あなたにとって、恋愛とはなんですか。 (木村直輝)
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告白

 

 

 

 

 

 

 

告白

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後の校舎の陰でひっそりと咲き乱れる、

カンナの花を添えて

 

 

 

 

 

 

 

 あなたが今までで、一番こわかった話はなんですか。

 私が今までで、いっち番こわかったのは、私が高校の時の話。

 あれは、夏休み。男女何人かのグループで、遊びに行った時の話なんだけどね。

 夜になって、なんか男子がね。こわい話しようぜ、とか言いだして。ベタだよね。それぞれ、どっかで聞いたことがあるようなこわい話を話したの。

 みんなノリでキャーキャー言ったりして、それなりに盛り上がったし面白かったんだけどね。正直そんなにこわくなかったし、その内ネタもつきてきて。

 男子の一人がね。たしか、なんかもっとこわいのねーのかよ、とか。そんなことを言いだしたんだったと思う。

 そしたらね。一人の女子が、お化けとかそう言う話じゃないのなら、知ってるかも、って言ったの。

 その子はね、すっごく可愛くて、頭もよくて、スポーツもできてね。まさに才色兼備、とか。文武両道、って感じで。私は別に仲良くなかったんだけどね。たぶん、男子が頑張ってさそったんだろうね。私がその子と遊んだのは、たぶんそれが最初で最後だった。高校を卒業した後も、もちろん、連絡なんてとってないし。確か、すごく有名な大学に進学したんだったと思うけど。今はもう、どうしてるのかもわからない……。

 まあ、それはおいといて。もう、何でもいいから聞かせてよ、って。そんな感じになって、彼女が話し始めたの。

 あっ、もちろん。一言一句、覚えてるわけじゃないからね。そこは、目をつぶって欲しいんだけど――。

 これは、ある中学校で本当に起こった出来事なんだけど。

 ある日の放課後、とある男子。K君、ってことにしておこっか。K君がね、同じクラスの女子。今度は……、Yさんね。Yさんに呼び出されたの。

 その中学はね。三階の、視聴覚室前の廊下の辺りとかは、放課後になると基本、誰も通らなくって。その辺りに呼び出されたの。

 K君はね、別にそれまでYさんのことが好きだったわけじゃないんだけど。でも、Yさんはクラスの男子たちによく可愛いって噂されてたぐらいだったから。たぶん。正直ちょっと、まんざらでもなくって。違ってたら恥ずかしいから、誰にも言わなかったんだと思うんだけど。結構、期待しちゃったりしてたんだよね、たぶん。それでね、放課後になって。

 K君はその日、部活もなかったし。もちろん、そういう日をYさんは選んだんだけどね。まあ、だから。いつも一緒に帰る友達に、声をかけられる前に。いそいそと教室を出ていったの。

 それでね、誰にも見つからないように、時間をつぶして。

 みんなが帰った頃。約束の時間に、呼び出された場所にいったの。

 Yさんはまだ来てなくって。K君はきっと、ドキドキしてた。

 Yさんはちょっとだけ遅れてきてね。

「ごめん。待たせちゃった?」

 って、言ったの。K君は優しいから、

「あっ、いや。俺も今来たとこ」

 とか言って。本当は、ちょっと時間より早く来てたくせにね。

 それで、ちょっと二人の間に、沈黙が流れたの。

 その沈黙を破ったのは、Yさんだった。

「ごめんね、いきなり呼び出して。きてくれて、ありがとう」

「ああ、別にいいけど。話って何?」

「うん。あのね。私……」

 Yさんはそこまで言って、自分の手を自分の手でぎゅって握って。その後、制服のポケットのあたりをつかんだの。Yさんは、すっごく緊張してた。

 女子の制服のポケットってね。男子の制服のポケットと違って、あんまり大きくないの。ハンカチとかティッシュが入るぐらいで、ほんと、飾り程度。

「私、K君のこと……」

「……」

「私、K君のこと……。ずっと。ずっと、殺したかったの」

 と言うなりYさんはポケットからナイフを取り出してK君に向かって突っ込んだ。

 K君は驚きながらもギリギリのところで咄嗟によけて、ナイフはK君の脇腹をかすめた。K君のYシャツが破れて。真っ白なYシャツに小さな赤い染みが広がって、とっても綺麗だった。

 YさんはすぐにK君の方を向き直って、K君はとにかく逃げなきゃって。走りだしたの。

 静かな廊下には二人の足音が響き渡って。

 K君が振り返ると、Yさんがナイフを持って追いかけてきていて。二人の距離はどんどん縮まってくんだ。

 K君はとにかく走った。

 階段を駆け下りて、二階へ。二回には職員室がある。だから、二階へ。

 廊下に出て、職員室は目前。助かったって、たぶん、K君はその気持ちでスピードをゆるめたの。

 その瞬間。

 K君は背中に強い痛みを感じて振り返ったの。

 そこにはYさんがいて。二人の距離はもうなくなってて、ナイフがK君の背中に突き刺さってた。

 Yさんがナイフを抜くと、K君の背中からは真っ赤な血液がふきだして。

 花びらみたいに散る血液が、とっても綺麗だった……。

 K君は声もなく廊下に崩れて、Yさんは何か言ったんだけど、K君にはもうきっと、その声はとどかなかった。

 その時、校舎の陰ではね。カンナの花が、静かに、ひっそりと。綺麗に咲いてたんだ。

 ――彼女のそのお話を、私たちはみんな、静かに聞いていた。

 さっきまでみたいに、キャーキャー言ったりする人は一人もいなくって。でも、さっきまでより、みんな、こわかったんだと思う。

 彼女が話を終えた後、その沈黙を力任せに壊すように、一人の男子が言ったんだ。こわかったんだろうね。強がって。いや。つーか、その男子死んだんだろ。じゃあなんでお前がその話知ってんだよ。とか言っちゃって。

 皆から、こわかったからって揚げ足とんなよ、とか。こわい話なんて大体みんなそうじゃん、とか。散々からかわれて。別にこわくねーし、とか言って、みんなで爆笑してたんだけど。

 そんな笑い声にまぎれて、彼女がぼそって言った言葉を、私は聞き逃さなかった。

 ――私が殺したから。




 この短編は、私が中学時代に書いた小説『松本仙翁』をもとに、新たに書いた短編です。
https://syosetu.org/novel/228815/1.html

二〇一六年 五月一八日
二〇一六年 七月 六日 最終加筆修正


2020/07/07_内容重複の修正
2020/07/09_リンクの挿入


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一目惚れ

 

 

 

 

 

 

 

一目惚れ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空から降ってきては砕け散る雨粒をあびて色づいた、

アジサイの花を添えて

 

 

 

 

 

 

 

 あなたには、忘れられない人がいますか。

 僕にはいる。忘れられない人が。

 彼女は、ある日、突然。僕の目の前に現れた。

 いつもと変わらない日常を歩いていた僕の目の前に、突然、空から降ってきた彼女。

 あれは、そう。

 ある夏の雨の日のことだった――。

 当時、僕はまだ高校生で。あの日も僕は高校への通学路を、いつもと同じように学校へ向かって歩いていた。

 いつもと変わらない朝。いつもと変わらない道。いつもと変わらない制服。

 いつもいつもいつもいつも。何も変わらない日常に、僕は嫌気がさしていた。

 もちろん、別に楽しいことが何もなかったわけじゃなかった。学校に行けば友達がいたし、授業は大抵つまらなかったけど、面白い先生がいたり、それなりに充実していたと思う。当時の僕も、それはきっとなんとなくわかっていた。

 でも、そういうんじゃなくて。そんな代わり映えのしない日常に、何だか飽き飽きしてたんだ。あの当時の僕は。

 もちろん、そんな日々の中にだって変化はあった。毎日毎日、小さな変化はたくさんあって。当たり前のことだけれど。その日のように毎日毎日雨が降ってたわけじゃないし。学校の授業だって毎回毎回先へ進んでたし。道端に咲いていたアジサイは、数か月前は咲いてすらいなかったし。

