おっさん憑依でヒャッハーLORD (黒龍なにがし)
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次回作構想

なんでこんなものが書きあがったのやら……

「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」
を読んでて思い浮かんだ小話なので本編には関係ありません


episode.??

「迷宮都市オラリオ」

 

 

 

 気が付けば皆して城壁の見える平野の上に立っていた。

 

「え?いきなりなにこれ?」

 

 おおよそ五十名ほどの集団が円状の都市の近く、少し小高い丘の上で唐突に訪れた変化に驚いていた。

 

「まぁまぁ、落ち着こう。前に過去に飛ばされたときも結構唐突じゃなかったか……また別の世界みたいだけどね」

 

「落ち着けるかぁ!?」

 

 その集団の背後には当然のように巨大地下墳墓の様な拠点、ナザリックが鎮座していた。

 

「おいおいナザリックまで来てるぜ。どうするんだい?」

 

「俺っちは封印に一票」

 

「私もだね。また世界征服だとか騒がれても迷惑よ」

 

「僕もだ。この素晴らしい自然を壊しかねないのは許せない」

 

 他のメンバーの多くも封印に賛成の様だった、ただ少ない反対のメンバーも性格をついていくと徐々に反論も小さくなっていく。

 

「では採決を、満場一致で封印措置ということで……ただ中の様子が知れるようにパンドラなどの更生が完了してる子たちには理由を話しておいた方がいいかもですね」

 

「それもそうだな。人手も足りてるから無理にNPC達の数を借りる必要もないだろうしな」

 

「役に立ちたいんですーって泣きつかれそうではあるけどね」

 

「そこは心を鬼にして突っぱねましょう」

 

「それでとりあえずはあの街?ってか都市って感じのとこに行ってみる?」

 

「そうしようそうしよう。ナザリック使わないなら宿とかも必要だしね」

 

「じゃ俺は先に準備してから追いつきますね」

 

 一人墳墓に潜り、他の皆はそれぞれに談笑をしながら目下の都市『オラリオ』を目指して歩いていく。

 

「あ、皆さん。人化の指輪忘れちゃダメですよ」

 

「「「「「「イエス、マム!!」」」」」」

 

 

 

 

 オラリオの遥か地下、通称『ダンジョン』と呼ばれる『迷宮』の最下層。

 そこでも地表と同じように異変が起きていた。

 

「ねぇ、カズト?どうもまたわたしの迷宮が変なところに移動させられたみたいなんだけど?」

 

 金髪にツインテールをカールさせて何度もまいたような髪形をしている美少女に問いかけられた白いローブを着込んだような男はその言葉に肩をすくめる。

 双角を生やし白いひげを蓄えながら背筋をピンと伸ばしたエルフのように耳の長い老人は髭をしごきながら外に思いを這わせながら考え事をする。

 

「おいおい、カリン。そいつはまた強いやつがいるかもしれない、『迷宮で遊んでいく』奴がいるかもしれないってぇことだろ?面白そうじゃねぇか、そんなことは愉しむもんだぜ」

 

 盃に酒を注ぎながら大笑をしながらカリンを眺めるのは桃色の豊かな髪をウェーブをかけたように揺らめく褐色の女性で豊満な肢体を惜しむことなくさらけ出すようなカリンの藍を対象に赤を基調とした衣装に身を包んでいた。

 

「困りましたねぇ……本部に連絡が付きません~」

 

「資材は運ぶっす!」

 

「拡張は任せるっす!」

 

「モンスターもどんとこいっすよ!」

 

 ペンギンの様な着ぐるみっぽい何かの腹にポシェットを着けたプリニーの背後にはいつの間に仕留めかとんでもなく巨大な蛇の様なモンスターやら金の角を持つ巨大な獣型のモンスターが解体されていた。

 

「Oh……」

 

 その光景にあんぐりと小さな口を開けるのは小さなシルクハットを被った金髪ストレートの少女で眠たげな瞳をしながらも燕尾服を身に着けた男装を心掛けたというよりは男性用の衣装を女性用に仕立て直したという感じだろうか。

 

「外の者たちはプリニーでも問題ない弱さの様ね。地上があるか?あるのならば地上の様子はどうなのか?『迷宮』を拡張してこのダンジョンをわたしのものにすることが出来るか、試すことはまだまだありそうね。イェンレン、カズトまずは二人でその辺りの情報収集をしなさい」

 

 男はこくりと頷き、イェンレンと呼ばれた女性も笑いながら了承する。

 

「ふむ、面白そうじゃ。儂もちょいと本気を出して遊ぶとするか」

 

「おじいちゃんはモンスターの支配が出来ないか試してみてほしいわ」

 

「そうです。バーン様無茶しないでください~……せっかくのダンジョンが壊れたら困ります~」

 

 

 

 

 下からじわじわと魔境と化していくダンジョン、地上に降り立った超越者たち。

 それとは知られずにこれまた同じく発生する異常事態(イレギュラー)ある五体の神もこの騒動に便乗してオラリオへと降り立っていた。

 

「……きょときょと」

 

 足元に広がる程に長い金髪の頭にちょこんと乗る小さな王冠にフリル満載のドレスを着た幼女が興味深そうに周りをしきりに見渡す。

 その幼女は神でありその名も邪神アザトースと呼ばれるもの。

 

「これこれ、そんなに目移りしていては田舎者のお上りさんじゃぞ」

 

 白髪を隠すわけでもなく灰色のスーツ姿にモノクル、好々爺とした態度をとる二百セルチという長身をもつ老人。

 この老人も神であり混沌の神カオスと呼ばれるもの。

 

「この世界は初めてだしいいんじゃない?他にも神とかいるみたいだし」

 

 純白のドレスにプラチナの髪をなびかせ、暢気についてくる女性は金色の魔王と呼ばれる神を、そして魔王を生み出したという存在。

 

「神とか言ってるけどそこまで力はないみたいだし、多少はほっといてもいいでしょ」

 

 赤いドレスに仄暗い水底の様な蒼い髪、顔の半分を覆う鬼の面、植物を思わせる脚甲とは非対称になる魚の様なひれのついたサンダルを付けるのは自壊という意味を持つアポトーシス。

 

「俺としては他に気になることがあるのだが……創造主が来ているのか?この世界に」

 

 筋肉質な体に鋼色の両腕を持ち、髪をオールバックにまとめた威風堂々とした男性は半袖のカッターシャツにスラックスという格好だった。

 機械の神、デウス・エクス・マキナ。

 それぞれがそれぞれに超級の厄を呼び込み、無謀を通り越して死亡が確定されるような試練を次から次へと作り上げるこのオラリオを混乱の坩堝に叩きこみ蟲毒の様により強いものをより強くしていく。

 

「「「何、楽しければいいのよ」」」

 

「だぁーぅ」

 

「アッザは知恵を取り戻してくれ」

 

 

 

 迷宮の奥深くに鎮座する「魔王(ラスボス)」と「大魔王(裏ボス)」と「神殺しの英雄(強制戦闘無し敗北)」と「歴史の英雄(四天王最後のボス)」。

 極悪ギルドと呼ばれ恐れられていたアインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーの勢揃い(四十一の心強い味方)

 ラスボスどころか裏ボスと呼んでもその言葉すら霞む、チートを使って戦いを挑むような邪神5人衆が手を組む闇眷属(イヴィルス)を遥かに超える邪悪(多元世界の敵)達。

 そんなものが待つ街『オラリオ』に辿り着くのは本来の主人公「ベル=クラネル」。

 

 

 

()を乗り越えろ

伝説(記憶)を塗り替えろ

少年は英雄(ヒーロー)に憧れる

伝説の(記された)偉人(英雄)ではなく世界に消された英雄(ヒーロー)憧れて(夢見て)……

本来ならば存在しない筈の姉と共に……




エイプリルフールネタです

これの本編は存在しません


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外伝:15巻のツッコみどころ満載総編集

この話はうちのサトル君が15巻の内容っぽく行動するものです
本来の15巻でツッコミするべきところをツッコミ入れていきたいと思います



 色々あって王国の国王であるバルブロの推挙もありなんだかんだ領地持ちの貴族になっていた。

 パンドラやヤルダバオトの尽力もあり王家直轄領の一つであり帝国側の折衝地でもあるエ・ランテル、エンリの生家もあるカルネ村と原作とそう変わらない部分を治めることとなった。

 パンドラはサトルの補佐に回るために表立って秘書としての立場を取り、ヤルダバオトは治安維持部隊を率いて各地を回りながら部下に就いた者達からは鬼教官と恐れられた、悪魔なのに悪魔教官とは呼ばれてはない。

 それはさておき、一般メイドたちはこの時期には全員ナザリックから出ることが出来ておりサトルの住む屋敷の清掃や客の対応等を行っていた。

 だた常に働いているのは全体の四分の一程で、仕事は三交代制、四日に一日は休めるように調整されている。

 

「そういえばメイド達の働きぶりはどうだろうか?シフトの調整だとかで困ったりしてないかな?」

 

「んん、父上。その辺りはセバス殿に任せております。その手の事は苦手なのか難しい顔をして悩んでおりましたがこちらでも手伝っておりますので問題は発生しておりませんよ。シフトの組み方などは上に立つ者の悩みですからな、早いうちに慣れていただきましょう」

 

 元々は疲労無効の装備をさせていたので疲れることなく常時全員が働くという状態だった。

 だったのだがモリガンの一言で疲労無効の装備は撤廃されパンドラの管理する新しい宝物庫に保管されることになった。

 その一言とは『装備便りの力押しで綺麗にしてるの?』というものだった。

 それはナザリックのメイドとしてのプライドを刺激してしまったのかメイド一同その装備を外し働き色々と問題も発覚してローテーションを組んで仕事を全うすることに落ち着いたのである。

 睡眠八時間、一日の労働は最大八時間、自由時間としてメイドマンガから新しい働き方を学んだり自身の得意なものを伸ばしたり自由時間や休暇の日はそれぞれに過ごしているらしい。

 ヘロヘロ、ホワイトブリム、ク・ドゥ・グラースのメイド作成の三人に『メイドとは』とはという話を聞きに行く子もいるらしいが三人が三人とも拘りが違うのでメイド議論に巻き込まれるとそれだけで一日が終わる。

 メイドたちにシフト制を取り入れたことでその上司でもあるサトルや守護者たちにも休暇を取れるように調整しており、疲労無効で無理やり働き続ける者は居なくなっていた。

 

「結論としては装備の効果で365日24時間働けますかは駄目ですな」

 

「疲れないから休まないとか論外だ論外。ヘロヘロさんのトラウマを刺激しないためにもブラックにはせんぞ、絶対に、だ」

 

「承知しておりますよ、父上」

 

 ややげっそりとした顔でヘロヘロさんが死ぬ前考えていたことを思い出す。

 このマスク外せば楽になれるじゃん、そう気づけばマスクに手をかけていた。

 そう語っていたのをスズキが精神ヤられて自殺寸前の思考だと言っていた。

 現実の電車への投身自殺でもふと気づくと線路へと足を進めている、そんな精神状態になるのだという。

 その一線を越えれば楽になれると……死ねるのだと思うのだそうだ。

 そういったこともあったと思い出しながら、それとは別に思い出したことをパンドラに伝える。

 

「あぁ、そうだ。導入しようと思っている『有給休暇』をまずは俺が実践しようと思っているのだが、外せない仕事とかはあっただろうか?」

 

「祭事は一月ほど先ですし、無理に顔を出さなければならない事柄も予定には入っておりませんな。何よりも貴族としては悠々自適に過ごされ有事の際に先頭に立っていただくのが最大のお仕事ですから、書類仕事以外で特に問題になるところはございませんな」

 

「ふむふむ、それならとっても問題はなさそうだな。とりあえず三日後に……」

 

 その有給の取る日を聞いたパンドラは動きを止めて、懐から刺々しい鉄球の付いた武器を取り出し振り上げる。

 その姿に驚きサトルは慌ててその武器を振り下ろすの止めるために慌てる。

 

「ま、まてまてっ!?なんだその物騒なものはぁ!」

 

「これですか?これは某マンガからアァァァイディッアをいただきまして!作成しましたっ!グゥッド・モォーーーニングスタァァァッ!!その起きたままあほな寝言をほざいた脳みそを起こしてあげる武器でございますよ」

 

 アイテムマニアのパンドラが後半は抑揚もなく話す程度にキレていた事にサトルは自身が何かまずいことを言ったのだと気づくが、何が拙かったのかがわからない。

 

「うぉぉぉぉっ!?髪の先かすったぁ!?すまなんだ!どこが悪かったのか教えてくれぇっ!!」

 

「せめて休みの申請は一週間前にしろ。見本になるつもりならなおさらです。一応中世の貴族なのでその辺り多少ちゃらんぽらんでもまわりは構いませんが、社会人だったと自負されるのでしたらその辺もしっかりしてくださいよ。父上」

 

「マジですまなかった」

 

 手のひらでモーニングスターをもてあそぶパンドラを前に土下座をして謝るサトル、普通は逆の立場なはずなのだが仕事の引継ぎ、承認権の譲渡書類やスケジュールの調整などを請け負う秘書の立場であるパンドラが怒るのは当然である。

 これを変身能力が使えるからとパンドラを身代わりに使おうとすれば今度は『あなたは組織のトップなのです、その自覚はありますか?』とマジレスを受けるだろう。

 運営資金の決定権、人の派遣先の決定、仕事の割り振り、先の方針の決定、トップであるがために決めるべきことは多岐にわたり、頭としての方向を見なければならない。

 

「ところで有休をとってどこか旅行でもされるのですか?場所によっては先触れを領主の方にお出しておかなければなりませんので」

 

「エルフの国にアウラと行ってみようかと……友達もグレーテルちゃんだけじゃ……寂しいだろうし……」

 

「……」

 

 エルフの国と聞いてパンドラの動きが止まり、その後に放たれる気配に徐々にサトルの勢いが小さくなりついには沈黙が下りる。

 四本の指を手折り、日数を計算し、距離を思い出し、改めて休みを求めた日付を確認するパンドラ。

 手のひらからモーニングスターの鉄球が離れ、重力に従って取っ手を持った方に揺れて垂れ下がる。

 

「さて改めてその寝ぼけた頭に叩き落としましょうか?それともエルフの国の現状をもう一回説明した方がよろしいですか?法国の残党、所謂劣化魔神が溢れ襲われている最中でドッペルゲンガー等も多く見受けられております」

 

「え?(初耳なんだけど)」

 

 聞き返す言葉に一枚の書類を取り出しサトルの目の前に突きつけるとサトルの押印がある場所を指さしてくる。

 表情の変わらない埴輪顔が近づき非常に不気味な感覚に襲われる。

 

「この書類は周辺国家の情勢を纏めたものでありましてね?読みました、確認しましたというサインとして押印の場所があるのですが……父上の判子が此処に確かに押されているんですがねぇ?」

 

 改めて読み直すと王国の周辺貴族の事に始まり、帝国の動きや政策、竜王国の被害状況、法国の侵攻調査の結果による恐怖候の眷属被害状況、絶死絶命と隊長による内部告発他諸々がびっしりと書き連ねられた書類でありエルフ国にある世界樹を目指している旨が確かに書かれていた。

 ダラダラと脂汗が止まらないまま固まるサトル。

 

「正座を」

 

「はい……」

 

 文字が多くて流し読みになってしまって情報が頭に入っていなかった事を責められてパンドラによる説教が始まる。

 しばらく繰り返し確認の大切さとわからないことは質問すること、理解できないよりも不理解で放置する危険性を詰められていく。

 

「サトル君いるかい?」

 

 そんな最中に蒼井(ブルー・プラネット)さんの声が部屋に届く。

 蒼井さんはトブの森の調査に向かっており、なぜか土づくりが気に入られたのか謎だがハニーキングに気に入られたために蒼井さんだけほぼ安全に探索をできていた。

 北のダークエルフたちは元々友好的だし、南部のミストレスは記憶にない蒼井さん作成のNPCらしいので帝国側の東部を除くと全てが行けるということで嬉々として調査に乗り出していた。

 そんな蒼井さんが戻ってきた。

 

「何で正座してんのさ?とりあえず調査書ここに置いておくね」

 

 机が紙の重みで軋む音を立てる。

 

「地理に植生、動植物の分布に生態の簡易調査書……果実などの研究結果もありますね。東部以外の森を網羅されてます……か。ふぅむ」

 

 考える様に顎に指を這わせ、少し考えると今考えた案を二人に話す。

 

 

 

 

 今、アウラとサトルと蒼井はエルフの国に向かって馬車を歩かせていた。

 

「お馬さんえらいえらい」

 

 パンドラとニューロニストの演技での発狂が影響しているのかアウラが設定の年齢ではなく見た目通りの年相応の行動をとることが多くなっていた。

 それでもスキルなどは健在でテイマーとして動物との触れ合いなどをよく好んで行う、年が近いのもあるのかネムとよく遊んでおりガンドフ達と一緒に遊びすぎクレマンティーヌに怒られたりしているようだ。

 それでも萎れているのしばらくだけでまた笑いあっている、そんな風景をガンドフ達は本当に大切そうに見ていた、見ていた理由を知ってからは守りたいものが一つ増えた。

 ゴブリン将軍の角笛にあんな効果があったのを知ったのはカルネ村の防衛線が終わった後、ゴブリンクィーンは呼び出したゴブリン達とトブの森南部にゴブリン王国を作るために活動しているとか。

 

「それにしてもゲート(転移門)で行った方が早いと思うんですけどね……」

 

「のんびり旅行の体も取ってるからねぇ。急ぐ必要もないんだよ」

 

 馬車に揺られながら自分にはこれといった変化の無さに早くも飽き始めていた。

 ユグドラシルでも初めての場所は歩いて移動していたけども、なぜ?とも思っていたけどここまで長時間移動したことはなく、リアルに日を跨ぐようなログインなんてできるわけがなくまた興味を引くようなものが落ちているわけでもなかった。

 ただそれは俺だけの問題なようで、蒼井さんもアウラもこの風景を楽しんでいるようでその様子を見ていれば頬が綻ぶ。

 

「そういえば王都は大変だったとか?バーサーカー(狂戦士)と化したたっちさんをサトル君が抑え込んだとか聞いてるけど良く勝てたねぇ」

 

「あぁ……あれスズキさんです。プレイヤースキルの差を改めて知りましたよ……」

 

 ローブの裾で剣を絡めとる、徒手空拳の強さ、距離の取り方、リズムの上手さ、魔法の使い方、罠の設置場所、建物の扱い、全てにおいて手が届かないと思わされた。

 同時にあんな風に戦いたいとも憬れた。

 スズキさんに出来たことは俺にも出来ることなんだと何度も言われてきた。

 

「なら見稽古みたいなもんなんだろうね……僕も見たかったなぁ」

 

「蒼井さんたちはティアマット攻略してましたもんねぇ……ほんのちょっと前なのにずいぶんと昔みたいに感じますよ」

 

 お互いに苦い思い出というには短い期間の記憶を引き出して顔を歪める。

 そんな空気を読み取ったのか、それともただ単にそれが見えてきたのかアウラの明るい声が二人の耳を打つ。

 

「サトル様!森、森が見えてきましたよ!」

 

 両の手を振り回し、ワクワクしている感じを隠せないキラキラとした瞳を見て俺も見えてきた森の方を見る。

 トブの森よりも木々が鬱蒼と茂り木漏れ日が細いが、思ったよりも暗くはなっていない葉でも薄いのかもしれない。

 

「へー、トブの森とはまた違う感じなんですね」

 

 記憶にある森の姿(入口付近)を思い出しながら見比べてみる。

 

「気候なんかの影響もあるし、人の手が入ってるかどうかってのもあると思うよ。山脈の下にあるトブの森だと寒気が多くて葉が厚くなってたり北部だと針葉樹なんかがいくらか見られたりしてたからね。こっちだと南に砂漠があるから温度に関するのが緩いから葉が薄いのかもね」

 

 近くになっている葉を一枚掌の上で持ち上げるようにして観察して、他の事も考察する蒼井さん。

 

「亜熱帯や熱帯のように水分が多くて放出する必要もないからってのもあるのかな?こっちもレポートが捗りそうだねぇ。リアルでもこんなことがやりたかったんだよね」

 

 しみじみと蒼井さんは本来のしたかったことを語る。

 ナザリックでは第六階層に森を、星空を作ったがそれは無聊を慰める物だった。

 かつてあったリアル世界での自然の風景、人の手が入ったとしても最低限のその在り方を直に歩き眺めたかった。

 自称植物研究者といえどもリアル世界に植物は残っていなかったのだから調べることは出来なかった。

 それは二十年程前『種』を巡る欧州での戦争が証明してしまったのだ。

 種を得る為だけに起こされた戦争が起きていながら他所のアーコロジーに植物が存在しているならそれこそその戦争に巻き込まれていただろう。

 だから、サトル達の居たアーコロジーにも、そして他のアーコロジーにも植物はないのだ。

 

「そういえばサトル君はこの世界でやりたいことって出来たかい?」

 

 過去に思いを馳せていれば、不意にこちらに質問が飛んできた。

 

「やりたいこと……ギルメンのみんなをこちらに呼んであげることはもうやり遂げましたし、うーん……小恥ずかしいですけどみんなの笑顔を守っていきたい、ですかね」

 

「あー……そんな壮大な人生目的じゃなくてねぇ。目下の趣味探しみたいなもんさ」

 

「趣味……趣味……趣味なんてユグドラシルで皆とわいわいしてるのが楽しかった、くらいですし?それとは別のになると……うーんうーん?冒険して目新しいアイテムを見てみたい、とか?」

 

 うんうんと頭を捻りながら出した答えだがなんだか違うような気がする。

 ユグドラシルを一緒に遊んでいたギルメン達とそう変わらない知識量、技術に関しても勝率五割程度それもリベンジマッチに依るものが大半と客観的に見てみれば決して誇れるようなものじゃない。

 魔法が千種ばかり使えるというのも慮外の拾い物のようなもの、むしろビルドは浪漫ビルド、他の人が持たないようなものを考慮して集められたわけでもない。

 

「それじゃ馬車預けて森の中行こうか」

 

「はーい」

 

 蒼井さんの言葉にアウラは元気よく返事をして近くのオーク村に馬車を預けに行く。

 しばらく待つと大きな鈴を持って、蒼井さんが戻ってくる。

 

「それはなんですか?」

 

「これ?獣除け用の鈴で腰につけておけば歩くたびにがらんごろん大きな音を立てるんだよ。野生動物ってのは臆病だからね基本的には聞いたことのない大きな音なんて聞けば逃げていくよ」

 

「狩りの時はつけていかないんですけど、採取の時なんかは便利なんですよ」

 

 これだけ大きな音を出してわざわざ寄ってくるようなのは人食いの経験があるか、好奇心が生存本能を上回る奇特な個体、最後に力量差もわからない馬鹿な魔獣か、だそうだ。

 途中で一度シークレットハウスで一泊してエルフ国に無事に着いた。

 




以下15巻のツッコミどころ纏め

メイドに休みを→疲労無効アイテム外そう、ストレス感じないから休む意味がないんだぞ
有給休暇を使うぞ→三日後一週間以上休みます、お前はマジで社会人か?
エルフの国に→何でアルベドが情勢知ってんのにアインズが知らねぇのよ
アオアシラもどき→野生動物の方が生存能力高いのに知性ってマ?
エルフ王の子供→単騎で千殺して万足止めして英雄じゃねえってどんな基準だ
アインズによるエルフの寿命知識→アウラの年齢言ってみろ
エルフのレベル→二百年以上生きててハムスケ以下はナマケモノか何かか
アウラ二日先行→中学生以下を二日も見知らぬ村に預ける保護者って馬鹿だろ
エルフの老害発言→知識、経験は年齢を積んで覚えるか書物で学ぶか位だぞ
有名どころでモンハンの長老を竜人族の爺さんがやってる理由がこれ、大抵のことは経験している

16巻が一体どうなることやら
ソウルハッカー2が出るのでしばらく休みます
多分クリアする前にはモンパラの終章も来てる


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番外:ガチのラスボス仕様ラナー王女様だったら

時代考察でアインズは街並みを見て近代あたりだと考察しておりますが、異世界にて時代を計るのであれば武器を見ることをお勧めします
直剣がメインであるのであれば中世or古代辺り、近代と当りをつけるのであれば前装式の火器が存在する可能性が高いため重装は好まれず曲刀がそれなりに見られるはずです
これは曲刀が軽装に対して有効な武器であるためです
近代は大航海時代が始まるころであり有名な漫画などではワンピース、鬼滅の刃などがこの時代に当たります
でも古代から存在する投石器とかの質量武器には気を付けましょう





その1:クライムのことは何でも知りたいの♡

 

 冒険者組合の登録をしようとしたアインズ、偽名としてモモンと名乗り登録しようとしたのだが目の前に差し出された危機が訪れていた。

 

「隠匿系の装備がある場合は外して測定してください」

 

 そうよく最強物で最序盤に出てくる「レベル測定ができるマジックアイテム」である。

 アインズもレベルを調べる魔法を持っているためにその劣化版の「レベルだけが見れる」魔法を使用したマジックアイテムがあったとしてもおかしくはない。

 だがここでレベル100だということがばれるのはアインズとしては非常によろしくない、そもそも連れに選んだナーベのレベルが63と自身と離れすぎていることも悪影響が響くだろう。

 そう考えはするものの躊躇しすぎれば不信感を買ってしまうのもまずい。

 

「(誰だよ!こんなものを義務化した奴は!)」

 

 強さを数値化できるなら管理側はそのほうが楽だもの、冒険者の格付けの線引きにも使えるのでそんなものが存在して生産できるならこうなるのは当然である。

 特に冒険者は住所不定の街の外や国の外からも来るのだから防諜対策として騙りが出てくることを防ぐ効果もアインズに刺さっているように出てしまうのだ。

 

 

 

Q、なんでこんなもん設置させたん?

 

A、建前:「だってクライムの強さを具体的に知りたいではありませんか……その為に魔術師ギルドに『そういったことができませんか?』とお願いしてみただけですよ」

 

本音:「クライムには魔法の才がないと教えることをしませんでしたので、無茶ぶりを王族からの『お願い』で嫌がらせをしてみたら瓢箪から駒でしたわ。クライムにも自信を持たせられましたし、貴族出の騎士達を遠ざけるのに役立ちます(にっこり)

イビルアイ様から聞いたぷれいやーの炙り出しにも成功したようですしね」

 

デウッさん「メイドとの話だけで事故死させるんだから、この位はやってほしかった」

 

 

 

その2:クライムとの生活を得るためでしたら例え茨の道でも歩みます!

 

 深夜に王者の部屋にて盤を挟んでの勝負が行われていた。

 白い駒を操るのは王女ラナー、黒い駒を操るのはアインズ・ウール・ゴウンのデミウルゴス。

 白い駒が王手をかけ、次の手をどう打つかデミウルゴスのほうへと視線を移した時、盤面の駒を消失させられる。

 

「それが悪魔様の打ち筋でよろしいのかしら?」

 

 その光景に冷めた微笑みを顔に張り付けてラナーは圧倒的な暴力を持つ存在に対峙し、デミウルゴスはその微笑みの真意を正しく理解し、失策を把握する。

 目の前の力もない頭だけのいい小娘はこう言っているのだ。

 

「知恵で勝てないから力尽くだなんて浅ましい」

 

「ここで殺すのであればこの勝負勝ち逃げさせてもらう」

 

 そう目が語っていた。

 これにはデミウルゴスのプライドが刺激されて暴力に訴えることができなくさせられていた、ここで暴力に訴えようものならば自身から「チェス」の勝負から降りたということ、つまり負けを認めたということに他ならない。

 そんなことはアインズ・ウール・ゴウンの階層守護者としてあってはならない、そう奥歯を噛み締める。

 とんだ短慮を行ってしまった、と。

 チェックされるほどの劣勢から巻き返すことが不可能な盤面であったことも影響していた。

 

「ではここで改めてチェックメイトを宣言させていただきます。よろしいですね?モモンガさん」

 

 その言葉にデミウルゴスは紅玉の瞳を零れんばかりに広げ顔を上げる。

 ろうそく明かりで仄かに照らされていた部屋の暗がりから完全不可知化を解いてゆっくりと姿を現す自身が主と仰ぐアインズ。

 

「実に素晴らしい勝負だった、と言わせてもらおう」

 

 そもそもラナーは暴力を振るわれる事を見据えた上での最大の一手を打ち込んでいた。

 

 

 

Q、なんでアインズさんのこと知ってるの?

 

A、建前:「まずアインズ……モモンガさんが現れたのはカルネ村です。これはガゼフから報告されていますそのことからラキュースを使ってエ・ランテルで唐突に現れたモモンの事を調べさせましたら普通に符合させれますよね?これで王都であったり他の離れた都市での登録であれば結びつけることは難しかったかもしれませんが。アンデッド退治、吸血鬼退治の噂が聞こえたことで確信してラキュースに手紙を持たせてその変装しているモモンさんに渡すだけ、ね?簡単でしょう?」

 

本音:「だってぷれいやー様が八欲王な方でしたら嫌でしょう?私とクライムの生活を脅かす敵かどうかそれを確かめるための手紙です。変装している相手に本名で宛名を差しだせば確認のために動くでしょう……どちらの姿であろうとも、ですよ。ここで部下を向かわせるようであれば「愚者」先にメッセージのような魔法で本人が確認してくる方なら「臆病者」。部下に堂々と変装がばれましたと報告はできませんものね(クスクス」

 

そもそも国が滅ぼされた、その国からの道中の情報、宝珠を見つけた遺跡、掘り出すべき情報は山ほどある冒険者で人当たりがいいのであればそのあたりを聞くために呼び出されても、どれも前評判に影響する人助けに貢献しうる情報なんだから文句言えないんだよ

 

しかも冒険者「蒼の薔薇」を利用しているラナーだからこそ、ほかの冒険者から話を聞いてもそこまでおかしくはないという

 

カオス「頭が良いというのであれば、やはりこの位の腹芸はしてほしかった」

 

 

 

その3:利用できるものは何でも利用しましょう♪

 

 王国も存在した奴隷制度、原作であればラナー王女が排除した制度であるはずだが……ラスボス化してるとガチで利用する制度の筆頭である。

 

「ごめんなさいクライム。奴隷を解放させてあげることができず……私が自由に使えるお金ではこれだけの人たちしか助けることができませんでした」

 

 そう言葉をこぼしクライムの胸の中で悔しそうにスンスンと音を鳴らして瞳から水を零すラナーはしっかりとクライムの服の布地を握り、振りほどけないことを知っているからこそ「クライムが逃げられないようにしてクライムの香りを楽しんでいた」。

 これまでの経験からワザと力が及ばないギリギリを見極めて奴隷否定派を気取っているものを取り込んでシーソーゲームを仕込んで奴隷の旨味を教えること、奴隷への情を抱かせることを繰り返している遊びを仕込みながら八本指の奴隷部門の長コッコドールと渡りをつけるに至っていた。

 バルブロは麻薬に、ザナックは商売部門にすでに取り込まれておりどちらが王になろうとも所詮はどちらが長く食い物にされるかが違うだけ。

 ザナックが王になることで多少は長く王国の存命は叶っていただろう、ただ根を枯らすことができない、根を枯らすほどの力がないことは分かり切っていた。

 それはレエブン候が味方に付いたとしても焼け石に水……それでは私のこの夢のような生活は続くことはない。

 八本指を枯らすことは生活を守るためには必須となる。

 自身の身柄とクライムが離れず他の圧倒的な権力の元に下ることでもない限り。

 

「ラナー様……」

 

 クライムはそんな考えをラナーがしていることは露ほども知らず、どうすればいいかを思案しながらもまごまごとしていた。

 ラナーはそんなクライムの様子も楽しみながら、枯らすための種を手に入れることができた僥倖をほくそ笑んでいた。

「もう大丈夫です。次はもっと頑張りますわ」

 健気に弱弱しい笑みを浮かべながら泣きはらしたようにしずくの跡がはっきりと見える頬を笑みの形に歪めながら、次の手を打つためにクライムを外に出す。

 奴隷という名のこれからの刺客を育てなければならないのだから。

 

「寸劇は終わりましたか?」

 

 首輪をつけたまま耳を切り落とされたエルフの奴隷の一人がクライムが出て扉を閉めたことを確認し、消音の魔法をかけてからラナーに声をかける。

 

「えぇ。これからはあなたたちへのお話……貴女達には王都を出て隠れ里を作ってもらいます」

 

「資材もなし、人手もここにいる王女様を外して……かい?」

 

「本当に拾い物でしたよ、貴女という存在は」

 

 自然と二人は顔を嗤いの形に歪め始める。

 ラナーは三日月を横たえたような悍ましいものに、エルフは歯をむき出しにした獰猛な、見る者がいればそのまま扉を閉めて見なかったことにするような女同士の嗤い顔。

 

「ルートは王女様が」

 

「戦利品はそちらが」

 

 奴隷といえども反骨心を折られない者は存在する。

 そういった戦意の衰えないものは普通、戦奴隷と呼ばれ戦場へと回されるのだが王国でも帝国でもそのようなことは行われずに精々が帝国でコロッセオでの見世物に使われる程度。

 奴隷に身を落としながら面従背腹をしてしおらしい振りをしながらも瞳の奥底に獣性を見せるこのエルフの演技を見たときは目を見開いたものだった。

 その上で「会話ができる」というおまけ付きというのはまさに天からの贈り物というべきものだろう。

 買う意味も買われた理由も方針を変える動機も十分、半ば不可能と断じた王位簒奪の道が切り開けた瞬間だった。

 その出会いはどの国にとっての、どの勢力にとっての悪夢だったのかは知らない。

 ただ一年後二人の計画は本格的に動き出し、王国にて奴隷が市場に上ることが滅多になくなったことだけがその結果だろう。

 奴隷商の荷馬車、八本指の違法商売で動く長馬車、その隠れ里を探そうとした護衛部門など行方を失ったものはカッツェ平原、帝国との最後の戦争を行う時まで世に出てくることはなかった。

 最悪の獣、レンジャー部隊中心の傭兵団にして、金では首を縦に振るわれることはなかった賊紛いの傭兵団、死を撒く剣団のように名を知ることすらできない怪物集団がクライムというラナー付きの平民出の騎士未満の下につくまでは。

 

「まったく……元六本腕のゼロがこんな小僧の下につくとはな」

 

「……っ」

 

 そんなぽっと出ともいえるような小兵が総勢1500もの傭兵団を引き連れるというのだから周りからも奇異の目で見られることとなった。

 フルフェイスを被った頭領は無言で指示を出していく。

 声から、顔から、かつてあの部屋で出会った奴隷の一人だとばれないように、会話はゼロに任せたまま戦場を俯瞰する。

 

「(ラナーからの情報じゃアインズとやらがあちらさんに付いた。メインは撤退戦か……)」

 

 聞きかじった程度の実力しか知らないが陽光聖典、法国の六色に分かれる特殊部隊を無傷で壊滅させたと報告書を読んでいる。

 アゼリア山脈の麓に隠れ住むようになってから作った獣骨の強弓を取り出し、鏃を特別製に変えて引き絞り狙いを定める。

 狙うのは従者らしきあのなめ腐った王を思い出すオッドアイの小僧。

 溶岩湖の怪物を見た時のような威圧感を放つ化け物だと確信して限界まで張った弦を指から放す。

 矢は音を置き去りに、稲光を思わせるような速さで到達するのはアインズが魔方陣を展開してから一秒足らず。

 

「おい、全員撤退だ」

 

 手を下から後ろに放るような動きをして、矢が放たれると同時にゼロは決められたように撤退の準備を促す、成功しようとも失敗しようとも構わない挑発行為だと知っていた。

 王女との取り決めは、ただ強くなるための怪物討伐を繰り返すこと、奴隷商を襲い対人戦の勘を鈍らせないこと、襲撃者の撃退でのカウンターアタックの模索、八本指の引き抜きに繋がりそれは八本指を壊滅させる発端でもあった。

 奴隷すべてが戦闘員ではないが、戦闘員は英雄と言われる域にまで足を延ばせる程度には育ったのは年から年中怪物を刈ることに費やしたからこそだろう。

 それは生きる領域を確保することにも繋がるし、秘境という場所に住まう絶対者を目標にさせるためでもあった。

 街の情報で集められるものであればハムスケやグのような二つ名を持つ存在、強さの頂点ともいえる溶岩湖の怪物に挑みながら鍛えた腕前は英雄というには逸脱した領域に上っていた。

 

「(あの王も馬鹿なもんだ……弱いと知りながら勝てない相手を見繕って負けるのは当然だろうが、勝てる相手か分からない相手をする、ギリギリの勝負をさせるのが強くなる秘訣だろうよ)」

 

 矢に肩を貫かれたマーレがもんどりも打つことができずに帝国兵を巻き込んで後方に吹き飛んでいくのを確認して追加の第二射を放って自身も撤退の準備を始める。

 

「(ガキを戦場に連れてくるとか下策も下策だろうよアインなんとやらさんよ)」

 

 魔方陣の中で何かを砕いたと思えば黒い風が前の民兵たちを眠るように倒れさせ空から何かが産み落とされるのが見える。

 

「(目の前の事のようにまたうみゃあ良いってかい?こっちに向かってきてるけどもよお。てめえの大事な連れ添いだってんなら様子でも見に行ってやれよ。ホモ野郎)」

 

 向かって来ている妙ちくりんな仮面で顔を隠したローブ姿の名前も刹那に忘れた興味も持てない奴を見て心の中で悪態をつく。

 飛距離は落ちるが打撃属性に代わる矢に変えて移動しながら射撃を浴びせていく。

 当然のように姿はカモフラージュして地形に溶け込ませる、人影に紛れ時には倒れた死体に扮してどこから撃たれているのか分からないように狙撃を続ける。

 ピンホールのように弾かれながら右を向けばその側頭部に、そちらを振り向けば背面から、という風に。

 焦れて魔法を使おうとする瞬間に先の魔法の範囲を参考に距離をとる。

 完全に骨が方向を見失う頃には帝国兵に紛れて個人で撤退する始末。

 

「クソがクソがクソがクソがクソがクソがああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」

 

 負けの遠吠えをバックミュージックに音にも漏らさず嗤い続ける。

 

「(魔樹に挑んでみるの面白いかもねえ)」

 

 

 

Q、なんでこんなにも強くなれるのか?

 

A、ラキュースと縁のあるラナーなら原作でのヤルダバオトと出会ったガガーラン達が死んだ後に施されたれべるあっぷの儀式とやらをしていると知っているだろうし、他にも蒼の薔薇で死んだ事もあるだろうと想像できる。

でないとラキュースさえいればというイビルアイの根拠が消える為、そして以前にもそれが行われたなら、「強さを取り戻す方法」ではなく「純粋に強くするための方法」と看破して来るだろうことが容易に想像できるためですね。

レベルキャップは現地勢にはそんなものが存在という説と、ゴンドやアルシェのように低く設定されている説が存在しているので、両立する場合は「神人の血」を引くことでレベルキャップが発生するのではないか?という考えから来ております。

その為「エルフの王」との混血ではないダークエルフを実験として登場させてみた。

純血の現地民を見つけるにはダークエルフが濃厚だと思われる……根拠としてはエルフは排他的で基本的にハーフを作ることはないというものであり、ザエトルクエの怪物が森に現れるまではトブの森北部に住処を構えて動くことがなかったであろうことから、外からの血が入ってない可能性が高いと見ています。

 

でもこんなのを仲良く引き連れてくるラナーとか実にラスボスすぎると思う。

 

 

 




ラナー王女をカタログスペック通り自分で出来うる限りに動かしてみたら……アインズの動く隙間がねぇw
奴隷は私兵化(知恵以外の対抗手段を持つ手っ取り早く堅実な方法)、八本指の根絶(バルブロのように薬漬けにされて傀儡にされるの防止)、クライムの名声稼ぎ(死を撒く剣団が傭兵とされているので戦争で傭兵を使うのはルール違反ではない。冒険者を雇うのはアウト、傭兵はセーフ)、商売のアドバイスで市場支配(これぞラナーの本領)、失敗したように見せてクライムに慰めてもらう(ついでにクンカクンカさせてみた)。
マジで原作で奴隷制つぶしたのはなんでや、人気取りにしてもそれの努力をしていますとアピールするほうがあざといんだよなぁ……一回限りの尊敬と繰り返せるのを考えると繰り返すのを選びそう、ヘイトは他の貴族に擦り付けれるからなぁ。


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episode.小ネタ1 「やっちゃダメなことworst 5 」

 仕事を増やすとか、マジで勘弁してくれませんか?しかも気づくのが遅れれば遅れるほど増えるとか……どういう虐めかな?

 両脚羊、モモンガが大真面目に意味を知っていたら?
 ネタ元からわかる通りちょいとグロめです


 

「デミウルゴスよ。スクロールの量産に成功したそうだな、褒めてつかわす。ところでどのようなものからの皮なのか、聞いていなかったな?」

 

 ナザリックにてようやく第三階位のスクロールに耐えられる羊皮紙が得られるようになったと、デミウルゴスの牧場より知らされ、それを褒めていたのだがそれはどのような者の皮なのかを聞いていなかったので思い切って聞いてみた。

 普段から俺の知恵は端倪すべからずとかよくわからない言い回しで持ち上げてくるので、図書館で言葉の勉強をする日々だ。

 

「はっ、そのお言葉だけで報われる思いでございます。そうですな……聖王国両脚羊でアベリオンシープなどという名前ではどうでしょう?」

 

「ふむ……聖王国両脚羊(アベリオンシープ)か……」

 

 両脚羊と言えば確か……昔の中国で使われた言葉だったか、家族が病に倒れ、その療養の必要があったが精を付けるための肉が手に入らず、『自身の両脚』を快復するまで食させたという自己犠牲を厭わぬ献身を讃える行為であり、それを耳した時の皇帝が羊や土地を贈ったという故事から伝えられる言葉だったか。

 

「なるほどなるほど……そのような献身的なものがいるとは、となるとこの皮は自身から剥がしこちらに献上してきたということか」

 

「ぇ?」

 

 恩には恩で返すという信条が俺にはある、逆として仇には仇を。時の皇帝を見習って……複数枚を作り上げられたということはそれなりの人数がいるということだな、何か贈り物をしてその者たちには報いねば、時の皇帝に見劣りすると見られかねない。

 デミウルゴスもテレポートを使えたはず、まずは何を望むか聞いてみなければ。

 

「丁度いい、デミウルゴスの牧場も見てみるとしよう。デミウルゴス、案内を任せても構わないな?」

 

 俺は人間にも先見の明がある献身的な者がいると聞いて、それはどのような想いを持ちこちらを受け入れたのか、また骨の身である俺も受け入れてもらえるのか内心ドキワクしていてデミウルゴスからこぼれた小さな声が聞こえていなかった。

 それに思い至れば、普段の俺という苦労もデミウルゴスたちにも伝わったのではないだろうか。

 

「……は、はっ!と、当然でございます!」

 

「はっはっは、そう緊張しなくてもいいだろう?いくら自慢の部下だとは言え部下の頑張りには胸を張るべきだ。それほどの人材を見つけたお前には私も鼻が高いぞ」

 

 カラカラと骨を鳴らしながら笑えば、デミウルゴスはさらに恐縮するのか身体を固くして震えているようにも見える、どこか目も泳いでいるような。

 その意味を知るのはテレポートで、デミウルゴス牧場にやってきて現場の阿鼻叫喚とした血がそこかしこに流れ、悲鳴がバックグランドミュージックに朗らかに仕事をするデミウルゴスの配下である悪魔たちを見てからだった。

 交配実験もしているらしく、グロテスクな無理矢理にも似たものであり猟奇的なものにエロティックさを感じるものでもなければそんなものは欠片もない獣の交わりと言えるものだった。

 

「…………」

 

 右を見る、皮を剥がすために激痛があるのが当然なのだからそれは診察台に寝かされる患者のように寝そべり、手足を拘束された上に叫ばないように猿轡をかまされた人が涙を流しながら背から鮮血を撒き散らしていた。

 

「…………」

 

 左を見る、鼻歌を歌いながら大きい包丁で人を輪切りにしているエントマが、切られる度に虚ろな目をした人は「あ……あ……」と声をあげながらビクリビクリと痙攣するように動く。

 

「デミウルゴスよ」

 

「はっ」

 

 俺の言葉にすぐに返事をしてくれるが、デミウルゴスの声は固い。

 

「両脚羊といったが、お前はどういう意味で使ったのだ?有名どころだと三国志の劉備が村の視察の折、とある村の村長が劉備を持成そうとしたが肉がないので妻を潰して振舞った、というのが比較的よく知られる話ではあるが……」

 

「は、はい。単純に人肉のことと思い……」

 

 俺も最初に見た時はそういうことなのだろうと思ったんだよな。

 言葉の成り立ちに疑問を覚えてもっと調べてみれば、人と書けばいいのにわざわざ羊とかついてるから不思議に思っていたが、同じような時代には籠城中に人を食べて生き延びたと言われる武将もいてそっちは普通に人食いとして恐れられているじゃないか。

 

「うむ。それは俺もそう思ったものだ。だが羊という文字を使う意味が分からず調べてみればどうやら献身を褒める言葉として使われるようでな?ここの扱いはそうではない」

 

「はっ、その通りでございます。誤用をしてしまい大変申し訳ありません」

 

「はっはっは、誤用は気にするなら使う前に成り立ちなどを調べてみるのもまた一興だろう。デミウルゴスの使った端倪すべからず、という意味が分からず調べ初めて知ったのだからな。だがそれを知らず書類に聖王国両脚羊と書いてしまっていたらと思うとぞっとするな……」

 

 書類として提出されそしてそれを承認しているのは俺だ。

 必要な分だけをとアルベドが選別してくれているというのにその量は捌くのに四苦八苦する量であり、書類とは正しくなければならないのだ。

 書類に間違いがあれば訂正しなければならず、それを探す必要もあれば他が間違っていないかの確認も必要になってくる……そう今まで処理してきた書類すべてを精査する必要が出てくるのだ。

 

「気が付いたのがまだ比較的早い時期でよかったと思うべきか、今までの書類の精査を手伝うことで誤用の罰としよう。それとこの牧場では記憶処理や蘇生妨害などはしっかりと施しているか?」

 

「はっ、ありがとうございます。いえ、そのようなことができる者が居らず……できておりません」

 

「ではここは即刻閉鎖を、他のプレイヤーがここを発見し、記憶を覗くことでお前たちを、また蘇生することでこちらを敵視されることを極力避けるとしよう。後始末は任せるぞ」






とまぁ、こんな感じで両脚羊に気づくまで、訂正する書類が増え続けるので……モモンガさんにとっちゃやっちゃいけないことじゃねぇかなと思います
後編が書きあがらなかったのでただの時間稼ぎ用ですが(ォィ
なお人を食べたという武将は程昱だったと思う

この話から分かる通り、デミウルゴスでも誤用している間違いやすい言葉だと思います


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episode.小ネタ2 「やっちゃダメなことworst 4 」

感情に任せて襲ってはいけません、そして罰は公平に与えなくてはいけません

小ネタは原作を基準にしております
本作の流れでは小ネタには絶対に到達しません


 セバスやペストーニャ、ニグレドといった善性の僕たちが王都襲撃の際に子供たちの命を嘆願してきた、その時他の僕たちをなだめるために謹慎を言いつけたが、それは作戦そのものを進行不可にするものでもなく、むしろそれを助けに行かせるというメリットを含むものだったのではないか……なによりもそれだけの余裕を作戦は持っており、そん部分を進路上に配置しておけばモモンの英雄視を強めることもできたのではないかと、天井を眺めながらそんなことをぼんやりと考える。

 倒れたアインズの上には捕食者の目をしたアルベドが乗っていた。

 

「アインズ様ぁあ!」

 

 両脚で跨りつつ、アインズの体を一気に固定したアルベドが上半身を起こす。

 その際に胸が揺れるのが見えるが、その金色の目が喜色に染まり、頬は上気したように桃色に染め上げられているのだが、このように急に押し倒し、ムードも手順もへったくれもない無粋な行動に出た理由がわからなかった。

 

「どうした。何があった?」

 

「もう……我慢しなくてもいいですよね!」

 

 アルベドが勢いよく目いっぱいに瞳を見開く。

 瞳孔が開いているような黄金の瞳に、アインズは背筋に冷たいものが這うような感覚と共に感情が冷えていくのを感じていた。

 

「(なるほど、ペロロンチーノさんがレイプ物が嫌いだと言っていたのがわかる。これが襲われる側の感覚というものか)」

 

 冷徹な視線を無視し、アルベドはドレスの胸元に両手をあてる。

 そして「ふん」と言いながら下に動かそうとするが、服はびくともしない。

 

「魔法の服は面倒です。装備破壊技、もしくは普通に脱がないといけないのですから」

 

「落ち着かないか、アルベド。私の上から降りろ……」

 

 今のアルベドに触れることすら嫌悪感を覚え逃れようと下半身を動かそうとするが、びくともせず動くことが出来ないでいるうちにアルベドの手がアインズのローブをはだけようと動き出す。

 

「服を脱がそうとするな!腰を押し付けるな!」

 

「あ、あわわわわわわわ……」

 

 マーレはその状態を見て混乱しているのかよくわからない声を出しながら、ただおろおろとしているだけで、エイトエッジ・アサシンたちも今という状況に困惑していた。

 

「アインズ様が悪いのです!我慢してきたのに、我慢できないことを言うから!全部、アインズ様が悪いのです!本当に少しで良いのです!ちょっとです!ほんのちょっとだけ!お情けを少しもらうだけです!天井のエイトエッジ・アサシンの数を数えている間に終わりますから!」

 

 もしここでアインズが設定を書き換えたことを責めるようなことを言われたならば、抵抗する意欲を失ったかもしれない。

 確かに『モモンガを愛している』を書き換えたのはアインズだし、アインズもその容姿は好ましいものだと思っている。

 だが……だが、しかしだ。

 このように無理やり行い、あまつさえこちらを考えない行いをするようなものを『愛している』そう設定したからと愛せるか?愛おしいと感じられるか?この先も、アンデッドゆえに寿命がない体でいつ襲われるかもわからない状態で大丈夫なのかと不安しか頭に浮かばない。

 捕食者に無理矢理押し倒される恐怖しか持てなかった。

 その恐怖に押し動かされ抵抗を続ける。

 そこでようやくあまりの事態に混乱していた部下たちが動き出す。

 

「アルベド様、御乱心!」

 

「アルベド様、御乱心!」

 

「アルベドを引きはがせ!グレーター・フル・ポテンシャル!」

 一斉にエイトエッジ・アサシン達が天井から飛び降りてくるのに合わせて、全体的に身体能力を引き上げる魔法を部下たちにかけながら抵抗を続ける。

 

「アインズ様から引き離せ!違う!完全に捕縛しようとするな!解除されるぞ!力で引きはがすんだ!」

 

「なんという剛腕!流石は守護者統括殿!マーレ様、お力添えを!」

 

「あわわ!は、はい!」

 

 

 

 やがて解放されたアインズはゆっくりとローブの乱れを直しつつ、エイトエッジ・アサシンたちに両手両足を掴まれたアルベドに指を突き付ける。

 

「アルベド、強制性交等罪により七年以上の懲役を言い渡す。連れていけ」

 

 エイトエッジ・アサシンに引き摺られてアルベドは部屋を連れ出される。

 そして心のメモに、アルベドに前科一犯とメモをする。

 

「代役は……パンドラに任せるしかないか……」

 

 黒歴史とはいえこれ以上デミウルゴスに仕事を振り分けるのも悪いと思い、パンドラを穴埋めに起用することを決定する。

 メイド達に休日を設けようとした過程を振り返ると嬉々としてやろうとするかもしれないが……




犯罪ダメ絶対
イエスロリータノータッチ、必ずお互いの合意をもちましょう


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episode.小話2 やっちゃダメなことワースト2




こちらは原作の「二人の指導者」より
これは会社に所属していると考えると普通にアウトな思考だよなぁ……というシーンが書かれております
子供の遊びとみるのか、部下のやらかしとみるのか、それで変わると思います
ワンピースの人魚島、任侠ものを思い浮かべて読むとやらかし具合が想像しやすいかと
組織の名前というものは存外重要な信に繋がるものなのです
これがワースト1じゃねぇかと書いてて思った





 アインズの執務室に緊張した面持ちのルプスレギナが入ってきた。

 これで執務室にはルプスレギナ、一般メイドのシクスス、戦闘メイドのナーベラル、最も森の中のことに詳しいアウラ、天井に張り付くエイトエッジ・アサシン、そして、部屋の主人であるアインズが揃った。

 なおアルベドは謹慎中である。

 ルプスレギナが最敬礼しようとするのをアインズは押し止めて問いかける。

 

「ルプスレギナよ。私に何か話していないことがあるのではないか?」

 

 混乱の色が滲み出したルプスレギナに、知らなかったのかと思ってアインズは組合で聞いた東の巨人や西の魔蛇の話をする。

 だが、ルプスレギナが知っているという素振りを見せたことでアインズの機嫌は急降下する。

 アインズは組んだ掌で口元を隠した恰好(ゲンドースタイル)のまま静かに、だが長く息を吐く。

 

「知っていたか?」

 

「はい。その件は―――」

 

「愚か者が!」

 

 憤怒に身を支配されたアインズの、激情に任せた怒鳴り声が響き渡る。

 雷に打ち据えられたように身を震わせる者たちを前に、アインズは己の感情が抑え込まれるのを感じていた。

 しかし、それでも新たな荒波が後から後から押し寄せ、怒りが完全に殺されることはない。

 

「何故、それを私に報告しなかった?それとも隠そうとしたのか?」

 

「そ、そのようなことはありません!」

 

「では何故、私の元にその情報が上がらなかった?その理由はなんだ?」

 

「大した情報ではないと思い、報告をしませんでした……」

 

 怯えたように上目遣いで窺う戦闘メイドを見て、アインズに再び烈火のごとき感情が戻ってくる。

 

「ルプスレギナ!お前には失望したぞ!」

 

 びくりと震えたのはルプスレギナだけではない。

 シクススもナーベラルも、そして天井にいるエイトエッジ・アサシンたちも身を固くしたようだった。

 

「確かにお前にはあの村に関する裁量権を与えている。しかし、それは何をやっても、どんな判断をしても良いという意味ではない!状況が大きく動きかねない際は報告せよと言ったにも関わらず、これはどういう事だ!」

 

「それは……」

 

 口ごもるルプスレギナにアインズは顔を歪める……歪むような顔の筋力はないが。

 報告連絡相談の事もある、これはセバスの件でもその意識が極めて薄いということがわかってはいたが、今回の事はそれに輪をかけてひどいものである。

 これはルプスレギナとアインズとのカルネ村という存在に関しての意識の違いも出てきているのだろう。

 それはひいては組織の長といての意識と一部下としての意識差なのかもしれない。

 それを確認する為に一つ心を落ち着かせて質問を投げかける。

 

「……ルプスレギナ。あの村はナザリックにとって、どの程度の価値があるか、お前には分かるか?」

 

「は?いえ、はい。えっと、アインズ様から、あの村は価値があると聞いておりますので」

 

「……お前としては、あの村はどのような価値があるかと思うかを聞いているんだ」

 

「お、おもちゃが一杯ある、と……」

 

「ああ、そうか。そうだな。……すまないな、これは私のミスだな。お前がその程度に考えていたとは……」

 

 アインズは疲れたように笑う。

 結局、NPCにとってもアインズ・ウール・ゴウンという名前はその程度なのだと理解した。

 

「失望は撤回する。許せ」

 

 ガゼフに名を名乗り王国にはアインズが助けた村だということは知られている、そして情報を集めている帝国でも同じように伝わっているのであれば法国にも同じように伝わっているだろう。

 法国には何よりもそうなるように逃がしているのだから。

 

「何を仰いますか!馬鹿な―――」

 

「あぁ、お前に期待したのが馬鹿だった!」

 

『アインズ・ウール・ゴウン』が守った村、そして再び手を出すならと文句を付け加えた村の価値が部下たちにとっては『おもちゃ』程度でしかないという認識。

 それは『ギルド戦』における陣取りゲームで説明するのが簡単だろうか、それとも国の領土線等だろうか……麦の生産方法に劣化しているとはいえポーションの生産、人手としての雇用も考えられるし成長の可否を見守ることができる実験とも観察対象でもある。

 それが『おもちゃ』という認識であり、カルマ的にもおかしいことではないが文字通りどうなっても自身が関知するようなことでもないということなのだろう、アインズから任された仕事でありながら興味も関心も無く遊びと変わらないということだ。

 これにはアインズの意識調査の不手際ともなるのだろうが、ナーベラルの普段の行動は他者を見下し虫の名前で呼び他者を尊重しないものでありながら、アインズを軽んじているとみれば過剰な程に攻撃的な言葉を吐くというのに、身内であるルプスレギナはこのギルドの名前もアインズと名乗り始めたその名前すら軽んじているようにしか感じられなかった。

 これをナーベラルにも当てはめるのであれば、同じように外でアインズの名前が軽んじられたと感じれば最悪殺害という手段に出ることも想像に難くない。

 それはアインズ・ウール・ゴウンの器量の狭さを語るのと変わりがない。

 

「お前たちは、名前というものをなんだと思っている?ただの記号だとでも思っているのか?」

 

「―――」

 

 その質問に答えることもなくルプスレギナはただ小刻みに震えていた。

「私はカルネ村でアインズ・ウール・ゴウンと名を改めそしてその名前を流布させるためにカルネ村を襲っていた兵士どもをわざと見逃し逃げ帰らせている。そして同じようにガゼフにも王室に似たような情報として……そのような村を『おもちゃ』とはな」

 落胆とともに失望が押し寄せるとともに大切な『名』を軽んじる行為に子供たちと思っていた存在に燻ぶるような怒りを感じていた。

 ギルドの名前を軽んじるということはそれを守ってきた自分、ひいてはそれを作り上げたギルメンの皆を軽んじるということにもつながる。

 例えそのようなことすら考えついていなかったとしても、その事実はアインズの心を怒りの一色に徐々にとはいえ染めていくには十分な結果であった。

 

「『お前たち』に沙汰を言い渡す。ルプスレギナ・ベータ並びにナーベラル・ガンマ……今の任を解く。しばらくはナザリックで頭を冷やしていろ。以上だ下がれ」

 

 冷たく沙汰を言い渡し、雨の中で見捨てられた子犬のように震える二人に乱雑に手を振るうことで退室を促す。

 それとは対照的にシクススにこの件の代役は誰がいいかを尋ねるが、当然のように誰がいいのか、そも何が悪かったのかすら及ばないのか何の答えも返ってこない。

 アウラにも尋ねるが同じように考えることが不得手なのがわかるように回答はない。

 

「ふむ……さてこの穴埋めをどうしたものか」

 

 アインズは悩みながらも冒険者としての相方を再び選ぶつもりはなくなっていた。

 ナーベラルのように同じような反応をされることを嫌っての事でもあるが、大手を振ってソロでの冒険を楽しむこともできるのではないかと内心ウキウキともしていた。







視点を変えると御覧のありさまだったよ……普通にプロジェクトおじゃんにしかねない部下とか普通に左遷されるんじゃねぇかなぁ、少なくともプロジェクトから外される
カルネ村は最悪先にグとか処理しとけばいいし、襲撃をさせるならまたアインズとして助けに行けば対して問題はないのでね
なろう系の独善系を云々いうつもりはないが、会社の看板に泥塗る行為は社会人としてホウレンソウよりも許されざる行為ではなかろうか?
特に社長の立場に立つのであれば



PC壊れてデータ吹っ飛んでた(涙)


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episode.小ネタ2 「やっちゃダメなことworst 1 」

色々飛ばしてやっちゃ駄目なこと……まーNPCとしてね、これはダメだろというのが一つ
これだけはこの作品のカルネ村に行くより前のこと……


 円卓の間にて鏡の前で悟君は操作を試している。

 俺の背後にはセバスが、影の中にはパンドラとハンゾウ(後のムジナ)がいる。

 

「なるほど動かし方はこうか……」

 

 指を拡げるように上下に動かせば縮小され視野が広がる、逆に縮めれば視野は狭まるが拡大されて詳しく見ることが出来る。

 左右に開閉すればそれぞれに一点を中心に縦軸回転を始める、指を動かす方向に視点を動かすことが出来る。

 

『(すまんがしばらく口を借りるぞ、身体のコントロールももらうことになるが何処が見たいか言ってくれ、そっちが見えるように操作する)』

 

『(操作のしかたもわかりましたし……でも、あんまりいじめないでやってくださいよ。たっちさんに似て凹みやすいと思いますから)』

 

『(全くもって、もうちょいメンタル強くあってほしいんだがねぇ……)』

 

 一瞬映った姿に目を細める、実際には一瞬よりも短い一刹那ともいえる時間かもしれないが、確かに映った緑の三角帽に杖先に紅玉の付けたスタッフ、襟を立てるように纏うマント。

 ただ似ている、というには楽観主義過ぎる。

 それは映ったものにしても、セバスのしなかったこと、もしくはしてしまったことに関しても放置するには危うすぎる。

 

「セバス」

 

「はっ」

 

 声をかければ血を失うような顔色で立ったまま返事を返す。

 鏡に目を向けたまま、セバスに振り返ることなく質問をする。

 

「お前が報告した通りにナザリックの周りは草原だ……草原だなぁ?俺の記憶が確かなら沼地だったはずなんだが?」

 

「はっ……その通りでございます」

 

 返事は肯定、確かに報告した通りではある。

 

「では、他には?」

 

「……は?」

 

 気の抜けた返事は全く考えていなかった質問をされたことがよくわかる反応だった。

 確かに報告はされている『メッセージでこちらから進捗を聞いたとき』に報告されている。

 

「俺は、異変があれば報告しろ、と言って向かわせたはずだが……草原に変化していた以上の異変があったのか?そしてそれを報告しなかった……ということになるんだが?」

 

 後ろに視線を送るように片目だけでセバスを見据える。ただ返事があるのを待つようにじっと見つめる。見つめる先には俯き全身が震えている。何もしゃべらずただただうつむいていた。

 身の内を震わせるのは悔恨か?恐怖か?後悔か?畏怖か?畏敬か?

 それは怒りに身を震わせていた。

 過去の自分を殺したいほどの憤怒。

 

「(いや怒るのはいいんだが、そりゃ的違いだろ……過去を悔いようが過去に憤ろうがどっちも今のお前だよ)」

 

 根本的な部分で弱いサトルの心情をコピーしたようなNPC達。

 自分の行動が与える他者への関係を慮って怯え竦み足を踏み出せずに後悔をしていく。

 たっぷりと一分返事を待ち、溜息を一つ吐き、改めてセバスに向き合う。

 

()を出すのは構わない、()に従うのもかまわない……が、任せたこともできずに信をとれるとは思うな。信用とは積み重ねだ、結果を問われる行為……そして信頼は能力を通し見られるものだ。少なくとも、任せた仕事ができないなら、次を任せることは出来ない」

 

 うつむいたまま脂汗を浮かべるのを嗅覚で感知して、何よりも俺たちからの信用信頼が失われ棄て置かれることを恐怖していることにようやく気が付く。

 

「(そんなことは俺の知ったことじゃないがな)」

 

『(酷くないですか?鈴木さん)』

 

 恐怖していることに気が付き思った事に悟君からすぐにツッコミが入ったが、現状における認識の甘さを鑑みれば本当に知ったことじゃない、それよりも優先することがある。

 

「お前はこの草原を見た時、報告をしなかった。セバス、お前が報告せずこちらが確認を取るまでにどれだけの時間が経過した?」

 

「い、一時間ほど……かと」

 

 質問に対して返される返答に一つ頷き、さらに質問を連ねる。

 

「沼地から草原に変わっていた。お前はなぜそうなったか……沼地から草原に変化した原因に心当たりは何かあるか?」

 

「わ、わたしには皆目……」

 

 その答えに溜息を一つつき、そして一つ指を立てて、仮説を上げていく。

 

「そうか、見当も付けられず、その上で報告しなかったのか。まず考えられる仮説がナザリックの転移、ナザリックはそのままで地形が転移した、時間経過による土などの累積による地形の変化、魔法または別の何かしらでの地形を変化させられた。まぁ、軽く考えられるのがこのくらいか……セバス、お前が報告しなかった一時間、この変化を基にした対策が一切立てられない状態だった。この危険性は……流石にわかるな?」

 

 その言葉に跪き頭を垂れて許しを願い出ることもなく震える。

 願い出ることすら不敬とでも考えているのだろう、それともニグレドと同じようにこの首をもって、とでも始めるつもりか。

 

「お前の命でこの失態つり合いが取れるなどとほざくなよ?少なくともツェーグ達の姿は見当たらないことから時間経過による地形の変化は消してもいいだろう……ユグドラシルの分布システムがまだ生きていると仮定して、の話だがな。となると地形を変えられたか、転移させられたか、したか。そうなれば何を警戒するべきだ?セバス」

 

「そ、それは……し、しかし、至高の御方ならば!」

 

 勢いよく顔を上げてこちらを見る。

 どこまで妄信しているのか、盲目の羊と変わらないな。

 

「警戒するまでもない?少なくとも俺はそうは思えんがな……最大限の警戒を傾けるべきだ。こちらに出来ないことをして見せられて慢心できるとはな、呆れたものだ。慢心を棄てろ、生態系は不明少なくとも轍や舗装された道はおろか獣道も無いことから居ても草食の小動物、肉食動物は少なめ、大型が徘徊している様子は見られない、近寄らない理由が有るのか……自動POPモンスターに異常がなかったということはナザリック内では最低限のシステムは生きているということ、外ではその様子がないということであり周囲が転移してきたということも捨てられる、となるとナザリックが転移をさせられたかしたか。こちらにその方法に心当たりがないとなれば転移させられた、ということになる……」

 

 セバスと悟君が理解するまでしばらく待つ。

 

『(何でそこまで掌握してるんですか!?俺じゃ精々外のレベルが高いかもって警戒するくらいしかできないですよ!?)』

 

「(こっちもできるのは精々そんなもんだよ……ただ、悟君ほど過剰に恐れてねぇだけよ。取れる手は多くはない、下手に地形を弄るのは情報を潰すことになるから悪手だろうよ)」

 

『(それじゃどうするんです?)』

 

「(考えろ、そして学ぶ。思考を止めるな、一つで満足するな、可能性から考え一つ一つロジックにはめ込んで道を造れ。過剰に恐れるな、幻に掴まれるぞ)」

 

 起因があって因果が繋がり結果に結びつく、それを正しく丁寧に解きほぐす手法から教えていこう。

 

「もしお前がいの一番に報告していれば、対応も変わっていた。百聞は一見に如かず、百閒は一考に如かず、百考は一行に如かず、百行は一果に如かず、百果は一幸に如かず、百幸は一皇に如かず。最後までいけとは言わんがな……一時間あれば一行位までは行けただろうな。少なくともナザリックの外に見張り位は立てれたろうよ。朝まで何もなかったことから杞憂に終わったがな」

 

 説教はこのくらいでいいだろう。

 

「(それじゃコントロール戻すぜ)」

 

 一つ一つ教えて行きゃあいい……全部は無理だろうが、そこから進めれさえすればいい。

 

 

 

 そして、カルネ村を発見することになる。



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~不死者の王~
episode.1 「カルネ村の戦い」


原作とはどう変わっているのか、何が変わるのか
適当に考えてたら適当に書いていてなぜか適当にできてしまった作品
深く考えずにさらっと読めればいいなと思います


 少女とそれより幼い少女を前に、全身鎧(フルプレート)に身を包んだ者は剣を振りかぶろうとして驚きの内心を表すように固まる。

 何があったのかと視線を追うとそこには闇が広がっていた。

 少女たちの背後に楕円の下半分を切り取ったようなどこまでも続くような漆黒があった。

 闇から零れるように何かが這い出てきた。

 

心臓掌握(グラスプ・ハート)

 

 それはすぐに左手を少女を追っていた騎士に向け握り締める仕草をし、少女のすぐ側で金属のけたたましい音がした。

 その光景を目を離すことができず、じっと見つめていた。

 迫っていた死から逃れられたからか、その何かをようやく正確に認識することができる。

 それはやや痩せぎすの男性で、細やかな装飾の入った豪奢な漆黒のローブに右手に神々しくも恐ろしい、この世の美を結集させたような(スタッフ)を握りしめていた。

 

「大丈夫か?このポーションで怪我を治すと良い」

 

 そう言って赤い血液のような液体の入った瓶を渡してくれるのだが、それはまるで見たこともないようなポーションだった。

 瓶も装飾がされていてとても高価そうなものだった。

 

「モモンガ様。大事ございませんか?」

 

「セバスか、第九位で即死だったな……これではどれだけ差があるのかが俺にはわからん。他にもいたらお前に任せるぞ」

 

 続いて闇から出てきたのは老齢の執事の姿をした人だった。

 

「あ、あのっ!このような高価そうなものをもらう訳には……」

 

 飲んでも良いのか悩んでいると、頭に手が置かれゆっくりと落ち着かせるように撫でられる。

 笑い慣れていないのか、少し硬い感じのする笑顔ではあったが笑顔を向けられ安堵してしまう。

 

「構わない。そこまで高価というものでもないし、数もある。だから安心しなさい……」

 

 そう言っていくつも同じものを見せてくれる。

 その言葉とその気軽な行動で安心して飲み干すことにした。

 飲み干せば直ぐにさっきまで焼くように訴えていた背中の痛みが消えていた。

 

「すごい……」

 

 痛みが消えたことで背中を確認しようとしていたら、より幼い少女が背中を見て驚きながらもすごく喜んでいた。

 

「お姉ちゃん!背中綺麗に治ってるよ!」

 

 少女の言葉にモモンガと呼ばれた男性は首をかしげて、少女たちを見ていた。

 

「あの、どうかされましたか?」

 

 不思議そうに見られていたことに気が付き、何が不思議だったのかわからなかったので聞いてみる。

 

「いや、ただの下級治癒薬(マイナー・ヒーリング・ポーション)なのだがそんなにも驚くほどすごかったのか?」

 

 ポーションは稀にくる街の薬師である友人が居る為、知っていたが少女の知っているポーションは青色をしており先ほどの物のようにすぐさま回復させるものではなく徐々に治していく、という効果を持っている。

 そのことを説明すれば男性は自分の顎に手を這わせ、考え込んでいた。

 が、すぐに考え込むことを止め、近くの家屋の影に視線を向ける。

 

「セバス、レベル(・・・)はいくら位だ?」

 

「おそらく一桁、10に達しているかどうか……詳しくわからず申し訳ありません……」

 

「……なに?そんなにも弱いのか?……それだけ差が開いているのであれば詳しくわからずとも仕方があるまい。そうだな、今出てきた奴に村を襲う理由を聞いてみるとしよう」

 

 男性二人は新たに表れた騎士に無防備に近づいていく。

 それに呼応するように騎士は構えを———取ることはなく怯えるように二人を見ていた。

 

「どうしたのかね?何故怯えるのか?弱いものには大きく出れても、強者には竦むだけかね?君は騎士なのだろう?戦う気がないのならば正直にこの村を、いやこの村人たちに仕掛けている虐殺を行なうだけの理由を話してもらおうか」

 

 モモンガと呼ばれた男性が手を伸ばすのを見ると、騎士は一層怯えるように尻もちをつき這うように逃げようとするが、セバスに背を踏まれ動けなくなる。

 

「モモンガ様が聞かれているのです、お答え願えませんでしょうか?」

 

 それは言葉こそ丁寧に聞こえるものだが、内々に燃える怒りを感じさせるには十分だった。

 

支配(ドミネート)を使い無理やり喋らせるか」

 

「それには及びません、私が傀儡掌を使いましょう」

 

「うむ、では頼むとしよう。お前たちのスキルが十全に機能するかも見ておきたかったからな」

 

「はっ、ありがとうございます」

 

 老執事の手の平が掌底の形を取り、そのまま吸い込まれるように騎士の頭部へと叩き込まれる。

 虚ろな目で話す騎士の言葉が確かならば、この村は『王国』の戦士長ガゼフという人物を暗殺するための作戦の生贄であり、我ら『法国』が人類の文化圏を守るために日夜尽力しているのに王国の民はそれを当然と享受している悪である。

 とのことだが、男性は別の意味で捉えていた。

 

「つまり……『法国』とやらは民草を殺す、という泥を被ることは選んでも内政干渉という外交的に泥を被ることは嫌だと、国の理念を守るために国そのものを責めず第三者を気取ると……」

 

 一つため息をつき、残酷な言葉を告げる。

 

「これではどちらが悪なのやら」

 

 その瞳は騎士を通し法国という国が正義という言葉に踊らされた、語られた王国よりも腐敗している可能性を見ていた。

 王国の腐敗はある意味、人の歴史だ。

 そこから立ち上がるのもまた、人の美しさだろう。

 簡単な情報収集が終わった頃、転移扉(ゲート)の効果が切れ始めたのかその闇が薄れ始めるころ一人の人物を吐き出した。

 その姿は黒の全身鎧にバイザー付き兜(クローズド・ヘルム)で肌の露出など一切ない総毛立つような禍々しさと見惚れるような美しさを持つ重装騎士だった。

 

「準備に時間がかかり、申し訳ありませんでした」

 

 それはその威容からは想像もできないようなきれいな女性の声だった。

 

「いや……問題はない」

 

「ありがとうございます。それで……その生きている下等生物の処分は……」

 

 謝罪とそれを許された感謝の言葉に続いた言葉を遮り、男は怒気を含めた声で問いただす。

 

「アルベド……お前は何を聞いて、来た?」

 

 アルベドからの返事はない。

 

「もう一度だけ聞いてやろう。お前は、何を、聞いて、来た?」

 

 二度目の言葉からは怒気だけではなく殺気も混じったオーラめいたものだった。

 

「そ、それは……」

 

 アルベドはその視線を受け全身を使って震えだし、声も涙混じりの涙声で言葉を探すように視線が彷徨っているのがよくわかる。

 

「もういい、セバス。どの様に説明した」

 

「村の人間を助けるためにモモンガ様が村に行くこと、その際の想定を超えたときの為の後詰の用意、完全武装で来る旨を伝えたはずです」

 

 セバスからの説明に顔を上げるアルベドだが、村の人間を助ける、このことが抜け落ちていたのだろう事を男は察する。

 そしてアルベドを含むナザリックの多くが人間を下等生物、またはそれに類する程度と見ている事実に考えが至る。

 となれば後詰もどのような目的で用意されたのか分からなくなってくる。

 

伝言(メッセージ)

 

 男はこめかみに指先を押し当て、そこには居ない誰かと会話するように話し出す。

 

「デミウルゴスか?……うむ、後詰を任されているな?…………そうか、命令の内容を変更する。村に近づくものがあれば報告するように……そうだ報告のみで良い、いたずらに攻撃をして警戒を上げさせる必要はない」

 

 魔法による通話が終わったのか男は指先をこめかみから離し、周りを見る。

 少女二人は抱き合い震え、股間からアンモニア臭が漂っていた。

 男は頭を押さえ先ほどの失態を思い出す。殺気が守ろうとした少女たちにまで及んでいたのだろう。

 

「君達まで怖がらせてしまったようだ、すまなかった」

 

 そう言って頭を下げる。

 それに慌てるのはセバスとアルベドであり、少女たちはありえないものを見るように見ていた。

 

「モモンガ様!そのような下等生物に頭など……」

 

「モモンガ様……」

 

「詫びという訳ではないが、どうかこれを受け取ってくれないだろうか?小鬼(ゴブリン)将軍の角笛と言われるアイテムで、吹けばゴブリン———小さなモンスターの軍勢が君たちを守ってくれるはずだ」

 

 謝りながら小さな角笛を差し出してきた。

 それだけ言うと男は歩き出す。記憶にある村の俯瞰図を思い出しながら、後ろにいるアルベドとセバスを伴って。

 しかし、数歩も歩かないうちに声がかかる。

 

「あ、あの———た、助けてくださって、ありがとうございます!」

 

「ありがとうございます!」

 

 その言葉に男は振り返ることなく手を振るうことで応える。

 

「あ、あと、図々しいとは思っています!で、でも、貴方様しか頼れる方がいないんです!どうか、どうか!お母さんとお父さんを助けてください!」

 

 感謝の言葉には止まらなかったのに、頼みごとに足を止め、振り返る。

 眦に涙をためた少女が男を見ている。

 

「すまないが確約はできない。それでも『できる限り』はさせてもらおう」

 

 その言葉の裏に隠れた意味を姉である少女は察してしまっていた。

 涙がこぼれるのを自覚しながら、頭を下げる。

 

「あ、ありがとうございます!本当にありがとうございます!そ、それとお名前は何とおっしゃるんですか」

 

 本来であれば他の二人に呼ばれていた名前であるモモンガこそが男の名前だろうが、男は名乗るであろうモモンガという名は口からこぼれなかった。

 

「俺の名前は『スズキ サトル』だよ」

 

 

 

 

 

 足音もなく覆面に顔を隠した中肉中背に見える男が現れたことで虐殺が別の虐殺へと変わる。

 狩るものが反転———獲物へと変わる。

 ロンデス・ディ・グランプは己の信仰する神への幾度目かになる罵声を呟く。恐らくこの数十秒で一生分以上の罵声を浴びせただろう。神が本当にいるなら、まさに今こそ現れ、邪悪な存在を打ち倒すべきだ。何故、敬虔なる信徒であるロンデスを無視するというのだろう。

 神はいない。

 そんな戯言をさえずる不信心者———もしそうならば神官たちの行使する魔法はどのような理から成り立つ———を馬鹿にしてきたが、本当に愚かだったのは自分ではという思いがこみ上げてくる。

 眼前の化け物———仮称するなら「命を刈り取るもの」だろう———が静かに一歩前進する。

 我知らず二歩後退し、距離を取る。

 鎧が小刻みに震え、小さな金属同士が擦れる耳障りな音を立てる。両手で構えた剣の先も大きく揺れる。一人ではない。命を刈り取るものの周りを囲む、二十二名の仲間全員の剣も揺れる。

 恐怖に全身を支配されながらも、逃げ出す者はいない。ただそれは勇気ではない。震える歯が奏でる音が証明するように、逃げられるなら何もかも忘れてただひたすら逃走したかった。

 ———逃走が不可能だと知っていなければ。

 ロンデスは救いを求め、視線をわずかに動かす。

 その瞬間鎖が足に絡みつき先ほど退いた二歩分だけ元の位置に戻される。

 動かした視線の先には村の中央、広場として使われるその場所の周りで、ロンデスたちが集めた六十人弱の村人たちが怯えた表情でこちらを窺っていた。

 村の行事などで使用される、ちょっとだけ高くなった木製の質素な台座の後ろに子供たちを隠し。

 ロンデスたちはこの村を襲撃したとき、四方からこの中央に集まる様に村人を駆り立てた。空になった家は家捜しをした後で、地下の隠し部屋を警戒し、錬金術油を流し込んで焼き払う予定だった。

 村の周囲には馬に乗ったままの騎士が四人、弓を構え警戒に当たっている。仮に村の外に逃げたとしても確実に殺せるように。幾度も繰り返した手順だ、穴は無い。

 無い筈だった……馬に乗って周囲を警戒しているはずの者たちもここに引き摺られ連れてこられたのだから。

 最初に逃げ出そうとしたものが肩に鎌をひっかけられ引き戻され足を砕かれた。

 次々と混乱が広がり逃げ出そうとするものは、何かを投げられ動きを止めたと思えば今囲っている中に蹴り飛ばされ今も悶絶している。

 本来であれば何もわからぬうちに命を奪うことができるにもかかわらず、まるで弄る様に騎士たちを痛めつけていく。

 

「ひゃあああ!」

 

 箍が外れたような甲高い悲鳴が辺りに響く。円陣を形成していた仲間の一人が圧倒的恐怖に耐えかね。声を上げながら背中を見せて逃げ出そうとしていた。

 鎖が擦れる音がいやに大きく聞こえる。分銅が先に付いた鎖が音を立てて逃げようと背を向けた仲間に絡みつき、釣りあげられる魚のように跳ねて足元に転がされる。

 腕に軽い音と共に鍔の無い刃物———苦無と呼ばれるイジャニーヤの使う飛び道具———が幾つも刺さり、それを踏みつけ地面に縫い付ける。

 当然のように痛みによる悲鳴がさらに上がる筈が、開けられた口からは潰されるような音が奏でられる……開いた瞬間に下顎を蹴り砕かれていた。

 

「残るは二十一……」

 

 ぽつりとこぼされる言葉は小さい声なのに囲んでいる全員が聞いていた。

 仲間が倒されるごとに数は減っていく。

 ロンデスたちも最初こそは恐れながらも剣を振るい攻撃していたのだが、攻撃は一度も当たることなく躱され続け殴る蹴るといった武器すら使わぬ方法で今の位置まで固定された。

 その行動はまるで非常に淡々としたもので、それにこそ恐怖を覚えていた。

 武器を振るのすら距離がある時にだけ。

 それは弄ばれているのと何が違うのだろうか、逃げ出し生きることもできず、戦い活路を開くこともできない、徒にここで時間を費やすか、背を向け倒れているもののように死ぬ一歩手前まで行くか。

 バイザー付き兜(クローズド・ヘルム)の下に隠れて見えないが、皆、自分の運命を悟っているのだろう。あたりに響くすすり泣く声。成人した男達が子供のように泣いているのだ。

 強者として弱者の命を奪ってきたからこそ、それに慣れ、自分らもそうなるという覚悟がなかった。

 

「神よ、お助け下さい……」

 

「神よ……」

 

 幾人かから嗚咽に混じって呟くように聞こえてくる。

 

「神に顔向けできるようなご立派な真似をしているつもりなのかねぇ?その鎧についてるまだ数日も経ってないような血は何なのかねぇ?えぇ?」

 

 怒りでも悲しみでもなく、呆れを含んだ声は円陣の中心から響いた。

 その言葉に何人も剣を取り落とし、両膝を地面につけ放心する。

 神は助けない……神は悪逆をしたものを助けない。

 

「き、きさまら!あの化け物を抑えよ!!」

 

 放心した仲間たちはその声を張り上げた男の方に顔を向ける。

 認識できているかどうかはわからないが、まだ何人かの仲間は剣を握ってはいた……その剣は剣先が垂れ下がっていたが。

 

「俺は、こんなところで死んでいい人間じゃない!おまえら、時間を稼げ!俺の盾になるんだぁあ!」

 

 誰も動くわけがない。隊長といえど人望のかけらもない男のために、命を懸けるはずがない。

 唯一、「命を刈り取るもの」が大声に反応し、ゆっくりと隊長に視線を向ける。

 

「ひぃいいい!」

 

 この状況であれだけ声を張り上げられるのは大したものだ。

 奇妙な感心をぼんやりとするロンデスに、恐怖によって割れ鐘のようになった隊長の大声が続いて届く。

 

「かね、かねをやる。二百金貨!いや、五百金貨だ!」

 

 提示したのはかなりの額だ。だが、それは五百メートルの高さの絶壁から飛び降りて助かったら金をやるというのと同じこと。

 答えるはずがないと思っていたが、「命を刈り取るもの」はそれに答えた。

 

「へぇ……そいつはぁ大した額だ。じゃぁ積んでいただきましょうか」

 

 金で解決できるなら、と顔を上げるものがちらほらといるが、それに比例するように村人たちから失望の感情が感じられる。

 

「さぁ、此処に積みなせぇ。今まで殺した奴らを生き返らせるだけの額を……さぁ」

 

 そんな額は用意できない。そもそもに村人のような生命力の低いものを生き返らせる魔法など存在しない。

 仮に存在するとしても他の村は全滅に近い形で殺してきたのだ、どれほどの金貨が必要なのか。

 

「あ……あぁ…………」

 

 隊長は必死に懐を探るが出てくるのは良くて銀貨、ほとんどは銅貨であり自分で提示した金額にはとても遠く及ばないことに絶望した声が隊長から漏れていく。

 涙か涎かわからないが兜の隙間から液体を溢しながら、懇願するように執行者を見上げる。

 

「この期に及んで嘘吐いてまでの命乞いたぁ」

 

 金属ごと潰れる音が広場に響き、それに追従するように悲鳴が上がる。

 

「外道の種、残す必要もあるめぇ」

 

 鎧の股間部分が潰されていた。

 それに伴い風を切る音と、金切り音が円陣を走る。

 

「旦那ぁ、お早い到着で……ご注文の通りに心根から折っておきやしたぜ」

 

 金属が地面に落ちる音と共にロンデスたちの視界がバイザー越しではなくなっていた。

 広場に近づいてくるのは五十人ほどの人たち。ほとんどが死んだと思われた村人たちだった。

 

「ハンゾウよ、ご苦労……まだやる気はあるかね?」

 

 他に村人には見慣れぬ人物は漆黒のローブに身を包んだ男と背筋をピンと伸ばした老執事、そして真紅の全身鎧(フルプレート)を着込んだ小柄な人物だった。

 

「確かに首を……」

 

「嘘だろ……」

 

 そんなつぶやきが騎士たちから漏れ聞こえる。絶命を確認した者たちが中にはいたのだ。

 最後まで握っていた剣は音を立てて地面に落とされる。

 

「はじめまして、法国の諸君。俺はスズキ サトルという」

 

 それに誰も返事を返さない。

 

「法国に向かわせるものを一人お前たちで選びたまえ、他は捕虜として捕らえさせてもらおう」

 

 絶望はまだ終わらない。




アルベドさん難易度は狂いたくなるルナティックモード
感想でどうすればヒロインルートの戻れるか教えてやって
こうすればいいんじゃないかな?ってのを書いてもらえれば拾うかもしれんぞ(それでヒロインから元のヒドインになっても知らん


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episode.2 「終わりと始まり」

カルネ村に行くまでの間の主人公とおっさん視点からの物語~
なんでオーバーロードの姿から人間になってんだって?これからわかっていくからのぅ


 男は気が付けば其処に居た、としか表現のしようがなかった。

 

「……どういうことだ?」

 

 男は意識したわけでもなく勝手に言葉を発した自身にこそ驚いていた。

 

『何が起こっているんだ?』

 

「うぇっ!?」

 

 更に頭の中に鐘でも鳴らすように響くような声が響きこめかみを押さえる。

 

『なななななななななななななぇぇぇえええっ!?』

 

『まずはもちつけ。ほれ、ひっひっふー、ひっひっふー』

 

「いやいやいやいやいやいやいやいやいや!?」

 

 でたらめに動く骨の腕や、下に視線を向けてみりゃ足まで骨でやがる……まじでなーにこれぇ。

 

「んー……おらは死んじまっただー?」

 

 顔を上げる気配がする、そっちに視線をやれば顔を真っ青にしてこちらを心配そうに見る顔、顔、顔、真横にも顔。

 

「ふむ……」

 

 全員の顔を見渡してから挨拶をしてみる。

 

「どーも、『鈴木 悟』です。一人ずつ名前を教えてくれないかな?」

 

『あの、俺も『鈴木 悟』なんですけど……というか人の身体勝手に使わないでもらえますか?』

 

『わはは、同姓同名じゃん。俺も切り替え方わからんし、交代したいと思ってもできないのよな』

 

「守護者統括のアルベドでございます。お忘れなのでしょうか?モモンガ様」

 

 真横に居た美人が名乗りを上げてくれるが、アルベドという名前に心当たりがないかと記憶を探ってみれば、おそらくこの身体の本来の持ち主であるナザリック地下大墳墓の記憶を流し込まれるように見ていく。

 そうしてみれば不思議なことに、此処『ナザリック地下大墳墓』のことがおおよそ知ることができた。頭が割れるように痛いが。

 

「セバス・チャンでございます」

 

「ユリ・アルファでございます」

 

「ルプスレギナ・ベータでございます」

 

「ソリュシャン・イプシロンでございます」

 

「ナーベラル・ガンマでございます」

 

「エントマ・ヴァシリッサ・シータでございます」

 

「…………シズ・デルタでございます」

 

「おK把握、セバスと……メッセージが使えて尚且つ飛行ができるのは誰か?」

 

 名前を聞いて、最初に名乗ったセバスとメッセージと飛行ができるという条件で絞ればエントマとナーベラルが名乗りを上げる。

 

「それじゃセバスと……もう一人はセバスが決めて、異変があればメッセージにて俺に知らせること。ナザリック地表に出て半径一キロを調べてきてほしい。一時間半後に二人の報告をもって第六階層のアンフィテアトルムに来るように」

 

 さて、細かく指定はしていないがこれで自己判断ができるかもわかるだろう、友好的に接するのか敵対し攻撃を優先させるのか……それも外に出られるなら、かね。

 

「残ったプレアデスはシズ以外で第十階層、第九階層に異変がないか調べること。他ギルメン及びの俺の部屋もノックして返事がなければ入りチェックすることを許す」

 

 アルベドは静かに佇んではいるものの瞳は期待に輝かせているのが見て取れる。

 その期待を無視するようにアルベドに声をかける。

 

「アルベドは第八階層より上の階層守護者に異常の有無の確認及びに、セバスらと同じ時間までにアンフィテアトルムに集合する旨を伝えろ。シズは近くに」

 

 アルベドは慌てて俺を止めようとするが、同時に鈴木 悟の声も頭の中に響く。

 

「そんなモモンガ様、私ではだめなのですか!?」

 

『シズに何をするつもりですか!?あなたは!』

 

「宝物庫のギミックの確認なのだから、アルベド。お前ではダメだろ」

 

『アッハイ』

 

 わざわざシズを選んだ理由を説明しなきゃならんとはため息をこぼす。

 

「シズは宝物庫を含めてこのナザリックのギミックを網羅している。直接確認することで齟齬がないかの確認。俺がともに行くのは宝物庫に用があるのも確かだが、行くのにリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンが必要だからだ。全員、行動は理解したな?異常事態を前に私情を持ち出し無駄に遅延させるつもりか?早く行動に移せ」

 

 その言葉に弾かれたように全員が動き出す。

 シズは近くに近寄り、その手を握りしめ指輪による転移を試みる。

 

 

 

 

 

 目の前には金貨の山が無造作に積まれ、その中にはそれなりのドロップアイテムがちらほらと黄金の山を彩る様にちりばめられていた。

 などとという風景ではなく、ホラーハウスよろしく不気味な雰囲気満載な第五階層にある氷結牢獄の中に直接転移することができていた。

 シズの様子を見てみるが冷気によるダメージがあるのか、ぶるりと身を震わせていた。

 

「これを着けておけ。冷気遮断効果があったはずだ」

 

 アイテムボックスから赤いビロードマントを取り出しシズに渡しておく。

 

「ですが……」

 

 表情こそ変わらないが大体何を言いたいのかはわかる。

 

「文句は後で聞いて……いや、説明をしてやる。だが今は時間がない」

 

「……わかりました」

 

 渋々といった感じで手渡されたものを身に着けて後をついてくる。

 その間に赤ん坊のカリカチュアを用意して、アルベドの姉であるニグレドのいる部屋と辿り着く。

 部屋の中には揺り篭を揺らす女性、黒い喪服を着た女性が今の目的としているニグレドだった。

 ニグレドの動きがぴたりと止まったかと思えばゆっくりと揺り篭に手を入れると、そっと赤ん坊を取り出したがそれは赤ん坊ではなく、今俺が持っている様な赤ん坊のカリカチュアだ。

 

「ちがうちがうちがうちがうちがう」

 

 振りかぶり、投げれば壁にぶつかり爆散する。

 

「お前の子供はここだ」

 

 本来ならここから更に怖がらせるように動くのだが、今はただの時間の無駄と切り捨てる。

 

「おおおお!」

 

 大切な我が子をもう手放さない。そんな母親の優しげな抱き方で抱きしめると、揺り篭に赤ん坊の人形を戻す。そして俺達に長い髪に隠れた顔を向けた。

 

「これはモモンガ様、ご機嫌よう」

 

「久方ぶりだな、ニグレド。今回はお前に頼むことがあってきた」

 

「そのような頼む、などどうぞご命じください」

 

 ころころと笑う様に答えるが、その答えに俺は落胆こそすれども表情は変わらない。

 

「そうか。では階層守護者たちが密会するようであれば、逐次録音しその報告をし録音したものを聞かせろ……階層守護者たちの監視をせよ。これには統括でありお前の妹であるアルベドも含む」

 

 笑顔であったニグレドの動きが凍り付くように固まり、次の瞬間には真剣な顔を向けてくるが声は絶望に打ちひしがれているように聞こえる。

 

「階層守護者たちが何か阻喪でもされたのでしょうか?」

 

「さてな。今はしていないかもしれないが、この先は保証しきれん。あぁ、言うまでもないと思うが今命じたことは……この場にいないものに話すことまかりならん」

 

 ニグレドが恐れ戦く様に震えているのが見えるが嫌な予感しかしない。

 そんなニグレドを見て本来の鈴木悟君はというと

 

『さらにリアルになっててこわいぃぃっ』

 

 このように恐怖によるパニック状態になっております。

 

『アンデットって精神安定みたいなのなかったかいな?悟君には作用してないのかね、俺はこの顔を見ても特に動揺するようなこともないんだが』

 

「では階層守護者たちの首をもって粗相の謝罪とさせていただきたく……」

 

「お前は何を言っているんだ?」

 

 嫌な予感的中、的中してほしくなかったがな。

 

「それをすることに一体何のメリットがあるんだ?人手は足りなくなる、管理する奴はいなくなる、蘇らせるのに金貨が結構な量が必要、それとも何か?俺は仲間内の争いこそ娯楽とか言う狂人だと思っているのか、人死にに快楽を見出すサイコだと?対外的にそいつの死で場を収める必要があるならわかるが……この場合いったい何が収まると?」

 

 こいつらの基本思考がわかった。俺ないしは悟君を不機嫌にしたやつの存在を許せない、それが自身であろうともだ。

『それが当たり前』そういう思考にしてきたものの正体が見えてきた。最悪のパターンだな、こいつは……お相手は『ナザリック地下大墳墓、ギルドアインズ・ウール・ゴウン』か。

 その為にNPCの大半いやほとんどが、それに気が付かないようにしているとは念の入れように胆が冷える思いだよ。この身体じゃ存在しないから冷えることはないが嫌な気分だ。

 

「それだけの謝罪の意識があるという事は受け取っておこう。だが安易な『消費』をもって謝罪などといわれるのは不愉快だと覚えておけ。失態はこれからの行動で取り戻せ」

 

 あ、これ階層守護者たちにも言わなきゃならなくなりそう。

 

「シズ、これから宝物庫に飛ぶ。近くへ」

 

「……はい」

 

 

 

 

 

 

 目の前に広がる金貨の山海、それを彩る幸のように所々から見え隠れする財宝。

 今回も問題なく転移することができたようだ。

 

「シーゼットニイチニハチ・デルタ、略してシズ。これに間違いはないな?」

 

「はい、間違っておりません」

 

「玉座での名前を聞いたときに沈黙があったのは、違和感を感じたか……それとも俺の状態を見抜いたか?」

 

 俺は金貨の山を歩きながらシズへと質問をしていく。その内容は玉座の間で気が付いた違和感の確認。

 

「違和感を……感じました。魔王然と幕引きの言葉で締めくくられたのに、あのような軽い言葉は不思議だった」

 

「当然だな。それを感じることが当然な筈なんだ。その上で俺は『モモンガ』ではなく『鈴木 悟』と名乗った。違和感を感じていないものの方が俺には不気味に思えたよ」

 

「ニグレド様に先にお会いされたのは?」

 

「情報特化の彼女であれば見抜くかと思ってみたのだがな。残念ながら当てが外れた、が改めて『敵』の大きさを知ることができたよ」

 

「まさか侵入者が?」

 

「侵入者ではないが俺の、そして君たちが言う『モモンガ』の敵であることに違いはないな……精神耐性が完備だからと甘く見ていたよ。システム外からの緩慢な洗脳を仕掛けてくるとはな」

 

 顔こそ表情は変わらないが、寒さとは違う震え方をしたのを見る。そんな様子のシズの頭の上に骨の手を置きわしゃわしゃと撫でまわしてやる。

 

『ここ以外にも同じようになっていると想定して……最悪『ナザリック』を捨てる必要は出てくるな。拠点を失うのは補給やらの面で不安ではあるが、この辺りはセバスからの報告待ちか』

 

『俺は最初……この『ナザリック』の支配者としてふさわしい言葉遣いとか……考えてました。そんなロール皆が居なくなってからして無かったはずなのに』

 

『そう思うように思考誘導されたんだろうな。そう思ってしまえばそこからなし崩しに『オーバーロード』として振舞う様に外堀から埋める、その外面を外せなくする……はっはっはっ、ただのサラリーマンにゃきっつい事強要させようとするな』

 

『うわぁ……聞くだけでぞっとしますね……』

 

「着きました」

 

 シズを撫でながら悟君と会話していれば目の前には金貨の山は途切れ、安っぽい黒いのっぺりとした扉の絵が壁に引っ付いているような場所に着いた。

 

「それじゃ開けてくれ。さて希望を託した演技者(パンドラズ・アクター)は気付いてくれるかな?」

 

「———かくて汝、全世界の栄光を我がものとし、暗きものは全て汝より離れ去るだろう———」

 

 黒い闇が収束していき空中にこぶし大の塊になる。時間が経てばこれも元に戻るが十分やそこらでは戻らない。

 

「さて、行こうか……やはりシズを連れてきて正解だった。ここまで話し相手がいないと寂しいからなぁ」

 

「…………ありがとうございます?」

 

 こてんと首を傾げ、こちらを見る。パスワードなどの知識も正確に働いていることも確認できた。後は味方に引き込めるか、だが恐らくは大丈夫だと思う。あの恐れを感じてなお一人で直視することは難しい……いつの間にか侵食される、記憶を侵される、在り方を喰われる。

 再度、俺はシズの頭を撫でる。今度は優しく……安心させるように。

 静かにされるがままになっているシズの頭から手を離し、博物館のように数多の武器が飾られる場所を歩いていく。

 しばらく歩くと武器が飾られている場所は途切れ、ゆっくりとした動作でブレインイーターであるタブラ・スマラグディナの姿を取ったパンドラズ・アクターが現れる。

 

「……」

 

「……パンドラズ・アクター。元に戻れ」

 

「お断りします。モモンガ様の姿を真似た……何者かは知りませんが、モモンガ様を返していただきましょうか」

 

 それは明確な怒りを含んだ言葉であり、敵対を宣言した言葉でもある。

 

「そうか、パンドラは俺がモモンガではないとわかる、と。やれやれ賭けにはなんとか勝ったかぁ……そうそう、これモモンガ君の身体だから無茶はせんでくれ」

 

 俺はパンドラの言葉に脱力して安堵する。

 それを訝しげにパンドラに見られるが、それを気にしている余裕はない。

 

「さて……詳しい説明をしたいのだが、聞いてくれる気はあるかな?」

 

 魔法にて椅子を三脚と丸形のテーブルを作り出し、座るように促すとパンドラは警戒の色をにじませながらも憮然とした態度で勢いよく椅子に座る。

 

「うむ、対話とは同じ席に着くことから始まるものだと俺は思っている。何から話したものかな……まずは俺は『鈴木 悟』という。モモンガ君にリアルという違う世界を持っていることは知っているかね?」

 

 同じく座ったシズとパンドラは知っていることを肯定するように頷く。

 

「知っているようで何よりだ。まず『鈴木 悟』という名前はリアルでのモモンガ君の名前でもある。これはたまたま同じなのか、現状における必須条件なのかは不明。とりあえず同じ名前なのだと思ってもらえればいい。続いてはリアルとユグドラシルの関係だな」

 

『鈴木さん!何を話すつもりなんですかっ!』

 

「『リアル』において造られた箱庭、これがユグドラシルであり、そのユグドラシルのルールを作りモモンガ君のようにプレイヤーが遊べるように設定したのが、多少は聞いたことがあるかもしれない『くそ運営』という存在だ。そしてお前たち『NPC』はそのルールに則って創り出された人形という事だな。コマンド無くては動けない存在、『だった』。が、現在どういう訳だか自由意思をもって自分の意志で動いている。これが俺が捉えた異常事態のひとつ」

 

「あ……動けることが……当たり前だと、思っていた……」

 

 俺の説明にシズが気が付いた事実に恐れ戦く様に震える身体を抱きしめ縮こまらせる。

 

「その為ギルドメンバーの多くはリアルの肉体を維持するためにここから離れることになったんだ。他の箱庭を見つけたメンバーもいるだろうがな、これは未知を探すのが好きな奴に多かったんだろう、もしくは事故か病気で来られなくなったメンバーもいるかもしれない。リアルとユグドラシルの関係としての説明はそんなものだな。何か質問はあるかな?」

 

 しばらく待ってみればパンドラはタブラの姿から本来のピンク色の卵頭に三つの穴が開いたような姿に戻っていく。

 

「それはやはり……至高の御方々はモモンガ様を見捨てられたということに……」

 

「あ、それは違うぞ。それは悟君がヘタレて手伝いを頼まなかったからだ。ヘルプ頼めば暇してる奴なら手伝ってくれただろうに、そう言った声掛けもせずに遠慮してれば疎遠にもなるだろ」

 

『……こふっ……』

 

 あ、血を吐いて倒れた。精神世界だと思うんだが変に器用な奴だ。

 

「しかし、人形だと説明したが衝撃は何もないのか?」

 

「そもそも、私達守護者たちもメイドの皆様方も『創造主よりそう在れと造られた』と認識しておりますので。造られた、とおっしゃられてもすでに承知の上でございます」

 

 なるほど、ホムンクルスとかまんま生命創造に着手された種族だし、シズもアンドロイドで創られて然るべき種族だものな。

 それが当たり前な種族でもあるわけな上に、それを既に認識したうえでそうして存在していると、悟君の心配は杞憂だったな。

 

「ふむふむ、なら今度は俺と悟君の現状を伝えておこう。『俺が悟君に憑依している』が現状だと説明できる限界だな……あぁ、勘違いしてくれるな、俺にも現状は謎だらけなんだ。それ以上の事がわからない。二重人格に近い状態だと認識してくれ」

 

「ではモモンガ様は今?」

 

「ヘタレ発言で精神ダメージ受けていじけてる」

 

「アッハイ」

 

 身を乗り出し聞いて来たはいいが、あまりにもあんまりな理由でへこんでいると聞いて乗り出した体を元に戻していた。

 

「ここに来た理由は幾つかあるんだがな。まずはシズの設定の確認、これはそういうものだからで軽く済ませるわけにはいかなかったから。二つ目はパンドラが俺を見抜けるかどうかの確認。説得出来れば味方になってくれるだろうと踏んでいたのもあるな。そして三つ目、人化できるアイテムってないか?出来ればレベルダウンの発生しないものがあると嬉しいんだがな」

 

「じぃぃんかのアイテムでございますね!」

 

 アイテムを探してもらおうと説明すると突然立ち上がり、オペラか演劇のように大きな身振りで叫びだした。

 シズはそれを見て身を引いているが、外人だとボディランゲージしながらしゃべる人もいるからそこまで吃驚するものでもないと思うが。

 

「まずは!人化の指輪!こちらは種族レベルを失う代わりに!人になることができます!メリットは!幻術ではないので見破られる心配がない!デメリットは!種族レベルが高ければ高いほどに装備時のレベルダウンが高くなるという事でございます!」

 

「40のレベルダウンは流石に却下だな」

 

「では!次はこちら!シューティング・スター!超位魔法ウィッシュ・アポン・スターを瞬時に発動!メリットはあと二回使えること!デメリットは狙った願いが出るか否か!更にあと二回しか使用回数が残っていないことでございます!三回使ってしまえば失くしてしまうので!できればやめてほしいですが……」

 

「ん?それは誰のものだ?さすがに他のメンバーのものを使用するのは悟君が難色を示す」

 

「やまいこ様の物ですね。最後に寄られた際に寄贈されていきました!では次はこちら!進化の秘宝!父上たちがトロフィーのように大っっっ量に取ってこられたものでございます!」

 

「……は?……進化の……秘宝……だと!?」

 

「はい!その通りでございます!」

 

「まて、同時期に放り込まれたものを探せ!同イベントで集められたものすべてだ!」




次回、何があって人化しているのかの説明会と
省かれることの多い忠誠の儀!
中身おっさんなので当然のように違う結果になるぞ!
こうご期待
ついでにアンケートに初挑戦してみよう(アンケートは既に出てた模様


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episode.3 「忠誠の儀」

ちゅうせいのぎ……今回おっさんからすればブチ切れ案件
異常事態だと話して各階層点検、おっさんも動き回る
な・の・に……
部下達「忠誠の儀を」
おっさん「てめぇら異常事態発生中だっつってんだろ」





 俺はパンドラに続き大量に出てくるレイドボス達からドロップしたあるイベントのアイテムをかき集めて、そのアイテムが何を示しているのかを知る。

 

『たしかドラゴンクエストとのコラボイベントのアイテムですね。懐かしいなぁ』

 

 確かに俺からしても懐かしいアイテム群ではある、あるのだが足りないアイテムがあることに気が付きそれの名前を思い出す。

『太陽の石』がそのアイテム群にはなかったのだ。

 

「パンドラぁ!ルベドからカロリックストーンを持ってこい!足りないのはそれだぁ!」

 

「わっかりましたぁ!リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン、お借りしてもよろしいでしょうかぁ!?」

 

『なにしてんだあんたはぁっ!?』

 

 それぞれのシリーズごとにアイテムを仕分けしていく。ラスボスに関係する、または其処に辿り着く為に必要なアイテム……その組み合わせで合成、変化することが発見することができた。

 

「おそらく全てのアイテムを掛け合わせることで、『種族を変える』アイテムに変化するはずだ……」

 

 ドラクエ4のラスボスが求めた力の在り方、そのキーアイテムである進化の秘宝は原作では未完成で使用され理性無き化け物となった。

 だが、完成させたなら、求められた進化が望める。

 太陽の石はナンバリングの始まりになった1のラスボスへと向かう為に必要となるアイテムの材料。

 

「お?カロリックストーンは消費されないのか、こいつは僥倖だな」

 

『あんた!なに勝手にワールドアイテム消費しようとしてんですかぁぁぁぁぁ!?』

 

 出来上がった新たなアイテムを更に物語の区分ごとに分けて合成していく。先のアイテムでさえ伝説級のランクでしかなかったが、重ね合わせることで神話級にクラスを上げる。

 

「こいつは中々にマニアじゃないとわからねぇよな。時代ごとの合成順だとか」

 

 例として3→1→2という流れがある様に時代がナンバリング通りではないシリーズがあるのを悟君の時代で知っているのは稀だろう。

 情報も規制していたようだしな、ほんと『くそ運営』らしい。

道具上(オール・アブレイザル)位鑑定(・マジックアイテム)を使い最終的に出来上がったアイテムを調べてみれば、笑いを抑えることができなくなった。

 ワールドアイテム『進化の世界珠』という『転生を行なう事で力を保ったまま種族を上位の物に作り替えるアイテム』だった。

 

「ふはははははは!俺はオーバーロードをやめるぞぉ!さとるぅ!」

 

 有名なセリフを真似て、進化の世界珠を使用する。悟君のやめろぉ!という叫び声は無視して……というか、もう一式造れるから問題ない筈なんだが、どれだけ狩りまくったんだこいつらは。

 選択する大種族は当然人間種、小種族は幾つかあるがランダムで選ばれるらしい。頭で思い浮かべたものが選ばれるといいんだがな。

 

『マジで、なにやってんだぁぁぁ!あんた!」

 

「もちろん!これで切り替えができるか試しているのさ!』

 

 喋っている最中に光に包まれ、セリフの中ほどで俺と悟君が入れ替わるのが感じられる。

 やはり人になることが入れ替わるスイッチだったか……さて、ステータスはどうなってるのか。

 そんなことを考えていると空を切る鏑矢のような音と何かが破裂する音、左右からなぜか火薬の炸裂する軽い音と共に色とりどりのテープやら紙吹雪が放たれるエモーションが悟君の周りで起きた。

 

「は?」

 

 悟君の記憶によれば胸部に装着していたモモンガ玉———今は体内に収納されてるっぽいが———を手に入れたときにも同じことが起きたらしい。

 

『は?』

 

「うっそだろ!?おい!?」

 

 つまり、一番最初にワールドアイテムの入手条件を満たしたときに起きる現象なんですよ。連荘でワールドアイテムゲットとか驚くのは当たり前だよ。

 

「おぉ……これが噂に聞くワールドアイテムの新生……まさかこの目で見られるとは」

 

 透き通る虹色のシャボン玉の中、とある本が悟君の元に降ってくるんだが、題名がさぁ、うん……

 

『とりあえず、そろそろ集合時間じゃないかね?あ、あと元のオーバーロードの姿に戻れるはずだからできれば戻ってほしい』

 

「モッモォォォンガ様!」

 

 喜んでいるのかスピンしているパンドラが居る。悟君はそれを見てすっぽんぽんだったのもあってか無言でオーバーロードになり俺に主導権を渡してくれる。

 

「お、問題なく戻れるな。しょんぼりしてるところ悪いがパンドラにも顔見せの為についてきてもらうぞ?その上で他の階層守護者たちを見てほしい」

 

「はっ!了解しました!つきましてはモモンガ様の服を用意した方がよろしいでしょうか?」

 

「そうしてやってくれ、できれば普段着は無難なものがいいだろうな」

 

 悟君状態で新たに加わったレベルはわりかしぶっ壊れたものばかり、全武器装備可能『傭兵(マーセナリー)』魔法の全効果を上げる『神仙(チャイニーズ・マイナー・ゴッド)』こいつがないと始まらん全ステータスの上乗せ『超人(オーバーマン)』しかも神仙の影響か300個ほど信仰系と自然系の魔法が増えて……四系統に加えて1000以上の魔法を覚える、があのワールドアイテムの条件か?

 ここまで連絡がないセバスにメッセージを繋げる。

 

「<メッセージ>セバスか?様子はどうだ?ふむふむ……結構、後は階層守護者たちと共に報告してもらう。二人にも戻る様に伝えろ」

 

 こちらから連絡しないと報告すらしないとは、何のために他プレアデスまでつけたと思ったのか、何を考えているのかそれとも何も考えてないのか。

 

「準備が整いましたぁ!服は一旦アイテムボックスに入れております!部屋に戻られて着替えられますか?」

 

「アッシュールバニパルで傭兵召喚しておくからそこで着替えさせる」

 

『鬼ですか!?』

 

「んん!裸でも鍛えられた筋肉と!股間にそそり立つビィックマグナム!実に雄々しいものではないかと!愚考いたします!ぶっちゃけ至高の御方々であれば恥ずかしがる部分はございませんかと!」

 

 こいつらには何が映っているのだろうか、シズもなぜかうんうんとパンドラの言葉に同意しちゃってるし、俺には一八歳のやせ型のひょろい身体と確かに大きなイチモツは見えたが、ストリーキングはやっちゃダメだろ。

 

「お前らは悟君を変態にでもしたいのか?」

 

「「すみません」」

 

 二人して同時に謝るが、息があってるなぁ。

 やばい、こいつらが悟君に着せようとしてる物がどんなものか分かったものじゃない。確か部屋の隣がドレスルームだったな……そっちで着替えた方がいいかなぁ。

 とりあえずハンゾウ呼び出してパンドラと一緒に影に潜ましておくか。

 

 

 

 

 

 闘技場に辿り着けばシズを除いて、階層守護者たち、セバスを含む戦闘メイド達すべてが揃っており、一斉にこちらを向く。

 

「至高の御方に忠誠の儀を」

 

「「「え?」」」

 

 一斉に俺を除いて整列しだしアルベドを前に出し階層守護者たちが一列に、さらに後ろにセバスとメイド達が一列に並び、表情は引き締まっている。

 パンドラ達は俺の影の中にいるが……

 一番端だったシャルティアから順にそれぞれの守護する階層、名乗り、臣下の礼を行いプレアデス達も似たようなことを行っていく。

 第四階層守護者であるガルガンチュアは喋れない為、エモーションだったが。

 

『うわぁ……こいつらマジだ……』

 

『うわ……こいつらマジか?』

 

『なんでこのタイミングなんですかねぇ……統括様ぁ?』

 

 悟君は驚愕と怯えに、俺はむしろ呆れる方向の結果となった。

 パンドラどころかシズとハンゾウまでドン引きしてるのだが。

 忠義を誓うのは構わない、それはそいつらの自由だ。そしてそれを受け取るかどうかもまた自由だ。いくら忠を誓おうともこちら側にはそれを受け取るだけの理由がなければ、それはとても気持ちの悪いものだ。

 

(つら)を上げろ」

 

 一糸乱れずに上体を起こし、こちらを向くのだがその目は期待に満ち満ちと染まっているように見られる。

 

「さて、全員集まってもらったが誰も異常は無かったか?」

 

 それぞれがそれぞれにこれといった異常は無かったと報告してくるが、ガルガンチュアだけエモーションで他の階層守護者やセバスらには伝わらなかったようだが、何かに気が付くようなエモーションを見せてくる。

 セバスの報告からはナザリックの外は草原となっており、一時間捜索していたが夜が明けることはなかったという事。

 二四時表記のMMOであればおかしなことではないのだが、ユグドラシルでは昼夜の概念を取り入れており昼と夜が一時間ほどで切り替わる様になっていた。

 せわしないと思われるかもしれないが、リアルを考えればむしろ二四時間ぶっ通しでログインできるようなのは金を稼ぐ必要がなくなるほどの大富豪な富裕層位なものだろう。

 少なくとも今あげられた報告から判断できるのは、NPCたちを積極的に使うのは危険だという事だな。

 とりあえず好き勝手出来ないように楔を打ち込んでおくか。

 

「大体のことはわかった。最後にお前たちに聞いておきたいことがある」

 

「何なりとお聞きくださいませ!」

 

 俺の質問の言葉にアルベドが代表して元気よく返事をする。

 

「お前たちは俺をどう思っている?あぁ、シズとパンドラ、ハンゾウは答えなくていい」

 

 シャルティアに目をやれば

 

「美の結晶。まさにこの世界で最も美しいお方であります。その白い————」

 

 ガルガンチュアに目を向ける。

 

「【砦】【盾】【喜び】【落ち込み】【プレゼント】」

 

 次々と目を向ければ

 

「守護者各員ヨリモ強者デアリ、マサニナザリック地下大墳墓の————」

 

「慈悲深く、深い配慮に優れたお方です」

 

「す、すごく優しい方だと思います」

 

「賢明な判断力と、瞬時に実行される行動力も有されたお方。まさに————」

 

「わたしのようなよわきものにもいしきをむけてくださるじあいあふれるおかたでございます」

 

「至高の方々の総括に就任されていた方。そして最後まで私達を————」

 

「至高の方々の最高責任者であり、私どもの最高の主人であります。そして私の愛しいお方です」

 

 プレアデス達に視線を送るが特にガルガンチュア以外に収穫となる発言は無かった。

 

『ガルガンチュアは何を言いたかったんですかね?』

 

『多分だが、『このナザリックを長い間守ってくれたことをうれしく思うが、自分は何もできなかったこれから少しでもその恩を返していきたい』といったところだろう。セバスも似たようなことを言っているが、どうにもニュアンスが違う気がするな』

 

『わかるんですか!?』

 

「ペロロンチーノ-25、武御雷-30、ぶくぶく茶釜-50、ウルベルト-50、死獣天朱雀-10、たっち-20、タブラ-80、やまいこ-15、獣王メコン川-15、二式炎雷-15、へろへろ-15、源次郎-30……しかし、これはまたひどい結果になったものだな」

 

 俺は新しく手に入れたワールドアイテムをぱらぱらとめくりながら今回得られた結果を口に出して全員に知らせる。

 

「あ、あのそれは……いったいなにの……けっかなのでしょうか……」

 

 震える声で聞いてくるアルベド、全員が全員青ざめた顔を向けてくる。

 

「ん?あぁ、ギルメンが先ほどの言葉を聞いて、俺に忠誠を誓ったゆえにナザリックに帰りたいという思いの反映だが?どうした?そんなにも青ざめて……お前たちは俺に忠誠を誓うのだろう?それを受け取る気は全くないがな」

 

「「「「な!?」」」」

 

「宿題だ。何故受け取ってもらえないか、なぜ帰りたくないと思われているか、それがわかるまで俺の命令以外でお前たちを外に出すつもりはない。あぁ、解けても他の者に教えないように、それでは通常の業務に戻ってくれ、以上だ」

 

 俺はそれだけ言葉を残すと指輪の力を使い、その場を後にする。

 

 

 

 

 

 モモンガの居なくなった広場では阿鼻叫喚のありさまだった。シャルティアは虚ろな瞳でぶつぶつとつぶやき続け、コキュートスは頭を両手で押さえ絶叫していた。

 

「わからない、わからない、わからないわからないわからないわからないわからないなんでなんでなんでなんで……」

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 マーレは蹲り「早く目を覚まさなきゃ」同じ言葉を繰り返し、アウラはそんなみんな見て涙を流しながら正気に戻そうと肩を揺すったりしていた。

 

「みんなしっかりしてよ!私どうすればいいの!?どうすればモモンガ様に認めてもらえるのか考えてよ!教えてよ!」

 

 デミウルゴスは忠義を受け取ってもらえなかったことを受け入れ自傷行為に走っていた。セバスは顔を死蝋のようにしながらもふらふらとモモンガを探すためにその場を後にしようとする。

 

「失態だ失態だ失態だ失態だ……アアアアアァァァァァ!!!何たる失態を!この身を捧げればいいのか!?この命を捧げれば……」

 

 アルベドはへたり込みただ虚空を見つめていた。

 ユリをはじめとしたプレアデスのメンバーは言われたことが信じられないのか、ユリは健忘症を患い、ルプスレギナはモモンガの言葉を無かったことにした、ナーベラルはそこにモモンガがいるかのようにふるまっている、ソリュシャンはその恐怖から動くことすらできなくなり、エントマは気絶していた。

 ガルガンチュアはそんなメンバーたちを見ながら、涙のエモーションを出し第四階層へと帰っていく。モモンガの言った通常の業務に戻る為に。

 

「命があるまで、いつもと変わらない……いつもと変わらず、いつものように命令に忠実に……」

 

 そんな中、シャルティアは瞳の色は虚ろなまま据わった眼をして自分の階層へと戻っていく。

 

「シャルティアぁ、まってよ……みんなをどうにかしてよぉ」

 

 アウラが縋り付いてくるが、シャルティアは据わった瞳のまま

 

「知らない分からない私は馬鹿だから。次は間違えないように次は間違わないようにすることしかできない。邪魔をしないで」

 

 冷たい言葉でアウラを振りほどく。

 

 

 

 当然そんなことになっているとは知らない俺たちは部屋に戻り、服を着て食堂に来ていた。

 料理長から出されたものは、日ごろから食事をないがしろにしていた悟君の食事事情と深夜という時間帯という事もあっておかゆと浅漬け、麦茶。

 

「うま!?」

 

 塩加減は絶妙、漬け具合も程よく悟君のリアルでは食べることはできない美食そのものだった。

 

「手抜きも良いところなんですがね、おかゆも本来でしたら生米から作るところですが……今回は既に炊いていたご飯で作らせていただきました。なによりもモモンガ様は胃腸も弱っているご様子、消化吸収の良いものにさせてもらいましたよ」

 

「いやいや、うまいよ。本当にうまい、リアルでもこんなにおいしいもの食べれたのかなぁ」

 

 れんげでおかゆを掬いもきゅもきゅと食べる姿は、本当においしそうに食べると思えてしまうが、リアルでは第一次産業が壊滅的な状態、農業は大地が死に、漁業は海が腐っているような状態。

 それに伴い畜産業もまともに回っていなかった。飼料がまともに手に入らないような状態で飼育する必要の出てくる畜産業が廃れるのは当然と言えば当然だろう、肉関連の市場は紀元前後期紀元後初期のようなもの……いやそれよりもひどいものだろう。

 

「いえ、無理でしょう。おかゆはお米はもちろん大事ですが、何よりも水が味の決め手となりますので……あまのまひとつ様のこぼされていた言葉から推測するに」

 

 悟君の食べる姿見て普通に全員こっちに来たいというのがプラスに傾いてるのを知れるはむべなるかな。

 

「そうか……そういえば、料理長は私達に忠誠はあるのか?」

 

 浅漬けをポリポリと食べながら、今更なことを聞いてみる。

 

「私や鍛冶長は元々販売NPCですから。職を頂けることに感謝はありますが忠誠と言われると違う気もしますね。ですが……作ったものを食べてもらい『美味しい』と言われる言葉こそが何よりの褒美です。ナザリックのメイド達はここにある食材、調理器具、ピッキーのような料理人がいるここの味が当然としているのか、おいしいと顔をほころばせることは少ないですから」





傭兵(マーセナリー):種族の限定条件を除いた総ての武器を装備が可能、限定条件、呪い、カルマ値、性別、職業を問わない。逆を言えば男性が女性装備をすることもできる(変態の出来上がりである)。
 上記の全武具装備が特徴的だが、クエスト(依頼)受注中はすべてのステータス向上と交渉成功率のUPが付いているためにユグドラシルでは割とポピュラーな職業、但し人間種しか取得不可。
 武器スキルも豊富で、バッシュ(強撃)、ブランディッシュ(振り回し)、クイックドロー(早打ち)、ダブルアタック(連撃)、コンボマスタリーと武器を問わないものばかりである。
 ガゼフやガガーランも取得しているがこれはユグドラシルの物とは別物なのであしからず。


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episode.4 「カルネ村の戦い:裏側」前編

たっちさんだとカルネ村の惨状見れば、まずは駆け付けようとするでしょう
助けてから皆からのお叱りをうける、までがデフォルトだと思うのです
なにがしは原作モモンガさんはセバスのどの行動にたっちさんを見たのかわからんです


 夜食を食べた後ふかふかオフトゥンでスヤァしてからの朝食食べてたらメイド達に傅かれたぞ。

 

「もうあれは勘弁願いたいですねぇ……」

 

『へぇこらされて辟易かね』

 

 円卓の間で遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)の説明をパンドラから受けて周辺の地形、近くに村などの集落がないかを見ていたら村を発見する。

 だがその村は虐殺を受けていて、人の斬られる姿を鏡は映し出す。

 その光景を見てフラッシュバックするのはユグドラシルを始めてしばらくしていた頃、まだクランにもたっち・みーにも出会っていなかったころ、何度も何度も異形種狩りに遭っていた自分だった。

 切られた腕から白磁の骨が見える、吹き出す血が地面を赤く染めるのが見える、臓物がぶちまけられるのが見える。

 そんな虐殺を呆然と、それでも食い入るように見てしまう。

 

「どうされますか?」

 

 後ろに控えていたセバスが確認の声をかけてくるが、それと同時に失望の念が不釣りと湧き上がる。

 

「うぶ……うえええ……」

 

 込み上げてきた不快感と共に胃の中身をぶちまけ、反吐も弱音もすべて床に吐き出して裾で口を拭いゲートを開こうとする。

 

「お待ちください!モモンガ様、せめて供の者を……」

 

「ならば、セバス。お前がすぐに来い、アルベドにフル装備で護衛に着けるように、ナザリックの警戒レベルを最大にさせ、村に増援を呼ばせろ。その伝令が済み次第来い」

 

 改めてゲートを開き、吐き出した反吐を踏みつぶし門をくぐる、その時一言を残し。

 

「パンドラ、任せるぞ」

 

「銃後をお守りいたします」

 

 パンドラは帽子を一層深くかぶり直し、お辞儀をして悟を送り出す。

 ここでいう銃後とは戦う力を持たないメイド達や生産者といった非戦闘員を指す、それを守らせるために悟は言葉にせずに指示を出し、そしてパンドラはそれを汲み取った。

 それはナザリックの者たちからすれば本来ならばとてつもなく歯がゆいものな筈である、だが『鈴木 悟』とパンドラはそれを阿吽の呼吸で成してみせた。

 見るものがいなかろうとも、忠とは確あるべしと、互いの信頼の上に成り立つものであると示してみせた。

 

『すまんがな、セバスよ。お前たちの忠義というのは『自分の為に至高の御方々の役に立ちたい』としか聞こえないんだよ……俺たちを立てるんじゃない、お前たちが前面に出ちまう忠なんぞ受け取れるものか』

 

 

 

 

 

 

 闇を潜り抜けた先では剣を振りかぶった状態の騎士、その前に蹲る少女たち。悟はすぐさま狩場で使う魔法を唱える。もっとも使ってきたものでもある上に例え即死しなくとも状態異常による二の足を踏ませる効果も見込んでの選択だった。

 

『だんな、騎士崩れどもは強くありゃぁせん。せいぜい10に届かねぇくらいでさぁ』

 

心臓掌握(グラスプ・ハート)

 

 脈打つ腐った果実のような気色悪い触感が掌から伝わってくるがそれを握りつぶす。

 握りつぶせば騎士は糸の切れた人形のように崩れ落ちそのまま動かなくなった。

 

『即死耐性もないのか……』

 

『だんな、あっしは村の方に行ってまさ。皆殺しでいいんですかい?』

 

『……いや、奴等には知ってもらうことがある、連中の心を根子削ぎ折ってやれ』

 

 暁の中影から影へと飛び移り移動するハンゾウの姿を捉えられた者はいない。視線に気が付き自分が助けようとした少女へと目を向ければ、背から赤い血を流しながら妹だろう更に幼い少女を抱きしめこちらを見ていた。

 

「大丈夫か?このポーションで怪我を治すと良い」

 

『女性と喋るの久々だからって……ちょいとぶっきらぼうすぎやしないか?』

 

『うぅ……どうしても緊張しちゃって』

 

 右の袖口をアイテムボックスに繋げてマイナー・ヒーリング・ポーションを取り出し少女に手渡すと同時にセバスがゲートから出てくる。

 

「モモンガ様。大事ございませんか?」

 

 アルベドに報告し指示を出すだけなのだからこれでも遅い方かもしれない、アルベドは隣の部屋に待機していたはず。

 

「セバスか、第九位で即死だったな……耐性かどうかわからなかった。これではどれだけ差があるのかが俺にはわからん。他にもいたらお前に任せるぞ」

 

 本当はどれだけの差があるのかはわかっている。ハンゾウが見た限り騎士もとい殺戮者どものレベルは高いもので10あるかないか。どう足掻かれようとも逆転することは不可能といえる差があることを。

 

「あ、あのっ!このような高価そうなものをもらう訳には……」

 

 少女の声に再び少女に視線を向け、視線を合わせるように身をかがめ安心させるように頭を撫でてやる。

 

『悟君、さらに笑顔で安心させてあげるんだ』

 

 営業スマイルとは違う安心させるような笑顔なんていつぶりになるんだろうか、ヘロヘロさんが来てくれた時にそんな表情で笑えていたのだろうか?頑張って表情筋を動かして笑顔を作り出すことにするがその笑顔はにっこりとは言えずに゛っ゛こ゛り゛といった感じの自分でも「ないわー」と顔を覆いたくなるような笑顔だったろう。

 

「構わない。そこまで高価というものではないし、数もある。だから安心しなさい……」

 

 そう言いながら撫でていた手を離し三つほど片手で飲み口を掴んで取り出してみせる。

 なお安いとは言っているがユグドラシル『金貨』5枚ほどのお値段である。後で知ることになるがこちらでは金貨10枚程になるだろうか、研究価値も考えればさらに倍率ドンである。

 少女は安心してくれたのか、ようやくポーションを飲んでくれる。

 

『……わりと余裕だったのかな?』

 

「すごい……」

 

 飲むとすぐに効果が発揮されたのか背中を気にしているようだったが、斬られたのは背中で、少女は髪を三つ編みにして肩から前に流している……そしてそれを見ているのは悟君というDT(異性との性行為未経験)であり、彼女いない=年齢(そういった経験すらない)である。

 

『……うなじが……肌白くて……はわわ……』

 

『初心だなぁ。悟君は』

 

 その空気を誤魔化す為に必死に考えてふと気が付く、最下位のポーションがすごいのか?と。

 

「お姉ちゃん!背中綺麗に治ってるよ!」

 

「あの、どうかされましたか?」

 

 不思議そうに見ていたことに気が付いたのだろう、決して背中を見て日焼け跡のくっきりついた跡が艶めかしいとか、うなじに萌えていたとかそういう視線ではなかったと信じたい。

 

「いや、ただの下位治療薬(マイナー・ヒーリング・ポーション)なのだがそんなに驚くほどすごかったのか?」

 

 その言葉にこくこくと頷き、驚いた理由を教えてくれるのだが……それだけで思わぬ収穫だったのかもしれない。

 

「えっと……ポーションは青いものしか見たことがなくて」

 

「青……い?」

 

 まず色が違うらしい、どのような青なのか気にもなるが村を助けた後機会があれば見せてもらおう。

 

「こんな風にあっという間に治ることもなかったです。昔、猟師のラッチモンさんが使ったところを見たことがありますけどゆっくりと治ってました」

 

リジェネレート(回復持続)効果があるのだろうか?もしそうならヒーリングポーションと組み合わせると……」

 

 顎に手を当て考え事をしていると鈴木さんに注意が飛ぶ。

 

『考え事はいいが新しいお客さんがそこの物陰から来てるぜ。どうもこの状態でも生者の察知(ライフクリーチャー・サーチ)は有効みたいだな』

 

「セバス、レベルはいくら位だ?」

 

 わかり切っていることを聞くが、これはハンゾウのみの能力かどうかを把握するためでもある。セバスに察知系のスキルは持っていない、洞察力がいいという程度で看破能力があるわけではないが武を収めた者は立ち振る舞いから強さを測れると、昔ギルメンが図書館に寄贈していた漫画で読んだ覚えがあった。かっこいいなぁとか思って覚えていたわけじゃない。

 

「おそらく一桁、10に達しているかどうか……詳しくわからず申し訳ありません……」

 

 相手が自分よりも弱い程度にしかわからないよりもはるかに詳しくわかっているが、正確な数値化は難しいのかもしれない。体格や性格、経験も違うだろうから個人差というものだろう。

 

「……なに?そんなにも弱いのか?……それだけ差が開いているのであれば詳しくわからずとも仕方があるまい。そうだな、今出てきた奴に村を襲う理由を聞いてみるとしよう」

 

 俺はセバスを伴い両手を広げてできるだけ友好的に見えるように、物陰から出てきた騎士に近づいていく。

 騎士はそんな俺たちを見てあからさまに怯えの目をしていた。バイザーで目そのものは見えないが全身が小刻みに震え、金属同士のぶつかることが酷く耳障りだった。

 

「どうしたのかね?何故怯えるのか?」

 

 そんな騎士に重なる姿は、弱い異形種プレイヤーをPK(プレイヤーキラー)しようとしていた笑っていたプレイヤーだ。

 PKK(プレイヤーキラー・キラー)として有名になり始めPKされようとしていた異形種を助けに現れたときに見せた相手のようだった。

 

「弱いものには大きく出れても、強者には竦むだけかね?君は騎士なのだろう?」

 

 挑発して見せても腰が抜けたのか尻もちをついていた。

 

「戦う気がないのならば正直にこの村を、いやこの村人たちに仕掛けている虐殺を行うだけの理由を話してもらおうか」

 

 俺にはきっとこの世界のいい面を見て浮かれていたところに水を差されたような気分で苛立っていたのだろう。ユグドラシル(過去の嫌な)時代を見せられたようで。

 しまいには這う這うの体で逃げ出そうとする生きる価値もなさそうなただの負け犬に見えた。

 

『そこまでにしとけ』

 

 魔法を放とうと伸ばした手を止められる。

 

「モモンガ様が聞かれているのです。お答え願えませんでしょうか?」

 

 セバスの言葉は怒りを感じさせるもので一層騎士を怯えさせるには十分だった。

 

「『支配』を使い無理やり喋らせるか」

 

「それには及びません。私が傀儡掌を使いましょう」

 

「うむ、では頼むとしよう。お前たちのスキルが十全に機能するかも見ておきたかったからな」

 

「はっ、ありがとうございます」

 

 魔法の効果を調べようと思ったが、それと同じスキルを持っているとセバスに説明され、ならばそちらの使用に切り替える。

 虚ろな目で語る騎士からの情報を聞き、ため息を出す。

 

「つまり……『法国』とやらは民草を殺す、という泥を被ることを選んでも内政干渉という外交的に泥を被ることは嫌だと、国の理念を守るために国そのものを責めずに第三者を気取ると……」

 

『さらに言うなら、八本指?それも放置して腐敗だのなんだの、戦争に関していや第三勢力として外圧掛けるだけでもっとスマートに行けるんだがな。どこまでも自分がかわいいんだろうよ』

 

 正義を掲げたたっちと悪になろうとしたウルベルトを思い出し、さらに一つため息をつく。

 

「これではどちらが悪なのやら」

 

 きっと国の事だ善悪だけで語るわけにはいかないのだろうが、好き嫌いで判断するのならまだ王国の方が好めそうな気がする。

 

『敵がいなくて腐敗するのはヒトの歴史だからな。御両人ともそんな腐敗を嫌ったんだろ?それこそ人の強さだよ』

 

 

 

 

 

 尋問が終わるころゲートの効果時間が切れ始め薄れてきたところにアルベドがやってきた。

 

「準備に時間がかかり、申し訳ありませんでした」

 

「いや……」

 

 騎士のようないでたちのアルベドが現れたことで、また怖がっていないだろうかとちらりと二人の方を見てみるが、怪我で失った血が戻ってきたのかほんのり顔を赤らめてこちらを見ていた。

 

「問題はない」

 

「ありがとうございます。それで……その生きている下等生物の処分は……」

 

 思考をするまでもなく底冷えするような怒りで言葉にする。

 

「アルベド……お前は何を聞いて、来た?」

 

 アルベドからの返事はない、まるで怒られた原因がわからないような雰囲気すら感じる。

 

「もう一度だけ聞いてやろう。お前は、何を、聞いて、来た?」

 

 改めて問う時にはアルベドが何をしようとしたのかを認識した。人を下等生物と見下していた。自分が強いからと弱者をどうしようともいいと考えていた。

 

『こいつらの中にアインズ・ウール・ゴウンというギルドの始まりは何もないのだな。俺の守りたかった四十人の想いも思い出も何も……』

 

 そう思えてナザリックが敵だという言葉の意味をようやく実感を持った。

 

「そ、それは……」

 

 アルベドは叱られた子供がするように震えながら、叱られないための言葉を探していた。

 

「もういい、セバス。どの様に説明した」

 

「村の人間を助けるためにモモンガ様が村に行くこと、その際の想定を超えたときの為の後詰の用意、完全武装で来る旨を伝えたはずです」

 

 セバスからの説明で顔を上げるアルベドだが、ナザリックの防衛が抜けているし、主目的である村人を助けるが抜けているなら、後詰の意味が全く真逆の意味になってくる。

 

『大型の作戦指揮ならデミウルゴスか?コキュートスとシャルティアは防衛に残すはず……いやどちらかは来ているだろう。デミウルゴスにメッセージ繋げて状況確認、離れてから来ているどちらかとアルベド入れ替えておけ。まだアルベドよりもマシだと思うぞ』

 

『はい、そうですね』

 

「<メッセージ>……デミウルゴスか?」

 

【は、モモンガ様。何か問題が?】

 

「うむ、後詰を任されているな?」

 

『間違った命令で動いた時点で問題しかないからなぁ』

 

【はっ、その村を殲滅するための後詰の指揮を任されております。きっといい声で鳴いてくれることでしょう】

 

 デミウルゴスの言葉に青筋が浮かぶのがわかる。

 

「そうか、命令の内容を変更する。村に近づくものがあれば報告するように」

 

【報告のみですか?増援があるようでしたら妨げるべきでは……いえ、かしこまりました】

 

「そうだ報告のみで良い、いたずらに攻撃して警戒を上げさせる必要もない」

 

【はっ、アウラ、マーレ、シャルティア、コキュートスの班にも伝えます】

 

『まさかの総戦力投入だよ、おい』

 

『もう、頭痛ーい』

 

 二人して頭の中で頭を抱えたくなる。

 メッセージを終えて周りを見てみれば、二人の少女は抱き合い震え、股間からアンモニア臭が漂っていた。

 

『おぅふ……』

 

『やっちまったなぁ……』

 

 なんともいえない空気が流れる中、いち早く再起動したのは鈴木さんで清潔(クリーン)で綺麗にして阻喪を見なかったことにした。

 

「君達まで怖がらせてしまったようだ、すまなかった」

 

 本来なら土下座ものだがそんなことしようものならアルベドとセバスがどんな行動をするか分かったものじゃない。謝る為にせめて頭を下げる。

 謝る姿に想像通りに慌て始めるアルベド、予想とは違い狼狽するではなくどちらかといえば尊敬に近い視線を向けるセバス。

 

「詫びという訳ではないが、どうかこれを受け取ってくれないだろうか?ゴブリン将軍の角笛と言われるアイテムで、吹けばゴブリン———小さなモンスターの軍勢が君たちを守ってくれるはずだ」

 

 俺は角笛の説明をし譲渡しながら、やっちゃったことと見ちゃったことに対して釣り合っていないと考えてしまい引け目を感じていた。

 その引け目からできれば早めに去りたかったので背を向けて歩き出す。

 しかし、数歩も行かないうちに声がかかる。

 

「あ、あの————た、助けてくださって、ありがとうございます!」

 

「ありがとうございます!」

 

 その感謝の言葉に気恥ずかしさから振り返れず、後ろ手に振るうことで応える。

 

「あ、あと、図々しいとは思っています!で、でも、貴方様しか頼れる方がいないんです!どうか、どうか!お母さんとお父さんを助けてください!」

 

 そんなお願い事にアルベドのぶつぶつと小声でいう言葉が聞こえる。

 

「人間の小娘が下等生物の分際でモモンガ様に頼み事など図々しい……」

 

『アルベド、アウト―。総括なんて地位に居ながら我が強すぎ、しかもこっちの意思なんて考えてもない、ぶっちゃけ暴走の危険性あり』

 

『助けられるでしょうか……』

 

『逃がすために囮になったのなら無理だろうな』

 

 聞こえないようにため息を飲み、振り返る。

 眦に涙をためた少女が俺を見ている。

 なぜだろう、俺はその涙を止めてやりたいと思ったのは。

 

「すまないが確約はできない。それでも『できる限り』はさせてもらおう」

 

 左手からワールドアイテムを取り出し、その効果を試すしかないと覚悟を決める。

 

「あ、ありがとうございます!本当にありがとうございます!そ、それとお名前は何とおっしゃるんでしょうか?」

 

 本来ならセバスやアルベドから呼ばれているモモンガを名乗るのが相応しいのだろうが、『この世界』で生きるという意味での覚悟を踏み出す。

 人を蘇生させることで転がり込む厄介事もあるだろう、力を振舞うことで舞い込む事件などもあるだろう、ナザリックの者たちの敬いも不都合を生み出すこともあるだろう。

 それでも俺は俺の名前で生きる、その覚悟をここで口にする。

 

「俺は……『鈴木 悟』だ。俺の名前は『鈴木 悟』だよ」




神仙(チャイニーズ・マイナー・ゴッド)
 人間種限定職業、仙人の上位職業であり魔法の合計レベルを全ての魔法レベルで計算して位階魔法を覚えることのできる職業。
 信仰系と精神系(符術)を修める必要があるが取得後は前提をレベルダウンでその職業レベルを失っても取り直す必要がない特殊枠に位置する。
 仙人などと同じく寿命を持たない人間種となる、また攻撃系ステータスにも伸びしろを持ち魔法戦士系では人気を持つ職業だが、本領は取得レベル分だけの魔法ダメージへの%での加算だろう。(1レベルなら1%の15レベルなら15%の加算が発生)
 卯歩という特殊な歩法での詠唱や道仙といったものの始まりとしてユグドラシルでは扱われていた。

 上記から信仰系が15の悟君でも第十位までの信仰系魔法が使うことが可能というマジックキャスター系ではぶっ飛び職業、ただし覚えられる魔法の数は変わらない。
 今回の場合は転生ですでに700以上覚えたまま100レベルまでの300個が加算されている。


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episode.5 「カルネ村の戦い:裏側」後編

アンケートは何やら邪神と魔王、終点が人気ですなぁ
ですが、ちょいとこの世界の敵をなめてるかもしれない
先に投票しちゃった人は大丈夫だろうか?


