個性「tfポケモン」 (W297)
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プロローグ

 中国で生まれた発光する赤児を皮切りに、人類は何らかの特異体質を持つ超人が生まれるようになった。 時代が進むにつれて少数派だった特異体質は人類の八割を超える。 いつの日か特異体質は【個性】と言い換えられ、逆に【個性】の無い者は【無個性】と呼ばれて差別されるまでにその数はひっくり返されていく。

 

 

 

 超常は日常に。 架空は現実に。

 

 

 

 職業の一つに【ヒーロー】が加わり、悪事を働く者達を【ヴィラン】と呼ぶようになった。

 

 ヒーローになるためには厳しい国家試験を突破することが必要であり、数多くの者たちがヒーローを志しながら夢半ばであきらめることとなる。 その中の一部は国家非公認のヒーロー、自警団(ヴィジランテ)として活動するものたちもおり、ヒーローの手の届かない裏社会を活動地とする者たちが多い。 悪ではないが、合法でもない。そんなグレーゾーンの中でヒーロー活動を行う…

 

 

 

「…そんなことも思ってられないか」

 

 

 

 夜の街のどこかの屋上で、一人の少年が呟く。 彼は“最恐のヴィジランテ”と謳われる「ドラゴストーム」。 まだ15歳の中学生である。 彼がヒーロー活動を行い始めたのは中学校に入学したときである。 小学校の時に立てこもり事件に巻き込まれ、両親を亡くした。 その時に駆け付けたヒーロー達は人質を取られたことにより、何もできずにいた。 その事件はその後駆け付けたヒーローによって解決されたが、彼の心にはヒーローに対しての猜疑心が生まれた。 彼はあえて無許可のヒーロー活動をすることにした。 この活動を通して現代のヒーローの問題を提起しようと考えたのである。それが彼の起源(オリジン)だ。 今日もどこかで裁くべき者たちへの罰のため彼は飛び回る。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「今日で3年…か」

 

 喫茶nascitaでもの思いにふける俺、我羅琉(がらる)牙那(きばな)は転生者である。 前の人生で小さな子供を庇ってトラックにひかれて死ぬこととなった。 そのまま俺の人生は終わり…と思っていたのだが、俺を転生させた神(?)によると、どうやら本当だと違う人物が死ぬはずだったのだが、神様側の手違いにより俺が死んでしまった…ということである。 そして俺は「僕のヒーローアカデミア」の世界に転生することになり、今に至る。

 …しかし、うまいことも続くわけはなく小学校の時に両親を亡くした。 なかなかしんどいものである。

 

「大丈夫なの、牙那? コーヒー淹れようか?」

 

 彼女は元プロヒーローであり俺の唯一の肉親でありここのオーナーでもある姉の瑠莉奈(るりな)。 両親を亡くしたことに責任を持ち、プロヒーローとしての現役をしりぞいてこの喫茶店を始めた。 彼女もまた転生者であり俺の唯一の拠り所である。  

 

「うん、大丈夫だよ瑠莉姉。ちょっと…ね」

 

「そう…。でもあれから3年か…私もこればっかりは慣れないね。 …そういえば最近ヴィラン退治はどうなの?」

 

「比較的落ち着いてきている…ってとこ。 あまり手ごたえはないね。」

 

 ヴィラン退治、俺が行っている非合法のヒーロー活動である。 中学校に入ったころから始め、今では日本最恐の地位に君臨している…らしい。というのもウチの姉との特訓によって起き上っては潰され、起き上っては潰され…を繰り返していた。 そのためあまり自分が強い…と思ったことがない。 

 

「まあ何もないのが一番なんだけど…」

 

「だよねぇ…」

 

 そんな中一人の客が店内に入ってくる。 瑠莉姉に言われて俺は注文を取りに行く。

 

「ご注文は何にしますか?」

 

「えっと…、

 

 

 

アップルパイをアップル抜きで。

 

 

 

…頼めますか?」

 

 

 

「かしこまりました」

 

…ヴィジランテとしての仕事依頼が舞い込んできたようだ。

 

 

 

 

 

 

 




その他用語解説

・nascita…仮面ライダービルドに出てくるカフェで基地ポジション。 電王のミルクディッパーと迷った末こちらに。

・アップルパイをアップル抜きで…児童書「怪盗ショコラ」より。個人的に最も愛着がある暗号。「怪盗ショコラ」ではこれが依頼の言葉であるので拝借。


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Illegalな戦い
1話


お気に入り10件、ありがとうございます。不規則投稿とはなりますが、この駄作小説をよろしくお願いします。


「…ここならよく見えるか」

 

 

 

 風が吹き仕切る中、俺は今廃ビルの屋上にいる。 今回のターゲットとなるヴィランを倒すために準備しておいた場所だ。 

 

 …一応俺のヴィジランテ活動を説明しておこう。 基本的に俺がターゲットとして狙うのは常習犯だ。

 

 まだ1回目なら更生の余地があるため精々半殺しにして命は奪わないようにしているが、2回目、3回目となれば話が変わる。 

 

 このような者たちはもうそれから抜け出せなくなっているので、殺処分もやむを得ない…というのが俺の考え方だ。

 

 勿論、人殺しは人殺しであるため善ではないが、もう今の俺は人を殺すことに慣れてしまっており、その一線を超えるか超えないかで人は変わる。 

 

 俺は壊れているのだ。 俺は世間がもてはやすようなヒーローではない。 ただの殺し屋である。

 

 また、カフェに訪れる人たちからの依頼の場合は、その対象が殺すべきかどうなのかの判断をしてからとなる。 まあ、依頼主の気持ちもあるので大抵は殺すことになるのだが…。

 

 ちなみに今の仕事は後者。 極刑にならなかった犯人を殺してくれ…という依頼だ。 裁判では刑事能力がないと判断されて死刑にならなかったみたいだ。 

 

 調べてみると、それ以外にも表立ってないだけで事件も起こしている。 更生の可能性は低いだろう。

 

 …殺るとするか。

 

 

 

「…transform,ジュナイパー」

 

 

 

 俺が変身したのは「百発百中のアーチャー」、やばねポケモン、ジュナイパー。 

 

 その後、俺は翼の中に仕込んだ「矢羽」を弦がわりにしたフードの紐部分にセットし、翼を弓として広げ、今…

 

 

 

放つ!

 

 

 

 矢はわずかな隙間を潜り抜け、対象の頭に刺さりそいつは即死した。

 

 

 

「大義の為の…犠牲となれ…!」

 

 

 

俺はもう動かない暗殺対象に向けて合掌する 。俺は誰かを殺した後、絶対にこれだけは忘れないようにしている。 どんな悪人であっても、一つの大切な命であることは変わらない。 また、生まれ変わって新たな人生を謳歌してもらいたい。

 

 

 

「…trans,オフ」

 

 

 

 俺は元の姿に戻る。

 

「…任務完了っと。 明日も学校あるし、さっさと帰るか」

 

 再び俺の影は闇に消えた。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

次の日の朝…

 

『…昨日、連続殺人犯の〇〇が刑務所内で不審死しているのが発見されました。 現場近くの防犯カメラに不審な人物は映っておらず、警察は原因究明に務めています…』

 

朝のニュースで昨日のことを取り上げている。 不審死って、メディアはそこまで俺の存在を隠したいのか?

 

「あー、やっぱりなんかメッセージとか残しといた方が良かったんじゃないの? そっちのほうが有名になるし」

 

 瑠莉姉は笑いながら言ってくる。

 

「冗談言わないでよ…。 ヴィランが俺が存在してるってことを意識していれば十分。 これで抑止力になれば、俺の役割は終わり。 後はそこらのプロヒーローに任せておけば大丈夫でしょ。」

 

「まーそれもそっか。 …あれ、学校は?もう始まるころじゃない?」

 

 

 

 

え、

 

 

 

 俺が時計を確認すると、もうすぐ8時半を跨ぐころ。 

 

 学校で授業が始まるのは8時50分、ここから学校までは自転車で10分もかからないが、俺はまだ起きたばっかで何の準備もしていない。

 

「…やべぇじゃん!」

 

「…がんばれー」

 

 

 

 …これが俺たち姉弟の日常だ。

 




その他用語
・「大義の為の…犠牲となれ…!」…仮面ライダービルドに登場する氷室幻徳(仮面ライダーローグ)の決め台詞。個人的にすごい好き。この場面でぴったりだと思ったので採用。


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2話

お気に入り22件!ありがとうございます!


「お前は雄英に行きたくないのか? お前の学力だったら合格なんか余裕だぞ」

 

「行きたくない…ではないですね。 まだ迷ってるんです」

 

「…あのさあ、雄英の入学願書の締め切りもうすぐなんだぞ。 いい加減早く決めてくれよ…」

 

 現在、担任の鳴原(なきはら)拓斗(たくと)先生と面談中の俺です。 この人は俺が入っている軽音部の顧問でもあり、よく相談に乗ってもらっている。 

 

 俺はあまり雄英には入学したくないと思っている…というかしてはいけないと思っている。

 

 俺はヴィジランテ活動をしているが、プロヒーロー達から見れば俺もヴィランの一種だ。

 

 そんな俺が天下のヒーロー育成学校、雄英に入っていいのか…そう思うのだ。

 

「…ったく、明日もう一回聞く。 それまでに確定しとけよ」

 

「…うっす」

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「うぃーす」

 

「お、お疲れー、牙那。 どうだった?」

 

 軽音部の部室に向かい、部室の中でだべってるこいつは耳郎(じろう)響香(きょうか)。 中学から一緒の友達だ。

 

「やっぱ、雄英行けって言われたよ」

 

「まー、そりゃそうじゃない?学年成績トップに超強個性でスポーツ万能。天が二物も三物も与えすぎだっつーの」

 

「褒めてもらって光栄だ、あ、響香はどうすんの?」

 

 確かコイツはヒーロー科志望だったはずだが…

 

「ウチ?ウチはやっぱ雄英かな。雄英の学校施設とかすごくいいし」

 

やっぱか。

 

「まー、油断すんなよ。お前のことだからないと思うけど」

 

「分かってる「ちーっす!もう始めてますか?」って奏か。 遅かったじゃん」

 

今来たのは飛橋(とばし)(かなで)。 学年は俺たち二人の一つ下だ。

 

「いやー、数学で補修くらっちゃって。 で、二人とも高校決まったんすか?」

 

「まーね、ウチは雄英、コイツはまだだって」

 

「えー?牙那さんも雄英行ったらいいじゃないっすか。 この前の模試どうだったんすか?」

 

「雄英は余裕でボーダー越え」

 

「やっぱ凄いっすねー…」

 

 ちなみに一応雄英も志望校に入れている。

 

「だろー、ホントに決めろっつーの」

 

「あ、先生」

 

 鳴原先生が部室に入ってきた。

 

「耳郎にコレ。雄英の願書渡しとくぞ。あと我羅琉にも」

 

 え、俺も?

 

「あ、ありがとうございます」

 

「あのー、俺まだ決めてないっすよ?」

 

「一応だ、一応。使わないんだったらそれでいい。また追加で発注すんのとか面倒くさいしな」

 

「あ、はい」

 

 まー、貰っといて損なことはないか。貰っておこう。

 

「そういって~、二人に雄英行ってもらって教えてる自分の株あげるつもりじゃないっすか?」

 

 奏が茶化す。

 

「んなこと思ってねーよ、…少ししか」

 

「思ってんじゃないっすか」

 

「あー、もう我羅琉!何回も言うがさっさと決めろよ。いろいろ面倒臭いからな」

 

「了解です。 二人とも音合わすぞー」

 

「「おっけ/了解っす」」

 

 さて準備すっか。

 

「transform,ストリンダー、ロー」

 

 

 

さあ、奏でようか。

 

 

 

 

 

 

 

 




オリキャラ

鳴原拓斗…オリ主・耳郎の担任で、二人の所属する軽音部の顧問。数学教師。
     よくダルイって言ってるが生徒の評判は高い。
     個性は「メガホン」。狙った相手に対して爆音を聞かせる個性。
     
飛橋奏…オリ主・耳郎の後輩。
    中性的な顔をしており、よく女子と間違えられるのが悩み。
    個性は「絶対音感」。音が色として認識できる個性。
    


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3話

ちょっと長くなってしまったかも…です。


 学校が終わり俺は家に帰ってきた。

 

 

 

「…ただいまー」

 

「おかえり、牙那」

 

 家に帰ると、いつも通り瑠莉姉が迎えてくれる。

 

 今の時間帯、カフェに人はあまりいない。 よく俺が帰ってくると、窓側でコーヒーを飲んでいることが多い。

 

「瑠莉姉、ちょっといい?」

 

 俺は瑠莉姉に高校について相談することにした。

 

「これ、貰ってきたんだけどさ…」

 

 そういって俺は雄英のパンフレットを瑠莉姉を見せる。

 

「あ、雄英。 牙那行くの?」

 

「…正直、悩んでる。 瑠莉姉はどう思う?」

 

「行きたいとこに行ったらいいんじゃないの? 別に牙那がドラゴストームだってバレてるわけじゃないし」

 

「瑠莉姉は確か雄英出身だったよね…」

 

「いいとこだよ、雄英は。色々設備とかも整ってるからここの地下室よりも充実してるとは思うよ」

 

 ここの地下室は元々瑠莉姉が現役ヒーローの時に作った特訓場である。高威力の技を壁に放ったとしても傷一つつかない優れものである。どうやって作ったかは内緒らしいが瑠莉姉のことだからいろいろしたんだろう。

 

「やっぱ、行くべきなのかな…」

 

 

 

「…悩む必要はないぞ」

 

 

 

「「げ」」

 

 

 

 こ、この声は…、

 

 

 

「げってなんだお前ら。相変わらず暴れてるみたいだな、牙那」

 

 

 

「し、消太さん!?」

 

 

 

 相澤消太、プロヒーロー「イレイザーヘッド」として活躍中。一年だけだが瑠莉姉がサイドキックとして働いていた。そこから知った俺は個性に頼らない戦闘術を身に着けるために彼に師事して様々なことを教えてもらった。

 

 

 

「牙那…いや「ドラゴストーム」に用がある…、

 

 

 

アップルパイをアップル抜きで

 

 

 

…頼めるな?」

 

 

 

「…了解です」

 

…なんかでっかいことが起きようとしている。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「…で、俺に依頼って…、消太さんほどの実力者でも敵わないヴィランでも現れました?」

 

 俺は消太さんとテーブルに向かい合って座っている。 消太さんはメディアにはあまりかかわっていないため、認知度は低いが周りのプロヒーローからはその実力を認められている。 現に彼は雄英高校の教師でもあり周りからの信頼も高いらしい。 その消太さんでも無理なヴィラン…

 

「そういう訳じゃあないが…,単刀直入に言わせてもらう。

 

 

 

 

 

お前、雄英に入れ

 

 

 

 

 

………

 

 

 

 

 

はい!?

 

 

 

「なんでですか!?しかも命令形だし!?」

 

 

 

「その辺についてはこの僕が説明しちゃうのさ!」

 

 

 

なんか出てきた!?

 

 

 

「あ、校長先生」

 

校長!?言っちゃ悪いけどこれが!?

 

「やあ、瑠莉奈君久しぶり!初めまして、牙那君。 ネズミなのか犬なのか熊なのか、その正体は雄英高校校長の根津だよー!」

 

「は、はい」

 

「君は、オールマイトの体が活動限界を迎えてきていることを知っているね?」

 

 №1ヒーロー、オールマイトは限界を迎えてきている。 こっそり見させてもらったが…あれはヤバい。 引退も秒読みだろう。

 

 オールマイトがいなくなる、それは日本のヒーロー…、いや日本の社会においてとてつもない大きな柱がなくなるということである。

 

 ヴィランはトップヒーローがいなくなって動きを活発化するだろう。 そうなると、今のプロヒーローという名前しか持たない偽ヒーローがいるこの世の中じゃ太刀打ちできない。 

 

 新たな柱がこの国には必要なのだ。

 

「そこで!君に今のヒーローの卵を新たな柱に育ててほしい」

 

「育てるって…、俺まだ中学生ですし」

 

「君の実力を周りのやつに見せ続ければいいさ! そうすれば周りは自然とついていくとおもうよ」

 

「…俺にとっての利益は何かあるんですか」

 

「君の今までの違法行為、これから行うヴィジランテ行動を認めようじゃないか。 君にとっても悪い条件ではないはずさ!」

 

確かに、これは俺にとって得しかない。 行きたい雄英に行ける、 ヴィジランテ活動が認められる。 それ以外にも…

 

「…分かりました。 ただ、…知るのは雄英の教師陣だけにしてください。 公安には雄英がドラゴストームが手を組んだってことを知らせるだけで頼めますか。 俺の正体を知るのは必要最小限にしておいた方が機密保持にもなりますし」

 

「分かった、君の条件をのむよ。あと、君がドラゴストームだってわからないようにするために一般入試を受けてもらうよ、かまわないかい?」

 

「いいでしょう」

 

 俺と根津校長は握手を交わす。

 

 こうして俺は雄英に入ることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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4話

 

 その後は一瞬だった。 先生に雄英に行くと伝えると

 

 

 

「…やっと決まったか」

 

 

 

と呟いていた。 いやー、なんかすみません。

 

 試験まで俺は瑠莉姉に特訓を付けてもらった。 ちなみに響香も一緒である。

 

 お互い同じ学校を受験するのであれば一緒にやった方がいいと俺が提案したのだ。

 

 一応言っておくが俺に響香が好きだとかいう感情はない。 響香がどう思っているのかは知らないが。

 

 入試までベストを尽くすとしよう。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 そして…ついにやってきた試験当日。

 

「いよいよだな」

 

「うん、お互い頑張ろ」

 

「分かってる、お前も落ちるなよ?」

 

 門で響香と別れた俺は、懐かしい面子と出会った。

 

「ん、あの緑髪って…、やっぱ出久じゃん」

 

「き、牙那君!?きてたの!?」

 

 緑谷出久、俺の幼馴染だ。こいつは無個性だったが、俺が「なら個性に頼らない戦い方をすればいいんじゃないか」というアドバイスを送ったことによりトレーニングを行うようになった。

 

「…というか大分身長伸びたな。 お前、俺が言ったトレーニング以外にもしてただろ」

 

「まあね。 あ、そうだ、ついでにかっちゃんも」

 

「オイコラデクぅ! ついでってどういうつもりだ!」

 

「…あいかわらずだなー」

 

爆豪勝己。 一言でいえば才能マン。 爆破の個性を持つ。 小さい頃は無個性の出久を差別していたが、俺が何回も個性だけじゃないって言ったことや出久の急成長に伴って段々まるくなった。

 

「ったく、お前ら失敗すんじゃねえぞ?」

 

「そういう勝己こそ心配だなー、受験生相手に手だすなよ?」

 

「んだコラ牙那!」

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 つつがなく筆記試験を終え、次の実技試験を迎える。

 

 問題はここからである。 説明によれば1〜3ポイントの仮想敵を撃破するという内容で0ポイントのギミックもあるらしいが…。

 

 いくら何でも簡単すぎやしないか?俺はそう感じていた。 0ポイントは逃げてもいいとは言っていたが、それなら0ポイントを出す意味はないはずだ。

 

 入試が始まる直前、そう考えていた時である。

 

『ハイ、スタート!』

 

 先ほど、試験内容を説明していたプレゼント・マイクの声が試験会場に鳴り響いた。

 

 なるほど、こういうことか!

 

 俺はその声が終わると同時に走り出した。

 

『どうしたどうしたぁっ! 実戦じゃカウントなんてねーぞ!早くしねえと今飛び出してった奴に狩られてくぜ!』

 

 その声を聴いてやっとほかの受験生も我先にと走り出した。

 

 …このワンテンポがすべてを左右する。 俺は一瞬たりとも油断できない、そんな世界でバトって来た。さっさと終わらせねーと!

 

 俺は入り口近くの密集地帯で奪い合いは効率も悪いと判断し、奥に進むことにした。

 

『目標発見、ブッ殺ス!』

 

「勝己並みに物騒だな、おい」

 

 さて、ここまで誰も来ていない。 俺も稼いでいくか。

 

 ここには3ポイントがうじゃうじゃいるし、他の奴に取られないためにも素早い格闘タイプを使っていこう。

 

 

 

「transform,コジョンド!」

 

 

 

 ぶじゅつポケモン、コジョンド。素早さで力を補う高速アタッカーだ。

 

 

 

「さあ、ここからは俺のステージだ!」

 

 

 

 




ここからは俺のステージだ!…仮面ライダー鎧武の変身者、葛葉紘汰の決め台詞。色々迷った結果これに。


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5話

この駄作に感想をくださる人が…。本っ当に感謝です!


「さあ、ここからは俺のステージだ!」

 

 

 

 俺は近くにいたロボットに向け攻撃を繰り出す。

 

 

 

「はっけい!」

 

 

 

 俺から放たれた衝撃波はロボットに向かい、ロボットは跡形もなく吹き飛ぶ。

 

 この程度か。まー、倒されるためのもんだからあまり耐久いらないのか。

 

 この調子でどんどん狩っていこう。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 探して、ぶつける。そんな単純作業を続けてポイントは50は軽く超えただろう。

 

「よっと、大丈夫か」

 

「あ、ありがと」 

 

「助かる…」

 

 不意に現れたロボットによってピンチになっていた頭に格子柄のヘアバンドをまいた奴とオレンジ色のサイドテールの女子を助けた。

 

「何の個性?イタチ?」

 

「一応、モチーフはオコジョだ、…っと、ゆっくり話している暇はないようだな。見てみろあれ」

 

「何?」

 

 俺が指さした先には建物を破壊し瓦礫を降らしながら近づいてくる0ポイント…って

 

 

 

「「「でかくね!?」」」

 

 

 

 ここにいた3人がハモッた瞬間である。

 

 何か大きいものが近づいてきているのは分かったがここまででかいとは思ってなかった。

 

「ど、どうする?逃げる?」

 

サイドテールが聞いてくる、まあおれには逃げるって選択肢はねぇな。それこそ、あのときの何もできなかったダメヒーローと同じだ。

 

「いや、俺はあれを倒す」

 

「おい、アレはポイントには入らないんじゃないのか!?別に逃げてもいいって言ってたじゃねーか!」

 

ヘアバンドが言い返してくるが、俺は言う。

 

「相手が強いから逃げるのはヒーローじゃねーだろ、それともお前らは肝心な時に助けてくれないヒーローになりたいのか?」

 

 俺は続けて話す。

 

「ヒーローが一度、敵に向けて背を向けたらそいつのヒーローとしての地位は一気に下がる。自分の人生がすべて水の泡になるとしてもやってやるよ。1秒前に勝てなくてもその時には勝てるようになってみせる。そんな人だったからこそ人々は称えてその存在をこう呼ぶんだよ、…ヒーローってな」

 

「まあ、これは俺の考えだ。お前らが止めても止めなくても俺は行くってことだ、要するに」

 

 俺が行こうとするとサイドテールが俺の手をつかむ。

 

「待って、私も行くよ。あんなの聞かされて黙ってられないでしょ」

 

 ヘアバンドも俺に言う。

 

「俺もだ、お前のことが心配ってのもあるけどな」

 

「助かる。一応お前らのこと聞いていいか?」

 

「私は拳藤一佳。個性はこんな感じに手を大きくできる」

 

「俺は泡瀬洋雪。個性は触ったもんどうしをつなげられる個性だ」

 

「俺は我羅琉牙那。個性は今なってるがこんな力を持った動物に変身できる個性だ」

 

 …よし、大体プランはできた。

 

「泡瀬、あのロボットと地面をくっつけることはできるか?」

 

「もちろんできるぜ」

 

「拳藤は泡瀬のサポートをしてくれ、俺はその間力をためる。それまで耐えてくれ」

 

「分かった!」

 

さあここからぶったおしに行きますかっと!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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6話

 

 0ポイントにかち合った俺は偶然近くにいた受験生と協力して倒すことになった。

 

「それじゃ、作戦開始!」

 

「「了解!」」

 

 泡瀬と拳藤が飛び出していく。

 

 少しの間、耐えてくれよ。

 

「瞑想、瞑想…」

 

 俺は積み技である瞑想を使う。 これをすれば俺の特攻は上がっていく。 最大限まで積んで、一発で終わらせる。

 

 …よし、

 

「行け、我羅琉!」

 

 泡瀬の声が聞こえる。 あっちの準備も整ったようだ。

 

 さあ、やるぜ。

 

 俺は思いっきり上に飛び上がる。

 

「はあああっ!くらえ、

 

 

 

波導弾!

 

 

 

 

 

 

 強化された俺の身体の奥から放たれた波導の弾は0ポイントに向かっていき、ドでかい衝撃波が生まれる。

 

 大きな音を立てて0ポイントは崩れていく。 あっけないもんだ。

 

『終〜了〜!』

 

 そして今、プレゼント・マイクの宣言が響き渡った。

 

「ふうっ、やれたな」

 

 俺はゆっくりと地面に落ちる。

 

「まじか…、お前スゲーな」

 

 泡瀬が近づいてくる。

 

「まーね、あんだけ言ったんだからやんねーと。動き止めてくれたからぶち込みやすかった。助かったよ」

 

「俺も、一人だけじゃ無理だったよ。大分拳藤が守ってくれたしな」

 

 そう言われた拳藤は照れる素振りを見せて言う。

 

「ありがと、でもここまでするかってぐらいだったね…」

 

「これ位出来ねーとヒーローは無理だってことなんだろ。ふるい落とすための試験だし」

 

「確かにそうか」

 

 おっと、trans状態を解除してなかったな。

 

「trans,オフ」

 

 俺は元の姿に戻る。

 

「え、お前…」

 

「うそ…」

 

 二人が驚いた顔をして俺を見てくる。

 

「ん、どうした?」

 

 二人は同時に言う。

 

「「意外と身長高いな!?」」

 

あーこれか。

 

俺の人間状態の身長は180㎝位。 コジョンドは140㎝だから40㎝位違うから違和感感じるか。

 

「こっちが俺の本当の姿だぜ。変身したら身長縮むこともあるんだ」

 

「へー、そんな個性もあるのか」

 

 俺は話す。

 

 

 

「お前らこの後なんもないなら少し話さないか?」

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「あー、疲れたな。いろいろと」

 

「ここまでやるか、って感じだった…」

 

 現在俺たち3人はnascitaでだべっている。 泡瀬と拳藤も快く応じてくれた。

 

 カウンター席に座っている俺と泡瀬。 そして…

 

「あー、ダメだこれ」

 

 キュウコン状態の俺のしっぽのうちの一本に抱き着いている拳藤。

 

「なんか、余りうらやましくねーな」

 

「変われるもんなら変わってほしい…、いつまでtrans状態にしとけばいいんだ?」

 

「あと30分はダメー」

 

「おい」

 

 せめて10分にしてくれ。30分は長すぎるぞ。

 

「恐るべしだなその尻尾」

 

「ん、お前も来るか?もう一人ぐらい増えても大丈夫だぞ」

 

「じゃあ、お言葉に甘えて…ってなるか!」

 

 こんな感じで楽しみにしていた雄英入学試験は終わりを告げた。

 



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7話

 雄英入試から数日が経った。

 

 俺は今日届いた雄英からの手紙、…合否判定通知を持っている。

 

 まあ、雄英側からの話だったからよっぽどのことがない限り大丈夫だろう。

 

 封筒を開けるとよくわからない機械とそれの説明用紙が入っていた。

 

「えーと、平らなところに置けば再生されるんだな。 やっぱ前世よりもいろいろと発展してんなー」

 

 機械をテーブルの上に置くと同時に

 

 

 

「私が投影されたァ!!」

 

 

 

 結構急に来るなオイ!

 

『HAHAHA! 驚いてもらえたかな我羅琉少年!君も知ってると思うけど来年度から雄英に勤めることになってね。 こうして合否通知のプレゼンターに選ばれたのさ!』

 

あ、はい。

 

『それでは早速だが、結果を発表しよう!我羅琉少年、勿体つけるつもりはない、君は合格だ!」

 

ま、そうだよね。

 

『筆記試験は文句なしだ、すべて9割を超えている!そして、実技試験だが獲得した敵ポイントは80ポイント!これだけで1位なんだが評価対象はそれだけじゃあないっ! 人助けこそがヒーローのお仕事、そこを見ないはずもないさ!』

 

 うん、戦うことは助けるための手段の一つだからね。今のヒーローは戦うことを重要視しすぎなんだよな。

 

『ただでさえ、試験という状況。少しでも多くの敵を倒してポイントを稼がなきゃあいけないってのに君は躊躇なく、被害を抑えるために動いた! そして君は、会ったばかりの受験生の個性をフル活用し、的確な指示を出して撃退した! 教師陣の審査制の救助活動ポイント! 我羅琉牙那50ポイント! 合計130ポイント! 文句なしの第1位だ!ちなみにこの記録は我羅琉瑠莉奈君以来の100ポイント越えで歴代3位の記録だ!おめでとう!』

 

 あ、それはうれしいね。でも瑠莉姉に負けたかー。そこは悔しいな。

 

『改めて言おう、我羅琉少年! 合格だ! 待っているぞ、君のヒーローアカデミアで!それと私のサポートよろしく!』

 

 終わったか。

 

「…いつまで、そこに隠れてんだ瑠璃姉」

 

「あ、バレた?」

 

 俺の部屋のドアを開けて瑠莉姉が入ってくる。

 

「ま、おめでと。私の記録は超えれなかったみたいだけどねー」

 

 瑠璃姉がニヤニヤしながら俺に言ってくる。ウザい。

 

「うっさい、瑠璃姉は何点だったんだよ」

 

「確か150だったと思うよ、救助活動ポイントは満点」

 

 結構離されてる!

 

「まー、頑張んなよ。応援はしてるから」

 

「分かってるよ」

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「そっか、響香も」

 

「うん、牙那も合格しててよかった」

 

 次の日、学校で響香が合格したことを聞いた。他にも出久や勝己、拳藤と泡瀬が合格しているらしい。よかった。

 

「ってか、アンタね、歴代3位の記録出すってバケモンじゃないの?」

 

「バケモンじゃねえ、ポケモンだ。何回も言わせんな」

 

「はいはい、でも同じ学校の奴いてて安心したよ」

 

「まあ、それは俺も同じだ。これからもお互い頑張ってこーぜ」

 

「オッケー!」



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雄英でのSchool Days!
8話


祝・お気に入り100件&星点灯!皆さんのおかげです!


