FAIRY WINGS 空白の剣 (月陰)
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第1話 導きの『声』

 最後の2週間を駆け抜けているときに思いついた話。

 ウォルの普段着は2部衣装である『暁の戦士』をイメージしてます。


 それは、何気ないある一日だった。

 

 ヴォイスとの戦いには、とりあえず一区切りついて。かつて『希望の塔』と呼ばれたここは、今では草木に覆われ始めている。

 とはいえ、この場所は『大濁流』後の世界が区切りを迎えた、その主要舞台であったことには変わりない。塔の麓には幾つもの建物が建てられ、パラミティアでも有数の大きな街になっていた。

 そんな街並みを遠くに眺めつつ。ウォルは、塔の頂上で何をするでもなく座っていた。

 

 

「どーしたのよ。ぼーっとしちゃって。」

 

「別に。今日やることは終わったし、どうしようかと思ってな。」

 

「そうねー。見回りついでに魔物退治したのはいいものの。後続のマーサリスたちは「後は我々にお任せを!」って張り切っちゃうし。ま、楽できていいんじゃない?」

 

 

 エコーはそう言うと、すとんとウォルの肩に腰掛ける。ウォルは一瞥すると、また眼下の街並みに視線を戻した。

 

 

「あいつら、そんなに気を使わなくていいのにな。あれからもう何ヶ月も経っただろ。」

 

「だって、また君が拗らせたら大変でしょ。」

 

「むしろこういう状況は、あの状態になるのを助長させると思うけどな。」

 

「あら。だから私が一緒にいてあげてるんじゃない♪」

 

「そりゃどーも。」

 

 

 ウォルが平坦に答えると、エコーはクスクスと笑い声を零す。そんな様子に、ウォルは肩を小さくすくめた。

 背後の方から騒がしい声が聞こえたのは、その時だった。最早聞きなじんだその話し方にあたりを付け、二人は振り返る。

 

 

「どうした、エコ。」

 

「そんなに慌てて、何かあったの?」

 

「ありましたよ! お知らせせねばと思って、ようやくお二人を見つけたんですから! 探したんですよ~!」

 

 

 こちらに飛んで来たのは、エコーと同じ顔·同じ声をした、赤いフードのエコー族。想像通り、『破滅の戦士』の騒動で出会ったエコだった。

 ポンコツ気質の彼女だが、こちらを手助けしようとする意思は本物だ。エコのわたわたとした雰囲気に、ウォルは立ち上がる。

 ヴォイスが消えた今、そう大きな危機が来るとは思えない。しかし、ウォルはこの場にいる一番の戦力だ。探してきたということは、何かあったのだろうか。

 

 

「それはそうと、大変なんです! セーラ様がいらっしゃらないんですよ‼」

 

「セーラ? 今はメイアと一緒に、オメガ村のあたりまで出掛けているはずだが。エコも聞いただろ。」

 

「数日かかるとは言ってたけど、まだ予定の日にちを過ぎたわけじゃないし。そんなに慌てることないんじゃない?」

 

「予定については、私も聞きました。ですが、用事ができてしまいまして。お呼びしようとしたところ、ソフィさんとグラフさんが暇だからと行ってくださったんです。」

 

「じゃあいいじゃない。そんなに不安なわけ?」

 

「不安ですよ! お二人が出かけたのは3日前なんですから!」

 

「何?」

 

 

 その言葉に、ウォルは眉をしかめた。

 確かに、ここしばらく二人の姿を見かけなかった。しかしヴォイスに翻弄されたとはいえ、あの二人も手慣れだ。何か頼まれごとだろうし、問題ないだろうと思っていた.

