斎賀百は若干チョロインの気が強い (社畜怪人)
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前編
双つの完熟メロンが弛むたび、人々の視線が吸い寄せられる。
慣れたものはいうが、どうせ今後もこの贅肉と付き合い続けねばならないと知ってはいるが、しかしだからといって心地の良いものでもないのだ。
そんな自分を妬ましげに見つめる腐れ縁。
カリスマモデルとして名は売れているし、外面が隔絶していいことも知覚しているが、内面だけは理解し難い邪悪の権化。
二人で会うことは慣れきったものだが、今回はそこにもう一人。
ハロウィンでもないのにカボチャのマスクを着けた、謎の存在感を醸し出す不審者がいた。
「で、トワ。そこの不審者は誰だ?」
「よくぞ聞いてくれました!彼はなんと、我ら
「あぁ、サンラクか。トワが迷惑をかけてすまないな」
「ちょっ、最後まで言わせてってばー!」
それに迷惑って何!?と激昂してみせるが、それはポーズだと百は、そしてサンラクは理解している。
アレは相手に負い目を感じさせて、以後の交渉ごとを自分有利に運ぶための手法。
腐れ縁ゆえに知る百、そこまで長くないまでもディープなやりとりをしているサンラクだからこそ、容易に受け流せる類のモノだ。
「で?旅狼の時限爆弾を仕事の話し合いに連れてきた理由はなんだ」
「もー!サンラク君を連れてきた理由は簡単だよ、ウエディングドレス特集の時の相手役は私が選んでもいいって話だったでしょ?」
「疑似とはいえトワの夫役をやらされるのか。言え、どう脅迫した?何をダシに脅迫したんだ?」
「脅迫はしてないかな。ただGGCの放送を見て、『顔隠しさんも名前隠しさんも素敵でした!出来たら共演したいな!』って呟いたりしただけで」
「よく言う」
百も、GGCの動画はミラーサイトであるとはいえ見た。
そこにあったのは、眼前の腐れ縁が悪の限りを尽くして人々を絶望せしめていたのと、全米一に容易くK.O.されていた姿である。
その時の名が『名前隠し』だったのも覚えている。
「それで?」
「サンラク君の妹ちゃんが私の熱心なフォロワーらしくてね?妹ちゃん伝手でリアルのサンラク君を少しずつ少しずつ晒していくよ?って」
「人はそれを脅迫というんだ。……全く、すまないなサンラク」
愚妹の想い人を何だと思っているんだ、との思いはメロンの片割れに封印して。
「いや、まぁコイツが無茶苦茶なのは常日頃から知ってるし構わないけどさ。なんか給料とか出るの?」
出来ればクソゲーの現物支給が、と呟いたのは聞かなかったフリで済ませて。
「後さ、ウエディングドレスとかだとペンシルよりそっち──斎賀姉のほうが映える気もするんだが」
「どこで比べてるのか知らないけど、それはちょっと……」
「私の方が映える、か?妙なことを言うな」
───サンラク曰く。
ペンシルはティーン向けの雑誌のカリスマモデルなんだから、結婚に縁遠いとかは言わないまでもやはり距離のある少女たちには、やはり厳しいものがあるんじゃないか。
そこへ行くと、斎賀姉は外面も美人だし、人目を惹き付ける武器も装備している。
クールな仕事人間の女が、ウエディングドレスを見事に着こなす姿のほうが、なんというかアリなのではないか。
結局胸かー!と吼えるペンシルを他所目に頷く百。
じゃれ合う二人を見ながら逡巡して──────
「だが、トワの写真がないのもよろしくない」
「ほら見ろ、私大勝利!やっぱり正義は勝つんだよ!」
「そこでだ。私とトワ、二人の写真を並べて対比する形にしてみよう」
「ヘイヘイ、格差社会を露わにするのは大罪だぜ?」
「格差社会どころじゃないだろーが」
格差社会の意味を理解した百はハッとしたが、悪い案ではないと自画自賛。
こうすれば恋愛に縁遠い自分にも進展が生まれるのでは?と考えながら。
「だが、言い出したからには付き合ってもらうぞ?」
いざとなれば道連れも辞さない覚悟で、斎賀百は微笑んだ。
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中編
『ウエディングドレス姿も素敵です!やっぱり永遠様は何でも着こなしちゃうんですね!』
『もう一人の花嫁さんもすごく美人ですね!あんなスタイルの人に少し憧れちゃいます!』
『あの……永遠様やもう一人の花嫁さんと一緒に写ってる人は誰なんですか?』
◆ ◆ ◆ ◆
「Fluegel」に届いたファンメールは、概ね上述の3つのバリエーションに絞られる。
ウエディングドレス姿の花嫁だけじゃあ映えないからね。
やっぱり新郎がいてこそ新婦は輝くのさ!
別に恋人とかじゃないよ?仲のいい友達にコスプレしてもらったんだよ。
カボチャのマスクは顔バレを防ぐための処置なの。
私やもう一人と並べられたら、大概の男は見劣りしちゃうもんね。
舌先三寸とはこのことかと百が呆れ返るほどの弁舌で、天音永遠は疑惑を払拭していく。
百はといえば、永遠が返信しているのを眺めながら嘆息をひとつ。
(似合っている、か。花嫁衣装が似合っている……勘違いするぞ)
胸がやけに押し出された、ある種破廉恥極まるような姿の気もしたのだが。
少なくとも、天音永遠のような清楚さを全面に押し出したような、いかにも『花嫁です!』と言わんばかりの写真ではなかったが。
確かに自分の傍らに彼はいて、不慣れな撮影を二人で共に熟して。
恥じる自分を励まして、褒めてくれた。
永遠には軽口を叩いていたあたり、巻き込まれたことに腹を立てていたのかもしれないが。
それでも、胸だけを見て評価するようなことをされなかっただけでも、百にとっては幸福なことなのだ。
「なぁ永遠、お前は彼───サンラクをどう思う?」
「んー?まぁ悪友かなー」
「悪友?」
「そう、本当の自分を見せても構わない悪友。モモちゃんみたいに長い付き合いじゃないけど、サンラク君やカッツォ君も信頼してる悪友だよー!」
「そうか」
ほう、と安堵の吐息が漏れて。
───安堵。何故?
