【本編完結】魔法少女リリカルなのは~Eine noch von Buch der Dunkelheit Geschichte~ (鈴木颯手)
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本編【始まりにして終わりの物語】
第一話「プロローグ」
僕の姉八神はやては足が動かない。お世話になっている病院の先生にも原因は分からないそうだ。だから姉ちゃんは何時も車椅子を使っている。そんな姉ちゃんが乗る車椅子を押すのは僕の仕事でとても楽しい。
僕たちに両親はいない。遠い親戚の人が毎月たくさんのお金を振り込んでくれてそれを使って生活している。親として必要な書類などはお世話してくれている病院の石田先生がやってくれている。
「なぁ姉ちゃん」
「どうしたんや?優斗?」
「僕たちのお父さんとお母さんってさ、どんな人なんだろうな……」
「……そうやなぁ、明るい人とか?」
「姉ちゃんに似ておっぱい好きだったりして」
「むー!私は別に中年のおっさんみたいな趣味は持ってません!」
「いやそれ中年男性に失礼だろ」
姉ちゃんはこうやって暗い話になるといつも明るい話題にしてくれる。時々おふざけが入るのもご愛嬌という奴かな。
でも、姉ちゃんは影では胸の苦しみに耐えている。偶に胸に激痛が走るようでその度に僕は救急車を呼ぶか石田先生に連絡を取っている。前は月に一度あれば多いと思っていたけど最近は週に一度の間隔で襲われている。
そんな苦しんでいる姉ちゃんを僕はただ、見ている事しか出来なかった。せめて、姉ちゃんを守れる力があれば……。姉ちゃんの苦しんでいる姿を見る度に僕はそう思っていた。
【……】
「もしもし。海鳴大学病院の石田です。ええと……明日ははやてちゃんのお誕生日よね?明日の検査のあと、お食事でもどうかなと思って電話しました。明日、病院に来る前にでもお返事くれたらうれしいな。よろしくね」
図書館からの帰り道信号待ちをしていたら姉ちゃんが留守電を聞き始めた。さっきバスに乗っていた時にかかってきた電話の留守電らしい。相手は石田先生で内容はお食事の誘いだった。
「良かったじゃん、受けたらどう?」
「そうやね……」
僕は姉ちゃんにそう言ったが姉ちゃんは暗い表情で呟いただけだった。恐らく石田先生の好意に嬉しい気持ちと両親がいない悲しみが襲って来たんだろう。姉ちゃんは自分の誕生日とか特別な行事の時には決まって落ち込む。いくら僕や石田先生が慰めても変わらない。だから僕は慰める事を止めた。
代わりに、
「ていっ!」
「!?」
僕は車椅子の後ろから姉ちゃんの胸を揉む。……ふむ、まだ硬さの方が勝っているか。
「な、な、何すんねん!ドアホー!」
「ふげっ!?」
姉ちゃんの硬い胸を堪能していたら頭突きをお見舞いされてしまい僕は後ろに倒れる。姉ちゃんは顔を赤くして胸の前で両腕を交差させてこちらを睨んでくる。
「い、痛いよ姉ちゃん……」
「優斗が馬鹿なことをするせいやろ。ふふっ」
そう言って姉ちゃんは軽く笑う。……やっぱり姉ちゃんは笑っていた方が何倍も良い。いや、暗い顔なんて似合わないよ。
「ほら、いつまでも倒れてないで車椅子を押してな。出ないと置いていくで」
「む、姉ちゃんの車椅子を押すのは僕の役目なんだぞ!姉ちゃんはただ座っていてくれればいいんだ!」
「なら早く早く」
僕は鼻を押さえつつ急かしてくる姉ちゃんが乗る車椅子を押す。確かな重みを感じつつ力を入れれば簡単に車椅子は動き出し横断歩道へと身をさらす。この時間帯は車の通りもなく例え赤で渡っても問題ないと思わせるほどに。
ふと、車のエンジン音が聞こえてくる。トラックかな?と思い右を見ればこちらに向かって猛スピードで向かってくるトラックの姿があった。運転席を見てみれば下を向いてる。典型的な居眠り運転だ。問題なのは僕たちは巻き込まれそうになっている事。
トラックは既に目の前まで迫ってきている。逃げられない。僕はとっさに姉ちゃんを抱きし僕の背中をトラックに向ける。せめて姉ちゃんだけでも!そう思い目をつぶった僕を真っ白い光が包み込んだ。
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第二話「覚醒」
何時まで経っても僕を襲う筈の衝撃が来ない。感じる間もなく意識を失ったのか?だが目を閉じていても抱きしめている姉ちゃんの温もりは伝わって来る。
不思議に思い目を開けてみれば一面には僕たちが住む海鳴市の姿があった。僕たちは高層ビル並みの高さにいたのだ。もし、高所恐怖症なら一瞬で気絶しそうな高さ。そうでなくてもこんな高度にいること自体怖い。それも不思議な魔法陣?の様な物の上にいれば。
魔法陣の様な物はよく見る円形ではなく三角形だった。角の部分には小さな丸が付いており魔法陣は全体的に白く輝いていた。
「な、なにこれ……」
異常に気付いた姉ちゃんも辺りを見回している。その瞳には困惑と恐怖が映っている。ふと、上空から紫の光が落ちてくる。そちらを覗けば姉ちゃんがいつも抱えている鎖の付いた本が浮いていた。本は生物の様に脈動を繰り返しながら僕たちの方にゆっくりと落ちてくる。僕は明らかな異常事態に姉ちゃんを抱きしめる。姉ちゃんも僕の体に手を回しつつ本の方に視線を向けている。
ある程度の高さまで降りて来た時、本に巻き付いていた鎖に罅が入り砕け散った。本はひとりでに捲られていく。そのページのどれもが空白で染み一つ付いていない。まるで何も書かずに本としたような異質さであった。
『
「えっ……」
「!?」
機械的な声が聞こえてきたかと思うと捲られ終えた本はひとりでに閉じゆっくりと下りてくる。そして僕たちの視線と同じ高さまで降りるとその位置で停止した。僕は姉ちゃんを後ろに押し僕が前へと出る。
『Anfang(起動)』
そう言うと本は黒く輝きだし僕の視界を奪った。しかし、直ぐに光は消えてしまった。
「闇の書の起動を確認しました」
「え?」
「誰だ!?」
先ほどとは違う声が聞こえてきた。右を向けばそこには年上の女性が膝をつき頭を垂れていた。ピンクの髪をポニーテールで結んだ女性は何とも言えない服装だった。
「我ら、闇の書の蒐集を行い主を守る守護騎士にてございます」
「あっ、ああっ……」
「夜天の主のもとに集いし雲」
「ヴォルケンリッター」
と、ここで姉ちゃんはキャパオーバーを迎えたのか後方へと倒れ気絶した。僕は気絶した姉ちゃんを庇うようにして四人に話しかける。
「お前たちは……誰だ?」
「……そう言うお前こそ何者だ?我が主を庇うような姿勢を見せているが」
「(我が主?姉ちゃんの事か?)僕の姉ちゃんだ」
「成程、失礼いたしました。我らは闇の書の主に仕える騎士でございます」
代表者なのかピンク髪の女性が説明する。少なくとも悪い人達ではなさそうだな。今のところは。
「……詳しい話は姉ちゃんが起きてからにしてくれ。先ずは姉ちゃんを家まで送らないと」
「それなら我らにお任せください。ザフィーラ」
「心得た」
ピンク髪の女性の指示に従い唯一の男であるザフィーラ?という人が姉ちゃんを抱える。本当は僕が運びたいけど流石に無理だからな。
【……】
「えーと……。この子は古い異世界の……、ベルカってとこの魔法の本で名前は闇の書。皆はその守護騎士」
「はい」
「で、姉ちゃんがその主になったと?」
「ええ」
結局、姉ちゃんが起きたのは朝日が昇ってからだった。その間僕はずっと起きていて守護騎士たちを監視していた。幸い何か怪しい動きを見せず僕の警戒にも理解を示していた。そして姉ちゃんが目覚めたため説明が行われたんだけど……。正直半信半疑だ。異世界、魔法……まるでラノベに出てきそうな内容ばかりだ。これを疑いもせずに信じる姉ちゃんも姉ちゃんだが。
その姉ちゃんは先ほどから部屋のタンスを開けては何かを探している。僕は部屋の端で膝をつき頭を垂れる守護騎士が何か不穏な動きをしても直ぐに動けるように立っている。……んだけど正直徹夜したせいで眠気が凄い事になっている。話もほとんど入ってこないし。これ寝ても良いかな?
「これまでの日々や覚醒の際闇の書の声を聞かれませんでしたか?」
ピンク髪の女性、守護騎士の将シグナムはその様な質問をする。因みにピンク髪の女性がシグナム、金髪の巨乳美女がシャマル、唯一の男がザフィーラ、同年代っぽい赤髪ロリータがヴィータっていうらしい。
「(今何か酷い事を言われたような……)」
「(なんか胸の事を言われたような……)」
「うーん……、そんな夢を見たような見てないような……。あ、あったあった」
「覚えてないという事はきょにゅーではなかったんじゃないか?姉ちゃん胸でかい人一瞬だけでもずっと覚えているし」
「そうなんかな~?というか優斗何気に失礼な事言うてるで」
「(主は胸の大きい女性が好きなのか)」
「(歳の割には意外な趣味ね)」
「(……巨乳、かぁ)」
「私はなぁ?巨乳が好きなんじゃなく触り心地がいい胸がすきなんや。そこを間違えられては困るで」
「(……主は触り心地の良い胸が好きなのか)」
「(そっち方面で求められたりしないよね?わ、私知識しかないし……)」
「(……胸、かぁ)」
何か話が脱線しつつある気がするけどこれも仕方ない。何もかも女なのに胸が大好きな姉ちゃんのせいだ。多分。
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第三話「日常」
「話を戻すけど要は私は闇の書の主として、守護騎士みんなの衣食住きっちり面倒見なあかんゆうことや」
「「「「「えっ……?」」」」」
「幸い住むとこはあるし料理は得意や。後はお洋服」
その後姉ちゃんによる採寸が行われた。因みに姉ちゃんはシグナムとシャマルを、僕がヴィータとザフィーラの採寸をする事になったんだけど……。案の定姉ちゃんは鼻息荒くしながら明らかにシグナムやシャマルの胸を揉んでいた。それも何度も。シグナムたちは困惑しつつ主だから抵抗できず成すがままとなっている。それをヴィータは自分の胸を押さえながら見ている。……これが格差社会か。
「ほら、姉ちゃんこっちは終わったよ。早くしてくれよ」
「くっ!なんて胸や……!ここまで揉み心地がいいなんて……!」
「あ、主。そこは……アンッ!」
……どうやら姉ちゃんはスイッチが入ったようで本格的に揉み始めた。こうなると姉ちゃんが満足するまで止まる事はない。まぁ、強制的に止める方法はあるけどね。
「えい」
「ひゃあっ!?」
昨日の様に胸を揉めば姉ちゃんの動きは止まる。……ふむ、相も変わらぬ断崖絶壁。これで姉ちゃんは現実に戻って来れるわけだけど問題が一つ。
「何すんねん!馬鹿弟がぁ!」
「ぶふぉっ!?」
このように顔を真っ赤にした姉ちゃんに報復を受ける事だ。八割の確率で顎をターゲットにしたアッパー。残り二割をそれぞれボディブローと頭突きが占めている。その為昨日の頭突きは大変レアなのだ。対して嬉しくないけど。
「(……何なんだ今度の主とその弟は)」
倒れ込む瞬間に困惑とドン引きをしているヴィータの姿が目に移ったが僕はそのまま意識をシャットアウトした。正直眠かったしこのまま寝ちゃおうかな。
【……】
僕が目を覚ましたのは夕暮れ時だった。どうやらあの後採寸を終えて服を買いに行ったらしい。その後に病院に定期診察もいったとか。守護騎士も付いてきた為石田先生には遠い親戚が面倒見にやってきたと言ったらしい。まぁ、異世界からやってきた魔法の本とそれに付随する守護騎士なんてファンタジーな事実よりも怪しい嘘の方が信じられるだろうしね。
「主はやては仰られた。『みんなで一緒に、静かに暮らしていけたらそれでいい』と」
「姉ちゃんらしいな」
夜、姉ちゃんとヴィータが一緒にお風呂に入っている間に僕はシグナムと話をした。正直まだ信じられてないから少しでも相手を知るためには必要な事だからな。そして先ほどの言葉を聞いた。姉ちゃんらしい。それが感想だ。姉ちゃんは他者を傷つけてまで力が欲しいとは思っていない。むしろ、誰かと一緒に暮らすという事の方が願っている。お風呂に向かう姉ちゃんの表情は久しぶりに見る心の底からの笑顔だった。
……ふと、僕だったらどうしていただろうかと思い浮かべる。姉ちゃんの様に守護騎士を家族として迎え入れただろうか?力を手に入れるために蒐集をさせていただろうか?分からない。ただ、力を手に入れたなら姉ちゃんを守るために使う事だけは間違いない。姉ちゃんを悲しませないための力。何でも叶えられるなら僕はそれを真っ先に選ぶ。
【……ホントウニソウナノ?】
「っ!?」
「どうされました?」
「……いや、何でもない。です」
今の声は一体……?気のせいか?