 だが、目的地がオメガ村の周辺だというのならば話は別である。

 

 

「3日って、オメガ村よ!? 徒歩じゃなくてテレポで行ったのよね? 数時間もあれば、余裕で帰ってこれる場所じゃない!」

 

「だから心配なんですよ! また、何かあったんじゃないかって……!」

 

「あんたは探しに行ったのか。」

 

「いえ、私はまだ……。だって、私までいなくなったら貴方たちにお知らせできないじゃないですか!」

 

「それなら、もうちょっと早くに教えてほしかったんだけど……。まあ、ソフィたちに気付かなかった私たちにも問題があるわね。」

 

 

 エコーは首を振ると、ひゅるりと飛んでウォルの顔を覗き込む。

 

 

「それで?君はどうするの。」

 

「……ま、最近退屈してたんだ。面倒だが、丁度いい。行くぞ、エコー。準備はいいか。」

 

「そんなの、とっくにできてるっつーの! 君のことだから、また飛び出すことになるんだろうなーって思ってたのよね。」

 

「そりゃどーも。そういうわけだ、エコ。おれたちもオメガ村に向かう。あいつらを連れ戻すから、待っててくれ。」

 

「……わかりました。どうかお二人とも、ご無事でいてくださいね! セーラ様たちのこと、お願い致します。

 あ、でも私もただ待ってるわけにはいきませんから! オメガ村と離れた場所を探ってみますね。このあたりも安定してきましたし、遠征です、遠征! きっと、お助けできる人々もいるはずですから!」

 

「やる気だな。マーサリスは、俺たちがいないときのまとめ役を任せてるから……。イースやケイたちと相談してくれ。あいつらなら大丈夫だろ。」

 

「おっまかせください! それでは!」

 

 

 エコはそう元気よく答えると、光を残して消えていった。言葉のままに、イースたちの元へと飛んで行ったのだろう。

 

 

「それじゃ、おれたちも行くか。」

 

「そうね。オメガ村へ、れっつらごー♪」

 

 

 エコーはそう言って、腕を大きく振り上げる。ウォルも頷くと、テレポを発動させた。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 パラミティアの表面を繋ぐ翠の光で満ちた通り道。数えきれないほどのテレポで、見飽きた光景だ。ただ、最近は塔の近くで過ごしていたからか、ほんの少し懐かしい感じもする。

 

 

「それで、オメガ村についたらどうするの?」

 

「ひとまずは、村に行ってセーラたちがいないか確認する。聞きこんでもわからなければ、次はメイアのいた洞窟だな。パラミティアを何か所か回ると言っていたが、始めの行き先がそこだったはずだ。なにかしらの手がかりはあるだろ。」

 

「とりあえず、そんなところが妥当かしらね。その後に関しては、わかったことから考えればいいし。」

 

 

 エコーはそう言って、頷きかえす。

 

 

「それにしても、セーラたちって鍛錬してくるって出かけて行ったのよね?」

 

「それに加えて、折角なら塔の周辺に住まないかって勧誘だそうだ。ヴォイスが消えて、雑な物語を作る奴もいなくなった。ロール主義と自由主義の物語、は途中で打ち切られたらしいし……。おれたちが知らないだけで、無茶苦茶にされた奴らがいるんじゃないかってな。

 近頃は塔の整備で忙しかったが、久々に顔出しもかねて、村に帰る話だったはずだ。」

 

「じゃあ、君も久々の帰省ってわけね。ねえねえ、折角だし、お世話になった人たちにご挨拶を……。」

 

「待て。」

 

「何よ。ちょっとからかっただけ……。」

 

「声がする。」

 

「!」

 

 

 周囲に素早く視線を巡らせるウォルに気付き、エコーも辺りを見渡した。

 

 翠の光に、違和感は感じない。

 実体がない相手か。はたまた、隠れているだけなのか。

 

 

『…………け…。』

 

 

 そして呼吸音すら聞こえそうな静寂の中、二人は僅かながらも声を捕らえた。

 

 

「聞こえた! けど、声が小さい……!」

 

「おまけにノイズが酷いな。一体、何を言ってるんだか。」

 

 

 眉を顰めながらも、ウォルは耳をそばだてる。未だ誰かも分からぬ声は、先ほどから続いているようだ。そのどれもが内容を掴めないが、何かを伝えようとしているのは確からしい。

 

 

「あんた、誰なんだ。おれたちに何か用か?」

 

『………っ……! ……す、………!』

 

