ガンダムビルドダイバーズ-progress- (トロさん)
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本編
第一話 「進化の始まり」


待たせたなあ。トロさんだぜ。Twitterでガンプラやってるあのトロさんだ。
そんなトロさんが今回自分を主人公にした小説を書いていく。ある意味一大事件だ。

んまあそんなことはさておき、最終話まで完結させるつもりではあります。語彙力&文章力皆無なトロさんですがどうか少しでも楽しめていただけたらと思います。
Twitterで感想を呟いてくれると発狂しながら喜びます。


ではガンダム ビルドダイバーズ-progress- 第一話「進化の始まり」をどうぞお楽しみください。


「…っ!…なんで!」

 

赤く光るコックピット内部。目の前に映る仲間の機体。いや、”仲間だった“機体。

 

「だーかーら?報酬は減るし、足手まといにはなるし?邪魔なんだよお前。一回機体バラすからじっとしとけよ?w」

 

仲間だった者の1人が罵る。ビームサーベルの先端が向けられる。フィールド内には自分を含め5人の4対1。1人でどうにかできる状況じゃない。それより今は仲間と信じていた人から裏切られたショックの方が強い。信じていたのに。信じていたのにーーーー。

 

<<Do you want to retire the battle?>>

 

「…」

 

ーー所属していたフォースからは強制退出させられていた。そこそこの腕はあるつもりだった。仲間にも貢献できていると思っていた。恐らく自分のことを気に入らない者がありもしない噂を広めたんだろう。裏切られた、失望感、脱力感、全てがどうでも良かった。

 


 

「やああっと部活終わったー」

 

「おっすー!トロー。部活お疲れ。ところで明日暇?」

 

「いっぺんにしゃべるなやw明日は忙しい。」

 

「そっかー。GBN?だっけ」

 

「そそ。ばいびー」

 

放課後。下校の通学路に響く声。

入学したてのピチピチの高校1年生のトロ。ガンプラビルダー兼ファイターだ。

GBNとは、GUNPLA BATTLE NEXUS ONLINE、通称GBNと呼ばれる「ガンダム ビルドダイバーズ」で登場したガンプラバトルシステムだ。

それが約2年前に放送され、現実でも開発された。そして今こうして世界中に浸透し始めている訳だ。

 

GBNはガンプラとそれを読み込むダイバーギアを用いり、電脳仮想空間内(ディメンション)で、ガンプラを操縦し、様々なミッションをこなしたり、世界中のガンプラと戦えたりする。

GBNのプレイヤーはダイバーと呼ばれ、日に日にダイバーが増している。

 

ガンプラを趣味としている者にとっては夢のようなゲームだ。そんなゲームが完全再現され現実にある。とてもありがたいことだ。

 

「ただいまー」

 

「んー」

 

息子が珍しくただいまって言ってやったんだからもうちょっとまともな返事しろよ…と思いながら自分の部屋に行く。荷物を置き、机に置かれている、ダイバーギアと一体のガンプラと見る。

 

「艶消しいい感じになってるじゃん」

 

前日に艶消しをかけておいたガンプラをまじまじと見つめる。青と白を基調とし、頭部の大きなクリアパーツ、4本のアンテナ、見えないツインアイ、下半身にいくにつれてローブのように広がるパーツ。シンプルながらもどこか棘のあるそんな外見だ。

 

今日の時間の流れが遅かったのはこいつのせいで、こいつのおかげだ。授業の内容なんて覚えてないし、部活もまじめに出来なかった。

これからの勉強ついていけるかなと思いつつ手に取ってみる。

 

重い。いや、実際はプラスチックの塊だし、軽い。軽いが、重い。

 

「ここまで2年だからな…」

 

ガンダムフェーテ。それがこのガンプラに付けられた名前だ。

意味は進化。自分と共に成長し、進化する、そんな思いが込められているガンプラバトル専用のガンプラだ。

 

完成まで長い期間をかけたこのフェーテは歴史も長く、思い入れが深く、何より今までの技術余すところなく使っている。

誰がなんと言おうと自分にとって重いのだ。

 

 

「再設定しなきゃな。こっちのギア…じゃなくてこっち」

 

 

一枚のギアをどかし、もう一枚の方のギアに簡単な情報を書き込む。フェーテを読み込ませるのは明日。楽しみだ。あ、撮影もしなきゃ

 


 

ー翌日ー

 

「ーーとてもかっこよく仕上がってるかと…!っと。お。ちょうど着いた。」

 

午前9時。なかなかの晴天だ。

そんな日にチュイッターに書き込みつつ足を動かしていると着いた。いつもお世話になってる模型店だ。

 

店内に入れば模型店の空気とこの内装。いつ見てもテンションが上がる。

しかし、今日はガンプラを買いに来たわけではない。店員に一言言い、専用の部屋に入る。

ここにはGBNにログインし、プレイできる筐体がいくつかある。今日はいつもより空いている。見たところ2、3人しかいない。

 

「さ、新しいアカウントにしたし、始めよっか。」

 

ラッキーと思いつつGBNを始める。準備は簡単だ。角が切り落とされた三角のくぼみに、ダイバーギアをセットし、専用のヘッドセットをかぶる。そしてバイザーを前に下ろす。

 

/ ID data confirmed. /

/Please scan your Gumpla./

 

セットすると、ギアの液晶に光が灯り、文字が浮かび上がる。

その上にガンプラ、ガンダムフェーテを置く。

 

同時にスキャンが開始し、特殊な粒子がフェーテの表面を走り、定着する。特殊な粒子を纏ったフェーテはツインアイを発光させる。電飾などした覚えはない。もちろん現実世界で動かす技術は残念ながらない。

ヘッドセットのバイザーを介して実際のように見せている。ここまで本編そっくりだ。

 

 /Login data complete. /

/. [Dive ready?] /

 

「Are you ready?」

 

ヘッドセットのバイザーに文字が浮かび上がると同時に音声が鳴った。準備は完了。この高揚感。いつになっても最高だ。

 

「yes」

 

yesを選択した同時に意識が電脳仮想空間に移される。一瞬の出来事に少し戸惑うがすぐに慣れる。

ふと前を見ると、目の前に大きなゲートが現れる。ここをくぐればGBNの世界だ。

 


 

〜ロビー〜

 

巨大なドーム型の施設。たくさんのモニターが忙しなく動き、たくさんのダイバーが行き交っている。GBNの玄関とも言われる場所だけあってとても賑わっている。

行き交う人々は、本編で見た格好をしていたり、知らない格好をしていたりと、いずれにせよガンダムのような世界だ。

 

「…半年ぶりか。懐かしいな。」

 

ログインが完了し、エレベーターから降りたトロは周りを眺める。半年もあればもっと変わってるかと思えば、そうでもなかった。もちろん細かい部分はアップデートで変わっているみたいだったが。

 

周りを見渡し、適当な場所に座りこむ。このまますぐミッションを受けても良かったが、ログイン自体半年ぶりなのだ。

時間は十分にある。ゆっくりGBNを満喫しよう。

 

「お、あれ…」

 

ふと目に止まった大型モニター。そこには今戦闘が行われている様子を中継していた。

 

『ここで勝てたらっ…!』

 

ランク5のダイバー。まだ初心者のランク帯。

しかし、ランク15の相手に挑んでいる。左腕、バックパックが破損しており、武器もサーベルのみだ。

 

本人からしたら絶望的な状況だろう。

 

対して相手は少しは破損しながらも、充分動けるレベルだ。そんな相手に諦めず果敢に攻め続けている。

 

相当な度胸だ。

 

ただ、動きは本物。初期ステータスみたいなもんが高いのだろう。

 

「勝てるかこれ…?」

 

思わず口走る。いつもの自分ならランク15のダイバーを応援するだろう。実際今にも勝負が着きそうな状況だ。

 

でも、少なくとも今は違った。

 

きっとどこか心惹かれるものがあるのだろう。このダイバーについて知りたいと思った。

そんな訳で手元にメニューを表示させ、ランク5のダイバーの詳細情報を表示させた。

 

 

ダイバー名 ユウ  機体 アポロンガンダム

 

 

登録された情報を見ていくとアポロンガンダムの画像が表示された。

ケルディムやダブルオースカイをベースに改造されており、赤と白の主人公機のようなカラーが特徴だ。

特に印象的なのが頭部のメインカメラと胸部の青いクリアパーツ、そしてスタリッシュに見えてマッシブなスタイル。

 

いかにも格闘機のような感じだ。実際格闘メインなようで予想的中。

一通り見終えたのちにモニターに視線を戻す。最初は負けるんじゃないかと思っていた。

しかし状況は一変。アポロンガンダムの膝が相手を捉え、ビームの粒子がコックピットを貫いていた。

 

『…かっこいいでしょ…?』

 

勝った。ランクが上のダイバーに勝った。隠し武器だ。最後の最後まで温存し、切り札として使用したというのか。初心者らしからぬ思考に素直に驚く。

 

「ユウ…アポロンガンダム…覚えとくか。」

 

あんなに熱いバトルを見せられたんだ、いつか戦うことになるかもしれない。そう思いつつ隣のモニターに目をやる。

こちらにもバトルの中継が流れていた。

 

『リアクター出力プラス8%っと…行くよD3。一気に片付けちゃおう。』

 

モニターに映るパイロットは、20代くらいの姿をしたオレンジと銀色のパイロットスーツを着た濃い紫色のショートヘアの女性。

鋭い眼光を持った、ガンダム フレームをベースとした青い機体。

 

胸部の角ばったクリアパーツと上半身にほとんど装甲がなく、下半身に大きいブースターが装着されているのが特徴的だ。

どうやらティエレン部隊を相手に単機で戦闘しているらしい。

 

「速い…」

 

上半身の装甲がない恩恵なのか、出力を少し上げただけで速度が増していた。

反復横跳びのような動作をした後、近くのティエレンの首根っこを掴み、その鋭い眼光を発光させながら直進する。

掴んだティエレンを盾に、片方の手で掴んだブレードを武器に、残りのティエレンを秒で二つに切断していった。

 

『いっちょあがりっと』

 

まるで獣のような動きだ。不規則で掴めない。ランク11のダイバー。まあまあのランク帯。彼女の詳細情報を表示する。

 

ダイバー名 虹久 ろくろ  機体 D3[ソルバイト]

 

周囲の視線を集めており、ある程度の認知があるようだ。トロは全く知らなかった。半年もGBNから離れていたんだ、有名でも知らないのは当然だろう。

 

「この人も覚えとこ。…そろそろなんかのミッション受けるか」

 

そう言って立ち上がった時、声が向けられた。

「そこの旅人さん。君、初心者だよね?」

 

旅人と言われ、誰のことかと思ったが、トロはポンチョのようなものを着た姿をしている。旅人と言われても納得がいく。と同時に「初心者じゃないっ」と言おうとしたがやめた。

新しいアカウントにしたんだ。そりゃどこからどう見てもランク1の初心者だろう。

 

(無視してミッションカウンターに行こ)

 

そう思った時だ。

 

 

「良かったらうちのフォースに入らない?」

 

 

ぎくりと一瞬体が強張り、

 

「…いらない」

 

気づけば相手を睨みつけ、強い口調で話していた。

自分でもどうしてこんな態度を取ったかは分からない。過去に何かあった?

…思い出せない。あるはずの記憶が掴めない。

 

「あ、や、なんかごめんね?嫌ならいいんだ。」

 

行こうと言い、フォースのリーダーらしき人物とその仲間たちは去った。

はぁ…とため息を吐き、ミッションカウンターに行く。

たくさんのミッションがモニターに表示されている。その中から選択してミッションを受ける。

 

<diver mission>

NPD mission

 

という画面を表示させミッションを選ぶ。ランク1で受けられるミッションは少ない。とりあえず手頃な初心者向けのを選ぶ。

 

<NPDリーオーとの10体乱戦>

 

とりあえず目に入ったこのミッションを受ける。

NPDリーオーとは、新機動戦記ガンダムWに登場した汎用量産機リーオーをGBN用に調整、AIにて稼働する機体だ。

 

俗に言う、NPCみたいなものだ。

 

10体とは言えども初心者用のミッション。復帰のリハビリにはちょうどいいくらいだろう。

 

「このミッションでよろしいでしょうか?」

 

「ああ」

 

CAのような受付嬢が定型文で確認する。

とミッションを受注したと同時に、ミッション開始前の格納庫に移動された。

 

「やっぱり、下からの煽りもなかなかだな。」

 

出撃前、機体チェックに時には個人、またはフォースの専用格納庫に移動する。

 

ここでメンテナンスだったり、ステータスの調整ができると言うわけだ。ただ、現実世界と違うのが大きさ。普段は15〜18cmかそこらだが、GBNでは18mになっている。

 

ガンプラに乗り込み戦う、これがGBNの醍醐味でもある。

 

「うん。まあ初めての出撃だし、特になんもないわな。」

 

ランク1でフェーテも新しい。状態は良好だ。ステータスも汎用機なだけあってバランスが良い。

 

「じゃ、行きますか。」

 

手元に画面を表示させ乗り込む。

コックピット内部だ。目の前にはグリップと機体情報を表示させるモニター。そしてコックピット前面、側面には、頭部メイン、サブカメラからの外界を映し出す画面。

 

本編そのまんまだ。気持ちが高ぶる。いよいよ出撃だ。

 

格納庫が動きカタパルトデッキに移動する。

前方には光がある。ミッションフィールドへの入り口。

目を閉じ、ひとまず呼吸を整える。

 

「ふぅ…」

 

この高揚感。うずうずするこの感覚。思わずグリップをぐっと掴む。目を見開く。

 

「ガンダムフェーテ!トロ、出るっ…!」

 


 

ーフィールドー

 

多くの木が生い茂り川が流れる自然豊かな森林のフィールド。電脳仮想空間といえども現実と錯覚するような景色だ。

鳥などの様々な動物も再現されている。地面は空中からなのでどうなっているか分からないがとにかく綺麗だ。

 

「久しぶりすぎて操作が…」

 

バトルフィールドに移動するまでの間に操作を思い出す。上昇、下降、旋回、横移動。

基本的な操作は覚えているが、応用だったり、細かい動きがおぼつかない。感覚がうまく掴めない。

 

「そのうち思い出すか」

 

そうこうしているうちにディスプレイに映し出されたマップに示されたフィールドまで辿りつく。フィールド内に入るとミッション開始だ。

 

「やりますか!」

 

そう意気込み、地上に降りながら、フィールド内に入る。

 

<<misstion stat>>

 

モニターに敵を知らせる熱源体が3つ。恐らくウェーブ制で来るのだろう。空に敵影なし。周りは森林に囲まれ視界が遮られる。

熱源体は9時、11時、12時の方向に一機ずつ。

 

「9時方向から行くか」

 

バックパック、脚のブースターを吹かせ、機体に振り回されないよう注意しながら近く。少しの加速でも充分な速さが出た。すぐに目的の機体を発見する。

 

「目標確認っと」

 

リーオーもこちらに気づいたようで、105mmライフルの銃口をこちらに合わせている。

 

「こっちの方が速いらしいな」

 

ライフルの銃口から弾丸が発射される前に、懐に入り込み、右手で頭部を掴む。と同時に左手で拳を作り、左手脇腹に向けてぶつける。

ナックルガード内に搭載されたバルカンを数発撃ち込む。

少しずつ感覚を思い出す。

 

「一匹終わり」

 

あと2機。こちらに近い位置に配置しているので外側から11時方向の敵に回り込む。森林フィールドが故に奇襲が容易だ。地形を利用するのも戦略の一つだ。

 

「こっちだ」

 

敵は開けたところにいた。

とりあえず手前の一機にバルカンを打ち込む。装甲を撫でるだけで大きな損傷は出てなかったが、こちらに向けて撃ってくる。

撃ってくるがなりふり構わず回避しながら接近する。

 

「弾幕薄いよってな」

 

懐には潜らず、敵をぎりぎり越えるくらいのジャンプをし、宙返りをする。その瞬間にサイドアーマーに接続したままのサーベルを展開させる。

頭の上から垂直に2等分にする。

 

「あと一匹」

 

着地すると同時にもう一機の方へ加速する。今度はサイドアーマーからビームサーベルを取り出し、コックピットに向けて刺す。敵は制御部分を失い、爆散する。もちろん刺した後は離れる。

 

「ファーストフェイズ完了、セカンドフェイズに移行する」

 

今度は空に3機の熱源反応。飛行ユニットを背負った仕様のリーオーだ。敵は既にこちらに気づいた様子で、こちらに向けてライフルを撃っている。

 

「さすがに上からは…っとちょうどいいのが」

 

容赦なく降り注ぐ弾丸の雨を避けながら、先程倒したリーオーのライフルを回収する。弾の数は充分。空の敵をバルカンで牽制しながらにブースターを吹かせ空中の敵へめがけ、飛翔する。

 

「お揃いのライフルだなっ…?」

 

頭部目掛けて撃つ。

何発か外したあと見事命中。一機は地面に落ちる。

続けてサーベルを取り出し、一機を切り裂く。もう一機は後方に今なお自分に向かって撃ち続けている。

 

「近接くらい覚えたらどうだ」

 

後ろに宙返りしながら敵の背後に回り、ほとんど距離を開けずライフルを撃つ。

6機目撃破。

そのままゆっくり地上へと降りる。だいぶ感覚を思い出してきた。やっぱり無意識に思い出してくるものだ。

 

「さ、次で最後か」

 

<<caution>>

 

「…っ!?」

 

黄色のビームが目の前を、周囲の木を焼き尽くす。辛うじて避けられたが先程までとは何か違う。モニターに目を移す。

 

「熱源体3、高熱原体1…?」

 

上空を見上げるとリーオーと、灰色の同じ色をしたトールギスの姿があった。

リーオーは既にビームサーベルを取り出しこちらに加速していた。

 

「聞いてねぇぞ…」

 

先程の戦闘データから学んだのか、敵も近接戦闘で挑んできた。

さすがに焦る。

 

「落ち着けって!」

 

森の方に下がりながらライフルを撃つ。頭部ヒットで1機撃破。残り2機はフェーテを追いかけながら地面の上を飛んでいる。

フェーテはそのまま後ろに振り向き全力で加速する。敵も必死に追う。

 

「?」

 

開けた場所に出る。敵は目標を探し出せず周りを見渡し混乱している。

 

「こっちだ!」

 

直進したように見せたフェーテが突如現れる。右手のライフル、左手のバルカンを撃ち敵を同時に撃破する。リーオーを撃破。残りはトールギスのみだ。

 

「また…!」

 

安心したのも束の間、上空からビームが放たれる。これもぎりぎりで避けられた。少し前に出ていたらやられていただろう。

 

「まあでも後はお前だけだな」

 

上空のトールギスまで加速、上昇する。敵もこれを予測していたように粒子をチャージし、粒子を放出しようとする。フェーテもライフルを向け、トリガーを握る。

 

まずはそのでっかいドーバーガンを…

 

「っ…!?弾が…!?」

 

ライフルから放たれるはずの弾丸が空を放つ。チャージを完了させた敵のビームが放たれる。

 

「くっ…!」

 

とっさにライフルをビームに向けて投げ捨て、被弾を抑えようとしたが反応が遅く、右腕関節から下が爆発に巻き込まれる。

推進力を失ったフェーテは地面へと落ちていく。

 

「くっそ…!」

 

負けじと地上に落ちながら、ビームサーベルを取り出し敵のドーバーガンに向かって投げる。

 

「当たったッ!」

 

偶然だろうが、ドーバーガンに命中。無力化に成功する。

そしてなんとか着地し、敵の様子を伺う。敵は既にビームサーベルを構え、こちらに凄まじい速さで加速している。

 

「速いっ…!」

 

左手でビームサーベルを取り出しながら間一髪攻撃を避け、そのまま数十m下がる。

加速で後ろに倒れないよう踏ん張り、構える。

それを認識したのか、敵もサーベルを構える。

 

「AIのくせして…」

 

1対1。次の一手で決まる、そんな緊迫した雰囲気が両者を包んでいる。ここまできて失敗に終わりたくない。

 

「決めてやるよ…!」

 

フェーテが加速を始める。同じく敵も加速する。

ビームの粒子と粒子がぶつかり合い、鍔迫り合いが起きる。一歩も退けない。

 

「っ!」

 

しかし敵の加速の方が上で押し返されそうになる。このままだとやられる…!

 

「フェーテはなぁあ!!」

 

サーベルを受け流しながら、機体を反転させる。敵のビームが左肩の先端を焼き尽くす。

が、構わず相手の懐に入り込み首に蹴りを入れる。敵の装甲に足が食い込む。

 

「進化する…機体だぞ」

 

敵は沈黙した。

首から胴体にかけて斜めにビームの刃が刺さっていた。隠し武器だ。足首の裏にサーベルの付け根を仕込んでいる。それを敵の機体出力を逆手に取り、最後の切り札として使った。

やった…そう思った瞬間、敵の残骸が爆散し、爆発に巻き込まれる。

 

「…機体状態チェック」

 

機体の情報を表示させる。右腕関節から下、左肩、所々の細かい部分が被弾していた。大破するよりは立ててるだけマシだろう。

 

「んまあ…久しぶりだしこんなもんでしょ」

 

久しぶりでも感覚を取り戻し、想定外だったがトールギスを倒せた。達成感と満足感に浸る。ほんとよく動けた。あとはロビーに戻るだけだ。ロビーに…

 

 

…え

 

 

…お?

 

 

 

「…まだ?」

 

普段なら<<misstion complete>>という表示があった後、自動的にロビーに帰還するはずだ。

 

「アプデで変わったか?」

 

様々な可能性を考える。ーいやいやそんなわけない。マップには出口らしきゲートがない。…となるとバグか?どちらにせよ、今の所戻る手段がない。

 

「うーんリタイア案件か?」

 

自分で言うのもなんだが結構うまいこと立ち回れた。それをゲーム上でなかったことにするのはもったいない。少し考え込む。

 

「はあああ…リタイアにしとくしかないかな…?」

 

<<caution>>

 

「え?なにな…ぐあっ!?」

 

突然、右面に表示が出た瞬間、激しい衝撃と共に何かとぶつかった。急な出来事に戸惑う。

 

「なになに!?って右肩持ってかれてる…?」

 

気がつくと右肩だけ残っていた場所に何も無かった。何かで切断されたように溶けた跡が残っている。乱入者…?いやそんなわけない。ソロ用、ましてや初心者用のミッションだ。じゃあなんなんだ一体…?

