機動戦士ガンダム 連邦軍のMA乗り (望夢)
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第一話

てんで創作意欲が湧かない中で沸き上がった一年戦争にC.E.製MAをぶっ混むお話し。


 

 宇宙世紀──人類が増えすぎた人口を宇宙に移民させる様になって既に半世紀。

 

 地球の周りには数百基ものスペースコロニーが浮かび、人々はその円筒の大地を第二の故郷とし、人々は子を産み、育て、そして……死んでいった。

 

 宇宙世紀0079年1月3日。

 

 地球から最も遠く離れたスペースコロニー郡であるサイド3はジオン公国を名乗り、地球連邦政府に対して独立戦争を挑んできた。

 

 開戦から1ヶ月余りの戦いで連邦とジオンはその総人口の半数を死に至らしめた。

 

 連邦とジオン。その国力差は30倍と言われていた。誰もが疑わぬ連邦軍の勝利はしかし、戦端が開かれれば連邦軍の敗退が相次ぐ事となった。

 

 ミノフスキー粒子による電波撹乱により、レーダーを封じられ、誘導兵器は軒並みその能力を失墜。その結果前時代的な有視界戦闘を余儀なくされ、更には有視界戦闘に特化した新兵器であるモビルスーツの登場を前に、連邦軍は成す術なく蹂躙されていった。

 

 しかし戦略的な敗退を繰り返そうと、戦術的に勝利を納める者たちも少なからず存在した。

 

 ユウ・カジマやルース・カッセルの様に戦闘機でMSを撃墜するエースパイロットだ。

 

 だがその他にも奮戦する者たちが存在した。

 

 戦闘機を超える機動兵器を必要としていた彼らは汎用重戦闘機としてモビルアーマーの開発に着手していた。

 

 戦闘機を超える機動性、任務を単独で遂行する火力、生存性を高める装甲。

 

 来るべき戦争においてミノフスキー粒子散布下での有視界戦闘と対MS戦闘に対応しながらも戦闘機の延長上の機動兵器でありながら新しい兵器としてMAは完成した。

 

 一般的なザクとセイバーフィッシュのキルレシオが1:3であるのに対し、MAは1:1から1:2と、最新鋭戦闘機であったセイバーフィッシュを上回る戦闘能力を約束した。

 

 しかしセイバーフィッシュすら満足な数を用意出来ていなかった連邦宇宙軍に、新型機動兵器であるMAを量産する体勢を直ぐ様に整える事は出来ずに開戦。

 

 後の歴史家たちは、MAの量産が開戦に間に合っていれば戦場の主役はMSではなくMAであったと語る者も少なくはなかった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「あまり面白くない立ち位置だな」

 

 コロンブス級改装空母「フューリアス」ブリッジ内にてそう呟いた。ブリッジのメインモニターには最大望遠でまだ作りかけのコロニーに入っていく白い艦を捉えていた。

 

「面白くない立ち位置、ですか…?」

 

 こちらの言葉をオウム返しするのは少女の様な声だった。いや、まだ成人前で少女と言って差し支えのない、連邦軍の制服に着られている感が拭えない女性──シャルロット・アントワーヌが艦長席に座っていた。

 

 一年戦争の序盤。ブリティッシュ作戦やルウム戦役の敗退を経てガタガタになってしまった連邦宇宙軍。更にはジオンのコロニー落としや地球降下作戦により今や地上軍すらボロボロだ。

 

 多くの軍人を失ってしまったが故にそのシワ寄せとして成績が優秀な士官候補生等が続々と各方面へ配属された。しかし実体は学徒動員に片足を突っ込んでいる様な有り様だった。

 

 ルナツーの司令や、今はサイド7でガンダムを作っている科学者の言葉を借りるなら、寒くて嫌な時代と言うものだった。

 

 オペレーターに言って足下に宙域図を出させる。そのオペレーターすらまだ垢抜けしていない感じの女の子──セシル・リシャールが務めている。努めているという感じて多少あたふたしながら足下に宙域図が表示される。

 

「ホワイトベースをトレースしているジオン艦だ。この辺りの通商破壊を担当する艦だが、これの指揮官はあの赤い彗星だ」

 

「赤い、彗星……っ」

 

 赤い彗星の名を出すだけで一気にブリッジが浮き足立つ。無理もない。赤い彗星の名は連邦軍でも有名だ。同じく機動兵器のパイロットとして単機で戦艦5隻を沈める異常性は生々しく感じてしまう。

 

「その赤い彗星が担当航路を外れてルナツーの目と鼻の先にあるこのサイド7の警戒領域内に入ってきている」

 

 今現在ホワイトベースはサイド7で完成したV作戦のMSをジャブローに運ぶためにサイド7の1バンチに入港していた。

 

 ホワイトベース入港に際して宙域警護としてこのフューリアスはサイド7宙域に進出していた。

 

 現在の連邦宇宙軍の活動範囲は驚く程に狭い。それこそ制宙権はジオンのものになって久しい。今の連邦宇宙軍が動けるのはルナツーを中心にサイド7と地球を結ぶ補給路だけだ。サイド7はまだ作りかけのコロニーサイドであるために内需関連で手一杯であり、ルナツーは地球からの物資補給や中立コロニーサイドであるサイド6から割高物資の搬入を受けなければ運営が難しい。

 

 戦闘艦主体の連邦宇宙軍に対して運動性で勝るジオンのMS戦術ドクトリンに対抗出来るのは虎の子のMA部隊を有するこのフューリアスのみであった。

 

 とはいえこのフューリアスもつい一月前の就役に加えて、艦載機のMAの数もそこまで多くはない。今はどこも人手不足で猫の手も借りたい状況だった。

 

「ホワイトベース入港を確認。ジオン艦は反転、サイド7宙域から離脱する模様!」

 

「了解。ジオン艦が領空離脱確認後、本艦もサイド7へ入港します」

 

 先ずはお手本通りの対応であり大変結構であるのだが、この後にジオンが──シャアが何をしてくるのか知っている自分からするとどうにかして警戒体勢は維持しておきたい。

 

「ジオン艦が変わった動きをしたら直ぐに知らせてくれ。それとパイロット各員にアラート待機を通達してくれ」

 

「了解しました!」

 

 パイロットをアラート待機にする事に此方に不思議そうに視線を寄越すシャルロット艦長。機動部隊の隊長としては説明責任がある。

 

「なに。もしもの時の備えさ」

 

「大尉はあのジオン艦が攻めてくると?」

 

「あの赤い彗星が黙って見逃してくれるとは思わなくてね。センサー領域外でMSを射出し、慣性航行でサイド7に取り付くとも限らないさ」

 

 原作知識から来るサイド7襲撃を匂わせておくが、さて、どの程度の効果があるか。

 

 自らの存在がこの宇宙世紀において激動の時代の始まりでもある一年戦争における立場は一介のパイロットであり、あくせくして用意出来たのはザクとも互角に渡り合えるMA部隊とその運用母艦だ。

 

 それでもコロニー落としを阻止できる程の戦略規模への介入は出来ていない上にルウム戦役でも結果を覆す程の事は出来ていない。

 

 ごく限られた戦術単位での勝利であろうとも全体への影響がない事が、自身の行いの無意味さへと誘おうと誘惑する。

 

 しかし必ず意味があるものだと信じて歩むしかない。

 

 それが一年戦争に関わり、この宇宙世紀由来ではないC.E.製MAを持ち込んだ自分の責務だとも思っていた。

 

 現在開発されたMAは二種存在する。

 

 メビウスとメビウス・ゼロである。

 

 セイバーフィッシュを超える機動兵器として開発されたMAは、確かに戦闘機よりも優れた機動性と運動性と火力を獲得させた。

 

 ザクⅡF型と比べても機動性において有利であり、運動性はAMBAC機動の差でザクに譲るもパイロットの技量でカバーの利く範囲だ。火力に関してはリニアガンの直撃でザクの装甲は貫ける。

 

 メビウスであれば二機のエレメントでカバーしあえば充分にザクと戦えるし、メビウス・ゼロであれば単機で複数のザクとも戦える。

 

 それでも高機動型ザクやリック・ドム、ゲルググ相手に何処まで通じるかは不明であるが。

 

 とはいえボールに乗せられるよりかは確かな生存率を約束する兵器である事には間違いない。フューリアスにも作業用兼対空用途の為にボールK型が配備されているが、ボールが出撃する事態ともなれば自分たちが全滅した時だろう。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 大尉がMAパイロットとのブリーフィングを行うと言うことでブリッジを退出すると幾分か肩の張りが落ち着いた。

 

 階級としては同じ大尉であるものの、士官学校を首席で卒業したいわゆる「お飾り」であるのに対して、大尉は現場叩き上げのエースパイロットである。

 

 MAの発案者にしてテストパイロットを務め、ルウム戦役では巡洋艦は6隻とMS37機を撃墜した英雄的な人物である。

 

 そんな人が部隊長を務める艦の艦長がわたしである。士官学校を出立ての身には荷が勝ちすぎる。

 

「セシル。ジオン艦の動きはどうなってるの?」

 

「依然サイド7からの離脱コースです。今回は大尉の取り越し苦労ですかね」

 

「そうあることを願いたいわ」

 

 この艦に配置されて1ヶ月。どうにか空気に慣れてきても、戦場というものは教本が役に立たない事が多い。MSなんてない頃の教本で勉強してきた上に、そのMSに対しても有効な戦術は未だ確立されていない。ミノフスキー粒子散布下での戦術だって、ジャミング環境下での戦闘理論を応用してどうにか対応している始末。8ヶ月で今までのセオリーが通じない相手に対する対処法が出来上がるはずもなく、何もかもが手探りだった。

 

 それでもわたしたちは大尉のお陰で他よりはマシな環境に居られていると思う。

 

 実際に戦場で体験してきた経験をフィードバックさせて貰っているし、フューリアスは空母であるから基本的に最前線ではなく敵艦の有効射程外で機動部隊を発進させて、あとは彼らが無事に戻ってくるのを祈るだけだったからだ。

 

「ラウ・ル・フラガ大尉、かぁ……」

 

 クセっ毛なのか、ウェーブの掛かった金髪碧眼の歳上大尉は、自分たちに対して偏見や懐疑的な視線を向ける事はなく向き合ってくれる。

 

 このフューリアスのクルーの大半はほぼ女性で構成されている。しかも士官学校を出たばかりの戦場を知らない生娘ばかり。男女比なんて無意味なくらい右を見ても左を見ても女性ばかりで、一部ではお嬢様部隊とも揶揄されている。

 

 大尉は苦笑いを浮かべながら、軍は旧来の男社会の気風が強いからと言っていた。戦場や軍隊で女がしゃしゃり出るのが気に入らないとする人たちのお陰でわたしたちは集められた。実際にわたしも士官学校では猜疑的な扱いを受けたこともあった。あの頃に比べて隙を見せないように振る舞わなくても良いこの船の雰囲気はとても居心地が良い。

 

 わたしが知っている軍人の中で最も気心を許せる相手でもあり、歳の離れた兄か父親の様な雰囲気につい頼ってしまう。実際まだ戦場に触れて一月の新米なんてお呼びでないくらい大尉の指揮は完璧であるのだから。

 

 ジオン艦がサイド7の領空を離脱し、長距離センサーや最大望遠でも捉えられない彼方へと去っても、大尉の言葉もあって数刻の警戒体勢後にフューリアスもサイド7へと入港する。

 

 その時はジオンも諦めたと思っていたものの、事態は大尉が予測した通りに最悪の展開へと向かい始めた。

 

 

 

 

to be continued… 

 

 




※名前をユウからラウに変更。やっぱ書いてるとブルーのユウと被って書き難かったので。それにともなって撃墜数も変更。


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第二話

お待たせよー。お仕事始まったから亀更新なのは許して。


 

 この世界で前世とでも言う記憶を取り戻したのは今から凡そ10年程前だ。家が火事となって生死の堺を彷徨った所為でもあるのかもしれない。

 

 ラウ・ル・フラガと聞いて身構えたものの、年号は宇宙世紀。

 

 地球に住める程度には特権階級だったのだが、火事で両親も家も失った上に、一年戦争なんてものが控えている地球に住んでいても身の危険は拭えず。ならば何故軍人なんかしているのかと問われてしまうものだが、一年戦争から続く戦乱を向かえる地球圏で職が無くならないのは軍人くらいしか思い浮かばなかったからだ。

 

 それでも戦闘機でMSと戦って生き残れるとも思っていなかった。

 

 来るべき戦場を知る身としてはどうにかしてMSに対抗できる兵器を求めた。

 

 しかし連邦軍という巨大組織において大規模な戦闘など一年戦争以前は起こることもなく、兵器開発も限られた予算で細々しいものだった。

 

 そんなところにどうしてMAを用意することが出来たのかと言えば、あのアナハイムが関わっている。

 

 アナハイム・エレクトロニクス──。

 

 一年戦争から7年後のグリプス戦役にてエゥーゴのスポンサー企業として、あるいは一年戦争の3年後を描くデラーズ紛争において新型ガンダムであるGPシリーズの製造元で名が知られるが。ジオニック・フロントにおいては既にアナハイムの製品は連邦・ジオン問わずにありふれているとされている。

 

 後付けに次ぐ後付けで企業規模がとんでもない勢力になっていくアナハイム。ジ・オリジン版ではあのテム・レイもアナハイムの社員で、ガンダム等のV作戦のMSもアナハイムが開発と製造に関わっているという設定が加わっている。

 

 ではこの世界ではどうなのか。

 

 キャッチフレーズである「ネジ一本から宇宙戦艦まで」というのは伊達ではなく、電子機器メーカーとしては地球圏最大大手の企業だった。

 

 そんな会社から声が掛かったのは、既に開戦は時間の問題だった2年前の事だった。

 

 士官学校を卒業して4年が経っていたものの、人脈など殆どなく、現状としてセイバーフィッシュでさえ最新鋭戦闘機として良好な性能を持っていた機種を限られた予算で少しずつ量産していた連邦軍や各社企業に、セイバーフィッシュを超える新型機動兵器を作りませんか? 等と言ってもマトモに聞いてくれる部署も企業も無かった。

 

 ジオンでは既にザクⅠが量産、ザクⅡも初期型のC型が開発・量産されていようとも、それを連邦が知る由はない。

 

 このまま開戦を迎えるしかないのかと思っていた所に、あのアナハイムから接触があったのだ。

 

 この頃のアナハイムは一般家電製品中心で利益を上げる一方で、軍需関係は既にヴィックウェリントン・ハービックを中心とした地球各企業に抑えられていた。

 

 本社を地球に置きながら、その資本の大半は宇宙にあり、月の支配者でもあったアナハイムがジオンの動きを知らないはずもなく、来るべき大戦と、そこに登場するMSに対抗し得る兵器を開発し、連邦軍需産業に打って出るという利害の一致でC.E.製MAは開発される事になった。

 

 アナハイムとしては、確かにMSは既存の兵器を超える性能を有しているが、国力の差から連邦が敗北するとは思ってもおらず、しかしジオンのMSを盗用して連邦軍に売り込むにも連邦軍は現在セイバーフィッシュの量産に忙しく、であれば新型MSを売り込むよりも戦闘機の延長上兵器とも言えるMAを売り込む方が現実的であったらしい。

 

 ちなみに連邦軍でもガンタンクは戦闘車両扱いで存在していた。ガンキャノンも量産型MSとしてガンタンクに代わる機動戦力として存在していたが、この頃の連邦軍のMS運用は戦車運用のそれに近く、セイバーフィッシュであれば機動性で圧倒し、ガンキャノンでさえ木偶の坊として相手にならない程で、連邦軍はMSに対して懐疑的な状況だった。

 

 この頃の連邦とジオンのMSは歩く戦車と走る戦闘機程に機動性と運動性に差があった為、性能の差でボコボコにされるのは仕方がない。月面での史上初のMS戦はオリジンと同じく連邦側の敗北で終わった。月面での戦闘であるから月の支配者であるアナハイムに隠し通せるわけもなく事実はすべて筒抜けだった。

 

 ともかく、既に開戦秒読みの時期に新型機動兵器の開発である。

 

 それこそ目まぐるしい程に忙しい日々を送った。

 

 量産型として簡素な作りをしているメビウスは実機製造に一月程であった所にアナハイムの底知れぬ技術力を垣間見た気がした。

 

 しかしMSに対抗する為のMAだ。確かにメビウスの時点で運動性はセイバーフィッシュを凌駕し、機動性も同等、火力に関しても搭載するリニアガンは、セイバーフィッシュの搭載する対艦ミサイルに威力は譲るも撃ってお仕舞いではない上に、ミノフスキー粒子に関してはアナハイムでも研究は進められており、既にミノフスキー粒子の持つ電波撹乱作用にも目はつけられていた。

 

 ミノフスキー粒子散布下による有視界戦闘能力を追求し、さらには長距離誘導兵器の有用性の失墜を予見していたアナハイムにとってMAは来るべき大戦に則した兵器として開発されていった。

 

 だが、前時代的な兵器となるだろう戦闘機に勝っていた所で、仮想敵であるMSに対抗出来なければ意味もない。

 

 故にMSに単機で対抗出来るMAとして、メビウスと並行してメビウス・ゼロは開発されていた。

 

 戦闘機の延長上兵器として使えるメビウスと比べ、メビウス・ゼロのコンセプトはかなり挑戦的な仕様だった。

 

 当たり前だ。一年戦争末期も末期にジオンでようやく形になった有線式機動砲台を装備するMAであるのだから。

 