「………。エコー、わかるか。」

 

 

 先ほどよりも強くなったものの、やはりその内容はうかがい知れない。ウォルは匙を投げて、エコーに視線を向けた。

 

 

「ここまでひどいと、流石にちょっとね。何かしら……。助けを求めてる、とか?」

 

『! ……し……、た………‼』

 

「……当たりか?」

 

「どうする? どこの誰かは知らないけれど。この子のこと、助けであげる?」

 

 

 今までとまた違った反応に、ウォルは腕を組む。その様子を見かねて、エコーは声を掛けた。しかし、ウォルはすぐさま首を振る。

 

 

「断る。本当に、助けてほしいのかも分からないんだ。何を言っているのか分からないんじゃ、おれにはどうしようもない。そもそも、もし本当にそうだとしてうさんくさい。」

 

「うわ、即答。かわいそうだとは思わないの?」

 

「全く思わないな。」

 

「かわいげがないなあ。まあ、言いたいことはわかるけどね。姿も現さずに助けてほしいのなら、もっと具体的な情報をくれないと。」

 

 

 『声』に向かって、エコーは声を上げる。そうこうしているあいだに、テレポの出口が見え始めていた。

 

 

「ま、ついた先でそれらしい奴を見かけたら、助けることもあるかもしれない。一応、探してみるか。」

 

「随分遠回りな言い方ね。もっとハッキリ言ってあげたらいいのに。」

 

「会うかどうかもわからないからな。ほら、つくぞ。」

 

 

 ウォルがそう言うと同時に、目的地に着いたらしい。テレポの回廊を抜けて地面についたのを確認すると、ウォルはあたりを見渡した。

 

 

「さて。肝心のセーラたちだが、ど、こに………。」

 

 

 その途中で、ウォルの声が喉元から止まる。エコーはそれを見て揶揄おうと口を開きかけるも、ウォルと同じことに気が付いたらしい。その口を、そっと閉じた。

 

 

「………。ねえ。ちょっといい?」

 

「何だ。」

 

「……村って、まさかここのこと?」

 

 

 周囲をぎごちなく見つめた後、一点を見つめながら、恐る恐るエコーが尋ねる。そんなエコーに、若干声を強張らせながらもウォルが答えた。

 

 

「………。そんなわけないだろ。そもそも、村じゃない。」

 

「じゃあ、どこよ、ここ?」

 

 

 立ちすくむ二人の眼前には、見るからに大規模な街がその姿を見せていた。

 

 

 




進行上今後出るかわかりませんが、作中名前等が出てきた人々。


マーサリス:『希望の塔』に集まった人々のリーダーだった男。当小説では、ある程度ソフィやセーラたちも自由にしてもらいたいと、事件の後も塔の責任者的役割になっている。

エコ:エコー族の一人。残念なほどポンコツだが、旅後半ではそれなりに戦闘補助もこなしていた。実際ストーリー上で有能な動きもチラホラと。ポンコツさ故かエコー族(ヴォイス)の企みを聞かされておらず、終始セーラたちのために動いてくれた。
妨害されながら『破滅の戦士』を追う途中、ウォルが「頼りにしてるぞ、エコ」って言うシーンが好きです。

イース、ケイ:ウォルが滞在していた、オメガ村の自警団の二人。イースが魔導士で、ケイがレンジャー。ヴォイスの企みが忍び寄る前からイースはレインボーエレメントを送ってくれたりと結構優秀だった記憶。とはいえロール主義思想が入ってきた後の自警団三人は色々と凄いことになっていたので、潜在能力はどちらもなかなかだったと思う。元ブランクだったんじゃないかと思うんですが、どうなんだろうか。

ヴォイス:メビウスFFにおける黒幕。姿を持たず、声のみの存在。DFF等での光の戦士ボイスだが、本当に中の人同じですかレベルに胡散臭く耳に触る声だった。2部の最後、そしてバトルタワーイベント『ヴォイス・アンコール』を経てその戦いを終わらせることとなる。


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第2話 遭遇

「これは……。」

 

 

