新任Pとシンデレラガール達 (むつさん)
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新任Pと346プロダクション

新任Pの就任のお話。




……

 

長い一難が去って…

 

というには少し違うが

いつでも難にぶつかってしまうのは

私の人生の性なのかもしれない

 

…………

 

陽射しの強い真夏の日

 

両親が亡くなった。

 

大した持病も無いはず両親が

突然力なく立て続けに眠るように亡くなった

原因は老衰だと医者は言う

昨日まで元気にゲームをしていた両親が老衰なんて。まだ60代なのにそれは考えられないが…今更医者にどうこう言うつもりはない

 

葬儀や両親の部屋の片付け

一頻り手続きが終わり長男の兄貴と二人で家に戻ってきた

 

長男「お疲れ様」

 

雪樹「兄貴も、最後だけはしっかり手伝ってくれるんだな」

 

長男「まぁ、産みの親の最後くらいは、それに別居とはいえこういうのは長男の役割だと思ってるし」

 

雪樹「まぁ、一段落ついたというか。楽になったというか。」

 

長男「お前は特に散々振り回されただろうな」

 

雪樹「良く言えば親想いの息子、悪く言えば人柱、そんなところ」

 

長男「まぁまぁ。あと。結局あいつは来たのか?」

 

雪樹「来てないよ、縁を切るって言って出てったし。白状といえばそうだけど。それが正解だと思う、うちに関しては」

 

長男「それは。血の繋がった人同士としてどうかと思うけどな。俺は。」

 

雪樹「知らんよ。本人に言って」

 

長男「まぁ、今更だな。」

 

雪樹「さて…親の遺品もなくなってこの家はどうするか。広くなるな。こっち来る?」

 

長男「そうだな、それもありかもしれん。そしたら俺が家を持つけど」

 

雪樹「頼むわ。俺とあの兄貴だけじゃ広すぎるしさ。そのうち俺も出てくだろうし。」

 

長男「下二人もなんだかんだひとり暮らし?」

 

雪樹「一応、ただ二人とも相手がいるからそのうち結婚するだろうよ。あ~あ、先越されるわ」

 

長男「仕方ないだろ。お前は」

 

雪樹「まぁ、一生独身でもいいけどね。やりたいことできるし」

 

長男「24歳がよく言うわ」

 

雪樹「まぁ、とにかく次は兄貴一家の引っ越しだな。まだまだ大変だわ。」

 

長男「ああ、手間かけさせてすまんね」

 

雪樹「いいよ、俺はこの家計で一番の苦労人だろうから気にしてない」

 

長男「それ言うのは反則、まぁ手伝って貰うけど」

 

数日後には手続きを終え

長男一家も同居することになった。

 

頑固で天下取りな性格の両親とは違い

歳も近いからか親と比べて格段と話しやすい。

 

それで、一つ話を持ちかけた。

 

雪樹「兄貴。一つだけ頼みがある」

 

長男「なんの頼み、またPC系?」

 

雪樹「仕事。変えたいなって思っててさ。就活期間とかできるかもなぁって?」

 

長男「まぁ、構わんけど年単位はやめてくれよ?お前も貯金はあるだろうけど無限じゃないだろうし」

 

雪樹「その辺はわかってるよ。」

 

長男「それで次は何の仕事をしようと思ってるんだ?」

 

雪樹「まぁ、事務系の会社員かな。そのほうが自分的に。」

 

長男「商業高校通ってたのもあるだろうからな。悪くないと思うぞ」

 

雪樹「まあ。さっさとやめようかなと」

 

長男「そんなに嫌なのか?」

 

雪樹「別にやりづらいとかじゃないよ。仲が悪いわけじゃないし。」

 

長男「なら変える必要なくね。お互い負担なだけだと思うけど。」

 

雪樹「まぁ、俺が接客業を良しとしないのと。いつまでもこの仕事してるとあいつらを何故か思い出して嫌なだよな。」

 

長男「あいつら、ああまぁ。」

 

雪樹「できる限り、思い出したくはない」

 

長男「そうか、」

 

雪樹「感謝してない訳じゃないけどね。それ以上に嫌な思いさせられてるから。」

 

長男「まぁ気持ちはわからんでもない。お前がそう言うなら今の仕事辞めてもいいと思うけど。仕事辞めて次どうするかだな」

 

雪樹「有給休暇期間くらいはのんびりさせてくれ。」

 

長男「それくらいはいいけど。真面目に就活しろよ?」

 

雪樹「その真面目にって言葉がやけに刺さる」

 

長男「図星じゃねぇか」

 

雪樹「まあ。しばらくは問題ないと思うけど。」

 

長男「有給休暇期間ってどれぐらいあるんだ?」

 

雪樹「有給休暇を普段からほとんど取ってないから二ヶ月分くらいはあると思う。」

 

長男「え、長すぎない…?大丈夫?」

 

雪樹「いや、給料出るから何も問題ないって。」

 

長男「二ヶ月も人生サボってんのにお金貰ってるとか羨ましいわ。」

 

雪樹「人生サボるという表現よ」

 

長男「そりゃ、仕事しないでずっと家で呆けてたら人生サボってるようなもんだろ」

 

雪樹「やめて、せめてニートって言って」

 

長男「会社に籍は残ってるしお金もらってるんだからニートじゃないだろ」

 

雪樹「ごもっともで。よっしゃ人生サボったろ」

 

長男「自覚ありじゃねぇか。こいつめ。」

 

雪樹「だって週休7日不労所得だよ、最高じゃん。」

 

長男「だめだ。こいつぶん殴ってやらないと」

 

雪樹「うわ物騒」

 

長男「働けニートめ」

 

雪樹「さっきの発言どこいったよ」

 

長男「ハイハイ。とりあえずちゃんと手続きは踏めよ」

 

雪樹「そりゃもちろん。それまでサボったら一生あの会社で社畜人生だしな。」

 

長男「レッツ定年退職」

 

雪樹「あの会社では勘弁してくれ」

 

………

 

有給休暇期間も終わり

真面目に就職活動を初めて数日が経ったある日。

 

ある会社の面接を終えての帰りの夕方、知り合いに進められたCDを買うのに、CDショップに向かっていた

 

いざ着くと列が出来ており、店に入るのにも一苦労した。

 

店の入り口でカウンターができておりそこに並んでいるようだった。

 

雪樹「なるほど、握手会か」

 

アイドルの握手会。

有名なアイドルなのだろうか

 

雪樹「まぁ、俺の目的はまた別だからな、」

 

知り合いに勧められたCDを探し。

運が良かったのか限定版の一つが余っていたようだ

 

雪樹「あいつ、限定版欲しかったって言ってたし。譲ってやるか」

 

限定版を手に取った時

ビンク髪の女性が隣で物欲しそうに見ていた

 

雪樹「あれ。」

 

女性「あれっ…それ最後の一つじゃん…」

 

雪樹「もしかして、限定版目当てでした?」

 

女性「目当てっちゃ目当てだし…まぁ…でもCDだけでもいいかなって…いやでもせっかくのしまむーソロ曲で限定版だし…」

 

雪樹「いいですよ、僕は特に限定版とか気にしてなかったので。」

 

女性「え、いいの?ほんとに?」

 

雪樹「はい。元々、アイドルの曲はあまり興味持ったことなくて。今回勧められて買おうと思っただけですし。狙ってたとかじゃないので、どうぞ。」

 

女性に限定版のCDを手渡しすると喜んで会計口まで向かっていった

改めて通常版を手に取り、表紙を見ると先の握手会のアイドルが写っていた。

 

雪樹「なるほど、今日握手会に来ていたファンの人だったのかな」

 

会計口に向かうとまた別の女性に話しかけられた。

 

女性「あっ!そのCDは!」

 

雪樹「えっと。何かありましたか?」

 

振り向くと先のアイドルが居た。

 

アイドル「買って頂けるんですね!」

 

雪樹「そうですね。知り合いの紹介で、ちょっと気になったので」

 

アイドル「ありがとうございます!是非聞いてください!」

 

女性「ちょっと卯月、まだ片付け終わってないんだから手伝って」

 

アイドル「あっ、ごめん!」

 

アイドルは謝りながらも笑顔のまま戻っていった

 

雪樹「名前は…島村卯月。」

 

見慣れない名前。

サンプルを聴かせてもらった時は、曲の一部だけだったか。

 

会計を終えて店を出る直前。

さっきのアイドルがまだ居た。

目が合うと近寄って話しかけて来た。

 

卯月「あの、さっきの方でしょうか?ご紹介で私のアルバムを買ったということはファンの方から?」

 

雪樹「そういうことになるかな。サンプルは聴かせてもらって。気になったんだ」

 

卯月「そうなんですね。それなら是非他のアイドルのも、サンプルだけでもいいので聴いてみてください!」

 

雪樹「うん、気が向いたらいくつか調べて見るよ。」

 

卯月「それでは!私はそろそろ戻らないといけないので。ありがとうございました!」

 

元気な笑顔で去っていくと。他のアイドル達と車に乗り込んで行った。

 

雪樹「まぁ、これも何かの縁。か」

 

その後は特に何もなく家まで帰り、購入したCDの曲を聴いていた。

 

 

 

数日後

 

先日の会社の合否発表の日

会社のロビー掲示板にて合否発表という、なんとも言えない通知方法だったため会社まで出向くことになった。

 

雪樹「普通、電話か書類送付するだろ……いやこの会社人数多いからこの方が確実なのかもしれないのか…」

 

ロビーに着くとスーツ姿の人達が大勢居た。

中途採用が多いからか中年の人が多い

 

なんとか割り込んで掲示板が見えるところまで行くが掲示板の合格欄には自分の番号はなかった。

 

つまり。落ちた訳だ

 

雪樹「まぁ、次探すかな」

 

会社のロビーで挨拶だけして帰ることにした。

 

帰りのバス待ち中。

一人の少女が数人の男性に囲まれてるのが目に映った

 

いい雰囲気じゃない…

押し付けがましい様な雰囲気。

少女も必死に避けようとしてる

 

雪樹「ナンパには見えないし、少し度が過ぎるな…」

 

そう呟いたとき別の少女がその現場に近づく。少女の知り合いか、友人か。

よく見ると。先日CDショップにいた握手会のアイドルだった。

私に話しかけてきたアイドルとは他の子だ。

 

それでも少女が2人いた所で。

大人の男性が4人もいるなら変なことに巻き込まれる可能性もある

会話の内容は聞こえないが。

見てみぬふりはできない

 

現場に向かうと後から来ていた少女が思いもよらぬ発言をした。

 

少し背の高い少女「あっ、プロデューサー、遅いよ」

 

(えっ…そう来るの…アドリブやめてよ…)

 

雪樹「急に呼び出しておいて、遅いは酷いと思うけどな」

 

男性「おや、プロデューサーということは、彼女達はもしや、」

 

雪樹「うちのアイドル達に何か御用ですか?」

 

男性「用事、というか少しモデルのお手伝いをお願いしようと思いまして。」

 

背の低めな少女「いや…だから…モデルなんてもりくぼには…」

 

少し背の高い少女「これから撮影の予定があるから断るって言ってるんだけどしつこくて。」

 

雪樹「プロダクション所属のアイドル達ですので勝手な行動は困ります、お引き取り願えますか」

 

男性「ほんの少しだけお時間あればいいのですが、それでもだめですかね」

 

???「キミ達、うちの事務所のアイドルに何をしてる」

 

背の高い女性。うちの事務所のアイドルってことは…

 

鋭い眼差しに上からの目線

 

男性「少しモデルのお手伝いをですね…」

 

背の高い女性「少女相手にモデルの協力とは感心しないな。必要であればうちの事務所のプロ達を用意するが、どうかな?」

 

男性「いえ。け、結構です…」

 

背の高い女性「そうか、それは残念だ。彼女達はこれから別で仕事がある、勝手されては困るから、お引き取り願おうか。」

 

男性「そ、そうですね、それでは…」

 

男性達は早歩きで去っていく

 

ひとまず落着と言った感じだ

 

女性「キミは話を聞いていなかったのか」

 

少し背の高い少女「待ってください専務、この人は私達を助けようとしたんです。」

 

女性「そうか、感謝する。」

 

背の低めな少女「あの…ありがとう、ございます…」

 

雪樹「まぁ、いきなりプロデューサーって呼ばれたときはどうしようかと思いましたよ。なんとかアドリブ効かせましたけどね。」

 

女性「アドリブまでさせて…」

 

雪樹「いえいえ、お気になさらず。あのまま見てみぬふりするつもりもなかったので、少なくともアドリブ無しでも止めに入ってましたし。」

 

女性「心遣い助かる。名前を聞かせてもらってもいいかな?」

 

雪樹「松谷雪樹、あいにく名刺はなくて、大した事情ではないんですが、仕事を辞めて、今はフリーです。」

 

女性「そうか、私は346プロダクションの美城という。これから用事がないのであれば、せっかくだから次の撮影を見学していくといい。」

 

渋谷「専務?いいんですか?」

 

美城「感謝の意を込めてだ、それに私自身が少し無礼した謝罪の意も込めている。」

 

雪樹「ご厚意感謝します。お言葉に甘えて職業見学させていただきますね」

 

少し移動したところでバスが待っていた

 

森久保「やっと…街中を出れるんですね…」

 

渋谷「乃々、ほんと人集り苦手だもんね」

 

美城「苦手は早めに克服するといい。そうでなければ舞台で支障が出るかもしれないぞ」

 

森久保「わかってるんですけど…それでも…」

 

渋谷「まぁ、乃々、少しずつ慣れていこう」

 

人集りが苦手…か

 

雪樹「一つ質問よろしいですか」

 

美城「答えれる範囲でなら回答するが、何かな。」

 

雪樹「アイドルの姿についてなんですが……いえ、今ここで、この質問をするのは無粋かもしれません。また後でさせてもらいます」

 

美城「そうか、折を見てまた聞くといい」

 

撮影を見届けてもいない部外者が

容易に聞くべきじゃないだろう

 

到着したのは街外れの森の

別荘のような場所

 

ある美容品のCM撮影。

あれほど恥ずかしがっていた少女もいざ撮影となると、微かに笑顔で撮影に応じている。

もう一人の少女もそれに応えるように振る舞う。

 

これがアイドル…プロ…なのだろう

握手会や撮影の仕事

以前見た舞台での演技や披露もそう。

 

想像していたものと大きく違う。

 

少し前の自分が…接客と販売だけを繰り返していた自分がとても小さく見えてくる。

 

雪樹「これが。アイドル」

 

美城「先の質問の回答は見つかったかね」

 

雪樹「いえ、まだひとつだけ引っかかります」

 

美城「何かな。」

 

雪樹「なぜ彼女達は、アイドルになれた、のでしょうか」

 

美城「アイドルになれた、か、それはいくつか回答があるな。まず一つ、我々プロダクションのメンバーによる協力。あとは彼女達自身の中にある輝きに彼女達自身が気づいたから。もう一つは単純に根気や努力と言ったところだろう。」

 

雪樹「アイドル自身の問題とプロダクションによる協力か。」

 

美城「私は主に彼女達がすぐにでも実力付く為に協力するようにしている。」

 

雪樹「実力付ける努力…例えば、アイドル同士で協力して切磋琢磨を繰り返す…お互いの輝きがお互いをより一層強くする。アイドルになった過程は違えども同じ目標に目指しているから。」

 

美城「面白い意見だな、確かにそれもあるだろう、だがそれは度が過ぎると、ただのお遊戯に成りかねないな。」

 

雪樹「貴重な回答。ありがとうございました」

 

美城「キミの人生に役立つかわからないが納得したのならそれでいい、さてそろそろ時間だろう。」

 

森久保「あの…撮影、もう終わりですか…」

 

美城「十分だ。あとはプロダクションの営業と相手方の話し合い次第。場合によってはまたお願いするかもしれないが、ひとまず今日は終わるとしよう。」

 

渋谷「お疲れ様、乃々」

 

森久保「はい、お疲れ様です…」

 

美城「さて、キミも帰るといい。タクシーを用意してある。これを受け取って欲しい」

 

手渡しされたのは万札。

タクシー代に万札…

 

雪樹「タクシーにしては多過ぎる思いますか」

 

美城「余った分は好きにするといい、それと、私の名刺も渡しておこう。」

 

雪樹「ご丁寧にどうも。」

 

美城「キミには少し期待している。また声を掛けてくるといい。」

 

渋谷「専務…それって」

 

美城「もちろん。今日限りでも構わない。やりたい仕事を見つけるのが今のキミに必要なことだ。」

 

雪樹「そうですね…」

 

一つのチャンスでもあるわけか

 

美城「ほら、バスに乗り込むぞ。それではな」

 

三人はバスで帰っていった。

 

少しもしないうちにタクシーが着き、

家までタクシーで向かった

 

運転手「着きました。お疲れ様です。お代は3250円ですね〜」

 

タクシー代…めちゃくちゃ余った

 

 

翌日。

 

雪樹「ここが、事務所にあたるのか」

 

名刺の住所を便りにプロダクションを訪ねた

 

エントランス前で数人の少女達が話し合っていた

 

少女「あれ?」

 

雪樹「えっと。初めまして。美城さんにお話があってきたんだけど。今居るかな」

 

少女「お客様でごぜーますね、案内するですよ!」

 

少女達に連れられて着いたのは一つの部屋だった。

 

少女がノックして声をかけると聞き覚えのある声がした

 

美城「開いているぞ」

 

少女に連れられて部屋に入ると

先日の女性が忙しそうに書類整理していた

 

雪樹「先日はお世話になりました。雪樹です」

 

美城「キミか、ここに来たということは、そういうことだな。」

 

少女「え?どういうことでごぜーますか?」

 

美城「市原仁奈だったか。いまキミのプロデューサーはどこにいるかわかるか?」

 

市原「今は前の人がやめて、いねーですよ?」

 

美城「そうだ。それで新しいプロデューサーを連れてこないといけないな」

 

市原「そうでごぜーますね。」

 

美城「それで、この人はうちの事務所の新しいプロデューサーとなるんだ。」

 

市原「おお!つまりこの人が仁奈達の新しいプロデューサー!」

 

美城「そうだ」

 

雪樹「面接とか必要ないんですか?」

 

美城「安心したまえ。私からの推薦と言う形で通してあるから。基本的には書類手続きのみで大丈夫なはずだ、まぁ問題はそれを終えてからだがな」

 

雪樹「そうですね。彼女達が僕を受け入れてくれるかどうか。」

 

美城「仮に受け入れられなくとも。嫌でもともに歩まねばなるまい。本当に嫌ならば、キミが消えるか。他のプロダクションに行くか。どちらか選ぶだろうな」

 

雪樹「そうなるよな。」

 

美城「市原仁奈、案内ありがとう。戻っていい」

 

市原「お疲れ様でごぜーます!!」

 

少女が部屋から出ていくと

美城さんとの会話が続いた

プロデューサーとしての活動内容

アイドル達への教育

営業とライブとの兼ね合い等

 

美城「まぁざっくりとした話はこれぐらいだろう。」

 

雪樹「まぁ、ある程度想像はつきます。」

 

美城「だがな、今の事務所を考えるとそれもままならない状態にある」

 

雪樹「どういうことです?」

 

美城「前任が最悪でな。アイドル達に猥褻な行為を中心に手を出していたんだ。痴漢に近い行動が多かったがな。立場を利用した悪質な手口だ。アイドル達からのクレームも多かった上に、何人か事務所に来るのを拒む者も出た。」

 

雪樹「信じられませんね。最悪です」

 

美城「おかげさまでライブや予定していた撮影も営業も代理人手配や中止が多発、リハーサルの段階でのキャンセルで会場を出してくれた企業の信頼やファン達も減っていく一方だ。それでもまだ残ってくれているアイドルは居るが。」

 

雪樹「さっきの子達や、先日の二人とか」

 

美城「ああ、前々任が良くしていたからな。恩返しだと彼女達自身も言っていた。ただ、前任が原因で来なくなったアイドルも確かにいる。」

 

雪樹「建て直しから、ということですね。」

 

美城「連絡すら取れないアイドルも居る。そういったアイドル達を戻って来させる自身はあるか」

 

雪樹「自身は無いと一括するのは簡単なことですね。ただやる前から決めたくはありません」

 

美城「覚悟はあるようだな。これから大変だぞ」

 

雪樹「右も左もわからないですから勉強しながら、少しずつやっていきます」

 

美城「私も元々別の役職で臨時でプロデューサーとしているだけだ。キミが新任となるならサポートはするが基本キミの判断となる。」

 

雪樹「もちろん、それは承知の上です。やれるだけ、やってみましょう。」

 

美城「そうか。先に釘は打っておくが。アイドル達からのクレームが重なれば、キミの席も無くなると思っていい」

 

雪樹「その時はお構い無く。それが結果ですから。ただ私は意図的に嫌な事はしたくありません。そういうの、苦手なので」

 

美城「その言葉、今は信じておこう、それで連れて行く場所がある、こっちだ」

 

専務の部屋を出てしばらく歩くと

また別の部屋に案内された。

 

美城「ここだ。」

 

鍵を開け部屋を開ける

窓も閉め切っていて薄暗く埃っぽい

 

奥に机があり。

左右に棚、多くのファイルとトロフィー。

 

美城「ここがプロデューサーのオフィスだ、前任が使った形跡はほとんどない。少し掃除が必要だが。ここを使ってほしい。」

 

雪樹「僕の前の人たちはここを使ってたですよね。」

 

美城「そうだ。だから今更別の部屋を用意する必要もないと思ってな」

 

雪樹「そうですね…この方がいい。」

 

美城「気に入ったかな、」

 

雪樹「ええ、今日はここを綺麗にして、一度帰ります。」

 

美城「そうか。好きにするといい、私はまだ仕事があるから。それではな。」

 

美城さんがオフィスを出てから

早速、掃除を始めた。

カーテンを開き窓を開け換気をする。

照明も合わせると一気に明るくなった

 

ソファーや床やテーブルも。

机の上すら埃まみれなのを必死になって拭いていく

 

棚や窓も入念に水拭きする。

 

雪樹「まさか、掃除から始めるとはな、でもこれも大切な仕事だ」

 

正式に決まったわけじゃない

ただ今後利用させてもらえるなら

大事なことだ

 

二時間ほど掛けてようやく一頻り綺麗になっただろう。ソファーや窓、机も棚

 

雪樹「疲れたな。」

 

ソファーに座り込みオフィスを見渡す

決して広くはないが十分すぎるスペースはある。

 

雪樹「ああ…だめだ、眠たくなってきたな…」

 

考えが纏まらなくなって少しするともう意識はなかった。

 

……

 

???「…きて、お……さい!」

 

誰かの声が聞こえる。

よく聞き取れない

 

???「起きてください!」

 

雪樹「はっ?!」

 

起きた。寝てしまっていたんだろう

 

雪樹「えっと…そうだ…掃除してついうたた寝して…」

 

???「どうして寝てるんですか?」

 

さっきから声をかけていたのは女性の人だったようだ

 

雪樹「美城さんに案内されて。少し部屋をキレイにしてました。そしたら疲れてしまって。」

 

女性「美城専務、やっぱり貴方が美城専務が言ってた新しいプロデューサーさんですね」

 

雪樹「ああ、もう話が通してあるのか…」

 

女性「私は、プロデューサーさんのアシスタントの千川ちひろです。今後ともよろしくお願いしますね」

 

雪樹「新しくプロデューサーになる、松谷雪樹です。アシスタントですか、よろしくお願いします千川さん。」

 

千川「またこの部屋が使われる日が来たんですね」

 

雪樹「ええと、まぁ」

 

千川「前の方はこの部屋を嫌っててほとんど使ってなかったんですよ。アイドル達気に入ってたんですけど。」

 

雪樹「そうだったんですね」

 

千川「大変かもしれませんが、しっかりサポートさせてもらいますので頑張って行きましょう!」

 

雪樹「はい、よろしくお願いします。」

 

???「あれこの部屋開いて…あれ…?」

 

また入ってきた別の人

 

雪樹「あれ、君は先日の」

 

森久保さんだっただろうか。

 

森久保「え…あ、えっと…」

 

雪樹「こんにちは。新しくプロデューサーになったよ。これからよろしく」

 

森久保「え?ほんとにプロデューサーになったんですか…」

 

千川「お二人は知り合いだったんですね」

 

雪樹「先日、ちょっとした出来事があってその時にね」

 

森久保「嬉しいような…そうじゃないような…」

 

雪樹「どうしてかな?」

 

森久保「プロデューサーさんがいれば、事務所の皆さんがまたお仕事ができますけど…森久保はそんなにお仕事ほしいわけじゃないので…でも、あんまりなさすぎるのも…」

 

雪樹「まぁ。仕事取れたときはまた声掛けるから、そのときはよろしく」

 

森久保「は、はいぃ…そ、それでは私はこれからレッスンがあるので…」

 

雪樹「また今度ね」

 

千川「えっと、今のこのプロダクションについてなんですが…」

 

雪樹「美城さんから大体は聞きました。とりあえず今日は一旦帰ります。」

 

千川「わかりました。今後もよろしくお願いしますね。あと、事務所の鍵を。」

 

雪樹「ありがとうございます。」

 

千川「朝開けて起きますけど、夜とか夕方最後に出るときは締めてくださいね。」

 

雪樹「わかりました。」

 

事務所を出て帰宅する。

 

雪樹「また。難しい話になって来たな…」

 

一言呟いて、帰路に向かう。

 




不安と希望を抱えて進むプロデューサー

シンデレラガール達との対話のお話が続きます


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残された資料、一つの傷跡

一人のアイドルをきっかけに、残されたプロデュースノートを見つけアイドルプロデュースについて学ぶ



 

 

帰宅途中の出来事だ。

身に覚えのないが。

誰かに後をつけられていた。

 

雪樹「ストーカー…か」

 

かなり距離はあるが、確実に後ろの方からついてきている。

適度に後ろを振り向いて歩いていたせいか

正面からの歩行者に肩がぶつかってしまった、

 

雪樹「あっ、すいません。」

 

男の人だった。

僕のことを眺めると何かを察したのか

顔を反らし始めた

 

男「…夜道には気を付けろよ…」

 

男はそう言うと早歩きで去っていった。

 

その後からストーカーも居なくなっていた。

 

雪樹「夜道には気を付けろ。か」

 

何か少し引っかかるが

気にせず帰った。

 

……

 

翌朝。特に出勤予定時間等はないが

9時頃、事務所に着いた、

 

雪樹「あっ、開いてる」

 

オフィスにノックだけして入る。

 

千川「おはようございます、プロデューサー」

 

雪樹「おはようございます。早いんですね」

 

千川「そうですね。今日は8時過ぎくらいに来ました」

 

雪樹「8時過ぎ…早いですね」

 

千川「久々にこの事務所で仕事ができるので色々と準備もありますから」

 

雪樹「助かります。」

 

千川「さっきレッスンルームの鍵を持って行く子達がいたので良かったら挨拶に行ってみてください。多分もういるはずなので」

 

雪樹「そうしたいのはあるんですが、まだまだお互い話もしたこと無いのにいきなりレッスンの話をするのも気が引けますね。いくつか資料で調べてからのほうがいいかと思ってます。」

 

千川「確かにそうですね。」

 

雪樹「さてと…ん…?」

 

机の下になにか…

なにか…いや誰かいる…?

 

???「あ…お…おはよう…ございます…」

 

雪樹「も、森久保さん…?なんでそこに?」

 

森久保「ここ、落ち着くんです、ちょっと暗くて、もりくぼには丁度いいスペースで。」

 

森久保さんの隣にはいくつもの本が置いてある。

いつから居たのだろうか…

 

雪樹「えっと…そうなんだ…椅子、座ってもいいかな。」

 

もりくぼ「どうぞ、わたしにお構い無く。あ、ぶつからないようにお願いします。」

 

お構い無くと言いつつもぶつからないように注意喚起だけはする。

とりあえず少し引き気味に椅子に座る。

特に違和感はなく、問題はなく作業できそうだ

 

雪樹「えっと…昨日貰った書類…」

 

鞄から入社用の書類を一式

多分、大丈夫

 

千川「書き終わったら専務のところまで届けてくださいね。」

 

雪樹「あれ、専務でいいんですか?」

 

千川「事務の人でもいいとは思うんですけど。専務が自分で持っていくって言ってたので」

 

雪樹「そうですか。わかりました」

 

一頻り書き終えて持っていく事にした

部屋を出て専務の部屋まで着くと扉の前で専務と丁度会った

 

美城「君か、書類が書けたようだな」

 

雪樹「ええ、丁度、提出に来たところです」

 

美城「預かろう。こちらから話をして事務に提出しておく。」

 

雪樹「よろしくお願いします」

 

書類を渡してオフィスに戻ると見覚えのない少女が二人居た。

 

ひとまずソファーに座って挨拶をする

 

雪樹「えっと、ここの所属のアイドルだよね。」

 

美嘉「そう、アタシは城ヶ崎美嘉、それでこっちが妹の」

 

莉嘉「莉嘉だよー」

 

雪樹「姉妹アイドルか、小耳に挟んだことはあるよ。」

 

美嘉「新しいプロデューサーが就いたって聞いたから、挨拶に来たの」

 

雪樹「松谷雪樹、346プロダクションの新しいプロデューサー。よろしく」

 

莉嘉「よろしくー!」

 

美嘉「うん、真面目そうでいい人っぽいじゃん、ちょっと安心した」

 

莉嘉「お姉ちゃんやっぱり気にしてたんでしょ?」

 

美嘉「少しね。またみんなが嫌な思いするのは嫌でしょ?」

 

雪樹「僕の前の人の事かな。」

 

莉嘉「そう。あの人ほんとに酷い人だったね。」

 

美嘉「みんな困ってたからね。」

 

雪樹「やっぱりそうなんだな…専務の美城さんからある程度話を聞いたんだ。前任が酷かった影響もあるって。」

 

美嘉「アタシ達は特に何かされたことはなかったけど。あの人に気に入られた子達は特にボディタッチが多かったし。」

 

莉嘉「ボディタッチって軽い感じでもないよ。嫌な触り方してたし無理やり変なこともして来てたし」

 

美嘉「嫌がると圧力かけてたりしたからね。やり方が酷いのもそうだけど何よりも気持ち悪いっていうのが強いかな。」

 

雪樹「そうか…二人の友人で特に嫌な事された子は居るのかな」

 

美嘉「うん…居るよ…」

 

雪樹「出来たらでいい、無理にとは言わない、もしよかったら教えて」

 

美嘉「先に一つ約束して」

 

莉嘉「お姉ちゃんいいの?」

 

美嘉「良いか悪いかじゃないよ。アタシはこの人なら大丈夫だって思う。あんな人とは違うって。」

 

莉嘉「わかってるけど…でも…」

 

雪樹「どんな約束。」

 

美嘉「もし、あなたが悪い人だって私達がそう思ったら、すぐプロデューサーを辞めてね。」

 

千川「美嘉さん、流石にそれは言い過ぎ…」

 

雪樹「いいですよ。それは覚悟の上です、というか美城専務とも約束してますから」

 

千川「雪樹さんも…」

 

美嘉「…なら…教えるよ」

 

雪樹「ありがとう」

 

美嘉「大槻唯って子がいるの。」

 

莉嘉「お姉ちゃん、ほんとにいいの?」

 

美嘉「莉嘉、これはアタシとプロデューサーの話、確かに莉嘉も唯と仲良いし友達かもしれないけど、今回だけは譲れないの」

 

莉嘉「わかった…」

 

雪樹「大槻唯さん、だね」

 

美嘉「そう。元気で明るいのが特徴でさ、よく一緒にカラオケ行ってたりした。みんな唯のこと信頼してたしすっごく仲良かった、みんなね。」

 

元気で明るいのが特徴…

周りから信頼されるほど

 

美嘉「でもあいつは違って、唯はあいつのこと嫌がってたんだ。みんなに嫌な事する人は嫌いだって、唯はみんなを護ろうとした、必死になって抗議したんだ。」

 

雪樹「勇気ある行動だな。それだけ大槻さんも周りの事を大切にしてる証だね」

 

美嘉「そう…私達にとっても、唯にとってもお互い凄く大切だったんだよ。でもあいつは唯を虐め始めたんだ…」

 

雪樹「大人なのに虐めか、情けない」

 

美嘉「持ち歩いてる飴を没収したり。少し話ししてただけで怒鳴ったり…次第に話を無視されたり、舞台にも立たせてもらえなくなったり、営業すら行かせてもらえなくて。」

 

雪樹「最低だな…」

 

美嘉「それ以来、元気の無さそうな日も見かけたし、話しかけてもたまにぼーっとしてるときもあったんだよね。らしくないって感じ」

 

雪樹「励ましてあげないと…」

 

美嘉「もちろんアタシ達は唯の味方だし、唯が傷つくのが嫌だからみんなで励ましたね」

 

…励ましたとしても、根源がなくならないと意味ないか。

 

美嘉「実際にはどうかわからないけど、出入り禁止だって言われたって聞いたこともある…それでそんな日が続いて。唯が事務所に来なくなった。電話しても元気のない返事ばっかりだし、最近あいつが居なくなったって話をしてあげたけどまだ元気ないんだよね」

 

雪樹「確かに、みんなの嫌がっていた人は消えたかもしれないが、大槻さんがどう感じているかだね。」

 

美嘉「立ち直るのも難しいくらい落ち込んでるんだと思う。だけど、アタシはもう一度、元気な唯が見たいよ」

 

雪樹「大槻さんがこの事務所に気軽に来れるように、できる限り協力をする。教えてくれてありがとう。」

 

美嘉「さっきの約束、忘れないでね」

 

雪樹「当然、忘れないよ」

 

美嘉「また今度、唯を事務所に誘って見るから、その時は…」

 

雪樹「その時は僕も話をするよ」

 

美嘉「うん。よろしく。」

 

ソファーから立ち上がって資料を探す

この事務所について、アイドル達についてもそう。プロデューサーとして何をすればいいのか調べないといけない

 

雪樹「えっと。」

 

プロデューサーマニュアルや、

レッスンマニュアル…

 

雪樹「最初はこの辺だな。」

 

美嘉「何してるの」

 

雪樹「昨日来たばかりだから、知らないことだらけなんだ。美城さんからプロデューサーについてはある程度聞いたけど。その細かいところまではまだわからないんだ。だからそれすら知っていかないといけない」

 

莉嘉「プロデューサーとしてってこと?」

 

雪樹「そういうことだね。」

 

美嘉「何もわからないのにプロデューサーになったの?」

 

雪樹「そうだね…僕はプロデューサーになりたくてプロデューサーになったのとは少し違う、確かに自分からこの場所来たのは間違いないけど。スカウトの形として来た感じかな。」

 

美嘉「スカウト?もしかして専務からの?」

 

雪樹「名刺を渡されてね。断る理由も無かったどころか。少しありがたいのもそう」

 

莉嘉「アイドルをスカウトするのはわかるけど。プロデューサーをスカウトするって、どうなのかな?」

 

雪樹「さぁ…プロデューサーの事とかも初めてだから、その辺は…」

 

千川「スカウトされるプロデューサーは少ないと思います。前任の方も志願による就任でしたね。その前の方は別プロダクションから移転という形でしたし。」

 

美嘉「あの人は急にやめちゃったんだっけ。」

 

千川「前々任は、実家のご両親の介護で、県外に出られてしまいましたから。確か東北の方だったはずです。」

 

莉嘉「遠いね…流石に通うのは難しいと思う。」

 

千川「この前連絡頂いたんですが。向こうでも介護の合間をみてアイドルプロダクションのアシスタントをやってるそうですよ」

 

美嘉「ちひろさんと同じ感じ?」

 

千川「副プロデューサーって言ってましたけど。やることは私の仕事に近そうだったので多分そうですね」

 

美嘉「元気そうで良かった。」

 

莉嘉「みんな仲良しだったからねー」

 

仲良し…心配をされるほど。

信頼をされているプロデューサー

 

僕はまだ何もしていない。

当たり前だけど、アイドル達との信頼関係も全くと言っていいほど皆無だ。

 

僕は彼女達と上手くやっていけるだろうか。

 

雪樹「あれ…これって」

 

棚に視線を戻すと幾つものノートを見つけた

一つずつ表紙に名前が書いてある

アイドル達の名前だ。

 

雪樹「前々任の人のノートか」

 

冊数だけ見ても100は超えている…

まさか全員分のノートを…?

 

雪樹「プロデュースノート…」

 

試しに一冊開くと

びっしりと並んだ文字とたまに写真が貼られている。

 

そのアイドルの特徴、得意なレッスン苦手なレッスン、相性のいい他アイドル、結成済みユニット、ソロ曲やユニット曲。

 

雪樹「アイドルプロデュースってこんなにも事細かくするのか。」

 

これだけの内容がしっかりと残されているなら、使わない手はない。

できる限り、利用させてもらおう。

 

美嘉「莉嘉。そろそろ、レッスンルーム行こう」

 

莉嘉「あ、もうそんな時間なんだ。」

 

雪樹「今日はありがとう。また今度。」

 

美嘉「それじゃあね」

 

莉嘉「じゃぁねー」

 

二人がオフィスを出たあと。

別の一冊のプロデュースノートを手に取った。

 

近道かもしれないとはいえ、ここに書いてある通りにはいかない、本当に受け入れて貰えるかどうかだ。

 

千川「お昼ですが。どうしますか?」

 

雪樹「あれ。そんな時間か…」

 

手に取ったプロデュースノートを元に戻した。先に昼食だ。

 

千川「社員食堂。行かれますか?」

 

雪樹「いや、コンビニで買ってくるので僕はいいです。」

 

千川「そうですか。では、私も少し席を外しますね。」

 

雪樹「はい。お疲れ様です」

 

事務所を出て近くのコンビニまで出向く。

 

その途中。少し見覚えのある姿を見た。

 

雪樹「あの格好、昨晩のストーカーか?」

 

声を掛けるべきか、

いや人違いだったら失礼だな。

 

コンビニで買い物だけ済ませて事務所に戻る。

 

オフィスに鍵が掛かってたので開ける。

そういえば森久保さんのことを忘れていた

机の下を覗くと。森久保さんがいた

 

(あれ…鍵掛かってたよな…?)