 

「!?」

 

目を見開く。そこには“それ”がいた。青と白を基調とし、頭部の大きなクリアパーツ、4本のアンテナ、見えないツインアイ、下半身にいくにつれてローブのように広がるパーツ。シンプルながらもどこか棘のあるそんな外見。

 

ただそれからは希望のような、前を見るような、そんな意思が感じられない。同じ見た目をしているのに同じではない。

 

そんな違和感がトロを襲う。フェーテじゃない何か…

 

(戦うか…?)

 

固唾を飲む。正直こんな対応をとるのは間違っていると思う。

仮にプログラムで構成された分身体だとか、バグだとかそんなんだとしても普通はそんなことしない。

 

ただこの状況はそんなもんじゃない。

 

心のどこかに違和感がある。戦うとして、こちらは右半身がほとんどやられている。対して“それ”はミッション前の姿でまっすぐこちらを見ている。

まるで今のお前にはないものを持っている、お前は勝てない。と圧をかけているようだ。”それ“は姿こそ同じだが、能力は未知数だ。

 

「一か八か…!」

 

未知数の”それ“に向かって加速し、ビームサーベルを取り出し、サーベルを振るう。

 

「え?」

 

切り裂いたかのように感じたが切り裂いた空間には何もない。

 

「は?」

 

その瞬間背部から頭部を掴まれ宙に浮く。何が起きているのか全く分からなかった。

 

『……£€// ※々&[,,,,,,〒       …$&

jsk 々※※]$』  

   [々』.

 

強制的に通信チャンネルが開かれる。この世に存在しない、雑音のような、心を内から壊すような、不快な音声。

 

「なんて言って…」

 

“それ”がフェーテの頭部を握り潰す。

 


〜ロビー〜

 

………………危なかった。

頭部が握り潰されるその直前、ミッションクリアの表示が現れロビーに帰還できた。報酬もきちんと受け取れた。

最後のウェーブでトールギスが現れたのは、低確率で出現するようになっているらしい。

 

バグなどではなかった。

 

「じゃあ…あれはなんだったんだ…?」

 

GBNのミッションに関する資料を閲覧しているが自分の機体をコピーし、なおかつ自分を攻撃するのは特定のミッションだけだ。普通のミッションでは現れないはずだ。

 

「でも起きてんだよな!おっかしいだろやっぱバグか?…もう疲れた。今日はもうやめよ」

 

久しぶりのGBN &低確率出現&バグを1日、一つのミッションで体験したんだ。

画面を表示させ、ログアウトを押す。

 


 

気がつけば16時過ぎになっていた。店員に礼を言い、摸型店から出る。

過去に何か嫌なことがあったように思うが思い出せない。

 

「まあ楽しかったしまた今度だな」

 

フェーテをケースにしまい帰路に着く。スマホを取り出しチュイッターを開く。歩きスマホはダメだがついやってしまう。依存症かななど思うがこればかりは仕方がない、画面を見る。

 

「うお…?めっちゃ反応来てる」

今は相棒、フェーテを動かせたことがとても嬉しかった。認知され始めたことも。

 

「あ、ライフルとか武器とか作ってないな」

 

フェーテが完成してもまだ楽しめることはたくさんある。これからが楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

 

『€&^ >$ナ………〆[[<…n…』

 

 

 

 

 

 

第一話 「進化の始まり」

 

 

 




⭐︎特別出演者⭐︎
アポロンガンダム 制作者様:@nushi_shinymas
@superpurintwit1
ソルバイト[D3] 制作者様 :@11h30m26s_Rabo
ご協力ありがとうございます!

トロさん:@Torosan__1063


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第二話 「革命という名」

どうもトロさんです。

唐突ですが、前回のガンダム ビルドダイバーズ-progress-第一話「進化の始まり」を読んで頂けた方ほんっっとうにありがとうございます!前回の反省も踏まえ、少しは読みやすくなるよう努力しました。

早速ですが、期待(?)の第二話 「革命という名」を楽しんでいってください!

本編スタートです!


 

機体専用武器。一度は憧れたことがあるだろう。文字通り、その機体でしか扱えない武器。それに憧れた少年がここに1人。

 

「ふぅ…やっとできた…」

 

フェーテの手に持たされた機体の全長より少し長い刀。フェーテに合わせて白、青と配色されている。刃の部分はGNソードなどを彷彿させるメタリックブルー。機械刀のような見た目をしている。

 

そんなフェーテの周りを囲むように机の上を占領するプラの粉、塗料、工具、筆、パーツ、その他諸々…。机自体は広く使えるはずなのに、作業する場所が小さい。そんなモデラーの運命に振り回されながら完成した。

 

「やっぱスクラッチだとオリジナル感出るねえ」

 

プラ板を用いり、1から作り出すスクラッチ。形にしていくのは簡単ではないが、その分完成した時の達成感は言うまでもない。

GBNで使うとなると取り扱いにやや難があるかもしれないが、そこはかっこいいから精神を貫く。

 

「10時か。そろそろ行こうかね」

 

机に置かれた時計を見る。愛機と新造した刀をケースに入れ、模型店に向かう準備をする。

 

「いつもの行ってくるー!」

 

「ご飯どうすっとねー?」

 

「あーなんか適当にたべるわ」

 

「んー。いってらっしゃい。」

 

「はーい」

 

今日も今日とてGBN。天気は曇り。もうすぐ梅雨かなとか思いつつ足早に模型店に向かう。

 

 


 

〜ロビー〜

 

「ランク5…まあまあ上がったね」

 

GBNに復帰して以来1ヶ月、着々とミッションをこなし地道にランクを上げてきた。1人で様々な立ち回りを考えミッションに挑むのはななかなか楽しい。そのうちTAとかやってみたいなとか思ったり。

 

そしてランク5からはフォース結成または参加できるランクだ。普通はフォースに所属したり、仲間内でフォースを作ったりなど複数人で楽しむことが多くなる。

 

「まあフォース入る気ないけど」

 

そう言いながら近くの椅子に座り、メニューを表示させる。これがログインしてからのルーティーンだ。っとメールのアイコンに赤い丸が表示されていることに気がつく。

 

(メールするような相手いたっけ?)

 

自虐しながらそれを開く。

 

差出人:GBN運営

 

「運営から…?なんかしたっけ」

 

身に覚えのないものに焦りつつ内容に目をやる。

内容はこうだ。

 

 

『バグ報告について

ダイバーネーム[トロ]さんから報告の件ですが、稀にGBNログイン時に意識が分離、それがバグとして出現する場合があります。当運営ではそれを「EL人格」と呼称していますが、通常、修正パッチが当てられ意識はダイバーの元に更新されます。また、現在はダイバーネーム[トロ]さんのEL人格も確認されておりません。不可解な点がございましたら、折り返し報告していただきますようよろしくお願いします。』

 

 

復帰後初めてのミッションで遭遇したもう一つのフェーテ。その件を一応バグ報告として運営に送っていた。

その回答が来たわけだが…

 

「長えし分からん」

 

それがパッと読んだときの感想だ。堅苦しい文章で長々と書かれている。

とりあえずは「あれはバグで、もう出てこないから安心しろ」っていうことなのは分かった。

ただこの長ったらしい文字の羅列をどうにかして欲しい、箇条書きでも良いじゃんと思う。

トロは大雑把なのだ。分かればいい。そんな性格。

 

「まあとりあえずは良かったよ」

 

そう言い、立ち上がってミッションカウンターに行こうとした。

その時だった。

 

「ねえ!そこのお兄さん!」

 

多分、全く知らない人から声をかけられた。振り向くと黒髪の、トロと見た目同じくらいの歳の爽やかな印象の人がいた。

ただ身長がトロより上だ。目上げる感じになる。

 

「…。」

 

1秒経過。ほんとに知らない人だった。爽やかな表情、見た目をしているが、内心何されるか分からないのでめちゃくちゃ怖い。

 

「…?」

 

首を傾げる黒髪の人。呼んだよ?と顔に書いてあるぐらい表情に出ている。

対してトロは声を掛けたのは自分じゃないだろうと思い、足早にミッションカウンターへ行こうとする。

行こうとする、というかもう三歩歩いた。

 

「ちょちょ!そこの金髪のお兄さんだよ!」

 

肩を掴まれた。どうやらほんとに声を掛けたのは自分だったみたいだ。

 

「なんですか」

 

相手を警戒しながら一言。一応敬語で対応するが急に話しかけられたので少し顔がこわばっている。

そして次の発言が衝撃的だった。

 

「俺とガンプラバトルしない?」

 

前振りも何もない唐突な言葉がどう対応しようか思考していた頭をかき乱す。

前提としてこの人のことを全く知らない。そしてバトルをする義理もない。

 

「とりあえずあんた誰?」

 

気を取り直して、タメ口にはタメ口で返す。

突拍子もないこの黒髪の見た目爽やかボーイの詳細を知らないと、自分の身が危ぶまれる。

 

「自己紹介まだだったね。俺はタクト。ちょうど暇してたからさ?暇そうなあなたを誘って暇を潰そうと思ってね。

であなたは?」

 

とタクトと呼ばれる人は軽い自己紹介をする。暇暇多いなとかGBNなんだからすることたくさんあるやろとかなんとか思いつつ、こちらも礼儀はしっかりしないといけないと考える。

 

「俺はトロ。でガンプラバトルしたいの?」

 

「そうそう」

 

「じゃ、せんわ」

 

「いやする流れでしょこれはあ!」

 

少しからかってみたらツッコンでくれた。悪い人では無さそうだ。

ただ知らない人、タクトさん?を相手にガンプラバトルをするのはこちらにはメリットがない。勝っても負けても何も残らない。

ただ対戦するだけ。そんなんでバトルしたがるのか…?

 

「冗談。しても良いけどメリットが少なすぎる。」

 

ただ、こういうのは後からめんどくさくなるやつ。適当な理由つけて逃げる方が安全だし気持ちも楽。

バトルをしたらしたらで負けた時になんかされそう。

 

「んーじゃこういうのはどう?」

 

無邪気な笑顔で語りかける。嫌味などは全くなく、ただ良かれと思って接しているのだろう。話が早すぎて頭が追いつかなくなる。タクトは何がなんでも俺とバトルがしたいみたいだ。

自分に興味を持ってくれるのは嬉しい。

が、こんな俺と絡むくらいなら他をあたってもらった方がいい。相手を満足させるほど良い人ではないのだ。

 

 

 

…声かけを無視してミッションを受けに行っていればこの先楽だったのだろうか。

 

 

 

 


 

〜格納庫〜

 

機体状態は良好。今日は試そうと思った専用刀もある。装備は万全だ。いつでも出撃はできる。

 

ただ条件が条件だ。

 

 

ー俺、1人でやってるんだけどな?フォース作りたいの。だから俺が勝ったらフォースをあなた、えーとトロさんと作る。でトロさんが勝ったら…どうしても良いよ。あ、逃げてもフォース入ってもらうからー

 

格納庫に移動する前にこう条件付けられた。異論を唱えようとしたが、バトルをしても良いよと言ってしまっている。

もう少し考えてから発言すべきだった。

 

フォースとは。多人数で一つの理念、目標に対して協力する組織のようなもの。

 

トロにはなぜかこれが良いものとは考えられない。悪いとも考えられない。何がトロをそう感じさせているのかさえ。

 

「負けるつもりもないしいいか」

 

フェーテを見つめる。そろそろNPC相手に戦うのも飽きてきたし、たまにはいいだろう。最初は嫌々だったが少し乗り気にはなった。対戦するという行為に対しては。

 

ブザー音が鳴り早く準備を完了するように促す表示がモニターに映される。どうやらタクトは準備が完了したようだ。

 

「じゃ行くかフェーテ。」

 

念のためもう一回機体のチェックをして、機体に乗り込む。

 

『じゃそろそろ機体のお披露目だね』

 

[sound only]と書かれた窓から声がした。もちろん声の主はタクト。これから対戦する相手によくもまあ呑気なもんだ。そんなところがタクトの長所なのだろうが。

 

「発進していいか?」

 

一応確認する。相手への配慮は対戦する身として欠かさない

 

『じゃいこうか』

 

そう言われると同時にグリップを強く握る。いつになっても発進というものには飽きない。GBNの醍醐味と言っても過言ではないのではと思うくらいGBN、ガンプラバトルにとって重要な存在だ。ひとまず叫び出しそうになるこの高揚感を落ち着かせる。

 

「ガンダムフェーテ。…出る。」

 

『レボルシオンガンダム!タクト、出ます!』

 

両機体がカタパルトの火花を散らしながら光のその向こう、フィールドへと飛び立つ。

 


 

ーフィールドー

 

<<field ground>>

 

雲一つないカラカラの晴天。木も植物も水も、生物の全てが生き延びれそうにない乾いた荒野。岩のような山が点々とし、地面は砂地で平地で高低差が少ない。地面の水分が少ないのか少しの風でさらっと砂が舞う。だが地上戦での勝負はこの視界が良いフィールドがうってつけだ。

 

<battle start>

 

「目標確認っと…あれか」

 

相手、タクトの機体をモニター上で拡大表示させる。

カラーリングは白ベースに藍色なのが特徴的。age3-fx、サバーニャ、フリーダムなどの多くの機体がミキシングされており、プロポーションがとても良い。装備はバックパックに2基のスラスター、シールド、ロングレンジっぽいライフル、脹脛横に装着された刀のようなもの。ベーシックな武装の構成だが、実際戦ってみなければわからないものが多い。

 

対してフェーテは右手にライフル、左手に今朝新調したての刀を装備している。

 

バトルはもう始まっている。視界が開けているおかげで対応はしやすいが、いつ攻撃が来てもいいよう構えておく。

 

「…!」

 

早速、3本の光刃がこちらに向かって飛んできた。しかし正確には狙っていないのか、被弾はしなかったがその代償として周りの地面を焼く。

ビームの影響で砂埃が視界の邪魔をしない場所に移動しながらこちらも射撃する。タクトの機体同様3発。確実に当てるように撃った。

 

「…だめか」

 

2発避けられ、最後の1発はシールドで防がれた。ビームコーティングが施されているようで、直撃したビームは機体の四方へと拡散する。そう簡単にはいかない。

 

タクトは上空からトロは地上からの攻撃。

 

「流石に分が悪いか」

 

そう言い、上空に飛翔し接近戦に持ち込もうとする。

 

「…っく」

 

相手の射撃が迎え撃つ。ただ、かする程度で当たらない。あくまで牽制といったところか。

 

「なんだよほんと」

 

さらに飛翔、加速する。刀で切り込める範囲に入った。刀を相手目掛けて振るう。

がシールドで防がれる。

 

『そう簡単にはやられないよ』

 

[sound only]と書かれた窓が表示される。と同時に相手の機体レボルシオンガンダムの表示が出る。

 

「レボルシオン…革命…」

 

そう呟いた瞬間、ライフルの銃口が向けられているのに気付いた。盾と刀の鍔迫り合いをやめ、後方に下がる。

銃口から光線が放たれるが、フェーテはとっさにビームシールドで防御する。

 

『いやーさすがに無理か』

 

射撃は遠距離だと当たらない。近距離では攻めた攻撃をしようとする。

もしかして…

 

「近距離しか…」

 

『どうだろうね?』

 

どうやら通信チャンネルはどちらも開かれているらしい。下手なことを言ったら予測されやられる。

フェーテは空中戦闘は得意とはしない。ここはひとまず地上での勝負に持ち込みたい。

ライフルで牽制しながら地上に誘う策略を講じる。

 

(せめてシールドは剥がしたい)

 

シールドさえ剥がせば被弾面積も多くなり勝利への道が開ける。がそう簡単には…

 

『おらよっと』

 

「…は!?」

 

シールドが飛んできた。先端にGNソードのような緑色の結晶がついている。飛んでくるまで気づかなかった。

ただシールドを剥がす手間が省けた。とりあえずは上に回避する。

 

『狙いはこっちだけどね』

 

レボルシオンがシールド目掛けてライフルを撃つ。撃たれたビームはシールドへと当たり…

 

「まさか…!?」

 

左腕のビームシールド発生器が損傷する。上に回避したのがまずかった。

機動戦士ガンダムseed destinyでシン・アスカがした技、シールドにビームを当て、反射を利用し不規則な軌道を描かせる。皮肉にもそれを目の前で再現された。

そこまでの予測ができていなかったフェーテは被弾により一瞬体制が崩れる。

 

『俺のターンだ』

 

突如ライフルを捨てたかと思うと、左脹脛に装備された刀を取り出し、切りかかる。

対してフェーテはライフルで防御しようとする。がレボルシオンの刀の威力は凄まじく簡単に、まるで豆腐を切るように二つに分かれさせる。

GBNでは原作同様、ガンプラの完成度が機体のステータス、能力に直結する。つまりガンプラ製作に関して相当な腕があるのだろう

とっさに手放し下がったが、爆発の衝撃で地面へと落下する。

 

何度かの攻防の後、両機は地上での戦闘となっていた。

 

「…まずいな」

 

正直出撃前の余裕はない。ここまで手強いとは思っていなかった。

 

「くっそ…」

 

右手に装備された刀を持ち直す。ちょうどレボルシオンも斬り込んできた。今度こそ本物の鍔迫り合いが起きる。

 

『フェーテってどんな意味があるの?』

 

タクトは呑気にも質問してくる。鍔迫り合い途中に聞く奴がいるかっと思う。

 

「見てれば分かるよっ」

 

斬撃を上に逸らし蹴りを入れる。同時にナックルガード内のバルカンを発射する。

スラスターの恩恵なのか、機体出力が高いのか、当たるように撃っているつもりだがほとんどを避けられる。

 

「当たんないのか…でもこれだったら」

 

接近しながらわざと銃口を下にずらし地面に放つ。

 

『…?』

 

タクトは何がしたいのかは分かっていないようだ。しかし何発か地面に放っているとわかる。

急にレボルシオンの視界が砂埃で覆われる。

 

『…!?どこに!?』

 

「後ろだ…!!」

 

背後から現れたフェーテは左スラスターを斬り込み、機体から離れさせる。

しかしレボルシオンも黙って攻撃を受ける訳にはいかず、機体を反転させ斬撃を加える。遠心力も相まって重い斬撃を受け止めることになる。さすがのフェーテでもこれは受け止めきれず後ろによろける。

 

「…っく」

 

よろけた隙をつき、レボルシオンが刀を縦に振るう。フェーテは寸前のところで避ける。

圧倒的な機動性の差。一進一退を繰り返す両者。正対する二機。

 

「そろそろ決着を着けたいところではあるが…」

 

『どうでしょうね』

 

先程の攻防により、十分の距離は取れている。

 

「これで…!」

 

先に加速したのはフェーテ。一気に距離を縮める。狙うは腹部。横薙ぎだ。

レボルシオンも刃を下げながらこちらに加速する。

 

(獲った…!)

 

先に攻撃を仕掛けたのはフェーテ。

レボルシオンを捉え、右から左へと刀を渡し、切り裂いた。

 

 

 

 

実際切ったのは虚無。何もない空間。

 

『太刀筋が読みやすいね』

 

下方からの危険を示すアラートが鳴る。

 

「下!?」

 

予想外の攻撃には咄嗟に反応することができず、虚無に遊ばれた右腕が関節から切り離される。

 

「…っ!何が!ぐぁ!?」

 

続いて背後からの強い衝撃を受ける。数m先に飛ばされるフェーテ。損傷は右腕、左ビームシールド発生器。

 

ーなんでー

 

唐突なフラッシュバック。

 

(なんだこれ…?)

 

レボルシオンを確認する。するとレボルシオンの背後に違和感を感じる。ない。スラスターが。背後には右のスラスターだけ残っているはず。

 

『バックパック重いからね。外しちゃった』

 

レボルシオンの少し前にスラスターのついたバックパックが落ちていた。

刃を入れられる寸前にバックパックとの接続を解除、加速を利用し本体は懐に潜り込み…とそういうわけか。

 

『ちょっと調子乗りすぎた?』

 

発想はとても良い。そしてその行動力も。

 

「ただ嬉しい誤算があったみたいだな…」

 

 

戦いは地形をも自分の物とし、利用し、状況を打開する。

それは時として勝負の要にもなる。

 

 

目の前にある細長い金属の塊を手に取る。

 

『…!?』

 

「あそこで捨てなければな」

 

ロングレンジな見た目をしたライフル。

 

それはレボルシオンが空中から地上へと落とした、贈り物。

 

銃口に光が灯る。

 

引き金を指にかける。

 

 

ーなんでっー

 

 

今銃口から放たれる光線が革命の名を持つ機体を貫く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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この世のものとは信じがたい雑音にも言葉にも似た不快な音声。心が思考が引き剥がされるような感覚。

そしてそれに相殺されたビーム。

 

 

「…!」

 

 

進化の名を持つ機体と革命の名を持つ機体の間に立つ、もう一つの“進化”を名乗る機体。

 

『何これ!?チート使ってんの!?』

 

「んな訳あるか!!」

 

疑われるのもそのはず、間に立つ機体の姿はフェーテ。同じ機体が2機もフィールドにあるのだ。疑って当然だろう。

だがトロが操縦しているフェーテとは別の存在…と言いたい。

 

 

「@8#)) %()#

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「っく…なんなんだよ…!」

 

不快な音が発せられたかと思うと、もう一つの進化の機体に赤黒い眼光が灯る。

そしてそれはフェーテへと、軋むような音をたてながら向きを変え向きを変え、両腕はライフルの形状へと姿を変える。

 

 

「武器が…!?」

 

 

必死に機体を立て直そうとするが、何故か機体の操作がおぼつかない。

 

「機体が…!」

 

そして、圧縮された粒子がフェーテに向かって放たれる。

 

 

 

 

 

ーっ

 

 

 

 

 

 

 

モニターは生きている。というより機体が生きている。

 

 

「…っ?なんで動け…」

 

『ぎっりぎり間に合った…良かった…』

 

気がつくとフェーテはレボルシオンに抱えられていた。攻撃される前になんとか機体ごと避けられたようだ。だが無事に回避、とはいかずにレボルシオンの半身の装甲、刀が犠牲となった。装甲は損傷軽微のようだが、破片が周辺のあちこちに散らばっていた。

 

『何が起きてるか分からないんだけど、とりあえずあれはやばいよね』

 

「そう思うよな」

 

トロとタクトは機体を立て直す。どちらも武器の消耗、機体の損傷が激しい。

そして依然として”フェーテ“はこちらをその赤黒い燻んだ眼光で見つめている。

 

『あいつ倒せるの?てかあれ何?』

 

「俺にも分からんし、倒せるかも知らん」

 

『ふぇ…』

 

その返答は推測でも予測でもなく、経験からだった。しかも前回遭遇した時と様子が違う。

前回遭遇した時は武器を使ってはいなかった。使えなかったというのが正しいのだろうか。だがこれは憶測に過ぎない。

 

「倒す?」

 

『無理って言ったじゃん』

 

「じゃ行くぞ」

 

え?ちょ…というタクトの声を振り切りフェーテは”フェーテ“の元へと加速する。

 

「今度こそ…!」

 

フェーテは刀を”フェーテ“に突き刺す。がすぐさま刃を掴まれた。

刀身にヒビが入る。

 

「それでも…!!」

 

軽く空中へと跳ね、足を上げ、足首裏のビームサーベルを展開し頭部に向かって振り下ろす。

 

(今度こそ確実に…!)

