華に。 (柑れな)
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introduction

この小説は、LGBTQ+を扱った作品です。
筆者(以下、私)はトランスジェンダーのMTFを自称しています。
作中、GIDのことについて強い表現を使う場面もありますが差別的な意思はありません。
不快に思われないよう尽力しますが、不快に思われる可能性があることをご留意ください。


華に。‐Introduction‐

                

はじめに

 

性別。

 

男女の二種類があり、生まれたときにどちらか判別され、身体的性別と精神的性別が一致し、その性別で生きる。

世の中は性別ごとの「好み」なものを「その身体的特徴に合うように」作り、販売する。

これは普通で、多くの人にとって当然のことである。

 

しかし、その「当然」が地獄になる人も当然存在する。

ーー LGBTQ+、強いてはGID (性別違和)の人にとっては、全てが精神的なダメージになる。

 

服、ふるまい、顔、髪、買い物。電車ですら、すべて精神的に辛くなる要因である。

世の中が良かれと行うことも、みんな辛い。

 

そんな人も今は多様化の波に乗り、認められつつあるのは当事者にも非当事者にも明白だが

それでも、差別や意図しなくても風習による差別的な行動が未だたくさん残っている。

明らかに以前よりは生きやすい社会であるものの、それでもまだ自殺者も多い。

 

私もその一人だ。

 

違和感を覚えたたのは小学五年生のとき。

今では好きなものはゴシックやロリータ服。趣味はアクセサリー作り。

女児がそのまま大きくなったような、そんな人。でも体格は男。

外見について、努力はしているが普段着が未だ男服のため、見た目でGIDと判断されることは少ない。

親の理解も薄く、好きなように生きることができていない。

 

当然普通の同年代の人と同じような生活を送ることも大事だ。

このストレス社会では特にストレスが溜まりやすく、普通に生きてるだけでもしんどいものだと考える。

GID ひいてはLGBTQ+は、その観点でもストレスがたまる。自殺者が多いのも頷ける。

 

また、診断書の取得には親の同意または20歳以上の成人していることが条件となり、

一年以上カウンセリングに通い、その後ようやく取得できる。これがなくては戸籍変更も、性別適合手術(SRS,以前までは性転換手術とも)も叶わない。

しかし、体は待たない。ゆっくりしているとどんどん体つきが変わっていき、第二次性徴が終わる頃にはホルモン剤でもどうしようもなくなっている。

 

かかる費用だって尋常じゃない。カウンセリング費、ホルモン剤は一生涯摂取が必要、手術は安くて150万。正直、やすやすと手を出せる金額ではない。

でも、しないといけない。しないと生きていくことができない。普通に生まれていたら必要なかったであろう大金がかかってくるのである。それもまた、当事者を苦しめる要因の一つになっている。

 

と、ここまで並べてきたが、この文章でLGBTQ+、主にMTFについて十分に万人に理解されるとは思えない。

だが、非当事者の方々にも理解をする機会を持っていただきたい。

 

そこで、この小説を執筆するべく、普段持つ絵筆を置き、文字を書く筆を初めてながら持ったのである。

 

この小説は私の今までの人生・・・とは言えまだ少ないが、辛かった点を含め全てをオリジナルキャラに置き換え、

非当事者の人にも、少しでも理解されればと思い書いていく。

 

作品の骨組みやストーリーは私の今までの人生そのもの。

作中の人や土地の名前などは全てオリジナル。




文章力が乏しく、理解しにくい点や読みにくい点などが当然あると思います。
コメントなどで指摘をいただければ幸いです。

この小説で、すこしでもいろいろな方にLGBTQ+のことを知っていただければと思います。
不定期更新です。よろしくおねがいします。

                                   柑れな


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第1

この小説は、LGBTQ+を扱った作品です。
筆者(以下、私)はトランスジェンダーのMTFを自称しています。
作中、GIDのことについて強い表現を使う場面もありますが差別的な意思はありません。
不快に思われないよう尽力しますが、不快に思われる可能性があることをご留意ください。

小説本編第一話です。主人公、芽咲 零(めざき れい)の一人称視点ですが話し方は大人っぽくしています。


秋。

 

 葉した落ち葉が積もり、自然の香りが立ち込める。

涼しく、羽織を羽織る人々が増える。

 

 零は、傷のついた黒いランドセルを背負って、学校へ向かって歩いていた。

軍団登校。家の近い子で集まって小学校へ向かう。当然男女が混じる。

 