 これを操縦して性能を発揮するには高い空間認識能力を必要とする事は変わらなかった。しかしそれをすべて人間に押し付けても仕方がない。それこそガノタ知識による少々強引な解決方法。人間に出来ないのならば機械にやらせるまで。

 

 ガンバレルの機動制御は個別にモーションパターンを組み、補助OSとAI、さらに学習型コンピューターまで導入して手間暇かける事で一応の形となった。

 

 それでも何処でどんな機動パターンを使うかやら、戦闘はアニメではないのだから決まった機動パターンでは対応しきれずマニュアルで動かす必要がある為に、今の所メビウス・ゼロで戦闘が出来るのはガンバレルのモーションサンプリングの為に乗り回していた自分以外には居なかったりする。

 

 ニュータイプの様なパイロットを探せば乗れそうなものであるが、残念ながらMAはまだ一企業が進める一事業であるためにテストパイロットを選り好み出来る余裕はない。

 

 メビウスに関してはセイバーフィッシュのパイロットでも問題ない程度には戦闘機での経験が通用する。それでもフレキシブルに稼働するブースターで、その場で急減速からバック機動が出来る時点で既存の戦闘機の機動戦闘より奇抜な動きが出来るのだが。

 

 そんなメビウスよりも高性能を目指し、対MS戦闘を追求したメビウス・ゼロは乗り手を選ぶものの、複数のMSを相手に出来るMAとして完成し、ブリティッシュ作戦やルウム戦役を生き延びれたのはこのメビウス・ゼロの性能のお陰でもあった。

 

 ガンバレル分離前であれば機動性・運動性共にザクⅡを圧倒出来て、ガンバレルを分離するとそれらの性能が下がってしまうものの、左右のガンバレルを分離しなければメビウスと遜色ない程度の性能低下に落ち着けられる。連ザでメビウス・ゼロを使ったことがある身としては想像の範囲内である。

 

 それでも二基のガンバレルだけであろうとも、オールレンジ攻撃の経験などないパイロットでは対応しきれずに撃墜できる。

 

 だが、そのオールレンジ攻撃でも落とすことが出来なかったのがあの赤い彗星だった。

 

 ルウム戦役で相対した赤いザク。

 

 本当に通常のザクの3倍に思える程の機動性を見せるそのザクに追い付けても、此方の攻撃をマトモに当てることは殆ど叶わなかった。

 

 最終的には左腕一本は持っていけても、此方はガンバレル全損失の大損害だった。

 

 同じ人間であるのならばやれる筈だと傲ったのが間違いだった。相手はあの赤い彗星。根本からして実力の土台が違いすぎた。

 

 シャアを相手にするのに手一杯で一々数えていなかったのだが、ルウム戦役ではチベ級1、ムサイ級4、MSも34機を撃墜していた。

 

 セイバーフィッシュでは成し得ない戦果にようやくこうして専用の運用部隊を持てたと思えば右も左も女の子ばかり。カスペン大佐が補充要員で補充されたのが学徒兵ばかりだった時の気持ちがわかる。流石にこれは無い。

 

 とはいえ開戦以来負け続けの連邦軍。今は地上に専念したい時期に上層部としては宇宙の新設部隊に割ける人員も居なかったのだろうと思っておく。でないとやってられない。

 

 ワッケイン司令が苦笑いながら「能力は保証する」と言っていたのがつい一月半前だ。

 

 確かに能力はある。だが自分以外にてんで成人が居ない部隊が最前線でやっていけるかという話だ。

 

 そんな若年部隊である我が隊の名はMA-X レイヴンズ──。

 

 地球連邦軍で唯一のMA専門の試験運用機動部隊だ。

 

「もー! 遅いよ隊長ぉ~。待ちくたびれちゃったじゃーん!」

 

「うおっ!! …スマンね。上で少し用があったからな」

 

 待機ボックスに入るとそんなお咎めと共に背中に女の子が腕を首に回しながら降ってくる。

 

 他の部隊ならどやされるか修正とかされるんだろうが。ウチの部隊は俺が隊長で俺相手なら取り敢えずお咎めはナシだ。時と場合と程度にはよるが。

 

「そんなこと言ってぇ~。どうせ艦長さんとイチャイチャしてたんでしょぉ?」

 

「別にイチャイチャなんてしてないっての」

 

 背中に引っ付いてニヤニヤとしながら詰め寄るプラチナブロンドな彼女の名はクロシェット・バーリントン。まだ16歳の女の子だ。

 

「クロシェットさん、あまり隊長さまを困らせてはいけませんよ?」

 

 そんなクロシェットを俺の代わりに咎めるのは、窓際の令嬢感120%の清楚な淑女。クロシェットの姉役をやってくれる銀髪を二つのお下げにしている彼女はティアナ・ヘンダーソン。戦争とは無縁そうな彼女もなんとパイロットである。ちなみに年齢は20歳だ。

 

「あー、隊長がティア姉のおっぱい見てるぅ~!」

 

「まぁ…!」

 

「見てねぇから…」

 

 クロシェットの言葉に口許に手を当てるティアナ。いや、ノーマルスーツの上からでもかなり自己主張の激しい実りは、彼女のちょっとした動作でもかなり揺れるそれこそ擬音はぽよんとかぼいんって感じであるのと、やはり目立つのでどうしても視界に入って一瞬視線を奪われるのだが社会的に抹殺されたくないので弁明はしておく。

 

「隊長さまも男の方ですから…。もしお困りの事があれば(わたくし)に何でも仰ってください。隊長さまの為ならば、どんなことでもお任せくださいませ」

 

 そう微笑む彼女は純真無垢に見えるものの、育ちの良さもあるだろうが、男女の機微を察する様な事を言うものの何処まで本気であるのか今一読み難い。あとなんかちょっとした重みを垣間見る娘でもある。

 

「むぅ。やっぱり隊長もティア姉が良いんだ~? 男はやっぱりおっぱい大きい方が好きなんだねぇ~」

 

 何故かいじけるクロシェット。彼女も16歳にしては立派なモノを持っているが、歳上でさらに規格外な実りのティアナには勝てない。一応部隊長だからその辺のパーソナルデータも閲覧する義務がありますのよ。クロシェットは8後半ある、しかしティアナは3桁なので戦力差は圧倒している。

 

「隊長。話が進まないのでそろそろ未だアラート待機である説明を頂きたい」

 

 そう割り込んできたのは凛とした雰囲気の生真面目さを一目で印象付ける黒髪の美少女。名はユイ・フローレンス・ビスト。まだ18歳ながらMA開発スタッフの1人でテストパイロット段階からメビウスを飛ばし、ビストの名の通りビスト家に名を連ねる才女だ。

 

 クロシェット、ティアナ、ユイの以上三人娘に自分が加わった4人が、MA-XレイヴンズのMAパイロットである。

 

 泣けて来るだろ?

 

「よし。ブリーフィングを始めるぞ」

 

 泣き言を言っている暇はない。それこそ直ぐにシャアは攻めてくるのだから。

 

「え~。もうちょっとのんびりしても良くな~い? 今はコロニーの中なんだしぃ」

 

「ダメよクロシェットさん。コロニーの中に入ってもアラート待機なのはそれ程の理由があるのですから。そうですよね、隊長さま?」

 

「そう言うことだ。ホラ、小隊整列!」

 

「は~い…」

 

 背中のクロシェットを剥がして並ばせる。ティアナが上手くクロシェットをコントロールしてくれるが、ユイからは甘やかしすぎだと批難する視線が飛んでくる。

 

 だがまだ言うことは聞いてくれるから多目に勘弁してやって欲しい。こんな様子でも、出逢ったばかりの1ヶ月半前は酷いものだった。

 

 クロシェットの年齢が16と聞けば誰もが不思議に思うだろう。流石に若すぎやしないかと。

 

 彼女の出身がサイド2と聞けば、連邦宇宙軍の人間なら同情の目を向けるだろうし、察しの良い人間なら詳しくは聞いては来ない。

 

 ブリティッシュ作戦にて母を喪い、ルウム戦役にてパイロットだった父を喪い。天涯孤独の身の上になってしまった。女の子には珍しく父の背中を追ってジュニア・ハイを卒業後はパイロット候補生として軍学校に通って一年が過ぎる前に一年戦争が開戦。

 

 そうして両親を喪い、ボロボロの連邦宇宙軍で新米以前のパイロットを放り込める部隊は、新設されるウチくらいのものだったのだろう。実際戦闘機に本格的に触れる前であったからMAへの適正はかなり早かった。

 

 そんな一見して明るく見える彼女の内には、ジオンに対する怨恨が渦巻いている。

 

 軍学校に通っていたとはいえ、まだ両親を必要とする女の子だ。ティアナが姉代わりに咎め役をやってくれているのならば、自分は兄か父代わりに肯定役をやるしかない。もちろん時と場合と場所によって俺でも咎め役をやるが、今のところはそんな事はなかったりする。

 

 美少女三人娘を率いる美味しい立場に見えるだろうが、腹の内に一物も二物も抱える女の子達の隊長の立場はかなり神経を使う立場であると言っておこう。

 

 ティアナも、一見してなんともない優しいお嬢様に見えても、上官なり部隊員からのセクハラ被害で幾つかの部隊を転々とした経緯がある。さらにサイド1出身で、一週間戦争で家族を喪っている。妹が居たらしいので、クロシェットの面倒を良く見てくれている。

 

 ちなみに、俺以外で拙いながらもガンバレルを使える貴重な人材でもある。元々オペレーターだったからか、状況把握能力と判断力は他二人より高い。歳も三人娘の中で年長だからコッチの補佐もしてくれるのも有り難い。

 

 そしてユイ個人はともかく本人は説明不要のビスト家の人間で、俺のスポンサーはアナハイムである。どんな地雷が埋まっているかわかったもんじゃない。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ブリーフィングを始めるぞ。

 

 現在サイド7領域外にて一隻のムサイ級が待ち構えている。

 

 この艦は先刻、地球連邦軍本部ジャブローから極秘任務の為に宇宙に上がってきた強襲揚陸艦ホワイトベースを追尾。ここ、サイド7までやって来た艦だ。

 

 連中の思惑がどうであれ、このままではホワイトベースの出港にも支障を来す恐れがある。向こうが居なくなるまで黙りを決め込むのもアリだが、戦局はそんなことを許してくれる程暇じゃない。

 

 よって、現在連邦軍でもMSに対抗できるMAの専門運用部隊であるMA-Xレイヴンズに出撃命令が下った。

 

 母艦フューリアスはサイド7を出港。サイド7建設資材として運ばれてきた小惑星から出たアステロイド帯を進行。隠密行動を取りつつサイド7領域外に居るであろう敵艦を捕捉、これを撃破する。

 

 初陣がアステロイド帯であるのは中々経験できない危険度の高い出撃になるだろうが、デブリにぶつかる様な柔な鍛え方をこの1ヶ月してきた覚えはない。お前達なら必ずやり遂げられる筈だ。

 

 敵艦接触後は対空迎撃他、当然として対MS戦闘となるだろう。

 

 特記事項として、この敵ムサイの指揮官は彼の赤い彗星であることに留意。

 

 赤い彗星は此方で受け持つが、万が一の場合は交戦する事なく一目散に逃げろ。これは命令だ。敵前逃亡は銃殺刑だが、予め上官である俺が命令しておく。赤い彗星に出逢ったら脇目も振らずに逃げろ。大事なことだから二回言っておくぞ。

 

 赤い彗星の相手をしている合間にお前達は敵艦を叩け。いくら赤い彗星でも、母艦がなくなったらどうしようもないからな。

 

 部隊コールはメビウスとする。俺がメビウス1、以下メビウス2はクロシェット、メビウス3はティアナ、メビウス4をユイ。これからウチの部隊で使っていくコールサインだから確りと頭に入れておく様に。

 

 任務内容は敵部隊の撃破になるが、部隊規定として一つだけお前達に課するのは「生き残れ」だ。

 

 こんな戦争の時代にあまっちょろいかも知れないが、生きていれば次がある。それにお前達はまだまだ将来がある。大人が起こした戦争で死ぬなんてつまらない幕引きは俺がさせない。でも俺も人間だ。いつも守ってやれるわけじゃない。だから各々でこの規定を胸に任務を果たせ。そして生きて帰れ。

 

 ブリーフィングは以上。各員搭乗、出撃に備えろ!

 

 

 

 

to be continued…



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第三話

ちょっと短めです


 

「サイド7を出る船があるだと?」

 

 サイド7領域外にて偵察隊のザクを発進させて待機していたムサイ級ファルメルはサイド7から出港する艦影を捉えていた。

 

 その報告を聞いたシャアは副官であるドレンに振り向いた。

 

「例の木馬か?」

 

「はい。いいえ、どうやらコロンブス級の様です」

 

「輸送艦か」

 

 コロンブス級は連邦軍の大型輸送艦であるのはシャアも知っている。例の木馬と称した新型戦艦が追尾されていた事は承知の筈だ。

 

 それであるのにただ輸送艦一隻だけを出港させる意図が読めなかった。流石の連邦軍もそこまで間抜けではないだろう。

 

「しかし面白くない動きだな」

 

「暗礁宙域方面へ向かっています。サイド7を離脱するにはやや冒険的な航路ですな」

 

 サイド7建設の為に、ルナツーから掘削した岩塊が浮遊するアステロイド帯の中を輸送艦で抜けるのは、余程腕に自慢のある艦長と航海士と操舵手を要するだろう。

 

「……いや、違うな。ドレン、第二戦闘配置に移行しろ。どうやら仕掛けて来るらしいぞ」

 

「輸送艦が、でありますか?」

 

「V作戦のMSを積んでいる可能性もある。それに、あの船にはエンデュミオンの鷹が乗っているやもしれん」

 

「あのエンデュミオンの鷹が…!」

 

 脅すつもりはなかったが、エンデュミオンの鷹の名を出すと、ドレンは息を呑んだ。

 

 現状ザクが出払っている状態で相手に出来るものでもない。

 

 ルウム戦役で直接戦ったが、他の戦闘機とは文字通り別次元の存在だった。四方八方から一機の戦闘機に攻撃されて追い回されるとは思いも寄らなかった。

 

 此方が五隻の戦艦を墜とした代わりに、ヤツ一機に巡洋艦6隻とMSも30機近く撃墜されている。

 

 たった一機の戦闘機相手には過ぎた被害だ。

 

 その異名の基は、開戦からの一週間戦争でのとある戦場にある。

 

 MSの性能で破竹の勢いで連戦連勝を重ねていたジオンに冷や水を被せた一戦。

 

 エンデュミオン・クレーター攻防戦。

 

 占領したグラナダを橋頭堡に月の制圧を開始した突撃機動軍の進撃を食い止め、月の表側の中立化に多大な貢献をした一戦と言われている。

 

 一週間戦争における唯一の黒星をジオンに付けたのがエンデュミオンの鷹と呼ばれている連邦軍の新型戦闘機とパイロットである。

 

 たった一機の戦闘機にMS一個中隊とムサイ3隻が失われた戦いだった。

 

 今までは偶然にも鉢合わせる事はなかったが、ルウムでの借りを返す時が来たらしい。

 

「どのみち、アレが居てはデニムたちも引き上げられん。私のザクとアッシュ達の小隊も出撃準備をさせろ」

 

「ハッ。シャア少佐のザクの発進準備! 対空監視、石ころ一つ見逃すなよ!!」

 

 ドレンを横目にシャアはアステロイド方面へと視線を向けた。

 

「フッ。困難な敵を前にしてこうも昂るとは。私もまだまだだな」

 

 とはいえ、久し振りに歯応えのある敵を前にして昂るなと言うのは無理な相談である程の実力をエンデュミオンの鷹が有しているのは肌身で感じている事実だった。

 

 連邦軍のV作戦の全容を掴むのも重要だが、連邦軍のエースパイロットを撃墜する事も戦略的には必要であるとして、シャアはMA-Xレイヴンズを待ち構える構えを取った。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

『発進1分前! ミノフスキー粒子散布!カタパルト、リニアボルテージ上昇。ハッチ開放します!』

 

『ブリッジ遮蔽。対空・対艦・対MS戦闘用意! イーゲルシュテルン、バリアント起動。アンチ・ビーム爆雷、ミサイル発射管一番から四番は対艦ミサイル、他対MS誘導弾装填。MA部隊が敵を受け持ってくれても敵が来ないとも限らないから対空監視は厳に!』

 

 矢継ぎ早にブリッジのセシルとシャルロットの声が無線を通して聞こえてくる。

 

 格納庫のハッチが開き、リニアカタパルト用のガイドレールが伸びていく。

 

 このフューリアスのベースはコロンブス級であるが、MA-Xレイヴンズの母艦として運用する為に大規模改修を受けている。

 

 積載量の半分近くを潰す形で搭載された火器類は戦艦クラスの基準を満たす程の火力を保障し、対空兵器も対MS戦闘を想定した数と配置をしている。

 

 ざっくばらんに言うならコロンブス級で再現したアークエンジェル級になっている。そう、ペガサス級ではなくアークエンジェル級だ。

 

 対ビーム装甲として艦体はラミネート加工を施され、バイタルエリアにはPS装甲を採用している。

 

 C.E.製MAの試験運用部隊なら、その運用母艦もC.E.製技術導入を検討した装備をしている。最も、PS装甲はルナ・チタニウムより実弾に対する防御力は上であっても、重量とコストも上で、さらに電力を消費する為にコストパフォーマンスが悪い事が判明している。ラミネート装甲も、装甲面積の広い艦艇クラスであるから高い防御力を持つので、機動兵器に採用されるかはまだ検討中である。

 

 武装面もアークエンジェル級に倣って大型レールガンとビーム砲、各種ミサイルから隠し球の陽電子砲を備えている。

 