 そう。アジサイが咲いてたんだ。その日、僕が彼女に出会った時。僕の視界の隅っこには、たくさんのアジサイが咲いていた。青い色のアジサイが、めーいっぱい。

 アジサイは、花壇っていうのかなんていうのか、よくわからないけれど。植込みみたいなところに植わっていたんだと思う。それは、マンションの前に設けられていて。

 そのマンションは、すごく高かった。割と新しい、高層マンションで。

 僕はそのマンションの前を、やっぱり代わり映えもせず、毎日毎日歩いていて。その日も僕は、そのマンションの前を通ったんだ。

 そして。それは、突然の出来事だった。

 朝、家を出た時からずっと。僕の視界の前に降り続けていた雨。

 その雨と一緒に、突然空から降って来たんだ。一人の少女が。

 少女は突然、空から降ってきて、そして、僕の目の前のアスファルトに吸い込まれていった。

 一目惚れ、だった。

 一瞬だった。

 僕と少女の出会いは、ほんの一瞬だった。

 一瞬だったけど。でも、その一瞬で。僕は彼女に恋をしたんだ。

 彼女と目があったその瞬間、僕の全身に衝撃が走った。その衝撃は、僕にとって。世界が止まってしまうには十分すぎる衝撃で。

 僕は何が起こったのかわからなくって、時間も何もかも止まってしまったかのようで、何も聞こえなくって。

 ただ振り続ける雨だけが、僕の目の前で動き続けていた。

 恋をすると、それまでとは世界が違って見えるだなんて言葉を。それまでの僕は微塵も信じて何ていなかったけれど。気にとめてすらもいなかったけれど。そのとき僕は初めて、その言葉を実感することになったんだ。

 思えばあれが、僕の、本当の意味での初恋だったのかもしれない。

 僕のそれまでの退屈な日常は、その一瞬で。全く新しい日々へと変わってしまったんだ。

 どれほど経った頃だったろうか。僕が気づいた時にはもう既に、時間は再び動き出していて、世界は音を取り戻していた。

 そして。ふと下を向いた僕の足元には、今まで見たこともない様な、とても不思議な塊があって。真っ赤な雨水が、僕の足元に大きな水溜りをつくっていた。

 いつの間にか、雨は止んでいて、セミの鳴く声がうるさかった。

 太陽が、僕の体をじりじりと照りつけていて。

 それなのに、なぜだろうか。傘をさしているはずの僕の頬はずぶ濡れで、僕の足元に降る雨だけは降りやまなかった。

 恋する彼女を思う僕。

 太陽と水溜りの温もりが、静かに僕を温め続けてくれていた――。

 月日は流れて、僕は高校を卒業し、今は社会人になっている。

 あれ以来、僕は彼女に会っていない。

 そして、幾度となく雨に降られ、幾人もの女性と出会ってきた。

 でも。それでも僕は、彼女のことを忘れられない。

 あの日、一瞬見たあの顔が、今でも僕は忘れられない。

 僕は今も、彼女に恋をしている。

 彼女が僕の、忘れられない人だ。

 ――あなたには、忘れられない人がいますか。




 この短編は、私が高校時代に書いた小説『一目惚れ』をもとに、新たに描いた短編です。
https://syosetu.org/novel/228815/2.html

二〇一六年 五月一七日
二〇一六年 七月 六日 最終加筆修正


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セックス

 この文章には「性的な表現⚠」・「残虐な表現⚠」が含まれています。

 まだ15さいになっていない(ひと)()ると、とてもこわいことになってしまうかもしれません。
 よくわからない(ひと)は、()るまえにしんじられる大人(おとな)の人にきいてみてください。


 

 

 

 

 

 

 

セックス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

永遠に終わらないかのように思えた色の無い世界に現れた、

フキノトウ風

 

 

 

 

 

 

 

 あなたにとって、セックスとはなんですか?

 私にとってセックスは、生きるためのものだった。

 私が初めてセックスをしたのは、小学生の時だった。

 当時、私は毎日のように、近所のおじさんの家に行っていた。

 遊びに行っていたわけではない。生きるために。

 お金を貰うために。その昔は、ご飯を食べるために、お風呂に入るために、洗濯物を取りに行くために、ゆっくり眠ることのできる場所を確保するために。

 私はそのおじさんの家に通っていた。

 私の記憶にある両親は、二人とも私と血のつながりがない。そんな二人が、私を疎ましく思うのは、当然のことだろう。

 私が物心ついた頃にはもう、二人はほとんど私の面倒を見てはくれなかった。家にいてもご飯は出てこないし、湯船はいつも空っぽで、洗濯機が私の衣服を洗うことはなく、私専用の布団はどこにもなかった。雨風をしのぐことができればいい方で、家の中にすら入れないことも当たり前だった。

 そんな私の生活に、いち早く気付いて、面倒を見てくれたのがそのおじさんだった。

 おじさんは私に、美味しいご飯とポカポカお風呂、あったかい布団を用意してくれた。衣服を洗濯してくれたし、たまに遊んでくれたし、色んなものを与えてくれた。

 その代わりに、おじさんはお酒を飲んだ後、私の裸を求めた。

 私の裸を見ることを、私の裸に触れることを、私に裸を触れられることを、毎日のようにおじさんは求めた。

 そして、当時の私には、それを拒むという発想などなかった。それほどの知識も選択肢も、当時の私にありはしなかったのだ。

 それに、親に抱きしめられた記憶すらない私にとって、むしろそれは唯一、人のぬくもりを感じる時間だったのだ。当時の私はその時間に、喜びすら感じていたのである。

 しかし、いつ頃からだったろうか。その時間は、好ましくない時間へと変わっていった。それは、月日を追うごとに強くなっていって、辛いと思った時期もあった。

 それでも私は、その行為を拒むことはなかった。それはもはや当たり前で、それ以外に生きる方法などなくて。幼い私にとっての世界は、とても狭かったのだ。

 それに。相変わらずその時間だけが、唯一誰かのぬくもりに触れることのできる時間だったのもまた、事実だった。その時間は私に、嫌悪感と同時に安らぎも与えてくれていたのだった。

 そんな日々が何年も続いて。ある日、私は初めてセックスをした。

 それからはもう、毎日のようにセックスをした。

 しかし、私が小学校を卒業してしばらく経った頃、それは突如として終わりを迎えた。おじさんに、恋人ができたのだ。

 それと同時に、私は一人暮らしを始めた。手続きは全部、おじさんがやってくれた。しかし、毎月私が一人で暮らしていけるほどの援助をしてくれるほど、おじさんは甘くはなかった。そんな余裕、おじさんにありはしなかった。

 私は当然のように、セックスをしてお金を稼いだ。

 セックスで生きてきた私には、それ以外の選択肢など、あってないようなものだったのだ。私はそうやって、生きてきたのだから。

 セックスで稼いだお金でご飯を食べて、お風呂に入り、家に住んで、学校に行った。

 あっという間に月日は流れ、私は高校に進学した。

 何で高校なんかに行くのかと、多くの男が私に訊いた。訊かれるたびに、女子高生とセックスしたいでしょ、と私は答えた。……でも、そんなものは嘘でどうにでもなることを、本当の私は知っていた。

 学校という世界だけが、私にとって唯一、普通な世界とつながれる場所だった。そこにいる時だけは、私は普通の女の子だった。全部、忘れることができた。そこが唯一の希望だった。

 そして希望は、絶望を際立たせる。夜は必ずやってきた。

 あれは、何度目の夜だったろうか。いつも通り、私は私を求める男のもとに向かった。

 その男は、私と同い年ぐらいの少年だった。

 少年は私をホテルの一室へと迎え入れると、突然、私が一カ月にいくらぐらい稼いでいるのかを訊いてきた。私がそれに答えると、少年は安っぽい鞄の中から、私が答えた額よりも少し多い額のお金を取り出した。少年はそれを私の前に置き、毎月俺があなたを買いに来るから、もうこんなことは止めるようにと言葉を添えて、連絡先を置いていった。

