ウチの駄メイドをよろしく (倉崎あるちゅ)
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いちわ


 書いてしまったホロライブ二次。
 ホロライブメンバーオンリーの作品を書こうと思ってたんですが、それだとホロぐらと変わらなくなるのでオリジナル主人公を加えました。
 主人公が男か女か、それは読者の皆さん次第です。どう解釈してもらっても構いません。

 特殊タグでコメント欄を再現しようとしたんですが、現状、私の実力だとこれが限界です。御容赦を。




 

 仕事を終えて家に帰りついた私を出迎えたのは、悲鳴に似た叫び声だった。

 

 

『ねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!』

 

 

 疲弊しきった私にとってその叫び声は頭に響き、苛立ちを募らせる。

 私はズカズカと自宅を歩き、ひとつの部屋の前へたどり着いた。部屋の前に来ると先程の叫び声よりはマシだが悲鳴が聴こえてくる。

 

『興味ないね! 興味ないね!』

 

 先程とは一変した楽しそうな声。すると突然、

 

 

『ねぇぇぇぇぇ!!!!! それナシって言ったじゃんかぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!』

 

 

 近所迷惑になりかねないその叫び声に、私はキレた。

 部屋のドアを蹴り開け、青筋を立てて部屋の主を睨みつける。

 

「こんの、駄メイド!! 近所迷惑になるって何度言えばわかるんだァ!?」

 

 私がキレながらそう言うと、部屋の主はビクッ! と震えてひっ、と小さな悲鳴を上げた。

 

「ご、ご主人!? ご、ごごご、ごめ、ごめんない!!!! すみませんでした! すんませんした!!!」

「ようようあくあちゃんよー、私何回同じこと言ったっけー?」

「え、えーと……何回だっけ……?」

 

 可愛らしいメイド服を着た、ピンク髪に水色のインナーカラーを入れたツインテ美少女が冷や汗をダラダラと垂らしながら目を左右に動かす。

 彼女の複数のモニターにはリスナーからのコメントが流れていた。

 

 

 怒られてて草

 これで何回目だったっけ

 10回を超えてから数えてない

 何度も怒られてて学習しないあくたん可愛い

 

 

 

「おい、目を合わせろよコミュ障メイド」

「ぃ、いやっ……そ、そのご主人怒ってるしぃ……」

 

 そりゃ怒るに決まっている。何度もこの駄メイドには注意をしてきた。わかるか、ご近所さんのあの冷たい眼差しの辛さを。わかるわけないもんね、だって引きこもりだもんねこの子。

 

「次やったら今度こそ追い出すよ、あくあ?」

「は、はははい、すみません……」

 

 

 そう言って追い出さないご主人定期

 さすがご主人、そこに痺れる憧れるゥ!

 

 

 

 まったく、と息をついて私は駄メイド──湊あくあの部屋から出ていく。

 それとコメント欄。私に憧れないで欲しい。私はただの会社員だ。

 そう思いながらリビングに入り、スーツの上着をソファに無造作に放る。冷蔵庫を開けて今日の晩御飯の食材を取り出す。おそらく、あの駄メイドはまだご飯を食べていないだろう。メイドのくせに料理をしても見るも無惨な姿になる。

 白米だけは無洗米で炊け、と昼間のうちに連絡していたので炊かれている。今日の晩御飯はチャーハンとスープ、サラダでいいだろう。

 しばらく経ち、スープとサラダを作り終えた頃にあくあがリビングに入ってきた。

 

「ご主じーん? わたし手伝うことある?」

「今日は簡単なメニューにするから大丈夫。というより、配信は?」

「この時間には終わるって言ってたから大丈夫だよー」

 

 熱々の白米と卵、ネギと自作チャーシューの細切れをフライパンで炒め終え、暇を持て余したあくあに皿によそうように言って、私はソファの上に放っておいた上着を持って自室に引っ込んだ。

 

「あくあも料理できるように教えようかな……。流石に帰ってきてすぐ料理はキツい」

 

 もう私のライフはゼロよ……。

 部屋着に着替え終えてリビングに戻ると、食卓には皿によそわれたチャーハンとスープ、サラダが並べられていた。

 

「ありがとう、あくあ」

「ま、まぁ、あてぃし料理できないしこれくらいは……」

「もっとメイド(ちから)あげて」

「ッスー……そ、そうっすね」

「目を逸らすなコラ」

 

 あくあが配信を始めてからこの家に住まわせているが、この会話は何回くらいしたのだろうか。もう覚えていないくらいしている気がする。

 

「んー! やっぱりご主人の作る料理は美味しいね! あ、ご主人、おかわりある?」

「また太るよ?」

「うっ……!」

「今度もダンベルや腹筋をするんだろうね」

 

 私がそう言うと、あくあがッスー、と息を吸った。

 水着姿でダンベルや腹筋をするあくあや他のメンバー達を見るのは面白かった。

 あの時の辛さを思い出した彼女は冷や汗を垂らして、おかわりはいいやー、と頬を引き攣らせる。

 その後、フライパンに残ったチャーハンは皿によそってラップをして冷蔵庫に突っ込んだ。スープはカロリーを抑えたので二人で飲み干し、サラダは無理矢理あくあの口に放り込んだ。

 今はあくあがお風呂に入っており、私はテレビを見ながらソーシャルゲームに勤しんでいた。

 すると、スマホの画面が切り替わり、見慣れた名前の人物から電話が来た。

 

「もしもし」

『あ、もしもし。白上ですー! すみません、突然電話しちゃったりして』

「大丈夫ですよフブキさん。どうしました? もしかして、またウチの駄メイドがなにか」

『いえいえ! この後、あくあちゃんとコラボ配信するのであくあちゃん何やってるかなーと』

 

 相変わらずの綺麗な声が私の鼓膜を叩く。

 いつも絶叫を聴いているせいか、フブキさんのお声に癒される。

 

「今はお風呂に入っていますよ。もうそろそろ上がると思うので、駄メイドに伝えておきます」

『あはは……それではお願いしますねー! ご主人さんも、よかったら見てくださいね』

「ええ、楽しみにしてます」

 

 電話をしている最中にあくあがリビングに帰ってきて、長い髪をバスタオルで乾かしている姿を見ながら私は笑みを浮かべる。

 

 

 ──そして、私はコラボする相手にはいつもこう言うのだ。

 

 

「ウチの駄メイドをよろしく」

 

 

 

 

 





 日常、それに加えて一話目なので文章量は少なめ。
 もっと読みたいなと声がありましたら文章量増やします。
 
 主にホロライブメンバーの動画の内容やホロぐらの内容を少し触れて話を膨らませる、というのがこの作品なので、この話触れて欲しい、とかありましたら言ってください。活動報告にそれ用の場所を設けます。


 感想、評価お待ちしております。


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にわ

 お待たせしました、二話目です。
 今回はとあるソシャゲをやっている人達ならすぐわかる話です。


 


 

 とある平日。

 私はいつも通りに会社に出勤し、山積みの仕事を淡々とこなしていた。そろそろお昼の時間だと思っていたその時、机の上に出していたスマホが振動した。

 もうお昼だし出てもいいか。……それにしても、Aちゃんから来るなんて珍しいな。

 

「はい、もしもし」

『もしもし! 私です、友人Aです! ご主人さん、大変です!』

「え、何がですか」

 

 なんだなんだ、そんなシリアスな声を出して。

 

『事務所ごと……あくあさん達が消えました!』

「……はい?」

 

 珍しい、Aちゃんがこんな冗談を言うとは。もしかしたら、日々ぶっ飛んでるメンバー達の後処理や作業に追われて疲れているのかもしれない。

 

『そらとフブキさん、ミオさんやまつりさん、シオンさんもあやめさんも消えてしまったんです!』

「……えっと、Aちゃん落ち着こうか」

 

 あまりに大きな声だったのでスマホを離してそう言う。

 その大きな声が上司に聴こえたのか、上司が私の方を見てくる。

 

「消えるなんてあるわけないでしょ? Aちゃん疲れてるんだよ」

『違うんです、本当なんですよ……!』

 

 Aちゃんの声が震える。その言葉の後にメッセージで写真が送られてきた。その写真には、ホロライブの事務所があるはずの場所がごっそりなくなっていた。

 

──いや、有り得ねぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!