「ふぅ、いいお湯だった。あ、優斗も入ってきたらどうや?今から晩御飯の支度するから」
「んじゃ入ろうかな。ザフィーラも一緒にどう?」
「ご同行します」
「んもう、もう少しフレンドリーに話してくれてエエのに」
「申し訳ありません。主」
話していて気付いたことだがシグナムとザフィーラはかなり口調が硬い。まさに騎士という感じだ。一方でシャマルやヴィータは親しみやすい性格をしている。ヴィータなんて妹が出来たみたいだしな。
お風呂に入った後晩御飯を食べた。予想通りと言っていいのか守護騎士たちは箸を使ったことがなく姉ちゃんに教わりながら使っていた。シャマルが煮物のジャガイモを上手く使えず何度も宙に飛ぶ姿は何となく笑えたしヴィータが姉ちゃんのご飯の美味さにかき込んで食べた時なんて皆で笑った。因みにザフィーラは狼になれるらしく一人犬用のご飯入れで食べていた。それでいいのか?
そんな感じで何とも濃い一日を過ごしたけど姉ちゃんは覚えている限りで一番いい笑顔を見せていた。
ああ、本当に……
グチャグチャニシタイナァ
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第四話「歪む日常」
「「騎士甲冑?」」
「はい、我らは武器を持っていますが甲冑は主に賜らなければなりません」
「自分の魔力で作りますから、形状をイメージしてくれれば……」
守護騎士たちの出会いから濃い一日を終えた次の日。僕と姉ちゃんは図書館に来ていた。守護騎士たちの甲冑の形状を決めるために参考資料になりそうな本を借りるためだ。お伴としてシグナムとシャマルが付いてきた。ザフィーラは家でお留守番だ。流石狼。
「そっか……。せやけど私は皆を戦わせたりせえへんから……、服でエエか?騎士らしい服」
「ええ、構いません」
「となるとあっちの方にそれらしい本纏めてあったような……」
「ならそこに向けてレッツゴー!」
「任せて!」
僕は注意されない程度にスピードを上げて向かう。そんな僕たちを微笑ましく見守るシャマルとシグナム。え?ヴィータは何処だって?向こうで絵本を読んでいるよ。明らかにヴィータより幼い外見の子供と一緒にだけどね。
次に向かったのは玩具店だ。ここならそれっぽいものがありそうだしね。途中ヴィータが一つのぬいぐるみに夢中になり姉ちゃんがひそかに購入して帰り道であげてたりしたな。
「そう言えば守護騎士たちの中では僕の立ち位置ってどうなっているの?」
「ええと、命令権などはないですけどそれとは関係なくはやてちゃんの弟なので」
「主はやての命令が優先ですがある程度の範囲ながら聞こうと思っています」
「流石にはやて以上に優先はしないけどな」
「それだけでも十分だよ。特に命令したい事なんてないんだし」
それこそ命令する時は姉ちゃんが危険に陥った時くらいだろう。ないとは思うけどね。
そして守護騎士たちと過ごす三度目の夜がやってきた。姉ちゃんはシグナムに抱えられてバルコニーに出て行った。僕は狼状態のザフィーラのお腹を背もたれにヴィータと一緒にゲームをしている。赤と緑の双子が出演するレースゲームだ。
「ヴィータ!勝った方が自分のアイスを上げるっていうのはどうだ?」
「よっしゃ!その勝負受けて立つ!」
「えぇ、ヴィータちゃんあれだけ食べてまだ食べるの……?」
「うるせーな、育ち盛りなんだよ!はやてのご飯はギガうまだしな!」
「……エターナルロリータ(ボソッ」
「な、なんだとぉ!このやろー!」
「ちょ、ちょっと落ち着いてヴィータちゃん!」
「(……できれば腹部で暴れないでほしいんだが)」
これは束の間の日常。何も知らずにいられた時の幸せの一コマ。そして、二度と訪れる事のない思い出の時間……。
【…a…】
「じゃぁ、はやてちゃんと優斗くん。先生シグナムさんたちとちょっとお話があるから」
「はい」
「分かりました」
「ヴィータちゃんも待っててね」
「は~い!」
今日は姉ちゃんの定期健診の日。何時もなら姉ちゃんや僕が聞くけどシグナムとシャマルがいるからか僕たちは待機となった。ヴィータも残ったのは万が一の護衛と見た目のせいだろうな。
「優斗、お前たまに失礼な事考えたり行ってきたりするよな?」
「そんな事はないよ。ただ、事実を思ってるだけで」
「それが失礼だって言ってるんだろーが!」
「まあまぁ、二人とも落ち着いて」
「ガルルルルッ!」
「ほらほら落ち着けこうよ。お手」
「あたしは犬じゃねぇー!」
「ヴィ、ヴィータ落ち着いて……」
「……すみませんが病院内では静かにお願いします」
「「「あっ、すみません(でした)」」」
「あ、戻ってきたみたいだよ」
「おかえりー、シグナムにシャマル」
「は、はいはやてちゃん」
石田先生から話を聞いてきた二人の表情は若干ではあったが暗かった。……明らかに何かあったと思われる。流石に姉ちゃんも前では平静を保っていたけど。
「えっと、はやてちゃん。申し訳ないんですが先に帰っていてもらえますか?少し、みんなで話したいことがあるので」
「ん?そりゃ構わんけど……」
シャマルからの言葉に姉ちゃんは俺の方を見る。……石田先生から聞いた話を守護騎士内で共有するのだろうか?それなら僕たちは邪魔になるだろうし後で聞けば問題ないか。
「いいんじゃない?守護騎士として何かあるんだろうし」
「そっか……そうやね。皆気を付けて帰って来るんやで?」
「はい、はやてちゃん」
僕たちを見送る守護騎士たち。姉ちゃんに何があったのか見当もつかないけど願わくば穏やかに暮らせますように。
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第五話「変わり果てた日常」
あの日から守護騎士たちは出かけるようになった。シグナムとザフィーラは周辺の散策。ヴィータは町内会のゲートボールの参加。シャマルはお買い物等……。
明らかに何かを隠している。姉ちゃんもそれを薄々気付いているが特に何も言わずにいる。
あの日も四人は帰って来るのが遅く待っていられず僕たちは寝てしまった。起きた時には帰ってきており石田先生の話を聞いたがはぐらかされてしまった。
そして、守護騎士たちとの出会いから約半年。12月を迎えた。この頃になると守護騎士のうち最低でも二人が朝から晩まで出かけているのが普通になっていた。
何をしているのか、最近では何となく分かるようになった。何故、出かけるようになったのかも。僕は悲しかった。それを教えてくれない守護騎士に、何も出来ない自分に。
「ど、どうしたんですか優斗くん……?」
僕は空き部屋の一室にシャマルを連れてきた。姉ちゃんは「まさか!男女の関係!?」などふざけていたが僕はそれに答えずに無理やり連れてきた。
「……闇の書の蒐集を、しているんですよね?」
「っ!?」
目を見開いて驚くシャマルに当たって欲しくない考えが当たってしまったと悲しみを覚える。僕の考えは実際にはちがく守護騎士たちは夜遅くまでただ出かけているだけと思いたかった。だけど、それももうできないみたいだ。
「な、何を言っているんですか?そんなことは……」
「姉ちゃんは望んでいない。それは分かる。僕も望んでいないし」
「だったら……」
「きっかけは少し前の定期健診」
「っ!」
「恐らく姉ちゃんの状態を聞かされた時が発端だと思う。あの日から守護騎士たちは出かけるようになったから」
あれだけ姉ちゃんを第一に考えていた守護騎士たちが、ヴィータやシャマルはともかくシグナムやザフィーラまで出かけるのは可笑しかった。
「恐らく何らかの理由から蒐集せざるを得ない状況になり止む無く蒐集している。……違う?」
「……」
シャマルは観念したように俯く。
……ああ、やっぱりそうなんだな。
「……事実を教えてくれ」
「それは……っ!」
「もうここまで知ったんだ。だから、中途半端じゃなく完全に知りたい。姉ちゃんは、生きていられるのか?」
「……はやてちゃんは今闇の書によって浸食されています」
シャマルが話し始めた真実は想像を超えていた。闇の書の独立防衛システムの異常、抑圧された強大な魔力は未成熟な姉ちゃんの体を蝕み静かに、しかし確実に闇の書の呪いに殺されつつあるという。それを止める方法は一つだけ。姉ちゃんを完全な闇の書の主にする事。そうすれば最低でも進行は止まり命の危険はなくなるらしい。
「……タイムリミットは?」
「……最高でも、数年以内」
「っ!」
つまり姉ちゃんは、何もしなければ成人すら迎えられないって事なのかよ……!
【……!】
何で姉ちゃんばっかり!こんな目に遭わなければいけないんだよ!
【……い!】
他人を糧にしなければ生きていられないなんて……!
【や…ばっ…ルい!】
代われるなら代わりたい!守護騎士の手伝いが出来るなら手伝いたい!
【闇…ばっかり…ルい!】
ああ、何でこんなに
【闇の書ばっかりズルい!】
姉ちゃんが苦しまなければいけないんだよ!
【ボクモネエチャンヲコワシタイ!】
「っ!?」
「?優斗くん?」
僕は今何を思った?誰が?誰を?何をしたいと?
「優斗くん!?優斗くん!?」
僕は、僕は!ネエチャンヲ……!
「優斗くん!」
「っ!?」
突然、シャマルの声が聞こえてきた。前を向けば心配そうにこちらを見ているシャマルの姿があった。
「大丈夫?突然顔が青くなったけど……」
「……大丈夫、です。少し、姉ちゃんの今後を考えて……」
「……大丈夫よ!必ず私たちが蒐集を終わらせてはやてちゃんを助けて見せる!だから、心配しないで」
「……はい。姉ちゃんを、お願いします」
僕の手を取り安心させるために力強く言うシャマルに僕はか細く答えた。
さっきのは、夢?気のせいなのか?……なんか、前にもこんなことがあった気がする。何時だったかな?全然覚えてないや。まだ夕方だけどなんか疲れちゃった……。今日はもう、寝ようかな。
【…a…Vorbereitung】
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第六話「二度と戻らぬ愛おしい日常」
姉ちゃんが倒れた。朝、起きると同時に胸に激痛が走ったらしい。倒れる音で気付いたシグナムたちによって病院まで運ばれた。幸い軽いショックだけで済んだが検査の為に入院する事になったらしい。
そして、何故かは知らないけど僕にも異常が出てきた。姉ちゃんに比べれば大したことではないんだけど睡眠時間が異様に長くなった。最近では夕方からお昼過ぎまで眠ったままになっている。大体一日の20時間は眠っているのだ。幸か不幸かそれ以外の異常はなく精々体が少し重く感じる程度だ。
シグナムたちも姉ちゃんが入院したせいか家にはほとんど戻って来なくなった。何でも姉ちゃんが入院したため今まで以上に遠くの場所まで蒐集に向かっているんだとか。因みにシャマルから聞いた日の翌日にシグナムたちにも話したため情報を共有している。その過程で、人からも蒐集したことを知った。特に12月に入ってから僕たちと同じ年頃の少女二人から蒐集したらしい。この街にも守護騎士たちの様な者がいたんだなと聞いた時は驚いたよ。ただ、守護騎士とは違い彼らは魔導師と呼ばれる者らしい。魔力を使い様々な事をするのは変わりないそうだが。
僕は蒐集に立候補した。あるかどうか分からないが僕からも蒐集出来るなら喜んで差し出すと言った。残念ながら魔力の源リンカーコアがないのか蒐集は出来なかった。すごく悲しかった。姉ちゃんの為に何か役に立ちたいと思っていたのに……。
「優斗くんははやてちゃんと一緒に日常を送っていてくれれば大丈夫ですよ。流石にはやてちゃんの弟に無理はさせられないですから」
シャマルはそう言うが何気ない日常を送っている間にもシグナムたちが頑張っている事を考えればとても知らんぷりで過ごせるわけがない。せめて、魔力さえあれば……!最近ではそう思う毎日を過ごしている。
ああ、神さま。どうか姉ちゃんが幸せに暮らせるようにしてください。その為なら、僕はなんだって投げだす事が出来ます。どうか、どうか!
