夢が醒めたなら (ペン皇)
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この少年最弱につき

 これは、後の文献にて『荒々しくも眩しかった数世紀』と呼ばれた時代に生きた

  

 狩人たちの物語である

 

 - - - - - -

 

 大陸西部に位置するアルコリス地方、その一角にある村。

 その村はかつては伝説的なハンターであり、現代におけるハンター業の基礎を作り上げた英雄がおさめる村で、今尚その名声に惹かれてハンター達が集う。

 村の名を、【ココット村】という。

 

 そして、ここにもひとり年若いハンターがいた。

 

 「たぁ!!」

 

 少年はあらかじめ抜刀していた太刀を大きく上に振りかぶり、気合いと共に剣を相手に叩きつけた。

 相手は悲鳴を上げる間もなく絶命する。

 

 「おっしゃあ!一匹目!どんなもんだ!シマシマ野郎!」

 

 少年は再び太刀を構え、切っ先を眼前にいるランポスにむける。

 森林地帯を中心に幅広い範囲に生息する小型の鳥竜種。

 

 ドスランポスと呼ばれる大型化した個体をリーダーとした群れを作り、集団生活を送る習性を持つ。

 環境への適応力が高く、様々な地域で活動する事が可能で、各地には環境により適した進化を遂げた亜種が存在する。

 

 細身の体躯に鮮やかな青と黒のストライプ模様が特徴で一見すると目立ちそうな体色だが、環境に適応した進化の結果であり、立派な保護色である。

 

 ほんの少しの沈黙を経て、少年は先ほどの気合いを乗せた斬撃を次の獲物へと放つ。

 

 しかし、相手もバカではない、そのあまりに単純明快な動きを軽く躱し少年と距離をとる。

 

 「くっそ!もう一回!……たぁッブフォ!?!?」

 

 今しがた距離を取られたばかりの相手に、少年は先ほどより前のめりに体を踏み出そうとした瞬間、思わぬ方向から衝撃を与えられ、その重さに耐えられず少年は横に吹っ飛ばされた。

 

 「いつつ……コイツよくも邪魔しやが…って……?」

 

 少年は自分を吹き飛ばした相手をにらみ吠えたが、よく周りを見れば先ほどよりも数を増えているではないか。

 

 「…はっ!2匹も4匹も変わんねぇよ!未来のG級ハンター、ティオさまをなめるなよ!!」

 

 少年もといいティオはランポスの群れに体をねじ込ませる。

 「はああああ!!!」

 最初の一撃とは比べものにならないぐらいの気合いと踏み込みをくわえ、ティオは太刀を弧を描くように振るった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 「じゃ、これで受付終了です」

 

 「あ、はい」

 

 ティオはクエストに失敗した。

 

 「おいおい、あいつまた負けて帰って来やがったぜ」

 「勝てないなら、チームでも組めばいいのに」

 「いや~小型モンスターの狩猟もままならないヤツ誰も組んでくれね~って」

 「だね!あんなヨエー奴となんて誰も狩猟に出たがらないよ!」

 

 ここはココット村のギルド出張所その酒場、一仕事を終えて酒をかっくらっていた4人の男達は酔いが回っているせいか、少々乱暴な言葉を大きな声で話す。

 

 「……ぐぅぅぅぅ!!!やい!てめぇら!ずいぶん好き勝手いってくれるじゃねえか!」

 「あ~?だって事実だろぉ?」

 「そ~そ~悪口じゃねえ、一般人が狩り場に紛れ込んで死にかけたって、俺達はそんな哀れなパンピーを嘆いてやってるのさ」

  

 男達は、ほんのり赤くなった顔をニヤつかせティオの反応を伺う、それはまるでいじめられっ子が泣き出すのを待つガキ大将のような意地のわるい目つきだ。

 ここまで売られては買うしかない、ティオは4人が座るテーブルに向かって歩き出そうとした。

 

 「はい、ケンカはやめて下さいなー」

 

 後ろから伸びてきた手は、ティオの右耳をしっかりつまむ。

 掴まれた本人は痛みと前に進もうとした反動で強制的に半歩後退をさせられた。

 

 「おいおい、なにしてくれてんだドリス、せっかくソイツが来てくれてたのによ」

 

 「まあまあ、わざわざこんな所で争わなくたっていいじゃありませんか、ハンターなら狩りの腕で競っていただきたいですわ」

 

 ドリスと呼ばれたその女性は、青い衣装を着こなしたギルドガールで普段はギルドに寄せられる依頼の管理を請け負っているが、いまはカウンター越しにティオを力尽くで引き留めている。

 

 「そうだぜドリス!あいつらワザと俺にケンカ売って来やがったんだ!ここでいかなきゃ……いででで!!?」

 

 ドリスは引っ張っていた耳をさらに上に引き上げて自分の口の近くまで持って行く。

 

 「あんな安い挑発に乗っちゃだめだよ仲裁するボクの苦労も考えて、それに君もハンターなら相手をちゃんと見極めなきゃダメだよ」

 

 「ぐ……ごめん、ちょっと熱くなりすぎた」

 

 「ふふ、えらいえらい」

 声はあくまでティオにだけ聞こえるように囁く。

 

 「あ?なに話してやがんだ~?」

 「いいえ~、それよりどうです?お仕事の依頼ならたくさんありますが受注なさいますか?」

 「いやおれはパス、今日はかえって寝るわ・・・じゃあなクソガキ」

 「はい、またの起こしをお待ちしております~」

 

 4人の男達は、先ほどのやりとりなど無かったかのように気だるげに立ち上がり酒場をあとにした。

 

 「すげぇな……どうやったらそんな高い声出せるんだ?」

 「まぁ仕事だからね、ボクは正直この声と喋り方は恥ずかしくてイヤなんだけどさ」

 

 ドリスは困ったような笑顔を作りながら、制服の頭巾をいじる。

 

 「それはそうと、ティオこれからどうするのさ?もう契約金も払えないぐらいお金無くなってるよね?」

 「ぐ……アレ行くよツアーに……鉱石でも採ってきてそれを売ってまたクエストを受けるよ……」

 「まぁそれしかないよね」

 

 ツアー、または素材ツアー、採取ツアーと呼ばれる契約金は一切かからないがその代わり報酬も出ないクエストである。

 各ギルドが管理するフィールドごとにその配置されたクエストで、名前の通り狩り場でしか手に入らない品を安全に採取するためのいわば新米ハンター達への救済措置だ。

 

 しかし、これはあくまで新人の為のものであり、ティオのように金が底をついたので受注します、というような人は中々いない。

 

 「善は急げだ!ドリス!次のツアーはいつなんだ?」

 「あー…いいにくいんだけど、もうそろそろ行きの便が出る頃だよ」

 「な!?…こんなことしてる場合じゃねえや!急いで支度してくるよ!俺の名前で受注しといてくれ!」

 

 いうや否や、ティオはピッケルなどの道具をそろえる為に酒場を後にした。

 

 「あ、ちょっと!……もう、慌ただしいなぁ」

 「すまない、このクエスト間に合うか?」

 

 ドリスが溜息をついていると、ティオと行き違うように別のハンターがクエストカウンターの前に立った。

 

 「はい、承ります…あれ?このクエストって……」

 

 これは森丘の採取ツアー、ティオが受付をお願いしていたアレである。

 

 「失礼ですが、受注するクエストを間違えてませんか?」

 

 目の前のハンターにドリスは訝しげな目を向ける。

 男は、大怪鳥イャンクックの素材から作られるクックシリーズを胴体と頭を除く部位に身にまとっていた、使われている素材こそある程度のハンターなら珍しくもないものだが、形状、鱗の厚さ、色つやから見ておそらく、Sシリーズ、つまり目の前のハンターは上位ハンターだということである。

 

 ドリスはもう一度そのハンターを見定める。

 

 上位ハンター、それは星の数ほどいる狩人達の中のほんの一握りの人間しか到達できない領域であり、そのレベルになると名指しの依頼を任されたりする、そんな傑物がなぜこんなクエストを受けようというのか?

 

 「いや今回はそれでいいんだ、連れとちょっとこの辺を見て回りたくてな」

 「そうでしたか!…あーでも、ちょっと問題がありまして~……」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 「レイ!ちょっと野暮用が出来た!ツアーに行ってくるぜ!」

 「はいちょっとまった」

 

 ティオは家に帰るやいなや、ピッケル、虫網、その他をありったけ持ってまた部屋を出ようとした。

 しかし、そこに待ての合図がかかる。

 

 号令をかけたのは、ティオと同じ家に暮らす少女、名前はレイ・ファブニール、肩の少し上ほどまで伸びたハチミツのような滑らかな色をした髪と、紅い二つの双眸と整った顔立ちが合わさり、まるで絵本の登場人物のような、どこか浮き世離れした雰囲気を纏っている。

 

 「止めてくれるなレイ!俺はどーしてもやらなきゃならないんだ!」

 「いや、そういうのいいから……ティオ、まさかとは思うけど失敗したんじゃないでしょうね?」

 「……」

 「こっち見てティオ…ねえ聞いてる?」

 「ごめん!今回だけだから!」

 

 それだけを言い残し、ティオは全速力で家を飛び出す。

 

 「コラァ!毎回それじゃない!」

 

 逃げ出したティオを追いかけるが、足の速さでかなうわけもなく、気付いたときにはティオは遙か遠方へと走り去ってしまっていた。

 

 「も~!ホントあり得ないんですけど!」

 

 レイは悔しさのあまり地団駄を踏んでいると、ある人物が目に入る。

 

 後ろで縛った黒い髪と細い目から感じるオーラが、周りの人とは一線を画していた。

 ただ、レイが気になったのはそこではなく、そんなただならぬ雰囲気を持つ目の前の人物の挙動が少し慌ただしいのだ、先ほどから同じ道を行ったり来たり、開いてるのか開いてないのかよく分からないが目をソワソワさせているのだけは解る。

 

 「あぁどうしましょ……は!」

 (ヤバイ…)

 

 目が合ってしまった、やっぱりちゃんと眼球は存在していたようだ。

 

 「ね、ねぇ!アナタはここの村の子!?」

 「はい、まぁ一応は…」

 

 ものすごい勢いで近づいてこられてしまい、レイに逃げる隙は一切与えてくれなかった。

 

 「この村には、あたしともう一人で来たんだけど、ちょっとはぐれちゃって、落ち合う場所はこの村のギルド出張所なんだけど、肝心の場所が解らなくて……」

 「あーそれなら解りますよ、一緒に来ますか?……えっと」

 

 「そういえばまだいってなかったわね、あたしの名前はクルシュ、クルシュ・エスカノーラ、ごめんなさいね名乗りもせずに」

 「いえ、気にしませんから、私はレイです、ギルドの出張所でしたよね?私もちょうど行く予定が合ったので一緒に行きましょう」

 「それって、さっき走って行った子と関係ある?」

 「同じ顔を浮かべてるなら、たぶん」

 

 「ふふ…仲良しなのね~、でも血は繋がって無さそうだけど……未来の旦那様とか?」

 「まさか、アレはなんというか…出来の悪い弟?みたいな者ですから」

 「弟かぁ……わたしも居るの!そっちは出来が良すぎてわたしが困っちゃうぐらいだけど」

 「へぇそうなんですか」

 どうもこのクルシュという女性は見た目に反してけっこうおしゃべりなようだ。

 

 出張所までの道のりはそう遠くない、村の端っこに設置されているとはいえ、村自体が小さいからである。

 なので、二人が5分も歩けばギルドの入り口当たりまですぐに着く、今まさに出張所の入り口をくぐろうとしたとき二種類の怒号が響き渡ってきた。

 

レイは少しだけ嫌な予感がした、このまま出張所に足を踏み入れれば何かとてつもないことが起こりそうな、そんな予感がしたからだ。

 




どうも!ペン皇です!
モンハンの世界観が大好きでついつい書いてしまいました!