 

森久保「プロデューサーさんは、コンビニのお弁当ですか?」

 

雪樹「まぁね、森久保さんはやっぱりそこでお昼ご飯食べるんだね。」

 

森久保「はい、ここが落ち着くので。」

 

机の下でクロワッサンを食べる…

小動物みたいな…

僕も昼メシを済ませよう。

 

雪樹「森久保さんはさっきの話聞いてた?」

 

森久保「唯さんの話でしょうか…?」

 

雪樹「そう。」

 

森久保「聞こえていました。唯さんは、もりくぼでも話しやすいと思うくらいで…でも、そんな唯さんが悲しそうにしてるのはやっぱりちょっと心配で。」

 

雪樹「そうか…やっぱり皆心配なんだな」

 

森久保「赤原さんは唯さんがキライだったみたいでした。唯さんが皆を護ろうとする前から唯さんの悪口を言ってたり…」

 

雪樹「赤原?前任のことかな」

 

森久保「赤原児玉、だったはずですけど。もりくぼは会ったことが無いので。噂しか聞いたことないです…」

 

雪樹「会ったことない?」

 

森久保「その前の人がいなくなって、ほぼずっと家にいましたし、お仕事のときはレッスンルームに行くこともなかったですし、ロッカーしか寄らなかったので。」

 

雪樹「そうか、よかったというか。」

 

森久保「お力になれず…」

 

雪樹「いやいや、大丈夫。」

 

森久保「プロデューサーさんは、赤原さんとなにか?」

 

雪樹「何もないよ、できる限り赤原さんが何をしたのか知りたいんだけど。」

 

森久保「ちひろさんとか、他のアイドルに聞いたほうが、早いかもしれないです…」

 

雪樹「うん。そうするよ。ありがとう」

 

森久保「もりくぼは何もしてないんですけど…感謝だなんて。」

 

雪樹「さてと。さっきの続きだ。」

 

一冊のプロデュースノートを手に取る。

 

……

 

パッションアイドル 大槻唯

養成所でレッスン中にスカウト

(何故か食べかけの飴を貰った)

346プロダクションに所属

 

レッスンに対して少し面倒くさがりだが

手を抜くことはあまり無い

プロダクション所属後、程無くして他アイドルとのユニット結成、ユニット間だけでなく他アイドルともすぐに打ち解ける程話しやすい。

 

営業においてもバラエティ、旅物、ドラマ等広く活躍しいくつか出演してほしいとの要望が耐えない

 

ソロ曲の舞台でも大槻唯独自の元気さとポジティブさで会場は大盛り上がりした

 

数カ月も経たずして多くのファンを得る。

 

 

雪樹「やっぱり元気な子ってのは間違いなさそうだな。さっきの話でも出てきたけど、飴が好きなのか?」

 

森久保「唯さんはいつも飴を持ち歩いてますね…」

 

???「おお!やっぱり空いてるね!」

 

雪樹「あっ、どうも」

 

???「新しいプロデューサー……若い…」

 

雪樹「若い…?」

 

片桐「い、いえ!何でもないわ!初めまして。私は片桐早苗。元婦警のピチピチアイドルよ♪」

 

雪樹「新人プロデューサーの松谷雪樹です。今後共よろしくお願いします。」

 

片桐「お、言葉遣いはしっかりしてるね。前のおっさんとは大違い。よろしく。若人よ~」

 

雪樹「え、えっと、はい…」

 

やたらと馴れ馴れしい…

近い…近い近い…

 

雪樹「ちょ…近い…」

 

片桐「おお、これは失礼。ところでいくつ?」

 

雪樹「いくつって…歳?…歳は24ですが。」

 

片桐「やっぱり若い!!あ、連絡先交換していい?」

 

雪樹「連絡先ですか?電話番号でいいですか」

 

片桐「構わないわよ~」

 

雪樹「えっと…これで。」

 

片桐「ありがとうー、これでいつでも大丈夫ね。」

 

雪樹「何が大丈夫なんですか?」

 

片桐「連絡先、他の子達から何かあればすぐ連絡出来るでしょ。」

 

雪樹「そういうことですか。まぁプロデューサーである以上アイドル達の事であれば話はすぐお伺いした方がいいのは確かです」

 

片桐「それもそうだけど、前任の一件もあるし?」

 

雪樹「僕は前任の様な真似はするつもりありませんよ。」

 

片桐「もし。彼女達が貴方に無実の罪を着せようとしたら?」

 

雪樹「僕は非力ですから結果次第です。でもできる限り無実を証明できるものを探しますね。理不尽に流されるのだけは勘弁なので。それでもだめなら、そこまで」

 

片桐「冗談よ。そこまで言うのなら、貴方を疑う必要は無さそうね」

 

雪樹「冗談は苦手です。」

 

片桐「お堅いのは、嫌われちゃうわよ?」

 

雪樹「そうなり過ぎないよう、努力しますよ。」

 

片桐「あと、連絡先交換した理由は、もう一つあるのよね」

 

雪樹「もう一つ?」

 

片桐「最近、付近の街並みでストーカーされているという話が多いって、知り合いの警察から聞いたの、貴方もあった?」

 

雪樹「ええ、丁度昨日の帰りにストーカーされましたね」

 

片桐「やっぱりそうよね。気をつけなさいよ。何か巻き込まれそうだったらすぐ電話してよ?」

 

雪樹「わかりました。元婦警となればかなり心強いですね。」

 

片桐「これでも黒帯持ちなのよ」

 

雪樹「尚更ですね。」

 

千川「戻りました。あら、早苗さん」

 

片桐「ちひろさん。どうですか?新しいプロデューサー君は。」

 

千川「どうですか、と言われましても。まだ話も少ししかしてませんし。」

 

片桐「昨日来たばかりって聞いたけどほんと?私しばらく警察のお手伝いしてたからあんまりこっちの事情知らないんだよね~、前任の人全く声掛けてくれないし。」

 

雪樹「そうですね、昨日来たばかりです。」

 

片桐「そうなんだ、頑張ってよ?」

 

雪樹「もちろんです。」

 

片桐「それじゃ、私は挨拶に来ただけだから。また今度お仕事頂戴ね~」

 

雪樹「はい、お疲れ様です。」

 

早苗さんはオフィスを出て行った

元婦警か、少し圧があった気がする。

最初の視線は鋭かったし後から親しげな感じだったけど手を出せば確実に仕返しされていたと思う。

 

黒帯って言っていたし…

 

雪樹「いろんなアイドルが居るんですね。婦警からアイドルに転職するなんて。びっくりです」

 

千川「職務質問中に試しに声掛けたらスカウト出来たって…冬斗さんが言ってましたね。」

 

雪樹「冬斗さんって。前々人ですか?」

 

千川「そうです。」

 

雪樹「職務質問中にスカウトする方もどうかと思いますけど。それでアイドルになろうと決めた方もどうかと…」

 

千川「それは…私も思いました…」

 

雪樹「ですよね…」

 

いやまあ普通おかしいとは思うけど…

良かったのか…公務員からアイドルへ転職して…

 

雪樹「ほんとに…いろんなアイドルがいますね。」

 

千川「そうですね。乃々さんもアイドルになるつもりは無かったそうですが、結局アイドルになってますよね。」

 

森久保「もりくぼは…何故かアイドルになってました。」

 

雪樹「何故かって…アイドルになりたかったわけじゃないんだね」

 

森久保「そもそも…アイドルなんてもりくぼには似合わないと思ってたんですけど…何故か順調に…」

 

雪樹「まぁ。楽しいんだったらいいと思うよ」

 

千川「さっきの話ですが、唯さんのことどう思いますか?」

 

雪樹「大槻さんのことだよね。大丈夫ですよ、多分少し話をすればいいだけです。」

 

千川「そ、そうですか」

 

雪樹「確信はありますから。」

 

千川「確信?」

 

雪樹「まぁ、すぐ良くなりますよ。」

 

森久保「プロデューサーさん…自信有りげですね…」

 

プロデュースノートを改めて手にとって最初のページを読み返す。

 

そう、特別やることは無い。

むしろ。話をするくらいしか僕にできることはない。

 

雪樹「あっ、そうだ。千川さん。」

 

千川「どうしました?」

 

雪樹「キャビネットのところ、コンセント余っているので使ってもいいですか?」

 

千川「あのコンセントは元々冷蔵庫に使ってたので、今は使ってないのでいいと思いますよ」

 

雪樹「1ドア冷蔵庫の小さいサイズですかね?丁度それを考えていたんです。」

 

千川「はい、一度備品管理室にしまいこんで、それから使ってません。まだ動くかわからないですが。」

 

雪樹「買い換えるより、そっちのほうがいいかな、備品室か。」

 

千川「専務の部屋の2つ隣です。扉に小さい看板付けてあるのですぐわかると思いますよ。」

 

雪樹「鍵はかけてあります?」

 

千川「鍵は、これですね。」

 

雪樹「ああ、持ってるんですね…」

 

千川「このフロアはほとんど私達しか使わないので一部以外はこの部屋に全部あるはずです。」

 

雪樹「なるほど、」

 

オフィスを出て備品室に行く。

 

雪樹「ここか」

 

備品室。確かに少看板が付いてる。

鍵を開けて電気をつけるとダンボールだらけの場所だった。

 

レッスン道具等もあるみたいだ。

 

雪樹「冷蔵庫…これか。」

 

台車に積んである物をそのままオフィスに運ぶ。

 

雪樹「さて…と、これでいいかな」

 

千川「しっかり通電してますか?」

 

雪樹「そうですね。冷えてきても本格的に使えるのは明日からかな。」

 

千川「そうですね。」

 

丁度置き終えソファーに腰を掛けたところでオフィスの扉が開いた。

 

???「あっ、ほんとに変わってるんだー。」

 

見覚えのある顔だけど…実際には初めて会うかな

 

雪樹「初めまして、新しいプロデューサーの松谷雪樹です。よろしくね。」

 

大槻「大槻唯だよ。よろしく。」

 

思ったより暗いというか。落ち着いているのほうが合ってるかな。

 

千川「お久しぶりです、大槻さん。」

 

大槻「ちひろさん久しぶり~!ちひろさんは大丈夫?あの人に何もされてなかった?」

 

千川「私は大丈夫ですよ。関わること少なかったですから。」

 

大槻「そうなんだ、良かった~」

 

千川「彼が新しいプロデューサーですので、今後ともよろしくお願いしますね?」

 

大槻「う、うん、わかってるよ。」

 

…目を背ける辺り、前のことを気にしてる様子かな。

 

雪樹「無理はしなくていいよ。さっき、とは言っても昼前か、城ヶ崎姉妹がレッスンルームに行ったけど、まだいるかもしれない、鍵は戻ってきてないから、良かったら顔を出して来るといいかな。」

 

大槻「二人も来てるんだね!行ってこよっかな!」

 

大槻さんはオフィスを出て走っていった。

 

雪樹「思ったより元気そうだね」

 

千川「赤原さんが居た頃よりか、元気ですね。」

 

雪樹「僕が話をしなくとも。自然と良くなるんじゃないかな」

 

千川「そうだといいですね」

 

雪樹「そうだ、森久保さん。飴、食べる?コンビニ行ったときに買ってきたんだ。」

 

森久保「え、そんな唐突な、あ、でもいただきます。」

 

雪樹「それじゃ、サイダー飴のりんご味で。」

 

森久保「いただきます、んむっ…粒が大き過ぎて…」

 

雪樹「ほっぺが膨らんでる、リスみたいだね。」

 

森久保「あぅぅ…りす…りすくぼ…」

 

自分も飴を食べる。

粒が大きい。確かにこれは頬が大きくなるな。

 

雪樹「この飴久々に食べた気がするなぁ」

 

森久保「飴…おおきい…」

 

大槻さんは残念そうに戻ってきた

 

大槻「うーん、二人ともいなかったよー。あれ!サイダー飴じゃん!」

 

雪樹「大槻さんもどうぞ、何味がいい?」

 

大槻「サイダー飴ね~!それコーラ味が好きなんだよね~!貰っていいかな?」

 

雪樹「コーラ味だね。もちろん」

 

飴を渡すと嬉しそうに口に放り込んだ。

 

大槻「うーん!このシュワシュワするのやっぱりいいね~!」

 

雪樹「確かにこういう一風変わった飴は美味しいね。」

 

大槻「事務所で飴食べるの久しぶり~!」

 

雪樹「飴はテーブルに幾つか置いておくからいつでもおいで」

 

大槻「もしかして~、新しいPちゃんってめちゃくちゃ良い人?」

 

雪樹「少なくとも悪い人ではないよ。」

 

大槻「ちょっと安心したかな~。」

 

雪樹「僕も少し安心したよ。」

 

大槻「んー?なんで?」

 

雪樹「城ヶ崎の二人がね、大槻さんの事心配してたから。もし来たら良くしてあげてって言われてたんだよ。」

 

大槻「そうだよね、わかってたけど…でも事務所の事思い出したりすると、あの人の嫌なことも思い出したりして。ちょっと落ち込んじゃってさ。」

 

雪樹「それでも、戻ってきてくれたんだよね。」

 

大槻「うん、もう居ないなら悩む必要もないでしょ?またみんなと一緒に遊びたいし、美嘉達にも悪いかなって。」

 

雪樹「ありがとう。これから宜しく」

 

大槻「よろしくね!Pちゃん!ちひろさんも!」

 

千川「改めてよろしくお願いしますね。」

 

大槻「それじゃ、美嘉達探してくるから唯は行くね!また遊びに来るね~!」

 

大槻さんは元気そうにオフィスを出て行った

 

雪樹「うん、大丈夫だね。」

 

千川「でしたね。さっきの話ですが、ほんとに大したお話もしてないのに唯さんが戻ってきてくれるなんて。どうしてわかったんですか?」

 

雪樹「そもそも、あの子は落ち込むのを引き摺るような子じゃないと思ったんだ、元気っ娘は自分が落ち込むことより他人が落ち込むことのほうが気にしてることが多い。自分のことにある程度楽観的になれると思うんだ。だからじゃないかな」

 

千川「確かに大槻さんが落ち込むところはあんまり見たことないですので、そうかもしれないですね。」

 

雪樹「あくまで僕の憶測だけどね。でも実際戻ってきてくれたんだ。それでいい。」

 

森久保「もしかして雪樹さんも、魔法使いなんですか…」

 

雪樹「ま、魔法使い?それに僕もっていうのは、どういうこと?」

 

森久保「冬斗さんにスカウトされたアイドルは、お仕事貰えたり、ユニットを組めたり、ソロのレコーディング貰えたり、必ず皆さん耀いているんです。もりくぼもそうでした。」

 

雪樹「僕にそこまでの力があるかわからないよ、まだ大きな目標は見つからないし、みんながまた楽しくアイドル出来るようになるのが、今の僕の目標かな。」

 

森久保「楽しくアイドル出来るように…なら…いや…」

 

雪樹「どうしたの?」

 

森久保「いっ、いえ、なんでもないです。」

 

雪樹「そう、気になる事があるならまた今度教えてくれると嬉しいかな。」

 

森久保「ま、また今度で…」

 

ふと窓に目を向けると夕暮れのオレンジ色の空が見えた。

 

雪樹「あれ、もう夕方なのか。」

 

千川「六時過ぎてますね、そろそろ私は帰りますね。」

 

雪樹「はい。お疲れ様です」

 

千川「お疲れ様です。」

 

千川さんは荷支度をして帰った。

けど、森久保さんは…

 

雪樹「森久保さんは。まだ帰らないのかな」

 

森久保「もりくぼも、森に…女子寮に帰ります。」

 

雪樹「うん、お疲れ様。」

 

森久保「お疲れ様です…」

 

森久保さんも小走りでオフィスを出ていく

 

皆が居なくなり一人だけになる。

 

雪樹「僕も帰ろうかな。明日は専務に話をしてみるか」

 

オフィスを出て鍵をかけ事務所を出た。

 

そして、帰宅途中、またストーカーにつけられていた

 

雪樹「昨日と同じ人じゃないな。」

 

複数犯か。交代制なのか。

とにかくストーカー犯は一人だけじゃない

ということだろうか。

 

気にしていないふりをして普段通り帰路を進むと、先日と同じ場所で前から人が歩いてくる。服装も似ているし仕草も似た感じだ。

 

道を開けるように横にずれて歩くと

何事もなくその場を歩き去って行った。

 

雪樹「昨日とは別の人か?それとも思い違いか。」

 

昨日とは違うのは。

ストーカーがまだついてきている事

 

気にする素振りをせず家の付近まで着くとストーカーは去って行った。

 

雪樹「特定されたか…?まだ距離はあるけど。明日の帰りは道を変えるか…」

 

……

 

翌日、郵便受けに差出人のない封筒。

中には異様な手紙が入っていた…

 




一通の手紙、前任 の話が続きます


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戻る賑わいと初仕事

お久しぶりです。
二ヶ月掛かりました。
デレステPとして頑張っても居るのですが
月初のカーニバル、142sイベ、おまけにSSSまで狙っていたので
進捗が少なく遅くなりました。

以上です。


初の仕事の話。
賑わいが戻りつつある事務所。
平和な一日です。


 

 

 

手紙の内容…

 

……

 

お前に必ず不幸が降り掛かる

あのプロダクションに近づけば必ずだ

それを回避する手立てはお前にはない

お前には不釣り合いだ

今すぐ辞めろ

 

……

 

雪樹「ストーカーからか」

 

目を通すとゴミ箱に捨てた

不幸が降り掛かる…か

 

雪樹「手紙の主が思う不幸がどんなものか、別に気にするまでもないか」

 

家を出て事務所まで向かった。

 

何事もなくオフィスまでたどり着く。

 

雪樹「おはようございます」

 

ちひろ「おはようございます、プロデューサー」

 

デスクの横に見覚えのない女の子が…

大きなうさぎ?の椅子に座って本を読んでいる

 

雪樹「えっと…プロダクションのアイドルなんだよね…?」

 

杏「そう、双葉杏だよ~、あ、飴ごちそうさま~」

 

雪樹「結構、堂々としてるんだね…」

 

ちひろ「杏ちゃんは以前からずっとこんな感じですよ」

 

雪樹「連休だからかな。みんな事務所に来るんですね」

 

杏「そうそう~、まぁ杏は連休じゃなくても学校たまに休むけどね~」

 

雪樹「成績とか大丈夫なの?」

 

杏「こう見えても成績優秀なんだよ?」

 

雪樹「定期試験とかは…」

 

杏「大丈夫大丈夫、宿題は出してるし、テストは毎回全教科9割以上取ってれば怒られないから」

 

雪樹「え、ちひろさんこれ本当なんですか?」

 

ちひろ「年下や同年代の子達に勉強教えてる所をたまに見ますよ?」

 

雪樹「すごいな…」

 

杏「そうそう、だから少しぐらいはだいじょ…」

 

???「杏さん!お待たせしました!」

 

杏「待ってないよ…?てかよくここだってわかったよね…」

 

雪樹「あれ、君は」

 

???「あれ?もしかしてあなたは。」

 

雪樹「CDショップで会ったかな…?」

 

島村「そうです!やっぱりそうですよね!私、島村卯月です!よろしくお願いします!プロデューサーさん!」

 

雪樹「松谷雪樹、よろしくね。」

 

杏「卯月ちゃんには挨拶して杏には挨拶なし?まぁいいけど~」

 

雪樹「ごめんごめん。流れがちょっとなかったね、改めてよろしく」

 

島村「杏さん!今日もお願いします!」

 

杏「た、たまには休んだら?詰め過ぎじゃないの…?」

 

島村「いえ!今回の試験は絶対に落とせないので!頑張らないといけないんです!」

 

杏「十分すぎると思うけどなぁ…そもそも杏が教えなくても十分点数取れてるしさー、全教科で平均点8割だっけ?」

 

島村「平均8割方じゃだめなんです!9割以上は必要です!」

 

雪樹「そこは100点じゃないんだね…」

 

ちひろ「そもそも平均8割もあれば十分だと思いますが…」

 

杏「最近ずっとこんな感じでさー、プロデューサーもなんか言ってあげてよ」

 

雪樹「そこで僕に振られてもなぁ、頑張りすぎても疲れるから。程々にね」

 

島村「はい!頑張り過ぎないように頑張ってます!」

 

雪樹「う、うん?そっか…」

 

杏「まぁ仕方ないなぁ…教えるようなことないとは思うけど。」

 

島村「ありがとうございます!」

 

二人はテーブルに教科書とノートを広げて勉強を始めた。

 

ちひろ「ちょっとずつ、前の事務所に戻りつつありますね。」

 

雪樹「こうやって気軽に来てくれるとありがたいね。」

 

二人の勉強姿を眺めているとオフィスに専務が来た。

 

美城「プロデューサー、少し話がある」

 

雪樹「話とは?」

 

美城「簡単に言うなら営業だな、アイドルの仕事の依頼だ。私に連絡が来たのだが、本来は君の仕事だからな。頼むぞ。」

 

美城さんから仕事の資料を渡された。

 

雪樹「わかりました。」

 

美城「わからない部分は聞いてくれていい。それでは、私はまた別の仕事があるから。」

 

オフィスから専務が出ていくと勉強していた二人がこちらを凝視していた、

 

杏「プロデューサーって。何者なの」

 

雪樹「何者って言われても。ただのプロデューサーだけど。」

 

杏「専務からあんな軽々しい対応されるの珍しいと思うんだけど。」

 

ちひろ「今日の専務、少し忙しそうでしたから。それもあると思いますが。」

 

雪樹「別に特に何かあったわけじゃないよ」

 

杏「まぁ、専務が信頼してるならそれだけしっかりした人なんだろうね。」

 

雪樹「少なくとも前任よりは。」

 

杏「あの人はだめだよ。プロデューサーじゃないもん」

 

雪樹「さて、初めての仕事の話だな…」

 

杏「頑張ってね~」

 

デスクに腰掛けて資料を眺める

 

平日夕方放送のドラマの撮影。

共働きの家庭の娘役にアイドルを選定。

 

設定として年齢は15歳、高校生、大人しめの女の子。友人には恵まれているがあまり自分から交流はせず読書が好きでよく本を読む

 

雪樹「なるほどね。子役…って程でもないか」

 

ちひろ「どんな内容なんですか?」

 

雪樹「ドラマの撮影で、15歳の娘役です」

 

ちひろ「15歳ですか。」

 

雪樹「大人しめの子を演じれる子」

 

ちひろ「森久保さんとかどうでしょう?」

 

雪樹「いいかもしれないけど。折角の機会だから他の方も声を掛けてみたい。森久保さんに頼むのは数件尋ねてもだめだったらにします。」

 

ちひろ「わかりました。」

 

雪樹「とは言っても、僕もまだどんな子がどれだけ居るのかすら把握しきれてないし。」

 

棚からアイドルの自己紹介カードのファイルを取る。

 

ちひろ「自己紹介カードから選ぶんですね」

 

雪樹「物は試しに。上手く行くかどうかはわからないですけどね。」

 

年齢や趣味から選ぶには多少難しい。

自己紹介カードの第一印象から見ても難しい部分は多い。

 

幸い、短い内容で、撮影の期間は通しでも数日で終わる話だから、学生の子達でも何も問題なければ大丈夫そうだろう。

 

雪樹「誰がいいだろうか…そうだ、二人はどうかな」

 

島村「えっと、私は試験前なので…ごめんなさい」

 

杏「えぇ~、働きたくないよ~。それに15歳の女の子でしょ?見た目がなぁ」

 

ちひろ「杏さんは容姿が15歳に見えないですから…」

 

杏「そうそう、同い年だけど、どちらかといえば卯月ちゃんのほうが適任だと思うよ~」

 

雪樹「でも島村さんは試験もあるから無理と、仕方ない、探すか。」

 

 

自己紹介カードをめくっていくと一人のアイドルに目が止まった。

 

雪樹「白菊ほたる。この名前って」

 

この名前は見覚えがある…確かライブの…

 

ちひろ「いいかもしれないですが。」

 

杏「ほたるちゃんか~」

 

雪樹「声を掛けてみたい。」

 

杏「まぁいいんじゃない」

 

ちひろ「うまく行くといいですね。」

 

その前に。プロデュースノートを…

 

棚からノートを取り出したとき棚からいくつもノートが崩れ落ちてきた。

 

雪樹「これは…整えないとな…」

 

並べられたとおり五十音順に片付け直す

 

杏「早速だったね。」

 

今の言葉が気になったが

ひとまずノートを開く。

 

……

 

キュートアイドル 白菊ほたる

 

公園にて落ち込んでいるところを説得し、スカウト、自分は不幸体質だと彼女自身が言っており周りにもそれが影響するかのように不運なことがたまに起こる。

事務所を転々としていた過去があり

そのほぼ全てが倒産してしまったとか。

 

日々のレッスンやユニットでの活動、営業を重ねていくうちに前向きになることが多くなり。不運に思うのではなく。努力不足だと言い換えるようになった。

 

ユニットでの活動でもたまに不運なことが起こるが、彼女を知っている仲間は気にしておらず優しく接することが多い

 

ユニット活動やソロ曲披露で沢山のファンを得た。

 

ソロ曲[谷の底で咲く花は]

ユニット曲…

 

……

 

雪樹「…やっぱりこの子なのか。」

 

ちひろ「何か知ってるんですか?」

 

雪樹「ソロ曲、聴いたことがあって、以前知り合いの付き添いでライブに行きました。」

 

ちひろ「そうだったんですね」

 

雪樹「女子寮借りてるんだね、今いるかな」

 

ちひろ「連休で帰省してる子が多いですが、残ってる子も一部はいますよ」

 

雪樹「連絡してみるか…」

 

…絶賛コール中…

 

白菊「は、はい白菊です!」

 

雪樹「こんにちは、346プロダクション新任プロデューサーの雪樹です、白菊ほたるさんでよかったですよね?」

 

白菊「えっと、はい。私が…ほた…す…新し…さーさん?」

 

うまく聞き取れない。

回線が悪いのだろうか

 

雪樹「えっと、回線が良くないみたいで、かけ直して…あれ、」

 

電話が切れてしまった。

やはり回線が悪かったみたいだ。

 

ちひろ「どうされました?」

 

雪樹「うーん…途中で電話が切れてしまって、かけ直してみます。」

 

電話をかけ直すと電波の繋がらないところに…という案内が流れる

その後いくらかけ直してもコールだけで一向に繋がらないかコールせずすぐ切れるかのどちらかだけ。

 

雪樹「困ったな…」

 

杏「まぁ、もう少し待ってみようよ。」

 

雪樹「とりあえず、別の候補を探すか。」

 

また自己紹介カードの冊子をめくっていく。

 

雪樹「誰が適任はいると思うんだけど…」

 

大人しめの子とか居るといいんだけど

…流石にいると思う…いるよな…?

 

雪樹「ちひろさんは、誰が適任の子とか思い浮かばないですか?」

 

ちひろ「んー、15歳の大人しめの子ですよね。そうですね。渋谷さんとか、」

 

島村「凛ちゃんは大人しいというよりクールなので、どうなんでしょうか…?」

 

杏「あの子は?智絵里ちゃんとかさ」

 

ちひろ「確かに智絵里さんは大人しめってイメージはありますね」

 

候補の会話をしていると

オフィスの扉が開いた。

 

???「お、おはようございます」

 

雪樹「あ、こんにちは。来てくれたんだね」

 

白菊「お電話貰ったのに途中で切れてしまって…すみません」

 

雪樹「来てくれてありがとう。新任プロデューサーの雪樹です。よろしくお願いしますね」

 

白菊「白菊ほたるです、どうぞ、よろしくお願いします」

 

大人しめ、ではあるけど、

少し暗いかな。

 

雪樹「そうだ、電話した理由についてなんだけど、今話してもいいかな。」

 

白菊「お仕事のお話でしょうか?」

 

雪樹「ドラマの撮影でこのプロダクションから1人お願いできないかってことで、声を掛けさせてもらったんだけど。いいかな。」

 

白菊「えっと、内容を見てもいいですか?」

 

白菊さんはソファーに座って資料を眺める…

お願いできるだろうか。

 

雪樹「うん、これが資料。回答はすぐじゃなくてもいいから。」

 

白菊「いえ、やります、手芸も教えてもらって少し練習してました。読書も嫌いではないですし、頑張ってみます!」

 

雪樹「ありがとう、ドラマの脚本の方や撮影事務所に連絡をするから、また進展があったときに連絡するよ。ひとまずありがとう」

 

白菊「はい、宿題の途中だったので、戻ります、お疲れ様です。…いたっ…!」

 

白菊さんはオフィスを出ていくとき

ドアノブに腕をぶつけていた

 

雪樹「さてとひとまず一段落かな。お昼、どうしようか。」

 

卯月「私はおにぎりを作ってきました。」

 

杏「コンビニおにぎりがあるからいいかな~」

 

ちひろ「私は社員食堂に行ってきますね」

 

雪樹「そうか。まあ外で食べに行ってくるかな」

 

 

事務所を一旦出てまた近くのコンビニの横を通るが、この前のストーカーに似た人物がコンビニの少し離れたところで立っていた。

 

時折こちらを見ているような気がする

気にせず通過することにした

 

 

雪樹「戻りました」

 

森久保「あ…プロデューサーさん、おかえりなさい。」

 

雪樹「あれ…二人とも寝てるじゃないか…」

 

森久保「えっと…杏さんと卯月さんは休憩って、言ってました」

 

雪樹「それで、大きなうさぎのいす…なのかな、そこで横になって寝てるわけか、何かブランケットとかないかな。」

 

秋も終わりかけてるが、肌寒さはない

とはいえ私服のまま横になるのは少し良くない

 

オフィスの戸棚を探すが

それらしいものはない…

 

森久保「あ、これで良ければ…」

 

森久保さんが持ってきたのは少し薄めのタオルケット。昨日とかで机の下で使っていたものかな。

 

雪樹「森久保さんはいいの?」

 

森久保「だ、大丈夫です…」

 

雪樹「うん、ありがとう。」

 

早速二人にタオルケットを掛ける。

 

雪樹「今日は机の下に居ないんだね。」

 

森久保「いつもいるというわけじゃないのですが…」

 

雪樹「そうか。」

 

とりあえずデスクに腰掛ける。

さて、撮影事務所に連絡してみるかな…

 

雪樹「この番号かな。かけてみるか」

 

……

 

電話に出ない、留守電にもならなかった。

 

雪樹「昼飯中かな、それなら出られなくてもわからなくないが」

 

と、そう思った矢先

折り返し電話かかってきた

 

雪樹「はい、346プロダクションの雪樹です」

 

斎藤「お世話になります、〇○事務所の斎藤です」

 

雪樹「あ、お世話になります。先程はすいません。ドラマの出演者の件でお話させていただこうとお電話かけさせていただいたのですがよろしいですか?」

 

斎藤「あぁ、わざわざありがとうございます。決まりましたか?」

 

雪樹「ええ、白菊ほたるさんにお願いしました。今度打ち合わせ等お伺いしますが。」

 

斎藤「あの白菊さんですか!ありがとうございます!実は出演者の中に白菊さんのファンの方が居るんですよ。有り難い限りです、では早速で申し訳ないのですが、明後日の連休最終日に脚本の方と打ち合わせがあるので、そのときにでもお会い出来ませんか?」

 

雪樹「それはよかった。明後日ですね、私は問題ありませんが、白菊さんにも確認してまた連絡させていただきますね。」

 

斎藤「わかりました、ではお待ちしています」

 

雪樹「はい、それでは」

 

……

 

うまく行きそうだ。

 

森久保「お仕事のお電話ですか?」

 

雪樹「そうだね。専務から任されたんだよ。」

 

森久保「大変ですね…つい先日ここに来たばかりですよね…」

 

雪樹「そういう仕事だからね。専務も忙しいだろうし、慣れてないからと言って任せてしまうのも良くない。やれるだけの事はするよ。」

 

森久保「怖くないんですか?初めてのお仕事とか…」

 

雪樹「んー。心配なのはもちろんあるけど、気にしすぎても前に進めないから。」

 

森久保「そうですよね…」

 

雪樹「森久保さんは事務所の仕事は怖い?」

 

森久保「怖いというか、自信はなくて…それにあの人も居なくなってから逃げてしまわないか不安で…」

 

雪樹「背中を押してくれる人か。そうだね。僕もそうなれるといいかな。」

 

森久保「プロデューサーさんは真面目ですよね…」

 

雪樹「よく言われるよ。」

 

森久保「森久保はすぐ逃げてしまいますし。お仕事には自信はありません…でもそんな森久保でもこの事務所で上手く行ってますから…きっとプロデューサーさんはもっとうまく行くと思います…」

 

雪樹「うん。ありがとう」

 

杏「ふぁ~あぁ寝てた…あ…卯月ちゃん隣にいるし…」

 

雪樹「おはよう。」

 

杏「おはよ~…」

 

雪樹「二人とも気持ち良さそうに寝てたね。」

 

杏「う~ん、卯月ちゃんは勉強してたはずだけど。まぁいっか。」

 

森久保「ノートとか、広げたままでしたので…とりあえず一纏めにしておきましたけど…」

 

雪樹「そういえば。双葉さんはここのオフィスのことをどうやって知ったの?」

 

杏「んー?城ヶ崎姉妹達がグループチャットの方で話してたからかな。多分もうみんな知ってるんじゃないかな。」

 

雪樹「なるほど、SNSか。それなら伝達も早そうだね。」

 

杏「まぁ卯月ちゃんがここに来るとは思わなかったけど。結構集まったりするから。」

 

雪樹「活気が戻って来てくれるならそれはそれで有り難いことだよ」

 

杏「他の子はどうかわからないけど、杏はここに来る理由が無くなりそうだけど」

 

雪樹「来る理由?」

 

杏「友達がここのプロダクション辞めようと思ってるとかなんて言い出したから、杏も考えてるんだよね。」

 

雪樹「友達か。どんな子?」

 

杏「杏と違って真面目なところがあって背が高いかな。諸星きらりっていうんだけどさ。前のプロデューサーが散々嫌がらせしたせいで辞めようかなんて言い出しちゃったんだよね、杏もきらりのことは心配だけどさ。暴力じみた事されたら反論もできないし」

 

雪樹「今はもう前任は居ないから」

 

杏「きらりにはそのことは話したよ、新しい人がどうかで続けるか辞めるか決めるって言ってたから。そのうちここに来るの思う。」

 

雪樹「話をしてみないとわからないかな。」

 

杏「今暇だろうし、呼ぶ?」

 

雪樹「無理やり話をするつもりはないよ来てくれたらでいいから。」

 

杏「いいんじゃない?むしろ今のきらりは呼ばないとこないんじゃないかな。」

 

雪樹「呼ぶのはいいけど、まだ少し用事があるし。そうだ、森久保さん。」

 

森久保「は、はい…?」

 

雪樹「白菊さんの連絡先知ってたら呼んで貰えないかな、さっき連絡したときは繋がりが悪くて」

 

森久保「あ、わかりました、呼んでみます」

 

雪樹「頼むね。」

 

杏「きらりに聞いてみたけど今日は来ないってさ。」

 

雪樹「そっか。また今度かな」

 

森久保「ほたるちゃん来てくれるそうです。」

 

杏「結局ほたるちゃんにするんだね。」

 

雪樹「他の出演者の方で、白菊さんのファンの方が居るらしくて。なおさら白菊さんのほうが適任だったよ。」

 

杏「たまに居るよね。でも気をつけないと厄介ファンとかだと拗らせたら面倒だからさ」

 

雪樹「テレビに出るような人が厄介ファンだとは思いたくないけど。」

 

森久保「人は見かけに寄らないですから…」

 

杏「そうそう。杏もこう見えて17歳だからねぇ~」

 

雪樹「17なのか…確かに17歳には見えないな…」

 

杏「さっき言わなかったっけ?」

 

雪樹「同い年としか言ってなかった気がする」

 

杏「あれ、あ、そうかも、」

 

雪樹「ということは卯月さんも17歳か。」

 

杏「そういうことだね。」

 

雪樹「学生の子がやっぱり多いのかな、年齢層が多いとかちょっとわからないけど」

 

杏「学生は圧倒的に多いんじゃないかな。20歳超えてもアイドルやってる人はいるけどさ。」

 

雪樹「所謂、大人アイドルと言うやつか。」

 

杏「結構いるよ?」

 

雪樹「昨日来た片桐さんがそうかな。」

 

杏「あれ…あの人30前とかじゃなかったっけ…」

 

雪樹「体力持つのかな…あいや、片桐さんは元婦警だから大丈夫か。」

 

白菊「お待たせしました。お疲れ様ですプロデューサーさん、お仕事の話ですか?」

 

雪樹「お疲れ様、何度もすまないね。ドラマの話なんだけど。明後日は空いてるかな。打ち合わせがあるんだけど」

 

白菊「明後日は舞台演技のイベントの予定のはずなんですが…」

 

雪樹「あ、そうか。専務がまだ持ってる仕事か…」

 

白菊「なので明後日はいけないです…すみません」

 

雪樹「うん、仕方ないよ。連絡はしておくから、ありがとう」

 

白菊「はい。せっかくですから。少しゆっくりしていこうかな。」

 

杏「ドラマの役、頑張ってね~」

 

白菊「はい、久々に頂いたお仕事なので頑張ります。何も起こらないように気をつけます。」

 

雪樹「みんな少しずつ戻ってきてくれてるんだね」

 

杏「さっきも言ったけど、グループチャットでみんなに知り渡ってるだろうから、そのうち顔合わせる子も増えると思う。」

 

雪樹「あとは…前任の後始末もあるか。」

 

杏「全員が全員戻ってくるとは思えないけどなぁ…」

 

雪樹「出来る限りは頑張るよ」

 

ちひろ「戻りました。って卯月さん寝てる」

 

杏「よく学びよく寝るってことだよ。」

 

ちひろ「杏ちゃんは少し学びよく寝る。ですよね。」

 

杏「さすがちひろさんよくわかってる」

 

白菊さんが片付けられたノートを少し開いて見ている。

 