「…ついに来たか」

 

 雄英高校学校初日である。

 

「まあ、なんていうか…」

 

 ちなみに響香も一緒に来ている。クラスも同じA組だ。

 

 

 

「「ドアでかくね!?」」

 

 

 

 一応、どんな個性でも大丈夫って感じのバリアフリーなんだろうけど、それにしてもでかい。

 

 俺たち二人は座席表に決められた座席に座り、周りの奴と話そうとしたときだった。

 

 

 

「お友達ごっこがしたいなら他所へ行け。ここは、ヒーロー科だぞ」

 

 

 

 消太さんがやってきた。

 

 寝袋に包まってゼリー飲料を口にしているなんとも奇妙な存在に、教室にいた俺以外の全員が言葉を失う。

 

「はい、静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠くね」

 

「あ、消太さんおはようございます」

 

「ここでは相澤先生と呼べ…、担任の相澤消太だ。よろしくね」

 

 ってか担任!?

 

「牙那、知り合いか?」

 

 後ろの席の切島が声をかけてくる。

 

「俺の師匠的な人かな、わかりやすく言うと」

 

「牙那、無駄口を叩くな」

 

「はいはい」

 

「…ったく、早速だが、これ着てグラウンドに集合だ」

 

 消太さんが示したのは雄英の体操服。

 

 さて、何を仕掛けてくるかな。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

「個性把握テストォ!?」

 

「入学式は!? ガイダンスは!?」

 

「ヒーローになるなら、そんな悠長な時間などない」

 

 グラウンドに集まった生徒たちからあがる声に、消太さんが返す。

 

 まー、そうだけど急すぎじゃないっすか!?

 

「デモンストレーションだ。牙那これ投げろ。中学校の時何メートルだ?」

 

「大体50メートル届くか届かないぐらいっすね」

 

「個性使って思いっきり、コレ投げてみ。円から出なきゃいい」

 

「了解っす」

 

 じゃ、スタンダードな奴で行きますか。

 

 

 

「transform,コジョンド」

 

 

 

 おおっと周囲から声が上がる。反応してないのは俺の個性を知っている勝己と響香だけだ。…出久はメモ取る気満々かよ。

 

「…消太さんちょっと時間貰います」

 

「できる限り早くな」

 

 …ヨガのポーズっと。

 

 

 

 

 

 数十秒後…

 

「じゃ、行っきまーす!」

 

「早くしろ…」

 

 他のクラスメイト達も待ちくたびれてきている。 さっさとするか。

 

「はあああっ、

 

 

 

はっけい!!

 

 

 

 

 ギュオっと大きな唸り声を上げながらボールは彼方へと消えていく。

 

 消太さんの手元にある計測する機械には10620メートルが表示されている。

 

 10000超えたか。

 

「10000m越えってマジかよ!?」

 

「さすがヒーロー科、"個性"思いっきり使えるんだ!」

 

「何これスゲー面白そう!」

 

 口々に声をあげるクラスメイト達。

 

 この言葉の後、消太さんが出す空気が変わった。

 

 気づいてるのは俺と感づきのいい勝己。

 

「"面白そう"か。ヒーローになるための3年間、そんな腹積もりでいるのかい? …よし、トータル成績の最下位の者は"見込み無し"と判断し、除籍処分としよう」

 

 消太さんの言葉に周りから驚きの声があがる。

 

「え、えええええええええっ!?」

 

「そんな、入学初日ですよ!? いや初日じゃなくても、理不尽すぎる!」

 

「理不尽、ねえ。……自然災害、大事故、身勝手なヴィランども。世の中ってのは理不尽に満ちてる。 そんな理不尽を覆すのがヒーローだ。 これから3年間、雄英は君たちに苦難を与え続ける。"Plus Ultra"さ。全力で乗り越えてこい」

 

 消太さんの言葉に皆の目の色が一気に変わった。

 

 さて、消太さんの求める実力に達してるのはどれくらいいるのかな?

 



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9話

お気に入り200件突破!ありがとうございます!


 

 消太さんに言われて個性把握テストが始まった。

 

 始めの50m走では飯田が3秒台というヤバい記録を出した、

 

 ほかの面々も個性を使用して好記録を連発していく。

 

「我羅琉が相手か、よろしくな!」

 

「ああ、切島」

 

 ちなみに切島とのペアだ。

 

「ただ、俺素早く動くこと苦手なんだよなー、個性と相性悪いし」

 

「そこは仕方ないだろ、それともそれを言い訳にする気か?」

 

「分かってる、言い訳なんて男らしくねーしな」

 

「だよな、ま、俺はかっ飛ばしてくからよろしく」

 

 

 

「transform,テッカニン」

 

 

 

 まずは、しのびポケモンのテッカニン。コイツはポケモンの中で素早さの種族値が最も高い。

 

 

 

「切島、

ひとっ走り付き合ってくれるか?

 

 

 

「もちろんだ!」

 

『レディ……ゴー』

 

 機械音声が合図を出す。

 

「高速移動!」

 

 俺は目にも止まらぬ速さで直線を駆け抜ける。ちなみに攻撃力はない。

 

『2秒91』

 

「3秒切った!」

 

「くぅ、得意分野で遅れをとるとは!」

 

 50m走。我羅琉牙那1位。

 

 

 

 続いて握力。

 

「transformカイリキー」

 

 俺はかいりきポケモンのカイリキーの力を借りることにした。

 

 グシャッ!

 

「壊れた!?」

 

 握力計を握ったら壊れてしまった。

 

「…本来1,000キロまでは測れるはずなんだがな」

 

「軽く握っただけなんですけど…」

 

 我羅琉牙那、計測器破損により計測不能。

 

 思ったのだが八百万の万力を使うってのはアリなのか。

 

 

 

 立ち幅跳びはフライゴンの力を使った。

 

「飛んでるっていうより浮いてる!?」

 

「いつまでできる」

 

 消太さんが聞いてくる。

 

「とりあえず、この後丸一日ぐらいは余裕で」

 

「…ならもういい。これ以上は時間の無駄だ。記録"無限"な」

 

「無限ってあんのかよ!?」

 

 

 

 その後も、さまざまな力を使っていった。

 

 反復横跳びはテッカニンの影分身、上体起こしはタコでなおかつ人型のオトスパスで。上位記録を連発。

 

 次に向かうのはソフトボール投げ。既に始まっているようで、今は丸顔の女子が白線で書かれた円に居た。

 

 そして、振りかぶることもなくボールを投げると、そのままフワフワと飛んでいった。

 

 しばし待ってもボールは落ちることなく、空の彼方へ。

 

 最終的に出た記録は、本日2度目の"無限"だ。

 

「無限って案外出るもんだな」

 

「なわけないじゃん、アンタ達が特別なんだよ」

 

 耳郎に突っ込まれる。

 

「そういえば、牙那以外にもう一人いるらしいよ。あの0ポイント倒したの」

 

「あ、それあいつだった思うぜ」

 

 俺の前にいた切島が指さしたのはこれから投げようとしている出久。

 

「本当なの、切島?」

 

「ああ、遠目だったけどあんな感じの髪だったし」

 

「個性出たのか?」

 

「それって無個性だったってことか?」

 

「俺と知り合ったときはな」

 

 そして出久が投げる。しかしそのボールは飛んでいかない。

 

「…なんか発動条件でもあるのか」

 

「あのゴーグル……。そうか! 抹消ヒーロー、イレイザーヘッド!」

 

 出久は分かったようだ。さすがヒーローオタク。ってかゴーグルで分かんのか。

 

「イレイザー…?」

 

 耳郎含め他の面々は思いつかないようだ。

 

「アングラ系のヒーローだ。あまりメディアに顔出さないからわからなくても当然っちゃ当然かな」

 

 わからない面々に向けて俺が説明をする。

 

 そして、しばし消太さんから言葉をかけられた出久は、再度円の中に。

 

 何事かを呟き、覚悟を決めた表情で2投目を放つ。

 

「お、おおっ! カッ飛んだ!」

 

「やー、行ったねえ」

 

「ただ、指腫れ上がってるな。まだコントロールまではできないって感じか」

 

 出久の投じた右手の人差し指は腫れ上がっていた。まだ手全体で握ったりすることはできるだろうが一応は庇いながらということになるだろう。

 

 出久は涙を浮かべながらもその目は力強い。そして、言う。

 

「先生…、まだ…、やれます…!」

 

「コイツ…」

 

 消太さんが笑みを浮かべる。とりあえず何とかなりそうだな。

 

 そして、最後の持久走。バイクを作り出した八百万、最高速度を遺憾なく発揮した飯田、テッカニンでかっ飛ばした俺でデッドヒート。

 

 最終的には2位でフィニッシュ。

 

「んじゃ、パパッと結果発表。ちなみに除籍はウソな。君らの最大限を引き出すための、合理的虚偽」

 

「「…。はーーー!?」」

 

周囲の喧騒を他所に、牙那は順位表に目を向ける。

 

「大分、取り逃したか」

 

「取り逃してるようには見えませんでしたが…?」

 

 2位だった八百万が話しかけてきた。

 

「当たり前だ、足りてないところが多い。八百万の個性は万能って感じだな」

 

「ありがとうございます。ですが負けてるようではまだまだ。伸ばせそうな所も見つかりましたし、次は負けませんわ」

 

「上等だぜ、かかって来いよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





ひとっ走り付き合ってくれるか?…元ネタは泊進ノ介(仮面ライダードライブ)の「ひとっ走り付き合えよ!」

当家の出久&勝己について
オリ主ががいたことにより、勝己が若干マイルド。出久に対する当たりも原作に比べると控え目であり、ある程度は出久の実力(生身)も認めている。自殺教唆めいたセリフ、出久に対するいじめもやっていない。出久に関しては原作に比べると体が出来上がってはいるがさすがに100%のワン・フォー・オールはコントロールできない。
…という感じです。
              


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Battleな授業
10話


 

 波乱だった雄英入学初日が終わりその翌日。

 

 雄英高校のカリキュラムが正式にスタートした。午前中は英語など必修科目…いわゆる普通の授業を受ける訳だが…

 

「んじゃ、次の英文のうち間違っているのは?」

 

「おらエヴィバディ、ヘンズアップ! 盛り上がれー!!

 

 プレゼント・マイクが担当する英語の授業は、すこぶる普通だった。

 

 そして午後の授業。

 

 

 

「わーたーしーが! 普通にドアから来た!」

 

 

 

 オールマイトの授業の時間だ。

 

「オールマイト! 本当に先生やってるんだ!」

 

「シルバーエイジのコスチュームだ、すげえ」

 

「画風が違いすぎて鳥肌が……!」

 

 トップヒーローによる授業とあって、俺を含めた生徒たちは興奮した声を抑えきれない。いやー、さすがにオールマイトはすごいね。

 

「ヒーロー基礎学! ヒーローの素地を作るため様々な訓練を行う科目だ! 早速だが今日はコレ! 戦闘訓練! …そして、そいつに伴ってこちら! 入学前に送ってもらった"個性届"と"要望"に沿って誂えた"戦闘服"! さあ、着替えてグラウンドβに集合だ!」

 

「おおおっ!」

 

 なんか壁からせり出してきた。そこにあったケースを取り俺たちは更衣室に向かう。

 

 各々が憧れのヒーローのようにと考えたコスチュームを身に纏い、昂ぶらない筈もない。全員が笑みを浮かべて歩んでいる。

 

「なんか、牙那の恰好ってそこまでヒーローっぽくなくない?」

 

 どこかにいそうなロックミュージシャンのような恰好をした響香が俺の恰好を見て行ってくる。

 

 ちなみに俺の恰好は頭にオレンジ色のバンダナを巻いて、ドラゴンをモチーフとしたサッカーユニフォームを着用。さらにその上にドラゴンをモチーフにしたようなパーカーをに着ていて、フードの部分は牙のような形をしている。

 

「まあな」

 

「というか動きやすいのそれ」

 

「普通に動けるぜ。まあ、trans状態になったら関係ないしな」

 

「あー、そっか」

 

 先にグラウンドで待っていたオールマイトが俺たちの恰好を見て言う。

 

「いいじゃないか、少年少女! カッコイイぜ!」

 

 オールマイトに対して飯田が挙手する。

 

「先生! ここは入試の試験場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか!?」

 

「いいや、もう2歩先に踏み込む! 屋内での"対人戦闘訓練"さ! 真の賢しい敵は闇に潜む。これから君たちには"ヒーロー組"と"ヴィラン組"に分かれての、2対2の屋内戦闘訓練を行ってもらう!」

 

 オールマイトが返す。確かにそうだ。真昼間で事件を起こすのはよっぽど目立ちたい奴ら。ほとんどは夜の街の路地裏とか、そんなとこにいることが多い。

 

「基礎訓練も無しに?」

 

「その基礎を知るための実践さ! だが、今回は一般入試のようなブッ壊せばオーケーなロボとは違うのがミソだ!」

 

 …まあ、普通人壊したらoutだよな。壊す=殺すだし。

 

 俺は殺すことに慣れてるからあまり思わないけど。

 

 今回の訓練の設定としては、核兵器を隠し持つヴィランに対し、それを奪取しようとするヒーロー。

 

 …うん、なんともアメリカン。

 

「チーム相手および対戦相手を決めるのは……。"くじ"だ!」

 

「適当なのですか!?」

 

 驚いている飯田に対し俺が言う。

 

「飯田、プロは他事務所のヒーローと急造チームアップすることもある。おそらく今回はそういう状態でいかに戦うか…ってこともあるとおもうぜ」

 

「そうか! 先を見据えた計らい…!ありがとう我羅琉君!オールマイト、失礼致しました!」

 

 オールマイトが俺たちを見て言う。

 

 

 

「さあ、はじめようぜ、有精卵ども!」

 



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11話

 

 初戦のグループ。勝己と飯田のヴィランチーム対、出久と麗日のヒーローチームによる戦闘が始まる。

 

 またこの二人は別れたか。

 

「よろしくね、我羅琉!」

 

「ああ、よろしく」

 

 ちなみに俺は芦戸とのペアだ。

 

「さあ皆! クラスメイトの動きから学べる部分はドンドン学んでいこう!」

 

 俺たちはモニタールームに移動し今行われている対戦を見ている。

 

「うおおっ、爆豪ズッケェ! 奇襲なんて男らしくねえ!」

 

「緑くん、よく避けたねー!」

 

「勝己のアレは、…まあいつもの勝己か」

 

「アレでいつもなのか…」

 

 各々がそれぞれ違った感想を話す。

 

 そして、モニターの中では、掌から爆炎をあげる勝己と、すんでのところで回避し、マスク半分を失った出久が対峙している。

 

「そういえば、我羅琉ってあの二人と幼馴染なんだよな。なんかあったのか?」

 

 上鳴が俺に聞いてくる。

 

「まあ、なんというか…、…昔、出久は無個性っていじめられててな。そのいじめっ子のリーダーが勝己だったんだ」

 

「いじめ!?」

 

「まあ、今の時代無個性だったらあることだけど…」

 

 俺は話を続ける。

 

「そこを俺が間に入る形をとってたんだけど、あるとき勝己が俺に勝負を挑んできてな」

 

「け、結果はどうだったんだよ?」

 

 峰田が俺に尋ねる。

 

「俺の圧勝。で、俺は出久も勝己も両方同じ目標があるってことに気づいてな。それがオールマイト。その後、勝己に謝罪させた後は三人で上を目指さないかって話して。俺と勝己は効果的な個性の使い方、出久は無個性なりの戦闘法に着目していったんだ。そこからだな、あいつらのライバル関係が始まったのは。で、そのライバル関係が今に至ってるって…何泣いてんだよ、お前ら!?」

 

 俺の周りでは泣く声が多数。

 

「いい話ですわ…」

 

「ていうか我羅琉がいなかったら、あいつらは…」

 

「あのー、いい話だけど、モニター見てくれないかな…」

 

 オールマイトが申し訳なさそうに言う。

 

「「「すみませーん!」」」

 

 モニターに戻ろう。状況は勝己と出久が正面衝突になりそうなところだった。

 

「先生! ヤバそうだってコレ!」

 

「なんかあんのか、出久。構えが今までと違うな」

 

「は!? この状況で何、を……!?」

 

勝己の右手の攻撃は出久をとらえて爆風が起きる。それに対し出久の右腕は、

 

「そうか、上か!」

 

 アッパーの要領で放たれた拳は、先日の個性把握テストで見せた超大なパワーを遺憾なく発揮し、その衝撃はビルの天井を撃ち抜いていく。

 

 その上には核兵器のある部屋だ。

 

 向かい合う飯田と麗日の間、その床が出久の一撃で吹き飛び大穴が開く。

 

 大穴から飛び出す階下の瓦礫。それ目掛けて、折れたコンクリートの柱を自分の個性で軽々と抱える麗日が振り抜く。

 

 圧倒的な質量によって打ち出された瓦礫群は凶器となって飯田に襲い掛かり、これには彼も堪らず防御の姿勢をとる。

 

 その隙をついた麗日が飛び、目標となる核兵器に取り付くことで、勝敗は決した。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 第一戦の講評を終え、次の組み合わせが発表される。

 

 次は俺たちらしい。対戦相手は響香と上鳴のチーム。俺たちはヴィラン側だ。

 

 さて、…地獄を見てもらうことにしよう。



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12話

 

「さて、芦戸。俺たちはヴィラン側になったわけだが、お前はどうしたい?」

 

 訓練が始まる数分前、俺は芦戸に尋ねる。

 

「うーん、個性把握テストのやつみてたら、なんか我羅琉って一人で何でもできるじゃん?」

 

「…否定はしないが?」

 

「うっわ、さすが我羅琉。でさー、アタシの個性って人に向かって使うと危ないし、もう我羅琉に接近戦は任せようかなーって」

 

「いいのか、お前はそれで。お前は目立ちたがり屋だと思ってるけど」

 

「まあね、あんな実力差見せつけられたら、アタシもまだまだだなって思ったし」

 

 それを聞いて俺は考えをめぐらす。確かに俺一人で戦ってもいいが、それでは、芦戸は何もしていないってことになってしまう。しかし芦戸の酸は人にとっては脅威だ。創造の八百万や氷の轟みたいにガードできるならいいんだが、相手は電気を纏う上鳴と音で攻撃する響香。直接当たればひとたまりもない。

 

「…芦戸、お前の出す酸って調整できるんだよな」

 

「できるけど?」

 

「なら…、ちょっと手伝ってもらえるか?」

 

 俺は“わるだくみ"の笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

???サイド

 

「あーもう!なんで牙那と試合なんだよ…」

 

 耳郎がぼやく。

 

「えー、でもさ、俺が電撃飛ばしまくってたら何とか行けるだろ!」

 

 上鳴は気楽そうに返す。

 

「その、何とか行けないのが牙那なんだけど…」

 

「まー、楽しくやってこうぜ!」

 

『それでは、レディ……ゴー!』

 

 オールマイトによって戦いの火蓋が切って落とされる。

 

「よっしゃ、それじゃさっそく…」

 

「待って、上鳴!」

 

 耳郎は急いで上鳴の襟元をつかむ。

 

「グエッ、何すんだよ!」

 

「床見てみて」

 

 二人が入ろうかとした床は芦戸の酸によって埋め尽くされていた。

 

「なんだ、コレ!?」

 

「芦戸の酸。気付けないと滑って転ぶよ?」

 

「早速いやらしいことしてくんな…」

 

 二人は転ばないように慎重に進む。

 

 そこらかしこには牙那が開けたと思われる穴も多数あり、落ちれば時間のロスだ。

 

 そうしてる間、耳郎に何かが当たった。

 

「うん?」

 

 耳郎が確認してみても周りには上鳴以外誰もいない。

 

「どうかしたかー?」

 

「いや、何でもない」

 

 耳郎は気のせいだと思ってそのまま進んだ。

 

 

 

 だが、隙間から笑みを浮かべる存在は悪い笑顔を見せていた…。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「階段もコレ(酸)かよぉ…」

 

「もういや…」

 

 耳郎と上鳴が進んだ先には、再び芦戸の酸によって浸された階段が待っていた。

 

「確か、階段ってここだけだよな」

 

「うん、登るしかないよね…」

 

 ここまでですでに神経をすり減らしてきた二人は階段を登り始めた。

 

 

 

 階段を登り終えようとしたとき二人の肩に手が叩かれた。

 

「「へ?」」

 

 その彼らに大きな黒い球がぶつけられた。

 

「シャドーボールッ!」

 

 牙那の攻撃だ。

 

 二人は吹っ飛び、階下に落とされる。

 

「いってー…」

 

「油断した…」

 

 牙那は変身を解除し、二人が軽く愚痴をこぼした後、こう告げる。

 

「よく、ここまで登り着いた。落とさせてもらったがお前たちはなかなかやるようだ」

 

「ちっ、褒めてもなんも出ねーっての、っておい耳郎!顔真っ青だぞ!」

 

 耳郎は何かの病気にかかったようなそんな表情をしている。

 

「ま、まさかあの時…」

 

「気が付いたようだな。そう俺はゲンガーに変身してあの時お前に毒をプレゼントしてやったのさ。どうだ、体が動かなくなってきただろう」

 

 牙那は無慈悲に呟く。

 

「ちなみにだが、その毒はお前の体力だけを削り取る、精々気絶だな。ちゃんと命の保証はしてやるよ」

 

「んなもんお前の個性だろ!お前を倒せばなくなるはずだ!」

 

 上鳴は言い返す。だが牙那は飄々とする。

 

「俺を倒せるのなら倒してみろよ、倒したところで上にはもう一人控えているがな」

 

 牙那は上鳴を挑発しながらこう告げる。

 

 

 

 

 

「transform.ドラピオン」

 

 

 

 

 

 牙那は変身する。それは巨大なサソリの化け物だった。

 

 

 

 

 

「さあ、地獄を楽しみな」

 

 

 

 

 




「さあ、地獄を楽しみな」…大道克己(仮面ライダーエターナル)の決め台詞。個人的にはWが一番好きなので思い入れが深い。多分これからも出てくる…はず。


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13話

牙那サイド

 

 

 

「さあ、地獄を楽しみな」

 

 

 俺がこの言葉を使うとはそれは相手を死なせるもしくは最低でも気絶させるということを意味する。

 

 俺の前にいる上鳴は立ちすくんだままだ。

 

「行かせてもらうぜ、クロスポイズン!」

 

 上鳴に毒を纏った手刀が当てられる。

 

 上鳴は立ち上がる。

 

「ちっ、なら、お前もこれ位じゃ死なねえよな。無差別放電10万ボ…「ちょっと待った方がいいんじゃないか?」…何?」

 

 俺はこう続ける。

 

「お前たちの足には芦戸の酸で満たされてる。今放電したらそこに倒れてる耳郎までくらうぞ、それでいいのか?」

 

「あっ、そうか!ってヴィラン役のお前に教えてもらう必要はねぇ!」

 

 上鳴のパンチが俺にあたる。だが、

 

「なんだ、コレ!かってぇ!」

 

「ドラピオンの装甲は伊達じゃないぜ」

 

 ドラピオンの防御の種族値はなかなか高い。それを生かさせてもらった形だ。

 

「そろそろきついんで、終わらせてもらうぜ、どくどくのキバッ!」

 

 俺は上鳴の肩に猛毒のキバで噛みつく。

 

「ぐあっ!」

 

「降参しろ、上鳴。そうしたら離してやる」

 

 俺は噛みつきながら言う。

 

「へっ、そう簡単に降参してたまるかよ…」

 

 だが、顔が青ざめてきながらも上鳴の目はあきらめていない。

 

 …なら、さらに地獄を見せるだけだ。

 

 俺は更に噛む力を強める。

 

 毒は上鳴の体に回りきっているだろう。

 

「なあ、我羅琉。さすがにここまで密着してたら逃げることはできねえよな」

 

 上鳴が言う。

 

「何?」

 

「俺もただでやられるわけにはいかねーぜ!

 

 

 

無差別放電、50万ボルト!

 

 

 

 上鳴から放たれた電流が俺に走った。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「まあ、たえるんだけどさ」

 

 上鳴が電撃を放った後、立っているのは俺だけだった。後は耳郎と上鳴は気を失って倒れている。

 

「自分にできることを、精一杯やった。そこは評価ポイントかな」

 

 そんなこんなをしているうちにオールマイトから『タイムアーップ!』の声がした。

 

「我羅琉ー、終わったー?」

 

 上から芦戸が降りてきた。

 

「ああ」

 

「でも、派手にやったねー…」

 

「ヴィランがやりそうなことをやってやっただけだ」

 

「あとさ…、本当に二人死んでないよね!?」

 

 芦戸が心配そうに言ってくる。

 

「大丈夫だよ芦戸、こいつらに使った毒は体力は削られるが後遺症は全くない種類だ。こいつらの命は俺が保証してやるよ」

 

「ならいいんだけどさ…」

 

 俺たちは倒れた二人を連れてモニタールームに戻った。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「今回のMVPは我羅琉少年だな!」

 

 モニタールームに戻ってきた俺たちにオールマイトが言う。響香と上鳴も大分体の感覚が戻ってきたようだ。

 

「我羅琉少年は戦いだけでなくすべての場面においてアドバンテージを持っていた!。建物の中は我羅琉少年と芦戸少女によるトラップが張り巡らされていてそちらに気を向けなければならない!そこに奇襲となれば回避することは不可能だ!この私でも一発くらわされていたと思う!」

 

「どーも」

 

 オールマイトの講評に対し俺はそっけなく返す。 

 

 その後も芦戸に対するアドバイス、上鳴と響香に対する反省点の提示などいろいろなことを言っていた。

 

 一通り終わった後、俺に切島が言う。

 

「我羅琉の個性ってどんなのなんだ?」

 

 俺はこれに答える。

 

「まあ、ぶっちゃけ何でもできる個性って言ったら分かりやすいかな」

 

「何でもって…、まだ他の奴があったりするの?」

 

 俺の答えに葉隠から問いかけられる。

 

「ああ、だけどその分条件とかもあったりしてね。俺でもまだまだ使いこなせてないよ。詳しいこと聞きたいなら後で聞くからそん時に」

 

 俺は軽く個性について説明する。

 

 だが今は授業中だ。話はあとにさせてもらおう。

 

 そして、オールマイトからの声が響く。

 

「さあ、それじゃあ第3戦、行ってみようか!」

 

 まだまだ、訓練は終わらない。

 



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蹂躙されるEnemy
14話


 

 

 数日後、いつものように響香と通っていた俺だが校門前はいつもと違っていた。

 

「なにあれ」

 

「マスコミの連中か。めんどくせーな」

 

 そこにはマスコミの連中が群がっていた。はっきり言って邪魔だ。どいてくれなければ登校できない。他の何人かも絡まれてるようだ。

 

「すいません!オールマイトの授業について一言!」

 

「平和の象徴が教壇に立つ様子を!」

 

「少しで良いんで話を!」

 

 絡まれた。

 

「…ちっ」

 

 俺は舌打ちをする。まだ許可証かなんかを持ってて俺たちに聞くならまだいい。

 

 でもこいつらはただネタが欲しくてここにきてるだけだ。そんな奴らに答える必要はない。

 

「お話を…ヒィッ!?」

 

 俺がしたのは「こわいかお」だ。ついでに「いかく」も発動させている。

 

 にらみながら俺は言う。

 

「すみませんが邪魔になんでどいていただけますか。アンタ達のやってることは違法に近いです。どかなければ法的措置もしますよ?こっちにはオールマイトやその他ヒーロー達、及びその弁護士が控えてますが。社会的にも今写真撮ってネット上にアップすればアンタ達は終わりだ」

 

「ス、スイマセンデシタァァァ!」

 

 マスコミ達は蜘蛛の子を散らしたように逃げていく。とりあえずはこれでいいだろう。

 

 また来るだろうがその時はその時だ。

 

「あー、面倒臭かった」

 

「あ、ありがと、牙那。でも法的措置とかって本気だったの?」

 

 耳郎が俺に聞いてくるので俺は返す。

 

「いや、それらしいことを並べただけだ。脅し文句としちゃいいだろ。まあ先生たちにいえばやろうと思えば訴訟起こせるだろうけどな」

 

「あー、できなくはなさそう」

 

 俺たちは校門を後にして教室に向かった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「緑谷。個性の制御、いつまでも"出来ないから仕方ない"じゃ通させねえぞ、焦れよ緑谷」

 

「は、はい!」

 

 朝のホームルームで消太さんがいう。まあ、そうだよな。

 

「牙那、お前もだ。毒使うときは一応事前に言え。死んだらどうする」

 

 俺も怒られました。

 

「はーい」

 

 素っ気ない返事に消太さんが返す。

 

「伸ばすな、…唐突だがお前たちには、…委員長を決めてもらう」

 

 

 

「「「学校っぽいやつキタァァァ!」」」

 

 

 

 周りが沸き立つ。確かにヒーローとしてリーダーシップは重要だが…まあ好きにさせよう。興味はない。

 

 飯田が全員に向けて言う。

 

「静粛にしたまえ!!学級委員長とは、『多』を牽引する責任重大な仕事だぞ…!やりたいものがやれるモノではないだろう!周囲からの信頼あってこそ務まる聖務…!民主主義に則り真のリーダーを皆で決めるというのならば…これは投票で決めるべき議案!!」

 

 いったことは正しい。だが、

 

「「「手そびえたってんじゃねーか!!なぜ発案した!?」」」

 

 飯田の手は上に向かって伸びていた。

 

 まあ、適当に誰かに押し付けられるし別にいいか。

 

 誰かってなったら…、この前の訓練で結構的確な意見言ってた八百万にでもするか。響香とか出久や勝己には悪いけど。

 

 俺は投票用紙に八百万の名前を書いて一時間目まで眠りにつくことにした。

 

 ちょーっと昨日の依頼はハードだったかな…。

 

 そんなことを考えてるうちに俺の意識は夢の中へ飛んで行った。

 

 

 

 



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15話

「そっちはどうなの?」

 

「まー、始まったばっかだし。俺もどうなんのかわからねーよ」

 