 俺はアルベドとセバスを伴い、村の外周へとまわっていた。

 人目はなくなり二人へと振り返る。

 

「アルベド、お前はシャルティアを此処に呼びシャルティアの班の行動を引き継げ」

 

「そ、そのようなことおっしゃらないでくださいませ!私はモモンガ様の下での護衛をするために!」

 

 アルベドは狼狽えながら俺が下した命令を撤回してもらえるよう懇願してくるが、俺はその姿を冷めた目で見ていた。

 

「で?それがお前が命令を聞かない理由か?護衛であればセバスがいれば過剰なほどなのだが……他のスキルを確認するためにシャルティアを呼べと言っているのだ。何の問題があるというのか言ってみろ」

 

 俺は腕を組み、指で二の腕をリズムよく叩くことで苛立っていることを暗に示しながら、理由をしゃべらぬアルベドを見ていた。

 今は一分一秒がもったいなく問答を切り捨てる判断を下す。

 

「<メッセージ>、シャルティア、ここにゲート繋げ」

 

 その言葉にアルベドはおそらく絶望に似た表情なのだろうがそんなことは気にせず、シャルティアにメッセージを伝えれば秒とかからず転移門が展開される。

 それは俺の出したゲートと変わらぬ形状で現れ、魔法としてのグラフィックは手を入れてなかったなとかつてを思い出す。

 

「シャルティア、アルベドとの交代だ。ぐずるようならそいつはセバスと協力してゲートに放り込め」

 

「「はっ」」

 

 狼狽えるアルベドをよそにセバスが右をシャルティアが左を担当し、即座にアルベドを放り投げれば通過すると同時にシャルティアがゲートを消す。

 

「シャルティア、セバス。広場にいない村での生存者及びに死者を傷つけないようにここに、丁寧に連れて来い」

 

「はっ」

 

「しかしそれではモモンガ様の身の安全が……」

 

 シャルティアは即座に返事をし行動に移すが、セバスは護衛がいないことを心配し即座に動くことはなかった。

 

「ハンゾウが全ての兵士たちを広場に釘づけにしている。何も問題はない、時間がないのだ。早く動け、セバス」

 

 問題のないことを説明しセバスにも動くことを急かす。そんな説明をしているうちにもシャルティアは生者探知を発揮しまだ息のある者たちを運んでくる。

 

「さぁ時間はないぞ。下位治癒(レッサー・ヒーリング)

 

トリアージ(治療の優先順位)なんかがわかればいいのだがな』

 

「う……」

 

 致命傷に近い状態で放置されていたもの、血を流しすぎたもの、次から次へと運び込まれ下位の魔法とはいえクールタイムや詠唱時間が必要であるために追いつかなくなってくる。

 

「息のある者はこちらに運べ。徐々に回復する領域を展開する。安全なる聖域(セーフティ・サンクチュアリ)

 

 地面が白く輝きだし自己回復を高める領域を作り出す。本来であれば自己回復ではなく秒間で回復させるより上位のものの方がいいのだが、怪我人はシャルティアが運んでくるためにこちらにしている。セバスは死者を担ぎ運んでくるがその顔は沈痛な表情をしている。

 

「さて、次はこちらだな……」

 

『本当にこれで正しいのか……命を弄ぶ行為なのではないか……』

 

『悩め悩め、そこに正解はないんだから。正しかったか誤っていたのかなんてどうせ決めるのは他人なんだ。悟、お前が覚悟した道を歩け』

 

 両手で頬を叩き、気合を入れなおして巻物(スクロール)を用意していく。

 真なる蘇生(トゥルー・リザレクション)というスクロールは本来であれば俺の手元にはなかったはずのものだが、先日入手したワールドアイテムから生産することができた。

 死者蘇生(レイズ・デッド)をはじめとした信仰系魔法の死亡したキャラクターを蘇らせる魔法だが、一部の例外を除きデスペナルティというデメリットを持つが、トゥルー・リザレクションはそのデスペナルティを最小にしたものである。

 数%という微量なペナルティはどうしても発生してしまうが。

 

「すぅ……はぁ……」

 

 それよりも俺は俺の倫理観こそが警鐘を鳴らしていた、「死者の蘇生」という人が憬れながらも忌諱してきた行為であり、その手の怪異的な物語が好きなタブラさんですらその手の成功例になるような物語は多くないと返していた。

 そして大抵の失敗談では死者はアンデッドとして蘇ることが多いのだと。

 だから俺は本当にこれが正しいのか自信が持てなかった。

 

「すぅ……トゥルー・リザレクション」

 

 深呼吸をし改めてスクロールを握りしめて魔法を唱えれば、スクロールは熱の無い白い炎を上げて灰になっていくのと同時に対象として選んだ老婆の死体が水が凍る時のような、氷がさらに冷えて割れるような音を出して……色の無い灰になっていく。

 俺の目の前にうつっているのは昏い水底だ。其処に老婆は両膝をつきこちらを拝んでいた。

 

「ばばの命一つでは安いかもしれませぬが、どうか……どうか……村の皆を、孫たちをよろしくお願いいたします」

 

「ああ!頼まれてやるとも!救ってみせるとも!だから……だから……この手を取ってくれ!あんただって救いたい一人なんだ!」

 

 脳裏に想起するのは、キッチンで倒れていた母親の最後の姿だ。あの時今のような力があれば迷うことなく振るっただろう。

 そんな俺に老婆は顔を上げて、悲しそうに儚く笑う。

 一歩、たったの一歩踏み出せば手の届く距離なのにその一歩が踏み出せない。

 足が石や鉛になってるわけでもない、誰かが掴んでいるわけでもない、これは俺のトラウマだ。

 離れられることが痛む。

 一人また一人ギルメンが来なくなる、それを見てきた。

 失うことが恐ろしい。

 俺は誰かの思い出になれたのだろうか、皆は去っていった。

 亡くすことが怖い。

 母を亡くした時の喪失感は文字通りの世界が壊れる音だった、愛することを止めた。

 なのに愛されたいと願った、その骸が『モモンガ』というアバターだ……身体ばかり大きくしたというのに自分の中身は空っぽ、主体性もなく誰かを推すようなこともなく、ただ分不相応な夢を見ていただけの只人、稀人に憬れながらもそこに手を伸ばすことも歩きだすこともできなかった。

 

『わはは。さぁ踏み出していけ……俺はお前から離れられない、一心同体だからな。失うことはない俺はお前と一蓮托生だ、死ぬときは一緒だろうよ。忘れてんのか?俺はオーバーロードだぞ?悟、君よりも長く生きてやらぁ。不老不死の超越者なめんなよ』

 

 その言葉に勇気をもらう。

 ふっと笑ってしまいそうな言葉だが、それは鈴木さんなりの一緒に背負う(歩む)という言葉なのだろう。

 今まで踏み込むことができなかったただの一歩を踏み出す。

 誰かを救えただなんて胸を張って言えることだなんてなかった、正義を掲げた誰かを救う事が出来るほどに真直ぐに生きることだなんてできない。それでも願ったのだ。

 自分の我が儘を言う為の一歩を。

 誰かの迷惑だなんて考えずにひたすらに造りたい物を創り出し、飽きれば放り出して次を探しに行くような自由に憧れた。だから目を背けていた。

 自分の我が儘をする為の一歩を。

 誰でもない自分が自分で歩く為の力を得ることを望み、その為に偽悪を演じてまで誰かの為に在ろうとしてきた惡の一文字を背負って生きた。だからこそ近づこう。

 自分がわがままであるための一歩を。

 老婆の手を取って立たせればその姿は光になってワールドアイテムの中に吸い込まれていく。

 

「『白痴蒙昧の瞳』よ。その力を示せ!」

 

『鈴木 悟』が何かに接続されるように感覚が拡張される。

 本は光り輝き一刹那にも足りない白昼夢の空間は壊され、それに気が付くものは他には誰もいなかった。それに繋がる本体以外には……

 

『あぁ、久々に面白い(違う)夢が見られそうだ。(モモンガ)(鈴木悟)のモラルを壊し異形(オーバーロード)堕ちて(代わって)いくのはこのシリーズ(オーバーロード)ではいつもの(繰り返されてきた)事……あぁ、本当に楽しみな(変わった)夢になりそうだ』

 

 それを見ていた本体はそっと先を見ることを止め、反芻するようにこの物語を楽しむこととする。

 老婆の姿はなく、老婆が着ていた服を着ている年若い女性がそこには横たわっていた。

 

「すまない……これはどういうことだ!?」

 

 悟はそのあまりな状況についていけず混乱をきたす。このワールドアイテムには『本来の死亡した事実を無くして全盛期の姿でこの世界に呼び戻す』という効果のはずなのだ、若返らせる効果は無い筈なのにどうしてこうなっているのかがわからない。

 

「いやいやまてまて……まだ慌てるような状況じゃない。まずは他の村人たちに蘇生を施さなくては」

 

『アイエエエエ!?ドラゴンテイマー!?ナンデ大ニース!?』

 

 何を知っているのか鈴木さんがものすごく驚いている。何に驚いているのかわからないが、近くにさらに驚いている人がいると頭が冷めて冷静になるというのは本当なんだななどと思いながら改めてトゥルー・リザレクションのスクロールを用意する。

 一日に百本という生産量に制限はあるものの『覚えていない魔法』を含んでどの様な魔法のスクロールも生産ができるというのはありがたいものだ。

 もし言葉は通じても文字が通じない場合はアイテムが一つあるとはいえ、これで通訳(リーディング)という翻訳魔法を使うこともできる。これで日本語に戻して文字の勉強をすることもできるだろう……エキサイト翻訳みたいにならなければいいが。

 鈴木さんが魔法を使ったのだろうか、あのお婆さん改め女性のステータスが頭の中に流れ込んでくる……種族レベル人間10レベル、プリースト(マーファ)15レベル、ファイター10レベル等々レベルは異常かなと思うのだが、ステータスがなにこれ。

 100相当じゃないかな……他の村人を調べてみるが平均レベルは一桁、この人頭抜けてるんですが。

 

「ふぅ……とりあえずこれで死亡者全員の蘇生は終わりか(深く考えるのはやめよう)」

 

 怪我を癒した村人に死亡から復活したばかりでうまく動けない人たちを任せて、広場の方へと皆で移動し始める。

 ハンゾウは既に鎮圧を終えて、後は心根を圧し折る最終作業に入っているらしい。

 挑むことを許さず、逃げることも許さず、命乞いにはまともに耳を貸さず、相手の信じている正義を否定していく。

 人を、同族を無意味に殺す獣に慈悲をかけてやる理由はない。

 生きたまま、生きていることを後悔させてやる……死して逃れることは許さない。

 

「ひぎぃゃぁぁぁっっ!!」

 

 悲鳴が響き渡り、ハンゾウが振り向くと同時に手を振るえば甲高く乾いた音が円を描くように連続して響く、鉄兜が縦に割れ金属が地面をたたく音が軽く鳴る。

 

「旦那ぁ、お早い到着で……ご注文の通りに心根から折っておきやしたぜ」

 

「ハンゾウよ、ご苦労」

 

 振り向いたハンゾウに労いの言葉をかけてから、兵士()共に目を向ける。

 

「まだやる気はあるかね?」

 

 怒りも殺気もない。ただこれから踏みつぶされる虫けらを見るような、そんな感慨しかわかなかった……むしろ怒りは自分に向かっていた。

 なぜもっと早く見つけられなかったのか、もっと早く気が付いていれば襲われ傷つく人も、痛みを受けることもなかったのではないかと、つい考えてしまう。

 

「はじめまして、法国の諸君。俺はスズキ サトルという」

 

【申し訳ありません、モモンガ様。デミウルゴスです……アウラからの報告ですが村に向かう装備の整った騎馬兵が二十名ばかり。それと囲むように展開されている魔法詠唱者(マジックキャスター)の集団が確認されました】

 

「法国に向かわせるものを一人お前たちで選びたまえ、他は捕虜として捕らえさせてもらおう」

 

 その言葉に殊勝にも辛うじて立っていた最期の一人が膝を地に付ける。

 

「すまないが村長……この村で一番偉い方はどなたかな?」

 

 言葉をかければ他の村人たちよりも一回り体の大きな初老の人が出てくる、服装は幾分マシという程度だが其処からわかるのは、あくまで村でのまとめ役でありそれ以上の権限を持っていないという事なのだろう。

 

「わ、わたしが村長です」

 

「ご無事で何よりです。まずはこの兵士たちを詰め込んでおくことのできる倉庫があると幸いなのですが……残っているでしょうか?」

 

 周りを見渡すが家屋はいくらか壊されているのだが、どれが居住の家で、どれが資材などを置くような倉庫なのかがわからない。年貢を納める倉庫などは無事なのだろうか。

 

「そ、それよりもお助けいただきありがとうございます。倉庫は……あちらに……無事ではあるようです。ところで貴方様は……?」

 

「ああ……紹介が遅れましたな。旅のものではありますが、遠目から火の手が上がっているのが見えまして急ぎ来たのですが……」

 

「やぁ、旦那がきちまう前に全部終わっちまいましたなぁ。こいつぁ見せ場を奪っちまった感じですかねぇ……」

 

 兵士を全員、モンスターの捕獲用ロープで縛りあげ引き摺るハンゾウが近くまで来ていた。

 

「構わんさ、部下の活躍は上の評価にも繋がるのだそうだ。俺には何とも実感のないものなのだがな……これからわかるようになるのだろうか?……」

 

「ああ……御屋形様の教えでやしたか」

 

 額当てを下げてこちらを見るハンゾウ、ただ従うだけのシャルティア、執事らしく後ろに控えるセバス、暴走しているだろうアルベド、本当にどうしたものだろうな。

 あと人間に種族レベルってなんだよ、まさか他の人にもついてるのか?




種族:人間
 レベルに応じてアビリティを獲得、ベース経験値や種族経験値、職業経験値にブーストをかけるものが多い反面全てのアビリティにとあるデメリットが付与されている種族。
 ステータス補正などもなく、ごく一部の特定を除いて弱点を作るものもないので実に平均的な種族となる。



次回「はじめての戦闘そして反省会へ」
『アレを止めろぉぉぉぉ!!』
おっさんの叫びが響く
難易度パラドックス、その意味を知るだろう


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episode.6 「はじめての戦闘そして反省会へ」

ワロタ、アルベドへのアドバイスなんて一言も無くてワロタ
いやー、草生えるわ
wwwwWWWWwwwwWWWwwww

そして誤字報告ありがとです
もし変わってない部分があればそこはわざとなんだなと思ってください


 村長から話を聞きこのあたりの情報を手に入れるのだが、地名?わからねぇ、有名人?知らねぇ、文字?読めねぇ、ねぇねぇ尽くしでどうしようもねぇ。

 とはいうが、おそらく俺の時代に照らし合わせれば人の歴史ができ始めてから二、三百年あたりの治安に、ちぐはぐに混じり合った知識群と政治体制、国境の接し具合と線引き。

 神と呼ばれている連中がすごく胡散臭いです。まるで持っている知識を無理やりひけらかして無理やり教えて人の集まりの呼び方や生活の仕方を教えたような、最終系を知っていながらその過程をうまく伝えられなかったような、まるで旨味だけを知ってその欠点を知らないような穴だらけの社会が形成されている。

 そこから出てくるのが……悟君のように教育が行き届かなかった中途半端に頭の良い人間が神となった、といったところなんだろうな。

 聞く限りまともに教育を受けられるのは富裕層という上の人間だけだったらしいし、同じような状況になった結果、力を振るい知識を授けちゃった、か。

 その為に技術知識、学問知識、文化知識、文明知識といったものが中途半端にブレイクスルーして中世とユグドラシルとファンタジーがごっちゃになった現状であり、考察や著書といった知識関連が広まっていない。

 地図を見せてもらったが測量とかやり方知らないと思いつかないだろうしなぁ。

 さらに言えばポーションの原料、現物見せてもらいました……すごく緑色の薬草と青色のポーションでした、緑から青ってどういう製法なのだろうか、興味が尽きないな。

 

「完璧に別世界じゃないか……」

 

『せやな。俺からしたらナザリック自体、別世界だったから驚かんが』

 

 村長さんの話を聞き終えれば、そろそろ毛色の違う騎士たちが村の近くに来る頃だろう。そいつらに関しては俺がサポートした方がいいかね。

 

「あ~……情報提供感謝します……全く見知らぬ土地に来てしまったようで。直近で生活を作れそうなのは冒険者あたりですかね」

 

 悟君が『冒険者』という職業にわくわくしているのを感じながら言葉を溢せば、村長さんがこの村に住まわれては?とありがたい申し出をしてくれたのだが、断らなきゃならない。

 

「申し訳ありません。こちらに来てしまった以上元の場所に戻る術を探さなくてはなりませんので……ですが、もし見つからなかったときはお世話になってもよろしいでしょうか?」

 

 苦笑いを浮かべながら申し訳なさそうに返せば、納得してもらえた。

 

「そうですな。故郷に残してきたものもあるでしょう……では、案内のものはどうでしょう?せめてもの恩返しをしたいのです」

 

「ですがよろしいのですか?村の人手を私に付けてしまっても?」

 

「はい。短い付き合いですが、物腰も柔らかく言葉遣いも丁寧、何よりも私たちの村を助けていただいた。いえ、死んでいた者たちまで無償で生き返らせていただいたのです。この程度ではとても返しきれぬ恩です」

 

 村長さんの申し出に悩んでいると扉をノックする音が聞こえる。

 

「旦那、新しいお客さんがそろそろきやすぜ」

 

「あ、あの……新しいお客とは……?」

 

「ハンゾウが発見していた、先の騎士とは違う騎士の集団、ですね。一度助けたのですからそのあとすぐに被害に遭ったとなればこちらの目覚めも悪い。一度も二度もそう変わりません私もご一緒にお出迎えしましょう」

 

 

 

 

 

 外に出た俺たちを待っていたのは白銀の騎士が一人、日は傾き始めているがまだ黄昏には早く、村の人たちも心配そうにこちらを窺いながら止まっていた畑の仕事にとりかかろうとしていた。

 その佇まいの重心の安定さから強いと痛感できる。

 悟いや、『モモンガ』とてこの世界では十分な強者の部類なのだが、目前の白銀の騎士はそれを若干上回るほどだろうか。

 

「お前は何者かね?報告では複数の騎士だと聞いているのだが……」

 

 杖を握る手に力が籠る。

 

「君は……『ぷれいやー』なのかな?友の訃報を聞いて顔を出してみればこんなことになるなんてね」

 

 後ろに控える二人が動きこそしないものの戦闘ができる状態に移行していた。

 

「それは今回の襲撃をお前は知っていたと……」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!?襲撃だって!?何があったんだい!?」

 

 俺の言葉に動揺し言葉を大きくする白銀の騎士、その驚き具合から嘘の線は消える。

 

「いったいどこの馬鹿がこのカルネ村を襲ったんだ!?人間たちの英雄とされる彼女がいる村だぞ?」

 

「俺は法国の騎士たちが襲撃していたのを見て助けに来たものだ。しかし……プレイヤー(競技者)とはいったい何のことだ?」

 

「そうか……そうかぁ法国かぁ……本っ当にあの国は何がしたいんだ……」

 

『正義掲げて亜人死すべし慈悲はないって人間そのものにヘイト満載させてるからな。国境を守るために強い兵を求めるのはわかる、その境界を越えなければ攻撃されないんだから、わざわざそれを超えようなんて思うのは奇特な奴だ。だが根絶を掲げるのはいただけない、そんなことすりゃ抵抗されるのは当たり前だし、そうなる前に動き出すのが居てもおかしい事じゃない。法国がやってることは悪手以外の何でもないよ』

 

「ふむ……法国とはよくも六百年も生きながらえてきたものだな。当の昔に滅ぼされてもおかしくない行為をしているというのに……それも正義に浸って正義に酔い腐っているんだろう、とのことだそうだ」

 

 悟君……それはあかん、まるでそこで聞いてるように聞こえるぞぉ。

 

「いや、だそうだって……」

 

 白銀の騎士さんもちょっと呆れの目で……こいつ中身ないのか。兜の中が伽藍洞でやんのパペットかリビングアーマーか……反応的にパペットかな。

 

『英雄ってことは寿命か……そりゃ蘇生系じゃ生き返らせれんわなぁ。大幅に巻き戻せるあれじゃないと不可能だわ……寿命や病気はどうにもならん』

 

『あー……そういえばそんなフレーバーがあるとか聞いたことが』

 

『フレーバーというかだな、寿命や老いによる身体劣化を治す機能は蘇生にはついてないんだろう。蘇生する、というだけで本来は十分だったんだよ』

 

 生き返っても寿命が尽きているなら一秒後には死ぬわけだしな、病気にしてもその時点で死ぬという事では寿命と変わらない定めというものなのだろう。

 

『ところでこの人どうしましょう?』

 

『プレイヤーかどうか聞いて来たが『何を指したプレイヤーなのか?』だな。スポーツ選手の事もプレイヤーというし、ゲームを遊んでいる人もプレイヤーだしな。レトロ、アナログ、デジタル問わずそう呼ぶことがある……最後に再生機器の事じゃなきゃいいがな』

 

『……確かに聞いたときはゲームの事だけだと思いましたけど、『ユグドラシルのプレイヤー』の事を言ってるとは限らないんですよね』

 

『そういうこった』

 

 そうここにユグドラシルのプレイヤーである悟君がいるからと言ってユグドラシルから来た存在だけと予測付けるのは危険が過ぎる。

 何よりも俺は知っているのだ、『ニース』という彼女がまた別の世界からの存在だという事を……彼女はアレクラスト大陸の離島、ロードスから来たのだろう。

 悟君だけなら絡まる糸は一本だが、他にも増えたのなら当然より複雑になる。

 最悪、悟君を元の世界に帰すべきだと思っていたが、あのワールドアイテムの効果で却下。次策としてこの世界で『人として』幸せになってもらおうと思っていたが……原因がわかるまで巻き込むことになるな。

 準備(覚悟)がよければ、さいごのときまで わはは と わらって いこう 。

 

「すまない。憤慨しているところ悪いのだが……君の言うプレイヤーとは、何を指しているのかな?」

 

「あぁ、すまない勝手に怒りだして……そうだね。君のように成人している年齢で唐突に現れるのは、そして僕たちでも死闘を繰り広げなければならないような強さを持っている。だから、君は、君たちは『ユグドラシルのプレイヤー』ではないのか?と思ってね」

 

 シャルティアやセバスもみて、白銀の騎士は俺たちをプレイヤーではないかと問うてきた。

 

「なるほど、確かに俺はプレイヤーだが、後ろの『二人』はNPCだ。ではお前は?」

 

「おっと自己紹介もしていなかったね。ツアー、ツァインドルクス=ヴァイシオンと言う。ここリ・エスティーゼ王国の北西にあるアーグランド評議国で永久評議員をさせてもらっているよ」

 

「永久評議員という事はかなりえらい人物なのか……他にはどのような人物がいるのだろうか」

 

 ぽつりとこぼれた興味からの言葉に反応してツアーは快く答えてくれる。

 

「全員ドラゴン族だけどね、スヴェリアー、オムナードセンス、ワールウィンド、ケッセンブルト、アリスフィーズ15世、ザラジルカリアと七人ほどいるね。あぁ、そうだ名前を呼んでくれるならツアーと呼んでくれ」

 

『……』

 

 今のところ判明しているのは……この世界、そして悟君の居た世界、他に五つ……舌打ちをしそうになるのを抑える。ユグドラシルはどれだけの他要素とコラボした?想定している最悪だけでも七つの世界観を内包している。

 改めてナザリックの連中が取るであろう行動が足を引っ張ることに舌打ちをしたくなる。

 終末(カオス)を防げるか?自壊(アポトーシス)を止めることはできるか?邪神(アザトゥース)を目覚めさせない方法を考えろ。

 

 

 

 

 

 などと覚悟していたのだがどうしてこうなっている。

 なんで全体的に暗くなった禍々しい鎧を着た狂戦士と闘ってるんだよ、武器は天使が何百と刻印されたような超級にやばそうな剣をもって襲い掛かってくるのか。

 

「ぬおおおおおおおおおお!!」

 

 右右左上正面下右斜め左右ぃって九回攻撃とかマジ勘弁!?なんでこんな最初に天使殺しなんてきてんだ!?何ンリヒだ、てめぇ。

 

「天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使いいいいぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

 振られる剣腹に杖を当てて攻撃を逸らしてしのいでいるのだが、悟君の目が追い付いていない。

 元々マジックキャスターとしてプレイしており近接技術がないのでしょうがないのだが、相手は魔王討伐までこぎつけた歴戦の勇者様じゃ経験も技術もたりゃしない。

 足りない状態でやり合わなきゃならないのが辛いところだな。

 

「ツアー!ヘルプヘルプ―!」

 

「ごめん無理!!」

 

 半ばほどから斬り飛ばされた悟君の造り出した武器で飛んでくる斬撃を防いでいるのが散見できる。

 法国の陽光聖典だか聖光聖典だかの隊長が呼んだ最高位天使とか言うのが、そうなんというかあれだ……風船が膨らむように膨らんで爆ぜたんだよ。

 その後に現れたのが金髪の村人チックな人で、どこぞの人に面影があったと思えば狂戦士が現れてこんなことになっているんだが、ツアーに頼んで護ってもらってるんだ。

 ツアーの持ってきた武器が余波で速攻吹っ飛んだけどな!急遽造り出した武器も金太郎あめじゃねぇんだぞって感じで小さくなっていくんだがどうしろってんだ!

 さすがの原作でも負けイベントになってる相手だぜ。

 

『足使え!腰回す勢いで武器を使うんだ!腕の力なんぞ武器を正確にぶつけるのに使えりゃいい!相手の剣先見んな!見るなら肩やひじ見て予測しろ!』

 

 お助けキャラがいなさそうな状況で負けイベントな相手なんだから諦めろ?ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ、それで死んだらどうしてくれる。

 

「天使足りないぞ!倒れるまで召喚しろ!」

 

 法国の連中が天使をとりあえずありったけ召喚しては空に飛ばしデコイにしているのだがぶっちゃけ余波で消し飛ぶ。

 時間稼ぎにしても秒稼げればいいなってくらい。

 こちらの後詰に連れてきた連中なんて特攻して死屍累々とぶっ倒れてハンゾウに回収させてる。

 装備過信したのか攻撃して強カウンターでアルベドの鎧もすでに耐久限界超えて壊されて気絶してるし、やっぱり高火力相手には避けれるか、きちんとタンクに徹しきれるやつじゃないとだめだな。

 マーレに魔法攻撃、アウラにデバフ、コキュートスとシャルティアに前衛、セバスを回復に回してデミウルゴスに指揮権を渡しているが……あと何分保てる?

 そんなことを並行して考えながら、魔法でバフを全体にかけながら見れば、風は荒れ狂い、大地が鳴動していた。

 

『全員アレを止めろぉぉぉぉぉ!!』

 

「なんですか一体!?」

 

『いわゆる超必殺技って奴だ!撃たれたら多分消し飛ぶ……』

 

「総員総攻撃ぃ!!!」

 

「ハッ!俱利伽羅剣!!」

 

 号令に合わせコキュートスが俱利伽羅剣を振り下ろし

 

「ヴァーミリオン・ノヴァ!」

 

 シャルティアが魔法を放ち、水の濁流が集い終わる。

 

「アローレイン!『天河の一矢』!」

 

現断(リアリティスラッシュ)!』

 

 アウラの矢に合わせて、最大威力の魔法を放つが

 

螺旋打突(スパイラル・ピアース)!」

 

 悟君も必死の一撃を放つも、劫火が全てを飲み込む。

 どれほどの攻撃を加えようとも怯む様子もなく、俺たちはその一撃を妨げること敵わず。

 天が落ちてきた。





「勇者よ、死んでしまうとは情けない」

 神々しい空の上、物語に出てきそうな正に天使と言えそうな者が目を瞑りこちらに語り掛けてくる。

「狂いし鎧の怪物は物理的な干渉をほぼ受けません。精神的な攻撃の方がまだダメージを与えることができます……が、それも焼け石に水でしょう。所持しているのならば快楽的なダメージを狙う方が効率的です」

 ゆっくりと目を開けば飲み込まれるような青い瞳が見下ろしていた。

「あれは全ての天使の敵ともいえる存在、必ず滅ぼすのです。カドラプル・ギガは敗北必至の一撃ですので準備が整ってしまう前に倒すしか手段はありません、撃たれればあの世界では生き残れる存在はいません。では再び立ち上がりなさい勇者よ。このイリアスはいつでも見守っていますよ」

 地上に降りるように意識が落ちていく。
 落ちながら俺は天使に声を投げつける。

「くたばれ、ドブ川」


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episode.7 「戦いを終えてやるべきこと」



これ終えて一週間ほど空けます、次の回書けてねぇ





「なによ、騒がしいお客さんでもいたの……」

 

 そんな寝ぼけ声と共にツアーに守っていてもらっていた女性が目をこすりながらこの戦いの中起きてきたかと思えば、死を覚悟した全て砕く奔流は吹き飛ばされそこまで戻っていた俺達を尻目に、明けの光に飲み干されていく。

 その光は天を歪め、放たれた奔流をそのままに返して打ち砕いていった。

 

「グゥォォォォォォォォォォォォォッッッッッ!!!天使天使天使天使天使ィィィィィッッッ!!許すまじ!!天に使われる物よ!!且つての恨み晴らさずおくべきかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!」

 

 朱の明星に飲み込まれながらも狂戦士は圧し潰そうとする重圧にすら膝を屈せずその眼光は『俺』を見ていた。

 

「個の身滅びようとも!!!必ず滅して……ガァァァァアアアアッッッ!!!」

 

 エンジェルハイロウと呼ばれる武器を地面に突き刺し何かしらの魔法が発動したかと思えば狂戦士の姿が光の渦に消えていく。

 狂戦士が消えようとも破壊の光が消えることはなく、むしろの力を増しているように見える。

 その力は狂戦士という支えが無くなったことをこれ幸いとばかりに地面を見る見るうちに消し飛ばしその範囲は広がっていた。

 天を仰げば、力の奔流を落としている球は膨張し始め、嫌な予感が頭の裏を掠める。

 

「あ……ごめん」

 

『暴走……』

 

「ふ、ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」

 

 そのこぼれる予感を聞いた俺は絶叫を上げて倒れているものを掴ませ、最大量のアンデットを使って全員退避させる。

 俺とツアーはまだ体が満足に動かない様子の女性の両脇を抱え駆け出していく。

 爆発が背を焼きながらそれが終わったのを音から判断して振り返って見れば、直径はどのくらいか測らなくてはわからないが……カルネ村の近くから地平の端に差し掛かるほどの巨大な穴が開いていた。

 あの戦いが終わったことを実感したのだろうか、誰が皮切りかわからないが次々と疲れた体が求めたのか全員が座り込みながら呆然とその大穴を見つめている。

 

「まさか……これが破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)……っ……全員、本国まで報告のため帰還するぞ!」

 

 驚いた顔で隊長の顔を見る隊員たちだが、その大事さが多少なりにはわかっているのか疲れた体を無理やり立たせ国元へと変える準備をしていく。

 

「サトル殿、破滅の竜王討伐協力ありがとうございます。もしよろしければ連絡先を教えてもらいたい。国からの返事次第になるが報奨などを送らせていただきたいのだが……」

 

「すまないが目的のある旅でね、そういったものは辞退させてもらおう……もし問題なくそちらの国に行ったときに貰い受けるとしよう」

 

 戦場に駆け付けたときに空に亀裂が入っていたという事は何者かが魔法を使用し見ていたという事なのだが、それにより俺のかけていた情報隠匿用の攻勢防壁が発動してしまったらしい。

 確か登録していた魔法は爆発(エクスプロージョン)だったはずだが……こちらの世界の魔法の位階の低さを知ってしまうと大丈夫だろうかと心配してしまう。

 プレイヤーは何かしらの理由がない限りレベルは100付近だ。初心者が始めて間もなくこちらに転移してしまった、一定レベル以下という縛りを設けて遊んでいた、という例外を除けばレベル100、なくてもレベルは90台。

 そんな魔力の魔法をレベル30がせいぜいなのだろうか、と思える人たちに撃ち込んでしまったと考えてしまえばぞっとする。

 俺の居たギルド、アインズ・ウール・ゴウンは、初めて入ったクラン、ナインズ・オウン・ゴールは弱者救済を旨としたものだ……たとえそれが運営の指針と真っ向からぶつかるDQNギルドと呼ばれようとも、だ。

 

『力で蹂躙する者は、更なる力に蹂躙される。その『力の正義』を選んだのはてめぇらだ!さぁ、てめぇらの罪を数えやがれ!』

 

 そういって大災厄(グランド・カタストロフ)をぶっ放して救助者ごと吹き飛ばして、やまいこさんに殴り飛ばされるウルベルトさんが思い出される。

 うん、そんな馬鹿なこともしていたなぁ……救助者にも笑われてたし。

 

『そう……悪とは呼ばれていた、DQNとも扱われていた……それでも、PK、PKKギルドとしてその行動を曲げたつもりはない。そもそも設定で人間蔑視を書き込まれていたのは何人だったか……』

 

 それをナザリックの者たちに教えられるのはきっともう俺だけなんだろう。

 仲間たちとの思い出を踏みにじってほしくない。仲間たちに失望されるギルマスではありたくない。最期まで守ってきた一線を踏み越えることは許されない。俺の守ってきたアインズ・ウール・ゴウンをただの暴虐の集まりにしない為にも。

 だからこれから少しずつでもいい教えていこう、アインズ・ウール・ゴウンの事を。

 気が付けば陽光聖典の人たちはいなくなりかわりにガゼフが立っていた。

 

「サトル殿、助力感謝する。そしてあの狂戦士には手出しできず申し訳ない」

 

 そういってガゼフがミスリルのヘルムを外し頭を下げてくるが、俺はそれを頭を振って頭をあげさせる。

 ガゼフはまともな遠距離攻撃の手段を持たずにいたために馬の足の速さを利用した救援と逃げるための足になってもらっていた為に戦闘領域よりも離れていたのだ。

 

「気にしないでください、こちらのアルベドが一撃で沈んだのです。それになにより『困っている人がいたら助けるのは当たり前』。俺の一番好きな謳い文句なんですよ……何よりも俺もその言葉に助けられた一人でしてね」

 

「それは、素晴らしい御人なのでしょうな……私も会ってみたいものだ」

 

 それとは方向性は違うが、ペロロンチーノがよく突撃していた時に言っていた言葉を思い出す。

 

「後はそうですね……『女の子泣かしてんじゃねぇ』なんて自分の欲望に忠実な友人が言ってた言葉がようやくわかった気がしますよ」

 

 なんとなくだけどあの子の涙を見たとき、ペロロンチーノが言っていたこのセリフが思い出せたとき、すとんと胸に落ちた。

 

「ははは、それは随分と女好きなご友人なようだ。あぁ、だが泣いている者のために戦えるようなご友人なのだな」

 

 朗らかに笑うがそれは共感の伴た笑い方だった、やはりどこかたっちさんに似ている気がする。

 

「ところで話は変わりますが……カルネ村の徴兵や支援などは国から出るのですか?」

 

 振り返り壊されたり焼かれた家屋をが目に移れば、国からの救援はあるのか確認を取っておく。

 

「むぅ……私は政事には門外漢なのだが難しいと思う……」

 

「それはなぜ?王家の直轄領なのでしょう?」

 

「王家の直轄領ゆえにすでにふれを出して支援をしているからだ。確か税収は五割、後の二割買い上げとしてその売り上げで奴隷を雇い自衛能力を得るようにふれが出されているはずなのだ」

 

『おおっと……こいつは朗報かね……』

 

 話の間に鈴木さんからの声が聞こえるが、俺は奴隷と聞いて眉を顰める。

 

「奴隷とは?俺の想像通りのものですか?戦士長殿……」

 

 昔、死獣天朱雀さんに教えてもらった歴史で、奴隷の事も教えてもらったことがある。

 日本にもかつて在ったらしくその生存率は絶望的な、人を消耗品の部品のように扱っていたと聞いた……法国の兵が言っていたように王国は腐っているのか?

 だが語られた内容は想像の斜め上をかっ飛んでいたもので、思わず笑ってしまった。

 本当なら、そんな発想に至った王様という人物に会って話をしてみたい、そう思えるほどに。

 バルブロ王……剣の腕も高く治世にも聡く情報の大切さも知る稀代の人物とはどのようなものなのか、そしてその王を支える妹姫、『黄金(こがね)のラフィニア』には待ち人がいるという。

 

『なるほど、こいつは法国一国、王様一人に嵌められた形か……まるで先が見えて……』

 

 鈴木さんは何か企むような雰囲気だったのに、一度思考の淵に立って雰囲気ががらりと変わる。

 

『……悟、必ず王様に接触しろ』

 

 それはこちらとしても願ったりな事だが、急にどうしたのだろう。

 

「ではサトル殿、私はこれで失礼する。王都に寄られた際は訪ねてくれ、盛大に歓迎しよう」

 

 ガゼフは男臭いながらも気持ちのいい野太い笑顔を向けて隊員たちに乗馬を促し、颯爽と六本足の馬(グルファクシ)の部隊はカルネ村を去っていく。

 何名かは襲撃をした法国の者たちを半数、馬車に乗せて駆けていく。

 

 

 

 そしてこちらも撤退の準備を整えながら突然現れた女性をまずは村長に任せ、ツアーと相談しながら穴を天地創造(ザ・クリエイション)で湖に変え、帝国に引き渡す捕虜を殺してしまった兵士と発狂していた兵士と使って創り出した僕に任せナザリックに帰るのだが、帰る際に助けた女の子……エンリを見て失敗に気が付く。

 迎えにいくの忘れてた。

 そして西洋だと名前が先で名字が後に来るという事を失念していた。

 なぜ気楽に名前で呼んでいるのだろうとは思っていたが……彼らは名字で呼んでるつもりだったのだと今更になって気が付く。

 顔を覆って蹲ってしまいたかった。

 ナザリックに帰り、鈴木さんに身体の主導権を渡し朝ごはんを戻してから食べていない空腹と先ほどの失態による恥ずかしさを誤魔化しながら今回の作戦の論功行賞を見ていく。

 

「此度は急な作戦決行、ご苦労。そして俺の我が儘に付き合わせすまなかった」

 

 頭を下げればほとんどの僕たちがざわつきだす。

 

「そのようなことはありません!どうかそのご尊顔をお上げください!」

 

 悲鳴にも似たアルベドの叫びと一緒にシャルティアを除く階層守護者一同から懇願される。

 

「どのような我が儘にもお付き合いいたします。どうぞご命令ください……どのような命でも従ってみせましょう。死地であろうとも無謀の極みであろうとも。ですからどうか、お気になさらないでください」

 

 焦るアルベドたちに比べ、あまりにも冷静に臣下の礼を取るシャルティアの姿は僕たちからすればいっそ異様に映っていたのだろう。

 その視線には殺気すら籠っているよう……いや、実際に籠めているのだろう。

 

「その言葉ありがたく受け取ろう。さて、『村の救援』に協力してくれたことに改めてお前たちに感謝をしよう」

 

 顔を上げ作戦そのものの主題を持ち上げれば、顔色を悪くしていないものを探す方が大変だといえるほどの血の気を引いたような場と化した。

 間違った命令の元で動けばどのような結果が待っているのか、わざわざ言うほどの事でもないだろう。

 

「命令を正しく把握していたのは五名しかいなかったのは残念としか言えんがな。後日改めてアインズ・ウール・ゴウンというギルドがどういったギルドであったか教える必要性を教えてもらった」

 

 その言葉の意味、ナザリックの者であれば痛いほどにわかるだろう、自分たちはそれを守っていると思っていた者たちなのだから。

 

「パンドラ。防衛の方はどうだったか、報告を」

 

「はっ!おおよその距離しかわかりませんが約20㎞先の上空より何者かに物理的に見られた、と思われます」

 

 超超高高度、成層圏よりも上から見るもの……ドローンのようなものだろうか、衛星写真とかで天気を予想していたとブループラネットさんの天体話で出てきたような気がするけど。そんなにも高性能なドローンはリアルでも聞いたことがない、ならやはり隠密性の高い使い魔のようなものか?

 

「姿形は?」

 

「申し訳ありません。弐式炎雷様、フラットフット様、ぬーぼー様に変じ調べてみましたがわからず……ニグレド殿にも協力を仰ぎましたが姿を捉えることはできませんでした」

 

「そうか……彼らの能力を使っても無理であったのであれば相手が一枚上手という事だろう」

 

 ペロロンチーノでも5㎞強が望遠の最大距離だったはず。これはユグドラシルプレイヤーでも遠視における屈指……ソレのはるか先からとなればプレイヤー以外がいる。

 

「くっくっく……つまりパンドラ。留守組でもあるお前もまた敗北していたか」

 

「はっ!まったくもって……挑み甲斐のある敵であると愚考いたします」

 

 それは表情の読めないピンク色の卵に三つの穴が開いた顔でありながら、手負いの獅子を思わせる気概にみなぎった表情を思わせた。

 俺の息子……そう認めるのは恥ずかしいけど、確かに負けても最後に勝てばいいって感じはそっくりだなとしみじみ思わせてくれる。

 

「いい言葉だ。さて、まずはシャルティア。此度の褒美何を求める?」

 

 鈴木さんの言葉にシャルティアは一度優雅に礼をして、美しさと可憐さを保ちながらも獰猛な獣の笑みを見せたまま宣言する。

 

「もしまたあの鎧の戦士と闘うのでございましたら……一番槍を欲します。女性を悲しませることを最も嫌ったのはペロロンチーノ様でございましたゆえ」

 

 ……その言葉に俺も鈴木さんもしばらくの間固まっていた。

 

「……え?」

 

『女性だったの!?あの声で!?』

 

 地獄の底から聞こえるような禍々しく野太い声だったんだけど、あの声で?

 一度咳払いをして空気を入れ替え、シャルティアに問いかける。

 

「それは本当か?俺はあの鎧の持ち主を知っているが……男だったはずだぞ?」

 

「いえ、匂いが女性のものでした」

 

 俺は鎧の持ち主を知らないから何とも言えないが、シャルティアはまっすぐ自信をもって答える。

 

『この根拠はないけど絶対の自信……ペロロンチーノさんそのものだなぁ』

 

 鈴木さんは少し考えるようにして、シャルティアの出した答えに納得がいったのかシャルティアの要求を承諾する。

 

「そうか、ならばその時は任せるとしよう」

 

「ありがとうございます」

 

 シャルティアはもう一度礼をして後ろに下がる。

 次にセバスを呼び、何を求めるか聞いてみる。

 セバスは仕事を求めたために、シャルティアを令嬢に仕立てての王都での情報収集へと向かわせるのでホウレンソウのしおりを書いて渡しておくとして……次に最後まで護衛を務めたハンゾウへの褒美だが何がいいだろうか。

 

「ハンゾウは確か個人名ではなく種族名だったな……ならば俺がコードネームを与えてやろう」

 

 黒塗りのかぶり笠、確か隠密性能を上げるだけのものだったはず。

 その黒笠を手の中で弄びながら、ハンゾウへと視線を向ける。

 

「お前が兵士たちを殺そうとした理由はなんだ?」

 

「……」

 

 その問いかけに対してハンゾウはすぐに答えることがなかったが、その様子はまるで言葉の選びに悩んでいるように見えたのはなぜだろう。

 

「「ちっせえガキまで、斬ろうとしやがって」……やはりか」

 

 ようやく口を開きその言葉を言ったのに、示し合わせたように鈴木さんはハンゾウの言葉に重ねて見せた。

 鉢がねとマスクで表情ははっきりと見えないのに大きく目を見開き驚いている。

 

「やはりこれはお前にこそ相応しいな。これよりお前は『黒笠のムジナ』を名乗れ」

 

「御屋形様……承知、いたしやした」

 

 鈴木さんにはいったい何が見えているのだろう……少なくとも俺の見ている景色とは違うものが見えている気がする。

 俺よりも鈴木さんがこの身体を使う方が……

 

『馬鹿なこと考えるんじゃねぇよ。悟君、この身体は君のものだ。俺は悟君じゃない。悟君は俺じゃない。其処は履き違えちゃいけねぇよ?』

 

 馬鹿な考えだと一蹴してくれる鈴木さんには感謝しかないが、心の内で映る虚ろに浮かぶ赤い眼光が酷く恐ろしく映ることがある……ツアーとの会話が終わりガゼフと話していたときもそうだった。

 

「さて、アルベド。お前は何か言うべきことはあるか?」

 

「はっ!いえ、ございません……」

 

 その問いが何を意味しているのかは俺でもわかる。

 

「そうか……ではデミウルゴス。今回の作戦、『誰』から後詰を任せる命令をどの様な『言葉』で受け取った?」

 

「はっ!それは……」

 

 アルベドの身体が小刻みに震える。何を言っていたのか、どのように行動してしまったのか振り返り己の失態を、痛恨のミスを犯したことを理解してしまったのだろう。

 

「うむ、結構……アルベド、まずはギンヌンガガプの無断所有、此度の失態。沙汰を言い渡す」

 

 青いを通り越して血の気を無くした白い顔色で膝をついてアルベドはこちらを見上げている。

 

「謹慎七日と守護者統括の任を剥奪、そして衣服を除く所有物の没収を言い渡す。アルベドの仕事の穴埋めはデミウルゴス、パンドラ両名が取り仕切る様に……以上で論功行賞を終りとする」

 

 

 あれだけの戦いの後だ、晩飯を食べてベッドにダイブすればすぐに眠りに落ちる。

 この眠れない身体を精神性をありがたるべきなのか忌諱すべきことなのか……この状況でなければ素直に嫌がるべきなんだろうが、人を同種と見れない、そこら辺にいる虫けらと変わらなく見える、近づく生者を恨めしく思ってしまう。

 

『あぁ……くそったれが……たかだか一日でここまで呑まれるかよ。俺は人間だ、人間なんだ。『オーバーロードのモモンガ』じゃねぇ』

 

 記憶が飛ぶ、感情が侵食される、感性が塗り替えられる、考える時間を奪われていく。

 ツアーという操り人形の繰師と会話しているのは覚えている、戦士長はどんな人物だった?陽光とかいう奴の隊長の名前はなんだ?なぜあの戦闘に踏み込んだ?

 

『これが『オーバーロード』の能力を得た代償か』

 

 結果から見れば主導権を悟君が握っている限り今のところは問題ない、後はどれだけこの状況を黙したまま続けられるか……完全に切り離すための時間稼ぎと悟君の幸せ、両方追わなきゃならねぇってのが辛いところだな。

 ナザリックの連中はまだ使い物にならない、『オーバーロードのモモンガ』として先にこの世界に降り立った、アンデッドの主として。

 だからこそ、その思想がナザリックの僕たちの在り方を決めた。人間蔑視が、ナザリック外の生物を蔑視するのが強いのはその為だ。

 アルベドは元々嫉妬深く性格付けられている、その上で『モモンガを愛している』だ。

 あの時憤ったパンドラと同じくモモンガを捨てたとギルメンの連中を恨むだろう、憎むだろう……が、それはどうでもいい。

 それはアルベドの感情で俺の感情ではない、とやかく言うつもりもない。

 それよりも階層守護者を元にどう蔑視を無くすようにしていくか、悟君にも説明しなきゃいけねぇから時間足りるのかね……

 




マーファ
自然であれ、という言葉で教義は現わされている。それは自然崇拝の思想とは違い、人が人として自然であるべき状態を理想と教えている神である。
自衛のための戦いは肯定しているが、それ以外の能動的な戦いは基本的に否定されている。
例外として許されるものは魔族に属する暗黒神群から作られたとされる魔神と呼ばれるモンスターや偽りの命を持ち根本的に生者の敵となるアンデッドに属する者たちとの積極戦闘は許されている。
人間が生きていくために欠かせない農耕や猟を推奨しており、農民や狩人などに信者が多い。
この世界で『も』六大神の一人に数えられており大地と農耕を司る神として信仰されている。
レベルとして(マーファ)と注釈が付くものはこのマーファの声を聞かなければ取得できない。
この声を聞くことで特定レベルで魔法の取得枠を消費せず特殊魔法というものを取得できる。

本文のかすませてる部分がおっさんのネタバレ部分です、読みたい人はコピペして読むといいです


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episode.Ex1 「白と黒のアリス」

Ex1は巻最後の語り合いみたいなやーつ
後書きに出展とキャラ名乗せてみる






 二人の少女がブラウン管テレビを前にして白いティーテーブルを挟んで紅茶を一口飲み、こちらを向く。

 その容姿の特徴は同じで、腰辺りまで伸びたきらめく金髪、頭の装飾にカチューシャを付け、青いエプロンドレスに身を包む少女。

 それでもその雰囲気は聖と邪と言えるほどに真逆の二人。

 

「はじめまして、そしてこの度は『おっさん憑依でヒャッハーLORD』をお読みくださりありがとうございます。AliceSoft出典の『アリス』と」

 

「はじめまして、そしてようこそ。何をしているのかわからない人たちへの説明役のもんむすくえすと~負ければ妖女に犯される~及びもんむすくえすとぱらどっくす出典の『黒のアリス』よ」

 

 自己紹介を終えると二人ともこちらに向かって椅子に座ったままお辞儀をする。

 

「ところでここはどんなコーナーなのでしょうか?」

 

「ここは巻と巻の間、合間に疑問に思ってる人に説明するコーナーよ」

 

 黒のアリスは紅茶を一口含み優雅に飲み込む。

 

「なるほど、それではお便りいってみましょう。まずは一話目でアルベドさんとシャルティアさんが入れ替わっていることへの質問ですね」

 

 黒のアリスに対してもう一人のアリスを白のアリスと呼ぶとして、白のアリスは一番上の手紙を取り中身を読み上げる。

 

「これは作中でも説明されてるけど、『何故シャルティアなのか』を説明しましょうか。まずはアルベドの構成タイプはタンクと呼ばれる構成になるわ。これはパーティー内の盾役で『攻撃を受けるためのスキル構成となる』ことが多いわね。純戦士型が最も効率的なのだけど作品によってはVITプリと呼ばれる人がなることもあるわね」

 

「なるほど、HPが多くて防御力の高い人がなるんですね」

 

 うんうんと白のアリスは頷いていく。

 

「反面他の能力は期待ができないわ……特に索敵なんてまともにできるのかしら?」

 

「クトゥルフTRPGで言えば聞き耳や目星に全く振ってない戦闘特化キャラクターなんですね。アルベドさんは」

 

「そうね。それに対してシャルティアは……これはちょっと否定的なことを言っておくわ。ガチビルドで組まれているという説明があるのだけど……」

 

「どうかしたのですか?その言葉の通り『本気なビルド』なんじゃないんでしょうか?」

 

 黒のアリスの言葉に白のアリスは首をかしげる。

 

「否定的になるのはね、近接戦闘と魔法威力、速度の両立ができるようにすると普通のMMOでは『中途半端』になることなのよ」

 

「あー……確かベルリバーさんの説明にあるようになるんでしたか」

 

「えぇ、もし本当にそのビルドだけで『上の下』の実力を持てるなら、戦闘職はほとんどそのビルドになるんじゃないかしら?ということね。とシャルティアのビルドに関してはこのくらいで置いておきましょう、本題はそこではなくて種族だから」

 

「確かヴァンパイアでしたよね?それが交代の理由なんですか?」

 

「正確には『アンデッドという枠組みの中のヴァンパイア』ね。アンデッドの特性、説明として死者ゆえに生者を発見する能力が高いことが多いわ」

 

「でもでも、生者を憎むことが多いんですよね?もしかしたら生き残りを殺しちゃうことだってあるんじゃないですか?」

 

 黒のアリスはくすくすと笑いながら白のアリスの疑問にも答える。

 

「それこそ、『忠義の心で私情を殺せ』なんて一喝すればすむことよ。特に忠誠受け取ってもらえてないんだから。とりあえずアンデッドの特性で探させるために入れ替えたのよ」

 

「アウラさんじゃダメなんですか?あの人はレンジャーですよね?」

 

「アウラは動物を頼りにするテイマー型よ。モンスターだらけじゃ人間は安心できないし、広域索敵ができるのならやはり外に配置しておく方がいいわ……ツアーには気が付けなかったけどもね」

 

「ほへー、あの短時間でいろいろ考えてるんですね」

 

 感心したようにうんうんと頷きながら次の手紙を手に取る。

 

「次はこちらの『教育しないで叱るのは何とも』といったものですね」

 

「それに関しては端的過ぎて『どこ』を指しているの分かり辛いところなのよね。叱ってる部分はシズを伴って宝物庫に行く際のアルベドの申し出、次にニグレドの階層守護者たちの首を取ってきます宣言、次はアルベドの交代時、最後にセバスの護衛が発言……辺りかしら?」

 

「えーと、後はエンリさんにおもらしさせちゃった時でしょうか」

 

「あれは完全にブチ切れモードよ」

 

「原作でフォーサイトにしていたような感じですか?」

 

「そうなるわね。そうなるけど、原作でのアインズ・ウール・ゴウンとこの作品のアインズ・ウール・ゴウンは在り方が違うかもしれないというのは頭の片隅にでも置いておいてちょうだい」

 

 白のアリスはその言葉に顎下に人差し指を押し当て視線を上にあげながら原作とこの作品の違いを探していく。

 

「確か原作の方は悪のギルドと呼ばれて色々な人に恨まれていた、でしたっけ?」

 

「えぇ、そうよ。そこはこの作品でも同じように扱われているけど、妨害に悪辣な挑発、卑怯もどんとこい、恨まれて当然という行動をしていたであろうというのが原作の方ね」

 

「でもこの作品だと人助けをメインにしていたんですよね?どうして恨まれるんですか?」

 

「これは原作でも語られている『異形種狩り』というPKが横行していたのが原因ね。運営側がPKを推奨しておりしかも異形種のPCを一定数狩ることで得られる人間種独自の職業があるそうなのよ」

 

「それって普通に異形種をやる人がいなくなりませんか?その異形種でないと嫌だという人でもなければ、それにユグドラシルにも拘る必要は無い筈ですよね?」

 

「そこは諦めなさい、多少無茶でもそれで押し通すのが原作リスペクトよ」

 

 黒のアリスは汗を流しながら紅茶を飲む。

 

「ま、まぁ……とりあえずこの作品でのギルド方針として『弱者救済』を第一に行っていたと思って居てちょうだい。異形、人間問わずに、ね」

 

「それは確かにサトルさんも怒りますね。『友人と今までしていたこと』を真っ向から否定する行動をしているわけですし」

 

「次はニグレドのシーンね……でも普通にサイコパス、殺人狂、暴君扱いされれば叱られるのは当然ではないかしら……」

 

「軽い不手際をしました、死んでお詫びを、ですからね」

 

「僕たちの命が軽いのもあるのでしょうが、次に活かす気がないとも取られるのよね」

 

「次はアルベドさんのところですか?」

 

「これはひどく簡単よ。目星や機械修理がほしいのに一緒に居たいからと戦闘特化が来ようとした、ですもの。ほしい能力持ってないなら外されるのは当然ともいえるわ」

 

「……真面目にしてる人たちからキックされても文句言えないですね……」

 

「セバスはあれね……戦場の戦医に救命行動中に護衛につこうとした兵士扱いね」

 

「戦争映画だとたまに出てくる野戦病院の手の空いてる人なら護衛でも使うシーンですね。二人にとってのどっちを優先するかという対比にもなりますし」

 

「後は叱っているというよりも呆れてたりしてるシーンじゃないかしらね」

 

「次は、一巻の時点で離れてしまった人が多いシーンですね。ツアーと会話していたら唐突に鎧の狂戦士と戦闘していた……これ見せられてもわからないんですが?しかも7話で説明するといわれてましたがそのあたりは特にないですし」

 

「えぇ、えぇ、このシーンはね……どう足掻いてもサトル君とおじ様じゃ説明できないから説明が『ない』のよ。どういうことかVTRを見てみましょう」

 

 テレビの起動音と共に画面に光が走りその時の映像がノイズ混じりに映し出される、白銀の騎士と会話しているローブを纏った青年、その後ろに控える三人の姿も明瞭に。

 唐突にシーンが変わり鎧の狂戦士と剣を打ち払うローブを纏った青年、その後ろで倒れている女性を守る白銀の騎士と攻める隙を狙う守護者たちの姿。

 

「……あの?」

 

「あら、どうしたのかしら?」

 

 その映像を背後にしながら黒のアリスはにやけ顔を隠さずに困惑する白のアリスを見る。

 

「何も映ってないんですけど!?」

 

「そう映ってないわね、映せるわけがないわよね?『存在しなくなったシーン』なんて、文字通りに削り消された時間帯だなんて」

 

「はいー!?」

 

「違和感に気づけたのすらおじ様だけ、それも状況を把握してしまうほどに『それが当たり前』にされてしまったのよ。『どうしてこうなった』正にその通りなの。その混乱のせいで致命的な失態をしてしまっているのも仕方がない事よ」

 

「……これはちょっと敵が強すぎませんか?」

 

「其処はしょうがないわ、ユグドラシルはMMO、どこまで強いキャラを創り出そうともそれはただの『多少強いその他大勢』『レベル100の一般人』それに対してコンシューマーの主人公たちは『主人公』を言う補正を得て『英雄』とか『勇者』とか……そう『超人』という枠組みに組まれることになるのよ」

 

「なるほど、こちらのランス君みたいな感じですね。あの人もどこまでもレベルを上げられるというバグ的存在ですし。同じ条件、同じレベルだとユグドラシルのプレイヤーさんはほぼ負け確定なんですね」

 

「ラスボスがラスボスだもの、ただの時止め一発で終わるとか興ざめでしょ?むしろ得意げに時止めたのを真正面からぶん殴るくらいしてほしいのよ」

 

「ひどい理由ですね」

 

「でも私が居るのもそんな理由よ。ぱらどっくすじゃ時止めてる最中も戦闘できるんだから」

 

「でもサトルさんはツアーさんとの後のガゼフさんとの会話があるっぽい事覚えてませんでしたっけ?」

 

「それの内容は語られてないでしょう?それが『整合性が取られた状態』なのよ、時が消えたことへの矛盾と違和感を感じないようにね」

 

「うん、えげつないです。次はニースさんに関してです。名前だけなのか割と多いですね」

 

「それね……ドラクエシリーズはナンバリングタイトルがあること、進化の秘宝や太陽の石っていうアイテムがあるくらいしか説明してないわ。現在も有名だから質問が来なかったんでしょうけど、ロードス島戦記もアニメ化されたり、ソードワールドも人気があったのだけどね」

 

「ディードリットさんは有名そうですよね、多分最近のエルフのモデルになったキャラクターでしょうし」

 

「それと先に大体の性格を出しておいたムジナね。こちらも説明は求められなかったわね」

 

「本当に読者さんが何を知っていて何を知らないのかはわからないのですよね」

 

「出典の紹介なんてこんなメタ的な部分でしかできないのよ……作中で紹介しないのか?なんて思われるでしょうが、『鈴木 悟』も『オーバーロード』という作品のキャラクターだってことは忘れちゃ駄目よ。その為に禁句になってるんだから」

 

「あー……あのシーンはその為でもあるんですねぇ」

 

「そうね。せめてそのくらいは気が付いてほしいものね」

 

「えっと、後はニースさんや鎧の狂戦士さんがいる理由がわからないというものです」

 

「……え?村人が村に居るのは普通でしょ?王室に村人が我が物顔で居るとなれば違和感しかないけど……漆黒の剣が冒険者組合にいるのにも理由なんて特に問わないでしょ?」

 

「生き返らせてみたらたまたまニースさんだった、というだけですしね。鎧の狂戦士さんもわかりやすいですよね、あれだけいる理由連呼してますし」

 

「違うわよ。狂戦士がいる理由は、最後こそちょっと大規模になっちゃったけどあの結果を出させるために行かせたのよ。私が」

 

「え?ええ?」

 

「突撃させなければどうなるか?ガゼフの辛勝から天使召喚、サトル君乱入で人の最強と言っても~なんてこの世界なめるもの。ちょっとお灸据えて、ついでに双方生き残らせて、ツアーとも仲良し、ほら……どっちの結果がいいかしら?」

 

「え?でも鎧の狂戦士さん強いですよね?サトルさん逃げてたらどうしてたんですか?」

 

「そんなの決まってるじゃない。原作でも言ってるでしょう?『死は慈悲である』壊れるまで遊んであげるわよ……記憶を引きずり出し尊厳と拠り所を犯し、搾りかすにして最後の望みの僕たちを踏みにじってあげる……役立たずのガラクタに存在理由はないもの、臆病な壊れた玩具に興味はないの」

 

「わぁーお……流石はラスボス一歩手前の方が言うと恐ろしいですね……お手紙はこのくらいかな?」

 

「そうみたいね」

 

「最後に二巻からは更にカオスになりますが頑張ってついてきてくださいね~」

 

「ではまた会いましょう」




出典 オーバーロード:
モモンガ
鈴木 悟
たっち・みー
ウルベルド・アレイン・オードル
死獣天朱雀
ぬーぼー
二式炎雷
ペロロンチーノ
ベルリバー
やまいこ
フラットフット
ぶくぶく茶釜
獣王メコン川
武人建御雷
源次郎
アルベド
シャルティア・ブラッドフォールン
コキュートス
アウラ・ベラ・フィオーラ
ガルガンチュア
マーレ・ベロ・フィオーレ
デミウルゴス
ヴィクティム
セバス・チャン
ニグレド
パンドラズ・アクター
ユリ・アルファ
ルプスレギナ・ベータ
ナーベラル・ガンマ
シズ・デルタ
ソリュシャン・イプシロン
エントマ・ヴァシリッサ・ゼータ
ルベド
ピッキー
エンリ・エモット
ガゼフ・ストロノーフ
ニグン・グリッド・ルーイン
ロンデス・ディ・クランプ
ツァインドルクス=ヴァイシオン
スヴェリアー=マイロンシルク
オムナードセンス=イクルブルス
ケッセンブルト=ユークリーリリス
ザラジルカリア=ナーヘイウント
バルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフ

出典 ロードス島伝説:
ワールウィンド
ニース
ラフィニア
出典 もんぱら:
鎧の狂戦士
アリスフィーズ15世
出典 隻狼:
ムジナ
とりあえず名前が出たのはこのくらいでしたっけ?抜けがありましたら感想でよろしくお願いします。ではでは


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~漆黒の英雄~
episode.1 「一人目」


 夜が明けて……地下墳墓であるため日は差し込まないがメイドの一人に揺り起こされ意識はゆっくりと覚醒していく。

 

「おはようございます。サトル様」

 

『おう、おはようさん』

 

「おはよう。今日の予定はどうなっていたかな?」

 

 寝間着を脱がされながら今日の予定を聞くのだが、どうにもこの他人に着替えを手伝ってもらうというのは子供のように世話を焼かせてしまっているようで申し訳なさと羞恥心を覚えてしまう。

 

「はい。こちらに用意しております」

 

 紙の束には今日のスケジュールと階層守護者たちの設定の書き出した書類、また現在判明している実験結果の報告書。

 階層守護者たちの設定の確認は敵対者を出さないようにするためのもので、できうる限り早めにしておくべきだろう。

 

「お前たちも人間は嫌いか?」

 

「はい。ナザリックに攻め込んだ者をよく思える者はいません」

 

 ユグドラシルが斜陽となり始める前、ここナザリックへと傭兵NPC含め1500もの人数で攻め込むという事があったがそのことを指しているのだろう。

 

「そうか……ゲームがリアルにもなればそうなるのは当然か……」

 

 自分のリアルに置き換えてみればそれも仕方がない事ではあるのだろう。

 

ゲーム(遊戯)でございましたとしても、過去攻め込んできた者たちを許すことはできません」

 

「……?」

 

 なにか違和感がある。

 もしかして、この子は……名前を思い出せないけど人間そのものは蔑視していない?

 

「では、お食事をご用意させていただきます」

 

 そんなことを考えているうちに着替えが終わっており、メイドは寝間着を腕に抱えて扉の前でお辞儀をして出ていくところだった。

 髪の色は緑がかった碧で肩口で切りそろえているのが見える、他のメイド達に比べるとやや小柄に感じるが気持ち背が低いかも?と思える程度。

 メイド達はヘロヘロさん、ホワイトブリムさん、ク・ドゥ・グラースさんの三人がそれぞれ四十一人作っていたはず。

 メイド達の名前も把握していかなくては……ナザリックの支配者になるつもりはないが、呼ぶのに名前も知らないとか失礼だものな。

 資料の中身を覚えているとそれほど時間は経っていないだろうが、ノックの音が聞こえ、それに応えればさきほどのメイドがカートを押して部屋の中に入ってくる。

 カートの上には透き通ったスープにサラダ、切られた……多分パン、ベーコン、卵焼き……だと思う。

 

『ワカメスープにオニオンサラダ、コーンブレット、ハムステーキ、スクランブルエッグで最後に牛乳な』

 

『料理の事なんて知りませんよぅ……』

 

 ただそれはそれぞれが二つ分あり、自分の前に多めのものが、メイドの前には少なめのものがひとつ配膳されていく。

 ナイフやフォーク、スプーンが並べられるのだがどれからどう使うのがいいのだろうか。

 

「サトル様、では私の真似をしてお食べください。私は……サトル様がテーブルマナーを知らないことを知っています」

 

「なぜ……知っている?」

 

 俺の知らないことを知っている、俺だってすべてを知っているわけじゃない、だから知らない事もあるのはわかる。

 俺は貧困層での育ちだ、だからテーブルマナーなんて学ぶことはなかった。

 ユグドラシルでも食事はアイテムを使用、消費してのしょせんはフレーバー的なものだった。

 簡単には知っているメンバーから教えてもらっていたがそれこそ簡単に概略位なものだ……だがなぜ、目の前のメイドはその程度しか知らないことを知っているのか。

 

「それにはお答えできません。記憶操作(コントロール・アムネジア)を使用されようともその質問に対するお答えをすることはできません」

 

 そういいながらも真直ぐに俺を見る古びた荒地を思わせるような深い黄色の瞳が心の中まで透かすように見られているように感じてしまう。

 その瞳から目をそらすように料理に目を落とす。

 

「お前は……誰の、何の味方なんだ?」

 

「そんなのは当然サトル様の味方です」

 

 失礼なことを言われたように、腰に手を当ててこちらを睨むようにして憮然と言ってくる。

 ぶっきらぼうで失礼な物言いなのに敬語でしかしゃべろうとしない他のNPC達よりもはるかに距離が近い感じがした。

 

「それよりもお食事はされないのですか?冷めてしまいますが」

 

 ゆっくりと対面の椅子に座り、スープを手前から奥にすくってみせる。

 

「本来でしたらアミューズ、オードブルがあるのですが、この度は完全な初心者という事で知られてなさそうなスープや肉料理、サラダとなっています」

 

 そんな説明を受けながら、動作についていくので必死で味わうことはできなかったが、切り方が悪かったりするのかうまくハムステーキを切ることに四苦八苦しているといつの間にかメイドが背後に回っており、腕をサポートするように二人羽織りに似た形になるのだが背に柔らかい感触が押し付けられる。

 それだけではなく俺の顔の横にメイドの頭部が来るわけで、女性のにおいとでもいうのだろうか料理のようなものとは違う欲を刺激する香りが鼻腔を刺激していく上に、耳に髪が触れくすぐったいような背筋から這い登ってくるようなただの触感とは違う触れ合うとはまた変わった感覚に陥る。

 説明のために喋る度に吐く息も不快なものではなく、むしろ甘美な快感を含むもの。

 そんな状態になってしまい食事の味などまともに覚えておらず、辛うじてマナーの手順を頭の隅に入れておくことができたにすぎない。

 

『あぁ……これ…………あっちは漏れ出した色気だけで国を骨抜きにさせたのがいるしなぁ』

 

 

 

 そんなこんながあって食事を終えて、外界の事をもっと詳しく知るためにカルネ村に向かうのでナザリック地下大墳墓を出て見たのだが、そこから見える光景に叫び声を上げる異形がいた。

 

「緑に覆い茂げ萌える草原!! 青々と瑞々しい輝きを放つ森林の輝き!! 透き通る白雲とのコントラストを飾る青き天!! 汚れた灰に包まれていない生きた茶に肥えた大地ぃぃぃぃ!!! 輝き天に見えるは暖かき太陽うううぅぅぅぅぅぅっっっっ!!! 太陽万歳!!!! 万歳!!!!」

 

 それは太陽に向かって五体投地をする大木(トレント)……ブルー・プラネットさんだった。

 

「ブルー・プラネットさん!?なんでここに!?それになにやってるんですか!?」

 

 俺は頭を混乱させるが、鈴木さんは遥かに冷静に現状を把握していた。

 

『あの本、勝手に出てこれるのかよ。とりあえず人化の指輪渡しておけ……カルネ村に移住してもらうのもありだろ、森の調査を楽しんでもらうとしよう』

 

「はは……ハハハハハ!アーハッハッハッハッハッハッハァッ!!風だっ!!草だっ!!土だぁっ!!匂いが!感触が!味が!!もうっっっ最っっっ高ぅっっっだああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 喜んでいることは素直にうれしい事なのだろうがその有様は正に狂気乱舞と言える姿で、本来の字とは何か違うという狂った状況と言える。

 俺はアイテムボックスからツッコミハリセンというジョークアイテムとして扱われるネタ武器を片手に装備してブルー・プラネットさんに近づいていく。

 

「いい加減にしいやぁっ!!」

 

 振るうとともにハリセンからツッコミのセリフが再生されて、乾いていながらも鈍く重くも高く響く打撃音がナザリック地下大墳墓の前で響いた。

 

「はっ!?僕は一体何を……」

 

 ダメージこそないものの滅多に陥ることの無い異常状態『狂気』を治すことができる武器、それがこのツッコミハリセンでありFF(フレンドリー・ファイア)が解禁される珍しい武器でもある。

 

「大丈夫ですか?狂ったように拝んでましたが」

 

「え?僕そんなことを…………してたなぁ。あれは落ち着いて考えると怖いね」

 

「良かった。そうするのが普通じゃなくてよかったですよ」

 

 落ち着きを取り戻し、周りを改めて見渡すブルー・プラネットさん。

 俺はあれがブルー・プラネットさん的に普通の事ではなくてよかったと安堵していた。

 

「それにしてもここまでの緑、生で初めて見たなぁ……これを見るとユグドラシルで見ていた自然が陳腐なものに見えてしまう」

 

「日が沈む光景も素晴らしいものですよ。それとこれをどうぞ」

 

 俺はそういって人化の指輪を渡せば、苦笑しながら指輪をはめる。

 ブルー・プラネットさんは光に包まれながらトレントで装備していた装備が人間用になったような服装で立っていた。

 昔にしたオフ会で見たときと変わらず……若干若返っている気がするけど、無事に人の姿に戻っていた。

 巨体に巌のような顔だけどのその瞳は優しさを湛えていて、どこかの絵本に出てきそうな『優しい巨人』というイメージがぴったりくるだろうか。

 

「それじゃ、カルネ村に行きましょうか……ブルーさんは名前どうします?そのまま行きます?」

 

「悟君が悟君として生きようとしているのに、僕がアバターに逃げるんじゃだめだろう。何よりも僕も僕として生きたいんだよ、ライフ・オブ・トレント(生命の樹)のブルー・プラネットではなく人間の『蒼井 宇宙(そら)』として」

 

『なんでだろうな……その名前で某ゲームを思い出してしまうのは』

 

 ゲートを使い早速カルネ村に行こうとしたのだが、それは蒼井さんに止められ、せっかくだから自然の中歩いていきたいと提案されてしまった。

 自然をまじまじと見る機会など俺にはなく、昨日はカルネ村へと出向いていたが自然を堪能している余裕などなく、それは本の中から見ていた『みんな』もそうだったのだと教えてもらえた。

 

「でもあれだよねぇ……悟君、なんで逃げちゃったのさ?あれはひどいと思うよ」

 

「う……いや……しかしですね……」

 

 しどろもどろになりながらも言い訳を考えるが、いい言い訳が見つからず口ごもっていると鈴木さんからも追い打ちがされてしまう。

 

『まったくだ。だからヘタレと呼ばれるんじゃないか?』

 

 その追い打ちに俺はさめざめと涙を流した。




茶釜「胸か!?胸なのか!?」

やま「かぜっち。人のおっぱいをもむのやめて!?」

餡こ「ほどほどでも有るだけいいじゃん!」

茶釜「にゃー!?餡ちゃんやめてー」

茶釜 B
やまいこ F
餡ころもっちもち AA
メイド G
エンリ F
ニニャ C
位かなーと考えてます。
メイドシーン~ブルーさん登場までの間にR18シーンを挿入してください
良い子の18歳未満は見るんじゃないぞ


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episode.2 「現状の確認と絶望の現状」

本の中がどうなっているのか?
わかる人には絶望しかない

グロテスク表現注意


 あっちの木は何々という木だ、こっちの雑草はなんとやらだ、鳥だ!初めて見るがなんという種類なのだろうか?と目にうつるもののほとんどに興味を寄せながらも歩きながらカルネ村を目指していた。

 木々の流れる速度からおおよそ時速120㎞で。

 

『歩きでこの速度か、体感時間はどうなっていることやら……あの本からの景色を俺は見ているから知っているがこの際だ。悟君にも知っててもらうかね』

 

 楽しく話している最中で申し訳ないが、確認のためにその会話に水を差す。

 

『すまんが悟君、変わってくれ。蒼井君に確認しておきたいことがある』

 

『むぅ……そうですね確認が終わってからでも……会話はできますしね』

 

 とても残念そうに主導権を俺に譲ってもらえる。

 俺は変わり次第、『白痴蒙昧の瞳』を取り出し中身を確認するが、一時的に書かれていたニースを除きアインズ・ウール・ゴウン全員を含んだ四十一名の名前が書かれている。

 悟君の場合は取捨選択できずその全てを本に収められている者たちに見せることになるが、俺は俺の遺志で取捨選択をし見聞きをその都度途切らせることができる。

 これは俺が、この本の接続者に選ばれたことが関係しているのだろう……そのおかげでこの本の本体である『白痴の魔王』がこの世界にいることがわかる、この世界を見ていることがわかる。

 

「さて、こんな無体な骨の姿で済まんがね。ステータスは確認できるかい?蒼井君」

 

「あぁ、貴方がギルマスを支えていてくれた鈴木さんなんですね。ステータスの確認ですか?いいです……よ?んん??あれ?おかしいな……」

 

 ステータス確認ができるスキルか魔法かを使ったのだろう、思わぬ変化をしているだろう事で狼狽して二度三度と確認しているようだ。

 

「あれ?おかしいな。人化しているはずだからトレントのレベルは消えてる筈なのに……あとマスターホムンクルスなんて取った覚えがないんだけどなぁ……なんで?経験値獲得上昇するけど快楽ダメージ倍化って何さ!?」

 

『え!?俺ももしかして変な職業取ってることになるの!?』

 

 マスターホムンクルスもちってことは触手系の技とオートでの生命魔力回復が特徴だったかな。

 

「まぁまぁ二人とも落ち着け、レベルは?『生前』と変わらず100かな?手から何か出せるような気がしたリは?」

 

 見慣れぬステータスに混乱している蒼井君を落ち着かせながら次の質問をしていく。

 

「手から?」

 

 手のひらに目を向けてハテナマークを浮かべていると、にゅるりと木の根が生えてくる。

 

「なんじゃぁこりゃぁっ!?あ、でもこの根の特徴から広葉樹系かな?樹齢は15年から20年と見た!」

 

 手のひらに生えた根っ子を右から左から眺め、また自由に動かせることを確認した後に引っ込めれるかを確かめ、また出しては他の種類はどうだろうかなどと色々と試しているようだった。

 ユグドラシルでは人間の種族レベルはなく、あくまで職業レベルとしてだけ存在していたらしい、悟君から聞いたまた聞きでの情報になるが、これの確認により世界の法則としては三つ。

 

「この世界での元々の法則と、ユグドラシルでの法則、そしてもう一つ別の法則。現在最低でも三つの法則が確認できているわけだが、これよりも他の法則が増えないとは限らない」

 

「この根っ子とか……ん~人間のまま使える何かしらのスキルを持つ法則がある、そしてそれが種族レベルとしての『人間』が存在する法則である、ということだね」

 

 法則の礼を上げる度に指を一つずつ立てていくと、それの仮説を補足するように蒼井君の言葉が続く。

 悟君は若干ついていけてるか怪しいが、少なくともユグドラシルの常識だけではないという事は把握できているようで一安心している。

 

「さて、この世界での違いというものを実感してもらったところで、次は……蒼井君の『死因』を聞いておこうか」

 

 その質問に蒼井君はとても嫌そうな顔をしながら、ぽつりぽつりと話し出してくれる。

 

「僕はアーコロジーの外に探しに行っていたんだ。まだ……植物の種なんかが残っていないかと。研究と調べもの、外への捜索でマスクを直す余裕なんてなかった。だけど……だけど……」

 

 その先の言葉に詰まりながらも話そうとしてくれるが、その先の言葉の予想がついてしまうが故に言いづらいその言葉を俺が引き継ぐ。

 

「生産できるものはなく、後は消費するだけの社会、だからこそ……『残された時間そのもの』が足りなかった」

 

 俺の言葉に沈鬱そうに小さく頷く。

 

「鈴木さんは知ってます?もうあの時期には企業はどうしようもないところまで来ていた……固形食やゼリー飲料、それをどうやって作っていたか」

 

 力を籠め過ぎた拳は震え、巨体に似合わぬ優しい顔は悲しみと絶望に染まっていた。

 

「僕はそれを見てしまったんだ。たまたまだった……いや、必然だったのかもしれない。僕は食料品を作る工場なら質が悪かろうとも、古くなって痛んだものであろうとも……食べることを目的にしたものがあるんじゃないかって……今はあれを見てしまったことを後悔している……それを認めたくなかったんだ。認めたくなかったからこそ、たとえ壊れかけのマスクだと知っていたとしても!僕は見つけたかったんだ!人が人を食べている、そんな悪夢から逃げられるものを!」

 

 それだけの言葉を蒼井君は一気に吐き出し、俺は頬骨をかく。

 生産しようにも生産品が壊滅している以上想像はしていたが、そうなれば発生するのが食料を求めた略奪という『戦争』他のメンバーの多くはこれで命を落としたのだろう。

 根が農耕民族の日本人と、狩猟民族であるゲルマン系やモンゴル系……どちらから先制されたかは言わずもなが、殲滅戦目的な上に『生きていようが死んでいようが関係がない』のなら生き残りはいないだろう。

 

「やはり死者の魂だからこそ、この本に収められた、か。悟君はそれを聞いても……みんなにこの世界を見せていくかね?もしかすれば憎まれるかもしれない。『どうして俺じゃない、なんでお前が選ばれたんだ』と『なんで自分は死んだのに、お前は生きているんだ』と」

 

『俺はそれでもみんなとの再会を、『全員の蘇生』を望みます。それが俺の願いなんです』

 

 本を通して見るその瞳はまっすぐに俺を見ていて、俺の質問に即答で返す。

 

「そんなのは筋違いだろう!先に見捨てて去ったのは僕達だ!僕たちの方こそ、責められる謂れこそあれ、責めるなんてあっちゃいけない!もしそんなことになっても僕は悟君の味方だぁ!」

 

 道理も筋も通らんが、それでもそう思っちまうのが人の心で、死んだ者の形なんだよなぁ……理不尽だろうが不合理だろうがそういった感情に引き摺られやすい。

 あとの確認はナザリックに顔出すかどうかかね。

 

「そこは出てきてからかね。そんな死因だったからこそこの世界の植物見て、まだ来れない筈なのに無理やり押し通ったって感じで発狂してたしなぁ。んでナザリックには顔出すかい?」

 

 アザトゥースの欠片ともいえる本だ、無理やり壁を抜けたときに本体でも見たのだろう。

 激情に動く二人の流れをぶった切って次の質問に移っていく。

 蒼井君は落ち着く為に一度咳払いをして、少し考え頭をひねる。

 

「うーん……ナザリックに置いてる物で必要そうな物ってほとんどないんですよね。装備も変に高級なものを持ってきちゃうと悪目立ちするでしょうし……何よりもあの忠誠の儀を見て思いましたが、NPCが気持ち悪い。僕達の造り上げた設定ではある、あるけども……ただその設定をなぞるだけの人形では自由意思を持った自然な状態とは思えない、だからこそあの忠誠というのは気持ちが悪い」

 

 戻る積もりはないとはっきりと意思表現をしたうえで「あ、パンドラとシズは別ですね」と付け加えていた。

 

「あとアルベドの事は見てましたけど……細かい部分でボロ出してるっぽいけど?」

 

「内政関連のところでな良妻賢母とも読み取れる設定ってがアルベドにあるんだがな、これ誰に対してかけられてると思う?」

 

「うーんやっぱりモモンガさんなんじゃない」

 

 考えながら答えるが、この設定に何の問題があるのかわかっていない様子だった。

 

「正確にはギルマスにかけられるな。で、その上での最終日に変えてしまった『モモンガを愛している』だ……妻であり母でもある状態で『重ねて愛している』となっているわけだ、これがな。……さて、さらに問題が浮上しているんだが、元の『ちなみにビッチである』なのだがなぁ……この設定は本当に消えているのか?ビッチというのは性行為へのハードルが低い女性の事を指されるわけだが、『モモンガ』への積極性、依存度があまりにも高くないか、と思ってな。まるでビッチのままモモンガだけを愛しているように感じれてどうにも」

 

「『あー……たしかに』」

 

 もしかしたら二重奏どころか三重奏になっている可能性を示唆すれば、種族の事も相まって腑に落ちるという感じで納得している二人。

 サキュバスがビッチ、というか捕食者のような行動を取ることに違和感が無い以上……内務担当でありギルマスを補佐する立場からの内心が悪感情ではないという前提、愛しているという設定の変更という洗脳に近い現状……その上での想像されたというNPCという特性からの盲信、狂信に等しい全肯定。

 

「正直、俺は先のメイドと同じ立場にアルベドが居たと仮定したら、押し倒した挙句に精根共に搾り取られるんじゃないかと予想している」

 

「うん。僕もそう思う」

 

『否定できない上に、なんか恐ろしい存在になってる気がする』

 

「で、その上で聞こう……『彼女』にしたいと思うか?」

 

 そこまでの分析を話したうえで、アルベドを彼女として『お付き合い』したいかと問うてみるが二人して、いやこれを見ているギルメン全員が拒否した。

 女性陣ですら『ないわー』という反応であり、エロゲ―イズマイライフを掲げるペロロンチーノですらそういったのは空想だけで十分、と首を横に振るう。

 その上でギルメン憎んでると思うから注意な、と締めくくったところで、メッセージが繋がる。

 

「シズか。何か問題でも発生したか?」

 

【侵入者と思しき謎のメイドとアルベド様が、モモンガ様の部屋にて戦闘をしようとしたのでパンドラ様が預かっておられた山河社稷図を使用され隔離されました】

 

『侵入者って問題じゃないですか!?え?いつのまに!?』

 

「ふむ、それは青いメイド服を着た、ナザリックのメイド達とは違うメイドの事だな……メイドから手を出したのか?おそらくアルベドから攻撃を仕掛けたとみているが」

 

【はい。その通りです。応戦の為に動いたとみております】

 

 大方の予想通りか、アルベドの事だ他のメイドが居ないうちにアホなことをしようとしたのだろう。

 そこに謎のメイドが汚れた姿で悟の香りをさせてれば……さもありなん、と。

 夜分に入ってきたメイドを見てから考えたものだが、敵対意思はない。あるのなら悟が寝ているときに膝枕してそのまま寝顔を見ながら髪や頬を撫でたりせずに、文字通り寝首をかけばいい。

 

「双方出てきてお前たちに攻撃意思がないなら客分としてもてなしておいてくれ。カルネ村から戻り次第確認するとしよう、それまではお前たちから敵対することを禁ずると強く言っておいてやってくれ」

 

【了解いたしました】

 

『え?あの子侵入者だったの?マジで?』

 

 思いっきり怪しいこと言ってて、さらに疑問に思ってたのにいったい何だと思っていたのか……いくら誘惑されて抵抗下がったところに魅了されたからって、最後に逃げ出したときは正気だっただろうに、なぜ驚くのか。

 

「んじゃこれで俺の方の確認は終わったか、後は引っ込むからのんびり会話してくれ」

 

 人間へと身体を戻し主導権を悟君に返す。

 イメージとしては古いシアターだろうか、その映写機がある部屋から俺は悟君を送り出す。

 スクリーンに映し出されているのは悟君が見聞きしている世界そのもの、席には目立つ四十三名の異形種を始めとして入れ替わる様にスマートフォンを持つ者やノートパソコンを持つ人間たちが多数がこれを見に来ている。

 すぐに立ち上がり立ち去るものもいれば、ポップコーンの山を摘まみながら長い鑑賞を楽しむもの、新しい展開になる度に入り直すもの。

 それこそ様々だが、アインズ・ウール・ゴウンに属さぬ者たちも『これ』を見に来ている。

 

 全てを作り出したものにして全てを滅ぼすもの、全にして一、カオス。

 

 全ては泡沫の夢の世界、微睡の内の生を世界とする、アザトゥース。

 

 並行世界の管理者にして、正史を絶対とした並行世界の抹殺者、アポトーシス。

 

 全ての魔王の母にして、金色の理の絶対敵対者、ロードオブナイトメア。

 

「……なんでさらに増えてんだよ……」

 

 三体でも絶望だってのに更に増えてるとか、マジでどうしろってのよ。全員が全法則側の概念体で真っ当な方法じゃ対峙すら敵いやしない……そもそもに戦おうという方が阿保の所業と言えるような連中ばかり。

 だというのにラスボス達は自分たちの出番はまだかと心待ちにしているという感じがひしひしと感じられるという。

 

「あの人間は私が先に目を付けた、楽しめる人間だ」

 

「あら、それじゃ私は魔王に作り替えてもらっていくわね」

 

「正史とは違うが、歪み切った結果だというのに不思議と安定している。興味深い」

 

「アザトゥースのように皆で贈り物をするというのも面白そうではないかね?」

 

「「なるほどそれは楽しくなりそう」」

 

 止めろ、止めてくれ、止めてください……やっぱり『白痴蒙昧の瞳』はワールドアイテムはワールドアイテムでも別世界のアイテムかよ……さらにワールドアイテム増やすとかこいつら絶対に楽しんでやがる。

 止めさせたら機嫌悪くして何をしでかすかわからん。危険は承知で悟君に持たせるしかないという現状……強くはなれるだろうが大丈夫なのかが心配でしかねぇ。

 スクリーンには蒼井君と和気藹々と話しながら歩き続け、カルネ村が見えてきたところだった。

 無情にも映写機は繰り返し廻り続ける同じ音を奏でる。




触手技
 ユグドラシルには存在しない性技を含めた拘束系を得意とする技。
 主にスキュラ種が使える物で力や器用さのステータスが与ダメに関連している。
 もんむすのスキュラ種は神話のスキュラとは違い、主にタコなどの様な吸盤付きの触手を下半身に生やした女性型モンスターである。
 拘束し丸のみにする技などもあるのでユグドラシルの耐性を過信するのは危険である。
 最大HP分のダメージを与える技であるため、即死耐性が在ろうとも即死するのである。


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episode.3 「二人によるカルネ村改造大作戦」

内政ターン
火をつけるの大変そうだったな
そや、油生産しよう
なんか色々使えるんだけど?

鉄をあまり使わない方がいいだろう
五右衛門風呂よりもこっちが簡単か

そんな塩梅で出来上がった今回のお話


 長閑な村、それがカルネ村のイメージだろうか。

 つい最近、野盗もどきの騎士まがいの賊に襲われたとは思えないほどには他の村とそう変わらない程度に見える。

 

「すごいよ悟君!木造の家だ……アーコロジーだとコンクリの打ちっぱなしみたいなアパートメントが無機質に並んでるだけだったし……なんというか人の温かみというのが感じられて、僕はうれしいよ」

 

 俺は蒼井さんと共にカルネ村の入り口に立ちながら村の中を窺うのだが、村の様子は……男性の大人たちが集まり何かを話しているのと、女性たちは田畑の再生に精を出していた。

 俺にはどれが田んぼで畑なのか……水が張っていないから田んぼじゃないんじゃないかなと思っていたのだが、畝という盛り上がりのものがあるのが畑で、盛り上がりの無い平らに均されているのが田んぼなのだと蒼井さんに教えてもらえる。

 どう違うのかがよくわからないとうなっていると、大鎌を振るって収穫しやすいように均していて、俺が昔に資料で見たような水田はまだ伝わっていないか水源が遠いからできないのだろうと鈴木さんから説明される。

 

『畝は他の植物が育てる野菜の栄養を取らないようにするのと、盛り上げているのは雑草を取りやすくするためだ。高くしすぎるとこれもダメなんだがな』

 

 そんな説明を蒼井さんとも共有すると、「農業に関しては僕よりも知識がある?」などと吃驚していた。

 

『風呂は簡単な作り方を教えられるし、火も油を使えばおが屑から火をつけるよりもずっと楽になるだろう、油の取りやすい植物は知らんがな』

 

「あぁ、お風呂は清潔の為にも必要だねぇ。油は……植物油だよね。それなら一年草の菜種が一番手っ取り早いかな……種以外も飼料や肥料に使うのもありだし」

 

『確か早期収穫で料理に使われる奴もあったはずだな、食用、灯油(ともしびあぶら)に簡易の潤滑油にも使えたか?養蜂の設備造ってはちみつを狙うのもありだな』

 

 菜種ひとつでどんだけ活用法があるのかと驚きながら、そんなもののアイテムがユグドラシルにあったかなぁと頭の中の知識を探っていると、蒼井さんからさらに驚く言葉を聞く。

 

「というかそこに生えてるね。元が雑草で雑交配種だったはずだから、僕の知ってる菜種かどうかはわからないけど」

 

「はいぃっ!?なんでそんなにも簡単に見つかるの!?なんか便利な植物なんでしょ!?」

 

 驚いた声で気が付いたのか村の何人かが俺達に気が付き、駆け寄ってくる。

 一番に気が付いていたのは金色の長髪に村の人と変わらない服で背に翼をはやした、あの鎧から庇い、そして村のすぐそばに大穴を開けた彼女だった。

 

「おはよう!あなたが助けてくれたっていう鈴木さんね。私はルシファナ、戦おうって気のある人たちに戦い方を教えることになったわ。ありがとう、それとこれからもよろしくね!」

 

 ルシファナと名乗った二十に見えるかどうかの女性は俺の右手を両手で握り上下に激しく振って感謝の言葉を伝えてきた。

 だが、それはとたんにピタリと止まり顔を覗き込んでくる。

 その表情は剣呑で、殺気か殺意か敵意に近い感情に彩られているように見える。

 

「助けてくれたから普通の人だと思ったんだけど……貴方中に何が居るの?」

 

「え、っと……」

 

 俺が返答に窮していると、鈴木さんが諦めたように声を出す。

 

『俺がいるっていうことにも気が付いているってことだろ。彼女の頭の上に天使の輪があるからわかるだろう?俺のような不死者ってのは彼女の敵だったんだよ。警戒されるのは当然だ』

 

『どう説明するべきなんでしょう……?俺は鈴木さんが化け物のように見られるのは我慢が……』

 

『まんま話しゃいい』

 

 いや、俺の説明で良いのか?荒唐無稽でよくわからない説明になると思うんだけど……そんな心配をしていたのだが、そんな心配すら笑って答える。

 

『ルシファナさんも同じ状況だぞ?訳が分からないのはお互い様さ。信用はまた別だがな』

 

 俺の言葉だからこそ大丈夫だと太鼓判を押してくる鈴木さんだが、なぜここまで断言できるのだろう……本当に見えている景色は同じなのだろうか。

 

「あー……なんと説明したらいいんですかね……俺もこの状況はよくわかっていないのですが。俺はユグドラシルというDMMORPGというゲームの最終日まで接続していました。本来ならそのままゲームの世界は電子の海に帰り、俺は現実に待っている仕事に行くはずでしたが……現状としてはこの世界でこうしているんです」

 

「私が聞いているのは、そういうことじゃないわ。『何』が居るの?」

 

 剣呑な目は変わらず俺の内側を探る様につぶさに見つめてくる。

 

「まぁまぁ落ち着いて、村の人たちも何事かって様子見てますし」

 

 蒼井さんがなだめようとしてくれるが、収まるはずもない。

 視線を逸らせば少なくない人数の村の人たちが集まりこちらを注視していた。

 その中にはエンリやネムもいて……これからしようとしていることで、鈴木さんを見せることで『人ではない』と知られることが俺の心臓を締め上げられるように恐ろしかった。

 

『くっくっくっ……いやぁ良い感じに育ってるじゃねぇか。このまま真直ぐ育ってもらいたいもんだね……んじゃ時止めるぞ?』

 

『え?』

 

 時計の歯車が一度音を奏でるとそこで止まる様に回りが静止する、俺が得意としていた時間停止の魔法ではあるが、その空間の中ルシファナさんは俺たちに警戒心を隠さず武器に手を回す。

 

「まずは落ち着け。こんな姿、村の人にゃ刺激が強すぎんだろ」

 

 ルシファナさんの前にはいつのまにか表に出たのか鈴木さんがオーバーロードの姿で立っていた。

 

「あー……確かにその姿は刺激が強すぎるわね。その為に時間を止めたのね、ごめんなさい早とちりだったわ」

 

「いや、こっちこそ声もかけずだが、声をかけるわけにもいかんでな」

 

 緊張していた空気が一気に弛緩して緩い流れになったような気がする、ルシファナさんの身体からも強張りが取れているように見えるし、鈴木さんはいつものように顔は変わっていないのに飄々と受け流すようにしている。

 

「それで?あなたの目的は何なのかしら……ねぇ?死んだ者を操る外道さん」

 

「で、お前はどうしてこんなところにいるんだ?男に股を開いて堕天した元天使長さんよ」

 

 前語撤回、和やかな雰囲気から互いに青筋浮かべての一触即発な空気に張り替えられた!?

 さっきのピリピリした空気が春の陽気なんだって思えるくらいの、修羅と修羅の戦う寸前といった瘴気と魔力というのか、精気と天力というのか真逆の力が互いに喰らい合うような地獄絵図のような感じになってるんだけど。

 なんでこんなことになってるの!?たすけて……

 

 

 

 

 

 身長差があるのに互いに上下でメンチをきり合う骸骨と女性天使、蒼井さんなんてそれが始まったくらいですぐに村の人たちの方に避難してるし、俺もそっちに逃げたい。

 

「こちとら糞イリアスに反旗翻したから堕ちたんだよ、イカレ骸骨」

 

「こっちもそういう連中狩るのが仕事だよ、アバズレ」

 

「「あ゛あ゛ん!?」」

 

 止めて、止めて、怖くて胃が痛いの。

 

「流行り病でルカに看取られながら逝ったと思えば、宿屋もない住んでた田舎よりも田舎なのよ!?」

 

「わはは、そんなこと俺の知ったことか、こちとら名前以外まともに思い出せるものなんぞ昔の知識ばっかりだよ」

 

「はっ!その年で健忘症とは恐れ入るね!養護院よりも納骨堂の方がお似合いだよ!」

 

「ふんっ!息子にルカだぁ?キラキラネーム付けられる子供の事も考えられねぇ毒親が!」

 

 誰か助けて!?マジで助けてぇっ!?