鈍い娘ならここで迷いもするのだろうが、生憎と斎賀百は才女。
一連の流れを線で繋ぐなど、容易も容易だった。
「あぁ、そうか」
(私は───妹が焦がれる男に、同じように心を惹かれたのか)
外見だけで評価・判断されなかったことが、こんなにも自分の中で大きなことだとは。
そしてそれを自覚してからは、何気ないものだった彼の有り様そのものが彼女の中で膨らんでいく。
リュカオーンに二度挑み、認められ、影とはいえ打倒した力も。
破天荒に世界を駆け、致命兎や征服人形と共に在る姿も。
羨望や憧憬の類だったものが、恋心をスパイスとして変異して。
恋愛に縁遠かった友人が変わり果てる様を目の当たりにして、天音永遠は呟いた。
「モモちゃん、ちょっと耐性なさ過ぎない?チョロすぎるよ?」
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後編
斎賀百がウエディングドレス姿を周知のものとして晒してしばらく。
いくらカボチャのマスクで顔を隠したとて、相手の正体は分かる人には分かってしまうのが世の常であり。
◆ ◆ ◆
「え……じゃあ、これは……婚約したとか、そういうのではなく?」
「あー、うん。ちょっと頼まれて相手役になっただけだから」
「姉が、その、申し訳ありませんでした……」
「いや、気にしなくてもいいよ。斎賀姉よりもペンシルのほうが面倒だったわけだし」
「…………すみません」
「謝らなくていいって。それより、玲さんは今日もログインする?」
「はい、試したいこともありまして……」
「(流石の廃人……!やっぱりどこまでも先頭を行くのか…!)」
◆ ◆ ◆
「やあサンラク……いや顔隠し、ペンシル以外にも女を侍らせるとか大したもんじゃん」
「ペンシルに脅迫されただけなんだよなぁ……」
「で?本命はどっちだい?重婚はこの国じゃまだ違法だよ?」
「全米一とナツメグ氏を侍らせてる顔面両性類に言われたくないかな………」
「別に俺は恋人とかじゃないし……」
「次に公衆の面前で全米一に負けたら公開プロポーズとかじゃねぇの?」
「そんなことやった日にはメグに刺されそうな気もする」
「ナツメグ氏は刺すとかじゃなくて、ひたすら粘着するストーカーみたいにもなりそうだけど」
「それもやだなぁ………」
「ま、いい加減年貢の収め時ってやつだ」
「………それは、サンラクもそうじゃないのかな?」
◆ ◆ ◆
「なぁトワ、私はどうすれば彼と付き合えるんだ?」
「まず、サンラク君は鈍い。そこを加味しても、積極的にいかないとライバルは多いからね」
「え、そんなにいるのか?」
「そりゃあもう!」
「…………ちなみに聞くが、トワ、お前は彼のことは?」
「うん?好きだよ?」
「……………」
「一人じゃ鈍感ニブチンのサンラク君に届かなくても、二人なら届くはずだよ?」
「二人なら届く……のか?」
「そう!それにモモちゃんには破壊兵器にもなる武器がある!」
「破壊兵器扱いはやめろ」
「え、でも使いこなさないと妹ちゃんに負けちゃうぞ?」
「良いだろう、勝つために手段を選べる程上等な立場じゃないことは重々承知しているとも」
「(…………やっぱりモモちゃんチョロすぎる気がするよ)」
「ん?どうしたトワ?」
「そうと決まったらモモちゃんの魅力を十全に活かす方法でいくよ!ウエディングドレスのシーズンが終わったら、当然次は水着!ね?」
「…………それは無理だな」
「え、なんで?」
「着れる水着がない」
「………………(瘴気を纏った眼差し」
◆ ◆ ◆
斎賀姉とペンシルに付き合わされた日から、何ヶ月か。
一通のメールが、一人の想いを乗せて着信する。
シャンフロでも妙に絡むようになった斎賀姉。
行き帰りがほぼ毎日一緒になった玲さん。
毎日のように自撮り(中には公衆の面前で出せないような過激なのもあった)を送ってくるようになったペンシルゴン──永遠(永遠と呼ぶように強要された)。
毎日この三人からの着信が来る中、最初に想いを届けてきたのは──
斎賀姉妹の水着姿とか犯罪になりそうな光景ですよね(強弁
各々+秋津茜とかのエンディングを書いてみたいなぁ……
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Ifルート:隠岐紅音ルート
隠岐紅音は、多くの人を尊敬している。
テレビで見るようなプロのスポーツ選手たちは言うまでもなく。
諦めずにチャレンジを繰り返す不屈の魂も、頂点に有りながら駆けることを止めぬものも、夢をただ追うものも、須く憧れの対象になる。
彼女がプレイしているゲーム【シャングリラ・フロンティア】で、彼女と特に親密にしているクラン【旅狼】のメンバーたちは皆尊敬している。
各々形は違えど、それぞれの輝きで世界を照らしているから。
天覇のジークヴルムとの決戦時など、彼らの力がなくては紅音が出来たことなどどれだけあったのか。
そして、その中でも特別親密なプレイヤー───サンラクへの感情は、憧憬や尊敬の類から徐々に変わり行き。
恋慕の情だと紅音が自分で気付いた頃には、もう止まれなかった。
好きだと告白したい。
憧れ続けていると打ち明けたい。
彼の傍らにいるヴォーパルバニーや征服人形へと嫉妬心を抱いたときに、ようやくソレは自覚へと昇華した。
………のだが。
◆ ◆ ◆
『サンラク君に告白したい?』
『はいっ!たくさんお世話になってますし、いっぱい一緒にいましたから!これからもずっとサンラクさんと居たいんです!』
『うーん……でも、サンラク君はモテるよ?』
『そうなんですかっ?』
『そうそう。そりゃああんなに走り回ってるからね、人目にも付くし。アレで人当たりもいいから、いくらでも人を誑し込むさ』
『………………………』
『ただでさえ周りにエムルちゃんやサイナちゃん、茜ちゃんがよくいるからね。恋人もいないから周りに侍らせてるって思われてるよ?』
『…………………………』
『────茜ちゃん。今なら、サンラク君はフリーだよ』
『え』
『恋愛ってのはね?過程や方法なんてどうでもいいんだよ。夜討ち朝駆け、ハニートラップに騙し討ち。世間の力を借りてもいい。成就してこそ意味があるんだ』
『………』
『何もせずにサンラク君が別の女の人のものになってもいいの?』
『で、でも…』
『今は悪魔が微笑む時代なんだよ』
『悪魔が………微笑む………』
『さ、行くんだ茜ちゃん!』
『分かりました!ありがとうございます、ペンシルゴンさん!』
『フフ、どうってことないよ!礼には及ばないってね!』
◆ ◆ ◆
ラビッツの一角にて。
「ペンシルゴンさんに教えてもらったんです!手段なんて問わなくていい、付き合ってしまったらそれでいいって!」
「それは相談する相手を根本的に間違ってるな」
秋津茜にのしかかられたサンラクが呆れ顔になる。
「なので、特に可愛いって言われたノワルリンドさんと融合したときの格好で告白しに来ました!」
「やっぱノワリンいるのか」
「はい!」
「で、告白?何を?」
「私、サンラクさんが大好きです!」
「あ、それはありがとう」
「それで、もしよければお付き合いしてください!」
「お付き合い?どこのダンジョンかな?」
「恋人の方です!」
「………まぁ、シャンフロの中でなら。リアルだと顔も合わせたことないだろ?」
「分かりました!なら今度外でも会いましょう!」
「ええ…………勢いあり過ぎじゃないか?」
「過程や方法なんてどうでもいいから、付き合っちゃえばいいんだって!ペンシルゴンさんに言われました!」
「あいつ…!」
◆ ◆ ◆
「えーっと…………」
「…………………」
「……クランメンバーを唆して、サンラクに告白させたらしいな?」
「落ち着いてよモモちゃん、レイちゃん。茜ちゃんにめっちゃくちゃ迫られちゃってね?そりゃああぁいうしかなかったんだってば」
「でも、やりすぎでは……」
「ちょっと反省してるよぉ」
「これでサンラクと秋津茜が付き合ってしまったらどうするんだ?」
「………………はっ!私の誘惑になびかなかったんだし、大丈夫に違いないよ!万が一は考えてないよ!」
「考えてなかったんですね……」
◆ ◆ ◆
隠岐紅音には、変なアドバイスすると暴走しそうな気もする
そして暴走しだすと止まらないし、修正も効かなくなると思う
ノワリンと融合した時に告白した場合、ノワリンにも告白は聞かれるんだろうけど
その時のノワリンの気持ちはどんなものだろうね?