白菊「あ…そっか…これ高校の内容なんだ…」

 

森久保「ほたるちゃん、多分それ見てもわからないと思います…」

 

白菊「はい…全くわからないです…」

 

杏「そりゃ、高校生の内容だから。習ってても難しいと思うよ。」

 

そっとノートを閉じる。

 

雪樹「ちょっと電話してくるよさっきのドラマの事務所の方に」

 

ちひろ「日程とかですか?」

 

雪樹「打ち合わせが明後日あるみたいで。その件で」

 

ちひろ「わかりました」

 

オフィスを出て廊下で電話を掛ける、

 

 

斎藤「はい、斎藤ですが」

 

雪樹「346プロダクションの雪樹ですがドラマの打ち合わせの件、今話してもよろしいですか?」

 

斎藤「ええ、大丈夫ですよ、どうでしたか?」

 

雪樹「生憎、白菊さんは舞台演技でイベントの出演があるそうで、明後日の打ち合わせには来られないみたいです。私だけでも大丈夫そうですか?」

 

斎藤「そうですか。とりあえずは大まかな企画の打ち合わせなので詳細は決まってませんし、問題はないですよ。」

 

雪樹「助かります。明後日の打ち合わせは、どちらで行う予定ですか?」

 

斎藤「あとでFAXを送りますのでそちらで確認願えますか。電話だと長くなりますし、今も別の撮影の片手間だったので」

 

雪樹「それは失礼しました。番号とかは…」

 

斎藤「先日お会いしたプロデューサー代理の方からお伺いしてます。また不明点があればお電話ください。申し訳ないですが、そろそろ戻らないといけないので」

 

雪樹「お手数おかけしました。失礼します」

 

 

電話の途中から気がついていたけど

さっきからオフィスが騒がしい…

 

雪樹「どうかしましたか」

 

杏「それが、アレが居たって」

 

雪樹「アレ?」

 

白菊「黒くてカサカサ動くアレです…棚と壁の隙間に入っていくのを見た気がして…」

 

あー、アレか

 

雪樹「あぁ…アレ…というかアイツ。」

 

卯月「寝起きからいきなりてんやわんやです…」

 

雪樹「殺虫スプレーとかあります?」

 

ちひろ「噴き出しタイプのであれば」

 

雪樹「あるなら大丈夫かな。」

 

ちひろさんからスプレーを受取り

 

とりあえずスプレーを噴射した。

確かに棚の底奥の方から何か小さな音が近づいてきて、出てきた、割と大きい

 

雪樹「あ、コイツか」

 

すぐさま蓋付きの塵取りで拾う

 

杏「プロデューサーはなんともないんだね」

 

白菊「あの…その後は…」

 

雪樹「処理してくるよ。」

 

………

 

雪樹「どこから入ってきたんだろう…」

 

ちひろ「長いこと閉めてましたから、最近だと思うんですが」

 

杏「どこにでも出てくるから。他の部署からかもよ?」

 

雪樹「見つけ次第また処理すればいい」

 

ちひろ「そうですね」

 

雪樹「さてと…今日はこの辺で帰ろうかな。もう日も落ちかけて来たし」

 

杏「時間が過ぎるのってホント早いよね。」

 

島村「殆ど寝てて全く勉強出来てません…」

 

白菊「私も途中だったので。続きやらないと。」

 

森久保「もりくぼも…帰ります…お先にすいません…」

 

ちひろ「もう少し書類だけ整えてから帰るので雪樹さんは先にどうぞ」

 

雪樹「手間かけてすいません。お言葉に甘えて先に失礼しますね、お疲れ様です」

 

ちひろ「お疲れ様です」

 

オフィスを出てプロダクションから出た

 

……

 

帰路の途中。

やはりストーカーに付けられていた。

 

雪樹「何が目的だ…?」

 

思案しながら歩いていると前方に数人の男が道を塞ぐように立っていた……




話が逸れているのはそういう物語だから
忘れて油断してると何か起きる、と言ったところです
前任のお話が次で終わり

ちなみに私。筆者もストーカーされたことがありますが。
女性の方でしたね。鞄取られて追いかけてる途中
ストーカーの方が躓いて転けてとっ捕まえました

半泣きで謝っていたのでなんだか申し訳なくて
とりあえず鞄返して貰ってそれでおしまい。

あの人。元気かな。

それでは。


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逆恨みの終わりと疲労感

前任Pとの関わり。
あとオリ主Pのお話。


 

なるほど。誘拐か

 

雪樹「何か御用ですか。」

 

男「あんただな。新任のプロデューサーは」

 

雪樹「散々ストーカー使い回してるならわかってることだと思いますけどね。」

 

男「なかなか強気だな」

 

雪樹「この状態で怯えるような人間が、プロデューサーなんて出来ませんよ。」

 

男「なるほど、気持ちだけはしっかりしてるんだな。まぁ、それももう終わりにさせてやる。」

 

雪樹「ただでは済まないのは承知ですが。何かされるんですかね、見た感じ物騒なものは見当たりませんけど」

 

男「まぁ、刃物は何本かあるな。生憎拳銃はねえんだよ。」

 

雪樹「刃物一本でもあれば勝ち目はないですかね。」

 

一つ…掛けに出てみるか。

 

雪樹「少し失礼、電話が。切りますね。」

 

早苗さん。読み取ってくれるとありがたいけど、

 

 

片桐「プロデューサーから電話?こんな夕方から何かしらね…夜のお誘いはお断りなんだけど。」

 

電話に出ても反応がない…

 

片桐「まさかイタ電?でもあの感じでイタ電するような人とも思えないし。」

 

何か聞こえる…この声もしかして…

少し。様子見しましょうか

 

 

男「電話か。切っとけそんなの、緊張感の無い男だな。」

 

雪樹「緊張感というより。冷静だって言ったほうが、聞こえはいいと思いますけどね。それよりお名前聞かせてもらってもいいですか。」

 

男「そうだなせっかくだから言うよ、俺は赤原児玉、あんたの前任のプロデューサーだよ。」

 

雪樹「それで、前任のプロデューサーが僕になんの恨みがあるんですか」

 

赤原「あんたが潰れれば今度こそあのプロダクションは終わりだ。」

 

雪樹「逆恨み。ん、ちょっと違うか。とにかく僕はあなたに恨まれる筋合いは無いし、潰したいなら直接的にやればいいじゃないですかね。遠回しすぎると思いますよ。」

 

赤原「あんたが潰すほうが話が早い、俺にあのプロダクションは今はあんたが希望の星だ、その希望が潰れたとなれば…そりゃ苦しいだろうな。」

 

こいつ…馬鹿か…

 

雪樹「入って3日の新人を希望の星とか言ってるのは少し筋違いだと思いますけどね。ましてや、過去に何の経験もない一般人ですよ。」

 

赤原「何でもいいんだよ、とにかくあのプロダクションにプロデューサーは着けさせねえ。」

 

雪樹「それで、どうするんですか。早く行動の結論を言ってください、時間勿体無いですよ」

 

赤原「おい、車まで連れて行け。」

 

ワゴン車に連れ込まれ。どこかに向かっているようだ。

 

雪樹「どこ向かうんですか。」

 

赤原「そうだな。港で沈めてやるよ」

 

雪樹「東京港ですか。」

 

赤原「なんだ、なんか文句でもあるのか」

 

雪樹「いいえ何も。鞄少し車においておきますね」

 

しばらくしたら港に着いた

 

赤原「降りろ。」

 

雪樹「夜景、なかなかキレイですね」

 

赤原「お前ほんと緊張感ないな…お前今から海に沈められるんだぞ?死ぬんだぞ?怖くねぇのかよ」

 

雪樹「別に怖くないですよ。そりゃ色々とやりたいこととか後悔はあると思いますけど、死んだら関係ないですからね。怖いと思うくらいなら楽しいこと考えておけばいいんですよ。」

 

赤原「こいつ…なんか調子狂うな…おい早く縄繋げろ。めんどくせぇ。」

 

雪樹「一番面倒被ってるのは僕なんですけど。」

 

赤原「うるせぇな…」

 

港の石橋の一番深いところの端に立たされ

両手を縛られ、両足に縄で重いコンクリートを繋げられた。

 

うまく歩けず恐らくかなり重量があるだろう

 

赤原「さてと。最後に言い残す言葉はあるかよ」

 

雪樹「そろそろ後ろ振り向いたらどうです?」

 

赤原「は?」

 

警察車両がいくつがあり

警官と片桐さんがいる

 

赤原「嵌めやがったな…」

 

雪樹「簡単なトリックです。」

 

赤原「まさか…あの電話…!?」

 

雪樹「正解。詰めが甘いですね」

 

赤原「ちくしょう!てめぇだけでも!」

 

雪樹「あっ。」

 

ヤケになったのか押されて海に落ちる。

 

(うん。確実に沈んでる。助けが来なかったら溺れ死んでたかな)

 

片桐「あんたなにして!?」

 

男共を警官に任せて海に飛び込んできた

 

片桐さんは手と足の縄をナイフで切った。

 

(これで楽だな)

 

息はまだ続いている。

水面まで結構あるけど大丈夫。

 

(片桐さんが逆に心配だ…)

 

結構苦しそうな顔をしている…

 

手を引いて水面まで引っ張る、

片桐さんがギリギリのところで水面まで出た

 

片桐「ぷはぁ…結構深いじゃない…勘弁してよ…」

 

雪樹「助かりました。ありがとうございます」

 

片桐「涼しそうな顔してるわね…息大丈夫だったわけ?」

 

雪樹「ひとまず陸に上がりません?」

 

片桐「そうね。」

 

警官達に手を借り陸に上がる。

先程の連れられた車から鞄を回収して

捕まった赤原達のもとに行く

 

赤原「お前、生きてたのか」

 

雪樹「もう少し遅かったら三途の川泳いでましたね」

 

赤原「ちっ…」

 

雪樹「ひとつだけ聞いてもいいですか?」

 

赤原「なんだよ。」

 

雪樹「あなたがプロダクションを恨む理由はなんですか?」

 

赤原「…ファンだったアイドルがあのプロダクションのオーディションに落ちた。他のアイドルは新人だらけで。まだアイドルを目指すかもわからない子もいた、それなのにその新人を取って、慣れたアイドルを取らない…」

 

雪樹「それだけか?別に自分でスカウトだって出来ただろう?」

 

赤原「断られたんだよ、一回落ちたなら別にいいと。他の事務所に行くとな。」

 

雪樹「それならそれで仕方ないだろう」

 

赤原「どうしてもそのアイドルが輝く場所を自分で作りたかった…一緒に仕事をして。ファンを増やして。そうしたかったんだよ、でもそれも叶わなかった。だからヤケになったんだよ」

 

雪樹「そうか。それだけなんだな」

 

赤原「ああ、それだけだよ。」

 

雪樹「まぁ、残念だったな、としか言えないな。まぁ、しっかり処罰受けて反省しな。うまく行かないことだってあるよ」

 

赤原「…わかったよ…」

 

片桐「連れて行って。」

 

赤原達は警察に連行されていった。

 

雪樹「片桐さんこれ。寒いでしょう」

 

置いてあったコートを渡した

 

片桐「あなたも寒いでしょう。」

 

雪樹「わざわざ助けに来てくれたお礼ですよ。コートは濡れてないので」

 

片桐「わかったわありがとう」

 

雪樹「今度事務所に来たときにオフィスに返してくれればいいです。」

 

片桐「帰りは宛ある?」

 

雪樹「この付近なら交通は問題ないですけどね」

 

片桐「せっかくだから送っていくわ」

 

雪樹「お世話かけてすいません。」

 

片桐さんの車で家まで帰った。

 

雪樹「この辺で大丈夫です、ほんとお世話になりました。」

 

片桐「一件落着ね。前任って例のストーカーと繋がってたんでしょ?」

 

雪樹「ええ。帰り際に誘拐されましたよ。」

 

片桐「あなたも冷静ね。普通ならあの状況は怖いはずよ。」

 

雪樹「僕はあの程度なら別に怖くないですね」

 

片桐「そう、メンタルがよく育ってるわ。それじゃ帰るから。明日コート返しに行くわ。」

 

雪樹「はい、お疲れ様です。」

 

家に帰ると

全身が濡れ気味なのが兄貴夫婦に心配された

一連の話をして尚更相当心配された…

 

まぁ、誘拐されたから当たり前だけど

 

…………

 

翌日、出勤してオフィスに行くと…

 

ちひろ「プロデューサーさんおはようございます」

 

雪樹「あの…集まりすぎじゃないですか…?」

 

何人かのアイドル達が居る

見覚えのない子もいる

 

ちひろ「プロデューサーさんが誘拐されたって聞いて。無事だったって話から皆さん確認するために集まったんですよ」

 

杏「一日で解決するとか話が早すぎない」

 

雪樹「いやあの…無事だったからいいと思うんだけど…?」

 

卯月「皆さん心配だったみたいですよ」

 

雪樹「初めて会う子もいるね」

 

ちひろ「それだけ皆さん新しいプロデューサーに期待してるんですよ。」

 

雪樹「それはありがたいけど…視線が多い…って待った。ちひろさん一つ聞いていい?」

 

ちひろ「何でしょう」

 

雪樹「大体の予想はつくけど。僕が誘拐されたって話はどこから?」

 

ちひろ「早苗さんですよ?」

 

片桐「あ、プロデューサーおはよう!コート返すね~、おーみんな集まってるねぇ~!」

 

雪樹「片桐さん…昨日の話どうやって広めたんですか…」

 

片桐「グループチャットだけど?」

 

雪樹「やっぱりそうですか…前任のこともありますが。話す必要なかったと思いますよ…?」

 

片桐「新しいプロデューサーの事だから。お知らせとしてもね。」

 

雪樹「軽い話ではないですけど…まぁ大事には至ってないですし。いいか。」

 

渋谷「久しぶり、でいいのかな。」

 

雪樹「ああ、あのときの。」

 

渋谷「アドリブびっくりしたと思うから。申し訳ないかなって。」

 

雪樹「いいよ。放っておけない性格だし。この前も言ったけど。結果的には止めに入っただろうから。」

 

渋谷「改めて、ありがとう。」

 

雪樹「これから、よろしくお願いしますね。」

 

???「この人が新しいプロデューサー?」

 

渋谷「この前助けてくれたって言ってたのはこの人だよ」

 

本田「おおー!噂のヒーローだね!私は本田未央。よろしくね!プロデューサー!」

 

雪樹「僕は松谷雪樹、こちらこそよろしくお願いしますね。まぁ、ヒーローって程でもないけど。」

 

渋谷「でもまさか、本当にプロデューサーになるなんて思わなかったよ。」

 

ちひろ「そういえば、プロデューサーさん宛に専務から書類が届いてますね。」

 

雪樹「専務から?」

 

渡されたのは明日の打ち合わせの資料だった

丁度確認しようと思ってたところだったから探す手間が無くて済んだかな

 

雪樹「このビル…あれ、あいつの所と同じか」

 

ちひろ「打ち合わせ先、何かあるんですか?」

 

雪樹「友人が確かこのビルにある事務所で働いてた気がするんです、まぁ多分ですけど。」

 

ちひろ「会えるといいですね。」

 

雪樹「まぁ、会えたらね」

 

白菊「あの、プロデューサーさん、今いいですか?」

 

雪樹「白菊さんどうかしました?」

 

白菊「あの、明日のことで相談があって。」

 

雪樹「相談?舞台演技のこと?」

 

白菊「えっと、その舞台演技をするイベントが延期になってしまったので明日は予定が無くなってしまったんです。なので明日の打ち合わせに参加しても大丈夫なのかなと思って。いいでしょうか?」

 

雪樹「イベントが延期になった理由も気になるけどまぁ、そういうことなら大丈夫だよ。場所もわかってるし。午後からだからある程度時間に余裕もある。」

白菊「ありがとうございます。」

 

雪樹「これ、時間と場所だけメモしておいて。まぁ事務所の近くだし一度集合してから向かうでもいいけど。」

 

白菊「むしろそのほうがありがたいです。」

 

雪樹「それなら、そうしようか12時にプロダクション前に集合かな。」

 

白菊「わかりました。12時ですね。」

 

雪樹「遅刻しないようにね。」

 

白菊「はい、早起きして来るので、多分大丈夫です!」

 

雪樹「さてと。」

 

プロデューサーデスクに座ろうとしたとき

机の下から視線を感じた。

 

森久保「あ、おはようございます…プロデューサーさん」

 

??「お、おはよう…初めまして。」

 

雪樹「初めまして、えっと、机の下は集会する場所じゃないんだけどな。」

 

輝子「私は、星輝子、ここで、キノコを育ててるんだ。」

 

え…キノコ…?なんで?

というか、机の下が…

 

雪樹「なんていうか…もう…いや、いいや、松谷雪樹だよ、よろしくね。」

 

輝子「うん、よろしく。」

 

雪樹「机の下には本を読む少女とキノコを育てる少女か…」

 

森久保「今日はたくさんの方がいるので…」

 

輝子「キノコは暗くてジメジメしたところが好きなんだ…フヒ…」

 

雪樹「わ、わかったよ。」

 

??「レッスンルームにいないからこっちを探しに来たけど…」

 

また一人、オフィスに少女が来た。

独特なファッション…眼帯?

怪我でもしてるのかな

 

??「乃々と輝子はまた机の下なのか?」

 

雪樹「うん、二人ならここにいるよ」

 

??「やっぱりそうなんだなー、って待った、お前誰だ!?」

 

雪樹「新しいプロデューサーの松谷雪樹だよ、今後、よろしくお願いしますね。」

 

早坂「ウチは早坂美玲だ、新しいプロデューサーってことは前の人はやっぱりやめたんだな。嫌いだったから良かったけど。」

 

雪樹「眼帯、目を怪我してるの?」

 

早坂「ファッションだ!怪我をしてるわけじゃないぞ?」

 

雪樹「そう、ファッションね」

 

うん、それなら大丈夫だな。

ファッションに眼帯もまた独特な…

 

早坂「おいー、乃々ー輝子ー、いつになったら練習開始するんだよー」

森久保「演劇なんて…恥ずかしいです…」

 

輝子「ぼののちゃん。私も行くから。ほら。」

 

森久保「も、もりくぼに王子様役なんて…に、似合わないですから…」

 

早坂「それじゃあ、お姫様役がいいか?」

 

森久保「うぅ…それはもっとむりぃー…」

 

輝子「ぼののちゃんが王子様。ちょっと、見てみたいかな」

 

森久保「弱腰の王子様なんですけど…」

 

早坂「ほーら。早く行くぞ!」

 

早坂さんが二人を机の下から引っ張り出そうとする

 

森久保「あう…美玲ちゃん、引っ張らないで…」

 

雪樹「森久保さん、頑張っておいで。」

 

森久保「はいぃ…」

 

三人はオフィスを出ていった。

 

雪樹「さて。今日はどうしようか…」

 

初めての仕事も明日から。

次の仕事をもらうのも自分にはまだ負担が大きいかもしれない

 

ふと視線を窓に向けると

事務所の庭先が見えた。

 

晴れてるし散歩でもするか

 

雪樹「ちひろさん。少し席を外しますね。何かあれば電話してください」

 

ちひろ「はい、いつ頃戻りますか?」

 

雪樹「昼前には戻りますよ」

 

ちひろ「わかりました。」

 

オフィスを出て。庭先で軽く散歩する

ベンチに一人の少女が居た。

絵を描いているみたいだ

 

雪樹「こんにちは」

少女「あっ、えっと…」

 

雪樹「ああ、ごめん邪魔したかな」

 

少女「すぐ片付けますから…」

 

雪樹「いやいや、そのまま描いてていいよ、邪魔してごめんね」

 

少女「でも…事務所の中では絵は駄目って…」

 

雪樹「それは、誰から?」

 

少女「誰って…プロデューサーさんが…あれ…あなたは?」

 

雪樹「僕は松谷雪樹、新しいプロデューサー、多分前任から言われたんだよね」

 

少女「えっと…そうです…」

 

雪樹「もう前任はいないから。好きに描いていいから。」

 

少女「そうなんですね…ありがとうございます」

 

雪樹「名前、聞いてもいいかな」

 

成宮「私は成宮由愛です。」

 

雪樹「成宮さんもアイドルなんだよね。」

 

成宮「はい、えっと…絵も好きで」

 

雪樹「絵を描くのが好きなんだね。見てもいい?」

 

成宮「えっと…笑わないでくださいね…」

 

見せてもらったものはどれも風景画だった。

色の明暗や彩度が上手く塗られていて

その場の風景をしっかりと描き写している

 

雪樹「とても上手だと思うよ、風景画が好きなんだね」

 

成宮「人や動物は動いたりするのでちょっと難しいですから…」

 

雪樹「確かに人を絵に描くのは難しいね、僕は絵心がないから全く無理だけど、写真くらいなら」

 

成宮「綺麗な写真を取るのも難しいと思います…」

 

雪樹「そうだね。慣れるまで時間かかったよ。でも楽しかったかな。」

 

成宮「今はもう辞めたんですか?」

 

雪樹「学生の頃だけ。今はカメラに触れる事も無くなっちゃって。妹にあげたから。」

 

成宮「そうなんですね。なんかもったいないような。」

 

雪樹「仕事してると、そんな暇が無くなっちゃうから。」

 

成宮「でも妹さんが持ってるんですよね」

 

雪樹「そうだね。まだ壊れてなければ」

 

成宮「私は一人っ子だから…兄妹と共有とかしたことない…」

 

雪樹「それが悪いことでもないけどね。使いたいときに使えなかったりするし。」

 

成宮「でも兄妹はほしいかな…」

 

雪樹「今は、兄妹みたいな仲間が居るよね。」

 

成宮「はい。だから寂しくありません。いつか皆さんの集合絵を描いてみたいです。」

 

雪樹「良い夢だと思うよ。それじゃ、そろそろ行くかな。またオフィスに来たときはよろしくね。」

 

成宮「はい、ありがとうございました。今後共よろしくお願いします。」

 

会釈をして少し散歩をしてオフィスまで戻る

 

さっきとは人が変わってる気がする。

何人か見覚えのない子もいる。

 

雪樹「戻りました。」

 

ちひろ「おかえりなさい。プロデューサー」

 

雪樹「何人かまた、初めましての子が居るね、でも…このピンク髪……」

 

このピンク髪…それに髪先に少し水色…

あれ…何処かで見たような…

 

ちひろ「夢見さんですか?」

 

夢見「え?なにぼくがなんかあった?」

 

あ、わかった。CDショップの時の

 

雪樹「あぁ…あの時の…」

 

夢見「えっとー…ぼくは見覚え無いよ?」

 

雪樹「CDショップ、卯月さんのアルバムの限定版の時、覚えてますか?」

 

夢見「んー…あ!思い出したー!あの時の優男みたいな人!え、まさか新しいプロデューサーだったの!?」

 

雪樹「だった、というより、最近プロデューサーになった。だね」

 

夢見「なるほど…?えっと、ぼくは夢見りあむだよ、えーと、アイドル好きのオタクって言えば、なんとなくわかってもらえると思う。」

 

わかりたくないけど

わかる。元オタクだったから

 

雪樹「オタクっていうのを自分で言うのか…」

 

夢見「オタクはオタクだから。そこは否定しない!」

 

雪樹「あ…そう…」

 

個性的な子、ほんと多いな…

 

ちひろ「お昼どうされますか?」

 

雪樹「お腹減ってないし、まだいいかな。」

 

ちひろ「私は社会食堂行ってくるので。少し席を外しますね。」

 

雪樹「わかりました」

 

特にお腹は空いていない、

戸棚からプロデューサーマニュアルを取り出して眺めていた。

 

??「初めまして、でいいかな」

 

雪樹「ん?、ああ初めまして。松谷雪樹、新しいプロデューサーだよ、今後よろしくお願いしますね。」

 

関「私は関裕美。えっと。よろしくお願いします。」

 

一言挨拶を交わすとまたマニュアルを眺めていた。

 

関「えっと、ちょっといいかな。」

 

一旦手を止める

 

雪樹「なにかな?」

 

関「ほたるちゃん明日舞台演技のはずだったんだけど。さっき中止になったって聞いたんだよね。何か理由知ってるかなって」

 

雪樹「その件に関しては僕は知らないんだ。多分専務が担当してると思うんだけど。本人に聞くか専務に聞いてみて。」

 

関「そっか、プロデューサーさんなら何か知ってるかと思ったけど。」

 

夢見「つい最近来たばかりでしょ、まだ仕事の事とかわからないと思うけど。どうなの?」

 

雪樹「まぁ実際、昨日始めて仕事振られたばかりだし。わからない事だらけだね。」

 

関「あっ、そうだったね…なんか失礼だったかな。」

 

雪樹「ううん、気にしなくていいよ。」

 

関「ちょっとほたるちゃんに聞いてみるね。それじゃ、また今度。」

 

雪樹「うん、お疲れ様」

 

裕美さんがオフィスから出て行ってから

またマニュアルを眺めていたが。

ちょっと眠たくなってきた…

 

雪樹「そうか…そういえば、まだ休んでないな」

 

マニュアルを閉じて少しぼーっとしていると。眠気に負けてしまって。

椅子に座った姿勢のまま寝てしまった。

 

夢見「あれ、Pサマ居眠りしてる。毛布あったかな。」

 

少し暖かさを感じたのは多分毛布のおかげだと思う。

 

………

 

ふと気がつくと。

暗い森の中にいた。

 

(ここは?)

 

見覚えのない森

少し歩くと。

開けた場所に出た。

 

そこには。赤い花…曼珠沙華が沢山咲いて。

その中に一人の少女が居た。

 

(この風景…あの時の…)

 

いつか見た雑誌の風景。

あの少女の名を思い出せない。

 

確か…花の名前の少女だったはず。

 

 

少女は振り向くことはせず。

一輪の曼珠沙華を摘み取り。

木々から漏れる僅かな陽の光だけを眺めている…

 

(…彼女は…)

 

そうだ。思い出した。

 

(白菊ほたる…)

 

名前を思い出すと。

目の前が暗くなり

不意に体の力が抜けて

倒れた感覚を味わった瞬間に気を失った

 

………

 

雪樹「あっ…寝てたのか…」

 

不思議な夢を見てた気がする…

 

あと、お腹空いた。

 

ちひろ「まだ休み取ってなかったですよね?明日は…打ち合わせでしたね。」

 

雪樹「まぁ打ち合わせの翌日にでも、」

 

ちひろ「はい。無理しないでくださいね。」

 

雪樹「お気遣いありがとうございます」

 

夢見「あ、Pサマ起きた?」

 

雪樹「あぁ、毛布かけてくれたんだよね。ありがとう。」

 

夢見「まぁ、この時期に居眠りは風邪ひくし。今風邪引かれても困るし?」

 

雪樹「まぁ、そうだね。」

 

ふと時計に目を向けると。

夕方になっていた。

 

雪樹「4時間位寝てたのか…」

 

ちひろ「よく座ったまま寝れますよね」

 

夢見「首痛くなるでしょ。」

 

言われてみれば少し首が痛い

 

雪樹「座った姿勢で寝るのは昔よくあったからね。」

 

夢見「もしかして、学校の授業とか居眠りしてた?」

 

雪樹「割と居眠りしてたかな。」

 

ちひろ「私も居眠りくらいはしてましたけど。」

 

雪樹「まだ眠たいし。明日は初営業だから先に帰ります。お疲れ様でした。」

 

夢見「お疲れ様~」

 

ちひろ「お疲れ様です。」

 

事務所を出て帰路を歩く。

 

そう思えば。連日ストーカーを気にしていたから。何もない帰宅というのは割と気が楽だった。

 

帰って食事を済ますと。

眠たかったのですぐ寝た。

 

………

 

ふと目が覚めて窓に目を向けると。

青い月が見えた。

 

(懐かしい…けど思い出したくはなかったな)

 

ある知り合いが亡くなった日の夜

あの日も青い月だった気がする。




初営業。
どうなりますかね。
お楽しみに


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一つの不幸

プロデューサーさんのお話に繋がる話です。
プロデューサーのお話が少し続きます。

結構長くなる…かな




 

 

 

 

 

 

……

 

学校の駐輪場。

一組のカップルが居た。

 

「呼び出して来て何だった?」

 

「プレゼント。これ」

 

少年が少女に渡した小箱。

中身は…

 

「手袋!いいの?」

 

「手作りじゃないけど、もしよかったら。」

 

「ありがとう!」

 

「それじゃ、バイトあるから。また後で」

 

「うん、また後で電話してね!」

 

少年はマフラーをして自転車に乗り

帰路に向かう

 

……

 

 

肌寒さを感じて、目が覚めた。

朝はもう十分寒い。

 

今日は少し厚着した方がいいだろうか。

 

(懐かしい感覚の夢だったか?)

 

なんとなく感じたことのあるような夢

ただはっきり覚えていない。

 

(まぁ、いいか)

 

身支度をして家を出て

プロダクションに向かう。

 

10時頃、オフィスに着いた。

 

雪樹「おはようございます、ちひろさん」

 

ちひろ「おはようございます、今日はドラマの打ち合わせでしたよね。」

 

雪樹「そうですね。午後からなので少しゆっくりしてから向かいます。」

 

ちひろ「わかりました」

 

今日はアイドルの子は誰も来てないみたいだ。

 

と。思っていたけど。

デスクの下の住人達は居た

 

雪樹「二人ともおはよう」

 

輝子「あ、おはよう、プロデューサー」

 

森久保「お…おはようございます…」

 

キノコを育てる少女と本を読む少女。

ただし、プロデューサーデスクの下で。

 

雪樹「二人は昨日、演劇の練習してたよね。」

 

森久保「そうですね…幼稚園や小学生向けのイベントがあって…そのイベントの演目にゲスト参戦する形なんですけど…」

 

輝子「ぼののちゃん。王子様だね。」

 

森久保「うぅ…もりくぼが王子様役はおかしいと思うんですけど…」

 

雪樹「何の劇をやるの?」

 

輝子「シンデレラ。王道のお話だけど、主催の人がアレンジしてるんだ。」

 

雪樹「アレンジ。どんな感じに?」

 

森久保「本来はシンデレラのお話なんですが…これは王子様のお話みたいです」

 

雪樹「王子様のお話?」

 

森久保「えっと…王子様の名前が、プリンスチャーミングで…」

 

輝子「舞踏会の前のお話を王子様側でやるんだ。」

 

雪樹「なるほどね。」

 

森久保「最後にはシンデレラのお話と変わりませんけど…なんで森久保が王子様役なんですか…」

 

輝子「シンデレラ役、やりたい子も多かったし、妖精役も人気だったよ」

 

雪樹「そう考えると。普通のシンデレラよりも役の量が増えるのか?」

 

輝子「そうだね、確か多かったはず。」

 

??「もー…またこっちに居るな?」

 

聞き覚えのある声。

オフィスの入り口に目を向けると

早坂さんが居た

 

雪樹「おはよう。」

 

早坂「お、おはよう…二人はまた机の下に居るのか?」

 

雪樹「うん。居るよ。」

 

早坂「ほら、今日も練習するぞー。今度からはレッスンルーム集合だぞ!」

 

森久保「ま、まだ集合時間まで少し時間が…」

 

早坂「乃々はメインの役なんだから、しっかり練習しないと本番間に合わなくなるぞ!」

 

雪樹「頑張っておいで、森久保王子。」

 

森久保「うぅ…プロデューサーさんまで…」

 

三人はオフィスを出てレッスンルームに向かった。

 

ちひろ「三人とも頑張ってますね。」

 

雪樹「あの三人は仲良いね」

 

ちひろ「三人はユニットでの活動もありましたから。」

 

雪樹「そうなんですね、あの個性的な子たちのユニットか。」

 

ちひろ「今度調べてみてください。」

 

雪樹「ええ、そうします。」

 

まだ出発まで時間があるので

いろんなアイドルの自己紹介カードを見ていた

 

??「あ、あの…おはようございます」

 

入り口に目を向けると見覚えのある子がいた

 

雪樹「おはよう。えっと成宮さんだったかな」

 

成宮「はい、ちょっとだけ居てもいいですか?」

 

雪樹「構わないよ。ゆっくりしてね」

 

成宮さんは机の前のソファに腰掛けると絵を描き始めた。

 

それから一時間ほど経っただろうか

 

成宮「あの…プロデューサーさん。」

 

雪樹「なにかな?」

 

成宮「や、やっぱり何でもありません。、えっと、また今度来ますね」

 

雪樹「うん、またね。」

 

何か言いかけて、オフィスを出ていってしまった。

 

それからまた自己紹介カードを眺めていたら12時近くになっていた。

 

雪樹「白菊さんまだかな」

 

と、思っていたらオフィスの扉が開いた

 

白菊「あの…おはようございます」

 

雪樹「おはよう。そろそろ向かおうと思うけど大丈夫かな?」

 

白菊「はい大丈夫、です。」

 

雪樹「うん、それなら行こうか、ちひろさん、頼みますね」

 

ちひろ「お気をつけて。行ってらっしゃい」

 

オフィスを出て事務所を出る。

 

玄関前で女性に会った

 

??「あら、ほたるちゃん、おはようございます。」

 

白菊「茄子さん、おはようございます」

 

??「お仕事ですか?頑張ってくださいね。あと。隣の方が新しいプロデューサーさんですか?」

 

雪樹「はい、松谷雪樹です。今後共よろしくお願いします」

 

茄子「私は鷹富士茄子。こちらこそよろしくお願いしますね、プロデューサーさん」

 

挨拶を交わすと鷹富士さんは事務所に入って行った。

 

雪樹「知り合いの人かな」

 

白菊「えっと、茄子さんとはユニットを組ませてもらってまして…」

 

雪樹「なるほどね。また調べておくよ。」

 

白菊「はい。」

 

事務所の敷地を出て目的のビルまで向かう。

 

遠く離れてるわけではなく

同じ町内…というか市内と言ったほうがいいかな、歩いていける距離にある。

 

途中話をしながら歩いた

 

白菊「プロデューサーさん。初めてのお仕事なんですよね…」

 

雪樹「そうだね、仕事っていうと、今も仕事をしてるから…初めての営業だね。」

 

白菊「初めてだと不安だったりしないですか?」

 

雪樹「不安というか少し緊張はしてるかな。」

 

白菊「ですよね…上手く行くといいな…」

 

雪樹「楽しんでいられたら、きっと上手く行くよ」

 

白菊「そうですね…楽しんで、ですね。」

 

会話の途中。

何かおかしな風景が目に映った。

 

雪樹「あれ…さっきの車」

 

(向かいから走ってきた車…向かい?車道は左車線だから…ということは…逆走?)