 僅かに呆然としながら、ウォルは辺りを見渡した。

 

 人が多い。あちらこちらで声が行き交い、活気に満ちているのが見て取れた。

 パラミティアにいて長いが、これほどまともに機能している『街』を見るのは初めてだった。『希望の塔』周辺部は整備され始めているとはいえ、未だこの街の足元にも及ばないだろう。様々な業種の店舗がそこここに存在し、物流もそれなりの規模らしいことが見て取れた。

 近くにあった店先に売られていたリンゴを手に取ってみる。色は鮮やかで瑞々しく、ずっしりと重い。籠に山盛りのそれらは、どれも同じ品質のようだ。

 

 

「よお、兄ちゃん。いいリンゴだろう? 安くしとくぜ。今なら200Jだ。」

 

「そうか。これで200……何?」

 

 

 店主の言った値段、正確にはその単位に気づくと、ウォルはリンゴから視線を上げた。

 

「200、ジュエル? ギルじゃなくて!?」

 

「………。これ、使えるか。」

 

 

 驚くエコーの横で、ウォルは財布からギルを取り出す。頬を一筋流れた汗は、気温のせいではないだろう。

 

 

「? こいつは……。まさか、帝国の通貨か? 悪いが、ここじゃ使えねえなあ。換金するなりしてくれなきゃあ。」

 

「嘘!? ギルが使えないって、どうなってんのよ!?」

 

「どうなってるのって言われてもな。使えないものは使えねえよ。冷やかしなら行った行った。」

 

 

 半ば呆然とするウォルとエコーを前に、店主は追い払うように手を振ると店の中へ戻っていった。

 声もなくそれを見届けると、息をつき、二人はちらりと視線を交えた。

 

 

「……どうするの? この後。」

 

「まさか、所持金が使えないとはな……。いったん戻ろう。一応最低限の物は持っているが、いつセーラたちが見つかるかも分からなかったから、仕入れる前提だ。」

 

 

 そう言って、ウォルはテレポを使用しようとする。しかし、一向に発動する気配はない。いくらやりなおそうと、テレポ特有の光が現れる兆しはなかった。

 

 

「どうしたのよ。早く、テレポ使ったら?」

 

「いや、待て。……テレポが使えないんだ。」

 

 

 眉根を寄せるウォルを、エコーは数回瞬きして見つめる。そうしてようやく意味を認識したのか、一拍遅れてエコーは大声を上げた。

 

 

「えっ、ええええっ!? ちょちょちょ、ちょっと‼ どうすんのよ! テレポが使えなかったら、セーラたちを見つけても塔に帰れないじゃない! ここがどこだか分からないのに、歩いて帰れって!?」

 

「参ったな……。エコー。テレポが使えなくなるような、そんな妨害の気配はあったか?」

 

「そんなの、なかったと思うけど。今までにテレポが使えなくなったことっていうと……。」

 

「初めてモーグリの里に行ったとき、カオスに妨害されたこと。それと『破滅の戦士』の騒動でおれがオメガ村に向かう途中、エコー族に妨害されたことくらいか。どちらも急を有する場面だったが。」

 

「流石に、今は急を有するってわけじゃないわよね。緊急事態ではあるけれど。一体どうなってるんだか……。」

 

「とにかく、そうだな」

 

 

 ウォルは、眉根を寄せて首を振る。

 ギルならば、今までの長い旅の中で有り余るほど手に入れている。しかし、使うことができないのであればゴミも同然だ。

 

 

「……。どうするか……。」

 

 

 ひとまず、今確かなことは。

 現在このリージョンにおいて、ウォルは無一文という事実だけだった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「ちょ、ちょっと! 街の方は暑かったのに、何よ、この山!」

 

 

 街を出て、歩くことしばらく。ウォルとエコーは、ハコベ山にたどり着いていた。あの後街で情報収集を進め、『バルカン』なる魔物がいると聞いた場所だ。

 ウォル達がたどり着いた街『マグノリア』は、その文明度が示すかのように、ある程度は金銭が物を言う場所のようだった。手持ちにジュエルとやらがない以上、手に入れるしかない。しかし、そう易々と見合った仕事があるとも思えないし、塔に戻って物資を入手することもできない。そのため、とりあえずパラミティアと同じ方法で手に入れようと考えたのだ。要するに、魔物が落とす金銭目当てである。