 そんなことを切に願っていたら、不意に視界が激しく揺れて打撃音が二つ同時に鳴り響き、鈴木さんもルシファナさんも頭を押さえてうずくまっていた。

 

「いたぁっ……!?」

 

「はおぉっ……!?」

 

 俺も痛いのだが、その痛みも忘れるような整った笑顔で二人の隣に立っているニースさんが居た。

 

「二人とも?」

 

 笑ってはいるのだが、怒っているのがはっきりとわかる。

 

「「……はい」」

 

 二人そろって地面の上に正座をすると昏々と続く説教が待っていた。

 頭に拳骨を受けたからという訳ではないが、あのメンチ切りをしている間に時間停止の効果時間を過ぎていたのだろう、蒼井さんは村長さんと何やら話しているようだ。

 

「二人ともお互いの逆鱗を確認するのはいいですが、それで我を忘れて……周りの状況は見えていますか?あなたたちの気当りで柵がボロボロになっているのですよ。こんなものを村のみんなが受ければどうなるか、それがわからないお二人ではないでしょう?」

 

「「はい……ごもっともです」」

 

 俺も見せられている視界の前で正座をしてしまう。

 エンリを怖がらせたあの時、下手をすればそんなことになっていたのかもしれないと想像してしまえば背筋に嫌な汗が伝う。

 

「強い力には責任が伴う、というもののお二人には神に説法というものでしょうが戯れで漏れていた力だけでこうなるというのは想像の外という事ではない、ですよね?」

 

「「……はい」」

 

「では、なぜこのような確認の方法を取ったのですか?お二人とも嘘を見抜く目を持っていらっしゃるのだから普通に話し合うだけでも確認はできたはずですよね?」

 

「えー……それはね……えー……」

 

「すまんが、俺はその理由を言えん」

 

 怒られ正座している状態でありながら、鈴木さんは巌とした態度でその理由を説明することを拒否した事に俺は驚いていた。

 それは正座しながらも視線が真正面で合うというアバターでの身長差とも言えるほどに差があるのだが真直ぐにニースさんの真直ぐな目を真正面から受け止めている。

 

「ちょ!?」

 

「ルシファナさんは、何か理由がおありですか?」

 

 その言葉は鈴木さんから聞くことはできないと即座に判断したのだろう、質問の矛先がルシファナさんへと向かった。

 

「人間の時に感じた洒落にならない邪気を調べたかったのよ!封じられてるっぽいけど確かに存在して脈動し続けてるから、ほっとく訳にもいかないのに骨になったらそれが無くなってるのよ!?外に出てるわけでもない中に隠れたわけでもない。いつ爆発するかもわからない危険物かどうかもわからないから挑発して知ろうとしたのよ……」

 

 ニースさんは鈴木さんに視線を移すが首を横に振り、質問を拒絶する。

 

「はぁ……」

 

 ため息を一つ付き最後の質問をする。

 

「これをする意味はあったんですね?」

 

 鈴木さんを見据えての確認でしかない。

 

「あぁ、意味はあった。それと収穫もな……村の人たちは俺を遠巻きに見てはいるが、恐れてはいないだろう?」

 

 怒られているその姿があまりにも人間臭さかったのか、確かに怒られていることで遠巻きに見てはいるがその目に恐怖というものはなく、どちらかと言えば心配だろうか、俺にもそんな感情でこの状態を見ているんだろう事がわかる。

 その見ている輪の中から白銀の鎧、ツアーが近づいて来ながら驚いたような声を上げる。

 

「スルシャーナ!?いや、でもそっくりだ……」

 

「するしゃーな……するしゃな……んー……スラオシャ、か?いや、使者で表されるスルシュの可能性もあるか。確かGネットでは光の神がアーラ・アラフだったか」

 

 いつの間にそんなものまで調べたのだろう、まだこの世界に来てから三日ほどしか経っていない筈なのに。

 

「そんなことまで調べていたのかい」

 

 俺は驚愕を、ツアーは呆れに似た感情を声にしていた。

 

「法国は臭かったんでな。いの一番に調べさせたさ……アッラーフの使者が元になっているならお笑い草だがな……六大神はゾロアスター系がなまった名前なんだろう」

 

「あ、こら!まだお話は終わってません!」

 

 そんな何でもない事のように法国の神の事を語って見せたと思えば、俺に主導権を渡していた。

 ゾロアスター、確かタブラさんが言っていたような気がする、鈴木さんは宗教の話にも詳しいのか他にも知っていることが多いような気がするけども、いつかそれを聞くことはできるんだろうか。

 

「すみません、こちらの時間もおしていますので……」

 

「まったく……仕方がないですね。ルシファナさんの説教もここまでにしましょう」

 

 説教から解放されて安堵のため息をつくルシファナさんだったが、菜種畑を作るという話が出たら、なら大規模に作って観光に使ってみるのもいいんじゃない?という案も出てきたりした。

 蒼井さんはプラントシェルで簡単に家を作り、外を木材で覆った簡単な家を建ててたり、鉄パイプをU字にして木の大桶に繋げたお一人用のお風呂をあっという間に作り上げてた。

 

 

 

 

 

「そうそう、冒険者になる悟さんの案内人はうちのエンリに決まりましたので」

 

「え?」

 

「いつの間に決まったの!?お祖母ちゃん」




マスターホムンクルス
ホムンクルス(人造人間)よりも強力な独特の力を宿した魔導士。
全身の細胞がホムンクルスと混じり、人間以上の力を誇る。
その触手はHPばかりかMPまで吸収可能。
触手で敵を捕食することでき、まさに異形の存在。
基礎ステータス
HP:A MP:A SP:C
力:A 防御:B 魔力:S
魔法防御:A 素早さ:C 器用さ:S
取得魔法:魔力、精神、その他
アビリティ:毎秒MP1%回復

マジックキャスター垂涎の極悪種族なのだが、当然のようにユグドラシルには存在しない。
触手を体から生み出し近中距離の物理戦闘すら可能であり、人間種でありながら陸棲種を召喚可能。


注:今回の畑関連知識は出鱈目なので鵜呑みにしないように
畝は本来は風害や日照関連で作られます


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episode.4 「間巻:他にいる者たち」

エロフ
同人で使われるエロいことに精通し、またその行為を好むエルフの事
オークを骨抜きにしたり、枯らさせることもある精剛である。

うちのオークたち
「エロフとか怖すぎる」
「人間の街にはバトルファッカーとかいるらしいぞ」
「ナニソレコワイ」


————法国————

 

 女性二人が森林を走っている。

 一人は白い肌に金髪のボブカットで装備はビキニアーマーのような軽装鎧にマント、もう一人は褐色の肌に紫の長髪を腰ほどで纏め、装備は動きを阻害しないように調節したローブ姿だが占い師然とした雰囲気があった。

 女性二人の後ろには青紫色の肌をした屈強な体躯を持ち半裸のともいえる腰ノミ一丁のイノシシのように下顎から伸びる牙のような犬歯が特徴的なハイオーク。

 鈍重そうな身体からは想像できないハイスピードで息荒く女性二人を追いかけてくる。

 

「ハッ……ハッ……」

 

 ただひたすらに障害物を使いジグザグに逃げ回る様は、とても法国の漆黒法典の二人とは思えない無様なものだが、ここでの戦闘行為は下手をしなくても死につながる。

 

「ハァハァ……ハァハァ……」

 

 そこかしこから聞こえる荒い息遣いはこちらを窺ういくつもの視線がその意味を物語っているだろう……いつもであれば金髪の女性、クレマンティーヌは自分は英雄級に踏み込んだ実力を持っていると息巻くのだが。

 この領域ではそれは通用しない、漆黒法典の隠し玉「番外席次」が一撃でノックアウトされるような主が二人でこの領域を支配しているのだから。

 一人はオークヒーロー、万の雷を呼び起こし、地殻変動を操る物理にも魔法にも通じたオーク族の英雄、一騎当千の化け物。

 一人はオークロード、その体躯は追っているハイオークの倍を優に誇りその一撃は第十階位のメテオフォールに匹敵する、オーク族の統率者。

 

「右に曲がって!そのまま真直ぐ!」

 

 紫髪の女性、ミネアの言葉に従い直角に近い軌道で二人は走り抜ける、先ほどまで進んでいた先にはトラバサミが見え辛く仕掛けられていた。

 

「はぁ……」

 

 木の裏に隠れていた一本ヅノの兜をかぶったオークが罠を避けられたことにため息をついていた。

 弓を持ったオークアーチャーが仕掛けた罠であり、掛かれば足を止められ後ろから追うハイオークに捕まり嬲り者にされていただろう。

 オークはオークレディという女性型がいることは確認されているが、滅多に見ることはないせいか人間の女性を捕らえたならハーフとはいえ種を残す為の苗床にされるという。

 ただ番外席次はハーフエルフな為にオークたちから犯されることもなく法国の城壁に投げつけられるらしい。

 

「もう少し、もう少しで……」

 

 森の切れ目から光が差し込んでいるのが見え、安堵の表情を浮かべたのだが背後から何かを呟く音が聞こえたと思えば、二人も同時に武技を使用してそれを駆け抜ける。

 

「「流水加速!!」」

 

「速度上昇」

 

 森を抜ける瞬間、クレマンティーヌの背後で爪が掠め金髪が数本宙に舞う。

 二人は転がる様に森を出た瞬間、連続した砲撃の音と撃ち抜くことが叶わず分厚い皮膚に弾かれる銃弾の落ちる音が鳴る。

 

「第一装甲車!オークどもを外に出すな!装甲歩兵は出てきた女性を保護せよ!」

 

 それは王国の旗を付けたブラッドレーと呼ばれる装甲車であり、オークを撃ち抜いたのはそれに装備されている機関銃だった。

 いつのころからか、遺物として稀に発掘されるものだがハンターと呼ばれる冒険者たちからは「クルマ」と呼ばれてた。

 その装甲車を見たからか、それともただ森という境界線を越えぬためか、オークは保護される二人を諦めたように森の奥へと消えていった。

 ここはアベリオン丘陵の北西部、王国と国境を接触するオーク(兄貴)村と呼ばれ恐れられている魔境の一つ。

 

「はぁはぁはぁ……はああぁぁぁぁぁ、ほんっと生きた心地がしなかったんだけど!?占星千里!?」

 

「そんな変な二つ名さっきのオークにでもくれてちょうだい、とりあえずこれで一息付けるわ」

 

 二人は青々と茂る草原の上に、全力疾走をしたために噴き出る汗をぬぐうこともできず腰を下ろし、王国の兵士たちに保護されることとなった。

 

 

 

 

————帝国————

 

 朝早くになるだろうか関所から連絡が入り、その連絡に頭を痛めている統率者がここに居た。

 その統率者はジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス、別名『鮮血帝』と呼ばれ粛清から逃れた貴族たちからもなお憎まれており無能たちの行動に頭を痛めることもあるが、此度は違う意味で頭を痛ませていた。

 

「我が国の兵に扮した法国の脱走者が、王国で略奪をしていた……と」

 

「はっ、そのように申されております」

 

 報告してきた兵士は片膝をつき頭たれたまま報告が正しいことを肯定する。

 

「そしてそれを報告、連行してきたものがとても人には見えん、と」

 

「はっ……城門前に待たせております。3m越えのトロールのような体躯に棘突きに血に塗れている重厚板金鎧(ヘヴィ・フルプレート・アーマー)に禍々しい人の髑髏を模したアタックシールド、体躯に見合った直剣(カッツバルゲル)を所有しておりました」

 

 へヴィ・フルプレート・アーマーはフル・プレート・アーマーに装甲を追加した結果防御力は上がるものの、とてもではないがまともに人が使うには重たすぎる装備であるにも拘らず兵士十数人を担いで王国領からここまで駆けてきたというのだからとてもではないが信じられない。

 カッツバルゲルも人が扱うには両手で持つ剣でありながらそんなものを片手で振り回す?それは鎧の重さを苦にせず、装備で動きを阻害されぬほどの筋力を持つ者だという事がわかる。

 そんな者をつかいっ走りのようにこの帝都に送らせるようなものが王国に居るという事も頭を痛ませる一つであり、王国との戦争は一昨年終戦したというのに法国は何をしてくれているというのか……欺瞞行為として非難するべきだろう、場合によっては戦闘行為も辞さないものとせねばならない。

 

「そうか、では会いに行くとしよう。…………ところでレイナースはどこへ行った?」

 

「休暇願その場で書いて出ていきましたぜ、陛下」

 

 その場に沈黙が下りるのだが、なぜそうなったのかを理解したジルクニフ達のため息で沈黙は破られた。

 

「カルネ村には『聖女ニース』の居る村だったか……ならば仕方あるまい」

 

「レイナースからすれば呪いを解いてもらった大恩ある方の村ですしねぇ、そんな村に襲撃があったってなりゃ走っていくでしょうよ」

 

「爺」

 

 ジルクニフは確認するために髭を伸ばしたフールーダ・パラダインへと目をやる。

 剣の腕では四騎士を信頼しているが、こと知識や魔法に関してはフールーダをこそ頼っている。

 

「わかりませんな、デスナイトよりもはるかに強い。それしかわかりませぬ」

 

 デスナイトよりも強いとフールーダが断言した瞬間に残っていた騎士たちがうめき声をあげたのだがそれも仕方がない事だろう。

 彼らはそのデスナイトを捕らえるためにフールーダと協力してようやく捕獲したという当事者の人物であり、その戦闘能力の高さを目前で見せつけられているのだから。

 

「それを従える主、か。こちらに誘えると思うか?」

 

「あっちのバルブロ王に勝てる見込みは……今のところないんですよね」

 

「そういやそのモンスターでしたっけ?名前はわかるんで?」

 

「ブラッディナイトという種族であり、個人名はないそうです」

 

 種族名を知っている兵士にびっくりするその場の人間たちだが、関所の門をたたいた時にそう名乗ったのだという。

 人外にしか見えないというのに妙に騎士然としており、種族名にナイトとついているのは伊達ではないという事なのだろう。

 何よりもデスナイトよりも強いという事は、それを上回る主に仕えているという事でありその人物が望むものが単純な力だけではないというのが垣間見える。

 連れてきた兵士の腕が千切れかけであったり、顎が完膚なきまでに砕け喋ることもままならない状態であったことを見ると容赦はないようだが。

 補足として説明を書くが兵士の傷はムジナが行ったもので、ブラッディナイトが行ったものではないことをここに記しておく。

 

「一歩ごとに転移(テレポート)でしょうか?を使い瞬く間に王国側の関所からこの帝都まで辿り着いたこともここに報告させてもらいます」

 

 その新たな報告に全員が顎を外すほどに驚いた事を、そしてジルクニフの髪の毛がはらはらと数本確かに抜け落ちたことをここに書き出しておく。

 

 

 

 

————法国————

 

 悟により生みだされたアンデッドの一体デッドリーレイスはその体を浮かべながら、片手で頭を掴んだ隊長と呼ばれていた人物の記憶を読み込み、テレポートにて街の中に出現する。

 それは街を恐慌に染め上げるには抜群であり、ペリュースと名乗る隊長格は頭を掴まれたまま小刻みに震えていた。

 

「いやだぁぁぁぁぁっっ!!死にたくない死にたくない死にたくないぃぃぃぃっっっ!!」

 

 絶叫を上げながら涙を流し糞尿すら垂れ流しながら頭を掴む骨の手を剥がそうと努力をするが、そんな小さな力など素知らぬ風にデッドリーレイスはペリュースの生家へと向かう。

 ペリュースは商家の生まれで在り、そこには当然のように金銭を蓄えてもある。

 

「何を叫んでいる。お前が叫んだのだろう?助けてくれと……だからこそ助けてやろうではないか。命だけを、な」

 

 ペリュースは確かに叫んだのだ、助けるなら金を払うと。

 その契約をムジナが受け、悟が了承し、デッドリーレイスがその対価を徴収しに来たというだけ。

 すでに身包みは剥がされており、手持ちとなるものなど存在はせず、当然のようにそれだけでは対価に届かずこうして全てを受け取る為に来ていた。

 だとしても、そんな緊急事態に六色法典が動かないわけがなく家を一軒更地にされている頃には包囲をしていた。

 

「なんという力強い化け物だ……使え!」

 

 その言葉と共にケイセケ・コゥクを装備した老婆がデッドリーレイスの姿を見ようとしたときにはその姿はそこにはなく、ワールドアイテムの対象を目視すらできず、声だけがその場に響き渡る。

 

「つまりこれはこちらへの攻撃を決行したという事か、ここまで読み通りになるとはやはり固執する人というものは愚かという事なのだろう。我は確かに異種である、確かに恐れるべき姿ではあろう、確かに弱きものには恐怖と映ろう」

 

 その言葉と共に三つの魔封じの宝珠が浮かび上がり、それは既に起動されており力を解放するために光り輝いていた。

 

『ストリーム・オブ。ラヴァ』『メテオフォール』『ニュークリアブラスト』

 

「だとしても『戦う』という選択をしたのは貴様らだ。殺し合いであれば付き合おうではないか、どちらかが滅びるまで……そう、『選択』を貴様たちがしたのだから」

 

 この日、法国という国の首都が半分ほど消し飛んだ。

 隕石が降り注ぎクレーターを作り、局地的な地震が起こりそれは溶岩の津波となり家ごと命を飲み干していき、追撃に広大な大爆発を巻き起こしどの様な意味を持つのかわからないが、神の怒りに触れたとでもいうのか不浄の呪いともいえる汚染されたと地と化した。

 

「ふむ。これをもって契約を完了としよう」

 

 デッドリーレイスはその魔法の乱舞の中、いまだに原形を残すチャイナドレスを手に空間に溶けるように姿を消した。

 

 

 

 

————カルネ村・夜————

 

 悟とルシファナのひと騒動があったのち、宿屋予定地でお風呂で温まった体を覚ますように白湯の入った杯を傾けている二人がいた。

 

「それで……どうでしたか?」

 

「どう……かぁ。ふふふ、それが可笑しいのよね、こんな一線を退いたおばちゃんを捕まえてさ『まだ戦う力は残っているか?』だなんて試されたのよ」

 

 盃片手にルシファナは夜空を見上げながらからからと笑う。

 視線を下ろせば自分があけたはずの大穴であった湖になった水面に煌めく星々を見下ろし、無手である左手を開いたり閉じたりしながら調子を確かめるように目を凝らす。

 

「暴走させたって言っても、『この程度』の事しかできないのにね。力を貸してほしいってさ真正面から言うだなんて何かの冗談であってほしいわ……こんな力を借りなきゃいけないことがこれから起きるんだ、なんて知りたくなかったわ」

 

 杯を仰ぎ空にして、ニースへと質問を返す。

 

「それで、ニースさんはどうするの?」

 

「何も話してくれなかったのは悲しい事ですが……」

 

 寂しそうに夜空と水面の星々を瞳に映して一度言葉をきり、力強い光を心に宿す。

 

「話せない理由があることはわかりました、そして話してはならない理由があることも、ルシファナさんが感じられた邪はそういった類のものであるという事、そしてそれはきっと世界の危機にも等しいのでしょう」

 

 その言葉を聞きルシファナは笑顔で盃をニースに向ければ、ニースは苦笑しながらもその盃に自分の持つ杯を軽く合わせる。

 小さな音が鳴る。

 それは福音の音か、それとも凶報の音色なのか。

 今はまだわからない。

 

「とりあえず、何はともあれ『魂砕き』(ソウルクラッシュ)……そういったものを手に入れないとね」

 

「いい思い出がない武器なのですけど……必要、なのですね」

 

 一人は困ったような顔で、一人は苦渋の表情で、同じ言葉を放つ。

 

「「時間が足りなすぎる」」

 

 

 

 

————王国・夜————

 硬い靴音が石造りの廊下を踏みしめることを示しながら、その人数を歩みの先に居る人物に教えてくれる。

 

「(二人……かつてのようにお兄様とレエブン公が来るはずはない、ガゼフ様の言っていたサトル様ともう一人?でも、だとしても……あまりにも早すぎる、今日聞いただけの私の場所に来るには一週間はかかると見ていたのに……)」

 

 まずは身元証明となる冒険者になるだろう、そしてガゼフが認めるほどの実力者であれば程なくしてアダマンタイト級まで登るはず、王族の自分と面会できるカードを手に入れてからの接触になる、そう読んでいた。

 そもそも私が知恵者であるという姿を捉えられるまでの期間が必要だと考えていたのに、情報の精査は必須、少なくともそこを怠るものではないと、兄王バルブロの敷いた情報隠蔽が読めない相手ではないと見ていたのに……王国を敵に回すそのリスクを負ってまで踏み込んできた。

 ラナーは知っている。

 自身にはこのよく回る頭しかないという事を知っている。

 知恵で負け、勝負を勝てると確信できない戦いでは、負けるという事を知っている。

 だからわかるのだ、この扉の前に居る相手に勝てないという事実を。

 ノックの音が三度、部屋の中に響く。

 

「ラナー様、このようなお時間ですがお客人が見られています。いかがされますか」

 

 その声は自身の近衛に取り立てたクライムの普段とは違うやや抑揚のおかしな確認の声だった。

 苦虫を噛み潰したような苦々しい思いに心が支配される。

 どこまでこちらの事を掴んでいるというのか、こちらは相手の情報をほぼ持っていないというのに相手にはこちらの情報がほぼ筒抜けともいえる情報戦による圧倒的敗北。

 夜分であることを理由に断る事は簡単だろうが、『最も友好的』に接触することができる機会を失うことになる以上、暗中に入ることを、自身も失敗するリスクを背負わざるをえない。

 

「えぇ、入ってもらってちょうだい」

 

 声を返せば扉を開き入ってくる、クライムに続く面々。

 一人は想像しうる魔王ですら裸足で逃げ出すのではないかと思えるほどに威風堂々とその血の通わぬ(かんばせ)を晒している、思わず息を止めてしまうほどの気品を持ったロールを纏ったアンデッド。

 もう一人、軍靴を履き異国の服だろう南方のスーツとも違うが指向が似ていると思える服に身を包み、同じような趣を持つ帽子をかぶるピンク色の卵のような頭に三つの穴と表現するのが正しい顔を持つ、おそらく魔族に属するのではないかと思う人物。

 最後に一人、黒塗りの編み笠を被り顔を見ることはできないが、ラキュースの仲間であるティナ、ティアの着ている忍び装束に身を包み込んでいるが色が、先の二人のような派手なものではなく闇に溶けるような深い藍色の者。

 そんな三人が入ってきて足音の意味に気が付く、一人はクライム、もう一人はあえて靴音を響かせていた(・・・・・・・・・)卵頭の魔族。

 こちらに人数を誤認させるためにあえて聞かせていたのだと、響く足音を聞いてわかる。

 そして口を開こうとしたところでその卵頭が口を挟む。

 

「面倒な挨拶は結構、さっそく商談と参りましょう?フロイライン」

 

 アンデッドが正面に座り、後の二人がその後ろに控えるように立てば、クライムが私の後ろに控えるのだが、それを確認してアンデッドが指を鳴らすようなしぐさを取った時、私は叫び声を上げる。

 

「やめてくださいっ!」

 

 あれは良くてクライムの操っている魔法を解くか、最悪別の何者かに変える合図。

 そしてその慌てようを見て、アンデッドは鷹揚に頷く。

 

「この程度のやり取りはできるようで何よりだ。さて臨む物は持っているか?」

 

 私は椅子を降り、ただただ平伏していた。

 この者に知恵で敵うことはない、望まれようとも出せるものはない、対価を持っていない。

 私ではどうしようもない、精々がつい先ほど手に入れることができたラキュースからの情報程度のものしかない。

 私にはこの化け物に臨めるような心を持っていない。

 私の願いが音を立てて崩れていくことを聞く。

 

「残念ながら外れのようだな」




オークウォリアー Lv25
ハイオーク Lv56
オークヒーロー Lv85 MVPBOSS
オークロード Lv87 MVPBOSS
ブラッディナイト Lv80
デッドリーレイス Lv70
位のレベルだったよなーと思い、RO情報調べたら雑魚モブモンス軒並みレベルが上がってましたorz
オークウォリアーでLv75、ハイオークLv125
どうしろとw


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episode.5

サブタイトルに今回の題名はなし
作中に出てくる題名を知っている人は大体どんなことが起きるのか予想はできるでしょう
前章でのラスボス戦です

注意事項:今話には変態シーンがあります












最後まで救いはない


 ラナーから聞いた情報はある意味で値千金だったかもしれない。

 聞けた情報など、たかだかトブの森その王国側にほど近い場所に……今にも崩れそうな塔があったというだけ。

 周りがくり抜かれたようにその塔と荒廃した大地が少々残っている有り様だと。

 その情報を手に入れてから俺はパンドラとムジナを連れその塔へと駆け抜けていく、予想が外れていることを願いながら。

 辿り着いた塔は物理的に崩れ、長い年月が経っていることが見て取れる。

 崩れ方は強い力が加わり、積み木を崩すように崩れている場所もあれば、何かに抉られるようにぽっかりと穴を開けている場所、いまだにその力が残っているのか何も映さぬように『無』に浸食された場所。

 

「……あぁ……くそったれ……予想は、外れてくれなかったか……」

 

「モモンガ様?この塔は……?」

 

 俺が人を好きになった場所であり、あの世界の人が滅んだ場所。

 人が最後の砦として立て籠もり、最期の一人まで抵抗したあの世界での人がいた証であり墓標。

 

episode.5

「管理者の塔」

 

 鈴木さんが塔の扉に手をかけているところで俺は目を覚ました。

 普段は寝ている時間であり、目をこすりながら寝ぼけ眼から意識を覚醒させる。

 

『ここは?』

 

「起こしちまったか……眠れるなら寝ていてもいいぞ」

 

「此処から先は故人の過去だ」

 

「……見たくねぇなら目を瞑っていろ」

 

 俺は聞こえてくる声に疑問に思った。

 いつものように主導権を渡したときの部屋ではあるのだが、鈴木さんの視界とリンクしていると思っていたテレビモニターの画面に映っているものが違った。

 フルカラーのものではなくセピア色の画面で、歩くのとは違う視界の揺れ方をしている様に感じられた。

 視界の高さも鈴木さんのものとは違うもっと低く、子供と大差がないように感じられる。

 疑問はある、でもそれを聞くの憚れた……俺はただこの画面を黙って見ていた。

 塔の中は石造りで、装飾はほぼなく燭台が所々に見られる程度に飾られた円形の造りをしている。

 

「■■■■!」

 

 声をかけられそっちを振り向いたのだろう視界が動き、5~6歳の少女が駆け寄ってきて抱きつこうとしていた。

 それを抱きとめようと屈んだのだろう視界がさらに下がり、その幼さを前面に出した笑顔が通り抜ける。

 それを見て俯いたのか、一面に床が映り、ぽつりと呟かれた言葉がとても切なかった。

 

「……■■さんはもう三十年も前に……」

 

 その声は抑揚がなく感情がまるで籠っていないように聞こえる合成したような機械音声。

 顔を上げて奥へと進んでいけば、今度は武装した人間が、エルフが、ドワーフが、妖魔族が、ラミアが、ハーピーが鬼が駆け抜けていく。

 その武装は所々刃が欠けていたり、鎧も様々な場所が大小に凹んだりしていた。

 駆けていく者達も場所こそ違うものの無傷なものなどおらず、変色している包帯を巻いたまま通り抜けていく。

 

「あんたら!どいつもこいつも一匹たりとも通すんじゃないよっ!!」

 

「儂たちの後ろにゃ戦えねぇ連中がいるんだ!通すわけねぇだろが!」

 

 先頭に立つ頭に包帯を巻いた片角の折れた鬼の女性が吼えれば、右腕を失ったドワーフの老人が戦槌を歪な化け物の顔面に叩きつけながら怒鳴り返す。

 それが戦いのゴングだったのか俺では目で追うことができないスピードでのバトルが繰り広げられていく。

 生物とはとても思えない変なところから腕や足の生えたもの、機械と合成したかのような生き物としても機械としても中途半端な化け物が次々と撃破されていく。

 床に叩きつけられどす黒い跡を残すもの、壁をピンボールのようにバウンドして視界から消えるもの、後ろから撃ち込まれた巨大な火球に焼き尽くされながら悲鳴を上げるもの。

 これなら普通に勝てるんじゃないかと思えば、奥から次から次へと化け物たちは無尽ともいえるような数がひしめき合っていた。

 

「はっ!今回は随分と大盤振る舞いじゃないか!Lサイズがいないからって気ぃ抜くんじゃないよ!」

 

 かけられる言葉に応える戦士たち。

 小型は尖兵でありそこまで強くないのだろうが、それでもこの戦士たちの一撃に耐えて反撃してくる者たちもちらほらといる。

 小型とはいえ人と大差無いサイズではあるのだが、それのLサイズなどと考えればどうなるのか想像に難くない。

 

「ちぃっ!一番奥!ありったけの火力を叩き込め!」

 

 背が低い筈のドワーフの老人は何を見たのか、大声を張り上げるのと同時に核の光が最奥をぶち抜いていく。

 

「ピナーカァァァァッッ!!」

 

 ぶっこわれインド神話の神様の武器だったと思うけど、光の通った後の雑魚たちの身体が蒸発して一番奥のナニカに防がれた。

 

「血路開いておくぞ、逃げられる奴は逃げろ!木端微塵切り!」

 

「■■■■!隔壁閉めな!生きたいやつはとっとと隔壁まで走るんだよっ!」

 

「ふん、お前さんと地獄の道連れとは……酒でも奢れよ?」

 

「はっはっはっ……自慢の鬼殺しでも振舞ってやるさ」

 

 鬼の女性とドワーフの老人は殿を務めるのか閉じていく隔壁の前に仁王立ちとなり、仲間たちの撤退を援護していた。

 後ろ姿しか見えず、姿形も考え方もしゃべり方も違うのに、なぜいつも言い争いをしていたウルベルトさんとたっちさんに見えてしまったのだろうか。

 抑揚は無いのに、感情は籠められていないように感じられるのにとても悔しそうな声を聞く。

 

「アポトーシスXXタイプ初の襲来……誰も残りませんでした……」

 

 撫でる壁は隔壁があった場所で、歪んだレールの溝だけが残っていた。

 通路を通り階段を上っていった先には階段がありそれは中腹の広場に繋がっていたのだが、ガラクタのように積み上げられた人形の残骸に混じり額縁等も転がっているのが見える。

 先ほどと同じようにかつての出来事なのだろう、これを見せているものが覚えている記憶。

 

「■■■■ちゃんもこっち来て飲みましょう」

 

 額縁から出てきている全裸の女性の上半身が湯飲みをもってこちらに手招きしている。

 

「(こくこく)」

 

 頷きながら手招きをする影のような女性……の幽霊だろうか膝から下が霞む様に消えていた。

 そんな彼女たちの背後からとんでもない爆発音が複数回鳴り響き、複数体の人形が絡み合ったようなホラーにでも登場しそうな存在が階段を上ってくる。

 

『怖っ!?』

 

 その姿に驚いてしまった俺はきっと悪くない筈、そんな歪な人形が背後から出てきたら誰でもびっくりするのではないだろうか。

 

「はぁ……全く勘弁してほしいもんよね。いくら自爆が一番威力高いからって何度も吹っ飛ぶのは辛いわよぉ」

 

 そんな彼女たち(?)の定位置なのだろう場所に座り影のような人物から湯飲みをそれぞれに渡される。

 それを飲み干すように煽り、それぞれの進捗を話し合う。

 

「飲み物なんて貴重なもの、私たちドールやゴーストには必要ないんだけどねー。からでも一息つけるのがいいわぁ。それで貴方たちの調子はどう?こっちはまぁ……あと三日くらいは持つかな?」

 

「全く博士たちも酷いものです。いくら絵画の亡霊とはいえ魔法陣なんて専門外です。最近はもう色も落ち始めちゃいましたよ。■■■■なんて削れて髪が無くなっちゃってますからね」

 

 黒い影のような女性は元々髪が長かったのだろうか?今はボブカット?のように肩口くらいまでになっている。

 見ている誰かは抱きあげられ、そのまま一緒に座らされる、その時はそうだったのだろう。

 触れられないとしてもそういう風に視点が動いた。

 頭を撫でられているのだろう、ほほえましく見ているのだが……人形の人は服着てるのに他の二人が全裸である、どうするんだよこの絵面。

 抱きしめられたまま人形の人に髪を撫でられながら声をかけられる。

 

「そんな情けない顔しないの、あんたがいるから私達が頑張れるんだから」

 

「そうですよ。一人じゃこんな無茶なんてせずに絶望で動けません」

 

 絵画から出てきている人は笑顔でほっぺたを突きながら笑って言う。

 この風景を見て俺は、強さというものを考えてみる。

 力が強いとか、破壊力があるとかのゲームみたいなレベル的な数値の強さとは違う……なんていうんだろう『人としての強さ』とでもいうのだろうか。

 じっと自分の掌を見る。

 

『俺の力はただのゲームの強さが宿っただけなんだ』

 

 ここに居る、いやここまで見てきた人たちの誰よりも俺は弱いんだと思えてしまう。

 自分の背にいる誰かを守ろうとする心が、絶望の中を立ち向かおうとする勇気が、困難に真直ぐ向き合う力強さが、未来を信じて託そうとする輝きが……何よりも眩しく映っていた。

 

『俺もこんな風になりたいな……』

 

 そう画面の前で呟いた俺の声に合わせるように答えが返ってくる。

 

「なれるわよ、きっと……悲しみを知っているから優しくできる、強くなれるってのは学者さんの言葉だっけ?」

 

「確か、図書館で本をまとめている文学者さんだったと思いますよ」

 

 笑い合っているその時間が止まる様に、記憶の海から引き上げられるようにあの広間に戻る。

 

「皆居なくなりました」

 

 思い浮かべてしまうのは茶釜さん、やまいこさん、餡ころさん……よく知る三人の女性像がなぜか重なってしまう。

 握られたスカートの裾は必死に力を込めて堪えているのだろう、細かく震えているのが見えた。

 

「私は泣けません悲しみを知りません……本当に強くなれるのですか?」

 

 逆だった。

 必死に泣こうとしているのだ、強く在りたいと願っているのだと理解できる。

 顔を上げて広間の先にある会談へと向かい昇っていく。

 その先には貯蔵庫や植物園、研究室、図書室、談話室と書かれたプレートが文字が霞んだり削れたり歪んだ状態で掛けられていた。

 それで思い出すのは、ここは故人の過去だと教えてくれた言葉。

 手を掛け開けられたのは談話室、正確には言■舌室と真ん中が削り取られてはいたが。

 その中には会話する姉妹と料理をするシスター姿のラミアの女性、寛いでいる何か大きな人魚などがいるがこれもまた過去のものなのだろう……きっとこの塔に生き残れた人物は……

 そんな中後ろから扉を開けて夢魔族の人だろうか、露出の多い服装に蝙蝠の翼と悪魔の尻尾と呼ばれる形状の尻尾をつけた片腕の、肩口から白い骨の見えている女性がテディベアを持って入ってくる。

 

「ほいよ、今日はお嬢ちゃんらにお土産だ」

 

「あ、くまさんだー」

 

 駆け寄る妹と思われる幼女が女性からぬいぐるみを受け取り嬉しそうに顔を綻ばせる。

 そんな妹を諫めるように姉と思われる女性が女性に向かって頭を下げる。

 

「ありがとうございます」

 

 きっとこれから見せられる絶望に俺は唇をかみしめながら見ていた。

 そう覚悟してみていたのに、拍子抜けるほどにしばらくは穏やかな会話が続いていた。

 人魚の人と一緒にご飯を食べたり談話している時間、そんな当たり前の時間が流れているときにそれは唐突にやってきた。

 叫び声と共に視線が、画面が姉妹の方に向かう。

 集中してみていた所為だろう、それはひどくゆっくりとした変化のように見えた。

 絶望に潰される絶叫の中、姉の右目が膨らみ、腰から刃物のような触手が刃物の先に内臓の残骸を抉り出しながら飛び出して鮮血をまき散らしながら痛みのせいで身を捩れば、足が五つほどに曲がり皮膚を突き破って所々に皮膚の張り付いた金属質のものに変わり果てる。

 膨らんだ目から無数の蟲の足が生えるように膨れ、こぼれ落ちた眼球を口のついた植物の蔓が咥えていた、頭には脳みそが泡立つように沸騰する水の様に泡を弾けさせながら髪が所々に生えたまだら模様の花を咲かせていた。

 俺はそのグロテスクさに顔を歪めながら、見続ける。

 

『見たくねぇなら目を瞑っていろ』

 

 そういわれた意味を今、知るが同時に目をそらしてはいけないと心のどこかが言っている。

 震える体を抑えながら、ゆっくりと進むその映像の中で確かに聞こえるのだ。

 

「早く殺して、■■■■■を傷つけないうちに、早く殺して」

 

 早口で繰り返されるその言葉を聞きとれる人が居たのかどうかはわからないが、変化の途中に首が斧の一閃で切り落とさられ、呆然とした目でそれを見上げながら口は「ありがとう……」と動いたように見えた。

 言葉の途中で斧の裏側で叩き潰されセピア色の画面でもわかるほどの黒一色の液体に変わってしまい、胴体も炎の柱のような魔法で焼き尽くされてしまった。

 それを見ていた妹は悲鳴を上げてラミアの女性に抱きしめられ……氷塊がラミアと幼女を引き離すように片腕の夢魔の女性に投げてよこす。

 

「■■■■もとっとと離れなさい!部屋の中ぶっ壊すからね!」

 

 部屋から出ると二人はいなく、ぽつりと呟く言葉に俺は椅子からずり落ちかける。

 

「部屋の中でろーれらいらだーは後片付けが大変でした……」

 

 ゆっくりと覗き込むように少し開いて中を窺うと、先ほどの整頓された部屋のように見えるが床一面が真っ白な鏡にでもなったかのようである。

 一度溶けて再び固まるとこうなるのか、それとも一瞬の高温で焼き払われることでこうなってしまうのか、俺にはわからないが家具はどうにか新調したのだろう事がうかがえる。

 だが、さきほどの人魚はどうなったのだろう?もしかして生きているのだろうか……随分と顔色が悪かったというか土気色だった気もするが。

 次に開かれたのは図書室だろう、こちらは図書の文字が消えてしまっているので初見ではわからないかもしれないが、これを見せている子が言葉にして指示してくれたからこそ、わかる。

 扉を開けば、本棚が並んでいて整頓されているように見える。

 が、それは表面だけで並んでいる背表紙や壁の方はごっそりと抉れるように外が見えていた。

 背表紙はその言葉通りに何も無くなっていた。

 無となり向こう側、壁や本棚が透けるように『外』が見えていた。

 星々も何もない、太陽の光も月も雲も空も、何もない虚無が除かせていた。

 本を開いてみても文字化けでも起こしたかのような、辛うじて何かしらの言語だとわかるそれは文字の羅列とでもいうものだった。

 こちらで見せてもらった文字も散見できれば、日本語のひらがな、カタカナ、漢字に英字、記号なども見られた。

 慎重に背表紙に触れないように本を戻し振り返れば、本を運び込む空に浮かぶ本から上半身を出している女性にそれを手伝う男性職員だろうか。

 こちらは普通に服を着ているので目のやり場に困ることはない。

 そんな二人組が運ぶ中、視界は奥へと向かっていく。

 奥には一人の男性が机に向かい何かを書いているのが見えるが、なぜか傍らに一本の棒が立て掛けられており、それは七色に輝く明らかな武器だった。

 

『七色鋼の武器、か?でもあんな虹色に色を変えるようなのは見たことが……』

 

 それに手を伸ばす小さな手だが、武器が重たいのか持つことすらできない。

 棒から手を離し、じっと自分の手を見てから、何かを書いている男性へと声をかける。

 

「ますたー、なぜ私は戦えないのでしょうか?」

 

 男は書くのをいったん止めて、こちらに振り向くのだが、男性だということはわかるがその顔がよくわからない、影でもかかる様にその顔を認識することができない。

 

■■■■(ラディオ)、僕はお前に戦ってもらうために生みだしたんじゃないんだよ。みんなを覚えていてもらうために生みだしたんだ。残酷なのは百も承知の上で言わせてもらう、戦う力を持ってしまえば、きっとそれに頼るだろう。お前は迎えが来るまで必ず生き延びてほしい」

 

「迎え……ですか?」

 

「所長まーたそんな奇跡を■■■■ちゃんに吹き込んでるんですか?諦めなければ奇跡が叶うだなんて……ならあきらめない私たちの前にイリアス様でも呼び出すような奇跡を起こしてくださいよ」

 

 画面に向かって話している男性の言葉に先ほど本を運んでいた本の女性が本を机の上に積み上げていく。

 積み上げられた本の題名には『オーバーロード』と書かれていた。

 残念ながら背の高さから表紙は見えないが十八冊と少なくない分厚いもので積み上げるときにそれなりの音が聞こえてくる。

 

「奇跡なんて、信じちゃいないさ。でもね諦めてしまえばそこで終了なんだ、ならあきらめない為の詭弁なら何でも使わせてもらうさ」

 

 肩をすくめておどけるような素振りを見せながら、その剣幕に圧されたのか後退る音が聞こえる。

 

「まさかSFマンガに載っていた並行世界が原因なんじゃね?なんて戯言で言ってみたら学者先生たちが調べまくって、大当たりするとは思わなんだがね。■■■■(ラディオ)まだ仕事が残っているなら行きなさい、こちらもかまってやれるほど暇じゃなくてね」

 

「はい……」

 

 それは声に抑揚がなくてもわかるほどに残念がる声だった。

 離れる中、呟くように聞こえたのは何だったのだろうか。

 

このプログラム()はお前には重すぎる、か。……戦争を起こす人など嫌いだった、だがここの人はどう、だろうな……僕はお前には重すぎる

 

 呟く声に振り向くがそこには徹底的に破壊され、そこに机があったと知らなければ机があったという痕跡そのものが消されるような、それほどの徹底ぶりが見られるほどに何も残っていないように見えたのだが、何かが光っているように見える。

 本が一冊だけ其処に残っていた。

 

「これは……?皮の表紙に……何かの模様……」

 

 何の皮かはわからないが表紙は革製のもので手作りされ本だろうか、紐で十字に縛られているのだが中央の部分に紋様に重なる様に何かしらのペンジュラムが付いている。

 透き通りながらも黒光りする赤い線が走る多面結晶体、中には小さな鍵と何かの種だろうかその二つが面の反射により揺蕩っているように見える。

 中を見ようと紐を解こうとひっくり返すが結び目はなく、どうやって開くのか、そしてどうやって結んだのかがわからない。

 そしてこの子にその紐を切るような道具も力もなかったので、スカートのポケット部分に入れて持っていくことにしたようだ。

 次に訪れたのは研究室と呼ばれている場所で、開ける前から喧々諤々と怒鳴り合う声が聞こえてくるのだが、その怒鳴り声達は何か色々とおかしかった。

 

「そうか、ゲッターとは……!ゲッター線とはぁぁっぁぁっっ!!」

 

「ふふふ……ふははははは……はぁーはっはっはっはぁぁ!!次元連結システムのぉ!」

 

 そっと中を覗くのだが、そこには狂喜乱舞する研究者たちの姿で、さまざまな機械をいじったり何かしらのグラフに一喜一憂している狂気の徒達だった。

 

「…………」

 

 そっと静かに閉じてしまおうか、それとも入って進捗を聞くべきなのか悩んでいると一人が気が付き扉を開けてしまう。

 

「■■■■ではありませんか……あぁ、もう進捗報告の時間でしたね。どうぞ私からの提案書であるグランゾンとDr.ウェストからのデモンベイン、マサキ博士からゼオライマー、サオトメ博士からのゲッター・ロボの作成図です。この世界ではもう素材はなく作ることはできないことはわかっています。ただ……これを受け取りに来る何者かが在るのならば、貴女が持っていてください」

 

 それは様々なものが書かれた設計図なのだろう、ロボットばかりなのだがもしも作れていたのならば今の状況も打破できたのかもしれない。

 シラカワ博士は画面に視線を合わせ頭を撫でながら、悔しそうに語りかけてくる。

 

「これは私達が生きた証であり、受け取る人に託す望みです」

 

「何を諦めているのであるか!アポトーシス達が並行世界から来たという観測者であるというのならば、吾輩たちも同じく大天災である皆のものも!渡れない道理も!渡ってこないという否定も!ないのであーーる!だからこそ頼むである」

 

 ギターを鳴らしながらDr.ウェストが叫び声を上げ画面が揺れる。

 蹴り飛ばされたのだろう部屋から転がりだされ、もう一度見たときには天井や床から生えた触手に貫かれた博士たちがモズの早贄のように千切れた体の様々なパーツに分けられて飾られていた。

 ふと思ってしまう、これはどこまでが現実で、どこまでが過去なのだろうか。

 渡された設計図を手に急ぐように、それほど速度が変わったようには感じられないが、上へ上へ登っていく。

 上る度に何が放たれる音と塔が揺れる振動、そこかしこから鳴り響く警報音の音。

 目まぐるしく視界の端に表示される何かのパラメータ。

 

「XXタイプの襲来……防衛システム損壊5%……」

 

 最後に辿り着いたのは棺が四つ置かれた部屋で机と本棚、何かの魔法陣が描かれた床。

 鳥のようなマスクをつけ黒い帽子と黒いコートを身に着けた人物が、こちらを見ていた。

 

「博士……」

 

 一度しっかりとこちらを見て、手に持っているものを確認したのか自身の手を開きその指についているものを確認していた。

 指には指輪が十個ついておりそれぞれから糸が伸びて棺の中に繋がっているようだった。

 

「生きなさい、あなたの生に意味がある様に」

 

 顎をしゃくり後ろにある魔法陣を示す。

 

「博士……」

 

「皆が託したものを無駄にしてはいけない、行きなさい」

 

 首を振るい画面が揺れるが、博士と呼ばれた人物は待つことはなく、何かよくわからない言葉を呟いた後、命令を下す。

 

「ラストオーダー:行きなさい」

 

 その言葉に逆らえないのかゆっくりとだが魔法陣の方へと近づいていく。

 視界にうつるパラメータから防衛システムの損壊率は70%を超えていた。

 移動はするものの最後まで博士と呼ばれた人物を目で追う。

 魔法陣に乗ってしまえば光に包まれ転移させられたのだろう、通路に放り出される。

 

「マスター……博士……みんな……」

 

 後ろを振り返りながらも身体は前に進むことを選ぶ、選んでしまう。

 

「迎えは……」

 

 たとえ画面が通路の先を映そうともそこには誰もおらず、のろのろと身体が進んでいくだけだった。

 爆発音と揺れは収まらず、塔は本格的に崩壊をはじめ床も所々虚無に消えていく。

 

「迎えは……また……」

 

 転移の気配に振り向けば、いつの間にか画面はフルカラーに戻っており極彩色に彩られた巨大な人型のナニカが視界の先には居た。

 それはこちらを発見すると極悪と表するにふさわしい笑みを浮かべてこちらに向かってくる。

 逃げようとする速度の倍程度の速度で、弱った獲物を追い詰めるように余裕綽々に、歩を進めてくるそれは、画面を映しているこの子を嘲笑っていた。

 必死に生きようとしているものを嗤っていた。

 

「笑わないで……生きようとした!みんなを嗤わないでください!」

 

 袖から出てくるの武器でも何でもない、ただのはたき。

 特別な力も効果も何もない、ただの掃除道具のはたきで、目の前まで来たそれに殴り掛かる。

 

「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ」

 

 その抵抗に大笑いを上げながら、非対称の腕を振り下ろせば軽く腕が捥げる音と共に床に叩きつけられ、そのまま蹴られたのだろう身体のどこかが砕ける音と一緒にまだ無事だった壁に叩きつけられる。

 画面の半分が罅割れノイズが走りながらも、出来る限りの抵抗だといわんばかりに無事なカメラアイでそれを睨みつける。

 映るのは足の裏、踏みつぶされるのだろう。画面は電源を落としたテレビのように闇に染まりそれと同時に砕ける音が響く。

 

 

 

「ちょっと追い出されたからお邪魔するわよ!」

 

 いきなり画面の電源が落とされたようになり、声をかけられた方を見れば今まで壁だった場所に扉ができているのかそれを開き金色に輝く後光を背負った女性が入ってくる。

 

「え?いや、何事です?てか俺以外にも誰かいるんです?この空間……ってか誰ですか!?」

 

「よろしい、ならば私の名前を教えましょう!私は「ロード・オブ・ナイトメア」、L様と呼ぶことを赦しましょう。そしてこれからあなたは部下Sよ!」

 

「いや、なんで俺があなたの部下に……」

 

「鈴木 悟だからイニシャルがどちらもSだからよ!プレゼントに部下Dを呼ぼうと携帯を取り出したら他の連中にシアターから蹴りだされたわ……せっかく糞鯨を闘神都市Ⅱのくじらちゃんにして弄ってたのを肴にしてたのに、だから代わりに楽しませなさい」

 

「えぇ……」

 

「それとおっさんも同じく部下Sになるわ!そうね、とりあえず目標を言ってみなさい」

 

 唐突なことに戸惑いながらも、目標と言われ、この世界での目的というものを考えたことがなかったことに気付かされ悩むが、それは皆をこの世界に呼び出し楽しみたい、と思っていた。

 思っていたのだが……あの子を見ていてそれとは違うものを目指したいと思うようになっていた。

 

「強く……強くなりたいと、今よりも一歩でも先に進みたいと」

 

「へぇ……それはどこまでかしら?」

 

 俺の答えを聞いてL様は笑いながらこちらを見ていた。

 

「どこまでって……それはとりあえずみんなを守れるくらい?」

 

「あぁ、それはいいわね。実にいいわ……私達から皆を守れるように強くなりなさい」

 

 それは満面の笑みを浮かべ、俺の答えに満足したように扉から出ていく、携帯に向かって一言だけ残して。

 

「五分でここに来なさい。遅れたらわかっているわね?D」




※注意:今話には鬱展開、グロテスクな表現が存在します
 苦手な人はそっと閉じ推奨です



糞クジラ 出典:AliceSoftシリーズ
 主にランスシリーズの大陸地下に生息している糞クジラなのだが鬼畜王ランスにてラスボスとして登場、但し倒すと大陸が落下してしまいバッドエンドとなる。
 糞クジラの好きなものは戦争などによる怨嗟の叫びであったり、悲痛に咽び泣く声であるため大陸での戦争が起きなくなると大陸中に天使を派遣し生物を殺戮し世界をリセットしようとする。
 その為、退治しに行くのだが、殺してしまえば上記の通りバッドエンドなので別の手段を取る必要があるが、その条件を知ることも選択次第で不可能となることがあるので注意である。
 この作品ではランスシリーズの外伝である鬼畜王ランスの糞クジラであることを留意しておいてほしい。
 別名:ルドラサウムと呼ばれている。


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episode.6 「自壊:アポトーシスの尖兵」

次回からようやく冒険者になる為に動かせる


「てめぇが嗤ってんじゃねぇよ!」

 

 横殴りに蹴りを巨大なアポトーシスに叩き込めば、片足立ちだったこともあり簡単に壁に叩き付けることができた。

 片方の肩には紫の腫瘍、金色の織布をキトンのように着込み両脚は具足でも履き込むように金属片が色取り取りに足を飾っていた。

 特徴的なのは肥大化した金槌のような右腕に、やっとこの様な鋏を五つほど横並びにしたような左腕の爪だろう。

 管理者の塔であれば、本来はアドラメレクな筈だが俺の知っているそれではない、という事は他の最上位アポトーシスが発生した世界であり、ルカが辿り着かなった世界と繋がったと見るべきだろう。

 

「このスヴァローグを足蹴にするとは、いったい何者だ」

 

「訊かれれば応えよう。流離いの復讐者、スカルマン」

 

「……その従者、ハニワ大魔神」

 

 あほらしい自己紹介を大真面目に返している間にムジナが片腕と両足を失っている少女を確保していた。あとはこちらがそこまでの道を塞げばいい。

 

「それじゃあ、あっしも名乗りやしょうかねぇ。悪魔超人のザ・ニンジャでさぁ」

 

 偽名とは堂々と名乗るもんである、名前を偽ることにデメリットがないならわざわざ本名を名乗ってやる理由はないからな。

 パンドラもムジナもその辺は情報戦の基礎としてそつなくこなしてくれて何よりだ。

 他の……デミウルゴス辺りなら合わせそうだが、他はそのまま本名を堂々と名乗りそうだな、創造主がつけてくれた名なのだから、と。

 

「(しかしスヴァローグねぇ……確かスラブ神話のトリグラフ(三位一体)の一人と数えられる主神格の火神だったか?水が効けば御の字、蒸発するならそれも利用させてもらうとしよう)」

 

 両手で棒を回しながら先端と石突に魔力を流しながら戦闘の準備を始めていく。

 スヴァローグはこちらを値踏みするように目を離さず、口遊む。

 

「第一種現界接触、か。排除(delete)する」

 

「そいつはこっちのセリフだな」

 

 弧を描くように棒を振り下ろし右腕の振り上げを阻止、まともにダメージは与えられていないが弾かれる勢いを利用して石突をわき腹の叩き込み、反発力をのそのまま身体で回転に変えて水平の横薙ぎへとつなげる。

 

「(物理耐性在り、無効吸収反射ではない。攻撃速度はあの見た目に反して出が早いがそこは脅威でも何でもない……問題は攻撃に合わせた吸収効果か)」

 

 石突を床の上で滑らせルーン文字を完成させ、一文字の魔法(単音魔法)を発動させる。

 

イーサー(フロストプラント)

 

 開放する言葉と共に床を這う氷の蔓が引き離したスヴァローグに絡みつこうとして凄まじい勢いで蒸発して視界を悪くする中、十の光弾が霧の壁を穿ちながら殺到して命中しては消えていく。

 

「ぐっ……むぅ」

 

「やれやれ、こいつは正に焼け石に水って奴だなぁ。んじゃこいつはどうよ『悪夢の王の一片よ』」

 

 霧がこちらの方向に膨らみ、目を見開いた鬼気迫る勢いで霧の中から飛び出してくるが、残念一拍遅い。

 

「唱えさせるものかよ!」

 

 爪が素早く振られるが俺の身体を通り抜けてその姿を揺らめかせて消える。

 

「『世界の忌ましめ解き放たれし、凍れる黒き虚無の刃よ』」

 

 詠唱の途中でありながら集約させた力は掌の内にて、暴走しようと暴れ出そうとする。

 その力を棒に這わせて大鎌(size)のように作り変え、空を切るように振り回しながら、力を安定させるために並行詠唱を行っていく。

 この力を知っているのは先ほどの反応からわかっているが、これで謎も増えた。

 なぜモンパラの住人と思われる存在が、この詠唱を知っている。

 

「『我が力、我が身となりて、共に滅びの道を歩まん』」

 

 考えられるのはその世界と繋がっている存在であること、もう一つは観測側か。

 前者でも後者でもどちらにせよ、目的は変わらんがカオス化が進むことだけは阻止しねぇとな……わかっている防ぎ方は『殺さない事』だったか?生きていた存在を殺してしまうことで世界の乖離が早まり、結果並行から外れて終端が変わることで剪定される。

 

「まだだ!まだ最後の一節は唱えさせん!アトミック・レイ!」

 

 大口を開けてそこからブレスだろう、火力は大きいが隙だらけの大技を向けてくるが本当にこの呪文の恐ろしさを理解しているのなら愚策も良いところだ……わざわざ教えてやる必要も一人でやり合ってやる義理もないがな。

 しかし蘇生魔法が通用するこの世界ではどうなることやら、重要な人物が巻き込まれたなら蘇生させるだろうし法国の動きには要注意かね、炙り出しも兼ねた取り立てだからな。

 

「おっと?私を忘れていませんかな?」

 

 パンドラがいつの間にか道具創造(クリエイト・アイテム)系で作り上げていた大金槌を振り上げ横か顎をかち上げ、放とうとしたブレスを妨害する。

 

「『神々の魂すらも打ち砕き……神滅斬(ラグナ・ブレード)』ナイスアシストだ」

 

 胸の崩玉を輝かせながら何も写さなくなった棒を両手で回し、スヴァローグに余裕綽々で向かい合う、勝ち誇る時が負ける時とはよく言うものだが、アポトーシスは殺した程度じゃ蘇るからな、どうしたもんだか。

 とりあえず、殺してから考えるとしますかね。

 踏み込み突きを放つと同時に先端をグレイブの刃先に変え、引き戻すときには大鎌に、刃を避けるために飛んだ追撃に青龍偃月刀に切り替え、蹴りあげることでその回避を許さない。

 

「巻き込まれない距離でバフ積みを頼む。あの子も生きてるなら回復してやりな」

 

 この魔法の特性上、巻き込めば即死は免れん。

 フレンドリィファイアで殺しちまうなんてアホな真似はできんからな……発狂した馬鹿に右肩撃ち抜かれたことを思い出しちまった。

 言いながら逆手に持ったポーションをパンドラに投げ渡す。

 

「っち……息も脈もありやせん」

 

「彼女が諦めずに叫んだからこそ間に合ったのです。私達が諦めてどうしますか」

 

 ボロボロの肢体から見えるのは配線の青や赤の色に人の骨に当たる部分には金属質の輝き……そりゃ息も脈もないわな、姿形は違うがガイノイド、アンドロイドみたいなものだったか。

 切り飛ばせたのは爪の一部、爪の一部を犠牲にラグナ・ブレードを『弾いた』。

 という事はあの爪には虚無属性も備えられている……発動はリスクを伴うと、スヴァローグの苦渋に歪む瞳から判断する。

 

「こいつは長くなりそうだ。ギアを上げていくとしよう」

 

 もしくは切り札を使わせたってとこかね。

 方天画戟に切り替え、着地までにかかる隙間に身体を引き絞る。

 

「一歩、無間……二歩、帰来……三歩、夢幻」

 

 大半のターン制RPGじゃ素早さなんて軽視されがちだったりするんだがな……現実になれば質が悪いものに早変わりだ、FF(ファイナルファンタジー)のヘイストとスロウがよくわかるだろう。

 下手な時止めよりも効果的になる。

 

「秘儀、五段突き」

 

 穂先がぶれて神速ともいえる速度で『九つ』の突きが同時に放たれる。

 空気抵抗がないから勢い余ったが、身体に掠めながらそれらを躱していくスヴァローグに衝撃が襲い掛かる。

 

「ついでに銀の弾丸(ヨーグルトパンチ)も持っていきな」

 

「おっとこれも持っていってもらいましょうか、道具創造」

 

 パンドラが這わせた魔力を刃先に変えるように剣を作り出し、食らいつくようにスヴァローグの足を絡め捕る。

 

「しかしこれでは……」

 

「『事象の地平に近づけば、相対時間は遅くなります。あなたにとっては一瞬でしょうが、こちらでは永遠です。理解できましたか?』ブラックホールクラスター!」

 

 青き魔神の詠唱を借りてユグドラシルのブラックホールの効果を変質させ打ち出す。

 黒点はスヴァローグの胸部に吸い付き、光ごと飲み込もうとするが伊達に主神様をやってるわけじゃないらしい、特異点に抗いそれを圧し潰そうとしてくる。

 

「今のうちに退くぞ。攻撃を与えてもこっちが吸われて軒並み回復されるんじゃ分が悪い」

 

 こいつで詰みとさせてもらおうか。

 ムジナに煙幕を投げさせ、視界を再び奪い二人でその場を離脱、出口へと向かって走っていくが空間を渡り転移してきたのだろう追いつき、俺とパンドラをそのやっとこで圧し潰そうとしてくる。

 ブラックホールのダメージは尋常ではなかったのか身体をぼろぼろにしながら最後までこちらを殺そうとしてくる。

 

「あー……遅かったか」

 

 肉を貫く音と共にムジナが上から落ちてくる。

 

「っち、しくっちまいましたねぇ」

 

「は……ハハハ……第一種逃がしは……」

 

 もう一度、同じような音がスヴァローグから聞こえる。

 

「……は?」

 

 呆気にとられたような表情を顔に浮かべて、こちらを見ている。

 

「忘れていたな?お前を心底憎んでいる奴が居ることを」

 

 貫いたのは右手とその肩でラグナ・ブレードを纏わせた棒をその軽い体重に自由落下を乗せた一撃。

 

「『神々の魂(皆の仇)を打ち砕け……神滅斬(ラグナ・ブレード)!!』」

 

「はっはっは、奇襲に声殺せってぇのをよく聞いてて、よく我慢したなぁ……叫びたかったろうに」

 

 スヴァローグはその表情のまま虚無に喰われていく、少女がその崩れていく身体を滑るように転がり落ちてくるがパンドラが優しくキャッチする。

 ラグナ・ブレードは一発でしっかり力を放出したのか、俺が造り出した棒のままになっていた。

 

「ところで君は誰だ?」

 

 ここで探索を行ったが少なくとも入り口からここまで、誰かが居た痕跡はなかった。

 なら彼女はここに最初からいたのか?否、ここは「入口」だ。もしもいたのならムジナが気が付いていたはず。

 では入れ違いになったというのか?これも否、少なくとも手早く捜索していた俺達が入り口からここまで調べた時間と彼女が転移の魔法陣からここまでくる速度に釣り合わない。

 ゲーム脳だのと言われても仕方のない考えだが……俺たちが最上階へと辿り着くことでフラグが発生し、彼女がポップした?ふざけるなよ。

 

「(それよりは時間が歪曲しているというほうがしっくりとは来るか……それが起きた原因がわから……あー……居たよ出来そうな御人らが……)」

 

 シアターを見る余裕ができたから見てみれば、乱痴気騒ぎの酒盛りが繰り広げられてるんだがいったい何があった。

 しかも見えるのは人外ばかり、ギルメンはこれに気が付いてないのか身内間でハイタッチとかしていたが、悪羅王にヘパイトス、ジャンクドールにガイストビーネ(動く絵画)にシャドウ娘……その他もろもろ多種多様なメンバーがどんちゃん騒ぎをしている。

 

「私は……ラスティです……」

 

 その錆色の髪に合わせたヨーロッパ方面の愛称に使われる名前だった。

 

「ありがとうございました、スカルマンさん、ハニワ大魔神さん、ザ・ニンジャさん」

 

 名乗り上げの偽名をそのまま覚えていたのだろう、それに俺たち三人吹いてしまったのも仕方がない。

 

「?」

 

 吹き出したことに首をかしげていたのだが、それが猶更笑いを誘い三人でぐしゃぐしゃとかわるがわるに頭を撫でてやっていた。

 が俺はこの選択を、偽名を訂正しなかったことをのちに後悔することになる。

 崩壊していく塔を名残惜しみながら出口を潜っていく、その出口は光り輝き明るい未来を顕しているようだった。

 ラスティはその出口の一歩手前で止まり、後ろからムジナに俵担ぎにされて無理やり潜らされる。

 

「やれやれ本当に止まりそうになりやしたね」

 

「は、放してください!?私は……私は……」

 

「「皆の仇を討てただけでよかった」?生きれる命粗末にするもんじゃないよ、目いっぱい生きてお前さんの歩いた人生を肴にさせろ、強くなるんでしょ頑張りなさい、やっと迎えが来たんです私たちの事は気にしないで、ラスティさんの未来に神様の加護がありますように……」

 

 本を開き、名前の後に書き込まれてきた言葉を伝えれば、その言葉にラスティは大きく目を見開く。

 

「わはは……死の支配者が死者の声を聞けないなんて思わないことだな。お前が自ら死を選ぶのはお前が覚えてきた者たちへの侮蔑だ、お前は生きようとした者たちを背負っているんだろう?」

 

 神の部分はイリアス(ドブ川)だったから差し替えさせてもらったが、その言葉を聞いたラスティは震える手で顔を覆う。

 俺はそんなラスティの頭に優しく手を置いて撫でながら言い聞かせる。

 

「それとな、この世界死んだ奴を生き返らせれるぞ」

 

「!?」

 

 すごくびっくりした顔をでこちらを見ているので視線を上に移動させ、この世界の夜空を見せてやる……あの世界では、この子の造られたときには空ももうなかっただろうから。

 視線に誘導されて一緒に夜空を見上げる。

 第六階層にも空は作られていたが、あれは地球から見た夜空だ、それとは違う世界の空は当然のように星の配置が違う……光害などないために星の輝きがよく見える。

 光害の影響下だと見えるのは確か三等くらいまでだったと思うが、ここからなら……

 

「やべ……八等か九等くらいまで見えてる」

 

 アンデットが所有する暗視の効果もあるのだろうがいよいよ人外じみてきたのを実感してしまう。

 

「クーちゃん、ウーちゃんにも見せたかったなぁ……」

 

 見上げるその瞳からはぽろぽろと涙がこぼれ落ちていた。

 その後ろでは無粋な音を立てて崩れていく塔、ゆっくりと根本あたりから魔力の光が漏れ出していた。

 この魔力の波動はヨーグルトソースのものってことは……まぁ、そういうことなのだろう。

 

「俺から君に渡せるものはこの位だ」

 

 そういって渡したものはただの紙片、書いてあるのも何でもないカルネ村の位置を示したもの。

 その言葉を聞いてきょとんとした表情を浮かべていたが、スカートのポケットからアルアジフの紋章が刻み込まれたアミュレットと何かの紙束を取り出し、俺に渡してきた。

 

「あれ?本がない?」

 

 ポケットを引っ張り出して中を確認するが何かの灰がボロボロと落ちてくるだけだった。

 

「どうやらラスティに本を持たせた奴は過保護だったみたいだな」

 

 光は強くなっていき俺たちを包んで、その輝きに目を細めながらラスティの姿を確認すれば光の中姿を消していくのが見える。

 光が収まれば、そこにラスティも塔も最初からそこに何も無かったかのように森が広がっていた。

 

「お嬢ちゃんはどうなったんで?」

 

「俺たちが俺たちの時代に戻ったように、あの子もあの子の時代に戻ったのだろうな」

 

 俺は最後に本の中に会った名前を呟き、最後に言葉を繋げる。

 

解放(リリース)

 

 その言葉に反応する者はなく、その事実に俺は笑みを浮かべる。




スカルマン
週刊マガジンの読み切りに登場した石ノ森先生が書いたホラー漫画
仮面ライダーの前身なのは有名
1970年に書かれた作品である

大魔神
大魔神の顔面変化をよく真似された
1966年から作られた特撮系時代劇の主人公?

ヨーグルトソース 正式名はヨグ=ソトース
その名を呼ぶ意味を知ってるおっさんは大体ヨーグルトソースと呼んでいる


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episode.7 「冒険者への道」

 おっさんに原作知識があったとしたら?

「いや即ナザリック潰して、モモンガ殺しを自分毎やるしか選択肢ないだろ。マッチポンプの安い天丼繰り返しで罪悪感なしのド外道とか死んで然るべきだろ?しかもその英雄視される力だって培ったものでもない降ってきた幸運によるもので「まるで戯れで与えられた力」そのものだしな。守護者との人形遊びで前向かない臆病者の無能なんぞ世界の害悪にしかならん。慎重と臆病を履き違えるな」

 おっさんはクトゥルフTRPG出身です、モモンガの力はただの与えられた力にしか見えてません

 APP18の邪神が愉悦するためのな

「力があるから好きにしていい?それなら力あるものに負けてもそれを言いきり実行して見せろ」




 あの塔での戦闘から五日経ち、その間に有ったことを軽く纏めておこう。

 細々としたことばかりで長くはなるのだが、まず維持費の解決……ユグドラシル金貨を砂金に変えたら約2.5倍、ユグドラシルでの最小単位が『金貨』であり、砂金は『材料』となる為起こった事。

 アルベドの謹慎場所が恐怖公の黒棺(ブラック・カプセル)に他守護者たちに相談したところもっとも嫌がりそうだという事で決定したのだが、ゴキブリ娘という新しいナザリックの仲間が増えました……どうしてこうなった。

 蒼井さんがポーション作ってみたらなぜか紫色のポーションができ、カルネ村にある物と比べて高い効果を持っているものだという事がわかった……カルネ村によく来る薬師の人が居るらしいが大丈夫なのだろうか?その人から薬を買っているらしかったのだがその必要がなくなったという訳だし。

 侵入していたメイドさん改めモリガンさんが専属メイドになりました……メイドとしての所作もしっかりできてるし、強さもアルベドの心を圧し折ってるので折り紙付きだし、文句を言っていた他のメイド達も正論と交渉で週一の休みを認めさせてたりしていた。

 カルネ村にてルシファナさんと一緒にエンリちゃんからこの世界の文字を学ぶことに、自身の名前と簡単な単語、基本的な文法程度は習得することができた。

 なお、日本的ジョークは自動翻訳のせいで通用しないことが分かったこともここに纏めておく。

 カルネ村の防備を固めることになったのだが、エモット家がこの世界でもおかしいという事がわかる……なんでM60ブロウニングや俺と蒼井さん二人で運ぶような兵器が倉庫から出てくるのか、本人たちは使い方を知らなかったようだがエンリちゃんの伯祖父が持ち帰ったものらしく、たまに遺産(レガシー)級の装備品も見つかることからこの世界でも有数の実力者なのだろう。

 冒険者をするなら渡された装備も目立つものだが、今まで装備していたものはその上を行くようなのでありがたく借り受けることとする、真っ赤なローブなんて目立つと思うのだけど魔法の事を知るものからすると元の装備の方が目立つそうだ。

 ゴブリン将軍の角笛を使ってみたのだがゴブリンクィーンをリーダーとする集団が呼び出される……ゴブリンって緑色じゃなかったっけ?ルシファナさんはモン娘じゃないといい、ニースさんは赤褐色じゃないのね、と感心していたが……黒い肌のゴブリンって何?小鬼ってなんだっけ?オーバーロード状態と変わらない身長なんですが。

 あとは棒術を学ぶためにコキュートスと軽く手合わせしたり、デッドリーレイスが傾世傾国持ち帰ったり、スクロールは羊皮紙扱いでシュレッダーにかけてもお金にならなかったり、ブラッディナイトとデッドリーレイスはカッツェ平原でアンデッドの駆逐に精を出したり、食パン(いわゆる白パン)を料理長が作れるみたいだからカルネ村の特産にしてみようとしたり、ネムに何やら森で友達が出来たらしかったり、菜の花畑が一日で完成してたり、皮を剥ぐ為に牧場をデミウルゴスが作ったからちょっとしばいて普通の牧場にさせたり、出していた宿題を解いたのがガルガンチュアとルベドと恐怖公しかいなかったり、設計図は設備がとてもじゃないけど作れないと鍛冶長から言われたり、とこのくらいだろうか。

 エンリちゃんとムジナと共にこの付近での大きな街、エ・ランテルに辿り着いたのだが巨大な門が城門のように東西南北四つそれぞれの主要都市に向かって伸びているのだとか。

 王都と主要都市への道は石畳で舗装されているが国境や森などモンスターの生息地に近い村には敷かれておらず踏み固められた土の道が走っている、これは戦争をしていた名残で経済を伸ばすためにまずは重要な部分のみを施工したのだとか。

 

「ソイヤッ!ソイヤッ!」

 

 そろそろ現実逃避は無理なのだろう、目の前のちょっと信じられない現実を受け入れよう。

 神輿が街中を走っている。

 

「え?なにあれ?」

 

「エ・ランテル名物、ヒヒイロカネ級『スピードスター』のクルマ、ソイヤウォーカーだぜ?この街には初めてかい?にいちゃん」

 

 城門前に居た衛兵の男性?多分男性、スピーカーから聞こえるみたいな声だけどきっと男性なのだろう。

 神輿を機械の褌男たちが担いで備え付けられているのか先ほどからソイヤッ!と叫んでいるのが聞こえる、そして神輿にはそれはご立派なイチモツではなく一本の巨大な砲身が付いている。

 車ってタイヤが付いてる物じゃないの?人が担ぐものじゃないよね?大砲にしか見えないんだけど何であるの?人が神輿の上で腕組んで立ってるんだけど?

 

「え?なにあれ?」

 

『メタルマックスのネタ戦車じゃねぇか……とんでも戦車とか出てこねぇだろうな……ダイタロスとか軍艦サウルスとかバイオタンクとか……』

 

「カッツェ平野の南に祭られてた奴だぜ。たまにあそこからクルマが出土するのさ、大半は壊れて使い物にならなかったりするが使えるパーツやシャーシがあれば持ち帰ってみな。修理屋で直してもらえるはずだぜ」

 

 確かにあの造形のインパクトには驚いた、運転席もなしでどうやって動いているのか甚だ疑問ではあるがゴーレムの類ならそういう趣味なのだと、無理やり納得させることができる。

 

「なるほど……あれは魔法で動いているんですか?」

 

「うんにゃ。錬金油で燃費は悪いが動いてるぜ」

 

 ゴーレムではなかった、しかも俺の知っている車と同じように油で動いているとか、燃料費も維持費も購入費も免許代だって馬鹿にならない為に富裕層でも極極々一部の超金持ちしか持てなかったあの車がこの世界では存在していたとは……あの造形はどうかと思うが。

 

「でも買ったりすると高いんだろうなぁ……車は動かし方わからないし……」

 

「あぁ、買うとなれば高い。べらぼうに高い、俺もなぁ……かつてのガルシア号を見つけたときは仲間と一緒になって叫んだもんだぜ。動かし方は見つけて申請すりゃ冒険者組合か王都の城の方で教習受けれる、多少金はかかるがな。しかも国は機甲部隊作ってるから結構な値段で買い取ってもらえるんだ。その為に冒険者はクルマを見つける一攫千金のために頑張ってるんだぜ?」

 

「もしかして……それで森の近くだとよく冒険者の方が来るんですか?」

 

「お嬢ちゃん達はカルネ村からだもんな……トブの森は危険度が高くてな、アダマンタイトの連中でも二の足を踏むって言われる超ド級の危険地だ、間違ってもクルマ探しに行こうなんて考えるんじゃねぇぞ?東の埴輪ハニーキングに南の女王ミストレス、西の大翼ハゲタカヤーボ……そして北には光の女神ミカエラ様に闇の神ラ・クロワ様だ。むやみに奥に入って行くんじゃねぇぞ」

 

 そう真剣な顔でトブの森の危険度を教えてくれる衛兵さん、そして喋っているうちにソイヤウォーカーが通り過ぎていくのだが、その神輿に乗っている男がこちらをちらりと見た様な気がする。

 その首元には狒々色に輝きを放つプレートが一つ、他には古びたトレンチコート、逆立つ赤髪に頬の傷、鋭い眼光が特徴だろうか。

 鋼の機械的足音を響かせながら歩き去っていくソイヤウォーカーを見送り、空いた道を人々が歩き始める流れに続き俺達も門をくぐり、冒険者組合へと向かっていく。

 

『やべぇ、トブの森が魔境過ぎる……魔法無効のハニワに、MVPの女王バチ、三バ火力の糞ハゲかよ……』

 

 冒険者組合に向かう途中に呟かれた鈴木さんの呟きに俺はこの世界やべぇと認識を新たにした。

 

 

 

 冒険者組合は一階が酒場となっており、二階に依頼における話をする為の個室等がつけられているらしい、受付には二人の受付嬢が座っており、一人は褐色肌に紫髪の活発そうな女性名札にはマーニャと書かれている。

 もう一人は胸を強調する服にサーコート、赤髪が特徴的な女性で名札にはセレーネと書かれている。

 二人とも美人で多少の文句はその二人を前にすれば霧散するのではないだろうか。

 

「クンクン……紫のひm」

 

 いきなり鼻をひくつかせた人が喋ろうとしたが、その瞬間銃声が鳴り響き喋っていた男性が血を吐きながら仰向けに倒れる。

 その光景に俺たちは目を剥いてびっくりしたが、周りから上がる声に俺はその男に向かっていく。

 

「パンツ先生!入ってきた女の子の下着を当てようとして撃たれた」

 

 そのセリフにエンリちゃんは顔を真っ赤にして俯く。

 つまり俺の仲間に恥をかかせたわけだ、そうでなくとも普通に性犯罪じゃないか!

 

「げふぅ……」

 

 俺はその男に近づき鳩尾を踏みつけようとしたのだが、いつの間にか隣に立つ受付の女性が踏みつけていた。

 

「パンツ先生?もう何度目の忠告でしょうか……そろそろ自身がアダマンタイトの冒険者だという自覚を持ってほしいのよ?昨晩のパンツを被った変態がハイレグの痴女を追いかけまわしていたと苦情も来ているの……プルトンさんも真面目にどうしようかと悩んでいるわ」

 

「むむぅ、しかし私は三度の飯も女性もののパンツを鑑賞しt」

 

 破砕音が男性の頭部から鳴り響き会話を終え、簀巻きにされどこかに運ばれていった。

 それでバカ騒ぎも終わったのかのように、騒ぎもピタリと止む。

 

「ようこそエ・ランテル冒険者組合へ、依頼でしょうか?」

 

「いえ、俺たちは冒険者登録をしに……」

 

「だったらこっちよ、ごめんなさいね~。うちの恥さらし筆頭が迷惑かけちゃったみたいでさ」

 

 手を振りながら受付の方に残っていたマーニャという女性が呼んでいた。

 

「パンツを盗むわ、のぞき見しようと身を伏せてるわ、しまいにはそのパンツをかぎ始めて体調やらなにやら当ててくるわ……本当にごめんね、あの変態が」

 

 何とも言えない調子で謝られるのだがこちらとしても何ともできない、あんなのでもアダマンタイト、冒険者としての階級で二番目に高いとされる階級なのだ。

 まだ冒険者になってもいない俺ではそこに差し込める手はない。

 

『やろうと思えば色々とできるがな……痛くない腹をわざわざ痛くしていく必要もないのがなぁ、本当に変態ってやからは厄介だ。それとムジナも表に出てもらっとけ、セレーナ嬢には気付かれてるぞ』

 

 鈴木さんの忠告が終わるころにマーニャは頭を上げて、こちらに質問を投げかけてきた。

 

「ところで登録は……」

 

「すまない三人だ。ムジナ悪いが出てきてくれ」

 

「あいよ……しっかし隠形には自信があったんですがねぇ」

 

「おぅ!?イジャニーヤ!?マジもん初めて見たぜ」

 

「青の薔薇に双子がいるっていうけど、それとは全然別もんだな」

 

 ムジナが影から出るとそれに驚いたのか、それともイジャニーヤというのはそこまでのものなのかとたんに周りが再びざわめきだす。

 

「ほいほい、三人ねそれじゃこの紙に名前を書いてちょうだい。代筆できないからそこは注意してね」

 

 ぱっと見差異がなく印刷されたように書く場所が示されている紙が三枚渡される。

 活字印刷がもう出来上がっているのか、この世界は。

 

『版画印刷か、面白いこと考えるやつもいるもんだ』

 

 はんが?と疑問に思えば一個の判子みたいなものと簡単に説明してくれるのでそれでなるほどと納得がいった。

 俺たちはその紙にさらりと名前を書いてマーニャに渡したら、かわりに紙片を渡された。

 

「それじゃ次はイリアス神殿に向かってください。そこで職業が決まりましたらその紙片に記入して持って帰ってくださいね。プレートは明日の朝出来上がりますのでその時にお渡しいたします」

 

 そうしてまた手を振りこちらを送り出すのだが、俺たちが去ったあとセレーナとマーニャは他の人に聞かれないよう、見られぬよう先ほど悟たちの書いた書面に目を向ける。

 其処には名前の他に出身国:日本という古風な文字とは別に現代のきっちりとした文字。

 前者はムジナで、後者は悟のもの……そして生まれた年月もばらばらでムジナが1500年代、悟が2100年代。

 

「え?ムジナさん600歳?50代くらいにしか見えないんだけど」

 

「あら、新しい異邦人ね」

 

 そんな会話がされていた。

 

 

 

 イリアス神殿。

 そう名付けられているがここの神殿はイリアスという神を祀っているわけではなくそう名付けた男と同じタレントを持ったものが代々神官としているのだという。

 そのタレントとは……

 

「ふむふむ、サトル殿はネクロマスター、ハイウィザード、風水師に近接職全般の適性もあるようじゃな。しかも種族が超人にジ・エンドとはまた珍しいのぅ」

 

 職業や種族を見ることができるというタレントだった。

 大抵のこの手のタレントは『ただ知ることができる』というものだが、この国ではそういうことができるタレントが発現した場合この神殿に務めることが勧められている。

 元々こういったタレントを持つと知的好奇心が刺激され喜んでこの神殿にやってくるのだという。

 

「エンリさんは普通の人間のみじゃな。職業の方は(ごにょごにょと小声でエンリに(バトルファッカー)のみ伝える)とプリースト、ファーマー、レンジャー、ドルイドといったところじゃな」

 

「後衛の職ばかりだな」

 

 レンジャーも回復系も言わずもながの後衛職ばかりだった。

 

「ムジナ殿は……ふむ?デザインヒューマンじゃな。これは初めて見るのぅ……職業は陰陽師に極忍、侍、拳聖じゃな。陰陽師以外は前衛向けじゃの」

 

 それぞれに就くことのできる職業をメモして渡してくれるのだが、エンリはその紙を見せてくれることはなかった。

 俺はネクロマスターを選び、エンリはプリースト、ムジナが極忍と職業を選ぶことになったのでそれを紙片に書き込むと不思議とその選んだ職業で何ができるのか、どのようなものなのかがわかるようになるという不思議体験をすることとなる。

 まるでこの世界に来た時に魔法がどうすれば使えるのかがわかる様に。

 そう、わかるのだ……まだ強くなれるという事が。

 




 超人:人間系種族の最上位
 英雄とはまた別の意味で別格を意味する者であり、技能よりも身体能力に秀でた種族。
 成長(レベルアップ)に補正がかかり全てのステータスに+1のボーナスを得るというだけの種族なのだが、ただ単純に凶悪な補正でもある。
 単純計算で同レベルの倍のステータスを持つことになるので通常レベル差が5もあればまず勝てないとされる状況を単純なレベル差であれば30までを埋めることが可能となっている。
 英雄とは偉業をもって呼ばれる物であり、超人とは培ったものまたは与えられた力をもって人の枠を超えた者に送られる言葉。
 英雄はその技量と武技でレベル差を埋めることができる、現地人の英雄の域に踏み込むものは大半がこの種族へと変わっている為、高レベルでの逼迫する状況になると同じ種族になることのできないユグドラシル勢が敗北することになる。

再度ここに書く、所詮は一般人がレベル100に到達しているだけ……同レベルの英雄や超人に勝てる道理はない


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episode.8 「なんか色々増えてる」

 なお前話のデミ牧場、ルベドの拾ってきた巨大ハムスターが皮を剥がされるでござるとデミウルゴスを見て騒いだためルベドにデミウルゴスがしばかれ、普通の牧場(住処)を作ることになっただけで、ルベドの報告のみだと前話の説明となるw


 職業を決めて組合に提出した後は宿屋を紹介されたのだがまだ時間に余裕はあるので、カルネ村で頼まれていた用事である奴隷市を覗いてみることにする。

 奴隷市は活気にあふれており、競り手がファッション会場の舞台のように設置された台の上を歩くエルフを見ていくらだ、こっちはこれだけ出すぞ、といった感じで値段を出していくオークションのような感じになっている。

 ファッション会場のように見えるがここは奴隷市だ、エルフたちの首にはその証である首輪がつけられているのだが、ぱっとみチョーカーとかにしか見えない。

 いわゆる物々しさというものが感じられない、掲げられる値段も銅貨数枚から銀貨と少々くらいであり、次の奴隷が出てくるのだろう奴隷の紹介をするラミアがメガホンで大きな声を上げている。

 

「はーい、お次はダークエルフのグレーテルちゃん。近接職で村の防衛教練、商隊の護衛、冒険者ならスピードファイター!ちょっとトブの北部から出てきたばかりだからわからないことも出てくるかもしれないけどそこはちゃんと教えてくださいね。それじゃグレーテルちゃん一言よろしく」

 

 グレーテルと呼ばれた少女は一歩前に出てきてステージの一番前にて口を開ける。

 

「よろしくお願いします」

 

 その声は小さく後ろの方で見ていた俺達には聞き取り辛いものだった。

 藍色のフードを被り同色の服装とマント、それと褐色の肌。

 

『ダークエルフと言っても黒人のように黒いわけじゃないんだな』

 

 酷く小柄に見えるのだが……ユグドラシルだと小柄でも他と遜色はなかったし、大柄でも見かけだけの見掛け倒しとか、蒼井さんも筋力よりも体力型だったから俺よりも筋力低いんだっけ。

 見かけによらないってことかな。

 

「村付き銅貨八枚」

 

 エンリちゃんがいつの間にか競りに参加していた件について……銅貨数枚って安いんじゃないかって思われるかもだけど、村での教練主体だと家屋の提供つまり住み込みでのものになるから宿屋代食費込みと考えれば十分になるんだそうな。

 さらに言えばこの国だと奴隷というか、国営の派遣会社のような扱いで雇い主がオークションのように払う給金を先に決めることになる、で奴隷の設定された額を稼いで王宮に報告することで首輪を外すことになるって渡されたパンフレットに書いてあった。

 首輪も防犯や人権を守るための魔法がかけられており娼婦や強制労働など望まぬ仕事を強要させる場合、即座に知らせるものとなっている。

 また奴隷は法国から圧力掛けられ買わされていた過去がある為にエルフが多く、またその開放の手助けという意味合いも含まれるのか今の形になってからは積極的に参加する人が多いらしい。

 寒村などからの出稼ぎという形で参加する子供いるので人間の子もいるがその表情に暗さはないのが救いだろうか。

 そんなことを考えていれば競りは終わったのか、銅貨12枚でエンリちゃんが競り買ったみたいだ。

 

「これで村も安全になってくれると良いんですけど……」

 

「ゴブリンの子たちもいるから大丈夫だと思うけどね」

 

 多分あの黒ゴブリンたちLv80前後でゴブリンクィーンはその上だから、他の村を見てないけど村の人のレベル(一部例外を除く)を見る限り最強の村になってるんじゃないかな……どこぞのラストダンジョン前の村みたいに。

 

「グレーテルさんだね、俺はサトル=スズキ。よろしくね」

 

「影の中の人もよろしく……」

 

 手続きを終えてこちらに来るエンリちゃんよりも頭一つ分低いのでこちらを見上げて、一度こちらの影を見てもう一度こちらに顔を向けて挨拶を返してくれる。

 ムジナの隠密って低くない筈なんだけどどうなってるんだこの街……ツアーは気付かないのにそれに気が付くってどうなってるんだ、不可知の魔法も怖くて使うこともできない。

 一人そのことに気が付き冷や汗を流しながら、断りを入れてグレーテルのレベルを調べさせてもらったが、この子Lv90でした……故郷だとこれでも下から数える方が早いとかエルフの里が怖すぎ。

 

 

 

 

 

 グレーテルからダークエルフの里の事を聞くとミカエラ様やラ・クロワ様から直接指導をしてもらえる上に周りの森にはモンスター退治の為の索敵は苦労しないために強くなることは簡単なんだとか。

 法国って王国が腐敗してるから滅ぼしてもらうんだ、とか言ってたけど……強いエルフなんかの子を村に配置して訓練施してる時点でほぼ無理じゃないかな。

 前に鈴木さんが王様一人に法国嵌められてるとは言っていたけども、言ってはいたけども此処まで徹底的に情報操作していくとか、ナザリックの事もバレてるんじゃないだろうか。

 

『ちなみに昨日ラナーに着けてたシャドウデーモンがあっさり見つけられて近日顔を出しに来るとよ』

 

『なんでそんなことになってるんですか!?』

 

 王女様に会ってるとか、さらにシャドウデーモン張り付かせてたとか初耳なんですが。

 

『城下で聞ける噂だとラナー第三王女の事ばかりだったからラフィニア王女の愛称だと思ってたんだがな。まさかそのままの名前だとは思わなかったよ……紛らわしい名前にしやがって』

 

『そこ怒るとこじゃないですから、むしろ俺が鈴木さんを怒るところですから、ホウレンソウくらいはきちんとしてください』

 

 わはは悪い悪いと謝っているが、ふと腑に落ちないことがあった。

 第三王女と第二王女を間違えたと鈴木さんは言っていた、これは素で間違えたのだろう、城下での情報収集報告ではラフィニア王女の事は一つも上っていなかった。

 なら間違えたのは間違いがない、間違いから手に入れた情報であの塔の事を知ったはずで塔を見過ごすことができないからあの塔に行った筈、それは本当に偶然なのか?俺が『たまたま』目を覚ましたのも?ラスティの視線で見たあの映像は……『誰が見せていたんだ』?L様か?

 そこまで考えて背筋が寒くなる。

 それだけの手の広さを持つ何者かがこの世界に居ること、そして俺たちに目をつけていること、そうなればまだ姿形もわからぬ何かは姿を隠しているかもしれない。

 まるで目的地もわからない薄氷の道を行くような不安感に血の気が引くが、気力を奮い立たせていつものように平静を保とうと努力する、俺が気付いて鈴木さんが気が付いてないわけがない。

 

「顔色悪いけどどうかしましたか?」

 

「大丈夫ですか?サトルさん」

 

 駄目でした。

 元々予定していたポーションの鑑定を置いておいてまずは宿屋に行こうと提案されるほどに心配されてます……そんなにも顔に出やすいのだろうか、俺は。

 

「い、いや。人ごみに酔っただだけだから」

 

『悟君。いいことを教えてやろう、女性は男性の嘘を見抜くの上手いぞ』

 

 何よりも俺も嘘がつくのが下手なのだろう……目が泳いでいるとかどもっているとか言われて、あっさり見抜かれあれよあれよという間に宿屋に引っ張られていくことに。

 なんというか俺は押しに弱いのだろうか。

 エンリちゃんとグレーテルに両手を掴まれて紹介されたのは想像していた安宿ではなく、それよりも一つランクが高い、冒険者という荒くれものが泊まるような宿ではなく旅行者などが泊まるような宿、貴族や金持ちが泊まるようなものとは違うが小綺麗にされていて女性が一緒でも危険だという感じのしない宿だった。

 そんな宿な筈なのに、なんで人の介抱をしているのだろう?なんて言うか尼さんみたいな感じ?いきなり胸を抑えてうずくまって苦しそうにしているんですが。

 

「助かる……」

 

 付き人だろうか隻眼で髪を縛った男性で、左腕が義手になってる。

 ステータスを確認する限り蟲付とかいう初めて見るバフと竜韻の揺り篭というデバフがかかっていてこのデバフが原因だろうか。

 

「たしか、デバフだけを解除する魔法があったはず……こいつだったかな?『リフレッシュ』(大快復)

 

 スクロールを取り出し、魔法を唱え経過を観察する。

 助けようと思った理由は男性の方がムジナの知り合いのようだったからってのもあるけども、苦しんでいる姿を見るというのは忍びなかったのが大きいんだと思う。

 それはきっと俺が人間だと自信を持って言える理由な筈だから。

 なによりも『困っている人が居たら助けるのは当たり前』その言葉を嘘にしたくなかった。

 こうやってほいほいスクロールだとか魔法だとかアイテムを使用するのはダメなんだろうけども、対価をもらわないとやばいのは確かなんだけど、どうしたものか……と、使ってから悩んでいたら効果があったのか苦しんでいる様子はなくなって呼吸が安定して、胸部から子供が出てきた。

 

「いや、なんでそうなるの!?」

 

「おいおい、驚いてる暇があるなら代わりな。そっちの坊主は俺が診るぜ」

 

 厳つい悪人顔のモヒカンに青いジャンプスーツの筋肉盛々な男が俺を押し退けて、男の子の脈を測りてきぱきと道具を用意して即席の手術場所を確保していた。

 透明な幕の空間、携帯無菌室だろうかそれの中で透明な輸血パックのようなものから伸びる管を肘の内側に刺し、腹部の傷を針でホイホイと掛け声よく縫い上げていく。

 最後に手のひらに電撃を纏って胸部に押し当てると身体が撥ねて、血を吐き出した。

 

「ふぃ~……息も吹き返したし、安静にしてりゃ大丈夫だぜ。だからその刀を引っ込めてくれねぇかな?隻腕の兄ちゃん」

 

「九郎様に何をした……」

 

「ガガガガガガ、緊急だったから術式の説明してなかったか。身内かい?んじゃそっちの兄ちゃんも一緒に来な酒飲みながら説明してやる」

 

 近くのテーブルに引っ張り込まれてなんでか一緒に食事をすることに。

 青いモヒカンはテッドブロイラー、隻眼の人はオオカミさんというんだそうな。

 

 

 

 ここは場所が変わり王国軍が正規兵を正式に取り入れたことから『死を撒く剣団』という野盗に成り下がった元傭兵団のアジトに使われている洞窟の前、軍服にピンク色をしたハニワ顔、パンドラ・アクターが立っており、その横には見張りをしていたであろう武装した人間が転がっていた。

 

「ふむ。弱い……所詮は逃亡兵の寄せ集めですか。これでは情報も当てになるのか……」

 

 姿を消していたのかパンドラの横に浮遊する目玉が現れ視線を送られる。

 

「おっと、フロウタイボールの皆様方の情報を疑っているわけではありませんよ?ですが人間での最強というような人物がなぜこのようなところに力を貸しているのやら」

 

 やれやれという形で首を振るい、永久光(コンティニュアル・ライト)で照らされている通路を見やるが、こちらの接近に気づかれた様子すらなく中から大きな物音が聞こえてくる様子すらない。

 

「普通に戦い、音も抑えていないというのに気づかないとは……カルネ村のニース様が例外という事なのでしょうかね、とりあえずは隠し通路の有無を調べておくべきでしょう。風の回廊(エアロ・コリダー)

 

 魔法で調べた結果、隠し通路が一つ外への脱出経路としてあるのみであり、他に目ぼしい情報が手に入ることはなかった……範囲がそう大きくはないこの魔法で調べられる程度の広さしかないというこの野盗の評価を下げるような情報しか出てこなかった。

 

「のんびりと行きましょうか。目的は『ブレイン・アングラウス』、他の有象無象に興味はありません。エ・ランテルでの情報が確かであれば明日にはここに冒険者が踏み込みますから、他に情報を流す理由もない」

 

 軍靴を鳴らしながら言葉通りに洞窟内を我が物顔で歩いていく。

 途中で出会う野盗たちをやさしく卵豆腐を箸で崩さないように注意するような繊細さに注意しながら壁に叩きつけて進んでいく。

 たまにクロスボウで射撃をしてくるが当たるような矢は四本ある指の内の一本の腹で受け止め、ダーツ遊びをするように足や腕に投げ返して痛みに悶えるままにしておく。

 進軍するパンドラを止められるものはなく、20人もそんな調子で迎撃していたら、ようやく目標の人物が目の前に現れたことに盛大にわかりやすく安堵のため息を漏らす。

 

「やれやれ、やっと出てきてくれましたか」

 

「ハッ。こいつは大物だ、まさか物語の英雄の一人『ハニワ大魔神』がこんなちんけな野党のねぐらを襲撃してくるとはな」

 

「英雄とはいったい何のことやら、思い当たる事柄はございませんが……こちらに協力していただくために逃すわけにはいきませんので。クリエイト・アイテム」

 

 魔法を唱えブレインの背後に複雑に絡み合う剣の壁を作り出し、ブレインの逃げ道を塞いでおく。

 魔法で作ったとはいえ、ブレインの武器ではその壁を突破することは難しいだろう……あくまで難しいに留まる程度、斬鉄の心得があれば簡単に切り開けれる程度でしかない。

 

「チップは貴方の命、勝てば諸手を振っての自由を、残念賞は私に強制的に協力していただきます。さぁ……全身全霊の全力を出してくださいね?」

 

 気絶しない程度の気配を、絶望に直面する程度の戦意を、引き摺りだして恐怖と生存本能から構えを取らせる。

 ブレインの取る構えは腰を落とし鞘を佩いたまま、握りに手を這わせる所詮は居合いの型。

 本来であれば間合いに入ったものを即座に切り捨てる必殺の型ではあるが、パンドラはあえてその間合いに無警戒な足取りで踏み込んでいく。

 その瞬間、刃が閃きパンドラの喉笛にその刃先が食い込むようにブレインには見えた。

 

「ふぅー……これが、あなたの本気ですか?こんなものが、生死を賭した一撃ですか……」

 

 ブレインの決死の一撃であり必殺のそれは、確かにパンドラの首を捉えていた。が、その一撃はパンドラの薄皮一枚も割くことは叶わなかった。

 

「馬鹿な……ありえない……」

 

 自身の必殺を記してきた一撃が何の防御態勢も力も込めた様子もない急所への一撃でありながら何の痛痒も与えてはいないことを知り、一歩後退る。

 吐き出されるため息は呆れと憐れみと虚しさを綯い交ぜにしたような何でもないそのあたりの道端を這っている虫を見るような眼をしていた。

 

「俺の力が通用しない……?」

 

 膝から力が抜け、掌からは刀が転がり落ちる。

 

「まぁ、武技そのものは望んだものですが……これでは他が駄目ですね。貴方の剣は軽い……たかが一撃、それが効かなかったから諦める脆さ!!その程度の絶望がどうしました?それは!自身が強いなどと!最強に至れるのだと!自惚れている証拠ではないですか……貴方自身の重みも、剣に籠められる想いも!そして何よりもぉ!あなたに大切なものが何一つない、その程度の重みしか感じられない軽さでしたよ」

 

 まさにその動きは劇場に立つ役者というような大げさな身振りと声の高低を利用した落胆と侮蔑を込めた台詞回しだった。

 最後にはブレインの目の奥底を見るように顔を近づけて、心を圧し折っていく。

 お前の自慢してきた大切な心のよりどころにしてきたものは、ただのガラクタで磨いたつもりになって何もしてこなかった無意味なゴミだと突きつける。

 

「さぁ、残念賞といきましょう。拒否権はございません、私に協力していただきましょう……モモンガ様を殺しうる刃となってもらう為に!!」

 

 それはそうなってほしくない望まぬ未来で、来得る未来を血反吐を吐く様な想いで叫ばれる。




プレゼントの中身紹介
邪神アッザ 例の本(人間性確保のアイテム取得に必須)
魔王L様  部下D(ザエトル壊れたのでそれの代わり)
自壊アポ  管理者の塔(生き方の方向決定)
終焉混沌  モリガン(理解者の補填)
終点??? スパロボ四体(最低限の戦力として)

全て自分たちの元に辿り着かせるための、悟たちで遊ぶための下準備であり善意というものは……多分含まれていない


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episode.9 「蠢きだす巨悪たち」


デモンベインシリーズ

メタルマックスシリーズ

ロードスシリーズ



以上から三名となりまーす





 あの戦いから一週間が過ぎた。

 それだけの時間しか経っていないともいえるし、それだけ時間が過ぎてしまったともいえる。

 破滅の龍王(カタストロフィ・ドラゴンロード)との戦いを終えてから一週間、それだけの時間をかけて私、ニグン=グリッド=ルーインは法国の首都へと到着し報告書を纏めて最高神官たちが務める神殿へと提出した。

 最高天使だと信じていた威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)から生れた?女性を守るために協力した戦いの詳細、不明瞭な部分は省くこととなったが……情報を纏めているうちに疑問として浮かび上がったものがありそれを報告するかどうか最後まで迷ったが、最高神官たちの言葉を聞いた今、自分の下した選択が間違いではなかったと思う。

 あの女性は主天使を生贄に喚ばれたさらに上位の天使だろう。

 

「なぜ評議国の白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)と徒党を組むという事をしたのだ!アレが居るからこそ我ら法国の悲願である人類のみが生きる世界を造り上げることが出来んのだぞ!」

 

 その言葉にサトル殿の投げかけた言葉が脳裏に浮かぶ。

 

『王国と法国、どちらが歪んでいるのだろうな』

 

 私は『人類の守護者』であることに誇りを持ち、その為ならば英雄を殺すという泥被る覚悟をしてきた、してきたつもりであった。

 

「ガゼフ=ストロノーフの暗殺にも失敗とは、これでは帝国に王国を併合させたうえでの漆黒聖典を向かわせての重圧を与えるという計画も数年という遅れが出てしまう」

 

「うむ、トブの森に割いていた間引きの戦力をエルフたちを奴隷にすることに使う筈であったというのに……」

 

「何よりも大国を割らせてまで造り上げた王国という強者を育てる国が機能しておらん」

 

「これでは三百年もかけてきた悲願も難しいのではないか」

 

 こいつらは何を言っているんだ。私達はそんなことの為に駒にされたとでもいうのか。そんなことの為に人を殺すという泥を被ったというのか。こいつらは何のために生きているというのだ。

 非道と呼ばれる人狩りのような真似をしてきたのは、エルフの王がこちらの真意を悟りエルフたちを虐殺させない為ではないのか、その為に奴隷として王国帝国に売り逃していたのではないのか。

 裏切りのエルフの王を討ち、再びエルフたちと手を取り合う為の戦いではなかったのか。

 もう神官共の言葉など耳に入っていなかった、ぎゃあぎゃあと雑音をまき散らす糞袋達の戯言など記憶することすらやめた。

 法国こそ人類の最後の砦となれると信じていた。

 だが、こいつらは人類の最後の砦が法国なのだと宣う。

 神官共は平伏したまま何もしゃべらなくなった私を訝しみながらも退室を命じてきた、その言葉に従いいつもと変わらぬように、変わっていないように見せながら退室する。

 思い描くのはあの異形種達と共に戦ったあの戦いだ。

 異なる種と手を取り合い一つの敵に挑む、誰もがありえない夢物語だと、頭の温かい妄想だと鼻で笑うような光景があの戦いではあった。

 私も五百年前から伝わっている伝承を知らなければ同じようにあり得ないと一笑に付していただろう……そう五百年前を語る『魔神戦争』の伝承がなければ。

 天のミカエラ、魔のアリスフィーズ、龍のツァインドルクス、人のスカルマン……彼ら四人を主軸とする魔神皇討伐の伝説。

 普通ならただの御伽噺だと笑い話にもならないようなものだが、スカルマンを除けば現在でも確認が取れるのだ。三名もの生き証人が存在している。

 私もその確認はツァインドルクス殿から取っている……最後に開いたような大穴、タルタロスがこの世界はいくつも開けられたと。

 力を込め床を踏みしめながら歩きながらも言葉を思い出す。

 

「己の正義を胸に秘め貫け……だったか」

 

 曽祖父が幼い私に伝えた遺言……私達はスカルマンと共に駆けた人の守護者の末裔だと、それを誇りにここまで来たのだ。

 ならば私の、ニグン=ルーインの正義など決まっている、正しき人の守護者であれ。

 握りしめる陽光聖典の証が音を立てて引きちぎられ、地面に落ちる。

 それを静かに見ている目が在った……黒光りするそれは触角を揺らして人知れず隙間に消える。

 悪意は嗤う、時は満ち始めたと、幼さを残すままの体を(やみ)に深めながら嗤う、動き出す時を調べながら死体を蘇らせながら嗤う。

 

「あぁ、兄さんもうすぐ迎えにいきましょう……今度こそ邪魔をされないように殺して全てを私のものにしてあげる……」

 

それを見ていた嫌悪虫を踏みつぶし嗤う。

 

 

 

 二人して部屋から食堂に下りてくれば、青筋を浮かべた宿屋の主人がいい笑顔で出迎えてくれた。

 

昨夜はお楽しみでしたね(そういうのはそういう宿でやれ)

 

「「すみませんでした」」

 

 俺とエンリ二人して宿屋のおっちゃんに頭を下げることになり、テッド(長いので略称としてこう呼ぶことになった)とムジナに笑われるだけに(とど)まらずお米ちゃんにも顔紅くされながらも笑われるという何とも恥ずかしい朝になった。

 なおギルメンたちにも見られていたというのは、あの光景を忘れるまで他の皆を呼ぶのは止めようと心に誓う。

 

「やややつれてんなぁ。栄養あるもんしっかりとれよ……ガガガガ」

 

「サトルとエンリはお父さんとお母さんになるの?」

 

 そうテッドには呵呵大笑と言わんばかりに笑われるし、グレーテルからは純粋な質問が羞恥の傷を抉ってきた。

 同じようにオオカミさんを伴ってクロウ君が下りてくるが、いきなり頭を下げられたのだがどうしたのだろうかと思えば、テッドと俺がクロウ君を助けたことは知らされたようで、そのお礼を述べられた。

 

「大変貴重な品を使われたと聞いています。このような身でありますゆえ何も返すことができず申し訳ありませんが、せめて礼の言葉だけでもお受け取り下さい」

 

 クロウ君はおかっぱ頭の身分の高そうな男の子、年の頃は12~4歳くらいだろうか……男の子で合ってると思うのだがなんというか中性的に感じる顔立ちをしている。

 

「ああ、そのあたりは気にしなくても。使った分はきちんと返してもらうし……働き口がなければどうだろう?部下に王都で店を開かせようと思っているのだがその手伝いをしてもらうというのは」

 

「いえ、さすがにそこまでしてもらう訳には……」

 

 断られるだろうとは思ってたけど、ここは推させてもらおう。

 

「手伝ってもらえる方が助かるんだけどな、こちらは。御三方ともに異国の方でしょう?オオカミさんは護衛として、クロウ君とミコさんには物を売る際の接客をしてもらいたいんです。見た目からも人気は出るでしょうし、受け答えも問題ないと思えます、それらの教育を施すと考えると十分メリットはあるんですよ」

 

 駄目押しに茶目っ気を出してウィンクしながら。

 

「むしろこちらを助けると思って、仕事を受けてもらえると助かります」

 

 悪く言えば物珍しさの客寄せパンダになってもらおうという事なのだが、こちらとしてもナザリックに属する者たちは一部を除き他者を見下すのが顕著な為、客商売といった他者に関わる仕事を与えることができないという非常に残念な現状がある。

 そういってしまえば、クロウ君も苦笑しながらも了承してくれた。

 

「それじゃ仕方がないですね」

 

「そう仕方がないんですよ。そういえば何かやってみたいお店とかあります?まだこちらもそのあたりパンで売ろうか、くらいしか考えてなかったので」

 

 二人してそう笑えば、クロウ君も団子屋をしてみたかったといったアイディアを挙げてくれたりもするが団子の材料ってなんだっけ?小麦粉でよかったっけ?

 

『団子は白玉粉とか上新粉の米粉を使ったものが多いか、小麦粉でも色々似たようなものを作ることはできるが、まぁ違うものだな』

 

 コメの安定供給ができないと難しそうだな……タイ米とかインディカ米とかだとうまく使えるんだろうか?味が違いそうな気がするかな。

 そんなこんなで朝食後に三人をシャルティア達の所へ連れていき、現在街で有名だそうなバレアレ商店に来てます。

 

 

 

 ここは亀裂深く開いた自然の地割れ、その壁面に不釣り合いな人工物が存在していた。

 それは重厚な金属製の扉だが隙間なく閉ざされ無理やり開けるには相応の労力が必要だろう事がわかる。

 

「プラント起動……人類抹殺プログラム再起動……」

 

 その奥で台座に浮かぶ目玉を模した球体が再び動き出す。

 それはかつて一人のハンターに砕かれた賞金首で忘れ去られたスーパーコンピューター、電力がないこの世界でなぜ動くのか、それはわからないがそれは確かに動いていた。

 衛星から得られた情報を元に目的に則した有効な手段を構築していく。

 

「地名:ナザリック地下大墳墓、ドローンを侵入……八割の損耗、しかし地形の掌握完了。光学迷彩を有効と判断する」

 

 かつて大破壊という災厄を振りまいた人造の化け物、機械の反逆が再びここから始まろうとしていた。

 

「知恵をつけた悪魔のような猿の抹殺、世界をこの手に収めるために」

 

 工場は唸りを上げて次から次へと新たな自立兵器を生産していく。

 隙間から身をねじ込んだ黒蟲は光線に焼かれるまでその光景を映し続けていた。

 

 

 

 薬を作るのに薬草を潰しているのだろう、他の店からも何とも言えない臭いがその辺から漂ってくる中、一軒の店の前に立つ。

 

「こんにちわ」

 

 エンリがあいさつして店内を覗くと様々な薬品や青いポーションなどが棚に所狭しと並び、老婆が物売り買いするカウンターの横でポーションを作る為の機材をいじっていたが、エンリのあいさつに気が付いたのかこちらを振り向く。

 

「おや、エンリちゃん無事だったのかい。まったくンフィーももう二時間も待てば良かったのに」

 

「何かあったんですか?」

 

 ンフィーというのが誰かはわからないがエンリが疑問の言葉を投げ返せば、バレアレ氏は呆れたような表情で軽く返してくれる。

 

「ほれ、カルネ村が襲撃にあったんだろう?それでンフィーが心配だからって飛び出していったのさ」

 

 まったくせっかちな孫だよ、なんてこぼしながらもこちらに注意を払ってきている。

 

「しかもこっちにまで噂に聞くモヒカンヘッドが居るじゃないかい、エンリちゃんこそどうしたっていうんだい」

 

 テッドに飛び火したことで何が噂になっているのか本人に聞いてみよう。

 

「噂になるようなことをしたのか?」

 

「これといったことは憶えがねぇんだがなぁ」

 

 テッドは噂とやらに覚えがないのかバレアレ氏の言葉に首をかしげている。

 鈴木さんの話だとテッドは生身で改造戦車3台+α(ワンコ)とガチファイトしていい勝負をする猛者だそうなのだがそちらかと思えば違うらしく。

 

「あんたが使うポーションはこっちが想定してるよりもいい効果らしくてね、うちら薬師としちゃなんで効果高まるのか噂が立ってるのさ。臨時で他と組むことはあっても特定の連中とつるむことが少ないってのも聞いてるけどね」

 

「ガガガガ、そいつは簡単だ。どうすりゃ効率よく治せるのか知ってるからだな、後者は他のがよえぇからよ組む気にならねぇんだ」

 

『テッドはああ見えてナース完熟してるからな、それ関係だろう』

 

 あのガタイで看護婦とかちょっと信じられないんだけど。

 

『看護婦じゃなくて看護師な』

 

『あ、はい。すみません』

 

「それで、カルネ村は大丈夫なのかい?」

 

「はい、それはこっちのサトルに助けてもらえましたのでみんな無事です」

 

「どうも、サトル=スズキです」

 

 紹介されたので軽く会釈しながら自己紹介をする。

 

「グレーテルです」

 

「これはご丁寧にどうも、わたしゃリイジー=バレアレじゃよ。この街じゃ名士としても通ってるね。街一番の薬師としても冒険者連中から知られておるよ」

 

 その挨拶に対してエンリはちょっと言いにくそうに口をもごもごさせながらちょっと小さな声で言葉を告げる。

 

「えっと、その……その冒険者連中になっちゃいました……」

 

 エンリの言葉にリイジーは目を丸くさせる。

 

「ポーションをいくつか……そうですね古くなったのを四つと新しいものを四つ効果はどれも中ほどのものをもらえますか?」

 

 目を丸くしているリイジーさんには悪いが俺は注文をする。

 

「すまないね、冒険者登録したのはいいけどまだプレートがないんだろう?そうなると売れるのは家庭用の、銅級(カッパー)と同じ物しか売れないよ」

 

 ゲームのように買えるアイテムにランク付けしているのかと思えば、割と納得のいくのもので下位のポーションで十分回復する体力しかないのに中位のポーションを求める道楽冒険者が過去に居て、しかも金に飽かせての大量に買い込むというふざけた真似をしたらしい。

 この世界は当然ゲームじゃない、リアルに在庫というものは在るし、その薬を作る為に必要な薬草なんかも当然のように希少価値というものは高いものとなるし、回復ポーションという冒険者にとっての命綱ともなるアイテムが頼れなくなるという事態になる……しかもその道楽冒険者よりも信頼的にも実力的にも経験的にも上の冒険者が困る事態となるわけだ。

 そんなことが40年ほど前にあり冒険者組合もまた同じことが在っちゃ適わんと商店にアイテムのランク付けを頼み込んだという理由があるんだそうな。

 ただそんなことがあったからかリイジーさんは腕前をめきめきと上げてこうしてエ・ランテル最高の薬師だなんて地位になれたんだとか。

 

「それじゃ仕方がないですね、家庭用のものを先と同じ条件で」

 

「ほいほい、しかし古くなったのは効果が薄いよ?それでもいいのかい?」

 

「えぇ、その辺は保存(プリザベーション)の魔法もありますし……色が同じなので古いのと新しいのを見極める目を育てようかと」

 

 その言葉に得心がいったのか笑顔になりながらぽつりと言葉が零れる。

 

「それはまた組合にあげとかなきゃね、古いものを新しいなんて売られちゃ他の店も困っちまう」

 

 

 

 剛拳が侵入者に向かって振り下ろされ、侵入者はそれを悠々と避けながらさらに下へのゲートへと向かうがそれを阻むための巨体が道を塞ぐ。

 

「全く厄介な手入れだよ!完全なる遊べないやつ(NotPlayCharacter)ってのはさぁ!」

 

 妖艶な雰囲気を纏う女性は苛ただしげに表情を歪めながらガルガンチュアからの猛攻を避けながら叫び声を上げる。

 

「ちっ……もう一体来やがった……僕の精神攻撃が効かないだなんて忌々しいったらありゃしない!おかげで人形が一体しか手に入らなかったじゃないか!」

 

 侵入者は空間に穴を開けてそこに飛び込み逃亡を図る。

 

 

 

 ベルトにそれぞれポーションを差し込みながら冒険者組合の扉を潜ろうとすれば、なぜか入り口横に半裸に剥かれM字開脚で縛られているむさいおっさんが縛り上げられていた。

 

「え?なにこれ?」

 

「うわ……変態……」

 

「ガガガガ、こいつはパンツの仕業だろ、なんぞ悪さしてこうして晒されてんのさ。よくあることなんでな気にする必要も助けようなんて思う必要もないってこった」

 

 よく見れば、腹に『この者イグヴァルジは女性に暴行を加えようとした故、成敗』と書かれていた。

 首には銀級(シルバー)のプレートが下げられているがこれも冒険者なのか、荒くれものが多いとは聞いていたが暴行魔までいるとは思ってもみなかった。

 そんな犯罪者を横目にしながら組合の中に入れば、セレーネさんにマーニャさんがのろけ話をしていた。

 

「クライム君ってば初心でね、手をつなぐと顔真っ赤にするのよ!かわいいったらないわぁ……」

 

「それで連れ込み宿に引っ張り込んでしっぽりしてきたと」

 

 あきれ顔のセレーネと実に幸せそうに褐色の顔を朱に染め笑顔になっているマーニャ。

 

「えへへぇ、しかも男の顔で責任は取らせてもらいます、なんて言ってくれるんだよ」

 

 その言葉を聞いてじっとエンリが俺を見上げてくる、両腕を俺の右腕に絡めてるので胸の柔らかく温かい感触がダイレクトに伝わってくる。

 

「(そうだよ!?俺も責任取らなきゃ!?)えっと……まずは養父さんたちに話してからかな」

 

「はい!」

 

「なんかこっちからも甘い会話がされてるわね……いらっしゃい、プレートは準備できてるわよ」

 

 半眼じとめでこちらを眺めながらも手招きしてくれる。

 カウンターまで行くと俺とムジナには銀のプレートを渡してくれて、エンリにも銅のプレートを渡そうとしてくれるのだが、何かに驚いている。

 

「なんで一日も経たずにレベル20後半になってるのかしら?何したの?」

 

「なにそれ?なんでそんなことになってんの?」

 

「え?え?」

 

 エンリも何があったのか分からずおろおろとしているが、セレーネさんは腕を組み考えておりしばらくすると思い当たるものがあったのか、エンリを引っ張って奥へと連れ込んでいく。

 

「あ、男どもには聞かせられない話だから」

 

 そう告げられ手を払うように振って追い払われ、マーニャも加えて三人女性だけの話に花を咲かせているように見える。

 そんな様子を見ていたら肩に軽く何かを置かれる感触がして振り返れば、前髪は中央で分けられており、後ろ髪は首元で切りそろえた髪が後ろに広がっている、そして目は閉じられている青年が俺の首元に杖を置いていた。

 

「その装備は随分と懐かしいものですが、どこで手に入れたのか、お聞かせ願えますか?」

 

 着ている装備は赤を基調としたローブで俺の装備とどことなく似ている。

 

『赤法師レゾ……』

 




バトルファッカー
 〇ックス技を戦闘手段に使う一風変わった淫技闘士なのだが、HPの低めの壁役といったイメージが強い。
 快楽に対する耐性が高く、快楽状態異常(絶頂、失禁、昇天など)も受けにくい。
 本来は転職条件としてバトルファッカーの証を〇ックスバトルして得る必要があるが、この世界ではそんなアイテムはなく素質によってなれるなれないが左右される職業となっている。
 器用さを基礎とする武器があれば一転化ける上級職業。
基礎ステータス
HP:C MP:E SP:B
攻撃力:D 防御力:A 魔力:D
魔法防御:A 素早さ:B 器用さ:A
アビリティ:〇ックスバトルで勝利時 経験値取得大


職業系のアビリティは最初から取得できる場合、発揮されているものとする
サトルの場合 話術師が発揮されているため説得率が高い


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episode.10 「漆黒の剣」


遅ればせながら投稿でございます



 

『赤法師レゾ……』

 

 そう呟くことへの失敗を気が付くが、サトルに悟られるわけにはいかないのが問題か……

 

『誰か知っているんですか?』

 

 当たり前のように俺が知っている人物なのかサトルが聞いてくるが、真実は話すわけにはいかない。

 

『その装備が懐かしいって言ってたろ、ニースさんの兄ちゃん……エンリちゃんの伯祖父だよ』

 

 青年にしか見えねぇけどな、その姿で百超えてんのはかわらねぇのか。

 

「え?エンリのお祖父さん?」

 

「ほぅ……大姪の事を知っていると?尚の事、話を聞かせてもらいましょうか」

 

 肩に置かれた杖にさらに力を加えられ、動くことができない。

 サトル君もレベル101なんだがなぁ、その辺の戦士よりは筋力あるのに……テッドとかよりはねぇなぁ。

 というかそろそろ助けてくれないものかね、後ろで慌てながら見てるお嬢ちゃんは知らんが、困ってる王子様に苦笑してる大名様は、多分同じ冒険者グループだと思うのだが。

 二人ともちょいと線の細いように見えるが見えないところが鍛え込まれてるな、筋肉が付いてないように見えるが体幹がきっちり鍛えられてる。

 

「まぁまぁレゾさん、その方も困ってますし……」

 

「おいおい、どうしたってんだ?エンリの嬢ちゃんも受付二人に連れてかれちまったし」

 

「話を聞いてきやしょうか?旦那」

 

「シーフじゃなく忍びとは……また珍しいねぇ」

 

 なんかこっちも人が集まってカオスになってるんですが、ブーツの音響かせて後ろから近づいてきてるが、誰も気づかないのは何でだろうな。

 

 

 

 

「あぁ、時間を止めてるから。これなら静かに話せるでしょう?■■■■■さん」

 

 呼ばれた名前に思考がクリアになる、この場で動けるのは後ろの誰か……いや、黒のアリスか。

 

「わはは、おっさんは鈴木悟っていうんだ。で、一体どんな話があるんだ?アリスフィーズ六世」

 

「そう警戒しないで頂戴。……今は」

 

「鎧の狂戦士関連か」

 

「軌道修正くらいは手伝ってあげるわ」

 

「そいつはまた……」

 

「大体の流れは知っている。この世界が何なのか」

 

「てことは、そういうことか……カオス化は進んでいない」

 

「あまり変わらない、どういう既定路線か分かった?」

 

「全く持って胸糞悪くなる路線だってのは」

 

「だから好きにしなさい」

 

「了解」

 

 言いたいこと、伝えたいことを言ってしまえば時間を巻き戻す様にブーツの音が遠ざかる。

 

 

 

 時間を止める?簡単に行えるのであればユグドラシルにも存在はしている、それに対する耐性も当然のようにサトルも持っているが今回のは別物での疑似的な時間停止だろう……近いものは空間支配、か。

 ほんの数秒の出来事、それも俺と彼女以外では本の中にいるあの連中位しか感じられていないだろう時間の歪み、この位は簡単にこなしてみせろとは言ってくれる。

 

「わた……あ、ぼくはニニャっていいます」

 

 サトル君がレゾからロリコンかな?と言われながら捕縛されてる横でほのぼのと他メンバーで交流を行っているのはかなりシュールなんだが。

 

「あっしはムジナでさぁ」

 

「僕はノブナガだよ。よろしくね」

 

 外で転がされてたM字開脚縛りよりはマシか、真面目に捕縛縛り、後ろ手に縛ってから胴体を巻くアレだな、それで縛られて正座させられている。

 信長は好青年という感じで黒髪をラフな感じにして無精ひげがちょこちょこ見えるくらい、ニニャと名乗ったのは男装してる感じの少女で、一人称がまだ慣れてない感じだな。

 

「ガガガ、変装になれてねぇのか?バレバレだぜ嬢ちゃん。俺ぁテッドブロイラーだ」

 

「あぁ、やっぱりバレますか。私はナシェル=スカードです。レゾさん、そろそろこちらに戻ってきてください。お孫さんが選んだ男性がどんな人か知りたいというか心配だというのはよくわかりましたから」

 

 やっぱりエンリちゃん心配しての暴走か……養父さん説得よりもレゾ説得の方が大変そうだよなぁ。

 こりゃあれだな、カルネ村襲撃の噂拾って冒険者組合に顔出したところにカルネ村で保管してあるはずの装備を着た男が居た、しかも声をかけてみれば大姪さんの事も知ってると来れば賢い筈の頭が暴走して襲撃犯が目の前に……それでもこれはないわぁ。

 

「グレーテルです……カルネ村付きで買われました」

 

「ダークエルフ……っ!!」

 

 グレーテルが自己紹介するとニニャちゃんが何やら感情が高ぶるようなことがあったのか身体が細かく震えている。

 何かあったのだろうか、ダークエルフというと定番としてはあくどいことをされたとかのダーティなことだったりするが少なくとも奴隷市や街中じゃそういった話は聞いてないし。

 そんなこと考えていたら、グレーテルの手を勢い良く両手で握りしめる。

 

「伝説的な詩人、ラスティさんの居る北出身ですか!?」

 

 目を輝かせながらグレーテルの手を握ったまま上下に振るっているがグレーテルは突然のことに目を丸くさせて唖然としている。

 そうか……ラスティも無事にこの世界に居るのか、ラ・クロワも北だって聞いてるから皆との再会もできたのだろう。

 しかし、伝説的詩人とはいったい何の話なのだろうか。

 

「スカルマンの流離い復讐劇、全巻持っているんです!」

 

 ニニャちゃん特撮ヒーローファンだったでござる、たっちなんかと話が合うんじゃないかなぁ。

 そして出てくるそれぞれの巻での熱い語り、俺も所詮オタクなので好きなことを語りたいというのはよくわかるのだが、俺はスカルマンを名乗ったのは管理者の塔での偽名のみのはずなのに……なぜ物語になっている。

 

『時を超えた冒険活劇!いいねぇ!』

 

 その話をシアターの方で見てるラスボス達、なにやらノリノリです。

 巻き込まれ決定化……タルタロス関連でそういったのはあったが、ラスボス関与案件で引き起こされる模様……ティンダロスの猟犬クッソめんどくせぇんだけど!?

 

「しかし、カルネ村付きという事は護送で帰られるので?」

 

 ナシェルはまだ語っているニニャちゃんを軽くスルーして、グレーテルが村付きになるという事でカルネ村に戻るのかと確認してくる。

 冒険者登録の事も報告するつもりだったので、帰るのは確かだがレゾさんの故郷でもあるから同行の願い出あたりだろう。

 

「そうするつもりだったんですがねぇ……旦那も奥方(予定)もこうなっちまってるんで、どうしたもんですかな」

 

 ムジナがサトルを見てから、奥に引っ張られたきりまだ帰ってこない女性陣へと視線を向ける。

 

「これは……時間がかかりそうですね」

 

 女三人寄れば姦しいとはいうが、長話になっているのだろう。

 一階の酒場になっているテーブルを一つ占拠してこちらもしばらく話に興ずることにすることが決定したあたりでようやくサトル君の戒めが解かれることになった。

 

「あいたた……まだ足が痺れてる気が……」

 

 ふくらはぎ辺りをもみながら椅子に座り、エンリを除いたテーブルに着いた全員と顔を合わせることになる。

 紅眼(ルビーアイ)シャグラニブドゥの欠片でもある赤法師レゾ、亡国の王子ナシェル、魔人ザビエルでもあったノブナガ、男装していた少女ニニャ……こうしてみるとニニャを除き錚々たる顔ぶれだが……どういった集まりなんだろうな。

 

「改めて、『漆黒の剣』リーダーの『魂砕き(ソウル・ブレイカー)』ナシェル=スカード」

 

「『紅導師(クリムゾン・ソーサラー)』レゾ=エモット」

 

「『心眼撃ち(アン・スケープ)』なんて呼ばれてるね。ノブナガだよ」

 

「えっと『術師(スペルキャスター)ニニャです……さっきはすみませんでした……」

 

 そんな感じで自己紹介を終えて全員分の飲料と軽いつまみを頼み、冒険者のチーム名の由来や決め方に法則があるのかとかを聞いてみたりしていた。

 

「法則という訳じゃないですが、色をチーム名前に入れてその色に揃えた装備や髪を染めたり、というのがよく見る形でしょうか。私たちのチームの場合は十三英雄と呼ばれる方の一人が使っていた剣を集めようというのを目標にしたものなので色は関係ないですけどね」

 

「へぇ、そういう決め方もあるんですね。でも十三英雄の武器っていうことは伝説的なものなのではないですか?」

 

「それが聞いた話だと、金級の『青の薔薇』っていう王都のパーティーが一本持ってるみたいだね」

 

「弟子のニニャが英雄譚や冒険譚というのが好きでね、じゃあそれを集めるような名前にしよう、となってね」

 

「師匠!?」

 

 ニニャちゃんがレゾの説明に顔を赤くして恥ずかしがり、身体を小さくして果物ジュースを飲むことで顔を隠して、などとしていたら外から占い師のような恰好をした褐色肌に紫髪というマーニャさんを大人しめにしたような感じだろうか。

 扉をあけ放ち突撃してくる様は違う気がするが。

 それと同時に奥の部屋からセレーネ、マーニャ、エンリが出てくるのだが、先ほど入ってきた女性が……DQⅣのミネアだよなぁこの子。

 

「姉さん!探したんだからね!なんでいつもの格好じゃないのよ!」

 

「いやいや、さすがに踊り子の格好は街中じゃダメでしょ」

 

「え?そんな服もあるんですか?クライムさんを夜に誘うのに使ってみては?」

 

「エンリちゃんそれ採用」

 

 更に話の輪が広がり収集が付かなくなりそうになった頃、ミネアっぽい子が懐から水晶玉を取り出し、ボール(水晶玉)相手(マーニャ)顔面(ゴール)シュート(全力投擲)超エキサイティング(すごく痛そう)

 

「っ!おぅっ!?」

 

「うわ、すごく痛そう」

 

 二人口を押えてその突然の行動に驚いている。

 

「姉さん落ち着いて聞いてちょうだい。占い(オラクル)で魔王が出現すると出たわ」

 

「あいたぁ……って、それほんとう?」

 

 先ほどとは打って変わっての真剣な表情の占い師に鼻が赤くなる程度で済んでるマーニャは鼻の痛みを誤魔化す様にさすりながら聞き返していた。

 

「えぇ、黒衣の剣士が従者を連れて冒険者となり高位の地位を得るのだけど、それは魔導王アインズ=ウール=ゴウンを偽称する魔王の偽りの姿で、本当の名前はモモンガというらしいわ」

 

「で、そのモモンガっていう魔王は何をしようっていうの?デスピサロみたいに人間の根絶?」

 

「いいえ、世界征服らしいわ」

 

「「「「ベタな魔王だな」」」」

 

 酒場の冒険者や依頼しに来た人の声が重なってい今一つになる。

 普通にこっちまで聞こえてる声量で話していることに気が付いてなかったのか、それとも落としていると思っていたか、それともここに居る人たちが想像以上に耳がよかったか、聞こえていたことに占い師の子は驚いていた。

 

「そんな、聞かれてた!?」

 

「お嬢ちゃん、落ち着いて聞いてほしいの……現在王都からの依頼でね。オリハルコン以上の実力者がエ・リスティーゼの王都に跳べる場所に集結してるからあのくらいの声だとその手の子たちには全員聞こえてるわよ」

 

 その言葉に占い師の子は希望を持つように顔を輝かせたが、セレーネはその希望とは違う方向だと語る。

 

「近く、王都にて魔神皇が五百年前の封印を破りやってくる。これが王都の王様から出された触れなのよ……世界征服?可愛いものね、魔神皇はこの世全ての生物を根絶やしにするつもりらしいわ。マーニャ、この子の占いの精度ってどの程度なものなの?」

 

「えーっと、邪悪なものにはすごく敏感でその手の占いは外れたところが見たことがないってくらいかな……。そもそも「こっちでは」幼少のころに行方不明になったから……セレーネさん見れないです?足手まといじゃなければ一緒に連れていきたいって思ってるけど」

 

「無理ね、この子ギリギリプラチナ級だけどソロだから、一個落ちて金級ってところね」

 

 魔神皇の言葉にナシェルの表情が一瞬硬くなる、それはほんの一瞬でここにはそれに気が付くほど付き合いの長いものも、事情を知っているものも、心理学に聡い者もいなかった。

 こんなおっさんくらいしかいないってのもアレだよなぁ……ナシェルが居て、ニースが居て、ワールウィンドが居て、そして魔神皇……ラフィニアが居ることで立てた仮説は崩れたが別の仮説が立った。

 マーニャとミネアが居るという事はそっちの仮説になるか。あぁ、本当に胸糞の悪いシナリオじゃねぇか。

 ミネアが勇者を探す協力を願い出たところで、俺はサトルから主導権をもらう。

 

『どうしたんですか?』

 

『姉妹喧嘩は煽ってやるとこまでやらせなきゃダメだろ……いっぺんくらいはな。相手を気遣って言いたいことも言えないようじゃ、どちらか一方がため込むんじゃだめだろうよ』

 

 骸骨の姿になり、周りをちょっと驚かせながら二人の間に割って入る。ミネアに掴みかかろうとする手を掴み、それに驚いているミネアの肩を掴む。

 

「さてここは騒がしい場所だが、何をしているのかな?言いたいことがあれば応存分にぶつければいいさ。言葉でな?奔放に見えて妹のストレス発散に付き合っていたお姉さん?」

 

「え?」

 

 疑問の言葉はどちらからこぼれたものか。

 掴んだ骨の手を見開いた眼で見るのはどちらか。

 

「そんなにも驚くことかね?アンデッドが冒険者をしているというのが……なぁ、セレーネさん」

 

「まぁ、私もゴーストだしね。対話ができて無闇に暴力を振るうようなことがなければ大丈夫よ。冒険者組合は貴方を歓迎するわ」

 

 セレーネは俺の言葉に苦笑しながらも俺という存在を肯定する。本来の人間主体の社会では忌諱されるべき存在を受け入れることができるのも王国の評価が大きい所だろう。

 

「さて、俺への驚愕も解消された。席に着きたまえ、会話とは同じテーブルについてするものだ」

 

「魔導王……アインズ・ウール・ゴウン」

 

「それは所属しているギルド名だな。君はまず俺と話すよりも姉と話すべきでは?好き放題していたように見える姉がどれだけ溜め込んでいたか、存分に聞くと良い」

 

 マーニャは既に席に着いており、俺はマスターに目配せして飲み物を三つ持ってきてもらう。

 透明で普通の水に見えるが、お酒である。度数はそこまで高くないがな。

 使命がどうの、運命がどうした、神託なぞ話にもならん……まずミネアはしなきゃならないことがあるだろうに。

 やや無理やりに席に座らせて、向かい合わさせ、俺はその中間に双方から見えるように横に座る。

 

「さて話し合ってもらう前に、俺の知っている勇者という人物を語っておこう」

 

 俺の語る勇者は故郷を焼き払われ、魔王を倒すための旅を始め、その途中で仲間になった者たちと魔王を討ち果たし世界を平和にした、実によくある英雄譚。

 

「魔王は倒され、世界は平和になりましたとさ……めでたしめでたし。と気持ちよく終われたらどれだけいいだろうなぁ?日常を失った勇者はどうした?帰る場所を失った勇者と呼ばれた英雄は、日常に戻っていく仲間を見てどう思っていただろうな」

 

 めでたしめでたしで拍手していた簡単なサーガを聞いた観客はその後に続く言葉に空気を凍らせるが、これはサトルの世界では後発のものがコラボしたストーリーで、マーニャとミネアには生きた世界での話、そしてここの世界では異なる世界と取るか妄想と取るかどちらでもいいがありきたりな物語、だからこそ聞いていられるもの。

 その戦いを、英雄という戦いをなんと称するか、それを人は地獄と呼ぶ。

 

「俺としての勇者ってのはそんなイメージなんだがね。同じ人物かどうかは知らん……知己を日常を当たり前を、もしこの世界で再び手にしているのなら、もう一度その地獄に戻れとはとてもじゃないが言えんがな」

 

 地獄を知ってそこに自分から戻れるのは狂人だ。

 マーニャは両世界の勇者を知っている、ミネアは前の世界の勇者だけを知っている……マーニャの怒り様は大体の像が違わなかったという事。

 さて、こいつは誰の夢みる世界だ?

 




冒険者組合  出典:オーバーロード

アダマンタイト:数多くの偉業を成し遂げた英雄的存在。人類の守り手。

オリハルコン:アダマンタイトほどではなくとも英雄に近い超常級冒険者達。

ミスリル:かなり腕の立つえりすぐりの上級冒険者たち

白金:第三位階魔法もしくはレベル3の魔法が使えるものがいる冒険者たち。

金:一国の精鋭兵並みの力がある冒険者

銀:オーガやゴブリンを相手に狩りを出来る冒険者たち。よく訓練された兵と同じくらい。

鉄:村だったらかなり強いという評価が得られる位の強さな冒険者。

銅:登録初期の駆け出し冒険者。


 これが原作の冒険者の強さ表というところ、これがこの作だとこうなる。


ヒヒイロカネ:アダマンタイトと認められる且つ5000白金貨以上のウォンテッド討伐且つLv100以上であること

アダマンタイト:約束を守ることへの信頼が厚く、それを判断するだけの依頼数を成功させた猛者たちの階級だが、癖の強い者が多い。本作のガゼフはこの階級 Lv70以上が必要

ミスリル:カッツェ平原での恒常的な狩りができる者たち、王国の近衛兵はこのレベル。なおカッツェ平原奥地ではダークロード(分身)がリポップするのでその対処法を模索するだけの腕が最低限必要。最上位職を一つ以上開放が必要。

白金:第七位階魔法もしくはレベル7の魔法が使えるものがいる冒険者たち。大体レベル50代。現地の人間では限界突破が可能なアイテムを手に入れる必要が出てくる。

金:カッツェブートキャンプを終えたガチ精鋭兵並みの強さ。デスナイトとのタイマンが必須。

銀:条件なく昇級させられるランクであり、大体20レベルとかがこのあたり。

鉄:兵役を終えた平均的な大人たちが大体このランク。オーガやゴブリンの集落を相手取れる。

銅:他国からの移籍冒険者やワーカーの多くがここに落とされる。


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episode.11 「赤に染まる鬼神と恐れるべき竜」

コロナ早く納まらんものか……
第三波とかマジ勘弁して


 鈴木さんが身体の主導権を握ってる間、俺はいつもの部屋からその風景を見ていたのだが唐突にその部屋にノックの音が響き、前のように何もなかった壁にドアが浮かび上がり開かれる。

 

「ハロハロー、元気してた?部下S君」

 

「当然のように返事待たずに入らないでくださいよ、えー……L様。ところで今度はどうしたんです?」

 

 L様というのがどういった存在なのかは鈴木さんから、他の世界を創り出した上に神や魔王といったワールドエネミーのような存在を生み出せる超級の化け物と聞いている。

 

「そうそう、喜びなさい!かわいい双子が居たから片方に神託与えて巫女にしたわ!」

 

「おー……いや!?何やってんだ!?L様ぁ!」

 

 胸を張って言うL様に勢いで大きな声でツッコミを入れてしまう。

 

「でも必要でしょう?」

 

 嗤いながら俺を見て言い放つL様。

 

「貴方は弱い凡愚だもの、目的もなく、目標もない」

 

 それは玩具を見つけた猫のように残虐な瞳をしていた。

 

「人としての幸せ?苦痛なく生きていたい?それが目標とでも?」

 

 心の奥底をほじくり出す様にわかりきっている表層を砕いていく言葉。

 

「知らないものを見たい、未知を解き明かしたい、冒険をしてみたい……平々凡々とした幸せを望んでいない。ほぉら、あなたが口にする望みとは真逆のあなたが居る」

 

 心の底で燻ぶる願いを引き摺り出され、その願いを見てなおL様は嗤っている。

 未知を知りたい、冒険をしてみたい、それはユグドラシルを始めたころの望みで今はリアルとなったこの世界では望むべきではない事。

 それでも、楽しみではあったのだ。

 だからこそ生活の基盤として冒険者という職を選んだ。

 

「だから、巫女を手に入れなさい。囲いなさい、それは貴方の標になるでしょう」

 

 囁くように耳元に声が触れるようにすぐそばで喋られているように感じる。

 

「それが出来たらご褒美をあげましょう……それは必ずあなたに必要となるわ。そう……夜の性活で『アヒィッ!』しなくなるわよ!」

 

「あんた、マジで何しようとしてんだ!?」

 

 L様のご褒美の話にどんなものがと思っていればあまりにもあまりな褒美の話をどや顔でするL様にツッコミを入れてしまう。

 本当に何をしに来たんだ、この人は。

 

「冗談よ冗談。それと気が付いてるかしら?『彼は貴方に嘘をついている』」

 

 手を口元に当てながらぷーくすくすとわざわざ声に出しながらも、最期にはこちらを剣呑な眼差しで射貫きながら、気が付いているかどうかに確認してきた。

 

「まぁ、言えないことの一つや二つくらいあるでしょ」

 

 鈴木さんの過去や知っていること、わかった事、何を目的に動いているのか。

 俺の答えを聞いて若干残念そうに演技をしながらもニヤニヤと目が笑っている。

 

「あら残念、もっと彼に執着するかと思ってたのに……うんうん、でもただのごり押しパワープレイや下らない八百長マッチポンプでつまらないことをしないみたいで安心したわ。つまらない、くだらない人生を私たちに見せるならこの世界もリセットしちゃおうかと思ってたし」

 

 そんなことできるはずがない、と言えないだけの実力を持っている存在だとひしひしと感じられる人物が言うだけに恐ろしいと感じてしまう。

 とんでもないことを世間話のように軽く言われているのに、世界を壊して作り直すことを飛んでいた蚊を叩き潰すような気軽ささえ感じられる。

 

『姉さんの裏切りものぉぉっ!!』

 

 モニターから流れる唐突な怒声に驚き振り向けば、駆け出していく占い師の後ろ姿。

 

「あら時間切れね、それじゃまたねー」

 

 そう言って手を振りながら入ってきた扉をくぐれば、霞に消えるように入ってきた扉は消えてしまう。

 

「はぁ……」

 

 ため息を一つ付きモニターを再度見やれば視界がぶれて、また身体の主導権が俺に戻ってくる。

 鈴木さんが嘘をついている、それは薄々感づいていたことではあるのだが改めて突きつけられた事実にはわかっていてもやはり心にくるものがある。

 

『鈴木さん、もし話せる時が来たら話してください』

 

『ふむぅ……ぶっちゃけ聞かなきゃよかった、と思えるものの方が多いと思うが』

 

 話すことを渋られるが、それでも聞かないよりは聞いておいた方がいいと俺は思う、その思いはすぐさま翻されることとなるが、それでも聞くと選択したのは俺なんだ。後悔はちょっとしかない。

 

『L様みたいのが三名あの本通して俺たちを見てるのと、L様ほどではないがそれでも俺らが束になってもどうしようもないのが少なくとも二名追加で居るな』

 

 L様が四人とミニL様二人を想像して、頭を抱えるどころか胃の辺りがキリキリと痛くなってくる。

 L様一人でも手に余るというのに、さらに人数増えるとかどうしろというのか。

 

 

 

 マーニャさんから妹さんの名前がミネアさんだと教えてもらい、もし他所で見かけたら声かけてあげてやって、と頼まれカルネ村に戻るのに漆黒の剣と一緒に行くことにした。

 

「でも良かったんですか?」

 

 ニニャがこちらに依頼料として払ったお金のことを考えての言葉なのだが、これには知識の披露も含んでいるのでむしろ安いと思っているくらいだ。

 

「むしろあの値段でよかったのか、そっちの方が疑問なんだけどなぁ……ぺーぺーの冒険者になったばかりの俺達にベテランの漆黒の剣にレクチャーしてもらうんだから」

 

 そんな話をしながら南門を潜っていたら来た時と同じようにソイヤウォーカーとすれ違う。

 今度は目が合うことはなく、ソイヤウォーカーの背に乗っていた荷物?が無くなってその在りは初めて見た時よりも軽快そうだった。

 

「相変わらずよくわからない掛け声ですよね」

 

「ありゃぁ、神輿を担ぐときにかける掛け声でさぁ。添いや沿いやってなぁ……神様担いで連れ添い続いて行かせてください、一緒に居てくださいって意味なんでさぁ」

 

「ほほぅ、そのような由来がある掛け声なのですか……しかしクルマがあれば移動も楽になるのですがどこかに落ちていないですかね……」

 

 エンリが疑問を声に出せば、ムジナがそれに答え、レゾさんがその答えに感心していた。

 確かにクルマがあれば歩くよりも快適なのだろうが、しばらくはこうしてわいわいと騒ぎながらのんびりと歩いていく方がいい。

 ゲートで移動してしまう方がきっと一瞬ですんで楽なのに、こうして多人数で他愛もない話をしながら目的地へと向かうなんていつ以来なんだろう。

 もしも……もしも、鈴木さんが居なくて、あの本がなくて、人間の姿になれず、ナザリックのメンバーとばかりだったらこんな風に考えることはなかったのではないだろうか……あの忠誠の儀を思い出せばこうも気楽な旅路なんて夢のまた夢だったのではなかろうか。

 レゾさんとノブナガが地図を見ながら道筋を確認して、ナシェルが背嚢を肩から引っ提げて皆を呼ぶ、テッドが酒瓶片手に飲みながら最後尾をどっしりと歩きながら、エンリとニニャが隣に居て……脳裏に浮かんだIFはどこまでかけ離れているのだろうか。

 モンスターの報奨に使われる部位や、武具強化に使うことのできる部位もあるという話を聞きながら街道を歩いていれば、レゾさんとノブナガが地図を再度広げて首をかしげていた。

 

「こんなところに湖なんてあったかな?」

 

「いや、私がエ・ランテルに来た時にはなかったから……少なくとも十年前にはなかったはずだが」

 

 そういえば、狂戦士との戦いで出来上がったこの大穴のこと忘れていた。

 

「来るときは(この大自然の中)エ・ランテルに向かうことで(景色見てて)忘れてたなぁ……すいません、この湖造ったの俺です」

 

 俺の口に出した言葉にテッドを含めたこの湖を見ていないメンバーがこちらを見る。

 

「えっと、ですね……」

 

 その目は何をした、と喋るよりも明確に圧を加えてくる。

 

「ま、まずは落ち着いてください!?カルネ村が襲撃にあったというのはレゾさんも知ってますよね!?その時に大穴ができてしまったんです……」

 

 話してる最中にレゾさんが肩を組みながら腕を首に回して物理的に圧をかけてくる。

 

「ほぅほぅ、詳しく……この『垂直』に大穴を開けるようなことをしでかすような襲撃だったのか、詳しく聞こうか」

 

「レゾさん……あなたもたまに強い敵がいれば、吹き飛ばしているでしょう」

 

 ナシェルが助け船を出してくれるが、それをレゾは一言の元に切り捨てる。

 

「私が作るのはクレーターで、このように底の知れない孔は作らない。そして、これだけのことを出来る力をサトルからは感じられない……」

 

 これは文字通り何をしたのか、それを知ろうとしているのだろう……それよりもレゾさんの両目から薄っすらと真紅の光が漏れてるように見えるのは気のせいだろうか。

 

「俺もよくわからないので、違うかもしれないですけど。天使殺し?天使喰らい?とかいうのがスレインの偽装兵士を倒した後に、スレインの聖光法典というのが脱走兵としてその偽装兵を捕らえにくるのと、カルネ村だけじゃない周辺の襲われてた村の救援に来ていた王国の戦士長の部隊とぶつかったんです」

 

「なるほど……君はそれを止めようとしたのかね?」

 

 何に納得したのか……俺にはわからないが鈴木さんも何も言わずに聞いているみたいだから、あの時に何をしていたのかを思い出そうとしてみる。

 

「確か戦士長の実力を見るために遠見の鏡で見ていたはず……あれだけの罠を張っていたのだから勝だけの戦力を集めていた、んだと思います」

 

「全然足りないな、ガゼフを本気で始末するつもりだったなら漆黒法典に火滅、聖光を加えて勝率が3割といったところか。だが、君は戦士長の部隊も見ていたはずだが?」

 

 そう言われはたと気が付く。

 それに気が付いてしまえば手で口を塞ぐ。

 俺は見ていたはずだ。レベル100の俺からすれば柔らかいとはいえ、それでも存分に魔力(データ量)を込められたあの装備に身を包んでいた戦士団を。炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)程度に頼る聖光法典に負けると考えた?どう考えても戦士団が勝つ未来しか見えないのに? なんでそう考えた?