 それだけ過剰の兵装を搭載させてようやく留守を任せられる程度になっている事を期待したい。

 

「メビウス1より各機へ。出撃準備確認、メビウスチェック・イン」

 

『…………』

 

『メビウス3、レディ!』

 

『4、レディ…!』

 

 出撃準備が出来ているかの最終確認の為にメビウスチーム各機に通信を入れるが、ティアナとユイからの返事はあって、クロシェットからは返事が返ってこない。

 

「クロシェット、メビウス2! 聞こえるか!?」

 

『は…っ。メ、メビウス2、スタンバイ…!』

 

 改めて呼び掛けると今気づいたかの様にクロシェットが返事を返してくる。実戦を前にした緊張感で固くなるのは新米に有りがちだが、これから出撃するのはアステロイドのど真ん中を突っ切るルートだ。

 

「クロシェット、寝惚けてるなら機体から降りろ! 石ころに突っ込んで死なれても迷惑だ」

 

『っ、行けるから! だから行かせてっ』

 

「戦場で戦いを忘れたヤツから死んでくからな! 自分のミスに味方を巻き込むなよ!!」

 

『メビウス2、ラジャー!』

 

 クロシェットが何を考えていたかまでは聞かないでおく。彼女の事だからジオンとの戦いに思うことがないわけではないだろうが、それで考え事に囚われて死なれるくらいなら怒鳴りつけてでも目の前の事に集中させるしかない。 

 

『射出軸確認。チームメビウス、発進どうぞ!』

 

「ラウ・ル・フラガ、メビウス1出るぞ!」

 

 固定ロックを解除し、電磁加速によって文字通り艦から機体が打ち出される。そのまま敵からの発見を避ける為に慣性飛行に移る。

 

「以後慣性飛行で暗礁宙域抜ける! メビウス3、4でエレメントを組め。2は付いてこい!」

 

『『『ラジャー!』』』

 

 テストパイロットとはいえ、メビウスに慣れているユイと、軍歴があるティアナを組ませれば安心できる。本当に危ないのは最年少で、ジオン相手に情緒不安定気味のクロシェットを俺が見てやればどうにかなるだろう。そんな精神状態のパイロットを出撃させるなと言われるだろうが、早いか遅いかでいずれは直面する問題だ。そして、本人が戦うと言うのだからその通りにしてやるしかない。

 

『隊長……あたし…』 

 

「口より手を動かした方が良いぞ。余所見して岩にぶつかるなよ? 大事な機体なんだからな」

 

『ら、ラジャー…』

 

 シュンとするクロシェットだが、戦場で甘やかしてやれる程彼女は腕があるわけじゃない。敢えて突き放して戦場では自分1人でやっていかなければならないことを上手く教えて行かなければならない。正直その辺りの匙加減は苦手だ。相手が男だったらまだ接しやすいものの、年頃思春期の女の子は梅雨時の空の様にコロコロ変わるものだからな。

 

 僅かに機体のアポジモーターを噴かして、最小限の動きで暗礁宙域を進む。

 

 サイレント・ランで敵艦を強襲。

 

 本当ならサイド7に居た方が良いのだろうが、命令に従わなければならないのが宮仕えの辛いところだ。とはいえ、コロニー内をMAでかっ飛ばして対MS戦をやるのも難しい。

 

 ホワイトベースが入港する為にサイド7も厳戒体制だが、それでもコロニーの裏側から回り込んでザクは侵入していたのはアニメでもオリジンでも同じだった。

 

 シャアが仕掛けて来るという予測をホワイトベースとサイド7駐留部隊には留意して貰うように言ってあるが、一介のパイロット大尉の言を司令部が何処まで考慮してくれるか。

 

 これが今の自分の限界だった。

 

 やれるだけの事はこれだけで、俺にも立場があるし、守ってやらなくちゃならない娘たちが大勢居る。

 

 見ず知らずのサイド7の住人よりも、自分が抱えている部下達の方が大事である程度には、自分もエゴイストである自覚がある。俺も神様じゃないのだから、あれやこれや1人で全部出来るとも思っちゃいない。

 

 だから出来る範囲で出来ることをするしかない。

 

 それが今はシャアのムサイを叩くという任務だ。出来る限りの警告は出したのだから、あとはホワイトベースのクルーとサイド7駐留部隊の仕事だ。そんなところまで面倒は見きれない。

 

 サイド7への偵察に手持ちのザクは出払っている筈だ。相手にするのはシャアのザクだけ。

 

 オールレンジ攻撃を避けて来ようとも、シャアのザクを抑えることくらいなら出来るのはルウム戦役で実証している。

 

 メビウス3機ならムサイ一隻に取り付くのも訳はない。

 

 そして後方にはフューリアスも控えている。

 

 ホワイトベースの退路を確保する為にシャアのムサイを退ければ良いのだから、方法は幾らでもある。なにも無理に撃沈する必要だってない任務だ。

 

 敵と戦うよりも、暗礁宙域を抜ける方が神経を使うだろう。

 

 ティアナとユイは危なげなく進んでいる。メビウスのブースターはAMBAC作動肢としても機能する。上手い具合に機体を動かして岩の合間を抜けていく。

 

 後ろのクロシェットは、メビウスよりもガンバレルの分上下にデカいメビウス・ゼロの航路をトレースさせているから問題はないだろう。それでも動きがぎこちないのは慣れの問題か。

 

 この1ヶ月、シミュレーター漬けにして実機訓練もさせていたが、そのお陰でMAは動かせるものの軍人としてのイロハはとんと教えることが出来なかった。

 

 これが平時ならじっくり腰を据えて軍人の基礎から教えられるのだが、一月ではどう頑張っても無理だ。だからパイロットとしては使い物になる方を優先した。

 

 死なせない為に死地に送り出しても生きていける様にする。

 

 そんな矛盾を通す為に、俺も戦場に出ている。

 

「っ!?」

 

 脳裡を閃光が過ぎ去り、自分の領域(テリトリー)に侵入する何者かを感じ取る。

 

 ガンバレルを扱う様になって鍛え上げられた空間認識能力が戦場一帯の存在を感じていた。

 

「クソっ。全機停止! 手短な岩の影に隠れろ!」

 

 部隊に前進を停止させ、自分も岩影に機体を潜ませる。

 

『隊長、何かあったの…?』

 

「ナニもクソもねぇよ…。こっちの読みがハズレたかっ」

 

 上部ガンバレルを分離させ、岩影から自分に触れた存在を探す。ガンバレルには照準用にセンサーも付いている為、こうした隠れながらの索敵も可能だ。

 

 暗礁宙域の中を、ザクⅡの小隊が進んでいた。

 

 この辺りでジオンと言えばシャアのファルメルくらいしか居ない筈だ。

 

 ホワイトベースがサイド7へ入港しているなら既に偵察隊を出していて、シャアは手持ちのザクを出払わせている。

 

 しかし現実にザクⅡF型が暗礁宙域を進み、そしてそれを先導するザクはあろうことか暗礁宙域に浮かぶ岩塊を蹴って加速し、後続のザク小隊の三倍もの速さで宇宙を駆けていた。

 

 角付きの赤いザクは見間違う筈もない。それこそ前世から知っている人間の乗るザクだ。

 

 赤い彗星──シャア・アズナブルの駆るザクⅡS型である。

 

「メビウス2はメビウス4と代われ! メビウス3は2を率いて敵艦へ。4はついてこれるな!」

 

『メビウス4ラジャー…!』

 

『メビウス3ラジャー。お気をつけて!』

 

『え、な、なに? どうするの!?』

 

 空かさずユイとティアナからは返事が返ってくる。だが急な状況の流転と命令にクロシェットだけ状況が呑み込めておらず、返事が返ってこない。

 

「俺とユイでフューリアスを守りに行く! クロシェットはティアナと敵艦にアタックだ。沈めるよりも追っ払う程度で構わない。欲を掻いて死ぬのは許さないからな!」

 

 ガンバレルを回収して岩の影から躍り出るように飛び出せば、ユイのメビウスもついてきてくれる。3人の中でテストパイロットとして搭乗時間が長いのは伊達じゃない。

 

 ザコは兎も角、シャアをフューリアスへ接触させるわけにはいかない。

 

 此方がサイレント・ランで仕掛ける筈が、逆強襲を掛けられた。

 

 今のフューリアスはヘリオポリスから脱出するアークエンジェルではなく、インダストリアル7でフル・フロンタルに襲われたネェル・アーガマだ。

 

 幸いなのはシナンジュの様なバケモノではない所だと言いたいが、それでも赤い彗星を侮る事など出来ない。

 

 初見のガンバレル・オールレンジ攻撃を避ける化け物だ。

 

「間に合ってくれよっ」

 

 岩を蹴って加速しているシャアと事なり、此方は岩の合間を擦り抜ける様に飛ばなくてはならない。その差が彼我の距離を縮めさせてくれなかった。

 

 

 

 

to be continued…

 




※名前をユウにしていたけど、ブルーのユウと被って書き難かったので変更しました。


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第四話

またまた短いです。
※名前をユウにしていたけど、ブルーのユウと被って書き難かったので変えました。


 

「こ、高熱源体急速接近!! か、数は4! インディゴ13、アルファ40、距離12000!」

 

「ミサイルなの?」

 

 オペレーター席のセシルからの報告にシャルロットは顔を向けた。

 

「い、いえ。こ、この動きはミサイルじゃ……、モ、MSです!!」

 

「なんで!? MA隊が抜かれたの!?」

 

「全機シグナルはグリーンです! 戦闘の痕跡もありません!」

 

「とにかく迎撃態勢を取って! AMSGM(対MS誘導ミサイル)発射! イーゲルシュテルンはランダム射撃! 当てなくて良いから牽制して!取り舵10、バリアント照準! ボール部隊展開急いで!! 」

 

「せ、先頭する一機が加速! あ、あり得ない、後続のMSの3倍の速度で暗礁宙域を抜けてきますっ」

 

「赤い彗星のシャア……っ」

 

 矢継ぎ早にシャルロットが命令を飛ばしていく。MA隊が戦闘を行った様子が無いことから、暗礁宙域で互いに気付かずに擦れ違ったという可能性が大だ。

 

 敵に気付いてMA部隊が戻ってきてくれるか。それとも救援通信を入れるか。いや、向こうも敵艦に接触してる可能性もある。なら、我慢比べだ。此方のMA部隊が敵艦を落とすのが早いか、向こうのMS部隊がフューリアスを落とすのが早いか。兎も角シャルロットには徹底抗戦をするしか選択肢が無かった。MSを追い払わなければ、転進すら儘ならない。

 

「ほう。大した防空能力だ。見た目は輸送艦だが、侮れんな」

 

 フューリアスから放たれるミサイルの弾幕を前に、口許を歪めてシャアは愛機のザクを駆る。

 

 迫り来るミサイルはミノフスキー環境下であるが、自身のザクを追尾してくる。ミノフスキー粒子は確かにレーダー波を狂わせ、戦闘は有視界戦闘となったが、完全に誘導ミサイルが使い物にならないわけではない。高性能の短距離レーダーを駆使すれば、艦の防空圏内であればミサイルも追尾性能を復活出来る。他にはレーザー誘導照準等の力業や抜け道で解決出来なくはない。それでも、ミサイル程度に捕まる程、赤い彗星の名は安くはない。

 

 ミサイルの旋回半径の内側に回り込んで、さらには横這いからミサイルを蹴り飛ばし、他のミサイルにぶつけて自爆させる。ミサイルを蹴った反動で機体は離脱させ、更に爆風を得て再加速する。

 

「ダメです! 敵機が速すぎてミサイルが当たりませんっ。熱源分離、対艦バズーカ来ます!!」

 

「対空迎撃! ミサイル発射管コリントスも回して! バリアント照準、接近中の敵MS! てぇーっ!!」

 

 艦の回頭を済ませ、フューリアスのエンジン両舷のリニアカノンから110cm弾が発射される。直撃せずともMSが受ければ途端に木っ端微塵になる電磁加速された弾丸はしかし、シャアのザクを捉える事は出来ない。

 

 対空弾幕と対空防御ミサイルによってシャアの放ったバズーカは撃ち落とされる。だが、伊達にルウムで五隻の艦を沈めたわけではない。

 

 対空砲火の合間を掻い潜って、シャアは更にバズーカを撃ち、その一撃はフューリアスの上部装甲へ直撃した。

 

「きゃあああっ」

 

「うぅ、ぐっ、被害状況知らせて!」

 

「ぅぅっ、か、艦上部、中央第二ブロック被弾、しかし損害は認めず」

 

「フェイズシフト装甲……。命拾いしたよ…」

 

 このフューリアスはMAの試験運用艦である他に、様々な試験装備が施されている。そのうちのひとつが、艦の中央ブロックに施されているフェイズシフト装甲だった。

 

 電流を流すことで実体弾や物理攻撃に対する破格の防御力を発揮する装甲で、ジオンのMSが携帯する各種実弾兵器と、近接武器であるヒートホークも無効化してしまう程だ。しかし代わりに大量の電力を消費する上に製造コストが高い事、高出力のビーム兵器にはその防御力も意味がないと大尉は言っていた。それでも、フェイズシフト装甲のお陰で直撃を受けたフューリアスの艦体は無傷だった。

 

「直撃のハズだが…。なんとも分厚い装甲の様だな!」

 

 連邦軍のV作戦を探る任務中に幾度も沈めてきたコロンブス級。

 

 バズーカの直撃に耐え、接近も容易ではない防空能力に、さすがのシャアも驚きを隠せなかった。

 

『シャ、シャア少佐! 助けて下さい! て、敵に囲まれて、ろ、6機の敵がっ』

 

「後続が掴まったか。エンデュミオンの鷹だな?」

 

 確証は無かったが、確信の様なものがあった。後方で光が3つ瞬いた。

 

「アッシュ達がやられたか。しかし、帰りがけの駄賃は頂いていくぞ!」

 

 機体を翻し、バズーカのマガジンを交換して、シャアは再度の攻撃を掛ける。

 

「敵機、尚も接近!! ブルー20、チャーリー!!」

 

「来るよ! 面舵30、上げ舵20! ゴットフリートも回して! コリントス、ヘルダート順次発射!! イーゲルシュテルンは弾幕張って! ゴットフリート、バリアント、てぇーっ!!」

 

 艦底部から再接近するシャアのザクに対して、中央ブロックの上部と底部に格納されている225cm2連装高エネルギー収束火線砲「ゴットフリート」、110cm単装リニアカノン「バリアント」、エンジンブロック中央後部の16連対空防御ミサイル発射管から対空防御ミサイル「ヘルダート」、艦上部のミサイル発射管からも対空防御ミサイル「コリントス」、対空防御システム「イーゲルシュテルン」と、フューリアスはマゼラン級に匹敵する火力をたった一機のMSへ向けて浴びせる様に集中させ、どうにか抗ってみせていた。

 

 艦が特殊であれば、そのクルーもまた対MS戦闘に対する対応力の高さが垣間見える。だが、それでもなお戦い慣れをしていない雰囲気をシャアは感じていた。

 

「そこだっ!!」

 

 弾幕の隙間を突き、シャアの放ったバズーカがフューリアスの左舷上部を直撃した。

 

「ぐぅぅっ、被害は!?」

 

「さ、左舷ブロック上部第一装甲板大破! 第二層区画で火災発生、ダメージコントロール班出ます!」

 

「対空榴散弾頭発射! 艦に取り付かせないで!!」

 

「ええいっ!! ハリネズミか!?」

 

 直撃はさせ、今度は被害も出たらしいものの応射は苛烈な物だった。対MS戦闘を徹底した防空兵装の多さにシャアは悪態を吐きながらもう一撃を加えるべく機体を翻す。

 

「むっ!?」

 

「よォしっ、シャア相手によく踏ん張ってたなァ!!」

 

 機体を宙返りさせ、自らに向けられた攻撃を避けるシャアのザク。その直ぐ下をメビウス・ゼロが通り過ぎる。

 

 最短距離を急ぐ為に途中でザクの小隊に掴まったが、速攻でこれを撃破してフューリアスへと辿り着いた。

 

 それでも5分程度はフューリアス単艦で耐えた筈だ。

 

 見れば左舷上部から煙を噴いているが、艦自体は無事だ。

 

 クロシェットをパイロットとして使い物になる様に一月を費やして集中的に鍛えたのなら、艦のクルーも対MS戦闘を、取り分け鍛えたのは対MS対空戦闘だった。

 

 絶対に艦を守らせる為に一月をその為に費やした効果は、あのシャアを相手に耐えてみせたことで価値があったというものだ。

 

「悪いがウチの娘たちをくれてやるわけにはいかないんでな!!」

 

 ガンバレルを分離させて展開。オールレンジ攻撃でシャアのザクを追い詰める。

 

「エンデュミオンの鷹…。厄介なヤツが戻ってきてしまったかっ」

 

 四方八方から襲ってくる攻撃を、機体を振り回し、AMBACも駆使してどうにか避けるが。フューリアスを相手にしている時よりも濃密で隙間の無い弾幕にシャアは背筋にぬめりとした脂汗が滲むのを感じる。

 

「やはり貴様の仕込みか!」

 

 連邦軍でも数少ない、対MS戦闘に秀でた人間。ルウム戦役において強襲大隊の半数がエンデュミオンの鷹の前に倒れた。

 

 ジオンの完勝で終わる筈だったルウムの勝ち戦に傷を負わせ、失意の連邦軍に僅かな希望を見せた。

 

 そのパイロットが目の前に立ちはだかる。

 