 

 声に出さなかった私を褒めて欲しい。いや、マジで有り得ないでしょ。つか、あの、おかゆさん? なに楽しそうにころねさんと写真撮ってるんですかね。

 

『ぶっちゃけると、そら達が消えたことは良いんです。どうせ戻ってくると思うので。私が困るのは、仕事ができないことなんですよ!!!!!!』

「うん、結構ぶっちゃけたね」

 

 まぁ、確かにホロライブのメンバーなら無事に戻ってくるだろう。

 どうやら他のメンバーは無事のようで、自宅にいたり収録していたりしていたらしい。社長も無事だったようだ。ただ一人、星街すいせい──すいちゃんは一緒に行きたかったようなことを言っていたらしい。

 諸々のことを聞いて電話を切る。すると、電話中ずっと私を見ていた上司が、私の机まで移動してきた。

 

「同居人が消えたって?」

「え、あはい。ほか数名と一緒にどこかへ行った、と」

「ふむ……」

 

 答えると上司が顎に手を添えて考え込む。

 あれっすね、イケメンがそんな仕草やってると様になりますね。

 

「よし、午後休をとって家に帰れ」

「え」

「同居人が消えたんだ。仕事に集中できないだろうし帰って大丈夫だ。仕事なら俺がやろう」

「いえ、あの」

「なに、気にしなくていい」

 

 別に仕事は集中できますが。あくあ達はどうせ無事に戻ってくるだろうし。

 

「いや、帰ってくれ。……そして、あくたんが無事に帰ってきたら教えてほしい……!!」

「あー」

 

 そういやこの人、ウチの駄メイドのファンだったな。

 紹介をしろ、とは言われていないので線引きができる人だと言うのはわかる。

 

「わかりました。では、お言葉に甘えて」

 

 と、いうわけで私は会社を出てファストフード店へ。

 会社の食堂で食べてから出ていっても良かったのだが、人が多いので某バーガー店に来た。お気に入りのダブルチーズバーガーを食べて満足。

 ふぅ! チョコシェイクが身に染みるぜ!!

 

「あ、そういやアズレンがイベントあったな」

 

 複数やっているソシャゲの一つ、アズールレーンを開いて、追加データをダウンロードする。

 今回のイベントはどんな感じなのだろうか。楽しみだ。

 そう思いながら、ダウンロードを終えてメイン画面に移った。すると、

 

「んん??????」

 

 イベント告知のバナーには見慣れた顔があった。

 ゲームのキャラではない。見慣れたその顔はいつもうるさいウチの駄メイドとホロライブのメンバー達。

 そう、事務所ごと消えたホロライブメンバー達の顔だった。

 

 ──なにやってんのこの人達????

 

 疑問符しか浮かばない。本当になにをしているんだこの人達は。

 いやまて、たまたまこのイベントはホロライブとコラボであって、今回の消えた云々は別なんじゃ……。

 

「……」

 

 シナリオを進めれば進めるほど、こっちと現状が重なっていて別だと考えられなくなった。

 頭痛い、なんとかして。

 頭を抱えていると突然肩に手を置かれた。振り返って手を置いた人物を見ると、そこには死んだ魚のような目をした大空スバルさんが立っていた。

 

「スバルさん……」

「ご主人さん、大丈夫ッス……スバル、わかってるッスよ……」

 

 あぁ、この人もアズレン開いたんだな。

 そのあと、スバルさんの他に二期生のちょこ先生と合流し、私とあくあの住む家まで来た。

 みんなでアズレンのコラボイベントを進めて騒いでいた。終いにはTNTで事務所を爆破する、という時は唖然とした。

 

「あくあ様……」

「流石ホロライブレジスタンス……」

「闇だな」

 

 やっぱりホロライブ一の闇だよね、あくあは。つか、頼む、ミオさんだけでもこっちに帰ってきて。ツッコミが間に合わない……!!

 

 

 

 

 ▷

 

 

 

 

 あくあ達が消えて一日経ったこの日。休日だったので、私はソファに座ってソシャゲのログインボーナスを回収していた。

 

「ふぁあ……」

 

 眠い。

 昨日の夜は上司のメッセージに追われていたためまともに寝ていない。とりあえずアズレンをやれと言って会話を終了させたが、どうなったのだろうか。限定キャラであるホロライブメンバーを全員入手できたのか。

 私はスバルさんやちょこ先生と一緒に全員入手した。ガチャを回しているうちに、あくあだけが五回出てきた時はスマホを叩きつけたくなったが。

 どうしてフブキさんは一回しか出てくれなかったのに、お前は五回も出てくるんだ。

 

「たっだいまー!」

 

 昨日のイラつきを思い出していると玄関のドアが開く音と可愛らしい声が聴こえてきた。

 ほら、思った通り、無事に戻ってきた。

 

「ただいまー」

「おかえり、あくあ。どうだった、アズレンの世界は」

「あ、流石にわかっちゃったか……流石しきっ、じゃなかったご主人」

 

 そりゃぶっ飛んだホロライブメンバー達と接してたら察するに決まっている。それにしても、なぜ私を指揮官と呼ぼうとしたのか。

 

「ふっふっふ、ご主人。わたしは以前のわたしとは違うんだから! ロイヤルメイドの特訓を受けた、本格ロイヤル紅茶を淹れてあげる!」

「へぇ、紅茶習ったんだ。じゃあお願いしようかな」

 

 ロイヤルメイドと言えばベルファスト。ベルファストが教えたなら変な味にはなっていないはず。

 淹れてもらった紅茶に口をつけ、私は硬直した。

 

「あれっ、ご主人?」

「……ホントに特訓したんだよね?」

「え、うん」

「味が変」

「ええっ!? 味が変!? んな馬鹿なぁ!」

 

 なんとも形容し難い味だ。渋いのは確かだが……本当に特訓したんだろうなこいつ。もしかして、ロイヤルメイドも投げ出すくらいだったのか……?

 残すのもアレなのでティーカップに入った紅茶を飲み干し、おかわりする。

 

「ご主人……?」

「せっかく淹れてくれたんだし、残すのもったいないでしょ」

「っ! ありがとうご主人!!」

 

 まったく、そんなに目を輝かさんでも……。

 昨日とは違ってうるさくなりそうだな、と私はあくあが淹れてくれた紅茶を飲み続けた。

 

 

 

 

 




 あくあが五回出たのは私情です。フブキが一回しか出なかったのも私情です。他のメンバーは二回くらいでたのに!

