真面目系文学 (白熊の人)
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幻想

真面目に、ミステリー?を書いてみました。
いつもの感じとは違いますが、ぜひ読んでみてください!!
今回のテーマは、妖です。


私は、最近夢に悩まされている。明晰夢というやつだ。時々ならいいのだが、毎日となると、何かありそうで怖い。

明晰夢とは言っても、あからさまに非日常というわけでもない。心の中で人に命令しても思い通りに動くわけでもなければ、思ったものが急に手元に出てくるわけでもない。

しかし、他の人に化けられたりと、日常ではできないことができるのも確かだ。

        *

私は目を覚まし、学校に行く準備をする。パジャマを脱いで、制服に着替え、洗濯物を持って、一階に降りる。

お母さんに、「ご飯よそっておいて!」と、声をかけながら洗面台に行き、パジャマを洗濯機の中に放り込んで、顔を洗う。

冷たい水が、布団から出たばかりで少し火照っていて、眠気が抜けていない私に朝を告げる。

その後、顔に関するの処理をしていると、お母さんが、「ご飯できたわよー!」と声をかけてくれた。

すぐに返事をし、食卓へ向かってゆく。着席し、手を合わせて、頂きますと言って食べ始める。

いつも通りの味で、特に変わった味はしなかった。食器を片づけて歯磨きをする。歯磨きが終わり口を漱いで、カバンをひっつかみ、鍵と弁当箱を持って学校に行く。 

         *

 学校では、いつもと変わらない日常がただただカセットテープで録音された音声のように、繰り返されていた。だが、今日は違った。

転校生が来るというイベントがあったのだ。その転校生を一目見た瞬間、一生付き合ってゆく人だと感じた。

やせ形で、身長は170センチくらい、イケメンで深い色の茶髪声はそこまで低くはなかった。しかし、今日は彼のほうから接触はなかった。

彼と席が遠いというのもあるが、私に勇気がなかったのだろう。彼に話しかけられなかった。私は、男子とも喋れるので、友達のグループメンバーからは、意外がられた。

彼女たちは、私がイケメンである彼にすぐにアタックすると思っていたのだろう。私自身もなんでアタックしなかったのか分からなかった。

勇気がなかったということだけで結論付けてはいけない気がしたが、過ぎてしまったことは深く考えないのが私だ。昔からそうだった。はずだ。

だが、今回は違った。最近は異例なことがありすぎて、正直処理しきれていない。

頭の中では、すべて処理しきらないといけないと分かっているのだが、未知な情報が多すぎる。

ただ分かっているのは、明晰夢を見るようになってから、歯車が狂ったことだけだ。

        *

また明晰夢だ。この夢を見ると、苛立ちを覚える。何故だかは分からないが・・・。

全く何もない世界を歩いてゆく。足元を見ると何もない空間が広がっていて、立っているのかすら分からない。

上を見る。足元を見た時と同じで、何もない。しかし、何回もこの夢を見ているせいで、段々と慣れてきている自分がいる。

すべてが無の世界に、人が生まれた。どこからともなくやってきたと言ったほうが正しいか・・・。とにかく、人間がいた。

いや違う。人間ではなくなった。しっぽが生えている。そして二足歩行をしている。段々と近づいてくるのが分かる。

私と同じ向きでしっかりと歩いてくる。真っ直ぐ、こちらの方面へ。彼のほうに走り出す。私がうけている焦燥感をどうにかしたかったからだ。

勿論、なんで焦燥感に駆られているかはわからない。ただ、怖かった。早くどうにかしたかった。

焦燥感という表現があっているか分からないほど、怖かった。だが、単純な恐怖とは明らかに異なった。

得体のしれない感情に支配されるのを防ぐために、そいつのところに走ってゆく。

 だが、届かなかった。体の力が抜けてきて、現実に叩き戻される。

         *

飛び起きた私は、全く汗をかいていなかった。悪夢にうなされていて、汗をかいていると思ったが、そんなことはなかった。