如何だったでしょうか?

長すぎたかな、それとも短すぎたかな?

右も左も判らないズブの素人ですが、いろいろ試行錯誤していくつもりなので、気になる点があればコメントの方ドンドンお願いします!


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その風は安堵か焦燥か

一旦は区切りがつきましたね~。

取りあえず、どうぞ!


 「いや、だから!なんで空きがあるのに受注しちゃいけないんだよ!」

 「何回いわせんだよガキンチョ!もう一人先客が居るんだっていってんだろ!」

 「いねぇじゃん!」

 「後から来んだよ!」

 

 そこには、黒い髪に深い蒼色の目を持ち、全身にレザーシリーズ一式を身にまとい背中には太刀、その名も【骨】を背負う少年ティオがいた、ちなみに彼がふざけてこんな武器を持っているわけではない、【骨】はれっきとした武器である。

 そして、もう一人の男はクックSシリーズを手足にだけ装着し背中には、なにやら珍しい素材で作られた黒い太刀を携えていた。

 

 この如何にもな素人と玄人な二人が真っ向から言い争いをしており、それをなだめようとしていた青い衣装のギルドガール、ドリスはギルドの入り口にいた人影を見つけた。

 

 「おぉ!良いところに!レイちゃーん!」

 

 ティオがドリスが向いていた方向に目を向けると、そこには呆れてものも言えないといった風の見慣れた目つきが自分を刺している。

 

 「おい、お連れさんが迎えに来てくれたみたいだぜ、サッサと帰んな」

 

 クック男は、手をヒラヒラとさせながら向こうへ行けの合図を送る。

 

 「はっ、関係ないね!オレはこの素材ツアーを受注するんだよ!」

 「しなくていいわよ」

 そこにはいつの間に接近したのか、ティオの受注用紙を取り上げたレイがいた。

 

 「ウチのが迷惑かけたみたいで申し訳ありません…家に帰ったらキツく言いつけときますから」

 「物わかりの良いお嬢さんだな、お前、ちっとはこの嬢ちゃん見習うこったな」

 「レイ!それを返せって!今から素材ツアーに行かなきゃならないんだって!」

 「受付の姉ちゃんもいってんだろ、定員オーバーだって」

 「それはあんたの居もしない先客とやらだろって!」

 「バーカ、もう来たよ…ほれ」

 

 男がアゴでティオの後ろ側を指さす、それに釣られて振り向くと、開いてるのか開いてないのかよく分からない細い目の女性が立っていた。

 クック男とは色違いの装備と同じ防具の付け方を見れば、その女性が男の同伴者なことは一目瞭然だった。

 

 「ま、そういうこった諦めなガキンチョ」

 

 男は勝ち誇ったようにしたり顔を向けてきた、実に不愉快である。

 

 「ほれクルシュ、お前の用紙だ、最後の一名だったんだぜ」

 「あ~それで言い争ってたってことね、キミお名前は?」

 「え、ティオだけど…」

 

 クルシュと呼ばれた女ハンターは、そっか~とだけいいながら用紙を書き終え、カウンターにいる受付嬢ドリスに提出した。

 

 「はい、じゃあ承りまし…あれ?」

 

 その用紙には、クック男の名前とティオの名前が記載されていた。

 

 「じゃあねそういうことだからワタシはこの子に村を案内してもらうんで~、二人は、素材ツアーにいってらっしゃ~い!」

 

 女ハンタークルシュはレイの腕を取りギルドの出入り口へと向かっていった。

 

 「え?」

 理解が追いつかないティオ。

 

 「え?」

 困惑するレイ。

 

 「え?」

 唖然とするクック男

 

 三者三様の困惑した声は、ギルドの喧噪に溶けて消えていったのだった…。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 ハンター達を狩り場へ送る荷台は重い空気をまとっていた。

 

 その原因は荷台の席に座る2人のハンターである。

 片方は新米丸出しの少年ティオ、もう一方はクックSシリーズを手足と腰だけに装備したクック男、2人が互いに敵意を向けながら黙っているものだから、周りにいたハンター達も押し黙ってしまっていた。

 

 車輪が小石を噛む音だけが木霊する荷台の中、長い沈黙を破ったのはティオであった。

 

 「なあ、アンタどうして素材ツアーなんかに着いてきたんだ?見た感じ金に困ってるようには見えないけど」

 「アンタじゃねえ、レダンだ“レダン・エスカノーラ”わかったかガキ」

 「ガキじゃねえ、ティオだ」

 「そうか」

 

 またしても、沈黙が始まるのか、周りに座るハンター達が辟易としたとき、荷台が止まる。

 

 「皆さん、着きましたよ~」

 

 やっとか、ひやひやした、サッサと始めちまおう、重苦しい雰囲気から解放された彼らは我先にと荷台を下りる。

 

 ティオもそれに続けとかけだした瞬間、ものすごい力で荷台に引き戻された。

 レダン、そう名乗った男が、ティオの首筋を掴み後ろに思いっきり引っ張ったのである。

 

 「いってぇ…おい!なにしやがる!!」

 「お前こそなにやってんだ?」

 「は?なにって狩り場に出ようとしてんじゃん?」

 「そんな実力でか?自分から死にに行くようなもんだぜ」

 「おいおい、アンタに俺の実力が判るってのか?」

 「そりゃ全部はわかんねえさ、けどランポス程度に苦戦して死にかけてるって事ぐらいはわかる」

 「え!?」

 

 正直驚いた、この男は会って間もない自分の実力を見抜き、なにに手間取っているかまでも明確に言い当ててしまった。

 

 「は、はん…はったりだね、そりゃ一番出会う確率が高いモンスターをいえば当たるだろうぜ」

 「そのレザーシリーズ、肉食獣の素材は一切使われてない、皆が最初に使う防具だ」

 「?」

 「その手の防具はある程度モンスターが狩れれば真っ先におさらばするんだ、なのにお前のその防具の使い込みようはなんだ?ただの愛着じゃねえ修繕を繰り返したものだ」

 

 ティオが大人しく聞いているのが楽しくなったのか、レダンはそれにだ、と言葉を続ける。

 

 「その直し方は、地面や岩で擦れたものじゃない、鋭利な爪で割かれたもんだ、それも傷の深さからしてほぼ同一の個体で全身を囲むような傷の付き方、そこまで来ればどんなアホでもわかるってもんだ」

 「だ、だとしても!それはアンタには関係ないことだろうが!」

 

 この男のいったことは正しくその通りだった、それでもティオは何か反論してやらねば気が済まなかった、その結果自分の実力を晒そうと食い下がるしかなかった。

 

 「関係大ありだアホ…、思い出してみろあの依頼書にどういう風に名前が書いてあったよ」

 「…俺とアンタの名前」

 「そうだ、オレらはペアだ、もし仮にお前がのこのこ狩り場に出て死んでみろ、死亡報告書は誰が書く?そんな、面倒なことをなんでオレがやらなきゃならないんだ」

 「……アンタの言い分は、実力が無いから狩り場に出るなってことだよな?なら先に行った連中は良いのかよ、あいつらだって俺とほぼ変わんねえだろ」

 「はぁ~……」

 

 レダンは乱雑に頭を掻き床に溜息を吐く、まるで判ってないなこいつは、とでも言いたげな露骨なリアクションはティオを余計に苛立たせる。

 

 「お前さんにいっても仕方ないけどな、荷台に乗ってたハンターのウチ一人は結構な実力者だぞ、恐らく残りはそいつの弟子かなんかだろうぜ」

 

 ---お前、全然周りが見えてないな

 

 ティオは完全に口を閉じてしまう。

 自分の実力のなさを見抜かれた上に、焦りから来る視野の狭まり方、これではまたいつも通りクエストに失敗してしまう、レダンのいった言葉が深く心に刺さる。

 

 沈黙していたからだろうか?

 ふと、風に乗ってある声がティオの耳に入る。

 

 「悲鳴?」

 

 確証はない、ただ微かにモンスターの声とは違う震える声が聞こえた気がした。

 

 バカだと罵られるだろう、勘違いに終わるかも知れない、けれどもこのティオという少年はそういったことを見過ごすことが出来ない人間なのだ。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 時間は少し戻って、ココット村。

 

 ここに、二人の女性がいる。

 

 一人は、幼いながらも整った顔立ちの少女レイ。

 もう一人は、クックU装備の女性ハンター、クルシュ。

 

 彼女たちを見て親子と勘違いする人も居るかも知れない、もちろん容姿ではなくクルシュとレイの距離感が妙に近いからである。

 というか、一方的にクルシュがグイグイ詰め寄っている。

 

 「あの~」

 「ん~?どうしたの?」

 

 クルシュの両手には、ココットライスをパン代わりにしたホットドッグやサシミウオの串焼きその他いろいろな食べ物が握られており、同じものがレイにも握られていた。

 

 ティオとレダンがクエストに向かった後、クルシュはレイに村の案内を頼んでいて、代金代わりにお店の商品を手渡していったのだ。

 

 「クルシュさんのお連れの方って、旦那様か何かでしょうか?」

 「ええそうよ、レダンは私の夫!あ、敬語じゃなくてもいいよ?さん付けもね?」

 「まぁ、そこは追々ということで…」

 

 レイは、この女ハンターに訪ねたいことがあった。

 

 「どうして、旦那様とティオをクエストに同行させたんでしょうか?」

 「…レダンのこと不安?」

 「いえ、そこは別に、素人の私が見ても判るぐらいお二人が強いことは理解出来ます」

 

 そう、この人とあの男の人は強い、村に駐在するハンターやここを訪ねてくる街のハンター達と見比べても頭何個分も飛び抜けている。

 問題なのはそこではなく。

 

 「私がいえた義理でもありませんが、ティオは弱いです」

 

 「ティオがクエストの足を引っ張っちゃうのは、目に見えてます、もしティオが何かをやらかして相方さんに何かあったとき、私は責任を負いかねます……」

 「大丈夫だいじょーぶ!レダンは一人新人が増えたからってヘマするような人じゃないから!」

 

 まるで、疑うことなく夫のことを信じるクルシュにレイは少し面食らった。

 

