃくちゃ追いかけっこした!

 

 ◻️◻️

 

 少し時間を巻き戻して。

 

「考えておこう。では、少し見ながら待っててくれ」

 

 そう言って榊君は1人でヘアピンやカチューシャが並ぶコーナーへ歩いていった。一応協力は受けても1人で選びたい、という気持ちは分かるが、この間と違って今日は何時もと同じモサっとした野暮ったい見た目なので、周りの女性客から凄い視線を集めている。

 

 髪の毛を切ればいいのに、と思いかけたが、彼の素顔でこの女性客ばかりの店内にいる方が視線を集めそうだ。そもそも彼は1人でこういった店に入らない方がいいのかもしれない。

 

「や〜、きーち先輩相変わらず離れて見るとモッサモサですねー!なんかよく分かんない手品物使えるし、おかしな人だと思いませんか?雪ノ下先輩!」

 

 顔も目も、未だにプレゼントを選んでいる榊君の背中に固定されたまま、そう楽しそうに話しかけてくる比企谷さん。正直おかしなのは貴方も変わらないわ、と思う。あの日、唐突に走り出した彼が辿り着いた先にいた彼女は、ほんの1週間の僅かな間に彼と随分距離を縮めていたようで、何故だか少し腹立たしく感じてしまう。しかし、彼女はまだ中学生だ。あからさまに態度に出すのは流石にはばかられた。

 

「……そうね。まぁ、榊君が無駄に変な事するのは今に始まったことでは無いわ。彼は、初めて会った時からだいたいあんな感じよ。ずっと変人」

 

 そして、何故だか一緒に居ると安心する人。……なんて、心の中だけで独り言ちる。流石にこんな事、人に言う気にはならなかった。そう思いながら彼女を見る。思わずドキリとした。いつの間にか彼女の猫のような無邪気な目が、こちらを射抜いていた。

 

「変人!そーですよね!本当に変な人ですっ!……でも、何故だか一緒に居るとホッとしませんか?」

 

「っ!?な、何を馬鹿な……!そんなことあるわけ「嘘ですよね?」……嘘じゃないわ」

 

「んふふふー、本当に雪ノ下先輩って素直じゃないですねー!でも大丈夫ですよー!私は分かってますから!」

 

 内心を言い当てられて少しムキになってしまった。しかし彼女の言葉に頷くのも業腹なので顔を背ける。べつに彼女の楽しそうな顔がちょっとバツが悪く感じるとか、そういうことはない。それに私は言いたい事はだいたい言うようにしている。それはつまり素直と言うことだ。なので比企谷さんの言うことは間違っている。

 

「……ねっ、雪ノ下先輩。不躾ですけど、御家族と……特にお母さんと仲悪かったりしないですか?」

 

 その言葉に、頭が急に冷えた気がした。まるで冷水を脳に直接掛けられたかのように、自分でも感情が急に醒めた様な実感があった。

 

「……なんの話かしら?」

 

 思わず冷たい言い方になってしまったが、踏み込まれたい話ではない。いや、別に私は母と仲が悪い訳では無いが。──ーただ、どうしようもなく、苦手なだけだ。私の全てを支配するかのような、あの人が。

 

 しかし、そんな冷たい態度を取ってしまった私に、比企谷さんはホッとしたように笑った。何故だろうか。

 

「やっぱり。……ふふ、ホントきーち先輩はすごいなー。あんなギャルゲーの主人公みたいな前髪のくせに、本当によく見てる……」

 

「っ!それは、どういう意味?彼が何か話したの?」

 

 少し口調が強くなったのが自分でも分かった。彼が自分の事を何か話したのだろうか。いや、そもそも彼に家や家族の事を少しも話したことはない。話せるような事など何も無いはずだ。それとも、私が知らない間に誰かが彼に私の事を──!

 

「あはは、そんなに怖い顔しないで下さいっ。単に私と雪ノ下先輩が似てるって言われただけですよー!」

 

「似てる?……私と貴方が?」

 

 思っていた話とは違ったことに安堵する間もなく、彼女の言葉に疑問が湧いた。どういう事だろうか?自分で言うのも何だが、私は彼女のように社交的な性格とは言い難い。見た目や仕草だって似通っているところがあるとも思えない。

 

 いったい、彼は何を思って私と彼女に共通点があると………もし胸を見てそんなこと言ったのなら、彼が戻って来た時殴りましょう。ええ、それはもう力いっぱい。

 

「さっき、私ときーち先輩が3日前に夜のコンビニで会ったって言ったじゃないですかー?実はですね、その日、私プチ家出してたんですよー!」

 

「!……それは、何故?」

 

「母と、喧嘩しまして」

 

 いつもの事なんですけどね!とにこやかに笑う彼女だったが、その口調や表情と違って、本当は全然笑っていないことは、私にも分かった。同時に、彼女が母という言葉に込めた感情が、何故だか理解出来る気がした。何も、言われていないのに。

 

「………うちは、昔から父がとても私に甘いんですよ。私は一人娘で、両親とも共働きで朝早くから夜遅くまで帰って来ない分、会う時間が少ないから余計なのかも知れません。でも、そのせいなのか分かりませんが、母がとても私に厳しくてですねー」

 

 どこを見るでもなく、しかし私に話し掛けるように、つらつらと彼女は語った。

 

「断っておきますと、別に母が嫌いな訳では無いんですよー。ただ、父が甘い分私をちゃんと育てようとしてるのか分かりませんが、うちの母は昔から何かと口煩くて、やれ何をしろ何はするなと何にでも口を出してきては私のやることなすこと自分の思い通りにしようとする癖があるんですよー。それに逆らうとこっぴどく叱られて」

 

「……それは」

 

 身に覚えがあった。うちの母は叱ると言うよりは正論で叩き潰してくるが、私のやる事なす事全てに口出しするというか、何事も決めたがるのは母だ。

 

「昔はそれに疑問とかあまり無かったんですけどね。いつの間にか反抗期に入ったのか、その事に疑問を感じるようになって、これまたいつの間にか母と口論する事が増えました。でも、何というか………やっぱり母の方が言ってることは正しくて。何度も何度も言い負かされてるうちに、話すのも見るのも嫌になっちゃって……たまに、夜中とか1人でひっそり家を抜け出すようになったんです」

 

「……」

 

 気持ちはとてもよく分かった。私は結局夜中に家を抜け出すとか、そんなことはできなかったけれど、そういう事がしたくなったことは何度もある。ひょっとしたら、それが高じて今、一人暮らしする事を選んだのかもしれなかった。

 

「母と会話するのも、顔を合わせるのも、同じ家にいるのも何となく嫌で。よくそうやって1時間とか2時間とか、近くのコンビニとかのテーブル座って、友達とかとひたすらメールしたりLINEしたりするんです。携帯の電池が無くなるまで、ずっと。きーち先輩は最近そこに加わった感じですね」

 

「あえて言わせてもらうけれど、女の子が夜遅くに、例え近くだったとしても一人で出掛けるのは危ないわよ?」

 

「あはは、それは皆に言われました。それこそきーち先輩には思いっきり叱られて、すごい痛いデコピンされました。バチン!ってすごい音がして、あまりの痛みで思わず涙出ました。ガチのヤツです」

 

 ああ、それは何となく想像がつく。あのよく考えると頭のおかしいレベルの身体能力を持つあの男のことだ。たかがデコピンでも、とんでもない威力があっても何ら不思議ではない。

 

「……あの雨の日、私はそうやっていつものように色んな人とメールしてました。コンビニに長いこと居座るから、少ないお小遣いで買った飲み物一つだけいつも買って。店員のおばさんとはすっかり顔見知りになっちゃって。そんな時でした。きーち先輩が、ずぶ濡れの雨合羽姿でコンビニに入ってきたのは。入ってすぐですよ、あのいまいち感情の読み取れない顔で、『あ、こまっちゃん?』って」

 

 目に浮かぶようだ。きっと直ぐに彼女に気付いただろう。彼は何故かちゃんと知り合いになるまで人の顔や名前を覚えないし、どれだけ側にいても認識すらしない。だがその反面、一度知り合ってしまえば今までのことが嘘のように親しげに話し掛けてくる。

 

「何時もメールとかでずっと話してるせいですかねー?なんか何事もなく普通に話せました。……先輩は初めて会った時みたいに、イリュージョン!とか言ってずぶ濡れだった雨合羽から一瞬で私服に着替えたりしながら、私にもファミチキ買ってくれて。それで、しばらく2人で話してたら、急にですよ?『で、何でこんな時間にこんなとこに居んの?家出?』って。デリカシーって言葉を知らないのかなと正直思いました!」

 

「あの男にそんなものあるわけないでしょう。女性のウエストの増減や体重の増減を、見ただけで分かるからと平然と太った?って面と向かって聞いてくる様な男よ?」

 

 

 うわー、それ最低!最悪ですねきーち先輩!わざとらしく両手を口の前に持って行って、肩を竦めて怯えるようにそんなことを言う彼女。おどけた振りなのは見れば分かった。

 

「……それで、誤魔化しとか通じないし、仕方なく諦めて話したら怒られるわ叱られるわ。デコピンはやたら痛いし……もう私何でこんなことしてるんだろーって泣きたくなっちゃって!…でも」

 

「…でも?」

 

「あの人、ずっと居るんですよ。一人にしてくれないというか、デリカシーがとにかく足りない人なので、本気で泣きそうでも、どっか行ってくれなくて。……そのうちなんか腹立ってきちゃって。いつの間にかきーち先輩に文句言ってました。歳上とか全然気にせず、それはもう、たくさん」

 

「あら、それは当然の権利よ。あの男が悪いわ。思う存分言うべきね」

 

 そう。あの男はデリカシーが足りなさすぎる。何と共感できる話だろうか。私も初めの頃はそれはもう色々言ってやったものだ。それこそ帰り道が一緒だからひたすら言った。……それこそ何度も、突き放すように。

 

 それでも彼はずっとそこに居て、私が機嫌良かろうと悪かろうと、何をどれだけ言っても彼は何食わぬ顔でそこに居て、私の話を最後まで聞いていた。だから、きっと比企谷さんもそうだったのだろう。言いたい放題言ってるうちに、いつの間にか文句も罵りも出なくなって、普通に会話するようになってしまうのだ。そうでしょう?

 

「そうですそうです!不思議なもんで、いつの間にか普通に話してるんですよね!……それで、いつの間にか楽しくなってて。そしたらいきなり頭とか撫でてくるじゃないですか!いやいや先輩、漫画の見すぎですよ実際の女の子はいきなり親しくない人に頭とか触られたくないもんですよーって内心思ったもんです」

 

 それも正しくその通りだ。あの男は本当にデリカシーが足りない。誰でも気にせず頭を撫でるのは悪癖と言っても過言ではない。そのくせ本人は割と本気で犬猫撫でるくらいの気分でいるからタチが悪いのだ。……でも。

 

「でも、困ったことに初めてでさえ不快じゃないのよね、あれ」

 

「そうなんですよっ!私も初めて撫でられた時すっごいびっくりしました!最近ではお父さんに撫でられるのもあんま好きじゃないのに、あの人だけは気持ちいいというか落ち着くというか……ぶっちゃけ撫でられると安心しませんか?」

 

「……ノーコメントよ」

 

「えぇー!?それはずるいですよー!……ま、雪ノ下先輩の本心なんて初めて会った時にきーち先輩に撫でられてる雪ノ下先輩の顔見てれば分かるからいーんですけどね。本当に素直じゃないなぁ、もう!」

 

「!?比企谷さん、貴方ね!」

 

「ま、そんなこんなで山ほどお菓子買って貰って、これやるから夜中に1人で出歩くなーって家まで送って貰ったんですよ!そんで私の家の前で、お別れする前にふざけて上目遣いでこう言ったんですよ。『小町、先輩と一緒の学校通いたいなー?』って。そしたらあの人なんて言ったと思います!?」

 

「こっちの話を聞きなさい!……もう!それで、なんて言ったの?」

 

「『良いんじゃないか?ちょうどこまっちゃんに一部よく似たセツのんもいるし、たぶん楽しめるよ』ですよっ!信じられます?ふざけて言ったので別にまともな反応期待してた訳じゃないですけど、ここで他の女の名前平然と出してくるか普通!?ってめちゃくちゃ腹立ちました!」

 

 ああ、それは何というか……あの男らしい話だ。こちらの思惑を平然と踏み外していく辺りが特に。たぶん私でも面白くな──……いや、何を考えているんだろう私は。

 

「そこで名前を出された私にどんな反応しろと言うの、貴方は」

 

「や、たぶんめちゃくちゃ共感してくれるんじゃないかと。ほら、一部よく似てるらしいですし?」

 

「それ、私はまだ認めてないのだけれど?」

 

 またまたー!と、手をパタパタ振りながら茶化す彼女。だが、彼の見解が正しいと言われるのは何となく癪なので絶対認めない。とても共感出来たが、それでも認めない。

 

「んふふふー!それでですね、腹立ったついでに言ってやったんですよ!行きたいけど総武高じゃ学力が足んないですって。そしたら、何ときーち先輩が勉強見てくれることになりまして!と言っても1時間だけですけど。でもそれから毎日1時間だけ勉強見てもらってるんですよー!」

 

「そう、彼が比企谷さんに勉強を………は?」

 

 どういう事だそれは。あの男が実は勉強も出来ることなどは知っているが、誰かに教えるようなことなどしない筈だ。何故なら、教えるのが苦手だからという理由で勉強会の参加を断られたからだ。以前何度目かの勉強会の時に私と由比ヶ浜さんで誘ってそう言われたから間違いない。なのに何故?しかも毎日って、3日前以外は私も由比ヶ浜さんも一緒にジョギングして──?

 

「やー、流石にLINEのテレビ通話ですけどね!ほら、私は中学生なので夜に連れ回したくないってきーち先輩が言うので仕方なくですね?あ、でも駄々こねたら昨日は夜に家まで来てくれました!たまたま両親が帰りが遅い日だったんで手料理振る舞おうとしたら逆に振る舞われちゃって。あの人あんな見た目で料理すっごい上手ですよね!私人生でご飯3杯もおかわりしたの初めてかもしれません!」

 

「そうね。確かに私も気が付いたらついつい食べ過ぎてるわ。ある意味あの男の手料理は危険よ」

 

 ハッ!?思わず反応してしまった!ま、まぁ確かにあの男の料理はとても美味しい。悔しいが無駄に有能なあの男の技術の仲で、私が唯一手放しで負けたと言わざるを得ないのが料理だ。恐らく由比ヶ浜さんと並んで学校で一番あの男の手料理を食べている私が言うのだから間違いない。先日食べたビーフストロガノフなんかとてつもない絶品だった。というか卓上ガスコンロで何故高級レストランよりも上の美味を創り出せるのか。正直頭がおかしいと思う。

 

「ですよねー!私サイゼと昨日のアレでちょっと体重計が怖かったですもん。本人は高笑いしながら、好きなだけ食べて好きなだけ太るがいい!とか言ってどんどん料理出してくるし。まぁおかげで余りを食べた両親も幸せそうで、珍しく家族で仲良く過ごせたんですけどね!」

 

「……気を付けなさい。あの男、基本的に自分が食べさせたい料理しか作らないから、体重管理は本当に自己責任よ。私や由比ヶ浜さんはほぼ毎日学校で食べてるけれど、油断するとあっという間よ」

 

「えぇ…そこだけガチトーンで言うの止めてくださいよ雪ノ下先輩!流石に私も恐怖を覚えそうというか……!」

 

「私と由比ヶ浜さんは最近ほぼ毎日ジョギングする羽目になってるわ」

 

「完全にガチのヤツじゃないですかヤダー!」

 

 それはそうだ。何故なら全部本気で言っているのだから。え?自分達で食べる量を我慢すべき?それが出来る程度の味なら私達はお弁当も持たずに毎日お昼時に部室へ足しげく通ったりしないわ。

 

「な、なんと恐ろしい罠……!一度食べたら辞められない止まらないとか麻薬とかかっぱえびせんじゃないですか!き、きーち先輩は合法の売人だった……?」

 

「それは普通の商人じゃないの。というか、ドラッグとかっぱえびせんを同列に扱うのはやめなさい」

 

 それに、かっぱえびせんはまだ簡単に止められるわ。本当に止まらないのはあの男の作る「無限揚げたてコロッケ」のようなことを言うのだ。あの薄く塗されたパン粉のサクリとした軽やかな食感、材料は厳選されたじゃがいもとコーン、チーズの3種だけ。粒が完全に無くなるまで丁寧にマッシュされたじゃがいもとチーズが混ざった種は、初めにとろりとした食感と程よい塩味にチーズの深いコクと旨みで口を満たし、そして後からじゃがいもの甘みとコーンの甘みがじゅわっと押し寄せる。そこに揚げたての熱気が絡むと、熱々なのに何時までも手と口が止まらなくなり、そこに濃いめで入れられた冷えた焙じ茶でたまに口の中を洗い流したりすると……

 

「無言で食べ続けて、気が付いたらお昼休みが終わっていたわ……!満腹を通り越していた事に気づいたのでさえチャイムの後よ。……午後の授業があんなに大変に感じたのはあの時が初めてだったわ……ッ!」

 

「ごくり……っ!で、でもそれは炭水化物と脂質の塊……っ!お、恐ろしい!なんて恐ろしい料理なんですか……!でも、その恐ろしさを少しは味わっておかないと対策の取りようが…!今度私も作ってもらおう……ごくり!」

 

「ええ、一度は体験しておきなさい。用法用量を守れない、真のヤミツキ料理というものをね……!」

 

 ちなみに私はその日の夕食を抜いたわ。その上でジョギングの時間も増やした。だってあの1口大の小さなコロッケが1つで400キロカロリーなんて信じられる?私や由比ヶ浜さんが何個食べたと思ってるのよ……!10個じゃ到底きかないのよ!?本当に、あの男の作る料理は厄介だわ。分かっていても食べるのが止められないあたりが特に。

 

「んー、でもちょっと羨ましい気もします。だって学校ある日は毎日きーち先輩の手料理食べられるんですよね?」

 

「頑張れば貴方も1年間は食べられるんじゃないかしら?増量の恐怖と戦いながらになるけれど」

 

「あぅぅ、勉強する気にもなるけど勉強する気なくなる話でもあるー!小町、泣きそうです!」

 

「……さっきから思っていたのだけれど、言い辛いのなら好きな話し方で良いのよ?」

 

「へ?あ、あー…。いやたまに私、昔の一人称出ちゃうんですよねー。母親に子供っぽいから止めろって言われてから気を付けてるんですが、きーち先輩はそっちの方が私らしいからって言ってくれたので、あの人の前だと普通に出ちゃうんですけどっ!」

 

「なら、私の時も楽な方で話して構わないわ。歳は離れていても、そんなことでいちいち目くじら立てるようなこともないし。……それに、私も何故かそちらの方が比企谷さんらしく感じるから」

 

「えへへ、そうですか?じゃあそれならついでに雪ノ下先輩じゃなくて雪乃さんって呼んでも良いですか!小町的にそっちの方が親近感湧いていいと思いますっ!」

 

「構わないわ。由比ヶ浜さんや榊くんみたいに変なあだ名で呼ばれるより私もずっと親近感が湧くもの。私も小町さんと呼んでも良いかしら?」

 

「全然オッケーですっ!改めてよろしくお願いしますね、雪乃さん!」

 

「ええ、こちらこそ。小町さん」

 

 そう言って差し伸べられた手を握った。小さいがすべすべした綺麗な手だった。目の前には本当に嬉しそうな満面の笑み。先程の笑顔とは大違いだ。

 

 けれど、恐らく自分の顔も笑っている様な気がした。いつの間にか私も彼女との会話が楽しくなっていたからだ。後輩も先輩も同級生も、だれであれ、同性でこんな風に話せる相手が出来るとは、ほんの数ヶ月前までは夢にも思わなかった。それが高二になって僅か2ヶ月でもう2人も。本当に人生とは分からないものだ。

 

「んふふふー、ところで雪乃さん!同じきーち先輩に撫でられ隊のメンバーとして素朴な疑問なのですが、きーち先輩とハグした事はありますか?」

 

「そもそも私はそんな隊に入っていないし、別に撫でられたいとも思ってないからハグなんて必要ないのだけれど?」

 

「えっ?そうなんですか?なーんだ、じゃああの謎の幸福感については何も知らないんですね。小町以外の人がどう感じているか知りたかったのに。……んー、まぁいっかー。小町だけしてもらってると考えればそれはそれで♪」

 

「幸福感?どういうことかしら?まさか、撫でられるより安心するとでも……?」

 

 何を馬鹿な、あの問答無用でこちらの心の騒めきを削り落として行く手のひらより上があるなんて……!?待て、言われてみれば確かに手のひらだけより全身でと考えた方が効果は高そうだ!何故そんなことにも私は気が付かなかったのか!い、いやだからと言って流石に抱きつくなんてできる訳が無い!

 

「あ、その反応!ホントに知らないんですねー?んふふふーじゃあ秘密ですっ!知りたかったら素直にハグして下さいって言えばきーち先輩の事だからなんだかんだやってくれますよきっと!小町はノリで抱きついてから会う度してもらってますけど……凄いですよー?1回は体験する価値アリアリですっ!」

 

 凄い?凄いとは具体的にどういうことかしら?まさか本当に、あれよりも強烈な安心感が得られるとでも……!?ま、まさかそんな「よっすよっすお待たせー」さ、榊君!?

 

 

「んひひー、おかえりなさいきーち先輩!今実は雪乃さんがですねー?もごっ!」

 

「黙りなさい小町さん……!それ以上口を開くと容赦しないわよ?」

 

「ひぇっ……や、やだな〜。冗談ですよ雪乃さん!」

 

 何が冗談なのか。止めなかったらきっと彼女は雪乃さんをハグしてあげてくださいっ!とか榊君に平然と言っていたはずだ。そして恐らくその場合の彼は普通にやる。私の羞恥心とかそういうのは恐らく考慮に入れないで……!

 

「…?何か2人ともやけに仲良くなってない?なんかあったん?」

 

 あったけど一部の話は彼にだけは話せない。話したら絶対彼はにやにやしながらこちらをからかってくる。それはもう絶対からかってくる。それはかなりの屈辱なのでこれ以上の追求はさせてはいけない…!

 

「特に何もないわ。……でも、そうね。強いて言うなら、女の子の秘密、かしらね?」

 

 こう言えば流石に何も言ってこないでしょう、ええ。さすが私、完璧な作戦だわ……あら?何故だか榊君が授業参観の時のお母さん方みたいな顔に……?

 

 

 な、なんか不愉快な勘違いされてる気がするのだけれど!?

 

 

 ◻️◻️

 

 

 喫茶店「チェリーブロッサム」

 

 ついこないだテレビで紹介されたらしい人気店で、シックな店内や一流ホテルで修行した店長が作る華やかな料理がSNS映えすると女性に大人気であり、特に店名にもあるチェリーを使ったチェリーパイは正しく絶品で、見た目と味の両方で満足出来る何か凄いお店だゾッ!

 

 ……とのこと、だったんだが。

 

 

「………」

「………」

「………」

 

 何というか、まぁ微妙だったな!

 

「言わないで下さいきーち先輩……。今小町、無駄に先輩に奢ってもらったことを後悔してる真っ最中ですので……」

 

「…まぁ、大人気店なのに私達の他にお客さんが居ないって時点で気付くべきだったわね。私とした事が失態だわ」

 

 ははは、まぁこういう事もあるよ!俺も食べログの情報信じて何度も失敗したしな。よくあるよくある!ほら、口直しに俺がハリポタの小説に感化されて作った糖蜜のヌガーあげるから、元気だして!

 

「……はぁ。まぁいただきます。むぐむぐ……あー、ショックだぁー。何が1番ショックって紅茶とセットで1500円もした看板メニューのチェリーパイより、きーち先輩の作ったこのヌガーの方が美味しいのがショックだー……」

 

「むぐむぐ、榊君、私のヌガーやたらと糖蜜が多いのだけれど……ハグリッド風?口が開かなくなる様なもの再現しようとしないでくれるかしら」

 

 ふ、俺は漫画や小説から料理のインスピレーションを得る男ッッ!でもソフトシェル丸ごとの肉まんは美味しくなかったです!ま、それはさておき。そんな落ち込むでないこまっちゃんや。結果的にあまり量頼まなくて良かったじゃないか。それに、悪い事ばかりじゃないだろ?

 

「えー?むしろ何かいい事あるんですかー?小町もう今日一テンションが低くなってしまったんですけどー……」

 

「ん?まだ食べられるんだろ?ならさっき言ってたハーゲンダッツ専門店、寄ってもいいんじゃないか?」

 

「それがありましたっ!そうですね流石にハーゲンダッツなら最低限の味は保証されてますしっ!よしっ、じゃあ小町ちょっとお手洗い行ってくるんで待ってて下さい!それから行きましょー!」

 

 おお、一瞬で元気になったと思ったら走り去ってしまった。どうでもいいが女の子がデカい声でお手洗いと叫ぶのはどうなんだ?……まぁ本人気にしてないしいっか!

 

 ところでセツのん、パンさん邪魔なら俺が持とうか?

 

「必要ないわ。むしろ持ってくれると言うのなら鞄の方をお願い」

 

 いやどう考えてもパンさんの方がデカ……ああ、意地でも離す気ない顔だね。了解、鞄持つよ。

 

 セツのんから鞄を預かると肩にかけた。俺の通学鞄は面倒くさがって既に空間倉庫に放り込んであるので、セツのんの通学鞄だけだ。ぶっちゃけ軽い。どう考えても俺がパンさん持つ方が良い気がするが、まあ本人がパンさんをあすなろ抱きしたままとても満足気なので良しとしよう。

 

「……ところで榊君?」

 

 んぁ?どったん?

 

「小町さんに勉強を教えていると聴いたのだけれど……貴方、教えるの苦手だと言ってなかったかしら?」

 

「ふ、苦手だが出来ないとは言っていない!」(`・ω・´)キリッ

 

「あら、では今度また由比ヶ浜さんと勉強会をするのだけれど、貴方も参加する?」

 

 ふ、実は俺氏その日忙しくて参加出来ないんだー!やー、残念だなー!仕方ないから2人で仲良くやっておいで?ゴスッって痛っ!?何故殴るし。

 

「まだ日程も教えてないのに忙しいとか言ってる時点で行く気ないだけでしょう。……そんなに、私達と勉強会をするのが嫌なのかしら?」

 

 いや?そんな事は全然ないが。というか、うーん……まぁ今なら参加しても良い気がするなぁ。

 

 最初の頃は正直セツのんとゆいにゃんに仲良くなって欲しかったから参加しなかっただけだし。やろうと思えば俺のアンサートーカーでも誰かに勉強を教えられなくはないし。1人につき1つずつしか教えられないから少し面倒なだけで。

 

 実の所、単に部活の外なら俺が居ない方がひょっとしたらセツのんの交友関係広がるかなーと思っていただけだ。実際ゆいにゃん以外に戸塚もたまに参加してるらしいし、俺の目が無いことで広がる事もあるかなーと思ったのだ。平塚先生にも、ずっと見てる事が必ずしも人の成長に繋がる訳では無いって言われたし。

 

 悩みながらチラ、とセツのんを見てみる。こちらを不審そうに見ているが、まぁ相変わらず美少女だ。出会った頃と変わらず、とんでもないレベルの。

 

 だが、最近は少しだけ雰囲気が柔らかくなった気がするし、さっき見た感じこまっちゃんとも仲良くやれているっぽい。まぁこまっちゃんは単体でコミュ力高いのであれとしても、最初個人的な理由で一方的にセツのんを嫌っていたサキサキともここ数日で普通に話すことが出来るようになっていた。ふむ。

 

「はっきりしないわね……嫌なら嫌と言いなさい!」

 

「嫌という訳じゃねーよ。ただこう……勉強するくらいなら遊びに行きたいというか、そもそも普段勉強してないというか?」

 

「はぁ?貴方ね、そんな事でこの先やって行けると……?待ちなさい。じゃあ貴方、今までのテストどうやって……まさか!?」

 

 当然ノー勉ですが何か。や、ほら何度も言うけどテストとかアンサートーカー任せだしね!……や、これは言ったら怒られそうだな。流石の俺でもこの顔のセツのんを見ればそれくらい分かる。うーん、なんて答えようか……ハッ!この手があった!見よ、古来より使われてきた、聞かれたくないことに関する質問を誤魔化す、伝統的な手法!これぞっ!

 

「ひゅー!ひゅー!」( ;゚³゚)ヒューヒュー

 

 口笛吹いて誤魔化す的な術ッッ!

 

「口笛吹いてるつもりかしら?……というか、それで誤魔化されるはずないでしょう!!いい加減にしなさいっ!」

 

 失敗しちゃった(*´∇`*)ゞ

 そういやそもそも俺、前世から口笛吹けない民でしたわてへぺろ!

 

「ぐっ!く、屈辱だわ……ッ!こんな男に一度でも負けたなんて……ッ!汚点ッ!この私の人生最大の汚点……っ!」

 

 うわ、ガチでカイジしてるくらい落ち込んでる……!ま、まぁそりゃそうか。俺チーターだからなぁ。こんな奴に真面目に勉強してて負けたらそりゃ怒るよね。ゲームの世界大会でチートで優勝するようなものだ。誰だってコントローラー投げる。改めて見ると本当に俺って屑だなぁ。まぁ、だからと言ってチート使わない選択肢は無いけどさ。俺チーターだし。チーターからチートを取ったらただの一般人だしね。

 

「えぇと、ごめんセツのん。やっぱ俺、勉強会の参加止め「駄目よ」……えぇー?」

 

「黙りなさい。問答無用よ!こうなったら「あれ?雪乃ちゃん?」……ッッ!?」

 

 およ?どちら様?なんかいきなり知らない女性がやってきたけど……お?どったのセツのん、怖い顔して。

 

「やっぱり雪乃ちゃんだー!久しぶりー!こんな所で奇遇だね!」

 

 おや、やたらフレンドリーですね。これはセツのんの関係者かな?……んんー、もはやほぼほぼ掠れてしまった前世の記憶にも、セツのんに姉だか母だかがいたような気がする?いや、母は居ないとセツのん生まれないか。

 

「姉さん……ッッ!!」

 

 ん?なんかセツのんの反応が……んんー?何か複雑な顔してんな。苛立ちと不安と恐怖と……喜び?駄目だよく分からん。

 

 とりあえずもう少し静観することにして、今も「なんでこんなとこに?あれ、制服じゃん!デート?デートかこのこのっ!」って凄いパリピみたいな絡み方してるお姉さんらしい人と、鬱陶しそうに顔をしかめながら塩対応しているセツのんの様子を少し離れたところで見ながら、お姉さんらしい人と一緒に来たらしい大学生っぽい男女が先に歩いていくのを確認する。ふむ?

 

 しばらく2人の絡みを見ていたが、セツのんの表情が明確に変わった辺りで静観を止め、2人の方へ歩いていく。すると目敏くこちらに気付いたお姉さんが目をわざとらしくキラつかせてこちらに寄ってきた。ふむふむ。

 

「あっ!んふふふー?これが雪乃ちゃんのデートの相手かな〜?ねぇねぇ、君が雪乃ちゃんの彼氏〜?雪乃ちゃんは教えてくれなくてさー!」

 

「そうですけど」

 

「あーやっぱりー?君が雪乃ちゃんの彼氏……えっ?」

 

「えっ?」

 

「えぇっ!?」

 

「嘘です」

 

 ん?なんか声が多いなって、あ、こまっちゃんおかえり。

 

「あ、はい。ただいまですっ!…じゃなくて!あのう、きーち先輩、今のは……?というか、このとんでもない美人さんはいったい…!?」

 

 ん?俺もよく分からんがセツのんのお姉さんらしいぞ。よく見ると所々似てるところあるし、たぶんガチだよ。そんで今お姉さんに冗談言われたから冗談で返したら冗談が通じなかった。どうしようか、この空気?

 

「そ、それを小町に聞くんですか!?えぇ〜……きーち先輩ってやっぱどこかぶっ飛んでますよね?」

 

 何を言うか失礼な。俺はチートがなければただの一般人ぼっちだよ。というかガチトーンで言うの止めてくれる?割と傷付く。

 

「……ハッ!?ちょ、ちょっと榊君?いきなり変なこと言わないで欲しいのだけれど?」

 

 ……?俺そこまで変な冗談言ったか?そうですしか言ってないと思うんだけど。というか俺とセツのんが付き合ってる訳ないしこんな分かりやすい冗談が通じなかった方が驚きを隠せない。つか、オレとセツのんが付き合ってないことなんてセツのんが一番よく分かってるだろ。何で一緒になって驚いてんの?

 

「ッッ!だ、黙りなさい!私は驚いてなんかいないわ!あ、あまりのくだらない嘘に固まっていただけよ!……でも、貴方の表情は読みにくいのだから、変に冗談を言うのは止めなさい。分かりにくいじゃないの……」

 

 左様か。まぁ次からは気を付けよう。さて、こまっちゃんも戻った事だし、俺らもそろそろハーゲンダッツ食べに行こうか。

 

「ッッ!な、なーんだ冗談かー!もー、おねーさん一瞬本気でびっくりしちゃったよー!君も中々やるなー?このこのー!」

 

 お、ようやく復活した。なるほど、思考停止レベルの衝撃は流石に復帰が遅いのか。その辺はセツのんに似てるな、やはり姉妹か。しかしセツのんよりその後の対応はスムーズかつスマート。これは出来る姉と見た!(`・ω・´)キリッ

 

 そんなくだらないことを考えてると、急に物理的に距離を縮めてきたお姉さんらしい人に首に腕を掛けられながら「雪乃ちゃんを泣かしたら許さないぞー?」とか冗談めかして言われたので、言われた通りに今度は冗談抜きで返答しておく。

 

「いや、姉のんさん。すいませんが俺セツのんの泣き顔可愛いと思ってるんでこれからも機会があったら積極的に泣かしに掛かります」

 

「ちょ、榊君!?」

 

「姉のん!?泣かしに掛かる!?え、えぇー?き、君ちょっと変わってるって言われない……?」

 

(ぼっちなので)誰にも言われたことないですね。さておき、すいません姉のんさん、俺達これからハーゲンダッツ食べに行くので、そろそろ失礼しますね。こっちのちっちゃいの中学生なので、食べたら早く帰らないといけなくて……せっかくの姉妹の時間に水差しちゃってすいません。ほら、そろそろ行こう2人とも。

 

「ふぇ?あ、ああ!はいっ、了解ですきーち先輩!すいません雪乃さんのお姉さん!失礼しまーす!」

 

「えっ?ええ……それじゃ、姉さん。その、また……」

 

「えっ?あ、ええ…そうね?こちらこそ邪魔しちゃってごめんなさい。それじゃあまたね、雪乃ちゃん」

 

 もう少し話させてあげたい気もするが、実際もういい時間なので、こまっちゃんは本当にそろそろ帰さなくてはならない。そんな訳で、まだ少し戸惑ってる姉のんさんを置いて、俺達はハーゲンダッツ専門店のある場所まで戻るのだった。

 

 

「行っちゃった、か……ふーん?なんか面白いことになってるねー?」

 

 

 ◻️◻️

 

「あー美味しー!やっぱりハーゲンダッツは外れないなー!バナナミルク最高!」

 

 はいはい、それは良かったなこまっちゃん。だがちゃんと前を見て歩けよー?

 

「んふふふー!だいじょーぶですよきーち先輩!小町今ハーゲンダッツの力で元気100倍なので唐突にピンク色したUFOみたいなのが飛んできて、明らかに入り切らないロボットアームが飛び出してきてもワンパンですっ!って、わきゃっ!?」

 

 おっと。ほれみろ言わんこっちゃない。新しい顔に交換してないのに張り切るからそうなる。空が飛べるのに地面で躓いてたら世話ねぇな?

 

「え、えへへっ!ありがとですきーち先輩。でも今のはほら、足元ですから!言われた通り前は向いてましたからノーカンですっ!」

 

「そんな訳ないでしょう……もう、危ないわよ小町さん?」

 

「あぅ、すいません雪乃さん……」

 

 あれから、きっちりハーゲンダッツ専門店でアイスをそれぞれ購入した後、ゆっくり店内で食べてるほどの時間的余裕が無かったので、少々行儀悪いが食べながら帰ることにして、現在、俺達は駅に向かって歩いていた。

 

 ちなみにセツのんは特大パンさんが邪魔でアイスを持てなかったので、嫌がるセツのんを無視して俺が一旦空間倉庫に収納した。先ほどまではぶつくさ言いながらクッキー&クリームを食べてたが、今は落ち着いたらしい。こまっちゃんは期間限定のバナナミルクをニッコニコで食べている。俺は店舗限定とかいうラムレーズンだ。や、アイスのラムレーズンは昔から好きだが、ハーゲンダッツは流石に質がいい。遠くなければ3日に1回くらい食べたい美味さだ。

 

「きーち先輩きーち先輩っ!ラムレーズンはどんな感じですかっ?小町あんまりラムレーズンアイス食べないので気になりますっ!」

 

「む?美味いぞ。元々俺がラムレーズン好きなのもあると思うが……少し食べてみるか?」

 

 正直どうかと思わなくもないが、ものすごいキラキラした目で期待するように見られたらこう言うしかない。どうやらこまっちゃんはアイスが好きらしい。

 

「良いんですかっ!?じゃあ遠慮なく!あ──ん」

 

 え、自分で食えよ。ほら、そっちのバナナミルク、俺が持っててやるから。

 

「あ──ーん!」

 

「………えぇ?はい、あーん」

 

 どうやら俺にバナナミルクを持たせる気が無いらしいので、仕方なく手に持っていたスプーンで自分の持つラムレーズンを一掬い、開けっ放しの彼女の口の中に放りこんでやる。

 

「………!」

 

「んふっ!おおー?これは、何か大人っぽい味!ラムレーズンってこんな味なのかー……少しクセがあるけどこれはこれで好きかも!新しい発見だ!」

 

 左様か。ま、美味けりゃ良かったな。ただ初めてのラムレーズンアイスがハーゲンダッツとか、他のじゃもう食う気にならんかもしれんけど。え、何?あ、俺にもバナナミルクくれんの?別に要らんのだけど……や、ごめん食べます。だからアイスたっぷり載せたスプーン、目に押し付けようとするのやめて。口には甘くても、目の粘膜には甘くないからそれ。

 

「はいきーち先輩あーんっ♪」

 

「あーん。うーむ、デリシャス!」

 

「ふふふー!そりゃ小町の愛情たっぷり詰まってますから!あっ!今の小町的にポイント高い!」

 

「………」ジトー

 

 うむ、アイス作ったのハーゲンダッツだけどねー。で、さっきから地味になんか言いたそうなセツのん、どうかしたの?あ、ひょっとしてセツのんもラムレーズン食べたい?