 

 

<<error>>

 

「エラー!?」

 

後数cmのところでビームサーベルが強制的に収縮した。そして気がついたときには”フェーテ“はその場におらず、力の行き場所を失った脚部は地面へと叩きつけられる。

 

「…!?どこに」

 

<<caution >>

 

そう表示された瞬間、メインモニターが何かによって遮られる。

 

それと同時に機体状態を示す画面がcautionの文字で埋まっていく。

 

「またこれかよ…!」

 

頭部が軋み潰され、今度こそ起動停止になる。そう覚悟した…。

 

 

 

 

『離せよ!』

 

 

鈍い金属音がした。機体のバランスが崩れたかと思うとメインモニターに僅かながら光が灯った。

 

『もうリタイアするよ!』

 

<<Do you want to retire the battle?>>

 

『yes!』

 

2つの機体がフィールドから消えた。荒野に残されたのはもう一つのフェーテ。

 

 

 

         7 (8 ;8;81

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         ん      

     〒       ナ

     な           

 

荒野に響く雑音のような音声。何かを吐き出すような、怒りを表すようなそんな叫びに似た音声。

 


〜ロビー〜

 

「で、ちゃんと説明して欲しいな?」

 

タクトの爽やかな表情の裏側に微かな怒りを感じる。

相手の機体がもう一機出てきて相手は相手の機体に向かって、ああもうややこしい。

結局あのフィールドからは離脱した。もちろんバトルも中断。

 

「EL人格っていうのらしい。多分」

 

「EL人格?」

 

「GBNにログインする時に意識の一部が独立してどっかに行くことがあるらしくて、

それが人格として再構成されて、な感じらしい。」

 

「さっぱり分からん…」

 

「ほんとにね」

 

沈黙の時間。

正直あれがEL人格と言われているものなのかすら怪しい。運営が言うからにはそうなのだろうが、いまいち信頼できない。

というかEL人格そのものが存在しているのか。

 

「結局勝負付かずに終わったけどどうする?フォース」

 

おもむろにタクトが口を開く。

 

「あー…」

 

フォース、記憶はないが嫌な感じがする。否定し続けなければ自分が壊れてしまいそうな気はする。それは理屈ではなく感覚だった。

でもまあ…

 

「条件付きならまあいいよ。俺にも責任の一端がありそうだし」

 

「まじで!?でその条件は?」

 

今までの感情、記憶を押し込むように息を吸う。

そして吐く。これから起こるであろう全てを覚悟するように。

 

「あのEL人格のフェーテ、あいつが出た時に一緒に倒してくれるならフォースを組む」

 

「よし!じゃあ組も…

 

「後もう一つ」

 

タクトの言葉を遮るように付け加える。

 

「リーダーの権限は全員に。立場は対等だ。あと仲間を簡単には増やしたくない。以上!」

 

「二つじゃんかよ…別に良いけど…ところで名前どうする?」

 

フォース名。フォースの顔と言っても過言ではないだろう。ファーストコンタクトとなる大事な要素の一つだ。

フォース名次第で今後に関わってくる。

 

「プログレイラーズ…」

 

ふと口にした。特に深い意味はないが、脳裏にぽんっと浮かんだのがこのワードだった。

 

「いいんじゃない?」

 

「いいか?これ」

 

「それにしよ」

 

「え、ちょまっ…

 

[Force name : PROGREYRAERS]

 

トロの制止も虚しく、フォース名が決まってしまう。いつの間にかフォース結成の作業を進めていたようだ。

 

「後で変えられるしいいじゃん?減るもんでもないし」

 

「まあいいけどさ…」

 

はあ…。と一つ小さいため息をつく。

たったの一回のバトルをしただけ人とフォースを組む、というのは正直不安でしかない。多少の信頼は得たが、リアルで会ったことのない人間だ。まだまだ警戒はする。

 

「あー正直不安でしょ?はいこれ」

 

メッセージ画面にメッセージが送られてきたかと思えば、数字と英語の羅列。

 

「なにこれ?」

 

英語と数字だけじゃ何か分からない。なんかの暗号か?

 

「それチュイッターのID。後でいろいろ話せるようにね」

 

めっちゃくちゃいい奴やん。信頼度上がったぞ?と思わず心の中で歓喜する。

コミュニケーションをとるのは得意ではないが、フォースの仲間としては一応コミュニケーションは取っておいた方が良いだろう。

 

「ありがと」

 

「じゃ俺用事あるから!楽しかったよ」

 

「じゃ」

 

そう言ってタクトはログアウトする、かと思うとこちらを向き、

 

「フェーテってなんか意味あるの?」

 

戦闘中聞かれたきり答えていなかった。

そういえば言ってなかったなと思いつつ、タクトの問いに答える。

 

「進化」

 

「進化?」

 

「そう」

 

戸惑っているのか少し考えている。何かおかしかっただろうか。

 

「なんか…変?」

 

「ああいや、だからプログレスなのかなって…」

 

progressは進化、進歩などを意味する言葉だ。

 

「…気づいた?」

 

「そうなのかなって思って…うわまじでやばい!じゃ!」

 

「あうん。じゃ」

 

今度こそログアウトした。嵐のように現れては去る、そんな人なのかなと思った。

1人残されたのトロは、適当な椅子に座り込む。

 

「フォース、プログレイラーズ、か…」

 

ふと口にする。少し口角が上がる。

この先どうなるかは誰にも分からない。フォースの規模が大きくなったり、実力派が集まるフォースになるかもしれない。

一抹の不安がよぎるが、過去に何か嫌なことがあったなら、未来で楽しいこと、嬉しいことをそれ以上に積んでいけばいい。

 

心配しなくても、いい。

 

 

 

 

 

そう自分に言い聞かせた。

 

 

 

 

 


 

 

「ええな…なかなか手応えありそうなガンプラや」

 

進化と革命の名を持つ者が刀を交えているモニターを見ながら、そう少年は言う。

 

“進化”の過程には“革命”がある。そしてそれを照らすのはいつも“太陽”のような存在。

 

太陽の名を持つ者は熱い闘志をその身に宿し、熱い闘争を求める。

 

「トロ…ガンダムフェーテ、か。」

 

 

 

 

 

第二話「革命という名」

 




⭐︎キャラ設定⭐︎
トロ  高校一年15歳。金髪のメガネに、ポンチョのようなものを着用している。
冷静な判断で戦闘する。調子に乗ってくるとゴリ押す。
ガンダムフェーテの制作者 兼 操縦者。

タクト トロと同じぐらいの年齢。黒髪のラフな姿で、見た目は爽やかだが、子どもっぽい面もある。
近接戦闘を好み、大胆な発想で戦況を覆す。
レボルシオンガンダムの制作者 兼 操縦者。

??? 太陽の名を持つ者

⭐︎出演者⭐︎
タクト ガンダムレボルシオン制作者様
Twitter:@s62tXeBG88LgW7A

トロさん
Twitter:@Torosan__1063


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第三話「太陽の名を冠する者」

また会いましたね
ノリにノってるトロさんだ。
おかげさまで第3話を迎える事ができました。大変感謝しております。
また、初めて読むよーって方は第一話から読んでいただくことをお勧めします。

はい!堅苦しいのはこの辺にして!
今回も飛ばして行きますよ!前回読んでいただけた方にはわかっている方もいるかも知れません。
というかこれを楽しみにしてた方もいるかも…?

ん?早く読ませろって?
じゃあ 第3話「太陽の名を冠する者」 をお楽しみください!


「はあ…はあ…」

 

コックピット内で響く吐息。荒廃した都市の中心、MSの残骸が無残にに散っている中、MSが2機立っている。

幾度かの戦闘で消耗しているようだった。

 

「いくらっなんでも…2人だけじゃきついだろ…」

 

「だってぇ…はぁ…フォースランク上げたいじゃん…はぁ」

 

確かにGBNの仕様として、フォースランクが上がればそれに対応して様々な制限がなくなり、フォースでの活動がさらに楽しめるようになる。

なるのだが——

 

「にしてもそんな…はぁ…すぐに上げなくても…」

 

「少しぐらいはいいじゃん…!」

 

彼らが挑んでいるのは連戦ボスミッションだ。

ウェーブ3制でガンダムシリーズのモビルアーマーやラスボス級のモビルスーツが出てくる。

次はウェーブ3。最後のウェーブだ。

 

「で次の相手誰よ…」

 

「あれ…かな?」

 

[WAVE3]

 

現れたのは眩い金色に煌いた巨体、金色に近い粒子を放ち、纏いながら接近する大型MA。

 

「…!!アルヴァトーレ!?」

 

「え」

 

アルヴァトーレ。機動戦士ガンダムOOに登場したアレハンドロ・コーナーが駆る大型MAだ。

特徴的なのはその金色の巨体と、擬似太陽炉が7基搭載されていること。

そしてコアユニットにMS、アルヴァアロンが格納されている。

 

という知識は既にある。がここで一つ問題があった。

 

「じゃあGNフィールドどうやって突破すんの!?」

 

タクトが言う。

GNフィールドを突破するためにはGN粒子を纏った実体剣、GNソードの類を必須とする。

しかし、こちら側に太陽炉搭載機がいない。太陽炉がなければ当然GNソードもあるわけがない。

 

「一か八か…!」

 

「え、ちょ」

 

地を蹴り、フェーテは刀を右手にアルヴァトーレに向かって飛翔する。

 


 

〜ロビー〜

 

 

「無理だわ」

 

結局ミッションはクリアならず。

伊達に大型MA、アルヴァトーレを名乗っているわけではなかった。

 

「GNフィールドはなんとか突破できたんだけどね…」

 

ミッション上の救済処置なのか実体剣はGNフィールドを通してくれるようだったが、何せ擬似太陽炉7基の馬力だ。

多数のビーム砲、GNファングには、消耗した機体では到底敵わない。

コアユニットを拝むことさえ許されなかった。

 

「やっぱ強すぎんだよあれ…」

 

技術面、操縦面など全てにおいてまだ足りていないということなのだろうか。

今の装備のままじゃダメ、なのか…?

 

「どっちにしろ今のままじゃダメってことだね」

 

「そうだな…」

 

あっさりタクトの意見を呑む。

ん…?いや待てよ?

ランク上げにわざわざクリアできないミッションに行くか…?

 

「てかあれフォースランク5以上推奨じゃなかった?」

 

「ふぃ!」

 

タクトはギクッっと体を強張らせる。

 

「今フォースランク3だよな?てことはお前…」

 

「な、なんのことかなー?」

 

図星にしか見えない。というか図星だろう。

ミッション受注はタクトが行った。トロはそれに促されミッションに行ったが…

チラッと見えたのがその情報だった。

 

「早とちりしすぎだお前…」

 

「ごめん…」

 

まあいいけどさと付け加える。

負け戦に出されたのは気に食わないが、気付けたこともあったからよしとする。

 

「反省会でもするか?」

 

「しよっか」

 

提案が通る。もちろんこのまま他のミッションに行っても良いが、反省することに越したことはない。

気づいたことを言語化するだけで、今後の動きが改善されることもある。

 

立ち上がると、2人は3脚のイスとテーブルの置かれた簡易的な待合所へ行った。

今日は休日だからかログインしているダイバーが多いみたいだ。ここしか席が空いていなかった。

 

「まずウェーブ2で消耗しすぎたのがな」

 

座った瞬間反省会を始めるトロ。タクトは周りのダイバーを観察している。

ウェーブ2までの敵はMSだった。MS相手なら極力ダメージを抑えて、最終局面のMA戦に突入するのが定石、セオリーだ。

しかし、MS相手になぜあんなに消耗していたのか…

 

「だって、トロちゃんすぐ前に出ようとするじゃん」

 

「う…突貫も戦略の一つだ…」

 

「の割にはウェーブ2で俺より消耗激しかったんだけどなー?攻撃するたびにいちいちどっか壊されてるし。」

 

う…と何も言えず、机の上で腕を組み、寝た状態のトロを横目に、タクトは人間観察をしている。

 

自覚はあった。

今までの戦闘を思い返してみれば、確かにトロはどこかを犠牲にして攻撃する癖はある。

この前のレボルシオン戦だってそうだ。後先考えずに突っ込んだ結果、右腕を獲られている。

 

「あ、アルヴァトーレのGNフィールドは破ったし…」

 

ぼそっと呟く。

 

「そこは良かったよ。でも思っきし吹き飛ばされてたじゃん」

 

「そこはって…そういうタクトだって射撃全然当たんないじゃん」

 

テンションが下がったトロは語気が弱まりながらも、言い返す。

タクトは近接の立ち回りは得意だが、射撃があまり得意ではないようだ。

割と近い位置でも当たらないなんていうこともあった。

 

「ふぃ…しょうがないじゃん…」

 

「そやぞ。誰にでも不得意なことはあるわ。」

 

「そうだけども…」

 

んー?今タクトの声だったか…?もうちょっと高くなかったか?

くいっと机と向き合っていた顔を上げる。

 

「 「誰!?」 」

 

トロとタクトの声が重なった。

そこには茶髪で頬に太陽を記号化したようなマークがついた、見た目同じくらいの少年がいた。

さりげなく空いていた3つ目の席に座っている。

 

「や!そら驚くわな。俺はユウ。ちょぉっと用事があってな…」

 

ニコっと笑うのが印象的だ。

名前はユウというらしい。どこかで聞いたことがある名前だ。

 

「ん?どした?」

 

言われて少し会話から意識が飛んでいたことに気づく。

思案顔になっていたみたいだ。

 

「ああいや、なんでも…そういえば用事って?」

 

「トロ…さんよな?」

 

「そうですけど…」

 

どうやら用事というのはトロに向けたものだったらしい。

GBNでは知りもしない人に話かけ、ミッションに出撃する、というのはよくあることだ。

しかし、特定の人物に狙って声をかけるのは稀。ということはよほどの事があるのだろう。

 

「やよな?いやあ…あの時のバトルにグッと来てなあ…?バトルしてみたいなあって。」

 

「あの時のバトル…?」

 

あの時のバトルとは。心あたりは無くもないが、憶測に過ぎない。

それにしても、トロとバトルをしたいというのはどういうことだろうか。

有名でもないトロの知らないうちに何かあったのだろうか。

 

「ん…?あれよ。えーと…フェーテ?とレボル…シオン?がバトってたやつ」

 

「え…?見てた…?」

 

「あそこでな」

 

そう言って指を指す先には大型のモニターがあった。

その時のたまたま中継されていたのか、それを見たようだ。

特に何かある訳ではないようだ。

 

「すっごい良かったんよ!!」

 

ユウは純粋な眼差しでトロを見つめる。

その瞳には電子世界ではありながらも、心から戦ってみたいという感情が現れているようだ。

 

「あーでも最後の決着が分からんかったんやけどな?途中でザーッってなって…」

 

途中でノイズが入って決着が見れなかった、ということだろうか。

先程まで輝いていたユウの瞳が少し曇る。

 

「ざー?」

 

「そうそう。フェーテ?が落ちてたライフル取った後にな」

 

ライフルを取った後…

故意か偶然か、決着が着く直前にもう一つのフェーテが襲来した。その時は映し出されていなかったのだろうか。

そうだとしたらそいつを目撃しているのは今のところ2人になる。ノイズが入るということはGBNになんらかの負荷をかけているのか。

 

「あ、うん」

 

「…?」

 

トロの表情が少し暗くなる。

訳を話そうとも思ったが、他人を不用意に巻き込んでいくわけにはいかない。

返事が曖昧になったトロに、ユウは不審に思いつつも続ける。

 

「でな、トロさんと一戦バトルしたいなと」

 

「俺と?」

 

「そおう。ところで話変わるけど俺の機体知ってるか…?」

 

「いや…」

 

「そうやろな。はいこれ」

 

そう言い、ユウは目の前に画面を表示させると操作する。

 

「明日この時間くらいな。じゃまた」

 

操作が終わったかと思うとトロの手元でピロンと軽い通知音が鳴る。

画面を確認すると既にユウのデータが表示されていた。

 

「ありが…」

 

顔を前に向けると既にログアウトしたようで、空席になっていた。

急に現れて気づけば去っている。昼と夜を繰り返す太陽のような人だなと思いつつ、再度画面に目をやろうとする

 

「見せて見せて」

 

「あ、ちょ」

 

送られたデータをタクトが強引に割って入り、覗き込もうとする。

落ち着かさせながら、データを読む。

 

-アポロンガンダム-

 

データの見出しにはそう書いてあった。

下記には画像や動画も添付されてある。

 

「…あっ思い出した」

 

「え?」

 

GBN復帰時のモニターに映し出されていた機体。格闘型の赤いガンプラ。

ランク15のダイバーに挑んでいたランク5のダイバー、ユウ。

今はランク8になっていた。

 

「まじか…」

 

どこかで戦うことにはなるかもとは思いつつも、心のどこかでは手の届かない位置にいる人だと思っていた。

それがこういう形で出会い、バトルをすることになるとは思いもしなかった。

 

「武装は…ハンドガンにビームサーベル、頭部のバルカンと…ソードビットかな」

 

タクトはデータを読み進めていたようだ。

 

「ふ…俺にはわかるぞ…この踵は隠し武器だな?」

 

その通り、アポロンガンダムの踵にはヴィダールの武装、ハンターエッジが取り付けられているようだった。

 

「ソードビットか…」

 

「俺の話ガン無視ですか…」

 

ソードビットとは無線式の独立稼働が可能な剣のようなもの。

ガンプラバトルにおいては、バトルを優位に進められる武器として装備される傾向がある。

しかし、優位に立てるというメリットがある反面、操作が非常に難しく、機体の制御中にビットの制御をしないといけない。

もちろん、自動で軌道を描き攻撃させることもできるが、読まれやすい。

 

「どうであれ、ソードビットはきついな」

 

「踵に武器あるよー?」

 

「分かってるって」

 

タクトの踵武器アピールに適当な返事をしながら、対策を考える。

ビットに対抗するためには…

 

「フェーテって、ビットないの?」

 

「え?」

 

「ビットよ。ビット」

 

「あー…うん、ないことはない」

 

いざという時のためにビットの用意はしてある。

それをどのように扱い、どのような使い方ができるのかも考えてはある。

 

ただ…

 

「ただ?」

 

タクトが問う。

気づかないうちに声に出ていたようだ。

 

「ああいや…」

 

「なんかあるの…?」

 

さらに問い詰める。

答えたい気持ちはあるが、これは自分の問題だ。

他人が干渉する必要はない。

 

「今日はもうやめるわ」

 

「え?うん…」

 

強引に会話を止め、ログアウトする。

 


 

〜模型店〜

 

意識が現実世界に戻ったのを確認すると、バイザーを上げヘッドギアを外す。

目の前にはダイバーギアに乗ったフェーテがいる。

 

「あれを使うのはな…」

 

思い出しそうな記憶が何かに邪魔をされ、かき消される。

そこにビットを使うことを躊躇する答えがあるはずなのに…

 

「—っ!?」

 

ズキンとした痛み。思い出そうとしてもすぐこれだ。

思わず頭を手で押さえる。

 

「ほんとなんなんだよこれ…」

 

頭に響く痛みが和らぐのを感じながら、フェーテとダイバーギアをケースに入れる。

時計が示すのは16:30。ユウとのバトルは明日の14時頃だろうか。

いずれにせよ、対策のための時間が少ない。

急ぎ足で模型店を出る。

 

「あっつ…」

 

梅雨が過ぎ、夏本番も過ぎたが暑さはまだ残る。傾いた太陽に照らされながら帰路に着いた。

 


 

ー自宅ー

 

支度を済ませ、マットの上に工具が無造作に置かれた机の前に座る。

箱を取り出し、開ける。

 

「…」

 

箱を開け、姿を現したのは刃の部分だけメタリックグリーンに塗られたバインダーガン。

左右対称なのが一組、非対称なのが一組、合計4基ある。

 

「しょうがないよな…」

 

フェーテのバックパック横にバインダーガンを取り付けるための、3mm軸のついたパーツを差し込み、取り付ける。

可動の干渉しない位置に持ってくる。

バックパック横から垂れ下がるように取り付けられたバインダーガン。

 

対策の加工はこれで終わり。ダイバーギアには既に設定してある。

 

新たな装備を手に入れたフェーテを手に取る。可動に支障を出させないよう、かつ見た目も考えた配置。

機能性も重視し、設定もしてある。

 

「一応あれも入れておくか」

 

ここで新たな物を思いつき、ダイバーギアとノートを手に取る。

ノートを1枚、1枚、とめくっていく。

 

[フェーテ用新システム案]

 

という題名が振られた1ページ。細々と詳細が描かれている。

一部装甲が外れるような描き方。

 

「完全じゃないからな…簡易的なやつにしとくか」

 

設定を進める。

システム系の技はガンプラの完成度に左右される。もしものことがあってからでは遅い。

理想より少し下をまずは実現させる。

設定を終え、椅子から立ち上がる。

 

「ーっ!?」

 

頭に響く痛み、この痛みは今までの痛みとは違った。驚きも混じった痛み。

急な刺激にその場に座り込む。

 

「今見えたの…」

 

目の前でバインダーガンが虚しく散り、爆ぜる映像。

このような体験をした覚えはない。ないはず…?