 「信用してるんですね」

 「まーね!こんな仕事だもんパートナーは第一に信頼しなくっちゃ!……レイちゃんはティオ君のことあんまり信じてないの?」

 「いえ、私が気になるのは強さ云々じゃなくて、ティオの性格面といいますか」

 「?」

 

 それは、今よりもっと前、二人がこの村に住み始めた頃、ティオはツアーや採取クエストで小銭を稼ぎ、レイはお店の手伝いやティオが集めてきた素材などを売って生活費を稼いでいた。

 

 ティオがいつものように採取に向かった後、普通は3日ほどすれば帰ってくるはずが、5日経っても帰ってこず、7日目にしてようやく帰還した、左腕の骨折と左肋骨にヒビ、その他打撲と擦り傷をお土産に。

 

 彼は命からがら帰って来たのだ、しかもその逃げ切った相手というのが、空の王者〈リオレウス〉である。

 

 「言い方が悪くなっちゃうけど、命があっただけでもすごいよティオ君」

 「ええ、本当に…」

 

 しかし、レイが不安を覚えたのはそこではなく。

 

 「ティオはいったんです、『行商の人は無事か』って」

 「それって…」

 「はい、ティオはクエスト中リオレウスに襲われている行商人達を逃がすために、囮になったんです、一般のハンターでも勝てるか怪しい化け物に、一人で立ち向かった、それも見ず知らずの商人達のために」

 

 見捨てろとは言わない、しかし助けを呼んでからでも遅くはなかったはず。

 本人曰く、そんなことしてたら皆丸焦げになっていたらしい。

 

 「ティオは…そういう所があるんです、人のためなら自分の犠牲もいとわない所が」

 「なるほどねぇ…うん、でもそれなら尚更だいじょーぶ!」

 「え?」

 「レダンが居るならね…さ!次はあのお店いこう!」

 「あ、ちょと!」

 

 クルシュはレイの手を取り甘味処に向かう。

 レイは、一抹どころではない不安を覚えながら、仕方なくクルシュについていく。

 この人はさっきの話を聞いていたのだろうか?レダンが居るから大丈夫とは?そもそもティオは無事に帰ってこれるのか?

 

 頭の中がグルグルと回るレイに春の生暖かい風が吹く。

 その心地よさが、より一層彼女を不安にさせていくのだった。

 




はい、というわけで第二話如何だったでしょうか?

お恥ずかしい限りですが、多分ここからかなり不定期になるかと思います…

ですが!遅筆でも必ず完結させて見せます!

どうかよしなに!


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夢の始まり①

今回は、ココット待機組の会話は無しです!

その代わり、主人公のことを少し掘り下げてみました!

取りあえずどうぞ!


 行動は早かった。

 気付いたときにはベースキャンプを抜けエリア1にある坂道を下っていた、荷台に腰掛けていたレダンの怒号はもう聞こえない。

 

 「やっぱり、なんか変だ・・・」

 

 普段、生活の糧になっていただいているアプトノス達の姿が見当たらない。

 そればかりか、川の向こう側にすら姿形がない。

 

 ティオはエリア1の脇にある段差を越えて森に入る。

 

 「!・・・近い!」

 

 やはり自分が聞いた声は間違いではなかった。

 ティオは視界にランゴスタの群れを捕らえる。

 

 死肉をむさぼるかのような黄色い群れの中心部に居たのは・・・。

 

 

 「こ、殺されてしまうニャ~ッ!?」

 

 

 野生のアイルーだった。

 

 言わずと知れた獣人族〈アイルー〉彼らは、共に狩りをする『オトモアイルー』であったり、ときに商売仲間だったりと、人間と密な関係であり、大概は信頼の置けるパートナーである。

 ちなみに、いま襲われているのは、人里離れた狩り場で暮らす野良のアイルーだ。

 

 「太刀は・・・危ないから」

 

 ティオは腰に着けたハンターナイフを抜き、ランゴスタに奇襲をしかける。

 

 まずは、力一杯ナイフを斜めに振りぬき、巨虫をはたき落とす。

 そのまま反す刃で、二匹目を斜め上に叩き切る。

 

 しかし、流石のランゴスタも反撃とばかりに、ティオの頭部めがけて硬い歯を突き立てるが、すんでの所で回避が間に合う。

 

 「お、今日は調子よさげだな!」

 

 ティオは自分の体の軽やかさを自画自賛する。

 

 そんなティオに挑戦するかのように、ランゴスタは動きに緩急を付けながら、腹部のゴツい針を刺しに来るが、これもギリギリで体を反らしいなす。

 

 「そこ!」

 

 不発に終わった針刺しはランゴスタ自身に大きな隙を与える。

 そこを見逃さず、ティオはハンターナイフをランゴスタに突き刺す。

 

 「お返しってな……お!やっぱ調子良いじゃん俺!」

 

 ベースキャンプでは、むかつく同行者にくそみそに酷評されたが、終わってみれば結果はこれだ。

 

 群がるモンスターを無傷で撃破し、怯えるアイルーを助けられた。

 自分はきっとスランプだったのだ、ここからドンドン調子も右肩上がりになるに違いない。

 

 「きっとそうだ……」

 「ハンターさん!後ろニャ!」

 

 確認する前に、衝撃が来た。

 なにか冷たいものが背中に触れる感触、痛いと思う前に体が、正確には全身の筋肉が強制的に硬くなり、体の自由が奪われる。

 

 この状態は麻痺毒に体が侵されたときとソックリである。

 

 (あー、やっちゃった……)

 

 意識だけはハッキリしているのに体だけがいうことを聞かない。

 

 無様だな、っとティオは心の中で毒づく、そういえばあのアイルーは逃げられただろうか?

 せめて、無事であって欲しい。

 そんな事を考えていると、コン……っと金属でも岩でもない、どちらかというと木を叩いたときのような、そんなくぐもった音が後ろで聞こえた。

 直後、不気味な断末魔を上げながら、ランゴスタが地面に伏した。

 

 「ほら、いわんこっちゃねぇ」

 

 それは、ティオがいま一番聞きたくない男の声だった。

 ベースキャンプで自分を罵ってきたクック装備の男、レダンの声だ。

 

 「ほれ」

 

 軽い言葉とは裏腹に、重い一撃がティオのお腹に突き刺さる。

 

 「ぐべッ!」

 

 ごろんごろんと、地面を転がったティオの体は不思議と麻痺毒から解放されていた。

 

 「……ありがとう」

 感謝や恥ずかしさ、色々なものを凝縮した声で礼をのべる。

 

 「いや、感謝には及ばねえよ、さっきもいったけど申告書書くのダルイしな」

 「……ッ」

 

 もちろん言い返せるわけがない、さっきのは確実に死んでいた、この男が助けに来なければ、ティオはランゴスタ達の養分になっていたことだろう。

 

 「……なあ」

 「?」

 ティオが視線を上げると、指を三本立てていた。

 

 「救助料か?悪いけど持ち合わせはないんだ」

 「はっ倒すぞガキンチョ、そうじゃなくて3つ聞きたいことがある」

 

 「1つめ、なんであのアイルーを助けた?」

 「なんでって、アイルーが危なかったからだろ、見殺しになんか出来ないね」

 「その結果、自分が死にかけてもか?」

 「見捨てるよりは良いだろ」

 「……そうか」

 

 レダンは、薬指を曲げ、指を2の形にする。

 

 「2つめ、なんでモンスターと戦ってるときバカみたいに前のめりでやり合うんだ?全部ギリギリだったぞ」

 「バ、バカみたい?」

 「実際そうだろ、命のやりとりしてんだぜ?自分から危険に近づいてどうするよ」

 「それの方がいけるかがするから??」

 「お前なぁ」

 「いや、ホントなんだって!」

 

 ティオは少し前の記憶を呼び覚ましながら語る。

 

 それは、ティオが採取クエストに出かけたさい、大型の飛竜であるリオレウスと対峙したときのこと、後ろに行商人達が居るので逃げるわけにはいかず、だから敢えてギリギリまで迫り注意を引きながら戦ったら、いつも以上に動けてしまい、それ以降前のめりが癖になってしまっていた、そのことをレダンに話す。

 

 「まぁ、結局勝てなかったんだけどな?」

 「ふ~ん……で、実際何でそうなったんだ?」

 いまの話をすべて無かったことのようにレダンは強引に話を二つ目の質問の冒頭に戻してきた。

 

 「いや!マジなんだって!?」

 「飛竜舐めすぎだろお前……まぁいいや、3つめだ」

 

 この事には、あまり言及しないのか、レダンは人差し指を立たせ、質問する。

 

 「最後だ、お前はいま太刀を相棒にしてるみたいだけど、扱いは誰に教わった?正直まるでなってないぞ」

 

 一目、彼の戦い方を見れば当然湧く考えだ。

 太刀の構え方、重心、刃の向ける位置や足運び、それらすべてが、てんでダメなのである。

 一体なにをどう教えれば、こんなチグハグになるのか、レダンは逆に興味が湧いた。

 

 「誰って、誰にも教わってないけど?」

 「は?」

 

 レダンは目を見開く。

 

 「まてまて、最初は誰かしらに教わるもんだろ?」

 「いや?最初から一人だぜ」

 「えー……じゃあなにか?今のいままで、誰にもなにも教わらずにやってきたってのか」

 「しょうがねぇじゃん、誰も教えてくれねーし」

 「わかったわかった、じゃあ質問を変えるわ、なんで太刀を選んだんだ?ハンマーでもボウガン系でも良かっただろ」

 

 レダンは内容を変えて再度質問しなおした。

 

 「何でって」

 

 この問いに、ティオは間を置かずに答える。

 

 「一番かっこいいからだ!」

 

 なんとも子どもっぽく、それでいて単純明快な回答、別に斬撃がしたければ大剣でも片手剣でもいい、ガンナー系ならパーティーを組む人達からは引く手数多だろう。

 しかし、この少年ハンターは迷うことなく太刀という武器を選んだのだ、自分と同じ武器を。

 

 「バカだな」

 「なにをー!?……あ、そういえばもう一つ理由があった」

 「?」

 

 それは、ティオがココット村に来るよりずっと前、記憶もかなり薄れつつあるそんな昔、辺境にあった彼の村はモンスターに襲われた、駐在するハンターは全く役に立たず、絶体絶命かと思われた矢先、たまたま近くを通りかかったハンターに命を救われた、そのハンターが使っていた武器こそが太刀だったのだ。

 

 「ふーん……」

 「もっと興味持てよ!?」

 

 レダンは頭を掻きながら踵を返すと、ティオを見つめる。

 

 「なんだよ」

 「イヤ別に、さっさと帰るぞ」

 「げ……覚えてたのかよ……」

 「あったりめぇだろ、帰りの便もそう頻繁じゃねえんだぜ」

 「キノコ一本でも取っとかないと、レイにお小言いわれちまうよ、頼む!」

 

 両手を合わせて嘆願するティオを哀れに思ったのか、レダンは小さく息を吐く。

 

 「ちょっとだけな、その代わり丘の方には行くなよモンスターの動きが妙に活発だからな」

 「よっしゃ!すぐ戻ってくるぜ!」

 

 了承を得たティオは、全速力で森の中を駆けていく、一秒後には豆粒サイズになるほど遠くに行っていた。

 

 「俺も妙に甘いな……ま、その内戻ってくるだろ」

 

 レダンは、近くの木の根元に腰を下ろし、ティオの帰りを待つことにしたのだった。

 

 




2部構成になっちゃいましたね~

4000文字くらいが読みやすいと
どこぞの記事か何かで読んだので
それを基準に、書いてます!