 ロイヤル紅茶、飲んでみたいですね。

 感想、評価お待たせしております。



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さんわ

 お待たせしました、三話目です。

 順調にお気に入り登録が増えてて嬉しいです。ありがとうございます。


 

 

「あぁぁぁぁぁぁ……フブキさんのASMRがええんじゃあぁぁぁ」

 

 私の休日の過ごし方はホロライブメンバーのASMRを聴きながらマッサージチェアでゆっくりすること。

 今日は狐娘、白上フブキさんのASMRを聴いている。笑い声や拍手、些細な物音が気持ちよくて私はついついそんな声を出してしまう。

 

「終わってしまった。次は誰のASMRを聴こうか」

「わたしのは!!!!!!!!!!!」

「えーと、スバルさんのはド○ルド○ッ○になるから除外して……うん、ASMRと言えばこの人! ちょこ先生!!」

「ご主人!!!!!! わたしのは!!!!!!!!!!!」

 

 なんか聞こえるけど無視無視。私はちょこ先生のASMRを聴くので精一杯だ。

 うん、流石ちょこ先生。最高のASMRだ!!!!

 

「ねぇ、ご〜しゅ〜じ〜ん〜!!」

 

 癒されていると痺れを切らしたのか、あくあがガクガクと私の肩を揺らして、その可愛らしい顔を近づかせてきた。

 私はヘッドホンを乱暴に取ってマッサージチェアから立ち上がる。

 

「あぁもう!! なんだこの駄メイド!!」

「わたしの動画も見てよ!!!!」

「お前のはASMRないだろ!!!!!!」

「歌枠あるもん!!」

 

 ええい、この駄メイドめ。人がせっかく癒されているというのに。

 あくあは眉を八の字に顰め、不満そうに見つめてくる。

 

「はぁ……あのね、あくあ。ちゃんと歌枠は別の用途で聴いてるから。主に電車の時とか」

「むぅ」

「なにそのほっぺ」

 

 軽く頬を膨らませながら、あたし怒ってますアピールをしているのは可愛らしいが、私は癒されているのを邪魔されたんだが。怒りたいのはこっちだ。

 こうなれば彼女は意地を張り続ける。こちらが折れなければならないだろう。

 はぁ、とため息をつき、スマホで再生していた動画を止める。

 

「で、なにしたらいいの?」

 

 そう言うと、あくあの顔がぱぁと輝いた。

 

「マ○カーしようよご主人! 夜みんなと一緒にやるからその練習!」

「ああ、そういえばまつりさんが言ってたね。そうか、今日だったか」

「そう! だから一緒にやろうよっ!」

 

 仕方ないのでいいよと言って、彼女は上機嫌に自分の部屋へ向かっていった。部屋に置いてあるハードを取りに行ったのだろう。

 本当は、まつりさんに私も配信に出てくれと言われたのだが、配信者でもない私が出るわけにもいかない。未来永劫、私自身が配信しない限り出るつもりはない。

 そのことはあくあも理解しているので出てとは言わないので気が楽だ。わがままを言ってもこうしてゲームの練習に付き合うくらいだ。

 

「さぁご主人! 本気で来てね!」

「いいよ。泣いても知らないから」

「あてぃし、強いよ?」

 

 あくあはドヤ顔をしながら胸を張った。

 知ってる。内緒で参加型に私も参加したことあるし。その時は執拗に赤甲羅や緑甲羅、刺甲羅を叩きつけたけど。

 CPUも混ぜて二人でゲームを開始。スタート時は接戦だったのだが、次第に()()()()()使()()()で差が大きく開いた。

 

 

「ねぇぇぇぇぇぇぇ!!!!! ご主人それやめてってばぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 可愛い声とはかけ離れた絶叫がリビングに響き渡る。

 

 

「ごぉぉしゅじぃぃぃんんんんんん!!!!! やめてよぉぉぉぉ!!!!!」

 

 

 一位はあくあ。そして現在六位の私。

 わざと下位に行き、刺甲羅や三つの赤甲羅を出してからテクニックを使ってあくあの後ろに着き、それを投擲。その行動を繰り返して最後には私が一位をもぎ取る。

 何度も何度もやられ、あくあは既に半泣きでコントローラーを握っている。投げ出さないあたり彼女らしい。

 

「ほら、涙拭いて。次はあくあの好きなコースでいいから」

「次こそ、絶対ご主人に勝ってやる!!」

「はいはい」

 

 次はあくあの得意なコース。ここは、たまに猛者が来る配信でもあくあが一位になれるコースだ。正直な話、このコースは私が苦手とするものだったりする。

 スタート時は接戦。これは先程と変わらない。しかし、苦手のコースだけあって、私は渋い顔をしながらキャラクターを走らせている。

 対して、隣のあくあは余裕の笑みを浮かべていた。

 

「ふふん、ご主人! この勝負、あてぃしの勝ちだね!!」

 

 悔しい。この駄メイドに負けるのが心底悔しい。

 周りがCPUなので周りに賭けることもできず、あくあは独走状態。刺甲羅を投げてもほんの少ししか距離は縮まなかった。

 

「ぐやじぃ……」

「ヘヘッ、えへへへ、出直してきな! ご主人!」

「覚えてろこの駄メイド……!」

 

 勝ったことがそんなに嬉しいか。嬉しいだろうな!! 満面の笑みを浮かべやがって。

 あくあに負けたことが凄い悔し過ぎる。隠れて訓練でもしよう。

 コントローラーをテーブルの上に置いて伸びをする。パキパキと音が鳴り、結構な時間ゲームをしていたのだと自覚する。時計を見ればもう夕方だ。

 そう思っていると、くぅぅ、と可愛らしい音が鳴った。

 私ではない。そうなれば必然的にあくあになる。その発生源はほんのりと頬を赤らめてあはは、と笑う。

 

「晩御飯の準備、しようか。手伝ってくれる、あくあ?」

「はーい! 今日は何作るの、ご主人?」

「んー、昨日買ったお刺身もあるし、酢飯を作ってお寿司作る?」

「おぉー、いいね! わたしお寿司食べたい!! 」

 

 まったく、子供みたいにはしゃいで……。

 あくあのはしゃぎように私は思わず苦笑をする。嫌ではないが、もう少し大人しくして欲しい。

 まぁ、精神年齢五歳に何言っても無駄か。

 

「あくあ、刺身用のマグロ切ってみる?」

「え、できるかな」

「大丈夫。ほら、見本見せてあげるから」

 

 こうして少しでも覚えさせていかないと、私が死ぬ。Aちゃんほどではないけど過労で倒れるかもしれない。

 明日も私は休みだ。ちょこ先生やフブキさんを招いて料理をあくあに教えるのもありか……。ちょこ先生とフブキさんが暇だといいんだが。

 

「いっ! ご主じぃん、指切っちゃった……」

「あぁ……ちゃんと注意しないと。手洗ってて。絆創膏持ってくるから」

「はぁい」

 

 ……次は包丁をなるべく使わない料理を覚えさせよう。火傷とかもさせないようにしなきゃ。

 あくあに料理を覚えさせるのは、少し骨が折れそうだ。

 

 

 

 




 次回は、あくあが料理します。料理と言っていいのかわかりませんが。
 犠牲者は誰かな。

 感想、評価お待ちしております。


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よんわ


 お待たせしました。四話目。

 今回は少し文章が多め。


 

 

 遂にやってきた翌日。

 私は一人であくあに料理を教えたくないので助っ人を呼んだ。

 

「それじゃあ、お願いします。フブキさん、まつりさん」

 

 今回のこの企画。面白くなりそうだとあくあ自身とフブキさんとまつりさんの意見で配信することになった。

 配信には出ないと誓っていたはずなのに出てしまっているのが情けない。

 あと、本当は審査員(犠牲者)として他にもホロライブメンバーを呼んでいたのだが、綺麗に断られてしまった。

 くっ、次は来てもらうぞ、一期生、ホロゲーマーズ、二期生、三期生に四期生!!!! ちょこ先生も逃げたし!!!! るしあさんに至っては料理できるって知ってるんだからな!!!!!!!