 私は一人。お金と共にホテルの一室に取り残されて、ただただ困惑した。意味がわからなかったし、何が起こったのか理解できなかった。

 その(あと)。私は、ひとまずお金を持ち帰ったが、次の日からも今までと変わらずセックスでお金を稼いだ。

 一週間後、少年は再び私の前に現れた。少年は訳も言わずに、ただただもうこんなことは止めてくれと頭を下げて帰って行った。必ず毎月、お金を払うからと。そう言い残して。

し かし、私はセックスを続けた。ずっとそうやって生きてきた私に、今さら止めると言う選択肢など幻のようにしか映らなかった。

 そんな私の前に、少年は何度も現れた。少年はしつこく、止めてくれと頭を下げ続けた。

 しかし、私が変わることはなく、その内に一カ月が経った。少年は約束通り私にお金を持って来た。

 それから毎月。相変わらずセックスでお金を稼ぎ続ける私のもとへ、少年はお金を持って現れた。そして、相変わらず頭を下げて帰って行った。

 次第に私は、セックスする回数が減っていった。

 私は今まで、セックスをしたいと思ったことなど一度してありはしなかった。しかし、今までずっと続けてきたことを止めるというのは意外に難しいもので、すぐに止めることはできなかった。

 それでも、少年と出会ってから一年が経つ頃にはもう、私はセックスから解放されていた。

 私がセックスをしなくなってからも、少年は毎月私にお金を持ってきた。

 私はいつしか、月に数回、少年と会うのを心待ちにするようになっていた。私は少年に、好意を抱くようになっていたのだ。

 今まで散々セックスをしてきた私だったが、この人とだったらセックスをしてもいいかもしれないと。そんな風にさえ、思うようになっていた。

 そんなある日、少年は私に紹介したい人がいると言った。

 その人は、私と同い年の少年だった。

 裕福な家庭に生まれた彼は、優しく優秀な両親に育てられ、とても純粋で、それでいて強い人であった。有名な私立高校に通っていて、将来も約束されている、そんな人であった。

 私とは住んでいる世界が違う。それが、彼の第一印象だった。しかし、話している内に、私と彼は驚くほど趣味が合うことに気づかされた。私は彼と、初対面だというのに時間も忘れて話し続けた。

 その日の帰り道。少年は、あの人なら君を幸せにしてくれると思うと、そう言った。

 それから、私は彼と二人きりで会うようになった。少年からのお金もいつしか、彼を経由して渡されるようになり、少年と会う回数は減っていった。

 そしてある日、私は彼から交際を申し込まれた。

 私は断った。私とあなたとでは住んでいる世界が違うと。私は汚れていると、私はその時初めて、彼に私の全てを打ち明けた。

 しかし、彼はそんな私でも愛してくれると、そう言ってくれた。

 私に初めて、恋人ができた。

 私たちはキスすらしないまま、数か月を共に過ごした。

 切なさや、もどかしさや、言葉にできない感情を。色んな初めてを、私は経験した。バレンタインや、花火や、何気ない日々を。沢山のことを、彼と共有した。

 そしていつ頃からだったろうか。私は、この人とセックスがしたいと。そんな風に思うようになっていた。

 私は今まで、数えきれないほどの男と、数えきれないほどセックスをしてきた。しかし、自分からセックスがしたいと思ったのは。彼が、それが、初めてだった。

 私がそう思うようになってからも、彼との関係は相変わらずで。ただ並んで歩くだけで満たされるような、手をつなぐだけでも胸が高鳴るような、そんな日々を送った。

 そして。私と彼がつきあって、丁度半年が経った、その日。

 ――私にとっての、セックスは変わった。



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恋人たち

 

 

 

 

 

 

 

恋人たち

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水の華の如し

 

 

 

 

 

 

 

 

 あなたの恋人は、何人ですか。

 一人ですか。二人ですか。三人ですか。それとも――。

「ねえ。話があるの」

 二人っきりの部屋の中。

 小さなテーブルをはさんで向かいに座る彼女は、唐突にそう切り出した。

「話?」

 ()き返した俺の目を、彼女は真っ直ぐに見つめる。深刻そうな表情の彼女。心なしか、部屋の空気が重たくなったような気がする。

「うん。私……」

 彼女は一旦、俺から視線を逸らして下を見ると、再び俺の目を見て口を開いた。

「私、子供ができたの」

「こっ、子供?! 俺、お前に触れたこともないのに?!」

 突然の告白に俺は驚きを隠せない。そう。俺たちはつきあい始めてから今日まで、プラトニックな関係を築いてきたのだ。俺は彼女に触れたことすらない。

「うん」

「だっ、誰の子だよ……」

「私の……」

「いやっ。そうじゃなくて」

 その時、突然。俺の後ろから声がした。

「私ね」

 目の前にいるはずの彼女の声が、後ろから。振り返る俺。

「分裂しちゃったの」

 そこには彼女が一人、立っていた。

 俺を挟んで彼女が二人、声をそろえてそう言った。

「分裂……」

 分裂――。

 有性生殖によって増える我々ヒトにとって、分裂と言えばそれはすなわち細胞分裂のことを指し、分裂した片割れが子供という表現には違和感があるかもしれない。

 しかし。一つの細胞からなる単細胞生物では、細胞の分裂がイコールで個体数を増やすこととなる。

 それだけではない。分裂することで有名な生物、プラナリアをはじめヒトデやクラゲなど、我々と同じ複数の細胞によって成り立っている多細胞生物にも分裂によって増える種が存在するのだ。

 そう。分裂とは立派な生殖。無性生殖の一様式なのである。

 そして今、俺の彼女は言ったのだ。分裂したと。

「ごめんね。驚かせちゃって」

「でもこれは、あなたのせいなんだよ」

「おっ、俺の……」

「そう。あまりにもあなたが私に触れてくれないから」

「私の本能がこのままでは生殖できないって危機を感じちゃって」

「一個体でも生殖できるようにって、無性生殖ができる体になっちゃったの」

「そっ、そんな……、馬鹿な……」

「本当だよ」

「ほら」

 そう言って、自分の髪の毛を一本引き千切る二人の彼女。

 その髪の毛からは瞬く間に頭が、体が、再生され。あっという間に彼女が二人誕生した。部屋の中には今、四人の彼女が存在している。

「どう?」

「信じてくれた?」

「っ……」

 目の前で起こったその出来事は、にわかには信じがたかったが、しかし。確かに今、俺は四人の彼女に囲まれている。

「それでね、あなたには申し訳ないんだけど」

 そう言って、座っていた彼女が立ち上がった瞬間。彼女の体に、縦に割れ目が生じた。そうして彼女は真っ二つになり、その断面から一瞬で半身が再生された。

「なっ……」

 室内を見回し、俺は驚愕する。いつの間にか俺は、八人の彼女に囲まれていた。

「見ての通り、私ね」

「すぐに分裂しちゃうの」

「このペースでいくと、食料とか」

「色んな資源が枯渇しちゃう」

「だからね」

「私以外の人間には、絶滅して貰おうと思うの」

「なっ! 何を言って」

「私はもう、私だけで繁殖もできるし」

「私以外の人間はいらない」

「ごめんね」

「まずは彼氏の」

「あなたから」

 そう言って笑った彼女の一人が、俺に向かって手を振るう。

 それと同時に、彼女の指が第一関節から切れ、手を振るった勢いで俺に向かって飛んできた。五本の指が、飛んできた。

「なっ。これは……。まさか……、自切っ?!」

 自切――。

 トカゲのしっぽ切りと言えばわかるだろうか。トカゲのほか、昆虫のナナフシや甲殻類のカニなどにも見られる自切。

 本来その多くは、自分の体の一部を切り離すことでそちらに外敵の注意を引きつけ、逃走の成功率を上げるものである。

 しかし、彼女のそれは、もはや用途が全く違っている別物。

 五本の指は、瞬く間に五人の彼女へと変貌し、俺に飛来。

 もはや切り離された方も再生するこれは、自切とは言えぬ行為。

 それはまさしく、分裂!