 

考えていたその一瞬の後

大きなクラクションの音が響いた

 

雪樹「なっ!」

 

振り向いたその先にはもう目の前まで車が来ていた

 

おそらく逆走車を避けようとした車だろうが、そんなことを考える余裕もなかった。

 

雪樹「ごめん!」

 

白菊「ひゃ…」

 

一瞬の判断で、白菊さんを突き飛ばした

運が良かったのか白菊さんは同じ道を歩いていた女性に受け止められているが…

 

雪樹「くっ…ぅ…」

 

私は…車に跳ね飛ばされた…

 

白菊「ぷ…プロデューサーさん!」

 

衝撃のショックからか

すぐには言葉が出ず、動けない

 

白菊「す…すぐ救急車呼びます!」

 

白菊さんが電話越しに話しているが…

衝撃のショックのせいか会話がよく聞き取れない…

 

白菊「プロデューサーさん…すぐに救急車来てくれますから…だから…」

 

動かそうと思った右腕に感覚がない。

かろうじて動く左腕で持っていたカバンから資料の纏まったファイルを取り出し、白菊さんに渡そうとする…

 

雪樹「まだ…間に合うと思うから…」

 

白菊「えっ…そんな、置いていけないです…!」

 

雪樹「大丈夫…だから行って…」

 

白菊「で、でも…!」

 

??「馬鹿な人ね。」

 

別の人の声…誰だろうか…

 

白菊「せ、先輩?!どうして?」

 

元先輩の女性「どうしても何もさっき受け止めてあげたじゃない。まぁいいわ。あんた仕事があるんでしょ。」

 

白菊「そ、そうですけど…でも…」

 

元先輩の女性「早く行きなさいよ。じゃないとその仕事、私が貰うわよ。」

 

白菊「えっと…」

 

元先輩の女性「救急車呼んであるんでしょ。あとは任せなさい。いいから早く行って。」

 

白菊「あの…!ありがとうございます!」

 

白菊さんは走って行った。

 

元先輩の女性「この状況で仕事の話するなんて貴方も考えものよ…」

 

雪樹「…君は…どうして…」

 

元先輩の女性「ほたるの知り合いってだけよ。でも噂は聞いてるわ。最近、ほたるの事務所に新しいプロデューサーが入ったって、別事務所の知り合いが言ってたわ」

 

元先輩の女性「あとね。目の前で困ってる人を見かけたら、助けずには居られないの。どっかの誰かさんのせいよ。」

 

雪樹「ありがとう…」

 

数分後、救急車が着く前に

意識を失ってしまった。

 

元先輩の女性「ほたるも運がいいのか悪いのか。どっちかしらね。」

 

………

 

白菊「えっと…このビルの16階…」

 

資料の情報をもとに打ち合わせの場所に向かった…

 

白菊「ここかな…第二小会議室…」

 

恐る恐る扉を開けると…

 

斎藤「あ!白菊さん?!今日は来れないって聞いてましたが?まぁいいや、どうぞこちらまで。」

 

白菊「あ、あの…」

 

斎藤「どうかされましたか?あ、あれ、プロデューサーさんが居ませんが…」

 

白菊「プロデューサーさんが…あの…プロデューサーさん…」

 

思い返すと、涙が出てきてしまった。

 

斎藤「プロデューサーさんに何かあったみたいですかね…」

 

白菊「あの…交通事故に巻き込まれて…それで…」

 

斎藤「事故に?!とりあえず事務所に連絡を。」

 

…………

 

目が覚めてすぐに

右腕と左足に痛みを感じた。

 

(ああ…そうだ…車に跳ねられたんだな。)

 

薄っすらと思い出してきた。

あのとき白菊さんだけでもと思って突き飛ばした。

その後、避ける暇もなく突き飛ばされた。

 

体を起こそうとすると。

全体的に痛い。

 

痛い。

もうそれに尽きる。

 

目を開いても動く気になれない。

目の前に広がるのは病室の天井…

 

雪樹「病院か…久しぶりだな…」

 

あのときはまだ小学生だったか。

…まぁ昔のことなんていいか。

 

利き手を怪我するなんて不便だろうな…

足は…どうにでもなるか。

車椅子でも松葉杖でも。

 

微かな痛みを感じて左手で頬を触ると。

ガーゼで止血されていた。

 

雪樹「顔にも傷か…まぁ俺はいいか」

 

アイドルに傷なんて負わせられないしな

 

…取り留めもなく色々と考えていると病室の扉が開いた。

 

??「目が覚めたんだね」

 

雪樹「はい。」

 

白い衣服の若い女性…

担当の看護師だろうか。

 

真壁「私が今後君の治療の担当をする。医者の真壁だ、今後宜しく頼むよ」

 

看護師じゃなかった。

 

雪樹「松谷雪樹です。宜しくお願いします。」

 

真壁「怪我の状態を話してもいいかな?」

 

雪樹「はい。」

 

………

 

大きな怪我としては

まず右腕、二の腕の骨折。

丁度真ん中辺りだろう。

複雑骨折してるわけではないよ。

 

次に左足。

ふくらはぎの骨折もしてる。

これも同じく複雑骨折ではないが

同じふくらはぎで別の場所にヒビが入っている。

 

無理に動かせば両方共痛むだろう。

 

あと細かい所でいくつかの切り傷擦り傷

偶然にも頭部の怪我は頬のそれ以外にない

 

不幸中の幸いと言ったところだろう。

普通、車に轢かれたら頭部は強くぶつけて怪我することが多い

最悪の場合、後遺症が残ることだって有りえる。

 

………

 

真壁「こんなところだ。」

 

雪樹「大方は想像がつきました。」

 

真壁「安静にしたまえ、それしかない」

 

雪樹「わかりました。」

 

真壁「少し余談だが、君は美城さんのプロダクションの新任だそうだな」

 

雪樹「ええ、よくご存知ですね。」

 

真壁「美城さんとは訳ありの知り合い同士でね。直接頼まれた」

 

雪樹「美城さんから?」

 

真壁「彼女は今頃、事務所に戻ってるだろうね、忙しそうにしてたよ」

 

雪樹「ドラマの打ち合わせどうなったかな…」

 

真壁「隣りに居たアイドルを助けたそうじゃないか。自分は犠牲になったけど」

 

雪樹「これしかありませんでした」

 

真壁「そうか。君が後悔していないのなら別にいい。完治までとは言わないが。私生活に戻れる所までは大人しくするのがいいだろう。君、車は乗るか?」

 

雪樹「免許はありますけど、、通勤はバスとか電車で」

 

真壁「私生活に戻れたらそれでもいいが、せめてタクシーが望ましいぞ。」

 

雪樹「わかりました。」

 

真壁「それじゃぁ、私は他の患者のところにも用事があるから。また今度様子を伺うよ」

 

雪樹「はい、ありがとうございました。」

 

真壁さんが病室を出ていった。

 

雪樹「静かだな…」

 

何もない。ベットの横に戸棚がある程度。

花瓶が置いてあって戸棚の足元に鞄。

 

鞄から携帯電話を取り出そうと、身体を寄せてギリギリまで手を伸ばして、やっとのことで取れた。

 

兄貴からの電話、数回不在になってしまっている…掛けてみるか。

 

……

 

雪樹「もしもし?」

 

長男「あ、雪樹か?今どこだ?」

 

かなり焦っている様子だが…

 

雪樹「えっと、病院、かな。」

 

長男「どこの病院だ?近くのとこか?」

 

雪樹「名前までは…あ、そうだね。名前あった。」

 

長男「そうか…事故ったって?」

 

雪樹「うーん、巻き込まれたの方が正しいかな。」

 

長男「どっちにしても車に轢かれるんじゃ怪我してるんだろ。大丈夫なのかよ」

 

雪樹「右腕と左足を骨折くらいだから大事には至ってないよ。」

 

長男「にしても、骨折はしてるんだな。」

 

雪樹「まぁ、車に轢かれるくらいだからね。それくらいあるでしょ」

 

長男「近いうちに見舞いに行く。今日はもう遅いだろうから。」

 

雪樹「ああ、また今度で。」

 

……

 

窓の外は月が見える。

よく晴れてる。

 

また取り留めもなく考えていた。

次第に睡魔に負けて眠った。

 

 

……

 

「そんなこと聞かれたくなかった」

 

…ならなんで。

 

「もういいよ、早く帰ったら?どうせまた勉強ばっかするんでしょ?」

 

そうだな…もう帰ろう。

 

……

 

昔の夢か…

 

陽の光が程よく差していた

朝だろう。

この狭い病室だとあまり関係ないか…

 

携帯電話から音楽を流す…

お気に入りの曲。

 

気持ちが落ち着いた時に聴く曲

気が高揚しそうな曲

落ち込んだ時に聴く曲

 

ランダム再生で流し始めた一曲目

ある曲が流れ始めた。

 

雪樹「この曲…」

 

「谷の底で咲く花は」

 

白菊さんのソロソング

最初は知り合いに誘われて聞いただけの曲

 

……ある花の歌

 

改めて聴くと色々と考えさせられた。

 

雪樹「そうか…今までのこと。思い返してしまうな。」

 

 

聴き入っていると。

涙が流れていた。

 

雪樹「…涙なんて久しぶりだな…」

 

曲が終わって別の曲が流れていた、

しばらく色々な曲を聴いていた。

 

聴き入っていると、

病室の扉をノックされ。

音楽を止めた。

 

看護師「朝食持ってきましたよ。」

 

雪樹「あぁ、ありがとうございます」

 

看護師「食べ終わったらベルで教えてくださいね。」

 

そう言って病室から出ていった。

 

雪樹「いや…左手で箸なんて普段持たないからな…」

 

慣れない手つきで箸を持って食事を取る、

 

一頻り食べ終わり、ベルを鳴らした。

 

呼ばれてきたのは先程とは違う看護師だった。

 

看護師「ああ、朝食の片付けですね。」

 

雪樹「ええ、お願いします。あと…」

 

看護師「はい?なんですか?」

 

雪樹「次からフォークとかも一緒に用意してもらえませんか?利き手が使えなくて…」

 

看護師「そういうことならわかったわ。配膳係に行っておくわね。」

 

雪樹「ええ、頼みます。」

 

看護師は部屋を出ていった。

 

…うん…暇だな。

 

時間は10時頃。

日も上がってきてる。

 

連休も終わって事務所にも来る子達は減るだろうな。

まぁ…私はしばらく病院暮らしだが…

 

携帯電話も充電器が用意されていたから十分に使えるとはいえ。

あまりやることはない。

 

そういえばと思い鞄を眺めると。

破れていたり削れていたりと。

使い物にならなくなっていた。

 

雪樹「仕事辞めてから新調したのに、もうだめになったのか…早いな…」

 

取っ手が引き千切れている。

 

雪樹「物持ち、いい方なんだけどな。仕方ない。」

 

仕方なく諦めて

事務所に連絡することにした。

 

………

 

ちひろ「はい。346プロダクションのちひろです。」

 

雪樹「あ、ちひろさん、おはようございます。松谷です。」

 

ちひろ「プロデューサーさん?えっと…大丈夫でしたか?」

 

雪樹「なんとかね。骨折したくらい済んでるよ。」

 

ちひろ「そうなんですね…良かった…でもしばらく入院ですよね。」

 

雪樹「そうですね。いきなりで申し訳ないですが。すぐには復帰できそうにないです。」

 

ちひろ「わかりました。お大事になさってください。」

 

雪樹「ええ、あと、ほたるさんの出演するドラマの話って何か聞いてますか?」

 

ちひろ「それに関しては専務が引き継ぎました。ほたるさんから連絡があって、専務が私が請け負うって。」

 

雪樹「やっぱりそうなったんですね。わかりました。」

 

ちひろ「専務も心配されてるみたいです。」

 

雪樹「わかりました。後で連絡してみます。」

 

ちひろ「そうですね。」

 

雪樹「それでは。また何かあれば連絡しますね」

 

ちひろ「はい、また今度。」

 

………

 

専務が引き継ぎしてくれてるなら心配はないか。

 

…ほんと何もない、やることがない。

 

外の空気が吸いたいな。

歩くことも今はままならないだろうけど。

 

さっきの看護師が気を利かせてくれたのか

窓を開けてくれている。

 

少しは外の空気が入ってきているが

なんなら風も感じたいくらい。

 

雪樹「もう少し寝るか…」

 

少し考えことをしながら横になると

丁度良く眠気が来て寝入った。

 

 

……

 

少年「ほんと。悪人扱いされるの何回目だろうな」

 

友人「別に間違ってないと思うんだけど」

 

少年「誰かに擦り付けないと気が済まないんだろ。」

 

友人「何も悪いことしてないでしょ。」

 

少年「まぁ、誰も悪くないし。あえて悪人として見るなら担任だろ。」

 

友人「まぁ、済んだことだしいいじゃん。」

 

少年「俺の印象はどんどん悪くなるけどな」

 

友人「わかってる人もいると思うけど」

 

少年「今更だけどな」

 

………

 

色々と夢を見てしまう

もう…慣れた。

 

扉の開く音でしっかりと目が覚めた。

 

看護師「お昼お持ちしましたけど。どうされますか?」

 

雪樹「ありがとうございます。食べられる分だけ食べます。」

 

看護師「また呼んでくださいね」

 

今度はフォークのスプーンも用意されていた。

 

不思議とお腹は空いている。

昔からだが消化が早いのか吸収が早いのか

すぐに空腹になることが多い。

 

特に多かった訳ではないが。

全部食べた。

 

看護師を呼び片付けてもらう。

 

そしてまた手持ち無沙汰になる。

 

雪樹「まあ、安静にするのが一番だろうしな。」

 

以前呼んでいたインターネット小説のサイトを眺めていた。

 

懐かしいな。

 

一時ハマったネット小説。

長期連載を眺めていたときもあった。

 

久々だからか長く読み続けていたら。

病室の扉をノックする音が聞こえた。

 

雪樹「どうぞ。」

 

白菊「あの…」

 

森久保「事故に巻き込まれたって聞いて…心配で…」

 

入ってきたのは白菊さんと森久保さんだった

 

雪樹「こんにちは。2人とも仕事はうまく行きそう?」

 

森久保「もりくぼは…まぁそれなりに…」

 

白菊「えっと。多分大丈夫…だと思います。」

 

雪樹「専務が引き継いでくれたんだよね。」

 

白菊「はい、資料とか読んで話もしっかり聞いてました。がんばります」

 

雪樹「よかった。頑張ってね。」

 

白菊「はい。あと…あの…」

 

雪樹「どうかした?」

 

白菊「事故のこと…不幸に巻き込んでしまったのかなって思ってしまって…ごめんなさい」

 

白菊さんは謝ると頭を下げた。

 

雪樹「別に白菊さんのせいじゃないよ。運が悪かっただけ。」

 

白菊「でも…」

 

雪樹「そうだね。敢えて言うならこれは君の不幸に巻き込まれたんじゃない。これは僕の不幸だよ。君は謝る必要はない。」

 

森久保「プロデューサーさんの…不幸?」

 

雪樹「そう。例えば僕が事故に巻き込まれたのを君のせいにするなら。君の不幸に巻き込まれたって言うかもしれない。でもね。別に君が何かした訳でもない。僕が君を責めている訳でもないよ」

 

白菊「私…本当に悪くないんですか…」

 

半泣きで俯いてしまった

 

雪樹「ちょっと強く言ってしまったかな。」

 

その時また病室の扉が開いた。

 

??「半開きだけど…あ、ほたるちゃんとののちゃんやっぱりいた。あれ、ほたるちゃん泣いてるの?」

 

雪樹「あ、初めまして。松谷雪樹です。」

 

関「えっと。初めまして。関裕美です。」

 

ん?睨まれてる?気のせい?

 

森久保「裕美さん…目つきが…」

 

関「え?あ、ごめんなさい。わざとじゃなくて」

 

雪樹「ああ、大丈夫だよ。」

 

関「ところで、どうしてほたるちゃんは泣いてるの?」

 

雪樹「えっと…」

 

森久保「プロデューサーさんが事故に巻き込まれたのを、ほたるちゃんが謝って…でもプロデューサーさんはほたるちゃんのせいじゃないって言って…」

 

関「あ、この人がこの前言ってたプロデューサーさんなんだね。」

 

雪樹「しばらく事務所には行けないけど、よろしくね。」

 

関「そっか。それで事故に巻き込まれたってことなんだね。」

 

森久保「ほたるちゃん…?大丈夫ですか?」

 

雪樹「言い詰め過ぎたかもしれない。申し訳ない。」

 

関「もしかして。ほたるちゃんまだあの人の言ってたこと気にしてるの?」

 

白菊「あの人は悪くないんです。やっぱり私が…」

 

関「ほたるちゃん。もうやめなよ。あの人が悪かったんだよ?」

 

雪樹「赤原さんのことかな」

 

関「えっとね。ちょっと前のロケで私とほたるちゃんが参加してるユニットのメンバーで撮影があったんだ。それでその時、あの人は寝坊したり。現地に行く電車間違えたり。それをほたるちゃんのせいだって言ったの。」

 

雪樹「ただの八つ当たりじゃないか。酷いな」

 

関「そうだよね。ほらやっぱりほたるちゃん悪くないよ。」

 

白菊「うん…ありがとうございます。」

 

関「でも、プロデューサーさんはほたるちゃん泣かせたんだからしっかり謝ってよ?」

 

雪樹「いや…うん。それに関しては申し訳ないと思ってるよ。ちょっと言い過ぎたかもしれないかな。」

 

森久保「優しい言葉だったと思うんですけど…むしろあれだけ擁護してなんで謝ることに…?」

 

関「あれ、ほたるちゃんを責めてるように思えたけど」

 

雪樹「え…責めてることになるの?」

 

森久保「いや…違うと思いますけど…」

 

白菊「大丈夫です。プロデューサーさんは悪くありません。」

 

関「まぁ。いいかな。」

 

いいんかい。まぁいいけど。

 

関「すっかり忘れてた。御見舞で来たんだけど。これ。」

 

袋に入ってるのは和菓子だった。

手作り最中。生地に好きな量こし餡を挟んで食べる。

かなり前に両親が買ってきたのを覚えてる。

 

雪樹「わざわざありがとう」

 

関「ののちゃんのリクエストでこれになったんだよね」

 

森久保「ひ…裕美さんそれは言わない約束したじゃないですか…」

 

関「別にいいでしょ。ののちゃんか乗り気なの少し興味あったし。プロデューサーさんのこと少し気に入ってるんでしょ?」

 

森久保「え…あ…えっと…その……」

 

ほたる「ほ、はら、でも…プロデューサーさん片腕しか使えないですし。私達が作ってあげないと。」

 

森久保「そ、そうですね。」

 

袋を開けて生地とこし餡を取り出す。

 

森久保さんが作ったものをくれた。

 

森久保「あの…プロデューサーさんの分…これ…」

 

雪樹「うん。ありがとう」

 

お礼を言うと森久保さんは少し笑顔になっていた。

 

関「(やっぱり気にしてそう。)」

 

白菊「(でも触れない方がいいかと…)」

 

雪樹「ん?2人ともどうかした?」

 

白菊・関「な、なんでもない!」

 

森久保「このお菓子…すごく美味しいですから。是非食べてほしくて…」

 

生地自体も大きくなく一口サイズで、

こしあんも味が濃すぎなくて食べやすい

 

 

関「この前も買ってきて食べてたね」

 

森久保「まぁ…お小遣いに余裕があったので…と…思って…」

 

雪樹「とても美味しいよ、ありがとう」

 

森久保「よ、よかったです…」

 

ほたる「あ、そろそろ帰らないと。まだ宿題途中だし…」

 

関「私も友達にあげるアクセサリー作ってるから、先に帰るね」

 

森久保「あの…もう帰ってしまうんですか…?」

 

雪樹「用事があるなら仕方ないよ。」

 

森久保「そ、そうですよね…」

 

ほたる「それでは、お大事に…」

 

関「また来るね。」

 

二人は病室から出ていった。

 

少しの間、二人で何も話せないまま

時間だけが過ぎた。

 




次もプロデューサーのお話。

誤字報告等あればお待ちしております
過去投稿分等でもあれば遠慮せずお願い致します


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悩みと過去の夢

プロデューサーのお話。
あとお仕事のお話。




 

……

 

雪樹「森久保さんはどうする?」

 

森久保「もりくぼは…特に用事は無いですけど…」

 

雪樹「レッスンは?」

 

森久保「今日は皆さん別の用事があるみたいで、集まり少なくて無しになりました。」

 

雪樹「そっか。」

 

森久保「あの…もし良ければでいいんですが…プロデューサーさんのお話。少し聞いてもいいですか?」

 

雪樹「えっ?僕の話?」

 

森久保「あの…はい…嫌だったらいいんです…」

 

雪樹「何が聞きたい?」

 

森久保「えっと…プロデューサーさんお幾つですか?」

 

雪樹「歳?24だよ」

 

森久保「案外お若いんですね…」

 

雪樹「幾つだと思った?」

 

森久保「あの…それは…」

 

雪樹「怒らないよ、何度も間違えられたことあるし、」

 

森久保「も、もう30くらいかと…」

 

雪樹「30か〜姉と同じくらいになるな…」

 

森久保「お姉さんがいるんですね…」

 

雪樹「姉だけじゃないよ。弟妹兄姉、全部いる」

 

森久保「え…えっと…五人兄弟ですか…」

 

雪樹「いや、8人だよ?」

 

森久保「8人?!」

 

雪樹「まぁ。驚くと思うよ。でもまぁ今はみんなバラバラだから。」

 

森久保「兄弟多いって…大変でしたか…?」

 

雪樹「そうだね、大変だったかな。」

 

森久保「ケンカとか…したんですよね…」

 

雪樹「ケンカしてもすぐ親に仲裁食らうからね。」

 

森久保「御両親も大変そう…」

 

雪樹「今となってはもう感謝の言葉すらも伝えれないか。まぁ…」

 

森久保「え…?えっと…もしかして…」

 

雪樹「両親はもう居ないんだ。気にしないで」

 

森久保「は、はい…」

 

雪樹「あと何か聞きたいことある?」

 

森久保「えっと…今までのこととか…」

 

雪樹「今までのこと?うーん。ざっくりした質問だね。」

 

森久保「お仕事とか…趣味とか…」

 

雪樹「前の仕事は好きじゃなかったかな。別に仲が悪かった訳じゃないけど。自分らしくないというか。楽しくなかった。」

 

森久保「それで…お仕事辞めてプロデューサーに?」

 

雪樹「そうだね。色々と区切りが着いたから、前職を辞めて色々と当たってる時に、専務からの誘いに乗った、そんな感じ。」

 

森久保「あの時はありがとうございました…おかげさまで…変な事に絡まれなくて…」

 

雪樹「まぁ、専務が来てくれて助かったかな。僕もあれは見過せなかったけど。あのまま押し切るのは僕は難しかっただろうし。逆にアドリブ振られて正解だったかもしれない」

 

森久保「凛さんのアドリブ振り…自然な感じでしたよね…びっくりしなかったんですか?」

 

雪樹「いや、もうびっくりしたよ。でもあの子も相当勇気必要だったと思うよ。知らない男性にいきなり振るんだから。」

 

森久保「ですよね…でも今ではもうプロデューサーになって…」

 

雪樹「それが、この様だけどね。」

 

森久保「でもプロデューサーさんがいなかったらほたるちゃんは…」

 

雪樹「そういうことは考えない。」

 

森久保「そ、そうですね。」

 

雪樹「そうだなぁ不幸…か。」

 

森久保「どうかされましたか…?」

 

雪樹「僕の人生は不幸だらけなんだろうなって」

 

森久保「不幸だらけだったんですか…?」

 

雪樹「僕の話を誰かに話すのは久々な気がしてね、今思うとそうかなって思ったんだよ」

 

森久保「そうだったんですね…」

 

雪樹「でも、今は落ち着いてるよ。」

 

森久保「落ち着いてる…?」

 

雪樹「本当は休んでいられる場合じゃないんだろうけど。こんな状況だから、少しでも気持ちの整理が出来るかな。」

 

森久保「プロデューサーさんも、大変なんですね…」

 

雪樹「今だけは気が楽だよ。今までが大変だったんだろうと思う。」

 

森久保「ご家族のこととか…?」

 

雪樹「それもあるけど。もう色々。」

 

森久保「もりくぼは…嫌な事ばかりだと…逃げたくなってしまいます…」

 

雪樹「逃げるのも、ありだったかもしれないね。でもそれもできなかったというか。しなかった。逃げても。結局は自分に降り掛かってくるってなんとなくわかってしまったから。」

 

森久保「以前のプロデューサーさんは…もりくぼが隠れてると…すぐ見つけて…お仕事に…」

 

雪樹「断る方法もあったと思う、でも森久保さんもそれをしなかったんだよね。」

 

森久保「せっかくのお仕事なので…断ったら、申し訳ない気がして。」

 

雪樹「でも、隠れるんだね。」

 

森久保「え、えぇ…まぁ…」

 

雪樹「目の前の事にはしっかり向き合うよ、僕はね」

 

森久保「そう…ですよね…」

 

雪樹「つまらないんだ。逃げて隠れて。それじゃ何もうまくいかないんじゃないかって。」

 

森久保「プロデューサーさんは…お強いんですね…」

 

雪樹「強くないよ。僕はただ我慢してただけだから」

 

森久保「もりくぼも…逃げなければ、強くなれたんでしょうか…」

 

雪樹「それは、僕にもわからないよ。君がどう思うかだから。」

 

森久保「もりくぼは…もりくぼでいいです…」

 

雪樹「そうだね。それでいいと思うよ」

 

……

 

森久保「プロデューサーさん…あの…」

 

雪樹「どうした?」

 

森久保「さっきからずっと。悲しい顔してます…やっぱり話さなかったほうがよかったですよね…」

 

雪樹「ああ…悲しい顔してたかな。」

 

森久保「すいません…もりくぼが無理を言ったばかりに…」

 

雪樹「いや、謝らなくていいよ。」

 

森久保「でも。悲しい顔してます…」

 

雪樹「ちょっと、考え事してただけだよ。」

 

森久保「そうですか…」

 

雪樹「でも。そうだね。少しそう思ってたかもしれない」

 

…会話が途切れる。

森久保さんは帰らなくて大丈夫だろうか。

 

雪樹「森久保さんは時間大丈夫?」

 

森久保「まだお昼ですし…」

 

雪樹「自主トレとか、学校の勉強とかも大丈夫?」

 

森久保「課題は終わらせてあります…自主トレは…」

 

雪樹「早坂さんも言ってたけど。劇の主役は大変だからしっかり取り組まないと大変だよ?」

 

森久保「わ、わかってますけど…でも…」

 

森久保さんの表情がかなり曇った。

劇の事で何かあったのだろうか。

 

雪樹「劇の事で悩んでるのかな。」

 

森久保「…はい…」

 

雪樹「話してみて。」

 

森久保「輝子ちゃんが失敗しちゃったので…美玲ちゃんともりくぼが慰めて居たんですが…同じ劇のある人が輝子ちゃんの失敗に対して怒ってしまって…」

 

ミスは誰でもあることだが…

 

森久保「輝子ちゃんもその失敗は一度目じゃないんです…でも劇の演技家の人も難しいところだからって失敗は許してくれてて…なのに…」

 

雪樹「なら怒られる理由はないね」

 

森久保「美玲ちゃんは輝子ちゃんと一生懸命練習してましたし…もりくぼも…苦手ながら練習してて…それで、美玲ちゃんがいがみ合ってしまって…」

 

雪樹「できるなら、衝突は避けたかったな…」

 

森久保「怒った人…アイドルなんかにやらせるからって…私達以外にも他の事務所のアイドルの方も…いましたし…そこでまた…言い争いになって…」

 

雪樹「あぁ…崩壊寸前だな…」

 

どうすればいいだろうか…

 

森久保「もりくぼは…何も言えなくて…どうすればよかったかなんてずっと考えてて…」

 

怖くて何もできなかった

多分そうだったんだろう。

 

でも実際には何ができたとしても

止めにかかるのは難しいだろう

 

そこまでヒートアップしてしまうと

最悪飛び火する可能性もある。

そうもなれば森久保さんは余計辛い思いをしただろうし。他の人も更に嫌な思いをするだろう。

 

…突然、扉をノックする音が聞こえる。

 

雪樹「どうぞ。」

 

入ってきたのは女性二人

専務とちひろさんだった。

 

美城「その調子だと、意識はしっかりしてるようだな。」

 

雪樹「この有様ですけどね。」

 

ちひろ「お怪我はどの程度…」

 

雪樹「怪我という怪我は右腕と左足の骨折。かな」

 

ちひろ「二箇所も…?」

 

雪樹「車に轢かれた訳だから仕方ないです」

 

美城「しばらくは休養になるだろうな」

 

雪樹「まだまともに仕事した感じでもないんですが…はぁ…」

 

美城「何にせよ、今回は本当に迷惑をかけた。すまない。」

 

雪樹「謝らないでください、ただの不運なんですから。専務は悪くないですよ。」

 

美城「そう言われると。余計申し訳ないが、まぁきりがない。」

 

雪樹「事務所空けてていいんですか?」

 

ちひろ「大人組の方が居てくれてるはずなので、大丈夫だと思います」

 

美城「とは言っても長居するつもりはない、私はまだこの後予定がある。」

 

ちひろ「私も留守番任せきりにするわけにも行かないので挨拶だけ…」

 

雪樹「はい、二人ともわざわざありがとうございます。」

 

二人は病室を出ていった。

 

森久保「と…突然すぎるんですけど…」

 

雪樹「凄い速さで隠れてたね。」

 

森久保「だ、だって…びっくりしましたし… 」

 

雪樹「隠れる必要なかったでしょ?」

 

森久保「あぅ…えっと…反射的にと言うか…もりくぼは小動物なので…」

 

雪樹「机の下によく隠れてるからね」

 

森久保「え、えぇ…はい…」

 

雪樹「劇のお話、どうしようか」

 

森久保「そ、そうでした…」

 

雪樹「一度起きた亀裂を治すのは大変だからね。」

 

森久保「でも…どうしたらよかったんでしょう…」

 

雪樹「そうだね。演劇家の人に相談してみないことには結果は出せないと思う。」

 

森久保「演劇家の人…そうですね…プロデューサーさんは今回あまり関わりがあるわけでは、ないですし…」

 

雪樹「こんな状態だから、力になれなくてごめんね。」

 

森久保「いえ…こちらこそ…無理なお話ばかりで…ごめんなさい。」

 

雪樹「治るのにも時間がかかるし。どうしたらいいかなぁ…」

 

森久保「怪我…大丈夫なんでしょうか…」

 

雪樹「心配してくれてありがとう、数カ月かかるだろうけど。できるだけ早く事務所に復帰できるように頑張るよ。」

 

森久保「はい…そろそろ…帰ります…」

 

雪樹「うん、帰り道、気を付けてね。」

 

森久保「ありがとうございます…えっと…また来ます…」

 

森久保さんは病室を出ていった

 

カーテンの隙間から夕陽が差し込んできている。

 

雪樹「そうか、もうそんな時間なんだな。」

 

残った最中を食べながら、スマートフォンでニュースを見ていたら

先日の事故の記事が流れてきた。

 

名前は伏せてあるみたいだ。

 

雪樹「逆走した車は大破、運転手は飲酒運転…意識不明…巻き込まれた僕と僕を轢いた車の運転手は命に別状は無いが骨折等の怪我。」

 

十中八九、逆走車が悪いが

僕を轢いた車の運転手も気の毒だ…

巻き込まれた挙句人を轢く羽目にあった訳だから…

 

雪樹「トラウマだろうな…これは…」

 

巻き込まれた車の運転手も僕を轢いたことを認めてる。

 

雪樹「本当に気の毒だな。」

 

事故の話はそこで止まった。

 

しばらくしてまた

病室の扉をノックされた。

 

雪樹「どうぞ」

 

入ってきたのは兄。

ただ、先日電話した兄ではなく。

県外まで引っ越したはずの兄。

 

雪樹「これは珍しい人が。」

 

次男「事故ったって聞いて見舞いに来たぞ」

 

雪樹「もう会わないかなと思ってたけど、思いもよらない所で。」

 

次男「見舞いくらい来させろ」

 

雪樹「両親の葬式には来ないのに俺の見舞いは来るのかい。それはそれでどうなんだか」

 

次男「あの二人、亡くなったのか、初耳だけど」

 

雪樹「あれ、連絡来てなかった?」

 

次男「いつ頃?」

 

雪樹「今年の夏だよ。」

 

次男「その時は海外出張かもな…」

 

雪樹「そうか、まぁやっと重荷が降りた、って感じ。」

 

次男「お互い振り回され続けたからな。」

 

雪樹「色々とね」

 

次男「元気そうだし、俺は帰るわ。」

 

雪樹「うん、お疲れ様。」

 

次男「また気が向いたらな」

 

そう言って病室を出ていった

そのあとすぐ、また病室が開いた

 

看護師「夕飯、どうしますか?」

 

雪樹「ああ、ありがとうございます。」

 

看護師「また呼んでくださいね」

 

先程まで甘いお菓子を食べていたばかりなのに、食事は何事もなく食べきった。

 

夕飯、割と多めに見えたはずだけど

大食いと言うわけでもないんだが…

 

看護師「片付けますね。また何かあれば呼んでください」

 

…その後は特に何もなく寝た。

 

………

 

「お前は考え過ぎなんだよ。」

 

好きでそういうふうにしてるわけじゃないけど

 

「考え過ぎて細かい、その割にはずっと張り詰めてるだろ。」

 

緊張の糸か…どうして切れないんだろうな

 

「ほんと、丈夫な癖に他の人間よりも繊細だよな」

 

繊細か、

 

「取り扱い注意にも程があるだろ。まぁ俺は気にしないけど。」

 

……

 

雷の鳴る音で目が覚めた

 

雪樹「また昔の事だ。」

 

何故昔の夢?

 

何か理由があるのか?

 

雪樹「まだ3時か…」

 

もうひと眠り…

 

………

 

「大変だな。俺ももうそういうの考えないといけないのかな」

 

別にいいんじゃない。

やりたいことやればいいと思う。

 

「俺はまだ親のすねをかじってるんだなって思ってしまうよ、お前の話聞いてるとさ」

 

気がついたらそうなっていたってだけだし。別に偉いことでもない。

 

「でも家のことも親のことも兄弟のことだって考えてるんだろ?しっかりしすぎだろ。」

 

任せきりにするわけにもいかないと思った結末だから。別に…

 

………

 

雷の落ちる音で目が覚めた

 

また、昔の事だ。

やめてくれ。

ほんと。いい気分じゃない。

 

昔を否定するつもりはない。

ただそれを改めて眺めてなんの意味がある?

 

雪樹「なんの理由でどうして昔の事なんだ。」

 

全く意味わからない。

何か本能的な部分があるのだろうか。

 

病室の扉が開いた。

 

真壁「気分はどうかな、浮かれない顔をしてるようだが」

 

雪樹「一つ聞きたいことが…昔の事を夢で見るのは何か意味があるんですかね」

 

真壁「私は精神科の方はあまり詳しくないんだがね、人間の見る夢はその人の心理状態によって変わる。昔の夢を頻繁に見るということは昔の事を懐かしんでいる、または昔のように生きたいと思っているのだろう。」

 

雪樹「そんなことは微塵も考えたことないが…」

 

真壁「これはストレスからなる物が大多数だな、君が思って居なくても無自覚に本能は現実から目を背けたいと思っているのだろう。」

 

雪樹「そういうことなんですかね。」

 

真壁「あくまで一例だ、君が本当にそう思っているかどうかとは関係のない可能性もゼロではないだろうな。」

 

雪樹「そうですか」

 

真壁「夢の話はまた考えるといい。さて、一つ話をいいかな。これも君に直接的に支障はないが。」

 

雪樹「なんの話ですか?」

 

真壁「医療費の事だ。」

 

雪樹「ああ、そうですね、いくらほど掛かるんですか?」

 

真壁「それが驚いたことに君への請求はゼロ。会社の保険が効くのと、あの二人からの協力だろう。」

 

雪樹「あの二人…」

 

ちひろさんと美城専務…?