次回で一応区切ります!


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夢の始まり②

やってしまいました……

何をやってしまったか、読んでいただければ……


 鬱蒼と木々が生い茂る森の一角。

 春の温かい風が、木の幹を抜けレダンの頬を撫でる。

 

 「……遅くね?」

 

 狩り場に来たのだから、何かしら採取して行きたいというティオの願いを聞き自分は地面に腰を下ろし休んでいたが、彼の帰りが妙に遅いのだ。

 

 「あのガキ、もしかして欲を掻いて丘の方面にいったんじゃ無いだろうなぁ」

 

 彼らが来た狩り場の名前は『森丘』マップ全体に広がる西側は木々がひしめき合う森のエリアで、反対の東側には見晴らしの良い悠久な丘が広がっており、場所によっては鉱石の採掘場があったり、小型のモンスターも多く、素材の質からいえば東側の方が質が良い。

 しかし、素材の溢れる潤沢な土地だからこそ、危険も多く、ティオには面倒ごとに巻き込まれないように西側だけ探索するように言い聞かせたのだが……。

 

 「よし、シバキ倒そう」

 

 レダンはエリアを移動することにした。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 「特産キノコ、ゲットォォォ!!」

 

 ここは森丘のエリア9、岩壁が南北に走る天然のトンネル、ここもエリア8と同様に日の光を遮るほどに木々がひしめき合う。

 

 そんな場所だからこそ、地面にはキノコが群生し、その中には『特産キノコ』と呼ばれる小さな高級品も眠っていたりする。

 

 「う~ん、有り難いけど一個だけじゃなぁ……」

 

 ティオは手元のキノコ達を見る。

 アオキノコ5個にニトロダケ4個、毒テングダケは6個、そして特産キノコが一つだけ、どうにも微妙なラインナップである。

 

 「いや待てよ?たしか薬草とアオキノコを上手い具合に調合すれば回復薬になるってレイがいってたな……」

 

 以前、レイが単体の素材は安くても、何かを掛け合わせれば売値は倍になったりするというようなことを話していたことをティオは思い出した。

 

 「回復薬かぁ、普段は高くて手が出せないもんなぁ……よし、まずは薬草だな!」

 

 ティオはさっそく薬草捜しに躍り出るが、すこし歩いたところでピタリと足を止める。

 

 「あれ?そういえば何処に生えてんだ?薬草って??」

 

 彼はハンター稼業を生業とする者としてあるまじき発言をしてしまう。

 そんな哀れな少年にどこからともなく助けの声が掛かる。

 

 「あ!さっきのハンターさんニャ!?」

 「お!無事だったか!」

 

 ティオに話しかけたのは、ランゴスタに襲われていたアイルーである。

 

 「はいニャ!おかげで無事死なずにすみましたのニャァ……あ、そういえばなにか捜してたのかニャ?」

 「あぁ、薬草をちょっとなー」

 「薬草ですかニャ?」

 

 すると、アイルーは少し考え込み、何かを思いついたのか垂らしていた頭を上げる。

 

 「そういえば、日当たりのいい丘の方面にたくさん生えてるのを見たことあるニャ!」

 「ホントか!……あーでもその方角は」

 

 ティオはさっきレダンから仰せつかった命令を思い出す。

 先ほども記述したとおり、丘側のエリアは採取できる素材が豊富ではあるが、その分危険も大いにはらんでいる。

 しかし、その魅力は危険を天秤にかけてもお釣りが来るほど魅力的なのである。

 

 (ちょっとぐらいなら大丈夫……だよな?)

 

 とうとう、ティオはいいつけを破る決心をしてしまう。

 

 「そーと決まれば、いざ出発!」

 「ニャ!」

 

 

 

 

 キョヨヨョォオォォッッッッ!!!

 

 

 

 

 咆哮が木霊する。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 「今のは!?」

 「お、恐らくモンスターの声ですニャ!」

 「わかってる!種類は判るか!?」

 「流石に判らないニャ……」

 

 それはそうだろう、向こうは野良のアイルーだ。

 それに引き替え、自分はハンターだ、本来なら自らで分析し判断しなければならないところである。

 想像以上に焦ってしまっているらしい。

 

 (落ち着かなきゃ)

 

 ティオは一旦冷静になるように努めた。

 

 「怒鳴って悪い……質問を変えるよ、声の正確な位置は判るか?」

 

 ポケットにしまっていたフィールドマップを広げアイルーに指示を仰ぐ。 

 

 「それならお任せニャ!……声の反響具合と方向から考えるに、恐らくここニャ!」

 

 彼が爪で指したのはエリア3、ティオ達のいるエリア9と隣接したエリアだ。

 

 「あぶね~、とりあえずベースキャンプに行こうぜ、来るだろ?」

 「はいですニャ!」

 

 ティオも流石に自分から向かっていくほど愚かではない。

 危険ならその場から去るぐらいの危機管理能力は備わっている。

 

 二人がエリアを南下しようとした時、ガサガサ!っと後方で草木が揺れる音がした。

 

 「モ、モンスターが来たニャ!?」

 「いや、これは……」

 

 比較的落ち着いていたこともありティオは目の前から来る物体をよく観察していた。

 

 「ひぃ……ひぃ!……っ」

 「ニャ?」

 「あれ?」

 

 茂みから飛び出してきたのは人間、それも自分と同様のハンターだった。

 それにこのハンターよく見ればこの狩り場に来るとき一緒に乗っていたハンター達の一人だ。

 

 「おい、大丈夫か?」

 「や、やめて!許してぇ!」

 

 このハンターは酷く混乱しているようで、ティオが話しかけると暴れてしまう。

 

 「オイってば!……お、ち、つ、け!!」

 

 ティオは錯乱するハンターの両腕を掴み、がら空きになった頭にヘットバットを打ち込む。

 

 「いったぁ!?!?」

 

 頭突きを打ち込まれたハンターは数十秒ほど転げ回り、痛みがマシになったのか涙目で二人を見る。

 

 「ら、乱暴です……」

 「緊急事態でしたからニャ……」

 

 ある程度、会話になってきたところでティオは先ほどから気になっていることを聞いてみることにした。

 

 「あんた、行きに一緒に竜車に乗ってた人だよな?……ほかの三人は?」

 「そうでした!あの!仲間を!?師匠は見ませんでしたか!?」

 「落ち着くニャ!ボクたち以外に人間はいなかったニャ!」

 

 ティオはエリア3に続く道をジッと見つめる。

 その先に確実にいる脅威を見定めるように。

 

 「君の仲間だけど、俺が探してくるよ」

 「え!?」

 「ダメだニャ!危険ニャ!?」

 「狩場で危険じゃない場所なんてないよ……それに、この子の仲間もまだ生きてるかもしれない」

 

 そう、可能性は0ではない、勿論1%以上では無いかもしれない。

 しかし、この少年は切り捨てる、という選択をひどく嫌う、とても愚かかもしれないがティオという人間はそういう人物なのだ。

 

 「ここを南下した先にベテランっぽいハンターがいる、その人に頼めばきっとベースキャンプまで安全に送り届けてくれるはずだ」

 

 ティオはそれだけ伝えると歩き始めた。

 

 「わ、私も行きます!」

 「ニャ!?」

 

 その提案は完全に予想外であったが、それほどおかしな考えではないかもしれない。

 なぜなら、見ず知らずの相手であるティオが危険を冒してまで仲間を探しに行ってくれるというのだ。

 パーティーのましてや付き合いの長い友人たちや師匠の帰りを自分はただ安全な場所で待っているだけというのはどうにも我慢ならない。

 そう考えても不思議ではない。

 

 「モンスターの種類は……経験が浅くて、師匠もその場にいなかったのでわからないですけど、行動パターンなら覚えてます!今度はうろたえませんから!」

 「……わかった」

 「いやいや!ダメニャよ!?」

 「いったって聞かないよ俺もそういうタイプだし……アイルーくんキミはさっき俺がいってたハンターを呼んできてくれ癪だけどあいつは多分かなり強いから、もしもの時にさ」

 「う~~……わかったニャ!けど、危なくなったらすぐ逃げるニャよ!?」

 

 アイルーは何度も念を押しながらより緑が深い森の方角に走っていった。

 

 「さて、時間も惜しいし、行くか!」

 「はい!」

 

 かくして、奇妙な即席コンビは、森を抜け、丘へと足を運んだ。

 一体なにが待ち受けているのか、仲間たちはどこに消えたのか。

 分からないことだらけではあるが、答えは必ずこの先にあるのだろう。

 

 




はい!というわけで続いちゃいました!!

4000文字前後を目安にしてるんですが
どうしても、越えてしまいそうだったので
今回、区切りのいいところで切らせていただきました!!

テンポよく行きたいなぁ


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夢の始まり③

ここから、連続投稿します

やっと、一段落ですかね!


 ヒュンッ!