 

「そんな訳でないでしょうこのロリキ君。今日ずっと思っていたのだけれど、貴方と小町さんの触れ合い、かなり目に余るわよ。そろそろ本気で通報しようか悩んでるわ」

 

 ふむ?すまんがこまっちゃん、翻訳頼むわ。

 

「小町達ばっかりイチャイチャしてて狡い!って雪乃さんはご立腹みたいですよきーち先輩!これはもう雪乃さんも交えてイチャイチャしなくてはならないのでは!?」

 

 なにぃ!?そうだったのかセツのん!!寂しい想いさせてごめんなーセツのーん!ちゃんと皆でイチャイチャしようなー?ほらラムレーズンあーん!

 

「脳までアイスみたいに溶けてるんじゃないの貴方達!?誰がそんな事言って……ッッ!ちょ、止めなさい、私はそんな事する訳なっ、無理矢理アイス食べさせようとしないでっ!」

 

「まーまー素直になりましょーよー雪乃さぁーん。ほらほら、きーち先輩と小町の愛がたっぷり詰まったあーん、受けてください!」

 

 まぁやっぱりアイス作ったのは俺たちじゃなくてハーゲンダッツだけどな!ほらほら、僕のアイスをおたべー?あーん!

 

「ちょ、まっ、いい加減にしなさもごっ!?」

 

「ふっ、これぞ必殺、問答無用であーんの術ッッ」(`・ω・´)キリッ

 

「わぁ〜!きーち先輩セクハラー!そこに痺れるあこがれなーい!」

 

 ふ、褒めるなよ照れる(*´д`*)

 

 ま、それはさておきセツのん、ラムレーズンのお味は如何か?

 

「この上なく腹立たしい味ね……ッッ!思わずこの余ったクッキー&クリームを貴方の口に無理矢理全部詰め込みたいくらいだわ……!!」

 

 はははは!そーかそーか。俺にそんなにあーんしたいか!気持ちは嬉しいがその前にこまっちゃんのバナナミルクであーんしてもらうといいよ!

 

「準備は万端ですよ雪乃さん!」(`・ω・´)キリッ

 

「貴方達本当にいい加減にしないと殴るわよ?……はぁ、小町さんまで榊君みたいな事言い出すの止めてもらえるかしら。頭が痛くなってくるわ」

 

 そんな事もあろうかと、成分の半分が優しさということで非表示の胡散臭い頭痛薬だよ!使う?

 

「バファ〇ンを不当に貶めるのは止めなさい……もう、仕方ないわね。ほら、あ、あーん…」

 

 ぐふッッ

 

 うわなんだコイツ可愛い!なんか顔真っ赤だし羞恥でプルプル震えてるし何ならちょっと涙目だしヤバい!ヤバい今のはヤバい!語彙力が死んだ!心臓をハンティングライフルでぶち抜かれた気がする!胸きゅんっていうか胸ドキュン!って感じ!もうこまっちゃんが食べさせる側とかじゃなくてセツのんがあーんさせる側だけどどうでもいい!ヤバい!

 

 くそ、駄目だ今の衝撃でセツのんをまともに見れない……!は、早く、早くあーんされないとセツのんが更に羞恥で泣いちゃうから早くあーんされないと……!そ、そうだこまっちゃん!頼むこまっちゃん、俺の代わりに……!?

 

「………かふっ」(`・ω・´)bアトハマカセタ……_(:3」 ∠ )_チーン

 

 こまっちゃん!?こまっちゃぁぁぁん!?し、しんでる……!尊死だ……!胸キュン過ぎて心臓が止まってしまったんだ……同性を一撃とか、セツのん……恐ろしい子ッッ!

 

「…あ、あの榊君?早く食べてくれないとアイスが溶けてしまうのだけれど……それとも、嫌なの、かしら……?」

 

「んなわけ無いです。いただきます!」

 

「あっ」

 

 あーん!うむ。クッキー&クリームも美味いな。だが今日ほど自分がモサモサであって良かったと思った日はないな!正直自分の顔が赤い自覚あるわ。セツのんマジかわえぇ。ヤバい。普段平塚先生でギャップ萌えに高い耐性のある俺でもダメージが致命傷クラス。何ならもう一発食らったら死ぬ。完全に二撃必殺の雀蜂。セツのんは砕蜂かな?たぶんこまっちゃんは雀蜂雷公鞭された。

 

 とかなんとか必死にダメージを回復させてたら袖を摘まれる。ん?何セツのん。てか、そのつまみ方地味にキュンとくるから止めてくれない?

 

「あ、あの……さっきはやっぱり、味がよく分からなかったから……その、もう一口、ラムレーズン……駄目、かしら?」

 

 やめてくださいしんでしまいます!

 

 駄目だまだ死ぬなこまっちゃん!頼むまだ死なないでくれこまっちゃん!君が居ないと俺が死ぬ!こまっちゃん!こまっちゃぁぁぁん!!

 

 

 

 この後皆で仲良くあーんしまくったよ!!

 

 ◻️◻️

 

 

 ふぅ、先程はえらい目にあったぜ!

 

 あの後普通に駅に行き、こまっちゃんの最寄り駅で皆で降りてタクシー拾おうと思ったのだが、こまっちゃんはチャリで駅まで来てたらしい。

 

 俺達に合わせて、こまっちゃんに歩いて帰らせるのもアレだし、セツのんだけタクシーで帰らせ、俺がこまっちゃんのチャリ運転してこまっちゃんを送って帰ろうかと思ったのだが、2人から却下されたので大人しく3人で歩いてこまっちゃんを家まで送り、そこから更に俺とセツのんは歩いてマンションまで帰ることになった。

 

 地味に1時間以上歩くことになるのだが、セツのん曰くジョギングの代わりらしい。いや俺この後どっちにしろトレーニングはあるんですけど。というか先程から平塚先生からの連絡がヤバい。ただでさえ今日は学校で虐めたし、その上で夕飯を一緒に取れなかったので相当キてるのか、メールとLINEの両方で俺でも読むのが怖いレベルの爆撃が始まっている。ぶっちゃけ電話してこない理性が残っているのが奇跡なぐらい。

 

 なので俺はもうタクシー使ってささっと帰りたいくらいなのだが、タクシー代を俺が出すからと提案したら余計にセツのんに怒られた。セツのん曰く、

 

「貴方、今日だけで幾ら使ったの?何だかんだ私も一人暮らしだし、奢ってもらえるのは有難いわ。けれど、貴方がどれだけお金持ちだったとしても、そのお金はあくまで貴方が自分の力で得た物よ。無闇矢鱈に他者に使うべきではないわ。それが例え、あなたの意思であっても。……それに、私も貴方を金蔓にしたくはないわ」

 

 ……色々ツッコミどころはあるけれど、こんな事言われたら黙るしかないよね。ぶっちゃけ今日の食事代とか全部出てたのは俺がカッコつけたかっただけなんだけど、それも控えようと思った。セツのんの優しさを侮辱する事になってしまう。いやほんと、分かっちゃいたけど俺の周りっていい女だらけよな。

 

 そんなわけで今はてくてく2人で夜道を歩いているのだが、既に夜8時を過ぎている。俺達の住むマンションとこまっちゃんの家は総武高を挟んでほぼ真反対なので、割と普通に遠い。

 

 しかし、この時間は総武高周辺は本当にもうほとんど人気が無くなるな。まぁ学校周辺なんてそんなもんだろうけど。

 

「……ねぇ榊君」

 

 ん?なに?あ、パンさんはマンションに着いたら返すよ。

 

「そうではないわ。いえ、パンさんは絶対に返してもらうけれど。……その、さっきの……姉さんの、事なのだけれど」

 

 おう、姉のんさんがどうかしたのか?

 

「いえ…大したことでは無いのだけれど、姉といた時、貴方がいつもとは違うというか、まるで姉さんを嫌っているようだったから……何かあったのかと思って」

 

 え?いや俺自身には特に何も無いけど。

 

「そうなの?……あら?それではまるで他の人に何かあったみたいじゃ……?」

 

「や、だってセツのんあの人苦手だろ?」

 

 理由とかはわからんけど。だからとりあえず話早く終わらせた方が良いかなって。だから姉妹水入らずの邪魔して、こまっちゃんをダシにセツのんも連れ出したんだけど……あれ?ひょっとして違った?だとしたら謝るわ、ごめん。

 

「っ!……そう、だからあの時……本当に、よく見てるのね……いえ、謝る必要はないわ。貴方の言う通り、私、姉が苦手だもの」

 

 そう?なら良かったよ。余計なお世話かもとは思ったんだがね。そうでないなら一安心だよ。

 

「ねぇ……貴方は姉さんをどう思う?」

 

 どう思うか?……うーん、姉のんさんを、ねぇ……?

 

「……あの人に会った人は皆、あの人を誉めそやすわ。まぁ、実の妹である私から見ても容姿端麗、成績最高、文武両道、多芸多才、その上温厚篤実……文句の付けようが無い完璧な人だと思うわ」

 

 や、そりゃセツのんの姉と考えたら当たり前じゃね?むしろそれくらいでなければセツのんの姉は務まらんやろと思うが。

 

「……え?」

 

 何驚いてんの?だって今言ったのセツのんだってだいたい同じじゃん。温厚篤実はともかくゴスっ痛っった!おまっ、そういうとこやぞ!?

 

「黙りなさい。……それじゃあ、結局、貴方はどう思うの?」

 

「あー、なんだろ。気合いの入った着ぐるみの中の人?」

 

「えっ?それは、どういう……?」

 

 どうも何も、よく知らんけどあれ外面でしょ?ものすごく丁寧に猫被ってると言うか。あれ?だから苦手なんじゃないの?ほら、暗殺教室で言うところの初登場時のビッチ先生みたいな?確かにアレを身内がやってるとこ見たら恥ずかしくて見てられないよね!……と、そんな感じで人前だと漫画みたいな凄い猫被ってる姉を見るのが恥ずかしいからセツのんが嫌そうな顔してんのかと思ってたんだけど?……え、何その顔。

 

「ぶっ、くくく……!ご、ごめんなさい、貴方を馬鹿にしてるわけではなくて、くくっ、まさか漫画知識で姉のあれが見抜かれるなんて……ふふふっ!しかも着ぐるみ……っ!だめ、我慢できない……ッッ!!」

 

 や、笑いすぎやろ。俺そんな面白いこと言った?

 

「ふくくくく……!い、いえ、むしろ榊君は本当に凄いなと……くくっ」

 

 嘘つけ。むしろ完全に馬鹿にしてるやないか。……はぁ、まあ何でも良いけどね。やれやれ、もう好きなだけ笑ってなさい。俺は先行くぞ。

 

「くふふっ、あ…!ま、待って。私も行くわ!ふふふっ」

 

 完全にツボに入ってしまったらしいセツのんを置いて歩き出す。するとセツのんは笑いながら慌てて着いてきた。顔を伏せ、口に手を当てて物理的に抑えても笑いを堪えきれないらしい。俯いたままだとまっすぐ歩けないようで、口を抑えている手とは反対の手で俺の腕を掴み、縋るようによたよたと着いてくるセツのん。

 

 ぶっちゃけ歩きにくいのだが、俺の手を離す気はないようなので諦めて珍しく笑いの治まらないセツのんの盲導犬役をしながら歩く。結局セツのんの笑いが治まるまでゆっくり歩く羽目になった。

 

「ふふふっ、ごめんなさい榊君。つい笑ってしまったけれど、今回は本当に貴方の事を絶賛してるのよ?」

 

「あっそ。まぁどうでもいいです」

 

 それよか笑い治まったなら手を離しなさいな。歩きにくいよ?

 

「そう怒らないでもらえるかしら……本当の事よ。よく分かったわね、姉のあれが外面だと。大抵の人は気付かないのだけど……」

 

 や、何も分かってないです。マジで。いや本当。割と適当に言ったし。

 

「そう不機嫌にならなくてもいいじゃない。本当感心してるのよ?よく見てるのね、凄いわ」

 

 アホか。別に怒ってもなければ不機嫌でもねーよ。本当に姉のんさんのなんかに気付いたわけじゃない。というかそもそもそこまでちゃんと見てもない。何となくセツのんに似てたような気はするけど既にうろ覚えだしな。着ぐるみって言ったのもただの勘でしかない。セツのんに聞かれたからなんとか思い出して答えただけで、合ってようが外れてようがどっちでも良かったんだよ、俺は。

 

「そうなの?……それにしては的を射ていたから。てっきり、それに気付いたのかと思ってしまったわ」

 

 俺が名前も知らん人間の事なんかよく見る訳なかろ。それがセツのんの姉だって知ったこっちゃないわ。同じクラスのゆいにゃんでさえ奉仕部で知り合うまで気付かなかったのに。……俺に分かったのは、セツのんが本当に嫌そうにしてた事だけだよ。それ以外は知らん。そもそも興味も無いからな。

 

「ッッ!………そう。…その、ありがとう……助かったわ」

 

「どういたしまして。それよか、歩きにくいんだけど?」

 

 もう手ぇ離しても良くない?つーかさっきは腕掴んでただけだったのに、なんで今は腕組んでんの?まだ6月だから暑いんですけど。

 

「……そういう気分なだけよ」

 

「……左様か。まぁ、好きにしろ」

 

 どうやら離れる気は無さそうなので、それ以上は何も言わないことにした。まぁ、飽きたら勝手に離れるでしょ。たぶん。

 

 まぁ帰ったら確実に平塚先生に怒られるだろうけど、ここ3日間ほど前からこまっちゃんに会うとだいたい抱きつかれるので、散々抱きつかれた今日はもうとっくに手遅れだ。何なら先程姉のんさんにも触られている。また新しい歯型が両肩に増える事になるのは既に確定事項だ。今更一人分の匂いが増えたところで変わらないので諦めた。

 

 それからしばらくはお互い無言で歩いていた。セツのんに腕を組まれていた俺の右腕は、いつの間にかセツのんの両腕の中にあった。何故かこちらの肩に預けられている彼女の頭が少し重い。けれど、同時に何の香りかは分からないが、とにかく良い匂いが彼女の髪から漂ってきた。女性って謎にそういうとこあるよね。これ本当にシャンプーが違うだけなんだろうか。

 

 ふと、帰りにコンビニに寄ろうかと思い立ったが、右側の彼女はまだそういう気分なのか離れる様子は無い。この辺りはまだ学校の近くなのでたまに総武生徒がバイトをしている。俺はともかく彼女のこういう姿を見られるのは危うい気がしたので、諦めてコンビニに向けていた足を元の道へ戻した。

 

「……ねぇ、榊君」

 

「何だ?」

 

「変装してた時は外してたのに、まだネックウォーマー付けてるのね」

 

 そりゃ首だけダイエットだからな。たまに外すことはあっても効果が出るまでは付けてるのが当たり前だろ。……もしかしてまだキスマーク説疑ってる?付いてなかっただろ、あの時。

 

「……別にそんな事疑ってないわ。本当にキスマークだったとしても、私にはどうでもいいもの」

 

「そりゃそうか」

 

 実際にはあれから普通に毎日付け直されてるので、俺の首筋は毎日真っ青な訳だが。なんなら既に首筋だけじゃ収まりきらなくて胸元まで広がっている。お陰様で夏場なのに第1ボタンすら外せない。今日だってこまっちゃんに香水付けられそうだったのを拒否したのはそういう理由だし。

 

 そんな事考えてたら彼女の両腕による締め付けが強くなった。見ると若干不機嫌そうな顔をした彼女。求めていた答えと違うのは分かっているが、残念ながら俺にはそれ以外の返答は出来ない。何も言わずに歩こうとしたが、彼女の方が足を止めてしまった。

 

 仕方ないので俺も足を止めて彼女の方へ向き直り、空いている手で彼女の頭を撫でた。何故か俺の周りの女性陣は俺が頭を撫でても怒らない。調節して流す波紋に鎮静効果があるのはアンサートーカーで調べたので知っているが、俺は自分には波紋を流しても、発生源が俺自身だからか波紋による影響は受けても鎮静効果は感じられない。俺のスタンドはちゃんと自分にも能力が使えるのに、不思議なものだ。

 

 撫で始めると直ぐに彼女の目が細められた。相変わらず撫でられた時の反応が猫と一緒だなぁと思いつつ、彼女の機嫌が治るまで撫でておく。数分もすれば彼女から感じた不機嫌な感情は無くなっていた。

 

 もう大丈夫そうだと判断して撫でていた腕を離す。一瞬名残惜しそうな顔をした気がしたが、見なかったことにして歩き出す。出来れば右腕も解放して欲しかったが、そちらは頭から手を離した瞬間に更に締め付けが強くなったので諦めた。

 

 締め付ける力が強くなりすぎて、下着の奥の控えめな感触まで腕から伝わってくる。こればっかりは平塚先生の方が圧倒的なので、そちらに慣れている俺の耐性を超えてくることはないだろう。こんなこと考えてるのがバレたら殴られるけど。

 

 再び無言で歩く。もうマンションは見えてきていた。

 

 とうとう我慢できなくなってきたのか、マナーモードにした携帯が断続的に震えている。メールなのか電話なのか分からないが、メールだとしたら見るのが本気で怖い。もうすぐ着くのでもう少しだけ待ってて欲しい。

 

「……出なくていいの?」

 

 正直出たいところだが、この電話に出たら開口一番に怒声が飛んでくるのは目に見えている。この距離のセツのんにも絶対聞こえるので出るに出れない。もうすぐ着くから良いんだよ、と言って誤魔化す。そしてすぐに失言に気付いた。

 

「……そう、貴方の部屋に、誰かが居るのね?……貴方、一人暮らしでは無かったかしら?」

 

 やっべやらかした。

 

 慌てて母が泊まりに来ている、と嘘をついてみたが自分でも苦しい気がする。案の定「それならご挨拶に伺っても良いかしら?」と言葉が返ってきた。いや良くないです。

 

 逃げようにも腕の締め付けはより強くなり、おまけにもうマンションは目の前である。先程解消したばかりなのに再び右側から強い不機嫌なオーラが漂ってきた。ちょっとまずい、どうしよう。

 

「……そういえば榊君、小町さんから興味深い話を聞いたのだけれど」

 

 ほ、ほう。どんな話かな?

 

「詳細は省くわ。検証してみるので協力してもらえるかしら?」

 

「え、なにそれ。協力しようがなくnうおっ!?」

 

「……何してるの榊君?早く小町さんにしていたようにしてくれないと困るのだけれど」

 

 えぇ……いやあーた、突然抱きついて来といてその発言はどーなの?おまけに顔どころか耳まで真っ赤じゃん。……あー、はい。分かりました分かりました。やりますよ。文句ももう言わないです。

 

 仕方ないので言われた通りにする事にした。ようやく解放された右手は頭に、左腕は少し抱き寄せるように背中に。そして両方から波紋を優しく流す。平塚先生とこまっちゃんのお気に入りである。

 

「……なるほど、これは確かに……1度は体験しておいて損は無いわね」

 

「よく分からんが、満足したか?」

 

「まだ検証中よ。勝手に止めないでくれる?」

 

 えぇ……流石に俺も恥ずかしいんですけど。人通りが少ないとはいえ、まだ夜の九時だ。俺達と同じくマンションに返ってきた人達がこちらも見ながらどんどんマンションの中に入って行く。いや本当に恥ずかしいんですけど!

 

「見なければ良いのよ。私は見てないから何も感じないわ」

 

 そりゃあーた、俺の胸に顔擦り付けてるからね!見なくて済むよね!俺はそうもいかないんだよバーロー!これ平塚先生に見られたら間違いなく刺される案件だよ!まぁ俺包丁で腹刺されたくらいじゃ死なないけどさ。一応アンサートーカーで平塚先生が俺の部屋に居るのを確認しておく。

 

 もう五分くらい経ったがセツのんの腕が緩む気配は無い。本人は何か幸せそうに「ん〜♪」とか言ってる。クソッこいつ可愛いなもう!ま、まぁ平塚先生には負けるけどね?……そろそろ理性がヤバくなってきたので引き剥がす事を真剣に検討してたら、意外なところから救いの手が伸びてきた。

 

 ピリリリッ!ピリリリッ!

 

「……おい、携帯鳴ってんぞセツのん」

 

「……そうね」

 

 いや出ないの!?俺と違って出ないとまずいのでは?

 

「……はぁ、仕方ないわね」

 

 しばらく無視してたセツのんだったが、鳴り止まないコール音に観念したのか、ようやく俺から離れて携帯を取り出した。俺としてもちょっと危なかったので電話の相手が誰だか知らないが感謝しておく。

 

 やれやれ、抱きつかれてたところが汗かいている。よくセツのんは平気だったな。夏場は外であまり抱き合うもんじゃないな。うん。どうせなら遠く離れた海とかで水着姿の平塚先生と抱き合いたい。

 

 さておき、まだコール音が鳴り止まないのでセツのんを見ると非常に嫌そうな顔で携帯の画面を見ている。あ、俺相手誰だか分かったわ。

 

「じゃあセツのん、俺先戻るな?マンション目の前だけど気を付けて帰れよー」

 

「待ちなさい。まだ帰っていいとは言ってないわよ?」

 

 咄嗟に逃げようと思ったが腕を掴まれてしまった。おまけにこちらに携帯を向けてくる。その画面には案の定、「姉さん」の表示が。わぁ俺がセツのん逃がした意味なーい!

 

 何やらめんどくさい事になりそうだが、セツのんは俺の腕を掴んだままスピーカーボタンを押すと電話に出てしまった。

 

「……もしもし、私だけれど」

 

『雪乃ちゃんおっそ──いっ!こんな時間まで何処ほっつき歩いてんの?!お姉ちゃん待ちくたびれちゃったよー!!」

 

「……もうすぐ帰るところだけれど、その口振りだと姉さんはまさかウチへ来ているのかしら?」

 

『そりゃ来てるよ!せっかく雪乃ちゃんのボーイフレンドに会ったんだから!ただでさえ誰かと買い物なんてした事ない雪乃ちゃんが男の子だよ!?話を聞くに決まってるでしょ!!それよりいくら何でも遅いよー?雪乃ちゃんまだ高校生なんだから不純異性交遊はお姉ちゃん感心しないなー?」

 

 うわ、セツのんが苦虫20匹くらい一気に噛み潰したような顔してる。ま、まぁ確かに家族にこーゆー事で勘ぐられたらウザいよね。気持ちは分かる。

 

 だが、俺もそろそろ部屋に向かわないとまずいので、少しだけ姉のんさんの思惑に乗って上げることにしよう。

 

「失礼な。俺とセツのんは純粋(な友達としての)異性交遊ですよ?」

 

「ちょ、榊君!?いきなり何を言ってるのかしら?!」

 

 ふ、援護射撃は俺に任せておけセツのん(ゲス顔)だってほら、スピーカーにしたのセツのんだしね!きっと俺にこうして欲しかったに違いない!

 

「違っ、榊君!?待っ」

 

『この声、さっきの……へぇー?やっぱり君、雪乃ちゃんと付き合ってたんだぁ。これはおねーさん、君にも話を聞かないと行けなくなっちゃったなぁー?」

 

「や、俺は名前も知らない人と話す気とか特に無いです。ですが、一応教えておくと俺達は付き合ってません。ただし、ひとつ屋根の下で暮らしています」

 

「榊君っ!?」

 

『へぇ……?そうなんだぁ。…さっきは自己紹介出来なくてごめんねー?私、雪乃ちゃんのお姉ちゃんで、雪ノ下「あ、結構です。というか自己紹介は普通面と向かってするもんだと思いますよ頭大丈夫ですか?」ちょっと!?』

 

「遅くまで妹さんを連れ回してしまってすいません。あと5分もしないで部屋に着くので、お話はその時(姉妹水入らずで)ゆっくりお願いしますね!それでは」

 

 ピッ

 

 ふぅ……良い仕事したぜ!ゴッスゥッッ!!痛っっっってぇ!?俺史上ナンバーワンの痛み!!何すんだセツのん!?

 

「それはこっちのセリフよ!貴方いきなり何してくれてるのかしら!?ひとつ屋根の下って何よ!?」

 

 や、同じマンションだし嘘は言ってなくない?大丈夫大丈夫、俺がしっかり姉のんさんには先制攻撃しておいたから話した感じ結構動揺してるはず。後はセツのんが適当に口八丁すればたぶん姉のんさんに勝てるっ( *˙ω˙*)و グッ!

 

「何故私が姉と闘うことになってるのかしら!?下手したら引っ越しさせられるわよ!」

 

「それはそれでラッキーじゃねぇの?ほら、最初同じマンションだって分かった時よく言ってたじゃん。引越ししたいって!」

 

「何時の話してるのよ!そんなのもうとっくに……!」

 

「とっくに?へぇー?……とっくにどうしたのかなぁ?」

 

「〜〜ッッ!あ、貴方ねぇ……ッッ!!」

 

 おやおやどうしたのそんなに涙目で?プルプル震えてるし、ひょっとして寒いの?いけないなー、きっと風邪だ!早く家帰って休まないとな!よし、そうと決まれば早く帰ろうか!ほら行くぞセツのん!

 

「ちょっと、榊君!?」

 

「雪ノ下の家の事は俺には分からん」

 

「……っ!」

 

「ただ、普段全く口にしないくらいには言いたくないような事があるんだろう?だけど、どんな形であれ、そこから脱却する為に、雪ノ下は今一人暮らしをしてる……違うか?」

 

「!!……そ、それは……」

 

 ただ無意味に逃げるな雪ノ下。俺は知っている、お前自身には確かに意思がある事を。詳しくは分からん。勝つために始めたのか、ただ逃げてきたのかさえ分からん。だけど、お前は確かに、お前自身の意思で家の外へ出た。

 

「………」

 

 ならばまずは逃げるな。とりあえず敵情視察してこい。ただやり過ごすんじゃない、まだ戦えないかどうかまずはちょっと調べておいで。逃げるかどうかは、それから決めれば良い。

 

「……なんで急に、そんな事言うのよ」

 

「勝ったからと言って、それで得たものが欲しかったものとは限らない」

 

「!?それは、どういう……?」

 

「同じく、負けて逃げた先で得たものが、価値の無いものとも限らない。……だが、それを知るにはまず、足を動かさねばならない」

 

「………!」

 

 後ろにも前にも、どちらへどこへ進もうと、足を動かさねば話にならないからな。だから少しずつでいい、まずは自分で試してみな。なに、駄目だったらまた戻ってくれば良いのさ。

 

「……一緒に、行ってはくれないの?」

 

 どうしても行けなさそうだったら少しくらい協力してやるよ。だが案外、行ってみたら簡単かもしれないぞ?

 

「……さっきは助けてくれたくせに」

 

「今日は散々甘やかしてしまったからな」

 

「ー?………ッッ!?そ、それならもう少し甘やかしてくれても良いのよ?」

 

 さて、俺は誰にでも優しくする訳じゃないからな。ほら、普段頑張ってる良い子じゃなければサンタさんもプレゼントはくれないって言うだろ?

 

「私、普段から努力してると思うのだけれど……?」

 

「おっと、それは確かに。じゃあこの特大パンさんをお返ししよう」

 

 パン、と両手を叩くとパンさんが空間倉庫から落ちてくる。それを大事そうに受け取った彼女は、しかし不満気に呟いた。

 

「プレゼントの使い回しはズルいわよ……小町さんにはあれだけ甘かったクセに」

 

 うぐ、こまっちゃんを引き合いに出されると弱いなぁ。あれはちょっと特殊でな、俺にも色々あるんだよ。

 

「色々?……それは、その訳分からない手品擬きに関わる話?それとも、今も貴方の部屋で貴方の帰りを待っている、誰かの話かしら?」

 

「………ノーコメントで?」

 

「ふん。やっぱり話す気は無いのね……。まぁ良いわ。私もそろそろ行かないと行けないもの。今回は見逃してあげる」

 

 そりゃ助かる。ついでにしばらく見ない振りしててくれ。具体的には俺が卒業するまで。

 

「嫌よ。……口止め料、くれるなら考えてあげるわ」

 

 えぇ……一応聞いておくけど、何が欲しいの?避難所が欲しいなら一軒家くらい用意しとくけど。当座の資金付きで。

 

「私は逃亡犯ではないのだけれど……その家、手品が使えて料理が上手な17歳の家政夫は付くのかしら?」

 

「浮気は禁止されてるんで、同じ条件の人物で良ければ?」

 

「お断りよ」

 

 ですよねー。じゃあ何が欲しいの?俺に払えるもので勘弁してくれると助かるなぁ。

 

「……今は思い付かないから、貸しにしといてあげる。だけど、利子は貰うわよ」

 

「えぇ、悪徳業者じゃん……何がお望みかな?」

 

 なんかどんどん元気になってくのは良いんだけど、それを俺には向けるのは辞めて欲しいなー?とか思いつつ、しかし目の前の美少女はあまり容赦してくれる気はなさそうだった。少しだけ顎に指を添えて考え込む素振りをした後、形のいい唇を釣り上げて言った。

 

「そうね……貴方のおかげでこの後とても憂鬱な時間が待っているのだし、責任取って今度、ストレス解消に付き合ってもらうわよ?」

 

「……以前話した猫カフェでどうでしょうか?」

 

「あら、貴方はあの姉の厄介さが分かってないようね。一件で済むとでも思ってるのかしら?」

 

「1日付き合えと!?……流石に夜には帰してくれよ?」

 

「善処しましょう……では決まりね?」

 

 参りました、と両手を上げて降参のポーズをする。彼女は大きなパンさんを抱えたまま、朗らかに笑った。それはまるで、雪解けに反射した月の光のように、とても透明で、この上なく綺麗な笑顔だった。

 

 ……そう言えば、俺が姉のんさんを着ぐるみって言った理由を言ってなかったな。

 

「姉さんを?……あれは当てずっぽうだと言ってたわよね?」

 

 本当に着ぐるみかどうかは当てずっぽうだったが、そもそも着ぐるみって感じたのには理由があるんだよ。

 

「へぇ?……どんな理由かしら」

 

「……その、雪ノ下に似てる割に、笑顔が不自然過ぎるなと思って、な」

 

「何それ。……馬鹿な理由ね」

 

 

 その時にはもう彼女は歩き出していて、その顔は見えなかった。

 

 

 

 とても惜しいことをしたと、何故か確信した。

 

 

 

 

 

「………ほんと、馬鹿な理由」

 

 

 

 ◻️◻️

 

 ガチャ

 

(そろーり)ただいま帰りましたよー?

 

「帰ってくるのが遅いぞ……?」

 

 うわびっくりした!!な、何で玄関に居るんですか静さん!リビングに居れば良いでしょうに!ていうか声!何時からここに……?飲み物は?

 

「ん"ん"ッッ!貴一がメールにもLINEにも返信しなくなってからずっとだ」

 

 ええっ?電車乗る前だから……2時間近くここに座ってたんですか?!これから少し連絡返せなくなるってちゃんと送ったじゃないですか!見ましたよね?

 

「私が貴一からの返信を見ない訳ないだろ!何十回も確認したよ!!……でも、今日は遅くまで女と一緒って言うから……不安で。電話にも出てくれないしッ!」

 

 それもちゃんと説明したじゃないですか。ゆいにゃんの誕生日プレゼント買いに行くから、こないだ知り合った女子中学生と、セツのん連れてららぽーと行ってきますって。電話に出なかったのは隣にセツのん居たからですよ。聞かれちゃまずいでしょう?

 

「う〜〜っ!そうだけどっ!そうだけどぉ!分かっててもやっぱり嫌なんだよー!」

 

 うわっ。ちょっと、落ち着いてください静さん。素足じゃないですか。ここ玄関ですよ、足汚れちゃいま「がぶっ!」いっっ!ちょ、待って待って!

 

 俺の体にしがみついて、更に肩を齧り出した彼女を何とか抱えたまま靴を脱いで玄関を上がると、痛みを堪えてそのままリビングへ。荷物類はとっくに空間倉庫に放り込んでいるから静さん以外の荷物は無い。もうシャワーを浴びてしまったのか、薄着の彼女からは柔らかな感触と温もり、そしてとてもいい匂いがした。

 

「うーっ!うーっ!またっ、またぁ!貴一の身体から知らない女の匂いがするっ!消毒、消毒しなきゃ!貴一、今度は誰だ!また知らない女だぞどういうことだ!?」

 

「え、匂いで分かるんですか?や、今日は偶然セツのんのお姉さんという方に会いまして。なんかやたらとフレンドリーにこう、胸を肘でうりうりされたり、首に腕を掛けられたりしました。変わった人でした」

 

 凄いな。なんかどんどん正確になってく。いつの間にか匂いで誰だか判別出来るようになってしまったらしい。噛みつき癖といい、少し犬みたいな所あるよね、静さん。

 

「雪ノ下の姉だと!?陽乃の奴か!……あいつめ、よくも私の貴一に許可なくベタベタと……!許さんっ、絶対に許さんっ!」

 

 知ってるんですか?え、うちのOG?じゃあ静さんの昔の生徒なんですか?へー。まぁどうでもいいですけど。よく見てないし。

 

「本当か?実はちょっと良いなとか思ってたりしないか!?だ、駄目だからな?私以外は絶対駄目だからな!?」

 

「いやこれっぽっちも思ってませんが。え、むしろなんでそんな不安そうなの?」

 

 ……え、総武にいた時死ぬほどモテてた?彼女がいる男でも落とした?何なら男性教師でさえ手玉に取ってた?……ほーん?まぁよく分からんけどセツのんに似てるからそれなり美人だし、それでいてセツのんと違ってコミュ力高ければそういう事もあるのかねぇ。

 

「……本当に興味無いのか?」

 

「ある訳ないでしょ。俺の好みのドストライクが目の前に居るのに……まぁもうちょっと髪の毛長かったら顔ぐらいはちゃんと見たかもしれませんが」

 

「奴に今度会ったらベリーショートにしてくる。……そのまま、そのまま私以外見るんじゃないぞ!目移りしたら怒るからな!?くそっ、あと6日……早く過ぎないかなぁ!あぁ、ラナルータ使えたらなぁ……!」

 

 ラナルータは使えないけど似たような事はできる俺としては反応しずらいなァ……。まぁ、いいや。静さん、ちょっと退いてください。風呂入って着替えてくるんで。

 

「やだ!もう少しこのままがいい!虫除けもまた付ける!」

 

 勘弁してください。もうネックウォーマーだけじゃなくてシャツも1番上のボタン開けられないんですよ?このままじゃ俺夏服に衣替え出来ないじゃないですか。

 

「外せば良いじゃないか!夏服にもバンバン着替えればいい!そうしたら虫除けの効果も上がるし!」

 

 何度言ったら分かるんですか?それは駄目です。せめて俺が籍入れられる歳までは我慢して下さいって。俺だって我慢してるんですから。これも何度も言ってますけど、本当に一緒に居られなくなっちゃいますよ?

 

「それはやだ!絶対やだ!……でも折角虫除け付けても効果無いし……うー!」

 

 うーじゃありませんよ。そもそもこの虫除けが人前に見せられない時点で効果無いのなんでわかってた事でしょうに。どうせ効果無いんだし、もう付けるのやめません?