 俺は今響香とB組の泡瀬と拳藤、そしてその二人についてきた鉄哲徹鐵の5人で話している。

 

 テーブルを探していた3人に俺が話しかけて座った形だ。

 

「でも、入学初日から除籍をかけてテストってなかなかだな」

 

「まあ、消太さんだしな。やるときはやるし」

 

 俺の言葉に響香が言う。

 

「え、除籍は相澤先生の合理的虚偽じゃないの?」

 

 俺は返す。

 

「あの人はこれまでに何人も除籍にしてる。去年はクラス全員除籍してたしな」

 

 

 

「「「クラス全員!?」」」

 

 

 

 俺以外の4人が驚いた声を出す。

 

「ああ、名簿見てみたらわかった。おそらくあの試験はヒーローになるための見極めだ。多分去年はそんな素材がなかったんだろう」

 

「じゃ、今年は…?」

 

「少なくとも今の段階ではA組全員消太さんの求めるレベルは達してるってこと。いわゆる当たり年ってやつだな。じゃなかったら誰か除籍になってるはずだ。」

 

「おー、なかなか怖いね」

 

「拳藤、他人事だと思わないでよ…」

 

 響香は拳藤の言葉につかれたように言っている。

 

 まあ、身体能力が比較的低い響香は大分しんどかったのだろう。

 

「B組の委員長ってそういえば誰?」

 

 ちなみにA組は出久が委員長、八百万が副委員長になったらしい。

 

「あ、それ私」

 

 拳藤が委員長か。

 

「いやー、物間っていうやべー奴がいて拳藤はそいつのストッパー役なんだよ。万が一物間を暴れたら抑えられるの拳藤だけだし」

 

「そこは満場一致だったよなー。その代わり副委員長選びはヤバかったぜ」

 

 泡瀬と鉄哲がそれについて話す。物間ってやつ、どんだけヤベーんだよ…。

 

 その時けたたましいブザーが鳴った。

 

「何!?」

 

 響香がうろたえる。

 

『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外に避難してください』

 

 無機質な放送が食堂内に響き渡る。

 

「我羅琉、セキュリティ3って何?」

 

 拳藤が俺に聞いてくる。えーと確か…、

 

「校門かそのあたりだったと思う」

 

「やべぇじゃねえか!」

 

 俺の答えを聞いて泡瀬が慌てた言う。俺はゆっくりと椅子に腰を下ろす。

 

「ちょっと、牙那いかないの!?」

 

「行かないってか、今行くのは得策じゃねえだろ。今は人で混みすぎてむしろ危ない。あの塊が小さくなってきたら移動でいい」

 

「そうか。確かにそれなら待った方が…」

 

 拳藤が納得したように言う。それに、と俺は続ける。

 

「大方犯人はマスコミだろうし、慌てた方が損だ」

 

「なんでわかんの!?」

 

「朝からずっとあそこにいたのは中に入ろうとするとセキュリティ3が発動するから。もしそれが壊れたとしたら?」

 

「マスコミがなだれ込むってわけか…」

 

「そういうこと」

 

 で、とさらに俺は言う。

 

「俺的にこれはマスコミ以外の奴が破壊したって思ってるんだ」

 

「へ、マスコミがなだれ込んできたんだろ?ならマスコミの仕業じゃないのか?」

 

「違うな、それだったら既に壊して午前中に入ってくるはずだ。メディアじゃねえなんか…十中八九ヴィランだな。これは雄英に対する挑戦状ってとってみてもいいかも」

 

「おい、ここは雄英だぞ?喧嘩売る奴がいんのか?」

 

 鉄哲はあり得ないという顔をしているがそれが起こりえる。

 

「ああ、オールマイトは倒した数はえげつないほど多い。ならその分恨みを持ったヴィランもいるはずだ。で、雄英教師陣を恨んでいる人たちもいる。…まーなんもないのが一番なんだけどな」

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 教室に戻ると出久が提案を始めた。それは飯田に委員長を譲りたいとのこと。昼休みの騒動で鎮静化に一役買ったらしい。まあ、俺的にはぶっちゃけ誰でもいいんだけどね。

 ちなみに同率1位の八百万はどうすんだっと思ったがそのまま副委員長をやるらしい。まあいいか。

 



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16話

キリいいところまで書こうと思ったら2000字超えた…。
いつもが1300ぐらいなので長くなっていますがご理解を…、ってかこの調子で行ったら体育祭とか何話になるんだろう…(遠い目


 ある日の授業で消太さんが言う。

 

「今日のヒーロー基礎学だが、俺とオールマイト、そしてもう1人の3人体制で見る事になった。内容は災害水難なんでもござれの人命救助(レスキュー)訓練だ」

 

 なったってことはこの前のマスコミ事件が関係あるのかな…。

 

「今日はコスチューム着用は自由で構わん。中には活動制限するのもあるからな。じゃ、移動開始」

 

 消太さんの合図によって俺たちは更衣室に移動した。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「最終的に全員着替えてるんかよ…」

 

「そういう牙那もじゃん」

 

 響香に言われる。この前の勝己との戦闘訓練でコスチュームを破損した出久以外の全員がヒーローコスチュームに着替えていた。

 

 雄英は広い。今回の訓練場所まではバスで移動するようだ。

 

「バスの席順でスムーズにいくよう、番号順に2列で並ぼう!」

 

 数日前に決まった委員長、飯田はホイッスルを持ってやる気満々だ。いったいなにがあいつを突き動かすのだろう。

 

 

 

 …だが

 

 

 

「こういうタイプだったか、くそう!」

 

「意味なかったねー」

 

 市営バスによくある三方シートと呼ばれる座席だった。結局、適当に座ることになってしまう。

 

「私、思ったことは何でも言っちゃうの。緑谷ちゃん、あなたの"個性"、なんだかオールマイトに似てる」

 

 横並びに座る俺、出久、蛙吹、切島の中で紅一点が、唐突に切り出す。

 

 その言葉に、出久は目に見えて狼狽えた。落ち着け。

 

「そそそそ、そうかな、いやでも僕はその……」

 

「落ち着け、出久。憧れのオールマイトに似てるって言われて焦るのは分かるが」

 

 俺は出久を落ち着かせる。

 

 その後も個性の話で話は弾む。

 

「でもよ、梅雨ちゃん。オールマイトは怪我しねえぜ?似て非なるアレだって」

 

「まあ、制御がきくようになればそれこそオールマイトのような動きも出来そうではあるけど」

 

「確かになー。その辺、シンプルな増強系は羨ましいぜ。やれることが多くて派手だしよ。俺の"硬化"は対人にゃあ強えんだが、いかんせん地味でなー」

 

「そんなことないよ、切島くん! 僕は凄くカッコイイと思う。プロにも十分通用する"個性"だよ!」

 

「プロなあ、しかしやっぱ、ヒーローも人気商売みたいなトコあるぜ?」

 

「ヒーローの本質は今日の訓練みたいな人助けだぞ、切島」

 

「でもさ、それでも目立たなかったらどうしようもなくね?」

 

「まー、それもあるか」

 

「派手で強いっつったら、我羅琉と轟、それに爆豪だな!」

 

「でも爆豪ちゃん、キレてばっかで人気出なさそ」

 

「んだとコラ! 出すわ!」

 

「ホラ」

 

「まー昔に比べたらまだマシにはなったけど、まだ子供に見せれないのは確かかな」

 

「ぁんだとコラ、牙那!」

 

「ホラね」

 

 蛙吹と俺に指さされる爆豪は、言葉通りにブチギレる。

 

「この付き合いの浅さで、既にクソを下水で煮込んだような性格と認識されるってすげえよ」

 

「てめえのボキャブラリーは何だコラ! 殺すぞ!」

 

「……低俗な会話ですこと」

 

「でもこういうの好きだ、私!」

 

「爆豪くん、本当に口悪いな!」

 

 そんなやりとりを見た出久は心中で(牙那君以外でかっちゃんがいじられてる!流石は雄英……!)と慄いていた。

 

「…そろそろ着くぞ。いい加減にしとけよ」

 

「「はいっ!」」

 

 消太さんの一言に全員すぐさま静まり返る。

 

 言葉通りに、ほどなくバスは停車し、順に降り立った俺たちを迎えたのは。

 

「すっげー!USJかよ!」

 

 誰かが言った。

 

 まるで関西の大型テーマパークのような、様々な施設を備えた一大空間。

 

 その名も、ウソの(U)災害や(S)事故ルーム(J)

 

 ホントにUSJだったと心でツッコむ俺たちの前に、宇宙服のような出で立ちの人物が現れる。

 

「スペースヒーロー、"13号"だ! 災害救助でめざましい活躍をしてる、紳士的なヒーロー!」

 

 出久の言葉通り、救助活動を主とするヒーローで、そういった方面での活動をメインにと考える奴らは喜びを隠せない表情だ。中でも麗日の喜びようは一際激しい。たしかに麗日の個性は救助向きだよな。

 

「えー、始める前にお小言を1つ2つ、3つ……4つ」

 

((増える…))

 

 俺たちはこう思った。13号さんは続ける。

 

「皆さんご存知とは思いますが、僕の個性は"ブラックホール"。どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます」

 

「その"個性"で、とんな災害からも人々を救い上げるんですよね」

 

「ええ。しかし同時に、簡単に人を殺せる力でもあります。皆さんの中にも、そういう個性を持つ人がいるでしょう。超人社会は"個性"の使用を資格制にし、厳しく規制することで、一見成り立っているように見えます。…ですが、一歩間違えれば容易に人を殺めてしまう、そういった"いきすぎた個性"を個々人が持っているということを忘れないでください」

 

 あ、コレ大分真面目に聞かねーと。 

 

 他の全員も同じようにというか知らずのうちに居住まいを正し、真剣な表情へと変わる。

 

「相澤さんの体力テストで自分の秘めている可能性を知り、オールマイトの戦闘訓練でそれを人に向ける危うさを体験したかと思います。この授業では心機一転! 人命のために、どう"個性"を活用するのかを学んでいきましょう! 君たちの力は、傷つけるためにあるのではなく、救けるためにあるのだと、心得て帰ってくださいな」

 

 ペコリと頭を下げた13号に、俺たちから万雷の拍手が送られる。飯田に至っては全力で「ブラボー!」などと叫んでいる始末だ。

 

 だがそれは突然だった。

 

 俺は感じ取る。俺の仕事でよく感じる空気だ。消太さんも何か感じたみたいだ。

 

「…消太さん何か来ます!」

 

「分かっている!」  

 

 俺の言葉と当時に消太さんが叫ぶ。

 

 

 

「ひとかたまりになって動くな! あれは、ヴィランだ!」

 

 

 

 ヤバいことが起こりそうだ。

 



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17話

「13号!生徒を守れ!」

 

 ゴーグルをかけて敵を見つめる消太さん。

 

「何だアリャ!? また入試ん時みたいなもう始まってんぞパターン?」

 

 それは違うな。

 

 俺は感じている。いつものような本物のヴィランであると。

 

「センサーが反応してねぇのなら、向こうにそういう事が出来る個性ヤツがいるって事だな。バカだがアホじゃねぇ。これは何らかの目的があって用意周到に画策された奇襲だ」

 

 轟が言う。奇襲というのは敵を混乱させて反撃の猶予を与えずに倒す方法だ。作戦としては悪くはないだろう。

 

「どこだよ、オールマイト…。せっかくこんなに大勢引き連れてきたのにさ…。子どもを殺せば来るのかな?」

 

 リーダー格と思しき手だらけの男がつぶやく。

 

 もちろん生徒を一人二人殺したところで、オールマイトが察することがなければすぐに来ることはない。まあ、それも織り込み済みなのだろうか。

 

「13号! お前は生徒を避難させろ。上鳴は学校へ連絡を試みろ!」

 

「ッス!」 

 

「待って下さい! イレイザー・ヘッドの本来の戦い方だと、あの人数は…!?」

 

 出久が言うが消太さんはこう返す。 

 

「詳しいな緑谷。だが、覚えておけ、一芸だけではヒーローは務まらん!」

 

 教師としての意地か、ヒーローとしての心得からか、ヴィランの群れに自ら飛び込んでいった。やっぱさすがっすね。

 

 目線を隠しているせいで、"誰が消されているのか"わからない。そのせいでヴィランたちは連携に狂いが生じ、その隙をイレイザーヘッドは容赦なく突いていく。

 

「すごい……! 多対一こそ先生の得意分野だったんだ!」

 

「緑谷くん! 分析は後だ! 早く避難を──」

 

「させませんよ」

 

 13号の先導で避難する一団の正面。突如として黒いモヤが広がったかと思うと、それは人の形をとる。

 

「初めまして、我々は敵連合」

 

 名乗ったのは黒い靄で体を覆った男。大量のヴィランが靄から現れたことから推測するに、おそらくワープ系統の個性だろう。

 

「僭越ながらこの度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせて頂いたのは…。平和の象徴オールマイトに、息絶えて頂きたいと思っての事でして」

 

 あと30年待て。きっと寿命で死ぬはずだ。なお相手側の寿命は考えないものとするがな。

 

「本来ならばここにオールマイトがいらっしゃる筈、ですが何か変更があったのでしょうか」

 

 …恐らくただの遅刻だろう。ヴィラン退治とか時間を食ってしまったとか。

 

 道すがらヴィランを退治するのはかまわないが、まずアンタは教師だろ。

 

「シャラアァァァッ!」

 

「俺たちにやられる事は考えてなかったか!?」

 

 爆豪と切島が飛び出すが、効果は無い。どうやら靄で体をつかめないようだ。厄介な個性みたいだ。

 

「危ない危ない…そう、生徒といえど優秀な金の卵」

 

「ダメだ! どきなさい2人とも!」

 

 13号の言葉は、少しばかり遅かった。

 

 

 

「散らして、嫐り、殺す」

 

 

 

 急激に広がったモヤが、集団を包み込むように動く。

 

 ここは逃げに徹するしかねえか。下手に動いて俺がヴィジランテだと感づかれるのはまずい。だが最低限はしとこうか。

 

「悪ぃ、尾白!」

 

「うわっ!」

 

 咄嗟の判断である。俺が見たのは、障子が瀬呂と芦戸を、飯田が砂藤と麗日を庇う動きと、生徒の立ち位置。

 

 体力テストと戦闘訓練で見た能力を素早く思い出し、直接的な戦闘能力を考えて、俺は近くに居た尾白を孤立しかかっていた葉隠の方へ蹴り飛ばす。

 

 次の瞬間、俺たちの視界は黒く染まった。

 

 

 

 

 



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18話

 俺は靄の中でゲンガーに変身し姿を消す。

 

 ゲンガーはシャドーポケモンで、姿を消し、影に潜むことができる。

 

 山岳ゾーンに飛ばされた俺はその力を使い近くの岩の影に潜む。

 

 ここに飛ばされたのは他に響香、上鳴、八百万の3人。周りには大量のヴィランがいる。

 

 

 

 …殺るしかねーか。

 

 

 

 俺は雄英の我羅琉牙那からヴィジランテのドラゴストームになる。

 

 まず俺はパーカーの中からヴィジランテの時に使うコートを引っ張り出す。

 

 俺は黒いコートを身にまとい顔には仮面をつける。頭のオレンジのバンダナは中にしまい、ヘアゴムを取って髪を下ろす。

 

 さあ動くか。

 

 俺は気配を消した。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

???サイド

 

「やっべぇ! 見えた、三途見えた!」

 

「くっ、流石に数が多すぎますわ」

 

「上鳴何とか出来ない!?」

 

 山岳ゾーンに飛ばされた3人、上鳴、耳郎、八百万の3人。

 

 ヴィランに囲まれ何とか持ちこたえているが崩れるのは時間の問題になってきていた。

 

「なら、俺にも武器をくれ!」

 

「あんた電気男でしょ、ビリビリっと出来ないの!?」

 

「ダメだ!俺の放電は皆も巻き込んじまう! それに、外に連絡を取ろうにもジャミングやべぇしさ!すまねぇ、俺は頼りにならねぇ! だから頼りにしてるぜ二人とも!」

 

 この中で一番攻撃寄りの個性を持つ上鳴だが、彼の放電攻撃は無差別に周囲を感電させるものであるため、二人がいる状況で使うことは出来ない。

 

 誰かヒーローでも来てくれないかと思っていた時だった。

 

「全員伏せろ!」

 

 誰かの声がした。3人は身をかがめる。

 

 

 

 その上を何本ものナイフが飛びヴィラン達の心臓に突き刺さる。

 

「…え」

 

 3人は信じられなかった。誰か応援のヒーローでも来たのだろうか。

 

 

 

 

 そこにいたのは黒いコートを身にまとい仮面を付けたヴィランハンターの姿だった。

 

 

 

「「ドラゴストーム!」」

 

「…誰?」

 

 耳郎と八百万は口をそろえて言うが、上鳴はピンといないようだ。

 

「史上最恐のヴィジランテと呼ばれている人ですわ。その正体や出没地域は不明ではありますが…、なぜ来たのでしょうか?」

 

「ただ、面白そうなことを聞いてここに来ただけだ。オールマイトを殺すって言うことを聞いてな」

 

 八百万が疑問に思ったがすぐにドラゴストームは返す。

 

「ま、まさかアンタも…」

 

 耳郎が言うがそれは違うとドラゴストームが言う。

 

「バカ、そんなことしたらヴィラン増えるだろうが。そんな面倒なことはしたくないね」

 

 彼は「さて愚かなヴィランども」と言ってこう続ける。

 

「殺しに来たってことは、それなりの覚悟はあるよな」

 

「何だ?」

 

 ヴィランの一人が言うが彼は気にも留めない。

 

「自分が殺されるって覚悟はもってないよな!」

 

 そこから彼が放つ殺気が周りに漂う。3人も身構えてしまうほどだ。

 

「3人とも、死にたくないのなら俺の背後で固まっておけ。…だが、今からお前達の目の前で起こるのは惨劇だ。 ヒーローを志すならいずれ目の当たりにすることになるが、今見るかどうかはお前たちが決めろ……その気がないなら目を閉じておけ」

 

 仮面越しに見える、彼の眼は目の前の獲物を屠る猛獣の目だった。




仮面…イツキの付けてるアレを口元まで隠したタイプ。

黒コート…ワールドトリガーの太刀川隊の隊服。

…その他さまざまなもので対策し、牙那=ドラゴストームと分からないようにしてます。レベルとしては出久や勝己が近くで見て「牙那に似ているかな…」と思えるぐらい。書いてはいないがものすごいハイスペックな変装になってます。これを表現できる文章力があれば…。


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19話

「…変身、サザンドラ」

 

 

 

 俺は数あるポケモンの中でも"きょうぼうポケモン"に分類されるサザンドラに変身する。他にも変身できる奴はいるのだが今回は俺の個性をよく知っている響香がいる。今まで変身したことのあるやつは危険だろう。

 

 俺は周りのヴィランに狙いを定め撃つ。

 

 

 

「…りゅうのはどう」

 

 

 

 俺は3つの口から衝撃波を巻き起こして相手を攻撃する。

 

「は…!?」

 

 上鳴が声に出さない叫びをあげる。

 

 そこには俺の「りゅうのはどう」によって地は抉れ、今まで苦しめられていたヴィランの大群はその周りに倒れている光景であった。

 

 響香と八百万の二人も目を見開いていた。

 

「変身解除…。りゅうのはどう一発でこうなるのか。この程度か、敵連合も」

 

 俺は呟く。とりあえず、もうここには用はないな。

 

「オ、オイ、ドラゴストーム!どこ行く気だ!」

 

 上鳴が怯えながらも俺に叫ぶ。

 

 俺は答える。

 

「どこってイレイザーが戦っている所だよ、ここにいても何も起きないだろうしな。」

 

 今脇目に見えたが消太さんがピンチな状況に陥ってきている。早くいかないとまずいだろう。

 

「お前らはここにいて残りのヴィランやってしまえ。俺やイレイザーの手を煩わせないって言う気があるなら、ついてきてもいいけどな」

 

 俺は言外に「くるな」と言う。まだここにはヴィランが残っている。3人をさらに減らすのは得策ではないだろう。

 

「あ、それと…」

 

 俺は砂粒を弾いて3人の後ろから迫っていたヴィランの胸を撃つ。…人間ってのは大動脈に亀裂を入れれば自らの血管圧力で亀裂は心臓まで達する。脆いものだ。

 

「一応、話しているときも周りも見ておいた方がいいぜ。ヴィランは待ってくれないんだからよ」

 

 その言葉を残して俺は中央広場へと向かった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 腕をへし折られたイレイザーヘッド。押さえつける大男。

 

「個性を消せる。素敵だけどなんてことはないね。圧倒的な力の前ではただの無個性だもの」

 

 手男は嘲笑う。

 

「へえ、それぐらいに痛め付けただけでそんなこと言っちゃうんだ。敵連合も大したことないね」

 

 俺は手男に向け笑い返す。

 

「何だと!?」

 

 俺は言う。

 

「確かにそれはその通りだ。イレイザーヘッドの個性は異形型や常時発動系の個性は消せねえ。でも、見た感じお前は何もしていないように見える。大方やったのはそっちのデカブツだろう。お前に言う権利はないぜ」

 

 俺は倒れていた消太さんに近寄り声をかける。

 

「大丈夫ですか、消太さん?生きてます?」

 

「…ああ、なんとかな。牙那、あのデカブツには気を付けろ。俺が攻撃してもダメージが入らなかった。悪いがあのデカブツは頼めるな「ドラゴストーム」?」

 

「分かってます」

 

 消太さんの声は弱弱しくなってきているがまだ芯はある。もう少し耐えてくれそうだ。

 

 手男が言う。

 

「お前…、いい気になりやがって、何様のつもりだ!」

 

 俺は答えてやる。

 

 

 

 

 

 

「通りすがりのヴィジランテだ!覚えておけ!」 

 

 

 

 

 

 

 俺は戦う姿勢を前面に出す。

 

 

 

「変身、ギルガルド!」

 

 

 

 俺が変身したのはおうけんポケモンのギルガルド。剣と盾をモチーフにしたポケモンだ。

 

 

 

 

 

「さあ、お前の罪を数えろ!」

 




「通りすがりのヴィジランテだ!覚えておけ!」…元ネタは門矢士(仮面ライダーディケイド)の「通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておけ」。ここしかないとおもったので。

「さあ、お前の罪を数えろ!」…元ネタはフィリップ&左翔太郎(仮面ライダーW)と鳴海荘吉(仮面ライダースカル)。作者的にはやっぱこれがしっくりくる。


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20話

「さあ、お前の罪を数えろ!」

 

 

 

 俺が言うとそこには緊張感が走った。

 

「罪?国家公認の暴力、オールマイトを殺すことは罪なのか?」

 

 馬鹿げたことを手男は言う。

 

「まあいい、実力を見せてやれ、脳無」

 

 脳無と呼ばれた黒い大男が動き出す。やっぱお前は動かないんだな。

 

 脳無は俺を吹き飛ばそうと大きく殴りかかるが、俺は素早く躱し、拳は空を切る。

 

 圧倒的な力と言っていたが、どうやら圧倒的なのはパワーだけなようだ。

 

「アイアンヘッド!」

 

 俺は硬い頭で頭突きをかまして攻撃する「アイアンヘッド」を放つ。だがあまり応えていないようだ。

 

「無駄無駄。こいつにはショック吸収がある。殴ったところで意味ないよ」

 

 ショック吸収。と言うことはいくら殴ったとしても効果は認められないだろう。

 

「なら、こんなのはどうだ?」

 

 俺は攻撃方法を変更する。

 

「つじぎり!」

 

 脳無の両腕を切り落とす。

 

 しかしものの数秒で腕が生えてきた。再生力もとんでもないようだ。

 

「切ってもだめだめ!こいつはいわば高性能なサンドバッグだ。いくら攻撃しても無意味なんだよ!」

 

 へえ、なるほどな。

 

「良いことを聞かせてもらったぜ」

 

「何?」

 

 と思っていたら攻撃が入ってきた。

 

「ざまあねえな、通りすがりのヴィジランテさんよ。そいつの攻撃はオールマイトに匹敵…ってなんで効いてないんだよ!」

 

 俺は種を明かす。

 

キングシールド。お前らの攻撃は一切通用しないぜ」

 

 手男は驚きながら次の指示を出す。

 

「そんなのこけおどしだ!フルパワーで吹っ飛ばせ、脳無!」

 

 再び脳無は俺をめがけ、大きく拳を振りかぶる。

 

「キングシールド」

 

 俺は攻撃を防ぐ。なんだこんなものか。

 

「攻撃は終わりか?次は俺から行くぜ」

 

 俺はシールドフォルムからブレードフォルムに姿を再び変える。

 

「れんぞくぎり!」

 

 俺は脳無の体を切り刻んでいく。

 

「む、無駄だ!攻撃は意味ないって言っただろ!」

 

 意味ない…か。だが俺は気にせずに切り刻む。すると段々再生のスピードが間に合わなくなってきたようだ。

 

「な、なんで!攻撃が通るんだよ!?

 

 慌てふためく手男に対して俺は言う。

 

 

 

「ヴィラン連合ォ!なぜ俺の攻撃がコイツに通用するのか。なぜコイツの再生が間に合っていないのか」

 

「その答えはただ一つ」

 

「ヴィラン連合ォ!この俺が、こいつに再生が追い付かないほど高速で切り刻んでいるからだァ!」

 

 

 

 それを聞いた手男は呆然とする。

 

「うそだろ…、対オールマイト用の奴を持ってきたってのに…」

 

 俺は言う。

 

「さあ、これでとどめだ」

 

 俺は脳無の体を思いきり2つに切り裂く。

 

 

 

「せいなるつるぎ!」

 

 

 

 ついに脳無の体の再生は止まったままとなった。

 

「…絶望がお前のゴールだ」

 

 俺は呟く。案外あっけなかった。

 

「なんで…、…黒霧!何してるさっさと来い!くそっ!どいつもこいつも…!」

 

 いつでもうまくいくなんて保証はどこにもありはしない。むしろ世の中はうまくいかないことばかりだ。第一の刃だけでなく、第二の刃がなければ意味はない。この手男も世界は甘くないと思い知っただろう。

 

「クソッ!お前もオールマイトも殺してやる!」

 

 そう言って敵連合は帰って行った。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「変身解除っと。ホントに大丈夫なんすか、消太さん?」

 

 変身を解除し素早く「我羅琉牙那」の状態に戻った俺は消太さんに尋ねる。

 

「大丈夫だと言っている。目はやられなかったからな。精々骨折ぐらいだろ」

 

「それで大丈夫なんですかね…」

 

「あ、相澤先生!牙那君!」

 

 出久たちの声が聞こえてきた。

 

「とりあえず、お前はほとんど俺と行動してたって言っておけ、お前が「ドラゴストーム」って伏せておく」

 

「助かります」

 

 すると門の方から大きな音が聞こえた。

 

「もう大丈夫だ!私が来た!」

 

 やっとオールマイトが到着した。

 

「もう、終わりましたよ。オールマイト」

 

「…あれ?もしかして私、いらない子?」

 

「「ですね」」

 

 俺と消太さんが同時に答える。

 

「…って相澤君凄い怪我じゃないか!早く手当を!」

 

「大丈夫ですって」

 

「大丈夫そうに見えないから言ってるんだけどね!?」

 

 こうしてヴィランによるUSJ襲撃事件は幕を閉じた。

 




「ヴィラン連合ォ!…」…元ネタはもちろん檀黎斗(仮面ライダーゲンム)の檀黎斗構文と呼ばれるアレ。一回入れてみたかった。ちなみに牙那はあそこまでエキセントリックには言ってない。

「…絶望がお前のゴールだ」…元ネタは照井竜(仮面ライダーアクセル)の決め台詞。いろいろ悩んだ末、これに落ち着いた。


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設定資料
キャラクター設定集※ネタバレ注意


我羅琉(がらる)牙那(きばな)

 

 

 

 イメージCV:鈴木達央

 

 

 

 イメージキャラクター…キバナ(ポケモン剣盾)

 

 

 

 誕生日:2月4日

 

 

 

 身長:182cm

 

 

 

 血液型;A型

 

 

 

 出身中学:辺須瓶(べすびん)中学校 

 

 

 

 好きなもの:自撮り・ポケモンに関すること・仮面ライダー

 

 

 

 本作の主人公。俗に言う『転生者』で、前世は18歳で事故死した高校生。

 

 出久や勝己の幼馴染であったが両親の死亡により唯一の肉親となる姉のもとへ引っ越し、耳郎と同じ学校になる。

 

 小学校時代はよくいじめられる出久を勝己から庇い、最終的にはよきライバル関係を築いている。

 

 耳郎とは同じクラス且つ同じ部活で仲良くなった。ちなみに軽音部に入っていたのは音楽が好きというわけではなく、音によって攻撃力が変わるポケモン(ストリンダーなど)の力を生かすため。

 

 基本的に物腰は柔らかく、若干コミュ障気味な出久と周囲とのパイプ役も務める。

 

 だが、決め台詞などで転生前に好きでよく見ていた特撮番組から引用したと思われる言動は、今時の女子高生に若干受けが悪い事もある。

 

 『僕のヒーローアカデミア』に関する知識は大体文化祭辺りまでは知っている。

 

 ヴィジランテ『ドラゴストーム』としての活動は中学校に入ってから始め、今では「最恐のヴィジランテ」の呼び声も高い。

 

 ちなみに個性なしでも下手なヒーロー達とも戦えるレベルの強さである。

 

 

 

“個性”:『tfポケモン』

 

 伝説・幻・準伝説・カプ神・UB以外のすべてのポケモンになることができる“個性”。

 

 特性だけなら変身していなくても発動可能。

 

 “個性”が発現したのは3歳の時で、その後、姉や相澤の特訓の成果によってプロ以上の実力を持つ。

 

 なお、ゴーストタイプのポケモンなど寿命が長いポケモンにも変身できるため、“個性”の影響により彼自身の寿命も長くなっている。

 

 変身の際は簡単に行っているように見えるがしっかりと頭の中で種族値を計算・タイプを確認して変身完了となる面倒なプロセスがあるが、特訓の成果によりそれによるラグがほぼなくなっている。

 

 また、変身をしてから30秒、解除すると1分間は変身することができなくなっている。

 

 これに加え、タイプが違うものには変身することができず、一度変身を解除するかそのタイプを持つ他のポケモンに変身してから再び変身しないといけない。

 

(例:ヘルガー(ほのお・あく)からドラピオン(どく・あく)には直接変身が可能だが、ルカリオ(かくとう・はがね)からランターン(みず・でんき)に直接変身はできず、ルカリオ(かくとう・はがね)→エンペルト(みず・はがね)orジバコイル(でんき・はがね)→ランターン(みず・でんき)という風な連続変身が必要となる)

 

 

 

 

 

 

我羅琉(がらる)瑠莉奈(るりな)

 

 

 

 

 

 

 イメージCV:雨宮天

 

 

 

 イメージキャラクター:ルリナ(ポケモン剣盾)

 

 

 

 誕生日:4月9日(29歳)

 

 

 

 身長:165cm

 

 

 

 血液型:A型

 

 

 

 好きなもの:海・紅茶・コーヒー等

 

 

 

 一回り年齢の離れた主人公の姉。こちらも同じく転生者で、転生前は病弱で16で亡くなった高校生。

 

 ヒーローではあるが両親を亡くした事件より一線を退いており、「資格を持ってはいるが活動はしていない」状態。

 

 一つ上の相澤を尊敬しており一年だけだが彼の相棒(サイドキック)として活動していたことがある。

 

 現役時代は「レイジングヒーロー“ルリナ”」として活躍し、オールマイトに次ぐヒーロービルボード第二位まで上り詰めたことがある。

 

 ちなみにこちらも個性なしでも下手なヒーロー達とも戦えるレベルの強さであり、牙那は彼女に敵わない。

 

 今はカフェを経営中である。

 

 

 

“個性”:『tfポケモン(伝説)』

 

 伝説・幻・準伝説・カプ神・UBのすべてのポケモンになることができる“個性”。

 

 その代わり一般ポケモンにはなることができない。

 

 デメリットなどは牙那と同じ。

 

 ちなみにカフェにある地下訓練場は彼女がパルキアに変身して無理やり空間を作り上げたことによるもの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想欄でご指摘があったので変身リレーの所を修正しておきました。


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体育祭という名のArena
21話


 

 USJでの一件の後、次の日は臨時休校になった。

 

 そして、その後。1年A組の教室は、すっかり活気を取り戻していた。

 

「なあなあ、牙那。今日は先生誰来ると思う?」

 

 上鳴から聞かれる。

 

「誰って…どういうことだよ」

 

「いやー、だってさ、相澤先生怪我しただろ?だったら朝のホームルーム誰か代わりの人来ないといけねーだろ?」

 

 あー、それね。消太さんのことだからなー。

 

「でもな多分…」

 

「多分?」

 

 そのとき、教室の前のドアが開く。

 

「おはようお前ら」

 

「「「相澤先生復帰はやぇ! 」」」

 

 消太さんが包帯でグルグル巻きにされてやってきた。

 

「両腕粉砕骨折だ。婆さんの治癒だと急激に治るから変なくっつき方することもある。よく覚えとけ緑谷」

 

「はっ、はいっ!」

 

「そんでもって、まだ戦いは終わってねえ」

 

 消太さんが言う。もしかしてまたマスコミかヴィランか誰か来たのか?