 風とは違う空気を裂く鋭い音。

 

 これは、武器の中では特に薄刃の得物、太刀が振るわれたためである。

 男が振ったのは、黒刀【参ノ型】鍔の部分から角のようなパーツが伸び、十手のような独特の形状をした片刃剣で、主にカンタロスなどの虫を素材とした、切れ味重視の太刀だ。

 この太刀を振るったのはレダン・エスカノーラ、上位と呼ばれる一握りの人間にしか与えられない称号を持つ凄腕ハンターである。

 

 「やっぱり居やがらねぇ」

 

 レダンが来たのはエリア10、森の中では開けた場所で小さな水場が存在する。

 彼は成り行きで一緒に狩場に来た少年ハンター、ティオを探している。

 

 「さっきの咆哮、予測が正しければ……」

 

 レダンはさきほど鳴り響いたモンスターの鳴き声から大体の予測を立てる、その上で考えうる限りの最悪の事態を想定する。

 

 ヒュンッ!っと太刀を横に払う。

 払われた太刀のライン上に置かれた青い鳥竜種の首、それが音もなく綺麗に飛ぶ。

 ランポス達とて野生の生物、目の前の人間にはどうあがいても勝てないと見るや蜘蛛の子を散らすように森の中に消えていく。

 

 「これは?」

 レダンは、倒したランポスの鱗などを丁寧にはぎ取っていると、あるものを発見する。

 

 何の変哲もないアプトノスの死骸。

 しかし、それにはおかしな点が幾つか散見される。

 例えばこの場所、ここは森丘と呼ばれる狩場の森の部分、見晴らしのいい丘とは対極の場所。

 こんな場所にはアプトノスは好んで立ち入らなし、ランポス達が運んできたにしては少々不自然だ。

 

 「それにこのアプトノス、背中に竜車の装備を着けてた形跡があるな」

 

 竜車の役割を持つアプトノスなんて言うのは今どき珍しくはないが、そんなアプトノスが狩場で死んでいるというのは些か妙な話だ。

 それもそのはず、レダンたちが乗ってきた竜車はとうに狩場から離れていて、間違ってもこんな森深くを通ることはないし、商人が使うアプトノスも狩場から遠く離れた舗装された道を使うので、これもまた選択肢としては無い。

 そうなってくると可能性は絞られていく、それもあまり良くない方に。

 

 「厄介だな……」

 

 レダンは少し足を速めた、この先のことに頭を悩ませながら。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 「ん~、ランポスの数が妙に多いなぁ」

 「ですね」

 

 一方、エリア9を抜け丘の方面エリア3にティオ達は居た。

 ティオは太刀に付いた血を掃いながらもう一人の人物に話しかける。

 片手剣を操る女ハンター、名前をライラといい、彼女もまた相槌を打ちながら剣を振った。

 

 「でも、新鮮だな自分以外と狩りするのは」

 「え?あのクック装備の人は師匠ではないんですか?」

 「あーちがうちがう、あれは勝手に絡んできたんだ今日初めて会話したぐらいだぜ?」

 

 そう、いろいろ言い合ったがティオとレダンは出会ってからとても日が浅いのだ。

 それにしてはだいぶ濃い時間を過ごしてはいるが。

 

 「キミの師匠ってどんな人なんだ?」

 「師匠はですね~、すっごく厳しい人なんですけど、それもきっと私たちが狩場で命を落とさないように、という愛ゆえにだと思うんです」

 

 (師匠か~俺もそういうの居た方がいいのかな?)

 

 今のままではよくないことは、ティオもわかる。

 しかし、自分は村のハンター仲間から嫌われ気味で、とても教えを享受できるいい人間関係が一つも思い浮かばない。

 

 自らの行動を鑑みればそれも当然かもしれない。

 ティオが心の中で毒づいていると、微かな異臭を察知する。

 

 「なぁ、何か匂わないか?」

 「え?そうですか?」

 

 この匂い、確かペイントボールという大型モンスターを見失わないようにするためのにおい玉だった気がする。

 ティオは鼻に意識を集中しにおいの出所を探る。

 

 「多分この感じ、エリア4か?……ライラ行こう、キミの師匠や仲間が戦ってるのかも」

 「あ、はい!」

 

 エリア4は隣接した場所にある。

 鼻を頼りに進み、エリアに足を踏み入れると、感知した臭いはより一層濃くなってくる、それは若干、嗅覚を乱すほどに濃厚だった。

 しかし、それよりも面倒な事態が二人を待ち構えていた。

 

 「あ、ここなんでかランポスがいっぱいいますよ」

 「しょうがない、倒すか」

 

 いうや否や、ティオは太刀を抜き放ち、抜刀の勢いに任せてランポスを袈裟切りにする。

 それに続くように、ライラも片手剣を抜く。

 彼女の役目は、一撃の大きいティオを狙うランポス達を牽制すること。

 その隙に体勢を立て直したティオが再び太刀を振るう、即席にしては中々に連携が取れた動きだ。

 

 「っと、こんなもんかな……なんかやたら早く撤退したな」

 

 分が悪いと踏んだのかランポス達はその場からサッサと姿を消していった。

 

 「いや~、やっぱりティオさんすごいですよね!」

 「お、俺が??」

 

 なにかの冗談だろうか?今まで馬鹿にされこそすれ、狩猟の実力を褒められたことは一度たりとも無い。

 そんな自分に対してライラは目を輝かせながら称賛してくれている、何とも奇妙な光景だ。

 

 「そうですよ!師曰く、ハンターにとって大事なことのうちの一つに適応能力が上げられるそうですよ」

 「テキオウノウリョク?」

 

 何やら聞きなれない言葉にティオは少し面食らう。

 

 「はい!フィールドの地形や変化にいち早く気づき判断する、ティオさんが気が付いた臭いの件とかです」

 「そうなのか?」

 「そして、周りとの距離感を図りつつ武器を使える、これはさっきの戦闘のことですね、仲間の武器で恐怖を感じたことは何回かありますけど、さっきランポス達と戦ってるときは何も感じませんでした」

 「たまたまじゃないかなぁ?」

 

 さっきのランポス戦、いつも以上に戦いやすさを感じたのはティオも一緒だった。

 それは偏に、ライラの補助がうまいのだとばかり思っていたものだから、自分が褒められるのはどうもムズ痒い。

 

 「そんなことありませんって!……あとは、防具とかそろえると完璧ですね、もうほとんど師匠並みです!」

 「そうなの?」

 「そうです!師匠は討伐するモンスターによって防具をこまめに変えるタイプなんですよ」

 

 ハンターの防具や武具選びには2パターンほどにタイプが分かれる。

 

 一つは、気に入ったもしくは自分にピッタリとハマった防具を見つけ、それを使いつぶすタイプ。

 これは、金がないのかその人の実力がずば抜けているのかは狩りが始まらないと分からないので、即席のパーティーには入れてもらいにくい。

 二つ目は、モンスターや降り立つ狩場によって器用に防具を変えるタイプ。

 ライラの師匠がこれにあたり、先ほどのタイプと違い、資金に余裕が見られ実力も簡単に推し量れるので、あまり煙たがられたりしない。

 しかし、装備を逐一変えるというのは、一つ一つの練度もまちまちなので、器用貧乏になってしまったり、手入れが行き届かず本番でやらかすこともままあったりする。

 

 どちらが優れているかというのは、ハンターたちの間でよく話題になるが、結局その人の素質である、という結論に着地する。

 

 「この前、ガレオスの狩猟に連れて行ってもらったんです」

 

 ガレオス、砂漠地帯に群れで生息し、その砂の中を縦横無尽に泳ぎ回る魚竜種のことだ。

 

 「その時私たちの装備は今と変わらないんですけど、師匠はギザミシリーズっていう防具を着てきたんです」

 

 ライラの師匠は、クエストごとに装備を変えるタイプであり、その時もまたギザミシリーズという新しい防具を着てきたようだ。

 

 「私たちは案の定、苦戦したんですけど……中でも一番厄介だったのがガレオスの吐くブレスで、なんとそれに当たると持久力の回復が遅れてくるんですよ!」

 「こわ、なんだそりゃ」

 

 スタミナの回復が著しく低下するこの状態を、通称『水やられ』とハンターたちは呼んでいる。

 仮説はいろいろあるが、モンスターの吐く水属性のブレスの中に、彼らの分泌する体液が混ざっており、その液体と水分が体に膜を作り、ハンターの発汗作用を妨害し、結果体内の排熱が不十分になり体力が奪われていくのだとか。

 

 「それって水やられっていう状態なんですって、砂漠で水ですよ」

 「確かに変な感じだなー」

 「でも、師匠はそれも見越して水耐性の高い装備に変えてきたんですよ、すごくないですか!」

 「たいしたもんだなぁ~……」

 

 ---ガチャ

 

 それは、金属が固い地面とぶつかった音だった。

 だが、自分たちは何も落としてはいない、ならば目の前のコレはなにか?

 

 それは、筋肉質な腕だった。

 熱で溶けてしまっているので、詳しくはわからないが間違いなくハンターが身に着ける防具の類である。

 ではいったいどこから落ちたのか?

 

 「ヒッ……」

 

 答えはエリアにある小岩の上にあった。

 そのハンターの装備は毒怪鳥ゲリョスから作られる防具を身にまとっていた。

 

 「し、師匠……?」

 「!」

 「ま、丸焦げで……詳しくはわかりませんけど……この防具の形は……し、師匠の……ものです」

 

 ティオは絶句してしまう。

 人の死体を見たからではない、話を聞く限り彼女の師匠というのは優秀なハンターだ、そんな腕利きが勝てなかった相手が自分たちと同じフィールドにいるという事実に。

 

 「師匠……」

 

 せめて亡骸だけでも、そう思ったのかライラは炭になってしまった恩師を岩の上から持ってこようと手を伸ばしていた。

 

 「おい、ライラ!一旦ベースキャンプに戻ろう!ペイントボールの臭いが残ってるうちに……!?」

 

 ピリリッと脳裏に疑問が浮かぶ。

 

 (臭い?)

 

 そもそもなぜ、ペイントボールの臭気がここまで広がっているのか?

 

 (ライラの師匠のが壊れたのか?)

 

 ティオはそれは否定する。

 あそこまで丸焦げになっているのならば、まずは灰の臭いが立ち込めるはずである。

 

 「じゃあこの臭いはなんだ?」

 

 ペイントボールの役目。

 それは、大型モンスターを見失わないようにするため、その判別方法は何か?それは臭いの濃淡。

 

 では、いまこのエリアに充満する臭いの濃度は、どれだけ近づいていればここまで濃くなるのだろう?

 

 それは、終盤に差し掛かったパズルのように簡単にはまっていく。

 

 ランポス達の撤退の早さ、ペイントボールの臭いの新鮮さ、ライラの師匠の不自然な死に場所、それはたった一つの簡単な答えですべてつながる。

 

 ---そう、モンスターがもしランポスだけではなかったら?

 

 ティオ達よりも強い存在がそこにいたのなら、彼らは危機を察して逃げるだろう、そのモンスターがジッと息をひそめてこのエリアに潜んでいたのなら、ペイントボールの臭いがこのエリアに充満していてもおかしくない。

 そして、なぜライラの師匠は爆風で押し上げられたわけでも無いのに、岩の上で死んでいたのか?

 

 置かれていたのだろう

 

 いったい誰に?

 

 モンスターに

 

 何のために?

 

 臭いにつられてのこのこやってきた哀れな二人組のハンターを狩るために。

 

 

 

 ----ドゴォオン!!!

 

 

 

 高度から飛来した紫色の質量が二人を押しつぶさんと舞い降りた。

 

 「え?え?」

 「疑問は後だ!走れるか!?」

 

 間一髪、あと数秒気が付くのが遅れていれば、ティオとライラはぺしゃんこになっていただろう。

 

 「なんだこいつ、イャンクックかっ!?」

 「これ!師匠が一度だけ教えてくれたことあります、見た目こそイャンクックと類似してるけど、見つけたら絶対手は出すなっていわれてたモンスターです!!」

 

 尾の先っぽは不自然な膨らみと刺さるとただでは済まなそうな3本の針、全身を覆う紫色の刺々しい甲殻、クックよりやや顎の部分が突き出たクチバシ。

 

 「狂暴かつ狡猾な性格からつけられた二つ名は黒狼鳥……正式名称はイャンガルルガ……」

 

 キィョヨヨヨォォッッ!!

 

 二人の新米ハンターにとってはあまりにも絶望的な咆哮が響き渡る。

 




次回は用事終わらせてからすぐ行きます!