「赤のランドセルかわいいな」

「零もスカート履きたい」

 

 そんなこと、昔から思ってた。幼稚園の服だって、女の子のピンクの服もかわいいよね。着たかった。

でも零は男の子だから、水色の服、黒のランドセル。当然のこと。スカート履くことなんて恥ずかしいじゃん。

お母さんもそう言うし、きっとそうなんだろうなって。

 

 なにも不思議に思うことなく、生きてきた。きっとどんな人もお互いの性のこと、いいなって思うことあると思う。

男の子がスカート履いちゃいけないとか、女の子は胸出しちゃいけないとか。

みんなもう片方の性になりたいって思うだろうな。自分もこんなに昔から思うんだから。

 

  なんてこと思いながら、軍団の年下の男の子と会話をする。いや、会話というよりじゃれ合う。

その子は畠田晃輔(はただこうすけ)。やんちゃで、元気で、騒がしくて。いつも零に絡んでくる。

「この子もこんな性格だけど、でもきっと女の子になりたいとか思うんだろうな。」

って、その日は思ってた。こんなに元気で騒がしいけど、でも女の子になりたいって思うなんて。

そう考えてたら、思わず笑ってしまった。

「急に笑った!変なやつ!」

 また煽られてるな。でも小学生の零は、どんな人も異性になりたいって思うと思い込んでいるから、世界を知ったみたいで、おかしくて。面白かった。

 

「学校着いたらみんなに聞いてみよっ」

 

 今日の楽しみができた。今日も学校が楽しい。

 

 

 

 家から学校まで、歩いて25分くらい。軍団の友達と話してると一瞬だ。

零は小学五年生だから、校舎の4階。登るのは毎日大変だが、教室に入れば親友がいる。

毎日毎日そうして楽しみにして階段を上る。今日はすでに聞いてみたいことがある。普段より楽しみが大きい。

そして今日も教室の扉を空けて、いつもの背中を見つける。そして、僕は声をかける。

 

「よっ!!」

 

「なんだ芽咲か おはよ〜」

 

この親友は四弦 秀(しげん しゅう)。小学四年で知り合った、馬の合う友達。

いまはもう親友としてお互い信頼し合っている。勉強、スポーツなど、いろんなことが四弦の方が少し上手。

だからいろいろ手伝ってもらうことも多い。でも零も負けず嫌いだから、親友であり良きライバル。

 

「なんかあった?」

「実はさっき歩いてて思ったんだけどさー」

 

 零は早速、さっき至った話をすることにした。

 

「四弦も女の子になりたいって思うことあるでしょ?これ、零思ったんだけど世の中みん......」

 

「え?いやそもそもそんなこと思ったことないんだけど。」

 

「え?」

 

 零の中の何かが崩れる。

 

「まって、本当に?男の子のままで何も思わない?」

 

「逆にお前男嫌なの?オカマなの?」

 

 零は何も言えなかった。

 

 何か言うこともできなかった。今まで普通だと思っていたことが目の前で、こんなに信頼している親友によって。

___堂々と否定された。

 

 わからない。その後にも他の男の子に聞いて回った。おちゃらけて女の子になりたいとか言う人はいても、

女の子に憧れた人も、赤のランドセルにしたい人もいなかった。

逆に女の子も、男の子になりたいって子はいなかった。

 

『オカマなの?』

 

 その言葉が頭の中を駆け回る。ちょうどその時、テレビではオネェタレントが出てきた頃だった。

何も知らない零は、あまり良い印象を抱いていなかった。

自分はこれなのか?同じようになってしまうのか?

 

 四弦も、他の子もむしろお前がおかしいって反応だ。

変な人を見る視線。冷たい目。慣れているはずなのに、その日はひどく辛かった。

 

 その日は早退した。

 

 次の日になって、朝起き上がる。ベッドの上で、天井を見て落ち着いて考えてみる。

___でも、いくら考えても『わからない』。

 自分がおかしいのか?

 

 世の中普通に生きてる人、みんなもう片方の性別の人を見て憧れないの?

学校の男の子、赤のランドセルかわいいから使いたくない?スカート履きたくない?

 

 お母さんはどうなんだろう。聞かずにはいられなかった。でも帰ってきたのは

 

「男の子はかっこいいものが好きなんだよ。かわいいのが好きな男の子は少ないから。」

 

 そうなの?