 

少しだけ見えた記憶の断片。

 

失くした記憶、なのか…?

 


 

〜ロビー〜

 

「おー!?時間通りやな?」

 

「まあそりゃ…」

 

昨日ユウと出会った時間帯にログインした。

しっかり時間通りだったようで安心した。

 

「お??タクト…さんは別に来んくても良かったんやけどな」

 

「見たいもーん」

 

一応タクトも連れてきておいた。

というか一方的に来た感じではあるが理由はある。

 

「じゃ始める?」

 

口を開いたのはトロ。

 

「せやな。モード選んでっと…」

 

「ああいや、俺が開く。」

 

バトル設定をし始めたユウを遮り、トロはバトル設定を進める。

少し不審に思われているかもしれない。

事が起きてからでは恐らく間に合わない。

 

「お…?ええけど…先行っとくな?」

 

「はーい」

 

タクトが軽く返答し、設定を進める。

ユウは既に格納庫へと行ったようだ。

 

「ほんとに”あいつ“出ると思う…?」

 

タクトがそっと耳打ちする。

タクトを呼んだのも、設定をトロがしているのもそのため。

復帰時、タクトとのバトルにおいて出現したもう一つのフェーテ。これがまた現れるのを危惧している。

 

「可能性はある。映像に異常が出たらすぐ、だ」

 

「分かってるよー」

 

「準備完了っと。行ってくるわ」

 

「ほい、行ってらー」

 

トロも少ししてから格納庫へ向かった。

1人残されたタクト。

 

「俺もバトルしたいんだけどな…」

 


 

 

〜格納庫〜

 

鳥籠に狭苦しく立つ青の巨人。

そして背部には見慣れない、鋭い物が。

 

「ソードビット…調整…完、了っと」

 

バインダーガンをそのまま使用したソードビット。フェーテ用の最終調整が完了した。

 

「いきますか。」

 

そう言うと、トロはフェーテに乗り込む。

 

『準備できたか?』

 

「ちょうど」

 

ユウ少し前に調整を終えたようで、少し待っていたみたいだ。

 

「…やりますか」

 

『せやな』

 

両者がアームレイカーを握る。

徐々にコックピット内が光で満たされていく。前面のモニターが表示され、外界の光がカタパルトに差し込む。

 

 

 

[-Dive ready?-]

 

 

 

「ガンダムフェーテ、トロ!」

 

『アポロンガンダム、ユウ!』

 

 

 

「出る!」

 

『行きます!』

 

 

カタパルトに火花を散らし、戦場へと駆ける。

 


 

〜フィールド〜

 

<<field city>>

 

空は曇天。地には人工物が隙間なく詰められている。背丈はMSと同じかそれ以上。

全体的に灰がかった印象だ。音もなく静まりかえっている。

 

 

<battle start>

 

「確認。あの時のまんまだけど…」

 

ケルディムやダブルオースカイをベースに改造された、赤と白の主人公機のようなカラーリングが特徴的なアポロンガンダム。

スタイリッシュかつマッシブなプロポーションから格闘機、ということが見抜ける。

しかし、前回初めて見た時とイレギュラーな部分があった。

 

「聞いてねえっつの…」

 

バックパックから上に突き出たバインダー、それ加え左腰に日本刀のような武器を懸架している。

事前にもらったデータにはなかった装備があった。

 

「てかこの速度…」

 

アポロンが凄まじい速度でこちらに向かって加速する。

この速度だと急には…と、ここで一つの思考に至る。

 

 

「そういう…訳かっ!!」

 

 

攻撃を仕掛けようとも思ったが、アームレイカーをぐっと前に倒しフェーテも加速する。

 

距離は残り数十m。止まろうにも急な停止は難しい。

それでも両者は止まらない。全力で前に突き進む。

残り数m。

 

 

両者が衝突する—。

 

 

『よー分かったなっ!』

 

 

「なんとなくっ、だけどなっ」

 

 

衝突する両者の頭部。

 

頭部の一部が破片となり散ると、両者が激しい衝撃と共に後方へ飛ばされる。

もちろん偶然ぶつかった訳ではない。ガンプラバトルでの一種の挨拶のような物だ。

合理的ではないが、言ってしまえば浪漫だ。それ以上でもそれ以下でもない。

 

ビル群に挟まれた道路に相反する赤と青の機体。

 

先に動き出したのは赤の機体、アポロン。

刀を抜きながらこちらへ加速し、振るわれる。

 

「速っ…」

 

遅れて動き出したのは青の機体、フェーテ。

左手に持った刀で応戦する。

加速力が想像以上だ。すぐに距離を詰められた。

そして加速の分の斬撃が重い。片手では到底やり合えないと判断し、後方へ斬撃を逸らす。

 

アポロンはスラスターを吹かせ続けていた為、前方への支えがなくなり、バランスが崩れる。

その隙にフェーテは右手に持ったライフルで追撃する。

 

「ちっ…」

 

胴体を射抜くつもりだったが、難なく回避される。圧倒的な機動性だ。

居場所を失くしたビームは突き当たりのビルを溶かす。

 

『そう焦らんでも…なっ!』

 

もう1発追撃しようとしていたライフルに、アポロンの頭部バルカンが炸裂する。

支障をきたしたライフルは爆散する。武装が一つ減った。

しかし、こちらばかりが攻められる訳にもいかない。

ライフルが爆散した隙を狙って、煙を掻き分けアポロンに距離を詰める。

 

今度は全力の刀。両者、鍔迫り合いになる。

お互い一歩も退けない状況。

何かアプローチをかけねば—

そう思った時。

 

『ビット!』

 

コックピットを通じて声が聞こえた。かと思うと左右のバインダー上部が展開する。

自動遠隔兵器となったバインダーがフェーテの後方から接近する。

 

「こんの…」

 

鍔迫り合いを雑に薙ぎ、上空へと退避する。

ソードビット2基がフェーテを追従する。

 

急停止、急発進を繰り返すビットに対し腕部バルカンを放つ。

しかし、弾丸は虚しくも空を穿つ。

 

「下からも…!」

 

上空のフェーテに対して、地上からもアポロンがハンドガンで加勢する。

二基のビット、下方からの攻撃によって窮地に立たされる。

 

ービットは…—

 

「ビル…なら!」

 

地上の道路に向かって急降下する。

それに相次いでビットも追従する。

前モニターにはアポロンが接近する反応を示している。

 

「耐えろっ…!」

 

降下したと同時にT字路を右方に飛ぶ。

急に右に曲がったフェーテに反応できなかったビットは突き当たりのビルに衝突する。

 

今だ—。

 

機体を反転させ、突き刺さった2基のビットに対して腕部バルカンを放つ。

動けない状態のビットへの攻撃は容易で、1基は稼働不能にできた。

しかし、機体に対して負荷をかけた機動をしていたフェーテはバランスを崩す。

 

そしてもう1基のビットを破壊しようとしたところでアポロンが電光石火の如く、接近する。

T字路でうまく機体を捻らせる。地面を蹴った勢いで加速、突きの構えだ。

 

「強制噴射っ!」

 

無理な体勢ながらもなんとかビルに衝突し回避する。

ビルは崩れ、MS1機分の窪みにフェーテは寄りかかっている。

反応が遅れたのか左肩を損傷している。

致命傷は避けられたが、相手が、ユウが優勢だ。

 

『もうちょい手応えあると思ったんやけどな…』

 

加速で距離が開いたアポロンはフェーテの元に歩む。

 

「このくらいで終わるわけ…ねえだろ?」

 

唸りを上げながら、刀を片手に立ち上がる。

前方にアポロン、後方にビット。このままでは確実にやられる。

 

『ま、いいや。行くで』

 

アポロンはフェーテを仕留めるべく、接近する。

 

[caution]

 

後方からの攻撃を知らせるアラートが鳴る。

 

アポロンとビットの挟み撃ち。

 

ビットが先に胴体を捉え貫かんとする。

 

 

—ビットはっ—

 

 

「ソードビットっ展開っ…!」

 

左右違いのビットが2基展開される。

1基はアポロンへ、1基はビットへと向かう。

異変に対応が遅れたアポロンのビットは攻撃を受けながらも、目標をフェーテのビットへと移す。

 

アポロンは動きこそ一瞬戸惑ったが、踵のブレードを展開し脚を高く突き上げ、ビットへ向け墜とす。

あの時と同じ柔軟な対応。

 

『隠しとったん…かいっ』

 

 

鍔迫り合い。

ビットを使ってしまった以上、やけくそだ。

腰のサーベルを回し展開する。

 

『っな…!』

 

運良く右腕を溶かす。両腕で支えられた刀の力が弱まる。

アポロンは負けじと踵のブレードを突き出す。

フェーテのリアアーマーに溝ができ、後方へ飛ばされる。

油断したトロは衝撃で刀を離す。

 

「まっず…

 

『男なら拳だろうがあ!』

 

ユウの何かが吹っ切れたのか、刀を捨て残った左拳で肉弾戦を仕掛ける。

トロは予想外の攻撃に驚きながらもナックルガードを展開し、防御する。

 

「んなこと…!」

 

右手でビームサーベルを取り出し、振り下ろそうとする。

 

『させるかああ!』

 

アポロンも同様にサーベルを取り出し、フェーテの右手に向かって投げつける。

振り下ろされようとしたビームサーベルは腕関節から爆ぜる。

空中で争っていたビットも両者限界を超える。

 

気づけば戦場は広場へと移っていた。

 

互いに左腕を残し、消耗した状態だ。

両者の機体には残ったビームサーベルが握られている。

 

両機の残された腕にはビームサーベルが握り締められている

 

同時にアスファルトの大地を踏みしめ、互いの目標へと加速する。

 

先に動き出したのはアポロン。

もちろんそれに呼応してフェーテも攻撃のために振るう。

 

しかし、アポロンは互いの距離に踏み込む前に腕を前に振るう。先に飛び込んできたのはビームサーベル。

対応がほぼ不可能に近い。が、イレギュラーを警戒していたフェーテは光が軽く装甲を撫でられながらも回避する。

 

ビームサーベルに気を取られているうちにアポロンが接近する。こちらに肉弾戦を仕掛けると反応したフェーテはサーベルで切り込もうする。

 

しかし切り込もうとした空間はすでに虚無。

投球したサーベルよりを上回る速度で通り過ぎる。

アポロンの狙いはビームサーベルの回収だった。

トリッキーな攻撃の前に思考が追いつかず、ナックルガードに大きな傷痕を残す。

 

切っては避け、振るっては避け…

それは幾度も続く。

 

「っ…」

 

トロは途切れ途切れになる思考を掻き集めながら回し蹴りを喰らわす。

 

それをもろに喰らったアポロンは後方に飛び、距離が開く。

一進一退。しかし確実に消耗していく。

 

 

ビルを背に正対する2機。曇天の隙から光が差す。

コックピットの色は被害甚大を示す赤色に染まっている。機体の各部からは危険を知らせる表示。

 

『次で…』

 

「次で」

 

『決めてやる!』

 

「終わらせる…!」

 

残った推進力を使い、加速。

 

「当たれっ!」

 

ビームサーベルを投擲する。当たる確率なんてたかが知れている。

それでも可能性は、ある。

 

『今さらそんなのにっ!』

 

左腕のビームシールドを展開、虫を払うようにサーベルを退ける。

 

「ビット!」

 

最後の望み。残された最後の武装、二基のソードビットを展開する。

左右対称の剣が一基アポロンに向かい穿つ。

 

 

『ぐっ…!』

 

 

ビットは左肩に命中、小爆発を起こす。爆煙が辺りに広がる。

 

 

「…やったか」

 

『まだ…』

 

 

爆煙から現れた腕を欠損した機体。

 

『終わってねええだろ!?』

 

『アポロン!!』

 

デュアルアイが赤い閃光を残しながら加速する。

機体が持たなくなる寸前まで、抗い前に進む。

 

「そこまでして…!」

 

機体の交点へと加速する2機。

 

—まだ手はある…

 

左足を軸に、残った推進力を使い足を高く上げ、右に回転する。

 

『回し蹴りは見飽きたんだよ…!』

 

紙一重、すれすれで回避しようとする。

 

「ところがぎっちょんってやつだ」

 

頭部に足首が向かった時。

本来、発刃するはずのない位置からビームが展開される。

 

『んなっ…!』

 

頭部が溶断されていく。しかし胴体を貫くほどの出力は残っていない。

突然の出来事にアポロンは動きが鈍る。

 

『メインカメラがどうなったってっ……!』

 

アポロンは膝をフェーテの胴体に向かい突き出す。

記憶が蘇る。あの時の武装だ。逃げ出せない。

 

—なら…!

 

「グリップ展開っ!」

 

グリップが展開され、正真正銘の剣となったビットがフェーテの元へ帰す。

帰したビットの柄を握る。

 

 

『こんだけ近けりゃあ!!』

 

「っ!!」

 

 

 

[ battle ended. <Drew > ]

 

 

 

アポロンの膝から刃となった粒子がフェーテの胴体を、フェーテの手に握られたソードビットがアポロンの脇腹を、貫いていた。

空から差し込んだ光が辺りを照らす。

機体の各所が悲鳴を上げ、無残に煙を吐きながら崩れていく。

 

「引き分け…か」

 

『…』

 

勝敗の行方は引き分け。

ガンプラバトルで引き分けになることは少ない。数分たりとも違わない、同タイミングで起動不可になることは難しいからだ。

2人は感情が最高潮になっていたことに気づくと同時に、結果を提示され冷静になる。

 

 

『っっっっ…す!!!』

 

「?」

 

中途半端な通信越しの音声に気づき疑問を抱く。

 

『すっげえええ!!!』

 

ユウは機体越しからも聞こえそうな感情のこもった声を上げる。

 

 

 

感動、余韻、愉悦。人が人として感じる正の感情。

 

 

此処に正の感情がある限り、負の感情もまた此処に迫る。

 


 

〜ロビー〜

 

「すっご…」

 

勝負の一部始終を見ていたタクトは思わず感嘆の声を漏らす。

バトルに参戦できなかったのは心残りだが、その分アニメのような、こんなにも良いバトルが見られた。

そんなことを思っていると画面の異変に気づく。

 

「って…ん…?」

 

観戦していた映像にノイズが入る。

 

「通信状態…悪いのかな…?」

 

さらにノイズが酷くなる。

 

-目『 €“々標  発 k え

       n

 

「!?」

 

ビルの上に立つ、鈍い赤黒い光が灯った青い歪な機体。

 

映像の合間に垣間見えた音声。

 

見えたあの日の機体。

 

反射的にバトル参加の表示をタップする。

 

[蜿ょ刈縺ァ縺阪∪縺帙s]

 

文字化け。タップしても反応しない。

 

「まずいまずいまずい!」

 

負の存在はすぐ此処に。

 


 

〜フィールド〜

先程まで光が差し込み始めていた空は厚い雲が覆っていた。

 

『なんか退出できないんやけど!』

 

2人がロビーに戻れる気配が無い。

 

「どちらの機体も再構成された…」

 

『なんなんよ、ほんと』

 

武装以外は再構築、戦闘前の元の状態に戻った。

自動的に戻らない、自主的な退出も不可。これではまるで檻の中。

あの日とおな…—

 

「まさか…!」

 

『右舷前方!あいつがいる!!』

 

<<coution>>

 

危険を知らすアラートが鳴る。高速接近する機影。

そして通信。声の主はユウではなく、タクトだ。

 

『なんやあの機体…?』

 

ユウにとって初めての出来事だ。所属不明の機体が、突如現れた。

あの日の機体と同じようだが、右肩に大きな角のような破片が刺さっている。というよりは生えているようだ。

端的に言えば異型だ。

獣のように突進してくる。

 

二機は散開する。機体が再構成されたおかげで動きは速い。

 

「レボルシオンは!?」

 

『無理無理!そっちに入れない!』

 

「っくっそ…」

 

いざという時の望みが一つ絶たれた。

異型のフェーテはビル群を破壊しながら止まる。

揺らぎながら重々しくこちらを向く。赤黒い双眸が2機を睨む。

 

「ユウさん!ここは一旦…」

 

『とりあえずあいつを倒せばええんやろ!!』

 

「ちょっ…!」

 

拳を作ったアポロンは、異型のフェーテへと加速する。

先の戦闘で気持ちが昂ぶっているのか、1つのミッションと勘違いしているらしい。

 

『止まってるやったら簡単に…!』

 

自慢の拳を勢いよく前に突き出す。

対して異型のフェーテは動く気配がない。1つのオブジェクトのように動じない。

 

「特、 逡ー 点 w於  確n」

 

『…?』

 

日本語に近い音声が聞こえた。

と同時に景色が反転、アポロンはビル群に叩きつけられていた。

 

「ユウ!?」

 

『なんや…こいつ…』

 

機体を立て直すアポロンを、異型のフェーテがアポロンを睨みつける。

ここで初めて異変に気づいたらしい。これはただのミッション、いやミッションですらないと。

 

「ああもう!!」

 

フェーテががむしゃらに走り出す。

異型のフェーテは腕をさも最初からあったように変化させ、ライフルの形状を作り出す。

 

「っ…」

 

歯を食いしばり、射線上から避けるため横に飛ぶ。

直後、巨大な光が直線状に街を飲み込む。

 

「出力バケモンかよ…!」

 

直撃は避けられたが、近くに居ただけで、左腕の装甲が剥ぎ取られる。

 

『トロさん!これ!』

 

異型のフェーテの背後から青い鋭い物が飛んでくる。

戦闘中油断して離したもの。運良くその近くに飛ばされたようだ。

 

「刀か!」

 

運良くフェーテは刀をキャッチする。

地面を蹴り、火を吹かし、接近を試みる。

同じく刀を手にしたアポロンも接近する。

 

「はああああ!!」

 

『でりゃあああ!!』

 

左右から振られる刀。異型のフェーテにとって隙がない。

しかし、それを嘲笑うかのように双眸を灯す。

 

「  kい   始」

 

機体が揺らいだかと思うと、瞬間的にビルの屋上へと降り立つ。

2機は虚無を裂く。と同時に遅れて移動した衝撃波が襲う。

 

「っく」

 

『ぐっ…!』

 

異型のフェーテは2機を見下ろす。

前回遭遇した時より姿が歪に変化している。特に右半身の変化が顕著だ。

 

「…あれを使えば傷一つくらい…」

 

『策があるんか!?』

 

「時間稼いでくれたら!」

 

『了解っ…!』

 

アポロンは火を吹かし、再度接近する。

目的は時間稼ぎ。高く飛翔し、大きく刀を縦に振るう。

 

「 繝ュ ー ド ch う」

 

『っくそ!』

 

異型のフェーテもまた形状を刀へと変化させ対応する。

鍔迫り合い。先程のトロの時とは違う圧。威力。

 

 

—なんでフェーテに似てん…—

 

 

「セーフティ、アンロック…」

 

パネルにUNLOOKの表示が出る。

それを確認すると、すぐさまアームレイカーを操作。

中指2回、人差し指1回。レバーを押し込む。

 

『もう限界に近いっ…!』

 

「各部装甲パージ!機体出力最大!全スラスターアクティブ!」

 

主を失ったシールド発生器、脚サイドブースター、脚前装甲が地面に力なく落ちる。

同時に地面を崩し、駆け出す。

 

「傷一つくらい…っぐ…」

 

先程とは比にならない速度で接近する。最高出力で機体がぎりぎり耐えられる負荷をかけ続けられるためか、関節や、装甲の隙間から煙が発生する。想定以上のポテンシャルだ。

デュアルアイの光を残しながら、拳を作り、頭部目掛けて全力で拳を振りかざす。

 

「付けさせろオッ!!!」

 

確かに手応えがあった。

がコックピットの画面から黒い光が差し込み、2人を飲み込む

 

 

 

 

 

「ロード 完 了」

 

 

 

 

 

 

 

 

〜ロビー〜

 

「んあ?」

 

人が行き交うGBNの玄関。

気がついた時にはロビーにいた。

黒い光がコックピットを包んだかと思うと場所はロビーだった。

 

「あれ?」

 

先程まで戦場にいた2人は困惑する。

辺りを見渡す。普段と何も変わらない光景。

 

「大丈夫だった!?」

 

ハアハアと息を切らしながらタクトが駆け寄る。

 

「俺は大丈夫だけど…ユウさんは?」

 

「問題なしや。ところであの機体何よ?」

 

ユウにとっては恐らく初の体験だろう。先程まで戦っていた相手と型は違うとは言え、同じ姿の機体が襲撃してきた。

即座に反応していたとは言え、困惑しているはずだ。

 

「説明は…するから…」

 

「ま、ええわ。フォース組んでるんよな?名前は?」

 

「プログレイラーズ!」

 

タクトがここぞとばかりに割り込む。

急な話の展開だ。尋問でもされるかと思ったがそんな心配は杞憂だったようだ。

 

「すんごい名前やな…」

 

若干顔が引きつっている。

トロも同じ感じだ。正直、ダサい。

 

ピロン♪

 

突然トロとタクト、2人から軽い電子音が鳴る。

画面を表示させ、音の行方を探す。

 

[”ユウ“からの参加申請を許可しますか? <Yes> <No> ]

 

「あんなすごいバトルしたの初めてやからな。ちょうどフォースもやってるっていうし」

 

「え、あ」

 

「イィィエスウ!!」

 

タクトが承諾する。

ユウがフォースに参加しました。という表示が出る。

フォース人数が増えた。喜ばしいのか、喜ばしくないのかなんだかむず痒い気持ちだ。

 

「フォース名変えよう。」

 

唐突にトロが切り出す。

 

「…?変えるの?」

 

「ダサいし。」

 

即答する。自分から言い出した割にはあまり気に入ってはいなかった。というのが正直な所だ。

フォースメンバーが増えた今のタイミングなら変えるのは自然な流れだろう。

 

「機体の頭文字取るのはどうや?」

 

ユウも流れに乗る。ユウも既にフォースの人間だ。

 

「そうやな…“FAR”とか」

 

「えふ、えー、あーる?」

 

タクトが首を傾げる。どうやらわかっていない様子だ。

 

「フェーテ、アポロン、レボルシオンか」

 

「そういうことやな。」

 

フォース名が変更される。プログレイラーズも悪くはないが、ユウの提案の方が一つになってる感じがして良い。

フォース[FAR]

進化、太陽、革命、3機の名が連なる。

恐らくこれからメンバーが増えるとなれば後ろにアルファベットが並んでいくだろう。

勢力が広がる淡い期待を抱く。

 

「改めて、ユウです。よろしくな」

 

「トロ。よろしく」

 

「タクト!よろしく!」

 

フォース名、FARに新たなメンバーが加わった。実力も勢力も知名度もベテランダイバーには届かないが、楽しめれば良いだろう。

危惧していることにはならない、そう感じることができた。

 

「フォーストーナメントだって!定員3人…いけるじゃん!」

 

「ええなあ。いっちょやったりますか」

 

「え?え?」

 

前言撤回。やっぱ怖い。めっちゃ話進めてくる。

 

—ま、がんばろ

 

微かに微笑みながら密かに決意するトロであった。

 

 

第三話「太陽の名を冠する者」




⭐︎キャラ設定⭐︎
・フォース「FAR」
トロ   高校一年15歳。金髪のメガネに、ポンチョのようなものを着用している。
基本は冷静な判断で戦闘する。調子に乗ってくるとゴリ押す。
ガンダムフェーテの制作者 兼 操縦者。

タクト  トロと同じぐらいの年齢。黒髪のラフな姿で、見た目は爽やかだが、子どもっぽい口調である。
近接戦闘を好み、大胆な発想で戦況を覆す。
レボルシオンガンダムの制作者 兼 操縦者。

ユウ   恐らくトロと同い年。茶髪に頬の太陽のマークが特徴的。関西弁も特徴。
近接格闘を好む。かなり手慣れている様子。
アポロンガンダム の制作者 兼 操縦者。

出演者
タクト Twitter(@0lykNWg2ezARRYp)

スーパープリン 
ぬぬっしし Twitter(@superpurintwit1、@nushi_shinymas)

トロさん  Twitter(@Torosan__1063、@Torosan_016)


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第四話「星が照らす宇宙」

どうもトロさんです
前回から4ヶ月くらいから空いてるトロさんですどうも
検定とかで忙しいandモチベが下がりまくっててね…すみません
っというわけで四話書き上げられました。今回はとてもゲストが多いです

特に言うこともないんで、第四話をどうぞ楽しんでいってください!はい!


