ウルトラサクラ大戦Z (焼き鮭)
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第一話「ご唱和ください!我の名を」(A)
セブンガーが嬉し過ぎて、つい書いちゃったぜ☆
――太正十九年。帝都・東京に“悪魔の隕石”が落下。
飛び散った隕石の破片は、謎の魔力によって降魔を増殖、凶暴化……巨大化させた。
「ギアァッ! ギギギィッ!」
「グワアアアァァァァァ! ジャパッパッ!」
「キョロロロロ! ギュイィィィ―――――!」
未曽有の危機に、帝都・巴里・紐育の華撃団が立ち向かい、後に「降魔大戦」と呼ばれる史上最大の戦いの末に、世界を救った。
彼ら勇敢なる華撃団、その全員の消滅と引き換えに――。
それから十年の時が過ぎ――太正二十九年。
「うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
「きゃあああああ――――――――っ!」
帝都・銀座大通りに大勢の帝都市民の悲鳴が鳴り渡る。
ここは今、出没した降魔の群れの襲撃を受けているのだ。
「ギャアアアアッ!」
「シャアアアアッ!」
無数の獣脚類型の降魔が牙を剥き、逃げ惑う人々を追い立てる。
凶悪な鉤爪を振り回す怪物たちに、弱き人々はなす術を持たない……。しかし、彼らを守り恐ろしい悪と戦う力を持った者たちも、ここ帝都にいるのだ。
『はぁっ!』
市民たちを追い回す降魔の群れの前に、颯爽と着地して立ちはだかったのは、首が無く胴体にモノアイが付与している、一頭身の人型ロボットが五機。それぞれ桜色、赤、緑、黄色、青と色とりどりのカラーリングであり、武装も種々多様である。
人間が持つ霊力と世界で普遍的に用いられている蒸気エネルギーの併用によって駆動する、対降魔用亜人間型重機の霊子甲冑、及び最新型の霊子戦闘機だ。
『『『『『帝国華撃団・参上!!』』』』』
先頭に立つ桜色の霊子甲冑、三式光武が抜刀すると、搭乗している少女が、残り四機の霊子戦闘機、無限を駆る仲間たちとともに堂々宣言した。
彼女たちは十年前の降魔大戦を境に姿を消した旧帝国華撃団に代わり、帝都防衛の任のために集められた新たなる戦闘部隊、新生帝国華撃団・花組である!
『帝都の平和はわたしたちが守る! 天宮さくら、参りますっ!』
『東雲初穂、行くぜっ!』
『アナスタシア・パルマ。ここから先には行かせないわ』
『クラリッサ・スノーフレイク。一匹たりとも逃がしません!』
『望月あざみ、参る!』
それぞれ名乗りを上げた五人の乙女たちが霊子兵装を操り、帝都民を背に降魔の大群へ立ち向かっていく!
〈さくら〉『はぁぁぁっ!』
〈初穂〉『うらぁぁぁっ!』
〈アナスタシア〉『ふっ……!』
〈クラリス〉『はぁっ!』
〈あざみ〉『やっ!』
群がる降魔を刀で切り伏せ、ハンマーで叩き潰し、傘型の大砲で撃ち抜き、魔導書からの魔法弾が薙ぎ払い、ばら撒かれた炸裂弾が焼き払う。知性を持たず、本能のままに襲い掛かるしか出来ない降魔たちは帝国華撃団の連携に手も足も出ず、片っ端から消滅させられていく。
〈初穂〉『へへっ、どんなもんだ!』
〈さくら〉『初穂、油断しないで!』
〈あざみ〉『近い……大きな気配が……!』
勝ち誇る初穂にさくら、あざみが警告した直後に、ビルの陰から巨体がヌッと現れてきた。
「アアオオウ! アアオオウ! シャウシャ――――――!」
降魔や、霊子兵装よりも数倍も大きい怪物……体高は二十メートルにも届こうかという、降魔たちとは異なり毛皮と真っ赤な両眼を備えた大怪物が、華撃団に立ちはだかった!
〈初穂〉『あいつがこの群れの大将みたいだな……!』
霊子兵装の六倍近いという巨躯の怪物を前にして、華撃団は得物を握り直した。
帝国華撃団の指令室で、戦闘現場の様子がモニターされている。
指令室の中央の椅子に腰を下ろす和装の美女の左側に並ぶ三人の男女が、ひと際巨大な怪物に対してコメントする。
「原子哺乳類ゴメテウス――通称ゴメス。新生代第三紀から現在まで、地底で休眠状態にあった個体がデビルスプリンターの影響で降魔化し凶暴化したようだな」
「はえ~……そんなに長くおねんねして生き続けてたなんて、生き物ってすっごいですぅ~」
「ふッ……どんな奴にせよ、僕たちの特空機の敵じゃないさ」
「アアオオウ! アアオオウ! シャウシャ――――――!」
〈さくら〉『きゃあっ!』
〈初穂〉『うわぁぁっ!』
降魔怪獣ゴメスの振り回す尻尾が、さくら機と初穂機を打ち払う。ゴメスは体格差に物を言わせ、華撃団の五機を寄せつけない。
「わぁぁぁぁぁ――――――!」
市民の避難はまだまだ完了しておらず、戦闘現場から多くの人たちが必死に離れていっている。
「うへあッ!?」
その人波の中の一人の男が、足をもつれさせて転倒した。すぐに周りの紳士や婦人が手を貸して彼を助け起こす。
〈紳士〉「大丈夫か!」
〈婦人〉「立てますか?」
「あ、ああ。ありがてぇ……」
今一つ身なりが綺麗ではない男が、彼らにペコペコ頭を下げた。
そんな人々を背に守っている華撃団は、暴れるゴメスを懸命に食い止めていた。
〈クラリス〉『さくらさん、初穂さん、無理をしないで下さい!』
〈あざみ〉『あざみたちは、時間を稼ぐだけで十分』
さくらと初穂を諫めた二人に続いて、アナスタシアが告げる。
〈アナスタシア〉『見て。もうキャプテンが到着するわ』
顔を上げると――空の一画から、鉄色の巨大な何かが背面の二基のブースターよりジェット噴射を効かせながら、ゆっくりと降下してくるところであった。
どこからか警報が鳴り響く。
『セブンガー、着陸します。ご注意下さい』
ゴメスの更に倍以上もあるサイズの、円筒を組み合わせたような外観の巨大ロボットが着陸すると、その内部で操縦をしている青年の男性が司令室に通信で報告する。
『こちら神山誠十郎、特空機一号セブンガーにて現着! これより攻撃を開始します!』
巨大ロボット・セブンガーがぐっと腕を振り上げると、機体の各部からプシューッ! と蒸気が噴き出した。
指令室でサンダルを履いた男が、セブンガーを操縦する花組隊長・神山に忠告する。
「神山! 改めて言うが、セブンガーの実用行動時間は三分が限度だ。それ以上は人間の霊力じゃ耐えられねぇ。くれぐれも三分以内に勝負を決めるようにな」
〈神山〉『了解!』
「アアオオウ! アアオオウ! シャウシャ――――――!」
それまで猛威を振るっていたゴメスも、自分以上の巨体のセブンガーには怖気づき、背を向けて逃走を図る。それを追いかけ出すセブンガー。
〈さくら〉『待ちなさい!』
さくらたち五人の霊子兵装もまた、ローラーダッシュでゴメスを追跡する。
〈神山〉『セブンガーが入れないような道に逃げ込まれたら厄介だ。みんな、先回りして奴を足止めしてくれ!』
〈さくらたち〉『了解!!』
神山からの指示により、五人は連携してゴメスの行く手に回り込んで、逃げ道を封じ込む。
〈初穂〉『おっと、ここから先は通行止めだ!』
〈クラリス〉『お引き取り下さい!』
さくらと初穂でゴメスの両足を攻撃し、クラリス、あざみ、アナスタシアで三方向からの脚部への集中砲火を浴びせる。
「アアオオウ! アアオオウ! シャウシャ――――――!」
脚に集中攻撃を食らったゴメスがたまらず立ち止まった。
〈神山〉『今だッ!』
そこにすかさずセブンガーの一撃が繰り出される!
〈神山〉『いっけぇぇぇぇぇぇ――――――――ッ!』
セブンガーが前に出した右腕がランチャー方式で切り離されて射出され、直後にロケット噴射で加速、ゴメスに衝突した!
「アアオオウ!! アアオオウ!!」
ロケットパンチを食らったゴメスがそのまま空高くに押し上げられていき、空中で爆散を果たした。
〈初穂〉『よっしゃあ!』
〈あざみ〉『討伐完了』
〈アナスタシア〉『流石キャプテンね』
降魔の撃滅に成功した帝国華撃団がその場で戦闘機から降り、セブンガーの前方に集まる。
〈さくら〉「それじゃあ、いつものアレやりましょう! アレ!」
〈クラリス〉「ええ!」
〈さくら〉「せーの!」
セブンガーをバックにした乙女たちが、ピシッとポーズを取った。
「勝利のポーズ、決めっ!」
(OP:檄!帝国華撃団〈新章〉)
第
ご 一
我 唱 話
の 和
名 く
を だ
さ
い
!
帝国華撃団の本拠地・大帝国劇場の地下に設けられた特空機用大型格納庫にて、花組の面々が、整備を受けているセブンガーをキャットウォーク上から見上げていた。
〈初穂〉「……しっかし、いつ見ても締まりのない顔だよな」
セブンガーの顔面部分の作りに注目した初穂がポツリとつぶやいた。待機状態のセブンガーの眼は、まぶたが下がっていて覇気が感じられない。
〈初穂〉「もうちょっとこう……強そうな見た目には出来なかったのかよ?」
〈さくら〉「初穂、そんなこと言っちゃダメだよ。特空機はわたしたちの大事な仲間なんだよ?」
肩をすくめる初穂をさくらが咎めた。神山もうなずいてつぶやく。
〈神山〉「ああ。特空機は、風前の灯だった帝国華撃団をここまで持ち直した立役者だからな」
「そうそう! その特空機を造った僕たち彗星組にも感謝してよね♪」
神山たちの傍に、人懐こそうな雰囲気の青年がひょっこりと顔を出してきた。
〈さくら〉「ナシルマさん」
〈ナシルマ〉「ロボットにルックスなんて二の次! 必要なのは何よりも性能だよ。霊子兵装だって、シルエット的にはセブンガーと大差ないじゃん?」
〈アナスタシア〉「それはそうね」
〈ナシルマ〉「その点で言えば、特空機は活動時間を除けば地球最高峰! 現行の霊子戦闘機のどれをも大きく突き放してる。それをこうも簡単に造り上げたサーリン星の科学技術はすごいもんでしょ~。ねぇ?」
花組に慣れ親しく同意を求めるナシルマという青年の後方から、サンダルを履いた足が近づいてくる。
「あんま調子に乗るな、ナシルマ。特空機の建造に使われた技術はサーリン星のものだけじゃねぇだろ」
ナシルマがうッと言葉を詰まらせて振り返る。
〈ナシルマ〉「デュエス……」
〈デュエス〉「それに感謝なら、お前こそするべきじゃねぇのか? 神崎支配人に」
サンダルを履いた、紅玉色の瞳の青年がため息交じりにナシルマの胸を指差した。
〈デュエス〉「宇宙から降ってきた未知の怪人として、銃殺刑にされかかったお前たちをかばい立てしたのはあの人だぜ」
〈ナシルマ〉「まー……あの時はマジ殺されると思ったね、実際。まさかあんな目に遭うなんてねぇ」
やれやれと首を振ったナシルマが、デュエスの顔をジトッとにらみ返した。
〈ナシルマ〉「けど、言われなくたって分かってるよそんなの。ルパーツ星人はホント口うるさいな」
〈デュエス〉「ハッ、何とでも言えよサーリン星人」
デュエスが鼻で笑い飛ばし、持参した『MAX COFFEE』と書かれた飲料缶をゴクゴクとあおった。
彼らは特空機整備担当兼、特殊兵器開発担当のナシルマと、降魔怪獣分析・研究担当のデュエス。一番の特徴は……彼らが地球外の知的生物のみが所属する特殊な班、帝国華撃団・彗星組のメンバーということである。
十年前、激闘の末に世界の危機を救った帝国華撃団であるが、それから数年の状況は悲惨のひと言であった。主力戦闘部隊であり、華撃団の顔と言える旧・花組の全員を一挙に失った帝国華撃団は、その後も散発的に出現する降魔の脅威から帝都を守る力も完全に消失。帝都防衛は他の華撃団に頼り切る状態にまで陥り、世間の風当たりも年々冷たくなり、降魔大戦後に発足した世界華撃団連盟“WLOF”からは何度も解散をちらつかされるありさまであった。
そんな状態を変えたのが、降魔大戦の折に“悪魔の隕石”の被害で地球に墜落した円盤群に乗っていた、宇宙人の遭難者たちであった。戦後の混乱もあって地球人たちから恐怖され、排斥されかかった彼らを、元帝国華撃団員であり戦後の大帝国劇場支配人に就任した神崎すみれが保護。すると宇宙人たちは、私財を投げ打ってでも帝国華撃団存続に苦心する彼女への恩返しのために力を合わせて、凶悪化した降魔と互角以上に戦える新たな力を造り上げた。それこそが“対降魔用特殊空挺超大型霊子戦闘機”略して“特空機”……その第一号のセブンガーだ。
セブンガーは完成するとすぐに、帝都を襲う降魔に対して圧倒的な戦闘力を見せつけ、すっかり落ちぶれていた帝国華撃団の復活を世界中に強くアピールした。それとともに、すみれのたゆまぬ尽力によって新しい世代の人材も集まっていき、今では最盛期とまでは行かなくとも、最早過去の存在ではないことを世間に印象づけるほどに帝国華撃団の名誉が回復しているのである。
神山がナシルマとデュエスに対して頭を下げる。
〈神山〉「当時は地球人が君たちに大変ひどい真似をしてすまなかった。代表して謝罪する」
〈ナシルマ〉「おいおい、よしてよ隊長さん。別に怒ってるんじゃないからさ、もう過ぎたことだし」
〈デュエス〉「俺の方は、別に何もされてねぇしな」
謝る神山に、ナシルマとデュエスが快活に笑い飛ばした。ちなみに、デュエスは他の遭難者たちとは異なり、“デビルスプリンター”の対処の宇宙指令を携えて自らすみれに接触してきたという経緯を持つ。
神山が顔を上げると、周りを見回したクラリスが彗星組に尋ねた。
〈クラリス〉「ところで、モフじいさんはどうしたんでしょう? お姿が見えませんが……」
〈デュエス〉「モフじいなら今日は休ませてるぜ。あの人歳だからな」
〈ナシルマ〉「確か二十万歳超えてるんだっけ? モフじい」
〈デュエス〉「俺たちはまだ数千歳程度なのにな」
〈ナシルマ〉「長生きだよね~」
〈初穂〉「……話の前提が地球の常識を軽く超えてやがる……」
〈あざみ〉「宇宙人の感性は、よく分からない……」
宇宙人間のとんでもない会話に、地球人の花組は冷や汗をかいていた。
そこに作業服姿の、神山と同年代程度の青年が階段を上がってきた。
「おーい、彗星組~。特空機の整備はどうだ?」
〈神山〉「令士」
彼は帝劇技術部の、霊子兵装の整備を担当する技師長の司馬令士。花組の非戦闘時の任務である、帝国大劇場の芸能活動の際に用いる舞台装置の開発・整備も担当している。
〈神山〉「霊子兵装の方の整備はもう終わったのか?」
〈司馬〉「ああ。それで手が空いたんで、こっちの手伝いに来たんだが……」
〈ナシルマ〉「ありがたいけど、こっちも大丈夫だよ。もうすぐ終わりだから……」
「お兄ちゃ~ん!」
言いかけたナシルマの下へ、耳をイヤーマフのようなアンテナで覆った少女が、ジェットパックでセブンガーから飛んできた。
「セブンガーの霊子過給機の調整、完了したです~!」
〈司馬〉「ミースアちゃん!」
少女がキャットウォーク上に着地すると、すかさず司馬が喜色満面に駆け寄った。
〈司馬〉「相変わらず仕事が早いね~。明日は何か予定ある? 実は花やしきのチケットがあってさ」
〈ミースア〉「え? 花やしきに連れてってくれるですか? わーい、司馬さんいい人です~!」
ミースアという少女にデレデレとしている司馬に、ナシルマが苦い顔で呼び掛ける。
〈ナシルマ〉「あのね、技師長さん……何度も言ってるけど、ミースアは人間じゃないんだよ。アンドロイドなの」
〈司馬〉「アンドロイドだろうがあんころ餅だろうが関係な~い! オレの愛は止められやしないぜッ!」
聞く耳を持たない司馬に、ナシルマたちははぁぁ……とため息を吐き出した。
ミースアはナシルマの妹という名目だが、本当は全身機械仕掛けのアンドロイド少女なのである。
「何だか盛り上がっているみたいね」
更にこの場に、眼鏡の女性を引き連れた、壮齢の和装の美女もやって来た。ただ歩いているだけでも目を奪われるような艶やかさが作り出す濃厚なオーラに、皆がすぐその存在に気がつく。
〈さくら〉「神崎支配人!」
彼女こそが帝国大劇場のトップであり、現帝国華撃団の総司令である神崎すみれ。今の帝国華撃団があるのは、偏に彼女の手腕によるものである。
すみれは一番に花組に賞賛の言葉を向けた。
〈すみれ〉「花組の皆さん、本日は素晴らしい働きでした。すっかりと帝都の防人としてふさわしい様相になったわね」
〈神山〉「ありがとうございます、支配人」
〈さくら〉「そ、そんなことありませんよ! わたしなんか、さくらさんに比べたらまだまだで……」
神山たちは素直に賞賛を受けるが、さくらは大いに照れて謙遜した。彼女はかつて花組のエースであった真宮寺さくらに強い憧れを抱いているのだ。
すみれは次いで、司馬や彗星組を労う。
〈すみれ〉「司馬君や彗星組の皆さんも、いつもご苦労様。花組の活躍は、あなたたちの仕事ぶりのお陰ですわ」
〈司馬〉「いえいえ、それほどでも」
〈ナシルマ〉「支配人さんのためなら、安いもんですよぉ」
部下を褒め称えるすみれだが、同時に忠告も行う。
〈すみれ〉「ですが、今の帝国華撃団が全面的に認められている訳ではありません。世間では、新生帝国華撃団は特空機頼りとの意見が大きく、連盟からの目も未だ冷ややか。悪評を払拭し、帝国華撃団ここにありと広く世間に知らしめるには、やはりこれまでにない大きな成果が必要です。つまり、世界華撃団大戦での優勝よ」
〈神山〉「世界華撃団大戦……!」
神山たち花組が、その名前にゴクリと息を呑んだ。
世界華撃団大戦は、連盟が二年に一度開催する、華撃団同士の腕を競い合う全世界規模の大会である。今年で第三回を迎えるこの大戦で見事優勝を果たすことが出来れば、今の花組に文句をつける者はいなくなることだろう。
〈すみれ〉「大戦優勝の暁に、帝国華撃団は真に復活を果たしたことになる。皆さん、心を一つにして、この険しい壁を乗り越えましょう!」
〈花組〉「「「「「「はいッっ!!」」」」」」
すみれからの訓示に、花組は開催までまだまだ遠い世界華撃団大戦への意気込みを新たにした。
地上では、降魔の群れから救われた帝都市民が、帝国華撃団の活躍を口々に称えていた。
〈女〉「帝国華撃団、今日も大活躍だったわね!」
〈男〉「特空機もすげぇ強さだ!」
〈老人〉「いやはや、一時期落ちぶれとったのが嘘のようじゃわい」
〈中年〉「大帝国劇場ももうおしまいだと思ったもんだがなぁ」
〈若者〉「帝国華撃団! ワイは信じとったで!」
称賛しながら元の日常に戻ろうとしていた民衆であったが、その間から急に悲鳴が上がった。
〈紳士〉「あれッ!? 私の財布がない!!」
〈男性〉「俺のもだッ!!」
〈婦人〉「わ、わたくしの大事な指輪がなくなってるわぁーっ!!」
〈女性〉「あたしのブローチも! どうして!?」
貴重品を失ってパニックになっている数名の人たちの悲鳴に、周りの人々は何事かと注目を集めた。
そして貴重品を無くしたのは皆、先ほど転倒した男に手を貸した人たちであった。
「三十円……こっちは二十円か……。このブローチはあんま高けぇモンじゃねぇな……シケた女だ」
その男はいつの間にか路地裏に身を隠すと、複数の財布から金を抜き取り、宝石や装飾品を値踏みしていた。
全て、元々の男の持ち物ではない。転んだ振りをして、助け起こしてくれた人たちから盗み取った物である。
「へへッ……降魔が出ると仕事がやりやすくて助かるぜ」
盗品を懐にねじ込んでほくそ笑む男の名は、
〈摩上〉「さーて、纏まった金も手に入ったことだし、お宝を質屋に持ってったら久々にいいモンでも食うかぁ」
好意で助けてくれた人たちからスリを働いて罪悪感の欠片も見られない摩上は、鼻歌混じりに帝都の闇の中に消えようとした。
が、その時に、表の通りのスピーカーから警報が鳴り響く。
『帝都に隕石が接近しています。速やかに避難して下さい。帝都に隕石が接近しています。速やかに避難して下さい……』
〈摩上〉「隕石!?」
反射的に上を見やれば、建物と建物に挟まれた空の光景に、燃え盛りながら地上へ落下してくる巨大隕石の姿が見えた。
隕石は銀座の中央に、激しい震動とともに墜落! しかし質量の割には落下による被害は非常に少ないが……その代わりに“起き上がった”!
「グアアァァ――――! ギャアアァァァッ!」
墜落した物体の正体は、岩石ではなかった。サメとサイを合成したような形態をしている、巨大生物であった!
「わぁぁぁぁぁ―――――――――!!」
「逃げろぉぉぉぉぉ――――――――!!」
正体を晒してすぐに暴れ回り出す巨大生物から、帝都民が悲鳴を合唱させて逃げていく。
〈摩上〉「マジかよまたかよぉぉぉ――――ッ!!」
摩上もまた、本日二度目になる災害に巻き込まれて、今度は本当に必死になって逃げ出した。
緊急事態に対して、すみれたちはすぐに指令室に再集結して現場の状況をモニターで確認した。
『グアアァァ――――! ギャアアァァァッ!』
銀座のビルを体当たりで薙ぎ倒しながら侵攻する巨大生物の姿を目にして、デュエスが思わず叫んだ。
〈デュエス〉「宇宙鮫ゲネガーグ!」
〈ナシルマ〉「知ってるのかデュエス!」
振り向いたナシルマに、小さくうなずく。
〈デュエス〉「目についたものは小惑星だろうと吞み込んじまう危険な宇宙怪獣さ。こりゃ厄介なことになりそうだな……」
〈すみれ〉「花組はどうしているかしら」
すみれに問われた秘書の竜胆カオルが答える。
〈カオル〉「既に総員出撃しています」
「グアアァァ――――! ギャアアァァァッ!」
銀座を我が物顔で蹂躙する宇宙鮫ゲネガーグの前に、五つの鋼鉄の装甲が颯爽と駆けつけた。
『『『『『帝国華撃団・参上!!』』』』』
次いで再発進したセブンガーも、ゲネガーグの正面に着陸する。
『セブンガー、着陸します。ご注意下さい』
〈神山〉『セブンガー、現着!』
セブンガーのまぶたがキリッと持ち上がり、戦闘モードに切り替わった。
花組は先ほどのゴメスとは桁違いの、セブンガーと同等の巨体のゲネガーグを強く警戒する。
〈初穂〉『また大物が出てきやがったな……!』
〈アナスタシア〉『これほどのサイズは、十年前の大戦以来になるかしら』
〈クラリス〉『こんなに大きいのの相手は、初めてですね……』
〈あざみ〉『手強そう……』
〈さくら〉『どれだけ大きくても関係ない! わたしたちの任務、帝都防衛を果たすだけっ!』
ともすれば怖気づいているような仲間たちを激励するように、さくらが宣言した。神山も指令室へ告げる。
〈神山〉『攻撃を開始します!』
〈カオル〉『待って下さい!』
しかしカオルに制止される。
〈カオル〉『その地点にもう一つ、飛行物体が接近しています!』
〈すみれ〉『今日は賑やかですわね』
すみれのひと言の直後に、花組とゲネガーグの間に青く光る巨大な何かが降ってきた!
〈初穂〉『うわっ!? まぶしっ!』
〈クラリス〉『な、何!?』
〈神山〉『何事だ……!』
あまりのまばゆさに、カメラ越しでも目がくらむ花組。光が徐々に収まっていくと……セブンガーを駆る神山の目に飛び込んできたのは、銀色の後頭部であった。
〈さくら〉『あ、あれは……!?』
花組の前に新たに現れたのは……セブンガーやゲネガーグにも劣らぬほどの巨体の、青と銀色の体色で彩られ、頭頂部にはモヒカンのようなトサカを生やし――そして胸部の中央に『Z』の形の輝きが浮かび上がる発光体を持った、巨人であった。
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第一話「ご唱和ください!我の名を」(B)
〈あざみ〉『巨人……!』
〈アナスタシア〉『あれも降魔? それとも、彗星組のような宇宙人かしら……』
突然自分たちの目の前に現れ、ゲネガーグと対峙する青い巨人の姿に花組が戸惑っている頃、指令室ではデュエス、ナシルマ、ミースアの三人が声をそろえていた。
〈彗星組〉「「「ウルトラマン!!」」」
〈すみれ〉「ご存じなのかしら」
すみれが問うと、三人は口々に肯定した。
〈ナシルマ〉「そりゃあーもう! 宇宙じゃ一番有名と言っていい種族ですよ」
〈ミースア〉「華撃団みたいに世界の平和を守る、光の巨人です~! 間違いないです~!」
〈デュエス〉「だが見ねぇ顔だな。宇宙警備隊の新人か?」
〈すみれ〉「ともかく、敵ではないということね」
すみれがカオルに目配せすると、それを受けたカオルが花組に連絡した。
〈カオル〉「その巨人は敵ではないようです。まずは様子を見て下さい」
「グアアァァ――――! ギャアアァァァッ!」
「デアッ!」
青い巨人、ウルトラマンはすぐにゲネガーグの全体の半分を占めるほどの巨大な首に組みつき、格闘戦を開始する。
「デアッ、デアッ、デアッ!」
ゲネガーグの首にパンチや膝蹴りを見舞うウルトラマンだが、ゲネガーグも首を振り回して反撃し、両者の格闘の余波によって周りの建物や道路が破損されていく。
〈さくら〉『巨人と怪獣の戦闘で、現場に被害が出てます! 隊長、どうか攻撃の指示を!』
さくらは黙って見ていられず、神山に攻撃許可を求めた。
〈神山〉『だが……!』
一瞬逡巡した神山だが、すみれからの指令が出る。
〈すみれ〉『構いません。攻撃目標はゲネガーグ! ウルトラマンと連携し、速やかに撃滅なさい!』
〈神山〉『――了解! みんな、聞いての通りだ! 帝国華撃団花組、攻撃開始せよ!』
〈さくらたち〉『『『『『了解!!』』』』』
許可が出ると、さくらたち五人はウルトラマンに反撃しているゲネガーグの周囲に回り込んでいく。
神山にはナシルマとミースアが忠告を送った。
〈ナシルマ〉『隊長さん、セブンガーの実用行動時間はあと二分だよ!』
〈ミースア〉『それを過ぎると安全装置が働いて活動停止するです、気をつけるです~!』
〈神山〉『ああ! 分かった!』
頭突きを食らわせてウルトラマンを突き飛ばしたゲネガーグに、さくらたちが五方向から攻撃を加える。
〈あざみ〉『食らえ……!』
〈初穂〉『喧嘩ならよそでやりなっ!』
「グアアァァ――――! ギャアアァァァッ!」
五人が気を引きつけて足止めをしたところに、セブンガーが猛然と突撃して横面に鉄拳を浴びせた。
〈神山〉『はぁッ!』
「グアアァァ――――! ギャアアァァァッ!」
一瞬ひるんだゲネガーグだが、大顎を駆使してセブンガーをいなすと、一瞬の隙を突いて突進を食らわせる。
〈神山〉『うわあぁぁッ!?』
〈さくら〉『隊長っ!!』
〈アナスタシア〉『キャプテン!』
大きく突き飛ばされたセブンガーが倒れ込み、真後ろのビルを押し潰してしまった。
「グアアァァ――――! ギャアアァァァッ!」
「ゼアァッ!」
すぐに立ち上がることが出来ないセブンガーに迫るゲネガーグだが、横からウルトラマンが飛びついて止める。
「テェアッ!」
「グアアァァ――――! ギャアアァァァッ!」
ミドルキックで蹴り飛ばすと、この隙にセブンガーを助け起こした。
「ジュアッ……!」
〈神山〉『うッ……ありがとう』
〈クラリス〉『敵ではないというのは、本当みたいですね』
わざわざセブンガーを助けたウルトラマンの行動に、花組は情報の実感を得て安堵を覚える。
〈神山〉『敵が同じなら、力を合わせて戦おう! せーので行くぞッ!』
神山がウルトラマンに呼び掛け、セブンガーを並ばせる。
〈神山〉『せーのッ!』
合図とともに、二人の鉄拳がゲネガーグに炸裂!
「グアアァァ――――! ギャアアァァァッ!」
同時攻撃にゲネガーグも大きく後ずさったが、すると体表面に並んだ気孔から大量の光弾を拡散させて発射し出した!
〈神山〉『ぐわぁぁッ!』
〈さくら〉『きゃああぁぁっ!?』
拡散光弾はウルトラマンとセブンガーのみならず、さくらたちも爆撃に巻き込んだ。
更にゲネガーグは背面からのロケット噴射で推進し、ウルトラマンと神山に体当たりを浴びせた。
「ゼアァァッ!」
〈神山〉『うわぁぁぁぁッ!』
二人をはね飛ばしたゲネガーグは止まらず、一直線に突き進んでいく。
〈初穂〉『おい待てっ! 逃げる気かよ!!』
怒って叫んだ初穂だが、事態はもっと悪い方向に展開していく。
〈カオル〉『緊急事態! 怪獣の進行先には広域避難所があります! そこに乗り込まれたら甚大な被害が発生します!』
〈さくら〉『何ですって!?』
〈クラリス〉『すぐ追いかけましょう! 避難所を守らなくては!』
さくらたち五人は全速力を出し、ゲネガーグに先回りして、大勢の人で大混乱になっている避難所前にたどり着いた。
〈さくら〉『天剣・桜吹雪!!』
三式光武が振るった刀から、霊力の塊が嵐のように渦巻いて放たれ、ゲネガーグの顔面に命中した。
「グアアァァ――――! ギャアアァァァッ!」
流石に大きなダメージにはならないが、一瞬足を止めることには成功し、その間に立て直したセブンガーが追いついてくる。
〈神山〉『おぉッ!』
セブンガーがゲネガーグを抱え込み、加速しようとするそれを踏ん張って抑えつける。
〈神山〉『巨人! 避難所を守りたい! 手を貸してくれ! ……って、通じるのか?』
意思疎通できるかも分からずに思わず叫んだが、ウルトラマンはゲネガーグの後方に回り込んで尻尾を引っ張り出した。
〈花組〉『通じた!!』
これには花組全員驚きであった。
「ジュアァァァッ!」
ウルトラマンが抑えてくれている隙に、セブンガーがゲネガーグの側面にジャンプ頭突きを食らわせ、転倒させた。
しかしそこでコックピット内に警告音が響いた。
〈神山〉『まずい、もう三十秒を切ったか……!』
と同時に、ウルトラマンの胸部の発光体もピコンピコンと赤く点滅し出した。
〈初穂〉『あっちもかよ!?』
〈あざみ〉『分かりやすい信号……』
窮地に陥る中、花組の機体にデュエスの警告が飛んだ。
〈デュエス〉『ゲネガーグの体温が急上昇してる! 大技が来るぞ、気をつけろお前らッ!』
〈初穂〉『気をつけろったって……!』
ゲネガーグの全身が赤く発光し、咆哮とともに光弾を乱射し出す!
「グアアァァ――――! ギャアアァァァッ!」
しかもその先は、避難所の方向であった!
〈帝都民〉「うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――!!!」
〈さくら〉『いけないっ!!』
〈神山〉『ぬおおぉぉぉぉぉッ!!』
花組と、ウルトラマンも避難所の前に走り、光弾を必死に叩き落として守ろうとする。しかしあまりに弾数が多く、落とし切れずに機体で受け止めることになる。
「グアアァァ――――! ギャアアァァァッ!」
ゲネガーグは更に、大口から強烈な破壊光線を吐き出してきた!
それはウルトラマンとセブンガーを纏めて吹き飛ばす!
「ジュアァァァ――――――――――!!」
〈神山〉『ぐああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――!!』
ウルトラマンとセブンガー……神山の姿が、爆炎の中に消えていく……。
〈さくらたち〉『隊長ぉぉぉぉぉぉ――――――――――っっ!!!』
『……起きなさい、地球人……起きなさい……』
――気がつけば、神山は薄暗い謎の空間に横たわっていた。
〈神山〉『!? ここは……!』
呼び掛けで目を覚まし、ガバッと起き上がる神山。目の前には、先ほどのウルトラマンがそびえ立って自分を見下ろしている。
〈神山〉『あんたは……!』
『私はウルトラマンゼット。申し訳ないが、お前は死んだ』
ゼットと名乗ったウルトラマンからのいきなりの宣告に、神山は目を剥いた。
〈神山〉『死んだ!? そんな……!!』
〈ゼット〉『ついでにどうやら、私もウルトラやばいみたいだ』
〈神山〉『あんたも……!?』
突きつけられた現実に、神山は己の身よりも仲間たちのことを思って焦燥する。
〈神山〉『何てことだ……! このままじゃ避難所が、みんなが……!!』
〈ゼット〉『一つだけ手がある』
そんな神山に、ゼットが提案した。
〈ゼット〉『私とお前が一つになれば、もう一度戦える。手を組まないか?』
〈神山〉『一つに……!?』
今一つ意味を理解できなかった神山だが、ゼットはそのまま続けて言う。
〈ゼット〉『私もお前の力が必要なのでございます!』
〈神山〉『……』
一瞬、ポカンとしてしまった。
〈ゼット〉『……言葉通じてる?』
〈神山〉『いや、通じてるが……言葉遣いが少しおかしくてな……』
〈ゼット〉『えぇマジ? 参りましたな……地球の言葉はウルトラ難しいぜ……』
〈神山〉『まぁそれはいい……とにかく、あんたと手を組めば、みんなを守ることが出来るんだな!?』
〈ゼット〉『ああ。守れる!』
ゼットの断言に、神山も決意した。
〈神山〉『分かった! やらせてくれ!』
その瞬間――ゼットの肉体が光に変わり、握力計とディスクを組み合わせたかのような奇妙なアイテムに変化して神山の手中に収まった。
〈ゼット〉『さぁ、そのウルトラゼットライザーのトリガーを押します』
〈神山〉『こ、こうか……?』
神山が取っ手を握り、備えつけられているトリガーを押すと、アイテムのランプが点灯して神山の正面に四方形の光のゲートが出現した。
〈ゼット〉『その中に入れ』
恐る恐るゲートをくぐると、別の空間に移り、神山の手に新たに一枚のカードが出現した。神山自身の姿とゼットの横顔が描かれている。
〈ゼット〉『そのウルトラアクセスカードを、ゼットライザーにセットだ』
指示通りに、カードをゼットライザーの中央にあるスリットに差し込んだ。
[SEIJŪRO, Access Granted!]
ゼットライザーから音声が鳴ると、神山の腰のベルトにケースのようなものが備えつけられる。
〈神山〉『「何だこれは……?」』
反射的に開けてみると、中には三枚のメダルが入っていた。それぞれ別の、ゼットと同種族と思しき異星人の横顔が描かれている。
〈ゼット〉『ゼロ師匠、セブン師匠、レオ師匠のウルトラメダルだ。スリットにセットしちゃいなさい! 師匠たちの力が使えるはずだ』
〈神山〉『「多いな、師匠……」』
何はともあれ、神山はウルトラメダルなるものをライザーのディスク部にある三つの丸いくぼみに一枚ずつ収めた。
〈ゼット〉『おお、ウルトラ呑み込みがいいな! じゃあ次はメダルをスキャンだ!』
〈神山〉『「おい、こんなゆっくりしてていいのか!?」』
〈ゼット〉『安心しろ。この空間は時間の流れが速いから、外ではまだ五秒も経っていない』
〈神山〉『「そ、そうなのか……こうすればいいのか?」』
神山がメダルを収めたプレートを、右にスライドさせていく。
[ZERO! SEVEN! LEO!]
三つのメダル全てをスキャンすると、空間内の光が集まって、神山の背後にゼットの姿が立ち上がった。
〈ゼット〉『よし! そして俺の名前を呼べ!』
〈神山〉『「名前……!? う、ウルトラマンゼット……!」』
〈ゼット〉『いえ、もっと気合い入れて言うんだよ!』
〈神山〉『「気合いぃ!?」』
〈ゼット〉『いいか、ウルトラ気合い入れて行くぞ!』
指示したゼットが、両の腕を大きく横に開いた。
〈ゼット〉『ご唱和ください、我の名を! ウルトラマンゼーット!!』
〈神山〉『「ウルトラマン! ゼェ―――ット!!」』
気合いの叫びとともに、ゼットライザーを高々と掲げた!
〈神山〉『「……」』
〈ゼット〉『トリガー! トリガー最後に押すの!』
最後にトリガーを押し込むと、メダルに描かれていた三人のウルトラ戦士のビジョンが宙を飛び交う!
『ハッ!』
『デュワッ!』
『イヤァッ!』
三人のビジョンが赤と青の光となって一点に集まり、その中から姿を変えたゼットが飛び出していく!
[ULTRAMAN-Z! ALPHA-EDGE!!]
「ゼアッ!」
神山がウルトラマンとともに炎の中に消えたかと思われたが、次の瞬間に、空から何かが高速でゲネガーグに激突して横転させた!
「デアァッ!」
「グアアァァ――――! ギャアアァァァッ!」
ゲネガーグを張り倒した存在に、さくらたちはあっと驚いて目を奪われた。
〈さくら〉『あ、あれは……!?』
出現したのは、頭部のトサカが二つ増え、眉間に第三の眼のようなランプが付与され、上体を覆うプロテクターも強化されたウルトラマンゼット……その名もアルファエッジだ!
モニターでウルトラマンゼット・アルファエッジの全身を確認したカオルが目を見張った。
〈カオル〉「二人目の巨人が!」
〈すみれ〉「いいえ。どうやら装いを変えた、同一人物のようね」
すみれは卓越した観察眼で共通点を視認し、先ほどのウルトラマンも今のウルトラマンも同じゼットであることを見抜いた。
デュエスがすみれの推測に首肯する。
〈デュエス〉「もしや……あれが噂の、ウルトラメダルを使ったウルトラフュージョンか!」
〈神山〉『「すごい……! 全身に力がみなぎる……!」』
〈ゼット〉『ウルトラフュージョン成功だ! 力を合わせて戦うぞ、地球人!!』
〈神山〉『「了解ッ!」』
神山とゼットは呼吸を合わせ、向かってくるゲネガーグを正面から迎え撃つ。
「グアアァァ――――! ギャアアァァァッ!」
「ヘアッ!」
鼻先の刃物状の角を振りかざして噛みつこうとするゲネガーグだが、ゼットは流れるような打撃を見舞って相手の首を乱打し、寄せつけない。
「グアアァァ――――! ギャアアァァァッ!」
「デアッ! デアッ! デェアッ!」
相手の角を交差した手刀で防御し、すかさず三連続の回し蹴りを叩き込んで押し返した。
「グアアァァ――――! ギャアアァァァッ!」
後ずさったゲネガーグが再び全身を発光させる。
〈神山〉『「さっきのが来るぞ! 何か武器はないのか!?」』
〈ゼット〉『それならこれだ!』
ゼットが左右のトサカに手を添えると、それぞれから刃物状のブーメランが飛び出て、二つが光の鎖でつながってZ字を作る。
「イヤァァァッ!」
ヌンチャクのようになった二つのスラッガーを武器に、ゲネガーグへ猛然と向かっていく!
「ゼッ! ゼアッ!」
ゲネガーグから光弾が雨あられと飛んでくるが、ヌンチャクを振り回して全て弾き返し、反撃。回転するスラッガーを相手の顔面に叩きつけていく。
〈ゼット〉『おおッ! これが宇宙拳法秘伝の神業かぁ! ウルトラ強えぇ!!』
ひるませたところで燃える後ろ回し蹴りを叩き込み、更に追い込む!
〈さくら〉『す、すごい!』
〈あざみ〉『さっきと、動きが全然違う……!』
達人級の格闘技で猛反撃するゼットに、さくらたちも驚嘆していた。
「グアアァァ――――! ギャアアァァァッ!」
しかしゲネガーグもやられっぱなしではなかった。地を蹴ると同時にロケット噴射し、急加速。ゼットに突進する!
「グワァァァァァッ!?」
まともに食らったゼットが押され、背後の百貨店に叩きつけられてそのまま突き破った。
「ゼアァァッ!」
空まで持ち上げられたところで体勢を立て直し、ゲネガーグを蹴り飛ばす。
「グアアァァ――――! ギャアアァァァッ!」
空中で破壊光線を吐こうとエネルギーを集中するゲネガーグ。対するゼットも、最後の一撃を決める構えだ。
「ヌオッ!」
青く輝く腕を斜めに伸ばし、Z字を描いた光を両腕に集めてチャージ完了!
〈ゼット〉『ゼスティウム光線!』
先端が矢尻状になった光線を、十字に組んだ腕から発射! ゲネガーグの光線と正面衝突!
〈神山〉『「いっけぇぇぇぇぇぇ――――――――ッ!」』
一瞬拮抗したが、神山が気合い一閃するとゼスティウム光線が猛然と押し返していき、ゲネガーグに命中して地上へ叩き落とした!
「グアアァァ――――!! ギャアアァァァッ!!」
墜落したゲネガーグは爆発四散!
「トゥワッ!」
怪獣を撃破したゼットが堂々着地し、さくらたちはその背中を、圧倒されて見上げていた。
「シュゥアッ!」
そしてゼットはもう一度空高く飛び上がる。
〈神山〉『「ひ、飛行してる!」』
〈ゼット〉『あッ、そっちじゃないこっち!』
〈神山〉『「えッうわッ!?」』
途中でゼットが軌道修正し、空にはZ字の形となった軌跡が残った――。
ゼットは飛び去りながら、神山にこう呼び掛けていた。
〈ゼット〉『あの怪獣から飛び散ったメダルを回収してくれ。あれはこの宇宙を救う希望なんだ。お頼み申し上げます!』
〈神山〉『「やっぱり口調が安定しないな……というか、メダル? どういうことだ?」』
聞き返すが、ゼットからの返答はなく、周りの超空間が淡い光となって消えていく。
〈神山〉『「ゼット!? ゼットぉ!!」』
焦る神山の視界が、真っ白な光に覆われていった――。
ウルトラマンゼットがゲネガーグにリベンジしている間に、さくらたちは機能停止して横たわったセブンガーの元へ走り、神山の救出を試みていたのだが……。
〈アナスタシア〉「変ね……キャプテンが中にいないわ」
コックピットを確認してきたアナスタシアが困惑した。
〈初穂〉「けど、じゃあどこ行っちまったってんだよ、この状況で!」
〈あざみ〉「まさか、怪獣の光線で跡形もなく……」
〈クラリス〉「やめて下さい!! 滅多なことは!!」
最悪の想像に、思わず声を荒げるクラリス。さくらもひどく心配しながら、消息が途絶えた神山を想う。
〈さくら〉「どこへ行ってしまったんですか……神山隊長……」
――その時に、彼女たちの近くに、空から青い光が降ってきた。
〈さくらたち〉「きゃっ!?」
まばゆさに一瞬目をそらしたが、光が収まると……立っていたのは神山であった。
〈神山〉「あ、あれ……ここは……」
一瞬唖然とした五人。一番早く動いたのはさくらだった。
〈さくら〉「せ……誠兄さぁーんっ!! 無事だったんですねっ!!」
〈神山〉「うわッ!?」
感極まったあまりにガバッと抱き着いた。よろけて踏みとどまる神山。
他の四人は、信じられないものでも見るような目を神山に向けていた。
〈初穂〉「い、いや……今、どこから出てきたんだよ、隊長……」
〈クラリス〉「空から降ってきましたよね……光りながら……」
〈アナスタシア〉「キャプテン……一体あなたに何があったの?」
〈あざみ〉「……説明を求める」
〈神山〉「えーっと、それは……」
頭をかいた神山は、さてどうしたものか……と内心ひどく困り果てていた。
――ゲネガーグとの死闘ですっかりボロボロとなった街の中を、摩上が周囲に人影がないか注意しながら練り歩いていた。
〈摩上〉「ったく、ひっでぇありさまじゃねーか。帝国華撃団も普段偉そうにしといて、肝心な時に役に立たねーなぁ」
チッと舌打ちして文句を垂れながら、建物の瓦礫の山を見回す。
〈摩上〉「まぁいい。さーて、こん中に金目になりそうなもんはねぇかな~っと……」
要は火事場泥棒に来たのだ。
〈摩上〉「うへぇ、この辺はバケモンの肉片が散らばってるぜ。ここはやめとくか……」
そうして瓦礫の山を物色している内に、ある奇妙な物を、飛散したゲネガーグの残骸の中から見つけた。
〈摩上〉「んん? 何だぁこりゃあ……」
握力計にディスクがくっつけられたような、見慣れない物体だ――ウルトラゼットライザー――。
〈摩上〉「新発売の玩具か? そんなもんが何で、こんなとこに……」
思わず拾い上げようとして、手を伸ばした――。
その瞬間にライザーの側の肉塊が弾け、中から飛び出した虫かエイかのような怪生物が摩上の顔面に飛びついた!
〈摩上〉「うぎゃあッ!? な、何だこりゃあ!? 気持ち悪りぃぃ――――ッ!!」
驚いて尻もちをついた摩上が、パニックになりながら謎の生物を顔から引き剥がそうとするが、張りつく力があまりに強く、抗うことが出来ない。
そうして怪生物が、徐々に摩上の皮膚を侵蝕して同化していき、体内に入り込んでいく――。
〈摩上〉「うッ、あッ、がぁッ……!? あぁぁぁ―――――――――――――ッ!!」
他には誰一人もいない瓦礫の山の中で、摩上の悲鳴がこだました。
「……キエテ カレカレータ(いい気分だ)……」
(ED:Connect the Truth)
『花組のウルトラナビ!』
神山「今回紹介するのは、ウルトラマンゼロだ!」
さくら「ゼロさんはウルトラセブンさんの息子としてデビューしたウルトラ戦士です! 初登場が2009年なので、もう10年以上一線級で活躍してることになりますね」
さくら「『ジード』ではサブヒーローとしてレギュラー登板し、ジードさんを何度も助けました。『Z』では何とゼットさんの師匠です! と言っても、ゼットさんは押しかけ弟子みたいですけどね」
さくら「師匠という役目になったことを強調するためか、新たにウルトラゼロマントを着用してます。これはレオさんのウルトラマントと同等のアイテムみたいですね」
ゼット『そして今回の華撃団隊員は真宮寺さくらだ!』
さくら「旧シリーズのメインヒロインである、わたしの憧れの人です! アニメでは主人公に抜擢、他様々な作品でも中心的な役割を務めることが多い、まさに『サクラ大戦』の顔ですよ! 『新サクラ大戦』でも、意外な形で出てくるとか……」
さくら「それでは、次回もよろしくお願いします!」
さくら「帝都を襲う、謎の透明怪獣! 走る花組、セブンガーの鉄拳が唸る! そして、ウルトラマンゼットの新しい力とは……! 波乱万丈驚天動地の物語!」
「次回、『正体不明!透明怪獣現る』。太正桜に浪漫のZ!」
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幕間「宇宙人も色々」
(特空機用格納庫)
〈こまち〉「毎度どうもー、彗星組の皆さーん!」
〈ナシルマ〉「おッ、バコちゃん!」
〈ミースア〉「バコさん、いらっしゃいです~!」
〈こまち〉「花組は……まだ戻ってきてへんみたいやな」
〈デュエス〉「わざわざ格納庫に、何の用だ?」
〈こまち〉「そんなん決まっとるやないの~! さっきの巨人さんのことやで~!」
〈ナシルマ〉「ああ、ウルトラマンの」
〈こまち〉「そうそれ! もう帝都中が、あれは何者やーって大騒ぎや。さっき支配人から聞いたんやけど、あれも花組みたいな正義の味方みたいやん?」
〈ミースア〉「そうです~! ウルトラマンは宇宙のヒーローです~!」
〈こまち〉「ええな~! こりゃジャリンジャリン儲けられる匂いがぷんぷんするわ~! って訳で、いっちゃん詳しいお宅らに直接話聞きに来たっちゅうことや」
〈ナシルマ〉「はは、バコちゃんはほんと商魂たくましいね」
〈こまち〉「いつ何時でも、儲け話は勉強しまっせ!」
〈デュエス〉「まぁウルトラマンの話は、花組が帰ってきたら一緒にしてやるぜ。きっとあのウルトラマンも一緒だろうからな」
〈こまち〉「えっ、それどういうこと?」
〈デュエス〉「後で分かる」
〈ナシルマ〉「いや~、にしてもここにもウルトラマンが来たんだねぇ。まぁいつかは来るんじゃないかって思ってたけどさ」
〈ミースア〉「宇宙に怪獣がいるところに、ウルトラマンもありです~」
〈こまち〉「ふ~ん……ほんま有名みたいなんやな、ウルトラマンっちゅうのは」
〈デュエス〉「ああ。宇宙の色んな奴がウルトラマンに助けられてる。ここにいるのだってな」
〈ナシルマ〉「おじいちゃんもお世話になったって言ってたよ」
〈こまち〉「へ~……。ところで、宇宙にはそないに宇宙人がいっぱいおるの? あてなんか、あんたらを見るまでは宇宙人なんて、これっぽっちも信じとらんかったけど」
〈デュエス〉「文字通り、星の数ほどいるぜ。種族だってな」
〈ナシルマ〉「ひと口に宇宙人って言っても、星々にそれぞれ独自の進化をたどった人間がいるからねぇ。たとえば僕とデュエス、それにモフじいも、それぞれ別の種族だよ」
〈ミースア〉「ウルトラマンも、宇宙人の一種です~」
〈こまち〉「あのごっついでかいのも人間なんか。ほんまに色々なのがおるんやなぁ」
〈デュエス〉「ああ。性質も文明格差も種々多様さ。温厚なのやら逆に血の気が多いのやら、地球人に近いタイプも、かけ離れてるタイプも。科学力が非常に発達した星もあるし、まだまだ発展途上の星もあるし、知的生命体と言えるまでになって間もない種族もいれば、滅亡してしまった種族も……。とにかく色々だ。とても語り尽くせねぇな」
〈こまち〉「壮大なお話やな~。滅んでもうた人たちもおるんかいな」
〈ナシルマ〉「理由も様々だよ。単純に種としての寿命が来たのもあれば、発達し過ぎた文明が仇となっちゃったなんてことも……。文明の進歩も考え物だよね」
〈デュエス〉「何他人事みてぇに言ってんだよ。サーリン星がまさにそうだろうが。俺はお前がサーリン星人だって聞いた時驚いたぞ。生き残りいたのかって」
〈こまち〉「えっ、そうだったん? ナシルマさん」
〈ナシルマ〉「あはは。まぁ実を言うと、僕は純粋なサーリン星人じゃないんだけどね。純血は今はおじいちゃん一人だけで……」
〈ミースア〉「帝都に不時着するまでは、色々大変だったです~」
〈こまち〉「そうなんかぁ……全然知らんかったわ……。何か援助したろか?」
〈ナシルマ〉「いいよいいよ、気にしないで。支配人からは良くしてもらってるし。気持ちだけで十分だから」
(外からブースターの噴射音)
〈デュエス〉「おッ、花組が帰投してきたみてぇだな」
〈ナシルマ〉「うん。話の続きは、指令室でしよっか。ウルトラマンも来てるよね、きっと!」
〈ミースア〉「どんなお人なんでしょ~。楽しみです~!」
〈こまち〉「あては絶対、ウルトラマンでひと儲けしたるで~!」
(四人が指令室へ移動していく……)
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第二話「正体不明!透明怪獣現る」(A)
――ゲネガーグが青い巨人、ウルトラマンゼットによって撃破された後、人通りが戻った帝都の一角にて、ふらふらとおぼつかない足取りで道を行く一人の男がいた。
〈摩上〉「うぅ……」
摩上沙太郎である。彼は頭を手で支えながら、思い切り顔をしかめていた。
〈摩上〉「何だったんだ、さっきのは……。変な虫みてぇのに飛びつかれて、ひっくり返って気絶して……けど身体はどこもおかしくねぇ。夢でも見てたのか……?」
一人でブツブツ言いながら、頭を振って気を取り直す。
〈摩上〉「まぁいいや。今日はもう帰って、メシは適当に……」
『……郎……上沙太郎……』
〈摩上〉「……ん?」
突然、どこからか声が聞こえて、はたと立ち止まった。周りに目を走らせるが、自分に向かって呼び掛けているような人影は見当たらない。
〈摩上〉「何だぁ? 空耳か……?」
『摩上沙太郎……俺は、お前の中から呼び掛けている……』
〈摩上〉「うわぁッ!?」
“声”がはっきりと聞こえ、摩上はひっくり返りそうになるほど驚いた。
それは確実に、己の内部から聞こえてきているのだ。
〈摩上〉「なッ、な、何だぁぁ!? お、俺、やっぱどっかおかしくなっちまったのか!? い、い、医者を……!!」
『落ち着け……』
パニックになりかける摩上を、脳内に直接聞こえる声がなだめる。
『周りの人間どもがお前を見てるぞ……目立ちたくはないんだろう……?』
〈摩上〉「あッ……」
指摘されて我に返り、道行く人々がこちらに奇異の目を向けているのに気づいて、慌てて平静を装った。
『そうだ、それでいい……。俺としても、今の段階で注目されるのは避けたい……』
〈摩上〉「お、お前、何なんだよ。一体何が起こってんだ……?」
『これから、その説明をしてやる……。とりあえず、どこか人目がないところに移動しろ……』
〈摩上〉「お、おう……」
いきなり己の身に降りかかった事態に困惑しながらも、摩上は指示に従い、人の目を避けるようにして場所を移していった。
(OP:ご唱和ください 我の名を!)
第
正 二
透 体 話
明 不
怪 明
獣 !
現
る
〈ミースア〉「は~い隊長さん、ここ座ってこれ被って下さいです~」
〈ナシルマ〉「じゃ、モニターに映すよ」
大帝国劇場の司令室。帰投した花組はすぐにここに召集され、神山がモニター前の席でヘルメットのような装置を頭に被せられた。
そして指令室のモニターに、ウルトラマンゼットの姿が大きく映し出される。メットを通して、神山と同化しているゼットの精神をモニター上に表示しているのだ。
〈初穂〉「うわっ出た! さっきの巨人だ!」
〈司馬〉「ほ、本当にこれが、誠十郎の中にいるってのか?」
司馬の問いに、デュエスがおもむろにうなずく。
〈デュエス〉「ああそうだ。ウルトラマンには他人と一体化する超能力もある。要するに合体って訳だ」
〈クラリス〉「合体……!」
クラリスがちょいちょいとデュエスの肘をつついて、耳打ちした。
〈クラリス〉「そのお話、後で詳しく聞かせて下さい」
〈デュエス〉「は? 何でだ?」
〈クラリス〉「いいから」
〈すみれ〉「ウルトラマンゼットとおっしゃったかしら。わたくしは神崎すみれと申します。そしてわたくしたちは、帝国華撃団という組織ですわ」
帝国華撃団代表のすみれが、ゼットに自己紹介した。ゼットの方もお辞儀で返す。
〈ゼット〉『どうも。俺はウルトラマンゼット。光の国、M78星雲の宇宙警備隊のメンバーです』
〈デュエス〉「M78星雲のウルトラマンか」
〈ミースア〉「ゼットさんは、どうしてこの地球に来たですか~?」
ミースアが質問すると、ゼットが順を追って話していく。
〈ゼット〉『デビルスプリンターというものを知ってるだろうか』
〈すみれ〉「デビルスプリンター……。忘れたくとも忘れられませんわ」
〈こまち〉「帝都にもそう呼ばれる隕石が落っこちてきて、えらい大変なことになったんや」
劇場の売店担当兼、輸送空挺部隊・風組のメンバーの大葉こまちが説明した。
〈ゼット〉『デビルスプリンターは宇宙のあちこちにも飛散して、怪獣が凶暴化して暴れ回る事件が続いてる。正直、宇宙警備隊も手が足りてない状態だ』
デュエスが神妙な顔でうなずく。
〈ゼット〉『その対応策に俺の先輩たちの力が込められたウルトラメダルが開発されてたんだが、さっきのゲネガーグが光の国を襲撃してきて、メダルやそれを使うアイテムを丸呑みして逃げ出したんだ。俺は師匠のウルトラマンゼロと一緒に追いかけたんだが、師匠は四次元空間に呑み込まれちまって……俺が一人で奴を追って、ここに来たって訳だ』
〈デュエス〉「そんなことになってたのか……」
〈アナスタシア〉「スケールの大きな話ね……」
想像以上に規模の大きいゼットの事情に、帝国華撃団は息を呑んでいた。
〈あざみ〉「メダルといえば……さっきみんなで拾い集めた」
〈神山〉「ああ。それがウルトラメダルというものらしい」
花組は帰投する前に、神山の要請で戦闘の跡地に散らばっていたメダルを手分けして集めていたのだった。
〈ゼット〉『だが、明らかに数が少なかった。どこか遠くに飛んでいってしまったものもあるはずだ。どうにか全部回収しないとな』
〈さくら〉「大丈夫です、ゼットさん!」
さくらが意気込んで申し出た。
〈さくら〉「神山隊長のお命を救っていただいた恩もありますし、わたしたちが全面的に協力致します! 必ず、ゼットさんの探し物を全部見つけてあげますよ!」
〈ゼット〉『ありがとう。こちらからも、よろしくお頼み申す!』
いきなりゼットの言葉遣いが古めかしくなったので、皆の頭上に?マークが浮かび上がった。
〈ゼット〉『……俺の言葉遣い、どこかおかしいところがあったんかいな?』
〈こまち〉「今まさにあるで」
〈神山〉「あー……ゼットは地球の言葉に慣れてないみたいなんだ」
神山が苦笑いして弁明した。
〈デュエス〉「光の国で習得しなかったのかよ」
〈ゼット〉『まだ勉強途中だったんです。元々地球に来る予定じゃなかったし……』
〈ナシルマ〉「何だか頼りないなぁ。ゼットって何歳なの?」
〈ゼット〉『大体五千歳だけど……』
ゼットの返答に、彗星組が驚く。
〈ナシルマ〉「わっか! そんなに若くて大丈夫なの?」
〈ゼット〉『確かに宇宙警備隊には入ったばかりだけど……』
〈デュエス〉「そんな若手が大事なアイテムの回収係なんて、人手不足ってのはマジみてぇだな」
〈ミースア〉「ゼットさん、地球のことで分かんないことがあったら、いつでも先輩のミースアを頼ってくれていいですよ~!」
〈ゼット〉『ど、どうもありがとうございます』
宇宙人たちの会話に、地球人たちはどんな顔をすればいいのかに困る。
〈カオル〉「五千歳で若手とは……宇宙人の年齢感覚はどうなっているんでしょうか……」
〈司馬〉「逆に地球人が短命すぎるのか? 分かんねぇぜ……」
〈神山〉「ま、まぁともかく、新しい仲間が出来たのは喜ばしい。これからよろしくな、ゼット!」
〈ゼット〉『ああ!』
神山とゼットが言葉を交わしていると、さくらが背後に気配を感じ取った。
「ほぉ、新人のウルトラマンか」
振り向いたさくらの視界に飛び込んだのは、全身毛むくじゃらの怪人の顔!