 だが不思議なことに、この目の前の敵に対して何故か地球で出逢った不思議な力を持つ少女と同じものを感じるのだ。でなければ四方八方から繰り出される攻撃を無傷で切り抜けられるものか。攻撃される場所がわかるから、どうにか避けていられるのだ。そうでなければ何度死んでいるかわかったものでもなかった。

 

「旗色が悪いな。引き上げさせて貰う!」

 

 シールドに携帯していたバズーカの予備弾倉を掴み、メビウス・ゼロに向けて放り捨てながらバズーカを撃ち込む。

 

 撃ち放ったバズーカと、予備弾倉の中の弾頭に合わせた大爆発での目眩まし。その意図を瞬時に理解したラウも機体を離脱させる。

 

 赤い推進光を引いて去り行くシャアのザク。しかしこのまま退かせると今度はティアナ達と鉢合わせるだろう。

 

「フューリアス、撤退信号を出せ!」

 

『え、あ、はい、了解しました…』

 

 フューリアスから信号弾が上がる。ティアナとクロシェットを迎えに行く為に機体を前進させる。とはいえシャアを追撃する意図が無いことを示すために一定の距離を開けて動いておく。まさか帰り際に鉢合わせてそのまま戦闘にもつれ込ませるわけにもいかない。あの二人ではシャアには勝てない。何しろ自分でも引き分けに持ち込むので精一杯なのだから。

 

 作戦的には失敗とも言えるが、シャアの手持ちのMSを削っただけでも良しとするしかない。何しろ相手はあの赤い彗星なのだから。

 

『フ、フラガ隊長! サイド7より救援要請です。こ、コロニーの中でジオンのザクが暴れているって…!』

 

 通信士のフルーテ・マレーアの慌てた声が響く。どうやら始まってしまったらしい。

 

 渡りに船と言わんばかりにサイド7に引き上げる理由も出来たが。

 

「わかった。メビウス2と3を回収後にサイド7へ戻る。俺が先行して先に向かっておく。二人の迎えにはメビウス4を当たらせろ」

 

『りょ、了解。お気をつけて!』

 

 そう返答して、再度赤い軌跡を辿る。

 

 ザクⅡS型の時点で仕止める事が出来ない相手。これがガンダムに匹敵するゲルググに乗った時はどうなるのか。ジオングに乗った時は想像も出来ない。

 

「所詮、凡人にはこれが限界か……」

 

 次いでサイド7を見る。あの中で今、ガンダムが大地に立っているのだろう。

 

「餅は餅屋、か……」

 

 生き延びる為に戦っているのであって、シャアを倒したいだとか言う野心があるわけでもない。シャアの宿敵はやはり主人公にしか勤まらないのだろう。

 

「他者より強く、他者より先へ、他者より上へ……か…」

 

 それは人間が生きる上で持つ本能であり、本性であり、業であるのか。それでも一介のパイロットとして、赤い彗星と曲がりなりにも戦える自身を構築するのはこの宇宙世紀という激動と戦争の中で、他者より強くなり、他者より先へ進み、他者より上へ行かなければ忽ちの内に死に瀕する事は明確だ。

 

 サイド7の外壁に爆発が起こって穴が空く。ザクを真っ二つにして核爆発が起こったのだろう。

 

「やってみる価値はある、か…」

 

 そう呟き、ラウは機体をサイド7へ向けて加速させた。

 

 

 

 

to be continued…



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第五話

五話使ってもまだガンダムが出せない。なんかソロモンで特攻するビグザムをデストロイで受け止めるという変な夢を見ました。

※名前をラウにしたからルウムのスコアがクルーゼの世界樹攻防戦のスコア反映して巡洋艦5隻から6隻に変えて、MSも34機から37機に変えちゃった。結果、ルウムでそんなスコア叩き出したヤベー奴が誕生した。ちょっとやり過ぎたかね?巡洋艦1隻増えてMSも3機増えた程度だから大丈夫かな?


 

 ユイを連れて飛び出していったラウを見送ったティアナは改めて操縦桿を握る。

 

 気をつけてと声を掛けて見送ったものの、本当に気をつけなければならないのは自分達だ。

 

 歳上で上官でもある自分がクロシェットを上手くコントロールして二人だけで敵艦を攻撃しなければならないのだから。

 

 隊長であるラウからも、クロシェットに関しては色々と気をつけてくれと念を押されている。

 

 本当ならばもう少しちゃんとした教育なり心の療養なりが必要であるものの、そこまで軍は面倒みれる程今は暇じゃないらしいとラウがぼやいていたのを知っている。

 

 ラウの次に自分が年長になってしまう程度に年若い年齢層が集うフューリアス。

 

 その為か、ラウになにかと頼りにされる。そのことで悪い気はしない。なにより恩人の助けになれる事は望むところだった。

 

 自身の身体が男を誘う卑しい物だとして同僚や上官などにセクハラを働かれ幾つかの部隊を転々としていた日々。ルナツーの食堂で見ず知らずの男に言い寄られていた所を助けてくれたのが最初の出逢いだった。

 

 はじめてだったとも思う。自分に対して下卑た視線を向けない男と出逢ったのは。

 

 ルウム戦役のあとにラウが新設される部隊の隊長となると噂で聞いた時は秒で転属届けを出した。その時でもやはり上官から少なからずセクハラを受けていたので丁度良かったとも思う。

 

 そうして受理された転属先での現実は、ある意味酷いものだった。

 

 右も左も年下の女の子ばかりの部隊で果たして戦う以前に大丈夫なのかとラウを心配するも、良くも悪くも彼は部隊の皆から慕われている。

 

 その大半がルウム戦役やブリティッシュ作戦、一週間戦争で両親や身寄りを無くした者から成り立っていると知って、頭が痛くなったのは記憶に新しい。身寄りを喪った失意の只中にある子供ばかりの部隊で戦えるのかと。体の良い厄介払いの様に見えてしまうのも仕方がない。軍の中で戦えない人間など邪魔でしかないからだ。

 

 それでも彼はある意味宝の山だと言っていた。

 

 ──女子供まで戦場に送り出さなければならない程今の連邦軍はガタガタなのさ。ろくでなしの謗りを受けてでも彼女達に人殺しの術を教え込まなくちゃならん。その片棒を担いで貰えるか?

 

 部隊人員が集まって、フューリアスを受領した日に彼から言われた言葉だった。軍学校に通っていたのならば多かれ少なかれ人殺しをする可能性はあり、そうした覚悟をして軍門を叩いたはず。

 

 だが、そこまで深刻に考える必要が無い程に8ヶ月前は平和だった。連邦とジオンの国力差を見れば本当に戦争になるなんて思ってもいなかった人間の1人でもあった。

 

 それでも戦争は起こって、そしてひとりぼっちになってしまった子達がこうして集められた。大人の1人として、自分にはそんな子達を守ってあげなければならない立場にいるのだと彼の言葉から読み取ることが出来た。

 

 ルウムの英雄として連邦軍では持て囃される人が見せた弱さに絆されて、なにより自分を助けてくれた恩返しに、その片棒を担ぐことを了承した。

 

 それが部隊の人員の割り振りを決める適性検査でガンバレルの適性を有していたからこうしてMAのパイロットをしている。大人としての役割というよりも唯一無二の力で彼の役に立てるのは嬉しい事だとその時は光栄だと思えたし、今も思っている。

 

 それでもオペレーターとして軍人になった為に戦闘機に触れた事はなかったし、戦術関連もこの一月で学び始めたばかりの素人に近いものだが、オペレーター業務をこなしていた時の経験が役に立つのは前線でも後方でも同じだった。

 

「敵はまだ、動く様子がありませんね……」

 

 レーダーに映る戦闘宙域の様子をつぶさに見つめる。

 

 ティアナのメビウスは通常のメビウスとは一部が異なる形をしている。機体本体後部にミノフスキー環境下でも長距離観測が可能な高性能センサーユニットと高感度ディスクレドームがセットの情報処理ユニット。本来対艦ミサイルを装備するウェポン・ラックにもカメラ・ユニットと近距離センサー・ユニットを装備している。それらセンサーに干渉する為、武装もリニアガンではなく試作型のロングレンジ・ビームキャノンを装備している。このビームキャノンはコンデンサー装備式で機体側のバッテリーは使わない様になっている。

 

 EWACメビウスは部隊の「目」として機能し、それらセンサーから集めたデータと、ティアナが備える空間認識能力を合わせて長距離観測狙撃を可能としていた。

 

『ねぇ、ティア姉ぇ。どうするの?』

 

 クロシェットから通信が入る。さてどうするか考えて、やることは敵艦にダメージを与えて退けることにある。

 

「ひとつ、考えがあります」

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ティアナの立てた作戦に則って、クロシェットは独り別行動を取ることになった。

 

 二手に別れ、クロシェットは敵艦に対して下から攻める。その為の牽制と囮のためにティアナが先に敵艦の上方から攻める。

 

 ひとりで大丈夫かと心配になる。ティアナのEWACメビウスは偵察ユニットを装備する分、運動性と機動性が落ちる。

 

 頭を振って作戦に集中する。自分の慕う姉貴分であるティアナを信じなくてどうするのか。

 

 そう、大丈夫だ。

 

「はぁ──、ふぅぅぅ────」

 

 ヘルメットのバイザーを上げて一度深く深呼吸をする。

 

 それは緊張を解す為ではなく、自分の中の感情を落ち着かせて御する為。

 

 母を、父を殺された恨みと怒り。それを持つことを、あの人は許してくれた。

 

 ──ジオンを憎むのも無理はない。親を殺されて怒りを抱かない人間など居やしないさ。復讐心が今のお前の生きる気力に繋がるなら、それを悪だと断じる必要もないしそれをする権利は誰にもない。だが、それを戦場に持ち込むな。感情に振り回されて仲間を巻き込めば、お前だけでなく仲間も殺すことになることを肝に銘じておけ。自分を客観視する己を作れ。その己に思考を委ねろ。どのような時でも感情に振り回されず判断する自分を作れ。

 

 どういう感覚なのか、はじめはわからなかった。それでもわかるまで、出来るまで、あの人は自分に教えてくれた。

 

 それでも完全に流されないのは難しい。その時はもう一度自分を見つめる己を意識する。本当は今すぐにでも飛び出して行きたい。両親を奪ったジオンに仕返してやりたい。でも此処で飛び出してもティアナの作戦を狂わせてしまう。そうして狂った皺寄せは誰に行く? 自分に振り掛かるだけじゃない。だから落ち着いて、今は言われたことをするだけだ。

 

 操縦桿の握りを確かめる様に手を数度開け閉めする。そしてグッと自分に活を入れる。

 

 意識して感情を御する。思考と理性で感情を制御する。もちろんそれを振り切る程の感情の爆発は誰にだってあるとあの人は言っていた。人間はどうしても心に、感情に左右される生き物だと言っていた。だから高ぶる感情を制御出来れば自分の実力以上の力を出せる様にもなると。

 

 ──だが気をつけておけ。憎しみで引かれた引鉄は新たなる憎しみを産み、今度は自分が誰かを泣かせる立場に立つということを。それを知りながら突き進んだ道であるのなら、その果てに何があろうと覚悟をしておくことだ。

 

「わかってるよ、隊長……」

 

 そう、憎しみで戦うのだから、新しい憎しみを生むことも覚悟している。これが戦争だからなんて言い訳もしない。その果てに自分が死ぬことになっても。

 

「だから……っ」

 

 作戦ポイントに到着。エンジン全開でジオンの巡洋艦ムサイの真下から一気に駆け上がる。

 

「ドレン大尉!! 艦下方より急速接近する熱源を感知しました!!」

 

「なんだと!? ミサイルか!?」

 

「パパと、ママの仇っ!!」

 

「ミサイルではありません!! 戦闘機の模様!!」

 

「ええい、やはり向こうも同じ手をっ。対空迎撃急げ!!」

 

 シャアの留守を預かるドレンはオペレーターからの報告に、迎撃命令を下す。自分等の隊長が隠密行動で暗礁宙域を抜けててき艦に仕掛けに出ると言ったとき、向こうも同じ手でくると言って用心をしていたものの、まんまと接近を許してしまった。

 

 安全装置解除。ムサイから対空防御ミサイルが放たれる。それを機首の40mmバルカン砲で迎撃する。爆風の中を突き抜けて、対艦ミサイルを発射。有線誘導で狙う先はエンジン。

 

「熱源分離、ミサイル来ます!!」

 

「緊急回避!! 総員対ショック防御っ!!」

 

「っ、ミスった!?」

 

 2発のミサイルを撃ったものの、当たったのは一発で右側のエンジンの外側を吹き飛ばしたけれども浅いのは見てわかった。思ったよりもムサイの回避行動が速かった。

 

「右舷エンジン被弾!! 速力20%低下! ダメージコントロール班出動!」

 

「おのれ連邦め。やりおるわ」

 

 この艦が就航してはじめての被弾に、ドレンは相手を讃えながらも次はやらせまいと意気込む。

 

「次が来るぞっ! 対空迎撃、シャア少佐のお帰りになる場所を宇宙の塵にさせるんじゃないぞ!!」

 

「貰いましたわ!」

 

 しかしそこにクロシェットのメビウスの離脱を援護するために、暗礁宙域の中で息を潜めていたティアナのEWACメビウスからの長距離ビームが、ファルメルの前部甲板に突き刺さり火を噴いた。

 

「ぐおっ。被害状況知らせ!!」

 

「前部上部甲板第2ブロック被弾! 敵の長距離ビーム攻撃の模様!!」

 

「今の戦闘機は囮か! 索敵! 敵の居場所はわからんのか!?」

 

「無理です! ミノフスキー粒子が濃い上にどのみち岩ばかりで判別がつきません!!」

 

「くそっ。メガ粒子砲、暗礁宙域へ照準! 敵の攻撃の射角から位置を割り出して炙り出せ!!」

 

 ドレンの命でメガ粒子砲を暗礁宙域へ向けて発射するファルメル。だが岩を砕くばかりで応射にビームが返ってくるだけだ。

 

「狙いは悪くありませんが、(わたくし)はもっと遠くに居ますのよ」

 

 ファルメルはドズル・ザビ中将がシャアの為に用意したムサイであり、その性能は一般のムサイよりも高いものの、ミノフスキー粒子と暗礁宙域の中に隠れるEWACメビウスを捉えることはできなかった。

 

 それでも細かな回避運動でティアナの放つ長距離ビームは初弾以外は回避されている現状を見るに、操舵手と指揮官は優秀らしいと感想を抱く。

 

「っ、ダメですクロシェットさん、戻って!」

 

 ティアナの立てた作戦は極単純。強襲で敵艦に打撃を与えたあとは速やかに戦闘領域を離れる一撃離脱である。なにしろあの赤い彗星の乗艦であるらしいのだ。MSが戻ってきた時、そのMSが赤い彗星であったならば自分達に勝ち目は無い。だから敵のMS部隊が引き返してくる前に離脱しなければならないのだ。

 

「ミサイルはまだ2発残ってるっ」

 

 直撃していないのならそれほど航行に支障が出ているとも思えない。だからもう一撃を加える為にクロシェットは機体を翻して今度は上方から急降下攻撃を仕掛けに出る。

 

 それを見たティアナは直ぐ様機体を全速で飛び立たせる。センサー類で捉えてはいても流石に通信はミノフスキー粒子の影響で届かない距離に居たからだ。

 

「新たな機影確認! デブリの中から出てきましたっ」

 

「突けば巣穴から出てきたか。それともこの船を沈める自信があるのか!」

 

 しかしそれでもこのファルメルはそこいらのムサイとは違う。足も速ければ装備も上等な物が揃っている。

 

「C型ミサイル装填! 近接信管セットしておけ!! 足でよけようたってそうはいかんぞ?」

 

 ファルメルから対空ミサイルと共に大型ミサイルが放たれる、

 

 その対空ミサイルの隙間を、ブースターの方向を変えてバレルロールや、はたまた急制動から急上昇、急降下を駆使して潜り抜け。

 

 そして、危険な気配の感じる大型ミサイルは、対空ミサイルを潜り抜ける間にロングレンジ・ビームキャノンで撃ち抜いて迎撃する。

 

 ガンバレルを扱えると言うことは特殊な空間認識能力をティアナは有している事になる。それを知ったラウは、ティアナに対して他のパイロットとは異なる訓練を課した。自分を中心に意識を拡げて危険を察知するというエスパーの様な訓練だった。お陰でルナツーではセクハラの被害に遇うことも無くなったので、ティアナはこの能力に感謝していた。それはドレンの仕込んだ近接信管のC型ミサイルを危険なものと感じて、回避ではなく迎撃を選んだことで充分に発揮されていた。

 

「クロシェットさん、戻ってください!!」

 

「でもっ」

 

 ミサイルの合間を駆け抜けるなんて芸当が出来ないクロシェットは、対空ミサイルを機体を後退させながらリニアガンで迎撃して難を逃れる。メビウスはフレキシブル・ブースターを後ろ向きにすれば、機首は前を向いたままでも後ろに向かって飛ぶ事が出来る。これを応用すれば後ろから追い掛けられても機首だけを後ろに回転させて後ろの敵を撃つという変わった芸当も可能だ。

 

「目標は達成しました、撤退信号も出ています!」

 

「……了解!」

 

 軍学校を出ていなくても上官の命令は絶対であるというのは最初に習うことだ。

 

 なにより言うことを聞かず自分のワガママでティアナを危険に巻き込むわけにはいかない。

 

 機体を翻して撤退の帰路に着く。敵との鉢合わせを避けるために遠回りをする事になるものの、今の自分の腕で対MS戦闘は厳しいと言わざるを得ない事はクロシェット本人が良くわかっている。

 

 だから今は悔しいが退くしかない。

 