 

「それもやだ!……せめて、私の跡を付けておかないと、貴一が他の女といる事にもう耐えられない!むしろ仕事が無ければ全部ついて行きたい!」

 

 それは駄目です。前にも言いましたが、現状でそれをやったらもう完全に俺がいないと静さん生きて行けなくなっちゃうじゃないですか。家事なんて出来なくても今は生きて行けますが、それをすると生きていけません。貴方がこの先も俺と居たいのならば、最低限の人間らしさは捨てないでください。

 

 ……それに何より、教師の平塚先生はカッコ良くて俺の憧れでもあるので、できればもうしばらくそんな静さんが見ていたいです。

 

「うーっ!その言い方はズルいぞ!そんな事言われたら、頑張るしかないじゃないか!バカ!」

 

 ハイハイ、頑張ってくださいね。さて、そろそろ本気で風呂入るんで退いて下さい。その後もする事多いんですから。

 

「やだ。……どうしても入るなら、私も一緒に入る」

 

「駄目です。今日の分のお仕置きはもう終わりました。……学校で散々泣いたでしょ?」

 

「も、もう1回!もう1回してもいいから!なっ?」

 

 駄目です。そういうのを我慢するのもお仕置きのうちです。それに、俺の方も我慢してるんですから。お仕置なしで静さんと風呂なんか入ったら我慢できなくなっちゃいますよ。

 

「……なぁ、貴一。我慢なんてしないで襲ってくれても良いんだぞ?私はもう何時でも貴一に犯される準備が出来ているんだ。本当だぞ?ここ最近、ずっと私のおまんこ、濡れっぱなしなんだ。貴一から襲ってくれればルール違反にもならないし……もう、学校でもずっと貴一のちんぽとザーメンの事ばかり考えてる。胸がずっと苦しくて、子宮がずっと泣いてるんだよ、貴一ぃ……!」

 

 ええ、知ってますよ?とても良い状態だと思います。

 

 それに最近は「平塚先生最近色気ヤバくね?」って学校中で評判ですもんね。俺ですら色んな人達が平塚先生良いなー!って噂してるの聞きますし。モテモテですね、平塚先生?

 

 そう言えば昔はモテたいってずっと言ってましたね?願いかなっちゃいましたよ?今なら大抵の男は平塚先生から声掛ければ簡単に乗ってくると思いますが?

 

「分かってるだろ、バカ……!もう他の男の事なんかどうでもいい!私はもう貴一以外要らないっ!だから、2人きりなのに平塚先生って呼ばないで……!」

 

「ふふ、少し意地悪でしたね。ごめんなさい静さん」

 

 まぁ俺としても静さんを今更他の男にやる気はないし、既に彼女の元彼連中の処理も済んだ。順調に()()()()()()()()()()()()きてるし、後は残り6日。なに、とてつもなく長く感じてももうすぐだ。

 

「頑張りましょう、静さん。俺も6日後がくるのを待ち焦がれていますよ」

 

「うぅぅぅ、鬼!悪魔!貴一!……6日後は足腰立たなくなってもしてもらうからな?」

 

「望む所です。静さんこそ、気絶したくらいじゃ止めないんで覚悟して下さいね?」

 

「分かってる。きっと私は6日後にぐちゃぐちゃにされるんだろ?……貴一以外の女なれないように、されちゃうんだろ?」

 

「当然です。…死ぬまで逃がしません」

 

「あ、あぁぁあぁ……!楽しみだ!……待ってるからな、貴一?」

 

 返事の代わりに彼女の頭を両手で固定して、そのまま唇を奪った。

 

「んぅっ、はぁっ……貴一、大好き」

 

「ん、はぁ……俺もですよ、静さん」

 

 逸る気持ちを抑えて、俺は6日後が楽しみだ、と無理矢理笑ったのだった。

 

 続く。




登場人物紹介

・榊 貴一
神様転生者にしてこの作品におけるオリ主。
自分のせいで原作主人公が居ないので、ヒロイン達に妙に甘い所がある。
比企谷小町には特にそれが顕著。なお、外に出すことはないが、彼女を妹みたいに思っている。
しかし逆に彼女から兄のようだと思われる事には強い抵抗を覚えているらしい。
実は全身から癒しのオーラが物理的に出てる疑惑。

・雪ノ下 雪乃
実は歳と胸以外はオリ主の好みに突き刺さっている。
1週間近くしっかり下調べして頑張ってちゃんとした契約書類を作ったが、それは要するに見せかけだけの紙切れだった事が発覚した。しかしオリ主を責めない良い女。
今回色々あって女子中学生とも仲良くなり、順調に人間関係を広げて行っているらしい。
オリ主によって無理矢理戦いの場へ。この後初めて引き分けへ持ち込む事に成功した。
自分の気持ちを少しずつ自覚してきたのでちょっと背伸びして抜け駆け。
実はオリ主の胡散臭さに気付いているが、あえて指摘はしていない。
オリ主の攻略を始めた。

・由比ヶ浜 結衣
みんな大好きゆいにゃん!
にゃんと付いてもワンコ属性。
今回は登場しないが、オリ主にいい感じのプレゼントを貰うフラグが立った。
話の外で久しぶりにキラキラグループとカラオケに行っている。たまにはこういうのも楽しいなー!……とか思ってたら親友(と思ってる)に抜け駆けされてるとは一切考えてなかった。
最近は夜にちゃんと走ってる。

・平塚 静
言わずと知れたこの小説のメインヒロイン!
であると同時にヤンデレヒロイン!
でありながらどちゃクソチョロイン!
にしてもはやオリ主攻略済みのエリートヒロイン!
チョイ役でもオリ主のヒロインの座は一切譲らない!
つまりもはや無敵である。

・比企谷 小町
原作主人公が居ないせいで1番とばっちりを受けてる妹系女子中学生。
この作品では一人っ子の為、母親との折り合いが悪く、度々プチ家出を繰り返す準不良娘。
一人っ子の為原作より小遣いも厳しい。原作主人公並。
原作主人公が居ないので、少しだけ雪ノ下との共通点が出来ている。その結果原作より雪ノ下との仲が深まった。
メール打つのは由比ヶ浜より早い生粋の現代っ子。
オリ主によって無意識に感じていた寂しさや苦しみから少しずつ解放されてきている。
オリ主を兄のように慕うのは、本物の兄が居ないからだろうか。それとも……

・雪ノ下 陽乃
まだちゃんとオリ主と絡んではないラスボス系ヒロイン。
今回はオリ主の先生攻撃を受け過ぎてちょっと狼狽えてしまったが、本来のポテンシャルはこんなものでは無い。
シスコン。
この後めゃくちゃ雪ノ下とやり合ったが、オリ主のサポートにより初の引き分けに持ち込まれた。
続いたら大活躍する予定

・喫茶店「チェリーブロッサム」
色々な手を尽くしてテレビに出演、SNS映えするチェリーパイを武器に一躍大人気店になった。
が、あまりに従業員を顧みない経営体制の為、先日従業員の殆どが辞職してしまった。その中にはパティシエも入っており、そのパティシエの残したレシピで何とか形は取り繕っているが、内情はもうガタガタ。
結局立て直し出来ずに3ヶ月後に閉店する。

・ハーゲンダッツ専門店
ハーゲンダッツショップ、何で日本から撤退しちゃったんだろう……




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13話

言い訳はせぬ!なので先に謝罪しておく!済まない!

だがそれでも2話に分けたりは面倒いからしないっっ!


ちょっとアニメの平塚先生の貰って?が作者の心臓を貰い受けて行ったので失踪します。


 どうも貴一です。神様転生者やってます。

 黒髪ロングクール系お姉さんが好きですが、活発系ボイーッシュツルペタスパッツボクっ娘も可愛いと思います。

 

 

 

 はっぴばーすでーとぅーゆー♪

 

 はっぴばーすでーとぅーゆー♪

 

 はっぴばーすでー

 

 Dear ゆーいにゃーん♪

 

 はっぴばーすでーとぅーゆー!

 

 パン! パン! パパパン!

 

 はいとゆー訳でゆいにゃん誕生日おめでたー!

 

「わぁー!ありがとうみんなー!超うれしー!」

 

 ふふふ!今日この日の為にひたすら力を蓄えてきた……!見るがいいゆいにゃん!これが俺のっ!俺たちのっ!全力全開!スターライトォォ……ブレイカー!!

 

 つ ローストチキン つ 巨大イチゴのホールケーキ

 

 つ タコとコウイカのカルパッチョ つローストビーフ

 

 つラム肉のロースト りんごソースがけ

 

 つ 山盛りフライドチキン&フライドポテト

 

 つ 巨大オムレツ つ 巨大マルゲリータピザ

 

 つ多人数用娼婦風スパゲティー

 

 つ巨大ブッシュ・ド・ノエル

 

 つ 寸胴鍋いっぱいのビーフシチュー

 

 つ コーンスープ&オニオンスープ

 

 つ 特盛チンジャオロース つ 特製味噌おでん

 

 つ 水水肉バーベキュー つ おばあちゃんの味、昆布のおにぎり

 

 つトマトとモッツァレラチーズのカプレーゼ

 

 つ メロウコーラ

 

「わぁぁぁ!!何これすごいすごい!こんなたくさんのご馳走初めて見た!全然統一性無いメニューだけどすっごい!」

 

 ふ、そうだろうそうだろう!これがチーターの本気ですよっ!(。・ω´・。)ドヤッ

 

 これぞ日本人のお・も・て・な・し!心ゆくまで味わうがよいぞゆいにゃん!

 

「うんうん!ありがとねサカキン!本当に嬉しいよ!あたし自分の誕生日こんなに盛大に祝って貰ったの初めて!それはそうとサカキン、一つ質問いいかな?」

 

 ふっ、何だねゆいにゃん?何でも聞くがいいぞ!なんだって君は今日は誕生日!つまり主役!お誕生日席になんの呵責なく座ることが許される日!あ、もちろんプレゼントも用意してあるよ?

 

「何でお昼休みなの?」

 

「えっ?」

 

「何でこんなにたくさんのご馳走用意して、部室たっくさん飾り付けして、ゆきのんどころか隼人くんや優美子、彩ちゃんにサキサキ、平塚先生まで呼んで……それでっ!何で昼休みなの!?足んないじゃん!どう考えても時間足んないじゃん!何でお昼休みなんかにこんな盛大なパーティ開いちゃうのっ!?あとディアの所だけやたら発音良いのキモイ!」(_ >д<)_バンッ

 

「そ、そこに気付くとは、やはり天才かゆいにゃん……!」

 

「殴るね?答えは聞いてない!」

 

 ちょっ、ま、な、何をするだァー!!

 

 

 この後無茶苦茶殴られた!

 

 

 ◻️◻️

 

 今日は6月18日、我らがゆいにゃんの誕生日である。

 

 今日この日のために夜なべして作ったパーティグッズによって奉仕部の物質はあたかもお誕生日会の様に飾り立てられ、使用されてなかった黒板には大きく「ゆいにゃんお誕生日おめでとう!」の文字が。

 

 いつもは教室の3分の1程しかない畳も今は完全に敷き詰められ、いつも部活で愛用されているちゃぶ台は片付けられて、代わりに高級そうな木の長テーブルがふたつ並べて置かれている。

 

 その上には乗り切らない程の豪華なご馳走の数々。どれもこれもが今出来たばかりのように湯気を放ち、芳しい香気を放っている。

 

 そんな中、ついに楽しい楽しいお誕生日パーティが始まろうとしていた──!

 

「サカキン、正座」

 

「ふ、まぁ待てゆいにゃん。これには山より高く、海より深い訳があってだな?」

 

「正座」

 

「アッハイ」

 

 ……始まろうとしていたッ!

 

「榊君、流石に無理があるわ」

 

 てへぺろ(´>∀<`)ゝ

 

 ゴスッ 痛っ!殴ることは無いだろ殴ることは!

 

「うっさいバカ!何でこんな事したの!?ちゃんと答えて!ゆきのんも!」

 

「え、えぇとその、これには訳があるのよ、由比ヶ浜さん……」

 

「そんな事より早く食べないとどうにもなんないんじゃない、これ」

 

「咲希は黙ってて!てかよく考えたら何でみんなも普通にサカキンのバカに付き合ってるの!?」

 

「や、あーしら昼休みになった途端にモサキチに拉致られただけだし」

 

「あたしも」

 

「拉致られたというか気が付いたらここにいたというか……正直俺にもよく分からないんだが?」

 

「あははは、ほら……貴一だし。考えたら負けかなって思って?」

 

「私は由比ヶ浜の誕生日パーティやるから昼休みに顔出してくれと榊に頼まれただけだ」

 

「……サカキン?」

 

 ふ、仕方ない、せぇつめいしよう!(オーキド風)

 

「真面目にやって」

 

 あ、ごめんなさい。とはいえ深い深い理由があるので、話は長くなると思われる。食べ終わんないと思うから食べながら聞いて。

 

「いや無理だから。これ1時間どころか1日かけてもこの人数じゃ無理だから。ケーキだけでも食べきれないよ。だってホールケーキあれ4段あるもん。最早ウエディングケーキだもん。ロールケーキに至っては彩ちゃんのお腹より太いじゃん。とゆーかケーキ2種類ってなに!?ひとつでも食べきれないのに何で2つも用意ししちゃったの!?」

 

「ふっ……愛だよ」(`・ω・´)キリッ

 

「真面目にやれって言ったよね?」

 

 真面目に言ってるんだが……アッハイ、ごめんなさい。

 

「それとどう考えてもこの時間じゃ食べきれないからロールケーキと……フライドチキンとポテトのお皿以外片付けて。それでも食べきれないけど!」

 

 ええ?折角作ったのにー!「早く!」はいはい分かりましたよー。ええと、料理の周りの空間ごと固めて、空間座標固定……よっと。

 

 パチンッ

 

「うわっ、榊が指鳴らしたら料理が消えた!?」

 

「ははは、相変わらず訳が分からないな……!」

 

「流石貴一!何度見ても種が分からない!凄いよ!」

 

 ふ、これぞイリュージョンっ!(`・ω・´)キリッ

 

 ゴンッ痛──っっ!!?

 

「話が進まないでしょ!」

 

 へいへい。じゃあとりあえず残った料理食べながら聞いて。ブッシュ・ド・ノエルはもう切り込み入れたから、テキトーに取ってくれ。食器類は今手元にある以外に後ろの台に代わりのたくさんあるので、落としたりとかして交換したかったらご随意に。

 

 それぞれがケーキと料理を取った辺りで、みんなに飲み物を用意しつつ、事の経緯を説明してみる。

 

 まず話は5日前に遡る!俺とセツのんはこまっちゃんというコミュ力高い系JCの力を借りてゆいにゃんの誕生日プレゼントを用意したっ!

 次に3日前!せっかくだからパリピの仲間であるゆいにゃんの為にパリピっぽくサプライズパーティーにしようと計画!俺とセツのんで手分けしてこの部室の飾りを作りはじめた!

 事件発覚!昨日!俺とセツのんの両方がゆいにゃんの予定を聞くのを忘れてたっ!どちらかが聞いてるとどちらも思っていたのだ!どうしよ、パリピなら普通に誕生日パーティしてそうだよね!これはまずい……そうだ、昼休みにやろう(名案)!!

 

 本日!今に至る!! 以上!ご清聴ありがうございました!

 

「短っ!?そして杜撰だー!?」

 

「さ、流石貴一、意味不明な行動力だねっ!」(震え声)

 

「な、なぁ、雪ノ下。……あいつ、いつもこんなんなの?」

 

「まだマシな方よ」キッパリ

 

「うまっ!うはー、相変わらずモサキチの料理やべーなー。あ、隼人、そのソース取って?」

 

「優美子、随分手馴れてるなぁ……ははは」

 

 ふ、よせやい照れるぜ(*σ´Д`*)

 

「誰も褒めてないよ!」

 

「というかだな、榊。お前これだけの料理、どうやって用意したんだ?」

 

 それはですね平塚先生!朝一時から11時45分までずっと料理してました!勿論一から全部手作りなので愛情たっぷりです!

 

「朝1時からついさっきまで!?そんな理由で午前中の授業全部居なかったの!?」

 

 何言ってんのゆいにゃん。ゆいにゃんの誕生日のが授業より大事に決まってんだろ馬鹿なの?

 

「うぇっ?!そ、そうなの……?そ、そっか、そーなんだ……えへへ」

 

「いや、あたしが言うのもなんだけど、それで誤魔化されちゃ駄目じゃない?」

 

 ふっ、相変わらずゆいにゃんは真面目な顔で言っとけばだいたい何とかなるな!流石巨乳に栄養を全部取られた女!サキサキは後でタッパー用意するから家に持って帰るがいいよ!(口止め)

 

「えぇと、ところで……雪ノ下さんが居て何故こんなにも無茶苦茶なやり方に?」

 

「ハッ!?た、確かに!そーだよゆきのん!何でゆきのんが居てサカキンのバカをここまで見過ごすの!?」

 

「あ、いえ……その、私、今まで誰かに誕生日を祝われた事も、誰かの誕生日を祝った事も無かったのよ。だから……誕生日パーティでしかもサプライズと言われても、その、よく分からなくて。ただ、私も由比ヶ浜さんの誕生日をお祝いしたかったから……ごめんなさい、次はよく調べてからやるわね」

 

 思わず皆が口を噤んだ。何気なく語られたセツのんのぼっちストーリーに皆も言葉を失ったご様子。相変わらずセツのんは結構辛い幼少期を過ごしてるなぁもぐもぐ。え、なにユーミン。フライドチキンとポテトとケーキだけじゃ飽きる?そーねー、他にもチキンやポテト用のソースとかはあるけど、やっぱ別の料理が必要よね。何が食べたい?

 

「ゆきのん……!ごめん!あたしがバカだった……!ゆきのんそんなにあたしの事想ってくれてたなんて!怒ってごめんね、ゆきのんに祝ってもらえてあたしすっごい嬉しい!大好きだよゆきのん!」

 

「きゃっ、ちょ……由比ヶ浜さん、苦しいのだけれど……」

 

 

「んー、あーし的に今はエビチリの気分かなー?」

 

「いや優美子、この状況で良く普通に食べられるなっていうかそこでさっきのメニューに無いヤツ頼むのか!?」

 

「はいエビチリ。ジャン風なので車海老800匹分くらいのエビ味噌使ってるぜよぜよー」

 

「そして出てくるのか!?」

 

「……前と後ろの温度差がエグい」

 

「えっと、ほら…貴一だからさ。川崎さんもそのうち慣れるよ、きっと」

 

 ふ、紆余曲折あったが何だかんだ皆も楽しんでるし、サプライズパーティは大大成功ですねっ!俺とセツのんの頑張りは報われた!いやー、良かった良かった!これにてハッピーエンハッ!?殺気!?

 

( っ'-')╮ =͟͟͞͞ ブォン

 

 =͟͟͞͞( ˙-˙ )サ

 

 危ないなー。何するんだいゆいにゃん?折角いい感じで締めようと思ったのに。というか人が多勢いる所ではあまり物を投げてはいけませんよ?

 

「うっさいバカ!ちゃんと話聞いたらだいたいサカキンが悪いじゃん!ゆきのんは初めてなのにこんなに頑張ってくれたんだよ?何でこんなに無茶苦茶なやり方するの!サカキンなら普通にやり方分かってるでしょ!?」

 

 ……何故にそんなにも怒るのか。ちゃんと少ない時間でも楽しめるように頑張ったつもりなのだが。数々の参考文献(マンガ)からそれっぽいやり方にを忠実に再現したと自負があるぞ。料理はこう、ノリで大きくした事は認めるけど。そんなに嫌だった?なら謝るけど……

 

「え、違っ…!そうじゃなくて、もっとちゃんとって言うか、もっと普通に「由比ヶ浜、その辺にしてやれ」平塚先生……?」

 

「たぶんだが由比ヶ浜は勘違いしてると私は思うぞ?」

 

「え……何が、ですか?」

 

「考えても見ろ。雪ノ下よりも一見社交性があるようにも思えるが……その男もやはりぼっちだぞ?」

 

「え?それは分かって……あれ?」

 

 何を失礼な、私はぼっちじゃありません。ぼっちとは人の和の中に入ることを望むも、人の和に馴染めず、孤立する者の事を指します。私のように人の和の中とかどうでも良くて、けどやろうと思えば人の和に交じれなくもないっ!……そんな私はそうっ!スーパーエリートぼっち!そんじょそこらのぼっちと一緒にしてもらっちゃあ困りますなぁ!

 

「榊、お前誰かの誕生日パーティに参加したことは?」

 

「ははは、やだなぁ平塚先生、あるわけないじゃないですか。スーパーエリートですよ俺」

 

「と、まぁこういう訳だ。分かったか由比ヶ浜?」

 

「あ……ご、ごめんサカキン、あたしそんなつもりじゃ!」

 

 何が?まぁ良いから早く食べよーぜ。昼休み終わっちゃうよ?ちょっと調子に乗って作り過ぎたからどうせ全部は食べきれないと思うけど、出来たら色々味見してくれると嬉しいね!

 

「……うん、分かった。全部食べる」

 

 それは無理だろ。何故なら作ってる俺自身も無理だと思いつつ作ったからな!え?なにサキサキ。それなら何でこんな中途半端な人数なのかって?ふ、それはね……この学校に俺の知り合いこれ以上居ないからだよ!

 

「榊…あたしが言えた義理じゃないけど、あんた、それもどうなの?」

 

 今のところ特に不自由してないから別に良いかと思ってるぜよ!大丈夫大丈夫、次からはもうちょっと量減らすし。あんま種類も無くていいみたいだし。

 

「あ、や…その、それは……」

 

「てかさー」

 

 うん?

 

「あーしら別にユイの誕生日パーティとかする予定、特に無いんだけど?」

 

「え"ッッ」

 

「……そうなの?由比ヶ浜さん」

 

「えっと、その……うん。だから、どうせなら今日3人で遊びに行ったりしたかったって言うか……こんな駆け足みたいなのじゃなくてゆっくり一緒に居たかった……」

 

 思わずセツのんと目を合わせる。お互いにアイコンタクトで会話し、1つの結論に辿り着いた。ふむ……

 

「やっぱ誕パ初心者はいきなりサプライズとかやっちゃダメだな。張り切りすぎた」

 

「そうね……まずは普通の誕生日パーティにするべきだったわ。少し、浅慮が過ぎたわね」

 

 まさかパリピが誕パやんないとは思わなかったね!HAHAHA!え、何故最初から予定を確認しなかったのか?や、だってサプライズじゃん。本人に聞いたらバレちゃうかもじゃん。いや、ゆいにゃんがアホだから気付かない可能性は確かにあったけどさ。

 

「いや、そこはまずあーしらに確認するのが普通じゃね?」

 

「ははは、パリピの親玉に連絡取るとかパリピが伝染るじゃん馬鹿なの?」

 

「モサキチ、後で校舎裏な?」

 

 ああっ!?ひ、平塚先生聞きましたか!今の脅迫ですよね!助けてください平塚先生、俺悪のパリピに虐められちゃう!オラ、ジャンプして見ろよとか古いタイプのカツアゲとかされちゃう!

 

「すまん、今ケーキ食べてるから」

 

 見捨てられたっ!?き、教師がそれでいいのか!弱い方を見捨てて強い方に味方するとかそれでも人間社会なのか!そんなのは理性のない動物と変わらないんじゃないのか!

 

「知らないのか榊。人間社会というのは弱きを助ける振りして、少しずつ強者が弱きから搾り取る巧妙に隠された弱肉強食社会なんだぞ?理性が足された事で、やり方がよりいやらしく、より狡猾になっただけで基本的には人間社会と動物社会は変わらん」

 

 そ、そんな馬鹿な!嘘だ、信じないぞ!俺たち若者から希望を奪おうとする大人の策略だ!本当だと言うのなら、証拠を、ソースをだせ!

 

「ブラック企業と社蓄の関係がちょうどそんな感じだぞ。ソースは私だ」

 

 説得力の塊過ぎて困る。なんて事だ、納得出来てしまった。サキサキどうしよう、教師を目指す若者達のお先真っ暗だよ!

 

「え、榊って教師になるつもりだったの?」

 

「いや全然。俺ヤンキーじゃないし」

 

「おい待て止めろ榊。教師が全員元ヤンみたいな言い方するな」

 

 え、だって体育の厚木先生とか美術の竹中先生とか、俺たちの時代は男子はだいたいバイク乗って走り回ってたんだぜー!みたいなくそ寒い昔はワルだったアピールしてくるじゃないですか。男性教師の俺昔はワルで○○だったんだぜ自慢、シリーズ化できるほど持ってるのあれなんなんですかね?

 

 俺昔は不良だったけど今真面目に働いてるんだぜ偉いだろ的な遠回しな自慢なんだろうか。どう考えてもずっと真面目にやってきた人達の方が偉いと思うし、若い頃それで迷惑掛けた人達一人一人にちゃんと謝罪と贖罪してから偉ぶって欲しいんですけど。

 

「榊の癖に正論過ぎる……ッ!確かに教師の飲み会でもわざわざ昔の剃りこみ入れてた時代の自分の写真持ってきて自慢する先生居るんだよなぁ。こちらとしては、だから今では生え際そんなに後退してるんですかとしか言いようがないんだよな、あれ」

 

「あたしもこないだ生徒指導の厚木に呼び出された時そんな話されたな……何か親と上手くいってないって勘違いされてて、先生に相談して見ろ?とか言われたんだけどあたし別に両親と仲悪くないから普通に鬱陶しかった」

 

 榊の癖にって酷くない?俺はだいたい正論と極論しか言ってないぞ。つまり話す言葉の半分は正論と言っても過言ではない。とはいえ厚木先生も優しくしたつもりでウザがられて可哀想。サキサキがヤンキーなのは事実なのに……!

 

「あたしはヤンキーじゃないっ!確かに髪は染めてるけど……てかそれを言ったら榊だって金髪じゃん!」

 

 ははは、俺はどこぞのヤンキーギャルと違ってこれ地毛ですぅ!ショートヘアじゃないのに綾波レイみたいな色のサキサキやお蝶夫人みたいな見た目のくせにヤンキーなユーミンと一緒にしないでくださーい!

 

「あーしはヤンキーじゃねーし、これは縦ロールじゃなくてゆるふわウェーブだっつったろモサキチー。川崎さんみたいに遅刻もしないし、一緒にすんな」

 

「は?あたしもあんたみたいな尻軽女と一緒にされたくないんですけど?」

 

「は?」

「は?」

 

 ご覧下さいこの2人のメンチの斬り合い。無駄に相手に顔を近付けて睨み合うあたり本当にヤンキーですよね。なんでそんなに顔を近付ける必要があんの?ヤンキーの生態ってほんと不思議。

 

 てかこの中で真面目な生徒が俺とセツのんしかいないとかやべーな総武校。平塚先生、ここ本当に進学校なんですか?

 

「ちょっと待ってサカキン、そのグループ分けは嘘でしょ!?」

 

「ちょっと貴一、僕も不良扱いなの?!」

 

 えっ。だって地毛なのこの場に3人しかいないじゃん。教師の平塚先生除いたら俺とセツのんだけ。よってゆいにゃんも戸塚もキラキラもみんなヤンキー。はいQED。つかふと思ったんだけど、1番髪色にうるさいの運動部はずなのに髪染めてるって実はキラキラと戸塚が1番のワル説あるよね。

 

 キラキラは学年のパリピとヤンキー全部のトップみたいなとこ元からあったけど、実は戸塚って身長小さくて見た目儚げだけど喧嘩するとくっそ強いとか、そういうヤンキー漫画みたいな設定隠し持ってない?

 

「ある訳無いよ!?」

 

「というか、さも当然のように俺もヤンキー扱いされてるのか……?」

 

 無いのか……残念だ。全然強そうじゃない見た目しといて実は喧嘩超強いとか結構胸熱展開なんだけど。キラキラは自覚が足りないと思います。

 

「そう言われてもなぁ……僕ももう少し男らしい身体だったら貴一みたいに波動球打てるのに」

 

 あー。スネイクも白鯨も使えるようになったのに、波動球打ちたい欲求はまだ変わってないんだ。うーん、流石に骨格がねぇ。このまま順当に鍛えていっても5年くらいは掛かりそうかなー?

 

「え?……5年あれば波動球打てるようになるの!?あの時の貴一みたいに!?ホントっ!!?」

 

 うぇっ?!あー、まぁ俺と同じ威力かは分からんけど、それくらいやってればたぶん。見た感じ、今も俺が教えた呼吸法練習してるんでしょ?それとあの時のメニューを続けていけば、俺と同じメニューを楽にこなせる様になる頃には打てるようになってる、とは思う。

 

「全集中の呼吸?うん!毎日欠かさずやってる!……そっか、あと5年頑張れば、僕にも……ッ!」

 

 お、おお?何か戸塚のやる気が漲ってる気がするな。そんなに波動球打ちたいの?そっかー……ま、まぁ頑張れ。使った俺が言うのもなんだが、この世界のテニス、前世と同じで割と普通なんだけど……テニス漫画ならぬバトル漫画と呼ばれたテニプリ世界の技である波動球とか持ち込んで、戸塚の将来の対戦相手は大丈夫だろうか……?気にしたら負けかな、うん。

 

「そいやさーモサキチー?あんたあーしとの約束どーなってんの?」

 

 ……?身に覚えが御座いませんが?ゴスッ!痛!そうやってすぐ暴力振るうー!だからヤンキーなんだよユーミン……は……?

 

 あれ、その基準で行くと俺の周りの女性で暴力振るわない奴居ないな。あれれ?そうするとやっぱりキラキラと戸塚だけがヤンキーじゃない……?これもう分かんねぇな。

 

「知らんわバカキチ。てかあーしらがヤンキーならアンタはヤクザだろっつの。あと、とぼけてんじゃねーよ、埋め合わせだよ埋め合わせ!いつまで待たせんだっつーの!」

 

「……!」

「……!」

「……!」

「………ギリッ」

 

 えぇー?それ俺が行く必要……はぁ、仕方ないな、今日が金曜日だから、明日明後日……は無理だった。来週の土日は?

 

「は?何で今週駄目なん?つーかアンタ先週も同じ事言ってたじゃん!」

 

 や、俺もこれで忙しいのよ?え、今日?無理無理。だって君らゆいにゃんの誕生日パーティやんないんでしょ?なら俺らで普通に放課後やるし。だよなセツのん。

 

「当然でしょう。予定があると思っていたからこんな時間にやっただけで、そうでないなら、ちゃんとお祝いしたいもの……その、友達、なのだから」

 

「……!サカキン、ゆきのん…!うん!やろやろ!料理もたくさんあるしね!えへへ、やった、楽しみー!」

 

「それはあーしも行くけど、なら何時にすんの?」

 

 ええ?うーん、じゃあ来週の平日じゃ駄目か?つーかキラキラ、元はお前の埋め合わせだぞ俺。むしろお前が空いてないの?

 

「いや……悪いけど部活の試合近いから、俺の代わりに優美子の相手してくれると助かる」

 

「隼人はいーの。あーしはアンタに言ってんだよモサキチ。じゃあ来週の火曜日な。次はドタキャンすんなよ?」

 

 ふぅん?……ま、それでいいならいーけども。

 

 チラ、とユーミンを見る。彼女はケーキを少しずつ摘みながら、片手で髪の毛をくるくるしている。見慣れた光景だ。

 

 反対にキラキラを見る。こちらは戸塚と何事か話している。相変わらず物理的にキラキラしたのが周囲を舞っている気がするが、何でこいつずっと笑ってんだろ。デフォルト笑顔なの?顔の筋肉引き攣らないのそれ?

 

「というか榊君。平然と部活をサボる気なのはどういう事なのかしら?」

 

「そうだよサカキン!」

 

 や。こないだゆいにゃんもやってたし。今回はちゃんと前持って今話したし。ま、一日くらい許せ。何なら二人も一緒に行「ギュー」…かないよねッ!いでで、耳を引っ張るなユーミン!分かったってば!

 

「……ッ!榊、そう言えば大志があんたに「ご馳走様」……っ!」

 

 おや、平塚先生はもうおしまいですか?まだまだお代わりありますけど。

 

「ははは、無茶を言うな。流石に私もこれ以上は食べられないよ。……さて、そろそろ昼休みも終わりだから私は戻るが、お前達も授業には遅れないようにな」

 

 平塚先生がそう言うと、皆が頷いた。締めるところは締めるあたり、こういう時の平塚先生は教師だなぁと感じる。

 

「それと雪ノ下と由比ヶ浜。お前たちは今日の放課後この続きをやるみたいだから、今日は部活を休みにするのは構わない。この部室に友達呼んで誕生日パーティをするのも、まあ、学校だから本来はあまり良くないがそれぐらいは許可しよう。だが、あまり遅くまで残ったり、大声で騒ぐなよ?あと、私はすまないが放課後は仕事があるので参加出来ない」

 

「ええ、それは大丈夫ですが……?」

 

「えと、はい、了解です……?」

 

 や、あの平塚先生、ナチュラルに俺を外されると困るんですが。俺も勿論参加するんですよ?

 

「ふっ……榊、お前は遅刻だ。拒否は認めん」

 

「えぇっ!?」

 

「あの、平塚先生…?」

 

 なん、だと……?や、待って下さい平塚先生!俺が居ないと料理がですね!というか何故ですか?理由を教えてください。

 

「ああ、それなら1度部活に顔出すことは許可しよう。だがその後は直ぐに生徒指導室に出頭だ。理由は……心当たり、あるだろう?」

 

「皆目検討も着きませんねっ!」(`・ω・´)キリッ

 

「授業をサボってるからに決まっているだろうが馬鹿者っ!」

 

 ゴスっ!痛っった!ぼ、暴力反対!教師が体罰は良くないと思います!

 

「黙れ。私は生活指導だからな、お前がちょくちょく授業をサボってるのは知っていたが……今日は午前中丸サボりだと?いくら由比ヶ浜の誕生日の為でもやり過ぎだ愚か者。全く、限度を考えたまえ!……なので、放課後はまず部室によって、誕生日パーティの準備だけしたら即生徒指導室に出頭だ!拒否は許さん!……2人も、それで文句ないな?」

 

「あははは、それはまぁ、サカキンの自業自得…ですね。分かりました。サカキン、先始めてるね?」

 

「……えぇ、それは榊君に原因がありますから、仕方がありません。ただ、出来るだけ早く解放していただけたら助かります」

 

「それはそこの馬鹿者次第だな。まぁ良い、では、私はもう行く。それと由比ヶ浜」

 

「へ?は、はい!」

 

「誕生日おめでとう。今日はゆっくり楽しむといい」

 

「……!はいっ、ありがとうございます!」

 

 そんな感じで平塚先生は白衣を翻して去っていった。相変わらず去り際がどちゃクソカッコイイ人である。何で毎回あんなニヒルに決められるんだろうか。ちょっとコツを教えて欲しい。

 

「はぁー、平塚先生ホントかっこいー!」

 

「分かる!それに最近凄い綺麗になったよね!」

 

「……そうね。人は変われば変わるものだわ」

 

 いや、それよか俺を見捨てた事についてなんかないの?とても酷い裏切りにあった気分なんですけど?

 

「あら。真面目に授業に出ない不良生徒が何か言ってるわ。日々の生活が人格を形成すると言うし、このままだと榊君はヤクザまっしぐらね?……容姿も向いてるし、意外と天職かもしれないわね」

 

「あっ!確かに!よく考えたらサカキンこの中で一番授業サボってるじゃん!超不良じゃん!それでよく人の事ヤンキーとか言えたね、サカキンのバカ!ヤクザ顔!」

 

 おっとお前達、それ以上親からもらった俺の顔を馬鹿にするなら俺にも戦う準備があるぞ?具体的には今度から昼飯の量を変えずにカロリー量を超増やす。

 

「……榊君、貴方、最低最悪の鬼畜生ね?」

 

「そ、それは卑怯だよ反則だよ!サカキンのバカっ……このっ……悪魔めっ!」

 

 悪魔でもいいよ……悪魔らしいやり方でお話を聞いてもらうからっ!てかそれが嫌なら食わなきゃいーんだよ食わなきゃ!……あれ、寧ろ逆に作らない方が効果高いか?

 

「ごめんなさい榊君。私が悪かったわ」

 

「サカキンごめん。悪ノリし過ぎた」

 

「2人ともそれで掌返しちゃうんだ!?……っていうか、ヤクザ?」

 

「いや待て、そもそも2人は毎日榊の手料理食べてたのか!?」

 

 いやサキサキよ何を言うか。普通に毎日ではないよ。土日は当然作ってない。あと祝日も。

 

「それ、つまり学校ある日はほぼ毎日食べてるって事じゃん……!」

 

 そうとも言うな。なに?サキサキも食べたいの?まぁ川崎少年にも姉ちゃんをよろしくって言われてるから、食べたければお昼に部室に来てくれれば構わんぞよ?……それならそろそろ昼の献立真面目にバランス考えるか。セツのんとゆいにゃんには禁断の味食べさせまくったけど、流石に他の人にやるのあんまり良くないよね。

 

「良いの?」

 

「駄目よ」

 

 いや何でセツのんが答えるんだし。え、部長だから?……別に良いじゃん昼飯くらい。どうせ作るの俺だけなんだから。まぁ、無理に来いとは言わんから、食べたくなったら顔出しにおいで。ただ、あんまり友達とかは連れてこないで……サキサキもぼっちだからそれはないか、無神経だったなごめんごめん!

 

「うっさいな、もう……じゃあ、昼休みには顔を出すから」

 

「あいよ」

 

「……ッ!サカキン……」

 

「……はぁ、仕方ないわね」

 

 よし、じゃあ決まりだなっと。じゃあケーキ以外は食べ終わった見たいだし片付け「キーンコーンカーンコーン」るかなって予鈴か。んじゃあまぁ片付けは俺やっとくから皆は戻りなー?