〈さくら〉「きゃああああっ!?」
思わず悲鳴を上げて椅子から転げ落ちたさくらだったが……すぐに起き上がってため息を吐いた。
〈さくら〉「何だ、モフじいさんでしたか……」
〈モフロ〉「すまんな。驚かせてしまったか」
怪人の名は、ワイルド星人モフロ。彗星組の整備班長を務めている人物である。
〈初穂〉「さくら、いい加減慣れろよな、モフじいの顔に」
〈カオル〉「失礼ですよ、さくらさん」
〈さくら〉「す、すみません」
〈ナシルマ〉「モフじいも、僕みたいに地球人の姿を取ったらいいのに」
〈モフロ〉「はは、わしはもう老いぼれじゃて。今更着飾ろうなんて、恥ずかしいだけじゃ」
杖を突いて歩くモフロに、ミースアが椅子を回して腰掛けさせてあげた。モフロの顔は、毛皮に覆われていて分かりづらいが、しわくちゃの老人のものだ。
〈デュエス〉「モフじい、今日は休めって言ったじゃねぇか。司令室に出てきちゃって」
〈モフロ〉「あれだけの大騒ぎ、すっかり遠のいたこの耳にも聞こえるて。せっかく新しい子が来たというのに、挨拶もなしでは寂しいからの」
モフロがミースアに椅子ごと回されて、ゼットに向き直る。
〈モフロ〉「話は聞かせてもらったよ、ゼットくん。この歳になって、新しいウルトラ戦士と知り合うとは思わんかった。まぁこれからよろしく頼むぞい」
〈ゼット〉『こちらこそ、よろしくでございます』
〈モフロ〉「わはは、地球の言葉も覚えていくといい」
次いで、神山たちの方に身体の向きを回してもらう。
〈モフロ〉「帝国華撃団の諸君も……わしの人生経験から言うと、今回のような事件は、もっと大きな事件の前触れになるものじゃ。きっとこれから、今まで以上に厳しい戦いが起こることじゃろう。しかし、こうして新しい仲間も出来たことじゃ。しかと己が務めを果たし、地球を守り抜きなさい。もちろんわしも、精いっぱいの後援をするよ」
〈神山〉「はい! ありがとうございます、モフじいさん」
モフロからの激励に、花組がたたずまいを正した。
ここでこまちが意見する。
〈こまち〉「ところで、ゼットさんのことはどう宣伝してく?」
〈ナシルマ〉「えッ、宣伝?」
〈こまち〉「あったり前やないの! せっかくすごい新ヒーローがウチに加わったんや。どんどん宣伝して、ジャリンジャリン儲けなな!」
張り切るこまちだが、ゼット当人が待ったを掛けた。
〈ゼット〉『いえ、それは勘弁してくれ』
〈こまち〉「えっ!? 何でや!?」
〈ゼット〉『ウルトラマンは基本、他の星の文明には不干渉がルール。俺も、俺という存在が騒ぎを呼び込むことは望まない。だから皆さんとは無関係の宇宙人ということにして下さい』
〈デュエス〉「それがいいな。それにWLOFは宇宙人がお嫌いみてぇだ。神山がウルトラマンだなんて知られちゃ、どんなちょっかい出されるか分かったもんじゃねぇぞ」
WLOFの名前が出されると、彗星組はそろって渋い表情になった。
〈すみれ〉「そうですわね……。では、ゼットさんのことは他言無用。絶対に外に漏らしてはいけませんわよ。皆さん、いいですわね?」
〈さくらたち〉「了解!」
こまちも残念そうではあったが、すみれの決定には逆らえなかった。
〈すみれ〉「では神山くん、ゼットさんに我らが誇る大帝国劇場を案内してあげてちょうだい」
〈神山〉「分かりました」
神山からヘルメットが外され、立ち上がったところで、デュエスが彼に呼び掛ける。
〈デュエス〉「そうだ。神山、ちょっとウルトラメダルを見せてくれ」
〈神山〉「え? これか?」
腰のメダルホルダーから、ゼロメダルを出して手渡す神山。
〈デュエス〉「ふーん……」
デュエスがメダルをしげしげと観察して、
〈デュエス〉「ちょっと借りるぞ」
〈神山〉「え? まぁいいけど……」
〈デュエス〉「ナシルマ、一緒に来い」
〈ナシルマ〉「何なに? いきなりどうしたの?」
〈デュエス〉「いいから来い。用事が出来た」
ナシルマを連れて退室していくデュエス。神山らはその後ろ姿を、怪訝に見送った。
夕刻の無人のミカサ記念公園まで来た摩上は、ベンチに腰を落ち着けて、頭の中に響く声の話を聞いた。
〈摩上〉「……つまり、お前は宇宙から、あの化け物鮫の体内に潜んで来たって訳か?」
『そういうことだ……。名乗り遅れたが、俺の名はロソス……寄生生物ロソスだ……』
脳内の声は、そう名乗った。
〈摩上〉「寄生生物?」
〈ロソス〉『単体じゃあ何も出来ない身体だから、俺に近づいたお前の中に入り込んだという訳だ……。地球の言葉は、お前の脳の言語野から学習した……』
〈摩上〉「そ、そうか……。じゃあ、もう用はねぇんだったら、とっとと出てってくれよ……。俺の身体に害が出る前によ……」
〈ロソス〉『そう釣れないことを言うな……。害などないし、何より用ならまだある……』
〈摩上〉「俺に何の用だってんだ……?」
〈ロソス〉『心して聞け……。俺は力を得るために、光の国を襲撃し、ウルトラメダルとライザーを奪った……』
〈摩上〉「ライザー……これのことか?」
摩上が取り出したのは、ロソスに寄生された際に拾おうとしたウルトラゼットライザーの同型機である。
〈ロソス〉『そうだ……。そいつは上手く使えば、俺にも力を与えてくれる……。ゲネガーグを使って奪い取ったまでは良かったんだがな……』
〈摩上〉「で……俺にどうしろってんだよ」
問いかけると、ロソスがほくそ笑んだかのような気配を感じた。
〈ロソス〉『そいつの力の恩恵を……お前にも与えてやろうというんだ……』
〈摩上〉「お、俺にも……?」
〈ロソス〉『そいつには、人間の身体がないと使えないようにセーフティが掛かってやがる……。初めは、お前の身体を乗っ取っちまうつもりだったが……ふふふ……お前はなかなかねじ曲がった精神をしてるようだな……気に入ったぞ……』
愉悦の感情をにじませて、ロソスが摩上に誘いを掛ける。
〈ロソス〉『俺にお前の力を貸せば、お前に人間を超えた力を与えてやろう……。俺と手を組もうぜぇ……?』
〈摩上〉「お前と……?」
〈ロソス〉『お前の記憶の一部を垣間見たが、コソコソ人の物を盗んでしのぎを削る、しみったれた生活をしてるようじゃないか……。俺と手を組むなら、もうそんな生活はおしまいにしてやる……。地球上の誰一人として、お前に逆らえないようにもなれる……! どうだ……?』
誘惑するロソスだが、摩上も流石にすんなり受け入れたりしなかった。
〈摩上〉「いきなりんな壮大な話されてもな……。考える時間はくれねぇのか?」
〈ロソス〉『クク、なかなか慎重な奴だ……。じゃあ、まずはライザーを使って何が出来るのかを、試させてやろう……。返事はそれからでいい……』
〈摩上〉「このライザーってもんを使って?」
〈ロソス〉『ククク……その前に、必要なものがある……。準備のために、しばらく俺の言う通りに行動してもらおうか……』
〈摩上〉「何か奇妙なことになっちまったが……ホントにすげぇ力が手に入るんだろうな? まぁそこまで言うんだったら、見させてもらうぜ……」
話を決めて、摩上がベンチから立ち上がった。
帝都に脅威が訪れた時には、霊子兵装を纏って勇敢に戦う帝国華撃団だが、平時の際には、舞踏と演劇で観客を楽しませる“帝国歌劇団”として活動している。
現在公演している演目は「ダナンの愛」。クラリスが脚本を手掛けたオリジナル作品で、完成度の高さから人気を博し、今は追加公演の最中であった。
〈神山〉「いらっしゃいませ! はい、どうぞ」
大帝国劇場の入場口が開くと、入場客を歓迎してチケットを切るモギリの役を務めるのは神山だ。売店ではこまちが様々な商品を取り扱う。
〈こまち〉「らっしゃいらっしゃい! 新商品に話題の大巨人、ウルトラマンゼットのブロマイドを仕入れてるで!」
〈子供〉「お姉ちゃーん、セブンガー人形くださーい」
セブンガーのブリキ人形は花組を差し置くレベルの人気で、連日即完売である。
ホールではセブンガーの着ぐるみ(中身はミースア)が子供たちとの触れ合いをしている。
〈子供〉「わーい、セブンガー!」
入場受付が済んだ神山は、賑わう劇場ホールを一望して満足げに微笑んだ。
〈神山〉「劇場の方も、すっかり客足が集まるようになったな。これもみんなの頑張りのお陰だ……」
そんな彼の懐が軽く震える。小型蒸気情報端末スマァトロンに着信が入ったのだ。
〈神山〉「ん? ……ゼット?」
電文の宛名は、ウルトラマンゼットになっていた。
『皆破道して嚥下肝やってるんですか』
〈神山〉(破道して嚥下肝? はどうしてえんげきも、皆はどうしてえんげきも……ああ、どうして演劇もやってるのかってことか……)
変換ミスまみれで一瞬戸惑ったが、言いたいことを理解して回答する。
〈神山〉「降魔は地下の霊脈に滞留する邪気から生まれてくると言われてるんだ。それを歌と踊りで祓い、清めるのも華撃団の大事な役割なんだ。それに……ただ敵を倒すことだけが、帝都防衛じゃない。人に笑顔と感動、そして活気を与えるのも、人を護ることだと……俺はそう思う」
『なるほろ わかり真下』
どこかの誰かのように、電文の扱いに慣れていない様子のゼットであった。
数日後の深夜、帝都の市街地の路地裏に、摩上はロソスの命令で足を運んでいた。
〈摩上〉「今度は何させようってんだよ」
〈ロソス〉『フフ……準備は整った……。いよいよ本番に移ろうと思ってな……』
〈摩上〉「あッおい!?」
ロソスが摩上の腕を動かし、ライザーと三枚のメダルを取り出させる。
〈摩上〉「このメダルは何だ?」
〈ロソス〉『デビルスプリンターを使って作り出した、いわば怪獣メダルだ……。ネロンガと、エレキング、そして三枚目は……』
三枚目のメダルの絵柄は、摩上にも見覚えがある異形の横面だった。
〈摩上〉「こいつは……降魔か?」
〈ロソス〉『この地球の怪物の力も、なかなかに使えそうなんでな……。さぁ、それを使って、お前に力を与えよう……』
ロソスがこれらのアイテムの使用方法を説明し出す。
〈ロソス〉『まずはライザーのトリガーを押して起動しろ……』
〈摩上〉「こうか……?」
摩上がトリガーを押すと、彼の目の前に、禍々しい輝きのゲートが出現した。
〈摩上〉「うわッ!?」
〈ロソス〉『その中に入れ……』
〈摩上〉「だ、大丈夫なんだろうな?」
おっかなびっくりと、摩上がゲートをくぐって亜空間の中に消えていく……。
[MAGAMI, Access Granted!]
[ELEKING! NERONGA! KAGIZUME!]
[PARASITE-LOSOS! I-SHIKI THUNDERKING!!]
――深夜の帝都の住宅街に、突如轟音が鳴り響いた。
〈帝都民〉「きゃあぁ――――――!?」
〈帝都民〉「うわあああぁぁぁ―――――!?」
町の一区画の住人たちが、次々に外へ脱出していく。
彼らの住宅が、突然、何の前触れもなく、“上から”崩壊していくからだ。
〈帝都民〉「ど、どうなってるんだ!? 地震でもないのに……嵐でもないのに……家が壊れてく!!」
住宅が崩れ、避難を余儀なくされた住民たちはそろって混乱に陥っていた。
彼らの見ている前で、家屋の破壊はどんどん連鎖し、また一軒と家が崩れ去っていく。
「キイイイイイイイイ! ゲエエゴオオオオオオウ!」
崩壊した家屋の中心、“何もない場所”から、獣の咆哮のような不気味な音が月夜に響き渡った……。
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第二話「正体不明!透明怪獣現る」(B)
その日は早朝から、花組に召集命令が発せられた。
〈さくら〉「はっ……はっ……!」
さくらが劇場の廊下を走っていると、劇場内の生体照合システムが自動で天宮さくら本人であると認識。壁にある姿見の下に隠された地下への直通ルートが開き、丸い入口に飛び込む。長いスライダーを抜ける途中で、自動で戦闘服へ着替えさせられ、司令室に掛けられている己の肖像画の下から華麗に着地した。
〈すみれ〉「みんな、そろったわね」
司令室に帝国華撃団の主要メンバーが集結すると、早速すみれが今回の怪事件についての作戦会議の開始を指示する。司会を務めるのはカオルだ。
〈カオル〉「昨日深夜、帝都・品川の住宅地において、複数の民家が突如として崩壊する異常事態が発生しました。先に申し上げますと、この時刻には如何なる災害も確認されていません」
〈初穂〉「それどういうことだ? 何もなしに、建物がいくつも崩れるなんてことあるのかよ?」
〈こまち〉「普通はないから異常事態っちゅうことやろ」
思わず聞き返した初穂に、こまちが突っ込んだ。
〈カオル〉「これは昨晩の被害現場の記録映像です」
カオルがモニターに現場の映像を再生する。確かに、家屋が次々に突然崩壊していっている。どれも劣化などは起こしておらず、瓦礫も異様な勢いで弾け飛んでいる、明らかに不自然な倒壊だ。
〈アナスタシア〉「これは、確かに……」
〈あざみ〉「どうも、上から何かに押し潰されてるみたい」
〈カオル〉「はい。また、現場の地面には左右入れ違いに並んだ一定の形状の陥没も確認されています」
これらの情報から、分析担当のデュエスが原因を究明する。
〈デュエス〉「陥没は明らかに生物の足跡だ。そのサイズと記録映像から得られる情報から類推するに、身長はセブンガーとほぼ同等。いわゆる透明怪獣の仕業だな」
〈さくら〉「透明怪獣……! 目に映らないということですね」
〈クラリス〉「それなら説明がつきますね」
〈カオル〉「ですが、レーダーにも反応がありませんでした」
とカオルが言うと、対策担当のナシルマが返答する。
〈ナシルマ〉「多分、光線を含んだあらゆる波長の電磁波を回折、透過してるんだろうねー。だから目にも見えないし、レーダーにも引っ掛からない。このままだと、正確な位置を捕捉するのは困難を極めるね」
〈すみれ〉「対策は出来ているのかしら」
〈ナシルマ〉「もっちろん! 昨晩報告を受けてから、すぐに取り掛かりましたよ」
〈ミースア〉「じゃーん! これです~」
ミースア取り出したのは、特殊な形状の霊子兵装用の弾丸であった。
〈神山〉「それは?」
〈ナシルマ〉「特殊スペクトル弾! 弾丸にマイクロコンピュータが仕込んであって、これを撃ち込んだ対象の表面の光の屈折率、反射角度を自動で操作し、可視領域に入れてしまう。まぁ要するに、見えない物体を見えるようにするって訳」
〈ミースア〉「これの発射は、アナスタシアさんにお願いするです~」
ミースアが弾丸を、アナスタシアの前に置いた。
〈ミースア〉「一発しかないから、十分気をつけてです」
〈初穂〉「何だよ、ケチ臭せぇな」
〈ナシルマ〉「昨日の今日だよ? 一発あるだけでもありがたいと思ってよ」
〈アナスタシア〉「一発あれば十分だわ。外さないから」
頼もしい発言のアナスタシアに、神山たちも勇気づけられる。
〈すみれ〉「透明怪獣が次にいつ、どこに現れるかは分かりません。帝都全域には既に厳戒態勢が敷かれているわ。花組も、出現報告があった際に即座に出撃できるよう、待機を命じます」
〈花組〉「「「了解!」」」
〈すみれ〉「司馬くん、霊子兵装の整備状況は?」
〈司馬〉「当然、全て完了してますよ、すみれさん。誠十郎の機体もね」
〈すみれ〉「モフロさん、特空機の修理はどうかしら」
〈モフロ〉「問題ありませんぞ、支配人。いつでも出せます」
〈ナシルマ〉「今回の担当誰だっけ」
〈デュエス〉「天宮だな」
特空機は通常の霊子兵装に比べてあまりに巨体すぎるため、行動時間をたった三分間に限定していても、その大質量の駆動で操縦者に掛かる負荷は大きい。そのため、先日は神山の霊子戦闘機がまだ整備中だったので連続の搭乗になったが、通常は花組六名によるローテーション制の乗り換えで極力負担を軽減しているのであった。
〈神山〉「さくら、分かってる通りセブンガーは俺たちの主力だ。もちろん無理はいけないが、くれぐれも頼んだぞ」
〈ミースア〉「さくらちゃん、頑張ってです~!」
〈さくら〉「は、はい! お任せ下さい!」
神山とミースアの激励に、さくらが胸の前でぐっと手を握って応じた。
〈すみれ〉「風組は翔鯨丸の出撃用意を」
〈こまち〉「了解や!」
〈カオル〉「あっ……最後に一つ、気になる点があるのですが……」
作戦会議の最後に、カオルが告げた。
〈カオル〉「倒壊した民家からは、貨幣や貴重品などの金品が粗方喪失しているという報告が上がっています。警察に盗難届が提出されているようでして……」
〈あざみ〉「金品が……?」
〈クラリス〉「それはおかしな話ですね……」
〈初穂〉「怪獣が盗ってったってことか?」
初穂のひと言に、デュエスが大きく肩をすくめた。
〈デュエス〉「まさか。宝石とかならともかく、怪獣が人間の価値に興味を見出す訳ねぇ。火事場泥棒でも出たんだろ」
――その頃、摩上は隠れ家で、昨晩に破壊した民家から強盗した無数の貨幣や貴重品を腕に抱えて、大笑いしていた。
〈摩上〉「ウヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッ! すっげぇー!! 一回の仕事でこんなに収穫があるなんて、初めてだぜぇ~!」
両手にすくった貨幣をバラバラと自分の頭に降らせて悦に浸る摩上に、ロソスが呼び掛ける。
〈ロソス〉『どうだ、俺の言ったことは本当だっただろう……』
〈摩上〉「ああ! 全く恐れ入ったぜ!」
〈ロソス〉『それで、俺の申し出は忘れてないだろうな……』
摩上がニタリと顔を歪ませて、ロソスに応じた。
〈摩上〉「おうよ! こんなにザックザックお宝が手に入るんなら、いくらでもやってやるぜぇ!!」
〈ロソス〉『フッフッフッ、それを待っていた……』
ロソスも摩上の内部で、ニヤァと目を歪ませる。
〈ロソス〉『それじゃあ俺たちは今から兄弟だ……。俺たちの力は、まだまだこんなものじゃない……。早速次の仕事に取り掛かろうか、兄弟……』
〈摩上〉「いいぜぇ兄弟! 今度は昨日以上の収穫を上げてやらぁ!!」
摩上が意気揚々と、ライザーを取り出して構えた――。
大帝国劇場にけたたましく警報が鳴り響いた。再び透明怪獣による被害報告が発生したのだ。
霊子兵装用格納庫へ走る神山。すると彼の専用機の前で、デュエスが待っていた。
〈デュエス〉「来たな、神山」
〈神山〉「デュエス? 俺に何か用か?」
〈デュエス〉「ウルトラマンゼットたるお前に、これを渡しとく」
デュエスが差し出したのは、五枚のメダルだ。
〈神山〉「ウルトラメダルか? ……いや、これは……!」
メダルに描かれているのは、ウルトラ戦士ではない。さくら、初穂、クラリス、あざみ、アナスタシアの横顔だ。
〈デュエス〉「こないだ借りたウルトラメダルを解析し、天宮たちのデータを組み込んで新しく作った、名づけて花組メダルだ」
〈神山〉「そうか、それで……」
〈デュエス〉「必要ねぇならそれでいいが、備えあれば患いなしとは地球の言葉だろ。とりあえず持っときな」
〈神山〉「分かった、ありがとう」
デュエスの親切心に礼を返して、神山が己の専用機、白い塗装の二刀を提げた無限のコックピットに飛び乗った。
〈神山〉『うおおおおおおッ!! 行くぞッ!!』
抜刀して動作確認し、出撃態勢に移る。
――台東区浅草では、浅草北駅の看板が動き、「緊急警報」の文字に変わった。そしてサイレンとともに浅草仲見世商店街の地面が跳ね橋のように開いていき、地下から全長130メートルに及ぶ藍色の飛行船が浮上する。
帝国華撃団・花組が劇場から離れた現場に速やかに移動するための飛空輸送艇・翔鯨丸である。
〈さくら〉「はっ!」
そしてさくらは、特空機用格納庫でセブンガーの喉元の搭乗口からコックピットに入り、霊子機関と接続。セブンガーの頭上のゲートが横にスライドして開いていく。
『フォースゲートオープン! フォースゲートオープン!』
『特空機が発進致します! 駐車場利用のお客様はご協力願います!』
特空機の発進口は、劇場横に設けた大型駐車場だ。緊急出動の報を受けて駐車していた自動車や馬車が退いていき、開いたゲートからセブンガーがせり上がってくるのを、野次馬の都民がオオーッと見上げていた。
『防火壁閉鎖! 離陸準備完了!』
〈さくら〉『特空機一号セブンガー、離陸!』
セブンガーの背面のブースターが点火し、ロケット噴射によって離陸。上空で翔鯨丸と合流し、並んで品川方面へ急行していった。
セブンガーと翔鯨丸が現場上空に到着すると、眼下の市街地の一部が既に崩壊し、火の手が上がっているのが確認できた。
〈神山〉『あの辺りは高級住宅街だな。……偶然か?』
カオルが言っていた、被害現場での金品喪失の話を思い出して、神山は眉をひそめた。
〈カオル〉『市民の避難は既に完了しています』
〈さくら〉『了解! セブンガー、着陸します!』
翔鯨丸から五機の無限が投下されるとともに、セブンガーも着陸する。
『セブンガー、着陸します。ご注意下さい』
着陸したセブンガーがプシューッ! と蒸気を噴出して身構える。実用行動時間のカウントが、四分から始まった。
〈ミースア〉『さくらちゃんの霊力は特に大きいので、行動時間を一分延長できるです~!』
〈デュエス〉『あと十秒あればやっつけられたって時でも安心だな!』
〈初穂〉『それ、かなり限定された状況じゃねぇか?』
五人の無限が散開して周囲の警戒を行うが、いるはずの怪獣はやはりどこにも姿を見つけられない。
〈クラリス〉『やっぱり、怪獣は視認が不可能みたいです』
〈すみれ〉『皆、気をつけて。民家の破壊は今しがたまで起こっていた。必ず近くにいるはずよ』
〈ナシルマ〉『質量が消える訳じゃない。動けば絶対痕跡が生じるよ。頑張って捜してくれ!』
〈初穂〉『ところでさ、隊長はウルトラマンゼットに変身して戦った方がいいんじゃねぇのか?』
初穂の素朴な疑問に、ゼット本人が通信に入ってきて答えた。
〈ゼット〉『ギリギリまで頑張って、俺と誠十郎の気持ちがグッ! と噛み合わないと、変身できないんでございますよ』
〈初穂〉『微妙に使いづらいな……』
〈神山〉『大丈夫だ。俺も花組隊長として、どんな時も限界まで己の力で戦う所存だ』
〈ゼット〉『ああ、その意気でごわす!』
などと話しながらも周囲に気を配っている内に、あざみが目を細めて振り返った。
〈あざみ〉『殺気……!』
その方向で、民家の庭の樹がいきなりへし折れた!
〈あざみ〉『いた! 三時の方角!』
〈神山〉『アナスタシア!』
〈アナスタシア〉『任せて』
アナスタシアの無限が番傘の先端を、指示された方向に向けた。
〈アナスタシア〉『特殊スペクトル弾、発射!』
番傘から撃たれた弾丸が唸りを上げて飛び、空中で静止した。
〈アナスタシア〉『ヒット』
〈クラリス〉『流石です!』
〈初穂〉『やったぜ! さぁ、その面拝ませてもらおうじゃねぇか!』
スペクトル弾が作動し、光を透過させて姿を消していた巨大怪獣の全貌を花組の前にさらけ出させる。
「キイイイイイイイイ! ゲエエゴオオオオオオウ!」
露わになった怪獣の姿に、花組はそろって目を見張った。
〈さくら〉『あれは!?』
〈あざみ〉『何だか、妙……!』
並んだ二つの山脈のように隆起した背面と、白黒の斑模様の胴体を持った、鋭い牙の獰猛な怪物。目のある場所には代わりに回転するアンテナ状の角が生えていて、尾は長くムチのようにしなっている。両腕には鋭い鉤爪が生え……胸部には禍々しく赤い球体が埋め込まれてあった。
怪獣の全身から発せられているおどろおどろしい気配に、花組は思わず身震いする。
〈クラリス〉『この嫌な感じ……降魔の妖力ですか!?』
〈神山〉『降魔怪獣か……しかし、こんな肌が震えるほどの妖力は感じたことがない……!』
司令室では、露わになった怪獣の姿にデュエスらが衝撃を受けていた。
〈デュエス〉「あれは自然発生した怪獣じゃねぇ! 複数の怪獣の要素を組み合わせて作られた、融合獣だ!」
〈すみれ〉「見た限りでは、下級降魔の要素も含まれているようですわね」
〈デュエス〉「いわば、降魔融合獣ってとこか……。そんなもんが何で……」
〈さくら〉『攻撃開始します!』
さくらの駆るセブンガーが足を踏み出し、降魔融合獣イ式サンダーキングへ向けて進撃。その横面に鉄拳を浴びせた。
「キイイイイイイイイ! ゲエエゴオオオオオオウ!」
重い一撃に殴り倒されたサンダーキングだが、回転する角から高圧電流を発し、セブンガーに食らわせる!
〈さくら〉『きゃあああああっ!?』
操縦席が激しいスパークに襲われ、さくらが悲鳴を上げる。セブンガーが後ろに倒れ込んだ。
〈神山たち〉『さくら!!?』
セブンガーの損傷状況をモニターしたナシルマが顔を青くした。
〈ナシルマ〉『ああやばいッ! 蒸気供給管が破裂した!』
〈ミースア〉『駆動系統に異常! セブンガー、起き上がれないですぅっ!!』
〈神山〉『みんな、援護するぞッ!』
〈初穂たち〉『『『『了解!!』』』』
無限が走り、イ式サンダーキングの足に斬撃、打撃を浴びせ、体表に手裏剣や光弾を降り注ぐ。
〈初穂〉『おらぁっ! こっち向きやがれ!』
しかしサンダーキングは彼らを無視して、セブンガーに追撃の電撃を放とうとしている。
〈クラリス〉『駄目です、効いてません!』
〈アナスタシア〉『先にセブンガーを破壊するつもりだわ!』
〈モフロ〉『さくらくん、離脱するんじゃ! それ以上は危険じゃ!』
警告するモフロだが、さくらは必死にセブンガーを動かそうとしていて、聞き入れない。
〈さくら〉『セブンガーはわたしたちの仲間です! 壊される訳にはいきません……! わたしは、最後まであきらめませんっ!!』
さくらの危機に、神山の決意が高まった。
〈神山〉『さくら……! その意志、俺が引き継ぐッ!』
自然にウルトラゼットライザーを取り出していて、トリガーを押していた。
無限の前に光のゲートが現れると、ハッチを開いた神山がその中へ飛び込む!
〈神山〉「うおおおおおおッ!!」
ゲートをくぐって亜空間に移動。ウルトラアクセスカードを手に取り、ゼットライザーに差し込んだ。
[SEIJŪRO, Access Granted!]
腰のホルダーから三枚のウルトラメダルを取り出す。
〈神山〉『「宇宙拳法、秘伝の神業!」』
ライザーに素早くセット、スキャンする。
[ZERO! SEVEN! LEO!]
神山の背後にゼットの姿が立ち上がった!
〈ゼット〉『ご唱和ください、我の名を! ウルトラマンゼーット!!』
〈神山〉『「ウルトラマン! ゼェ―――ット!!」』
ゼットライザーを掲げて、トリガーを押す!
『ハッ!』
『デュワッ!』
『イヤァッ!』
[ULTRAMAN-Z! ALPHA-EDGE!!]
「ゼアッ!」
サンダーキングの電撃が放たれた瞬間、セブンガーの前に飛び込んで防御した!
〈さくら〉『きゃっ!?』
一瞬生じた閃光で視界を潰されたさくらが、ゆっくり目を開けると……モニターに大きく映っていたのは、ウルトラマンゼット・アルファエッジの顔であった。
〈さくら〉『……神山さん……!』
ゼットは抱え上げたセブンガーをゆっくり下ろすと、猛然とイ式サンダーキングに突撃していく!
「ゼアッ!」
「キイイイイイイイイ! ゲエエゴオオオオオオウ!」
サンダーキングの方も地を蹴って迎え撃ちに行くが、ゼットはふた振りのスラッガーをヌンチャクにし、乱撃を叩き込む!
〈神山〉『「うおおおおおおおおッ! 食らええええぇぇぇぇぇぇぇッ!!」』
ゼットの吹き荒れる猛攻にサンダーキングはなす術なく、全身を切り刻まれる……。
そのはずであったが!
〈神山〉『「何!?」』
サンダーキングの裂傷は、入れられる端から高速でふさがって消えていくのだ!
〈初穂〉『嘘だろ!? 何でゼットの攻撃まで効かねぇんだ!?』
〈あざみ〉『そうか、降魔だから……!』
妖力を持つ降魔の邪気は、霊力を用いなければ祓うことが出来ない。もちろん神山も霊力を保有してはいるのだが……。
〈神山〉『「くッ……! 俺の霊力じゃ、ゼットの力になるには足りないのか……!」』
「キイイイイイイイイ! ゲエエゴオオオオオオウ!」
サンダーキングは電撃を纏った鉤爪を振るい、ゼットにお返しする。
「ウワァァァッ!」
高圧電流を乗せた一撃を叩き込まれ、後ずさるゼット。相手にダメージを与えられないのでは、勝負にならない。
〈神山〉『「くそぉッ……! 俺は、さくらの意志に応えることすら出来ないのか……!?」』
己の不甲斐なさを感じ、神山は悔しさに歯がみした。
しかしそこに、デュエスからの指示が飛ぶ。
〈デュエス〉『神山! 花組メダルを使ってみろ!』
〈神山〉『「花組メダル……!? はッ、そうか!」』
何かに気づいた神山が、出撃前に受け取った花組メダルの内の一枚、さくらメダルを取り出した。
〈神山〉『「さくら……! きみの力を借りるッ!」』
強い念を込めたメダルを、レオメダルと交換した。
〈神山〉『「上手く行ってくれよッ!」』
新たに三枚のメダルで、スキャンし直す。
[ZERO! SEVEN! SAKURA!]
ゼットの姿が再び神山の背後に立ちあがって、腕を広げた。
〈ゼット〉『ご唱和ください、我の名を! ウルトラマンゼーット!!』
〈神山〉『「ウルトラマン! ゼェ―――ット!!」』
ゼットライザーのトリガーを押し、メダルの力をゼットの身に宿す!
『ハッ!』
『デュワッ!』
『やぁーっ!』
ゼロとセブンのビジョンが飛び、抜刀するさくらのビジョンとともに一つの光となる!
[ULTRAMAN-Z! SAKURA-EDGE!!]
そして渦巻く桜の花びらのような光の中から現れたのは!
「ゼアッ!」
桜色のカラーリングが追加されたウルトラマンゼット・サクラエッジである!
〈クラリス〉『姿が変わりました! あの力の感じは……!』
〈さくら〉『誠十郎さん……!』
ゼットがスラッガーを両手に握ると、スラッガーが伸び、太刀のように変形を果たした。
「ハァッ!」
二刀流となったゼットが、斬撃をサンダーキングに入れる。
「ゼアァッ!」
「キイイイイイイイイ! ゲエエゴオオオオオオウ!」
サンダーキングの体表に刀傷が走る。今度は再生しない!
〈神山〉『「よしッ!」』
〈ゼット〉『おおッ! 効いてるぞ! ウルトラいけるぜぇッ!』
花組メダルの効果でゼット自身のパワーを霊力に変換しているのだ。これで降魔融合獣の強力な妖力も突破できる!
「ゼアッ! ゼェアッ!」
二刀の猛攻撃を振るうゼット。サンダーキングも鉤爪で応戦するが、一方の刀で弾かれたところにもう一方の刃を叩きつけられ、爪をへし折られた。
「キイイイイイイイイ! ゲエエゴオオオオオオウ!」
すっかり攻守逆転して追いつめられるサンダーキングであったが、右手の爪を、スペクトル弾を撃たれた箇所に突き立てると、刺さった弾丸を引き抜いてしまった!
〈ナシルマ〉『あー! まずいッ!』
スペクトル弾が抜かれたことでサンダーキングに透明化能力が復活し、ゼットの目の前で姿がかき消えてしまう。
「デュワッ!?」
思わず足を止めたゼットの背後から電撃が飛び、背中を撃たれる。
「ウワァァァッ!」
振り向きざまに刀を走らせるが、空を切った。これではサンダーキングを捉えることが出来ない!
〈ゼット〉『このままじゃヤバみを感じます……!』
〈神山〉『「……武の道は、見えるものだけを追いかけるに非ず……!」』
〈ゼット〉『えッ、何だって?』
〈神山〉『「いいから、意識を集中するんだ! 目を閉じてッ!」』
言いつけると、自らが目を閉ざして精神を集中する。
〈神山〉『(……!)』
視界からの情報がなくなったことで、周りの空気の流れが、鮮明に感じ取れるようになる。
その時に、背後の空気の流れの不自然な変化を感知した!
〈神山〉『「そこだぁぁぁぁぁッ!!」』
「ゼアァァァッ!」
ゼットの薙いだ刀が、サンダーキングの角を斬り落とした!
「キイイイイイイイイ! ゲエエゴオオオオオオウ!」
〈ゼット〉『ウルトラすごい! 天宮剣術、秘伝の神剣ってところだな!』
サンダーキングが残った角から電撃を飛ばすが、ゼットは電流を回り込むように飛び、相手に肉薄。
〈神山〉『「縦横無刃・嵐!!」』
神山の必殺技たる神速の連続斬撃がサンダーキングを襲い、残った角も爪も細切れにした。
「キイイイイイイイイ!! ゲエエゴオオオオオオウ!!」
だがサンダーキングも死にもの狂いで抵抗し、長い尾をゼットに巻きつけて最大電力の電流を食らわせる。
「ウワァァァッ!」
互いに一歩も譲らぬ激闘により、ゼットのカラータイマーが点滅する。
〈アナスタシア〉『ゼットが危ないわ!』
〈初穂〉『けど、これじゃ近づけねぇぜ!』
サンダーキングの電撃が周りにもほとばしり、無限は射程範囲まで接近することが出来ず援護できない。
しかし、サンダーキングの顔面にロケットパンチがめり込む!
「ゲエエゴオオオオオオウ!」
〈神山〉『「今のは……!」』
セブンガーのパンチを飛ばしたのは、残った力を振り絞ったさくらだ。
〈さくら〉『これが精いっぱいです……! 後は頼みます、ゼットさん……隊長……!』
さくらから託された想いを、しかと受け止める神山!
〈神山〉『「ありがとう、さくら……! これでとどめだッ!」』
ゼットが振りかざした刀身に、桜色の光が渦巻く。
〈神山・ゼット〉「『ゼスティウム桜吹雪!!」』
吹き荒れる桜吹雪がサンダーキングを突き抜け、大きなZを刻みつけた!
そしてイ式サンダーキングは爆発四散!
〈初穂たち〉『『『やったぁぁぁ―――――――――っ!!』』』
「シュウワッチ!」
悪を打ち倒して帝都を守ったゼットが、Zの軌道を描いて飛び去っていった。
――そうして戻ってきた神山と、救出されたさくらは仲間たちとともに、華撃団の伝統で戦いを締めたのであった。
〈花組〉「勝利のポーズ、決めっ!!」
――花組とゼットの前に撃破されたイ式サンダーキングから元の姿に戻った摩上は、町の陰に身を隠しながら、ギリギリと歯ぎしりしていた。
〈摩上〉「ちっくしょう、ウルトラマンゼットとかいうの……! よくも邪魔しやがって……!」
〈ロソス〉『そう荒れるな、兄弟……』
激しく悔しがる摩上を、ロソスがなだめる。
〈ロソス〉『今は実験段階みたいなものだ……。これから戦いの経験を積んでいく度に、俺たちの闇の力はどんどん強まる……。もっと強力なメダルも扱えるようになるさ……』
〈摩上〉「本当か?」
〈ロソス〉『当然……。そして闇の力が究極に高まった時、俺たちを止められる奴なんかいなくなる……俺たちが世界を、宇宙をこの手に掌握するのさ……! それまでの辛抱さ……』
〈摩上〉「ハハハ……兄弟の野望はホントでっけぇなぁ。面白れぇ……! こうなりゃとことんつき合ってやるぜ!」
ロソスに合わせてほくそ笑んだ摩上が、ゼットたちに向けて吐き捨てる。
〈摩上〉「今に見てろウルトラマンゼット、帝国華撃団……! いずれ地獄に叩き落としてやるぜ……! ヒッハハハハハ……!!」
邪悪な笑いを残して、摩上は帝都の闇の中に消えていった――。
また、この戦いの一部始終を、黒い外套を纏った仮面の女が密かに見届けていた――。
「……」
(ED:桜夢見し)
『花組のウルトラナビ!』
神山「今回紹介するのは、ウルトラセブンだ!」
初穂「セブンは初代に続く、主役級のウルトラ戦士の第二号だな! 作品として出来の高さから、ファンからの人気は初代に並ぶほどだ!」
初穂「後のシリーズでの出番もかなり多いぜ! 番組内で使われるアイテムでの顔出しの機会も多いし、最近の『ウルトラファイトオーブ』じゃ息子のゼロと一緒に重要な役割を果たしたな!」
初穂「ウルトラマンレオとは直々に鍛えた師匠と弟子の関係だ。このゼロ、セブン、レオのセブンつながりの三人のメダルで変身するのがアルファエッジだ!」
ゼット『そして今回の華撃団隊員は神崎すみれだ!』
初穂「元帝劇のトップスタァの、現在の帝劇の支配人だ! 光武から続く霊子兵装シリーズを作ってる神崎重工の息女でもある、帝国華撃団とは切っても切り離せねぇ関係だ。かつては中の人の事情で引退してたが、『新』だと旧シリーズから唯一続投してるレギュラーだぜ」
初穂「じゃ、次回もよろしくな!」
初穂「眠ってる降魔怪獣を無人島に輸送するだぁ? 大丈夫なんだろうな。っておい! 起きちまったじゃねぇか! ゴモラとゼットのガチンコ勝負だ!」
「次回、『多事多端!怪獣輸送大作戦』。太正桜に浪漫のZ!」
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幕間「地球の言葉は難しい」
(支配人室)
〈すみれ〉「降魔融合獣ですか……」
〈デュエス〉「仮にそう呼称する。あの透明怪獣は、明らかに降魔の要素も混ぜられた合成怪獣だ。間違いねぇ」
〈カオル〉「合成怪獣ですか……。また厄介な敵が現れましたね」
〈ナシルマ〉「でもそうなると、作った奴がいるってことだよね。一体どこの誰が?」
〈デュエス〉「そこはまだ何とも言えねぇな。だが、これは予測だが……ゲネガーグの件も関係してると思う」
〈ミースア〉「ゲネガーグが、ですか~?」
〈デュエス〉「ゼットから記録映像を見せてもらったが、あんだけ集中攻撃されてんのにまっすぐ突っ込んできて、ライザーとメダルを呑み込んだらすぐ逃げ出した。野良怪獣の行動としちゃあ不自然だ。その直後にこれだ」
〈すみれ〉「つまり……裏で暗躍している何者かがいる可能性が高いということですわね?」
〈モフロ〉「うぅむ……わしらのように宇宙の果てからやってきて、事件に紛れてこの地球の帝都に潜り込んだ侵略者がいるかもしれんのか……」
〈カオル〉「しかも、合成怪獣に降魔が材料に使われているのならば、上級降魔の関与も疑われます。上級降魔の存在は既に確認されています」
〈ナシルマ〉「朧とか言ったっけ? セブンガーでぶっ飛ばしてやったけど」
〈デュエス〉「そいつと既に接触してるか……真相はまだ不明だがな」
〈すみれ〉「その辺りも含めて、月組に調査を頼みましょう」
〈モフロ〉「ふ~む……敵は思った以上に強大なのかもしれんのう」
〈ミースア〉「けど、ミースアたちにも強い味方が出来たです~!」
〈ナシルマ〉「ウルトラマンゼット! カッコよかったよね~。ほれぼれしたよあの戦いぶり」
〈デュエス〉「ふッ……まぁまぁってとこだな」
〈ナシルマ〉「またそんなこと言っちゃって。素直に認めるで候!」
〈カオル〉「……?」
〈デュエス〉「急にどうした」
〈ナシルマ〉「(コンコンッ)……何か、パンスペースインタープリターの調子が悪いな……」
〈デュエス〉「お前、まだ翻訳機使ってたのかよ。いい加減言葉覚えろよ」
〈ナシルマ〉「でも、地球の言葉って難しいんだよ! 特に日本語!」
〈すみれ〉「ゼットさんもそうおっしゃっていたわね」
〈カオル〉「そんなに難しいものでしょうか」
〈ナシルマ〉「難しいって~! 文脈で言葉の形が変わりまくるし、何より敬語! 何であんなに種類あるの? 覚え切れないよ~!」
〈すみれ〉「確かに、敬語は日本人でも間違うことが多いわね」
〈モフロ〉「わはは。まぁゆっくり身につければ良かろうて。誰も急かしたりなどせんわい」
〈カオル〉「……言葉と言えば、デュエスさんはともかく、モフロさんは随分とお年寄りめいた口調で話されますね。誰に教わられた訳でもないでしょうに」
〈モフロ〉「ハッハッ。わしは実際に年寄りじゃよ。老人は老人らしく振る舞うのが分相応というものじゃて」
〈ナシルマ〉「別にそんなの気にしなくたっていいのに」
〈カオル〉「……まぁ、一番妙な口調なのは、ミースアさんですが」
〈ミースア〉「そうですか~? 別に普通だと思うです~」
〈すみれ〉「確かに……失礼だけど、その語尾はわざとやっているのかしら?」
〈デュエス〉「いや、こいつは宇宙語の時点で何か変だぞ」
〈カオル〉「そうなのですか?」
〈モフロ〉「試しに何か言ってみてくれ」
〈ミースア〉「キ・エーテ コシィ キレキレィテデスゥ~」
〈すみれ〉「……何となく分かりましたわ」
〈ナシルマ〉「あー……実は、起動の際に言語設定ミスってたみたいでさ……修正するには初期化する必要があるんだけど」
〈ミースア〉「初期化は嫌です~! みんなとの思い出、なくしたくないです~!」
〈カオル〉「そうですか……それでは仕方ありませんね」
〈デュエス〉「別に困る訳でもねぇしな。しかしそういう理由だったのか。てっきり、ナシルマの趣味かと思ったんだが」
〈ナシルマ〉「違うっての! 人聞きの悪い!」
〈すみれ〉「ふふ……どんな口調でも良いではありませんか。言葉に大事なのは、己の想いを伝えようという意思。それが懸命であれば、口調などは問題ではありませんわ」
〈ナシルマ〉「すみれさん……流石いいこと言うなぁ」
〈すみれ〉「わたくし、皆さんには感謝しておりますわ。これからもわたくしたちを、花組をよろしくお願い致しますね」
〈モフロ〉「ええ。こちらこそよろしくお願いします」
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第三話「多事多端!怪獣輸送大作戦」(A)
大帝国劇場の地下格納庫で、神山、さくら、初穂の三人がさくら専用機の三式光武を見上げていた。
〈初穂〉「……そういえば、さくらの機体だけずっと光武のままだよな。さくら用の無限は、いつになったら用意されるんだ?」
初穂がぽつりと疑問を口にした。光武シリーズは過去様々な戦いで華撃団の勝利に貢献した優秀な霊子甲冑ではあるが、現在の主流は既に設計段階から技術革新を起こした霊子戦闘機になっている。そんな中で光武を使用し続けるメリットはない。
その理由について、司馬が申し訳なさそうにしながら答えた。
〈司馬〉「悪いが、さくらちゃんの無限を購入する予算がまだ確保できないんだ。光武は技術部が責任持って整備するから、しばらくはそいつを使ってやってくれ」
〈初穂〉「何だよ、また予算不足なのか」
〈神山〉「どれだけ活躍しても、なかなか解消されないな……」
肩をすくめた初穂が、特空機用格納庫の扉に首を向けた。
〈初穂〉「やっぱさ、特空機が予算取りすぎなんじゃねぇのか? こないだ経費の申請用紙チラッと見たけど、目が飛び出るような額が書いてあったぜ」
〈ナシルマ〉「しょうがないじゃん、特空機でかいんだからさ」
初穂のつぶやきに、資材の搬入で通りがかったナシルマが言い返した。
〈ナシルマ〉「大きいってことは、それだけ必要になる物が多くなるってことだし、どうしてもね。そりゃあさくらちゃんには悪いとも思ってるけど……」
〈さくら〉「大丈夫です!」
ばつが悪そうなナシルマに、さくらは胸を張る。
〈さくら〉「強さは使う機体の性能だけで決まるものじゃありません。たとえ旧型でも、わたしはどんな戦いも乗り越える覚悟です!」
〈ナシルマ〉「さくらちゃん……ありがとう。ほんといい子だなぁ」
さくらの気遣いにジーンと感動するナシルマ。彼に同行しているデュエスが、特空機用格納庫を親指で指しながら告げる。
〈デュエス〉「まぁその代わりって訳でもねぇが、特空機二号がもうじき完成だ。そいつがありゃ、花組のますますの戦果が見込めるぜ」
〈初穂〉「おっ、遂に出来上がるのかよ!」
〈ナシルマ〉「うん。セブンガーじゃ対応し切れない戦況をカバーできる性能になる予定だから、楽しみにしててね!」
特空機二号と聞いて、司馬と神山が特に期待に胸を膨らませる。
〈司馬〉「いや、ほんと楽しみだな! セブンガーを最初に見た時も興奮しっぱなしだったぞ俺は」
〈神山〉「やっぱり、新兵器はそれだけで男心をくすぐられるよな!」
だがその時に、格納庫に警報が鳴り響く。
〈神山〉「! 降魔が出現したみたいだ。さくら、初穂、行くぞ!」
〈さくら・初穂〉「「了解!」」
〈司馬〉「こっちも出撃準備だ!」
〈ナシルマ〉「急げ急げー!」
神山たちは直ちに指令室に向かって駆け出していった――。
帝都郊外の山岳地帯に出没した降魔の群れを相手に、花組が奮闘する。
〈神山〉『はぁぁッ!』
〈さくら〉『やぁーっ!』
〈クラリス〉『はぁっ!』
〈あざみ〉『ていっ!』
〈アナスタシア〉『ふっ……!』
五人の霊子兵装の繰り出す斬撃、魔法弾、手裏剣、銃弾等の攻撃が降魔たちを蹴散らす。
〈神山〉『下級はおおむね片づけたな』
〈クラリス〉『はい。後は……降魔怪獣だけですね』
今回セブンガーに搭乗しているのは初穂。そのセブンガーに、雪男という形容がぴったり似合う巨大怪獣がヘッドバットを決めていた。
「グオオオオオオ! ゲエエゴオオオオ!」
降魔怪獣ギガス! そのパワーはセブンガーに匹敵するほどで、初穂も押され気味であった。
〈初穂〉『くっそー、なかなかやるじゃねぇか。だが、セブンガーの力はこんなもんじゃねぇぜ!』
セブンガーが右腕を前に突き出すと、初穂が照準をギガスに合わせる。
〈初穂〉『食らえっ! 硬芯鉄拳弾だっ!!』
右腕が切り離されて飛び、ギガスの胴体の中央にロケットパンチが突き刺さった!
「ゲエエゴオオオオ!!」
ロケットエンジンの推進力に押されるギガスが地面を滑っていき、背後の山の岩肌に激突。そのまま爆散!
〈初穂〉『よっしゃあーっ! 決まったぜ!』
ガラガラと切り立った崖から岩が転げ落ちる中、ギガスを撃破した初穂がぐっと手を握った。
〈初穂〉『みんな、いつもの奴やろうぜ! 勝利のポーズ――』
〈あざみ〉『待った!』
恒例の勝利のポーズを促したが、あざみが急に制止を掛けた。
〈さくら〉『どうしたの? あざみ』
〈あざみ〉『あれを見て……!』
あざみの無限が指差した先は、ギガスが爆発した衝撃で崩れた岩壁。
〈クラリス〉『えっ!?』
〈アナスタシア〉『あれは……!』
その中に埋め込まれているように、明らかに恐竜型の巨大生物の顔が覗いているのだ。
花組はギョッと立ちすくんだ。
〈神山〉『別の怪獣が、山の中に……!』
(OP:ご唱和ください 我の名を!)
第
多 三
怪 事 話
獣 多
輸 端
送 !
大
作
戦
帝劇に帰投した花組は、指令室で調査結果の報告を受ける。
〈デュエス〉「あいつはゴモラザウルス。一億五千万年前に生息してた恐竜が、降魔化して復活したものだな」
〈ミースア〉「と言っても、今のゴモラのバイタルはとっても低いです~。ぐっすりおねんねしてるみたいですね~」
ミースアの説明で、あざみが意見する。
〈あざみ〉「相手が眠ってるなら好機」
〈初穂〉「ああ! わざわざ戻んなくたって、あの場でやっつけりゃ良かっただろ」
血気盛んな初穂だが、それにデュエスが反対した。
〈デュエス〉「怪獣をあんまなめるな。特にゴモラは生命力が強いタイプだ。仕損じて起こしちまったら、下手すりゃいらない惨事を招くぜ」
〈すみれ〉「ええ。わたくしたちの役目は、あくまで防衛。寝ている虎の尾を踏むことはありませんわ」
すみれもデュエスの意見を支持した。
〈クラリス〉「では、ゴモラはどうするのでしょうか。放っておく訳にもいかないですよね?」
〈カオル〉「ゴモラの処置に関しては、既に決定をしています」
カオルが作戦の概要を説明する。
〈カオル〉「ゴモラは休眠状態のまま、無人島に輸送します」
〈さくら〉「ゆ、輸送……ですか?」
〈カオル〉「はい。陸路では翔鯨丸と特空機で東京湾まで運び、海軍に受け渡して無人島へ送り届けてもらいます。降魔怪獣も、人間がいない場所ならば人畜無害です」
〈神山〉「作戦決行は?」
〈カオル〉「一週間後です」
〈アナスタシア〉「随分遅いじゃない。何か理由があるのかしら?」
アナスタシアの問いに首肯するすみれ。
〈すみれ〉「一週間後に、ここ帝都での世界華撃団大戦の開催の下見に、WLOFの事務局が来日するの。その際に本作戦の過程を見てもらって、特空機の有用性を訴えかけるのですわ。WLOFは特空機の運用に批判的ですからね」
〈神山〉「なるほど……」
〈すみれ〉「上手くいけば、WLOFからこの帝国華撃団へ予算を回してもらえるようになるわ。今のわたくしたちには、まだまだ必要な物が多数あります。WLOFからの予算を獲得できれば、状況は大分改善されるはずよ」
〈こまち〉「ええですね~! せっかくだからジャリンジャリンいただきたいところですわ!」
金の話となって、こまちが生き生きとする。
〈クラリス〉「ですが、一週間の間にゴモラが目覚めたりしないでしょうか」
〈ナシルマ〉「それなら心配ないよ」
クラリスの心配に、ミースアからゴモラのバイタルデータを渡されたナシルマが断言した。
〈ナシルマ〉「ゴモラのバイタルはほぼ停止状態。仮死状態にあると言えるね。自然覚醒の確率は0.1%以下。バイタルは常にチェックしてるし、万が一の時はすぐに出動できるよう、準備は欠かさずしとくよ」
〈すみれ〉「ええ。今回の作戦は、衆目監視の下に行う都合上、失敗は絶対に許されませんわ。幸い準備の時間はたっぷりあるから、みんな万全を期してちょうだいね」
〈神山〉「了解!」
〈司馬〉「任せて下さいよ、すみれさん!」
〈モフロ〉「整備は完璧に仕上げますぞ」
こうして帝国華撃団一同は、一週間後の作戦実行に向けて用意に取り掛かった。
そして、本番の日がやって来た。
〈さくら〉「うわぁ……! すっかり野次馬が集まってるね」
セブンガーに先んじて現場に到着し、作戦開始まで待機しているさくらたちが、ゴモラの眠る山や輸送経路の周辺に帝都民がこぞって集まっている光景を一望して、ため息を吐いていた。
〈クラリス〉「何だか緊張しますね……。華撃団としての活動を、こんなに多くの目がありながら行うなんて経験ありませんし」
〈アナスタシア〉「今回は戦闘行為じゃないからね。市民も滅多にないチャンスと、見学に集まってるんでしょう。中継もされているわ」
〈初穂〉「こりゃますます失敗できねぇなぁ」
〈あざみ〉「失敗することなんて、始める前から考えるべきじゃない」
セブンガーの到着を今か今かと待ちながら、さくらがぽつりとつぶやく。
〈さくら〉「……それにしても、デビルスプリンター落下地点からこれだけ離れてるところにも降魔怪獣が出現するだなんて……」
〈初穂〉「そうだな……。怪獣の出現範囲は、徐々に広まってるみたいな感じだ」
〈クラリス〉「やはり、デビルスプリンターの影響は日々広がりつつあるのでしょうか……」
〈あざみ〉「厄介……」
〈アナスタシア〉「どうにかならないものかしらね……」
ぼやいていたら、作戦の要であるセブンガーが飛来してきた。
〈初穂〉「来た! 神山隊長!」
〈さくら〉「みんな、無限に!」
〈クラリス〉「はい!」
セブンガーの姿が見えると、さくらたちは霊子兵装に乗り込んでいく。
『セブンガー、着陸します。ご注意下さい』
ゴモラの前に着陸するセブンガーを操縦しているのは神山。今回は特に責任重大な役目なので、隊長たる彼がそれを負うべく名乗り出たのであった。
〈神山〉『セブンガー、現着! これより作戦行動に移ります!』
帝都中央駅前の大帝国ホテルの大会議室にて、すみれとカオルはWLOFの事務局員ら相手に作戦のプレゼンを行っていた。
〈すみれ〉「ご覧下さい。これが我が帝国華撃団の彗星組が総力を挙げて建造しました、対降魔用特殊空挺超大型霊子戦闘機、特空機の第一号、セブンガーでございます」
スクリーン上に映し出された、現場でゴモラにワイヤーをくくりつけているセブンガーの姿に、事務局員たちは感心している。
〈すみれ〉「たった今、翔鯨丸との接続が完了しました。これより輸送作戦を開始致します」
眠っているゴモラを翔鯨丸が吊り上げ、更に下からセブンガーが支えることで持ち上げ、山からの輸送を開始する。その道中を花組の五人が警護する。
〈すみれ〉「如何でしょうか。お手元の資料にあります通り、通常の霊子兵器では数十機掛かりでやっと相手になるような怪獣でも、セブンガーはたった一機で撃退可能な戦闘力を持っております。このような大掛かりな作業も単機で実行できます。それはつまり、作戦行動によって人命が損なわれる危険性を減少することにもつながり……」
「少しいいかね?」
すみれのプレゼンを、事務局員たちの中心に陣取る白スーツに眼鏡の男がさえぎった。
〈すみれ〉「……何でしょうか、事務総長」
彼こそがWLOFの事務総長、つまり華撃団連盟のトップであるプレジデントGである。
〈G〉「特空機はその巨大さ故に、コストパフォーマンスが良いとは言えん。何より、戦闘可能時間がたった三分間なのは短すぎる。それならば、同等の働きを見込める数の霊子戦闘機をそろえた方が実用的なのではないかね」
〈すみれ〉「それは……」
〈G〉「何より」
すみれの回答を待たずに、プレジデントGが言い放つ。
〈G〉「宇宙から来たとかいう、素性の知れない連中の技術に頼った兵器の信頼性には疑問が残る。神崎司令官は、今後の特空機の運用上で一切の事故が起こらないと保証できるのかね?」
〈すみれ〉「……」
〈ナシルマ〉「すみれさんは今頃、WLOFの事務局を相手にしてる頃かぁ……」
帝劇で留守を担っているモフロを除く彗星組と、技術部はセブンガーの後方にて、機体とケーブルでつないだ都市エネルギー供給車を動かしていた。
〈司馬〉「セブンガーとの距離は常に一定に保つんだ! 近すぎると危険だぞ!」
セブンガーは搭乗者の霊力では三分間の駆動が限度だが、非戦闘時においてそれ以上の稼働が求められる場合は、かつて霊子甲冑『天武』に用いられた都市の地脈から生ずる莫大な霊的エネルギーの供給システムを使用する。しかしこのシステムは、天武がエネルギーの過供給によって暴走事故を起こしかけた前例があるために、戦闘に用いることは固く禁止されているのであった。
〈ナシルマ〉「僕たちのことは事務局……って言うかプレジデントGがまた悪く言ってるんだろうなぁ。あの人、いっつも僕たちに批判的だよね」
〈デュエス〉「ま、言わんとするところも分かるがな。世界的組織の長ともなりゃ、よその星から来た奴なんか、そうそう信用は出来ねぇだろ。立場がある」
〈ナシルマ〉「けどだからって、ちょっとくらいは認めてくれたっていいのに。地球は地球人自らの手で守るべきだーって主張を曲げないよね。それでいて頑張ってるすみれさんたちは依然として冷遇してるんだから、ダブルスタンダードって言うか何て言うか」
〈デュエス〉「まぁ、それも言えてるな……」
デュエスと話しているナシルマに、ミースアが通信端末を持ってくる。
〈ミースア〉「お兄ちゃん、初穂さんから通信です~」
〈ナシルマ〉「ん、分かった」
端末を受け取って、通信に出るナシルマ。
〈ナシルマ〉「はいはい初穂ちゃん、どったの?」
〈初穂〉『ナシルマ。これから帝国ホテルの前を横切るけどよ、ほんとにゴモラが目覚める可能性はないんだろうな? ここでしくじるのが最悪の事態だぜ』
〈ナシルマ〉「ああ、それなら心配いらないって。念には念を押して、ゴモラには怪獣用麻酔を打ってあるから。計算上、作戦途中で覚醒することは絶対にない! たとえ空気中に花粉が充満してたってね」
〈初穂〉『何だそのたとえ……。まぁそれならそれでいいんだ。信じるぜ!』
〈ナシルマ〉「うん」
ゴモラ輸送の道程は、いよいよ一番重要な局面、WLOFの監視の下に差し掛かった。
〈カオル〉「皆様、窓をご覧下さい。セブンガーが参ります」
帝都を横断するところのセブンガーの姿が窓の向こうに見えて、カオルが事務局員らの視線をそちらに誘導する。
事務局員らは並ぶ建物よりも大きいセブンガーにため息を漏らした。
『近くで見るとど迫力だな』
『あれを見ると、確かに一機くらいは欲しくなるかもな』
〈すみれ〉「現在セブンガーに乗っているのは、我が帝国華撃団、花組の隊長の神山誠十郎です。弱冠二十歳にして海軍特務艦艦長に抜擢された経歴があり、また剣術の達人でございます」
『二十歳で艦長か!』
『何だかすごそうですね、事務次長!』
それまでセブンガーに懐疑的だった局員たちも、生で見るセブンガーの威容に圧倒されて、興奮を覚えつつあった。
――しかし、彼らの背後で、プレジデントGはニヤリと怪しげな微笑を浮かべていた。
「……」
ゴモラ輸送の現場を一望できるビルの屋上に、仮面をつけた女が仁王立ちしていた。
女は腰に挿した刀を抜き、刀身を天に掲げると――黒い稲妻がほとばしって輸送現場へ飛んでいった!
順調にゴモラを運んでいたセブンガーであったが、そこにいきなり黒い稲妻がどこかから降り、ゴモラに命中した!
〈神山〉『うわッ!? 何だ!?』
予想外の衝撃に見舞われて、思わず悲鳴を上げる神山。
〈さくら〉『神山隊長!? 大丈夫ですか!?』
〈神山〉『あ、ああ、俺は平気だ。しかし、今のは何事……』
〈ナシルマ〉『ああー!?』
通信に、ナシルマの叫声が割り込んだ。
〈ナシルマ〉『た、大変だ! ゴモラの生体反応が急激に上昇中!』
〈神山〉『何だって!? うわぁッ!?』
〈さくら〉『た、隊長!!』
ゴモラが身動きし、支えるセブンガーも揺さぶられる。
〈ミースア〉『ゴモラ、覚醒しちゃうです~!!』
稲妻に打たれたゴモラのまぶたが、カッと開いた!
「ギャオオオオオオオオ!」
ゴモラが暴れることで、ワイヤーで吊り下げている翔鯨丸が激しく揺らされ、操縦士のこまちが慌てふためく。
〈こまち〉『あああ、あかんっ! 翔鯨丸が落ちてまう! すまん神山さん、切り離させてもらうで!!』
翔鯨丸の限界が来る前に、ワイヤーを切り離して離脱。セブンガーも支えられずに手を放し、ゴモラが地表に落下する。
「ギャオオオオオオオオ!」
完全に覚醒してしまったゴモラは、雄叫びを上げて帝都のど真ん中で暴れ狂い始めた!
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第三話「多事多端!怪獣輸送大作戦」(B)
『大変です! 怪獣が帝都の真ん中で、突然動き出しました!』
輸送中に覚醒して暴れ出した降魔怪獣ゴモラに、野次馬や中継を観ている人々が、一斉に騒然となった。
大帝国ホテルにいるWLOF事務局員たちもパニックに陥る。
「コウマオキテル! オキテルンジャナーイ!?」
「コレドユコト!? ドーユーコト!?」
〈カオル〉「皆様、どうか落ち着いて下さい!」
それを必死になだめるカオルとすみれ。
〈すみれ〉「大丈夫です。花組と、セブンガーが対応致しますわ」
「ギャオオオオオオオオ!」
目の前のビルを引っこ抜いて暴れ狂うゴモラに、花組も大いに慌てていた。
〈クラリス〉『た、大変です!』
〈あざみ〉『何てこと……!』
〈初穂〉『やべーぞこりゃ!』
〈さくら〉『ど、どうにか止めないと!』
技術部もまさかの事態に慌てふためき、ナシルマはあわあわと左右に身体を振る。
〈ナシルマ〉「そ、そんなぁッ! こんなことになるなんて……!」
〈デュエス〉「……謝罪会見だな」
〈ナシルマ〉「うッ……」
デュエスのひと言に、大きく喉を詰まらせた。
様々な人間が動揺している中、神山は即座に霊子供給ケーブルを解除する判断を行う。
『外部エネルギー源、接続解除。実用行動時間タイマー、作動します』
〈神山〉『令士たちは直ちに退避を! 花組は攻撃だ!』
〈さくら〉『了解!』
〈司馬〉「た、頼んだぞ!」
司馬たちが供給車とともに緊急離脱していくのを背に、セブンガーがゴモラに敢然と立ち向かっていく。
〈神山〉『おい! 大人しくしろッ!』
「ギャオオオオオオオオ!」
覆い被さるように抑えつけようとするが、頭部の太い角を叩きつけられて吹っ飛ばされた。
〈神山〉『うわぁぁッ!』
〈さくら〉『神山隊長っ!』
ばったりと転倒したセブンガーの中で、神山が歯を食いしばる。
〈神山〉『くッ、とんでもない力だな……!』
〈初穂〉『このヤロー!』
〈あざみ〉『食らえっ!』
初穂たちの霊子兵装が走り、ゴモラの脚部に攻撃を集中させる。しかしゴモラは微動だにしなかった。
「ギャオオオオオオオオ!」
〈初穂〉『ちっくしょ、丈夫な足してやがるな!』
〈クラリス〉『私たちの攻撃は、通用しそうにありません……!』
五人の攻撃では気を引きつけるのが精いっぱいであったが、その間にセブンガーが起き上がった。
〈神山〉『こうなったからには、撃退する以外にない! 行くぞッ!』
セブンガーが前進し、ゴモラの背面にパンチを浴びせる。セブンガーの超重量を乗せた打撃で、流石のゴモラもよろめいた。
「ギャオオオオオオオオ!」
振り向いたゴモラがぶちかましを仕掛けてくるが、セブンガーは頭を抑え込む形で受け止める。
〈神山〉『おおおぉぉッ!』
「ギャオオオオオオオオ!」
角を掴みながらの鉄拳が顔面に入り、倒れ込むゴモラ。すかさずその上にまたがって、首をボコスカと殴りつける。
〈市民〉「おおッ! いいぞー!」
〈市民〉「そこだ! いけぇー!」
セブンガーの奮闘ぶりをテレビ画面越しに見ている人々は熱中して応援している。ホテル内の事務局員たちも、手に汗を握って戦いに食い入っていた。
「オー! ナイスファイト!」
「レッツゴーセブンガー!」
彼らがすっかり戦いに夢中になっていることにすみれとカオルはほっと息を吐いていたが、ただ一人、プレジデントGは、ひどく面白くなさそうに鼻を鳴らしていた。
〈G〉「……ふん」
セブンガーにタコ殴りにされていたゴモラだが力ずくで振りほどくと、動く気配を感じ取ったか、大帝国ホテルの方に向かい出す!