 エンジンや艦体上部から白煙を上げるムサイを後方モニターで一瞥して、再び暗礁宙域の中を潜みながら抜けていく事に神経を振り向ける。考え事をしながら抜けられる程、暗礁宙域のフライトは易くは無いと来るときに学んだからだ。

 

 

 

 

to be continued…

 



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第六話

なんかてんで物語がすすまなくて申し訳ない。


 

 流石はエンデュミオンの鷹の部隊か。被弾したファルメルのダメージは速力の低下という手痛いものだった。航行や戦闘に大きな支障が無いことが幸いと言うべきか。そして、サイド7を脱出してきたスレンダーの言と持ち帰った写真から、連邦軍の新型MSの威力を垣間見た。旧式のタンク型やキャノン付きとは異なる白兵戦用MS。

 

 新米のジーンはともかく、ルウムにも参戦しているベテランのデニムがMS同士の白兵戦で遅れを取ったとは、それ程の性能を有しているという事だろうか。

 

 ともかくV作戦の新型MSの性能を掴むにはもう一度偵察をする必要を感じている。ザクを一度に5機も失ったにしては戦果は不十分だと判断した。

 

「ドレン、ソロモンのドズル中将を呼び出してくれ」

 

「はっ。やはり追撃なさいますか?」

 

「絶好の獲物が目と鼻の先に宙吊りにされて我慢できる程、私は我慢強くはなくてね」

 

「それでこその、赤い彗星のシャア・アズナブル少佐ですな」

 

「世辞かいドレン?」

 

 エンデュミオンの鷹に加えて、新型MSが1機でザクを2機撃破した性能を有しているのならば放置出来ない脅威だ。

 

「私とスレンダーのザクの整備を急がせろ」

 

「はっ! 少佐、ソロモンとのレーザー回線繋がります。MSデッキ、ザクの整備を急げよ!」

 

 ドレンを横目に、シャアは佇まいを正してモニターの前に立った。

 

『──おお、待っていたぞシャア。夕べはキサマの任務終了の祝いを用意していたが、キサマが遅いお陰で晩餐の支度がムダになったぞ? んン?』

 

 モニターが揺れ、ガタイの良い大男が姿を現す。士官学校でも世話になり、シャアが所属するジオン宇宙攻撃軍を指揮するドズル・ザビ中将であった。

 

「晩餐会の御損失に見合う戦果です、中将閣下。連邦軍のV作戦をキャッチ致しました」

 

『ほう、流石は赤い彗星だな』

 

「ありがとう御座います。しかしながら帰還途中でありましたので」

 

『補給が欲しいのだな? 良し、回す!』

 

「それとザク一個小隊の補給と、出来ましたら増援もお願いしたく」

 

『キサマが居てザク一個小隊を失ったのか!?』

 

「申し訳ありません。内2機は連邦軍の新型MS1機に、他3機はエンデュミオンの鷹と此方も新型の航宙戦闘機の為に」

 

『エンデュミオンの鷹か。成る程、ヤツが居るのならば連邦軍も本気だと言うことだな…』

 

 大目玉を食らうと身構えていたシャアだが、ザクの損失にエンデュミオンの鷹が関わっていると知ると、流石のドズルもシャアを責めるわけにもいかなかった。エンデュミオンの鷹の脅威を生で共有出来る上司は有り難いものだった。ルウム戦役で、ドズルもまたエンデュミオンの鷹の凄まじさを味わった人間のひとりだった。

 

『わかった。補給と増援も回す。V作戦に関するデータ、資料、何でも良い、手に入れろ。それが難しければ』

 

「承知しております。敵新型MSの捕獲、或いは破壊も視野に入れて作戦行動を続行します」

 

『それでこそだ、シャア』

 

 通信が切れるとブリッジの皆が胸を撫で下ろしたのをシャアは感じた。

 

「いやはや、肝を冷やしましたな」

 

「ドズル中将は現場がわかる御方だ。そう無下にもされんさ」

 

「まったくですな。しかし増援はお待ちにならないので?」

 

 ファルメルにもダメージがあり、手持ちのザクは2機。補給と増援も取り付けたのならば体制を整えてからの攻撃でも遅くはないのはセオリーではあるが。

 

「ジーンの暴走とはいえ、突然の急襲に向こうも浮き足だって居るはずだ。今だからこそ突け入る隙もある。空間騎兵隊を招集してくれ。直接サイド7に忍び込む」

 

「了解しました。空間騎兵隊招集! 10分後にブリッジへ」

 

「あとを任せるドレン。私も少し休ませてもらう」

 

「はっ!」

 

 ドレンにあとを任せたシャアは自室に向かう傍ら考えるのはV作戦に隠れて進行するエンデュミオンの鷹の駆る航宙戦闘機と同じ毛色のある新型戦闘機の存在だった。

 

 ドレンも決して無能ではない。このファルメルの性能も熟知している。しかしたった2機で攻撃を仕掛け、成功させる任務遂行能力。連邦軍の新型MSだけでも悩みの種だが、新型戦闘機も更に性能が高いものが量産されればMS以上の脅威になるのではないかと、漠然とした思考がシャアの脳裡の片隅を支配して止まなかった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 シャアのムサイが控えている手前、フューリアスはドッキング・ベイの外で待機させておく。

 

 あのホワイトベースの中を歩くというのは、1stを知るガノタからすると一種の感激を覚えるが、それを隠して格納庫で捕まえたリュウさん──リュウ・ホセイ軍曹に頼んでブリッジに案内してもらった。

 

「パオロ艦長、フラガ大尉をお連れしました!」

 

「あ、あぁ……。ご苦労だった…」

 

 シャアのファルメルは此方で抑えていた、にも関わらずパオロ艦長は負傷していた。

 

「す、すまないな、フラガ大尉…。ザクの迎撃に、出て、このザマだ……。艦の事はブ、ブライト君に、任せた…」

 

「了解しました。御無理をなさらずに、パオロ艦長」

 

「あぁ……すまん、ね」

 

 あまり怪我人に無理をさせるわけにもいかない。パオロ艦長へ敬礼し、今度はブライトと思われる青年士官へと身を向けた。

 

「連邦宇宙軍独立特務部隊MA-Xレイヴンズ隊長、ラウ・ル・フラガ大尉だ」

 

「あ、はい。ホワイトベース艦長代理、ブライト・ノア少尉であります。噂に名高いエンデュミオンの鷹であるフラガ大尉にお逢い出来で光栄であります」

 

 ブライトと握手を交わす。少尉ということはまだ19歳の未成年士官だ。そうか、ブライトさんより歳上で上官なのか。なんだか不思議な気分だ。

 

「外にはシャアの艦が未だ控えているが、此方の隊で打撃を与えておいた。暫くは時間を稼げるだろう」

 

 帰還したティアナとクロシェットから戦果は聞いている。あのファルメルのエンジンに1発見舞えたのは大戦果だ。

 

「シャア? も、もしや、あの赤い彗星の!?」

 

「ヤツとて人間だ。そう異名に囚われて必要以上に怖がることはないさ。だが警戒は緩めるな。V作戦がサイド7で進行している事を知られているのなら、偵察隊を再度送り込んでくるぞ」

 

「何故、そう言い切れるのですか?」

 

「……そういう男だと知っているから。という返答では不服かな?」

 

 ブライトが少尉で19歳なら進行ベースはTV版である可能性が高い。ならばシャアがサイド7に生身で偵察に来る可能性も示唆して置く。意味深に言葉を語るのは軍内部を生きる上での処世術だ。声のお陰もあってクルーゼに聞こえてしまうのはご愛敬だ。というよりは少し意識していたりもする。フラガという家名には本当に驚かされ、そしてラウという名にもしやと己の生まれを呪いそうになったものの、普通に産まれた人間の様で胸を撫で下ろしたという過去がある。

 

「いえそんな。しかし現在サイド7駐留部隊と、ホワイトベースの正規クルーもザクの迎撃に出たことで死傷者多数でありまして。警戒体制にも限界が…」

 

「対空監視は私の部隊で受け持つ。しかしこのホワイトベースまでは手が回せない。人手が足りなければ避難民から有志を募るしかないだろうさ」

 

「よろしいのですか!?」

 

「よろしいもなにも、生き残りたければ手段など選んではいられんさ」

 

 此方の言葉にブライトは険しい顔を浮かべた。民間人を連邦軍の最高機密であるV作戦に関わらせるべきではないというところだろうが、現実的に見ても原作と同等の被害を受けているのならば人手不足は深刻の筈であるし、避難民を既にホワイトベースに乗せてしまっているのだから機密を気にしても仕方がない所まで来てしまっている。

 

「それに、既にV作戦の産物であるRX-78-2ガンダム二号機は開発主任のレイ大尉の御子息とはいえ、民間人の少年により運用されている。機密を気にするのは軍人として当然の事だが、今は生き延びる事を考えて動くべきだ」

 

「……わかりました。志願者を募って艦の運用に必要な人員を揃えます」

 

「そうしてくれ。私はコロニー内に出て使えそうな部品や武器を回収してくる。ガンダムも連れていくがよろしいか?」

 

「了解であります」

 

 ブライトよりも自分の方が所属は違えども階級が上なもので、基本方針は此方で考えて提言する事でスムーズに事が運べている。新米少尉がいきなり新型戦艦の艦長代理で、正規のクルーの多くが死傷、さらに港の外には赤い彗星が控えているともあれば、同じ立場だったら胃痛でも起こしている自信がある。自分の事で精一杯で、クルーひとりひとりを鑑みてやることが出来なかったと、虹に乗れなかった男という作品でブライトはこの時の己をそう評しているが、実際上手くやっているものだとも思う。それこそ艦を預かる艦長として、喚いて気を晴らすことも出来ないのだから。

 

 何処まで手助けをしてやれるかはわからないが、この後の成長やら云々を抜きにして、大変だろう彼を助けてやるのが人情というものだろう。

 

 来た道を戻ってMSデッキに入ると、ガンダムがメンテナンスベットで整備を受けていた。

 

 その足元ではメカニックマンたちに矢継ぎ早に指示を出すひとりの男の姿があった。

 

「レイ大尉。もう起きてよろしいので?」

 

「あぁ、フラガ大尉か。メカニックマンの手も足りん状況ではおちおちと寝てはおれんよ、それに……」

 

「父さん! 言われた部品持ってきたよ」

 

「バカもの! 今は仕事中だ。レイ大尉と呼べと教えただろう!」

 

「ご、ごめん、えっと、すみませんでした、レイ大尉…」

 

「うむ。民間人の身で軍の機密に触れた上に戦闘行為まで行ってしまったお前はもう軍人になるしかない。ガンダムの整備手順を教えるからキッチリと覚えろ。良いな?」

 

「は、はい…」

 

 親子の会話としては少々厳しいものがあるが、レイ大尉は今は軍人として動いているのだから公私は分けることを背中で教えるつもりらしい。

 

 そう、変わった事はテム・レイの生存だ。

 

 やはりザクの爆発の時に出来た穴で宇宙空間に放り出されてしまったらしい。だがそれを知る自分が居て、幸運にももの探しにも使える能力を持っている事が幸いした。宇宙を漂っていたレイ大尉を救うことが間に合った。

 

「それと、お前もフラガ大尉に礼を言え。ザクの爆発で宇宙に放り出された私をフラガ大尉が救助してくれた。こうしてまた私と話せるのもフラガ大尉のお陰だ」

 

「そ、そう、だったんだ……。あ、ありがとう御座います、フラガ…大尉」

 

 さらりと息子に殺されかけた事を口にするレイ大尉に、その息子のアムロ少年は目元に涙を浮かべて頭を下げてきた。上手くいっている様子はTVでは見ることが出来なかったが、たとへどんな親でもアムロ少年にとっては父親であるのだと実感させられた。

 

「礼には及ばないさ。ガンダムのメンテナンスが終わったあとに一仕事付き合ってくれ。ガンダムでザクからの破壊を免れた物資の積み込みをして貰いたい」

 

「は、はい、了解しました!」

 

 そう快い返事を返して貰い、アムロ少年はガンダムのコックピットへと登っていった。

 

「皮肉な物だ。息子のような若者を戦場に送り出さんが為に作ったガンダムに、息子を乗せて戦わせなければならんとは」

 

「心中お察し致します」

 

 自分もまだ子供である女の子たち相手に人殺しの仕方を教えて戦わせている側の人間だ。大人の始めた戦争に巻き込まれた子供は堪ったものじゃないだろう。

 

「ガンダムの整備はどの程度で終えられますか?」

 

「マシンガンを受けているが、ルナ・チタニウムのお陰で大した傷はない。内装の点検で20分と言ったところか」

 

「了解です。私は一度コロニー内に入ります。RX関係の資材搬入はお任せしても?」

 

「もとよりそのつもりだった。君はアナハイムへ向かうつもりかね?」

 

「はい。彼方にある埋蔵金を持ってこなければなりませんので」

 

「埋蔵金か。あまり悪どいことをして消されんようにな」

 

「悪どこうとも、この戦争に勝つためにはある程度の手段を選んでいられはしませんよ」

 

 レイ大尉から忠告を受けながら、それでも倫理観に逆らわない程度には手段を選んでいない自分の状況を暗に伝える。企業と軍の間に居る人間は色々と苦労するというものだ。

 

 拝借したバギーに乗って向かうのは、連邦軍の施設があるブロックとは反対のブロックだ。そちらは幸いにも戦火を逃れていた。

 

 アナハイム・エレクトロニクス サイド7支社。

 

 流石のアナハイム。各コロニーに支社を持ち、サイド7でも大型のモール並みの広さを持つ敷地を構えていた。民生品から軍製品に至るまで連邦ジオン問わずアナハイム製が流通しているため、規定はないが、アナハイム系列の支社には攻撃を加えない暗黙の了解があったりする。それでも各サイドを攻撃した事で卸し先が減らされて客も減らされ業績が落ち込んだアナハイムはジオンに対して連邦よりも割高値で商品を売ったりしている上に、技術協力も連邦軍側についている。でなければMA開発計画を連邦軍で進める事は難しかっただろう。

 

「あ、ラウさん、待ってましたよ!」

 

 エレベーターで地下の秘密格納庫に降りた自分を数十人程のスタッフの間を掻き分けて走り寄ってくる少女が出迎えてくれた。

 

「やあマユリ。待たせてすまなかったな」

 

「ホントです、かなり大きく揺れたから危ないのかなって思ってもう少しで出る所でした!」

 

「それでも予め言った様になんとかなっただろう?」

 

「そうだけどぉ。でも恐かったんです!」

 

「わかったわかった。すまなかったな」

 

「んふ。えへへ…っ」

 

 頭を撫でられてふにゃふにゃの顔を浮かべる彼女の名は、マユリ・アスカという。

 

 ルウム戦役の戦災孤児の1人だ。

 

 その姿は何処と無く怒れる瞳を持つ少年の妹を彷彿させる。

 

 ルウムをジオンが制圧に乗り出した時、マユリの乗ったシャトルはどうにか逃げ仰せたが、避難する時に家族とはぐれてしまったらしく、家族に関しては未だに行方不明。家族構成は両親と兄とマユリの4人。写真を見せて貰ったが、その兄はあの飛鳥先輩であったので数え役満であった。

 

 自身の様にクルーゼに似ている人物が居るのだ。他の他人の空似が居ようとも不思議ではない。

 

 とはいえ、自分の様に前世持ちというわけではなかった。

 

 彼女を引き取ったのは、まぁ、色々と試してみたい事柄があったからだ。

 

 自分に空間認識能力が備わっている様に、彼女にも何かしらの力が宿っているのではないかと考えてしまったからだ。本当は兄の飛鳥先輩と出逢えれば良かったのだが、贅沢は言えない。そしてコーディネーターでもないのだから更に望みは薄いが、物は試し。

 

 そんなこんなで彼女を引き取って、12歳の女の子をテストパイロットとはいえMSに乗せているのだから、自分が死んだ時は確実に地獄に落ちるだろう。

 

 そう、MSだ。

 

 アナハイムがMSのメーカーとして台頭するのは一年戦争後。グリプス戦役からだ。GPシリーズをデラーズ紛争時に開発しているが、それでも量産型MSを開発したのはグリプス戦役からだ。

 

 MA開発計画で少しは発言権が持てる様になった自分が次に取り掛かったのは、アナハイムのMS開発計画だった。MAは確かにMSに対抗できる兵器であるが、パイロットの練度に大きく左右される。それはMSも同じだが、土俵が同じであれば性能差や戦術、物量で勝負がし易い。兵力を効率的に運用するには、MS相手にはやはりMSとなってしまう。自分の様にMAでMSを倒せるのは一部のエースパイロットであるのはいただけない。代替可能な凡人でも敵を倒せる兵器が必要だった。ならばV作戦で充分であろう。

 

 しかしそれだとMA開発計画が縮小される可能性もあったため、V作戦に対抗する為にアナハイム製MS開発計画──G計画が始動した。

 

 それこそ連邦にもジオンにも根があるアナハイムの情報網を駆使して、サイド7で開発されるガンダムの技術を始め、ジオンからもザクの技術を盗用してMSを造り上げた。

 

 しかしただ真似をしても猿真似で終わりである。RXシリーズにはない強みを見せなければならない。

 

 そうして開発・完成したのがGATシリーズである。

 

 このサイド7のアナハイム支社の地下秘密格納庫に眠るMSの名は、GAT-X102 デュエルである。

 

 PS装甲を備え、武装周りも一通り再現しながらも、動力はミノフスキー核融合炉でありバッテリーよりも強い電圧を掛ける事が出来た結果、最初は通電したら装甲が赤くなったりとも色々とあり、今は電圧を変えることで装甲強度を変化させるVPS装甲となっている。