 

 そう言って使用した食器類全てカゴに入れて、食器洗いセットと共に部室を出た。俺がやっておく、と言ったのに後ろでテーブル拭いたり座布団片付けたりしてくれてるセツのんとゆいにゃんは言っても止めないので素直に甘えておく。

 

 残りの皆はやる事も無いし、普通にご馳走様と言って教室へ戻って行った。サキサキは少し手伝いたそうだったが、別にやってもらうこともないので帰しておいた。

 

 ぽす

 

 っとぉ?足に軽い衝撃があったので見るとローキック体勢のユーミンが居た。どうやら真っ先に帰ったのかと思ったら、トイレに行っていただけらしい。地味にちゃんとハンカチで手を拭いてるのがユーミンらしい。

 

「モサキチ、あんたが誰と何してようがあーしは別に良いけど、約束は守れよー?」

 

「……ユーミンには敵いませんなァ。ま、それでいいなら俺も構いませんとも」

 

「そ。なら良い。……あと、たまに海老名連れて行くかも」

 

「誰だよそれ。ま、1人くらいなら構わんけども。……別に来たければ毎日来ても良いんだぞ?」

 

「ばーか。モサキチのメシに慣れたら普通のメシ、食えなくなるじゃん」

 

 さよけ。ま、その辺の自己管理がちゃんと出来るあたり、やはりユーミンは良い女よの。

 

 そう言うと彼女は鼻を小さく鳴らして、何も言わずに戻って行った。こちらも特にそれ以上は何も言わずに、黙々と食器を洗う。あまり時間もないのでサッと終わらせた。残ったブッシュ・ド・ノエルは中途半端になってるところから少し大きめに切り落として、手の着いてない部分を空間倉庫へ放り込んだ。2人も他の片付けを終わらせた様なので、揃って部室を出る。鍵はこのままセツのんが持ってることにしたらしい。

 

 3人で並んで歩く。予鈴がなった後だから流石に出歩いている生徒は殆ど居ない。トイレに行ってるものぐらいだろう。

 

「……由比ヶ浜、さっきは済まなかった。最初からちゃんと話をしとくべきだったな。……放課後、仕切り直しさせてくれ」

「…!や、やー!あたしも勝手に勘違いして、勝手に決め付けて……その、ごめん。サカキンも、あたしの為に一生懸命やってくれてたのに……本当に、ごめん」

 

 謝るなよ。俺が紛らわしいことをしたせいだし、どうあれ由比ヶ浜の要望無視した形になったのは俺のせいだしね。ま、放課後はちゃんとやるから、気を取り直して楽しんでくれたら嬉しい……まぁ俺は遅刻決定なんだが。

 

「サカキン……うん。待ってるから、なるべく早く来てね?」

 

「努力する……平塚先生にそれが通じるかは分からんけどな」

 

「開幕土下座でもして早々に許しを乞うのよ。何としてでも早く終わらせてきなさい。……待ってるわ」

 

 ははは、先始めてて構わんからな。それじゃセツのん、放課後な。

 

「えぇ。由比ヶ浜さんも、放課後、また」

 

「うん!また後でね、ゆきのん!」

 

 

 そう言って俺たちはにこやかに別れた。ちょっと失敗したが、幸いやり直すチャンスはもらえたので、放課後は何とか楽しませたいところだけど……やれやれ、考えることが多過ぎるな。

 

 ……はぁ、平塚先生の話、早く終わると良いけど。……無理だよなァ。

 

 

 ◻️◻️

 

 放課後。

 

 コンコン。

 

「失礼します。平塚先生、来ましたよー?」

 

 昼休みに平塚先生に言われた通り、まずは部室に寄って昼に食べれなかった分の料理とその他を並べて、セツのんとゆいにゃん、そしてユーミンの3人ともう1回乾杯だけして、1人出てきた。

 

 戸塚とキラキラは部活で、サキサキは今日はコンビニバイトの面接との事だった。一応戸塚とキラキラは部活が終われば顔を出すかも、とは言っていたが……2人とも試合が近いらしく、最近は遅くまで練習があるらしい。誕生日パーティが終わる前に顔出せれば御の字、だそうだ。

 

 正直に言えば昼休みの時でさえセツのんとユーミンはほぼ会話してなかったし、俺が抜ければ現状凄い気まずい空気が出来上がると俺でも思うが、どちらもゆいにゃんの誕生日をお祝いしたくて集まってるわけで、流石に多少は気を使うだろうと判断した。

 

 あとはまぁ、セツのんもユーミンも、どちらも口が悪いところはあるし、正直反りが合わない2人だと言うのは分かるが、それでも根はどっちも善良なのだ。これを機に、気に食わない相手とも多少は歩み寄る、という事が出来れば良いなぁと言う思惑もある。

 

 間に挟まれたゆいにゃんは大変だろうけど、それはそれでゆいにゃん自身ももう少しユーミンやセツのんに言いたい事を言えるようになった方が良いと思うので、頑張ってもらうことにしたのだ。

 

 だが心配っちゃあ心配なので、できる限りお説教は短めにしたい。なので何とか話を早めに終わらせようと思ったのだが、たぶん難しいというのは分かっていた。たぶんというか絶対授業サボったことだけじゃないしね、怒られるの。

 

 とはいえ、まずは平塚先生に会わないと話にならないのだが……指定された生徒指導室の扉をノックしてみても反応がない。念の為ドアノブを回してみる。

 

 すると、ガチャ、という音がして普通に扉が開いた。他の先生方が使っているとかだと気まずいので、そろそろーと静かに開いてみると、部屋の中の電気は消えていて、カーテンも閉まっていて薄暗い。どう見ても不在の様だった。

 

 いや、それにしては鍵は開いてるんだよな。あれ、ひょっとして一旦来てどっか行ったのだろうか。これは俺中で待っているべきなのか、それとも職員室に呼びに行くべきなんだろうか。や、職員室に平塚先生を呼びに行くの、積極的に怒られたいみたいでちょっとやだなー。

 

 そうやって生徒指導室の扉に手をかけたまま、廊下と生徒指導室のちょうど境目を足だけ入ったり戻ったりしていると、背後から声が掛けられた。

 

「榊、早く中に入れ」

 

 お?なんだ平塚先生、どっか行ってt「ガッ」んで……およ?

 

 音のした方を見ると平塚先生の手が、俺が手を掛けていた生徒指導室の扉を大きく広げていた。その拍子に、軽く掛けていただけだった俺の手が外れ、空を切る。

 

 ふと見ると平塚先生の顔を見ると、不思議な顔をしていた。目は潤んでいるのに、眉毛は下がりも上がりもしていない。歯を食いしばるような音が僅かに聞こえた。なのに唇は真一文字に結ばれ、怒っても無ければ悲しんでいるようにも見えない。完全な無表情だった。

 

 何の言葉もなく見つめ合う俺と平塚先生。瞳は真っ直ぐに俺の瞳を貫いているが、何故だか気圧される。まるで、そう、努めて無表情を装っているような。

 

(というか俺、この顔前に見たような……?)

 

 あっ、と閃いた瞬間には平塚先生に思い切り突き飛ばされていた。

 

 僅かにたたらを踏む。倒れはしなかったが身体は僅かに動いて、俺の体は完全に生徒指導室の中へと入っていた。見ると当然の様に平塚先生も足を動かしていて、俺の後を追うように同じく生徒指導室へ。

 

 ガチャ、と平塚先生が後ろ手に鍵を閉めるのが見えた。これはまずい、この状況は非常に見覚えがある。具体的には2週間くらい前に!

 

「ひ、平塚先生!落ち着いて下さい!ここまだ学kんぐっ!」

 

「貴一……!んぅっ」

 

 せめて少しでも止められないかな、と思ったがやはり止まらなかった。問答無用とばかりに迫ってきた平塚先生は、俺の頭を抱きしめるようにその両腕で俺の頭を固定すると、そのまま唇を奪ってきた。

 

 押し付けるように唇同士を2度、向きを僅かに変えて貪られると、すぐさまこちらの口内へ平塚先生の舌が侵入してきた。

 

 彼女の舌はそれはもう情熱的に動き回り、こちらの動きなぞ知ったことかと言わんばかりだった。あまりにも激しい舌使いで呼吸が少し苦しい。直ぐに口周りががヨダレまみれになる。

 

 どうやらちょっとやそっとでは止まる気もなさそうなので、何とかスタンドだけを使ってこの部屋の空間を固定し、音漏れと他者の侵入を防ぐ。カーテンが閉じられてて助かった、これでこの部屋の状況は外に伝わらないだろう。最低限は手を回せたので後は平塚先生が、少しでも早く満足するように、彼女の舌の動きに合わせる事にした。

 

 

 

「……ハァッ、んっ……じゅる……きいちぃ……!」

 

 約5分。

 

 生徒指導室の壁に掛かる時計で、たっぷり5分。体感時間的にはその3倍くらい。休むことなく何度も口付けを交わし、何度も互いの舌を絡ませ、幾度となく唾液を混じえた。

 

 やがてお互いの唾液が混ざったモノが、止めどなく滴るほどに溜まった頃、平塚先生は俺の顔を両手で優しく挟んだ。閉じた口をこじ開けてこちらの口内へ侵入した舌が、先導するように溜まった唾液を流し込んでくる。

 

 少しの間を置いて、溜まった唾液の全てが俺の口の中へ流し込み終わったのだろう。平塚先生は舌を引き抜き、口を大きく開いてこちらの唇を噛むように、上下から無理やり閉じるように押さえ込んできた。

 

 お互いに閉じていた瞼が開かれ、お互いの鼻もまともに見えないほどの至近距離で視線が交わる。情欲と嫉妬に濡れた瞳が、彼女の要求を正確に伝えてきた。

 

 ごくり、とわざと大きく喉を鳴らして唾液を飲み込む。

 

 俺が唾液を飲み込む音が聞こえたのか、それとも単に察知したのかは分からないが、情欲と嫉妬だらけだった彼女の瞳に歓喜の光が宿ったのが見えた。

 

 同時に、押さえ込まれていた唇がゆっくりと解放され、名残りを惜しむようにべろり、と、大きく彼女の舌が俺の唇を舐め上げた。

 

「んん…ぷはぁ……、はぁー」

 

 ようやく解放され、思わず大きく息を吐く。口と口どころか、口周りの至る所から俺と彼女の間に無数の唾液の橋を掛けた。噎せ返るような濃い匂い。その中に、清涼な香りが含まれていたことにようやく気付いた。ブレスケア用品の匂いだった。どうやら最初からこうするつもりだったのだろう。

 

 何となくそうだろうなと思っていたから、そこまで取り乱す様なことは無かったが、ここが学校であることを忘れそうだった。結構ヤバい。

 

 平塚先生と目を合わせる。蠱惑的で淫靡な笑み。唾液に塗れた口周りを拭おうともせず、ぬらぬらと艶やかに光る口を歪めて嬉しそうに俺を見る彼女。だが何度でも言おう、ここはまだ学校である。何時ものハグ程度ならワンチャン誤魔化しが効くが、キス、それもディープな方とか絶対に無理だ。

 

 流石にやり過ぎだと思い、平塚先生、と抗議の為に口を開いた。

 

 それと同時に己の失敗を悟った。

 

 淫靡だが歓喜に塗れた笑みを浮かべていた彼女の顔が、一瞬で不機嫌な色に染まった。未だ俺の顔を挟んでいた両手で無理やり首に付けられていたネックウォーマーが上にずらされた。しかし途端にクリアになった視界。

 

 どうやらネックウォーマー全部外さずに髪の毛を全て取り払う為に僅かに残されたようだった。なにを、と疑問を口にする間もなく再び唇を奪われる。

 

 再び差し込まれた彼女の舌が、激しく口内で暴れ回りながら、彼女は俺のネクタイを引いて僅かに俺の頭を下げると、下から斜め上に押し上げるように更に顔を密着させ、その舌はより深く俺の口内を荒さんと暴れ回った。

 

 そちらに気を取られていると、いつの間にかモゾモゾと彼女の手が垂れ下がった俺のネクタイを解き、ワイシャツのボタンを1つずつ外し始めていた。

 

「んんん──!ぶはっ、ちょ、平塚先生!?あと一日です「うるさい」んぅ!?」

 

 無理矢理塞がれた口、強引に解きほぐされてゆくワイシャツ。やがて全部のボタンが外れると、彼女は強引に上着ごとワイシャツを開け広げた。

 

 開放され、空気に触れた肌が冷える感覚。多分傍から見たら俺の首筋から鳩尾付近までを埋め尽くす、夥しい数のキスマークが存分に見えた事だろう。そして唐突に口が解放された、と思ったらいきなり肩口に激痛が走った。この2週間でほぼ毎日体験していたとはいえ、未だに慣れない痛み。

 

「〜ッッ!!」

 

 その痛みを気合と根性で抑えるが、いつもより更に強烈な痛みが、いつもよりずっと強く噛みつかれている事実を否応なく知らしめる。やがて少しだけ収まった痛みの代わりにじゅるじゅると啜る音が耳に聞こえ始めた。やはり今回も血が出ているのだろう。

 

 またしても俺の肩に歯型が増えたな、と思いつつ、絶え間なく俺の血を啜る彼女の頭を撫でる。無論、彼女好みの波紋を流しながらだ。

 

 またしても数分の時間を掛けて、彼女はようやく俺の血を啜り終えると、唾液と血で染まった口周りをべろべろと舐め回して拭き取った。そこでようやく人心地着いたのか、こちらを咎めるような目で小さく呟いた。

 

「今は2人きりだぞ……ばか」

 

「いや、2人きりだが学校ですよ平塚先生!?」

 

 そんな可愛い顔しても危険行為には変わらない。あれだけ外では、特に学校では気を付けましょうって言ったじゃないですか!

 

「……やだ。名前で呼べ」

 

 駄目ですってば。つーか落ち着いてくださいよ本当に。明日ですよ約束の日は。ここまで来てこの2週間を台無しにする気ですが?

 

「うるさい、そんな事分かってる……でもやだ。今は貴一に名前で呼ばれたい……!」

 

「……はぁ。もう、特別ですよ、静さん」

 

 途端に胸元に軽い衝撃、同時に背中に日本の腕が回され、次の瞬間には強く抱きしめられた。見るとぐりぐりと静さんが俺の胸に顔を擦り付けていた。少しだけ猫のようだ、と思った。

 

 しかし、そんな和やかな感情は一瞬で吹き飛んだ。胸元から響く微かな嗚咽。そして唾液とは違う、微かな暖かみを持った液体が開いた胸を濡らす感触を捉えた。……静さん?

 

「ふっぅぅぅうぅううう……!ぎい"ぢの、ばか!ひっく、うう…私がっ、目の前にっ居るのにぃぃ、で、デートの、やくぞぐ!じやがっでぇぇー!……ヒッグ、ばがぁ!う"わ"ぎも"のお"お"お"っっ!!」

 

 あー……うん、やっぱりそれよね。分かってた!

 

 だって明らかにユーミンが埋め合わせの約束の話をし出した瞬間に不機嫌になったもんね。うん。俺も良かれと思って集めたメンバーだったけどあの瞬間は本気で失敗したなと思ったし。つまり二重の意味であの時間のあの誕パは失敗していたのだ。

 

「ヒッグ、うぅぅぅ……あ"れだげ浮気はや"だっで、だめ"っでいっだのにぃぃぃぃぃ……っ!だだでざえきいちがほがのおんなのだんじょうび、祝うのどがっ、やなのに"っ!め"のっ、め"の"まえでぇぇぇ……!ばがっ……ぎい"ぢの"ばがぁぁぁぁ!」

 

「………あー……ごめんなさい、静さん。うん、俺が全面的に悪いです。でも誓って俺が本気で好きなのは静さんだけなので、それだけは信じて欲しいです」

 

 

 正直に言えば、ユーミンがどんな考えで俺を誘ったのか何となく分かってるし、嘘偽りなく俺が好きなのは静さんだけなので、放課後デートの様に静さんは思っているだろうが、俺にとってはただの遊び以外の何物でもない。

 

 だが、静さんからしてはそうは見えないのは普段の彼女を見ているから十分に理解できるし、そう見えると分かっていて断り切れなかったのはどう考えても俺が悪い。

 

 もちろん俺にも幾らか言い分はある。あるけど、それは目の前で啜り泣く彼女を思えば、口に出そうとはとても思えなかった。それに、いつもなら軽く嫉妬しても家でしかここまでの事はしない。何だかんだ我慢してくれる。逆に精神的にギリギリだった2週間前なら、俺は今襲われていただろう。

 

 そんな彼女が今回だけ、家まで我慢することも出来ず、されど2週間前の様に襲い掛かって最後までしなかったのは、やはりギリギリまで耐えようとしてくれたから、なのだろう。

 

 なので俺に出来ることは、ただただ謝ることだけだ。

 

 いつものように、左手を背中に、右手を頭に。静さんの望むままに頭を撫でて波紋を流し、同じように背中を擦りながら、優しく抱きしめる。

 

「うぅぅぅ、うぅ~〜っ!きいぢのばがっ、ぢゅる、わ"だし以がぃのお"んなに、色目、づがうな"ぁ……ッ!」

 

「や、それは流石に誤解ですよ。確かに俺色んな人と割と簡単にハグとかしますしされますが、色目とか使ったことはないです。そういうの静さんだけです」

 

 いつの間にか、開いた胸元にねっとりとした感触。俺の胸を静さんの舌が這いながら、時たま思い出したように皮膚を吸われる。多分また更に彼女の跡が広がるのだろうが、彼女は泣きながらこうして俺に跡を残す方が回復が早い。極たまに噛み切られる事もあるので多少俺の体に痛みは残るが、どうせすぐ治せるのでそんなもんで済むなら大したことはない。

 

 そうやって静さんが落ち着くまで、ひたすら謝りひたすら撫で、ひたすら抱きしめること早1時間。少し前に嗚咽は止まり、首筋を噛み切られることも無くなった。

 

 今は俺の胸に顔を擦り付けながら時折啄むように首筋やら胸元やらに吸い付いている。いつの間にか「うぅ~〜!」と機嫌悪そうだった唸り声が「うぅ〜〜♪」と少し上機嫌になってきたので、恐らくもう少しだろう。

 

 ……そこから更に10分ちょっと待つと、遂にその時が来た。俺の胸の中から全く動かなかった静さんが自分から離れたのだ。そしてこちらを少し見上げるように覗き込んだと思うと、唐突に目を閉じて唇を突き出してきた。

 

「………んっ!」

 

 キスしろ、という事らしい。先程まで子供のように啜り泣いていたのに、機嫌が治ってもまだ子供っぽい。学校での普段の姿があれだけ大人っぽいのに、俺の前だと何故だかこんな姿ばかり見せてくれる。それが何故だかおかしくて、けれどどうしようもなく嬉しく感じる。口が自然につり上がって行くのを自覚した。

 

「……んっ!!」

 

 いつまでも反応が無いのに苛立ったのか、いや、ちょっと不安になったみたいだな。……本当に、可愛い人だ。

 

「貴一…?んぅっ!?」

 

 わざとギリギリまで焦らして、唐突に唇を重ねた。舌は入れない。これ以上は手を出したくなってしまうから。

 

 約束の日は明日だ。だから、今日のお仕置きは明日に後引くように、寝る直前と決めている。今にも愛が溢れてしまいそうだが、この2週間の我慢を思えば、ここで堪えることなど造作もない。

 

「ンンッ……んぅ、ぷはぁ…貴一……♡」

 

「……静さん」

 

「……うん。分かってる」

 

 では、お互い戻りましょうか。平塚先生も流石にもう仕事に戻らないとまずいでしょう?俺の方も携帯サイレントにしてましたが……はは、やっぱりエグい事になってるな。

 

「……ま、1時間以上もここに居たからな。仕方ない、面倒だが仕事に戻るよ。……今日は、あまり…遅くなるなよ?」

 

「ご心配なく。……俺だって、明日を待ち焦がれているんですから」

 

「ならいい。……では、後でな」

 

「えぇ…また、後で」

 

 その言葉を最後に、平塚先生は白衣を翻して生徒指導室を出ていった。たぶん散々泣いた上に俺の胸に顔を擦り付けまくったのでメイクがぐっちゃぐちゃな事は全然気付いてないと思う。冷静に見えて全然そんな事無いのだ。何故わかるか?俺も同じだからだよ。

 

 だがそれがまた可愛い。なので崩れたメイクの時間は巻き戻して置いた。ああ言ったしっかりしてるようでそうでも無い姿を知ってるのはなるべく少ない方がいい。出来ることなら、俺だけなのが1番だ。流石にそれは難しいと分かっているけれども。

 

 ……いかんな。気が逸っている。

 

 やはり俺自身も冷静になどなれそうもない。嘘偽りなく、俺は平塚先生を欲している。自分で言うのもなんだが、この想いは平塚先生が俺に向けてくれる想いよりずっと重いと思う。それぐらい俺は独占欲が強い自覚がある。だから…

 

 本当に、明日が待ち遠しい。

 

 気が昂って、どうしようもない程に。

 

 

 ああ、静さん。貴女の全ては俺のモノです。

 

 ……他の誰にも、触れさせるものか。

 

 

 ◻️◻️

 

 

 おぃっすー

 遅れてすまんすま……ん?

 

「ふっ…ふぅー、おそ、っいわよ!榊君!」

 

「お……せっーよ、モサきっぷ!?チ……!」

 

「え、えぅ、苦し……、サカ、きんだずげ…うぐっ」

 

 

 えぇ……?なにこれ意味不明。どういうことなの?

 

 

 平塚先生を見送った後、いそいそと部室に来てみた。正直にぶっちゃけてユーミンとセツのんは喧嘩してそうだなと思っていたので、扉の前に立っても罵声やら何やらが聞こえないし、あいつら本当に先にパーティやってんのかな……?と思っていたんだけども。

 

 何か部室開けてみたら3人が畳の上でくたばってる。しかも3人漏れなくスカートのホック外してチャックまで降りてて、パンツが普通に丸見え。更にワイシャツの下の方のボタンが外され、ぽっこり膨らんだ腹が丸出しだった。

 

 そしてテーブルの上にはだいぶ無くなった料理の数々……うわマジか、カルパッチョとローストビーフ、オムレツが無くなってる。どれも3人で食える量じゃ無かった筈だが。他にも結構減ってるし。え、用意した俺が言うのもなんだけどこれ本当に3人で食べたの?ヤバくない?

 

 

「お前ら何してんの?それともこれがパリピの誕パなの?」

 

「そんなワケっ、ねー、だろ……アホ!」

 

「くだらない事でっ……ウッ、しゃ、しゃべらせないで……!」

 

「いい"がらはやぐだずげて、ざがきん…!」

 

 

 いやどんだけ死にかけてんのお前ら。食ってくれるのは嬉しいけど無理してまで食べろとか言ってないんだけど。誕生日パーティなんだから楽しく食べて楽しく過ごして欲しいんですけど。腹丸出しってだけでもちょっと女子としてどうなの?って感じなのに、なんでスカートまで下ろしてんだよ。

 

 多分ベルト緩める感覚なんだろうけど、せめて俺が来る前までに直しておくとか出来なかったの?何お前ら女子高生のくせにもう恥じらい捨ててんの?ないわー……

 

「ガチトーン"でない"わ"ーっでいわない"で!」

 

「も、もうなんでも良いから、早く、何とかしてもらえるかしら……!」

 

「……あーしは、いい。何すんのか、知らないけど……へーきだし」

 

 ふーん?つんつん。よっ!←腹を軽く押してみた。

 

「ひぁっ?何す…うっぷ!てめっ何して、ウッ、モサキチぃ!!」

 

 はん?強がってんじゃねーよアホ、腹パッンパンじゃねーか。なにこれ風船?いつからユーミンの腹は風船になったんだよ、まったく……お前ら2人もだぞ?ま、誕生日パーティだし浮かれてんのは仕方ないけどよ。ま、それはさておき。

 

 ピローン♪

 

「激写」

 

「「「!?」」」

 

 か・ら・のー??

 

 ピローン♪

 

「動画撮影開始」

 

「ちょ、サカキンっ!?ウッ」

 

「榊君、貴方ね!?うぐっ」

 

「モサキチ、あんた後で覚えてろよ……!ウプツ」

 

 タイトルは「肥ゆる少女達~子供じゃないの脂肪なの!~」って所かな。あ、心配しなくていいよユーミン、ちゃんと覚えてるから。毎日この姿をこの写真と動画で見て爆笑しながら覚えておいてあげる。嬉しいよね?どうしたのもっと喜んで良いんだよ?覚えていて欲しいんだもんね?あ、なんならSNSにも上げよっか!流石にパンツとかはモザイクかけなきゃだけど皆にもよく知って貰えるよ!やったね3人とも?

 

 おお?なぜ睨むの3人とも。俺は善意で言ってるんだよ?おっと、無理に立ち上がっちゃ危ねーよ、気持ち悪いんだろ?まだ動画撮影中だからひょっとしたら3人がマーライオンのモノマネしてる姿激写しちゃうかもしれないじゃん。流石にそれは女の子っていうか人としてどうかと……あれ、ひょっとしてそういうの見せたいタイプだった?ごめんねー気付かなくってさぁ!俺としてはそういう性癖ないからマジ勘弁なんだけど3人がそういう特殊な趣味持ってるなら仕方ない、動画撮影とネットにアップくらいは手伝うよ!あ、でも流石にマーライオンのモノマネしたら近寄らないでね!

 

「ぅぐぐぐ…ッ!モサキチの分際でっ……ウプ!」

 

「ゆ、優美子!何してるのっ!?はやく、早く謝って!サカキンに早く謝って!そうしないと身動き出来ない今じゃサカキン止められないんだよ!?私達まで巻き添えになっちゃうよ!?けぷっ」

 

「……諦めなさい、由比ヶ浜さん。普段の万全な状態でも止められないのよ?身動き出来ない今じゃ、まな板の上の鯉にも程があるわ。どうせこの後あられもない姿を散々撮られて、それをネタにこれから一生榊君に笑われながら生きていくのよ……!どうせまたねぇどんな気持ち?って聞くんでしょう?早くやりなさいよ!一思いに早くやりなさいよ!このっ……鬼!悪魔!榊君っ!」

 

 ふーははは、そこまで言うのならやってやろう!喰らえ我が秘奥義!何か女の子が酷いことになる光線!どどんぱー!

 

「それパクり……きゃあ!」

 

「しかもこの光はどちらかというと太陽拳…ひゃん!」

 

「何の話してんだあんたら!…きゃん!」

 

 3人が可愛い悲鳴を上げたその直後に光は収まり、そこには3人の更にあられもない姿が……!

 

「うぅ、これでもうあたしサカキンの……あれ?」

 

「こうなったら責任をとらせ……あら?」

 

「なんで隼人より先にモサキチに……あん?」

 

 無かった!ふーははは、期待した大きいお友達の諸君残念だったな!俺が3人のサービスシーン用意すると思った?残念!流石にそんなことまでサービスしないよ!m9(^Д^)プギャー

 

 な──んちゃった☆本当はお腹すっきりらくらく!飲みすぎ食べ過ぎの二日酔いや胸焼けにも効果絶大キャベジン真っ青の何かふわっとしたビームでした!これでもう3人ともお腹すっきりどころか着衣の乱れも治っておまけに口元の汚れもキレイキレイしといたよ!もちろん写真も動画も嘘です!どう?安心した?

 

 まぁ正確にはケータイのフラッシュを空間弄ってより強い光にして、その隙に波紋法とスタンドで3人の消化を一気に進めただけだが。ちなみに携帯の写真撮った時の音とかは単純にその音を録音しといて流しただけである。

 

「「「………」」」

 

 あれ、どした?いつもなら拳が飛んでくる頃なのに。あれ、ひょっとして俺が本気でそんなことすると思ったの?や、いくら俺でも下着姿の女子高生の写真撮ってネットにアップとかしないんですけど。というか俺個人的に下着姿とか別に興味無いしなんならさっきの姿エロくないって言うかただ下品っていうか汚いっていうか残念っていうか……ぶっちゃけうわぁって感じだったから好きな人がいるなら見せない方がいいよ!

 

「もう遅いよバカ!サカキンのアホ!というか女の子の恥ずかしい姿見といてその反応ってどういうことなの!?」

 

「(なぜ私は少しガッカリしてるのかしら…?)そ、そうよ榊君、今のは悪ふざけにしても行き過ぎよ!……あと、今回は撫でたりしないのかしら?」

 

「……モサキチ、あーしのパンツは安くねーぞ……?」

 

 や、ぶっちゃけ女の下着とか見慣れてるし。つーか恥ずかしい姿ってゆいにゃん、もう少し色気のあるパンツ履いてから言って。純白とか言われても女子の下着で白とか漫画やアニメで定番すぎて反応に困る。せめて黒とか赤とか……ごめん、ゆいにゃんには無理を言ったな。

 

 セツのんは撫でて欲しかったの?うーん、まぁこないだ頑張ったみたいだし良いか。それに一緒にゆいにゃんの誕生日パーティの準備頑張ってくれたし、オプションで髪の毛のブラッシングもつけてあげよう。ただし完全なサラサラストレートにするからよろしくね!

 

 は?何逆に聞きたいんだけど高い金出せればユーミンのパンツ買えんの?それなんて援交?流石ビッチクィーン、そんなバイトしてるんだヤバっ!ガチビッチじゃん!ちなみに幾ら払えば最後までしてくれるの?

 

「違っ、今日はもうちょっと何かあるかとってそれもちがぁーう!っていうかサカキンむちゃくちゃ見てるじゃん!ガン見じゃん!興味無いとか言っといてしっかり見てるじゃんバカ!アホ!キモイ!セクハ……あれ、今見慣れてるって言った?」

 

「私は猫ではないのだけれど……ま、まぁしてくれると言うのならお願いしようかしら?」

 

「誰がそんなバイトするかアホ!あーしはビッチじゃねーって何度言わせる気?だいたい金であーしを買おうなんて甘いんだよ。最低でも1000万は……待った。ごめん、あーしが悪かった。謝る。だからさも当然の様に取り出したそのアタッシュケースは仕舞えし。バカ止めろ見せんな!札束ぎっしり詰まった中身見せんな!ちげーよ金の延べ棒なら良いって話でもねーよ!?」

 

 ちっ、なんだ買えないのか。2億くらいまでなら出しても良かったのに。

 

 まぁそれは置いといて実際何があったの?セツのんとゆいにゃんはまぁ最近の食の良さ的にやってもおかしくないけど、ユーミンはあんな食ったりしないじゃんいつも。ああほらセツのんはこっちおいでな。わちきの梳りテクを見せちゃる!

 

「止めろよ?いくら金積まれたって絶対にやんねーからもう止めろよ?いーか、絶対だかんな!?ちょ、バカ!だからやめろっってんだろ!?ちょっと本気でぐらつきそうになっからマジで止めろバカキチ!」

 

「あら、そうは言っても榊君は男の子なのだし、流石に毎日やってる私達には……あっ、きもちいぃ……?いえ、これはそんなレベルじゃ……ふみゅ」

 

「あたしもゆきのんも大食いじゃないから!っていうか話を逸らすなー!って優美子に2億ってどういう…ゆきのん!?今結構聴き逃しちゃいけない事言われたよ!?何でサカキンの膝枕で気持ちよさそうにってあーもー!ツッコミどころが多過ぎて何から言えばいいのか分からないよー!」

 

 ……笑えば、いいと思うよ?(`・ω・´)キリッ

 

「そのネタやる気ならせめて髪の色の近い咲希がいる時にして」

 

 アッハイ、すんません。くっ、ネタ元まで理解された上でのツッコミだから反論出来ねぇ……っ!こやつ、いつの間にエヴァまでっ!?やるなゆいにゃん!!

 

「サカキンから借りた名作シリーズ、ようやく1つ見終わったけど正直最初のは最終回とかその辺意味分かんなかった。劇場版の方がまだちょっと理解出来たよ……って違うから!止めて!そんな話がしたいんじゃないから!」

 

 ん?そうなの?なーんだ、せっかくゆいにゃんの誕生日パーティだから大画面テレビで名作映画とか鑑賞会もやろうかと思ってたのに。劇場版なのにテレビ版と大して変わらない生徒会役員共とかオススメだよ!まぁいいや、とりあえず俺もちゃんと合流できたことだしはいカンパーイ!改めてゆいにゃん誕生日おめでとー!

 

「へ?あっ!ありがとー!カンパーイ!おーいしー!ってあれ?何気なく手渡されて飲んだけどこんなのあった?桃味の飲み物なんて置いてなかったような……?」

 

 ふ、こんなこともあろうかと用意しておきました!まだ暑い季節始まったばかりなので、桃のフローズンスムージーだよ!ゆいにゃんが何気桃とか好きみたいだったから作ってみた!甘すぎずくどすぎず、さりとて桃の美味しさを際立たせる俺の自信作だよ!喜んでくれたようで何よりでごんす!

 

「わっ、これも手作りなんだ!?サカキン本当に料理上手だよねー。しかもサカキンのおかげでお腹もスッキリしてるからまた食べられるし!ハッ!待って?おなかいっぱいなの治して貰えるってことはサカキンと一緒に居れば永遠に食べ続けてられる?」

 

 できるし別に構わないが、無茶苦茶太るぞ。俺別に腹の中のもの無くした訳じゃないし。あくまで消化を進めてるだけ。しかも消化効率滅茶苦茶良くして吸収させてるから、普段より栄養もカロリーも大きく吸収してる。ちゃんと後で運動しないと肌が綺麗になる代わりに脂肪でぷよぷよになるから気をつけてね!

 

「え"っっっ……?それ、まじ?」

 

「嘘つく理由無いだろ」

 

 とか言ったら3人揃って固まった。俺の膝の上で髪の毛サラサラに梳られてたセツのんがこちらを見上げるように蒼白な顔をしている。金の魔力に負けそうで少し離れた所にいたユーミンは完全な真顔になっていて、ゆいにゃんに至っては蒼白な顔のまま酸欠の鯉のように口をパクパクしている。というか、俺のイリュージョン誰ももう気にしてないのすごくない?出来て当然みたいな反応なんですけど。地道な活動が完全に身を結んだね!

 

 にしても固まったまま戻らんなみんな。うーん、少し衝撃的事実過ぎたか?仕方ない、フォローしとくか。

 

 まぁ少しくらいデブるくらい気にするなよ!女の子は少しくらいぽっちゃりしてた方が人気あるって言うだろ?それにほら、いざとなったら榊式3日間集中ダイエットでだいたい何とかn「サカキン、その話詳しく」えっ?や、本当に太「榊君、具体的な効果はどのくらいかしら」ふぇっ!や、やー個人差あると思うけど俺が3日で3キロ落としたくらい?「はぁ?そんなんで体調とか大丈夫なん?」うぇぇ?そ、そりゃもちろん俺の特殊なサポートがだねっていうか待って!思ったより食い付きがエグい!やっぱり今のナシで!

 

「は?今更何言ってんのサカキン。というか本当に3日で3キロも落ちるの?」

 

「そうよ榊君、今更無かったことになんか出来ないわよ?というか誰のせいでこんな事になったと思ってるの?責任取りなさい」

 

「おいモサキチ、特殊なサポートって具体的にはなんだし」

 

 えっ、いやまぁ本当に3日でやるなら3日間学校行けないけど出来なくはないかな?たぶん。本来は2週間くらいかけてゆっくりやるというか、一日の食事全て俺の管理下において全身ケアしながら……っていうか、これ俺が悪いの?俺が責任取るような話なの!?

 

「当たり前じゃん。3日か……週末と一日サボり、かな?」

 

「当然でしょう。いえ、由比ヶ浜さん。もうすぐ夏休みよ。無理に学校を休まなくても2週間の完全な状態で受けるべきではなくて?」

 

「それ以外に何があんだよバカキチ。あー、もうバイトのシフト出した後だわ。ちっ、めんどくせー。で、場所は?」

 

「サカキンかゆきのんの家で良くない?3人が泊まること考えたら、そこが1番広いと思う」

 

「そうね。それなら元凶の家でやって、寝る時だけ家を使えばいいわ」

 

「あんがと。あとできるだけ早く始めたいんだけど?予定もあるし」

 

「そうだね!あたしも家族と旅行行くし、水着着ること考えたら……!」

 

 待って待って待って!?ちょっと俺を完全に置いてきぼりで話進めるの止めてくれる!?つーかウチは無理だってば、ちょっ、ねぇ聞いてる?ねぇ聞いてる!?くっそ、全然聞く耳持ってない!

 

 まさかたかが3日で3キロ程度のダイエットに食いつくとは!あ、いや普通ならありえないんだっけ?いやそれよかどうしよう、このままだとウチに3人が来る!何でそうなってるのか横で聞いてて今もよく分かんないどとにかくヤバい!うちにはもう平塚先生がいるって言うか普通に荷物とかも置いてある。バレたらヤバいっていうか女3人も俺の家に来ることがもうだいぶヤバい!!

 

 というかいつの間にかセツのんとユーミンが仲良くなってるのはどういうことなの!?くそ、俺がいない約1時間の間に何があったというのだ!いや、今はそれどころではない、俺自身明日からは平塚先生と普通に毎日イチャラブする予定なのだ。邪魔される訳には行くか!よし、おい待てお前ら、少しは俺の話を聞きなさい!

 

「サカキン、今大事な話してるから後でね」

 

「榊君、決まったら呼ぶから隅っこで待ってて」

 

「モサキチ、今あんた関係ないからすっこんでろ」

 

 アッウン(´・ω・`)

 

 だ、駄目だ話を聞く気がない!ど、どうしてこうなった……!なにか、なにか手は無いか?あ、そうだ、あれがあった!よし、待て3人とも、そこまでだ!