「ギャオオオオオオオオ!」
〈アナスタシア〉『まずいわ! ホテルには司令官と、WLOFの事務総長が!』
〈神山〉『させるかぁーッ!』
セブンガーが背後から飛びかかるが、鞭のように振り回された尻尾を打ち据えられた。
〈神山〉『ぐわあぁぁぁッ!』
尻尾で殴り飛ばされたセブンガーが倒れ込んだところで、実用行動時間のカウントダウンが0になってしまう。
『セブンガー、実用行動時間終了。強制停止しました』
〈神山〉『くそッ、もう時間切れか……!』
邪魔者を退けたゴモラがホテルに襲い掛かろうとする。
「ギャオオオオオオオオ!」
「Oh Nooooo!!」
〈カオル〉「すみれ様、お逃げ下さい!」
最早駄目かと思われたが、その時、ゴモラの顔面に銃撃が降り注いだ。
〈アナスタシア〉『これ以上のお痛は駄目よ、恐竜さん』
〈さくら〉『ここから先には一歩も通しません!』
花組の五人が先回りして、ホテルを背に精いっぱいの足止めをしているのだ。顔面や指先などの急所を狙って懸命に攻撃を食らわせる。
〈さくら〉『やぁぁーっ!』
「ギャオオオオオオオオ!」
しかし三メートル程度の機体がたった五機では、数十倍の体格差のゴモラ相手では厳しすぎる。どれだけ持ちこたえられるものか。それでも花組は決してあきらめずに抗い続けた。
彼女たちの健闘を、ただ黙って見ている神山ではなかった。
〈神山〉『まだまだぁッ!』
ウルトラゼットライザーを取り出し、トリガーを押して超空間に入り込んだ。
[SEIJŪRO, Access Granted!]
アクセスカードをセットして、ウルトラメダルを三枚取り出す。
〈神山〉『「宇宙拳法、秘伝の神業!」』
[ZERO! SEVEN! LEO!]
メダルを連続でセットし、スキャン。ゼットの姿が神山の背後に立ち上がる。
〈ゼット〉『ご唱和ください、我の名を! ウルトラマンゼーット!!』
〈神山〉『「ウルトラマン! ゼェ―――ット!!」』
ゼットライザーを掲げて、トリガーを押す!
『ハッ!』
『デュワッ!』
『イヤァッ!』
[ULTRAMAN-Z! ALPHA-EDGE!!]
「ゼアッ!」
変身したウルトラマンゼットは、ゴモラの首にまたがる形で出現した!
「ゼアァァァァッ!」
「ギャオオオオオオオオ!」
そのまま腰をひねって、ゴモラを傾かせて地面に引き倒した。それにより、襲われそうだったさくらたちとホテルはすんでのところで救われた。
〈事務次長〉「オー!? アレハ……!」
ゼットの勇姿に注目するWLOFに、すみれが堂々と告げる。
〈すみれ〉「あれが帝都に降り立った新たな英雄、ウルトラマンゼットですわ」
〈事務次長〉「アレガウワサノ……ULTRAMAN!!」
事務局員たちはそろって目を奪われているが、プレジデントGは、ゼットを険しくにらんでいた。
〈G〉「奴がウルトラマンゼットか……」
すぐさま立ち上がったゴモラは、ますます憤ってゼットに突進していく。
「ギャオオオオオオオオ!」
「ゼアァッ!」
それを真っ向から受け止めたゼットは、膝蹴りでひるませてから、ミドルキックで蹴り飛ばした。
「イヤァッ! ゼアッ!」
ふた振りのスラッガーを出してヌンチャクを作り出し、振り回して刃をゴモラの体表に叩きつける。
「ギャオオオオオオオオ!」
スラッガーで身体を斬りつけられるゴモラ。降魔の因子と怪獣の細胞が深く結合している降魔融合獣とは違い、通常の降魔怪獣ならば神山とゼットの力だけでダメージを与えられるようだ。
「ギャオオオオオオオオ!」
しかしゴモラはヌンチャクの軌道を見切り、ガキッと牙でスラッガーを止めた。
「ゼアッ!?」
そして首を振る動きで遠くへと投げ飛ばされた。
〈神山〉『「くッ、やるな……!」』
「ギャオオオオオオオオ!」
武器を失い、素手で応戦するゼット。打撃をいなして反撃のチャンスを窺うが、ぶちかましを仕掛けられて腹部に食らった。
「ウワァァッ!」
衝撃が神山にも伝わり、思わずうめく。
〈神山〉『「ぐッ!? 効いた……!」』
〈ゼット〉『ウルトラ馬鹿力だな、こいつ……!』
ゴモラの筋力はゼットすら上回っていた!
「ギャオオオオオオオオ!」
「グワァァァッ!」
ゴモラの尻尾がしなり、打ちつけられるゼットが倒れる。そこを掴まれ、投げ飛ばされた。
「デュワアァァッ!」
〈初穂〉『ゼット! この野郎ぉぉぉぉーっ!』
〈さくら〉『あっ、初穂!!』
叩き伏せられるゼットを助けようと、初穂が勢い任せに飛び出した。
〈初穂〉『食らえーっ! 東雲神社の御神楽ハンマー!!』
火炎に包んだハンマーを振りかぶって跳び、ゴモラに叩きつけようとするが、
「ギャオオオオオオオオ!」
〈初穂〉『うわぁぁぁぁっ!』
こちらも尻尾の振り上げで弾き返された。無限の手から離れたハンマーがクルクルと空高くに吹っ飛ばされていく。
肉弾で圧倒されるゼット。いくら拳法の技があっても、力の差によるごり押しを覆すのは極めて困難だ。
〈神山〉『「くぅッ! どうする……?」』
この苦境下で、ゼットが提案する。
〈ゼット〉『こうなったら、もうひと組みのメダルを使おう!』
〈神山〉『「もうひと組み!?」』
〈ゼット〉『この間みんなが集めてくれた奴だよ! あれならゴモラの馬鹿力に対抗できるはずでございますよ誠十郎!』
神山がホルダーを開いて、今使っているのとは別の三枚のメダルを取り出した。
〈ゼット〉『そうそれ! マン兄さん、エース兄さん、タロウ兄さんのメダルだ!』
〈神山〉『「兄さんも多いな……」』
微妙に勘違いしながら、新たなメダルを固く握り締める神山。
〈ゼット〉『ウルトラフュージョンだ! 真っ赤に燃える勇気の力、手に入れるぞ!』
〈神山〉『「ああ!」』
神山がバッと身をひるがえして、口上を唱える。
〈神山〉『「真っ赤に燃える、勇気の力!」』
メダルをライザーにセットしてスキャン。
[ULTRAMAN! ACE! TARO!]
神山の背後に再びゼットの姿が立ち上がった。
〈ゼット〉『ご唱和ください、我の名を! ウルトラマンゼーット!!』
〈神山〉『「ウルトラマン! ゼェ―――ット!!」』
ゼットライザーを掲げて、トリガーを押す!
『ヘアッ!』
『トワァーッ!』
『タァーッ!』
三人の赤いウルトラ戦士のビジョンが一点に集結し、そこから別の形態に変化を遂げたゼットが飛び出していく!
[ULTRAMAN-Z! BETA-SMASH!!]
「ジェアッ!」
ゼットは勢いのままに宙を舞い、ひねりをつけてゴモラに突っ込んでいく。
「ウルドラマーッ! ゼェーッ! ベーダズマァッシュ!!」
「ギャオオオオオオオオ!」
強烈なドロップキックがゴモラの顔面に炸裂し、ゴモラが蹴り倒された。
さくらたちは起き上がる、大幅な変身を遂げたゼットに目を奪われた。
〈クラリス〉『ま……真っ赤っかです!』
〈初穂〉『うわっ、すげぇな! 見ろよあの腹筋!』
〈あざみ〉『何てたくましい……!』
全身が赤く染まり、顔にはマスクのような縁取り。胸部のプロテクターには金色の丸いパーツが並び、全身の筋肉がアルファエッジの時よりも発達している……!
「イエッ! フッ! ワッ……! ダァーッ!!」
ウルトラマンゼット・ベータスマッシュの入場だ!!
〈さくら〉『な、何だか強そう!』
〈アナスタシア〉『これはきっとやってくれるわよ……!』
真っ向からにらみ合うゼットとゴモラ。そこに、先ほど弾き飛ばされた初穂のハンマーが、空から横たわっているセブンガー目掛け戻ってきた。ハンマーがセブンガーの表面にぶつかる。
カーンッ!
「ギャオオオオオオオオ!」
「ドゥワッ!」
ゴモラとゼットががっぷりと組みつき合う。戦闘を中継しているカメラの側にいるレポーターが叫んだ。
『さぁー始まりました! 話題の新星ウルトラマンゼットと、凶悪無比の降魔怪獣ゴモラの世紀のマッチ! 果たして勝つのはどちらかッ!』
ゼットとゴモラがお互い振り払うと、ゼットが先制して打撃を加える。
「ドッ! ワッ!」
『おっとゼット、平手打ちからの水平チョップ! 小手調べといったところか!?』
更に後ろ回し蹴りからつないで、ゴモラの後頭部に重いキックを打ち込んだ。
「トォワッ! ダァッ!」
「ギャオオオオオオオオ!」
『延髄斬りが決まったぁーッ! ゴモラたまらず倒れましたッ!』
蹴りの衝撃で前のめりに倒れたゴモラの頭が、樹木に突っ込んだ。押し倒された樹から花粉が舞い上がり、それを吸い込むゴモラ。
「イェアッ!」
ゴモラの鼻先の角を掴んで立たせるゼットだが、一発ぶちかまそうとしたところに花粉の塊を顔面に浴びせられた!
「ウワァッ!」
『おーっとゴモラの毒霧だぁーッ! ゼット苦しそう!』
視界を潰されてゼットが悶絶している間に、ゴモラが側の観測塔を引っこ抜いて鈍器にする。
「ギャオオオオオオオオ!」
『あーっと!? ゴモラ凶器を持ち出したぞぉーッ!』
鉄塔をゼットの腹部にしたたかにぶつけるゴモラ!
「ジュワッ!」
『これは卑怯! レフェリーは何故止めないのか!? えッ、いない?』
しかしゼットは踏みとどまり、ゴモラに掴みかかって取っ組み合う。
「ギャオオオオオオオオ!」
「ジュワッ! ダァァッ!」
そして至近距離からフロントハイキックを腹部に食らわせた。
『ゼットの160文キックが炸裂! これは決まったかぁ!?』
後ずさったゴモラは角を光らせ、鼻先から奥の手の超振動波を放つ!
「ギャオオオオオオオオ!」
『あーっとゴモラの文字通り離れ業ぁーッ!』
対するゼットは、両腕を大きく上下に振って、垂直の光刃を飛ばした!
「イィィィーッ! ドゥアァァ――――ッ!」
『ゼットのギロチン攻撃だーッ!!』
光刃は超振動波を切り裂いて飛び、ゴモラ本体に命中した。
「ギャオオオオオオオオ!!」
大きくひるんだ隙にゼットが前に飛び出し、鋭い水平チョップを打ち込む。
「シャオラッ!」
当て身でゴモラを失神させると、倒れかかった身体を頭上に抱え上げて、空高くに投げ飛ばす!
「ダァーッ!」
『ゼット投げ飛ばしたーッ! そして追いかけるッ!』
上空に放り投げたゴモラを追って自身も飛び、全身が赤く発光!
「ゼズディウムアッバァ―――!!」
真下からのアッパーパンチが、ゴモラの肉体を爆砕した!
『決まったぁぁぁぁ―――!! 勝者ウルトラマンゼェーット!!!』
レポーターの宣言が轟き、観衆がワァーッ! と沸き立つ中、ゼットはそのまま空の彼方へと飛び去っていった。
「ジュワッチ!」
作戦終了後、帝劇に帰還した花組と彗星組はサロンに集っていた。
〈モフロ〉「みんな、今回はご苦労じゃったのう」
〈初穂〉「いやー、ほんと大変だったぜ。思いっ切りぶっ飛ばされたりさ……」
モフロからの労いに、初穂がテーブルにもたれかかりながらどっと息を吐いた。他の面々も疲弊した表情だ。
〈あざみ〉「結局、任務は失敗……」
〈クラリス〉「思ったよりも批判の声が少なかったのが不幸中の幸いでしたね……」
作戦の様子を見ていた人々は、ゴモラのすさまじい戦闘能力、それに一歩も退かなかった花組の奮闘ぶり、何よりゼットの華々しい戦いに魅了されていて、咎める意見は予想外なほど少なかったのだった。
〈ミースア〉「けど、結局WLOFから予算をもらうことは出来なかったですね~……」
〈ナシルマ〉「全く、あのけちんぼ白スーツめ……」
不機嫌に舌打ちするナシルマ。
〈ナシルマ〉「これでさくらちゃんの無限はお流れかぁ……ごめんねさくらちゃん」
〈さくら〉「い、いいんですよ! わたしは気にしてませんから」
ブンブンと首を振るさくらの傍らで、神山が眉をひそめていた。
〈神山〉「しかし、あの黒い稲妻のようなものは何だったんだ……?」
〈ナシルマ〉「ダークサンダーエナジーかな?」
〈デュエス〉「あの一瞬、妖力計の針が跳ね上がったな」
〈あざみ〉「ということは、上級降魔の仕業?」
〈アナスタシア〉「……」
アナスタシアは無言で腕を組んでいる。
〈クラリス〉「そうなると……以前の朧という降魔の報復行為の可能性が高いですね」
〈ナシルマ〉「くっそー、あいつの仕業か!」
〈初穂〉「あんにゃろう、次現れやがったらひどい目見せてやる!」
憤る初穂らに、神山が意識の切り替えに訓令の言葉を掛けた。
〈神山〉「過ぎたことを悔やんでてもしょうがない。名誉挽回のチャンスはまだまだあるはずだ。華撃団大戦の開催も近いし、それに向けてまた頑張っていこう!」
〈さくらたち〉「「「はい!」」」
さくらたちが表情を引き締め、これからも起こるであろう事件に対する心構えを抱き直した。
――大帝国劇場の屋根の上に密かに、仮面の女が直立していた。
「……帝都……あたしたちが守った……こんなものが……」
眼下に広がる帝都の光景を一望して、女は独りごちていた――。
(ED:Connect the Truth)
『花組のウルトラナビ!』
神山「今回紹介するのは、初代ウルトラマンだ!」
クラリス「ウルトラマンさんはその名の通り、シリーズの始まりを告げた最初のウルトラマンです! このお方の存在からいくつもの作品、何人ものウルトラ戦士が誕生していったんですよ!」
クラリス「ニュージェネレーションシリーズにおいても存在感は大きく、コレクションアイテムの常連の顔です。『オーブ』、『ジード』では基本形態の変身に使うアイテムの片方の一方で、『R/B』では最終形態に使うキワミクリスタルを生み出すアイテムに使われました」
クラリス「『Z』では珍しく、二番目の形態のベータスマッシュに変身するアイテムの一部に使われてます。これはきっと、変身アイテムがベーターカプセルからのつながりでしょう」
ゼット『そして今回の華撃団隊員は李紅蘭だ!』
クラリス「花組の一人にして、霊子甲冑の開発・整備にも携わった天才発明家です! 旧シリーズで活躍したいくつもの霊子甲冑は、彼女の存在なくしてはありませんでした。一方で周りを楽しませるのを好み、舞台上ではコメディ担当でした」
クラリス「それでは、次回もよろしくお願いします」
クラリス「セブンガーに続く特空機が遂に完成です! しかし、強力な分起動が難しいみたいで……って、ええっ!? わ、私がやるんですか!?」
「次回、『艱難辛苦!二号ロボ起動』。太正桜に浪漫のZ!」
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幕間「一号なのにセブンガー」
(特空機用格納庫)
〈いつき〉「彗星組の皆さ~ん、調子はいかがですか~?」
〈ナシルマ〉「あッ、いつきちゃん」
〈デュエス〉「月組の」
〈いつき〉「そう! 帝劇の大ファンとは世を忍ぶ仮の姿……その正体は、帝国華撃団隠密部隊、月組の隊長! 西城いつきなのです!」
〈ミースア〉「どなたに言ってるですか~?」
〈モフロ〉「今日は何の御用かな?」
〈いつき〉「神山さんから特空機二号の完成が間近と聞いたんですけど、ほんとですか? 直接確かめたくてですね」
〈デュエス〉「ああ、マジだぜ。あと数日もありゃ花組にもお披露目できる」
〈ナシルマ〉「自信作だからね! 二号があれば、花組ももっともっと活躍できるよ!」
〈いつき〉「いいですね! 花組の皆さんが今よりも活躍して下されば、帝国華撃団の完全復活の日も近づきます! 劇場ももーっと盛り上がる! いつき、カンゲキ!」
〈モフロ〉「ははは、実に嬉しそうじゃな」
〈いつき〉「そりゃあそうですよぉ。帝劇ファンというのもほんとのことですから。……ところで、一つ質問いいですか? 前から気になってたことがあるんですけど……」
〈デュエス〉「何だ?」
〈いつき〉「セブンガーって……一号機なのに、何で
〈ナシルマ〉「あー……遂にそれ聞いちゃう人出たか」
〈いつき〉「何か突っ込んだら負けな空気出てたから、今まで流してましたけど……どういう理由があるんでしょうか? 何か、重大な意味があるとか……!」
〈ナシルマ〉「いや、別に大した理由じゃないんだけど……実はセブンガーって、僕たちのオリジナルデザインじゃないんだよね」
〈ミースア〉「モデルがいるです~」
〈いつき〉「えっ、そうだったんですか!?」
〈モフロ〉「それの名前がセブンガーなので、そのまま名前もお借りしたという訳じゃな」
〈いつき〉「は~、そうだったんですかぁ。でも、じゃあどうして皆さんは、その元のセブンガーに似せて特空機を造ったんですか?」
〈デュエス〉「それは、最初の設計着手の時に、ナシルマがセブンガー造ろうって言って譲らなかったからだ。俺は正直、賛成も反対もしかねる微妙な気持ちだったが……」
〈ナシルマ〉「何でそんなこと言うのさ~! あの超強いセブンガーだよ!? 帝劇を救うヒーロー役として、験担ぎにももってこいじゃん!」
〈デュエス〉「けど表舞台に一回しか出てこなかった奴だぞ?」
〈いつき〉「? ? どういうことですか?」
〈モフロ〉「ふむ、順を追って説明するとじゃな……ゼットくんの所属する宇宙警備隊には、ウルトラセブンという名の戦士がおる。その方が、諸事情あって戦闘行為が出来なくなっておった際に、代替戦力として用意されたのがオリジナルのセブンガーなのじゃ」
〈いつき〉「なるほど~、セブンさんが使う前提だったからセブンガーなんですね」
〈ミースア〉「オリジナルセブンガーが戦うとこの記録映像があるです。見るですか~?」
〈いつき〉「あっ、見ます見ます! お願いしま~す!」
〈ミースア〉「再生スタートです~!」
〈いつき〉「うわっ! 何か阿修羅像みたいな怪獣がいる!」
〈デュエス〉「その名も二面凶悪怪獣アシュランだ。ウルトラ戦士も単体じゃ歯が立たねぇ、やばい戦闘力の奴さ」
〈ナシルマ〉「ほら! セブンガー出てきたよ!」
〈いつき〉「これがオリジナルですか! こっちもやっぱりゆる~い見た目ですね」
〈ナシルマ〉「だけど見てよこれ! アシュランをボッコボコ!」
〈いつき〉「わっホントだ! ゴロゴロ転がったりして圧倒してます! 確かにこの強さはあやかりたいですね」
〈デュエス〉「だが重大な欠点もあってな……」
〈いつき〉「あれ? 急に立ち止まっちゃいましたよ? あっ、消えちゃった……」
〈モフロ〉「そうなんじゃ……。オリジナルは、すさまじく強い一方で、戦闘持続時間がたったの一分なのじゃ」
〈いつき〉「え~!? たったの一分!?」
〈デュエス〉「次に使えるようになるのは五十時間後」
〈いつき〉「え~!? 五十時間も間を置いて、一分きりの使用時間!? 使いづら過ぎません!?」
〈ミースア〉「そこが残念です~」
〈デュエス〉「一回しか使われなかったってのも分かるだろ?」
〈いつき〉「確かに……でもそれ、予備戦力としてどうなんでしょう?」
〈モフロ〉「まぁ、あくまでセブンさんが回復するまでのつなぎじゃったろうからのう」
〈ナシルマ〉「でもこれを思えば、特空機はその三倍の時間も戦えるって思えてこない?」
〈いつき〉「まぁちょっとは……。でも、やっぱり三分は短いと思います」
〈デュエス〉「まぁな。ウルトラ戦士ほどの機動力があるならともかく、特空機のセブンガーは素早いとは言えねぇしなぁ」
〈ミースア〉「流石にスピードまで再現できなかったです~」
〈ナシルマ〉「まぁだからこそ、弱点解消した二号機を造ってるんだよ」
〈モフロ〉「二号機もセブンさんが所持するロボット怪獣をモデルにしたんじゃ」
〈ミースア〉「その記録映像も見てみるですか~?」
〈いつき〉「いいんですか? それじゃあお願いしまーす!」
わいわいがやがや……。
〈いつき〉「こっちはあんまりいいとこないですね……」
〈デュエス〉「まぁ肝心なのはこれから完成する方の性能だ」
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第四話「艱難辛苦!二号ロボ起動」(A)
特空機用格納庫に集まった花組を前に、完成した特空機二号機のお披露目会が行われていた。
〈ミースア〉「じゃ~ん! これが特空機二号、ウインダムです~!」
〈花組〉「「「おお~!」」」
ミースアが下ろした垂れ幕の向こうに鎮座する銀色の巨大ロボットに、花組がため息を漏らした。頭部にはニワトリのようにトサカやクチバシ状のパーツがあるが、円筒体型のセブンガーに比べると、甲冑を着込んだ人間のように見える。
彗星組がウインダムのスペックを説明する。
〈デュエス〉「セブンガーより軽量化した上、全身に設けた噴射口からの蒸気噴射によって機動力を大幅上昇。ジェットパックなしの飛行も可能だ」
〈ナシルマ〉「主武装は額からのレーザーショット! 更に各部パーツの換装によって、各隊員の戦闘スタイルに合わせた副武装も装備できるよ!」
〈モフロ〉「霊子機関もわしらが独自に開発した新型を搭載して、実用行動時間がセブンガーからの二分延長に成功したぞい」
〈初穂〉「おおっ! 至れり尽くせりじゃねぇか!」
〈神山〉「これは期待できそうだな……!」
〈さくら〉「皆さん、どうもありがとうございます!」
想像以上の出来栄えを聞かされて、嬉々と喜ぶ花組であったが……。
〈ナシルマ〉「……だけど、一つだけ、重大な問題があるんだよね」
〈あざみ〉「問題……?」
〈アナスタシア〉「それは一体?」
聞き返しに、デュエスが単刀直入に答えた。
〈デュエス〉「動かねぇ」
花組はそろって、目をぱちくりさせた。
〈花組〉「「「……え?」」」
(OP:檄!帝国華撃団〈新章〉)
第
艱 四
二 難 話
号 辛
ロ 苦
ボ !
起
動
〈さくら〉『はぁぁぁ~! 動けぇ~!』
さくらがウインダムのコックピットに乗り込んで、ありったけの霊力を注ぎ込むが、ウインダムは指先一つ動かなかった。
〈ミースア〉「う~ん……ウインダムの霊子水晶に反応はなしです~」
〈さくら〉「はぁ、はぁ……こ、これ以上は限界です……」
〈神山〉「うーん……さくらで無理なら、普通に霊子機関と接続するだけじゃどうにもならないな……」
さくらが息を切らしながら降りてきたので、神山が眉をひそめてうなった。
〈初穂〉「何でこんなことになっちまったんだよ」
ぬか喜びさせられた初穂が呆れたように尋ねると、彗星組は申し訳なさそうに答えた。
〈ナシルマ〉「実は……予算が足りなくて、あちこちごまかして建造したんだよね。規格の違うパーツを無理矢理合わせたり」
〈デュエス〉「そしたら霊力供給にかなりの無駄が生じちまったみてぇで、どうやっても霊子機関が起動しねぇんだよ」
〈モフロ〉「じゃから、先に説明したのは全て、まだ額面上だけのものなのじゃ」
〈クラリス〉「何だ、そうだったんですか……」
〈あざみ〉「がっかり……」
ろくでもないオチに、がっくり肩を落とす花組。
〈ナシルマ〉「いや~参ったねホントに」
ナシルマが笑ってごまかしていると、
〈カオル〉「いや~参ったね、ではありませんよ……」
〈ナシルマ〉「ひッ!?」
背後にカオルがゴゴゴゴ……という擬音が出ていそうな形相で立っていた。
〈カオル〉「あれだけ予算を使って、出来上がったのが場所を取るだけの銅像なんてことは許されません……。早急に何とかして下さい。いいですね」
〈彗星組〉「は、はい……」
言外の圧を掛けて立ち去っていくカオル。彗星組はタジタジと頭を下げるしかなかった。
花組はその様子を、冷や汗混じりに見つめていた。
〈ナシルマ〉「……けど、実際どうする? これ」
〈ミースア〉「パーツを買い替えるお金なんてもうないです~」
〈ナシルマ〉「WLOFから予算分捕れたら、話は違ってたのに……あの白スーツめ」
〈モフロ〉「ないものをねだっても仕方あるまい。今あるものでの解決方法を考えるのじゃ」
〈ナシルマ〉「そうは言ってもモフじい……」
頭を悩ませる彗星組に、初穂が思いつきで助言した。
〈初穂〉「内部がガタガタしてんだろ? だったらこう、ガンッ! と強い衝撃でも与えてみるのはどうだ?」
〈さくら〉「初穂、そんな古い蒸気テレビじゃないんだから……」
さくらは呆れるが、デュエスは顎に指を掛けて、
〈デュエス〉「いや、それもありかもな」
〈さくら〉「え、ええ?」
〈初穂〉「おっしゃ!」
〈デュエス〉「何らかの圧力で霊力の通りを良くする。一度起動させられりゃ、その時のデータで最適な状態に調整できる。今必要なのは、とにかく起動させることだ」
〈ナシルマ〉「そんな簡単に言うけどさぁ、どうやるっての? そんなこと」
嘆息するナシルマに、デュエスはこう返す。
〈デュエス〉「可能性なら、もう見つけてあるぜ」
〈ナシルマ〉「えッ、ホントに?」
〈クラリス〉「誰が、どうするというのですか?」
デュエスの視線は、クラリスに向いていた。
〈クラリス〉「……って、ええっ!? わ、私がやるんですか!?」
〈デュエス〉「スノーフレイク、お前にゃ他の奴にはねぇ力があるだろう。それがありゃあるいは」
〈さくら〉「確かに……」
〈アナスタシア〉「クラリスの魔法の力ね」
クラリスの生家であるスノーフレイク家は、代々強力な重魔導を継承しており、もちろんクラリスもその使い手だ。この技術は、クラリスに霊力の大小では測れない能力を与えている。
しかし、クラリスは二の足を踏む。
〈クラリス〉「い、いきなりそう言われましても……心の準備が……」
〈ナシルマ〉「そこを何とか!」
〈ミースア〉「早く何とかしないと、カオルさんの雷が落っこちちゃうです~!」
〈クラリス〉「で、ですが……」
すがりついてくるナシルマとミースアに困惑するクラリスを、神山がかばう。
〈神山〉「二人とも、そう困らさないでやってくれ。二人も知ってるだろう? クラリスの事情は」
クラリスは長い間、戦いの場に駆り出されて多くの人間を傷つけてきた重魔導の力について思い悩んでいた。神山の説得で己の力と向き合う覚悟も固めたが、やはりそうすぐに気持ちの整理がつくものでもない。
〈神山〉「二人が焦るのも分かるが、クラリスに無理をさせてもきっといい結果にはつながらないだろう。少し待ってあげてくれないか」
〈クラリス〉「神山隊長……」
説得する神山であるが、ここで事態は急変を迎える。
格納庫内に緊急サイレンが響いたのだ。
〈さくら〉「! 降魔出現の警報!」
〈神山〉「みんな、行こう!」
〈さくらたち〉「「「「「はい!」」」」」
一同はすぐに、指令室へと駆けていった。
指令室のモニターに、帝都の地底から出現した降魔怪獣の姿が大きく映し出されていた。
『ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!』
長く鋭いクチバシを持った、茶色い蛇腹状の皮膚のシャープな体型の怪獣。デュエスが名前と性質を皆に告げる。
〈デュエス〉「テレスドンだ! 地中深くに生息する、夜行性の怪獣だ。だがどうしてこんな真っ昼間に……」
〈すみれ〉「それを考えるのは後よ。神山くん!」
〈神山〉「はい。帝国華撃団・花組、出撃せよ!」
〈さくらたち〉「「「「「了解!!」」」」」
花組は直ちに現場に向けて出撃を開始した。
格納庫の、己の三式光武の下へ走るさくら。彼女が近づくと、光武のハッチが自動でスライドして開いた。
〈さくら〉「ふっ!」
さくらが操縦席に飛び乗り、ハッチが閉まると、霊子機関と接続して光武にエネルギーを充填させる。
〈さくら〉『はあああっ! 三式光武……起動完了っ!』
腰の大太刀を抜いて動作確認し、機体ごと翔鯨丸に搭乗して現場に急行する。
「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」
テレスドンはその巨体で建ち並ぶ住宅を押し潰し、我が物顔で町を蹂躙する。潰されていく町から、市民は必死に逃げていく。
そこに翔鯨丸が到着し、五機の霊子兵装が地上に向けて投下された。
〈花組〉『『『帝国華撃団・参上!!』』』
『セブンガー、着陸します。ご注意下さい』
次いでセブンガーもテレスドンの背後に着陸した。巨大な気配に気づいて振り返るテレスドン。
今回セブンガーを操縦しているのは、あざみだ。
〈あざみ〉『セブンガー……参るっ!』
セブンガーがテレスドンに飛びついて、一本トゲの生えた背面を抑えつける。
「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」
しかしテレスドンは激しくもがいて逃れ、セブンガーから距離を取った。再度捕まえようとするセブンガーだが、テレスドンの身のこなしについていけずに手が空を切る。
〈あざみ〉『速い……!』
セブンガーの側面に回り込んだテレスドンは、口から溶岩熱線を吐いて食らわせる。
〈あざみ〉『に、にんっ……!』
火炎攻撃をまともに食らって、セブンガー内のあざみが苦悶する。熱せられたコックピットに警報が鳴った。
〈さくら〉『あざみが危ない!』
〈神山〉『みんな、援護するぞ!』
神山の指示で、五人がテレスドンの足を狙って集中攻撃を浴びせる。
〈神山〉『おおおおおッ!』
しかし彼らの攻撃は、テレスドンの皮膚に阻まれて全て跳ね返された。
〈初穂〉『固ってぇ!』
〈アナスタシア〉『鋼鉄の壁を相手にしているようだわ……!』
〈クラリス〉『こうなったら、私の重魔導で……!』
クラリスが必殺攻撃を発動しようと霊力を集中するが、
「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」
テレスドンが素早く尻尾を振り回して、五人を弾き飛ばした。
〈クラリス〉『きゃああっ!』
〈神山〉『くッ、固くて速い……厄介だな……!』
生半可な攻撃は通らず、しかしセブンガーの速度では捉えられない。単純に強いテレスドンに手を焼く花組。
〈摩上〉「……クックックッ……」
花組の苦戦の様子を、物陰に潜んでいる摩上がほくそ笑みながら観察していた――。
〈あざみ〉『やぁっ!』
「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」
セブンガーの鉄拳をかわし、クチバシを突き立てるテレスドン。
〈あざみ〉『あうっ!』
〈神山〉『あざみ!!』
横転して追いつめられるセブンガーを目の当たりにして、神山はゼットライザーを起動した。
[SEIJŪRO, Access Granted!]
アクセスカードをセットして、口上を上げる。
〈神山〉『「真っ赤に燃える、勇気の力!」』
三枚のメダルをライザーにセットしてスキャン。
[ULTRAMAN! ACE! TARO!]
〈ゼット〉『ご唱和ください、我の名を! ウルトラマンゼーット!!』
〈神山〉『「ウルトラマン! ゼェ―――ット!!」』
ライザーを掲げて、トリガーを押した!
『ヘアッ!』
『トワァーッ!』
『タァーッ!』
[ULTRAMAN-Z! BETA-SMASH!!]
「ジェアッ!」
無限から飛び出し、変身したウルトラマンゼット・ベータスマッシュは猛然とテレスドンに突進し、首にラリアットを食らわせた。
「ウオォーッ!」
「ギャアオオオオオオウ!? オオオオウ!」
不意打ちをまともに受けてばったり倒れるテレスドン。ゼットはその頭をむんずと掴む。
「ドオアッ!」
そのまま大きく首投げ! 投げては叩きつけ、投げては叩きつけを繰り返す。
「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ……!」
ゼットのパワフルな猛攻に、テレスドンはどんどん弱っていく。そして大きくよろめいた隙を突いて、ゼットがとどめの一撃を繰り出す。
〈神山・ゼット〉「『ゼスティウムアッパー!!」』
ゼットのアッパーパンチがテレスドンの顎を捉え、粉砕した!
「ギャアオオオオオオウ!! オオオオウ!!」
テレスドンは粉々に砕け散って、破片が周囲に散らばった。
――その一つを、摩上が拾い上げた。
〈ロソス〉『なかなかやるもんだ、ウルトラマンゼット……。しかし、これで目的は達した……』
摩上とロソスは何やらたくらみながら、テレスドンの破片を回収して姿を消していった……。
テレスドンは撃破されたが、花組には反省点が残る戦闘結果であった。
〈あざみ〉「申し訳ない、隊長……お役に立てなかった。ゼットにも、申し訳ない」
指令室に帰投後、助けられたあざみが神山とゼットに謝罪する。
ゼットはスマァトロン越しにあざみに返答した。
『鬼にし内でくだ犀 これガオれのや区割です』
〈神山〉「あー……気にするなって」
すみれたちは、今回の戦闘の記録映像を見返して、問題を見出す。
〈すみれ〉「やはり……セブンガーでは、操縦者の違いで戦績に大きなムラが出ますわね」
各個人の特性に合わせて機体ごとに調整がされてある通常の霊子兵装とは違い、一機を乗り回しているセブンガーは、隊員ごとに得手不得手がはっきりと出る。特にあざみは素早い立ち回りでの遊撃を得意とするので、鈍重なセブンガーとの相性は特に悪いのである。
〈カオル〉「ですが、操縦者を限定してしまいますと、個人の負担に大きな偏りが出てしまいます」
〈すみれ〉「ええ……。それに今回のような動きの速い相手だと、操縦者に関係なく対応が困難ね」
〈カオル〉「やはり、これ以上の問題が発生する前に、二号機の起動に成功する必要があります」
〈モフロ〉「こちらもどうにか手段を講じております」
〈ナシルマ〉「色々手を加えて調整してるんですけどねぇ……」
成果があまり芳しくなさそうな彗星組の様子に、先ほどの頼みごとをされたクラリスは、逡巡したように目を伏せた。
その晩、クラリスは一人で特空機用格納庫を訪れていた。
未だ沈黙したままのウインダムを見上げて、眉をひそめる。
〈クラリス〉「……私の力ならば、あなたを目覚めさせられるかもしれない。だけど……重魔導は破壊の力。もし失敗してしまったら……」
デュエスの言った通りに成功すればいいが、もしものことがあったら……自分の力で、ウインダムは起動不可能な損傷を負ってしまうかもしれない。それが、クラリスの一番の不安であった。
その不安をぬぐい切れぬまま、ウインダムに背を向けるクラリス。そうして格納庫を立ち去ろうとするが……キャットウォークを降りたところで、人の気配があることに気づいた。
〈クラリス〉「……モフじいさん!」
〈モフロ〉「おお、クラリスくん」
モフロがまだ格納庫に残っていた。
〈クラリス〉「まだ作業されてたんですか? もうお休みになって下さい」
〈モフロ〉「何、年老いた身と言え、まだまだこれくらいは平気じゃ。クラリスくんも、ウインダムのことを気に掛けてくれているから、ここにおるんじゃろう?」
〈クラリス〉「ええ、まぁ……」
〈モフロ〉「……ちょうど夜食が出来たところじゃ。半分どうかね?」
モフロが焼き芋をクラリスに差し出す。
〈クラリス〉「いえ、それはモフじいさんの分ですし……」
〈モフロ〉「遠慮することはない。老人は食べる量が少ないからの。まぁ、こんな老いぼれの相伴など退屈じゃろうがのう」
〈クラリス〉「そう卑下なさらないで下さいよ、モフじいさん」
苦笑して、モフロの隣に腰掛けるクラリス。焼き芋を受け取る彼女に、モフロが尋ねかけた。
〈モフロ〉「まだ己の持つ力の扱いに、悩んでおるのかね?」
〈クラリス〉「はい……。神山さんたちは、自分を信じられない私のことを信じてくれてます。だけど……私が私の力を、誰も傷つけることないよう使いこなせるかは、まだ自信をもっては……」
〈モフロ〉「……これが何だか分かるかね?」
思い悩むクラリスに、モフロは唐突に焼き芋を乗せている網を指し示した。
〈クラリス〉「この網ですか? 何だか、変わった形ですが……」
〈モフロ〉「これはセブンガーのダクトカバーじゃよ」
〈クラリス〉「えっ!?」
〈モフロ〉「古くなって取り換えた物を、取っておいたんじゃ。何か別のことに使えるかもしれんと思ってな」
〈クラリス〉「別のことに……」
網を例に出してから、モフロが説き始める。
〈モフロ〉「これだけではない。どんな物も、使い方は一つだけではないのじゃよ。使う人次第で、いくらでも変わる」
〈クラリス〉「使う人次第で……」
〈モフロ〉「セブンガーとて、実はナシルマくんの母星、サーリン星で造られ、破壊されたロボットの残骸を再利用して建造したんじゃ。ナシルマくんが提供してくれてな」
〈クラリス〉「そうだったんですか!? 確かに、資産が尽きてた帝劇で、どこから材料を調達したんだろうって不思議でしたが……」
〈モフロ〉「そしてそのロボットは、昔サーリン星人に反逆し、大量虐殺を行ったものなのじゃ」
〈クラリス〉「……!」
まさかの告白に、息を呑むクラリス。
〈モフロ〉「それが今では、帝都の人命を防衛する戦士に生まれ変わっておるのだ」
〈クラリス〉「……ナシルマさんは、自分の同族を殺したロボットを再利用すること、何とも思わなかったんでしょうか」
〈モフロ〉「当然、心中は複雑じゃったろう。しかし彼もああ見えて、半端な気持ちでここにおるのではない。それでもすみれさんや、君たちのために、決断をしてくれたんじゃよ」
〈クラリス〉「……そう、なんですか……」
〈モフロ〉「物自体に、善悪はない。良いことに使うのか、悪い方向に向けてしまうか……活かすも殺すも、物の価値は人間が決めるという話じゃて」
〈クラリス〉「……」
モフロの話を、クラリスは揺らめく焚き火を見つめながら聞き入っていた。
――深夜の帝都の片隅で、闇夜に紛れて、摩上がライザーのトリガーを押して超空間のゲートを作り出した。
〈摩上〉「ククク……」
それをくぐり、亜空間に隠れると、その内部に設置されている奇怪な装置の前に立つ。
〈ロソス〉『さぁ兄弟、始めよう……』
ロソスに促されて、摩上は装置の口に、肉片を投入する。――先日起きた戦いの際に、密かに回収していたゴモラの破片だ。
装置に満ちている液体の薬品がゴポゴポ泡を立て、摩上がハンドルを回すと、プシューッ! と装置から蒸気が噴き出し、下部の口からメダルが一枚出てきた。
その表面に描かれているのは、ゴモラの横顔だ。
〈ロソス〉『よぉし、次だ……』
同様の手順で、もう三枚のメダルも作り出す。二枚目に作り出したのは、今日手に入れた破片を投入したテレスドンのメダル。三枚目はエリマキのついた怪獣のもの。四枚目には、毒々しい色彩の降魔が描かれていた。
〈ロソス〉『上々だ……早速明日にでも使ってみようか……』
〈摩上〉『「クッククク……ウルトラマンゼットめ、目に物見せてくれるぜ……!」』
摩上は暗い笑みをとともに、作り出したメダルたちを手の平に並べて見下ろした――。
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第四話「艱難辛苦!二号ロボ起動」(B)
特空機用格納庫に、ナシルマの喜びの叫び声が轟いた。
〈ナシルマ〉「えぇー!? ほんとにやってくれるの!? クラリスちゃん!」
クラリスがウインダムの起動役になるのを、承諾したのだ。
〈クラリス〉「はい。ひと晩考えて、決心しました」
〈ナシルマ〉「いやーありがとうありがとう! 助かるよ!」
〈ミースア〉「これでカオルさんに怒られないで済むです~!」
手放しに喜んでいるナシルマたちとは別に、さくらやデュエスはクラリスのことを案ずる。
〈さくら〉「クラリス……本当に大丈夫なの?」
〈デュエス〉「言い出しといて何だが、無理してくれなくたっていいんだぜ」
そんな二人に、クラリスはふるふると首を振った。
〈クラリス〉「心配しないで下さい。ちゃんと気持ちに整理をつけましたから。破壊にしか使われなかった重魔導でも、皆の希望になれるのなら……!」
一瞬モフロと目が合ったクラリスは、彼と無言で微笑を交わした。
〈ナシルマ〉「よーし、それじゃあ早速……」
作業に取り掛かろうとしたナシルマだが、その瞬間に、降魔出現の警報が鳴り渡った。
〈あざみ〉「! また降魔……?」
〈アナスタシア〉「昨日に引き続いて……最近多いわね」
〈神山〉「ともかく行こう、みんな!」
神山が花組を引き連れ、昨日と同様に指令室へ急いだ。
しかし指令室でより驚くこととなる。
『ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!』
モニターに映し出されているのは、昨日と同じ場所で、テレスドンが暴れている光景なのだ。
〈さくら〉「えっ!?」
〈あざみ〉「そんな……!」
〈初穂〉「どういうことだよおいっ! あれ昨日倒したじゃねぇか!」
混乱する花組。時間が昨日に戻ってしまったかのような錯覚を受けていた。
〈神山〉「デュエス、これは一体……」
〈デュエス〉「……テレスドンに再生能力はねぇし、となると別個体か? だが生体反応の波長は全く一緒だ……」
分析するデュエスも、真相を理解できていなかった。
困惑する場を取り仕切るように、すみれが呼び掛ける。
〈すみれ〉「どんな仕掛けがあるにしても、やることは変わりないわよ、神山くん」
〈神山〉「は、はい」
〈さくら〉「出撃ですね、神山隊長!」
さくらが意気込んで呼び掛けたが、神山はすぐには命令を出さなかった。
〈神山〉「少し待ってくれ。今回、クラリスは残ってウインダム起動実験を始めてほしい」
〈クラリス〉「えっ!?」
全員が神山の発言に驚きを見せる。
〈初穂〉「い、今からやるのかよ!?」
〈アナスタシア〉「帰投してからにすれば……」
〈神山〉「いや……」
画面上のテレスドンを、警戒した目で見る神山。
〈神山〉「昨日の戦闘で分かった通り、セブンガーじゃ正直厳しい。万が一の時には、ウインダムの力が必要になるかもしれない」
〈あざみ〉「だからって……」
〈神山〉「もちろん起動できてもぶっつけ本番の出撃になるから、クラリスには大きな負担になってしまう。クラリス、無理だというのならはっきり言ってくれて構わない」
神山は判断を本人に委ねる。当のクラリスは、最初こそ戸惑いを見せたものの、すぐに決心して神山に向き直った。
〈クラリス〉「やります……! 必ず起動に成功してみせます!」
〈神山〉「ありがとう……! それじゃあクラリス以外はすぐに出発だ! 帝国華撃団・花組、出撃せよ!」
〈さくらたち〉「「「「了解!!」」」」
クラリスのことを彗星組に託し、神山たち五名は直ちに現場へ向けて出撃していった。
「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」
建物を次々粉砕して暴れるテレスドンの前方へと、アナスタシアの駆るセブンガーが飛んでくる。
〈花組〉『『『帝国華撃団・参上!!』』』
『セブンガー、着陸します。ご注意下さい』
四機の霊子兵装が投下され、セブンガーが着陸すると、テレスドンもそちらへ振り向いた。
「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」
向かってきたテレスドンの頭を掴んで抑えつけるセブンガー。機動力で劣る以上、接近戦に持ち込んだまま逃がさない作戦だ。
〈アナスタシア〉『はぁっ! 硬芯鉄拳弾、発射!』
掴んだ首を上に向かせて固定し、顎に右腕を突きつけてロケットパンチを発射。至近距離から強烈な一撃を叩き込んだ。
〈初穂〉『よっしゃ! 決まったぜ!』
〈さくら〉『やった!?』
〈神山〉『……いや!』
テレスドンの動きが停止したので一瞬歓喜した初穂たちであったが……テレスドンは倒れはしなかった。
「……ギャアオオオオオオウ!」
テレスドンが上向きになった首をやおら下げる。
〈アナスタシア〉『くっ……! 芯をずらされたわ……!』
ロケットパンチを射出する一瞬、テレスドンは自分から首を上げることで、クリーンヒットを避けたのであった!
「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」
テレスドンのぶちかましがセブンガーに炸裂する!
〈アナスタシア〉『きゃあぁっ!』
〈さくら〉『アナスタシアさん!』
〈初穂〉『野郎ぉっ!』
セブンガーが背面から倒れ込んだ。そこをすかさず狙おうとするテレスドン。初穂らが阻止しようと攻撃を集中するが、やはりテレスドンの表皮を破ることは出来ない。
〈アナスタシア〉『くっ……!』
持ち直そうとするアナスタシアだが、今の攻撃でセブンガーの腰部に深刻なダメージが入り、立ち上がれない。このままではアナスタシアが危ない!
〈神山〉『させるかぁッ!』
神山は雄叫びとともにゼットライザーを起動した。
〈神山〉『「真っ赤に燃える、勇気の力!」』
[ULTRAMAN! ACE! TARO!]
〈ゼット〉『ご唱和ください、我の名を! ウルトラマンゼーット!!』
〈神山〉『「ウルトラマン! ゼェ―――ット!!」』
流れるようにメダルをスキャンして、ウルトラフュージョンする。
[ULTRAMAN-Z! BETA-SMASH!!]
「ジェアッ!」
変身して飛び出したウルトラマンゼットが、テレスドンの首に腕を回して捕らえた。
「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」
「ゼアッ!」
密着したままテレスドンを引っ張ってセブンガーから引き離し、膝蹴りを脇腹に入れてひるませてエース・クラッシャーを決めた。
「ゼアァッ!」
素早く立ち上がったゼットがドロップキックを仕掛ける……が、テレスドンは身をひるがえして回避。ゼットの蹴りが空振りして、地面に落下する。
〈あざみ〉『かわされた!』
「ゼアッ! ゼアッ!」
チョップを振るって追撃を掛けるゼットだが、テレスドンは後ろに下がってかわし続ける。
〈ゼット〉『何だ!? 昨日よりも動きが良くなってるぞ!』
〈神山〉『「というより……こっちの動きが読まれてるような……!」』
神山のこめかみに冷や汗が垂れた。テレスドンは明らかにゼットの打撃の軌道をあらかじめ見切っているとしか思えない身のこなしで回避しているのだ。
「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」
ゼットの攻撃後の隙を突いて、テレスドンが溶岩熱線を吐いてくる。
〈神山〉『「うわぁぁッ!」』
猛烈な火炎を浴びせられたゼットが倒れ、噴射の勢いで押されていく。
〈ゼット〉『ウルトラ熱っちぃ!!』
〈さくら〉『ゼットさぁんっ!!』
たった一日で強くなったテレスドンに、ゼットが苦しめられる。
一方の帝劇の格納庫では、ウインダムの起動実験が執り行われていた。
〈ミースア〉「クラリスさん、搭乗完了ですー!」
〈ナシルマ〉「ウインダム、起動用意完了!」
〈デュエス〉「いつでもいけるぜ、モフじい」
〈モフロ〉「うむ。クラリスくん、頼むぞい!」
モフロの合図で、コックピットに搭乗したクラリスは、深呼吸しながら持ち込んだ魔導書の表紙に手の平を乗せた。
〈クラリス〉『この帝都に生きるたくさんの人を守るため……私の破壊の力を受け入れてくれた大事な仲間たちのために……あなたの力が必要なの……! ウインダム、お願い……! 目覚めてっ!!』
意識を集中して魔力を高め、極限まで練り上げたところで重魔導の力を発動する。
〈クラリス〉『Grace de Diable!!』
重魔導によってすさまじい圧力を加えられた霊力がウインダムの霊子機関を一気に駆け巡り、コアたる霊子水晶を刺激した!
「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」
テレスドンの両眼が怪しく輝くと、高速できりもみ回転しながらゼットに突撃する。
「ウワァァァァッ!」
回転しながらの体当たりの威力は途轍もなく、ゼットもはね飛ばされて倒れ込んだ。
テレスドンは上にそれた後にぐりんと180度反転して急降下し、ゼットの真上から襲い掛かる!
「グワアアアァァァァァァァァ――――――――ッ!!」
急所であるカラータイマーがある胸部に回転攻撃を食らい、たまらず絶叫を上げるゼット!
〈さくら〉『ぜ、ゼットさぁんっ!!』
〈初穂〉『くそぉっ! 助けねぇと!!』
〈あざみ〉『あ、危ない! あれに触れたらこっちの機体がバラバラになる!』
焦って無謀に飛びかかろうとする初穂を、あざみが必死に止めた。
〈初穂〉『けど、このまんまじゃ!!』
初穂が叫んだその時――何かが横から猛スピードで飛び込んできて、テレスドンを弾き飛ばした!
「ギャアオオオオオオウ!?」
〈初穂〉『何だ!?』
〈さくら〉『あ、あれは……!』
テレスドンを吹っ飛ばしてゼットを救った、銀色の巨影をさくらたちが見上げた。
「ジュッ……!」
身を起こしたゼットの視線の先で、その機体の各部からプシューッ! と蒸気が排出される。
「グワアアアアアアア!」
振り返って両腕を掲げたのは、特空機二号機ウインダムだ!
〈クラリス〉『皆さん、お待たせしました! ウインダム、起動完了です!』
そのコックピットで操縦しているクラリスが、仲間たちに呼びかけた。
〈さくら〉『ウインダム! 成功したんだ!』
〈初穂〉『おおー! やったぜクラリス!』
〈あざみ〉『すごい……!』
〈神山〉『「クラリス……よくやってくれた……!」』
クラリスの活躍に沸き立つ神山たち。脱出したアナスタシアもウインダムを見やり、力強くうなずいた。
ウインダムを出撃させ、指令室に駆け込んだ彗星組も、モニターで状況を確かめて大喜びであった。
〈ナシルマ〉「やったー!!」
〈ミースア〉「ウインダム強いですー!」
〈デュエス〉「ギリギリ間に合ったな」
すみれがモフロたちの方に向いて、感謝の意を示す。
〈すみれ〉「これで帝国華撃団にまた新たな力が加わりましたわ。ありがとうございます」
〈モフロ〉「いえ。今回は、クラリスくんの尽力のお陰でもありますよ」
椅子に腰掛けているモフロはモニターを見つめ。うなずいてクラリスの健闘を祈った。
〈クラリス〉『行きます!』
ウインダムの背面に接続した魔導書型のクラリス用魔力増幅ユニットが輝き、ウインダムの両手が高速で回転する。
〈クラリス〉『地獄に落ちて下さいっ!』
その回転から竜巻が発生してテレスドンを撃ち、更に額からのレーザーショットが命中する。
「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」
ウインダムの激しい連続攻撃に、テレスドンが倒れてもがき苦しんだ。
〈初穂〉『すっげぇ威力! あの怪獣を圧倒してるぜ!』
〈あざみ〉『動きも速い……! これならいける!』
〈さくら〉『クラリス、お願い!』
ウインダムの予想以上の性能に、さくらたちは勝利を確信する。
だが……。
〈摩上〉『「――っくしょぉッ! 帝国華撃団め、いいとこを邪魔しやがって……!」』
テレスドンの内部の暗黒空間で、摩上が逆上して毒づいた。
このテレスドンは、怪獣メダルとライザーの力を用いて、摩上が変身したものなのであった!
〈ロソス〉『兄弟、こちらもそろそろ本気を出そうじゃないか……特訓の成果を見せてやれ……!』
〈摩上〉『「よし来たぜ兄弟!」』
ロソスの呼び掛けで、摩上が右手にライザー、左手に怪獣メダルと降魔メダルを握る。
〈摩上〉『「帝国華撃団……喜んでられるのも今の内だッ!」』
摩上がテレスドンメダルの嵌まっているライザーに、新たに二枚メダルを追加してスキャンした。
[TELESDON! JIRAHS! EKISHA!]
[PARASITE-LOSOS! RO-SHIKI ERIMAKITELESDON!!]
ウインダムの隣に並んだゼットだったが、起き上がったテレスドンの様子がおかしいことに、クラリスとともに不審がった。
〈神山〉『「何だ……?」』
そして彼らの前で、テレスドンの肉体が変容する!
「ギャアオオオオオオウ! ピギャ――――――!」
〈ゼットたち〉『!!?』
テレスドンの首回りにいきなり広い襟巻きが生え、体表に毒々しい縞模様が走り、胸の妖力を放つ赤い球体が現れたのだ。
ジラースメダルと液射メダルを使って強化変身した、降魔融合獣ロ式エリマキテレスドン!
クラリスとウインダムの活躍を応援していた彗星組も、テレスドンの変身に驚愕した。
〈ナシルマ〉「あれは!?」
〈ミースア〉「降魔融合獣になったですー!!」
〈すみれ〉「ですが、どうしていきなり……!」
デュエスは冷や汗混じりにうつむき、思考した。
〈デュエス〉「まさか……怪獣の中に誰かいるんじゃ……!」
「ギャアオオオオオオウ! ピギャ――――――!」
ロ式エリマキテレスドンが、襟巻きから増幅した超振動波を光線状に放出。ゼットとウインダムに同時に食らわせる。
「ドワアアアァァァァァッ!」
「グワアアアアアアア!」
ゼットが吹っ飛ばされ、ウインダムも膝を突く。そのウインダムに向けてエリマキテレスドンが口を開く。
口内から毒々しい液体が弾丸のように発射され、ウインダムの装甲を貫通した!
〈クラリス〉『きゃあああああっ!』
ウインダムも倒れ、クラリスが悲鳴を上げる。機体に重大な損傷が入り、ウインダムの機動に大幅な障害が発生する。
〈神山〉『「クラリス! くそッ!」』
起き上がったゼットは敵の攻撃を止めようと、咄嗟にゼスティウム光線を発射した。
「ギャアオオオオオオウ! ピギャ――――――!」
しかし襟巻きから発生した振動波のバリアに止められ、反射された!
「ウワアアアァァァァァァァァァ――――――――!!」
〈さくらたち〉『ゼットさん!!』
自分の光線を食らったゼットが絶叫し、カラータイマーが赤く点滅する。危険信号だ!
〈ゼット〉『誠十郎、花組メダルだ! みんなの力で、奴の妖力を打ち破るぞッ!』
〈神山〉『「ああ!」』
神山が腰のホルダーを開いて、初穂メダルを取り出す。
〈神山〉『「真っ赤に躍る、東雲神楽!」』
メダルを交換してスキャン!
[ULTRAMAN! ACE! HATSUHO!]
〈ゼット〉『ご唱和ください、我の名を! ウルトラマンゼーット!!』
〈神山〉『「ウルトラマン! ゼェ―――ット!!」』
ゼットライザーを掲げて、トリガーを押した!
『ヘアッ!』
『トワァーッ!』
『うらぁっ!』
ウルトラマンとエースのビジョンが飛び、大槌を振り下ろす初穂のビジョンと一つの光になる!
[ULTRAMAN-Z! KAGURA-SMASH!!]
「ゼアッ!」
真っ赤な明かりの下の神社の舞台から飛び出したのは、胸周りや腰に赤い注連縄を回したウルトラマンゼット・カグラスマッシュだ!
〈初穂〉『おっ!? あれアタシのメダル使ったのか! イカす姿だぜ!』
自分のメダルが選ばれた初穂が軽くはしゃいだ。
「ギャアオオオオオオウ! ピギャ――――――!」
エリマキテレスドンが再び超振動波を放ってくる。
「ムンッ! ゼェアッ!」
対するゼットは四股を踏むと、燃え上がった両手で円を描き、炎の盾を作り出して攻撃を受け止めた!
「ジュアッ!」
ゼットが攻撃を止めている間に、ナシルマがクラリスに指示を飛ばす。
〈ナシルマ〉『蒸気噴射がまだ機能してる! ホバー移動で体当たりだ!』
〈クラリス〉『分かりました!』
ウインダムの各部スリットからジェットが噴射し、地面からわずかに浮き上がる。
〈クラリス〉『まだまだこんなものでは負けません! 破壊の力を、平和のための力にすると決めたのだから!!』
そのままスライドするように突進し、エリマキテレスドンに肩からぶち当たった。
「グワアアアアアアア!」
「ギャアオオオオオオウ! ピギャ――――――!」
不意打ちをもらったエリマキテレスドンがよろめいて後ずさる。それを追いかけたウインダムが襟巻きを掴んだ。
〈クラリス〉『ここですっ!』
そして思い切り引っ張り、首から剥ぎ取る!
「グワアアアアアアア!」
「ギャアオオオオオオウ!」
襟巻きを引き千切られたテレスドンが、首を押さえてもがき苦しんだ。
「ウオォッ!」
ゼットはパンッ! と両手を重ねると、その間に生じた炎が実体化して大槌と化した。
「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」
持ち直したテレスドンがウインダムに向けて液体弾丸を発射するが、そこに割り込んだゼットがハンマーで打ち返す。
「ダァァッ!」
跳ね返ってきた液体弾が、テレスドンの喉を貫通した。
「ギャアオオオオオオウ……!」
「ゼアアァァァァッ!」
ゼットはハンマーを燃え上がらせて、グルングルン横回転。
〈神山・ゼット〉「『ゼスティウムハンマー!!」』
遠心力をつけてハンマー投げ!
〈クラリス〉『Grace de Diable!』
クラリスも呪文を唱え、ウインダムの機体が発光した。
〈クラリス〉『Arbitre dènfer!!』
ウインダムの全身から大量の魔法弾が放出され、ハンマーとともにテレスドンを押し潰す!