 

 じゃあこの気持ちは?少ないの?おかしいの?だめなの?

疑問が山ほど浮かんだ。小学生の頭はパンクしてしまった。

 

「......いってきます。」

 

 その日の朝はだめだった。晃輔の声も頭に入ってこない。

でも零は単純だった。

学校について、長めの休み時間。

 

「芽咲ー!!ドッヂやんぞーーー!!!」

 

「......オッケー!」

 

 楽しかった。四弦といるだけで楽しいのに、他の子も一緒に遊んで。

 

「まあ悩むだけ意味ないな」

 

 子供ながらそう思った。

その後の零は、他の人が異性になりたいと思うかどうかとか、自分がおかしいとか、そんなこと考えることはなかった。考えるだけで嫌な気持ちになるし、しんどかったから。

でも、零の心の中にこの悩みは残り続ける。それは中学二年生の転機が訪れるまで、ずっと心の中で悩ませ続ける悩み。将来もっと大きくなる悩みの種だった。

 

 

 家に帰ると、朝考えていた悩みなんてどうでもよくなっていた。

その後は塾が待っている。零は別にそんなに頭は良くない。

 

 塾には、零がとても苦手にしている人がいる。

別に勉強もそんなにできない、苦手な人がいる塾に行くのが零は少し辛かった。

 

 「変なの。」

 

 未だ土もない。




第一話でした。
オカマなの?という言葉はこの後もキーワードとなりますが、MTFの方には様々ありますがとても刺さります。
もし身近にいたら、そう言った言葉をかけるのはお控えいただくと良いかな?と思います。
またわかりにくくなっていますが、この頃は自分のことを下の名前で読んでいました。
よってこの作品でも下で読んでいます。主人公の一人称の移り変わりもお楽しみいただければなと思います。

柑れな


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第2

この小説は、LGBTQ+を扱った作品です。
筆者(以下、私)はトランスジェンダーのMTFを自称しています。
作中、GIDのことについて強い表現を使う場面もありますが差別的な意思はありません。
不快に思われないよう尽力しますが、不快に思われる可能性があることをご留意ください。

二話です。小学五年生です。
習い事、塾についてのお話がメインです。


塾。

 

 小学生高学年のクラスに一人は行っているであろう。

零も塾に通っていた。どちらかというとしっかり勉強させて、テストを毎月するような、そんな塾だった。

正直なところ面倒くさいとしか思っていなかった。

勉強は苦手。めんどくさがり屋。飽き性。

 

 そもそもおそらく勉強して賢くなって生きるタイプではない。

もっとアートや運動など、個性を伸ばした仕事の方が向いている。

しかし当の本人は「行っておいた方がいいだろう」という曖昧な気持ちで行っていた。

 

 自転車を停め、塾の扉を開く。

入塾カードを切り、一限目の教室の席へ向かう。

毎月初日はクラス内での席替えがある。先生がランダムに振り分けるものだ。

ざわつく教室の黒板、貼り出された紙を見て落胆する。

 

 最悪だ。隣の席に「あいつ」がいる。

 

 「あいつ」というのは、零が塾内で最も嫌っている元気っ子。

 

「わッ隣芽咲かよやだな〜」

 

「山本......こっちから願い下げなんだけど。」

 

 山本 泰我(やまもと たいが)。普段から零のことを茶化してくる。

極力接触はしたくなかったが、隣となっては接触せざるを得ない。

こいつは茶化す時、零のことを「ちゃん」付けで呼んでくることがある。

それが一番頭にくる。普通にちゃんつけされて呼ばれるのは昔から嫌ではない。

むしろ君呼びより気持ちがいいまである。

が、こいつのちゃん呼びだけは嫌だ。神経を逆撫してくるような、そんな感覚になる。

今月は授業ギリギリにきてさっと帰ろう。そう心に決めた。

 

 今日もチャイムが鳴る。細身の塾長の歩幅の狭い足音が響く。

 

「はいやるよー席つきなー」

 

 一時間目は算数だ。この教科ほど得意でも不得意でもない微妙な教科はない。

図形は得意だが式の計算は苦手だ。図形問題はいつも好成績が残せる。

今月は図形をメインにした授業のようだ。今月の月例テストは楽だ、としか思っていなかった。

授業の内容もすぐに入ってくる。やはり自分は図形に向いているようだ。

図形系の仕事は何があるのだろうか?これだけで仕事を決めるのは安直な気もするが、決めたくなるほど図形問題が楽しいし、解くことができる。

 