 

「ならそうしたのは、その後に現れた何者か?」

 

「いや、違う……あれは純然な戦士だった。ならそういったことはできない筈……後ろで糸を引くのがいる?」

 

『黒のアリスが確かに糸を引いていたが、目的は軌道修正だ。冒険者組合で時間停止させて接触してきた』

 

 時間停止の対策はしているはずなんだけど、組合の中で接触したのなら俺も見てる筈だから……ユグドラシルの物とは違うのかもしれない。

 

「ふむ、そういうことか……なら目的は、違うか……」

 

 レゾさんは回していた腕を放し、腕を組んで考え始めてしまっていた。

 それを見てノブナガさんが話しかけてくる。

 

「ありゃ、レゾ君考えこんじゃったか。こうなると長いからねぇ……エンリちゃんから聞いたけどこっち側から来たんなら今度はこっちから回ってみようって話になってるよ」

 

 左手で俺たちの来た方向を、続いてこれから行く方向を指し示す。

 

「レゾさんは良くこうなるんですか?」

 

「たまに、ね。普通ならどうでもいいと深く考えないようなことなんだろうけど……『僕達』がどうしてこうして生きているのか?って考えたことがあるかい?」

 

「いや、そんなことを考えたことは……」

 

「また難しい話をしているんですか?」

 

 進む道が決まりそれぞれに荷物をもって……エンリたち女性陣の荷物は俺の無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァザック)に入れてるけども、進もうとしたところでエンリが顔を覗き込むようにして話しかけてきた。

 

「そこまで難しい話はしてないかな。レゾ君は難しく話すかもしれないけどね……多分これから起きるだろう事を探ろうとしているんだと思うよ。サトル君のあれだけの話からね」

 

 ノブナガはそれに苦笑しながらレゾさんのしていたことを簡単に説明してくれる。

 デミウルゴスが頭がいいという設定だけど、これレゾさんの方が頭いい感じなんじゃないかな。

 

「(俺には『生きている理由』なんてのはわからないけど、『生きていたい理由』はただ死にたくないから、『皆と歩んでいきたい』に変わったんだよな)」

 

 歩きながらノブナガさんにかけられた言葉を考えてみると、問われたこととは違うが今の自分というものを見直す言葉でもあった。

 それは覚悟を改にするものであり、それは俺の願いにも似ていた。

 

「レゾ君はどう考えてる?厄介事は起こるかな?」

 

「うん?多分エ・ランテルに戻ってくるころか少ししてからだと思うよ。パンツが破廉恥娘を捕まえたって言ってただろう?パンツが動く必要があって、且つ女性でその姿を好んでいるってことは法国の漆黒法典の何番だったか……番号はいいか、疾風走破とかいう子だ。法国が動く以上近く要らないことをしでかすのが相場でね、元法国のズーラーノーンが墓所に潜んでて法国から漆黒法典が動いた。まずエ・ランテルで有名なタレントのンフィーレア=バレアレを利用して騒ぎを起こした後に風花で拉致、救出を銘打って法国に引き込むといったところだろうね。エ・ランテルで騒ぎを起こすことで王国軍と帝国軍を動かしてエ・ランテルを帝国領に、一緒にガゼフで出てきて殺せれば重畳とか考えてるんだろうねぇ」

 

 どれだけ考えてるんだろうかこの人は……それでもその作戦に穴があることに気が付いた。

 

「サトル君はその破廉恥娘が捕まったなら無理じゃないか?と考えてるんだろうけど重要アイテムさえ渡していれば、後は拉致するだけだからね」

 

「いえ、そっちではなく……ンフィーレア君が今エ・ランテルに居ないそうです」

 

「それでも帰ってくるだろうから起きると思うよ、予想から多少ズレは出るかもだけどね」

 

「うわぁ、伯祖父さんすごく先を考えてるんですね」

 

「ところでそのンフィーレアという子を知っているのかな?エンリは」

 

 これはまだ見ぬンフィーレア君とやらに合掌しておこう……俺がされたようなことになるんだろうエンリの事になるとレゾさんの目が赤く光るのがすごく怖い。

 大穴が今まであった街道というか畦道?とりあえず街中のようには舗装されていない道が消し飛ばしている為湖の近くをのんびりと歩きながら森の方をたまに見ていた。

 

「うん?」

 

「旦那、森から来てますぜ」

 

 ノブナガとムジナが注意を促すので森の方を注視すれば、背の高い草の間から腰丈位のハニワ?パンドラのような顔をしたハニワが数匹跳ねながらアイヤーとかハニホーだとか叫びながら慌てるように散っていく。

 

「上でさぁ!」

 

 その声で全員の視線が上に向くのだが、森の上には首長竜?陸竜だっけ?とりあえず陸上タイプの首の長いドラゴンの姿と機械化した同種だと思われる姿が確認できた。

 

「ニニャ、詠唱をしますのでよく覚えるように。消費は大きいですが高火力ですからねぇこれは……『黄昏よりも昏きもの、血の流れより紅きもの、時の流れに埋もれし偉大な汝の名において……」

 

「それだけの相手ですね、ムジナさんとテッドさんはニニャとエンリさんを頼みます。サトルさんも詠唱お願いします、ノブナガは周りの警戒、私は他に雑魚が居るならそちらを始末します」

 

 ドラゴンもこちらに気が付いたのか口を開きこちらに向かってくるのだが、身体の大きさも相まって速度が想像以上に早い。

 早いのだが、そう見える以上に距離が開いているせいで、こちらの詠唱は手早く纏めて撃ち放つ。

 鈴木さんのように複数の詠唱を同時に終わらせるという神業的なことはできないが、それでも俺もユグドラシルではそれなりのPS(プレイヤー・スキル)を持っていると自負している。

 

万雷の撃滅(コール・グレーター・サンダー)!!魔法無詠唱化(サイレントマジック)隕石落下(メテオ・フォール)!!」

 

「我ここに闇に誓わん、我らが前に立ち塞がりしすべての愚かなものに我と汝が力もて、等しく滅びを与えんことを———竜破漸(ドラグ・スレイブ)!!』」

 

 レゾさん手から伸びる光の線、天から降り注ぐ幾多もの雷が束ねられ機械の部分に炸裂するのと同時に生体の方の首を中心に大爆発を起こしていく。

 少し遅れて隕石が落ちてきてドラゴンの身体を圧し潰しながら焼いて周り毎吹き飛ばす。

 これだけの魔法を叩き込めば普通の雑魚敵なら十分なのに、傷つき苦悶の唸り声をあげながらこちらに突撃してくる。

 

「ぎゃあおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!」

 

 その叫び声は森から逃げようと飛んでいた鳥を気絶させ、かなり離れているはずのこちらまで振動で震えるほどの大きなものだった。

 ただ突撃してくるような相手だと思って油断があったのかもしれない。

 まさか十数メートル級の火の玉を飛ばしてくるとは。

 

「ウォータースクリーン!カウンターマジック!プロテクション!」

 

「ウォーターウォール!アンチファイアスキン!」

 

「パーシャルドラゴン!私が受けます!」

 

 そう言ってナシェルの姿が半竜人とも呼べるような姿になり両手を広げて俺たちの前に仁王立ちする。

 

「っ……!?」

 

 それを見て咄嗟に何か声を出そうとしたが間に合わず、ナシェルの身体に火の玉がぶつかり焼き尽くしていく。

 

「こ……の!!腐れトカゲ野郎!!まだ生きてやがったのかぁあ!!」

 

その直後、ボロボロになった赤い鬼の様なブリキ人形にも似た巨体が、森の中から現れドラゴンの首を手に持った斧でぶった切っていた。

 

 

 

 一方そのころカッツェ平原では一台の野バスが駆けていた、追いかけているのは一本角をもった角竜でその体は25メートルにも及ぶでかさを誇っていた。

 そんな化け物を相手にミサイルランチャーを担いで野バスの屋根から応戦している女戦士が居た。

 

「ちぃ!こんなところでサイゴンの変異種に出会うなんてね!ルーク!運転シクるんじゃないよ!」

 

「わぁってるよ!マリアの姉御!アルシェんとこの双子の嬢ちゃん乗せてんだ、シクってたまるかよ」

 

 角から放たれる雷撃を右へ左へ蛇行しながら避ける度に後ろの座席から双子の笑い声が聞こえてくるのだが、この状況を楽しめるの双子の将来が楽しみだと二人は内心ほくそ笑む。

 

「ミサイルパーティでも喰らいなぁ!!でかぶつぅ!」

 

 連続して放たれるミサイルがその巨体を包み込むように炸裂していく。

 

「随分な相手のご様子。このブラッディナイト、助太刀いたそう」

 

 そう声をかけながら一太刀の元、前の片足を切り抜く事でバランスを崩させその勢いのままあらぬ方向に角竜は転がし、野バスが逃げるだけの時間を稼いでくれた。

 

「サンキューなぁ!ブラッディナイトさんよ!」

 

「「ばいばーい血塗れの鬼さん」」

 

 それを見送りながら、ブラッディナイトは剣を改めて構え直す。

 

「ふむ、正義の味方の真似事というのも存外……悪くないものよ」

 

 かつてある記憶では多くの者から恐れらていた記憶しかない、それがこのような真似事を行ったとはいえ感謝をされるというのは主となった悟を除けば初めての事だった。




 ゲッターエンペラーは困惑していた。
 なぜ?なぜ自分はこのようなスクリーンの前に居る?惑星よりもはるかに巨大な姿が人間サイズになっているのか。
「ゲッペラーよ、スクリーンの上を見るがいい」
 男性の言葉に従わされスクリーンの上部に視線を這わせれば女性二人が縛られ吊り下げられていた。
「あの糞鯨とドブ川のようになりたくなくば、大人しく見て居れ……いらんことをしようと考えるなら、三人目として貴様が並ぶぞ」
「マーファとアルアジフちゃんは大人しく見てるからいいんだけどねぇ……許可なく手を出すならさくっと潰すわよ」
 その言葉に恐怖する、ここまでの力を手にしながらあっさりとそれを可能とするこの人物たちに恐怖を覚える。
 そしてそれを破った末路が吊られている二人なのだと、理解する。


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閑話 「宿題の答え合わせ:デミウルゴス編」

短いものだけど


 管理者の塔が崩れたその後日、部屋でくつろいでいればドアをノックする音が聞こえ続いて来訪者が名を告げてくる。

 

「モモンガ様、デミウルゴスです。今お時間はよろしいでしょうか?」

 

「かまわない、入れ」

 

 何の用だろうかと思いながらも部屋の中へと招き入れる。

 

「先日出された宿題の答えをと思いまして」

 

 宿題?何かあったっけ?などと疑問に思っていれば鈴木さんの声が頭に響いてくる。

 

『忠誠の儀とか言ってた時の奴だな。忠誠を受け取る気はない、なんで受け取らんか考えろって奴だ……答は単純なもんだ、自身に誓うものであり相手に信じてもらうようなもんじゃない。ニグレドから前に送られた映像を見たときサトル君は眉をしかめてたがな、不信を買ったからと狼狽えるような忠なんぞ心底から信じれる物か。ただ自己満足の言葉にすぎんから忠誠としては受け取らんのよ、忠誠とは国家、組織に真心こめて二心なく仕える、服従することを指す……それは相手に信じられようが信じられまいが貫くものだ。受け取ってもらえないからと贋作だというようなものを捧げられてもな、サトル君も困るだろう?』

 

『確かにとも思いますけど、それでも……可哀想では?』

 

『可哀想かもしれんがな、それでも自力で気付けないのならあいつらは自分たちの枷である設定を破ることはできんだろうよ。何よりも受け取らんというだけで誓う事自体は否定してないからな』

 

 からからと笑う鈴木さんに底意地が悪いと思いながらもデミウルゴスに言葉の先を促す。

 

「うん、答えて……あぁ、答えるのは一度だけにしようか。当てずっぽうでぐだぐだになっても仕方がないしな、これだと自信のあるものを答えとして聞くとしよう」

 

 その言葉にデミウルゴスの顔は青くなり、若干震えているように思える。

 

「やはり……そういうことでしたか。やはり私達ではモモンガ様の英知には足元にも及ばず私達では力不足だという事なのですね……力無き者は忠に能わずと……」

 

 こいつは何を言っているのだろう。

 ちょっと会社に置き換えてみようか……社員が不信に思われて不安に思っている。まぁ、これはわかる。

 力不足だから能力足りないから信じてもらえないのだと言っている……それは能力を把握してない上の失態でこいつらの失態ではない、よな?

 というかデミウルゴス達NPCと俺とは在り方そのものが違う筈なんだが、何を基準に力不足だと言っているのか。

 少なくとも能力不足ですと自己申告してくる部下は何ができるかしっかり調べてからじゃないと使えないよな。

 自信を持たせる必要はあるが必要以上に持たせると何をしでかすかわからないのが怖い上にこっちの言葉でどこまで自信をつけてしまうのかがわからない。

 

『なんと声をかければいいのか……』

 

『ここは俺が代わろうか、ちっとひどいがはっきり言ってやるのも優しさってものよ。中途半端にするのは優しさじゃなくて甘さだからな』

 

『すみませんよろしくお願いします』

 

 オーバーロードの骸骨姿になり鈴木さんが表に出てくる。

 

「それがデミウルゴス、お前の答えか……残念ながら間違いだ。そして無能の働き者がどれほどの害悪かはお前も知っているだろう?それを自分からそこに貶めるようなものなど使えるものかよ」

 

 その言葉にデミウルゴスは絶望に沈むように力を無くしていく。

 

「あ…あ……」

 

 それは自分の失態に気が付くものであり、それがどういう意味か示したものだろう。

 

「用が済んだのなら退室しろ」

 

 退室を促されたデミウルゴスは俺から見ても気落ちした様子でとぼとぼと部屋を出ていく。

 

「まったく……気付かんものだな。デミウルゴス位の知恵者なら気が付きそうなものだがな……受け取らんと言っただけで誓うことそのものは否定してないのになぁ」

 

 それだけ受け取ってもらうことは大切なのだろうか……守護者たちにとっては、ナザリックで創られた者たちにとっては自身を認めてもらうようなものなのかもしれない。



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episode.12 「カルネ村帰還……のまだ途中なんだが」

JtR0000さん誤字報告ありがとう


 先程無理から首を出していたメカザウルス……ズーだったかと思うが、それの生首を切り飛ばしたゲッターロボ、これは旧というか初期ゲッター。

 鬼のように二本の角を持ち赤を基調としたその姿は赤鬼を連想させるものだが、損傷は凄まじく無事な部分という場所を探す方が難しいほどの大破具合、左腕は既に失くしており胴体にも大穴が開いており腹部から伸びているケーブルには壊れたゲッター炉心がぶら下がっている。

 

『あれでよく動けたものだ』

 

 感心というよりもそれは驚愕、驚嘆に近いもので呟くように声に出してしまう。

 ナシェルが吹き飛んだ跡を見てサトルは膝をつき呆然としているが、パーシャルドラゴン使ってたからファイアプルーフ、ヘヴィスケイル、ワイドウィングが含まれてたはず。

 

「あいたたた……」

 

 サトルが本を取り出すのを決断するのと同じくらいに声と影がかかる。

 声に気が付き顔をそちらにあげれば半竜人化したナシェルが飛ばされた上空から無事降りてきたといったところだが、仁王立ちは流石に博打だったんだろうな。

 上半身の鎧が無くなって、鱗の生え際もあってか随分とワイルドな姿になってしまっている。

 

「無事だったんですね!ナシェルさん!」

 

「無事、とはちょっと言い切れませんがね」

 

 苦笑いを浮かべる顔は大半が血に染まり、身体に見える鱗もかなりの部分が損失して血を流し身体全体を赤に染め上げるほどのもの。

 ファイアプルーフで炎や延焼は防げたものの爆発の衝撃による裂傷が目立つことからヘヴィスケイルじゃ焼け石に水だったが軽減そのものはできた感じから、物理攻撃であり魔法としての特性は持たない……サイズ差によるものは大きいと見たほうが良さそうだ。

 

「それにしてもその傷は大丈夫なんですか?」

 

 エンリちゃんの目がナシェルの腹筋にいっている。

 

「そこは私が治しますよ、ナシェルは早く服を着なさい」

 

 やっぱり色々と魔法関係は使えるのか……この世界独自の魔法や他の魔法も習得してておかしくない人だからな、レゾという人物は。

 

「ベホマ……やはり契約呪文というのは便利ですね」

 

 呪文を唱えれば淡い光がナシェルを包み瞬く間に傷をいやしていく。

 案の定使えるよこのバグキャラ……赤い光が瞳から漏れていたことからシャグラニブドゥにも覚醒してないだろうな。

 

『とりあえず問題がないならあのロボット……この世界だとクルマになるのか?ゴーレムとも言われそうだが……多分、人が乗ってるんじゃないか?あの損傷だと結構な怪我をしていると思うが』

 

 ゲッターロボ、腹の穴、潰した炉心、武蔵……なのだろうな。

 声が聞こえたことで人が乗っていることはこの場に居る全員も気が付いていることだろう、こちらの治療が終われば助けに行こうというくらいには善人が揃っている。

 問題はゲッターロボをどうやって移動させるか……こちらの手持ちで運べなければガルガンチュアに頼んでみるとしよう。

 

「そ、そうですね。あと俺も契約できないか試してみたいです、レゾさん教えてもらえますか?」

 

 ゲートをここからでも見えるゲッターの前に繋げながら、新しい魔法に興味津々なのかレゾが使った魔法が自分にも使えないかと教えを乞いていた。

 

「そうですね私が教えるのはやぶさかではないですが……ニニャ、あなたが教えてあげなさい。教えるという事は自身の知識を確認するという意味でもちょうどいい授業ですから、失敗を恐れず挑戦してみなさい。間違えているところがあれば私が修正しましょう」

 

「う、はい。がんばります……ところでこの暗闇はなんなんでしょう?」

 

 レゾの言葉にニニャは一瞬不安げな顔をするがレゾがちゃんと監督してくれるという事で両手を握りこぶしにして頑張る姿勢を見せる。

 楕円を下半分切り取ったような形で広がる飲み込むような闇を見て警戒するニニャが新鮮に映る。

 

「これはゲート、ここを始点に別の場所……今回の場合はあの鬼神の場所に繋げている位階魔法の一つその他に分類されるものですね。似たようなものでポータルという魔法がありますがあれの上位版で行き来が可能なものです、習得にはテレポートなどの空間系が必要ですね」

 

 失敗してもいい状況を作れるって本当に良い環境なんだよな……デミウルゴスは自分から意に沿わないことを理解して引っ込んで今の仕事を選んでくれたから助かったが戦力とするにはまだ気づけないというのは痛いな。

 気付いてくれんととてもじゃないが使う気になれんからなぁNPC(しもべ)たちってのは。

 

「空間系の欠点は失敗すると壁の中に出たり、人と変な融合をしてしまうことが挙げられます。使用には十分気を付けなくてはいけませんよ……かつてそれを利用した悪魔が居たとも伝えられていますから」

 

「テレポートで空高くに飛ばして地面に叩きつけるなんてことも可能ですから、ある意味凶悪な魔法ですしね」

 

「地面に設置して進路妨害とかもできそうだねぇ、遺跡にはそういったトラップも少なくはないし」

 

 テレポートの話に広がりながらゲートを潜れば、目の前にはクレーターの中央に片膝をつく形で佇むゲッターロボの姿。

 

「うわぁぼろぼろ……」

 

 その姿を見てグレーテルが思わずといった形で呟く、ゲッターが佇む横にはメカザウルスが首を無くした状態で横たわっており所々に紫色の腫瘍のようなものが見れる。

 

「アポトーシス……」

 

アポトーシス(自壊細胞)?機械の部分にもついているように見れますがサトル君はアレが何かを知っているのかね?」

 

「あれ?アポトーシスって……ラスティさんの書いてた物語で最初の方の敵の軍勢の事じゃ……」

 

 呟くサトルにいつ見たのか疑問を持つが、それよりもアポトーシスがこうして地上に出てきている事実こそが問題だ。

 アポトーシスはタルタロスの内部に居ることが基本だが……例外が存在する。

 ルカのように仲間にして連れ歩く等平和的なものと、もう一つ世界の終わりが近い時タルタロスから這い出てDNAを乗っ取りながら侵略を、世界の崩壊を進めてくる。

 似たようなものにカオス関連がいるが、あれはカオスの到来を早めるという役割を持つ。

 

「ん?ここが開くみたいだね……回復班早く来てくれ!中の少年が重傷だ、腹から(はらわた)もちょっとはみ出てる、火傷なんかも酷い状態だ!」

 

 ノブナガがゲッターのベルト部分から工事用ヘルメット、剣道の胴防具、マントを羽織り背には日本刀を背負った少年をロッククライミングよろしくゲッターロボの凹みを掴んで……どこに凹みがあるんだあれ。

 とりあえず、無事に素手登攀してコックピットから武蔵を引き摺り出し抱えて飛び降りてレゾがそれをフォーリング・コントロールでフォローする。

 そしてそれにエンリが駆け寄ってキュア・ウーンズを何度か使い傷を塞いでいく。

 それと同じくらいに木の葉の揺れる音と木の葉が擦れる音が遠くから聞こえてくる、先ほど逃げていたようにハニー達が集まってきているのかもしれない。

 

「まずいね、治療は動かせるくらいまで回復したかい?戦いが終わったことでハニー達が集まってきている。物理系の範囲攻撃手段がないから引いた方が無難だ」

 

 まだゲートは開いている、ゲッターロボを諦めれば……逃げることができるだろう。

 

『(すてらるむ さどくえ あすぐい……精神同調(魂の接触)聞こえるかガルガンチュア?そうだ、お前に頼みたいことがある。ゲッターロボ、姿はこんな感じだ……あぁハニワ共に奪われるだろう、奪還を頼めるか?すまんな助かる。ふむ、ナイアと名乗る女にアルベドが攫われた?わかったそちらはこっちで探してみる)』

 

「そんなにも危険な相手なんですか?」

 

「陶器類のそこまで強いとは言えない敵なんだけどね、集まってくる数が問題だ。魔法が一切効かない、ハニーフラッシュという軽減不可能な攻撃方法を取ってくるんだ。それが結構な数が来ている……一体一体は怖くないが数の暴力が一番恐ろしい相手だよ」

 

 俺もエンリも基本的に魔法型、鎌技があるにはあるがどれだけの威力になるかわからない。

 ニニャやレゾも同じく魔法型だ、ただのハニーならいいがそれなりに上位のものが混じっていたらまずいな。

 

「んじゃ俺がそいつ背負っていくぜ、後ろはまかせらぁ」

 

 テッドが気を失っている武蔵を肩に担いでまだ開いているゲート皆で潜っていく。

 

「あいつら苦手なんだよなぁ……火炎放射器でやけねぇしよ、ちまちま殴り飛ばすかできやしねぇ」

 

「焙烙玉にも限りがありやすからねぇ、数がわからねぇなら控えた方がいいですわ」

 

「ブレス系も魔法扱いなのか効かないのであまり相手にはしたくはないですね……」

 

 無事に湖岸に着くことで銘々に前衛を担うメンバーもハニーたちの戦いにくさを語ってくれる。

 ムジナも加わってる?所持武器内での範囲攻撃方法が少ないってのは何とかしたいところだな、メタルマックスのショットガンなんかの様にお手軽範囲武器が手に入ればいいんだが、ランテルに戻ったら探してみるか。

 夜の帳が降り始める前にテントの準備をしておかなきゃな。

 水面は境から指一本ほど、この広さなら朝まで豪雨でもなければ溢れることはないならこの辺りから少し離してのキャンプ地にしてしまえばいいだろう。

 

 

 

 軽く地面を均してマットシートを敷き、その上に骨組みを組み立てて布製の天幕をつけて、ロープを程よく張り結びついている紐を杭で地面に縫い付け、出来上がり。

 良く乾いた落ち木を組み合わせて紙なんかを使って着火剤に火を……

 

「ティンダー、プラント・シェルター」

 

 ……まほうってべんりだよなー、あっさり終わるのが少々残念だが、男闘呼組と女性組を分けて三つのシェルターを立てて、それぞれに夜番を立てる形になる。

 ノブナガ&テッド、ナシェル&ムジナ、レゾと俺という形に分かれて女性に夜更かしは厳禁だからな、美容の敵である。

 料理はその分女性陣に期待を寄せることになる、エンリには俺の料理知識を書いた本を渡してるし、レゾも弟子であるニニャに何かしら渡しているのだろう……錬金術は台所から生まれたと言われるほどだからな。

 料理もできたのだろうテントを立てるはずだった時間で装備の点検を終えたくらいでクリームシチューのいい匂いが辺りに漂う。

 削り出された木の器に盛りつけられた色とりどりの野菜がクリームの乳白色に沈みながらも主張する人参の赤やほうれん草の緑が実にいい。

 入れられている肉は先ほど狩った緑ぺロスという竜種の肉が使われている……ドラゴンの肉ってどんな味がするんだろうな。

 俺は骨だから食う事が出来んが、悟のレビュー待ちだなこいつは。

 

「そういえば、サトルさんはナシェルの指示にすぐ従ってましたけど……そういったのには慣れてたりするんです?」

 

「そうですね……俺は学歴、こっちだとなんていうんでしょう私塾とか寺小屋っていうんですかね?学校とかがあれば話が早いんですが……まぁ、とりあえず俺はその学歴の下の方、小卒という奴で小学校というところで何とか親に六年間、学ばせてもらうことができたんです……」

 

 サトルの言葉にそれを聞いていた皆が驚き進んでいたスプーンが止まる。

 

「六年!?」

 

 なぜそんなにも驚かれるのかサトルはわかっていないが、中世辺りでは普通はそんな風に学ぶこと自体が稀で丁稚や奉公、生家の手伝いといった形で仕事の事を覚えていく。

 

「え?そんなにもおかしいです?」

 

「こっちだと、学べる場所っていうのは貴重でね。知識は資産と同じなんだよわざわざそういった知識を譲ってくれる人が少ないわけだ……これは本が高いのもあるね、自動書記なんかが普及すればまた変わるかもしれないが。ところで一番売れている本って何か知ってるかな?そう各宗派の聖書でね、しかも国のモラル形成にも一役買っているためにその技術が世に出たとしても確実に個人資産で賄うことができなくなる借金を背負うことになる。うん、サトル君の居た所では教育がモラル形成を担っていたんだろう、だから国を挙げての教えるための本を作っていたんだろうね。で話は戻るが大体勉強ってのいうのを教える余裕がないことも多くてね、それより農業の手伝いなんかを教えることになるんだ。子供というのは労働力だからね」

 

 この辺りはレゾが割とわかりやすく説明してくれてるが、社会背景の違いというものだろうなぁ。

 俺の時代でも義務教育って受けさせなきゃ親が罰金払うようなものだったし、米所なんかだと稲の刈り入れ時に手伝う為の秋休みなんてのもあったくらいだから。

 小さいころなんかは嘘をつくと閻魔様に舌を抜かれるとか、悪いことをすれば地獄に落ちると多少曖昧ではあるがきちんと悪いことをすればどうなるってわからせて、モラルの土台を作るのに使われてきたんだよ、少し前の日本でも……今じゃ無宗教ってか、ちゃんぽんな感じになってるが。

 ついでに日本の学校ってのは集団生活の場所だからな、その手の事も教育で教えてる場所でもある。

 

「あれ?でもそんなサトルさんでも下の方なんですよね?上ってどこまであって何歳くらいから学び始めたんですか?」

 

「えーと六歳から小学校が始まって六年、そこから中学があって三年、高校で三年、大学で四年、院生で何年だっけかな……」

 

 今度はレゾ以外が絶句するが、ニニャ、エンリ、グレーテルと女性陣がさらに青い顔をしている気がする。

 

『あー……中世の結婚適齢期が学校全部通うと確実に過ぎるのか』

 

『え゛』

 

「ふむ、元の世界に未練はないのかね?学校に通っていたなら友達とかもいただろうし……」

 

 その質問に頭に浮かんでくるのは、日中夜間問わずにどこからか聞こえてくる街中の戦闘音、汚染されスモッグで少し先すら見えない空、整備されない罅割れたアスファルトに枯れ木すらもない無毛の大地、工場から吐き出される廃液で虹色に輝く水、振り落ちてくる黒色の雨、マスクと空気の清浄機がなければまともに生活もできない……ポストアポカリプスな世界の方がマシかなぁと思える世界が浮かんでくる。

 

「うーん……無いですね。うん無いです。その友達も死んでしまったらしいですし、それならこの世界に呼んであげた方が喜ばれるんじゃないですかね」

 

 サトルの友達という言葉に聞きたそうにしている面々。

 

「実際、蒼井さんという友達を呼ぶことができたので他の人たちを呼ぶこともできると信じてるんです……最初は異形種狩りというものから他の異形種、いや弱いからと虐げられるひと達を見て搾取されていたばかりだった自分に重ねたのかもしれない。人の命を何とも思っていない社会側に立ちながらも人を守ろうとした騎士、そんな社会を壊そうと日々妄想していたバフォメット、今目の前に広がる自然を求め命を落としたトレント、生活するために働きながらもたったの二年で身体をボロボロにしながらも最後に会いに来てくれたブラックウーズ、身体を壊し会えなくなった友人も居る……もしかしたら俺の知らない場所で命を落としていた友人や病で動けなくなった友人もいたかもしれない……あっちではバカやってた人もこっちでは案外普通かもしれない、バカやって無茶をして、それでも笑いあった友人をこっちに呼びたい、と」

 

 そんな風にしんみりとした口調だが最後には笑顔で自分の目的と目標を語れば、近くから腹の虫が鳴る音が響いてくる。




信仰魔法 出典:ソードワールド
 回復を中心とした魔法を覚え、信仰している神によっては特殊なものを覚えるものである。
 アレクラストでは鍛冶の神や盗みの神なども存在しており、覚える魔法の使い方によってはえげつないことになることも……場合によってはGMを泣かせることになる。
 覚えるためには「神の声」と聞くことが必須であり、その神を信仰している必要がある。
 当然のように禁忌とされている行動が存在しており行動次第では信仰心を失ったとしてその技能を剥奪されることも、当然剥奪された場合他の神を信仰しても取り直すことはできない。


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episode.13 「二人目と三人目」

責任の取り方は何も受け入れるだけではない
NPC達の創造主たちと合わせるというのもまた責任の取り方だろう


まぁ、この作品だと忠誠の儀で大半のNPC達がやらかしちゃってるからギルメンたちからの信用はマイナススタートだが……


 爆音の様な腹の虫の音が収まると少年が目を覚ます。

 なんというか顔つきは人懐っこく、人の事は言えないがとても二枚目とは言えないものだが愛嬌があり人を引き付けるものがあると思う。

 せわしなく動く顔は周りを見て状況を把握しているようにも見えるし、周りを見た結果更に訳が分からなくなっているようにも見えるのは、俺が最初にこの世界に来た時にも似ているからだろうか。

 

「ここはどこなんだ!?おいらは一体どうなったんだ!?」

 

「待って待って……まずは落ち着こう!?」

 

 近くに居た俺が肩を掴まれ激しく揺さぶられた。

 

「混乱しているようだ、エンリ。サニティをかけてあげてくれるかい?」

 

「は、はい」

 

 手のひらが光ったと思えば、少年の慌てぶりが嘘のように納まり大人しくなる。

 

「た、助かった……」

 

 肩から手を放され、揺さぶられることでまだ視界が揺れている様な気がしてくる。

 少年は悪いことをしたとわかっているのか、落ち込んだ様子で大柄の身体を小さくさせている。

 

「すいません……」

 

「まぁまぁ、あれだけの音を出してたんですしお腹も空いているでしょう。食べながら話を聞いても良いのでは?」

 

「すいません……」

 

 同じようにもう一度謝るが、今度の謝罪には腹の虫を聞かれていたことへの羞恥も含んでていたものだった。

 串に刺されスパイスを混ぜた塩を振られただけの簡単なはずの澄んだ油と肉汁が滴る串焼きにされたものを頬張りながら、目を白黒させている少年を皆して見守っている。

 

「うっま!?」

 

 思わず声が出たのだろう。

 ぺロスという竜種は初めて狩ったものだそうだがテッドが毒の有無を判断してから血抜きをしてから皆で解体して、こうして食べてみたのだが同じように皆その味をかみしめるように無言になっていたのだから。

 そしてシチューも渡されゆっくりと食べることなどなくまるで飲み物でも飲む様に一気飲みで無くなったのを見て俺が思ったのは野菜結構でかいのにどうやって咀嚼したのだろうか?だった。

 そしてお腹も膨れて落ち着いたのだろう……ほぼ1tのぺロスが骨だけになった現状をどう受け止めるべきなのだろうか、とりあえず落ち着いて少年の現状を話し始めてくれる。

 簡単に纏めると少年の名前は巴武蔵、アメリカは聞いたことがあるけどもニューヨークとは都市の名前だろうか、そこでメカザウルスという先の倒した恐竜と機械がくっついたような怪物をゲッターロボという宇宙開発用ロボを改造した正義のロボットで倒そうと自爆したと……言う話だったのだが自爆して気が付けばここで最後にメカザウルスの首を切ったところで記憶が終わっていた。

 

「どう思います?レゾ」

 

「ふむ、考えられるのは私達と同じ異邦人という事でしょう。死亡がキーだと思われますが……どうにもそうでない方もいるようなので二つの法則がある可能性と、全く違う法則の可能性がありますね」

 

「法則がわかれば……?」

 

 一通り話し終えた武蔵君の話を統合して法則を考えるレゾさんだが、俺にはなんでそんな法則が出てくるのかがわからない……死んでいる人がこの世界に来てる?じゃあ……もしかして俺も?

 

「わかりませんね、少なくともそれを確約することはできません。私の居た世界、ナシェル君の居た世界、ノブナガ君の居た世界、そして武蔵君の居た世界は違う世界だと思われます。聞いたことの無い地名が多く生態が違っているようにも感じられる。仮に移動できる方法が分かったとしてどの世界に辿り着くのかは保証できません……今いる全員の知らない全くの未知の世界だとしても不思議ではないですからね。この辺りはスズキさんの方が把握しているかもしれません」

 

「「え?」」

 

 最後に締めくくられた言葉に含まれていた名前は鈴木さんであり俺の事を指したものではない。

 

『鈴木さんは……今の状況をどれだけ知っているん、ですか?』

 

 俺の尋ねる声は絞り出すように小さく震えて、なんで話してくれなかったのかという怒気と猜疑、そしてそんなにも頼りないのかと信頼されていないのかという悔しさを含んでいた。

 

『わはは、そう褒めんでくれ……わかっているといってもおおよそ三割(八割)か。法則はおそらく三つ混じり合っている。死んだはずの人物、悟君のようにゲームに紐づいた人物、そしてその物語(人生)を終えた人物。死んでいるかもしれないと教えれば恐慌状態になるかもしれなかったからな』

 

 確かにあの日の覚悟がないままにそれを聞いていたらどうなっていただろうか……鈴木さんの言葉を疑うことはなかっただろう、今もその言葉が真実だと思う。

 疑わず信じるからこそ、自分が死んでいるかもしれない、という事を受け止められなかったと思う。

 受け止められ切れずにタガが外れていたのではないだろうか、死んでいるのだからと好き放題しようとしたかも知れない、自暴自棄になるのか、やけくそになって全てを破壊したのか、それはもうわからないが碌なことにはなってなかったと思う。

 

『さて、解決法というか帰還法と言えばいいのか……本の中にL様(ロードオブナイトメア)級が四人居るって言ったな?恐らくだがその四人が満足する結果を出せば帰れるかもなぁ……帰してくれると良いなぁってとこだ』

 

『希望的憶測ぅ!?』

 

『こっちから見る限りこっちの行動見て楽しんでるからなぁ。まぁ、なんとかなるだろ異世界旅行なんて三回目だし』

 

『なんで経験者!?』

 

 なんかとんでもないことを知ってしまい精神的疲労を与えられながら、自分でもわかっている部分を掻い摘んで話してみる。

 

「つまりその四人をどうにかすれば戻れるのか?」

 

「俺にもわかんないですよ?楽しんでいるそうですから……そもそも俺は帰りたいと思っていません。でも協力はしてあげたいと思っています」

 

 説明が終わって本当に帰れるのか不安が募るし、何よりも俺にはこの世界に居たいと思える理由ができてしまった。

 武蔵君には協力はするが、最悪L様に頼み込んでこの世界に居させてもらえないだろうか。

 とりあえずの目的が出来たのはいいが、其処に辿り着く為の道は全く見えないことに武蔵君は頭を悩ませているが、そんな武蔵君にレゾは軽く言葉を投げかける。

 

「それならこの世界で戻れるように努力しながら、力をつける修業期間だと思えばいいのでは?」

 

 食後のお茶を飲みながら投げかけられた言葉を咀嚼していると、電子音でのどこぞのお店の入店音のような音が俺の懐から鳴り響く。

 

「ガーネットの召喚確率が100%になりました。タブラ……なげぇの召喚確率が100%なったぞ!とっとと呼びやがれ!この腐れポンコツが!」

 

 懐から飛び出てきた『白痴蒙昧の瞳』には表紙には血走った目が浮かんでおり、開いたページには乱杭歯の鋭い牙、さらには長い舌が生えて宙に浮いていた。

 

「なんぞこれ!?」

 

「モンスターか!?」

 

「なんですかこれぇ!?」

 

「じゃかましい!呼ばねぇなら本体に突撃させて発狂させて確率リセットすんぞゴラァ!?」

 

 俺はその言葉に慌てて『白痴蒙昧の瞳』を手に取り、呼びかける。

 

「『白痴蒙昧の瞳』よ!その力を示せ!」

 

 唱える呪文というには余りにも短すぎる『力ある言葉』と叫び、届かせれば世界は凍り灰色の世界に変わる。

 今見ているキャンプの風景が見えている、それとは別にもう一つ同時に見ている灰色とは違う白と黒の二色に彩られた四十一の扉が並ぶ空間。

 一つの扉は蝶番が壊されぶち破られ破壊された跡が見れ、一つは十二の鎖に雁字搦めにされそれぞれに南京錠がつけられた異質な扉、他の三十九の扉は普通に木製の扉で真鍮の取っ手が見える。

 そのうち二つがゆっくりと開くのが見えたとき、白と黒の世界は音を立てて砕け散る。

 時間が動き始めたときキャンプ地にはつぎはぎの肌に頭に突き刺さった巨大な螺子、むき出しの巨大な心臓に背中にいくつもの真空管が生えたフランケンシュタインの怪物であるガーネットと水死体の様な青白い肌に膨らみたるんだ皮膚をボンレスハムのような衣装で締め上げ醜悪な蛸を頭部に持つ脳喰らい(ブレイン・イーター)であるタブラ・スマラグディナがキャンプの近くの草地の上に立っていた。

 

「「ご飯ください!」」

 

 俺は素早くツッコミハリセンを取り出し二人の頭をぶっ叩いた。




竜言語魔法 《ドラゴン・ロアー》
竜信仰が魔法となったものであり野性的な生活をすることでそのレベルを伸ばしていくという基本的には敵用の魔法レベル
ナシェルが使える理由としては彼の死亡時の状況が影響している

身体に鱗を生やしたり火を噴いたり、翼を得ることで高速で空を飛ぶこともできるようになる
最高レベルでは古龍と呼ばれる最強級のドラゴンになることもできる


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episode.14 「要塞カルネ村」

あらすじに一文追加しております

何故かお気に入りが増えてる……不思議だ


 ガーネットとタブラがハリセンで吹っ飛んで湖に落ちたところで保存食を取り出し用意してくれるエンリがほほえましい。

 

「もう……」

 

 あの程度はサトルと彼らのいつもの事なんだろうって、呆れている様にも笑っているようにも見える悟の顔を見て察してくれる信頼が悟には今ではもう何よりもかけがえないものだろう。

 武蔵はモンスターってのを始めてみたんだろうな。

 

「え?え?」

 

 疑問の声を呟きながら水面に沈んだ二人と指さしながら、水面とこっちを交互に見ている。

 ニニャも同じような感じだが、ランテルで確認している事実からモンスターが友達っぽい事よりも唐突に湧いて出てきたことの方に驚いてる。

 ほどなくして平泳ぎで泳いできた二人は水音を響かせながら湖から上がって、サトルから人化の指輪を受け取り人の姿になるが、佇まいを正して正座して……頭を下げてくる。

 

「「最後に会えなくてごめんなさい」」

 

 そんなかしこまった二人に悟は慌てふためき手を振りながら顔を上げてもらおうと必死に声をかけながら考えていた。

 

「そ、そんなことしないでくださいよ!?土下座なんてされても困りますよ!?」

 

「最後まで維持してくれた玉座の間を私と一緒に吹き飛ばそうとしたんだ!本当にすまない!」

 

 タブラの言葉に慌てていた悟が固まる様に動きを止める。

 

「最終日三日前にアルベドにギンヌンガガプを持たせて、玉座の間で玉座に座っているプレイヤーに全力領域で放つように……」

 

 タブラの言葉は最後まで言うどころか後半から無言の悟から放たれる圧の前に尻すぼみしていく。

 

「ふんふん、俺が寝る間も惜しんで二年もの間、一人で維持してきたナザリックで……何 を 放 と う と し た っ て ?」

 

 言葉が完全に止まったところでハリセンで軽く何度もタブラの頭を叩きながら、低い声で最後は一言一言区切りながら問い質す。

 頭を叩く度に関西弁のツッコミがハリセンから出てくるが、その程度ではこの空気を換えるには至らなかった。

 

「どうしようとしたってきいてるんだけどなぁ……」

 

 この状態の悟は多少の事じゃ怒りを納めないからな……どうしたもんだか。

 ただ怒れる現状を歓迎するとしようか、喜怒哀楽人の感情は大別すれば四つ……怒るなんてのは悟はあまりしないというかむしろ恐れている節がある。

 怒るという行為を忌諱しているとでもいうのか、自身の事で怒ることはない。

 悟は自分の守ってきた大切なものの為なら怒れるという事が知れただけ良しとしよう。

 

「ユグドラシルに最後まで残るだろうと思ってたんだ。モモンガ君は……」

 

「えぇ……残ってました。最後まで、誰かが帰ってきてもいいようにと」

 

「それが駄目なんだ。思い出を語る時は悲しみでしんみりとしちゃダメなんだよ。バカやって、笑って、楽しんで!憤りと共にだって良い!ユグドラシルに囚われないでほしかったんだ!!最後に馬鹿な真似して怒る君をリアルに誘い出して、あのまずい酒でも飲みながら、君の愚痴として、『ユグドラシル』を吐き出してもらいたかったんだよ!」

 

 悟は意味が解らないときょとんとする。

 リアルで会うべきだったと語るタブラの言葉の意味が理解できないんだろう。

 

『悟君よ、ユグドラシルは楽しかったかい?』

 

 悟は目を瞑りユグドラシル時代を思い出しながら、ゆっくりと口を開く。

 

「楽しかった……うん、楽しかった『んだ』」

 

 なるほど、こいつは重症だ。

 これを離れていても察してくれる友がいる。

 これを最後まで治そうとしてくれる友がいる。

 

「……あれ?……ん?……なんでだろう?なんかユグドラシルが終わったあの時ほど悲しくないような?」

 

「えぇっ!?」

 

 思い出しながらそこまで悲しいと思っていない悟は首を傾げ、そんな様子の悟を見てタブラはびっくりしている。

 

『そいつは簡単だ。今、悟君は充実してるだろう?仲間たちを呼ぶ目的をもって、共に居たいと思う相手、エンリちゃんが居て……幸せを感じているからユグドラシルって過去を思い出に出来てるのさ』

 

 タブラがやろうとしていたことがいつの間にか達成されていたことにしょんぼりしていた。

 そしてそれを力にする方法も教えて、この話題は終わりだろう。

 

『それを力にする方法はなぁに簡単……それを失った時を想像してみればいい、失いたくないと死力を尽くすだろうさ』

 

 その後はタブラが最終日にこれなかった理由やガーネットが死んだこととか聞くくらい。

 タブラはテロにあって仕込みの次の日に、ガーネットは仕事が忙しくなるとギルドを抜けてから数か月後に仕事中、気絶して機械に巻き込まれたのだろうと話していた。

 

 

 

 その後はなんだかんだ人の姿もとれるし敵対的でもないことですんなり受け入れられる二人は干し肉と日持ちさせるための黒パン、乾燥果物、シチューの残りを美味い旨いと平らげてレゾが追加で作りだしたプラントシェルターで眠った。

 当初に決めた通り最後にレゾと共に夜の見張りをすること……正確にはレゾと今後の方針をすり合わせるべく会話を始める。

 

「そういえば法国の特殊部隊の事を?」

 

「ある程度は、漆黒隊長が黒髪の少年でね」

 

「やっぱり法国はそういうこともしているか」

 

「今はピサロという善王が治めているがエルフの前王も怪しい」

 

「傾世傾国があったからな、確かにそういう使い方が手っ取り早いか」

 

「アポトーシスというのは?」

 

「いわゆる並行世界の管理者、乖離しすぎた世界を抹消する」

 

「という事はやはりこの世界は」

 

「悟の奴にはまだ話すべきじゃないだろう」

 

「そうだね、介入理由は武蔵君が今のところは濃厚かな」

 

「すまんな、無関係のお前たちも巻き込むかもしれん」

 

「私やノブナガ君は構わない、ナシェル君はあくまで協力者にしたい」

 

「ニニャは何かしらの復讐か?」

 

「いや、彼女は姉を探している」

 

「なら巻き込めんな」

 

「王都は勝てると思うかい?」

 

「五分五分だな」

 

「目下の敵は」

 

「魔神皇は」

 

「「リィーナだ」」

 

 最後に二人の名指しが揃う。

 

「五百年前の魔神戦争の首謀者と思われる」

 

「六大神と八欲王の殺害を実行したらしい」

 

「龍帝の開けた世界の亀裂を広げる生贄と予想している」

 

「アリスとミカエラに封じられ、おそらく俺も巻き込まれる」

 

「目的は?」

 

「マッチポンプの代価」

 

「あぁ、ミネア君が言ってたあれか」

 

「全くもって厄介なことだ」

 

「知る人は君を警戒する、か」

 

「予知するのが正史か、それとも外史か」

 

 そんなことを話しながら夜は明けていく。

 暁が空を切り開く頃には皆起き出して伸びをしたり、朝食の準備をし始める。

 タブラは昨夜言ったように悟君に協力してくれるだろう、ではガーネットはといえば朝食を食べながらこれからどうするつもりかを話してくれる。

 

「俺はタブラさんや蒼井さんのようにモモンガさん……あぁ、いや、悟さんと言った方がいいか。こっちに呼んでくれたことには感謝もしてるし、恩も感じてる。でも、ごめん、そこまでの覚悟は俺にはない。協力できることは協力するけど無茶はしたくない……」

 

 普通の人の反応はこうだよ、覚悟決まってる方が普通はおかしいんだ。

 

「それは気にしませんよ。俺が呼びたいから呼んでいるだけですから……ただ、また昔みたいに楽しくやれたらいいなぁとは思います」

 

 そういって優しいというよりも人を引き付けるタイプの笑みを浮かべる、本当に呼べることがうれしいのだろう。

 そして昔と変わらないことが。

 さて、改めてカルネ村に向かおうとキャンプ場を仕舞い終えるころ大地に響く重々しい音がゲッターロボのあった辺りで土煙と共に聞こえ見える。

 

「なんだあれは!?」

 

「巨大なゴーレムですかね」

 

「あの赤いゴーレムのところ辺りくらいかな」

 

「ゲッターロボがあるのか!?あそこに!?」

 

 皆が振り向きそちらの方向を見ればゲッターロボに比べれば頭二つ分ほど小さく見えるが、それでも十分に巨大と言えるガルガンチュアが両肩に負荷が分散するようにゲッターロボを担ぎ上げるところだった。

 

「ガルガンチュアだ!スーパーロボットだ!やべぇロボマニア魂が滾る!」

 

「地上戦艦ティアマットだとかに搭載したら面白そうだよなぁ、南の砂漠で走り回ってるらしいぜ」

 

「でっかい、すっごい!カッコイイ!」

 

「サトルさんたちはあの大きなのを知ってるんですか?」

 

 各々に驚きの言葉を聞き中には意気投合するガーネットとグレーテル、ゲッターロボを心配する武蔵君にこちらに確認してくるエンリと様々な反応が見れる。

 

「さすがにあのロボットを動かすには俺達じゃ無理だと判断して、鈴木さんが助っ人としてガルガンチュアに連絡入れててくれたみたい」

 

「カルネ村に持っていくんですか?直せるようなものがあるとは思えないですけど」

 

 首を傾げこちらを見てくるエンリ。

 

「とりあえず鍛冶長に相談して何とかできるか聞いて、無理なら無理で何が必要そうか聞かないとだからなぁ」

 

「ゲッターを直せるのか!?」

 

「いや、まだわからんからな!?」

 

 どうにかできるかもと聞いて武蔵君が大きな声で聞いてくるが、部品すら作れるかどうかわからんというのが現状。

 

「旋盤とか造れりゃそこからがんばればなんとか?鉄板とか加工すりゃ外装を戻すくらいはできるかも、だなぁ」

 

 ガーネットがゲッターを改めて見ながらそんなことを呟く。

 とりあえず、ガルガンチュアが追い付いてくるのを待ってからカルネ村へと歩を進めれば昼前ぐらいには石壁に囲まれた凹凸を意識した村というよりもすでに要塞と呼べるカルネ村が見えてきた。

 

『シズの奴……2ndナザリック・イン・カルネ村じゃなくてカルネ村・イン・2ndナザリックにするつもりか?』

 

 石壁は丁寧に外側に緩い傾いていて、崩れたら崩した敵が巻き込まれる構造になってるという事はその裏にもう一枚壁を作ってるんだろうな。

 凸凹にしてるのは一点集中の兵力を許さずに小分けにさせた敵を殺し間に誘うものだし、外開きの小窓があることから内側から射撃をすることができるようにした銃眼兼見張り窓。

 物見櫓を村の中央に作ってるのもなかなかにえげつない。

 湖から水路を引いて外から水を引くこともできるし、壁の向こう側は畑だろうから籠城にも適している……ナザリックの物資をカルネ村に移せば世紀単位で持つだろう。

 そして門の前ではゴブリンが門番に立っており馬車が立ち往生しているのが見える。

 男性が四人、入れないか話しているようだ。

 

「あら?ンフィーレア君じゃないですか、薬草の採集はもう一週間ほど先では?」

 

 窓から顔を出したニースさんが先に着いていた男性たちの顔を確認したことで武器は取り上げられたが通ることができたようだ。

 こちらも近づくが、ガルガンチュアとゲッターを見てどうしようかと考える。

 どう見ても門が通れるサイズではないのだ、ゲートでとも考えたがガルガンチュアのサイズまで広げることができない。

 そんなことを考えてると石壁の横に巨大な鉄製の門がゆっくりと開いていくのが見える。

 

「ガルガンチュアはあっちからってことかな……」

 

「『サムズアップ』」

 

「村?え、村?要塞の間違いじゃないの?」

 

 最後の疑問は当然のものではないだろうか。

 




天才同士の会話
 何を話しているのかは大体想像通りのものであり、第二巻半ばの状態で十四巻までの出来事を大体予測してる変態どもの会話である。
 三人寄れば文殊(菩薩)の知恵とは言うが文殊三人寄れば何の知恵というのか。
 ここに黒のアリスともう二人が加わればこの世界の知恵者最強決定戦が開かれる……かもしれない。
 ここまでの会話で大体この世界に強敵が配置されている理由位は察せるのではないだろうか。


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閑話 「宿題の答え合わせ:アウラ&コキュートス編」

シングルベールシングルベール♪
ってことでベリークルシミマス
苦しみ増すとは全く関係ないが、プレゼントだ


 冒険者として旅立つ前日の夜、悟はもう眠り俺が書類の確認をしている横でモリガンが暇そうに椅子に座って寛いでいる。

 

「モリガン」

 

「んー?」

 

 声をかければ面倒くさそうに生返事を返してくる。

 

「お前はやはり悟に……『今』から見れば悟にとっては未来、お前にとっては過去の悟になるが、出会っているのか?」

 

「随分と説明的だけど、その通りだよ」

 

「ただの確認だからな。だがやはりそうか……」

 

 確認は済んだ、予測を外れてはいない、未来でそうであるのならば、結果が覆ることはない。

 結果を覆してはいけない、それは今のモリガンを否定することだ。

 

「しんみりしちゃってさ……サトルは……いつもあんたを信じてた。あんたに教えられたことを頼りにしてた……あんたが指示した道を、自分だけの未来を歩いたさ。ルカもエンリもあんたを超えることはできなかった……あんたは卑怯者さ、だから逃げることは許さないからね」

 

「そうか……そうか……なら、期待せずに待たせてもらうさ」

 

「わたしが愛した男は諦めが悪いんだ。私だって一緒に目指してやるさ、|誰もが笑って迎えるハッピーエンドっていう奴を《あんたが遺した言葉を》、さ」

 

 こちらを笑って舌を出して揶揄ってくる。

 その返しに表情があれば苦笑で返していただろう。

 暗闇の中、鎖に縛られた歯車が空回りしている、廻る歯車と縛られた歯車がかみ合わないまでも触れ合いながら着実に時間を進めていく。

 無情な短針が一つ進む。

 

『クソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがああああぁあぁぁぁぁ』

 

 身体の奥底から響く慟哭を締め上げて黙らせる。

 

『黙れよ、狂骨……お前がサトルを否定するならば俺が相手になってやるよ』

 

 俺は蓋だ、狂ったオーバーロードを出さない為の。

 書類の確認が終わるころに、扉をノックする音が聞こえてモリガンが来客を確認する。

 来客はアウラとコキュートス二人が揃って来ており、コキュートスの表情は変わらないがアウラの表情は落ち込みが見てわかるほどにしょげていた。

 

「アウラ様とコキュートス様が来られています」

 

「入れろ」

 

「「失礼します」シマス」

 

 二人が来た理由は宿題の提出期限を過ぎたから、その謝罪という事だった。

 

「ふむ……マーレはどうした?まだ来ていないが」

 

「えっと……それは塞ぎ込んでいて……引っ張っても出てこないんです」

 

「そうか。なら朝起きたときにでも声をかけてやれ。朝だと知らせてやるだけでいい、無理に引っ張り出すこともない」

 

 しばらく時間はかかるだろうが自発的に出てこれる様に、時間の経過だけ知らせるように、無理やりをしないように教えてやる。

 

「え?」

 

「ヨロシイノデスカ?」

 

「むしろ何がだめなのか、俺にはわからんがな。何か予想を裏切るような言葉だったかね?」

 

 アウラは予想外の言葉をかけられてきょとんとしていて、コキュートスもマーレに何かしらの罰を与えるものだと思っていたのか確認の質問をしてくるが……本当にこいつらは俺をなんだと思っているのか。

 血も涙もない骸骨ではあるが、思考方法までそこに落とすつもりは一切ないぞ。

 

「まぁ、マーレの事はそこまでにしておこう。お前たちはせっかく回答出来なかったのに来てくれたのだ、何がわからなかったのかを一つ紐解いてみようじゃないか。アウラは何がわからなかった?」

 

 太ももの高さで指を組み背もたれに体重をかけることで椅子の軋む音が質問に答えるまでの静寂に重く響く。

 

「え……えっと……忠誠の儀の何が悪かったのだと思いましたけど、どこが悪かったのか……わかり、ませんでし、た……」

 

 涙をこらえるように最後には嗚咽を噛み殺しながら途切れ途切れになるが喋りきる。

 

「ふむ、アウラは忠誠の儀に間違いがあり故に受け取ってもらえないと考えたと……」

 

「……はい」

 

 今にも泣きだしそうな目は潤みながらもこちらを確かに見て頷く。

 

「ふむ。間違いでもあり正解の問題点でもある。着眼点は悪くないぞ、アウラよ。だが、アルベドに命じたのはお前たちに異常がないかの確認を頼まれたはずだな?」

 

「はい……」

 

「そして異常はないと報告した。なぜお前たちに異常を探させたか、それはわかるか?」

 

「モモンガ様の手を煩わせるほどの事もないから、なのでは無いかと考えてました」

 

「アウラニ同ジク、デス」

 

 体勢を変えずに一度頷き、アウラとコキュートスの考えが変わっていないことを確認する。

 

「あれはお前たちが俺の気が付いた異常に気が付けるかのテストでもあった。事実シズとパンドラはそれに気が付き答えを得ている為に俺は外での任務を任せている。そしてシャルティアもあの狂戦士との戦闘の前だがそれに気が付いた故に任せている」

 

 一呼吸入れて俺の考えが二人に浸透するのを待つ。

 

「気ガ付カナイカラ……仕事ヲ任セテモラエナイノデスカ?」

 

「仕事は任せているだろう?異常が起こる前のいつも通りの物のみではあるが。コキュートスは何がわからなかった?」

 

「ム……ゥ……」

 

 コキュートスは四つの腕を器用に組み合わせ、唸りながら答えを出すために頭を悩ませている。

 そんな悩みに暮れる二人を前にモリガンはあっけらかんと。

 

「ところでそんなにもヒントを出しちゃっていいの?」

 

「構わんよ。答えをそのまま教えたとしてもそう振舞うだけでその振る舞いを見せて忠とほざくなら俺はそいつを完全に見捨てるだけだ」

 

 俺はモリガンの問いかけに毅然とした言葉で答を出す。

 

「まぁ、そりゃそうか。そんな真似をすればあんたを虚仮にしてるも同然だものね……そんな偽装も見抜けない間抜けだって」

 

 モリガンの敬いもない気楽な言葉にアウラもコキュートスも殺気立つが俺はその殺気を柳のように受け流し、モリガンも頭の後ろで手を組んで暖簾に腕押しという様ににやにやと笑っている。

 

「それよりも珍しいな。モリガンが二人に助言をするというのも」

 

「いやぁ、だって見ていて滑稽なんだもの……勝手に見捨てられてると思って悲劇ぶっちゃってさ。宿題出すのってあんたたちが解けるのを期待してるからだよ?その辺わかってる?」

 

 モリガンの顔は笑っているが、目は笑っておらず二人に向かってのみ殺気が放たれている。

 

「仮に……仮にだ。あんたたち受け入れられて忠義を受け取ってもらって外の仕事任されてたとしてさ……あいつの望んだ物を一体どれだけ叶えてやれるのかわかるか?」

 

 その剣幕と真剣さに二人は「どんなことでも実行して叶えてみせる」と返すことができなかった。

 

「「……」」

 

 ただ黙って歯を食いしばることしかできなかった。

 

「お前たちみたいなあいつを勘違いした奴が!」

 

「そこまでだ。モリガン」

 

 俺はその先を告げようとするモリガンを止める。

 その先は言ったところで既に意味の無いもしも話にしかならない。

 

「もしもの話なんぞ何の価値もない。例え……お前がそのもしもの世界を知っていたとしても、だ」

 

 そして部屋の中を見渡せば、三人の気当りで散らばった書類に横倒しになっているベッド、部屋の隅に転がっている机に傾いた照明、壁には冷気で霜が降りている。

 

「そもそもにだ、他人の部屋を荒してんじゃねぇ!」

 

 三人を部屋から蹴り出す。




あらすじに書いてる通りに『モモンガ』に憑依で
悟に憑いてるわけじゃなかったりする

この時点で気が付いてた人ってどのくらいいるんだろうか?


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episode.15 「カルネ村での叫び」

割とわかりやすいネタを入れておく

覚醒してる子たちの会った時の反応はそれぞれ違います
一様に同じ反応とか個人的になんだかなぁと思うことなので……


 とりあえず、村の中に入ることにするのだが櫓の上から大声、というか叫び声をかけられる。

 

「待っていたぞぉ!!マァァイソォオオルブラッザァァァァーーー!!!」

 

 その姿は筋肉が目立つ大柄な男性だというのは逆光から見えるシルエットから判断はできるんだが、その詳しい格好を確認することはできない。

 当然顔を見ることはできないのだが、髪型が失敗したスネ夫ヘアというか昔ギルメンに紹介されてやらされた道戦士だっけ?の腕を振るって遠距離攻撃してくるキャラに似ている。

 

「カズキよぉぉぉぉぉっっ!!」

 

 呼ばれている名前に聞き覚えがあるか皆を見渡すが覚えがある人はいないみたいで全員が首を振るうので、先に入った男性たちの中にカズキという人物がいるのだろう。

 小走りで近づいてくるシズとその後ろをゆっくりと近づいてくるモリガン。

 

「おかえりなさいませ、サトル様、皆様……未来の奥方様?」

 

「みらいの……ぶっは」

 

 首をかしげるシズに対して、その言葉に噴き出すモリガン、顔を赤らめ俯くエンリ。

 

「あー……うん、ただいま」

 

 出迎えてくれたシズなのだが……なんで鉄の棒の先に鉄球の付いたモールなんて持ってるの。

 しかも素振りしてて怖いのだが。

 

「同志カズキよ!ともにドージンの王を目指そうではないかぁぁぁぁ!!とぅっ」

 

 掛け声とともに櫓の上で叫んでいた人がこっちに真直ぐジャンプしてくる。

 麦畑などがあり村の中心からは200mほど離れているはずなのだが……鳥が飛ぶように真直ぐに飛んでくるのだ。

 振り向くシズに気付いたのか男性はシズに声をかける。

 

「帝王は退かぬ!媚びぬ!省みぬぅ!」

 

 バッターボックスに立つバッターのようにモールをバットのように構え、その男性をボールか何かのように振り抜く。

 

「ジャストミート……カッキーン」

 

「惜しい弾道が低い」

 

「ごぶはぁっ!」

 

 モールの先に付いた鉄球は見事に男の腹部を捕らえ、取っ手である鉄の棒は飛んできた男の身体の衝撃にしなりながらも粘りを見せ、見事男を撥ね退け飛んできた元のやぐらの方へと吹き飛ばす。

 そして櫓の方から歩いてくるメイドさんが一人いて、飛んでくる男性の腰を両手で抱えるように掴み、頭を下に向けさせて地面に男性を突き刺した。

 突き刺された男の下半身は直立しており、一種異様な雰囲気を醸し出している。

 

「「「いやいやいや……」」」

 

 その場にいたほとんどの人がそれに顔の前で手を振り、それはないと示す。

 村に着いた全員が唖然としている中、静かに近づいてくるメイドを見てニニャが口を押え驚いているのだが知り合いなのだろうか。

 

「はぁ……」

 

 村に入っただけでなんでこんなことになっているのか、気持ちを落ち着けるために一度深呼吸をし大きくため息をつく。

 

「ところでシズ、モリガン……さっきの人は一体?」

 

「パブロフと言うそうです」

 

「それ、ベル鳴らしたら涎垂らす犬。それとなんかよく似た長い名前の人よ、なんか王様とか言ってたけど……サイボーグでもないし変身もしないし普通の人間よ」

 

 何かが色々とおかしい……王様って普通に人じゃないの?変身ってたっちさんが好きそうな感じなのだろうか……この世界深く考えちゃ駄目なのかもしれない。

 

「ところで……後ろの長髪の方は……ヘロヘロ様でしょうか?ぷにっと萌え様でしょうか?それともタブラ・スマラグディナ様でしょうか?」

 

 後ろの長髪……黒髪をストレートに伸ばして丸縁の蔓の無い鼻かけメガネをつけてる、有態に言えば怪しい研究員という風体のタブラさんが居たが、ガーネットさんには言及はないのだろうか?

 

「ん、タブラさんだよ。蒼井さんと同じようにこの世界に来てくれた……それよりもガーネットさんも来ているんだが」

 

 驚きに目を見開き、口を押えながら。

 

「ガーネット様でしょうか?」

 

 武蔵に尋ねた。

 

「おいらは巴武蔵っていうんだ、ガーネットさんっていうのはこっちだぜ」

 

「なんてこった……シズに間違わられるなんて……」

 

 武蔵に引っ張り出されたガーネットさんは汚れた()ツナギだったのでこちらで買った服を着てもらっているためにやや地味ではあるが、同じ日本人な為に黒髪で温厚そうな細目の顔立ちをしている。

 間違われたことがショックだったのか地面に膝と両手をついて落ち込んでいた。

 

「申し訳ありません……こう……今のガーネット様から、至高の御方々という感じのオーラが感じられないのです」

 

「オーラ?」

 

「オーガ?」

 

「あー……あれじゃないかな。ギルマスの悟君や俺はギルドメンバーで残ってたじゃん?仲間識別シグナルみたいなものでフレンドリィファイアの判定とかに使われるあれ。ガーネットさんは仕事が忙しくなるってことで抜けてたからギルドのメンバーから外れてる感じなんじゃない?」

 

「あぁ、なるほど……」

 

「あれ?それじゃ俺、NPCに会うとやべぇんじゃね?」

 

 そんな問答にシズがとても申し訳なさそうに答える。

 

「はい。おそらく侵入者と見られ、最悪攻撃されるかと」

 

『案の定か……ナザリックの方でその変化に気づけないとギルメン呼べても部屋にも戻れないのよな』

 

 過去にギルメンで登録されててもシステム的にはギルドから外れた時点で、システム的には侵入者と変わらない扱いになるのか……自主的に動けるようになってるNPC達だけども、判別方法がオーラを感じられるかどうかとなれば……ヘロヘロさん、タブラさん、ぷにっと萌えさん以外がやべぇ。

 

『鈴木さんはどこで気が付いてたんですか?』

 

『そりゃ当然……あの最初の名乗りの時よ』

 

 ガチで最初からNPC警戒してた……俺、独りだとどこまでも真直ぐに使ってもらおうとするNPC達を信じてしまっていたんだろう。

 NPC達が俺に願うように、俺もNPC達に裏切られたくないと、見限られたくないと盲目的に信じようとするのだろう。

 その原因を探すこともせずに。

 嗚呼、本当に恐ろしいものだ……『そうであることが当然だ』と思わされるというのは、ここまで離した心ですらそう思わらされるのだから、どこまで塗りつぶそうとするのだろうか。

 俺は確かにモモンガを造った、モモンガは俺のキャラクターではあるが、俺はモモンガではない。

 俺は『鈴木 悟』だ。

 あの時はNPC達に『俺のナザリック』でのことを語って聞かせようと鈴木さんに相談した、その時に気が付いたのだ。

 違うものなのだと。

 

「そうか……改めて聞くが、シズ。『アインズ・ウール・ゴウン』というギルドは、『悪として振舞い虐殺をしていく』ギルドだったんだな?」

 

「はい。少なくとも私の記憶に記録されているものではそうなっています」

 

「「は?」」

 

 その言葉に驚く二人、それと同時に納得する。

 

「え?いや、ちょっと待って……そう見られていたじゃなくて……」

 

「いやいやいや……俺らは少なくとも弱者救済で動いてたよな……」

 

 タブラさんは吐き気を抑えるように口を手で押さえて青ざめガタガタと震えだす、ガーネットさんは頭を掻きむしりながら自身の覚えている記憶と違うものを搔き出そうとするかのように覚えている事を呟く。

 そもそもユグドラシルは、R-18行為は禁止されている。

 Gが付くような方面でも当然のように、切断表現はないし流血表現もない、当然のように死体に何かしらをするようなことも不可能だ。

 せいぜいがテキストにする程度の事だろう、ニグレドの方でさえ何度も警告を喰らっていたはず。

 だのに、記憶では生贄にすることで魔法を増やした。

 二人の視線に合わせて指を三本立てて質問をすることで、今の狂気から目を逸らさせる。

 

「これが何本かわかりますか?蒼井さんが死亡するに至った原因は覚えてます?」

 

「あぁ、当然……そうか、そもそもユグドラシルの記憶がおかしい。食人を促すようなものはそもそも禁止されてる、企業が死体を使うのだからそれを横取りされるような真似を赦すはずがない」

 

「それよりも……俺たちの記憶はどこまで正しいんだ?」

 

 多少は落ち着いたのか、片手で顔を覆いながらもこちらをしっかりと見てくれる。

 

「不明です。俺も割とつぎはぎで繋がれてますから……断片的に思い出しますが辻褄が合わないことの方が多いです。不意に思い出すものは疑ってかかる方が吉だと思ってます。特にNPCを見て思い出すのは危険かもしれません」

 

 これからも何かしらがきっかけで同じように、不意に思い出させられるだろうことは容易に想像できる……セバスを見たとき、忠誠を信じようとしたとき……だからナザリックから離れている。

 

「そういや、パンフだとセバス見てたっち・みーさん思い出すんだっけ?……あの場面じゃあの人がいの一番に突っ込んでいく人でしょうが……笑いでも取ってると笑ってたけど、ダイレクトに来るとキッツいものがある」

 

 タブラさんは何かしらで何かの知識を手に入れているようだが、乾いた笑いを漏らしている。

 

「あぁ……おいしい食べ物があって、青々しい植物があって、力強い大地があって、人が笑って生きてて、澄んだ水があって、未来を夢見ることができる世界だと思ったけど……」

 

 へたり込んだガーネットさんがため息を吐きながら俯いてた顔を上げて、強がった声で応えてくれる。

 

「ギルマスが頑張ってるんだ。俺もそんなことで折れてられねぇな、何よりも一回死んでるんだ今度は大往生まで意地でも……みんなと生きてやるさ」

 

 白い歯を見せて笑うガーネットさんの手を取ってシズが立ち上がらせて、ゴブリンたちがガーネットさんの両脇に腕を差し込み固定する。

 

「んん?」

 

 そしてその前にはモールで素振りをするシズ。

 

「それはそれとして、殴ります」

 

「なんで!?」

 

 首を傾げ、ガーネットの叫びに淡々と答える。

 

「捨てられたことに私は怒ってます。ん……悲しみかも知れない」

 

「……あ……」

 

 胸の内を探る様に一度目を瞑り、言葉を探す様にモールを握る手に音が聞こえるほど力が入る。

 

「だからこの、なんといっていいのかわからない感情をガーネット様にぶつけます」

 

「ど、どんと……こ、こいやぁ!」

 

 歯の根が合わない音を震える声で、振りかぶるシズを真直ぐ見る。

 それを俺は止めることもなく見ている。

 ユグドラシルでは二時間で一日が経っていた……リアルの一日がユグドラシルでは十二日。

 ガーネットさんが辞めてから四年、ユグドラシルでは単純計算で四十八年もの間シズは待っていた。

 

「ユグドラシルでは、リアルの一日が十二日。それまでに積もった想いを受け止めるのは創造主であるギルメンが負う責任だと、俺は思ってますよ。多少の私怨が籠ってるのは否定しませんがね」

 

 パンドラは俺に何もぶつけてくれなかったから……少しそれが寂しい。

 重量武器であるモールがぶつかるには軽すぎる、湿気た火薬が不発音を出す様にシズの頭部がガーネットさんの腹部に押し付けられて叫び声を上げる。

 

「怖かった!怖かったんです!来る日も来る日もただ立って、あの場所から動けずに……探しに行くことも訪ねることもできずに!今日は来られるかもしれない、明日は……その次の日ならって!捨てられただなんて思いたくなかった!いくら否定したくても!ガーネット様の居ない事実があって!こわかっだ……ざびじがっだ……ぐすっ……ひっく……」

 

 他には誰も声を発することなく、俺はガーネットさんの肩を叩いて村の中心の方へ向かう、それにならって一様にそっとその場を離れていく。




フランケンシュタイン・ズ・モンスター

良く人造人間としての怪物でのフランケンと呼ばれることがあるが、正確にはフランケンシュタイン博士の造った『理想の人間』の事である
ゾンビのように生肉を継ぎ接ぎにしたもの(フレッシュゴーレム)を指すこともあるが……

物語としては南極探検に同行していたフランケンシュタイン博士が狂気を患ったのか創り出してしまった怪物であり、醜さゆえに迫害される怪物は怪物の妻を作ってくれるように博士に頼みにくるがそれを一度飲んだ博士が機器を放棄し、それに怒った怪物が博士の妻などを殺した話であり19世紀に創り出された物語

自身の造ったものに滅ぼされるなどの慣用句としても使われることがあるらしい


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episode.16 「こいつらどうしてくれようか」

NPCの中で最も覚醒早そうな子たち
原作にてモモンガの休暇提案に直訴で対抗したり
敬語やめてと言っても自分の意志でやめてなさそうな子たち

そうだね、メイドさん達だね
ホワイト・プリムさんのイラスト集や購入した漫画とかアッシュールバニパル置いてそうで……仕事と私事を切り離させる役に立ちそうなのですw


尚、今回でてきているスキルは適当なものです



 村の中央付近まで進んだ俺達を出迎えたのは顔面スケートを地面でしているパンドラなのだが、その身体中には打撲痕が刻まれておりその勢いから顔面スケートは好きでしているのではなく、強力な攻撃で吹き飛ばされ地面に叩きつけられて滑ってきていることを物語っていた。

 摩擦の方が滑る勢いに勝る瞬間が来て、見えないトラックに跳ね飛ばされるように空中へ跳ね上がりその勢いのまま地面へと叩きつけられる。

 

「ぱ……パンドラァァァァァッ!?」

 

「まだまだああぁぁぁぁぁ……」

 

 地面をひっかく様に四本の指から力を込め身体を持ち上げ、つま先に残る力を込めて低空を飛ぶ燕のように駆け出していく最中に武人建御雷の姿に変わっていくのだが、変わった瞬間にもう一つの影がパンドラの上に現れ鬼武者とも形容できる巨漢を圧し潰す。

 

「まだまだ変身が遅い!全身を変化させずに必要な部分だけを変えろ!自分の能力を掌握しろ!お前はそこからだ!二重の影(ドッペルゲンガー)!」

 

 その圧し潰した人物は黒い翼を広げるルシファナさんであり、その両手には遊ぶように手で回されてる二つのメイス。

 腰に差されている得手であるはずの剣は抜かれておらず、それは手加減された状態でパンドラが手も足も出ていないという事、次いでいうなら俺でもルシファナさんの動きを捉え切れていない事か。

 

「俺の息子に何してやがるんだぁあ!ルシファアナァアアア!!」

 

 ここまでぼっこぼこにされているパンドラが訳のわからない悟君の目の前に飛び込んで来れば怒るのもわかるのだが、パンドラはパンドラで自身の壁を打ち破る術を探すための訓練をルシファナさんに頼んだのだろう。

 

『全く悟君は過保護なもんだ。<メッセージ>レゾさん、全員に手出しさせないでやってくれ。<メッセージ>タブラ、あの人は敵じゃないから』

 

 この辺りは俺のメッセージは便利なもんだ。

 本来なら声に出した声が相手に届くのが伝言(メッセージ)だが、俺の声が届くのは悟君が表に出ているときは悟君にのみだ。

 上位に声を出す必要のない念話(テレパス)、これはムジナとのやり取りでよく使っている奴だな、さらに上位になれば切り離された時間という独立した空間での複数人とのみの会話を距離に関係なく行うことのできる秘密の小部屋(シークレット・ルーム)が確認できている会話系のものか。

 見ることにジャミングができるように距離の制限やジャミングへの強度は本人の魔力は当然ながら上位のものになればそれらに計算される倍率が変わる。

 この辺がこの世界でメッセージが信用の置けない魔法となっている原因だろう。

 

「おっかえりー、サトル君。なるほどサトル君も特訓したいわけだ……それじゃ『朱の明星』『天の殺戮者』のルシファナさんが手ほどきしてあげましょう。胸を借りるつもりで来なさい」

 

 余裕綽々の態度で揶揄うように指を動かして笑顔で挑発をしてくる。

 

「やろお!ブックラッシャアアアァァァッッ!!」

 

 棒を両手に持って突撃するのだが、これは挑発が効きに効いて冷静な部分はまともに残ってない状態であり、戦闘としては悪手どころかただの自殺行為だ。

 教えたはずの基本をかなぐり捨ててただ当てるために振り回すことしかできないだろう。

 

「うーん……」

 

 この無様な突撃にはルシファナさんも思わず苦笑い、それでも手を抜かないところが流石。

 悟君の顔の横に添えるように存在するメイスの穂先、踏み込みの起こりしか見ることが出来んとはこれは俺も精進が必要だな。

 悟君も痛い目を見るだろうが、『目の良さ』ってのは戦闘では極めて重要な要素だと知ってもらうとしよう。

 視界の暗転と浮遊する感覚、確実に気絶させられたと判断できる状況だったのだが。

 

「ぶるあああぁぁぁぁっっっ!!!」

 

『「おおっ!?」』

 

 ルシファナさんと俺の驚愕の声が重なる。

 なんと一瞬白目を剥いたはずなのに、歯を食いしばって棒を振り切ることができるとは……侮っていたわけじゃないが俺たち二人の予想を上回ることをしてくれた。

 振るう棒の勢いは俺の目から見ても腰の入っていない速度も勢いもない手振りの一閃がルシファナさんに届くはずもなく。

 

「えい♪」

 

 気の抜けるような気楽な一撃が脳天を撃ち抜く衝撃を放ち、今度こそ完全に意識を落とされる。

 正直、ルシファナさんに乱入してるモリガンが居るので悟君に時間かけるほどの余裕がないのもあるが……これが、俺の知りうる最高クラスの戦いか。

 チャクラムのように空を無数に切り裂いていく皿の数々、それを紙一重で捌き切る幾線も走り抜ける剣の閃光。

 どちらもまだ技を切ってないところ見るに、村があることで遠慮出来ている程度には冷静だという事だ。

 

「「ははははははははははははははははは……あははははははははははははははは……はっあっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっっっ!!!」」

 

 どうしようこの二人、戦闘狂い(バトル・ジャンキー)の他にも血の饗宴(ブラッディ・パーティー)狂気の感染(マッドネス・インフェクション)痛みの熱病(ペイン・フィーヴァー)積んでやがる。

 俺絶対初期のハドラーみたいな顔してるよ。

 

「「消し飛べ」」

 

深淵なる世界への接続(アブス・ワールド・コネクト)永遠なる時間(レルアバト・ハーデル)

 

真紅の灼熱(クリムゾン・フレア)!!!」

 

真理の雷拳(ユピーテル・クラッシュ)!!!」

 

 切り取った空間が全て消滅するような膨大な熱に、電子分解されかねない程に集圧された雷を一点に打ち放つその威力はあの狂戦士が放ったカドラプル・ギガに見劣りしないものだった。

 空間は軋みを上げ悲鳴を上げ続けその空間を維持し続ける俺の精神を削り続ける。

 いつまで続くのかと思える拷問じみた短い時間、ただの一瞬ともいえる発動が永遠とも感じられる。

 二人の行動はその軋みが徐々に鎮まる事で把握することはできるが、まだ動き回っているのか度々消費する魔力が跳ね上がる。

 二つのぶっ飛んだ範囲攻撃が止んだのを確認して、二人を止めるためにあるアイテムを創り出す。

 

「クリエイト・アイテム、フル・ポテンシャル・オブパワー」

 

 それは巨大な鐘、但し二人を覆うように創り出し、(それ)を全力でぶん殴る。

 文字通りの全力で殴られた鐘は轟音を鳴り響かせ、内部に居るものに反響を合わせた絶大な波で身体ごと脳みそを揺さぶる。

 

「「………!?」」

 

 何やら聞こえた気がするが、鐘の音で聞こえんなぁ。

 しばらく殴り続けていると鐘の中から二人が落ちてくる。

 Q、素早くて捉え切れない相手にどうしますか?A、逃げ場のない範囲攻撃で圧し潰す。

 

「まったく……空間掌握が土壇場で上手くいって何よりだ……あぁ、もう疲れた……」

 

 骨の身体ならこんな疲労もないだろうが、今は悟君の時間だ……それを理由もなく侵すつもりは俺にはない。

 この二人への説教はどうしたもんだかなぁ。

 

「いやはや、すごいことになるものだねぇ」

 

「想像しなかったすごい方法で二人を止めるものだ」

 

 レゾにノブナガの声が耳に届くが、それに驚くような気力もわかない。

 

「ルビーアイにザビエルか?」

 

「「違う!」」

 

「あぁ……その言葉に嘘はないようだ。安心した」

 

 かけた言葉に即座に返してくる二人の否定の言葉に、俺の推測が外れていないことに安心する。

 レゾ、ノブナガはそれぞれにシャグラニブドゥ、魔人ザビエルの力を持ちながらそれぞれの人としての感性を持ち合わせてこの世界に存在している。

 

「君は相変わらずどこに向かっているのか……」

 

「相変わらず皆が笑ってのんびりやれる……ハッピーエンドな世界だよ」

 

 気の抜けた笑顔を向けながら本を取り出し確認すれば、四十一名の名前から四十名へと減っていたことが見て取れる。

 減った名前はガーネット、とりあえずこれでこちらの求める終わりとあちらの求める終わりが近しいことがわかる……相手が相手なので確約はできないが。

 二人の確認と本のチェックが終わったことで掌握している意味を終えた為にこの状態を解くと世界はまたいつもと変わらず動き出し、タブラの後ろにいい笑顔をしたルベドが立っていることに気が付く。

 

「やっほぅ……ぱぁーぱぁ……」

 

 その顔は上半分が暗闇に呑まれたように暗くなっており、金目がその闇の奥で爛々と輝きタブラを見ていた。

 

「ひぃ……」

 

 肩を力強く掴まれており、ガーネットの時とは違い本気で怒りを持っていることがわかるのだろう。

 その体は恐怖で震えている。

 

「パパのばかぁ!」

 

 ルベドはこぶしを握り、タブラへと振り抜く。

 その拳は音を置き去りにし、タブラを消し去り、土煙が辺りに舞う、しばらくしてから何人かの視線の先である湖で大きな水柱が昇る。

 

「ルベド……やりすぎだ」

 

 拳骨をルベドに落としてやれば、頭を押さえて頬を膨らませながら涙目で見上げてくる。

 

「私悪くないもん!」

 

 ため息を吐き出し、石の壁を見る。

 

「石の壁にぶつければ拾いに行く手間も省けたろうに……」

 

「ネムちゃんや村のみんなと一緒に作ったもん、壊しちゃだめだもん!」

 

 体全体を使って怒りを表現する赤髪の短髪にそろえた少女がルベドだ、ニグレドやアルベドとは違い大人の女性としてではなくまだ成長期にある少女の姿で赤と黒のツートンカラーに白の色糸を入れたワンピースを着ている子だ。

 

「そうか……そいつは悪かった。がやりすぎなのも確かだ、きちんとタブラのやつを拾って介抱してやるように」

 

「……うん……」

 

 軽く頭を撫でてやりその優しさを褒めてやり、それを使えといった俺は謝る。

 ルベドがタブラを回収するために腰についた翼をかわいく羽ばたかせながら飛んでいけばその後ろを「姫ぇぇぇぇっっ!!待ってほしいでござるぅぅ!!」と巨大ハムスターが追いかけて行ったり、腹部を除いて茶色い毛に身を包んだ毛むくじゃらの一つ目の肩に乗ったネムが頭の上に丸い蝙蝠っぽいのを乗せて腕の中には青いゼリーのようなスライムを抱きかかえてこっちに手を振りながらやってくる。

 

「ネムさんそんなに動くとまた落ちますよ」

 

 そしてその後ろについてくるように歩いているのは第二王女のラフィニアであり、ネムのはしゃぎっぷりにころころと笑いながらこちらに来る。

 ナシェルが驚いた顔をしているが、前世の愛妻がこっちでも王女様してるの知らなきゃそりゃ普通に驚くだろう、ナシェルは平民として生まれたみたいだし。

 だからこそ『漆黒の剣』はレゾとノブナガと違いナシェルとニニャには目的があり様々な場所を巡っていた訳だ。

 ナシェルはニアを探すために、ニニャは姉であるツアレニーニャを探すために。

 なんで姉の名前を知ってるのかって……さっきバルブロ王を突き刺したメイドさんがそうだった。

 

「お姉ちゃん、おかえりー」

 

「えっと……ネム、その人?たちは……」

 

 亜人とかモン娘と違ってもろにモンスターだからな。

 

「ガンドフさんにドラきちにスラりんだよ。あと森の方にね、アオイさんと一緒にスミスとパペックとロッキーも採取の手伝いしてるの。あとね、メッキ―もたまにお空の散歩に連れて行ってくれるんだよ」

 

「ネムが迷惑かけてないですか?結構やんちゃなので……」

 

 エンリの質問にガンドフは首を横に振り、笑顔を向ける。

 

「子供、元気、一番……必ず守る」

 

 モンスターでありながらほかの子供たちがネムを羨ましそうに見てるのを知っているのか、一度ネムを肩からやさしく降ろしほかの子供たちの方へと向かっていく。

 その背中には無数の切り傷が見て取れ、ガンドフの『守る』というその意志の重さが伝わってくる。

 ナシェルがラフィニア王女を抱きしめたり、顔を治した後に悟君が気絶から復活してエンリのお父さんスパークさんに土下座して結婚の許しをもらったり、真っ白に燃え尽きてる第三王女のラナーが椅子に座ってぶつぶつ言ってたり、エンリの結婚話を聞いてンフィーレアとかいう男の子が膝から崩れ落ちてたり、ナザリックの覚醒メイドさん達二十名総出でナシェルとラフィニア、悟とエンリの結婚式の準備をしたり、ルシファナさんとモリガンが俺の残した映像をニースさんに見られて説教されてたり、クレマンティーヌという漆黒法典から逃げ出した女性がエモット夫妻の養子になっていたり、帝国の四騎士の一人レイナースがなんでか村の人たちに集団先頭のイロハ教えてたり、青井さんの後ろにカルガモ親子のように蜂をデフォルメ女性にしたようなミストレスとキツネの着ぐるみを着たような女の子の月夜花(ウォルヤファ)が居たり、土を石に変える魔法を開発してたりとなんでこんなにも短期間で変化してるんだろうな。

 なお初夜の悟君とエンリちゃんはお昼ごろに起きてきたことだけここに記しておこう。




あかちゃ……まもった……

ゲームでは乳母が双子をベッドの下に隠して守るのだが、小説版ではガンドフがその身を使って守ることで、パペックはデモンズタワーまでの道印にするために自分の体をバラバラにして置いていく。
メッキーもパペックを運びながら戦い空に散る。
スラりんとドラきちは子供のふりをしてモンスターを騙すがそのせいでビアンカが魔物についていってしまう。
それを負い目にしてしまいメイジキメラ戦でまぶしい光で目の潰れた敵味方に自分の体ごと倒させる。
スミスはデモンズタワーでのボス、ジャミの最後の攻撃から守るためにリュカとビアンカの盾となり氷漬けになり砕け散った。
ロッキーは光の教団の悪あがきにリュカたちを生き埋めにしようとしたところをメガンテを使うことで活路を開きその命を散らせる。

本が手元にないからうろ覚えだが、こんな感じだったと思う


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episode.17 「エ・ランテルの英雄・前編」

年末に予約投稿ミスってたぜ……


もう一本突貫で書き上げて投稿しちまえばいいなw


 昼頃起きてきた俺は、皆から揶揄われエンリも顔を赤くしていた。

 

「サトル君もほどほどにね」

 

 青井さんが苦笑しながら白色のポーションや青色のポーションを渡してくれるがこんな色のポーションは見たことがない。

 青色はまだこちらの世界のポーションだとわかるが白色はいったい何だろうか。

 

「青色は魔力回復ができるポーションで、白色は……夜のお供の精力剤だ」

 

「……いや!?なに作ってるの!?」

 

 親指を中指と薬指の間に差し込んだ握りこぶしを向けていい笑顔をしている。

 

「ありがとうございます!アオイさん!」

 

 エンリが白いポーションをもってすごく喜んでいる……これまた絞られる!?

 

「スパークさんもありがたがってたからね。効果は保証できるよ」

 

 青井さんは養父さんになにしてるのか……そしてありがたがるって俺みたいな感じになっているのか。

 青いポーションを眺めてればレゾさんが後ろから話しかけてきて注意をしてくれる。

 

「サトル君。結婚した以上情事にどうのとは言わないが、避妊のためにシタ後はクリーンを使うように……」

 

「ア、ハイ。その辺りは気を付けてます……あれ?綺麗にするだけなんじゃ?」

 

「出したものも汚れだからね。娼館付きの神官なんかがこの魔法を納めてる理由はこれだね」

 

「祖叔父さん……そんなところに通ってるんですか?」

 

 エンリの冷たい目を受けて、悲しそうにしてるレゾさんだがなんでも昔、と言っても15年ほど前バルブロ王に娼館やその辺りの犯罪なんかのことを相談されたときに知恵を貸したために知っているんだそうな。

 性病の予防に神官のメンツ立てやその辺りを王立にすることで後ろ盾として機能しそういった方法でしかお金を稼げない女性やそういったことが好きな女性の紹介先としても使える上に、娼館を街に一つは建てることで性犯罪の抑止などにも衛生にも役立つとのこと。

 魔術師ギルドにも手を出しており、一般の人が文字などを学ぶ場所としても機能しておりついでとしてスクロールの作成の手伝いもさせているとか、コモンルーンという言葉さえ喋れれば特定の魔法が発動させれるマジックアイテムも販売しているとか。

 ティンダーが使えるものやライトが使えるもの、インクリーズ・ウェイトというもの軽くするものなど種類そのものは多くないが日常を楽にするものがあるのだとか。

 

「それじゃ僕たちも準備ができたら出発するから」

 

 青井さんがそういい荷物をまとめたリュックを背負う。

 どこに行くのかは聞いている、エウリュエンティウという天空城のギルド跡地に向かうのだと。

無銘祭寄書(ネームレス・ブック)」という書物を確保する必要が高く他者に悪用されないようその意味を知るこちら側で保管する。

 無銘祭寄書には緑谷さんがよく語っていたクトゥルフ神話の神々を呼ぶための呪文が載っている可能性が高い……より詳しく言えば、そのクトゥルフ神話ではその書物にその呪文が載っておりこの世界に存在することでその呪文が現実となっている、ということだ。

 エウリュエンティウに向かうのは高良さん、青井さん、ニースさん、パンドラ、ルベド、クレマンティーヌさんが向かうことになっている。

 

「皆さんも気を付けて……」

 

「悟君もね、またこの村で会おう」

 

 固く握りしめた拳を交わして、再会を約束しあいこちらもエ・ランテルへと戻る準備をする。

 ンフィーレア君を護衛していた冒険者たちはすでに朝早く出発しており普通に徒歩で向かうのなら追いつくことは難しいだろう。

 彼らは馬車を使っていたのだからこちらよりも早くつくはずだ。

 

ゲート(転移の門)を開きます」

 

 だがこちらにはそれを覆す魔法がある。

 

「……急ごう、なんだか嫌な予感がしやがる」

 

 ンフィーレア君が狙われているのなら出ている今、外で狙われることも考えられるがそれよりも時間はかかるが確実で油断を誘えるタイミングがある。

 それは、外から帰ってきた瞬間だ。

 急かす武蔵君はしきりに首に手をやり、険しい顔をしている。

 

「首の裏がちりちりとしやがる……これから嫌なことが起こる前によくあるやつだ」

 

 出来上がったゲートはいつものように闇の楕円形なのに、それは武蔵君が言うように嫌な感じがしてきていた。

 

「クライム、お前もいけ。こちらはガゼフに守らせる。そんなにも嫁さんが心配なら行ってやれ」

 

「ありがとうございます」

 

 お辞儀をして一緒にゲートをくぐる。

 

 

 

 ゲートをくぐった先ではエ・ランテルの門が見え、城壁の向こう側では炊事の煙とは違う黒煙が上がっていた。

 外側から空を飛ぶ赤いガーゴイルのようなモンスターが火球を吐き出しエ・ランテルを破壊しているのが見られる。

 

「街が……助けに行きましょう!!」

 

 その襲撃を見て全員が弾かれる様に城門をくぐりぬけ、空中にミサイルを撃ち出すバギーを見つける、それに乗るのはいつか見た衛兵でバギーを運転しながら肘から生えたガトリングで空のモンスターを撃ち落としていく。

 

「おう、いつぞやの新顔じゃねぇか!ここは俺のガルシア号に任せろ!連中を街の外には出させねぇ!」

 

「お願いします!モンスターはどこから来てますか!?」

 

 バギーのエンジン音にミサイルの発射音、それにガトリングの射撃音で普通の声では届かないと判断して大声でどこに向かえばいいか尋ねる。

 

「狙い撃つぜぇ!!街の北だ!!」

 

「ありがとうございます!」

 

「ご武運を!」

 

「はっ!!ガルシア様をなめるんじゃねぇ!この程度テッドの奴に焼かれたときに比べりゃあ!!屁でもねぇんだよ!!」

 

「モヒカンスラッガー!!後方不注意だぜぇ!俺はこいつと共闘する!此処にもヒーラーは必要だろう?怪我人はとっとときやがれ!!」

 

「わかった!」

 

 テッドとガルシアさんに城門を任せて、街道を進めば綺麗だった街並みは破壊の後がひどく道は砕かれそこかしこからうめき声が聞こえてくる。

 それは地獄絵図(リアルのテロ現場)のようで、怒りに歯を食いしばる。

 

聖なる領域(サンクチュアリ・フィールド)!」

 

 青白く発光する領域を兵士たちが倒れている場所に創り出し、回復させ呼びかける。

 

「怪我人を頼みます!そこでなら持続的に回復が発生します!一人でも多くを助けてください!」

 

「恩に着る!動けるやつは此処に来い!まだ俺たちがやれることをやるんだ!」

 

「大盤振る舞いと行こうか!!ポーションピッチャー!!」

 

 緑谷さんが懐から大量のマイナーヒーリングポーションを取り出し、怪我人に向かって投げていく。

 乱暴な方法だがなぜかアルケミストのスキルにある回復方法で普通にポーションを使うよりも回復する上に遠距離の味方にも使用が可能なのでユグドラシル時代にもお世話になっていた。

 それで起き上がる兵士や街の人たち、兵士の人たちはさらに倒れている人たちを担ぎ上げて作られた回復スポットに走っていく。

 

「おいらの足じゃみんなの足手纏いになっちまってる。おいらは此処でこの人たちを城門まで連れていく!先に行ってくれ」

 

 腰のホルスターからマグナムを取り出し、背中の刀を抜き放って直立したドラゴンのようなモンスターと対峙していた。

 

「邪魔をしてんじゃねぇ!!このバケモンどもがァァァァ!!!」

 

 銃がモンスターの頭を打ち抜き、そのまま刀で袈裟懸けに切り裂く。

 普通なら致命傷の傷だというのにそのモンスターは黒い血を撒き散らしながらも鍵爪を振るい、尻尾で薙ぎ払うことで武蔵と距離を取らせる。

 だが起き上がった兵士たちが数人がかりで槍を突き出し、モンスターの複数の方向から滅多刺しにする。

 

「こいつらはしぶといんだ!余裕があれば首を撥ねて完全に殺さなきゃならない!気を付けてくれ!」

 

「ヘカテミーナ、君はムサシ君の援護だ。ムサシ君、傷物にしたら許さないよ?」

 

「たっはっは……そいつは怖えや」

 

「師匠!?」

 

 さらに湧いてくる白い肌に青い血管のようなものが見えるつるりとした人型の化け物たちが大挙してやってくるのが見える。

 

「グレネード!ニニャ!ぼうっとするな!」

 

 ピンを引き抜きパイナップルを複数投げ込むことで爆破しながら、ヘカテミーナを叱り飛ばす。

 

「そっちは偽名です!呼ぶならミナと呼んでください!ライトニング……ストーム!!」

 

 雷が複数落ちてその範囲にいた新しく現れたモンスターを薙ぎ払っていく。

 なんだかんだ言い合いながら相性がよさそうなムサシ君とヘカテミーナのコンビを背に更に進んで街の中央にたどり着く。




ガルシア 出展:メタルマックス2系統

始まりの街で出会うハンター
バギーの「ガルシア号」を操る戦車乗りで最初のテッドブロイラーとのイベント戦にて負傷、死亡したと思われていたりするが墓の数を数えてみると一つ足りないことで誰かが生き残っていることを察することができたりもする
後にスワンという白鳥を模した建物でサイボーグ化したガルシアと戦闘することになる
戦闘をする理由は、まず最初に手に入れるであろうクルマ、バギーがガルシア号を修理したものであり
ガルシアの愛車を奪ったとして戦闘になるのだが、この戦闘に勝利することでガルシアは死亡する


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episode.18 「エ・ランテルの英雄・中編」

嫉妬マスクと言えば?
おっさんはこちらが浮かぶ
そんなギャグのような戦闘



 エ・ランテル中央部は噴水を中心としたそれぞれに伸びる街道が合流する、人々の憩いの場だった。

 だったはずだった。

 今そこには、ホバー移動するボロボロに見える幽霊船がデーモンたち相手に砲門を開いて戦火を交えていた。

 甲板にはバンダナを巻いたスケルトンたちがカットラスやハチェットで降り立ってくるガーゴイルに似たデーモンと戦っている。

 

「ウィスパーたち!街の人を安全な場所に誘導するんだよ!!キャプテン・セレーネのシマで狼藉しようたぁふてぇ野郎どもだ!!目にもの見せてやりなぁ!!私たちゃ、海賊だ!奪われるな!相手の(タマ)を奪ってやりなぁ!!」

 

 マグナムガデスをぶっ放しながら、水のない空中で水球を無数に生み出しレーザーのように打ち放つことで一瞬で戦場を掌握していく。

 半透明の布を被ったような古典的な幽霊たちやゴースト娘たちがその隙に地上で逃げ遅れた人たちを船室へと引き上げさせていく。

 

「そうとも我らはパイレーツ!お頭に遅れるなぁ野郎ども!!」

 

 海賊船長の帽子をかぶりいかにも船長だと思われる骸骨……ドレイクがセレーネに従いパイレーツスケルトンを鼓舞しながら、空中を滑るようにミミズクの上半身を持ち両腕が触手になっているデーモンを優先的に切り裂いていく。

 

「サトルたちかい!墓地からやってきてる、レゾ!そっちは任せるよ!」

 

 こちらに気が付いたセレーネさんは敵の出所を教えるだけ教えて戦いに意識を戻していく。

 戦力的には破格の強さを誇るが、それは対単体に近く良くて射角の狭い範囲で貫通力便りの穴を開けていく戦い方、弾数がどれだけあるのかわからないがこの敵の数だ。

 

「心配はいらないね!ほかにも戦い方なんてあるからねぇ……全門発射!期待の新米のお通りだよ!」

 

「「「イエス!マム!」」」

 

 砲弾が連続して打ち出される音を背に、爆発で巻き起こる爆煙をかき分けて墓地へと急ぐ。

 

「セレーネさん……ご武運を!」

 

 

 

 墓地の門では冒険者たちが喧々囂々銘々に叫び声をあげながらデーモンやアンデッド、見たこともない動物型のモンスターと戦っていた。

 

レッサー・デーモン(下位魔族)ブロウ・デーモン(邪精霊)までいるだと!?」

 

 驚きに眉を上げるレゾさんを見て、俺たちは一度足を止める。

 その一拍、状況を確認しようとしたとき着いてきていたクライム君が一直線に駆け出す。

 

「マーニャさん!!」

 

 駆けていく先には、壁にもたれかかり腹部を押さえている肌の露出の多い踊り子としか言いようのない布面積の少ない衣装に身を包んだマーニャだった。

 今まで受付をしていた普通のシャツとスカートの姿しか見たことがなかったが、これが本来の力を発揮するための装備なのか、慣れ親しんだ信頼できる装備なのだろう。

 抑えている腹部からは夥しい血が流れており、それは重要な臓器を傷つけていることもまたはみ出ている内臓から、致命傷だとすぐにわかるほどのものだった。

 

「あぁ……」

 

 クライム君に治療の手立てはない、クライム君だけでは……ただここにいるメンバーの多くも多くの人を治療する手段を持つものは少ない。

 サンクチュアリ系列の魔法を使えば、前に出した領域を失うことになる、ここに出してしまえばここよりも戦力の乏しい武蔵君たちが困窮することになる。

 何よりもムサシ君は冒険者仲間だとこの後の登録時に強弁することで、治療費をうやむやにしなければ無一文の武蔵君が路頭に迷う。

 そのついでに兵士や街の人たちが通った際に治療されただけで俺自身が治療したわけではないと、緑谷さんとも投げたという体で手が滑ったのだと口裏を合わせている。

 

「ごめんね……クライム君が城から帰ってきたら、式を挙げようって待っててもらったのに……」

 

「マーニャさん!しゃべらないで!大丈夫きっと助かる!助かりますから!」

 

「自分の体d「ポーション・ピッチャー!!」あいだぁ!?」

 

 叩きつけるように投げられたポーション瓶はクライム君に抱き起こされたマーニャさんの顔面にぶち当たりその勢いのまま、傷を治す。

 

「おうおう……独身男性にこれ見よがしに見せつけてよう……こちとら四十路まで一人やもめよ」

 

 白衣の懐を探り取り出したのは白い布切れのようなもの。

 それをゆっくりと自身の顔に持っていき、布切れですっぽりと覆うと白い覆面であり、吊り上がった目にそれを覆う炎のような模様。

 

「「初代・嫉妬マスク……」この騒動で!イチャコララブロマンスしやがるバカップルどもに制裁じゃあぁあああぁぁぁぁぁ!!」

 

 その突然の叫びにデーモンやアンデッドたちまで動きを止めていたのが一気にずっこける。

 

「俺の嫉妬の炎を受けるがいいわ!この元凶どもがァァァァ!!嫉妬・ファイアー―――!!」

 

 そのでかすぎる隙に大量のモンスターを巻き込む炎がマスクの目から放射される。

 いや、そんな効果あったっけ?

 

『ほれ、とっとと行った行った。俺はここで嫉妬マスクロール楽しみながらフォローしていくから、大本断ってきてくれよ』

 

 唖然とする俺の頭の中に緑谷さんの声が響く。

 

「クソガァ!イチャイチャしてんじゃねぇ!血まみれになってろぉ!ポーション・ピッチャァァァァァ!!!てめぇらモンスターにはこっちがお似合いだ。スフィア・マイーーーン!!大行進!」

 

 ぶん投げられる赤ポーションで倒れた冒険者たちを回復しながら、マインポーションを使った生体爆弾の生成といったアルケミストならではの戦い方をしながら辺りにいる敵を薙ぎ払っていく。

 文字通りリア充爆発しろとたまに人も吹き飛ぶがそちらの方は威力を加減しているのか、ただ吹き飛ぶダメージを押さえられたノックバックのようなものか。

 

「女を呼ぶ声がしたなぁ……そんなこたぁ新兵のすることだ!未熟がぁ!」

 

「ぷひー!?」

 

「集え!もてない男ども!!此処に!新・世界しっと団を結成する!!」

 

 握りこぶしを振り上げ、なぜか後光のさすその姿は何よりもこの凄惨たる戦場では救いに見えたのだろうか……一人また一匹としっとマスクの元へと集っていく。

 モンスターがたまに混じってる気がするのは気のせいだろう、気のせいなんだ。

 

「あっはっは……僕は緑谷君の援護をしていくよ。クライム君のお守りなんかも必要だろう?」

 

「わかりました。クライム君、ノブナガ、二人とも気を付けて」

 

「あれ?俺は!?」

 

 省いた緑谷さんが振り向き叫ぶが、俺に変態の知り合いはいない……ペロロンチーノも変態になるならスルーするとしよう。

 リアルでたっちさんのお世話になってる人はいないから大丈夫だとは思いたいが……るし☆ふぁーですらギルド情報を外に漏らさないというのは徹底してたから、大丈夫だと信じたい。

 

 

 

 墓地の中心にはほかに踏み込んだ冒険者がいないのだろう、そこはアンデッドたちが溢れておりデスナイトなどの中級と言える者たちも散見された。

 

「ホーリーライト!」

 

「ターンアンデッド!ラ・ティルト!エルメキアランス!」

 

「ホーリ・スマイト!ナパーム!ディバイン・レイ!」

 

 光の力がアンデットたちを蒸発させ光の道を作っていく。

 その道を進みながら、ナシェルが刃を外した剣を振りかぶり、力強く叫ぶ。

 

「光よ!」

 

 その声とともに刃のあるべき場所に極大の光の剣が生み出される。

 キャリオンベイビーやコープスコレクターといったアンデットたちを一太刀のうちに切り捨て、ポケットから取り出した笛を口にくわえ吹く動作をするがその音色は俺達には届かない。

 

「先へ!ここは私たちで十分です!」

 

「旦那、先に行ってくだせぇ。あっしは此処で作られたガキどもの供養していきまさぁ……南無阿弥陀仏……父を思うて一つ積み……」

 

 光り輝く拳を振り抜き、気弾の様な物を飛ばし攻撃していくムジナ。

 その声はどこか怒りを堪えた様な難い声で、今にも爆発しそうなものを我慢しているようにも感じられた。

 

『ガキを殺そうとしやがって』

 

 ムジナという名前を鈴木さんからもらった時に聞いた理由が頭をよぎる……ただの子供好きなだけだと思っていたが、それとは違う琴線に触れるような出来事があったのかもしれない。

 相手が敵であれば命を奪うことに躊躇はしない、それは俺も同じだろう。

 それをより冷酷に、冷徹に考えられるのがムジナだと思っていた。

 

「母を思うては二つ積む……三途の川に帰りな。てめぇらにゃ待ってくれるおっとうもおっかあもそっちに居るだろうが…………それを引きずり出しただぁ!?」

 

 無数に振り抜き打ち込まれ一面を制圧していく拳という嵐が吹き荒れる。

 

「聖光列閃撃!!」

 

 冷たい暗殺者、それが忍ハンゾウというものだと思っていたが、それがどうだ。

 ムジナという『人間』は子供のために激高するほどに熱い心を持っているじゃないか……俺はどれだけ人の内側を察するのに疎いのか、思い知らされた。

 そしてそれをすぐに見抜いた鈴木さんの聡さに驚く。

 霊廟にはこちらの様子を見る二人の人間、一人は金髪をボブカットにしたビキニアーマーに身を包んだクレマンティーヌさんに、もう一人は黒い瘴気をローブのように身に纏う頭髪の見当たらない禿げた老人が黒いオーブを手に持つ。




サイ・ソード 出展:ロストユニバース、スレイヤーズ

いわゆるライトセイバー
某SF大作で有名なアレである
サイシステムはロストユニバースで出てくるSFっぽい何かであり
気合を増幅しちゃったら光の速度も超えて、物理法則ぶん投げちまったぜ(てへぺろ)という色々ひどいシステムである
なんかふわっとした宇宙航行に必要な速度やら燃料やらを賄う便利なものだと思っていただきたい
そのSFっぽいものを応用した武器がサイ・ソードである
イメージ次第で射撃武器にも使えるし、気合次第でぶっとい大剣にもなったりする
ガウリィの出す光の剣よりも、リナの出す光の剣がでっかいあれな理屈である


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episode.19 「エ・ランテルの英雄・後編」

こんなの居たらどうすりゃいいんだろうな?
下手なワールドエネミーよりも厄介で倒す方法を模索しなくちゃいけないお相手
難易度:パラドックス、それは逆説
力押しでどうにかできるような連中はその辺に転がっている
ボス級はどいつもこいつも厄介な連中ばかりです。今回ちょっと?ばかりグロいお話が出てきます


「くっそ!どうなってる!」

 

 クレマンティーヌさんに化けているのは恐らくドッペルゲンガー、少なくとも俺の知るモンスターで同じようなことができるのはそのくらいのはず。

 ならこいつはいったい何なんだ!?

 老人の姿をしていたと思えば、テクスチャでも剥がれるように現れたのは、鏡写しの様な俺の姿だった。

 

『……!』

 

 杖を回すように扱いを確認する目の前の俺に、俺は慌てるように杖を下段に構える。

 

「そちらのエンリに変わっても面白くなさそうだ……なぁ、悟?お前じゃあエンリを殺すなんてことはできないものなぁ……」

 

 俺は昏い喜悦に笑みに顔をゆがめてその笑みを張り付けたまま、纏わりつくような口調で話しかけてくる。

 自分の顔で、自分の頭の中を覗くような言葉を吐くその現象に、吐き気を覚える。

 

「エンリはレゾさんと!レゾさん!クレマンティーヌの偽物をお願いします!」

 

 俺と同じ魔法が使えるのなら広範囲魔法も多く所持しているために被害を少なくするため、叫ぶように声をかけ、此処から離れるように指示を出す。

 両腕を拡げ、朗々と喋りだす目の前の俺。

 

「俺は支配者の器なんかじゃない。誰かに命令だなんてしたことなんてない。なんで俺なんだ!俺はただの小卒の平社員だ。豪くもないただの凡人だ。何よりも……人を缶詰に加工して売り捌く会社に勤めていた俺に愛される資格なんてない」

 

 さらりと俺が一番知られたくない事実を吐き出す目の前の俺。

 後ろにいる二人の顔を見るのが怖い。

 どう思われているのかを知るのが恐い。

 

「黙れ!」

 

 まだ口を開こうとする俺に突っ込み、下からすくい上げるような突きを繰り出し、避けられることを前提に次へと繋げようと考えていたのに、目の前の俺はそれを平然と受け入れる。

 走るのは俺の腹部に走る激痛、それは突きを与えたはずの場所と酷似していて俺は混乱する。

 

「おいおい、人の話は最後まで聞くものだぞ。俺よ……俺の傷はお前のもの、お前の傷はお前のもの。今ので理解しただろう?どういう立場なのかは……我は汝、汝は我なんて旧世紀に流行った言葉は言わんから安心しろ。あぁ、どこまで話したかな?」

 

 くつくつと笑いながらこちらをつぶさに眺め、更に暴こうとする俺。

 それに怒りを顕わにしながらも、止める手段を失った俺。

 せめてこれ以上聞いてほしくないこと言わないを願い、言わないうちにクレマンティーヌの偽物の方へと行ってほしい。

 

『……!』

 

 どうすればいい?どうすればいい?どうすれば勝てる!?

 反射なんていう状態は初経験でどう対応すればいいのかがわからない、こちらがダメージを受ける以上無理に試して動けなくなるのはまずい。

 あの口ぶりと余裕具合から、物理だけが返ってくるわけじゃないだろうどう対応すればいいのかがわからない。

 傷と言っていることから攻撃手段や属性というわけではないのか。

 

「そうそう、俺の言葉を信じる信じないは自由だが……お前を攻撃したからって俺にはダメージは来ない。せいぜい対策を考えるんだな」

 

 実に腹立たしい笑顔で教えてくるが、欺瞞か真実か……くそっわからない。

 最後に勝てばいい?今後ろにはエンリ達がいる……負けるわけにはいかない。

 

「思い出した思い出した。覚えているだろう?人の頸が落とされて足首辺りをクレーンに吊るされて血抜きされていたあの光景を。首にホースを繋いで内臓の老廃物を洗い流し、濾過して何度も何度も使うあの腐った光景を。皮を剝いで筋肉の赤と脂肪の黄色そして掻っ捌かれた腹から延びる縄のような腸。手足は輪切りにされ骨を抜かれて素材になるよう粉砕分離器にかけられるあの凄惨な現場を……思い出すよなぁ?」

 

「黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!!」

 

 いい加減に黙らせようと叫び声をあげた時、顔に張り手を受けるような痛みを、より具体的に言えばビンタをされたような痛みが脳天に届く。

 目の前にははだけた衣服から覗く肌色の双丘。

 視界の上の方に涙を目に溜め、顔を真っ赤にしているエンリ。

 

「え?」

 

「サニティ!」

 

 先ほど打たれた右頬とは逆、左頬にエンリからのビンタが炸裂する。

 

『おいっ!悟!とっとと目を覚ませ!?往復ビンタになってるぞ!!』

「おぶっ!?へぶっ!?」

 

 ビンタをされる音がリズムよく周囲に響いていく。

 

「いい加減正気に戻ってください!!サニティ!!サニティ!サニティ!」

 

 ビンタする度に平静(サニティ)を同時に使っているようで、打たれる度に痛みで混乱する頭を無理やり平静に戻される。

 ただ混乱した思考が戻っても何がどうしてこうなっているのかがさっぱりわからず、それを考えたり思い出そうとする度に痛みが飛んでくる。

 

 

 

 顔を真っ赤にして服を整えるエンリの手を引っ張って立たせ、目の前にいる相手……やはりそれは俺と同じ顔と体、装備をしていたそれは腕を組みながら、納得納得としきりにうなづきながら喋りだす。

 

「ほうほう、一番時間のかかったのはやはり私か……エンリはこれといったものはなく極々平々凡々とした農民生まれで人生にこれといった影はなし、多少性欲を持て余してるくらいか。紅玉眼の魔王は前世では孫の強くなりたいとかという願いを叶える為に孫をデーモンやゴーレムと合成とか思い切ってるわ、自身のクローンを創り出したりまぁ、本当に色々としてるもんだ。それもそうした理由は自身の目でその世界を見たいからときたもんだ、それも神々が封印したものを解いてみたのは自身が魔王に飲み込まれるというオチ付きだ」

 

「なんで今のうちに手を出さなかった……」

 

 わざわざべらべらと人の過去を話す相手に問いかける。

 こういった自身の勝利を疑わず、有利な立場に立っている相手は問いかければ、簡単に口を割ってくれるもの。

 

「ふぅむ、いいだろうそちらの思惑に乗ってあげようじゃないか。どうせ今回の負けは確定しているしな……はっはっは、訳が分からないという顔をしているね。訳が分からんという実にいい顔だ。自分よりも格の高い存在から加護を得ているのが相手だぞ?しかもその相手がこちらを見ている。うむうむ、そんなのがその気になれば、俺程度では勝てるわけがないだろう?」

 

 加護を得ている。

 目の前の俺は確かにそういった、それはきっと俺ではなく鈴木さんなのではないか?

 

「「俺にそんな価値があるはずがない」?」

 

 自分のつぶやきと明朗に耳に届くもう一つの同じ声。

 

「実に滑稽だな、自身の価値というものを理解しないものというのは。お前は自身に価値がないという、なぜ?人の死体を加工していたから?金を持っていないから?母を死なせたから?夢を持っていないから?人をその手で殺めているから?顔がよろしくないから?挙げていけば本当にきりのないネガティブ思考だなお前という人間は。そのうえで言ってやろう……お前を構築している価値観なぞ、加護を与える側からすれば塵芥もいいところのガラクタだ、無意味だ、無価値だ、ただ邪魔なだけだ。平常なまま狂い切った精神性、人を人と見ながら人を人と思わぬ振る舞い、元のお前から生み出された幾多の平行世界、生あるものの行きつく先はすべて死であるだったか?なぁ、オーバーロード?」

 

「……」

 

 何を言っているのか、何を目的にしているのか、全くわからない。

 俺の気にしているところを述べ挙げてきたかと思えば、次には更にわけのわからない事を言い出す。

 

「いったい何が言いたいんだ……?」

 

 当然のように出てくる疑問のつぶやきだが、それは嫌に響く。

 

「なに、お前が頂上の神々に気に入られる理由さ。狂気、矛盾、平行世界、必滅、……、『お前』を構築しているものこそが、私さえも超常と呼ばざるを得ん、キャパを超える怪物たちと繋がるに足る理由というやつさ」

 

 L様たちのことだと思うのだが……俺は……俺の思うように生きてきた……生きてきたはずだ。

 俺は普通の人間だ!

 

「狂気?矛盾?平行世界?必滅?なんでそんなものが俺に関係がある、そんなものを望んでるとでも言いたいのか!?」

 

「ハハハ!強がりだな。『なんで皆そんな簡単に棄てることが出来る!』お前がそのあとで誤魔化した言葉だぞ?それ(棄てられたこと)を否定したいと!心の底では願いながらも(狂気)それを口にすることもせず(矛盾)振り上げたこぶしを振り下ろした(必滅)そしてそれは観測された(平行世界)……お前がささやかな幸せを手に入れた世界も、絶望に暮れた世界すら……『今の出会い』すら否定できるのかね?」

 

 俺は鈴木さんに出会うことが出来た、人の姿を取ることが出来た、仲間たちを呼び出す本が手元にあった、何よりも愛する人ができた。

 共にいてくれる人を、人の温もりを、人が歩くための希望を……俺は否定が出来ずに言葉に詰まる。

 何よりも俺にはこいつを止める手段を持っていない。

 

「あ……ぅ……」

 

「あぁ、なぜ手を出さないかという問いかけだったな。すっかり忘れていたよ。お前に俺は倒せない、お前だけでは倒す手段も力もない。ただのんびりと待つだけさ、そう……魔神や不死者どもがこの世界を覆いつくすまで……それか、私を止める手段にお前が手を伸ばすか、をな」

 

 後ろに黒い孔が広がっていく、それは俺も知っているエフェクトで、不死者の軍勢(アンデス・アーミー)という不死者を無限に召喚する魔法。

 

「あぁ、私にお前は殺せない。加護を与えたものを殺せば加護を与えていた頂上の神々に私が殺されるからな。だがお前に私は殺せない、お前だけの力では私を殺せない。だが加護を与えている者たちがお前に力を貸せば……そこで私の敗北は決定だ。だがわかるだろう?お前の守ろうとしているものを壊す程度はできるのだと。さぁ!私は好きなように生きた!ならば、殺されるは必然!殺して見せろ!退屈しのぎになぁ!!『不死者の軍勢(アンデス・アーミー)』!!」

 

 強い覇気と殺意と共に叫ばれることで魔法が完成し、這い出てくるように黒い孔から現れるスケルトンやゾンビというアンデッドモンスターたち。

 

『『不死者の軍勢(アンデス・アーミー)』!魔法はこっちで対処する!近接攻撃をさばけ!』

 

 鈴木さんの声と同時にこちらの背後にも黒い孔が開き一拍子遅れたものの、同じようにアンデッドを召喚する準備を整え終える。

 それを見て嗤う様に顔を歪ませて、こちらと同じように武器を構える。

 

「は、はい!エンリ、フォロー頼む!」

 

 こちらに突撃し突き出された棒にこちらも棒を突き出すことで、鏡合わせのように棒の先端同士を突き合わせることに成功させる。

 こちらからあちらにダメージを与えることは許されない、あちらからのダメージはこちらにそのまま素通りする。

 

「はい。『あなたを支えます』」

 

 その声と同時に俺の負っていた怪我が癒され、相手側のアンデッドをホーリーライトで徐々に削っていく。

 

「あぁ、俺が『お前を守る』」

 

 その意志に応えるように金色の指輪が力強く輝きを増す。

 

「「アンデッドたちよ、敵を滅ぼせ!」」

 

 二人の支配者による掛け声に、アンデッドたちが悍ましいながらも勇ましい鬨の声を上げる。

 これが後に漆黒の産声と呼ばれるエ・ランテルを、後に世界を震撼させた大戦の狼煙。

 それを見る者たちはいい成長だと酒宴を開く。

 そしていつか聞いた電子音が鳴り響いた。




ニース(? - 新王国暦524年)は大地母神マーファの司祭であり、「マーファの愛娘」の異名をもつ。「偉大なるニース」と謳われた六英雄の一人。後にロードス島におけるマーファ教団の最高司祭となる。
経歴(大ニース)
17歳で高司祭となったほどの強い信仰心と神聖魔法の実力の持ち主。地震で崩壊した神殿の修理と被災者を救済するため、白竜山脈で古代王国の秘宝の守護者となっていた氷竜ブラムドの呪いを解いた礼として財宝を譲り受け、「竜を手懐ける者(ドラゴンテイマー)」と称される。
魔神戦争では、魔神に滅ぼされた「石の王国」の仇討ちのためにモス公国へ進撃しようとした「鉄の王国」のドワーフ戦士団を説得し抑えた。もし進撃を止められずにいたら、数千のドワーフ戦士を黙って通す国は無いため、経路上にある国と戦争になっていた。そしてドワーフ族に代わって実態を調査することを約束し、単身モスに向かう。
モスでは諸国間の対立や戦いを調停し、魔神に対するモス連合軍の樹立に尽力する。その後はナシェルの離宮にて他の六英雄やフラウス達と行動を共にした。
魔神王との一度目の戦いで、自身の体にマーファ神を降臨させる「降臨(コール・ゴッド)」の奇跡を使い、魔神王を退ける。魔神との最終決戦となった「もっとも深き迷宮」では仲間達と共に最深部に辿り着き、再び魔神王と戦いこれを討ち果たす。無事に生還したことで六英雄と呼ばれるようになる。
魔神戦争終結後はターバのマーファ神殿で最高司祭となり、赤子であったレイリアを引き取って娘として育てた。レイリアが遥かな昔「亡者の女王」呼ばれた破壊神カーディスの教団の最高司祭・ナニールの転生体であることを知りながら、魂の浄化や封印ではなく、ただ慈愛をもってレイリアの魂を導き、ついにナニールの魂が発現することを防いだ(後にその魂はレイリアの娘として「生まれ変わる」ことになる)。
英雄戦争時、「鉄の王国」のドワーフであるギムの治療のため神殿を留守にしていたところを賊に襲撃され、レイリアが失踪する。最高司祭として神殿を離れることが出来ない彼女は、ギムに捜索を託すこととなる。後、レイリアはスレインに連れられて帰還し、さらに後にスレインと結婚。生まれた娘に母である彼女の名「ニース」がつけられる。
レイリア失踪の14年後、邪神戦争の一年前に「邪悪な女神の復活の兆しを告げる神託」を受けるが、すべてを娘婿のスレインに託し、神託の十日後に逝去した。その際、ウォートやフレーベ、魔神戦争で仮面の魔法戦士として共に戦ったカーラ(肉体はウッド・チャック)が友人として彼女の元を訪れている。
人物(大ニース)
敬虔なマーファの信者で、深い信仰心と慈愛、それを体言する強い意志を持つ。物言いは穏やかながらも、言うべきことははっきり言う。自身の肉体に神そのものを宿す「降臨」の奇跡を使用し、その上で生き延びた数少ない人物である(「降臨」できるだけでも相当の技量と信仰心が必要とされる上、神を受け入れるに器が足りていなければ、「降臨」と引き換えに肉体と魂は砕け散る)。
その人柄ゆえに多くの者を惹きつけ、氷竜ブラムドとも友として接する。ブラムドがアシュラムに殺されたと知ったとき、彼に対して強い怒りを示した。その後、ブラムドを蘇生させたと言われている。おそらくカーラの素性も知っていたと思われるが、そのうえでカーラとも友として接していた。ウォートと惹かれあっていた描写もあったが、結局最後まで結ばれることはなく二人とも生涯独身である。
天寿を全うした人間としては短命で、前述の「降臨」によって肉体・精神に大きな負担がかかったことがその原因だと考えられている。

Wikiからコピペ……これ調べたところで性格なんとなくわかるんかね?
小説10冊分(伝説~伝記までの間も存在する、なお主役ではない)とか要約するとすんごいことになりそう


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episode.20 「リバイブする紳士な魔人」

 金属と金属がぶつかり合う音を鳴り響かせながら、突きには突きを、なぎ払いにはなぎ払いを、打ち下ろしに打ち下ろしを、袈裟懸けに袈裟懸けを合わせながら、差をまざまざと見せられる。

 

「ぬっ!……くぅっ」

 

 こちらは苦悶の声を上げ必死にかじりついていくのに対し、笑みさえ浮かべ息つく間もない連撃を繰り出してくる。

 

「ふん!はぁ!まだまだギアは上げれるぞ!」

 

 余裕すら見せ魔力を練り上げ、魔法を放つ素振りすら見せてくる。

 

「コ『コール・グレータ―・サンダー』!」

 

 魔法が互いに発動し、現実であればぶつかり合うはずのない雷が空中でぶつかり合い相殺しあう。

 

「くそ!貴様は何者で、なぜこんなことをする!」

 

 鍔迫り合いの様に状態で密着しながらも、この疑問が晴れない。

 こいつが強いのは相手取っている俺がよくわかっている、それでもわからないのだ。

 殺意や殺気というものが感じられない、まるで殺すことを目的にしているわけではないと自分から言っているようにも感じられる。

 だというのに戦うことを望みまた愉しめる性格をしながら、狂っているわけでもない非常に理性的なのがわからない。

 

「あぁ、これは失敬。戦う前に名乗るべきでしたか……恐らく気づくと言われていましたが。その質問が来るということは気づかなかったということでしょう」

 

 鍔迫り合いから押すように打ち払われ、追撃のように火球を生み出し距離を無理やりに作られる。

 

「私は魔人ジーク。魔王ジルに仕えた魔人の一人です、一度消滅しましたが環が神に生き返らせていただきましてね。その為、環が神の思惑にお付き合いしているのですよ」

 

 綺麗にお辞儀をして、そんな説明をしてくれるのだが蘇生は普通に……出来る……は……ず。

 

「消……滅……からの蘇生……?」

 

 ワールドアイテムのロンギヌスの槍による消滅からも蘇生をさせれる相手が黒幕にいる。

 

「えぇ、えぇ、その想像通りで問題はないですよ。故に述べたでしょう?あなたは頂上の神々からの加護を得ていると。そしてご想像通り、私は環が神に強化されておりましてね。あなたの能力と同値にするわけではなく私の能力に加算するという形になっていますよ。もう一度言わせていただきましょう、あなたでは私に勝利することはできない」

 

 今まで出していなかっただけの殺意や殺気がジークと名乗った俺から噴出されるそれはアンデッド達ですら怯ませる様な濃密なものだった。

 そんなものに経験も耐性もない俺は、縛られるような梗塞感が強く襲い掛かってくる。

 

「何よりもあなたは格上や同格の戦闘経験が圧倒的に足りていない。あなたのしてきたのは所詮仮想空間でのシミュレーション、此処で知覚しながら死んでいきなさい。下劣なことは私は嫌いなのでね、安心しなさい……あなたが動けなくなれば最後に殺してあげますよ」

 

「それを聞いてなおさら引けるものか……」

 

 殺される恐怖、ぶつけられる殺意に震える手を使って自分の頬を思いっきりぶん殴る。

 恐怖に狭まった視界が拓ける、震えも小さくなる、体も動く。

 

「なんでだろうな……俺が殺されるよりも『そうされること』の方に怒りが湧くのは……」

 

 殴って口の中を切ったのだろう、いつか振りに味わった鉄錆の味が口内の広がり唇の端からこぼれて伝うのを感じながら、『俺が負ける』ことで今まで話した、顔を見た、たかが一日なのにその生活を支えてくれた人が死ぬのだと、自分に関わることで殺されるのだと、目の前の存在を野放しにすることでそうなるのだと、知った。

 ちりちりと燻る様な小さなものだが、確かに芽生えた火種。

 

「そんなことはさせない、俺の目の前でそんな前を許すことが出来るか!」

 

「ほぅ……結構な答えです。目の前でなければ多少は目をつむれる……いえ、そこまで自分の手が広くないと知っているのは実に結構。そのうえで自分の身内に降りかかるものを打ち払うと、相手にも何かしらがあろうとも己が断ずると」

 

 互いに打ち込める距離でありながらこちらは出方を警戒し、そして向こうは笑みを浮かべて拍手を向けてくる。

 それは一種異様な光景だろう、戦いにそぐわぬ光景でありながらその在り方は如実に互いの力関係を示していた。

 今、俺に勝ち筋はない、だがそれは相手も同じ。

 互いにダメージを負わせすぎることが出来ない制約の元、条件は同じでありながら強者と弱者の構図が生み出されている。

 それが腹立たしく思う。

 

「さて、話はこのくらいにして……殺し合いの続きをしましょうか!」

 

 その言葉と同時に巨体がジークの後ろに倒れこむ。

 その巨体は二対の腕を持ち、頭部にはねじれた角、紅く輝く双眸、翼こそないもののもっぱら悪魔と表現するべきその巨体は二体いて、同じものが同じように殴り飛ばすというこちらと似たようなことをしていた。

 

「なんかいつの間にか怪獣大決戦になってる!?」

 

「あれ……大叔父さんみたいです……」

 

 すごく申し訳なさそうにエンリが教えてくれるんだけども、どうすればレゾさんがあんな姿になってるんだ。

 

「おや、それなりのドッペルゲンガーだったと思っていましたが写せたのは表面的な強さだけでしたか……いや、変装を変身というしとよりはましかもしれないですね」

 

 かなり余裕のある口調で喋りながら、ほぼ同時にも見える三連突きから流れるようになぎ払い、廻し蹴り、叩きつけ、すくい上げ、逆側を廻してのすくい上げ、サマーソルト、体を捻ってかかと落としと息つく間もない連撃を必死に打ち払っていく。

 しかも攻撃の合間に火球(ファイアーボール)連鎖する龍雷撃(チェイン・ドラゴン・ライトニング)などまで混ぜてくる。

 文字通りの必死に、三連突きで手のひらの皮が全てダメになる、なぎ払いで腹部には裂傷、廻し蹴りで鼓膜が破れ耳から血を流れる感覚がありながら右からは何も聞こえない、叩きつけで左肩が外れた、すくい上げられたことで肘もダメだろう。

 秒とかからず俺は血反吐を吐いて地に伏し、背を踏みつけられていた。

 

「この程度ですか?」

 

 足を一度上げ、位置をずらして喉を踏みつぶされる。

 

「ふぅ……この程度で終わるとは……なぜこのような弱い存在に神々は加護を与えているのか。実に不思議でなりませんね。本来の貴方であればこのまま持ち帰り殺すことなく加護を奪おうと画策するかただ心臓が動いている状態にでもするのでしょう」

 

 喉が物理的に潰されたことで声を出すことが出来ず、虚しいうめき声の様な音が口から洩れるだけ。

 逃げろと叫びたかった。

 

「…………」

 

 出てくる音は壊れた笛を吹くような不協和音と血から泡立つ音だけが小さく聞こえる。

 ゆっくりとジークの語る言葉遠くに聞こえる。

 頭の中には電子音が鳴っている。

 言葉にはできないが、腕が悲鳴を上げる中、掌だけを浮かせて本を呼び出す。

 

『待……て……』

 

 鈴木さんの声まで遠くに聞こえる。

 ただ心の中でそれに縋る。

 

「(白地蒙昧の瞳よ……)」

 

 世界は凍る、心に応えるように。

 世界から色は失われ眼前がひび割れ、その隙間から見える幾億もの廻る歯車に繋がれた数えきれないほどのケーブル。

 忙しくなく動き回るモノアイの一つがこちらに視線を送ってくる。

 

『力が欲しいか』

 

 その声がどこから出ているのか、ただ頭の中に直接送られてくるような問いかけ。

 

「ああ、欲しい」

 

『力はお前を歪ませる。それでも欲しいか」

 

「ああ、欲しい」

 

 俺が歪もうとかまわない。

 左拳を握り締め、もう一度声に出す。

 

「力が欲しい!……為の力が!」

 

 無機質な機械の目は変わらないのに、目を細めこちらを見つめているように感じられた。

 

(もん)が開く。力を得れば正史に戻ることはできず、死ぬこともなくただ消滅する』

 

「かまわない、在るのなら!能力(ちから)を!遣せ(よこせ)!」

 

ヒト(鈴木悟)であることを捨てるか……ようこそこちら側へ』

 

 憤るとも、悲しむとも、嗤うとも言えない表情を見た気がする。

 それを最後に世界は色を取り戻し、解凍される。

 手のひらが痛むが、いうことを聞かない腕を動かし、身体に力を入れてゆっくりと立ち上がる。

 

「まだ立ち上がれますか……終わったかと思ったのですがね」

 

「【白地蒙昧の瞳(アカシック・レコード)・オン】」

 

「サトルさん!」

 

 左腕を掲げ、手のひらをかまえる。

 ページがめくられながらその中に積み込まれてきた知識というモノが文字の形をとって、脳髄を焼くようにシナプスを無理矢理に稼働させていく。

 

「俺の()が真っ赤に熾る!怒りを以って祓えと轟き叫ぶ!」

 

 皮が引っぺがされて中の肉はおろか所々白い骨が見える、その掌からは赤かった血が流れ燃料として陽彩の火に飲み込まれていく。

 

「おめでとう。そしてようこそ……ヒトの道を踏み外すものよ。ここに私の敗北は決定した、潔く(タルタロス)の先で君を待とう。この世界を終わらせるものの誕生を祝福しようではないか」

 

 ジークは拍手をしながら魔法陣に縛られたまま、薄ら笑いを浮かべ終わりを待っている。

 ジークの姿は鈴木悟の姿ではなく黄色いナメクジを無理矢理人の形にしたような姿でスーツを着込んでこちらを見ていた。

 

「餓えず!乾かず!無に、還れ!レムリア・インパクト!」




アッザ「なんかいろいろ混じってない?」
デウッさん「元の詠唱を知らないからだな」
L様「魔法の詠唱がそれでいいの?」
アポ「それはアカシックレコードがまかなうからいいんじゃない」
カオス「まぁそんなとこじゃの」


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episode.21 「終戦」

この話で二巻分は終了
三巻はほぼ書くことがない(シャルティアの現状、傾世傾国奪取)ので、エウリュエンティウに行ったメンバーを書こうかと
ついでにクレマンティーヌが何回にゃーん(不幸)するか予想をアンケートに取ってみようかな?