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Ifルート:天音永遠ルート
◆ ◆ ◆
鉛筆騎士王:うぅぅぅぅ〜っ……!
鉛筆騎士王:早く連絡してよー!
鉛筆騎士王:怖いんだってば!
鉛筆騎士王:サンラク君!サンラク君ってばー!
鉛筆騎士王:ダメならダメで、早く言ってくれないかな!?
鉛筆騎士王:サンラク君!サンラク君!サンラクくぅん!?
サンラク:え、何これ
鉛筆騎士王:やっと返信してくれた!なんで今日の今日で放置プレイなんかするのさ!
サンラク:別に放置してたわけじゃないし
サンラク:モヤモヤしたから幕末潜ってただけだし
鉛筆騎士王:告白に答えもせずに幕末なんてしないでほしいなぁ
鉛筆騎士王:一瞬闇に堕ちそうだったんだからね!
サンラク:闇属性が闇に堕ちても変わることなんてないだろ
サンラク:闇ってか、病みに堕ちかけてたし
鉛筆騎士王:昔に流行ったヤンデレってやつ?
サンラク:そういうのはあんまり好きじゃない
サンラク:というか、恋愛だとまずピザ留学警戒しないといけないし
鉛筆騎士王:私が今更留学なんてすると思うかな?
サンラク:分からないぜ?
サンラク:大体告白ってなんだよ
鉛筆騎士王:えっとね?モモちゃんやレイちゃんに相談とかされてたんだけどさ
鉛筆騎士王:もしサンラク君と距離が空いたらって考えたらね?
サンラク:……あぁ、サイガ姉妹か
鉛筆騎士王:今までみたいな気のおけない関係から、後退しちゃうのかなって思ったらさ
サンラク:後退………?
鉛筆騎士王:もー、横やりは入れないでほしいな!
鉛筆騎士王:サンラク君が別の人の隣にいることを考えたら、胸が痛くて苦しくて悲しくて、どうにもならなくなったの
サンラク:予想以上にガチなやつだった
鉛筆騎士王:なのに、サンラク君ってば告白してからすぐログアウトしちゃうしさ。
サンラク:付き合うのは構わないけど、知っての通り俺は趣味人だからな?
鉛筆騎士王:そんなの重々承知してるって……ば………
サンラク:たまに大作が来たら連絡取れなくなるぐらいは分かってくれよ?
鉛筆騎士王:え、付き合うのは構わないって……
サンラク:付き合うのは結構ですって言ったほうが良かったか?
鉛筆騎士王:そんなことない!今更キャンセルもクーリングオフも受け付けないからね!
サンラク:いや、まぁそんなことはするつもりもないけど
鉛筆騎士王:やったね!これはもう今からサンラク君に電話してたっぷりと愛を囁いてもいいぐらいだよ!
サンラク:…………
鉛筆騎士王:どうしたの、サンラク君?
サンラク:残念なことに明日は休みか……学校なら言い訳にしたんだけどな
鉛筆騎士王:ふふん、そこをぬかる程私は甘くないよ?
サンラク:ヤバイぐらい焦燥してたけどな
鉛筆騎士王:……ね、サンラク君……ううん、楽郎くん?
サンラク:これ、永遠さんって呼んだほうがいいやつ?
鉛筆騎士王:うーん……そうだね、さんはいらないよ
サンラク:永遠。これでいいのか。
鉛筆騎士王:…………………
サンラク:お?どうした?
鉛筆騎士王:あーもう!ヤバイよ楽郎くん、顔がニヤけて治らないの!直接言われたら爆発しそう!
サンラク:………いや、流石に軽口で流せるもんじゃないよな
鉛筆騎士王:よーし、じゃあ今から電話しちゃうよ!
サンラク:時間も時間だから控えめで頼むぞ
鉛筆騎士王:まっかせっさーい!
◆ ◆ ◆
(あ、ダメなやつだコレ)
深夜帯だというのにテンションがヤバイことになっている女性を思い、嘆息を一つ二つ。
それを見ていたかのように着信が来て。
いつもとは違うハイテンションな鉛筆騎士王──天音永遠との電話は、ひどく照れくさく、しかし楽しいものだった。
ペンシルゴンは実は初心じゃないのか説を提唱
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斎賀百ルート
ひどく散らかった部屋、その一角に。
げんなりした顔の男と、悪びれる様子も見せない部屋の主がいた。
「ちょっと前に一緒に片付けたばっかでしょーが」
「どうにもな、仕事とシャンフロを両立させようとすると私生活が疎かになりがちなんだ」
「ゲーマーとしてダメなタイプの人じゃん」
「むしろ、通学も勉学も私生活もきちんとしながら最前線にいる君のほうが不思議なんだが」
「まぁ、そこは慣れってことでなんとか。……いや、一応心配にもなりますって」
自室だからとラフな格好の恋人は、正直なところ目の毒だ。
ブラ破壊、二玉のメロンと揶揄されるソレを隠そうともしない。
そんな《恋人》の気を知ってか知らずか、主──斎賀百は自身のVRシステムのクリーニングを続ける。
「そういえば君は、ヴォーパルバニーや征服人形と同行しているんだろう?浮気はしていないな?」
「言いたくないですけど、ゲームのデータに嫉妬はやめてほしいかな……」
「そうはいってもな」
クリーニングの手を止めることなく、百は思い返す。
ジークヴルム討伐戦の際に羨んだ、彼だけの物語が紡がれている事。
そして正典とされるオルケストラ戦の配信動画で見た、征服人形と重なっている心、想い──絆。
妬むべきではないと、知っている。
羨むべきではないと、知っている。
疑うべきではないと、理解している。
それでも、自分はあんなに可愛くはなれない。
あんなに真っ直ぐに愛の歌を奏でることは出来ない。
あぁ────恋愛はなんて難しくて。
そして、自分はなんて醜いのだ。
溜息をつきそうな時、恋人の笑い声が聞こえた。
「む?何かおかしいか?」
「いや、斎賀姉は完璧超人だって思ってたから」
「完璧なんかじゃないぞ。どうしようもなく情けない女さ」
「まぁ、そのほうが付合う身としては気も楽になるってもんで」
「……そうか、それは……良かった」
「まぁ、デートの度にガン見されるのは必要経費ですかね」
「………嫌か?嫌なら削ぎ落とす手術とかも探すが」
「探さなくていいです。俺は……まぁ、嫌いじゃないですし」
ゴミ袋を締めながら、照れくさそうな声。
百の恋人殿は、ゲームでの印象と違って純朴な面もあるらしい。
コンプレックスと呼ぶのも烏滸がましいモノさえ、彼は恥ずかしがりながらも受け入れてくれる。
メンテナンスを終えた百は、嬉しそうに頬を緩めて。
VRシステムのメンテナンスを終えて、休憩のひととき。
二人で遅めの昼食を食べる部屋は、随分と奇麗に片付いている。
「なぁサンラク──楽郎。私は仕事を辞めるつもりはない」
「そうなんで?」
「子供を授かりでもすれば考えるが。それに、君も進学してすべきことがあるだろう?」
「ま、そりゃ親と約束してますし。大学を卒業して、働いて。ゲームは辞めませんけど、私生活もきちんとしないといけないですから」
「楽郎が大学を卒業した後で入籍するとしても、二人共がゲームと仕事を両立させるには金もいる。子を授かれば尚の事だ。……私は先のことも考えて、稼げる時に稼ぐのは間違いでないと思っている」
「そりゃ、まぁ正解でしょうね」
「だが、働くのはストレスが付き物だ」
「あー、ペンシルと関わるんだったらそりゃそうでしょうよ」
百の怜悧さが滲む顔が緩む。
「だから、せめて週末の一日ぐらいは二人きりでいたい」