 

 教室の空気は一瞬で緊迫したものになる。

 

「雄英体育祭が迫ってる」

 

 

 

 

 

「「「学校っぽいのキター!」」」

 

 

 

 

 

 が、維持されたのは数秒だけだった。学校ぽいなー。

 

「ちょ、ヴィランに侵入されたばっかなのに、大丈夫なんですか?」

 

「逆に開催することで、雄英の危機管理体制が盤石だと示す、って考えだ。実際、警備は例年の5倍まで増やすらしい。何より、雄英体育祭は最大のチャンス、ヴィランごときで中止していいイベントじゃねぇ」

 

 まあ確かにそうっすよね。

 

 今の雄英体育祭は、かつてのスポーツの祭典と呼ばれたオリンピックが、個性の登場によって競技人口が激減し下火となった現代で、人々が熱狂するものとして台頭してきた。

 

 個性をフルに使った、ヒーロー候補生たちの競技は見ている者の心を盛り上げる。

 

 全国に中継されるこの催しは、当然プロヒーローも見る。それも、スカウトを目的として。これこそが消太さんの言う"チャンス"だ。

 

 活躍すれば、より名のあるヒーローからスカウトされる可能性が高い。

 

 有名なヒーローはそれ相応の仕事をしている。そこで学べることもその分多くなって、高密度なものになる。

 

 俺としても他のヒーローの活動を見ることは有意義だ。頑張っていかないと。

 

「開催まで2週間。時間は短いが、より多くの活躍ができるよう、やれることはやっておけ。いいな」

 

「「「はいっ!」」」

 

 消太さん告げられたビッグイベント。

 

 俺たちがこれまでテレビ越しに見ていた舞台に立ち、更には俺たちの将来へと繋がるとあって、俺たちはやる気に満ちていた。

 

 周りの奴らも浮足立ってしまっていない。そのあたりは、さすが難関校に合格した所以だろうか。 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 そして、その昼休みのこと。 

 

「みんな、私、頑張る!」

 

 麗日が麗らかじゃない顔と声、そして固く握った拳を掲げていた。何があったんだ…。

 

「麗日、何があったんだろ」

 

 俺と響香は食堂にそのテンションに乗れなかったので逃げてきた。

 

 二人で食べているとき、響香がつぶやいた。

 

「まあ、麗日って下宿らしいし、親にいいとこ見せたいって思ってんじゃねーの?響香はそういうのあんのか?」

 

 俺は答えそのまま響香に聞く。

 

「あー、私もあるかな。やっぱいいトコ見せたいよ。牙那は?」

 

 逆に響香から聞かれる。うーん…、

 

「親っていうよりヒーローに見せたいかな俺」

 

「なんで?」

 

「そりゃさ、親に見せるのは当たり前だしそれに…」

 

「それに?」

 

「ちゃんとしねえと、うちの姉がウザったいからさ…「私でもできたのに、その程度もできないの?(笑)」ってな感じで煽ってきそう」

 

 それを聞いて納得したように響香は言う。

 

「あー、あの人なら確かに言いそう…」

 



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22話

 その日の放課後。

 

 教室の扉を開けた麗日の眼前には、異常な光景が広がっていた。

 

「な、何事!?」

 

 ひしめく人の群れ。通行できないほどの群衆がそこに居た。

 

「出れねーじゃん! 何しに来たんだよ!」

 

「制服から見たら…、普通科の奴らか?」

 

「敵情視察だろザコ。体育祭前にヴィランと戦ったっつー連中見に来たんだろ」

 

 勝己が言う。まあ、大方そんなとこかな。そして相変わらずの口の悪さである。

 

 その前に一人の男子生徒が現れる。

 

「どんなもんかと見に来たけど、随分とえらそうだなぁ。ヒーロー科ってのはみんなこんなのなのかい」

 

「勝己だけだからね、それ」

 

「うんうん」

 

 俺の返答に切島が同意する。

 

「オイコラ、牙那ァ!後てめえも頷いてんじゃねえぞクソ髪ィ!」

 

 勝己が噛みつく。いつものことだが。

 

「こういうの見ちゃうとちょっと幻滅するなぁ。…普通科とかって、ヒーロー科落ちちゃって入ったヤツとか結構居るんだよね。

 

 知ってた? 体育祭のリザルトによっちゃ、ヒーロー科編入も検討してくれるんだって。逆もまた然り、らしいよ。

 

 敵情視察? 少なくとも俺は、調子のってっと足元ゴッソリ掬っちゃうぞ、っつー宣戦布告に来たつもり」

 

 睨みつける男子生徒に対し、勝己もまた睨み殺さんばかりの鋭い眼光を向ける。

 

 そんな中、隣の教室のドアが開く音がする。

 

「オウオウオウ! 隣のB組のモンだけどよう! 心配して来てみりゃあエラく調子のっちゃってんなあオイ! 本番で恥ずかしいことになんぞ!」

 

 B組から鉄哲が飛び出してきた。またやかましいのが…。

 

「あ、鉄哲」

 

「おー、我羅琉。元気そうで何より!」

 

 そんな中、勝己は無視して人混みの中を掻き分けて行く。大方興味がないのだろう。

 

「…ってオイ! 待てコラどうしてくれんだ! オメーのせいでヘイト集まりまくってんじゃねえか!」

 

 そんな言葉に勝己は歩きながら返す。

 

「関係ねえよ。上に上がりゃ、関係ねえ」

 

「くっ…! シンプルで男らしいじゃねえか…!」

 

「オイ騙されんな! 無駄に敵増やしただけだぞ!」

 

「切島ちゃん、そのうち壺とか買わされそうね」

 

 まあ、大方普通科の奴らは俺たちが気にいらないんだろう。一個言っとくか。

 

「ん、どうしたんだい」

 

「…お前たちにはあるのか」

 

「は?」

 

「お前たちに誰かの命のために自分の命を懸ける覚悟があるのか、っていってんだよ。ヒーローはそういう仕事だろうが」

 

 俺は続ける。

 

「俺たちに宣戦布告?上等だよ、俺たちも潰し甲斐がある。俺たちを超えられるもんなら超えてみやがれ。それこそここの教訓は"Plus Ultra"だぜ」

 

 周りに一気に緊張感が走る。

 

「あとな、本気で勝ちたいならこんなことしてる暇ないんじゃねえのか?少なくとも俺たちよりもお前らの実力は劣る。その実力差をなくすために特訓すべきだぜ。トレーニングルームでも借りて来いよ」

 

 それを聞いた普通科の一団は段々と帰り始めた。

 

「…精々胡坐かいて待ってろ」

 

 挑発してきた男子生徒が呟く。

 

「ああ、お前らこそ油断すんなよ」

 

 俺は返す。

 

 そして教室の前はいなくなった。

 

「あー、なんかすまねえ」

 

 居心地が悪くなった鉄哲が言う。

 

「構わねえよ。それに舐められるようじゃまだまだだからな」

 

「相変わらずだねー我羅琉は」

 

 拳藤もB組からやってきた。

 

「拳藤、なんで来たんだ?」

 

「だって急にこいつが教室でてったからさ」

 

「あのー、知り合いなんか?話の流れ的にB組だとは思うけどよ」

 

 上鳴の言葉に二人は言う。

 

「私は拳藤一佳。"個性"はこんな感じに手を巨大化できる『大拳』」

 

「俺は鉄哲徹鐵だ。個性は皮膚を金属みてえに固くする"スティール"! ヨロシク!」

 

「だだ被りじゃねーか! ただでさえ地味なのに! しかもアッチは見た目変わってわかりやすい!」

 

 鉄哲の紹介の後切島が嘆く。まー似てるよな。

 

「気にすんなよ! 派手に働きゃいいじゃねーか! 」

 

「…おう、そうだよな!男らしく派手にバトってやるぜ!」

 

「そうだ、その意気だぜ!」

 

 切島と鉄哲が意気投合したようだ。

 

 それを見た拳藤は呟く。

 

「…今、この二人が離れてたことに安心したよ…」

 

「確かにこのタイプ二人は疲れるな…」

 

 俺も拳藤に同意した。



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23話

2日間諸事情で更新できませんでした…。


 

 

 今日はウチの地下訓練ルーム(瑠莉姉作)を使って特訓をしている。

 

 ちなみに出久と勝己も一緒だ。特訓するっていったら来てくれた。

 

「まずデク。てめえ、その個性で戦うつもりか」

 

 勝己が出久に対して言う。

 

「確かにな。お前が戦う度に毎回腕ぶっ壊すってんならお前の腕1年で使えなくなるぞ」

 

「そうだよね…」

 

 俺たちが考えているのは出久の個性の使い方だ。

 

 確かに瞬間的に超火力を引き出すことは確かに魅力的だが怪我は厄介だ。どうにかしねえと。

 

 そんなときに出久が口を開く。

 

「そういえば二人に聞きたいんだけどさ」

 

「ん?」

 

「ああ?」

 

 俺と勝己はそろって返事し、出久はそのまま言う。

 

「二人ってさ、個性使うときどうやって出してるの?」

 

 個性の発動の仕方…か。

 

「俺は変身するってしっかり思ってからって感じかな。俺の場合、まずそういうことをしないと発動してくれねーし」

 

「牙那に同じだ。俺は物質自体はいつでも出せるが、それを爆破させんには俺の意思が必要になる」

 

「やっぱそーなのか…」

 

 俺たち二人の答えに出久が言う。今の個性社会のほとんどは"発動型"といわれる個性の奴が多い。特徴が体にずっと出てる"異形型"は少数派だ。発動するとき、基本的に俺たちは発動する意思を持たないと使えない。

 

「…ちょっと聞きたいんだけどさ出久」

 

「何、牙那君?」

 

「発動ってさ体全体に出来たりしないの?腕とか指先だけとかじゃなくってさ」

 

 俺の言葉に勝己が言う。

 

「アホか、そんなんやったら体中の骨折れまくんだろ」

 

 その言葉に俺は返す。

 

「違えよ勝己。俺が言ってるのは100の力じゃなくて5とか10の力で体にまとえないかって言ってんだよ。力が制御できないなら怪我しない程度におさえるしかない」

 

「どういうこと?」

 

 出久が俺に尋ねてくる。

 

「簡単に言えば「狭く深く」発動するんじゃなくて「広く浅く」発動するのがイメージかな。出久の個性がパワー系ってことは体全体に使える。ずっと普段から力を行き渡らせてって感じで」

 

「うん、やってみる」

 

 出久は戦闘態勢に入る。

 

「全身にっ! ひゃくパーじゃなく、って、ほんのちょっとだけ、うわっぷ!」

 

「「出久(デク)!」

 

 出久は個性使用時に見られるライトグリーンのスパークを全身に纏い、それを維持しようとするが、スパークが弾け倒れてしまった。

 

「やれんのか、デク」

 

 勝己が言うがそれに出久は苦笑いを浮かべながら返す。

 

「あはは……。うん、大丈夫。でもこれ、保つだけでも大変だ……」

 

 出久の率直な感想に俺が言う。

 

「全力だと折れるが制御に気を回せば遅い。だから小さくずっと…か。初めに言った俺が言うのも何だがかなり緻密に制御しないとならねーなコレ」

 

 俺の言葉に勝己が追加で言う。

 

「100か0か、っつーなら分かりやすいけどな。でも、今のデクにできる範囲じゃ最善じゃねーか?怪我せずに強化、つまりは鍛えて扱える上限が増える度に強くなるってことだろ」

 

「まあ一朝一夕にはいかないものだしね。それに、加減ないといけねえ場面でも有効だし」

 

 俺たちの言葉に出久が感謝したように言う。

 

「そう、だね……。いつも全力でいいわけじゃない。プロの現場は、いろんなことが求められるし。……ありがとう、牙那くん、かっちゃん。2人のアドバイスのおかげだよ」

 

 そんなこんなで俺ん家での特訓は進んで行った。

 

 ちなみにその後、瑠莉姉が乱入してきて特訓ルームに3人ともフルボッコにされたのは言うまでもないだろう。



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24話

 

遂に迎えた、雄英体育祭当日。

 

「みんな、間もなく入場だ! 準備はできているか!?」

 

 A組の控え室でいつものように飯田が飯田していた。

 

 俺はいつも通りだが、緊張してる奴も多い。

 

 そんな中轟が俺に話しかけてくる。俺の前に出久にも何か言ってたな。

 

「我羅琉、おまえは俺より強い。全部が俺の遥か上だ」

 

「褒めていただき光栄だ」

 

「それでも俺は勝つ。この右手だけで勝って、クソ親父の個性なんざ使わず一番になることで奴を完全否定する」

 

 轟に対し俺は返す。

 

「…お前んちの事情なんだか知らねーが、勝てるもんなら勝ってみやがれ」

 

 そう言って俺たちは入場門に向かった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

『雄英体育祭!ヒーローの卵たちが、我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!

 

 どうせテメーらアレだろ、こいつらだろ!?ヴィランの襲撃を受けたにも拘わらず鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!ヒーロー科1年!

 

 

 

A組だろぉぉぉ!?

 

 

 

 

 鼓膜を破らんばかりの歓声を一気に浴びる。やっぱスゲーな。

 

「ひひひ人がすんごい…」

 

「大人数に見られる中で最大のパフォーマンスを発揮できるか…これもまたヒーローとしての素養を身につける一環なんだな」

 

「なんか緊張すんな…!」

 

「しねぇよ。ただただアガるわ」

 

 俺の周りは観衆の熱気で緊張する者もいれば、自らのボルテージを上げる者とそれぞれだ。

 

 俺たちは他のクラス同様に、教師、18禁ヒーロー・ミッドナイトが待つお立ち台前に並ぶ。

 

「18禁なのに高校にいても良いものか」

 

「いい!」

 

 常闇のもっともな疑問に、声を出して答えたのは峰田であったが、上鳴と瀬呂も頷いていた。三人が響香から侮蔑の視線が送られていることには気付いていないようだった。

 

『選手宣誓! 代表、1年A組、我羅琉牙那!」

 

「あ、じゃあ行ってくるわ」

 

「いってら、牙那」

 

 俺はA組のみんなに見送られながら俺は向かう。

 

 

 

「宣誓、俺たち選手一同は日ごろの成果を発揮し戦うことを誓います」

 

 

 

「アレ、ムッチャ普通だ」

 

 が、その後の俺の言葉で一気にA組の顔が変わる。

 

 

 

「が、結局俺が一番強くてすごいのでここにいる全員を蹴散らしていくこともここに宣言させてもらいます

 

 

 

「「「やりたがったあのやろぉぉぉ!!」」」

 

 A組の面々が叫ぶ中、俺は列に戻る。

 

「オイ牙那!何言っちゃってくれてんだよ!」

 

 切島から言われるが俺は気にしないように言う。

 

「なんてないよ、事実を言っただけだろ」

 

「「「なんてなくないから言ってんだけど!?」」」

 

 周りから一気に突っ込まれた。なぜだ。

 

 そしてそのまま俺たちは一種目目に向かった。

 

 




結局俺が一番強くてすごいので…元ネタはホウエン地方チャンピオンのツワブキ・ダイゴの「けっきょく ぼくが いちばん つよくて すごいんだよね」。グリーンの「この おれさまが! せかいで いちばん! つよいって こと なんだよ!」と迷った。


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25話

 

『さーて、それじゃあ早速第一種目行きましょう!』

 

 ミッドナイトは騒ぐ生徒たちを丸ごと無視して進行を続ける。

 

『さて、運命の第一種目! 今年は…』

 

 とはいえ競技内容が発表されるとあっては、皆固唾を飲んで見守ることになる。全員が中空に映し出された映像に注目していた。

 

『これよ! 障害物競争!

 

 ルールは至ってシンプル! 計11クラスでの総当たりレースよ! スタジアムの外周約4km、コースさえ守っていれば、"何をしたって構わない"わ! さあ、位置につきまくりなさい!』

 

 短い期間とはいえ、生徒たちは皆雄英の"自由なやり方"を知っている。慌てることなく、スタートゲートの前へと移動していく。

 

 それぞれが心に想いを秘め、今。

 

『スタート!!』

 

 雄英体育祭が始まった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 狭いスタートゲートから続く、同様に細い通路。そこに200近い人間が一度に殺到すればどうなるか…、…分かるだろう。

 

「狭ぇ!」

 

「痛ってぇ、押すなって!」

 

 スタート地点こそが最初の"ふるい"だ。これをうまく避けていかなければならない。だから俺はフライゴンに変身して…、

 

「じわれ!」

 

 地面を叩き割り、その亀裂に数多くの生徒が落ちていき…

 

 

 

ガキィン!

 

 

 

 轟によって数多くの生徒が穴の中に閉じ込められた。即席冷凍庫が完成したのである。

 

「何してくれてんだ轟!しょっぱなからエグイ妨害になってんじゃねぇか!?」

 

「お前のせいでもあるだろ…」

 

 そんなことを言ってると周りから声が聞こえてくる。

 

「そううまくいかせるかよこの野郎どもが!!」

 

「甘いですわよお二人共!!」

 

「うおおおおおおおッ!!こんな程度で止まるかァァ!!」

 

 それぞれ勝己、八百万、鉄哲。やっぱこの程度じゃ止められないか。

 

『さーて、実況はこの俺、プレゼント・マイク! 解説にはイレイザーヘッドが来てくれたぜ!』

 

『無理矢理呼んだんだろうが』

 

 二人のヒーローによる実況と解説が始まった。わちゃわちゃしてんなオイ。

 

『さあ、まずは手始め第一関門! ロボ・インフェルノ!』

 

「懐かしいな。入試の時のお邪魔虫か」

 

「…一般入試用の仮想敵ってやつか。折角ならもっとすげえ用意してもらいてえもんだな…!」

 

 振るわれた轟の腕に追随して、地面から昇る冷気が巨大な機体を包み込み、凍りつかせてしまう。

 

「やるな、轟。じゃあ俺もっと!」

 

 俺はもう一つの仮想敵に向かって攻撃の体制をとる。

 

 

 

「ドラゴンテールッ!」

 

 

 

 俺は尻尾を思いきりぶつけ、仮想敵を他の奴らがいる方向に吹っ飛ばす。

 

『おおー!我羅琉、豪・快!あのデカブツを一発で吹っ飛ばした!』

 

『確か今のは相手を吹っ飛ばしてダメージを与えて、なおかつ相手をその場所から強制退場させる技だな。応用が効きやすい』

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

『オイオイ、第一関門チョロいってよ! それじゃあコイツはどうよ! 落ちればアウト、それが嫌なら這いずりな! ザ・フォール! …って、我羅琉そのまま空中飛んで行っちまうぞ! なんかもうアレだな、ズリーな!』

 

『オイ、真面目に実況しろ』

 

 二人のわちゃわちゃ感が伝わってくる実況を聞きながら俺は順調に進む。

 

 が、事はそう簡単には進まない。障害を無視してひた走る俺をを轟がしっかりと追いかけ、更に。

 

「待ちやがれ牙那! 半分野郎!」

 

「勝己かよ。厄介だな」

 

「行かせねえ」

 

 勝己から爆撃、轟からは氷が放たれる。

 

「あっぶねなオイ!」

 

 俺はギリギリ避ける。ここに来るまでにりゅうのまいで素早さ上げといてよかった。氷は今の俺にとって天敵だ。くらいたくはない。

 

 そして俺たち3人は並走のまま最後の関門、第三関門へともつれ込む。

 

「…何かあるな」

 

 俺は妙な窪みに気付く。

 

「気づきやがったか!最終関門! 一面地雷原! 怒りのアフガンだ! 地雷の位置はよく見りゃわかるようになってっから、目と脚酷使しな! ちなみに地雷は威力控えめ、だが音と見た目はド派手に作ってあるから失禁必須だぜぃ!』

 

『人によるだろ』

 

 そんな声が聞こえたが、

 

「ま、上を飛べば関係ねーか!」

 

「待てやコラ、牙那!お前だけが飛べると思ってじゃねえぞ!」

 

 俺と勝己は関係ないようにその上を飛んでいく。しかし後ろから大きな爆発音が響く。

 

『後方で大爆発! 何だぁ、あの威力! 偶然か、故意か! A組緑谷、爆風で猛追! っつーか、抜いたぁぁっ!』

 

 仮想敵の装甲板に乗り、爆風で一気に先頭まで躍り出た出久。だが、それを黙って見送るような者その中には居なかった。

 

「デク! 俺の前を行くんじゃねえ!」

 

「うっそだろ出久ってやっべ!」

 

「後続に道作っちまうが、そうも言ってらんねえか」 

 

『元先頭の3人、足の引っ張りあいをやめて緑谷を追う! 人は共通の敵が現れれば争いを止める! 争いはなくならないがな!』

 

『何言ってんだお前』

 

 さらにその後出久が動く。空中で器用にくるりと前転した出久は、自身が乗る装甲板に繫がるケーブルを掴み、勢いそのままに地面へと振り下ろす。爆風に乗っていける程に面積の広い装甲板は、つまり接地面が大きい。複数の地雷をまとめて反応させることができてしまう。

 

「なるほど、そう来るか!」

 

 俺たちの前で大爆発が起こる。なかなかの規模だな。

 

 俺は爆発からの影響を最小限に抑え、そのまま向かう。出久はもうずいぶん前に進んでいた。1位は無理かな。

 

「まー後ろにでも妨害しときますか」

 

 俺はスタジアムの入り口でこの技を使う。

 

いわなだれ!

 

 入り口を落ちてきた大きな岩で塞ぐ。勝己とか轟ならそこまで苦にしないだろうが少しぐらい時間は稼げるだろう。

 

 俺はそのままゴールし2位で障害物競走を終えた。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

『予選通過は上位42名! 残念ながら落ちちゃった人も安心なさい。見せ場は用意してあるわ!そして次はいよいよ本選、キバリなさい! 第二種目は……コレよ! 騎馬戦!』

 

 発表された種目に、どよめきが走る。特に、団体競技で個性を使いづらい上鳴や芦戸と、明らかに良からぬことを考えている峰田から。

 

『あなたたちには2〜4人で自由にチームを組んで騎馬を作ってもらうわ。基本は普通の騎馬戦と同じ。ただひとつ違うのは、先程の結果に従い各自にポイントが割り振られること!』

 

 入試みたいなポイント稼ぎ方式か。まあ分かりやすいな。組み合わせによって大分変ってくるなこれ。

 

『与えられるのは下から順に5ポイントずつ。42位は5ポイント、41位は10ポイント、って具合にね。そして、上を行く者には更なる受難を。予選通過1位、緑谷出久くん! 持ちポイントは、1000万! 上位のヤツほど狙われる、下剋上サバイバルよ!』

 

「……イッセンマン?」

 

 それを聞いて周りの視線が一気に出久の方を向く。それひとつでトップを獲れるのならは注目もされるだろう。

 

 ギラついた視線の数々に、出久の表情は固まり、背中を冷や汗が流れた。

 

 

 

 

 

 




フライゴンを選んだ理由…まず地割れを使えるポケモンで絞り、かつ空を飛べるポケモンってことで。後キバナの主力組のうちの一匹でもあるってこと。それとデザインがいいです。


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26話

 …俺は悩んでいる。

 

 うーん、誰と組もう。一応俺も2位なので205ポイントを得た。出久の1千万ポイントに比べたらポイントはかけ離れてはいるがそれでも上位組なため、狙われることは確かだろう。

 

 まあ無難に一番知ってる奴と組むか。

 

「出久」

 

 俺の声を聞いた出久は怯える。

 

「な、なに牙那君。まさか飯田君みたいに挑戦とか言うんじゃ…」

 

「バカ、言わねえよ。…お前達と組む」

 

「「へ?」」

 

 俺の発言に一緒にいた麗日も含め二人は素っ頓狂な声を上げる。

 

「だから!一緒に組んでやるって言ってんの!」

 

「ほ、本当に!?ありがとう、牙那君!」

 

 泣いて感謝されてる。そこまでか、俺は。

 

 …まあ可哀そうなくらいに他のクラスメイトから避けられていたからな。

 

「でも、いいの? 僕、間違いなく狙われるけど……」

 

「構わねえよ、次に行けるなら何でもいい。逃げっぱなしで突破できるしな」

 

 麗日が胸を撫でおろしたような声で言う。

 

「あー、牙那君来てくれるんだったら安心できる!」

 

「過信はすんなよ麗日。麗日の個性も有効な手立てだし」

 

「私と組みましょう、1位と2位の人!」

 

 話途中の俺たちに凄まじい勢いで割り込んで来たのは、知らない女子生徒。ゴーグルをかけ、各所にサポートアイテムを身に着けた少女だった。

 

「お前はサポート科かなんかか?そのカッコ見たところ」

 

「はい! 発目明、あなた方のことはよく知りませんしどうでもいいですが、その立場利用させてください!」

 

 あけすけだな、オイ。

 

「あなた方と組めば必然注目度はナンバーワン! そうすると私のドッ可愛いベイビーたちが大企業に注目されるわけですよ!」

 

「ベ、べいびー? 大企業?」

 

 麗日が困った顔をしたので俺が説明する。

 

「俺たちと組むことで、アイツが開発したサポートアイテムを、体育祭を見ているサポート会社の人にアピールしよう、ってことだろ」

 

「話が早い! どうでしょう、もちろんあなた方にもメリットはありますとも! サポート科はヒーローの個性をより扱いやすくする装備を開発します! 私、ベイビーが沢山居ますのできっとあなた方に見合うものがあると思うんですよ!」

 

 そう言って発目が傍らのカバンを開くと、中には多種多様な機械類がミッチリと詰まっていた。

 

「これなんかお気に入りでして、とあるヒーローの装備に独自解釈を加えてまして!」

 

「わ、ひょっとしてバスターヒーロー・エアジェット!? 僕も好きだよ!」

 

「本当ですか!」

 

 突然の盛り上がりを見せる2人と、置いてけぼりの2人。

 

「……めっちゃ気ぃ合っとる」

 

 俺は麗日の発言に突っ込む。

 

「いや、あれは単に、自分に興味のあるものを好き放題喋ってるだけだ。オタク同士によくあるやつだな」

 

「そういうもんなん?」

 

「あいつら、相手の話を半分くらいしか聞いてねえぞ」

 

「ええー…」

 

 置いてけぼりにされた俺たちに出久が気づき慌ててこっちを向く。

 

「えっと、作戦なんだけど、僕が騎手をしようと思うんだ。麗日さんには、できるだけ多く浮かせてほしいんだ。そして、牙那くんに移動を任せたいんだけど、いいかな?」

 

「デクくんと牙那くん、発目さんと装備一式浮かせるんやね。大丈夫!」

 

「大丈夫だ。この3人ぐらいならそもそもまず動くのは問題ねえよ、麗日に頼れるなら、なおさら俺も動きやすいしな」

 

「発目さんの"コレ"で中距離から他のハチマキを狙いつつ、基本は逃げる。接近されたら、できるだけ僕が時間を稼いで退避。方針はこうだけど、何か意見あるかな」

 

「でしたら、コチラのベイビーはいかがでしょう。機動力アップに、緊急回避にも使えますよ」

 

 俺たちはテキパキと意見を交わし、全体的な方針を固めていく。まあ他チームの出方がわからない以上、作戦をあまり固めすぎてもよくないというのもあったと思う。

 

「行こう、皆!」

 

「デクくんなら大丈夫! ホンマは凄いの、知っとるから!」

 

「出久ならやれるさ、嵐を呼んでやろう」

 

「そういうのはよくわかりませんが、あなた方を利用しますので存分に私を利用していただきましょう!」

 

 俺たち4人は気合を入れ、戦いの準備をした。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

『ヘイ起きろイレイザー! 時間だぜ! 15分のチーム決め兼作戦タイムを経て、今フィールドに12組の騎馬が出揃った!』

 

『なかなか面白ぇ組が揃ったな…』

 

『Yeah! ア・ゲ・テ・ケ鬨の声! 血で血を洗う残虐バトルロイヤル!カウントダウン行くぜぇ! 3! 2! 1! 』

 

 

 

スタートォ!