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夢の始まり④

狩場での出来事はここで終了です!
あと一話、短い奴も出します


 「お聞きしたいことがあります」

 「ん~?どうしたの~?」

 

 ココット村のどこか、レイとクルシュの二人は店のベンチで一休みしていた。

 

 「私はハンター業のことはよく分かりませんが、ぶっちゃけた話ティオはこのままハンターを続けていって大丈夫なんでしょうか?」

 「ん~……」

 

 クルシュは迷った、話を聞く限り失敗も多く、猪突猛進過ぎる、それを素直に言ってしまうのは簡単だが……。

 

 「確かに、今のまま続けていくのはちょっと危険すぎるかなぁ」

 「……」

 

 やっぱり、そういいたげな表情をするレイの頭をクルシュは撫でる。

 

 「でもね?才能がないわけじゃないと思うの」

 「え?」

 「ハンターにとって一番大事なこと、それは狩猟能力じゃなくて、生き抜くこと」

 「生き抜く……?」

 「そう、モンスターに勝てなくてもいいの、いまを生きて明日の糧にする」

 

 今のままで勝てないのなら、武器や技を鍛えて、一人で勝てないのなら二人で、生きているのならどうとでもなる、それがクルシュのハンターとしてのモットーである。

 

 「そういう意味では、ティオ君はすごい才能があると思うな~」

 「褒めすぎですよ、クエストはいつも失敗ですし」

 「でも、ケガはほとんどないんだよね?」

 「え?まぁ、そうですけど」

 「それがすごいんだよ~、どんなハンターもケガには悩まされるし最悪引退しちゃうこともあるの、でも彼はケガも少なく帰ってくる、それってすごいことだよ?」

 

 実際大したものなのだ、ケガの絶えない新人時代を少ない負傷で乗り切っていることは。

 

 「ま、話の続きは二人が帰ってきてからだねぇ~、そもそも採取クエストだからケガの心配なんてほとんど無いけど~」

 「そうですね」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 突進、たったそれだけの行動でティオ達の命は簡単に絶える。

 

 「危ねえ……」

 

 現在、ティオとライラはイャンガルルガと交戦している。

 

 イャンガルルガの無造作な突進で起きた風圧が、体がかすめる。 

 たったそれだけでだけで死を予感させるには十分だった。

 

 しかし、大雑把な行動には必ず隙が生じる、それを見逃すティオではない。

 

 突進によって体勢を崩したイャンガルルガの足に太刀を叩き込み、ライラは羽の根元に剣を振る。

 が、なまくらなのか相手が堅すぎるのか、明らかに鳴ってはいけない音とともに太刀と片手剣は弾かれてしまう。

 

 ---クルルル……

 

 お前たちの攻撃など何の支障もない、そんな声が聞こえてきそうなほど二人を意に介すことなく悠然と立ち上がる。

 イャンガルルガの次なる行動それは得物の選定、さっき撃ち込まれた攻撃、より危険度が少ない方を視界にとらえる。

 

 「ライラッ!」

 

 それは余りにも急な行動だった。

 イャンガルルガの足は尋常ならざる瞬発力と跳躍力を秘めており、それをフルに活用したならば、ノーモーションで標的にまで急接近することが可能なのである。

 

 ライラはなんとか反応はできたものの、回避は不十分になってしまい、咄嗟に右手の盾を体の前に構えた。

 バチンッ!と甲殻と盾がせめぎ合い火花を散らし、ライラは吹き飛ぶ。

 

 「あぐ……」

 

 打ち所が悪かったのか、ライラはピクリとも動かなくなった。

 大ケガを負ったのか気絶してしまったのか、今すぐ見に行きたいが自分自身にはそんな余裕はない。

 ただ分かるのは、事態が最悪の方に向いてしまったということだけだ。

 

 助かる方法がないわけではない、例えばこのまま全力疾走すればどうだろうか?

 多分いける、自分の足の速さとライラという餌を加味すれば目の前の黒狼鳥はなんとかしのげるだろう。

 

 しかし、この男にそんな選択肢は万に一つもない。

 では、どうする。

 

 (はは……)

 

 ティオは、分かり切った未来に絶望するわけでもなく不思議と笑いが込み上げてきた。

 頭がおかしくなってきたのだろうか?

 否、きっと覚悟が決まったからだろう。

 

 「やるしかないよなぁ?」

 

 この状況、リオレウスと対峙した時とよく似ている。

 目の前には絶対的な敵、一歩も下がることを許されず、ただひたすら正面から立ち向かうしかない状況。

 

 「こっちだ!」

 

 ティオが叫ぶと同時に下からイャンガルルガを切り上げる。

 当然刃は通らないが、鱗の何枚かははじけ飛ぶ。

 

 (こいつだって無敵じゃない!)

 

 ティオの孤高な戦いが幕を開ける。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 「ニャァァ!?なんで今日はこんなモンスターの妨害が多いニャ!?」

 

 ティオ達と別れ救援を呼びに行ったアイルーは、ブルファンゴに絡まれていた。

 

 「こんな所で道草食ってる場合じゃないのニャ!」

 

 彼と一緒に同行してきたという凄腕のハンターを見つけるために、エリア中を駆け巡っていたのだが。

 その肝心のハンターを見つけるどころか、厄介なモンスターに見つかってしまい、こうして危機に瀕しているのである。

 

 そうこうしている内に、ブルファンゴが突撃してきた。

 

 「それももう飽き……ブニャ!?」

 

 森丘を走り回った副作用か足がもつれてしまう。

 

 (あ、間に合わないニャ)

 

 一匹のアイルーの命が散ろうとしたその瞬間、アイルーの目の前に人間大の影が降り立った。

 すると、ブルファンゴは進行方向を90度変えて吹き飛び、近くの木の幹にぶつかった後あわてて踵を返し逃げていった。

 

 「ニャ、ニャ??」

 「おい、大丈夫か?」

 

 手を差し出してきたのはクックSシリーズを両手足と腰にのみ装着する奇妙な男だった。

 

 「あ、えっとありがとうニャ……魔法ですかニャ?」

 「ちがうちがう、横っ腹を蹴っただけだ」

 

 勢いが強いまっすぐに向かってくる物体に、真横から力を正しく加えると先ほどのような現象が起きる力学の応用だ。

 

 「そうなのですかニャ……あ、そんなことより!レダンって人は知ってるかニャ!?」

 「レダンは俺だけど?……まて、もしかしてなんだが軽装で太刀背負ったガキの知り合いか?」

 「そうニャ!あの!助けに来てほしいのニャ!」

 

 アイルーは、ティオが知り合ったハンターのためにモンスターの鳴き声の方向に向かっていったことを伝える。

 

 「やっぱり……おい、大体の位置はわかるか?」

 「わかるニャ!エリア4のあたりニャ!」

 

 それを聞いた瞬間、レダンはとんでもない速度で走る、それはアイルーである彼も追いつけないほどの速度だ。

 

 「ボクも行く、なんていわれちゃかなわねぇしな」

 

 なにやら後ろからモゴモゴ聞こえてきたが、あえて耳に入れないようにする。

 

 「次の角を右、そのあと二つ目の通路を左だな」

 

 すべての狩場にいえることだが、フィールド全体の面積は広大で、すべてを回るには普通の人間では1日あっても足りない。

 しかし、上位ハンターであるレダンは常識離れした身体能力に物を言わせ超スピードでティオがいるであろうエリアに近づいていた。

 

 「この臭い……」

 

 ペイントボールのに混じって微かに焦げた臭いがする。

 

 「あの咆哮の高周波具合と火炎袋が燃焼した時の臭い、イャンガルルガだな……なんだってこんな採取ツアー用の安全区域に、いやそれよりも竜車の件も気になるな」

 

 愚痴っていても仕方がない、まずは目の前の事象に専念せねばならない。

 黒狼鳥イャンガルルガ、優れた聴覚と強靭な足腰と堅い甲殻、極めつけは尾の毒と飛竜張りの火炎ブレス、危険な要素がこれでもかと詰め込まれた怪物。

 天地がひっくり返っても新米ハンターのティオが勝てる相手ではない。

 

 ドガン!っと岩が崩れる音がひっきりなしに聞こえてくる。

 

 「あそこか」

 

 そうこうしている内に、レダンはエリア4に到達していた。

 レダンは一気に跳躍し岩陰に身をひそめて、奥に見える巨大なモンスターを認識した。

 

 「やっぱりイャンガルルガか……ガキは……」

 

 さらに目を凝らすと、イャンガルルガは暴れてはいるもののなにやら地団太を踏んでいるようにも見える。

 そこで気づく、ティオがイャンガルルガの周りを付かず離れずの距離を保ちながらまとわりついていた。

 

 「うぅ……」

 「!……お前は確か行きの竜車にいた」

 

 どうやら、気を失っていたようでしばらくまだまともに動けそうにない。

 

 「この子をかばって?」

 

 レダンはもう一度ティオを見る、やはり受け入れがたい感情に苛まれた。

 

 なぜなら、自分の知る少年はランポスに苦戦しランゴスタに食べられかけていた、そんなへっぽこだったはずだ。

 しかし、いま向こうでイャンガルルガと対峙する少年はまるで熟練のハンターのようではないか。

 

 『リオレウスと戦ったことあるんだぜ』

 

 レダンは少し前のティオとの会話を思い出していた。

 その時は行商人たちを助けるために一歩も引けなかったこと、その時の戦い方でなんとか凌いだこと。

 

 そして、今は負傷した少女を背に、圧倒的な実力差がある相手に挑まざるを得ない場面、彼が自慢げに話していた状況とよく似ている。

 

 (まさか……)

 

 イャンガルルガが右足を軸に左回りに尾を振り回す。

 対するティオはギリギリで尻尾の先端部分を避け、がら空きの首元に太刀を突き刺す。

 当然、堅い甲殻はそれを弾く。

 

 ダメージの少ないイャンガルルガの次なる行動はクチバシによる突き刺し。

 乱暴に何回もティオに向かって凶器を振り回す。

 しかし、ティオは怯むことなく半歩ほど後ろに下がり、一回二回三回と凌ぎ

 攻撃が四回目に移ろうとした瞬間、その一番大きな隙を見極めイャンガルルガの懐に潜り込み縦一閃、腹を裂くように太刀を振るう。

 切れ味の落ち切った太刀ではさほどダメージは入らないが、首元よりは痛かったのかイャンガルルガがのけ反る。

 

 (間違いない……!)

 

 痺れを切らしたのか、イャンガルルガは咆哮と共に後ろに下がる。

 音と風圧、よほど対策していなければ大概の人間が足を止めてしまう、それはティオも例外ではない。

 

 

 硬直から解けたティオは顔を上げる。

 彼がとらえたのは、大きく開けられたクチバシ……ではなく。

 その奥に見える赤い揺らめき。

 

 イャンクックは火炎液と呼ばれる燃焼性の液体を吐き出すが、イャンガルルガのそれはその比ではない。

 

 とてつもない温度と速度で放たれた火球は、鬱陶しい小動物を焼き払わんといつも以上に燃え盛っているようにも感じられる。

 だが、それがどうしたとばかりにティオは前に突き進む。

 右に一発、これを左に回避、それを追うように左に一発いずれも地面に着弾した跡からその威力の高さがうかがえる。

 

 だが二つのブレスが着弾するころにはティオはもうかなりの距離まで接近していた、してしまっていた。

 

 なぜイャンガルルガの炎がイャンクックと差別化されるのか?