それどころか、寝返りをした形跡もなく、タオルケットはぴっしりとしていた。飛び起きたところだけが乱れていただけだった。

深く記憶に植え付けられている昨日の夢は、この後の私に大きな影響を与えていくということはなかった。

記憶にはあるが、それまでだった。朝支度を済ませ、学校に行く。朝のホームルーム前に友達から、夏祭りに一緒に行かないと誘われた。

そう言われてから、夏祭りの存在を認知した。毎年あるはずだから忘れているはずがないと思ったが、忘れていたのだ。

明らかにあの夢のせいで、日常のことを忘れさせられている。他のイベントのことを思い出そうとすると・・・

         *

授業中に寝てしまったのだろうか?またあの空間に飛ばされた。精神が憔悴しきっている。

夢はあの時の続きだが、もう彼は目の前にいた。軽くホラーだったが、安心感のほうが強かった。

「どうしてこんなことをしているのですか?」

彼が話しかけてきた。怒っている様子でも説明してほしそうにもしていない。訳が分からなかった。だから、

「訳が分からないわ。どうしちゃったの?」

と聞いた。

彼は、表情を変えずに後ろを向いて歩き出した。どうせ夢なら、彼のことは掴めないだろう。

だが、私は彼の肩を掴もうとして、掴んだ。掴めた。鎖骨の硬さと僧帽筋と三角筋の柔らかさはあまりのも生々しいものだった。

肩に触れられたことに気が付いたのか、振り向いた。

         *

起きたら、自分の部屋のベッドにいた。体を起こし、スマートフォンを見る。

そしたらなんと、夏祭りの当日だった。メモのアプリケーションを開いた。そこには、待ち合わせ場所と時間が書いてあった。

内心ほっとする。昔から、メモをする習慣が付いていたのが幸いした。昔・・・?何故だか、夢と同じような焦燥感がやってくる。

今している思考を全てシャットアウトした。これ以上は危険だ。危険・・・?何故?っと、また変なことを考えそうになった。今は、準備のことに集中しよう。

親が用意してくれた浴衣を着て、集合場所に向かう。この地区の祭りは、そこまで大きいものではなく、開始の合図に音花火が上がることはない。

だがそれでも、昔からやっている伝統ある祭りだ。最後には、祭りの参加者全員で、大きな火を囲って回りながら踊るというものがある。

それが終わったら祭りは終了だ。頭に違和感が走る。一瞬だけテレビにノイズが入るような感覚に陥る。

そのことに不快感を覚えながらも、夢のせいと簡単に結論付けた。待ち合わせ場所には誰もいなかった。

五分前行動が普通なので、誰も来ていないことは予測できていたが。またノイズが走る。

具合が悪いのかと疑ったが、多少無理してでも行くべきだろう。

待ち合わせ場所を離れようとしているときにばったり会ってしまって、どこ行くのと聞かれるのも結構気まずい。

ガンガン頭が痛くなるわけでもないし、一瞬で収まったので気にしないようにした。

ぴったりに来る者もいたが、遅れてくる者もいて、皆が集まったのは集合時間から十分経過した後だった。

しかし、このルーズさが若者における特権だと思っている。いつも何かに追われている大人には感じられない感覚だろう。

みんなで、綿菓子やりんご飴、焼きそばと定番の食べ物を食べながら、いろんな出店を見て回った。

祭りという非日常な事象なはずなのに、デジャブを感じる。全く新鮮な感じではないのだ。

この祭りには、物心ついた時から参加しているから、飽きてきてしまったのか?と思いながらもみんなと回る。

飲み物を飲みすぎたのか、催してきた。みんなに、お花摘みに行ってくる。と言って、皆から離れて、化粧室に向かう。

化粧室と表現してもも、公園の物なのでとても汚いものなのだが・・・。臭いところで用を足し、なるべく早く外にでる。

外にある蛇口をひねり手を洗った後、ウエットティッシュで手を拭く。潔癖症というわけではないが、こうしないとなんか嫌な気持ちになる。

化粧室の奥にある藪で、ガサガサという音がした。この地域には、結構動物が多い。普通に狸なんて出てくるし、それでいちいち騒ぐことはない。

しかし、これだけ野生動物が出没しているのに、怪我の一つ、いや、食害被害も全くないことに気が付く。