【Ba…p…Vorbereitung】
「姉ちゃんの友達?」
「そう、覚えてない?前に図書館であった……」
「……ああ!月村さんか!」
「そう!すずかちゃんがね、お見舞いに来てくれることになってな」
「そうなのか!良かったじゃん」
クリスマスが後数日に迫る中久しぶりに良い話を聞いた。何でも姉ちゃんの友達、月村すずかさんがお見舞いに来てくれることになったらしい。そしてその日の夕方から夜にかけて姉ちゃんの外出許可が出たため皆で外食をする事になった。姉ちゃんが死に近づく中での久しぶりの良い話だ。
「それでな、優斗は何を食べたい?」
「いや、そこは姉ちゃんが選べよ。この外食だって姉ちゃんの為のものなんだしさ」
「そうやねんけど……、何を食べようか中々決まらなくてなぁ」
「……成程、姉ちゃんはきょにゅーを揉みたいんだな?」
「いや、誰もそんなこと言うとらんよ」
「うっそだー!顔にかいてあるもん!」
「何やて!?バレてもうた!」
「……」
「……」
「「ぷっ、ハハハハハ!」」
ああ、早くクリスマスにならないかな。久しぶりに皆揃って食べるご飯が楽しみだ。蒐集を始めてからというもの守護騎士が帰って来るのが夜遅い時もあってみんな揃って中々食べられなかったからな。しかし月村さんの友達って……女子だよね?何か想像しただけで気まずくなるな。おのれザフィーラ!何で唯一同性のお前は犬なんだよ!こんどのご飯はドックフードにしてやる!
「……っ!」
「どうしたザフィーラ?」
「いや、何やらよからぬ気配が……」
「!局の魔導師か!?」
「そう言う気配ではなく、何やら俺の尊厳の問題が……」
「?訳の分からない事を言うな。今はもっと蒐集を行わねば」
「……そうだな」
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第七話「最後の日・Ⅰ」
クリスマス当日を迎えた。今日に限って起床は何時もより早く10時前には起きる事が出来た。これならお昼を食べたらすぐに行けるな。姉ちゃんに渡すためのクリスマスプレゼントは用意したし守護騎士たち用のも準備万端。後は例のアレも勢い余って買っちゃったけど問題ないだろう。
「姉ちゃんおはよー!」
「あ、優斗。今日は随分と早いなぁ」
「今日は何でか早起きできたからな」
病室に入ると姉ちゃんはいつも通りベッドの上から出迎えてくれた。ただ、今日は小さなクリスマスツリーが飾ってあった。きっと石田先生の計らいだろう。
「姉ちゃん、メリークリスマス!」
「ふふ、ありがとう」
「それからクリスマスプレゼント!」
「わぁ!気になっていた新作の小説やないか!おおきにな」
「本当はシグナムたちもそろってからの方がいいのかもしれないけど小説だしある程度は読んでいた方が良いかなって思ってさ」
「ありがとう、うちは何も用意できなかったのに……」
「何言ってんだよ。姉ちゃんは入院患者何だし当たり前だろ?……まぁ、どうしてもって言うなら一つだけお願いを聞いてほしいかな」
「なんや?うちに出来る事なら何でも言ってくれてええで」
少し嬉しそうにしている姉ちゃんに僕は深呼吸して答えた。
「では、胸をもm」
「アウト!」
姉ちゃんはプレゼントであげた本の背表紙で僕の頭を叩く。段々容赦なくなってきたな。今までの中で一番痛いや。
その後も何気ない話をしたり小説をよんだりして時間を潰していると
コンコン
扉をノックする音が病室に響いた。時計を見れば16:50となっている。どうやらシグナムたちより先に姉ちゃんの友達が来たようだな。
「はーい」
「はやてちゃん、こんばんは!」
「「「こんばんは~」」」
入って来たのは月村さん含めて四人。制服を着ているという事は学校帰りなのかな?……あれ?クリスマスまで授業あんの?え?
「優斗くんもこんばんは」
「こんばんは、月村さん。それと友達の皆さん」
「ああっ、いらっしゃい」
月村さんたちを見た姉ちゃんは嬉しそうにしている。……けど、恐れていた事態になった。本当に気まずい!男が!他に!誰もいない!
「具合、どう?」
「うん……、退屈で別の病気になりそうや」
「ふふ、あ。紹介するね」
月村さんはそう言うと友達を紹介していく。
「高町なのはです」
「フェイト・テスタロッサです」
「八神はやてです。で、こっちが」
「弟の八神優斗です。今日はこんな姉ちゃんなんかの為にわざわざありがとうございます」
「こら、こんなって何や、こんなって」
「ふふ」
「アハハ!」
そんなこんなで自己紹介は終わった月村さんたちはお見舞いの花とクリスマスプレゼントを用意してくれたが幸いプレゼントが被る事はなかった。……小説ではあったけど。
というか本当に気まずい。女の園って奴かな?僕としてはお暇したいけど抜け出す理由が見つからない。
ふと、フェイトさんが姉ちゃんの脇に置いてある闇の書を見て表情を硬くした。……まさかね?
コンコン
「あ、皆来たかな。どうぞ」
「失礼します」
「「こんばんは~」」
「ああ……、すずかちゃん、アリサちゃん。こんばん……」
「「「「「っ!?」」」」」
入って来たシグナムたちと高町さん、フェイトさんが固まる。……ああ、そう言う事なのか。前にシグナムたちが蒐集したこの街の少女はこの二人なのか。
それに気づいたヴィータは一目散に姉ちゃんの所まで向かい手を広げて守る様な姿勢を取る。というか唸っている。
「こ~ら、ヴィータ!」
「うっ!」
「お見舞いに来てくれたみんなにどうゆう対応や」
「あれじゃないか?姉ちゃんが取られるとでも思ったんじゃない?」
「アハハ!ヴィータもまだまだ子供やな~」
「うぅ~!」
僕の咄嗟のフォローに姉ちゃんは笑っている。……どうやら誤魔化せはしたようだ。
しかし……。偶然にも程があるだろ。蒐集を行っている守護騎士とそれを追いかける魔導師……。しかも姉ちゃんの友達の友達なんて……。
「念話が使えない?通信妨害を……」
「シャマルはバックアップの要だ。この距離なら造作もない」
「あの、何もしないからそんなに睨まないで……」
「睨んでねーです!」
「こら、ヴィータ。そんな態度はあかんよ!」
「んー!」
「ヴィータ犬っぽいし本能で何か察したんじゃいない?」
「んー!」
「あー、確かにあり得るかもな」
「んんー!」
何やらほっぺをつままれているヴィータが何か言いたそうにしているが姉ちゃんにつままれているため言えていない。一方でフェイトさんはシグナムに許可を貰ってお見舞いを続行する事になった。しかし、こんな時に言う事でもないけどこの男女比率を誰か何とかしてくれ……。
【
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第八話「最後の日・Ⅱ」
「じゃぁねー!」
「バイバイ!」
病院の前で僕たちは月村さんとアリサさんを見送る。ただ、高町さんとフェイトさんは帰らなかった。当たり前か。敵が目の前にいるのにわざわざ帰る訳ないしシグナムたちが返すわけがない。
「……優斗、お前は主の下に。直ぐに戻る」
「……分かった」
「あ……!」
僕はシグナムの言葉に従い姉ちゃんの病室に向かう。通い慣れたエントランスを抜けエレベーターに乗ると一息ついた。あの場では姉ちゃんや何も知らないであろう月村さんたちがいたから耐えたけどあの場の空気がとても重かった。しかも事情を知るもののみ感じる重みだ。正直な話月村さんたちが来た時の気まずさとは比べ物にならなかった。
「……高町さんたち、どうなるんだろう」
少なくともただで返すわけがない。それだけは分かる。とは言えこのままではまずい。姉ちゃんには悪いけど外食は中止して逃げ出す準備をするべきかもしれない。このままじゃ姉ちゃんに危害が及ぶかも知れないから。
【
「……え?」
気付けば僕はエレベーターではなく暗い場所にいた。周りを見渡しても真っ暗。辛うじて広い空間という事だけは分かる。そしてその空間に浮いている事も。
「これは一体……」
【
っ!?何、これ?遺伝子?作成?記憶?何、だよこれぇ。
頭の中に入って来る、いや今まで記憶から忘れていた者が一斉に出てきたような感覚。膨大な量の知識。そしてこれは……人?守護騎士に……これは誰だ?何で守護騎士に暴力を、罵声を浴びせる?誰だお前は!……あ、まさか前回の?
リンカーコア全てを蒐集して殺し、集めていく。効率よく、魔力をたくさん保有している人間を。
完成?暴走?まるで異次元の様な空間?浸食、失敗。一人の犠牲で終わり?うぅ、駄目だ、頭が……!
【
う、ぁ?
【
止まっ、た?痛みは消えたし脳を侵食するような記憶の濁流もない。どうやら完全に落ち着いたみたいだな。
それにしても、ここは一体何処なのか……。恐らく闇の書関連という事は分かるけど。
取り合えず呼び掛けてみるか。
「誰か!誰かいないか!?」
【
すると、目の前に闇の書が現れた。しかし、何かが可笑しい。まるで別の物の様な……。いや、今はそれどころじゃない。
「ここから出してくれないか?」
【……
多少予想はしていたけどそれもそうか。ならせめて外の様子を見られないか……。
「……外の様子は見られるか?」
【……
闇の書が返答すると脇に鏡の様な物が現れる。そこにはシグナムたちと高町さんの姿がある。どうやら戦っている最中のようだ。……あれが、シグナムたちの騎士甲冑か。初めて見たな。
場面が切り替わる。どうやらヴィータと高町さんの戦いのようだ。ヴィータが巨大な球を生成し高町さんにぶつけている。高町さんはそれをピンク色の壁の様な物を作り防ぐが完全には防げなかったようで地面まで押されていた。しかし、大したダメージは喰らっていないようで直ぐにヴィータを拘束して砲撃を見舞った。明らかなオーバーキル。素人の僕でも分かる高町さんの砲撃の威力。……流石にヴィータでも負傷は免れないだろうなぁ。
そう思ったがヴィータは無傷だった。正確には突然現れた闇の書が防いだのだが。横を見れば先ほどまでいた闇の書がいない。
闇の書はヴィータを守ると周囲をヘビの様な物で完全に覆われた。下からはペンデュラムの様な物がぶら下がっている。
『|Das Anwendungssystem fur automatische Verteidigung”Nachtwal” last an《自己防衛運用システム〈ナハトヴァール〉起動》』
「待て!今は違う!我らはまだ戦える!」
起動したナハトヴァール?というものにシグナムが話しかける。ああ、そんなもの
「こいつ……。そうだ、こいつがいたから」
『
|Vollendung der Schrift der Dunkelheit hat die oberste Prioritat.《闇の書ストレージの完成を最優先》
ナハトヴァールの言葉にその場にいる全員が驚いている。高町さんやフェイトさんが驚くのは理解できるが守護騎士まで驚いている。流石に予想出来るはずなのに……。
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第九話「最後の日・Ⅲ」
「ふざ……けん……な」
ナハトヴァールの言葉に何かを思いだしたと思われるヴィータがぶつぶつ何かを呟く。
「ふざけんなぁっ!」
ヴィータは怒りのままに武器を振りかざし突撃するがナハトヴァールから飛び出た一匹のヘビに防がれヴィータが持っていた武器は砕け散った。
「ヴィータちゃん!」
『|Die Krafte des Feindes wegschaffen, den Kern aus den Sammlungsobjekten sammeln.《敵対勢力排除、蒐集対象より、コアの蒐集》』
ナハトヴァールがそう言うと守護騎士と高町さん、フェイトさんが黒いリングにより拘束される。リングから逃れようと力を入れたりもがいたりするも全く効果はなくナハトヴァールの前に寄せられた。
『
シグナム、シャマル、ヴィータのリンカーコアが露出しナハトヴァールによって蒐集が開始される。……ああ、表情からでも分かる苦痛が走っているのだろう。見ているだけで痛みが伝わって来る。ふ、ふふ。アハハ!ネエチャンモアンナカオヲスルノカナ?