 威力、速度、どれも比較にならないが最大の理由は手数、連続で最大『3発』も吐き出せるのだ。

 右左に二発、では三発目は?

 

 必然的にティオの前に放たれる。

 

 

 眼前が炎で埋め尽くされる、吐き出す速度が早すぎて回避も間に合わない。

 

 ならどうするべきか?

 

 決まっている、ティオはいつだって前のめりで進んできた

 この瞬間だって変わらない、下がるのではなく一歩前へ

 

 ブレスの熱気が頬を焼く、だが燃えているわけではない

 

 生存が許されるギリギリの隙間に体をねじ込み、強引に距離を詰め。

 前に進む推進力を太刀の切っ先に込め、無防備な腔内にそれを突き立てる。

 

 いまだブレスの余韻が覚めぬ喉奥の火炎袋は急にねじ込まれた太刀に反応してしまう。

 

 本来のブレスとは程遠い小さな爆発。

 しかし、ブレスを出し終え負荷のかかった喉に意識の外から来た太刀の突き。

 その被害はイャンガルルガにとって甚大極まりないものだった。

 

 何メートルも転げまわったイャンガルルガは痛みにもがく。

 

 「おい」

 「うぉ!?!?いたのかよ……」

 「ずっと居たわ」

 

 レダンは、ジッとイャンガルルガを見つめる。

 

 「…………」

 

 さっきの戦い方で確信を得た、ティオの資質。

 

 タキサイア現象というものがある、人が危機に瀕した時にすべての事象がスローモーションになるあれだ。

 おそらく、ティオは【尋常ならざる集中力】をもってそれを自主的に引き出せる。

 しかし、それをするには条件が必要なのだろう。

 

 数刻まえ、いくつか投げかけた質問の数々、それはどれも散々なものだった。

 

 人助けのためなら命もかける。

 その精神は、仲間が気を失い離脱もままならない絶望的な状態でも逃げ出さなくさせ全身の神経を尖らせる、それが第一のトリガー。

 

 前のめりの戦い方は、ランポスやランゴスタ等の集団で個が強くない種族には合わない戦い方だが。

 もし、今回のような1匹の強敵ならば、相手にだけ意識を集中し一挙手一投足を観察できるようになる、それが第二のトリガー。

 

 この二つがティオの脳のリミットを解除し、所謂ゾーンの状態を作り出す。

 

 その驚異的な情報処理能力は、数ミリ先の死線を見極めさせるに至る。

 

 するとどうなるのか?

 

 相手の行動の起こりをギリギリまで待ち、来ると同時に動き先手を取る、武術の世界ではこれを『対の先』といい、これはやろうと思って出来るようなものではない。

 しかし、その至難の技をティオはモンスター相手にやって見せたのだ。

 

 ---ゴジィイィィィ!

 

 それはまるで壊れた笛のような、おおよそ生物が出す音ではなかった。

 焼け焦げた腔内と喉、痛みによる疲労、それでもなお目の前のイャンガルルガは闘志を燃やし自分をこんな目に合わせた敵を排除しようと目を見開き立ち上がる。

 

 さぁ、最後の勝負だ

 大震動と共にイャンガルルガの頭は地面に叩きつけられ絶命した。

 

 「あ?」

 「は?」

 

 一体なのが起こったのか、二人があっけにとられたが、一人だけ答えを知る人物がいた。

 

 「こ、このモンスターですッ!!……私たちが師匠と離れた後に襲ってきたヤツです!!」

 「え?それはイャンガルルガじゃ……あッ!」

 

 彼女がイャンガルルガと対峙した時の反応は、まるで初めて出会ったかのようだった。

 そう、もう一体いたのだ、この森丘に、危険なモンスターがもう一匹。

 

 ---カカカヵヵ……

 

 攻撃的な印象を与える金色と黒色の鋭利な甲殻を持ち、鋏のような二股の尾、頭部に存在する巨大な刃の如き鶏冠状の器官。

 そして、巨大な翼の被膜には、まるで蝶の翅脈のような紋様が浮かび上がっており、思わず見惚れてしまうほど美しい。

 

 緑黄の電気を纏うそのモンスターは、電竜『ライゼクス』。

 その美しい姿とは対照的ともいえる類希なる兇暴性と残忍さは、森丘の主リオレウスと並び恐れられる大型の飛竜である。

 

 「くそ!」

 

 ティオはライゼクスに向かって走り出す。

 

 「あほか」

 

 しかし、レダンに襟首を捕まれ後ろに倒される。

 

 「なにすんだよ!」

 「お前こそ、そんな武器で何するつもりだ」

 「え?……」

 

 ティオは手元の太刀に視線を落とす。

 自慢の相棒は、イャンガルルガとの戦いで無茶をし過ぎたのか、中ほどからポッキリとへし折れてしまっている。

 

 「嬢ちゃん、そいつ抱えて下がりな」

 

 ドッ!とライゼクスは発達した翼で地面を叩きつけながら四足歩行で突き進む、その震動一つ一つが大地を揺らす。

 

 「おっと、焦らしすぎたかな」

 

 右翼での叩きつけ、それはレダンを狙ったのだろう、しかしそこにはもう彼はおらずライゼクスは大地に翼をめり込ませた。

 すると不思議なことに、ライゼクスは地面に崩れ落ちる。

 

 「倒れた!?」

 「……ッ!」

 

 ティオは見ていた、ライゼクスが叩きつける為に振る上げた翼、その翼から胴体にかけての第一関節を攻撃を回避するとともに太刀で切りつけたのだ。

 

 「ふっ!」

 

 ライゼクスの側面に回り込んだレダンは、軸足を起点に太刀に円運動を加える。

 加速した太刀の先端を両足のアキレス腱に滑らせる。

 

 ---ギャゴォォ!!

 

 追撃は止まらない、尻尾の付け根、甲殻と皮膚の間、首筋、ありとあらゆる場所に太刀を振り、どの所作にも一切の無駄がない。

 

 「料理じゃねえんだぞ……」

 

 ティオは絶句するしかなかった。

 自分がボロボロになり死に物狂いでやっと追い詰められたイャンガルルガ。

 そのイャンガルルガよりもはるかに強いであろうライゼクスを、かすり傷すら負わず、息を切らすことなく追い詰める目の前の男。

 

 「お前に恨みはない……けど、すまないな」

 

 満身創痍、ほとんど何もできずただ切り伏せられたライゼクスは種の生存本能か生まれ持った性か、目の前にいる小さな襲撃者を焼き殺そうと、雷撃を吐くために首を持ち上げる。

 

 「剣士を相手に首を差し出しちゃ終わりだぜ」

 

 一閃、聞こえてきたのは斬撃の音ではなく、ライゼクスの血潮の音と、地面に堅く重いものが落ちる落下音だった。

 

 「……さ、帰るぞ」

 

 上位ハンター、レダン・エスカノーラ、ハイランカーに恥じぬ絶対的な力。

 この場において、男の実力を疑う人間は皆無だった。




文字数多いなぁ(笑)

まとめるのがまだ苦手なんでしょうね(汗)


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後処理と後味

連続投稿終了です!


 ライゼクスを討伐した後、異変を察知した観測隊に保護されたティオ達は無事にココット村へ帰還を果たした。

 

 「あ、帰ってきた、お~い」

 

 ティオ達に手を振っているのはクルシュ・エスカノーラ、レダンの妻であり同業者である。

 

 「よ、帰ったぜ」

 「うん、お帰りなさい」

 「こ、こんにちはクルシュさん」

 「え~と?……どうして敬語なの??」

 

 ティオは記憶に新しいレダンの戦いっぷりを思い出していた。

 もし仮に、目の前の女性ハンタークルシュもレダン並みの戦闘力を持っているのだとすれば、とてもじゃないが気軽な口などきけないというものだ。

 

 「お気になさらず……」

 「…………」

 「いや!俺は何もしてないぞ!?」

 

 クルシュはやや冷たい視線をレダンに送るが、レダンはそれを必死で否定する。

 そんな、やり取りをしているとなにやら遠方から土煙を上げながら走ってくる人物がいた。

 

 「ティオ!!」

 「うお!レイ、なんだよ珍しくあわてて」

 「焦るにきまってるでしょ!……ほら!見せて!」

 「なにを……グゥ!?」

 

 レイは、ティオ顔を鷲掴みにしたあと、瞼を無理やり開き瞳孔を確認する、次は腕をブンブン振り、両方のわき腹を軽くたたいた後は、太ももをつまむ。

 

 「よし、脱いで」

 「は!?なんで!?」

 「細かい傷は見えないじゃない、ほら脱いで」

 「馬鹿じゃねえのか!?……ちょ!やめ!!やめて!?!?」

 「抵抗しない!」

 「あ~~ん~~ん゛ん」

 「……はっ」

 「ぐべっ」

 

 自分の暴走に気付いたのか、レイはティオを手で押しのける、その顔は若干赤い。

 

 「まぁとにかく無事でよかったわ、おかえりなさいティオ」

 「お前、なんつう仕打ちだよ……」

 「別にいいじゃねえか、これを機にもう少し自分の命を大切にするこったな、じゃあ俺たちは別件の用事があるから、もう行くぜ」

 「あ……」

 

 レダンは、手を適当に振りながらクルシュを連れて去っていこうとした。

 

 「まってくれ!」

 

 引き止めずにはいられなかった、何故かはわからないけれど、ここでサヨナラを受け入れてしまうともっとほかの何かが手から離れてしまうような、そんな気がした。

 

 「あんた、めちゃくちゃ強いよな、びっくりしたよ」

 

 それは嘘偽りのないティオの本心だった。

 レダンの強さ、それは嫉妬を通り越して憧れすら抱いてしまうほどに、ティオの心に刻まれてしまったのだ。

 

 「俺もアンタみたいになりたいんだ!俺に剣を教えてくれ!……いや、教えてください!」

 「……いやだ」

 「な、なんで!?」

 「見てみな」

 

 レダンが顎で指した方向には、膝から崩れ落ち一歩も動かない少女と号泣する女性とその横に小さな男の子、それらを囲むように白い布がくるまれたタンカーが一つ。

 地面に座る少女はライラでタンカーの中身はライラの師匠、ほかの二人はおそらくだが師匠のご遺族だろうか。

 

 「あのタンカーの中身は一歩間違えばお前だったんだぜ」

 「それは……」

 

 否定はできない、今日はたまたま調子よく捌けただけで、いつもの失敗回数を考えれば今回は本当に奇跡だった。

 