 

「は?今あんた呼んでねーから」

 

「呼ぶまでいい子で待ってなさい」

 

「サカキン、ハウス!」

 

 辛辣ぅ!お前らこれ俺じゃなかったら帰ってるからな!?というかお前らこれが誕生日パーティだってこと忘れてんだろ!?おら、プレゼント渡したいから一旦止めろって!セツのん、お前もまだだろ!?ユーミンは……そういや誕生日パーティとかしないのにパリピってプレゼントとか用意するの?

 

「……貴方が来るまでプレゼントを渡すのは待っていたのだもの、渡してないに決まっているでしょう。はぁ、仕方ないわね。確かに由比ヶ浜さんの誕生日だもの、プレゼントの方が優先だわ」

 

「あーしはもう朝に渡したから。てかパーティしなくたってプレゼントくらい普通に渡すっつーの」

 

「プレゼント……!そ、そうだね!メインイベント忘れてた!やだなーもう、ごめんねサカキン!」

 

 よし!話が誕生日パーティに戻った!では早速俺からプレゼントを渡すぜ!ふふふ、見るがいいゆいにゃん!これが女子中学生の力を借りて選んだプレゼントだぜ!じゃじゃん!

 

「さぁこの大きい箱と小さい箱のお好きな方をお選び下さい!」

 

「選択制なのかよ」

 

「舌切り雀の葛籠じゃないのよ榊君?」

 

 えぇい外野うるさい!せっかくだからプレゼントにも遊びを取り入れてみてるんだよ!大丈夫、どっちを選んでもちゃんと両方ゆいにゃんに良さげなものを頑張って選んだよ!さぁゆいにゃん、どちらがいいかね?直感で選んでも大丈夫だよ!

 

「じゃあ両方ちょうだい!」

 

「なん……だと……?」

 

「や、だってサカキンの事だから本当にどっちも私の事を考えて買ってくれたものでしょ?それならどっちも欲しい!……かなって。駄目?」

 

 まさかゆいにゃんに予想の斜め上の答えをもらうとは思わなかった。何か悔しいけど、まぁ元からどっち選んでも両方渡すつもりだったからいいや!はいどうぞだぜ!

 

「私からもその、これを……気に入ってくれると良いのだけれど。

 

「わぁー!ありがとうサカキン、ゆきのん!大丈夫、何だって2人からもらえたものならすっごい大事にするから!もちろん優美子からもらったのも!」

 

「おー、めっちゃ大事にしろし。つーかモサキチが女子にプレゼントって何か違和感あんね、ウケる」

 

 ちょっとユーミン黙っててもらえる?俺だって今まで女子にプレゼントくらいした事あるに……あれ、ここ最近女子に食べ物与えた記憶しかない……?プレゼントではなく餌付けだった?

 

「あたし達サカキンに餌付けされてたの!?……どうしよう、否定出来ないよゆきのん!?」

 

「あら、私は違うわよ?あくまで榊君の料理を食べてあげてただけだもの。餌付けなんてされてないわ」

 

「なんだ、セツのんには無理して用意しなくて良かったのか。じゃあ今度からはゆいにゃんとサキサキの分だけでいいんだな!」

 

「待ちなさい!それは卑怯よ!」

 

「いや完全に胃袋掴まれてんじゃん」

 

 ふーはははは!まぁ俺氏チーターですからね(`-ω-´)✧

 スーパーコック俺氏に落とせぬ胃袋などないのだ!ふーははは!

 

「あはは……ま、まぁあたしもゆきのんの事言えないしなぁ……。ね、それよりプレゼントここで開けて見てもいい!?」

 

 ん?俺は構わんぞよ。セツのんは?良いってさ!というかセツのんは一緒に買ったからプレゼント何か分かってるけど、ユーミンは何をあげたの?え、そのゆいにゃんのバッグに付いてる小さい熊みたいな奴がそうなの?ほー、何か普通に可愛いものあげるんだな。何かそっちの方が意外!

 

「うっせ、モサキチがケーキとか作れることに比べたら意外でもなんでもねーよバカ」

 

「サカキンは優美子を一体なんだと思ってるの……?あ、答えなくていいよ、ろくな答えじゃないのはもうわかったから。えっと、ゆきのんの選んでくれたのは……?あっ!エプロンだ!可愛いー!ありがとゆきのん!大事にするからね!」

 

「喜んでくれたなら嬉しいわ……でも、エプロンなのだから大事にするよりもしっかり使ってくれればそれで良いのよ?」

 

「もちろん使うよ!あたしもっと料理の勉強頑張っちゃう!でもそれはそれとして大事にするのー!」

 

「きゃっ!……もう、急に抱きつかないでといつも言ってるでしょうに……」

 

 

 何か急速に俺空気なったけどまぁいいか。いつの間にかセツのんもゆいにゃんに抱きつかれて戸惑う事も無くなってるし、よく分からんけどユーミンも何処と無く嬉しそうな顔でそれを見てて、前みたいにユーミンとセツのんが無駄に喧嘩する所も今日はまだ見ていない。ゆいにゃんも2人に大してだいぶ堅さと言うかおどおどした所が無くなってきた。うむ、いいねぇ。

 

「……おい、何ちょっと孫を見るじーちゃんみたいな目でうちら見てんだバカキチ」

 

 

 おっと、そんな目をしてたか。どうにも精神年齢が上だからか、同級生なのに娘を見てる気分になってしまうな。つーかユーミンもよく気付いたなホント。相変わらず見てないようで見てる子ねぇ。そーいや、今はゆいにゃんとセツのんが仲良いのには嫉妬しないの?

 

 何かそんな理由で話し掛けられたのが随分昔のことに感じる。そんなことを考えながら、ゆいにゃんとセツのんがじゃれてるのを少し離れてユーミンと2人で見ながらちょっと聞いてみる。

 

 ユーミンはゆいにゃんに目を向けて、ふん、と少しだけ鼻を鳴らすと、柔らかい笑みを浮かべた。

 

「別に……ユイが笑ってんならそれでいーんじゃね?」

 

「ふふ、そうかい」

 

 相変わらず良い女である。ま、でも先のやり方はどうかと思うがね。気付いてるとは思うが、俺じゃキラキラの当て馬にゃなれんぞ?

 

「……分かってる。昼ので……よく、分かったから」

 

 だから言ったろうに。つーか試行錯誤は良いがね、せめて事前に相談せぇよ。いきなり()()()()()()()()()()()()()()()なんて無茶が過ぎる。唐突にぶっこみ過ぎてキラキラどちゃクソ固い反応してたじゃん。

 

「うっさい。……上手くいかないのは、何となく分かってたし。それでも、なんかしたかっただけ……駄目だったけど」

 

「ふーん。ま、気持ちは分からんでもない。上手くいくかどうか、なんて考えながら動けるなら苦労しないしな。それが片想いっつーもんだし」

 

「おっさんみてーな言い方してんじゃねーよ。てかモサキチの偶に出るおっさんぽさなんなん?」

 

 はは、実は俺前世から数えてもう40歳とかそれくらいなんだよね。だからユーミンとか娘みたいなもんだから。半分くらい保護者の気分だから。何ならユーミン、パパって呼んでも良いのよ?

 

「バーカ、あーしにゃ普通に父親いるっつの。つーかモサキチが40だったら偶にしかおっさんじゃないって逆にヤバくね?」

 

 何を言うか、男はいつまで経っても少年の心を持ってるもんですぅ。だから大人になっても少年ジャンプとか普通に買えるし、コンビニで立ち読みだけして出てくるとか平気で出来るんですぅ。……ま、ガキっぽいのは否定しないがね。

 

「はっ、なんだそれ?……あーしはモサキチの事パパなんてぜってー呼んでやんねーから。そんな適当な理由付けで、あーしが簡単に甘え出すと思うなよバーカ」

 

「カラカラ、それが分かるあたり、流石よのぅ。……じゃあ、近所のお兄さん枠ってのはどうかね?」

 

「だから、何で歳上役ばかりだし!……ふつーに、同い年(タメ)の男友達でいーだろ、ばか」

 

 なんだ、そっちの方が好みかね?よく分からんなぁ年頃の女子高生の感性ってヤツは。まぁ、いいや。ほらおいで。同い年(タメ)の男で良ければ、胸を貸そうじゃないか。

 

「バーカ。今日はいんねーよそんなの。誰の誕生日だと思ってんだっつの……そういうのは火曜日で、今はその、頭撫でろし……」

 

 はいはい、かしこまりました。

 そう言っておずおずと差し出してきたユーミンの頭を撫でる。良く知らんがユーミンはこう見えて結構撫でられるのが好きらしい。前にちょっと遊んだ時にも昔は父親に頭撫でられるのが好きだったとか言ってたし、キラキラに頭撫でられたさそうにしてるの結構見るし、本当に頭撫でられるのが好きみたいだな。ヤンキーみたいな見た目なのに、相変わらず妙な所で可愛い奴である。

 

「あー……ホント何でモサキチに撫でられんのこんなに安心すんだろ……?」

 

「愛が篭ってるからな」(`・ω・´)キリッ

 

「うっせ」

 

言葉だけでじゃれ合いながら、彼女の頭を撫で続ける。

やはり嬉しそうだ。しかし………ぶっちゃけ2人して座った状態で撫でるのやりにくい。途中で面倒になって撫でながら彼女の頭を軽く引き寄せた。

 

意外なことに特に抵抗なくそのまま膝の上に倒れてきたので、これ幸いとそのまま膝枕をしつつ、撫でやすくなった彼女の頭を撫でる。

 

 ははは、まぁ普段結構気を張ってるんだし、安心できるならいいことだべ。ただでさえ無駄にカッコつけて……えっと、なに?2人ともなんでそんなにこっち見てんの?なんかあった?

 

 ほのぼのユーミンの頭を撫でるのに夢中になっていたら、気が付いたらセツのんとゆいにゃんがじゃれ合い止めてこっちガン見してたでござる。つーか真顔で怖い。なに?俺なんかした?

 

「……榊君、随分と三浦さんと仲良いのね?」

 

「それに、今の笑い方……だべとか、そんな喋り方普段しないのに……!」

 

 あ?あー……ほら、方言とか恥ずかしいから普段はあまり出さないようにしてるんだけどね?偶に出ちゃうよね。てか、ユーミンとはだいたいこんなもんだよ。これでも友達だからねー。

 

「へぇー?モサキチ、あんた2人の前ではその変な笑い方しねーの?じゃ、いつもはあのスカした余所行きの笑い方なん?へぇ──?」

 

「アホ、カッコつけてると言いなさい。男の子は女の子の前ではカッコつけたいもんなんだよ。ユーミンはほら、気を使わなくていい所あるからね。ぶっちゃけ扱い雑だけど仕方ないね?」

 

「は?あんた相変わらずあーし舐めすぎじゃね?あーし程の可愛い女そうそういねーぞ?これだけ密着できるの、そこらの男子なら泣いて喜ぶからな?」

 

 自分でそれ言っちゃうのかー……つーかユーミンが美人なのは認めるけど、密着しただけで俺を感激させるなら見た目にお淑やかさが致命的に足んねーよ。髪の毛染めてストレートパーマ掛けてから出直してくれる?ゴンっ!痛?!ってめ、膝枕してくれてるヤツを殴る奴があるか!

 

「あー?枕が口答えしてんじゃねーよタコ!」

 

「枕かタコかはっきりしろよくるくるヤンキー」

 

「はぁ?」

「はぁ?」

 

 一瞬の睨み合いの後、無言で胸ぐら掴み合う俺達。やんのかコラ?

 

「いや、仲良過ぎでしょ何なの?てゆうかあたし達より仲良くない?!部活仲間のあたし達より距離近くない!?あたしサカキンの本当の笑い方とか今初めて知ったんだけど!どういうことなの!?」

 

「……相変わらず手が早い上に節操が無いのね、タラシギ君。いえ、タラシ君」

 

 えっ、その反応はおかしくない?胸ぐら掴みあってる人間にその反応はおかしくない?特にセツのんはおかしくない?どう見てもこれで俺が手を出したようには見えなくない?つーかユーミン口説くくらいならゆいにゃん口説くわ。何言ってんの?

 

「えっ!?そ、そーなの?……えへへ、そう、なんだ……!」

 

「そりゃだってゆいにゃんの方がユーミンより口説きやすそうだし。馬鹿だから」

 

「そんな理由!?ちょっ、なんでそういうこと言うの!?一瞬喜んだあたしが馬鹿みたいじゃん!って馬鹿って言われてたんだったー!?い、いや!あたし馬鹿じゃないし!これでもちゃんと勉強して普通にこの学校入ってきてるんだからね!?」

 

「いや、あの……こんな事言うのは酷なのだけれど、由比ヶ浜さん、貴女は馬鹿よ?」

 

「ゆきのん?!」

 

「ごめーんユイー、それはあーしも擁護できねーわー」

 

「優美子まで!?……もー!皆してあたしを馬鹿扱いするー!いーかげんに泣くよ!?」

 

 ははは、すまんすまん。ゆいにゃん弄ると可愛いからついね?所で俺のプレゼント開けた?出来れば感想が欲しいんだけど。

 

「可愛い?!……えへへ。あ、そーだそーだ!サカキンのプレゼントまだ開けてなかった!今開けるね!まずはこっちの小さい方から……わぁ、シュシュだ!これ可愛いー!ありがとサカキン!」

 

 ……いや、満面の笑みで喜んでくれてるのは非常に嬉しいし、わざわざ女子中学生に頭下げて協力してもらったかいがあるってもんなんだが……いくら何でもちょろ過ぎないゆいにゃん?え、これ大丈夫なの?なんか駄目な男とか変なナンパとかに引っかかりそうで凄い不安になるんだけど。ねぇそこんとこどうなの2人とも。

 

「……」

「……」

 

 おい待て2人とも、目を逸らすなよ。なんか言えよ2人とも!おい、お前らゆいにゃんの友達だろ!?おいってば!

 

「…?どしたの3人とも変な顔して?それより、大きい方も開けるね!ふふふ、こっちは何かな何かなー?」

 

「……そう言えば榊君、いつの間にプレゼントをもう1つなんて用意したの?私と買い物に行った時、貴方から相談されたのシュシュだけだったと思うのだけれど?」

 

 あ?あー、実は何となく一目見てゆいにゃんに似合いそーだなとビビっと来たので、思わず買っちゃったんだよね。買ってからこまっちゃんとセツのんに相談するの忘れてた事に気付いたのさ。

 

「呆れた、貴方から選んだプレゼントを品定めしてくれって言ったんじゃない……それで、何買ったの?」

 

 ん?それは「わ、何か高そうな箱が……なんだろこれ、って簪?」まぁそういう事ですね。

 

「へぇ、モサキチの癖に雅なもん選ぶじゃん。モサモサしてるのに」

 

「わぁ……綺麗……!これ、付いてるのなんかの花?」

 

「その花の形はミモザね。よく聞くのはアカシアって別名の方だけれど……そうね、蜂蜜の印象の方が強い人の方が多いんじゃないかしら?」

 

 流石セツのん、よく知ってるねー?俺気に入ってから商品説明で初めて花の名前知ったよ。言う通り蜂蜜の方でしか知らんかったわ。ただ何となく花の見た目がゆいにゃんみたいで良いなーと思ったんだよね。何かゆいにゃんが浴衣とか来たら似合いそうなイメージ浮かんだ。

 

「あたしみたい……?よく分かんないけど嬉しい!ありがとねサカキン!あ、そーだ!それならさ、夏休みにある夏祭り皆で行かない?毎年浴衣着るんだ、あたし!」

 

 俺はええで。特に予定も無いし。せっかくだからゆいにゃんが浴衣着てその簪刺してるところ見てみたいし。ゆーて夏休みじゃまだ結構先だからどうなるか分からんけど。

 

 そう言うと途端にウキウキでやったー!と叫んで飛び跳ね出したゆいにゃん。やだ、ちびっ子みたいな反応で可愛い。こんなに喜んでくれるとプレゼントした甲斐があったな、うん。

 

 とか嬉しくなってたら脇腹に衝撃。見るとセツのんとユーミンがら両サイドから俺の脇腹を肘でつついてくる。え、耳を貸せ?なんぞ?

 

「あれ最近人気のブランドのヤツじゃん。結構いい値段したんじゃね?」ヒソヒソ

 

 野暮なこと聞くんじゃねぇよ。ゆいにゃんに似合いそうだと思ったから買った。それだけだよ。

 

「時に榊君、貴方はミモザの花言葉を知っててあれをプレゼントしたのかしら?」ヒソヒソ

 

 花言葉?俺花言葉なんて漫画で出てきた奴しか知らねーよ。具体的にはバラとスターチスとアヤメしか知らん。

 

「ふーん?剛毅なことすんなー、モサキチ」

 

「そう、知らないのなら良いわ……ある意味可哀想ではあるけど」

 

 何の話だし。

 まぁいいや。さて、プレゼントも渡した所で、そろそろ違うことでもしようか?てか誕生日パーティってケーキと料理とかプレゼントした後何すんのか知らないんだけど。ユーミン、何すんの?

 

「んー?あーしらもヒトん家で誕パとか最近やんねーしなー。外だったらカラオケ行ったりボウリング行ったりすっけど」

 

「あっ!カラオケ!カラオケ良い!あたしまだサカキンとカラオケ行ったことないし!皆でカラオケしよ!!」

 

「えぇ、俺音痴だからカラオケ嫌なんですけど……」

 

「あら、良いじゃない。貴方の明確な弱点とか面白そうだわ。是非やりましょう、由比ヶ浜さん。榊君、機材とか無いの?」

 

「あー、モサキチ歌は本気でド下手だしねー。つか、外に行くって選択肢無いの?」

 

 まぁ俺も外行った方が良いとは思うなァ。平塚先生に大きな声出すなって言われたし。……音聞こえないようにとかもできるには出来るが。何より俺の持つ電化製品はだいたい廃棄された物を直したものばかりだから、カラオケ機材とか古いヤツばっかやで。データの更新とかもしてないし。ほら、こんなんやで。

 

「それでもあるにはあんのか……ホント意味わかんねーなそれ」

 

「ふっ、イリュージョンの鬼才ですから」(`・ω・´)キリッ

 

「いいからもう仕舞いなさい」

 

「というかタッチパネルも曲番リストも無ければ歌えないじゃん馬鹿なの?」

 

 ぐっ、確かにその通りだ……!よく考えたら機材一式買えるくらいの金は余裕であるんだし買ってもいいんだよな。俺が使う事ないから買う意味も無いだけで。じゃあなんで持ってるのかって?ノリですね!

 

「でも、移動するとなると料理どうしよう?まだ沢山残ってるし……」

 

 あ、それは大丈夫。どうせ余ったらタッパーに詰めてサキサキとこまっちゃんにお裾分けする予定だったし。あいつら遅くまで両親帰って来ないから自分で料理してるんで、調理済みあげると喜ぶし。あと川崎少年は食べ盛りだから多少の残飯処理を押し付けても平気だし。ちょっと待ってねタッパーに詰めちゃうから。あ、ユーミン手伝って!

 

「はー?しゃーねーなー」

 

「……何で2人の生活事情を知ってるのか、とか、もう既に何度か料理のお裾分けしたのか、とか、もう面倒だから突っ込まないわよ」

 

「いや突っ込もうよゆきのん!!何でサカキンが咲希や小町ちゃんの家の両親の帰りが遅いとか知ってんの!?ちょっとサカキン、どういうことっ!?」

 

「え、何度か2人の家に行ったことあるから知ってるだけだよ?」

 

「それがもうおかしいでしょ!?何さも当然の事のような顔して言ってんの?あたしやゆきのんの部屋にだって遊びに来たことないのに何で2人の家には行ってんの!?」

 

 や、セツのんの部屋とか俺の家とほぼ間取り変わらないじゃん同じマンションだし。でもセツのんの部屋にはサキサキのバイト先の帰りに1回行ったよ。酔ったゆいにゃん背負って。長居はしなかったけど。

 

「またあたしだけ仲間外れだ!?う、うぅぅっ!な、何かあたしだけいつもいつも仲間外れになってる気がする……ッ!」

 

 そうか?別に俺ん家にも誰も来たことないし(平塚先生を除いて)、そんなもんじゃね?アイツらの家に行ったのは色々な偶然が重なった結果だしな。だいたい俺はこまっちゃんの家庭教師みたいなもんだからたまにはLINE通話じゃなくてちゃんと顔見て勉強教えなきゃならんのだよ。……よし、タッパー詰め終わり。ユーミン、そっちは?

 

「そ、そーかなー?それなら仕方な……え、家庭教師??あたし達との勉強会は断るのに!?」

 

「あっ!……伝え忘れてたわ。それなのだけど、由比ヶ浜さん、今度……」

 

「こんなもんっしょー?イチゴのホールケーキはどーすんのこれ?デカすぎて入んねーんだけど」

 

「どうにもならん。ちょうど皆で食べた分が4分の1くらいだし、丸ごと持ってく。よっと」パチン

 

「お、消えた。つかさー、それが出来んなら全部それでいーんじゃね?」

 

 や、ケーキ1個くらいならともかく、食べかけの料理が次々と現れたら何か嫌じゃん?まぁまだ手をつけてない料理もまだまだあるんだけどさ。だからって訳じゃないけどね。まぁほら、ケーキだけは形崩れてると残念な感じになるから仕方ないよね。

 

「……あんた、これだけ料理用意しといて更に引き出しがあんの?いや、あるとは思ったけどさー。ちなみに、あーしが頼んだエビチリの他に幾つ用意したん?」

 

「……あと20種類かそこらはまだ手付かずですね!」

 

「モサキチ、あんた絶対バカだろ?……どんだけ食わせるつもりだったんだし」

 

 や、ほら。ゆいにゃんが好きな料理は何となく把握してるけどさ、完璧ではないしね。何が食べたいって言われても大丈夫なようにしといたのだよ!……ちょっとやり過ぎたのは否定しないが。ほら、よく分からんけど誕生日って自分の好きな食べ物がお腹いっぱい食べられる日じゃん?少なくとも家ではそうだったからな。だから、我が家風ではあるけど、それに習ってみたのだよ。

 

「ふーん?だってさーユイ。やっぱ愛されてんねー?」

 

……そっか、本当にあたしの為にこんなに……馬鹿だなぁ、あたし。ねっ?サカキン、それならあたしも料理貰って帰っていい?せっかくあたしの為に用意してくれたんなら全部食べてみたい!」

 

 うぇ?や、それは構わんが凄い量だよ?作り終わった後に冷静になって出す物厳選したくらいには無茶苦茶あるよ?一種類ずつタッパーに小分けにしても3日分くらいにはなっちゃうよ?

 

「それでもいーよ!お父さんとお母さんとも一緒に食べるし!てゆーか、最近サカキンの料理食べるためにお母さんのお弁当断ってるから、お母さん、サカキンの料理に興味あるみたいなんだよね!そういう意味でも是非お願いしますっ!」

 

「それなら少し私も貰ってもいいかしら。自分で料理する手間が省けるのなら助かるわ」

 

 うーん、まぁそう言うならいいよ。ただちょっと量多いから、今日はゆいにゃん帰り送ってくわ。家の前で渡すね?でもお母さんに失礼だから普通にお母さんにお弁当頼むべきだと思うな俺は。

 

「うんっ!ありがとサカキン!」

 

「ガン無視だよこの子」

 

「榊君、私のも家までお願いね?」

 

「言うと思いました。りょーかい」

 

「話終わったー?そろそろ行こーよ。駅前のカラオケ、あんまゆっくりしてると混むよ?」

 

 えぇ、そんなことまで把握してるとか流石ヤンキー夜遊び慣れてんなぁ。おっと、蹴るなよ。夜遊び慣れてんのは事実だろこの金髪ヤンキーめが。ほら、2人も早く行こうぜ?

 

 そう言うとセツのんが鍵を置いてくると職員室に向かって行ったので、俺達は先に3人で昇降口まで向かう。ユーミンが凄い高速の指遣いでキラキラと戸塚にメール送ってくれた。カラオケに向かうと連絡してくれたようだ。正直2人のこと完全に忘れてたので助かる。

 

 流石、気が利くなー、と思ってたら右腕に軽い衝撃。見るとゆいにゃんが満面の笑みで腕に抱きついていた。その頭には俺のプレゼントしたシュシュが使用されていた。いつ付けたのだろう?

 

「んふふー!ね、サカキン……どお?」

 

「おお、よく似合ってるな。悩んだかいがあった」

 

「えへへ、ありがと!……簪も、絶対付けるからね?」

 

 そりゃぁ期待して待っているよ。所でゆいにゃん、1ついいかね?

 

「えへへ、なにサカキン?」

 

「当たってるんですけど」

 

 そう言うとキョトン顔をするゆいにゃん。いや、無自覚とかマジかこいつ。ちょっと無防備にも程があると思うんですけど。いくら慣れている俺でも平塚先生並のゆいにゃんサイズはちょっと意識しちゃうので出来ればやめて欲しい。いや右腕はそれを辞めるなんてとんでもない!って狂喜してるけどね?セツのんとは威力が違い過ぎるわマジで。これが発育の暴力か……ッ!

 

「へっ?……あっ!や、……えっと、その」

 

 少ししてようやく俺がなんのことを言ってるか理解したらしい。一瞬で顔が真っ赤になった。しかし、いつものゆいにゃんならばっと離れてセクハラ!とか言ってくる筈なのだが、何故だか顔を真っ赤にしながら俺の腕から離れない。なんだ?と思ったら、泳いでいた視線が俺の視線と重なって、変わらず顔を真っ赤にしたまま、羞恥心を隠し切れない声で、彼女は言った。

 

 

「えっと、……あ、当ててるん、だよ……?」

 

 

 あの時、右腕が彼女に拘束されて無かったら、たぶん即抱きしめてたと思います。俺としたことが、ネタである事に気付けなかった……ッ!

 

 それぐらい可愛かった事をここに記しておく。

 

 

 ◻️◻️

 

 

 

 

 あたしが彼と出会ったのは高一の時だった。

 

 あの頃はまだ髪も染めてない頃で、周りのみんなも入学してから2ヶ月程度しか経って無かったからか、そこまで派手な見た目はしてなかった。だから、あたしもまだその頃は中学の頃と変わらない、地味な見た目をしていたのだ。

 

 けれど、その時のあたしはまだ周りのみんなに合わせるのに必死だった。今でこそ少しは言いたい事が言えるようになってきたと思うけれど、その時は下手したら自分の意見など言ってはいけないとさえ思っていた。言ってしまえば周りから弾かれると、そうしたらこの学校にあたしの居場所はないのだと、心の何処かでずっと怯えながら生きていた。

 

 理由は色々ある。例えばこの市立総武高校は進学校だから、元の中学の友達がほとんど居ない、ということも理由のひとつだ。その中で、一緒に遊びに出かけた事がある、という条件を加えると途端にゼロになってしまう。それくらいには総武高は敷居が高い学校だった。

 

 ゆきのんみたいに、本当に頭の良い子を知ってからだと、あたし程度の学力じゃ下にまだたくさんの人が居ようとどんぐりの背比べだろうけど、これでも元の中学じゃかなり成績は良かったのだ。だからこそ入試でこの高校に受かったのだし。……まぁ、この学校に入ってみたらビリで無いだけで真ん中にも居られない程度の学力しかないと知って、勉強面で僅かに持っていた自信なんかとうの昔に吹き飛んでしまったが。

 

 逆に言えば、勉強で周りに着いて行けない、という事もあの頃のあたしの焦りのひとつだったのかもしれない。元々運動神経が良い方では無かったから、勉強でも良いところが無くなって、余計に友達との時間を重要視する事が増えた……気がする。

 

 ゆきのんに言わせればただの現実逃避ね、とのことだったが、実際事実であるとあたしも思う。勉強もダメで、運動もダメ。部活もやってないあたしは、友達の中にしか居場所が無い、と、あの頃のあたしはそう思っていた……のだと思う。そこまで深く考えたことなどないから断言は出来ないけど。深く考えることが怖かったのもきっとある。それすらも逃避だったと言われれば、きっとそうなんだろう。

 

 今でこそ彼やその他の人にはクラスのトップカーストの一人、なんて言われるけれど、あたしにはその呼び名がどうにもしっくり来なかった。実際、たまたま同じクラスで仲良くなった優美子が、たまたま学年一の影響力のある女の子だっただけで、クラスが別だったら、もしくは違う子と仲良くなっていたら、あたしはそんな風に呼ばれる事は無かったと思う。

 

 だからあたしはあの頃、優美子やその周りの人に合わせるのに必死だった。人の輪の中から爪弾きにされたくなかった。仲間外れが怖かった。

 

 中学の頃は夜遊びなんかしたこと無かったし、お化粧やオシャレだってそこまで気にした事なんて無かった。でも高校に入って仲良くなった彼女達は、もう何年も前からやっていたのかという程にそう言ったことに詳しくて、あたしも必死になって勉強した。そこまで興味なかった、普段自分が買っているのとは違うタイプのファッション雑誌も買うようになった。

 

 それから誰かと遊びに出掛けることも増えた。中学の頃はほとんど無かったナンパも、優美子や周りのみんなが目立つからか、高校に入ってからはかなり増えたと思う。少し前に小町ちゃん達と出会った時にいた様な、いきなり人の胸に触れてくるようなタチの悪いのは流石にあの時が初めてだったが、そこまででなければそれなりに色んな人に絡まれた。

 

 今でこそある程度はあしらえるようになったが、一時期は優美子や周りの子が居ない時の待ち合わせで人が多い所は、時間ギリギリに着くように、それでいて遅刻しないようにかなり気を使ったものだった。

 

 

 彼と出会ったのはちょうどその時だった。

 

 

 あの時の事はよく覚えている。たまたまいつもは部活で忙しい葉山くん達も週末が空いて、皆で出掛けることになったのだ。そしていつも通り待ち合わせの場所にギリギリに着くと、何故かそこにはあたし達のグループの一人、海老名姫菜しかいなかった。

 

 姫菜に言われてメールを見れば、人身事故で優美子や他のみんなが乗っている電車が遅れているという。あたしはたまたまその影響のない電車に乗っていたからそれに巻き込まれずに着いたのだろう。

 

 もしこれであたし一人だけだったら即座に近くのカフェか女子トイレに篭って居たと思うが、姫菜が居たから大丈夫だと思い、その場で待つことを受け入れた。

 

 けれど、あたしは気付かなかった。

 

 一見大人しい見た目の姫菜は可愛くて、でも、なんというか、かなり個性的で芯が強い……というか、見た目にそぐわぬ我の強さ、というか。とにかくマイペースな所があるので、あたしと違ってナンパとかにも強い。嫌なことは結構ハッキリと言えちゃう子なのだ。だからこそあたしは姫菜がいた事で安心した訳だが。

 

 でもそれは、あくまで姫菜と付き合いのあるあたしだから知ってる事で、あの時ナンパしてきた男達からしたら、あたしも姫菜も押せばイケそうな地味な女の子でしか無かった。あたしはその事に全く気付かなかった。

 

 

 そして、気付く前にもうあの男達に絡まれていた。

 

 

 見たところではたぶん大学生くらいの人達で、如何にもナンパとかし慣れてそうな、軽い感じの4人の男達だった。彼等の一人があたし達に声を掛けて来たかと思ったら、あっという間に4人はあたし達2人を囲むように立っていて、待ち合わせ場所で壁を背にして居たからか、物理的な逃げ場が塞がれてしまったのが失敗だった。

 

 男達はしつこくて、あたし達が何度待ち合わせだと言っても取り合わず、仕切りに自分達と一緒に来た方が楽しい、だとか、高校生じゃ知らないような楽しい遊び場を知っている、だとか、とにかくそんなことを言ってあたしと姫菜を連れて行こうとした。

 

 もちろんあたし達も抵抗した。あたしは例によって結構尻込みしていたが、姫菜がかなり頑張ってくれたのだ。でも、最初は「他の女の子も一緒に」などと言っていた男達も、葉山くん達も居ると分かった途端にかなり強引になった。

 

 最初はしつこいだけだったが、途中からあたしも姫菜も、男達に手を取られて「そんな奴より俺達の方がいいから行こうぜ!」などと半ば無理矢理連れてかれそうになったのだ。

 

 あたしはその時には完全に怖くて何も言えなくなっていて、嫌!とかやめて!とか小さい声で抵抗するのが精一杯だった。隣では姫菜も同じ様に抵抗してたけど、やはり彼女も怖かったのだと思う。普段の彼女からは想像も出来ないほど真剣に、それでいて心底嫌そうな表情をしていたのは忘れられない。

 

 その時には流石に周りの人達からも結構注目を集めていたのだが、たまたまそういう人達ばかりだったのか、面白そうにケータイで撮影する人は居ても、誰も警察を呼んでくれはしなかったし、助けに入ってくれる人も居なかった。

 

 頼みの綱で、縋るように優美子や葉山くんに電話したけれど、電車の中に居たからか気付かなかったらしく、その時は繋がらなかった。そしてあたしが誰かに電話して繋がらなかった事に気を良くした男達の1人が、満面の笑みであたしのケータイ事手を掴んで、いやらしい声でこう言った。

 

「ほら、電話も繋がらないってことは、きっと俺らと一緒に遊べって神様も言ってるんだよ。大丈夫!……とっても気持ち良くしてあげるから、さ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、あたしの背中をゾゾゾッ!っとそれまで生きていて感じたことの無い、強烈な怖気が迸ったのをよく覚えている。男の開いた口の中で、にちゃりと唾液が数本糸を引いて、それがどうしようも無いほど気持ち悪くて、今すぐ大声で叫び出しそうだった。けれど恐怖に震えたあたしの喉からはそれまでよりもずっと小さな、本当に微かな呻き声しか出なかった。正直、もう駄目だ、とは思わなかった。そんな事考えられないくらい頭が真っ白になっていた。

 

 やがて、隣で青い顔した姫菜と一緒に、引きずられるように外へと連れ出されそうになった、その時だった。

 

 

 彼が現れたのは。

 

 

 初めは何が起きたのか分からなかった。急に男達が止まった、と思ったら、それまでとは別な声が聞こえたのだ。

 

「痛てーな。前見て歩けよ」

 

 不思議な声だった。迷惑そうな言葉なのに一切感情が篭ってなくて、何処か冷たい雰囲気があった。それなのに、何故かあたしは酷く安心したのを覚えている。

 

 男達に囲まれて居たから、最初はその姿が見えなくて、見えた時には驚いた。印象は薄いが、クラスメイトだったからだ。

 

 あの時の彼とは今のように話したことも無くて、知り合ってから知った事だが、彼もこちらから話しかけなければ誰とも話さない人だったから、その時のあたしにとって、彼は非常に印象の薄い人だった。苗字の榊、を覚えていたのが奇跡だったと今でも思う。それぐらい、その当時の彼は無口だったのだ。

 

 ……いや、それはきっと、今でも変わってないのだろう。彼があたし達みたいに部活を通して関わった人間以外と話しているところを見たことが無い。もちろんある程度の受け答えはするが、それだって「このプリント後ろに回して」「ああ」とかそんな程度だ。そう思うと、彼と普通に話せる今が、とても、とてもかけがえのないものに思えて仕方がない。

 

 少し話がズレたが、とにかくその時に初めてあたしは彼の事をちゃんと知ったのだ。

 

 あの時の彼は、今より少しだけ髪の毛が短くて、今よりもほんの少しだけモサモサしてなかった。変わらず目元は全然見えなかったけど、付き合いが無ければひたすら大人しい人にしか見えなかったのは確かだ。今は全然そんなこと無いと知ってるけれど、あの時は本当にそう思っていた。

 

 そんな彼に邪魔された男達は意外に思うよりも先に頭に来たらしい。最初から喧嘩腰で彼に食ってかかった。その声にあたしも姫菜も怯えてて、突然現れた彼が助けに来てくれた、とはまだ気付いて居なかった。

 

「ああ"?何だてめぇ。てめぇの方が邪魔なんだよボケ」

 

「見てわかんねーのか?俺たちゃこれからお楽しみなんだよ。分かったらどっか行きな糞モブ野郎!」

 

 そんなことを男達は言って居たと思う。軽薄そうな見た目とは言え、それなりに筋肉質な男達4人に対して、大人しそうな彼はたった一人。なのに、彼はこれっぽっちも怯むことなく言ってのけた。

 

「はァ?どう見ても嫌がってる女の子を無理矢理攫おうとしてる犯罪現場にしか見えねーけど?頭大丈夫かお前ら。見た感じ大学生だけどこんな白昼堂々犯罪とは恐れ入る。俺より年上の癖にこんな監視カメラだらけの場所で顔も隠さず犯行に及ぶとは頭に脳味噌入って……るわけないか。すまんすまん、小学生でも少し考えたら分かることにも分かんないんだもんな。酷い事言ってごめんな?」

 

 今でも一言一句覚えている。それぐらい衝撃的だった。あの時は彼の煽り癖が誰にでも向けられるとは知らなかったから、まさか将来これが自分にも向けられるとは思ってなかったけれど、その時は男達の言うように、言い方は悪いがモブキャラみたいな彼の口からそんな言葉が出てきた事に驚き過ぎて、それまであたしの身体を縛ってた恐怖とかが一瞬で何処かへ吹っ飛んでしまった。隣の姫菜なんか小さいけど確かに吹き出してしまっていたくらいだ。

 

 けど、その言葉に反応して気が楽になったあたし達とは裏腹に、男達の反応は劇的で、激昴だった。

 