「でやああっ!」
すると何処から現れたのか、家で留守番をしているはずのザフィーラがナハトヴァールへと殴り掛かる。しかし、ナハトヴァール障壁を展開する事で傷一つ付かず代わりに攻撃したザフィーラは拳から血が出ていた。よほどあの障壁は硬いのだろう。
『
瞬間、ザフィーラのリンカーコアも露出し蒐集の準備が完了するが構うことなく攻撃を続行する。
『
しかしそれも無意味に終わり結局ザフィーラは障壁を破る事が出来ずに無様にリンカーコアから魔力を蒐集された。ザフィーラは力尽きたのか狼の姿に戻ってしまった。
ナハトヴァールは次に高町さんたちを近くのビルの狭間に拘束する。これは既にリンカーコアから魔力を奪い取ったため必要ないと判断したためであろう。そして守護騎士たちは生えてきた茨に拘束されていく。リンカーコアを取られた影響か全員意識を失っていた。
全ての準備が終わったのだろう、屋上に魔法陣が形成されそこに姉ちゃんが召喚された。姉ちゃんは苦しそうに俯いているが目の前の状況を知り目を見開いている。姉ちゃんにしたらこの状況は訳が分からないだろうな。何も知らずただ苦しみに耐えているだけなのだから。守護騎士が行ってきたことも、自身の現状も何も知らない。憐れで愛しい僕の姉ちゃん。
『
ナハトヴァールは姉ちゃんの前まで行くとそう言って闇の書を落とす。闇の書は最初に開かれた時の様に勝手にページが捲られていく。ただ、あの時と違うのはページは全て埋まっている事と僕がこの黒い空間で覗いている事だ。
『
「なんや……、それ。あんた……、誰?」
『
「そんなんええねん!シグナムたちに何した、皆を降ろして!返して!」
『……
そう言うとナハトヴァールは再び上昇する。見るからに姉ちゃんの言う通りにはならないだろう。そんなのが通用するなら守護騎士たちから強制的にリンカーコアを蒐集したりしないだろうからな。
『
|und wird mit dem Kernmodus fur meinen Herrn wiederhergestellt《コアモードで主に還元します》』
「あかん、ちゃう……。そんなんちゃう!」
案の定ナハトヴァールは明らかに姉ちゃんの願いとは真逆といっていい事を言い出した。恐らく姉ちゃんが覚醒を拒否したから強制的に覚醒させようとしているんだろう。姉ちゃんはナハトヴァールの言葉を聞き必死に否定する。しかし、そんな言葉が通じるなら最初からこんな事にはなっていない。姉ちゃんの言葉も空しくツタが守護騎士たちに向けられる。先端は鋭い。あれで刺されれば簡単に絶命するだろう。彼らはシステムだから死とは違うだろうけどな。
「あかん……」
姉ちゃんはその場から動けず言葉で止める事しか出来ない。
「やめて」
姉ちゃんの目に涙が溜まる。
「やめて」
ツタがググ、と後ろに少し動く。
「やめてぇぇぇ!」
『
世は残酷だ。姉ちゃんの叫びも空しく守護騎士の体をツタが貫いた。
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第十話「最後の日・Ⅳ」
守護騎士たちは吸収されるように存在を消していった。それを目の前で見せられた姉ちゃんの顔は絶望で歪む。
『
姉ちゃんの事なんかお構いなしにナハトヴァールはそう言う。すると姉ちゃんの足元に魔法陣が現れる。姉ちゃんはあまりの出来事に守護騎士たちがいた場所を見て固まっている。
それにしても……。姉ちゃんの絶望した顔はとても良かった!訳も分からず屋上に召喚され目の前で
……は、はは。なんだよ……、これじゃまるで僕はやばい人じゃんか。何でこんな事思ってるんだろう。
そんな風に思っていると姉ちゃんは黒い渦に飲み込まれていた。中の様子は見えないが明らかに何かが起きている事だけは分かる。
そして直ぐに渦は破裂しあたりに爆風を飛ばす。……どうやら拘束から抜け出した高町さんたちが救援に駆け付けようとしていたみたいだけど一歩遅かったようだ。二人とも爆風が直撃している。
闇が晴れその中心部にいたのは銀髪の女性だった。先ほどまで姉ちゃんがいたはずなのに……。これは……管制ユニット?ユニゾン?
「また……、全てが終わってしまった……」
その管制ユニットは涙を流しながら絶望しきった声で呟く。まるで何もかもを諦めた、そんな感じが伝わって来る。見ているだけで悲しくなるような女性だった。
「我は魔導書。我が力の全ては……」
『Diaboli emission』
そう言うと管制ユニットは右手を天にかざす。それに反応して闇の書が輝きだす。
管制ユニットの右手より黒い雷を帯びる球体が現れる。それは毎秒ごとに大きくなり圧倒いう間に屋上の面積を超えた。
「忌まわしき敵を、うち砕くために!」
これは空間攻撃か?……というよりもう頭から浮かんでくるこの謎の情報には突っ込む余力もない。多分闇の書が言っていた封印と関係あるのだろうがそれよりもこっちだ。
「闇に、沈め」
管制ユニットがそう呟くと球体は一気に収縮し先ほどの何倍もの威力と面積で解き放たれた。それはある程度離れた場所にいた高町さんたちにも届くほどだ。流石は闇の書と言った所、か?こんな攻撃が出来るなんて思わなかった。
「自動防衛、一時停止。これよりしばしは我が主をお守りする」
先ほどの空間攻撃、ディアボリック・エミッションを放った管制ユニットは涙を拭うとナハトヴァールに命令する。……どうやら、まだ管制ユニットの方が権限を有しているみたいだ。
「ナハト。ただの防衛プログラムであるお前を責めはしない。全ては、私に責がある」
そう言うと管制ユニットはナハトヴァールを無造作につかむ。ナハトヴァールは管制ユニットの左腕に巻き付きパイルバンカーとなった。
「せめて、あと少し大人しくしていろ。……我が主、どうかしばし。私の中でお休みください」
そして、映像はそこで一旦途切れた。
……闇の書、いやナハトヴァールは僕にこれを見せて何をさせたいのか。
【|Ihr Ziel ist es, meinen Herrn zu unterstützen.《あなたの存在意義は我が主のバックアップです》】
ふと、僕の考えに答えるように後ろから声が聞こえてきた。後ろを振り向けばそこには先ほどまで映像に移っていたナハトヴァールがいた。どうやらここは管制ユニットの中らしい。違うかもしれないけど。
それにしても……バックアップ?要は代替え品って事か?
【
……姉ちゃんは闇の書の主として完全に覚醒した。なら僕は解放されてもいいんじゃないか?
【……
?僕にまだ何かを求めるのか?
【|Sie sind das beste Meisterwerk, das Sie jemals gesichert haben. Speichern Sie es wie es für den nächsten Herrn ist.《貴方は今までのバックアップの中で一番の傑作品です。次の主の候補としてこのまま保存します》】
何だよそれ。まるで僕を作ったみたいな言い方……
【
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第十一話「最後の日・Ⅴ」
「は、はは……。なんだよ、それ……」
僕はナハトヴァールの言葉が信じられなかった。僕は作られた存在?
【|Bis jetzt waren die Verwandten des Herrn auf Unterstützung ausgerichtet《これまでは主の血縁者がバックアップ対象となっていましたが》
|Diesmal beschloss der Herr, es künstlich zu erschaffen, weil er keine Verwandten hatte.《今回の主は血縁者が一人もいなかったため人工的に作成する事になりました》】
ナハトヴァールは僕の驚きを気にする事なく淡々と言い続ける。
【|Es wurde geschaffen, indem die Informationen von Nachtwal hauptsächlich über das Gen dieser Zeit aufgenommen wurden《今回の主の遺伝子を中心にナハトヴァールの情報を組み込んで作成しました》】
「つまり……僕は、姉ちゃんのクローンてことなのか?」
【
ふと、この空間が揺れる。それと何度も。どうやら外で何か起きているみたいだけど今の僕はそれどころじゃない。ナハトヴァールから与えられた情報があまりにも大きすぎた。
「……僕は、姉ちゃんの代替え品でしかなかったという訳か。もし、姉ちゃんが何もなく闇の書の主として覚醒していれば」
【
つまりどちらにしろ姉ちゃんとはもう二度と一緒には生きられないという事か。姉ちゃんが主になれば僕は用済みとして処分され僕が生き残る時は姉ちゃんが死んだ時という事だ。
これから先姉ちゃんたちと一緒に暮らせる事はない。姉ちゃんの笑顔も、悲しそうな顔も恥ずかしくしている顔も見ることができない。
僕は揺れる空間の中で膝から崩れ落ちてナハトヴァールに問う。
「……僕は、いつ処分されるんだ?」
先ほどの映像から姉ちゃんは闇の書の主として完全な覚醒を果たした。後は管制ユニットぁらナハトヴァールにと権限が移り世界を滅ぼすだけ。もう、僕は必要ない。
【……
|Wir gehen von der schlechtesten und aufgeschobenen Entsorgung aus《最悪を想定し処分は見送りとします》】
どうやら外では誰かが戦っているみたいだ。こんな化け物を相手に……。そう言えば高町さんたちがいたな。彼女達が戦っているのかな。
【
揺れが酷くなる。今までの中で一番激しい揺れだ。
「一体何が……?」
【
「え?」
それはつまり姉ちゃんはナハトヴァールの呪縛から逃れられという事か?なら、後は僕がここから出る事さえ出来ればまた姉ちゃんと一緒に暮らせる……!
『ホントウハネエチャンヲコワシタイクセニ』
ふと、何処からともなく声が聞こえてくる。その声は僕の声で言ってくる。
『ネエチャンヲコワシタインデショ?』
「そんな訳ない!」
『ホントウニ?ネエチャンガクルシンデイルノヲミテワラッテイタノニ?』
「笑ってない!僕は!姉ちゃんと!姉ちゃん、と……!」
『ミトメヨウヨスベテガラクニナルヨ?ソレニドウセナハトヴァールトヒトツニナルンダカラ』
「それってどういう……」
そこまで言った時ナハトヴァールが目の前までやって来る。
【
瞬間僕の胸に激痛が走る。そして同時に感じる違和感。これは……リンカーコア?何で、僕にはないはずなのに……。
【
瞬間、黒いヘビたちが僕に向かって口を開き襲いかかってきた。
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第十二話「姉弟喧嘩・Ⅰ」
「嘘……」
その瞬間、八神はやては持っていた杖を落としそうになる。
夜天の書の主として覚醒した八神はやてはナハトヴァールによって削除された守護騎士プログラムを再起動しシグナルたち守護騎士を復活させた。自身も管制ユニット、リインフォースとのユニゾンを果たし守護騎士たちとの再会を喜んだ。
そして現場に到着した管理局の魔導師クロノ・ハラオウンの説明により現状を把握し皆で闇の書の闇、ナハトヴァールの破壊を行おうとしていた。
しかし、海上の歪みから現れたのはナハトヴァールの暴走体ではなく八神はやての弟優斗であった。優斗は力なく座り込み俯いているため顔までは分からないが長年共に過ごしてきたはやてには一目で見抜いていた。
「あれは……、人、なのか?」
「皆気を付けろ!例え何であろうと作戦は続行する!」
「優斗!」
「はやてちゃん!?」
「はやて!」
「主!?」
困惑するなのは達にクロノはそう呼びかけるがそれに気付かずはやてが独断で優斗の下に向かってしまう。それに気づいたなのは達が追いかける。
「フェイトちゃん!はやてちゃん優斗って……」
「病院であったあの……!」
「ど、どういう事!?なのはとフェイトは彼を知っているのか!?」
なのはとフェイトははやての病室で出会った優斗を思いだす。女子ばかりの空間に居づらさを感じていた彼。はやてと話す姿はとても楽しげであった事が思いだされる。
しかし、優斗を知っているのはこの場では姉であるはやてとなのは、フェイトそれに守護騎士たちしかいない。彼を知らないユーノがなのは達に問いかける。
「う、うん。はやてちゃんの弟で」
「しかし!優斗は闇の書とは何も関係ないはず!我らの行いにも一切加担していないはずだ……!」
「なのにどうして……」
守護騎士たちも困惑する中はやては優斗の前までやってきて肩を掴む。
「優斗!優斗!しっかりして!」
「……ぅ」
「っ優斗!」
「姉、ちゃん……?」
「そうだよ!優斗のおねえちゃんのはやてだよ!」
「……は、はは。本当に姉ちゃんがいる」
優斗はまるではやてがいるのが信じられないというようにか細く答える。はやてを追ってやってきたなのは達も状況が分からず二人を見ている事しか出来ない。
「優斗……、何でナハトヴァールから……」
「……姉ちゃん」
「!どうしたんや!」
「姉ちゃんは、
「当たり前やろ!弟を嫌いになる姉なんかおるか!」
「……そっか。良かった」