「ダメか?」
そこでダメと言うほど、楽郎は酷薄な男ではなく。
自分一人が独占出来る満開の笑みを前に、首肯を返すのだった。
百の姉貴は露出少なすぎて描写しづらい
でも自分、サンラク合わせて未来のことをしっかりと考えて行動とかしてそうな感じはする
オフ会名義で水着回とかやるとカオスなんだろうな……
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Ifルート:モモシルルート
「Fluegel」はティーン向けのファッション雑誌である。
カリスマモデルの天音永遠を擁し、ファッションの最前線を求める少女たちの圧倒的な支持を受けてもいる。
本来のターゲット層となれば、JCやJKになるのだが。
◆ ◆ ◆
「次の号の水着特集だか、私もモデルとして出てほしいとのことだったな」
「………………」
「どうしたトワ、そんなに睨んでも私の胸は縮んだりしないぞ」
「………そりゃねぇ。モモちゃんみたいなクゥゥゥルビューティーがぁ?グンバツのスタイルでぇ?スク水とか着たらぁ?売上も爆発しそうだもんねぇ?」
「スクール水着はないだろう……」
「まぁ、競泳用とかビキニとかでもスゴそうだもんね」
「露出するのはあまり好きじゃないんだが」
「いいよねぇそういうこと言える人」
「トワだって外見は相当なものだろう?」
「でもねぇ……」
「あぁ、サンラク君なら確かにトワの手に負えなさそうだな」
「私が全力で決めた自撮りを見て、鼻で笑うだけの男だよ…」
「………なんというか、規格外だな」
「全くもう!ひっついても抱き着いても顔色一つ変えないしさ!」
「……………ほう?」
「あの、モモちゃん?目が怖いよ?」
◆ ◆ ◆
『お兄ちゃん、トワ様がお兄ちゃんに用事があるんだって』
『俺は特にないな』
『トワ様に呼び出してもらえるんだよ?冠婚葬祭を無視してでも行くのが当たり前でしょ』
『そんな常識知らねぇんだよなぁ……(困惑』
『とにかく!お兄ちゃんはトワ様のところにいくの!』
『行く交通費が自腹な時点でデメリットしかないから』
『トワ様にお会いできるだけで全部のデメリットをひっくり返せるから問題ないね』
『この狂信者め…!』
『まだ狂信者なんかに届かないよ、ただのファン程度だから』
◆ ◆ ◆
天音永遠ことアーサー・ペンシルゴンに呼び出されて向かった場所は、どうにも彼女が一人暮らしをしている生活拠点らしい。
今更鉛筆王朝事件のリベンジなのか!?と考えてみるものの、アーサー・ペンシルゴンは恨みを持続させるような陰湿な人間ではないのだと思い返して。
インターフォンを鳴らすと、軽快な返答がひとつ。
そのまま彼女の部屋に入ると、そこには。
水着姿の天音永遠と斎賀百が、キメ顔で立ちはだかっていて。
「…………………間違えました」
「ああっ!?サンラク君!?なんでドアを閉めるの!?」
「あの、俺はそういう趣味はないから……」
「趣味とはなんだ。私達は顧客からのオファーに応えるべく、次の撮影で着る水着を選んでいるんだ」
「そうそう!それで、サンラク君だとどういうのが良いかなって相談する為に呼んだんだよ!」
「…………えぇ……そんなんで交通費払わされたのかよ…」
「なんでよー、美人二人の水着ショーなんて滅多に見られないよねぇ?」
「え、結構よくあるぞ」
「なんだと!?」
「あーうん、サンラク君のはゲームの話だと思うよ」
ごにょごにょと密談を交わす水着美女二人。
確かに現実で考えると滅多にあるものでもなかったが……
「中身がペンシルゴンって辺りで割と察するんだよなぁ」
「え、ひどくない?」
「まぁ、中身は別として映えてるとは思うわ」
「ちょ」
「斎賀姉は……うん、なんというかヤバいと思う。多分本来のターゲット層以外に受けると思う」
「それは………褒め言葉として受け取っておこう」
天音永遠と斎賀百が頬を染めているのを見て、選択肢を間違わなかった自分に喝采を送り。
役割は果たしたと立ち去ろうとして───腕を掴む、手。手。
「俺はまだ途中のゲームがあるんだよ。やることはやっただろうが!?」
「んっふっふー、ざぁんねん。大魔王たちからは逃げられないのだー!」
「私まで魔王の類にするな。……とはいえ、ここで帰られるのも癪だ。どうせなら最後まで付き合って行くべきだろう?」
「えぇ………」
呆れと、諦めと、絶望と、煩悩が、溜息に乗って一塊になる。
さりとて、ここからの早期逃走は困難──というか、そんなことをしたら後々何を言われるか分かったものでもない。
魔王に挑む村人の気持ちが、少しわかった気がした。
◆ ◆ ◆
「Fluegel」はティーン向けのファッション雑誌である。
カリスマモデルである天音永遠を擁する、ファッションの最前線を目指す少女たちの圧倒的な支持を受けている。
しかし、夏前に出たその号の天音永遠は。
普段の決まった顔やポーズではなく、自然な微笑みや姿で。
その姿は、誰が言ったか、まさしく【恋する乙女】だったという。
なお、このトワ様の変貌について兄を問いただす瑠美の姿が見られます
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ドキッ!旅狼のオフ会! 男編。
少なくとも、魚見慧にはそれが惨劇、もしくは修羅場にしか見えなかった。
斎賀家の別荘(らしい)を借りて行われる運びとなった、クラン【旅狼】《ヴォルフガング》のオフ会。
ネフホロのイベントと重なったがゆえに不参加となったルスト、モルドの二人の代わりと言ってはなんだが、保護者役として参加したのは剣聖ことサイガ-100。
シルヴィアやメグがいれば怨念を放ちそうな彼女だったが、存外に外道耐性も強く気安かったのは幸いだった。
最も───
◆ ◆ ◆
「サンラク、えらくモテるじゃん?」
「は?」
「サイガ姉妹に、秋津茜ちゃん。ペンシルもそうかな?みんなサンラクにデレデレじゃないか?」
「全く意味が分からないんだが???クラメンとして仲良くするのは当たり前だし、玲さんは同級生──しかも同じ学校。斎賀姉やペンシルはいい大人だしな。秋津茜はまぁ、懐かれてるようなもんだろうし」
「え、それ本気で言ってるの?ギャグじゃなくて?」
「俺は自分がモテるとか思ってないから?モテモテのカッツォさんと違ってさぁ?」
「……………」
「そうだ、200スレ達成おめでとうございまぁす!最近じゃTS全米一やTSナツメグ氏がアツいみたいだけど、当事者のカッツォさんからしたらどっちが本命なんですかねー???」
「………シルヴィアやメグに魔境の存在がバレたんだぞ。ヤバかった。正常に戻すとか訳のわからないことで結託するし」
「……………」
「…………どうした?笑えよサンラク」
「あー………うん。すまん」
「そこで謝られると……」
「………………」
「………………で、サンラクの本命は?」
「別に……恋愛で考えたこともないし」
「マジ?」
「むしろVRでクラン組んだ相手に惚れましたとかヤバイ奴認定待ったなしだろ」
「それもそうか……」
「……でも、いつかは結婚とか考える日が来るのかね…」
「お?サンラク君も結婚を考える年頃?」