 

「はぁーっい⭐︎!ガンプラアイドルのミミだよー!」

 

歓声と熱気包まれた会場。ピンク髪の1人の女性のダイバー、否、アイドルがスポットライトに照らされている。

 

「さてさて!今回もやってきたよ!フォースバトル!!選ばれし3人のフォースが力を合わせ、優勝を目指してもらうよー!!」

 

「うぉぉぉぉぉ!!」

 

GBN公式の人気のガンプラアイドルのようだ。ピンクの髪に、アクセサリー、華やかで派手な衣装が彼女の魅力を最大限に引き出している。

そして応援する熱狂なファンが一体となってステージを引き立てている。

 

フォースバトルとは。

フォース対フォースで勝敗を決めるチーム戦。今回の場合、3人で構成されているフォースが対象だ。

 

「今回も抽選で選ばれた20組が4ブロックに分かれて競ってもらいます!」

 

20組。人数で表すと80人。結構な数だ。

そしてまさかの抽選。しかも当選。世界大会と比べ、定期的にある小規模な大会なためこのような形が取られているようだ。

 

「5組1ブロックか」

 

「そうやろなあ」

 

「楽しみだね!」

 

この大会にエントリー、見事当選したフォースF.A.L.はオープニングをフォースネストで見ていた。

フォースとしてはじめての公式大会出場だ。

 

「そして!今回の大会からの新ルール!!各ブロックを勝ち抜いたフォースは各ブロックとのバトルの際、3名以上6名以下のフォースで挑んでもらいますっ!」

 

ブロック内でのバトルは3人、対ブロックによるバトルは3〜6人という異例のルール。

 

「各ブロックの敗退フォースと組んでも良し!別のダイバーとも組んで良し!とにかく自由!」

 

つまりはブロック敗退しても運が良ければ、拾ってもらえるというわけだ、

取組としては面白い反面、ルール上疑問に思うこともあるが小規模な大会でそんなことをする人はいないだろう。

 

「それでは早速!!組み合わせを決めていきたいと思います!!」

 

「まずはAブロックから!!初めは—•••」

 

これから組み合わせが決まるようだ。

どこに入るかさえ分かればいいので適当に流しておく。

モニターから発せられる音が雑音と化した中、トロが口を開く。

 

「そういえばフォースネストのこと完全に忘れてたな」

 

フォースネストとは、フォース内で共有する拠点のようなもの。自由度が高く、船や城なんてものもある。

そんな多彩な種類の中、選んだのが"喫茶店"だ。カウンター前に椅子がいくらかあり、他にも机、椅子もある。

天井から吊り下げられた照明、目に優しい観葉植物、壁面にはGBN内で得たインテリアを飾るスペースがある。

どこか暖かみを感じられる雰囲気だ。

 

「それにしてもカフェか」

 

「俺はおしゃれでいいと思う!」

 

そう言いながらカフェ内を物色しているタクト。

それぞれ飲み物を片手にのんびりとしている。

 

「味とか分かるんだな…」

 

GBNでは五感は再現されるようだ。今飲んでいるのはオレンジジュース。柑橘系特有の爽やかな甘い味が舌にのるたびに感じられる。

しかし、たとえGBN内で食事を取ろうとしても現実の腹は満たされないだろう。あくまで感覚だけだ。

 

『Cブロック第一バトル!フォースF.A.R.!対するは、フォースイレディエート!』

 

自然と視線が音声の主へと向く。

フォースF.A.Rで敏感に反応した3人はモニターを見る。どうやらCブロックでの対戦、第一試合目らしい。

 

「?どこだろ」

 

「調べて作戦会議やな」

 

「やるか」

 

相手はフォース、イレディエートだそうだ。

ダイバーはヒビキ、グラン、ルナの3人。それぞれ特徴的な機体を使っている。

ヒビキはセイヴァーストライク、グランはガンダム クアンタム・グローリー、ルナはスタールナゲイザーだ。

近接特化のクアンタムグローリーを軸に、近接支援用の機体のセイヴァーストライク、スタールナゲイザーだろうか。

どちらにせよ油断はできない。

 

「近接は俺らの得意分野やな?」

 

「得意か…?」

 

「ふふーん余裕余裕♪」

 

少し疑問が残るが問題ないだろう。

連携に関しては事前にミッションで確認しておいた。あとはどれだけ成果が発揮できるかだ。

 

「メンテナンス行ってくるな」

 

そう言ってユウが立ち上がる。

バトル開始までには少し時間がある。機体を万全に整えておくことは大事だ。

 

「ちょっと出てくる」

 

そう言うと、戸の鈴が子気味よく鳴り、戸が閉まる。

 

「おー…」

 

生返事になるユウ、タクト。

どこに行くかは分からないが引き止める理由もなかったので特に気にしなかった。

残された2人は格納庫へと向かった。

 


〜GBN内ロフト〜

 

トロはフォースネストから出て来てから、GBN内を散策をしていた。理由は特にないが、バトル前に気持ちを落ち着かせるのは必要だろう。

今までまともにGBN内を見て回ったことがない。そういう意味では良い機会だろう。

フェンスに寄り掛かり、ふと空を仰ぐ。

 

「GBNの空綺麗だな…」

 

所詮データで作られた見せかけの空。しかしそうは思えない何かを感じさせる。

この空を自由に飛べたらな。そんな思考が脳裏をよぎる。

 

『…ーサ…スの勝利!!』

 

バトルの進捗を見るために中継を表示させた。

どうやらBブロックの第一バトルが終わったようだ。

 

—ん?Bブロックの第一バトル終了?

 

「やっば」

 

空に見惚れている内に時間が経っていたらしい。

急いで格納庫へと移動する。

 


 

「それではこれよりCブロックのバトルを開始しますっ!」

 

観戦者はそう多くないみたいだ。それでも熱いガンプラバトルが見たいと集まっている人たちがいる。

どこかの白い悪魔ならこんなに嬉しいことはない、とでも言うだろうか。

 

「ごめん。遅れた」

 

バトル直前ぎりぎりに調整が終わった。ほんとに危なかった。

 

「せーふ!」

 

「どこ行ったか分からんくて焦ったわ」

 

心配しながらも受け入れる2人。

出会ってから日は浅いが信用してくれているみたいだ。

 

『第一バトルのフォースは出撃準備に入ってください!』

 

ミミのアナウンスで準備を促される。3機がカタパルトに固定される。

 

『それではCブロック第一バトル!フォースF.A.R.対フォースイレディエート!』

 

三者、アームレイカーを握りしめる。目の前の光が刺す扉を見つめる。

 

—これからだ

 

「タクト!レボルシオンガンダム!」

 

「ユウ!アポロンガンダム!」

 

「トロ!ガンダムフェーテ!」

 

「出る!」

 

「いきます!」

 

「出ます!」

 

3機がカタパルトに火花を散らす。光の照らす先を目指して。

 


 

『field colony』

 

人工音声が告げたバトルフィールドは”コロニー“。一見すると普通のビルなど建物がひしめき合う都市。しかし上を見上げるとここにも街が点在するという地球民から見たら異様な光景だ。それがコロニーだ。

 

「あれか」

 

画面に映し出される2機。

 

「残り一機は?」

 

飛行しているのは2機だけだ。

 

「地面から来てるで」

 

飛行している2機の下にビルの間を飛行する機体がある。

 

「イレディエート捕捉」

 

トロが報告。情報通りの機体だ。特に変化は見られない。

今回、フェーテはソードビットは装備していない。ライフルと刀だけだ。

 

「撃ってきた!」

 

タクトが警告。各機回避または防御に徹する。

レボルシオンが盾でビームの攻撃を相殺、拡散させる。こちらはいつもと同じ装備だ。

 

「フェーテがクアンタムを、レボルシオンがセイヴァーを。俺はスタールナゲイザーとや。」

 

ユウが指示。各機目標へと加速していく。

最初に加速していくアポロン。こちらも装備は変わらない。

 

「了解っ…!」

 

「おっけー!」

 

今回フォースでの戦闘に備え、役割分担を組んでおいた。

トロが具体的な状況を報告、タクトが持ち前の反射神経で警告、ユウが経験を活かした戦闘の指示だ。フォースの連携のためには全体の流れを把握、共有しなければならない。そしてこれが今できる最適解だった。

 

フェーテがクアンタムグローリーに向かって右手の刀を振るう。

それに呼応してクアンタムも赤い刃を振るう。

ガンダムクアンタムグローリー。クアンタとルナゲイザーを主にミキシングされており、青、白、緑がベースのカラーだ。また、左右の大きなバインダーが特徴である。スタイルが良い印象だ。

 

『君がフォースのリーダーか?』

 

接触回線を利用してガンダムクアンタム・グローリーのダイバー、グランが問う。

 

「どうだか」

 

左手に持ったライフルの引き金を引く。

 

(コロニー…!!)

 

最小出力で撃つ。不意を狙ったはずの攻撃だがフィールドが敵となった。

そして当のクアンタムグローリーにあっさり避けられてしまう。

コロニーでビーム兵器を使ってしまった場合、コロニーに穴が空けてしまい全てが抜けていく。バトルにも影響が出てしまう可能性がある。考えなしで攻撃してはこちらが不利になる。

 

『少しは頭が切れるようだがな…っ』

 

射撃後の生まれた隙に脇腹に蹴りを入れられる。そのまま落ちていくフェーテ。

通常の機体より少し脚が長い分リーチが広いため避けようにも避けられなかった。

 

<<caution>>

 

地上と接触することを知らせるアラートが鳴る。落ちる前にバーニアを全開で吹かす。

体勢を整えるため、地に足をつけようとする。

 

「川!?」

 

地に着くはずの足が勢いよく沈み込んでいく。

大きな水飛沫を上げる。

 

『楽しませてくれそうだ』

 

グランの口角は上がっていただろうか。

クアンタム・グローリーが背部のバインダーユニットを足へと装着し、急接近する。その赤い矛先を向けて。

 


 

『なかなかやるじゃないの…!!』

 

「当たり前っ!!」

 

空で接近、後退を繰り返し、光と刃とが交差する。

スタールナゲイザー。一見するとスターゲイザーに見えるが、ルナゲイザーをベースに製作されており所々にその意匠が見られる。武装もビームサーベルにビームシールドとシンプルだ。シンプルすぎる。

 

「っら!!」

 

ビームサーベルを後方へと受け流し、その勢いで回転する。

踵の刃を展開し、相手に目掛け突き出す。

 

『そんくらい読めてるっつの!』

 

「なっ…」

 

胴体を捕らえたはずの刃が空を切る。

華麗に後方に避けたスタールナゲイザーは連続でビームサーベルを突き出してくる。

 

「っく…!」

 

ビームシールドを展開し対応し、攻撃を試みるが隙がない。

 

操縦者の技能でここまで差が出るものなのか…

 

「このっ!」

 

サーベルを突き出してくるタイミングを狙い、被弾承知で頭部のバルカンを発射する。

 

『んあ!?』

 

弾が装甲に弾かれながらも確実にダメージを蓄積していく。

そして運良く右のデュアルアイに命中。相手の動きが一瞬鈍る。

 

「今だっ…——

 

『川!?』

 

仲間からの音声通信。近くでは大きな水飛沫を上がっている。

思わず攻撃の手が止まる。

 

「トロ!?」

 

想定していなかった展開に、戦闘への意識が薄れる。

モニターの表示を見る限り稼働状態ではあるようだ。しかし、何があってもおかしくはない。損傷が甚大な場合も考えうる。

 

『よそ見してる場合じゃないのよ!!』

 

はっと我に帰る。目の前にはサーベルを構えたスタールナゲイザー。

サーベルはアポロンへと向けられる。

 

「っく!?」

 

頭部の真横をビームが通り過ぎ、アンテナを溶かす。

なんとか直撃を免れることはできたが、今ので左バルカンが掠めた熱で狂った。ほんの一瞬の隙が命取りだ。

 

「こんの!!」

 

背部スラスターにわずかに左に逸らす。

膝下のサーベルを展開し、スタールナゲイザーの脚に目掛けて体を捻らせる。

 

『きゃっ!?』

 

関節から下が別れ、置き土産と言わんばかりに爆発する。

これで地上戦は不可能になる。脚部スラスターを失ったであろうスタールナゲイザーが体勢を崩す。

背部にバインダーの恩恵で、空中での姿勢制御が容易なアポロンガンダムにとってはアドバンテージとなる。

刀を構え直し、接近する

 

——ここから一気に…!

 

「はあああ!!!」

 

<<caution>>

 

「!?」

 

下方からの危険を知らせるアラート。

攻撃の手を止め、即座に後方に避ける。

 

「ストライカーパック…?」

 

一瞬見えただけだが、シルエットからそう判断できた。

というより見覚えがあるような…

 

「セイヴァーストライクの…?ってあ、逃げんな!!」

 

セイヴァーストライクのストライカーパックに掴まるスタールナゲイザー。

急いでバーニアを吹かせ追いかける。

 


 

ビルが崩れ一つ一つが破片となっていく。

ビルの間を器用にかいくぐりながら銃撃し合う2機。

 

「やっぱ当たんないなあ…」

 

相手に放ったビームは灰色の構造物の一端を溶かすばかり。

しかし相手から攻めてくる気配がしない。

 

「ま、いっちゃお」

 

ビームライフルを捨て、自慢の刀を鞘から引き抜く。

ビルの上を飛び、接近戦を試みる。

 

『しつこいですね…』

 

「まあねぇ♪」

 

刀は持ち前の盾で防がれたが、相手がここでようやく足を止めた。

 

セイヴァーストライク。ビルドストライクがベースだろうか。各部にイージスガンダムのパーツが取り付けられており、刺々しい見た目になっている。特徴的なのが背部のバックパック。大きな翼が印象的で、恐らくウィンダムのストライカーパックを改修しているのだろう

ミサイルが装着されている。

なんと言っても武装が多い。注意が必要だ。

 

「!!」

 

モニターの左端、シールドの影に光るものが映る。

咄嗟に後ろに向かって地面を蹴り、シールドを構える。

 

「あっぶな!!」

 

案の定ビームライフルだ。

反射神経のおかげでシールドで防ぐことができた。

 

「よいっしょっ!!」

 

ライフル目掛けて縦に振るう。

ライフルは中央で分断され小爆発し、爆煙が上がる。両者とも盾で小爆発の被害を最小限に留めさせる。

 

「へへ」

 

『はあぁッ!!』

 

満足したのも束の間、爆発の向こう側からセイヴァーストライクが迫り来る。

爆煙をかき分け、近接武器を手に突進し、大きく振りかぶる。

 

「は!?」

 

予想外のことに即座に反応できず、シールドを振り落とされてしまう。

主を失ったシールドはビルへと力無く叩きつけられる。

 

シールドを取りに戻ろうとするが、既にセイヴァーストライクは次の攻撃へと移ろうとしている。

 

「くっそっ!」

 

刀を構え前方へ振るう。セイヴァーストライクも同じタイミングで交わる。

セイヴァーストライクの近接武器、ロングソードとレボルシオンの刀が激しく競り合う。

 

『こんの!』

 

途中、上空で爆発が起きる。アポロンとスタールナゲイザーだろう。

うまくやり合えているようだ。

 

『ルナ!!』

 

鍔迫り合いの向こうで何かが火を吹き、空へと昇っていく。

セイヴァーストライクのストライカーパックだ。

 

「バックパックが独立!!」

 

『しつこい割にうるさいとか…』

 

セイヴァーストライクが後方へと重心を動かし、鍔迫り合いを中断させる。

セイヴァーストライクのストライカーパックが独立稼働し仲間の支援に向かった。支援前提の装備なのだろう。

 

「ちょ!?」

 

加速させレボルシオンから逃げるようにビル群を抜けていく。

 

『5…。時間稼ぎはできましたね』

 


 

クアンタムグローリーの猛攻撃。避けるので手一杯だ。

上空へ逃げようとしても横に逃げようとしてもそれを妨害される。川の表面をなぞるように下がるしかなかった。

 

「っ…」

 

相手はバインダーをホバーユニットとして装着しているため自由度が高い。クアンタム・グローリーが赤い剣でフェーテを狙うたびに川に水の壁ができる。

なんとか打開できないか—

 

「これだ…!」

 

くるりとクアンタムの方を向き足を川面のぎりぎりを滑らせる。

と同時に目の前に煙のようなものが立ち込めた。

突然の出来事にクアンタムの動きが鈍る。

 

『そんな悪足掻き…そこか!』

 

何かが飛んできたタイミングに合わせて剣を振るう。

2つに分かれたのは白い棒状の…

 

『ビームサーベル!?』

 

「良く見ろ…!!」

 

視界を遮る奥から青緑のデュアルアイが鋭く相手を捉え、光が横に伸びていく。

クアンタムグローリーの背後に回っていたフェーテが刀を突き出す。

虚をつかれたクアンタムは対応が遅れ、片腕を肩から突き落とされる。

 

クアンタムグローリーの使用する剣は刃の部分が高温になる仕組みのようだった。そして、その刃が川の表面に触れると水が“蒸発”する。

それを利用し、足首裏のビームサーベルを展開。一気に蒸発させ水蒸気を発生させた。

 

『ッ…』

 

地形を生かした戦術。

ここで先程まで好戦的だったクアンタムの攻撃が衰える。

というよりは攻撃が止んだ。

クアンタム・グローリーが反対方向、フェーテの前方側を向き加速し始めたのだ。

 

『ああっとここで!フォースF.A.R.が優位に立っています!』

 

「っせぇな…」

 

実況に小言を吐きながら退き続けるクアンタムを追いかける。

背部のスラスターのおかげか距離を段々と離されていく。

 

—逃げてる…?

 

『1…。今か』

 

背中に鮮やかな緑の円を描き、クアンタムが一気に速度を上げる。

 

「待っ…!?」

 

そしてそれは突然起こった。

 

「なんや!?」

 

急な爆発音。ビルなどの建物が破片となり散り、宇宙の一部が顔を出す。空は天候の処理が追いつかず、曇り、嵐となる。

コロニーは回転を止める。

そこに紛れイレディエート3機がコロニー外に出ていく。

 

「なんでなんで!?!?」

 

引き込む力に抗いながら、レボルシオン、アポロンがフェーテの下に集まる。

コロニーが自ら暴発することがあるわけがない。

周辺の情報をスキャンする。

 

「残骸の中に地雷の破片…」

 

つまり元から仕掛けらていたということになる。

 

意図的に宇宙に誘っている——

 

「追うか」

 

「なーんで宇宙に行ったんだろね」

 

3機が宇宙へ(いざな)われる。

 

 


 

〜宇宙〜

 

宇宙。重力は存在せず、自己の推進力のみで動く暗い世界。

3機が瓦礫や残骸をかき分け、コロニーの外壁へと出る。

 

「熱源反応!ミサイル来るよ!!」

 

反応を見るに、ミサイルが4発。

各機が爆発に呑まれないよう散開する。

 

『はあァァッ!!』

 

爆発したミサイルの間を縫い、一機が接近してくる。

セイヴァーストライクがロングソードを構え、フェーテに振り下ろす。

 

「ッ…」

 

フェーテはあえてそれを受け止めず回避する。

 

回避したのは目標にしていないのもあるが、イレディエートの配置が気になる。

奥からスタールナゲイザー、クアンタム・グローリー、そして今攻撃してきたセイヴァーストライク。

何故、スタールナゲイザーが奥にいる?そしてどこを見ている?