 

「あはは、わかりました!」

「あくあちゃんの料理かぁ……大変そう」

 

 

 

 音声だけでもありがてぇ……

 料理得意なフブキングなら大丈夫やろ

 いうてご主人もいるしなんとかなる

 ご主人ならいける

 頑張れご主人!!

 

 

 

「おおい! まつりは!? ねぇまつりは!?」

 

 コメント欄を見たまつりさんがそんな声を上げる。

 こう見えてまつりさんは料理ができる女子力のある女性である。こう見えて。

 

 

 まつり? 知らない子ですね

 まつりちゃんって料理できるの?

 まつりは料理できるよ

 知らんかった……

 今から知っていけばええんやで

 

 

 

 コメント欄が暖かい。今日も平和でなによりだ。加えて、私がいることにも反対意見がないので一安心だ。

 今回の料理企画。あくあのお母さんにもお願いします、と言われているのでなんとしても成功させなくてはいけない。

 

「えーと、ご主人。わたし、なに作ればいいの?」

「あぁ、それはもう考えてあるよ。今回はお菓子を作ってもらいます」

 

 昨日のお寿司で反省したからね!! あくあにはまだ本格的な包丁の扱いはお預け!!

 私はそう思いながら、彼女の指に巻かれた絆創膏を見つめた。

 包丁の件は既にフブキさんとまつりさんに話は通しているので問題ない。

 

「パンケーキやクッキーを作るんですよね、ご主人さん」

「はい、そうです。先にクッキーを、その次にパンケーキに行きましょう」

「あ! じゃあパンケーキはスフレにしようか! まつりはそれがいいなー」

「あぁぁぁわかるぅ!! わたしもスフレがいい!!」

 

 

 

 スフレかぁ……美味そう

 ナイスまつりちゃん

 あくあちゃんが作るクッキー、丸焦げにならん?

 丸焦げは草

 草

 つか、キレてないご主人クールだな

 わかる

 成功しか見えんな!!!

 

 

 

 フラグを立たせるのはやめてくれ。

 そんなこんなで始まったあくあ強化企画。材料はしっかり用意したので、あとはレシピ通りに計量して進めていけば失敗せずに終わるだろう。

 

 

 ──そんなことを思ってた時期もありましたよ!!!! バァァァァァァァカ!!!!

 

 

「「……」」

「ははっ、ハハハハハハ! まって!! お腹痛い!! アハハハハハ!!」

 

 

 何をどうしたら間違えるんだ……

 流石あくたんww

 ずっとまつりちゃん笑ってるじゃんww

 ご主人とフブキング黙ってるし

 

 

 

 丸焦げクッキーができあがり、カメラを皿に盛り付けられたクッキーに向けてリスナーに見せる。

 なにこれ、ホームセンターに売ってる木炭になってない? 現実でこんな感想出てくるなんて思わなかったよ。ラノベの世界だけにしてよ。

 

「んー、なんで失敗しちゃったのかなぁ」

 

 当のあくあ本人はなぜ失敗したのか気づいていない。私もフブキさんもまつりさんもわからない。なぜ失敗した。

 

「もう一回やってみようよ、あくあちゃん」

「まだ材料はあるから、遠慮しないで使ってください。ほら、まつりさんも笑ってないで手伝ってください」

 

 いつまで笑ってんだ、この人。掃除してるとはいえ床に寝転がって笑うのはやめなさい。

 気を取り直して、再度計量してクッキー作りを開始。

 さっきはあくあ主導のもと調理していたので、次はフブキさんとまつりさんを軸に調理するようにした。何事も問題なく進み、綺麗なクッキーができあがった。

 

 

 

 あれ、ご主人なにもしてなくね?

 そういえば……

 

 

 

 なんだ文句あるか。私だって好きで何もしていないわけじゃないんだ!!!!!

 

「大丈夫ですか、ご主人さん?」

「無理です……まつりさん、水取って下さい」

「しょうがないなー。はい」

「ありがとうございます……」

「えーと、その……ご主人、ごめんね?」

 

 何を隠そう、実は丸焦げのクッキーを一人で食べたせいでダウンしているのだ!!!!!

 申し訳なさそうな顔をしているあくあに笑みを向けるが、おそらく引き攣っているだろう。悪気があって丸焦げにしたわけではないのはわかっているので強く言えない。

 

「わたしも食べるって言ったんですけどねー。ご主人さん全部食べちゃって……」

 

 

 

 え、なにを??

 食べてダウン??? え、まさか

 あっ(察し)

 これは草

 

 

 

「あくあちゃんが作った丸焦げクッキーを食べたんだよねー。流石にまつりも全部は無理だけど、すげぇなご主人」

 

 お陰で少しお腹いっぱいですけどね!!!

 美味しそうにできたクッキーは三人で食べてもらい、私は水を飲んで苦味を洗い流す。

 

「さ、次はあくあちゃんが一から作ろっかー」

 

 ダウンしている私を放置し、まつりさんがあくあにそう伝える。彼女はふんすと鼻を鳴らして頑張る! と意気込んでいる。

 三回目なだけあって手際も良くなってきている。変なものも入れていないし大丈夫だろう。

 

「あとはオーブンに入れるだけ! どうご主人! ここまでのわたしは!!」

「うん。ちゃんとできてるよ」

「えへへ、でしょでしょ!」

 

 

 

 やっぱりあくあちゃんとご主人の関係って、親子なんだよな……

 主従とかじゃない。親子なんだ

 はーー、俺もご主人みたいな親が欲しいー!

 

 

 

 ええい、私は親ではない! こんな体が大きい──一四二センチだけど──子供なんていらないぞ!

 声には出さずにコメントに突っ込んでいると、あくあがオーブンにクッキーが乗ったバットを入れて温度と時間を設定した。

 ふと、その時、

 

「「「ステイ」」」

「ふぇ???」

 

 私とフブキさん、まつりさんの声が重なった。

 

「あくあちゃん? オーブンの温度高くない……?」

「オーブンは予熱してるし、そんな高温でやらなくていいんだよ??」

「丸焦げの正体がこれだったか! ちゃんとレシピを見ろこのポンコツメイド!」

「あ、あれ!? ち、違ったの!?」

 

 フブキさんがレシピが映ったタブレットをあくあの目の前に持っていき、まつりさんがオーブンの温度と時間を指す。

 

「ッスゥゥゥゥゥ……」

 

 

 

 オーブンの温度かぁ……

 灯台もと暗しってこのことか

 原因判明してよかったやん

 

 

 

 最初から注意深く見ておけばよかった……こんな些細な失敗だったなんて。

 その後、先程のフブキさんまつりさん作のクッキーと同じくらい美味しそうにできたクッキーの粗熱を取りつつ、次のお菓子の準備に取りかかった。

 作るものは、まつりさんが提案したスフレパンケーキ。

 卵黄と卵白を別に取り分けて、卵白は冷蔵庫で冷やす。冷やした卵白を泡立ててメレンゲを作るなど、少し凝った調理方法だが、できあがったら柔らかくて非常に美味しい。

 

「むぅ……少し焦げた……」

「あはは、仕方ないよー。慣れが必要だからね」

 

 今はフブキさんがあくあを見てフライパンでパンケーキを焼いている。その隣では、まつりさんが綺麗にスフレパンケーキを焼いて、ひっくり返していた。

 

「流石ですね、まつりさん」

「へへ、これくらいは楽勝楽勝!」

 

 

 

 あれ、またご主人暇してない?