「ギャアオオオオオオウ!! オオオオウ!!」
攻撃に呑み込まれたロ式エリマキテレスドンが大爆発し、その爆風でメダルが吹っ飛び、気づいたゼットがキャッチした。
〈神山〉『「これは……?」』
メダルが神山の手に移り、彼の目が表面の絵柄を視認する。
〈神山〉『「これもウルトラメダル? ……いや、これに描かれてるのは降魔じゃないか!」』
それは変身に用いられた液射メダルであった。
〈神山〉『「何でこんなものが……!」』
〈ゼット〉『ウルトラメダルの技術を使って誰かが作ったんだ……! こんなものが悪用されたら大変なことになる!』
〈神山〉『「だが、一体誰が……」』
降魔メダルは神山の手の中で弾け飛んで消滅した。しかし、彼らの心に一抹の不安を残す。
〈クラリス〉『ゼットさん……!』
それでも、今はクラリスにうなずいて返答し、空に飛び立って雄々しく去っていった。
「ジュワッチ!」
格納庫に戻ったウインダムを、花組と彗星組が見上げる。
〈ナシルマ〉「今回得られた起動データを元に、ウインダムを改修するよ」
〈ミースア〉「これでいつでも起動できるようになるです~」
〈アナスタシア〉「ひと安心ね」
〈ナシルマ〉「うん。カオルさんにどやされないで済むよぉ」
ほっと胸を撫で下ろすナシルマに、皆が苦笑した。
〈さくら〉「ウインダム……わたしたちもよろしくね!」
〈初穂〉「頼りにしてるぜ!」
さくらや初穂がウインダムに呼び掛けていると、ミースアが提案した。
〈ミースア〉「せっかくですし、記念に写真撮るですよー!」
〈さくら〉「あっ、いいねそれ!」
〈あざみ〉「じゃあ、いつもの勝利のポーズで」
〈モフロ〉「ではわしが撮ってあげよう。みんな、並びなさい」
〈デュエス〉「生命エネルギー吸い取る気じゃねぇだろうな」
〈モフロ〉「わはは、もうそんなことはせんよ」
モフロがカメラを構えて、ウインダムの正面に花組の面々が並んだ。
そして神山がクラリスに呼び掛ける。
〈神山〉「よし、キメ台詞はクラリスにお願いしよう」
〈クラリス〉「わ、私がやるんですか?」
〈初穂〉「そりゃあ、クラリスが一番の戦功なんだからな! しっかりキメてくれよ!」
〈クラリス〉「そ、それでは……」
コホンと小さく咳払いしたクラリスを中心に、花組が凛々しくポーズを取った。
〈花組〉「勝利のポーズ、決めっ!!」
――爆心地から逃れて帝都の路地裏に身を隠した摩上は、ひどくいら立っていた。
〈摩上〉「ちっくしょうがッ! またやってくれやがったな、帝国華撃団めがッ!」
〈ロソス〉『……ウルトラマンゼットだけならまだしも、特空機とやらと連携されたら厳しいものがあるな……』
その背後から……コツコツと足音が近づいてくる。
「見たぞ。お前が怪獣の正体だな」
〈摩上〉「ああん?」
振り向いた摩上の視界に入ったのは――仮面を顔につけた、怪しい女であった。
今回のゼットと帝国華撃団の活躍ぶりを、蒸気テレビのニュース映像で上海華撃団がながめていた。
〈ユイ〉「ふ~ん……さくらたち、すっかり強くなったものだねー」
感心している少女は上海華撃団の戦闘部隊、五神龍の隊員、ホワン・ユイ。彼女のひと言に、隊長のヤン・シャオロンが不機嫌そうに鼻を鳴らした。
〈シャオロン〉「ふんッ! 特空機が強いだけだろ。俺が乗ってたら、降魔融合獣なんてもんは単機で倒してやってるさ」
大言を吐くシャオロンだったが、その尻が突然第三者の手でギュッ! と握り潰された。
〈シャオロン〉「いッ!?」
「無駄に張り合うな、シャオロン。すぐカッカするのがお前の悪いところだ」
シャオロンの尻をひねり上げた男に、二人の目が向けられる。
〈ユイ〉「あっ、司令!」
〈シャオロン〉「し、司令……ケツ掴むのはやめてくれよ……痛ってぇ……」
「嫌なら、簡単に背後を取られないように警戒するんだな。お前もまだまだ修行が足りないぜ」
上海華撃団の司令官が、テレビに映っているゼットの姿に注目する。
「ほう、ウルトラマンゼットか……」
〈ユイ〉「司令も知ってるの? って、そりゃ知ってるか。世界的な大ニュースだったもんね」
〈シャオロン〉「宇宙から来て、怪獣と戦う巨人か……。イマイチ信用は出来ねぇが、戦いぶりを見る限り、熱い魂を持ってることは確かみたいだな」
ゼットに感心するユイとシャオロンとは別に、司令官もゼットの顔を見つめて、ニヤリと何やらほくそ笑んだ。
「ふふ……面白そうだ。ちょっくら、会いに行ってみるかな」
(ED:桜夢見し)
『花組のウルトラナビ!』
神山「今回紹介するのは、ウルトラマンタロウだ!」
あざみ「タロウはウルトラ兄弟の六番手。ウルトラの父とウルトラの母の実子。他の兄弟は、あくまで兄弟のように強い絆で結ばれているという義理の関係」
あざみ「人気は高く、『ギンガ』ではヒカルたち主役陣の導き手となった。最近では息子のタイガも登場して、スポットが当たる機会は初代やセブン並みに多い」
あざみ「『Z』ではベータスマッシュに使うメダルの一枚。胸に並んでる突起物や、炎を扱う能力は彼由来のもの。ウルトラダイナマイト等の技を使うタロウは炎のイメージが強い」
ゼット『そして今回の華撃団隊員はアイリスだ!』
あざみ「本名イリス・シャトーブリアン。最年少ながら霊力が群を抜いて強く、超能力を行使できる。その能力は戦場においても強力だったけど、精神的な幼さのために最強戦力とは言い難い。むしろ回復といったサポート能力が光る」
あざみ「それでは、また次回」
アナスタシア「アラスカで発見された謎の石器が運び込まれた帝都を、冷凍怪獣が襲撃したわ! さくらがウインダムの中に閉じ込められてしまった! キャプテン、さくらを救出して!」
「次回、『神工鬼斧!ゼットランスアロー』。太正桜に浪漫のZ!」
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幕間「ウルトラマンの武器」
(サロン)
〈デュエス〉「……なるほど。降魔融合獣は、ウルトラメダルの技術を悪用して作られてたってことだな」
〈神山〉「どうもそういうことみたいだ……。そうじゃないと、降魔メダルなんてものの説明がつかない」
〈さくら〉「何てこと……。ウルトラメダルって、光の国の人が平和のために作ったものなんですよね? それを悪用しようだなんて……!」
〈ナシルマ〉「宇宙には、悪い奴なんてごまんといるからねー……」
〈デュエス〉「全く」
〈クラリス〉「メダルが悪用されているのも問題ですが、もっと悪いことは、降魔のメダルまで作られてることです」
〈デュエス〉「ああ。降魔はこの世界独自の魔物。メダル悪用してる犯人が独学で降魔の知識を得たってならまだマシだが、そうじゃねぇ場合は……」
〈神山〉「やはり、上級降魔が関与してる恐れが高いということか……」
〈ナシルマ〉「犯人の正体はまだ見えないけど……上級降魔と手を組んだりしたら、ますます厄介なことになるだろうね」
〈クラリス〉「帝都を脅かす危険が、より強くなると……いえ、問題は帝都だけでは済まなくなりますよね……」
〈デュエス〉「ああ。この地球、いや宇宙にも混乱が広がってくかもしれねぇ。思った以上の大事になりかねねぇな……」
〈さくら〉「そんなことは許しません! わたしたちで未然に阻止しましょう!」
〈神山〉「もちろんそのつもりだ。だが、敵が強くなっていってるなら、こちらも今以上に強くならないといけない」
〈ナシルマ〉「ウインダムで満足してるようじゃ駄目か……。今後も戦力増強を考えてかないとね」
〈クラリス〉「……戦力といえば、ウルトラマンさんって武器は使わないんでしょうか?」
〈ナシルマ〉「ん?」
〈クラリス〉「ゼットさんは手から光線が出たり、頭から刃物を出したりしてますけど……基本は素手の格闘じゃないですか。それが悪い訳じゃありませんけど、普段から武装されたりはしないのかなと思いまして」
〈デュエス〉「いい質問だな。ウルトラ戦士も武器を使うことはあるが……まぁその辺はゼットに聞くのが一番いいな」
〈神山〉「だけど、ゼットは普通の空間だと言葉を発せないぞ。スマァトロン越しだとちょっと手間だし……」
〈ナシルマ〉「ミースア。テレビ持ってきてー」
〈ミースア〉「はいです~」
〈デュエス〉「テレパシー使えねぇとメンドくせぇな……」
(用意中……)
〈さくら〉「それでゼットさん。何か武器は持たないんですか?」
〈ゼット〉『確かに光の国でも武器を使った戦闘の指導はある。だが、やっぱり基本は格闘術を使うよう教わりますよ』
〈クラリス〉「何故でしょうか?」
〈ゼット〉『俺たちには必要が薄いというのもあるでございますが……武器に頼るようでは、戦士として一人前にはなれないからというのが一番の理由だ』
〈さくら〉「一人前に……」
〈神山〉「確かに、たとえ剣士でも剣を抜けなければ戦えないなんてようじゃ話にはならないな。戦況はその時その時で様々だし、手元にあっても抜けないなんてこともある」
〈ゼット〉『だろう? だから一番に鍛えるべきは、己の肉体。それが宇宙警備隊の基本方針なのだ。自分自身が強くなくては、どんな強力な武器も飾りに過ぎない!』
〈さくら〉「なるほど……」
〈クラリス〉「身につまされますね……」
〈デュエス〉「ゼットもメダルに頼ることなしに戦えるようになるのを目指すべきだな」
〈ナシルマ〉「そういえば、素の状態で戦ったの最初の一回だけだったね」
〈ゼット〉『ほ、ほっといてくれ! ちゃんと分かってる!』
〈神山〉「しかしそれはそれとして、ゼットは何か武器の類は持ってこなかったのか?」
〈ゼット〉『何度も言うように緊急事態だったし……ウルトラブレスレット辺り欲しいなーってぼやいたこともあったけど、ゼロ師匠からお前には二万年早いって小突かれた』
〈デュエス〉「まぁ、ありゃ扱い難しいわな。素人が使っても振り回されるわ」
〈神山〉「じゃあ、武器と呼べるようなものはゼットライザーくらいしかないってことか」
〈さくら〉「何か、ゼットさん用の武器も作ってあげたらどうですか?」
〈ナシルマ〉「軽く言うけど、半端なもんじゃ結局意味ないよ。ゼットの攻撃以上の威力が出せないことにはね」
〈デュエス〉「予算の問題あるしなぁ」
〈クラリス〉「世知辛いですね……」
〈ミースア〉「何か使えそうな物、どっかに転がってないかなーです」
〈ナシルマ〉「ハハハ。そんな都合のいい話があれば、誰も苦労しないよ」
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第五話「神工鬼斧!ゼットランスアロー」(A)
〈摩上〉「……?」
摩上は背後に現れた女に、正体を知られたことより先に、女の仮面を装着した顔に目をつけて首をひねった。
〈摩上〉「お前……仮面つけてるが、どっかで見たような面構えだな。どこだったか……」
訝しむ摩上相手に、女は淡々と調子を崩さずに名乗る。
〈夜叉〉「あたしは夜叉。上級降魔に属する」
〈摩上〉「!!」
途端に摩上は、夜叉と名乗った女から距離を離して身構えた。宇宙寄生生物と共謀する関係になったとはいえ、降魔が人間の敵というのは帝都の常識。摩上も降魔に対する警戒心は強く持っていた。
〈夜叉〉「警戒することはない。こちらに攻撃の意思はない」
〈摩上〉「あん?」
〈夜叉〉「あたしは我が主からの言いつけにより、お前を招きに来た。我が主の下へ」
そう言われても、摩上は警戒を解かずにライザーを取り出す。
〈摩上〉「主だぁ? そいつも降魔なんだろ? 俺を取って食おうってのかぁ? そうは行くかよ! ここでひねり潰して……」
〈ロソス〉『待て、兄弟……』
血気に逸る摩上を、ロソスが制止した。
〈摩上〉「何だよ兄弟。ぼやぼやしてたらこっちがやられちまうぜ」
〈ロソス〉『少し落ち着け……俺たちを殺るつもりなら、初めから声を掛けてなどこないさ……』
〈摩上〉「む……まぁ確かに……」
夜叉はロソスのことまでは把握していないのか、傍から見るとブツブツ独り言を唱えているような摩上を訝しげに注視していた。
〈ロソス〉『俺たちの敵は、ウルトラマンと人間の組織……対するこっちは、あくまで単体だ……。こちらも味方は作っておくべきだ……』
〈摩上〉「するってぇと……」
〈ロソス〉『話くらいは聞く価値はある……。なぁに、いざとなったら変身すればいい……俺がついてるんだ、滅多なこともないさ……安心しろ……』
〈摩上〉「そうか……よし、分かったぜ……」
説得された摩上は、夜叉に向き直って返答した。
〈摩上〉「会うだけ会ってみようじゃねぇか」
(OP:ご唱和ください 我の名を!)
第
神 五
ゼ 工 話
ッ 鬼
ト 斧
ラ !
ン
ス
ア
ロ
|
〈さくら〉「は……は……はっくちっ!!」
帝劇のサロンで、さくらが可愛らしいくしゃみを発した。
〈さくら〉「う~……今日は何だかいやに冷えるね……」
〈初穂〉「ほんとだな。真冬並みの気温だぜ。何でこんな冷え込むんだ?」
〈クラリス〉「原因はまだ分かってないみたいです」
サロンに集っている花組の面々は、タンスから引っ張り出してきた冬着を着込んでいた。現在帝都は、季節外れも猛烈な寒波に襲われているのだ。
〈アナスタシア〉「アラスカで日本の調査隊が発掘した古代石器が運び込まれた矢先にこの事態なんて……何か関係があるのかしら」
〈神山〉「どうだろうか。ただの偶然ならいいんだが……」
神山が読んでいる朝刊の一面には、『三万年前の氷河期の石器、大帝国劇場に輸送』の文字が大きく載っていた。
防寒具を纏っているのは花組だけではない。宇宙人の彗星組も寒さには堪え切れていなかった。
〈ナシルマ〉「う~寒ッ! これから分析作業あるってのに、勘弁してほしいよ」
〈あざみ〉「……ミースアは着込まなくてもいいんじゃ? カラクリなんだから」
〈ミースア〉「こういうのは気分ですー」
〈さくら〉「ところで、何で石器が大発見なんでしたっけ。わたしには、特に変わったところがあるように見えませんでしたけど」
さくらの質問に、ナシルマがしたり顔で答える。
〈ナシルマ〉「地球の現在発見されてる最古の文明は五千年前。それより六倍も昔の時代に、あんな複雑な形の石器はあり得ないって訳。しかも軽く調べたところ、未知のエネルギー反応があった! これが大発見と言わずに何と言う!」
〈さくら〉「そうなんですか……!」
〈クラリス〉「そんなものを、では誰が作ったんでしょうか」
クラリスの問い返しには、ツカツカと歩いてきたデュエスが回答する。
〈デュエス〉「未発見のいわば超古代文明の産物か、そうじゃなかったら地球外文明の古代地球人との遭遇の痕跡だな。どっちにせよ文明史を塗り替える歴史的発見になるのは違いねぇ」
〈神山〉「浪漫がある話だな……!」
神山が興奮する一方、ナシルマはデュエスの足元に目を落とした。上は厚手の冬服だが、足はいつも通りのサンダル。
〈ナシルマ〉「……ちょっと、それ寒くないの? せめて靴下くらい履きなよ」
〈デュエス〉「何!? このスタイルはルパーツ星人たる大事な証だ! どんな時だろうと曲げられるかッ!」
〈ナシルマ〉「見てるこっちが寒いんだよ! やめてよ!」
〈デュエス〉「見なきゃいいだろ足下なんか!!」
〈ナシルマ〉「ええ……!?」
宇宙人二人がギャアギャア言い争っているところに、二人分の人影がサロンにやってくる。
「おいおい、こんな日に随分と元気があり余ってる奴らがいるみたいだな。帝国華撃団の劇場はいつも落ち着かねぇな」
〈神山〉「あッ、あんたたちは!」
振り向いた神山たちが、中華服姿の二人組を目にして声をそろえる。
〈花組〉「「「上海華撃団!」」」
〈ユイ〉「やっほー、さくら」
〈シャオロン〉「久しぶりだな、お前ら」
彼らは特空機完成以前に、弱体化していた帝国華撃団に代わって帝都を防衛していた上海華撃団のメンバーであった。
〈シャオロン〉「そこにいるのが例の彗星組か」
〈ミースア〉「初めましてー。ミースアですー」
〈モフロ〉「わしは彗星組の責任者のモフロです」
〈ユイ〉「わっ! 人なのにすっごいモコモコの毛皮! 今日みたいな日には羨ましいかも!」
〈モフロ〉「はは、代わりに夏の日は大変ですぞ」
〈さくら〉「ところで、どうして帝劇に? 華撃団大戦にはまだ早いですよね」
モフロたちと会話する上海華撃団に、さくらが問いかけた。
〈シャオロン〉「ああ。実は今そっちが預かってるっていう古代石器を見学しに行くって、ウチの司令官がな」
〈神山〉「えッ、上海華撃団の司令官?」
ちょうど良く、すみれがその司令官なる人物をサロンに通してきた。
〈すみれ〉「どうぞ。こちらにいるのが、我が帝国華撃団の花組と彗星組の隊員たちですわ」
「これはこれは。初めましてだな、帝国華撃団の諸君」
神山たちの面前に、黒いスーツで全身をビシッと固めた、ある意味プレジデントGとは正反対の服装の男がかかとをそろえた。
〈蛇倉〉「俺が上海華撃団司令の、
〈神山〉「これはどうも。花組の隊長、神山誠十郎です」
〈ミースア〉「お兄ちゃんたち、もうやめるです。お客さんですよ」
ミースアに注意されたナシルマとデュエスは我に返って、上海華撃団に振り向いた。
〈ナシルマ〉「いや~、お見苦しいところを失礼しました。サーリン星人ナシルマです」
ナシルマは低頭して挨拶したが、デュエスは蛇倉をひと目見て、ギョッ! と目を剥いた。
〈デュエス〉「あッ!? お、お前!!」
〈ナシルマ〉「ん? どうしたの?」
〈デュエス〉「お、おい分からねぇのか!? あいつは……!!」
何か言いかけたデュエスだったが、その臀部がギュウッ! と強く握り潰された。
〈デュエス〉「いッ!?」
〈蛇倉〉「どうもぉ」
その肩口からねっとりと顔を出したのは、いつの間にか回り込んでいた蛇倉。
〈蛇倉〉「はぁじめましてだな、若いの。生まれた星の違いはあるが……宇宙人と、地ィ球人でぇ、仲良くやろうや。ん?」
〈デュエス〉「……あ、ああ、はじめまして……」
低気温なのに、ツゥー……と汗が垂れるデュエス。蛇倉の挙動には、神山たちが驚愕していた。
〈さくら〉「あ、あれ!? さっきまでそこにいたのに!」
〈アナスタシア〉「いつの間に……!」
〈あざみ〉「出来る……!」
〈シャオロン〉「ふッ……司令の功夫はすさまじいんだぜ。俺ですら及ばねぇほどだ」
〈ユイ〉「これくらいで驚いてるようじゃ、ウチの司令とはつき合えないよ」
自分たちの上司だからか、シャオロンとユイが誇らしげであった。
〈蛇倉〉「それで神崎女士、そろそろ例の石器を拝見させていただきたく存じます」
〈すみれ〉「ええ。それでは保管庫にご案内を……」
すみれが案内を続けようとしたその時、降魔出現の警報が鳴り響いた!
〈初穂〉「あッ! 降魔が出やがった!」
〈すみれ〉「……蛇倉司令、残念ですが……」
〈蛇倉〉「承知しておりますとも。いつ如何なる時も、防衛任務を優先するのが華撃団の使命」
〈すみれ〉「助かりますわ。総員、直ちに指令室へ!」
〈花組〉「「「了解!!」」」
ひと言礼を述べてから、すみれはその場の隊員たちを指令室に向かわせた。
銀座上空に黒雲が急速に渦巻き、地上に雪を降り注がせる。帝都の人々は何事かと足を止めて空を見上げる。
「ゲエエゴオオオオオオウ!」
渦巻く黒雲の中心から、突如巨大生物が落下! 同時に口から猛烈な勢いで冷凍ガスを放出し、瞬く間に地上を凍りつかせていく。
「きゃあ―――――!?」
「うわぁぁ――――――――!!」
「ゲエエゴオオオオオオウ!」
帝都の人間たちの悲鳴もかき消すほどの、海棲哺乳類のような顔貌でありながらペンギンに似た翼を生やした怪物の咆哮。怪物の発する冷凍ガスによって、急激な温度差の変化で破裂した蒸気供給管から漏れ出る蒸気が凍り、帝都の各地で氷の壁が発生し、交通網はズタズタに引き裂かれていた。
指令室のモニターで怪獣を確認したデュエスが告げる。
〈デュエス〉「冷凍怪獣ペギラだ! 一都市を丸々凍らせるほどの冷却能力を持つ。またやばい奴が出てきたもんだ……」
〈カオル〉「既に被害は甚大です。すみれ様!」
カオルが振り向くと、すみれが大きくうなずき返した。
〈すみれ〉「花組は直ちに出動よ!」
〈神山〉「は、はい……! 帝国華撃団・花組、出動せよ!」
〈さくらたち〉「「「「「了解!!」」」」」
いつものように指示を出す神山であるが、今日は腰の辺りを隠すように手をやって、挙動不審気味だ。
〈ナシルマ〉「……隊長さん、どうしたのさ?」
ナシルマが気に掛けてヒソヒソ呼び掛ける。
〈神山〉「いや……今回は上海華撃団がいるだろ? さっき気づいたんだが、これを怪しまれるんじゃないかって……」
神山が気にしているのは、ベルトに取りつけているメダルホルダーだ。
〈ナシルマ〉「だーい丈夫。それは地球人の視覚には映らないよう出来てるんだから。さくらちゃんたちだって、見えてはなかったでしょ?」
〈神山〉「そ、そうだったな」
〈ナシルマ〉「堂々としてたら平気だって! そんなそわそわしてたら逆に怪しまれるよ?」
〈神山〉「ああ……」
助言をもらい、神山がホルダーから手を離した。
〈蛇倉〉「シャオロンとユイも出撃だ。お前たちは逃げ遅れてる市民の救助を優先しろ」
〈シャオロン・ユイ〉「「了解!!」」
上海華撃団も蛇倉の指令によって出撃準備に移る。
二人が離れていくと、蛇倉は背を向けて格納庫に向かっていく神山の腰の辺りを一瞥して、ニヤリと密かに笑みを浮かべた。
既に発進ゲートの真下に用意されたウインダムに乗り込んでいくのはさくら。コックピットに身を躍らせ、霊子機関と接続して霊子水晶を起動させる。
〈さくら〉『ウインダム、起動完了!』
右腕が神山・さくら用の高周波ブレードをスリットに仕込んだ物に換装され、頭上のゲートがスライドして開いていく。
『フォースゲートオープン! フォースゲートオープン!』
『特空機が発進致します! 駐車場利用のお客様はご協力願います!』
ミースアが誘導灯を大きく振る中、ウインダムがゲートを抜けて地上にせり上がっていった。
『防火壁閉鎖! 離陸準備完了!』
「グワアアアアアアア!」
〈さくら〉『特空機二号ウインダム、離陸!』
ウインダムの上腕と足裏のブースターが点火し、ロケット噴射で上昇。現場に向かって発進していった。
「ゲエエゴオオオオオオウ!」
銀座の街並みを凍らせながら進撃するペギラの周りを、ウインダムに先んじて到着した花組の無限五機が取り囲んだ。
〈花組〉『『『『帝国華撃団・参上!!』』』』
〈神山〉『これ以上の被害を許すな! 奴の足を止めるんだ!』
神山の指示で、無限が一斉にペギラへの攻撃を開始しようとする。
〈初穂〉『うおおぉぉっ!』
〈あざみ〉『やぁっ!』
「ゲエエゴオオオオオオウ!」
しかしペギラがグルリと一周するように冷凍ガスをまき散らすと、全機体が宙に浮き上がって跳ね返された。
〈クラリス〉『きゃああっ!?』
〈アナスタシア〉『くぅっ……!』
纏めて路面に叩きつけられる神山たち。
〈初穂〉『何つぅ威力だよ……! まだ距離あるってのに、あの位置から全員吹っ飛ばしやがった……!』
すぐ起き上がろうとするが、その時に神山たちは異常に気づいた。
〈神山〉『な、何だ……!? 無限が、思うように動かない……! 出力が低すぎる……!』
〈クラリス〉『こ、こちらもです……!』
〈アナスタシア〉『私も……起き上がるのがやっと……!』
〈あざみ〉『機体が重すぎる……!』
全員の無限がガクガクと痙攣し、動作不良を起こしていた。
〈初穂〉『何が起きやがったんだ……!? 全員分が同時に故障……!?』
〈司馬〉『みんな! 大変だ!』
通信回線に、司馬の血相を抱えた声が混じった。
〈司馬〉『無限の蒸気管が凍りついてる! 原因はそれだ!』
〈神山〉『何だって!?』
ペギラの発するブレスが強力すぎるために、無限内部を巡る蒸気、つまり水が知らず知らずの内に凍ってしまい、急激な出力不足に陥ってしまったのである。
〈司馬〉『このままだとハッチも凍りつく! 閉じ込められたら一巻の終わりだぞ! 早く脱出するんだ!』
〈神山〉『くッ、やむを得ないか……みんな、脱出だ!』
神山たちはすぐにハッチを開いて、その場に無限を乗り捨てる。直後に無限の可動部が全て凍りついてしまった。
「ゲエエゴオオオオオオウ!」
大暴れするペギラ。だがその前方に、ウインダムが着地してくる。
「グワアアアアアアア!」
〈さくら〉『そこまでだっ!』
ウインダムの右腕のスリットから高周波ブレードが伸び、猛然とペギラに斬りかかっていく。
〈さくら〉『やぁーっ!』
「ゲエエゴオオオオオオウ!」
ウインダムの敏捷性はセブンガーよりもずっと高く、それ故実現する剣さばきで、ペギラの体表に裂傷を刻み込んだ。
「ゲエエゴオオオオオオウ!」
ペギラが冷凍ブレスを吐いて反撃してくるが、蒸気噴射を活かしたスライド移動で回避する。
だが、しかし、
〈さくら〉『っ……動きが徐々に鈍っていってる……!』
さくらの思い描く挙動に対して、ウインダムの動作とのずれが大きくなりつつある。ウインダムの機体表面にも霜が降り、凍結はこの大質量をも蝕みつつあるのだ。
指令室で、彗星組がペギラの分析と情報収集を進める。
〈ミースア〉「ペギラに妖力反応はないですー! 降魔怪獣ではないみたいですー!」
〈ナシルマ〉「ちょっとこれ見て!」
ナシルマがモニター上に、アラスカの凍土に突如発生した巨大クレバスと、その間にそびえ立つ、翼を生やした巨影の写真を表示した。
〈ナシルマ〉「このシルエット、ペギラじゃない!?」
〈モフロ〉「アラスカの地下から出現したのか」
〈すみれ〉「デビルスプリンターとは関係ない怪獣ということですか? しかし、何故わざわざアラスカから帝都へ……」
その理由を考えたすみれが、ハッと思い至った。
〈すみれ〉「まさか、あの石器と関係が……!」
デュエスが情報収集の結果を伝える。
〈デュエス〉「イヌイットの伝承を纏めた文献に、ペギラと思しき怪物が出てくる話がある。“天より降りたる光の槍、我らの祈りに応え、魔物どもを時の狭間に眠らしめん”。この光の槍ってのが、石器の正体とするなら……!」
〈ナシルマ〉「ペギラは二度と封印されないよう、石器を追ってきたのか! 逆に言えば、石器がペギラを倒す手段でもある……」
〈カオル〉「こまちさん、石器を持ってきて下さい!」
カオルが石器を管理しているこまちに通信した。そしてこまちが石器を抱え、指令室に駆け込んでくる。
〈こまち〉「お待ちどおさん! これやな?」
〈すみれ〉「これをどう使うかが分かれば……!」
〈こまち〉「上海華撃団の司令はんは、これ見たかったんよな?」
何気なく蛇倉の方へ首を向けたこまちだが――確かにいたはずの蛇倉の姿が、いつの間にか忽然となくなっていた。
〈こまち〉「あれ? こんな時にどこ行ったんや?」
「グワアアアアアアア!」
「ゲエエゴオオオオオオウ!」
ペギラの胸部にレーザーショットを食らわせてひるませるウインダム。これ以上の被害者を増やすまいと懸命な奮闘ぶりだ。しかし、
「いやぁぁぁ――――――!」
「助けてぇぇぇぇぇ――――――――!」
民間人の悲鳴が、周辺のあちこちから上がっており、耳にしたさくらは絶句した。
〈さくら〉『まだこんなに逃げ遅れてる人が!?』
ユイとシャオロンは上海華撃団の格闘戦特化型霊子戦闘機、王龍で凍てついた帝都を駆け巡り、氷の壁を破壊して逃げ道を作っていた。
〈シャオロン〉『さぁ、早く逃げろッ!』
〈帝都民〉「あ、ありがとうございます!」
〈シャオロン〉『ユイ、あとどれだけ残ってる!?』
〈ユイ〉『まだまだ何十人も……ううん、もっと多いかも……!』
帝都内は、各地で破裂した蒸気管から漏出した蒸気が凍ることで氷の障害物が出来てしまっており、それが市民の避難を阻害していた。蒸気文明が仇となってしまったのである。
〈シャオロン〉『くそッ! これじゃ追っつかねぇぞ!』
その間、ウインダムは懸命にペギラと戦っていたが、とうとう動きが鈍った隙を突かれて冷凍ブレスをまともに食らってしまった!
〈さくら〉『きゃあああああ――――――っ!!』
〈初穂〉「さくら!!」
仲間たちが激しく動揺する。
〈ミースア〉『このままじゃウインダムまでカチンカチンになっちゃうですー!!』
〈モフロ〉『それ以上は危険じゃ! さくらちゃん、退避せい!』
逃げるよう促すモフロだが……。
〈さくら〉『こ、ここで逃げる訳にはいきません……!』
〈すみれ〉『天宮さん!』
〈さくら〉『今退いたら、逃げ遅れてる人たちが危険です……! 一秒でも怪獣の気を引きつけて、一人でも多く助けないと……!』
己の身に最大の危機が迫ってなお、さくらは逃げ出そうとはしなかった。
〈さくら〉『わたしは、最後まであきらめませんっ!!』
〈神山〉「さくら……!」
神山はさくらを救おうと、ゼットライザーを取り出した。
『よう、元気?』
その背後から何の前触れもなく、異形の魔人が顔を出した。
〈神山〉「誰だ!?」
見たこともない姿の魔人に驚愕して振り向いた神山から、魔人は目にも留まらぬ速さでゼットライザーをひったくった。
〈神山〉「なッ!?」
『面白そうな玩具だな。俺にも遊ばせてくれよ』
胸に赤い三日月形の古傷が刻まれている魔人からライザーを取り返そうとする神山。
〈神山〉「新手の上級降魔か!? 返せッ!!」
飛びかかるがヒラリとかわされ、足を引っかけられて転倒した。
〈神山〉「ぐッ!」
すぐ身を起こすが、魔人の姿はその一瞬で消え失せていた。
〈神山〉「どこ行った!? ゼットライザーを返せぇッ!!」
神山がゼットライザーを奪われた間に、ペギラがとどめの冷凍ブレスを放つ。
「ゲエエゴオオオオオオウ!」
ウインダムはとうとう限界を超えて、その場にしりもちを突いて完全に凍りついてしまった。
〈神山〉「さくらぁぁぁッ!!」
コックピット内も気温が氷点下30度を下回り、さくらは力を失ってしまっていた。
神山は必死に消えた魔人を追いかけ、辺りを駆け回る。
〈神山〉「ゼットライザーを返せぇッ! 今必要なんだッ! ゼット、返事をしてくれぇーッ!」
しかし全く見つけられず、手掛かりもない。絶望感に苛まれた神山ががっくり膝を突く。
〈神山〉「無限も動かない……ゼットにもなれない……俺は、何も出来ないのか……?」
悲嘆に暮れた目で、氷漬けのウインダムを見上げる。
〈神山〉「……いや……!!」
その中のさくらを想った神山の顔に、生気が戻っていく。
〈神山〉「隊長の俺が、何を勝手にあきらめてるんだ……! さくらは、最後まであきらめずに戦ったじゃないか……! あの時だって……!」
花組に入隊してからの、最初の戦いを思い出す。あの時もさくらは、限界寸前の三式光武を動かし続け、最後の最後まで戦い抜いて帝都を救った。
ウルトラマンゼットと一体になってから、彼を頼り、いつの間にかあの時にさくらからもらった勇気を忘れていたのかもしれない。
〈神山〉「俺にはまだ、出来ることがあるッ!」
活力を取り戻した神山は踵を返して、大帝国劇場へと駆け戻っていく。
〈ミースア〉「あわわ……さくらちゃんが!」
〈ナシルマ〉「どうにかならないのこれ!? 早くしないとさくらちゃんがッ!」
〈デュエス〉「喚いてねぇでお前も何か考えろッ!」
危篤状態に陥ったさくらの状況に、指令室は大パニックになっていた。
そこに、モフロへ神山からの通信が入る。
〈モフロ〉「こちらモフロじゃ。神山くん、どうした? ……何と!」
何らかの指示を受けたモフロが、ナシルマたちに振り返って告げる。
〈モフロ〉「みんな、今すぐセブンガーの出撃準備じゃ!」
〈ナシルマ〉「えッ、セブンガーを!?」
狼狽していたナシルマらが、ギョッとして立ち止まった。
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第五話「神工鬼斧!ゼットランスアロー」(B)
一旦帝劇に戻った神山は、すぐに彗星組に用意させたセブンガーに乗り込んで、発進しようとしていた。
そこにユイとシャオロンが慌てた様子で通信してくる。
〈ユイ〉『神山さん、旧型の特空機で出撃する気なの!? 本気!?』
〈シャオロン〉『無茶だ! 天宮がどうなったか見ただろ!? 一人で旧型で挑んで何が出来る! 命を捨てに行くようなもんだぞッ!』
制止する二人に、神山は固い決意で返す。
〈神山〉『そんなのはやってみなきゃ分からない! 隊員のために命を張らなくて、何が隊長だッ!』
ゲートが開き、セブンガーが緊急発進する。
〈神山〉『さくら……今行くぞッ!』
全速力で飛んでいくセブンガーが、ペギラの頭上から急襲を掛ける。
〈神山〉『食らえぇぇ―――ッ!』
「ゲエエゴオオオオオオウ!」
セブンガーの全重量を乗せた拳を食らい、ペギラが横倒れになった。
〈初穂たち〉「隊長!!」
さくらの救出に向かおうにも、氷の壁に行く手を阻まれて苦悩していた初穂たちが叫ぶ。
すぐ立ち上がるペギラに、セブンガーが猛烈な追撃を行う。
〈神山〉『おおおおッ!』
「ゲエエゴオオオオオオウ!」
正面からパンチを連打しペギラを押し込むも、ペギラの方も負けていない。セブンガーの左腕を抱え込んで止めると、関節部を鉤爪で切り裂いて破損させる。
〈神山〉『うわぁッ!』
〈ミースア〉『セブンガー、左上腕部破損! 実用行動時間、残り一分です!』
〈シャオロン〉『やっぱり無理だ! 早く離脱しろ! お前まで氷漬けにされるぞ!』
焦るシャオロンの警告にも、神山は退く意思を見せなかった。
〈神山〉『さくらが最後まであきらめなかったんだ! 俺だって……死ぬ寸前まで戦うことをあきらめないッ!』
〈シャオロン〉『……馬鹿野郎が……!』
シャオロンは舌打ちしながらも、神山に感化されたように顔を引き締める。
〈シャオロン〉『帝国華撃団にあそこまで言われて、上海華撃団が黙ってられるか! ユイ、俺たちも行くぞ!』
〈ユイ〉『了解!』
シャオロンとユイが氷の壁を砕きながら、凍結しているウインダムの下へと走り出す。
「ゲエエゴオオオオオオウ!」
ペギラは翼を羽ばたかせて空中に浮き上がると、セブンガーに向けて冷凍ブレスを放つ。
〈神山〉『そうは行くかぁッ!』
神山は直撃を食らう前にブースターを点火させ、セブンガーを打ち上げてペギラの腹にロケット頭突きを見舞った。
「ゲエエゴオオオオオオウ!」
ペギラを打ち落として着地するセブンガー。この時、神山が閃く。
〈神山〉『そうだ、この炎だッ!』
ウインダムの方にブースターの炎を向けて、その熱で解凍していく。ロケット噴射による熱風が広がり、ウインダムも、街も氷の牢獄から解放されていく。
氷が解けるとともに、壁を突破してたどり着いたシャオロンとユイがウインダムの機体をよじ登って喉元の搭乗口を目指す。
〈ユイ〉『さくらは私たちに任せて!』
〈シャオロン〉『神山、お前は怪獣の方を!』
〈神山〉『ありがとうッ!』
ユイとシャオロンが外から扉を開き、身体が冷え切って気を失っているさくらを救出する中、神山は打ち落とされた怒りで迫り来るペギラに硬芯鉄拳弾の照準を合わせる。
〈神山〉『頼むセブンガー! あと少し持ってくれ!』
「ゲエエゴオオオオオオウ!」
実用行動時間ギリギリまでペギラを引きつけて、ロケットパンチを射出!
〈神山〉『いっけぇぇぇぇぇぇ――――――――ッ!』
セブンガーに動きがなく油断していたペギラは、まともに食らってぶっ倒れた。
「ゲエエゴオオオオオオウ!」
しかし倒すには至らずに、セブンガーの行動時間が終了した。すると神山はすぐにセブンガーから地上へと降り、駆け出す。
〈神山〉「まだだ! まだ終わりじゃないッ!」
解凍された己の無限の下へ走り、戦闘を続行しようとする。
「ゲエエゴオオオオオオウ!」
しかし既にペギラが起き上がっていて、神山を狙って冷凍ブレスを吐き出した!
〈神山〉「うわぁぁッ!?」
『ふんッ!』
反射的に顔を腕で覆う神山の前に、先ほどの魔人が飛び出してきて、刀を振るって作り出したバリアで冷気を押し返した。
〈神山〉「お前はッ!?」
『全く、無茶苦茶やる奴だ』
呆れたように振り向く魔人に、神山はどうして自分を助けたのかも問いたださずに怒鳴りつけた。
〈神山〉「ゼットライザーを返せッ!」
『まぁまぁ落ち着け。ほらよ』
飛びかかってきた神山の手から逃れ、魔人はあっさりとゼットライザーを突き返した。
『ありがとよ』
〈神山〉「……お前は何者なんだ……!」
拍子抜けするほどあっさりライザーを返却した、真意が全く読めない謎の魔人に戸惑う神山。しかし魔人は答えない。
『おいおい小僧、俺に構ってる場合か?』
「ゲエエゴオオオオオオウ!」
ペギラが再度こちらへ迫ってくる。神山の注意がそちらへ向いた隙に、魔人は瞬間移動で消え去っていった。
『はッ!』
〈神山〉「……うおおおおッ!」
神山はやむなく魔人の追及をやめ、ゼットライザーを掲げて起動させる。
展開した超空間でゼットと向かい合う神山。
〈ゼット〉『誠十郎、今までどうしてたんだ! 急にリンクが途切れたぞ!』
〈神山〉『ゼットライザーを奪われてたんだ……!』
〈ゼット〉『ウルトラやばい闇の波動を感じた!』
〈神山〉『それより今は……あの怪獣を止めないと!』
大暴れのペギラを倒すべく、神山はウルトラアクセスカードを握った。
[SEIJŪRO, Access Granted!]
〈神山〉『「宇宙拳法、秘伝の神業!」』
ライザーに三枚のメダルをセットする。
[ZERO! SEVEN! LEO!]
〈ゼット〉『ご唱和ください、我の名を! ウルトラマンゼーット!!』
〈神山〉『「ウルトラマン! ゼェ―――ット!!」』
ゼットライザーを掲げて、トリガーを押した!
『ハッ!』
『デュワッ!』
『イヤァッ!』
[ULTRAMAN-Z! ALPHA-EDGE!!]
「ジェアッ!」
変身して飛び出すウルトラマンゼット・アルファエッジ。その気配を感じ取って、ペギラが空へ向けて飛び上がった。
「ゲエエゴオオオオオオウ!」
拳を突き出して飛行するゼットの面前をペギラが突っ切って、冷気で作り出した積乱雲の中へ飛び込む。「ゲエエゴオオオオオオウ!」「ジュッ!」その頭上に回り込んだゼットが光刃やゼスティウムメーザーを放つ。「ゲエエゴオオオオオオウ!」攻撃を回避するペギラだが熱線がかすめ、逃れようと積乱雲から抜け出す。「ジュアァッ!」追跡して雲を抜けるゼット。それを振り切ろうとするかのように上昇するペギラ。「ゲエエゴオオオオオオウ!」雲を抜けて太陽を背にしたところで、冷凍ブレスを吐き出す! 視界も凍りつくような冷却ガスを、一発目はガスの周りを回るようにかわしたゼットだが、「ゼアァァッ!?」間髪入れずに繰り出された二発目を食らってバランスを失い、真っ逆さまに転落していく。「ジュワァァァ―――!!」地表にゼットが叩きつけられた衝撃で、街が一瞬震動した。
〈あざみ〉「うっ……!」
〈クラリス〉「ゼットさんがっ!!」
〈アナスタシア〉「ウルトラマンゼットでも敵わないの……!?」
〈初穂〉「ちっくしょう……! どうにかならねぇのかよっ!」
上空から叩き落とされたゼットの姿に、初穂たちは悔しげに歯がみした。
指令室でも、ゼットの苦戦ぶりに動揺が走る。
〈モフロ〉「いかん……ウルトラ族は寒さへの耐性を持たんのじゃ!」
〈ナシルマ〉「何か、ペギラに対抗する手段ないの!?」
〈デュエス〉「出せるもんはもう全部出しちまったぞ!」
打てる手が見当たらずに苦悶しているところに、こまちの大声が轟く。
〈こまち〉「わぁっ!?」
〈ナシルマ〉「バコちゃん!?」
〈すみれ〉「どうしたのですか!」
皆が振り返ると、こまちが運んできた石器が、発光してひとりでに浮かび上がっていた!
〈カオル〉「石器が……!」
更に、瞬きする間にかき消えてしまった!
〈ミースア〉「き、消えちゃったですー!」
〈こまち〉「どこ行ったんや!?」
〈デュエス〉「まさか……!」
消えた石器は、ふらつきながらも起き上がろうとしていたゼットの真上に現れていた。
〈あざみ〉「あれは……!」
〈クラリス〉「アラスカから運ばれた石器です!」
〈初穂〉「何であんなとこに……!?」
ゼットに向かってゆっくり降りてくる石器は、突如巨大化して錨型の槍と化した! 度肝を抜かれる初穂たち。
ゼットが手に握った槍に、神山も驚愕している。
〈神山〉『「これは……何だ……?」』
〈ゼット〉『分からない……だが、ウルトラマンの力を感じる。何万年の時を経たウルトラの力を!』
〈神山〉『「そんな昔に、既にウルトラマンが来てたということか!?」』
〈ゼット〉『それも分からない。ただ、こいつの使い方は分かる! 分かっちゃいます!』
着陸したペギラは、ゼットの手にある青い槍に目を留め、半開きだった眼を剥き出しにして狼狽した。
「ゲエエゴオオオオオオウ!?」
ゼットが槍の中心部のレバーを一回引くと、槍から灼熱の炎が生じ、槍を振ることでZ字の形の火炎が出来上がった。
〈ゼット〉『ゼットランスファイヤー!』
即興の技名とともに火炎を飛ばして、ペギラに食らわせる!
「ゲエエゴオオオオオオウ!!」
火炎に貫かれたペギラはばったり倒れ込んで、たった一撃で跡形もなく爆散した。
〈初穂〉「うわっ!? あんなあっさり……!」
〈クラリス〉「何という威力でしょう……!」
〈アナスタシア〉「あれが石器の正体……途轍もない物が眠っていたものね……」
ペギラを瞬殺した槍の威力に、初穂らはすっかり目を奪われた。
ゼットは槍を取り回しながら、見得を切って残心を湛えた。
「イヤッタァ……!」
その光景を、魔人も目の当たりにしていた。
『ほぉう……』
魔人の姿が歪み――蛇倉のものに変化する。
何と! 正体は上海華撃団の司令、蛇倉であったのだ!
〈蛇倉〉「やるね。久しぶりに血が騒ぐぜ!」
ニヤリと笑んだ蛇倉が取り出したのは、真っ赤なゼットライザーの同型。
ゼットライザーの構造を闇の力で複製して生み出した、いわばダークゼットライザーだ!
[SHE-CANG, Access Granted!]
トリガーを押して闇の空間を展開すると、ライザーに己のアクセスカードを差し込み、三枚のメダルを手の平に取り出す。
フアサッ……! と髪をたなびかせた蛇倉の瞳孔が緑色に光る。
〈蛇倉〉『「ゼットンさん。パンドンさん。マガオロチ」』
神山たちとは違い、怪獣メダルをライザーにセットしてスキャンする。
[Z-TON! PANDON! MAGA-OROCHI!]
〈蛇倉〉『「お待たせしました。闇の力、お借りしますッ!!」』
蛇倉の周りにメダルのビジョンが生じると、掲げたライザーのトリガーを押して変身する!
[JUGGULUS-JUGGLER! ZEPPANDON!!]
突然、ゼットの背後にペギラとは別の巨大怪獣が出現し、神山たちは目を見張った。
〈神山〉『「何だ、あいつは!?」』
〈ゼット〉『おいおい! 何でもかんでも聞くなよ!』
ゆらりと身を起こしたのは、宇宙恐竜ゼットンと双頭怪獣パンドンの要素を組み合わせて作り出された合体魔王獣ゼッパンドン! 蛇倉の正体たる無幻魔人ジャグラスジャグラーが、ダークゼットライザーの力で変身したものであった!
「ガガァッ! ピポポポポポ……」
ゼッパンドンの出現に、一度は安堵していた指令室も一気にどよめいた。
〈カオル〉「新手の怪獣ですか!?」
〈こまち〉「何でいきなり……!」
〈ナシルマ〉「どっから出てきたんだ!?」
〈ミースア〉「ゼットが危ないですー!」
ナシルマたちが悲鳴を上げる。デュエスは手で覆った顔を天井に仰がせた。
ゼッパンドンはいきなり口から火炎弾を連射してくる!
〈神山〉『「わッ!?」』
ゼットは咄嗟に槍のレバーを引いて、穂先から光刃を発して相殺する。
「ゼアッ! ゼアッ! ゼアッ!」
しかしゼッパンドンの姿が一瞬で消滅する。テレポート能力だ!
「ゼアッ!?」
背後を警戒して振り向くゼット。しかしゼッパンドンは、その反対側から出現した。
「ジュワァーッ!」
至近距離から双頭型の角より光線を浴びせられ、吹っ飛ぶゼット。その手から離れた槍が地面に刺さる。
〈神山〉『「痛てて……やっぱり敵みたいだな……!」』
ゼッパンドンは手招きするように挑発してきている。
〈ゼット〉『ウルトラむかつく野郎だ!』
構え直したゼットが、猛然とゼッパンドンに飛びかかっていった。
「ゼアッ!」
飛び蹴りを仕掛けるが、ゼッパンドンはまたもテレポートで消え失せる。
〈神山〉『「……!」』
姿が見えなくなった敵を、神山たちは意識を集中して探知する。
「ゼアッ!」
そして姿を現して殴り掛かってきたゼッパンドンの腕を止め、正拳を打つも、今度はこっちが止められて突き飛ばされた上に火炎弾を浴びせられた。
「ゼアァァーッ!」
「ガガァッ! ピポポポポポ……」
ゼッパンドンに殴り倒されたゼットは、腕を十字に組んでゼスティウム光線で反撃した。
「ゼアァッ!」
これにゼッパンドンはバリアを展開して受け止め、バリアごと投げ飛ばした。
〈ゼット〉『強い……!』
攻撃が通用せず、カラータイマーが残り時間の少ないことを知らせる。この状況で逆転の手段があるのか。
〈神山〉『「……たとえどんなに相手が強くとも、決してあきらめない……! それが帝国華撃団だッ!!」』
〈ゼット〉『そうとも! それがウルトラマンだッ!』
啖呵を切ったゼットたちに呼応するように、槍が光を発した。それに振り向く神山。
〈神山〉『「天より降りたる光の槍……!」』
〈ゼット〉『太古のウルトラマンからの贈り物だ!』
駆け寄り、槍を引き抜くゼット。ゼッパンドンは巨大な火炎弾をチャージしている。
「ピポポポポポ……ガガァッ!」
「ゼアッ!」
これに対しゼットはレバーを二回引いて、槍をゼッパンドンに向けた。すると槍を中心に、光の弓が出来上がる。弦を引くと、氷の矢がつがえられる。
〈ゼット〉『ゼットアイスアロー!』
射たれた矢は、飛んできた火炎弾を貫通し、ゼッパンドンに突き刺さる。
「ピポポポポポ……」
ゼッパンドンは瞬く間に身体に内側から凍りついて、こなごなに砕け散った!
〈あざみ〉「勝った!」
〈クラリス〉「すごいです! 炎と氷の力を宿し……弓にもなるんですね!」
〈初穂〉「さしずめゼットランスアローってとこだな!」
戦いの顛末を見届けた初穂が、槍をそう名づけた。
〈アナスタシア〉「弓ならボウじゃないかしら?」
〈初穂〉「いいじゃねーかよぉ。語感優先だぜ」
ゼットは槍を下ろし、太陽光を反射して勝利のポーズを決めた。
さくらを帝劇に担ぎ込んで救護班に託したシャオロンとユイも、ゼットの勝利にほっと安堵の息を吐いていた。
〈シャオロン〉「いきなり何事かと思ったが、怪獣は全部撃退されたみたいだな」
〈ユイ〉「さくらも容態が回復してきてるし、これでもう安心ね!」
落ち着いた二人の通信機に、蛇倉からの通信が入る。
〈蛇倉〉『お前たち、よくやってくれたな』
〈シャオロン〉「おッ、司令!」
〈ユイ〉「ありがとう司令!」
〈蛇倉〉『帝国華撃団の隊長もなかなかやるもんだ。華撃団大戦じゃダークホースになりそうだな』
〈シャオロン〉「確かに。だが優勝するのは俺たちさ!」
〈蛇倉〉『ふッ、お前は自信だけは一丁前だな』
豪語するシャオロンに、蛇倉は苦笑を浮かべていた。
〈ユイ〉『ところで司令は今どこなの? 劇場にいなかったけど』
〈蛇倉〉「ちょっと野暮用だ。もうちょっとしたら戻るから安心しろ」
その蛇倉は今、ゼッパンドンが爆散した跡に仰向けで倒れていた。通信を切ると、その状態で高笑いする。
〈蛇倉〉「ハッハッハッハッハッ……! ヒャッハッハッハッハッ! アーハッハッハッハッハッハッ!!」
首を横に向けて、つぶやいた。
〈蛇倉〉「あー……面白れェ」
――世界華撃団連盟の施設。明かりを落とした一室で、スクリーンにある映像が投射されていた。
セブンガーやウインダム、そしてウルトラマンゼット……今の帝国華撃団の持つ力や、味方する者を纏めた記録映像である。
「……」
それを一人で観察している男が、大きな舌打ちの音を立てた。
その時、
「おい、ここ華撃団連盟の建物だろ? 何で降魔のテメェがこんなとこ入れんだよ。一体誰に会わせようってんだ。あ? ここ入れってか?」
扉の外から男の声が徐々に近づいてきて、その主が室内に入ってくる。
夜叉に連れられて来た摩上である。
「……摩上沙太郎君だね? ようこそ。待っていたよ」
摩上は椅子をターンして振り返った白スーツの男の顔に、口をポカンと開けた。
〈摩上〉「あんた……華撃団連盟のトップじゃねぇか。何で……」
プレジデントGは唖然とする摩上に、呼びつけた理由を切り出す。
〈G〉「早速で悪いが、本題から入ろう。君に頼みがあるんだ。報酬ならいくらでも出そう」
〈摩上〉「ああ? 天下の華撃団連盟の事務総長が、コソ泥の俺にどんな用があるってんだ」
〈G〉「ふッ、卑下する必要はない。君には、普通の人間にはない非常に特別な力があることは調べがついているのだ」
当然と言えば当然だが、プレジデントGも摩上が怪獣に変身することを把握しているようだ。
〈摩上〉「……そーいうあんただって、人が知らねぇ秘密があるっぽいな」
部屋の外で待つ夜叉の方を親指で指す摩上。プレジデントGは薄く笑うのみだ。
〈G〉「……それで、頼みというのはだね」
摩上に対してスクリーン上の、勝利のポーズを取っているところの帝国華撃団と、飛び去っていくゼットの写真を目で示すプレジデントG。
〈G〉「帝国華撃団と、ウルトラマンゼットとかいう輩。この連中を、君の力で叩き潰してもらいたい」
〈摩上〉「……は?」
思わず、間の抜けた声を出す摩上。
〈G〉「もちろんこちらからも支援しよう。必要なものがあるなら何でも言うといい」
〈摩上〉「いやそんなことはいい。あんた……華撃団連盟の総長だろ?」
あまりの内容に、つい確認を取った。
〈G〉「そうだとも」
〈摩上〉「つまり、全部の華撃団の上に立つ奴だろ? それが、傘下の帝国華撃団を潰せって? 何の理由があって?」
〈G〉「まぁ……色々と事情があってね」
はぐらかすプレジデントGに、摩上は肩をゆすって笑い出す。
〈摩上〉「おいおいおいおい! どんなイカレた事情がありゃ、んな矛盾したこと頼むんだよ! ハッハハハハ! からかってんのか? ウハハハハハ! わっけ分かんねぇ! どうかしてんぜおい! ハハハハハハッ! ハハハハハハハハハハハッ!!」
腹をかかえて大笑いを続ける摩上。プレジデントGはただ黙って、彼の反応を窺う。
ひとしきり笑った摩上は、間の長テーブルをバンッ! と激しく叩き、ズイッと身を乗り出した。
〈摩上〉「乗った!!!」
(ED:Connect the Truth)
『花組のウルトラナビ!』
神山「今回紹介するのは、ウルトラマンレオだ!」
アナスタシア「レオは獅子座L77星出身のウルトラマンよ。だけど故郷の星をマグマ星人に滅ぼされて、地球に亡命してきたの。それからも様々な過酷な運命が彼に身を襲ったけれど、レオは見事戦い抜いたわ」
アナスタシア「その後はセブンの息子のゼロを指導して、師匠と仰がれてるわ。『ウルトラファイトビクトリー』では、双子の弟のアストラとともビクトリー、ギンガと共闘してジュダ・スペクターに立ち向かってるわ」
アナスタシア「『Z』では自身の師のセブンと、弟子のゼロのセブン一門でアルファエッジのメダルになっているわ。アルファエッジはヌンチャクを扱う技も持っているわね」
ゼット『そして今回の華撃団隊員はマリア・タチバナだ!』
アナスタシア「ロシア人外交官の父を持つハーフの副隊長よ。大神一郎着任前の花組隊長で、射撃の名手。当初は事情あって周りと壁を作っていたけれど、戦いを通じて信頼関係を築き、頼れる副隊長になっていったわ」
アナスタシア「それじゃ、次回でお会いしましょう」
あざみ「帝都を襲う巨大な傀儡機兵に、あざみたちは大苦戦……! その時、もう一人のウルトラマンが現れた! あの人の正体は……!?」
「次回、『颯爽登場!ウルトラマンジード』。太正桜に浪漫のZ!」
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幕間「尊敬するウルトラマン」
(サロン)
〈初穂〉「さくら、身体はもう大丈夫なのか?」
〈さくら〉「うん、すっかり元気になったから。心配掛けてごめんね」
〈ミースア〉「さくらちゃんが元気なら、それでいいですー」
〈さくら〉「ふふっ、ありがとう」
〈初穂〉「いやーしかし、一時はほんとどうなるかと思ったもんだが、ゼットランスアローのお陰で助かったぜ! ほんとすっげー威力だったな!」
〈ナシルマ〉「あんなすごいのがこの地球に眠ってたなんて、僕も驚きだよ~」
〈デュエス〉「しかしあの槍、どっかで見たことあるような気がするんだよな……既視感かな……」スラッガーラン…
〈さくら〉「わたしは、ずっと昔にもうウルトラマンが来てたってことの方が驚きですよ。そんなことってあるんですか?」
〈モフロ〉「ふむ……実は、古代の記録にウルトラ戦士の来訪の痕跡があるというのはそう珍しい話でもないのじゃ。様々な報告例がある」
〈初穂〉「そうなのか!?」
〈モフロ〉「有名どころでは、バラージの遺跡じゃな。ウルトラ戦士は様々な宇宙、惑星で日夜活動しとるからのう」
〈ナシルマ〉「そもそもかなり長命な種族だしね」
〈デュエス〉「それにウルトラマンはM78星雲人だけじゃねぇ。人体の進化の究極形だから、他の星、宇宙にも存在してる。U40とかO-50とか……何千万年も昔に存在してた古代ウルトラマンとか、次元を股に掛ける、最早人間と言えるのかも怪しい奴だっている。だからぶっちゃけ、どこにいたとしても不思議はねぇのかもな」
〈初穂〉「へぇ~。ウルトラマンってそんなにたくさんいるんだな」
〈さくら〉「……それじゃあ、皆さんはどの人を一番尊敬してるってありますか?」
〈ナシルマ〉「え?」
〈ミースア〉「尊敬、ですか~?」
〈さくら〉「はい。皆さんウルトラマンにお詳しいみたいですし、これを題目に少しお話聞かせてもらえたらなって」
〈初穂〉「面白そうじゃねぇか! なぁ、いっちょアタシたちに教えてくれよ」
〈さくら〉「じゃあナシルマさんから」
〈ナシルマ〉「尊敬かぁ……。それなら、ウルトラマンレオを置いて他にいないね」
〈ミースア〉「ミースアも同じですー!」
〈さくら〉「レオさん……」
〈初穂〉「どんな人なんだ?」
〈ナシルマ〉「L77星出身のウルトラ戦士だよ! レオさんはおじいちゃんもお世話になった人なんだけど、ただ強いだけじゃなく、精神力も半端ないんだ! 故郷を滅ぼされたり、仲間を大勢失ったり、色々つらい思いをしたけれど、それでも前を向いて進み続けた……その逸話は僕に勇気をくれる。サーリン星奪還戦の時はいつも心の支えにしてたよ」
〈さくら〉「そんなお方もいるんですか……」
〈初穂〉「モフじいは?」
〈モフロ〉「わしはウルトラセブンさんじゃな。元は宇宙警備隊ではない観測員じゃったが、訪れた星をほれ込み、外宇宙からの侵略の危機から守るべく自主的に防衛を行った。度重なる負担で死にかけることになっても、セブンさんは自らに課した使命を貫き通したのじゃ。その姿は芸術的ですらあったのう……」
〈初穂〉「流石はウルトラマンだな……話がいちいちでっけぇぜ」
〈さくら〉「わたしたちも見習うべきことがいっぱいだね」
〈ナシルマ〉「ところで、レオ、セブンと、アルファエッジのメダルのウルトラ戦士が続くね」
〈ミースア〉「じゃあ、デュエスさんはウルトラマンゼロさんですかー?」
〈デュエス〉「いや……俺はウルトラマンジードだ」
〈さくら〉「ジードさん?」
〈初穂〉「どういう人なんだ?」
〈デュエス〉「ジードは数いるウルトラマンの中でも、最も特異な出生と体質を持つ奴だ。生まれの時点から、ある連中の陰謀が絡んでて、あいつは己の存在にひたすらに苦悩し続けた……。だがジードは己にのしかかった破滅の運命を全て書き換え、本物の戦士になったんだ。本当に、すげぇ奴さ……」
〈初穂〉「な、何か思ったよりもすげー内容だな……」
〈さくら〉「ほんと、色んな人がいるんですね……」
〈ナシルマ〉「ふ~ん……デュエスって意外とミーハーなんだね」
〈デュエス〉「はぁ!? 今何つった! ミーハーだとぉ!?」
〈ナシルマ〉「だってジードって最近のウルトラマンじゃん。それが一番なんて……何て言うか、すぐ推しを乗り換えるタイプなんだね~。知らなかったよ」
〈デュエス〉「おい俺の話聞いてたのかッ! んな軽薄な生き方してねぇよこの野郎!」
〈ナシルマ〉「わッ! そんな怒ることないでしょ! それとも図星~?」
〈デュエス〉「テメー!!」
〈ナシルマ〉「あッちょッ何その棍! 待って待って冗談だってば! マジになんないでよ!」
〈初穂〉「おいおいやめろって! ここで喧嘩は!」
〈ミースア〉「お兄ちゃんも、そんなこと言っちゃダメですー!」
〈モフロ〉「こらこら、落ち着きなさい。あまり騒ぐとカオルくんにどやされるぞ」
〈さくら〉「ウルトラマンジードさん……どんな人なんだろう……」
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第六話「颯爽登場!ウルトラマンジード」(A)
――世界華撃団連盟事務総長でありながら、帝国華撃団とウルトラマンゼットの排除を目論むプレジデントGと手を組んだ摩上は、彼の紹介によってある男と密会をしていた。
〈朧〉「……ったく、何だってこのオレ様がこんな奴と組まなきゃならねぇんだ? でっけぇ化けモンになる能力があるからって、こいつは脆弱な人間だってのによぉ」
触覚の生えたローブを目深に被って素顔を隠した男の名は、朧。上級降魔の一人である。
〈朧〉「帝国華撃団なんて甘ちゃんどもの始末なんざ、オレ一人で十分だってのによぉ」
摩上と面会した途端に不機嫌そうに吐き捨てた朧に、摩上はせせら笑いを向ける。
〈摩上〉「上級降魔ってのはぁ、口だけは達者な生きもんみてぇだなぁ。テメーが前に帝国華撃団にぶちのめされた奴だってのは聞いてるぜぇ?」
その言葉に朧はカチンと来て、歯を剥き出しに摩上に振り向く。
〈朧〉「ありゃあお遊びだったんだ! オレはまだ本気出してねぇだけだ。マジになりゃ、あんな小娘どもに負けるはずがねぇッ!」
〈摩上〉「ヒャハハッ! 弱い犬ほどよく吠えるって言うぜぇ!?」
〈朧〉「何だとテメェ……! そう言うテメーこそ、連中に二度もズタボロにされてんだろうがッ! 負け犬はどっちだろうなぁ!?」
〈摩上〉「ああ……? なら力量差って奴をはっきりさせとくか?」
〈朧〉「望むとこだぜぇ……人間風情がッ!」
早くも一触即発の摩上と朧を、ロソスがテレパシーで声を出してなだめる。
〈ロソス〉『よせよせ……いきなりいがみ合ってどうする……。なすべき目的を見失うな……』
〈摩上〉「兄弟……」
〈朧〉「んん……? 今の、誰がしゃべったんだ?」
まだロソスの存在を認識しておらず、戸惑う朧。ロソスは彼の疑問に答えずに、摩上に呼び掛ける。
〈ロソス〉『初対面の相手には、礼を尽くすものだ……こんな風にな……』
〈摩上〉「あッ、また……!」
摩上の腕を動かして、一枚のメダルを取り出して朧に差し出した。
〈ロソス〉『お近づきの印だ……これを貸してやろう……』
〈朧〉「何だぁ? こんなちんけなメダル渡してきて……」
摩上の手の平の上のメダルには、紫色の龍を模したようなロボット怪獣の首が描かれている。
〈ロソス〉『フフ……こいつは激レアだぞ……!』
摩上の体内で同化しているロソスが、ニヤリとほくそ笑んだ。
(OP:ご唱和ください 我の名を!)
第
颯 六
ウ 爽 話
ル 登
ト 場
ラ !
マ
ン
ジ
|
ド
〈初穂〉『うわあぁぁぁぁぁっ!!』
〈あざみ〉『くぅぅぅぅっ!!』
セブンガーを操縦する初穂と、ウインダムを操縦するあざみが、大量のビーム砲撃とミサイル攻撃に襲われて悲鳴を発した。
〈さくら〉『初穂! あざみ!』
〈神山〉『さくら危ないッ! 下がるんだッ!』
三式光武に乗るさくらも、神山の無限に腕を引かれて砲撃の嵐から逃がされた。
どうにか大火力を凌いだ初穂が、脂汗を垂れ流す。
〈初穂〉『くそぉッ、何なんだよあの傀儡機兵は……! 機兵っつぅか、あそこまで行ったらもう要塞じゃねーかっ!』
ウォォォォオオオオオ――――――ン……!!