 それまで掴んでいたあたしと姫菜を離すと、男達は直ぐに彼を囲んだ。その怒気は向けられてないあたしにも伝わるほどで、あたしと姫菜は思わず肩を竦めて身を寄せ合い、2人して少し後退ってしまった。

 

 なのにその中心にいる彼はまるで怯えず、それどころか微塵も気にせず呑気に欠伸しながら、男達に気付かれないように下の方に向けた手でしっしっ、とあたし達に逃げる様に指示してくれていた。

 

 それに気付いたあたし達は、震える身体を必死に鞭打つように、ゆっくり、ゆっくりと男達に気付かれない様に離れて、何とか気付かれない様に建物の中に入れた途端に、一目散にその場から離れた。

 

 今にして思うと、とても薄情な行為だったと思う。今だからこそ彼が色々な意味で規格外だと知っているが、あの時はそんな事など全然知らなかった。だからあの時のあたし達は、助けてくれた彼を置いて逃げた、という事に他ならない。

 

 でもその時はそんな事全然考えられなくて、姫菜と2人して女子トイレの狭い1つの個室に篭って、お互い無言で息を潜めてた。男達がここまで追い掛けて来るのでは無いかと不安だったのだ。

 

 何分待っただろうか。あの時は緊張で何時間も待った気になっていたが、実際にはトイレに逃げ込んで二十分かそこらくらいだと思う。その時になってようやく電車から降りた優美子や葉山くんが、あたしが何度も電話を掛けた事に気付いて電話を掛けて来てくれて、何度も声に詰まりながら必死に電話に向かって説明した。

 

 ……それから少しして、優美子が女子トイレの中にあたし達を迎えに来てくれた。その時になってようやく助かったと安堵したあたし達は、優美子に手を引かれる様にして女子トイレの外に出た。

 

 女子トイレの外では心配そうな顔をした葉山くん達が周りを見張ってくれていて、あたしと姫菜は遅れた事をびっくりするくらい真剣に謝られたあと、無事で良かったと、口々に慰められた。

 

 情けない話だが、この時になってようやく彼の存在を思い出したあたし達は、あの場に彼を置いてきてしまった事を慌てて皆に相談した。まぁ、残念ながら彼の事をちゃんも覚えて居る人はほとんど居なくて、一緒に助けられた姫菜でさえ同じクラスだと言うことに気付いていなかったので、少し彼の事を半信半疑であったが、何とか皆であの場所まで一緒に行ってもらえる事になった。

 

 しかし、いざあの場所に着いてみると、そこに居たのは何故か4人で盆踊りをしてる男達と、その奇妙な男達に注目している多数のギャラリーだけで、彼の姿は何処にも無かった。肝心の男達も、葉山くんが声を掛けてあたし達を見た途端に真っ青になって、地面に頭を叩きつけるように勢いよく土下座をしたと思うと、すいませんでした!と大きな声で謝って、その後はこちらを振り返ることも無く、周りの人を押し退けて一目散に走り去っていった。まるで、何かとても恐ろしいものから逃げる様だった。

 

 後に残されたあたし達は狐につままれたみたいに不思議な気持ちのまま、取り合えず危機が去った事だけを知り、何処か釈然としない気持ちを抱えたまま、気持ちを切り替えようという葉山くんの言葉に頷いて、皆で無理矢理楽しもうと遊びに行った。

 

 あたしもだいぶ空元気だったけど、あの時はあたしも恐怖がぶり返さないように無理に楽しもうと必死だったから、彼の事はあんまり考えないようにしていた。何となく無事だろう、そう思っていたし、それ以上は男達の事も思い出してしまうので考えたくなかったのもある。

 

 けれど結局、心の何処かで彼が無事かどうか、やはり不安だったのだろう。翌々日の月曜日、教室で何事も無かったかのように佇む彼の姿を見た時、一気に肩の力が抜けたのだから。

 

 あたしと姫菜は、2人揃ってあの時のお礼を言おうと彼に声を掛けた。あたしは現金な事だと自分でも思うが、助けてくれた彼に勝手にかなり親近感が湧いていた。きっと彼もあたし達のことをクラスメイトだと知っていたから助けてくれたのだと思ったのだ。

 

 

 ……けど、それは間違いだった。

 

 

 あたし達に声を掛けられた彼の反応は非常に薄くて、何処か不思議そうだった。そのことを訝しげに思いながらも、2人揃ってお礼を言って、ようやくその事を思い出したらしい彼の反応は、全くもって予想外なものだった。

 

「ああ、そんなこともあったな」

 

 その声は酷く平坦で、ともすればあの時男達に声を掛けたのと同じものだったかもしれない。そこにまるで感情が感じられず、あたしはやはりあの時逃げてしまった事を気にしてるのではないかと思って、慌てて謝った。しかし、彼はそんな事気にしても居ないどころか、気付いても居なかった。あろう事か、返ってきた言葉は「そうなの?」の一言のみ。

 

 そのあまりにもどうでも良さげな態度にあたしも姫菜も何も言えなくなってしまって、2人してそのまま席に戻ったのはとても苦い記憶だ。

 

 しかし、その時には彼が気になりだしていたあたしと違って、姫菜の方はそうでもなかったのか、「一応お礼は言ったし、本人が気にしてないならそれでいっか!」と、そのままいつもの日常へと戻っていった。こういう事であんまり引き摺らないのもまた、彼女の強さなんだなーと思う。あたしにはたぶん真似出来ない。

 

 結局あたしだけはせめて彼と普通に会話くらいできるようになりたくて、それからも何度か彼と接点を持とうと話しかけたが、やはり彼の態度に一向に変化は無かった。全く興味がない、と言うよりは、今は他にやりたいことがある、と言う様子なのがせめてもの救いだった。彼は最近、いつもパソコンで何かをやっていて、それに夢中なのかこっちを向いてもくれないのだ。たぶんよっぽど楽しいのだろう。

 

 ちなみに、あたしもそれができるようになったら彼との会話が増えるだろうか、と後ろからこっそり覗いてみたが、どうやらリアルタイムで上がったり下がったりするグラフ?をずっと見てるだけだった。何が楽しいのかさっぱり分からない。1日目で断念した。

 

 そんな風に、彼に話しかけてろくに会話も出来ずに離れていく日々。相変わらず彼はあたしを見ない。それでもいつかはきっと、と信じてやっていたけれど、だんだんそれが辛くなってきた。

 

 小さい頃読んでいた少女漫画のような出会い。なのに、あたしが思わず期待したようなラブロマンスは一向に始まらず、ヒーローと思わしき彼はまるでちゃんとしたセリフを持たない村人Aのよう。現実はやはり漫画のようにはいかないと言うことなのだろうか。そんな事を考えては途方に暮れる日々。

 

 ……彼と普通に話せるようになった今だから分かることだが、彼は意外と他者に甘い。少なくとも、興味無さそうな顔をしていても、泣いてる子供にそれとなく近付いていくくらいには。けれど、それと同じくらい一定ライン以下の関係しかない人間には関心が無い。日々同じクラスで授業を一緒に受けているクラスメイトの顔と名前を、全然覚えないくらいには。

 

 だからあの時、あたし達を助けてくれたのには本当に何も特別な感情は無かったのだろう。ただ、たまたまあの時あの場所に彼が居て、たまたま危ない目に遭っていたあたし達が目に入ったから助けてくれただけ。つまり、あの時のあたしは運が良かっただけなのだ。

 

 仕方の無いことなのかもしれない。白馬の王子様じゃないけど、ヒロインの危ない時に突然現れて颯爽と助け出してくれるカッコイイヒーローを求めるのは、女の子の側だから、という事もある。男の子である彼にヒーローのつもりが無ければ、ヒロインになりたかった女の子の気持ちなんて知ったことではない。ある意味では当然のことだ。

 

 ……でも、あの時のあたしにはそれが何より辛かった。

 

 結局、あたしは諦めようって思った。それまで続けていた彼と接点を持つ為の様々なこと、そういうのを全部止めた。やるだけ苦しくなるだけだと分かってしまったから。

 

 ……けれど、やっぱり簡単に綺麗さっぱり諦める、とは行かなくて。あんなことがあったあとも平然と自分の趣味に没頭できる姫菜みたいにすぐに違うことに目を向けられなかったあたしは、ずっとチラチラと目で彼を追ってしまっていたけれど、それでも以前と比べたらほぼ接点を無くしたと言っていいだろう。

 

 そんな関係がそのまま続いて、1年が過ぎ。少しずつ彼への想いが薄れて行きそうだった時だった。変化があったのは。

 

 2年になって、少し。前とほぼ変わらないクラスの面々の中には彼も居て、相変わらずあたしはチラチラと彼の姿を目で追いながら、無理だと思いながらも諦め切れなかった。

 

 だって、優美子達に合わせる為に、という理由もあってこんなに明るい髪色にしたが、正直自分でもちょっと明るすぎかなと思っていたこの頭だが、この色にした途端、彼の方が声をかけてくれることはないまでも、たまにあたしの事を見てくれるようになったのだ。本当に、本当にチラッと見るだけだが、以前に比べたらずっと良くなったと思う。

 

 この事があったからこそ、彼にピンクはビッチの色、なんて酷いことを言われても、何だかんだ元の黒髪に戻そうという気が起きないのかもしれない。と言うよりは、元の黒髪に戻した途端に彼に気付いて貰えなくなりそうなのが怖いだけかもだけど。

 

 とはいえ、髪の毛の色が変わって起きた変化なんて彼が時々あたしに視線を向けてくれるようになっただけのことだ。会話どころか、朝の挨拶が出来るようになった訳でもない。

 

 だからこそ驚いた。あの日、珍しく友達が皆用事があって、1人で帰ろうとしていたあの時。ちょうど校門を出ようとしたあの瞬間に、彼の方から声を掛けられた時は。

 

 それも人気のない所まで連れていかれて、内緒にして欲しい話がある、なんて言われた時はそれはそらはもう舞い上がってた。何とか普通に受け答えは出来ていたと思うけれど、内心はとても大騒ぎだったし、心臓の音がうるさ過ぎて、内側から鼓膜が破れるんじゃないかとさえ思った。消え掛けていた想いが、一気に燃え上がってしまった。

 

 ……けれど、現実は無情で無常だった。彼の口から放たれた言葉は期待していたものとは程遠く、あたしへの愛の告白どころか、何故()()()()()()()()()()()()()()()()ものだった。

 

「すみません、不躾な質問なんですが、貴女の知り合いに……表現が難しいんですが、なんというかこう、腐った魚のような目をした男は居ませんか?」

 

 正直、舞い上がっていた気持ちが一気に冷えた。よしんば告白でなくとも、それに準ずる何かだと期待していただけにショックもとても大きかった。どう聞いたってナンパですらなかった。まるで初対面の人に向けるような話し方、彼の中に髪を染める前のあたしは存在さえしていないと、気付いてしまった。

 

 けど、余程真剣に探しているのか、彼は、悩むようにその男の特徴を色々上げたが、あたしには全く身に覚えなんて無くて……でも、何処か彼が縋るような声をしている事に気付いて、必死になって記憶を漁ってみた。しかし、どんなに考えてもそんな男は知らないし、犬だって大好きだけどあたしの家で飼ってはいない。知らないものを知ってる、なんて答えられるはずもなく、素直に知らないと、そう答えた。

 

 ……それを告げた時のことを、今でも思い出す。私が知らないと、犬など飼っていないと告げた途端に、彼は打ちひしがれるように呆然と、「そんな馬鹿な」と、呟いた。

 

 相変わらず髪の毛が邪魔で表情など全くわからなかったのに、とてつもなく彼が落ち込んでいるのだけは、何故か手に取るように分かった。

 

 あまりにも弱々しいその彼の姿に、あたしは何か言ってはいけないことを言ってしまったのでは無いかと、途端に心配になって慌てて彼に声を掛けたが、彼は力なく大丈夫と言うだけで、その後、結局そのまま去ってしまった。

 

 何が何だか分からなかったが、変化はそれだけでは終わらなかった。翌日から彼は急に休み時間になるとあちこち動き回るようになった。今まで休み時間も授業の時も、まるで周りの事など見もせず本を読んでいるか、どこからか取り出したノートパソコンをカタカタやっているだけだったのに、そんな姿が嘘のように彼が教室にいる時間が減った。

 

 1度気になって彼を追い掛けた事があったが、彼は頻りに色々な教室を歩いたと思うと中を見渡して、そしてため息をついたと思うとまた次へ行くのを繰り返した。

 

 誰かを探しているのだと、直ぐに分かった。

 

 けど、その成果が出ることは無かったらしく、いつも休み時間が終わると、肩を落として戻ってくる。それは日に日に顕著になって行って、やがて2週間が過ぎた頃には彼は落ち込んだまま、何処にも行くことはなくなっていた。

 

 もちろん彼の顔はなんの感情も映さない。周りの人で彼の変化に気付いた人なんてきっとあたし以外に居ないだろう。でも、ずっと彼を見ていたあたしには、確かに彼が何かに怯えるように、とても苦しんでいるのがすぐに分かった。良くわかってしまった。

 

 分かってしまったらもう、放っておく事など出来なかった。

 

 それから、彼を何とか元気付けたくて、彼との接点を絶っていた事も忘れてあたしは何か出来ないかと悩んでいた。元々集中出来てなかった授業は一層頭に入ってこなかったし、悩み過ぎてふとした時に気付かず唸ってしまって、周りから変な目で見られる事も何度もあった。

 

 それから色々考えて、考えて、考えて、それでも何をすればいいのか分からなくてどうにもならなくなってしまって、結局なんの捻りも工夫も無く、手作りのお菓子をあげようと決めた。

 

 我ながら安直だなと思う。しかし、とにかく何でも良いから、一刻も早く彼に何かしてあげたかったのだ。もしかしたら、という下心があったのも確かだけれど、今この瞬間、彼に何かをしてあげられる人は、あたしをおいて他に居ないと、そう思ったのも確かだ。

 

 だが、そこで困ったことがまた出てきた。あたしは不器用で、料理なんてほとんどやったことも無ければ、たぶん簡単なお菓子であるクッキーでさえ作り方を知らなかった事だ。

 

 本やネットで作り方を調べてみたが、各所に挟まれる「適量」とか「少々」とかの分量がさも当然のように出てきて理解できなかったので、誰か協力者が必要だと痛感した。

 

 

 だから結局、またしてもあたしはうんうん唸ってばかりだった。しかし、そんな時にたまたまあたしの様子に気付いてくれた平塚先生が、奉仕部を紹介してくれた。正直、この時の平塚先生のおかげで今のあたしがあると言っても過言ではない。

 

 それくらいそこからの変化は凄かった。いきなり流れが変わったと言えば良いのだろうか、とんとん拍子に話が進んだ。それもあたしが願っていた方向に。

 

 あたしは平塚先生に紹介された奉仕部に彼が居たことに心底びっくりしたが、結果的にゆきのんと友達になれたし、彼とも普通に会話出来るようになった。同じクラスであることさえ気付かれてなかったのは衝撃だったが、今こうして仲良く話せてる上に連絡先も交換して、ほぼ毎日彼の手料理も食べている。

 

 おまけにゆきのんのおかげで苦手だった料理も多少出来るようになってきたし、彼に手作りクッキーも何だかんだ渡せたし、勉強だってゆきのん達と勉強会をやってるおかげで少しずつ成績が伸びてきている。正直今のあたしは学校生活がとても楽しい!半分押し掛けたというか無理やりなところがあったけれど、奉仕部に入部出来て良かったと心底思う。

 

 惜しむらくは、いざ手作りクッキーを手渡すとき、急に恥ずかしくなって手伝ってくれたお礼、などという言い訳をしてしまったことだろうか。あれが無ければもう少し彼と仲良くなれていた気がする。今更、ではあるが。

 

 何故そんなことを今更言うかといえば、実は奉仕部に入ってから知った事だが、彼は身内というか仲間というか、親しい人と判断した人にはどうにもとても甘い。それまであたしが見てきた彼のぼっちっぷりが嘘のように、その優しさと人柄に引かれた人間が、あたしの他にも彼の傍に増えてきたのだ。

 

 しかも厄介な事に、彼は、彼自身が親しい人だけでなく、彼と親しい人の親しい友人にまで優しい。本人曰く友人の大事な友人ならある程度気を遣う、との事だが、彼の「ある程度」は規模がおかしい。おかげでいつの間にか優美子や咲希まで彼と仲がいい。あたしのここまでの苦労は本当になんだったのだろうかと言いたくなる。

 

 ただでさえあたしよりゆきのんの方が先に同じ部活をしていた上に、住んでるところも同じマンションで帰り道まで全く一緒なせいか、何処と無く二人の距離が近いのだ。おまけに入部してから聞かされた奉仕部の奉仕対決とかいう勝った方が負けた方に何でも命令できるというすんごいやらしーヤツ!あれが特にダメ!本当によくないと思う!

 

 話に聞くとサカキンも勝ったらゆきのんにやらしー命令だすって宣言したらしいし、ゆきのん自身も最初の頃はともかく最近はちょっと怪しい。慌てて平塚先生に頼んであたしも参加させてもらったけれど、評価方法が平塚先生の独断というのがまずい。誰が勝てるのか予想が付かないというか、そもそもの話、なんだかとても胡散臭い。

 

 というのも、平塚先生とサカキンは普通の人なら気付かないくらい分かりにくいけど、びっくりするくらい仲がいい。本人達も隠してる節があるので直接問い詰めたことはないが、伊達に1年近くサカキンを目で追い続けてないので、あたしには分かる。

 

 あれは正直あたしやゆきのんよりも平塚先生の方がサカキンに近い気がする。家も隣とか言ってたし、たぶんサカキンの手料理とかも食べ慣れてる。じゃなきゃ初見でサカキンの手料理食べて無反応とかありえない。

 

 更には平塚先生と言えばタバコのイメージがあったのに最近ではタバコの匂いさえしない。おまけに最近めちゃくちゃ綺麗になった。髪の毛とか元々綺麗な長髪だったけど、昔は少し手抜きがあって変なハネとかダメージがあったのに、今はもうどうしたの?生まれ変わった?ってくらい濡れ羽色の艶があって僅かなダメージも見当たらないサラサラヘアーだし、肌とかもよく見ればカサついてたりしてた少し前と比べて今はプルプルの艶々だ。辞書とかに現代大和撫子の見本として載りそうな勢い。性格はともかく。

 

 それまで平塚先生といえばカッコよくて綺麗だけど何処か残念な美人で、いい歳なのに結婚できないちょっと可哀想な先生だった。それが今や男の先生達どころか、うちのクラスの男子でさえ毎日噂してるくらいの、下手したら芸能人にだってなれそうなとんでもない美人になっている。たぶん2ヶ月前と今とで劇的ビフォーアフターで特番組めるくらい違いがある。いちいち動画とか残してないからハッキリとは言えないけど!

 

 そしてそういう、普通じゃありえないことの影にはだいたい彼が、サカキンがいる!あの冴えない見た目の奥に隠された、鋭く射貫く様な眼光で、よくよく見てないと見逃してしまいそうなくらいに、さも当然のように平然かつあっさりと意味不明なことを仕出かす彼ならば、平塚先生の激変もさもありなん、と納得出来てしまう。

 

 最も、彼と関わりがなければ誰にも彼の仕業と気付くことなど出来ないだろうけれど。普段は野暮ったいのに、髪の毛上げたらヤクザ顔とか卑怯にも程があると思う。……正直あたし的にはいつもの飄々とした雰囲気とは正反対の感じがしてあれはあれで結構良いというか、野獣っぽい彼と並んで歩くのは凄いドキドキして色んな妄想が捗ったというか──控えめに言って最高だと思うけど!はっ!?いけない、思わず思考が逸れた。

 

 あれから約2ヶ月。短い時間だけど中身は濃かった。あたしは色々あって、色々な彼を知ることが出来たし、ほんの2ヶ月前には想像も出来なかった程、彼との距離も近くなったと思う。おかげで以前よりずっと毎日が充実しているが、あの頃よりずっと油断ができない日々が続いている気もする。なかなか気が休まらない!

 

 ……けれど、その事がとても嬉しい。

 

 あの頃、彼はあたしの事などまるで興味も無かった。彼にとってあたしは、何ひとつ特別な存在じゃ無かった。

 

 彼はたまたまあたしを助けてくれただけ。特別でも何でもない、彼にとってただの赤の他人だったあの頃のあたし。正しく運が良かっただけ。彼と出会えただけ。それだけだった。

 

 それが今はどうだろう。朝の挨拶さえまともに返ってこなかったあの頃と比べて、朝の挨拶はおろか、毎日学校で彼の手料理を食べながら何時間もおしゃべりするし、たまに夜にメールのやりとりとかしちゃって、おやすみとか言い合える様にもなった。

 

 彼は大人しい人だけどいざと言う時は助けてくれる人、なんて漠然としたイメージしかなかったのに、実は結構おしゃべりだし、オタクっぽいところもあるし、ちょっとエッチなこととか平気で言うしデリカシー無いしたまにキモいけど、実は着痩せするのか身体はかなりがっしりしてて筋肉質だし、運動能力とか頭おかしいレベルで高いし、子供みたいなことしたかと思えば妙に大人っぽく見えるところも有るし、何でか女の子の扱いが上手かったり、撫でられたりするとやたら気持ちいい。そんなことまで今は彼の事を知っている。

 

 たぶん彼は未だにあたしが助けられた日のことなど思い出して無いというか、もはや完全に覚えてすらいないと思うけれど、それでも少し前に小町ちゃんと出会った時、あの時みたいに不良に絡まれたあたしを、これまたあの時みたいに……ううん、あの頃よりもずっとずっとカッコよく助けてくれた。

 

 ま、まぁちょっと気がついたら彼の腕の中だったし、その後の流れも意味不明でちょっと気持ち悪かったけど、何となくあたしの為に彼があの不良達を土下座させてくれたことは分かったのできっと何も問題はないのだ。……ちょっとだけ腰が抜けた振りとかしてもう一回お姫様抱っこされたかった気もするけど。

 

 とにかく、それくらい色々あって、本当に色々な彼を知れて、今のあたしはあの頃よりももっともっと彼が好きだ。そんな彼とこれだけの仲になれた上、頑張ればもっともっと仲良くなれそうなのだ。それに比べれば、ちょっと恋のライバルが多そうな事くらい、どうということはない!

 

 いやそれはちょっと嘘。少し気が重いというかやっぱりやりにくいところはある。あるけれど、たとえ誰が相手でも……それこそゆきのんや優美子、平塚先生が相手だって負けたくないって、あの頃よりも深く彼を知った今ならそう言える。きっと2ヶ月前のあたしなら、事実はどうあれこの3人と、となったら噂の段階で逃げていたと思うけど、今は違う。もう、助けてくれたヒーローに憧れるヒロインのあたし、なんて幻想もどうでもいい。

 

 

 そういう嫌な思いややりにくい感じ、過去の憧れとかしがらみ全てをを押し退けてでも、彼の一番になりたい。それくらい、あたしは彼が好きだ。この2ヶ月で、はっきりそう思えるようになった。

 

 もちろん、今のまま皆仲良くしたまま彼の一番になれるならそれでも良いが……いざと言う時、誰とどんな関係になっても、あたしは負けない。そう決めのだ。

 

 

 ………とはいえ、今現在誰ともそういう戦いにはなってないし、何だかんだ彼とちゃんと話せるようになってからまだ2ヶ月とちょっと。恋に時間は関係ないけれど、別に急いで仲を縮めたい訳でもない。だから、今しばらくはこのままでも良いだろう。というか、あんまり急に距離を縮めるとこっちの心臓がもたない。

 

 以前お姫様抱っこされた時はあまりの事に胸がドキドキし過ぎて爆発しちゃうかと思った。そのおかげでとっさの演技とかも出来なくて2度目のお姫様抱っこのおねだりとかも出来なかったのだ。急な接近はそれはそれでリスクがある。

 

 具体的には彼の素顔を見た、あのホテルにドレス着て潜入した日とか。思わず雰囲気に飲まれて無理矢理彼のお酒を口にして、間接キス、までは良かったのだがその喜びと、自分でも予想外なくらいお酒に弱かったせいでその後簡単に酔い潰れてしまい、そこから先の記憶が全くないのだ。

 

 ゆきのんの家で目覚めた時に受けた説明によると、酔ったあたしはかなりサカキンに密着してたし彼もその事に喜んでいる節があったそうだが、全く覚えていない。大人っぽい普段とは違う彼の魅力にドキドキし過ぎて、おまけにそんな彼があたしやゆきのんより咲希ばかり褒めるからちょっと嫉妬したのもあって変な舞い上がり方をしてしまった。結果何も覚えてないとか、悔し過ぎる。

 

 思わず悔し過ぎてゆきのんの家から自宅に帰った後、クリーニングして返すと預かってきた借り物のドレスに残る彼の匂いと、以前彩ちゃんの依頼で彼にストレッチしてもらった時の肌触りとか、初めて見た彼の底知れない感じの素顔とか、色々な記憶やら何やらを材料に利き腕が筋肉痛になるまで一晩中ゲフンゲフン!ダメだコレ思い出したらここが学校だって事忘れそう!気を付けないと!

 

 

 せっかく今日はあたしの誕生日でしかも彼とゆきのんが頑張って用意してくれた誕生日パーティなのだ。もう少し集中しなきゃバチが当たる。ただでさえ今日は勘違いで(彼が紛らわしい所も多々あると思うけど!)お昼の時に彼に怒ってしまった。

 

 彼からして見れば、慣れない誕生日パーティをわざわざあたしに合わせた趣向を、必死になって考えて、色々な準備をして、普段のあたしコミュニティやその関係での予定まで気を使って開いてくれたのに、あたしは一方的な勘違いで雑にされたと文句を言い、あろう事か彼に手を上げてさえいる。基本的に部活外の人間関係に消極的な彼が、あたしの為に数少ない知り合い全員呼んでまで開いてくれた誕生日パーティだったのにも関わらず、である。

 

 平塚先生に言われるまで彼にこういったことの経験が無いと気付かなかったのは、正直真剣に死んでしまいたくなるくらいあたしが馬鹿だったと思う。彼があたしを祝う為にしてくれた事なのに、それを疑うなんて本当にどうかしている。彼の優しさは、あたしが一番分かっている筈なのに。

 

 あれだけの事があって尚、放課後にこうしてもう一度誕生日パーティをやり直してくれてるのは単純に彼が優しいからだ。彼が授業をサボってまであたしの為に用意してくれた料理を食べ切れないから片付けろ、なんて我が身の事ながら本当によくも言ってくれたものだ。

 

 過去に戻れるなら彼にそんなことを言う前にあたしがあたしを殴ってやりたいと心から後悔している。これで彼に嫌われていたらと思うと正直今からでも泣きそうなくらい怖い。

 

 あたしの為に授業をサボってしまった彼は、今はその罰を受けに平塚先生に呼び出されているので、彼はこの2度目の乾杯の後、すぐに部室から出ていってしまった。平塚先生が早く解放してくれることを祈るが、元々彼はちょいちょい授業をサボるし、ゆきのんに聞くところによると、テストとか気分で点数を決めているらしく、成績が全然安定しないらしい。たぶん長くなると思う。というか、テストの点数を気分で決めるってなんだろう。採点する側みたいなことを平気でやってるあたり彼はやはり頭がおかしい。

 

 彼の後ろ姿を見送ると、いつもの部活の時間に、いつもより割増で広くなった畳の床に、いつもの小さいちゃぶ台ではなく高級そうな作りの木の長テーブル。テーブルの上にはお昼の時と同じくらい色々な料理……よく見るとお昼の時より料理の種類が増えている上に何故かまだ熱々で湯気が出ている。

 

 最近では毎日見てるせいで当たり前になって来たが、やはり彼の手品もだいぶおかしい。褒めるとつけ上がり過ぎて更に意味不明な事をし出すのでゆきのんと相談して褒めない事にしているが、彼が奇術師として世に出たら凄いことになるのは間違いないというのは、その分野に全く興味のないあたしにですら分かることだ。

 

 そういった様々なものを全部使って、彼はあたしの為にこの誕生日パーティを開いてくれたのだ。しかも2度目。今度こそあたしはしっかり楽しみたい。

 

 

 ……のだが。目の前には先程皆で乾杯したとは思えないほど静かになった空間と、そこで務めて無表情を装ってそうなゆきのんと、そんなゆきのんに一切触れずにあたしに話しかけながらサカキンの手料理を食べてる優美子の姿が。

 

 

 どっちもあたしにとっては大事な友達だが、流石にこれはちょっと難しいかもしれない。元々優美子は結構プライドが高いし、言わないけれどかなり努力して学年屈指の美貌とスタイルを維持している。なのでほとんどすっぴんに近いくらい雑な化粧しかしてなくても同等なくらい綺麗でスタイルが良くておまけに頭も良くて運動神経もいいゆきのんを昔から目の敵にしてる所があった。

 

 これはあたしも知ったのは最近だが、優美子が好きな隼人くんが、ゆきのんと昔から関係があるらしく、たまにゆきのんのことを気にかけたりするところもたぶん気に食わないところなんだと思う。

 

 ゆきのんはゆきのんで、優美子やあたしみたいに誰かと群れるみたいにグループを作ってるような人間は苦手な上に、本人が真面目だから不良っぽい雰囲気で、普段から何かと騒いでるようなノリの人は好きじゃないらしい。あたしでさえ最初は正直あなたの事が苦手だと正面切って言われたことがある。

 

 つまり端的に言って2人はとても相性が悪い。性格的にもどちらかと言うとカッとなりやすい優美子と、ひたすら冷徹に相手を正論でボコボコにするゆきのんとでは、サカキン風に言ってほのおタイプとこおりタイプで真逆の性質だ。喧嘩になっても何らおかしくない。

 

 

 というか、こう言ってはなんだが、優美子がこの二回目の誕生日パーティに参加してくれたのは普通にびっくりした。優美子は誕生日プレゼントとかはきっちり用意してくれるが、誕生日パーティとかの煩わしい事はあまりやりたがらない。去年だってせいぜいカラオケに一緒に行ったくらいだったし、今年もそう言うのはする気がなかったようだ。

 

 お昼はサカキンに謎の手段で拉致されたらしいから仕方ないにしても、姫菜や隼人くんが居ないのに参加してくれるとは思わなかった。ただでさえ普段から部活のこととかあまり聞いてこないくらいなのに。

 

 割と本気で気になったし、ゆきのんがあたしに話しかけてる時は優美子が、優美子があたしに話しかけてる時はゆきのんが無言のこの空間は絶妙に居心地が悪いので思い切って聞いてみる事にした。

 

「あー?何でって、ユイの誕生日パーティだからに決まってんじゃん?」

 

「や、それは素直に嬉しいけど、今までこういうのしたがらなかったし……ぶっちゃけ、優美子ってゆきのんの事嫌いっぽかったから、さ」

 

「それをよく私の前で普通に聞けるわね、由比ヶ浜さん……いえ、別に構わないのだけれど」

 

「それはあーしも思うっつか、ユイ、最近ホントに遠慮なくなり過ぎじゃねー?」

 

 うぇっ!そ、そんな馬鹿な、って確かに!自分でも今思ったけど確かに少し前のあたしなら絶対聞けないやつだコレ!むしろ何で言えたんだろう今のあたし!?ひょっとしてサカキンの悪い影響であたしの女子力が低くなってるのでは!?

 

 とりあえず心の中でサカキンのせいにして、慌てて謝る。気を悪くさせたらごめんと頭を下げる。どんな理由があったにせよ、あたしの為に開いてくれた誕生日パーティをあたし自身で台無しにしたら後悔してもしきれない。

 

 そう思ったが、2人とも快く許してくれたというか、全然気にしてなかった。意外と言ったら失礼かもだが、優美子も別にいーよ、と気にした様子もなく、やたらと柔らかくて美味しいローストビーフを口に運ぶ。あ、また美味!って言った。

 

 気持ちはよく分かる。あれあたしもさっき食べたけどビックリするくらい美味しかった。お肉なのに口の中に入れた瞬間溶けて、気がついたら飲み込んでいた。なんの抵抗もなく飲めるお肉とか意味が分からない。流石サカキン、本当に恐ろしい事をする。いくらでも食べられるじゃないかこんなの。だが困ったことに他のやつも同じくらいいくらでも食べられる味である。つまり自制心が無いと乙女の名が死ぬ。やはりサカキンは悪魔だ。食べなければいいと分かっていても我慢できない料理をしれっと用意してくるあたりが特に。

 

 そんなことを考えていたら、今度はゆきのんが口を開いた。あたしにではなく、優美子に向かって。

 

「……別に、由比ヶ浜さんでは無いけれど、確かに少し意外だったわ。私も三浦さんが来るとは思わなかったもの。……どういう風の吹き回しかしら?」

 

「べつにー?今日は暇だったし。誕生日パーティなんて自分で開くのも、誰かにあーしのを開かれんのもあんま好きじゃーけど、だからって他の誰かがやる事まで否定したりしないっつーか。やりたければやればいんじゃねー?とは思ってる。だからモサキチがユイの誕パやるって言うなら他に予定無ければ参加くらいするっしょ。ユイの誕生日祝いたくないわけじゃねーし?」

 

 ピリッとする空気。2人ともちょっと喧嘩腰な口調なのが不安だけれど、普通に優美子もあたしの誕生日を祝う為に参加してくれたらしい。正直かなり嬉しい。……ひょっとして去年もあたしが変に空気を読もうとして言い出せなかっただけで、言えば一緒に祝ってくれたのだろうか。そうだとしたら、あたしにも優美子を誤解してるところがまだまだたくさんある、という事で、つくづくあたしって馬鹿だなぁと落ち込む。

 

「モサキチ、ね……。この際だから一つ言っておくけれど、貴方の恋愛事情に、ウチの部員を断りなく巻き込まないでくれるかしら。お昼のあれ、正直どうかと思うわよ?」

 

 一人で落ち込んでたらゆきのんがいきなり吹っ掛けた。唐突過ぎてフォロー入れるタイミングを逃してしまった。ちょ、ゆきのん!?声を掛けるもゆきのんはこっちを見る事すらせず、じっと優美子の目を見ている。ヤバい、優美子が変なこと言ったら即喧嘩になりそう!

 

「はぁ?あたしが何しようと雪ノ下さんになんもかんけーねーと思いますけど?モサキチに言われんならともかく、雪ノ下さんになんか言われる筋合いねーわ」

 

「関係無くはないわ。言ったでしょう、ウチの部員だと。断りもなく勝手に利用されると困るのよ。せめて事前に依頼を出してもらえるかしら?それなら私たち全員で、貴方に協力してあげてもいいわ」

 

「ウチの部員って、部活仲間ってだけでモサキチの権利とか主張されても困るんですけどー?つーかあんたこそただの独占欲じゃん。雪ノ下さんこそそっちの恋愛事情にあーしを巻き込もうとすんの止めてくれる?迷惑なんだけど?」

 

「……誰が誰に恋愛感情を抱いていると言いたいのかしら?勝手に決めつけるのは止めてもらえる?正直に言って不快だわ。そういうのはあなた達だけでやってちょうだい」

 

「ふーん?そういうこと言うんだ?じゃあ依頼だすわ。ちょっとデートするからしばらくモサキチ貸してよ?良いっしょ?別に恋愛感情無いなら、ただの依頼じゃん?」

 

「お断りよ。奉仕部は依頼人の相談事を解決する手段は教えても、直接解決することは無いわ。それに、貴方は異性に人気なのが自慢なのでしょう?別に彼に拘らなくても声を掛ければいくらでも集まるのではなくて?最も、本当に人気があるのなら、それこそ、葉山くんに直接言えば彼も断らないと思うけれど?」

 

「……はぁ?なにそれ、喧嘩売ってんの?」

 

「あら、面白い事を言うのね?いい事を教えてあげるわ三浦さん……喧嘩って、同レベルの人間でないと起こらないのよ?私と貴女で起こる訳が無いじゃない」

 

 

 なった!もう喧嘩だこれ!というか始まったら流れが早すぎて口全然挟めなかったどうしよう!あーもう、早く来てよサカキン!あたしじゃ二人の仲を取り持つなんて無理だよー!……って、ああ!?そういえば部室出ていく時こっち見て意味ありげにニヤって笑ったのひょっとしてこういうの事を予測してたのかな?!あ、ヤバい凄い簡単にそのイメージ出来た。たぶんそうだっていうか絶対そうだ!

 

 きっとサカキンの事だから二人の間に挟まれてあたしが苦労することまで織り込み済みで、下手したらこれを機にもう少し仲良くなったら良いよ!とか考えていそう!まずい、だとしたら平塚先生に早く解放されたとしてもわざと遅れてくるくらいのことを彼は平気でする!ぐっ、だとしたら結局あたしが何とかしないと、後どのくらいこの居心地の悪い空間にいる羽目になるか分からない!!

 

 ぐ、ぐぐぐっ!腐っても今日の誕生日の主役であるあたしにそんなことをさせるあたりやっぱりサカキンは悪魔だ!あの鬼畜!まだ確定じゃないけどたぶん間違いないし間違ってたとしてもきっとサカキンのせいで間違ってない!だけど今はとりあえず……!

 

「ちょっと優美子、サカキンとのデートってどういうこと?どんな目的があるの?」

 

 まずは一番納得いかない所の説明が先だよ!!