「いやな、言いたくはないけど俺はクソゲー狂なのは事実だし、この性分は一生変わらない気もするんだよ」
「それに合わせられる相手、ねぇ……」
「ま、いつかは見つかると思うけどさ」
「…………ペンシルもサイガ姉妹も茜ちゃんも苦労するなぁ…」
「ん?」
「何でもないよ」
◆ ◆ ◆
魚見慧は、サンラクと二人の時間を好んでいる。
魔境の人々の語るような理由とは違い、気のおけない友人との時間。
シルヴィア・ゴールドバーグや夏目恵たちといるときにはない、気安く付き合える相手。
プロゲーマー・keiではなく、魚見慧として接してくれる友人。
ひどく鈍感なようだが、サンラクが他人の感情の機微に敏いことは重々承知もしている。
彼にとって、恋愛はまだ遠い先の話だと思いたいに違いない。
そう考えると笑みも漏れようものだ。
「な、サンラク?」
「ん?」
「俺達、親友……だよな?」
「さぁ、親友ってのがどういう付き合いの間柄のことを言うのかはイマイチ分からないけどな」
「そこは『俺達、ズッ友だよな!』っていうところだろ?」
「………そうだな、まぁ一番の友達ってなるとカッツォかな」
「……俺も、そうだからさ」
どちらからともなく、含み笑いの声が漏れて。
翌日、普段以上に仲良さげにしている楽郎と慧を見た女性陣が、あらぬ方向に邪推することになるのは、別の話である。
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斎賀姉妹の乱
───家とかじゃなくて、任侠映画に出てくるような屋敷の一角で。
「玲、件の彼は…………言ってはなんだが、強敵だ」
「はい……はい。百姉さんも、楽郎くんに……」
「そうとも、妹の同級生──妹の想い人に懸想するというのは良くないことだと知ってはいるのだが。それでも、私を奇異の目で見なかった、優しくしてくれた。それだけで、私は心を奪われた」
「それは………」
「玲もそうだろう。アレは熱がある。あの熱に魅せられる者もいる」
私達と同じようにと語る姉に、玲は同意する。
そして魅せられる人が多いのは、シャンフロでも証明済みであり。
「そして何より身近に強敵が多く、私達は恋愛に対して弱いのは事実だ。ならば共闘し、姉妹で娶られることを目指すのも手段だろう」
何を馬鹿な、とは言えなかった。
弱者が共闘して強敵に挑むのは、古今東西の物語に語られる英雄伝説にもあることだ。
今ここに、見目麗しく才にも恵まれた姉妹の同盟が成された───!
◆ ◆ ◆
一週間後。斎賀邸にて。
「アレはなんなんだ」
斎賀百の声が、小さく響く。
デートを申し込んでもスルー、シャンフロではそもそも足取りが全く掴めない。
というか、腐れ縁の天音永遠が強敵過ぎる。
「私の方も……一緒に登校したりが限界で……」
無理を言えば聞いてくれるかもしれないが、下手な手を打って嫌われでもしたら元も子もない。
控え目な妹のことを考えると、百も強くは言えない。
むしろ僅かながらでも想い人と共に過ごしている以上、妹の存在が鍵になるのは言うまでもなく。
「しかし、諦められない………諦めたくもない。さて、どうしたものか…!」
「……そういえば、仙姉さんに以前アドバイスを貰っていました」
「仙姉さんに!なるほど、既婚者のアドバイスは貴重なものだな」
「仙姉さんは……あの時に」
既成事実。
姉がかつて言い出した時は、世迷言と切って捨てたが。
打つ手も寄る辺も無い中では、選ぶしかない。
一択しかないのだ。
幸いにも、百や玲は外面もスタイルも抜群である。
あまり良い策とは言えないが、策を選ぶ余裕はこの姉妹に無く──
「やるぞ、玲!」
「分かりました、姉さん…!」
◆ ◆ ◆
さらに一週間後。
「どうだった、玲?」
「無理でした………」
溺れるものが掴んだ藁は、一本分の強度もなかったらしい。
あっさりポッキリ折れて、そのまま二人は沈んでいった。
どうにもサンラクは【風雲斎賀城事件(サンラク命名)】以降、斎賀家に近づく事に忌避感を感じているのだが、それを知らないのは姉妹の救いなのか否か。
何が悲惨かといえば、既成事実という目標を設定したはいいが、そこに至る道筋が全く舗装されていない獣道だということだ。
「トワに聞いたが、茶を濁されたし……」
当然である。
腐れ縁の友人とはいえ、一応の恋敵を救う理由などない。
天音永遠からすれば騙して自滅するようにしても良かったのだが、そこまでしなかったのは彼女の理性か、未だ永遠自身が恋か友情か計りかねている面もあるからか。
「私は………その………楽郎君、気になる人がいるって」
「……………」
「今日も会いに行くって……」
「大敗確定じゃないか」
がっくりと項垂れる百、声を震わせる玲。
こうして二人の計画は、サンラクの預り知らぬ場所で始まり、そして預り知らぬまま終わりを迎えることになった。
◆ ◆ ◆
「しっかし、モモちゃんも残念だよね……」
失恋報告を聞いた天音永遠は、頬を緩めた。
「サンラク君のことをある程度知ってれば、サンラク君の気になる相手なんてゲームのキャラだってぐらい分かるはずなのにねぇ」
さぁ、しばらくは慰めて、その後盛大にネタバレしてあげようか。
今後のことを考えて、美貌を悪辣に歪めていた。
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Ifルート:天音永遠の新婚生活
◆ ◆ ◆
永遠:楽郎くん、今晩は何時ぐらいになりそうかな?
楽郎:残業とかもないから、定時に上がれると思う
永遠:分かったよ、それに合わせて夕食も用意しとくね
楽郎:助かる、寄り道はしないわ
永遠:待ってる
◆ ◆ ◆
天音永遠が結婚するということは、少なからず衝撃があった。
その相手が誰なのかネットでも度々語られたと、楽郎は妹の瑠美に幾度も聞いた。
『でも、お兄ちゃんがトワ様と結婚………なんか変な感じ』
憧れの人が親族になるというのは、どうにも現実味が薄いらしい。
それでもウェディングドレス姿の天音永遠の姿は、瑠美の知る限りでも頂点に位置するほどの美貌に見えたし、その美貌の傍らに立つ兄の姿も誇らしく思えたものだ。
『お兄ちゃん、トワ様を泣かせちゃいけないからね?』
『はぁ?無理に決まってんだろ、あいつだって人間なんだ。嬉しくて泣く、悲しくて泣く、ワサビ食って泣く、涙を流すのは当たり前なんだよ。永遠の感情表現を抑圧するなんてしたくないしな』
『………その屁理屈、お兄ちゃんはお兄ちゃんだね…!』
『うっさい』
◆ ◆ ◆
天音永遠にとって、モデルというのは天職だと自負していた。
結婚したら、それを辞める必要があるのかもと思ったりもした。
だが、楽郎は辞める辞めないの選択に口を挟むことはしなかった。
結婚するとはいえ、相手の自由を奪う権利は自分にない。
俺がお前にゲームを辞めろと言われたら、それを強要されることがあったら、離縁を考えるレベルの重大事だからな。
不慣れな家事にも慣れ行く日々。
結婚してからも、モデルの仕事は程々にこなして。
楽郎という夫との生活は、永遠にとって幸福なものだと断言出来た。
そして、だからこそ不安というものは生まれるもので。
◆ ◆ ◆
永遠:ねえ、楽郎くん
永遠:楽郎くんはどうして私を選んでくれたの?