 

 そうして完成したデュエルを出動させれば態々ザクをコロニー内で爆発させるどころか、被害を抑えられたであろうが、フューリアスがサイド7を出る直前でも最終調整に手間取っていたのだから待機を命じたのだ。如何に実弾や物理攻撃に強いPS装甲を持つ機体であっても調整不十分の機体で戦わせるほど外道になったつもりはない。

 

 PS装甲他の強みは、機体に登録されたモーションパターンをコンピューターに蓄積し、パイロットが選択した行動をとる上で最も適切であるモーションパターンを人工知能が選び実行するというスパロボのTC-OSを開発して載せている。他にも疑似人格コンピューターによる機体の動作の補助をさせている。

 

 だからテストパイロットとして全くの素人であるマユリを乗せることが出来ている。12歳の女の子がパイロットを出来る程に、機体操作の負担が軽減されているのだ。

 

 そんなストライクルージュ的にパイロットへのサポートをガチめにしたデュエルが、この世界での初のアナハイムガンダムである。

 

 そしてもう一機。

 

 ジオン系列のMSの特徴である一つ目を持ち、まるで鶏冠の様に伸びた頭部のセンサー、そして背中の特徴的なウィングバインダーを持つ白いジンが横たわっている。

 

 このジンはジオン系の技術を用いて完成したアナハイム製MSの第一号になる。もちろんジンとしての性能は再現されている。

 

 ザクⅡF型やS型、R型のデータを基に開発は行われ、仮想敵はR2型を想定して開発した為に、機動性や運動性はF型を軽く凌駕する高機動型MSとして完成している。生産性も良好であるが、高機動制御OSが未完成という欠点を抱え常人には扱えない機体となってしまった。故に後発で開発したデュエルではパイロットの負担を徹底的に抑える取り組みがなされている。現在はTC-OSを載せているので幾らか操作性も向上したものの、やはり扱いが難しい。

 

 こんなところでコーディネーター用OSの様な欠点が出るとは思わなかったものの、乗れる様になってしまえば関係はない。

 

 ゲーム等ではザクと同等の扱いを受けるジンであるが、メビウスに対して1:3の戦闘能力を持つのだから弱いわけがない。そして此方で開発したメビウスの性能を基準値として仮想的をリック・ドムを性能面で凌駕していたという高機動型ザク後期型にした事で、その性能はガンダムにも迫る物がある。更にこの機体は自分様にチューンアップを限界まで施されているので、おそらくはゲルググ程度の性能は持っているだろう。

 

 したがって、デュエルの性能はさらにこのジンを基準値にしてあのガンダムを超えるものをアナハイムが総力を上げて開発した為にその性能はガンダムを軽く凌駕するものである。さすがのアナハイム。GPシリーズの時点でグリプス戦役時の後半でも通用するスペックを持っていたと言われるガンダムを造り上げてしまった会社である。

 

「各装備はミストラルでベイのホワイトベースへ運び込め! ジンとデュエルは自足移動で運ぶ。マユリ、場合によっては戦闘もあり得るぞ! 機体は戦闘ステータスで起動しておけ」

 

「はーい! ビームライフルとシールドもですね?」

 

「そうだ! 10分で出るぞ!! データの処理は徹底しておけ!書類1枚も残すなよ!!」

 

 撤収作業と資材搬入を一通り通達し、ジンのコックピットへ乗り込む。

 

 リニアシートの開発には至れなかったので全天周囲モニターの採用は見送っている。

 

 とにかくこの戦争を一先ず生き延びる為に自重なんて考えずに色々としている結果こうしてGATシリーズやザフト製を開発してしまったわけだが、C.E.製MAを造っているので今さらだ。

 

 既に連邦軍でも一部の部隊に試験的にジンが配備され、そのジオン系に似た外観で敵を騙す撹乱戦法も生まれているだとか。最も、凡人でも扱える様にデチューンが施されているので、性能的にはグフ等と同程度であるだろう。そもそもジンは空間戦闘用MSで、地上戦に対応出来るだけだ。それでも装備の換装も無しに宇宙と地上で使える汎用性の高さはそのままにされているので、少しでもMSの数を欲している連邦軍からすれば手間の無いMSは歓迎されていた。しかし見掛けがジオンのザクを連想させるという事で不評を買っていた。

 

 故に連邦軍向けの量産型MSの開発依頼が上がっていた。

 

 ジオンのザクに対抗できるジンを足掛かりに更に連邦軍から商売話しを引き出すのだから。ホント、アナハイムは商売が上手い。

 

 故に月のアナハイム・エンデュミオン支社では既にダガーの開発も終えて、簡易量産型としてストライクダガーを開発・生産。此方も幾つかの部隊に試験的に配備が決まっていると聞いている。

 

 ストライクダガーの性能はゲルググ、105ダガーはゲルググ以上の──ゲルググ・イェーガーやアクトザク、ガルバルディαを想定している。

 

 順当に行けばグリプス戦役時にはダガーL、ネオ・ジオン戦争ではジェガンと同等の性能でウィンダムを開発しておければと考えている。必要ならフリーダムやデスティニーだって開発する気でいる。

 

 一年戦争、デラーズ紛争、グリプス戦役、二度に渡るネオ・ジオン戦争。自分が現役でいられるだろう十数年でこれだけの大きな戦いが起こるのだ。長生きが出来ればオールズモビルやコスモ・バビロニアとも戦わなくてはならないだろう。正直そんな何十年先までは考えられないが、十数年でこれ程に戦いの激動を迎える茨の時代を生き延びる為には手段を選んではいられないのだ。

 

 機体を戦闘ステータスで起動させ、メンテナンスベッドからリフトアップさせ、装備コンテナから重斬刀と76mm重突撃機銃の基本装備と、パルデュス 3連装短距離誘導弾発射筒、シールドといったミゲル仕様の装備を施す。

 

 シールドはマゼラン級等の戦艦の装甲板を流用しているのでコストが安い。あまり使う機会はないが、あって困るものでもない。

 

 立ち上がったジンの横ではデュエルがビームライフルとラミネート加工を施したシールドを装備し、さらにレールバズーカ「ゲイボルグ」を担いでいた。

 

 実戦装備に換装させ、機材搬入用エレベーターシャフトからジャンプでサイド7地表に飛び出す。

 

 MSは良いが、デュエルやジン用の資材を運ぶミストラルを待つ。

 

 メビウスを開発する一環で、連邦軍が宇宙用作業ポットを武装化するという噂を聞きつけ商魂逞しいアナハイムでミストラルも開発させてもらった。ボールに対して武装での火力差はあるが、MAとして最低限の機動性は持たせているため、火力のボールと機動性のミストラルで棲み分けが可能となっている。その機動性の高さと小回りの利き易さと操縦性・生産性から早期警戒機として既に連邦宇宙軍に納入がMAの言葉と共に始まっている。

 

 既にシャアはサイド7に侵入しているだろうという予測を立てて警戒は惜しまない。ジンはともかくデュエルはアナハイム製新型ガンダム・タイプMSだ。V作戦の一機として誤認するも良し。ともかくまだ新型があることをシャアに見せておけば、戦力が減っている現状で無理には仕掛けてこないはずだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 V作戦の新型MSに対する偵察を敢行したシャアは、思いもよらない再会に戸惑いう暇すらもなく、連邦の新型MSが一機だけでは無いことを知る。だがそんな事など頭から抜けてしまいそうになる出来事を体験する事になった。

 

『そこのジオン兵! その女性から離れてもらおうか』

 

「連邦のMS!? まだ新型があったのか!」

 

 ジオンでは「ザク擬き」と称される戦場で損傷・放棄された修復MSの様な木偶の坊ではない。

 

 新たな脅威として認知されつつある新型MS──名を「ジン」というMSと、さらにV作戦の新型と外見の似通った別のMSが複数の作業ポッドの隊列を率いて目の前にやって来た。

 

 慌ててバーニアを吹かして飛び去る。さすがに生身でMSに勝てると思う程自惚れてはいない。

 

 飛び去る自身を追ってMSクラスのバルカンが発射される音と共に地面が吹き飛ぶ。

 

『よせマユリ。ここはコロニーの中だぞ!』

 

『で、でも、あれはジオン兵ですよ!? 生かしておいたら何をするか…。パパやママだって、お兄ちゃんだって…っ』

 

 随分と嫌われた言い方をされているが、聞こえてくるまだ幼い少女の声は耳に痛い物だ。しかし問題は、その少女の声に語り掛ける男の方の声だ。

 

 他人の空似にしては良く似ている声を自身は知っている。

 

「まさかな。そんなことはありえん……」

 

 その声の人物は宇宙の塵になったはずだった。

 

 物陰に隠れてシャアは今後の出方を考える。さらにV作戦の新型があるのなら写真の一枚でも撮らなければ態々出向いた意味がない。しかし迂闊には動けない。身を潜め、息を殺しているのに、見張られていると感じるのだ。

 

 その感覚はあのエンデュミオンの鷹から感じるそれであった。

 

『ジオンの兵が何処に隠れているかわかりません。ドックの船までお送りします』

 

「あ、ありがとうございます。でも、まだ逃げ遅れた人が居ないか探さないと」

 

『既に空気もだいぶ薄くなっています。これ以上は限界ですよ』

 

「……そうね。わかりました」

 

 MSの駆動音が聞こえた。その隙に気配を消して移動する。此方を見張られている感覚が消えたところで振り向けば、例の新型の後ろ姿を拝む事しか出来なかった。

 

「あのMS……あの声は」

 

 聞こえてきた声。まさかとは思う。女の方は顔も見た。

 

「アルテイシア……いや、そんなはずは」

 

 自身に銃を向けてきた女。顔も声も自身が愛する唯一の肉親である妹と瓜二つだった。

 

 しかし優しい妹が銃を手に取るはずがない。

 

 そして、白いジンから聞こえた男の声。顔は見ることは叶わない。しかしあの声が大人になり落ち着けばああなるだろうという感想が持てる程度に似通った声だった。

 

 それがエンデュミオンの鷹。

 

「フッ。なんの悪い冗談だ……」

 

 自分の導き出した答えに笑う。だが、もし自分の導き出した答えが真実だとしても意味はない。それを確証させる証拠もなく、エンデュミオンの鷹は敵である。

 

 敵であるのならば討つまでた。

 

 

 

 

to be continued…




取り敢えず私のMSの性能イメージというか、映像が造られた時代があれだけど、オリジンの映画を見て動きの違うシャアはヤバいザクだとして一般兵のザクも速いけど、ゲームだとジンの方がちょいパラメーター高かったりするから、ジンの性能はグフとか宇宙なら一般的なS型とかR1A型くらいかなぁで思ってます。

シグーでゲルググ、ジンハイマニューバーは機動性なんかはゲルググ・イェーガーくらいになるのかと。ならゲイツはアレックスとかジムスナⅡとかのガンダムより性能上だった機体くらいをイメージしてます。

なら今のデュエルの性能はって聞かれたらゼフィランサスくらいかなぁって。これがフリーダムになるとZZクラスで、ストフリなんかはユニコーン辺りで大雑把に考えてます。

単純な性能比較が私には出来ないので、取り敢えずそんな感じで考えてますが皆さんはどんな程度で考えているのか戦々恐々としつつ書いていかせて頂きます。


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第七話

なんかもっとサクサク書きたいけれど、細かい描写が多い上にてんで進まなくて申し訳ない。

そんでもって、MSに乗れる事を伝えたかっただけで、MSに乗り換える様に感じるところで切ってしまった私のミスです。


 

 ホワイトベースが停泊するドックへ向かう最中にシャアとセイラ──キャスバルとアルテイシアの再会の場面に出会した。此方としては一般人にジオン兵が襲い掛からんとする場面に見えてしまうので放っておくことも出来ないためにシャアに警告したのだが、そのシャアは自分の声を聞いて鋭い視線を此方のジンに向けてきた。

 

 無理もないか。キャスバルがシャアとして入れ換わった為に本物のシャア・アズナブルはキシリア機関のキャスバル暗殺によりシャトルごと木っ端微塵になったのだから。

 

 それでも世界には探せば同じ顔の人間が三人居ると言われ、実際キャスバルとシャアの二人は目の色が違うだけで顔は瓜二つだったようだ。ならば声もまた同じことが言えるだろう。現に、SEED本編でもクルーゼとジョージ・アルスター外務次官の声は似ていて娘のフレイがアラスカ基地に侵入していたクルーゼと鉢合わせて父の声と誤認したのだから。

 

 故にだろうか、コックピットへと迎い入れたセイラが此方へと頻繁に視線を向けてくるのは。

 

「如何したかな?」

 

「あ、い、いいえ…。なんでもありません」

 

「少し窮屈ですが、もう少し我慢して頂きたい」

 

 シートの後ろの僅かなスペースに女性を立たせるのもどうかと思われるが、かといって膝の上に座らせるわけにもいくまい。

 

「あの、お名前をお訊ねしても?」

 

「ラウ・ル・フラガと言います。連邦宇宙軍に所属する大尉ですよ」

 

「セイラ・マスです。先程は助けて頂いてありがとうございます」

 

「礼には及びませんよ。市民を守るのが軍人の勤めですので」

 

 当たり障りのない自己紹介で、シャア・アズナブルとは無関係の名で、顔に関して自分はクルーゼの素顔というか、レイや同じデザイナー繋りのジョナミツを大人にさせたような顔であるので、シャアと似ている事もないだろう。あるとすれば髪の毛の色が同じ金髪であるくらいか。

 

「そうですか。急にすみません。貴方の声が古い友人と似ていたもので」

 

「そうでしたか」

 

 それでも、自分がシャアではない確証を得たいのか。用心深そうな彼女からすると随分と踏み込んでくる訊き方をしてきた。

 

「その友人はどうされたのですか?」

 

「……開戦前のサイド3に渡ってからはパッタリと。無関係の貴方には聞いていてもつまらないお話でしょうけれど」

 

「まさか。しかしサイド3ですか。それはご心配にもなるでしょう」

 

「ありがとう。お優しいのね」

 

 シャアがキャスバルではないのか。先程シャアの素顔を見ただろうセイラさんがどんな心境なのかは想像してもしきれない。本当にシャアがキャスバルであるのなら、本物のシャアはどうなったのか。何故兄がシャアの名を使っているのか、考えるだけで頭がこんがらがる様な事を、そこに知り合いと兄が関わっているのだからさらに酷いものだろう。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 タチ中尉から教えられた兄さんが生きているという話。

 

 そして、シャア・アズナブルさんに気をつけろともいう事も。

 

 信じたくはない。あの赤い彗星のシャアが兄さんだというのならば、本物のシャアさんはどうなったのか。

 

 あの赤いノーマルスーツとマスクを着けたジオン兵は赤い彗星のシャアだ。

 

 その素顔は、間違いなく兄さんのもの。瞳の色も、声も、シャアさんではなく、キャスバル兄さんだった。

 

 そんな現実に打ちのめされる暇もなく、私を保護してくれた連邦軍のMSパイロットの大尉の声は、シャアさんと瓜二つだった。あの時、私を助けるために兄さんに向けた警告の声を聞いて、兄さんも目を見開いていたから、兄さんにだってシャアさんの声に聞こえたのだろう。

 

 もう、考える事を放棄したい程度には頭が混乱していて、取り残された人が居ないかと探すのを理由に1人になりたかった。

 

 それも、空気が薄くなっているという事で保護するという人道的な意見に断る事も出来ない。

 

 MSの手に乗せられ、コックピットハッチが開かれた時。最初に見えたのは金髪で、本当にまさかと思って、その瞳が青だと知ったとき、失礼にも落胆してしまった。

 

 それでもフラガ大尉の声は聞けば聞くほど、あのシャアさんが大人になり落ち着いた声になればそうなるという程度に瓜二つで。僅かな望みを懸けても、その結果は全くの他人であり、兄さんがシャアさんを殺して赤い彗星のシャアを名乗っているのだという答えに辿り着いてしまう。

 

 いったいなんのために。

 

 ザビ家にお父様が暗殺されたというジンバ・ラルの言葉を信じて? それともお母様の仇の為に?