こんな大規模に祭りなんてやっているのだが、そっちの方向には見向きもしない。ただ、虚空を見ているだけだ。

そんなありふれた現象だったが、私の足は、そっちのほうに向いた。さっきも言ったように、珍しいとは感じていない。

ただ、何となく興味が湧いた。藪をかき分けて、近づいてゆく。急に藪が終わり、周りが気で囲まれたところに出てきた。

結構驚いて、帰ろうとした。不気味ではないが、明らかに異世界みたいな感じがしていた。

「迷い込んでしまったのですね。」

と、後ろから声をかけられる。びっくりして、飛び上がった。そして、後ろを向く。すると、そこには、彼がいた。

夢の中でも、現実世界でも見覚えのある彼だ。夢の中で、狐みたいな尻尾をみせていたので、妖怪の類ではないかと、警戒レベルを上げる。

「ここはどこなの。」

驚いたことを隠し、強い口調で質問を投げかける。すると彼は、やれやれと言わんばかりに両手を広げ、首を振りながら言った。

「貴方が一番よく知っているはずですよ。」

訳が分からなかった。だが、話を進めなければここから出られない。

「分からないから聞いているんだけど?それくらい分からないの?」

彼のことを意識していた分、強く当たってしまう。

「失礼いたしました。こちらの理解が足りず。貴方様にご不快な思いをさせてしまいました。深く反省しております。」

執事のように、おじぎをした。口調に合わせたのだろう。とても苛ついた。

「それで、今の状況を説明してくれないかしら。」

彼が、執事なら私は、お嬢様のまねごとをしよう。と思って出したセリフだ。

「はい、わたくしの麗しきご主人様。わたくしめが現状を説明して差し上げましょう。」

この言葉に、恐怖を感じた。わからない。言葉遊びを楽しんでいるだけなのに。それだけなのに、怖い。すごく怖い。

「どういたしましたか?お嬢様。御顔の色が少し優れないようですが?」

本気で心配しているような声だ。嘲笑している感じではない。

「大丈夫よ。早く説明して頂戴。」

「本当に良いのですか?」

何故、そんなことを聞くのだ!?聞いてはいけないことなのか?鼓動が早くなる。

頭の全神経を使って考え直す。幸いにも、私が返答するまで待っていてくれるみたいだ。

だが、このまま何も知らない状況で、元に戻るということはできないだろう。選択肢が与えられているようで与えられていないのだ

。深呼吸をし、いったん気持ちを落ち着かせる。深呼吸をしてから三秒くらい溜めて、答えを出そうとしたが、彼は歩いていこうとした。

答えは聞けないと思ったのだろう。だから、彼の肩に触れて、答えを出した。

          

 答えを出した瞬間、世界が一変し始めた。世界の色がすべてなくなっていって、あの状況まで戻った。

振り向いた彼の顔には、笑みが浮かんでいた。

「やっとここまで来ましたね。貴方の茶番に付き合わされるこっちの身にもなってくださいよ。」

急に訳の分からないことを言い出す。彼は私を突き飛ばした。なにするんだ!と言いかけたが、何も言えなくなった。

目の前にある衝撃が、私の言葉をかき消した。

あの人が化け狐に変わっているところを見せられた。狐の耳が出てきて、二本の太いしっぽが生えてきた。

このことに驚愕したせいだ。焦燥感が最高潮に達する。思い出したくない記憶が溢れてくる。

考えないようにしても、それを阻止するように溢れだす。頭を抱えてうずくまる。発狂しているのだろう。

自分の声が自分の耳を刺激する。彼が近づいてきて、私の頭頂部を撫で、耳をつねる。耳だけをつねった。

髪には触れていないことを感じた。この時点で少しずつ察し始めていた。おしりのほうも重くなってくる。

絶望し、泣いていると彼が声をかけてきた。

「こんにちは、ご主人様。人間のフリは楽しかったですか?」

この一言が、自分が人間ではないと自覚させられた最後の一手になった。全てが崩れていくような感覚に陥る。

だが、立ち上がり、自分のおしりを見た。信じたくなかったという気持ちが強かったからした行動だが・・・。

感覚通り、九本の尻尾が生えていた。そこで少し納得する。そして、悟ってしまう。この世界の全てを。

 