永遠:モモちゃんやレイちゃん、紅音ちゃんもいたし
永遠:それに、プロゲーマーになる道も選ばなかったでしょ?
永遠:もし私と結婚したせいで、夢を諦めたんだったらと思って
楽郎:馬鹿じゃねーの
永遠:馬鹿って何さ!
楽郎:俺は自分の為にゲームをやるんだ、自分が楽しむ為に
楽郎:ゲームを仕事にして、自分がしたいゲームを好きに楽しめなくなるなんて本末転倒だろうがよ
楽郎:後、永遠を選んだ理由?それこそ簡単だろ
楽郎:俺と一番近いのが永遠だからだよ
永遠:え
楽郎:説明は………まぁ、直接でいいだろ?帰ったらたっぷり説教するからな。そろそろ仕事に戻るわ
永遠:……うん、待ってるね
◆ ◆ ◆
陽務永遠は、陽務楽郎を愛している。
奔放で、自由で、真っ直ぐで、強くて、弱くて。
自分の歪みを受け止めてくれる、数少ない理解者。
天音永遠を、『カリスマモデル・天音永遠』ではなく『天音永遠』として触れてくれる大切な人。
愛だの恋だのと思う前に、好きだという気持ちが溢れていた。
陽務楽郎は、陽務永遠を愛している。
軽妙で、奔放で、自由で、洒脱なところもあり、歪んでいて。
自分のことを受け止めてくれる、数少ない対等な目線を持つもの。
陽務楽郎を、『ゲーマー・サンラク』ではなく、『陽務楽郎』『サンラク』の両面で受け入れてくれる人。
愛だの恋だのを抜きに、長く付き合っていられる相手だと理解していたし、そういうものだと受け入れていた。
夫婦になって、互いの欠点をそれぞれが少しずつ知り。
同じ時を過ごすようになって、互いに心から信頼しあえるようになった。
◆ ◆ ◆
『ね、楽郎くん?』
『ん?』
『もっといっぱい話したいな』
『よっぽどじゃなきゃこの先何十年も連れ合うんだろうが、話なんて幾らでも出来るってのよ』
『……毎日、好きって言ってくれる?』
『飽きないかソレ』
『飽きないよ!』
◆ ◆ ◆
楽郎と永遠は互いに歪んでいるからこそ、その歪み同士を補いあえる夫婦になれる気もする
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Ifルート:隠岐紅音の新婚生活
◆ ◆ ◆
午前七時。
「おはようございます楽郎さん!朝ですよ!」
「…………後八時間……」
「それは寝過ぎですよ!起きてくれないと悪戯しますからね!」
「悪戯はやめろ!」
「起きてくれましたね!」
カーテン越しの陽光に目を細めながら半身を起こすと、傍らには明るい笑顔の愛妻の姿があった。
毎日変わらぬやりとり。
「………昨夜カッツォのやつの調整に付き合わされたんだよ…」
「そういえばオイカッツォさんはもうすぐ大会でしたね!タッグでシルヴィアさんに挑戦するって言ってました!」
「俺がゲーム関連の道を選んだからって酷使しやがって……」
「でも、断らなかったんですよね」
「さっさとシルヴィアに勝って、プロポーズを決めたいってよ」
「そうなんですか」
「カッツォなりにケジメってやつらしいけどな。このままじゃ全米一とカッツォ、ナツメグ氏がアラフォーになっても結婚できないだろうしな、しょうがねぇさ」
「………オイカッツォさん、あんなに頑張ってるのに届かないんですね?」
「そうだ。追われる者は、いつでも高みに駆け続けないといけない。自分だけが見られる風景を失いたくないからな。全米一も多分そうだろうよ。カッツォのことは好きだろうが、愛と戦いは別だ」
ゴロゴロと甘えてくる愛妻に、したり顔で分かったようなことを語ってみるが。
追われる者の立場は、楽郎よりもむしろ愛妻のほうが熟知しているだろう。
陸上競技で期待の星と呼ばれた彼女は、一時期酷く病んだから。
◆ ◆ ◆
『サンラクさん、本当に私は走ってもいいんですか?』
『私が走ることで、辛い思いをする人がいる』
『私が走ることで、夢を諦める人がいる』
『私が走ることで、未来を閉ざされる人がいる』
『私がいることを、他人が本当は迷惑に思っている』
『私一人が諦めれば、みんな救われるに違いないって』
あの日、ラビッツで二人きりになった時の隠岐紅音──秋津茜は、脆く、儚く、ありもしない幻想に怯えていた。
便秘で出会い、シャンフロでそれなりに長い付き合いをしていたサンラクでさえ見たことがなかったような姿。
そんな少女に、サンラクは呆れを通り越したような顔をしていた。
『そんなことで悩んでるのか……いや、ディプスロか。あいつ口先で他人を洗脳しようとするしな……』
『あのな、秋津茜。人は誰だって、他人を疎ましく思うもんだ。どうしても勝てない相手。自分がどんなに夢見ても届かない場所を、一足飛びで駆け抜けていく先駆者。何をしても勝てない王者。そんな奴らに折られるやつだってごまんといる』
『お前が生きていく間は、ずっとそうだ。人は他人を羨むものだからな?』
『今お前がそんなつまらない理由で諦めてみろ。お前が今まで勝ってきた相手にも、未来を夢見た過去の自分にも、お前を目指す現在の宿敵にも────何より未来の自分への冒涜だろ』
『お前は誰だ?お前は誰の為に走ったりするんだ?』
『お前の人生は一度限りなんだ。人間らしく、もっと自分勝手で傲慢に生きてもいいんだ』
『少なくとも、俺達──旅狼の連中はそうだ。他人を顧みて後悔するなんてあり得ないメンツばっかだからな』
言うだけ言って、眼前で泣きそうになっている茜を見て、サンラクは深くため息をついた。
涙目で、自分に縋るような顔で。
こんなシチュなんざ、どれだけのゲームで体験したか数えるのも馬鹿らしい。
最適解はもう分かっているから。
『サンラクさん………』
『他の奴らは知らないけどな。辛いときは愚痴とか聞くぐらいならしてやれるからさ』
『………少しだけ、泣かせてください』
『好きなだけ泣けよ、俺は受け止めてやるからさ』
『………うわぁぁぁぁぁっ……ひっく、ひっく……』
◆ ◆ ◆
隠岐紅音は、あの日、あの瞬間、サンラクという人物に恋をした。
優しい声で、甘えたくなるような言葉を投げてはくれなかったけど。
厳しく、真摯に自分のことを思ってくれた人。
あの後もずっとずっと辛いときに泣かせてくれた人。
泣くことを恥じる必要はないと教えてくれた人。
そうだ、過去の自分に恥じないように、今まで競ってきた人たちに恥じないように、何より自分に恥じないようにいよう、そう思えたから。
きっと、サンラクさんのことを好きな人はたくさんいる。
でも、だからって諦めたくない。