 

 

 

 ついに騎馬戦が始まりを告げた。

 

 

 

 



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27話

「実質その1000万の争奪戦だ!」

 

「いただくよ、緑谷くん!」

 

 真っ先に駆け寄って来たのは、B組鉄哲チームと、A組葉隠チームだ。特に葉隠チームは騎手の葉隠の手が見えないため注意が必要だ。

 

「麗日さん、発目さん!」

 

「大丈夫、浮かせた!」

 

「いつでも!」

 

「うん、牙那君お願い!」

 

「了解だ!」

 

 出久の言葉に俺は返し、変身の体制に入る。

 

 

 

「Transform,アーマーガア!」

 

 

 

 変身したのはカラスポケモンのアーマーガア。黒鉄の外殻で身体が覆われた大型の鳥ポケモンである。

 

「さあ、3人ともしっかりつかまってておいてくれよ!」

 

 

 

そらをとぶ!

 

 

 

 俺は3人を背中に乗せ大空に飛び上がった。

 

 

 

『緑谷チーム飛び上がったー!ってかどこまでとぶんだよ、首疲れる!』

 

『地表で戦うより、逃げに徹することを選んだか。しばらく降りてこねーなコレ』

 

 

 

「す、すごいや牙那君!このまま維持できる?」

 

「ああ、麗日と発目の機械で大部飛びやすくなってる。終わるまでなら余裕で大丈夫だぜ」

 

「麗日さんもこのまま維持、大丈夫?

 

「行ける!」

 

「発目さんは下からの攻撃に備えて準備を!かっちゃんや轟君の攻撃が来るかもしれない」

 

「了解しました!」

 

 後はこのまま耐久レースと参りますか。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

『さあ、地表では熾烈なバトルが続いているが、緑谷チームは依然上空に佇む!ちょーっとズルい気もするがなあ!』

 

『オイ、まじめに実況しろ』

 

 始まってから10分が経過した。俺たちは上空を飛び続け1位を維持している。遠距離攻撃も届かない位置で滞空しているため、誰も攻めてこれない。まあ、攻めてきたとしても上にいる3人が"魔改造"速乾セメント銃(発目作)を構えており、俺もやろうと思えばエアスラッシュを撃てる。攻撃してくるのは難しいだろう。

 

 

 

 

 

 

 一方そのころ地上では。

 

 

 

 

 

 ???サイド

 

「オイ、轟!緑谷達全然降りてくる気配ねーぞ!」

 

 上鳴が自身のチームの騎手である轟に対して言う。元々の予定ではある程度狩ってから緑谷チームのポイントを取りに行く予定だった。だがそれは不可能に近い。

 

「八百万君、何か攻撃手段はないのか?」

 

「ないわけではないのですが、馬の我羅琉さんが残りの3方の下にいる以上、我羅琉さんに砲撃などが当たってしまうと禁止されている馬に対する崩し行為とみなされても仕方ありませんわ」

 

 飯田の切羽詰まった声に対し八百万が言う。轟や上鳴も攻撃手段はあるが、それを届かせるにはもうすこし近くに行かなければならない。

 

「仕方ねえ。あいつらは無視だ。残りの奴を狩る」

 

 そんなことを言っているとA組切っての暴君が近くにやってきたようだ。

 

「…オイコラ半分野郎、そこにある奴すべて寄越してもらうぜ」

 

 爆豪だ。

 

 始め、B組の騎馬に不覚を取り、一時はポイントを失ったが、B組の物間に煽られまくった爆豪はその怒りのエネルギーもあったのかもしれないが勢いそのまま奪い返し、今ここにいる。

 

「…我羅琉達を倒しに行かなくていいのか」

 

「んなもん、お前らのポイント取ってからやったるわ、今は獲れるポイントから狩ってんだよ」

 

 その後轟チームと爆豪チームとのこの騎馬戦屈指の真っ向勝負が繰り広げられたのは言うまでもないだろう。緑谷チームはしっかりとそれを上から眺めていた。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

『タイムアーップ!早速上位4チーム見てみようか!』

 

 会場にマイク先生の声が響き渡る。それを聞いて俺は地面に降りてきた。

 

「よいしょっと」

 

「あー、久々の地面だー、…うっぷ」

 

 俺はtrans状態を解除しいつもの恰好に戻り麗日に言う。

 

「大丈夫か麗日。多分個性使いすぎたんだろ。ゆっくり休め」

 

「あ、ありがと…」

 

 その後1位から順番に順位の発表がなされていく。

 

『まずは1位! 上空で1000万を死守! 緑谷チーム!

 

 続いて2位! 激闘を繰り広げた大量ハチマキゲットの轟チーム!

 

 そして3位! 同じく激闘だった爆発暴君率いる爆豪チーム!

 

 最後の4位! 鉄て、アレェ!? いつの間にか逆転してた!? 心操チーム!

 

 以上4組16人が最終種目へ進出だ! 1時間の昼休憩を挟んだら午後の部だぜ! じゃあな!』

 

 プレゼントマイクのアナウンスに従い、観客も、生徒らもそれぞれに移動を開始する。

 

 心躁…か。普通科の奴だったと思うけど警戒しておくか。後で尾白に聞いておこう。

 

 俺たちは騎馬戦の時のそれぞれのことを話しながら食堂へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




上空ガン逃げ作戦をとった理由…1000万の出久と組んだことにより自分たちから攻撃する必要性がなかった。上空にいて上からいつでも攻撃できるということを知らせ判断を鈍くさせる…など。さまざまな理由でこのような形をとらせてもらいました。これ以外にもバンバドロになり背中に3人を乗せて縦横無人にはしりまわるという案もあったが、ルールに抵触するんじゃないかというのもあったのでアーマーガアにさせてもらいました。薄明の翼でタクシーの重さ含め3人運べるなら余裕だろうということでこれにさせてもらいました。あまりバトル描写を見せるタイプの戦闘にすることができず申し訳ない…。





感想・批評等お待ちしています。


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28話

 昼休憩が終わり続々と生徒と観客が戻ってきた。

 

『最終種目発表の前に、敗れた皆に朗報だ! あくまで体育祭! 全員参加のレクリエーション種目も用意してあるぞ! 本場アメリカからチアリーダーも呼んで一層盛り上げ、ってアリャ? どーしたA組!?』

 

 A組女子が横並びになっている姿に、誰もが微妙な視線をなげかける。

 

「響香…どうしたんだよ、そのカッコ」

 

「言わないで…」

 

 俺が響香に言うと赤面しながら響香は答える。

 

 それもそのはずだろう、A組女子全員が"チア衣装"を身に纏っていたのだ。

 

「峰田さん上鳴さん! 騙しましたね!」

 

 八百万の叫びに、2人を知る生徒はすぐに事情を察する。

 

 やっぱあのエロ男子共か、と。

 

 

 

transform,ロズレイド

 

 

 

 俺はロズレイドに変身し、無言のまま主犯である二人に近づいていく。

 

 

 

「ん、どーした我羅琉ってギャー!」

 

「首が!首がヤバいって!もげる、もげるから!」

 

 

 

 そして二人の首を俺から伸びる弦で締め上げる。

 

 

 

 ああ、いい悲鳴だ。

 

 

 

 まだ交渉してさせるならまだいいが、騙してさせるのはダメだろ…。

 

「…牙那、その位置キープね」

 

「「ギャアアアアアアアアッ!」」

 

 そして、腹に据えかねたらしい響香のイヤホンジャックにより、2人は撃沈した。

 

「……悪とは滅びる運命」

 

 常闇の言葉に、誰もが頷いた。

 

「何なら上着貸してやるけど」

 

 俺はバカ二人を締め上げた響香に声をかける。

 

「あー、逆に恥ずいからやめとく。ありがとね」

 

「りょーかい、まあそのままでも眼ぷ…オイ、響香。悪かったからその攻撃態勢に入っているイヤホンジャックを下ろせ」

 

 失言だった。すまない。

 

「アホ2人捕まえた功績がなかったら、撃ち込んでたよ」

 

 あっぶねー。

 

『さあさあ皆楽しく競えよレクリエーション! それが終われば最終種目! 総勢16名からなる、1対1のガチバトルだ!』

 

 ダウンした2名を無視したまま、体育祭は進行していく。ミッドナイトが壇上に上がる頃にはいつのまにか気絶した上鳴と峰田が邪魔にならない位置に移動されていた。

 

『それじゃあ先に、組み合わせ決めのくじ引きしちゃうわよ。決まったらレクリエーションを挟んで開始になります。進出者16人はレクに参加するかは自由。息抜きしたい人、温存したい人それぞれね。じゃあ、1位チームから──』

 

「あの、俺、辞退します」

 

 抽選が始まるタイミング。おもむろに尾白が手を上げた。突然の申し出にざわめきが起きる。

 

「どーしたよ尾白、なんかあったか?」

 

「騎馬戦の記憶、ほぼ終盤ギリギリまでぼんやりとしかないんだ。多分、ヤツの個性で。チャンスの場だってのはわかってる。それをフイにするのが愚かなことだってのも。……でもさ、皆が力を出して争ってきた座に、こんなわけわかんないままそこに並ぶなんてことは、俺にはできない」

 

「僕も同様の理由から棄権したい。実力如何以前に、"何もしていない者"が上がるのは、この体育祭の趣旨と相反するのではないだろうか」

 

 B組の庄田二連撃もそれに続く。まあ確かに何もてないってのはな…。

 

 …さてどうするのか。確か権限はミッドナイトにすべて委ねられていたはず。

 

「そう青臭いのは…、

 

こ・の・み!

 

尾白猿夫、庄田二連撃、二人の棄権を認めます!」

 

 

 

(((好みで決めた!!)))

 

 

 これにより繰り上がりとなった5位の拳藤チームは2人の意気を汲んで、終了直前まで上位に居た鉄哲チームに権利を譲渡。こうして、多少の波乱を起こしつつも最終トーナメントの組み合わせが決まった。

  

 

 

 組み合わせの結果俺の相手はさっき締め上げた上鳴に決まった。まあ、軽く捻ってやるとするか。

 

 

 




大丈夫だとは思いますが、残酷な描写とR15のタグを追加しておきました。


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29話

 長い間をおいて遂に始まった最終種目『一対一による本気の勝負』。

 

 その始まりといえる第一試合は出久と唯一普通科から出場を決めた心操との対決。

 

 これまでのような特殊なルールで行う競技と異なり、純粋な戦闘能力による勝負である以上ヒーロー科として訓練を積んでいる緑谷に軍配が上がる─最初はそう思っていた。

 

 

 

「…とんでもねぇな」

 

 

 

 表情1つ動かさず固まった出久とそれを無表情で眺める心操を見て俺はポツリと呟く。

 

 

 

 "洗脳"

 

 

 

 自身の声に返事をした者をコントロール下におく対人間で非常に強力な個性である。

 

 それが心操の"個性"だった。

 

 昼休みに尾白から予め注意するように言われていたようだった出久であったが心操の巧みな挑発につい乗ってしまい、既に身体の動きをコントロールされ今はゆっくりと場外に向かっていってしまっている。

 

「…こんなんで終わらねえよな、出久」

 

 始まる前、轟の覚悟を前に毅然と立ち向かった男がこんなところで負けるなと思うも出久の足は止まることなく場外へと向かい続け─、

 

 

 

 ドカァン!

 

 

 

 というところだったが大きな衝撃波が起こった。

 

 場外へ踏み出したその足を出久は"個性"を暴発させることで洗脳を破ることで止めることに成功したのだ。

 

 そのまま心操へ接近し彼の言葉に応えることなく心操の身体をを場外へと落とした。 

 

「出久お疲れー」

 

「あ、ありがと…」

 

 観客席に戻ってきた緑谷に声をかけたがその顔は疲労に満ちていた。

 

 自らの"個性"故に入学試験で仮想敵を倒すことも出来ず夢に手を伸ばせないことに苦しんだ同い年との戦いはやはり重たかったのだろう。

 

「まぁ、気持ちは分かるが今は次の試合に注目しろよ、お前が次に戦う相手なんだからな」

 

 そう出久に促したが…第二試合は一瞬で終わってしまった。

 

 開始直後に不意打ちの場外狙いを図った瀬呂だったが轟の圧倒的規模の凍結により氷山に捕らわれその動き全てを潰される。

 

 瀬呂も策も動きも間違ってなかっただろう。しかし純粋な実力差に真正面からねじ伏せられた瀬呂に会場からドンマイコールが送られる。

 

「反則でしょあんなの……」

 

 前の席に座っていた響香は声を漏らす。

 

 まあ、力で正面突破ができる俺や勝己、出久みたいなやつでないと突破は難しいだろう。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 轟が形成した氷山がやっと片付いて続く第三試合、飯田と発目の戦いになった。

 

 ヒーロー科とその他の科である者との戦い、それは第一試合で見た想定外の展開になるやもと思い見ていればある意味ではその通りとなった。

 

 飯田が発目に言いくるめられ装着してきた数々のサポートアイテム、それらを売り込む為の広告として飯田は延々と利用されてしまっている。

 

 一応の勝利と精神的敗北、飯田には気の毒だがある意味これがサポート科の戦いなのかもしれないと思い、とりあえず飯田に合掌しておく。

 

 次は俺と上鳴の戦いだ。アイツの電気を無効化するか利用させて貰うかどっちにしよっかな~。

 

 俺は"わるだくみ"の笑みを浮かべながらフィールドに向かった。

 



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30話

 

 俺はフィールドに上がり上鳴に対して言う。

 

「まー、さっさと終わらせるぞ上鳴」

 

「それはこっちのセリフだぜ!お前を超えてやるよ!」

 

 上鳴も準備は既にできているようだ。それでこそだ。

 

「それじゃ、バトル…開始!」

 

 審判のミッドナイトによって戦いの火蓋が切って落とされる。

 

 

 

「Transform,ドサイドン!」

 

 

 

俺はドリルポケモンのドサイドンに変身する。

 

「かかってこいよ、上鳴!」

 

「調子のってんじゃねえよ、牙那!…お前ならこんなんじゃ死なねえよな」

 

「何?」

 

「最大放電、150万ボルト!」

 

 上鳴から最大火力の電撃が放たれた。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

『上鳴からヤベー威力の電撃が放たれたァ!さすがの我羅琉もこれには耐えられないかァ!?」

 

 プレゼントマイクが実況席から叫ぶ。だがその相方は淡々としていた。

 

『いや、アイツなら大丈夫だろ」

 

『え?でもアレは耐えらんねえだろ?」

 

『見てみろアレ』

 

『へ…、ってええええ!?我羅琉全くダメージを受けていない!?なんで!?』

 

 観客の目に入ったのは全くダメージを受けていない俺の姿だった。

 

「残念だったな、上鳴。ドサイドンの特性はひらいしんだぜ。電気系の攻撃は今の俺に全く効かねえぜ」

 

「ウェウェイッ(マジかよ)!?」

 

 上鳴は俺に対して驚く。上鳴は既にジャミング状態(響香命名)になっているようだ。

 

「それじゃ次はこっちから行かせてもらうぜ」

 

 俺は地面に大きな衝撃を与える。

 

「地震!」

 

 スタジアムの地面が立ってられないほど大きく揺れる。

 

『なんでこんなとこで地震が起こんだよ!?観客の皆さんも落下物にはご注意をォ!うわ、あっぶな!』

 

『牙那の奴のしわざだな。色々天候とかいじるとかできるとか言ってたな』

 

『お前は落ち着きすぎじゃねえか、イレイザー!?』

 

 やっぱりわちゃわちゃしてんなオイ。

 

「終わらせてやるよ、上鳴」

 

「ウェイ!?」

 

 俺は攻撃態勢に入る。

 

「ストーンエッジ!」

 

 上鳴の下から刃のように尖った岩を呼び起こし上鳴を吹っ飛ばした。

 

 そして上鳴はダウンした。

 

「上鳴君、戦闘不能!よって勝者、我羅琉君!」

 

 まずは一勝だな。このまま続けていこう。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「お疲れー」

 

「うぃーっす」

 

 響香やA組のみんなが出迎えてくれる。俺もそれに答える。

 

「あいかわらずのチートっぷりだったねー」

 

 葉隠が俺に対して言う。

 

「だろ?」

 

 俺は自慢げに返す。

 

「相変わらずだった…」

 

 そしてフルボッコにされた上鳴も戻ってきた。回復したとはいえ大分応えたようだ。

 

「個性に頼りすぎなんだよ、お前は」

 

「あーやっぱり?」

 

 俺はそのまま続ける。

 

「個性のきかない奴、上位互換のやつとぶつかったとき、何もできずにやられるよりできる限りあがいた方がいいだろ」

 

「確かにな…、ありがとな我羅琉。優勝しろよ」

 

「分かってる」

 

 

 

 …トーナメントはまだまだ続く。



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31話


 今回いつもの2倍くらい量があります…。申し訳ないですね。これからはもう少しまとめることができるように頑張って参ります。
 勝己VS麗日&出久VS轟の対決は長くするしかありませんでした。原作でも重要なとこで、この2勝負は私の大好きなシーンなので書きたかったってのもあります。
 そしてUA40000越えを達成しました。こんな、どこにでもあるような駄作小説ですが頑張って参りますのでこれからも応援お願いします。


 

 その後もトーナメントは続いていく。

 

 芦戸はB組の青山を難なく下し、切島と鉄哲の勝負は男どうしの真っ向勝負が行われたが引き分けに終わり腕相撲による再試合、八百万と常闇の勝負は八百万の防御を突破した常闇が勝利した。

 

 そして一回戦最終試合の麗日と勝己の対決。だがそれは一方的なものにも見える試合だった。

 

 触れることで発動する個性の使用を狙い、接近しようと試みる麗日。それに対して、警戒し、それはさせじと爆撃する勝己。何もできずに封じられる麗日が、甚振られているようにも見えなくはない。

 

 それを見た周りの観客やヒーローの紛い物と思われる奴らからは勝己にブーイングが飛び始める。馬鹿かこいつらは。

 

 だが、それを遮ったのは実況席に座っていた消太さんだった。珍しいな。

 

今 遊んでるつつったのプロか?何年目だ?

 

シラフで言ってんならもう見る意味ねえから帰れ!帰って転職サイトでも見てろ

 

爆豪はここまで上がってきた相手の力を認めているから警戒してんだろう

 

本気で勝とうとしているからこそ手加減も油断もできないんだろうが

 

 …うん、そうです、さすがっす消太さん。

 

 そしてフィールドでは麗日が言う。

 

「ありがとう、爆豪くん。油断"しない"でくれて」

 

 麗日が両手指を合わせることで、個性が"解除"される。

 

 麗日の個性は、無重力。解除することで、これまで解き放たれていた重力の鎖に囚われることになる。

 

 爆豪の頭上高くに浮かぶ、瓦礫群が。

 

『流星群ー!』

 

『気づけよ』 

 

 マイク先生の言葉通り、正に流星群。あるいは豪雨か。空高くに浮かんだ瓦礫が、重力を武器に爆豪へと襲いかかる。

 

 数は多く、勢いもある。そんな麗日の秘策を──

 

『うおおおっ! 会心の爆撃! 爆豪、瓦礫の流星群を堂々、正面突破ぁ!』

 

 空へ向けて放たれる爆撃は、無数のセメントブロックを全て、ひとつ残らず粉微塵にしてしまった。

 

 許容重量をとうに超えていた麗日は、更に1歩踏み出したところで力をなくし、倒れる。

 

『麗日さん行動不能! 爆豪勝己くん、二回戦進出!』

 

 …なかなかにいい勝負だったぜ、二人とも。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 その後切島と鉄哲による再戦が行われ、切島が勝利。その流れのまま二回戦に進む。

 

『さあ行くぜ二回戦! まずはコイツら、共に今回の体育祭で上位を争ってきた2人! 今まさに両雄並び立ち!』

 

 まずは出久と轟の対決だ。

 

 開始の合図と同時に、轟の左足を起点に発生した氷が、出久に向かっていく。

 

『さあ開幕直後に轟の氷結が炸裂! しねぇー!? 緑谷これを連続攻撃でぶっ壊す!』

 

『制御できるまでに弱めた分を数でカバーしてるのか』

 

『普通は避けるだろ! クレイジー!』

 

 …へえ、特訓の成果出てんじゃん。

 

 出久の周りには、不安定ながらも特訓のときに片鱗を見せた緑色のオーラが漂っている。

 

 とりま使えるようにはなったってとこか。

 

 轟と出久の対決はその後、接近しては離れられる、と繰り返していく。

 

 だがそれも続かない。轟が動く。氷の発生に合わせた轟が、その上から飛び込み接近する。

 

 着地と同時に生み出した氷が、出久の足にかかろうかという瞬間、暴風がリングに吹き荒れる。

 

「腕、やりやがったか」

 

「だな、アレは仕方ないとは思うけど」

 

 勝己と俺は呟く。俺たちの視線の先の出久の左腕は強大な攻撃の代償に耐えきれず折れたようで、だらりと力なく垂れ下がっていた。

 

 轟も、接近を嫌がっていることに気付いたのだろう。氷を目くらましに、再度前へと進む。

 

「う、ああああっ!」

 

 スタジアムに出久の叫びが響く。一応という体で設置された集音マイクが拾った声。その理由は、右手の指を弾いた結果だ。

 

 100%の強化による攻撃。必然、放った指も左腕同様に壊れる。

 

「見てるこっちまで痛い……」

 

 A組の誰かが言う。でもそれは意味があるものだった。

 

「……皆、本気でやってるんだ! 勝って目標に近付くために! 一番になるために! "半分"の力で勝つ? まだ僕は、君に傷ひとつつけられちゃいない! "全力"で、かかってこい!」

 

 出久の挑発じみた言葉に苛立ったのか、轟がこれまでのような氷を伴わずに駆け出す。

 

 それに合わせ、緑谷も走り出していく、折れた指を無理矢理握った拳で、轟の腹部へと振りかぶった一撃を叩き込んだ。

 

 『モロに生々しいのが入ったぁっ!』

 

 マイク先生が叫ぶ。その後も足を強化しての飛び込み、そのまま頭突きを叩き込む。

 

「期待に、応えたいんだ! 笑って応えられるような、カッコいいヒーローに! なりたいんだ!だから、全力で! 皆やってんだ!君の境遇も、決心も! 僕なんかに計り知れない! でも、全力も出さずに一番になって"完全否定"なんて、フザケるなって、今は思ってる!」

 

「…うるせえ!」

 

「だから! 僕が勝つ! 君を超えて!」

 

「俺は、親父をっ!」

 

 

 

"君の"! 力じゃないかっ!

 

 

 

 出久と轟の言い合いの後、一瞬の間を置いて。

 

 轟に火が灯る。

 

「使った……!」

 

「轟さんの父親というと、エンデヴァー?」

 

「何かあるんだろうな。ヒーローとして優秀だからといって、親としても素晴らしいとは限らねえ」

 

「……いいじゃねーか、細かいことはよ。轟のヤツ、笑ってるトコ初めて見たぜ、俺。緑谷、このために頑張ったんじゃねーかな」

 

 リングの上に立つ轟は、今にも泣きそうな、それでも笑顔で。何かが吹っ切れたような表情になっていた。

 

「いよっし。デクくん! やったれー!」

 

「轟ぃ! 負けんじゃねーぞ!」

 

「ええい、もう2人とも気張れー!」

 

 A組から両者に声援が飛び交う。それが届いたのかどうか。それは本人たちしか知らないだろう。

 

 そして二人は同時に個性を発動させる。お互い自分が発揮できる最大火力だろう。

 

 そしてそれがぶつかったとき大きな爆発が起こる。

 

 観客席まで届く暴風は、小柄な峰田を吹き飛ばすほど。閃光と風が治まっても、煙でリングが見えないほどだった。

 

『何今の……。お前のクラスどうなってんの……』

 

『さんざん冷やされた空気が、急激に熱されて膨張したんだ』

 

『それでこの爆風って、どんだけ高温だよ! 煙で何も見えねー!』

 

 少しずつ煙が晴れ、先にその姿が見えたのは、緑谷だった。

 

『緑谷くん、場外! 轟くん、準決勝進出!』

 

 リングの外で倒れる出久と、リング内に立つ轟。勝敗は決した。

 

 この次は俺と飯田の対決。この名勝負に劣らないぐらいの試合をしないと。

 

 俺は決意を胸に抱き、リングへと向かった



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32話

 

『さあ、2回戦第2試合、何でもできるチート野郎!我羅琉牙那!バーサス! ヒーロー一家の次男坊、飯田!』

 

 マイク先生が俺たちのことを紹介する。

 

「なんでもできるわけではないんだけどな…」

 

「いや、十分できてると思うが…」

 

 俺の呟きに飯田が返す。

 

「だが…飯田、さっさと終わらすぞ」

 

「それはこっちの台詞だ、我羅琉君!今日こそは勝たせてもらう!」

 

『レディ…、スタートォ!』

 

 ついに始まりの合図が響いた。

 

 

 

「Transform,ランクルス!」

 

 

 

 それと同時に、俺はぞうふくポケモンのランクルスに変身する。

 

 

 

「トリックルーム!」

 

 

 

 そして俺はトリックルームを展開する。

 

「な、なんだ!?」

 

「さあな、バトってたらそのうち分かるさ」

 

 飯田は戸惑うが俺は何でもないように言う。

 

「あまり使いたくはないが…、使わせてもらうぞ!」

 

 その声と共に飯田の足の器官から大きな音がスタジアムに響く。

 

 

 

「レシプロ、バースト!」

 

 

 

 爆発的な加速が起こり飯田が俺に高威力の蹴りをぶち込む…そう誰もが思った。

 

 

 

『ああっとどうした飯田!加速どころか急激に減速しているぞ!?そしてそのすきをついて我羅琉が一発を喰らわせる!」

 

 

 

 だが周りの者たちが見たのはスピードが急激に落ちていく飯田、そしてそこに猛烈な勢いでパンチをぶつける俺の姿であった。

 

 

 

「な、なにを…、そうかこのフィールドか!?」

 

「お前の思惑通りだ、飯田」

 

 俺は種明かしをする。

 

トリックルームは相手の素早さが高ければその分素早さが遅くなるってシロモノだ。レシプロで決めたかったんだろうがそうはいかねえよ」

 

 俺は再び攻撃態勢に入る。

 

「レシプロは確かに強力だ、でもその後お前は個性を使えなくなる。上から見ておいてよかったよ」

 

「騎馬戦の時から見られていたというのか!?」

 

「もちろん。轟と勝己がこっちに来ないように警戒ってのもあったけど。あの時にお前の弱点も聞いておいて助かった」

 

 俺は体中からエネルギーを発生させ、飯田の体を浮かせる。

 

 

 

「サイコキネシス!」

 

 

 

 そのまま俺は勢いよく飯田の体を地面にぶつける。

 

「ま、まだだ!ここで負けるわけにはいかないんだ俺は!」

 

 飯田は攻撃を受けたが立ち上がるが、それを無意味にするかのような攻撃が俺から放たれる。このわずかな間にも俺は「瞑想」をしておいた。これにより俺の特攻の値は上がっている。

 

 

 

「シャドー、ボールッ!」

 

 

 

 俺は体の中から生み出した黒い球状のエネルギー弾を飯田にぶつける。攻撃を受けた飯田は吹っ飛び、トリックルームの壁を壊して、スタジアムの壁にぶつかる。

 

『飯田君場外!我羅琉君準決勝進出!』

 

 主審のミッドナイト先生の声、そして大音量のとどろくような歓声がスタジアムに響く。

 

 俺は飯田に対して一礼し、歓声の中観戦席へと戻った。



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33話

 その後の二回戦は常闇が芦戸をしっかり退け、切島の硬化を突破した勝己が勝利を収めた。

 

『これでベスト4が出揃ったぁ! 今回リングは壊れてねーし、早速始めていくぜ! 準備オーケー!?

 

 大氷壁に大爆発! ド派手に魅せる轟! バーサス!地震や不思議空間を作り出す!なんでもできる我羅琉!

 

 さあ運命の準決勝第一試合、…スタートォ!