 

真壁「私は別に構わないんだがね。他人の医療費に散々払い込むなんて大した期待されているな、君も」

 

雪樹「自分でもびっくりですよ」

 

真壁「一応、請求書の写しは用意するから今度渡しておくよ。支払いは要らないからね。」

 

雪樹「わかりました。お願いします」

 

真壁「それじゃ、私はこれで。」

 

真壁さんは病室から出ていった。

 

時間は7時頃

真壁さんが出たあとすぐ朝食を摂った。

 

雪樹「少しずつ。リハビリがいるだろうな。」

 

自分でできる範囲で体を動かしたいが、

ギプスで固まっているせいか上手く動かせない。

 

松葉杖は用意してもらっているが

軽い移動くらいしかできない

 

「大人しくしてるのも退屈だな」

 

…朝食、昼食と食べて暇な時間を過ごす。

 

昼過ぎ、外が晴れてきたのか日が刺してきている。通り雨だったのだろうか。

 

考え事に更けていると病室の扉をノックされる。

 

雪樹「どうぞ」

 

入って来たのは三人組

 

森久保「プロデューサーさん、今日も来ました…」

 

雪樹「こんにちは。学校終わり?」

 

早坂「今日はお昼までだからお見舞いに来た」

 

輝子「私は、元々休みだったから」

 

雪樹「三人共ありがとう。」

 

森久保「朝、雨強かったですよね… 」

 

早坂「雷の音で目が覚めたぞ…」

 

輝子「イイ感じの雷だったな…フヒ…もっと続いても良かったのに…」

 

早坂「それじゃあお見舞いに行けないぞ。」

 

輝子「そ、そっか、それもそうだね」

 

雪樹「無理して来なくてもいいよ?」

 

森久保「むりではないんですが…やっぱり事務所にプロデューサーさんが居ないと…物足りないと言いますか…」

 

早坂「そうだぞッ!早く治して事務所に戻ってこいよな」

 

雪樹「ん?僕悪くないよね?」

 

森久保「でも…皆さん待っていますし…」

 

雪樹「それはそうだけど。そんなすぐ治る怪我じゃないから…」

 

輝子「クリスマスが劇の日なんだ…間に合うかな…」

 

雪樹「うーん…なんとか歩けるようになれば行けると思う。それまでにリハビリ頑張るよ」

 

森久保「無理は良くないと思うんですけど…」

 

雪樹「大丈夫だよ。なんとかするよ」

 

輝子「ビデオ撮るから…それ見てもらうだけでもいいんだ…」

 

早坂「無理して来てまた怪我されるのも困るからな。しっかり治ったらでいいぞ?」

 

雪樹「うん、ありがとう。」

 

早坂「それじゃあウチはこのあと買い物に行ってくるから。またなッ!」

 

輝子「小梅ちゃんと幸子ちゃんに呼ばれてるから、私も。」

 

雪樹「二人とも、お疲れ様」

 

二人が帰るが、

森久保さんはまだ隣の椅子に座っている。

 

森久保「あの…もう少し居てもいい…いや…だめですよね…」

 

雪樹「いいよ。時間があるならね。」

 

森久保「ありがとうございます…それで…またお聞きしたいことがあって…」

 

雪樹「どんなこと?」

 

森久保「えっと…プロデューサーさんは…松谷さんは…お友達とかは居るんですよね…」

 

雪樹「そうだね。居ることには居るけど実際会って話する人は片手で数えれる程度かな。」

 

森久保「そう…なんですね…」

 

雪樹「普段から引き篭もりがちだったからそんなに出会いも無いし。」

 

森久保「も、もりくぼも普段から…机の下に…」

 

雪樹「森久保さんは僕よりも多いでしょ、友達を大切にね」

 

森久保「えっと…はい、輝子ちゃんや美玲ちゃん、裕美さんやほたるちゃん…色んな方と…」

 

会話を遮るように携帯が鳴った。

誰からだろうか

 

雪樹「ごめんちょっと出ていいかな」

 

森久保「は、はい。お構い無く…」

 

タイミングを図ったかのように友人からの電話だった

 

 

友人「おう、久しぶり」

 

雪樹「ああ、そうだな、なんだかんだ連絡してなかったかもな。」

 

友人「仕事見つかったか?辞めたって話は聞いた覚えあるけど」

 

雪樹「おう、なんとかな、かなり大変だろうけどやっていけそうだよ。」

 

友人「そりゃ良かったよ、今度、休み教えてもらえたら休み被らせるけど。」

 

雪樹「残念だが今は病院。しばらく遊べそうにないんだよな」

 

友人「はぁ?!病院!?入院してるってことか?」

 

雪樹「そう。事故ってさ。骨折だけで済んでるし後遺症とかはないから大丈夫だぞ」

 

友人「お前の大丈夫は言うほど大丈夫じゃないから。ちょっと今から行くわ。」

 

雪樹「今日は休みなのか」

 

友人「おう、暇だったんだよ。ちょっと切るぞ。それじゃ後で。」

 

雪樹「焦るなよ。それじゃ」

 

…電話を終える…

 

森久保「えっと…お友達さん…ですか…」

 

雪樹「うん、前の仕事の同僚というか、同期。」

 

雪樹「数少ない友人のうちの一人ってとこかな」

 

森久保「ご家族が多くて…でもお友達は少ない…」

 

雪樹「ん?うん、まぁそうだね。」

 

何か意図があるのかな

 

雪樹「森久保さん。僕からも質問をしていいかな」

 

森久保「もりくぼに答えられるなら…」

 

雪樹「どうして、僕のことをそんなに聞くのかな、何か理由がある?」

 

森久保「あの…ぁ…えっと…」

 

雪樹「結構積極的だったから気になって。」

 

森久保「深い意味は無くて…以前のプロデューサーさんに…少し似てるかなって…」

 

空似か

 

雪樹「照らし合わせてるってことだね。それだけ親しみやすいってことなのかな」

 

森久保「あまり抵抗を感じなかったので…でも…そうですよね…ちょっと欲張りで…すみません…」

 

雪樹「謝らなくてもいいよ…でもね」

 

森久保「でも…?」

 

雪樹「これを言うのは少し心苦しいけど、僕と森久保さんはまだ会って5日ほどだよ。一緒に仕事をしたことがあるわけでもない。親しい関係と言うには程遠い。違うかな。」

 

森久保「あぅ…はぃ…」

 

雪樹「ごめん。少し言い方を変えるよ、僕は大丈夫なんだ、そうやって親しんでくれるのはありがたいよ。でもね、親しく接するのはしっかり相手との関係を築いてからの方がいい。これはアイドルとしても当然だと思うし。今後生きていくうちでもそうだからね」

 

森久保「わかりました…えっと…気をつけます…」

 

雪樹「辛いこと言ったかもしれないけど。僕に気軽に接してくれるのは大丈夫だよ。ただあまり質問ばかりでちょっと怖かっただけ。それだけはわかってほしいかな」

 

森久保「あの…」

 

森久保さんが言いかけたところで

病室の扉をノックされる。

おそらく…

 

雪樹「どうぞ」

 

友人「案外早く着いたな」

 

やはりさっき電話が掛かってきた友人だ

 

友人「怪我はどうなんだよ」

 

雪樹「片足片腕の骨折だけ。それ以外はなんともないかな」

 

友人「いやそれでも不自由過ぎるだろ」

 

雪樹「大丈夫でしょ。そのうち治るって」

 

友人「お前の大丈夫は信用ならないからな。大丈夫って言い張る時はいつも爆弾抱えてるだろ。何か心当たりあるか?」

 

雪樹「いや、特に…無いんだよな」

 

友人「まぁ、それならいいか…ん…このカバン…?」

 

あ、森久保さんのカバン

 

友人「これお前の…なわけないよな隣にそれっぽいのあるし。」

 

雪樹「そうだな隣の破れたのが俺のやつだよ」

 

友人「もしかして彼女…」

 

雪樹「ではないぞ。」

 

友人「だよな。お前に彼女とか夏に雪が降るんじゃないかと思ったわ」

 

雪樹「どういう例えだよ、」

 

友人「え、じゃあ、このカバン何?」

 

森久保「そのカバンは…もりくぼの…」

 

直前に隠れてた森久保さんが小鳥のさえずるような声で話す。

 

友人「え、今の誰…まさか出るの?」

 

雪樹「あー…こっち」

 

一言いうと友人はベットの反対側を覗き込む

 

友人「え…あれ?」

 

森久保「あ、あの…こ、こんにちは…」

 

雪樹「鞄の持ち主。」

 

友人「えっと…待てよ…見覚えあるぞ…」

 

雪樹「知ってると思うぞ」

 

森久保「あ、あの…私が何か…?」

 

友人「うん、思い出したぞ、森久保乃々さんだな?」

 

森久保「もりくぼは…もりくぼですけど…」

 

雪樹「そうだな、もりくぼさんだよ」

 

友人「確かに、彼女では無さそうだな、っていやいや。」

 

雪樹「何か問題でも?」

 

友人「本人?コスプレとか空似とかなりきりとかじゃない?」

 

森久保「もりくぼのニセモノ…にせくぼ…」

 

雪樹「本人だよ。」

 

友人「お前…森久保さんだぞ?アイドルだぞ?どういうことだ?ファンが黙ってないぞ…」

 

森久保「あの…この人はプロデューサーさんで…」

 

友人「プロデューサー……?」

 

雪樹「新人だけどね。」

 

友人「えっ、てことはお前、アイドルプロデューサー…?あのプロダクションの?」

 

雪樹「うん、新しい仕事がこれ。」

 

友人「あ、そう。あ……そうなのかー…」

 

雪樹「うん、んで事故に巻き込まれてこの有り様」

 

友人「事故って、どう事故ったの」

 

雪樹「ニュース見てない?」

 

友人「あ、見たかも、逆走車の?」

 

雪樹「そう、それ。」

 

友人「なるほど。そりゃ災難だったな、仕事就いたの最近か?」

 

雪樹「まだ一週間も経ってないよ。」

 

友人「身に付く前にそれは大変だな」

 

雪樹「事故遭う前も、ストーカーにつけられたり、海に沈められかけたりしたし、もうなんか驚かなくなった」

 

友人「数日で色々ありすぎだろ」

 

雪樹「うん、色々とありすぎて疲れたよ」

 

友人「そういえば自己紹介まだだった。荒浜友人(ゆうと)、よろしく、森久保さん」

 

森久保「あっ…はいよろしくお願いします…」

 

友人「こいつ、無理と無茶ばっかりするから定期的に怒ってやってほしい」

 

森久保「そんな…プロデューサーさんに怒るなんて…もりくぼには無理です…」

 

雪樹「そうだな、就任していきなり五連勤してるな」

 

友人「ほらすぐそういうことする。」

 

雪樹「いいんだよ、俺は気にしてないから」

 

友人「お前は気にしてなくても周りは気にするんだよ。汲み取れそれくらい」

 

雪樹「今後はのんびり仕事するよ。それができるならだけど」

 

友人「一言余分、もう言っても無駄だな。」

 

森久保「お二人とも、仲良しなんですね。」

 

雪樹「まぁ、一番長続きしてる友人だから」

 

友人「へぇ、それは初耳。まぁお前友達少ないしな」

 

雪樹「少なくても困りはしないからいいんだけどな」

 

友人「だろうな。これ以上居ても特に何かあるわけじゃないし、帰る、今度見舞いに何か持ってくるよ。」

 

雪樹「おう、わざわざすまないな。」

 

友人は病室を出ていくと森久保さんが椅子に戻る。

 

雪樹「時間、大丈夫?」

 

森久保「あ…あの…」

 

雪樹「何かな」

 

森久保「劇のことなんですけど…」

 

雪樹「さっき話しかけてきたこと?」

 

森久保「はい…」

 

雪樹「どうなった?」

 

森久保「演劇家の方が話していて、先日怒った人の役は別の人がやることになったんです…」

 

雪樹「怒ってた人は?」

 

森久保「辞めてしまいました…」

 

雪樹「他の人は?」

 

森久保「変わりないです…」

 

雪樹「そっか。新しい人とは上手くできそう?」

 

森久保「はい。優しい方で、でも失敗には厳しくて、無理やり怒ったりはしませんが…熱心というか。練習にお手伝いしてくれるので…とても良い人だと聞きました…」

 

雪樹「良かったね。少し楽しみかな。」

 

森久保「もりくぼも頑張り…ます…」

 

雪樹「うん、頑張って」

 

森久保「そろそろ…帰ります…お疲れ様です…」

 

少し笑顔を見せたあと、鞄を背負って小走りに帰っていく。

 

雪樹「一人は寂しいからな。」

 

夕食を取ると眠気に負けてすぐに寝入った。

 

………

 

「ねぇ、楽しい?」

 

楽しいというか忙しい?

 

「ならやめちゃえば?」

 

やめる理由もないからなぁ…

 

「でも、私達と遊ぶ時間少ないじゃん」

 

確かに遊ぶ時間は少ないけど。やめたら他に代わりが居ないし

 

「やめたら関係ないじゃん」

 

そこでやめたら他にも支障があるから

他のこともやめてしまうから

 

「他に何かあるの?」

 

資格勉強、これはこの学校での目標だし

 

「資格試験、やって何かあるの」

 

自己満足だろうけど。自分がどこまでできるか試したい。

 

「ふーん、そっか。自分の事優先なんだ。」

 

………

 

雪樹「気分悪い…」

 

また昔の夢だった。

 

朝食を食べ、適当にニュースを眺めていると

病院のドアをノックされた。

 

雪樹「どうぞ」

 

???「久しぶり、松谷君」

 

入ってきたのは……懐かしい顔だった。

 




次はちょっと重たい話になるかも

誤字脱字あれば報告頂けると幸いです


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枯れた気持ちと揺るがない意志

プロデューサーのお話


性格とかそういう意味の題名になっちゃった。
でもこれが一番合う気がした


 

懐かしい…何年前だろうか…

伊南春佳…元彼女…

 

雪樹「連絡もなしに来るということは誰かから聞いたのか?」

 

伊南「事故が起きたとき、近くにいたんだ、それで松谷君が救急車に運ばれてるの見かけて。」

 

雪樹「なるほどね。」

 

伊南「怪我は大丈夫?」

 

雪樹「骨折だけ。」

 

伊南「そっか。」

 

雪樹「そのうち治る」

 

伊南「そうだね、良かった」

 

雪樹「にしても、わざわざ見舞いに来るのとはね。」

 

伊南「ん?んーなんか、むず痒いなって」

 

雪樹「なにが?」

 

伊南「他人だからって思ってたんだけど、いざ知ってる人が事故に巻き込まれて、見てみぬふりするのは、なんか変な気分。」

 

雪樹「なるほどね、それはあるかもな」

 

伊南「今となっては昔の知り合いかもしれないけどさ、一応、彼氏だった訳だし。」

 

雪樹「一応な。」

 

伊南「救急車に付き添いで乗った人って知り合いの人?」

 

雪樹「俺は知らない、ただ知人の友人、と言うことになるかな」

 

伊南「走って行った女の子の?」

 

雪樹「多分な、あの時のことは半分くらいうろ覚えなんだよ。」

 

伊南「あの女の子なんで走って行っちゃったんだろうね。」

 

雪樹「あぁ、それは俺の指示だからだよ、そこまでは覚えてる」

 

伊南「そうなんだ。大変そうだね」

 

雪樹「まぁ、仕事関係だから。仕方なく行かせたんだ。」

 

伊南「仕事、何やってるの?」

 

雪樹「聞きたい?」

 

伊南「あ、まって。当ててみようかな」

 

雪樹「ヒントいる?」

 

伊南「まず、学生の女の子と関わる仕事だよね…俳優?」

 

雪樹「残念。惜しいところではあるね」

 

伊南「んー…教師?」

 

雪樹「一気に離れた。」

 

伊南「離れたの…え…なんだろう」

 

雪樹「接客関連ではないのは確かだね。要はサービス業ではない」

 

伊南「そもそも松谷君がサービス系向かなそう」

 

雪樹「失礼な、これでも量販店員6年間やってたんだぞ。」

 

伊南「へぇ、意外、あ、もしかして事務職?」

 

雪樹「あながち間違いじゃないが正解でもない。」

 

伊南「えー、これも違うのー?あ、でも女の子…関係なくない?」

 

雪樹「俺の仕事は関係する。これめちゃくちゃヒントだぞ。」

 

伊南「え…女の子が大ヒント?俳優事務所の…プロデューサー?」

 

雪樹「んー…半分正解で半分ハズレ、アイドルプロデューサーだよ。」

 

伊南「あぁアイドルね!あの女の子アイドルなんだ。なるほど!確かに事務所も近いし俳優ってもの近いね。」

 

雪樹「最近就任したばかりなんだけど。この有様だよ。」

 

伊南「あぁ…大変だね…」

 

雪樹「まぁ、あの子守れたからいいけどね。」

 

伊南「お得意の自己犠牲。変わらないね。」

 

雪樹「もうすっかり癖になった。」

 

伊南「でも、かっこいいと思うよ。そうやって胸張って自分で何でもやろうとするの」

 

雪樹「そうか?」

 

伊南「昔は頑固なだけと思ってたけど最近ちょっと考え変わって来たからかな、真面目な人っていいなって」

 

雪樹「褒めても何も出ねぇぞ、あ、自販機でペットボトルくらいは奢る」

 

伊南「そういうところも変わらないね」

 

雪樹「言うな。」

 

伊南「懐かしいな、このやり取り」

 

雪樹「高校以来か。」

 

伊南「またあの関係に戻りたい?」

 

雪樹「ん?どうしてそう思う?」

 

伊南「聞いて見ただけ」

 

雪樹「お前はそう思うのか。」

 

伊南「うん、思ったよ」

 

雪樹「そうか。残念だが俺はそうは思わない」

 

伊南「そうだよね。仕事もあるし」

 

雪樹「仕事を言い訳にするのは違うな。俺の個人的な理由だからだ。これも言い訳と言われたらそれまでだけど」

 

伊南「どんな理由?」

 

雪樹「俺は、そういうのはもう興味がない、相手がどうとかじゃなくて、単純にもう恋愛をする気がない」

 

伊南「そっか。」

 

雪樹「諦めてるとかそういう感じだな」

 

伊南「でもできないはわけじゃないでしょ」

 

雪樹「俺は他人と恋愛できるほど良くできた性格してないからな。」

 

伊南「本当にそうかな。」

 

雪樹「少なくとも自分ではそう思う。」

 

伊南「やっぱり、頑固だね。」

 

雪樹「頑固なんだろうな。」

 

伊南「あーあ、振られちゃったな」

 

雪樹「残念だが、俺はその気はないぞ」

 

伊南「わかったよ。そろそろ待ち合わせの時間だしそれじゃあね」

 

雪樹「わざわざすまないな。」

 

伊南が病室から出ていった後

同じフロアの売店のところまで散歩していた。

 

雪樹「やっぱり松葉杖は大変だな…」

 

お茶と飴を買って自分の病室のところに戻ると。ちょうど昼頃だったのか、看護師の人が昼食を持ってきていた。

 

雪樹「すみません、売店まで行ってました。」

 

看護師「そうでしたか。昼食どうされますか?」

 

雪樹「食べます。ありがとうございます」

 

昼食を済ませ

ニュースを眺めていると

先日の事故の話がまた上がっていた

 

逆走した車の運転手は意識が戻り検察の取り調べで容疑を認めた。

巻き込まれた車の人も同じように入院。

 

雪樹「みんな、痛い目に遭う事故だったな」

 

起きてしまったものは仕方ない、

今すぐ怪我が治るわけでもない。

 

また、病室のドアをノックされる。

 

雪樹「どうぞ。」

 

入ってきたのは図体の大きい男性

腕を骨折してるのか三角巾のサポーターを付けている。

 

男性「松谷さん、ですよね。」

 

雪樹「ええ、どちら様でしょう?」

 

男性「私は金森と言います。先日の事故で松谷さんにぶつかってしまった車の…」

 

雪樹「あぁ…わかりました。」

 

男性「一度会うべきだと思いまして。保険のことなど話をどうするか。」

 

雪樹「逆走車の彼はどうなるのでしょう。」

 

男性「私はあなたを轢いてしまったわけですから」

 

雪樹「元はといえば逆走した彼が悪いので。私達だけで話を決めるのもおかしな話ですよね。」

 

男性「ですが…彼は今私達より酷い状態です。」

 

雪樹「それは逃れる理由にはなりません。そもそも道路交通法違反です。それによって起きた事故です。本人が容疑を認めた以上彼にもこの話に参加する義務があるはずです。」

 

男性「今の彼に保険の話や事故の話をするのは酷な内容だと思います。」

 

雪樹「今言いましたよね。逃れる理由にはなりません。それともあなたは彼に関わりたくない理由があるのですか?もしくは早くこの件を終わらせたいのか」

 

男性「わからないのですか、心身共にひどくやられてるのにそこに事故の始末をしろと言われたら気が滅入るでしょう?」

 

雪樹「あなたの言い分はわかります。泣きっ面に蜂なんて酷いじゃないかと。ですが彼はしっかり罪を償うべきです、違いますか?今の言い方だとあなたは彼を庇っているようにしか聞こえません。」

 

男性「頑なですね。そんなに彼を陥れたいのですか、心を病ませたいのですか?」

 

雪樹「誰も今すぐとは言ってません、彼がしっかり受け止めることができるようになってからでも私は構いません。彼を恨んでいるわけでもないですし。事実を受け止めて悔い改めて貰えばそれで十分です」

 

男性「そうですか。わかりました。それではまた彼が復帰した頃にでもお話させて頂きます。それでは」

 

こういう時は相手に言い負かされてはいけない。特に今の様な内容では流されて不利益を被る場合があるから…

 

気分を悪く思われたかもしれない

もう少し柔らかい言い回しをするべきだったな。

 

その後は特に何もなく

 

夜になって寝た。

 

……

 

重いものが落ちる様な音で目が覚めた。

 

雪樹「なんだろうか…」

病室は何も変わっていない

松葉杖を頼りに起き上がり

病室のドアを開けると足元に怪我をした女性が倒れている…

足から血を流している看護婦

一体何故足に怪我を?

 

雪樹「だ、大丈夫ですか!」

 

女性「あの…患者さんから暴力を受けて…」

 

雪樹「とりあえず止血しないと、確か…」

 

近くに事務室があったはず。

 

雪樹「待っててください。」

 

女性「でもあなたも怪我をして…」

 

雪樹「僕は大丈夫です。」

 

事務室に向かって歩くが

やはり松葉杖では普段より時間がかかる。

 

雪樹「すいません、誰かいませんか!」

 

事務室から出てきたのは男性看護師だった

 

男性「どうかされましたか?」

 

雪樹「足を怪我した女性看護師の人がいます。患者から暴力を振るわれたとかで。まともに歩けないみたいです」

 

男性「患者から暴力?とりあえず怪我人のところに案内してくれるか」

 

病室の前に戻ると座り込んでいた女性が待っていた

 

男性「君はどうして足から血が…」

 

女性「金森さんのところに食事を届けた時…いきなりバターナイフを足に刺されて…」

 

男性「なんてことだ…何か怒らせたりとかしたわけじゃないんだよな…」

 

女性「特に何も…食事をお届けしました…片付ける際はお呼びください、それだけです…」

 

雪樹「それが本当ならわざわざナイフを突き刺す意図がわからない」

 

男性「とりあえず応急処置はした。外科のところに行こう。松谷さんだったね。知らせてくれてありがとう。」

 

女性「本当にありがとうございました…」

 

雪樹「いえ、お構い無く。」

 

二人が歩き去るのを少し眺めて部屋に戻る。

 

少し眠かったので寝ることにした。

 

と、その少しあと。

目が覚めて時間を確認するが然程寝てなかった。丁度昼前くらい、

 

雪樹「そういえば朝食無かったな…」

 

今朝の一件で何かあったのだろう。

朝食抜くくらいどうということはない。

 

昼食を済ませ、ニュースを眺めていると

病室のドアをノックされる。

 

雪樹「どうぞ」

 

片桐「プロデューサー元気〜?」

 

入ってきたのは早苗さん

 

雪樹「元気もなにもこの通りです」

 

片桐「仕事就いた直後で事故なんて大変よね」

 

雪樹「そうですね。そろそろ退屈過ぎてきました。 」

 

片桐「でも、そんな状態じゃ仕事もできないでしょ、仕方ないよ。」

 

雪樹「ずっとじっとしてるのも案外疲れるんですよね、だから適度に仕事したいですよ」

 

片桐「正直今できることはないと思うわ。プロダクションのPCを持ち出すわけにも行かないでしょうし。」

 

雪樹「なんとかして、抜け出してみようかな」

 

片桐「それはだめよ。中途半端で戻られて悪化されても困るんだから。」

 

雪樹「まぁ、出るときはちゃんと医者から許可貰いますよ。」

 

片桐「そうして頂戴」

 

雪樹「ところで、扉の後ろで待ってる方はいいのかな」

 

片桐「あぁー…呼ぶわね。」

 

片桐さんが声を掛けると一人の女性が入ってくる

 

雪樹「初めまして、346プロダクションの松谷雪樹です。今後、よろしくお願いします。」

 

三船「同じプロダクションの、えっと…三船美優です…よろしくお願いします…」

 

雪樹「怯えているのかな」

 

片桐「まぁ、言うなれば彼女も被害者ね。」

 

雪樹「あぁ…前任ですか。」

 

片桐「ええ、あまり話をすると三船さんに悪いから省略するけど。相当ハラスメント行為受けてるから。優しくしてあげて頂戴。」

 

雪樹「わかりました」

 

三船「あの…ほんとは来るつもりじゃなくて…」

 

片桐「三船さん安心して。彼は結構良い人だから。」

 

三船「疑っているわけではないのですが…なんといいますか…」

 

雪樹「どんな仕打ちを受けたか、僕にはわからない。だから、信用してほしいと約束するつもりはないよ。無駄に厳しくするつもりもないし、いきなり馴れ馴れしくするつもりもない。」

 

三船「どうしてそんな風に思うんでしょう…?」

 

雪樹「どうしてかって?そうだね。僕も誰かを信用する機会があまりなかったからかな。一方的に相手に期待しても、噛み合わないだけ。だから本当に必要な時だけ話をしてわかってもらう。それでいいと思ってるから。」

 

片桐「その考えでプロデューサーやろうなんてよく思ったわね。」

 

雪樹「今僕がやるべきことはスカウトじゃなくて復興、だからそう考えてるだけ。いきなり声をかける事なんてする余裕がないよ。皆には少しずつでも戻って来てもらえたならそれでいいと思ってる。」

 

三船「プロデューサーさん…」

 

片桐「専務も変わった人を…」

 

雪樹「無理は言わないよ、たまには事務所に来てプロダクションの皆と話をするくらいしてくれたらそれでいい。」

 

三船「わかりました…優しい人なんですね。」

 

雪樹「他人に厳しくするのは苦手ですから、それに厳しくするのは僕じゃなくていつか戻って来る彼の役目でしょう。」

 

片桐「彼?冬斗君?のこと?」

 

雪樹「戻って来るものだと思ってますけどね。」

 

片桐「いやまさかねぇ。まぁ戻ってきたらみんな喜ぶと思うけど。」

 

雪樹「そうなれば僕の役目は終わる。補助に回るだろうけど。」

 

片桐「いいんじゃない?それでもせっかくプロデューサーになったんだから二人で仕事回すのもありだと思うけど?」

 

雪樹「あまり先のことを話しても鬼が笑うだけですね。とにかく、よろしくお願いします。」

 

片桐「そうね、改めてよろしく」

 

三船「はい、よろしくお願いします。」

 

一区切りついたところでノックされ扉が開く

 

真壁「少しお邪魔するよ。」

 

雪樹「どうかされましたか?」

 

真壁「先日の事故で、君を跳ねた車の運転手なんだが、彼の事で話が」

 

雪樹「そういえば先日ここに来ましたね。保険がどうとかって。彼が何か?」

 

真壁「今朝、彼がスタッフに暴力を振るったみたいでね。」

 

雪樹「ああ…今朝の件ですか」

 

真壁「酷く暴れたそうだ、元レスラーは横暴で困る。今は取り押さえて大人しくしてもらっている。」

 

雪樹「先日話をした感じはかなり丁寧だったんですが。人は見かけによらないってことですかね。」

 

真壁「事故のこともあるだろうから関わるときは気をつけるといい。」

 

片桐「今のプロデューサーに暴力されたら困るのよね。」

 

真壁「片腕骨折してるとはいえ、レスラーの体幹は凄まじいからな。普通の人間一人じゃ抑えるのも無理が近い。」

 

雪樹「ましてや僕は片腕片足骨折ですからね。」

 

真壁「当分は部屋で大人しくしてもらう予定だ。」

 

雪樹「頼みます。彼とは少し言い争いになりかけたのもありますし。」

 

真壁「注意しておくよ。」

 

雪樹「あと、一つお願いがあるんですが。」

 

真壁「何かな。」

 

雪樹「退屈なんですけど、事務所内での仕事だけでもだめですかね。」

 

真壁「仕事に復帰したいのか。私はあまり気が乗らないが。」

 

片桐「ちょっとプロデューサー、あまりにもいきなり過ぎない?」

 

雪樹「気になることが2つほど、多分大丈夫だと思うけど。」

 

三船「その状態でもお仕事に熱心なんですね…」

 

雪樹「熱心というか、単に心配なだけだよ」

 

片桐「無理しないで頂戴、あなたに居なくなられるのが一番困るんだから。ちひろさんも専務もプロデューサーをやれないのよ」

 

雪樹「僕は無理をしてるだなんて思ってませんよ」

 

片桐「傍から見たら無理しかしてないのよ、少し聞いたけど、就任から5連勤してたんだって?」

 

雪樹「そうですね。気がついたらそんな感じでした」

 

片桐「おまけにストーカーされたり沈められたり、車に轢かれたり。どうやって耐えてるのか疑問に思うわ」

 

雪樹「ここ数日、いろいろあり過ぎるんですよね。面白いことに。」

 

片桐「何も面白くないわよ。むしろ怖いわ。」

 

雪樹「でも、今はつまらない。仕事しないことには、退屈なんだよ」

 

片桐「今後何があるかわかったものじゃないから治るまでおとなしくしてほしいのよ。」

 

雪樹「せっかく貰った仕事だから、」

 

真壁「問答はそこまで、明日にでも退院の手続きをするよ。今後のイベントや仕事のことが気になるんだろう。ただし次病院に搬送されるようなことがある場合は私が判断するまで大人しくしてもらう。」

 

片桐「待って、それでも少し早すぎると思うわ。」

 

三船「本当に大丈夫なんでしょうか…」

 

雪樹「大丈夫じゃないとは思う。でもやれるだけやりたいんだ。」

 

真壁「あまり調子に乗らないように。そこまでの怪我人を一週間と経たず退院なんてありえない話だぞ。」

 

雪樹「本来であれば一ヶ月くらい掛かるでしょうね。」

 

真壁「ひと月で済めばいいほうだな、今夜少しギプスを補修する。それじゃ、準備をしてくるよ。」

 

雪樹「わかりました」

 

真壁さんは病室を出ていく

 

片桐「いくら何でも無理があるわ…」

 

三船「あの…流石にそこまでやる必要は…」

 

雪樹「ある三人と、約束したのもあるんだ、だから早いうちに病院を出たかったのもある。」

 

片桐「約束?」

 

雪樹「クリスマスに演劇をやるそうなんだ、見て欲しいって。だから、間に合わせたくてね。」

 

片桐「その日だけでも良かったじゃない。」

 

雪樹「どうせだからレッスンも見てあげようと思ったんだ。」

 

片桐「全く…呆れたわ。」

 

三船「優しいというより、真面目すぎる、でしょうか…」

 

雪樹「よく言われるよ。」

 

片桐「まぁ止めても無駄でしょうけど、極力周りに迷惑かけないようにしなさいよ、必要な時は私も手を貸すけど、我儘通すならある程度の覚悟は必要だと思って」

 

雪樹「忠告、ありがとうございます。」

 

片桐「あんなこと聞いたあとだと正直心配だけれど、そろそろ帰るわ。」

 

三船「お大事に…無理しないでください。」

 

雪樹「お二人ともお疲れ様です。」

 

二人が帰ったその後の夜。

ギプスを部分補強した。

私生活で使いやすいように取り外しも楽になっている。

 

真壁「リハビリはまだ先だ、二週間に一度は通院、私のもとにきて経過確認を取る。いいな。」

 

雪樹「わかりました。この状態ではリハビリも出来そうにないですから。できる限り負担をかけないようにします。」

 

真壁「明日、迎えは来るのか」

 

雪樹「待ち時間に身内に連絡はしました。午後過ぎには来ると言ってましたね」

 

真壁「わかった。準備をしておくように。」

 

荷物を纏める…とは言っても退院手続きの書類を鞄に入れておしまい。

 

また明日。

事務所には連絡をしないとな。

 

 

翌朝、朝食を取ったあと病室の扉をノックされた。

 

雪樹「どうぞ。」

 

入ってきたのは例の人。

 

雪樹「おっと…」

 

金森さんだった。

尋常とは思えない形相で手にナイフを持ってこちらに近付いてくる。

 

金森「逃げるなよ…おめぇも終わらせてやる…」

 

雪樹「落ち着け!なんのつもりだ!」

 

答えることもなくナイフを刺そうと振りかざしてくる、

 

咄嗟に松葉杖を持ってベットから降りて避けるがまた突進するように襲い掛かってくる。

体制も不安定なままでは避けるのも難しい…

おとなしく刺されるわけにもいかないので松葉杖を横に振って横腹に一撃を当てると蹲った

 

隙を見て裏に回り込んで押し倒し背中に重し代わりに乗り掛かる

動けない隙に松葉杖をうまく利用してベット横の呼びボタンを押した。

 

看護師「どうされま…え!?」

 

雪樹「金森さんが襲い掛かって来たんです。誰でもいいので代わりに取り押さえてもらえませんか。」

 

看護師「は、はい!」

 

耳元の無線で別のスタッフを呼んでいる。

 

金森「どけ!邪魔するな!」

 

雪樹「邪魔するに決まってるだろ、殺されそうになって素直に死ぬやつがあるか。ふざけるな、どんな理由であれあんたに殺されるつもりはない。」

 

金森「お前じゃなかったら…」

 

雪樹「俺じゃなかったらなんだ。言ってみろ」

 

金森「もう手遅れなんだよ!だったらいっそ…!」

 

真壁「今更遅いのはわかっているだろう」

 

数人の看護師達で取り押さえて連行されていく。なんとかなった…

 

雪樹「全く驚きました。」

 

真壁「食卓用のナイフか。勘弁してほしいな」

 

雪樹「真壁さんは彼がどういう理由で僕に襲い掛かって来たのか、わかってるんですか」

 

真壁「先日も話をしたとおり、彼は元レスラーなんだがね。」

 

雪樹「ええ、それで、」

 

真壁「スポーツ事務所側から、仮に被害にあった側の事故でも他人に怪我を負わせた以上は解雇、それは変わらない、おまけに相手は有名事務所のプロデューサー、どう示しをつけるかこちらでも検討中だからしばらくはおとなしくしてほしい、とのことだ」

 

雪樹「まるで金森さんが悪人みたいですね。少しは同情しますけど。それで恨まれるのも迷惑ですよ」

 

真壁「スポーツ事務所側で酷く言われたらしい。もとは彼も非はなかったのだろうけれど。」

 

雪樹「我慢できなかったんでしょうね。」

 

真壁「まぁ彼の話はいいとして、襲われた時かなり激しく動いただろう。怪我は大丈夫なのか。」

 

雪樹「なんともありませんよ、片腕片足でもどうにかなるものですね」

 

真壁「咄嗟の判断が良かったんだろう。大したものだが何か異常を感じたらすぐ連絡するように。私は金森さんの対処について院長と相談をしてくるよ。」

 

雪樹「わかりました、お疲れ様です」

 

真壁「あと、退院の時は代わりの者を手配しておくよ、仕事が増えたせいだ。すまないね」

 

雪樹「お構い無く。」

 

午後、迎えが来て病院のエントランスに行くと、三人組と合った、

 

森久保「あれ…プロデューサーさん…どうされたんですか…?」

 

雪樹「早いけど、退院だよ。」

 

早坂「お、おい、まだ怪我治ってないのに…」

 

輝子「手足が不自由なのに…だ…大丈夫なのか…?」

 

雪樹「行けるときは事務所に行くよ。怪我が痛むときはおとなしく家にいるつもり。」

 

森久保「あの…無理はしないほうが…」

 

雪樹「心配してくれてありがとう。できる限り無理はしないから。少し頑張ってみるよ」

 

早坂「怪我、早く治るといいなッ!」

 

三人に軽く挨拶をして。

兄の車に乗り込んだ。

 

長男「あの子達は?」

 

雪樹「仕事関係のね、言ってなかったっけ。」

 

長男「あー、あの子達もアイドルな訳か」

 

雪樹「そう。あの三人はユニットでの活動で仲良くなったみたいでね。」

 

長男「そうか、まぁ俺達は年下の面倒見るのは慣れてるからな。」

 

雪樹「誰かさん達のおかげでね、」

 

長男「無理するなよ、ていっても無駄か、お前が一番無理強いさせられてきたしな」

 

雪樹「負担になりすぎないようにするよ」

 

 

 

……寝れない……

やっぱ体痛いな!?

 

家に戻り、動いた反動で身体の痛みが激しすぎて寝れなかった




怪我で休んだり事務所でお仕事させる予定です
あくまで予定なのでもしかしたら事務所外でも仕事してるかもしれません。予定は未定です


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先を見据えた一歩

題名わけわからん。



プロデューサー仕事復帰、事務所内のお話

あとちょっと今後に繋げるつもりの話


 

 

 

雪樹「痛み引かないな…」

 

襲われた時に動いた反動で体が痛む。

動いていて違和感は無いが、この状態では出勤は無理だろう。

 

雪樹「流石に痛み引いてからだな」

 

数日経ってからしか仕事に復帰は無理か…

先に事務所に電話を入れておこう

 

雪樹「あ、もしもし?」

 

千川「はい、346プロダクションの千川です。この声はプロデューサーさん?」

 

雪樹「ええ、今少し話しても大丈夫ですかね」

 

千川「はい、話って何でしょう?」

 

雪樹「退院したのは聞いてますかね?」

 

千川「え?退院されたんですか?」

 

雪樹「昨日です、事務所に行って伝えようと思ったのですが、思いの外痛みがひどくて。先に連絡しました。」

 

千川「痛みひどいのに退院して良かったのでしょうか。」

 

雪樹「まぁ、痛むのは他に理由があっただけなので、多分悪化はしないと思います。」

 

千川「無理しないでくださいね。」

 

雪樹「痛み引いてなんとか行けるようであれば、事務所までの通勤手段確保します。それまでなんとか頼みますね」

 

千川「来れるときだけでも構いませんが…交通費どれくらい出るか調べておきますね。」

 

雪樹「ありがとうございます。それでは、また復帰する前に連絡しますね。」

 

千川「はい、こちらからも何かあれば連絡します。お大事に」

 

電話を切り久々にパソコンを付ける。

メールボックスには何通も未開封のメール。

 

ネットゲームで知り合った人からだ。

そういえば、今の仕事を始めてからパソコンをつけた覚えがない。

 

メールボックスを開くとしばらく連絡がないとの心配されているメールばかり。同じ人から何通も来ていたりもする。

 

雪樹「仕事変える前は頻繁にやり取りしてたのに。なんで忘れてたんだろう。」

 

一人ずつメールを返信する。

片腕がこの状態ではしばらくはゲームも出来そうにない。

 

心配掛けてしまったことを謝って。怪我をしたからゲームは出来ないが元気だと伝える

仕事が変わってゲームをする機会が減ることも伝えておいた。

 

雪樹「以前は、プライベートな時間だけが生き甲斐だったな」

 

今後もそうなのだろうか。

まだわからない。

 

前職は楽しくなかった。

毎日ストレスに苛まれ、何かしらしていないとすぐに気が沈んで嫌になった。

 

でも、ゲームをやっているときは。

楽しくて気持ちも開放的になって、それについて考えることも厭わなかった。

友人やネット先での知り合いとも沢山遊んだ。それ以外にもネット小説に読み更けたり

料理でたまに凝ったものを作ったり。

休みの日は一日寝て過ごしたりもした

 

何故だろう。とても懐かしく感じる。

 

昔の日常にもう戻れないんだと。

今になってやっと気がついた。

 

雪樹「そうか…変わったんだな」

 

特別なことがあったわけではない

毎日同じことの繰り返しなのはそう。

仕事してゲームしてご飯食べていければいいと思っていた。

 

それが、今では。

 

雪樹「アイドルプロデューサーか。」

 

今更になって、不安が押し寄せてくる。

勢いで専務の誘いに乗った。

いろんな子達が事務所に来て、話をしたけど。正直まだ掴めないことばかり。

いざ初めての営業かと思えば、事故に遭ってこの有様。

 

こんなことでプロデューサーが務まるのか

 

それに。アイドル達のこともそうだ。嫌われるかもしれない。もう戻ってこない子もいるかもしれない。今後事務所に来なくなる可能性だってある、失敗が一度も許されないスタートで不安に駆られない訳がない。

 

雪樹「知識も経験も何もないのにな」

 

不意に溢れた不安の言葉。

 

悪い癖だ。

昔から精神的に追い込まれると考え過ぎてしまう。

 

雪樹「悪い癖。直さないとな…」

 

自分自身に呆れる。

深呼吸しないと。落ち着けない。

 

考えてもキリがない。

なるようにしかならないとしても慎重かつ丁寧に。雑になれば損をして不利になる。

 

 

無理はしない。

 

………

 

 

退院から数日後。

タクシーを呼んで事務所まで向かう。

 

雪樹「交通費どれくらい出るんだろうか…」

 

せめて、半分は帰ってきてほしい。

 

久々のオフィス。

鍵はかかっていない。

 

 

オフィスに入るとちひろさんはいなかった。

ただ、見覚えのない少女が二人いた

 

雪樹「おはようございます。初めまして。新しいプロデューサーの雪樹です。」

 

金髪の少女「新しいプロデューサーさんね。おはよう。怪我してても来るなんて。熱心なんだね。」

 

黒髪の少女「お嬢様、気安く近付いてはいけません。彼も例の男と同じかもしれません」

 

金髪の少女「ううん、この人はあの魔法使いさんと同じ香りがするの。だから私にはわかる。この人は良い人」

 

雪樹「魔法使い、ね。」

 

黒埼「自己紹介しないとね。私は黒埼ちとせ。こっちの子は。」

 

白雪「白雪千夜です。」

 

黒埼「ちょっとぶっきらぼうだけど、ほんとはしっかり可愛いからたまに可愛がってあげてね?」

 

白雪「そんな必要はありません。」

 

軽く睨まれてる。

前任の話があったから警戒されるのも仕方ないか。

 

雪樹「黒埼さんに白雪さん、よろしくお願いしますね。」

 

黒埼「にしても、そんな状態でよく来る気になるよね。」

 

雪樹「大人しくベットで寝てるだけなのはつまらないから…あっ…と…?」

 

松葉杖が何かに引っかかったのか、躓いて転けそうになったが、白雪さんが手助けしてくれたおかげでなんとかなった

 

白雪「足元、杖が椅子にぶつかったからでしょう。周りに迷惑かけないようにもっと注意するべきです」

 

黒埼「千夜ちゃん、積極的だね〜」

 