 

 ならばどうしてシャアさんを巻き込んだのだろうか。復讐をするのならエドワウ・マスとしてでも出来るのではなくて? それがわたしを守るためにシャアさんと入れ換わったというのなら。

 

 私は、兄さんを──。

 

「少し疲れましたか?」

 

「え? あ、いいえ。大丈夫です」

 

「無理はしない方が良い。疲れたのなら言ってください。そもそもシートの後ろは人を立たせる場所でもないのですから」

 

 そう気遣ってくれるフラガ大尉。ただ、私を休ませる為に大尉の作業を邪魔するわけにもいかない。大尉のMSに続くようにもう一機別のMSと作業ポッドの列が続いているのだから。

 

「お気遣いだけ頂きます。でも大丈夫です。少し考え事をしていただけですから。これからどうなるのかと」

 

 それらしい話題で話を逸らすと、フラガ大尉は難しい顔を浮かべた。

 

「自力でサイド7からシャアを退けて脱出する他はありませんでしょう。このまま見逃してくれるとも思いません」

 

「それしか、ないでしょうね」

 

 ただ、それを実行出来るかどうかだ。正規兵はザクの襲撃の迎撃に出て死傷者多数でとても戦える状態にはない。

 

 フラガ大尉がコックピットのコンソールを操作すると、通信画面が開いてまだ幼い女の子がシートに座っている姿が映る。それもただのシートではなく、MSのシートだとわかる。

 

『はい、なんでしょうラウさん?』

 

「マユリ、悪いが先に宇宙船ドックへ向かってくれ。そこに連邦軍の新型戦艦が停泊している。責任者のブライト・ノア少尉にジオン兵が侵入しているから迎撃体制を取るように伝えてくれ。俺の名前を出せば取り合ってくれるハズだ」

 

『了解しました!』

 

 元気良く、言ってしまえば無邪気な笑顔を浮かべた女の子の声が届くと通信が切れる。コックピットのサイドモニターには助走をつけてジャンプで翔んでいく青と白のMSが映っては過ぎ去って行った。

 

「あんな子供まで……」

 

「ルウムで焼け出された戦災孤児ですよ。そんな子供まで戦わせる私はロクデナシと言われても反論は出来ませんがね」

 

 自分を碌でなしと言うフラガ大尉だが、それでもあんな女の子を使い捨てにするような非道な人間ではない人柄は、この少しの時間でも伝わってくる。

 

「辛いわね……」

 

「自らが選んで突き進んだ道です。悔いはありませんよ」

 

 そう語るフラガ大尉の横顔は力強く先を見据える目をしていた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 通信が切れて、デュエルがスラスターを噴かして跳んでいく。そのままコロニーの中心の無重力エリアに到達してドッキングベイへと向かっていく様だ。賢い判断だ。

 

「あんな優しい声も出るんですね」

 

「妹分に見せる優しさくらいは持ち合わせているつもりですよ」

 

 そうセイラさんに応える。公の場では声をクルーゼに寄せているものの、身内にはそれなりに優しくしているのでクルーゼよりもレイの声に近くなる。今もどちらかと言えばレイ寄りの声でセイラさんとは話している。

 

 ちなみに戦闘中で興奮が高まると逃げも隠れもする死神に近い声に変わりもする。

 

 ようやく宇宙船ドックに到着すると、ガンダムがスーパーナパームで残った部品を焼却しているところだった。

 

『フラガ大尉、戻りましたか』

 

 そして丁度ブライトからも通信が入った。

 

「ああ。待たせてすまない。ジオン兵の侵入があった事は伝わったかな?」

 

『地上のレイ大尉の方にもジオン兵がやって来たので伝わりました。そちらはガンダムに撃退させましたので、あとは大尉らを収容するだけです』

 

「わかった。第一戦闘配備でホワイトベースをドックから出してルナツーへと向かうが、出来そうか?」

 

『操舵手もやられていますが、スペースクルーザー免許持ちの方に手伝って頂けるということで。時間は掛かりますが船は出せそうです』

 

「なら決まりだな。ホワイトベースを港から出してくれ。ジオン兵がまだ隠れているとも限らん。対空監視は厳に」

 

『了解しました。搬入エレベーターでベイの中にお戻りください』

 

「手間を掛けるな」

 

『いいえ。そのMSを見ればジオンにも勝てると希望が持てますよ』

 

「そう言われると、造った側としては鼻が高くなるな」

 

 そう会話をしながらも周囲の警戒は怠らない。此方の領域にも引っ掛かる様子はないからシャアも此処には居ないとは思うが、用心に越した事はない。

 

 宇宙船ドックに入ると、ジンをホワイトベースに着艦させる。格納庫にはパーツ状態のガンキャノンやガンタンクが積み込まれ、他にはプロトタイプガンダムとG-3ガンダムも運び込まれ、メカニックマンが群がっていた。

 

 セイラさんを降ろしてブリッジに上がる。そこでは負傷した兵から操作方法を学ぶハヤト少年や、緊張した様子でホワイトベースの舵を握るミライさんの姿が増えていた。

 

「ご苦労様です、フラガ大尉」

 

「お互いにな、ブライト少尉。発進までどのくらいだ?」

 

「各部所での最低限の教習を行っています。あと30分程度は掛かるかと」

 

「構わんさ。素人に使い方も教えないままで出させるよりもその方が生存確率は雲泥の差だ。手伝って貰う手前、我々には彼らの命に責任を持たなければならないのだからな」

 

「そう、ですね」

 

 まだ民間人を使うのは抵抗があるのは正規軍人らしいと言えるだろう。その辺りは企業出向が長い上に年下の女の子ばかり指揮する自分との差なのだろう。試したい事があったり、ニュータイプの素質があると解れば年齢も考えずにスカウトに向かう自分より、ブライトの方が人間が出来ているよ。

 

「先程、通信でフラガ大尉の使いでジオン兵が潜んでいると伝えてくれた少女ですが、彼女はフラガ大尉の妹さんで?」

 

「なに、戦災孤児の子を引き取って兄代わりをしているだけだ。血は繋がってはいない」

 

「そうなのですか」

 

「非情だと思うかな? あの様な年齢の子供までパイロットに使う私は」

 

「それは……」

 

 上官に当たる手前、卑怯な聞き方なのは解っている。だがマユリの話を出したのは単なる興味だけでもないだろう。あんな子供まで戦わせなければならない事態を憂いているのを感じる。

 

「外道と言われる覚悟はしているつもりさ」

 

 そう言い残して再度MSデッキに降りる。メビウス・ゼロの整備と補給を済ませる為にだ。

 

 MSは確かに高い汎用性を持っているし、ジンも現在主力のザクⅡと比べて性能は上だが、やはりオールレンジ攻撃の強みに勝るものはない。機動性もメビウス・ゼロの方が上で、さらにこのメビウス・ゼロはガンバレルを機体に付けたままでも接続部を回転させてメビウス張りの運動制御を可能とする様に改良しているので。ぶっちゃけるとメビウス・ゼロの方が戦果を上げられるし、部隊の連中を守るのなら手数が多く出来るガンバレルを持つメビウス・ゼロの方が利便性が高い。

 

 専用ジンを遊ばせるのは日本人的な勿体無い精神が顔を覗かせるが仕方がない。あれは普通の人間には乗れないからだ。TC-OSのお陰で操作性は上がっていても機動性に振り回される。そうした面の制御をパイロットが自分で行わなければならない。デュエルではその辺りは解消されている。そもそも今のノーマルジンならTC-OSで動かせばそうはならない。そうなってしまうのはあの専用ジンだけだ

 

 整備と補給を終えてメビウス・ゼロのシートで待っていると、ブリッジのブライトから通信が入った。

 

『フラガ大尉、こちらは発進準備が整いました。艦の発進警護をお願いしたいのですが』

 

「了解した。我々が発進したら出てくれ。直掩にはデュエル──先程使いにやったMSを充てる」

 

『了解です。ではよろしくお願いします』

 

 ブライトとの通信を終えて機体の電源を入れる。

 

『フラガ大尉、ガンダムも発進の援護に付かせる。パイロットは素人だが牽制役くらいは出来るはずだ』

 

 するとレイ大尉からも通信が入った。

 

「よろしいのですか?」

 

『本人の了承も得ている。船を守るくらいはさせられるはずだ』

 

「了解しました。なるべく死なせぬ様に尽力します」

 

『ああ。よろしく頼む。ガンダムと通信を繋ぐが、よろしいか?』

 

「お願いします」

 

 レイ大尉との通信にアムロ少年が加わった。さらにマユリとロマリアにも通信を繋ぐ。

 

『よ、よろしくお願いします、フラガ大尉』

 

『ラウさん、呼びました?』

 

『お、女の子…? え、もしかしてそっちのガンダムに乗ってる?』

 

 通信モニターに映ったマユリに驚くアムロ少年は、さすがニュータイプになる主人公、察しが良い。

 

「これからサイド7を出る。ブリーフィングを始めるからちゃんと頭に入れる様にな」

 

『了解です、ラウさん!』

 

『えっと、了解しました』

 

 なんとも頼りない返事に聞こえるが、そこは2人ともメビウス隊の皆より年下なのだから仕方がない。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ──ブリーフィングを始めるぞ。

 

 現在、サイド7の外には敵艦が待ち構えている。

 

 ホワイトベースはサイド7を出港。ルナツーへ進路を向けるが、これに対する攻撃が予想されている。

 

 フューリアスが現在対空監視中であるが、その艦載機であるメビウス隊は先の戦闘での補給中である為に今回は出られない可能性が高い。

 

 ガンダム、デュエルの2機はホワイトベースの護衛について貰う。

 

 直掩はマユリのデュエルに担当して貰う。遊撃にはアムロ君のガンダムがつけ。無理に敵と戦うな、とにかく自分の身を守ることを第一にして仲間を守れ。

 

 メビウス隊も補給が完了次第すぐに発進させる。

 

 敵の襲撃がなければ御の字だが、そうでなければこれを退けて最大戦速でサイド7宙域から離脱する。深追いも厳禁だと頭に入れておいてくれ。でなければ置いていかれるからな。

 

 戦闘管制のためにスターズ分隊を新たに設ける。

 

 スターズ1はアムロ君、スターズ2はマユリだ。自分の部隊コールを覚えておく様に。

 

 最後になるが、これだけは守れ。「生きて帰れ」だ。

 

 以上、ブリーフィングを終了する。スターズ分隊、全機出撃だ!

 

 

 

 

to be continued…




内容を幾つか修正しました。


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第八話

前回の内容を少し変えました。代わりにソロモンで別のヤツを出す予定になるものの、そっちの方が余計アッサリと終わりそうな気がしてなりません。少なくともこの小説を書く為にイメージトレーニングを兼ねてプレイしているGジェネPのソロモンでプロトサイコガンダム出すより楽でした。

今更ながらSEEDのサントラ買い揃えて聴きながら執筆していますがテンション上がりますね。


 

 ホワイトベースのMSデッキから発進していく変わった形の戦闘機と、2機のMS。

 

 たった3機の戦力ではあの赤い彗星相手には頼り無く感じるかもしれないが。先頭を行く戦闘機のパイロットこそ、赤い彗星を超える連邦軍の英雄であるラウ・ル・フラガ大尉だ。

 

 ルウム戦役で巡洋艦を6隻、MSを37機撃墜したその活躍はブリティッシュ作戦やルウム戦役で大敗を喫した連邦軍の苦し紛れのプロパガンダだとジオンでは言われているらしい。確かにそう思われても仕方がない。だが実際に彼の戦いぶりを見ればそれは事実であると認めるしかないだろう。

 

「高熱源体接近! 大型ミサイルの模様!!」

 

「対空ブロックは各個に迎撃態勢を取れ!!」

 

「コロンブス級フューリアス、前に出ます!!」

 

「なんだと!?」

 

 輸送艦のコロンブス級が前に出てどうするのかとシートから腰を上げるが、そんな此方の心配は杞憂であると言わんばかりに濃密な対空弾幕で接近してきたミサイルの悉くを迎撃した。ただの輸送艦では無かったか。

 

「フューリアスより通信入ります!」

 

「繋いでくれ」

 

 オペレーターに言って通信回線を開いてもらう。通信スクリーンに映ったのは女性士官であったが、大尉の階級章を付け軍帽を被る姿はまだ制服に着られている感が拭えない印象を受けた。

 

『フューリアス艦長、シャルロット・アントワーヌ大尉です。フラガ隊長より其方の状況は伺っています。対空防御は此方にお任せください』

 

「ホワイトベース艦長代理を仰せつかりました、ブライト・ノア少尉であります。援護に感謝します」

 

『ミサイル第二波接近! その後方からMSが、あ、ミサイル撃墜!! フラガ隊長です!』

 

 フューリアスのオペレーターの声が響き聞こえ、そしてミサイルの爆発が彼方に見える。フラガ大尉も然ることながら、フューリアスのクルーの練度も高いようだし、装備も良いらしい。新造艦であるホワイトベースよりも早くミサイルの接近を感知していた。

 

「敵MSは2機の模様!内1機が抜けてきます!」

 

『照合出ました、接近中の敵はザクⅡF型1機です! フラガ隊長は指揮官型と交戦の模様!』

 

「MSに迎撃させます! アムロ君、敵のザクが迫っている、撃破しろ!」

 

『りょ、了解です!』

 

 ガンダムのパイロットの少年。テム・レイ大尉の御子息が乗り込んでいるとは思わなかった。

 

 女子供ばかりが戦場に出なければならない程、我々は追い詰められているとでもいうのかと思ってしまう。いや、現時点で已むを得ない状況で生き残る為の術はこれしかないということなのか。

 

「第二デッキ、ハッチが開きます! MS発進態勢!」

 

「なんだと!?」

 

 今はもう出せるMSは無いハズである。シートの受話器を取ってMSデッキと通信を繋ぐ。

 

「第二デッキ! 誰かいないか? 発進できる機体があるのか!?」

 

 これが正規兵の集まりであるのなら艦長に報告も無しで艦載機が発進態勢になるなど有り得ないことだが、今は多くの民間人の手も借りてホワイトベースはどうにか運用されているのだから仕方がないのだと自身を落ち着ける。

 

『ブライト君か? アナハイムのジンが発進態勢に入っている! パイロットは年若いお嬢さんという事くらいしかわからんが』

 

 コールに出てくれたのはレイ大尉だった。責任者であるレイ大尉が出てくれたのは話が早くて助かる。

 

「通信の方は繋がらないのですか?」

 

『外部音声でやり取りは出来る。フラガ大尉からの命令だということだ』

 

 さっきブリッジに上がった時はそんなこと一言も言ってはいなかったと、頭を抱えそうになる。

 

 だが既に発進態勢であれば止めることは難しいだろう。

 

「わかりました。危険ですから無理に止めない方が良いでしょう」

 

『わかった。──発進許可が出たぞ、メカニックマンは退避急げ!』

 

「カタパルト作動、MS発進します!」

 

 敵のミサイルが迫っているというのに、発進した白いジンは瞬く間に小さくなっていった。

 

「まるで流星だな…」

 

 青い推進材の尾を引きながら飛んでいくジンの姿にそんなことを思い浮かべてしまった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「ええいっ!! 」

 

「くっ、いい加減に墜ちろ!!」

 

 V作戦のMSの性能を推し量る為に出撃したシャアだったが、ラウの駆るメビウス・ゼロがその行く手を阻んでいた。

 

「っ!? ぐぅぅ!!」

 

 分離したガンバレル、そしてメビウス・ゼロ本体からの猛攻の全てをシャアのザクは避けて見せていた。感じるままに機体を動かせばギリギリで回避できるものの、それは針に糸を通すようなもので、少しでも気を緩めれば被弾するギリギリの綱渡りは否応無くシャアの精神を削っていく。その感覚をまだ理解できていなかったルウムでの戦いでは被弾を許し、片腕を持っていかれた。二度目の先の暗礁宙域での戦いと、三度目の今になってその感覚に従う事を理解し始めていた。

 

 それがラウからすれば面白くはない。

 

「っ──!!」

 

 脳裏に閃光が瞬き、機体に回避行動を取らせて反撃のザクマシンガンを回避する。

 

 シャアがラウの攻撃する場所がわかるのなら、そのまた逆も然り。ラウもシャアの攻撃がわかるのだ。何故そんなことがわかるのかはラウ自身考えたところで憶測の域を出ない答えばかりだ。

 

 ただ自分がニュータイプでないことはわかっているので、ニュータイプ同士の感応とはまた別の何かが働いているのだろう。もしくは自身の空間認識能力と、シャアのニュータイプの素質が持つ認識力の拡大か何かが作用しているのかもしれない。

 

 如何様な理由かはわからないが。攻撃が読まれているのなら、読まれていようとも関係の無い攻撃をするしかないのだが、そうした攻撃オプションは残念ながらメビウス・ゼロには搭載されていない。

 

 互いに互いの手がわかってしまう為に陥る千日手。しかし自分がシャアを抑えておけば他の援護になる。あのアムロでさえ、最初はガンダムの性能に頼りきりでシャアのザクの動きにさえ付いていけていなかったのだから。

 

 アニメじゃないのだからガンダムに乗ったアムロは無敵等という子供じみた幻想は抱かない。

 

 やってみなければわからないが、アムロにシャアの様な此方の攻撃を読む能力がなければ、如何にガンダムと言えども今のアムロの動きなら墜とせる自信がある。

 

 何度目かもわからない交差の果て、ガンバレルを引き戻す。そうしたのには意味がある。

 

 シャアと戦いながらも意識を向けていたもうひとつの戦いが決着したからだ。

 

 デュエルのビームサーベルに切り裂かれて爆発するザクⅡF型。

 

「ザクを易々と……!」

 

 アムロのガンダムがビームライフルで撃ち抜いたわけでもないのはシャアにどの様な印象を与えるかなどわからないが、この戦場での勝敗は決した。

 

「さて、どうする。赤い彗星?」

 

「くっ。この私がこうも抑えられるとは…っ」

 

 メビウス・ゼロを抜けなかった時点でシャアの敗北である。代わりに差し向けた部下のスレンダーもやられてしまったのならこれ以上の戦闘行為は無意味だ。メビウス・ゼロを相手にしながら他のMSの相手をする程の余裕はない。

 

「なに!?」

 

 退こうとしていたシャアのザクを銃撃が襲う。76mm重突撃機銃を撃ち放ちながら向かってくる白いジン。

 

「ジン? いったい誰が」

 

 自らの専用ジンを乗り回せる人間など居ないと思っていたラウも少なくない衝撃を受けた。

 

 しかし素人ではないのだろうが、動きに拙さが滲み出ている。

 

 そう見たシャアは機体を翻して白いジンに向かっていく。メビウス・ゼロは無理でも、白いジンならば墜とせると踏んだからだ。

 

 ザクマシンガンを牽制に放つ。それを白いジンは慌てた様に回避行動へと移って回避する。

 

 上手く狙いどおりに誘導出来たシャアはヒートホークを抜いて接近戦を仕掛ける。

 