全身から蒸気を噴出し、鉄と鉄がこすれ合う金切り音を咆哮のように轟かせるのは、亀の甲羅を背負ったような全身機械の巨竜。その機体の至るところから、数え切れない量のビーム砲、ミサイルランチャー等の破壊兵器が生えている。
〈朧〉『ハッハァーッ! こりゃあいい! 最高の玩具だぜぇッ!』
この機械龍の内部で、朧が哄笑を発しながら操縦していた。
〈神山〉『その声は……朧ッ!』
〈朧〉『また会ったなぁ、帝国華撃団。この前はよくもでけぇドラム缶で蹴飛ばしてくれやがったな! たっぷりとお礼してやるぜッ!』
朧ががなると、操る巨大ロボット怪獣が全身から火を噴いた。
〈花組〉『わああぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――!!』
帝都の町外れの土地を焼き尽くしてしまいそうな絨毯爆撃が、花組を纏めて窮地に追いやる。
指令室では、デュエスがロボット怪獣の姿をひと目見ただけで顔面蒼白になっていた。
〈デュエス〉「何てこった! 奴はギルバリスだッ!」
〈ナシルマ〉「えぇーッ!? あのギルバリス!!?」
〈ミースア〉「た、大変ですー!!」
〈カオル〉「そんなに恐ろしい相手なのですか」
いつにも増して慌てているナシルマたちの様子に、カオルが聞き返した。
〈ナシルマ〉「超やばい奴ですよ! 破壊兵器そのもの!!」
〈デュエス〉「全宇宙の知的生命体の抹殺を図り、いくつもの星を滅ぼした奴だ! 今まで相手してきた奴とは格が違げぇ危険度だぞ!」
〈モフロ〉「しかし、ギルバリスは既に破壊されたはずじゃが……」
〈デュエス〉「ああ、それは間違いねぇ。しかもそれに降魔が乗ってやがる……!」
〈すみれ〉「……恐らくは、降魔が傀儡機兵として復活させたのでしょう」
すみれの予測通り、今花組を襲っている巨大ロボットの正体は、ロソスから渡されたギルバリスメダルに朧が妖力を注ぎ込むことによって傀儡として復活した、傀儡機兵ギルバリスであった!
〈初穂〉『調子乗るんじゃねぇ! 硬芯鉄拳弾を食らいやがれっ!』
セブンガーが反撃しようと、腕をギルバリスに向けてまっすぐ伸ばす。
しかし発射する前に、ギルバリスから怪電磁波が放出されて浴びせられた。すると、
〈初穂〉『ん!? わぁっ!?』
セブンガーが突然グルリと方向を変え、腕が無限の方へ向けられた!
〈クラリス〉『ど、どうしたんですか初穂さん!?』
〈初穂〉『セブンガーが勝手に動いてるっ! 操縦が利かねぇっ!』
〈アナスタシア〉『コントロールを乗っ取られたの!?』
必死にあがく初穂だがどうにもならず、ロケットパンチが神山たちの方向へ発射された。
〈さくら〉『きゃあ―――っ!!』
〈初穂〉『あぁーっ!! わ、悪りぃっ!!』
四人はどうにか回避できたが、危うく潰されるところだった。
〈あざみ〉『このっ……!』
「グワアアアアアアア!」
ウインダムの両腕のスリットから手裏剣が雨あられと撃たれるも、ギルバリスの強固なボディに全て弾き返される。
〈朧〉『ヒャッハハハハ! サイッコーの気分だぜ! 魔幻空間なんてまどろっこしいことする必要もねぇ! このままこいつで帝都を焼き払ってやるぜぇッ!』
ギルバリスの砲門が街の方角へ向けられた。この破壊力と長距離射程が市街を襲えば、おぞましい被害が出るだろう。
〈神山〉『させるかぁッ!』
何としても阻止せねばと神山がゼットライザーを取り出そうとする、が、
その時!
レーダーが捉えた影を、ミースアが報告する。
〈ミースア〉「宇宙から戦闘現場へ、未確認の生命反応が急速に接近してくですー!」
〈カオル〉「こんな時に別の怪獣ですか!?」
〈ミースア〉「いえ、このパターンは……ま、まさか……!」
〈初穂〉『ん?』
突如、戦闘現場の上空に光り輝く何かが現れたので、敵味方関係なく全員が反射的に見上げた。
巨大な発光体は、人型に実体化して特空機とギルバリスの間に着地する!
「フッ!」
〈神山〉『あ、あれは……!?』
骸骨を模した鎧を装着したような胴体をした、ひどく吊り上がった青い目の巨人。胸の中央に輝くのは、縦長のカラータイマー――!
〈初穂〉『ま、まさか、ウルトラマンかよ……!?』
〈あざみ〉『ゼット以外の……!』
突然の二人目のウルトラマンの降臨に、花組は度肝を抜かれていた。
モニターで新たなウルトラマンの姿、そして顔貌をひと目見たデュエスが、嬉しそうな声を上げた。
〈デュエス〉「ジード!!」
〈ナシルマ〉「えッ、あの人がジード!? あのベリアルを倒したッ!」
〈すみれ〉「……敵ではないようですわね」
彗星組の反応を一瞥して、すみれがそう判断した。
〈朧〉『何だぁテメェはッ! テメェがウルトラマンゼットか!? 思ったよりも人相悪りぃなッ!』
初めてウルトラマンと対面した朧が勘違いしながら、ウルトラマンジードに対して攻撃を開始する。ジードの方もダッと前に駆け出し、それを迎え撃つ。
「シュアッ!」
〈朧〉『ぐッ!』
飛び膝蹴りを当てて進行を止めると、怒涛の打撃を打ち込んで押し込む。
〈朧〉『けッ! うっとうしいッ!』
「ウワッ!」
いら立った朧はギルバリスを操作し、ジードを一発殴って姿勢を崩すと、背後から羽交い絞めにした。そのまま締め上げるつもりだ。
〈ジード〉『ギャラクシーカッティング!』
〈朧〉『ぬあッ!?』
だがジードは両肘より光の刃を伸ばして拘束を解いて脱出。
「ウアアアァァァァァ――――――!」
雄叫びを発しながら、連続斬撃をお見舞いする。
〈朧〉『くそがッ! これでも食らえやッ!』
ギルバリスが全身の砲口から飽和攻撃を仕掛けてくると、ジードは後ろへ大きく跳んで回避。だがまだまだ飛んでくる。
〈ジード〉『プラズマ光輪!』
ジードが右腕を高く掲げると、四肢の楔形のクリスタルが黄色く発光し、頭上に円盤状に渦巻く雷が発生。雷が四つの光輪に分かれ、これを振るって砲撃を叩き落として防御した。
〈さくら〉『すごい……!』
恐ろしい爆撃を放出するギルバリス相手に互角に渡り合うジードの戦いぶりに、花組は思わず見入っていた。
〈朧〉『ふざけやがってぇ! 消し飛びやがれぇぇ――――ッ!!』
朧が逆上し、ギルバリスは胴体の中央のコアから破壊光線を発射。
「アアアアアアアッ!」
ジードが胸を張って吊り上がった双眸から光を放ちつつ雄叫びを上げると、背面に炎のようなエネルギーが集まっていく。そのエネルギーが鳥の如き形状となると、両手を合わせて光の輪を作り、左にひねった上半身を戻す勢いで、左手を右肘の内側に置いたL字を形作った。
〈ジード〉『レッキングフェニックス!』
ジードの腕から膨大な光と闇の奔流が発せられ、破壊光線を押し戻していく。
〈朧〉『な、何ぃぃッ!?』
「ハァァーッ!」
レッキングフェニックスがギルバリスに直撃し、大爆発を起こさせる!
〈朧〉『ぎいやぁぁあああああ―――――――!? お、覚えてろよぉッ!!』
爆炎に呑まれる寸前に命からがら脱出する朧。
「ハッ!」
〈あざみ〉『あっ、待って……!』
ギルバリスを撃破したジードは、あざみの制止も聞かずに、空の彼方へと飛び去っていった。
――帝都の片隅で、人目から隠れるように、一人の青年が徘徊していた。紺色のジャケットにジーパンという、帝都では見ない服装をしている。
彼は左腰に取りつけた装置に手を添えて、虚空に向かって呼び掛けた。
「ペガ! ペガ! ……やっぱり応答なしか……」
彼こそがウルトラマンジードの人間態、その名も朝倉リクである。
〈リク〉「参ったな……ここは時代も文明も全然違うみたいだから、ナビゲートが欲しかったんだけど……」
周りの帝都の景色をグルリと見渡して何やら困惑していると――目の前を突然、蒸気自動車が猛スピードで横切った。
〈リク〉「うわッ!?」
急ブレーキを掛ける自動車だが、止まり切れずに壁に衝突した!
〈リク〉「ええーッ!? いきなりの事故!?」
度肝を抜かれていると、自動車から覆面で口元を隠した女性が二人、よろよろと降りてくる。
「あたた……もぉ~、隊長ったらぁ。ブレーキ踏むの遅いですよ~」
「おっかしいなぁ……伝説のスーパー隊長はもっとこう、華麗に……」
〈リク〉「あ、あの……大丈夫ですか……?」
普通ではない事態に若干ついていけないながらも、事故車から降りてきた二人を案ずるリク。内の小さい方がリクに振り向くと、しゃんと背筋を伸ばした。
「これは失礼しました! あなたが朝倉リクさん……ウルトラマンジードさんですね?」
〈リク〉「えッ!? 何で僕のことを……!」
ここの人間が知るはずのない己の名前を言い当てたことに驚愕するリクに、覆面の少女――隠密部隊・月組の隊長、西城いつきがビシッと敬礼した。
〈いつき〉「あなたを、我らが帝都の誇る大帝国劇場にご招待しまーす!」
〈リク〉「大帝国劇場?」
月組によって帝劇に案内されたリクは、帝国華撃団のメンバーが集う指令室に通される。
〈ゼット〉『おおー! ジード先輩じゃないですかぁ!』
モニター上に表示されたゼットの姿に面食らうリク。
〈リク〉「何でゼットがここに!? 何でモニターに……」
〈神山〉「知り合いなのか、ゼット?」
己の内部のゼットの精神をモニターに映し出している神山が聞き返す。
〈ゼット〉『このお方はなぁ、ゼロ師匠の弟子で、俺のウルトラすごい兄弟子なんだ!』
〈リク〉「いや、僕別にゼロの弟子じゃ……」
〈ゼット〉『兄弟子はなぁ! あのベリアルをぶっ倒して、M78星雲にその名を轟かせた超有名人なのだ!』
リクの訂正も聞かずに説明するゼットだが、さくらたちはベリアルという名を知らないので、今一つピンと来ていなかった。
〈デュエス〉「久しぶりだな、ジード」
ゼットには構わずに、デュエスがリクに呼び掛ける。
〈リク〉「デュエス! 君までいるなんて」
〈デュエス〉「宇宙指令でな。そっちこそ、とうとうこの帝都に来たのか」
〈リク〉「うん……デビルスプリンターの暴走は、僕が止めないと」
〈デュエス〉「……ところであの形態は初めて見るが〈ナシルマ〉「いや~どうもどうも! 初めましてウルトラマンジードさん!」おうッ!?」
いきなりナシルマがデュエスを押しのけて割り込んできた。ビクッと肩を震わすリク。
〈ナシルマ〉「あのベリアルをやっつけた英雄とこうして会えるなんて光栄ですよ! ほんと嬉しいなぁ~! さっきの戦いも、いや~お見事!」
〈リク〉「あ、ありがとうございます……」
〈ナシルマ〉「記念に写真一枚いいですか? 一緒に撮りましょう! ミースア~カメラ」
〈デュエス〉「おいどけ! こないだ俺のこと何てった!」
荒々しくナシルマを押しのけ返すデュエス。じゃれる彗星組に、すみれがパンパンと手を叩いて注意を引きつけた。
〈すみれ〉「旧交を温めるのも結構ですが、そろそろわたくしたちにも話をさせて下さらないかしら?」
〈デュエス〉「あッ、そうだな」
〈すみれ〉「お初にお目に掛かります、ジードさん。わたくしはここ、大帝国劇場の支配人の神崎すみれと申しますわ」
〈リク〉「は、初めまして、僕は朝倉リク。ウルトラマンとしての名前はジードです」
すみれは簡単に、リクが知らないであろう帝都の情報や歴史、そして帝国華撃団のことを説明した。
〈すみれ〉「……と、いう訳で、ここにいる六名が帝国華撃団の戦闘部隊、花組ですわ。隊長の神山くんが今、ゼットさんと一体化していますの」
〈神山〉「初めまして、朝倉リクくん。隊長の神山誠十郎です」
〈リク〉「朝倉リクです。よろしくお願いします」
お辞儀を交わす二人。ある程度の挨拶が済んだところで、デュエスが改めてリクに尋ねかける。
〈デュエス〉「それで、お前もゼットライザー使ってるみてぇだな」
リクの右腰に、神山と同じウルトラメダルホルダーがあるのに目を留めた。
〈デュエス〉「ジードライザーはどうした? 他の仲間は」
〈リク〉「それが……」
リクはやや意気消沈しながら、経緯を説明する。
〈リク〉「宇宙に散らばったデビルスプリンターを追ってる途中、デビルスプリンターの悪用を狙う宇宙人に襲われて、ジードライザーを奪われてしまったんだ」
〈デュエス〉「そんなことが……」
〈リク〉「それでピンチになってたところに、ウルトラマンヒカリさんからゼットライザーが送られてきた。そのお陰で助かったけれど、ペガたちとはぐれてしまって……どうにかここにたどり着いたところで、ここの人たちが襲われてるのを発見して急行したんだよ」
〈デュエス〉「大変だな、お前も……」
話し込んでいるところに、初穂が不意に手を挙げた。
〈初穂〉「あー、ちょっと質問」
〈リク〉「何でしょうか?」
〈初穂〉「いつも当たり前のように言うけどさ、デビルスプリンターって何なんだ? どっから来たんだ?」
実は地球人たちは知らなかったことを尋ねる初穂。
〈デュエス〉「そういや話したことはなかったな」
〈初穂〉「いい機会だし教えてくれよ」
〈ナシルマ〉「教えてちょーだーい」
〈デュエス〉「いやお前は知ってなきゃ駄目だろッ! 今まで何やってたんだよ!」
突っ込むデュエス。
〈ナシルマ〉「いやぁ、知ってて当然みたいな感じ出すから、聞きづらくって」
〈デュエス〉「しょうがねぇな……」
ため息交じりのデュエスが説明を始めた。
〈デュエス〉「かつて光の国の生まれでありながら、闇に堕ちて光の国に反逆し、様々な大事件を引き起こしたベリアルというウルトラマンがいた。そいつをジードが倒した訳だが、その後、宇宙各地で怪獣たちの破壊活動が異常活性する事態が頻発し出した。調べてみたところ、飛散したベリアルの肉体の細胞片が原因であることが判明した! こいつがデビルスプリンターの正体だ」
〈神山〉「さ、細胞片……!?」
〈カオル〉「細胞のひと欠片に、そんな力があるのですか?」
〈デュエス〉「ベリアルはレイオニクスという怪獣使いの能力者の因子も持ってた。それが影響してるんだろう」
説明の間、リクは険しい表情をしていた。
〈リク〉「……ベリアルは僕が決着を着けなきゃいけない相手だ。この地球がデビルスプリンターのせいで大変なことになってるなら、僕が何とかしなきゃ」
気負うリクに、すみれが微笑みかける。
〈すみれ〉「ありがとうございます。ですが、帝都で起こる事件はわたくしたちの問題でもありますわ。ですので、ここは共同戦線と行きませんこと?」
〈神山〉「ええ。リクくん、俺たち帝国華撃団と一緒に戦わないか? 力を合わせよう!」
〈リク〉「……はい! こちらこそお願いします!」
〈神山〉「ああ!」
神山が差し出した手を、リクがしっかりと握って固い握手を交わした。
――摩上が隠れ家で、ギルバリスメダルを手の中でいじくっていた。
〈摩上〉「なぁ兄弟、何であんな降魔野郎にメダル使わせたんだよ。あんなすんげぇロボットなら、俺たちで使えばいいじゃねぇか」
不満そうな摩上に、ロソスはクックッと低い声で笑う。
〈ロソス〉『何事も一番がいい訳じゃないぞ……。実はギルバリスメダルは、データ不足のため不完全でな……問題点を洗い出すための実験台になってもらったって訳さ……』
〈摩上〉「おお!? んな目論見が……流石は兄弟だぜ!」
一転して機嫌を良くする摩上に合わせるようにカカと笑うロソス。
〈ロソス〉『お陰で改善策が出来た……。明日にでも、改めて俺たちが出ようじゃないか……そこのメダル二枚を併用してな……』
ロソスが示した先に置かれてあるのは、プレジデントGの協力によって新たに作り出した、二種類の傀儡機兵が描かれたメダルであった――。
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第六話「颯爽登場!ウルトラマンジード」(B)
〈さくら〉「わぁ~! ピッタリですね、リクさん」
帝都にウルトラマンジードが降臨した翌日、大帝国劇場のサロンで、リクが花組の前に着替えた姿を披露していた。
普段の格好から、神山のベストやシャツを借りて、ネクタイを締めたスタイルに着替えたのであった。
〈神山〉「最初の服装だと帝都じゃ目立つから、ここにいる間はそれを着るといい」
〈リク〉「ありがとうございます。ところで……」
リクが少し物珍しげな様子で、劇場の内装を見回した。
〈リク〉「ここってすごいですね! 見た目は何の変哲もない劇場なのに、地下にあんなハイテクな指令室があるなんて! まさに秘密基地だ!」
〈デュエス〉「何喜んでんだよ。普段住んでるとこが秘密基地だろうに」
デュエスが呆れたように突っ込んだ。
〈リク〉「あはは。それでもこういうのってワクワクさせられるし。……だけど」
愛想笑いを浮かべたリクの表情が、不意に曇る。
〈リク〉「そんな施設が必要になるような環境ってことだよね……」
〈デュエス〉「ああ。この地球には元から降魔っつぅ土着の怪物がいるが、デビルスプリンターはそれと結びついてより強力な降魔怪獣に変えちまった。そのせいで大災害が発生した過去があるのさ」
〈リク〉「デビルスプリンターのせいで……もっと早くにそれを知ることが出来たら……」
デュエスと話し込んで険しい顔となっているリクに、初穂が質問する。
〈初穂〉「アタシたちのことばっかじゃなくてさ、そっちのことも聞かせてくれよ」
〈リク〉「僕の?」
〈初穂〉「さっきナシルマが英雄だなんて言ってたしさ。あんたがどんな戦いを経験してきたか、ちょっと興味あるぜ!」
〈アナスタシア〉「そうね。他の星のことも出来れば教えてもらいたいわ」
〈あざみ〉「他の文明の技術や戦術も、もしかしたら参考になるかも」
〈クラリス〉「私はリクさんのところにはどんな本があるかが知りたいです!」
花組は別の世界からやってきた人間に興味津々であった。
〈リク〉「えッ、いや、その……」
質問攻めにされてたじろぐリクとの間に、神山が割って入る。
〈神山〉「まぁみんな、落ち着け。気持ちは分かるが、一辺に聞いたらリクくんも困るだろう。一つ一つ質問しよう。リクくん、いいかな?」
〈リク〉「構いません。けど、僕もそんな物知りって訳じゃないから、どこまで期待に応えられるか分かりませんけど……」
あらかじめ断ってから、質問に回答していこうとするリク。
だがその寸前に、緊急警報がサロンに響いた。
〈さくら〉「あっ! また降魔が!?」
〈初穂〉「またかよ! いいところで……!」
〈神山〉「ぼやいてもしょうがないぞ! すぐに出撃準備だ!」
〈リク〉「僕も行きます!」
すぐに指令室へと駆け出す花組の後に、リクも続いていった。
ウォォォォオオオオオ――――――ン……!!
帝都を侵攻し、出撃した帝国華撃団・花組と交戦している巨大なロボット怪獣が、咆哮のような金属音を発する。この敵を前にして、初穂が冷や汗混じりに舌打ちした。
〈初穂〉『またこいつかよっ! 昨日倒したじゃねーか!』
〈神山〉『こんなにも早く復活するとは……しかも、改造が施されてる……!』
神山たちの霊子兵装の前方にそびえ立つのは、昨日と同じギルバリス。しかしその右腕はトゲつきの鉄球、左腕は盾を備えた剣に変わっている。
〈あざみ〉『あの腕の武器、いつも出てくる傀儡機兵のものに似てる……大きさは全然違うけれど……』
ギルバリスの両腕を観察したあざみがそうつぶやいた。
彼女たちは知る由もないが、このロボット怪獣は、摩上がギルバリスメダルに野槌と大盾のメダルを加えてゼットライザーでフュージョンした、傀儡機兵
「グワアアアアアアア!」
アナスタシアが操縦するウインダムが、右腕のスリットから銃身を伸ばし、合鉄ギルバリスに銃撃を放つが、盾で防がれる。
そしてギルバリスの胴体部から生える無数の砲身から、歪曲ビームやミサイルが雨あられとなって花組に襲い掛かる!
〈アナスタシア〉『うぅっ!』
〈クラリス〉『くぅぅっ……!』
ギルバリスの放火攻撃を、ウインダムや無限がレーザー、魔法弾等の攻撃での相殺を狙う。
〈さくら〉『やぁーっ!』
〈神山〉『はぁぁ―――ッ!』
民家に命中しそうなミサイルをさくら、神山が刀で斬り払って家屋を守る。
しかし、
〈さくら〉『うっ……弾幕が激しすぎる……! 防ぎ切れない……!』
ギルバリスの弾薬は無尽蔵であり、どれだけ奮戦しても弾幕が途切れることがない。花組は防戦一方で、反撃する余力もなかった。
〈アナスタシア〉『このままじゃ、実用行動時間が終わってしまうわ……!』
〈神山〉『まずい……セブンガーはまだ出撃できないのに……!』
セブンガーは強制コントロールを受けた影響で内部機構に損傷があり、その修繕が完了していないのだった。
追いつめられる花組の元へ、リクが物陰から飛び出してくる。
〈リク〉「僕が戦いますッ!」
〈神山〉『リクくん!』
〈リク〉「ジーッとしてても、ドーにもならねぇ!」
リクがゼットライザーのトリガーを押し、展開した超空間の入り口にまっすぐ飛び込んでいった。
〈リク〉「はッ!」
〈神山〉『俺も行くぞッ!』
リクの後を追うように、無限から飛び出した神山も超空間を開いて、その中へ駆け込んだ。
まずはリクが自身のウルトラアクセスカードを手に取り、ライザーに挿し込む。
[RIKU, Access Granted!]
続いで腰のホルダーから三枚のメダルを取り出した。
〈リク〉『「ライブ! ユナイト! アップ!」』
神山の持っているものとは異なるメダルを、一枚ずつライザーのディスク部にセットしていく。
〈リク〉『「ウルトラマンギンガ! ウルトラマンエックス! ウルトラマンオーブ!」』
そしてディスクをスライドして、ウルトラメダルをスキャン。
[GINGA! X! ORB!]
〈リク〉『「はぁぁッ! 集うぜ! 綺羅星!!」』
ランプが赤く光ったライザーを胸の前に置いて、トリガーのスイッチを押した。
『ショオラッ!』
『イィィィーッ! サ―――ッ!』
『ジェアッ!』
〈リク〉『「ジィィィ―――ドッ!」』
ウルトラマンギンガ、エックス、オーブのビジョンが飛び、初代ウルトラマンとウルトラマンベリアルのビジョンと重なり合って、初期変身を果たしたリクが更に変身する。
[ULTRAMAN-GEED! GALAXY-RISING!!]
ベリアルの双眸、交差する銀河、X状の閃光、O型の光輪を抜けて、光と闇の渦の中からウルトラマンジードが飛び出していく!
「ハァッ!」
そして神山が変身する。彼もアクセスカードを手に取って、ゼットライザーに挿入した。
[SEIJŪRO, Access Granted!]
〈神山〉『「天宮剣術、秘伝の神剣!」』
こちらは二枚のウルトラメダルと、さくらのメダルをセットした。
[ZERO! SEVEN! SAKURA!]
神山の背後に立ったゼットが腕を広げる。
〈ゼット〉『ご唱和ください、我の名を! ウルトラマンゼーット!!』
〈神山〉『「ウルトラマン! ゼェ―――ット!!」』
高々とゼットライザーを掲げて、トリガーのスイッチを押す。
『ハッ!』
『デュワッ!』
『やぁーっ!』
[ULTRAMAN-Z! SAKURA-EDGE!!]
「ジェアッ!」
ゼロ、セブン、そしてさくらのビジョンと一体となって、桜吹雪の渦の中からゼットが飛び出していく!
そうしてウインダムをかばうように合鉄ギルバリスの正面に現れたのは、ウルトラマンジード・ギャラクシーライジングとウルトラマンゼット・サクラエッジだ!
乱入してきた二人のウルトラ戦士の姿を前にして、ギルバリス内の摩上が大きく舌打ちした。
〈摩上〉『「ちッ! 一人でもうざってぇのに、二人になりやがるとは!」』
〈ロソス〉『奴はウルトラマンジード……ゼットよりも戦闘経験が豊富で、より手強い相手だ……』
軽く説明したロソスが、ジードに注目したままほくそ笑んだ。
〈ロソス〉『しかし……ふふ……奴の
〈摩上〉『「ん? そりゃどういう意味なんだ?」』
〈ロソス〉『まぁまずは応戦だ……最初はジードを狙え……』
アドバイスを送るロソスが、何かの目的のためにそう摩上を焚きつけた。
「ハァッ!」
ギルバリスの砲撃の乱射を、ジードが丸形、ゼットが方形のバリアで防ぐ。
「ゼアッ!」
砲撃がやむと、ゼットがゼットランスアローを、ジードがゼットライザーを武器にしてギルバリスに向かっていく。
「ハァァッ!」
「ゼアァッ!」
左右から斬撃を繰り出すが、ギルバリスは腕のメイスと大剣で受け止め、二人同時に押し返した。
〈ジード〉『くッ、昨日よりもパワーが上がってる……!』
〈ゼット〉『何のぉッ!』
ゼットがメイスをいなして、槍を相手の頭部に振り下ろし、そのまま抑えつける。その隙にジードがライザーで激しく斬りつける。
「ヤァッ!」
だがギルバリスの堅牢な機体にはさしたるダメージもなく、二人とも振り払われた。ゼットはメイスで殴りつけられる。
「イヤァッ!」
ジードが再び接近していくも、胸部の銃口から連射される光弾で迎撃された。
「ウワッ!」
ジードを押し返した隙に、ゼットに対して砲撃を集中して放つ。
〈神山・ゼット〉「『ゼスティウム桜吹雪!!」』
ゼットはランスアローからゼスティウム桜吹雪を放って砲撃を斬り払い、この間に神山がメダルを交換する。
〈神山〉『「空に輝く、勇気の赤星!」』
新たにアナスタシアのメダルと、エース、タロウのメダルをセットしてスキャン。
[ANASTASIA! ACE! TARO!]
〈ゼット〉『ご唱和ください、我の名を! ウルトラマンゼーット!!』
〈神山〉『「ウルトラマン! ゼェ―――ット!!」』
掲げたゼットライザーから生じる閃光が、視界を白く塗り潰す。
『ふっ!』
『トワァーッ!』
『タァーッ!』
片手で拳銃を構えるアナスタシアのビジョンに、飛び交うエースとタロウのビジョンと重なって一つの光になる。
[ULTRAMAN-Z! STELLA-SMASH!!]
「ジェアッ!」
満点の星空から飛び出すのは、額やカラータイマーの周りに五芒星型の装飾を取りつけたウルトラマンゼット・ステラスマッシュだ!
「ゼアッ!」
拳銃を召喚して発砲するゼットに合わせて、ジードが突貫していく。が、ギルバリスは左腕の盾で銃弾を防ぎ、向かってきたジードにはメイスを腹部に叩きつける。
「ウッ!」
ひるませた隙に、ジードの肩に一本角を突き刺した!
「ウワァァァ――――ッ!!」
〈神山〉『「ジード!」』
すかさずゼットが走り、ジードを逃がして代わりに己が肉弾を打ち込む。
「ゼアッ! ゼェアッ!」
筋肉質な肉体から繰り出されるパンチに、角を押し返してのローリングソバット。だがギルバリスの巨体を揺るがすことは出来ず、大剣を振るわれて吹っ飛ばされた。
「ゼアァッ!」
〈ジード〉『ゼット、大丈夫!?』
今度はジードがゼットを助け起こした。
〈ジード〉『腕の武器を砕くよ!』
〈ゼット〉『はい!』
ジードとゼットが同時に光刃を放つ。
〈神山・ゼット〉「『ステラクレセントスラッシュ!」』
〈ジード〉『レッキングリッパー!』
しかし、ギルバリスの放った砲撃によって命中する前に撃ち落とされてしまった。
ゼットとジードの二人がかりでも圧倒する合鉄ギルバリスに、花組は歯がみをしていた。
〈あざみ〉『駄目、遠近攻防ともに隙がない……!』
〈初穂〉『くっそー! 何か手はねぇのか!?』
〈さくら〉『ゼットさん……ジードさん……!』
その頃、指令室ではナシルマが、アナスタシアにあることを連絡していた。
〈ナシルマ〉「もうすぐプログラムが完成するから、手筈通りに頼むよ!」
〈すみれ〉「どうなさるおつもり?」
すみれに問われ、作戦を語るナシルマ。
〈ナシルマ〉「サーリン星奪還戦と同じ手で行きます。あれの情報処理を低下させて行動を阻害する」
〈デュエス〉「奴の人工頭脳にウィルスでも打ち込むつもりか?」
〈ナシルマ〉「もっといいやり方だよ」
プログラムを打ち込み終わると、すぐさまウインダムに転送した。
〈ナシルマ〉「完了! 弾丸に入力したから、それを直接撃ち込んで!」
〈アナスタシア〉『了解!』
ウインダムの右腕が持ち上がり、銃口をギルバリスに合わせる。ギルバリスはゼットたちに注意が向いていて、ウインダムの動きには気がついていない。
〈アナスタシア〉『そこっ!』
「グワアアアアアアア!」
ギルバリスの肩口がこちらに向いた瞬間に発射! 弾丸がギルバリスの肩に食い込む。
途端、ギルバリスがガクリと肩を落とし、蒸気を噴き出して行動を停止した!
〈さくら〉『止まった!』
〈初穂〉『うおー!? やったぜー!!』
〈クラリス〉『すごい! どうやったんですか!?』
ナシルマがネタを解説する。
〈ナシルマ〉「AIは出題された計算式を解かずにはいられない。だから終わらない計算を与えれば、延々解き続けちゃうって訳さ」
〈デュエス〉「終わらない計算? そんな高度な問題があるのか?」
〈ナシルマ〉「あはは。簡単だよ」
ナシルマが得意げに告げた。
〈ナシルマ〉「円周率」
合鉄ギルバリスの動作が停止したことに摩上は大いに焦る。
〈摩上〉『「ど、どうしたんだ!? 動かなくなっちまったぞ!?」』
〈ロソス〉『まずい! 再起動だ!』
だが仲間たちが作った絶好のチャンスを、みすみす逃すゼットたちではない!
〈ゼット〉『ウルトラ燃えてきたぜぇーッ! 行きましょう、ジード先輩!』
〈ジード〉『ああ!』
ジードがゼットライザーのディスクを一旦戻し、トリガーのスイッチを押してからメダルを再びスキャンしていく。
[GINGA! X! ORB!]
〈ジード〉『ギャラクシーバースト!』
ゼットライザーにエネルギーを集め、光輪とX字の閃光、交差する銀河状の円盤を展開してから大型の光刃を発射した!
光刃がギルバリスに突き刺さり、爆発を引き起こして腕のメイスと大剣、大盾を粉砕!
そしてゼットが拳銃の照準を、ギルバリスのコアにピタリと合わせた。
〈神山・ゼット〉「『ゼスティウムミデン!!」』
全エネルギーを注ぎ込んで発射された弾丸が、ギルバリスを貫く!
全身からスパークを起こした合鉄ギルバリスが、大爆発とともにバラバラに砕け散った!
「シュアッ!」
「シュワッチ!」
完全にギルバリスを粉砕したジードとゼットは、そろって空へ飛び上がって帰還していった。
リクは花組の面々に向かって礼を述べる。
〈リク〉「ありがとうございます。お陰で助かりました」
そんなリクに花組は思わず苦笑。
〈初穂〉「なーに言ってんだよ。助けられたのはこっちの方だぜ!」
〈神山〉「ああ。リクくんがいなかったら、あの強敵に勝つことが出来なかった。ありがとう」
〈リク〉「いえ、そんな……」
〈さくら〉「それより、わたしたちには戦いに勝った後にやる伝統行事があるんです! せっかくだから、リクさんも一緒にやりましょう!」
〈リク〉「え? 伝統って……わッ!?」
さくらたちに腕を引かれ、リクは六人の間に引き込まれた。
〈さくら〉「せーの! 勝利のポーズ、決めっ!!」
ビシッとポーズを決める花組。リクは咄嗟にドンシャインのポーズを取った。
〈アナスタシア〉「ふふっ、いきなりにしては決まってたわね」
〈初穂〉「あっはっはっ、変わったポーズ取るんだなぁ」
〈リク〉「こ、これは僕の手本のヒーローのポーズなんです。……ところで」
ふと、リクが辺りを見回して尋ねた。
〈リク〉「ゼロは? ゼットと一緒にいるって聞いたんだけど……」
〈クラリス〉「え? ゼロって確か……」
〈あざみ〉「ゼットの師匠の……」
途端に神山は表情を曇らせた。
〈神山〉「その人は、四次元空間に呑み込まれて離ればなれになってしまったそうなんだ。今どうしてるかは、俺たちにも……」
〈リク〉「そうだったんですか!? ゼロ……」
リクは大空を見上げ、その彼方に消えたウルトラマンゼロの身を案じた――。
――敗走した摩上は、ライザーの亜空間内で、ギルバリスの破片から持ち帰ったグリップ型の機械を手にしていた。
〈ロソス〉『そいつを使ってみろ……』
ロソスの指示通りに機械を起動すると――摩上の面前に、大量の人型のロボット兵が現れた。
〈摩上〉『「うおッ!? 何だこりゃ!」』
〈ロソス〉『ギルバリスのアンドロイド兵士だ……。こいつはいい手足になる……。それと……』
そしてもう一本、手に持っているのは、ガラス管に満たした真っ赤な血液。――角を突き刺した際に採取した、ジードの血であった。
〈ロソス〉『これはいいものを手に入れた……!』
〈摩上〉『「いいものって……あんな奴の血なんか何になるってんだよ? 兄弟」
〈ロソス〉『まぁ見ていろ……面白いことになるぞ……クククク……!』
ロソスは答えず、ただ薄暗い笑い声を亜空間に響かせていた……。
(ED:桜夢見し)
『花組のウルトラナビ!』
神山「今回紹介するのは、ウルトラマンギンガだ!」
初穂「ギンガはニュージェネレーションの一番手だ! ウルトライブって能力を持ってて、スパークドールズを使って怪獣に変身することが出来るんだぜ!」
初穂「最初のニュージェネってことで以降の作品でも出番は多めだ。最近だと、『ウルトラギャラクシーファイト』で一番いいとこ持ってったりもしてたな」
初穂「『Z』じゃサブヒーローになったジードの新形態ギャラクシーライジングを構成するメダルの一つになってる。ギンガサンダーボルトが元になったプラズマ光輪はギルバリスの攻撃も撃ち落とす威力だぜ!」
ゼット『そして今回の華撃団隊員は桐島カンナだ!』
初穂「桐島流琉球空手の28代継承者だ! 旧花組の中じゃダントツで背が高く、大食いでまるで男みてーだが、意外と恥ずかしがり屋だぜ。そして人情家で涙もろく、すみれさんとは犬猿の仲だったが、引退の時には大泣きしたんだって」
初穂「それじゃ、次回もよろしく!」
こまち「遂に華撃団大戦が始まるで! 神山さんたち、ホンマに勝てるんかいな……? って、開会式が降魔に襲撃されよった!? 一体どうなってしまうんやー!」
「次回、『危機一髪!平和の祭典』。太正桜に浪漫のZ!」
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幕間「ジードとデュエス」
(サロン)
〈デュエス〉「――とまぁ、こんなとこが帝都の大まかな文化と常識だ。ここに滞在する間は、特に円の価値が全然違げぇのには気をつけな」
〈リク〉「分かった。ありがとう、デュエス。ペガたちとはぐれてどうしようと思ってたけど、僕を知ってる人がいて助かったよ」
〈モフロ〉「困ったことがあったならば、デュエスくんだけでなくわしらもいつでも頼ってくれ、リクくん」
〈リク〉「ありがとうございます」
〈ナシルマ〉「それにしても、デュエスってウルトラマンジードと知り合いだったんだ。それならそうと言えばいいのに」
〈デュエス〉「宇宙指令には関係ねぇ話だからな」
〈アナスタシア〉「しかも、ただの知り合いじゃなく、それなりに親しい間柄みたいね」
〈リク〉「まぁね」
〈さくら〉「ということは……デュエスさんって、リクさんのお仲間だったんですね! わたしたちにしてくれるみたいに、リクさんのことも助けてあげてたんですね!」
〈デュエス〉「逆」
〈さくら〉「え?」
〈リク〉「あー……今でこそこうして話してるけど、昔の僕たちはね……敵同士だったんだよ」(※『やはり俺がウルトラマンジードなのはまちがっている。』参照)
〈さくら〉「えー!?」
〈デュエス〉「何度もこいつのこと殺そうとしたわ」
〈さくら〉「ええー!!?」
〈モフロ〉「うむ……怖がらせてはいかんと思って君たちには伏せておったが、デュエスくんは人々を脅かす侵略者だったのじゃよ」
〈ナシルマ〉「ここでの降魔みたいな立場だったって訳」
〈アナスタシア〉「い、意外な過去ね……」
〈リク〉「でも、もう悪い奴じゃなくなったんだよ! だから、怖がったりしないでね?」
〈さくら〉「それは大丈夫ですけど……いやぁ、驚きました」
〈ミースア〉「お兄ちゃんったらそれ知らないで、紹介された時にはすっごい悲鳴上げてたですよー」
〈ナシルマ〉「それはミースアもでしょ!」
〈さくら〉「でも、ちょっと信じられません……こんな親切ないい人のデュエスさんが、そんな悪いことしてただなんて……」
〈アナスタシア〉「一体、どんな理由があったの……? 差し支えなければ、話してくれないかしら」
〈デュエス〉「まぁ、色々あったが……昔は性根がすっげぇ腐っててな。それをジードたちに叩き直してもらったんだ。いや、いつ思い返してもろくでもねぇクズだったぜ」
〈リク〉「それはデュエスのせいじゃないよ! レイブラッド星人がそうなるように仕組んだからじゃないか」
〈デュエス〉「いや、俺の心が弱かったせいだ。だからこれからは強い心を抱き続ける。その決意は、何があっても忘れねぇつもりだ」
〈アナスタシア〉「……デュエスも、色々と大変だったみたいね……」
〈モフロ〉「人に歴史ありじゃ。様々な過去があって、人の今がある」
〈ナシルマ〉「そうだねー。僕もデュエスとモフじいでチーム組むってなった時は、元侵略者とヨボヨボのおじいさんが同僚で、最悪の職場だって嘆いたもんだけど」
〈デュエス〉「はっきり言いやがるな、本人の前で……」
〈ナシルマ〉「でもつき合ってみたら、気のいい人たちで。今は良かったって思ってるよ」
〈ミースア〉「過去なんて関係ないですよねー」
〈さくら〉「そうですね! 過去のことに囚われずに、今のその人を見るのが大事なことですよね!」
〈リク〉「うん。どんな生まれでも、どんな経歴があっても、正しいことをしようという意志があれば、人はいくらでも生まれ変われるんだよ!」
〈アナスタシア〉「……」
〈さくら〉「? アナスタシアさん、どうかしましたか? そんなうつむいて」
〈アナスタシア〉「……いえ、何でもないわ……」
〈リク〉「ともかく、ここにいる間は僕も君たち帝国華撃団に協力するよ。ドタバタしたけど、改めてよろしくね!」
〈さくら〉「ありがとうございます! こちらこそ、どうぞよろしくお願いします!」
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第七話「危機一髪!平和の祭典」(A)
――ゼットライザーの作り出す亜空間内で、摩上がメダル製造装置の材料投入口に、ガラス管に満ちた血液を流し込んでいた。合鉄ギルバリスに変身していた際に、ジードから抜き取ったものだ。
そして装置のハンドルを回し、一枚のメダルを作り出す。その絵柄は……。
〈ロソス〉『ふふ……遂に成功だ……。完成したぞ……ベリアルメダルが……!』
漆黒のウルトラ戦士が描かれたメダルをつまみ上げる摩上。
〈摩上〉『「おおッ……! 今度は作ってすぐに消滅しねーな!」』
〈ロソス〉『やはり……死んだ細胞のデビルスプリンターと、生きた肉体から採取した因子では訳が違うな……。やっとメダルを安定させることが出来た……』
彼らはデビルスプリンターの大元である、ウルトラマンベリアルのメダルを作り出すために、ベリアルの遺伝子を継いでいるジードを狙ったのであった。
〈摩上〉『「しかし、ここまでして作る必要があるもんだったのか? こいつは」』
〈ロソス〉『もちろん……。このメダルがあれば、今までは一度使うと崩壊してしまっていた怪獣メダルも安定化させ……使い回せるよう加工できるのだ……。出力も上げられるぞ……』
〈摩上〉『「おおー! そりゃお得だな!」』
〈ロソス〉『ふふ……ただ使いやすさが向上するだけではない……
摩上が振り向いた先には、鎖で縛りつけられた二つの異形の影がある。
「グギャアアアッ!」
「ギャアアアアッ!」
プレジデントGから借り受けた、二体の下級降魔が騒がしく吠えていた――。
(OP:檄!帝国華撃団〈新章〉)
第
危 七
平 機 話
和 一
の 髪
祭 !
典
その日の帝都は、早朝から街中の人間が落ち着かない足取りであった。
その原因を、ラジオのアナウンサーが高らかに語る。
『全世界の華撃団大戦ファンの皆様、お待たせ致しました! 第3回世界華撃団大戦の舞台、ここ帝都東京に、続々と各国の華撃団が集結しております……!』
〈リク〉「華撃団大戦?」
帝劇で、リクが初穂、クラリスを相手に尋ね返した。
帝都に来てから日が浅く、知識が乏しいリクに、初穂とクラリスがおおまかな説明をする。
〈初穂〉「世界中の華撃団が集まって一番を決めるっていう、二年に一度のお祭りさ。世界中の人が注目してるんだぜ」
〈クラリス〉「私たち新帝国華撃団は結成からまだまだ日が浅く、チームとしてあまり認められてないのが現状ですので……これに優勝して、一個の華撃団としての地位を確立するのが目下の最大の目標なんです」
〈リク〉「なるほど……それが始まるから、みんな朝から忙しくしてたんだね」
〈初穂〉「ああ、いよいよ世界の華撃団が帝都に集まったからな。神山とさくらも今頃は、今年の開催国の代表として各華撃団のとこに挨拶回りしてるはずさ」
話をしながら移動する三人。そうして劇場の食堂に差し掛かったところで、
〈ナシルマ〉「あッ、ジー……リクさ~ん」
ナシルマとミースアが、もう一人見慣れない人物とともに、一個のテーブルを囲んでいるのに出くわした。
〈リク〉「ナシルマさん、ミースアちゃん」
〈初穂〉「何だ何だ、今日という日にこんなとこで優雅に昼食たぁ、いいご身分じゃねーか」
〈ナシルマ〉「いや~、朝からドタバタしててちゃんと食べてなくってさ~。腹が減ってはイグサも生えないって言うじゃん?」
〈初穂〉「それを言うなら戦も出来ぬだよ」
ナシルマたちのテーブルの上には、オムライスの皿が並んでいた。
〈クラリス〉「またオムライスを注文したのですか? お好きですね」
〈ナシルマ〉「だってここのオムライス美味しいし~」
〈ミースア〉「宇宙レベルのお味です~」
ナシルマとミースアの言葉に、彼らと一緒にいる人物が口を開いた。
「全くその通り。オムライスには幸せの全てが詰まっているんだ。特にここのオムライスは絶品だよ」
その人物に目を向けるリク。
まるで歌舞伎役者のように白粉を顔中に塗っており、年齢が外見からでは判別し難い。一見すると若者のようだが、柔らかく落ち着いた物腰はもっと上の、四十代五十代のようにも見える。性別も定かではない不思議な雰囲気の人で、傍らには何故か刀をテーブルに立てかけていた。
「おや……君は見ない顔だね」
その人物の方から、リクに呼び掛けてきた。
〈白秋〉「私の名は村雨白秋だ。君は?」
〈リク〉「朝倉リクと言います。色々あって、今はここのご厄介になってまして」
〈白秋〉「……なるほど。何やらただならぬ事情を抱えているのに相応しい様子だ」
リクを軽く観察した白秋がそう言い当てたので、リクは少しばかり驚いた。
〈リク〉「えッ、分かるんですか?」
〈白秋〉「ふっ……剣の道を生きていると、それくらいのことは見ただけでも察せるようになるものだよ」
〈クラリス〉「白秋さんはさくらさんの剣のお師匠さんなんですよ」
〈リク〉「へぇ……」
村雨白秋について、クラリスが補足を入れた。
〈白秋〉「ところで、いよいよ華撃団大戦が開催されるね。巷では、特空機無しでの君たちの実力を疑問視する声が大きいが……私は、君たちの実力は決して他の華撃団に劣ってはいないと見ている。これを機に、世間の評判を見事ひっくり返してくれ。応援しているよ」
〈クラリス〉「ありがとうございます」
〈初穂〉「ああ! ばっちり優勝して、世間の目を覚まさせてやりますよ!」
激励の言葉を送る白秋に、クラリスと初穂が意気込んで応えた。
――世界華撃団大戦開会式の当日。花組の面々が、他の華撃団と会場の芝生の上に並んでいるところを、観客席からリクがナシルマ、ミースア、デュエスと一緒にながめていた。
〈リク〉「あの人たちが他の華撃団か……。みんな強そうだね」
〈デュエス〉「中でも優勝候補に挙げられてるのは上海と倫敦、そして伯林の三つだ」
デュエスがチームを一つ一つ説明する。
〈デュエス〉「上海は十五年前の降魔大戦から、新帝国華撃団誕生までの間、帝都の防衛を務めた実績持ち。倫敦は英国騎士の流れを汲む実力派ぞろい。そして伯林は過去二回の大戦の優勝者の、候補筆頭だ。どいつも一筋縄じゃいかねぇ相手なのは確かだな」
〈ミースア〉「ですけど、優勝は花組のみんなですよ~! ミースア、信じてますー!」
ミースアの言葉にうんうんとうなずきながら、ナシルマがつぶやく。
〈ナシルマ〉「っていうか、特空機で出場できれば勝ったも同然なのにね」
〈リク〉「いや……それは流石にずるくない?」
〈デュエス〉「そもそも会場が壊れるだろ」
リクたちが呆れて突っ込んだ。
そんなやり取りはよそに、華撃団の隊員たちは開会の時を今か今かと待ち受けている。
その中のさくらが、過去の帝国華撃団の、伝説の隊員、真宮寺さくらのブロマイド写真を取り出して誓いを立てた。
〈さくら〉(真宮寺さくらさん、見ていて下さい。わたしたち……頑張ります)
やがて会場のメインモニターに、主催者のプレジデントGの顔が大きく映し出された。
〈G〉『私は世界華撃団連盟・事務総長のプレジデントG。ここに、第三回世界華撃団大戦の開会を宣言――』
早速開会宣言を行おうとしたプレジデントGであったが――。
その瞬間に、プレジデントGの顔が歪んで画面から消え、代わりに仮面の女の顔が現れた。
〈G〉『な、な、何だ一体!!』
突然の事態に、会場中の人間が騒然となる。その反応に構わずに、仮面の女が言い放った。
〈夜叉〉『我が名は夜叉。幻都よりの使者である。封印の鍵である『帝鍵』を差し出しなさい。さもなくば……お前たちは、全て滅びるでしょう』
〈神山〉「な、何だ? どうなってるんだ……?」
〈シャオロン〉「演出の一環か?」
いきなり開会式を乗っ取って、意味の分からないことを告げる夜叉に、神山たちはそろって困惑する。
その中で、夜叉の顔をじっと観察したさくらが、ハッと息を呑んだ。
〈さくら〉「……!?」
さくらの目に、夜叉の顔立ちと、己の憧れの人の顔が重なり――輪郭が一致した。
夜叉が大きく腕を振ると――会場の外に停泊している空中戦艦の一隻が突如爆破される。
〈G〉「わ、わたしの船があああああああッ!!」
「わぁぁぁ――――――――ッ!?」
「きゃああぁぁぁぁぁ―――――――っ!!」
その爆音によって会場に集まった観客たちから一斉に悲鳴が巻き起こった。しかしそれだけではない。
会場の至るところに浮かび上がった、降魔の妖力によるゲートから無数のアンドロイド兵士が出現し、剣を振りかざして観客たちに襲い掛かり出したのだ!
「きゃあぁぁ―――――――――!?」
瞬く間に大パニックとなる会場。デュエスはアンドロイド兵、バリスレイダーの姿に驚愕する。
〈デュエス〉「ギルバリスの使ってた兵隊だ!」
〈ナシルマ〉「ってことは、あの仮面の人は降魔!?」
〈リク〉「大変だ! 会場の人たちを助けないとッ!」
一連の出来事が何らかの催し物などではないと悟ったリクたちや華撃団は、即座に襲われる人々を救うために行動を始める。
〈シャオロン〉「ユイ! すぐに司令に連絡を! 王龍を回してもらえッ!」
〈ユイ〉「う、うん!」
〈アーサー〉「こちらもすぐにブリドヴェンを!」
〈エリス〉「アイゼンイェーガーを急げっ!」
各隊の霊子戦闘機を呼び寄せようとする華撃団だが……彼らの周りにも、観客を襲うより多くのバリスレイダーが出現して取り囲んだ。
〈アーサー〉「……悠長に待ってはくれないか」
〈エリス〉「やむを得ないな……応戦っ!!」
華撃団隊員たちは剣や銃など各自の得物を抜いて、バリスレイダーに応戦していく。
〈神山〉「俺たちも行くぞッ!」
〈初穂たち〉「「「「了解!!」」」」
花組もバリスレイダーを迎え撃とうとするが……さくらは立ち尽くして動かなかった。
〈さくら〉「あの姿……あの声は……まさか……」
〈神山〉「さくら!? どうしたんだ!」
〈初穂〉「ボーッとしてんなさくら! やられるぞっ!」
〈さくら〉「あっ……は、はい!」
しかし神山たちの声に正気に返り、刀を抜いて押し寄せる敵を相手に構えた。
〈ナシルマ〉「ミースア! バトルモード移行!!」
〈ミースア〉「はいですっ!!」
座席の背もたれに隠れるナシルマの指示でミースアが光とともに装甲に覆われ、戦闘形態となる。
〈ミースア〉「やぁーっ!!」
足裏からジェットを噴射して宙を駆り、腕より砲撃を放ってバリスレイダーを次々撃ち抜いていく。
〈デュエス〉「おうらッ!」
デュエスは棍を召喚してバリスレイダーの頭部を砕き、先端から光弾を撃って片っ端から破壊する。
だがバリスレイダーの軍団は観客席の至るところにおり、大勢の人が襲われている。
〈ミースア〉「数が多すぎるです!」
〈デュエス〉「俺は左、ミースアは右から行け。ナシルマとジードは客を逃がしな」
〈ナシルマ〉「う、うん!」
〈リク〉「気をつけて!」
四人は散開し、長方形の観客席を回って観客をバリスレイダーから逃がしていく。
〈リク〉「はぁーッ! 今の内に!」
〈女性〉「あ、ありがとうございます!」
リクが体当たりしてバリスレイダーを突き飛ばした隙に、襲われていた人たちを非常口へ走らせる。
しかしその彼に向かって、新たな兵士が斬りかかってくる!
〈リク〉「うわッ!」
咄嗟に腕を盾にするリクだったが、バリスレイダーは後ろから別の者に切り裂かれ、活動を停止して崩れ落ちた。
〈蛇倉〉「全く……相変わらず無茶な奴だ」
中国刀を肩に担いで嘆息した蛇倉の顔を見上げて、目を丸くするリク。
〈リク〉「ジャグラーさん!? どうしてここに……むぐッ!」
瞬間、蛇倉の口がリクの口をふさいだ。
〈蛇倉〉「ここでの俺は上海華撃団の司令、蛇倉だ。ちょっと正義に目覚めてな」
〈リク〉「し、しぅーつぁん……?」
〈蛇倉〉「生憎だが、感動の再会を喜んでる暇はない。ウチのひよっこどもも危なそうなんでな」
蛇倉が見下ろした先、会場の中央の芝生で、今も華撃団がバリスレイダーに応戦している。
〈蛇倉〉「一緒に来な。ガラクタの掃除と行くぜ」
〈リク〉「は、はいッ!」
蛇倉に対する疑問は置いて、リクは観客の救出のために蛇倉と行動をともにしていった。
バリスレイダーの集団と戦う華撃団の元へ、空から霊子戦闘機が二機投下されてくる。上海華撃団の王龍だ。
〈ユイ〉「シャオロン! 王龍だよ! きっと司令からだ!」
〈シャオロン〉「流石だぜ司令! これで逆転だ!」
ユイとシャオロンがすぐさま飛び乗って、王龍の拳でバリスレイダーを端から殴り飛ばしていく。
〈ユイ〉『はっ! たぁーっ!』
〈シャオロン〉『はッ! 上海華撃団を舐めるなよ!』
物量で押してきていたバリスレイダーだが、王龍の力によって一気に巻き返していく。
しかし、
〈あざみ〉「はっ……!? すさまじい殺気……!」
〈アナスタシア〉「あれは……!」
バリスレイダーの波を二つに分けながら、華撃団の前に仮面の女が進み出てくる。――この騒ぎを引き起こした夜叉だ。
〈シャオロン〉『頭のお出ましか! 行くぞ、ユイ!』
〈ユイ〉『うんっ!』
シャオロンとユイは夜叉の左右から速攻を掛ける。
〈ユイ〉『これ以上好きにはさせないっ!』
〈シャオロン〉『帝都の平和は今まで通り、俺たちが守ってやるぜッ!!』
二機の王龍の拳が、左右から夜叉に叩き込まれる!
〈初穂〉「やった!!」
〈エリス〉「……いや!」
だが――拳は両方とも、夜叉の前で見えない壁にぶち当たったかのように止まっていた。
〈シャオロン〉『何ッ……!?』
〈ユイ〉『な、何て妖力……!』
戦慄する二人へ向けて、夜叉が言い放つ。
〈夜叉〉「帝都の平和が、守れるものですか……偽りの華撃団に!!」
〈シャオロン〉『何だと……!』
夜叉の振るった刀から斬撃が飛び、王龍を二機とも切り裂いた!
〈シャオロン〉『ぐわぁぁぁぁッ!?』
〈ユイ〉『わああぁぁぁぁぁぁっ!!』
〈さくら〉「ユイさんっ! シャオロンさんっ!」
夜叉は倒れたシャオロン機にとどめを刺そうと、抜き身の刀を手ににじり寄っていく。
〈さくら〉「や、やめてっ!!」
〈クラリス〉「さくらさん!」
思わず飛び出したさくらだが、そのために夜叉の矛先が彼女に向く。
〈さくら〉「あ……!?」
〈初穂〉「お、おいさくら! 何立ちすくんでんだよ!?」
夜叉ににらまれたさくらは、何故か刀を構えようともしない。初穂たちが焦るが、バリスレイダーの壁に阻まれてしまっていた。
〈神山〉「さくらッ!!」
神山は戦いながら、脱出経路を確保するために非常口周りのバリスレイダーを斬り倒していたが、そのせいでさくらの元から遠く離れてしまっていた。ここからでは間に合わない!
と、その時に、左手が彼の意思を無視して動き、ゼットライザーを取り出した。
〈神山〉「なッ……!? か、身体が勝手に……!!」
刀をアクセスカードに持ち替え、ライザーに挿し込む。
[SEIJŪRO, Access Granted!]
メダルを収めずにライザーのディスクをスライドさせ、展開されたゲートが神山を通り抜けると――彼の身体が、身長はそのままにゼットのものに早変わりしていた。
〈神山〉『「ゼット、これは……!?」』
〈ゼット〉『ウルトラ緊急事態だ。お前の身体を借りるぞ!』
〈神山〉『「こんなこと出来たのか!」』
〈ゼット〉『いつもの逆パターンだ。しかしパワーの消耗がウルトラ激しいから、活動できるのは地球時間で五十秒! 急ぐぜぇッ!』
ゼットが光の速度で走り、バリスレイダーの包囲を強引に突破して、さくらの元へ駆け込む。
そしてさくらに振るわれた夜叉の刃が、青い光の残像をすり抜けた。
〈夜叉〉「……?」
〈シャオロン〉「な、何が起きた!?」
〈ユイ〉「あっ! あれ!!」
王龍から脱出したユイが指差した先、夜叉の背後で――ゼットがさくらを抱え上げていた。
〈さくら〉「ゼットさん……!」
華撃団隊員たちは、突如現れたゼットに驚愕。
〈アーサー〉「あれがウルトラマンゼット……!」
〈ランスロット〉「何か小さくない!?」
〈ユイ〉「さくらを助けてくれたんだ!」
〈エリス〉「――羨ましい……!」
〈マルガレーテ〉「隊長!?」
さくらをそっと下ろすゼットに、夜叉が猛然と斬りかかっていく。
〈夜叉〉「おのれっ!」
「ゼアッ!」
ゼットはライザーを武器にして、夜叉の刃を弾いた。
〈夜叉〉「ちっ……!」
「ゼェアッ!」
夜叉と激しく切り結ぶゼット。すさまじい圧力を放つ夜叉の妖力だが、ゼットのパワーはそれを押し返す。
「ゼアッ!」
そして隙を見てトサカから光刃を放ち、夜叉の身体を斬りつける。
〈夜叉〉「うっ……!」
夜叉の頭髪がハラリと舞い散り、血液が飛び散る。しかし負傷を妖力でふさいで戦闘続行しようとしたが、
〈エリス〉「そこまでだっ!」
〈アーサー〉「残るはお前一人だけだぞッ!」
華撃団がバリスレイダーを全機撃破して、ゼットの加勢に回ってきた。逆に包囲される夜叉。
〈夜叉〉「……」
流石に分が悪いと見たか、夜叉は外套を翻しながら何十メートルも跳躍し、会場から逃げ去っていった。
〈あざみ〉「逃げた……」
〈初穂〉「へっ! おととい来やがれってんだ!」
夜叉が撤退すると、ゼットも制限時間が近づくので、猛スピードで非常口へ駆け込んでいく。
〈エリス〉「あっ、ゼット様!!」
〈マルガレーテ〉「隊長!?」
会場の廊下に隠れ、人の目から逃れたゼットは、そこで息を切らしながら立ち止まった。
〈ゼット〉『やっぱ、この状態でのバトルはウルトラきついぜ……!』
五十秒が経過し、ゼットの姿が神山のものに戻った。
〈神山〉「ありがとう、ゼット……!」
――会場の外で、亜空間に潜んで状況を窺っていた摩上は、騒ぎが落ち着いていくのを見て鼻を白けさせた。
〈摩上〉『「なーんだ、返り討ちにされてんじゃねーか。まぁこのまんま終わりでも構いやしねぇんだが……」』
〈ロソス〉『しかし、せっかくの機会だ……。ベリアルメダルの効果がどれほどか、試してみよう……』
〈摩上〉『「おおよ!」』
摩上がライザーを掲げて、闇の波動を放つ。
〈摩上〉『「待たせたなぁ。テメェらの出番だぜぇーッ!」』
夜叉とバリスレイダーを追い返して、危機を脱したかに思われた会場だったが――その外からいきなり黒い稲妻が地上から発生し、巨大怪獣が二体も立ち上がった!
「ピッギャ――ゴオオオオウ! ギャオオオオオオオオ!」
「キイイイイイイイイ! グオオオオ……!」
一体は太く巨大な、鬼を彷彿とさせる二本角を頭部から生やした、蛇腹状の肉体を持つ怪獣。もう一体は長い尾と眼球の回転するアンテナ状の角を持った、半身がくすんだ黄金色の装甲で覆われた怪獣。どちらも、降魔融合獣を表す球体が胸部に埋め込まれている。
摩上が怪獣メダル二枚をそれぞれ下級降魔に埋め込んで、巨躯の融合獣に変異させた、イ式スカルゴモラとロ式サンダーキラーである!
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第七話「危機一髪!平和の祭典」(B)
目につく敵は全て撃退し、観客も会場から全員逃がして、ひと息つけるかと思われたが、そこに観客席の向こうの背景にイ式スカルゴモラとロ式サンダーキラーがそびえ立った。
「ピッギャ――ゴオオオオウ! ギャオオオオオオオオ!」
「キイイイイイイイイ! グオオオオ……!」
その威容に驚愕する華撃団隊員たち。
〈あざみ〉「怪獣! しかも二体も!」
〈初穂〉「やべーぞ! 今特空機出せねぇってのに!」
焦りを覚える花組。何しろ六人全員が開会式に出席していた訳だから、特空機で出撃する人員が劇場に一人もいないのだ。
動揺しているところに、非常口から出てきた神山が叫ぶ。
〈神山〉「みんな、ひとまず外へ! 会場にいたら危険だ! 脱出口は確保した!」
〈アナスタシア〉「ええ!」
〈クラリス〉「皆さんも急いで下さい!」
各国華撃団が全員神山の誘導に従い、会場から脱出していく。
外でナシルマたち彗星組と、蛇倉とリクと合流した。
〈蛇倉〉「どうやら全員無事みたいだな」
〈ユイ〉「司令!」
〈シャオロン〉「すまねぇ司令……! 王龍をやられちまった……!」
〈蛇倉〉「構わん、お前らが無事ならどうとでもなる。それより……」
悔やむシャオロンを軽く慰めた蛇倉が、暴れ出す降魔融合獣たちを見上げ、次いでリクを一瞥した。
デュエスがドンと肘で小突くと、リクがハッとなって身を翻す。
〈リク〉「うわー怪獣だー! 助けてー!」
〈アーサー〉「あッ、待つんだ! そっちは危険だぞ!」
わざとらしく叫んで、降魔融合獣の進行先へと走っていくリク。事情を知らない者たちが動く前に、神山がその背中を追いかけていく。
〈神山〉「彼のことは俺に任せて下さい! 皆さんは、他の市民の避難誘導を!」
〈ランスロット〉「あっ、ちょっと……!」
有無を言わせぬ内に蛇倉たちが畳みかける。
〈蛇倉〉「一人をゾロゾロと追いかける必要もないだろ。ここは各華撃団で手分けして、市民の安全確保と行こうじゃないか」
〈アーサー〉「上海華撃団の司令がそうおっしゃるなら……」
〈エリス〉「では急ごう。伯林華撃団、私についてこいっ!」
〈ナシルマ〉「帝国華撃団花組は帝劇へー! 間に合うかな……」
どうにかごまかし、神山とリクを人目がない場所へと行かせることに成功した。
〈神山〉「よし、この辺でいいだろう」
角を曲がって各国華撃団の目から完全に隠れた場所に移動したところで、神山とリクは立ち止まった。
〈リク〉「行きますよ、神山さん!」
〈神山〉「あッ、少し待ってくれ!」
ウルトラマンに変身する前に、神山がさくらメダルをリクに差し出す。
〈神山〉「降魔融合獣は霊力がないとダメージを与えられないんだ。花組メダルを一枚貸そう!」
〈リク〉「ありがとうございます! じゃあ!」
神山とリクが同時にゼットライザーのスイッチを押す。
〈リク〉「ジーッとしてても、ドーにもならねぇ!」
二人を頭上からゲートが呑み込み、超空間内でそれぞれのアクセスカードを手にする。
[RIKU, Access Granted!]