白雪「怪我が悪化されるのは面倒なだけです。」

 

雪樹「ありがとう。気をつけるよ。」

 

プロデューサーデスクの椅子に腰掛けて、デスク上にある白封筒を確認する。

 

メモが添えてあった

専務からのメモ。

 

どうやら白菊さんのドラマ撮影の資料らしい

 

封筒を開けると数枚の用紙と一枚のDVDがあった。

 

雪樹「無事に終わったのか。」

 

PCのドライブにDVDを入れて確認する

 

雪樹「流石、アイドルだな。」

 

黒埼「何見てるのー?」

 

雪樹「ドラマの撮影シーン、白菊さんに少しだけ役者を演じてもらったんだ。」

 

黒埼「へぇー、見てもいい?今後の参考になるかも。」

 

雪樹「どうぞ」

 

動画を一から流す。

黒埼さんは真剣に見ているようで

熱意の篭った視線だった。

 

黒埼「うんうん。いい感じ。演じきっててとっても上手だったね。」

 

雪樹「専務が居てくれて助かった。」

 

黒埼「今後も専務に任せるの?」

 

雪樹「自分にできる仕事なら自分で引き受けたいと思ってる」

 

白雪「そんな怪我ではできることも少ないでしょう、本当に大丈夫ですか。」

 

雪樹「大丈夫かどうかは僕が決めるよ。僕にできることをやるだけだからね」

 

白雪「なら大丈夫でない場合は?」

 

雪樹「断るのはリスクがあるかもしれない、頼めるなら専務に頼む。それもできない場合は…切り捨てるしかないね。」

 

白雪「なら貴方にできることとはなんでしょう。」

 

雪樹「僕にできる事?できるかどうかは案件が来たときに考えるよ。そうじゃないと具合がわからないから。」

 

白雪「何故その場で判断するのでしょう」

 

雪樹「わからないから、資料も何もないのにいきなりできるともできないとも言い切れない。言い切ってしまうのはそれこそリスクの塊。そこにリターンはないと思っていい」

 

白雪「なら貴方は…」

 

黒埼「千夜ちゃん、意地悪になってるね」

 

白雪「そういうわけでは…」

 

雪樹「今みたいな圧迫するような質問は控えたほうがいいよ。相手を不快にさせてしまうから。」

 

黒埼「とか言いながらプロデューサーは真面目に答えてるよね」

 

雪樹「答えないと気が済まないからかな、売られた喧嘩気分だけど」

 

白雪「私は喧嘩などする気はありません」

 

雪樹「だろうね。一つだけ忠告しておくよ。聞くかどうかは…」

 

白雪「なんでしょう」

 

雪樹「…思ったより食いつくね…大人相手にその喧嘩腰な反応は控えたほうがいい、これは僕が不快に思ったからじゃない、僕以外の誰か、例えば専務やそれ以上の地位の人、そういった人にさっきの態度はとても危険すぎる」

 

黒埼「確かに、さっきの千夜ちゃんちょっと怖かったね」

 

雪樹「君自身の個性を否定するつもりはない、ただ目上に対しての対応はよく気をつけたほうがいいかな」

 

白雪「お前にそこまで言われる必要は…」

 

黒埼「千夜ちゃん。この人が言ってることが正しいよ。今は千夜ちゃんが引き下がるべき」

 

白雪「お嬢様……わかりました。以後気をつけるようにします。」

 

雪樹「説教は誰も気分良くならないから、あんまりしたくないけど…これも、今の僕にできる事だからね」

 

黒埼「千夜ちゃん、飲み物買ってきて?」

 

白雪「何がいいですか?」

 

黒埼「千夜ちゃんのオススメ、お願いね」

 

白雪「オススメですか…わかりました。」

 

白雪さんは財布を持ってオフィスから出ていく

 

黒埼「プロデューサー、怒ってるね」

 

雪樹「怒ってるというより、納得行かない」

 

黒埼「口では笑ってても目は怒ってる。」

 

雪樹「怒鳴るのは好きじゃないよ。諭して済むならそれが一番平和的だから。」

 

黒埼「そうだね。千夜ちゃんのこと、少し話してもいい?」

 

雪樹「あの子のこと?」

 

黒埼「そう、また、昔みたいに戻っちゃっててさ。前の魔法使いさんのおかげで少し心開いたはずなのに、前任のせいでまた元通りになった」

 

雪樹「なるほど、ここでも来たか」

 

黒埼「普段から冷たい態度だからね、前任の人酷く怒ったのよね。出禁にまでされたんだよ。それが相当ショックだったんだろうと思うの。」

 

雪樹「それに加えて僕の説教か、印象は最悪だったかな」

 

黒埼「ううん、あれは千夜ちゃんが悪いの、いくら前任に悪くされたからってあなたがあんな仕打ちされる理由はないもの。」

 

雪樹「優しく接してあげたいとは思う。でもそれ以上に僕が嫌われてしまうなら、手の打つ方法は考えないといけない。僕じゃなくて、他の人の協力が必要だろうと思う。」

 

黒埼「私も千夜ちゃんが言い過ぎないように気に掛けてるから、また素っ気なくしちゃうかもだけど。あの子の事よろしくね、魔法使いさん」

 

雪樹「わかりました。魔法使いではないけどね。あ、あと。ちひろさんどこ行ってるかわかるかな。」

 

黒埼「ちひろさんなら、他の子にお願いされて、レッスンルームにいるはずだよ。」

 

雪樹「挨拶言ってきます。」

 

黒埼「怪我大丈夫?」

 

雪樹「大丈夫ですよ。」

 

オフィスから出てレッスンルームに向かう

 

近くなってくると声が聞こえた。

 

恐らくトレーナーさんの声だ。

 

声が落ち着いた頃、レッスンルームの扉を開けて入る。

 

ちひろ「プロデューサーさん、おはようございます、そのお怪我で来られたんですか?」

 

雪樹「まぁね、大丈夫だよ、今日はあの二人の。」

 

ちひろ「はい、城ヶ崎姉妹がまた近々ライブをする予定でして。専務が話を進めてはいますがレッスンのときは私が代わりに見てあげてます。」

 

雪樹「なるほど、姉妹アイドルなだけあって息はすごく合ってるね」

 

ちひろ「一度披露した曲でもありますから。ファンからはまたライブで二人の姿が見たいと言う要望が多かったとのことで、機会を用意したって専務から聞きました」

 

雪樹「ファンが喜んでくれるならそれは大いにありがたい。復興に向けてファンの要望はできる限り応えていきたいからね。」

 

ちひろ「ですから、今までのファンレターは全て皆さんにお配りしたあと、内容によってはお伺いしてます。自発的にライブをするのもいいですが、ファンの要望があってのライブの方が集まりが良いのだとか、専務の策略ですね。」

 

雪樹「確かにファンからの要望であれば逃さず来る人も居るでしょう。告知をすれば要望 を出したファンから周りに広がって来てくれる人も増えるだろうし。専務も流石ですね。」

 

トレーナーさんの声が止まると

城ヶ崎の二人も踊りをやめた

 

トレーナー「一旦休憩だ、二人とも流石だな。この調子を継続できればライブは問題ないだろう。」

 

二人「ありがとうございます」

 

トレーナー「続きは13時から、細かいところの指摘をする、丁度プロデューサー殿も来てるから挨拶忘れるなよ」

 

三人とも僕の所に来た

 

聖「初めまして、トレーナーの青木聖です。美城専務からお話は度々聞いていました。よろしくお願いしますね。」

 

雪樹「こちらこそ、プロデューサーの雪樹です。」

 

美嘉「怪我、大丈夫なの?」

 

雪樹「ちょっと不便だけど、大丈夫だよ。」

 

莉嘉「ちょっとの域じゃないと思うんだけど、ほんとに大丈夫?」

 

雪樹「大丈夫ですって。」

 

聖「トレーナーの私から見ても到底大丈夫とは思えませんが。無理は禁物ですね。」

 

みんなめちゃくちゃ心配してる…

そりゃそうか、普通心配するよな。

 

雪樹「そこまで言われたら少し気が縮こまってしまうなぁ…」

 

ちひろ「仕事熱心なのはいいことだと思いますが…無理しないでくださいね」

 

雪樹「気をつけます。とりあえずオフィスに戻ろうかな。」

 

聖「またレッスンのときはお願いしますね。」

 

雪樹「はい。では。」

 

レッスンルームを後にしてオフィスに戻ると白雪さんが戻ってきていた。

 

白雪「机の上にあなたの分も置いてあります。」

 

雪樹「ありがとう。頂くよ」

 

置いてあるのはブラックコーヒー

 

雪樹「ブラックか、久しぶりに飲むね」

 

基本、カフェオレか微糖。

 

ブラックコーヒーは好んで飲まないだけ

嫌いではない。

デスクの椅子に腰掛けてノートPCを着ける

 

専務から送られてきているデータをいくつか確認する。

 

僕が就任する前に請けた内容や仕事に就いたあとの内容、情報共有の為だろう。

 

すべて目を通して重要なもの期日の近いものは個別にメモを取る。

 

雪樹「とりあえず直近はクリスマスの劇と新年ライブか…新年ライブは1日だけなんだな。」

 

先程のレッスンルームにいた二人は丁度このライブに向けての練習をしているようだ

 

他にも何人も出場の決まっているアイドルユニットもいる。全員での曲、ソロ曲、ユニット曲、全部把握しておかなければ。

 

黒埼「そういえばプロデューサーって。前はどんな仕事してたの?」

 

雪樹「ん?前の仕事?サービス業だけど」

 

黒埼「接客業とか?」

 

雪樹「そうだね。家電製品の販売員だね。」

 

黒埼「へぇ〜家電かー、丁度そこにあるミニ冷蔵庫とか?」

 

雪樹「それも確かにそうだね。生活家電と情報家電とあといろいろ」

 

黒埼「結構詳しいんだよね」

 

雪樹「ある程度ね」

 

黒埼「ねぇ千夜ちゃん、今度買い換えようって言ってたの、プロデューサーについてきててもらって何がいいか決めよっか」

 

白雪「怪我をしているので連れていけません、それに、私が選んだもので問題ありませんよ。」

 

黒埼「プロの販売員の説明、聞いてみたいよね。せっかくだから今度ね。」

 

白雪「少なくとも今は行けません。」

 

黒埼「それじゃ、プロデューサーの怪我が治ったら行こう。」

 

雪樹「まだ当分先かな。」

 

予定をノートに纏めていると美味しそうな匂いがする。二人が机で弁当を広げていた

 

雪樹「ああ、もうそんな時間か」

 

黒埼「お昼にはちょっと遅いかな。」

 

時計を見ると14時、

そんなに作業してただろうか…

 

雪樹「僕も昼ごはん済ませるか。」

 

弁当を持ってきている。

久しぶりの弁当、母親が作っていたものとは違って少し量が多い。

 

黒埼「プロデューサーもお弁当なんだね」

 

雪樹「こんな調子だし外食も気軽に行けないから。」

 

白雪「手作り…な訳ありませんよね」

 

雪樹「兄の夫婦と同居しててね。ついでとして作ってもらったんだ。」

 

黒埼「プロデューサーってお料理出来そうな感じするよね」

 

雪樹「得意ではないけど、ある程度ならね。以前いろいろ作ってたかな。」

 

黒埼「前の魔法使いさんは苦手だったね。」

 

白雪「そうでしたね。」

 

雪樹「男の人は好きで料理する人は少ないだろうと思う。」

 

黒埼「料理はできた方がいろいろ便利じゃない?」

 

雪樹「そうだね、出来るようになれば好きなときに好きなもの作って食べれるから案外いいね」

 

白雪「お嬢様も練習されますか?」

 

黒埼「私は千夜ちゃんが作ってくれるからいいかなー、そのうち練習するね。」

 

白雪「わかりました。そのときはお手伝いします」

 

昼食を終えた時。事務所の電話が鳴った

 

雪樹「専務から?」

 

 

雪樹「はい、346プロダクションの雪樹です」

 

美城「美城だ、プロデューサーか、退院したそうだな」

 

雪樹「はい、まだ万全というわけではないんですが仕事には復帰しています」

 

美城「無理は禁物だからな、書類とPC側のデータは確認してくれたか。」

 

雪樹「ほたるさんの件と過去と今後の仕事の事ですね。ほたるさんの件に関しては急なことでご迷惑をおかけしてしまいました、申し訳ありません。」

 

美城「仕方あるまい。無事に成功で終えたが相手側からは心配されてしまった。今後も依頼があれば喜んで請けたいと話はしておいたからその時は改めて頼むぞ。」

 

雪樹「こちらこそ、ありがとうございました。」

 

美城「あと、もう2つ、資料を目を通してるなら勘付いていると思うが、クリスマスと新年のライブに向けての話だが」

 

雪樹「はい、ちょうどその事で考えていました。」

 

美城「電話だとわかりにくいな、オフィスで話そう、一旦切るぞ。少し待っていてくれ。」

 

雪樹「かしこまりました。」

 

電話を切った

専務のオフィスまで向かうべきか

 

雪樹「この資料だな。」

 

黒埼「どこか行くの?」

 

雪樹「専務のオフィスまで。今後の話をしてくる。」

 

黒埼「怪我してるんだし、専務来るまでまってみたら?流石に怪我人呼び出すことなんてしないと思うよ。」

 

雪樹「そう、かな。」

 

メモを取って待っていた。

 

美城「すまない、待たせたな」

 

雪樹「いいえ、わざわざすみません。」

 

美城「その状態で出勤するのも如何なものと思うが来るなとは言わない。だが無理はするなよ。」

 

雪樹「ええ、予定が無い時は休みを頂くかもしれません。」

 

美城「本題だが、クリスマスの件から話そうか。例の三人なんだが何度か話はしているか。」

 

雪樹「ええ、度々病院まで見舞いに来てくれていたので、何度か顔を合わせてます」

 

美城「そうか。なら紹介は必要ないな。商店街のステージで子供向けとして行うイベントに参加する。企画書も渡してあるが確認してくれてるな。」

 

雪樹「はい、相談もされてたのである程度は把握してます、本当にあの三人でよかったのでしょうか」

 

美城「ああ、あの三人でいい。」

 

雪樹「そうですか。」

 

美城「週に二度ほど専用の建物を設けてレッスンをしている。もうそろそろリハーサルに向けて練習もしてるだろうから行けるのであれば顔を出して挨拶をしておくといい。当日も君に任せるつもりだ。新年ライブも同様。普段はレッスンルームを使っているだろうから事務所にいて声を掛けられたときは手伝ってやってくれ。」

 

雪樹「わかりました。また困ったことがあれば相談させて頂きます。」

 

美城「その必要があればな。話は以上だ。私もプロデューサーを兼任できるほど時間に余裕はないのでな。失礼する」

 

雪樹「はい、お疲れ様です。」

 

黒埼「大変だね。」

 

雪樹「大変なのかな、まだ実感が湧かないからどうかな。でも少し楽しみではあるよ。」

 

黒埼「なら大丈夫なんじゃない?楽しめたらきっと上手く行くと思うから。」

 

雪樹「楽しめる仕事だと嬉しいかな」

 

白雪「真面目に仕事するのは忘れないでください。」

 

雪樹「もちろん。」

 

クリスマスの劇の資料を眺めているとあることに気がついた。

 

他事務所のアイドルグループがいると聞いていたが、まさかシンデレラ役が他事務所のアイドルだった。

 

雪樹「今回は主役はシンデレラじゃないとはいえ。それでいいのか…」

 

まぁ、いいか。

それに関しては深く考えない方がいいな

 

クリスマスか、予定もないし丁度いいか。

クリスマスに仕事なんて、いつものことだしな。

 

雪樹「二人はクリスマスは予定あるのか?」

 

黒埼「ないかなぁ。まぁあるとしたら劇の子達見に行くくらい?」

 

白雪「そうですね。今後演劇をやる機会もあるかもしれません。参考程度に拝見するのはいいでしょう。」

 

雪樹「そっか。」

 

時計を見るともう夕方だった。

流石に遅くなるまでに帰るべきか。

 

ちひろ「戻りました。」

 

雪樹「お疲れ様です。」

 

美嘉「お疲れ様〜」

 

莉嘉「お疲れ〜」

 

ちひろ「プロデューサーさん。お時間大丈夫ですか?」

 

雪樹「そろそろ帰ろうと思ってたところです。」

 

ちひろ「お怪我されてるので無理せず早めに切り上げてくださいね。」

 

美嘉「帰りはどうするの?バスとか?」

 

雪樹「タクシーの予定。今朝頼んだタクシー業者が良さそうだったから」

 

ちひろ「少しお待ちいただければ送っていきます」

 

雪樹「すいません、ありがとうございます 」

 

黒埼「私達も帰ろっか」

 

白雪「そうですね」

 

美嘉「私達も帰るよ、宿題あるし」

 

アイドルの子達は荷物を持ってオフィスを出ていく。

 

荷物を纏めるか。

 

ちひろ「お待たせしました。」

 

事務所を出てちひろさんの車に乗る。

程無くして家までついた

 

雪樹「すみません。お手数かけてしまって」

 

ちひろ「いえ、気にしないでください。それでは私も帰りますね」

 

雪樹「お疲れ様です」

 

ちひろさんの車が見えなくなったあと。

 

???「あれ?久しぶりじゃん!」

 

振り向くと男がいた。

誰だ?見覚えのない顔だが…

 

雪樹「ごめんなさい、見覚えが無いんですが。」

 

山倉「うわひどいな、高校一緒だったじゃん山倉だよ。」

 

…正直よく声を掛けれたなも思うほど会いたくなかった

 

雪樹「本当に山倉なのか。」

 

山倉「いや嘘言う理由ないよ。ほんと久しぶりだなあ」

 

雪樹「こんな時間に何してるんだ」

 

山倉「ちょっと知り合いのとこに遊びに来てたんだよ。コンビニ寄ろうと思ってさその帰り、ところでどうした?骨折?」

 

雪樹「骨折だよ」

 

山倉「骨折しててその状態で仕事させられてんの相当ブラックじゃない?今の女の人に送って貰えたとはいえさ。」

 

雪樹「仕事の事は別にいいだろ。」

 

山倉「ふ〜ん、もしかしてあの女の人、彼女とか?」

 

雪樹「そうだったとしたら明日雪が降る。」

 

山倉「とか言ってほんとは付き合ってたりして」

 

雪樹「その袋に入ってるコーラ振ってお前に掛けてもいいか。」

 

山倉「ダメダメ、ごめんて。」

 

雪樹「立ち話もキツイんだ俺は帰る。」

 

山倉「おう、気を付けろよ」

 

 

最近は人との関わりが多いな…

 

それもそうか…

 

そういう人生になったんだもんな

 




次も事務所内のつもりのお話


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進んでいく準備。

お久しぶりです。
ちまちま書いてたらかなり間が空きました

レッスンに来た子達のお話

それではごゆっくり


 

 

翌日、またタクシーで事務所まで向かう。

 

10時頃到着してオフィスに向かう。

ちひろさんと見覚えのない子もいる

 

雪樹「ちひろさんおはようございます。君は…初めましてかな」

 

ちひろ「おはようございます、プロデューサーさん」

 

???「はい。初めましてですね」

 

雪樹「新しくプロデューサーになった松谷雪樹です。よろしくね」

 

鷺沢「鷺沢文香です」

 

割と普通な感じでおとなしめ。

こちらを見て普通に振る舞っているということは、前任の影響は少なかったのかな

 

そう思った次の瞬間オフィスの扉が勢い良く開いた

 

???「ふ、文香さん!」

 

鷺沢「ありすちゃん、おはようございます」

 

雪樹「初めまして、新しいプロデューサーの松谷雪樹です。よろしくね」

 

橘「た、橘ありすです、…へ、変な真似したら…」

 

鷺沢「ありすちゃん落ち着いて」

 

橘「でも…」

 

橘さんの方が影響大きい様子だな…

 

鷺沢「聞いた話では、この人が白菊さんを助けたプロデューサーさんです、そんな人が悪い人とは思えませんよ。」

 

橘「確かに…怪我もしてますし…」

 

雪樹「勘違いさせてしまったなら、すまないね。」

 

橘「い、いえ、私こそ誤解しまったので」

 

ちひろ「プロデューサーさん、専務から伝言…というか。これを」

 

渡されたのはメモ。

 

……

 

そろそろ本格的にクリスマス劇と新年ライブに向けてのレッスンに君自身も注力していくといい。時間はもう少ない。

君が来る前から皆練習は始めている。

私もたまにレッスンルームに行っていたが今後は君の役目だ、よろしく頼むぞ。

 

改めて伝えるが時間は少ない。

それをよく理解しておくといい。

無理は禁物だぞ

 

……

 

雪樹「クリスマス劇まではもう2ヶ月を切ってるし、新年ライブはその直後、そろそろかな」

 

ちひろ「私もできる限りサポートしていくので、頑張りましょう。」

 

橘「専務と代わったんですね」

 

雪樹「今後は僕が皆のお手伝いするよ、僕もわからない事だらけだからね、不甲斐ないところも出るかもしれない。」

 

鷺沢「新人さんなのに、いきなりのお仕事で大変ではないですか?」

 

雪樹「そうだね。就任して数日でいきなりこの怪我で、それでもってクリスマス劇と新年ライブの取り繕いなんてびっくりだけど。我儘は言えないからね、頑張るよ」

 

橘「文香さんそろそろ時間なのですが…」

 

鷺沢「そうですね。私達は行きますね」

 

二人はレッスンルームに向かっていった。

 

雪樹「あの二人は新年ライブに出るんだったかな」

 

ちひろ「練習、見に行かなくていいんですか?」

 

雪樹「そうですね。少し見に行ってます」

 

オフィスを出てレッスンルームに向かう

音楽が聞こえてくるそれに合わせてトレーナーのものであろう声も聞こえる。

 

一区切りついたところでノックして入る

 

雪樹「失礼しますね。」

 

トレーナー「プロデューサー殿…?」

 

雪樹「初めましてかな。新しいプロデューサーの松谷雪樹です。よろしくお願いしますね。」

 

青木麗「トレーナーの青木麗です、よろしくお願いします、ただ…その怪我…話には聞いていたのですがね…」

 

雪樹「ああ、お気になさらず」

 

麗「いや、気にするなと言う方がおかしいと思いますが、まぁ無理は禁物ですね」

 

雪樹「はい」

 

麗「さて、もう少ししたらレッスンを再開しますが、プロデューサー殿から見た感想もぜひ頂きたい。前任は良く言えば放任主義でしたから」

 

雪樹「悪く言うなら?」

 

麗「部下の面倒も見れないダメ上司、と言ったところですね」

 

雪樹「なるほど、そうなりたくはないですね。」

 

麗「まだわからないことが多いだろうとは思いますが、貴方の采配次第でどうなるか、ですよ。」

 

雪樹「はい、できる限り善処します。」

 

トレーナーさんは頷くとレッスンに戻って行った。

 

歌っている子は一人、単独曲の練習だろう、歌も上手でそれに加えて振り付けもしっかりしている。流石アイドルといったところだろう。

 

…周りの動き、踊りが目立っている、ミスは見られないが。歌っている子だけ動きが小さいようにも見える。

 

雪樹「…んー…なんか動きが弱いかな…」

 

ふと言葉が溢れた。

 

曲が終わるとトレーナーさんから声を掛けられる

 

麗「いかがですかね。時間はあるので今後もレッスンは続けていきますが。」

 

雪樹「大部分は出来上がってますよね、この曲初めてではないでしょうか。ただ気になる点を少し」

 

麗「何でしょう」

 

雪樹「ミスもなく振り付けもしっかりしていますが。ソロでの曲ですよね。踊りの目立ちが逆転してます。」

 

麗「逆転している。なるほど」

 

雪樹「歌も上手で踊りも何も問題ありません。ですが目立つべき華が間違ってる。」

 

???「それは、どういうことですの?」

 

雪樹「ああ、挨拶が遅れました。新しいプロデューサーの松谷雪樹です。今後、よろしくお願いしますね」

 

櫻井「櫻井桃華ですわ。それで今のは。」

 

雪樹「少し難しいかもしれないが、周りの振り付けを控えめにして、櫻井さんの振り付けを目立たせるようにしたほうがいいと思いました。」

 

麗「確かに、違和感はあったな。」

 

櫻井「歌いながら踊るのに振り付けを大きくするのは大変ではないですの?」

 

雪樹「無理に大きくする必要はありません。必要であれば櫻井さんの振り付けだけ目立つものに変更したり。先程も言ったとおり他の方だけ一部控えめにするなどでもいいと思います。」

 

櫻井「今から振り付けを変更するのは私は構わないのですが、他の方はよろしいの?」

 

雪樹「最悪他の方はそのままでもいいかも。」

 

麗「大きな変更をするのは少し無理があるかもな」

 

雪樹「難しいのは承知ですが、あくまで提案です。無理にやれとは言いませんしやらずとも成功するでのあればそのままでも大丈夫でしょう、ただ再三言いますが目立つべき華は櫻井さん。周りの花は櫻井さんを目立たせるためにあるんです、櫻井さんもそれはよく理解していると思いますが。」

 

櫻井「もちろん、私のソロ曲ですもの。新しいプロデューサーの仰ることは間違いないですわね。昇進いたしますわ。」

 

麗「もう少し調整してみるとしよう。」

 

櫻井さんとトレーナーさんは他の子とまたレッスンを始めた。

先程話した内容を踏まえて、トレーナーさんも指摘修正を繰り返している。

それに合わせて櫻井さんも一部動きを変えたり大きくしたり。難しいと話していたことを難なく行っている。

 

雪樹「うん、さっきとは全然違う。」

 

麗「満足して頂けたようですね」

 

雪樹「あとはファンがどう思うかだね、でも、これなら良いだろうと思う。衣装と振り付けもきっと合うだろうから。」

 

櫻井「きっと喜んでくれますわ」

 

雪樹「さて、少し昼を過ぎてしまったな。」

 

麗「休憩にしようか」

 

雪樹「僕はオフィスの方でゆっくりしてくるので何かあれば呼んでください。」

 

麗「わかりました。またよろしくお願いします」

 

櫻井「お疲れ様ですわ。」

 

オフィスに戻り昼食を広げていると。

先程のレッスンしていたアイドル達が戻ってきた。

 

雪樹「ああ、みんな来たんだね。」

 

櫻井「ええ、事務所で皆様と過ごすなんて久しぶりですもの。せっかくですから食事もご一緒に済ませますわ」

 

橘「前のプロデューサーさんはここのオフィスほとんど来ていませんでしたよね」

 

鷺沢「勝手に開けるなと怒るときもありましたから」

 

雪樹「ああ、だから閉め切ったままだったんだね。」

 

鷺沢「はい、ですからあまり皆さん集まれなかったんです」

 

雪樹「やっぱりみんなここが大切なんだね。」

 

櫻井「それにしては以前より綺麗ではないですの?」

 

雪樹「そうなのか?」

 

橘「そう言われてみればそうですね」

 

ちひろ「プロデューサーさんが半日かけて一人で掃除してたみたいですよ」

 

鷺沢「そうだったんですね」

 

櫻井「プロデューサーが一人で、そのお怪我なのに。言ってくだされば皆で手伝いますのに。」

 

雪樹「いや、その時はまだ怪我してなかったし、案内された時に埃とか汚れまみれで見過ごすのがどうも気に入らなくって。」

 

橘「綺麗好きなんですか?」

 

雪樹「んー、多分それはあると思う。あと掃除とか案外好きだし。自分が汚れるのは気にしないし」

 

鷺沢「それでお一人でオフィスの掃除を…」

 

雪樹「まぁ、結果的に綺麗になったって思ってもらえたなら良かったよ。」

 

橘「以前のプロデューサーさんはお仕事詰めで机の上とか散らかっていましたよね。」

 

ちひろ「冬斗さんは片付けるの苦手そうでしたからある程度は手伝ってました。気にかけているみたいなんですが自分のテリトリーはもう悲惨でしたから…」

 

鷺沢「普段から外交多かったそうですし。仕方ない部分もあるのでしょうか」

 

櫻井「プロデューサーちゃまはカバンの中だけは綺麗に整頓されているのに、オフィス周りは仕事の直後まで片付けしませんもの。 」

 

ちひろ「なんというか。慌ただしいんですよね」

 

橘「もっと余裕を持って行動すればいいんです。」

 

鷺沢「でも忘れ物や物を無くしたりしないので案外しっかりしてるのかもしれませんね」

 

お話しながら食事をする場面を見て、自分が求めていた結果が見えた気がした

 

事務所を以前のように賑やかにすることを目指してきたが、目の前ある風景がきっとその一部なんだろうと。

 

橘「あれそういえばプロデューサーさんはお昼は?」

 

雪樹「ん?もう食べ終わったよ」

 

櫻井「少食ですの?」

 

雪樹「今日はたまたま少ないだけ、まぁ元々食べるのが早いのもあるけど。それでも満腹感はあるからいいかな」

 

櫻井「満腹になるのなら大丈夫ですわね」

 

橘「でも夜まで間に合うんですか?」

 

雪樹「あまり動かないから大丈夫かな。」

 

三人はまた食事をしながら談笑していた。

 

櫻井「そろそろお時間ですわね。」

 

橘「はい、午後のレッスンも頑張りましょう!」

 

鷺沢「失礼しますね。」

 

雪樹「行ってらっしゃい。何かあったら連絡して。」

 

三人は荷物を纏めてオフィスを出ていく。

 

棚から三人のプロデュースノートを出して三人の今までの活躍について調べていた。

 

櫻井桃華

 

鷺沢文香

 

橘ありす

 

新年ライブに参加する三人。

他の曲での出演もあるみたいだが。

他の進捗も気になるところがある。

 

雪樹「まぁ、順を追ってだな。」

 

他の出演の子達とも顔を合わせておきたいとは思っているが、運良くオフィスに来てくれた時に会えるか、レッスンのときにしか無理だろう。あとは当日に挨拶するしかない。

 

メモを取りノートを眺め予定を考えていたとき。オフィスの扉が開いた。

見覚えのない子達だった。

 

???「お久しぶりですね。事務所にお邪魔するのは」

 

???「本当に開いてるんだ。」

 

???「あー…暖房効いてる…暖かいっスねー…」

 

一人、キャラが濃い。

 

雪樹「初めまして、新人プロデューサーの雪樹です。今後ともよろしくお願いします。」

 

安部「初めまして!ウサミンこと安部菜々です!」

 

神谷「私は神谷奈緒。よろしくね、プロデューサーさん。」

 

荒木「荒木比奈です、この部屋こんなに明るかったでしたっけ…?」

 

ちひろ「プロデューサーさんが一人でお掃除されたんですよ。」

 

荒木「よっぽど綺麗好きなんすねー」

 

安部「あの、お話はちらっと聞いたんですが。お怪我されてるの本当なんですね。」

 

雪樹「あぁ、まあね。心配かけさせてしまうかもしれないけどとりあえずできる範囲で仕事してくつもり。よろしくね。」

 

神谷「できる範囲って言っても。移動が大変なのは相当な支障だよね。」

 

安倍「私達がしっかりサポートしてあげないとですね!」

 

雪樹「とは言ってもまだプロデューサーになってまだ早いからね。何がなんだか。」

 

荒木「いきなりですもんね。何も資料無いところからいきなりだと、困惑もするなぁ。」

 

神谷「でも新年ライブの話とかもあるから目先の目的はあるから今はそれじゃないかな。」

 

雪樹「そのために今は出演メンバーの名前や顔、あとレッスンである程度進捗確認しておかないといけないから、言われた通りしばらくは事務所や舞台でのリハーサルかな。あとはクリスマスの演劇も任されたし」

 

安倍「そのお怪我で、新人さんがそのお仕事の量は大変過ぎませんか?」

 

雪樹「専務も僕ができるって確信してくれたから任せてくれたんだろうし、きっと大丈夫だと思います。まぁ。少し不安はありますがそれでもやれるだけやります」

 

荒木「なんか、頼りがいがありそうっすね。」

 

神谷「冬斗さんと違ってお茶目っ気はないから、ちょっと肩身狭いかなぁ。でも真面目なのはありがたいかな」

 

安倍「前のプロデューサーさんは数ヶ月でやめてしまいましたしお仕事ももらえず…」

 

神谷「あのおっさんは元々ここを潰す気だったんだから、あんなの頼りにするべきじゃなかったんだよ。」

 

荒木「結構ひどかったっすからね〜、私も出禁食らってましたし。」

 

雪樹「あぁ…はは…」

(ここでも話題が出てきたか。)

 

ちひろ「雪樹さんはとてもお優しいですから、きっと大丈夫ですよ。3人とも」

 

神谷「ちひろさんがそう言うってことは良い人間違いないね」

 

安倍「菜々ももっと頑張りますから新年ライブ以降もたまにお仕事くださいね!」

 

荒木「原稿あるから、私は適度にほしいっす…」

 

雪樹「みんなありがとう。僕の当面の目的としてはみんなに気軽にこの事務所を利用して貰えるよう復興すること。何かあれば協力お願いするね」

 

神谷「そういうことならいつでもいいよ!」

 

安倍「ウサミンパワーでみなさんを元気にさせましょう!」

 

荒木「そうっすね!活気が戻るのはいいことっす!」

 

ちひろ「ふふ、心強いですね。」

 

雪樹「ええ、ありがたい限りです」

 

神谷「えっと、ちひろさん、まだレッスンルームって空いてないですよね。」

 

ちひろ「3人は17時からでしたよね、もうそろそろ、先の子が戻ってくると思うんですが」

 

荒木「もう少し、暖まって行きたいっす…」

 

安倍「お外…寒いですよね…」

 

神谷「そう?あたしは気にならなかったけど」

 

荒木「せめて寒暖気にならない気候になってほしい…」

 

雪樹「もう、すっかり冬ムードだからね。」

 

ちひろ「そういえばエアコンも掃除しないといけないですね」

 

雪樹「エアコン…ふむ。」

 

神谷「流石にエアコンは業者に頼んだほうが。」

 

雪樹「んー、そうだね。こんな怪我してたらできないし、そうするよ。」

 

神谷「やるつもりだったんだ…」

 

ちひろ「事務に話通しておきますね」

 

雪樹「頼みます。」

 

話をしていると。レッスンルームにいた三人が戻ってきた

 

橘「少し早いですがレッスン終わったのでって。もう来てたんですね。」

 

神谷「お疲れー。わざわざ早めに空けてくれるなんて、いつも通り気が利くね〜」

 

雪樹「3人ともお疲れ様、今日はゆっくり休んで。」

 

鷺沢「はい。プロデューサーさんのおかげで捗りましたので、お礼も兼ねてたんですけど。あれ、櫻井さんは?」

 

橘「あれ、確か一緒にレッスンルームを出たはずなんですが…」

 

櫻井「お二人ともレッスン後は水分補給を怠ってはいけませんのよ。」

 

櫻井さんはレッスンルーム前の自販機からジュースを持ってきていた。

3人分だけでなく。8人分。

つまり次の人の分と私とちひろさん。

 

ちひろ「私達の分まで。ありがとうございます、櫻井さん」

 

神谷「いや、流石にちょっと申し訳ないよ、これ渡しておくね」

 

櫻井「あら、別なお金のことはいいんですのよ。」

 

神谷「買って来てくれるのは嬉しいけどさ。」

雪樹「そうだね。一緒レッスンした二人の分も買うならわかるけど。その後の3人分だけでなく僕達まで奢ってもらうのはちょっとやり過ぎなのはあるよ、一方的になるともらう側は困ってしまうときがあるから気をつけてね。もちろん悪いことではないよ、ありがたく頂くね」

 

櫻井「そうですわね…わかりましたわ。」

 

神谷「言いたいこと全部言われちゃったな」

 

安倍「すごく納得の行く説明でしたね。」

 

雪樹「さて、この話は終わり。次の三人とも頑張ってね。」

 

荒木「ああ…この部屋離れがたい…」

 

神谷「ほら行くよ。体動かせばもっと暖かくなるから。」

 

鷺沢「私達も帰りましょうか」

 

橘「はい、お疲れ様です」

 

櫻井「お疲れ様ですわ」

 

雪樹「お疲れ様。」

 

6人はオフィスから出ていく

 

ちひろ「プロデューサーさんはいつ頃までいますか?」

 

雪樹「まぁ、三人がレッスン終わるまでは」

 

ちひろ「そうしたら、先に帰っても大丈夫そうですか?買い出しに行きたくて」

 

雪樹「いいですよ。」

 

ちひろ「お手数かけてごめんなさい先に失礼しますね。」

 

ちひろさんは荷物をまとめて帰ってしまった。

 

久々に一人になった気がする

 

雪樹「うん。静かだな」

 

先程レッスンに来た三人のプロデュースノートをチェックして、三人について調べていると、突然オフィスの扉が開いた。

 

???「お、聞いた通り開いてるな♪」

 

見覚えのない女性がオフィスを眺めている




とりあえず事務所内のお話が続きます。
いろんな人を出したいので。

それではまた会えたら会いましょう


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お人好しという魔法

どうも筆者です
最近は他の事にも手を回しているので投稿が遅くなりつつありますが
おめでたいのか何なのか。10話目の投稿になります。


事務所内でのお話ですが。
今回は情報量多めのつもり。
どうぞごゆっくり


雪樹「はじめまして、ですね。」

 

???「お?もしかして新しいプロデューサー?よろしくー☆」

 

めちゃくちゃノリが軽い…

 

雪樹「えっと、雪樹です。今後共よろしくお願いしますね。」

 

佐藤「佐藤心ことしゅがーはぁと、はーとと呼んでくれよな♪」

 

雪樹「んー…と、佐藤さん、ですね。」

 

佐藤「お、おい。まぁ、前任もそうだったし慣れてるぞ。」

 

雪樹「そうだ、一つお聞きしたいことが。」

 

佐藤「お?なになに?彼氏なら募集してないぞ?それともプロフィール?どんなこと?」

 

押しが強い…何だこの人…

 

雪樹「会っていきなりこんな話で申し訳ないんですが、前任の方の悪事といいますか、佐藤さんの身近な方で特になかったかどうか、なんですが」

 