まっとうな人生を送りたいと思った。だが、世界というものは残酷だった。

ある程度の魅力がなければ、手を差し伸べてくれない。そういう世界だった。

悲しみに暮れた平和ボケを患った少女は、身を投げてしまう。

そうして妖になった少女は、自分の覚えている限りの知識を使い、自分だけの世界を作った。

あまりにも歪(いびつ)で、歪(ゆが)んでいるでいるその世界は、脆すぎた。

簡単に侵入を許し、内部から崩壊させられた。しかし、彼女は何回だって繰り返すであろう。

人間として、まっとうな人生というものを過ごす為に。必ず崩壊する世界で。

何故なら、彼女は今回の物語を作るのに、最新の記憶を使っていたからだ。

どんなに頑張ろうと、それ以上の物語を作り出すことはできない。その世界には学ぶ術がないからだ。

そんな可哀そうな九尾を救おうとしたのが、彼だ。彼のせいで、崩壊させられたと勘違いしている者もいそうだが、それは違う。

彼は終わらせてあげようとしたのだ。あまりにもむごい結末をみせないために。だが、その手を取ることはなかった。

そして、彼のせいにしてまた進もうとしている。これが、永遠に終わらないサイクルの途中経過になってゆく。




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独立小題

今回のテーマは、時計です。


  *

 まず初めに、これは物語が始まっていない前書きみたいなものであることを言っておく。この話を読んでいくにあたってしてほしいことがある。それは、この物語の中に出てくる隠されたものを探してほしい。まあ、なんだ。一種の問題と思ってくれて構わない。ノーヒントだったら厳しいかもしれないから、ここで一つヒントを出しておく。この物語で重要とされるものと同じことが出来るものだ。勿論、話の中でその答えの普通名詞なんて出ないから気を付けるように。では、またあとで会おう。

     *

カタン

 

 俺は、見知らぬベッドで目を覚ました。大きな振り子時計が今は、零時をさしている。振り子の心地よい音が何だか薄気味悪いような感じの音に聞こえた。全く知らない場所だから、警戒度が上がっているのだろうか?そんなことを思いながら、部屋を漁る。幸いにも、部屋の電気はついていて、スイッチを探す必要がなかった。この緊張状態で、暗い中、光源を求めて探すほどの勇気が俺にはあるのだろうか?まぁ、そんなことは『もしもの時』の話だ。俺にはまったく関係がない。机の上に、赤く塗装された高級そうな革のカバーがかけられた本があった。その本を開くと、長ったらしい文章が、見開き1ページにわたって書かれていた。しかし、その中の文章を見る限りは、日記のようなものだった。決して、物語のものではないことが明らかだった。その中でも、俺の目を引いたのは、『答えは、問題の隣にある。なぜなら、そこが一番分かりにくいからであり、正の位置にも負の位置にもいないところに存在する次元が、一番見えにくいのだ。』と、かなり哲学的だが、現実のことを当てはめてみると、かなり分かりやすかった。自分の推理能力に惚れ惚れしていると、遠くから、誰かの悲鳴が聞こえた。すぐに日記を置き、今の部屋からでて行った。その本が置かれていたところに何か書いてあったのだが、それを見ている余裕は、今の俺にはなかった。

    *

チクタクチクタク

 

 走って、声にした方向に向かう。決して、一人でいることにビビったというわけではない。ただ、明確に行くという意思を持ってその場所へ向かった。その方向へ走って行くと、廊下を経て、大きなホールに出た。他の人もいるらしい。声は、もっと奥で聞こえたが、そんなことはどうでもよくなってしまった。目の前に人が現れたのだ。それも複数人。みんなも今、飛び出てきたみたいで、意気が上がっている人や、ドアをぶち開けて飛び込んできた人もいた。五分くらい待って、他に人がいないか待ってみる。だが、さっきの扉を乱暴に開けた人が最後みたいで、誰も来ない。最近ホラー映画を見たのだが、長居しているとろくなことにならないため、話を切り出すことにした。

「まずは、自己紹介をしましょう。」

と。勿論、パニックになっている皆は、こう返すだろう。

「そんなことをしている暇じゃない。」

と。俺も逆の立場だったらそう言う。だが、冷静さを失ったら、その時点でおしまいなのだ。きちんと頭を使って、ギミックを解いていくのが王道のミステリーって奴だろう。ちょっとした探偵気分になってきた。そんなことを考えていると、周りの声がうるさい。『どうしたんだ?』と思って、思考を中断し、そっちのほうに耳を傾けて、目を開ける。言っていなかったが、俺は深く考え事をするとき、目をつぶって考える。そうしないと、外の余計な情報が、考えの妨げになるからだ。

「お前が犯人だから、余裕があるんだろ!!」

と一人が言いだした。(因みに、俺含めて五人である。)その声に便乗したのか、

「そうだ!そうだ!!」

と他の人間も呼応するように、言葉を重ねてゆく。だが、俺は犯人ではないし、何か事件が起こったわけでもない。そして事件が起きていたとしても、犯人の目星はもうついている。完璧すぎる自分に惚れ惚れするが、そんなことをしていると、犯人にしたてあげられてしまうので反論はしておく。