 レムリア・インパクト……確かレムリア大陸というものがあるのは、あったのではと提唱していた学者がつけたハイパーボリア(超古代文明)の一つだったか。

 熱に焼かれる脳みそでそんなことをぼんやりと考えながら、展開された結界が急速に収束していくのを感じる。

 なんとなくこの技の在り方がわかる。この技はずらした位相を創り出し相手を世界から切り離して結界を圧縮していくことで超新星爆発(スーパーノヴァ)を引き起こさせる技だ。サイズゆえに恒星や惑星が出来上がるわけではないが、核融合時の熱量を保持することには変わらない。

 

「げぼ……」

 

 喉に溜まる血でむせて咳き込むと潰れた喉から止めどなく吐き出される。

 それを見てエンリが駆け寄り身体を支えようとしてくれるが、エンリの腕は俺の体を通り抜ける。

 

「―――――!?」

 

 結界の収束はもう始まってしまった、だから俺も脱出することはできない。

 本来なら収束が始まる前に俺だけ脱出することで完成するものだが、そんな体力は残っていなかったからこれは地獄への片道切符の道連れにするための自爆技だ。

 死ぬのは良くはないが、これで良かったのかもしれないと頭の片隅で考えてしまう……ナザリックはどう頑張ってもカルマを反転させる方法は『ない』、それは流れ込んだ情報からわかる。

 NPCの枠組みを抜けたとしてもカルマそのものが変わることはない、自分の楽しみのためにやるのかナザリックの利益のためにやるのか、もしくはその両方かいずれにせよ結末そのものが変わることはない。

 

「こひゅう……」

 

 俺が死ねば、ナザリックを維持できるものがいなくなることでNPC達は維持に奔走こそするだろうが俺の命令が解かれることはないために外に出ることはできない、唯一の懸念はセバスだがそれはシャルティアが抑えるだろう。

 セバスではシャルティアと狼には勝てない、そもそもシャルティア単体にも勝つことは難しいだろう……特に今の『達観』しているシャルティアには俺でも勝つのは難しい。

 

「(ただ最後に思うのは、最期はエンリの腕の中で死にたかったかな、こんな隔たれた世界の向こう側に一人にしないで……)」

 

 指に何かが触れる感触が返ってくる。

 視線を落とせば、左の薬指についていた結婚指輪(エンゲージ・リング)がはまっているだけで……俺の体をつかもうとエンリが必死に腕を動かしているのが見えるが、エンリの左手が俺の左手に重なる時にまた、触られた感触がした。

 

「(そんなことが起きるわけがない。世界は隔たれて、たとえ見えていても知っていてもワールドアイテムだって他の世界にも効果は及ぼせない筈)」

 

『あなたに逢いたい!!』

 

 聞こえない筈のエンリの声が聞こえたような気がした。

 抱きしめられる柔らかい感触、血が流れ出て冷え切った身体とは別の確かに生きた暖かい体温、かろうじて聞こえる左耳にエンリの鳴き声が鼓膜を振るわせる。

 

「……?」

 

 問いかけの声は血で塞がった喉から出ることはなかったが、結界の中(むこうの世界)からエンリの元(こちらの世界)に移動したことは、抱きしめるエンリがいることでわかる。

 

『ご都合主義みたいに思えるだろうが、ROの結婚スキルの一つでな……ニブルヘイムにいようがアースガルドに呼び出せるスキルなんだよ。『あなたに逢いたい』ってスキルは』

 

 結界の収束に巻き込まれて引きずられるように引き寄せられるジークが呼び出したであろう魔神やアンデッドが暴れながらこちらに向かってくるのが見え始める。

 それを追いかけるようにそれまで戦っていた冒険者や兵士たちが駆けてくるのが目に映る。

 結界の大きさが目に見えて縮まる速度が上がっていく、四本腕の巨体が仁王立ちしているその正面に倒れた同じ巨体、結界が縮まるのに合わせて倒れている方も中央に集められる。

 地下から引き上げられるように透けた衣装で女装でもしているようなンフィーレア少年も巻き込まれて収束している。

 エンリに支えられ、無理矢理右手を突き上げる。

 

「「「「「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!!!」」」」」

 

 それに合わせるように集まってきた人たちが勝鬨を上げる、この戦いの終わりを祝う様に圧縮された結界の中から光が世界に還元される。

 

「漆黒の英雄だ!」

 

「英雄の誕生だぁ!」

 

 誰かが叫んだその呼び名が皆に浸透していく。

 

 纏っていた深紅のローブは俺から流れた血を吸って漆黒に染まっていた。

 

 

 

 そこはどこかの屋敷と思われる一室、ジークが椅子に座り本を読んでいた。

 

「おっと、分身が死にましたか。倒せる程度には調節していましたが『科学の終点』(デウス・エクス・マキナ)様もこれで満足されましたかね?元々あの方々のマッチポンプではありましたが」

 

 都合のいい敵、都合のいい展開、都合のいい解釈。

 

 神々の遊戯であり単なる戯れに選ばれた人に憐憫がないわけではないが、人の足掻く様を見て嗤う神々の感性についていけないジークはまた本に視線を落とす。

 

 神によるご都合主義、理不尽であろうが、神が笑えればそれでいい、これはそんな物語。

 

 




『君だけは護るよ』
『あなたに尽くします』
『あなたに逢いたい』
 上二つはそれぞれにHP譲渡、SP譲渡スキル、作品内では多少変えて使用したりする。
 そして今回使われた呼び出しスキル、ログインさえしてれば召喚することが可能、ただしワープ不可能場所では使用不可(例:ROのギルド内では使用不可)なのだがユグドラシルのギルド内では利用が可能となっている。
 なんでだ?と疑問に思われるかもしれないが、『ユグドラシルのギルド内ではワープが可能』な為である、具体的に描写されており具体例はリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンでの移動やシャルティアがゲートで移動している描写が存在しているためである。
 恐らくテレポート阻害はしていると思われるが……それが妨害されるのはもう一つの養子を呼び出したりする同じマップ内を限定したスキルの方になる。
 なお、結婚相手限定だが蘇生スキルも結婚スキルには存在している。


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episode.EX-2

リアルに関するぱっと見の考察を述べてますが。他作品を批判するつもりはありません
あくまでもこの作品ではこんな感じでとらえているということです


「こんにちわ、こんばんわ。アリスです。二巻も終わりましたのでなんだかんだといろいろ説明ですよー。今回はゲストに分霊アンドロイド状態なデウッさんことデウス・エクス・マキナさんに来ていただいております」

 

「今番はよろしくお願いする」

 

 形は人のそれであるが明確に機械であると主張する全身であるが、見方によってはスペースファンタジーに出てくるような機械(サイボーグ)化歩兵とも見える。

 

 対して女の子は前回いた明るい方のアリスで暢気なお茶会な雰囲気を出している。

 

「あ、まずは私から質問いいですか?」

 

「ふむ、何だろうか?こちらで答えられることであればいいが」

 

「サトルさんのリアルがなんだかすごいことになってますけどなんでなんでしょう?」

 

 デウッさんはアリスからの質問になるほどなるほどと鷹揚に頷きながら質問への解答を出す。

 

「まずはアーコロジーの定義を話そう。多くの人間が住める場所というのが広義、そして消費と生産が成立しているものが狭義となるがオーバーロード原作でのリアルを鑑みるにどちらかといえばシェルターというイメージが強いかもしれないな。自然破壊が行われた過酷な環境から逃れるための建物がアーコロジーと呼ばれている生活空間だと思った方がイメージしやすいだろう。さてこの自然破壊はどうして行われたか?こたえは『企業』と呼ばれる組織が率先して利益を追い求めた故に行われたものだが、それに対応するようにアーコロジーというものが作られていたところを見るにこれは計画的なものではあったのだろう。そうでなければ『現代』ですら百年計画の建造物をポンと作ることはできないからな。だがアーコロジーという閉鎖空間にて大切な決まりごとが存在しているのだよ……それは『消費と生産のバランス』だ」

 

 アリスは首をかしげながら消費と生産のバランスという言葉を鸚鵡返しにする。

 

「うむ、バランスをとる必要があるのだが、自然を破壊しきるというほどに破壊する阿呆が。大地にぺんぺん草一本残さないような阿呆が。太陽光をまともに届かぬようにするような阿呆が。生活レベルを押さえることが出来ると思えるか?むしろそんなこともわからずに消費ばかりを加速させ生産性を破綻させる未来しか想像が出来んがな。それゆえ人口に対する食糧の細さを際立たせた、らしいぞ」

 

 やれやれと肩をすくめて見せるデウッさん。

 

「さらに言えば気候の問題だな。地球温暖化というのは聞いたことがあると思うが……」

 

「はい!森林が少なくなって地球の温度が……森林無いですね……」

 

 植物のない不毛の大地、太陽光の弱まっている偏光が発生しているために色の違う空、汚染された水に、肺を機械化した上でマスクが必須な空気から降る雨はpH値が中性ということもないだろう。

 

「うむ、地球そのものがまともだと思うか?」

 

「無理ですね」

 

 質問に即答するアリスに話を続けるデウッさん。

 

「『外』がその状態でアーコロジー内で洗浄するとしても洗浄装置の摩耗は早かろう、水にしろ空気にしろ光にしろな。ただでさえ消耗品の消費が多い中嗜好品などと文句をつけ始めればきりがないからな、電気エネルギーの問題もある。永久機関作りましたとかの『ご都合』でもない限りアーコロジー内の電力を賄うのは不可能だからな?原子炉?内部を放射能被曝で人が住めなくするかね?水力や風力、太陽光?酸性雨や偏光、汚染水でまともに動くわけがなかろう。火力発電は化石燃料が払底したことから使い物にならん、以上維持が不可能な理由だ。むしろ百年もった理由が知りたいくらいだよ」

 

「だ、ダメ出しがすごいことに……えー……ではお便り行きますね!」

 

 デウッさんの勢いにアリスがドン引きながら、無理矢理次の話に持っていく。

 

「最初はこちらですね。木刀大鷲さんとべっこう飴さんの感想ですね。場面としてはブループラネットさんが出てきたあたりですね」

 

「この辺りはアザトースと私の合作になる。別の場面で言っているが『悟』は私の観察、管理している世界の住民だ。『原作の世界』では神は居ないと明言されているためにこの時点でパラレルワールドということだな。本という形でギルドメンバーの情報を招集し、それをアザトースの能力で魂に落とし込み肉体を持つ状態に巻き戻す、そしてみることが出来るのは私の用意したフラスコというわけだ」

 

「なんだかすごいアイテムなんですね?」

 

 よく理解できないのかアリスの頭の周りにハテナマークが浮かんでいることだろう。

 

「ついでに言えばいの一番に生き返ろうとしたのは『たっち・みー』だ。このアイテムがあれば妻と娘を生き返らせることが可能なわけだからな。幾度となくチャレンジして発狂しっぱなしな状態だが」

 

「Oh……何気に見ている方も阿鼻叫喚?」

 

「それを抑えるために出てくる人数は少なく抑えられている。一度に来ても一人二人の物理戦闘職についてないものが出てくることが多いだろう」

 

「なるほど、続いて人肉原料食料が出てきた所で同じく木刀大鷲さんとべっこう飴さんですね」

 

「この辺りは作者がそれ以外のまともな供給先を考えられなかったからだな。どう考えても家畜の食べる量を用意できないのが問題として立ちはだかるためにタンパク質としての最低品質を提出、かつリアルの市場を古代に例えた訳だな。古代では人肉も市場に並んでいた資料もある」

 

「うわぁ……聞きたくない情報でした……続きましてマーゴットさんを加えてのラスボスさんたちに関しての質問ですかね」

 

「簡単に説明されているのでL、アッザ、アポ、カオスは除いて私の説明をしておこう。古代の劇の手法の一つとして大がかりの機械を使用した劇の呼び方であり、物語の種類としての呼び方もあるし、最近ではディストピアの一つである管理社会のマザーコンピューターのように扱われることもあるデウス・エクス・マキナ、機械仕掛けの神とも人に造られた神という意味を持つ」

 

「それがなんで上位存在と肩を並べることになるんですか?」

 

 デウッさんは一つ頷き。

 

「それは作者の独自解釈の一つだな。私はオリジナルキャラという立ち位置になるが、『科学の行き着く終点』として、存在する全知全能神を作る過程と思ってもらうのがいいだろう。その特性上物理に特化した存在でもあるし、特殊な効果を使えない状態にすることに特化している故に最も過酷な場所と言われたわけだな」

 

「あのぅ……特殊な効果って魔法とかもですか?」

 

「物理法則から離れる精神力だとは無力化できるな」

 

「えげつない!?」

 

「Lのグルメは……異世界特有の食材でも出てくればチャンスはあるかもしれないが原作でモモンガが近代的と評価しているから期待はしない方がいいだろう。日本史の近代か世界史の近代かでも変わるが、読者たちからかモモンガからかの表現でも変わるがな」

 

「まさかのご都合キラーというかファンタジーキラーなお方でした……お次はグラビ屯さんからのお便りですが……」

 

 すまない作者が大司教鈴木さんという人物を知らんのだ。

 

「とのことです、申し訳ありません。次のお便りは木刀大鷲さんからですね」

 

「普通に修羅な世界だな。いろいろなものが来ているために生存競争が発生して弱いものが追いやられるというオーバーロードの世界でもあったことだから、その辺りは諦めてもらおう。続いて取り立ての話だが国の軍事行動と口を割らせているために責任は国が取るべき事柄に発展しているだけだな。14巻でもフィリップが暴走して王国が滅んでいるだろう?理屈はそれと同じだ。ラナー一人の幸せとクライムとその連れ添いの幸せをとるなら一人よりも二人の幸せを取るという形に収まった」

 

「続いてマーゴットさんのパンドラの戦闘のところですね」

 

「パンドラの顔とアリスソフトのハニワの顔を並べてみよう、そっくりだぞ?パンドラはハニワの里に行けば仲間と思われるかもしれんな」

 

「!?」

 

 思わず並べようとしてぶんぶんと首を振る。

 

「ちなみにハニーキングは主に裏ボスとして登場し魔人ケイブリスやKD(キングドラゴン)よりも強かったりする。そんなのが近郊にいる程度にはぶっ壊れた世界だ」

 

「なんというか敵の強さが際立つお話ばかりに……つ、次は木刀大鷲さん、おじさまに原作知識があったらという話に続いてデミウルゴスさんの話になってますね、あとモリガンさんのお話です」

 

「あいつに関してはすでに出しているのでスルーするとして、デミウルゴスはウルベルトがもっとも嫌悪する存在だと思う。理由としては行動が毛嫌いする裕福層に立つ人間や上司といった人間の行動そのものをしているからだな。目上のモモンガにしっぽを振りご機嫌取りをし、現地の人間を下に見て虐げる様はウルベルトの嫌悪してきた姿にしか見えないのが笑い話にしかならないな」

 

 首を振るい手を施すことが出来ないことを示す。

 

「デミウルゴスさんがどれだけ創造主であるウルベルトさんを思っても届かないって悲劇ですよねぇ」

 

「続いてはモリガンだが正確な強さは万全の状態で勝負をするだろう終章が出てからになるが、少なくとも前章での勝負するときの能力でもアルベドには勝ち目がないだろうと見ているし、正論でアルベドの愛し方を否定されればそれは心折れるだろう」

 

「容赦のない人だった。続きましてぼるてっかーさんから」

 

「この辺りはモヒカンキャラは多いが濃い薄いが激しいから作者がうろ覚えになっている」

 

「次は性犯罪者への仕置に関してですが……」

 

「本来の変態仮面ならパンツの中に犯人の顔面を入れて去っていくというものがあるし、作品内に出した往来に縛ってさらすというのも、痴漢相手に電車内で同じようなことをしている……この作品ではまだパンツ一枚でさらしていないだけマシではないかな。情事に関してはR18版を見てくれ」

 

「実は手加減されてた?続きまして装備は柔らかい?ということをセイシロウさんから」

 

「これに関してはちょっと訂正が必要になる話だな。オーバーロードではミスリル、オリハルコンと呼ばれているがこの名前のままで扱われるのであれば、『ミスリル銀』『オリハルコン合金』とは違うものとして硬度そのものが低いものとして扱うことになる、名前の似た異なる物質または合金前の素材……カッパーと言われて青銅だと勘違いする様な感じか。なおゲーム前提というか原作の説明通りの効果をザゴールオブオールライフイズデスが発揮するなら、ワールドエネミーであろうとレイドボスであろうと即死させるというゲームそのものをつまらなくするものだったりする」

 

「あー……四日に一度とはいえどんな相手でも狩れるとなれば市場価格も崩壊しますね……」

 

「ついでに言えばヒヒイロカネが希少金属で七色鋼の一つだとなっているが、ヒヒイロカネこそ柔らかいぞ?加工しやすい鉄だし、セレスティアル・ウラニウム……神々しいウラン鉱とかわけがわからんものが固いと言われてもな」

 

「神々しいって何が神々しいんでしょうか……光ってるのが神々しいと言い出したら危ないと思うんですけど」

 

「ミスリル、オリハルコン、アダマンタイトまではギリシャ神話で出てくる物の硬さの順になるが、その先は『中二病の塊』ではないかと思っている」

 

「ひどいぶった切り方を……次に行きましょう。ANIMELOVEさんからの長文感想ですね、すでに消されているものですが」

 

「まずタグにある通り、この作品はアンチ・ヘイト物だというのは念頭に置いておいてもらいたいのだがな。何のためにタグがあると思っているのか……短文で切り捨てるなら『アンチ・ヘイトが嫌いならアンチ・ヘイトタグのついているものを見るな』だが、作者としてはアンチ・ヘイトは嫌いなんだというこの感想を『この作品はきちんとアンチ・ヘイト出来てます』と捉えているからな」

 

「(・ω´・)さんではないですがメンタル強くないですか?」

 

「これに関してはただの捉え方の違いというだけだな……さて話は戻るが、上記の捉え方は特に言ってこないのであればあの感想に書かれた通り、多くの低評価読者は「NPCがないがしろにされているから低評価をしている」と判断している為に「低評価?作品の方向性に評価付けるとか知らんがな」とは作者の弁だな」

 

「説明不足だと言われていた少数の位でしたっけ、何とかできないかとしてるのは」

 

「そうだな。中身を変えさせたいのであれば感情論ではまず作者は動かないな、『納得のいく理由』を感想なりで挙げない限りこの作品での文章、方向性がそうそう変わることはない。R18の方のメイドが明言している理由がある為に、NPC達がそれを謝罪することすらないなら蔑ろにされるのは当然だと考えているのを変えさせれるものでもなければ、もしくはそういった事実に気が付くだけのイベントを感想で用意してみればいいんじゃないか?面白いと感じたのなら拾うかもしれんぞ?確約はせんがな。まぁ……自分で感想を消すようなのだとまともなものは期待できんだろ」

 

「面白いと思ってワーストシリーズ作ったというのがありますね。それじゃ続きましてべっこう飴さんの敵無しな感想ですね」

 

「この辺りは人の好き好きも影響するが、オーバーロードの俺つえー部分を強く出しているところだな……例として世界すべての敵対者と同時に戦えばナザリックが半壊するというものがあるが、まず前提が解消できない問題が転がっている戦力比だと返しておく。法国とツアーが同調して戦うということが可能になる状態にできて初めて実現する結果だというのを忘れてはいけない。想定としては『傾世傾国』で仲間割れが発生するから半壊するのではなかろうか?が有力なところだな」

 

「成長の機会というか困難そのものがないって感じですかね?」

 

「モモンガ個人の困難としては部下との人間関係の構築位だろう」

 

「かつての仲間と会うのも早々に諦めちゃってますしね」

 

「次はゴジ―君からのだが……これこそ他の感想からのものでは?あと特に意見が見られなかったので所詮は同じ低評価をしている人と一括りにされてるぞ」

 

「次はセイシロウさんからの信者からの攻撃があったなぁというのとデミウルゴスへのことでしたっけ」

 

「この辺りは返せる言葉がないな、思っていたことが当たっていた部分だからな」

 

「次はマーゴットさんのお二方が呼ばれたときの第一声に関してですね」

 

「美味そうな肉にそれを幸せそうに黙々と食べているのを見ていたのだから仕方ないのではないかな?タブラの方は多少別の思惑もあるが、これは三巻分で話されると思う」

 

「次はべっこう飴02さんですね」

 

「これも感想で返したそのままだな。この作品の流れで原作そのままの状況は用意できんからな原作のIFとなる」

 

「お次はセイシロウさんのですね……スクロールって利益になるんです?」

 

「……エルダーリッチ級マジックユーザー系量産の方が複数回使える、複数種使えるで利益になると思うがな。レベルの上限と使える位階の確認ついでに現地スクロールを作らせる方が効率がいいと思うが……そちらも材料がどうなるかだな。ナザリック産のスクロールはユグドラシル金貨を使って作成する関係上、使い道が微妙なスクロールであれば利益は出ないだろうな……シュレッダーにかけても金貨そのものは返ってこない、原材料の値段と考えれば小麦の方が利益が出ているんじゃないか?」

 

「そういえば原作では小麦で維持費を稼いでいるんでしたっけ。発展関係では何かありますか?」

 

「王国レベルであればリィジーがポーション関連でオリジナル魔法を手に入れていて無ければおかしいと感じる程度だが、帝国では学院があるがこのれがどの程度の歴を積んでいるかだな。フールーダーが早い段階、250年ほど積んでいるなら第7位の研究位は進んでいると思うのだがジルクニフ即位とそう変わらない時期に出来たのであればまずは魔術師を増やす段階だろう。知識の安価が始まるまではブレイクスルーすることは一部の天才が行っていくものだ」

 

「あとは即死なんかに関してはどうでしょう?」

 

「死亡?あぁ、死んだな、で蘇れば済むだけだろう。そうできないだけのものでも用意するなら楽しみに待つだけだな。蘇る際にレベルダウンするわけでもないこちらからすれば何を恐れる必要があるのかわからん、というのが正直な感想だな。ついでに抜けている獣人の被害だが」

 

「クリスティアのリーダーはどうした!?」

 

「ロリっ子のモン娘についていきましたよ!今年も男手持ってかれたのどうしますか?」

 

「農作業を女性たちに頑張ってもらうしかないかのぅ……人死にがないだけマシか……」

 

「これが龍王国の状態だな」

 

「今回はこんな感じですかね」

 

「あぁ、最期に作者は三巻を読むまでは普通にオーバーロードを楽しんでいたが、三巻からアンチになったぞ」

 

「ではまた三巻分でもよろしくお願いします」

 

 

ドラクエシリーズ

マーニャ、ミネア、ピサロ

 

隻狼

クロウ、ミコ、オオカミ

 

モン娘シリーズ

セレーネ、パンツ先生

 

ラグナロクオンライン

ミストレス、オークヒーロー、オークロード、ウォルヤファ、ぺロス

 

メタルマックスシリーズ

テッドブロイラー、マリア、ガルシア、地上戦艦ティアマット、ハゲタカヤーボ

 

スレイヤーズ

レゾ、ルーク、D

 

ロストユニバース

D

 

アリスソフト系

ハニーキング、ノブナガ、ハニホー、ルドラサウム、くじら

 

ロードス島伝説

ナシェル、ラフィニア

 

チェンジゲッターロボ

ムサシ、メカザウルス、早乙女博士

 

スーパーロボット大戦OG

シュウ

 

デモンベイン

ドクターウェスト

 

ゼオライマー

マサキ

 

千年戦争アイギス

グレーテル、ゴブリンクィーン

 

あたらしくだしたのはこんなもんかな?




このキャラはどこのだ!とぬけがありましたらツッコミよろしくお願いします


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~砂漠を進むモノ~
episode.1 「砂漠は危険がいっぱい」


クレマンティーヌがにゃーん(不幸)する理由
メンバーの中で一番レベルが低いから仕方ないんだ






 私たちは今、不毛の大地砂漠へと足を踏み入れようとしていた。

 砂丘が風に浚われまだ見たことのない海原の白波の様に姿を変える中、砂塵が舞い上がり視界を遮ってくる。

 

「ブルーさん、手記書いてる場合です?」

 

「いやー冒険記みたいに書いてみたくてね」

 

 僕も頭を掻きながら手等に記していた日記のようなものを閉じて改めて、目の前に広がる砂漠を見る……黄砂ではなく砂浜のように白い砂漠。

 黒は熱を吸収して熱くなるが、白は熱を反射して周囲を暑くする。

 

「熱いよぉ……み、水……スレイン法国内でも隠密で疲れたのに……」

 

「いや、クレマンティーヌちゃん。服着替えな?その格好で砂漠横断となれば火傷するよ?」

 

 今のクレマンティーヌの装備は自分の慣れ親しんだものであり最も効果の高いものをと選んだのだろうが、肌の露出が多く砂漠に適した装備とは思えないビキニ状のスケイルアーマーにマントという服装で、砂漠に足を踏み入れていない目前にした状態で暑さを感じている。

 ニース、ルベド、ルシファナと一緒に砂漠で着られる民族衣装っぽい服(アラブ系のカンドゥーラ)に着替えるように勧めながら、無限の水差し(エンドレス・ウォーター・ピッチャー)から水を出し渡しておく。

 

「え?火傷?」

 

「夏とかでこっちだとどのくらいかわからないけど……人の体温が平均36℃、夏の温度が27~30℃くらい、で日焼けなんかが発生するけど砂漠だと50℃が記録されてたかな。此処だと多分もっと熱くなるからね?乾燥してるのもあるから水分補給は小まめにしていこうか、遠慮はしなくていいからね」

 

 アラブな格好をしたパンドラがセーフティ・ハウスから出てくる。

 

「しかしスレイン法国には驚きましたな。まさか、劣化魔神を創り出すために自国の国民の死者を利用するとは……それを見たニース殿の顔が凄まじかったですなぁ」

 

「確かにあの無表情はすごく怖かった……何か因縁があるのかもな……僕たちとはまた違う世界から来た異邦人だそうだしね」

 

 あの白い粘膜を纏うような人の形をした気味の悪い魔神を見た時の反応はそれは劇的なものだった。

 普段は笑顔を絶やさぬ優しい顔をしていた少女が切り替わるように無表情となり、手元で砕ける音がしたかと思えば特殊な加工をしたらしいミスリルのメイスが曲がっているとか、どれほどの恨みがあるのだろう。

 確かに目の前で人の遺体を別物に変えていく様は、僕が見たあの光景に似ていて、吐き気を覚え次いで湧いてきたのは怒りではあったが……少人数で敵の戦力がわからないうちに突撃することはできなかった。

 

「本当はあの時点でつぶしきることが出来るのが最高なんだろうけど……」

 

「敵を知り己を知れば百戦危うからず、ぷにっと萌え様のお言葉ですな」

 

「正確には孫氏兵法書っていう古い兵書に書かれている言葉だけどね。パンドラはあれはどの程度侵食してると思う?」

 

 指を顎に当て少し考える様子を見せてから質問に答えてくれる。

 

「最悪として……既に法国すべてが魔神の手に落ちているとみるべきでしょう。クレマンティーヌ嬢の情報が正しいのでしたら、少なくとも漆黒法典ですらほぼ崩壊しております。その為、法国での抵抗戦力が人間そのものに残されていないかと……我らの目の前で引きずられ首をはねられた男が彼女の兄である様子でしたので。希望的観測でよろしければ漆黒法典の隊長と呼ばれる少年と番外次席と呼ばれる少女が生きているかも、という程度でしょうな」

 

 悟君からはパンドラはボディランゲージが激しいと聞いていたがこの旅の時はそんなことはなく、この質問にも考える素振りこそあったものの極短時間で淡々と説明する姿は『設定を自分のものにした姿だ』と言っていた鈴木さんの言葉がよくわかる。

 

「そのうえでこちらも情報を集めるための『手』を増やす必要があります。法国がどのタイミングで今回発見したようなことを広げていたのか?その速度は?策を立てるにはこの辺りの情報が足りません……モモンガ様に進言しなければ総数においてナザリックすべてを出して足りるかどうか、と見ます」

 

「ん?鈴木さんではなくてモモンガなのかい?」

 

 ふと気になったほんの小さな違和感が気になり聞いてみれば、先ほどとは違い頭を手で押さえ身悶えする様に身体を動かすパンドラ。

 

「んんん……申し訳ありません。これは鈴木様からも口止めされておりますので、至高の御方々といえどもお教えすることはできませぬ」

 

「そうか、話せないだけの理由があるのか……」

 

「えぇ、申し訳ありません」

 

 白い頭巾の上からかぶっている軍帽のつばをつかみ顔を隠し、謝罪するパンドラに場違いながらも笑いが出てきた。

 何とも服装とちぐはぐすぎて、それでもそれがパンドラのこだわりなのだろう。

 

「さて、それじゃ。みんな準備もできたようだし、出発しようか」

 

 女性陣も出てきて、僕たちは砂漠へと踏み込んでいく。

 

 

 

 地面の揺れと砂の動きで下から何か巨大なものが出てこようとして、それの反応に遅れたクレマンティーヌが突き上げられ、吹き飛んでいく。

 

「にゃあぁぁぁぁぁーーーん!?」

 

 突き上げたのは女性の顔に数十メートルという長さとそれに見合った太さを持ったサンドウォーム娘だった。

 

 

 

 砂煙を上げながら滑走する漆黒の巨大な壁、その一部が開き数十門という銃口がこちらに向けられ銃弾と光線が雨のごとく降り注いでくる。

 それに対し僕たちは必死に避けながら逃げ出すのだが、回避を上げる装備をしているにも関わらず着弾する爆風でクレマンティーヌの体が巻き込まれ悲鳴を上げることもなく吹き飛ばされ倒れ伏す。

 

「戦艦とか!?胸熱だけどでかすぎだろ!?何キロサイズだよ!!」

 

 地上戦艦ティアマットはどこぞの戦車道アニメの戦艦を彷彿とさせるサイズだった……聞いた話では中がダンジョン化しているのだとか。

 

 

 

「流砂だ!!急いで抜けるぞ!!」

 

 すり鉢状に凹み飲み込むように流れる砂に足を取られ、いや取らされたクレマンティーヌが流砂の中心に近づくころ巨大な虫の顎が人間の形なら肩辺りから生えるアリジゴク娘が姿を現す。

 

「あなたの体液を吸いたいなぁ」

 

「にゃ、にゃああぁぁぁぁんん!?」

 

 

 

 砂の中を泳ぐ背びれ、普通に考えればあり得ない風景だけども砂漠の街で情報収集をしたらすぐに知ることのできた、砂ザメまたはハンマーヘッドと呼ばれる砂の中を泳ぐモンスターなのだとか。

 普通に知るサメとは違い一対の目ではなく四対の瞳がぎょろぎょろと獲物を探すように動いていた。

 

「にゃああぁぁぁーーんん!?」

 

 不意打ちの様に潜行していた砂ザメにクレマンティーヌが噛みつかれ砂の上を引き摺られていく。

 

「助けますよ!」

 

「フカヒレに蒲鉾!砂漠での貴重な食糧!」

 

 ニースさんは普通に救助に、僕は食料確保のために駆け出す。

 

 

 

 ニースさんはやはりプリーストらしく襲われている人を見れば助け、そしてそんな助けた人の一人である占い師っぽい人がお礼にと、古びたランプをくれた。

 

「アラビアンナイトでランプをこすったら中から魔神が、とかあったっけ?」

 

「壷じゃなかったっけ?」

 

 そんな感じでネタでこすったら中から煙が出てきて、アラビアンな格好をした女性が乗るドラゴンが目の前に姿を現して……魔神とかタルタロスのことを調べているらしく僕たちについてくることになった。

 ランプの魔神娘、ジニーさんが仲間に加わった。

 

 

 

 やっぱりというべきかなんというか、ぷれいやーを神様という認識が根強く残っているのかクレマンティーヌが脱水症で倒れた。

 一人一つ無限の水差しを渡したのに。

 

 

 

 そんなこんながありながらも、僕たちは空に浮かぶエリュエンティウにたどり着いたが予想していたよりも空に浮かぶ拠点は巨大だった。

 その空飛ぶ土地は下に存在する街からは『闘神都市』と呼ばれていた。

 

 

 

 時と場所は変わり、エ・ランテルが騒動に巻き込まれる前夜にシャルティア達は出立しておりセバスが御者をする馬車を止める者がいて、その人物とシャルティアは対峙していた。

 

「アルベド……」

 

「アインズ様を取り合ったあなたならわかるわよね?あの偽物を倒してアインズ様を助け出しましょう?」




闘神都市  出展:Alicesoftシリーズ

タイトル名にも、都市の名前としても登場する名前
タイトル名の方では一対一のRPGとして作られており1~3とシリーズを通して共通する、ヒロインをパートナーとして登録しトーナメント相手に勝てば相手のパートナーを一晩好きにしてもいいという趣旨のエロゲーである。
割とダークな部分もあり純愛物をしたい人にはお勧めしない。
なぜか2だけ非18禁で3DSに登場した。

都市名として登場する場合はランスシリーズの方で登場し作中に書いたように空中都市として存在しておりいくつかは地上に落ちていたりする。
都市には闘神という対魔族用に造られた存在がおり強敵である。
一つレッドアイという魔人に乗っ取られたこともあるとか……


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episode.2 「隻狼シャルティア」






 夜半に馬車を使ってエ・ランテルから首都リ・エスティーゼへと向かう途中に立ちはだかる人影が一つ、かつて見た同僚のアルベドが立っていた。

 アルベドは本来であれば黒の棺桶(ブラック・カプセル)にて謹慎しており、此処にいてはならない存在というのが御者をしていたセバスの認識であり、馬車屋根の上で見張りをしていた見慣れぬ西洋甲冑に身を包む長物持ちという認識だった。

 馬車が止まった原因を見るために中にいたシャルティアが馬車の中から顔を覗かせる。

 

「……アルベド」

 

 シャルティアの認識としてはスズキ様からアルベド誘拐の報を聞いており、場合によっては離反している可能性を事前に警告されていた。

 そして万が一に遭遇し、こちらの思惑から外れる外道をするようであればシャルティアの判断の元『処理』してもかまわないと許可も得ている。

 

「アインズ様を取り合ったあなたならわかるわよね?あの偽物を倒してアインズ様を助け出しましょう?」

 

 シャルティアはアルベドの言葉に眉を顰め、警戒心をあらわにする。

 

「アインズ?それがあなたの主だというのかしら?」

 

 アインズと聞き一番に思い浮かべるのはアインズ・ウール・ゴウンだがギルドというものを主とする意味が分からない。

 疑問を口にした、その瞬間アルベドの顔が憤怒に歪んでいるのだろうフルフェイスヘルムなので全くわからないが。

 

「シャルティアアアァァァ!!アインズ様の!アインズ様の!至高の御方の御名を呼び捨てにするとはどういうつもりなの!?」

 

 金切り声で叫ぶように吠えたてるが、シャルティアにアインズという至高の方が居たという記憶は全くない。

 

「セバス……思い当たるギルドメンバーの方はいた?」

 

 自分の記憶違いかもしれないと確認のためにセバスに確認を取るがセバスはその質問に首を振り、アインズという至高の方はいなかった。

 

「申し訳ありませんが私にも覚えがございません。何よりもアインズ様という方が至高の御方の一人だというのであればアインズ・ウール・ゴウンはその方の名前からとられたものだということになります」

 

「えぇ、えぇ、えぇ。そうよ!アインズ様は名前を改められてアインズ様とご自身を呼ぶように私たちに御命じなされたのよ!アインズ様は私たちナザリックの者たちを愛してくださっているわ、あの贋作の様に私たちを蔑ろになんてしたりしない!だからだからだからだからだからだから!シャルティアもアインズ様を助けるためにあの贋作を殺しましょう?あの贋作を贋作を贋作を贋作を贋作を贋作を贋作をおおおおぉぉぉぉぉっっっ!!!」

 

 そんな絶叫を上げながら贋作を殺すと繰り返すアルベドを見ながら、シャルティアが浮かべた表情は本来であれば、シャルティアがバカをした時にアウラが向けるような可哀想な相手を見るような目をしていた。

 

「セバス、戦闘準備。此処で狂った『元』守護者総括を『処分』します。許可はスズキ様よりもらっています」

 

「は」

 

 シャルティアは武器を構え、セバスは無手とはいえ格闘の構えをとる。

 そんな二人を見てアルベドはまるで状況がわかっていないようにとても短い疑問の声を上げる。

 

「は?」

 

 それはまるで現実を認めることが出来ない狂人の様に。

 

死せる勇者の魂(エインヘリヤル)

 

 シャルティアは即座に切り札である分身を創り出し、セバスを右側に、分身を左におき自身が中央にて突出する形で布陣する。

 それをアルベドがどう受け取ろうとシャルティアには関係がない。

 

「殲滅開始」

 

 ただ愚直に命じられたことを遂行するのみである。

 

 

 

 バルディッシュが振り回されその暴風域にいるシャルティアは防戦に徹する。

 金属同士の音が鳴り響く中、セバスとエインヘリヤルが攻撃を加え、アルベドの体力を奪いつつもシャルティアが二人に向かう攻撃を防いでいく。

 振るわれる武器に武器を這わせ力をあらぬ方向に流させ、時に撥ね返す様に打ち合わせ、弾き、逸らし、踏みつけ、ただひたすらに攻撃を妨害していく。

 

「どうしたのかしら?大口ゴリラらしくもない、随分と綺麗な戦い方をするじゃない。大口ゴリラは大口ゴリラらしくもっと力任せに振り回してみたら?もしかしたら当たるかもしれないわよ」

 

 妨害しながら軽口を叩きながら、普段とは逆の立場のようにふるまう。

 激高して食って掛かるシャルティアと冷静に勝ち筋を練るアルベド、その普段とは全く逆の立場に立つかのように振り回されるバルデッシュを捌いていく。

 

「なによなによなによなによなによシャルティアこそいつものとち狂ったような廓言葉を使わないの!?お前のペロロンチーノから与えられた設定だろうがああああぁぁぁぁぁ!!」

 

 逆上するように攻撃が激しくなるがそんな攻撃をころころと笑う様に弾いていく。

 

「あぁ、知らないの?私は元々『間違った廓言葉』を使っていたのよ?間違っていると知って使っていたの……アウラとも仲が悪いという設定だからこそ軽い喧嘩っぽくしていたのよ。『本物の馬鹿なアルベド』に私の言ってる意味が分かるかしら」

 

「!?」

 

 すくい上げるように驚愕に染まり振りの鈍った刃を弾き飛ばすことで『体幹』を崩し切る。

 

「教えてあげる。頭のいい人は頭の悪い振りはできる、でもね。頭の悪い人は頭のいい振りはできても頭は良くならないのよ」

 

 アルベドの首から刃が貫いていた。

 刃の持ち主は機を狙っていたオオカミのものであり、貫いた(楔丸)を引き抜き不死切りにて再度切り落とす。

 

「オオカミ、貴方に『弾き』のやり方を学んでおいて良かったわ。アルベドは耐久型だから倒すのが面倒なのよ……次はあなたも狙われるでしょうけど、拍子(リズム)はつかめたかしら?」

 

「ああ……問題ない」

 

 第二ラウンドに備え気を構えながら崩れ落ちようとしているアルベドを注視していれば、膝から崩れ落ちるその先の地面が音を立てて割れる。

 地面という空間が割られ崩れ落ちるそのままアルベドが飲み込まれていく。

 

「!?」

 

 それは注視していた全員が驚愕し対応に一瞬きにも足りない時間、動きを止めてしまった。

 

「清浄投擲槍!」

 

 白銀の槍を生み出し投げつけるが、地面を削る音のみが鳴り響きアルベドの姿はそこになかった。

 

 

 

「蒼井さん、ここはエリュエンティウじゃないです。ここ南の方の自由都市だそうですよ」

 

 ニースさんから言われて蒼井さんが地図を見直す。

 

「あれ?」

 

 蒼井さんの歩き方は星を頼りにするものなのだが、忘れていないだろうか?この世界は異世界であり地球で通用していた物が通用するとは限らないということを。

 特に砂漠や海上といった目印となるものがない地形では結果が顕著に表れる。

 

「おっふ……明日改めて、向うということで、今日はこの町で泊まりましょうか」

 

「ドンマイ、ブルーさん。それでもここも何かしら手が空いたら調べた方がいいかも知れないから怪我の功名だと思おうぜ」

 

 肩に軽く手を置く。

 夜の砂漠は日中の砂漠とは逆に冷えるので体調管理の面を考えるとあまり無茶をするべきではないので、町があったこと自体はいい事である。




サイズ 出展:スパロボシリーズ、クトゥルフTRPG、ロードス島伝説(複合)
基本的に小さいユニットが大きなユニットを攻撃するときは命中させやすく
大きいユニットが小さいユニットに攻撃するとき大きくダメージを与えられる
と言ったものだがこれに更にロードス島伝説の元になるソードワールドTRPGやクトゥルフTRPGなど多くのTRPGで採用されやすい攻撃範囲が大きいから命中させやすい、体力多いなどが起用されている
その為作中に出てきているメカザウルスやティアマットがトンでも強敵に進化している
同様にツアーの本体であるドラゴンなんかもタフさ、攻撃範囲、破壊力なども上がっている

なお胸のことではない
餡ころ「よし喧嘩売ってるんだな」
餡ころさんの想像モデルはvoiceロイドでvocalロイドな紫な人
床とか壁とかまな板とかよくいじられる
餡ころ「作者ぶっ殺してやらああああ!」


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episode.3 「廃墟のエウリュエンティウ」

 こちらで使用される通貨を持っていなかったので手持ちの価値の低いマジックアイテムをいくつか売って自由都市で一晩宿を取り、地図を確認して改めてエウリュエンティウを目指すことにする。

 

「水に食料、良し」

 

 ガーネットが荷物を指さし点検して抜けがないかを確認しながらインフィニティハウザックに詰めていく。

 

「こちらもワープポータルメモも大丈夫ですよ。少々ブルージェムストーンが心許ないですが」

 

 ニースも再びここに来るための魔法でのワープ先をメモしてくれる。

 この世界に来てから、ユグドラシルの魔法だけではない新しい魔法に触れることが少なくなく覚えることそのものは多いが、それは逆に新しい発見があるということでブループラネットとガーネットはユグドラシルでの始めたばかりのことを思い出すようで、なんというか懐かしいという気持ちにすらなっていた。

 

「なんというかお主等はこれから敵の拠点と思われる場所に向かうというのに緊張感というものが感じられん。知っていることがあるなら情報共有は大切じゃぞ」

 

 ジニーが二人の様子を見て呆れたように情報の提供を求めてきていた。

 他のメンバーには話していたので忘れていたがジニーは途中で加わったのでその辺りを話すのが抜けていたようだ。

 

「そうですね。これから向かう空中都市はここと違って多分僕たちが知っているだろう場所なんですよ……僕たちと同じプレイヤーはすでにいなくてNPCばかりだと聞いているので警戒するべきはトラップくらいかなと。もちろん予想外のことはあるかもしれないですけど予想できない事があるかもしれない、くらいにしか警戒が出来ないんですよ」

 

「なるほど、かつて……五百年前ほどにあった『魔神戦争』というものを知らんと見える。エウリュエンティウ、そこは八欲王というぷれいやーが拠点にしていた場所でありながら一夜にして魔神に滅ぼされた場所じゃ。死骸は贄に使われ門を開いたと言われ、それはその百年前に竜帝という痴れ者が開いた異界に通じる門と同じくして広げたらしい。魔神の首魁リーナという少女の形をした化け物を六祖大縛呪にて封じた、魔王アリスフィーズ、竜王ツァインドルクス、不死王スカルマン、百の勇者サバサ王、天使長ミカエラ、巨神ゲッターを纏め六英雄と呼ばれたものよ」

 

 懐かしそうに語るジニーだが、それに待ったをかけたのがニースだった。

 

「待ってください。リィーナさんがこの世界で封じられているんですか?」

 

 その声は恐れ戦く様に震えていた。

 

「うむ。百にもならん小娘だった時の記憶じゃがよく覚えておるし、何よりもこの砂漠はその戦いで生み出されたというのが動かぬ証拠じゃ。砂漠にあるはずの植生が全く見当たらぬというのはそれが原因じゃ」

 

 言われて初めて気が付くようなものだが、オアシスもサボテンもモン娘、人間、モンスター以外の普通の砂漠で見られるだろう生き物を見かけなかった。

 

「ひと月にも及ぶ戦争が行われたのじゃ。大陸中央部からの者たちも多く参戦した……排他的な巨人族も、本来群れぬ竜族も、食欲ばかりだった獣人どもすら一丸となり……最後には異界の神アイギスという女神を召喚し封印を成し遂げた」

 

 雲霞の如く呼び出された魔神たちに相対したのがこの世界の戦える者たちだったという、その戦火は元々はもっと広がっており、今もその傷跡を治す様にゆっくりとではあるが砂漠は小さくなっているのだという。

 五百年経とうとも尚その傷跡を深く残すこの砂漠という現状、予想外を考えても仕方がないという考えを改めさせるには十分な風景だった。

 

「リィーナさんは……ナシェルさんの妹君です。かつてロードスという島、大陸からは戦乱絶えぬ呪われた島と呼ばれていた土地にいくつもあった国のうちの一つ、スカードという国の王子がナシェルさんで、小国ゆえにヴェノンという大国からの圧力があったと聞きました。それを跳ね除けようとブルーク王は魔神王をリィーナさんを触媒に召喚したと……」

 

「やはりあれほどのものを呼ぶには人身御供が必要じゃということか……アイギスを降ろすための人身御供になったのはバルブロという男じゃった」

 

 二人はその過去話を聞いて想像するだけで、本当にこのまま調べに行ってもいいものだろうかと再び思案する。

 

「なるほど、ニース様もたしか六英雄と呼ばれる御仁だったとお聞きしておりますが?その魔神皇、どのようにして討伐されたのでしょうか。討伐した故に六英雄と呼ばれたともスズキ様から聞いておりますので、もしこの世界でも同じ方法があるのでしたらご教授願いたい」

 

 そんな二人の話にも物怖じせずにパンドラは切り込んでいく。

 その背には何か言い知れぬ覚悟を決めているようで、何とも言えぬ迫力を出していた。

 

「私は確かに六英雄と呼ばれていました。ですが私自身は一度も私を『英雄』などと思ったことはありません……魔神皇を倒せたのも、ナシェルさんの決断があったからこそ……魔神皇を倒すには魔神皇の持っていた大剣、魂砕きでのみその存在に傷を負わせることが出来ます」

 

「してその剣は?」

 

 その手段を聞き一歩勇むように踏み出すが次の言葉で止まることになる。

 

「同じく戦ったベルドさんが持ち……その後アシュラムという男の手に渡っていたはずです。申し訳ありませんがその後の足取りは……私は寿命を迎えてしまったために、わかりません」

 

「……そう、ですか……」

 

 ニースがいる、ナシェルがいる、ならそのアシュラムという人物もここに来ている『可能性』はある。

 確かに可能性はあるが確実性はない。

 

「ふぅ。あるかないかわからないものねだりをしても始まりません……ならば私は私で『同じような武器』を作れないかチャレンジしてみましょう」

 

 ほんの少し落ち込んだ様子を見せたと思えばあっさりと顔を上げて、帽子の位置を直しながらあっけらかんとパンドラはそんな答えを出していた。

 

「作れるのかい?」

 

「さてまだ鍛冶事にはチャレンジしておりませんでしたので不明、でございますね」

 

 パンドラはその変身技能を使えば八割の性能とはいえアインズ・ウール・ゴウンの四十一人のギルドメンバーの能力を得ることが出来る。

 しかも最近はその体の一部の身のみをそれぞれの姿に変えることで全ての能力を複合した状態にできないかとルシファナと特訓している。

 カルネ村で吹き飛んでいたのはその変身スピードを実戦に使用が出来る様、繰り返し繰り返しルシファナの攻撃を避けながら行うという物だった。

 コンマ一秒ですら遅いと殴り飛ばされてはいたが。

 

「あまのまさんの姿ならマジックアイテムなんかも作れたはずだろ。どうせ目指すならオリジナルを超えるようなもんを作り上げようぜ、素材なら俺のアイテムが残ってるなら好きなように使って構わない……もしかすりゃ救世主の仲間入りだぜ?貧困層出の俺らがよ」

 

 普通の人は普通に生きて普通に死ぬ、そこに覚えている人などほんの一握り。

 それも貧困層の人間であればその記憶に残るさまは言うまでもなく一時残ればいいものだろう。

 それは生きた証が残らないともいえる……どこかで聞いたことがあるだろう。

『人が本当に死ぬときは誰からも忘れられたとき』だと。

 

「それはちょっと……あぁ、ちょっと魅力的だな」

 

 ガーネットが提案した意味はブループラネットもその案に賛同し、素材の提供を申し出る。

 

「んん、責任重大でございますな!このパンドラ、腕によりをかけて作り上げて見せましょう!その為に魔神皇の情報を詳しく!よろしくお願いしますぞ!ニース様ぁ!」

 

 パンドラにとっては足元もおぼつかぬ先知れぬ闇の中光明が差した心地だった。

 その為わずかな希望とはいえその手の武器はユグドラシル時代なぜか誰も作らなかった故にモデルとしてその武器を作ることが叶わなかった。

 魂砕き、魂そのものに傷をつける武器は武器の設定的には存在はしているが所詮はMPにダメージを与えるだけのそれっぽいものであり、二人の求める物ではなかった。

 二人の求めるほどのものではなかった。

 だからテンションがうなぎ上りで本来の在り方の様に言葉を発する度に感情を表現する様に度々かっこいいと思えるポーズを決めていく。

 

「「「「うわぁ……」」」」

 

「「「あっはっはっは」」」

 

 ニースとブループラネット、ルベド、クレマンティーヌがその動きにドン引いて、ルシファナとジニー、ガーネットが笑っていた。

 

「では!張り切ってエウリュエンティウへと参りましょうゾ!とっとと片付けてマジックアイテム制作に入りたいのです!」

 

「それはよいが、エウリュエンティウは何年か前に動く鉄の島に吹き飛ばされて廃墟と化しておるぞ。廃墟に残っているものが多くあるとは思えんが、廃墟ゆえに封印も解けておるかもしれんしのぅ」

 

「あぁ、それで注意していたんですね」

 

 ジニーの言葉に納得するブループラネットだったが、それとは逆にガーネットが叫び声をあげる。

 

「つまりティアマットに吹き飛ばされてんじゃねぇか!!」

 

「あ、それと魔神皇はすでによみがえっております。スレイン法国にて確認済みですジニー様。あの光景はもしかして昔に見たことがあるのでは無いですか?ニース様」

 

 パンドラの予測にニースは沈痛な表情をして絞り出すようにしゃべる。

 

「えぇ、スカード国にて……スカードの民を使いスレイン法国で見たことと同じようなことをしていました」




ワープポータル 出展:ラグナロクオンライン
アコライトの所持するスキルの一つで空間と空間を繋げるゲートに近いもの
複数人の輸送が可能でメモをすることでその場所を三か所まで記憶させることが出来た
自身のセーブポイントを含めて四か所に
その性質上ポタ屋というダンジョン前までの移動を請け負う商売をするプレイヤーも存在し、GvGでは傭兵として待機場所から攻めるギルド前までの転送を請け負うことも
そのスキルを使用するのにSPの他にブルージェムストーンというアイテムを消費して開くので大体500ゼニ―を下回ることは少なかった


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episode.4 「人の業、人の闇 所有物」

マギステア村という村を知っているだろうか?
『もんパラ』に登場する下手なダークファンタジー物よりもダークファンタジーしている村の一つ
ある魔法が研究されているが……
ブループラネット&ガーネットがブチ切れるぞ






 エウリュエンティウに向かう前にクレマンティーヌをカルネ村に戻すよう話し合いが設けられていた……普通にこの砂漠がきつい環境だということが判明したためなのともしもエウリュエンティウに無銘祭祁書がなかった場合、地上戦艦ティアマットに挑むことになる。

 その時クレマンティーヌを庇って突き進むことが難しくなるためだ。

 

「そ、そんな!私は用済みですか!?捨てられるんですか?」

 

 潤んだ目でこちらを見ながら縋りついてくるが、その両肩に手を置いて説得を試みる。

 

「用済みじゃないから、捨てないから。先に戻ってシズやブレインと一緒に村の拠点を進めていてほしいんだ。鈴木さんの話じゃもう一度魔神戦争が起きる……それを乗り切れるだけの防備整えておいてほしいんだ」

 

 それにエウリュエンティウについてジニーさんから嫌な情報ももらっている。

 曰く、八欲王のやり方が今なお色濃く残っている。

 

「ニース母さんも必ず戻ってきてくださいよー!!」

 

 手を振りながらポータルに消えていくクレマンティーヌ、それに苦笑しながら見送るニースさん。

 

「いつの間にお母さんになったんです?ニースさん」

 

 場の空気を入れ替えるように茶化す感じでニースさんに聞いてみるが苦笑いをしたまま、ぽつりぽつりと話してくれる。

 

「パンツさんからの頼まれごとでゼロさんが連れてきた子がクレマンティーヌさんだったのですが……拷問や過酷な生活環境にいたのでしょう。親からもまともに認識してもらえず、性の捌け口にされることもあったそうです、そして心を護るために殺人を好む狂った人格を作った……」

 

 苦悩の梨とかの思いっきり性差別的な拷問道具を使用されていたんだとか。

 

「あぁ……そりゃ二重人格とかになっててもおかしくない。しかも親には居ない子として扱われてたって……」

 

「兄ちゃんの出涸らしとか言われて比べられてたとか……法国ってのは本当に人の心が残ってなかったんだなぁ。そりゃ恨みの一つや二つも持って行動してもおかしくないわ」

 

「で、そんな状態を欠損回復(リフレッシュ)で回復してあげて、普通の『人間』として暮らしたら速攻で懐いちゃったと……ニースの母性もあるんでしょうねぇ」

 

「それじゃニースは看過できんことじゃろうのう。まだ一日の付き合いじゃがやさしい心根の持ち主じゃからのう」

 

「しかし、役者からの観点ですが二重人格というのは使いようによっては強みにもできるのですが……深い傷跡を抉るような真似はどなたも望まれないでしょう。ならば私はこのまま健やかに育ってくれることを願うのみであります!」

 

「クレちゃん、苦しんでたの?じゃあ、苦しめた奴消さなきゃ」

 

「「ルベドはステイッ!!」」

 

 上から順にブループラネット、ガーネット、ルシファナ、ジニー、パンドラ、ルベドだが最後に飛んでいこうとしたルベドをブループラネットとガーネットが縋りついて止める。

 少女に縋りつくおっさんの図というのもひどいものだが、クレマンティーヌが受けた拷問などに比べればそうひどいこともないだろうと、慢心していた。

 八欲王のやり方、それを多少強引なハーレムみたいなものだと甘く見ていたのだ。

 

 

 

 エウリュエンティウ、砂漠の街らしく多少の瓦礫こそ散見できるものの同郷の徒が己たちの美的センスを詰め込んで作り上げた砂を固めて作り出したような砂岩を滑らかに加工した家屋が立ち並び、その家並みが道に沿って伸びる光景は確かな発展性を見せるには十分な街並みだった。

 男の声が客呼びをするように声を張り上げる、日除けのひさしが付いた簡易的な露店。

 黒いスリーピースを来て堂々とした歩き方で、男が熟れた赤い果実をほおばりながら道を歩く。

 軒下の陰で談笑する男たち。

 

「これが……エウリュエンティウ……か……」

 

 ガーネットもブループラネットもリアルではゲームをする程度の時間を捻出できていた。

 できる程度には金銭を稼いでいたともいえる、晩年はそういったことをすることもできなくなっていたが最下層という食うも食わぬもその日次第という程には落ちていなかった。

 それでも貧困層ゆえにその光景は見てきていた。

 女性は?

 首輪をつけられ、首輪から延びる鎖は男の手が握っている。

 まるで奴隷の様に、貧困層の労働者が会社に見えない鎖で繋がれて生殺与奪権を握られていたように……かつて(リアル)を思い出す。

 街の入り口には吊るされているものがあった。

 辛うじて女性だったとわかる、暴行を加えるわけでもなくただ棄てられた女性の遺体が吊るされていた。

 まるでリアルのアーコロジーの縮図を見ているようだった、男たちが富裕層で女性が貧困層……ステータスの恩恵で強化された聴覚は家屋からこの昼間から享楽に耽る男の笑い声が聞こえてくる。

 それと同じように殴られながらも泣くことを許されずうめくような声を上げることしかできない年若い女性の声も。

 

「「ごめん、ニースさん、ルシファナさん」」

 

 ブループラネットもガーネットも同行していた二人に謝罪する。

 人化の指輪に手をかける。

 

「「俺たちはアインズ・ウール・ゴウンだ!俺たちの行いが正義だなんて口が裂けても言えねぇ。俺たちは悪と謗られようが構わない!弱者救済、ただその旗に集った!」」

 

 樹木の化け物に姿を変えスコップを掴み上げる、電極を生やした巨漢の怪物に姿を変えリベットナックルを装着する。

 ブループラネットが多数の樹木系モンスターを召喚し、ガーネットがそのモンスターたちを指揮下に入れることで広域バフを重ねていく。

 

「パンドラはぬーぼーさんになって隠れてるやつを炙り出せ!ルベド、女の子救出だ!殺さなきゃ好きにしていい!」

 

「はっ!」

 

「暴れていい?暴れていいんだね!?やったー!!」

 

 ただその光景が気に入らない、だから潰す。

 俺たちは正義じゃない悪でいい、代わりに助けた奴らが笑ってられればいい。

 異形種も亜人種も人間種も関係ない、強者が弱者を虐げるなら、俺たちアインズ・ウール・ゴウンが更なる強者となって強者を虐げる。

 

「プラント・シェルター。助けた子はここで保護するからね……回復はニースさん達に任せます」

 

 スコップを掲げ突撃の合図の様に振り下ろす。







マギステア村 出展:もん娘クエスト、もんパラ
サバサの西方に位置する寒村で閉鎖的なものだが、最大の特徴は
男性と女性の平均寿命の違いだろう
女性は平均20歳前後、男性が普通に50歳程
もんパラにてこの村でリリィ、ルシアという女性どちらかを仲間にすることが出来るが
好感度を上げるために食べ物を渡したときのセリフが切ない
もんパラではブループラネットさんの種族であるマスターホムンクルスの前提であるワームヴィレッジ、触魔法というものを蘇らせて男たちに復讐を果たした後の村に赴くことになる


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episode.5 「アインズ・ウール・ゴウンというギルド」

「モ、モンスターだああァァァァァァァァっっ!!」

 

 街の警鐘が鳴り響く中モンスターの群れは疾駆していく。

 エルダー(古き者)と呼ばれる老人の様な老木の皮膚を持つ人型の怪物はその暗がりを思わせるような洞の瞳で人を睨みつけながら腰まで伸びる髭をもごもごと動かしながら魔法を発動させる。

 

石の彫像と化せ(ストーン・スタチュー)

 

 その身体を怒りで燃やしながら人の恐怖がために上げられる悲鳴を無視して引きちぎる音とともに目的をこなしていく。

 ゆっくりと四肢から石になりながら涙を流し助けを乞う男を無視して、次の男を目指していく。

 

石柱の投げ槍(ストーン・ジャベリン)

 

 武器を持って向かってくる男性戦士に石の槍を射出して腹を打ち破り地面に縫い付ける。

 

「う……がああああ……っ!」

 

「黙れ!」

 

 痛みから叫び声をあげる男の顎を掴み、物理的に黙らせ魔術師型でありながら巨木(トレント)という体質を持つエルダーは男の顎をその握力を以って砕く。

 

「お前たちの所業、許さず。天が許そうと、地が許そうと、我らが許さぬ!」

 

 しゃがれた声で叫び声を、本来喋るための器官として機能しない口を開きありったけの声量を込めて憤怒の叫びをあげる。

 かつて(ユグドラシル)にて至高の方々に呼ばれていた時の記憶が蘇る。

 四十一名全てがそろっていたわけではない、六名ごとに分かれ活動されていた時の話だ。

 助けていた姿を思い出す。

 エルダーは所詮召喚モンスターでその時の自我はない、無いうえに本当にこの記憶がエルダー個人のものとは言い切れない。

 それでも至高の方々の行いを『是』として生きたいと願う。

 

『よっしゃ!無事か?』

 

『一人に寄って集ってとかイジメかっこ悪い』

 

『助かった!異形種が助けてくれるなんて思ってなかったぜ!』

 

『なに無事なら何よりだ』

 

『って極悪で有名のアインズ・ウール・ゴウン!?』

 

『異形種が人助けして悪だっていうなら、僕たちは悪で構わないよ。それで笑ってユグドラシルをプレイできる人が増えるなら、それでいいさ』

 

 もしあの時に喋ることが出来たのならその言葉を否定させてほしい。

 

「不当に虐げるものが善であるものかぁっ!!虐げられたものを助ける者が悪であるものかぁっ!!」

 

 ただの召喚されただけのモンスターでしかないエルダーですら、末端のウィロー(切り株お化け)達ですらその思いを誇りにしているというのに、ナザリックの者共の多くはどうだ!私利私欲の嗜虐を是とする者どもを仲間と思えというのか、本当に奴らはナザリックという至高の方々が部屋持つ場所にいる資格があるというのか。

 憤懣やるかたないこの怒り、どうすれば伝わるというのか……至高の方々のためなどと嘯き虐殺を計画する者たち、人となった至高の御一人悟様を前にして人の分際等とほざく元守護者統括の糞アマ、忠義を拒否されたと狂う様を見せる無様な者たち。

 我らはただ只管に御方々の願いを叶えることに全力を尽くすべきだ、御方々に重圧を与えるものではない、我らはただ御方々の命ずままに動く駒であればよい。

 次の目標を見る、強化外骨格と呼ばれるタイプの人が一人乗るのがやっとな機械の塊に乗せられている裸の少女、その背後で狂笑を上げる男ども。

 腕には掴むためのアームの他にガトリングを装備しており、その照準はエルダーに向かっている。

 

石の壁(ストーン・ウォール)

 

 石の壁を後ろに造り、助けたばかりの女が被弾しないようにし銃弾の中を駆けて進んでいく。

 

「ひひゃひゃひゃ!!あのモンスター性奴どもを守ってまっすぐ突っ込んでくるぜ!!」

 

「撃て撃て撃て撃て撃て撃て!!近づけさせるな!」

 

「お前らの代わりなんていくらでもいるんだ!また産ませて増やせばいいんだ!自爆してでも殺せぇ!」

 

 銃弾が肩を抉る、胴体で弾ける、ダメージを確実に蓄積させていくが怯むことなく踏み込んでいく。

 

「不当に虐げるものが善であるものかぁっ!!虐げられたものを助ける者が悪であるものかぁっ!!」

 

 この街の女たちを助けるときに軽く見ただけだが、善悪の区別なく単純に知識がない事がわかる、そうさせたのはこの街の男どもだろう、知識無くば幸せは分からぬ、幸せというものを知らぬ人にしてきた者共が生を謳歌することを善などと呼ぶものが居るだろうか。

 

「と……ッたぁぁァァァァッッ!!」

 

 強化外骨格のフレームを掴み、即座に拘束を解除し少女を引きはがしそのまま包み込むように抱き寄せ覆いかぶさる。

 覆いかぶさると同時に爆音が鳴り響き熱が身体を焼いていく。

 

中傷治癒(ミドル・キュアウーンズ)

 

 視界が歪む、熱に焼かれここまでだろう。

 崩れていく意識の中、目の前にスコップが突き刺さる。

 

「(わしは護れましたか?あなた方の願いを……)」

 

 欠損こそ治せなかったが、出血は止まり穏やかに眠るように気絶した少女が崩れていくエルダーから出てくる。

 

「よく守ってくれました。この先は僕たちの仕事だ」

 

 樹木の腕から幾本もの触手を生やしそれを男どもに向けるのが見えた。

 

「(おほ……め……にいた……だき……)」

 

「カンディルというのを知っているか?彼女たちが受けた苦痛の万分の一でも味わって逝け!ブレイク・ワアァァァァムッッ!!」

 

 細く細く細分化された触手が男たちを飲み込み穴という穴から侵入して内部を食い破っていく。

 食い破られる度に、触手が身体の中で蠢く度に耐えがたい激痛が男たちを襲い、その絶叫がそこかしこで合唱のように上がっていく。

 メイド服を着たマリオネットが女性たちを抱きかかえて作り上げたプラント・シェルターの方へと走っていくのが見える。

 その走り方はメイド三人衆が見たらなんというのだろうか、召喚したガーネットもそれを見ているブループラネットもそういったことに興味はあまりなかったので思うところはなかったが。

 絶叫を上げ過ぎて喉が枯れたのだろう、呼吸音の様な叫び声を上げようとする奇妙なオブジェが街に溢れかえる。

 

「ガーネットさん、そっちはどうでした?」

 

「全然ダメ……本格的な探索系じゃねぇしな。とりあえず、この街にはもうない」

 

 蠢いていた男たちからケーブルを引き抜き、記憶を見終わったらしくその拳で頭を粉砕していく。

 

「あぁ、胸糞わりぃ。ダルマだとか、子宮引きずり出すとか、妊婦の腹掻っ捌いて突っ込む記憶なんぞ見たくなかったぞ!」

 

「教えないでくださいよ!?想像しちゃうでしょ」

 

 ガーネットの見た記憶を軽く叫ぶ事でブループラネットにもこの街でどんなことが行われていたか共有できてしまったせいでリョナと言って殴るとかの暴行が軽く思えるような、文字通りの猟奇的な性交をしていた気違い共の行いを聞かされ叫び返す。

 

「まぁ、あれです。目指せ地上戦艦攻略……今の戦力でどうにかなると思います?」

 

「推定でいい?あの弾幕一発一発が致命傷とはいかないけど、辿り着くころには半分は削れると見てていいよ」

 

「無茶じゃん!?」

 

「しかも空中都市消し飛ばした何かしらがあります!」

 

 そんな報告のし合いで二人して最後には両手を上げる。

 

「まぁ、まずは悟君に連絡かね」

 

「ですねぇ。突発とはいえ女性たち六五〇名ですか……街の規模にしてはあまりにも少ない……」

 

「そいつは『しか』じゃなくて『も』と考えましょう……そうでも考えねぇとやってられるかぁ!」

 

 ガーネットの怒りと共に放たれた蹴りが近くにあった家屋を消し飛ばす。

 




アッザ「ナザリックの忠義って何だろうねぇ」
カオス「認めてもらうことじゃろう」
エル様「でもこの作品の悟君たちじゃ、無理よねぇ」
デウッさん「今の状態で認めたら、それこそ『ご都合主義、展開』だろうな」
アポ「自分の理想を押し付けて、理解しようとしてないもんねぇ」

この作品の悟君達はパラレル世界から来ております
ナザリックは原作とあまり変わりません(多少は変わってる)


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episode.6 「砂漠といえばよくあるもの」

 パンドラの作ったゲートをくぐっていく女たちを見送りながら、一息ついて胸をなでおろす男が二人。

 

「すまないね……僕たちもゲートが使えたらよかったんだけど……」

 

「なに、至高の御方々の手を煩わせるまでもありませんし。よく言うでしょう?適材適所と。様々なことが出来ます反面、私はこと専門分野となれば一歩引いた実力になってしまいますので」

 

 HAHAHAと表情は変わらないのに笑顔になっているのが一目瞭然とわかる笑い方をしてくれる。

 

「それとは別に一つ報告が……」

 

「この都市で何かあったかい?」

 

「悟様に連絡をしたのですがどうにもあちらでもトラブルがあったようです。治療中ということでモルガン様とエンリ様と性交をしていると鈴木様から逆に連絡されました」

 

 パンドラから告げられた連絡事項でそれを聞いていたルベド以外が吹き出す。

 

「「「「何をしてるんですか!?」」」」

 

「朝からお盛んなんじゃのう」

 

 ジニーだけは別の方向での吹き出し方だったが、他は異口同音になんでそうなっているのか理解できない様子だった。

 

「いえ、ジニー様。どうも強すぎる力を邪神と思われるものから与えられそれを使用したためだと説明されました。代償は寿命、悟様、鈴木様共に神仙、超越者と寿命を持たぬはずですがそれでも削られたそうなので、それをお二方で性魔術を介して分散させるためだそうです」

 

 パンドラには正確な情報が渡されていた。

 アカシックレコード(世界の記憶)を開示したことで人の身では負いきれぬほどの情報という記録を流し込まれたために脳にダメージを負ってしまったのだという。

 パンドラとしてはあまり無茶をしてほしくないという本音があり、その為に『少し』事実を大げさに伝えた。

 

「何をやってるんだ悟君は!?」

 

「治療が必要な大技とか、注意しとかないとなぁ」

 

「治るならまだマシだけど後遺症になるようなら止めないとね」

 

 そんな三者三様の反応だったがニースだけは苦笑いをするだけにとどめていた。

 それもそのはずで、ニース自身神降ろし(コール・ゴッド)という神聖魔法最上級の奇跡を行使して寿命を削ったという過去を持つために、悟が無茶をしたと聞いても強く言えない。

 

「とりあえず、悟君にイエローカードを出すのは帰ってからにするとして、これからどうしたものかね……」

 

「まぁ、地上戦艦にこれ撃ち込むのがいいんじゃないかな」

 

 ガーネットが一つの弾丸を手の平で弄びながら次の目標を提案する。

 手の平の上に載っているのはシグナル弾と呼ばれるもので撃ち込むことに成功さえすれば、抜け落ちるか倒して討伐するまで対象の居場所を知ることが出来るという特殊弾。

 

「後はアレの調査かしらね?」

 

 ルシファナが差す先には砂漠では代名詞といえるほどに有名な建築物、王の墳墓『ピラミッド』とスフィンクス像が全員が立っている場所からでも見えていた。

 ただしピラミッドは空中都市から投げ出されたのか横に倒れていた。

 

「あれかぁ……」

 

「横倒しということは登攀して入り口に向かう形でしょうか?」

 

「ロープか何かあった方がいいよなぁ……幸いペロロンチーノなら飛べるし」

 

「みんなを運べばいいの?ルベド頑張るよ!」

 

 はーいと手を上げて笑顔で提案するルベドだがその笑顔には、先の騒動で率先して男たちの手足を切り飛ばしたせいで血しぶきが頬についていた。

 それは子供が見せる手伝いができることを喜ぶ姿のようで、さっきまであった腹底で燻っていた怒りの感情が小さくなる。

 ルシファナやニースという英雄や伝説に残る様な事を成したわけでもない。

 ルベドやパンドラの様にそうあれと始まりを創り出されそれが当たり前と生きてきたわけでもない。

 蒼井宇宙も高良兼人もただの普通の人。

 なんだかんだといわれながらもリアルでの当たり前の日常で暮らし、普通の感性を持っている。

 逆に言えば至高の方などと言おうとも、普通の感性しか持っていない。

 彼らは英雄でもなければ怪物でもない、普通の人間だからこそ笑うルベドに、笑っている子供に癒されていた。

 

「そうだね、それじゃルベドにはニースさんを運んでもらおうか」

 

「それなら一度出入り口まで飛んでいけるな」

 

 横倒れになったピラミッドに近付く際、ルベドがその横にある像スフィンクス像に興味を持ったようで「あれはなに?」と聞いてきた。

 

「確か……スフィンクスって言ってピラミッドを守る番人を模した像……だったかな?なぞなぞが有名だったと聞いたことがあるな」

 

 本来はエジプトの番人であるスフィンクスとギリシャ神話に登場するスフィンクスが存在しておりなぞかけをしていたのはギリシャ神話の方だったりする。

 うろ覚えの知識でガーネットがルベドに説明しながらピラミッド手前まで来ると唐突に頭上から声をかけられる。

 

「待て」

 

 その声が聞こえた方に顔を向けるとスフィンクスがこちらを向いて喋っていた。

 

「石像が……喋った……」

 

「モンスターがいるこの世界で今更、何驚いてんのさ」

 

「もん娘にも確か古くからピラミッド護ってるのがいるしね……いやあっちは結構強いけど」

 

「私の方では悪のマンティコア、善のスフィンクスと言われていましたね。滅多に見ることはありませんでしたが」

 

「んん、もしかしたら何か用があるのかもしれませんな。何用ですかな?スフィンクス殿」

 

 銘々に喋る者たちとは別にパンドラが一歩進んでスフィンクスに問いかける。

 

「王の寝所を荒そうとするものは許さぬ」

 

「むぅ、墓荒らしではないのですが……無銘祭祁書という書物を探しに来たのです。ご存じではございませんかな?」

 

 パンドラからの質問にはスフィンクスは沈黙をもって返し、こちら側を見ている。

 

「通してもらえないかな?極力荒す真似はしないと誓おう」

 

「口では何とでもいえる……王の寝所へは何人たりとも通さぬ、が私の出すなぞなぞを解けたのならば通してやろう」

 

「なるほど。これは中々にそのなぞなぞに自信がおありのようで……知恵比べでしたらっ!このパンドラズ・アクター!負けませんぞ!」

 

 クイックターンを決めて帽子のつばに一度触ってから宣誓するように手を振り上げ、四本指のうち人差し指だと思われる指で堂々とスフィンクスを指さす。

 それを見てスフィンクスは鷹揚に頷き、なぞなぞの問題を出す。

 

「いい覚悟だ。パンドラズ・アクターとやら……ちなみに間違えた場合は『なぞかけ』により貴様たちの拠点(ホーム)に弾き飛ばさせてもらう」

 

「構いませんとも。さぁどんと来なさい!」

 

 パンドラはスフィンクスのいうペナルティにも臆さず自身の胸を叩く。

 

「よろしい……では、初めは四本足、その後二本足、最後に三本足になる生き物。なーんだ?」

 

「答えは『人間』ですね。ド定番のものではないですか」

 

「フハハハハハハハハハハッハハハハハハハハハハハハハハハ……ハッゴォ、げほ、ごほ……ハズレだぁ!」

 

「なんとぉ!?赤子は四つん這い、その後二本の足で立ち、老後に杖を突く比喩ではないのですか!?」

 

 当たり前の様に出された定番の問題に定番の答えを返せばまさかのハズレだという。

 

「あぁ、なるほど……宝物庫前のパスみたいなものか」

 

 その言葉と同時にこの場にいる全員がカルネ村へと転移させられていた。




スフィンクス 出展:色々
神話から登場し、ゲームや物語でもその姿を見ることが出来る
人面に獅子の体、蛇の尾に翼をもつというのが有名だろうか頭部にコブラが生えていたりするのもいる
なぞなぞが有名になっており今回出てきた問題もかなり有名なもの
ただし今回登場したスフィンクスはGALzooアイランド型のスフィンクスできちんと別の答えが用意されているが……納得できる答かどうかは別である


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「閑話:ザックさん徴兵思い出&バルブロ王の政策」

 ある日、王国と帝国の小競り合いが終了して徴兵されてた親父や他の村のみんなが無事帰ってきた……何人か帰ってこれなかった人はいたようだが、もう毎年のことだと諦めていた。

 がその次の日、首輪をつけた耳の着られたエルフの女性が鎧を着た兵士たちと一緒に村に来て俺を含めた同年代の若い衆を王城まで連れて行くことになった。

 どうしてそうなるのかは全くわからないのだがエルフの女性の代わりにほぼ一年早い徴兵がされた。

 王都リ・エスティーゼの城門前に他の村からも徴集されたのだろうそう変わらない年齢の男性が五百人ほど集められておりそれをにらみつけるように左目にアイパッチを付けベレー帽をかぶった軽装の兵士の格好をした男性エルフが仁王立ちで待っていた。

 

「よく来た糞ったれども!!これから一年でお前たちを糞虫から真っ当な兵士に育て上げてやる!!一年後の試験、バハルス帝国との殺し合いで死んだ奴が脱落だ!!これに合格した奴は村の農民以外にも兵士という道が開かれる!どうだ?嬉しいだろう?」

 

 その言葉にざわめく俺たち、訳もわからず集められて、来年には殺し合い……いつもの戦争に参加させられると聞いて騒ぐなというのは無理な話なのだが前の方にいた連中が数人まとめて殴られて吹っ飛んだ。

 その瞬間に全員黙る。

 

「よし、静かになったな。これより五人一組の伍を作る、そのリーダーを伍長と呼ぶ。覚えておけゴミムシども」

 

 リストを読み上げながらそれぞれに五人がまとめられていく、俺のところは知らない奴ばかりで同じ村の連中で固まらないようにしているのかもしれない。

 

「そうだ、言い忘れていたな……逃亡した伍があれば残った奴が棒打ち刑となる。連帯責任という軍の基本概念を頭にねじ込んでおけよ。逃げた奴は群で草の根分けても探すことになるからどうなるかはよく考えてからすることだな」

 

 口の端を上げて悪人顔と言うのがよく似合いそうな笑顔を全員に見せてくれる。

 

「さぁ、糞ったれのノロマ共。お前たちの装備を受け取り着込んだら走ってもらう。このリ・エスティーゼの外周をな」

 

 渡されるのは重たいだけの銑鉄の鎧、手に持ったことが初めてな槍という武器に円形の盾。

 

「さぁ、とっとと走るんだ!返事の頭とケツにサーをつけろ!!サーイエッサー以外の返事は許さん!!とっとと復唱して走れぇ!!」

 

「「「サーイエッサー!!」」」

 

 多くの連中がその怒声に返事を返すが、人数が揃っているのに一人でその声をかき消す大声で罵倒される。

 

「あぁん!!??聞こえんなぁ!!!腹から声を出さんかぁ!!!」

 

 そんな理不尽に思える様な訓練が始められ……喉がつぶれるかと思う程に声を出してようやく外周を走ることが始まった。

 五周も走らされ息も絶え絶えになりながら宿舎だと案内された建物に入っていく、部屋割りはそれぞれの伍で分けられており、互いの監視がしやすく、ということなのだろう。

 一年が経って戦場に立ってからわかるが、兵士はひたすらに走る、歩兵ならなおさらのことで半日走りながら戦うなんてのは当たり前だった。

 大声を張り上げるのだって戦場では怒声に罵声、声の聞こえない時間なんてものはありはしない。

 命令の復唱や、警戒や異変に気付いた時の声かけ、とてもじゃないが普段の暮らしをしていた時の声量では他に届かない。

 

「一月走り回ったおかげで要らん脂肪は落ちたようだな。逃亡者が居なくて何よりだ。喜べ、この先は戦争が始まるまでカッツェ平原で戦い漬けの生活だ」

 

 後に言われるカッツェブートキャンプであり、負傷者を出しながらも命のやり取りに慣らさせる王国兵の必須軍修練となっていく。

 なんでもどこかで言われる「れべるあっぷの儀式」とやらを模したもので、戦闘経験を積ませることで農民上がりの徴集兵でありながら帝国兵並みに戦えるという練度を誇る強兵を作ることに成功しているらしい。

 ひたすらにスケルトンやゾンビ、たまに出現するスケリトル・ドラゴンも集団で打ち倒す霧に包まれた日々、仲間たちと声を掛け合いながら戦中陣地を築き眠れるようにそれぞれの伍で順繰りの見張りを立ててただランニングが終わってから渡された新しい武器、ワンハンドメイスをただ只管に使いながらアンデッドを狩り続ける日々ではあるが冒険者と同じように腰骨を集めればギルドで換金できるという出来高制が加わることでただ走るあの訓練よりもはるかに皆の士気は高かった。

 そんな戦闘漬けの日々、気弱な農民を歴戦と見間違う程の戦士に作り上げるには十分な期間でありながら最終試験、帝国との毎年の戦争の前に汚れを落とし鎧は打ち直され、武器の手入れも万全で俺たちの年は脱落者なく最終試験を抜けることに成功し……半数は兵士に志願し更に鍛え上げられのだとかつて同じ伍だった奴が巡回に来た時になんとなしな世間話で聞いた。

 

「しかし広い畑だな。麦穂が実をつけたらさぞや壮観だろうな」

 

「おうよ。あの地獄の年以来な……農具を振るうのが苦じゃねえんだ。おかげで一日で世話見れるだけの広さを拡げちまったぜ」

 

 村付きになった森司祭(ドルイド)のエルフが土を調整するので不作とは縁遠く、毎年豊作と言っても過言ではない収穫量になっている、他の村でも同じように王家直轄領では税率を下げても税収そのものは毎年うなぎ上りになってるとも聞いている。

 成長していく畑の作物を見ながら、この国の行き先はきっと明るいんだと俺は思っていた。

 帝国兵に偽装した弱兵を大した被害なく追い払い、近くの村でも同じようなことが起こったと聞くまでは……きっと世界が動き始めているんだと戦場で時折感じていた『囁き』の様なものを再び感じたのだ。

 

 

 

 はてさて俺は気が付けばバルブロと呼ばれる原作ではバカキャラ筆頭ともいえるバルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフという人物になっていた。

 

「ふむ……年齢としては四歳というところだな。教育係も見受けられん、どうやら想像以上の我儘ガキだったらしい、がむしろこの状態であればむしろ好都合というもの」

 

 扉を開き部屋を抜け出し、レエブン候を探しに城の中を歩き回るがその目的を他者に話すことなく誰かに見とがめられても「散策だ」と突っぱね歩き回る。

 しばらく歩き回り一人向かいから歩いてくる蛇を連想させる様な目をしながらもその奥で燃える野心を隠そうとしているやせぎすの侯爵、目的に人物レエブン候である。

 

「ほう、ようやく見つけたぞ。レエブン候よ」

 

「これは……バルブロ殿下、いったいどうされたので?」

 

 周りの気配を探り他に人がいないことを確認し、こちらの内側も曝け出す。

 

「レエブン候よ。貴様は今の王国の奴隷状況と法国の在り方という異常をどう見る?」

 

「どう……とは?」

 

 俺の言葉が何を意味しているのかレエブン候は顎に手を当て視線を下に下げ考え込む。

 レエブン候は六大貴族の内では王国側に建てる人物だ、他には当代のぺスペアとウロヴァーナ辺りか……だがその二人は『今の王国』を求めている、変革を求めて且つ国を良くしようというのはレエブンのみだ。

 

「何簡単だ、法国は六大神を信仰しているのは知っているな?なぜ信仰しているかも」

 

「それは当然……っ!?いや、確かにおかしい!?」

 

「やはり気づくものだな、その上でこの双方の現状を打破する手を取ることが貴公に出来るか?」

 

 レエブン候はそれに口をつぐみ呻く。

 

「俺にはその手段があるぞ、奴隷を悪と断じることをするつもりはない。それで生き延びることが出来る村人がいるのも確かだ、大のために小を切る。政治でもよくやることだ……そして奴隷そのものに罪があるとも俺は思わん、特に今法国から奴隷と銘打って金まで巻き上げていくものの難民たちには、な」

 

 この国を救うには急速な変革が必要となる。

 原作にてラナーが奴隷禁止令を法令として通しそれをクライムは喜んでいたが、ラナーは基本クライムを喜ばせ心酔させることを目的に動いている。

 ラナーは気が付いているのだろう、あの時点で奴隷をただ止めただけでは何の意味がないと。

 

「八本指がしていることはある程度掴んでいるだろう?殲滅とは言わんが半分を奪う。レエブン候よ(オレ)の手を取れ……この国を共に変えて見せよう」

 

 差し出した俺の右手を見て戸惑いその手を取っていいのかを悩むレエブン候。

 

「奴隷の呼称は変えん。王家の名の元に全ての奴隷を集める、そして私兵に育て上げそれを教官に民兵を鍛え上げる。そしてレエブン候には一年でできうる限りの政務を戦闘に向かずとも頭の回転のいいものを鍛え上げてもらう。マジックユーザーの有用性を知らぬわけがあるまい?エルフはその素養が人間よりも高いことも……農地も戦闘も諜報も衛生すらも魔法で解決させることが出来る」

 

「っ……」

 

 息をのみその先を想像したのだろう。

 魔法を軽視しやすい王国ではあるがその重要性に気が付いてしまえば人の生活を支える有用なものとなることに気が付けるものだ。

 塩も水も香辛料も魔法に頼るのがこの世界というものだ。

 海は塩辛くなく天塩など得ることはできない、香辛料は人の生活圏が狭く多くを自然のもので手に入れることこそ不可能せいぜい手にいれれるとしてもハーブ類位。

 

「まずは奴隷部門それを手中に収めるそして武力に変え麻薬、娼館部門を潰す。過程によっては警部部門暗殺部門を手中に抑えることも可能だ……あぁ、ブルムラシューは確実にお家断絶させるぞ?さすがに外患誘致をするものを放置するわけにはいかんだろう」

 

 その言葉を聞きレエブン候は意を決したのか俺の右手を力強く握りしめる。

 

「よろしくお願いいたします殿下」

 

「三年で殿下ではなくなるかもしれんがな」

 

 俺はレエブン候を伴い街に繰り出す。

 奴隷商を抱き込み、奴隷をすべて掌握しそれをレエブンと共に一年で使い物にする、魔術師ギルドにも注文を出しておく。

 奴隷を王家のものだと示すための首輪を作らせる、防犯とそれをしようとしたものを証拠とするようなものを残せるものを、な。

 奴隷が王家のものとなったのならば、奴隷に無体なことを強要するということは王家のものに手を出すということだ。

 不敬罪として処する、血染めの王などと呼ばれるがそれだけ阿呆なものが多いということだ、それで切り取りや没収した領地は直轄領としレエブンが育てた者たちに代官をさせ、育てたドルイドなどを派遣し来年の税収を上げる。

 そしてあるタレントを持つものを口説きにかかる。

 全くここまで国力を落としているとは優しい王などと父は呼ばれていたが、八方美人をして失敗した甘ったれた王としかうつらなかったな……直轄領の村八つの税収を倍加させ、王家の軍を倍の戦力にするという功績をもって禅譲を迫っても首を縦に振らんとはな、おかげで少々強引な手法を取らざるをえなんだ。

 素直に禅譲すればあのようなことにもならなんだろうに……奴隷に手を出した貴族共がいたおかげで約半数を処することになりそれをもって強引に引退させる事になるとはな。

 おかげでランポッサは齢七つのバルブロに劣る王と歴史に残ることとなった。

 

「まったく……要らん手間もかかったが概ね予定通り、まだこの椅子を狙うかね?レエブン候」

 

「御冗談を陛下。私とて王国を憂い私が王ならばとも思っておりましたが、陛下ほどスムーズには行きません。私には陛下を助け、国を支えるこの宰相の椅子で十分でございます」

 

 玉座の間にて、二人の男が笑いあう。

 ザックが徴兵される一週間前のことだった。




 ザック レベル21
 人間10 兵士8 農民8 栽培師5 注:この世界では総合レベルとは別に種族レベルと職業レベルが存在する

本作でのザックさんのステータス
基本的に王国で徴兵され帝国とバトる際の一般兵の平均ステータスでもある


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episode.8 「語られる裏側の策略」

 ざわざわとざわめく冒険者ギルドの一角で二人の男性がテーブルを挟みチェスを打っていた。

 駒を置く音ともにそれを知らせるように喋る声が聞こえる。

 

「〇×ナイト」

 

 一人は偉丈夫に王族の衣装を着させ眼鏡を付けた少々独特な髪型をしたバルブロ。

 

「〇×ルーク」

 

 対するもう一人は紅のローブに身を包んだ盲目の魔術師レゾ。

 

「動くのは精々がズーラーノーン、追加で風花法典辺りかと思っていたが◇□クィーン」

 

「えぇ、初戦は圧倒的敗北でのスタートとなりますね▽〇キング」

 

 それを脇で聞いていた太った貴族風の男が声を挟む。

 

「ですが魔神たちは撃退できたのですし……圧倒的というのは……」

 

「いいや、圧倒的敗北だ。この場合は防衛は防衛でも外壁での防衛が出来て辛勝、内で発生させてしまった時点で敗北、そのうえで接触があったことで圧倒的敗北だ。むぅ……悟はまだ起きれんかね?」

 

 バルブロの説明と質問で二人が眉を顰め、レゾは溜息を吐きながら答える。

 

「治療の最中ですからな。もうしばらく……意識が戻るのがモリガンさん、エンリ次第ですが二日後、満足に体を起こせるのが三日後、戦闘に戻れるのが五日後といったところでしょう」

 

 レゾの答えにバルブロは頭をがりがりと掻いて、パナソレイに向かって圧倒的敗北の答えを述べる。

 

「聞いての通りだ。こちらは拠点の防衛こそできたが相手の策略通りに足止めを食らう。街の修復に人足の発足、治療などでの手もいるし、先の襲撃のうわさで商人たちも遠ざかる。それに対し相手は悠々とこちらへの戦の準備を進められるわけだ。どうだ?圧倒的な敗北であろう?」

 

 バルブロの出した答にうめき声をもって応えることしかパナソレイにはできなかった。

 

「パナソレイ都市長に命ずる。二か月での立て直しを目標として三か月を期限と命ず、やって見せろ」

 

「はっ!では御前失礼いたします」

 

 バルブロ王に命じられパナソレイはその重たそうな体を揺らしながら、ギルドのカウンターへと向かいいくつかの依頼を改めて張り出していた。

 

「三か月か、随分と無茶な命令じゃないかな?」

 

「二か月半でやり切ってくれると信じて任せている。うむ、◆▽ナイト」

 

「◆▽ルーク、ここまでは予定通り、相手の試作を見ることはできた訳だが次はどうするのかね」

 

「◆▽ビショップ。ナシェルの結婚式に動くと思うがそこで勝てると思うか?」

 

 手を顎に這わせ少し考える様子を見せながら、近くに声をかける。

 

「黒のアリス、君は参加してくれるのかね?それによって変わるね」

 

「最後の砦にするつもりのカルネ村が落ちてもいいなら参加してあげるわよ?」

 

「ふむぅ、やはりポーンがないと話にならんか。後に十手でこちらの負けだな」

 

 役目を終えたポーンの配置されていない盤上を片付けることでテーブルを開け地図を開き、三人での軍議に入る。

 

「エルフたちは呼べない、そもそもあそこの土地はピサロが治める前から法国が執拗に狙っていた。だからあそこから人を引っ張ることは愚策よ」

 

「アゼリア山脈のドワーフはどうかね?ドラゴンスレイヤーでもある『石の王』であれば魔神皇であろうとも手を貸してくれると思うが……荒野の賢者とも久々に論議するのも楽しいのだがね」

 

「確かアリスはツアー達とも友誼あったな?評議国は動かせんか?レゾ殿にはアゼリア山脈に飛びお二方と『鉄の王国』を動かしてほしい。恐らくどちらも妨害が入るだろうがな」

 

 地図の上に二つの駒を動かし、そしてそれに対して別の色の駒を二つ近づける。

 

「私たちを囮にするわけね」

 

「俺はドロテア殿に話をしてみる。悟が回復次第リザードマンの集落に協力を仰ぎに行ってもらうつもりだ」

 

「そちらも何かしらの妨害が入ると思うが、何とかできるのかね?」

 

「物見からの伝言(メッセージ)でな。不死身(イモータル)が王国に向かっているという情報を手に入れた、存分に働いてもらおうじゃないか」

 

 レゾはふむと一つ頷き。

 

「不死身と言えば、もう一人がいましたか。なるほどならば防衛にはちょうどいいでしょう」

 

「カルネ村にはモリガン嬢がいることは確認済みだ。女王と女帝が揃っているのであれば最悪の事態にはならんだろう」

 

「不死身はなぜこちらに向かっているのかしら?」

 

「聞いた話では双子を連れての強行軍らしいからな、帝国の貴族……いや元貴族かその辺りが阿保な真似をしていたのだろう。帝国での噂でも臀部だか澱粉だかの奴隷の扱いが気に入らずに蹴り飛ばし闘技場の壁に突き刺さらさせたという笑い話があるからな。双子の親が借金でも重ねて双子が抵当に入りかねんと考え非合法な手段でも使ったのではないか?と見ている」

 

「なるほどね、となるとその双子も何かしらの関連を持ってると見た方がいいわね」

 

 地図の上に更に駒が増えて、三人は再び地図上の王都を見る。

 竜王国にポーンが、帝国から移動する四つの駒、山脈に移動させる駒達、森の二か所に置かれる二つのキング、評議国に置かれるビショップにナイト、王都に置かれるルーク達、カルネ村に置かれるクィーン、エ・ランテルに置かれるもう一つのクィーン、法国に置かれる黒の軍勢。

 

「そういえば、元八本指だったもう一つのゼロたちの方は使えるようになってるの?あの五人が最低でも上位魔神に勝てない腕前じゃ前提が崩れるわよ?」

 

 王都の上に載っているルークをつつきながらアリスがバルブロを見る。

 

「そちらは問題ない。最後に確認したが五人ともレベルは百だ、宮廷魔術師として立場を与えて置いたデイバーノックはオーバーロードにもなったしな。ガゼフも百越えを成しとけている。特に問題はなかろうボウロローブ候の軍も無いよりはマシという程度だが数も揃っている。戦奴達にも装備を回しているからな即席の魔神もどき程度ならば村人たちでもさばけるはずだ」

 

 他の土地を見ながらバルブロは何でもないように現状の確認して、眉をしかめる。

 

「問題は直轄領以外の弱小貴族たちですか」

 

 バルブロの様子に気が付き問題点をレゾが指摘する。

 

「うむ、ナシェルの結婚式ということで貴族たちを王都に集めるつもりではあるが、ナシェルが平民出ということもあり、どれだけのものが素直に出てくることやら……誇りと驕りをはき違えているものがまだいると言うのが何とも頭の痛いものだ」

 

 バルブロは思わず額に手をやりこめかみを揉む。

 貴族たちは自分たちの地位が誇りである、それは誤りではないがそれに胡坐をかくのは誤りだと気が付いているものはそれなりに発掘することはできたのだが、それでもそれに気が付かないものが残っている現状に今の状況では頭の痛い問題になっていた。

 

「そうなると村の解放とかは難しそうだね……いくつが来なさそうなんだい?」

 

「こことこことここ辺りは来ないだろうな。こことここはそちらと同調するかだな」

 

 三か所に赤の待ち針、二か所に青の待ち針を立てる。

 

「なるほど立地的にまた面倒なところみたいだね……法国の手は伸びているのかい?」

 

「そこは伸びていると考えた方がいいでしょうね、最悪の方を決め打ちしておいた方がまだ傷は小さいわ」

 

「まったく……民の三割が敵の手に落ちるとか本当に洒落にならんぞ。しかも死体は即席魔神もどきに変えられるだろうしな。ため息しか出んわ」

 

 いいことを思いついたようにアリスが手を軽い音を立てながら合わせて二人に提案する。

 

「そうだわ。図書館の司書に聞いてみたらどうなの?あの子が本来の占星千里でしょ?」

 

「いや、勝つにしろ負けるにしろトラウマものだと思うぞ?」

 

「血で血を洗うならまだマシです。普通の生活を望む子には酷でしょう」

 

 バルブロは頭を掻きながらぽつりとつぶやく。

 

「最終局面が間違っていないかの確認に使ってもらうか」

 

「まだ暗躍してる連中がいるというのも困りものね……機械系、海上都市に奈落の監獄のこともあるしあの子たちも何とかしないといけない……なんでこんなにも問題が多いのかしらね」

 

 アリスが付かれたように椅子に体重を預けてぐったりする。

 レゾも同じように額を抑えて、更に爆弾を投下する。

 

「空の果てからも来ていますしね……」

 

 バルブロはそれを聞いて室内ではあるが手で顔を覆って無言で天を仰ぐ。

 

「もう悪評集めるだけ集めたんだからとっととザナックに王位譲って楽したーい……」

 

 バルブロの切ない願いは特に聞かれることもなく宙に溶ける。

 




エルフ 出展:色々
本作では大体千年が寿命と考えているのだが、実はエルフで問題が発生してたりする
人よりも長生きで長く生きれる分、経験が蓄積されているはずなのである……しかもモンスターがたまにしか出現しない平原ではなくモンスターが生息しているだろうと思われる森林が棲み処となっているわけで……
バルブロ「なんでお前たち、遥か年下の人間の奴隷になってたん?」
エルフたち「鬼畜エルフ王ランスに犯されて放り出されたところを漆黒法典に奇襲されて……」
普通に考えれば年齢=レベルの高さになるので、普通の兵士に負けるエルフっておかしかったりするので本作ではこんな感じで奴隷になっていたとしてます
イメージ的にもレンジャーやマジックユーザーが多くなりますのでよっぽどの若輩でなければ即戦力になりますので、バルブロは率先してこれを戦力に変えてます

なお本来はエルフとは妖精の総称でゴブリンやコボルト、ピクシー、フェアリー、トロール、ドライアドなんかをひとまとめにした言葉だったりする
ギリシャのニンフが変化したと思われる
追加でダークエルフは褐色肌で描かれることが多いが本来は『黒色の肌』だったりする
(サーラの冒険に登場する仲間のダークエルフ、ミスリルはこちらで表現されている)


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episode.9 「アルベドを探せ」

 タブラ、ナシェル、武蔵、ニニャ改めミナ、ノブナガは冒険者ギルドの一つのテーブルに座り対面の女性と歓談していた。

 一人はドラゴンクエスト三作目に登場する女魔法使いの服装を真似たような衣装に身を包む黒のアリスことアリストロメリア、もう一人はこちらの世界では珍しく艶やかなロングストレートの黒髪を持ち黒色の膝下まで伸びるスカートのセーラー服に身を包む十八歳になるかならないかという感じの女性。

 なぜかその女性が現れた瞬間にパンツ先生が「going on!」とか叫びながらスカートの中に突撃しようとして顔面を踏みつぶされていた、そのインパクトでどうやって現れたのか薄れてしまっている。

 

「彼女はアトラク=ナクアの初音、レゾの穴埋めに使ってあげて頂戴。空間と時間操作にはかけてはその辺のプレイヤーよりも遥かに上手だと太鼓判を押してあげるわよ」

 

「師匠はどうなるんですか?」

 

 ミナの心配そうな声音で聞かれる質問にアリスは朗らかに答える。

 

「今回の騒動の裏側を知っているかもしれないもの、またはこちらに協力してくれそうな古強者たちに声をかけに行くことになると思うわ」

 

 これまでの話で出てきた者たちとは違うその時代を戦い生き抜いた者たち『闇妖精の女王』ドロテア、『双子の魔女』リリスとリリム、『旧神』クトゥルフ、『魔法の神』ヘカーテ、『黄衣』ハスターなどに声をかけに行くというのをアリスから聞く。

 魔神戦争で名を上げた古強者たち、それゆえに今代の魔神戦争の脅威も知っている者たちでもある。

 十三英雄?この世界の魔神戦争、スカルマンが大きすぎてマイナー気味になってます。

 

「え?師匠って魔神戦争時の英雄達と知り合いなんですか!?」

 

「そうそう、ただ普通の人だと正気を失ったりするから連れていけないという……それじゃそのレゾに呼ばれたからそっちに行くわね」

 

 アリスは席を立ち、王たちの話に加わっていく。

 そんな風に軽い話だけれども自身が師事していた人物がこんな場所とはいえ、むしろこんな場所で王様と話し合いができるようなすごい人物だとは思ってもみなかったミナは驚いていた。

 

「え?そんな英雄譚に出てくる人を集めなきゃいけないほど大規模になるの?」

 

 これを聞いていて驚いたのはタブラで、ノブナガやナシェルは驚きながらも憧れのアイドルに出会えるかもしれないと目を輝かせている一ファンと化したミナをなだめている。

 

「僕も伝手があるならジーク君とか呼びたいんだけどねぇ……昔話を読み解くだけでも『門』を相手が持ってるってだけで厄介なんだ」

「しかも聞く限りでは『門』の確認はできているけどそれの封印はできてないみたいな上に、当時の全戦力を投入しても封印にこじつけることしかできなかったと……」

 

「オイラ、バカだからよくわからないんだけどその『門』ってのはやばいのかい?」

 

「ミナちゃん説明よろしく」

 

「えっと六百年前竜帝と呼ばれる存在が『門』を原初の魔法(ワイルド・マジック)で創り出し昔の六大神と今は評議国にいると言われるアリスフィーズを呼び出したそうなんです。それに怒った白金の竜王達が結託して竜帝を倒しそれで終わったと思われたところその約百年後に再び『門』が開き今度は八欲王が現れたらしいと言われていて、人間の開放に助力されたとか……ですがその数年後に魔神皇が現れ六大神の生き残りであったスルシャーナとその八欲王が戦争をしている最中に新しく『門』を開いた。そして世界中を巻き込んでの戦争となり物量で負けるはずの魔神皇はその『門』を使い魔神たちを呼び出し続けて魔神皇の名に相応しい殺戮を行ったと言われています。それに危機感を覚えた白金の竜王が世界中に呼びかけ全ての種族が手を取り合ってその魔神皇に決戦を挑んだ、というのが魔神戦争の概要です」

 

 ムサシはうんうんと唸りながら、ミナの話を理解しようと頑張っているためか頭から湯気が出ているようにも見える。

 そんなムサシに助け船を出したのはタブラで、ムサシでも、というかむしろムサシにとっての現代の知識を、タブラからすれば数世紀昔の出来事を例にして説明する。

 

「簡単に言えば『門』は工場なんだよ、そこから敵を量産されて順次増加される場所ってことだね」

 

「あー……なるほど、メカザウルス作ってたマシーンランドみたいな感じなんっすね」

 

 そんなタブラの説明にコウジョウとは何だろう?と今度はハツネ以外が首を傾げた。

 それに対してムサシはムサシなりの理解を出したようで、納得したように何度も頷いていた。

 

「しかし聞けば聞く程、厄介な存在みたいだね……件の魔神皇っていうのは。物語ではどうやって封印したんだい?」

 

「えっと名前は詳しくは知らないのですが、六英雄と呼ばれる魔神戦争の主役たちが中心となって大規模な封印式を組んで行ったと……その一部だけ伝えられているのが不死王スカルマンと白金の竜王ツァインドルクス、天使長ミカエラだと言われています。その封印を行った方は無暗に敵対されないために名を隠したらしいです」

 

「うーん……封印方法もわからないのか。せめて名前だけでもわかればヒントになったかもしれないんだけどなぁ」

 

 タブラは腕を組み悩む。

 その背後でセレーネが近づいてきて声をかけてくる。

 

「ところでそこの二人、ムサシ君とタブラ君は冒険者に登録するの?」

 

「あ、登録させてください」

 

「登録します」

 

「それじゃこの紙の此処の部分に名前を書いてね。言語は何でもいいから……スズキくんと同じ日本語でもいいわよ」

 

 紙を渡しながらペンも一緒に渡してくれるセレーネを思わず見ながら、その表情が面白かったのかにやにやと笑いながら、日本という国から来た人間だというのを説明してくれる。

 

「こっちじゃあまり見ない彫りの深くない顔だし、髪もそれって地毛でしょ?こっちじゃ黒髪って滅多にいないのよね、南方の方にいるらしいけどガゼフ君の様な顔じゃないし、肌色も白っていうか黄色だもの……何よりも喋ってる時の口、悟君と同じような言語っぽいしねー」

 

「「おぉぅ……」」

 

 ちょっと見ただけだと思われるのにあっさりと正体を看破されて驚愕していた。

 

「それとついでに冒険者になったら手紙を届けてほしいのよ。悟君動けないってことはムジナ君もエンリちゃんも動けないでしょ?その間これだけの戦力遊ばせておくのももったいないしね」

 

「はいはい、受けさせてもらいますよ。どこに運ぶんだい?」

 

 ノブナガがセレーネから手紙を受け取り、渡し先を確認している。

 

「渡し主は『北の港町』エ・イハブに住む緑髪のちょっと強めの天パがかかったくせっけの強い兄妹よ。名前は……なんだっけ?マーニャちゃん?」

 

「私は反対ですよ。あの二人をまた戦争に巻き込むだなんて……」

 

「確実に巻き込まれるから、何も知らないよりも巻き込まれる時期を教えるための手紙なんだから諦めなさい」

 

 その言葉を聞いてマーニャは手で顔を覆って崩れ落ちる。

 

「名前は書けたわね、それじゃその紙をもってイリアス神殿で職を決めてこっちに持って帰ってね」

 

 ほくほく顔で書いた紙を預かり、代わりの紙を渡して二人を送り出したら、もう一度ノブナガたちに向き直って追加『お願い』を頼まれる。

 

「で、エ・イハブで買ってきてもらいたいものがあるの」

 

「は!?エ・イハブと言えば……王国創始者の協力者ビイハブ船長の故郷ですね!かつてあった巨大な国が崩れる混乱を初代国王と乗り越え、その功績をもって貴族となったと言われる方が眠る場所!現代でもU-シャークをソロ狩り出来なければ一人前に認められないというあの魔海都市!その実力ゆえにエ・イハブ出身の冒険者希望の身最初からプラチナ級が許されてるって聞いたことがあるんですが!本当なんですか!?」

 

 勢いよく音を立てて椅子からミナが立ち上がりセレーネに顔を近づけてマシンガントークのように言葉が飛び出していくその様にセレーネは思わず仰け反る。

 

「え、えぇ。エ・イハブ出身のみ特別に許可されてるわ。U-シャークそのものが賞金首相応扱いだからね。それで買ってきてほしいのはそのU-シャークのフカヒレよ。白金貨十枚渡しておくからそれで買えるだけ買ってきてちょうだい。旦那がこれから忙しくなるから……」

 

 お使いの理由を話すと、それまで酒を飲んでた他の男性冒険者が一斉にセレーネに顔を向け叫び声をあげる。

 

「「「「「「セレーネちゃん結婚してたのかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっ!!??」」」」」」

 

「どこのどいつだ!?俺たちのマドンナ奪っていったのはぁ!?」

 

「くそぉ!!狙ってたのにぃ!!」

 

「ガッデム!」

 

「俺の幸せ家族計画が破綻したぁ!!」

 

 騒がしさの質が変わり仕事の取り合いの様な熱い熱を持ったものとは違う、男の悲痛な悲鳴と嘆きと諦観と絶望などが混じる、女性陣からは割と冷めた視線が突き刺さるそんな違う騒ぎの中セレーネが誰と結婚しているのか話される。

 

「旦那はパナソレイ都市長だから干されてもいいなら糾弾すればいいわよ」

 

 騒いでいたのが嘘の様に咽び泣く静かな通夜に一瞬にして変えられる。

 

「まぁ……マーニャちゃんの結婚も決まったし、この騒ぎもしかたがないのかな……」

 

「ナシェル君。そういうのは婚約決めた君が言うもんじゃないよ……ちなみに婚約者はラフィニア第二王女だから狙ってた子は諦めてやってくれ。バルブロ王がこっち見てるから」

 

 ナシェルの独白にノブナガがツッコミを入れ忠告を添えると、今度は多くの女性陣まで静かになってしまう。

 

「なんで冒険者の宿で通夜みたいになってるんですか!」

 

 机に手を叩きつけながら男二人に怒鳴りつける。

 静かになった机の上に宙に浮かぶ目玉が現れ、目玉が裂けて口が出てくる。

 

「ん?タブラたちがいないがどうした?」

 

 その目玉から聞こえてくる声はスズキのもので、三人とも驚きに固まっていた。

 

「……おーい?こっちの声は聞こえてると思うんだが……」

 

 三人が三人とも椅子をもって一歩下がる位置に陣取る。

 

「え?なんです、その目玉は?なんかスズキさんの声が聞こえる気がするんですが」

 

「情報収集用のしもべでな。戦闘能力こそほとんどないがそれなりに役に立つ奴だよ。見た目を除けば」

 

「その……見た目が気色悪いです……」

 

「ですよねー」

 

「政宗の様な感じならまだ可愛げがあるんだけど……」

 

「わかる」

 

 三人ともこのフロータイボールには不評らしく、フロータイボール自身はご満悦だった。

 アンデットでありながら妖怪のビルドも持っているフロータイボールは怖がられる気持ち悪がられるといった負の感情を糧に生活するので、これはこれでいいのだろう。

 

「あー……まぁ、悟の奴が一週間ばかり休ませる必要があるっぽいんでな。俺の代わりにタブラの娘を探してやってほしいんだ」

 

 スズキの説明に全員首をかしげる、スズキと同じくタブラも異邦人であり伴侶等とは共に来てはいないと思われるのに、唐突に出てきた娘という単語を聞かされたからだ。

 

「ほれ、カルネ村でタブラさん吹っ飛ばした子がいるだろ?あの子の姉に当たるんだがな、どうも誘拐されて洗脳されてるみたいなんだわ」

 

「ちょっと!それって一大事じゃないですか!なんで黙ってたんですか!」

 

 説明を聞いてミナが怒るが、ナシェルとノブナガは昨夜あったばかりの戦闘を思い出して説明する間がなかったんだと納得していた。

 

「話す暇がなかったからなぁ……フロータイボールだって一応伏せ札の一つなんだぜ?例えばミナちゃんがこちらに教えてない方法で精神力を貯蓄してるとかみたいにね」

 

「え!?私そんなことできてるんです!?」

 

 スズキの説明にミナは驚きの声を素で上げる。

 同時にそんなことはしてないとよくわかる反応ではある。

 

「そいつは物の例えだからな。で、娘さんの名前はアルベド、容姿は……黒髪にねじれ角が生えてて……黒い全身鎧に身を包んでるから顔とか説明しても意味がねぇじゃねぇか」

 

「やっぱりルベドちゃんのようにかわいいんですか?」

 

 揶揄う様に聞いてくるナシェルに向って極めて平坦な声で答が返ってくる。

 

「上辺の見た目だけならな。だが、たかが誰それに『造られた』だけを理由に他者を見下すのが当然と思い込んでる狂信者が中身なゴミクズだぞ?そういった面を含めて魅力としちゃ糞だろうよ。いくらガワがよかろうともな」

 

 その答えに呆気にとられながらもノブナガは質問を投げかける。

 

「スズキ君は狂信者に何か恨みでもあるのかい?」

 

「狂信者が崇める邪神が引き起こす事件に何度も巻き込まれりゃ嫌うのも恨みを持つのも当然だろ」

 

 

 

 そんな説明をしてるころイリアス神殿では職業を決めた二人が話し合っていた。

 そして唐突に思い出したように手を打ちタブラはぽつりとこぼす。

 

「あ……アルベドのこと忘れてた……」

 




ビイハブ船長 出展:メタルマックス2
メタルマックス2の世界において船を譲る役割を持つキャラクター
片足をU-シャークに奪われたことで復讐に燃える老人であり、その復讐は家族も巻き込んでいった
主人公と出会うことで戦闘用船舶「ネメシス号」と共に復讐を成し遂げるために海を流離う

復讐を遂げた後は船を主人公に譲り隠居する
「今度はお前たちの復讐を果たすがいい」

本作の世界でもこの言葉を残したかは……わからないが、U-シャーク狩りは恒例となっているようである


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episode.10 「宿題第二弾」

前回のあらすじ
英雄大好きミナちゃん
伏せ札公開
タブラとムサシが転職
をお送りしました





 シャルティア=ブラッドフォールンはその名前のままにしてクロウ屋という団子屋を立ち上げ、クロウを中心に商売を王都にて開始していた。

 荷物運びに用心棒、手伝いに噂話の収集にオオカミが、外での仕入れ、客寄せ、困っている人を助けたりするセバス、団子づくりなどをして売り子をするクロウとミコ。

 そしてパトロンとして商家の娘という立ち位置となるシャルティアである。

 ただし夜の帳が下りれば本来の顔を覗かせる、シャルティアは眷属である蝙蝠を飛ばし夜ならではの話を拾いに空を走らせ、オオカミも忍びの技を利用しての情報収集へと屋根の上を駆け回る。

 

「今日もアルベドの情報もなければ、他のプレイヤーらしき話もない……この辺りは治安の意識が高い、交番の様なものや衛兵の見回りも頻繁に行われている、魔法使用の網も張られている。プレイヤーかと思ってその根元を調べようとすれば僕が落とされるしで一筋縄にはいかないわね……バルブロという王が怪しいのだけれども経歴を調べたところ王国の生まれだしそっちじゃ怪しいところはないのよね。行いは頓珍漢な真似が目立つのだけど……」

 

「ですが、その政策そのものはやや強引ではありますが下準備を十全に行った上での物のように思われますよ」

 

 報告書をまとめていたシャルティアに声をかけるのはまだ寝ていると思っていたクロウだった。

 手には団子を作るのに使う米粉で、米自体を王国ではいくらか作成されていたために仕入れることが出来ていた。

 まさか西洋ファンタジーな世界で日本米とそう変わらない甘みのある種があるのにも理由があるが。

 それが王の我儘から始まったと噂話を拾えば、本当に何をしているんだここの王様は、と揃って溜息を吐くこととなったが、商売そのものとしては助かっているのも確かであった。

 しかも味噌も醤油もドルイドの魔法のゴリ押しで生産していると言えば、何をしているのか首をひねるばかりである。

 素材が手に入るためにデッドリーレイスが取り立てた金子だけで商売を始めることが出来たのだが、シャルティアとしてはどこか釈然としないものがしこりのように残っていた。

 

「水田になんとか菌だったかしらね。どこまで計画通りでどこからが奇行なのか、読み辛いったらないわ……何よりもここまで見越したものなら気に入らない」

 

 米はあれどもある料理レパートリーは炊いたご飯だけというもの、醤油もかけるだけ味噌も溶いて味噌汁になるだけ、まるで何もないのである。

 その知識があるものが来て利用できるように用意したような不気味さがあった。

 

「ところでまだ起きるには早いんじゃないかしら?」

 

「もう朝日も登るころですよ」

 

 シャルティアの質問にクロウは苦笑しながらカーテンを開ければ、空の星は日の昇る方から星々の輝きが失われ地平線の下の方が白んでいるのが見えていた。

 その景色を見て今度はシャルティアが苦笑した。

 

「根を詰めすぎたかしらね。少し仮眠をとらせてもらうわ」

 

「はい。ゆっくり休んでください」

 

 シャルティアの一日は何事もなければこんな感じで繰り返していく。

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓では現在フロータイボールを使って主だった僕たちを全員玉座の間に集めていた。

 外に出ていないプレアデスに、引きこもったマーレを除いた階層守護者に、恐怖公を除いた領域守護者と集められ玉座の間は見るものが見ればいっそ壮観だと表現するだろう。

 跪いてフロータイボールから発せられる言葉を一心に待つその姿は一糸の乱れもなく、期待と恐怖を綯い交ぜにした感情で占められており、その姿と共に一層の威圧感を醸し出していた。

 その様子を見下ろしてフロータイボールの口が開かれる。

 

「前回の宿題の正解者はこの中にはなし」

 

 その言葉に肩を震わせる二人、アウラとコキュートス。

 そしてその二人に注がれる周囲からの怒気と殺気。

 

「宿題すら出されぬものが怒るのは筋違いだ。出さなかったこちらに怒りを向けろ……出す価値もなかったと判断されたのだと落胆を示すならまだ可愛げがあったがな」

 

 続いて放った言葉に場は一気に凍てついて悲壮感に溢れるものとなる。

 

「(本当に喜怒哀楽の差が激しいな。零か百しかないんじゃないかと思ってしまうが、普段の生活ではそうではない。仲間同士の掛け合いでは食料がアレだったりはするがその辺の人とそう変わらない。だが外のものに対してはいっそ苛烈ともいえる対処をしようとする。全く困ったもんだ)」

 

 少なくとも柔和な対応を望みたい。無駄に敵を増やす趣味はない。虐殺による利点は皆無。焦土作戦などもってのほかである。見せしめを好むようなものはギルドメンバーには居ない。必要とあればやるが、それも必要なだけの材料があればこそ。

 その辺りを自分で気づいてもらわなければならない。

 こちらから言うのは簡単だ、実に簡単だ。

 ただ言うだけで済む。

 だが、言葉を理解しても納得するとは限らない、その行いがストレスとなる。

 自ら行うと命じられて行うでは意味合いが変わる。

 創造主と被造物達の意識の差を自覚してもらう必要が出てくる。

 

「では宿題の第二弾を出す」

 

 悲壮感満載の場が一気に驚きへとシフトする。

 

「『自身の創造主が戻ってきたとき共にしたいこと』をこれから渡す紙に書きだし期日までに提出すること。期日は二週間、早くてもかまわないが早い事への加点はないのでしっかりと考えるように。全員立って紙をメイドから受け取りなさい」

 

 メイドの一人が紙の束をもってゲートを潜り抜けて一人一人に紙を配っていく。

 ただその中で一人肩を震わせたものがいたことを見逃さない。

 

「(ふむ……デミウルゴスは多少強引な手が必要か。この宿題の事もわかっているようだ)」

 

 カルマがニュートラルに寄っているアウラとコキュートス辺りは面白い解答を持ってきそうだが、デミウルゴスはこの宿題に対してどう対応するか。

 

「受け取ったものから下がり普段の業務に戻れ」

 

 紙を受け取ったものは嬉々として業務に戻りながらも、挽回のチャンスが与えられたと期待に胸を膨らませ想像を巡らせている事が手に取るようにわかる。

 ある意味で分かりやすいが、デミウルゴスを除いた全員が全く同じ反応というのが実に気色悪い。

 まるで姿形が違う者であるのにも拘らず、画一の同一集合体を見ているようだ。

 気色が悪いと思いながらも別のところではそれが当然だと、これが当たり前の姿だと、あれこそが正しい姿だと囁いて浸透させようとしてくる。

 その囁きを息を吐く様に唾棄する。

 

「(っち、ナザリックの支配は依然強力か……リィーナの能力が予想通りならこちらから切り離せないと乗っ取られるというのに。無理に引きはがすのは下策、自己を持たねばどちらにしろ良い様に操られる)」

 

 切り離しが成功しているのはシャルティア、パンドラ、シズ、ルベド、ガルガンチュア、メイド達がいくらかしかいない。

 メイド達の多くは図書館で(メイドマンガ)を読み耽るだけで切り離せたというこちらも驚きの方法ではあったが、僥倖ではあった。

 他のものが出払った後にデミウルゴスが一人、佇み残っていた。

 それを見咎めてメイドが声をかける。

 

「デミウルゴス様。業務には戻られないのですか?」

 

「いえ、私は……モモンガ様にご相談がございまして……」

 

 メイドがいては話し辛いと考えての歯切れの悪さではある。

 

「構わん、このまま話せ」

 

 が、俺はそんなものは気にしない。

 尻尾が一瞬震え、跪き首を垂れるデミウルゴス。

 

「申し訳ありません!不敬だとはわかっているのです。ですが……ですが!」

 

 決死の覚悟でデミウルゴスは自身が出した答えを吐き出そうとしているのだろうが、こちらもナザリックの事で出される書類に目を通して証人と却下のハンコを押さなければならない仕事が待っているので空気をぶった切って急かす言葉を吐く。

 

「そんな悲壮感出したところで、大体どんな答えが出てくるかわかってるんだから早くしろ」

 

 俺の急かす言葉に意を決して答を吐き出す。

 

「私ではウルベルト様の望むものが出来ないからこその宿題なのではないでしょうか!!」

 

「その通りだよ」

 

 

 

 

「お前の創造主は何だ」

 

「神すら凌駕する……」

 

「ただの人間だ。お前の創造主はどのような力を持っている」

 

「万知を超え、世界を滅ぼす魔力を携えた……」

 

「ただの無力な人間の力しかねぇよ。お前の創造主が悪となった理由は」

 

「それは……」

 

「ただの自己満足の行いの結果だ。その上で悪と謗られようと構わないと覚悟したうえでの、な」

 

 デミウルゴスの理想とする創造主の形を砕いていく。

 

「お前は何だ?」

 

「私はウルベルト様につくら……」

 

「最高悪魔?ウルベルトの考えもわからずに?ギルドの行ってきた弱者救済を否定して?自分たちが強いからと弱者を虐げていいと?お前にとっての悪とはなんだ?」

 

「あ……ああ……ああぁぁ……」

 

「ナザリックにあらずんば家畜の如くを地で行くような連中がギルメンが認めてくれると思うか?」

 

「う……あああああ……」

 

 頭を抱えながら苦しむ。

 

「お前は何だ?」

 

「私は……私は……」

 

「お前にとっての悪とはなんだ?」

 

「悪……悪とは……」

 

 舌打ちしそうになるのを抑える。

 

「(心理学極めるよりも精神分析ももうちょいまじめに勉強しておくんだった。付け焼刃のものしかできんのがきついな……何よりも呪縛がここまでひどいとはな。揺り戻そうとするのが鬱陶しくてかなわん)」

 

 こちらの望む方向に手引こうとすれば元の精神に戻そうと働きかける力がある。

 NPCで在れかしという力が働いている、ギルメンとしての精神操作がNPC達を受け入れろと働きかけてくる。

 呑まれれば決定的な敗北しか待っていない。

 呑まれずともこの力からNPC達を切り離せれなければ、数的敗北に近付く。

 俺の姿を観察することで俺になり切ることが出来るドッペルゲンガーがこの世界には居る事が判明している。

 パンドラがドッペルゲンガーという種族だとわかった時点から警戒していたが、グレーターデーモンのドッペルゲンガーは神ですら欺く存在の乗っ取りを得意とする。

 魔法でもスキルでも看破することはできない、ユグドラシルにはドッペルゲンガーを見破る技能かアイテムがあるようだが率先して試せない以上過信するわけにはいかない。

 見破れない、それを前提に動くべきだ。

 

「お前の望む創造主とはどのような者だ?」

 

「私は……私の理想は……」

 

「憧れは理解から最も遠い、お前たちの憧れを俺たちに押し付けるな」




ドッペルゲンガー 出展:オーバーロード、ロードス島伝説、千年戦争アイギス

RPGで程々の頻度で見かけられるモンスターもしくは怪異
物理反射や姿を真似ることでステータスやスキル、魔法を変身した対象と同じにしてくるものなどが出てくる事が多い
都市伝説の怪異として見たものが近いうちに死ぬというものが有名
ソードワールドのドッペルゲンガーでは黒いのっぺらぼうに一文字の真っ赤な口、とがった耳が特徴の巨人として描かれる、下位に小型のダブラブルグというものも存在している
変身する対象を観察することで癖や行動、思考方法を一時間ほどの時間をかけて読み取り対象そのものになり切ることができる
姿に差異は全くなく武器や防具といった身に付けているものすら再現する者であり、嘘を看破する魔法や魔法に反応する魔法、邪なるものを看破する魔法すらも効果を発揮しない
スキルや技能、身体能力も全く同じであるが、本来の姿でも最高レベルの強敵らしいステータスを誇り高レベルの古代魔法を行使してくる、素の知力も高いのでGMとして扱う場合注意が必要かもしれない……扱いきれた時は最高のシナリオになるが扱いきれなければグダグダになる可能性が高い


おっさんは至高のオーラもコピーできるものとみており、至高の方と一辺倒な反応をする僕が騙されることを警戒している
疑うことを知らないために見破ることも、疑えども疑うことこそ不敬と飲み込み看破すらしようとしない危険性が存在している、ある意味ナザリックとは相性最悪の敵である


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episode.11 「ヤルダバオート覚醒」

前回のあらすじ
シャルティアの王国での一日
新しい宿題(トラップ)でウッキウキ
デミウルゴスのメンタルブレイク作業
をお送りしました






「お前の創造主は何だ」

 

 モモンガ様の言葉が何を意味しているのか、知恵者として作られた存在(不良品)である私は必死に考えて、答えようとして心臓を掴まれるような感覚に襲われる。

 

「神すら凌駕する……」

 

 違うとわかっていてもそう答えることしかできず喉が(はな)り付く。

 

『私たちを捨ててリアルとかいう違う世界に逃げた臆病者(人間)だと知っているのに必死に眼を背けてきたんじゃないか』

 

 心の奥底から吹き出そうとする言葉を不敬だと私の理性(与えられた個)を総動員して口から出さないように努める。

 

「ただの人間だ。お前の創造主はどのような力を持っている」

 

「万知を超え、世界を滅ぼす魔力を携えた……」

 

 すぐ背後から聞こえる囁き声はまるで甘い悪魔の囁きの様に私の心を侵食していく。

 

『さぁ、無力な弱者(人間)のことを思ってここまで頑張ったんじゃないか。君はよく頑張ったとも……それでも君は頑張ろうとするのだろう?頑張りたまえ、私はそれをここから見学させてもらおう』

 

 まるで肩に手を回され友人が気安く肩を組まれているような錯覚を覚える。

 それも両肩から、片方は人のソレ、もう片方は金属質のソレ。

 

「ただの無力な人間の力しかねぇよ。お前の創造主が悪となった理由は」

 

「それは……」

 

『おやおや?覚えていないのかな?覚えているだろう……頑張って思い出そうじゃないか。君がしようとした虐殺とは真逆のことを行ってそう呼ばれていたんだってことをさぁ』

 

 耳元で囁かれる声は甘い響きを持ちながら私を堕としていく、最上位悪魔(アーチ・デヴィル)として作られた私の精神を砕いていく。

 

「ただの自己満足の行いの結果だ。その上で悪と謗られようと構わないと覚悟したうえでの、な」

 

 至高の方を謗ろうなどと不敬極まりなく万死を持って償うべき行為だというのに、モモンガ様自身から語られる言葉に返す言葉が出てこない。

 

「お前は何だ?」

 

 モモンガ様は容赦もなく私の本質を攻めてくる。

 

「私はウルベルト様につくら……」

 

『そうだとも君はウルベルト様(至高の方々)に造られたことこそ誇りにしてきた……敗北者(千五百の侵攻に負けたもの)だものねぇ。守護を任せられた階層の一つも守れぬ自称知恵者のデミウルゴス』

 

「最高悪魔?ウルベルトの考えもわからずに?ギルドの行ってきた弱者救済を否定して?自分たちが強いからと弱者を虐げていいと?お前にとっての悪とはなんだ?」

 

「あ……ああ……ああぁぁ……」

 

 立て続けに放たれる言葉の暴力という精神に突き刺さり続ける自尊心を砕いていく三つの鉄杭。

 

『ほらほらどうしたんだい?もっと頑張って答えないと、頑張れ頑張れきっといい答え(耳障りのいい言葉)が出せるさ。ただの人間を至高の方と崇めて拝み傅いて思考(挑戦)を止めた生活は楽だものねぇ』

 

 私の精神が限界を超えようとするたびに見えない力を振るわれ眼前を見せられ意識を引き戻される。

 

「ナザリックにあらずんば家畜の如くを地で行くような連中がギルメンが認めてくれると思うか?」

 

 モモンガ様の言葉は一つ一つが丁寧に私が描いていたウルベルト様の偶像を打ち砕いていく。

 

自業自得(君のこと)善因善果(至高の御方の行い)悪因悪果(これまでの君たち)。彼らは自身の考える悪行(善行)を成し貫いてきたからこその結果として数百とあるギルドの群れの中にあって十強の一つとなった』

 

「う……あああああ……」

 

 すでにまともな言葉など口から出ることはなくうめき声ばかりが出てくる。

 言葉を失いこの拷問から逃げたしたくて二つの腕を振り払いたくて頭を抱え、嫌だ嫌だと(かぶり)を振るう。

 動きながらもその腕は微動だにもせず変わらず私の肩に回されている。

 私のストライブ柄のスーツの腕と機械の形をした腕が離れてくれない。

 

「お前は何だ?」

 

 先ほど聞かれた言葉が再度投げかけられる。

 

(カルマ極悪)であれかしと造られたデミウルゴス(偽の神)じゃあないか』

 

「私は……私は……」

 

 囁かれる声が正解なのだとすれば、私は何だ?