 いやさすがに三人キッチンにいたら無理じゃ……

 あぁそれもそうか

 ん? レンジの音したぞ

 

 

 

 リスナーも気づいたか。そう、私はただなにもしていないわけではない。電子レンジでイチゴジャムを作っているのだ。

 その他にもホイップクリームも冷蔵庫から出しているから暇なんてしていない。

 無事にスフレパンケーキが人数分できあがり、フブキさんが盛り付けてくれた。ちなみに、私の分はあくあが担当してかなりのクリームの量があった。

 

「どう、かな。すこーし焦げちゃったけど」

「大丈夫。さっきの丸焦げクッキーに比べたら美味しいよ」

「まって、比較がおかしいから……! ふふっ」

「クッキーもパンケーキも、マスターできたし、良かったねあくあちゃん!」

「ちょっと、ご主人!! 他にもあるでしょ!? もぅ……フブキちゃんもまつりちゃんも、その、ありがとー!!!」

 

 まぁ、これでメイド(ちから)が上がったなら良かった。次はパスタとかカレーとかから覚えさせるか。

 

 

 

 後日。

 体重を量ったあくあの悲鳴が家中に響き渡った。

 

 

 

 





 そら失敗したやつ捨てるなんて勿体ないから食べるしかないからね。体重も増えるさ。ご主人もやばそうだけど。

 感想、評価お待ちしております。
 活動報告にリクエスト募集してますので良ければどうぞ。


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ごわ

 お久しぶりです。




 

 

「ご主人! 猫欲しい!」

「はい?」

 

 仕事から帰ってきて晩御飯も食べ終わった頃。そろそろお風呂に入ろうと思っていたら、突然あくあがそんなことを言ってきた。

 どうやらホロライブで猫がブームらしく、次々と猫を飼うメンバーが増えているようだ。

 そういえば確かに、フブキさん重大発表とか言ってたな。

 あの時はフブキさんが誰かと結婚するのか、とか彼氏ができたのか、とか要らぬ不安を抱えたものだ。私はフブミオ、夏色吹雪派なのでな。

 

「おかゆが猫飼ったの!」

「へえ、おかゆさんも飼ったんだ」

「ほら、これ!」

 

 見せられたのはあくあとおかゆさんのLINEのトーク画面。

 なに、わたしという愛猫がいながら手毬とかゆう女連れてきやがって、って。そしてキレるな。というかお前は猫じゃない。

 猫耳もないだろ、と内心ツッコミを入れる。いや、そういうことではないのだけども。

 子猫の写真を載せられ、可愛いと反射で打ったのだろう。次にはちがうだろぉぉぉ、と叫んでいる。忙しいやつだな。

 

「可愛いよね!」

「そうだね」

「だからさぁ……ねぇ?」

「ねぇじゃないが?」

「ご主人! 猫飼おうよぉぉぉ!」

「うるさ」

 

 ねぇねぇ、とスリスリと寄ってくるあくあを引き剥がし、私はお風呂に入る。

 

「ねぇぇぇ、ご主人ってばぁ」

「ゆっくり湯船にも浸からせてくれないのか己は」

 

 体を洗って湯船に浸かってから一分もしないうちに、駄メイドが声をかけてきた。相変わらずこういう時はしつこい。

 

「ねぇぇったらぁぁ、猫飼おうよぉ」

「そんな衝動で飼えるわけないでしょ」

 

 ひとつの命を扱うのだ。衝動で飼ったら悲惨なものになるかもしれない。

 確かに私も猫飼いたいけど。

 私がお風呂に入っている間、ずっとあくあは猫〜ネコ〜NEKO! と駄々を捏ねていた。

 お風呂から上がって、私はあくあをお風呂に叩き込むが入浴中でも猫〜、と言っている。

 

 

 

「ふぇ? 研究?」

「そ。猫飼いたいんなら、その大変さを研究して来なさい」

 

 ちょうどいいことに、ホロライブメンバーは猫を飼っている人たちが多い。猫を飼っている長さで言えばミオさんがいい例だろう。

 おかゆさんの家に泊まってどんなことをしているか、とか大変なことを聞いてくるとか、やり方はいくらでもある。

 

「Twitterでもなんでも、あくあクルーの人たちに訊いてみてもいいよ。ただし、ネットにころがってる記事を最初から見ようとするな」

 

 ネットにころがってる情報も十分いいとは思うが、人からしっかり聞いた方が大変さがより伝わる。

 私がそう言うとあくあは真剣な表情になり、大きく頷いた。

 

「わかったよご主人! あてぃし、しっかり研究する!!」

 

 うん、やる気があっていいと思うよ。でも真剣な顔であてぃし言うのやめて。笑う。

 

 

 

 

 ▷

 

 

 

 

 その日の夜から彼女は、猫を飼っているホロライブメンバーにdiscordを用いて大変さや可愛さを聞いたり、Twitterではリスナーに猫が欲しいとツイートをして情報をもらったりなど積極的に行動していた。

 お前どんだけ猫飼いたいんだと思ったが、あくあの本気さが伺えた。

 そして、今日はあくあは家にいない。おかゆさんの家でオフコラボをしている。配信は明日の予定だが、私は今あくあと通話をしていた。

 

『どう手毬は〜?』

『え、めっちゃかわ……いくないけどぉ??』

 

 認めろよ。可愛いって認めろよ。

 ずっとこれである。

 

「おかゆさん、トイレとかって大丈夫なんですか?」

『んー、たまに変なところでしちゃうからそこかなぁ』

「あぁ、やっぱり」

 

 まだ三ヶ月とのことだったので、そうなんだろうなと思っていた。

 

『はぁぁん……♡ かわ、いい……』

『あくあちゃんメロメロじゃん』

「まずったかなぁ」

 

 大変さもわかるだろうけど飼いたいって欲を刺激してしまったかもしれない。

 

「それじゃ、おかゆさん。そろそろ切りますね」

『はーい』

「では、ウチの駄メイドをよろしくお願いします」

『出た〜お決まりの言葉』

 

 うるさいやい。

 ぶつりと通話を切り、PCに張り付く。

 何をするかって? 猫の種類を検索するんだよ。その種その種で性格も変わってくるからね。

 

 その翌日。

 あくあは雑談枠で得体の知れないものを描いていた。

 なに、この虚無の笑みを浮かべている黒い怪物。

 

「NEKOだよ!」

「全世界の猫に謝ってこい」

 

 リスナーの中にはこのNEKOをグッズ化して欲しいという意見もあるので需要はありそうだが、こんなものをグッズ化してしまったらAちゃんの心労が絶えなさそうだ。なんなら私の胃に穴が空く。

 

 

 

 なんだかんだ言いつつ、しばらくの時が経った。

 私が今いる場所はペットショップである。

 

「はー、可愛い」

 

 ガラス越しの猫を見て、私はそんなことを呟いた。

 ちなみに今日はあくあの母親も来ている。今は親子ふたりで、私とは少し離れたところで猫や犬を見ている。

 

「結局こうして来てしまっているあたり、アウトだな」

 

 ペットショップに来てしまったら飼いたい欲が強くなってしまう。そう思って来ないようにしていたのだが、ついに来てしまった。

 というか、もう一時間くらい滞在してませんかね。そろそろ私帰りたいのですが。

 まぁ、もう飽きて帰るだろうと思った。

 

 ──そんなことはなかった。

 

 あれから、かれこれ三時間くらい滞在している。

 え? どうしてそんなにいられるの?