「くっ、うあ!」

 彼女の重みで倒れる俺。五人の彼女が俺に群がり、俺を圧死させようとする。

「あなたにこんなに触れたの」

「初めてかも……」

「くっ……、こんな時に何を……。っつう、ラァ!」

 俺は思いっきり叫びながら、力を振り絞って彼女たちを吹っ飛ばし起き上がった。

「はぁ……、はぁ……」

 息を乱す俺を見て、涼しげな顔で笑う彼女たち。

「ふふ。苦しそうだね」

「大丈夫?」

「今、私たちが楽にしてあげる」

「ううん、私一人で十分だよ」

 そう言った彼女は一人、俺の正面に立った。すると。

 ビキッ。ビキビキッ。

 突如、彼女の肩に亀裂が入り、両肩の断面から二本ずつ腕が再生した。

 三対六本の細腕をうねらせて、彼女は微笑む。

「阿修羅フォルム」

 その微笑み、アルカイックスマイル!

「くっ、流石俺の彼女だ。六本腕も、似合ってるよ」

「ありがとう」

 彼女は嬉しそうに微笑むと、素早く俺へと向かってきた。

 六本の腕から繰り出される、激しいボディータッチ!

 それはさながら、武神の如く。俺の体に降りそそぐ。

「でもよぉ……、二本の方が、似合ってたぜェ!」

 俺の反撃。ブチブチブチィと、余計な腕を引き千切る。

 しかしそこから生え(しき)る。数多の腕が、生え頻る。

「いったいなぁ、もう。でも、ありがとう」

 ビキッ、ビキビキビキビキッ。

「千手観音フォルム」

「マジかよ……」

 千を超えるボディータッチが、俺を昇天させようとする。

 その時! 眩い光が、室内を埋め尽くす。

「ごっ、後光?」

 否。俺は足元に閃光弾、スタングレネードの存在を確認した。

「きゃあっ!」

 室内に広がる、彼女たちの悲鳴。

「大丈夫か!」

「その声は……、ハカセ!」

 ハカセは俺の近所に住む、ハカセである。

 俺はハカセに救出され、九死に一生を得た。俺はハカセの家兼研究室で、一息つきながら事情を話すことにした。

「そうじゃろうなぁ……」

 ハカセは俺の話を全て聞き終えると、テレビのリモコンを取り、スイッチを押した。

 テレビに映し出された光景に、俺は絶句する。

 それは道路を埋め尽くす、何万人もの俺の彼女。

 右も左も彼女、彼女、彼女。

「こっ、これは……」

「今、君の彼女たちは自分以外の人類抹殺のための拠点を探しているんじゃ。まだ君以外の人間を襲ってはいないが、きっと時間の問題じゃろう」

「そんな……」

「もう、どうすることもできん。後は、自衛隊と米軍に任せるんじゃ」

 俺は勢いよく立ち上がると、玄関に向かった。

「どこへ行くんじゃ!」

「決まってんだろ。アイツのところさ」

「さっきの戦いでわかったじゃろ。君が彼女に勝つことはできん。あれはもうヒトではない、バケモノじゃ! 次は本当に殺されるぞ」

「……それでもだ。ああなっちまったのは俺の所為でもあるみたいだしな。それによう、惚れた相手の間違いを、正してやんのも恋人の役目だろうが。もしもアイツがもうどうしようもないって言うんなら、そん時は、引導を渡してやんのも俺の役目だ。悪いな、ハカセ。ありがとよ」

 そう言って一歩踏み出した俺の後ろで、ハカセは立ち上がった。

「君ならそう言うと思っとったよ。ちょっと待て」

 振り返った俺に、ハカセは液体が入った無数の針と銃のような武器を手渡した。

「これは……」

「それは君の彼女の生物の域を超えた再生能力を止める薬じゃ。その薬を打ち込めば、打ち込まれた個体の異常再生は止まる。分裂によって増えた子彼女はその薬で異常再生を止められ即時死滅するじゃろう。そして……」

「そして?」

「一番おおもとの親彼女、つまりオリジナルの彼女に薬を打ち込めば異常再生のみが止まる。後は子彼女を駆逐すればいい。薬はまだまだ作っておく。まずは薬を打ち込んでも死滅しない、オリジナルの彼女を見つけ出し分裂を止めるんじゃ!」

「ハカセ……、一体どうやって」

「ワシは天才じゃぞ」

 そう言って笑うハカセに、俺は再度尋ねた。

「だから……、どうやって」

「なんやかんやじゃよ。そんなことは今、どうだっていいじゃろ。ほら。早く行って来んかい。愛する彼女が、待っとるぞ」

「ありがとう、ハカセ」

 走り出す俺の背中に、ハカセは言った。

「ちょっと待て。今、君の彼女は東京ドームに向かっておる」

「東京ドームに?」

「ああ。今の彼女の人数は、東京ドーム約三個分。三分の一も自分を収容できるあの施設は拠点にするにはぴったりだと思ったんじゃろう」

「ハカセ、ありがとう」

「……本当に行くんじゃな。成功率は、限りなくゼロに近いぞ」

「……ああ。それでも行くよ。それにな、俺はアイツに謝らなきゃいけないことがあるんだ」

「謝らなきゃいけないこと?」

「ああ。俺はアイツに子供ができたって聞いた時、驚きのあまり、誰の子かって、そう訊いたんだ」

「……」

「でも、俺にはもっと他に言うことがあったんだよ」

「言うこと?」

「ああ。惚れた女に子供ができたんだぜ? しかも、それが俺の子じゃないってぇんなら、なおさら言うことがあったんだ」

「何をじゃ……」

「んなもん、決まってんだろ」

 ――大丈夫か?




二〇一六年 六月一五日
二〇一六年 七月 六日最終加筆修正


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一途

 

 

 

 

 

 

 

一途

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

摘みとったことを枯れてから後悔し、

灰になった花に捧ぐ

 

 

 

 

 

 

 

 あなたにとって、一途とはなんですか。

 誰かへの思いを抑え込んで、誰かを思い続けることですか。

 誰かへの思いを選ぶために、誰かへの思いを捨てることですか。

 上手くいかなくなったからと、気に入らなくなったからと、相手を変えて移り変わってゆく思い。それが一途と言えるのでしょうか。

 人は。今だけ、だとか。限定、だとか。そんな言葉に弱いとよく耳にしますが。期間限定の一途さに、いったいどんな価値があるというのでしょうか。

 一途とはいったい、なんなのでしょうか。それは、美徳なのでしょうか。それは、高尚なものなのでしょうか。それは、大切なものなのでしょうか。

 私には、わかりません。

 わからない私は。無知で愚かな私は、過ちをおかしました。

 償っても償いきれない、取り返しのつかない過ちを――。

 私には、好きな人がいます。

 その人はとても魅力的な方です。優しくて、可愛くて、綺麗で、頭もよく、運動神経もよくて。まるで物語の世界のヒロインのような、そんな魅力的な少女でした。

 私のような人間にも笑顔を向けてくれるような、そんなあの人に、私は次第に魅かれていきました。

 しかし、私のような人間があの人と結ばれるはずもなく。私はあっけなく、ふられてしまいました。最初からわかっていたことです。あの人が私を好きではないからといって、私があの人を好きでなくなることなどありませんでした。

 私はそれからも、あの人に恋をし続けています。今も、ずっと。好きです。

 今の私にはもう、そんなことを言う資格など、一片もありはしないのですが……。

 私はあの人を好きになった時。もう、あの人以外の女性を好きにならないと、そう決めました。いえ。それまでにも好きになった人はいましたが、あれは違ったのだと。本当の恋ではなかったのだと、そう思いました。

 私はあの人以外のことを好きになることはないと、好きになりたくもないと。もしもそんなことが現実に起こったとしたならば、そんな現実はいらないと。そんな現実、無理矢理にだって変えてやると。そう強く、思いました。

 そんな私の前に、彼女は現れたのです。

 彼女と私は、同じ大学で知り合いました。彼女とは驚くほどに趣味が合い、私たちはすぐに仲良くなりました。一緒にいる時間は、とても楽しい時間でした。

 彼女はとても可愛らしく、優しい女性でした。

 しかし、だからといって、私が彼女を好きになることはありませんでした。なぜなら私は、あの人以外に恋はしないと。そう、決めていたからです。したくないと、そう思っていたからです。