 

『よそ見とは愚かな!』

 

思考していた隙に、セイヴァーストライクの接近を許してしまった。

しかし対応は簡単だ。ロングソードを受け止めれば良い。

そして、恐らくこれから何かアクションを起こすであろう、スタールナゲイザーに攻撃すれば—

 

「っな!?」

 

ロングソードを持った腕が振り下ろされることはなく、代わりに脚部が飛んできた。

咄嗟に防御しようと左腕を出したが、想定外なのがその左腕がフェーテから離れた。

セイヴァーストライクの脚部にはビームサーベルが仕込まれていた。

 

ロングソードの攻撃だとばかり思っていたトロは驚きを声に漏らす。

爆発に巻き込まれないよう両機とも、離れる。

 

「このままルナゲイザーに…」

 

『させませんよ!!』

 

イーゲルシュテルンで行く手を阻まれる。

 

「行かせろっての…!」

 

絡み付くように攻撃を繰り出すセイヴァーストライク。

これでは先程から止まっているスタールナゲイザーへの攻撃のチャンスを失うことになる。

 

「任せろ!!」

 

ユウだ。どうやらクアンタムをレボルシオンとの戦闘に持って行かせたらしい。

フェーテとセイヴァーストライクを脇目に飛翔していく。

 

「何するか知んねーけど!!棒立ちじゃあなっっっっ!!」

 

急接近したアポロンが大きく刀を構え振り下ろそうとする。

 

右手に太陽の光が差し出した。

 

振り下ろした刀が装甲面に接する刹那———

 

 

『…ヴォワチュールリュミエール!!』

 

刀がスタールナゲイザーに触れようとした時、機体から緑に輝く輪が複数現れた。

直後その輪がしなりを加え、攻撃に転用される。

 

「なっ!?!?」

 

刀は一瞬のうちにふたつに分かれ、右肩から腕が切断される。

アポロンは攻撃の輪から離れるために後退する。

 

「まじかよッ!!」

 

「ヴォワチュール…」

 

「スタゲのやつだあ!?」

 

ヴォワチュールリュミエールとは。機動戦士ガンダムSEED C.E.73 STARGAZERの登場するスターゲイザーガンダムの推進システムだ。

このシステムは本来惑星間航行用のためであったが、副次効果としてエネルギー変換の際に周囲に荷電粒子が対流し攻撃に転用ができる。

GBNでは太陽の光が当たる環境、もしくは強力なエネルギーを受けられる環境のみ発動可能である。多くは副次効果を得るため搭載する機体が多い。良い例としてこの目の前にいるスタールナゲイザーが挙げられる。

 

『これでもう勝ち確っしょ』

 

『一気に片付けるぞ』

 

『了解です』

 

相対する2つのフォース。

どちらとも万全と言える状態ではないが、勝敗をつけるのには十分だろう。

 

「損傷は?」

 

「俺が右腕がちょっとな」

 

「俺は全然動ける!」

 

タクトが駆るレボルシオンが1番損傷が少ないようだ。

 

「だとしたら、タクトがセイヴァーストライクやな」

 

「了解!了解!」

 

そう言った途端、目標へと接近していく。

 

「トロはどうする?」

 

「スターゲイザーに行く」

 

「そっか」

 

次いでアポロンが、クアンタム・グローリーの元へ行く。

ここからが決戦だ。

 

深い宇宙に、緑を漂わせる白と青が残る。

 

『へえ。あんた勇気あるね?このスタールな…

 

「うっせえ。賭けだ」

 

食い気味に言葉を被せる。

わざわざ回線を開いてくるのは相当自信があるようだ。

正直言って気に食わない。かと言ってこちらに勝てる見込みがあるわけではないが。

 

モニターに通常では使用できないようにしてある武装を表示させる。

 

「セーフティアンロック」

 

「各部装甲パージ。出力最大設定」

 

ビームシールド発生器、脚前面装甲、脚部ブースター部が勢いよく辺りに飛び、漂う。

 

『なに…?』

 

流石に少し動揺するようだ。無理もない、既存のシステムではない武装を使うのだから。

 

-caution-

 

関節部から限界を示すように煙が吹き上がる。

そして、関節部や装甲パージ部分、クリアパーツ部から炎上したように赤い炎が吹き上がる。

やがてそれが一つの炎となりフェーテを包む。

 

「…」

 

『大したことないみたいね!こっちから行かせてもらうわ!!』

 

接近しながらスタールナゲイザーが緑に輝く円環をフェーテに触れさせる。

 

『炎で自爆寸前のあんたは動けないでしょうね!』

 


 

『はあァァァァッ!!』

 

セイヴァーストライクの猛撃。先程までとは打って変わった戦闘スタイルだ。

 

「さっきとは全然!違うね!!」

 

受け止めるだけで精一杯になる。かなり変測的に動いてるつもりだが、それでも絡みついてくる。

獣みたいだ。

 

「ならっ!」

 

距離を離し急停止、再度急接近する。もちろん相手も絡むように接近してくる。

 

「よっ」

 

背部バックパックを外す。セイヴァーストライクはすぐさま向かってくる、バックパックを斬る。

そして隙は生まれる。すぐさま背後に周り、特徴的なストライカーパックに一撃を入れる。

 

本体ごと切るつもりだったがそう甘くはなかった。

 

「ぐわっ!?」

 

突如、視界の左側が何かに遮られる。

爆発が収まった向こうで右脚、左腕を失ったセイヴァーストライクが佇んでいる。

 

『物凄くイライラしてるんで…。よろしくお願いしますね…?』

 

一瞬だ。機体が軽くなった分の加速が生まれたのかわからないが、距離を詰められた。

 

気づけば左の肩からやられていた。

 

「こんの…!」

 

反撃しようとした直後背後から攻撃を浴びせられる。

コロニーから溢れ出た残骸に叩きつけられていく。

 

——まずいまずい…

 

『意外と呆気ないんですね…では』

 

攻撃を加えた位置から見下ろすセイヴァーストライク。

手に持ったビームサーベルを払って見せ、突き出し、こちらに加速する。

武器はサーベルがある。しかし今取った所で間に合うかどうかだ。

 

——また足手まといって…

 

嫌な記憶が蘇る。

 

辺りに何か使える物は、武器は…!!

 

コロニーの残骸の中で光るものを見つける。

今の唯一の希望。

 

「足手まといなんて言わせない…!」

 

突き立てた光の刃が己を貫く前に、放たれた光刃。

右手に持った癖のない扱いやすいライフル。

 

ガンダムフェーテのビームライフル。

 

「あとは頼むよー…」

 

直後レーダーから一つの反応が消えた。

 


 

『なになに!?なんなのこいつ!?』

 

緑の円環がしなり、何度もぶつけられる。しかしその度にかき消される。身に纏った炎によって。

 

「上げすぎじゃなかったみたいだな」

 

フェーテから機体各所から溢れる炎によって緑の円環は相殺されていく。

 

原理はいまいち分かっていないが、考えるとするならビームシールドような物だろうか。

そして分からないのがもう一つ。前面モニターに映る数字だ。先程まで60だった物が10まで勢いよく減っている。

 

「時間…だろうな」

 

スタールナゲイザーにフェーテは接近していく。左に拳を作って。

 

「届け…!」

 

—5

 

-caution-

 

『させるか!』

 

クアンタム・グローリーがスタールナゲイザーを庇うように間に入る。

 

—4

 

このままだと恐らく届かない。

 

 -error- -error- -caution-

   -caution-ger- -error-

-danger- -error- -danger-

 

各部の関節やフレームが悲鳴をあげる。

最悪、こいつだけでも—

 

「お前の相手は俺だァァァァ!!」

 

アポロンが2基のビットを纏った左の拳をクアンタムに向け突き出し、視界から消える。

視界にはもうスタールナゲイザーしかいない。

 

 

 

—3

 

 

 

デュアルアイが赤い軌跡を描く。

 

——間合いに入った。

 

 

 

 

—2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

—1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[Winer forse F.A.R.]

 

 

赤く燃えた拳が相手の胴体を貫いていた。

 

 

 

『フォース、F.A.R.の勝利ー!!!!』

 

 

 

[ finish move 01 ]

-progress system-

 

「プログレス、システム…?」

 

両者が静かに悲鳴を上げ、直後機体を呑み込む爆発が起きる。

 


 

〜ロビー〜

 

「良い戦いだった。ありがとう」

 

手を差し出すグラン。

戦いを終えたフォース同士は互いを労うという一種のマナーのようなものがある。

 

「あ、いやその…」

 

差し出された手に戸惑うトロ。

グランは笑顔で差し出し続けている。

 

「ありがとうございます…。」

 

ずっと差し出させるわけにもいかず握手を交わす。

相変わらずの笑顔だ。誰にでもこういうことができる人なのだろう。

 

「ところであの赤いの何なのよ!アシムレイト?ナイトロ?何でもいいけどあれなかったら勝てたのに!」

 

「まあまあ…」

 

グランの後ろで悔しそうに騒ぐルナとそれを諭すヒビキ。良くも悪くもこれがフォース、イレディエートなんだろう。

 

「ま、こっちもヴォワチュールされた時はびびったけどな」

 

「完璧な作戦でしょうよ!」

 

ルナは先程の機嫌が嘘のように良くする。単純か。

 

「タクトさん、少し悪戯過ぎましたかね?」

 

「ん?俺は全然いいよ!楽しかったし!」

 

フォース戦をきっかけに仲が生まれる。

無意識に避けていた人と人との繋がり。それに触れてしまった今では良いものだと思えるようになってきたと思う。

 

「あの、グランさん」

 

トロは去り際に問いかける。

 

「どうした?」

 

「イレディエートの名前に何か意味があるんですか…?」

 

「照らす、だな。じゃあ」

 

グランは軽く手を振り、ヒビキは軽く会釈し、ルナは遅れながら元気よく手を振って、2人の元へと合流する。

 

照。何を照らすのだろうか。

その答えにきっと彼らは辿りつけるだろう。

 

「いこっか」

 

「ところであの炎みたいのなんやー?」

 

「そうそう!あれなに!教えて!」

 

ユウは肩に腕をかけ、タクトは跳ねながら歩く。

 

「あーはいはい」

 

少しは自然に笑えるようになったかな。

 

 


 

太陽にも照らせない部分がある。

光を遮られ、隠れた影。陰。

 

「来たな」

 

暗い部屋で1人つぶやく男。

 

「太陽がなんだ…名前だけに過ぎねえだよ所詮…」

 

太陽の陰に隠れた嫉妬に暗闇が覆っていく。

 

 

第四話「星が照らす」





出演者様
・タクト
タクト Twitter(@0lykNWg2ezARRYp)

・ユウ
スーパープリン 
ぬぬっしし Twitter(@superpurintwit1、@nushi_shinymas)

・グラン
GARAPAGOS SB Twitter(@GARAPAGOS9]

・ヒビキ
ヒビキ  Twitter(@hibiki_Reborn)


・トロ
トロさん  Twitter(@Torosan__1063、@Torosan_016)


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第五話 「影の嫉妬」

第四話からはや半年過ぎた8月。
皆様いかがお過ごしでしょうか。環境は変わりましたが私は元気です。

っっじゃねぇんだよ!!!投稿遅くなりすみませんでした!!!!
言い訳は数え切れないほど用意してはあるですが、まぁその試験とかあったんす!!ごめんね!!!
ッスゥーーーーーまあ安定のトロさんです。夏休みなので書き上げられましたやったね!
というわけでスランプに陥りながらもなんとか書き上げました、第五話。
お楽しみください!!!


地獄──そう思わせるほどの異様な戦場だった。

 

元は一つの機体として構成されていた部位があちらこちらにに散らばっている。

 

その中心には死神にも似た機体が、無惨に散った敵を未だに解体し続ける。

 

 

「クッソがァッッ…!!」

 

 

愛機が憎しみにも似た当て付けの感情で壊される。否、それは殺されるに等しい行為。

当人にとっては地獄そのものだろう。

 

 

『フォース焔空の勝利……です…!』

 

 

「アッハッハハハ!!!」

 

地獄に響き渡る声

 

悦。喜び。

相手を破壊し続けることでの満たされる感情。

 

 

「どこで間違えたんだろうね…私たち…」

 

 

「さぁ…」

 

憎しみと、喜び。

状況が反転すれば、正常にも異常にもなれる。

それも人の感情の一つ───。

 


 

 

「あーどうするか」

 

 

机の上に立つ青い太刀を持ったガンプラ、ガンダムフェーテ。

その横にはサバーニャのライフルが置かれている。

 

 

「接近して被弾多くなるなら射撃積んだ方がいいよな」

 

 

前に言われた犠牲にするような戦い方。被弾前提での動きをしているのは事実なので対策をしようというわけだ。

 

 

「これでいくか」

 

 

ハンドパーツを外し、穴にサバーニャのライフルの持ち手を差し込んでいく。

いつもの太刀は専用のアタッチメントをつけて背部に斜めになるようマウントさせる。

 

 

「よし」

 

 

じっくりと見つめる。

斜めに携えた太刀に、2丁のビームライフル。

ふと、各所にある青いクリアパーツ部分に目が行く。あの炎を発生する場所だ。

 

 

「プログレス、だったか…」

 

 

progress。進歩、進化そんな意味だ。

あのバトルで何故か発生した特殊なシステム。

あれ以来発動させようとしてみたものの一度も発動できていない。

そもそも組み込んだ覚えの無いシステム。本人にも分からない。

 

何がきっかけとなって、何がそれを動かしたのか。

 

 

 

「出力上げても炎は出ない…環境とかもあるのか?」

 

 

分からない。

 

分からない。

 

 

「出力上げに頼らない戦い方しないとな」

 

 

今言えることはこれだけ。被弾を少しでも減らし、継戦能力を少しでも上げる。

 

フォース戦は明日。

 

 

「寝るか」

 

部屋の灯りを消し、暗闇の中で布団に入る。

 

これで一歩でも──。

 


 

机の上に点在するパーツ達。

ミキシングする者にとって自然に起きる現象。

色とりどりで鮮やかな机だ。

 

そのパーツの中心に囲まれるように立つレボルシオンガンダム。

 

「シールドを別のに変えたいなあ…」

 

基本的な立ち回りは近接ではあるが、無闇に突っ込むのではなくヒットアンドアウェイを繰り広げたい。

そういう考えからシールドは外せないものである。

 

「良いのは…」

 

とりあえずは散らばっているパーツから選んでみる。

 

ちょうどよく、取り回しがしやすそうなシールドっぽいのは…

 

「これだ!!」

 

パーツの山から手に取ったのはナラティブガンダムのシールド。

何のためだったか、クリアパーツ類が取り外してあるがひとまずは取り付けてみる。

 

「ちょうど良いじゃん」

 

新たな盾を構えたレボルシオンを見やる。

以前のシールドよりは厚みが出て耐久性にも優れそうだ。

 

「明日はこれでいこう!あー…でももうちょっとな──」

 

自分が在るべき姿にたどり着くには──

 

≪hr≫

 

部屋に振動と共に響く重低音。机の上に置いておいたスマホが主を求めている。

 

 

「ユウなっとるぞー」

 

 

「あい?」

 

 

取りに行こうと立ち上がった。

ところで、主を呼ぶ音がピタリと止む。

 

 

「あ、切れた」

 

 

「なんやねん」

 

 

通知を見てみる。非通知。

もう何回目だ。ここ最近何の嫌がらせか2日に1回は来る。

 

 

「ラブコール?」

 

 

「うっせ」

 

 

こいつは俺の兄貴、ヒロだ。

俺にガンプラを勧めた張本人。しかしその本人は最近、ガンプラを触っていない。

 

っと、それはそうと明日はフォース戦2回戦目だ。

特に追加する武装はないが調整くらいはしておこう。

 

 

「射撃武器でも持っていこうか」

 

 

「使えるん?」

 

 

「そんなに」

 

 

一回は使ったことがあるが慣れなさすぎてやめた。ただ、その時は始めたての頃の話だ。確実に操作に慣れた今なら少しは扱えるんじゃないか、という期待があった。

 

机に置いてあったGNソードⅡブラスターを手に取る。この銃には下部にGNソードの素材で作られた刃がある。

これならいざとなったらこの刃もあるし大丈夫だろう。そういう考えだ。

 

 

「いやでけぇ」

 

 

巨大な武器ではあるが故に扱いが大変そうだ。

まぁ、いざとなったら戦闘中に捨てればいいし、いっか。

 

 

「うっは」

 

 

このアポロンでご飯3杯は余裕。

銃を持つアポロンガンダム。また新たな一面が垣間見えた。

 

「なー時間大丈夫なん?」

 

アポロンに見惚れているところでヒロが時間を知らせてくれる。

 

「うわやっべ!行ってくる!」

 

「いってらー」

 

急いでアポロンをケースに仕舞い込み、外に出る。

 

1人残されたヒロ。

 

「俺もガンプラしようかなー」

 

 

 

空は曇天。今にも雨が降ってきそうな不安定な空だ。一刻も早くGBNのあるゲームセンターへ行かなければ…。

 

「信号めぇ…」

 

急いでる時に限って信号は人の横断を止める。

 

「あっちから行ったほうが早いか?いや、ってあれ…?」

 

車の間を縫って見知った姿が見える。

横断歩道の奥に見えた見覚えのある姿。車の往来で途切れ途切れでしか見えないが、おそらく彼だ。

 

「あいつ...久々に見たな…」

 

どこに行くか目で追っていると信号が青に変わる。

 

「あっ急げっ!!」

 

ケースを丁寧に持ちながらも先を急ぐ。

 


 

 

「──ては第二試合、フォースF.A.L.

vsフォース焔空」

 

試合当日。

 

トロは次の試合を告げるアナウンスを適当に聞き流しながらフォース用の格納庫へと向かう。

そこには既にログインを済ませた少年が1人──タクトがいた。

 

「ユウは?」

 

「まだだよー今日は遅いね──

 

「おあッ!!セーフ!!」

 

1人遅れてきたユウ。

 

「いやーちょっと道草しててな」

 

ははっと頭を掻く仕草をしながら笑うユウ。

少し様子がいつもと違う気がする。

 

「はいはい。行くぞ」

 

「あれ?みんないつもと装備違くない?」

 

タクトにそう言われ、全員が機体を見比べる。

 

フェーテは2丁ライフル。

アポロンは巨大なGNソードIIブラスター。

レボルシオンは新たなシールド。

と、それぞれ新たな装備を身に付けている。

 

「ユウが射撃かー珍しいね」

 

「まあな。無理だったら切りに行くけどな」

 

『各フォース準備をお願いします』

 

「いくか」

 

対戦相手はフォース焔空。

ヨネが狩るガンダムエンビディアに、

コウが駆るダブルオーガンダムリペア、

夜空が操るガンダムエスペランサ。

 

ほぼ無傷で一回戦を勝ち抜いたらしいフォースだ。気は抜けない。

 

3機がカタパルトに着く。

それぞれが新たな装備を携えて。

 

「ガンダムフェーテ」

「アポロンガンダム!」

「レボルシオンガンダム!!」

 

 

「出る」

「行きます!」

「出ます!」

 

火花を散らしながら宇宙へと向かう。

 


 

『field space』

 

恒星によって星々に光を灯す無限の世界。

 

『battle star──

 

無機質なアナウンスを遮るように、黒い影が接近。

 

「なんっ──」

 

3機並行していたうちの一機──アポロンが黒い影と共にデブリへと打ち付けられる。

 

「ユウ!?」

 

「来るぞ!」

 

アポロンガンダムへと意識を向けようとするが、相手フォースの残り2人がそれを妨げる。

 

「なんだよッ…!お前ッ…!」

 

 

アポロンガンダムは相手の鎌のような武器を、の刃で受け止める。

 

『久しぶりだなぁ…ユウ…』

 

「はぁッ!?誰だ──

 

低く唸るような声で名前を呼ばれ、ぞっとしたものを感じる。

 

しかし声に聞き覚えがある。

 

「ッ!」

 

鎌を払い除け、バインダーを点火し遠ざかる。

 

恐らくロードアストレイダブルリベイクがベースだろうか。

黒一色に赤、白がまさに死神を連想させる機体、ガンダムエンビディア。

 

「お前…まさか…」

 

聞き覚えのある声、ここに来るまでに見えた見覚えのある姿。

通信回線をオープンから専用回線へと切り替える。

 

「…マキか」

 

『壊す』

 

接近を試みるエンビディアに対し、GNソードIIブラスターを前方に構え、トリガーを引く。

 

高出力のビームが宇宙を穿つが、エンビディアには通用しない。

 

「やっぱりッ…」

 

あっさりと回避され、接近を許してしまう。

急速接近してきたエンビディアの鎌の遠心力を用いた攻撃。

 

「いいさ。こいつにはコレがあるッ!!」

 

なんとか刃部分で防ぐが、対応が一歩遅れバランスが崩れる。

 

体勢が崩れたのを察知したエンビディアは

すぐさま次の行動へと移すが、アポロンのバルカンによって牽制させる。

 

「チャージ25秒……機体との相性が悪いかッ…!」

 

GNドライヴを載せた機体が操ることによって真価を発揮する武装。いくらOO系のパーツを使っていようが、GNドライヴなしのアポロンでは本来の力は引き出せない。

 

そんなアポロンを他所に猛攻するエンビディア。

受け流すだけで精一杯だ。

 

(地形を利用すれば…!!)