 

「いや今そこかよユイ。……あんた、最近遠慮なくなったなーとは思ってたけど、もしかして単に欲望我慢しなくなっただけなん?」

 

「というか、由比ヶ浜さんがうんうん唸っていた間にその話はもう終わったのだけれど……?」

 

 えぇっ!?ウソ?あたしそんなに長い間唸ってた!?全然聞いてなかった!ごめん話聞いてなかった!あと優美子は欲望とか何か言い方やらしーからやめて!

 

「いや欲望って言葉がやらしーって……逆にその発想がエロいじゃん。ユイ、あんたそんなに欲求不満なんかー?」

 

「由比ヶ浜さん……えぇと、その……若いうちはある程度仕方ない事だとは思うけれど、うら若き乙女が人前でそういうのを漏らすのはどうかと思うわよ?」

 

 止めてッッ!あたしが変態みたいな言い方しないで!違うから!あたしは変態でもなければゆきのんみたいにエッチなゲーム持ってたりもしないから!ちょっとサカキンに影響されただけだから!!

 

「ちょっ、由比ヶ浜さん!?あれは姉のだと説明したでしょう!?」

 

「へぇー?ふ──ん?そーなんだー?そういやモサキチが雪ノ下さんのことむっつりって言ってたけど、ほんとだったんだー?へぇ──ー?」

 

「ッッ!!そ、そんな訳ないでしょう!あの男のでまかせよそんなもの!だいたい、それを言い出したら三浦さんにだけはそういう事を言われる筋合いは無いわ!」

 

「は?あーしは尻軽じゃねーんですけど?つーかバカキチといいあんたといい、人の見た目でビッチ扱いすんなし。そーゆーの、迷惑なんだけど?」

 

「そうだよ!人を見た目で判断するの良くないよ!あたしの髪の毛ピンクだからって別に淫乱じゃないし!サカキン居ないから言うけどあたしまだ処女だし!優美子は違うらしいけど!」

 

「っておいユイー!何さらっとあーしだけビッチ扱いしてんだおめー!?てか誰から聞いたそんなデマ!!」

 

 デマじゃないよ!人に聞いた話によると最近の隼人くんと優美子の仲があまり良くないのは初体験の日に上手くいかなかったからだっていう有力情報があるんだからね!

 

「それをデマっつーんだよアホっ!てか隼人とそんなに上手くいってたらこんなに苦労して………海〜老〜名〜〜ッッ!!」

 

 あれっ、何で情報元が姫菜って分かったんだろう?えっ、常習犯?デマの原因大体あいつのせい!?そ、そうなの!?

 

「あいつ時たま妄想を事実として話すことあっからな……チッ」

 

「貴女も結構苦労してるのね、意外だわ。……何でそう言うのってこちらの事を何も知らない癖に事実として広がるのかしら?」

 

「さぁ?おもしれーんじゃね?海老名はともかく、他の連中はあーしが実際何をしてきたかなんて興味もねーんだろ、たぶん。死ねばいいのに」

 

「同感ね。誰かを自分の都合のいいように貶してる時間があったら、少しでも自分を高める努力をすべきよ……そんなことも出来ないあの無能ども、だから好きな人に振り向いてもらえないって何故気付けないのかしら?」

 

「それなー。人の顔にメイクが上手いからだ、実際はブスだとかくだらねーこと言う前に自分でメイクの練習してからほざけっつーの。地顔がブスでメイクも下手で性格もブスならそら誰だってアンタなんか好きになるわけねーだろって話だわ、ほんと」

 

 ………あれ、あたしが信じていた有力情報が姫菜のデマだってことにショックを受けてる間にいつの間にか2人が打ち解けてる?嘘、何で!?ちょ、待ってあたしを無視して二人だけで仲良くならないで!あたしもちゃんと会話に入れてよ!?

 

「でもさー、雪ノ下さんの普段の態度もどーかなってあーしは思うわー。わざと喧嘩売ってるようにしか見えないし、ぶっちゃけ自分から誤解広めてね?」

 

「そんなことはないわ。私は自分の思ったことを正直に言ってるだけよ。それで相手が勝手に被害妄想して、こちらを逆恨みしてくるのよ?貴女だったらそんな輩、いちいち相手にしてられるのかしら?」

 

「あー……うん。それはあーしも相手にしねーっつーか眼中に無いから無視するわー。それは分かるかも」

 

「そうでしょう?そんなこといちいち気にしてたらこちらの身が持たないし、それこそ相手の思う壷よ。冗談ではないわ。由比ヶ浜さんみたいに周りに流されることを美徳とする気はないの」

 

「ユイは確かに流されやす過ぎだけど、それはそれでユイのいーとこじゃん。それに、最近は前ほど気にしぃでもねーし。別に良くねー?」

 

「初対面でこの年でまだヴァージンであることは恥ずかしいことだ、それが分からないなんて女子力が足りない、などと言われたのだけれど」

 

「うわっ、なにそれビッチじゃん。引くわー……!」

 

「っって!?何いつの間にかあたしの悪口2人で言ってるの!?ゆきのんも、あたし別に周りに流されること美徳としてないし、そんな出会ったばかりの頃なんて昔の事をほじくり返すのやめてよ!?」

 

 気がついたらゆきのんと優美子があたしの目の前であたしの悪口言ってた!2人ともいちいち陰口とか言わない性格だから目の前で言ってくれるのは良いけどそれはそれで傷付くんだよ!?てか優美子はガチめにドン引きしないで!周りからしたらそのビッチの親玉優美子だからね!?

 

「昔って、まだ2ヶ月と少ししか経ってないのだけれど」

 

「あーしは別にビッチでも親玉でもねーしなー。むしろユイ自覚ないの?アンタ結構発言ビッチになってんよ?」

 

 やめて、お願いだから気付かせないで!!誰にだって認めたくないことはあるんだよ!それを言ったら優美子だって………!ごめん、やっぱ何でもない。

 

 ……ね、もうやめよこーゆーの。

 

「あ?そこまで言いかけて止めんなし。文句あったら言えばいーじゃん。あーしら友達なんだから」

 

「そうよ、由比ヶ浜さん。良い機会だし言いたいこと全部言った方が良いと思うわよ?」

 

「ううん。こういうの言い出したらキリがないし、過去に遡っての悪口とか好きじゃないから。優美子がそういうの言っても聞いてくれるって分かってれば十分。……それに、せっかくサカキンとゆきのんがあたしの為に用意してくれた誕生日パーティだもん。普段の不満ぶちまけるより、3人でもっと楽しくやりたいかなって」

 

 そうだ。愚痴とか悪口なんて別に今じゃなくても言える。そんなものはあたしが言えるかどうかなのだから。だけど、こうしてあたしの誕生日を楽しく過ごす、というのは文字通り誕生日にしか出来ない。今までそんなに自分の誕生日を重要視したことはあまり無かったけれど、今日は違うのだ。だから……

 

「だから、とりあえず今日は止めよ!それに、せっかくサカキンがこれだけ美味しいもの用意してくれたんだし、喧嘩する前にまず食べよっ!ほら、この水水肉バーベキューとか絶対美味しいヤツ……って水水肉バーベキュー!?ワンピースの奴じゃん!なんであるの!?」

 

「……今頃気付いたのかしら?恐ろしい事にそれ、本当に柔らかくて美味しいわよ。何をどうやったら水水肉を再現出来たのかは分からないけれど……」

 

「よく見たらメロウコーラとかあるし!何この注意書き!「普通のコーラより炭酸と糖度が数百倍なのでこちらの炭酸水で希釈して飲んで下さい」……?えぇ、もう普通のコーラで良くない??」

 

「いやさも当然のように話してっけどなんの話だかさっぱり分かんねーんだけど?何かすごい料理なのこれ?いや、やたらうめーとは思うけど」

 

「ええっ、優美子ワンピース知らないの!?名作だよ!?ほら、そこに全巻置いてあるから読まないと!あ、トリコはちょっとトンデモだから無理して読まないでも良いと思う。ね、ゆきのん?」

 

「そうね、世紀末リーダー伝といいリングといい、あの作者の設定は無駄に壮大にし過ぎだし、半端なギャグが子供向けすぎて初心者で三浦さんくらいの年齢には合わないと思うわ。私のオススメは夏目友人帳なのだけれど、こちらのゴールデンカムイも歴史考察が中々に詳しくて面白いと思うわ」

 

「えぇー?夏目友人帳はあたしも好きだけどゴールデンカムイはちょっとグロいからあんま好きじゃないなー。というか、優美子あんまり漫画読むイメージ無いし、何も考えずに笑えるヤツとか良いんじゃない?テンテンくんとかは?」

 

「ちょっ、待てし!2人だけで盛り上がられてもあーしまだ読むとか言ってねーし!?つか漫画とか興味ないんだけど?」

 

 あははは、大丈夫大丈夫。あたし達も2ヶ月くらい前は同じこと言ってたから!よく分からない英語の小説ばっか読んでたゆきのんでさえ漫画の魅力からは逃れられなかったんだし、優美子も読み始めたら一瞬だよ!さっ、まずは試そう?大丈夫大丈夫、苦手意識なんてほんと最初だけだから!

 

「おい待て近寄んな、ちょっ、ユイ!?聞いてんの!?近寄んなってば!今のアンタ目がこえーんだよ、ガチの時の海老名みてーじゃん!?」

 

「ヤダなー優美子、姫菜と一緒にしないでよ。あたし達の読んでる漫画は健全なものばかりだから!」

 

 そう、健全じゃない描写ばかりのToLOVEるとかアイズとかそういうのは全部サカキンから没収してあたしとゆきのんが部室から回収しちゃったからここにその手の類は置いてないし!残りの奴はちょっとはエッチな描写あるけど少女漫画のそれと比べたらおままごとみたいなものだし大丈夫!だから優美子、さぁ!

 

「いや、さぁ!じゃねぇし!あ、コラやめろって近寄ってくんなっていうか顔がこえーつってんだろ!?………あぁー、もうっ!落ち着けっつーの!」

 

「んひゃあっ!?ちょっ!や……!待っ、優美子、止め、て……胸揉まないで……!ごめ、謝るからっ!」

 

「うっさい!人の話聞かねーヤツの言うことなんか聞いてやんねーし!ほれほれ、相変わらず巨乳のくせに感度良すぎなんだっつーの!」

 

 んきゃぁぁあ!ごめん、ごめんってば!悪ノリしたあたしが悪かったからもうやめてー!あたし胸弱いんだってばー!あ、ゆきのん!見てないで助けてよー!ひゃんっ!ち、乳首は本気でダメだってば!?

 

「諦めなさい由比ヶ浜さん。自業自得よ」

 

「そーそー自業自得ー!にしても本当にすくすく育ってんなーユイ、あーしよりデカいとか生意気だし」

 

 ひゃぁぁぁ!こ、このぉー!人の胸を遠慮せずに揉むとか女の子同士でもセクハラなんだからね!はぁんっ!だ、だから乳首は本当にダメって……もう怒った!そっちがその気ならこっちだって!えーい!

 

「うひゃぁっ!ちょっ、ユイ!?あーしの胸に触っていいとか言ってないんですけど!?んっ……!ゆ、ユ〜イ〜?」

 

「きゃぁ!ちょっと、由比ヶ浜さん!?なぜ私まで…ひゃんっ、や、止めなさい!」

 

 ふっふっふっ!どう?優美子、これであたしの気持ちが理解できた!?ゆきのんは見てるだけでも同罪なんですー!ほら、イジメで傍観してる人達も加害者って言うし!さぁ、2人とも今すぐ止めないと2人の乳首もどうなるか分かんないよ!それでもいいの!?……ってあれ?2人の目が据わって……?あ、ゆきのんまで!?駄目、2人がかりとかズルいよ!ふぁぁぁん!こ、このー!

 

「んっ、やられっぱなしで終わるあたしじゃないよ!って、はぁぁぁん♡」

 

「いい加減にしろこのバカユイ!アンタ、モサキチが伝染って、ふあっ、や、やめろ抓ん……んぁっ♡」

 

「止めて欲しかったらまず私を巻き込むのを止めなさい!って、ちょ、服の中にまで手を入れないで!やめっ………ぁんっ♡」

 

 

 うう……ちょ、ちょっと感じちゃった……!なんて事するの2人とも!やりすぎ……だ、よ……??

 

「………うっせ、ばか」

 

「………も、もう。やめましょう?」

 

 うわ、可愛い……!何これ、2人とも普段強気なのに頬真っ赤にして目はウルウルしてるし、いつもならあたしの事睨んでるの?ってぐらい視線逸らしたりしないのに、目をめっちゃ逸らしたりチラ見したりしてる!やだ、何かすっごく可愛い!

 

 へたり混んだ2人の方に身を乗り出す。思わず、と言った様子で胸を抑えて2人が身を竦ませた。あたしはそんな2人に構わず、近かったゆきのんの白くて細くて綺麗な脚に指をつーっと走らせてみた。

 

「ふぁっ……ん…♡、ゆ、由比ヶ浜さん、何、を……?」

 

「ゆ、ユイ……?アンタ、何して……」

 

 ゾクリ。

 

 背筋に何か不思議なものが走った。2人の少し怯えたような表情。普段のカッコイイ2人からは見られないような弱々しく、それでいて可愛らしい姿。

 

 ゾクゾクッ。

 

 先程よりも強く背筋を駆けた何か。何処と無くソワソワするような感触のそれは、なんだか全然不快じゃない。いや、むしろ……気持ちいい?

 

 ……()()()()

 

 今の2人を見てたら自然とそんな願望が湧いてきた。……どうしよう、あたし、サカキンが普段の2人を揶揄うのが好きな気持ち、理解出来ちゃったかも。これは駄目だ、どうにも抗い難い願望だ。

 

 我慢できずに更に少しにじり寄る。2人とも今度はハッキリとビクッ!とした。可愛い。も、もうちょっと2人の可愛いところ、見た「キーンコーンカーンコ──ン」ふぇあっっ!?うわびっくりした!あ、下校のチャイムか。

 

 そ、そっかもうそんな時間か。それにしてもびっくりした。驚き過ぎて何か色々吹き飛んだ!って、あ、あたし今何かすごい変な感じになってなかった!?何か今凄い2人を虐めたい気分になってたんだけど!?いや2人を虐めたい気持ちってなに!?サカキンじゃあるまいし!

 

「………っ!」

「………ッ!」

「………!」

 

 思わず3人で顔を見合わせる。そして同時に逸らしてしまった。き、気まずい……!というか、何かもの凄い恥ずかしい!ど、どうしよう!恥ずかし過ぎて何喋っていいか分かんない!

 

「………ね、ねぇ、2人とも?出来れば今の事、無かったことにしないかしら?」

 

「そ、そーしよっ!な、何か凄い変な気分になりそうだったもんね!わ、忘れよ忘れよ!」

 

「アホっ、変な気分とかゆーなし!……こ、この話はナシで!」

 

「そ、そーだね!あはは……サカキン、遅いね?ひ、平塚先生にまだ怒られてるのかなー?」

 

「そ、そうね。きっとまだ怒られているに違いないわ。榊君だもの……、全く仕方ない人ね?」

 

「や、やー、モサキチってどーしようも無いとこあっかんな!でも良かったんじゃねー?早く来てたらさっきの見られてたか……も……?」

 

 

 バッ

 

 3人同時に入口のドアを見る。示し合わせたように同時に立ち上がって、恐る恐る扉を開けて部室の外の様子を見る。……どうやら廊下には誰も居ないようだ。部室は2階にあるから大丈夫だとは思うが、念の為に窓の外も確認しようと、3人とも潜むようにカーテンの下から潜り込んで外の様子を伺う。

 

「……見られて、ないよね?」

 

「恐らくは……ただ」

 

「……他の奴は大丈夫でも、モサキチだけは目の前にいきなり現れてもおかしくねーかんな……!」

 

 そうだ。多分大丈夫だとは思うが、彼なら突然カメラ片手に部室に現れてもおかしくは無い。そしたらあたし達のさっきのを見られててもおかしく……!?

 

「〜〜ッ!や、ヤメヤメ!ごはん!ごはん食べよ!せっかくサカキンが作ってくれたヤツ、まだまだ残ってるし!一通り食べたけどどれも絶品だし!」

 

「そ、そうね!残すのは勿体ないものね!とは言っても、到底この人数で食べ切れるものでは無いけれど!」

 

「き、気にしたら負けだし!あのバカがユイやウチらが楽しめるように作ったモンなんだからできる限り食べるべきだし!……せっかくだし、誰が1番食べれるか競走しねー?勝った奴は負けたヤツに好きな罰ゲームできるとか、どうよ。やる気でんじゃね?」

 

「あ、そ、それ面白そう!どうせ食べるなら楽しんで食べたいもんね!ふふふ、罰ゲーム何にしよっかなー?」

 

「あら?もう勝った時の事を考えてるの?随分余裕ね……まぁ、勝つのは私なのだけれど」

 

「はぁ?雪ノ下さん、そのちっこい体で大食いなんて出来んの?どう考えても最下位だと思うけど。謝んなら今のうちだよ?」

 

 ふふふ、それは余計な心配というやつだよ優美子。あたしとゆきのんはここ最近ずっとサカキンの手料理を食べ続けてるんだよ?おかわりの我慢なんて、できると思う?……おかげで最近は毎日運動する羽目になってるんだよ、あたし達。

 

「ふふ、そういう事よ……!自慢じゃないけれど、今の私達は運動部の男子生徒並に食べるわ。つまり三浦さん、貴方は自分の心配をするべきだと思うわ」

 

「うっわ、本当に自慢になんねー……!それでなんで2人ともドヤ顔なんだし。……まぁいーや。要は勝てば良いわけっしょ?元県選抜の本気、見せてやんよ……!」

 

 

 し、しまった!よく考えたら優美子は元々女テニで運動部!しかも県選抜行くくらいにはガチ目にやってたはず!おまけに隼人くん達男子の目がないから、食べる量とか誤魔化す必要もないっ!?ど、どうしようゆきのん!?

 

「怯える必要は無いわ。要は条件が同じになっただけよ……勝てば問題ないわ。それより、罰ゲームの内容は?」

 

「あー、どうすっかなー。勝負の内容的に筋トレとか運動系はあれだし、痛い系や後に残る系も無しっしょ。でもどうせなら地味に嫌なヤツがやる気でんじゃねー?」

 

「地味に嫌なヤツ……あ、すっぴんは?明日はもう週末だから、来週学校に来る時、すっぴんで1日過ごす……とか?」

 

「いや、それ地味じゃなくて普通にめちゃくちゃ嫌なヤツだろ、ユイ」

 

「あら、私は別に構わないけれど……?」

 

 うん、ごめん優美子。今のはテキトー過ぎた。しかもこれほぼ毎日簡単なメイクしかしないゆきのん相手じゃ罰ゲームになんないし。でもこれといって思い付かないなー。適当で良くない?

 

「駄目よ。それだと緊張感がないわ。負けていい勝負なんて無いのよ由比ヶ浜さん?」

 

「いやガチ過ぎじゃね?……まぁ言ってることも一理あるか」

 

 いつの間にか多すぎる料理を減らす為の大食い勝負じゃなくて、勝負そのものが目的になってる!?ゆ、ゆきのんの負けず嫌いが変な方向に出ちゃったのかな?

 

 ふと見ると何かヒントを得ようとしてるのか、本棚の方を見ているゆきのん。確かに漫画とかには罰ゲームとかあるけど、罰ゲームで有名な遊戯王の奴は無理だと思うし、後は他の漫画に罰ゲームなんてあったっけ?って、ゆきのんの目線が……あれ、あれは……?

 

「何か良いアイデアは無いかしら……罰ゲームのあるものは、遊戯王は無理として、後は………?めだか、ボックス……ッ!さ、流石にこれは駄目ねっ」

 

「は?急になんなん?その漫画の罰ゲームで良さそうなのあったとか?」

 

「い、いや違うよ!ダメな奴だよ!本当にダメな奴!絶対駄目!」

 

「いや知らんけど。どんなん?」

 

「……裸エプロンよ。正確には「裸エプロンで学校生活を送る」ね。倫理的にも後に残らないものとしても無理ね」

 

 よ、良かった……!流石にゆきのんも負けず嫌いだと言っても良識は残ってるよね!当たり前だけど!「それで良くね?」ちょっと優美子、正気?!

 

「や、学校生活とかはねーわ。流石にそれは恥ずいとか通り越して捕まるし。そーじゃなくて、負けたヤツがこの場で一回裸エプロンになる、で良いんじゃね?今ならモサキチも居ねーし、女同士なら恥ずいだけじゃん。決着着く前にモサキチが来たら罰ゲームだけ持ち越せば」

 

「確かにそうだけれど……流石に無理よ。もし罰ゲームの最中に榊君や他の男子が来たらどうするつもりなの?一応今日は部活中止の貼り紙を入口に貼っているから、時間的に来るとしても榊君だけだとは思うけれど」

 

「その時はまぁ、運が無かった、みたいな?まっ、どーせあーしは負ける気ないから正直罰ゲームなんてどうでも良いんだけどさ。雪ノ下さんとか負けるのが怖かったら負けても大丈夫な奴にしたらいいんじゃね?」

 

 そう言ってニヤリと笑う優美子。その顔には大きな自信が伺える……けど!それは流石に無理って言うか良くないよ!ていうかそんな挑発するみたいな言い方やめて!ゆきのんがその気になったらどうs「安い挑発ね……良いわ。確かに負けなければ良いだけだもの」いやぁぁぁぁ!ゆきのん!?落ち着いてゆきのん!?良く考えて!?裸エプロンだよ!裸なんだよ!?僅かでもサカキンに見られる可能性があるんだよ!?そんなの絶対無理だよ!!

 

「……落ち着きなさい由比ヶ浜さん。負けなければ、いいのよ。むしろ負けた三浦さんがどんな顔をするか、興味が出てきたわ」

 

「ゆきのん!?それフラグだよ!?ちょっ、優美子!流石に無茶だってば!?」

 

「じゃあユイは審判でいーよ。モサキチがユイの為に作った料理だけど……まー、モサキチなら肝心のユイが1番食べられなくても文句言わないっしょ」

 

「そ、それは……!」

 

 思わず昼の事を思いだす。食べ切れないからと一度料理を片付けさせたとき、彼は軽い口調だったものの、残念そうだった。その時は気にせずにいたけど、平塚先生に言われて勘違いしていたと気付いた今ならよく分かる。むしろ普段声にさえあまり感情の出ない彼が、僅かでも残念な口調だった、という事はつまり、あの時実は、本当に残念だと思っていたのだ。

 

 当たり前だ。10時間以上掛けて全て1人で、良かれと思って用意した料理を、要らない、何て言われたら誰だって傷付く。あたしならショックで立ち直れない。しかもその理由が勘違いだったとしたら遣る瀬ない、どころの話ではない。

 

 たぶん軽い口調だったのでさえ、あたしの為に咄嗟に取り繕ってくれたのだ。その後謝った時の言葉を考えても多分間違いない。言った本人であるあたしが傷つかないように、自分はショックなんて受けてないと、笑って誤魔化してくれたのだ。

 

 ……そう、つまりこの料理は本来、全てあたしが食べるべきものだ。流石にそれは無理だと分かっているが、 それでも1番食べなかったのがあたし、ということになるのは嫌だ。それでは彼の想いをあたしはもう一度踏み躙ることになる。初めは無意識だったとしても、いや、だからこそ2度目は無い。2度も好きな人の優しさを踏み躙るなんて、恋する乙女として失格だ。論外だ!

 

 覚悟を決めた。何があっても負けない覚悟を。この勝負で勝つのはあたしだ。優美子でもゆきのんでもない、このあたしが、絶対に勝たなくてはいけないんだ!

 

「……いいよ。やろうか、優美子。言っとくけど、勝つのはあたしだからね?サカキンの手料理を1番食べるのは、あたしなんだから」

 

「……ふーん?ま、やってみな。どーせ勝つのはあーしに決まってっし」

 

「(いつの間にか由比ヶ浜さんが勝負の主旨を間違えている気がするけれど)なんでも構わないわ。始めましょう……敗者は貴方達2人のどちらかなのだから……」

 

 3人が同時に箸を取った。取り皿を持ち、料理の前に並ぶ。そして……

 

「……」

「……」

「……いざ」

 

「「「いただきますっ!」」」

 

 今ここに、負けられない乙女の戦いが始まった!

 

 待っててサカキン、あたしが、ちゃんと勝って証明するから!それで今度はちゃんとお礼言うね?美味しかったよって、あたしの為にありがとうって!それで、それで──ー!

 

 

 ……その後のことは正直、よく覚えていない。

 

 とにかく無我夢中で食べ続けた。幸いにしてサカキンの料理は本当に美味しくて、食べ飽きるということは無かったし、2人も負けたく無かったのか、とにかく止まることなく3人で食べ続けた。

 

 いつの間にお腹周りが苦しくなって、スカートのホックを外して緩めた。それでもダメでチャックを下ろして完全に締め付けを無くし、上に着ているものの微かな肌触りや締め付けさえも強い圧迫感に思えてボタンを外して捲りあげた。それでも苦しくてもう食べられないと思っても食べ続けた。

 

 何故なら2人の手が止まらなかったから。あたしは何があってもこの勝負にだけは負けられない思い、震える手を無理やり動かして、彼の手料理に吐き気を覚えてしまう脳を叱咤してでも料理を飲み込んだ。その結果は……!

 

 

 

 3人とも食べ過ぎて動けなくなってサカキンに情けないお腹とか下着とか見られました。しかも良く考えたらそれぞれが食べる量とか気にせず無理やり食べてたので、誰がどのくらい食べたのか分からず勝敗がつかないっていうかそもそも勝負になってなかった。

 

 

 つまりあたし達は自らサカキンにパンツ見せただけ、みたいな?しかも肝心のサカキンは乙女のパンツ見たくらいでは動揺もしないらしい。逆に白とかありきたり、なんてダメ出しされてしまった。

 

 

 ……正直、その後サカキンからプレゼント貰えなければ内心二度と立ち上がれなかったよ!

 

 

 

 ◻️◻️

 

 

 ピンポーン

 

 その音が鳴った直後に、はーい、と何処か気だるげな声が聞こえた。時間的に勉強でもしていたのだろう。少し申し訳なく思うが、事前にちゃんとメールで連絡したので許して欲しい。

 

 すっかり遅くなってしまった。たぶんもう彼女達も夕飯は食べてしまっただろう。もう少し早く来たかったのだが、思ったよりカラオケが長引いた。

 

 肝心のゆいにゃんが家でも家族にお祝いされる、という事で7時くらいにはお開きになったが、そこから近くだからとそのまま別れたユーミンはともかく、タッパー詰めした料理のお土産が大量にあるゆいにゃんとセツのんは家まで送っていく必要があったので、さらに時間が掛かるのは仕方ない事だろう。(なお、結局部活が長引いたらしく、キラキラや戸塚から連絡が返ってきたのはカラオケの終了間際だったので2人も合流することは無かった)

 

 予想外だったのは大量のタッパーに詰めた料理を渡す為に、ゆいにゃん家のマンション、その玄関まで3人で行った際、やたら若々しいゆいにゃんママ(若々しすぎて素でゆいにゃんの姉と勘違いした)に捕まってしまった事だろうか。

 

 普段ゆいにゃんが家族に俺たちの何を話してるのか知らないが、俺とセツのんを見たゆいにゃんママはテンション爆上がりで、タッパー渡して帰るつもりだった俺たち2人は、恥ずかしいから止めて!と叫ぶゆいにゃんをガン無視で家に上がって行って!とメッチャぐいぐい来るゆいにゃんママに半ば無理矢理押し込まれるようにしてゆいにゃんの家に上がっていくことになった。

 

 そして女の子らしい部屋をしたゆいにゃんのマイルームに通されて、娘が絶賛する俺の料理が気になってた!とか、娘が最近やたら楽しそうでありがとう!とか、あなたのおかげで料理の手伝いとか全然しなかった娘が積極的にするようになった!とか、凄い手品が使えるんだって?見せて!とか、もう今日は泊まって行ったら?とか、それはそれはもうハイテンションで話し掛けられまくった。

 

 恥ずかしがったゆいにゃんは何言っても止まらないゆいにゃんママに途中からしがみつきっ放しだった。なので俺とセツのんは家に着いてからゆいにゃんと一切会話することなく、ゆいにゃんママとだけ話していた。

 

 途中強請られたので料理の詰まったタッパーを渡すついでにイリュージョン!とかやったら更にテンションが上がってしまい、俺の作ったケーキや料理を食べて店売りのより美味しい!褒めてくれたりしながら俺のイリュージョンの種を見つけ出す!とキャーキャー言いながら大騒ぎしてた。

 

 そこまでは良かった。

 

 だが、チートを誤魔化す為とはいえ、イリュージョンイリュージョンと普段使いし過ぎてセツのんもゆいにゃんもほぼ無反応なのでゆいにゃんママの反応に気を良くした俺は少し調子に乗ってしまい、慣れて興味のないゆいにゃんとセツのんの冷たい視線を無視して、ゆいにゃんママの為に普段のイリュージョン擬きに加えて真っ当な手品っぽい事も披露してしまった。

 

 その中に、制服の胸ポケットから電子レンジを出す、というものがあったのだが、それが良くなかった。

 

 別に電子レンジを出す必要は無かった。単に持ち込んだ大量の料理的に、ゆいにゃんの家にある電子レンジじゃ足りなかろうと業務用の電子レンジがあってもいいかなー、とかそんな軽い気持ちで出した。

 

 それが何故か凄い琴線に触れたのか、それともそれまでのイリュージョンで感極まって居たのか、とうとう我慢できなくなったゆいにゃんママは俺に飛び付いて来て、俺の服に何か仕掛けがあるのでは!?と俺の服の中をまさぐったりしまくった。

 

 これにはゆいにゃんママの止まらぬ勢いに固まってたゆいにゃんも再起動して俺から何とか母親を引き剥がそうとしてくれたのだが、そこで悲劇が一気に重なった。同じくゆいにゃんママを止めようとしてくれたセツのんがうっかり足を縺れさせた。

 

 その結果、倒れかけたセツのんがゆいにゃんを巻き込んでこちらに倒れ込んで来た。そしてそれは当然、俺に半ば抱き着くようにしてたゆいにゃんママも巻き込む形になるわけで。

 

 うっかり油断してた俺は、3人が怪我しないように咄嗟に柔らかく弾力を持つ程度に空気を固めた空間クッションを挟む事と、俺の身体に波紋を流して柔らかくしてもう一つのクッションになるのが精一杯だった。

 

 そして一拍の間を置いて倒れ込む俺たち。もちろん俺が居て、3人に怪我などさせる気は無いが、3人が俺の上に重なって倒れてしまう、という事態そのものはは避けられなかった。

 

 その直後に開けられるゆいにゃんの部屋の扉。ちょうど先程帰宅したらしいゆいにゃん父が部屋の前を通り過ぎようとしてたのは俺も気付いていたが、同じく夫の帰宅に気付いたゆいにゃんママがまずは着替えてから来る、と言うので気にしてなかった。たぶんゆいにゃん父は3人が倒れた時の音に驚いて心配してくれただけだと思う。

 

 

 しかし娘の扉を開けた瞬間にゆいにゃん父の目に飛び込んできた最初の光景は、見知らぬ男の上に重なる己の妻と娘を含めた3人の女性の姿だった。

 

 

 ……いやね、ツッコミどころはたくさんあるんだけどね?3人とも服着てるし、どう見ても下敷きになってるのが俺で、俺が3人を組み敷いているようには見えないだろうとか、そもそもゆいにゃんとセツのんは百歩譲って誤解されても仕方ないと思うけど、ゆいにゃんママは有り得ないだろっていうか自分の妻信じろよとか言いたいことは沢山ある。

 

 だがたぶん仕事帰りでお疲れだったゆいにゃん父には冷静になって考える、ということが出来なかったのだろう。つまり

 

 

 一瞬で大騒ぎになったよ!しかもテンパったゆいにゃんママがまだ俺もセツのんもOK出てないのに今日泊まってく予定の子達!とか説明したからそれはそれはもう酷いこと大惨事だよね!

 

 

 最終的に緊急家族会議を開くから、と何か口を挟む前に追い出された俺とセツのんは、顔を見合わせて大人しく帰る決断をした。結局ゆいにゃんの家に滞在したのは僅か40分程だったが、目的だった料理や、ついでに業務用電子レンジも置いてこれたのであれ以上いる意味が無かったのも間違いないことだ。セツのんはともかく俺は泊まる気全く無かったし。

 

 そんなこんなでそのままセツのんと2人で並んで帰って、一度マンションの10階まで上がってセツのんの部屋まで行き、一人暮らしのセツのんの家に、ゆいにゃん家に置いてきたよりも少なめに小分けにした料理を置いて、さて俺も家に帰るか!とセツのんにおやすみ、と言ってセツのんの部屋を出ようとした。

 

 そこでセツのんが思い出したように言った。

 

「そう言えば小町さんや川崎さんにもお裾分けすると言っていたけど、そっちは良いの?」

 

 ……正直に言おう。完全に忘れていた。

 

 ぶっちゃけ俺の空間倉庫は時間の流れを止めてあるので、中に閉まっておく分にはなんの問題も無いのだが、何分イメージ的に手料理、特にケーキとかは日持ちしないし、数日経ってから渡されても食べる気にはなれないだろう。むしろ嫌がらせにしかならない。

 

 なので何故か一緒に着いてきてくれようとしたセツのんを押し止めて、俺一人慌てて部屋に戻らずマンションを出た。いや、今一度でも部屋に戻ったら絶対に外に出る気にはならないからね、仕方ないね。

 

 しかし流石に夜も遅いので、事前にこまっちゃんと川崎少年に連絡し、レスポンスが早かったこまっちゃんの方に先に向かった。もちろん徒歩どころか車さえ使う気になれなかったので使ってない。チート使って空間を跳んだ。要はワープだ。

 

 こまっちゃんの家は流石に夜9時を超えて居たので両親も帰宅済みだったので、大量の料理とケーキを玄関先でこまっちゃんに押し付けた後は話もそこそこに切り上げてきた。こまっちゃんにはこんな時間に貰うだけ貰ってそのまま帰すのは〜、などと引き止められたが、こんな時間になったのはこちらの責任だし、むしろこんな時間に女子中学生の家に恋人でもない男子高校生が上がれるわけ無いので、受験生であるこまっちゃんの勉強が捗るように、俺特製アイスピーチティーの入った水筒を押し付けて振り切った。

 

 ちょうどその直後に川崎少年からの連絡があったので、見送ってくれたこまっちゃんから俺の姿が見えない所まで離れた直後に、人目の無いことを確認して再びワープ、今度は川崎家に向かった。

 

 そしてたった今インターホンを押した訳だが……聞こえてきた声は微かに記憶に残る川崎両親のものではなかったし、声の高さ的に川崎少年のものでも無かったのでたぶんサキサキのものだ。

 

 見ると駐車場に車がない。おいおい、夜9時を過ぎたのにまだ仕事なのか川崎家の両親は。どんなブラックで働いてるんだろう。確かに子供の数は少し多いけど、これだけ共働きで働いてるのにサキサキの学費が足りないとかマジか?

 

 うーん、サキサキに1000万渡すよりもうちょいホワイトで高給な仕事両親に教える方が先だったかな?や、俺にそう言った会社を調べることは出来ても入社を確約するコネは無いので結局できることは無いか。

 

 とか何とか考えてると、玄関の扉の向こうで軽くドタドタという足音と、待ちなさい、と誰かを呼び止めるサキサキっぽい声が微かに聞こえた。

 

 その直後、ガチャリと僅かに開く玄関。しかしそこには誰の姿も無い……ので、視線を下に下げてみると、そこにはサキサキと同じ髪色をした幼い女の子が、恐る恐る、と言った表情でこちらを見上げて居た。おや、時間的に寝てるかも、と思ったんだが。

 

「や、こんばんはけーちん。2日ぶりかね?」

 

 とりあえずそう声を掛けると、途端に目をキラキラと輝かせた目の前の少女、サキサキこと川崎沙希の妹の川崎京華が扉を押し退け飛び付いて来た。今度はちびっ子だし、地味にもう何度もやられてるので予想していたのもあり、普通に抱き留める。

 

「きーちゃん!やっときた!ひさしぶり!だっこ!」

 

「いやもうしてるがな」

 

 ついでに言うなら以前来たのは一昨日なので久しぶりでも無いが、この歳のちびっ子にその辺ツッコミ入れても仕方がないので大人しく抱き上げて、彼女が好きな波紋付き頭ポンポンをしてやる。これもここ最近、お裾分けしに川崎家に来る度に強請られてるのでだいぶ手慣れてきた。

 

 そうこうしてると呆れたと共に再度玄関が開かれる。そこには困った顔をしたちょっと困った姿のサキサキと、苦笑いの川崎少年の姿が。や、こんばんわ2人とも。遅くにすまんね。

 

「こんばんわっす榊先輩!毎度妹がすんません!こら京華、離れろって」

 

「学校ぶり、榊。いや、またお裾分け持ってきてくれたんだろ?むしろいつも悪いね。ほら、けーちゃん、榊に迷惑だからこっちおいで!」

 

「やー!いまはきーちゃんのきぶん!」

 

 ははは、いいよ2人とも。ちびっ子に抱き着かれるのはそれなりに慣れてるしな。この時間にまだけーちんが寝てないのには多少驚いたが、むしろ御両親がまだ帰ってないことの方に驚きを隠せない。なんかあったんか。いつもはこの位には家にいるだろ?