 

「はぁぁ、可愛いこの子ぉ!」

 

 何回言ってんの。その子見るの何回目だと思っている。

 あと、お母さん? 何回も頷かないでもらっていいですか。

 

「これ、近いうちに飼いそうな予感」

 

 頬が引き攣った。

 その数日後。

 我が家に家族が増えた。そうだと思ったよバーカ!

 

「にゃあ〜♪」

 

 そんなあくあの甘ったるい声がリビングから聴こえてくる。

 会社から帰ってきた私がリビングに入ると、白いもふもふな子猫を抱えたあくあが出迎えてくれた。

 

「おかえりご主人! ほら、むーちゃんもご主人におかえりーって♪」

 

 小さくにゃ、と子猫が鳴く。あくあはそれを聴いてえへえへと気持ち悪く笑っている。

 子猫の名前は小麦。愛称はむーちゃん。マンチカンの男の子である。

 

「はい、ただいま」

 

 わたしちゃんとお世話するから! とあくあが強く宣言し、彼女の母親からも後押しされ、私の家で小麦を飼うことになった。

 

「あ、ご主人! 今日はわたしが晩ご飯作ったよ!」

「え、あ、そ、そう」

 

 え、何作ったの。ちゃんと食べられるの、それ。

 

「今日のは自信作!!」

「怖っ……」

 

 多少作れるようになったとはいえ、怖いものは怖い。

 恐怖心を抱きながら、私は食卓につく。その後ろをついて歩き、小麦が私の脚にすり寄る。

 

「あ゛ぁぁぁぁ!! ご主人羨ましいぃぃぃ!! あてぃしまだむーちゃんにそんなことされてないのにぃぃ!!」

「うるさっ」

 

 ホントにウチの駄メイドはこれだから……。

 この家は、もっとうるさくなりそうだ、と私は溜息をついた。

 

 

 





 12月21日と22日、ホロライブのオンラインライブがありますね。
 豊洲の時は参加できなかったので、今回は両日参加します。みんなのアイドルしている姿を目に焼きつけるんだ……。


 感想、評価お待ちしております。


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ろくわ



 お久しぶりです。今回はバレンタインのお話です。





 

 

 二月十四日。

 世間ではバレンタインデーと呼ばれ、愛する人または家族、友人にチョコやマカロンなどといったお菓子を渡す日だ。

 まっ、私には関係ない話なのだけど。

 

「……なぁ」

「なんですか、課長」

 

 今忙しいのだが。

 

「あくたんからのチョコなんて……あったり……?」

「あるわけないじゃないですか。なんで貰えると?」

 

 そもそもあまり知らない相手に送るわけないだろう。しかもコミュ障のあくあが送るはずがない。

 それに、何日か前から彼女はホロライブメンバーの家に転がり込んでオフコラボをしている。当然私も貰ってないし渡してもいない。

 

「まぁ、日頃の感謝として私から課長に缶コーヒーくらいなら渡しますが」

「お前から貰ってもなんも響かん。あくたんがいいんだ」

「アホか」

「アホに決まっているだろ、いい加減にしろ」

 

 もうダメだこの上司。というか仕事をしてくれ。

 

「お前はいいよなぁ……あくたんから貰えるんだから」

「手作りじゃなくて既製品ですけどね」

「あくたんから貰えるという事実があるだろう! あくあクルーからしたら羨ましいんだよクソが!」

「本性現したなクソ上司」

 

 こんな調子で一日上司と喋りながら仕事をしていた。

 精神は擦り切れ、電車の窓で自分の顔を見れば死んだ魚の目をしている。

 すれ違う人達がひっ、と小さく悲鳴をあげた。

 ごめんねこんな目してて。

 家に着くと鍵は開いてた。どうやらあくあは帰ってきているようだ。

 

「ただいまー」

 

 家の中に入ると数人の声が聴こえてきた。

 

「? あくあ、誰か来てるの?」

 

 リビングのドアを開けるとそこには、あくあと取っ組み合う宝鐘マリンさんと、それを笑うすいちゃん。その後ろで何故かハンドグリップをゴリゴリしてる四期生の天音かなたさん。

 

「あっ、ごひゅひん!」

「まっへ! まっへあくたん! せんひょうの、せんひょうのほっぺがぁっ! あ゛あ゛ぁぁぁぁ!」

 

 私を見つけた瞬間、あくあがマリンさん──船長の頬を思い切り捻り上げた。

 大丈夫かな、船長のほっぺ。

 

「ご主人お邪魔してまーす!」

「お疲れ様ですご主人さん」

 

 すいちゃんとかなたさん──かなたんが私に挨拶してくれる。私も彼女たちに挨拶をし、着ていたスーツの上着を脱いだ。

 

「で、あの二人は何故取っ組み合いを?」

「あー、あはは……」

「えーとねー」

 

 二人がすぅ、と目を逸らした。

 

「え、なに。なにがあったの?」

 

 普段ならあくあマリンの絆などなんだかんだ言っているのだが。

 

「あてぃしが先に渡すの! 船長はあと!」

「じゃんけんで負けたのあくたんじゃんかー」

「そうだけどぉ!」

 

 うぅー、とあくあが唸る。

 ホントになんの話しをしているのだろうか。

 

「すいちゃん、これホントに何?」

「えーとねー、今日はなんの日?」

「バレンタインでしょ? 今日チロルチョコ何個かあげたし貰ったわ」

「え、ご主人貰ったの?」

「なにその意外、みたいな顔してるのかな?」

 

 てへっ、と舌ペロをしてもダメです。可愛いけど。

 

「……で?」

「この四人で渡す順番をじゃんけんで決めたんですよ。それで、勝ち残ったのがマリンちゃんなんですけど……」

 

 かなたんが説明を継いだ。

 

「駄々をこねると」

「そうなんだよねー」

 

 この駄メイドめ。いつでも良いだろうに。

 

「しょーがないなぁ、あくたんはぁ。一番最初はあくたんに譲ってあげますよ」

 

 あくあの頭を優しく撫で、船長は慈母のような微笑みを浮かべて私の方に彼女を送り出した。

 流石船長。昭和を生きた人は違う。

 

「違いますぅ! まだ若いんですぅ!」

 

 心を読むな。あと動きがおばさん臭い。

 

「ご、ご主人!」

「ん?」

 

 目の前に来たあくあが私を呼ぶ。視線を下げて彼女の目を見つめる。

 スッ、と視線が逸らされた。コミュ障め。

 

「これ、作ったからご主人にあげる!」

「……へっ? 作った?」

 

 予想の斜め上のことを聞き、素っ頓狂な声が出てしまった。

 

頑張れーあくたん!

あくあちゃんイケー!

あくたんなら行ける!!