 

フィールドマップを確認する。

どうやら後方にデブリ帯があるようだ。

 

「デブリ帯があるならッ…!!」

 

鎌での攻撃を質量で弾き返し、後方───デブリ帯へと加速する。

 

『なんの真似だァァッ!!!』

 


 

『フォース焔空とフォースF.A.R.接戦の模様!!両フォースどちらが勝つか見所です!!!』

 

 

「さすがはGNドライヴ搭載機…。機動が滑らか…」

 

ダブルオーガンダムリペア。

右肩にはマント、左脚はフレームのみで頭部は右側が損傷している見た目だ。

武装はマントから覗くGNソードIIIに、大型の太刀。

携える太刀は刃こぼれしており、GBNをプレイするにあたって万全な状態とは言えない。

しかし、こういうロマンを求める者も少なからずはいる。彼はそういう類なのだろう。

 

そんな見た目に反して、滑らかな機動を見せる。

 

GNライフルビットIIで迎え撃つがあっさりと回避される。

 

『今度はこっちから行かせてもらう!』

 

太刀を手に大きく振りかぶる。

大型な分、予備動作が大きいそれを避けることは容易だ。

 

しかし敢えてライフルの刃で受け止める。 

 

「何が目的だ」

 

『目的…??勝つことだろ』

 

「違うな。明らかにあいつを潰しに来てる」

 

『知ったような口を!!』

 

ダブルオーリペアがGNソードIIIを展開し、ライフル向けて斬り下ろす。

 

ライフル先端がやられる。しかしこのライフルビットは元より分離が可能。誘爆をさせるため先端のバレルを分離させる。

 

──狙いは明らかにアポロンだ。そう思わせる戦い方。

エンビディアは執拗にアポロンを狙い、他はアポロンへ加勢させないよう行く手を塞いでいる。

 

「どう動くか」

 

一定の距離を保ちつつダブルオーリペアと交戦する。

 

接近されては後退し、GNソードIIIから放たれるビームは避け、と一定の間隔を保ちながら立ち回る。

 

「フレームだな」

 

先程と打って変わりスラスターを背に接近する。

右手にあるライフルビットの刃部分をダブルオーリペアへと押し付ける。

その攻撃は難なく受け止められる。もちろんこれは想定内。むしろこれを狙っていた。

 

「狙いはこっちだ」

 

左のライフルビットをダブルオーリペアのフレーム剥き出しの左脚へと引き金を引く。

 

『なっ!?!?』

 

ビームの雨に耐えきれず左脚は光を帯び暴発する。同時に緑の粒子が辺りに散る。

潔く接近戦を仕掛けられると思っていたのか驚きの声を上げるコウ。

 

予想通りフレームの方が装甲がない分攻撃が通りやすい。

 

「ずるいけどしょうがないな」

 

『やられっぱなしになるかよ!!!』

 

「な…!」

 

爆発に怯んだダブルオーリペアが接近し、マントから覗くGNソードIIIにより、右手のライフルビットが切断される。

 

すぐさま応戦するがマントを目の前で捨てられ、視界が遮られる。

 

「くっそ…」

 

機体に絡まったマントを払う。

 

そこには紅く染まったダブルオーリペアが眼前に迫っていた。

 


 

「そんな攻撃効かないよ!!!」

 

『案外できる子みたいね!!』

 

衝突しては距離を離し衝突、無限の軌道を描きながら接近戦が繰り広げられる。

 

レボルシオンガンダムに対するは、エスペランサガンダム。

 

ガンダムジェミナスの頭部にストライクフリーダムの胸部、クアンタの肩、ゴッドガンダムの腕、バルバトスルプスレクスの拳、AGE-3の脚部と分かりやすいパーツで構成させているが、全体で見ると違和感なくヒロイックな鋭い見た目の機体だ。

ブルーにホワイト、イエローで主人公機を思わせるカラーリング。

 

武装は恐らくアロンダイトにレクスネイル、ストライクフリーダムから受け継いだ胸部のバルカンと腹部のカリドゥス複相ビーム砲か。

 

再度接近し、今度こそ深い斬撃をお見舞いする───はずだった。

 

『捕まえた!!』

 

「なんっ!!??」

 

自慢の太刀がアロンダイトと共に手で受け止められている。

 

エスペランサはすかさず、脛の横に装備されたスラスターを点火。レボルシオン向けて蹴り上げる。

 

レボルシオンも負けじとシールドで衝撃を受け流す。しかし、機体自体は蹴りを入れられた方向へと退けられる。

 

『喰らえっ!!!』

 

「くっ!!」

 

間髪入れずにカリドゥス複相ビーム砲が放たれる。

 

新調したシールドのおかげか、構えたシールドで致命傷は避けられた。が、攻撃されるばかりで手が出ていない。

 

「それでも!!進まないと!!」

 

 

背部のバインダーのスラスターを両基とも点火、接近を試みる。先ほどと同じような軌道だ。

 

『そう易々と同じ攻め方で!!』

 

アロンダイトを構え、直進してくるレボルシオンを迎え討つ。

このままその首を───

 

『何!?』

 

アロンダイトの間合いに迫った刹那。

エスペランサの左腕の関節から手にかけてが宙に浮いていた。

そして爆散。宇宙の藻屑となる。

 

『右!?』

 

敵機体の接近を知らせるアラートが鳴る。

アロンダイトを右方向へ突き出す。

アロンダイトと太刀の鍔迫り合いが起きる。

 

「やっぱ!反応できちゃうよね!」

 

『何をしたの!!』

 

「簡単なコントロールだよ!!」

 

『な…くっ!!?』

 

アロンダイトの軌道を逸らされ、蹴りを入れられる。

 

『コントロール…バックパックね…』

 

「ご名答♪」

 

アロンダイトの間合いに入る刹那、背部のスラスターを全開で横に逸らした。直後、必然的に迫ってくるエスペランサに対して斬撃を入れたというわけだ。

 

先程の蹴りもそれを応用した、機体のマニューバ操作だ。

 

「早く決めちゃおうよ!勝負!」

 

『そう簡単に行くと思わないで…!!!』

 

レボルシオンが盾を前方に構え急速接近する。

それに合わせ、胸部のバルカンを連射する。

 

「そんな攻撃で!!」

 

弾を左手に構えた盾で全て防ぎながら、さらに加速する。

───これが仇となった。

 

『盾構えてちゃ前なんて見えないでしょう!!』

 

「やばっ!?」

 

眼前に迫る、突き出されたアロンダイト。

カメラアイが潰されるのを避けるため、首を全力で逸らす。

それでも攻撃は避けきれず、アンテナと共に右のバインダースラスターが根本でやられる。

 

『お得意のバックパックさえ潰しちゃえばね!!』

 

爆発したスラスターの爆炎をかき分け、更なる追撃を入れようとレボルシオンに迫る。

振り上げられたアロンダイト。

 

スラスターが片方やられたせいで、姿勢制御が不安定だ。

なら…

 

「バランスを少しでも均等にする!!!」

 

盾を思い切りエスペランサへと投げる。

剣を振り下げようとする寸前で避けれないと判断した夜空は、そのまま盾を一刀両断する。

 

どっちみち耐久が限界だったようだ。

 

しかし盾を切るために生まれた隙、これを逃さないわけにはいかない。

 

「たっ!!」

 

レボルシオンが斬撃を加える。

反応に遅れたエスペランサの胸部に斬撃が入る。

運良くカリドゥス複相ビーム砲が使えないようにできた。

 

偶然にしろ、武装を一つ減らせたのは大きいアドバンテージだ。

恐らくは優位な立ち回りができている。

 

───勝てる!!

 

『勝てるとか思ってない?』

 

「!?」

 

『私はね…こういうピンチがっ──!!』

 

更なる攻撃を加えようとしたレボルシオンの太刀をレクスネイルで捕まれ、そのまま前に押し出されると腕から桃色の粒子が現れる。

 

「くぁっ!?」

 

突然の出来事に成す術もなく、頭部の右側を溶かされる。

 

『大好物なのっ!!』

 

AGE-3のガントレットのサーベルをそのままにさらに頭部を溶かそうとする。

咄嗟に太刀を手放し、捕縛から逃れる。

 

「なんでうまくいかない…!!」

 

コックピットモニターの右側は掠れ、ほとんどが見えなくなっている。その掠れたモニターの奥でエスペランサは太刀を捨てる。

 

一進一退。イタチごっこ。攻略法が見つかった途端にそれを覆される。しかしこちらが押されているようにも見える戦いだ。

 

それでもレボルシオンは腰のサーベルを2本ともビームを解放する。

 

「もう何が何でもっ!!」

 

『また突撃…そんな感情じゃ無理よ』

 

片方のバインダースラスターに振り回されながらも、エスペランサの元へ向く。

ビームサーベルを天へ掲げ、振り下ろす構えだ。

 

「たぁぁァァァ!!」

 

機体の全推力を掛けた攻撃。

賭けるしかなかった。

 

『甘いね』

 

あさっりと避けられたサーベルを見向きもせず、また頭部を捕まれる。

 

『暇つぶしにはなったよ』

 

胸部のバルカンを斉射する。

あちこちの装甲が煙幕を上げ、軋みを上げながらへこみを作っていく。

 

機体の状態を示すモニターは赤、損傷がひどくこれ以上進めばもう動けない。

 

『そろそろ終わりにしようか』

 

「まだ…」

 

『もう無理よ』

 

「まだっ」

 

レボルシオンの腕が弱々しくも稼働する。

 

『無理だって…』

 

「それでも!!」

 

掴まれていた頭部から手が離され、それが鋭い手刀となり───

 

 

「役に立ちたいから…」

 

 

 

 

『…!!』

 

 

 

 

 

エスペランサの手刀はレボルシオンの胴体を貫き、またレボルシオンのサーベルもエスペランサの胴体を貫いていた。

 

 

貫いたサーベルを持つ腕の傍に乱暴にひしゃげた右のバインダーだけが残ったバックパック。

 

 

『そこまで甘くなかったみたいね──

 

 

 

 

2機を電撃が包んだ後、宇宙を彩る星となる。

 

 


 

『トランザム!!』

 

「ぐっ…!」

 

トランザム。機体内部に蓄積された高濃度圧縮粒子を全面開放することで機体が赤く発光させ、一定時間の間、機体出力を3倍までに上げることができるシステム。

 

それが発動できるのはGNドライヴを有した機体のみ。目の前の機体も例外ではなかった。

 

紅い残像を残しながら描く軌道が、フェーテを翻弄する。

 

「くっそ…!!」

 

距離を取ろうにも攻撃が激しくその場から動けない。

 

一撃。一撃。

 

確実にダメージが蓄積されていく。このままでは消耗しきった所を叩かれる。

 

ふと画面の端に目をやる。

 

「出力上げに頼らないって決めたんだよ、なっ」

 

蓄積したダメージに目もくれず上に大きく飛翔し、そのまま一直線に宇宙を進んでいく。

 

『トランザムに勝てるわけがねぇんだよ!!』

 

後に追うダブルオーリペア。

先に進んでいたフェーテではあったが、着々と距離が縮められていく。

 

『終わりにしようぜ!!』

 

大きく振われる剣。

 

──ここだ

 

『!?』

 

一瞬ではあるが、視界が途切れた。

視界を途絶えさせたのはいつしか遠くに置き去りにされたマント。

案の定切り破られたが、一瞬の隙ができた。

左手に持つライフルビットを構える。

 

「1弾でも当たれっ!!」

 

狙うは左肩に伸びたGNドライヴ。トランザムの動力源だ。

 

何発かダブルオーリペアを掠め、GNドライヴの外殻を穿つ。しかし、ドライヴ本体へとは到達せず空振りに終わる。

 

「っ…」

 

ライフルビットが連射の影響で赤熱化し、暴発する。それに巻き込まれた左腕も必然的に失う。

 

『それぐらいの攻撃でッ!!』

 

こちらからの攻撃を物ともせず三次元の動きを見せるダブルオーリペア。

 

残った右腕でビームサーベルを抜き取る。

使えるものがないかと思考を巡らすが、宇宙空間にそれを促してくれるものはない。

 

繰り出される攻撃を受けては避け、受けては避けを繰り返すばかり。

 

──何か、何か

 

[revolucion gundam LOST.]

[esperanza gundam LOST.]

 

メンバーの退場を知らされる表示。

2つの反応の消失が記されている。

相打ちになったということだろうか。仲間が1人消されたことには変わりない。

 

両機の動きが瞬間的に固まる。

 

『あいつが!?』

 

「 」

 

攻撃を繰り出すダブルオーリペアに対し、バックステップで距離を取るフェーテ。装甲はへこみ、各部が悲鳴を上げ始めている。

悲鳴を上げているのは期待だけではなかった。

 

──おかしい…。感情が抑えきれない。

 

大して痛くはないはずなのに。惜しくはないのに。まるで誰かに感情を操られているかのように。どこか冷静で抑えきれない感情。

 

に…

 

「…各部パージ」

 

『なんだ…ッてトランザムの限界時間が5秒!?』

 

モニターを操作する。

 

「…プログレスシステム起動」

 

に…くい…。

 

憎い。

 

ニクイ

 

フェーテの赤黒い瞳がダブルオーリペアを捉える。

 

『なんだ?』

 

纏う雰囲気が一気に変わった気がした。殺気を感じるような出立ち。まるであいつ──ヨネと同じ何か。

 

しかし、またもや異変が起こる。

 

「なっ!?」

 

途端機体出力が一気に低下する。

システムが起動しない。ましてや関節各部、フレームから煙幕が立ち込める。

自らを発散するように、力が失われた。

 

「なんで!?」

 

出力のゲージが0に近づいていく。

ダブルオーリペアも同じくフェーテに近づいていく。

 

『もらっ…あ!?!?』

 

『限界時間かよ!!』

 

ダブルオーリペアの紅が薄れていく。トランザムの限界時間のようだ。

 

『まぁ!!でも!もらったッ!!!』

 

GNソードIIIを突き刺さんと加速するダブルオーリペア。

フェーテは静かにたたずむだけで動じない。

 

「動けよっ…!!」

 

 

 

 

迫る刃。

 

 

 

機体が動かない以上、受け入れるしかない運命──

 

 

 

 

 

 

──刹那。赤い陽と黒い影が横切る。

 

 

 

 

『邪魔ダッ゛!!!!』

 

「こいつッ!!??仲間までッ……!!」

 

 

 

胴体が2つに分かれたダブルオーリペア。

 

閉じかけていた深緑のデュアルアイが告げたのは、腕をこちらに伸ばし、捉えたまま離さないダブルオーリペア。

 

両機が音の無い宇宙で静かに瞳を閉じた。

 


 

「デブリ帯なら"アレ"ができるッ!!」

 

視界内で徐々に増してきた、星の欠片や岩石、デブリ。障害物が少ない宇宙で唯一地形利用とはっきり言える戦法が取れる場所だ。

 

飛来する障害物を器用に避けながら攻撃の隙を伺う。

エンビディアとの距離は充分。

 

「行けるッ!!!」

 

スラスターを吹かし、目の前にある石に足を着ける。

エンビディアは急速接近しながら鎌を大振りの構えにしている。

 

『お前がァ!!!!』

 

「ここ!」

 

足に力を込め次のデブリへと飛び移る。

そうして無理矢理にでも軌道を変え、攻撃へと転用する。

GNソードIIブラスターを構え、エンビディアへ放つ。しかし、無理矢理な体勢な上に慣れない射撃、そう簡単に当たるわけがない。

 

再度チャージ時間が重なる。

 

『昔から下手なんだよ!!!お前は!!!』

 

眼前へと迫る嫉妬の鎌。

 

その通りだ。射撃はいまいちよく分からない。偏差を考えて撃つより近づいて斬った方が早い。だから射撃なんて無くてもいい。

 

──でも

 

「でも、射撃できた方がかっこいいだろ…?」

 

ブラスターの刃で鎌を受け流し、新たなデブリへと移る。

 

シャアの五艘跳び。

シャア・アズナブルが赤い彗星として恐れられたルウム戦役で行った戦法だ。

それを拙いながらもユウは再現している。

 

飛び移り、攻撃、飛び移り、攻撃を繰り返す。

やがてそれは背後を取り──

 

「貰ったァッ…!!!」

 

緑に染まる刃で一太刀…

 

 

 

することがなく目の前で暴発した。

 

 

 

「なんだ!?」

 

見ると背面。リアアーマーに尻尾のようにワイヤー接続された、ビームサーベルのようなものがあった。

 

 

『そウ簡単にやらレるわけないよァ…??』

 

「こいつッ!!」

 

鎌を捨て、ガントレットを反転させ赤いビームを

発振する。

それを見てアポロンも左腰の刀を抜刀。

鍔迫り合いが起こる。

 

『お前が憎いィ!!!』

 

「どうして!!」

 

攻撃の手を緩めないエンビディア。

獣のような荒いがむしゃらで感情に身を任せた攻め。

 

本当の自分を見失っているようなそんな気がする。あの時とは違う。何もかもが。

 

 

「ソードビット!!」

 

背部からワイヤーに繋がった2基のソードビットが射出、エンビディアの腕に絡みつくように動かし、そのままデブリへと突き刺す。

 

腕が引っ張られ攻撃ができない状態となるが、それでも、もがき続ける。

 

「何があったんだよ!!!」

 

『いつもお前ばかりだっタ…いつも!!!』

 

「何が!!」

 

──ちょうど2年前だった。

GBNが世に誕生したとき、2人で電脳空間でのガンプラバトルを楽しんでいた。

ガンプラを作ってはダイブし、また作る。そんな日々を送っていた。友達も加えられさらに楽しくなった。

そんな日々が突如1年前崩壊した。

お前ばかりがもてはやされる、何をしても無駄になる。お前とは縁を切ると──

 

『アッハハッッ!!!』

 

エンビディアの背部から赤い焔が燃え上がる。

途端、絡み付いたワイヤーが切れ、拘束から解放される。

 

「ナイトロシステム!?」

 

『n_i_t_r_o』。

ガンダムデルタカイなどに搭載されたシステム。ニュータイプ能力を持たない一般兵に、擬似的にニュータイプ能力を付加するサイコミュシステムだ。

 

機体出力が上がり、パラメータのほとんどが跳ね上がる。

 

 

「くそッ…!!」

 

獣のような攻めに加えさらに素早くなる機動。

視界内収めて、攻撃を受けるのがやっとだ。

 

「一回離脱するしか…ぅぐッ…!!」

 

機体状態を示すモニターには左腕が赤く染まっている。

左腕がやられた。

普通なら退くことを視野に入れる方が自然だろう。しかし、一方的に縁を切られたとは言え大事な友。感情に囚われたままにしておくわけにはいかない。

 

 

手を差し伸べたい。

 

 

「やるしかねぇよなッ!!!」

 

アームレイカーを一気に前へ。

赤い焔を纏うエンビディアへ加速。一太刀浴びせるが難なく防がれ、蹴りを入れられる。

 

慣性のままに飛ばされるアポロン。この程度では止まれないと意地を見せる。

 

「行くぞアポロンッ!!!」

 

エンビディア向け、ビットを射出する。

狙うは両脇。左右に動かさず中央に捉らえる。

 

『!?』

 

ガントレットで刀を受け止められる。

 

「でもなッッ!!」

 

膝のビームサーベルを展開、すぐさま蹴りを入れる。

抉れたエンビディアの脇腹。尻尾のようなビーム発振器に軌道を逸らされたが、致命傷に近いダメージを負わせた。

 

『アッハハ!!!』

 

エンビディアがバックステップをすると、ソードビットに向けビームの刃を入れられる。

これで行手を阻む戦法はとれない。

 

「分かってきたぜ…戦い方がッ!!!」

 

2機が衝突する。宇宙に赤い焔と緋色の炎が螺旋状の軌跡を描いていく。

 

幾度かの衝突。

 

『邪魔ダッ゛!!!!』

 

「こいつッ!!??仲間までッ……!!」

 

行く先にいたフェーテとダブルオーリペア。

仲間のはずのダブルオーリペアを一刀両断にした。

そんなことを気にも留めず攻撃を繰り出そうとするエンビディア。

 

「お前ッッ!!!!」

 

ユウに呼応するようにアポロンの双眸が、胴体コアが、緋色に染まる。

 

『あ?』

 

先程まで受けるだけだったアポロンが避けた。

そして背後に回り込む。

反応速度が上がったのか、出力が上がったのかは分からない。

アポロンが答えてくれたのかもしれない。

 

絶対的な好機、逃すわけにはいかない。

 

「ッッら…!!!」

 

ナイトロの恩恵が大きいバックパックへと刀を入れていく。小爆発を起こしながらもエンビディアは尾で刀を薙ぎ払う。

 

「まだだッッ!!!」

 

振り向き様にサーベルを刺さんとするのも気にしない。

ビームシールドを形成し、斬撃を逸らしながら頭部へと拳を入れる。

 

アンテナが溶かされその奥が露わになる。

身を捻り踵の刃を展開、回転力も加えた斬撃を浴びせる。

 

負けじとエンビディアもガントレットのサービルで脚を溶斬する。

 

互いが消耗していた。己のエゴをぶつけ合う喧嘩にも似た闘い。

 

それももう最終局面へと入っていた。

 

「お前とここで決着をつけるッ!!」

 

リアアーマーからビームサーベルを取り出し、桃色の刀身を発振する。

 

『お前を…潰す』

 

両ガントレットのサーベルの出力がさらに上がる。

 

太陽の光が両機を強く照らす。

 

スラスターが火を噴く。

間合いは充分。

 

「うおぉぉぉぉぉッッッッッ!!!!」

 

『アァッッッッッ!!!』

 

 

エンビディアのサーベルを弾き、前に突き出す。

 

 

 

電撃が走る。

 

 

ゆっくりと離れるアポロン。

 

 

 

「後でゆっくり話そう」

 

 

 

 

 

 

胴体を貫いた桃色の刀身。

モニターに映る、陽に照らされるアポロンガンダム。

 

 

 

 

 

嫉妬は砕かれ、宇宙の星となった。

 

 

 

 

 

 

[Winer forse F.A.R.]