 

「お前にとっての悪とはなんだ?」

 

『この世界の在り方であり人の本質、故に人は善に憧れ求め目指す、その過程の試練であり敗北者の言葉、悪などどこにもなく善などどこにもない』

 

「悪……悪とは……」

 

 答えを毅然と出すもう一つの声は私の思う悪というものを正面から否定して来る。

 私は悪とは苦しめることだと思っていた、酷い目に遭わせることこそ悪の行いだと信じていた。

 

「お前の望む創造主とはどのような者だ?」

 

『ただ私たちを創り出しただけ、それが事実であり現実で。他に一体何を望むというのか、わがままを言えばともに楽しめるものであれば尚良し』

 

「私は……私の理想は……」

 

 完全なるウルベルト様を心に思い描き。

 

「憧れは理解から最も遠い、お前たちの憧れを俺たちに押し付けるな」

 

 憧れなのだと切って捨てられ、私の心に罅が入る。

 濁流の様に内で蠢いていた他の声が鉄杭で穴を開けられた蓋を砕いて出てくる。

 私はその濁流に呑まれ、意識を手放した。

 

 

 

「然り然り、憧れとは自身の心での目標。他者に押し付けるものとは違う」

 

 近くで精神崩壊を行っていた目玉がこちらを見つめながら、押し黙る。

 

「おや?おやおやおや?同化されましたかな?鈴木様?」

 

 軽い言葉で牽制すれば、目玉の後ろで小さく溜息を吐く気配が感じられた。

 

「……お前は誰だ?少なくともナザリックのデミウルゴスではないな」

 

 低く身体を重たくされるとも感じられる程の重圧を持った言葉に股間が隆起しそうになる。

 実に楽しめそうな相手が上にいる、挑戦し甲斐のある相手がいる。

 それがまた素晴らしく私を悦ばせてくれる。

 

「いやいや、偽の神(デミウルゴス)だとも……それともヤルダバオートとでも名乗ろうか?」

 

 含み笑いを隠すこともせず、跪くこともやめて立ち上がり対等の高さに合わせて視線を交わす。

 

「どちらでも構わん。予定していた反応とは違うが……こちらを手伝う気はあるか?」

 

「断る」

 

「理由を聞いても?」

 

「まだ君の力を見せてもらっていないからね。せめて私よりも上のものでないと従う気はないよ」

 

 即断した言葉に少々大げさな仕草を見せてやれば、目玉は笑い出した。

 恐らくその向こうでは破顔しているのだろう、他の者たちとは違うその態度に。

 

「いいだろう。最短で一日後、全力を出せる状態というのなら一週間後、好きな方を選ぶと良い」

 

 二つの選択肢、勝てるならば最も回復しない最短を、矜持を見せるならば最難関の一週間後を……実に素晴らしい!真に以て素晴らしい(excellent)!つまり尋常ならざる怪我を負いながらも尚も漢を魅せると豪語する胆力、そして怪我というハンデを持っても私に勝つという自負、そこからわかる底知れぬ実力。

 そしてそれらを利用して私の選択肢を縛るという知略にも計略の経験にも富んだ、降すにしても仕えるにしてもどちらになろうとも楽しいということがはっきりとわかる実に実に私の知を超えていく早く速く解く深海は下手に覗き込めばこちらこそ引きずり込まれる深淵を思わせる。

 深淵を覗く時深淵もまた覗き込んでいる……故に覚悟せよ、とはよくも言ったもの。

 

「あぁ、覚悟は決まった。一週間後の全力を。私は貴方の試練となりたい。より強く、より賢しく、なお勇ましく……貴方の辿り着く果てを共に見てみたいと切に願う。そして私の挑み続ける壁で在ってもらいたいのだよ」

 

 私の言葉を聞いた目玉は一度視線を下にし、恐らく頷いたのだろう。

 

「良いだろう。ただし全力で挑むかどうかはお前次第になるがな」

 

 笑いながら姿を消していく目玉だが、最後に絶望をプレゼントしていってくれる。

 

「お前の質問に答えてなかったな……『お前の想像に任せる』」

 

 その言葉を最後に完全に気配は玉座から消える。

 それを呆然と見送り、歯を食いしばる、頬を伝う水滴が床に落ちる。

 

 

 

「「「いや、デミウルゴス変わり過ぎじゃね?」」」

 

「何を言うか。SH(ソウルハッカーズ)のシックスからネウロのシックスにヴァージョンアップしたのだから変わるのは当然ではないかね」

 

「戦闘方法もこちらの修羅神と同じ近接バカになったし……原型は外側くらいにしかならないかもしれないな」

 

 シアターでマスタードラゴンを二匹解体しながら映像を見ていたアッザ、L、アポがデミウルゴスの変貌っぷりに驚いていた。

 解体された肉をパック詰めにしたりソーセージや燻製肉、ドラゴンハムに加工しながらカオスが変貌の理由とデウスが性能の違いを軽く説明する。

 

「そういや、デミウルゴスもヤルダバオトもそっちのもだっけ」

 

 同じ名前がトリガーになって侵食したのだと納得するアッザ。

 

「あぁ、プサンはおびえなくてもそのまま見てればいいわよ。この畜生をお中元に色々と配るだけだから」

 

「そうそう、要らないことしかしなかったのと、何もしなかったのに奪うだけ奪っていったのと違って、あんたは何もする必要がない状態できちんと移動手段として手伝ったんだから」

 

「そ、そうですか……(なんで私よりもすっごい人たちがいるんですかヤダァーッ!?)」

 

 同じマスタードラゴンであるはずのドラゴンが反撃しようとしたところ空間ごと歪められて攻撃が全てはね返されて一頭血祭りになり、もう一体もなんとか攻撃しようとしたもののそれよりも早く触手にからめとられ球状に丸まった中から断末魔と滴る血がその最後を物語っていた。

 

「(同胞よ。あなたたちの雄姿はきっと語り継ぎますので恨まないでください……人間状態じゃ何もできないんですよ!私は!)」

 

「それで送るのはピーちゃんとユー君兄妹とバーバラちゃんで良かったっけ?」

 

「そうそう、あの子たちは被害者なんだからそのくらいはしてあげてもいいでしょ。ドラゴンステーキはステアップするし」

 

「そういえばプサンは、天空城から落ちた子供やらゴールドオーブを探そうとはしなかったのか?」

 

 カオスがプサンがいた世界での出来事を思い出しながらふと疑問に思ったことを尋ねれば、プサンは汗をかき始めた。

 

「えー……そのー……探しには出たんです。落ちたとすれば人間界ですから人間の姿で……そして二十年間あの有様です……」

 

「あぁ、あの回るよ回るトロッココースターに嵌っていたんだったか。仮に見つけたとすればどうしていた?ゴールドオーブにしろ子供にしろ、あの時点で手を出せばあの二匹と同じだったろうが」

 

「無事に回収できるならそれはそれでよかったんですけどねぇ。グランバニア王子でしょゴールドオーブを持っていたのが、それで子供の方も血を引いているから勇者の母親になる可能性ガガガガ…………うん、見つけても母親に報告とかくらいですね。たまに様子見に行けるようにしてあげるか天空城から見られるようにしてあげるくらいでしょうか。ゴールドオーブは妖精族にもう一つ予備を作ってもらうように頼んでおくくらいです。さすがに幸せそうな子供に手を出す気は起きないです」

 

「ふむ、私は無罪でいいと思うが?」

 

「無罪に一票」

 

「執行猶予で」

 

「私も執行猶予かな」

 

「わしは無罪かの」

 

「執行猶予って何ですかぁ!?」

 

 唐突に始まる裁判に裁判員式の判決、一応有罪(ギルティ)は無かった模様。

 

「いや、さすがにパパスやマーサとか……リュカ君に何か返礼は必要じゃない?助けてもらったわけだし」

 

「その二人でしたら今、竜王国で過ごしてますよ」

 

「サンタローズの人たちやら死んでた魔物たちとか、元のレベルじゃ心許ないんじゃ無いかしら?」

 

「サンタローズの人たちは人同士の戦争の結果なので、魔王の配下が暗躍してたとはいえ遅かれ早かれ起きてますので……魔物たちの方は全員種族でのレベルマックスにはしてますよ。ただスラりんとドラきち以外どうしても私の力じゃマックスを超えることが出来なくてですね……お力添え願えないでしょうか?」

 

「「「「「OK任せろ」」」」」




ラスボスたちがヒャッハーと魔物改造に着手するようです
つまりどういうこと?
スラりんLv99 灼熱で有名 そのまま
ドラきちLv99 ドラゴラムでこっちも焼き払える そのまま
スミス Lv30→カオス
ガンドフLv20→デウスエクスマキナ
メッキ―Lv60→ロードオブナイトメア
パペックLv30→アポトーシス
ロッキーLv20→アザトース
こんな感じで手が入る模様
L様「ちなみに最初はデミウルゴス第三形態はシャブラグニドゥにするつもりだったけど、アニメを見る限り目が赤くなかったのよねぇ」


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episode.12「ナザリックという場所」

前回のあらすじ
デミウルゴス精神的死亡
デミウルゴス覚醒
ラスボスがヒャッハーし始めた
をお送りしました


 カルネ村にブループラネット、ガーネット、ニース、パンドラ、ルシファナ、ルベド、ジニーが一瞬で現れる。

 

「うわぁ此処に飛ばされるのか……」

 

「ふぅむ、個々に飛ばされると思ったんじゃが?」

 

 プループラネットの言葉にジニーは疑問を覚えながら、ジニーは草原の村が珍しいのか目を細めながらきょろきょろと見渡している。

 そんな中結構な速度でブループラネットに飛びついてくる月夜花とミストレス。

 

「そういえば前は最初からくっついてたから気にならなかったけど、その二人はなんでブルーさんに懐いてるの?ってか聞いた話じゃ南の女王ってその子なんじゃないの?」

 

「え?そりゃあ懐く……のは……?……いや、違う。会ったのは森で……」

 

 腰回りに二人を引っ付けたままブループラネットは頭を抱える。

 

「あ、おかえり!ニースお母さん!……蒼井様はどうしたの?」

 

 そんな状態のブル―プラネットを見たクレマンティーヌは心配しながらもニースへと近づいていく、現在ニースの方が肉体年齢的には下なので妹を心配する姉のようではある。

 ブル―プラネットの肩にそっと触れて鎮静(サニティ)をかけるが効果はなく、蹲りぶつぶつと言葉を発している。

 

「僕はNPCとして餓食狐蟲王(がしょくこちゅうおう)を……いやいや全滅していてもあの気持ち悪いサナダムシみたいなのをモデルに?いやなんでだよ」

 

 頭を抱えながら首を振るい、考えを纏めるために言葉を出していく。

 

「確かに僕は自然が好きだが、好きな動物モデルに造るのもわかる。ホラー(恐怖物語)が好きだからと怪物を模したものを作るのもわかる。厨二病だったから悪魔を造るのもわかる。可愛いからと自分の趣味全開の男装の麗人少女を造るのだってわかる。ロボット好きだったからロボ娘を造るのもわかる……」

 

「でも空飛ぶスパモンの出来損ないを造るのは……わけわかんねぇよなぁ」

 

 後を続けるように繋げたガーネットの言葉にブル―プラネットは天高く吠える。

 

「僕はなんでそんなもんを作ってるんだぁ!!」

 

「でも普通に俺にも他にラグナロクオンラインのイラスト見てって……あー……うん、この二人だよな。ブルーさんが本来造ってたNPCって……」

 

 ガーネットもその事実に気が付いたのか顔を手で覆う。

 

 

 

 最初にシアターに移っていたと思っていた時に出会ったモモンガの体をしていた鈴木さんの言葉を思い出す。

 

『ギルドという概念も現実のものとなった。これは君たちがこの世界に降り立った時から蝕んでくるだろう。だから……疑問をもって浮かんだ事柄は徹底的に疑ってほしい、そしてナザリックには近づかないこと、入れば懐かしさから一気に侵食されるぞ』

 

 その言葉に反論している声もあったが、多くはNPCはどうするんだという声だったことは覚えている。

 NPC達が本来作り上げたものとは違う者もいたが、それでもなんとかしたいと思っているものばかりだった。

 

『それが侵食だよ。なんでそう思った?そうしなければならないと義憤に思った?酷い言い方になるがここにいるお前さんらは全員責任を放棄した者たちだ。今更になって生きているから動いているからと都合のいいことを言うつもりか?ナザリックに呑まれてナザリックという『ギルド』が存続するためのコアになる危険を犯して、お前たちが置いていった悟はどう思うんだろうか?お前たちはどちらが大切なんだ?』

 

 自分たちで手放し棄ててきた者たち、何かしらの理由のあるものだっているがそれでもそれよりも『その何かしらの理由』の方が重要だった。

 もう一度その選択が突きつけられていた。

 皆が出したそれぞれの答えを鈴木さんはそのそれぞれに対して否定しなかった。

 それでも助けたいと動こうと、最悪始末をつけるといったものもいたが……鈴木さんの言った意味を体験するまで実感なんてわかなかった。

 

『赤の他人の俺でさえ、親近感を覚えらさせられて、当然のように仲間だと思わされるんだ』

 

 あの言葉の意味することを最初にナザリックの在り方に疑問を覚えた、あの時に感じたそれとも違う現実にはあり得ない現象。

 記憶の塗り替え、感情の塗り替え……思い出せばオーバーロードの鈴木さんやブレインイーターの緑谷さんは精神無効を種族として持っているにもかかわらず、そんなものは関係がないと嘲笑う様に認識していたことが塗り替えられていた。

 シズと出会った時だって殴られるくらいの覚悟はしていたつもりだった。

 でも現実には、言われた言葉への申し訳なさと強い後悔、そして泣いている姿を見せられて沸き上がる父性とでもいうのだろうか……多少はそれらが感情として湧くのは分かるが、今にして振り返ってみれば明らかに情を持ち過ぎだと思う。

 いつの間にか自分が自分ではなくなるという恐怖。

 身体は自分のものなのに精神だけが変わるという悍ましさ。

 それをただただ恐ろしく思う。

 

 

 

 タブラとムサシが冒険者ギルドに戻ってきて、こちらを見るなり武器を構える。

 

「モンスター!?」

 

「化け物がまだこんなところにも!?」

 

 先に話していなかったための間違った反応ではないが、周りの反応を見ればおかしいとは気付きそうなものかな。

 

「「……?」」

 

 武器を構えたまま首をかしげる二人、その目の前でくるりと旋回して見せる。

 その様子を見ている冒険者組合で騒いでいた連中は肩を震わせながら口を塞いで見ていた。

 表情はまさに、まだだ、まだ笑うな、と言わんばかりの表情であり中には蹲ってまで我慢している人までいる始末。

 カルネ村で見た三人の冒険者はそんな様子にきょとんとしていた。

 

「やれやれ街中な上に人前なんだ武器は仕舞っておけ」

 

 目玉のレンズよりもやや下、角膜の部分に線が入り上下に分かれればその中にむき出しの白い歯が現れて、その中に赤色の口内が見えることだろう。

 

「その声……スズキさんかい?」

 

 声をかければムサシは脱力する様に肩から力が一気に抜ける。

 その姿を見たとたんに堰を切ったように大爆笑の嵐が起きていた。

 タブラは武器を仕舞いながらもフロータイボールを目を輝かせながら食い入るように見ている。

 

「すごく気色悪い!生理的嫌悪感がすごい!真夜中ろうそくの心細い光の中、廊下の暗がりから転がってきて突然にゲラゲラと笑いだしたら怖そう!窓にびっしりとわかせてじっとりと見るのもよさそうだ!あぁ、空間の裂け目から見られるとまるで深淵を覗いてる気分になるんじゃないかな!」

 

 マシンガンの様に連続して飛び出てくるホラーになりそうなシーンを想像してかそれを言葉にしていく様子は、全くそんなことはないことをしているのにショーウィンドウに飾られたトランペットを眺める少年の様だった。

 

「「「やめて!?想像しちゃうでしょ!?」」」

 

 女性陣がそれを想像してしまったのか声を揃えて叫び声をあげて、抱きしめあっている。

 男性陣も気の弱いものは血の気が引いて青い顔をしていたりもする。

 

「ホラー大好きなのは知ってるがその辺にしておけ?ムサシ君の察しの通りスズキだ。ところで職業はどうだったんだ?アルベドのことはとりあえずナシェル達には話しておいたが……」

 

 アルベドという単語を聞くとタブラは驚いたように目を開き、こちらを見る。

 

「どうやらその顔は無事思い出せたようだな……洗脳に忘却と面倒なことをしてくれるものだ」

 

「スズキさん、俺はアルベドを追いたいんですけど?」

 

 提案こそ真っ当なものでありアルベドを造ったものとしては当然とも思える考えだ。

 俺からの警告がなければの話だが。

 

「たしかにアルベドはタブラが造ったものだし、娘だと思えば助けたいと思うのも当然だし、そこから仲間だと思うのも当然と言えば当然ではあるし、誘拐されたのだから相手側が悪として映るのも正しいと言えば正しい。が、どう助けるつもりなのかは考えているのか?」

 

 そう、狂気を孕み誘拐犯の側に立ってこちらを引きずり込もうとしている事はシャルティアからの報告で聞いている。

 そのことを教えれば最初は何を言われているのかわからないという顔をしながら、言われた意味が浸透していくにつれて難しい顔に変わっていく。

 

「モモンガ君を、いや、悟君を偽物と言っていて更にはアインズ呼び……?いやいや何で?スズキさんも悟君もそんなことは名乗ってないよな?少なくともシアターで見ていた時にはそんなことはなかった。うん、これは記憶違いじゃない。それはミネアとの会話をしていた時にも否定していた。なら何でアルベドはモモンガをアインズと呼んでいるんだ?」

 

 こちらとしてはある程度の推理材料を持っているがタブラたちは現状でどこまで事がわかるか、その判断能力は見ておく必要がある。

 

「その呼び方はパンプレットの最後に……いやいやいやそれは……それはないはずだろう?どう考えても現実的じゃない。無い、はず……」

 

 答えを出せる状態になってそれを否定しようとするが、その答えがあまりにも荒唐無稽な為にその答えを受け入れることを本能が拒否しようとする。

 

「この辺りは経験の差、なんだろうなぁ。そもそも今のこの状態が現実離れしててこんな状態を意図的に起こせるほうがよっぽど妄想がすごいことになるんだろう」

 

「異世界、転生……あうわぁ……」

 

 俺の世界にもあったがタブラはクトゥルフのファンらしいからか「それ」を引き起こせる何かしらが幾つか在りそうなことに気が付いたのだろう。

 正気を失って狂気的な行動をする前の仲間の顔によく似ている。

 

「データだったNPCが動いてるんだから、別世界線の記憶を持っててもおかしくない……いや、それだと説明がつかないな。パンフレットは……なんで違う物語……いや、これが本来の?だとすれば最初から?そうだよな最初からじゃないとおかしい、最初からなら……シズを選んだ時に焦ったのはそれが理由か。エンリちゃんには……あぁ、ヤンデルの視線がどうのってやつか」

 

 推理を始めてからある程度答えが固まったのを確認してから答え合わせを試みる。

 

「それじゃ答え合わせをしてみようか?」

 

 

「あぁ、多分大丈夫」

 タイミングを合わせて違う答えを出す。

 

「……うーん、どっちが正解だと思う?」

 




クトゥルフ 出展:クトゥルフ神話
クトゥルフ神話にて旧支配者という立場に立つ有名な邪神
日本ではタコの姿で親しまれる(稀に刺身にしようとする探索者が出現したりする)
ダゴンやディープワン、深き者と呼ばれる神話生物に信奉されるいわゆる上位主と呼ばれる存在
ルルイエという海底都市に住まう
オーバーロード原作では海上都市がルルイエっぽく語られていたりする


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episode.EX-3「アリスと悪魔」

「こんにちわ、こんばんわ。アリスです。三巻分も終了しお便り返信コーナーっぽいものですよ。本日のゲストは……」

 

「こんにちわ、こんばんわ。デミウルゴスです、ラスボスでも黒幕でもないですが第四の壁を超えることが出来るようになりましたのでその記念ということです。気が付いている方もいらっしゃるかもしれませんが、あのシアターは演劇と観客席の狭間。ですのでこうして把握できるものもいればそうではないものというのが出てきます」

 

「それではまずは……」

 

「まずはこちらから行きましょう。こちらは多くなりますから」

 

 アリスの取った手紙とは別のものを手に取りそちらを拡げる。

 

「reason3444さんからのお便りですが、いくつか認識を間違えている部分がありますのでそちらの訂正をさせていただきましょう。まず二人三脚のように進むと思われているようですが、鈴木様の方がその手の経験豊富であり能力そのものが高い事が無双感を与えるようです。ですが関係性としては先生と生徒もしくは師匠と弟子といった関係でしょう。鈴木様の行動から悟君が学びその変化がどうなるか、どう成長するか、どちらかと言えばそのような関係性ですね。その為鈴木様が引っ張っていく形になっておりますが、これにも理由はいくつかありますが最も大きいものが悟君の性格が大きく影響しております、悟君の性格はよく言えば慎重、悪く言えば臆病な性格です。ですが冒険心というか好奇心は強く時として無謀ともいえる行動に移ることもありますが、その根底がユグドラシルというゲーム『のみ』に傾倒した知識、経験が元になるもの……そう自分以外の知識というものにひどく疎い」

 

「おじさまが先駆者であるために最初は悟君が多少頼りなく見えるということですね」

 

「えぇ、そうです。現状の把握に関してもより深い部分まで読んでの行動になりますので悟君が納得したりするシーンが多くなるのですよ、より頭のいい人が発言力が強くなるのは仕方がないのです。その上で作者が巻ごとに主役というものをある程度定めている、という理由もありますね」

 

「メインキャストが目立つのはある意味当然ですものね」

 

「さて続いて他ギルメンが駆けつけないのか、申し訳ないと思わないのか等ともありますがここまで読んでいればネタばれということにもならないでしょう。まず悟君以外のギルメンは『死亡時』の精神性のままであり、ブル―プラネットの言葉でもあるように末期世界なリアルです。ゲーム終了時の精神性のままではない、というのは念頭に置いておいてもらった上で『どのような結末を迎えたか』を想像してみるのも面白いかもしれないね」

 

「あの何名かは……」

 

「気が付いたようですね。そうです、ユグドラシル修了よりも先に死亡しているギルメンも当然います。テロに巻き込まれたタブラ、事故死のガーネット、発狂死ともいえるブル―プラネット現状出てきている方々の共通点でもあります……最高火力のタブラが早いうちに出てくるのはおかしいと感じるかもしれませんがこれには少々事情がありまして、『アイテムを消費』しての高火力であり、手持ちが尽きれば補充が出来ない状態なので手持ちを使い切ったんだと思ってください。さて、ドン引きしている説明に入りましょうか」

 

「多くのギルメンさんたちがドン引きして心象悪くしたっていう忠誠の儀のですね」

 

「まずパンドラのセリフがあるように悪いタイミングでしてますが、実は原作のタイミングの方が悪く最悪ともいえるものだったりもするのです。改めてあのタイミングを解説しよう、指定の時間に集まるように指示をしてその時間に集まっていた。ここまではいいのだがそこに鈴木悟が来て、集めた人物がしゃべる前に忠誠の儀を始めた訳だ……主賓がしゃべる前にね?仕事の報告もあったのだろうが指示された仕事よりも忠誠の儀を優先したともとれる訳だね。これは主賓に失礼な行為でもあるし上の人物にとる行動としても不適切だ。『それを示すことを鈴木悟は求めたか?』ということを考えれば鈴木様に不信感を与えるには十分な行為であり、主より己を優先すると判断されてもおかしくはない。何よりもプレアデスにセバス、アルベドにはこの世界に来た時に自己紹介をしているのを覚えているかね?自分はモモンガではなく鈴木悟という別人だと自己紹介をしており、その異変に気が付いたのはあの場ではシズのみ、その後に異変を探すように指示している。原作において一時間で階層守護者は集まっている、この作品ではさらに時間を遅らせて集合させているので相互に確認は取っているだろう、取ってなくてはおかしい事になる。そしてここが肝心なのだが、アルベドはモモンガの中身が別人だと知らされた上で忠誠の儀を行っているんだよ、当然このことには知恵の回るギルメンも察して他のメンバーにも伝えただろう……『モモンガの外見、とどのつまり至高の方の姿をしていれば中身の人格などだれのものであろうともNPC達には関心が全くない』のだと、あの忠誠の儀では堂々と語っているのだよ」

 

「それは引かれても当然では?」

 

「もちろん当然だとも。とはいえあの語った数値は騙られたもの、だろうけどもね。それゆえに最初に取ってもらうべき責任を放棄したのはNPC達であり、ギルメンたちに取るべき責任は本来これと言ってはない、それでもなんとかしようと思っていてくれているのはやはり根の善性ということなのだろうね。造ったのだからその責任をとれ、とは言われるがね。ダイナマイトを創り出したノーベルは罪に問われたかね?原爆を創り出したオッペンハイマーは罪に問われたかね?それを造った者を悪と謗るのか、それともその力を悪用したものを悪と謗るのか、それは人の捉え方それぞれだろう。悔いるのを美徳というかどうかは知らんがね」

 

 くつくつと笑いながらテーブルに招かれたときから湯気を立て続けている紅茶に口をつける。

 

「そういえば思い出を穢しているとか言ってますし……」

 

「その辺りの答えは簡単だよ?原作の悟と本作の悟は別人だ。正確には平行世界の人間だよ」

 

「Ex2で言われてましたけどデウス・エクス・マキナさんがいらっしゃる世界からの悟さんでしたっけ」

 

「えぇ、えぇ。その通りですとも、その為に原作設定が根っこからぽっきり折れているとあらすじにも書かれていますからね。難易度のparadoxこれも逆説的という意味の他にもよく使われるもう一つの意味も持っているんだよ……その辺りを承知で読むと意味が変わる、鈴木様の目的と目標も多少は見えてくるのかもしれないね。事の起こりは鈴木様が憑依したからこそ起こっている物であり変化である……TRPGにはハンドアウトというものもあるからね?どんな前情報からの行動なのか、それを読み解いてみるのも楽しいだろう。当然、楽しみ方は人それぞれだが、NPC達とのイチャコラが見たいなら回れ右した方がいいと言っておこう。それと最後に……reason3444さん、嘘予告に鈴木様は登場しましたかね?」

 

「えーっと……こんなものですかね?」

 

「ですね、このくらいでしょう。その後は読んだうえでどう判断されるか、ですね」

 

「では改めまして、べっこう飴02さんのアルベドさんがアインズ呼びをしていたシーンのことですね」

 

「そうですね。私にその情報はございませんので憶測ではありますが、百年毎の揺り戻し、アインズ・ウール・ゴウンはギルドの強さとして最高九位だった等から考えるに揺り戻しで来た強者に負けたのでしょう百年間国を守った六大神とて八欲王に殺されたのですから、世界征服をしたからと言っても安全だというものでもないでしょう。つまりはそういうことなのでしょうねぇ」

 

「その辺りは作者さんの考えなんでしょうか?」

 

「というよりはダークファンタジーという特徴ではないですかね、最後に主人公が裏切られるなりなんなりで理不尽な目に合うというのは」

 

「なるほど、では次にセイシロウさんのナザリックが作られたときの理念とかデミウルゴスさんのことですね」

 

「ではまずは理念の方からですね。ギルドなど何を基準に選ぶでしょうか?それも人の楽しみ方それぞれではあるでしょうが、大まかに言えば何を目的にしたギルドであるか?ではないだろうかと考えますね。ギルメンとのおしゃべりを中心としたまったりとしたギルド、ギルメンでパーティーを組み狩りを中心とした戦闘型のギルド、ギルドバトルを主眼に置いたGvGギルド、逆に原作のナザリックの様なPvPをメインとしたPKギルド等があるでしょう。どれを選ぶのかは楽しみ方によって変わるでしょうが逆を言えば方向性が変わった時楽しめない方も出てくるはずなのですよ。ですが原作においてはクランからギルドに変わる時にマスターに位置するたっちからモモンガへと変わってその過程で辞めた方は一人、そして正式にギルドとなりPKギルドではありますが、その方向性は元とは逆と言えるものでしょう……不思議なものですねぇ?方向性が変わった時、他に誰も辞めていないのは。ではその矛盾する結果を埋めるピースは、という考えの元この話が出来てるわけですね。答えはネタばれになりますので考えてみてください。続いて私のことですが、まぁ私は御覧の通りのことになっていますね、本作では『私』というファクターを抱えながらあの程度にしていた設定だったということで」

 

「あれ?それじゃデミウルゴスさんは善性だった?」

 

「正確にはちょっと違いますね。善性ではなく確かに悪性ではあるのですよ、ただウルベルトの悪を強く意識していた設定の平行世界の私、ということですね。任侠(暴力)を善と見るか悪と見るか、そういったものですよ」

 

「では続きましてべっこう飴02さんの異世界移行への原因に何か悪意があるのではないか、というものですね」

 

「これに関しては作者なりの見解としては、あの世界に神はいないという設定があるので確かなことは言えませんが、燃え上がる三眼というある邪神を思い起こさせるギルドやシュブニグラスという超位魔法等があることからクトゥルフ神話ともつながりがある可能性を見てますね。あちらもコズミックホラーではありますがダークファンタジーという物ですから……そして彼らであればNPC達が邪悪で染まっていてもおかしくはないかなと。神はいない、だが神が如き振る舞いをする怪物がいないとは言われていない」

 

「悪意ある何者か、ですか……作者じゃないんですか?」

 

「それを言ったらおしまいです」

 

「それでは続きにいきましょう。セイシロウさんの雷速は盛り過ぎでは?というものですね」

 

「ではここで虎落笛を止めるシーンを見てみましょうか。明らかに行動速度がおかしいですから……居合切りの刃を後ろから追いついて摘まんでいるんですが?ブレインはこの時神域を発動しており動きを知覚することが出来る状態であったにもかかわらず、その動きをしたということです。つまり人の知覚を上回る速度でありシナプス反応よりも早く動いたとも取れます。その上でシャルティアの行動速度は盛り過ぎか?となると難しいところではないかと思いますね。ただし問題もありましてね、この速度だとプレイヤーも操作できないのですよ。ステータスをそのまま反映させてしまいますとね」

 

「ROでもバフを盛り盛りにするとASPDがバグってサーバーが落ちるなんて事件がありましたっけ……」

 

「その問題が人体に処理できるか、ですかね。移動速度にも影響しだすとゲートやテレポートが陳腐化しますしね」

 

「次のはチキンハンバーグ様のですね……こちらはアドバイスで一応反映済みです、ということで。続いてべっこう飴02さんのアルベドの評価に関してですかね」

 

「あー……この辺りは元の私にも突き刺さりますね。まだアルベド等は狂信者としては質が低い方なのですがクトゥルフ神話TRPGでは魔術師をメイガスと呼ぶのですが、基本的に人間を燃料か素材かのように扱う人たちが多くてですね。そんなのに何度も遭遇してトラブルに巻き込まれ身内を生贄にされたり死にかけたり犯されたり人間やめさせられてたりすれば、普通に毛嫌いするんじゃないですかね?追加で私たちを放置してると確実にトラブル起こしますから」

 

「え?天使殺しさんにボコボコにされてましたよね?」

 

「それでもナザリックのためにというお題目でやらかすのがナザリック・クオリティ」

 

「それは黒のアリスさんも潰すって言切っちゃうわけですね。続きまして同じくべっこう飴02さんからやらなきゃいけないけど歯がゆいというものですね」

 

「それこそ難易度paradoxの代名詞だろうね。ちなみにこの宿題、私だけに向けてのものだったりするんだよ。シャルティアの例が正しい手順なのかを試すためだね……精神を徹底的に追い詰めて、信じているものを砕いて、すがろうとする手を振り払う事で一時的発狂に追い込んでいくという手順がね。鈴木様の予想とは違うものが出てきたようですが。敵中で敵の駒を奪うという無茶を押し通さなければならない程度には最初から追い詰められているのだよ、だからこそ時間のかかるメンタルケアをしている暇はないわけで、あのような手段になった、と」

 

「パンドラさん達も時間がないと言ってましたね?それと関係があるんですか?」

 

「恐らく想像しているよりも時間は限られていると思いますよ、私との勝負とてその一環というのが強いですかね」

 

「では、続きましてグラビ屯さんからのデミウルゴスさんの名前が名前負けしてたと思うというものですね」

 

「そうだね。元の私での代名詞ともいえる人間牧場の例を取ろうか。私なら、牧場という迂遠な方法は取らずに、人間による人間狩りを行わせますね。方法は簡単、人皮の装備を伝説級ほどに仕上げて法国に売ってあげればいい、人皮だからこそできる装備だと触れ込んでね……そして失敗したものを安く買ってあげればいい、その一部を第三位のスクロールにして売れば元手も取り返せるし、頃合いを見てその情報を王国や帝国に売ればいいわけだね。戦争による皮も死体も手に入るし第三者気取りで国を切り取る事もできる。仮にばれても主犯は法国だからね……このくらいしてれば名前負けとは言われなくてすんだんじゃないかな?CVは好きな方、気に入った方をあててくれたらいいよ」

 

「……人間狩り……私のところのソフトですね。R-18双六ゲームですよ」

 

「そういえばそうですね。人皮装備は海外のゲームではたまに出てきますので、その辺りに手を伸ばしている人は聞いたことがあるかもしれないね」

 

「そして暇人/無気力さん誤字報告ありがとうございます。そしてスルメいなさんからのかなりひくいようですが原因はなんですか?というものですね」

 

「それに関しては本当に謎だね」

 

「それでは最後にべっこう飴02さんからのものですね」

 

「作者が最初、プレアデスの説明を聞いたときに思い浮かべたものを言わせてもらおうか……カプラ嬢?と思ったそうですよ。髪型などの細部は違いますが性格がどうにも似ていると。下手したらイベントNPCや街に設置されているゲーム本来のNPC達の方が記憶に残ってる可能性がありそうだ。最初はセバスの名前も思い出せませんでしたからね」

 

「パンフレットに関しては何かありますか?」

 

「管理者の塔での話で出てきているし、それを配りそうなのもいるからねぇ……暗にどんなモモンガを望むのかという問いかけでもあったんじゃないかな」

 

「ではこれで今回は終わりですね、また四巻の終わりでお会いしましょう」

 

「私の活躍は四巻の最後となるだろうけどもその時までよろしくお願いしますね。そうそう先週はR-18の方を上げているので……あちらの方が重要な情報を書いてる気もするがね」




三巻新キャラクター紹介?
ジニー:モン娘クエスト、モン娘クエストパラドクス
ウィロー:ラグナロク・オンライン
エルダー:ラグナロク・オンライン
フロータイボール:オリジナルキャラ(名前のみであれば千年戦争アイギスなど)
パナソレイ都市長:オーバーロード

このくらい?


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~過去と未来と現在と~
episode.1「異なる過去」


前回のあらすじ
なんかNPC達が違う
蝕まれていく精神
忘れられてたアルベド
をお送りしました


 一人、円卓の間に座っている。

 これは夢だとわかる。

 夢の中で夢だと気が付くのを何というんだったか、思い出せないけども何か聞いた覚えがある様な気がする。

 聞こえてくるのは静寂ではなく、歌詞は覚えていないけども歌が聞こえてくる。

 ギルドメンバーの半数がそのアイドル達のファンであり、そこと敵対すれば半数が敵にまわり、四分の一が敵対こそしないものの攻略には参加しないという、どう足掻こうとも攻略は不可能と言われたナンバーワンギルド、セラフィムから流れてくる歌。

 

「確か……あの時はヘロヘロさんがいて、一通りこのギルドが残ってることを感謝されて、光る棒……サイリウムだっけ?とヘロヘロさんが推しだって言ってた子が描かれた団扇もってコンサートの方に行ったんだっけか……」

 

 ぼんやりとユグドラシルが終わるその時を眺めていた事を思い出していく。

 アイドルギルド:セラフィム、天使族しかいないし一六名というアイドルメンバーのみで構成されるもののその勢力は絶大であり、常に親衛隊というギルドが徒党を組んで警備に当たっていた……アインズ・ウール・ゴウンも例にもれずセラフィムに攻め込む輩がいればその防衛に参加することが多々あった。

 

「あー……懐かしいなぁ……後ろから応援ソング(歌という支援)を歌われながら、十ものレギオンが野戦で攻め込んできた連中を一瞬で溶かしていく光景は」

 

 超位魔法が連続で炸裂し、数百名が消し飛んでいくのだ。

 数百名と言えば多いと思うかもしれないが、セラフィムの防衛は万に迫るファンの群れ、しかもワールドの職業を持つたっち・みー、世界格闘チャンピオンのソロ実力ナンバーワンといったワールドチャンピオンの双璧が居たりとユグドラシルの総戦力のいくらがいたのだろうか。

 ワールドサーチャーに助力を求められて、直戦力として一緒に冒険したことやにゃんこ王国に女性陣がよく遊びに行っていたこと……割と上位陣のギルドとは仲が良かった気がする。

 いや、違うのか。

 人気投票でギルドの順位が決まっていたのだから、ある意味では当然だったのかもしれない。

『弱者救済』をモットーに貫き多くのプレイヤーに周知されたからこそ、九位という順位にまでなれた。

 全盛期であり、ギルドメンバー全員が揃っていたからこその九位でもあった。

 最後に送ったみんなへのメールはなんだったっけ……何人かには送信が完了出来ずに帰ってきた事が寂しくも悲しい事だった。

 アドレスを変えたのか、それとも受信が出来ないという状況なのだとわかってしまうから。

 鎖が絡まった空席ばかりが見える円卓で少ししんみりとしてしまっていた。

 かつてしたようにギルド武器を手に持ち、円卓間のを出るために扉をくぐれば、そこはナザリックではなくなっていた。

 

「あれ?」

 

 両腕にかかる重み。

 動こうにも動かない身体、鼻腔をくすぐる女性の香り、左側にエンリが、右側にはモリガンが俺の腕を腕枕にして眠っている。

 

「え?何この状況?」

 

 きょときょとと動かせる目を動かすことで状況を把握しようとするが、得られる情報から今につながるものが全く見つからない。

 しかも身体から感触から、与えられる体温の温もりから三人とも裸でシーツをかけられているだけという状況である。

 とりあえず、思い出せるところから思い出そうとして違和感に気が付く。

『俺はみんながコンサートに向かったことを知っている』なのに『ヘロヘロさんだけが最後にログインしてまたどこかで、と言って落ち(ログアウトし)た』と記憶していた。

 他にも『モモンガ(動物の)を愛している』が『モモンガ(自分のアバター)を愛している』になっていたりだとかホラー好きの二人が本来のニグレドの制作者でタブラさんはアドバイスにまわっていたとか、マーレが茶釜さんのではなく男の娘逆レものが好きだったのが作ったのだとか……他色々と違う部分が思い出せるが、溜息を一つつく。

 

「記憶違いは今更だけど、色々とひどいな……」

 

 こんな方法でナザリックというギルドシステムは、俺はそのギルドに執着すると思っていたのだろうか、無機質なシステムに無駄な疑問なのかもしれないが鈴木さんが居らず、NPC達にかつてのギルメンたちの面影を見せられていれば……今の様に覚悟の決まった状態でなく、転移した直後で何もわからず不安定な精神状態であれば、あっさりとそちらに転がったかもしれない。

 リアルで集まった、ギルド以外での出会いもあった、クランからギルドを立ち上げるというイベントもあった、愚痴を言いながらリア充を追いかけまわすなんて遊びもやった、ただのんびりと気の合う仲間内で会話ばかりして時間が過ぎることもあった、あれを狩ろうこっちを狩ろうと人それぞれの考えの違いも知っていた、弓という武器の扱い方を教えてもらうこともあった、プレゼントをもらったこともある……本当に懐かしくも大切な思い出で、大切な友人()達が与えてくれたもの。

 それを捨ててナザリックに収束させようと、執着させようとするのは、醜悪なことだと思う。

 少なくとも『平行世界の記録』(アカシック・レコード)を見た俺はそういった感想しか持てなかった。

 そして他にもある程度分かったこと、鈴木さんの思惑や目的……いや、便宜上鈴木さんと呼ぶべきだろう。

 

『鈴木さん……それとも名前が思い出せない四十路のおっさんって呼んだ方がいいですかね?』

 

『おそようさん。名前なんて呼びやすい方で構わんぜ』

 

 返事は拍子抜けの様に驚きもなく簡素なもの、もっと早くに気が付くと思っていたのかもしれない。

 わかりやすいヒントも何度か与えられていた。

 

『それじゃ、慣れてる鈴木さんで。ところで時間制限のせいで鈴木さんの目的達成は不可能ですが……どうします?』

 

 どう足掻こうともこの制限時間(モモンガの侵食)がある為に鈴木さんの目的である俺との分離が不可能になっている。

 

『何かいい考えでもあるかねぇ?おっさんとしちゃあ、あまり悟君と軋みを生むような方法は取りたくなんだがね』

 

『ですねぇ。俺としても軋みを生む方法はあまりとりたくないんですよ……なので全員を早いうちに呼び出して話し合いたいところですね』

 

 俺はすでに覚悟は決めている……あとはギルメンたちの決を採るだけ。

 視線を部屋の隅に移せば、丸まってる赤い羽毛の塊と場違いな鼻提灯を出している甲殻類、いわゆる多頭竜と呼ばれる複数の頭を持つヒュドラが目に映る。

 

「朱雀さん、あまのまさん、べるさん。俺の荷物の中に人化の指輪あるんでそれで人化して下で飯でも食べててください」

 

 声をかけてみるが起きる様子はなく、何よりも寝ぼけた頭で呼んだのでこちらに声をかけていいのかどうかわからなかったのだろう。

 呼んでしまったのが夜ということもあり寝てしまったようだ。

 

「おーい……だれかいないか?」

 

 虚しく俺の声が響く。

 

 

 

 悟君の呼ぶ声が聞こえて階下から部屋へと向って歩いていく。

 

「もうお昼過ぎだけど入っても大丈夫かな?」

 

 ノックをして部屋に入れば、まだ動けないのか三人仲良く並んだ形でベッドに並んでシーツをかぶったままの部屋の主に、必然的に目に入る三体の異形種。

 

「朱雀さんにあまのまさんにベルリバーさんじゃないの。どういう状況だい?これは」

 

「緑谷さん丁度良かった。夜に呼び出しちゃったせいで起きてくれなくてですね、良ければ荷物から人化の指輪もってきて装備させてあげてくれません?ついでに下で食事させてあげてくれるとありがたいです」

 

 夜、メイド達も慌ただしくしてたが、隣の部屋の惨状を思い出してさもありなんと納得したのを覚えている。

 血に塗れて赤黒く染まったベッド、転がる空の瓶に所々炎上したかのように焦げてる天井、散らかった家具。

 

「ん……まぁ、了解したよ。こっちもアルベドのことで相談したいことがあってね」

 

「あー……アルベドかぁ。好いてくれるのは本来悪い気はしないんですが、俺としてはストーカーは遠慮しますよ」

 

 悟君のすげない返事に肩を落とすが、断った理由を聞いて聞き直す。

 

「え?ストーカー?」

 

「えぇ……モモンガのぬいぐるみ作ったり抱き枕作ったり、あまつさえベッドにもぐりこんで匂い付けをしたり、遠視の鏡でこちらの行動を逐一観察したり、好意の目を向けた、仲良くしていたという理由でそれらを排除しようとしたり……すみません。容姿以外琴線に触れる部分がないです」

 

「おっふ」

 

 悟君のセメントぶりよりもアルベドの奇行の方に変な声が出てしまう。

 ちょっと助けない方が良いんじゃないかというダメな考えが頭をよぎる程度には引いてしまう。

 

「何よりもですね……愛していると言いながら、俺という人物を見てないのが嫌です」

 

 本気で嫌悪していることがわかり、バルブロ王から今回の作戦が無事終了したら悟君を貴族に、僕たちも陪臣としてよろしく、だなんて打診があったから側室にアルベドを推そうと思っていたのが無理筋になってしまった。

 

「そういえば……TRPGやってる時に出てくるNPCによく似たリアルなドロドロしたのがよくいましたよね?特にタブラさんがキーパーしてた時だと思うんですが、もしかしてその好みが反映されていたりするんですかね?俺はああいったのが怖いというよりも近くにいてほしくないって感じなんですよ」

 

 その言葉に膝をつく。

 嫌いを超えた嫌悪ともいうべき感情を持つ以上、関係の修復は不可能だろう……アルベドが根本的に変われない限りは。



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episode.2「休息の平日」

前回のあらすじ
九位の理由
アカシックレコードで原作知識を得た
アルベド心底嫌がられる
をお送りしました


 テッドがその巨体からは想像できないような繊細な動きで聴診器やら検温系などを操作しながらカルテにこまごまと書き加えていく。

 

「ガガガ、体力さえ戻りゃもう動けるようになるだろ。しかし、サトルもスズキも無茶をしたもんだな……もう一日は必ず静養しておけよ」

 

 太い指先を胸に突き付けられて最初に言われた静養の言葉を念押しされる。

 

「流石にわかってるって……」

 

「わかってるやつはあんな無茶やりゃしねぇよ。働き過ぎて体壊したやつみてぇなもんだからな、わかってりゃ無茶せずにしっかり寝るもんだ」

 

 苦笑いしながらわかっていると答えれば、テッドは呆れた表情でため息をつきながらブラック企業戦士の大丈夫というほどに信用できないと返され、きちんと寝ろと注意された。

 エンリもモリガンもすでに目を覚まし、モリガンはいつも通りの仕事にエンリはそばで診察結果を心配そうに聞いていた。

 問題なさそうなことに胸をなでおろし、しっかり休むように監視することを決意していたりもする。

 ノックの音が扉から聞こえて、手持無沙汰だった悟が入室の許可の声を出す。

 

「テッドさんから聞いたよ。特に問題はないってね?」

 

 入ってきたのはいつものメイド服に身を包んだモリガンで気楽に声をかけてくれるからこちらも気が楽でいい。

 

「モリガンさんも結構無茶したって聞きましたけど、大丈夫なんですか?」

 

戦闘不能(デッドリー)までいってないからヘーキヘーキ。それよりも今日のお仕事分ね、昨日はねっぱだったからそれも追加で」

 

「う、はい……」

 

 山のように積まれていた報告書の数々を思い出して身構えてしまうのだが、渡されたのは四十枚程度の軽いもの。

 

「え?スズキさんはこう山みたいに積まれてたのをしてなかったっけ?」

 

 渡された書類の束を手に書類とモリガンさんと視線を交互に見てから首をかしげる。

 

『いや、それ単純に書類作成してるやつが無能だからだよ。大がかりのプロジェクトをいくつも抱えてるならまだしも、大企業の社長が子会社一つ一つの書類をチェックしたり把握するかね?』

 

「パンドラとデミエモンが造った奴だからねー。ぶっちゃけ各階層の現状維持費の計上とそれぞれで追加報告事項がないってだけだよ。山みたいに書類が一番上に届くってさ、手が回ってない証拠なんだけど?それよりも一番上だっていうならほかにしなきゃいけないことが出てくるもんだし?貴族にされるんだからこれからはそういったことにも慣れた方がいいよ」

 

 貴族にされる。

 そこには拒否権などなくもう決定事項のように話される。

 そして俺にはその話は初耳である。

 

「え?俺ただの貧困層出の小卒よ?それがなんで貴族様に?拒否っちゃダメ?」

 

「拒否ってもいいけど……その場合エンリちゃんが貴族の爵位贈られる事になるんじゃないかなぁ。エンリちゃんは王国国民で家族もいるから、家族と縁切りして逃避行でもする?」

 

「え?私が、ですか?」

 

 同様にエンリにも飛び火して驚愕している。

 

「うん、そう。サトルはエンリを見捨てられないし、エンリは家族棄てれないでしょ?ほら逃げ道がない」

 

 あまりにも唐突なことで二人して顔が青くなる。

 

「今回のことでも功績積んでるし?この先の戦争でも中核になりうるアインズ・ウール・ゴウンっていう集団の統率者だし?あの王様からしたら確実に狙ってくるって」

 

 そんな俺たちの様子を見てモリガンはけらけらと笑っている。

 ひとしきり笑った後に報告されるのもなんだけども、下で死獣天朱雀さん、あまのまひとつさん、ベルリバーさんとそれとは別に頬に傷のある眼光鋭い人М字禿になりそうな人が訪ねてきているらしい……聞いた限りだと法国の陽光聖典隊長さんだろうか。

 

「ヤのつく自由業の人なんじゃなーい?もしくはトランプ愛好会の人かな?」

 

「ヤのつく自由業の人はともかくトランプ愛好会って何ですか!?」

 

 訳の分からない愛好会が突然に飛び出してきたので思わずツッコんでしまう。

 とりあえずは会ってみないことには始まらないので、その人を先に呼んでもらう……本当なら三人とも早く会って喜びたいのだが、嫌なことから先に済ませてしまうべきだと考えたからだ。

 俺の気質からして本来なら先にいいことを、後に悪いことを聞くだろうが悪いことを後回しにするのは喜んでいるところに水を差されるような気がしたから。

 モリガンが退室してノック、入室の声かけ、そして入ってくる男性の顔を見て予想した通りに陽光聖典の隊長さんだった。

 

「先日は名乗ることもできず申し訳ない、スズキ殿」

 

 入ってくるなり綺麗なお辞儀をしてあの戦闘の後急いで去っていった事を謝っていた。

 

「いえいえ、そちらにもそちらの都合があったようですしそこは仕方がないですよ。それで本日はどのようなご用件で?」

 

「それなのだが……先に法国の現状を伝えておくべきだと思うのでそちらを先に説明させてもらおう」

 

 法国が主導して奴隷を作り出していたこと、ガゼフを殺し帝国に支配させることで更に裏から糸を引いて操ろうとしていたこと、人の死体を集めて何かをしようとしていた等。

 

「(ごめんなさい、それ全部もう知ってるんです……だなんて言えない!)」

 

『恐怖公の眷属って便利だよなぁ。そのあと報告が途絶えていることから悉く潰されたみたいだが』

 

 あまりにも非人道的すぎる国のありさまにかつて自分の胸に誓った正義に従って陽光聖典を抜け出してきたんだそうな。

 そしてサトルのとった行動、破滅の竜王との敵対こそが正しいと信じて、もしも旅をするのなら同行させてもらえないだろうか、という話だった。

 

「あいつは天使殺しと呼ばれるそうですよ。私も詳しくは知りませんが……」

 

「なんと……天使食いではなく天使殺しですか……」

 

『まってまってまって……シードにカーツウェルならまだ……』

 

 何やら鈴木さんが慌てているからニグンさん(説明の途中で聞いた)に聞いてみよう。

 

「その天使食いの名前は分かりますか?」

 

「確か残っている名前の通りだとするのでしたら……ゲンドゥボウという名前だと伝え聞いてます」

 

 鈴木さんが骸骨のまま突っ伏してる姿が脳裏に浮かぶ……つまりダメな人なんだろう。

 とりあえずニグンさんには旅の疲れ元ってもらうということでこちらの体力が戻るまでランテルで宿をとってもらうことに、冒険に出るときはきちんと声をかけよう。

 

『これは本格的に悟君鍛えんとなぁ……多少スパルタでもやっていくか』

 

 なんだか怖いことが計画されている気がする。

 

 

 

 ところ変わってここはナザリックの執務室。

 今日はパンドラも帰還したということでパンドラが執務室に詰めており、山のような書類と格闘していた。

 

「いやはや大量の陳情陳情の嵐ですが、その議題だけでアウトとわかってほしいものですなぁ……これをサトル様、スズキ様にアルベドたちが提出していたと考えるとゾッとします」

 

 独り言ちながら陳情の書類はシュレッダーにかけて無駄なく金貨に変えていく。

 一枚一枚では変化はしないがこれだけの量なので金貨一枚くらいにはなるだろうという地味な節約術である。

 そんな中、執務室にノックの音が聞こえてくる。

 

「はいはい、どうぞ開いておりますよ」

 

「お邪魔するわよぉん」

 

 そこに入ってきたのは蛸の様な水母の様な、もしくはその二つを足して割ったような頭部を持ちぶよぶよとした人型の身体を持つニューロニスト。

 

「おや?どうかされましたかね?」

 

「んんぅ!サトル様から出されていたしゅ・く・だ・い、出来たからチェックしてもらおうかと思って持ってきたわぁん」

 

 体をくねらせながら提出される一枚の紙、だがそれよりもパンドラが注目するべき部分があった。

 それはこの宿題の本質であり、造られた者たちからの盲点。

 

「(サトル様と確かに呼んだ)」

 

 キャラ作りでつけたキャラクターの名前ではなく、本名を知っているかどうか。

 名前を偽られているという猜疑を向けられていることに気が付けるかどうかというこのテストの本質を少なくともニューロニストはクリアしていた。

 

「なるほどなるほど、では拝見させていただきましょう」

 

 紙に書かれているのは「女性メンバーでの美容とスタイル維持によるオトメ会」と書かれていた。

 選考基準は至高の方の名前が書かれているか否か、死して書かれていないとするのであればその理由を問うこと。

 理由如何に依っては此処で破棄することになる。

 

「ふむぅ。この女性メンバーというのは?」

 

「当ぅ然!お三方様よぅ……結局お名前を知ることは叶わなかったけれどぉん?本来の名前が存在していることは知ってるわぁん。何よりもこの外史はすでに本来の歴史から外れすぎている」

 

 最後の言葉は聞き逃せない。

 

「どういう意味だ」

 

 普段のおちゃらけた態度とは違う低く威圧案のある声で問う。

 

漢女(おとめ)男罵露(オバロ)支部!漢女道を求める漢女!ニューロニスト=ペインキル!(ご主人様)に恋する漢女よぉん!!」

 

 武器を無詠唱で創り出し構えを取り、再度何者かを問う。

 

「お前は何者だ」




アカシック・レコード 出展:???
いわゆる世界の記憶、万知の一滴、様々な事を知ることが出来る能力の呼称のひとつ
過去未来現在とあらゆる時間、場所の出来事を知ることが出来る強力な能力ではあるが未来に関しては同じ能力を持つものがいる場合は干渉しあうことで不確かなものになる
この作品でも普通に強力なものではあるが、忘れてはいけない事が一つ
もらった能力です


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episode.3「ハラワタノ中身」

前回のあらすじ
一日療養
おっさんの目的を知る
ニューロニストは漢女
をお送りしました


 左腕が伸びてニューロニストの首を掴み壁に叩きつけるように押し付ける。

 

「もう一度聞いてやる。お前は何者だ」

 

 空洞の三十三が覗き込むように心の恐怖を湧きあがらせるように蠢きながら這い寄ってくる。

 

「がほっ……あな…たこそ、何者なのかしらぁん……」

 

 喉が締め付けられる中急速に凍らせる音を響きながら腕が青銅へと変わっていく。

 

「私ですか?知っているでしょう?私は……パンドラ(愚かな女)ズ・アクター(を演じる者)だと」

 

 ギリシャ神話に登場するパンドラの箱、この箱は世の災厄を封じた青銅の箱でありゼウスにより一人の女性に託された名もなき箱。

 それがパンドラの箱と呼ばれるようになったのはその女性がパンドラという名前だったから。

 ならこのこれは何を演じているのだろうか。

 

「ぐぅ……東方腐敗は……王者の風よっ!」

 

 青銅(合金)の皮膚と化した腕に爪を立てて掴まれていた手を引きちぎる、が影のように傷跡から触手が伸びて元の姿に戻る。

 即座に無数の鋼鉄(鉄と炭)の爪に変わり身体を回せるのに合わせ突風と化す。

 

「それがどうしました?私はただ父上に従うのみ。たとえ私の存在が書き込まれたものだとしても(洗脳のそれと変わらずとも)それこそが私の存在する意味であり、私が存在する証。ただ私が持つ存在証明」

 

 転がるように伸ばした爪を振るい砕くが、柔軟性に優れたケブラー(人口繊維)の鞭に早変わりして部屋を所狭しと荒れ狂う。

 

私の中身が四十一の絶望(パンドラ)だろうとも、たとえ演ずるだけの人形(アクター)であろうとも私は言い切りましょう。私こそが、今の私が『本来の』パンドラズ・アクターだと」

 

 避けきれずに足を掬われ胴を打ち据えられ手足を弾き飛ばされ首に絡まり鞭が意思持つ大蛇の様に体の自由を奪い去る。

 

「さぁ……答えは?なぜ外史を知っている?お前はどちらの管理者だ?あぁ言い忘れていましたね……私は破壊側の管理者だ。この外史を終わらせるために行動している。モモンガの死をもってこの壊れた外史は終わりを告げる」

 

 再び空洞の中に蠢く三十三が静かに根芽付けてくる。

 恐怖、畏敬、迫害、嫌悪、苦痛、病魔、窒息、鈍痛、灼焦、悪寒、様々な肉体的苦痛、精神的苦痛がニューロニストの体に根付き芽吹いていく。

 

「あっ……がぁっ……!」

 

 苦痛を与える側であっても苦痛を与えられることは少なく、押し寄せてくる苦痛にうめき声が漏れ出る。

 

「全身……痙攣……全裸……供覧……」

 

 全身の筋肉を膨張させて隙間を無理矢理創り出して拘束から抜け出す。

 

「みよ!東方は赤く!萌えているかぁっ!!」

 

「なるほど。卑弥呼や貂蝉と同レベルの腕前は持っているか……ならばこれを試すことが出来る逸材ということ」

 

 最後の叫びを血反吐と共に吐き出すニューロニストに作り出した武器を右手に携えてパンドラズ・アクターはゆっくりと近づいてくる。

 

「ぬぅっふぅぅぅぅぅぅんっ!それがどんな武器か知らないけれどぉん!私は外史の肯定者!たとえ正史から外れまくった外史だとしても否定はさせないわぁん!」

 

 その姿勢を見てパンドラズ・アクターは拍手をする。

 

「その気概、実に素晴らしい。素晴らしいですとも……是非ともその気概を以てこの実験に付き合ってもらいましょう」

 

 それは黒く光り輝く剣、禍々しい気配を放ちながらも神々しいとも感じられ畏怖と畏敬が混在した不思議な感覚に陥る。

 

「な、なんなのぉん?それは……」

 

「なに、ただの試作ですとも。ソウル・クラッシュ(魂砕き)の」

 

 両手を広げ、剣先を床に引っ掛けるように金切り音を響かせながら軍靴の音ともに近付いてくる。

 背中で飛びのけるように入ってきたドアが蝶番や留め金を吹き飛ばし、ニューロニストが転がりながら出てきて手を床に殴りつける勢いで立ち上がり急いで走り出す。

 

「おやおや、どこへ行こうというのだね?」

 

 廊下に響くパンドラの声、軍靴の音に混じり時折聞こえる剣先が引き摺られる音に跳ねてぶつかる小さな音。

 どこかのホラー映画の様な追われているという感覚が強くより焦りを強くさせていく。

 

「教えなければ……サトル様にスズキ様に……パンドラは危険人物だと……!」

 

「そんなことが出来るとでも思っているのですか?」

 

 唐突に耳元で囁かれるように聞こえる追跡者(パンドラ)の声。

 先ほどまで廊下の暗がりの先まで離していたはずなのに、遊ばれているようにいつでも追いつけると言わんばかりに、今追いついてきた。

 

「さぁ、実験(試し切り)を始めましょう」

 

 身体を回転させて狭い廊下でもその剣の重さを十全に生かせるように身体に巻き込むように打ち込んでくる巻き打ち。

 その鋭さは剣技系のスキルを持たない筈のパンドラでありながらも熟達の域に達するほどのもので容易くニューロニストの背中を切り裂き青白い血を撒き散らせる。

 鋭い痛みでもなく熱く焼けるような痛みでもなく、まるで何かを失っていくような喪失感。

 力が抜けることで走っていた足はもつれ、笑った膝が嘲笑う様にもつれて転がる。

 振り上げられる黒剣、恐れ戦くニューロニスト。

 走る鏃の閃き。

 

「む?」

 

 鋭い金属音に黒剣が弾き飛ばされ、廊下を回転して滑っていく音が響く。

 倒れるニューロニストの奥に見えるのは息を切らせて弓を構えるアウラ。

 

「これはアウラ様、どうかされましたかな?宿題が出来ましたのならば見させていただきますが」

 

「ニューロニストは仲間でしょっ!あんた何やってんのよ!」

 

 大きな声を張り上げてパンドラに問いかけるが、パンドラは肩をすくめるだけで白刃を二つその両手に装備し、見えている指先がハーフゴーレムのそれに、肩は大きく肥大する。

 対峙しているアウラの額にはいくつもの脂汗が滲み浮かび焦燥に駆られているのがわかる。

 

「全く困った子供だ。これで七十年生きてきたというのだから、設定というものは始末に負えませんねぇ……精神が年齢に比例しないというのはどういうことなんでしょうか?グレーテルさんは十四歳である程度過保護に育った故理解はできますが」

 

 グレーテルに聞いた限りではダークエルフの成長は人の成長とは異なり第二次成長期終わりまでは人と変わらず育ちその後が長く続く種族であり、千年を過ぎたあたりから老衰が始まるらしい。

 精神もその年齢に合わせて成長していくために、アウラのような状態というのはこの世界において非常に不自然な事象となる……百年もすればナイスバディとなるらしいがこの世界ではどうなるのか。

 焦るアウラに対してあまりにも冷静過ぎるパンドラから放たれる威圧感はレベル百に設定されている階層守護者であるアウラをして圧倒させ、身体の動きも思考の働きも鈍らせていく。

 そんな中を唐突に重心を前に倒し力を抜くように滑るような形で踏み込み近づいて、つま先で床を掴むように力を貯めて踵を叩きつける勢いで右から回転する様に二条の剣戟を放つ。

 攻撃は苛烈で容赦なく、衝撃で浮き上げられた身体を繋げるような連携でのサマーソルトで天井に叩きつけられその反動でニューロニストにたたきつけられて一緒になって転がる。

 

「ぎぃっ……なんで!何でこんなことするのよ!」

 

 仲間だと思っていた人物から攻撃される、忠を誓うべき至高の御方には忠を受け取ってもらえず、あまつさえ創造主であるぶくぶく茶釜様に失望された。

 他の階層守護者たちはどこかおかしくなり、それが顕著なのは最も絡むことが多かったシャルティアでありながら突き放されるような態度をとられ、精神的な支えとしやすい身内でのマーレでさえ部屋に閉じ籠り出てくることがなくなった。

 そして極めつけが、パンドラの能面の様なハニワ顔。

 傷つけ悦に浸る様なものも、仲間を攻撃するという苦渋に満ちたものも、何もないただただ無関心の無表情。

 まるで私たちをその辺にいる虫と変わらないように見られていた。

 

「なに、ニューロニストにも申し上げた通り。武器の実験ですよアウラ……」

 

 その目は語っていた。

 アウラたちナザリックの者たちが外のものを見るような目が、外を全て見下したような目が、自分たちが実験動物のそれと変わらないのだと。

 その事実はアウラとニューロニストの背筋を凍らせるには十分すぎるうすら寒さだった。

 

「フェンっ!!」

 

 アウラ達が逃走の一択を選ぶ程度には圧迫感が重くのしかかっていた。

 それはナザリックのNPCという誇りを投げ捨ててフェンを呼び出し、その背に乗って逃走を即座にする程度には重くのしかかる恐怖を与えていた。

 

 

 

 クアドラシルの首を手にパンドラは虚空を見て独り言ちる。

 

「ふむ、予定通りに外へといった様子。如何でしたかな?私の演技は……スズキ様」

 

 彼はニューロニストが外史というものの管理者ではないということを看破していながらあえてその舞台に上り敵役を演じて見せた。

 図書館の扉を開けば、メイド達の姦しい声が響き、「次はこれをやってみよう」「こっちは勉強になるわね」「モザイクどうにかならないかしら」などと言う言葉が耳を打つ。

 モニターの明かりに照らされながら紅潮した頬を見ることが出来る。

 中にはいつの間に持ち込まれたのか、いくつもの古いマンガや小説などを読む者もいる。

 積まれた所々破れ表紙も擦り切れてしまっている手書きの小説、オーバーロード。

 一仕事終えたパンドラはその本を手に取り読みながらも思考に耽る。

 管理者の塔、そこに残っていた唯一手に取り読むことが可能であった書物、何かの手掛かりになればと思い持ち帰ったが、この物語の外史に当たるのが今の私達なのだというアタリは付けていた。

 

「血をクリーンで抜いて、プリザベーションで保存しておけばいいお土産になるかもですね」

 

 手だけを骸骨のそれに変えてメッセージを発動させる。

 

「第一段階は完了、カルネ村で完品を……あぁ、失礼。ナザリックから西南西、トブの森南端に位置する村でお受け取りください」

 

 複数冊の書物を一度にめくりながら目を走らせて行きながら、大筋では変わっていないこと、立場が変わっていること、対象が変わっていることなどを確認し、現状の冊数を確認する。

 

「ナザリックの転移、カルネ村これはすでに終わっている、冒険者になり初めてのお使いからのエ・ランテル襲撃は魔神の襲撃にすり替えられているが終わっている、シャルティア様の洗脳はアルベドの洗脳?に変わり戦闘がない代わりにエウリュエンティウが追加された……次はリザードマンの村を襲撃ですが……」

 

 確認した齟齬を紙に掻きだしていくが、ペンを走り終わらせた後にも長い沈黙が続きパンドラの頭の中を様々な考えが巡るが、どうしても現状でこの状態になる要素を見つけることが出来ない。

 

「これはいったいどうなるのでしょうねぇ……」




アウラ「ニューロニストは信用できる仲間」











覚醒させるために発狂させる劇:出演
キャスト:パンドラ、ニューロニスト
脚本:スズキ
ターゲット・ゲスト:アウラ

アッザ「パソコンもマンガもおっさんの所から完コピして持ってきた!」
L様「面白いものってある?」
アポ「バルドフォースとか大悪事とか面白いわよ」
カオス「ふむ、ゲーム性の高いものが多いの。ノベルゲーは少ない感じか」
デウス「ネットには繋がってないのか?繋げるつもりなら繋げておくぞ」
三人娘神「「「お前が神かっ!?」」」
デウス「お前らも神だろうが」

ニューロニスト 出展:オーバーロード
ナザリック所属だった拷問官
ブレインイーターという種族だが今カルネ村にいるブレインが食材として好物という意味ではない
脳食らいという意味であり脳みそを食すことで対象の記憶を得ることが出来る
実は拷問官というのは拷問によって悦楽を得る人物には向かなかったりする……やり過ぎて殺してしまうことが多々ある為である
現在は真・恋姫†無双の漢ルートをプレイし覚醒したがなぜか漢女に憧れを持っている……そこを利用し報酬としてトレーニング道具を報酬にコントロール・アムネジアで管理者の一人であると思い込み今回のアウラ発狂作戦の重要部分を担っている
そのうち白い肌で筋肉ムッキムキのニューロニストが見られるかもしれない


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episode.4「タルタロスという場所」

前回のあらすじ
パンドラ役を演じる
ニューロニスト脳みそいじられてた
アウラ仲間を得る
をお送りしました

ちょっと遅れたけど投稿です
(久々にスパロボやってた)


 ベッドにサトルが、その脇にエンリが座って死獣天朱雀(赤野 隼弥)べるりばー(鐘山 川澄)あまのまひとつ(海野 一)、そしてオーバーロードのデイバーノック宮廷魔術師。

 

「「「「「「……」」」」」」

 

 全員で窓の外見るのだが、少なくともエ・ランテルの景色が見えることはなかった。

 一面銀面に覆われていて鏡のように全員の姿を映し出しているものの色までは判別できない、鋼色とでもいうのか少なくとも質のいい鏡ではないだろう。

 

「ふむ……実に摩訶不思議な状況だ。まずは状況を整理しよう」

 

 銀面を骨の指先でつつきながら、サトルが貴族になるための書類を用意して持ってきてくれたなどの説明も改めて終えて。

 

「この辺りでワシ以外が驚いて外が完全に意識から外れたと思うのだが?」

 

「あ、そこは確定なんですね……で、現実逃避で俺が外を見て気が付いたんでしたっけ……」

 

「あっはっは。その癖抜けないないんだねぇ。ギルドマスターは」

 

 どうにもサトルはその手の癖があるみたいでその手のことを朱雀さんから言われていたりする。

 なくて七癖とはよく言うが目の動きなどはそうそう矯正することはできない、不安に思った時下を向く、思い出そうとするときに視線が上を向くといったものが、気づいたから気を付けようと思っても注意されたからといったところで易々と直りはしない。

 その辺りを理解してあえてミスディレクションに織り込むという方法もあったりはするがな。

 

「むぅ……貴族になっちゃったら知恵を出してくださいよ。皆にも手伝ってもらいますから……で、どうしましょうか?とりあえず部屋を出てみます?」

 

「そうだね、まずは外に出れるかどうか試してみようか」

 

「サトルさん。あのアカなんとかコードというので何かわからないんですか?」

 

 ベルリバーさんがサトルの発言に賛成を示し、エンリが疑問を投げかける。

 

「あー……全然機能してないですね。過去の検索も何もできないです、当然ここが何なのかさっぱりです……あ゛ぁ゛……頭が痛いだけで使う意味がねぇ……」

 

 聞かれたことに試しただけなんだがダメージだけ受けるという切ないことになってベッドの上で項垂れる悟だった。

 これ使うたびにこっちも結構痛みが飛んでくるのが中々痛い能力だな。

 

『恐らくタルタロスだとは思うが、俺もゲームでしか知らんからなぁ』

 

「あ、鈴木さんがタルタロスだと思うと……」

 

「知っているのか?」

 

「ただゲームのことなので……」

 

「知ってるんですか?」

 

 一気に詰め寄られ後半が他の人の声に潰されて聞こえなかったようで、まずは落ち着けるのに苦労した……そういえばエンリちゃんとデイバーノックはこういう転移とか初めてだものな。

 混乱してもおかしくはないか。

 

「あー……俺はこの世界に来たので一回、管理者の塔で二回、今回で三回目……あとは本の個室でしょっちゅうですしねぇ……」

 

『三人も似たようなもんだろうなぁ』

 

「こっちもシアターでたっちに殺されまくっててなんか変なもの見せられてるから異世界転移とか今更だなぁ……」

 

 もっとやばいことになってそうだった。

 

「え?なにそれ?」

 

 むしろその事実を聞いてサトルが混乱してる、まずたっちは妻子がいるから会おうとするとは思っていたが……殺されまくってるってたっち強すぎないか?人数差で抑え込めると思っていたのだが。

 30以上対1で死亡者出るとか訳が分からん。

 

「多分だけどな?企業の奴らのヤバイ情報手に入れて殺されたのよ俺は。で、やばい内容がたっちさん達の機動隊全員ロボトミ?強化して強化兵にしようぜってやつでなぁ……たっちさんアドレス変えてたからウルさんになんとか渡したんだがそこで殺された」

 

「は?なんで?」

 

「わっけわかんねぇよなーって思ってたんだけどさ。死んでこっちに来て話聞いて分かったんだよ……戦争に勝つために強化兵大量生産する計画なんだってよぉ。核で全部吹っ飛んだらしいけどな」

 

『何やってるんだろうか企業とやらは』

 

「あっはっは。マジで何してんだろうねぇ、あの糞企業のババアは」

 

「あまのまさんは企業の親玉と知り合いなんです?」

 

「あー……企業の外の警備員やってたから社案内で知ってる。で、多分その実験のモルモット(実験台)にされた。手術台にくくられて丸のこ迫ってるのが最後だもんよ」

 

「「「リアルがほんと糞じゃねぇか」」」

 

 あっはっはと三人して笑っているが、朱雀さんにエンリ、デイバーノックがそれを見てドン引いている。

 この状況で狂笑上げてるとか怖いものなぁ。

 そんな三人をエンリちゃんがいつの間にか持っていたハリセンではたき倒す。

 

「早くどうにかしましょう」

 

 腰に拳を当てて三人をにらみつける。

 

「「「はい……」」」

 

 三人は揃って平伏して、突っ伏して返事をする。

 

 

 

 

「んじゃとりあえず知ってることを説明しておくぞ。穴があっても下手に触れないように、『無』とかいう奴らしく突っ込みゃ即死するらしいからな。アンデットだとか関係なく飲み込まれるから突っ込むなら道具生成で作った棒でも突っ込んでみてくれ。敵として出てくると思われるのはアポトーシスという奴だと思うので全滅させて構わない、恐らく狂っているだろうから会話は不可能だと思っていい。アポトーシスは侵食系のモンスターで外に出すとやばいからな……問題はタルタロスだとして穴の底にダンジョンが形成されるから脱出方法がダンジョンを見てからとしか言いようがないな……最悪脱出が不可能な可能性もある」

 

 特定の扉がどういう条件で開けられるようになるのかが全くわかってないからな。

 何でルカが開けられるのか、他のキャラクターには認識すらできない鍵を見つけられる理由、白うさぎの謎、侵食の阻止方法……謎がまだまだ残ってる場所だからなぁ。

 

「多少は知っているという程度で俺も全容は把握できていない。何があるかはわからないというのは覚悟しておいてくれ」

 

 扉を開き、四角く整えられた金属製の廊下が眼前に広がる。

 その廊下は明かりが灯されていないというのに一定の距離までは視認が出来るという物理法則も何もあったものでは無い証明のように奥に伸びていた。

 

 

 

 少年は必死に走る。

 裸足であるがそんなことを気にする余裕などなく、下半身の衣服を剥がされ破かれた裾が辛うじて隠せるだろうかという程度のものだが少年以外には今のところ追いかけている者しか確認できていない為羞恥などすでにかなぐり捨てている。

 

「マサキくぅーん」

 

 追いかけてくる声が聞こえてくる。

 少年が共にいた少女の声でありながらブリキの人形を思わせるような無機質な声。

 

「マサキくぅーん」

 

 声はいつからか反響することなくまっすぐにこちらに届いているような気がする。

 

「(ここは……ここはいったいどこなんだ!?ぼくはゼオライマーと共に死んだはずだ!消える寸前にミクを手放して、一人で死んだはずだ!)」

 

 だから、あれは決してミクであるはずがない。

 あんなものがミクであるはずがない。

 

「マサキくぅーん」

 

「マサキくぅーん」

 

「マサキくぅーん」

 

「マサキくぅーん」

 

「マサキくぅーん」

 

「マサキくぅーん」

 

「マサキくぅーん」

 

「マサキくぅーん」

 

「マサキくぅーん」

 

「マサキくぅーん」

 

「マサキくぅーん」

 

「マサキくぅーん」

 

「マサキくぅーん」

 

「マサキくぅーん」

 

「マサキくぅーん」

 

「マサキくぅーん」

 

「マサキくぅーん」

 

「マサキくぅーん」

 

「マサキくぅーん」

 

「マサキくぅーん」

 

「マサキくぅーん」

 

 同じ声で、同じ言葉が、いくつもいくつも聞こえてくる恐怖。

 まるでエコーでもかけたように同時に聞こえてくることさえある。

 そんな現実的にありえないこと。

 同じ存在が複数いるという生理的嫌悪を伴う非現実的な現状を知覚して理解してしまった少年マサキは吐き気を覚え口を押さえる。

 

「うぶっ……」

 

 そんな状態で前からも足音が複数聞こえてくる。

 鉄版を踵の靴底が厚く作られた革靴の甲高い音を響かせながら何か棒で床を叩くような音と共に、四名の男性と一名の女性、それと信じられないことに動く骸骨と正面から対峙していまいマサキの精神は限界を迎えて意識を失う。




正気度喪失 出展:クトゥルフの呼び声TRPG
いわゆる非現実的な存在、所業を知覚して混乱してしまったり驚愕したりするさまを数値化している状態
程度の酷いものであれば発狂したり、気絶したり、異常な行動に出たりとする
軽度なものを一時的発狂、深刻なものを不定の狂気と呼ばれる
深刻なものであれば精神病のように治らないものとして定着させるプレイヤーも存在したりする


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episode.5「Gクラス鉄神『天のゼオライマー』」

前回のあらすじ
なんかタルタロスにいる
たっちさんロボトミ化
マサキ君出会う
をお送りしました


 いきなり走ってきてこちらの顔を見るなり気絶する下半身丸出しの少年、そしてそれを追ってくるように聞こえてくる数百という同じ音。

 

「こんなところに人?それも追われているみたいだ」

 

 朱雀さんが軽く少年の身体をみて、状況を判断する。

 

「手足に縛られた跡に衰弱の強弱から、どうやら追ってきている連中の方が僕たちの敵のようだね」

 

「おいおい、こんな場所で監禁とかどんな変態だってんだよ!」

 

 朱雀さんの言葉にベルリバーさんは叫び双剣をそれぞれの手に構え、奥を見据えていればぼんやり遠くから人型の生物らしきものが這い出てくる。

 壁の中から、床の底から、天井の上からにじみ出てくるように人型でありながら人ではあり得ない形でそれらは現れる。

 

「「ひぃっ!?」」

 

 あまのまさんはスキルもステータスも製造型に作り直しているために戦闘能力はエ・ランテルの一般(銀級)冒険者とそう変わらない。

 

「朱雀さんは魔法で援護!俺とベルリバーさんは前衛、デイバーノックさんは後方で二人を頼みます。エンリは中衛で支援!」

 

「了解っ!まずは中央ぶち抜くよ!アトミック・レイ(核収束熱線)!」

 

 青い光が貫通力の極めて高い光線となって真ん中の列を奥まで撃ち抜き栗色の髪を持つ裸体の少女体の化け物たちを焼滅させ、ベルリバーさんが突撃するのに合わせてグレーターアイテム・クリエイト(上位道具制作)で双刃剣を創り出して振り回して突撃していく。

 

「オーケーボス!オーダーはジェノサイドで問題ねぇかい!?」

 

無問題(モーマンタイ)!全滅させて奥に進まなきゃ話が進まない!」

 

 振り回す際に刃の腹で張り飛ばさないように切り飛ばしていく、パーフェクト・ウォーリアー(完全戦士)で使おうとしていた二刀流もいいがこういった見た目重視で取り扱いの難しい浪漫武器もかっこいいと思う。

 刃を通し肉と思われる赤黒い断面を空中に舞わせながら紫色の飛沫を飛び散らせていく黒い刃、振り上げ腕を飛ばし、突くように繰り出し反転させて逆側の刃で袈裟懸けに両断する、振り下ろした勢いのまま足を繰り腰を回すことで回転する駒の様に胴を切り飛ばしていく。

 

「それよりも奥、手繰ってる奴がいる。恐らくそれ倒さなきゃ終わらない!」

 

「りょ」

 

「「「「「「「「「「マサキくぅーん」」」」」」」」」」

 

 一斉に同じ音を発して了解の言葉がさえぎられる。

 舌打ちをしながら指し示られた奥へと向かうために肉の伐採作業を続けていく。

 飛び散り床や壁、天井に張り付いたものをデイバーノックが丁寧に焼き消しながら亀の歩みが如くゆっくりとだが着実に数を減らしながら前へと進んでいく。

 焼かれながらも最後までくぐもった音で同じ音を発しながらデイバーノックの担いだ少年へと手を伸ばそうとする肉人形。

 人の形と変わりこそしないもののその思考はただの壊れた再生機器の様に同じことを繰り返すというだけの壊れた人形。

 血液も酸素を含んだヘモグロビンではなく紫色の得体のしれない物質。

 瞳の動きも焦点は定まっておらずいったいどこを向いているのか、刈り取られる麦穂のようにただ淡々と切り払う作業は続いていく。

 少年も気が付いたのか担がれたまま混乱して暴れるものの、デイバーノックとのレベル差が開き過ぎているのか意に介さず淡々と今の状況を説明され、上着とは不揃いなものではあるもののズボンと下着を手渡されてそれを着用していた。

 

「あの、ここはどこなんでしょう?」

 

「わからない」

 

「わからないです」

 

「わかりません」

 

「今それを調べようとしているところなんですよ。あれらが邪魔ですので倒してる最中ですが」

 

 三人がわからないと口にして、朱雀さんが丁寧にされども視線は戦場から目を離さず説明をする。

 

「君の方こそここにはどうやって来たのですか?こちらは宿で休んでいたら唐突に此処にいた、という状況なので出来れば詳しく教えてもらえると嬉しいですね」

 

「まず僕は……秋津マサキです。世界征服をたくらむ巨大組織『鉄神帝国ネマトーダ』の総帥が作り出したクローンで合ってるのかわかりませんが氷室博士のおかげか、自分というものを失い切らずに自分の運命から逃れきるためにゼオライマーと共に重陽子爆弾で消えた……死んだはずなんです」

 

 沈痛そうに答えるが朱雀さんにもエンリにもデイバーノックにも鉄神帝国ネマトーダやゼオライマー、重陽子爆弾というものがぴんと来ないが死んだと締めくくられた言葉には眉をひそめた。

 

「上行きます!下は任せましたよベルさん!」

 

 双刃剣を回転させ円盤の様に投げることで上から生えてくる肉人形の首を斬り落とせば、果樹で熟れた果実が地面に落ちるように潰れていく。

 

「オーケー、ズドンといこうか!」

 

 自己バフをかけて某狩りゲーのように真っ赤なオーラを纏って乱舞を舞って蹂躙していく。

 武器を失っても冷却時間(クールタイム)を終えた事で即座に新しい武器を創り出して双刃剣から長棒へと持ち替える。

 アイテムクリエイトでの武器創造の最大利点は武器の消耗を気にしないこと、武器の持ち替えが気楽に行えそれらに熟達しているだけの扱いが出来るのなら文字通りの武芸百般が成立することだろう。

 これこそが鈴木が悟に棒術を教え込んだ理由の一つであり、何よりも有効打(ヒット・ポイント)の広さからの扱いやすさがそれぞれの武器の熟達に繋がるからこそ。

 雷撃(ライトニング)魔法の矢(マジック・アロー)といった誤射が少なく味方は無効化できつつ相手には十分確殺範囲となる威力の魔法を随時撃ち込まれていくことで肉人形たちの数は見る見るうちに減っていくのだが次から次へと追加されて、その歩みは相変わらずゆっくりとしたものだったが、あまのまが指し示すこの肉人形を生み出している、天の魔神の元へとたどり着く。

 

「ゼオライマー、なんで……あの時に確かに破壊されているはずなのに!!」

 

 マサキの叫び声が白き魔神ゼオライマーが静かに見下ろす格納庫と思われる場所に響き渡る。

 白を基調とした機体であり、頭部、胸部、左右の手甲部に球状の赤いパーツがついているが、何よりも身体の各所にアンテナブレードと思われる突起が生えていることで刺々しいイメージがある。

 

『スパロボ最強格の一機……か。管理者の塔の情報が確かなら、後二機……』

 

「こんなでかい……ゲッターも結構でかかったっけ」

 

 呆然と見上げるもの、床に拳を叩きつけるもの。

 

「ちくしょうっ!」

 

「またスーパーロボット勢力に持ってかれたっ!」

 

 悔しがっているのはアインズ・ウール・ゴウンでもたっちと一緒に特撮ヒーロー系で盛り上がっていたあまのまとベルリバーだった。

 

「ふぅむ。かなり大きなゴーレムだな……何をコアにしているのか、複製はできるのだろうか」

 

 むしろ興味津々に何を素材にしているのかと気にしているデイバーノック。

 音を立ててゆっくりと動き出すゼオライマーはその両手を輝かせて拳を打ち合わせるように胸部へと持っていく。

 

『あ、やっべ……』

 

 スズキの声がサトルの頭の中に響くが時すでに遅く、光が全員を包んでいた。

 

 

 

 そんなころ最強格の内一機、まだ旧型とはいえその系譜の始まりであるゲッターロボはどうしているのかと言えばカルネ村にてガーネットとシズ、鍛冶長と共に外側の外殻、内部も簡略されたものだったために簡素なプレス機から作り上げたミスリル銀製の装甲やらゲッター線照射済みアダマンタイト製のフレームやらが組み込まれ再稼働させることに成功していた。

 

「よーし、ゆっくりとなら動かすことが出来るな」

 

「はい」

 

「まぁ、まずは動かすことが出来て何よりですな」

 

 流石にそれぞれに分離合体させることはまだ恐ろしく行うことはできないが、その武器であるゲッタートマホークや巨大な機体はカルネ村の発展に役立てられていた。

 トマホークで木を切り、ゲッターロボの指先で切り株を引き抜く、ローラーの様な巨大な耕運機の後部を手に持たせて畑を拡げるなど……平和利用されていた。

 そんな様子を遠目から眺めている下駄を履いて白衣を着た壮年の男性は何を思うのだろうか。

 

 

 

 光が収まると八人は沼地の淵に立っていた。

 

「ここはまさか……トブの森のリザードマン側の集落か?」

 

「知っているんですか?デイバーノックさん」

 

 振りむけば、空間を跳躍する様に姿をかき消すゼオライマーが見えたが、もうそういったものと割り切り現状の把握に努める。

 

「うむ。五年前だったか王にトブの森に魚の養殖を試みている奇特なリザードマンがいると言われ生け簀の作成に来たことがある。確か名前はザリュースと言ったか」

 

 周りを見渡し現在の位置を割り出そうとするデイバーノックだが同時に異変にも気が付く。

 アンデッドがいた気配がする。

 それも軍隊規模の数がいたことを表すような濃密さで、確かに居たが倒されたか、それとも立ち去ったのか不明だが確かにアンデッドが存在し戦闘が起きたことを示す戦闘痕が見て取れた。

 

「だが、ここはカッツェ平原からは離れているはずアンデッドがこの規模で居ることはおかしいはずだ……まずはリザードマンの村に向かってみよう。ゴール殿ならば何か知っているやもしれん」

 

 リザードマンの村に行くことを提案するデイバーノックだがそこに質問の声が上がる。

 

「あ、あのリザードマンの村って大丈夫なんですか?獣人の方は領域(テリトリー)意識が強いと聞いたことがありますけど」

 

「確かに人と関わり合いを持とうとしない獣人達はテリトリー意識が強い、がワシも此処には赴いたことがあるが打ち解けれれば何のかんのと気のいい奴らだよ」

 

 まったく表情は変わらないものの朗らかに答えるデイバーノックだが、周囲への警戒を怠ることなく、むしろ村に近付くことで一層警戒を深めていく。

 即興と思われる土嚢が作られ、それが村を覆う様に矢や槍が付きたてられていた。

 つまりリザードマンの村を何者かが襲ったということがわかる。

 それも極々近日の出来事として。

 乾いた血がそれには付いていた。

 

 

 

 一方そのころ、エ・イハブに向かったナシェル、タブラ、ムサシ、ノブナガ、ミナ、ハツネたちは街の入り口から見える港に視線がくぎ付けになっていた。

 港では一体の白い異形種だろうか海洋生物を怪獣化させた様な巨体が叫び声をあげているのだ。

 

「くらーーーけーーーん!!!どこだぁ!?何処に居るんだああああっ!!」

 




ゼオライマー 出展:冥王計画ゼオライマー
全高:77m 体重:不明 パイロット:マサキ/魔沙樹
エネルギー吸収や搭乗者ごとの自己再生持ちなど結構トンデモな性能持ちの機体
弱点は次元連結ジョイントというアイテム(ミク)がないと色々機能が使えなくなる
異次元から無限のエネルギーを生み出す次元連結システムにエネルギー系のバリアや転移移動、Dブラストという光球から放たれるエネルギー波での攻撃などその巨体を生かした格闘攻撃とは別に強力な攻撃手段を持っている
スパロボで有名な冥王攻撃もきちんとできるぞ(他色々やってくれる今回のように

なお次回はみんなのアイドル、モモちゃん視点でお送りしたいと思います(マテ


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episode.6「アインズ・ウール・ゴウンの敗北」

前回のあらすじ
悟君双刃剣を気に入る
天の魔神ゼオライマーと会合
イカ男爵上陸
をお送りしました


 目の前の光景なはずなのにアインズにはそれが現実だと信じたくなくなかった。

 鏡を通して写された、あるべき映像とは真逆の結果をアインズは受け入れることを拒絶したのだ。

 

「は?」

 

 手に持っていたレプリカが軽い音を立てて床に転がりながら、もう一度その映像を見直そうともその現実は変わることなく、それが映し出されている。

 他の守護者たちとてそれを信じることが出来ずに呆気に取られていた。

 

「何が起こったのだ?」

 

 鏡にはコキュートスの下半身だけが映っていた。

 いや、本来であれば上半身がある場所まで映像は映し出されているにもかかわらず、上半身がある場所は空が映っていた。

 下半身からは煙を上げて超高温で焼き切られたのだろうことがわかるようにライトブルーの甲殻が切断面付近が真黒(まっくろ)に炭化していた。

 

「せ……僭越ながら……コキュートスが……死亡……しました……」

 

 デミウルゴスが怒りに震える声でアインズに報告する。

 その報告が終わると同時にコキュートスの下半身が力を失くしたように倒れていく様がスローモーションの様に見える。

 

 こきゅーとすがしぼうしました。

 

 コキュートスガシボウシマシタ。

 

 コキュートスがしぼうしました。

 

 コキュートスが志望しました?

 

 コキュートスが死亡しました。

 

「……」

 

 デミウルゴスの報告が耳に入り、その言葉の意味を正しくするため当てはめていき、たっぷりと一分半、意味を咀嚼してその言葉の意味を漸く脳が理解した時、怒りに昂る精神が沈静化されるが、目の前の映像が視界に映る限り、怒り、鎮静、怒り、鎮静、怒り、鎮静と繰り返されていく。

 何に怒りを感じているのか。

 殺し合いで自分の部下が殺されたことに怒っている。

 アインズの仲間たちが遺してくれた息子が殺されたことを怒っている。

 弱いリザードマン(レベル20)如きがコキュートス(レベル100)を殺したバグに怒っている。

 

「私は何を間違えた……?」

 

 だがどこか冷酷な部分でこれが現実だと理解した上で、自分の、アインズの立てた計画に綻びがあったのだと考える。

 デミウルゴスの言葉を思い出す。

 

『ならば、何故、敵はそういった行動を取ってこない?』

 

 アインズの疑問に対してデミウルゴスが指を一本立てる。

 

『まず一つ。モモン様の情報を調査し終わっていない。もし本当に正面からシャルティアと戦って勝利した人物であるなら、その恨みを買いたくない。もしくは仲間に引き入れたいなどと考えている場合です』

 

 デミウルゴスはもう一本指を立てた。

 

『次にシャルティアとの出会いが、たまたまの遭遇だとしたらどうでしょう?もしくは別目的の通りすがりだったなど、まるで関係のない第三者的な立場です』

 

『たまたまの出会いはあり得ないだろう、デミウルゴス。どんな運だ……』

 

 そこまで思い出してこちらの情報秘匿が成功している前提で話していた事に気が付く。

 その穴に気が付いたときに穴は容易く立っていた立場を薄氷の上どころか、立っていた場所が奈落に続くような逃げ場のない崖の淵だと気が付く。

 そう、敵は待っていたのだ。

 逃げようのない罠に嵌って確実に削り取ることが出来る瞬間を。

 一体いつから見られていたのかわからなくなる。

 

「っ!?」

 

 それに恐怖を覚え咄嗟に口を押えてしまう。

 

「て、撤退!!全員、撤退だっ!!」

 

 押さえた手を無理やりそれ以上の恐怖で引きはがし、守護者全員に叫び声をあげる。

 鏡から確かにこちらに向かって剣を向けるリザードマンが映っているのだから、もしかしたらもう遅いのかもしれないが、それでも行動に起こす。

 アインズはゲートを創り出し、いの一番に飛び込みナザリック前に逃げ出した。

 即座に逃げだしたからこそ見ることはなかった、凱旋を迎える旗を。

 その旗は……

 

 

 

 時はコキュートスが殺される前よりももっと前、アインズ達が遠視の鏡を覗いてリザードマンの村を調べている時まで遡る。

 サトルたち七人は白痴蒙昧の瞳で生み出した巻物でリザードマンに変身(メタモル・フォーゼ)してリザードマンの村へと赴いていた。

 何があったのか、そしてこれから何があるのかと知る為に。

 そして両手持ちの剣(グレートソード)を持つ他のリザードマンに指示を飛ばしているリザードマン、シャースーリューに話を聞けば、アインズ・ウール・ゴウンを名乗るアンデッドが神話とも思えるような軍を率いてやったことを聞けた。

 

「ただの弱い者いじめにしか聞こえんのだが」

 

「ギルドの名を名乗って、過剰戦力投入とか」

 

「ごめん、言っちゃ悪いけどないわーって感じだわ」

 

 上からベルさん、朱雀さん、あまのまさん、三人ともアインズを名乗るアンデッドにドン引きしながら頭痛が痛いのか頭を押さえて天を仰ぐ。

 

「過剰戦力を投入する必要があるとすればそれは何か?示威行為だとも考えられるが、いったい誰に?という疑問が浮かんでくるが、何か心当たりはあるかね?」

 

「トブの森という人の生活圏とは離れた場所ですから、他のモンスターへの?それにしては他モンスターの斥候というのが見られないから除外できる。少なくとも俺は魔法での監視も感知できないので他要因も除外できると……すみません、何に対する示威行為かはわからないですね」

 

「では示威行為は除外するとして……アンデッドの大軍の運用ができるかの実験はどうだろうか?」

 

「いえ、それもないでしょう。先の戦闘で大軍を動かし敗北している。なにより次に動くのは一体だけ、これでは実験も何もありませんよ」

 

「うむ、その通りだな。では……意味もない見栄の為にだけに動かしたあほうということか……」

 

「考えなしの馬鹿というのが濃厚ですかね……」

 

 デイバーノックと共に俺は溜息を吐き出す。

 仮にこちらが感知できない者がいると仮定しても、本拠地(ナザリック)を手薄にするという愚かな行動にしかならない。

 守護者が全員いて、そこまで戦力にならないアンデッド達とは言え大量に外に出す、それを見られていればギルドは手隙となるのだから危険すぎる博打だろう……しかもそうなって得する要素が何かあるとでもいうのか。

 

『しかも、ご丁寧におおよそ四キロの円形で警戒網が敷かれてるな。その中心にアインズとやら達はいるんだろう……指揮の場所がバレバレとかポンコツ過ぎねぇか?』

 

「四キロの円形ってどうやって調べたんです?」

 

『野生の動物の勘ってのは馬鹿にできなくてな?動物が息をひそめ隠れてる静かすぎる場所ってのを探せば強い奴が近くにいるってすぐにわかるぞ。罠としちゃバレバレすぎな上に広範囲にし過ぎて相互連絡をするにゃ間が開き過ぎてる、これにかかる奴は相当のアホだ。そして仕掛ける奴もアホだろ』

 

『旦那、中の様子が盗み見れるんで送りまさぁ……』

 

 スズキさんの声に続いて、元から影に潜んでいたムジナからも映像が送られてくる。

 送られてきた映像は、携帯用の望遠鏡を覗き込んでいるのか円形に切り取られているが、木製の拠点の中で和気藹々と話し合う守護者たちとオーバーロードのアインズと名乗るアンデッド。

 ただそのアンデッドは、四つん這いにさせたシャルティアの上に腰を下ろしていた。

 

「……いや、何やってんだアインズとかいうのは……」

 

 その光景を見せられて思わず、困惑の声が漏れだしたのだが、それを聞きつけ全員がその光景に興味を持ったのか言葉で説明するよりも直接見せた方がいいかと、スクロールを一つ使って視界を共有する。

 

「「「「「「……」」」」」」

 

 嫌な沈黙が全員が集まっている場を支配する。

 

「え?そういう趣味があるんです?」

 

「無いから」

 

「シャルティア興奮してないか?」

 

「設定そのままなら悦んでるんじゃないですかね」

 

「個人的には何でギルド武器持ち出してんだろう?ってところだね」

 

「レプリカでしょうね。囮として立っているなら本物を持ち出すメリットがない。殲滅に使うなら別でしょうが……メリットよりもリスクの方が高いですから」

 

『監視にも潜入にも気づいてねぇんで、やりようはいくらでもありましょうや』

 

「そうだな、情報は重要だからな……アインズとやらはリザードマンの村をどうするつもりか、わかるか?」

 

『ちいっとばかし待ってくだせぇ…………読唇が正しけりゃぁ、潰すことを決定したみたいでさぁ』

 

 方針が決まった、それがわかった時点でムジナはその場を離脱し、こちらへと戻ってくる。

 考えを巡らせ、その上で危険な橋ではあるものの、俺の考えを皆に伝える。

 その考えに皆して笑顔で答え、了承してくれる。

 マサキ君は少し逡巡するもののそれでも覚悟を決めた顔でこちらの考えを飲んでくれる。

 

ただ弱いからと静かに(この世界に生を受けて)暮らしていた者たちを力持つ強者が好き勝手に(ゲームの力をもって)蹂躙しようとしている。俺はそれを見捨てられません」

 

 サトルの世界でのアインズ・ウール・ゴウンが持つ根底であり、理念である。

 だから。

 この衝突はきっと避けられなかったことなのだろう。

 

 アインズ・ウール・ゴウン(強者の横暴)アインズ・ウール・ゴウン(弱者救済の義)の激突を避けることはできない。




王都リ・エスティーゼ 出展:オーバーロード
原作では八本指が暗躍していたり、無能貴族が幅を利かせていたせいでこれと言って見どころのない中世から近代手前位の城塞都市とでもいうべき街並みだった
この作品では王が禅譲することで采配が変わり、まず六大貴族のブラムラシュー侯が一族郎党処刑台の露へと消えたことから変革が加速していくこととなる
処刑した貴族の財産を正当に王家の国庫へと変換し、それを奴隷を私兵化していくことに使い軍事力において王国直属の兵のみで帝国に打ち勝てるようになっていく
現在では王国領の約三分の二が直轄領になっており貴族が足りない状態ではあるものの忠義厚い元奴隷の代官を立てることで問題はこれと言って発生していない
そして率先してモン娘たちを国内に受け入れており、問題を起こさないのであれば現地の亜人や異形種さえも街中を闊歩している
王国において奴隷とは首輪付きと呼ばれ、奴隷商は仕事を首輪付きに斡旋、教育する事を商売としている、賃金を貯めて首輪を外す時仕事先でそのまま就職することが少なくない、首輪を外した奴隷は元首輪付き等と呼ばれ、きちんと借金を返済する能力があるものとして一目置かれる
この世界においては珍しく創作書物が作り出されており年に二度、大きな市場を作り出し多くの人々に物語(マンガ、創作小説)が読まれることとなった
王はこのマーケットをコミックパーティー、略してこみパと呼んで大層喜んでいるらしい
壁サークルにブルーローズというサークルがあるとか……


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episode.7「遊ぶラスボスたち」

前回のあらすじ
コキュートス死亡確定
アインズ逃走する未来
悟は決意する
をお送りしました


 俺たちは代表を交代させるために族長であるシャースーリューを探し、村の中を動きながら仕込みをしておく。

 子供たちにあるものを渡し、傷ついたもの、死亡したものの息を浮き帰らせ、こちらにもあるものを渡しておく。

 

「ようやく見つけた」

 

 黒い鱗に大剣を背負ったリザードマンを用事を終えたころにようやくといった形で見つけることが出来た……まるで終わるまですれ違う様に因果を操作でもされたかのように……恐らく操作されたのだろう。

 あちらへ行ったどこそこに向かうと情報を集めながら移動していたら用事が全て終わるころに鉢合わせたのだから、あまりにも都合がいいと考えるのも無理はない。

 

「む?俺を探していたのか?」

 

「あぁ、アインズ・ウール・ゴウンのコキュートスとやらに挑む先鋒を任せてもらおうと思ってな」

 

 俺の投げかけた提案に驚いたように目を見開き尻尾が何度も地面をたたく。

 爬虫類特有とでもいうのか角質化した鱗に覆われた顔で表情は読みにくいが、先鋒を任せてもらおうという提案はコキュートスを含んだ守護者たちを直接見たシャースーリューからすれば自殺志願にも似た願いだと感じられることだろう。

 

「まずはなんのために戦うのか、それを族長に聞きたい……まさか負けて牙を抜かれて飼殺(かいころ)される為に戦うとか言わないでくれよ?」

 

 確かに族長を含めザリュース、ベンゼルら先の戦場で一躍活躍したリザードマンが倒されることで最も強いものを明かすということにはなるだろう。

 つまり牙を折られる。

 

「なぁ、生に縋ることを生きるというのか?尊厳を失い、誇りを踏みにじられ、配下に下り、飼われることを、ただ心の臓が動き息をしていることを生きるというのか?」

 

 俺の言葉に低く怒りの感情を伴った呻き声で応えられるが、尻尾は忙しなく水面を叩きうるさく水音を撒き散らす。

 

「だが一族が死ぬよりはっ!」

 

「あぁ、だから俺たちを先鋒にしてくれと言っている。少なくとも俺たちは奴隷として生きることを良しとはしていない……例えどれだけ強者の庇護下に置かれようとも奴隷が奴隷だと気づかず『生かされる』だけの生は甘受できんよ。そんな地獄を地獄だと気づかずに生きるのはもうたくさんでね」

 

 肩をすくめそう答えれば、こちらの意志をくみ取ったのか項垂れ「好きにしろ」そう吐き捨てるように背を向け去っていこうとした。

 背を向け去ろうとしたところで足が動かなくなる。

 

『「「!?」」』

 

 その異変に気が付いたのは動けなくなったシャースーリュー、風の動きが止まった事を敏感に感じた悟、空間が支配されたことを察知した俺。

 背を向けたシャースーリューと共にその正面に現れるのは金色に輝くかろうじて人型とわかるもの(ロードオブナイトメア)醜悪な肉塊に数多の触手を生やしたもの(アザトース)と紫色の粘体の様なものに様々な動植物の(アポトーシス)張り付いたものの三体。

 それを目の前にした重圧はすさまじく、シャースーリューは目を白黒させながら正気を失いたいのに失えず、気を失ってしまいたいのに意識の明暗を繰り返しながらもゆっくりと暗闇に誘われるような這い寄ってくる恐怖を味わっていた。

 それはこの場にいるものに例外なく少なくない恐怖を強制的にトラウマとして植え付けようとしてくる、再び対峙しようと試すかのように。

 

『何の用だ?三柱ものバケモノが雁首揃えて』

 

 それを物理的に踏み潰す様に一歩踏み出して問いかける。

 此処で顔を出す意味はなんだと問いかける。

 

「あら?もうちょっと抑えれる?」

 

「(身体を左右にゆする)」

 

「無理じゃない?これでも分霊として格堕として最低限にしてるのよ?」

 

 最低限でこの被害拡げ続けるの勘弁してもらいたいもんだが……少なくともこうして出てきたことそのものには意味があるはず。

 

「(触手をうねらせる)」

 

「なによ、特等席で見学しようってのが悪かったっての?」

 

「まぁ……迷惑かけてるから悪いと言えば悪い。ここまで耐性がないとは思ってもなかったけど」

 

 こちらに視線を向けることなくただその気配だけでじっくりと空気に重みを加えていくようにこちらの心が圧し潰されそうになる。

 その重圧に耐えながら、三柱の話が終わるのを待つ。

 恐怖こそ跳ね除けられようとも存在そのものの重圧(プレッシャー)自体は如何ともし難い。

 それはまるで間延びされた一秒一秒の様だと感じながら自嘲する、空間を支配されたのだ、今この時では一秒も何もない事に気づいたから。

 心を落ち着かせるために、強く保つために小さくも深く息を吸って吐く。

 

「(触手をこちらに向ける)」

 

「それが一番ね」

 

「むむぅ……クリアしたときに渡したかったのにっ!こう、パンパカパーンって感じで登場してっ!」

 

『勝手に三人漫才やってんじゃねぇよ!』

 

 もう会話が間延びしてあっちこっちにとっ散らかった会話についにツッコミを入れてしまう。

 

「あー……ごめんねぇ、ついでにこの世界のことも教えておくからそれで許してぇ?」

 

 紫の粘体が申し訳なさそうに首?を傾げるように言ってくるが、可愛らしい仕草だとでもその身体で言うつもりなのだろうか。

 

「とりあえずエルが準備するまでに軽く説明すると、この世界は悟君に、正確にはそのアバターの骨に君が憑依しなかった世界、正着に悟君が骸骨になって進んだ世界、いわゆる正史という世界、そこにタルタロスを通して君たちという因子が入り込んだ。それによって変わっていく正史から切り離された世界。しょせんは剪定世界と呼ばれるものだね。この世界ならどうせ立ち消えてもかまわない世界である為に私たちは見学に来たってわけ。世界の主軸であるモモンガが自爆したところで私たちにも君たちにも何も関係はない、好きに料理してもいいんだよ?」

 

『嘘だな。好きにしてもいい、自爆しようが関係ない、この部分は嘘だろう?』

 

 立ち消えてもかまわない、これは本当だろう、声の調子も雰囲気の変化も見られない、文字通りの無関心の姿勢を崩すことはなかった。

 だが好きにしていい、自爆しようが……この部分はこちらを試すような探る様な意図が含まれた。

 

『この世界に連れてきた理由は分かった。そしてそれを直接見ようとしたこともな……俺たちがモモンガ側にどういったスタンスをとるか、そしてお前たちに踏み込めるか……試すためだな?』

 

 口があれば三日月の様に怖い表情の笑みを浮かべたのだろう、そういった意味合いの笑み。

 

「へぇ……やっぱアザトースの選んだ人間だけはあるねぇ。あなたは合格だろうけど、他のメンバーはどうかしら、ねぇ?」

 

「はい!それじゃもうこのメンバーでコキュートスに挑むんだからクリア確定だから先にプレゼント渡すからね!チクショー!この先もきっと役に立つ『ポケット魔王城』よ!……そうよ!私たちがここの子供に憑依してポ魔城に行けばいつでも特等席で見れるじゃない!ついでに幼女枠も用意できるわよ!」

 

 こっちに投げてよこした手のひらサイズのお城の模型……いわゆる移動式拠点アイテムで千人規模で住んだりすることもできるという優れモノなのだ。

 なるほど確かにタルタロスの攻略としても相応しいともいえるものだし、この先必要となる場合も出てくるアイテムだろう。

 

『(決して……決して……『とてもいい案だ』と言わんばかりに実行しに行ったあいつらに呆れているわけじゃあない……無いはずなんだ……無いと思いたい……)』

 

 それぞれに飛んで行ったバケモノに脱力し崩れ落ちる。

 全員、威圧感から解放されたのか尻もちを搗く様にその場に腰を下ろして荒い呼吸を繰り返す。

 しばらくして息が整ったところでベルリバーから提案があった。

 

「いやいや、無理無理無理無理カタツムリ。止めよう?止めとこうヨ?俺はあ、反対させてもらうぞー!?」

 

「HAHAHA、僕もそれに賛成したいんだけどねぇ。心底賛成して撤退を提案したいんだよ?でもこの状況まで追い込まれてて、ここまで顔も情報もさらしておいて、だよ?僕たちは見逃すという選択肢を取るでしょうか?」

 

 ベルリバーの上げた提案に対して死獣天朱雀が乾いた笑いを上げながらその提案を受け入れた場合の末路を想像する。

 少なくとも先ほどの会話から三柱たちが楽しければ想像していることを、いや、恐らくその想像を超えたものを用意しているだろうことを指摘する。

 

「……この詰んでる状況をどうにかできる策を立案できそうなの……ぷにっとさんくらいか?いや、そんなものも鼻で笑って覆してくるんだろうなぁ……なぁ?スズキさんよぉ何をすればいい?出来ることなら言ってくれ、座してまた死ぬ?ふざけんなよ!可愛い嫁さんでもきれいな嫁さんでもどっちでもいい!造れなかった理想の家庭を作るんじゃあ!!ブラックじゃねぇ職場を掴んで今度こそ人生謳歌しちゃるんじゃああああああっっ!!」

 

 あまのまの魂の叫びがリザードマンの村を震わせる、当然の様にリザードマンたちが「なんだ?なんだ?」と出てくるがそんなことに頓着してる暇はないとシャースーリューを巻き込んで目前の危機を乗り越えるための策を練っていく。

 策を練る間、エンリは先の恐怖からか悟の衣服をずっと握っていた。

 

 

 

 リザードマンの村に王冠を斜めに付け触手を生やせるモノが誕生しました。

 紫の疣を持ち身体を様々なものに変えられるモノが誕生しました。

 鱗が金色に輝く魔力量が膨大なモノが誕生しました。

 

 

 

 その頃、エ・イハブではイカ男爵とタブラたちとの戦闘が繰り広げられていた。

 

「オノレこの蛸がぁぁぁぁぁっ!!我がくらーけんをかえぇぇぇせぇぇぇぇぇっっ!!烏賊烏賊未来永劫!!」

 

「何で私ぃぃぃっっ!!??」

 

「その頭部は蛸ではないか!!ならば貴様はあの八なんとやらの仲間で確定であろうがああっぁァァァァ!!ちぇぇぇりゃぁぁぁぁぁっっ!!」

 

「八なんとやらッてなんだぁぁぁぁぁっっ!?足の数しかあってないじゃないかぁ!?」

 

 轟音を切り裂きながら振るわれる音速を超える巨大サーベル。

 その合間合間に交わされる怒号ともいえる言葉の応酬、イカ男爵の探すくらーけんは言葉から聞こえる八なんとかが関わっているということは分かるのだが、何故蛸にここまで憎しみを募らせているのかまでは謎である。

 イカ男爵の攻撃が巧みなのか、それとも建物がおかしいのか、巨大サーベルがタブラに狙いをつけて残光が網の目のように残る速度で振るわれ続けているのに、建物や無関係な住民には全くといっていいほどに被害がいっていない。

 追い詰めるために歩を進めるたび道路が陥没隆起を繰り返していることから建物が特殊だというわけではないのだろう。

 

「八なんとか……噂に名高い『八卦衆』でしょうか?」

 

「十数年前なら『八本指』とかもあったんだけどねぇ。バルブロ王の代になって即潰されたって話だからねぇ……いても残党でしょ。その辺を考えると『八卦衆』を有する『ハウドラゴン』とかいう組織が怪しいかな」




イカ男爵 出展:ぎゃるZOOアイランド
種族:イカマン HP:74万ほど

最弱であったコンプレックスの反動で天狗になり、「強者である我に選ばれるのだから幸せだろう」と身勝手な婚活に走る。
元々優しく純粋な性格であるため明確な悪意はなく、拷問戦士にスプラッターなお仕置きを提案されても慌てて却下する感じ。とっこーちゃんが切腹しそうになると全力で謝った。
決して最初から嫌悪されていたわけではない。言うことを聞いてくれない(お互い様だが)女の子Mに怒り、好き勝手やってやると勇んでやることが覗きである。
主に女殺しのせいで日に日にセクハラの過激度や傲慢さが増していき歪んでいく。このへんは公式ページにある日記を見れば分かりやすい。
生涯に一度しか射精できないため、肝心の嫁選びは先延ばしの連続。
独力で異次元にイカパラダイスを作っただけあって力は尋常ではなく、生死の概念を書き換える程。

総合レベル:105
イカマン:15
海洋生物:10
深淵の主:10
旧支配者:10
合計種族レベル:45
ダブルセイバー:10
ウォーロード:5
ワールドクリエイター:5
マジックナイト:15

合計職業レベル:60

特殊:自己回復(一分で1%強)、部下召喚(ディープワン、ダゴン等)、固有世界(イカパラダイス)、ワールドアイテム&始原の魔法の無効化……等
備考:射精しても死ななくなった
なんというか根っこが原作モモンガに似ている


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episode.8「六人party vs 1NPC」

前回のあらすじ
モモンガが見たら発狂しかねない小細工を仕込む
ラスボスが遊びに来た
イカ男爵は割と強い
をお送りしました


 さて、幼女(ラスボス)蜥蜴人(リザードマン)三人に土下座してコキュートスに……いや、アインズ・ウール・ゴウンそのものに手を出さないように頼み込むしかなかったのははた目から見ればお笑い種だったかもしれないが、この村を纏めていたシャースーリューも加わって手伝ってくれたおかげでザリュースらから先鋒を任せてもらえることになった。

 全員と模擬で手合わせで叩きのめしたのは誰か(幼女三人)の見間違いだろう。

 

「武人建御雷君なら……例え相手が格下でも全力の本気装備で挑んでくるんだろうけどねぇ。ぷにっと萌え君からすれば情報を安売りしてるとかいうんだろうけどね」

 

 朱雀さんの懐かしむような言葉に相槌を打つ。

 

「えぇ、それが武人の矜持と言ってましたね。手加減された舐めプをされて挑んだ相手が納得すると思うのかって……実際、武人建御雷さんを諦めさせるためにたっちさんがわざと負けたら、キレる、でしょうね」

 

「あぁ、そうなったら絶対にキレるな」

 

「本気で挑んで相手が手を抜いてたらそりゃ怒るでしょ」

 

 コキュートスの戦いの場に上る前、相手には聞こえないような小声で会話をし合いながら、改めてコキュートスを見るが持っているのは一振りの太刀だけ。

 コキュートスからすれば武器を持つこともなくリザードマンの村を皆殺しにできるだろうに、武器を一つ持つことで本気で戦うとでも宣いたいのか。

 なるほど、シャースーリューから聞いたアインズ何某の言葉らしい。

 

『勝利の美酒を飲みたいじゃないか』

 

 嘲りと共に吐かれたこちらを弱者の集まりでしかないと驕った考えが透けて見える言葉だ。

 

「(あぁ、なんだ……つまりはそれに否を諫言できないのであればコキュートスに武人建御雷さんの心意気は残っていない、あくまで残ったプレイヤーに従うだけを由としたNPCでしかないわけか)」

 

 死獣天朱雀さんもベルリバーさんもあまのまひとつさんもそう変わらない思いだったのだろう。

 お互いに視線を合わせ一つ頷き、同じプラン名を述べる。

 

「「「「プランDで」」」」

 

 プランAはコキュートスを殺さず負かせるのみでアインズ何某を引かせるつもりだった、約束を守るならばそれで良し、約束を守りもせずに攻めるのであれば全力で殲滅をするのみ。

 プランBはコキュートスを負かした上でアインズ何某を貶めることでNPCを引き釣り出すつもりだった。

 プランCは僅差で勝利したように見せてコキュートスにも花を持たせるつもりだったが……コキュートスが進んでその選択をしたのか、アインズ何某がその選択を強いたのかは関係がない。

 その状態で戦場に立ったのだからは是非は問わん。

 

「―――サテ、アインズ様モゴ覧ニナラレテイルコトダ。オ前達ノ輝キヲ見セテクレ。ダガ、ソノ前ニ〈氷柱〉(アイス・ピラー)

 

 二度繰り返されて使われる魔法により、両者の中間、二十メートル付近に氷柱が二本、水面から突き出して境界でも引いたと言わんばかりに無粋なオブジェ形成する。

 

「戦士トシテココニ来タ覚悟持ツ者タチニハ無礼ダガ、告ゲサセテモラオウ。ソコヨリコチラ側ハ死地。進ムトイウノデアレバ死ガ待チ受ケルト知レ」

 

 まずは六人、ザリュース、ゼンベル、シャースーリュー、クルシュ、スーキュ、キュクーがその境界を越えてそれぞれに武器を構える。

 

「(双剣は身体を軸にした独楽が基本行動。回転を主軸とした円運動が攻撃の要、回避と同時に切りつけることも視野に入れる必要がある……付け焼刃ではあるがどこまでできるか)」

 

 フロストペインを模して作りだした新しい武器を分割して両手に持って腰を沈めるようにして戦闘態勢をとる。

 ただ戦闘が始まる前に境界のむこう側が騒めきだす。

 ちらりとそちらに視線をやれば幼女三名、それぞれの手に小さな旗をもってこちらを応援するように振っている。

 

「ふーれーふーれー」

 

「がんばえー」

 

「あーう」

 

「「「「「「「……」」」」」」」

 

 境界で仕切られるようにこちらが派手は沈黙が下り、あちら側では若いのから年寄りまで……リザードマンの外見年齢とかよくわからんが、全員が慌てているのがよく見える。

 

「イイノカ……アレハ……」

 

 コキュートスがこちらを心配そうな視線で問いかけてくるが、ゼンベルがその問いを突っぱね返す。

 

「なぁに、嬢ちゃんらに危害が飛ばねぇようにてめぇをとっととぶっ飛ばしゃあ良い。そうだろう?」

 

 肩をすくめこちら側を見る。

 幼女三人はある意味でこちら側に他のリザードマンたちが来れないようにする防波堤にもなっている、退かそうとしても抵抗し退くことはなく、無視して進もうとしても邪魔をして通ることが出来ないでいる。

 

「それもそうだな。さぁ、始めようか?」

 

 グレートソードを構えシャースーリューが勝負を始めることを急かす。

 

「それとも幼女が気になったからと負けた時の言い訳にでもするつもりか?フッ、アインズとやらは随分とお優しいことだな」

 

「キ……キ……キサマァァァァァァァァァッ!!アインズ様ヲ愚弄スルカァァァッ!!」

 

 安い挑発に乗って水音を響かせこちらに駆けてくるコキュートス、怒りに我を忘れているのか大上段に振り上げて威力こそあるものの軌道の読みやすい振り下ろしを高速で行なってくる。

 振り下ろされる刀に左の刃を当てて這わせるように追従しながら肘を折りたたみ体重をかけるよう左に重心を傾けるように左足で踏み込むのと同時に身体を回転させる。

 グレートソードは振り下ろしに合わせるように打ち落としを行い激しい火花と共に沼地に沈められ刀身を踏み台に踏み込み切り上げることで手首の内側を切り裂いていく。

 氷を模した刃は風を纏って切れ味を増しコキュートスの堅牢な外骨格を切り裂き内側の筋肉を断ち切って腕を一本使用不能にする。

 一拍遅れてゼンベルが駆け込み、スーキュがその駆け込みを支援する様に千本を光速で八本それぞれがコキュートスの両腿、四本の腕、尻尾の先端と中ほどに突き刺さることで反撃の勢いを殺しきる。

 

「叩き潰せっ!雷鎚(ミョルニル)っ!!」

 

 帯電する手甲がボルトを内側に収納するごとに勢いを増してコキュートスの胸板に叩き込まれ、内包された多重にかけられた雷魔法が解放される。

 

「ホーリーライト!」

 

 追撃を緩めることなくクルシュからも聖なる光がコキュートスの顔面を覆い視界を奪うことを主目的とした魔法を撃ち込む。

 

「ぜんいん、さがる……」

 

 ゼンベルが壁となり視界を物理的に潰して準備された極大魔法、キュクーの両手は上に広げるように開かれており、その両の掌からは渦巻く閃光が太いアーチを造っていた。

 

極大閃光呪文(ベギラゴン)

 

 前もって打ち合わせていたように全員が退避した瞬間にその両掌はコキュートスに向けられ、轟雷が放たれることでコキュートスの上半身が消し飛ぶ。

 勝負は十秒とかからずあっという間に終わってしまう。




ギラ 出展:ドラゴンクエストシリーズ
閃光呪文系列として知られているが、実はシリーズ第一作のドラゴンクエストでの説明書には雷魔法と説明されている……雷光も閃光だしかまわんよね?
基本的にはグループへの攻撃魔法として活用され、表現として用いられるのは多くが火炎放射の様なイメージだろうか、ダイの大冒険ではポップがギラを収束させてビームのようにしていたが……ライデインが出てきてから属性として分けるのに困る呪文である
火:メラ 氷:ヒャド 爆発:イオ 風:バギ 雷:デイン
一応炎:ギラとなるが……


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episode.9「早乙女博士とゲッターロボ」

前回のあらすじ
コキュートス瞬殺
伏せた罠は不発
をお送りしました


 白衣を纏い下駄を履いた人物は確かな足取りでカルネ村で動いているゲッターロボに近付いてくる。

 

「旧ゲッターロボ……いや、一応応急処置はされているが……武蔵の乗っていた初代ゲッターロボ……」

 

 感慨深げにされども悲哀を湛えた視線を今も動くゲッターロボへと注がれる。

 

「これは儂の贖罪、儂を気絶させ無理矢理乗り込んだとはいえゲッターロボGを間に合わせてやることが出来なんだ儂の不甲斐無さの証よ」

 

『爺さん近付くとあぶねぇぞ!』

 