 

 上から順に船長、すいちゃん、かなたん。

 小さく叫ぶとか流石アイドルだな。どうやんのそれ。

 

「そのぉ……ちょこ先生に頼んで一緒に作ってもらったんだけど……」

 

 もじもじと彼女は身をよじる。

 この場にキャップがあれば目深に被って完全に視線をシャットアウトしていたに違いない。

 

「最初はマカロンがいいなって作ったら失敗しちゃって……。ぶなん? なチョコにしたんだ」

「なるほどね」

 

 手作りだから一番先に渡したかったのか。なんともまぁ、子供っぽいなぁ。

 

「ありがとう。ちゃんと食べるよ」

「……うん! 感想聞かせてよねっ」

 

 緊張したのか、ふぅぅぅ、と息を吐いてすいちゃんたちの下へ倒れていった。

 倒れた先はすいちゃんの胸。

 

ドンッ

 

 え????

 

「いたっ」

 

 痛い????

 

「あ、あくたん大丈夫?」

「壁ドンしちゃいましたねー」

 

 壁ドン……?

 え、普通胸ってドンッて音する?

 

「ごめんなぁ……あくあ、ごめんなぁ……すいちゃんの胸まな板だからよぉ……」

 

 キラリ、とすいちゃんの目に涙が浮かんだ。

 

 

 

 

 ▷

 

 

 

 

「ホロメンからのバレンタインチョコやお菓子ありますからねー! 良かったですねご主人」

「お、おぅ……」

 

 ときのそらさんから五期生まで、テーブルの上に山盛りにお菓子が積まれた。子猫の小麦が不思議そうにテーブルの上を見つめている。

 確かに私もウチの駄メイドがお世話になってるからそれぞれお菓子用意したけどさ。それにしても多くない?

 

「すいちゃんのもあるからねー」

「僕のもありますよー!」

 

 テーブルの上に積まれたものと別に、すいちゃんとかなたんがずいっと箱を渡された。

 ありがとうとお礼を言って受け取った。

 

「これは、返すのが大変だなぁ」

 

 昔はなにもないバレンタインだったのだが、あくあが来たことにより、とても喧しく楽しいものになった。

 船長もすいちゃんもかなたんも、本当にありがとう。

 

 

 

 

 上司に自慢しよ。

 

 

 

 






 今月のホロライブのライブ見たい……。bloom見たすぎる。

 


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ななわ holoXの頭脳! コヨーテの博衣こより


 大変お待たせしました。
 今回はあくたんではなく、つい最近デビューしたホロライブ六期生、holoXの一人に焦点を当てました。


 

 

 

 金曜日。

 明日は休みで気分はウキウキの状態で、私は会社に出勤した。

 すぐ近くの課長が机に突っ伏して撃沈してるが、見ないふりをする。

 

「おはようございます」

 

 私がそう挨拶すると他の数少ない社員たちが挨拶を返してくれる。

 ……さて、今日の仕事は、と。

 席について設けられたPCを立ち上げ、本日の仕事内容を確認する。

 すると、

 

「お、助手くん来たね〜」

「……」

 

 後ろからそんな可愛らしい声が聞こえてきた。

 その瞬間、顔が引き攣ったのが自分でもわかった。

 

「助手くんこんこよ〜」

「……おはようございます」

 

 みんなもこんこよ〜、とほわほわとした雰囲気で他の社員たちに挨拶する。

 後ろを振り向き、私のすぐ後ろに立つ人物を見た。

 桃色のウェーブがかった長い髪を流し、愛らしい獣耳をピクピクと動かす美少女。お腹を見せた服を着こなし、その上から襟が髪と同じく桃色の白衣を羽織るその人物の名は、

 

 ──博衣(はくい)こより。

 

 私が働く、秘密結社holoX(ホロックス)の頭脳である。

 

「博衣博士、私になにかご用で?」

「あ、そうそう! 助手くんには、今日の研究を手伝ってもらおうと思ってね。来てくれる?」

「……わかりました」

 

 ……これ、何時に帰られるんだろ。

 ……あくあに連絡しとこうかな。

 他の社員たちに可哀想なものを見るような目で見送られ、課長は撃沈しながらもサムズアップして見送ってきた。

 

 

 

 

 ▷

 

 

 

 

 私が働くこの会社、秘密結社holoXは表向きは普通の小規模な企業だ。小さなビルの一フロアを借りて仕事を行っているが、ビルの地下ではholoXの総帥や幹部、そして今私の目の前でふわふわな桃色の尻尾を揺らす博士たちが日々何かをやっている。

 詳細は私は知らない。

 

「博衣博士、私はなにやらされるんですかね」

「もぅ、こよのことは名前で呼んでって言ってるじゃーん」

「仮にも上司なんで」

「こよはただの研究者だし気にしなくていいんだよ?」

「気にします」

 

 むぅ、と少女は頬を膨らませる。

 少女、と言っても彼女は私と同じく成人を迎えた大人だ。ただ少し言動がアレなだけで、立派な大人なのだ。

 

「で、なにやるんです?」

「えっとね、今日はマヨネーズを使った料理を研究して、あとは新しい薬の開発かなー」

「……試食と実験体ですか」

「料理はそうだけど、実験体になんてしないよっ! 助手くんをそんな酷い目に遭わせるなんて、こよはしないんだから」

 

 心外だなぁ、と紫色の瞳が私を見つめる。

 確かに彼女は新薬の実験など、危険が伴う実験を私にしない。そこは信頼してもいいだろう。

 

「でもこの間、私薬飲まされて体光ったんですけどね」

「……スゥゥゥ」

 

 ウマの娘がレースするゲームの影響で、博衣こよりという研究者は体が七色に光る薬を完成させ、その実験体に私が選ばれた。

 まるでウチの駄メイドのような反応に、私は呆れて一つ息をつく。

 

「さ、さぁ! 今日も研究するよ助手くんっ!」

「はぁ」

 

 なんで私、この会社辞めてないんだろ。

 そんな思いが心を占める。

 給料もあまり良くない。日々よく分からない薬を飲まされ、体が光る。そんな状況なのになぜ私は辞めていないのか。

 あくあのこともあるし、辞められないのはそうなのだが、不覚にもこの職場が少しだけ楽しいと思えてしまったのが原因だろう。

 ……給料うんぬんは、あくあが稼いでくれてるし問題ないし。

 あくあクルーからのスパチャがとんでもない数字を出しているので私の給料など鼻で笑う程度だ。

 

「あ、そういえば助手くん聞いた?」

 

 自嘲気味な思考をしていたが、博衣博士のその声で止まる。

 

「なにがです?」

「こよたちholoXが配信者になるってこと」

「……は??」

 

 なにも聞いていないが?????

 

「その反応だと聞いてないんだね〜」

 

 そっか〜、と彼女はピクピクと獣耳を動かした。

 

「詳しく言うと、ラプちゃんとルイルイたちとやるんだけどね」

「総帥と幹部なにやってんの」

 

 思わずそう突っ込んでしまう。

 いや、ホントになにやってんの。

 

「配信者になるのはいいんですけど、具体的には?」

「んーっとね、ラプちゃんが言うにはホロライブに所属して全世界を手に入れる、とかなんとか……」

「なに言ってんだあの人」

 

 ホロライブに所属……?? ホントになにを考えてるんだあの人。

 ということはこの人たちがホロライブ六期生?