 それは彼女も知っていました。あの人以外の女性を好きになりたくもないと言う私を、彼女はよく、一途だねと言って笑いました。

 そんな彼女と私は、とても趣味が合いました。だから、仲良くなるまでに、そう時間はかかりませんでした。

 知り合った頃は、学内ですれ違えば多少談笑する程度の関係でしたが、その内。講義の合間や大学の帰りに、頻繁に会っては話すようになりました。

 もちろん、私も彼女も互いにそれぞれの友人がいましたから、毎日というわけではありませんでしたが。それでも、週の半分は彼女と二人で昼食を食べていたような気がします。

 その内に、休日にも彼女と会うようになりました。彼女とは色々なところに行きました。ファミレスや映画館、水族館やショッピングセンター。本当に、色々なところに行ったものです。

 その中で、一番の思い出を上げるとするならば。それは、……それもやっぱり、あの公園でのことになるのでしょうか。

 私と彼女はよく、大学近くの公園を散歩しました。園内は中々に広く、花壇やそれなりと大きな池もあって。私と彼女はその公園を散歩しながら、昨日見たテレビの話や今朝見た夢の話。課題がどうだとかアイツがなんだとか、そんな他愛もないことを話しました。

 彼女はよく、なんとかという花が咲いただとか、なんとかという鳥が鳴いているだとか。ちいさなことに気がついては嬉しそうに微笑む、そんな女性でした。

 そんな他愛もない日々が、一番の思い出です。

 私には、そんなことを言う資格など、微塵もありはしないのですが……。

 彼女とは本当に、長い時間を共に過ごしました。いえ。期間にしてみればほんの数カ月でしかありませんが。その密度が、私にそう思わせるのでしょう。

 それだけの日々を共に過ごして。きっと、彼女はわかっていたのだと思います。私がどんな風に思っているのか、その考えを。思いを。心の奥底まで。きっと……。

 あれは、彼女と出会って最初の秋のことでした。

 ある日、彼女は言ったのです。もう、我慢できないと。彼女は私に言いました。私のことが好きだと。友達としてではなく、異性として私のことが好きだと。彼女はそう言いました。

 私はその気持ちには答えられないと、そう伝えました。私はあの人のことが好きなのだから、それは当然の答えでした。彼女ももちろん、それはわかっていると。ただ、隠しているのが辛かったのだと。そう言って、彼女は謝りました。

 その時、私は。嫌な感覚に襲われました。私はその感覚から逃げるように、彼女と距離をとりました。

 彼女からは、今まで通りといかないまでも、これからもそばにいたいと伝えられました。しかし、距離をとる私に対して、彼女はそれを無理強いすることはせず。彼女と口もきかないまま一週間が過ぎました。

 私は嫌な感覚から逃れるために彼女から離れたはずなのに、会わない時間はその感覚を、より増大させていきました。私の中で、次第に彼女の存在は大きくなっていきました。

 このままではまずいと。嫌だと、私は思いました。

 そしてあの日、私は彼女を呼び出したのです。

 公園のベンチに並んで座り、一言も喋らない私と、いつになく饒舌な彼女。

 あの日のことは、今でもよく覚えています。何度も夢に見ました。

 私はあの公園で、彼女の首に手をかけました。

 彼女は最初、苦しそうに顔をゆがめました。しかし、その後。彼女は苦しそうにしながらもどこか嬉しそうに、切なげに、儚げに、微笑んだのです。私はその笑顔が恐くて。さらに手に力を込めました。

 どれ程時間が経ったでしょうか。力なく横たわる彼女を私はベンチに寝かせ、まぶたを閉じさせました。

 私はその時になって、ようやく気づいたのです。ここまでしなくてはいけないほど、私は彼女のことを思っていたのだと。ここまでして私が抑えこまなければと、抑えこもうとしていたものは、何だったのかと。

 そして何より、そこまで思ってしまった時点でもう、遅かったのだと。

 しかしもう、その時にはすべてが遅かったのです。

 私は最期の彼女の微笑みの意味をようやく、頭で理解し、そうしてその場に崩れました。彼女はきっと、私の全てをわかっていたのです。

 あの時の首の感触を、私は忘れられません。何度も何度も、私はこの灰色の部屋の中で夢に見ました。何度も何度も、思い出しました。何度も何度も何度も何度も。あの日のことを。彼女のことを。あの感触を。そして、あの微笑みを。

 自首などしなければ、私は死刑になれたのでしょうか。

 いえ、苦しむことが罰なのでしょう。苦しんで苦しんで苦しんだ末、死ぬことが罰なのでしょう。しかし、それももう終わりです。

 後、少しで。やっと。やっと私は、最期の罰を受ける時が来るのです。

 それでも罪は消えません。それでも取り返しはつきません。それでも私にはわかりません――。

 一途とは、なんなのでしょうか。




二〇一六年 六月一五日
二〇一六年 七月 六日 最終加筆修正


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離婚

 

 

 

 

 

 

 

離婚

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人知れず悲しげに垂れ下がる、

シダレヤナギ風

 

 

 

 

 

 

 