「まず、音が聞こえた地点が俺の入ってきたところじゃないし、犯人だったら、逃げられるリスクも考えて、自己紹介しましょうなんて言わないでしょ。それに、ここで話を切り出すってことは、早くこんなところから出たいってことの証明になるんじゃないかな?」

深夜だから、あまりうまく説明できないが、フィーリングで伝わってくれ!!と願った。数分が経ち、皆納得したのか、「疑ってすまなかった。」と言われた。誤解も解けて、お互いの自己紹介が終わった後、皆がここに運ばれる前の記憶がないという重要な情報を得ることができた。明らかにホラゲーとは設定が異なるが、仕方がない。リアル仕様なのだろう。まぁそんなことを考えても仕方がないので、皆を連れて現場に向かった。そう、この部屋の奥だ。しかし、事件に関係するようなもの何もない。なんか、吸音材が敷き詰められている場所を挟んで、部屋が二部屋。何もない場所と、大きな振り子時計がある部屋しかなかった。

     *

カタン

 

何もない部屋があやしいと思ったので、探してみるが、何もない。隠し扉とかもなにも。ギミックすらない。進行ルートではない何かだ。大体ホラゲーは、進行ルートにホラー要素をぶち込んでくるのが定番と聞いているのだが、そんなことはなさそうだ。?定番?聞いている?誰から?なぜおれはこの知識を持っている?そもそも私は誰だ?あいつらって誰だった?急に怖くなり、何もない世界から切り離されてしまいそうな気がした。そんなやばそうな部屋から飛び出した。

      *

チクタクチクタク

 

 俺は、あの人たちと一緒に、振り子時計のある部屋に入った。勿論、ギミックがあるならこの部屋しかないだろう。隣の部屋は、何かフラグを立てた後で入ることにしよう。怪しいと思った壁をどんどん触っていく。隠し扉とかスイッチがあるとにらんだからだ。勿論、みんなで協力しながら探している。そうしなければ、時間がどんどん過ぎ去っていって、やばいことになるのが定番だからだ。それと、時間を短縮したことにより、他人の捜索している範囲をもう一回調べて、犯人探しも出来るというわけだ。しばらくして、ギミックが見つかった。やはり、ここは訳ありの場所だったのだ。まだ確定はしていないが殆どクロだろう。そのギミックによって開いたところに入ってゆくと、血なまぐさいにおいがした。俺が、「光源になるものは持っていないですか?」と聞くと、一人の男の人がすぐにライターを貸してくれた。そこに広がる光景は、周りの人たちにも危険な状態だということをわかりやすく伝えたので、周りの皆は危機感を感じて少しパニックに陥っているようだったが、指示が通りやすくなったとポジティブに考えることにした。

 

       *

 その後は、いろんな人の手記等を漁ってヒントを得て、次々と新しい部屋を見つけて、どんどん謎を解いてくという本当にありきたりなホラーだった。途中で、びっくり要素とかもあったし、チームワークを試すものもあった。この語りの時点で察している人もいるかもしれないが、途中で怖くなりすぎて、現実のことではなくゲームのことだと思って行動していた。それが功を奏したのか、サクサク進めることができて、今は、正面玄関の鍵を探している段階で、もう脱出も間近だ。この一晩が、人生の中で一番長い一晩になることだろう。と、そんなポエムみたいな感じのこと思っていると、一緒にいた一人の男から声をかけられた。「鍵が見つからない」と。おかしいと思った。だが、隠し部屋も全て見つけた。玄関から脱出する用のプロセスは、全て滞りなく完了しているはずだ。だが、あの部屋の謎はおろか、中にすら入ったことはない。しかし、俺のシナリオにはなかったはずだ。ん?おれのシナリオ?なんか、急に頭が痛くなってきた。どうしてだろう。これ以上は追及してはいけないところまで来てしまったということか?なんでだ?今までこんなことなかったのに...。いや、今まで?奇妙だ。俺は、なんでこんな知識があるんだ?まただ。ここに行きついてしまう。結局はこれなのか?別人が頭の中に入ってくるようだ。今まで冴えわたっていた俺の頭の中が急に、処理能力を超えたパソコンみたいに動かなくなっている。やはり、ダメだ。これ以上は危険なんだ。一旦、状況を整理してみる。パソコンが重くなったら再起動をするように、俺の頭の中を再起動し、整理して物事を考えるようにした。まず、目標からだ。目標はこの屋敷を出ること。それで、もう脱出目前。鍵だけがない。あの部屋のことを考えてしまうと、頭がおかしくなってしまう。多分俺が主人公のはずだ。これまでが、整理した内容だ。簡単にだが、これくらい要約しないと、俺の頭がパンクしてしまう。