 

 しかし山道を上る途中で冷気を感じたと思えば、突如眼前に現れたのは猛吹雪の嵐。その光景に、ウォルは半ば呆然とその足を止めていた。

 

 

「テレポで渡ったわけでもないのに、この急激な変化……。さっき抜かされた馬車がやけに早く引き返してきたと思ったが、これが原因だったか。ま、パラミティアらしいといえばパラミティアらしい。」

 

「もう、こんなところにバルカンがいるわけ!? もっと過ごしやすいところにいろっつーの!」

 

 

 そう言いながらも、エコーは『ウインターエコー』の姿になっていた。帽子に掛けていたゴーグルも装着し、吹雪に向かって叫んでいる。流石のエコーにも、この猛吹雪は応えるということだろうか。

 

 

「同感だ。とはいえ、また街に戻るのもな……。さっさと探して、ジュエルが手に入れられるか確認するか。」

 

 

 立ち止まっていても、何かがわかるわけではない。

ウォルは視界確保のために、ゴーグルのついた『伝説を継ぎし王子』にジョブチェンジする。そして、意を決すると吹雪の中へ足を踏み出した。

 

 パラミティアでも豪雪地帯に足を踏み入れたことは何度かある。しかし、それらはあくまでも晴天下の雪山だ。この環境下では、その経験も気休めでしかないだろう。

 

 

「それにしても、ジュエルねえ。ギルと同じなら、魔物が落としてくれると思うんだけれど。」

 

「わからないのか。」

 

「わからないわよ。ミッドガルとか、ザナルカンドとか、パラミティアと別の世界が繋がったことは何度かあったけれど。どこも通貨がギルだったわ。モガマルたちに会ったときも、魔物が落とすお金はそうだったし。いくらなんでも、世界の仕組みそのものが変わってるなんて。」

 

「ヴォイスを倒したうえで、このリージョンが開いたからなのか。それとも、テレポの時に聞こえた声の持ち主が何かしたのか。いや、どこかに連れてこられた?」

 

 

 このような事態になってしまうなど、考えられるのはそのくらいしかない。それにしては、あの声から害意のようなものが感じられなかったのが気がかりではあるのだが。

 

 

「こんなことなら、もっとちゃんと聞いておけばよかったかもね。」

 

「ただでさえ聞き辛かったんだ。ずっとあの空間にいる訳にもいかないし、今言っても仕方ないだろ。

 なんにせよ、情報が足りなさすぎるな。セーラたちのこともある。金の問題が解決しようとしなかろうと、いろいろと考えないといけないか。」

 

「大変ねえ。お金の問題って。」

 

「全く、金に追われるなんて碌なものじゃない。」

 

 

 凍りつくため息にも辟易して、ウォルはとにかく歩を進めた。

 

 

「ともかく、このまま歩いてもバルカンの痕跡を探すのは無理だ。……あの岩壁のところでいったん休憩するぞ。」

 

「あーあ、こんなことなら来るんじゃなかった! あの岩壁のところに住んだりしてないかしら。」

 

 

 ぼやきながらも、二人はかすかに見えた岩壁の方へと進んでいく。そしてようやくたどり着くと、そこは岩壁が遮っているのか、比較的吹雪が流れ込まない場所だった。今まで来た道を振り返ると、既に雪で埋め尽くされている。

 ウォルは、帰りはテレポを使おうと心に決めかけ、使えないことを思い出す。僅かに首を振ると、今は考えないことにした。

 

 

「とりあえず、ここから探しましょうよ。バルカンだって生きてるんだから、それなりの環境下にいるはずでしょ?」

 

「そうだな。それなら……。」

 

「……ああああああっ‼」

 

「?」

 

 