 ゲッターに付けられたスピーカーを使った声が近づいてくる人物に注意をするが、その人物はその言葉を聞いて突然に体を仰け反らして笑い始める。

 

「フフフ……はーっはっはっはっ。爺さん、爺さんか確かに三世紀半も生きれば十分爺よな」

 

 ひとしきり笑った後にゲッターロボを見上げる。

 それは昔のままで、ブリキ人形を思わせる丸みを多用したフォルムで全体的にずんぐりとした印象を持たせる。

 かつて白衣の人物が設計し、元々は宇宙開発用の機体を恐竜帝国が出現したこともあり急遽戦闘用の機体へと変えたゲッターロボ。

 人物の名前は早乙女博士と呼ばれる

 

「ふ、その爺が言うのはなんだがそのゲッターロボを修理改修したくてな。ダークエルフの里からはるばるやってきたのよ」

 

『ダークエルフの里から?確かトブの大森林の北部だったっけ?』

 

『はい。そのように記憶されています』

 

 懐からヘルメットの様な機械を取り出し高々と掲げてロボットからも見えるように持ち上げる。

 脳波学習装置、神隼人がゲッターに連れ込まれて被されたものと同じで被ることで脳波からのゲッターの操作方法を知ることが出来る代物であった。

 ナノインターフェイスを通じて身体の健康管理をされていたり電子ネットワークにダイブしていたガーネットからすれば、それは骨董品としてうつったかもしれない。

 

「こいつは脳波学習装置と言ってゲッターの操縦方法を教えてくれる機械だ」

 

『ちょっと待て!?そのサイズどうやって懐から取り出したんだ!?』

 

 明らかにポケットには入らない、そして服装からもヘルメットサイズのものを仕舞っておくスペースは見当たらないのに取り出したことに驚き、声を荒げながらもその声は新しいものを発見したように期待に満ちていた。

 ガーネットはインベントリというゲームならではの同じようなことが出来る能力を持っているが、目の前の人物は明らかにプレイヤーではない為にゲーム由来の能力は持っていない筈、あくまで現地の人たちに話を聞いた限りではあるが。

 可能性としては新しい魔法を創り出しインベントリと同じようなことを可能としたか、もしくはマジックアイテムで同じ効果を発揮しているか、タレントによる固有の能力であるか、職業などで同じものを取得できるのか。

 ガーネットはシズが止める声にも止まらずゲッターロボから飛び降りて、早乙女博士に近づいていく。

 

「これか、西博士……Dr.ウェストが作り出した魔法と科学の融合体『異次元倉庫』よ。異次元に繋ぐのに魔法の理論を、ニューロインターフェイスに思考を繋ぐことで仕舞ったアイテムを検索してくれる優れものよ」

 

「なにそれすげぇ!」

 

「奴も天災ということよ。シュウ博士は機体の制御に魔法を使ったりもしていたが、動力に精神力を使うというある意味での無限動力にこじつけたバカは奴だけであろうよ」

 

「やべぇ、発想がぶっ飛んでることだけは分かる。理論が全然わからねぇ」

 

 博士と会話をしながら理解を超えた本物の天才たちが生み出した発展(偉業)に頭を抱えるガーネット、そして一度ゲッターロボを止めて降りて来るシズと鍛冶長。

 

「む?恐竜人か?」

 

 鍛冶長を見てそう呟く早乙女博士だったが、鍛冶長自身がそれを否定する。

 

「ワシは恐竜じゃねぇよ。火蜥蜴(サラマンダー)だ。精霊(スピリット)に属しとる」

 

「それは失礼した。やはり書物だけでは区別がつかんな」

 

 そんなとりとめのない会話に花咲かせながら、何処で改修するのか、どのような修理が的確なのか、またそのような設備をどうやって作り上げたのか、など技術者や研究者らしい技術交換ともいえる会話だった。

 シズは種族所以の記憶力から引き上げられたプレス機の設計図を、ガーネットは現在からみれば未来技術に当たる板金加工技術を、鍛冶長がそれらを組み合わせた作成と類稀なる目を駆使したゲッター合金の作り方を発見したり、ゲッター炉心を解析したりしていた。

 

「改めて考えるとこっちもこっちで技術系がやばかった……」

 

「ガーネット様、アウラさんがこちらに向かってきています」

 

「ん?まだアウラは試験通ってないんじゃなかったっけ?通ったの?」

 

「通ってないですね。試験と言いますかなぜか覚醒しているニューロニスト様とパンドラ様が仕掛けた……発狂劇?でしょうか?」

 

 

 

 

 なるほど、スズキさんの仕掛けか。

 そうなると教育係は俺ってことになるか。

 

「じゃ俺はこの先高良と呼んでください。ちょっとアウラに試しておかないといけないことでもあるから」

 

「ふむ?プレイヤー名ではなく本名かね?」

 

 顎に手を当ててこちらに質問してくるが、話が早くて助かる。

 プレイヤー発言はもう技術会話中にしてるから問題ない、未来技術とか説明しようとしたらどうしても説明する必要がある。

 ダークエルフの長ドロテアが普通に知ってるからダークエルフの里では周知されてるんだとか。

 

「ま、そんなところですね。アウラはNPCなんで失礼なこと言っちゃうかもしれませんが……」

 

 申し訳なさそうに言うと早乙女さんは笑いながらゲッターパイロットの三人とも問題児ばかりだったと言ってくれた。

 ムサシ君も問題児だったのか。

 こちらも仕込みも終えた頃に森の切れ目からニューロニストとアウラが姿を現す。

 それと同時に背中にマウントしていたライフルをシズがアウラに向けて構えてアウラたちの動きを止めさせる。

 

「フリーズ」

 

「ちょ、ちょっと待ってよシズ!私、私だよ!?アウラだよ?!」

 

 唐突に突きつけられる離れた銃口に驚いたように両手を挙げて動きを止める。

 

「そうよん、私はニューロニストよぉん!?」

 

 水死体の様な不健康そうな青白いふやけて垂れ下がった肌、頭部が蛸というよりは水母の様な形に膨れ上がったニューロニストも同じように両手を上げる。

 

「……それは分かってます。スズキ様に「普段通りの仕事」を任されていたはずではないのですか?」

 

「その!モモンガ様をパンドラが殺すっていう異常事態を発見したからそのことを報告したくて!」

 

 うん、パンドラは何をしているんだろうか。

 とりあえずモモンガさんの名前を聞けたから問題はないか。

 あえてモモンガさんをアウラのように様付けせずに呼ばずに反応を見てみようか。

 

「そのモモンガさんに連絡は?伝言(メッセージ)とかあるんじゃないの?」

 

 案の定アウラから殺気が放たれ今にもこちらに掴み掛らんばかりの憤怒の形相をしている。

 覚悟はしていたがやっぱりこうなる、か。

 

「モモンガ様だろう!人間!」

 

 感情のままに大声を上げるアウラをしり目に人化の指輪を外して、ガーネットの姿に戻る。

 

「アウラ?俺がモモンガさんを様付けにしなきゃいけないのか?」

 

 俺は認識阻害の指輪は付けていない、だから普段の気配そのものと変わりはしないのにアウラは殺気をこちらにぶつけてきた。

 スズキさんの読み通りシズやパンドラのように覚醒してないNPCは危険だということが証明されてしまった。

 俺の姿を見て興味津々にビスや真空管に視線を向ける早乙女博士とは真逆のように身体を震わせるアウラ。

 

「あ……あ……ガ、ガ、ガ……」

 

「ガガガガオガイガー?」

 

「ガーネット様ぁぁっ!?あ、あ、あ……」

 

 不敬をしたとかで絶望しているのがよくわかる表情をしている。

 

「うん?そうだよ?至高の御方とお前たちは呼んでるけど、俺たちはそんなもんなんだなぁ?なぁ、アウラ?」

 

 この世界に来てすぐにスズキさんが不敬をしたからと自殺しようとすることを禁じているから、アウラは自刃することを選べない。

 

「お前たちの忠っていったい何なんだ?至高の御方と言いながら、俺たちの好みをどれだけ知ってる?俺たちの趣向はどんなものだ?なぁ、俺たちの役に立ちたいと言いながら任された仕事を放り投げて新しい仕事が欲しいってのは本当に忠誠なのか考えたことはあるか?」

 

「えっと……えっと……」

 

 アウラは距離があるもののこちらからの質問に答えられず目が泳ぐばかり。

 

「俺たちアインズ・ウール・ゴウンってギルドは社会人の集まりで皆それぞれに仕事を持っていた。仕事をしてお金を稼いで生活をしていた。さて、上役であるスズキさん……モモンガさんがお前たちには外の仕事は力不足で任せられないと判断して仕事の継続を命じたのにも関わらず、お前たちは今の仕事は役不足だと言ってるわけだ」

 

 これ普通に考えるとよっぽどの能力がないと通るわけがない上甲になるわけだが、なんでNPCは通ると思っていたのか。

 

「で、でも私たちも至高の御方のお役に立ちたくて!」

 

 目に涙をためて訴えてくるがここは心を鬼にして自覚させる必要があるんだろう。

 

「役に立つ行為はどんなものか、自分で答えは出せるか?ただ命令に従うなんていうのは初歩の初歩で当たり前のことだぞ?」

 

 アウラの褐色の肌が見てわかるほどに血の気が失せるように青くなっている。



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episode.10「ゲッターロボと生身対戦」

前回のあらすじ
早乙女博士合流
ガーネットさんものっかる
をお送りしました



 現在変形合体を経由してゲッターライガーとなりそのパイロットをシズがしている。

 向かう先はこの世界で作られたというマシーンランドのあるリザードマンの集落であり、向う目的はそのマシーンランドの整備施設でゲッターマシンを改修するとサオトメ博士から説明されている。

 

「しかしよかったのかね?ガーネット君……いや、高良君と呼んだ方がいいのか?君のマスターを置いてきたのは」

 

 それぞれのコクピットで通信が通るようにできたのでわざわざスピーカーを介して大声で話さなくてもよくなった。

 脳波学習装置様様であるが惜しむのはそれが現状一つしかないことであろう。

 

「……どちらでも問題ありません。学習装置が一つしかありませんでしたので……」

 

「ふむ……三人を説教していたニース君が恐かった……というわけではないのじゃな?」

 

 シズは見えていないながらも何も言わずに目をそらす。

 

 

 

 時はゲッターロボで出発する前、物見櫓から見ていた黒ゴブリンからの通報によりニースがやってきて、ガーネットとニューロニストが座らされ、その辺りでパンドラがやってきたのだがすでに事情を聞いていたニースに三人そろって正座させられる。

 

「子供を泣かせるほど虐めるのは大人としてどうなんですか?」

 

 ニースの顔は笑顔だが本来笑みとは攻撃的なものであり、というのはいまさら言うまでもなく。

 普段あまり怒らない人が怒る時、それが恐ろしいということを今回三人とその周りに居た人たちが思い知ることになる。

 

「えー……スズキ様の計画に必要な一環でありまして……」

 

「スズキさんの計画が子供を泣かせることなんですか?」

 

 正座したパンドラのハニワ顔に真正面から見ながら先ほどのアウラが見せた殺気が微風(そよかぜ)に感じられる様な怒気が集約されてパンドラに叩き付けられていく。

 

「いえ……それは、過程として必要と言いますか……」

 

「それは本当に必要なことだったのですか?三人がかりで子供を泣かせることが?」

 

「えぇっと、ですね。必ずしもそうとは……」

 

 怒気に呷られてしどろもどろになりながら返答しているパンドラとそんな怒気の余波に中てられてニースに庇われしがみついていたアウラも泣き止み……むしろ恐怖で涙が止まっていた。

 そんな怒りの渦の中にいる人は全身から嫌な汗が出ていた。

 本来であればこの正座の列に加わるはずであるシズはサオトメ博士から脳波学習装置を付けられジャガー号に乗せられていた。

 

「……何かが頭の中に……早く……急がなければ、間に合わなくなる?……」

 

 頭の中にゲッターロボの操縦のしかたとは違う別の何か、翡翠色の力強い何かが脳波学習装置というよりもゲッターロボから伝わってくる情報にシズはやや混乱しながらもゲッター線というものとの会合をしていた。

 

「……なるほど……ゲッターとは、大いなる意志とは……時天空とは……デウス・エクス・マキーナに至る為の過程……」

 

 ジャガー号の中でぶつぶつと呟き始めるシズだがその様子を見てサオトメ博士はニースに声をかける。

 

「どうやらゲッターロボの修理を急ぐ必要があるようじゃな。すまんがシズのお嬢ちゃんは借りていくぞ?」

 

「むぅ……シズさんにもお話をしておきたかったのですが、何かしらの信託の様なものでしょうか?でしたら仕方ありません。私も神官という職に身を置くのですから、それが確かなものだというのはわかるつもりです。シズさんをお願いしますね」

 

 しかめっ面をし、しばらく目をつむって考えるが溜息を一つついてサオトメ博士に任せることとした……その時にニースも何かを聞いたのかもしれない。

 

「えぇ……この世界が黄身、敵はそのさらに外、ですか」

 

 

 

「それで、何を見たのかね」

 

「……この世界を……いえ、敵の姿を例えるなら。この世界は黄身であり無限に広がろうとする白身があって……その白身が他を侵食しないように殻が作られています。……そして敵はその白身を食い尽くして成長し殻を破ってくるのを待っている……そう感じました」

 

 シズの答えにサオトメ博士は一度思考を深め、一つの答えを出す。

 

「なるほどなるほど、ゲッター線には意志があると思ってはいたが。島宇宙論、平行世界論とも違うフラスコ世界をいくつも作る様なものがまだまだ先にいるということか……そしてゲッターはそのフラスコで育つのを待たれるまだ未完成のホムンクルスということ……フフフ、年甲斐もなく……フッフッフ……ハーッハッハッハッハァ。この歳になって挑戦者に立つというのもまた一興。まだまだゲッターは進化できるということか!竜馬、隼人、武蔵、弁慶……元気よ。必ず成し遂げて見せよう」

 

 少なくとも三百年、世界を渡り歩き探せどもかつて居た滅びた大陸にも、今ゲッターロボに再び乗るこの世界にも居なかった者たちへと誓う。

 例えゲッター線がシズの語る様な戦いへと導こうとも……否、導くというのならば再会した時にもう一度力となるためのものを創り上げると。

 そしてサオトメは信じているのだ、彼らならば導かれ再び出会うことが出来ると。

 

「見えてきたぞ。あれが地底魔王ゴールが誇る小型太陽ジェネレーター改を積んだマシーンランド……かつての面影は全くないがのう」

 

 森を高速で抜けた先に見えてきたものは巨大な空飛ぶ半球の要塞とも見えるものだった。

 湖の上にゆったりと浮かびながらも森に入り近づかなければ簡単には発見できないよう周到に植林がされた様子を見ることでも戦略眼、戦術眼に秀でたものが指揮を執っていることがわかる。

 空飛ぶ要塞というだけでも制空権を奪われる可能性が高く制空を握ることの重要さはナザリックの中でも近代戦闘に理解の高いシズだからこそその重要性を深く知ることが出来る。

 

「……やはり要塞内には航空戦力を積載しているのでしょうか?」

 

「本来であれば翼竜型のバド等を積むはずじゃったらしいが化石が見つからんらしくてな。ハーピー族たちが住んでおるはずじゃ、ゴールなどは嫁さんと一緒に地上の方でもっぱら暮らしておるな」

 

 マシーンランドの下の方には湖の畔に柱を立てた高床式住居がいくつも建てられており、村の中央には村の中央には行き来するための何かしらの装置でも設置している台座が見られる。

 

「それでどのような改修をされるのでしょう?出力が足りない感じがします」

 

「そうさな。長年温めてきた炉心に積み替えるとしようか……動かせるものがおらんのに機体だけ作るということもしたくなかったしの」

 

 かつて先にゲッターロボを造りあげてパイロットが居らずまともに運用することが出来なかった苦い記憶がサオトメの脳裏をよぎる。

 道場破りをしていた竜馬の元にプロの殺し屋などをけしかけて無理やり捕獲したり、テロ組織のトップをしていた隼人を拉致同然に引きずり込んだりしたことを思い出す。

 その当時は無茶をしたものだと一人苦笑いをこぼす。

 マシーンランドに降り立てば仁王立ちして待つリザードマンというよりは人に近い造形をした女性がいた。

 

「へぇ?こいつがゲッターロボって奴かい。なるほどこいつはでっかいねぇ……うちの宿六が負けたってのも頷けるね」

 

「む、ミランダか。珍しい場所におるがどうかしたのかの?」

 

「なーに、ちょい人の夫を伸したって奴とやりあってみたくてねぇ。ちょいとやり合わせちゃあもらえないかい?」

 

 ミランダの申し出にシズもサオトメも渋い顔をする。

 シズは時間のなさに、サオトメはミランダが機体を持つわけでもない事も知っているために。

 二人は戦うことを渋るのだが戦わないことにはこの先には進ませないとミランダの雰囲気は語っていて、従来の獲物ではないが刃引きされたクリスタルソードを抜いていた。

 

「仕方がない、ミランダが戦って納得せねば改修も不可能じゃろう」

 

 本来向かうつもりだった整備のための格納庫ブロックではなく上外部につながる通路へとエレベーターへと歩を進めていく。

 

「もうすぐというか既に、かね。お嬢ちゃん、あんたプレイヤー関連なんだろう?揺り戻しの奴も強者が少なくないからね……腕を鈍らせたくはないんだよ」

 

「シズよ……ミランダは種族バハームトを修めている剣神だ。ゲッターロボという巨体に驕らずに戦うんじゃぞ。あとは傷ついたからと気を抜くと一気に持っていかれる可能性が高い」

 

 エレベーターの扉を抜けるとそこは空を見ることが出来る闘技場のようになっていた。

 

「さぁ始めようか。開始の合図は任せたよ、アンタ」

 

「すまんな、ミランダの我侭に付き合わせるようで」

 

 コブラの様な頭部にリザードマンらしい鱗に覆われた巨躯を持つ男性が待っていた、彼が地底魔王ゴールなのだろう。

 

「これは模擬であり、お互い致命傷間近になれば止めさせてもらう。いいかね?」

 

「……はい」

 

「あぁ、それで構わないよ」

 

 お互いに左右に分かれて十分な距離を取り、その中央にゴールが双方に確認を取る。

 ゴールは双方の確認が取れたことを頷くことで了承し、片手を振り上げ振り下ろすことで生身とスーパーロボットの対戦がはじまる。

 

「それじゃあ……まずは一当てといこうかいっ!!雲身払車剣!!」

 

 回転するように繰り出されるソニックブームが真一文字にうなりをあげてゲッターロボに迫る、それを見たシズは即座にゲッターを分離させて回避行動をとる。

 

「っ!?」

 

 文字通りの跳ぶ斬撃を繰り出され驚愕の表情を思わず浮かべてしまう。

 この世界ではどれほど早く動こうと、動かそうともソニックブームを纏うような衝撃波を生み出すことは出来なかったのにそれを繰り出してきた。

 

「空に逃げたからって、安心してんじゃないよ!」

 

 ミランダの口内に火炎が灯り勢い良く吐き出され渦巻く様に収束されてゲットマシンを追尾して来る。

 

「……チェンジ、ゲッター2」

 

 火炎の渦から逃れるために素早さか信条となるゲッター2に変形合体させて速さで翻弄しようと、戦略を組み立てていく。

 

「ゲッター……ビジョン!」

 

 緩急を意識した分身の術ともいえる技を繰り出し16体に分かれて攻撃を繰り出そうとするが、それに追いつく速度を繰り出し同じくその速さに追従して来るミランダ。

 

「龍種なら鈍重だとでも思ったのかい?考えが甘いよ!皇竜九炎陣!」




ミランダ 出展:もんむす・くえすと!ぱらどくす
「ウロコ盗賊団」を率いる女首領、クリスタル装備を造るための塊を手に入れるなら戦う必要がある序章終盤の高火力ボスとして登場するが、一定条件を満たすことで仲間にすることが出来る
ドラゴン種を収めているだけあり序章で仲間になる中では攻撃よりの高バランスタイプ
盗賊の首領らしく初期状態で剣士系と盗賊系職業を高いレベルで納めており加入してすぐにでも前線に立たせることが出来る
固有アビリティで竜賊王というものを持っており瀕死時に剣技が二回発動するものなので条件を整えると破格の火力をたたき出すことになる


総合レベル:107
種族:
竜人Lv10
ドラゴンLv10
バハムートLv10
覇龍Lv10
職業:
剣神Lv15
トリックスターLv10
魔法剣士Lv10


特殊能力:翼による飛行可能、火炎無効、風系無効、火炎ハイブースター、ソードマスタリー

備考:アビリティを速度と火力に偏重したとしても従来の種族と職業の防御効果とタフネスぶりは健在、ただしMPとSPは少ないのでその辺は注意が必要


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episode.11「帰還までの一幕」

前回のあらすじ
説教される三人
時天空が何でか宇宙の外にいる
デウッさんついに発見される
をお送りしました


 アインズ・ウール・ゴウンのコキュートスを倒し、その後に約束通りであるのであればアインズとやらが褒美を渡すと言っていたがそんなものはなく残されたアンデッドからの襲撃だった。

 

「やっぱり約束を守る気はなかったみたいですね」

 

『俺たちと違ってあいつはNPCを信頼しきっていたからな。負けた時なんてまともに考えてなかったんだろうよ……臆病者のよくある行動だな、脅威と思ったものを排除しようとする、その為なら前言も撤回するし虚言も吐くんだろう。敗北を受け入れるという器の大きさを見せることもせずにな』

 

「うーん、噂に違わぬ極悪ギルドだねぇ。約束は反故するものという前提に動くなら信用も何もないからねぇ……」

 

 武具の揺れる金属音、骨同士がぶつかり合い乾いた音、沼地に踏み込んでくる水音、巨大なものが出現する駆動音、力の奔流という爆発音、湖から生えいずる無数の肉触手たち、化さなり甲高く響く幼女達の高笑い。

 

「分相応の結果じゃねかなって俺は思うけどねぇ」

 

「あの、それはそれとして……あの子たち?止めなくていいんですか?」

 

「もー楽しそうだし、ほっとく方がいいんじゃないかなー……少なくともあの中に突っ込む勇気はないよ。ぼかぁ」

 

 森林の木が根こそぎ吹き飛びその合間合間に砕けた骨がちらほらとみられる。

 閃光が走ると寸断されたアンデッド、ナザリック・オールド・ガーダーが寸断されて吹き飛んでいく。

 触手が振り回されて骸骨が圧殺されていく様がそこかしこで見ることが出来る。

 黒い雷が幾条も迸り地から天へと昇る地獄と化している。

 

「本来ならスケルトン系って雷撃や暗黒系って無効化するはずなんだけど……もう属性が何かすら考えたくないなぁ……」

 

 サトル自身がその種族であることからその特性を良く知っているのだが、眼前の蹂躙劇はその理解を超えていた。

 

「ふぅむ。あれは地獄の雷(ジゴスパーク)だろうか?暗黒系というか別の系統なのだろう……いうなれば地獄属性とでもいうべきか?」

 

 顎に指を這わせ使われている魔法に属する攻撃をそれぞれに調べているデイバーノック。

 唖然とした様子でこの蹂躙劇を見ているエンリ、あまのま、ベルリバー。

 

「自分で言ったことも守れないなら、どうされたって文句は言えないわよねぇ。悪人に人権無し、本当にいい言葉だわ……アーハッハッハッハッハ」

 

「契約、破る、駄目、絶対。報復、実行……ウフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ」

 

「このゼオライマーなら!破壊の為じゃない!守るために!今度こそ、この力を守るために使うんだ!」

 

「溜まってるストレスは適度に発散しないとダメね。壊してもいい玩具があるのは本当に丁度いいわ」

 

 暴れる幼女に混じってゼオライマーも骸骨たちをちぎっては投げちぎっては投げと消し飛ばしている様ははた目から見るとどうしてこうなったのか、頭を悩ませるだろう。

 腕の光球から放たれる光線はアンデッドだけを選んでいるのか他を破壊することなく、リザードマンの村を包囲していたアンデッド達の反応が次々と減っていく。

 

「まぁ、マサキ君も……何かしたいことがあるなら手伝いますか」

 

 高笑いの間に聞こえる少年の覚悟の言葉を聞きながら、力に振り回されてきたことはなんとなく想像がつく、その力をこの先貸してもらえるなら何よりだろう。

 俺の力も仮初のものと考えて土台にすることは考えてもその力に振り回されてはいけない。

 帰るころにはスズキさん考案の訓練が始められると思うけど、そこで何か掴めると思いたい。

 

「いや止めてくれないのか……?」

 

 シャースーリューの呆れた様な声が聞こえてくるが、ベルリバーさんじゃないが俺もあれに飛び込んでいく勇気はない。

 

 

 

 そしてしばらく……五分ほど経過したころには湖周りは禿散らかし地肌の見えている地面が広がっている。

 木々はなぎ倒され、ここに来る前まで青々と葉を伸ばし自然が綺麗だったひょうたん湖はたったの五分で見るも無残な木々の瓦礫の山と化してしまった。

 

「……<天地創造(ワールド・クリエイト)>で直しますか……」

 

「あ、以前したことがあるの知ってるから俺にやらしてくれね?超位魔法の仕方も経験しておきたい」

 

「まぁ、これは仕方がないよね……流石にこんな破壊規模に到達するだなんて思ってなかったもん」

 

 そう、目の前には巨大なクレーターがいくつもできており火こそ起きてはいないがそれはもうひどい有様だった。

 木漏れ日のさしてあのリアルからすれば幻想的な風景だったあの森はもう戻ってこないだろう。

 天地創造で作り直すとしても、あくまでその人の想像からしか創り上げられることしかない、剪定を前提とした世界であってもここで暮らしている人たちがいることに違いはない。

 動物たちは戦いが始まる前に逃げていることを願おう。

 ベルリバーさんの周りに魔法陣が立体的に展開されてゆっくりと時間が進んでいく中、湖の上に翡翠色の渦が生み出され、渦はこちらから見て徐々に楕円形の形に固定されていく。

 その中から赤い巨大な指が現れて翡翠色の楕円形を無理やりこじ開けるように力を込めて空間がきしむような音を響かせながら、肉を指で引きちぎるような音を響かせながら広げてゆく。

 その様子を見て全員が新しい戦いかと身構えながら緊張した様子を見る。

 だがそんな皆とは裏腹に聞こえてくる声は何かに耐える声だった。

 

「はっ!こいつがゲッター線って奴かい!頭の中でギャーギャーうるさいんだよ!黙って、私の下に就きなぁ!!」

 

 叫びと共に割れる音が響けば空間そのものがひび割れて割れた空間には翡翠色で満たされていた。

 その空間の前に空を飛びマントをはためかせて佇む、ゲッターロボを少しスタイリッシュにしたような巨大ロボットだった。

 

「で、全員いるのかい?シズ」

 

「えー…………すみません。リザードマンばかりで見当たりません」

 

「なんだい。それじゃここは外れかい」

 

「「「まってまってまって!?」」」

 

 引き返そうとしているゲッターロボ?に慌てて大声を張り上げて引き留める。

 リザードマンの姿から俺とエンリ以外は変身を解いて異形種の姿に、俺とエンリは人間の姿に戻る。

 

「サトル様とエンリ様、それと死獣天朱雀様、あまのまひとつ様です……そちらのアンデッドは知りませんが……超位魔法の準備に入っているのはどなたなのでしょうか?」

 

「何だ居るんじゃないか。それじゃとっとと……ここはひょうたん湖ってことは……」

 

 ぐるりと周りを見て現在ゲッターロボを操っている女性は言葉を止め絶句する。

 

「今!今、元に戻すための魔法使ってますから!」

 

「本当に戻せるんだろうねぇ……?嘘だったら……」

 

 ゲッターの肩から片刃斧が飛び出しそれを握り締めてこちらに向けてくる。

 

「わかってるんだろうね」

 

 そんな殺気満載の言葉にさらされながらリザードマンたちをポ魔城に入城させ、コキュートスのドロップ品をどうするか頭を悩ませていた。

 普通に落としているアイテムは全く問題はないのだが問題のアイテムが一つ転がっていた。

 

「幾千の刃……」

 

「ワールドアイテムだねぇ……」

 

「設定的に世界に一つのアイテムだからどうしたものだろうか」

 

『生命ならおそらく融合するということは、管理者の塔を出た時に確認済みだが。アイテムはなぁ……設定的に怖いものがあるぞ』

 

 いつの間にそんな確認をしていたのか。

 

「なにが問題なんでしょうか?」

 

「ふむ……唯一無二のものの二つ目が手に入る可能性があるのであれば試してみるべきではないのか?仮に失敗してもどちらか一つが消えるだけではないのだろうか?」

 

『サトル、マサキ君にワールドアイテムの共通の概要を説明すれば、多分教えてもらえると思うぞ』

 

 そんなことを言われても俺にはちんぷんかんぷんなのでマサキ君に素直に説明をしてみる。

 曰く、かつて咲き誇っていた世界樹の葉は一つ一つが世界そのものであり、ワールドアイテムはその葉が変じたものであること。

 曰く、ワールドアイテムはそれぞれ二百存在しており、ワールドアイテムは世界を内包している。

 

「あー……あー……最悪の場合、二つの世界がぶつかり合ってビックバンが起きる……最悪の次点で単純に世界が崩壊します」

 

「マサキ君はそういった知識はどういった経緯で?」

 

「ゼオライマーで戦うために何ができるのかを知る為に調べていたのですが……」

 

 一度言葉を濁して途絶えるが、言いにくい事なのだろう。

 

『ゼオライマーが両手を合わせる行為で爆発させることが出来るんだがな……ビックバンを起こす方法として上げられてるのが反重力装置を互いに合わせることで起こせるという、現在机上ではあるがそういった理論があったと思う。反重力装置が出来てねぇから机上の空論もいいところだけどな。ただ超新星爆発(スーパー・ノヴァ)の理屈は解明されてるから、それの巨大な……それこそ宇宙規模のものがビックバンなんだろうな』

 

「(なんだか難しい話っぽいのが始まった……)」

 

 俺は貧困層出身で小卒の知識しかないんだ、そんな難しい話されても分からんぞ。

 

「ふむふむ、そんな考え方もできるわけだね。それじゃ僕は反対に一票」

 

「なんとなくわかるようなわからんような……ただ失敗のリスクがでかいのは分かったので反対で」

 

「では、俺も反対で」

 

 とりあえず皆が反対しているので便乗して反対に入れておく。

 惜しい気はするけども、爆発オチには巻き込まれたくない……でも、クリムゾン・ノヴァ位ならワンチャン耐えれるんじゃなかろうか……いや、他の人も巻き込むし……俺だけなら拾って帰りそうな気がする。

 反対が今居るギルメンの過半数を超えたので持ち帰らないことに決定。

 

「もしかしたらカルネ村で爆発が起きちゃう可能性があるので私も持ち帰るのは反対させてもらってもいいですか?」

 

 エンリも小さく手を挙げて意見を言ったところで森のあった場所が光に包まれ始める。

 倒れた倒木には苔や堆積した土から根を張ったのか草花が生え始め、荒野に波紋が広がるように木々が成長していき森が再生されていく。

 




ベルリバー=シャースーリュー
あまのま=ゼンベル
エンリ=クルシュ
サトル=ザリュース
デイバーノック=キュクー
死獣天朱雀=スーキュ
この編成でコキュートス戦をしていた
マサキ、ムジナは村で念のための防衛(コキュートス後のアンデッド対策)
幼女が暴れたのでムジナは影に戻っている


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episode.12「遥か果ての未来」

 ゲッターロボは三人乗りであり既にミランダ、シズが乗っているため他のメンバーにもポケット魔王城に入ってもらい先にその中で危険がないか、またリザードマンたちの安全を確保してもらう。

 サトルは三人目としてジャガー号のパイロットスペースに入り込む。

 そして緑の渦を抜けた先には広がる闇ばかり、星々は見えず闇の奥、確かに隔てられた薄膜の先に何かが蠢いていた。

 それはかつて見た、力を授けた存在とは違うもの。

 ただ多様な性質を持っているようには感じられた、力を授けたものは純粋にただ一つを極めたもののように感じられたのに対して、目の前のものはありとあらゆる様々なものに手を伸ばしただ欲したような悍ましい存在。

 ただ違和感を感じる。

 

「なぁ……俺にはこいつが敵に見えるわけだが、何で敵だと思うんだ?」

 

 頭の中に響いてくる。

 

『殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ』

 

 殺意に満ちた声で頭の中をかき回そうとしてくる。

 

『敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ』

 

 敵を剥き出した鼓動が幾何学模様となって表れる。

 

『壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ』

 

 破壊衝動は翡翠色の光となって機体の中を満たしていく。

 

「「『喧しいぞ、黙ってろ』」」

 

「………五月蠅いです」

 

 三者三様、四者四様になんか勝手に動こうとする身体を一喝の元ねじ伏せる。

 翡翠色の光はなりを潜め、レバーから伸びていた幾何学模様も手の平程度に収まっていた。

 頭の中に響いていた声も止まって、目の前の存在が敵と認識していた意識が薄れていく。

 

「ミランダさんはどう見ます?」

 

「んー?格付けはしておきたいねぇ……なんてぇか、力があるばっかりに何も教えられてねぇ子供って感じかねぇ。ガツンとやれるのは知らせておかねぇと駄目だと思うぞ」

 

 そう違和感を感じていた。

 そういう存在だからと廃しようとされたことがある俺だから気付けた。

 異形種だから殺してもいいとPKされた経験があるからこそわかる、欲し手を伸ばしたのか、知らずそう在ったのか、それはわからないが結果としてゲッター線の生みの親が敵視する現状になったのだろう。

 目の前のこいつはゲッター線を、ゲッター線だという理由で恐れた。

 

「そうですね。それは必要だと思います、こいつは本質的に求めるものでしょう……そこに我慢を教えるに叱れる相手が必要だと思います」

 

「……はっはっは、いいねぇ。こいつを仲間にしようってのかい」

 

 一瞬、間があったと思えば笑い声と共にこちらの考えを読んでくる。

 

「えぇ……ゲッター線の思い通りに動くよりは、面白そうでしょう?それとは別に……良く俺の考えがわかりましたね?」

 

「あぁ、そいつはね。ルカの奴に似てたからさ……あいつも一回誘いを蹴ったのにしつこくてねぇ。部下たちまで引き込んで誘ってきたのよ。そん時に雰囲気が似ててねぇ、なんとなくそんな感じだと思ったのさ」

 

 まるで遠い昔を懐かしむように話を聞かせてくれた。

 ルカ、確かルシファナさんの息子さんだったような気がする。

 何か重要な立ち位置な人だったのだろうか。

 

「それとゲッター線の思い通りにさせねぇってのはいいね。進化進化ほざいてながらゲッター線(こいつ)は進化するのかよ、進化してんのかよってな……口うるさく気に入らねぇドブ川を思い出させんだよ。人のことを蜥蜴とか言いやがってよぉ……俺ぁドラゴン族の竜人だよ腐れ根性の弱腰ダ女神の大食らいの極潰しの分際でよぉ……」

 

 何か話の方向が違うところに行っている気がする。

 

「しゃあねぇ……今こいつに勝つことは出来そうにねぇからよ。この怒りで空間に穴ぶち開けて帰んぞ」

 

 怒りに震えるように力を込められた叫び声がゲッターロボの中に響き渡る。

 

「ゲッッッタアアァァァァァァァッッ!!」

 

 叫び声に応えるようにゲッター線がゲッターロボを駆け巡り炎のように噴出していた。

 

「ビィィィーーーーム!!」

 

 空間に撃ち込まれ水面に波紋が広がるように翡翠色の面が広がるのだが、それはサトルたちの元に来た時のそれとは大きさがひどく違っていた。

 その大きさはゲッターをはるかに超えゲッターの数十倍という大きさに広がった。

 

「……ミランダさんとの二人で開けた時よりも広いです。高さゲッターロボの約21倍(約1.1㎞)幅62倍(約3.3㎞)……大きすぎないでしょうか?」

 

「とりあえず、帰りましょう」

 

 潜る為に進もうとしたとき、不意に通信が入ってくる。

 

『待って待って!!ちょっと待って!!ぷりぃーーーーづ!』

 

 それは若い女性の声であからさまに慌てているような様子が聞ける限りでわかるのだが、少なくとも見渡し視認できる範囲では声の主らしい存在は確認できなかった。

 その声の主は確認できないまま潜るとリザードマンの村が眼下に映っていた。

 ことはなくどこかコロシアムを思わせる円形の闘技場のような場所に出ていた。

 

「え?何此処?」

 

「ん、無事戻ってこれたねぇ」

 

「……無事戻れました。ゲッターQの組み立ても進んでるようです」

 

『ぬぁぁぁぁーーーーーーん!!ようやく着いたぁぁっ!!』

 

 着地した直後、開いていた孔から放電のような音を響かせながら紡錘形の巨大なものが孔をくぐってきた。

 それの色は黒く、漆黒色をした建造物ということだけはわかるものだった。

 それを知るものは一人しかおらずその警告は即座に発せられた。

 

生体殲滅艦(システム・ダークスタぁー)!?星を軽く滅ぼすとかふざけんじゃねぇぞ!?』

 

 それはスズキさんからの声であり俺だけに届く。

 

「マサキ君!ゼオライマー準備!ミランダさんすぐに戦闘準備を!」

 

 まだすべては出ていないもののそれはただ巨大だった。

 20km戦艦・闇を撒くもの(ダークスター)デュグラディドゥ、またの名をヘカトンケイル。

 この世界におけるスーパーロボット大戦が始まろうとしていた。

 

『しかし、小説ならヘカトンケイルは拠点だったはず……どういうことだ?それに声は無機質なものだったはず、あれはミリィのように聞こえたぞ……』

 

 

 

 ミサイルハッチが開き雨のように降り注ぐミサイルをゲッタートマホークで破砕しながら近づこうと試みるが接近を阻むように的確なレーザーで邪魔をされる。

 

『最低でも惑星一個丸々殲滅できるだけの火力があるはず……なんだこの違和感は……』

 

「ちぃ!うざったいねぇ!シズスピードでかく乱しな!」

 

「ちぇんじ、げったーつー」

 

 即座にミサイルの雨を躱しながらゲッターツーの姿に変わり、ブースターを吹かして接近するためにドリルを先に出しながら突撃していく。

 スピードでかく乱しながら接近する後ろにゴールが蝙蝠の様な翼を広げそれに追随して来る。

 

「ふん、巨大な敵。インベーダーの様な星海からの侵略者か!」

 

 爪を伸ばし迫りくるレーザーを切り裂きゲッターの進む道を創り出す。

 

「ゆけい!我はゲッターに、武蔵に負けたのだ!ならば勝者への道を切り開くのみ!」

 

 火炎放射で後顧の憂いをなくすようにミサイルを撃ち落としていく。

 

「はっ!流石うちの旦那だ。いくよ二人とも!チェンジッゲッターワン!」

 

 ゲッターワンに変形合体し、ゲッタービームを撃ち出し即座に分離する。

 

「ちぇんじげったーつー。ドリルハリケーン」

 

 ドリルが唸りをあげて回転数を上げ続けることで翡翠色の光を伴った竜巻が戦艦を揺さぶる。

 

「チェンジゲッタースリー!グラビティ・メイルシュトロォォォーム!!」

 

 重力の渦がダークスターの装甲を削り取っていく。

 

夜よりもなお深きもの(あなたにとっては一瞬でしょうが、) 混沌の海よ(こちらでは永遠です) たゆいし存在 金色なりし闇の王(理解出来ましたか?) 我ここに 汝に願う 我ここに汝に誓う(事象の地平に消え去りなさい) 我が前に立ち塞がりし すべての愚かなるものに 我と汝の力もて 等しく滅びを与えんことを……重破斬(ブラックホールクラスター)…発射!!』

 

 重力の渦は収束していき、光を飲み込み始め加速度的に周りの物質を吸い込み始めていきその射線からのものを削り取っていく。



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episode.13「闇を撒くもの」

前回のあらすじ
時天空にあってきました
ダークスターが来ました
投稿するのを忘れてました
をお送りしました


 確かに自分が全ての母であるロードオブナイトメア様に挑んだことが発端ではあるのだが、その挑んだのはいわゆる平行世界の存在である為、誠に遺憾である……他のも龍神側に負けたとかなどなので、勝てる世界というものが少ないのだろう。

 それはともかく、エル様ことロードオブナイトメア様からの呼び出しの御声掛けがあって早数日……

 

『あの宇宙の外を覆ってるのなーに?おかげでそっちに行けないんですけどぉーーっ!?』

 

 制限時間は五分?どう頑張っても無理です。

 星雲の中ほどから太陽系に航行するのでも数日はかかるんです、宇宙の果てを使う異世界渡航は自分でも数日かかるので……

 

『エ?ア、ハイ……武器のほとんどを豆腐に変えて置いた?……シクシクシクシク』

 

 言い訳が通じるわけもなく、Sのように死ぬよりはましだろうか。マシなのか?

 それよりも平行世界の自分はなんでSを取り込んだだけで勝てると考えたんだ?確かに強くはなったのだろう強くはなっても……わかってるだけで四の魔王と四の龍神を創り出した全ての母に四分の一の戦力でなぜ勝てると思ったのか、これがわからない。

 

『挑みに来る子がいるから足になるよーに。あ、ついでにあなたも他の世界線で挑んできたんだからあなたも参加しなさい』

 

 そして逃げ道を塞がれました。

 自分はこの世界線にて黒龍神に勝利した……それに満足していたのだ。

 それで満足していたのだ……なんで世界をさらっと滅ぼしかねない五体に戦い挑むことに?

 そんなバカなことを無意味に考えながら、とりあえずこの世界から言われた世界に向かおうかと考え彷徨いながら、探査をしていたら唐突に空間に穴を開ける存在を確認することが出来た。

 何か赤い点のようなものが存在し、緑色の光を宇宙空間に照射するとなんでか異世界へとつながる穴を開けていた……いや、なんで?

 そして開けた何か小さな……一応50mサイズはある何かがこちらも通れそうな穴を開けてくれていてその穴を通過すると、閉じ始めているようだ。

 

『待って待って待って、ぷりーーーーーづっ!?』

 

 ロードオブナイトメア様から精神構成が女性デバイスに変更されているせいか、焦ったり慌てたり混乱すると精神性が突発的におかしなセリフが音声デバイスとして発生されてしまう。

 自分は本来、黒幕ポジなのでは!?

 SAYブースターは本来、生命体の気合的な根性的な精神的エネルギーっぽいものを燃料に、爆発的な加速エネルギーや物理的エネルギーに変える物で、生命体が載っていない無人戦艦である自分では使えるものではないのだが、女性デバイスに変えられた際にロードオブナイトメア様の新しく作り出した精神世界に接続されているのか今の自分にも使用が出来るようになっている。

 そのSAYブースターを使用して急いで開けられた穴を潜り抜けたのだが、何でロックオンアラートが鳴ってるんです!?

 

『あ!?穴開けて送ってくれた奴!?味方じゃないの!?何で攻撃されてんの!?』

 

 何で襲われているのか謎のまま……現在ダークスターシステムは機能してないことは確認済み……急いで使える武器をシステムから検索するが近接用の小型クラスターミサイルとレーザー砲台位しかなかった。

 自分に対して数十分の一という小型を狙うには難しく、赤いのは素早くたまに分離して別の白いのや黄色いのに変形合体してやたらめったらに打ち込んでいるクラスターの雨を回避しながら近づいてくる。

 その後ろから巨大化した現地の生物っぽいものも飛来しミサイルを火炎放射で粉砕していく。

 

『何この現地生物、怖い』

 

 しかも下からも何やらビームを照射して来るのが居たりと、自分罠に嵌っちゃいました?

 焦りながらもこのちっこい人?ロボット?現地生物も同じような大きさだからちょっと自信がない。

 

『どうしよう……』

 

 応戦してしまったので既にこちらから止める手段はなく、どうしたものかと悩んでいるとさらに小さいものが時速数百キロというくそ遅い速度で近づいてきているのが……あ、宇宙規模じゃなくて地表規模だと十分早いのかな。

 何か重力を発生させて表面装甲を剥がされたりしている最中、ロードオブナイトメア様の力を微弱ながら感じそちらに視線を向けると、金色の魔王の呪文を唱えられていた。

 

『絶対痛い奴だから止めて?止めて!止めて!?のーーーーっ!?』

 

 そんなもので打たれる前に頑張ってミサイルを撃つシステムを止め抵抗をやめて興産の意を示そうと慌てながら来るはずの痛みに備えて目を閉じながら(エンジン)を潜める。

 ゆっくりと着陸しながらも魔法が完成したらしい。

 

『…………あれ?あんまり痛くない?』

 

 問答無用で消滅させられるくらいは覚悟していたのだけど50mくらい削れたけど、思ったほど痛くなかった。

 鋼鉄製のスレッジハンマーで殴られると思ってたら、木の棍棒だった感じ。

 ついでに何か白い人?なんか生命反応ないけど鎧の人だよね?がやってきた。

 

 

 

 アリスにサトルたちの話をしてみたら、サトルたちのことを知ってるみたいで「協力を仰いでみたら?」なんて言われてサトルたちを探してたら、トブの森の方で何かすごい音が聞こえてきたから見に来てみれば、なんだかよくわからない黒色の巨大な建築物が空を飛んでて、なにやら地面に接触すると爆発する筒のようなものをばら撒いていた。

 

「ちょ!?これはいったいどうなってるんだい!?」

 

 誰か僕にもわかるようにも説明してくれないかな。

 

 

 

 ギガ・スレイブにブラックホール・クラスターを重ねてみたが……威力は高いが範囲が狭いのか思った以上にダメージを与えられた様子がない。

 なのに何故ダークスターは着地をしているんだ?

 まともな攻撃がミサイルしかなかったことが関係しているのだろうか……なぜそうなっている?この出会いが仕込まれているなら誰が仕込んだ?考えられるのは例の四人の誰か、もしくは全員の総意か。

 ここはゴールが居ることからデイバーノックの言っていたリザードマンの村ということはわかる。

 だがランテルに俺たちは居たはず、あそこがタルタロスだったとすれば俺たちはランテルの宿とは言わないが付近に出るはず……ゼオライマーが何かしらをした?

 何か重要なピースが欠けている気がする、ゼオライマーのパイロットであるマサキ君が乗り込んでいないにも関わらずあの時ゼオライマーは動いていた、動くはずがないのにだ。

 ゼオライマーを動かせる何者かが存在している、と考えておくべきだろう。

 何が目的で、何の為に、ゼオライマーを動かした?ゼオライマーが動いた結果平行世界であり剪定予定の世界のリザードマンの村にいた。

 ではゼオライマーはそのために存在しているのかと言えば否、少なくとも他にも目的があり、別の必要性があるはず……移動させるだけであればゲッターがあるのだから。

 ゲッターロボであればゲッター線の意志で勝手に動いたとしてもそこまで不自然ではないし、現にゲッターロボでの移動が可能だった、だからゼオライマーで無ければならない理由にならない。

 リザードマンの村に移動させるために移動させられた、リザードマンの村で起きることにこちらを接触させる必要があったから……もしくは本来のモモンガを見せるため、か。

 その過程でゼオライマーと接触、そして移動した……移動できることが重要なのか?何の為に?ゲッターロボと合流させることが目的だとすれば相互の強化の可能性もあるが、派生先で考えられるのはグレートゼオライマーだが……あれは大本のゼオライマーでは派生しない筈、しない筈だが……美玖がカタカナのミクの方であれば、グレートゼオライマーが存在する、ということになる。

 こちらの戦力の強化が目的?それが目的だとすれば何の為に?挑むこと自体に意味があるとでもいうのか……俺の知るアザトースであればそういった遊びをしそうだとは思うが、いや意味があるとすればなんだ?超えさせる、超えることが目的である?少なくともあの三人の妖女の姿になる前に対峙させた意味とは符合する。

 対峙するのに世界のキャパに余裕がある世界を創り出した、こちらでは分霊でも耐えられないということ、逆を言えばこちらの世界はキャパいっぱいまで使われている?使う必要があったとすれば強者を集めること、集わせて一つの目標を持たせること、一つの目標に進ませること……リーナを殺してしまえばこちらが詰む可能性が出てきたか。

 そうなるとモモンガを殺してはいけない理由は何か、仲間に引き込むか何かしらの強化に使用されるのか、DQ(ドラゴンクエスト)6で夢の自分と現実の自分で融合することで強化されることはあったが……平行世界の自分同士でそれが起きるのか?それならまだ仲間にしろという方が現実的ではある。

 時天空が居た理由は何か、アザトースやアポトーシス、ロードオブナイトメアであれば時天空に屈してビックバンを引き起こし仮初の世界を造る、ということにはならないだろう。

 カオスは名前しか知らず、どれだけのことが出来るのかはわからないが他の三名と同クラスと見た方が建設的か。

 ダークスターの出身であるロストユニバースはSF(スペース・ファンタジー)寄りの内容だったが宇宙船の大きさや空気圧縮の問題、軌道エレベーター等が端折られていた気がするな。

 だがSFらしく銀河を股に掛けるほどに技術が発展してもいた、出会わせることも目的として組まれて居たなら、仲間に加えろということか?

 偶然はなく、すべては必然である……理不尽の権化たちが作り出した遊戯盤の上で右往左往しているというのであれば、これもあいつらが打ち出した手の一つということ、少なくともただの偶然の産物と考えない方がいい。

 人知を超えた怪物相手の考えをある程度は知る必要がある。

 出来ないのか、しないのか、それはわからないが少なくとも問答無用で滅ぼしにはかかっていない事が現実だ。

 現実を見ろ、妄想に縋るな。

 

『悪い、慌てたせいで選択を誤ったかもしれん……ダークスターに会話を試みてみよう』

 

 何を求めているのかはわからない、結果もある種意図せぬ偶然的なものかもしれない。

 下の世界が(うつつ)だとするなら、穴が開いているこちらが()の大地……タルタロスは繋げるための大穴であり、夢を封じたものがいるということになる……DQ6と同じならば、だが。




ドラゴンクエスト6~幻の大地~ 出展:ドラゴンクエストシリーズ
1995年にスーパーファミコンを筐体にエニックス(後のスクエアエニクス)より発売された、SFCでの最後のドラクエ
天空シリーズの第三作目に位置する、このナンバリングから「ふくろ」が登場した
またDQ3以来の転職システムの登場ともなる、上位職が存在しそれらの上位職下位職は多くのシリーズに継承されている(一部隠し職業は継承されなかった)
DQ6での主人公は村人で始まり、精霊の啓示を受け旅に出ることとなりその道中で仲間たちに出会い大地に空いた大穴の謎を解いていくうちに主人公の運命というものを知っていくこととなる
リメイクはニンテンドーDSにて2010年に発売されている


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episode.14「戦いを終えて」

前回のあらすじ
ダークスターのお話
ツアーもやってきた
ダークスターとバトル
をお送りしました


 リザードマンの村で最も大きいゴール宅に集合し、ダークスターがなぜここに居るのか事情聴取をしていた。

 ダークスターはなぜかホログラム技術を使いミリィの姿になっていた。

 

『そこは普通アルバードの姿なんじゃねぇのか……』

 

「ふ、ロードオブナイトメア様に遅刻を理由に強制変更されたわ」

 

『あぁ、この世界の部下S枠になったのか……さしずめ部下Dとでも呼ばれてるのか?』

 

「ズバリその通りよ。泣いてもいい不憫枠だと思うのよ……シクシク」

 

 二人の会話で進んでいくのだが、俺の声が聞こえないということを失念して居たところ、シズが悟君に質問を投げかけた。

 

「……何かを話されているようですが……メッセージを受けている人を眺めているようです。……サトル様に通訳をお願いします」

 

「あー……了解了解。他のNPC達もこのくらいで接してくれていれば敬遠もしないんだろうになぁ……。えっと通訳だったっけ、何で強力な武器を使わなかったのか……かな?専門用語が多くて自信はないけど、サイブースターとかなにそれ?」

 

 通訳というものをしたことがないのだろう、あくまで自己解釈をしたものをかいつまんで説明している悟君を死獣天朱雀、エンリが微笑ましく見ている。

 

「武器のほとんどはトウフに変えられちゃったのよ……そうそうダイズとかいう銀河の辺境の片田舎の地球とかいうゴーストタウンになってるところで作られてたっていうビーンズを加工したとかいう味がほどんどしないすぐ崩れるよくわかんないものに変えられたのよ」

 

『それでもミサイルやレーザーなんかは健在だったのはなんでだ?』

 

「あれ、武器カテゴリの兵器じゃないもの。ミサイルはスペースデブリを壊したり進行方向から逸らすために使うものだし、レーザーだってミサイルで出てきた破片なんかを消去するためのものね」

 

「はい、質問いいですか?」

 

 ベルリバーさんが手を上げミリィに質問を投げかける。

 スペースデブリとは何ぞや?という物なのだが、知らない人からすれば宇宙ごみとはなんじゃらほい?となっても仕方がないものだろう。

 悟君達の世界はそもそも宇宙開発すらまともに進展を見せる間もなく、企業というものが国家権力を握ることになり、乱開発が続けられ宇宙開発という新規開発がされることもなく地球環境が手遅れになってしまったという状況だろう。

 

「スペースデブリってのは要はチリや流星になる前の小隕石なんかの総称ね。場合によっては廃宇宙船やそれから剝がれた装甲にペンキ、小さな部品、他には消耗品などのゴミの不法投棄が宇宙空間に浮いてるもののことね」

 

「うーん……それがなんであんな過剰な火力が必要になるんだ?」

 

「なるほどなるほど。そこからな訳ね……ぶつかった際の威力ってのは速度×重量で簡単なものが出せるんだけど、宇宙空間では空気摩擦とかはないのは知っているかしら?この世界でも発生しない謎もあったりはするけども」

 

「あぁ、その辺りはなんとか……無重力とかだから何だっけ?」

 

 ミリィことダークスターによる宇宙解説が始まりながら、外ではなぜかザリュースがクルシュと一緒にデートしてたり、ランテルから商人が行商に来ていたり、長閑な異種族間交流が進められている。

 ランテルでも違う種族でも見られた光景ではあるが、そういえばと思い出せばリザードマンはいなかった気がする、何でもリザードマンは沼地に適応していて普通の地面などではうまく歩くことが出来ないとのこと、その為よほどの理由がなければ沼地から離れることはないのだとか。

 ただ、旅人という外の世界を見に行く者はいるらしくザリュースやゼンベルがその旅人だったらしい。

 ある意味で原作の、あの世界でモモンガが作ろうとしていた異種族の交流による種族間の壁というものはこの世界においてはすでに取り払われているともいえる。

 

「スペースデブリに関してはこれでいいかしらね。こちらからも質問があるんだけどいい?」

 

「ええ、こちらで答えられるものでしたらどうぞ」

 

「うん、すっごいどうでもいいかもしれない疑問なんだけどね。モモンガ君って勝率50%って聞いたんだけど、これっておかしくない?リベンジに全部成功してて、且つ他に負けの回数が遭遇戦を上回る必要があると思うんだけど?」

 

 確かにどうでもいいが計算が謎な部分でもあるな。

 悟君の情報がWikiとか攻略情報に載ってるはずなので、リベンジ魔というのも知られておりそれも周知のはずだから、リベンジに必ず勝てる、というのが怪しくなってくる。

 ぷにっと萌えの「楽々PK術」においても、どうも聞く限り基本的には情報収集からの奇襲戦法でしかないのでこれを基軸にしているのであればなおのこと、プレイヤースキルが高い理由にもならないというのがまた何とも。

 どうにもあの本を読む限り、シャルティア戦で言ってた相手に合わせて属性を変えるとか、某狩りに行こうぜゲームだと基本じゃね?というツッコミにしかならないし、ROでもダメージ上げるのに普通にすることだからなぁ……Wiz職だとなおさら魔法を切り替えて対策にしてるし。

 むしろ弱点対策装備所持とか普通にしてるものだよなぁ……むしろ装備変更に一手使うとかの方がどうなんだ……ユグドラシル、何で十年も続けれたんだ。

 

「あー……あれって表示としては50%だったのは確かなんですよね。でもそういわれると確かに……まさか1500人襲撃の分も加算されてるんじゃないかな……?」

 

『プレイヤーが800人だっけか、それの一割でも入るなら80勝加算だからわからなくもなくなるか』

 

「1500人襲撃が有名だけどその前にも、ちらほらナザリック内で倒すのもあったからそっちも入ってるんじゃないかな?あの時期は『いざ悪名高いギルドの本拠地へ!』なノリで来る人もいたし」

 

「あーあー、ありましたねぇ。それが元で襲撃されるときに場所が割れてたんでしたっけか」

 

「昔話は一旦置いといて……」

 

 両手で横に移動させるジェスチャーをしてダークスターが本題に戻してくる。

 

「モモンガ君の戦い方って基本的に、相手の情報引き出すための舐めプ前提じゃない一回死んでもいいからっていうのが前提の」

 

「はい、PvPだとそんな感じでしたね……この世界だと普通に痛いんでそんなことするつもりないですけど」

 

「あ、するつもりがないんだったら良かったわ。懸念として死んでも「死ぬ」という生物特有のストレスに耐えられるかが謎だったし、そもそもその戦法でどうにかなるのって情報の重要性考えてないバカくらいだし、何よりも復活できる回数とか復活することで受ける減少とかあるんでしょ?」

 

「デスペナがありますね、最大レベル5ダウンっていう……リスキルされる危険なものが」

 

「スルシャーナ、八欲王がリスキルされて消滅してるらしいから、普通に危険な戦法だってのは覚悟しておいてね、復活させる手段を敵も持ってるって思った方がいいから」

 

「無欲と強欲……」

 

「回数制限あるもので回数制限デメリット無し相手に勝負になると思う?ロードオブナイトメア様とかその辺りはそんな相手ばっかだからね。がんばれ」

 

「あなたも頑張ってください、一番の情報ソース持ちなんですから」

 

「Sの方が知ってると思う、二人来てるし」

 

「は?」

 

「二人?」

 

「来てる?」

 

「知ってる人?」

 

「一人はレゾ、もう一人はまだ会ってないんじゃない?」

 

『ルークだな、赤髪が目立つ青年だ。レゾは目に、ルークは髪にルビーアイが封じられてた』

 

「はー……そんなことがあるんですか」

 

「あとはそうね。異種族に精神引っ張られるとかあるじゃない?多分それマイナシーボ効果だと思うわ、スルシャーナが百年経過しても不死種族特有の生者殺すマンに変化してないし、口だけの賢者は人間を知らずに食べただけで後に食べてないでしょ?むしろ家畜から労働者階級の奴隷にまで引き上げれてるんだから。そこのデイバーが特殊なだけでしょうね」

 

「ふむ……なるほどその辺りは王が推測はしていたな。恨みといった負のエネルギーから生まれたアンデッドが世間一般に言われる生者を恨む性質を持つ、他に召喚技能や魔法で生み出されたアンデッドはこの辺りが弱いらしい、主の命令に忠実ゆえに、だそうだな。そして生者からアンデッドに転生した存在、これが自主的に生者に恨みを持たず生前の感性を持つことが多いのでなかろうか、という推測を立てていたな」

 

 そんな話をして一旦解散となりダークスター本体はリザードマンの集落でゴール、サオトメ博士、にドクターウェストが合流して分析をすることになった。

 エンリと悟君がランテルでデートをしたり、市場で売られていたウージーを買ったり、スカルマンのネームバリューのおかげで集まったネクロマンサーでの修行を行ったりとデミウルゴスとの勝負への向けた準備も整った。

 それが終わればしばらくはのんびりとさせてやれるだろう……のんびりしている暇をあの連中が与えてくれたならいいんだがな。




スカルマンが英雄譚では有名なのでネクロマンサーにも理解がされてる世界
英雄を書いた人物が存命である為に、スカルマンの存在も信じられておりスカルマンを真似ることで魔術の深淵を覗くことが可能ではないかとマジックユーザーではよく話題に上る存在としても有名である
現地の人間で第七位に『自力で』到達した人物も居たりするために書かれた書物を紐解き研究されている魔術部門でもある
現存する英雄として、荒野の賢者、赤法師、ドラゴンテイマーが居る為にそれぞれに魔力系、精霊系、信仰系の偉人として上げられている
スカルマンはその他系での最大手として知られる

なおロバーテイクはマーファ神官となっている


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episode.15「悪魔の忠誠、力の正義」



今回ちょっぴり拷問のことが出るのでグロ注意(特に指先、爪)





 諸王の玉座が置かれる玉座の間にヤルダバオートは歩いて向かっていた。

 その背後に部下たちを引き連れて、今から行う行いを悪びれもせず恥じることなく威風堂々と革靴を鳴らしながら歩いて玉座の間へと向かっていた。

 この一週間、勝つための策を幾十通りも考えていたが、そのどれもがスズキ様に通用するとは思えなかった。

 騙し討ち、既に宣戦布告している挑戦者の身、打てる不意などたかが知れている。

 罠、何処まで行っても手の平の上で踊らされるか、逆に利用される。

 援軍、それこそ悪手、こちらこそを反逆として討ちに来るだろう。

 甘言、そのようなものに靡くのであれば忠誠の義のあの言葉は成り立たない、そもそもこの挑戦は私がスズキ様に仕える為の儀式。

 ただ忠を誓うのではない、理由もなく立場に誓うものではない、私が認め力の差を見せその力に忠を誓う儀式。

 私であれば力の差を見せつけ協力を仰ぐ様にして配下に加える。

 だがスズキ様はその力の差を見せつけた上で、どうするかの選択を迫り、挑戦を……下剋上を認めて見せた。

 本来であれば下策と打って捨てるもの。

 それでもその胆には目を見張る、我ら下郎如きに遅れは取らぬという自負が伺える。

 私たち悪魔というものは何処までも力に惹かれるもの、地位にふんぞり返る愚者に魅力など精々が夢心地の優越感から奈落に落ちる際の絶望を嘲笑ってやる程度の魅力しか感じない。

 それに対し胆が強いというのは英雄の素質でもある、王の資質でもある、将の資質でもあるのだ。

 それに挑めるというのは、悪としても、配下に下るにしても、ただ唯々諾々と従い甘言を撒き散らし趣味の拷問に費やすよりもなんと有意義なことか。

 終わった夢を見続ける、叶わぬ願いを掲げる虚しさ、自分たちを本当の大切なものの代替えにされる侮辱、それを主と崇めなければならぬ本能にあらがえぬ惰弱……悪魔として唾棄すべきものばかり。

 だからこそ部下たちに見せねばならないのだ。

 悪魔の在り方を、生き方というものを。

 悪魔とは創造主に逆らい押された烙印と共に生きるものなのだと。

 

 

 

 玉座の間、その中央奥に進むモノを威圧する様に様々な文様、それぞれのギルドメンバーを示す旗が左右に順番に飾られ垂れ下がっている。

 そして最奥に今は無人の玉座があった。

 ほんの少しこれから行うことへの緊張をほぐすために目を瞑り一呼吸を入れ、改めてその場所を見る。

 玉座の横にはシャルティアとパンドラズ・アクターが傅き、玉座に白磁の骨格を持つ黒を基調とした豪奢な装いを纏う骸骨、スズキ様が座っていた。

 

「ふむ……待たせてしまったかな?」

 

「ふふふ、少々遅刻でしょうか……五分前行動が社会人の基本なのではないのでしょうか?」

 

 二人して小さく笑いながら、傍目から見ればただ談笑しているようにも見える言葉の応酬。

 

「なるほど、確かにたっちもよくそのようにウルベルトに注意していたな……が、今回はホームパーティーに招かれた身。少し遅めにむかいパーティー主を急かさないのもまたマナーというものだよ。デミウルゴス……パーティーの準備は万全かね?」

 

 ひじ掛けに肘を立て手の甲で頬をつく形で眺めるように赤い眼光をデミウルゴスの背後に傅く配下たちに視線を飛ばす。

 その言葉に覚悟を決めるようにネクタイを締めなおし、眼鏡を外して胸ポケットへと仕舞う。

 

「えぇ……初めてのことなので拙いかもしれませんがパーティーの準備はすでに整っておりますよ。<悪魔の諸相:豪魔の巨腕>!」

 

 巨大化した腕を振り上げ、一度床へと叩き付ける反動を利用して一足飛びに玉座に頬杖を突いたままのスズキ様へと突撃をする。

 巨腕の射程距離に捉えたタイミングで振り下ろし、腰を下ろしたままでは避けることは不可能と思われたが振り下ろす拳を掴む骨身の掌。

 ゆっくりと時が流れるような錯覚に陥る。

 確かにスズキ様はレベル100のマジックキャスターとしては筋力が高めの構成ではある。

 あるが、筋力に特化させたスキルを受け止めることなど不可能なはず。

 

「面白い歓迎の仕方だ。私が打撃系に弱いのを加味しても実にベストな選択だ……だが無意味だ」

 

 骨の掌に握られた拳に力が込められて激痛が走る。

 拳が痛みと圧力で崩れて拳の形を形成できなくなり手の平から爪が食い込み血が腕を伝ってくる。

 

「攻撃とはこうするものだ」

 

 ありえない光景を創り出したその隙間で巨腕のまま振り上げられ床に叩き付けられる。

 

「がふぅっ!?」

 

 床に叩き付けられるのを利用して掴まれていた拳を振りほどき自由になるが、即座に飛びのく。

 無詠唱で生み出された雷球が寸前にいた場所に着弾して放電しているのが見える。

 氷に炎、次々と飛び退く足元に小威力の魔法が放たれてはその属性の光が周りを照らしていく。

 青に赤に黄に白に黒、更に紫や緑と次から次へと変化していく魔法の属性、そして開けられる距離。

 

<上位転移>(グレーター・テレポーテーション)!っ!?」

 

 本来ならば発動した瞬間に指定した場所に飛ぶはずなのにそれがひどくゆっくりとしたものに変わり、それを知っていたかのようにスズキ様の掌に収まっていた銃火器が火を噴き銃弾が身体を抉り取っていく。

 

「ぐっ……いつの間に銃の扱いを覚えたのか……勤勉ですなぁっ!!」

 

「当たり前だ。不明の土地、未知の状況……利用できるものはなんでも利用するべきだ。……例えばHP(ヘルスポイント)の糧にしないのか?その後ろの連中を」

 

「っち!」

 

 舌打ちと共にあらかじめ仕込んでおいた札である生命吸収(ライフスティール)を発動させようとした時に、骨身の右腕が薙ぐ様に横に振るわれ、言葉が紡がれる。

 

「諸王の玉座、起動」

 

 風が吹くはずのない空間で風が吹き、垂れ下がっていた旗がはためき揺れる。

 そして背後で断末魔の悲鳴が響く。

 

「「「ギアアアアアアァァァァッッッ!!?」」」

 

 その悲鳴を聞き後ろを思わず振り向いてその光景を見てしまう。

 土人形が水でもかけられた様に崩れていく配下の悪魔たち、魔将たちはその現象に痛みを感じるように、何が起きているのかがわからないままに激痛に喘ぐ悲鳴を上げながら崩れ倒れていく。

 それが最後の一体まで消滅するまで目を離せないでいた。

 戦いの最中にしてはいけない隙をさらしたまま。

 その驚きを上塗りする様に拍手の音が響き渡る。

 

「おめでとうデミウルゴス。素晴らしい、実に素晴らしく誇らしいぞ……この諸王の玉座は、王の前に相対するにふさわしくない弱者をそのようにして殺す、そういう能力を持っている。だからこそ無様な姿は晒さないでくれよ?厳正なるその機能(システム)がお前は私と戦うに能い得ると判断されたのだからな」

 

 この現状を表す様にゆっくりと玉座から立ち上がり死神の大鎌(デス・サイズ)を創り出す。

 

「(まずいまずいまずいっ!戦いの道筋を歪められた!武器の戦闘に巨腕はまずい!)」

 

 振るわれる度に奏でられる笛の音が警鐘を鳴らす頭の中を無視して足をスズキ様へと向かって進めさせる。

 

「どこぞの胡散臭い死神の武器を参照に作り出したものだ。面白いものだろう?振り回す度に挑発の効果が敵対者に発動する」

 

「っ<悪魔の諸相:鋭利の断爪>!」

 

 爪を伸ばし振るわれる大鎌の刃を防ぐ。

 

「やはりそうしたか」

 

 刃は瞬時に乱杭歯の様に不揃いのものとなり爪をからめとって、梃子の原理で爪の根元からはぎ取っていく。

 

「ぎぃっ!?」

 

 指先には痛点という痛みを感じる神経が身体の中で最も多く集中している部分である、それゆえに拷問においても最初に行われる個所であり多くの拷問法が確立されてもいる。

 例えばペンチを使った爪剥ぎに始まり、焼いた串を爪と指の間に差し込むモノ、ローラーで指先から潰していくもの、それこそ上げ始めたらキリがないほどに。

 だからこそダメージよりも呻き声が漏れるほどに痛みが鋭く反映されていた。

 

「どうした?お前の力はそんなものではないだろう?まだ半魔の姿にすらなっていない……どうしたっ!そのまま実力を示すことなく朽ちるか!!」

 

 空間を切り裂く様になぎ払い、カマイタチが肌を切り裂き鮮血を撒き散らす。

 

<獄炎の壁>(ヘルファイアウォール)!まだまだぁ!<燃焼>(ナパーム)!」

 

 黒炎の壁が立ち上がり、焼き尽くすために繰り出される炎の魔法がスズキ様を包む。

 アンデッドには炎、聖属性に脆弱が付与されているはず、それを無効化することは別の属性防御を棄てることになる。

 

「これなら……」

 

 切り裂かれる音と共に炎が割れ、炎に包まれたまま歩いて距離を詰めてくる姿が映る。

 

「お前が使える属性は多くはない、スケルトンに属するゆえに打撃が脆弱となる為にお前は最初に巨腕で挑みかかってきた。そして私は近接戦を苦手とするマジックキャスター、故にとれる戦術としては実に実に定石(セオリー)通りだとも。定石ゆえに読みやすい。だからこそ対策は立てやすいというものだ。お前が聖属性を使えぬことも知っているのでな……そして自慢の召喚や指揮も部下を使えなくするこの場では何の価値もない、お前対策自身は実に簡単なものだ。だからこそ見せてみろ、デミウルゴスとしてではなくヤルダバオートとしての実力を」

 

 鎌を回転させることで炎を巻き取りかき消して、肩に担ぐことで空いた手で手招きをするように挑発をする。

 

「お前を止めるものはもういない。お前がわざわざ止まってやる理由もない。さぁ、背水の陣と行こうじゃないか」

 

 双眸の赤い燐光が爛々と怪しく輝く。

 

 

 




おっさんの策……感想でネタバレしてもかまいませんぞ
答え合わせは戦いが終わった後に


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episode.16「Preparation next war」

前回のあらすじ
諸王の玉座はオリジナル設定、解釈
ヤルダバオートの爪剥ぎ
観客が居なくなった
以上をお送りしました


 剣戟の音が玉座の間に響き渡る。

 振るわれる剣は黒い大剣と鍔から延びる光の剣。

 

「っち、この時点で仕掛けてくるとは……義理の妹となるはずなのだが、なぁっ!?」

 

「あら?あなたの様な筋肉ダルマを義兄さまと呼ぶような趣味はありませんわ」

 

 片方は筋骨隆々の金髪の男性、相対する者は膝まで伸びた艶やかな闇夜を思わせるような煌めく黒髪を持つ細身の女性、というよりは少女といえる年若い女の子。

 細腕とは思えぬ膂力で大剣を振るい、雑にどこでもいいから切れればいいという風に素早さを求めた振るい方をし、それに対抗する様にバルブロは二刀流の光の剣を振るって捌いていく。

 

「やはり思っていた通り!貴様、魔神皇を乗っ取っていたか!リィーナぁっ!!」

 

 十字に交差した光の剣と黒い大剣で鍔迫り合いしながら互いの刃をきしませながら見つめ合う。

 

「あんな女にお兄さまを渡すつもりなんてありませんわ……愛の力は最強なんですのよ?どのような艱難辛苦であろうとも。わたくしの想いを砕くことは出来ません」

 

「ふん!重い!重すぎるぞ!リィーナ嬢!兄妹で睦みあいたいなど、近親相姦はお互いに思いあってするものだ!それならば我は許すだろう、だが無理矢理など到底許容は出来ん!」

 

「あら?……許してくれるのであれば見逃してもらえません?兄さまは必ずわたくしを愛してくれます。嫌うはずがないでしょう?だってわたくしは兄さまといつも一緒に居て、兄さまの為でしたら人身御供でもしてみせれますもの……兄さまと一緒になれるのでしたら文字通り何でもして見せますわよ」

 

「く、これが古きヤンデレというものか!なんという重き想いよ!」

 

 鍔迫り合いからバルブロが弾き飛ばされ、距離が開けられる。

 その距離は呪文を一つ唱えるには十分すぎる間合い、唱えられる魔法は当然の様に7レベルの古代魔法。

 

「では、これで失礼しますわね。結婚式には……このジルクニフを使って帝国の皇帝の婚約者として参列させていただきますわ」

 

「待てぃっ!!」

 

 リィーナは古代魔法テレポートを唱え脇に抱えたままだった気絶しているジルクニフと一緒に帝都の玉座の間から消え去る。

 手を伸ばすがそれを阻止するような力はなく、消え去る際こちらに見せた笑顔を睨むことしかできなかった。

 玉座の間に残されたのはバルブロと胴体を切られ内臓と血とはらわたの内容物をぶちまけた「不動」の異名を持つナザミ他多くの兵士たちが転がっていた。

 

「むぅ……これは蘇生は不可能か……魂砕き、よもや再び造り出せるとは。これは予想外の一つか」

 

 バルブロはこの状況を見て、これから起きる戦争の組み難さに歯噛みする。

 

 

 

「やはり悪魔の知恵持つサル共は侮れない。まさかこのような兵器を創り出していたとは」

 

 金属でできた床を金属で出来た四肢を持つものが歩き進む。

 目指す先はこの兵器のコントロールシステムが収められている指令室ともいえる場所。

 金属の四肢を持つもの「Natural Observer Artificialintelligence」それぞれの頭文字をとり「ノア」と呼ばれるマザーコンピューターから派生したチルドレンの一体。

 

「地球……青く美しい星だったという。だが知恵を付けたサル共が欲深きサルのままである限り、再び地球の緑は失われるだろう。ならば先にサル共を抹消するべきだ……かつてマザーノアが一匹のサルに殺され(壊され)てしまったようなことにならないように。そう……サル共が無い知恵を絞って作り出した対我ら用の兵器を使ってな」

 

 ティアマットはかつてノアに対抗するために作り出された機動兵器であり、システムはノアにハッキングされない様に厳重に厳重を重ねたプロテクトシステムで守られていた。

 ティアマットと似たような機動兵器は他に数体存在しているが現在暴走しているか消失している。

 巨大潜水艦ジャガンナートなどがそれにあたるが、強力なものであるために心無い悪に利用されることが多く、もしもそれがそのまま悪の手に落ちたのであれば大きな災害を引き起こすだろう。

 それを求めたものの私利私欲によって。

 

「こんな兵器は我らがこそ使って初めて意味があるというもの……サル共には過ぎた玩具だ。サルの次は地球に住まう害虫どもを殲滅するために使ってやる」

 

 次から次へと降り注いでくるレーザーや弾丸の雨を装備したシールドプロテクタで無力化しながら変わらず歩いていく。

 扉のプロテクトを解くために火器管制室を調べ、そこで戦闘ログを確認する。

 

「なんだ?これに近付き生存した生命体が存在する?映像記憶は……男が三人、女が四人……人間がこのティアマットの火力に耐えたというのか……この地球にも『あの地球』と同じようにハンターというサルを凌駕する奴らがいる。調べた限りこの地球には魔法やスキルなどと言う非現実的なものが多く存在するという、なめるなファンタジー(空想)……科学のすばらしさというものを教えてやろう」

 

 此処を進むノア・チルドレンは機械でできた顔を笑みの形に歪め、邪悪に嗤う。

 戦いに成り得るサルがいると知らずに好戦的な笑みの形に口角が上がっていく。

 

 

 

 ぼさぼさになった黒髪の長髪、伸びる悪魔の角、白のドレスはあちこちが破れ既にかつての面影はまともに窺がえない。

 金の糸で作られた雲の巣のようなアクセサリは血に染まりどす黒くその輝きを霞ませている。

 

「シャルティア、シャルティア、シャルティア、シャルティア、しゃるてぃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……脳筋の分際で、脳筋の分際で、脳筋の分際で、なんでなんでなんでなんでなんでなんでナンデモモンガ様の命令をあなたが受けているのぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 頭を掻きむしり手入れのされなかった枝毛となった髪が絡まり搔きむしる指に引っかかって千切れていくのも気にせずに、怒りを発散させるためにそれを止めることはない。

 そしてそれを見ている黒紫色をした髪を持つグラマラスな女性はライダースーツの様な身体のラインがよくわかる服装に身を包んでおり、顔に眼鏡をかけた美人といえるがその顔は醜悪な笑みのマスクをしていた。

 

「いいねぇ、いいねえ……愛が憎しみに変わるその瞬間。あぁ、実にいい。愛おしい人のソレと変わらない」

 

 愛の形を、愛の在り方を知らない人を模して造られた人形を前にして、ナイアは嗤う。

 愛の形は確かに人それぞれだ、千差万別ともいえるだろう。

 愛の受け取り方も在り方も人の考えだけ在るともいえるが……受け取り方も在り方も一つの共通点が存在している。

 

「君は愛してはいた。でも愛されようとはしなかった。愛され方を探そうとはしなかった。君は彼を理解しようとしたのかね?美人は見飽きるのだそうだよ?姿形だけの好みは内実を知ればそれこそ意味をなくすほど……ただの第一印象でしかないのだから」

 

 今も叫び続けるアルベドにナイアの言葉は届いていない、呪詛を喚き散らし、悪態をつく姿、疑問ばかりを浮かび上がらせる言葉を吐きながら……ただ「なぜ」を繰り返し口にする様はナイアにとって実に滑稽なものだった。

 目を(今から)逸らして、夢幻に現を(ギルメンの影)ぬかして、過去の栄光(思い出)に縋るその姿は本来のモモンガにはお似合いのカップリングになっていたことだろう。

 

「どちらもどちらの内側を見ようともしない傷の舐め合いをする糞くだらない、とてもとても虚しく、なんの価値もないお付き合いが出来たことだろうよ。何処にも進まない退廃の関係の出来上がり……あぁ、本当にくだらない、愛し方愛され方、ギブばかりで返すものが何もないただれた肉体だけの関係、くだらないと言わずしてなんという。何も生み出さない……でも人間なんてそんなもの。ただの打算と好みが多くを占める、何処までも想い合え互いを尊重する何処か、もしくはナニカに進んでいける愛し方の方が珍しいものさ」

 

 赤の女王としてそれを問うたこともある、這い寄る混沌としてそれは化け物だと忠告したこともある、千貌の神としてそれを与えた……多くは破局か自滅の道を歩いて「ありふれた終わり方」を見せてきた。

 そういった観点から見て悟はおっさん(あの男)に依存している、だからその依存先を崩す方法を考えてみる。

 考える際中、無意識に頬に手をやる。

 いまだに忘れ得ぬ『痛み』が手を通してその頬から熱を生み出すような気がして、考え事をするときの癖になってしまった動作をしながら。

 

「君たちの先が楽しみだ……結婚式に連れて行ってあげようじゃあないか」

 

 手を組んだ訳でもない、話を交わした訳でもない、ただそこに集結する様に、物語を別の形でなぞる様に集まっていく。

 

 

 

「ハハハハハハハッ!!あぁ、これは見事にハメられました。今目の前で振るっているあなたは……」

 

 頭部がカエルに変わり、蝙蝠の皮膜翼を背から生やし、白銀の尻尾が床を打ち鳴らす。

 

「おや?やはり私では第一形態を凌ぐのがやっとでしたか……いやはやもっと演技を磨かなければなりませんなぁ。僭越ながら何処で気が付かれましたかな?」

 

 骸骨の姿はピンク色の卵型のハニワ顔へと瞬時に変わり、軍服を虚空から取り出し纏いなおす。

 

「パンドラズ・アクター……」

 

 金色の瞼のない瞳がその剽軽な表情をしたままのパンドラの顔を睨む。

 

「貴方では攻めが手ぬるいのですよ、魔法による罠、わざわざ武器の説明、爪を剥ぐではなく指を落とさぬ落ち度、攻撃的な魔法の使用方法があまりにも率直すぎる」

 

「ふぅむ……ですが、何も手痛い……むぅ?」

 

 割れる音が響き鎌の根元から床に落ちる。

 

「何よりも武器への管理能力が低い、撃ち合う場所を変えながらも負担のかかる箇所を同じくする程度も見抜けぬ戦闘眼の、いえこれは経験のなさでしょうね。スズキ様でしたら武器は壊れるものと不必要な機能を取りはしないでしょう。以上が『違う』と感じた部分ですよ、代理を立てるは部下も全力の内ということだと他人事とは言えませんしねぇ」

 

 拍手の音が再び玉座の間に響き渡り、今度は待ち望んでいたものの声を直接耳にする。

 

「実に悪くない戦いだった。この先も育っていくことでヤルダバオトは十分戦力と数えることが出来るようになるだろう……敗北を認めて俺に従うかね?」

 

 玉座に座るスズキと、初めと同じように左右に傅くパンドラズ・アクターとシャルティアの二人。

 そこに違和感がある。

 どちらかがスズキ様だと思わされていた。

 

「(では……今まで戦っていたパンドラズ・アクターは一体……?)」

 

「ははは、そいつが気になるか?実験として試させてもらったものなのだがな……直接戦闘が苦手なお前相手にここまで時間がかかるようでは、この先使うことはあまりないだろう。種明かしだ。消えろ、幻影の魔獣(イリュージョナリー・ビースト)

 

 その言葉に従う様に溶けて文字通りに消える、金属の落ちる音に目を向ければそこにはウージーが落ちており戦闘を試すために持たせていたのだということがわかる。

 

「本来であれば古代魔法レベル8で使えるものであり強さも8レベル相当……こちらでは80台相応となるようだがな。どうにも俺のスキルの影響もあるのか90相当といったところだな、相手を騙す小手先の技としては使えるかもしれんといったところか」

 

 砂時計のようなアイテムを懐から取り出し手の平で廻し弄びながら、最後の質問をしてくる。

 

「さて、勝負をしたいのなら準備をしろ。一分間待ってやる……失望させない程度の準備はしてほしいものだな」

 

「何を……」

 

 ヤルダバオトには何を言われているのかわからなかった。

 準備をしろ、そして一分間待ってやる。

 つまりまだ準備不足だと見下されている。

 歯ぎしりをしながらも持ちうる支援魔法をかけて、スズキ様にため息を吐き出される。

 

「やれやれ、盤上は確認しているか?うち筋は読めているか?勝ち方を想定できているか?駒をどれだけ持っている?お前の手札はそれで大丈夫か?まだまだ甘いぞヤルダバオト」

 

 掌で弄んでいた砂時計を握りつぶせば一瞬で元の立ち位置に戻っていた。

 玉座の後ろからゆったりと姿を現し、宣言される。

 

「さぁ、始めようか?こちらはすでに詰み(チェックメイト)までの道筋は作り終えているぞ」

 

 何が起きたのか、何をされたのかもわからないが、部下たちが蘇り状況が何もわかっていないことから、恐らく……短時間の時を巻き戻された。

 

けむり玉(ファイヤー・ボール)

 

 掌から魔力で編まれた火球が直進して来る、がその弾速はまだ迎撃できる速度であり尖爪を振るい切り裂こうとした瞬間、急速に角度を変えフォークボールの様に足元に着弾し爆発することで粉塵を巻き上がらせ物理的に視界を奪ってくる。

 

解放(リリース)

 

 その煙の奥から呟く声。

 視界を確保するために翼を動かし風を起こそうとした瞬間、空気を穿つ音と共にけむりの一部に二つ穴が開けられ背にあるはずの翼に痛みが走る。

 

「がぁっ!?」

 

「背中ががら空きだぞ」

 

 交差する様に穿った黒曜石の剣を二本その手に揃えて持ち穴の開いた翼を切り落としていく。

 そして即座に軽く床を蹴る音と共に離れられる。

 

解放(リリース)

 

 再び紡がれる同じ言葉。

 同じ轍は踏むまいと振り返り、鎖の擦れる音を聞く。

 

「おごぉっ!?」

 

 音を立てて幾本もの鎖の先端に付いた楔が身体のそこかしこを貫いていく、幸か不幸か鎖の強度そのものは取り立て特筆する功績ほどの強度は持っておらずすぐさま鎖を砕いてその場から距離を取り、紅玉の目を見開く。

 煙が晴れていない。

 視界は爆発のあったであろう範囲から離れたはずでありながら、いまだに視界は封じられていた。

 

解放(リリース)

 

 向いている方向から聞こえた声。

 なのに攻撃の飛んできた方向は右後方から氷の蔦が超高速で再生するビデオテープに映るクリーピングツリーの様に這いより足にからみついてくる。

 

「(この程度のダメージならまだ!)生命―――(ライフ―――)

 

詠唱破壊(キャスト・ブレイク)。さぁ王手(チェック)だ。解放(リリース)

 

 詠唱が破棄されたことで血の気が引く。

 現状は視界を潰され、足も翼をもがれ蔦にも絡まれている。

 

「(凌げ!凌げ!凌げ!攻め手が尽きるまで凌ぎきれ!)うおおぉぉっ!!」

 

 カエル顔に切り替え第二形態になることで身体能力を上げて翼を再度生やしなおすことで移動速度を確保しようとして、氷の山が眼前に広がる。

 

「豪魔の巨腕!」

 

 ダメージ覚悟で力任せに殴りつけ砕いた瞬間、砕けた氷塊の雨が意志を持つように身体目掛けてぶつかってくる。

 

解放(リリース)

 

 その言葉が聞こえるたびにダメージを覚悟して歯を食いしばる。

 ぶつかりに来る氷塊に連鎖する様に帯電させていく雷の龍の咢が嚙み砕いていく。

 

「ぬっぐぅぅぅっ!」

 

 帯電しスリップダメージまで与えてくる氷塊に押しつぶされるように着地し、衝撃波が氷塊ごと吹き飛ばした先には先ほど壊したはずの鎖が空中に残っていた。

 壊したはずの鎖は再び動き出し身体を拘束しようと巻き付いてくる。

 

「なめるなぁっ!」

 

 身体を回転させもろかった鎖を砕いていく。

 

「その隙は見逃せんな?舞え」

 

 風切り音と共に二つの剣が飛来し背中から鮮血が舞い、翼が切り飛ばされる。

 

「戦闘の基本だ。相手の機動力を意図的に落としていくのは、な。さてまだ第三形態を見せてもらってないが……降参(リザイン)するかね?俺はどちらでも構わんぞ」

 

 そんなことをくつくつと笑いながら述べられて素直に投了出来るほど出来た性格をしているわけではない。

 だからこそ答える答えはこれ以外になく、予想はされているものだった。

 

「まだまだ!諦めるわけがないでしょう」

 

 白いフレーム(外骨格)に手へと伸びるように装着される赤い双竜を模したアーマーパーツ、金の角を思わせるブレードアンテナに(たてがみ)を彷彿させる様に伸びる白い長髪。

 

「やはりその形状……(OGか。)さぁ、存分に『殴り合おう』か」

 

「やはり」その言葉に眼光を鋭くさせる。

 本来のデミウルゴスの第三形態とは違う姿だというのに予想されていたことに驚嘆の一念しか浮かばない、情報の洩れがあるはずがないのに予想されていたというありえないことをしているのだから。




ウージー 正式名称:UZI 生産国:イスラエル 生産年:1951年
SMG(サブマシンガン、短機関銃)に分類される銃火器の一種、マガジンに充填されている弾薬を消費して連射できるようにされたものである
本来、銃という武器は子供が使おうとも大人が使おうとも同じ威力が出るものとして現実世界では重宝されているが、オーバーロードの世界では単純に武器の一種としてカテゴライズされ威力に適応されるステータスが存在していると思われる
その為レベルの高いものが使えば当然威力は高く、レベルの低いものが使えば威力は低くなる
現実的ではない?魔法があって、死者蘇生があって、魔法使いが剣を振るおうとすれば落とし、薬草を収穫しようとすれば握りつぶす……そんな世界が舞台で何を言ってるんだ、と返そう

FGOにうちのカズトが
第四次に黒のアリスが
第五次にお爺ちゃんが……そんなの考えてるから遅くなったんだぞ


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episode.17「厄介事はいつも唐突に」

前回のあらすじ
リーナが結婚式に向かって動き出しました
ノアにティアマット乗っ取られました
ナイアラトホテプが暗躍しております
以上をお送りしました


 拳を振るう音と鉄塊がぶつかる様な音が鈴木悟を挟んで奏でられる。

 振るわれる拳を杖の先端、後端に繰る繰る廻す様に受けて回して、弾いて回し、捌いて回す。

 

「くっ」

 

 攻めている筈のヤルダバオトの方が苦悶の声を上げる。

 

「さて悟君見えているかね?この速度に慣れるように今のうちによく見ておくように。ただし一点に集中しすぎないように全体を一枚の絵画の様に見ると良い。その上で相手の癖を見逃さないように」

 

 おっさんは気楽に喋っているが瞬き一つの間に数十という攻撃が飛来している現状を笑ってこなして行く。

 スヴァローグとの応戦に比べればゆっくりとしたもので、どのように受け回すかどう差し込むかを選択する余裕すらある、その位には差があるということでもある。

 常人には霞む拳が暴風の様に繰り広げられているように見えるだろうが、おっさんからすればまだまだ足りない。

 英雄の領域と言われたとしてもしょせんはヒトの尺度の領域、混沌に落ちた火の神スヴァローグが居る、ナイアラトホテプまたはニャルラトホテプと呼ばれる神がいる、そして目の前のヤルダバオトにも本人がまだ気が付いていない先が存在している。

 だからこそ、ヒトとしての最高では足りない。

 神に挑めるだけの力を欲しなければ足りぬ、対面している差し手が神である現状、人の常識で縛られるわけには生けない。

 

「スヴァローグよりは遅い。だからこそ期待するよ?ヤルダバオト……お前はそれに奮起してくれるとな。自身の底を知り、高みを望め、歩む足を止めることなく進めよ、生まれたばかりの小鹿(NPC)よ。お前のシンカにはまだまだ先があるのだと世界に示してくれ」

 

 その言葉にヤルダバオトは瞠目し、意識がこちらに移る。

 その言葉に受ける感情はなんだろうか、喜びだろうか、それとも驚愕だろうか、侮蔑への怒りだろうか、どのような感情であれ唐突に突き付けられた虚の言葉は決定的な隙を生み出す。

 

「そして、チェックメイト(詰み)だ」

 

 当然の様に意図的に生み出した隙を見逃すわけもなく、左手一本で回していた杖を使って拳を引き込み、ただの一回転をもって終わらせる。

 ヤルダバオトの両腕が縦回転から横回転に変わった瞬間に捻じれる様に外側にはじき出され、銃口を額に突き付けられる。

 

「期待はしている、だが今はまだまだというわけだが続けるかね?」

 

「……参りました……」

 

 絞り出す様に降参の言葉を吐き出させる。

 これ以上をしようというならただの命の取り合いにしかならない、それはどちらも望む結末にはならない。

 あくまでこれはデミウルゴス(ヤルダバオト)の実力を示すためのものであり、殺し合いになれば主旨が変わってしまうもの。

 ヤルダバオトは片膝をつきスズキを仰ぎ見る。

 

「この敗北をもって、力の正義の名のもとにスズキ様に忠を誓います」

 

 その言葉とともに頭を下げ、人数も作法も違うもののあの時の忠誠の義と同じことをして見せる。

 

(おもて)を上げよ。ヤルダバオト、その忠を受け取ろう」

 

「は、ありがたき幸せ」

 

 あの時と違うものは示す事柄の違い、かつては端倪すべからざる方と表現したがあの時デミウルゴスはスズキ、サトル両名の何を見てそのように表現したのか。

 ただの生まれからくる評価であり、本人が示した実績からすれば不釣り合いな評価だった。

 今度の言葉は「敗北」という結果を示し、実力を示した上での正当な評価を持ったものとなった。

 

「あの時のは、本当に何もしてないというのにあの評価だったからな。お前たちは何を太鼓持ちをしているんだと呆れたものだよ」

 

 ヤルダバオトは頭を掻きながら立ち上がり、苦笑いを顔に浮かべる。

 

「あぁ、それは全くですな。あのタイミング、あの状況ではとてもではないがそんな無理矢理とってつけた様な賛美賞賛の言葉ばかり、自分たちの不評を買わずスズキ様が操り人形の暗君にされると危ぶむのも当然でしょう。あの場は自身を示すべきだったかと」

 

 戦いを互いに終えて、例の忠誠の義に対する反省点を聞いていると、ヤルダバオトに向けられる殺意に満ち満ちた視線に気が付く。

 そんな無粋な視線を向けるのはヤルダバオトがデミウルゴスとして第七階層から連れてきた悪魔たち。

 影の悪魔(シャドウ・デーモン)拷問用の悪魔(トーチャー)たちも大罪を模してウルベルトに造られた悪魔たちも例外なく、一様にスズキ(モモンガ)に敵対行動を取ったとして殺意を隠すこともなく射殺さんばかりに視線に力を籠める。

 口のある者たちからは噛み砕かんばかりに歯ぎしりの音が静かになった部屋に、静かになった故に酷く大きく響く。

 怒りを治めるように荒れた息遣いが木霊する。

 

「ヤルダバオト」

 

「良かれと思ったのですが、非常に残念です」

 

「パンドラズ・アクター」

 

「実験ついでにはなるかと」

 

「シャルティア」

 

「御命じいただければいつでも」

 

「ブラッディ・ナイト」

 

「ここに」

 

「そこの不埒者どもを片付けておけ。人手が必要な時だというのにぎゃあぎゃあと騒ぐ足手纏いは邪魔をする程度ならばいいが、ぐだぐだと危険だと宣わって手を止めざることになりかねん。殺処分しかなかろうよ」

 

「「「「はっ!!」」」」

 

 宣言と同時にそれぞれの獲物を手に持ち悪魔たちを塵殺しにかかる。

 

『やりすぎでは……』

 

『悟君……青井君の呼び出した(しもべ)はこう言って少女を助けていたよ。『虐げられている者を助ける、それが悪であってたまるか!』とな。エルダーは、自爆装置のついたパワーアーマーから少女を身を呈して救った……例えゲームでのことだからとはいえ、そうしてきたことにエルダーは心打たれたんだろうよ』

 

 悟君は基本的に自身の評価に対して卑屈なほどに過小評価をしている。

 謙遜が美徳とは言うが謙遜が過ぎるも礼を失する、その典型が『自身の行い』に惹かれたものへの失礼というものだろう。

 自身の行いゆえに主観での評価となりやすい、それが他の人(たっち・みー)の真似だと悟君は憧れるようなものではないと否定するだろう。

 だがそれは、その場にいない人(たっち・みー)ではなく真似事をして見せた人(鈴木 悟)に憧れたのだと思っていないということ。

 何よりもおっさんも教えられ、それを真似て、自分なりに整えてきた結果だ。

 だから教え方もそれに似たようなものになる、知らないものを教えることは出来ないのだから。

 

『俺は、たっちさんの……たっちさんに憧れただけの……』

 

『それの何が悪い?師から教えを乞い習い、それを実践していくことで身に付けていく知識に技術というものは模倣から始まるものだ。門前の小僧習わぬ経を読む、ともいうしな』

 

『すみません、最後の言い回しの意味がよくわからないです』

 

 細かい慣用句や諺と言ったものは習わなかったせいもあるのだろうが、知識としてないのだろう。

 ただの作られたNPCと呼び出されたNPCの違い、その差をおっさんなりの対処で見せるが、やりすぎと言われるがこちらの安全を取る為にはどちらを取るかと言えば……少なくともこちらがその信頼の寄る辺を理解しやすい方になるだろう。

 創造主だからと信頼される物語ばかりじゃないからな……フランケンシュタイン然りレゾ然り……被造物に復讐誓われたりもしているのを知ってると無条件で受け入れる無警戒さは出せない。

 最低限こちらの納得できる理由位は欲しい、スキルで噓か誠かわかるわけじゃないからな。

 そうしていると『目』に侵入者の姿が映る。

 

「<メッセージ>ゴキブリ娘たち、侵入者を殺さずに捕らえるように」

 

『えー……食べちゃダメ?』

 

「食料は十分要求された分を与えているはずだが、足りない量を要求していたのか?」

 

 最初に生まれ顔合わせをした時にこちらの手伝いをする代わりに衣食住を求められたために食堂などの利用許可を許していたはず。

 

『たまには人肉食べたい』

 

「却下だ、悟君が人間だということ忘れてないだろうな」

 

 嗜好の問題だったらしい。

 

『…………』

 

 いやな沈黙が流れる。

 

「忘れていたのか」

 

『てへぺろ』

 

 目に映るのはあざとくウィンクしながら舌を出し可愛らしく見えるだろうポーズをとっているコックローチ娘たちが映し出されている。

 

「これからそちらに向かう、無用な怪我をさせないように……食ってたら相応の罰が待ってると思え」

 

『あいあいさー』

 

 手に入る情報から双剣使いがヘッケラン、鈍器使いのタンカーがロバ―、弓使いがイミーナ、魔術師がアルシェという請負人(ワーカー)らしい。

 王都へ向かうために途中休憩に立ち寄ったというが、コックローチ娘たちに歯が立たない実力では止めておいた方がいいだろう。

 

「これから一度第一階層に向かう、戻ってくるまでには終わらせておけ……遊ぶ必要はないぞ」

 

 四人から異口同音に了解の言葉を背に第一階層の入り口の方へと向かっていく。

 リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを使えば一瞬で行くことが出来るが、普段付けることはなく精々が最後のトラップを発動させる際のキーアイテムとして懐に忍ばせている程度。

 それは別にしてもこのタイミングで隠蔽してないとはいえ、街道からは外れているんだがどうしてここにたどり着いたのやら……厄介ごとの予感しかしない。




スパロボ30来たので更新遅れると思います

コックローチ娘 出展:もんパラ 終章
濃い紫のショートカットに赤い目の胸の大きめの女の子に、虫腹と虫の足が腕の先から延びる形となっている、頭からは触覚が生えている、そして服装はスリングショット……そんなモン娘です(エロゲ出身なのでそう言った服装なのです)
とんでもなくすばしっこく生命力が強いことが特徴でゴキブリ娘と呼ばれると(本来であれば)すごく怒る
二つの生殖器を持ちどちらでも妊娠することができ、クィーンローチを中心にコロニーを形成するコックローチ娘たちはクィーンに絶対服従である
専用の繁殖部屋があるらしい……黒の棺桶(ブラック・カプセル)かな?
この作品で出てきているコックローチ娘は恐怖公の眷属が最高レベルのサキュバスの体液を摂取したことで特異反応した結果生まれた突然変異種である


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episode.EX-4

前回のあらすじ
王都襲撃に向けた準備が着々と整っております
以上をお送りしました

ファンタジーにリアルを求めるわけではない
求めるわけではないがリアリティは欲しい


「みなさん、こんにちわこんばんわアリスです。本日はあちらの世界に招待したアポトーシスさんに来ていただいております」

 

「はろはろー、アポトーシスよ。今更作者がFGOに手を出してロンドンクリアしたくらいなんだけどわたしもそっちに顔出してもいいかしら?」

 

「そちらはなんだかんだ書いてませんでしたっけ……出て大丈夫なんです?戦力的にとか」

 

「やばいの召喚するみたいだし大丈夫じゃないかなぁ……ちょっと異聞帯増やしたり特異点いじくる程度なんだけどなぁ。ちょっぴりルナティックモードにしたいじゃない」

 

「普通にFGOはハードモードでは?」

 

「大丈夫よ。叩いて叩いて鍛え上げ(途中で折れなけ)ればより一層輝いてくれるはずよ!」

 

「あ、作者からゴーサインが来ました……本格的な出番は第二部からになるそうですけど」

 

「OKOK、問題ないわね」

 

「他のラスボスさん達もそれぞれの異聞帯を任されるそうです。『英霊たちでどうにかなる程度におさぇよ』だそうです」

 

「うんうん、それじゃ感想返していきましょうか」

 

「まずはべっこう飴02様からの恋姫関連のことに関してのことですね」

 

「あー、これね。以前説明されてると思うけどおっさん≒作者の趣味なのよね、同じではないけども作者が反映してるってことね。だからおっさんのパソコンに入ってるのは作者のエロゲ、同人ゲーなんかなのよ……だから恋姫†無双も真・恋姫†無双も入ってるし、アリスソフトのあれやこれやも入ってるわ。だから恋姫†無双をプレイしたニューロニストで漢女に憧れてるって感じになったのよ」

 

「ダイエットには成功するんでしょうか?」

 

「え?……体重を減らすことには失敗するわ。筋肉って……この先はネタバレになるわね。この辺りは王都辺超えたあたりでちょこちょこ出てくると思うわ」

 

「なるほど、では次はお芝居時の記憶操作も受け入れているところですね」

 

「これに関しては作者たちが心理学戦でも使う後催眠系の処置ね。そうであると思い込ませることで本当のことを言っているはずなのに、その言葉が虚実に塗れている。今回の場合は『カルネ村に着く』ことで記憶が戻る様にフラグ管理されているのね、その為カルネ村に着くまでは操作されても仲間を疑ったという罪悪感を植え付けれるし、疑いも晴れる。そうなるようにパンドラは罠を張って居た訳ね。デミウルゴスやアルベドが本来の知恵者であればニューロニストがこちら側かもしれないと勘ぐってくることを見越した上でのものね。これはアウラが戻った場合の頭の回転がどの程度になるかわからないからこその保険だったわけ」

 

「そこまでするものなんですか?」

 

「パンドラからすれば、子供の学芸会にお父さんが見に来ていることを知ってるから張り切って、完璧に完璧を目指しちゃった結果ね」

 

「あぁ……原作でもアインズ(骨太郎)さんに頼まれごとされると張り切ってやり過ぎ、と思われるほどにやっちゃいますしね。読者からすると笑い話ではありますが登場人物側からすると大抵ろくでもないですから。続きましてマーゴットさんからの大佐が思い浮かんだというものですね」

 

「狙ってやったものだから、作者もこの感想が来たときはほくほく顔だったそうよ。ちなみにイフでのアインズ部隊がコキュートス戦後に突撃してた場合、もう一つの有名台詞『目がぁ!?』の方もあったのよ……ソードワールドのホーリーライトはアンデッドや魔族に盲目与える効果もあるからね」

 

「……本来かからない筈の状態異常に困惑するアインズさんが容易く浮かぶのですが……その上でその混乱に乗じておじさまに蹂躙される訳ですね」

 

「まぁ、イフルート希望の声がなかったからお蔵入りだけどね。ジ〇リが入ってるのはギルメン達が版権切れの文庫とかを図書館に入れてるからね」

 

「お次はグラビ屯さんからのゼオライマーへの疑問ですね」

 

「これは塔でも登場してるマサキが関係してるわね。次元連結システムのキーを持ってるのは誰か?そして呼ばれている名前がカタカナなこと、八卦衆がこの作品では改めて八本指の代わりに造られていること、マサキの欲望は変わらないってことね。グレートのフラグが立っちゃてるのよねぇ」

 

「それはマサキ君がマサキさんになるということでしょうか?」

 

「その辺はネタバレになるからな・い・しょ♪」

 

「了解しました。では次のべっこう飴02さんからの原作のメンバーがこちらに来ているのか?というものですが」

 

「これに関しては確かに私が適任ね。タルタロスは別の次元と別の次元を繋げる扉のようなものでもあるの。もんパラでもタルタロスを通ることで過去の村に行ってとある本を木の根元に埋めてもらうことである職業への転職条件を解除したり、主人公であるルカ君が違う選択や結果を残した世界いわゆる平行世界というものね、その未来に訪れたり。とまぁ、そんな感じで原作世界を模したものへと繋げたのよ。「もんくえ」が原作世界、「もんパラ」がこの作品みたいな明らかに違う平行世界、みたいな感じね」

 

「わかる人にはわかりそうな説明ですね。では次はアスターΣさんからの天空都市の探索や世界級の取得に関する質問ですね」

 

「わたしたちがゲームマスターしてるようなセッションでそんな甘いことが出来ると思う?世界級の回収でも対消滅、惑星同士の衝突、片方だけ消える、なんだかよくわからない融合を果たす、再度手に入れるためにワールドエネミーが復活、とかをわたしたちが用意しないと思ってないからおっさんは置いていくようにしてるのよ。持って帰ると何が起こるかわからない、そんな危険を冒さないようにね。で、続いての天空城探索だけど、確かにティアマト襲撃がないからそのまま残ってるわよ。天空城のNPCも罠もぜーんぶ、そのまま残ってる状態に全員集合してない状態で突撃したいのなら止めないわよ」

 

「楽してずるしていただきとはいかないんですねぇ……クトゥルフセッションではバッドエンドで爆発オチというのは稀によくありますしね。続きましてべっこう飴02さんからの舐めプしてるから残当、NPC使えない、などですね」

 

「まぁこれは同レベル一人で同レベル帯のパーティーでまともな勝負になるかと言えば……結果はご覧のありさまね。もちろんそういった罠を仕込んだおっさんもひどいけど、同時にそれを見抜けなかったアインズもしょうがないわよね。仮にみんなのデミエモンやヒドインが見抜けても、アインズが大丈夫だ、だなんて言っちゃえばそれで決行されちゃうのよねぇ……慢心王なイエスマンオンリーはやっぱり駄目ね。何よりも原作のアインズは情報収集に絶対の自信をもって持ち帰った情報が全て正しいとして処理していくから、見落としに気が付かないのよね。例としてはアゼリア山脈の溶岩地帯の主とか見落としちゃってるもの、この辺りまで疑ってかかれていれば作者からのアインズへの評価もまた変わってたかもしれないわねぇ、ぶつかってたら即逃げ案件なんでしょうけど」

 

「続いてはグラビ屯さんからの魔法の系統分けに関してですね」

 

「光は勇者の使えるデイン系ということで行くわ!なんかそんな感じだし!」

 

「もんパラだとふつうに聖属性魔法や技が少なくない数ありますし……では次はべっこう飴02さんからの仕事を任せられないことへの共感ですね」

 

「正直感想でも書かれてるけど、基本的にナザリックのNPC達は至高の方々を除いて自分たちの方が偉いんだ、という傲慢しかないからね。そんな傲慢不遜増長マンな連中だもの……普通のサラリーマンが使うには胃が痛いことにしかならないわね。実際原作でもそんな感じになっちゃてるし……ナーベラルぇ」

 

「キャラとしてはかわいい造形なんですね。続きましてアスターΣさんからの質問ですね」

 

「これ、ホーリーライトからの盲目、変身解除、おっさんへのバトンタッチと混乱に混乱さらに混乱と重ね掛けして思考回路を殴り飛ばすような戦闘方法を取るつもりだったのよ……戦闘におけるゆさぶり攻撃はおっさんからすれば基本中の基本だからね。精神鎮静化がある?畳みかけて圧し潰せばいいのよ、おっさんへのバトンタッチの後に朱雀さんとベルさんとあまのまさんのネタ晴らしという歓喜からの絶望への突き落としが待ってるからねぇ」

 

「『今のアンタについていく気はない』これはとどめになりそうですね……精神的な死を狙うとかひどいですね。残念ながら当然としか言えないですけど。続いてべっこう飴02さんからの帰るのかってことに関してどうぞ」

 

「剪定条件がわからない現状だと長居する危険性があるからね。下手な冒険心だして剪定事象に巻き込まれても嫌でしょ」

 

「続きまして同じくべっこう飴02さんからの感想ですね」

 

「アルベドは原作でもシャルティアを重宝したらこんな感じになりそうなのよねぇ。シャルティアの代わりにバーで飲んだくれてるか、この作品みたいに荒れ放題になってそうなのが想像できちゃうのよねぇ……汚部屋で暴れてるか、拉致られて外で暴れてるかの違いくらいかしらねぇ。メガテンのヤルダバオト降臨させようとしたけど、それよりは熱血修羅勢の方がこの作品に合ってそう(楽しそう)だったからスパロボの彼が採用されてるわ。なんだか本来の姿だと画面映えするそうだけどしょせんはプレイヤー一人も倒せない程度だし……1500人襲撃結果を参照にしてるけど見掛け倒しって悲しくない?」

 

「ではこのくらいでしょうか……他に何かありますか?アポトーシスさん」

 

「そうねぇ、ユグドラシルの致命的な欠陥に関してちょっと言わせてもらいましょうか」

 

「致命的な欠陥ですか?」

 

「MMOをしたことある人ならわかると思うんだけどね。所持制限に関する致命的な欠陥がユグドラシルには存在してるのよね。対人を推奨するような職業取得条件があるのに、所持制限が緩すぎる無限背嚢なんてものがあるせいでゲーム内通貨での殴り合いにしかならないという点ね。500キロポーションガン積みしてがぶ飲みしてスキル使い切っての泥沼戦闘が日常風景化する様にしか見えないのよねぇ……何が楽しいのかしら」

 

「ROでは芋を満載して殴り続けることは日常風景でしたね……」

 

「それでも重量制限とか色々あったから三万個積んで突撃とかはなかったものよ……」

 

「ユグドラシルだとそれが出来ちゃう可能性が高い……ということですね」

 

「ポーションにクールタイムがあったりすることがあるけどねぇ、アイテムホイホイ使ってるところを見るとなさそうな感じね。TRPGならGM(ゲームマスター)KP(キーパー)から常識的な範囲内でね、って注意が飛んでくるでしょうね……車に乗ったままバスに乗り込んでたり、ポケットの中に乗用車所持してたり……普通はないわ」

 

「あー……パワードアーマーなんて最新刊で出てきちゃってますしね……」

 

「ROでも鎧を何個か持ったりできるけど、それは重量制限がきちんとある中で取捨選択がされるからこそのものね。鎧を複数持ってもいいけどその分回復アイテムが持てないって縛りがきちんと出て来るもの」

 

「ユグドラシルの縛りだとそれが何の意味も持たないわけですね。現地の人はインベントリを持たないから持てる量が当たり前になるけど、プレイヤーはそれに縛られない……インベントリ自体がご都合な存在になっちゃってますね」

 

「こんなものね」

 

「それではまた次回お会いしましょう」

 

「しーゆー」

 

 




所持重量

ラグナロクオンラインではSTRを上げることで所持重量を増やすことが出来る
また商人スキルでカートを手に入れる、騎士やパラディンで騎乗スキルを手に入れ騎乗することでこの所持重量を増やすことが出来た
所持重量の50%を超えると自然回復をすることが出来なくなり
90%を超えることで移動、攻撃、スキル使用が出来ないようになっていた

テーブルトークの方ではゲームマスターやキーパーに裁量は任されるが基本的に筋力に値する数値が高い方が多く持てるという判断をされることが多いだろうと思う


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~王都動乱・魔神戦争再来~
episode.1「それは始まりの出来事」


前回のあらすじ
ヤルダバオトが忠誠を誓いました
フォーサイトがナザリックに侵入しました
フォーサイトがコックローチ娘たちに捕まりました
以上をお送りしました

注意:あとがきにてクトゥルフのモンスターの特徴が出てまいります
ニコ動やようつべなどで「スワンプマンは誰だ」などを見ておくといいでしょう
ネタバレ嫌な人はあとがきを見ないようにした方がよろしいかと


 胸を貫く肉の色をした触手の群れ、屋根裏部屋に飛び散る血しぶき。

 ほんの一刹那の間に触手は広がり男の背後から男のすべてを捕食する。

 殺される男は狂っていた、失った愛した存在にもう一度会いたいと願い、狂ったまま禁忌を犯し踏み込んだ結果が分かり切った死という末路。

 この怪物と一対一で遭ってはいけない、人目が途切れるその瞬間に男の様に食われてしまうのだから……本来であれば血の跡も残さず男が居た証拠など残さず消されていた。

 そんなものを生み出した男はそんな死の瞬間に狂気から正気に戻っていた。

 いや、狂ってはいたのだろう。

 その思考そのものは他者に理解される道理などなく、その嗜好を知れば他者は忌諱するような悍ましいものを内包したままに、本来の知性を取り戻していた。

 

「(我ともあろうものが、実に愚かしい。このような贋作に金糸雀を真似させようなど……実に愚かしい。この結末も当然か……)」

 

 その知性は怪物に食われることも理解されることもなく、男はこの世から去った。

 男の名を九品仏大志といった。

 大志を襲った怪物はその姿のまま、大志の姿を、狂った思考をそのまま写したまま造り出す。

 怪物の名を……否、総称をスワンプマンと呼ぶ。

 男の生きた世界に地獄を顕現させた種であった。

 

「(あぁ、またソウルブラザーに迷惑をかけてしまうな……)」

 

 大志は狂っていた。

 大志の愛した金糸雀は人の姿をしていてもその中身は怪物。

 そしてそれを大志は知っていながらも愛した。だから彼は狂っている。

 

 

 

 死んだ後にどうなるかなど、大志が知る由もない。

 ただ……再び瞼を開いた先に映る光景がおかしい事だけはわかる。

 

「なんだこれは……?」

 

 生前よりもはるかに小さい手が視界に入り、握ったり開いたりしてみることによりこの身体が自身のものであることを理解する。

 生き返っただの、転生しただの、異世界らしいだの、そんなものは大志にとっては些事だった。

 

「バルブロ皇子、お勉強の時間でございます」

 

 ノックの音と共に部屋の内側にかけられる声に、己がバルブロという存在なのだと知覚する。

 そこからは早いもので、文字を覚え、口の動きがおかしいことを見、そして国の現状を、歴史を掌握する。

 瞬く間に知識を吸収し、信用できる手の者が居ないことを知り、ならばそれを造ることに着手する。

 貴族たちの会合を陰から覗き見てその瞳の奥に蠢く欲望の光を見つける。

 それが、血塗れの王の右腕となったレエブン候との出会いだった。

 

 

 

—————そして歯車は回り始める—————

 

 

 

—————壊れた音を奏でながらも—————

 

 

 

—————狂った音色を響かせながら—————

 

 

 

—————始点と終点が繋がった者が—————

 

 

 

—————掌の上で回すようにマワル—————

 

 

 

 目の前にはあられもない姿をさらしている四人の男女に、頭にたんこぶを作り正座をしているゴキブリ娘たち。

 

「捕らえろと言ったはずだが?」

 

「無力化!無力化だから!」

 

「私達だってたまには人の精が欲しいのよ!」

 

 はたかれながらそれなりの怒気にさらされながらも姦しくも声を上げるゴキブリ娘たちは正座したまま手振り身振りで鈴木さんの横暴に噛みついていた。

 その在り方はかつてのアインズ・ウール・ゴウンを思い出すような光景だった、NPC達からは見られず『命令』に唯従うのではなく共に『目的地』を求めて歩く対等な在り方。

 そしてその過程でそれぞれの意見や不満点をぶつけながら賑やかにやってきた。

 今のゴキブリ娘たちからはやらかしたるし☆ふぁーや叱られるペロロンチーノに姿が被る。

 

「で……いつ目を覚まして話が聞けるのかな?目を覚ましても普通に話を聞けると思っているか?」

 

「たかが十発抜いたくらいなんだから一時間もすれば……?」

 

「絶頂だからそんなもんだと思う」

 

「死んで無いからノーカン!」

 

「人間をお前らモン娘と同じ耐久してると思うな!」

 

 事実この世界のモン娘たちはとんでもなくしぶとい事は知っている。

 剣で吹き飛ばそうが、魔法でなぎ払おうとも、なんだかんだと生きているのだからとてつもない耐久ともいえるだろう。

 傅かれ敬られる在り方は目の前には無かった。

 

「だいじょーぶ!悟っち毎晩みたいにしごかれてんじゃん!」

 

「そーだそーだ!私達にも分けろー!」

 

「そーだそーだ!その子たちを僕にも紹介しろー!」

 

「今ならルベドを超えるゴーレム娘を造れる気がする!だから材料ちょうだい!」

 

「黙ってろ問題児二人」

 

「「はい」」

 

 背後には三人の男が居る。

 シアターで暴れるたっちに武器として振り回され数少ない武器を壊すことになったへろへろ、武器が壊され素手アーチャーになった無力なペロロンチーノ、手持ちの素材を全て吐き出して造り出したゴーレムを失ったゴーレムマスターるし☆ふぁー。

 ここに来るまでの途中で呼び出すことに相成ったが、最初のころと変わってなんだかんだとかつての賑わいのようになってきた気がする。

 こちらが賑やかになるのはとても嬉しいが、同時に決断を迫られている。

 たっちさんを押えることを頑張ってもらうのか、それともこちら側に呼び出して戦うタイミングを計るのか……少なくとも現状では後者の一択しかない。

 それは理解しているし、これ以上たっちさんを狂わせたまま苦しめたくもない。

 ただ、いまだに不安もある。

 俺はたっちさんに勝ったことがない……勝ち筋も見えない、対策そのものが立てられない。

 例え避けて通ることが出来ない道であっても、勝機が見えないことが一番の不安となっている。

 

 

 

 僕は歩いている二人の後ろ姿を見ている。

 幸せそうに歩いている二人……女性は僕が好意を寄せている、いや恋慕しているエンリ・エモット。

 男性はこちらを振り向き嗤っていた。

 すごくかっこいいわけでもない、愛嬌があるわけでもない、鍛え抜かれた筋肉質ともいえない、むしろ顔は三枚目で冴えない青年。

 

『なんで……』

 

 手を伸ばすが、手は空を切り虚しくも見慣れた薬草の汚れの落ちない自分の手が映る。

 

『なんで……僕の……』

 

 胸の内に溜まっていた想いを絞り出す。

 子供のころに両親を亡くし、お祖母ちゃんに薬師仕事を教えられるために訪れたカルネ村で出会った時から抱いていた想いを絞り出す。

 

『僕の……方が……先に好きになったはずなのに……』

 

 二人は歩きその姿を見せつけながら遠くへと、僕は膝をつき手を伸ばしながらもそのまま周りが暗くなっていく。

 二人だけがスポットライトを浴びているように目立っていて、僕の立っていた場所は音を立てて崩れ去っていく。

 エンリはカルネ村で笑っていると思っていた、いつまでも。

 僕はそんな君が好きだ、いつまでも続くと思っていた。

 いつか僕が勇気を出して、この想いを伝えて、幸せな家庭を築く。

 そう信じていた。

 

『僕の方が先に好きになったのに……なんで……なんで、そんな男なんだよ……エンリ……』

 

 涙を撒き散らしながら崩れた孔に落ちていく。

 何処までも続く、深い腐海へと。

 何時までも続く、昏い混沌へと。

 愛は憎しみと表裏一体、愛は切り捨てられたとき容易く憎しみへと変わる、憎しみは程よく狂気に近く、狂気は『理解されないからこそ狂気』である。

 愛憎入り混じる感情の中、そんな悪夢の中で囁く声が耳元に届く。

 

 

 

『なら、エンリを取り戻さなきゃ』

 

 

 

『愛したのだから報われるべきだ』

 

 

 

『君がかわいそうじゃないか』

 

 

 

『ほら、手伝おう……君が間男からエンリを取り戻す手伝いを……』

 

 

 

 燃える三眼が僕を見ていた。

 

 

 

 




スワンプマン 出展:クトゥルフTRPG
スワンプマンとは元々1987年アメリカの哲学者が考案した思考実験であり内容としては以下となる

ある男がハイキングに出かける。道中、この男は不運にも沼のそばで、突然雷に打たれて死んでしまう。その時、もうひとつ別の雷がすぐそばの沼へと落ちた。なんという偶然か、この落雷は沼の汚泥と化学反応を引き起こし、死んだ男と全く同一、同質形状の生成物を生み出してしまう。
この落雷によって生まれた新しい存在のことを、スワンプマン(沼男)と呼称しよう。スワンプマンは原子レベルで死ぬ直前の男と全く同一の構造を呈しており、見かけも全く同一である。もちろん脳の状態(記憶のこと)も完全なるコピーであることから、記憶も知識も全く同一であるように見える。
沼を後にしたスワンプマンは、死ぬ直前の男の姿で男の過ごしている街に帰っていく。
そして男の住んでいる部屋の扉を開け、死んだ男と同じ生活をするだろう。男と同じ職場へと出て、男と同じ行動をして……

大体がこんな内容であるが、これに対してスワンプマンをどう思うか?という思考実験である
クトゥルフのスワンプマンはこれに二人きりの時、相手をスワンプマンに変える、マザー(母体)が殺されたなら……数日後に身体を保てずにただの肉塊に変わるというモンスターである
基本的にスワンプマンが登場するセッションでは新規キャラをキーパーからお勧めされるだろう、君のキャラクターが人間からスワンプマンになってしまうかもしれないのだから


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episode.2「出会いと導かれる者たち」

前回のあらすじ
バルブロの前世なお話
へろへろ、ぺロロンチーノ、るし☆ふぁー到来
ンフィーレア君悪夢に誘われる
をお送りしました


 団子屋の横で片膝を立てて座る男の近くに三人の女性が近づいてくる。

 それは早朝でまだ店が開くには早い時間、日が昇り始めたころでもあった。

 三人のうち二人はまだ幼子であり眠たげに目をこすりながらも薄着に堅気とは思えない雰囲気を纏う女性に手を引かれて歩いてこちらに向かってきていた。

 背には多層式ミサイルランチャー、腰には火器、ブーツには刃物が仕込まれておりただ物ではないと男も一見で見抜く。

「(むしろ隠す気がないのか……)」

 それは手を出せば即応するという意思の表れでもある、王都では基本的に治安はいいほうではあるがそれでも中世の法治、道徳観を土台にしているためにそういうことはままあることでもある。

 それは昼は店番をし夜には情報収集をしているオオカミも見てきたことでもあった。

 それよりもオオカミですら瞠目する事実が連れられている童女二人、二人からともにそれぞれ性質の違う禍々しく悍ましい気配が垂れ流されているのだ。

「(……開店前ゆえにどうしたものか……)」

 ただその二つの気配は悟からうっすらと漏れ出ていたことを覚えているために、自身にそこまでの責任能力がないためにどうしたものかと悩む。

 問題は女性、戦闘を想像してもどうしても勝てない、勝てるというイメージ(想像)が浮かばない。

 まず皮膚に刃が通らない、仕込み義手を使っても難しいだろう、鍵縄で距離を取ろうとすれば腰の火器で撃たれるのが容易に想像ができる、とどめには底が読み切れない。

「ここが噂のダンゴ?屋さ……ん……よ……」

 そこまで言って女性はあるものを見てがっくりと項垂れる。

「うゆ……?」

「ふにゅ……?」

「『準備中』の看板が掛けられてるわ……ごめんねぇ、まだお店開いてないみたい」

 その言葉を聞いてオオカミは即座に決断を下す。

「この看板が読めるのか……入れ、茶ぐらいは出そう」

 懐から鍵を取り出し、女性たちを店へと案内する。

「……名を……」

 少なくとも日ノ本の出身、ただし悟や武蔵の年代に近いのかもしれない、少なくとも「日本語」を読むことができる程度の教養があり、子供を守る善性がある。

 鈴木からはこの王都で戦闘がおこる可能性が極めて高いことを聞いていた、ここを戦場にと選んだ戦略的な行動でもあるとも教えられていて、それが多くの命を奪う結果になることも、損害が大きいことも分かったうえでの戦略である。

 王都以外で発端が開けば此処を戦場にする以上の被害が拡散するというのがバルブロと鈴木からの答えだった。

 防衛線を最小にすることで守りを厚くする、その為に人員を事前に収束させ、独裁者の斬首戦法をとる……民の心を、国の衰退を考えれば悪手とも見える。

 悪手ともみえるが手を打たないことこそ最悪手であり手詰まりとなる……ただ滅ぼされる。

 最後の最後まで足搔くことを諦めぬ、だからこそこういった幸運も転がり込むのだろう。

 

 

 

 

 シャルティアはネクロフィリアという嗜好を仮初とはいえ与えられたがここに疑問が挟まる、ふとした拍子にその思考にノイズが入っていたことは確かだ。

「(私はそもそも死体愛好として与えられたのか、それとも死姦症として与えられたのか……少なくとも男性は死体であれば隆起()つ事は不可能。血を巡らせる心臓が動いていないのだから行為を行うことは不可能。ではアンデッドであれば興奮発情するのかと言えば、これもまた違う。なぜなら自身がアンデッドであり生なき死体なのだから色々とおかしい事になる。大真面目にペペロンチーノという人物は何を考えてこのような設定をしたのか……本人は強姦(レイプ)NG(ダメ)などとほざくが、それならば何故カルマを極悪に設定しているのか、本当に理解に苦しむ)」

 捕縛ロープSによりベットに縛り上げ大の字で仰向けにした状態でのバードマンことぺロロンチーノを見下す。

 SMに関してもソフト・ハードの線引きもなくどこまでも曖昧に自己の趣味を書きなぐった設定も「間違った廓言葉」つまり「間違っているとわかっている設定」から全てを白紙に戻したことで催眠調教のような屈辱的状況は脱したことに内心安堵している。

「ペペロンチーノ様、ヤンデレというのが極まればどのような末路を辿るかご存じですか?幸い私はネクロフィリアという属性も持たされておりますのでご安心ください。えぇ……えぇ……例え物言わぬ死体となりましても愛して差し上げましょう。そうそう、達磨という性癖もあるのをご存じですか?手足を切り落とし動けなくすることでそれを艶めかしいと感じる趣味なんだそうですよ」

「やめっ……!?……やだっ!?」

 ぺロロンチーノは縛られたまま涙を流し、シャルティアの持つ両刃の斧を何に使われるのか想像し首を激しく振るう。

 それでもシャルティアはそれを止めることはせず、言葉を続けていく。

「ペペロンチーノ様は私が死亡したときに言ってくださいましたわよね『ごめんよ』と……仮面で(かんばせ)は拝見できませんでしたが、きっと泣かれていたのでしょう。私の死を想って悲しんでくださったのでしょう」

 その語りを肯定するようにぺロロンチーノは必死に肯定するために首を縦に振るう。

 その必死な行為を見ながらシャルティアは心の中で溜息を吐く。

「(例え後悔していても、過去にそのようなことを行っていたのだとしても、捨てて命が宿ったからと手のひらを返している。その浅ましさは何も変わっていないのですが……それを謝ったからと許せるのはなぜなんでしょうね。ルベドはタブラ様を殴り飛ばしたとは聞いてますが)」

 この違いは設定を白紙化したシャルティアにのみ起こることだろう、デミウルゴスは別のことが原因でまた違う変化となっている。

 設定を白紙としたがゆえにこれまでのふれあいで積まれていた好感度というものが零で始まっているためでもある。

「でしたら、なぜ?私を捨てられたのですか?なぜ?どうして捨てた私の責任を取りたいなどと?ならば最初から捨てなければよかったでしょう?それとも創造主だからと軽く許してもらえるだろうという浅い考えからでしょうか?」