〈リク〉『「参上! ユナイト! アップ!」』
リクが神山から預かったさくらメダルと、エックスメダル、オーブメダルをセットしていく。
〈リク〉『「天宮さん! ウルトラマンエックス! ウルトラマンオーブ!」』
ディスクをスライドさせ、メダルをスキャン。
[SAKURA! X! ORB!]
〈リク〉『「はぁぁッ! 咲かすぜ! 桜!!」』
スキャンが完了したライザーを胸の前に置いて、トリガーを押した。
『やぁーっ!』
『イィィィーッ! サ―――ッ!』
『ジェアッ!』
〈リク〉『「ジィィィ―――ドッ!」』
さくらのビジョンが抜刀し、エックスとオーブが宙を飛び、初代ウルトラマンとベリアルのビジョンが重なり合ってリクが変身する。
[ULTRAMAN-GEED! SAKURA-RISING!!]
ベリアルの双眸、渦巻く桜吹雪、X状の閃光、O型の光輪を抜けて、光と闇の渦の中からウルトラマンジードが飛び出していく!
「ハァッ!」
神山も己のアクセスカードを再びゼットライザーに挿入した。
[SEIJŪRO, Access Granted!]
〈神山〉『「望月忍法、秘伝の神業!」』
こちらは二枚のウルトラメダルと、あざみのメダルをセットする。
[ZERO! AZAMI! LEO!]
神山の背後に立ったゼットが腕を広げる。
〈ゼット〉『ご唱和ください、我の名を! ウルトラマンゼーット!!』
〈神山〉『「ウルトラマン! ゼェ―――ット!!」』
高々とゼットライザーを掲げて、トリガーのスイッチを押す。
『ハッ!』
『にんっ!』
『イヤァッ!』
飛び交うゼロとレオのビジョンと、真上から着地したあざみのビジョンが一つとなり、ゼットの姿を変化させる。
[ULTRAMAN-Z! SHINOBI-EDGE!!]
「ジェアッ!」
戦いの中で日が傾き、夕焼けに染まる空の下に、二人のウルトラマンが轟音を立てて着地する。
桜色のカラーリングでプロテクターを染めたウルトラマンジード・サクラライジングと、ビームランプやカラータイマーの周りに十字手裏剣型の装飾を施したウルトラマンゼット・シノビエッジだ!
亜空間内から二体の降魔融合獣を操る摩上は、二人のウルトラ戦士の登場に苛立たしく舌打ちした。
〈摩上〉『「もう出てきやがったか! せっかく神山誠十郎をペシャンコに出来るいいチャンスだってのによぉ!」』
〈ロソス〉『ほぉ……恨んでいる相手がいるのか、兄弟……』
ロソスが摩上の言動にいささか興味を持った。
〈摩上〉『「ああ。今の帝国華撃団の隊長やってる男が、俺が帝国海軍だった時の同期なんだ。だが野郎は俺を陥れやがった!」』
〈ロソス〉『何と、そんな因縁が……』
〈摩上〉『「海軍の資金を誰かがくすねてるって疑惑が起こった事件があったんだが、野郎は独自調査の結果だとか抜かして俺が犯人だと決めつけやがった! そのせいで俺は逮捕、どうにか壁越えしたがそこからずっと逃亡生活だ! 俺がどん底に落ちたのはあの野郎のせいだッ! あの時奴は、どんだけ俺じゃねぇと訴えても、聞く耳持たなかった!! まぁ俺なんだけどな」
途端、ロソスが大爆笑する。
〈ロソス〉『うわははははははははッ! ワーッハハハハハハハハハハハ!! なるほど、それは復讐しないとなぁ!!』
〈摩上〉『「おおよ! テメェら、さっさと邪魔モンをぶっ潰しちまいなぁッ!」』
摩上がライザーから闇の波動を発し、降魔融合獣に命令を出した。
「ピッギャ――ゴオオオオウ! ギャオオオオオオオオ!」
「キイイイイイイイイ! グオオオオ……!」
スカルゴモラが振動波を、サンダーキラーが電撃を纏って、建ち並ぶ建物を薙ぎ倒しながら突進してくる。それを堂々迎え撃つゼットとジード。
「ハッ!」
「ゼアッ!」
正面から向かってくる敵を、ゼットがスカルゴモラ、ジードがサンダーキラーにぶつかって止めた。密着状態から打撃を打ち込むもあまり効果はなく、それぞれの鈎爪を叩きつけられて姿勢を崩す。スカルゴモラが覆い被さるように迫るのを、飛び跳ねるように起き上がったゼットが止め、ジードがパンチを繰り出す。そこにサンダーキラーの長い尾が飛んできたので咄嗟にキャッチし、ゼットががら空きの背面に一発見舞った。直後にスカルゴモラに殴り飛ばされたが、尻尾を放したジードが前蹴りでやり返す。ロ式サンダーキラーが口吻から発射した液体弾を側転で緊急回避し、改めてゼットとともに融合獣たちを抑え込む。
「グッ!」
「ゼアッ!」
「ピッギャ――ゴオオオオウ! ギャオオオオオオオオ!」
「キイイイイイイイイ! グオオオオ……!」
だが振り払われ、ゼットはヘッドバット、ジードは尻尾の振り回しを食らってはね飛ばされた。
「ギャオオオオオオオオ! ピッギャ――ゴオオオオウ!」
スカルゴモラが地面を強く踏みつけると、岩石が複数浮かび上がり、弾丸となってジード、ゼットに襲い掛かる。
「ウワァァッ!」
「ジュアアァァッ!」
ショッキングヘルボールを食らって転がる二人。しかし起き上がりざまに反撃を仕掛ける。
〈神山・ゼット〉「『ゼット手裏剣!!」』
〈ジード〉『レッキングリッパー!』
頭部から手裏剣状の光刃を投擲するゼットと、腕を振って赤い刃を飛ばすジード。それぞれスカルゴモラとサンダーキラーに命中!
「ピッギャ――ゴオオオオウ!」
スカルゴモラは膝を撃たれてガクリと片膝を突いたが……。
「キイイイイイイイイ! グオオオオ……!」
サンダーキラーにはレッキングリッパーがまるで効いておらず、液体弾でジードを撃ち返した。
〈ジード〉『うわぁッ!?』
〈ゼット〉『ジード先輩!!』
横に倒れたジードが、ぜいぜい息を切らす。
〈ジード〉『さ、さっきから変だ……! 身体が思うように動かない……!』
帝劇へ急ぎながらも、戦闘の状況を視認した花組もジードに違和感を覚えていた。
〈あざみ〉「ジードがおかしい……! この前は、もっと機敏に戦ってたのに……」
デュエスが冷や汗を垂らして、原因を分析する。
〈デュエス〉「もしや……花組メダルが、ジードの肉体と合ってねぇのかもしれねぇ……」
〈クラリス〉「どういうことですか!?」
〈デュエス〉「ジードはウルトラマンの中でも特異体質だからな……」
ウルトラマンジードはベリアルの闇の因子を受け継いでいる、降魔の妖力のような負のエネルギーを有する戦士。同じウルトラマンの力ならともかく、花組メダルの霊力という正のエネルギーはジード自身の力と反発してしまい、彼に満足なパワーを与えてくれないのであった。
〈デュエス〉「盲点だった……このまんまじゃやべぇぜ……!」
〈初穂〉「だったらなおさら急がねーと!」
花組が焦るが、戦闘の勢いは非常に速い。果たして間に合うか。
「キイイイイイイイイ! グオオオオ……!」
「ゼアッ!」
クローに電撃を奔らせて襲い来るサンダーキラーからジードをかばい、疾風の身のこなしで翻弄するゼット。しかし、
「ピッギャ――ゴオオオオウ! ギャオオオオオオオオ!」
「グワァァッ!」
敵は一体だけではない。イ式スカルゴモラが鈎爪を振るってきて、更に振動波を流し込んでゼットを吹き飛ばす。
「ゼアァァァッ!」
〈ジード〉『ゼット!』
ジードの首にはサンダーキラーの尻尾が巻きついて、高圧電流を浴びせて苦しめる。
「グワァァァァ―――ッ!」
〈摩上〉『「はっはーッ! いいぜいいぜぇぇーッ! とどめは俺たちの手で刺してやる……!」』
ゼットたちを追いつめる降魔融合獣に上機嫌となった摩上は、自ら出撃するためにアクセスカードをライザーに挿入した。
[MAGAMI, Access Granted!]
〈摩上〉『「地獄の門を開けようぜぇ!」』
酸弾の降魔メダルと、宇宙ロボット、宇宙恐竜のメダルをセットしてスキャン。
[SANDAN! KING-JOE! Z-TON!]
摩上の背後に、ロソスの歪んだ輝きの双眸が浮かび上がった。
〈ロソス〉『恐れ慄けッ! 俺の名に!!』
〈摩上〉『「ヒア――――ハッハッハァッ!!」』
ライザーから生じた三枚のメダルのビジョンが摩上に吸い込まれ、その肉体を異形の大怪物へと変身させていく!
[PARASITE-ROSOS! HA-SHIKI PEDANIUM-ZETTON!!]
グワアッシ……グワアッシ……。
「ピポポポポポ……」
戦場に摩上とロソスが変身した新たな降魔融合獣、ハ式ペダニウムゼットンが出現。強酸の塊を射出し、爆撃のようにゼットとジードに浴びせる。
「ジュワァァァァ―――――――!!」
「ウワアァァァァ―――――――!!」
三体もの融合獣の猛攻撃に晒されて、がっくりと膝を突くゼットたち。カラータイマーが赤く点滅し、危機を表した。
今にもとどめを刺されてしまいそうな状況だが、花組はようやく帝劇の前に到着したところだ。
〈アナスタシア〉「駄目……間に合わない……!」
〈ミースア〉「あとちょっとなのにー!」
三体の融合獣は無情にも、ゼットたちに一斉に破壊光線を発射する!
〈神山〉『「うわあああぁぁぁぁッ!!」』
神山が咄嗟に顔を腕で覆った、その時、
天空から猛スピードで飛んできたふた振りの刃が、三体の光線を微塵に切り裂いた!
〈神山〉『「えッ……!?」』
〈ゼット〉『い、今の技は……!』
『俺の弟子を名乗るなら――根性見せやがれ!!』
誰もが目を見張る中を、宇宙ブーメランをキャッチした巨人が青いマントを翻しながら着地し、同時に額のランプより緑のレーザーを照射して融合獣を纏めて転倒させた!
〈さくら〉「あ……新しいウルトラマンさん!?」
〈ナシルマ〉「おぉ―――!? あの人はぁぁぁぁッ!!」
三人目のウルトラ戦士の降臨に、ナシルマが特に上ずった声を上げた。
ジードは彼の名を呼ぶ。
〈ジード〉『ゼロ!』
〈ゼット〉『師匠! 無事だったんですね!!』
〈神山〉『あの人が……ゼットの……!』
ゼットに振り向く横顔は、神山が初めに目にしたウルトラメダルのものとそっくり同じだった。
『へッ。俺の心配するなんざ、二万年早いぜ』
その名は、ウルトラマンゼロ!
〈摩上〉『「なぁにぃぃぃぃぃッ!? 三人目だとぉぉぉうッ!?」』
摩上もロソスも、ウルトラマンゼロの登場に愕然となっていた。
〈ロソス〉『奴はウルトラマンゼロ……! ブルトンをぶつけて四次元空間に突き落としたというのに……もう戻ってきたのかッ!』
〈ゼロ〉『何とかシャイニングの力で時間を逆行させて、ワームホールから脱出した訳だが、消耗したエネルギーを回復するのに時間が掛かっちまってな』
〈ジード〉『相変わらず、主役は遅れて来るって奴ですね』
〈ゼロ〉『ヘヘッ。頼もしくなったじゃねぇか、ジード。けどそんな色だったっけ?』
〈ゼット〉『師匠! 俺は!? 俺は!!?』
〈ゼロ〉『今から見せてみろ。お前がどんだけ強くなったかを』
〈ゼット〉『よっしゃあ! ウルトラやってやるぜぇッ!』
ゼロの登場でゼットたちに気力が戻り、夕陽をバックにゼロと並んで立ち上がった。
〈摩上〉『「ちくしょうがッ! こっちだって三体だ! 焼き払ってやらぁぁッ!!」』
摩上が吠えたのを合図に、降魔融合獣が一斉に前進していく。
「ピポポポポポ……ゼットォーン……」
「キイイイイイイイイ! グオオオオ……!」
「ピッギャ――ゴオオオオウ! ギャオオオオオオオオ!」
ウルトラ戦士たちも、ゼロがマントを投げ捨てたのを合図として前に飛び出した!
「シェアッ」
「ハァッ!」
「ゼアッ!」
ゼロが一番にハ式ペダニウムゼットンに飛びかかり、ゼロスラッガーを逆手に握って相手の胸部に走らせた。
ペダニウムゼットンの装甲に深々と切り傷を刻み込む!
〈摩上〉『「なッ!? 痛でぇぇぇッ!! 霊力なしでッ!?」』
ウルトラマンゼロの光は幾多の戦いの中で鍛え上げられ、強く、鋭く輝く。その閃きは如何なる闇も斬り裂く!
[ULTRAMAN-GEED! GARAXY-RISING!!]
「ハァッ!」
「キイイイイイイイイ! グオオオオ……!」
ジードはさくらメダルをゼットに投げ返してギャラクシーライジングとなり、サンダーキラーの角を掴んで抑えつける。
[ULTRAMAN-Z! KAGURA-SMASH!!]
「ゼアァァァッ!」
その間にゼットはカグラスマッシュにチェンジして、燃える大槌をスカルゴモラの角に振り下ろした。
「ピッギャ――ゴオオオオウ! ギャオオオオオオオオ!」
頭に大槌を叩き込まれたスカルゴモラが一瞬押し返される。
〈ゼロ〉『ガルネイトバスタァァ―――ッ!!』
そこにストロングコロナゼロの灼熱の光線が撃ち込まれて、火だるまとなる。
すかさずゼットがとどめ!
〈神山・ゼット〉「『ゼスティウムハンマー!!」』
下からのフルスイングがイ式スカルゴモラの顎を砕き、爆砕させた!
サンダーキラーを引きつけているジードは、三つのメダルを再スキャン。
[GINGA! X! ORB!]
〈ジード〉『ギャラクシーバースト!』
サンダーキラーの放つ光刃を打ち破って、斬撃が貫く!
「キイイイイイイイイ!グオオオオ……!」
深手をもらった胴体を再生しようとするサンダーキラーだが、それより早くゼットとルナミラクルゼロが仕掛ける!
[ULTRAMAN-Z! SAKURA-EDGE!!]
〈神山・ゼット〉「『ゼスティウム桜吹雪!!」』
〈ゼロ〉『ミラクルゼロスラッガー!』
二刀からの旋風と分身したスラッガーが貫通し、ロ式サンダーキラーも消滅!
「ピポポポポポ……ゼットォーン……」
最後に残ったペダニウムゼットンには、ゼットランスアローとウルトラゼロランスで斬りかかっていく。
「ハッ!」
「ゼアッ!」
師弟の槍がペダニウムゼットンを押し込み、ゼットが穂先を敵の腹部に向けレバーを引いた。
〈神山・ゼット〉「『アローショット!!」』
〈ゼロ〉『レボリウムスマッシュ!』
衝撃の連続攻撃がペダニウムゼットンの姿勢を崩し、その隙にゼットが氷の矢をぶち込む!
〈神山・ゼット〉「『ゼットアイスアロー!!」』
瞬く間に全身が凍りつくペダニウムゼットン。ここで三人のウルトラ戦士が集結。
〈ゼット〉『そろそろ決めますかぁッ!』
〈ゼロ〉『おい! お前が仕切んな!』
〈ジード〉『二人とも言い合いしないで! 行くよ!』
〈ゼット〉『行きましょう!!』
〈ゼロ・ジード〉『『ああ!』』
三人そろっての、とどめの必殺光線!
〈ジード〉『レッキングフェニックス!』
〈ゼロ〉『ワイドゼロショット!』
〈ゼット・神山〉『「ゼスティウム光線!!』」
三条の光線を叩き込まれたハ式ペダニウムゼットンは、急速に加熱されて大爆発!
降魔融合獣を全て撃破した三人のウルトラマンは、夕陽に向かって燦然と飛び去っていった。
〈蛇倉〉「やれやれ。一時はどうなるもんかと思ったが」
〈シャオロン〉「すっげぇな……宇宙ってのにはあんな戦士がいるのか」
〈ユイ〉「ウルトラマンには驚かされてばっかだね」
戦闘終了を見届け、すっかり呆けていたユイたちの近くに……グロッキー状態の摩上が通りがかった。
〈摩上〉「くそが……加減ってもん知らねぇのか……!」
〈ユイ〉「あっ! そこのあなた!」
ユイに声を掛けられて、ビクッ! と肩を震わせ立ち止まった。
そこへ駆け寄っていくユイ。
〈ユイ〉「逃げ遅れた人ですか? もう大丈夫ですよ! 怪獣はウルトラマンに倒されました」
〈摩上〉「そ、そうですか……」
〈ユイ〉「って、大丈夫ですか!? 何だかふらふらしてますが……病院までお連れしましょうか」
〈摩上〉「い、いえ! 一人で歩けますので……どうぞお気になさらず……」
ユイの視界から顔を隠すように身をよじり、そそくさと立ち去ろうとする。
しかし焦ったために、降魔メダルがポロリと転げ落ちた。
〈ユイ〉「あれ? 何か落としましたよ。メダル?」
〈摩上〉「ッ!!」
メダルと聞いて、傍観していた蛇倉の顔つきが変わった。
〈蛇倉〉「おい! そいつを抑え――!」
言い終わる前に、摩上がグリップをユイに突きつけ、衝撃波を食らわせた!
〈ユイ〉「きゃあああっ!!」
〈シャオロン〉「ユイ!?」
〈蛇倉〉「ユイ!!」
倒れたユイに慌てて駆け寄るシャオロンと蛇倉。
〈シャオロン〉「テメェ何を……!!」
激怒するシャオロンだが、振り返った時には、摩上は既に影も形もなくなっていた。
〈シャオロン〉「いない……!? 何て逃げ足だ……」
〈蛇倉〉「ユイ、大丈夫か」
〈ユイ〉「う、うん、何とか……」
ユイに大事がないことを確認すると、蛇倉は摩上が落としていった降魔メダルを拾い上げる。
〈蛇倉〉「こいつは……まさか、さっきの奴が……」
メダルを回収するのも惜しんで全力逃走した摩上は、冷や汗が顔中に溢れていた。
〈摩上〉「やべぇ……ツラ見られたか……?」
〈ロソス〉『ギリギリ見えなかったはずだ……しかし、警戒はされただろうな……』
ロソスも上海華撃団に近づかれたことを危惧する。
〈ロソス〉『もっと強力なメダルを、早急に作っていかなければ……』
風組と彗星組は、今回の騒動で無人となった会場に戻り、被害状況を確認していた。
〈こまち〉「いや~……えらいことになってもうたなぁ。華撃団大戦、どうなるんやろ」
〈カオル〉「中止にせよ続行にせよ、私たちも責任を取らねばなりません。会場の修繕費も……ああ、頭が痛い……」
少なからず損壊した会場を見回して、頭を手で支えるカオル。
〈デュエス〉「しかしあの夜叉って奴、訳の分からんこと言ってたが……」
グラウンドの中央の芝生を歩くデュエスは、ふと足下に目を留めた。
〈デュエス〉「これは……」
ゼットに切られて落ちた夜叉の頭髪が芝生に引っ掛かっているのをつまみ上げて、ふむ、と顎をさすった。
そして花組はリクとともに、帝都の外れの野原で、ゼロと密かに向かい合っていた。
〈ゼロ〉『あんたたちがゼットの仲間か』
〈神山〉「帝国華撃団と言います。ウルトラマンゼロさん、いつもウルトラメダルでお世話になってます。今回も助けていただき、どうもありがとうございました!」
神山たちは深々とお辞儀して、感謝の意を示した。
〈ゼロ〉『ハハハ。いいってことよ、気にするな』
更に彼らの頭上に、一隻の船が飛んでくる。
〈クラリス〉「わっ、見たことない船が!」
〈リク〉「僕の星雲荘だ!」
〈初穂〉「え? 船なのに?」
そしてリクの前に黒い影が盛り上がって、白黒の怪人の姿に変わった。
〈アナスタシア〉「また何か出てきたわ」
〈あざみ〉「忍者!?」
〈リク〉「ペガ!」
ペガッサ星人ペガはリクに抱き着いて、再会を喜んだ。
〈ペガ〉「リク、やっと見つけた! 捜したんだよ!」
〈リク〉「ごめんね、ペガ」
〈ペガ〉「あッ!? ど、どうも……」
神山たちに気づいたペガは少しばかり恥ずかしそうにしたが、すぐリクに向き直る。
〈ペガ〉「大変なんだよリク! 君がいない間に、宇宙のあちこちでデビルスプリンターの影響を受けた怪獣が大暴れしてるんだ! 早く行かないと!」
〈ゼロ〉『だな。早く宇宙警備隊の任務に戻らないと、親父に怒られちまう』
しかし、リクは神山たちを一瞥して、気まずそうに顔をしかめた。
〈リク〉「……ゼロ、僕はこの地球に残って……!」
〈神山〉「リクくん」
リクの言葉を、神山が途中でさえぎった。
〈神山〉「他の場所でもデビルスプリンターの被害が出てるなら、君が助けに行ってあげてくれ。帝都の平和なら、俺たち帝国華撃団とゼットが守っていくから!」
神山の発言に初穂たちが固くうなずく。
〈ゼロ〉『ふッ……ゼットと似たもん同士、上手くやっていけそうだな』
神山たちの申し出で、リクも安堵を覚えた。
〈リク〉「分かりました。この地球を、皆さんに任せます」
〈神山〉「ああ……。それじゃあ、最後にみんなでやろう!」
花組とリクたちは、ゼロをバックに並んでポーズを取った。
〈神山〉「勝利のポーズ、決めッ!!」
そうして宇宙へ旅立っていくゼロとリクたちを、神山たちは大きく手を振って見送ったのだった。
(ED:Connect the Truth)
『花組のウルトラナビ!』
神山「今回紹介するのは、ウルトラマンオーブだ!」
さくら「オーブさんはウルトラシリーズ五十周年に登場したウルトラ戦士です! ゼットさんみたいに、歴代ウルトラ戦士の力をお借りして変身するフュージョンアップが一番の特徴ですよ!」
さくら「惑星O-50という新しい星で誕生したウルトラ戦士で、後にロッソさん、ブルさん、グリージョさん、フーマさんといった後輩の方々が登場しました」
さくら「『Z』ではジードさんのギャラクシーライジングのメダルの一枚としての登場です! 広がる光の輪は、オーブさんを象徴するものですよ」
ゼット『そして今回の華撃団隊員はエリカ・フォンティーヌだ!』
さくら「巴里華撃団花組所属の見習いシスターさんです! とても元気で心清らかな一方で、とてもドジで人の話を聞かない天然さんで、周りを振り回すこともしばしばです。出向した大神隊長には一番好意的で、巴里が舞台の『サクラ大戦3』ではメインヒロインを務めました」
さくら「それでは、次回もよろしくお願いします!」
白秋「怪獣のメダルを狙う謎の女たちが帝都で暗躍する。そして暴れる降魔融合獣。どんどん姿を変え強くなっていく合体怪獣に、ゼットはどんな戦いを見せてくれるのかな?」
「次回、『石破天驚!神秘の力』。太正桜に浪漫のZ!」
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幕間「闇を見た者たち」
(華撃団大戦会場)
〈デュエス〉「やれやれ……開幕でこんな大騒動になって、この先どうなんのかね」
〈蛇倉〉「よう」
〈デュエス〉「あッ! お前!!」
〈蛇倉〉「なかなかゆっくり話する機会がなかったが、今なら気兼ねなく会話できるな。――こんなとこで何やってんだ、小僧」
〈デュエス〉「そりゃこっちの台詞だ! あんたが上海華撃団の司令とか、どーいうこったよ! どんな卑怯な手使って身分得やがったんだよ」
〈蛇倉〉「おいおい、ひどい言い草だな。ポスト自体は紛れもない実力で手に入れたぞ」
〈デュエス〉「だが経歴は偽造してんだろ? 誰もあんたが地球人じゃねぇって知らねぇようだからな」
〈蛇倉〉「ま、そこは多少は仕方ないだろ。かのウルトラ兄弟の一部もやったことだ」
〈デュエス〉「仕方ないってなぁ……まぁそこはいいとして、何でそこまでして華撃団司令なんかやってんだ」
〈蛇倉〉「ふッ……正義って奴に目覚めたんだよ」
〈デュエス〉「えぇ~? あんたがぁ~?」
〈蛇倉〉「おい、さっきから随分と失礼だな」
〈デュエス〉「よく言うぜ、宇宙一胡散臭せぇ男が」
〈蛇倉〉「いちいち口が減らねぇな……。滅多切りにしたこと、恨んでるのか?」
〈デュエス〉「そんなんじゃねぇよ。ありゃ俺が悪かった訳だし……。だが、人に信用されねぇ遍歴持ちだってことは自分で分かってるはずだろ?」
〈蛇倉〉「ふッ、否定はしないぜ」
〈デュエス〉「……まぁ、今更世界をどうこうしようなんて考えてはねぇとは思うがな……」
(マックスコーヒーのプルタブを開けるデュエス)
〈蛇倉〉「よくそんな甘ったるいもん飲めるな。コーヒーは夜明けの目覚ましとなるようなほど良い苦さが一番だ」
〈デュエス〉「うっせ。俺にとってのコーヒーはこの味なんだよ」
〈蛇倉〉「ふぅん、誰に布教されたんだか……」
〈デュエス〉「しかし、何だってまた上海なんてとこにいやがんだ。デビルスプリンターを追ってきたってんなら、帝都に居を構えればいいもんを」
〈蛇倉〉「それは俺も考えたが、戦闘部隊にはなれねぇし、そのつもりもない。研究職や整備員って柄でもないしな。その点、俺が来た時には上海がまだ帝都防衛を兼任してたし、何よりほっといたら特攻しがちな、世話のし甲斐がありそうな阿呆どもがいたからな。ビビッと来たって奴さ」
〈デュエス〉「奇特なもんだねぇ……」
〈蛇倉〉「どんな奴だろうと、くたばるより生き残る方がいいに決まってるだろ……」
〈デュエス〉「……まぁ、それはそうだ」
〈蛇倉〉「そういうお前こそ、どうして帝都に来た」
〈デュエス〉「俺は母星で、正式に宇宙指令を受けて赴任してきたんだ」
〈蛇倉〉「宇宙指令ねぇ……確かお前、惑星外追放食らってたんじゃなかったのか?」
〈デュエス〉「死ぬほど土下座して許してもらった」
〈蛇倉〉「そんなんでいいのか……。しかし、人間変わるもんだな。前は笑っちまうぐらいのクソガキだったってのに、すっかり足を洗ったみたいで」
〈デュエス〉「悪いかよ」
〈蛇倉〉「いいや。今の方がずっとお前に似合ってるぜ。正直、ひと目見た時から侵略者なんて柄じゃないと思ってた」
〈デュエス〉「微妙に反応に困ること言いやがるな……」
〈蛇倉〉「顔の傷も綺麗さっぱり消えて、良かったじゃねぇか」
〈デュエス〉「ああ、怨念から解放されて……って待て。何で傷のこと知ってんだよ? あんたに会ったのは、傷が入る前だったはずだぞ」
〈蛇倉〉「ふッ、闇の世界のことなら俺も色々と詳しいのさ。蛇の道は蛇と言うだろ? 蛇倉だけにな……!」
〈デュエス〉「……」
(マッカンごくごく)
〈蛇倉〉「……おい、何か言えよ」
〈デュエス〉「ん? あー……なかなか上手いこと言ったんじゃね? かなり大爆笑」
〈蛇倉〉「……宇宙人に世辞なんかいらねぇ」
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第八話「石破天驚!神秘の力」(A)
華撃団大戦の開会式が、降魔の襲撃によって中断された日の晩、花組と彗星組は司令室に集まって相談をしていた。
〈クラリス〉「……大変なことになりましたね」
〈初穂〉「華撃団大戦、どうなるんだ? やっぱ中止なのか?」
〈神山〉「どうだろうか……。一体、あの仮面の女は、何者なんだ」
〈ミースア〉「何か、ゲントがどうとかテーケンが何とか言ってたですけど……」
〈モフロ〉「夜叉、とそう名乗ったのう」
開会式を滅茶苦茶にした実行犯の夜叉について話し合っていたら、さくらがぽつりとつぶやいた。
〈さくら〉「違う……そんな……そんな、名前じゃない……」
〈あざみ〉「さくら?」
〈アナスタシア〉「どうしたの? 開会式から、何だか様子がおかしいわよ」
異様な様子のさくらに戸惑う一同に向けて、さくらが言い放つ。
〈さくら〉「あれは……あの人は……真宮寺さくらさんです!」
その名に、場にいる一同に衝撃が走った。
〈神山〉「真宮寺……さくら?」
〈ナシルマ〉「それって確か、旧帝国華撃団の……」
〈さくら〉「そうです! あの姿……あの声……どう見たって、真宮寺さくらさんじゃないですか!!」
声を荒げて立ち上がるさくらを、デュエスたちがなだめようとする。
〈デュエス〉「おい落ち着け。姿形が似てるってだけだろ? 宇宙じゃこういう時、偽者って相場が決まってんだ」
〈ナシルマ〉「大方ババルウ星人かアトランタ星人が化けてるんだよ」
〈さくら〉「適当なこと言わないで下さいっ!! 何を証拠にそんなことを……!!」
〈初穂〉「おいさくら……!」
しかし感情が荒ぶっているさくらに怒鳴り返され、思わず首をすくめた。
だがそんなさくらを更に鎮めるように、すみれが透き通るような声で断言する。
〈すみれ〉「いいえ。お二人の言う通り、あれはさくらさんではありませんわ」
〈さくら〉「すみれさん……?」
〈すみれ〉「何年も共にいたわたくしには分かります。……それに、あの人は今、帝都にはいません。幻都にいるのよ」
謎の言葉がすみれからも出てきて、神山たちが聞き返す。
〈神山〉「幻都? 夜叉も言ってましたが、それは一体……」
〈デュエス〉「そもそも疑問だったんだが、十年前の降魔大戦の時は、どうやって降魔怪獣を倒したんだ? いくら華撃団の最盛期とはいえ、何体も現れたのを……」
〈すみれ〉「……いいでしょう。ここで皆さんに話しますわ、二都作戦のことを――」
そしてすみれは語った。十年前、デビルスプリンターが呼び起こしたのは降魔怪獣だけではない。最強最悪の降魔『降魔皇』も復活しかけ、世界は史上最大の危機を迎えた。そこで帝国・巴里・紐育の三大華撃団は力を結集し、神器『帝鍵』を用いてもう一つの帝都、幻都を作り出し、降魔皇たちをそこに封印したのだった。現在現れている降魔怪獣は、絞りカスのようなものでしかないのだ。
だが、幻都を作り出した代償は大きく、作戦途中に霊力が尽きてしまったすみれを除いた全隊員が一緒に幻都に封印されてしまった。それがかつての華撃団の消滅の真相なのであった。
〈神山〉「そんなことが……」
〈すみれ〉「そういうことだから、さくらさんが封印を抜け出て、帝都に戻ってきているはずはないのよ、天宮さん」
〈さくら〉「……はい」
さくらがこの説明で納得したかは定かではないが、とにかく静かになって席に座り直した。
〈ミースア〉「夜叉が真宮寺さくらさんじゃないのは良かったですけど……封印された旧華撃団の方たちが心配ですー」
〈ナシルマ〉「何とか救出できないのかな」
〈デュエス〉「それには、無数の降魔怪獣と降魔皇とかいうのを倒す必要があるぞ。今の戦力じゃ正直……」
〈ゼット〉『それなら俺にいい考えがございますよ!』
モニターにゼットの姿が現れて、そう主張した。
〈神山〉「ゼット! いい考えって?」
〈ゼット〉『ああ! 俺からゼロ師匠やジード先輩に頼んで、降魔をやっつけてもらう!』
〈クラリス〉「あのお二人に!?」
司令室が一瞬どよめいた。
〈ゼット〉『師匠たちは宇宙を揺るがす巨悪をいくつも倒したウルトラすごい戦士だ! 二人がいれば、これはもう勝ったも同然でございますよ!』
〈ナシルマ〉「なるほど~! その手があったかぁ!」
〈デュエス〉「確かに……ゼロは他のウルトラ戦士にも顔が利くしな。ウルトラ兄弟も動いてくれりゃ、万に一つの間違いもねぇだろうが……」
自信満々のゼットであるが、そこへ神山が言う。
〈神山〉「けど、リクくんたちは別の星のデビルスプリンターの退治に行ったばかりじゃないか」
〈ゼット〉『あッ……! そ、そうだった……。すみれさん、期待させてウルトラすみませんッ!!』
バッと腰を折るゼットに、すみれが苦笑を浮かべる。
〈すみれ〉「いいえ。わたくしのために親身になって考えて下さったこと、誠に感謝致しますわ、ゼットさん」
〈ゼット〉『すみれさん……!』
〈デュエス〉「まぁ、デビルスプリンター問題が片づけば実現するし、今は目下の問題だよな。話戻すが、華撃団大戦は結局どうなんだ?」
今一番の疑問に、すみれが答える。
〈すみれ〉「それについては、ちょうど今からプレジデントGの発表があるそうよ」
そのひと言を合図とするように、モニターの表示がゼットからプレジデントGのものに切り替わる。
〈G〉『諸君、お待たせしてすまなかった。ここに、改めて、世界華撃団大戦の開会を宣言し……一つ重大な決定を伝える』
仰々しい前置きをするプレジデントG。果たして、その内容とは――。
(OP:檄!帝国華撃団〈新章〉)
第
石 八
神 破 話
秘 天
の 驚
力 !
――帝都の闇の中に構えた、摩上の隠れ家に、ある二人の宇宙人が訪れていた。
〈アネモ〉『例のもの、お届けに来たわ』
〈モネフィ〉『手に入れるの大変だったんだからね』
夜叉が立ち会う中、ピット星人の姉妹が、抱えているケースを開いて中身を摩上、ロソスに見せる。
〈アネモ〉『超古代竜メルバと、宇宙戦闘獣超コッヴの細胞よ』
〈ロソス〉『……ふむ、確かに……』
二本の、怪獣の血液が詰まったカプセルであった。
〈アネモ〉『さ、報酬の700万ガネーを支払っていただきましょうか』
〈摩上〉「金はそいつから受け取ってくれ」
〈モネフィ〉『ああそう』
カプセルを手に取った摩上が夜叉を指すので、ピット星人姉妹が振り向く。
その瞬間、夜叉は手の平から二人に妖力の波動を浴びせかけた!
〈アネモ・モネフィ〉『『うっ!?』』
姉妹の目の色が変化し、意識を掌握される。催眠状態に陥った二人に、ロソスが命令を告げた……。
〈ロソス〉『残り二体の細胞も手に入れろ……』
世界華撃団大戦のルール変更が宣言された翌日、花組は来たるべき初戦に備え、特訓を行っていた。
〈さくら〉『はっ! やぁっ!』
〈初穂〉『だぁーっ!』
司馬が発明した戦闘シミュレーション装置『いくさちゃん』を使って、霊子兵装に乗った状態で訓練するさくらたちを、監督する神山が激励する。
〈神山〉「俺たちの初戦の相手は、あの上海華撃団だ! 一切の油断も出来ない相手だぞ! 試合までに、最高のコンディションにする必要がある!」
特訓に励む花組の様子をながめながら、司馬、ナシルマ、デュエスが話し合う。
〈司馬〉「しかし、WLOFもまた大胆な決定をしたもんだ。いくら前代未聞の事態に直面したからってな……」
〈ナシルマ〉「だねぇ……。負けた華撃団を全部、優勝したとこに吸収合併させるなんて。巷は大騒ぎだってね」
昨晩、プレジデントGは降魔の脅迫には一切屈しないことを宣言しながら、未曽有の事態を乗り越えるための手段として、華撃団大戦のルールにいくつかの変更を加えた。
まず、試合内容は競技ではなく命を懸けた実戦とし、敗北した華撃団は即時解散し、優勝した団を代表とする世界統一華撃団に組み込み、全世界の華撃団を一つに纏め上げるというものであった。WLOFはこれによって、最強の華撃団を生み出すつもりのようである。
〈司馬〉「さくらちゃんたちも動揺を隠せなかったみたいだな」
〈ナシルマ〉「ま~、競技試合のはずがいきなり命懸けて戦い合えなんて言われればねぇ。いくら何でも無茶苦茶だよ」
ナシルマが肩をすくめていると、デュエスが神妙な面持ちで尋ねかけた。
〈デュエス〉「なぁ……ちょっと変だと思わねぇか?」
〈ナシルマ〉「何が?」
〈デュエス〉「世界中の華撃団を一つに纏めてぇのなら、もっと他にやりようがあるだろ。いくらあんなことがあったとはいえ、ウルトラマンもいるってのにこんな強引なやり方で、しかも華撃団大戦の勝敗にまでつなげて。ここまでして何で解散にこだわる? いたずらに混乱を招くだけだ」
〈ナシルマ〉「あーまぁ、それは言えてるけど……。でも地球人のお偉いさんの考えることってよく分かんないし。もちろん支配人は除いてね」
〈司馬〉「ああ。すみれさんはいつだって俺たちのことを考えて下さってる。ワンマンなプレジデントGとは大違いだ」
深くは考えずにすみれを称える司馬たちを置いて、デュエスは怪訝な顔を取り続けた。
――摩上はピット星人姉妹から取り上げたカプセルの血液をメダル製造装置に投入し、メルバメダルと超コッヴメダルの二枚を作り上げた。
〈ロソス〉『よぉし……早速運用実験に取り掛かろう……』
〈摩上〉『「おうよ兄弟!」』
摩上がこの二枚に、狂骨の降魔メダルを加えて、ゼットライザーのスイッチを押した。
[MAGAMI, Access Granted!]
〈摩上〉『「地獄の門を開けようぜぇ!」』
アクセスカードを挿入し、手の平の三枚のメダルをセットしてスキャン。
[KYOUKOTSU! MELBA! SUPER-C.O.V!]
摩上の背後に、ロソスの歪んだ輝きの双眸が浮かび上がる。
〈ロソス〉『恐れ慄けッ! 俺の名に!!』
〈摩上〉『「ヒア――――ハッハッハァッ!!」』
ライザーから生じた三枚のメダルのビジョンが摩上に吸い込まれ、その肉体を異形の大怪物へと変身させた!
[PARASITE-ROSOS! WO-SHIKI TRI-KING!!]
銀座横丁の上空に怪しげな黒雲が渦巻き、太陽の光をさえぎって、降魔融合獣が轟音を立てて降ってきた!
「キィィィィッ! ヴァ――――――――!」
大型降魔である狂骨の肉体をベースに、メルバの頭蓋と羽、超コッヴの下半身を持った巨大怪獣、ヲ式トライキングだ!
「キィィィィッ! ヴァ――――――――!」
ヲ式トライキングは腹部にある超コッヴの顔面から無数の光弾を乱射して、街を攻撃し始める。帝都の人々は瞬く間に恐慌のどん底に突き落とされた!
〈ユイ〉「シャオロン、司令! 大変だよ! 降魔怪獣!!」
銀座横丁にある上海華撃団の駐在地『神龍軒』から、騒動を聞きつけたユイたち上海華撃団が外へ飛び出してきた。
〈シャオロン〉「また派手に暴れやがる奴が出てきたな……!」
〈蛇倉〉「市民が危険な状態だ。市民の安全確保を優先しろ!」
〈シャオロン・ユイ〉「「了解!」」
蛇倉の命令を受けて、上海華撃団は襲われる帝都市民の救助活動に当たる。
当然帝国華撃団も事態を聞きつけ、緊急出動していた。
『着陸します、ご注意下さい。着陸します、ご注意下さい』
神山がセブンガー、クラリスがウインダムに搭乗してトライキングの前に降り立つ。他の四名は三式光武、無限で避難する市民の防護に当たる。
〈神山〉『帝国華撃団・参上! 行くぞクラリス!』
〈クラリス〉『はい!』
「グワアアアアアアア!」
セブンガーが前進してトライキングに殴り掛かっていき、ウインダムは魔法弾を発射して援護射撃を行う。
〈神山〉『おおおおッ!』
〈クラリス〉『はぁぁっ!』
「キィィィィッ! ヴァ――――――――!」
だがトライキングの皮膚は魔法弾を弾き、セブンガーの突撃を剛腕で受け止めて投げ飛ばした。
〈神山〉『うわぁッ!』
〈クラリス〉『神山隊長! このっ!』
ウインダムが両腕を回転させて竜巻を放つが、狂骨の口から吐き出された火炎で打ち消されて、メルバの両眼からの光線がウインダムを撃ち返す。
〈クラリス〉『きゃあぁっ!』
「キィィィィッ! ヴァ――――――――!」
特空機を二体纏めて圧倒するヲ式トライキングを、蛇倉がジッとにらんだ。
〈蛇倉〉「大型降魔をベースにして、更にパワーを引き上げたか。厄介だな……」
――その手の中で、三枚のメダルをこねくり回している。
〈蛇倉〉「こんな時……戦士ならどう戦う?」
その内の一枚――ダイナメダルをつまみ上げて、そう問いかけた。
「キィィィィッ! ヴァ――――――――!」
〈神山〉『ぐわぁぁぁぁぁ――――――――ッ!』
メルバの光線がセブンガーを撃ち、激しく倒れるセブンガー。その衝撃で神山がコックピットから投げ出された。
〈クラリス〉『隊ちょぉぉうっ!! よくもっ!!』
クラリスが憤って、最大出力の攻撃を放つ。
〈クラリス〉『Arbitre dènfer!!』
「キィィィィッ! ヴァ――――――――!」
大量の魔法弾も、超コッヴの光弾で相殺されてしまって通用しない。途切れたところに火炎を食らってウインダムが倒れる。
〈クラリス〉『きゃあ――――――っ!!』
〈神山〉「クラリスッ! こうなったら……!」
神山が最後の手段としてゼットライザーを取り出そうとしたが……。
〈神山〉「ん!? ないッ!!」
さっきまで持っていたはずのゼットライザーが、いくら探しても身の周りにない。
〈神山〉「しまった、さっきの衝撃でどこかに飛んでいってしまったか! どこだ、ゼット!!」
神山が慌てて落としてしまったゼットライザーを求め、駆け出した。
さくらたちはトライキングに追いつめられるクラリスを助けようと、連絡を取り合う。
〈初穂〉『クラリスが危ねぇ! アタシたちでどうにか奴の気を引きつけようぜ!』
〈アナスタシア〉『さくらはキャプテンに代わってセブンガーを!』
〈さくら〉『分かりましたっ! って、あれ……』
だが戦闘が途中にも関わらず、ヲ式トライキングはいきなり消え失せ、同時に空も元通りに晴れ渡った。
〈あざみ〉『消えた……?』
〈初穂〉『何でこの状況で……』
〈アナスタシア〉『ともかく、キャプテンとクラリスを救助しましょう』
〈さくら〉『は、はい!』
原因はひとまず置いて、さくらたちはそれぞれ特空機の元へと走っていく。
市民を逃がしていたユイは、戦闘が終了したことで手を止め、難しい表情となっていた。
〈ユイ〉「怪獣の方から消えたからいいものを、帝国華撃団、あと一歩のところまでやられて……不甲斐ないなぁ。いや、それだけ怪獣が強力になってきてるのかも……」
ぼやきながら周囲を確認する目に、ふと奇妙な物が映り込む。
〈ユイ〉「あれ? 何これ?」
瓦礫の中に埋もれた、青いプレートのようなものを拾い上げる。――神山の手から離れたゼットライザーであった。
正体が分からずに小首を傾げるユイの近くを通りがかったさくらが、その光景に驚いて、光武から飛び降りてユイに駆け寄っていく。
〈さくら〉「ユイさん! そ、それは!!」
〈ユイ〉「さくら! これが何か知ってるの? 何か変な形してるの」
〈さくら〉「え、えぇーっと、それはぁ~……」
何と説明したら良いものか……と悩んでいるところに、
〈モネフィ〉「見つけたよ、ウルトラマンゼット」
地球人の女に変身したピット星人の妹が、二人に近づいてきた。
〈ユイ〉「え? ウルトラマンゼット? 私が……?」
〈モネフィ〉「とぼけるの? それを持ってるってことは、あなたがウルトラマンゼットでしょ?」
〈ユイ〉「これそういうものなの? すごい! 大発見!」
〈さくら〉「え、えっとユイさん……」
興奮してはしゃぐユイだが、ピット星人が痺れを切らしたかのように彼女に飛びかかってくる。
〈モネフィ〉「やぁーっ!」
〈さくら〉「はっ! 危ない!」
咄嗟にさくらがユイを突き飛ばし、ピット星人から逃がした。キックからかばわれたユイが我に返る。
〈ユイ〉「いきなり何するの! はいやーっ!」
〈モネフィ〉「うっ!?」
ユイの後ろ回し蹴りがピット星人を押し返した。彼女を敵と見たさくらも抜刀する。
〈さくら〉「誰だか知りませんが、これは渡しませんよ!」
〈ユイ〉「そうだそうだー!」
〈モネフィ〉「面倒な……!」
二人して構えるさくらとユイに、ピット星人は側転キックを繰り出す。
〈モネフィ〉「はぁ―――っ!!」
同時に足から放たれる衝撃波がさくらたちを襲った!
〈さくら・ユイ〉「「きゃあっ!?」」
首に衝撃波を浴びせられたさくらたちは急速に失神し、その場に倒れ込んだ。さくらの手からは刀がこぼれ落ちて、地面を滑っていく。
ピット星人は、さくらの刀は放置して、気を失った二人とゼットライザーを引きずっていった。
〈神山〉「さくら! さくら! 応答してくれ!」
ゼットライザーを探しつつ隊員たちの状況を確認していた神山だが、さくらからの応答がないことに焦りを深めていた。
〈神山〉「誰か、さくらの行方を知らないか!?」
〈アナスタシア〉『キャプテンの元へ向かってたはずだけれど……!』
通信で連絡を取り合っていると、シャオロンが通信に割り込んできた。
〈シャオロン〉『ユイも応答しねぇ! あいつらに何かあったみたいだ!』
〈神山〉「何だって……!? まさか二人が降魔に……!」
さくらとユイが同時に姿を消したことで動揺する神山に、デュエスが連絡を入れる。
〈デュエス〉『天宮の光武の反応はある。そこに行きゃ何か掴めるはずだ』
〈神山〉「そうか、分かった!」
〈デュエス〉『俺もそっちに行く。中華男もそこで合流な』
〈シャオロン〉『中華男って何だよ! 俺の名前はヤン・シャオロンだ!』
さくらの光武を追って、神山、シャオロン、デュエスが移動していく。
〈さくら〉「う、ん……」
――さくらが目を覚ました時には、ユイと一緒に、手枷を嵌められた状態で吊るされていた。
〈さくら〉「はっ!? ユイさん、ユイさん!」
〈ユイ〉「ん……? ええ!? 何これっ!」
ユイも気がついて、すぐに置かれている状況に驚愕した。
周りの光景は見慣れない洋風の屋敷のもの。身動きが取れない状態の二人を、ピット星人の妹が見張っている。
〈さくら〉「あなたはさっきの! すぐわたしたちを解放して!」
〈ユイ〉「じゃないとウチの隊長たちが黙ってないよ!」
〈モネフィ〉「うるさい!」
さくらとユイの視界から隠れた場所では、摩上がピット星人の姉から隕石を渡されていた。
〈アネモ〉「ガンQとレイキュバスの細胞を含有した隕石です」
〈ロソス〉『よし、これでトライキングは完全な状態になる……。しかし……』
摩上が扉から顔を半分だけ出して、さくらたちを確認した。
〈ロソス〉『あいつらはウルトラマンゼットではないな……。ゼットライザーをたまたま拾っただけだろう……』
〈摩上〉「紛らわしいことしやがって……。ライザーはどうすんだ?」
〈ロソス〉『せっかく回収したのだからな……』
ロソスが摩上の手を使い、ゼットライザーに×型の錠を掛けて、使用できないようにしてしまった。
〈ロソス〉『これで変身できない……』
〈摩上〉「なぁるほどぉ! 本物が取り返しに来ても、歯ぎしりするしかねぇってこったな。流石兄弟だぜ!」
〈ロソス〉『では、心置きなく実験を続行しようじゃあないか……』
錠を掛けたゼットライザーを辺りに放り、摩上が屋敷の外へと移っていった……。
三式光武の反応をたどって、さくらとユイが誘拐された現場にたどり着いた神山たちは、そこでさくらの愛刀が転がっているのを発見した。
〈神山〉「さくらの剣だ! これだけが抜身のまま放置されてるということは……さくらたちはどこかへ連れ去らわれたのか……!」
〈シャオロン〉「くそぉッ! どこ行ったか突き止められねぇのか!?」
デュエスがさくらの刀を神山から預かり、こう告げる。
〈デュエス〉「こいつがあるなら、追跡は簡単だ」
〈シャオロン〉「ど、どういうことだ!?」
〈デュエス〉「この刀はいわゆる霊剣だ。尋常じゃねぇ、それも天宮のに近い質の霊力が宿ってる。だから天宮の手から離れてても、持ち主と共鳴して反応する。魔術をチョイと使えば、刀が天宮の居場所を示す羅針盤になるぜ」
〈神山〉「れ、霊剣……! さくらの剣、そんなすごいものだったのか……。知らなかった……」
デュエスが手の平の上に刀を寝かせると、それ自体が勝手に動いて、切っ先がさくらの現在地に向くように方向を変えた。
〈デュエス〉「あっちだな」
〈神山〉「よし、すぐ行こう!」
〈シャオロン〉「しかし、何で持ち主のものに近い霊力が刀にあるんだ?」
〈デュエス〉「そこまでは知らねぇよ。天宮の先祖が鍛えたからとかじゃねぇか?」
今はそこは重要なところではないので、気にすることなく神山たちは追跡を始めていった。
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第八話「石破天驚!神秘の力」(B)
神山、シャオロン、デュエスの三人はさくらの刀の導きに従い、さくらとユイが閉じ込められている洋館を発見した。
〈デュエス〉「ここだ、間違いねぇ」
〈神山〉「よし……!」
発見されないように警戒しながら密かに侵入し、一階のホールで吊るされている二人と、見張りのピット星人姉妹を見つけた。
〈神山〉「……!」
神山たちはうなずき合って様子を窺い……姉妹の注意がそれた瞬間に、ホールに踏み込んだ!
〈シャオロン〉「はぁぁぁぁッ!」
〈アネモ・モネフィ〉「「!?」」
シャオロンが飛び蹴りで強襲し、姉妹をさくらたちから遠ざける。その隙に神山が刀を走らせ、さくらとユイを吊るす鎖を切断した。
〈神山〉「せぇいッ!」
〈さくら〉「神山隊長! 助けに来てくれたんですね!」
〈ユイ〉「シャオロン!」
手枷はデュエスが外し、さくらに刀を返却する。
〈デュエス〉「大丈夫か。天宮、お前の得物だ」
〈さくら〉「ありがとうございます!」
自由になった二人を交えて横一列に並ぶ神山たち。
〈アネモ・モネフィ〉「ちっ……!」
それと対峙する形となった姉妹が大きく舌打ちした。
洋館の外では、摩上が再びメダルを使用してヲ式トライキングに変身した!
「キィィィィッ! ヴァ――――――――!」
完全に日が落ちて、夜のとばりに覆われた帝都を揺るがし、トライキングが咆哮を轟かせた。
その震動と鳴き声は神山たちの元に届く。
〈デュエス〉「怪獣だ! さっきの奴だな……!」
〈さくら〉「隊長たちは、市民の避難誘導をお願いします! ここは私たちに任せて下さい!」
〈神山〉「大丈夫か?」
〈さくら〉「はい! さっきは不覚を取りましたが、もうやられません!」
〈ユイ〉「きっちりお返ししてやるんだから!」
やる気満々の二人に、シャオロンが大きくうなずき返した。
〈シャオロン〉「それじゃあ頼んだぞ!」
〈ユイ〉「うんっ! はぁぁぁぁっ!」
〈さくら〉「やぁぁぁぁぁ―――――っ!」
〈アネモ・モネフィ〉「「あああああぁぁぁっ!!」」
ピット星人姉妹と正面衝突していくさくらとユイ。その間にシャオロンたちが玄関へ向かっていった。
〈神山〉「ん……?」
しかし、しんがりの神山は脱出直前に、床に放り出されたゼットライザーを発見した。
〈神山〉「こんなところに! だが、これは……!?」
無事に手元に戻ってきたことを喜びたいところだが……ライザーには×型の錠が取りつけられ、起動スイッチも押せない状態にあった。
〈神山〉「くそッ、これはまずいな……!」
とんでもない事態だが、ここで立ち止まってもいられないので、シャオロンたちを追いかけて外に出ていった。
「キィィィィッ! ヴァ――――――――!」
トライキングは既に光弾を乱射して、街を手当たり次第に破壊し始めている。夜の帝都に、怪獣に追われる人々の悲鳴が合唱している。
〈シャオロン〉「くそッ、あの野郎我が物顔で……!」
〈デュエス〉「俺たちは東側を担当するから、中華男は西側を頼む」
〈シャオロン〉「だから、俺の名前はヤン・シャオロンだ!」
文句をつけながらも走り去っていくシャオロン。彼を自然に遠ざけたデュエスは神山に振り向いた。
〈デュエス〉「特空機はまだ修理が完了してねぇ。変身は出来るか?」
〈神山〉「それが、こんなものを取りつけられてて……!」
神山が錠を掛けられたゼットライザーを見せる。
〈神山〉「これじゃ使えない!」
〈デュエス〉「ちょっと貸してみろ」
デュエスはライザーを受け取って、背を向けてガチャガチャといじる。そして、
〈デュエス〉「ほれ、取れたぞ」
〈神山〉「早いな!!」
面食らいながらも錠を分解して取り外されたライザーを受け取る神山。これで使用できる!
〈神山〉「よし、今度こそ止めてみせるッ!」
意気込んで、展開したゲートに飛び込んでいった!
アクセスカードをキャッチして、ゼットライザーに挿入する。
[SEIJŪRO, Access Granted!]
〈神山〉『「天宮剣術、秘伝の神剣!」』
[ZERO! SEVEN! SAKURA!]
メダルを三枚セットしてスキャンし、神山の背後にゼットが立ち上がった。
〈ゼット〉『ご唱和ください、我の名を! ウルトラマンゼーット!!』
〈神山〉『「ウルトラマン! ゼェ―――ット!!」』
ゼットライザーを掲げて、スイッチを押した。
『ハッ!』
『デュワッ!』
『やぁーっ!』
[ULTRAMAN-Z! SAKURA-EDGE!!]
「ジェアッ!」
無事に変身を遂げたウルトラマンゼット・サクラエッジが夜の街に立ち上がった。
〈ゼット〉『誠十郎! なくすなんてウルトラひどいじゃないか!』
ゼットは開口一番に非難してくる。
〈神山〉『「悪いけど怒るのは後にしてくれ! 行くぞぉッ!」』
ヲ式トライキングに向かってまっすぐに駆けていくゼット!
ゼットの存在に気づいた摩上は度肝を抜かれる。
〈摩上〉『「ああ!? 何で変身できてんだ!」』
〈ロソス〉『錠を掛けた程度ではぬるかったか……迎え撃て!』
ロソスの指示で、トライキングもゼットへ突進していく。
「キィィィィッ! ヴァ――――――――!」
「ゼアァッ!」
ゼットが先制して飛び蹴りを浴びせ、トライキングを押し返した。着地とともに二刀を取り出し、左右交互の斬撃を繰り出していく。
「ゼアッ! ゼアッ!」
三体の怪獣から成るトライキングのパーツを斬りつけるゼット。トライキングは神速の剣戟に対応できていない。
「キィィィィッ! ヴァ――――――――!」
「ジェアッ!!」
腹部から光弾を乱射して反撃するが、縦横無刃・嵐が全て斬り落とした。
〈ユイ〉「はぁーっ! いやぁっ!」
〈モネフィ〉『くぅっ!!』
正体を晒して襲ってくるピット星人妹に、ユイが乱舞を食らわせる。拳と蹴りの猛撃に押されるピット星人が壁に叩きつけられた。
〈さくら〉「はぁっ!」
〈アネモ〉『ふぅぅっ!』
さくらは剣を取り出したピット星人姉と鍔迫り合いする。が、一瞬の隙を突いて相手の腕を押し上げ、空いた胴体に刀を薙ぐ。
〈さくら〉「せあぁっ!」
〈アネモ〉『ぐっ……!』
咄嗟に後ろへ跳んでギリギリ回避するピット星人。
〈さくら〉「守るものを持たない剣に、わたしは負けません!」
〈アネモ〉『小癪な……!』
〈さくら〉「やぁっ!」
距離を詰めるさくらの剣が、ピット星人の剣と交差。
競り合いに勝ち、さくらの一撃がピット星人の脇腹に食い込む。
〈アネモ〉『がっ……!?』
〈さくら〉「安心して下さい。峰打ちです」
崩れ落ちるピット星人に背を向けながら、さくらが堂々宣告した。
〈神山・ゼット〉「『天剣・
「キィィィィッ! ヴァ――――――――!」
刀身が燃え上がった刃をトライキングに食らわせるゼット。
〈神山・ゼット〉「『ゼスティウムメーザー!!」』
ひるんだところに額からのレーザーを撃ち込んだ。
「キィィィィッ! ヴァ――――――――!」
「ゼアッ!」
刀からゼットランスアローに持ち替え、更に鋭い斬撃をお見舞いしていく。ゼットの猛攻撃にトライキングは追いつめられているように見えた。
しかし!
〈ロソス〉『そろそろ余興は終わりにしよう……』
〈摩上〉『「おう! こっからが本番だぜぇ!」』
摩上は新たに二枚、怪獣メダルを取り出して追加でスキャンする。
[GAN-Q! REICUBAS!]
〈ロソス〉『恐れ慄けッ! 俺の名に!!』
〈摩上〉『「ヒア――――ハッハッハァッ!!」』
ガンQメダルとレイキュバスメダルの力を取り込んだことで、トライキングの両腕に変化が起こる。
[PARACITE-ROSOS! WO-SHIKI FIVE-KING!!]
狂骨の両腕が変形し、右腕は宇宙海獣レイキュバスのハサミに、左腕は奇獣ガンQの巨大な目玉となって、完全体たる超降魔融合獣ヲ式ファイブキングに変身したのであった!
「キィィィィッ! ヴァ――――――――! グイイイイイイイイ! イヒヒヒヒヒヒ!」
〈神山〉『「な、何!? 腕が別の怪獣に変化した!?」』
ゼットがランスアローのレバーを引いて、火炎攻撃を繰り出した。
〈神山・ゼット〉「『ゼットランスファイヤー!!」』
「グイイイイイイイイ!」
だが、レイキュバスのハサミから冷却ガスが放出され、Z字の炎をかき消してしまう。
〈神山〉『「何!? だったら……!」』
今度は反対の属性、氷の矢を発射する。
〈神山・ゼット〉「『ゼットアイスアロー!!」』
しかしハサミから高熱火炎が噴き出して、氷の矢が溶かされてしまった。
〈神山・ゼット〉「『アローショット!!」』
「イヒヒヒヒヒヒヒ!」
光弾を撃っても、ガンQの目玉に吸い込まれて、反射された。返された光弾を咄嗟に槍で防ぐゼット。
〈神山〉『「ゼットランスアローの攻撃が効かない!」』
〈ゼット〉『焦るな誠十郎! ウルトラフュージョンだ!!』
〈神山〉『「ああ!」』
神山は手を変えるために、メダルの交換を行う。
〈神山〉『「真っ赤に躍る、東雲神楽!」』
[ULTRAMAN! ACE! HATSUHO!]
〈神山〉『「ウルトラマン! ゼェ―――ット!!」』
サクラエッジからカグラスマッシュにチェンジして、飛び掛かりながら大槌を振り下ろす。
「ゼアァーッ!」
「キィィィィッ! ヴァ――――――――! グイイイイイイイイ!」
頭部に大槌を叩きつけられたファイブキングがよろよろと後ずさった。
〈神山〉『「よし! 単純な打撃は効くみたいだな!」』
確かな手応えを感じた神山だったが、ファイブキングはそう簡単に攻略できる怪獣ではない。
「イヒヒヒヒヒヒ! ヴァ――――――――!」
「ゼアッ!」
目玉と腹部から怪光弾を乱射してゼットを狙う。怒涛の攻撃からゼットは身を翻して逃れるが、
「グイイイイイイイイ!」
「ウッ!」
首元にハサミが伸びてきて、捕まってしまった。身動きが取れないゼットに、ファイブキングが至近距離から攻撃を浴びせる。
「キィィィィッ!」
「ジュアァァァッ!」
メルバの怪光線と、狂骨の火炎ブレスを同時に食らい、ゼットが後ろへ倒れ込んだ。
「キィィィィッ! グイイイイイイイイ! イヒヒヒヒヒヒヒ!」
ファイブキングはこの間に羽を広げ、夜空に高々と飛び上がる。
〈神山〉『「飛んだ!?」』
そして上空より頭部、両腕からの光線三条を発してゼットを猛撃する!