 その時、吹雪の轟音に混じって、上空から声が響いてきた。何事かと見上げれば、青年が一人、まっすぐに落下してきている。

 

 

「な、うわっ!?」

 

 

 避けるか受け止めるか迷う時間よりも、青年が落下する方が早かったらしい。最低限の受け身はとったものの、ウォルは真正面から青年と激突した。足元がそれなりに真新しい雪だったおかげか、多少のクッション替わりになったのがせめてもの幸運だろうか。

 

 

「いっつつつ……。うおっ、人―――!?」

 

「いきなり落ちてきて、第一声がそれかよ……。」

 

 

 ウォルを下敷きにしていることに気付いたらしい。青年が慌てて退くと、ウォルはため息をつきながら立ち上がった。

 

 

「ちょっと、大丈夫?」

 

「なんとかな。」

 

 

 駆け寄るエコーにウォルはそう返す。その横で、青年はエコーをじっと見ていた。

 

 

「? なんだこいつ。虫?」

 

「ちょっと! かわいいかわいいエコー様に向かって、虫って何よ、虫って!」

 

「ここらにはこんな虫がいるのか。」

 

「人型の虫がいてたまるかっての!」

 

「ナツー! 大丈夫?」

 

 

 その時、上空から翼を生やしたネコが現れた。

 ウォルは一瞬驚くも、妖精のトンペリやサボテンダーを思い出す。大方、あれらと似たようなものだろう。ネコっぽいものならばケットシーもいたことだし。

 そう片付けると、青年とネコに向き直った。

 

 

「ハッピー! 大丈夫だ。」

 

「おれを下敷きにしたおかげでな。」

 

「悪かったって。それよりバルカンだ!」

 

「! あんた、バルカンを倒しに来たのか。」

 

「おう! ……ん? お前も?」

 

「一応な。」

 

「お金が稼げないかな? って思ってね。」

 

「ってことはお前ら、商売敵じゃねーか‼」

 

「バルカンの依頼は、オイラたち妖精の尻尾(フェアリーテイル)に来てたはずだよ?」

 

 

 ウォルの言葉に、青年――ナツは大声を上げた。それに補足するように、ハッピーも口を開く。

 

 

「フェアリーテイル? あんたのいる組織か。」

 

「おう! 俺たちは、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士だ!」

 

「その妖精の尻尾(フェアリーテイル)のルーシィが苦戦してるけどね。」

 

「やべっ、忘れてた! 行くぞ、ハッピー‼」

 

「あいさー!」

 

 

 ハッピーに言われ、ナツは焦った様子を見せた。そのまま、翼を羽ばたかせたハッピーと共に上空に戻っていく。

 それを見届けて、ウォルは静かに岩壁へと視線を向けた。

 

 

「フェアリーテイルか。村の名前、ってわけでもなさそうだな。折角、ここについて知っている奴らがいるんだ。おれたちも行くか。」

 

「賛成! それじゃあ早速、行くとしますか!」

 

 

 幸いにも、ナツたちの姿が見えなくなった岩肌の場所――恐らく、露出した洞窟があるのだろう――は見えた。そこまでの足場もいくつか見受けられる。唯一の懸念としては吹雪いていることだが、慎重にいけば問題ないだろう。

 ウォルは『竜騎士』にジョブチェンジすると、洞窟に向けてジャンプした。

 

 

 




 今後の投稿について、活動報告にお知らせがあります。ご一読ください。


伝説を継ぎし王子:星のドラゴンクエストとのコラボで実装された。ドラクエⅡのローレシアの王子スタイル。ジョブタイプはレンジャー系。風・土・光のエレメントが扱える。しかし初ジョブチェンジの先がコラボジョブって……。

竜騎士:槍を扱う初期ジョブ。ジョブタイプは戦士系。火・水・土のエレメントが扱える。本来ジャンプは必殺技ですが、当小説では必殺技の他に単に跳ぶ程度なら使えるということで。

ウインターエコー:華麗なトリックでゲレンデの妖精を気取ります。
スキーヤースタイルのエコー。ポンポン帽子にスキーゴーグル。


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