そう言うと優斗は立膝になりはやてによりかかる。突然の事に驚くもはやてはそれを受け入れ抱きしめた。
「……姉ちゃん」
「なんや?」
「……ゴメンネ」
瞬間、その場に居る誰もが理解できなかった。
姉と弟の再会。その場面のはずだったのに、はやての腹部には、真っ赤に染まる腕が生えていた。
「優、斗?」
「……」
はやては血を吐きながら優斗に問いかける。優斗は俯き腕を引き抜く。はやての腹部には巨大な穴が開きそこから大量の血が流れ出る。優斗ははやてから離れ後方に下がる。はやてはその場に倒れ込んだ。
「主!」
「はやてちゃん!」
なのは達は急いではやての下に向かう。支援魔法が得意なユーノとシャマルが手当てを行いなのは達はその様子を見る事しか出来なかった。誰もがはやてに視線が行く中一人、クロノだけはデュランダルを優斗に構え警戒する。
「お前、はやての弟じゃないのか!何で、こんな事を……!」
「……ふ、ふふ」
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!ヒヒ!ハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
優斗は狂ったように笑う。ひたすらに笑う。突然の事に誰もが優斗を見る。そして気付く。優斗は、辛そうにしているはやてを見て楽しそうに笑っていた。その瞳は黒く淀んでいた。
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第十三話「姉弟喧嘩・Ⅱ」
「優斗……、なんで……」
はやては傷の影響で苦しみながら優斗に問いかける。はやての目には守護騎士たちが目の前で消去された時の様な絶望が浮かんでいた。
「何で?そんなの決まってるじゃないか」
優斗は血で真っ赤に染まった右手を舐めながら答える。
「
そう言う優斗の口角は自然と上がっていた。はやてたちは優斗の言葉に嘘が含まれていない事を察する。それだけに優斗の行いは信じられなかった。
「……ヴィータちゃん、優斗くんで普段から?」
「んなわけねーだろ!優斗はこんなこと言わねぇ!きっと!きっと!ナハトヴァールのせいで……!」
「おいおい、現実は正しく受け止めようぜ。俺は確かにナハトヴァールによって変えられた。姉ちゃんやその中の管制ユニットが戦っている時にいろいろと聞いたしな」
「一体何を……!」
「俺の存在自体がナハトヴァールによって生み出されたとか俺が姉ちゃんのクローンだとか、俺は姉ちゃんが死んだ時用の代替え品って言う事とかな」
「なっ!」
その事実にクロノたちは固まる。それが本当なら目の前の少年はあまりにも不幸すぎる。普通の人間ですらないのだから。
「でも、そんなのはどうでもいい。姉ちゃんがナハトヴァールと分離した今ナハトヴァールは俺と融合した」
「そんな!」
「ナハトヴァールは分離した事で俺を主と定めた。つまり、姉ちゃんが夜天の書の主なら俺は、闇の書の主になったという事だな」
「……優斗」
そこへある程度の治療を終えたはやてが声をかける。はやてはシャマルの治療により傷は塞がったが失った血の影響で立ち上がる事が困難となっていた。
「なんで……、こんな事に」
「……姉ちゃんは何も悪くないよ。全てはナハトヴァールのせいだ。だけど不思議だよな」
そう言うと優斗は手をかざす。瞬間、黒い球体が発生しはやてに向かって放たれる。
「おかげで俺は本当の想いに気付く事が出来た。そしてそれを成せるだけの力が手に入った」
球体はなのはのシールドによって防がれ爆発を起こす。その隙をついて優斗は更に後方へと下がり次の攻撃を繰り出す。
「さぁ、始ての姉弟喧嘩と行こうか。姉ちゃん!」
はやてたちに向かって極太の魔力砲が放たれた。
「まさか、ナハトヴァールがそんな事をしていたなんて……」
宇宙空間に浮かぶ管理局の船アースラに乗るリンディ・ハラオウンは悔しげにつぶやく。艦橋のモニターには魔力砲を避け散らばるなのは達の姿があった。負傷したはやてはシャマルとユーノに支えられて後方へと退避している。
「艦長!もし彼がナハトヴァールと融合しているなら……!」
「……残念ですが今からでは取り外す事は不可能でしょう」
いくらはやての弟だからといって見逃す事は出来ない。現段階で暴走は起きていないがいつ起きるとも限らない。直ぐにでも倒す必要があった。
「エイミィ、アルカンシェルは何時でも撃てるように準備」
「はい!」
「クロノやなのはさんには……、酷だけどナハトヴァールの破壊を優先させて(優斗さん、ごめんなさい)」
リンディ・ハラオウンは心の中で優斗に謝罪しながら管理局の一員として、世界を守る方針を取るのであった。
「シュート!」
優斗の魔力砲を避けたなのは間髪入れずに反撃を開始する。はやての弟という事で多少の抵抗はあったが今は落ち着かせる必要があると判断したためである。
なのはから放たれたアクセルシューター六発はそれぞれ別々の起動を描きながら四方八方より優斗に襲いかかる。
しかしそれらは優斗の背中から現れた触手が放つ魔力砲により全て撃ち落とされた。
「……成程、ナハトヴァールの暴走体の力も使用可能、か。やはり実戦で学べるものは大きいな」
優斗は呟きながら手を握ったり開いたりを繰り返している。その姿は実験を行っているようにも見えた。
「はぁぁぁっ!」
そこへフェイトがバルディッシュを構えて後方より襲撃する。フェイトの速さを生かした奇襲。なのはの攻撃に気を取られている隙の攻撃だった。
「……無駄だ」
しかしそれは優斗が発生させた赤い色の盾により防がれた。
『マスター!魔力が吸収されています!』
「っ!」
バルディッシュからの警告にフェイトは後方に下がる。バルディッシュの矛先を見れば魔力で出来た鎌が薄く、削られていた。
「ふむ、魔法の使用も問題ないか」
「くっ!」
まさかの防御魔法にフェイトは歯噛みする。魔力を吸収するなら並みの攻撃では防がれることを意味していた。物理的な攻撃か吸収速度を上回るスピードで突破するしか方法はないためだ。
「さて、次はこっちの番だな」
優斗は再び攻撃の準備に入った。
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第十四話「姉弟喧嘩・Ⅲ」
「世界を震わし霜の巨人よ。長い時を経てその力を解き放て」
優斗は右手をなのは達に向けて詠唱を始める。瞬間、優斗を中心に巨大な魔力が渦巻き始める。
『これは……!いけない!全員その場から避難を!それには触れてはいけない!』
「っ!全員退避!」
優斗の魔法に気付いたリインフォースが全員に退避を呼び掛けその魔法の危険性に気付いたクロノも呼びかけ自身も退避する。
クロノたちが退避を完了するのと優斗が魔法を発動するのは同じタイミングだった。
「
そう叫ぶと同時に世界は凍った。まさにそう表現できるほど優斗の魔法は強烈であった。なのは達の目の前が巨大な氷で覆われたのだから。なのはがいたところを中心に凍っておりもしその場に居たらまともに食らう事になっただろう。もし直撃を食らっていたら。回避に成功したなのは達が体の心から凍るような寒さに襲われている事からもその想像はあまりにも恐ろしかった。
「なに……、これ……」
『……かつて異世界に存在した賢者が編み出した究極の氷結魔法だ。もし喰らっていればバリアジャケット事凍り一瞬で凍死していただろう……』
リインフォースが話す内容に誰もが驚く。だが同時に納得できる威力でもあった。しかし、そんななのは達に第二撃が襲いかかる。
「地を司る精霊たちよ。我が命に答え敵を穿て。
詠唱の完了と同時に茶色に輝くスフィアが五つ生成される。それらは信じられない速度を持ってなのは、フェイト、クロノ、シグナム、ヴィータに襲いかかる。
「今度は何!?」
『気を付けろ!それらは周囲の魔力を吸い取り対象が息絶えるまで攻撃を行うスフィアだ!破壊するか対象になった者が死ぬまで攻撃を続けてくる!』
「なんて厄介な……!」
「くっ!バルディッシュ!」
主力と言えるなのは達はそれぞれスフィアに攻撃を加えるがそれぞれ不規則な軌道を描き攻撃を回避しそれぞれの対象に突撃する。まるで生物の如き動きになのは達は翻弄され、身動きを封じられた。
一方で優斗はこの機を逃さずに次の攻撃を繰り出そうと右手を出す。しかし
【
突然ナハトヴァールが現れその動きを止めた。突然のナハトヴァールの出現に優斗を含めて誰もが視線を向ける。
「……どうした?」
【
「……ああ、そう言えばまだ展開していなかったな」
優斗の現在の格好はお見舞いに来た時の服装で服にははやての返り血などが付着していた。
優斗は目を閉じ自分の騎士甲冑を思い浮かべる。優斗の体を魔力の光が包み込む。そしてその優斗をナハトヴァールの黒ヘビが更に包み込む。そして数分程が経過した頃だろうか?黒ヘビたちの内側から一対の翼が出てくる。それはまさに化け物が好んで付けそうな翼をしていた。次に尻尾が出てくる。付け根の方が太く先端の方が鋭い尻尾は翼と同じく化け物に相応しい姿をしている。
そしてついに優斗が黒ヘビを破り現れた。全身を黒い生物の様な鎧に覆われており顔にも怪物に食われるような形で覆われていた。目の部分にはバイザーの様に覆われ露出しているのは口と鼻のみだった。
優斗は自身の体を軽く見ると口角を上げた。
「……なんだよ。俺の意見はあんまり採用されてないじゃないか。流石は破損したプログラム」
そう、ナハトヴァールに文句を言うと改めてなのは達を見る。
「待たせたな。さっさと続きを行おうぜ」
「待ってください!」
臨戦態勢に入る優斗になのはが待ったをかける。なのはは話し合いで済むならそれでいいと考える優しい娘で未だに優斗の行いを信じ切れていなかった。
もしかしたら守護騎士の様に何か事情があるのでは?そう考え優斗に話しかける。
「なんでこんなことをするんですか!はやてちゃんにも……、あんなひどい事を……」
「酷い事だと?何処かだ?」
優斗はまるで何が悪いのか分かっていないように問いを返す。
「それは……!」
「これは姉弟喧嘩だよ。生まれてから初めての八神はやてと八神優斗による
そう言うと優斗は再び臨戦態勢に入る。優斗には話し合いなど行うつもりはない。命を懸けたこの姉弟喧嘩を優斗は心の底から楽しんでいるのだから。
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第十五話「姉弟喧嘩・Ⅳ」
「ふっ!」
優斗は足に魔力を込めると空気を蹴る。普通ならそれで力がこもる筈もなく宙を切るだろうがまるで地面にいる時と同じように力を優斗に加える。優斗は爆速で狙いを定めたなのはに迫る。
……が、初戦闘という事もあり優斗は起動がずれなのはの横を通り過ぎ海面に激突した。
「……え?」
海面への衝突音を聞きなのはは漸く横を優斗が駆けた事を理解する。一方の優斗はアメンボの様に海面に浮かび右手で頭を押さえている。
「くっ!まさかここまで速度が出るなんて……。やっぱり遠距離で壊すか」
「っ!来るぞ!」
一番に反応したクロノが警戒しデュランダルを構える。それに続く形で守護騎士たち、ユーノ、アルフ、フェイト、なのはも臨戦態勢に移る。
「くらえっ!ラケーテン!ハンマー!」
最初に動いたのは意外にもヴィータであった。ヴィータは自身のデバイス「グラーフ・アイゼン」の魔法ラケーテン・ハンマーを使用し一気に襲いかかる。それに対し優斗は先ほどとは違い通常の盾を発動し受け止める。先程の攻撃とは違い今度は物理攻撃であるため純粋な防御力では勝るこちらを発動したのである。
「ぐっ!か、てぇっ!」
「まさかヴィータに先手を取られるなんてね。予想外だったよ」
「うるせー!優斗、何で!何ではやてをっ!」
「……」
優斗はヴィータの問いに答えず蹴り飛ばす。蹴り飛ばされたヴィータは海面を転がりながら少し離れた場所で止まる。
そんなヴィータに優斗は銃の形にした右手を向ける。すると黒い球体がゆっくりと大きくなっていく。
「
球体より魔力弾が連射で発射される。マシンガンの如き弾丸はあっという間にヴィータに迫る。
しかし、到着するする寸前なのはが間に入りプロテクションを展開しヴィータを守る。
「くっ!強い……!」
「お前……!」
「大丈夫?ヴィータちゃん?」
「あ、ああ」
庇われたヴィータはそう答えつつ立ち上がりグラーフ・アイゼンを構える。そうしている間にも攻撃は止まらずそしてプロテクションに罅が入り始めた。
それを機にヴィータが脇から突撃する。ヴィータが行動を開始したため標準をそちらに向けるがヴィータは器用に避けつつ接近する。
「ちっ!当たらないか。なら!」
「はぁっ!」
優斗が次の攻撃に移ろうとした時後方よりシグナムが急襲する。更に右側よりフェイトが、左側から人間形態のザフィーラが襲いかかる。
「なっ!くそっ!」
「優斗には悪いが今は大人しくしてもらう!」
「はっ!出来るならやってみろ!」
四方からの接近に優斗は上空へと退避する。しかし、上空へと逃げた優斗に白い冷気が襲いかかった。
「ちぃっ!」
「油断大敵だ」
クロノが放った攻撃により優斗は一時的に左半身を氷漬けにされる。優斗なら簡単に抜け出せるがどうしても隙が出来てしまう。
「話は勝って聞いてもらいます!レイジングハート!」
『Divine Buster』