 

「頭痛い……」

「あはは! そっか、助手くんはこよの助手くんだけど、ご主人でもあったね」

「知ってたんですか」

「ふっふっふっ、holoXの頭脳であるこよを舐めないでもらおうか」

 

 ドヤァ、とその整った顔が鬱陶しいくらいに歪む。

 

「助手くんのことは、なんでもこよにはお見通しなのさっ♪」

 

 うざっ。

 

 

 

 

「もうマヨネーズなんか見たくない」

「えぇー!? そんなこと言わずにもっとマヨネーズかけて食べようよぅ!」

 

 マヨネーズご飯なんてもういらないんだよ!!!!

 もうお腹いっぱいだし! 口の中マヨネーズの味しかしないし!!

 

「うっぷ……」

 

 今私は新薬の開発の空き時間でマヨネーズをかけた何かを食わされている。

 もう解放してくれ。

 

「ん?」

 

 吐きそうになっているところにスマホに通知が届いた。

 アプリを開いて見てみると、そこにはあくあからの連絡が来ていた。

 

 あくあ〔ごめんご主人! スバルのおうち泊まってオフコラボすることになった! いってくるねー!〕

 

 私に天使はいなかった。ダメな天使だった。

 ポロリと涙を流し、私は気をつけていってらっしゃい、と返信をしてスマホを閉じた。

 

「あ、薬完成したよ助手くん!」

「……ソウデスカ」

 

 

 体が発光しました。

 

 

 

 

 ▷

 

 

 

 

「今日も研究楽しかったね、助手くん」

「ホントに楽しいって思ってるのがタチ悪いんだよなこの博士」

 

 研究室とは別の部屋、博衣博士の私室にて私たち二人は酒を飲んでいた。

 あくあが家にいないので家に帰る意味もないな、と思った私はあれから博衣博士の実験体として働き、一通り終わったらしく、そのあとは博士が私室に置いている日本酒を頂いているわけだ。

 

「うーん、やっぱり『たか〇よ』は美味しいなー!」

 

 ふにゃ、と愛らしい獣耳が倒れ、美味しそうにお猪口を傾ける美少女。

 この女性、さっきからすごい飲んでるけど酔わないのか……?

 

「博衣博士、そんなに飲んで大丈夫なんですか?」

「大丈夫だよ〜。そんなに酔わないんだぁぼく」

 

 確かに酒を飲んで頬は赤くはなっているが、酔った感じはしないし、つまみを持ってくる足取りも普段通りだ。

 

「それより、助手くんはいつになったら名前で呼んでくれるの?」

「え、まだ言ってるんですかそれ」

 

 朝からずっとだぞ。

 

「こよがこんなにも名前で呼んでって言ってるのに、頑なに名前呼ばないんだもん。そりゃ言うよ」

「いや、そこは諦めてくださいよ」

「やーだよっ!」

「えー……」

 

 大の大人がそんな子供みたいに言わんでください。

 それにしても、そんなに名前で呼んで欲しいのか。わからん。いつも会社以外だとご主人呼びされてるし、博士の研究してると助手くんって呼ばれるし、わからないな。

 

「酒が空ですよ、博士」

「むぅ、またそうやって……」

「そんなにむくれないでくれますか」

「助手くんには呼んで欲しいのー!」

 

 お酌するとすぐさまグイッと飲まれ、たんっ、とお猪口がテーブルに置かれる。

 お猪口に酒を再び注ぐと、つまみがなくなったことに気づいたのか、博衣博士はおもむろに立ち上がり、キッチンの方へ向かう。

 

「って、博士酔ってません?」

「酔ってない」

「いや、酔ってますって。少しふらついてますよ?」

 

 というより酔ってないって言う人ほど酔っているものだ。

 仕方ないので私もキッチンに向かう。

 

「今度は何食べるんですか」

「……これ」

「ほう、アマ〇フーズのパスタですか」

「うん。美味しそうかなって」

「じゃ、私これ温めるんで戻っててください」

「やだ」

「なんでだよ」

 

 ホントになんでだよ。

 

「こよもここにいるの」

「……わかりましたよ」

 

 なぜか駄々を捏ね始めたので深堀せずにそのまま従う。

 パスタが温め終わり、二人でテーブルへ戻る。

 

「んー! 美味しい〜」

「あ、確かにこれ美味しいですね」

「でっかいキノコあって美味しいねぇ」

「ンンッ!」

 

 やめろ。むせただろう。

 この人ホントに予期せぬところでぶっ込んでくるから怖い。

 しばらくして日付が変わり、テーブルの上を片付け終えてから、私は帰る支度をしていた。

 

「えー、助手くん帰っちゃうの〜?」

 

 ソファの上で足をプラプラさせ、博衣博士はつまらないといった表情でこちらを見つめる。

 

「帰ります。いくら明日が休み、それにあくあがいないとはいえ上司の部屋に泊まれないです」

 

 この人、寝てる時に何するかわからないからできるだけ隙はなくしたいんだよな。私が今日酒飲んでるのは、私も酒に酔わないタイプだとわかってたからだし。

 

「ま、仕方ないかぁ」

「おや、素直ですね。もっと駄々を捏ねるかと思ってました」

「こよは大人なんだよ〜?」

 

 酒飲んでましたからね。大人じゃないと困る。

 

「じゃ、会社の入口まで送っていくよ」

「ありがとうございます」

 

 未だに秘密結社holoXの地下の構造を把握できていないので送っていくという申し出は本当にありがたいものだ。

 博士に案内され、私は無事会社の入口まで辿り着いた。

 

「博衣博士、ありがとうございました」

「うん、いいよ。この間みたいに地下を迷っても困るもんね」

「あはは」

 

 あやうくあくあが餓死するんじゃないかってくらいまで遅くなってしまったからな。あの時は、用心棒として雇われている風真(かざま)いろはさんが助けてくれたからなんとかなったけど。

 ついこの間のことを思い出していると、トンッ、と突然衝撃が来た。

 

「え、っと、博衣博士?」

「……名前で呼んで」

「いや」

「呼んで」

 

 私は少し下にあるふわふわな桃色の髪の毛を戸惑いながら見つめる。

 緩く抱きしめられ、私の両手はどこにやったらいいものかと彷徨う。

 私は一つ息をついた。

 

「……こより、さん」

「ん」

 

 ぴょこ、と獣耳が跳ねる。

 

「どうしてこんなことに??」

「ちょっと寂しくなったから」

「……そーですか」

 

 まぁ、総帥や幹部、風真さんやなんか知らんけど変なアイマスクつけた人がいても、この少女は一人であの研究室と私室にいるのだ。一日中共にいたのだから少しくらい寂しくなってもおかしな話ではない。

 抱きしめられるのは想定外だが。

 

「へへっ、ごめんね」

「いえ、まぁ、驚きましたけど」

「助手くんの驚いてるところ可愛い♪」

「……うざっ」

 

 おっと、つい口に出てしまった。

 

「じゃあ、気をつけて帰ってね助手くん」

「はい。博……じゃない、こよりさんもちゃんと寝るんですよ」

「んふふふ、はーい♪」

 

 ふさふさの尻尾が揺れ、こよりさんは手を振って私を見送る。私は会釈をし、会社に背を向けて歩き始めた。

 

 

 ……思ったより、酔いが回っていたのかもしれない。歩いて帰ろ。

 

 

 

 

 






 三週間での配信でとてもこよちゃんが可愛くて推しになりました。
 他のホロライブメンバーもいろいろありましたね。そちらの方も書きたい……!!

 こよちゃんが朝に配信している朝こよRadioはリスナー(助手くん)に台詞を募集してそれを読んで悶えさせてくるのでオススメです。
 
 感想、評価お待ちしております。


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