 「お前に技なんて教えたら絶対このままハンター続けるだろ」

 「そりゃ!」

 「いっとくがな、どれだけ卓越した技術を持ってようが、小さな綻びで命を落とすんだ、もし自信の付いたお前がしょうもないミスで死んじまったらどうする、あの遺族みたいに嬢ちゃん泣かすか?俺はそんな責任は負えないな」

 「それは……」

 

 レイの方をチラッと見る、なんとも複雑な表情をしながら目を泳がせている、彼女とて本心はレダンと同じなのだろう。

 

 「私はティオくんの意見に賛成だな~」

 

 せっかく見つけた希望に手が届かない、そんな現実を味わい顔を伏せていると、思わぬ方向から助け船が出された。

 

 「クルシュ、お前」

 「レダン、あなたいっつもいってたじゃない、技術は力の差を埋める為にある、弱い物こそ習うべきだって」

 「いったかもしれないけど……」

 「技を磨けば、その分死亡のリスクも格段に減るし一石二鳥だと思うな~、なんなら私も手伝っちゃう~」

 

 ふんす、そんな擬音が聞こえてきそうなガッツポーズを取る自分の妻に呆れながらレダンは首を振る。

 

 「クルシュわかってるだろ、修行ってのはそう簡単じゃないんだ、最悪その過程で死ぬことだってままある」

 「だいじょうぶだと思うけどな~」

 

 何か自分ももう一押ししたい、ティオは必死に自分のプレゼンテーションを考えるが、悲しいことに思考能力の限界が来てしまう、どうやらゾーンには至らなかったようだ。

 

 「その点なら……大丈夫だと、思います」

 「レイ!」

 

 どういう風の吹き回しなのだろう、さっきまで半分くらいハンターを続けることに反対していたのに今度は自分を助けてくれている。

 

 「聞いた話ですけど、ハンターにとっての才能とは生き抜くことらしいです、ティオにはそれが備わってるみたいなので、きっとどんな修行にだって耐えてみせると思いますよ」

 

 レイは、クルシュから聞いたハンターにとって最も必要な才能の話を聞いていた、昔の話だが自分は、ティオのその才能に救われた口だ。

 少し話は逸れたが、ティオならばどんな過酷なことにも耐え抜いて見せるだろう、そう思ったから口利きをしてあげたのだ。

 

 「いいのかレイ?」

 「いっとくけど、完璧に賛成したわけじゃないからね!私じゃもう飼いきれないから他の人に頼みたかったの」

 「飼いっ、え!?」

 「レイちゃん、ナ~イス!」

 「いえ、クルシュさんのお話をまるまる使っただけですよ」

 「ん~ん、とってもいい後押しだったよ~」

 「え、いや……え?」

 

 なぜか話が勝手に進んでいく、一度も許可した覚えはないはずだが。

 ただ経験上、この手の状況では当事者はなぜか蚊帳の外であることが多いのだ、もう諦めよう。

 

 「は~、わかったわかった、ただ才能なしだと俺が判断すればすぐ修行は打ち切りだ、いいなガキンチョ」

 「わかったぜおっさん!」

 「おっさんじゃえ、レダンだ、今度からそう呼べティオ」

 「!!……了解だぜレダン!」

 

 ビュンッ!と強風が吹く。

 この季節は風が強くなる、強風はあらゆるものを壊し時には森を切り崩し新しい道を作ってしまうこともある。

 この日の風が作った道はおそらく茨の道だろう。

 

 とはいえ、少年は気にしない、それこそ風のように意志をもってまっすぐ突き進むのだろう。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 夜のココット村、二人の男女は木の根元に設置されたベンチに腰かけていた。

 住宅は光を消し、集会所の酒場はまだまだ喧騒が絶えない、騒がしすぎず静かすぎないこの時間帯は会話をするにはもってこいだった。

 

 「はい、どーぞ」

 「ん、サンキュ」

 

 クルシュは酒場から持ってきたケルビの腸詰めを手渡した。

 パンッと皮がはじける音と共に、口の中に肉汁があふれ出し、少し効かせたスパイスが鼻腔をくすぐる。

 

 「……なぁクルシュ」

 「お酒はダメ、話があるんでしょ?」

 「だよなぁ」

 

 レダンは残念そうに頭を掻く。

 

 「ねぇレダン、ティオくんのこと、ありがと~」

 「俺だって、同情だけで手は差し伸べねぇさ、パッと見ただけじゃ気が付かなかったけど、あいつには素質がある、今は自分の力と思想がごっちゃになってて才能が発揮できない状態だった、せめてそれの土台だけでも作ってやろうと思っただけさ」

 「ふふ……」

 「クルシュはティオのこと気づいてて、クエストに同行させたのか?」

 「まさか~、でもどこかの誰かさんによく似てるな~って思ってね」

 「はは……誰のことだか」

 

 レダンは手の中の腸詰めを食べ終えた後しばらくじっとし、クルシュも沈黙を貫いていた。

 

 「レダン、話って私たちの後ろの人も関係ある?」

 「大ありだぞ、さっさと報告してくれないと始まらん」

 

 二人の背後にある木、店の明かりに照らされ夜ながら影ができていた、その影が二股に分かれる。

 

 「流石は上位ハンターのレダン様とクルシュ様、気配は消していたと思ったのですが」

 

 背後から現れた男は、一見ただの村民のようで、道行く人の中に紛れれば見つけることは容易ではないだろう。

 

 「あんたらのギルドナイトの気配って独特だからな、なんとなくでわかっちまう……で?結果は」

 「はい、レダン様からご報告通り、森深くを捜索しましたところ、数十頭のアプトノスの死骸を発見、そのほど近くに竜車を牽引した痕跡アリでした」

 

 レダンが訝しんだアプトノスの遺体、それは不自然なエリアに食い散らかされていた。

 自分の予測が正しければ、その死体は一つではない、そう踏んだレダンは救助に来た観測隊を通じて狩場の調査を行ってもらっていた。

 

 「もう一つは?」

 「はい、残念ながらイャンガルルガとライゼクス二頭ともに侵入経路は不明でしたが、両者ともに頸部と足首の甲殻に微量の金属粉が検出されました、もちろん狩場にいた皆様が使っていた武器の素材とはどれも一致いたしませんでした」

 「それって……」

 

 二頭のモンスター、イャンガルルガに触れたのはティオとライラ、ライゼクスはレダン、武器の素材は骨と虫、ライラは金属製の武器だがそれも一致はしなかったのだろう。

 

 「あの子の師匠や仲間の武器は~?」

 「もちろんぬかりなく、皆さん、体の損傷より武器の方が綺麗でしたので検査に間違いはないかと」

 「イヤな話ね~……」

 

 

 クルシュは軽い溜息を吐く。

 

 「報告は以上です何かありましたらまた追って連絡を」

 「あぁ、ありがとう」

 「……そうそう、ライラ様の恩師のご遺体、勝手ながら少し調べさせていただいたところ、体内からランゴスタの痺れ毒が検出されました」

 「刺し傷は?」

 「探しましたが見つかりませんでした、もっとも、あの損傷具合ですので……」

 「そうか」

 

 お二人もどうかお気をつけて

 それだけ伝えると、男は夜の闇に溶けていった。

 

 「ん~……」

 「考えてる通りだと思うぜ、イャンガルルガとライゼクスは本来あの付近を縄張りにしてる訳じゃなかったんだ」

 

 そう、あの二頭は森丘に出没することはあっても、観測隊が管理している付近の狩場には現れないのだ。

 もし、そんなことが起これば、それこそ空から監視している観測隊がいち早く事態を伝え対処する。

 

 「それがなかった、観測隊すら把握できていなかったとするなら」

 「密猟……ううん、密売ね」

 

 モンスターを使った商売、それ自体は何ら違法ではなく、剥ぎ取った素材を売ることもそれに当たる、もちろん儲けはそれほどではない。

 しかし、今回のようなモンスター丸々を違法に取引するとなると話は変わってくる。

 

 通常、モンスターを生きたまま正規の取引するとなると、ハンターズギルドの許可書をもらい、適正な搬送ルートとそれを護衛する人員を確保するが、それだけでかなりのコストが掛かるし、その間モンスターの状態を維持するためにさらに出費がかさむ、正直な話得られる利益は知れている。

 

 だが、手続きを踏まない裏のやり方なら、その手のコストを省ける。

 

 もちろん違法な商いであるから、処罰も相当なものになる、だがリスクと利益を天秤にかけてもなお実行に移してしまう、それほどまでに蠱惑的な儲け話なのだ。

 

 「その裏の商売、かかわってくるやつもそれに比例してやばい奴らだ」

 「もしかして、ライラって子のお友達やお師匠さんはそれに巻き込まれちゃった?」

 「友達はともかく、師匠ってやつはちょっと気になるな」

 「さっきいってたランゴスタの毒のこと?」

 「それもあるけど、あの焼かれたハンターは依頼ごとに装備を変えるらしくてな、その日装備してきたのはゲリョスシリーズ、思いっきり火耐性が低いものだ」

 「そりゃ、素材ツアーに大型のモンスターが現れるとは思ってなかったんじゃない?」 

 「それもあるだろうけどな、ゲリョスシリーズってのは火に弱い代わりに雷耐性が高い……穿ちすぎかもしれねえがな」

 

 毒怪鳥ゲリョスは、甲殻の下は伸縮自在のゴム質の皮で覆われており、生息地ゆえか燃焼に弱く電圧に強い性質になっていて、それを使った装備も必然的にその特性を引き継ぐ。

 そう、火に弱く雷に強いのだ。

 

 「じゃあなに、師匠さんはライゼクスの密売に関わっていて、だまし討ち的にイャンガルルガをけしかけられたってこと?」

 「確証はないけどな、けど竜車の中で見た感じからランゴスタにしてやられるような奴じゃないとは思うぜ」

 「取り分で揉めたからっていうより、計画的に消しに来たってことかな?……でも、一歩間違えれば被害は甚大だったはず、そんな危ないことを平気でできる連中って」

 「まぁ、いま考えたって答えなんかでねえさ」

 

 レダンは立ち上がり背を伸ばす。

 

 「それよりもクルシュ」

 「?」

 

 レダンは顔をにやけさせ集会所のある方向へ親指を指す、それは酒の席への誘いだった。

 

 「さっきのソーセージが効いてきた、ワインとかどうだ!」

 「もう、せっかく真剣なお話してたのに~」

 「メリハリが大事なんだよ、せっかくお前とまたこの村に来たんだ、今日くらいパーッといこうぜ」

 「……もう」

 

 惚れた弱みだろうか、こうなってしまってはどうも逆らえる気がしないし抵抗する気も失せるというものだ。

 しょうがない、今日くらいは付き合ってやろう。

 

 この後なんだかんだ、夜が明けるまで二人は飲み明かした、その結果どうなったか考えるまでもないがそれはまた次回に持ち越しになるだろう。




ということで、序章終了!

ここからですよ~、どんどん話を広げていかなくっちゃ!

ではまた、次話でお会いしましょう!


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