チャージを終えたなのはの砲撃魔法、ディバインバスターが発射され優斗に迫る。今からでは避ける事は出来ない。優斗はとっさにそう判断し魔力を吸収する盾、アルフヘイムを展開する。盾にぶつかると同時に魔力の吸収が開始される。ぶつかる事により発生した振動が優斗を襲う。その振動により凍結を破壊する事に成功した優斗は左手も使い盾を強化する。
「嘘……!」
結果、なのはの砲撃は残らず吸収され優斗の糧になった。優斗自身の中に溢れる魔力に心地よい感覚を覚えながら反撃の一撃を行おうとする。
「させるか!」
「っ!?」
しかし、再びシグナムにより妨害され優斗は距離を話そうと動き始める。しかし、今度はフェイトがバルディッシュによる攻撃を行う。それを避ければザフィーラが、ヴィータが。優斗は次第に攻撃を行う暇すらなくなっていった。
「くそっ!ナハトヴァール!何とかしろ!」
【
瞬間シグナム、ヴィータ、フェイト、ザフィーラの四人をとてつもない重力が襲い四人は海面にたたきつけられた。派手な水しぶきを上げて四人は海に沈む。
「うはっ!ナハトヴァール意外とやるじゃん!」
【
「んじゃ、こっちの反撃だな。やるなら……、これだな」
優斗は反撃としてある魔法を選び右手を上空に掲げた。
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第十六話「姉弟喧嘩・Ⅴ」
「欲にまみれし愚かな者たちよ。黒き雷に焼かれ懺悔せよ。
詠唱完了と共に上空を雲が多いそして黒い雷が落ちてくる。
「うわっ!?」
「気を付けろ!まだ落ちてくる!」
「くっ!ユーノは落ちた四人の確保!なのははユーノの支援をしてくれ!」
「うん!」
「分かった!」
落ちてくる黒雷を避けながらクロノは指示を出していく。それを見た優斗は真っ先に倒すべきだったか、と思いクロノに向け魔力砲を放つ。完全な奇襲と言える砲撃は寸分違わずクロノに迫った。
「っ!」
しかし、魔力砲の接近に気付いたクロノは間一髪でそれを回避する事に成功した。それを見た優斗は次弾としてシュヴァルツアルフヘイム四つを生成し全て対象をクロノに指定して発動する。四つの球体はそれぞれ別々の起動をもってクロノに襲いかかる。
「チェーンバインド!」
「ストラグルバインド!」
瞬間優斗の体を橙と緑のバインドが拘束した。クロノの後方にいるユーノとアルフが行った物である。
「これは……?」
「今だクロノ!」
「ああ!凍てつけ!」
『Eternal Coffin』
先ほどとは違い完全に動きを封じられたうえでの凍結魔法。これを防ぐ手段を、優斗は有していなかった。優斗を激痛と寒さが襲いかかる。更に上空に展開したビッドにより反射され芯まで凍り付くと思わせるほどの冷気が襲いかかった。
数秒後には優斗は完全に氷によって凍結された。一応の捕縛を行えたクロノ達は安堵する。それと同時にフェイトや守護騎士たちも戻って来る。優斗が凍り付いたことで彼女たちに付与されていた重力が消えたのである。
これで後は優斗をどうするか決めるという段階と思われたが氷に罅が入った事で全員が警戒する。
罅は段々大きくなりやがて破裂して優斗が現れた。体のあちこちに小さな傷を作った優斗は笑みを浮かべながらクロノを見る。
「……予想外だったよ。ただの指揮官だと思っていたのに実際はこれだけの実力者だったなんてな」
「……闇の書の暴走を止めるために前線に出たんだ。実力がない者では足手まといになる」
「……成程ね」
優斗は楽しそうにクロノの話を聞いて納得する。クロノはその様子を見て改めて優斗がどうしようもなく狂ってしまっている事を再認識する。はやてには悪いがこの場で殺さないと。クロノは密かにそう判断した。
「それじゃ仕切り直しだな。次はもうちょっと頑張るか」
「……優斗!」
優斗が次の魔法を繰り出そうとした時はやてがシャマルに支えられながら前線に来た。多少顔は白いもののある程度は回復したようで確かな意志で優斗を見る。
「はやてちゃん!」
「主!」
「……姉ちゃん。回復したのか」
「シャマルのおかげでな。……優斗、もう戻れないのか?」
「当たり前だろ?元々闇の書がなければ存在しなかった命だ。もう二度と一緒の時間を過ごせないよ」
「そんな事ない!必ずもう一度暮らせるように……!」
「ぬるい憶測は止めてくれよ」
はやての思いを優斗は容赦なく切り捨てる。その瞳には若干の悲しみや絶望が浮かんでいた。それを見たはやては涙を流し胸を握り締めると、優斗を見る。
「……優斗、覚悟は。出来てるんやろな?」
「ふっ、当たり前だろ?」
覚悟を決めてはやてを優斗は狂気の籠った笑みで受け止める。
はやては夜天の書を開きシュベルト・クロイツを掲げる。同時に優斗も魔法の詠唱を開始する。
「響け、終焉の風!」
「世界に破滅を!破壊を!絶望を!闇よ!光を飲み込め!」
同時に魔法の発動準備が整い、発動する。
「ラグナロク!」
「
白き砲撃と漆黒の光線がぶつかり、絡み合い、大爆発を引き起こした。
「くっ!」
「はやてちゃん!」
「主!」
「なのは!危ない!」
その威力はすさまじく術者であるはやてや優斗すら飲み込みなのは達にも襲いかかった。
爆発が終わるまで数秒の間二人の状態は確認できなかった。
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第十七話「姉弟喧嘩・Ⅵ」
姉弟による砲撃魔法のぶつかり合いはあらゆるものを飲み込んだ。威力が収まるまで数十秒有しその間のみ込まれた二人の様子は分からなかった。
「はやてちゃん!」
「なのは!今近づくのは危険だ!」
「でも!」
「……今は、はやてを信じよう」
クロノの言葉になのはを悔し気な表情を浮かべて爆心地の方を見る。心配なのは、なのはだけじゃなく守護騎士の面々を心配そうに見ていた。特にヴィータは今にも向かっていきそうになるくらいで肩を震わしながら耐えていた。
やがて、爆発が収まり状況が見えるようになった。爆心地にははやてと優斗の二人の姿があるなのは達は安堵すると同時にはやての下へと向かった。
「はやてちゃん!」
「はやて!」
「主!」
「……あ、皆」
「はやてちゃん、大丈夫!?何処か怪我はない!?」
「う、うん。大丈夫やで」
そう言ってはやては崩れ落ちる。慌ててなのはとフェイトが抑える。
「……いったいなぁ」
「「「「「っ!」」」」」
その言葉に全員が警戒する。言葉の聞こえた方には優斗がおり左腕を抑えていた。左腕は大きく脈動を繰り返しておりまるで心臓の様な異質さを持っていた。
「まさか正面から抜かれるなんて思わなかったよ。全部吸い取れたけど流石にもうパンパンだよ」
ゆっくりと左腕の脈動が収まっていく。それに合わせて険しかった優斗の表情も和らいでいくがその視線にはいまだに狂気とも言える破壊願望が見えていた。
まだ優斗はやる気だ。その場の誰もがそう思いはやてを背に臨戦態勢を整える。優斗も次なる一手を繰り出そうと魔力を練る。……しかし。
「ぐっ!?ごはぁっ!」
突然苦しみだしたかと思うと優斗は吐血した。それも手に収まる量ではなくダラダラと吐き続ける。あまりの出来事になのは達は固まり当の本人も訳が分からず苦しみと苦痛、困惑の表情をしている。
少しづつ吐血は収まっていき優斗は真っ赤に染まる口周りを拭うとナハトヴァールに問う。
「ぐっ……、ナハトヴァール。これはどういう事だ!?」
【
「ちぃっ!初戦闘で張り切り過ぎたか……。残念だけどここは逃げるか」
ナハトヴァールの説明に優斗は悔し気に呟く。今だ誰も壊せていない。姉であるはやてですら回復してしまった。しかし、これ以上の戦闘は不可能であり優斗は逃げる準備をする。
「ナハトヴァール、長距離転移の準備」
【
優斗は転移の準備をさせると時間稼ぎの為になのは達へと視線を向ける。
「悪いが。今日の所はこれまでだ」
「……どういう事だ?」
「初戦闘でつい張り切り過ぎた。逃げさせてもらおうと思ってね」
「そんな事をさせると思っているのか!?」
「別にいいだろ?俺がこうして存在する限り暴走は起きないんだから。お前たち、とくに管制ユニットは気づいているんだろう?ナハトヴァールが出てきたのに崩壊が始まっていないことに」
『……確かに、暴走はしていない。しかし!お前は我らが主を!』
「それについては謝罪しよう。きっちりと殺しておくべきだった」
「優斗!お前は……!」
「そうカリカリすんなよシグナム。美人が台無しだぞ?」
優斗の挑発とも言える言葉に激怒する守護騎士たち。優斗は迎撃の準備をしつつまだかとナハトヴァールの転移の準備完了を待つ。
「どちらにしろ管理局で話を聞きたい。無駄な抵抗は止めてこちらの指示に従ってくれ。……流石に攻撃して気絶させての連行はしたくはない」
「おー、こわ。悪いけど今日は遠慮させてもらうよ。管理局?っていうのがどんなもんかは知らないけど俺みたいなんが行けば確実に殺されそうだしな」
「……そうなるかは君次第だ。どちらにしろこの場からの闘争が出来ると思わない事だ」
【
「(よし!)それが出来るんだよ。なんたって俺はナハトヴァールと融合したんだぞ?そのくらいこんなふうに簡単さ」
そう言うと優斗の足元に三角形の魔法陣が展開される。それが何を意味するのか気付いたクロノはとっさに動き優斗の元に向かう。しかしたどり着くよりも早く優斗の体は消えていった。
消える直前優斗ははやての方を見て呟く。
「じゃあね姉ちゃん。……まだ何時か喧嘩しようね」
その言葉を最後にアースラの探索すら逃れた優斗は完全に姿を消すのであった。
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最終話「エピローグ」
「ナハトヴァール。回復するまでどのくらい掛かる?」
【|Es sind ungefähr drei Jahre bis zur vollständigen Genesung vergangen《完全回復まで大よそ三年です》】
「三年か。意外とかかるな」
とある無人世界に転移した優斗は地面に足を付けると同時に倒れ込む。優斗の体は既に限界が近かった。優斗は近くの日陰に這って向かうとナハトヴァールに聞いた。
想像以上の年月に優斗は乾いた笑みを浮かべる。流石に慣れれば別だろうが初戦闘であそこまでの立ち回りは体がもたなかった、と呟く。
「管理局からは逃げ切れただろうけどこれからどうするかな……」
先ほどまで優斗の中であらぶっていた破壊衝動は今では影も形もない。正確には体の奥底に引っ込んだだけだがそのおかげで優斗は理性的に思考が出来るようになった。
「まずは管理局に見つからないように拠点を作らないと。それには管理世界は避けたいな。それから……」
優斗は修復されている体を仰向けにして天を見ながら今後の予定を立てていくのだった。
「そっか……。優斗は」
「申し訳ございません。主」
管理局本局の医務室にて意識を取り戻したはやては管制ユニット、リインフォースから詳しい経緯を聞いた。
「まさかナハトヴァールがバックアップを用意しそれが主の弟君とは思いませんでした。今回の失態は私の責任です」
「そんな訳ない!リインフォースは精一杯やってくれた!」
落ち込むリインフォースをはやては慰める。
「……管理局は違法ロストロギア所持の罪から弟君を時空犯罪者として追うそうです。ですが本気を出したナハトヴァールを見つけられるとは思えません」
「そっか……」
自分の弟が犯罪者となった事にはやては悲しみを覚えた。それと同時に優斗の豹変した姿が未だに信じられず胸を痛みが襲った。
「優斗……。何であんな風に……」
「……」
はやての悲しみを載せた言葉にリインフォースは何も出来ない自分を呪った。主を傍で慰める事しか出来ない己の無力に怒りを覚えた。
しかしはやては突然ぴしゃりと自分の頬を叩くと決意の籠った表情をした。
「よし!ならば私は捕まえたる!」
「主?」
「ナハトヴァールから優斗を切り離して弟を救い出す!何年かかるか分からない。本当に捕まえられるかも分からん……。でも!必ず捕まえて罪を償わせて、もう一度、もう一度……」
決意を込めた目で宣言するはやてだったが最後の方は涙で視界が歪みあふれ出る泣き声を押し殺していた。そして同時に浮かぶはやて、優斗、守護騎士の面々と過ごした日常。半年にも満たない短い期間だったとは言えそれまでの人生の中で一番楽しかった日々であった。
はやては漏れ出る声を抑えながら心の中で決意する。必ず救うと。もう一度家族みんなで食卓を囲うと。あの日の日常をもう一度取り戻すと。
そこまで誓ったはやては限界を迎え声を上げて泣くのであった。
とある一冊の本により家族を手に入れた少女と事実を知り己の欲望を解き放った少年。
二人は十年後、再開する。次元世界を守る者とそれに追われる破壊者として。
古代の遺物を背景に少女は家族を取り戻すため。少年は家族を壊すため。ぶつかり合う。その結果がどうなるのか、それはこの時点では誰もまだ知らない。
【魔法少女リリカルなのは~Eine noch von Buch der Dunkelheit Geschichte~】
~完~
今後は外伝として様々な話を作る予定です。
現状としては
・テレビ版A'sへの転移
・Strikers(十年後)の話
を予定としています。
え?ReflectionやDetonation?未視聴なんで作る予定はないです()