「ジュアァッ!」
頭上からの激しい光線に苦しめられるゼットだが、大槌を振り上げる勢いでファイブキングに向かって飛んでいった!
〈神山・ゼット〉「『ゼスティウムハンマー!!」』
ぐんぐんと距離を縮めて大槌を叩きつけようとする。が、
「キィィィィッ!」
上昇中では細かい方向転換が利かず、光線で撃ち抜かれる!
「ゼアァァァァ―――ッ!!」
ゼットが地上まで叩き落とされ、ビルを巻き込んで墜落した。
ヲ式ファイブキングの多種多様な攻撃能力を前に、ゼットは完全に窮地であった。
〈デュエス〉「やべぇ……何か手はねぇのか……!?」
デュエスがどうにかゼットの手助けをしようと思うものの、手段が思いつかずに立ち尽くしている。と、そこに、
〈蛇倉〉「全くだらしねぇな。ゼットの力はこんなもんなのか」
〈デュエス〉「ジャグラー……!」
蛇倉が姿を現して、更に手の平の上に何かを取り出した。
〈蛇倉〉「まッ、こんなとこでやられても困るからな」
それは三枚のウルトラメダルであった。目を見張るデュエス。
〈デュエス〉「あッ! あんたが持ってたのか!」
〈蛇倉〉「よく探さないからだ」
皮肉げに返してから、蛇倉がメダルをゼットへ投げ飛ばす。
インナースペースに飛び込んできたメダルを反射的にキャッチする神山。
〈神山〉『「新しいウルトラメダル……!? 一体誰が……」』
不思議に思いながら、絵柄のウルトラ戦士に目を落とす。既に所持しているメダルのウルトラマンとは、どこか異なる雰囲気だ。
〈ゼット〉『ゼロ師匠から聞いたことがある。それは別次元のウルトラマン……ティガさん、ダイナさん、ガイアさんだ!』
〈神山〉『「別次元の……」』
少し理解が追いつかないものの、とにかくうなずく神山。
〈ゼット〉『そのお三方のメダルなら、きっとあの怪獣の能力に対抗できる! 別次元の先輩たちの力をお借りするんだ!』
〈神山〉『「よし、じゃあこれで……!」』
神山は新たに入手した三枚の中からティガ、ガイアを選び、クラリスのメダルをそこに組み合わせた。
〈神山〉『「石破天驚、神秘の魔導……!」』
[TIGA! CLARICE! GAIA!]
メダルをセットしてスキャンし、神山の背後に立つゼットが腕を広げた。
〈ゼット〉『ご唱和ください、我の名を! ウルトラマンゼーット!!』
〈神山〉『「ウルトラマン! ゼェ―――ット!!」』
ゼットライザーを掲げて、スイッチを押す!
『テャッ!』
『はぁっ!』
『デャッ!』
ティガとガイアのビジョンが飛び交い、魔導書を開いて腕を振るクラリスのビジョンと重なり合って一つの光となった!
[ULTRAMAN-Z! MAGICA-FUTURE!!]
「ジェアッ!」
回る魔法陣の中から、新たな姿となったウルトラマンゼットが飛び出していく!
そして虹色の煌めきの光の柱から立ち上がったのは、赤、銀、紫、黒と最も色彩豊かな体表に、金色のプロテクターを胸部に纏ったゼット。カラータイマーの周りには、魔法文字が幾何学模様を描いて刻み込まれている。その名も!
〈ゼット〉『ウルトラマンゼット、マギカフューチャー……!』
ピット星人姉妹を下し、後ろ手を捕らえて連行していたさくらとユイがその姿を見上げる。
〈さくら〉「ゼットさんがまた新しい姿に!」
〈ユイ〉「すごい優雅……!」
ユイが思わず見とれるほど、今のゼットは神秘的なたたずまいであった。
「キィィィィッ! ヴァ――――――――! グイイイイイイイイ! イヒヒヒヒヒヒ!」
ファイブキングが上空から猛然と降下してくる。対するゼットは、頭部の溝に集中したエネルギーを両手に移して、鞭状の光線に変えて伸ばす。
〈神山・ゼット〉「『ゼスティウムドライブ!!」』
赤と青の光の鞭がファイブキングを打ち、地上に叩き落とした。
「キィィィィッ!! ヴァ――――――――!!」
ゼットは精神を集中しながら、指をパチンと鳴らす。胸に刻まれた魔法陣が同時に輝いた。
〈神山・ゼット〉「『マギカイリュージョン」』
起き上がるファイブキングの周囲を、ティガとガイア、そしてクラリス仕様の無限の幻影が取り囲んだ。
〈クラリス〉『私の無限です! しかも大きい!』
戦闘現場に出て救助活動に当たっていた本物のクラリスが驚愕する。
『テヤァッ!』
『はっ!』
『ウワッ!』
ガイアのビジョンがスプリームバージョンに変身し、フォトンストリームを発射する。
『デャッ!』
『ハァッ!』
『Arbitre dènfer!!』
同時にティガのゼペリオン光線と、無限からのアルビトル・ダンフェールが放たれ、三方向からの攻撃がファイブキングに実体となって命中した。
「キィィィィッ! グイイイイイイイイ! イヒィッ!!」
メルバの頭部、レイキュバスのハサミ、ガンQの目玉が一挙に潰され、機能を封じられた。
〈神山・ゼット〉「『マギカフリーザー!!」』
ゼットの勢いはまだ止まらない。ファイブキングの頭上に冷凍ビームを放ち、冷気の滝を浴びせて瞬く間に氷漬けにした。
ファイブキングの動きを止めると、ゼットは縮小化して相手にまっすぐ飛んでいく。
〈神山・ゼット〉「『マギカスルー!!」』
魔法陣をくぐってヲ式ファイブキングの体内に入り込み、おどろおどろしい妖力で満ちた空間に向けて魔法弾の乱射を放つ!
〈神山・ゼット〉「『アルビトルゼスティウム!!」』
重魔導の光線が、妖魔の悪しき力を破壊していく!
「ゼアッ!」
そしてゼットが脱出し、元の大きさに戻った直後に、ヲ式ファイブキングは内側から爆裂して一瞬で消滅したのであった。
「シュウワッチ!」
今宵もまた邪悪なる怪物を打ち破り、帝都に平和を取り戻したゼットが、空に飛び上がって華麗に去っていった。
〈摩上〉「ぐッ、ごほッごほッ……! は、腹が……!」
〈ロソス〉『またひどくやられたものだ……』
元の姿に戻った摩上は、腹部を抑えながら路地裏の暗がりに紛れて逃げ帰ろうとする。
だがその首筋にいきなり、中国刀の刃が向けられた。
〈摩上〉「ひッ……!?」
〈蛇倉〉「おーっと待ちな。ようやく見つけたぜ」
刀を向けているのは、待ち伏せしていた蛇倉だ。彼の後ろから、シャオロンとユイも出てくる。
〈ユイ〉「シャオロン、司令! こいつだよ! 一瞬だったけど、この顔で間違いない!」
〈シャオロン〉「こいつが連日の事件の黒幕か……! 許しちゃおけねぇなッ!!」
ユイに危害を加えられたシャオロンは、見るからに憤慨していた。摩上のこめかみにダラダラと脂汗が流れる。
〈ロソス〉『まずいッ……!』
絶体絶命の状況に、ロソスが周囲にバリスレイダーを呼び出して上海華撃団を襲わせる。
〈蛇倉〉「ちッ……」
〈ユイ〉「はっ!? やぁっ!」
四方から斬りかかってきたバリスレイダーに咄嗟に対処する蛇倉たち。
〈摩上〉「ぬぁッ!」
摩上がバリスレイダーの剣を取ってシャオロンに斬りかかるが、鋭い蹴りですぐに弾き飛ばされた。
〈シャオロン〉「はぁぁッ!」
〈摩上〉「ぐえぁッ!?」
間髪入れぬ正拳突きを食らい、レンガの壁に叩きつけられる摩上。シャオロンがとどめの一撃を入れようとしたが、横からバリスレイダーが飛び掛かってくる。
〈シャオロン〉「せぇあッ!」
蹴りの軌道を曲げて返り討ちにしたが、視線を戻すと、既に摩上の姿はなくなっていた。
〈シャオロン〉「ちッ、逃げ足だけは速いな……!」
いら立って舌打ちするシャオロン。蛇倉は摩上が叩きつけられた場所の地面に目を落とす。
そこには摩上がとんずらするとともに落としていった、ヲ式ファイブキングのメダルが一式転がっていた。
〈蛇倉〉「……」
蛇倉はメダルを拾い上げて、じっと見つめた――。
(ED:桜夢見し)
『花組のウルトラナビ!』
神山「今回紹介するのは、ウルトラマンティガだ!」
クラリス「ティガさんは平成のテレビシリーズの最初を飾ったウルトラ戦士です! 史上初めてタイプチェンジ能力を披露したウルトラマンでもあります!」
クラリス「実はニュージェネレーションシリーズの常連さんで、映画を含めたら『ギンガ』から最新作の『Z』までの全てで何らかの形で関わってます。これを成し遂げてるのは他の初代さんくらいですよ」
クラリス「『Z』では超能力戦士ガンマフューチャーに使用するメダルの一枚です。ガンマフリーザーはスカイタイプの技、ティガフリーザーそのままですね」
ゼット『そして今回の華撃団隊員はダイアナ・カプリスだ!』
クラリス「紐育華撃団に所属する研修医さんです! 予知能力を使えるほどの霊力を持ちますが、その負荷でひどい病弱の身体となってます。ドールハウス作りが趣味など少女らしさに溢れてますが、男女の関係について度々あらぬ方向に暴走する一面もあります」
クラリス「それでは、次回もよろしくお願いします」
司馬「謎の巨大ロボット、帝都を襲撃! 奴の狙いはウルトラメダルだ! 宇宙人の魔の手からメダルを守るため、神山たちの奮闘が始まる!」
「次回、『悪戦苦闘!メダル護送指令』。太正桜に浪漫のZ!」
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幕間「三号機は実現不可?」
(特空機用格納庫)
〈デュエス〉「……だから、これじゃ金が掛かり過ぎんだよ。どっからこんな大金持ってくんだ」
〈ナシルマ〉「でも、今までと同じようなの造っても、戦力向上にはつながらないでしょ?」
〈モフロ〉「それはもちろん分かっとるが、現実問題として……」
〈さくら〉「彗星組の皆さん! わたしたち、やりましたっ! 一回戦突破しました! あの上海華撃団に勝ったんですよ! ……って」
〈ミースア〉「あっ、さくらちゃん! 一回戦突破おめでとうございます~! ミースアたちも見てたですよー!」
〈ナシルマ〉「おめでとう! 帝劇存続に一歩近づいたね!」
〈さくら〉「ありがとうございます! ……ところで、皆さんは何してたんですか? そろって難しい顔して」
〈モフロ〉「うむ。特空機三号の設計について話し合っておったのじゃ」
〈さくら〉「三号!? 遂に三号機を造るんですか!?」
〈デュエス〉「いや……それが、ナシルマが持ってきた設計にちょっと問題があってな」
〈さくら〉「え? どういうことですか?」
〈ナシルマ〉「一から話すけど……敵も強くなってきたでしょ? ウインダムでも危ない場面が多くなってきてるし、三号機はこれまでの設計とは根本的に変えた機体にしようと考えてるんだ」
〈さくら〉「根本的に変えた設計というのは……」
〈ナシルマ〉「これは一つの案なんだけど、様々な能力の怪獣、想定される色んな状況に対応できるように、アメリカの霊子甲冑スターⅤに着想を得て、可変機構を組み込もうと思ってるんだよ」
〈さくら〉「可変機構! 特空機が変形するってことですか!?」
〈ナシルマ〉「他にも各パーツごとに分離する機能を設けて、それぞれにコックピットを入れた複座式で出力も劇的に向上ってアイディア出したんだけど……」
〈さくら〉「お~……すごそうですね……! でも、そんなに新機能を導入するのは、やっぱり難しいんですか?」
〈デュエス〉「いや、技術的には問題ねぇんだがな……こんな複雑な機体を造ろうと思ったら、先の二機とは比べもんにならねぇほど掛かるんだよ、金が」
〈さくら〉「あー……お金ですか……」
〈ナシルマ〉「一応費用の試算出してカオルさんに提出したんだけど……その場で突き返されちゃってさ……」
〈デュエス〉「無理もねーよ。仮に劇場売っ払ったとしても、まだ足りねぇぞ」
〈モフロ〉「まさに机上の空論じゃな」
〈ナシルマ〉「う~ん……僕的には、ここは妥協したくはないところなんだけどなぁ……。この三号機案が実現すれば、花組は今までと比較にならないほど強くなれるのに」
〈さくら〉「残念ですね……。でも、そんなにお金が必要になるんですか? わたしにはよく分かりませんけど……」
〈デュエス〉「一番掛かるとこは、やっぱ資材だな。可変機構や分離合体の導入となると、形状記憶合金がどうしても必要だ。これが高けぇんだよな」
〈モフロ〉「特空機のサイズとなると、量も相当多くないといかんからのう」
〈さくら〉「セブンガーの時みたいに、廃材を再利用するというのは出来ないんでしょうか?」
〈デュエス〉「さっき言ったように特殊合金が必要だからな。条件満たす奴の目星は、今のところねぇ」
〈さくら〉「そうですか……」
〈ナシルマ〉「やっぱり無理があるってことかぁ……。あーあ、ほんと残念だなぁ。会心の出来の設計だったのに」
〈ミースア〉「資材に使えそうな合金の塊が、お空から降ってこないかなーです」
〈デュエス〉「んな都合のいい話が、ある訳ねぇだろ」
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第九話「悪戦苦闘!メダル護送指令」(A)
――帝都の外れの山間部に建つ、WLOF管理下の秘密研究所。ここにプレジデントGが腹心の部下を数名引き連れながら訪れていた。
研究所の一室で彼をお辞儀で迎えた研究員たちが、テーブルの上に置かれたアタッシュケースを手の平で示した。
〈研究員〉「例の物は、こちらでございます」
〈G〉「おお……」
アタッシュケースの中には、三つの小さいケースが並んでおり、その一つ一つにそれぞれ絵柄の異なるメダルが収められている。――ウルトラメダルだ。
ウルトラマンゼットの地球での初戦闘時、撃破されたゲネガーグの体内からは、光の国から奪われたウルトラメダルが爆風に乗って帝都各地に飛び散っていた。WLOFは地球外物質で出来たこのメダルを、帝国華撃団とは別に密かに回収し、集めていたのであった。
〈G〉「ご苦労だった。これは私が預かる」
研究員たちがケースの蓋を閉じると、プレジデントGが部下にケースを持たせようとする――。
その瞬間に、所内に突如警報が鳴り響いた。
〈G〉「何だ!?」
直後に室内を襲う大きな揺れ。そして窓の向こうに現れたのは、極彩色の怪光を放つ巨大なシルエット。
〈G〉「な、何ぃッ!?」
突然の出来事に激しく動揺するプレジデントGたち。研究所の外にそびえ立つ巨影は、窓に向かって三本指の腕を伸ばしてきた。
〈G〉「ま、まさかッ!?」
プレジデントGが何かを指示しようとしたが、遅かった。巨大な影の腕は窓ガラスを突き破って研究室の中に荒々しく突っ込んできた!
「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――ッ!!」」」
合唱される悲鳴。研究室を破壊した腕は、メダルを収めたケースを掴んで引き抜かれる。
首のない巨大な人型の影は、グワアッシ……グワアッシ……と不気味な音を立てながら、両眼より怪光線を放って研究所を破壊した――!
(OP:ご唱和ください 我の名を!)
第
悪 九
メ 戦 話
ダ 苦
ル 闘
護 !
送
指
令
帝国大劇場の司令室――。
〈神山〉「世界華撃団大戦の最中だというのに、帝都は休まる暇がないな……」
中央の長テーブルの上に広げられた新聞に目を落としていた神山が、険しい顔つきでつぶやいた。
新聞の見出しには『WLOF日本支部研究所、襲撃される!!』との文字が大きく載せられている。
〈すみれ〉「その新聞にもある通り、昨晩WLOFの研究施設が何者かに襲撃され壊滅しました」
すみれが司令室に集った面々に向かって告げた。
〈すみれ〉「その際、三枚のメダルが強奪されたということですわ」
〈さくら〉「メダル!? それってもしかして……!」
さくらたちの目が神山に集中する。神山も思わず腰のホルダーを見やった。
〈ナシルマ〉「まぁ十中八九ウルトラメダルだよね。まだ見つかってない分の」
〈クラリス〉「WLOFも集めてたのですか……」
〈初穂〉「そんな話、こっちは全然聞いてねーぞ! 宇宙のことなら、ここにはこんだけの専門家がいるってのによぉ!」
初穂が憤然と腕を組んだ。
〈すみれ〉「WLOF側は、未確認物質のため無用な混乱を避ける目的で、発表は控えていたと説明していますが」
〈デュエス〉「はんッ。だといいんだがな」
白けたようにぼやくデュエス。それを信じる者は、この場にはいない。
〈カオル〉「WLOFが秘密裏に保持していたメダルを奪った犯人は、監視カメラにメッセージを残していました」
カオルがそのメッセージというものをモニターに流す。
司令室の画面に、WLOFの研究員の顔がアップで映された。その頭頂を、人間のものではない異形の手の平が覆っている。
〈研究員〉『諸君が宇宙の秘宝を他にも隠していることは知っている』
〈あざみ〉「人間がしゃべってる……?」
〈デュエス〉「脳波を操って代弁させてんのさ。地球人の言語を発声できない奴か、あるいは身元を隠したい宇宙人がよく使う手さ」
解説を挟むデュエス。
〈研究員〉『力ずくで奪うことは容易い。しかし、我々は無意味な破壊は好まない。速やかに渡した方が賢明だ。さもなければ、我々の強力なロボットによる徹底的な攻撃に、諸君の星は晒されるだろう』
それでメッセージは終わりであった。神山がデュエスに尋ねる。
〈神山〉「この手の正体は分からないか?」
〈デュエス〉「この映像だけじゃなぁ。指先しか映ってねぇ」
〈カオル〉「なお、この脅迫に対してプレジデントGが声明を発表しています」
モニター画面がニュース番組における、プレジデントGの会見映像に切り替わった。
〈G〉『これは全華撃団に対する挑戦であるッ! 我々華撃団は如何なる存在からの、如何なる暴力にも決して屈しない! 総力を挙げて抗戦し、残る未確認物質を死守することをここに誓う!!』
〈ナシルマ〉「……無事だったのか。一緒に潰されちゃってればよかったのに」
〈デュエス〉「よせ。誰かに聞かれたら事だぞ」
ナシルマの問題発言を、デュエスが一応たしなめた。
〈アナスタシア〉「今、残る未確認物質と言っていたけれど……」
〈すみれ〉「ええ。WLOFは他にも三枚、メダルを保有しているということですわ。それは別の場所にあるので、まだ無事のようです」
〈さくら〉「でも、それもいつ狙われるか分からないですよね……」
〈初穂〉「って言うか、どうにかしてアタシらの元に来させらんねーかなぁ。元々ゼットたちの物だろ? 神山隊長が持ってるのが筋ってもんだぜ」
初穂がそうぼやくと、すみれが得意げに微笑んだ。
〈すみれ〉「それならご心配なく。既に交渉によって、残るメダルはこの帝劇で保管することを承諾させましたわ」
〈神山〉「本当ですか!?」
〈すみれ〉「ええ。わたくしも、普段寝て過ごしている訳ではありませんのよ」
〈カオル〉「以前よりの根回しが功を奏しましたね」
扇子を開いてホホホと笑うすみれ。
〈ミースア〉「メダルをここに運び込めば、隊長さんの物に出来るですー!」
〈デュエス〉「後はまぁ、WLOFには適当な研究結果を上げとけばいいだろ」
〈さくら〉「やりましたね! これでまたウルトラメダルが増えます!」
ぐっと手を握るさくらを神山がなだめる。
〈神山〉「喜ぶのはまだ早い。メダルを帝劇に運び込むまでに奪われてしまっては元も子もないんだ」
〈すみれ〉「神山くんの言う通り。花組にはこれより、WLOFの研究所よりメダルをこの帝劇まで護送してもらいますわ」
新しい任務を前にして、花組の六名が表情を引き締めた。
議題は作戦の概要に移る。
〈ナシルマ〉「ウルトラメダルからは特殊プラズマエネルギーが含まれてて、強奪犯はこの電波を感知して位置を特定してると思われるね」
〈クラリス〉「だから極秘裏に集められていたメダルの所在を突き止められたんですね」
〈あざみ〉「じゃあ、輸送してるのもバレバレ……」
〈ナシルマ〉「うん。だから電波を遮断するケースを用意した」
ミースアがゴテゴテしたアンテナがついた黄色いケースを机上に置いた。
〈ナシルマ〉「これに入れてれば察知されない」
〈さくら〉「なるほど~!」
〈初穂〉「ここまでするくらいなら、研究所で隊長に渡しちまえばいいのに」
〈カオル〉「WLOFの目がありますから、帝劇に運び込んだという明白な事実が必要なのです」
作戦の意義を説明するカオル。
〈すみれ〉「反応を消したとしても、敵も馬鹿ではないでしょう。研究所を出入りするものには目を光らせているはず。そこで輸送ルートですが……」
カオルが帝都全域の地図を広げ、メダルが保管されている研究所とゴールの帝劇の地点に目印のピンを立てた。
〈すみれ〉「空路は危険ですので、陸路での輸送となりますわ。市街地を避けて山道を通りますが、途中にトンネルと狭い渓谷があります。敵が襲ってくるとしたら、障害物の少ないこの地域の可能性が高いですわ。トンネルに差し掛かったら、くれぐれも気をつけて」
問題の地点を閉じた扇子で指し示すすみれ。
〈すみれ〉「出発は二時間半後。天宮さんはウインダムで、他の皆さんは無限での護衛をお願いします。天宮さん、格納庫へ移動を」
〈さくら〉「え? 今からですか?」
あまりにも早い搭乗命令に、さくらが目を丸くした。
〈すみれ〉「WLOFの思惑はともかく、今回の作戦には帝国華撃団の面子が懸かっていますわ。成否を左右するウインダムに万に一つの事態も起こらないよう、動作確認は念入りに済ませて下さい」
〈さくら〉「は、はい……そういうことでしたら……」
いささか腑に落ちないながらも、さくらが一人で特空機用格納庫へと移動していった。
――プレジデントGは会見後、密かに摩上と面会していた。
〈G〉「全く、昨日は酷い目に遭ったものだよ。もう少しで“素”が出てしまうところだった」
うんざりしたように肩をすくめたプレジデントGが、摩上に向き直る。
〈G〉「あれは君たちの差し金ではないのかね」
〈摩上〉「んな馬鹿な。ただでもらえるって約束されたもんを、どうして窓から取ってかなきゃなんねーんだよ」
摩上が呆れたように反論した。
〈ロソス〉『俺たちは何も関与していない……。恐らくは別にメダルを狙う宇宙人の仕業だろう……。こちらとしても迷惑な話だがな……』
〈G〉「迷惑は私の台詞だよ。あんまり
プレジデントGがじっ……と摩上に横目を向けた。
〈G〉「何か手はないかね」
〈摩上〉「くっくく……まぁ任せとけよ。他人のもんを横取りすんのは得意技なんでな……」
摩上が頭の中にたくらみを巡らせて、押し殺した笑いを発した。
二時間半後、帝劇を出発した花組と風組は、WLOFの研究所で三枚のメダルを受け取り、それらをケースに収め、折り返しで帝劇までのルートを走り出した。
〈神山〉『もうじき問題のトンネルに差し掛かる。全員、気を抜くなよ!』
〈初穂たち〉『『『了解!』』』
崖の上の道路を、ケースを運ぶカオルとこまちの蒸気自動車が走り、その四方を神山たちの無限が並走して護衛している。
〈神山〉『さくらもよろしく頼むぞ』
頭上の空では、さくらを乗せたウインダムが飛行して神山たちについてきていた。
〈さくら〉『もちろんです! ……って』
モニターで地上の様子を確認したさくらが、自動車に並走するはずの無限が一機足りないことに気づいた。
〈さくら〉『あざみが見えませんけど、どこ行ったんですか?』
〈神山〉『あざみには別働に当たってもらってる』
短く答えた神山が、矢継ぎ早にさくらたちへ呼び掛ける。
〈神山〉『半ば個人的な理由になるが、みんなには注意してもらいたい奴がいる。上海華撃団からの報告をみんなも聞いてるだろうが……摩上という男だ』
〈さくら〉『摩上……確か、その人が降魔メダルを持ってたんですよね』
〈クラリス〉『隊長がご存じの人なんですか?』
その質問に答えるように、司馬が通信に入ってきた。
〈司馬〉『摩上沙太郎……ろくでもない男だぜ。なぁ誠十郎』
〈神山〉『ああ……。まさか今になって、また名前を聞くことになるとは……』
〈アナスタシア〉『何だか因縁があるみたいね……』
重々しくうなずく神山。
〈神山〉『摩上は俺たちの士官学校時代からの同期だったんだが……奴は海軍の軍資金を横領して、私腹を肥やしてたんだ』
〈司馬〉『奴の犯してた罪を、誠十郎が暴いたんだよな。あいつ決定的な証拠突きつけられても、最後まで見苦しく犯行を否定してたが』
〈初穂〉『マジかよ!』
〈神山〉『それだけじゃない。部下や後輩に対する日常的な虐待行為や、兵器の横流し、戦功の捏造など……数え切れない余罪が芋ずる式に発覚した。あの時は流石に絶句したよ……』
〈さくら〉『そ、そんなひどい人が、神山隊長の同期に……』
さくらたち四人も、あまりの内容に閉口した。
〈司馬〉『監獄から逃げたってのは聞いてたが……まさか摩上が、降魔メダルを使ってる奴の正体だとは……。あいつは罪人ではあっても、ただの人間のはずだよな?』
〈神山〉『奴が宇宙人や降魔とどんな関係があるのかは分からない。今回の事件に関わってるのかもな……。ただ、はっきり言えるのは、これからは人間にも注意をしてほしいということだ。奴が人の中に潜伏していないとも限らない……』
話している途中で、神山がハッ! と顔を上げた。
〈神山〉『みんなッ!』
直後、彼らの無限の足元を怪光線が走ったので、一斉に急停止した。
〈アナスタシア〉『来たっ!』
〈さくら〉『はっ!?』
怪光線はウインダムにも襲い掛かってきて、さくらは咄嗟にウインダムを横にそらして光線を回避した。
〈初穂〉『さくら!』
〈クラリス〉『さくらさんっ!』
〈さくら〉『くっ……!』
必死に回避行動を取るさくらだが、怪光線の追撃は執拗で、遂に一発かわし切れずに食らってしまう。
〈さくら〉『きゃあぁぁっ!』
〈神山〉『さくら、大丈夫か!』
ふらふらと落ちていくウインダムに振り返って叫ぶ神山。しかしそうもしていられなかった。
〈こまち〉『神山さん、前っ!』
神山たちの前に金色の巨大ロボットが出現し、車を狙って腕を伸ばしてきたのだ!
司令室で現場の状況をモニターしているナシルマが声を張り上げる。
〈ナシルマ〉「キングジョーだぁ! ペダン星のスーパーロボット! まさか帝都でお目に掛かれるなんて~!!」
〈ミースア〉「お兄ちゃん、喜んでる場合じゃないですー!」
ミースアが咎めている隣で、デュエスが怪訝な顔を取った。
〈デュエス〉「変だな……映像の手は、確実にペダン星人のものじゃあねぇぞ……」
〈神山〉『くッ……!』
腕を伸ばしてくるキングジョーに対して、神山たちは車を守るべく臨戦態勢を取った。しかし、
「グワアアアアアアア!」
ウインダムがキングジョーの背後まで回り込んできて、羽交い絞めにして崖から引き離した。
〈神山〉『さくら!』
〈さくら〉『わたしに構わず、行って下さい!』
〈こまち〉『助かったで、さくらさん!』
ウインダムが食い止めている隙に、神山たちが再発進してトンネルに近づいていく。
さくらは必死にキングジョーを抑えつけているが、ウインダムから伝わってくるキングジョーの抵抗に歯を強く食いしばった。
〈さくら〉『何て馬力……! うっ!』
とうとう振り払われるが、右腕のスリットからブレードを伸ばしてキングジョーに斬りかかる。
〈さくら〉『ここは行かせませんっ! やぁぁーっ!』
気合い一閃、刃を叩きつけるが、
ベキッ!!
〈さくら〉『お……折れたぁぁーっ!?』
ブレードは根元からポッキリと折れて、吹っ飛んでいってしまった。
〈ナシルマ〉『アンシャール鋼の剣が! やっぱりペダニウム合金の方が硬度は上なのかぁ!』
〈さくら〉『感心してる場合ですか!? くぅっ!』
剣を失っても、ウインダムは再び後ろから飛びついて、上腕を掴んでキングジョーを抑えつける。
〈さくら〉『絶対、隊長たちは追いかけさせませんっ!!』
〈デュエス〉『おい! 腕だけ抑えんな!』
〈さくら〉『え?』
ポンッ!
と軽快な音を立てそうな勢いで、キングジョーの頭部が腕ごと胴体から外れた! 勢い余ったウインダムが真後ろに倒れ込む。
〈さくら〉『ええぇ―――!!? 取れたぁ!?』
残ったキングジョーの胴体は、胸部、腹部、脚部の三つのパーツが円盤に変形し、神山たちを追って飛行し出す!
〈初穂〉『おいおい!? バラバラに分かれやがったぞ!』
〈ナシルマ〉『キングジョーはロボット形態と四機に分離した飛行形態を使い分けることで有名なんだよね!』
〈さくら〉『そういうこと、もっと早く言って下さいよ~!!』
神山たちはトンネルの中に入っていくが、腹部パーツの円盤も後を追ってトンネルに侵入してきた。
〈こまち〉『わぁー!? 来よったでぇ!?』
〈クラリス〉『くっ……!』
円盤が撃ってくる怪光線を、車の後方を走るクラリス機が振り向いて魔法陣で防御した。
〈初穂〉『ここはアタシとクラリスがっ!』
〈クラリス〉『隊長たちは早くトンネルを抜けて下さい! 挟み撃ちにされる前に!!』
〈神山〉『すまない! 初穂、クラリス!』
反転して円盤に反撃していく初穂機とクラリス機を残して、神山たちは最高速度まで加速していった。
〈さくら〉『くっ! このっ!』
キングジョーの頭部を捕らえていたウインダムだが、頭部の円盤は腕の中からすり抜け、神山たちに先回りしようと飛び去っていく。
〈さくら〉『逃がさないっ!!』
ウインダムも蒸気噴射を利かせて飛び上がり、円盤を追いかけていく。
「グワアアアアアアア!」
〈さくら〉『たぁぁぁ―――っ!』
どうにか追いついて再度円盤を捕まえるが、揉み合ったことで落下し、山の斜面をゴロゴロと転がっていく。
〈さくら〉『わっ!? わっ!? わぁ―――――!?』
神山たちがトンネルを抜けたところで、ウインダムは谷底へ真っ逆さまに転落していった。
〈神山〉『さくらぁッ!』
〈アナスタシア〉『キャプテン、こっちにも来たわ!』
先回りしていた胸部と脚部の円盤が神山機とアナスタシア機に襲い来る。
〈神山〉『くッ! うおおおぉぉぉッ!』
〈アナスタシア〉『はぁぁっ!』
刀と銃撃で迎え撃つ神山とアナスタシアだが、円盤の装甲には通らず、体当たりされて崖から突き落とされる。
〈神山〉『うわあぁぁぁぁぁッ!!』
〈アナスタシア〉『あああぁぁぁっ!!』
〈こまち〉『神山さん! アナスタシアさんっ!』
腹部の円盤にしがみついてでも止めようとしている初穂機とクラリス機も、振り払われて崖を転げ落ちていった。
〈初穂〉『わぁぁぁぁぁぁ―――――――!!』
〈クラリス〉『きゃあああああっ!!』
全機落とされてしまって、車は無防備の状態でダムの上を走る。
〈カオル〉「皆さん、やられてしまいました……!」
〈こまち〉「カオル、前っ!!」
前方に振り返ったカオルが急ブレーキ。進行先を、胸部の円盤がふさいでいるからだ。
更に後方には腹部の円盤が陣取り、左右も残る円盤で固められてしまった。
〈こまち〉「か、囲まれてもうた……」
〈カオル〉「……ここまでですね……」
カオルとこまちはやむなく車を降り、ケースを抱えたまま立ち尽くす以外になくなる。
そして円盤から放たれたトラクタービームが、こまちの腕からケースを奪い取り、機内に収容してしまった。円盤四機は、そのまま飛び去っていってしまう……。
――その後に無限が全機谷底から這い上がってきて、さくらも皆の元へ駆けつけてくる。
〈さくら〉「申し訳ありませんっ……! わたしが抑えられなかったばかりに、メダルを奪われてしまって……!!」
責任を感じて唇を噛みしめるさくらに、こまちが優しく声を掛けた。
〈こまち〉「さくらさん、ええんやで」
〈さくら〉「良くないでしょう!? 絶対に失敗してはいけないと、すみれさんから念を押されたのに……!!」
思い詰めるさくらに、初穂があっけらかんと言う。
〈初穂〉「あれな、偽物」
〈さくら〉「……へ……?」
さくらの目が綺麗に真ん丸になった。
〈カオル〉「あのケースは、電波を遮断していたのではなく、電波を出していたんですよ。ナシルマさんが二つ用意していたのです」
〈さくら〉「ええっ!?」
〈神山〉「本物のケースは、あざみが別ルートで運んでる。俺たちは陽動だったんだ」
〈さくら〉「ええええ――――――――――――っ!!?」
ビックリ仰天のさくらだった。
〈初穂〉「あざみは別働だって言ってただろ?」
〈さくら〉「そ、そうだけど……みんな、これ知ってたんですか!? 知らなかったの、わたしだけ!?」
〈クラリス〉「ごめんなさい、さくらさん……。さくらさんが抜けた後で、この本当の作戦を教えられたんです」
〈神山〉「さくらはすぐ顔に出るからな。囮だとバレる訳にはいかなかったから……」
〈アナスタシア〉「舞台に立つからには、もっと芝居が上手にならなくては駄目よ? さくら」
〈さくら〉「そんなぁ~! みんなひどいぃ~!!」
ぷく~とむくれるさくらに、神山たちは思わず笑いがこぼれた。それからカオルが時刻を確認する。
〈カオル〉「あざみさんの速度ならば、もう到着した頃でしょうか……」
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第九話「悪戦苦闘!メダル護送指令」(B)
神山たちがキングジョーを引きつけている間に、密かに別ルートを抜けたあざみは、帝都市街に入って帝劇を目指していた。
〈神山〉『あざみ、こちらは作戦通り敵の目を欺くことに成功した。そっちの状況は?』
無限で大通りを移動中のあざみの元に、神山からの通信が掛かる。
〈あざみ〉『こちらも作戦通り。直に到着する』
〈神山〉『分かった。最後までよろしく頼んだぞ』
〈あざみ〉『了解』
あざみ機の進行先の道路に設けられた、地下格納庫とつながる隠しゲートは既に開かれて、あざみを待っている。ここから帝劇に入れば、作戦完了だ。
しかし、ゲートの前に帝国華撃団整備班のつなぎを着た男が一人、こちらに向かって大きく腕を振っているのを発見して眉をひそめた。
〈あざみ〉『……?』
キャップ帽を目深に被った整備員の前で無限を停めて、ケースを抱えたまま降りるあざみ。
〈あざみ〉「整備班の人? こんなところでどうしたの?」
〈整備員?〉「実は、中で少し問題が起こりまして……。ケースはここでお預かりします」
〈あざみ〉「問題……?」
小首を傾げたあざみの通信機が、司馬の慌てた声を発した。
〈司馬〉『待つんだあざみちゃんッ! 整備班はここに全員いる! そいつは偽者だッ!!』
〈あざみ〉「えっ!?」
瞬間、整備員に化けた男が駆け出すとともにあざみに体当たりをかますようにぶつかり、その一瞬の内にケースをひったくった。
〈あざみ〉「あっ!!」
〈整備員?〉「ヒヒッ!」
走り出した際に男の頭からキャップ帽が外れ、露わになった横顔にあざみが目を剥いた。事前に神山から見せられた指名手配書の顔であったのだ。
〈あざみ〉「摩上沙太郎!!」
通信越しに聞こえるあざみの状況の様子がおかしいことを察して、神山が焦りを浮かべる。
〈神山〉「どうしたんだあざみ! 何が起こった!?」
あざみが悔恨をにじませながら返答した。
〈あざみ〉『申し訳ない、隊長……! 摩上沙太郎にケースを盗られた!』
〈神山〉「何だって!!?」
不安げに集まってきたさくらたちも驚愕した。
〈神山〉「馬鹿な……! どうして作戦を知ってるんだ!?」
メダルをWLOF研究所から帝劇に輸送することは機密情報であり、摩上が待ち伏せしていたなどというのはあり得ないことのはずである。神山も大いに混乱した。
〈あざみ〉『すぐ捕まえるっ!』
〈神山〉「ああ……! 俺たちもすぐそっちに向かう! 状況は逐次報告しろ!」
急変した状況に対応すべく、簡潔にあざみに指示した神山がさくらたちへ振り返った。
〈さくら〉「か、神山隊長……!」
〈神山〉「俺はウインダムで行く! みんなはカオルさんたちと帝劇へ!」
〈さくらたち〉「り、了解!」
言い終わるか否や、崖底のウインダムの元へ向かい出す神山に敬礼を残して、さくらたちは大急ぎで車と機体に乗り込んでいった。
〈あざみ〉「待てっ!」
無限では入れない狭い路地に逃げ込んだ摩上を追って、全力疾走するあざみ。しかし、互いの距離をなかなか詰めることが出来ない。
〈あざみ〉「何て逃げ足……! これが常人の脚力……!?」
いくら元軍人の逃亡犯とは言え、忍者の修行を受けた現役華撃団の自分が追いつけないことを訝しむあざみ。だが、くない手裏剣を取り出して対応する。
〈あざみ〉「はっ!」
投擲した手裏剣が摩上のズボンの裾を地面と縫いつけて、足を止めた。
〈摩上〉「ぐッ!」
足が持ち上がらずに転倒した摩上にすかさず飛び掛かろうとしたあざみだが、
〈摩上〉「へッ……!」
摩上はあろうことか、ケースを開いてメダルを露出してしまった!
〈あざみ〉「なっ……!」
遮断されていた電波が漏出したことで、偽のケースに引っ掛かって飛び去るところだったキングジョーが帝都上空に飛来してきてしまい、各地から悲鳴が巻き起こる。
「きゃあ――――――――!!」
「うわぁ――――――――!!」
〈あざみ〉「っ……!」
あざみが一瞬戸惑った隙に、摩上はズボンの裾を引き裂いてくないから逃れ、再び逃走し出した。我に返ってこちらも駆け出すあざみ。
〈あざみ〉「隊長! ケースを開かれた! ロボットがこっちに飛んでくる!」
〈神山〉『何!!?』
どうにかキングジョーが来るまでに捕らえようとするも、摩上が大通りに出て逃げ惑う群衆の波に紛れ込み、あざみは人が邪魔で追いすがるのがやっとになる。
〈あざみ〉「すみません、どいて! どいて下さい!」
そうして手をこまねいている内に、キングジョーが合体してあざみらの近くに着陸した!
〈あざみ〉「ロボットに位置を突き止められたっ……!」
市民が悲鳴を発しながら左右に分かれて逃げる中を、キングジョーは怪光線を撃ってきてあざみに攻撃を仕掛ける!
〈あざみ〉「あぁ―――――っ!!」
爆風に吹っ飛ばされたあざみが絶叫を上げた。
〈神山〉『あざみ! あざみ!!』
無限で崖を滑るように降りていた神山だったが、最早ウインダムまで行って乗り移る時間すらないと判断した。
〈神山〉『ゼット、頼む!!』
ゼットライザーを起動してゲートに飛び込む、アクセスカードを挿入した。
グワアッシ……グワアッシ……。
〈あざみ〉「うっ……!」
倒れたあざみと、自分で呼び寄せながらひるんでいる摩上の他は全員逃げ去った大通りを、キングジョーが進んでくる。このままではあざみが踏み潰される!
「ゼアァッ!」
だがそこに、アルファエッジの高速飛行で駆けつけたゼットがキングジョーに飛び蹴りを入れ、キングジョーを押し返した。
〈あざみ〉「ゼット!」
「ジュワァ……!」
キングジョーはすぐに標的をゼットに移し、腕を振り上げて襲い掛かる。ゼットも猛然とそれを迎え撃った。
「ジュワァッ!」
ゼットがキングジョーに肩からぶつかって前進を止め、相手の腕の突きをいなして蹴りを入れる。アルファエッジのスピードを活かして打撃を連続で浴びせる。
「ジュワッ! ジュワッ!」
だがキングジョーは身じろぎもせず、ゼットを殴りつけて叩き伏せた。それから蹴り上げで吹っ飛ばす。
「ジュワァァッ!」
〈あざみ〉「ゼット!!」
ゼットを振り払ったキングジョーが再びあざみたちの方に振り返って、追跡を開始した。起き上がったあざみはキングジョーから逃げながら、同時に逃亡する摩上を追っていく、追いつつ追われる身となる。
「ジュワ……!」
身体を起こしたゼットはキングジョーを止めるために、腕を十字に組んだ。
〈神山・ゼット〉「『ゼスティウム光線!!」』
ゼットの光線がキングジョーに綺麗に命中したが……。
〈ゼット〉『き、効かない!?』
キングジョーは装甲が一瞬赤熱しただけで、振り返ることすらせず、何事もなかったように再び進み出した。
そしてあざみの背に向けて怪光線を発射しようとしているのに気づいて、神山が顔色を変える。
〈神山〉『「危ないッ!」』
咄嗟にゼットが転がり込んで、自らの身を盾にあざみを光線から守った。
〈あざみ〉「ゼットぉっ!!」
「デュワァァァァァァッ!!」
もろに光線を食らって倒れ込むゼット。その巨体が起こす震動で、あざみと摩上の足がもつれて転倒した。
〈あざみ〉「あっ!!」
〈摩上〉「うおッ!?」
同時に摩上の手の中からケースが転がり落ちると、キングジョーが額の発光部からトラクタービームを照射して、ケースに浴びせた。ケースが浮き上がってキングジョーに引き寄せられていく。
〈摩上〉「あぁッ! この泥棒ッ!!」
〈あざみ〉「め、メダルがっ!!」
帝劇まであと少しというところまで守ったメダルが、奪い取られてしまう……!
「ジュワッ!」
その寸前で、ゼットが横から腕を伸ばし、引き寄せられていたケースを掴み取った!
〈神山〉『「せ、セーフ……!」』
神山の手の平の中に、三枚のメダルが並べられる。
〈ゼット〉『おおッ! コスモスさん、ネクサスさん、メビウス兄さんのメダルだ!』
ゼットが歓喜の声を上げた。
〈ゼット〉『この組み合わせは確か、変身用じゃなく……えーっと……』
〈神山〉『「忘れたのか!? 使い方!」
〈ゼット〉『ウルトラ面目ない……!』
頭をひねって思い出そうとするゼットの背後から、まさに横取りされたキングジョーが奪い返そうと鋼鉄の腕を振り下ろしてくる。
〈ゼット〉『おッ!?』
咄嗟に防御したゼットだが、間髪入れぬ二発目に張り倒された。
「ゼアッ!」
摩上は誰の注意も自分に向けられていない内に起き上がる。
〈摩上〉「くそッ……結局ウルトラマンに取られちまった……!」
〈ロソス〉『まぁいいさ……追っ手が掛からない内にずらかれ……』
騒乱に乗じて姿を消していく摩上。
キングジョーは倒れたゼットの背面を容赦なく踏みつけて痛めつける。
「ジュワッ!」
横に転がって逃れたゼットだが、キングジョーに掴みかかられて振り回される。キングジョーの堅牢な装甲と怪力の前に、ゼットは大いに苦しめられていた。
キングジョーに馬乗りにされて顔面を締めつけられるゼットの姿に、すみれも焦燥を見せた。
〈すみれ〉「あのロボットに弱点はありませんの!?」
それに答えるナシルマ。
〈ナシルマ〉「キングジョーの弱点はただ一つ、円盤形態に分離した際に剥き出しになる接合部だけです!」
〈ミースア〉「ゼットさーん! キングジョーを分離させて、そこを狙うですー!」
ミースアが通信で声援を送った。
〈ゼット〉『ウルトラナイスな情報だぁ!』
〈神山〉『「まずは押し返そう! 真っ赤に燃える、勇気の力で!」』
神山がウルトラマン、エース、タロウのメダルをライザーにセットしてスキャンする。
[ULTRAMAN! ACE! TARO!]
〈ゼット〉『ご唱和ください、我の名を! ウルトラマンゼーット!!』
〈神山〉『「ウルトラマン! ゼェ―――ット!!」』
トリガーを押して、ベータスマッシュにウルトラフュージョン!
『ヘアッ!』
『トワァーッ!』
『タァーッ!』
[ULTRAMAN-Z! BETA-SMASH!!]
「ゼアッ!」
キングジョーにも負けないパワーとなったゼットが、相手の腕をひねり上げて前蹴りを繰り出した。
「ダァ―――ッ!」
そのままタックルをかまし、押し合いとなる。
「ジュワァァァ……!」
キングジョーが振り回す腕を捕らえて止め、胸部にパンチを打ち込んだ。
「ダァーッ!」
ひるませて腕と腰を掴み、力ずくでパーツを引き剥がそうとするが、キングジョーが抵抗して殴り返してくる。
「ジュワァッ!」
キングジョー側も弱点を把握しているのか、ゼットの前では円盤形態になろうとはしなかった。
〈ゼット〉『駄目だぁ、分離しない! どうしよう!』
〈神山〉『「何か、何か手は……!」』
考える神山が、先ほどの無限での追跡戦を思い出した。
ウインダムが抑えている間に逃げる自分たちを、キングジョーは四機に分かれて追いかけてきて、それぞれが個別に動いて自分たちを崖から突き落とした。
〈神山〉『「こっちも四人に分かれるのはどうだ!?」』
〈ゼット〉『おお! それだ誠十郎ッ! 変幻自在の、神秘の光だ!!』
〈神山〉『「よしッ!」』
神山が腰のメダルホルダーから、ティガ、ダイナ、ガイアの三枚を取り出した。
〈神山〉『「変幻自在、神秘の光……!」』
[TIGA! DYNA! GAIA!]
メダルをセットしてスキャンし、神山の背後に立つゼットが腕を広げる。
〈ゼット〉『ご唱和ください、我の名を! ウルトラマンゼーット!!』
〈神山〉『「ウルトラマン! ゼェ―――ット!!」』
ゼットライザーを掲げて、スイッチを押した!
『テャッ!』
『デヤッ!』
『デャッ!』
ティガ、ダイナ、ガイアのビジョンが紫、黄色、赤のラインとなって一つとなり、輝く光となる!
[ULTRAMAN-Z! GAMMA-FUTURE!!]
「デアッ!」
三度目の変身を遂げて立ち上がったのは、三人の特殊超能力戦士の力を宿した形態のウルトラマンゼット・ガンマフューチャー! それが指を鳴らして能力を発動する。
〈神山・ゼット〉「『ガンマイリュージョン」』
ゼットの身体からティガ、ダイナ、ガイアのビジョンが現れ、ゼスティウム光線とともにゼペリオン光線、ソルジェント光線、クァンタムストリームをキングジョーに向かって発射した。
四人分の集中攻撃を食らってもキングジョーは受け切るが、四機の円盤形態に分離する。とはいえ今の状態でゼットから攻撃されないように浮上して距離を離していくが、
〈神山・ゼット〉「『ガンマミラクルホールド!!」』
この瞬間にゼットが念力を発し、分離したキングジョー四機を全て光の輪で捕らえて拘束した!
〈ゼット〉『今だ誠十郎! さっきのメダル三枚をゼットライザーにセットしろ! ライトニングジェネレードだ!!』
〈神山〉『「使い方思い出したんだな!」』
神山が指示された通りに、コスモス、ネクサス、メビウスのメダルをセットして、スキャンしていく。
[COSMOS! NEXUS! MEBIUS!]
〈神山〉『「いっけぇぇぇぇぇぇ――――――――ッ!」』
ティガたちのビジョンを戻したゼットがゼットライザーを掲げ、エネルギーを集中する。
〈神山・ゼット〉「『ライトニングジェネレード!!」』
ゼットライザーから電撃がほとばしり、天空に雷雲を作り出して青、緑、赤の光を一転に集めた。その中央から柱のような雷撃が降り注ぎ、キングジョーを呑み込む!
この一撃を浴びたキングジョーの円盤四機が全て墜落し、爆炎を巻き起こしたのであった。
司令室に帰投した神山は、どっと息を吐いた。
〈神山〉「摩上のせいで危ないところだったが、どうにか作戦は成功に持ってこられたな」
〈カオル〉「何とか帝国華撃団の面目は保てました。皆さん、お疲れ様です」
護送していたメダルはギリギリ取り返せたので、帝劇への輸送に成功したという結果を残すことは出来たし、無事に神山の手に渡らせることも出来た。結果としては万事上手くいったと言えよう。
ただ、危うくメダルを奪われるところだったあざみはまだ自責の念に駆られている。
〈あざみ〉「本当に申し訳ない……。あざみがしっかりしてなかったから……」
〈神山〉「もう気にするな、あざみ。あんなの想定できなくて当然だ」
〈アナスタシア〉「けれど、本当にどうして摩上沙太郎は作戦を知ってたのかしら。あんなに巧妙に待ち伏せしてたなんて、偶然居合わせてたなんてことは考えられないわ」
疑問を抱くアナスタシアだが、その答えは誰も持っていなかった。
〈神山〉「それは謎だ……。一体どこから情報が漏れたのか……」
〈すみれ〉「その点は、本人に問いただすのが一番でしょうね。警察とも協力して、摩上沙太郎の捜査を一層強化しましょう」
摩上への対策を講ずる一方で、さくらが周りを見回してつぶやく。
〈さくら〉「ところで、彗星組の皆さんはどこ行ったんですか?」
〈初穂〉「そーいやいねーな。せっかくメダル運んできたってのに」
この疑問に回答するすみれ。
〈すみれ〉「彗星組なら格納庫で、今回の敵性ロボットの受け入れ準備を進めていますわ」
〈クラリス〉「ロボットの受け入れ……ですか?」
〈すみれ〉「あのロボットの残骸は全てわたくしたちで回収しますのよ」
〈こまち〉「特空機三号機の資金不足で悩んでたところに、あんな巨大ロボットを丸々鹵獲したからな~! こりゃえらい役に立ちそうやで!」
こまちがほくほく顔で花組に言った。
キングジョーの墜落現場では、司馬たち整備班が集まって残骸の回収作業に当たっていた。
〈司馬〉「よーし、引き上げろ!」
胸部パーツをワイヤーでくくり、翔鯨丸で引っ張り上げて帝劇地下の格納庫へと運んでいく。
――その作業中に、誰の目も向けられていないところで、円盤の中から一本の不気味な腕が突き出て大きく手を広げた。
(ED:Connect the Truth)
『花組のウルトラナビ!』
神山「今回紹介するのは、ウルトラマンダイナだ!」
あざみ「ダイナは『ティガ』の続編となる作品での主役ウルトラマン。地球人類が宇宙進出を始めたネオフロンティア時代に、地球に迫った新たな魔の手を相手に戦った」
あざみ「『ウルトラマンオーブ』の外伝『THE ORIGIN SAGA』で客演してる。初任務の新人時代のオーブとかつてのジャグラスジャグラー相手に、歴戦の戦士として道を示してた」
あざみ「『Z』ではガンマフューチャーに使用するメダルの一枚。ダイナは超能力特化のミラクルタイプという形態があって、その特徴が強く表れてる」
ゼット『そして今回の華撃団隊員はコクリコだ!』
あざみ「初登場時十一歳の幼さながら、移動サーカス『シルク・ド・ユーロ』の団員。動物、特にネコが好きで、自分の機体に絵を描き込んでる。サーカスで鍛えられた手品と軽業の腕前は、舞台でも戦闘でも如何なく発揮してる」
あざみ「それじゃ、また次回で」
カオル「キングジョーを回収した帝国大劇場に、敵性宇宙人が侵入しました! 敵の狙いはロボットの奪還です。神山さん、これを許してはなりませんよ! 撃退して下さい!」
「次回、『残酷無比!宇宙海賊登場』。太正桜に浪漫のZ!」
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幕間「ロボットの申し子」
(特空機用格納庫)
〈デュエス〉「おー来た来た、キングジョーの腰」
〈モフロ〉「あとは脚が来れば、回収はおしまいじゃな」
〈さくら〉「デュエスさーん、モフじいさーん!」
〈初穂〉「作業は順調かー? あれ、ナシルマとミースアがいねぇじゃんか」
〈デュエス〉「ナシルマなら早速特空機三号の設計図の仕上げに行ってるぜ。ミースアもいつものように一緒だ」
〈さくら〉「設計図の仕上げですか?」
〈モフロ〉「この前に話したが、三号予定機の資材には大量の特殊合金が必要じゃ。これが一番の問題だったが……それがこの通り手に入ったからの。今すぐにでも建造に取り掛かろうと、ナシルマ君ははしゃいでおったわい」
〈さくら〉「すごいやる気ですね!」
〈初穂〉「ナシルマの奴、ロボット超好きだよな。霊子甲冑にだって興味深々だったし」
〈デュエス〉「……時々思うが、あいつよくロボット好きでいられるよな。自分の星がロボットでえらいことになったってのに」
〈モフロ〉「そこは生まれついてのものとしか言えんのう。何せあの人の血筋じゃ」
〈さくら〉「そう言えば、特空機の設計って全部ナシルマさんが一人で手掛けてるんでしたっけ」
〈初穂〉「何かちょっと意外だよな。ナシルマがそんなに頭いいってのは」
〈さくら〉「ちょっと初穂、それはいくら何でも失礼だよ」
〈デュエス〉「いや、気持ちは分かるぜ。普段があの軽いノリだからな」
〈モフロ〉「はは。人は見掛けによらんということじゃて」
〈さくら〉「でも、何も設計の全部をナシルマさんだけに任せることもないんじゃないですか? 協力して作業に当たれば……」
〈デュエス〉「いやいや。繰り返すが、あいつあれでロボット工学に関しちゃやべぇ腕だぜ。下手に口出ししても、足を引っ張るだけだ」
〈初穂〉「そうなのかよ?」
〈デュエス〉「ああ。俺も指先には自信あったが、あいつの技術力の程を見た時は正直舌を巻いたぜ」
〈モフロ〉「うむ。あれぞまさしく天武の才じゃ」
〈さくら〉「へぇ……そんなにすごいんですか……」
〈デュエス〉「だが本人にゃ言うなよ。すぐ調子づく野郎だからな」
〈初穂〉「けど、そういう割には最初のセブンガー、そこまですげー機体とは思えねーんだけどな」
〈さくら〉「ちょっと初穂……」
〈初穂〉「そりゃ、最初はでかさに度肝を抜かれたぜ? けど今回みてぇなロボット見てたら、そこまででもないんじゃ? って気がしてさ。せめて、実用時間はもっと長くできねぇのかよ?」
〈さくら〉「もう、それが出来るなら初めからするに決まって……」
〈デュエス〉「いや、やろうと思えば出来るぜ」
〈さくら〉「えっ!? 出来るんですか!?」
〈デュエス〉「動力源をネオマキシマドライブなり何なりに取り換えればいいだけだからな。それだけで稼働時間はいくらでも伸ばせる」
〈モフロ〉「しかし、それはやらなかった。何故か分かるかな?」
〈初穂〉「さぁ……アタシには分かんねぇや」
〈さくら〉「右に同じです……」
〈デュエス〉「答えはな、この星の文明レベルに沿ったもんじゃなきゃ、もしもの時に修理が出来なくなるからだ」
〈さくら〉「えっ、もしもの時って……」
〈モフロ〉「彗星組はひとえにすみれさんのご威光によって活動が出来ておる、非常に不安定な立場の部署じゃ。もし何かあった場合、わしらは最悪帝都にいられなくなるかもしれん。その時残された地球人で修理、ないし整備できん物が特空機に搭載されておったら、いかんというのは分かるじゃろう?」
〈初穂〉「あー、そういう問題があるのか……」
〈デュエス〉「その辺気ぃ遣って、特空機は造ってんだよ。だから一番重要な動力には、信頼性が高い蒸気併用霊子機関で統一してるって訳だ」
〈さくら〉「なるほど……」
〈初穂〉「兵器一個造るにも、色々考えなきゃいけねーんだな」
〈モフロ〉「うむ。性能の高さだけで兵器の価値は決まらんのじゃよ。いざという時に信用できる物でなくてはいかん」
〈さくら〉「でも……そもそも、モフじいさんたちが帝都にいられるかなんてこと、気にしなくていいようになれば、そんな心配とは無縁になりますよね。わたしとしては是非そうなってほしいんですが……」
〈初穂〉「だな。それが一番だぜ」
〈モフロ〉「ホッホッ。嬉しいことを言ってくれるの」
〈デュエス〉「けど現実はそう簡単じゃねぇからなぁ。とりあえず、WLOFが今の感じじゃあ無理のある話だ」
〈さくら〉「ですよね……。どうにかならないでしょうか……」
〈モフロ〉「ふふ、気持ちだけで十分じゃよ」
〈デュエス〉「おッ、脚も運ばれてきたぜ。これで全部だな」
〈ナシルマ〉「おーいみんなー! 回収終わった? こっちもちょうど設計図仕上がったところだよー! もうすぐに作業始めようよ!」
〈ミースア〉「さくらちゃんと初穂ちゃんと、何話してたですかー?」
〈さくら〉「……ううん、何でもないよ。わたしたちも手伝うね!」
〈初穂〉「特空機三号か……どんな機体になるか楽しみだな!」
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第十話「残酷無比!宇宙海賊登場」(A)
――キングジョーの墜落現場で整備班が、脚部パーツが翔鯨丸によって帝劇へ運び込まれていくのを見届けた。
〈整備員〉「ロボットの回収、全て完了しました」
〈司馬〉「よし、帝劇に戻るぞー」
司馬が全員に呼び掛け、撤収準備に取り掛かる。
整備員の一人も、皆から少し離れたところで器具を回収していたが……。
〈整備員〉「ん……!?」
ふと気配を感じて顔を上げると、目の前に異形の腕が突きつけられた!
〈整備員〉「な……!?」
整備員が驚いて固まっている内に、異形の手の平が彼の顔の前でグルグルと円を描く。
〈整備員〉「あ……あ……!」
それを見ている内に整備員の目の焦点が合わなくなっていき――意識が朦朧となったところで、異形の腕が彼の頭を掴んだ!
――撤収前に、班員の確認を行う司馬が、一人欠けていることに気づいてキョロキョロと辺りを見回した。
〈司馬〉「あれ? 岩渕の奴どこ行った?」
〈整備員〉「先に戻ったんじゃないですか? あいつせっかちですから」
〈司馬〉「しょうがない奴だな……」
やれやれとため息を吐いた司馬が、整備班を連れて帝劇へと帰還していった。
(OP:ご唱和ください 我の名を!)
第
残 十
宇 酷 話
宙 無
海 比
賊 !