 


〜ロビー〜

 

「荒い戦い方しちゃってごめんなさい」

 

戦いの後、フォース焔空と会合した。

 

頭を下げる、ガンダムエスペランサのダイバー、夜空。

20代の女性の姿でロングの銀髪が特徴的だ。

 

「いやいや、頭を上げてください」

 

「俺らが止められなかったのにも原因はある」

 

ガンダムダブルオーリペアのダイバー、コウ。

茶色いショートヘアにラフな格好だ。

 

どうやらこのようなことが今まで続いていて、それを止められたのが今回の戦いらしい。

 

「これからどうするんですか?」

 

「フォースを解散してそれぞれ伸び伸び過ごすよ」

 

「ソロも楽しいでしょうし」

 

「そう、ですか」

 

それから軽く別れの挨拶をして解散した。

その場にユウとヨネはいなかった。

 

 


 

頭に被せたバイザーを取り、急いでゲームセンターを出ようとすると兄──ヒロがいた。

 

「あ、ユウ雨降ってきたから迎えに…

 

「兄ちゃんこれ持って帰ってて」

 

「え、あちょい!?」

 

外へ出ると重い空気と共に雨が降り注いでいた。

ユウはその空気を振り払うように走り出す。

 

昔からの習慣が変わっていないならあいつはきっとあそこにいると願い走る。

 

走る。

 

重い空気に負け、息が上がる。それでも成すべきことはまだ終わっていない。

いつもの場所──橋の下が見えてきた。

 

 

突然視界が地面に近くなる。

ベチョッと嫌な音がした。

 

「ってぇ……」

 

「何してんだお前」

 

立ち上がろうとした時、声がした。

声の主へと泥がついた顔を上げる。

 

「マキ…!!」

 

顔を上げるとそこにはパーカーを着たヨネ──マキがいた。

汚れながらも自分で立ち上がる。

 

「憧れてたんだよ、だから嫉妬した。」

 

マキの口から出た言葉。

手にはエンビディアが握られている。

 

「…そうか」

 

「だから一年かけてお前を越えようとした。それも無駄だったみたいだがな」

 

「んなこと…!!」

 

「俺はGBNを離れる。話は終わりだ。じゃあな」

 

「馬鹿がッ!!」

 

こちらに背を向け歩き出したマキに浴びせる言葉じゃないのは分かってる。

それでも許せなかったのは事実だ。

自分自身が理由では無く、俺が理由で、越えられなかったのが理由でやめようというのが。

 

 

「俺は!!お前のガンプラに憧れてたんだよ!!いっつもかっこいいの作って!!!」

 

「…」

 

「勝手に憧れてやめてんじゃねぇぞ!!!」

 

「俺の何が分かるんだ!!」

 

 

「い…」

 

 

「俺の!!それで俺の苦しみが分かるってんのかよ!!??苦しみがッ!!!」

 

 

「分からない!!でも!!!!だからって…」

 

唾を飲む。何を言えばいいか分からなかった。

言葉が浮かんでは消え、浮かんでは消える。

それでも辛うじて絞り出した言葉を吐く。

 

「何かに期待してここに来たんじゃないのか」

 

そうだ。無理にここに来なくとも家に直接帰ればいい。なのにここに来ているんだ。

いつも負けてから悔しがるここに。

昔から変わらないこの場所に。

 

「チッ…」

 

舌打ちが聞こえると背を向け歩き出した。

 

 

こちらを見たマキの頬に、微かに光るものが流れていった気がした。雨の雫だろうか。それとも…

 

「ユウ…」

 

「帰ろ」

 

「風呂入らんとな…雨止んできた?傘いらんやんかーもうー」

 

「ごめんって」

 

歩き出したマキと正反対の方向に歩き出す。

これはきっと別離では無く遠回り。

そう信じてる。

 

空には雲の隙間から光が刺し、夕陽が顔を出そうとしていた。

 

 

 


 

「やっぱり怪しいなぁ…」

 

研究室のような部屋で資料を見ながら唸る、濃い紫の髪のボブの女。

 

「例のフォースか?」

 

長身の黒髪の男。

 

「あまり根を詰めすぎない方が良いですよ。」

 

資料を漁る男。

 

「ん…というよりはこの子かなぁ…??」

 

さすのは金髪の眼鏡を掛けた男の画像。

横には目が隠れたガンプラの画像。

 

彼らの知らない、表舞台には出ない場所で暗躍する者達が立ち上がろうとしていた。

 

 

 

 

 

第五話 影の嫉妬

 

 

 

 




出演者様は後日まとめたいと思います。
ご協力ありがとうございました。


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Log1.Kaiser

はるーかなーふふんふんたどりつくー…
あっお待たせ待った?トロさんです。
今回はですね。短編を書いてみました。というのも書きたいんだけども本編にぶちこむ余裕と体力がないなーって思ってこの形にいたしました。これからもこういう形で書くかもしれません。

ということで今回はプリンさま作ガンダムビルドデューラーズ、の外伝!
地底辺人作ガンダムビルドデューラーズ清掃員外伝、からゲストを登場させていただきます。ではでは〜



import logging.1:1battle…

 

 

1.Takuto

 

2.Yu

 

3.Huto <

 

4.

 

5.

 

 

select Huto ?

 

 

Pray with Huto battle.

 

 

 

 


 

「この端子を繋げてっと…」

 

部屋の椅子に座り、机の上に置いたダイバーギアを手に取り、スマホにつなぐ。

それから画面を操作し、Gプラネットにアクセスする。

 

Gプラネットとは、GBNを利用する際にユーザー側の管理をしやすくするために生まれたシステムだ。

ダイバーギアにあらかじめインストールされており、GBNでの戦闘記録や進捗達成度、フレンド、ガンプラの状態、IDの管理など様々な情報が確認できる。

また、より多くの人とガンプラ交流を深めさせるためガンスタグラム、なんてものもある。

 

 

「こういうの見といた方が良いんだよな…」

 

 

[バトル]と書かれた枠をタップする。

 

 

 

これから見るのは暇を持て余した高校生と、とある清掃員の記録だ。

 


 

〜GBNロビー〜

 

 

「ええっと…こっちがショップエリアだから…」

 

 

トロは手元にマップを表示して散策エリアを探していた。

 

GBNはバトルが醍醐味ではあるが、そのために用意された様々なフィールドを散策することもできる。むしろこの電脳世界に創られた大地を体験したいがためにログインする人もいるくらいだ。

 

そしてGBNに再現された広大な自然や土地を感じてみたいと思うトロも例外ではなかった。

 

 

「あーこっちか」

 

 

マップに表示された経路に従って歩いていく。

その途中、様々な姿をしたダイバーとすれ違う。

 

──今日も人多いな。

 

連邦服を着た人や、メカニックマンの格好、劇中で登場したキャラのコスプレなんて人もいて、さすがGBNと言ったところ。十人十色だ。

そんな中、箒で床を掃いているような人が目に入る。

 

 

「清掃員…??」

 

 

現実では起こりうることではあるが、ここはGBNであり、電脳世界である。故にゴミという概念は存在しないに等しい。のに、清掃員らしき人がいる。

 

 

「あ、いや持ってない?」

 

 

よく見ると何も持っていない。

仕草だけをしている。

──ゴミを掃くふりをしていた??

 

 

「珍しい人もいるんだな」

 

 

GBNはこの世にできたもう一つの世界。ああいう人がいても不思議ではない。

そう思って目を離そうとした瞬間、一瞬ではあるが目が合った。

 

ような気がした。

 

ような気がした、ではあるが、

 

これでは向こうがこっちを向いた瞬間目を逸らしたみたいな変な人になるんじゃないだろうか。

 

 

そんな影めいた思考が巡る。

 

 

「…はよいこ」

 

 

歩む速度を上げる。

もう目の前には散策エリアのゲートだ。ここを潜れば…

 

 

「お兄さん?」

 

 

目の前に影が覆い被さる。

自分よりも年が一回り上で作業着のようなもの着た姿をした男性。先程見た清掃員のような人と同じ格好だ。

 

 

「なんでしょう?」

 

 

顔色はなるべく変えず、丁寧な口調で答える。

 

 

「目が合ったでしょう?」

 

「いえ」

 

「え、合いましたよね?」

 

「いや」

 

「見てました?掃くふり。」

 

「いや全っ然。清掃員なんてあっ…」

 

「見てましたよね?」

 

「…っすー…」

 

 

途中目を逸らしながら続ける。

ここは適当に受け流して振り切ろう。

…ってか掃くふりってなんだ。

 

 

「あっー、ちょっと急いでるんで…」

 

「…バトル」

 

「はい?」

 

「目と目が合ったらガンプラバトル、ですよ?」

 

「え」

 

「いくよ」

 

 

訳が分からないまま強引に腕を引っ張られたトロは、されるがままに連れて行かれるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれっ!?フウトさんいない!?」

 

 

ショートボブに碧い耳飾りをつけた女性が辺りを見回す。

 

 

「もう!!フウトさあああああん!!!」

 

 

1人の名を呼ぶ声が木霊したのは、ちょうど2人がどこかに消えたのと同じだった。

 

 

 

 

 


 

〜???〜

 

 

「…えっと。ここは?」

 

 

連れてこられたのは、無機質な白い壁に囲まれた部屋。

その中央には何やら四角い台があり、対になるようにハンドルが装着されている。

 

フウトはそれを撫でるようにしながら筐体の反対側へ向かう。

 

 

「GPDルームだよ」

 

「GPDって、あの…?」

 

「そう、GBNならこういうのも出来ちゃうわけさ」

 

 

GPD。ガンダムビルドダイバーズで登場した、”プラネットコーティング“という処理を施したガンプラを仮想ではなく、現実で決闘(デュエル)させるシステムだ。

しかし、ここはGBN。あくまで再現である。

 

 

「つまり俺を連れてきたのってまさか…」

 

「目と目があったらガンプラバトル、そう言っただろう?」

 

 

そう言い、笑みを浮かべるとフウトは手元にコンソールを表示させ、手元に原寸大のガンプラを取り出し発進台にセットする。

 

同じくトロもフェーテを取り出しセットする。

 

GPDはすでに起動しドーム状の幕が張られ、戦場が形作られていた。

 

 

「お兄さん、名前は?」

 

「…トロ。」

 

「俺は見ての通り清掃員をやってるフウトだ。よろしく!」

 

「はぁ…。」

 

 

トロは敢えて返事をせずに、そのままグリップを握る。

その反応にフウト肩をすくめる。

 

 

  Toro's Mobile Suit

   Gundam Fete

      VS.

    Futo'sMobile Suit

      Justice Kaiser

 

 

「ガンダムフェーテ、出る…!」

 

「ジャスティスカイザー!出るぞ!」

 

 

2機がふわりと宙に浮き、戦場へと飛び立つ。

 

 

 

フィールドは草原。

 

青い空に包まれた、緑の眩しい大地。

故に見晴らしが良く、障壁となるものが少ない。ダイバー否、デューラーの腕が顕著に現れる闘いとなるだろう。

 

視界の奥に見える赤い機体。フウトが操るジャスティスカイザーだ。

ジャスティスガンダムを主とし、背中には本来のファトゥムに代わり、レジェンドガンダムのバックパック及びドラグーンが装備されている。

 

 

「手始めに…!!」

 

 

先手を打つため、フェーテに引き金を引かせる。

先の対応の動きでこちらの立ち回りも決まる。まずは様子見といったところだ。

2発避けられた後、命中。しかしそれは自前のシールドで防がれる。

 

 

「当たる分には…マシだろ」

 

 

中距離を維持しつつ、相手──ジャスティスカイザーの動きを伺う。

ここで回避しては防ぎつつのフウトが動く。

 

 

「マークスマンタイプだな…。ならコイツだッ!!」

 

 

そう言うと、背部からドラグーンが青い尾を引きながら展開される。

フウトもまた分析をし、対応策を練っていたのだ。

 

ドラグーンがふわりと舞ったと思うと、青紫の軌跡を描きながらきびきびとした連携で攻撃体制へと移る。

そして全ドラグーンがこちらに向けられ、一斉発射される。

 

 

「こいつ!!」

 

 

所詮はオート機能に任せてあるドラグーン。単調な軌道を読み、そこにライフルの弾を置いてやるだけ。一基を落とし、同じ感覚でもう一基に向けライフルを撃つ。

 

 

「当たんねぇよ!!」

 

「なっ!?」

 

 

放ったビームは、ドラグーンのちょうど横を通り過ぎる。

そのフウトは先程のように優しさを含んだ語気はなく、人が変わったかのように少々荒い口調になっている。

 

ジャスティスカイザーがこちらに盾を構え接近する。

 

 

「確かにコイツはオートだ。予め堕とされにくいように設定してある動きだがなッッ!!」

 

 

盾と共にタックルされる。

GPDのため本人への直接的な衝撃は来ないが、それでも少し身構えてしまう。

だが、その隙が相手を有利に進めてしまう。

 

 

「ここは皇帝の絶対領域だッッ!!」

 

 

迫るジャスティスカイザー。

トロは体勢を整えさせながらライフルで牽制をかけようとするが、その手にライフルは握られていない。

 

 

「チッ…」

 

 

ジャスティスカイザーとの衝突の際に手から離れたのだろう。

思い通りにならない戦況に苛立ちながらも体勢を整えたフェーテに、ジャスティスカイザーのビームが展開された脚が迫る。

 

それを見たトロはすかさず、その脚に目掛け太刀を振る。

 

──が、力と力が拮抗するはずの太刀が空を切る。

 

 

「皇帝の絶対領域はッ…!!」

 

 

振るった太刀が地面を抉ると同時に、先程とは反対方向から蹴りが飛んでくる。

 

 

「不可侵だッ!!」

 

「ッ…!!」

 

 

左腕を咄嗟に差し出すが、完全に不意な攻撃。

動きは捉えられたが、この驚異的な判断力と反射速度にトロはついてこれず、あっさりと落とされ、太刀もその場で離してしまった。

 

 

「なんだ…今の…?」

 

 

こちらに向けられたドラグーンを左腰から抜いたサーベルで捌きながら考える。

 

フェイント…にしてはこちらを誘う様子は全くなかったように思う。だとしたらますます意味がわからない。

相当なやり手なのだろうということを本能が告げる。

 

 

「この程度か?トロくん?」

 

 

早くも消耗しているフェーテに対し、ほぼ無傷と言えるジャスティスカイザー。

 

そのフウトの余裕な笑みに反骨精神が湧き上がるのを感じながら、思考する。

 

まずは状況、ドラグーンを数基落とした程度で残りが左右合わせ4基ほど。対して左腕を欠損しているフェーテ。

 

そしてこの一瞬で分かるように、フウトの能力、分析や判断力、反応速度に優れている。並の人間ではないことは明らかだ。

 

 

「厄介だな…」

 

 

ジャスティスカイザーから距離をとり、右手持ったビームサーベルを構え直す。

 

 

「行くぞ…!」

 

 

フェーテは背後に向けスラスターを吹かせ、急接近させる。青い空に緑が散っていく。

 

 

「面白い!!ならッ!!」

 

 

ジャスティスカイザーはシールドから何かを取り出し、勢いよく構える。

 

 

「ブゥゥメランッッッ!!!!」

 

 

勢いよく投げられたそれを受け流し、ジャスティスカイザーへサーベルを向ける。

 

もちろん接近できたにしても持ち前の反応速度で、カウンターを決められるのを覚悟の上でだ。

 

 

「そう簡単な攻撃を安売りしてちゃ、このキャンセリングにはッッ!!」

 

 

ジャスティスカイザーは前に出そうとした脚を引き戻し、サーベルへの攻撃に転換する。

 

 

「そういうことか!!」

 

 

フェーテはもうサーベルを一文字に振り切った。攻撃を加えることは難しい。

 

 

「なら無理矢理にでも姿勢を変えて…!」

 

 

肩のスラスターを主とし、ジャスティスカイザーのサーベルとは逆の方へ回避する。

 

 

「なかったことにすれば良い!!」

 

「何!?」

 

 

その目に炎を宿らせたフェーテが回避した先で大地を蹴り、皇帝の絶対領域を侵す。

背部のドラグーンの基部でもあるバックパックを融解する。

 

キャンセリングへのキャンセリング。

機体が持つか持たないかの少々荒技ではある。しかし目には目を、歯には歯を、だ。

どこかの法典で書いていたことは本当だったらしい。

 

 

「俺の目に狂いはなかったみたいだな!」

 

 

フェーテに距離を取るついでに太刀を回収させる。

片手には重いが、扱えないほどの重さではない。

 

ジャスティスカイザーはシールドを捨て、武装をビームサーベルに変えこちらに加速する。

 

ここに立つのが前までの自分であったのなら、ただただ突っ込んでいただろう。

しかし今はバトルで培った経験がある。多少の余裕は保てている。

 

──いちいちどっか壊されてるし…

 

 

「分かってるよタクト」

 

 

ジャスティスカイザーはサーベルを大きく振りかぶっている。

対してフェーテは片手の太刀。一回一回の予備動作に隙が生まれる分、一撃の重みが違うはずだ。

 

 

「うおぉぉぉお!!」

 

「ここっ…!!」

 

 

全身を大きく使った遠心力を持った太刀の薙。その重い一撃にジャスティスカイザーのビームサーベルは弾かれる。

 

 

「だがッ片手じゃ支えきれないッッ!!!」

 

 

フウトの言う通り、そのまま機体ごと太刀に持っていかれるフェーテ。

弾かれたジャスティスカイザーはその機体を既に持ち直し反撃への態勢へと移っている。

 

 

「どうかなっ!!」

 

 

持っていかれた体をそのまま回転へと転じさせ、その勢いのまま回し蹴りを食らわす。

その踵に仕込まれたビームを発振させて。

 

 

「隠し武器か!?」

 

 

いくら皇帝と言えども、消耗した状態。最終局面へと移った戦場で磨耗した思考に、その紅い片腕を溶かしていく。

 

これで互いが隻腕、ビームサーベルでの闘いとなる。

 

皇帝と進化が大地を蹴り、己の残り少ないエネルギーを糧として閃光を伸ばす。

 

 

「ここでっ…!!」

 

 

 

フェーテは後ろに大きく引いた腕を力強くしならせ、胴体を横へ薙ぐ。

 

 

「なっ!?」

 

「甘いッッ!!!」

 

 

大きく低く踏み込み、フェーテの懐に入るジャスティスカイザー。

 

 

「させるかっ!!!」

 

 

咄嗟に脚の装甲を飛ばし、それをジャスティスカイザーは食らわせ軌道を逸らす。その反動で間一髪ではあるが、致命傷を避けることができた。

 

 

「まだ隠し持ってたかッッ!!」

 

「隠してはないだろっ!!」

 

 

ついでにと腕部バルカンを展開し、手当たり次第に弾丸を放つ。

しかし、効いていないようでそれを無視して突貫してくる。ガンプラの完成度の高さが伺える。

 

 

「バイタルエリアに入ってるんだ!逃がしはしねぇよッッ!!」

 

「誰が逃げるか!!」

 

 

両機のデュアルアイが呼応するように光を灯す。

ジャスティスカイザーを操るフウトが画面の端にあるものを見つける。

 

 

「使えるッッ!!」

 

 

対してフェーテは装着されたクリアパーツ部を所々赤く染め、陽炎を発しながら接近する。

 

 

「ドラグーンッッスロォッッー!!!」

 

 

手に持った推進力を失ったドラグーンをフェーテに向かって勢いよく投げつける。

 

 

「ッ…ただの塊…!!」

 

「唸れッッ!!」

 

 

投擲されたドラグーンを堕とそうとしたその瞬間。

画面が真っ白に染まり、信号が途絶えた。

 

 

「頭が!?」

 

 

頭を破壊されたがまだ終わりではない。

モニター越しではなく、直接ガンプラを見て操ることとなる。

まだ終わりじゃない──。

 

 

「いけるだろっ…!フェーテ!!!」

 

 

ドーム状の幕の奥に映るジャスティスカイザーを視界に入れる。

 

青いクリアパーツを緋色に染めながら、満身創痍の機体で皇帝に抗う。

 

 

「行くぜッッ!!相棒……ッッ!!」

 

 

皇帝もまた、進化に抗おうと深紅に輝くその機体を向ける。

 

閃光の尾を伸ばした二機が衝突する──。

 

 

 

 

 

―battle end―

winner Futo

 

 

 

 

 


 

 

「トロくんは癖が読みやすいね」

 

 

GPDが応答をやめると、そんなことを言われた。

 

 

「その対艦刀とか、サーベルを横に振るのがほとんどだった。まぁ、キャンセリング見切られたのは予想外だったけどね」

 

 

ははっと笑うフウト。

 

 

「…」

 

「そんなに思い込むこともないよ。良いセンスを持ってる。プロも負かせるくらいにね」

 

「何のために俺とガンプラバトルを?」

 

「目と目が合ったらガンプラバトル。言ったろ?それだけさ」

 

 

そう言ってフウトはこの部屋から電子の一部となり去った。優しい目の奥に気高い闘争心を持つ姿が印象的だった。

 

…それ以上に清掃員の姿の方が強烈に焼き付いているが。

 

 

「フウトさんねぇ…」

 

 

 

「…時間ないし帰るか」

 

 

 

こうして、皇帝の名を持つ清掃員と、進化を望む高校生の決闘(デュエル)に幕が閉じられた。

 

 


 

 

「あっぶなかった!!!」

 

闘いの場からロビーへと移動したフウト。

はぁっと溜め込んだ息を一気に吐き出し、一息つく。

 

 

「やばすぎでしょ最近の子!!腹痛くなりそう…」

 

 

「あっ!!!!!!いたっ!!!!!!」

 

「あ、シイナ…」

 

 

シイナと呼ばれた碧い耳飾りをつけた女性が近づく。

 

 

「一緒にタッグバトル出るって言いましたよね!!!!」

 

 

…いくら皇帝と言えども、神は一息つく暇を与えてくれないようだ。

 

バイタルエリアに迫られながら、膨れっ面をしたまま上目遣いをしてくる。

 

──こいつ…ニュータイプか!!

 

 

「…忘れてっ…ないよッッ!!!」

 

「あっこら!フウトさん!!!」

 

 

前に踏み出そうとした足を反転させ、反対方向へと走り出す。──キャンセリングだ。

 

 

「今日もやってるねー!フウちゃん達!」

 

「はは…」

 

 

皇帝にも敵わない者がいるらしい。

 

 

Log1.Kaiser




⭐︎出演者様⭐︎

いぬこ(@inuco_ineya)
ガンダムビルドデューラーズ清掃員外伝
https://syosetu.org/novel/263407/

スーパープリン(@superpurintwit1)
ぬぬっしし(@nushi_shinymas)
ガンダムビルドデューラーズ
https://syosetu.org/novel/206867/


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