 あなたは好きな人と、一緒に居たいと思いますか。

 一緒に居たいと思うこと、それが愛だというのなら。だとしたら――。

 私は先日、離婚しました。

 いやー、上手くいきましたよ。本当によかった。

 いやぁ。本当にバカなヤツですよ。本当に……。

 いや、私にも。愛さえあればお金なんていらない、そんな風に思う時期もあったんですよ。少しのお金と愛があれば、幸せに暮らしていける、だなんてね。

 でもやっぱり、違いましたね。そうはいかないんですよ、これが。

 娘もね、来年から高校生ですからね。この後も、大学やらなんやらって、お金がかかるでしょう。それに加えて、日々の生活費。

 いやー、お金ってのは本当にかかるもんですよ。

 なんて言ってもね、別に困窮してたわけじゃあないんですよ。私だってついこの間までは、愛さえあればって思ってたんですから。

 でも、あんなこと聞いちゃったらねぇ。そうも言ってらんないでしょ。

 本当だったらすぐにでも別れたかったんですけどね。いやー、離婚てのは時間も労力も奪われるもんですね。

 ただでさえ短い寿命が、余計縮むかと思いましたよ。はは。

 にしても、離婚を切り出した時の妻の顔。忘れらんないっすよ。

 嘘でしょ、って。何で、って。バッサリ切ってやりましたけどね。

 娘もすごかったなぁ。うちは反抗期っていう反抗期はなかったんですよ。仲良かったですからねぇ。その分、もーすごかったですよ。

 まあ、人生かかってるわけだし。一世一代の大勝負、って気持ちでしたからね。

 なんとしても別れたかったですし。

 いやでも、慰謝料。滅茶苦茶、支払いましたからね。

 どっからってそりゃあ、借金しましたよ。あんな大金、あるわけないじゃないですか。雀の涙ほどの貯金と合わせて全部、渡してやりましたよ。

 まあ、今後のことを考えると金融機関の皆さんには申し訳ないですけどね。そこは、まあ、私にも大事なものがありますから……。

 にしても、うちの嫁。って、もう嫁じゃないんですけどね。彼女は本当に可愛くってねぇ。何より、気立てがいいと言うか、愛想がいいと言うか。

 結婚してからも隙あらば、なんて男がいっぱいいましたからね。

 よく結婚できましたよね、私。

 共通の友人にもいましたよ。旦那が嫌になったらいつでも、何て冗談めかしに言ってましたけどね。あれは本心でしたよね。

 アイツの方が金もあるし、アイツと結婚してれば今頃もっと裕福だったろうに。何で私なんか選んだんでしょうね。ほんとに、バカですよ。

 いやー、でもアイツは良いヤツですからね。今も二人により添って、今後の相談とかのってるみたいだし。

 傷ついた彼女も娘も、完全にあっちに心いってますよ。

 まあ、状況が状況ですからね。みんな二人についてますよ。もともと彼女は人望もあったし。

 いやーでも、人の心なんて本当にいとも容易く変わるもんですね。

 あれだけ嫌われればね。妻も娘も、私が死のうがどうしようがもう微塵も悲しみゃしないでしょうね。

 えっ、何で別れたかって。そりゃあ、ねえ。

 言われたんですよ。医者から余命半年だって。

 突然ね。今までぴんぴんしてたのに、わかんないもんですね。治療しなければ余命半年。娘もこれからたくさんお金のかかる時期ですし、妻の負担だって尋常じゃない。

 でもこれでもう、大丈夫。金はあるし、支えてくれる人たちもいる。私が死んでも悲しまない。きっと知ることもない。

 一緒に居たいと思うこと、それが愛だというのなら。だとしたら私は、家族のことを愛してなんていないんでしょうね。

 でも、私にとって一番大事なのはね。一緒にいることじゃあない。愛でもない。妻と娘の、幸せなんですよ。

 目をつぶると、浮かびますよ。リビングに飾ってあった、家族写真。

思い出が。

 楽しかったなぁ。

 ――その日。とあるマンションの一室で、男が宙にぶら下がった。




二〇一六年 六月一五日
二〇一六年 六月二八日 最終加筆修正


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ヒーロー

 この文章には「性的な表現⚠」・「残虐な表現⚠」が含まれています。

 まだ15さいになっていない(ひと)()ると、とてもこわいことになってしまうかもしれません。
 よくわからない(ひと)は、()るまえにしんじられる大人(おとな)の人にきいてみてください。


 

 

 

 

 

 

 

ヒーロー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自身は朽ち果て土となり未来に開く花の糧となる、

落ち葉風

 

 

 

 

 

 

 

 あなたに、ヒーローはいますか。

 俺にはいる。

 ずっとずっと、昔から。

 俺が彼女と出会ったのは、まだ俺が小学生にも上がらないくらいの歳の頃だった。

 当時、俺はボロボロの古いアパートに住んでいて、父親からは毎日のように虐待を受けていた。 殴られ、蹴られ、怒鳴られ、縛られ、熱湯をかけられ。たった一人の親に、父親に、俺は暴力を振るわれ続けていた。

 俺の母親は、物心ついた頃にはもういなくて。俺にとっての親は、頼れる存在は、父親だけだった。

 父親も、常に暴力を振るうわけではなかった。普段は優しくて、食事の支度も、炊事も洗濯も、家事は全部やってくれていたし。毎日のように仕事に出かけて、お金を稼いで、何より俺を育ててくれていた。

 しかし、仕事から帰って来た後。食事の時間が終わる頃になると、父の様子は一変した。一たび酒を飲むと、普段の優しい父はいなくなり、かわりに恐ろしい鬼が現れるのだ。

 当時の俺は、本当にそう思っていた。あれはお父さんじゃない。お父さんの姿をした鬼なんだって。そんな風に思っていた。

 しかし、そんな地獄の日々に。ある日、変化がおとずれた。

 父が、女の子を連れてくるようになったのだ。ほとんど毎日のように。俺と同い年ぐらいの、小さな女の子を。

 そして、父が女の子を連れてくる日は、俺が暴力を振るわれることは決してなかった。その代わり、俺はいつもより早く布団に入れられ、寝かしつけられた。

 不満はなかった。やっと俺に、平穏な日々がおとずれたのだから。女の子が家に来ない日は相変わらず殴られたが、そんな日はまれだった。そして、その内に、暴力を振るわれることは完全になくなった。

 俺は、鬼は退治されたんだと喜んでいた。もう、恐い目にあわずにすむと、安心しきっていた。

 でも、ある日俺は見てしまったんだ。

 布団の中から、父が鬼になる光景を。

 それは、俺が暴力を振るわれている時よりも地獄のような光景だった。当時の俺には、なぜだかわからなかったけれど。それはなぜだかおぞましく、とにかく恐かった。

 一度それを目撃してしまった俺は、次の日から眠れなくなってしまった。目をつむると、頭の中にあの地獄が、鮮明に蘇るのだ。

 俺はそれから何度も何度も、その地獄を目の当たりにすることとなった。しかし、恐ろしいことに人というのは慣れる生き物であるようで。次第に俺は、普通に眠れるようになっていった。

 しかし。ただ一つ。ただ一つだけ、ずっと変わらないことがあった。それは、彼女への思いだった。

 彼女が来る日は、俺は殴られない。彼女が来るようになって、俺は殴られなくなった。彼女の存在は、俺の救いだった。

 それは、その地獄を見る前も。その地獄を見た後も。その地獄に慣れた後も、変わることはなかった。決して揺らぐことも、薄れることもなく、むしろ日に日に強くなっていった。

 彼女は俺がそんな風に思っていただなんてことを、きっと知らないだろうけれど。ひょっとしたら、俺がそこにいたことすら覚えてはいないかもしれないけれど。

 でも、確かに彼女は俺の救いだったのだ。

 彼女は、そう。俺のヒーローだった。

 彼女はただただ無抵抗に、撫でられ、舐められ、殴られ、(もてあそ)ばれていた。でも、その姿は俺にとって何よりも。ウルトラマンよりも仮面ライダーよりも戦隊ヒーローよりも何よりも、ヒーローだった。何よりも俺の、救いだったんだ。

 毎日毎日父親に殴られていた俺を救ってくれた。布団の中で息を押し殺してただただ怯える俺を救ってくれた、ヒーローだったんだ。

 結局その地獄は、俺が中学に上がるまで続いた。

 俺は彼女に、ヒーローに何もすることはできなかった。ただ助けられるだけ助けられて、俺はそのまま、家を出た。

 中学進学を機に、俺は一人暮らしを始めた。父親も、このままではいけないと感じてたんだと思う。何の反対もされず、俺はすんなりと一人になることができた。

 後で聞いた話だが、父親はそのしばらく後に恋人をつくって、同棲したらしい。今はその人と再婚し、二人で生活をしているという。

 父親の再婚相手は、歳の近い女性だったという。今考えると、父親は別に、幼女趣味があったというわけではないのだろう。ただ、やり場のないストレスを、抑えきれない苦しみのはけ口を、自分の息子から他人の娘へと逸らしたというだけだったんだろう。

 そんな父を、俺は微塵も尊敬などできないし、二度と関わりたくないとすら思っている。でも、そんな父を責めることは、俺にはできない。

 もしかすると。俺にとって彼女がヒーローだったのと同じように、父にとってもまた、彼女はヒーローだったのかもしれない。

 その彼女はというと、父に恋人ができた頃。俺と同じように一人暮らしを始めたという。しかし、中学生の少女に一人で暮らすだけの経済力なんてあるはずもなく、父にだってそんな彼女を援助するほどの経済力はあるはずがなく。

 調べてみると、彼女はその後。援助交際や風俗で生計を立てているようであった。

 俺はというと、中学に上がったものの学校に行くことはほぼなかった。

 一人暮らしを始めてすぐ。俺は、近所にあった個人経営のお店に何度も頭を下げに行った。働かせて欲しいと。何度も何度も頭を下げて、ようやくお手伝いという形で働かせて貰えることになった。

 そこからはひたすら働いて、生活費を切り詰めて、とにかくお小遣いを貯め続けた。

 彼女が体を売らなくても生活をしていけるように。そのためのお金を、俺は稼ぎ貯め続けた。

 何の力もない無力で馬鹿な俺には、そのぐらいのことしか思いつかなかった。そのぐらいのことしかできなかった。

 そうして、一年が過ぎた頃。俺は考えた。お金だけでは彼女は幸せになることはできない。

 俺は、育ちの良い同年代の男と仲良くなろうと、必死に考えた。お金を稼ぐかたわらで、地元で評判のいい男子生徒に会って回った。簡単ではなかった。でも、数カ月費やして数名と知り合うことができた。突然訪ねてきた金も学力もない俺なんかにも優しく接してくれるような、そんな奴らと俺は交流を深めた。