 

 そう聞きながら、離れる気がないちびっ子を抱っこしたまま家の中に入れてもらう。川崎家は両親とも付き合いがあるので、こまっちゃんの家と違って家に上がるのも珍しくなく、最近では何度かお裾分けする内にこの末っ子たる川崎京華、俺命名けーちんに抱き着かれて短時間とはいえお邪魔させてもらうことも増えたので、慣れたものだ。最も、ここだけはお裾分けの中に巨大ホールケーキ(4段)がタッパーに高さ的な理由で物理的に入らなかったので直接出す必要がある、という切実な問題もある訳だが。

 

「ううん。両親は会社の飲み会だってさ。何でもやっと大きな仕事が片付いたとかで、そのお祝いとか言ってたよ。これからしばらくは両親も早く帰れるようになるらしい。まっ、どうせまた直ぐにいつも通りだろうけどね」

 

 家の中を川崎少年に先導されながらリビングへと向かっている途中、早くも抱っこに飽きたけーちんが俺の体をよじ登って勝手に肩車へと移行したので、落ちないように支えつつ、頭の上で楽しそうに鼻歌を歌っているちびっ子がぶつからないように大きく頭を下げてリビングに入った。さて。

 

「3人とも、夕飯は済んでしまったよな?」

 

「流石にね。というか、けーちゃんも本当ならもう寝てる時間だったんだけど……」

 

 あれ、もしかして俺がインターホン押したから起きちゃったのか?だとしたらすまん。

 

「いや、違いますよ。俺が先輩からのメール見てたらそれを覗かれまして、今から先輩が来るって分かった途端に目が覚めちゃったみたいで、先輩に会うまで寝たくないって駄々こねてたんですよ」

 

 なんと。それじゃあどっちにしても俺のせいみたいなもんか。悪かったな。こらけーちん、夜は寝なきゃダメだろー?

 

「や!きーちゃんとあそぶの!」

 

「こらけーちゃん!今日はもう遅いからどっちにしたって榊は遊んでいけないって何度も言ったでしょ!いい加減離れなさい!」

 

「やー!」

 

 ははは、まァ仕方ないねちびっ子だもの。サキサキも無理矢理剥がそうとしなくていいよ。ていうかけーちんが俺の髪の毛に掴まってるからそれやられると痛い。

 

「あっ!ご、ごめん。大丈夫か榊」

 

「大丈夫大丈夫。それよかここは俺に任せろ。……なぁけーちん、ケーキ食べたくないか?でっかいヤツだぞ?」

 

「ケーキ!?でっかいヤツ!?たべる!!」

 

「そっか。でも行儀悪い子にはあげられないんだよなぁ。今すぐ降りて手を良く洗ってから、お行儀よく椅子に座れる子じゃないとなぁ……?」

 

 そう言うとけーちんはババっと俺の肩の上から飛び降りると、ドタドタとダッシュで洗面所まで走っていった。はっはっはっ!相変わらず現金なちびっ子だのう。ちょろちょろのチョロですわ!……ん?どったんサキサキ、変な顔して。俺の顔になんかついてる?

 

「ひゃっ、い、いや何でもない!……あ、相変わらず手慣れてんなと思っただけ」

 

「確かに榊先輩、うちの妹の扱い上手っすよね。でも一人っ子って言ってませんでした?」

 

 一人っ子だよ。だがうちの実家は田舎でね。歳の離れた近所の家のちびっ子の面倒とかよく見てたんだよね。だから慣れてんのさ。……それよか川崎少年、今回はゆいにゃんの誕生日だったから料理の量がいつもより多いんだが、頼めるか?具体的にはこれぐらいなのだが。

 

 パチンッ

 

「うおっ、今回はホントに随分多いっすね!?つーか先輩のイリュージョン、どうやってこの量隠してんすか?意味わかんないんですけど!」

 

「ふっ、イリュージョンだからな!」(`・ω・´)キリッ

 

「いや答えになってないから。……でもま、あんたの料理は美味いし、何よりけーちゃんが苦手な野菜でもあんたの料理なら普通に食べるし、助かるよ。大志、さっき冷蔵庫の中整理しといたからしまってくれる?あとこの間貰ったもののタッパーも袋に纏めておいたから、終わったらそれも持ってきて」

 

「分かった!じゃあ先輩、いつもありがとうございます!貰いますね!」

 

 うぃうぃ、どういたしまして。こちらこそ喜んでくれるなら嬉しいよ……ところでサキサキ、ケーキの事なんだが。

 

「ん?ああ……あれはどうしようか。昼のヤツでしょ?流石にうちの冷蔵庫にあの大きさのものは入んないよ?たった今貰ったタッパーの分もあるし」

 

 うむ。そう言うと思って、腰ぐらいの高さの小さめの冷蔵庫も用意してみた。ホテルとかの部屋に置いてある冷蔵庫を2回りぐらい大きくしたようなやつ。それの中の棚をとっぱらったので、ケーキを入れる用に使って貰えればと思うんだが、コンセントを何処か借りれないか?邪魔なら食べ終わったあと回収するし、使いたければそのまま置いといて貰っても構わない。

 

「は?冷蔵庫ってあんた、それは流石に「パチン」……ああ、うん。じゃあとりあえずそこの角に置いてもらえる?」

 

「あいよー」

 

 そう言って言われた場所まで小さな冷蔵庫を運び、コンセントをさす。ケーキを取り出すが、そろそろ手洗いまで終わらせたけーちんが戻ってくる頃なので、あえてしまわず、テーブルの上に置いた。最も、流石にこの時間にこれ全部食べれる訳もないので大部分は直ぐにしまうことになるが……。

 

 すると案の定、またしてもドタドタと走ってきたけーちんがリビングの扉を勢いよく開いて戻ってきた。そしてケーキを見て嬉しそうに叫ぶ。

 

 

「デッッ………かーいっ!すっごいデカいケーキきたー!」

 

 

 大喜びである。まぁ実際俺たちで4分の1近く減らしたところでまだまだ量があるというか普通に川崎家が全員で3食毎回デザートにこのケーキを食べても2日分くらいの量があるので、物凄いでかいのは事実だ。たぶんこの後無駄に厚くした1段目がどう頑張っても1切れ25センチあるので、夜中にあんまりたくさんケーキを食べさせたくないサキサキがスーパー苦労してけーちんにケーキを切り分ける事だろう。

 

 何となくこの後のサキサキの苦労を想像しつつ、その原因たる俺は責任を追及されないうちに逃げる事にした。都合のいい事にたった今人数分の皿とフォークを持ってきた川崎少年が、以前のタッパーが入ったビニール袋を持ってやってきたことだしな。

 

 もう一度指を鳴らして、川崎少年の手にあったタッパーをビニール袋ごと空間倉庫に放り込み、もう遅いからお暇する、とサキサキに伝える。

 

「 えっ、ケーキ食べてかないのか?」

 

「すまん、先程散々食べて正直今日はもうケーキを食べる気にならんのだ。持ってきた料理もケーキも量が多いから、食べきれなさそうだったらすまんが捨ててくれ」

 

「や、それは大丈夫っす!我が家にかかればこれくらい何とかなるっす!特に最近は姉ちゃんが先輩の料理だといつも以上に「ゴン」ぐはぁ!」

 

「余計なことは言わんでいい……。そんなに時間ないのか?明日休みだし、もう少しくらい……親も、そろそろ帰ってくると思うし」

 

「すまんね、明日は用事があるんだ。気持ちだけありがたく貰っておくよ」

 

 そう言ってリビングを出ようとすると、言われた通りお行儀よく椅子に座って、フォーク片手にルンルンだったけーちんが俺が帰ろうとしてる事に気付いてしまったらしい。勢い良くこっちを振り向くと、一転して泣きそうな顔でこちらを見る。

 

「えっ……きーちゃん、かえっちゃうの?……やだ」

 

 みるみるうちに眦に涙を溜めていくけーちん。まいった、ケーキで誤魔化せるかと思ったのだが、そう上手くは行かないらしい。それでも言いつけを守って椅子の上から降りてこないのがすっごいかわいいけれど、さてさて、どう説得しようか。

 

 んー、すまんなぁけーちん。俺も出来ることならもう少し一緒に居たいんだが、今日はもう遅いし、また今度遊びに来るよ。それまで良い子で待っててくれ。

 

「やだ!きーちゃんのおひざにすわっていっしょにケーキたべたい!かえっちゃやだー!」

 

 うわ可愛いなこいつ。サキサキがブラコンの上に更にシスコンなのもよく分かる。俺も妹が欲しかったからけーちんはすっごい甘やかしたいのだが、なんなら既にめちゃくちゃ甘やかし過ぎて姉のサキサキに甘やかし過ぎと怒られてさえいるのだが、今日ばかりは無理だ。なので許して欲しい。

 

「やだー!やーだー!」

 

 そんなこんなで何とか説得を試みたが、全然聞いてくれないどころかとうとうガチ泣きしてしまったので慌てて川崎少年に任せて撤退することに。いや、今日はガチで残れないので俺の説得を聞いてくれない以上どうしようもないのだ。また今度来た時に機嫌を取ろう。

 

「ははは、びっくりするぐらい先輩に懐いたっすよね、京華。何なら今日泊まって行くのはどうっすか?たぶん一緒に寝てあげたらこいつも喜びますよ!」

 

 ぴくっ

 ぴくっ

 

「明日用事があるっつーの。俺も用がなければちびっ子のおねだり断ったりしねーわ。ま、またすぐ来るよ」

 

 まぁ実際けーちんのお願いを聞くのはやぶさかではないし、平塚先生のことが無ければ川崎家が許す限り幾らでも一緒に居てやるのだが、それでも流石に泊まっていけ、は無理がある。いや、泊まっていくだけなら川崎少年の部屋に泊めてもらえば済むのだが、けーちんはどうやら俺と一緒に寝たいらしい。さっきからいつの間にか泣き止んで聞き耳を立ててる。耳をぴくぴく動かしてるので多分間違いない。もちろんちびっ子の言うことなので性的な話と勘違いした変態紳士諸君は猛省して、どうぞ。

 

 何が問題かというと、川崎家の家の大きさの都合もあって、まだ幼いけーちんはサキサキと一緒に寝ているらしい。つまりけーちんの部屋はサキサキの部屋なのだが、じゃあ俺けーちんと一緒に寝るのに何処で寝んの?って話になる。なおけーちんは寝相悪いから川崎少年と一緒に寝るのは嫌らしい。そして川崎父はいびきがうるさいので嫌なんだとか。

 

 最近は色々あってサキサキや川崎少年よりも、川崎父との方がLINEしてるので、以前それで落ち込んだ川崎父からLINE爆撃が来て鬱陶しかったのでよく覚えている。サキサキとけーちんが一緒に寝てる理由には、川崎父と川崎母が同じ部屋で寝てるから、という理由もあるのだ。一番好きな川崎母と寝ることよりも、川崎父のいびきが嫌だ!と言い切るけーちんは中々の曲者だと思う。

 

 なのでけーちんと一緒に寝るとなると結構な確率でサキサキの部屋で寝る可能性があるのだが……仮にサキサキが川崎少年と一緒に寝るとしても自分の私物のある部屋に俺が泊まる、というのも落ち着かないだろう。誓って何かしたりしないが、それを信じてくれたとしても、じゃあ安心できるか、というのは別の話だ。

 

 というわけで残れても泊まっていくのは無理なのだ。だからサキサキも何も考えずに泊まっていけば?とか言うんじゃありません馬鹿なの?川崎少年も意味深な顔でサムズアップすんな折るぞその親指。あとけーちんは泣き止んでるの知ってるから思い出したようにひっく!って口で言わなくていいぞ。

 

「ふぁっ!?あ、あたしそんなつもりは……!違くてっ!」

 

「ぶー!きーちゃんのいけずー!」

 

「先輩、俺は、先輩なら良いと思ってますよ……!」

 

 

 いや知らんがな。つーかけーちんはどこでそういう言葉覚えたの?きーちゃんに教えてみ?え、昼ドラ?うっそだろお前……!

 

 まぁいいや、俺そろそろ本気で帰らんと行かんのでもう行くわ。またな、3人とも。

 

 そう言ってリビングを出る。直ぐに川崎少年とさっきまで泣いてたはずのけーちんがばいばーいと言う声が聞こえたので、やはりけーちんは曲者である。サキサキだけ見送る為に玄関まで着いてきてくれた。

 

 玄関で靴を履いて、もう一度サキサキに別れの挨拶をする。んじゃなサキサキ。おやすみー

 

「ああ、ありがとね。……その、おやすみ」

 

 き彼女のそんな言葉を聞きながらドアノブに手を掛け、扉を開ける。そのまま足を踏み出し──ーああ、そうだサキサキ。

 

「うん?なに?」

 

「言おうか悩んだんだが、一応言っとく。家だからラフな格好なのは仕方ないかもしれないが、俺がいる時はもう少し気を使ってくれると嬉しい。……その、少々目のやり場に困る」

 

 具体的にはブラくらいつけろ。馬鹿なの?

 

「は?何言っ……て……??……〜〜ッッ!?み、見んなバカッ!!」

 

「アホ!どちゃクソ理性総動員して視線逸らしてるわ感謝しろこのバカヤンキー!」

 

 いやね、この子出てきた時からそうだったんですけど、ともすれば半ケツになるんじゃないの?って言うぐらい丈の短い、陸上部が試合の時とかに履いてそうな短パンと、なんかちょっと色褪せた感じの水色っぽい袖なしのシャツ一枚、という出で立ちだったのだ。

 

 ここ最近何度か来てるから分かるが、確かにいつもこれくらいの軽装だし、サキサキ自身パンツくらいは見られてもあんまり頓着しないサバサバした女の子だと言うのは知っているが……それでもブラしてないのは今日が初めてではなかろうか。

 

 おまけにけーちんが冷房に弱いとかで川崎家は個人の部屋で以外エアコンを基本的に使ってない。そして今日は6月の真夏日、とかニュースでやっちゃうくらいには暑い日だ。具体的には何もしてなくともじんわり汗かくくらい。つまりぶっちゃけ今のサキサキはあちこち透けまくりである。

 

 いつもならそれでもシャツが軽く張り付く程度で、せいぜい分かってもブラの模様までだ。ブラの模様なんぞ見えても俺は気にしないし、先程も言った通りサキサキも下着なら見られてもあんま気にしない。だがそれはあくまで下着なら、の話である。まぁ要するに何が言いたいかと言うと……。

 

「さっきから普通に乳首透けてんだよ早く気付けよ。つーかブラしろよこの痴女ヤンキー。何のために事前に連絡してると思ってんの?」

 

「う、うっさいバカ!スケベ!この変態っ!あ、あたしは痴女でもヤンキーでもないっ!というか、見ない振りしてたなら言わずにそのまま帰れば良いだろっ!?」

 

「は?それなら次から何も言わずともちゃんとした服装で出てきたんだろうな?今の今まで、俺に指摘されるまで全く気付いてなかったみたいだけどちゃんと気付いて反省して次から気を付けて来たんだろうな?」

 

「そ、それは……う、うっさい!とにかく見るなバカ!」

 

 だからさっきから必死に視線逸らしてるって言ってんだろこの痴女ンキー。俺今性欲溢れる男子高校生とは思えないほど必死に視線をお前の顔に固定してるんですけど?お前ホントこれ俺じゃなかったら今頃ガン見された挙句脳内再生余裕ですごちそうさまでした!とか言われるレベルだからね?全く……もう少し異性の目を意識しなさい。普段からパンツぐらい見られてもいーや、なんて考えてるから危機意識が足らんのだ。

 

「うぐっ……うっさいな、変なあだ名作んな。……そ、それに、今んとこ家にあんた以外の男、入れる予定無いし。家以外でここまでラフなカッコ、しないって言うか……!」

 

 はー?そういう問題じゃないですぅ。男の前で気安くそんなカッコすんなって言ってるんですぅ。だいたい今は俺以外来なくても将来的には分からんだろ。というか今俺が来てる時点で将来とか以前にもうアウトなんだがな!だって逆に聞くけどお前俺になら見られてもいいのか?見ていいならガン見したるけど。今からでも穴が空くくらい見詰めるけど?ほら早く手をどかせよ見てやるから。

 

「良い訳ないだろ馬鹿っ!!あっ、止めろ見るな!見るなってば!……うぅ、分かった!!分かったよ!次から気を付けるから、とにかくもう今日は帰れよ!明日用あるんだろ!?」

 

 ならば良し。んじゃあ帰るね。ホント次からは気を付けるのよ痴女ンキー!次同じことしたら今度は無言で突くからなー?何処とは言わんけどー!

 

「突ッ…!?二度と来るなバカ榊──っ!!」

 

 ふーははは!それは確約できんな!ふーははは!

 

 夜中だと言うのにデカい声で叫ぶサキサキの方を見ずに!手だけひらひらと見えるように振りながら、彼女に背を向けて歩く。きっとたぶんもうちょっとしたら夜中にデカい声出したことに気付いて、更に顔を真っ赤にするサキサキが拝めたのだろうが、今日は本当にもう時間がない。大人しく諦めることにする。

 

 なんせもう夜中の10時である。平塚先生にあまり遅くなるな、と言われたのにも関わらずこの時間になってしまった。たぶん首を長くして待っていることだろう。俺としても途中から色々な場面でちょっと上の空だったし仕方ないね!

 

 ああ、いかんな。

 

 楽しみ過ぎあんまり考えないようにしてたのに、一人になったら止まらなくなって来た。明日がこんなに楽しみなの今世初かも。今、猛烈に静さんの顔が見たくなって来た。

 

 我慢出来そうに無いので、サキサキから見えない位置に入った瞬間、ろくに周囲の確認をすることなく、さっさとワープしてしまう俺だったとさ!

 

 

 ◻️◻️

 

「……ったく、本当にあいつは……もう!」

 

 既に彼の姿はとうに見えなくなっていたが、未だに熱を帯びた身体と顔で、大事な弟妹の前に戻るのは気が引けたのもあって、あたしはまだ玄関を開けたまま彼の去っていった夜道を見ていた。

 

 本当に、不思議な男だと思う。

 

 あの日、突然現れたあいつに、あたしは救われた。救われた理由もいまいち理解できないままに、気が付いたらあたしは救われていた。

 

 本来ならばとても険しい道の先に……半ば諦めていたはずの道の先に、今のあたしは立っている。いや、正確に言うならば、いつの間にか連れて行って貰っていたのだ。あの優しい男に。

 

「……また、聞き忘れちゃったな……」

 

 ずっと気になっている事がある。それは、あの時あいつは本当は何の目的があってあたしを助けてくれたのか、ということと……あの時のカクテルにはどんな意味なあったのかということだ。

 

 それさえ分かれば、あたしはもうなんの気負いも無く……っ!?

 

 

「……気負いがなければ、なんだっての!」

 

 

 バカバカしい。何を考えているんだあたしは。確かにあいつは恩人だ。だけどそれは好きになる、ということとイコールにはならない。というかまだちゃんと話すようになって2週間も経ってない。一度命を救われた女が、助けてくれた男に恋に落ちるのは、妹が好きな日曜日とかにやってる子供向けアニメの中だけの話だ。

 

 現実にそんな事は有り得ない。というか実際の女はそんなにチョロくない。だから当然あたしもそんなにチョロくない。確かに最近ちょっとあいつが気になってる自覚はあるが、それは単にあの時助けてくれた事と、あたしの分どころか弟の、大志の分までの学費を工面してくれた事、その2つの大恩があるからだ。

 

 惚れた腫れた、何て理由じゃ当然ない。ある訳ないのだ。だいたいあの男を好きになるのは無理がある。今日の誕生日パーティで分かった事だが、あたしが思っているほど大人でも無いし、よく分からない手品をドヤ顔で使うし、思い付きで行動したりもする。正直言ってほとんどそこらの男子みたいなガキだ。同い年だけど、この年頃の女子は同い年の男子なんてだいたいガキだと思ってるから、詰まるところあいつはその辺の男子と大差ないって事だ。

 

 そりゃ確かに高校生であたしに大金ほぼ無条件でポンと貸せるくらい稼いでるのはすごいと思うし、何で髪を切らないのかは知らないけど、かなりの強面ではあるけど容姿だって整ってる。なのにやたらと付き合いやすくて、傍に居ると謎の安心感があってあいつといると居心地がいい。ウチの弟妹が揃ってあいつに懐くのもその辺がきっと関係している。おまけに子供の扱いは超得意で、一人っ子とは思えないほどウチの妹を上手くあやしてくれる。というかあやし方が上手すぎて父親よりあいつの方がずっと妹が懐いている。きっと見た目以外は将来良い父親になるだろう。

 

 更に妙に気遣いが出来る男で、いつも両親の帰りが遅いウチの家に、料理なんかを結構な頻度で差し入れてくれる。いつもはあたしが作っているが、バイトをしてる関係上、それも結構な手間なので正直かなり助かっている。悔しい事にあたしが作るよりも圧倒的に美味しいし。お陰であの男の差し入れがある日の夕飯は家族で争奪戦が起きるしご飯の炊く量も増える。雪ノ下や由比ヶ浜が太る!って泣きそうな顔をするのもよく分かるというものだ。

 

 そういえば、あいつに借りたお金は将来、必ず返すと約束したが……期限や利子が無い、なんてあたしに甘過ぎる条件で本当に良かったのだろうか。今でも少し考えてしまう。幾らお金があるから、他に条件があるからと言って、その条件自体もあたしにとってとても都合の良いものばかりなのに。

 

 ……まぁ、確かにあいつの言う通り、じゃあすぐ返せと言われても流石に金額が金額なのでそれは難しいし、出来るだけ就職に有利な大学へ進むつもりだけれど、大学を卒業すればいきなり大金が稼げるようになる、なんてことも無いだろう。そうなると下手に返済期限を決められると、期限までに金を工面できない可能性はある。

 

 そうした時にやはりお咎めなしにして!と言えばあいつは快く応じるだろうが、それをしてもらえば、今度は返済期限を設定した意味が無くなってしまう訳で……結局、あいつの厚意に甘えるしかない、のがあたしの現状で、それが何とも言えない居心地の悪さを感じてしまう。ただ甘えるだけ、ただ縋るだけ、なんて弱い女になりたくないのだ、あたしは。

 

 

 せめて、せめてもう少し厳しい条件というか、もっと働かせるなりなんなりしてくれた方があたしとしても気が楽だ。こんなことなら、身体を要求される方がまだ納得出来たように思う。いや、もちろん納得出来るだけで身体を要求されるとか嫌に決まっているが。

 

 それに、今ならともかく出会ったあの時に身体を対価に要求されてたら流石に断っていた筈だ。あの頃はまだ、ただのヤクザ顔の同級生でしか無かったのだし。今は……

 

「って、何考えてんだろあたし……。まるで、今なら良い、みたい……なぁ!?そ、そそんなわけないしっ!な、何考えてんだろホント!?」

 

 まずい、また疲れてるんだろうか。あの時みたいな無茶は最近はもうやってない筈なのに!いや、疲れてないのだとしたら気の迷いかなんかだそうに違いない!だってあいつのことなんか別にそんな風に見てないし見る気も無いしそんな関係じゃないってかデリカシーが全くないあんな変態好きになるとか有り得な──ー………よく考えたらあいつ、あたしの胸を思いっきり見たくせに全然平然としてなかったか?

 

 ふと、腕で隠したままだった自らの胸を見下ろす。玄関の弱い明かりでも普通に分かるくらいには汗でシャツが張り付いているし、薄い色のシャツのせいで、他人に1度も見せたことの無かった乳首の位置がハッキリ透けて見えた。

 

 

 ──ー見られた。榊に、あたしの……!

 

 

 先程は咄嗟のことだったし、あいつからの視線をもほぼ感じなかったから、当然恥ずかしかったのには違いないけれど、そこまででも無かった。

 

 だが、見られたのがよりにもよってあいつだ、ともう一度改めて認識した途端に、羞恥心が噴火したように一気に吹き出してきた。途端に頭に熱が上ってくる。耳まで顔が真っ赤に染まったことを自覚する。やばい、今になって羞恥心で死にそう!あたしは本当に何やってるんだ馬鹿じゃないの?こんな、こんなみっともないカッコを、あいつに、榊に……!

 

 考えれば考えるほど頭に熱が上り、身体が羞恥心で悶えそうになる。だが、何故だかその大きな羞恥心に混じって、別の感覚が混じった。身を焼くような熱を伴った羞恥とは別に、背筋を甘く、淡く駆ける、ぞわり、とした痺れにも似た何か。

 

「ンっ……!」

 

 それが背筋をゆっくりと走り去ったあと、何故だか体の奥からも熱が湧き出る。湧き出た熱は胸を焦がす様に、心臓で増幅されて全身を巡り、そしてお腹の奥……子宮の辺りで、じんわりと甘く留まってしまった。

 

 アツい、と思った。

 

 ああ、あいつの事を考えるといつもこうだ。何故か胸が苦しくなって、焼けるように身体中が熱くなって、そしてお腹の中が唸るように捻れるように、収縮するような感覚が続く。そして次の瞬間には……

 

「ッ!……また……!」

 

 自分の股の辺りが不自然に湿ったような嫌な感触がする。ふと見れば先程まで透けていただけだったそこはピンと張り詰め、大きく存在を主張していた。触るどころか、僅かに身動ぎした時の衣擦れだけで甘い声が漏れそうになる。こうなってしまったら下手に触ることも出来ない。僅かでも弄ってしまえば、止まらなくなることをあたしはよく知っていた。何度も経験済みだからだ。

 

 どうして、こんな……!あいつの事は、恩人として以上の感情なんか無い、その、筈なのに……!なんで毎回毎回、少し話しただけでこんな事になるんだ。これじゃあまるで、あたしが変態みたいじゃないか!冗談じゃない、あたしは変態なんかじゃない!

 

 変態というのは、あいつみたいに平然と女に向かってセクハラするような奴のことを言うんだ!だから、これはただの生理現象だ!そ、そうに違いない!あたしがあんな面と向かって同級生に(乳首を)指で突く、なん………て?

 

 そこまで考えて、あの時の事を思い出す。気が付いたら抱き抱えられていた、あの日のことを。あの時はそう、絶対に死んだと思ったら気付いたらあいつの、榊の腕の中だった。咄嗟のことで助けられた瞬間のこととかは全然覚えてはいないが、あの腕の中の感触は覚えている。

 

 そう、抱き抱えられて初めて気付いたが、あの男は髪の毛を上げなければとても大人しい見た目なのだが、意外と体の方はかなりがっちりしていて、指なんかも結構ゴツゴツしてるのだ。そんなあの男の指で、乳首を突つかれるなんて………!

 

 ビクッ、と全身を痺れが走り抜けた。声が漏れるのはたぶん抑えられた、と思う。というかこれはダメだこれ以上考えるのを止めなければ!これ以上考えると取り返しのつかない事になる気がする!!

 

 慌てて頭を振って色々な思考の全てを払い落とす。考えているだけでこれなのだ。これ以上この事について深く知ろうとしたら、これまでのようにこれがただの恩人に対してのものか、それとも恋なのか、なんて答えが出る前に、またしても寝てる妹に気付かれないように声を押し殺す羽目になる。それでまた寝不足になるのはいい加減避けたい。

 

 もう戻ろう、と敢えて声に出して家の中に入る。ふと、胸の辺りから甘い痺れのような快感を感じる。目線を下に向けてみれば、思考を振り払ってなお、ピンと自己主張するふたつの突起が目に入った。今の僅かな動きでさえ反応したらしい。

 

 まるで、期待するようだ、と思い。そんな訳あるか!とまたも内心否定する。何度も繰り返した思考。だけど、今は……それに少しだけ言葉が増えた。

 

「ふん……見たなら見たで、もう少し、慌てたり喜んだり、しろっての……バカ」

 

 ………これだけは、誤魔化しようのない本心だった。そこに込められた意味については、もう一度思考を止めておく。

 

 

 ……今はまだ、このままでいいのだ。何故なら、もう少しだけ、あいつの事を考えてばかりの時間が、続いてもいい……そう思うから。

 

 

 

 なおこの時の事、影から覗いてて後でからかってきた弟は姉式スープレックスの刑に処した。慈悲は無い。

 

 

 続く。

 

 




登場人物紹介!

・榊貴一
ヤンデレを愛する包容力ある系男子、と思わせた神様系転生者。
おや?オリ主の様子が……?
もはや完全にチートを堂々と使っても手品だから、オリ主だからで周りが勝手に納得してくれるようになった。オリ主の完全勝利と言っても過言ではない。
オリ主のデザートは108式まである。

・雪ノ下雪乃
原作よりよく食べよく動いてるので何気なくスタミナが付いて来ている。
人前でも平然とオリ主に甘え出すようになってきた。
現在オリ主はウチの部員である、という所有権を主張している。
主張している理由そのものついては黙秘してるらしい。
オリ主に何らかの存在が居ることは知っているが、それをどう利用するか考えているらしいぞ!
何気なくオリ主が女と触れる時間は短くなるようにまずは妨害を挟むぞ!
胸は小さいが感度は良いぞ!
最近はオリ主に弄られすぎて少しMっ気が…?
最後にもう少しだけ一緒に居たくてオリ主の忘れ物を指摘したらついて行かせて貰えずに置いてかれてしまった可哀想な子。敗因は素直じゃ無かったこと。

・由比ヶ浜結衣
オリ主とやっぱり過去になんかあった子。
オリ主に話を聞いて貰えなかった理由は自己紹介をしなかったのと髪の毛を染めてなかったから、とは本人は知らない。
恋する乙女アイの力でオリ主の事はだいたい見抜く。だが惜しいところで勘違いしがち。そしてブッシュ・ド・ノエルを平然とロールケーキと言い放つ程度には料理が苦手だぞ!
雪ノ下と一緒に最近はよく食べよく動くのでスタイルに変化が……具体的には胸が変化した。なお雪ノ下は太りはしなかったぞ!
自分の誕生日だし今日はみんなで盛大に遊ぶぞー!きっとオリ主辺りがケーキとか出してくれるに違いない!と、内心ウキウキで居たら、オリ主達がパリピは誕生日パーティを必ずするもの、と誤解してるとは思わず、昼休みの1時間だけなの?ひょっとしてオリ主の手抜きか!?と疑って掛かってしまった。本人はオリ主達の誠意を疑った事を後悔しているが、三浦優美子が言ったように周りの人間に確認するのを怠ったオリ主がだいたい全部悪い。
この後めちゃくちゃ家族会議をした後、テンプレな思春期の娘と父親の喧嘩を繰り広げ、父親をノックアウトした。
巨乳だが感度が良いらしい?最近夜のハッスル率は高め
無自覚にSっ気が出てきた

・平塚静
基本的には人前ではオリ主とは生徒と教師、の関係がバレないような努力をしている。
だが所詮ちゃんと見てる人にはバレる程度の、レベル。それでもオリ主の言い付けは結構しっかり守る方である。
オリ主の徹底した食事管理と日々の性的調教、更に何気ない波紋マッサージによりほぼ全身改造みたいな勢いで身体の健康を取り戻しつつ、ついでに肉体年齢を10歳ほどマイナスさせられたのだが、本人はオリ主のお陰で最近肌ツヤがいいなー?くらいにしか思ってないぞ!
運命の日を翌日に控えながら、目の前でオリ主が女と2人で遊ぶ約束した事でブチ切れた。例えオリ主の方が嫌そうな雰囲気だと理解していても、例え周りの人間が自分たちの関係を知らないからだとしても、オリ主と自分以外の女が触れ合ったりするのは我慢できない。
なお本人がことある事にオリ主の血をちゅるちゅるしてるのは、吸血鬼だったりその血族だったりする訳ではない。
平塚静はオリ主にバブみを感じている!
そして母乳とは本来血液から作られている!
なので血液を飲むと鎮静作用があるという話があってだね?
自分のものを誰かに盗られたり奪われたり、もしくは勝手に離れていったりする事にトラウマがたくさんあるので、オリ主には毎日マーキングをしてるし、描写がないだけで実は学校でも結構な頻度でオリ主とLINEをしてる。2時間以上返信や既読がないと爆撃を始めてしまうので注意が必要だぞ!

・三浦優美子
オリ主達の学校において女子トップカースト。
オリ主の素顔を見た事がある、というのはかなりのレア体験で、現在の総武校でオリ主の素顔を知っているのは、奉仕部の顧問を含めた3人と、川崎沙希の合計4人しか居ない、と思われていたのだが、平然と自分も知ってるぞ!とぶっ込んできた剛の者。
オリ主とは気の置けない関係なので、なんの説明も無しに自分のプランにオリ主を巻き込んだりする。だが、それをしてもオリ主は怒らないと知っているからこそであり、信頼の裏返しでもある。
一応オリ主が誰の想い人か理解してるので、本人の前で抱きつく様な真似はしない。しかし頭を撫でてもらうだけでもあんま変わらない、ということは考えてない。
何気なくちゃんと相手を見ている子なので、オリ主が誰と何をしてるのか何となく知っている。だが、誰にも言う気は無いらしい。
雪ノ下と違って努力でスタイルを維持しているので、オリ主の手料理に嵌らない様に気を付けている。
由比ヶ浜が異常なだけでかなりの巨乳。感度〇
まだまだノーマル

・川崎沙希
チョロくない女の子。
美人で身長も高く、スタイルもいい。おまけに長髪。これで青髪でなければオリ主を落としてた可能性もあった。
何気にオリ主と家族ぐるみで付き合いがあるが、まさか自分の父親が自分よりオリ主と仲がいいとは思ってない。
家では劇的にラフな格好をするタイプ。
何故かオリ主と会話するだけで体温上昇し、何かお腹の奥がキュンキュンし始めてしまうらしいがチョロくないので気の所為である。
なので当然心の中でオリ主の悪い所をたくさん上げられるし、その後その悪い所全てフォローした上で良いところたくさん見つけちゃうけどもちろんチョロくないので全部気の所為である。
考え過ぎると妹の寝てる横で声を押し殺してハッスルする羽目になるので頑張って我慢してる。
オリ主のお裾分けは育ち盛りの弟を差し置いて1番食べる。それはもうよく食べる。なのでお昼にはオリ主とのランチが出来て内心かなりウキウキ。しかし他の奉仕部の面々はその事にイラつき気味。
一部分が服に擦れただけでかなり感じるらしい。感度極大。

・川崎京華
かわさいけいか、と読む。通称けーちゃんもしくはけーちん。
妹系ちびっ子の代表的存在。
オリ主には甘え上手。
オリ主は妹が欲しかったのでそれはそれはもう甘やかしている。
この作品における1番の癒し枠

・川崎大志
最近は様々な憂いが無くなったので色々ご機嫌。
実は川崎家にオリ主からのお裾分けが始まったのは、彼が比企谷小町より聞き出したオリ主の料理の話を聞いて、メールで頼んだことから始まった。
しかし姉が自分より食べるので最近は仲良く取り合いをしている。なお白兵戦は姉の方が強い模様。
姉の気持ちを何となく理解し、オリ主が曲解すると理解した上でそれとなく姉との距離が縮まれば、と密かにオリ主に話を通したりする曲者。
軍師タイプ。

・キラキラ
キラキラしてる。
オリ主のイリュージョンへの反応は一際良い。
三浦優美子の狙いに気付いた上で無視している。
どちゃクソイケメン

・戸塚彩加
これから5年の月日を掛けてとうとう波動球を習得し、更にそこから2年を掛けて波動球を完全にマスター。そこからプロのテニスプレイヤーとして本格的に活動を始める。
周りの人間は遅咲きすぎる、と笑ったが、その剛球を誰も止められないまま世界を制してしまった彼を見ると皆が口を噤んだ。
7年の歳月が経ったあとでも殆ど容姿に変化は無く、世界大会出場当初の呼び名は「奇跡の妖精」だったが、波動球が知れ渡った後につけられた呼び名は「イカれた小さな大砲(リトルクレイジーキャノン)」。
あまりに強過ぎて誰も勝負にならないので国際的にテニスでの波動球使用が禁止されそうになったが、もさついた何か、と呼ばれる謎の悪夢によってそんな動きは無かったことになり、35歳で利き腕を負傷するまでは世界1位を保持し続けた日本テニス会に名を残した伝説的テニスプレイヤー……に、なると思われる。

・榊式ダイエット
恐ろしいことにオリ主の手にかかると驚く程効果的に体重が落ちる。その効果は最大で1日1kg。つまりひと月で30kg落ちる。
ただしその効果を最大限発揮するには、オリ主と一定期間離れることなく過ごす必要がある。
それさえ乗り越えられるなら、受けるコースにもよるが脂肪を落とす基本的なダイエット効果だけでなく、肉体年齢の大幅な若返りや体の健康状態の完全な改善、おまけに身体機能の強化効果まで可能であり、世の中の美容に目がないスーパーセレブ達に攫われそうなほど劇的な効果がある。
後にこれの施術を巡って女たちの血を血で洗う血みどろの戦いが勃発したとかしないとか。

・由比ヶ浜家の人々
この後めちゃくちゃ家族会議したあと、父親は心に大きなダメージを受けた。母親はあらあら、と超上機嫌になった。
その後オリ主の料理を食べてだいたい全部どうでも良くなって仲直りした。母親の方は更にオリ主に興味が湧いてしまったらしい。毎日娘にオリ主を連れてこい、と告げる日々だとか何とか。なお、娘の方は何となく嫌な予感を感じて全力で拒否してるらしい。


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