見たら作るかも知れないけど……。
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外伝【A’sからA’sへ】
第1話「転移」
【
「漸くか。意外と長かったな」
無人世界に作った地下拠点にてナハトヴァールの声を聞き俺は呟いた。あの姉弟喧嘩から既に五年もの月日が経過した。8歳だった俺は13歳になり身長も伸び声変わりも迎えた。
だけど想定より時がかかったな。確か三年と言っていたけどまさか何も行動しないで三年とはな。流石にそんな事は出来ないから予定より時がかかった訳だが。
「そろそろ動くか」
俺は回復した後の行動を決めていた。リンカーコアの蒐集だ。この五年で俺はナハトヴァールから様々な情報を得た。ナハトヴァールは闇の書とは違い今まで渡り歩いた世界の魔法などを個人的に保存していた。俺が姉貴との姉弟喧嘩で使用した
「さてと、まずは誰からいただこうかな?」
管理局の魔導師とか?それとも気付かれにくいリンカーコアを保有している生物とか?管理外世界でリンカーコアを保有している人からいただくか?うーん、悩むなぁ。
「ナハトヴァール、長距離転移の準備」
【
俺の足元に黒色のベルカ式の魔法陣が浮かび上がる。場所はとりあえず近くにある管理外世界に行くか。あそこはリンカーコアを保有している人がそれなりにいるからな。
そう考えながら今後の予定を立てていると魔法陣から火花が散る。更に視界が歪み経っていられない程の頭痛に襲われる。
「ぐっ!なんだこれ……!?」
【
マジかよ。転移をやめようと声を張り上げようとした時には既に転移が開始されていた。くそ……。せめて管理世界、特に管理局の地上本部があるミッドチルダとかは止めてくれよ。そう思いながら俺は意識を失った。
次に目を覚ました時、コンクリートの感触があった。周りを見ればビルの裏路地と思われる場所だった。どうやら転移には成功したらしいがここは何処だ?見た感じ地球、それも日本に似ているな。
「ナハトヴァール、ここが何処か分かるか?」
【
「そうか」
ナハトヴァールに言葉に俺は納得する。流石にこれだけでは判断できないよな。取り合えず大通りに出ようか。少なくとも車の走行音が聞こえてくるから人はいるようだしな。
そう思い大通りの様子を伺うがそこは海鳴市だった。何度も通った事があるから間違いないな。となると俺は帰郷したって事か?やめてほしいな。もしかしたら姉貴や高町なんかがいる可能性があるんだし。魔力反応を嗅ぎつけてやって来る可能性もある。ここは一刻も早くこの場を離れるのが吉か。
俺はナハトヴァールに服を生成させそれに着替える。少なくともこれで怪しまれるような格好ではなくなったか?流石に騎士甲冑のままという訳にもいかないからね。
ここから離れた後の行動はどうするかな?やっぱり情報を得るために本とかかな?図書館か?いや、もう遅いしその辺のコンビニにある雑誌でもいいだろうな。
そう思いながら転移場所からかなり離れた場所にあるコンビニに入る。そしてその横には新聞が置かれておりそれを見た俺は固まった。
「2004年の11月……!?」
嘘だろ!?確か俺が住んでいた時は2012年だったはずだぞ!?つまり8年前に来たって事か!?という事は姉貴は1歳で俺は産まれたばかりの頃……。
【
「いや、何でもない」
驚きのあまり固まる俺をナハトヴァールが呼び掛けた。……今更両親の顔を知りたいなんて、な。俺にも
予想外の事に驚きつつ俺は情報収集を続けるのであった。
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第2話「パラレルワールド」
【|Wenn Sie aufgrund der Informationen schließen, ist die Wahrscheinlichkeit einer Parallelwelt hoch《情報を基に推察するとパラレルワールドの可能性が高いです》】
「そうか……。ご苦労」
あれから三日かけて情報収集を行った結果今いるところはパラレルワールドだと判明した。
そう判断した理由は以下の通りだ。
その1:現在が2004年11月という事。
その2:姉貴、八神はやてが現時点で9歳であり守護騎士が存在しているという事。
他にも細かい点があるがそれは省く。上記の二つだけでも十分だからね。
姉貴はこの世界でも闇の書の主に選ばれたようだが俺はいなかった。だからと言って両親や親戚がいる訳ではないようだ。つまりこの世界の闇の書、もしくはナハトヴァールはバックアップを用意していないという事になる。
守護騎士は蒐集を開始している様で遠目から見る限り朝から晩まで行っているようだ。流石に全員が出ているという事はなく最低でも二人は残っている。まだ余裕があるみたいだ。というより年が違うだけで日付はほぼ一緒みたいだ。つまり後一月も経たずに姉貴は闇の書の主になりナハトヴァールが出てくるという事か。……ん?待てよ。
「ナハトヴァール。この世界の闇の書から蒐集は出来るか?」
【
「よし、ならこちらのナハトヴァールを倒しその力を手に入れるぞ。ついでに
【
ふふ、タノシミダナァ。もう一回ネエチャンヲコワセルナンテ。
そんな事を考えているとナハトヴァールの声が聞こえてくる。
【
「ん?管理局か?いや、魔法生物なら違うか」
【
一体誰だ?管理局なら見つけ次第捕縛しているだろうし……。闇の書を狙う第三者か?だが闇の書は主のみが使用できる。それにあんな壊れている物を欲しがるとは思えないし……。
「ナハトヴァール。こちらに気付ているか?」
【
「……念のためだ。今後の監視は遠距離からの物に止めそれもサーチャーのみとする。俺たちは海鳴市を中心に守護騎士たちの援護をする」
【
俺が指示した事により黒いサーチャーが五つ程作られ闇夜に紛れるように空中へと消えていったが映像はリアルタイムで送られてくる。
ここはパラレルワールド。守護騎士たちが管理局に掴まり完成しない可能性もある。そうならないように俺が誰だか分からないように援護を行うとしよう。
……まぁ、完成せず姉貴が捕まるようなら姉貴のリンカーコアをごっそり奪ったうえであの魔法の試運転に使えばいい。別にこの世界の八神はやては俺の姉貴、八神はやてとは別人なんだしな。死んだところでどうでもいい。
「……?」
「どうしましたか?主はやて」
「いや、なんか一瞬懐かしい雰囲気が……」
「誰かいましたか?」
「……いや、何でもない。気のせいやったみたいや」
闇の書の主、八神はやてはベランダから外を見ながらシグナムの言葉を否定する。
はやては自分に感じた懐かしい、それも心が温かくなる感触を気のせいと判断し就寝につくべくベランダを後にするのだった。
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第3話「戦闘・Ⅰ」
「ん?結界か?」
時は12月2日。時間は午後7時45分。丁度架空の妖怪の名前を使った回転寿司から出て来た時俺は結界に囚われた。
【|Aus der magischen Reaktion ergibt sich die Magie eines Ritters mit einem Hammer《魔力反応から鉄槌の騎士の魔法です》】
「へぇ、ヴィータってこんな魔法を使えたんだな。それともパラレルワールドだからか?」
大好きなサーモンを10貫ほど食べ上機嫌な俺はあの
「ナハトヴァール。バレないように不可視化及びサーチに引っかからないようにしろ」
【
ナハトヴァールの魔力が俺を包み込む。端から見れば俺の体は完全に見えなくなっているだろう。俺は騎士甲冑を展開すると背中の羽を使い飛び上がると近くのビルの上に飛び乗る。
確か12月上旬に高町を襲撃したとは言っていたな。今日がその日だったか。
俺は探知魔法を発動し様子を伺う。魔力反応を見る限り高町とヴィータで間違いないようだ。ヴィータが高速で高町に近づいていく。高町の方も移動しビルの屋上に上がる。
ふむ、まずはヴィータの先手か。まあ、襲撃される側の高町が先手を取るわけはないか。ヴィータは誘導弾を放ち高町に向かわせると自信は後方に回り込む。前後からの攻撃を受けた高町は防ぎきれずに屋上から落下する。しかし、バリアジャケットを展開し落下だけは防いでいたが間髪入れずにヴィータの追撃が入る。
『いきなり襲いかかられる覚えはないんだけど』
高町は逃げつつヴィータに問いかける。
『何処の子?一体何でこんなことするの?』
その問いに対するヴィータの答えは再びの攻撃だった。ヴィータは先ほどと同じ攻撃を放とうとする。しかし、
『教えてくれなきゃ、分からないってばぁ!』
先ほどの攻撃を避ける際発動していた球体の魔法がヴィータの後方より襲いかかる。数は二機。ヴィータは到着する前に気付くが瞬間加速したスフィアを避けきれず防御する。
『こ、のぉっ!』
『話を!聞いてってばぁ!』
『Divine Buster』
ヴィータの攻撃を避けた高町が砲撃魔法を放つ。ふむ、シンプルな直射型だがその分威力は凄まじいな。カードリッジを使わないでこの威力か。これでは魔法少女というより魔砲少女だな。
砲撃魔法を間一髪で避けたヴィータだったが帽子が掠りそのまま落下していった。それを見たヴィータは明らかに激昂する。確かヴィータの帽子についていたウサギはお気に入りだったな。
ヴィータの怒りは高町も気づいたようで少し気圧されている。その隙にヴィータはカードリッジを行う。ヴィータは防御貫通の能力を有するラケーテンハンマーを使用する。カードリッジで威力を倍増した攻撃に高町の防御魔法を一瞬で破壊し本体にもダメージを与えた上でビルの中へと吹き飛ばした。流石は鉄槌の騎士と名を冠するだけの事はあるか。流石にシュヴァルツアルフヘイムを使用しても防げないだろうな。そもそも実体のある攻撃にはそれほど有用でもないし。
更にヴィータはビルに衝突した高町に追撃する。高町も別の防御魔法を、恐らく物理攻撃の耐性が高いプロテクションを発動するも数秒の拮抗の後砕かれた。高町はリアクターパージを行う事でダメージを相殺したが衝撃波防げずビル内の壁に背中から衝突した。
そして、怒りが静まったヴィータが高町のリンカーコアの魔力を蒐集しようとした時、それを阻むようにフェイトが現れた。他にも……誰だ?もう一人、少年もいたが俺は分からない。いや、確か俺に捕縛魔法かけてきた奴の一人だ。
『ごめんなのは。遅くなった』
『ユーノくん……』
ほう、あの少年はユーノというのか。一応覚えておこう。個人的には蒐集しておきたい一人だしな。
さて、これで大体はそろったか?他の守護騎士も近づいてきているし管理局も既に様子が分かっているだろうからな。突入も時間の問題か。
頑張っている君達には悪いが俺がもう少し見学させてもらうよ。いずれ出会うときは必ず来る。ただ、今じゃないだけさ。
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第4話「戦闘・Ⅱ」
『仲間か?』
『友達だ』
ヴィータの問いにフェイトは戸惑わずに即答する。フェイトはデバイスを鎌の様にするとヴィータへと構える。
『民間人への魔法攻撃。軽犯罪では済まない罪だ』
『なんだてめぇ。管理局の魔導師か?』
フェイトの言葉に初めてヴィータが会話をする。……うむ、本人には悪いがどう見ても背伸びをする餓鬼にしか見えない。それもこれもヴィータの外見のせいだな。フェイトはコスプレイヤーみたいだし。
『(なんか馬鹿にされたような……)時空管理局嘱託魔導師、フェイト・テスタロッサ。抵抗しなければ弁護の機会が君にはある。同意するなら武装を解除して』
『(誰だ?さっきからちょくちょく馬鹿にしやがって)誰がするかよぉ!』
ヴィータはビル内から飛び立つ。それを追いかけるようにフェイトも出る。しかし……テスタロッサか。確か車だよね?大人になったフェイトがテスタロッサに乗っていたら爆笑もんだな。
……って、今はそれどころじゃない。俺はもう一度様子を伺う。どうやら残された高町はユーノの回復を受けているようだな。そしてヴィータとフェイトは上空でにらみ合っている。
『バルディッシュ!』
『Arc Saber』
『グラーファイゼン!』
『Schwalbefliegen』
両者がそれぞれ斬撃魔法と誘導弾を発射する。それぞれの攻撃は当たることなくそれぞれの対象に向かう。
『障壁!』
『Panzerhindernis』
ヴィータは飛んできた魔法を障壁で完全に防ぐ。あれって全方位防御魔法じゃん。しかも正面のみに防御を集中って……、結構高度な技術がいるってナハトヴァールが言っていたな。ヴィータの戦闘の光景なんて姉貴との姉弟喧嘩で見たっきりだからな。こんなに強いんだな。アイス大好きで見た目通りのおこちゃま合法ロリだけではないんだな。
『くそっ!誰だよ!さっきから貶してくるやつ!アイゼンの錆にしてやる!』
おっと、あんまり言うとヴィータに気付かれるか?いや、流石に場所までは分からないだろう。
そう思っているとフェイトは誘導弾に追いかけられている。と、ヴィータの下方から犬耳生やした女性が奇襲をかける。確かこいつもユーノと一緒に支援に回っていたな。