 

 犯人探しなんてどうでもいい。いや、待てよ。犯人が隠し持っている可能性を何故追わなかったんだ?何故、鍵はどこかに隠されていると思っていたんだ?たまたま、今までのギミックが落ちてあるものだったりしただけで、あの中の人間がカギを持っていてもおかしくはない。多分、今まで皆で謎を解いたりして友情が芽生えてしまったのだろう。だが、その友情のせいで大変な目に合うところだった。犯人は俺たちを殺して、飾ることが目的なのだ。信用させて後ろから...。なんて、考えれば出ることではないか。それを導き出した瞬間、今までの友情が、憎しみへと変わった。天才である俺を騙していたことによる怒りと、仲間を裏切ったことに対する怒りだ。その怒りに身を任せ、俺は、一人ずつ殺して回った。そうして、そのを裏切り者達をある部屋吊るにした。あの、最初のギミックの扉の奥につるしておいた。正直に話さないあいつらが悪いんだ。俺は何も悪くない。全員をつるし終えた後、奥からガチャという音が聞こえた。何かが開いた音だ。その部屋には、大きな振り子時計と、宝箱があった。振り子時計は、二時半を指している。あれから二時間半しかたっていないのか。と思いながら宝箱を開け...。

 

   *

チクタクチクタク

 

そういえば、脱出できそうなところがもう一か所あった。それは、屋上だ。屋上から何とかして外に出られないだろうかなんて、考えたことがなかった。あの脳内整理時間のおかげで、気が付くことができた。皆を呼び出して、屋上のフェンスを越える。この屋敷は、三階建てなので、一階分降りてしまえば、死ぬことはないだろう。簡単なことだったのだ。あまりにも簡単すぎる答えを無意識に除外していたのだろう。このまま推理を続けてい手も何にもならない、ただの時間の無駄ということが、今わかった。『良かった。』と心中で思う。安堵感が、押し寄せてくる。まだ、脱出できていないのに。まぁ、すぐに脱出できるので、そんなことは些細なことなのだが。

 

 それで、みんな無事に外部に出ることができた。別荘特有の大きな囲いがあるわけでもなかったので、本当に脱出できたのだ。自分の命が守られたという安心感に、ひざから崩れ落ちてしまう人もいた。当然だ。俺だって、眠気が押し寄せてくる。だが、ここで寝たりしたら、また連れ戻されるかもしれないので、すぐに屋敷から離れる。これで、やっと終わったんだ。もう、おしまいなんだ。そんな気持ちが胸いっぱいに広がり埋め尽くしてしまった。

 

 カタン

 

 これ以降は、物語ではございませんので、ご注意ください。

さて、皆さん。この物語は楽しんでいただけたでしょうか?難しいことを考えずに、ホラーテイストでよかった。という人は少ないと思いますが、満足していただけたら幸いです。それで、この物語の主人公は、これから脱出できていません。最後のルートでさえも、脱出できていないのです。何故なら、この物語を支配しているものが、振り子時計ではないからです。振り子時計ならば最後のルートは脱出できていました。ここからは問題のヒントになるので、どうしても答えを知りたいという人は見ていってください。ヒントは三つあって、ヒント2までは抽象的なものになっていますが、ヒント3は答え合わせみたいなものですので、自力で当てたいという方は、ヒント2までをみて、ヒント3は見ないようにしてください。

 

さて、分からない人が大半だろう。これよりヒントを出してやる。このヒントを踏まえて本編を読んでみるんだ。

その一、時間を刻むものではなく、時間を計るものだ。

その二、これは、独立したものだ。一旦、決定されてしまうと、もう変えることができない。

 

 

その三、これは、砂を使うものだ。

ここまでくれば分かるだろう。この情報を分かったうえで、なんで脱出できないのか、とかを考えてみてください。擬音に注目して読んでいただけると分かりやすいと思います。




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