 

 

 

「Transform,キュウコン!」

 

 

 

 俺が変身したのはきつねポケモンのキュウコンだ。氷をメインに使う轟にはもってこいだろう。

 

 それと同時に瞬殺を狙った轟は俺に向かって氷壁を迫らせる。

 

 なら、真っ向勝負で行ってやるか。

 

 俺は大きく空気を吸い込む。

 

「かえんほうしゃ!」

 

 俺から放たれた炎撃は轟の氷壁を一気に溶かす。

 

 …その後も轟が氷壁を展開し、俺がそれを溶かすというのを何回か繰り返した。だが戦ううちに俺は気になったことがあった。

 

 轟が炎を放ってこないのだ。さっき出久との対決で何かつかんだのかと思ったのだが。

 

「オイ、轟!なんで左の力を使わねえ!氷だけじゃ俺に溶かされるだけだぜ?」

 

「なんでお前に使わなきゃいけねえ!確かに緑谷との勝負じゃ使ったができる限り使いたくねえ!」

 

「そういうことかよっと!」

 

 俺は氷壁を躱しながら言う。

 

「なあ、轟。ある程度吹っ切れたとは言えまだ抵抗があるんじゃねえのか?抵抗がねえってんなら俺に向かって左使って来いよ!」

 

 それに対し轟は叫ぶ。

 

「うるせえ!何回も、何回もやめることを許されねえ特訓をやらされて、唯一の支えだった母さんまで奪われた俺の気持ちが分かんのかよ!そんな奴の力を使えると思うか!」

 

「ああ、わかんねえな!」

 

 俺はそのまま続ける。

 

「俺だってな、やめたくなる特訓をさせられた!ヴィランに親だって奪われた!…でもな、それでも強くなりたかった!追いついて自分の力を見せたかった!お前もそうなんじゃねえのか!」

 

「違う!俺は…」

 

「違わねえだろ!なら今ここにいる理由は何だ!雄英に入った理由は何だ!俺とこんなにバトってる理由は何だ!それがお前の答えだろ!」

 

 なあ轟、と俺は言ってさらに続ける。

 

「左の力はお前の力だ!それ以外のナニモンでもねえ!左を使いたくねえなら無理やりにでも使わせてやるよ!」

 

 俺は自身の体内からエネルギーの詰まった球体を作り出す。

 

 

 

「エナジーボールッ!」

 

 

 

 轟に向かっていきそれは大きな大爆発を起こす。

 

『我羅琉の攻撃が大爆発を起こした!轟は大丈夫なのかァ!」

 

『いや大丈夫だな』

 

『え』

 

『見てみろよ、リングを』

 

 

 

 そこを見てみると、大爆発の中から左腕から熱を放つ轟が見えた。

 

 なるほど、あの爆発は炎とエナジーボールがぶつかったときに出来た奴か。

 

「へえ、やっと使いやがったか」

 

「…もうこっからは手加減出来ねーぞ、我羅琉」

 

「分かってるさ、俺は最初から最後までクライマックスだぜ!

 

 そして試合は再開し、一気に轟が炎熱を放ってくる。俺はそのまま防御をせずに受ける。

 

 轟が放った炎熱は俺の体に吸収される。

 

『な、なんだァ今のは!?轟の炎が我羅琉にダメージを与えることなく吸収されたぞ!?』

 

「…チッ、上鳴のときと同じようなやつか…」

 

 マイク先生の驚愕の表情、轟からは苦虫をかみつぶしたような顔が見える。

 

「ご名答、キュウコンの特性はもらいび。相手の炎熱を吸収し自分の技の威力を上げるって特性だ。これのために俺はお前に炎を使わせた!」

 

「まさか、さっきのお前が言ってたのは…」

 

「残念ながらそれは本当の話だぜ。お前と話をしていただけだ。…炎を使わねえと俺に勝てねえって思って使っただろ。炎は俺に対して有効だと思ってただろ」

 

 そして笑いながら俺はこう言う。

 

 

 

 

 

「あれ。ノせられちゃった?」

 

 

 

 

 

 俺は轟からもらった炎熱を生かし最大限までため込む。

 

 それを見て轟が俺に対して氷壁を放ってくる。だが俺はそれを気にせずに大技を放つ。

 

 

 

「オーバー、ヒートォ!」

 

 

 

 放たれた炎熱は氷壁を軽々溶かし轟をふっ飛ばす。

 

 次の瞬間に人々の目に映っていたのは立つ俺と倒れた轟の姿であった。

 

『轟君場外!我羅琉君決勝進出!』

 

 俺は轟を退け、決勝に駒を進めた。

 

 

 

 




俺は最初から最後までクライマックスだぜ!…元ネタはモモタロス(仮面ライダー電王)。やっぱりバトルシーンに合う。
あれ。ノせられちゃった?…元ネタは九条貴利矢(仮面ライダーレーザー)。騙すと言えばこの人。


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34話

2日間更新出来ませんでした。すみません…。


 

 選手控室。

 

 決勝戦を直前に控えて、俺は集中力を高めていた。

 

 相手は常闇の個性の弱点を見抜き見事に勝利した勝己。

 

 あいつの戦闘センスは本物だ。現役のヒーロー達にも劣らないだろう。

 

 昔から一緒に特訓してきた…、だから負けられない。

 

 俺は淹れておいた紅茶を一飲みしてフィールドに向かった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

『いよいよ来たぜ決勝戦! とうとう! 遂に! 雄英1年のトップが決まる! もう多くは語らねえ! 爆豪バーサス我羅琉!』

 

 会場は熱気が最高潮だ。マイク先生の実況にも熱が入っている。

 

「まっさかお前とここでやりあえるとは思ってなかったよ、勝己」

 

「ああ、今日こそ勝ってやんよ」

 

 勝己も準備は足りてるようだ。

 

「牙那、いつもので来やがれ。それを潰してこそ俺はお前を超えられる」

 

「ああ、もちろんそのつもりだぜ」

 

 勝己の挑戦的な言葉に俺は返す。

 

『さあ、泣いても笑ってもこれが雄英体育祭1年の部、最終試合だ!カウント始めるぜ!』

 

 実況のマイク先生が叫ぶ。

 

『3!』

 

 あっちは今まで超えられなかったものを超えるため。

 

『2!』

 

 こっちは周りに自分の実力を見せるため。

 

『1!』

 

 お互いの思いは違っているが目指すものは一緒だ。

 

 

 

スタートォ!

 

 

 

 今体育祭最後の勝負が始まった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「Transform,コジョンド!」

 

 俺はいつも使うコジョンドに変身する。やっぱこいつが戦いやすい。

 

「くたばれっ!」

 

『開幕と同時に大爆発! いきなり優勝者が決まっちまうのかぁ!?』

 

 リングの半分近くを覆い尽くす爆発。ゆっくりと煙が晴れると、そこには誰も居ない。

 

「どこ行きやがった…ちっ、上か!」

 

「ご名答だ!」

 

 俺は飛び上がりそのまま攻撃態勢に入る。

 

「オラよっと、とびひざげり!」 

 

 俺は勝己の鳩尾に膝蹴りを叩きこむ。特性「すてみ」の効果で他のポケモンより高威力で放つことができる。

 

『爆豪に高威力の膝蹴りが入ったァ!』

 

 俺はすぐさま次の攻撃に入ろうとしたが移動できない。

 

「絶対、その攻撃、してくると思ったぜ牙那!」

 

 勝己の腕がしっかりと俺の足を掴んでいたのだ。

 

「死ねぇ!」

 

 勝己が起こした爆発が俺の目の前で起こる。だが俺も対応する。

 

ファストガード!

 

『爆豪がダメージを受けたがカウンター!だがしっかりと我羅琉もしっかりガードォ!』

 

『爆豪は攻撃を読んでいたな。我羅琉予想できてなかったが対応したな』

 

 俺はしっかり守って、再び距離をとる。遠距離攻撃の体制に入る。

 

「はどうだん!」

 

 体の奥からエネルギーを集め、勝己に攻撃を放つ。

 

「こいつは確か回避できねえ、なら…、先に攻撃を与えればいい!」

 

 勝己が思いきり波動弾に攻撃を与える。

 

 それによって起こった煙がフィールドを覆う。俺はそれに乗じて勝負を決めに行く。

 

「決める!」

 

 俺はそこから勝己の方へ一気に飛ぶ。

 

「ってめ…」

 

「お前がその行動に出ることは知ってたぜ!」

 

 目の前に勝己の顔が広がる。

 

「はっけい!」

 

 攻撃を受けた勝己は吹っ飛ぶ。

 

「はっけい!」

 

 高速で勝己の懐に入り再び攻撃を与える。

 

 勝己は反対向きに爆破を起こし、スピードを落とす。

 

 だがスピードを落としたことは命取りになる!

 

 俺は勝己に向かって一気に飛んでいく。

 

「とびひざげり!」

 

 勝己はさっきの攻撃は読んでいたみたいだがさすがにこれは読めなかったみたいだ。

 

 攻撃を受けた勝己はスタジアムの壁にぶつかる。

 

 俺は変身を解き右腕を突き上げる。

 

『爆豪君場外!勝者、我羅琉牙那!』

 

 体育祭最後の戦いがついに終わりを告げた。



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35話

 無事全部の競技が終わり、表彰式が始まるとあって集まった生徒たちであるが、彼らの間には動揺が広がっていた。その原因はある一人である。

 

「うわあ。何あれ」

 

「ずっと暴れてんだと。まあ爆豪だし、"1位以外意味ねえ"とか言ってんだろ」

 

「いや目つきヤベェって」

 

 セメントス謹製の表彰台に生やされた柱に、口枷手枷を着けられた上で縛り付けられ、ついでに鎖も使って固定された勝己である。

 

 それでもミッドナイトは意に介さず進めていくようだ。

 

『それではこれより、表彰式に移ります!』

 

 誰かが「いいのかコレ」とツッコミを入れた。まあ勝己はセメントスと13号、スナイプが出張るほどの大捕物であったのもあるが。

 

『さあ、それじゃあメダル授与! 今年のプレゼンターはもちろんこの人!』

 

 ミッドナイトが指し示す先、スタジアムの上に注目が集まる。

 

『私が! メダルを持って『我らがヒーロー! オールマイト!』来、た……んだけどなぁ』

 

 …締まんねえ登場だな、オイ。

 

 まあ、ところどころ抜けてるのもあるからヒーローとして愛されるのかも知れないが。

 

「んんっ。まずは常闇少年、おめでとう」

 

 まずは3位の常闇から。

 

「ちょっと個性の黒影(ダークシャドウ)に頼りすぎたかな。個性なしでも戦う技術も磨いていくといいと思うぞ!」

 

「…御意」

 

 常闇にしっかり声をかけ次に進む。

 

「…続いて轟少年、おめでとう。準決勝で途中まで左側を収めていたのは、何かワケがあるのかな」

 

「緑谷にキッカケをもらって、皆が背中を押してくれて、準決勝も我羅琉の奴に言われて。…わからなくなってしまいました。あなたが緑谷を気にかけるのも、少しわかる気がします。俺も、あなたみたいなヒーローになりたかった。ただ、俺だけが吹っ切れただけじゃ、ダメだと思った。清算しなきゃいけないモノが、まだ残ってる」

 

「…顔つきが以前と全然違うね。今の君ならきっと大丈夫。清算できるさ。それでも困った時は周りを頼るといい。声援をくれた彼らならきっと力になってくれる」

 

 オールマイトに優しく肩を叩かれ、轟は小さく頷く。

 

 続いて問題の…である。

 

「さて爆豪少年……。さすがにこりゃあんまりだ」

 

 2位の台に"繋がれた"勝己の口枷を外し、メダルを持ったオールマイトが側に立つ。

 

「意味ねえんだよ、オールマイトォ…! トップじゃなきゃ、何の価値もねえんだ…!」

 

「まったく、君ってやつは! 1番たらんとするその心意気は素晴らしいね。なら、なおさら受け取っておけよ、傷として!」

 

「いらねえっつって、オイコラやめろぉ! いら、あぐ!」

 

 メダルをかけられまいと抵抗する勝己だったが、拘束されて可動域が限られていては容易くはいかない。最終的に口にかけられてしまった。

 

「では我羅琉少年、有言実行の1位、おめでとう!」

 

 オールマイトが俺に対して言う。

 

「どもっす。でもまだまだっすよ」

 

「向上心の塊だね君は。だからこそ、この結果なんだろう。多彩な技術を持ち、努力を怠らない君ならば、きっと素晴らしいヒーローになれるさ」

 

「うれしいっすね。アンタを超えるヒーローになって見せますよ?」

 

「言うねえ、君がデビューするまで僕も頑張るさ、…改めて、優勝おめでとう」

 

「ありがとうございます」

 

 頭を下げた俺を見てオールマイトはカメラに向き直る。

 

「さぁ! 今回は彼らだった! しかし皆さん! この場の誰にも、"ここ"に立つ可能性はあった! ご覧いただいた通りだ! 競い! 高め合い! 更に先へと昇っていくその姿! 次代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている! ……ってな感じで最後に一言! 皆さんご唱和ください! せーの……」

 

「プル「お疲れ様でした!」スウ……えっ?」

 

「「「そこはプルスウルトラでしょ、オールマイト!!」」」

 

 締りは悪かったが、それでも笑顔に満ちていた。

 

 そんなこんなで体育祭は終わりを告げた。



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Experienceする職場体験
36話


 体育祭から2日後。

 

「超声かけられたよ、来る途中」

 

「私もー! ジロジロ見られて恥ずかしかったー」

 

 A組の教室では、思いの外有名になってしまった自分たちという状況に興奮を隠せず、普段よりも賑やかだった。

 

「そういや牙那って瑠莉さんになんて言われたの?」

 

 そんな中響香が俺に聞いてくる。

 

 うーん…、

 

「『私の弟なんだから当然よね』って言われた…、その後色々改善点言われたし…」

 

「やっぱりね…」

 

 響香は苦笑いをする。

 

 周りもワイワイと話し込む生徒たちだったが、チャイムが鳴ればすぐさま自席へとつく。

 

 消太さんはそういうのを嫌う。クラスの全員はそれを知っているのだ。

 

「…おはよう」

 

 いつもと変わらぬ覇気のない消太さんが教室に入れば、元気よく挨拶の合唱が返る。

 

「相澤先生、包帯取れたのね。よかったわ」

 

「婆さんの処置が大げさなんだよ。もっと早くに取れてたんだがな。……んなもんより、今日のヒーロー情報学、ちょっと特別だぞ」

 

 特別。その言葉に、一同に緊張が走る。

 

「"コードネーム"、ヒーロー名の考案だ」

 

 

 

「「「胸膨らむやつ来たー!!」」」 

 

 

 

 だが、やはり一瞬だけであった。

 

 楽しそうにはしゃぐ生徒を、相澤は個性を発動させる素振りで、こちらも一瞬で鎮める。

 

「というのも、先日話した"プロからのドラフト指名"に関係してくる。指名が本格化してくるのは、経験を積み即戦力と判断される2、3年から。つまり、今回来た指名は将来性に対する興味に近い。卒業までに興味が削がれたら、一方的にキャンセルなんてのはよくある」

 

「大人は勝手だっ……!」

 

「頂いた指名がそのまま、自身へのハードルになるんですね」

 

 峰田と八百万が言う。まあそんなもんだよ。

 

「そ。んでその指名結果がこれだ」

 

 黒板に投影されるのは、指名数のグラフ。

 

 結果としては俺が5000越えでトップ、そこから1000程空いて轟、勝己。さらにそこから空いて1000以下の大多数。まあ順当といったところだろうか。

 

「つか、2位3位逆転してんじゃん」

 

「表彰台に拘束されたヤツとかビビるもんな」

 

「ヒビってんじゃねーよプロが!」

 

 勝己はこんなだが周りの反応は人それぞれ、悲喜交々だ。

 

「これを踏まえ、指名の有無関係なく、いわゆる職場体験ってのに行ってもらう。…お前らは一足先に経験してしまったが、プロの活動を実際に体験して、より実りのある訓練にしようってことだ」

 

「それでヒーロー名か!」

 

「俄然楽しみになってきたぁ!」

 

 周りが騒ぐが消太さんがいつものトーンで続ける。

 

「まあ仮ではあるが、適当なもんは……」

 

「付けたら地獄を見ちゃうよ!」

 

 

 

「「「ミッドナイト!!」」」

 

 

 

 そういって、消太さんの言葉を引き継いで教室に入ってきたのは、ミッドナイトさんだ。

 

「この時の名が世に認知されて、そのままプロ名になってる人多いからね!」

 

「まあそういうことだ。その辺のセンスをミッドナイトさんに査定してもらう。俺はそういうのできん。将来自分がどうなるのか、名を付けることでイメージが固まり、そこに近付いていく。それが"名は体を表す"ってことだ。オールマイトとかな」

 

 確か消太さんのヒーロー名はマイク先生に決めてもらったとか言ってたな。それでいいのかとは思ったけど…。今となってはそれで定着してるからな…。



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37話

 先生たちから話があって俺たちにはボードとペンが配られる。既に決めていた者は早速取り掛かり、そうでない者は唸り悩む。

 

「じゃ、そろそろ出来た人から発表してね」

 

 発表形式だと!?個人で決めて先生に許可貰うだけじゃないのかよ!

 

 周りもざわつく。まあ、俺としては問題ないが、恥ずかしい奴はいるだろう。

 

 しかし、物怖じしない者も居る。芦戸が前に出て行く。

 

「じゃあまずアタシね。ヒーロー名"エイリアンクイーン"!」

 

 おおっと!?

 

「2! 血が強酸性のアレを目指してるの!? やめときな!」

 

「ちぇー」

 

 ミッドナイトに却下され、唇を尖らせて芦戸は自席に戻る。しかし、文句をつけたいのは俺たちだ。

 

((最初に変なの来たせいで、大喜利っぽい空気になったじゃねーか!))

 

 その空気の中、一人の女子が前に出る。

 

「じゃあ次、私いいかしら。……小学生の時から決めてたの。"フロッピー"」

 

「カワイイ! 親しみやすくていいわね。皆から愛されるお手本のようなネーミングね」

 

「「フロッピー!フロッピー!フロッピー!」」

 

((ありがとう、梅雨ちゃん。流れが変わった!!))

 

 確かに可愛らしく、親しみやすい良い名前だ。そして変になりかけていた空気を戻してくれた。ありがとう蛙水!

 

 この流れで俺も行こう。

 

「俺はコレ、変身ヒーロー"キバナ"」

 

「「名前!?」」

 

 クラス全員から突っ込まれる。まあ、そうなるよな。

 

「あー、コレにも一応由来あってな、八百万」

 

 俺は八百万に振る。

 

「何でしょうか?」

 

「お前、キバナコスモスの花言葉って知ってるか?」

 

「ええ、確か…『野生的な美しさ』だったはずですが」

 

 正解だ、と言って俺は続ける。

 

「野生的に荒々しく、尚且つ美しく。それができるヒーローになりたいからこうした」

 

 ミッドナイトも賛同してくれ、クラスのみんなも同じようだ。それを聞いて俺は胸を撫でおろす。

 

 だが問題は再び起こる。

 

「勝己、爆殺王はないな、うん」

 

「んだコラ牙那、文句あんのか」

 

「まず子供が連呼することを考えたら”殺”はやめといた方がいいだろ」

 

 一応言っておいたのだが、その後「爆殺卿」を出してきたのでもう諦めた。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「エンデヴァー、エッジショット、リューキュウ、ギャングオルカ! トップランカーから指名来てんのか!」

 

「優勝したらこんなに来るのか…」

 

 上鳴が俺に対する指名リストを見て言う。切島も同様だ。

 

「で、牙那どうすんの?全部調べるってわけにはいかないし。あと2日しかないし」

 

 そう言ったのは響香だ。確かにそうだな。

 

「ああ、瑠莉姉とか消太さんにも聞いてランク上位から選ぼうかなって思ってる。他の指名くれたヒーロー達には申し訳ないけど」

 

 俺はそう答え、数十枚にも及ぶリストを手に取り、考え始めた。

 

 バトル系と救助系どっちにしよっかなー…。

 

 

 

 

 



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38話

 職場体験初日。

 

 俺たちA組の面々はヒーローコスチュームの入ったケースをそれぞれ手にして駅に集合していた。

 

 消太さんの注意点を聞いた俺たちはそれぞれの場所へ散っていく。

 

「…さてと、俺も向かいますか」

 

 俺が今回希望したヒーローの事務所は山奥にある。多分一個乗り遅れたら大分ヤバいことになるだろう。

 

 電車に乗り込み、俺が体験するであろう経験に対する希望をもって俺は向かった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 俺は電車やバスを乗り継ぎ、緑豊かな山岳地帯にやってきた。

 

 ここまで来れば分かるだろう。

 

 俺が希望したのは『ワイルドワイルドプッシーキャッツヒーロー事務所』である。

 

 理由としては救助系のヒーローのやり方を知りたいから、これだけである。

 

 ヴィランとのバトルは今まで経験してきた。だが災害救助などは経験しないとわからない。ヴィジランテの俺は余り表立って救助活動をすることはできない。今の俺に必要なものはそれである。

 

 事務所に着いた俺は軽く背伸びをし、凝り固まった肩や背筋をほぐしたあと、チャイムに手を伸ばす。

 

 キンコーン、と、音が鳴り、インターホンから応答がする。

 

『はい。ワイルドワイルドプッシーキャッツ事務所です』

 

「雄英1年A組から来た我羅琉牙那です。職場体験に来ました」

 

『あ、いらっしゃい。待ってたわ。今行くから少し待っててちょうだい』

 

 声が途切れた後、パタパタと人の移動する気配がする。

 

 言ってる間にドアノブを回す音が聞こえ、挨拶しようと思ったのだが、それは杞憂に終わった。

 

 なぜって?

 

「煌めく眼でロックオン!!」

 

「猫の手、手助けやって来る!!」

 

「どこからともなくやって来る……」

 

「キュートにキャットにスティンガー!!」

 

「「「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!!」」」」

 

 扉を開けたらワイプシフルメンバーによる決めポーズがあったからである。

 

「あ、皆さん久ぶりです。お元気そうでなにより」

 

 俺はそれに素っ気なく返す。

 

「むー、そこは『おおー!』とかいってよー?」

 

 ラグドールが言ってくるが俺はそれを流す。

 

「オフの時何回も会ってるんすから…、信乃さんコレ、ウチの姉からっす」

 

「あ、ありがと」

 

 なんでこんな感じになってるかというと瑠莉姉経由で知り合ったからである。

 

 ワイプシのメンバーは瑠莉姉とほば同年代。そのため結構交流があったそうだ。今も近くに来た時はよくカフェに来てくれている。そこからのつながりだ。

 

 だがこの人達を見るのは主にオフの姿。活動中の姿は余り見たことがない。

 

 その後、改めて俺はヒーローの卵としての自己紹介をした後、マンダレイがもう一人の人物を紹介してくれた。

 

「あと、事務所のメンバーではないんだけど、何回か言ってた私が預かっている従甥を紹介するわね。ここにいる間は顔を合わせることも多いでしょうから」

 

 玄関から建物の中へ呼びかけるマンダレイの声に答えて出てきたのは5歳くらいの目つきの鋭い男の子だった。

 

「出水洸汰っていうの。ほら、挨拶しなさい。洸汰」

 

「初めまして、俺は我羅琉牙那。しばらくの間よろしくな」

 

「…フンッ」

 

 俺が差し出した右手は無視され、俺の顔に水がかかる。…こういうのか。

 

「洸汰!」

 

「ヒーローになんてなりたいなんて言うヤツなんかとつるむ気はねえよ」

 

 マンダレイがすぐに叱るが、洸汰は悪びれた様子もなく一言言い放って去って行った。

 

「大丈夫、牙那?ごめんね洸汰が」

 

「へーきっすよ、これ位。いつもの瑠莉姉の攻撃に比べれば」

 

 ちなみに最近では、この前の体育祭の直後に地下室に入れられ、フルボッコにされたりしている。

 

「じゃ、牙那。瑠莉奈の奴からも手加減はいらないって聞いてるからビシバシやってくよ!」

 

 ピクシーボブが言う。

 

「もちろんです。俺はそれ目当てでここに来たんですから」

 

 俺の職場体験がついに始まった。ここでの知識を応用できるようにしていかねーと。

 

 

 



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39話

 

 職場体験でワイプシの皆さんから学んだことは有意義なものだった。

 

 まずは災害救助のやりかたである。救助訓練は学校でも何回かしたが、それは再現だ。

 

 実際に、山の天気はよく急変する。ずっと晴れだとか雨だとか固定されていることはめったにない。そのためスピーディーかつ丁寧な救助が求められる。

 

 天候に気をつかいつつ、かつ被救助者を安心させる。これは経験によって培われていくものだ。

 

 俺は話にしっかりと耳を傾け、メモを取って行った。

 

 午前中の座学が終わった後は虎さんとの特訓だ。虎さんの”個性”『軟体』は格闘タイプの技だとダメージを与えにくい。

 

 こういう相手にはリレーして戦い方をエスパーやゴーストに変えてもいいがそれは逃げだ。

 

 変身には体力を要するし、その後に起こるラグのことも考えるとできる限り一つに絞った方がいい。

 

 ワイプシのメンバーとは余り面切って戦ったことがなかったがさすがの強さだ。

 

 俺は指摘される癖などを直していきつつ時間を過ごしていった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 晩飯を食べた後、俺は気になる波導を感じた。ちなみに個性の影響で俺は大雑把な波導なら感じ取ることができる。基本的にはオフにしているが。

 

 俺が感じたのは憎しみの波導だ。おそらくは洸汰が発している波導だろう。

 

 マンダレイから聞いた話によると、洸汰の両親はプロヒーローとして活躍していたウォーターホース。市民をヴィランから守って殉職したヒーローらしい。

 

 俺の考えとしては二人はヒーローとして最後までヒーローらしかったと言えるが、当時3歳の子供がいきなり両親を失ったのだからそれは相当なものだろう。あんな態度になるのも仕方ない。

 

 でも、それを憎んでちゃ今のこの世界は無理だ。瑠莉姉に頼めば何とかしてくれるかもしれないが今の社会を楽しんでいる瑠莉姉がする可能性は0だろう。まあ気まぐれなところもあるが。

 

 これは俺みたいな経験していないやつが言ったところで意味がない。同じような体験をしてないとその考えを変えることは不可能に近い。

 

「で、そっちはどうよ出久」

 

「うん、こっちも順調だよ」

 

 俺は今出久と電話をしている。出久が行ったのはグラントリノというオールマイトの教師だった人らしい。オールマイトから行かないと怒られる(オールマイトが)と言われたらしい。

 

「フルカウルも大分使えるようになってきたよ。コントロールも大分できるようになってきたし」

 

「そうか、それならよかったよ。あ、そうだ出久」

 

「何?」

 

「お前保須に行くことあったら警戒してくれ」

 

「…ヒーロー殺しがでるから?」

 

 今、保須で”ヒーロー殺し”ステインの目撃情報が多い。ちなみに俺たちのクラスの中で今の保須に行ったのは飯田だ。おそらく兄のインゲニウムの敵討ちが目的だろう。

 

「ああ、俺は結構距離あるしヒーローの担当が違うから行けねえけど、アイツの実力は本物だ。インゲニウムも倒されてるしな」

 

「分かった。行くかどうかはわからないけど警戒しとくよ」

 

「頼んだ」

 

 俺は電話を切り明日に備えた。



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40話

 

 次の日。事務所一帯は大雨に見舞われていた。

 

 本当なら今日は外での実地研修の予定だったのだがなくなることに。ワイプシの4人も警戒感を強めている。

       

 俺はというと、昨日に引き続き虎さんに相手をしてもらっての特訓である。虎さん曰く、来た時よりかは動きが良くなっていると言われた。

 

 ただでさえ俺という客を受け入れてもらって、今の危険な状態である。俺は彼女らに余り俺には気を遣わないでくださいと言っておいたのだがそこはプロヒーローらしく両立している。

 

 そんな中ある一報が入った。近くで大規模な土砂崩れが発生したとのこと。多くの住民が巻き込まれたとの情報もあり、俺たちはそこに急行することになった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 現地でのワイプシメンバーの動きは凄かったと言う外ない。

 

 ラグドールが被災者を見つけ、マンダレイが指示し、虎さんが狭いところに入っていき、ピクシーボブが土を操って道を作る。完璧な連携プレーだ。

 

 俺は向かわせてもらったが免許はまだ持ってないし、ワイプシメンバーには俺が「ドラゴストーム」だとは言っていないので表立って活動はできないので後方支援が主だ。

 

 救護所で運ばれてきた人たちに対して事務所で教えてもらったトリアージと応急処置をしていったが問題が一つあった。

 

 怪我を治すことができないのだ。ワイプシのメンバーは治癒系の個性は持っていない。だがそれでも今入ってきた情報によればこのあたりは孤立状態になっており、救助隊が到着するのが遅れるというものだった。

 

「マンダレイさん、何とかならないんすか?」

 

「そうは言ってもね、そういえばキバナは出来たりできるんだっけ?」

 

「まあ、軽い程度ならっすけどね」

 

「…分かった、ワイプシの名において個性を使うことを許すよ」

 

「ありがとうございます」

 

 俺は変身態勢に入る。

 

 

 

「Transform,タブンネ」

 

 

 俺が変身したのはヒヤリングポケモンのタブンネ。回復系の技を使うことができるポケモンだ。

 

 俺は被災者の皆さんの体に手をかざし波導を送る。

 

「いやしのはどう」

 

「いやしのはどう」は相手を回復させる技。さすがに大怪我になると対処できないが、骨折程度までなら治すことができる。

 

 その人には「ある程度は治させてもらいましたけど病院でも診てもらってください」と念押ししておいた。俺はその道のエキスパートではないので知識は乏しい。あくまで俺のは応急処置であり完全に

治したわけではない。

 

 それでも感謝されるのは嬉しいものだ。それでこそヒーローを目指す意味があると思う。この笑顔がヒーローにとって最大の報酬だ。

 

 救助隊がやっと到着し、引継ぎをしているときにピクシーボブから声をかけられた。

 

「どうだった、初仕事?」

 

「まだまだって感じしましたよ。実際の救助なんて滅多に経験できることじゃないですし」

 

「そうだよね、私たちも始めたころは全然だったよ。そういえばキバナはどっちになりたいの?バトル系のヒーローかそれとも救助系のヒーローか」

 

「そんなもん決まってるじゃないっすか」

 

「ん?」

 

 俺は言う。

 

「戦って救助する、救助して戦う、両方できる、なんでもできるヒーローっすよ。できなくて誰かが命を落とすのならそれはヒーローって呼べませんから」

 

 俺は笑って言う。ピクシーボブも笑い返してくる。

 

「ネコネコネコネコ、やっぱりね。君ならそういうと思った!数年後が楽しみ!つーばつけとこー!」

 

「ちょおっと、ピクシーさん!?」

 

 そんなこんなの後、俺たちは帰宅の途についた。



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41話

 そこからはあっという間だった。というかあの後のメディア対応が面倒臭かった。

 

 基本的には俺のことはオフレコでって言っといたはずなのだがそれでも「褐色肌でオレンジ色のバンダナのヒーロー候補生」に助けてもらったという声が大分取り上げられていた。

 

 俺が手当てした被災者の皆さんも無事治ってきているみたいなのでよかった。これで失敗したら俺だけじゃなくワイプシの皆さんの責任問題も問われるからホントに成功してよかった。

 