真っ直ぐな恋心は、やがて真っ直ぐな愛情に昇華され。
その愛情は、見事に叶うことになる。
その影で涙を流した令嬢がいたことは、彼女の知ることではなかったのは幸いなのか。
◆ ◆ ◆
「楽郎さん、次のお仕事はいつですか?」
「んー……明後日からデバッグ作業と、再来週に実況があるな」
「それまではお休みなんですね!だったらデートしたいです!」
「リアルとシャンフロ、どっちでだ?」
「現実でですよ!」
ベッドに寝転がり続ける楽郎と、それに犬の如く甘える紅音の朝は、余程忙しくならない限りは穏やかで緩やかで。
「紅音は?」
「しばらくは調整です。ずっと走っているだけだと、身体のバランスが悪くなりますから!」
「なら、しばらくは二人でゆっくり出来るな」
「はいっ!」
相変わらず明朗な紅音を愛おしく思いながら、楽郎は起き上がるのだった。
ディプスロによる闇堕ち→サンラクによる説教で浄化→依存気味な恋愛に昇華ルート
ゲーマー以外にもゲームに関わる仕事とかは出来そうなサンラク…
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Ifルート:斎賀百の新婚生活
旧姓・斎賀百、現・陽務百の寝起きは、一杯のコーヒーから始まる。
否、始まっていたと言うべきか。
最近はエナジードリンクである《ライオット・ブラッド》を飲んでいる。
立派な暴徒に堕ちたかのようだが、まだ正気は保てている。
むしろ過酷な仕事の合間合間に飲むには、これぐらいの刺激があったほうが良いのだ。
基本的に朝はクァンタムを愛飲している。
クァンタムを一本飲めば、朝食は必要ない。
朝のその時間を、百は夫と共に過ごすために利用していた。
◆ ◆ ◆
「おはよう楽郎」
「おはよう斎賀あ………百」
「やはり気が抜けると旧姓で呼んでしまうようだな」
「いやー、すいません。なんというか、斎賀姉って呼ぶ癖が抜けなくてね」
「構わん、まだ結婚してすぐなんだ。私だって陽務と呼ばれて返事できない事もある。少しずつ慣れていこう」
ソファに隣り合って座り、テレビのニュースを流してはいるものの、二人共聞く耳さえ持たない。
性格上しっかりものだと思っていた百だが、やがて恋愛関係になり、そして夫婦になるにつれて可愛らしい面も多々見えるようになった。
それは、楽郎に言わせればメリハリらしい。
仕事中まで夫婦生活の影を見せるようなことはしないし、逆に私生活では出来る限り仕事の話をすることもない。
それを、夫婦共に努力している。
パートナーに気遣わせたくないし、気遣われたくないから。
朝の占いを聞き流しながら、楽郎に甘えて。
たっぷりと抱きしめ合い、愛情を補給してから百は仕事に出る。
それを送り出し、軽くシャワーを浴び、洗濯機を回してから、サンラクはゲームを始めた。
世界的なゲームイベントでの実況役として、イベントスポンサーたるガトリングドラム社から指定されているのだ。
プロゲーマーではないにしろ、ゲームに関わる仕事は多い。
そして彼を知るメーカーや、彼の後ろ盾にも近いメーカーの存在は、彼に程々に稼げる程度には仕事を与えてくれる。
「さって………武田氏に感想を求められてるのもあるし、さっさと片付けようかね」
朝に妻が言及しなかったということは、定時上がりになるのだろう。
会社勤めの妻に代わり、夕食の準備を出来るようにタイマーをセットして。
楽郎は、彼の仕事のための準備を始めたのだった。
◆ ◆ ◆
「ねーモモちゃん、今日モモちゃんの家に行っていい?」
「どうしたトワ、楽郎に用事でもあるのか?」
「あちゃー、バレた?」
「分からいでか。私に用事があれば深夜にでも鬼電するだろう」
「流石に今はしないかな。新婚ほやほやの夫婦の夜にそんなの、気まずくなるだけでしょ」
「?……特に何もしていないぞ?夜帰って、一緒に食事をして、程々にゲームをやって、一緒に寝るだけだ」
「………………」
「どうしたトワ?」
「モモちゃん、下手をしたら妹ちゃんにサンラク君を持ってかれるよ?その身体を使って子供を授からないと!」
「大丈夫だろう、楽郎はそれほど軽薄な男ではない」
「じゃ、私が本気でサンラク君を誘惑して既成事実を……………モモちゃん、その目はやめて?」
「幾ら腐れ縁とはいえ、下手なことをしたら実家の身内に助けを求めるぞ」
「じょ、冗談だってば」
◆ ◆ ◆
その日、楽郎の想定どおり定時に上がって帰ってきた百は、若干の憔悴と共に楽郎に迫ることとなる。
何があったかは語られない。
が、翌日の仕事中、百が時折見せる艷やかな微笑みに魅せられる男が大量に現れることになるのだった。
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Ifルート:例えばこんな、結婚物語
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
【旅狼】
鉛筆騎士王:もうちょっとしたら始まるイベントだけどさ
オイカッツォ:男はNPC、PC問わず結婚できるってやつ?
鉛筆騎士王:そうそれ。カッツォ君はまぁ相手が内定してるとして、サンラク君はどうなのかなって。枠が空いてたら入れてよ?
サンラク:候補はNPCが一機と二羽と一人いる
サンラク:どうせPCも二人ほどいるって話だろうけど、一人は決まってるから
オイカッツォ:プレイボーイかな?
サンラク:リアル両手に花のカッツォさんには勝てませんわー
鉛筆騎士王:え、決まってるPCって誰?
秋津茜:私です!
秋津茜:お願いしたら受けてもらえました!
オイカッツォ:…………え、早くない?
サンラク:鍛冶関係の用事でラビッツにいたときに頼まれた
鉛筆騎士王:あそこにいたんだ、手出しできないから厄介だねぇ
秋津茜:クエストがあるかもしれないから、ラビッツで結婚式をするんですよ!
サイガ-0:けっ……けけけけけ………けっこ……
サンラク:まぁ枠に余裕があれば、ペンシルも混じってもいいだろ
鉛筆騎士王:ありがとー!
オイカッツォ:ま、結婚だけで終わるような素直な運営じゃないだろうし何かあるんだろうけどさ
秋津茜:大丈夫です!サンラクさんと、エムルさんと、サイナさんと、ビィラックさんと、ノワルリンドさんと、シークルゥさんがいれば!
サンラク:レイドモンスがしれっとパーティーに入ってる恐怖
鉛筆騎士王:そこに勇者兼ブレイン役の私が入れば盤石だね!