佐藤「いきなりスウィーティーじゃない話題飛ばしてくるなよ☆…まぁ、居るよ、被害者は」

 

雪樹「わかりました、それが聞けただけでも助かりました。」

 

佐藤「どうして聞いてきたんだよ、少しは気になるぞ」

 

口調も態度も変わった

この話題に対して真剣そうだな。

余程、何かあったな

 

雪樹「一人でも多く、事務所でのアイドル活動に復帰してほしいと思ってるんです。もちろん無理には言いません。難しい方もいらっしゃると思います。だからできる限りで。」

 

佐藤「そういう事なら、協力は惜しまないぞ☆」

 

あ、戻った

 

佐藤「とりあえず本人達と話して見るからその後また話をする。それでもいい?」

 

雪樹「ええ、構いません、ありがとうございます」

 

協力者が増えた。ありがたい

 

佐藤「いやしかし…聞いてたとおり派手な怪我してる…そんなので仕事してて大丈夫?」

 

雪樹「不自由はありますけど、なんとか」

 

佐藤「車椅子とか…」

 

雪樹「構いませんよ。私はこれでも。」

 

佐藤「とりあえず連絡先だけ交換しとくぞ☆」

 

これで少しでも多く戻ってきてくれる機会が増えるとありがたいんだけど

 

佐藤「それで早速なんだけど、話いい?」

 

雪樹「ええ、先程の話です?」

 

佐藤「一応、気にかけてる人が居てね。三船美優って言うんだけど。」

 

雪樹「あぁ、三船さんなら先日お会いしましたよ。片桐さんと話をして。多分大丈夫だと思いますが。」

 

佐藤「コラコラ、フライングはだめだぞ☆まぁ話通ってるんならいいんだけどさ。他にもはぁとが気にかけてる子はいるからまた今度連絡するよ。」

 

雪樹「ありがとうございます。助かります。」

 

佐藤「ところで、新しいプロデューサーは、飲む人?」

 

雪樹「飲む?お酒ですか?お酒は飲まない派の人ですよ、あとタバコ吸いませんね」

 

佐藤「飲まない人かー、まぁ仕方ないな」

 

雪樹「前職のときもお酒の席はいつものジンジャーエールかただの炭酸水で済ませてました。」

 

話をしていると、三人が戻ってきた

 

神谷「あー、今日も疲れたよー。」

 

安部「今日もハードでしたねー、」

 

荒木「でももうそろそろッスからね。ハードなのも仕方ないッスね。」

 

雪樹「三人ともお疲れ様。」

 

神谷「プロデューサー怪我してるのに残ってくれてたんだ。」

 

雪樹「ちひろさんが早めに帰りたいって話だから残っておかないといけないと思って。鍵貰っておくよ。」

 

安部「帰りはどうされるんですか…?」

 

雪樹「まぁ、タクシー捕まえるよ。それか電話でタクシー呼ぶでもいいし。」

 

佐藤「ほらほら三人とも、遅くなる前に帰るぞ☆そのためのお迎えはぁとなんだぞ♪」

 

神谷「えっ、車ですか?」

 

佐藤「そそ、近くに停めてあるから。それじゃ、プロデューサーも気をつけろよな☆」

 

雪樹「ええ、お疲れ様です」

 

三人「お疲れ様です。」

 

4人がオフィスを出ていく。

まぁ、長居する理由もないし。

遅くなる前に帰ろう、

 

と、思っているとオフィスの扉が開く

 

雪樹「専務?どうかされました?」

 

美城「君、帰りは」

 

雪樹「そろそタクシー会社に電話する予定でしたが」

 

美城「私も今から帰るところだ、送っていくがどうする?」

 

雪樹「いいんですか?」

 

美城「構わない、ついでだ」

 

荷支度をして専務の車に乗る

帰り道を案内しながら話をしていた

 

雪樹「わざわざありがとうございます」

 

美城「怪我のこともあるからな。無理をされても困る」

 

雪樹「早く治るといいんですけどね」

 

美城「あと、感謝しておきたい。アイドルを、白菊ほたるを助けてくれて、ありがとう。」

 

雪樹「突然のことでしたし、状況的に私にも限界がありました、でも、私がどれだけ怪我しようと彼女達を護らなければならない、それは変わりありません。」

 

美城「それはプロデューサーとして、か」

 

雪樹「意地悪な言い方ですね。」

 

美城「冗談は苦手か?」

 

雪樹「苦手、というか好きになれないですね」

 

美城「君は自分の役目を全うした。そうだろう?」

 

雪樹「ええまぁ、言い方は酷いかもしれませんが、彼女達はプロダクションにとって商売の要です。無くてはならない。だから無碍にできない。人である以上感情もありますから、それも踏まえて丁寧に扱わないといけない。」

 

美城「一理あるな」

 

雪樹「ただ、それ以前に」

 

美城「それ以前に?」

 

雪樹「私はお人好しなので。」

 

美城「あぁ…そうだったな。見知らぬ少女を助けようとした挙句、アドリブ投げつけられてそれに難なく応える程だったと聞く、良くもまぁ平静を保ちながらなりきれたものだと感心する」

 

雪樹「まぁ、それがこの結果なのでしょう。」

 

美城「その結果でも君は生きている、頼もしい限りだ。」

 

雪樹「この有様でそんなこと言われましても。」

 

美城「逞しい、と言った方が正しいかな」

 

雪樹「そうですね、自分でも驚くほどです」

 

美城「さて、この付近だったな」

 

雪樹「はい、今日はありがとうございました」

 

美城「あまり無理はするなよ、私も手を回すのに限界があるが、必要なときは手を貸す。」

 

雪樹「そう思っていただけるだけでも心強いですね。努力します」

 

美城「ではな。」

 

車を降りて家に向かう途中

…またか。と思うことが起きた

 

山倉「おお、またあったな。」

 

雪樹「そうだな。」

 

話すこともないから帰る

 

山倉「え?それだけ?」

 

雪樹「それだけ」

 

山倉「ふーん、思ったよりつまらないな。なぁお前、仕事変えたって話聞いたんだよ」

 

まぁ…面倒だが相手するか

 

雪樹「それで?」

 

山倉「それで、俺の知り合いがさ、最近やらかして捕まったんだよね。」

 

…イヤな予感だな。

 

山倉「タイミングが合いすぎてさ。」

 

雪樹「俺が何かやったとでも?」

 

山倉「いや…何かまどろっこしいのは面倒だわ。」

 

そう言うと鞄からナイフを持ち出してくる

何とも…最近はよく狙われるもんだ

 

雪樹「なんだ、また逆恨みか…ほんといい加減にしてくれよ」

 

山倉「お前、アイドルプロデューサーなんだろ、あいつの後任なんだろ、せっかく推進してやってあいつ…プロデューサーになれたのに。」

 

雪樹「あれは、自業自得だぞ。話聞いてないのか。」

 

山倉「知ったことか。お前もあの会社も潰してやるんだ」

 

なぜかわからないが。

ものすごく。感情が沸々と湧き上がってくる

なんだろうか、これが憤りってやつだろうか

 

雪樹「やれるならやれ。やってみせろ。今ここで証明してみせろ。お前に他人が刺せるか?その後はどうする?人を殺してしまいましたごめんなさいか?あの会社も私が潰しましたごめんなさいか?考えているのか?」

 

山倉「そんなあとのことは知らねぇ。潰れてしまえすればいいんだよ!」

 

雪樹「ふざけるな!」

 

最近こういうことが増えた。

感情的になり過ぎる。

 

雪樹「お前も、あの赤原という男も何様のつもりだ!人を殺す?会社を潰す?馬鹿馬鹿しい!そんな恥ずかしい事をして誰が得をする!時間の無駄だ!」

 

山倉「…なんでそんなキレるんだよ、お前そんな感情的だったか…?」

 

雪樹「ああ、俺は今ものすごく腹が立ってる、怪我してなかったら暴力でも奮ってたかもしれないくらい苛立ってる。まだなんかあるか?」

 

山倉「…ほんと。変わったな。」

 

ナイフを鞄にしまいこんだ。

やる気はなくなったみたいだな

 

雪樹「正直もうお前と会いたくない、二度と顔も見たくない。話しかけてくるな。」

 

山倉「昔みたいに隅っこにいる小動物かと思ったけど、そんなことはなかったか。」

 

雪樹「俺は帰る」

 

立ち尽くす男を放って家に向かった

 

 

翌朝、兄貴から紙切れをもらった。

 

 

あのストーカー事件

実は俺も関わってたんだ

自首するよ

 

 

おそらくあの男だろう。

 

今更どうでもいい…

思い出すのも嫌になる

 

タクシーでプロダクションに向かう。

 

オフィスに見覚えのない子がいる。

かなり、背が高い。

 

???「あんずちゃん、やっぱりいいよぉー…」

 

双葉「お、プロデューサーおはよー。」

 

ちひろ「おはようございます。プロデューサー」

 

雪樹「おはようございます。」

 

とりあえず鞄を机に置いて

ソファーに座って名刺を差し出す

 

雪樹「初めまして。新しくプロデューサーになりました。雪樹です。今後ともよろしくお願いしますね。」

 

諸星「諸星きらりです…えっと…」

 

名刺を受け取るもまだ不安そうにしている

以前聞いていた嫌がらせ、

相当酷く言われたのかもしれない

 

双葉「きらり、怖い?」

 

諸星「ちょっと。かなぁ」

 

雪樹「以前のことを思い出せてしまったかな。申し訳ない。」

 

諸星「あんずちゃんは新しいPちゃんを…どう思うの?」

 

双葉「えぇー?あんずに聞くのー?まぁ、なんというか。お人好しだよねー」

 

雪樹「まぁ、間違ってないと思う」

 

諸星「そっか、優しいPちゃんなのかな」

 

双葉「多分、あんず達が思ってるより、優しい人だと思うよ。初日から休まず連勤したり、誘拐された翌日も平気な顔してここに来るし、事故ってもこの通りだよ?」

 

雪樹「いや…少しやり過ぎかと反省はしてるから、それ以上は…」

 

ちひろ「すごい熱心ですよね。」

 

諸星「Pちゃんが頑張ってるなら、きらりも頑張って、Pちゃん応援しなきゃだね。」

 

双葉「そうそう。私の分まで頑張っちゃってよー。」

 

諸星「だーめ。あんずちゃんも頑張るの」

 

楽しそうに話す二人を見ると

また一つ役目を果たせたと実感する。

 

諸星「あれ?あんずちゃん大きくなった?」

 

双葉「ちょ、うわっ、持ち上げないでよー」

 

雪樹「まぁ、もう少し伸びるといいかもな」

 

双葉「もうプロデューサーも見てないで止めてよー」

 

諸星「でもでも、あんずちゃんはちいちゃいから可愛いんだもん。」

 

双葉「むぅー、私も好きで小さいわけじゃないぞー」

 

諸星「もぅ怒らないで、ごめんごめんー」

 

雪樹「凸凹コンビ、面白そうだね」

 

ちひろ「お二人のユニットありますよ? 」

 

雪樹「そうなんですね」

 

双葉「あんきら再結成かー。」

 

諸星「またあんずちゃんとお仕事出来るって思うと今から楽しみ!」

 

双葉「まぁ当分先かな、クリスマスと新年もあるし、プロデューサーもこんな怪我なんだから。」

 

諸星「そ、そうだよね。早とちりだったね。」

 

雪樹「申し訳ないね。」

 

諸星「そういえば、Pちゃんは…きらりの背がおっきいのはどう思うのかな…」

 

雪樹「どうって?身長が高いだけだと思うけど?」

 

諸星「本当に、それだけ?」

 

雪樹「背が高いとは聞いてたけど思ったより高かったかな、でもどうして?」

 

諸星「背が高いのは、アイドル向かないって言われて…でもそんなことないもんね」

 

雪樹「前任から言われたのかな、寧ろ得だと思うよ、印象に残りやすいし、目立ちやすいし注目されやすい。でもそれだけじゃ他にも背が高い人はいるから理由としては弱いかな。」

 

双葉「プロデューサー、それじゃ伝わりにくいと思うよ」

 

諸星「んゆ?どゆこと?」

 

双葉「きらりは背が高いから、怖がられてるんじゃないかって思ってるんでしょ。」

 

諸星「初めの頃は思ってたかなー。」

 

雪樹「怖がられない為に色んな工夫をしたから今があるんだと思う。」

 

双葉「きらりは衣装がとにかくかわいい系だねー」

 

諸星「可愛くデコってきらきらしてるほうがハピハピになれるよ?」

 

雪樹「そういう工夫を欠かさなかったから、背が高くても別に気にならないんだと思うよ」

 

双葉「もっと自信持っていいと思うよ、きらり」

 

諸星「あんずちゃんもPちゃんもありがとう!」

 

双葉「さて、私はそろそろ帰ろーかなー」

 

諸星「あんずちゃん、レッスンはー?」

 

双葉「ゔっ…きょ…今日くらいやらなくても…」

 

諸星「ほーら、次の舞台はきらりの分まで頑張るって言ったのあんずちゃんだよー」

 

双葉「え、えへへ…そんなこと言ったっけ…」

 

諸星「言ったよー、ほら自主練ついでに事務所に行こうって誘ったのあんずちゃんだよー、このままじゃ自主練がついでになっちゃう」

 

双葉「まぁそーだねー、ちゃんと練習しますかぁー、」

 

ちひろ「相変わらず、きらりさんの押しに弱いですね。」

 

雪樹「双葉さんも新年ライブの方に出るんだよね」

 

双葉「そーだよー、今日は他の子は予定があるから集まれないんだってさ、だから自主練。」

 

雪樹「頑張っておいで、ハイ鍵。」

 

双葉「それじゃ、行きますかぁー」

 

二人はオフィスを出ていった。

 

雪樹「うん、また一つ。」

 

ちひろ「良かったですね」

 

雪樹「ええ」

 

戻ってきてくれても。

どうだろう、満足してくれているのだろうか。それにまだ他の子も居るだろうし

目先の目標のこともある。

ライブに出る子達でまだ顔合わせもできていない人もいるし…

 

ちひろ「プロデューサーさん?どうかされました?」

 

雪樹「ああ、少し考え事してただけです、大丈夫ですよ」

 

ちひろ「お仕事のことであればわからないところがあれば言ってくださいね」

 

雪樹「はい、今は大丈夫です、ありがとうございます」

 

考えても埒がない。一つずつかな

 

ちひろ「昼食行ってきますね」

 

雪樹「はい、僕はお弁当があるので残ります」

 

社員食堂に行くのかな

足に自由が出来たら今度行ってみよう

 

食事を済ませて、新年ライブに出る子達のプロデュースノートを眺める。

ある程度は情報収集ができるだろう。

 

雪樹「様々な子達が居るな。」

 

総勢24人

城ヶ崎姉妹に先日の6人、それに双葉さん。

この前顔を合わせた三人、島村さんに渋谷さんと本田さんだったか。

佐藤さん、早苗さんと三船さんも出る。

それ以外の子はまだ顔を合わせていない。

あと9人か。

 

三船さん、怖がっていたけどライブに支障が出ないか心配だな。ソロ曲もあるから

充分にフォローしてあげないとな

 

考えてみるとあと9人

なんとか出勤にあわせて顔合わせできるといいけど。

 

考えに呆けているとオフィスの扉が開く

 

???「おう、ここに来るのは久しぶりじゃな」

 

今の今、写真を見た子だ。

 

???「そこに座っとる言うことは、お主が新しいプロデューサーで間違いはないな?」

 

資料で見た時に思い浮かんだイメージに近いかな

 

雪樹「はい、僕が新しいプロデューサーの松谷雪樹です、以後よろしくお願いします」

 

村上「おう、村上巴だ、礼儀はしっかりしておるようじゃな。感心する」

 

雪樹「礼儀?えっと、」

 

村上「ああすまん、自然と比べてしまってな、気にせんでいい」

 

雪樹「前任…ですね」

 

村上「まぁそういうことじゃ、おらん者の話をしても無駄じゃ。この話は終わるぞそれより聞きたいことがあるが…」

 

雪樹「ええ、どういったことでしょう?」

 

村上「お主、本当にその怪我で迎えるつもりか?」

 

心配されている訳ではなさそうだな。

正直この子はまだ中学生だとはいえ

この子の家柄の事情を知れば下手な返しはできないだろうし。

まぁ、それでも言うことは一つか

 

雪樹「それが今僕にできることですから」

 

村上「自分の置かれている環境と状況は充分に理解して居るな?」

 

雪樹「もちろん、今更逃げ出すことなんてしません。この怪我も目先の目標も私がこれまで成してきた事の顛末ですから受け止めています」

 

黙り込んでこちらをずっと凝視してくる

やっぱり試されてるんだろうな

こんな子供に…とは思うけど

普通に考えてこんな怪我人がプロデューサーなんて心配だし聞いて当たり前のことか

 

村上「…その言葉に嘘はないと感じた。」

 

雪樹「ありがとうございます」

 

村上「なにより、歳下に丁寧な対応しとる時点で桁違いな覚悟なのは感じ取れた。」

 

雪樹「そうですか、ただの癖なんですけどね。」

 

村上「悪くないと思う。それでもう一つじゃ、新年ライブのことでな」

 

雪樹「ええ、丁度リストを眺めていたところです。」

 

村上「うむ、わしも出演する、ユニットとしてだが、当日はよろしく頼むぞ、流れが決まっているとはいえ、プロデューサー殿の言葉も皆に勇気を与えてくれるもの、無くてはならないもの。」

 

雪樹「無くてはならないもの…わかりました、その言葉忘れずにいます」

 

村上「話はこれまでじゃ、今日はレッスンルームがフリーと聞いているのじゃが、使用許可は降りるだろうか、ユニットでの練習がしたくてな、トレーナー殿には声をかけてある」

 

雪樹「それなら、双葉さんが自主練してるから直接聞いてみて、午前中からいるからもしかしたら変わってくれるかも。」

 

村上「うむ、承知した。」

 

ドアノブに手をかけたまま止まっている

 

雪樹「どうかしました?」

 

村上「すこし、ゆっくりしてからにする」

 

口調が変わった?

 

雪樹「ユニットで練習ですよね?」

 

村上「他の二人はもう少ししてから来るからまだいい。」

 

少し表情が暗くなったか…?

何かあったのだろうか。

 

雪樹「…その感じだと。何かありましたね」

 

村上「まさかいきなり緩むとは思わなかった…」

 

あれだけ威厳を見せていたとしても、

まだ子供だからね。

 

雪樹「話してスッキリするなら、幾らでも聞くよ」

 

村上「…もうここに来れないと思ってた…前任と散々言い争って出入りを許されなくなって…アイドルとして何もできず…若い衆に話をすればこのプロダクションがどうなるか…それも心配だった。」

 

雪樹「それだけ、ここがかけがえのないものだったんだよね。」

 

村上「そう…最初は親に勝手にオーディションに出されただけ…でもあの人がうちを全力でサポートしてくれたおかげか、楽しかった、とても有意義に感じた。いつの間にかアイドルと言うものが自分の中で変わっていた。感謝してもしきれないほど。あの人に恩返しがしたい。」

 

雪樹「冬斗さんだね。」

 

村上「居なくなってしまって寂しいとは言えなかった。一人のアイドルとして他のアイドルやあの人と共に歩めたのはとても嬉しく思っていた…だから…ここに来れなくなった時…全て終わってしまったような感覚になった…とても耐え難く…苦しかった」

 

雪樹「今こうやって、事務所に来られるのも一つの奇跡かもしれないね。」

 

村上「プロデューサーには感謝しかない…あと…さっきは…ごめんなさい…というべきか…」

 

雪樹「謝らなくていいよ、普通に考えてこんな怪我人が仕事してるなんて知ったら心配されて当たり前のことだから。僕も少し度が過ぎてる自覚はある。」

 

村上「ならなんで」

 

雪樹「お人好しだから」

 

村上「お人好し…あの人と同じ」

 

雪樹「僕は魔法使いではないよ」

 

村上「うむ…話して見るものじゃな!こう、モヤモヤしたものがあってな。それも消えた。スッキリする!」

 

雪樹「それはなにより。」

 

村上「改めて感謝する。いずれ恩返しをさせてもらう。」

 

雪樹「こちらこそありがとう。恩返しは別に構わないよ。」

 

村上「それでは、連絡も来ていたしレッスンルームに向かうとするか。」

 

雪樹「頑張っておいで」

 

ドアを開けて手前でまた止まる

振り向いて一言言い放つ、

まるで輝くような笑顔で

村上「世話になったな!」

 

見届けると、また、静かな空間が広がる。

 




まだしばらくは事務所内のお話のつもり。

クリスマスのお話と新年ライブのお話

一応新年ライブの出演メンバーや曲なども全て決まってますが
本編中に公開予定ですのでお楽しみに

誤字脱字等あれば報告お待ちしております
また会えたら会いましょう


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目的の道筋、僅かな進歩

お久しぶりです。

新年ライブ等の準備等の話

どうぞごゆっくり


 

村上さんがオフィスを出たあと、プロデュースノートで出演アイドル達の曲などを調べていた。

 

雪樹「いくつかCMで聞いたことあるかもな。」

 

聴いてみないとわからないが

見覚えのある名前はいくつかある。

 

一応。プロデュースノートと一緒に全部揃えてあるようだから、パソコンで聴けなくはない。

 

雪樹「試しに。」

 

アルバムの物を一つ手に取り、今回のライブの曲を選んで再生する

 

【Great Journey】

 

雪樹「素晴らしい旅、良い題名だね」

 

歌詞と曲調がうまく合さっていて聴いていてとても楽しい、曲の歌詞が三人の特徴にあわせてあるような感じがする。

 

雪樹「ちょっと楽しみになってきたな。」

 

以前は知り合いに誘われて付添いで行ってただけのライブ。

まさか、プロデューサーとして会場に行くことになるとは思わなかったが。

 

雪樹「会場が近くて助かったな…」

 

遠い場所の場合、最悪欠席してたかもしれない。その場合は…いや考える必要はないな、

 

聴き終えたCDを棚に戻し

貰った資料から当日の流れを確認する。

 

雪樹「休憩を2回挟むんだな。片方は僕がアナウンスするのか。一応確認しておかないとな」

 

アナウンス用の台本も用意してあるようだ

会場の放送室でのアナウンスだから最悪台本持ちながらでも問題はなさそうだ。

 

見た感じ舞台に出て挨拶するのは一度だけ

その時はどうしようか。

 

雪樹「車椅子か…松葉杖か…」

 

ちひろ「新年ライブのお話ですよね。無理して出られなくてもいいと思いますよ。当日は私もいますから」

 

ちひろさんが戻って来ていた。気づかなかった

 

雪樹「いいんですかね」

 

ちひろ「どうしてもというのであれば止めませんが。」

 

雪樹「その時の状態によりますかね」

 

ちひろ「でもその前にクリスマスの劇もありますよね。」

 

雪樹「クリスマスの方は順調かな」

 

クリスマスの予定も加味して予定を組み始める。

 

もう11月も終わる。

そろそろクリスマスの劇の方もリハーサルの仕上げにかかっているだろう。

 

雪樹「1度、劇のリハーサルを見に行かないとな」

 

ちひろ「三人とも、頑張ってますよ」

 

雪樹「ええ、楽しみです」

 

資料をもとにリハーサルの日付を確認して、予定に組み込む。

 

ちひろ「プロデューサーさんは、本当に熱心ですね。」

 

雪樹「え?そうですか?」

 

ちひろ「大変だと思いますし、実際、その状態でお仕事なんて辛いと思いますが、楽しそうにしてますよね。」

 

言われてみれば…怪我のことが頭から離れていた。

 

雪樹「確かに、今思うと楽しいかもしれないです」

 

ちひろ「楽しんでいただけてるなら安心してサポートできますが。身体のことだけは無理されないでください。」

 

雪樹「ありがとうございます」

 

予定を考えていると、オフィスの電話が鳴る。

 

ちひろ「私でますね。」

 

誰からだろうか。

 

ちひろさんの会話を聞いた感じでは

おそらく事務所のアイドルだろうとは思う

 

ちひろ「このあと、アイドルの子達が来るみたいなんですが。今ってレッスンルームって空いてなかったですよね。」

 

雪樹「午前に双葉さんが使ってて、さっき村上さんがユニット曲の練習をするって向かっていますが、まだどちらも戻ってきてないですね、どちらかはオフィスに寄らずに帰ったかもしれませんが。鍵は返ってきてないです。」

 

ちひろ「わかりました。」

 

レッスンルームと言うことは、

新年ライブに出演する子達だろう。

電話を終えたようだ。

 

雪樹「皆さん積極的ですね。」

 

ちひろ「あと1ヶ月しかないですからね。レッスンルームが空いていれば使いたくなると思います。」

 

雪樹「まぁそれもそうか。」

 

ちひろ「レッスンルーム、どうしましょう」

 

雪樹「少し時間を空けてからの方がいいかもしれませんね。時間決めて交代してもらうとか。オフィスで待ってもらうくらいは大丈夫ですし」

 

ちひろ「そうですね。」

 

予定を考えているとオフィスの扉が空き

双葉さん達が戻ってきた

 

双葉「あ~、暖房暖か〜い」

 

諸星「あんずちゃんおつかれ〜」

 

双葉「きらりも久々で疲れたんじゃない?」

 

雪樹「二人ともお疲れ様。」

 

ちひろ「お疲れ様です。レッスンルームはどうされました?」

 

雪樹「村上さん達は来たかな」

 

双葉「来てたよ。交代してきた。まぁレッスンルームいても意味ないしどうせならオフィスでゆっくりしてから帰ろうと思ったんだよ〜、暖かいし。」

 

諸星「久しぶりに踊って楽しかった☆」

 

双葉「ライブ出るわけじゃないのにね。」

 

諸星「隣に一緒に踊ってくれる人がいたほうが。やりやすいと思ったんだよー。」

 

双葉「わざわざありがとうねー。」

 

雪樹「お茶出そうか」

 

諸星「Pちゃん怪我してるんだから、きらりに任せて♪」

 

手際よくお茶を淹れてくれた。

慣れた手つきなのを見た感じ、以前も普段からみんなに配ってくれてたんだろうか。

 

諸星「Pちゃんとちひろさんもどーぞ♪」

 

ちひろ「ありがとうございます」

 

雪樹「すまないね、ありがとう。」

 

諸星「ほらあんずちゃんも」

 

双葉「熱すぎても飲めないよー?」

 

諸星「大丈夫、大丈夫」

 

一息ついた感じがする。

落ち着いて温かいお茶を飲むのはいつぶりだろうか。

 

双葉「プロデューサーはどう。やっていけそう?」

 

雪樹「ああ、頑張るよ」

 

双葉「別に頑張らなくてもいいと思うけどねー」

 

諸星「あんずちゃんまたそういうふうに言ってー。」

 

双葉「頑張るって言ったって明確に頑張ることがないのに、何を頑張るの?あんず達は踊りや歌があるけど、プロデューサーは営業して私達を送り出して。資料纏めるだけだよね」

 

雪樹「そうだね、努力、ではなくて義務だね。」

 

双葉「そうそう、それがやっていけそうかどうかだよねー」

 

雪樹「確かに今の現状だと怪我のせいもあるけど満足にはこなせない。でも少しずつ手を伸ばしていこうとは思ってるよ。」

 

ちひろ「まだ来て間もないんですから。そこまで深く考えなくても大丈夫ですよ。」

 

双葉「まぁのんびりやろうよ。のんびり」

 

諸星「あんずちゃん、そろそろ帰ろっか」

 

双葉「やっと帰れるよー、ゲームしたい、ゲーム。きらり家までおんぶしてよー」

 

諸星「レッスンのご褒美にアメちゃんも上げるから、ほら立って。」

 

双葉「アメちゃんは食べる。仕方ないなー」

 

雪樹「二人ともお疲れ様。気をつけてね」

 

ちひろ「お疲れ様です」

 

二人がオフィスに出ていったあと。

 

ちひろ「双葉さん。余程プロデューサーさんの事が心配なんですね。」

 

雪樹「まぁ、心配されますよね。」

 

ちひろ「遠回しでしたね。」

 

雪樹「それでも伝わりました、大丈夫です」

 

心配されてばかり。

当たり前か…でもその分期待もされているだろうから、しっかりやっていかないといけない。

 

???「お疲れ様です!カワイイボクがきましたよ!」

 

???「お疲れ〜、お久しぶりの事務所やねー」

 

???「お疲れ様です。新しいプロデューサーさん。」

 

雪樹「君達がさっき電話をしてくれた子達かな。初めまして。雪樹と言います。今後共よろしくお願いしますね。」

 

輿水「ボクは輿水幸子です!やっと事務所が戻りましたね。事務所に集まれないと色々と大変なんですよね」

 

相葉「私は相葉夕美、ライブのレッスンに来たついでに挨拶に来ました。」

 

塩見「あたしは塩見周子。みんなからは周子ちゃんとか呼ばれとるから気軽に呼んでや〜」

 

輿水「それにしても、怪我大変ですよね。大丈夫なんですか?」

 

雪樹「大丈夫かどうかって言われたら、大丈夫とは言うけど。普通に見たら大丈夫じゃないんだよね。」

 

塩見「話には聞いてたけどやっぱ大変なんちゃう?歩くので手一杯やろう?」

 

雪樹「とは言っても、やるべきことはやらないといけないから」

 

相葉「その状態なのにしっかり仕事に向かってる姿勢がすごいと思います。私なら逃げてしまいそう…」

 

周子「そやね〜。頑張る姿勢はしっかりしとるかな〜」

 

輿水「実際骨折するとこうなるんですね…」

 

雪樹「良いこと無いからね。」

 

輿水「ほんと…バンジーといいジャングルのお仕事といい、何も無く終わってたのがよかったと痛感しますね。」

 

雪樹「輿水さんは大変な仕事をよくしてたってさっき資料で見たよ…ともかく、三人ともよろしく。レッスンルームの件なんだけど。村上さん達が使ってるかもしれないから相談してほしい。」

 

輿水「そうでしたか。それならそれで一緒でもボクはいいんですが。お二人はどうしますか?」

 

塩見「構わないよ〜」

 

相葉「その方がお互い確認しやすいと思うからいいかもね。」

 

輿水「それなら、行きましょう。」

 

雪樹「行ってらっしゃい」

 

塩見「プロデューサーも無理せんようにねー」

 

三人はオフィスを出てレッスンルームに向かった。

 

新年ライブまでの大体の予定は決まったが。

それ以降はどうしようか。

 

ちひろ「プロデューサーさんはどうしてそこまで仕事に執着されているんですか?」

 

雪樹「はい?執着してるように見えますかね。」

 

ちひろ「ええ、なんというか。必死そうなところがたまに見えます」

 

雪樹「そうですか。」

 

ちひろ「やっぱり無理してますよね。」

 

雪樹「無意識に無理してしまってるのでしょうね」

 

ちひろ「新年ライブ終えたあとはどうされるんですか?」

 

雪樹「それを、丁度考えていたところなんですよね。」

 

ちひろ「お休みされてはどうでしょう。怪我が治るまで、先日の病院で入院して、退院できるくらい回復するまで。」

 

怪我を治してからでも、悪くはないか

 

雪樹「そうですね。そうしましょう」

 

専務に一応報告だけするべきだろう。

 

雪樹「少し出ますね。専務と相談してきます。」

 

ちひろ「呼びましょうか?」

 

雪樹「いえ、僕が用事があるわけですから。自分で行きます。」

 

ちひろ「足元、気をつけてくださいね。」

 

オフィスを出て専務のところまで向かう途中

 

美城「どうかしたかな」

 

雪樹「専務、丁度よかった、一つお願いがありまして。」

 

専務「立ち話は無しだ、君のオフィスまで行こう。」

 

オフィスまで戻ることになった。

 

ちひろ「専務、お疲れ様です」

 

専務「ああ、お疲れ様。それでプロデューサー、話とは。」

 

雪樹「新年ライブ以降の予定に関してなんですが。」

 

専務「来年の話をすると鬼が笑うというが、一応聞こう。」

 

雪樹「怪我のこともあって新年ライブを終えたあと、再度入院して怪我の治療に備えたいと思ってます。」

 

美城「なるほど、それは必要だと思うが、その期間の指示はどうする、営業やライブの予定など、何もなしにするわけには行かないぞ。」

 

雪樹「そこで一つ提案で、リモートで何かしらの営業活動はできないかと思ったんです。パソコンでの面談やメールのやり取りで打ち合わせなどができるでしょう。会社のパソコンを持ち出す訳には行かないので、資材の用意はこちらの自費でなんとかします。直接病院まで来て相談でも構いませんが。」

 

美城「完全に穴が空く訳ではないなら構わない。アイドル達が事務所に来たときのフォローは千川でも適任だろう。」

 

雪樹「ありがとうございます。」

 

美城「具体的な期間は提示してくれなくていい、キミが復帰するときまた連絡してくれ。」

 

雪樹「わかりました」

 

美城「あとは何かあるか、思い当たることがあれば今聞いておくが。」

 

雪樹「あとは…特に、何かあればまたの機会に相談させていただきます」

 

美城「わかった、それでは失礼する。」

 

専務がオフィスを出ていったあと、自分の机に戻る。

 

ちひろ「良かったですね。リモートでの面談うまく行くでしょうか」

 

雪樹「資材は家にあるものでどうにかなりますし、アイドル達がリモートでの面談や相談が可能かどうか、できなければちひろさんにお願いするかもしれませんが、まぁ先程の通り、病院まで来てくれても構いません。」

 

ちひろ「私もできる限り協力はしますね。」

 

雪樹「ありがとうございます。」

 

劇もそろそろリハーサルを本格的に進めているだろうし。

 

雪樹「一回は劇の方のリハーサルを見に行くかな。遠い場所ではないし。」

 

ちひろ「バスで行けるところでしたね。お一人で大丈夫ですか?」

 

雪樹「なんとかします。タクシーでもいいですし。ちひろさんは事務所をお願いします。」

 

ちひろ「わかりました」

 

雪樹「時間もあるし、レッスンルーム行ってきます。」

 

ちひろ「はい」

 

レッスンルームにつくと休憩をしていたようだった。

 

雪樹「みんなお疲れ様です」

 

橘「プロデューサーさん。お疲れ様です」

 

麗「お疲れ様です。プロデューサー殿」

 

雪樹「順調かな。うまく進んでる?」

 

輿水「何度か公演で踊っていますし、新しくアレンジする部分もあるとはいえ、滞りはありませんね。今日は少し確認するだけなので終わりにしようか相談してました」

 

雪樹「そうなんだね。」

 

塩見「プロデューサーは歌とか踊りは好きなん?」

 

雪樹「体動かすのは苦手だから踊りは無理かな、」

 

相葉「プロデューサーさんって、普段どんな曲を聴くんですか?」

 

雪樹「聴く曲かー。アイドル系の曲は最近聴くようになったね。知り合いにおすすめされたりとかするし。他はアニメ系とかゲーム主題歌のものとか。歌番組とかに出るようなアーティストさんの曲は、あんまり聴かないね」

 

櫻井「偏りはあまり少ない方ですのね」

 

村上「手広く聴くのも悪くない」

 

輿水「巴さんは演歌が多かったですよね。」

 

村上「それこそ偏っておったからの。」

 

雪樹「偏っても良いと思うけどね。」

 

輿水「そういえば。不埒なCanvasのレッスンの後、以前のプロデューサーさんとカラオケ行ったことがありましたね」

 

塩見「ああ、そやったね〜」

 

相葉「周子さん黒髪のウィッグつけてたりしましたよね。あのときはびっくりしました。」

 

櫻井「新しいプロデューサーさんはカラオケには行かれますの?」

 

雪樹「昔は行ってたね。」

 

輿水「案外上手だったりするんですか?プロデューサーさん」

 

相葉「でも以前のプロデューサーさんもカラオケは好きとか言いながら、カラオケドッキリのときプロデューサーさん案外音痴だったよ?」

 

塩見「いやあたし達は歌うことが仕事だからね。比べちゃダメだよ〜」

 

輿水「比べなくても音痴だったと思いますけど…」

 

雪樹「まぁ、人並みには歌えると思うよ。」

 

塩見「アイドルの曲とか歌うん?」

 

雪樹「アイドルの曲は最近聴き始めたからわからないけど。カラオケとかでは歌ったことないかな。」

 

橘「アニソンとか、でしたっけ?」

 

雪樹「そうだね。機会があれば歌うよ。」

 

そろそろ戻ろうかな

 

塩見「歌ってるとこ見てみたいわー。」

 

村上「うむ、気にはなるな」

 

橘「きっと上手ですよ。」

 

相葉「アニソンかー、どんなのが好きなんだろう。」

 

輿水「ボクには劣りますよね!」

 

櫻井「それで?歌いますの?」

 

雪樹「え…?冗談だよね?」

 

塩見「どうやろ?」

 

麗「お前達、お願いするならしっかりしないとな」

 

歌うのは流石に…

 

雪樹「歌うのは流石にね…音楽もないし」

 

麗「音楽くらいスマホで調べればあるだろう。」

 

雪樹「いや、流石に遠慮しておきます。」

 

塩見「まぁ、今度カラオケ連れてってもらお。」

 

輿水「そうですね。そこでなら歌ってくれると思いますし。」

 

雪樹「どうしても歌わせたいんだね…」

 

橘「以前のプロデューサーさんはカラオケよく行ってたそうなのでそれで皆さんも行くようになったんですよね。私はたまにしか行かないですけど。」

 

雪樹「冬斗さんでしたっけ。」

 

塩見「そうそう、元からカラオケ行く子達は多かったけどねー、カラオケ大会とかやったりする時もあったらしいよ〜」

 

村上「皆よう歌いよる。流石アイドルってもんや」

 

雪樹「また今度機会があればね。」

 

麗「レッスンはどうする?」

 

輿水「今日は解散にしましょう。」

 

塩見「そうやね〜」

 

雪樹「オフィスに戻るかな。」

 

全員でレッスンルームを出る

トレーナーさんは途中で別れたが、他の子達はオフィスまで着いてくるようだ。

 