 なお、一部のヒーロー評論家って言う馬鹿どもは批判していたがそれ以外の人たちからは高評価だった。

 

 そして、終わりは訪れた。

 

「今まで、ありがとうございました!」

 

 見送ってくれたのはマンダレイだ。それ以外のメンバーはメディア対応やら遠征などでいない。

 

「こちらこそありがとう、また仮免取ったらインターンにおいでよ」

 

「分かりました、優先させてもらいますよ、1週間お世話になりました」

 

 笑顔で挨拶を交わし、俺はワイプシ事務所から離れた。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 職場体験を終えた雄英高校1年A組の教室は、喧騒に包まれていた。

 

「牙那、ニュース見たぞ!」

 

 上鳴から声をかけられた。

 

「まあな、余り有名にはなりたくないんだけど」

 

「なんでだよ、有名になったら一般人の評価も上がるしいいじゃねえか?」

 

 切島が言ってくるが俺は気にせずに返す。

 

「今の俺ならな。色々周りから言われるのが嫌なんだよ。メディアが色々言ってただろ」

 

「あー、牙那そういうの嫌いだもんねー」

 

 響香が言う。今回は俺しか回復・治癒系の個性がいなかったから俺が相談して許可をもらって使わせてもらった形だ。多くのメディアは俺が勝手に個性を使ったって勘違いしてるからな。ワイプシの皆さんが否定してたけど。俺は別にどっちでもいいんだけど。

 

 そんな感じで和やかに話は弾んでいったが、教室の大きな扉が開かれる。

 

「あ、おはよ勝己ィ!?」

 

 俺が勝己の姿を見てみると髪型が8対2に分けられたヘアスタイルになっていたのだ。

 

「アッハハハハハハハ! マジか! マジか爆豪!」

 

「…笑うな。クセついちまって洗っても直んねえんだ。オイ笑うなァ!」

 

「ブハハハハハハハハハハ! やってみろよ8:2坊や!」

 

 瀬呂と切島は涙を浮かべるほどに笑い転げていた。

 

「ぶっ殺ォす!」

 

 それと同時に勝己の髪がいつもの爆発ヘアーに戻った。

 

「どーいう仕組みだ! アハハハハハハハハ!」

 

「笑うなっつってんだろうがクソ髪コラァッ!」

 

 笑いすぎてまともに動けない切島と瀬呂の2人が捕らえられている間にも、続々と生徒は教室へとやって来る。

 

 それをほっといて俺が声をかけたのは出久と飯田と轟の3人だ。

 

「おはよ、大分大変だったみたいだな」

 

 こいつらはステインと交戦したらしい。最終的にはエンデヴァーが解決したらしいが。…多分裏に何かあるんだろうが、それは置いておこう。

 

「ああ、…で麗日はなにがあった?」

 

 麗日は何やらシャドーボクシング的な、といっても凶悪な回転が加わった一撃を中空に放っていた。

 

 周りは誰とはなしに、そっと視界から外す。

 

「確か、麗日くんはバトルヒーロー・ガンヘッドの所に行っていたのだったか」

 

「1週間で感化されすぎじゃないか?」

 

「せ、成長だよ。…多分。うん」

 

 揃って詳しい言及を避けたのはご愛嬌だ。

 

「変化っつーか、大変だったのはそっちの3人だろ!」

 

「いやー、ヒーロー殺しとかヤベーの相手にしてたしな」

 

「マジ命あってなによりだぜ」

 

「…心配しましたわ」

 

 上鳴の言葉に、皆の話題が移る。

 

 何せ、被害にあった中には命を奪われたヒーローも居たのだ。そんな凶悪ヴィランと関わった、それも出久からの不穏な位置情報のみというメッセージがあったことも加われば、心配するなと言う方が無茶だろう。

 

「でもよ、あの動画見たらさ。一本気っつーか、執念っつーか、カッコよくね? とか思っちゃわねえ?」

 

 上鳴の言葉に、慌てた様子の緑谷が声をあげるが、少しばかり遅く。

 

「いや、いいさ。確かに信念の男ではあった。クールだと感じる人が居るのも、わかる。…しかし、ヤツは信念の果てに"粛清"という手段を選んだ。どんな考えを持とうとも、それだけは間違いなんだ」

 

「そうだな、自分が規範となれば良いのに、とは思うな。悲しむ人を生み出した時点で、反発する者が出ると思うし。…それを考えたらステインと真逆の考え方だけどドラゴストームもそうだな」

 

 切島の言葉に少しドキッとしたが俺はそれに続ける。

 

「切島、ドラゴストームとステインの考えの基礎はほとんどおなじだぞ」

 

「え、そーなの」

 

「ああ、ドラゴストームの攻撃の矛先はヴィラン、ステインの攻撃の矛先はヒーローっていう違いだけだ」

 

「ドラゴストームやばかったな…」

 

 そう言ったのはUSJで遭遇した上鳴だ。その後飯田が立ち上がって言う。

 

「うむ。ステインやドラゴストームに限らず、ヴィランによって傷付く人も居れば、その方々には家族や友人が居る。ならば俺のような者をこれ以上出さぬ為にも改めてヒーローの道を俺は歩む!」

 

 そう語る飯田の目は決意に満ちて、心なしか背筋もいつも以上に伸びているように見えた。

 

「さあ! そろそろ始業だ! 席につきたまえ!」

 

「……五月蝿い」

 

「なんか、すいませんでした……」

 

 飯田がいつものように飯田し始めた。飯田はやっぱこうでないと。

 



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教師達へのChallenge!
42話


 

 朝のホームルームで消太さんが言う。

 

「えー、そろそろ夏休みも近いが、もちろん君らが1ヶ月も休める道理は無い」

 

 

 

 教壇に立つ相澤の言葉に、どよめきが起きる。

 

「夏休み、林間合宿やるぞ」

 

「知ってたよー! やったー!」

 

 休みがなくなるなどと言われれば普通の学生なら落胆するのかもしれないが、ここはヒーロー科だ。誰もが自身を高める機会を喜んでいた。俺は家でいたいけど黙っとくか。

 

「肝試そー!」

 

「風呂!」

 

「花火」

 

「風呂ぉっ!」

 

「カレーだな」

 

「行水!」

 

「自然環境ですと、また活動条件が変わってきますわね」

 

「湯浴み!」

 

「……峰田黙ってろ」

 

「はい」

 

 己の欲望を声高に叫ぶ峰田に、ついに消太さんが釘を刺す。他の生徒たちも口を塞ぐ。

 

「…ただし、その前に行われる期末テストで赤点だった奴は、学校で補習地獄だ」

 

「みんな頑張ろーぜ!」

 

 そんな顛末が朝のホームルームで繰り広げられた。

 

 …その後。

 

「「まったく勉強してねー!」」

 

悲壮感漂う上鳴と、なぜか笑顔の芦戸が異口同音に叫んだ声が教室に響く。

 

 中間テストの成績は20人中、芦戸19位、上鳴20位である。

 

 一応、彼らの為に補足しておくと、あくまでA組の中での順位であり、2人とも学力自体は高いほうだろう。

 

 単に、ヒーロー科の授業が途轍もなく速く、結果的に試験範囲が異常に広いのだ。

 

 …一応言っておくと俺は2位である。

 

「体育祭やら職場体験やらでまったく勉強してねー!」

 

「いやー、あっはっは!」

 

「……の割には芦戸、随分と笑顔だけど」

 

「なーんかもー、笑うしかないよね!」

 

「ああ重症か、もう」

 

 芦戸の顔は笑顔から一転して悲しい表情になる。

 

「お2人とも、座学ならば私、少しはお力添えできるかもしれません…、実技の方はできるだろうかわかりませんが

 

「「ヤオモモォ!!」」

 

 そんな二人に助け船を出したのはクラス筆記トップの八百万だった。二人にとっては救いの女神だろう。

 

「お2人じゃないけど、ウチもいいかな? 二次関数、ちょっと応用で躓いてて」

 

「わりい、俺も! 八百万、古文わかる?」

 

「俺もいいかな」

 

 上から響香、瀬呂、尾白である。

 

「あー、じゃあ俺もいいか八百万。ちょっと物理の発展問題で相談したい問題あるんだ。それに二人いたら教えるのも大分楽だろうしよ」

 

 そして、頼られたのが嬉しいのか八百万の表情がパッと明るくなる。

 

「良いですとも!」

 

 その後八百万は、講堂を用意する、お紅茶は何にするといった貴族が使うような単語を連発しながら聞いてきたがそこにいた全員はあまり分かっていなかった…というか聞けなかった。

 

 理由は八百万が喜びの余りものすっごいプリプリしていて、周りの全員が「何このピュアセレブ…」と思ったほどだ。そしてすっごい可愛かったとだけここでは言っておこう。



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43話

 

「実技試験何するんだろ?」

 

 昼食をとりながら出久が話しかけてくる。

 

 消太さんに聞いても「一学期でやったことの総合的内容」とだけしか教えてくれず、不安が募っていたようだ。

 

「さあな、普段やってることをちゃんとやってればなんとかなると思うけど」

 

「じゃあ牙那的にはどんなのがくるって思ってんの?」

 

 そう聞いてきたのは響香だ。

 

「少なくとも「ヒーローとして行動すべきこと」を実現できるかどうかを問うってことだと思うから…、なんかとバトルかな?」

 

「バトルって…何と?」

 

 俺が言った後、麗日が聞いてくる。

 

「そこまではわかんねえな、とりあえず体調とか万全にして最高の状態で戦えるようにしないと受からないだろうし」

 

 そんな中、出久の後頭部に折り曲げられた左ひじが当たる。

 

「おっと、失礼。頭が大きいから当ててしまいそうになったよ」

 

 いじわる気なちょっとヤバい顔で笑っていた…、

 

「…誰だお前?」

 

 誰だコイツ?

 

「な、知らないのかい?体育祭で…」

 

「俺たちずっと空飛んでたから知らない」

 

「そ、そうかい…僕は物間寧人、B組さ」

 

 ああ、こいつが拳藤が言ってたやつか。

 

「あっそ、じゃどっか行ってくれ。俺たち忙しいから」

 

「全然忙しそうに見えないんだが!?」

 

 それもそのはず俺たちはのんびりとダベりながら昼食をとっているだけだ。

 

「うるさい! 食堂で騒ぐな!」

 

「グフッ!?」

 

 そんな中、物間に巨大な手刀が下ろされた。拳藤だ。

 

 物間はそこに崩れ落ちる。踏んだり蹴ったりであるが自業自得だろう。

 

「ごめんな、A組。こいつ、ちょっと心がアレなんだよ」

 

 拳藤が謝罪の言葉を口にする。

 

「あー別にいいぜ、拳藤」

 

「あ、後知り合いの先輩から実技試験のこと聞いたんだけど入試の時のような対ロボットとの演習訓練らしいよ」

 

「あ、そうなの?」

 

 響香が言う。ロボットの演習試験…か。

 

「全く拳藤は…、せっかくの情報アドバンテージを言っちゃって、A組を出し抜いてやるチャンスだったのに」

 

「うるさい!」

 

 物間は再び撃沈した。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「んだよ、ロボならラクチンだぜ!!」

 

 俺が拳藤から聞いた情報、期末試験が対ロボット演習であると聞いて上鳴が喜びの声を上げる。芦戸も同じようだ。

 

 二人とも個性が強力なだけに対人では加減が難しいため、ロボット相手ならば小難しいことを考えなくて済むと楽観視していた。

 

 彼ら二人だけではない、A組全体にどことなく安心感が漂っている。

 

「一応言っとくが、あくまで例年だぞ」

 

 そんな中俺はそう言った。

 

「やけに例年を強調するな」

 

 そう聞いたのは障子だった。

 

「気付いてくれたか障子、確かに拳藤の言葉に嘘はないと思う。けど俺たちはUSJの襲撃や職場体験でヴィランの襲撃に巻き込まれた、まあ職場体験は飯田の暴走が原因だが」

 

「うぐッ!しかし何も言い返せない…」

 

 飯田にグサッと刺さる言ったが、気にしないように俺は続ける。

 

「こんな年は今までなかった、それでウチの先生たちが何もしないと思うか?」

 

 ピタと、上鳴芦戸の動きが止まる。両腕は喜びを表して高々と上がっているのに、表情だけが絶望に染まっている。セリフを入れるなら、「マジで?」だろう。

 

「予想だったら、より実戦的な対ヴィランを想定した内容だろうか。それも、こちらのことをしっかり把握した相手だ。弱点を露骨に突いてくるんじゃないかな」

 

「考えすぎとは言えないよ。最近はヴィランが活性化している話もあるし、ここは雄英だし」

 

 出久が俺の考えに同意する。

 

「やること多すぎね!?」

 

「普通に授業受けてりゃ、赤点は出ねえだろ」

 

 轟が言うが上鳴は悲鳴を上げる。

 

「言葉には気をつけろ轟ぃ! チキショウ、演習試験もヤベーじゃねえか!」

 

「お前らは個性の制御、大変そうだしな」 

 

 障子の言葉通り、上鳴にせよ芦戸にせよ、出力に気を付けなければ相手に重症を負わせてしまいかねず、下手をすれば命にも関わる。

 

「最悪の場合だと…先生たちとの直接対決もあると思う」

 

「マジで!?」

 

「そうだ、上鳴。ある程度のハンデは付けてくれると思うけどな」

 

「そうなったら、めっちゃヤバいよね…」

 

「まあ、気を抜かないことだ。油断したらやられると思っておいたほうがいい」

 

 そう言ってその場は終わった。



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44話

 筆記試験を終え、遂に演習試験がはじまる。

 

 八百万の勉強会による成果を発揮して俺たちのテンションは上がっていたが、コスチュームを纏えばその表情は引き締まる。

 

「それじゃ、演習試験始めるぞ。当然この試験にも赤点はある。林間合宿行きたきゃ、みっともないヘマはすんなよ」

 

 そう言った消太さんの背後には、大勢の教師の姿があった。

 

「先生多いな…?」

 

「これ牙那の予想通りなんじゃ…」

 

 葉隠と響香の言葉に、生徒全員が嫌な予感を覚える。それを見てとったのか、消太さんの口元がニヤリと歪む。

 

「諸君なら情報を仕入れているとは思っていたが、ちゃんと油断せずにいたようで嬉しいよ、俺は」

 

「そう! 今年からはより実戦的な内容に変更しちゃうのさ!」

 

 相澤の首に巻かれた捕縛布からひょこりと顔を出したのは、ネズミなのか犬なのか熊なのか、よくわからないながら、"ハイスペック"の個性を発現させた根津校長である。

 

「校長先生!?」

 

「…ずっとそこでスタンバってたんですか?」

 

「ツッコんじゃだめさ、我羅琉君!…これからは、より対人戦闘・活動を見据えた、より実戦に近い教えを重視するのさ。というわけで。諸君らにはこれから、二人一組でここに居る教師1人と戦闘を行ってもらうよ!」

 

 校長先生の言葉に、俺たちの間に緊張が走る。

 

 しかし、動揺は無い。

 

「おや、これも予想されていたかな?」

 

「…最悪の可能性ですが。」

 

「ソイツは何よりだ。更に嬉しいお知らせだが、既にペアの組み合わせと対戦相手は決定している。存分に君らの弱点を攻め抜くつもりなので、喜んで構わんぞ」

 

「ルールは簡単。30分の制限時間内に、"特製のハンドカフスをつける"もしくは、"どちらか1人が演習ステージから脱出する"だ」

 

 そのルールの意図にいち早く気付いたのは、ヒーロー殺しに出会った3人。

 

「実力差が大きいなら、逃げて応援呼ぶ方が懸命、ってことですか」

 

「轟の言う通り、その辺の判断も求められるワケよ! 何せ相手はチョー格上!」

 

「格……上……? あんまマイク先生が活躍してるイメージ無いんスけど」

 

「ダミッ! ヘイガール!」

 

 響香のさりげない言葉の槍に貫かれて声を荒げるプレゼントマイクを華麗に無視して、消太さんの説明は続く。

 

「まあ、普通なら逃げ一択だ。そこで、教師側は、体重の約半分ある重りをつける」

 

「戦闘を視野に入れさせる為か。……ナメてんな」

 

「さて、そいつはどうかな。……じゃ、発表していくぞ」

 

 そして、明かされた組み合わせは次のような具合だ。

 

 一戦目。切島、砂藤対セメントス。

 

 二戦目。蛙吹、常闇対エクトプラズム。

 

 三戦目。飯田、尾白対パワーローダー。

 

 四戦目。轟、八百万対イレイザーヘッド。

 

 五戦目。俺、麗日対13号。

 

 六戦目。芦戸、上鳴対根津校長。

 

 七戦目。口田、耳郎対プレゼントマイク。

 

 八戦目。障子、葉隠対スナイプ。

 

 九戦目。瀬呂、峰田対ミッドナイト。

 

 十戦目。爆豪、緑谷対オールマイト。

 

「それじゃあ、早速始める。切島と砂藤はバスに乗れ。他はモニターで参考にするなり作戦を練るなり、好きにしろ」

 

 それだけを言い残し、セメントスは2人の生徒と共にバスへ、残る教師たちもそれぞれに去って行く。

 

「牙那君、どうする?」

 

 俺とのコンビになった麗日が俺に近づいてきて言う。

 

13号先生か…、少なくとも波導弾とか遠距離で攻撃する技は使えねえしな、ちょっと考えよう。

 

 

 



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45話

 やっぱりバトル描写って難しい…。UAが60000を越えました!これからも頑張って参りますので応援よろしくお願いします。


 演習試験がスタートした。

 

 俺と麗日は13号先生の射程外へと離れ、作戦を考える。

 

 俺たちの姿が見えなくなったことにより13号先生はゴール付近へ向かったようだ。

 

「逃げの一手がいいと思うけど牙那君はどう思う?」

 

「賛成だが…、おそらく先生はゴール付近に行ってる。クリアするならどっちみち先生を倒さなきゃなんねえ」

 

「つまり、逃げても真っ向から勝負しても最終的には一緒ってこと?」

 

「そういうことだ」

 

 麗日の疑問に答えながら俺は続ける。

 

「…やるとしたら一人が先生を無理矢理ゴールから引き剝がして、その隙にもう一人がゴールするかだな」

 

「え…、牙那君やるの?」

 

「…やるしかねーだろ。俺を誰だと思ってるんだ?」

 

 俺は笑いながら言う。

 

「…でも、それなら私も先生と戦いたい!牙那君に全部任せるわけにはいかんよ」

 

「…13号先生と戦える理由は?」

 

「え、13号先生のブラックホールは逃げるのはしんどいけど、近づけばその個性も使えなくなるんじゃ…」

 

 麗日が言うが俺はそれを否定する。

 

「それは13号がヒーローならって話だ。今回の俺たちの状況を考えてみろ」

 

「えーと…、私たちとヴィランを想定した先生が戦うってことだったはず…」

 

「そうだ、だから余り近づけないんだよ。今回のあの人はヒーローの13号じゃなくてヴィランの13号。ヒーローを殺すっていう選択肢も考えてることも視野にいれないと。殺さないっていう前提はないものって思った方がいい」

 

「た、確かに…」

 

 俺の説明に麗日も納得したようだ。

 

「それに、麗日みたいに個性でスピード上げれる奴じゃないといわないよ。俺もその辺りを考えてないわけじゃないしさ」

 

「分かった、牙那君お願い!」

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 麗日と話をした後、俺は13号先生と対峙している。ちなみにブラックホールの射程圏外だ。

 

「13号先生そこどいてもらえますか」

 

「それはできないよ。麗日さんはどうしたの?」

 

「役だとしてもヴィランに教える情報なんてあると思いますか?」

 

「フフッ、それもそうか」

 

 13号先生と軽い会話をした後、俺は戦闘態勢に入る。

 

 

 

「Transform,エルレイド!」

 

 

 

 俺が変身したのはやいばポケモンのエルレイド。エスパータイプと格闘タイプを併せ持つ珍しいタイプのポケモンだ。

 

「変身ヒーローキバナ!一対一(タイマン)張らせてもらうぜ!!」

 

「かかってくるがいいさ!」

 

 そう言って13号先生はブラックホールの範囲に入れようと俺との距離を近づけてくる。

 

 だが今の俺はエルレイドだ。13号先生の考えが俺の頭の中に入ってくる。それを読んだ俺は13号先生にこの技を放つ。

 

「いわなだれ!」

 

 先生の上から夥しい数の岩を落としていく。

 

「無駄だよ!」

 

 だがそれはブラックホールで次々に吸い込んでいく。

 

 …でも、それが防がれることは知っている!

 

 俺はテレポートで13号先生の懐に入る。

 

「ローキック!」

 

 13号先生は近くの建物にぶつかる。

 

「今だ、麗日!」

 

「分かった!」

 

 …この距離ならブラックホールは届かない。個性で自身の体を軽くした麗日は一気に駆けていく。

 

「いかせない!」

 

「それはこっちの台詞っすよ!」

 

 13号先生がブラックホールを届かせようとするが俺がその進路を阻むような位置をとる。チッ、大分引っ張られる…!

 

 近くにあったガードレールを掴んで飛ばされないようにして俺は攻撃する。

 

「ストーンエッジ!」

 

 地面から刃のように尖った岩を呼び起こし先生を吹っ飛ばす。

 

「サイコキネシス!」

 

 さらに俺はサイコキネシスで13号先生を地に伏せる。

 

 結構強めで抑えてないと動かれる。力セーブされてるとは言えさすがの力だ。

 

 俺たちの作戦はここから抜けて動かれたら終わる、鍵となるのはいかに先生に仕事をさせないかだ。

 

 そしてその間に麗日がゲートを走り抜ける。

 

『麗日・我羅琉ペア、条件達成』

 

「よっしゃあ!」

 

 ゲートから聞こえる合格の合図と麗日の喜びの声が聞こえた。まずは安心した。

 

 こうして俺と麗日は期末テストをクリアした。

 

 

 




変身ヒーローキバナ!一対一(タイマン)張らせてもらうぜ!!…元ネタは如月弦太朗(仮面ライダーフォーゼ)の「仮面ライダーフォーゼ、タイマン張らせてもらうぜ!!」。タイマンといえばこのひとのイメージ。

エルレイドの理由…特攻は高くないがサイキネ・いわなだれ・ストーンエッジ・ローキックをすべてレベルorマシン・レコードで覚えることができるという点で採用。同じタイプのチャーレムだとサイキネを覚えなかったのでこっちに。


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46話

 

「皆…。土産話、ひぐっ。楽しみに、うう…。してる、がらぁ…」

 

 芦戸が泣いている。演習試験を終えた教室では、クリア出来なかった4名が悲しみに満ちた表情であった。

 

「ま、まだわからないよ。どんでん返しがあるかも知れないし……」

 

「緑谷、それ口にしたら無くなるパターンだ……!」 

 

 出久の励ましも、瀬呂によって止められてしまう。

 

「試験で赤点とったら林間合宿行けずに補習地獄! そして俺らは実技クリアならず! これでまだわからんのなら、貴様らの偏差値は猿以下だ!」

 

「落ち着けよ、長えし。それだったらわかんねえのは俺もさ。峰田のおかげでクリアしたけど寝てただけだ」

 

 確かに、瀬呂はクリアしたがそれは峰田が機転を聞かして突破したからだ。スタート直後から寝かされていた瀬呂もわからないだろう。

 

「安らかな寝顔だったな、瀬呂」

 

「死んだみたいな言い方やめろ」

 

「同情すんなら何かもう色々くれ!」

 

 上鳴の悲痛な叫びに紛れてチャイムが鳴った。

 

「予鈴が鳴ったら席につけ」

 

 そしてそれと同時に消太さんが入ってくる。

 

 俺もすぐさま席に戻る。

 

「おはよう。今回の期末テストだが、残念ながら赤点が出た。したがって…

 

林間合宿は全員行きます!

 

 

 

「「どんでんがえしだあ!!」」

 

 

 

 喜びのあまり、実技未クリア4名の拳が天高く掲げられ、叫び声が教室に響く。 

 

「筆記の方はゼロ。実技で芦戸、上鳴、切島、砂藤、あと瀬呂が赤点だ」

 

「……確かにクリアしたら合格とは言ってなかったもんなあ……。クリアできずの人より恥ずいぞコレ」

 

 両手で顔を覆う瀬呂。なんていったらいいかわからねえ…。

 

「今回の試験、我々ヴィラン側は生徒に勝ち筋を残しつつ、どう課題と向き合うかを見るよう動いた。でないと課題云々の前に詰む奴らばかりだったろうからな。

 

 そもそも強化合宿なんだ。赤点とったヤツこそここで力をつけてもらわなきゃならん。実力を最大限に引き出す合理的虚偽ってやつさ

 

「「ゴーリテキキョギィィッ!」」

 

 …またっすか消太さん。別にいいですけど。

 

「またもしてやられた…! しかし先生! 2度も虚偽を重ねられると、信頼に揺らぎが生じるかと!」

 

「わあ、水差すね飯田くん」

 

 挙手し立ち上がる飯田とそれを突っ込む麗日は相変わらずだった。

 

「確かにな、省みるよ。だが、何も全部ウソってわけじゃない。赤点は赤点だ。お前らには別途に補習時間を設けている。ぶっちゃけ、学校に残っての補習よりキツいからな」

 

 あ、補修メンバーの顔が一気に青ざめていく。消太さんはそれを気にせずに淡々と進める。

 

「じゃあ、合宿のしおりを配るから」

 

 俺たちの目の前にはしおりが配られていった。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「まあ、何はともあれ皆で合宿行けて良かったね」

 

 響香が言う。まあまずはそれだろう。

 

「まあ消太さんがああいうぐらいだ。しっかり絞られて来い」

 

「絞られないって選択肢はねえの!?」

 

「ないな」

 

 俺の言葉に上鳴が悲鳴を上げるが俺はそれを否定するように答える。

 

「まずここは雄英だぞ、お前ら。雄英の強化合宿が生半可なわけもないし、全員キツいと思うけどな」

 

「苦難上等よ!」

 

 既に切島は気合充分のようだ。それに頷き返す奴も数名いる。

 

「1週間の合宿か……!」

 

「結構な荷物になるね」

 

「水着とか持ってねーや。色々買わねーとな」

 

「暗視ゴーグル」

 

「峰田は少し黙っていろ」

 

 周りの話が活発化していく。常闇のダークシャドウによって峰田が捕われても、誰もリアクションはしなかった。

 

「じゃあさ! 明日休みだし、テスト明けだし、ってことで、皆で買い物行こうよ!」

 

「おお良い! 何気にそういうの初じゃね?」

 

 手を打ったらしい葉隠の言葉に、我先にと賛成したのは上鳴。それに続くように、あちこちから賛同の意見が出てくる。買い物か…。

 

「おい爆豪! おめえも来い!」

 

「行ってたまるか、かったりい」

 

 切島が誘うが勝己は案の定だ。

 

「轟はどうすんの?」

 

「…母さんの見舞いに行く。すまねえ」

 

「そうか」

 

 俺が聞くが、轟も同じようだ。

 

「ねーねー、我羅琉はどうすんの?」

 

 芦戸が聞いてくる。

 

「悪いけど俺もパス」

 

「えー、我羅琉君も行こうよー」

 

 俺の断りに葉隠が文句を言うが俺は続ける。

 

「今、金あんまねーんだよ。できる限り出費は抑えたいしそれに…」

 

「それに?」

 

「ウチの姉に学校ない日は特訓してやるって言われてんだよ。断ったらどうなるかわかんねえ…」

 

「「ああ…」」

 

 俺の言葉に納得したのは出久と響香の瑠莉姉のヤバさを知っている奴だけだった。

 

「お前の姉さんってそんなにやべえの…?」

 

 上鳴が恐る恐る聞いてくる。

 

「ああ、勝己を"個性"なしで捻れる程度…だな」

 

「「やべえな、オイ!?」」

 

 周りから驚きの声が上がる

 

「アレだったら来るか?いつもの雄英のハードさの10倍は軽く超えるけど」

 

「「絶対ヤダ!!」」

 

 教室内にクラスメート達の悲痛の叫びが聞こえた。

 



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Breakthroughする林間合宿
47話


 

 A組の生徒らが行った買い物は、事件によって中断されたようだ。

 

 ヴィラン連合の死柄木弔。

 

 追われる立場であるはずの男が、人でごった返すショッピングモール内で出久に接触したらしい。

 

 周囲の一般人を守るべく冷静に対処した出久と、通報した麗日のおかげで被害らしいものは無く、警官の出動によって多少の混乱が起きた程度で済んでいた。

 

 だが、それは世間的な話である。

 

 当事者となってしまった出久は聴取に多くの時間を取られてしまったし、他の生徒たちにとっても他人事ではないのだ。

 

「…ってワケで、ヴィランの動きを警戒して例年使わせていただいている合宿先を急遽キャンセル。行き先は当日まで明かさない運びとなった」

 

 …そー来ますか。

 

 そんなことがあったが夏休みが始まった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 とある日、いつも通りの特訓をしていた俺のスマホに通知が来ていた。

 

「学校のプールで特訓?」

 

 見れば上鳴と峰田が言いだしたらしい。

 

 …絶対女子の水着目当てだなコレ。

 

 それで二人だけじゃ消太さんに疑われるから出久っていう真面目組も誘ったか。

 

 瑠莉姉にどうしたらいいか聞くと「今日ぐらいは行ってきていいよ」との言葉をもらったので学校に向かうことにした。

 

 

 

「競争すんの?」

 

 プールで体を動かし、影で一休みしているときに飯田が言い始めた。

 

 周りも乗り気のようなので俺もやることにした。

 

 一組目は勝己が個性で空中を飛んでいき勝己がそのまま一位でフィニッシュ。

 

 続いて二組目、俺、瀬呂、轟、切島、砂藤。

 

 合図は八百万がやってくれている。女子メンバーは日光浴でプールの使用許可を取っていたようだ。

 

 まあ、素早い水ポケモンにするか。

 

「Transform,フローゼル」

 

 今回変身したのはうみイタチポケモンのフローゼル。みずタイプのスピードアタッカーだ。

 

「よーい、スタート!」

 

 合図と同時に俺は勢いよく水に飛び込む。

 

 そのまま俺は尻尾を高速回転させてスピードをグングン上げていく。

 

「アクアジェット!」

 

 俺は水流の勢いのようにゴールに突っ込んでいく。

 

 水面を凍らせて進んで行く轟との勝負になり、結果はギリギリ俺の勝利だった。…勝己の時にも思ったのだが泳がないってのはありなのか。

 

 次の組は出久と飯田の一騎打ちとなったが出久が個性を発動して一位。

 

 そして決勝。相手は勝己と出久になった。

 

 スタートの合図が聞こえ、さっきと同じようにやろうと思ったのだがそれは出来なかった。

 

「17時。プールの使用時間は今終わった。全員とっとと家に帰れ」

 

 消太さんが個性で俺たちの個性を消したのだった。

 

 周りのクラスメイトは文句をいったが消太さんの「何かいったか?」ですぐに従った。

 

「後、牙那、お前着替えたら職員室に来い」

 

「えー、なんすか」

 

「いいから、とっとと着替えろ」

 

「はーい」

 

 …何だろうか、まったく身に覚えがない。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「で、話ってなんですか?」

 

 職員室に行くと消太さんのほかにB組の担任のブラドキング先生もいた。

 

「単刀直入に言う、林間合宿、先にここに行っておいてくれ」

 

「え、ここって…」

 

 記された場所はワイプシのヒーロー事務所だった。というか合宿先ここかよ!?