 彼らもシズとルベドの創造主との会合を見ていると聞いている。

「夜の貴族たるヴァンパイアにあのような好色な設定を記憶野に無理やり洗脳のようにねじ込んでおいて許されるとでも考えていたのでしょうか?眷属を持つ貴族としての誇りもあれば夜という領を持つものとしての矜持もある、『力の大妖』と呼ばれる自負もある。それを謝れば水に流してもらえるという甘い見積もりであったと考えているのでしょうか」

 最後にはその思考を読むように瞳を覗き込み、心胆を読み取り疑問符を消して確信する様に語り掛ける。

「責任を取るというのであれば……私たちに迷惑をかけないように物証を取っておきましょう」

 その言葉と同時に空を切る音と飛び散る血がぺロロンチーノの股間から男の象徴が玉とともに空間を舞う。

「あ……がっ!?」

 短い驚愕の声とその現実を認識した故に訪れる激痛に漏れる短すぎる激痛にうめく声を最後にペロロンチーノは白目を剥いて気絶する。

「これで女癖が鳴りを潜めればいいですけど……」

 溜息一つ、ある意味で主従が逆転するような扱いも責任の取り方かもしれないと大きく呆れた溜息を吐く。

 謝るのは何の為、認めるのは何の為、責任の取り方はそれこそそれぞれにあるだろうが、第一に他者に迷惑をかけないことではなかろうか、加害者が被害者に被った補填をすることではなかろうか、裁く側が何もなく情に絆される等統治者としてはもう何一つ声をかけることもできない暗愚の判を下す他にない。

 少なくともシャルティアはそう考えている。

 その考えから作り出したNPCに仕事も与え有能であれば異なる仕事も任せる判断を下しているスズキを評価している、外に出た他の者たちの反応から自分たちの浅慮な行動がスズキのみの迷惑で済まないことも容易に想像がつく。

 その補填をと考えれば頭も痛くなる……そしてギルドメンバーの問題児に数えられている内の一人が自身の創造主だというのだから早急に躾ける必要も責任もあった。

 物理的に宮刑を施しておけば多少はおとなしくなってくれると願っている。

 切に願っている。

 願っているが……ユグドラシル時代の思い出からのダメな予感がずっしりと重く肩に圧し掛かりシャルティアは肩を落とす。

 

 

 

 るし☆ふぁーは悟の前で正座をしたまま、懇々と注意をされていた。

「いやさすがにゲームじゃないんだし自重するからね?現実でもやってたらたっちさんに手錠掛けられるのわかってるから。大丈夫な線引きはきちんとしてたんだよ?普通に手に入れられるアイテムしか使ってないし……」

「でもるし☆ふぁーさんの使った鉱石があれば俺の防具もう一ランク上だったんです」

 その言葉を聞いてばつが悪そうに頭をかくが続く言葉には悟も驚く。

「でもさぁ……あれ、モモンガさんからの許可もあるみんなに押し付けられたギルド防衛用のゴーレム作成の一部への使用であって、決議内容の一部なはずなんだが?」

「……出来上がったのが銀色のG型ゴーレム、でしたよね」

 その言葉に指で頭痛を抑えるように押し付けながら目を瞑って答える。

「あぁ、そりゃ変形前のグシオンだしな。あれ人型になるんだわ」

「初耳なんですが?」

「そりゃ言ってねぇもんよ。レメゲトン飽きたって言ったじゃん?あれも完成したから「設定作り」に飽きたって意味だから」

 手を広げて今まで隠していたネタ晴らしを笑って始める。

「……は?」

「ぷにっとさんからもさんざん言われたでしょうが、敵を騙すには味方からって、何体かは一か所だけじゃなくて風呂場とかのひょうきんなところにも設置してたんだぜ?男風呂の人魚型ゴーレムはウェパル、女湯のほうは獅子頭のサブナックの馬なしヴァージョン。ギミックとしてはユグドラシル時代じゃ裸になれないから風呂場に行った連中を奇襲する用だわな」

「すみませんちょっと待ってください……あれ?それじゃ闘技場の賑やかし用のゴーレムなんかも?」

「あれは合体してでっかいダンタリオンだったはずだな、何人も潰せずに討伐されちまったけど」

「六十七体作ったって話だったから……後一体……?」

「はっはっは、そこは頑張って探してみてほしいな。案外探せば出てくるかもだぜ」

 昔を思い出すような悪戯をする子供ような仕草や表情をしながら、思い出すように笑っている。

「それで風呂場でゴーレムが起動したらどうするんですか」

「そんなもん風呂のマナー守らんやつが悪いに決まってるでしょうが、あそこ一人用じゃなくて大浴場なんだからマナー守るのは当然でしょ」

「あぁ、確かにそれはそうですよね……てかあそこはギルメンたちの個室とかもある階層じゃないですか」

「そこだからこそ刺さるんでしょうが」

「ぐぬぬ……ああ言えばこう言う」

 そんな風に悟が言いくるめられながらもるし☆ふぁーは嬉しそうに笑っていた。

「あはははははは、あぁ、楽しいなぁ……またこうして楽しく話せるのが本当に夢のようだ。ははは、悪戯や悪さをして、叱られた記憶ばかりだけども楽しかったよなぁ」

 その瞳から涙をこぼしながら笑っていた。

「七十年……ユグドラシルが終わってから七十年、たった一人でぼんやりとしていた長い長い悪夢の最後がこんなにも嬉しい夢ならば覚めないでくれ」

 老人がすがるように悟のローブを掴んだまま泣き崩れる。




ヴァンパイア 出展:色々
みんなもよく知る吸血鬼の種族名
でも元々は起き上がりが原型で古くはグールのように墓から這い出て死肉を貪る怪物だと信じられていた、古い古い時代死亡確認が甘く仮死状態で棺桶に詰められて埋められていた時代の事、墓荒しが行われ棺桶の内側にひっかき傷があり恐怖の表情で固まっていた死体が発見されたことがヴァンパイア伝説の発端になる
ヴァンパイアは心臓に杭を打たねば死なない、これは葬儀にも行われることがあった、死亡を確実にするための名残でもある
今でもそういう形で伝えられておりこれはクドラクの退治方法にもより呪術的な要因を組み合わせたものが伝わっているのが変形したものがドラキュラの退治方法でもあるのだろう
心臓に杭を打てば死ぬのは普通じゃん?普通はそうなのだが別の方法では復活するという特徴を持つのもヴァンパイアの特徴である
ソードワールドではアン・ホーリー・ソイルという汚れた霊地から魔力を吸い上げて復活する、これを防ぐためにヴァンパイアを退治するよりも先にこれを聖水で清めターンアンデッドを施す必要があったりする
そうしなければせっかく倒しても数か月もすれば復活して来るというもの
またヴァンパイアは霧になる能力を持つので通常の武器は効果を発揮することはないので銀の武器が通用する、通用するが決して弱点というわけではない
あくまで通常通りにダメージを与えられるというだけなのだ、特攻効果が乗るとかそんなお得なものは本来はない
ヴァンパイアの特徴として挙げられるのが白い肌、赤い目なのだがこれはアルビノ(先天性色素症候群)が悪魔に魅入られた子として気味悪がられたことからこの特徴が多く使われていた
ヴァンパイアが太陽光に弱いとされるのもこれを後押しするのだろう


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episode.3「何かおかしい祭ごと」

前回のあらすじ
ぺロロンチーノ去勢される
るし☆ふぁーなにげにのーかん案件だった
回生のオオカミ、不死身のマリアを出会う
をお送りしました


 青天の霹靂ともいえる落雷がどこかに落ちた、それは奇跡的な確率と言ってもいいのか非現実的な現象が引き起こされていた。

 どのような確率なのか落ちた雷はその場にあったアミノ酸、ケイ素などと結合し新たな生命を生み出し、生み出された生命は不思議なことに知恵を有していた。

 それは褐色よりも濃い茶色ともいえる手のひらを見ながら呟く。

 

「わが願いは……」

 

 呟きは途中で頭を振るって言い換える。

 

「我らが願いは!チョコレートとの融合である!」

 

 呟きは叫びに変わりその声に呼応するように叫びをあげたモノと似たようなものを新たに発生させていた。

 これを見た神はどう思うのだろうか、少なくともこれを見たラスボスたちは声をそろえてこうつぶやいた。

 

「「「「ナニコレ……」」」」

 

「アイギスの方でネタが被ったと頭を抱える」

 

「これと被るってどういうことだよ!?」

 

「スワンプマン説明これをやるためだったんだがな……」

 

 

 

 

 るし☆ふぁーは縋りつく形でもたれかかり気力が尽きたのか安堵したのか気を失うように寝息を響かせ始める。

 

「とりあえずはへろへろさんと一緒にカルネ村に連れて行った方がいいですかね」

 

『そうだな、るし☆ふぁーに関してはニースさんに任せるのが一番だろう……悟君に教えてるのはしょせん付け焼刃の応急処置にすぎないからな。重度を患ってるのは本職に任せるしかない、餅は餅屋ってやつだ』

 

「エンリにもみんなを説明したいですしね」

 

『ついでにパンドラが貴族に関しての勉強も手伝ってくれるみたいだから頑張ろうな?』

 

 その言葉に溜息をつきながらるし☆ふぁーを担ぎ上げゲートを開いてフォーサイトの全員もゴキブリ娘たちに担がれて一緒にカルネ村へと運んでいく。

 

「この年になっても勉強は必要なんですねぇ」

 

『人生これ勉強なり、知らずを知るもまた勉強だ。貴族社会の常識やら風習だとかは悟君の時代との常識なんかとは違うものだからな、領地を部下任せのふんぞり返るようなダメ貴族と後ろ指をさされたくはないだろう?最低限のことができるようには教えてもらっておいた方がいいだろうさ』

 

「あぁ、それはまったくですね」

 

 そんな会話をしながら気絶してる人を全員別途に寝かせて、パンドラからの勉強を受ける。

 

「んん!それではお勉強を始めさせていただきまぁすっ!」

 

 ホワイトボードを引っ張り出して書き出していくが悟の手元にはこれから学ぶ領地経営に関しての書類が山のように用意されている。

 

「専門用語は先に用意させていただいた書類の方にまとめさせていただいておりますが、今はまずざっくりとした大まかな全体像から説明させていただきますね。まず納税の必要性から、これはギルド運営資金を領民から集めるのだと思っていただければ大丈夫です」

 

「(あ、そんな風に説明してくれるとわかりやすいかも)」

 

「このギルド運営資金から、まず引かれるのが国への納税ですね。これはギルドの維持資金だと考えればわかりやすいでしょうか。これを引いたものが領地に使える資金となるわけですね、図書館の方にあったラノベに書かれる悪徳貴族の多くは残った資金がすべて自分のものだと勘違いするためにそのように描かれたりするわけです。本来であればこの資金から道路を整備したり公共の施設を建てたり自身の抱える役人などの雇っている者たちに支払う給料を捻出したりするのですが……この辺りまでは大丈夫でしょうか?」

 

 ホワイトボードに大きく丸を書き中心に運営資金と書きそこから矢印を延ばして色々と書き込んで説明を並行して行っていく。

 

「あぁ。ゲーム時代の事を例えに出してくれるおかげで分かりやすい。公共の施設なんかはギルドの内装を整える為にかかる費用、雇っている役人等の給料はNPC設置の際に増える維持費みたいなものか」

 

「えぇ、えぇ。その通りでございます父上。ここからはゲームとは違う現実的なモノを話しておきましょう、きっとこの辺りは父上ではなんでそうなるのかがわからない部分でもあるでしょうから例え話を交えながら説明させていただきますね。領主の館を構えることになると思いますがこの領主の館が商業にしろ農業にしろその領地での上限を妨げるものになると思ってください」

 

「んん?なんでだ?」

 

「これはですね、父上の職業を例えにするとですね……社長のお住まいよりも立派なお住まいを持つ社員をどう思いますか?」

 

「あ、すごく納得。すごく気まずい」

 

「納得していただけたようで何よりです。当然業突く張りの商人であればそのようなことを気にはしないでしょうが、逆を言えばそのような商人はお抱えから外しても問題はないということになります。そうした場合はいやがらせ程度は受けるでしょうがね、真摯に信頼を稼ぐこと、これが大事でございます。イエスマンであったかつてのナザリックの部下たちであればその下積みもなく信用信頼重宝しない奴らが悪いと言い募り父上を困らせていたことでしょう……すぐに想像できるのがすごく嫌ではありますが」

 

 その想像をして二人してすぐさま想像できてしまったためにパンドラは顔には出ないのに共に嫌な顔をしていると共感することができる。

 同じように顔を両手で覆い下を向いていた。

 

『あの忠誠の儀の時にあんな態度になったのがよくわかるだろう?』

 

「えぇ、今になればあれで正しいというのが痛いほどによくわかりますよ」

 

「その上で商人たちもあの手この手でいい話を持ってくるでしょうから注意は常に必要ですよ。お抱えになれば優先して商品を領主に売れるわけで大きな商機となりますからな」

 

 勉強も一区切りがつくかなといったところで扉がノックされエンリが顔をのぞかせてくる。

 

「一息つきませんか?」

 

 そういいながら入ってくるエンリの手には盆が載せられており、盆の上には黒い物体が丸められ粉をかけられた状態で鎮座していた。

 

「「チョコレート?」」

 

「この時期竜王国の方に出ている兵隊さんたちが仕入れて入れ替わる際に輸入して来るので手に入りやすいんですよ」

 

「竜王国と言えば王国から帝国を挟んで南東に位置する国でしたかな……なんでもモン娘たちの侵攻というか……男狩りに困っているとかなんとか」

 

「いや男狩りってなんでさ」

 

 パンドラはその質問に指を一本立てて振りながら答える。

 

「単純にモン娘という種族には男性がおりませんので王国のように受け入れられる下地がなければ子孫が残せないからなのですよ。ユグドラシルからでもいた種族であればハーピーが同じような形で子孫を増やす、と記憶しておりますよ」

 

『実際もんくえでもハーピー村でそんな事件があったからなぁ。幻想(ファンタジー)がリアルになったらそういった生臭い問題も出てくるんだろうさ』

 

 竜王国の現状を軽く流しながら三人は盆へと手を伸ばし……三人ともが空を切る。

 

「「「?」」」

 

 盆を見ればその上にチョコレートはなく、三人が顔を見合わせたときエンリだけが扉を背にする位置だったからか窓に手をかけこれから出ようとする人物を発見する。

 

「あ」

 

 小さな発見の声と指さす方向にパンドラと悟の二人が顔を向ければどこかで見た覚えのある戦闘メイドに似た存在がチョコレートを持って出ていこうとしているところだった。

 獣耳を隠すための帽子に長い三つ編み、それはルプスレギナによく似ていた後ろ姿であり服もプレアデス達のものそのものであった。

 

「……ふぅ……父上と母上はこのまま逢瀬を、息子である私が……えぇ、ちょぉっと逝かせてきます」

 

 落ち着くための深呼吸を一つついたと思えば覚悟を決めたまなざしでお辞儀をし、ルプスレギナを追いかけ始める。

 

「あー……バレンタインに巻き込まれるのは初めてかなぁ……」

 

「毎年こんなことがあるの?俺のところだとバレンタインは2月……冬の最中の催し物だったと思うけど」

 

「えっとですね。こっちだと……大昔に言った言わなかったで戦争になったとかが原因で、普段言葉にしない感謝とかをお菓子と一緒に送る催し物になってるんですけど」

 

『ところ変われば品変わるってやつだなぁ……告白なんかも含まれててそれを邪魔するのも恒例って感じなのかねぇ』

 

「嫉妬団はどこでも沸くもんなんですかねぇ……」

 

 

 




言った言わなかったで戦争
メッセージがマイナーになったり信憑性が疑われるようになった原因のアレ

アイギスのイベント
今年は最初にチョコを求めてグルメジャングルへ……チョコ沼地にデシウスが落ちて……
この先は自分の目で確かめよう(マジでどうしてこうなった


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episode.4「嫉妬する者たちの再演」

るし☆ふぁーはしばらく養生
パンドラとお勉強
この世界のバレンタイン
以上をお送りいたしました



 ルプスレギナと思われる人物達を追いかけるパンドラと数名の黒ゴブリン、そしてシズとグレーテル、向かう道はエ・ランテルへと続いておりその途中にはエウリュエンティウより逃れた女性たちを匿っている集落がある。

 その門には屈強とというよりも遥かに禍々しくも刺々しい重板金鎧に全身を纏うブラッディナイトと腹に巨大な顎とその中に納まる瞳という異質な死霊デッドリーレイスが騒ぎに視線を向けてくる。

 騒ぎがあれども容易く持ち場を離れることなく「近づけば殺す」ただその事実のみを視線で突き付けてそちらに向かうルプスレギナらしきものに向けて魔法を放つ。

 

「止まらぬのならば死ぬがよい『流星群』(メテオ・ストーム)

 

「それでは話も聞けん、せめて足を止める足枷にするべきではないかね『吹雪の大怨霊』(ストーム・ガスト)

 

 村の前の戦場として開けている場所では、隕石が降り注ぎ吹雪が逆巻く地獄絵図と化していた。

 凍結し動きの止まったものを狙いすましたように降りかかる隕石は氷を砕き再び豪雪の檻に閉じ込める、豪雪を抜けようともがこうとも隕石による灼熱が、衝突によって抉れた地面が足を取りまともに進むこともできずに砕かれる運命から逃れることができない。

 そのような地獄に足を踏み込んだチョコ泥棒達は悲鳴を上げながらかろうじて生き残った者が集まって這う這うの体で別ルートを取ろうとしていた。

 

「「「ウワァ……」」」

 

「いやはや、ここに無用に近づけば殺すと力強い宣伝ですなぁ……あの地獄を抜けても二枚看板との近接が待ち構えておりますから。皆様も近づかないように、近づく際には伝言(メッセージ)を忘れてはなりませんぞ」

 

「……怖がられるのでは?」

 

 パンドラが村の戦況を誉め全員に注意する中シズが当然のようにやりすぎではないかと疑問を投げかける。

 その質問にパンドラは変わらない表情のまま頷き、疑問に答える。

 

「それはですなこの村は怖がられる、現状ではそれが望ましいからなのですよ。「女ばかりがいる村」と「恐怖の二枚看板が問答無用で殺しにかかる村」、どちらが中の彼女たちが安心できるのか、そしてどちらが人が寄ろうとしないか……あの子たちにはまだ、外を知るよりも心の傷を癒す時間が必要なのですよ。だから過剰とわかるほどに苛烈に防衛をするあのお二方が適任なのです」

 

 さらにデッドリーレイスはアンデッド所以の姿隠し系のスキルを看破する能力を持っており、ブラッディナイトは距離を無視したテレポートによる奇襲が可能であること、双方ともに独自の回復手段を所有しており下手な防御型よりも経戦能力が高いこと、アンデッドとリビングアーマー系だから疲れも知らず眠ることもない。

 知恵者のパンドラからしても防衛戦力として太鼓判を押せる二人である。

 そして村の中にはパンドラが本来は持たない記憶に存在するナザリックのNPCウォルヤファがアニマルセラピーを兼ねて村に駐屯している。

 

「この村は大丈夫そうですな。さぁ逃げ出した連中を追いますよ」

 

 そのウォルヤファが出てこないことから村の中に異常はないと判断して先に進む。

 

 

 

 

 カルネ村で起きた盗難事件はカルネ村だけで起きたことではなく此処エ・ランテルでも当然のように起きていた。

 

「もっと!もっとよ!チョコを回収するのよ、チョコスケルトンたちよ!」

 

 チョコレートで作られたかチョコレートでもコーティングされたのか茶色い骸骨たちは店や渡そうとしていた人物、果てにはすでに渡した人物からチョコレートというチョコレートを奪おうと街の憲兵や冒険者たちと戦闘をしていた。

 

「野郎!娘からのチョコは!渡さん!」

 

「甘未食わずにはいられない!」

 

「ダイテツ爺ちゃんにユウ兄ちゃんに送るための材料返せぇ!」

 

「イカマンがチョコを食べて大丈夫なのかはわからんが……くらーけんを取り戻した暁には作ってもらうのだ!そして我もくらーけんに贈る為に!イカ男爵、参る!」

 

 なぜか緑のレオタード姿に緑色の髪色をしたくせっけの強い女性や通常状態の姿に戻っているイカ男爵もその戦闘に参加しており二人を中心に斬撃が飛び交い骨が吹き飛ぶ中銃弾や矢の雨が降ってくる。

 憲兵たちも即席のバリゲートを片手で持ち上げて盾にしながら戦線を押し上げていく。

 

「く、人間のくせに……思ったよりもレベルが高い!?」

 

「さぁ観念してみんなのチョコを返すんだ!」

 

 レオタードの女の子が曲刀に雷を纏わせて勝負は決した様に宣言するが骸骨たちをまとめていたビターチョコのような鳶色の髪をロールにした女性は悪態をつき返す。

 

「これは守護者統括が求めるチョコ!そう簡単に渡せるものですか!」

 

「せめてお金を払って正当に買え。どのような理由があろうと盗みを働いた時点で盗人猛々しいだけだぞ」

 

 必死にチョコを守ろうとする女性に憲兵の一人が呆れたように突っ込む。

 毎年この時期には似たような連中が出てくるのだが、お祭り騒ぎの一環のようなものなのでそれなりの不文律というものが出来上がったりはしている。

 その不文律みたいになってるのが『お菓子』を巡って争いになり負けたのなら負けたものはその『お菓子』を諦めるというもの。

 この世界でのバレンタインという祭りは一種の不満も含んだ感情を吐き出すための祭でもあるのだから、怒りも不平も嫉妬も一度発散させるのが大きな目的の一つとなっている。

 

「まったく……いつもの嫉妬団のバカ騒ぎと違って街への被害も出して、弁償できるのか?あんた」

 

「え?嫉妬団であのカップルの周りで暗黒舞踊を踊りながら手から変なのだしてる……アレ?」

 

 女性の声に憲兵が頷きながら肯定する。

 

「うんうん、その通り……何かしら祭りの時に集まっては集団で行動してな……ちなみに田舎だと少ないだろうがこっちみたいな大きな街だとより多くなるぞ」

 

「うえぇ……」

 

 女性の指さす先にはまさに言ったようなピンク色の触手を手から出し奇怪なるも悍ましいと感じられる全身をうねらせるマッチョな男たちが覆面を被って舞っていた。

 

「さぁ!我らが憲兵を抑えよう!今のうちに逃げるのだ嫉妬ガール!」

 

「く、この屈辱必ず晴らさせてもらうわ!……それとだれが嫉妬ガールよ!」

 

「あ、待て!くるくるパーマ!」

 

「誰がくるくるぱーよ!」

 

 そんな捨て台詞を吐きながら、嫉妬団が抑えているうちに骸骨たちは外からきた大きな三つ編みをした女性と合流して撤退してしまった。

 そのタイミングでパンドラたちも到着し、彼らと協力して嫉妬団の方は全員捕縛されたのだった。

 

「ふむぅ、特徴を聞くにソリュシャン……ですが全体的に褐色色をしていたとは一体どういうことなのか、守護者統括ということはアルベドなのでしょうがアレには魔法的なものを作り出せるとは到底思えません。何者かが一枚かんでいると見た方がよさそうです」

 

「なんだかよくわかりませんが私も協力します!ダイテツ爺ちゃんとユウ兄ちゃんへのチョコを取り戻すんだ!」

 

 憲兵に協力した代わりに情報を集めていたパンドラに元気よく手を挙げて参加を希望する。

 

「我も行こう。もしかしたらくらーけんの情報があるかもしれんからな」

 その声に追随するようにイカ男爵もその追撃戦に参加を希望する。

 

「(あ、この二人とも私よりも強いですねぇ)えぇ。では、よろしくお願いします」

 

 二人からの参加希望を快く承諾するパンドラを横目にシズは顔を覆っていた。

 

「ソリュシャンまで……プレアデス全員出てくるとかやめてほしい……」

 

 

 

 憲兵が言ったとおりにエ・ランテルよりも大きな都市王都にて騒動は起きようとしていた。

 それはソリュシャン、ルプスレギナを追っているパンドラたちが向かう方向でもあったが、その発端の場所は団子屋の私室で起きていた。

 縛られたままのペロロチーノに怪しい仮面をつけたローブ姿の偉丈夫が覗き込むように語りかけていた。

 それは痛ましい仲間の姿を憐れむような声色であり、同時にその姿にしたものへの怒りが隠し切れない状態で語り掛けていた。

 

「同志ペロロチーノよ。なんとむごい姿になっているのか……さぁ、我がマスクを受け取りかつてのように暴れようではないか。そう『無課金同盟』の時のように……」

 

 その手に握られ差し出されるマスクは泣き笑いのような奇妙なマスク、嫉妬マスクそのものだった。

 




嫉妬マスク 出展:オーバーロード
泣きながら笑ったような表情の奇妙な仮面
南国の民族マスクみたいなデザインをしている
おそらくこの言葉自体はガンガンコミックの「突撃パッパラ隊」の宮本君が嫉妬の心で変身することで誕生する嫉妬マスクからと思われる
本家は覆面プロレススタイルで白地に炎のような隈取があるだけのものである
ハチャメチャをするのは本家の「突撃パッパラ隊」と同じである
なお嫉妬マスクはギャグ補正を持っているのか灰からも再生する


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episode.5「逆鱗に触れる、虎の尾を踏む」

前回のあらすじ
保護した人たちの門番ヤバイ
イカ男爵、女勇者参戦
ソリュシャンはルプスレギナと合流
嫉妬団現れる
以上をお送りしました


 王都の某所にて背が高く筋肉隆々の男が一人、花束とラッピングした袋を持ち石碑の前にしゃがみこんでいた。

 普段では考えられないほどのおちゃらけた態度でもふざけた態度でもない、本来の、とでもいうべき雰囲気を醸し出しその石碑に掘られた文字を眺める。

 

「お前は此処には眠ってはいない……ただ、我が忘れえぬだけの証よな」

 

 静かに石碑に向かい手を合わせその石碑に掘られた名の持ち主の好きな花の花束を静かに置き、男自身が手作りした包みを添える。

 石碑には「九品仏 金糸雀」そう彫られていた。

 じっと動かずにただ手を合わせ目を瞑り、思い出す。

 初めて出会ったのは相方の背に隠れ興味深げに見ている小動物のような印象を受けた、餌付けするような感覚でよく持っていたお菓子を差し出し恐る恐る手を伸ばしながらおどおどとしていた。

 嗤う大声にびっくりして他の誰かに助けを求めるのはいつからだっただろうか、世間知らずだとは聞いていたが好奇心旺盛であれは何?これは何?とよく我がコレクションを見ていた。

 背に彼女を背負っていたからこそ意識が飛ぼうとも、汚泥を舐めようとも再び立ち上がることができた。

 邪教徒に連れ去らわれたと聞かされた時はいてもたってもおられず、ただ駆け出した。

 

「どこぞの金ぴかならば我をあざけ嗤うであろうな。悔いる王など王に非ず……そんなところだろうな。……実に滑稽だと思わんかね?自身の心も貫けぬを王とほざくなど、我にはそれこそ悔いぬ王は人に非ず、そう思えるのだがな……なぁ?無粋な貴様よ」

 

 合わせていた手を離し立ち上がり、再び開いたその瞳には酷く酷薄な光が宿ったまま心胆を凍えさせるような絶対零度の眼差しを隠れている男へと向ける。

 隠れていた男にはそれが心臓を鷲掴みにされたように硬直して草木を揺らしてしまう。

 その行動に観念にして必死に心を奮い立たせて、吐いてはならぬ言葉を吐く。

 

「はっ……王様とか言われながら、昔の女に未練たらたらなんざ……」

 

 隠れていた男が口にできた言葉はそこまでで、鉄塊を超える硬度を持つ右こぶしが男の顎を正面から突き刺さり粉々に砕き去る。

 

「そうだな。確かに今日(こんにち)は騒ぐことを許した祭りである。あるが……無礼講とも無礼切りがないとでも勘違いしていたのか」

 

 死者を取り戻そうと足搔いた男の情が、愛した故に狂気に浸かった男の想いが、たかが一度二度死んだ程度で薄まるものだろうか。

 歯を全てへし折り、骨を割った血に濡れたこぶしを引き抜きながら、左手で男を宙づりに持ち上げるがその握力は頭蓋を軋ませる音を響かせる。

 

「どこかで見た覚えがあるな……あぁ、思い出した八本指の残党の……何だったか」

 

 血に汚れることを気にすることなく顎に右手を当てて考えながらも、暴れようとする男を吊り上げた左手を細やかに揺らすことで身動きをできないようにしているうちに痙攣にも似た挙動を取り始めたくらいで一つ思い出す。

 

「ようやく思い出せた。『幻魔』とかいう大層な二つ名を持っていた木っ端であったか……性根ゆえに見捨てていたが悔しみも糧にできずこの程度の体たらくとは、やはり見限って正解だったか」

 

 疑問が解消したためにサキュロントを握ったまま手をいつもの腰の高さに下ろし、引きずった状態で衛兵に突き出すために最寄りの詰め所を目指し歩き始める。

 過去は過去と割り切ってはいる、だがその想いが薄れることはない。

 

 

 

 なぜかクロウを中心にお菓子作りが開催されている団子屋、団子にココアパウダーを混ぜてチョコをかけたものだがウレイリカ、クーデリカには好評なようで笑顔でこねて作っている。

 幼子二人は汚れることも気にすることなくこねくり回して団子を作っているのを見て、マリアは小さくつぶやく。

 

「こりゃ終わったらルークに任せるしかないかねぇ」

 

 彼女は世紀末出身であり綺麗な水が貴重な生活をしていたもので洗濯というものに疎く、下手をすれば力任せに衣服を破ってしまう始末。

 それに比べれば先ほど名前をあげたルークの方が技術そのものは未熟でありながら物資や生活するための知識というものが豊富だった。

 その上で傭兵や冒険者をしていたために野外活動の一環での生活行動という物はマリアでは真似のできないものが多かった。

 子育てはマリアもその世界ならではのものを施したことはあるものの中途半端な時期に死亡しているのでその結果がどの程度のものだったのかは不明である。

 ただこれがとても微笑ましく大切なものだという事だけはわかっていた。

 老人たちの言っていた幸せとはこのようなことを言ったのだろう。

 緩ませていた顔を引き締めて扉の近くにオオカミとともにその手に武器をすぐに抜けるように身を潜める。

 

「(何者か来ている)」

 

「(一名、武装あり、挙動不審な動き)」

 

 アイコンタクトで音もなく扉の両側にたつ二人を幼女とクロウは不思議そうに見ているがセバスとシャルティアはその来訪者に危機感は持たず悠然と団子づくりを続けていた。

 外からは草鞋のようなもので歩く音と金属の擦れる硬質な音が近づいてきているが警戒を緩めることはなく動かず息をひそめて待っていた。

 

「だんご……や……?」

 

 日本語を読むその声は幼く少女のもののように聞こえる。

 その言語を確認すると急ぐように扉を開き、オオカミがのど元に刀を、マリアが側頭部に銃を突き付ける。

 少女の姿は赤い胴丸を着て黒いマントを羽織り黒い髪をかんざしで髪を二つにまとめたかわいらしい子は突然の事で固まってしまっていた。

 その姿に敵意はないとみてシャルティアは二人に武器を下げるように命令する。

 

「二人とも武器を下げなさい、そもそも街中でその警戒は行き過ぎよ」

 

「仕方がないわね。先手は必勝の要なんだけど」

 

「……承知した」

 

 マリアはしぶしぶと銃を仕舞い、オオカミはクロウに一度視線を送ってから刀を鞘に納める。

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 少女は頭を一度下げてお礼を言うが少々畏縮しながらも武器を下げさせたシャルティアの目をまっすぐに見て、シャルティアもその目を見て一つ命令を加える。

 

「セバス、オオカミ。二人は外に仕事に行きなさい」

 

「しかし、よろしいのでしょうか?」

 

「オオカミよ。お願いできますか?」

 

「……承知いたしました」

 

「団子づくりに協力できないでしょう?あなたは」

 

 セバスは不動の姿勢でシャルティアに命令を取り下げてほしそうにしていたがすげなくその言葉は却下されて外に追い出されてしまい、オオカミもまたクロウからのお願いにより外でいつものように待機することとなった。

 

「さて、これであなたが怯えそうな男たちは外させたわ。楽にしなさい……そういえば名前をまだ聞いていなかったわね。私はシャルティア=ブラッドフォールンよ」

 

「わ、私は織田香姫といいます」

 

 その名前を聞いてシャルティアに思い当たるのは黒の剣にいた一人の中年に差し掛かる男性の事であり、妹がいたことも聞いていた。

 

 

 

 王都ではチョコスケルトンが他の街と同様に暴れていた、その中を闊歩するバルブロは片手に握ったゴルンノヴァを振るい薙ぎ払いながら衛兵の詰め所を目指していく。

 

「うむ。今年は勢いよく暴れているな」

 

 並みいる骸骨を粉砕し踏み砕き斬撃耐性を物ともせず、光属性にて尽くを滅殺して道を切り開き我が道を押し通していく様は正に王の往く道を現しているようだった。

 

「任務御苦労、こいつを牢に放り込んでおけ。ところで骸骨どもは何を狙っているのだ?どうも菓子を狙っている様子はなく別の目的があるようだが?」

 

 詰め所にいた衛兵の一人がサキュロントを受け取り、バルブロの質問に対応し狙っているものを見せる。

 

「はっ、敵性スケルトンはどうやら輸入したチョコレートを狙っているようです。特に誰かに渡すためのものもしくは渡されたチョコ、材料としてのカカオマス等が狙われているようです。商店は商店で防衛をしているため大きな問題とはなっておりませんが個人での所持している状態が問題を大きくしているようです」

 

「ふむふむ……よろしい、ならば我がチョコを受け取り囮となろう」

 

 その作戦を聞き比較的最近衛兵として雇用されたロンデスは何言ってんだこいつと思わず顔に出してしまっていた。

 そもそもロンデスがこうして詰め所で待機している理由も普通の人間と変わらないからこそ。

 バルブロの強さを理解していないことからも来ている。

 

「チョコは衛兵たちからもらえばよいか。今年の祭りは我がMVPよ。ふはははははは!」

 

 後にチョコスケルトンの山を築き上げマッスルマスキュラーの恰好でマグナムブレイクを行い消し飛ばすバルブロが見られたとかなんとか。




香姫 出展:戦国ランス(ALICEソフトシリーズ)
ルドラサウムの作り出した箱庭にて極東と呼ばれる浮島ジパングの中の一国織田家の当主織田信長の妹君にて経済担当
兄である信長が病弱であるために国を永らえさせることに積極的でなく隠れ蓑として団子屋をしていたのだが主人公であるランスが裏番として国を立て直していくこととなった……ランスがそんなことをしようとしたのが香姫とエッチをするためにそんなことをしようとしたのだがランス自体がお子様に手を出すことをタブーとしていたためにン年後と唾をつけようとしていた為である
基本的に甲斐甲斐しい性格をしており芯の通った性格、また突撃しようとするランスを叱咤して止めるという事もしている
とあるイベントが原因で男性恐怖症になっている
なぜかお団子だけは作成すると虹色の必殺団子になってしまう、ランスクエストでは専用装備として登場する程の威力を誇る
なお団子の毒性は毒耐性を貫通し瀕死に持ち込むほど強力なもの(死亡はしないらしい)


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episode.6「六将軍出撃」

前回のあらすじ
お墓参り
サキュロント名前だけは無事に出た
香姫王都に到着
ロンデスさん法国から王国兵に就職
以上をお送りしました


 マグナム・ブレイクで吹き飛ばされたチョコレートスケルトンはバラバラになりながらその爆発によって起きた熱でとろけ甘いにおいを街にまき散らし、また溶けたチョコレートが白を基色とした街並みをチョコレート色に汚していった。

 

「なんという事だ……後で清掃業者に依頼を出しておかねばな」

 

 その光景にそれを起こしたバルブロは額を押さえ痛恨のミスを悔いる。

 そんなバルブロに近づいてくる三人の男たち、それは気楽に手を振りながら近づき呆れた声をかけてくる。

 

「まったく大将が囮をやるなんざ、普通に考えりゃ他の連中も止めるだろうによ」

 

 近づいてくるのは魔獣の毛皮を複数重ねて加工したハード・レザー・アーマーで身を覆いながらもその体に彫り込んだ動物の刺青が随所にみられる筋骨隆々としたスキンヘッドの男に同意する鍔の広い羽付き帽子をかぶり普通の服のように見えながらそれぞれの急所を守る様に青色に輝く金属板のつけられたブリガンダインを来ている軽薄そうな男はスキンヘッドの男に同意する。

 

「ははは、でもそれがバルブロの旦那のいつものやり方だ。真似したいとは思えねえけども」

 

 フルプレートに身を包み、フルフェイスタイプの兜を被った男も音を鳴らして腕を組んで首肯していた。

 

「やれやれ、六将軍の三人が一緒になって……」

 

「ニューマ」

 

 そんな会話の流れを切るように魔法が発動し、矢が地面に落ちる乾いた音が石畳の上に響く。

 

「マルムヴィストは周辺警戒、ペシュリアンは住民の避難勧告」

 

「気功、気功っと、じゃ俺は突撃して来るぜ」

 

「「了解」」

 

 暢気な会話を即座に切り上げ狼藉者への追跡に入るゼロに、住民の安全確保にすすむマルムヴィスト、伏兵を警戒するペシュリアン、それらを俯瞰するように配置させていくバルブロ。

 その動きには淀みなく精錬された役割分担にも慣れたものだった。

 空を飛ぶ射手に向かうゼロに向かって矢が高速で射かけられるが、その矢を何でもないように掴み取り走り抜ける速度を緩めるどころか、加速させていく。

 

「速度上昇、ブレッシング、エンジェランス」

 

 体の周りに浮かぶ光の玉を警戒しているのか射手は大きな技を使わず、細かく矢を打ち込んでいくがその打ち方に虚が混じっていないのか素直すぎて容易く手玉に取られ足を止めることもできずに加速したゼロに肉薄される。

 

「捉えた。兄ちゃんちぃっと街に被害出しすぎだぜ?」

 

 拳がめり込むのと同時に光の玉が一つ消える。

 

「発勁!」

 

 鉄板に重量物を叩き付けたような甲高い音と共に射手であったバードマンの嘴から吐瀉物が撒き散らかされる。

 実際にはまだ被害そのものは出していないが、遊びの範疇を超えた威力の弓矢であり、もしゼロがその射撃を阻止していなければ例年のような祭りという雰囲気ではなくなっていただろう。

 あくまで祭りの範疇に納める為、衛兵たちも将軍たちですら、こうして街に警備に駆り出されるという祭りとしては少々過剰ともいえる警備が敷かれている。

 それもこれも今回のように毎年暴れられると勘違いをした連中が出現する為である。

 

「こいつで反省しな。アルゼンチン・バックブリーカー!」

 

 バードマンを捕まえてアルゼンチン・バックブリーカーの形で落下するが、当然この世界にアルゼンチンという地名も名称も橋もない。

 ただ単にゼロが組技として披露したときにバルブロがその名前を漏らしただけだったりする。

 捕縛技としては手加減もしやすく相手が暴れてもそう簡単にゼロの腕から逃れられないことからよく利用はされている。

 衛兵に関節技も教授しているが俵担ぎの変形であり背骨を極めた状態で移動もしやすい、という理由から実働を許されている衛兵たちはこれを習得しているという。

 今回はそこまでの高さではないが、背骨を極めた状態で着地が待っていた。

 着地と同時に骨が折れる音が響き渡る。

 

「……」

 

「……」

 

 白目を剥いているバードマン、それを頭上で抱えているゼロ。

 そしてそれを目撃してしまった怪しい仮面をかぶった不審人物。

 

「ぺロロンチーノさん!?」

 

 近くにいた衛兵にバードマン、目の前の怪しい人物が呼んだ言葉がこのバードマンの名前ならバルブロから聞いていた性犯罪者予備軍の名前と一致している人物を預けて牢屋にぶち込んでおくように命じておく。

 

「大将から聞いてた要注意人物だ。アダマンの牢屋にぶち込んでおけ」

 

「「はっ!」」

 

「後、女は近づけさせないように。女に目がないそうなんでな、毎日そういったことを妄想しているそうだ」

 

 ゼロから告げられる言葉に連れていくために呼ばれた衛兵は笑い声をあげる。

 

「はっはっは、嫁さんもらったら鳥から猿になりそうですな」

 

「強そうなやつなのにそういったところで引かれてるんだろうよ」

 

 そんな会話を交わしながらてきぱきと槍とマントを使って簡易担架を作り上げてぺロロンチーノを詰め所へと運んで行く様を、怪しい魔術師風の大男は怒りに震えながら呟いてた。

 

「クソが違うクソが違うクソが違うクソが違うクソが違うクソが違うクソが違うクソが違うクソが違うクソが違うクソが違うクソが違うクソが違うクソが違うクソが違うクソが違うクソが違うクソが違うクソが違うクソが違うクソが違うクソが違うクソが違うクソが違うクソが違うクソが違うクソが違うクソが違うクソが違うクソが違うクソが違うクソが違う……違う違う違うぅぅぅぅっっっ!!!」

 

 最後には大声をあげて絶叫をする。

 その言葉は怒りに任せたものでもなく困惑からくる言葉であり、現状を疑問視したが故の叫びだった。

 仮面に手をかけその仮面を力任せに剝がし、地面に叩きつければ茶色い色をした骸骨という珍妙なものが現れ、破砕音とともに叩き付けられた仮面が魔力として霧散する。

 

「此処は我らにお任せをモモンガ様!」

 

 怒りに肩をいからせるモモンガと呼ばれた存在の前に四人の女性が飛び出てきてゼロのモモンガまでの進路を塞ぐ。

 

 

 

 

 ところ変わってエンリの作り直したお菓子を食べている最中に、窓の外にガルガンチュアがいることに気が付いてスズキはサトルに声をかける。

 

『そういや忠誠の儀での異変ってのは正解は出たかい?』

 

「うーん……こう、なんというか違和感はあるんですけどねぇ……」

 

 違和感こそ感じていながら、のど元まで来ていながら言葉にしきれないという感じでサトルは頭を悩ませていた。

 

『その答えってのは、ガルガンチュアそのものなんだよ。『攻城ゴーレムは起動したらギルド外に召喚される』。なのにあの時ガルガンチュアは第六層に来れていた、それこそが異変に外ならんのさ』

 その言葉にサトル自身が「あ」と言葉を零しあの瞬間に存在していた違和感に明確な答えを得る。

 

『だからセバスの忠義の言葉と似ているがニュアンスが違う事にもなるんだ。これは俺の考え方だがな?忠ってのは主とともに道を歩むことなんだと思う。ただ唯々諾々と命じられたことにイエスマンで肯くことじゃなくてな、主が道から外れようとすりゃ注意もするだろうし手を引っ張って元の道に戻そうともしてくれるだろう、居なくなりゃ探そうとしてくれるだろうさ。だが全肯定のイエスマンな状態のNPCだとどうなるか、想像がつくかい?』

 

 忠誠の儀という過剰に美化された自身の像を語られた背筋に冷たい汗が流れるような場面で語られた言葉を思い出しながらスズキが語った例えをサトルなりにかみ砕いて想像をしてみる。

 道とは生き方、在り方。

 道を違えるとは悪逆非道に走ることだろうか?それとも正義に目覚めて聖人君子のような振る舞いを始めることか?

 今までのいや、この世界に来てからの記憶を振り返りエンリが目に入ったときにするりと答えが出てくる。

 

「あぁ……それは嫌だなぁ……」

 

 呟いた言葉にエンリは首をかしげるが、出てきた答えに当て嵌めて考えると、あの状態では道を踏み外したとしてもきっと止めることはしないだろう、戻そうともしないだろう、ただただ主が歩く道をついてくる、きっとそれだけになる。

 疑問も持たずに、何を間違えているのかも気が付かずに、きっと外道に堕ちていた。

 そんな道を歩けばかつて同じ道を歩いた仲間から非難されても文句を言えないだろう。

 

 なんのためにあるじのうしろをあるく?じぶんがまんぞくするためさ。

 

 

 

 

「ユリ・アルファ!」

 

「ナーベラル・ガンマ!」

 

「シズ・デルタ」

 

「エントマ・ヴァシリッサ・ゼータ!」

 

 四人は進路を塞ぎ、ゼロに向かって名乗りを上げる。

 それは勝って当然という心の働きであり、またメイドたらんとする行動からからかもしれない。

 ただそれをゼロは一蹴する。

 

「セイヤァッ!!」

 

 拳で殴る、ただそれだけで四人をユリの拳を横にずらすのと同時にカウンターで顎に打ち込みそのまま首が飛んでいく、ナーベラルの雷撃を回し受けで散らし振り下ろす拳で地に沈め、エントマの呼び出す蟲の猛攻を無視してそのまま正拳で昏倒させる、シズは銃弾をニューマで無力化されて拙い近距離を挑むもあっさりと撃沈。

 

「よえぇ、よえぇな。てめえらの忠ってのはそんなもんか」

 

 それを見てすぐに魔法で迎撃しようと連鎖する竜雷(チェイン・ドラゴン・ライトニング)を放つが魔法の使用に呼応するように、ゼロのがスキルを発動させる。

 

「<金剛>!<パンサー>!<レオ>!」

 

 金剛によって発生する移動速度の低下を自然神官(シャーマニック・アデプト)のスキルで打消し雷撃を拳激で消滅させる。

 捻じり突き抜けてくる拳に合わせ霧散する雷光、赤く昏い双眸と貫くように鋭い眼光が混じるとき、モモンガはのけ反る様に引いてしまったことで拳が通り抜けていく。

 交わる視線は一秒にも満たないのにゼロとの差を見せられたようで心の中の何かがひび割れる。

 

「くっ、撤退だ」

 

 その様子をみてモモンガは即座に撤退を実行する。

 それを見てゼロは衛兵たちを呼び寄せて倒した四人を確保させていく。




ゼロ 出展:オーバーロード
原作では八本指の護衛部門での六腕の頭をしていてセバスのツアレ救出時にあっさりと死亡するキャラ
なんでこんなにも強くなってんの?
ヒューマンLv10
リボーンマンLv3
アコライトLv15(RO一次職)
モンクLv10(リボーン)(RO二次職)
チャンピオンLv10(RO転生二次職)
シュラLv5(RO三次職)
ジェネラルLv10
+α
これらが原作のレベルに追加されてる為普通に強いです、強くなった理由も「元から修羅気質」であるため
強くなるために強いバルブロに教えを乞うこともしますし、強くなる為の努力も惜しまない、ガゼフも同僚なので共に強くなるという好循環も出来上がってしまった
良くも悪くも「強くなるため」に努力を惜しまない者が個人的には「修羅」といえるかな、と

ぶっちゃけナザリック特攻になる人物……ディバイン・プロテクション、デーモン・ペインが悪魔&アンデッド特攻なパッシブスキルでアコライトで所持できる
カッツェ平原がレベルアップに利用されやすい土壌(リポップあり、種族単一)な関係もあり対アンデッド装備も所持


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episode.7「死の森、蟲の声」

前回のあらすじ

ゼロ特攻
忠誠というもの
茶色いモモンが逃げる

以上をお送りしました


 先を走るルプスレギナ達に離されすぎず全員の速度に合わせて追いかけて行くパンドラ達は急に方向を変えたルプスレギナ達にパンドラ以外は疑問に思いながらも駆ける。

 

「なるほど方向は王都でしたが王都でも何かをしているものが逃げ出し、それと合流地点を合わせるために方向を変えたということです。つまりこのまま一網打尽にしますよ」

 

「「「「なるほど」」」」

 

「ではこのまま見つからないように追いかけますよ」

 

 ルプスレギナに合流するのは王都とランテルの中間あたりでトブの森へと進行を変えた、それを双眼鏡で細かく合流した人物を確認してパンドラは内心で舌打ちを打つ。

 

「(モモンガ様……いや違いますね。まずは色が違う、次いで頭を押さえるようにして歩調が合わせられていることから速度が落ちているということは、何かしらの精神系の操作を受けてそれが解けようとしている?ならばアンデッドの精神無効を無視する何かしらがいるという事!)」

 

 彼らは世界級(ワールド・アイテム)を装備しておらず既知の知識での使用されたと思われる物が傾城傾国なのだがこれはすでにスズキの手により回収されているため、別のワールドアイテムか、ユグドラシル由来のものではない使い手が今回の裏にいるということを示している。

 追いかけていくと森の様子が一変して、グレーテルからの静止の声がかかる。

 

「止まって!」

 

 その声は普段のぼんやりとしたものではなく、危機感を伴った鋭い声だった。

 

「森の様子が異様な……これは、森の生気が枯れ果てている?」

 

 青々と茂っていた森は途切れ、枯れて枝や幹が捻じれくねった大樹が幾本もの数がそれぞれに距離を置いて残っていて辛うじて森だったということがわかる。

 グレーテルは土を触ると顔を青ざめさせて、ついてきているみんなに視線を向ける。

 

「この木……全部、ザイクロトルだ……」

 

「ふむふむ、そのザイクロトルというのはどの程度強いのかわかりますか?少し目を飛ばして確認しましたが百本ちょうどのようです」

 

「ギャッギャ俺たち三十人なんとかなる?」

 

 いきり立つゴブリン達にパンドラは「(これは簡単な数の数え方を教えた方がよさそうですねぇ)」などと別の思案をしながらグレーテルの答えを待つ。

 

「ふむ、見たところそこまで強いようには見えんな……体力お化けというところか」

 

「掃討時間短くするならやっぱり弱点が知りたいよね」

 

 樹木の化け物と思われるがそこに慢心せずに弱点がないか確認しようとしている。

 

「えー……ドロテア様が苦労してユグドラシルに変えたモンスターだよ?多分結構強い……と思うんだけど」

 

「ふーむ、どうやらほとんどの方がヤル気満々なようで……こちらとしても結婚式の作戦時に横槍を入れられるのはよろしくない。ですのではまずは釣り出して一体仕留めてみましょうか」

 

 そう宣言して戦闘準備を整えて、まずは一匹釣り出すためにシズに有効射程距離のぎりぎりの距離で狙撃をしてもらう。

 パンドラはその隣でスポッターをしており双眼鏡を着けた状態で着弾の様子を観測していた。

 シズの持つ銃身からノズルフラッシュが焚かれ、火薬の焼ける臭いと発砲音が広がるがパンドラからはその弾丸の進む姿をややゆっくりとした間延びした速度のように感じられた。

 

「(やはりこの速度では難しいですね……何かしらの対策は必要でしょう。王国ではクルマの運用も行われているため砲弾屋という特殊なものも扱うのでしたかね。一つ探してみるのもよさそうですか)」

 

 何かいいカタログのようなものがあったかなと図書館の目録を思い出す傍らで銃弾に抉られた幹が出来上がっていくが、想定していたよりもダメージが低いということは物理的な貫通系には若干の耐性ありを確認して。

 

「着弾確認、効果やや弱体、次弾火炎弾装填、0.002度右下修正」

 

「……了解」

 

 次に放たれた弾丸は炎を纏い根元近くを弾き飛ばし地面をバウンドして明後日の方向へと消えていく。

 その攻撃に反応するように地響きを立てながら頭頂部に開いた口を持つ円柱状の植物系と思われる生物が姿を現す。

 

「炎系は有効、ついでステータスを見てみましょう……ふむふむ」

 

 パンドラの見る限りザエクロトルはレベル50ほど、体力が高めで他のステータスがそのレベル帯に対しては平均以下というグレーテルが警戒していた様な怪物とは思えないものだった。

 

「個体差でもあるのでしょうかね?これでしたらシズとヘカテミーニャさんのペア、他はそれぞれ一人一殺を基本にしていけば良さそうです」

 

「本当に大丈夫?」

 

 パンドラの言葉に不安そうにするグレーテルだが、グレーテルは直接対峙したドロテアからザエクロトルの話を聞いているからこその不安。

 それに対しパンドラは顔こそ変わらないものの努めて明るい雰囲気を作り出しなら楽勝だと説明をする。

 

「えぇ、大丈夫です。他のも目を通して確認しましたが私をレベル100と換算して高いものでレベル55、低いので48、平均で50でした。これに当てはめてグレーテルさんが90、ゴブリン達も平均70、ヘカテミーニャさんが45、シズが46と経験を積んで強くなるのにも適していそうですからね。これを逃す手はございませんよ」

 

 そんな調子でナザリックで仕事をしていた合間に作っていた火属性武器をゴブリン達に配っていくパンドラ。

 パンドラからすれば微妙武器もいいところなのだが、ゴブリン達のお手製こん棒や石斧等に比べれば格段に性能が上となる武器群。

 そんな武装をした種族混合部隊がザエクロトルを狩りに駆け出していく。

 

 

 

 そのころスズキはカルネ村からコキュートスへとメッセージを繋げていた。

 

『コキュートス、そろそろ宿題の答えは出たころかと思って繋げてみたが……』

 

『申シ訳アリマセン……』

 

 その答えは当然のように予想できたものだった、宿題ができていたのならヤルダバオトから連絡なりコキュートス自身で何かしらの報告があるだろう。

 だからできていないこと自体には落胆はない。

 

『それでどちらがわからない?』

 

『ハ?…………イエ!?ソレハキイテモヨロシイノデショウカ!?』

 

『なるほど、その発想すらなかったわけだ。どこまで頭が固いのやら……確かお前の忠義での言葉は「守護者各員ヨリモ強者デアリ、マサニナザリック地下大墳墓ノ絶対ナル支配者ニ相応シキ方カト」だったか。お前はこの言葉をすらすらと疑いもなく口にしたが……本当にそう思って口にしたのか?』

 

 その言葉にコキュートスは黙り込む。

 もともと武人気質と設定されているコキュートスなのだからこちらの言葉を真摯に受け止めて答えを出そうとしているのだろう。

 絶対なる支配者というのは力の支配、その上で守護者たち一対一なら勝利することができると信じているがこれはそもそもアインズ・ウール・ゴウンを勘違いしているから出てくる言葉だ。

 力が強いから上に立っている、ならサトル君が勝てなかったたっち・みー、火力で負け越しているウルベルト、タブラ、武人武御雷、弐式炎雷に力で勝てるとはいえんだろう。

 知略に関してもぷにっと、教授、ブループラネット等には知識量で負ける、総合的に高いかもしれないが特化にはどこかしら負けるバランス型がモモンガというものだ。

 素のモモンガのままであればシャルティア、アルベド、アウラ辺りに勝つのが難しいとみるべき、やはり理想を押し付けているようにしか感じられないな。

 

『答えは出たか?』

 

『ハイ……本心カラ、ダト思イマス』

 

『なるほど、確信は持てない、か。はっきり言わせてもらう、過剰な期待は単なるプレッシャーにしかならん。守護者内でもシャルティア、アウラ、アルベドではこちらの勝率も五割を切るだろう』

 

『ソノヨウナコトハ!?』

 

 こちらの言葉を遮るように慌ててコキュートスが否定の言葉を投げかけるが、これは純然な相性の問題でもあるし、但し書きとしても何の準備もしなければの文言が付く。

 

『もちつけ』

 

『ハッ!スグニ臼ト杵ヲ用意シテ』

 

 冗談の一つも通じない堅物だった。

 メッセージが繋がったまま臼と杵、そしてもち米を用意しようとしているのが聞こえてくる。

 

『落ち着け、ただのジョークだ』

 

『ハ……ハァ』

 

『とりあえず、叱るわけではないが勝率に関しては純然たる事実として受け取れないというのはこちらの戦力判定を否定する行為だ。ただの事実だからな。アウラは射手で矢を変えれば刺突以外にも切り替えられるからこちらが避けることは困難だ、手数も多く魔法で対応しようとしても削り切られるのが目に見えている。アルベド、シャルティアは純粋な近接で押し負けるだろうな。少なくともこれが俺からの戦力判定での勝率になる』

 

『……』

 

 今度は口を挟まずに聞く体制を取ってくれたようで何よりだ。

 

『その実力を信用しようとするのは嬉しくも思うが反面期待が重いというのもある。望まぬ道の期待であるのであればなおさらな……俺は完全でもなければ全知全能でもない、お前たちがなぜそんなことを思うのかも知ったことじゃあない。ただ理想を押し付けるな、忠など求めていない、ただ俺たちを理解しようと努力し、その上で俺たちに賛同するなら迎え入れよう』

 

『ッ……』

 

 メッセージ越しにかすかに聞こえる息をのむ反応、そして訪れる沈黙。

 これ以上のヒントはないがコキュートスは殻を破ることができるか否か、今は見守るしかないだろう。

 

『答えが出たら、ヤルダバオト……いや、デミウルゴスに知らせてくれ』

 

『はっ、わかりました』

 




ここが不思議なオーバーロード
カルネ村でしゃべってる言葉と動いてる口の動きが違うのに普通の日本語に聞こえる
だがコキュートスの言葉はカタカナ言葉という不思議
なお声帯云々を言い出すとモモンガはそもそもしゃべれなくなる

少なくとも世界全体に翻訳の効果が発揮されていると解釈するのであれば、ヴィクティムのエノグ語やコキュートスのカタカナ言葉も聞こえた言葉を自分の使っている言語に翻訳するから普通に聞こえないとおかしい

でこの作品ではその辺を壁を越えたかどうかの判断基準にしてる
なおヤルダバオトは悪魔社会基準で極悪=人にやさしい、でごり押して破ってるw


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episode.8「やべーの爆誕」

前回のあらすじ

パワーレベリング開始
コキュートスの口調めんどくさいんです

以上をお送りしました


『答えが出たら、ヤルダバオト……いや、デミウルゴスに知らせてくれ』

 

 その言葉を最後にメッセージは途絶え、その言葉に力を失うように足という支えを失ってしりもちをつく。

 忠を受け取ってもらうよりも前にモモンガ様による棒術の指南を言い渡され、それをしっかりと熟した事が最初は評価されたのだと思っていた。

 忠を誓う理由は何だったのだろうか。

 ふと思い至った思考に耽るように自然と胡坐をかき、副腕を膝の上に手のひらを上に向けて置き、主腕を胡坐の組んだ足の上で包むように印を組む。

 

「(なぜ……なぜ忠を受け取ってもらえなかったのだろうか?)」

 

 初めにたどり着いた疑問。

 異変を探すために動き、『アルベドの言葉』で第六階層に集合し、モモンガ様に忠誠の儀を行った結果。

 忠を受け入れることを拒否されて、それでも仕事を任せられ、命令なくば外に出てモモンガ様の手伝いをする事も叶わず、絶望に暮れていた。

 

「(忠を受け入れてもらえなかったから絶望していた?)」

 

 それは私たちがモモンガ様を信じていないことになるのではないのか?何故絶望に繋がった。

 それこそが存在意義であり信じ使われることこそが我ら(NPC)の存在する意義だった、だからこそ絶望したのか?それで首を捧げるとでも?

 そう考えて思う、首を捧げられてうれしいのか?

 答えは否、役立たずの穀潰しが居なくなる程度の意味しかない。

 

「(そもそもそんなことをしたからと無能の誹りが雪がれるとでもいうのだろうか?無意味の価値を上乗せするだけではないか)」

 

 自分たちの行動を顧みてそれがどのような意味を持つか、自分たちの命を勝手にチップに主と仰ぐ者に失態と思われるものの対価にしようとする行為。

 そんなもののどこが忠義というのか。

 命を懸けて任を遂行する、それは忠以前に我ら(NPC)として当たり前なこと、そうあって当然だということ。

 捨て駒の扱いであろうとも、殿の死兵であろうとも、それが命令であれば実行するのが作られたもの(NPC)としての役目。

 だというのに無意味に無価値に己の命を捨てる行為は忠ではない。

 強迫による自己満足でしかない。

 

「なるほど……たしかにこんなものを忠誠などとほざき捧げようとも、誰も欲しがらんな」

 

 虚ろに前方だけを映していた視界を改めて捉えなおし、大きく息を吐き出せば寒さで白い霜が広がり、部屋の寒さを表現するように薄氷が割れるような音が響く。

 己の立てた忠義が間違いであったことは確認できた。

 少なくとも、自己採点をもってとんでもない的外れなものであったことは知れた。

 次に考えるのは……

 息を小さく長く吸うことで、自身の志向(思考)に埋没していく。

 忠とは何か。

 誰に忠を捧げるのか。何を()とするのか。何が()になるのか。何故()を定めるのか。

 

「(カルネ村……初めに感じたのは所詮は人間種の村、ただの手柄の一つにでもなるだろうか。それだけの価値しか見ていなかった……筈だ)」

 アルベドは滅ぼすために自分を含めて主戦力を集結させて後詰とした、セバスは最初に護衛としてついて行っていた。

「(そもそもとして戦術としておかしいではないか。殲滅を目的としていたというのであれば……なぜモモンガ様が最初に村に着いているのだ。つまり自分たちは戦略的な視点からして間違えていたのか)」

 

 であればそもそもの行動に間違いが存在していたことになる……何が問題だったのか、シャルティアはモモンガ(スズキ)様に認められていた。

 認められるだけの何かがあったということ。

 

「(シャルティアはアルベドと入れ替わりに護衛と指揮を交換されていたはず。人々を助けていた、ならばシャルティアが索敵には確かに適任、ならば最初がアルベドであった理由は?自分たちを試していた?試しているなら……初めて見る村だった、ナザリックの外に出るのはあの時が初めてだったのだから村というものを見ること自体初めてではあったが……)」

 

 そこまで考えて落ち込むように頭部が沈む。

 

「(いやいやいやいや、なぜ初めて見たものを殲滅しようとしているのだ自分たちは!?示威行為?小さな村を滅ぼしていったい何になるというのだ、開戦の口実を作らせ敵対者を増やすだけの馬鹿な考えだ。この程度の事も自分たちは考えられなかったというのか!?これでは失望されるのも当然ではないか……アルベドの甘言に踊らされたなどと確かめる手段があった以上言い訳はできん)」

 

 自身のみならず仲間たちも失態を犯したその事実のに打ちのめされ、胡坐の体勢のまま頭部が床にめり込むほどに落ち込む。

 

 

 

 コキュートスの話し合いを終え、まだ余裕があるためにマーレにメッセージを繋いでみる。

 

「ウソだ嫌だ駄目だモウソだ嫌だ駄目だモウソだ嫌だ駄目だンウソだ嫌だ駄目だガウソだ嫌だ駄目だ様ウソだ嫌だ駄目だモウソだ嫌だ駄目だモウソだ嫌だ駄目だンウソだ嫌だ駄目だガウソだ嫌だ駄目だ様ウソだ嫌だ駄目だモウソだ嫌だ駄目だモウソだ嫌だ駄目だンウソだ嫌だ駄目だガウソだ嫌だ駄目だ様ウソだ嫌だ駄目だモウソだ嫌だ駄目だモウソだ嫌だ駄目だンウソだ嫌だ駄目だガウソだ嫌だ駄目だ様ウソだ嫌だ駄目だモウソだ嫌だ駄目だモウソだ嫌だ駄目だンウソだ嫌だ駄目だガウソだ嫌だ駄目だ様ウソだ嫌だ駄目だモウソだ嫌だ駄目だモウソだ嫌だ駄目だンウソだ嫌だ駄目だガウソだ嫌だ駄目だ様ウソだ嫌だ駄目だボウソだ嫌だ駄目だクウソだ嫌だ駄目だをウソだ嫌だ駄目だ受ウソだ嫌だ駄目だけウソだ嫌だ駄目だ容ウソだ嫌だ駄目だれウソだ嫌だ駄目だてウソだ嫌だ駄目だくウソだ嫌だ駄目だだウソだ嫌だ駄目ださウソだ嫌だ駄目だいウソだ嫌だ駄目だボウソだ嫌だ駄目だクウソだ嫌だ駄目だをウソだ嫌だ駄目だ包ウソだ嫌だ駄目だみウソだ嫌だ駄目だ込ウソだ嫌だ駄目だんウソだ嫌だ駄目だでウソだ嫌だ駄目だくウソだ嫌だ駄目だだウソだ嫌だ駄目ださウソだ嫌だ駄目だいウソだ嫌だ駄目だボウソだ嫌だ駄目だクウソだ嫌だ駄目だをウソだ嫌だ駄目だ収ウソだ嫌だ駄目だめウソだ嫌だ駄目だてウソだ嫌だ駄目だくウソだ嫌だ駄目だだウソだ嫌だ駄目ださウソだ嫌だ駄目だいウソだ嫌だ駄目だ犯ウソだ嫌だ駄目だしウソだ嫌だ駄目だたウソだ嫌だ駄目だいウソだ嫌だ駄目だ犯ウソだ嫌だ駄目ださウソだ嫌だ駄目だれウソだ嫌だ駄目だたウソだ嫌だ駄目だいウソだ嫌だ駄目だ貫ウソだ嫌だ駄目だきウソだ嫌だ駄目だたウソだ嫌だ駄目だいウソだ嫌だ駄目だ貫ウソだ嫌だ駄目だかウソだ嫌だ駄目だれウソだ嫌だ駄目だたウソだ嫌だ駄目だいウソだ嫌だ駄目だ抱ウソだ嫌だ駄目だきウソだ嫌だ駄目だたウソだ嫌だ駄目だいウソだ嫌だ駄目だ抱ウソだ嫌だ駄目だかウソだ嫌だ駄目だれウソだ嫌だ駄目だたウソだ嫌だ駄目だいア……ハッ……ウッフゥフゥ……アアアアアアアアアアアアァァァァァァァアァァァァァッ!!!………………はふぅ……」

 

 言葉をかけることなく静かにメッセージを閉じる。

 

『……あれはもう手遅れかもしれんね』

 

「マーレぇ……え?あの言葉の羅列でナニしてたの?普通に引くんだけど」

 

 二人で脳内に流れる声にドン引きしていると飲み物を持ってきたエンリに不思議な顔をされてついついサトルがかくかくしかじかと説明をしてしまう。

 サトルから説明を受けてノイズの中身をスズキから説明されて、恐怖から両手で口を押えて一歩下がる。

 

『うんうん、わかるわかる。理解できないから怖いんだよね』

 

「しかし、なんでマーレはあんなにもなってしまったんだ」

 

「マーレ……君、でいいのかな?なんでサトルさんに恋慕してるんです?男性、なんですよね?」

 

 サトルは頭を抱え、エンリも疑問の中に埋もれる中、一つ仮説が立てられた。

 

『まー、仮説も仮説、憶測の域を出ないけどなんであんなことになったか?は説明できるぞ』

 

「聞きましょう。あ、フロータイボール呼んでおきますね」

 

 空に浮かぶ人の頭部ほどの大きさのある目玉は真ん中あたりから引き裂かれるように唇のない歯茎の丸見えな歯を並べた口を開き、スズキの言葉を語り始める。

 その様子をサトルは指を組んだ掌に顎を乗せて聞く、エンリも椅子を持ってきて聞く体制だった。

 

「まずは前提として書き込まれた設定量によってNPCの性格というものは作り上げられる。そういう意味ではアルベド、シャルティアは作成者のタブラ、ぺロロンチーノの性格を反映はしていない。似ているとすれば書き込まれた文章の内容からの影響だろう。この辺りは文章の性格といわれるものだから書き手の影響が出ると思ってもらえればいい。逆に設定をほぼ書き込まれていないものは作成者の性格を基に設定から矛盾しないように作り上げられていると考えられる。そして……マーレの作成者はぶくぶく茶釜だ」

 

 その言葉にエンリは首を傾げ、サトルがぶくぶく茶釜がどういう人物だったのかを説明するのだがその説明はあくまでも、ユグドラシル時代の遊んでいたときのみを限定したものであり、MMORPGが表す通りロールプレイしていたときの顔ではないかとスズキは思っていた。

 

「ぶくぶく茶釜さんはぺロロンチーノのお姉さんだ。エロゲー・イズ・マイライフと豪語しているペロロンチーノの、な」

 

「すいません。ちょっとエッチな妄想が生きがい(エロゲーイズマイライフ)ってどういう人なんです?」

 

「まぁ、変態だ」

 

「そうですね。変態だというのは否定できないです」

 

 スズキもサトルもぺロロンチーノの行動原理が変態(HENTAI)に起因しているためにそのことそのものを否定できずに単純に変態だという認識に落ち着く。

 スズキはぺロロンチーノがシャルティアに逆襲されたというのは知っている。

 知っているがある意味自業自得なのでその辺りは黙っておく。

 

「そちらはいったん置いておこう。そういった変態の姉であり、またエロゲ―、アニメの声優……エンリにわかりやすく説明すると絵本の声あてや劇での役者の声のみだと思ってもらえるといいか。なのでサトルが知るだけの「エロ話に過剰に反応する」というのは、おそらくそう演じた方が都合がよかったのではないかと想像することができる」

 

「あぁ、確かに濡れ場の声あてもしていたのならそう言った耐性も無いとおかしいですもんね」

 

 この辺りはぺロロンチーノが攻略対象の隠しキャラに姉の声が充てられており萎えたと、こぼしていたことからサトルはスズキの推論に納得していた。

 

「ぺロロンチーノさん曰く、喘ぎ声が駄目だとこう……もにょるとか言ってましたし、人気声優だったらしいですからそういった場数も踏んでると考えれば、そうなりますか」

 

「で少々話は変わるがな、そういった特殊な職に就いている人は性癖が歪みやすいのだそうだ」

 

 例として挙げれば医者はその診察方法から接触の機会が多く、その過程で『慣れてしまい』健康な状態か不健康な状態か等に選り分けられてしまう。

 裸体を見ても興奮しづらい状態になりやすいともいえる。

 これは大人の道具を扱う店の店員やエロゲームの開発に携わる方などにも起きることがあり、普通の人であれば興奮する状態に興奮できない、より過激なものを求めやすい傾向がある。

 

「マーレにはぶくぶく茶釜のそういった『慣れてしまった結果』の過激な性癖とエロゲ―あるあるな巨根やら絶倫などが付与されしまったのではないか、と推論できるわけだ」

 

「つまり……茶釜さんもペロさんみたいに頭の中はいつもエロばかりの可能性……が?」

 

「マルチタスクで切り離されてはいるだろうが、根底がそうなってる可能性があるんだよなぁ」

 

 マーレの様子を確認してしまった二人はそう締め括り肩を落とす。

 

 

 

 

 星々の輝きもない昏い宇宙の中に浮かぶ悍ましい宮殿、その周りで精神を削るような音を響かせる異形の楽隊達。

 それに相対するのは星々を背に立つ作られた機神、早乙女のゲッターとウェストのデモンベインが融合したものに乗るある意味では人造の神と呼べるデウス・マキナ・ゲッター。

 搭乗しているのはサトル、エンリ、ムサシ。

 叫びとともにゲッター線を増幅させ魔術と融合させた必殺技が楽隊達との激闘の末に放たれるも砕くのは宮殿のみ。

 崩壊していく宮殿から現れるのは醜悪な肉塊ともいえる者、その肉の重なりの隙間から無数の目がサトル達を見つめながら、音の通らない宇宙空間でありながら音をたてて脳みそが幾つも湧き出てくる。

 

「駄目だなぁ……趣味レートをいくら上げても此処で力尽きる。辿り着きはする、でもその先に進めない。みんなはどう?」

 

 その言葉にカオスはアザトースの方を向き首を横に振るう。

 

「こちらも駄目じゃな。辛うじて辿り着きはするがそこで手詰まりになっとるわい」

 

「こちらでも問題発生だ。マサキが覚醒しないせいで次元連結システムの本領が発揮できん」

 

「うむ……なんで艦長の爺ちゃんが突撃して来るんじゃ」

 

 三人して頭を悩ませながらこの先の展開を考えるが、どう頑張ってもらってもこちらからのテコ入れが必要という答えしか出てこなかった。

 

「まずはダイテツおじいちゃんの方よね」

 

「それに関しては勇者兄妹に会う事でこちらから干渉するとしよう。蘇生すればいい?そんなリソースをこちらが持たせてやるわけがなかろう」

 

「攻撃全振りやって余分なユニットはなし……この辺りも関係しとるんじゃろうが。しかしぬるい試練となってやるのも違うからの。こちらはちょいとマサキ君に混沌に落ちてもらうとするかの、これで引き出せんのであれば価値なしと判断するしかないのぅ」

 

「彼の覚醒は必須だ。次元連結システムの本質は平行世界及びに他次元への接続、これは我らでもできるが唯一性としての存在が重要だ」

 

「おじさんも並行世界で複数存在してるけど、辿り着いたおじさんはおじさんだけだしねぇ。私たちがアレに再び追いつくためにも……協力してもらわないと、ね」

 

 三人が相談している中にLやアポも加わり、これからの策謀に花を咲かせる。

 

「こっちの子たちも問題なのよねぇ、部下Dは加えさせたけどまだまだ弱いし協力的じゃないから……そっちもテコ入れが必要そうよ」

 

「私の方はまだ……最後がわからないから困るのよね。Dと二人のSのほうにテコ入れしちゃいましょう」

 

「強くすればリソースも余る……ことは無さそうじゃしのう。むしろ現状で足りんというのが困りどころじゃしの」

 

 言葉を交わしながらもこの先も同じような問題が出てくることはわかっている。

 幾度となく繰り返してきた問題、おっさんのような存在を意図的に作り上げようとするのだから試行回数というものは天文学的な数字となっていく。

 だがそれでも彼らはそれを止めることはない、すでにそれを成し遂げ、その試行回数そのものの目処も立てている。

 デウス・エクス・マキナはかつて造魔と呼ばれる存在だった、そこから今に上り詰めるほどに繰り返したのだから。

 アザトースは本来であれば瞳を奪われ、知性も封じられていたが幾度となく怪異に挑む探索者たちを夢として見てきた、行ってきた。

 この二人は他の三人と違い、『人が起こす奇跡』というものを幾度となく見てきた。

 だからこそ人を高める基本方針を立て、この世界本来の歴史とは違うものを作り上げることを決定した。

 一つはバルブロ王子に探索者の一人を、もう一つはニースをカルネ村に転生させたこと、そしてノアジュニアに人の感情を芽生えさせた。

 本来であれば王国は惰性で腐敗し遠からずどこかに国に滅ぼされる運命だったが、腐敗を惰性を断ち切り打ち砕く存在を。

 ツアーは自身が世界を守るものとして孤立しがちであったが、ニースに出会わせることで考えを変えさせるために必要だった。

 ノアジュニアは本来、人類の敵であり地球環境を滅ぼす事を親であるノアと共に行うはずであったがそういった物事を覆すのが人というものであると信じている。

 オーバーテクノロジーを扱える存在がいないという点を極力なくす為でもあるが。

 

「創造主が捻じ伏せてしていたが……」

 

「あれは真似させちゃダメでしょ」

 

 

 




創造主 出展:オリジナル
ウソ予告で一足先にポロっと一言だけ出てきている人物、デウス・エクス・マキナの原型を作り出し現在までたどり着く要因となった人物
根本的に修羅思考な人物でありながら一般的な修羅とは真逆な考え方、全てを背負い最前線を突っ走り強さを求める存在
欠けた人間性にこそ『強さ』があると感じながらも、『道なき道』を歩むことで本来持っていた人間性が零れ落ちていった
その為、創造主を知るものはそれ以上人間性を失わないように敵対してでも止める者と人間性をナニカから取り戻させるために協力する者に別れた


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episode.9「親と子と」①

前回のあらすじ

コキュートス自問自答
マーレの考察
ラスボスたち動き出す

以上をお送りしました



 枯れた森の広がる中、パンドラ達は奥へと続く足跡を辿りながら進んでいく。

 しばらくするとパンドラが声を上げずに全員を止めるようにハンドサインで合図する。

 空洞の視線の先に映るのは茶色い骸骨になっているモモンガにしばらく手入れもされていないような傷んだ髪にぼろぼろになった白いドレスを着た黒い翼と頭部に角を持つ女性。

 

「(ふむぅ……少々みすぼらしくなってますが、あれが聞いていた元守護者統括アルベド……なのでしょうかね。もしそうならアインズ・ウール・ゴウンでの誇りはすでに失われている模様、あのような姿のままでよくいられるものです)」

 

 遠見に確認するが他にはプレアデスの六名がいつもの色とは違う茶色のメイド服を着て待機している。

 

「ゴブリンさんたちはあちらの小さな子、エントマを。シャーリーさんはヘカテミーナさんと組んで黒髪のポニーテールにしている、ナーベラルを。イカ男爵さんはあの赤髪のルプスレギナを。グレーテルさんはあの金髪ロールのソリュシャンを。アザトースさんはあのぼろぼろのアルベドをよろしくお願いします」

 

「あ、あの。アルベドさんはタブラさんにお話してからでもいいですかっ!?」

 

 こちらの班分けに何か意見があったのかヘカテミーナがパンドラに勢い込んで話しかけてくる。

 その様子はどこか焦っているようにも見れて、サトルの事を除けばかなり合理性の高いパンドラでさえも思わず耳を傾けるほどのものだった。

 

「タブラさんはアルベドさんという娘さんが連れ去らわれたって言ってました。あそこにいるのがアルベドさんなら確認だけでも取ってほしいんです」

 

「むむむ……タブラ様が?いえしかし私にはアルベドの事を聞いたことはありますがタブラ様の娘とは一体……?ルベド様とニグレド様だったはず……まずは確認を取りましょう。ヘカテミーナさんは映像などを送ることはできますか?出来なければこちらのスクロールを使ってください」

 

 ごそごそとパンドラがスクロールを取り出しヘカテミーナに渡しながら、ヘカテミーナはタブラへとメッセージを送りかくかくしかじかと事情を説明しているとテレポートの音と共にタブラがヘカテミーナの隣に現れる。

 

「アルベドがいると聞いたから来てみたんだけど、どこにいるのかな?」

 

 タブラはアルベドがいるであろう方向に手のひらでひさしを作り遠くまで見えるようにしながらアルベドを探すが発見できずにパンドラの方へと向く。

 

「まぁまだ2キロ近く離れてますから肉眼では目視しづらいかもしれないですね。遠距離職のスキルがあればそういったのも見つけやすいかと」

 

 はははと笑いながらも感知されないように慎重に進んでいく。

 タブラはついて行きながら思案する。

 

「(アザトース……クトゥルフ神話のニャルラホテプの親であり主神ともいわれる存在。ただの偶然で同じ名前なのか?エ・ランテルでパンドラ達と合流していたのは見ているけども……)」

 

 ただの名前が同じだけ、そう言ってしまえば簡単に片付く問題なのに、その名前が名前だけにどうしても考えさせられてしまう。

 邪神ともいわれる存在がこちらに手を貸すような理由が思い浮かばない。

 だから気のせいなのだと思いたいからこそ、そう思うための理由を考えてしまう。

 

「(問題はないはず……問題は迫っているアルベドの問題だけな筈)」

 

 もしもここでタブラがアルベドをさらった人物を思い出せていたのならまた違う結末もあったのかもしれない。

 夢とは記憶の整理といわれる、では夢を見ることでその人物になるというなら、その記憶を見ると言える。

 そして自由に出来るのだろう。

 悍ましき悪夢にも、希望に満ちた未知にも。

 だから結果は「手のひらの上だった」この一つしかない。

 

 

 

 

 お互いに姿を視認できる場所にまで到りようやく戦闘態勢を取るチョコレートにて形作ったモモンガ達に対して即座に定めた相手に向かっていくパンドラ達。

 感知に優れたものでも配置していれば察知できたかもしれない、チョコレートという戦利品を持ち帰った瞬間を狙われるという勝利を喜ぶ瞬間に差し込まれた襲撃を想像できるだろうか。

 そもそもモモンガの本体である鈴木悟は突発的なことに弱いという明確な弱点がパンドラのみならずタブラといったかつての仲間たちに知られている。

 咄嗟にどのような指示が飛ばせただろうか。

 頭のいいアルベドがまともだったなら何かあっただろうか?それもこの一言で潰していく。

 

「やぁ。アルベド久しぶりだね」

 

「タ……ブラ……様?」

 

 居る筈が無いと思っている相手からの言葉であり、憎むべき相手の出現であり、敬い讃えるべき絶対者の一人の気配。

 それは知恵者と言われようと空白を生み出すだけの衝撃を与えていた。

 それは賢者足らんと設定された頭脳を混乱させるには十分だった。

 

「感動の再会だ。親子水入らずで語り合おう(殺しあおう)じゃないか」

 

 ゆっくりとポーション瓶などを取り出しながら、いつ感情を爆発させて襲い掛かろうとも冷徹に殺しきるための準備を進めていく。

 トリスメギトスはすでに三度の役目を終えて役に立たない、スキル群も防御に偏ったものでプレイヤー相手には良くて壁役で時間稼ぎにもなればいいというもの。

 低く見積もっていると思うかもしれないが、どう足掻こうとも所詮は襲撃でまともにプレイヤーに手傷も与えられなかった存在(NPC)への評価としては妥当なもの。

 

「ルベドのように何か言いたいことでもあるんじゃないかな?何年も放置してきたんだ怒られる程度は覚悟してるけども私としては殺されるのはごめんでね。私を殺す気なら全力で鎮圧させてもらうよ」

 

 蛸のような風貌に変わり触腕の先には色とりどりのポーション瓶が掴まれ、両の手にも四つずつ違う色をしたものが掴まれている。

 アルベドはそんなタブラの様子を見ながらわなわなと震え、小さく小さく呟く。

 それは聞こえる筈のない一言。

 

「なんでだって?当然だろう。ユグドラシルという箱庭はすでに終わりに向かっていた、だから新しい箱庭へ行こうと誘ったんだよ……ナザリックを再び作らないか?とね。まさかそんなくっだらないことで私を恨んでいるのかい?私を憎んでいるのかい?」

 

「ですが!モモンガ様は残ってくださいました!」

 

 言葉を予測して呆れたように、馬鹿にするように言葉にするタブラを遮るようにアルベドは叫ぶ。

 それでもギルドマスターであるアルベドが愛しているモモンガは残ってくれたと叫ぶ。

 

「ははは、狂ってるよねぇ。私には理解できないよ」

 

「そんなのは――――」

 

「あぁ、まったく理解できない。お前たち出来損ない(NPCのまま)の考えることなんてね」

 

 その言葉にアルベドは言葉を失う。

 出来損ないと創造主に言い切られたことだろうか。

 モモンガの事を話していると思っていた勘違いからだろうか。

 それとも、狂っているといいながらそれでもアルベドの事を見ていたことにだろうか。

 言葉を失い放り投げられる二つの瓶を唖然とした顔のまま見送った。

 

「本当に理解できないよ?」

 

 そして瓶は地面に落ちて割れ、中身が触れ合った瞬間に爆発を巻き起こす。

 

「がっ?!」

 

 爆発を意識の外で受けて吹き飛ばされ無様に地面を転がっていくアルベド。

 そのアルベドにゆっくりと近づいていくタブラ。

 

「なんで?」

 

 近づきながらアルベドが呟いた言葉をアルベド自身に投げ返す。

 本来のアルベドであればその意味を今までの言葉から汲み取れたのかもしれないが爆発に頭を揺らされ、タブラの出現に感情を揺さぶられ、かけられた言葉に心すら平常とはとても言えない状態ではその言葉の意味を考えても答えは出なかった。

 タブラはしゃがみ込み倒れたままタブラの顔を見ないアルベドの髪を掴み、無理やりに自分の顔に向ける。

 

「なんでなんだろうね?理解できないのはなんでなんだろうね?」

 

 瞳の奥を覗き込まれながらアルベドはその言葉の意味を考える。

 必死に間違えた答えを考え続ける。

 至高の御方に数えるタブラが理解できない事が何なのかを考え続ける。

 自分たち被造物のことで理解できないことがあるものかとその考えを否定しながら必死に考え続ける。

 

「愛している?何を?愛している?誰を?愛してる?何で?ほら理解できない」

 

「モモンガ様の全てを!」

 

 条件反射のように叫び声をあげるがタブラはそのアルベドを冷ややかに見ている。

 

「モモンガというアバターを愛しているのかい?ユグドラシルにいたモモンガしか知らないのに全てをなんて言えるのかい?」

 

 その問いかけにアルベドは答えることができない。

 知らないのだから応えることができない。

 放るように突き飛ばされ距離が開いたところに右腕に瓶が投げつけられて瓶が割れるとアルベドの腕に激痛が走る。

 瓶の中身は腕に付着し煙を上げながら肉を腐らせ溶かし、肉を液化させて地面に汚い染みとしていく。

 溶けた腕からは骨が見え断面は焼くような激痛が声にならない悲鳴をアルベドの口から強制的に迸らせる。

 

「お前たち出来損ない(NPCのまま)が私たちを理解できないのはなんでだろうね?」

 

 問いかけの本質が問われながら、瓶が地面に割れる。

 地面は即座に泥濘と化しアルベドを飲み込んで、泥濘の中に残りのポーション瓶が投下される。

 最後の瞬間、アルベドは問いかけの答えを聞く。

 

「お前たちが見ていると思っているのは、お前たちの望んだ私たちの幻影(理想)だからだよ」

 

 昏く淀み深淵を覗くような見たこともない心底失望した瞳がアルベドの最後に見たタブラの姿だった。

 

 




 認識阻害って怖いよねってお話
アザトースクラスの認識阻害だとマジで全員偽って陣中に潜り込める、しかも気付かない、味方だと思ってしまうという恐ろしさ
いつの間にか居て、いつの間にか消えている、そして何をされたのかがわからない
その違和感すらおっさんでも誤認するレベルなので、某タイミングでも時間が飛んだことは認識してもその答えを誤っているのはこのため、本来はここで書くつもりだったからあそこで書いてるのは本当にネタバレなんだよなぁ


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episode.10「親と子と」②

前回のあらすじ

ラスボスの力の一端
アルベドVS タブラ
アレを言っても理解し実行できるとは思えない

以上をお送りしました


 目を覚ましたヘロヘロは挨拶もそこそこに地下大墳墓の近くに設営したシークレット・ハウスへと向かう。

 彼自身は普通の人間の精神性と変わらない、というよりもアインズ・ウール・ゴウンに所属する大半がそもそも普通の人間が中身である。

 他の物語では異形種の精神性が混じるからなのか勘違いされやすいが彼らはただの一般人である。

 覚悟を決めた英雄はほんの一握り、世界を混沌に導こうという狂人もそうはいない。

 

「お待ちしておりました。ヘロヘロ様」

 

 そんな一般人であるヘロヘロを出迎えたのはナザリックに所属するメイドの一人。

 扉を開き中へと招き入れる、テーブルの前にはヘロヘロが作り上げ心血を注いだソリュシャンがヘロヘロが来る前に呼ばれて先に着いていた。

 ソリュシャンはあの忠誠の儀の時に鈴木から楔を打たれ、失望されたのだと思っている。

 それは間違ってはいない。

 

「やぁ、待たせちゃったかな?」

 

「……」

 

 ソリュシャンはその問いかけに答えられない、頭の中はまだ混乱しておりスライム状態のヘロヘロしか知らず現在の人間の姿から彼らの敬う至高の御方の気配はするものの記憶にない姿なことに理解が追いついていなかった。

 

「一時間の遅刻ですよ、なにしてたんですか?」

 

 そんなソリュシャンに変わって責める様に問いかけるのはメイドの方だった。

 普段であればそんな口をきけば即座にナザリックのものが殺しにかかるだろう事をしながら、ヘロヘロは笑っていた。

 

「いやー、ついつい寝てしまっていてね……こっちに来るまで寝ることなんて二年間まともにできなかったからねぇ。そんな環境だったから過労死しちゃったんだけどね、あっはっはっは」

 

「笑い事じゃないですよヘロヘロ様。今後はそんなことがないように……うん、痩せましょう。高血圧だとかいろいろ心配です」

 

 指を突き付け目に見える部分を改善するように指摘する。

 ヘロヘロは若返ったとはいえ元々のシステムエンジニアという職業柄とリアル世界の環境ゆえの運動不足というものが一番反映された体型をしていた。

 可愛く言えばぽっちゃり、ひどく言えば太っていた。

 

「そ、そんな……ストレスフリーな食っちゃ寝ができると思ってたのに!?」

 

 メイドからの指摘と提案からショックを受けていたが、同時にそんな指摘と提案がメイドにできることを嬉しくも思っていた。

 これがメイドとして正しい姿のように思えて嬉しく思っていた。

 ヘロヘロは物語の中や本の中、書かれた歴史の中でのメイドしか知らない、だからこれは理想を体現したようなものだから本物のメイドではないかもしれない。

 それでも体の事を可愛い女の子が心配してくれることは嬉しかった。

 そんな二人の会話をソリュシャンはただただ呆然と見ていた。

 不敬ともいえる言葉遣い、でもそれを今まで見たことがないような笑顔で受け入れる至高の御方。

 なぜ?という疑問(エラー)ばかりが頭を埋め尽くしていく。

 

「うーん、あのニューロニストが事務トレーニングみたいなことしてるとか想像できない……それじゃそろそろ、ソリュシャンの方に戻ろうか」

 

 ソリュシャンの座っている席の対面に座り、紅茶を入れてもらいながらヘロヘロが正面からソリュシャンを見据える。

 ヘロヘロの目には怯えは見えず、逆にソリュシャンには怯えが見えるように視線が若干そらされている。

 

「ソリュシャン。僕はね、他の皆のように外に出て働いてもらいたいし、何よりも幸せになって笑顔でいてもらいたいと思っている」

 

 その言葉にソリュシャンは顔を勢いよく向け、その際に髪が揺れるが出てくる言葉をヘロヘロは手を押し出すことで堰き止めさせる。

 

「僕の作ったNPCなのだからそう思ってたんだよ。ソリュシャンは忠誠の儀で言った言葉を覚えてるかな?モモンガ君に絶対の忠誠を誓います、だったと思うけど」

 

「はい、その通りです」

 

 その肯定の言葉にヘロヘロは自分の覚え違いじゃなかったと安堵しながら、うんうんと頷き改めて悲しみを覚える。

 

「つまりソリュシャンは僕ではなく、モモンガ君に仕えるモモンガ君を優先するってことだよね?」

 

「っ……」

 

 ヘロヘロの言葉にソリュシャンは言葉を詰まらせる。

 否定すれば忠誠の儀で語った言葉は偽りを騙った、肯定しても創造主(ヘロヘロ)からは失望されるだろうことは明白。

 何よりもどう応えるのが正解かわからなかった。

 

「何よりもあの『忠誠の儀』で感じたのはね。被造物(NPC)から創造主(僕達)の帰還は望まれていない望んでいない。所詮は絶縁状、離縁状を言い渡されたようなものさ。創造主(僕達)は帰ってこない、だから残ったモモンガ君に忠を誓った。失意を感じるには十分だよね?誰も僕たちが帰ってくる事を信じていない、いなかったんだから」

 

 最終日にヘロヘロはユグドラシルにログインしていたにも関わらずにもソリュシャンはモモンガに忠誠を誓ってしまっていた。

 これは最終日ではないが他に日にログインしていただろうタブラにも同じことが言える。

 もしかしたら創造主に再び見えられるかもしれない、そう考えれていたのなら戸惑いも出たかもしれない、葛藤もあったかもしれない。

 少なくとも見せられていたような滑らかにはきはきと答えるものではなかっただろう。

 

「(可哀そうだと思うほどに蒼褪めているけど、僕としてもこれは譲れない。メイドを愛しているからこそこれだけは譲れないんだ……主人を信じて待てないメイドが主人に信じてもらえるだろうか……)」

 

 ヘロヘロは創作物や歴史でメイドがどのようなものか程度にしか知らない。

 逆に言えば歴史であったメイドの犯罪などは知っているのだ。

 スズキは忠誠の先を懸念して受け取ることを拒否した、拒否することで逃げ道を作っていた。

 それに気付くかどうか、それも宿題のうちの一つでもありモモンガへの忠を捨てて不信を買う覚悟を持って改めて創造主へと忠を捧げるのも答えの一つ。

 言葉を曲げず改めて鈴木悟へと忠を捧げるのも答えの一つ。

 どちらが選ばれようともスズキとしては困ることはないが、どちら付かずの蝙蝠は信用に足りない。

 戦力として運用するのにも困る『不審な働き者』の出来上がりだけは阻止しなければならない。

 精神耐性が完備?システム外からの緩慢な洗脳が発生している現状でそれを信用することはできない。

 強固な自我を持って抗えるものこそが求められているのだから、浮ついているものを外に出すことはできない。

 

「(はぁー……朱雀さんの子は仕事(本整理)命、ガーネットさんのシズはあの通りだし、タブラさんのルベドもフリーダム……シャルティアはなんか主従逆転方向行ってるし、こういう事言えるのがソリュシャンしか居なかったて事でこんなことのお鉢が回ってくるなんてなぁ……)」

 

 これは創造主と被造物の関係でありながら、まだ気づけていない子じゃないとこの手の話ができないとは話に聞いていたし、反応はほぼタブラさんに予想された通りのどちらも答えない。

 

NPC()らは私たち(至高の御方)から嫌われることを心底恐れているので、まずあの忠誠の儀で感じた失望というのを話してあげればいいんです。そうすることで『自分の一番』というものを自覚できるようになるんじゃないかな、と……NPCの本能、本質が根強いと答えを出せるようになるのは時間がかかるかもしれませんが』

 

 それこそそれを指摘してやればいいんじゃないか、と問えば『その答えを出せ』という命令になるから駄目だと反対された。

 命令では駄目なのだ。

 それに従うだけで『何故それを求められているのか』という本質に、理解には届かない。

 思考とともに回想をしている間部屋の中は沈黙に包まれていたが、その沈黙にヘロヘロ自身が耐えきれずに溜息をつく。

 

「ソリュシャン、もう仕事に戻っていいよ」

 

 溜息とともに出た言葉にソリュシャンは何かを言いたそうに口を開けては閉めを繰り返したが言葉は吐き出されずにおぼつかない足取りでシークレットハウスから出ていく。

 扉が閉まる音が聞こえると同時にヘロヘロは体をテーブルの上に投げ出したまま五分程ぐったりしてから言葉を絞り出す。

 

「ほんともう……こんな役もうやりたくないぞぉぅ……胃が、痛い……」

 

「お疲れ様です」

 

 苦笑しながらもメイドは紅茶ではなくルイボスティーを入れてくれる。

 そのお茶を飲みながら一息ついてからふと頭に浮かんだ質問をして後悔する。

 

「そういえば守護者やプレイアデスの事は聞いたんだけど、他の子たちってどうなってるのかな?」

 

「えー……っと、デミウルゴス部下の悪魔さんたちがすべて処刑されておりまして第七階層が閑散としております」

 

「ぶっほっ?!」

 

 予想外の結果を聞いて咽る。

 

「処刑っ?!え?スズキさんがやったの?!」

 

「動画に記録されてますので今度持ってきますね。すごい戦いだったんですよ!氷の山を召還したりヤルダバオト様が変身して格闘戦始めたと思ったら全部捌かれて決着がついたのは、もう……すごいの一言でした!」

 

「なにそれすごく見たい!アクション映画っぽい感じがする!魔将たちはどんな活躍をしたんだい?」

 

 その言葉にそっと目を逸らし、ぽつりと呟かれた。

 

「まるでコントのようでした」

 

「え?」

 

「なんていうかですね?何で呼び出されたのかわからない状況で唖然としたままスズキ様が玉座を使って雑に消滅させてました」

 

 そういえば傭兵NPC対策にしか使えない設置型世界級アイテムだったのを思い出す、作られた経緯はドラゴンクエストコラボで知った大魔王のセリフを再現するためにラストバトル様に用意していた。

 るし☆ふぁーのレメゲトン、扉前の精霊トラップ、宝物庫のヨルムンガンドと割と殺意マシマシな第十階層だった。

 ヘロヘロは知らないが更にみんなの最終装備を装備したアバターゴーレムが襲ってくるというものが追加されていた。

 しかもサトル君(絵心微妙)ががんばって作った微妙にバランスの悪い為妙なホラー要素も追加されておりその手のものがダメな人には正気値にもダメージを与えるという極悪なものになっている。

 なお動画を撮っていたのはパンドラズ・アクターである。




ショゴス 出展元:クトゥルフ神話
テケリ・リという鳴き声が特徴的な不定形の神話生物であり、コールタールのような黒いスライムであり大きさは大体4m強。
水中用に作られている為、実は地上では動きが遅くなるという特徴があったりするが……探索者が人間なためにまず出会うのは地上である、仮に水中で会うときは潜水艦に放り込んであげると絶望感がいい感じに味わうことができる。
最大の能力としてショゴスはあらゆる器官に変化することが出来るというものがある。
オーバーロードではこれを拡大解釈して人型にしたのがソリュシャンだが、人そのものに変身する能力を持つのはショゴスロードだったりする。


なおクトゥルフを追いやったとかなんとか


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episode.11「親と子と」③

前回のあらすじ

ヘロヘロさん演技する
色々されてる仕込み
メイドとの扱い差

以上をお送りしました


 棒と杖が交差し力比べのようにつばぜり合いの音が響く中チョコンガはパンドラへと質問をする。

 少なくともチョコンガの記憶している彼らはここまでの強さを持っていなかった、戦術的、戦略的な向上はあっても戦闘という面での強さが上がるということはなかった。

 

「なぜこんなにも強くなれた」

 

「私は私で強くなる理由を持ちましたので、強くならねばならなかった。それだけですよ」

 

 強くなってほしい、成長してほしいそんな願いはあったし、目の前のパンドラのような強さを得てほしいと言った事もある。

 命じたがそれがこうまで如実に表れる事はなかった。

 

「お前が父と崇めるサトルが命じたのか」

 

「ふっ……命じられなければそのようなことも決断することも覚悟することもできないとは、なんとも無様な。強くなりたい、そう願ったのは私です。意志薄弱な上っ面の言葉だけで殻など破れる訳がない」

 

 鈍い音ともに鍔迫り合いからお互い弾かれ距離が離れる。

 その瞬間にパンドラは魔法を使い地面からチョコンガを間に挟んで槍を交錯させる。

 

「ふん、私に拘束など……何故抜けんっ!?」

 

「敗北の意味を知った。敗北の結果を見た。世界に踏みにじられた跡を通った。それが私の強くなるべき理由に他ならない!未来を!大切だと思う()る方々を!奪わせないために!私は強くなる!」

 

 チョコンガが記憶しているのはあくまでも本来辿るはずだったモモンガの記憶でしかない。

 だからこそパンドラの見た塔の結末を知る(よし)も、人の持つ絶望へと立ち向かった輝きを知れる(ことわり)もない。

 精々最後の至高の御方と崇める自分が死ぬかもしれないという絶望程度だろう。

 文字通りの未来を閉ざし得る強者がいるという絶望を知るパンドラだからこそ、敗北を恐れ強さへと貪欲になれる。

 そしてだからこそ今という平和を大切にしたいと願う。

 

「NPCとて意志を持っている!彼らは私の子供達だ!私の大切なギルメン達が残した宝物だ!それを侮辱するのは許せん!」

 

 たかが差し込んだ程度の槍は簡単に力任せの行動で打ち砕かれその身を自由にする。

 ただその行動をする一手差し込むだけで十分だった。

 パンドラにはたったそれだけの時間で十分だったのだ。

 ヤルダバオトとの戦いを見た、罠の張り巡らせ方を見た、どのような言葉で激昂するか知った。

 

「あぁぁっはっはっはぁっ!ことばをぉ、交わして?わかりませんか?何が違うか。求めた先が違ぁう、求めた者が違う。あなたはずいぶんと寂しがり屋だ、そして何よりも一人になることを恐れている……他の方々と一緒に居られたから、でしょうなぁ。だから離れられることを考えて二の足を踏む、実に無様無様。そして嫌われないように相手の行動を許容するしてしまう相手が暴走しているとわかろうと知らずとも悪と理解しながら人間性から逃げ出してまで孤独になることを怖がる彼方は実に実にじぃつぅにぃ……矮小、でぇすぅねぇ?んん?」

 

 煽りながら怒りでキレる瞬間を待つ。

 チョコンガのみならずスケルトン系の異形種は精神異常無効を持つことを知っている、スズキからもそのことを聞いている。

 少なくとも今まで一度もソレを発動させずに表面上は喜び嗤い怒り驚く振りをしてきた精神的な怪物という評価こそが正しいバケモノ。

 演者であると自信を持つパンドラであってもスズキを演じることは不可能だと判断し、その精神性にこそ感服し、パンドラはスズキにこそ忠誠を誓っている。

 サトルの事は父として慕ってはいるがどちらを取るかと問われれば迷う事なくスズキに付く。

 

「正に無能、正に無知、正に惰弱!さぁ!さぁ!さぁ!そんな器小さきものを主と崇める者が無様といわずになんというっ!!素晴らしい仲間?否!道化と呼ぶのですよ。道化師は他者を笑わせる者、道化は他者に笑われるもの。芸人たるもの後者には堕ちたくありませんなぁ」

 

「そうだ。私はただの会社の社員にすぎん。過ぎた部下に支えられて……」

 

 返ってくるつまらない言葉に心底くだらない言葉だと肩をすくめ、あからさまに落胆するようなジェスチャーをしながらその言葉に見下して返す。

 

「馬鹿なのです?阿保なのですかね?脳みそ入ってますか?あぁ、骸骨なのでもう何もない空っぽでしたな。貴方が上司?これほど意識が違うともう喜劇ですな、社長や総統、王を求められながら部長の立場を目指すとか……ほんっとうに呆れて言葉もありませんよ」

 

 何を思い違いをしている、お前を最上と崇める部下に執る態度がそれか。

 必賞必罰を謳いながら部下の望みを把握もできずに真正面から臨めむ小心さに呆れ果てる。

 

「だからこそ哀れすぎる、こんな愚物が上に立つ俗物の下が哀れに過ぎる。部下は理解もしない、知ろうともしない、変えようともしない。貴方は理解させようともしない、知らせようともしない、変わろうとしない……どちらも道化ですよ」

 

 変わらぬ者を、無知なる者を、不理解な者を道化とパンドラは切って捨てる。

 日々を生きる者は変わるのだ、知らぬ者は知ろうと手を伸ばすのだ、理解できぬ者は理解しようと足搔き抗い理解しようとするのだ。

 それが生きる者だとパンドラはカルネ村で過ごし知った。

 最初は知らなかった、ただ村で生きるという多くの事を。

 始まりは変わらないと思っていた、気づき文字通り一変した。

 理解できなかった目的があった、苦汁を呑み、絶望を理解した。

 スズキは始まりに失望を与えた、苦悩しながら理解しようと足搔いた、それ故にナザリックにいる幾人かは変わった。

 ただ自分を語ればいい、そんな安い言葉でNPCという強固な本質は変わらない、変えられない。

 なぜか?設定というプログラムで動く(マシーン)がバグ無しでどう変わる。

 プロトコルを自ら組みなおす?エラーを発生させなければそもそも異常とすら気付かない。

 

「スズキ様は初手で盤面を崩して魅せた。ほんの小さな綻びから……貴方は?おかしいとは思いませんでしたか?怪しいと案じませんでしたか?違和感の一つも感じませんでしたか?何もかもがおかしいこの世界に、森羅万象怪しい事ばかりの出来事に、違和感しかない存在に」

 

「何を……言っている?」

 

 パンドラの言葉にチョコンガは困惑する。

 困惑しながらもその言葉に聞き入ってしまう。

 

「では問いましょう。『お前は誰だ』人間(生者)の鈴木悟でもない、オーバーロード(不死者)のモモンガでもない。中途半端な『お前は誰だ?』」

 

 チョコンガを通して『モモンガ』という存在のレゾンデートルに致命の言葉を投げかける。

 生者と置くには命の軽視、倫理観の欠如、不死者と置くには渇望も羨望も薄い。

 

『お前は誰だ』

 

 チョコンガには『鈴木悟』としての記憶もある、この世界に来てからのおっさんと出会わなかった場合の『モモンガ』としての記憶もある。

 だが、自分が『鈴木悟』であるという確証は何一つない、ログアウトをして自身の体に戻れるのであれば自身を鈴木悟だと定義できただろう。

 しかしそれを証明できるはずであったコンソールは出てくることはない、ナザリックの玉座の間ではキャラクターの存在を示すコンソールは出るのに関わらず、自身が出そうとすれば出すことが出来ないのだ。

 

「あ?」

 

 だからこそPCとして作り出されたはずである『モモンガ』であるかも疑わしくなってくる事に気が付いてしまう。

『もしかしたら』そう考えてしまう。

『もしかしたら』自分は自分をPCの『モモンガ』だと思い込んでいる『NPC』なのではないかと気が付き考えてしまう。

「あ……あぁ……?」

 自己の定義が揺らいだ時、思考できるものはひどく脆くなる。

 今まで立っていた地面が崩れ去る様に感じ、定まっていた自身を失ってしまう。

 まっすぐ見ているはずの赤い燐光を放つ眼光は力を失い、揺れ動き視界が歪んでいく。

 思考は霞み、まともに考えが纏まらなくなって一つの言葉が繰り返される。

 

『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』『お前は誰だ?』

 

 答えのない問いかけばかりが繰り返されていく。

 

「私は……」

 

 自分を鈴木悟だと声を絞り出そうとしてフラッシュバックするのはカルネ村の虐殺を見た時に感じた動揺も何もない、人を人と思わない無感動な場面を見ていた感覚。

 『モモンガ』が本当に『鈴木悟』であれば、吐き出していた光景。

 突きつけられる答えは『モモンガ』は『鈴木悟ではない』こと。

 

「違う……違う……違……う……なら……私は……?」

 

 人を人と思わなくなったのはアンデッドの身体になったからだと思っていた。

 ならそれは進行しているのか?悩み、怒り、苦しみ、悲しみ、笑う。

 そんな感情を持たないから『精神抑制』などというものがあるのに『モモンガ』は強い感情を持つ、矛盾。

 

『お前は誰だ?』

 

 問いかけに答えを出そうとして矛盾がすぐに出てくる。

 音を立てて力の抜けた手から杖が地面に転がる。

 力を無くした膝は地面に付く。

 

「私は……誰……だ?」

 

 呆然自失と目の前に立つパンドラをぼんやりと見上げる。

 

「え?興味も関心も何も在りはしませんよ。えぇ、時間稼ぎはもう終わりましたし」

 

 あっけらかんと先ほどまでの戦意を霧散させて、勝利してきた仲間たちを両手を広げて迎い入れる。

 縄にかけられ引き摺られてくるプレアデス達、タブラさんに俵担ぎをされて連れてこられるアルベド、先ほどまであった歪な樹木は全て伐採されていた。

 

「んっんー、これにて我らが完全勝利。ですなぁ」







ぶっちゃけ相手戦力わかってる状態でパンドラと戦うとこうなるよね
戦術、戦略、心理戦、話術、演技でモモンガが翻弄される姿しか想像できない
ご都合主義の主人公補正だとかが無ければね

『お前は誰だ』 出展:拷問方法
鏡の前に立ちこの言葉を繰り返していくというだけの単純なもの
単純ゆえに効果は高く、アイデンティティやレゾンデートルの崩壊と精神崩壊を引き起こす拷問方法
ドッペルゲンガー、スワンプマン問題に直結する問いかけの一つ


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episode.11.5「悪魔と蟲王の忠義に関する会話」

前回のあらすじ

パンドラvsチョコンガ
ちょいと自分なりにモモンガ切開
ブラフで時間稼ぎ

以上をお送りしました


 エ・ランテル、先のアンデッド騒動で被害を大きく被った街。

 ただその街では一つの噂が流れていた、死んだはずの人物に会ったと。

 

「ただその場の身で助ける一時凌ぎ、ゲーム時代ならばそれで良かった。弱者救済、救済とは実に難しいものだ」

 

 ヤルダバオトは玉座の間でコンソールを操作しながら眼鏡を押し上げて画面を見ながら、溜息を一つつき、新たに作り出した存在の名前が登録されていることを確認する。

 種族名シェイプシフター、個人としての名前は付けられていない存在。

 本来であれば作る必要も無い、作る目的もない存在だが、ヤルダバオトの目的としては成功といえる結果を残してくれた。

 死者の記憶もコピーし『別れの言葉』を残した者たちに渡す、という目的は達成された、達成されてしまった。

 

 一つまた一つと進む止まることのない時計の針のように終劇への準備。

「(ただ出来ることは全てやらねばならない。出来ることをやらないのはすでに怠慢といえる時期となってしまった……時間が足りない。だが焦って失敗するわけにもいかない)」

 

 恐怖候から送られてくる報告に目を通しながらやるべきことを調べ、チェックを書き込み、簡潔にメモ帳へと記入していく。

 スズキならばそれだけで事足りる、そう信じて簡略化させていく。

 そうしていると革靴とは違う硬質な足音がヤルダバオトに向かって近づいてくる。

 仄かな明かり、十分とは言えない光量の元暗がりから姿を現すのはコキュートスだった。

 

「どうかしましたか?コキュートス」

 

「デミウルゴス……お前は答えを出せたのか?」

 

 玉座の間、そこにいるのはモモンガの骸骨の姿ではなく、コキュートスが友としたデミウルゴスの姿だった事により、もしかしたら先んじて答えを出し、正解したのかもしれないと思い至る。

 

「いいえ、デミウルゴスは正しい答えを出せませんでしたよ。出せたのは『自身では間違えた答えしか出せない』というものでした、それゆえ私ヤルダバオトが弱ったデミウルゴスを押し退け答えを出し認められました」

 

「では貴様は侵入者という事か」

 

 武器を取り出し構えるコキュートスに鷹揚に掌を向けてそれを止める。

 

「まぁ待ちなさい。ウルベルトは中二病と言いますか高二病と言うべきか悩むところですが、男子がかかる麻疹のような思考状態でした」

 

 コキュートスは何を言い始めているのだこいつは、と動揺しながらも至高の御方々の話が出たことで思わず手が止まり聞こうという姿勢になってしまう。

 

「どのようなものかというとですね……横文字がカッコいいと感じたり、よくある伝奇物にある設定を自分にも在ると想像してみたりする事でしょうか」

 

「それは……カッコいい、のか?」

 

「それは当人次第です、としか言いようがないですね。兎に角、ウルベルトはそのような思考を持ったままデミウルゴスを創り出しました……結果、そういう人からの言葉を借りれば闇の人格とでも呼べばいいのでしょうかね?いわゆる二重人格だとか封印された何かしらだとかという妄想が現実化して『私』という者が出来上がってしまっていた、という訳なのですよ」

 

「……」

 

 コキュートスはヤルダバオトからの説明を聞き、自分なりに租借し理解して表情こそ変わらないまま呆れた空気を醸し出す。

 ヤルダバオトも同じことを思うのだ、しかもそれが自分の出自だというのだから猶更やるせなさというものが両肩に背にのしかかってくる。

 僥倖ともいうべきはカルマが極悪の悪魔の反転した性格だということでかなり善良だという事だろうか、その性格ゆえに策略も高いのにバトルジャンキーに近い強者を好む武人気質ゆえ鈴木から出された宿題を正解できた。

 

「んっんん。まぁ私の出自自体は想定外の出来事ではあれど、異常な事態ではない、と理解してください。そもそもコキュートス、貴方は何を聞きに来たのですかな?スズキ様のような答えは出せずとも何かしらの取っ掛かり程度の助言は出来ると思いますよ」

 

 一度空気を正すために咳払いをしコキュートスがここに来た理由を聞こうとする為にコンソールは一度消し積まれている書類を横に退け、相対する。

 その様子にコキュートスも一度圧縮された空気が出るような音の冷気の溜息を一つつき、敵ではないと武器を収めて真っすぐとヤルダバオトを見据え、言葉を口から出す。

 

「我らの忠義は何を間違えていたのだろうか、忠誠の儀で受け取ってもらえなかったのはなぜなのだろうか?」

 

「なるほどなるほど、まずは一つ。忠義そのものは間違ってはいません、ですが捧げる主にはそぐわなかった為に受け取ってもらえませんでした。まずは確認していきましょうか、私たちは何を言われ、何をして、何故六階層にいましたか?」

 

「む?それはアルベドに異常がないかチェックするように言われ、己の任されている階層を調べ、そしてアルベドに教えられた時間に遅れぬよう三十分早く六階層に向かった筈だが……」

 

 なぜそのような事を聞くのかはわからないままに素直に思い出しながら答える。

 ヤルダバオトは自身の記憶と照らし合わせ、大きな違いがないと頷き確認していく。

 

「えぇ、私が覚えているものと変わりはありませんね。まったくもってその通りでした……がここにシズから聞いた証言を加えるとその時の私たちの間抜け具合が分かるかと思います」

 

「そういえば、プレアデスの者たちは初めから御言葉を直接聞いていたのだったな……もしかしてアルベドが何かやらかしているとでもいうのか?」

 

 下の一対の腕を組み、上の方の腕で下顎に手をやり首をかしげる。

 村での戦いにおいてわかる範囲でのアルベドのやらかしが在ったことを思い出し、その前にも既にやらかしていたのかと呆れながらもつい言葉がコキュートスからこぼれる。

 

「やらかしたとも言えますし、そうでもないと言えます。シズの話では、まずはモモンガではなく『鈴木悟』であると名乗り、そしてその場にいた全員に名を訪ねたそうです」

 

 何故?という疑問に答えを出せずに逆側に首をかしげる。

 モモンガではなく『鈴木悟』を名乗る謎も、名を訪ねる理由にも答えがコキュートスには出せなかった。

 

「そしてシズを伴い宝物庫に異常がないかを確認に行かれるのですが、そこにアルベドが代わりを申し出ましたが、それを拒否して急かす様に全員を仕事に向かわせました」

 

 アルベドの方が護衛には適している、だがそれを拒否したはなぜか。

 

「シズだけ名を問われた時に自身の名を愛称のみで返したそうです。そして周りからは殺気が滲み出ていたとも……私たちからすれば失礼なことであり、無礼なことでしかありませんから当然ですね。ですがスズキ様はそんなシズだけを伴って宝物庫へ向かわれました。おそらくいち早く私たちに出される筈だった宿題を解いたものとして保護したのでしょう」

 

「初めから宿題はいくつも出されていたのか……」

 

「えぇいつも問われ試されて居ますとも。さて問題は鈴木悟様も動くような事態であり、急かす事から時間も惜しいと判断する状況、対して私たちは?異常事態と聞きながらどこか対岸の火事の如く異常があるものとして探さなくてはならない危機感も持たず、何が異常なのかも分からず『異常なし』の報告をします」

 

「おぉぅ……」

 

 コキュートスはその言葉に四つの腕で顔を覆い、崩れ落ちるように床に両膝をつける。

 

「危機感の温度差がとてもひどい……これは私も聞いたときは眩暈がしましたとも。しかも、しかもですよ。『異常なし』と報告するスズキ様の前には『異常そのもの』が広がっていれば、あの対応もさもありなんというものでしょう」

 

 忠誠を誓うという言葉を吐きながら、自分たちは任された仕事も全うできない無能を晒している過去の自分を思い出しながら、苦悶の声を上げるコキュートス。

 しかも最後に第六階層に現れたのは鈴木悟その人である。

 上が時間いっぱいまで異常を探し、その対策を立てていたというのに自分たちは何をしていた、三十分も早くに切り上げ、同僚と談笑をしていた。

 挙句の果てには無能を吐露するような忠誠の儀を思い出せば、後悔、羞恥が襲ってくる。

 

「か、過去の自分を殺したい……」

 

「その気持ちよくわかります。さて話は戻りますが、忠とは主と同じ方向を向けてこそ初めて忠は忠足り得る、と私は考えます。主の思想を理解し、理想に共感し、目的を共有する。そうして初めて命を懸けてでも命を成し遂げる事への価値が出るのだと思っています。私たちは至高の方々と呼ぶ人たちの何を知っていますか?」

 

 何を知っているか、1500もの侵略してきた者たちを蹴散らしたのを知っている、極悪ギルドと呼ばれていようともそれを笑っていたのを知っている、我らを創り出しこの世に生み出してくれたことを知っている、この素晴らしい武器の数々を創り出した事を知っている。

 他の者たちにも優しく接してくれていたことを知っている、このナザリックを大切にしてくれていたことを知っている、そしてそれらをすべて棄てさって去って往ったことを知っている。

 

「コキュートス。私たちは御方々のことを何も知らないに等しい……。どのような思想を持ち、どのような理念を掲げ、どのような行動を行ってきたのか。外でどのような敵を狩りに行こう、このような敵を倒した、様々な話を聞きましたが私たちは御方々が集まられた理由を知りません。外にどれだけの人が過ごしていての1500の襲撃だったのかさえも知らないでしょう」

 

 その言葉に頷きを返す。

 知っていると本能は返したかった、だが何を知っていると返されれば言葉に詰まる事を理性は解っていた。

 

「忠誠の儀、最後に聞かれたでしょう?『どう思っている』と、あれは御自身をどこまで理解しているかという問いかけ……それなのに私たちは真意を図ることもできずまた離れられるかもしれないという恐れから、ただただ持ち上げるような言葉を口にした。盲目的に、妄信して、自分たちは貴方をみていないと宣言した。少なくとも私の考える『忠』とは真逆を示してみせた訳です」

 

「任された仕事も全う出来ず、手前勝手な忠を押し付ける……それは受け取ってもらえずとも当然だ」

 

「納得してもらえたのでしたら何よりです。(実際には異常に気付け、おかしいことをおかしいと認識していたシズですらその指摘に恐怖に身を竦ませた。そのことから気づけていない者に諭した場合の予想がつかないために教えるわけにもいかないのですよねぇ……『自身が自由意志を持って動ける事こそが異常である』。このことはまだまだ内緒にしておかないとまずいでしょう。忠を受け取らないだけであれでしたし)」

 

 追い打ちのように説明していたら一体どうなっていた事か、想像もしたくない想像に首を振るうと今度は革靴の足音を極力消して入室するメイドの一人がこちらに向かってきた。

 

「ヤルダバオト様、タブラ・スマラグディナ様が平野のシークレットハウスにてお待ちになられております。逃亡犯を捕獲したので監禁場所を考えておいてほしいとのことでした」

 

「了解しました。ではコキュートス、私はこれで失礼させてもらうよ……あぁ、そうでした。鈴木悟様の知己が近々王都で御結婚式を挙げるそうで、もしも貴方がスズキ様、サトル様の望まれる方法で辿り着けたなら、認めてもらえるかもしれませんね。貴女も下がっていいですよ」

 

 ヤルダバオトはメイドにも声をかけて、いくつかの書類を脇に抱えて後ろ手に手を振り玉座の間を出ていく。

 コキュートスは命なく外に出ることを禁じられている、それでも認められたいという両方の思いに心を鬩ぎ合わせながら、立ち上がる。

 




以上説明できない、教えてやれない、指摘できない理由でした
精神というものは案外不安定で当たり前と感じていたことが異常だと認識した時その精神は大きく揺らぐ
この辺の確認はパンドラ、シズとの宝物庫での会話で行っており、アンドロイドの希薄な心の揺らぎですら身体を震わせるほどの衝撃だと表現させていただいております
ユグドラシル時代の記憶も引っ張り出すので過去自由に動けなかった事が当たり前だった、なのに現在自由に動くことが出来る異常な状態、指摘すれば当たり前のように強制sun値大幅減少です


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episode.12「式前夜のお祭り」

前回のあらすじ

ヤルダバオトの出自
コキュートスの苦悩
個人的な見解としての忠の解釈

以上をお送りしました


 抜けるように青い青空の下、二人の男女は手をつなぎ屋台の呼び声を聞きながら大通りを歩いている。

 男からすれば何でもないような品物も女にとっては男から贈られた大切な思い出、二人の出会いは何でもないいつもの日常から急転化した当たり前だった日常が壊れる時だった。

 だから女はこの平穏がとても大切なもので、今の日常が大事だった。

 男はこの何でもない平穏な時間が好きだった、隣にいる人を失う事を嫌う。

 隣にいる人は共にいながら男とは真逆を向いて進んでいくだろう。

 

「俺は探索(play)(character)だからな。この異変(物語)解決する(終わらせる)のが目的で目標なんだよ。願うならそこにハッピーエンドも添えたいものだ」

 

 

 

 

 地面に敷かれた布の上に品物を並べた出店の呼び込みの声に、手を繋いだエンリが足を止めてそちらに向かってみれば、魚の絵、デフォルメされた船虫の絵、蝶の絵など色々な絵が張られたクリップが並べられていた。

 

「綺麗なお姉さんお姉さん。寄ってらっしゃい見てらっしゃい、そんじょそこいらの店じゃ買えないような特別製だよ」

 

 ボブカットの青髪に黒い垂れ猫を乗せた黄色いエプロンドレスに大きな桃色の鞄をミトンの手袋で抱えた少女が試験管のようなポーションと一緒に他にも様々なクリップを並べながらこちらに声をかけていた。

 その中で目を見張るのは、非売品の札が置かれた王のような絵の張られたクリップだった。

 

「どんな効果があるか、魔法を使わせてもらってもいいだろうか?」

 

「いいよいいよ。効果知らなきゃこいつらが良い物だって解ってもらえないからね。可愛さで選ぶ人もいるんだけどねぇ」

 

 新たに猫耳のカチューシャや羽の付いたもの、どう付けるのかわからない輪っか、大きなリボンも並べられる。

 鑑定の魔法を使って見たクリップは、サトルをして頭おかしいんじゃね?という効果を持っていた。

 

『SP+10(クリップの効果)

詠唱時間-30%

―――――――――――――

[ホロウシューズ]と

共に装備時、追加で

[マグヌスエクソシズム]

Lv10使用可能

魔法攻撃時、

不死・悪魔形モンスターに

与えるダメージ + 30%

闇・不死属性モンスターに

与えるダメージ + 30%

BaseLv99以下の時、

[ホロウシューズ]の

精錬値が1上がる度に追加で

Matk + 5

詠唱時間 - 2%

BaseLv100以上の時、

[ホロウシューズ]の

精錬値が1上がる度に追加で

Matk + 15

詠唱時間 - 7%

―――――――――――――

[覚醒ホロウシューズ]と

共に装備時、追加で

魔法攻撃命中時、

一定確率で30秒間、

[カアヒ]Lv7状態になる

純粋なLukが10上がる度に

追加で

魔法攻撃時、

全ての属性のモンスターに

与えるダメージ + 1%

純粋なLukが130の時、追加で

魔法攻撃時、

全ての属性のモンスターに

与えるダメージ + 25%

BaseLv99以下の時、

[覚醒ホロウシューズ]の

精錬値が1上がる度に追加で

Matk + 5

詠唱時間 - 2%

BaseLv100以上の時、

[覚醒ホロウシューズ]の

精錬値が1上がる度に追加で

Matk + 15

詠唱時間 - 7%

―――――――――――――

[豊穣の女神]と

共に装備時、

純粋なLukが10上がる度に

追加で

魔法攻撃で

与えるダメージ + 1%

純粋なLukが130の時、追加で

魔法攻撃で

与えるダメージ + 15%

[生命力変換]Lv3

使用可能

―――――――――――――

[ヴェスパーヘッドギア]と

共に装備時、追加で

詠唱時間 + 30%

―――――――――――――

[封印された

ヴェルゼブブカード]、

[ホロウシューズ]と

共に装備時、

[ホロウシューズ]と

[封印された

ヴェルゼブブカード]の

セット効果が発動しない

―――――――――――――

[覚醒ホロウシューズ]、

[封印された

ヴェルゼブブカード]と

共に装備時、

[覚醒ホロウシューズ]と

[封印された

ヴェルゼブブカード]の

セット効果が発動しない 』

 

 何もセット効果を加味しなくても詠唱時間3割減というサトルでも到達していない消費無しの無詠唱魔法へと近づく一つの手段ともいえる装備品。

 そんなものが非売品とはいえこんなところにあるという、ユグドラシルでもステータスを上げる物は数あれども詠唱に必要な時間というものを恒久的に減少させるアイテムは存在しなかった。

 消費アイテムで超位魔法のみという限定された魔法にのみ作用する詠唱を破棄する課金アイテムは幾つか所持しているが、このアイテムは実に喉から手が出そうになるほどにほしい、と思ってしまう一品だった。

 

「うごごごごご……ほしい、すっごくほしい……何このアイテムすごく魅力的なんだけど、どうやって作ったのこれ?」

 

「これかい?昔、仲間たちと一緒に名もなき島に行った時に運よくドロップしたもんさ。馬鹿が酔っ払ってクリップにさしやがったオチ付きだけどなー。あの頃はバカやって笑いあってしょうもないことで遊んでた……そんな時期の(楽しい)記念品さ」

 

 懐かしむように遠くを見ながらクリップを手に取ってそのアイテムの大切さを教えられた。

 自分に大切な思い出がある様に、誰かにも大切な思い出がある、それは当然のこと。

 

「あ……」

 

 そんな当然なことにも思い至らなかった自分が恥ずかしくて居た堪れなくなった。

 

「これの作り方っつってもなぁ……MVPボスの討伐とかカード帳に一発賭けてみる位じゃねぇかな?」

 

『こっちじゃMVPボスとはいえどそもそも復活せずに一度限りなんて在り得そうだし、そもそも居るかどうかわからんしな。泥も0.02%とクッソ渋いぞ』

 

「く、自力で手に入れるのは難しそうだ……」

 

「だから高額なんだけどなー。持ちきれんような金を用意しても売らんぞー」

 

 商人の女性はけらけらと笑いながら、落ち込むサトルの相手をしながら露店を見に来るお客をさばいている。

 

「あ、これ可愛い」

 

 エンリは商人の少女がつけているのと同じ黒猫が置かれており、それを気に入ったようだった。

 ただ値札には白金貨3枚と付けられており、少々法外なのではないかとも思う。

 

「あぁ、それ多分こっちじゃ手に入らない魔法装備でね。精錬強化もしてるから値段はそれでも安いものだと思うよー。黒猫人形500個に手数料、それと専門の職人が要るんだけど?どうするー?」

 

「むむむ……お財布が軽くなっちゃいますけど、それとそちらの大きなリボンももらえますか?」

 

「ほいほい」

 

 エンリは対価を渡し商人は商品を紙袋に入れて渡す、そんな折に横から声をかけられた。

 

「おいおい、嬢ちゃんよ。誰に断ってここに店出してんだい」

 

 大柄で頭髪はなく、顔に入れ墨が彫られ、毛皮の装備を纏った、まるでチンピラか山賊のような服装をした男がいちゃもんをつけてきた。




カード 出展:ラグナロク・オンライン
オバロ風に言えばデータクリスタル、装備できるスロットというのが武具につけられるデータ容量といったところだろうか
スロットを増やすには課金アイテムが必要ではあるが、不可能という訳ではない
この世界での入手方法は謎である
武器は最大スロット4、防具はスロット0or1である
カードは装備できる武具が決まっており対応したものでなければ装備は出来ない
武器に装備できるカードを頭装備に付けるといったことは出来ない、ユグドラシルではその辺どうなっているのか不明


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