 授業はすぐに終わった。授業中に宿題も終わらせることができた。次の塾までが楽だ。

その後は英語の授業が待っている。英語は正直しったこっちゃない。

得意苦手以前に知らない。わからない。だから授業もすぐ終わった。

 

 塾が終わるのは夜7時前だ。少しのこって、授業中に考えたことを先生に尋ねてみる。

「図形が得意な人が行く仕事とかあるんですかー?」

 

「おっ零は図形が得意だもんね。そうだな、モデラーってわかる?物をパソコンの中で作る仕事なんだけど、そういう仕事とか、物づくりが向いてるかもね。」

 

 物づくりの仕事。少しだがイメージはある。

しかし当の本人は本当に聞いてみただけで何も考えていなかった。

 

 そろそろ帰ろう。荷物を前カゴに乗せ、自転車に乗る。

わざとゆっくり目に漕ぐ。山本に絡む時間を極限まで減らすためだ。

家の方向は違えど、途中まで同じ道を通る。なるべく避けたかった。

普段はそれで避けているが、この日はそうともいかなかった。

 

「遅いじゃん何話してたん??」

 

 __絡まれてしまった。あぁ面倒くさい。

道からちょっと外れたところで他の知らない生徒と話をしていたようだ。

見つかってしまった。ここで逃げると追いかけてくるのを知っている。諦めよう。

 

「こいつはおねぇだから可愛い物大好きなんだよ。ねー零ちゃん!」

 

「は......? 」

 

 訳のわからない煽りとも侮辱ともいえない言葉をかけられる。

こういう発言が一番腹が立つ。しかも紹介するかのような言い方だ。

その知らない生徒と関わるのは別に構わないが、訳のわからない第一印象を山本によってつけられるのは心の底から嫌だった。

 

「あぁ〜ごめん別におねぇではないです。芽咲です。この人嫌なのでバイバイ。」

 

 捨て台詞のように吐いてそのまますぐに急いで帰った。

普段から山本にはおねぇと呼ばれる。零は、その言葉が差別をする言葉にしか思えなかった。

帰りに山本に絡まれると家についてから食べる夕飯がおいしくなくなってしまう。

母と祖母に申し訳なくなってしまう。全く持って山本は零にとっての害にしかならない。

 

 その日はロールキャベツだった。家族手作りのロールキャベツはとても美味しい。

......おいしいことに違いはないのだが、帰り際のアレのせいで美味しいものも美味しくなくなってしまう。

 

「帰り本当に気をつけて帰ろ....」

 

 改めてそう思った。

 

 

 翌日だ。今日も学校がある。ランドセルに教科書類を詰め込む。

今日は半日で帰ることができる。いつになっても帰りが早い日は素晴らしい。朝から気持ちがいい。

意気揚々と家を飛び出し、軍団集合場所へ歩く。とはいえ、別に遠くはない。

集合時間の少し前に到着する。メンバーのうち半数ぐらいが集まっている。

朝の関門、晃輔を乗り越えればあとは今日一日楽だ。

 

「おはよう。」

 

「よう。」

 

 年は下だが、こちらを下に見ているとしか思えない挨拶だ。初めのうちはどうかと思っていたが、もう慣れた。

今日はしりとりをしながら登校するようだ。もはや恒例まである。

この登校中に行うしりとりは、心理戦だ。

大人もやるように、「その語で始まる文字が少ない語」をどれだけだせるか。

これにかかっていた。

「む」「ぷ」「り」などがよく挙がる。「プッチンカップ」など、同じ言葉でおわる言葉は強い。

この逆転もできる言葉をいつ使うか。いつしか朝の心理戦になっていた。まぁ、今までうやむやになって勝ち負けをはっきりさせて終わったことはないのだが。

 

 この日もどちらの勝ちということはなく、普通に学校に着いた。

こうしてしりとりをする日は自然と煽られることも、イライラすることもない。気分がいい登校になる。

 

 また四階分階段を上る。夏は汗が吹き出してくる。いまだにクーラーはなく、扇風機しかない為毎朝扇風機の前はたくさんの生徒が集まり、首振りに合わせてかに歩きをする。毎朝の恒例行事だ。

 

 しばらくして、授業が始まった。算数の授業だ。

昨日の塾とは違い、数式の授業だ。嫌だ。

よくわからないのでノートに落書きをする。プラスやマイナスの記号を3Dっぽく描いてみた。

あまりよくわからないが、こういうことをするのがものづくりなのだろうか?