 接近させまいとパルデュス3連装短距離誘導弾を発射する白いジン。しかしシャアのザクはミサイルの合間を縫うように回避し、ヒートホークを振り上げた。

 

 一瞬たじろぐ白いジンは、しかしどうにか重斬刀を抜くのが間に合った。

 

 上から振り下ろされるヒートホークに、下から掬い上げる重斬刀を合わせる。

 

 激しい火花を散らして二機のMSは鍔迫合う。

 

「兄さんっ!!」

 

「っ!? アルテイシアか!?」

 

 刃を交えながら、機体に手を触れてきた白いジンから接触回線で聞こえてくる声にシャアは目を見開いた。

 

「どうしてジオンになんか。あの優しいキャスバル兄さんがどうして!? お母様の敵討ちの為にジオンに入るのは筋違いではなくて!?」

 

「それを言うのならば何故お前こそMSに乗っている。お前に銃など似合わん! MSから降りろ、アルテイシア!!」

 

 サイド7で再会した妹と銃を向け合うなどと冗談ではなかった。

 

「いいえ。私は兄さんを止める為ならば自ら銃を手に取る事を厭わないわ!」

 

「アルテイシア!? ぐっ!?」

 

 虫も殺せないような優しい妹の言葉とは思えなかった。

 

 両者の間を割く様にリニアガンの弾丸が過ぎていく。

 

「兄さん!! うぅっ!?」

 

 間合いを開けられ、追い縋ろうとするジンをワイヤーが絡め取った。

 

「接触回線で聞こえているな? ジンのパイロットは誰か?」

 

「あ、えっと、あの…」

 

 捕まった事で少し冷静になれたセイラは聞こえてきたラウの声にどう返したら良いものかと言い淀んでしまう。だがセイラの声が聞こえたことでラウは大まかな事情を察する。

 

「貴女だったか。悪いがこのまま母艦まで曳航させてもらう。下手な気を起こさないでくれると有り難いな」

 

「はい……」

 

 捕まってしまってはどうする事も出来ない。モニターで去り行く赤いザクを見送るしかセイラには出来なかった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 まさかジンに乗っていたのがセイラさんとは思わなかった。ジンの方はTC-OSがマニュアルからオートモードになっているから性能は落ちてもそれなりのパイロットならそれなりに動かせる。

 

 それでも初陣でシャアのザクと競り合えたのはやはりあの兄にしてこの妹ありか。

 

 アナハイムのサイド7支社主催のモビルポッド研修を受けているのは知っていたが、それでMSを動かせてしまうのだから彼女もまたニュータイプということか。

 

「運命の鍵は我が手中にあり、か……」

 

 それっぽい事を呟いて纏まらない思考にお茶を濁す。

 

 セイラさんは民間人であるが手前、フューリアスで保護している。でないと逮捕・拘束しなければならない。民間人が軍用兵器で許可無く戦闘をしてしまったのだから。故に民間登用からのテストパイロットという立ち位置に就いてもらう手続きと書類作りに忙しい。

 

 ホワイトベースにセイラさんが居ないことでどの様な支障が起きるか見当もつかない。

 

 何故ジンに乗って戦場に飛び出して来たのか本人に訊ねてみた。

 

「兄を止めたい。そう思ったからです」

 

「兄?」

 

「シャア・アズナブル。赤い彗星です」

 

「シャアが兄か。しかしわからないな。貴女は」

 

「エドワウ・マス。それがシャアの、私の兄の名です。でも兄さんは名を変えてジオンに居ます。私にはそれが我慢できなかった……」

 

 真実は隠されているが、ウソは言っていない。さすがに会って数時間の人間に自分達がダイクンの忘れ形見だとは言えないだろう。

 

「そうか。事情はあるだろうが、今回の事を罪に問われない様にする為には我々と行動を共にしてもらわなければならないが」

 

「覚悟の上です」

 

「再び赤い彗星と相見える保証は無いぞ?」

 

「いいえ。そうとは思えません。きっと、また兄と、赤い彗星と戦うと思います」

 

「そうか。しかし兄と戦えるのかな?」

 

「戦います。兄を止める事が私の役目です。たとえそれが兄を討つ事になっても」

 

 セイラさんが真っ直ぐに此方を見つめてくる。なんで今の時点でこんな覚悟ガン決まりになっているのか不思議でならない。とはいえ、話が拗れる様子もないことが有り難い。

 

「わかった。貴女のその判断を尊重しよう」

 

「ありがとうございます、フラガ大尉」

 

 礼を言いたいのは此方の方だ。思わぬ形でニュータイプを戦力に加えられるのだから。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 無断でMSに乗って戦ったのだから拘束されて独房に入れられるとまで覚悟していた私の考えとは裏腹にフラガ大尉は取り計らってくれた。

 

 その時に話した理由に嘘はない。誠実な対応に、此方も出来るだけの事を話した。なによりも、フラガ大尉はサイド7で私が兄さんと相対した事を見ていた人物でもあったから出来るだけの事と目的を話すことが出来たとも言える。

 

「この艦は女性が多いんですね」

 

 連れてこられた連邦軍の輸送艦を案内してもらっているフラガ大尉へ、この艦の行く先々での印象を述べた。何処へ行っても女性としか出会さないのだ。

 

「多いというより、私以外の男はこの艦に乗ってはいないのさ」

 

「そうだったのですか……」

 

「不思議には思うだろうが、仕方のないことさ。ルウムで大敗を喫した連邦軍はその建て直しに男手を欲しがったからな。幸いにして人手は各サイドの難民から採用し放題だ。その結果、女子供だけが残された。この艦に居る彼女達はその中でも頼る身寄りも無い戦災孤児のその氷山の一角に過ぎない。連邦軍の制服こそ着ているが、専門職のブリッジクルーやメカニックマン以外の人員は軍の訓練は何一つ受けていない素人集団でもある」

 

 最も、それだけの理由で女子供ばかりが配属されたわけでもなかった。というより、男の正規軍人が配属されない理由の1つに確実に心当たりがある。

 

 士官学校を卒業する時に出した卒業論文が原因でもあっただろう。

 

 「汚染され行く地球環境の今後と改善」と題して提出した論文は校長からの呼び出しを食らった良い思い出がある。その内容は今は語るべくはないだろうが、出世コースから外れてMA開発にも影響を及ぼすとわかっていて出したのは1つの賭けでもあった。当たれば大当たり、外れればMA開発は今よりも進んでいないか頓挫していただろう。それでも一か八かの賭けに勝ったのだから結果は上々と言えた。

 

「それほど逼迫している、という事ですね」

 

「大人の正規軍人を教練するまでの時間稼ぎさ。引き抜かれた男達もまたマトモな訓練もされずに戦場に放り込まれては肉壁として消耗品扱いらしい。戦争とは無関係な一般人からすれば堪ったものではないだろうがな」

 

「貴方は違うと?」

 

「違わないさ。結局は私も彼女らの助けがなければ戦場には出られない。故に感謝を忘れない。そして死なせないためにも全力を尽くす限りだ」

 

 格納庫に辿り着くと、灰色のMSに群がるメカニックマンたちが目に止まる。そこでもやはり男の姿を見ることは出来ない。

 

「ラウさん!」

 

「ご苦労だったな、マユリ。はじめての戦場はどうだった?」

 

 飛んできた女の子を受け止めたフラガ大尉は優しく問い掛けた。まるで兄か父親が妹や子供に問うような、そんな感覚だった。

 

「それが。訓練どおりにやろうと思って、それだけで頭がいっぱいになっちゃって…」

 

「それで良いさ。恐怖に身を固めるより余程な。整備はメカニックマンに任せて今日は休め」

 

「はーい。それじゃあ、マユリもラウさんに付いていって良いですか? これからデブリーフィングですよね?」

 

「そうだな。改めてメビウス隊の皆に自己紹介するか。セイラさんもよろしいかな?」

 

「構いません。それと、呼び捨てで結構ですので」

 

「わかった。ではそうさせて貰うとしよう」

 

 兄さんが生きていたのだから、シャアさんも生きているかもしれない。生きていたシャアさんが兄さんへの復讐の為に連邦軍に入って戦っている。なんて言うのは考えすぎかもしれない。ジオニズムを熱く語って、連邦政府を扱き下ろす様なシャアさんが復讐の為に連邦軍に入って我慢が出来る人とは思えないし、フラガ大尉はシャアさんとは違う。

 

 やはり兄さんにシャアさんは殺されてしまったのだろうか。キャスバル・ダイクンとして替え玉にされ、そしてシャアさんと入れ替わり、兄さんはジオンに入ってどうするのか。出世を重ねてザビ家に近い地位に立ち、ザビ家暗殺を目論んでいるというのか。

 

 親の敵討ちとしては、無関係な人を不幸にし過ぎる兄の選択を喜べない。

 

 だから妹である自分が兄を止めなければならない。キャスバル・ダイクンの妹として産まれた私の運命(さだめ)

 

「よし、全員揃っているな。デブリーフィングを始めるぞ」

 

 格納庫の待機ボックスに入ると中の女性達に声を掛けた。

 

「まぁた隊長が新しい女の人連れてきた~」

 

「人聞きの悪い言葉を使うな。デュエルが実戦配備になった。よって本日付けでマユリも機動部隊の一員として所属して貰う」

 

「よろしくお願いしまーす!」

 

 フラガ大尉が幼い女の子を紹介する。相対する3人もまた女性ばかりで、彼女達は他のクルーとは違うノーマルスーツを着ている。つまりパイロットだという事だった。

 

「そんでさぁ。マユっちはいいとはして、そっちのキレイなオネェさんは何処で引っ掻けてきたのさぁ~」

 

「アナハイムのモビルポッド研修をパスした人だ。先程もジンでシャアのザクと渡り合ってみせた。俺をナンパ師扱いするのはやめろ」

 

「あら。この艦に居る大半の方々は隊長さまが直々にお声を掛けて集めたメンバーであると記憶しておりますが?」

 

「勘弁してくれ、ティアナ。お前がそっち側に回られると収集がつかなくなる」

 

「ティア姉ぇは拗ねたら怖いんだから。早めにゴキゲン取りしないとねぇ~」

 

「わかってるさ、それくらいは」

 

「まぁ! 隊長さまったら」

 

 和気藹々と言った感じで女性だらけの環境でもフラガ大尉は上手く立ち回っているらしい。

 

「隊長。今後の予定については?」

 

 そんな彼女たちから一歩離れた位置で物事を見守っていた女の子がフラガ大尉に進言する。一番幼い子がトラブルメーカーで、今フラガ大尉に声を掛けた子が頃合いを見て進行役を勤めている様だ。

 

「一先ずホワイトベースをルナツーへと脱出させる。シャアには大打撃を与えているが、どう転ぶかはわからない。ルナツーは目と鼻の先とはいえ気を緩めるな。第三警戒体制で各自交代で休みを取れ。以上、解散」

 

「「「ラジャー!」」」

 

 一糸乱れぬ呼吸で敬礼する三人組に、彼女達は訓練が行き届いていることがわかる。フラガ大尉直属の部隊という事なのだろう。

 

「たぁ~いちょっ。一緒にゴハン食べよ?」

 

「あっ、マユリもーっ!」

 

 解散となった瞬間。年少組の2人がフラガ大尉へと抱き着いていく。余程好かれているらしい。

 

「待て待て。これからセイラを紹介する。今後は共に戦う仲間になるんだから、ちゃんと挨拶しておくんだ」

 

「はぁい。──クロシェット・バーリントンです。よろしくお願いしまーす」

 

「マユリ・アスカです。よろしくお願いします」

 

 フラガ大尉に言われて、彼の腕を抱きながら振り向いて挨拶をしてくるクロシェットと、佇まいを直して挨拶してくるマユリ。マユリの方が歳下なのに礼儀は彼女の方がしっかりしているらしい。

 

「ダメですよ、クロシェットさん。ちゃんとご挨拶をしないと」

 

「えーっ、ちゃんとしたよぉ。ねぇ~、たいちょ?」

 

「さすがに俺も今回は譲れないな。キチンと挨拶しなさい」

 

「むぅ。わかったよ~」

 

 どうやらクロシェットの方は大分甘やかされているらしい。それで良いのか、まだ関係の浅い私にはどうとも言えなかった。

 

「よろしくお願いします、キレイなオネェさん」

 

「セイラ・マスよ。歳も近いみたいだし、セイラで結構だわ」

 

「うん。よろしくね、セイラ」

 

 我が儘な所はありそうなものの、表裏のない感じは好感が持てる。トラブルメーカー兼ムードメーカーでもあるらしい。

 

「ティアナ・ヘンダーソンと申します。共に頑張って参りましょう」

 

 クロシェットを注意した一見して深窓の令嬢という言葉が当て嵌まる女性が名乗ってくれた。兄さんは私には銃は似合わないと言ったが、本当に銃が似合いそうにないのは彼女の様な人だろう。それでも銃を握る理由は、先のやり取りでフラガ大尉に向ける視線が物語っていた。

 

「ユイ・フローレンス・ビストだ。MAメビウスのテストパイロットを勤めている。以後よろしく」

 

 最後に名乗った彼女は凛々しく生真面目な人という印象を抱く。しかしそれ以外の情報を与えない隙の無さもある。自分の奥底の何かが彼女を警戒させた。

 

「ではユイさん、(わたくし)はMS用装備の荷解きをしてきますのでしばらくお願いできますか?」

 

 自己紹介を終えて一段落すると切り出したのはティアナさんだった。フラガ大尉に続いてこのメンバーで発言力を持つのは彼女であるらしい。

 

「ええ、引き受けるわ」

 

「早めにコッチも交代する。すまんが頼むぞ」

 

「お気になさらず、隊長。貴方はあの赤い彗星と戦ったのですからゆっくりとお休みください」

 

「そうです。(わたくし)達は一休み頂いてましたので、隊長さまはごゆっくりお休みください」

 

「そう言われると休まないわけにもいかないな。わかった、お言葉に甘えさせて貰おうか」

 

「ねー、早くいこうよぉ」

 

「ダメだよクロエちゃん。ラウさんまだお話してるんだから」

 

 今後の予定を詰めるティアナさんとユイさんに休めと言われたフラガ大尉を引っ張るクロシェットとマユリ。端から見ると4人の異性に言い寄られている様に見えるのだろうものの、難なく対応するフラガ大尉の苦労は何れ程のものかは私にはわからないものだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 どうなることかと思ったものの、どうにかなった事で一先ずは胸を撫で下ろせた。

 

「ご苦労だったな、艦長」

 

「あ、は、はい! お疲れ様です、フラガ隊長!」

 

 艦長席に深く腰を降ろしていると、フラガ隊長の声で慌てて振り向く。って、イヤだ、今物凄くみっともない格好してたよ! 見られちゃったよ!!

 

「初の実戦指揮はどうだったかな?」

 

「ええ。クルーと艦が優秀なお陰でどうにか乗り切れました」

 

「成る程。だがそれを使い熟すのは君の力量だ。あの赤い彗星相手に艦を守り通しただけでも立派なものだ。それは誇って良い。艦長があまり謙遜でも下で働くクルーに良くはない。天狗になれと言っているわけじゃない。上げた戦果に見合った自信をつけて欲しい」

 

「はい。不肖シャルロット・アントワーヌ大尉、任務に邁進致します!」

 

「それで良い。今後もこの艦を頼むぞ」

 

 そう言い残してフラガ隊長はオペレーターのセシルや通信士のフルーテにも声を掛けに行った。ああいう細かい気配りが出きる人だから皆頑張れるし、人気もあるんだろうなぁ。

 

「ホワイトベース、前進します!」

 

「了解。コースこのまま。ホワイトベースをトレースしてルナツーへと向かいます。まだ敵も退いたわけじゃないから警戒は怠らないで!」

 

 改めて艦長席に座り直して、開けていた上着のボタンを掛け直す。はじめての戦闘で張り詰めていた緊張が解れて、少し息苦しさを感じて胸元を開けていた事を後悔する。だってそんなだらしのない格好をバッチリ見られたもん。見られるならまだ下着姿とかの方がまだ良かった。

 

「警戒を怠らないのも良いが、しばらくシャアは仕掛けて来ないだろう。もう少し楽にして大丈夫だ」

 

「…なぜそう言い切れるんです?」

 

「サイド7と暗礁宙域での戦闘でシャア以外のザクを撃墜しているからだ。ムサイに積めるザクは多くても6機か7機だ。既に6機のザクを撃墜しているのなら、今のシャアに仕掛ける手札がない。おそらくは補給待ちになるだろうさ」

 

 襟詰めまで掛け直して、フラガ隊長に問い掛ければスラスラと答えが帰ってくる辺り、まだまだ自分は隊長には及ばないのだと実感する。

 

「なに。その内イヤでも慣れる。私もそうだった」

 

「隊長もですか?」

 

「はじめから完璧な人間など居はしない。経験を積み、実践を重ねて一人前となる。それは君にも言えることだ、シャルロット」

 

「そう、ですか? わたしにも成れますか? そんな風に」

 

「保証は出来ないが、少なくとも成ろうと努力する事は出きるはずだ。あとは自ずと結果が付いてくるさ」

 

 そう言って肩を叩いたフラガ隊長は、格納庫に降りると言って行ってしまった。

 

 成れるかどうかはわからない。それはフラガ隊長も言っていたけれど。

 

「この艦を守ることくらいは、頑張らなくちゃなぁ」

 

 なにしろこの艦はフラガ隊長の帰ってくる場所なのだから。その場所を任されているからには、なにがなんでも守り通してみせる義務が自分にはあった。責任重大である。それでも、フラガ隊長の為なら頑張れる気がした。

 

 

 

 

to be continued…



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