オイカッツォ:相手が精神的にも戦力的にも哀れに見えてくるよ
サイガ-0:あうぅ……
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
秋津茜は、恋愛などに関して疎い。
その自覚はある──何せ、恋愛よりも夢中になることがあるから。
それでも結婚という響きの特別感には憧れるし、その相手が自分の憧憬している男とあらば尚の事。
「シークルゥさん、私サンラクさんと結婚するんですよ!」
「サンラク殿は親父殿が一番に気に入っている御方、秋津茜殿のことも幸せにしてくれるで御座る!」
「子供は何人でしょうか!ドキドキしてきました!」
「それは少し気が早すぎるで御座る。それに、エムルや征服人形の令嬢も共に過ごすとか。円満な家庭を築くが一番に御座るよ」
「そうですね!」
ちらりと横目で見れば、イベントとはいえ堂に入ったロールプレイを見せているサンラクと、その傍らには兎、征服人形が。
ヴァイスアッシュが愉快そうに大笑し、サンラクが舎弟ムーブを続け、サンラクに甘えるかの如く引っ付くエムルとサイナ。
もやっとしたものを感じないわけではないが、幸か不幸か秋津茜はその感情を煮詰まらせるようなことはなかった。
ただ、置いてきぼりだけは嫌だったので。
秋津茜も、嬉々としてその輪の中に入ることにした。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
なお、余談ではあるが。
秋津茜:サンラクさん!幸せになりましょうね!
サンラク:ま、ゲーム内とはいえ結婚したんだ。ゲーム内で幸せになるのは当たり前なんだよな
秋津茜:え?私は現実でもサンラクさんと結婚したいです!
サンラク:は?
秋津茜:エムルさんやシークルゥさん、サイナさん、ノワルリンドさん、ビィラックさんはいませんけど
秋津茜:サンラクさんまでいなくなると、寂しくて堪らないです
秋津茜:それに、幸せにしてやるって言ってくれましたよね!
オイカッツォ:………これは……
鉛筆騎士王:現実とゲームの区別はついてるけど、その上で憧れが止まらなくなっちゃってる感じかな?
秋津茜:はい!私、サンラクさんみたいに真っ直ぐな人に憧れてるんです!
サンラク:秋津茜、ステイステイ!まず俺達は顔を合わせたこともないだろ?俺が不潔でメタボ体型のロリコンな狂人だったらどうするつもりなんだ?
秋津茜:それでも、サンラクさんは真っ直ぐな人ですよね!
秋津茜:私がサンラクさん好みの女の子になれるように頑張ります!
サンラク:圧がすごい
オイカッツォ:銀金ばりの暴走…久々に見たよ
鉛筆騎士王:へいへいサンラク君、男らしく責任を取ろうとは思わないのかい?
サンラク:バカ言え、あと数十年はゲームにどっぷり浸って生きる予定なんだ。結婚したら相手が不幸になるわ
秋津茜:それじゃあ、私もサンラクさんと一緒にゲームをやりますね!
鉛筆騎士王:つよい
オイカッツォ:つよい
サンラク:つよい
恋する乙女が結婚イベントを体験すると、止まらなくなることだけは分かった。
シャンフロで季節ごとにイベントとかあると面白そうだよね説
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Ifルート:例えばこんな、結婚物語・聖女ちゃん編
◆ ◆ ◆ ◆
【旅狼・男子の会】
オイカッツォ:もうやだ……
オイカッツォ:あのテンションに振り回されるの
オイカッツォ:辛すぎるんだけど
サンラク:こっちも大概キツイわ
サンラク:そういえばルストは?
オイカッツォ:ネフホロのほうで忙しいからって伝言だけしにきてた
サンラク:うまく逃げたな
サンラク:俺も幕末に行こうか……
オイカッツォ:多人数の妻を捨てて夜逃げかな?
サンラク:バカ言え、三行半突きつけられての離婚だって
サンラク:言い逃れて………言い逃れられるか……?
オイカッツォ:ま、相手がなまじっか権力者の関係者多めだし
オイカッツォ:ペンシルゴンがいる時点でチェックでしょ
サンラク:そこらの野良プレイヤーで穴埋めのほうが良かった説
オイカッツォ:サンラクは嫌だった?ペンシルゴンとか秋津茜ちゃんとの結婚
サンラク:嫌だって言ったら俺が悪党になるだけなんだよなぁ…
サンラク:エムルはともかく、サイナにもきちんと合わせた衣装が装備されたし
オイカッツォ:征服人形ガチ恋勢が血涙流してたからね
オイカッツォ:特にサンラクとサイナさんは悪目立ちしてたし、サイナさんの好意も世界にバレてたし
オイカッツォ:スクショだけでもって話題になってたわ
サンラク:は、バカ言え
オイカッツォ:独占欲?
サンラク:………意外と、そうかもしれん
オイカッツォ:まぁ俺も、他人がシルヴィアやメグのウェディングドレス姿のスクショとか言い出したら
オイカッツォ:怒るかもしれないしさ
サンラク:………でもなぁ……
オイカッツォ:まぁ、サンラクはラス1がヤバイしねぇ
サンラク:聖女ちゃん肝入りで、秋津茜、ペンシルゴン、聖女ちゃん、兎二羽、人形と結婚式だぞ
オイカッツォ:字面に現すとホント意味が分からないんだけどさ
サンラク:安心しろって、俺もだよ
オイカッツォ:……互いに頑張ろうな
サンラク:ゲーマーはこんなところで挫けないんだよなぁ…!
◆ ◆ ◆ ◆
どうやらプロゲーマーにも不可能は多々あるらしい。
少し前、キメ顔で逃げ切ってみせると言ったオイカッツォだが、速攻で確保されて花婿行き。
とはいえ、満更でも無さそうなのは何より。
仮にも最大速度を冠する身の上、逃げようと思えば幾らでも逃げられはする。
ぶっちゃけログアウトしてしばらく音沙汰を無くせば、この狂騒は鳴りを潜めるだろう。
だがそれをしたとき、次に俺を待つのが何なのか考えたくもない。
ヴァッシュや聖女ちゃん、親衛隊たちを敵に回し、長らく戦いを共にしたエムルやサイナにさえそっぽを向かれるだろう。
秋津茜やペンシルゴンに関しては肉入りのプレイヤー、しかも縁も深いと来たものだ。
クソゲーを愛好してはいるが、自分から望んで地に堕ちる真似をする悪趣味は持ち合わせてはいないわけで。
「サンラクサン、準備が整いましたわ」
いつもの調子で頭に乗るエムルの声が、心なしか浮かれているようにも聞こえる。
「よっしゃ、カチコミだな!」
「結婚式場に入るのをカチコミって言うのはサンラク君だけかな?」
「頑張りましょうね!」
「よろしくお願いします、サンラク様、ペンシルゴン様、秋津茜様」
エムルに続いて現れた姿に、思わず息を飲んだ。
三者三様、華やかさに満ちたペンシルゴン、快活さを隠そうともしない秋津茜、不思議な神聖さと妖艶さを内包したような聖女ちゃんが、そこにはいた。
「……………みんな綺麗だ」
「そうですか!ノワルリンドさんとは融合しないように言われているんですよ!」
「真顔で褒めるあたり、本気で照れてるなー?」
「そうですね……サンラク様は、『花嫁全員を幸せにしてくれる』のでしょう?」
「当たり前ですわー!サンラクサンと私達が揃えば怖いもの無しですわ!」
「期待しすぎるなよ」
自信満々の秋津茜とエムルに釣られるように、不敵に笑うペンシルゴン。
聖女というか慈母のような微笑みを見せる聖女ちゃん─イリステラ。
呆れ顔ながら、満更でも無さ気なビィラック。
飽和した感情の行き場を求めてか、涙という形で解消するサイナ。
ただ一人の新郎を囲みながら、今架空の結婚式が始まる───
結婚式をバックレたらプレイデータ消去のほうがマシと思える目に合いそうなメンツ…!
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