女性はバリア破壊型の近接攻撃を仕掛けヴィータの障壁を破壊した。しかし直ぐにヴィータの反撃を食らい地上へと落下する。そこに誘導弾を破壊したフェイトが攻撃を仕掛けるが高速移動魔法フェアーテを使い逃れるも女性の放ったバインド打ち消し合い直ぐに消えてしまう。そこを突くようにフェイトが近接戦を仕掛ける。お互いのデバイスがぶつかり合い火花を散らす。直ぐにお互い離れるがその後は近接攻撃に移った。
……場合によっては姿を現してヴィータの支援を行うか?流石に1対2じゃ分があるそうだしな。
そう思っているとヴィータが犬耳の女性のバインドに掴まり四肢を拘束された。ヴィータはもがいているが逃れる様子はない。
『終わりだね。名前と出身世界、目的を教えてもらうよ』
『っ!』
フェイトがデバイスを突き付けてそう言った。ヴィータは悔しそうに睨みつけているが今のヴィータにはそれ以上の事は出来ない。
……と、犬耳女性が何か気付いたと思った瞬間シグナムが下方から急襲しフェイトを吹き飛ばす。更にザフィーラが人間形態で犬耳女性を吹き飛ばした。
『レヴァンティン。カードリッジロード』
シグナムの言葉に従いレヴァンティンがカードリッジロードを行うと剣の部分を炎が包み込む。シグナムの近接攻撃の中ではよく使われる紫電一閃だ。
その威力は高く生半可な防御では簡単に切断されるだろう。実際今もフェイトがとっさに受け止めようとしてデバイスの柄を切断されている。シグナムは更に追撃を放つが今度は防御魔法に阻まれフェイトはビルの屋上に落下した。犬耳女性がとっさに近寄ろうとするがそれをザフィーラが阻む。流れは完全に守護騎士たちに傾いたな。これにヴィータが解放されればフェイトたちは蒐集されこの戦闘は守護騎士たちの勝利で終わるだろう。
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第5話「戦闘・Ⅲ」
『どうしたヴィータ?油断でもしたか?』
『うるせーよ。こっから逆転するところだったんだ!』
ヴィータの周りから敵を排除したシグナムはヴィータに話しかけた。ヴィータは子供の様な発言をするがどう見ても逆転なんて不可能だっただろう。
『そうか、それは邪魔したな。すまなかった』
そう言うとシグナムはヴィータを拘束しているバインドを破壊する。解放されたヴィータは手を握ったり開いたりしてしている。
『だがあんまり無茶はするな。お前が怪我でもしたら我らが主が心配する』
『わーってるよ。もう……』
『それから、落とし物だ』
『う?』
シグナムはヴィータの頭に帽子を乗せる。それは先ほど高町の攻撃により損傷し落ちていった帽子であった。シグナムが修復したのだろう。破損した部分は完全に元通りになっていた。
『破損は直しておいたぞ』
『ありがとう……。シグナム』
『状況は実質3対3……。1対1なら、我らベルカの騎士に』
『負けはねぇ!』
そう言って二人は下へと向かっていく。ふむ、屋上を突き破りに屋内に押し込まれたフェイトの様子を知りたいが流石にそこまでは詳しく知るのは難しい。まぁ、フェイトの戦闘スタイルから屋内で戦闘する事はないだろうし時期に出てくるか。……ん?戦闘区域を挟んで奥にはシャマルもいるのか。これはフェイトたち、かなりきついだろうな。
やがて屋外から出てきたフェイトといつの間にかいたユーノが戦闘に参加する。フェイトはシグナムと、ユーノはヴィータと、犬耳女性はザフィーラと戦っている。フェイトもシグナム相手に善戦しているがカードリッジによるブーストを行うシグナムに苦戦をしているようだ。デバイスへの負担が大きくなっているのが確認できる。
ユーノも何か魔法の準備を行っているようだが結界を突破できていないようだ。それに加えてヴィータたちの攻撃もあり上手く集中できていない。このまま行けば遅かれ早かれ守護騎士たちに押し切られるだろう。尤もカードリッジだって無限ではない。カードリッジを使い切らせればフェイトたちにも勝機はあるだろうがそれまで持つとは思えない。
……お?なんだこの魔力。高町のデバイスを中心に魔力が集まっている。これは……収束のレアスキルか。己の魔力と周囲に散らばる魔力を用いた砲撃魔法。しかもこれだけの魔力……。エグいな。
高町のデバイスがカウントを始める。高町はデバイスを上空に向け標準を合わせる。これが決まればこの結界も破壊できフェイトたちは撤退する事が出来るだろう。
とは言えそんな事をさせるほど守護騎士たちは甘くはない。思った傍から高町の胸から腕が生える。確かシャマルが使用する旅の鏡だったか?万全の相手なら使用は出来ないだろうが負傷し、バリアジャケットが損傷し砲撃魔法のチャージ中という今なら問題なく通るだろう。
シャマルはそのまま蒐集を行っていき高町の顔が苦痛で歪む。しかし高町はそんな状況でも砲撃魔法を発動した。その威力はすさまじく結界は一瞬にして破壊された。しかし高町も蒐集されその場に倒れ込む。それを合図に守護騎士たちは一斉に別方向へと転移しその場を離れていった。
……中々興味深い戦闘ではあったな。これ以降高町たちはカードリッジをデバイスに組み込み守護騎士たちと互角に戦う事になる。そうなれば蒐集速度もかなり落ちるだろうな。加えて姉貴を悲しませないために殺すような事はしていない。特定されていない俺が動くことで支援を行うか。
今は魔力反応を探知されないように潜みある程度落ち着いてから転移をして蒐集するか。狙うは地球からでは転移が難しい遠距離の世界。あの魔法の試運転も兼ねて。本番で失敗しましたでは済まされないからね。
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第6話「戦間期」
「くそっ!何なんだよ!」
とある管理世界。そこに住む男は必死に逃げていた。彼と一緒に居た友人二人は既に倒れた。残ったのは男のみだ。
「ちくしょう!ちくしょう!」
男は建物の裏に回り息を潜める。暫くして逃げ切れたと判断した男は安堵の息をつく。
「ふぅ……」
「鬼ごっこは終わりか?」
「ひっ!?」
聞こえてきた声に男は小さく悲鳴を上げる。男の隣には男を置かけてきた者がいた。その者は詰まらなそうに男を見ている。男は損傷激しいデバイスをその者に向けるが恐怖のせいかカタカタと揺れており頼もしさは微塵も感じられなかった。
「俺としてはもう少し粘ってくれた方が助かるわけだが……。まぁ、真っ先に倒れたあの二人よりはマシか」
そう言うと一瞬で男の懐に飛び込むボディブローを食らわせる。バリアジャケットを無視するような一撃。内臓は潰れ骨が砕け男の体は一瞬で破壊された。更に強烈な一撃を食らった事により男の体は吹き飛び塀を直撃する。背骨が折れる音と共に男は吐血しその場に倒れる。既に男は反撃どころか逃走の力すら残っていなかった。
「さて、早速やらせてもらうとしよう」
男を無力化した者は右手を構えると小さな魔法陣が手の平に出来る。それは男が使用するミッドチルダ式の魔法とは違い三角の魔法陣であった。
しかし、男はそれ以上の事を知る事は出来ず深く苦しい永遠の眠りへとつくのであった。
「……ふむ。まぁ、チンピラならこんな程度か」
男から蒐集を終えた俺は手に入れた魔力を見て落胆する。三人の中ではそれなりに強かったしたくさん採れるだろうなと思った結果がこれである。予想の半分もなかった。
とは言え蒐集をはじめてから数日経ったがそれなりに集まった。闇の書のページ換算で2、30ページ程か?一人ににつき1ページもいかないがそろそろ一旦帰還するか。これ以上の蒐集は管理局に見つかる可能性があるからね。
「ナハトヴァール。長距離転移の準備」
【
確かシグナムたちの話ではもう一回戦闘があるらしい。この世界でも同じとは限らないが一応見ておく必要はあるしこの魔力を届けないとな。折角姉貴の為に集めた魔力だ。有効活用してもらわないとね。
「ふぅ、やっぱり地球が一番落ち着くな」
戻ってきた俺は久しぶりの地球の空気を吸う。先ほどまでいた管理世界は空気が汚かったからね。地球も大差ないと思うけど故郷の空気というだけで数倍美味しく感じるよ。
今のところ守護騎士たちと管理局が争ったような形跡はない。何時戦うか分からない以上暫くはこちらにいないとな。
そう言えばこちらの世界にもあのお店はあるのだろうか?テレビでとても美味しいと言っていた……翠屋。一度食べてみたかったんだよな~。
そう思った俺は早速翠屋へと向かった。幸運にも存在しており早速入店する。ふむ、流石は人気店。人で混雑しているな。
「いらっしゃいませ」
「……」
笑顔で出迎えてくれた人を見て俺は驚く。どう見ても高町の親族にしか見えない人だった。まさかここは高町の実家か?流石にこの世界では他人とは言え近づくのは考え物だな。
「ご注文はお決まりですか?」
「……では、シュークリームを二つ。持ち帰りで」
「分かりました。お包みしますので隣でお待ちください」
さっさと出よう。そう思って持ち帰りにしたが気付けば外の席に高町たちが座っていた。しかも月村にアリサも一緒だ。……よく見れば犬耳女性の狼になった姿にそっくりな子犬とイタチ?みたいな変な動物も一緒だ。
俺たちは他人。俺たちは他人。俺たちは他人。そう言い聞かせていると緑髪の女性が入って来る。……話を盗み聞きするとフェイトの親代わりとか。状況的に管理局の人間で間違いないだろうな。こんなに集まるなら今後も通うのは考え物だな。せめてこいつらがいないとき、平日なんかに大人の姿になって買いに来るか。
俺はシュークリームが入った箱を受け取りながら心の中でそう思うのであった。
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第7話「介入」
一日おきに管理世界や管理外世界にて蒐集しながら様子を伺っていると海鳴市上空に結界が貼られていた。どうやら守護騎士たちが捕縛されたようだ。
結界は複数の術者によって強化されている様で中にいる二人は抜け出せずにいるようだ。
と、シグナムが結界を破り中に入る。二人の援護が目的だろう。つまりこれが前に話してくれた奴か。俺は管理局に見つからないように観察する。結界内の様子は分からないが結界外からは局員たちが結界の維持に努めている。その様子を見る限り結界内には少数しかいないようだ。となると守護騎士たちと戦っているのは高町やフェイト、犬耳女性にユーノと言った所か?……いや、氷結魔法を使ってくる奴もいるかも知れない。本当に危険な時は手助けに入るか。
ふと、結界を見ているシャマルを見つける。どうやらシャマルも結界を破る事が出来ず策を考えているようだな。……時期的にも丁度いいし接触するか。
そう思い一歩踏み出した時だった。
「っ!」
「捜索指定ロストロギアの所持、使用の貴方を逮捕します」
シャマルにデバイスを突き付ける管理局員の姿がった。……あの氷結魔法を使ってきた奴か。やっぱり局員の中でも侮れない奴だな。俺は黒いコートを羽織り仮面を付けると魔力を纏わせ一気に跳躍する。
「抵抗しなければ弁護の機会があなたにはある。同意するなら武装の解除を……」
「それは困る」
俺は一気に局員の頭を狙い蹴りを放つ。予想外の攻撃の為か局員は無抵抗で蹴りを食らいフェンスに衝突した。更に俺はバインドを使用し局員を拘束する。
「貴方は……?」
「結界の破壊。上手くいっていないようだな湖の騎士」
「!?」
「その破壊。俺が引き受けてやってもいいぞ」
「……」
「まぁ、別に許可がなくてもやるがな」
そう言って俺は魔法陣を展開すると魔法の準備を開始する。使う魔法は防御や結界の破壊及び貫通に特化したこいつだ。
「喰らえ、貫け、破壊せよ。一つの槍となり万物全てを穿て。
・sixth!ニダヴェリール!」
結界の丁度中心の上空より一本のビームが放たれる。防御をすればするほど力を増し貫通能力が上がる最悪の魔法。ニダヴェリールは結界を紙に突き刺したナイフの如く簡単に貫くとそのまま結界内の地面に激突し中で破壊を振りまいた。
「これは……、広域殲滅魔法!?何故貴方が……!」
「それを知る必要はない。が、お前らの敵ではないとだけ言っておこう」
「こんな事、貴方は……」
「おっと、これ以上ここに留まるわけにはいかない。そろそろあの局員を拘束するのも限界が近い。先程から抵抗してくる。後でそちらにお邪魔させてもらう。なあに。詳しくはその時に話すさ」
「ちょ、ちょっと!」
俺は転移を使用しその場を離れる。転移完了と同時にバインドは解かれてしまったがシャマルなら問題なく逃げ出せるだろう。俺もいくつかの世界を中継して逃げるとしますか。
八神優斗が転移し続くようにシャマルも転移したその場には拘束を逃れたクロノ・ハラオウンだけが残された。クロノは悔し気に表情を歪めるとなのは達の元へと向かっていった。
そして誰もいなくなったその場に仮面をつけた男が現れる。その男は優斗がシャマルを助けなければ代わりに助けるつもりだった。彼には使命がありその為には闇の書が完成して貰わなければいけなかった。
とは言えシャマルを助けた優斗もそうとは限らない。仮面の男は優斗に対して最大限の警戒心を抱くとその場を後にした。誰もいなくなったその場にはただ静寂が流れるのであった。
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