 こんなことをしたって何にもならないんじゃないか。俺が用意できる幸せなんて本当の幸せじゃないんじゃないか。俺は間違っているじゃないか。何度も何度も考えた。

 でも、俺にはそれしかできなかった。何度考えても、やっぱり俺にはそれしか思いつかなかった。

 頭も悪く、金もない、学もない、教養も夢も何もない。あの日、あの地獄から逃げ出した弱い俺は、ヒーローとはほど遠い。

 それでも何かしたかった。何かせずにはいられなかった。

 そして。中学を卒業して少し経ったある日、ついに俺は動きだした。

 俺は彼女が働いていると思われる店に、電話をかけた。そして、彼女と思われる女性を指名した。

 あっけなかった。拍子抜けするほど簡単に、その電話は終わった。

 しかし、電話を握るその手は震えていた。

 まだ確実ではなかった。指名した女性が確実に彼女であるという自信はなかった。

 それでも、彼女に会えると思った瞬間。俺は全身を強い感覚に襲われた。

 会いたい。早く会いたい。

 これから彼女と仲良くなろうというわけでもないのに、彼女との関係に未来などないのに。俺は彼女に会いたくて仕方がなかった。

 俺はこの後、何をするのか。それは全くぶれなかったし、それはしっかりと俺の頭の中にあったけれど。それと同時に、俺の中では強い感情が溢れ出していた。

 予約した時間を目前に、俺は早足で待ち合わせの場所へと向かった。今にも走り出しそうになるのを抑えて。胸の高鳴りは抑えきれず、俺は早足で汚れた街を歩いた。

 俺は頭の中で、冷静にこの後の計画を何度も確認していた。しかし、それと同時に、俺の頭の中には冷静ではない感情が溢れていた。

 彼女に会いたい。

 俺はついに、待ち合わせの場所に到着した。

 俺の目は、一瞬で一人の少女をとらえた。

 薄汚れたアスファルトの上でにっこりと笑った彼女。

 ――それはまさしく、ヒーローだった。




二〇一六年 五月二五日
二〇一六年 七月 六日 最終加筆修正


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初恋

 

 

 

 

 

 

 

初恋

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

永きにわたる時の中でのほんの一瞬の生命の輝き、

イネの花風

 

 

 

 

 

 

 

 あなたの初恋は、いつですか。

 それは、どんな恋でしたか。そのお相手は、どんな方でしたか。

 私の初恋は、私がまだ小学校にも上がらない頃――。

 彼は、私が物心ついた時からずーっと一緒だった。

 お風呂にはいる時も、寝る時も、お散歩に行く時も。私はどこに行くにも、彼と一緒だった。彼は私の一番最初にできた友達だったし、大切な家族の一員だった。

 私は毎日のように、彼と遊んでた。一緒に本を読んだり、おいかけっこをしたり、おままごとをしたり。でも、彼が一番好きだったのは、たぶんキャッチボール。よく一緒に、布団の上でじゃれあったりなんかもして。幼かった私は、遊び疲れて寝てしまって。彼はそんな私の横で、いつも見守るように寝そべってくれていたらしい。

 物静かで優しかった彼。

 私は大人になったら彼と結婚する、だなんて言って。よく両親に困り顔をさせていた。でも、本当に結婚するんだって、あの時の私はそう思ってた。

 でも。彼は私が大きくなるにつれて、少しずつ元気がなくなっていった。

 外で遊ぶ回数は減り、彼の大好きだったキャッチボールの回数も減った。

 彼は家で寝てばかりいるようになり、もともと物静かだった彼は余計に静かになった。

 次第に、一緒に遊ぶ時間も減っていった。それでも、私にとって、彼といる時間は特別で、大切な時間だった。

 半分寝ている彼の隣で、騒いだりつついたりしながら。私は彼と遊んでいた。

 今思えば、きっと面倒だったろうに。優しい彼は、そんな私に文句の一つも言わずにつきあってくれていた。

 本当に幸せな時間だった。

 そんなある日、事件は起きた。

 あの日は、とっても暑かった。

 私は家の外にビニールプールを出して貰って、お母さんが洗濯物を干しているかたわらで水遊びを楽しんでいた。

 彼はというと、そんな私を見守るように、少し離れた日陰で静かに涼んでいた。

 彼が一緒に水遊びをしてくれないことが、私は少し残念だったけれど。久しぶりのビニールプールに私はすぐに夢中になり、そんな不満はあっという間にどこかへ吹き飛んでしまった。

 お母さんは洗濯物を干し終えると、そんな私の相手をしてくれた。

 しばらくお母さんと遊んだ頃、家の中で電話が鳴った。

 お母さんは私に大人しくしているように言うと、家の中へ入って行った。私はその言いつけを守らず一人ではしゃいでいた。そして、水の中に沈んでいたおもちゃを踏んで転んでしまったのだ。

 目にも鼻にも口にも一気に水が入ってきて、パニックになった私は、立ち上がることもできずに溺れてしまった。

 ぼやけた視界。薄れていく意識の中で、私の耳に最後に聞こえたのは、彼の声だった。

 幸い命に別状はなく、何の後遺症も残らなかった。やはり、すぐに助けられたことが大きかったのだという。それは、彼のお蔭だった。

 後からお母さんに聞いた話によると、もう長いこと走ることも吠えることもしなかったジョンが、突然激しく吠えながらすごい速さで家の中に入って来たため、何事かと思って外に出てみると、ぐったりした私がビニールプールのそばで倒れていたのだという。

 ジョンは溺れる私を引きずり出して、お母さんを呼んでくれたのだ。

 そう。私の初恋の相手。それは、犬のジョンだった。

 ジョンはその後、間もなくして死んでしまった。

 ジョンが死んだ日、私は今までにないほどに泣いた。冷たくなったジョンの体に抱きついて、わんわん泣きじゃくった。

 私があの日、溺れなければ、もう少し長く生きれたんじゃないかって。そう思うと、余計に涙があふれてきた。

 私がジョンからなかなか離れないから、両親はとても困ったらしい。

 それでも最後は、ちゃんとお墓をつくって。私はジョンと、さよならをした。

 今、私には好きな人がいる。もちろん、犬じゃない。ちゃんと、人間の男の子だ。

 同じクラスの男子で。イケメンじゃないけど、優しくて、とっても真っ直ぐな人。……ちょっと、犬に似てるかもしれない、なんて。

 彼のほかにも、私には大切な人がたくさんいる。友達、家族、学校の先生や部活の先輩に後輩たち。

 あの日、私が溺れなかったら。それは、今でも考える。でも、大切な人たちのことを思うと、少しジョンの気持ちもわかる気がする。私がジョンの立場だったら、きっと同じことをした。そして、それを悲しんでほしくはない。

 それでもやっぱり後悔はしちゃうけど。後悔せずにはいられないけど。でも、その後悔があるから。一日一日を、大事にできてる気がする。もう、あんな後悔はしたくないから。

 それだけじゃない。私はジョンから、数えきれないほどたくさんのものを貰った。どれも大切な、かけがえのないもの。

 この先、つらいことや苦しいこともたくさんあると思う。けど、ジョンから貰ったたくさんのものがあるから。私はきっと、頑張れる気がする。

 初恋の相手が犬だなんて、笑っちゃうけど。でも。でもね。

 ジョンと過ごした日々は、私の初恋の思い出は。とっても、とっても大切なもの。

 大事な記憶――。

 あなたの初恋は、いつですか。

 それは、どんな恋でしたか。




二〇一六年 六月二二日
二〇一六年 七月 七日 最終加筆修正


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あとがき

 

     あとがき

 

 

 あなたにとって、恋愛とはなんですか。

 一緒にいたいと思うことですか。触れあいたいと思うことですか。幸せを願うことですか。体を重ねたいと思うことですか。ドキドキすることですか。忘れられないことですか。この人ならいいと思うことですか。ぶつかり合うことですか。ただ一人の人だけを思うことですか。その人のために人生を捧げることですか。その人のために死ぬことですか。大切なものですか――。

 きっとその答えは、一つではないのでしょう。人それぞれ違うでしょうし、一人の人にも複数あるでしょうし、その時時によっても違うでしょうし……。そもそも、きっと答えなどないのでしょう。正解も不正解も、正しいも間違いも、きっと何もないのでしょう。何もないところに何かを生み出すのが。幻想の中で生きているのが、幻想がなければ生きられないのが、ヒトという生き物なのだと。私はそんな風に思います。と言うのであれば。簡単に、単純に、月並みな言葉で言うのならば。私にとって、恋愛とは幻想であるということになるのでしょうか。そう言うつもりは、ありませんが。