登
場
回収されたキングジョーは、帝劇地下の大型格納庫に収容された。四機の円盤の状態で横たえられたキングジョーを、ナシルマらが感心したように見上げている。
〈ナシルマ〉「さっすが宇宙でも有名なキングジョーだ! あれだけの攻撃を食らったのに、内部回路がショートしただけだよ!」
〈デュエス〉「この分なら、再利用するのにも手間が掛からなくて済みそうだな。だが、ペダン星から苦情が来ねぇかってのが心配だが。あそこすぐいちゃもんつけてくるからな」
〈モフロ〉「ペダン星はわしが説得しよう。あそこには昔の縁があるでな」
〈ミースア〉「モフじいさん、頼りになるですー!」
〈ナシルマ〉「ところで命名だけど、単純にキングジョーⅡってしようかな?」
〈デュエス〉「その名前は不吉だからやめろ」
話し合っている彗星組の下へ、カオルとこまちがやってくる。
〈こまち〉「うひゃー! 改めて見るとほんまでかいな~。特空機にも負けてへんわ。これを三号機に作り替えるんよな?」
〈カオル〉「作業はいつからですか?」
〈ナシルマ〉「もう今から取り掛かりますよ! 設計図も出来上がってますし、これを前にしてジッとしてなんかいられませんって! ねッねッみんな、そうだよね?」
〈ミースア〉「お兄ちゃん、はしゃぎすぎですよー」
気が逸りすぎてピョンピョン小刻みに飛び跳ねるナシルマに、一同が苦笑した。
そこへ神山が呼び掛けてくる。
〈神山〉「非常勤の人たちも全員集まったみたいだ。いつでも作業開始できるぞ」
〈モフロ〉「うむ。では早速始めようかの」
ミースアがトテトテと積み上げられたコンテナを回り込んでいって、格納庫に集った人員に向かって呼び掛けた。
〈ミースア〉「皆さん、これより作業開始するですー。よろしくお願いするですー!」
『おぉー!!』
さくらたちの前に並んだ、ゼラン星人やドーブル星人などの様々な種族の宇宙人たちがミースアに応じた。
――帝劇の地下通路を、一人の整備員がゆっくりと移動している。しかし、動き方がおかしい。足は全く動いておらず、何かに引きずられるようにズルズル床を滑っている。
やがて地下格納庫の通用口にたどり着くと、固く閉ざされている合金製の扉の認証センサーに顔を近寄らせ、口を開いた。
〈整備員〉「岩渕、順平……」
『声紋認証、虹彩認証、合致しました』
ロックが解除され、自動で開いた扉の中に整備員がゆっくりと入っていき、扉が閉ざされる。そこで整備員がどさりと倒れ込み――その傍らの空間から、ぬるりと異形の怪人が姿を現した。
「バ―――ロ――――……」
〈ミースア〉「はーい、こっちでーす。バッテリーはここに置いて下さいですー」
キングジョーの解体作業が開始され、本体とコードでつながれていたバッテリーの一つが取り外された。
〈初穂〉「へぇ~、これがこのデカブツの動力源か」
〈デュエス〉「無闇に触るなよ。漏電はしてねぇが、万が一があるかもしれねぇからな」
〈バド星人〉『バッテリーの解体に入ります』
〈デュエス〉「ああ。気をつけろよ」
作業が進められる大型格納庫に、一人の来客がやってくる。
〈ユイ〉「さくらー!」
〈さくら〉「あっ、ユイさん」
手を振って寄ってきたユイに、作業を手伝っていたさくらが振り返る。
〈ユイ〉「話は聞いたよ。今回は大変だったみたいだね。で、あれが鹵獲した宇宙ロボット?」
〈さくら〉「はい。ユイさんは見学ですか? シャオロンさんたちは?」
〈ユイ〉「シャオロンと司令は、WLOFからの依頼があるって。解散を命じてきたところが、今更ウチに何の用なんだか……」
やや不機嫌そうに息を吐くユイ。彼女も華撃団大戦で敗北したチームは強制解散というルールには思うところがあるようだ。
〈ユイ〉「そんなことより、あれが新しい特空機になるんだ。もう改造してるって訳?」
〈さくら〉「はい! ナシルマさんが特に張り切ってまして」
〈ユイ〉「いいなぁ、帝国華撃団は次々新しい戦力が入ってきて。……それにしても」
格納庫をグルリと見回すユイ。キングジョーの周りでは、ゴドラ星人、サーペント星人、ネリル星人など様々な姿の宇宙人が作業に着手している。
〈ユイ〉「彗星組って、こんなにたくさんの人、っていうか宇宙人がいたんだ……。前来た時は、全然見掛けなかったけど」
〈さくら〉「皆さんは非常勤の職員さんです」
〈ユイ〉「非常勤?」
いつもの四人以外の宇宙人に関して説明するさくら。
〈さくら〉「彗星組にはモフじいさん、デュエスさん、ナシルマさん、ミースアさんの常勤方の他にも、降魔大戦の際に地球に不時着して神崎支配人に保護された方や、厚意で協力に来て下さった方々が非常勤職員として在籍してるんです。今回は、巨大ロボットの改造という人手が必要な作業なので、全員集まって下さったんですよ」
〈ユイ〉「そうなんだぁ。帝都にこんなにも宇宙人がいたなんて知らなかったなぁ……」
感服したように辺りを見回すユイが、一点に目を留めた。
〈ユイ〉「あの白塗りの化粧の人も宇宙人なの?」
〈さくら〉「えっ? 白塗りって……」
さくらもユイと同じ方向に目を向けると、そこには、
〈ニニー〉『白秋さーん! もっと遊んでー!』
〈白秋〉「ははっ、ニニーちゃんは元気いっぱいだね」
〈ミンミ〉『すみません、白秋さん。娘の相手をしてもらって……』
〈白秋〉「構いませんよ。子供の遊び相手には慣れていますから」
白秋がセミ女とセミ少女の相手をしていた。
〈さくら〉「し、師匠!? 何で師匠までここに!」
〈白秋〉「やぁ、さくら。今頃気づいたのかい? まだまだ修行が足りないね」
思わず歩み寄っていったさくらに振り向いた白秋が、ユイに目を向ける。
〈白秋〉「君は上海華撃団の子だね。私は村雨白秋。さくらに剣の指導をした者だ」
〈ユイ〉「さくらの師匠なんだ。はじめまして、ホワン・ユイです」
〈さくら〉「何で師匠までいるんですか……。どうやってここに入ってきたんですか?」
〈白秋〉「ミースアくんにお願いして、入れてもらったのさ」
〈ユイ〉「さくらの師匠さんも、ロボットに興味あるんですか?」
何気なく尋ねたユイに、白秋は首を横に振った。
〈白秋〉「いや……私が興味あるのは、この景色の方さ」
〈ユイ〉「えっ? 景色って……」
〈白秋〉「よく周りをご覧」
格納庫の様子を一望する白秋。神山がバド星人、ゴドラ星人と話し合っていたり、初穂、クラリスがゼラン星人に指示を与えていたり、あざみがドーブル星人に工具を渡していたり、整備班の地球人も宇宙人たちと混ざって作業を進めている。
〈白秋〉「ここでは姿形が全く異なる者同士が、何の分け隔てもなく同じ時間を過ごしている。こんな場所は、地球上の他にどこにもない。すごいことだとは思わないかな?」
〈ユイ〉「言われてみれば……」
〈白秋〉「同じ地球で生まれているのに、人間と降魔は争ってばかりだというのにね」
白秋の発言に、ユイが眉をひそめた。
〈ユイ〉「降魔ともこんな風に出来るとお考えなんですか? けれど、降魔は……」
〈白秋〉「確かに、降魔が全体的に野蛮で悪辣な気質なのは否めない。しかし聞けば、ここにいる宇宙からの人たちは、彼らの星でのはみ出し者も少なくないという。温厚な種族でありながら生まれつき乱暴な性格の者、反対に好戦的種族だが平和を望む者……」
何か冗談を言い合っているのか、おどけるバド星人とゴドラ星人を小突くデュエスを観察する白秋。
〈白秋〉「何にでも例外というものはある。降魔にも、人間と敵対しようとしていない者も、いるかもしれない。そんな者たちも、人間の中でごく当たり前のように生きていられる……そんな世界であることが望ましいとは、思わないかな」
〈ユイ〉「それは、まぁ……」
白秋の語ることに、ユイだけでなく、さくらも思わず聞き入っていた。
その一方で、作業を監督しているモフロが時間を確認する。
〈モフロ〉「そろそろいい時間じゃな。食事にしようか」
〈ナシルマ〉「うん。みんなー、休憩にするよー!」
ナシルマの呼び声を聞いて、白秋がさくらとユイに振り返る。
〈白秋〉「だそうだ。私たちもご飯にしよう。ユイくんはお弁当を持ってきているかな?」
〈ユイ〉「いえ。食堂を利用させてもらおうと思ってるんですけど」
〈さくら〉「今は食堂でお弁当を作ってもらえますよ! ここでわたしたちと一緒に食べましょう」
〈ユイ〉「ほんと? じゃあすぐもらってくるね!」
〈さくら〉「いってらっしゃーい!」
格納庫の外に向かっていくユイを見送るさくら。
その傍らで、白秋が先に食堂でもらってきた銀色の弁当箱を、懐から取り出した。
通路に出て地上の食堂に向かうユイであったが、そこに司馬が通りがかる。
〈司馬〉「君は上海の。ちょっといいかな?」
〈ユイ〉「どうしたの?」
司馬が何やら困った様子で眉を寄せているので、足を止めるユイ。
〈司馬〉「この辺りで、整備班を一人見掛けなかったかい? ロボットの墜落現場で見えなくなってから、格納庫にもどこにもいないんだ」
〈ユイ〉「えっ? 見てないけど……。まだ戻ってないんじゃないの?」
〈司馬〉「いや、通用口の認証を照合してるのは確認したんだ。まだそこにいるとも思えないんだが……」
二人が話しているところに、通路の曲がり角から、ぬっと人影が出てきた。
〈ユイ〉「ん?」
〈司馬〉「……!?」
明らかに人間ではない……顔面や身体の各部に渦巻き模様がある、くすんだ金色の怪人だが、場所が場所なので、ユイは驚かなかった。
〈ユイ〉「あー、あなたも彗星組の人? ちょっと、ここの整備員を見かけなかった……」
現れた宇宙人にも尋ねかけるユイを、司馬が慌てて制止する。
〈司馬〉「待つんだッ! あんな奴知らないぞ! 彗星組じゃないッ!!」
〈ユイ〉「えっ!? じゃあ……!!」
「バ――ロ――……」
宇宙人はおもむろに背面に手を回すと――ギラリと光を反射するカトラスを引き抜いた。
「バロッサァァ――――!!」
休憩に入ろうと、各々足を止めていた格納庫内に、突如けたたましいサイレンが鳴り響いた。
〈神山〉「!? 魔襲警報じゃない!」
〈アナスタシア〉「侵入者警報!?」
〈さくら〉「侵入者……まさかっ!?」
さくらの顔がサッと青ざめると、格納庫のユイが出ていった扉がドォォォンッ! と轟音を立てて爆破された。
〈初穂〉「何だ!?」
〈神山〉「まずい! 非戦闘員は物陰に隠れてッ!」
一気に騒然となる格納庫内に、神山が大声を発した。
その直後、爆破された扉からユイが、司馬をかばいながら格納庫に駆け込んできた。
〈ユイ〉「つぅっ……大丈夫?」
〈司馬〉「ああ、ありがとう……」
〈神山〉「令士!」
〈さくら〉「ユイさん! 大丈夫ですか!?」
〈あざみ〉「何があったの!?」
ユイと司馬の元へ、さくらたちが駆け寄って正面口から遠ざける。
〈ユイ〉「それが、あいつがいきなり襲い掛かってきて……!」
ユイが指差した、破壊された正面口から、カトラスと光線銃をそれぞれ両手にした宇宙人が煙の中から現れる。
「バ―――ロバロバロバロ!」
侵入者の宇宙人の姿に、デュエスが目を見開いた。
〈デュエス〉「バロッサ星人! 宇宙海賊かッ!!」
〈ナシルマ〉「えぇッ!? あのバロッサ星人!? 略奪者で知られる!」
格納庫に踏み込んできたバロッサ星人の言葉を、庫内の人間の言語を自動で翻訳しているパンスペースインタープリターが訳した。
〈スクアロ〉『そうとも! 泣く子も黙るスクアロ様だ!!』
バロッサ星人は身構える神山たちや、コンテナ等の陰に身を隠した非戦闘員らにグルリとカトラスの切っ先を向けて要求する。
〈スクアロ〉『キングジョーは俺の宇宙船だ。それを勝手に取っていきやがって……今すぐ返してもらおうか!』
〈ナシルマ〉『何をー!? キングジョーだってどうせ盗んだ物だろ! 返せだなんて盗人猛々しい……』
反論したナシルマの足元に、光弾が撃ち込まれる。
〈ナシルマ〉「うひぃッ!?」
〈モフロ〉「ナシルマくん、危ないぞ! 早くこっちへ!」
〈ミースア〉「お兄ちゃん、隠れるです!」
飛び跳ねたナシルマがモフロとミースアに手を引かれて、コンテナの後ろへ連れ込まれた。
〈スクアロ〉『つべこべ言ってんじゃねぇ! 早くしねぇと、テメーら全員ブチ殺すぞッ!!』
激昂したバロッサ星人が辺り構わず銃を乱射する。
〈ネリル〉『危ないッ!』
逃げ遅れた整備員をかばったネリル星人やゼラン星人が、脚を撃たれた。
〈ゼラン〉『ぐわあぁッ!』
〈整備員〉「あぁぁ!? すみませんッ!」
〈サーペント〉『早く隠れて!』
撃たれた二人を、整備員や宇宙人たちが抱えてコンテナの陰に逃げ込んだ。
〈白秋〉「……」
白秋は柱の陰に身を隠しながら、険しい目つきでバロッサ星人をにらむ。
〈ユイ〉「やめろーっ!」
〈さくら〉「ユイさん!?」
バロッサ星人の暴挙に我慢がならなくなったユイが飛び掛かっていく。
「バロォッ!」
バロッサ星人がすかさずカトラスを振るったが、ユイは半身を傾けてかわし、剣を握る手を蹴り上げた。
〈ユイ〉「はぁーっ!」
「バロッ!」
ユイのつま先がカトラスを蹴り飛ばして、バロッサ星人の手から弾き飛ばした。
〈ユイ〉「何だ、大した腕前じゃないじゃん。この程度で大口叩くだなんて……」
簡単に武装解除したユイが呆れた目を送ったが……バロッサ星人はサッと怪しい布で自身の身体を覆い隠したかと思うと、忽然と姿が消え失せた!
〈ユイ〉「えっ!? 消えた!?」
〈デュエス〉「サータンの毛で織った透明マントだ! 気をつけろ、すぐ近くに……!」
デュエスが警告し終える前に、ユイの背後からバロッサ星人がぬっと現れ、新たなサーベルを振り上げる。
〈ユイ〉「あっ!!」
「バロォォッ!」
咄嗟に身をよじったが、背後から肩口を斬りつけられた。
〈ユイ〉「あぁぁぁっ!!」
〈さくら〉「ゆ、ユイさん!」
倒れ込んだユイにとどめを刺そうと、バロッサ星人がサーベルを構える。
〈バド〉『やめろッ!』
〈ゴドラ〉『取り押さえるんだ!』
バド星人とゴドラ星人が助けに飛び出したが、バロッサ星人の振り向きざまの刃が返り討ちにした。
〈バド・ゴドラ〉『『うわあぁぁぁぁ―――――ッ!!』』
〈デュエス〉「お前らッ!!」
〈スクアロ〉『まずお前からだぁッ!』
バロッサ星人が改めてユイを突き刺そうと、サーベルを逆さに振り上げたが、アナスタシアの弾丸が剣を弾いた。
「バロッ!?」
〈ミースア〉「やぁ―――っ!」
その瞬間にバトルモードになったミースアがジェットを効かせて突っ込む。
「バロサァッ!!」
ミースアがバロッサ星人を空箱の山に叩きつけて、ガラガラと崩れる中で抑えつけようとする。その間に神山たちが斬られたユイたちに駆け寄る。
〈クラリス〉「大丈夫ですか!?」
〈神山〉「しっかりするんだ!」
〈ユイ〉「ご、ごめん……」
〈デュエス〉「ここは俺たちに任せて、お前らは無限を取りに行け!」
〈初穂〉「お、おう!」
ユイたちに肩を貸して安全な場所へ運ぶ神山たちを背にしながら、棍を構えたデュエスが指示した。
〈ミースア〉「あうぅっ!?」
しかしすぐに、ミースアが悲鳴を上げてバタリと倒れる。
〈ナシルマ〉「ミ、ミースアぁ!!」
〈さくら〉「ミースアさん!?」
ミースアを斬り伏せたバロッサ星人の手には、エレキングの角の欠片を仕込んだ電撃剣が握られていた。ミースアは感電してガクガク痙攣している。
〈スクアロ〉『宇宙海賊を舐めるなよ』
〈デュエス〉「……!」
デュエスが棍を構え直して、バロッサ星人に飛び掛かっていく。
〈デュエス〉『テメェこそ図に乗んなッ!』
バロッサ星人が電撃剣を振り回すが、デュエスの張った魔法陣の障壁が電撃ごと受け止め、棍で剣を弾き飛ばす。
〈デュエス〉「おぉぉぉッ!」
一回転してバロッサ星人に棍を叩きつけようとするも、その眼前にライトを突きつけられた。
キーラの視細胞を仕込んだライトの強烈なフラッシュがデュエスの目を焼く!
〈デュエス〉「がぁッ!?」
「バロォッ!」
たまらずのけ反った脇腹を、バロッサ星人が更に抜いたショートソードが裂いた。
〈デュエス〉「ぐはぁぁッ!」
〈さくら〉「デュエスさんっ!!」
〈神山〉「まずいッ!」
デュエスも倒れ、神山が抜刀する。
〈神山〉「初穂たちは無限を! さくらは俺と行くぞッ!」
〈さくら〉「はいっ!」
〈初穂〉「頼んだぜ隊長、さくら!」
初穂たちが無限を取ってくる時間を稼ぐべく、神山とさくらが二人がかりでバロッサ星人に斬りかかっていく。
〈神山〉「はぁぁぁぁっ!」
〈さくら〉「たぁーっ!」
「バロッ!」
二人の刀がバロッサ星人の剣を弾いたが、バロッサ星人はまたも透明マントを使って姿を消した。
〈神山〉「さくら、気配を探るんだ! 意識を集中ッ!」
〈さくら〉「はい!」
姿が見えずとも、バロッサ星人の動きを感知するために感覚を研ぎ澄ます二人。どこからどんな武器で襲ってこようとも、迎撃できる姿勢を取る。
しかし、
〈ニニー〉『きゃあ―――!?』
〈さくら〉「えっ!?」
突然セミ少女の悲鳴が起こり、さくらたちが振り向くと、
〈神山〉「なッ……!!」
セミ少女がバロッサ星人に捕まって、床に抑えつけられて頭に銃口を突きつけられていた!
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第十話「残酷無比!宇宙海賊登場」(B)
バロッサ星人の攻撃で負傷したミースアとデュエスはナシルマ、司馬に助けられて、コンテナの陰に運ばれていた。
〈司馬〉「ミースアちゃん、大丈夫かい?」
〈ミースア〉「は、はいです。ありがとうです……」
〈ナシルマ〉「デュエスは? 脇腹をやられてるけど……」
〈デュエス〉「平気だ……それより視覚が効かねぇ……」
強烈な閃光で焼かれたデュエスの目は、まだ回復していない。
〈デュエス〉「状況はどうなってる?」
〈ナシルマ〉「それが……」
〈モフロ〉「まずいと言わざるを得ん……」
そっと顔を出して確認するナシルマたちの視線の先では、バロッサ星人が開けた場所でセミ少女を無理矢理組み伏せて、銃口を頭に向けているのだ。
〈ニニー〉『うえ―――ん! ママぁ―――――!』
〈ミンミ〉『ニニー! お願いです、娘を放して!』
〈スクアロ〉『黙れッ! 騒ぐんじゃねぇ!!』
〈神山〉「おいやめろッ! その子はまだ子供だぞ!」
〈スクアロ〉『騒ぐなと言ったぞ! このガキがどうなってもいいのかッ!!』
バロッサ星人はセミ少女に突きつけた銃をちらつかせて脅迫してくる。
〈さくら〉「くぅっ……!」
〈スクアロ〉『お前ら、もっと下がれ! こいつを助けたいんだったらな!』
人質を取られてはどうしようもなく、神山とさくらはコンテナの横まで後ずさってバロッサ星人から離れる他なかった。
無限に乗って大型格納庫に戻ってきた初穂たちも、霊子戦闘機用の扉から中に入ることが出来ずに歯がみしていた。
〈初穂〉『くっそー……! 無限は取ってくれたってのに……!』
〈アナスタシア〉『これでは近づけないわ……』
〈クラリス〉『あざみさん、どうにかなりませんか……?』
〈あざみ〉『無理……流石に遠すぎる……』
バロッサ星人は身を隠す遮蔽物がない場所に陣取っていて、気取られずに接近することは不可能だ。無理に手出ししようものなら、セミ少女がどうなるか分からない。
〈スクアロ〉『誰か一人だけ出てこい! キングジョーのエネルギーを充填させて、飛べるようにしろ! 十秒以内に出てこないと、こいつを殺すッ!』
〈モフロ〉「いかん……!」
バロッサ星人の要求にモフロが出ていこうとするのを、ナシルマが慌てて止めた。
〈ナシルマ〉「駄目だよモフじい! 危ないよ! ここは僕が行くから……!」
モフロを押し留めて、代わりにバロッサ星人の前に出ていくナシルマ。
〈ナシルマ〉『分かった、要求通りにする! ただ、充填完了には五分は掛かる。それまで待って……』
〈スクアロ〉『遅いッ! 四十秒でやれ!!』
〈ナシルマ〉『四十秒!? それは無理だ!』
無茶苦茶な要求を、バロッサ星人はセミ少女を盾に押し通そうとする。
〈スクアロ〉『このガキがどうなってもいいんだな』
〈ナシルマ〉『ッ……分かった……』
ナシルマは逆らうことが出来ず、タッチパッドを使ってキングジョーを操作し、分離形態から結合させてエネルギーを充填させていく。
〈神山〉「くッ……こっちが思考する時間も与えないつもりか……!」
〈さくら〉「どうすれば……!」
四十秒という短い時間で、この状況の打開策を見出すことが出来ず、非常に焦る神山たち。このままでは、バロッサ星人の要求を呑んだとしても、セミ少女が無事に解放される保証もない……。
〈白秋〉「さくら」
苦悩するさくらの横から、いつの間に移動してきたのか、白秋がバロッサ星人から見えないように呼び掛けてきた。
〈さくら〉「師匠……!?」
白秋は口の前で指を一本立てて、静かにするようジェスチャーしてから、さくらにピッと人差し指を向けた。
〈白秋〉「教えただろう。未熟者は指先を見る。真の剣士は、相手の目を見る」
〈さくら〉「……?」
白秋が何かのたとえ話をしている内に、キングジョーのエネルギー充填が完了してしまう。
〈ナシルマ〉『これでエネルギー充填は終わったぞ。早くその子を放してくれ!』
バロッサ星人はニヤリ、と目で笑う。
〈スクアロ〉『ご苦労だったなぁ。下等動物』
そして銃を向けて、タッチパッドを撃ち抜いて破壊した! これでキングジョーの発進を止められなくなった!
〈ナシルマ〉『あッ!?』
〈スクアロ〉『もう用はない。こいつにもなぁッ!!』
更に反対の手に握った剣を振り上げて、刃をセミ少女の首に向ける!
〈ニニー〉『いやぁぁぁぁ―――――――――――っ!!』
〈ミンミ〉『ニニー!!』
〈ナシルマ〉『や、やめろぉぉぉぉッ!!』
誰もが息を呑んだ瞬間!
〈白秋〉「おっと、少し待ちたまえ」
白秋がおもむろにコンテナの陰から出て、手に持った“銀色の箱”を掲げた。
〈さくら〉「師匠……!?」
〈神山〉「は、白秋さん!?」
〈スクアロ〉「!?」
場違いなほど落ち着き払った白秋の声で、バロッサ星人の手が思わず停止した。白秋は箱をヒラヒラと振って、その視線も誘導する。
〈白秋〉「これはロボットの最終起動装置だ。これがないと、発進はしないぞ」
〈ナシルマ〉「!?」
〈スクアロ〉『何!?』
〈白秋〉「そーら、これが欲しいか……」
バロッサ星人が驚いて箱に注目している内に、白秋は箱を床に滑らすように放った。
〈白秋〉「そらっ!」
バロッサ星人は反射的にセミ少女から離れて、箱に飛びついた。
「バロッ!」
持ち上げてすかさず蓋を開き、
鮮やかな黄色の玉子の生地を真っ赤なケチャップで彩ったオムライスと対面した。
「……!!」
〈白秋〉「はっはっはっ。大帝国劇場の絶品オムライス弁当だよ」
この隙にセミ少女を片腕に抱え上げた白秋が高笑いし、蓋を開けた水筒を大きく振る。
〈白秋〉「お茶もどうぞっ!」
中身の紅茶が飛ばされ、バロッサ星人にぶっかかった。
「バロォッ!?」
白秋がチラリとさくらに目配せすると、さくらはハッ! とキングジョーから抜き出したバッテリーへ駆け出した。
〈さくら〉「やぁぁ―――っ!」
抜刀した太刀でバッテリーのコードを断ち切り、掴んで引っ張ると、断面を床に出来た紅茶のラインに押し当てた。
コードの電線から漏れる電流が、水面を伝ってバロッサ星人に襲い掛かる!
「バババババババババッ!!」
感電してガクガク痙攣したバロッサ星人。その際に何か小さなものが三つ、こぼれ落ちた。
「バロッサァァァァァ―――――――――――!!」
バロッサ星人はたまらず格納庫から飛び出し、地上に向けて逃亡していく。
〈神山〉「待てッ!」
〈初穂〉『待ちやがれぇーっ!』
すかさず神山と初穂たちが追いかけていった。
〈市民〉「きゃあっ!?」
〈市民〉「うわぁッ!!」
地上に出て逃走していくバロッサ星人の姿に、帝都市民は面食らって立ち止まる。
しかし工事現場へ逃げ込んだところで、四機の無限に追いつかれて包囲された。
〈クラリス〉『もう逃げられませんよ!』
〈初穂〉『散々汚ねぇ真似しやがって! 年貢の納め時だぜっ!』
「バロッ!」
四方を囲まれ、逃げ道を完全にふさがれたバロッサ星人。
だが異次元人ギギの縮小光線銃を取り出すと、目盛りを反転させて、光線を自身に浴びせた!
「バロッサァァァ――――――――!!」
光線の効果で肉体の細胞を拡大し、50メートル級の巨人へと変貌を遂げた!
〈初穂〉『何ぃ!?』
〈あざみ〉『おっきくなった……!』
〈アナスタシア〉『奥の手を隠してたのね……!』
巨大化したバロッサ星人は、すぐには無限に攻撃せず、工事現場の盛土の前に立って背面に手を伸ばす。
「バロッ!」
背中から取り出した剣を、盛土に突き刺して、次の物を取り出す。
「バロッ! バロォッ!」
所持している刀剣類をありったけ盛土に突き刺して万全の用意を整えると、改めて刀を抜いて無限に振り向いた。
「バロォォ―――――……!」
〈初穂〉『くっ……!』
ひるむ初穂たち。無限も軽く踏み潰せるほどのサイズから刀を振り下ろされたら、ひとたまりもないだろう。
だがこの窮地に、神山が変身空間のゲートを開いて飛び込んだ!
[SEIJŪRO, Access Granted!]
〈神山〉『「刀槍矛戟、神秘の刃……!」』
[TIGA! DYNA! SAKURA!]
ウルトラゼットライザーにティガ、ダイナ、そしてさくらのメダルをセットしてスキャンした。
〈ゼット〉『ご唱和ください、我の名を! ウルトラマンゼーット!!』
〈神山〉『「ウルトラマン! ゼェ―――ット!!」』
ゼットライザーを掲げて、トリガーを押した!
『テャッ!』
『デヤッ!』
『やぁーっ!』
ティガ、ダイナ、さくらのビジョンが一つの光となって、渦巻く桜の花びらから、ウルトラマンゼットが飛び出していく!
[ULTRAMAN-Z! SAKURA-FUTURE!!]
「デアッ!」
背後に現れたゼットの気配に気づいて、バロッサ星人が振り返る。
「! バロォッ!」
〈初穂〉『おおっ! ゼットのお出ましだぜ!』
体表に桜色のラインが走る、ウルトラマンゼット・サクラフューチャー! ゼットライザーを取り出すと、その能力によって刀身と柄が現れ、ディスク部分を鍔としたライザー刀で武装する。
「ゼアッ……!」
「バァロッ……!」
ジリジリと円を描くように間合いを測り合うゼットとバロッサ星人。刀を構え直すバロッサ星人が、声を発する。
「バロッ! バロバロバァロ、バロッサァ!」
既に格納庫外に出ているので、自動翻訳はされない。
〈神山〉『「何て言ったんだ?」』
〈ゼット〉『宇宙海賊の本当の強さを見せてやる、だと』
〈神山〉『「……」』
神山が黙っていると、バロッサ星人が痺れを切らしたように向かってくる。
「バロォッ!」
「シュアッ!」
ゼットも同時に駆け出し、互いに跳躍して刃と刃を交錯させる。
激しい火花が飛び散り、位置を入れ替えて着地。バロッサ星人はすぐに反転して再度向かってくる。
「バロォッ!」
対するゼットは刀で円を描き、光の魔法陣を作り出す。
「シュアッ!」
その中に飛び込んで、姿を消した!
「バロッ!?」
驚いて一瞬立ち止まったバロッサ星人の刀を、その目の前に現れた魔法陣から出てきたゼットの剣の振り上げが吹っ飛ばした。
「バッ!? バッ!!」
続く横薙ぎをバロッサ星人は咄嗟に飛びすさってかわし、大量の武器を刺した盛土の元へ駆け寄っていった。
「バロッ! バロッ!」
その中から一本剣を抜いて、追いかけてきたゼットに振り向きざまに振り回す。
「バロォッ!」
後ろに退いてよけるゼット。体勢を直してから、迫ってくる剣を刀で受け止め、振り抜いて弾き飛ばした。
「シュアッ!」
「バロォォッ!」
間髪入れずにひと太刀浴びせて、バロッサ星人が倒れ込む。
「バロバロォッ!」
だがひと太刀だけでは大きなダメージにはならず、バロッサ星人は這い回るように盛土に戻って小ぶりの剣を抜いた。
「バロォッ!」
それを振るうがすぐにまた弾かれた。神山が毅然と言い放つ。
〈神山〉『「魂のない剣に、強さなどないッ!」』
「バロォォ……!」
それに威圧されたかは知らないが、バロッサ星人は四本目の剣を取りには行かずにジリジリとゼットから距離を取るが、
「バロッ!」
不意に工事現場の土砂を握ると、ゼットに向かって投擲してきた!
「バロサァッ!」
「ジュッ!?」
ゼットの顔面に土砂が浴びせられて、思わずひるんだ。
〈神山〉『「うわッ!? とことん卑怯な……!」』
「バロォォッ! バロサァッ!」
バロッサ星人はひたすらに土を放って、ゼットの目潰しを狙う。
それまで決闘に手を出さなかった初穂たちも、バロッサ星人の振る舞いに激怒。
〈初穂〉『おいっ! どこまで汚けりゃ気が済むんだ! 恥を知れ恥をっ!』
〈クラリス〉『はぁぁっ!』
クラリス、あざみ、アナスタシアが射撃でゼットを援護。無限の攻撃を浴びたバロッサ星人の手が止まる。
「バロッサァッ!」
改めて盛土のところに戻ると、今度は弾き飛ばされないように、右腕と一体になるマグマ星人のサーベルを装備してゼットに斬りかかっていく。
「バロバロォォッ!」
「シュアッ!」
まっすぐ突っ込んでいって刺突を繰り出すバロッサ星人だが、ゼットは横に跳んでかわし、サーベルが後ろの建物に突き刺さった。蒸気管を貫いてプシューッ! と蒸気が漏出する。
「バロォッ!」
すぐにゼットを追撃しようとするバロッサ星人だが……サーベルの切っ先が突き刺さった建物から抜くことが出来ない。
「ンッ!? ヌケナイッ!」
鋼鉄製のパイプを貫いたので、それが引っ掛かってしまったのだ。サーベルが腕と一体化しているので、手放すことも出来ない。
〈初穂〉『へっ! 馬鹿な奴だぜ!』
〈あざみ〉『ゼット、今!』
あざみの呼び掛けにゼットがうなずき、無防備のバロッサ星人に刀を振り下ろそうとする。
「シュアァッ!」
「バロッ!」
しかしバロッサ星人の左の手の平を突きつけられて、思わず立ち止まった。
「!?」
〈神山〉『「ゼット、駄目だ! 見るな!」』
神山が忠告するが既に遅く、バロッサ星人の手の平がグルグル回され、渦巻き模様を向けられたゼットがふらふらめまいを起こしてしまい、その間にサーベルを引き抜いたバロッサ星人の前蹴りを食らった。
「バロッサァッ!」
「ジュアァッ!」
ゼットが仰向けにぶっ倒される。
〈初穂〉『あぁーもう何やってんだよー!』
〈アナスタシア〉『危ないわ! 早く立って!』
アナスタシアが叫ぶもバロッサ星人がゼットに馬乗りになって、サーベルを何度も繰り出す。
「バロバロバロ! バロッサァッ!」
「ジュアッ!」
マウントを取られたゼットは、頭を左右に振ってサーベルをギリギリかわすので精いっぱいであった。
格納庫ではバロッサ星人が追い出されたことで、負傷者の手当てが行われていた。キングジョーのエネルギーは、ナシルマが別操作で抜き去る。
〈ナシルマ〉「これでよし……。危ないところだった……」
白秋はセミ少女を下ろし、母親のところに返す。
〈ニニー〉『ママー!』
〈ミンミ〉『ニニー! よく無事で……!』
ひしと娘を抱きしめたセミ女が、白秋に何度も頭を下げる。
〈ミンミ〉『ありがとうございます! ありがとうございます!』
〈ニニー〉『白秋さん、ありがとう!』
〈白秋〉「何、これくらい軽いものだよ。君が無事で何よりだ」
白秋の元へ、さくらと手当てを受けたユイも駆けつけてくる。
〈さくら〉「師匠! 本当にありがとうございます!」
〈ユイ〉「すごい機転! 流石さくらのお師匠さんだね!」
〈白秋〉「いやいや。せっかくのオムライスを駄目にしてしまったのが残念だよ。まぁそんなことより……」
白秋が、バロッサ星人が感電していた辺りを指差す。
〈白秋〉「さっきの奴が、何かを落としていったように見えたのは私の気のせいかな?」
〈さくら〉「……!」
さくらも目を凝らして、バロッサ星人が落としていった物体の正体に気がつく。
三枚のウルトラメダル! 先にWLOFの研究所から強奪されたものに違いない。
〈さくら〉「っ!」
それに気づいたさくらは、すぐにメダルを拾い上げて格納庫から飛び出していった。
〈ユイ〉「あっ、さくら!?」
〈白秋〉「ふふっ……」
ユイはさくらの突然の行動に目を見張り、白秋はしたり顔で微笑んでいた。
〈あざみ〉『はぁぁぁっ!』
馬乗りにされたバロッサ星人から斬りつけられるゼットを助けるため、あざみ、クラリス、アナスタシアの三機が射撃を放つ。
「バロッ!」
顔面の飛んでくる攻撃をサーベルで防ぐバロッサ星人だが、その隙に接近した初穂機が、燃えるハンマーをすねに叩きつけた。
〈初穂〉『うらぁーっ! 東雲神社の御神楽ハンマーだぁー!!』
「バロロロォッ!?」
すねを殴られたバロッサ星人がたまらず飛び上がり、ゼットから離れた。
「ジュアッ……!」
窮地から助けられたゼットだが、カラータイマーが点滅している。もう残り時間が少ない。
そこにさくらが駆けつけ、持ってきたメダルをゼットに向かって投げ飛ばす!
〈さくら〉「ゼットさん! これを使ってぇぇ―――っ!」
バロッサ星人がゼットにとどめを刺そうとサーベルを振りかざすが、それより早く、ゼットがメダルをキャッチした!
〈神山〉『「これは……!」』
〈ゼット〉『ウルトラの星のレジェンドの力が込められたメダルだ!』
新しいメダルは、ジャック、ゾフィー、ウルトラの父のものだ。
〈ゼット〉『斬撃を強化する力がある! 行くぞ誠十郎ッ!』
〈神山〉『「ああ!!」』
神山がゼットライザーに、新しい三枚のメダルをセットしてスキャンする。
[JACK! ZOFFY! FATHER OF ULTRA!]
〈神山〉『「おおおおおおッ!」』
ゼットライザー刀の刀身が閃光を放ち、突き出されたサーベルを受け止めた。
「ジュアッ!」
そしてそのまま破砕する!
「バロバロォォォォ!?」
武装を破壊されたバロッサ星人が大きく狼狽。ゼットは更に刀を大きく円を描くように振るう。
〈神山・ゼット〉「『M78流・竜巻閃光斬!!」』
遠心力を乗せて刀を突き出すと、刀身から竜巻が発生してバロッサ星人を呑み込む!
「バロォォォ―――――――――!?」
竜巻に巻き込まれたバロッサ星人が空高くに打ち上げられていき、ゼットが刀を振り下ろして巨大光輪を飛ばす。
「シュアッ!」
光輪は上空でバロッサ星人をズタズタに斬り裂いた!
「バロッ! バロバロバロバロッ! バロッサァァァァ――――――――――――!!」
全身を斬られたバロッサ星人は、所持していた火薬類が引火したことで、すさまじい大爆発を起こす! 同時に激しい火花も散らして、空一面に花火が咲いたような光景となった。
〈さくら〉「わぁ~……!」
〈クラリス〉『綺麗です……!』
予想外の打ち上げ花火にさくらたちが見とれる中、ゼットはその空に向かって飛び去っていった。
「シュウワッチ!」
その後、神山たち花組は医務室のミースア、デュエスを見舞う。
〈さくら〉「ミースアさんもデュエスさんも、大丈夫ですか?」
〈デュエス〉「ああ。もう視力も戻った」
〈ミースア〉「ミースアも、修理完了ですよー!」
〈ナシルマ〉「二人もみんなも、大したことなくて良かったよ」
〈モフロ〉「うむ。死者が出なかったのが不幸中の幸いじゃ」
安心して胸を撫でおろすナシルマとモフロ。花組もほっと安堵した。
〈神山〉「とんだ邪魔が入ってしまったが、これで三号機の建造も心置きなく続行できるな」
〈さくら〉「はい! 皆さんの無事が分かったところで、今回はここで勝利のポーズやりましょう!」
〈ナシルマ〉「おッ、いいねー! じゃあみんなで一緒にやろう!」
〈デュエス〉「いや、俺はそういうのは……」
〈初穂〉「ツレないこと言うんじゃねぇよー。ほら、入れ入れ!」
花組、彗星組が肩を寄せ合って、ビシッとポーズを取った。
〈一同〉「勝利のポーズ、決めっ!!」
華々しく勝利を飾った帝国華撃団だが、ここでふとアナスタシアが疑問を口にした。
〈アナスタシア〉「ところであの宇宙人、最期に何か言ってたみたいだったけど……あれは何と言ってたのかしら?」
バロッサ星人の最期の言葉を、ナシルマが訳す。
〈ナシルマ〉「『俺の弟たちが、いつか復讐に来るからな』だって」
〈あざみ〉「復讐……」
〈初穂〉「へっ! 海賊なんかに負けるかよ! 纏めて掛かってこいってんだ!」
初穂がすっかりいい気になって豪語したが、
〈デュエス〉「そんなこと、軽く言っちゃっていいのか?」
〈初穂〉「え?」
〈デュエス〉「バロッサ星人は一度に一万個も卵産むんだぞ」
そのひと言にぶッ! と噴き出す神山たち。
〈神山〉「一万!?」
〈デュエス〉「つまり、弟たちってのは最大で……」
万単位のバロッサ星人が帝都に攻めてくる様を想像し、花組はすっかり青ざめたのだった。
〈G〉「……帝国華撃団は、特空機三号の建造を再開したようだな」
プレジデントGが、配下に様子を探らせた帝国華撃団の情報から、バロッサ星人を退けてキングジョーの改造を再開しているのを読み取った。
〈G〉「これでますます帝国華撃団の戦力が充実し、もっとでしゃばるようになったら、この十年間の工作が水泡に帰すかもしれん。ようやくここまで漕ぎつけたというのにな……」
何かを目論んで一人思案するプレジデントGが、やがて結論を出した――。
〈G〉「この辺りで一つ、行動を起こすことにするか……」
(ED:桜夢見し)
『花組のウルトラナビ!』
神山「今回紹介するのは、ウルトラマンジャックだ!」
アナスタシア「ジャックは『帰ってきたウルトラマン』の主役戦士よ。番組名はこんなだけど、初代ウルトラマンとは完全に別人で、初代が再び主役になるという企画案の名残でこんなタイトルになったのよ」
アナスタシア「姿が初代とあまり違わないので客演での出番にはあまり恵まれないのだけれど、『オーブ』ではハリケーンスラッシュのカードの片割れで、ウルトラランスをモチーフとしたオーブスラッガーランスというアイテムが出るなど、大分スポットライトが当たったわ」
アナスタシア「『Z』ではゼットライザーを使った必殺技に使用するメダルの一枚ね。光輪は本編で実は一度しか使用していないけれど、ウルトラブレスレットのウルトラスパークは何度も活躍してジャックを助けたわ」
ゼット『そして今回の華撃団隊員はロベリア・カルリーニだ!』
アナスタシア「懲役千年を超える囚人で、減刑と賞与を条件に巴里華撃団に参加してるという異色の隊員よ。幼い時から迫害されてたために悪の道に走ってたけれど、本性では仲間想いという面もあるわ。歌劇では当然素性は明かせないから、サフィールという名前で舞台に参加していたの」
アナスタシア「それでは、次回でお会いしましょう」
いつき「遂に特空機三号の完成です! けれどそれも束の間、あざみちゃんにスパイ疑惑が!? あざみちゃんが降魔のスパイなんて、そんな訳ありませんよね、神山さん!」
「次回、『花組分裂!?偽りの忍者』。太正桜に浪漫のZ!」
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幕間「憧れの方」
(大帝国劇場売店前)
〈さくら〉「特空機三号の完成はいつ頃になるでしょうね、神山さん」
〈神山〉「ナシルマたちが張り切ってるからな。もう数日後には出来上がるみたいだ」
〈さくら〉「相変わらず仕事が早いですよね。本当にありがたいです!」
〈こまち〉「はーい、まいどおおきにー!」
〈さくら〉「あれ? あそこ……売店にいる人って……」
〈神山〉「エリスさん! 伯林華撃団の……」
〈エリス〉「あっ……! あ、あなたたちか……」
〈さくら〉「今日はどうされたんですか? 支配人に何か御用でしょうか」
〈エリス〉「い、いや、そういう訳ではなくてだな……」
〈こまち〉「エリスさん、ウチのブロマイド買いにちょくちょくいらしてるんよ」
〈エリス〉「あっ! そ、それは……!」
〈こまち〉「ええやないですか。ここにいるの見られたからには、もう隠せまへんって」
〈神山〉「ブロマイドを? 意外ですね……エリスさんが集めてるなんて」
〈エリス〉「すまないが、このことはあまり言いふらさないでほしい……。華撃団大戦期間中に、隊長職の者がよその華撃団の劇場を何度も訪れているというのは、褒められたことではない」
〈さくら〉「それはいいですけど、エリスさんは誰のブロマイドをお買いになってるんですか? やっぱりアナスタシアさん?」
〈エリス〉「それは……」
〈こまち〉「これや。店頭に出したばかりの新商品」
〈さくら〉「……え。これに写ってるのって……」
〈神山〉「ウルトラマンゼット! この前の時の……」
〈さくら〉「エリスさん、ゼットさんのファンなんですか!?」
〈エリス〉「ああ……実はそうなんだ……」
〈さくら〉「けど、またどうして……」
〈神山〉「確かにウルトラマンゼットは人気は高いですが……ちょっと意外ですね。こう言っては失礼ですけど、素性が不明なゼットを、バリバリの華撃団のエリスさんがそこまで好きになるとは……」
〈エリス〉「それはだな、何と言うか……私は日本の文化に興味があるのだが」
〈さくら〉「そうだったんですか」
〈神山〉「そう言えば、歌舞伎座でよくお見掛けしますね」
〈エリス〉「それでゼットさ……ゼットの戦う姿を目にした時に……彼から日本の侍の魂を感じた」
〈神山〉「さ……」
〈さくら〉「侍……?」
〈エリス〉「ああ。これを見てくれ!」
(ウルトラマンゼット・サクラエッジのブロマイド)
〈さくら〉「これって……」
〈エリス〉「遠い宇宙の果てからやってきた人が、刀を用いて戦うというのには驚いたが、それだけではない。彼の立ち姿、戦いぶりは、確かに私が憧れる侍の精神を感じるのだ!」
〈神山〉「そ、そうなんですか……」
〈エリス〉「ゼット様はどこで侍の精神を学ばれたのか……。思えば彼はたった一人で、遠く離れた異国の地で、誰とも知らない人々のために戦っている……戦士として、私は尊敬するばかりだ……。先日の戦いも、卑劣な宇宙海賊相手に剣客として格の違いを見せつけて……実に見事であった……」
〈さくら〉「へ、へぇ~……ゼット様って……」
〈エリス〉「ああ、ゼット様……私も、あなたと肩を並べて戦いたい……はっ!」
〈神山〉「……」
〈エリス〉「ごほん……すまない、伯林華撃団隊長の私があまり長居するべきではないな。これで失礼させてもらう」
〈さくら〉「は、はい。お気をつけて……」
〈エリス〉「大葉さん、また新作を入荷したら、お知らせ下さい。では」
〈こまち〉「まいど~」
〈こまち〉「……ゼットさんから、侍の精神かぁ~。けどそれは、ゼットさんやなくて神山さんのもんなんやけどな」
〈神山〉「素のゼットを知ったら、ガッカリしないだろうか」
〈スマァトロン〉『それわ銅云う忌みですか』
〈神山〉「しかしそうなると、エリスさんの憧れの相手って……」
〈さくら〉「誠十郎さぁ~ん……?」
〈神山〉「ひッ!?」
〈さくら〉「いや~、誠十郎さんは人気ありますねぇ……あのエリスさんから、あんなに夢中になってもらえるだなんて……部下のわたしも鼻が高いですよぉ……」
〈神山〉「さ、さくら!? どうしたんだ!? 鼻が高いって顔じゃないぞ!」
〈さくら〉「誠十郎さん、ちょっとお話があります……。こっちへ、一緒に来て下さい……」
〈神山〉「ま、待て! 引っ張るなって! うわ何だ!? 面識もないはずの、真宮寺さくらさんの姿がさくらに覆い被さって見えるッ!! うわ―――――!!」
〈こまち〉「……やれやれ。色男は大変やなぁ」
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第十一話「花組分裂!?偽りの忍者」(A)
〈G〉「――ミズS。ここのところ、帝国華撃団は失態が目立つな」
帝劇の支配人室で、プレジデントGがすみれに対して高圧的に糾弾をしていた。
〈G〉「降魔怪獣に追いつめられることはほぼ毎回。輸送作戦はしくじり、華撃団大戦の開幕式では上級降魔の襲撃を許し、未確認物質もあと少しで強奪されるところだった。こんな体たらくで、よく臆面もなくいられるものだ」
プレジデントGからの嫌味に、すみれは無言を通しているが、表情はひどく苦々しかった。
〈G〉「ウルトラマンゼットとかいう、どこの誰とも知れぬ輩などに助けられてようやく首の皮をつないでいるようなものだ。やはり荷が重いのだよ。華撃団というシステムに、限界が来ているのだ。最早帝国華撃団に、幻都は任せられん」
そう語って、すみれの前ににじり寄ってきたプレジデントGが、詰問する。
〈G〉「帝鍵は……どこにある?」
〈すみれ〉「……さぁ、存じ上げませんわ」
すみれはひと言で返しながら、プレジデントGから離れた。
〈すみれ〉「わたくしは、もう現役を退いておりますもの。二都作戦にも参加していませんでしたから」
プレジデントGはふぅー……とため息を吐くと、再びすみれに呼び掛ける。
〈G〉「二都作戦は確かに成功した。だが覚えているはずだ。犠牲は、あまりにも大きかった。残された力では、未だ現れ続ける降魔怪獣に対抗できんのだ」
〈すみれ〉「……わたくしたちには、特空機がありますわ」
〈G〉「そんなもの、この地球の外から来た、確かな素性も分からん連中が造ったものだろう。ウルトラマンとかいうのも、どこまで信用できる? もしも奴らが裏切った時は、一体どう責任を取るのかね? ミズS」
詰ってくるプレジデントGに、すみれは反論することが出来ない。人が確実に裏切らないということを、どうやって証明しろというのだ。
〈G〉「故に我々は、この地球上に生きる全ての“人間”の力を結集する必要がある。バラバラの華撃団ではなく、一つの、強大な力を持った華撃団にする。それこそが世界統一華撃団構想であり、今回の華撃団大戦のルール変更の理由なのだ!」
押し黙ったままのすみれに対して、プレジデントGは熱弁する。
〈G〉「純粋な戦闘力で優劣を決め、最後に勝ったチームを中核とした、かつてない力を持ったWLOF華撃団を立ち上げる。そして帝鍵も特空機もWLOF華撃団が徹底管理し、残存する降魔どもを殲滅する。これ以上、地球外の馬の骨どもの介在を必要としないようにな。それでこそ、真に世界が守られるのだよ!」
〈すみれ〉「危険ですわ。降魔相手に、こちらから攻めようなどとは……。どれほどの犠牲が出るか……」
〈G〉「ふッ……守るだけでは何も解決せんよ。どの道、事態は否応なしに変化していく。私と君、どちらの言い分が正しいか、それはいずれ情勢が教えてくれよう。ハハハハハッ!」
冷徹に直立したままのすみれを尻目に、プレジデントGは高笑いを残して支配人室を後にしていった――。
(OP:檄!帝国華撃団〈新章〉)
第
花 十
偽 組 一
り 分 話
の 裂
忍 !?
者
「ダァーッ!」
帝都の中央で、ウルトラマンゼット・カグラスマッシュが巨大怪獣の顎にアッパーを食らわせた。一瞬のけ反った敵だが、然して効いていないように首を戻す。
[ピッギャ――ゴオオオオウ! ギャオオオオオオオオ!]
半身を鈍色の鋼鉄で機械化された、巨大な二本角の怪獣。それは以前ゼットが、ジードとゼロとともに撃破したスカルゴモラに酷似していた。
レッドキングと、ゴモラの生体構造を模倣したロボット怪獣メカゴモラ、更にかつて陸軍の反乱分子が降魔を改造した『降魔兵器』の一種である閃光の三種類から作り出された、降魔融合獣ヨ式メカスカルゴモラである!
「ゼアッ!」
[ピッギャ――ゴオオオオウ! ギャオオオオオオオオ!]
ゼットが大槌を出してヨ式メカスカルゴモラに叩きつけるが、鋼鉄の装甲で覆われたメカスカルゴモラにはこれも通じない。反撃にヘッドバットをもらって悶絶した。
「グアッ!」
[ピッギャ――ゴオオオオウ! ギャオオオオオオオオ!]
更にヨ式メカスカルゴモラの全身からミサイルが発射され、ゼットに集中する。
「グワァァァァァァッ!」
連続的な爆撃を食らい、ゼットが吹っ飛ばされ倒れ伏した。これに大笑いする摩上。
〈摩上〉[「ハッハハハハハハハ! いいじゃねぇかぁこりゃ! ちと操作にゃてこずるが、戦闘力は申し分ねぇぜぇ!!」]
〈ロソス〉『ふふ……扱いづらい分、強力ということだ……。さぁ兄弟、今の内に畳みかけろ……』
〈摩上〉[「おうよ兄弟!」]
メカスカルゴモラが倒れたままのゼットへ、角先からメガスカル超振動波を放とうとする。
その時、どこかからロケット弾が飛んできてメカスカルゴモラに炸裂した!
〈摩上〉[「ぬあッ!? 何だぁ!?」]
〈ロソス〉『あれは……!』
発射を止められたメカスカルゴモラが顔を上げると、空から巨大ロボットが猛スピードで飛来し、滑りながら着陸するとともに背面よりミサイルを連発。メカスカルゴモラに浴びせた。
[ピッギャ――ゴオオオオウ! ギャオオオオオオオオ!]
鋼鉄と一体化した堅牢な肉体を揺るがしたのは、頭部がそのまま胴体に乗っかっている白と黒のロボット。顔面に上下に並んだ二つのレールアイが左右に走り、機体の各部からプシューッ! と蒸気を噴出した。
これこそが鹵獲したキングジョーを解体、再構築して建造した特空機三号。そのお目見えであった!
〈ナシルマ〉「やったーかっこいい!」
〈ミースア〉「決まったですー!」
司令室で、特空機三号の活躍にナシルマ、ミースアがはしゃいでいた。三号の初陣を見守る司馬も高揚を抑え切れていない。
〈司馬〉「すさまじい機動力と攻撃力だな! ウインダムまでとは大分違う!」
〈ナシルマ〉「そりゃそうだよ! 霊子水晶とペダニウムを合成した新動力源、ペダニウム霊子核の搭載により、出力は何とウインダムの約五倍! それこそが帝国華撃団の新たなる力、特空機三号こと
〈デュエス〉「はしゃぎ過ぎだろ、お前……」
〈モフロ〉「若いのう」
ナシルマの熱の入りように反して、すみれやカオルはあくまで平静でいた。
〈カオル〉「元の機体から随分様変わりしましたね」
〈デュエス〉「元々のキングジョーは都市制圧に特化してて、防衛戦にゃ不向きだからな。一から作り替えた方がいいって判断だ」
〈すみれ〉「アナスタシアさん、初穂さん、クラリスさん、あざみさん。城武の実戦投入は初めてとなりますが、四人力を合わせ、是非初陣を華々しい白星で飾って下さいね」
すみれが通信で、城武を操縦する四名に対して激励を向けた。
〈初穂〉『任せてくれよ、すみれさん!』
〈アナスタシア〉『問題ないわ』
〈クラリス〉『城武のシステム、全て正常。このまま行きましょう!』
〈あざみ〉『参る……!』
城武はオリジナルのキングジョーと同様に四機のパーツから構成され、それぞれに操縦席を設けた複座式の導入によって桁違いの出力を実現している。そのために四人がかりの操縦で動かしているのだ。
城武は立ち上がったゼットと並び、共にヨ式メカスカルゴモラに挑んでいく!
[ピッギャ――ゴオオオオウ! ギャオオオオオオオオ!]
メカスカルゴモラは両手を回転させ、発射することでゼットと城武を同時に攻撃する。
「ゼアァッ!」
〈初穂〉『ペダニウムハンマー! 行っけぇぇぇーっ!』
飛んでくる拳を、ゼットは大槌で、城武は胸部の初穂の操縦による伸長するアームパンチではね飛ばした。メカスカルゴモラが大きくそれた拳を、チェーンを巻き上げて戻すが、その隙に榴弾を撃ち込む。
[ピッギャ――ゴオオオオウ! ギャオオオオオオオオ!]
「イィィィヤァッ!」
銃撃とゼットの大槌の打撃がメカスカルゴモラを押していく。しかしメカスカルゴモラ側も破壊光線クラッシャーメガで撃ち返してくる。
「ゼアッ!」
光線をかわすゼットと城武だが、城武は少し動いただけで機体のバランスを崩してつんのめった。
〈初穂〉『うわっわっわっ!? コケるコケるっ!』
〈クラリス〉『反応が速すぎます!』
〈アナスタシア〉『あざみ、しっかりして!』
〈あざみ〉『ご、ごめん……!』
歩行・走行を担当する脚部のあざみが謝った。動揺する四人へナシルマが忠告する。
〈ナシルマ〉『みんな、落ち着いて! 城武は反応速度もウインダムの三倍! 複座なのも合わせて、操縦性は今までと全く違うんだ! 集中してないと振り回されるよ』
〈初穂〉『分かったぜ……!』
〈ナシルマ〉『霊力同調担当のクラリスちゃんは特に重要だからね! 何があっても落ち着いて対処を!』
〈クラリス〉『は、はい!』
腹部のクラリスが顔を引き締めた。霊力同調に失敗すれば、城武を流れる四人の霊力が逆流して、戦いどころではなくなってしまう。
「イヤァァッ!」
城武がよろけている間に、ゼットはサクラエッジにウルトラフュージョンして、二刀でメカスカルゴモラに斬りかかっていく。だが斬撃も強固な装甲を突破できず、角で刀を弾き返されていた。
〈アナスタシア〉『ゼットの攻撃が通っていないわ。あの装甲を破らないといけないわね!』
〈初穂〉『チマチマやってても埒が明かねぇ! 主砲を食らわしてやるぜ!』
城武が右腕の26口径粒子砲を構えるが、メカスカルゴモラはミサイルを乱射してゼットたちを纏めて吹き飛ばそうとしてくる。
「ゼアァァァッ!」
ゼットがミサイルを斬り払いながら回避行動を取り、城武も反対方向へローラーダッシュしてかわす。が、
〈あざみ〉『くっ、このっ……! 言うことを聞け、じゃじゃ馬……!』
あざみがスピードを制御し切れず、城武がとうとう横転してしまう。
〈初穂〉『うわぁぁぁっ!?』
〈クラリス〉『きゃああ!』
〈あざみ〉『あうっ! み、みんな……!』
倒れた城武へ、メカスカルゴモラが超振動波を放ってきた!
[ピッギャ――ゴオオオオウ! ギャオオオオオオオオ!]
〈アナスタシア〉『はっ!?』
〈初穂〉『やべぇっ!』
よけられない。初穂たちは咄嗟に身構えたが、
「ハァッ!」
ゼットがマギカフューチャーとなり、魔法陣を通って空間移動。バリアを張って超振動波を防いで城武を救った。
〈初穂〉『ほっ……』
〈クラリス〉『助かりました……』
〈あざみ〉『……』
そしてゼットはウルトラゼットライザーを出し、メカスカルゴモラに反撃する。
[COSMOS! NEXUS! MEBIUS!]
〈神山・ゼット〉「『ライトニングジェネレード!!」』
天から降り注ぐ雷撃が、メカスカルゴモラを貫いた!
[ピッギャ――ゴオオオオウ……!]
電撃によって内部機構が破壊されたメカスカルゴモラの動きが鈍くなり、城武がその隙に起き上がった。
〈アナスタシア〉『今よ!』
〈初穂〉『ああ! 75サンチペダニウム粒子砲っ!!』
今度こそ粒子砲を発射! とてつもない威力の光線がうなり、ヨ式メカスカルゴモラの装甲を砕いて貫通!
[ピッギャ――ゴオオオオウ!! ギャオオオオオオオオ!!]
これがとどめとなって、メカスカルゴモラは完全に爆散して消滅したのであった。
戦闘終了後、帝劇に帰投するとあざみが神山たちに対して大きく頭を下げた。
〈あざみ〉「申し訳ない……! あざみのせいで、もう少しでやられるところだった……!」
責任を感じているあざみを、神山たちが慰める。
〈神山〉「気にするな、あざみ。これまでとは操縦性が大きく異なる機体での初の実戦だったんだから、トラブルが起こるのはむしろ当然さ。何事もなかったのが幸いなくらいだ」
〈あざみ〉「だけど……」
〈アナスタシア〉「キャプテンの言う通りよ。済んだことを悔やんでも仕方ないわ」
〈クラリス〉「あざみさんは反応速度の違いが一番出る部位を担当してたんだから、無理もないですよ」
〈初穂〉「次に上手く出来るようになりゃいいじゃねーか!」
皆の言葉にさくらも同調する。
〈さくら〉「あざみはよくがんばったよ。だから気を落とさないで」
〈あざみ〉「……」
〈初穂〉「まー、今回はさくらが何か言える立場じゃねぇけどな。一人だけ戦闘にも参加してなかったもんなー」
おちょくってくる初穂に、さくらがむくれた。
〈さくら〉「ちょっと、こっちも大変だったんだけど! 今までは三、四人でやってた市民の避難誘導や救助を、たった一人でやってたんだからね! あっちこっち駆け回って……!」
〈初穂〉「分かった、分かったって! 冗談だよ! だからそんな怒るなって」
ムキになるさくらに、一同が思わず破顔した。
しかし神山がふと振り向くと……いつの間にか、あざみが忽然と消えていた。
〈神山〉「あれ……あざみは? さっきまでここにいたのに」
〈クラリス〉「あっ、いませんね……」
〈初穂〉「どっかに行ったんじゃねぇか? あざみ、気がついたらいなくなることがしょっちゅうあるだろ」
他の面々はあまり気にしていないが、神山は心配する。
〈神山〉「けど、さっきのことがあったばかりだから……気に病んだばかりに、姿を消してしまったんじゃ……」
〈アナスタシア〉「考え過ぎよ、キャプテン。そんなに弱い子じゃないはずだわ」
〈さくら〉「ええ。いつも気がついたらひょっこり戻ってますし、今回だってその内、何食わぬ顔で戻ってきますよ」
〈神山〉「そうだろうか……」
一抹の不安は残しつつも、あざみのことはそのままにして、神山は意識を別のことに向けていった。
今回の戦闘の報告書を提出後、神山はミースアと話をしながら帝劇内を移動していた。
〈ミースア〉「隊長さん、城武のバランサーの調整をしたですー。これで少しは操縦しやすくなったはずですよ」
〈神山〉「ありがとう。これでもうあざみも気を落とすようなことが起きなくなるといいが……」
そうしてロビーを通り過ぎようとしたところで……不意に誰かから声を掛けられた。
「帝国華撃団・花組隊長、神山誠十郎だな」
〈神山〉「はい?」
振り向くと、黒ずくめのスーツで身を固め、屋内なのにサングラスを掛けた男がそこにいた。神山には男の顔が、以前に見た覚えがあった。
〈神山〉「あなたは確か、プレジデントGと一緒にいた……」
〈I〉「ミスターIと呼びたまえ」
〈神山〉「は、はぁ……。そのミスターIさんが何の用ですか?」
プレジデントGの取り巻きらしい人物が一人で帝劇にいることを訝しみつつも、尋ねかける神山。すると、ミスターIはこんなことを言い出す。
〈I〉「プレジデントGの遣いで来たのだよ。ある人物の、身柄を拘束する任務を受けてね」
〈神山〉「えッ!?」
穏やかならぬ発言に、神山のみならずミースアも驚愕した。
〈神山〉「身柄を拘束って……一体、誰を?」
〈I〉「君もよく知る人物。望月あざみだ」
〈ミースア〉「あざみちゃん!?」
まさかの名前に、衝撃を受けるミースアと神山。
〈神山〉「な、何故……どうしてなんですか!」
〈I〉「望月あざみには、降魔のスパイの疑惑が掛かっているのだよ」
〈神山〉「あざみが、スパイ!? そんな馬鹿な!」
〈ミースア〉「な、何の証拠があってそんな失礼なこと言うですか!」
〈I〉「ふん……これを見ろ」
ミースアの抗議に、ミスターIは一枚の写真を見せることで答える。
それには、あざみが仮面を着けた見知らぬ人物と一緒にいるところが写っていた。
〈神山〉「これは……あざみ? この仮面の男は誰だ……?」
〈I〉「これは先日、元上海華撃団に依頼して撮ってもらったものだ。華撃団大戦の開幕式を襲った降魔、夜叉は特徴的な仮面を身に着けていた……。時を同じくして発見された、この奇妙な仮面の男……無関係だと思うかね?」
〈神山〉「そ、それは……」
はっきりとした物証を見せられて、神山も言いよどむ。
〈I〉「つまり、その不審な男と密会を続ける望月あざみは、降魔のスパイと考えられる訳だ」
〈ミースア〉「そ、そんなはずは……!」
ミースアもショックを禁じ得ないが、神山は意を決して、ミスターIに反論した。
〈神山〉「そんなはずはありません! あざみは、俺たちの仲間ですッ!」
〈I〉「ふん……」
だがミスターIには、まともに取り合うつもりはないようだった。
〈I〉「すぐにでも拘束したいところだが……まぁいい、まだ調査の途中だ。私はミズSにこの件を知らせてくる。……また会おう」
ミスターIが踵を返し、支配人室に向かっていった。
〈神山〉「あざみが……降魔と会ってる? そんな馬鹿な……」
ミスターIがいなくなって、改めて動揺する神山に、ミースアが必死に呼び掛けた。
〈ミースア〉「あざみちゃんがスパイなんて、そんなことないですよね! きっと何かの間違いです!」
〈神山〉「あ、ああ……そうだ! あざみの無実を証明して、疑いを晴らさないと!」
気を持ち直して、あざみに掛けられた疑惑を解消するために行動することを決意する。
〈神山〉「そのためには、あざみから話を聞かないと……。あの写真の、仮面の男が誰なのかも確かめなければ……」
〈ミースア〉「あざみちゃんはまだ戻ってないです。捜しに行くですよー!」
〈神山〉「ああ! ミスターIより先に、あざみを見つけ出さなくては……!」
あざみに迫る、予想外の危機に際して、神山はミースアとともにあざみの捜索のために帝都へ繰り出していった。
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