いつの間にか授業は終わっていた。

 

 二限目。国語だ。教科書の物語の感想文をノートに書き、隣の人と見せ合う、という授業だ。

特に何も考えず、思い立ったまま書き連ね、先生の言う通り隣の女の子と交換した。

その渡されたノートを見た時、声が出なかった。

 

 __字が、綺麗だった。

その時まで自分の字が綺麗とか汚いとか気にしたことなどなかったが、こんな字になりたいと思った。

本来は感想文についての話し合いをする時間だが、気が気ではなかった。

綺麗な字は可愛くて可愛くて仕方がなかった。

 

「ねぇねぇ字めっちゃ綺麗じゃない??」

 

「なんか雑誌に載ってた!小さく書くと綺麗に見えるらしいよ〜」

 

 そう聞いて以降、字が小さくなった。

10ミリ方眼のノートのマス目の中央に、3ミリくらいの文字を書く。

小さく書くだけで一気に綺麗に見える。味をしめ、可愛く見せたいという意思だけで書いていた。

当然読みにくい。だから先生からも字を大きくしましょう、といった注意が来ていた。

零は、それでも小さく文字を書くことに拘っていた。

 

 徐々に「可愛い」を、身の回りに意図的に求め始めていた。

それまで、「男の子はかっこいい物」「女の子は可愛い物」という「世の中が定義しているイメージ」に従って物を買ってもらって言われるがまま使っていた。

しかし文字を変え始めてから、男の子だからかっこいい物を使うというイメージに疑問を持ち始めた。

男の子が可愛い物を使う、女の子がかっこいい物を使うのはそこまでおかしいだろうか?

「他の子は欲しがらない」「普通はそうだから」という理由だけで認められないのだろうか。

軽くではあるが、そんなことを思った。

 

 

 しばらくして、クラス内では「プロフィール帳」というものが流行り始めた。

インターネットが身近になく、そういったコミュニティもなかったため、とても気になるものだった。

ある時、クラスの女の子が書いてくれ、とプロフィール帳を持ってきた。

血液型や誕生日、好きなものなどを書いていくことでクラスみんなのプロフィールが集まる。

今の時代でもあるのかはわからないが、使いようによっては大問題になりそうだ。

 

 例の如く、そのプロフィール帳もとても可愛いものだった。

ラメがひかり、デフォルメされ可愛くなったキャラクターがいて、カラフルにデザインされている。

もちろん可愛いものに目覚めた零が気にならないわけがない。

クラス中のたくさんの女の子が、みんな違うデザインのプロフィール帳を持っていた。

書いて、と渡されるたびに、小さい文字でデコってデコって可愛くして返す。

当然、渡されて想定外のイメージにギョッとする女の子もいた。それでも毎回可愛くして返した

 

いつの日か、親に欲しいとせがんだ。しかし、

 

「これ女の子向けじゃん。変な目で見られるよ?」

 

 そう言って買ってもらえなかった。

ただの買わない理由付けかもしれないが、いわゆる「性別イメージ」で様々な物を否定されることが増えてきた。

 

 冬が近づく。

零の学校では、毎年作品展と学芸会が交互に行われる。

今年は作品展のようで、学校では図画工作の時間が増えてきている。

図画工作も例の如く苦手ではないが、何も考えずに作り始めるからできがパッとしないものが多かった。

今年は紙粘土で何かを作るらしい。

立体造形はそこまで得意ではないが、頑張るしかないのだろう。

 

この時、すでに零はこう思うようになっていた。

 

「自分はおかしいんだ。」

 

 種が撒かれる。




第二話でした。
山本君はいい意味でも悪い意味でも自分に影響を与えた存在です。
今後もちまちま中学卒業までは出てきてくれると信じています。
また皆様はプロフィール帳をご存知でしょうか?クラス内でとても流行っていて、人気な先生からもらえるとレアだとか、この先生は書いてくれないなど様々あった覚えがあります。
持ってる人も本自体もキラキラして見えていました。

少しずつ性差に違和感と疑問、不愉快さを感じるようになります。
次は作品展のお話です。
柑れな


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