ちひろ「お疲れ様です」

 

雪樹「みんなお疲れ様」

 

橘「皆さんこのあとどうされますか?」

 

村上「学校の課題を終わらせるのに帰る予定じゃ」

 

塩見「まぁ帰ってのんびりするかなー」

 

相葉「私も帰ろうかな、お腹空いちゃった」

 

輿水「実はまだ宿題終わらせてないんですよね…」

 

櫻井「提出期限は大丈夫ですの?」

 

輿水「まぁ明後日までなので今日終わらせてしまえばいいのでまだ余裕はあるんです。でも早めに終わらせておかないといけないですよね」

 

櫻井「宿題は貰った日に終わらせておくのがいいと思いますわ。橘さんはどうされますの?」

 

橘「勉強道具も持ってきたので時間があれば誰かと勉強出来たらと思ったんですが…」

 

櫻井「それなら、少しお付き合いしますわ。プロデューサーさん、よろしくて?」

 

雪樹「遅くなりすぎなければ構わないよ」

 

橘「ありがとうございます。」

 

ちひろ「今日も先に帰っても大丈夫ですか?」

 

雪樹「いいですよ。」

 

ちひろ「ありがとうございます、お先に失礼しますね」

 

塩見「私達も帰ろっか〜」

 

ちひろさんとアイドル達は帰って行き

橘さんは勉強道具を広げ始める

 

僕のやる事は…今の所、特にない

 

まとめる資料も無いし。

予定はだいたい組み終わった。

声を掛けられている内容はあるが、

2つも予定を控えてるから新しく始めるわけにはいかない

夕暮れ時何か始めるわけにも行かないしな

 

手持ち無沙汰とはこのことか。

 

櫻井「プロデューサーさん?何か考え事でも?」

 

雪樹「あぁ、いや暇になってしまったなって。」

 

櫻井「そうでしたのね。プロデューサーさんは得意なことは?」

 

雪樹「得意なこと。んー…」

 

いきなり言われてもパッと思い浮かばないな。

 

雪樹「得意なことっていうのはあまり意識したことはないな。」

 

櫻井「歌は得意ではないんですの?」

 

雪樹「人並みかな。カラオケまた行ってみるかな」

 

櫻井「カラオケ、あまり縁がありませんわね」

 

雪樹「友達と今度行ってみるといいよ。」

 

櫻井「家柄の都合…そういう庶民的な娯楽には経験が疎くて、何か良い方法は…」

 

雪樹「事務所の子に連れて行ってもらおう。ほら、城ヶ崎の姉妹とか。」

 

櫻井「城ヶ崎さん…確かにお二人は詳しそうですわね。」

 

雪樹「何も畏まることは無いよ、知ってる曲で歌いたい曲を思うように歌うだけ。」

 

櫻井「知っていても歌える曲というのはなかなかに難しくなくて?」

 

雪樹「歌詞やリズムを覚えていればなんとかなるよ」

 

櫻井「歌ってみてどうかですのね」

 

雪樹「まぁ普段からどれぐらいその曲を聴いているかは関わってくるけど、実際に何度も聴いてた曲で初めて歌うものでも上手く行くことはあると思うよ」

 

橘「桃華さん。ここの問題のことで…」

 

櫻井「お伺いしますわ。」

 

二人が教科書に顔を向ける。

アイドル同士が仲の良いのは助かる

しばらくすると橘さんは勉強道具を片付け始めた

 

橘「今日はここまでやれば大丈夫です。桃華さんありがとうございます。プロデューサーさんもお待たせしました。」

 

せっかくだから二人にも聞いてみよう

 

雪樹「どういたしまして。一つ聞きたいことがあるんだけどいいかな。」

 

櫻井「どういったことでしょう?」

 

雪樹「前任のことについて。なんだけど。二人の友達とかであの人から特に酷いことされた子とか居ないかなって思って」

 

櫻井「そうですわね…特に酷いの言うのを絞っていうのはあまり気が進みませんわ。」

 

橘「敢えて言うなら…晴さんでしょうか…」

 

雪樹「結城晴さんかな。」

 

橘「でも、もういないなら気にしなくていいや、とか言って、この前事務所には来てましたよ。」

 

雪樹「そっか。それなら大丈夫だね。」

 

櫻井「他の方にもお話をお聞きしてますの?」

 

雪樹「うん、このプロダクションを少しでも戻したくてね。」

 

櫻井「熱心ですのね。」

 

橘「また何かあれば連絡します」

 

雪樹「ありがとう、二人とももう帰るよね。寮まで離れていないとはいえ。気をつけてね。」

 

橘「はい、プロデューサーさんもお気をつけて」

 

櫻井「お疲れ様ですわ」

 

二人がオフィスを出たあと

荷物を片付けて帰ることにした。

 




次回も新年ライブ関連のお話を続けるつもり。


また会えたら会いましょう。


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一つの壁

お久しぶりです

4ヶ月未満ほど、空いてしまいました

今回も事務所内のお話


 

タクシーを降り、家の前まで行くと軒先に見知らぬ男性がいた。

 

???「初めまして、貴方が346プロダクションの新しいプロデューサーさんですよね。」

 

雪樹「ええそうです。初めまして、新しいプロデューサーの松谷雪樹です。」

 

??「先日、ドラマの撮影でご依頼させていただいた者で斎藤と申します、大変なお怪我ですよね…お大事になさってください。」

 

雪樹「電話でお話させて頂いた方ですね、先日はありがとうございました。それと、当日の撮影に協力できず、申し訳なかったです」

 

斎藤「いえいえ、白菊さんから事故のことをお伺いしたときは会議どころの話ではありませんでした、真っ先に美城さんにご協力を求めた次第なので…仕事は大事ですが…何よりも人の命が一番大事です」

 

雪樹「専務が引き継いだとお聞きしました。お手を煩わせてしまって申し訳ありません。」

 

斎藤「いえ、こちらこそ引き受けて頂きありがとうございました。これは撮影班からの退院祝いです。まだまだ大変だとは思いますがこれからのご活躍を陰ながらお祈りしております」

 

雪樹「祝い物まで頂いてしまって、こちらこそありがとうございます。今度また案件があれば是非ともお声掛けください、ご期待に添えるよう努力致します。」

 

斎藤「ご協力感謝します。では失礼します。」

 

斎藤さんが帰り

家に帰ることにした。

 

雪樹「兄貴。これ退院祝いにもらったから」

 

お菓子と茶葉

 

期限の早いものはその場で食べることにした。

 

すごく美味しかった…羊羹

 

………

 

翌朝、いつも通りタクシーで事務所に向かった。

 

オフィスに着くとまた見覚えのない女性がいる。誰かの客人だろうか。

 

雪樹「おはようございます」

 

ちひろ「おはようございます、プロデューサーさん」

 

???「おはようございます、ふふ、貴方が噂の新しいプロデューサーさんですね。」

 

雪樹「はい、初めまして、プロデューサーの雪樹と申します。」

 

高垣「初めまして、高垣楓です。」

 

ちひろ「楓さんもうちのプロダクションのアイドルなんですよ。」

 

大人組の方。大人しそう方だな。

 

雪樹「そうでしたか。今後とも宜しくお願いします。」

 

高垣「こちらこそ宜しくお願いします。お怪我大変そうですね。」

 

雪樹「しばらくは杖で…なんとかなると思います。」

 

ちひろ「クリスマスの劇の練習で三人が来てましたよ。レッスンルームにいると思いますが。」

 

雪樹「そうでしたか。挨拶しに行って来ますね。」

 

オフィスを出てレッスンルームに向かう。

 

雪樹「3人とも頑張ってるね。」

 

森久保「あ…おはようございます…プロデューサーさん」

 

早坂「怪我してるのに歩いてて大丈夫なのか?無理するなよな。」

 

星「まぁまぁ、来てくれたんだし、見てもらおうよ。」

 

森久保「え…見せる…演技をですか…」

 

早坂「恥ずかしいことないだろー、それに本番はもっと多くの人で、しかも子どもたちも居るんだぞ、今のうちに見られる練習もしないとな」

 

森久保「あうぅ…」

 

早坂「ほらさっきのところからもう一度やるぞ」

 

森久保「わ、わかりました…」

 

三人は練習を始める。

一連の流れが終わり三人はお互いに意見を言い合っていた

 

星「プロデューサーは、どう思ったかな。」

 

雪樹「十分良いと思うよ。お互いに意見を言い合って、直していった結果なんだよね」

 

早坂「ウチはまだ物足りない感じはするんだよな…」

 

雪樹「それなら、時間はもう少ないけど満足行くまで、頑張ってみたら?」

 

森久保「美玲ちゃんのやる気が眩しい…」

 

雪樹「そう言う森久保さんもしっかり役を演じきれているよね。」

 

森久保「えへへ…はい…いっぱい練習したので。」

 

星「ぼののちゃん、最初の頃より、やる気、出てるな」

 

雪樹「いいことだね。」

 

三人はまた練習を始めた。

 

貰っていた台本通りセリフは問題なし、

演技も申し分ない。流石アイドル。動きも機敏でしっかりしている

 

聖「おや、プロデューサー殿。」

 

雪樹「おはようございますトレーナーさん、このあと、レッスンを?」

 

聖「ああ、もうそろそろ交代の時間なので」

 

雪樹「もうそんな時間なのか。」

 

聖「そもそも12時までは空きだったから三人が来たのだろうな。ライブも間近に迫っているのに、レッスンルームに空きがあるのは好ましい状態ではないが…」

 

雪樹「それは、仕方ないといいますか。なんとかしなければなりませんね」

 

聖「後始末もせずに消えた前任のせいといえばそうだが、彼女達を守れなかった私達にも責任はある。」

 

雪樹「これから、良くしていけばいいんです」

 

聖「そうだな」

 

話をしているとまた二人、レッスンルームに入ってきた

 

??「おはようございます。」

 

???「おはようございますでしてー」

 

雪樹「おはようございます、初めましてですね。新任のプロデューサーの雪樹です、よろしくお願いしますね」

 

依田「初めましてー。わたしくは依田芳乃と申しますー」

 

藤原「藤原肇です。よろしくお願いしますね。」

 

雪樹「二人も年始のライブのレッスン?」

 

藤原「はい。久々に芳乃さんと歌えるのでちょっと嬉しいです。」

 

依田「わたくしも肇さんとの再共演を待ち望んでおりました故、このような機会は嬉しく思いますー」

 

雪樹「そう思ってくれてるなら、良かったです。」

 

依田「お話はお伺いしておりましたが、お怪我の方はやはり」

 

藤原「早くに退院したって聞いたのですが…やっぱり大変そうですね。」

 

依田「早く治るよう。日々お祈り致しましょうー。」

 

雪樹「ありがとう。前任の件もあったと思うのに、優しいんだね。」

 

依田「そなたからは悪しきものは感じませぬ故、支えるべきと判断したのでしてー」

 

藤原「芳乃さんが言うなら、本当に大丈夫そうですね。」

 

雪樹「もし、僕がそうでない行動をしたら…?」

 

依田「今、そなたは申し訳なさそうに質問をしておりますー、意地悪は苦手でしてー?」

 

雪樹「すごいね、全部読まれてるよ。」

 

話をしていたら三人が練習を終えて戻ってきた

 

早坂「交代の時間か?」

 

聖「ああ、3人ともご苦労様。演技上手くなったな、期待しているぞ」

 

星「いっぱい練習したからね、へへ」

 

森久保「今日もいっぱい練習して…疲れました…」

 

早坂「本番は緊張もするからもっと疲れるかもだな、そのためにはもっと練習だ!」

 

聖「練習するのはいい事だが程々にな、疲れる過ぎては本番に成果を挙げられない。練習した後はしっかり休め」

早坂「そ、それもそうだな…しっかり休まなきゃな。」

 

雪樹「三人ともお疲れ様。事務所開いてるから。休憩しておいで」

 

森久保「はい。ありがとうございます。」

 

早坂「ウチ、甘いもの飲みたいぞ。」

 

星「自販機、寄ろうか。」

 

三人は挨拶するとレッスンルームを出ていく。

 

藤原「今度は私達ですね。」

 

雪樹「二人とも頑張って。」

 

聖「プロデューサー殿は残られますか? 」

 

雪樹「そろそろ昼食にするので。」

 

聖「わかりました、後はお任せください」

 

雪樹「はい、よろしくお願いします」

 

依田「お疲れ様でしてー」

 

藤原「お疲れ様です、お身体お大事にしてください。」

 

雪樹「ありがとう、それでは」

 

オフィスに戻ると高垣さんとちひろさんの姿がなかった、

 

雪樹「先にお昼ご飯に行ったかな」

 

お弁当を広げて食べていると

先の三人が戻ってきた

 

美玲「プロデューサー、お弁当なんだな」

 

雪樹「まぁ、足のこともあるから外食やコンビニは無理だからね、作ってもらってるんだ」

 

星「愛妻弁当だな、フヒ」

 

雪樹「愛妻じゃないよ、結婚してないし彼女も居ないから、おまけ弁当。かな」

 

森久保「おまけ…?」

 

雪樹「兄貴夫婦と同居しててね、兄の奥さんがついでに作ってくれてるんだ」

 

星「ついで弁当、だね。」

 

早坂「ついででも、作ってくれるのはいいよな。やっぱりコンビニとかよりも美味しいと思うぞ。」

 

森久保「手作り弁当…しばらく食べてないです…」

 

雪樹「学校だと給食とかあるから機会は少ないかもね。」

 

早坂「休みの日とかレッスンある日は、お昼はみんなでファミレスとかに食べに行くもんな。」

 

森久保「森久保はお弁当も好きです。」

 

星「ファミレスもいいけど。コンビニも美味しい。」

 

雪樹「案外、意見が合わないんだね…」

 

早坂「んー、でもそれはそれだな。別にそれで喧嘩することはないし。」

 

雪樹「そっか。お互い譲り合いもできてるならいいんじゃない?」

 

森久保さんと星さんが机の側来ていた

また机の下に行きたいのだろう

 

森久保「あの、プロデューサーさん。」

 

星「ぼののちゃん。同じこと考えてたね。」

 

雪樹「あぁ、えっと。ちょっとまって。」

 

食べ終わった弁当を片付け。椅子を引くと

二人は机の下に収まるように入っていった

 

森久保「やっぱりここが落ち着きます…」

 

星「暗くて、ジメジメ…ではないけど、落ち着くな」

 

早坂「二人ともそこが好きだよなー」

 

雪樹「あはは…まぁいいか…」

 

僕が慣れるまで時間はかかるだろう。

 

雪樹「ところで三人はご飯はまだなんじゃない?」

 

早坂「ウチはどうしよーかなー」

 

星「私は、おにぎりがある。」

 

森久保「森久保もパンを買ってきましたけど…」

 

雪樹「コンビニで買ってきてたんだね」

 

早坂「先に言ってくれればウチもコンビニで買ってきたんだけどなぁ」

 

星「今から、コンビニ行く?」

 

早坂「そーだなー、お腹減ったからなんか食べたいぞ。」

 

星「じゃ、行こう。ぼののちゃんどうする?」

 

森久保「あ、森久保は、ここで休んでいますので…どうぞお二人で。」

 

早坂「まぁコンビニ行くくらい無理に誘う必要ないしな。」

 

雪樹「行ってらっしゃい。」

 

二人はオフィスを出てコンビニに向かっていった。

 

雪樹「一緒に行かなくてよかったの?」

 

森久保「え?あ…えっと…はい…疲れてるので休憩しようと思って…」

 

雪樹「それもそうか。レッスンあとだもんね。」

 

森久保「今日は美玲ちゃんがいつもより張り切ってましたし、森久保も頑張りました。」

 

雪樹「そっか、慣れてる場所のほうがやっぱりやりやすいだろうからね。」

 

森久保「それもありますけど、多分、久しぶりに事務所のレッスンルーム使わせてもらえたからだと思うんです。最近はいつも舞台の上でしたから…」

 

雪樹「それだけ練習に打ち込めてるなら本番も大丈夫そうだね。」

 

森久保「はい。監督さんも満足してくれてるので森久保も自信持って頑張れるかなと思ってます。」

 

雪樹「うん。わかった、頑張ってね」

 

森久保「がんばります。えへへ」

 

森久保さんが本を読み始めたので

今後の予定について改めて見直していた

 

クリスマス劇のあと

新年明けて数日後にライブ。

 

その後は病院で長期療養。

 

クリスマスの劇までもう3週間ほど。

 

ライブ会場までの経路とかは全部調べてあるが、当日の欠席者のことなどを考えると。

色々まだ不安はある。

 

とにかく今はうまく行くことを願う一心。

 

色々思案しているとオフィスの扉が開いた

 

ちひろ「戻りました。」

 

雪樹「おかえりなさい。高垣さんは帰られましたか?」

 

ちひろ「はい、帰りました。それでどうでした?三人の方は」

 

雪樹「僕から特に言う事もなさそうです。問題はないと思いますよ。」

 

ちひろ「そうでしたか。それなら安心ですね。」

 

雪樹「気になってたことはほとんど解消しつつあるので。クリスマスも新年明けてのライブもあとは当日何も事故が起こらないのを願うばかりです。」

 

ちひろ「そうですね。無事に終わるといいですが。」

 

雪樹「何か気がかりなことでもあるんですか?」

 

ちひろ「前のプロデューサーさんはライブ本番の日でも平気で怒鳴っていましたから…雪樹さんがそういう方とは思えないんですが不安ではありますね…」

 

雪樹「なるほど。」

 

確かに本番にどうなるかはわからないが…

 

雪樹「間違ったことをすれば指摘はしますけど。無闇に怒鳴ったり叱りつけたりするつもりはありませんよ、本番に気分悪くされてはベストコンディションでいられなくなってしまいますから。」

 

ちひろ「そう思って頂いてるなら大丈夫そうですね。」

 

パソコンに向かって今後のことのメモを取りながら考える。

 

指摘自体は本番に限らない。

必要であれば私生活にも多少は干渉せざるを得ないことだってあるだろう。

その辺はよく考えないといけない。

 

本当に起きていないのか、知らされていないのかはわからないが、そこまでの話は今の所聞いていない。

 

ただ前任の件以降、事務所に来ていない子達はどうなのだろう。

事務所に来ることを拒む子達や、やめることを決意している子もいるかもしれない。

 

どうなるかはその時になってみないとわからないが、事務所絡みで何か間違ったことをしていないか、もしくは巻き込まれていないかどうかも心配だ

 

考え込んでいると、聞き覚えのない女性がいつの間にか目の前にいた

 

???「気づくのが遅いわ」

 

雪樹「あぁ、申し訳ない、僕は新しいプロデューサーの松谷雪樹です。今後よろしくお願いします」

 

???「ふーん…まぁいいわ、自己紹介くらいはまともにできるのね。」

 

雪樹「え?ええ、まぁ」

 

財前「財前時子よ、久々に来てあげたというのに貢物もないのね。早く出しなさい」

 

ちひろ「いま用意しますね。」

 

ちひろさんがお茶を用意している…

いや普通のことだとは思うんだけど、

いつもと雰囲気が違う。

なんというか、気品がある…

 

財前「それで、貴方から何か言うことはないのかしら?」

 

雪樹「僕からですか。うーん。」

 

仕事は特に取ってきていないし。

すぐに取れるものでもないからなぁ。

 

雪樹「気が済むまでゆっくりしていってください。」

 

財前「あら、私に指図でもするつもり?」

 

やっぱり気になる。違和感しかない

 

雪樹「あぁ、少しお待ちください」

 

財前「ふん」

 

……えっと、パッションアイドル…?

 

財前時子についてのプロデュースノートを一通り確認する…

 

(そういう人かぁ〜……)

 

本物のお嬢様であり、

サディストである。

 

根は優しく他のアイドルからの信頼は厚い。同時に他のアイドルを邪険にすることはなく、むしろ大切にしている。

 

なので、サディズムが発揮されるのは。

基本的にアイドル以外

 

……

 

…残念ながら。サディズムには全く興味はそそられないな。

 

僕はただの新人のプロデューサー

このプロダクションの復興を目指すだけ。

余計な性癖は要らない。

 

雪樹「お待たせしてすみませんでした。決して指図するつもりはありませんよ。」

 

時子「これだけ待たせておいて粗末な謝罪ね、お仕置きが必要かしら。」

 

雪樹「お仕置きは必要ありません、僕はただのプロデューサーですから、下僕でもなければ豚でもありません。真人間です。」

 

時子「あら、いい度胸ね。」

 

財前さんは立ち上がり腰に控えていたムチを構えた。

 

雪樹「言っておきますが、僕はそういったものに興味はありません。踏まれるのも罵倒されるのも見下されるのも不快に思う質なので。」

 

時子「この期に及んでまだ歯向かうわけ?」

 

雪樹「歯向かうも何も、僕はプロデューサーであなたはアイドル、それ以上でもそれ以下でもないでしょうから。」

 

ちひろ「時子ちゃん、今は抑えてくださいね」

 

財前「気に食わないわ。」

 

雪樹「…実害を加えるなら、警察沙汰になりかねませんがどうされますか。とりあえず傷害罪あたりは確定しますよ。それくらいは理解できますよね。」

 

財前「チッ…」

 

雪樹「そういうのは適材適所だと思いますよ。僕はあなたが知っていたプロデューサーではありませんから」

 

諦めたのかムチを仕舞い込みソファに戻った。

 

財前「一理あるわね、ふん、気に食わないけどまぁいいわ。」

 

ひとこと言い放ってお茶を飲み干し。オフィスを出ていってしまった

 

雪樹「次に財前さんが来るまでには、仕事用意しておかないとなぁ」

 

ちひろ「プロデューサーさん…屈強ですね…」

 

雪樹「アイドル相手に大人気ないかなと思っていたんですが、主導権を握られるわけには行かないんです。」

 

ちひろ「あの感じだと、どうでしょうか」

 

雪樹「わかってます、第一印象は最悪に捉えられてもおかしくありません。」

 

ちひろ「今後大変そうですね」

 

雪樹「それでも譲るわけには行きませんよ。」

 

森久保「あ、あの…プロデューサーさん」

 

雪樹「あ、森久保さん、さっきの会話聞こえてたよね、すまないね怖がらせてしまったかな。」

 

森久保「あ…いえ…プロデューサーさんはしっかりしてるんだなって…」

 

雪樹「自分の信念は曲げないようにしてるよ、真面目で中立的な人としてね。それでどうにもならないときは臨機応変に対応するようにしてる。」

 

ちひろ「さっきの財前さんのときは、ちょっと危なかったですね。」

 

雪樹「あれが最適とは言えませんが、僕がそういう人間ではないってわかってもらうのと、お互いの立場をわかってもらうためです。そもそも、怪我人をムチで打とうなんて、以ての外ですから。」

 

森久保「お怪我も色々大変ですよね…」

 

雪樹「これ以上酷くなるのは困るから。」

 

星「な、何かあったのか?」

 

早坂「ウチでもちょっと怖かったぞ…」

 

雪樹「二人ともおかえり。もしかして財前さんとすれ違ったのかな。」

 

星「あ、ああ…鬼の形相とまでは行かないが…」

 

早坂「遠くから見ても、すごく不機嫌そうだったな…」

 

雪樹「僕がちょっと言い争いみたいになってね。」

 

星「そ、そうか…あの人と言い争ったのか…」

 

早坂「もしかして言い負かしたのか…?」

 

雪樹「そんな感じになるのかな。」

 

星「あの人の性格的に…それは不機嫌になるかも…うん…」

 

早坂「挨拶も出来そうになかったぞ…」

 

雪樹「まぁね…」

 

二人がコンビニで買ってきたものを広げ始めると、森久保さんが机の下から出てきた。

 

早坂「乃々にも買ってきたからな。お菓子」

 

森久保「いつもありがとうございます、美玲ちゃん。」

 

早坂「あと。プロデューサーはコーヒーで良かったか?」

 

雪樹「あれ、僕の分まで、」

 

早坂「足怪我してて気軽に歩けないんだから。たまにはいいだろ?」

 

雪樹「わざわざすまないね。ありがとう、頂くよ。」

 

星「ちひろさんにも。あるぞ。」

 

ちひろ「お二人共ありがとうございます」

 

時計を眺めると。昼も終わりかけていたその時、またオフィスの扉が開いた。

 

……




そろそろ劇と年始ライブが終わりを迎えます
気長にお待ちください


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責任感という重り

お久しぶりです

今後もこんな感じの投稿ペースになると思います

主にプロデューサーのお話。



 

 

 

 

 

??「あ、あのこんにちは。」

 

??「そんな緊張することないよ。多分ね。」

 

雪樹「初めまして。事務所のアイドルの子達で、いいんだよね。」

 

小日向「はい、小日向美穂です、あの、新しいプロデューサーさんで、い、いいんですよね?」

 

北条「あたしは北条加蓮。よろしくねー」

 

雪樹「僕は新しいプロデューサーの松谷雪樹、今後ともよろしく。」

 

小日向「は、はい…えっと…よろしくお願いします」

 

北条「そんな怯えなくても大丈夫だよ、美穂。この人は、命がけでほたるちゃんを護った人なんだから。」

 

小日向「そ、そうですよね。うん。そうだね。」

 

雪樹「怖がらせてしまったかな。すまないね。」

 

小日向「い、いえ!初めて会うから少し緊張してたのもあるので…」

 

北条「プロデューサーとしているってことは、話は聞いたかもしれないけど美穂もね、前任の件の被害者なんだ。」

 

雪樹「前任の件の話は美城さんから聞いてるし、無理なことは言わないつもりだよ。以前のように振る舞っていてくれたらそれでいいかな。」

 

北条「あたしはあんまり相手にされなかったけど。他にも結構居たからね。」

 

小日向「安心していいんですよね…」

 

北条「まぁ、今の所はね。」

 

雪樹「しばらくは疑心暗鬼かもしれないけどそれでもいいから。アイドルのお仕事を頑張って、困ったこととかあればそのときは相談に乗るよ。」

 

早坂「プロデューサーって、他人に優しいのに自分のことはそっちのけなとこあるんじゃないか?」

 

雪樹「えっと、そんなにかな」

 

早坂「そもそも、そんな怪我してて大変だろ?色々頑張り過ぎだぞ。ウチらより頑張ってるように見えるもん。」

 

星「確かに、言えてるかもな、フヒ。」

 

森久保「頑張ってるというより…無理してるようにも見えるんですけど…」

 

雪樹「そうかな。」

 

北条「無理は良くないかもだけどじっとしてられないんでしょ。体弱くて長い間入院してたことあるから、なんとなくわかるよ。」

 

雪樹「まぁ、じっとしてられないのはそうかな」

 

早坂「それでも無理し過ぎだと思うぞ」

 

ちひろ「まぁまぁ皆さん、プロデューサーさんも頑張っているんですから。」

 

小日向「熱心なんですね。」

 

雪樹「なんか、ことあるごとにこの話題してる気がするな。」

 

ちひろ「皆さん心配されてますから。」

 

雪樹「まぁ、この状態だとそうか」

 

森久保「もりくぼは…常にがんばるなんてむりです…」

 

北条「無理してでもあたし達の為に頑張ってくれてるんでしょ、あたしは嬉しく思うよ」

 

雪樹「そう言ってもらえると、ありがたいよ」

 

北条「プロデューサーが居ないままじゃお仕事も少ないし、専務も仕事がままならないでしょ。」

 

雪樹「任せっきりにするわけにはいかないからね。」

 

北条「プロデューサーの事が心配なのはあたしも一緒だけどさ、それでも頑張ってるんだからあたし達も頑張らなきゃ。」

 

小日向「私達も無理しない程度に、ですね」

 

北条「そうそう、無理は良くないからね。」

 

雪樹「ありがとう。」

 

北条「さて、交代の時間まではしばらくまだ時間あるけど、どうしよっか。」

 

雪樹「以前みたいにくつろいでいっていいからね。」

 

北条「まぁ、冬休み明けのためにちょっと勉強でもしようかな」

 

二人がソファでくつろいでいると、

見知った顔の人がオフィスに来た。

 

佐藤「おつかれー☆もう二人とも来てるな☆」

 

雪樹「佐藤さん、お疲れ様です。」

 

佐藤「プロデューサーもお疲れ様、あんま無理すんなよー。」

 

雪樹「まぁ、しばらくは松葉杖は手放せそうにないよ。」

 

ちひろ「3人ってことは、あの曲ですか」

 

佐藤「そうそう。久々にねー」

 

北条「それじゃ、時間も近いしそろそろ行こっか。」

 

小日向「そうですね。」

 

佐藤「そんじゃ、行ってくるぞ♪」

 

雪樹「頑張って」

 

3人が出て行く

 

早坂「ウチ、そろそろ帰ろうかな」

 

森久保「そうですね、宿題もありますし」

 

星「そうだな、帰るか」

 

雪樹「3人とも、お疲れ様。」

 

早坂「お疲れ様ー」

 

森久保「お疲れ様です。」

 

星「ふひ、お疲れ様。」

 

3人がオフィスを出ていくのと同時に、

依田さんと藤原さんが戻ってきた。

 

依田「お疲れ様でしてー」

 

雪樹「二人ともお疲れ様。どうだった。」

 

依田「とても良き時間でありましたー」

 

藤原「本番が楽しみですね。」

 

雪樹「有意義な時間になったなら良かった。」

 

藤原「本番の日はプロデューサーさんはお休みされるんですか?」

 

雪樹「いや、行くよ。絶対とは言えないけど。行くつもり」

 

依田「無理なさらぬよう、今は安静にするのが良いかと。」

 

雪樹「そうだね。無理はしないでいるよ。」

 

ちひろ「お話のところすみません、少し離席しますね。」

 

雪樹「はい。お気をつけて」

 

藤原「私達も帰りましょうか」

 

依田「はい〜。それではプロデューサーさんもお疲れ様でして〜」

 

藤原「お疲れ様です」

 

雪樹「お疲れ様」

 

さて、どうしようかな。

まだ夕方前。

帰るにはまだ早いし。

事務仕事も今日の分は終わってしまって

専務にメールで任せられた過去の営業報告業務とかもほとんど終わってしまった。

 

とりあえず。ゆっくりして待ってようかな

 

雪樹「最近は、携帯電話の通知を見る機会も減ったな。」

 

気がつくと溜まりに溜まっていた

以前はやっていたカードゲームのグループチャットや、ゲームの方も。最近は連絡も取っていない。

 

懐かしいなと眺めていると、眠たくなってくる。

 

雪樹「1時間ほど…仮眠を取るか…」

 

タイマーをかけて。座ったまま寝ることにした…

 

…………

 

???「おーい、プロデューサー、そろそろ起きろー」

 

雪樹「うん…?ああ、佐藤さん、起こしてくれてありがとうございます」

 

佐藤「もう19時だぞ、仮眠にしては長いぞ♪」

 

雪樹「アラームつけてあったのに…」

 

佐藤「ちひろさんもう帰ったから、プロデューサーももう帰るだろ、送っていくよ」

 

雪樹「他の子達は…」

 

佐藤「とっくに帰ってる。送ってあげるためにわざわざ戻ってきてやったんだぞ☆」

 

雪樹「ああ…そうか…ありがとう、仕度するよ。」

 

荷物を片付けてオフィスを出て

歩きながら佐藤さんと話をする

 

佐藤「仮眠のつもりが熟睡になったなんて、それほど疲れてるわけだから、大丈夫じゃないでしよ、誰かに相談してる?」

 

雪樹「残念ながらそういう間柄の知り合いはいないんで。全部抱え込みですよ。」

 

佐藤「まぁ、そうじゃなきゃそこまで無理しないか。」

 

雪樹「無理するのは慣れてますからね」

 

佐藤「でも本当にだめなときは誰かに相談しないと、取り返しのつかないことになるぞ。わかってるよな」

 

雪樹「まぁ、取り返しのつかないことになったことは、今のところありませんが、気をつけてはいます」

 

佐藤「だから相談しろってこと、プロデューサーって、無理すんなって言っても無駄なタイプの人間だろ、」

 

雪樹「まぁそんな感じです」

 

佐藤「頑張ってくれてるのは頼りになるけどさ、無理して疲れすぎて倒れるのだけは、勘弁だからな、そこんとこわかっておけよ。」

 

雪樹「はい、」

 

佐藤「助手席、乗っていいから」

 

佐藤さんの車に着いた

 

雪樹「色々ありますね。ぬいぐるみも、看板?もほんとにいろいろ」

 

佐藤「よくアイドルの子達が出掛けるのに車出して上げてるからな、お礼だって置いていってるんだとさ。」

 

雪樹「返したり片付けたりしないんですか?」

 

佐藤「別にいいんだよ。それだけはぁとが感謝されてるって思ってる。返すのも申し訳ないじゃん?」

 

雪樹「それもそうですね」

 

佐藤「着いたぞ、あとは大丈夫?」

 

雪樹「ええ、ありがとうございました」

 

佐藤「気をつけろよなー」

 

車を降りて、家の前の階段を登るとき

視界が真っ白になり、強烈な目眩に襲われた…立っていられなかったがなんとか屈んで堪えた、

 

雪樹「う…っ…」

 

佐藤「プロデューサー大丈夫!?ちょっと待ってて!」

 

佐藤さんがうちのドアホンを鳴らす、

何か話しているようだが、よく聞こえない。

少しすると、長男がきた

 

雪樹「ああ、兄貴来てくれたか」

 

長男「とりあえず、家の中入ろう、女性の方は…知り合いか?」

 

佐藤「一応ついて行ってもいいですか?心配だから」

 

長男「わかりました。」

 

佐藤さんと長男に支えられながら家の中に入る。

 

雪樹「佐藤さんすいません。」

 

佐藤「だから無理するなってみんなに言われるんだぞ。ほんと、頑張りすぎ」

 

長男「まぁ、あまり責めないでやってほしい、そういう癖が根付くくらいにはこいつも苦労してきたんですよ」

 

佐藤「とはいえその状態で出勤して、無理も大概にしないと、先が思いやられるところじゃなくなるかもしれないし」

 

長男「お茶、用意してくるから。」

 

雪樹「ほんと。弱いな…僕は」

 

佐藤「そんなことはないでしょ、むしろ、メンタル強過ぎて体が追いついてないだけ。」

 

雪樹「以前からこんなことばっかりなんですよね。いつも丈夫でもない自分を酷使してしまう、わかっているはずなのに、歯止めが効かない」

 

佐藤「責任感かもね。さっきお兄さんが言ってたけど無理する癖が付くような環境にいたわけでしょ?」

 

雪樹「責任感は確かにそうかもしれない…」

 

佐藤「今のプロデューサーに必要なのは、体を休めること。無理しないこと。プロデューサーが無理じゃないって思っても他の人に無理してるって思われたら素直に休め。そうしないと同じこと繰り返すだろ。」

 

雪樹「休みが必要なのはわかっているつもりだったんだけどな。」

 

佐藤「いや、わかってたらこうならないだろ。自分の体も仕事の度合いも、自分でコントロールしないと。専務に仕事任されてるって思うのは大事だけど、それでプロデューサーが倒れたら仕事任した専務はどうなる?」

 

雪樹「そうか…それは考えてなかった…」

 

佐藤「プロデューサーってのは無くてはならないだろ、事務所にとっても、あたし達がアイドルにとっても、今プロデューサーが欠けたら困るんだよ。」

 

雪樹「それは…逆の立場でも同じことが言えるからよくわかってます。」

 

佐藤「早苗さんから退院の時の話聞いたけど、めちゃくちゃ心配してたぞ。」

 

雪樹「少し口喧嘩っぽくなってしまいましたし…今度謝っておかないと。」

 

佐藤「正直あたしもやり過ぎだとは思う。」

 

雪樹「少しでも皆を励ましたいんだ。新人にできることは少ないかもしれないけど、何もしないなんて時間が勿体無いから。」

 

佐藤「新人プロデューサーとは言っても、もう皆から信頼築けるくらいには土俵ができてるんじゃない?ほたるちゃんの件もあるし。新年のことでも協力的でよかったってみんな言ってるぞ。だから一人で突っ走んな。誰かに相談しろよ。」

 

雪樹「…本当にそうでしょうか…」

 

佐藤「だから、無理すんな」

 

雪樹「そうですね。考え直してみます」

 

佐藤「そうした方がいい。」

 

長男「正直、無理しかしてないだろう。前の仕事もストレス半端なかっただろうし。」

 

佐藤「そういえば、プロデューサーの前の仕事ってどんなの?」

 

雪樹「家電量販だよ、販売員」

 

佐藤「あぁー、確かにストレス溜まるよなー。」

 

長男「よく頑張ったと思うよ。」

 

雪樹「結局はやめたからな。なんとも。」

 

佐藤「やめてなかったらプロデューサーになってなかったわけだぞ」

 

雪樹「そう、だから別に悪いことじゃない、もう数ヶ月前の話だから。」

 

佐藤「プロデューサー、大変な思いしてないか?」

 

長男「大変だな、」

 

雪樹「まぁ、大変なのは間違いない」

 

佐藤「一息ついたところであたしは帰るわ。無理すんなよー、プロデューサー。」

 

雪樹「ありがとうございました、佐藤さん」

 

長男「お手数おかけしてすみません、今後共弟をよろしくお願いしますね。」

 

佐藤「いえいえ、無理してそうだったら適度に声かけるので、こちらこそよろしくお願いします。」

 

佐藤さんは帰っていったあと。

すぐに寝入った。

 

………

 

翌日とその次の日までは休みにして、

家で過ごしていた。

 

特に何もなく安静に過ごした。

時々ちひろさんや専務から連絡がくる。

アイドル達の様子についてや

新年のライブについて。

着実に準備が整っているようだ。

 

……

 

新年のライブのレッスンに協力したり。クリスマス劇の練習に付き添いでリハーサルを確認したり、事務仕事に専念したりと、時間が過ぎていき、数日、十数日が経った、

何日かに1日は休みを取るようにしている

時間がすぎるのが早く感じたのか。

気がつくと3日後にはクリスマスだった




後2〜3話くらいで一区切り

クリスマス劇と新年のライブを1話に収めれれば2話くらいで行けるかな。

気長にお待ちください。

それではまた


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