 まあ、そもそも。生まれた時から恋人がいたことのないこの私が恋愛について語るなど、滑稽極まりないでしょう。

 ただ、蛇足ながら至極個人的なことを申し上げますと。私にとって恋愛とは、ある人への思いです。私は、もう恋はしないと。あの人以外に向いている私の全ての感情を恋とはよばない、と。そう決めてしまったので、私の恋はたった一つ――。

 さて。遅ればせながら、私の短編集『あなたにとって、恋愛とはなんですか。』を読んで下さった方方。ありがとうございます。時間を無駄にさせてしまっていたら、不快感を与えてしまっていたら、申し訳ございません。

 この小説を書くことができたのは、私の今この瞬間までの全てのお蔭だと思っております。この場を借りて、その全てに、お礼を申し上げたいと思います。今まで私と関わって下さった全てに、ありがとうございます。

 それでは、最後にもう一度……。

 あなたにとって、恋愛とはなんですか。

 それが、たとえどんなものであったとしても。幸せなものでありますように。

 

二〇一六年 六月二二日

二〇一六年 七月 六日 最終加筆修正

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あなたにとって、恋愛とはなんですか。

  著者 木村直輝

 

二〇一六年 六月二二日       

二〇一六年 七月 七日 最終加筆修正

 

 

 

 

 

【ツイートの記録】

 

 

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 7月公開予定の私の短編集。『あなたにとって、恋愛とはなんですか。』は、生まれた時から彼女がいない私が綴る、八つの恋の短編集です。

童貞の私が書いた「セックス」という短編もあります。公開したら是非、読んで頂けたらうれしいです。

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2016年6月22日

《link: https://twitter.com/naoki88888888/status/745570886351101952》https://twitter.com/naoki88888888/status/745570886351101952《/link》

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 今日は、七夕ですね。七夕といえば、織姫様と彦星様が一年に一度、天の川を越えて会うことのできる日。そんなロマンチックな今日、俺の小説。『あなたにとって、恋愛とはなんですか。』を公開致しました。読んで頂けたらうれしいです。

 http://naoki88888888.web.fc2.com/04-01-1_anatanitoxtuterennaitohananndesuka.html

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2016年7月7日

https://twitter.com/naoki88888888/status/750903654136180737

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 あなたにとって、恋愛とはなんですか。それが、たとえどんなものであったとしても。幸せなものでありますように。

#七夕だから願い事言っておこう

 

『あなたにとって、恋愛とはなんですか。』木村直輝

 https://t.co/LLk6EwSn5n?amp=1

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2016年7月7日

《link: https://twitter.com/naoki88888888/status/750903946793742340》https://twitter.com/naoki88888888/status/750903946793742340《/link》

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 今月の7日、七夕に公開した私の短編集。『あなたにとって、恋愛とはなんですか。』のあらすじです。読んで頂けたら、甚だしくうれしいです。

 https://t.co/LLk6EwSn5n?amp=1

 #恋愛小説 #短編集

 

【挿絵表示】

 

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2016年7月16日

《link: https://twitter.com/naoki88888888/status/754299497237188613》https://twitter.com/naoki88888888/status/754299497237188613《/link》

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 短編集『あなたにとって、恋愛とはなんですか。』。生まれたときから彼女がいない私のように、誰にも見向きもされず公開中。読んで頂けたら、甚だしくうれしいです。

 https://t.co/LLk6EwSn5n?amp=1

 #恋愛小説 #短編集

 

【挿絵表示】

 

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2016年8月5日

《link: https://twitter.com/naoki88888888/status/761455908543049728》https://twitter.com/naoki88888888/status/761455908543049728《/link》

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【宣伝】

 

『あなたにとって、恋愛とはなんですか。』木村直輝

https://ncode.syosetu.com/n7300fa/

 

 10月3日。私があの人にふられて8周年を記念して、2年前の七夕に公開した短編集を本日より、#小説家になろう 様に毎日1編ずつ投稿いたします。8周年、まさに執念、気色悪い。

 よろしくお願い申し上げます。

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2016年10月3日

《link: https://twitter.com/naoki88888888/status/1047144631748550656》https://twitter.com/naoki88888888/status/1047144631748550656《/link》

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『あなたにとって、恋愛とはなんですか。』木村直輝

https://ncode.syosetu.com/n7300fa/

 

 私があの人にふられて8周年を記念しての執念の投稿。

 1編目、「告白」。

 

 クラスのアイドルをやっと誘えた男子たち。

 男女数名で遊んだ夜、怖い話で盛り上がる。

 そこで、彼女が語った「こわい話」とは?

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2016年10月3日

《link: https://twitter.com/naoki88888888/status/1047318229893308416》https://twitter.com/naoki88888888/status/1047318229893308416《/link》

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『あなたにとって、恋愛とはなんですか。』木村直輝

https://ncode.syosetu.com/n7300fa/

 

 私があの人にふられて8周年を記念しての執念の投稿。

 2編目、「一目惚れ」。

 

 代わり映えのしない日々に退屈する少年。

 いつも通りの通学路で、その日、その出会いが、少年の人生を変える。

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2016年10月4日

《link: https://twitter.com/naoki88888888/status/1047687248756404226》https://twitter.com/naoki88888888/status/1047687248756404226《/link》

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『あなたにとって、恋愛とはなんですか。』木村直輝 #小説家になろう

https://ncode.syosetu.com/n7300fa/

 

 私があの人にふられて8周年を記念しての執念の投稿。

 3編目、「セックス」。

 

 童貞が書いた、セックスのお話です。

 経験ないんで、その辺は、ご容赦願います。

 あっ、過激な内容です。

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2016年10月5日

《link: https://twitter.com/naoki88888888/status/1048036339210366976》https://twitter.com/naoki88888888/status/1048036339210366976《/link》

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『あなたにとって、恋愛とはなんですか。』木村直輝 #小説家になろう

https://ncode.syosetu.com/n7300fa/

 

 私があの人にふられて8周年を記念しての執念の投稿。

 4編目、「恋人たち」。

 

 彼女に子供。

 俺の子じゃない。

 誰の子供だ。

 疑問も束の間――。

 恋は戦争。

 恋人たち。

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2016年10月6日

《link: https://twitter.com/naoki88888888/status/1048424756876210176》https://twitter.com/naoki88888888/status/1048424756876210176《/link》

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『あなたにとって、恋愛とはなんですか。』木村直輝 #小説家になろう

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 私があの人にふられて8周年を記念しての執念の投稿。

 5編目、「一途」。

 

 ふられても一途に一人の女性だけを愛し続ける大学生の前に、一人の女性が現れた。

 一途だった彼が犯した罪。

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2016年10月7日

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『あなたにとって、恋愛とはなんですか。』木村直輝 #小説家になろう

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 私があの人にふられて8周年を記念しての執念の投稿。

 6編目、「離婚」。

 

 自分勝手な理由で離婚した男。

 男が語る、その理由とは――。

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2016年10月8日

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『あなたにとって、恋愛とはなんですか。』木村直輝 #小説家になろう

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 私があの人にふられて8周年を記念しての執念の投稿。

 7編目、「ヒーロー」。

 

 お父さんと二人で暮らす男の子。

 男の子のもとには毎晩ヒーローが現れます。

 その正体は誰なのでしょう。

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2016年10月9日

《link: https://twitter.com/naoki88888888/status/1049493225348579328》https://twitter.com/naoki88888888/status/1049493225348579328《/link》

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『あなたにとって、恋愛とはなんですか。』木村直輝 #小説家になろう

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 私があの人にふられて8周年を記念しての執念の投稿。

 8編目、「初恋」。

 

 少女が語る、幼い頃の、甘く切ない初恋の記憶。

 短編集の最後は、切なくも優しく思い出で締めくくりました。

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2016年10月10日

《link: https://twitter.com/naoki88888888/status/1049855970346553344》https://twitter.com/naoki88888888/status/1049855970346553344《/link》

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2016年月日

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