 

「ってかなんで俺だけなんですか!?」

 

「向こうからのご希望だ。本当だったらお前も他の奴らと一緒に連れていきたかったんだがな」

 

 ブラド先生が俺に向かって言う。

 

「お前、あっちで何してきやがった…」

 

 そして消太さんが言う。今回は何も心当たりがないんですが!?

 

「まあ、そういうことだ。後絶対に他の奴にバラすなよ」

 

「分かってますよ」

 

 

 



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48話

 林間合宿初日…のその前日。

 

 俺はワイプシ事務所を訪れていた。まさかこの短期間に2回も来ることになるとは…。

 

 前に来た時と同じようにインターホンを鳴らして事務所に入る。

 

 まあ一か月じゃ何も変わらないか。

 

 俺は椅子に座ってマンダレイに話を聞く。

 

「俺を先にこっちに来させた理由って何なんですか?」

 

「実はね、今回の合宿の初日に雄英のみんなに森の中通ってここまで来てもらおうって思ってるんだけどさ、それを手伝ってほしくて」

 

「森の中って…どこからですか?」

 

「職場体験の時に行ってもらったとこ。全員あそこからスタートしてもらうよ」

 

 あそこかよ…。職場体験中のある日、車で連れ出されたと思えば崖の上の広場で降ろされた。

 

 そこからピクシーさんの個性で崖下に落とされ、事務所に戻るまでに5時間かかった。いやー、遠かった。

 

 5時間かかったというのもただ向かっただけなら3時間くらい短縮できたかもしれない。だがピクシーさんの操る土の化け物によってすごい邪魔をされ、5時間かかってしまった。

 

 それをあいつ等にやらせるというのだ。6・7時間は越えてくるだろう。それを手伝えって…。

 

「あのー、それならピクシーさんだけでいいんじゃないですか?俺がいる意味がないような…」

 

 俺の質問にマンダレイが答える。

 

「それがさ、ある程度は強いやつがほしいの。彼女の個性でできた奴はそこまで耐久力がないし。それで君に頼んだの。君ならある程度は抑えてくれるでしょ?」

 

「まあそうですけど…、到着次の日になっても知りませんよ?」

 

 俺は渋々頷いた。

 

「あ、それとコレなんだけどさ」

 

「…何ですかそれは」

 

 マンダレイが取り出したのはメインはオレンジで構成されたワイプシのヒーローコスチュームの色違いだった。

 

「何って…君の分のコスチュームだけど?」

 

「はい!?」

 

 俺のだと!?

 

「き、着ませんよ!つかなんで着ないといけないんですか!?」

 

「ホラ、学ぶには形からって言うじゃない」

 

「じゃあ、なんで職場体験の時じゃないんですか!?」

 

「そのときは君の体型とかわかってなかったからね。あの後メーカーに注文したんだよ」

 

 あ、そういえば…、

 

「着いて身長とか体重とかいろいろ測られたのって…」

 

「コレ用だね」

 

 騙された!

 

「と、とにかくです。俺絶対そんなの着ませんからね!?」

 

「えー、でも瑠莉奈にも聞いたら『自由に着せ替え人形にしちゃっていいですよ』って言ってたから」

 

 あのバカ姉貴!なんてこと言っちゃってくれてんだよ!?俺のことも考えろ!

 

 とりあえず、ここから出よう!

 

 俺は急いで事務所を出ようとしたが玄関のドアを開けると土の塊で出れなかった。…ピクシーさんの個性だろう。

 

 ってか、閉じ込められたし!?

 

「さあ、牙那くーん」

 

「さっさと捕まってもらうよー?」

 

 ラグドールさんも出てきた!虎さんも後ろで黙りながら佇んでるし!

 

 

 

「絶・対、いやですー!」

 

 

 

 その後は事務所内でドッタンバッタン大騒ぎとなったが最終的4人に捕まって人形にされた。

 

 その一部始終を見ていた洸汰は「ヒーローが人を襲っていいのかよ…」と思ったらしい。

 

 見てたなら助けてくれ…。

 




ドッタンバッタン大騒ぎ…元ネタはアニメ「けものフレンズ」OP「ようこそジャパリパークへ」。本文内を形容するとまさにこの状態。


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49話

 

 遂に合宿初日である。

 

 俺は無理矢理ワイプシコスチュームに着替えさせられて、消太さんたちと集合予定の広場に連れて来られた。ちなみに来ているのは俺とマンダレイさんとピクシーさんと洸汰。

 

 そうこう話をしているうちにバスのエンジンの音が聞こえてきた。来たようだ。

 

 バスが止まり、長時間のバス移動で凝り固まった体をほぐしながらA組のみんなが降りてくる。雄英からだったらバスは長いよな…。

 

「あれ、ここパーキングじゃなくね?」

 

「つかB組は?」

 

 アイツらがそう思うのもその通りだろう。ここは山あいの開けた広場のようになった場所だ。遠くまで広がる森林と山々が一望できる、長閑で見晴らしの良いところではあるが休憩所のような施設はおろか自動販売機の類のものもない、何もない場所だ。そこにあるのはバスと一台の自動車だけである。

 

「煌めく眼でロックオン!」

 

「ふとした時にやってくる!」

 

「キュートにキャットにスティンガー!」

 

「「「ワイルドワイルド、プッシーキャッツ、Withキバナ!」」」

 

 効果音が付きそうなの迫力でポーズを決めた。A組メンバーは一瞬フリーズ状態になっているような表情をしていた。

 

「我羅琉…、何やってるんだ?」

 

 そんな中、口を開いたのは轟だった。それを聞いてA組のみんなの表情が元に戻る。

 

「…恰好は気にすんな、ヤケだヤケ」

 

 消太さんもそんな俺を気にせずにワイプシの二人を紹介する。

 

「今回お世話になる、"プッシーキャッツ"の皆さんだ」

 

 それを聞いた後出久がいつものヒーローオタクっぷりを発揮するように語り始める。

 

「連名事務所を構える4名1チームのヒーロー集団! 山岳救助等を得意とするベテランチームだよ! キャリアは今年で12年にもなる──へぶっ!」

 

「心は18ィ!」

 

 ピクシーさんの触れてはいけないとこに触れてしまったようだ。出久はピクシーさんの猫を模した手による掌打を顔面に受ける。

 

 そしてマンダレイさんが説明を始める。

 

「ここら一帯は私らの所有地なんだけどね。あんたらの宿泊施設はあの山の麓ね」

 

「「遠っ!」」

 

 改めて見てみる、…やっぱ遠いな。マンダレイさんが指し示したのは全景が見えるほどの距離にある山。クラスの大部分が反応する。

 

「え、じゃあ何でこんな半端な所に」

 

「…いやいや」

 

「バス、戻ろうか? …な、早く」

 

 雄英に入って僅か数か月ではあるが、思う存分に雄英のやり方を体験してきたから分かる。アイツらはとてつもなく悪い予感がしただろう。

 

「今は9時30分。早ければぁ…。12時前後くらいかしらん」

 

「いやーこいつらでもさすがにそれは無理でしょ。俺でも5時間かかったんですよ?早くて15時ぐらいじゃないっすか?」

 

 マンダレイさんと俺の薄っすらとした笑みがあいつらにその予感が間違っていないことを悟らせる。

 

「ダメだ、オイ……!」

 

「戻ろう!」

 

「バスに戻れ! 早く!」

 

 その行動は迅速なものだった。

 

 だが遅い。軽やかな動きで俺とピクシーさんが進路を塞ぎ妨害する。

 

「12時半までに辿り着けなかったキティは、お昼ごはん抜きね」

 

 ピクシーさんの手は大地に添えられ、俺は変身態勢に入る。

 

「Transform,ピジョット!」

 

 俺が変身したのはとりポケモンのピジョット。鳥ポケモンの中でバランスに取れた種族値が特徴のポケモンだ。

 

 ピクシーさんの手が添えられた地面は大きく盛り上がっていく。俺は大きく翼を動かし突風を起こす。

 

「悪いね諸君。合宿はもう、始まっている」

 

 消太さんが呟く。そして俺とピクシーさんが連携する。

 

「いくよ、キバナ!」

 

「分かってます!」

 

「「合技、土流大嵐!」」

 

 ピクシーさんの土流と俺の風起こしの二つを合わせた技によってA組の面々を崖下に落とす。

 

「私有地につき、個性の使用は自由だよ! 今から3時間、自分の足で施設までおいでませ!

 

 この"魔獣の森"を抜けて!」

 



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50話

 

 A組の面々が下に落とされた後、上に残った5人は先に宿舎に戻ってきた。

 

 バスに残されたA組の面々の荷物を降ろして待つこと3時間。

 

 リミットの12時半を過ぎたが来る気配は全くない。

 

 マンダレイさんとピクシーさんが近くにいないことを見計らって俺は消太さんに話しかける。

 

「消太さん、やっぱり急すぎるんじゃないですか?」

 

「無茶は承知だ。ヒーロー仮免、ヴィランが活性化してる今、俺たちがあいつらを守ってやるのも限界がある。自分の身は自分で守れるようになった方がいい。お前も分かってんだろ」

 

「確かにそうですね、ヴィラン連合の台頭、ステインの思想の伝播…、今までだったら結構単純な奴多かったですけど、考えてくるヴィランも多くなってきましたよ」

 

 最近のヴィランの数は増えている。特にステインの事件の後から。それだけステインの思想に魅了された奴が多いってことだろう。

 

「やっぱりか」

 

「後、〆たヴィラン達から聞き出したんですけど、ヴィラン側にもブローカーってのがいるみたいです」

 

 ヴィランのブローカー、裏の世界の人間にとっては有名らしい。

 

「ヴィランのブローカーか、俺も一度聞いたことがあるな」

 

「消太さんもっすか」

 

 やっぱ消太さんも知ってたか。

 

「あの時は噂だけだと思ったが本当にいるんだな」

 

「ええ、そいつがもしヴィラン連合と連携してるとしたら…」

 

「考えたくもないな、恐らく次くるならもっと鍛えてきて、一筋縄じゃ行かないだろう」

 

「ええ、俺ももっと上達しないといけませんよ」

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 空が段々と赤く染まってきて、ようやくA組の面々がやってきた。

 

 各々の体はまさに満身創痍の状態だった。ほとんどの面々が続々と地に倒れていく。

 

「お昼は抜くまでもなかったねえ」

 

「何が…3時間ですか…」

 

「腹減った…死ぬ…」

 

「悪いね。"私たちなら"って意味なの、アレ」

 

「ちなみに俺でも5時間かかったからなー」

 

 マンダレイさんと俺が言う。だがそれに答えられる奴は多くない。

 

「ねこねこねこ。でも正直、もっとかかると思ってた。私の土魔獣が簡単に攻略されちゃった。いいよ、君ら。…特に、そこの4人。躊躇の無さは"経験値"によるものかしらん?」

 

 独特な笑い方でピクシーさんが指さす先に居るのは、飯田、轟、爆豪、それに出久。

 

 勝己はもとから観察眼が鋭い、他の3人もステインとの遭遇を経験していたりと戦闘経験が豊富なやつらだ。

 

「3年後が楽しみ! ツバつけとこー!」

 

「うわぁっ!?」

 

「何しやがる!」

 

 ピクシーさんが物理的に4人にツバをかけていく。それを止められる余裕のあるやつはいない。

 

 その後、マンダレイが洸汰を紹介したとき事件は起きた。

 

 年端もいかない少年の拳が、出久に突き刺さる。

 

 男性の急所、股間に。

 

「おのれ従甥! なぜ緑谷くんの陰嚢を!」

 

 飯田が駆け寄った頃には、出久は壮絶な表情で倒れ伏していた。…アレは絶対痛い。

 

 その後、一応大事には至らなかった出久を含めて、夕食で周りの全員が空腹で物凄くおかしなハイテンションになってしまったこともついでに言っておこう。

 

 

 

 



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51話

 

 夕食を食べた後、俺たちA組の面々はのんびりと風呂に入っていた。

 

 ほとんどの面々はそれぞれのやり方でリラックスしているが一人は違った。

 

「まぁまぁ…。ぶっちゃけね、メシとかはどうでもいいんスよ…。求められてんのはそこじゃないんスよ。わかってるんスよその辺、オイラァ…。求められてんのはこの壁の向こうなんスよ…」

 

「1人で何言ってんの、峰田くん……」

 

 腰にタオルを巻いたまま仁王立ちする男、峰田である。

 

「ホラ…。居るんスよ、今日び。男女の入浴時間ズラさないなんて、事故。これはもう、事故なんスよ…」

 

 峰田が耳を当てた先からは可愛らしい声が聞こえていた。別に耳を当てるまでもなく普通に聞こえるのだが。

 

「オイ、峰田。馬鹿なことはやめておけ」

 

「そもそも! 君のしようとしている事は己を貶める、恥ずべき行為だ!」

 

 俺と飯田が忠告するが本人は知らん顔だ。

 

「やかましいんスよ…」

 

 なんかやたら穏やかな顔してやがる。

 

「壁とは越える為にある! Plus Ultra!」

 

「速っ!」

 

「校訓を穢すんじゃあないよ!」

 

 瞬きする間に、峰田は自身の個性をもぎって壁に貼り付け、軽々と壁を登っていく。お前、その速さヒーロー活動に使えよ!

 

 峰田の手が一番上にかかろうという瞬間、にゅっと小さい存在が現れる。

 

「洸汰君!」

 

「ヒーロー以前に、人としてのアレコレから学び直せ」

 

「……まったくだ」

 

「子供に言われるのはどうなんだ」

 

 聞こえてきた言葉に男子一同が頷いている合間に、峰田の手が叩き飛ばされる。

 

 手を外されるとどうなるか、言うまでもなく落ちていく。

 

「くそガキィイイィイイ!?」

 

 断末魔…のように聞こえた罵声と共に落下していく峰田を助けようと動いたのは、生憎と飯田だけだった。

 

 まあ自業自得だろう。

 

「ありがと、洸太くーん!」

 

 だが、女湯からかけられた声に振り返ってしまった洸汰がバランスを崩し、落ちていく様を見たのなら黙ってはいられない。

 

 峰田を助ける体制に入っている飯田を除き、周りが救助の体制にはいる。

 

 出久が個性で強化された腕力で飛び込み、しっかりと洸汰をキャッチする。

 

「ナイス緑谷!」

 

「待って、洸太くん意識無い!」

 

 この状況に俺は指示を出す。

 

「出久、絶対に揺らすなよ!その状態で動かすと命に係わるかもしれねえ!プロの力を借りるぞ!」

 

「了解!」

 

「常闇、ダークシャドウで出久ごと運べ!」

 

「承知!」

 

「瀬呂と砂藤、入り口まで通路の確保!」

 

「分かった!」

 

「おうよ!」

 

 しっかり出久が脱衣所をを出て駆け出していくのを全員が確認する。

 

 そして俺は今回の騒動の元凶になった気絶をした一人の男の前に行く。

 

「Transform,カラマネロ」

 

 俺はぎゃくてんポケモンのカラマネロに変身する。

 

 こいつは俺の変身できるポケモンの中で最も強力な催眠術使いだ。

 

「さいみんじゅつ」

 

 俺は峰田に対し催眠をかけておく。とりあえず今日の晩の間は苦しみ続けるだろう。

 

「なあ、我羅琉、アイツにどんな催眠かけたんだよ、聞いたことないようなうめき声だしてるぞ」

 

「まあ分かりやすく言えば…、自分の目の前にオカマでデブでブサイクな奴がひたすらキスを迫ってくるって感じのやつだな」

 

「「うわあ…」」

 

 一同が引いたような声を上げたが峰田への同情の声はなかった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 翌朝、午前5時30分。夏らしくなってきた今の時期、空は既に明るく、山からは朝日が顔を覗かせている。

 

 うーん、やっぱ気分が清々しいな。まあ流石に早すぎたのか半数近くの生徒は寝ぼけ眼だが。

 

「おはよう、諸君。本日から本格的に強化合宿を始める。合宿の目的は、"全員の強化"並びに、それに伴う"仮免の取得"だ。具体的になりつつある脅威に対して、立ち向かうための準備だ。心して臨むように。んじゃ、爆豪。コイツを投げてみろ」

 

「え、牙那じゃないんですか?」

 

 切島が言う。最初の個性把握テストの時は俺が投げたのだから当然の質問だろう。

 

「こいつは例外だ、成長度合いが分かりやすいのが爆豪なだけだ。ホラ」

 

 勝己に渡されたのは全員が見覚えがあるボール投げ用の距離測定機能付きソフトボールである。

 

「入学直後の記録は705.2メートル。どんだけ伸びてるかな」

 

「おお! 成長具合か!」

 

「この3ヶ月色々濃かったからな! 1キロとかいくんじゃねえの!」

 

「よっしゃ行ったれバクゴー!」

 

 何人かの声援を受けながら、勝己は肩を回して準備をする。勝己の顔には不適な笑顔が浮かぶ。

 

「んじゃあ、よっこら─くたばれぇ!」

 

 爆発音を残し、ボールが空高く飛んでいく。

 

 物騒な掛け声にも全員が慣れ切ってしまったのだろう。驚く奴はいなかった。

 

「709.6メートル」

 

 そこに出された記録は予想を大きく下回るものだった。余り入学したときと変わってはいない。

 

「約3ヶ月間、様々な経験を経て、君たちは確かに成長している。だがそれは、あくまで精神面や技術面、知識面と後は、多少体力的なものがメインで、"個性"そのものは今見た通りそこまで成長していない。…だから、今日から君らの"個性"を伸ばす。死ぬほどキツいが、…くれぐれも死なないように

 

 消太さんが不敵な笑みを浮かべる。やっべえことになりそうだな、コレ。

 

 

 

 



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52話

 

 早速言わせてもらおう…、やべえコレ。

 

 個性の限界を超えるため、俺がやっているのが…、

 

「まだまだァ!はっけい!」

 

 ひたすらに技を放っている。

 

 俺の放てる技には限度がある。変身リレーをするとそれはもとに戻るのだが、下手に変身できない場合、若しくはそのままで戦ったほうが都合がいい場合などのとき、限界を迎えて戦うことができなくなることは避けなければならない。そのために必要なことだ。

 

 俺が放っている技は「はっけい」だ。俺が良く使うコジョンドのときに最も使う技である。

 

 とにかくひたすら放つ。俺が今回することはそれだけだ。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 夕方になり訓練を終えた俺たちは続々と宿舎へ帰ってきた。

 

「さァ昨日言ったね。『世話焼くのは今日だけ』って!!」

 

「己で食う飯くらい己でつくれ!! カレー!!」

 

 ピクシーボブとラグドールの声と共に俺達に提供されるカレーの材料。

 

 そう、野外調理の時間だ。まあ合宿らしいが。

 

「「「イエッサ…」」」

 

 まあA組B組共々、死屍累々と言った感じだが。

 

「さぁ、皆! 気合を入れて! A組より美味いカレーを作るよ!」

 

 B組は拳藤が檄を入れ、B組の奴らの目に光が戻っていく。アイツはB組の柱になってやがるな。

 

 じゃ、俺たちもやるか。

 

「飯田、まだやれんだろ、檄飛ばしてやれ」

 

「うむ! さぁ、皆! 世界一美味いカレーを作るぞ!」

 

「「「おぉー!!」」」

 

 やっぱ飯田って便利。

 

 

 

 俺たちはそのまま調理工程に入っていく。

 

 メインになったのはカフェで手伝い経験のある俺、親がいなくて弟たちのためによく作るという蛙水、個性柄よく甘いものを作る砂藤、後は…、

 

「…勝己、頼めるか」

 

 色々とやらせるまでに面倒臭い勝己だ。

 

「なんで俺がやらないといけねえんだ」

 

「えー、勝己ならやってくれると思ってたんだけど」

 

 その後俺は勝己から目を離して…、

 

「じゃ、勝己以外のやつに頼もうk「貸せや!調理し殺したるわ!」…よし」

 

 これで後は何とかなるな、うん。

 

 その後蛙水と勝己が指揮をとり、砂藤と俺はそれぞれのサポートに入る形で、カレーは出来上がっていった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「アレ、我羅琉じゃんどうしたの?」

 

 夕食後、俺は風呂の前に来ていて拳藤に話かけられる。ちなみに女子風呂だ。

 

 …勘違いはするなよ。峰田を抑えるためだ。昨日洸汰の事件があり、俺が抜擢されたというわけだ。消太さん直々に…である。

 

「拳藤か。ウチの性欲の権化対策で置いとかれたんだよ。勿論だが覗いたりはしねえ」

 

 ちなみにジャローダに変身している。決め手は素早さとつるによる自由度だ。

 

「またまたー、そういって興味あるんじゃないのー?」

 

 芦戸がニヤニヤしながら言ってくる。

 

「バカ言え、こちとら女の裸ぐらい見慣れてんだよ、うちの姉のおかげでよ」

 

「「「え…」」」

 

 女子陣が一気に黙る。

 

「ま、まさか牙那…」

 

 響香が俺を蔑する目で俺を見る。

 

「落ち着け!瑠莉姉が昔から風呂上りに裸で歩きまわるんだよ。何回言っても治らなかった。…もう慣れたがな」

 

「あ、うん」

 

 麗日が申し訳なさそうに言う。

 

 さて…と。

 

「そこだな!」

 

「グエッ!」

 

 俺は自分から伸ばしたつるでしっかりと峰田を確保する。

 

「じゃ、俺はこいつを連れてくから安心して風呂入っといていいぞー」

 

 ちなみにしっかりと首を絞めている。殺さず且つ生かさずの力加減だ。

 

 俺は峰田を締め上げたまま、その場を後にした。コイツもよくやるよ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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53話

 合宿3日目。

 

 相変わらずの個性伸ばし訓練の続きだ。

 

 全員昨日に比べて動きがにぶってきている。昨日の疲れがとり切れてないのもあるだろう。

 

 特に補習組は体が重そうだ。大分遅くまで座学があったようだ。実技実習だけならまだ体を動かすだけだからまだいいだろうが、疲れた体に座学はキツイ。ちなみに散々煽っていた物間も補習だったらしい。

 

 そんな中、ピクシーさんが口を開く。

 

「ねこねこねこ…それより皆!今日の晩はねぇ…クラス対抗肝試しを決行するよ!」

 

 そうだ、そういえばそんなのもあったな。

 

 周りの面々も合宿がキツすぎて忘れていたようである。

 

「というわけで!今は全力で励むのだぁ!!!」

 

「「「イエッサァ!」」」

 

 周りの声が再び上がる。俺的には面倒くさいけど、まあ頑張るか。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 そして3日目の夜。夕食後…、

 

「腹もふくれた!皿も洗った!お次は…」

 

「肝を試す時間だー!」

 

「「「「試すぜー!」」」」

 

 案の定はしゃいでる。…特に補習組が。まあキツイ練習が終わって楽しい時間だからわからなくもない。

 

「その前に大変心苦しいが補習連中は…これから俺と補習授業だ」

 

 

 

「「「ウ・ソ・だ・ろー!?」」」

 

 

 

 うわ、これはやべえ。

 

「すまない、昼の訓練が思ったより長引いた。代わりにこれを削らせてもらう」

 

 消太さんがいつもの冷静なトーンで話す。

 

「「「試させてくれー!」」」

 

「ドナドナド~ナ…」

 

「「「我羅琉その歌悲しくなるからやめてえ!」」」

 

 俺が口ずさんだ歌に補習組が反応する。まあ仕方ないだろう。

 

 補習組はまるで断末魔の様な、しかし何とも珍妙な言葉だけを残して、消太さんに連行されていく。

 

 万が一の巻き添えがくるのを恐れてかどうかは分からないが、地面に引き摺られた痕跡を残して去っていった彼らに、救いの手が差し伸べられることはなかった。

 

「はーい、というわけで、脅かす側の先攻はB組。A組は2人一組で、3分おきに出発。ルートの真ん中に名前の書いたお札があるから、それを持って帰ること!脅かす側は直接接触禁止で、個性を使った脅かしネタを披露してくるよ!」

 

「創意工夫でより多くの人数を失禁させたクラスが勝者だ!」

 

「やめてください、汚い」

 

 ワイプシの二人の説明に響香が嫌そうな表情を隠そうともせずツッコんだが、他のメンバーもドン引きしていた。

 

 うーん…。

 

「あの、逆に驚かし返すのはありっすか?」

 

 俺はそう思ったので聞いてみる。

 

「牙那君、何するつもりやの?」

 

 俺の言葉に麗日が聞いてくる。

 

「まあ俺の変身できる奴にはそういうのもあってだな…「後攻の時に思いきりやって」あ、はい」

 

 言ってる間にマンダレイに止められた。残念だな。

 

「万が一、やったらぶっ刺すからね」

 

 その後、響香からも止められた。まあしかたないだろう。

 

「じゃ、ペア決めのくじ引きするよー!」

 

 ちょっと待て、確かクラスは全員で20人。で、補習で抜けさせられたのが切島、砂藤、上鳴、瀬呂と芦戸の5人。

 

 ってことは奇数になるから…、

 

 そしてくじ引きの結果…、

 

(余った!)

 

 出久が余った。なんかこういうときに出久ってこういうのを結構喰らってるようなイメージがあるんだよな。

 

「我羅琉さん、よろしくお願いしますわ」

 

「ああ、こっちこそ頼むよ八百万」

 

 ちなみに俺は八百万との組になったとだけ言っておこう。

 

 

 

 



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54話

 星明かりの下、俺と八百万は森の中を歩く。

 

「次は何が来るんでしょうか…」

 

 八百万が俺の右腕を掴みながら言ってくる。八百万も肝試しみたいなことはやったことがないらしく、始まる前は凄いわくわくしていた素振りをしていたが、驚かされ続けて折り返し地点では既にこの状態になっていた。

 

「まあ、そこまで怖いのは来ねえだろ。小大と鉄哲のやつには驚いたがな]

 

「あれでも十分怖かったのでしたが…」

 

 今回のは心霊現象ってよりいかに相手を驚かせるかだからな。俺的にはそこまでだ。

 

「我羅琉さんってこういうものの経験ってあるのでしょうか?」

 

「ないな」

 

「にしてはやけに落ち着いているように見えるのですが…」

 

「まあ、経験だよ」

 

 俺の言葉に八百万が返す。

 

「え、さっきないって…」

 

 まあそうだろう。経験がないって言ってたやつがすぐに経験だと言ったのだから。

 

 八百万の言葉に続けて俺は言う。

 

「確かに肝試しの経験はねえよ、でも俺、それ以上の経験してるからよ。多少のことじゃ怖いと思えなくってさ」

 

「…昔、何かあったのですか?」

 

 その答えとして、俺は八百万に対してこう言う。

 

「…聞きたいのか?」

 

 俺は八百万を真剣な面持ちで見つめる。

 

「…いえ、失礼しましたわ」

 

「…そうしてくれた方が俺としても助かるよ、余り話したくはない」

 

 俺はその話からしばらく経った後、森の中のある異変に気付く。匂いが妙な感じがするのだ。こんな感じの匂いはこの辺りでは嗅いだことがない。

 

 …やべえかもな。ちょっとぴり付く感じだ。

 

「…八百万、今すぐガスマスクって作れるか?」

 

 俺は八百万に伝える。

 

「え、急にどうしたのですか?作れないことはありませんが…」

 

「作れんだな?」

 

 俺は再び真剣な顔を八百万に向ける。

 

「は、はい!」

 

 俺は八百万に向けてこう告げる。

 

「八百万、緊急事態だ。急いでガスマスクを作ってくれ。命にかかわってくるかもしれねえ」

 

「わ、わかりました。何が…」

 

「ヴィランが来た。これで分かってくれ」

 

 俺は最低限の言葉で八百万に伝える。

 

 その言葉に八百万が反応する。

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「ああ。しかも結構ヤバめのやつっぽいな、毒使いかよ…」

 

 俺はさっきのことを思い出す。確かさっきいたのは…

 

「泡瀬!出てきてくれ!緊急事態だ!」

 

 俺の声に泡瀬が出てきてくれる。まずはよかった。さっき俺は泡瀬達に驚かされた。そこまで怖くはなかったが。

 

「が、我羅琉!どうしたんだよ!」

 

「説明は後だ、今はコレ付けろ!」

 

 俺は泡瀬に八百万が作ったガスマスクを付けながら、泡瀬にも渡す。

 

「泡瀬、お前って大体B組が隠れてる所ってわかるか?」

 

「あ、ああ」

 

 俺は泡瀬の返答に続ける。

 

「八百万、お前は泡瀬と一緒にB組の連中にガスマスクを渡してきてくれ」

 

「わ、分かりました。我羅琉さんは…」

 

「俺は葉隠と響香に渡してくるよ、まだそこまで俺たちと離れていないはずだ」

 

 このガスが漂ってきているのが、俺たちが通ってきた方向だ。状況は俺たちより悪いかおしれない。

 

「八百万、泡瀬、そっちは頼んだ!」

 

「任された!」

 

「そちらもお願いしますわ、我羅琉さん!」

 

 俺は二人の声を聴きながら今来た道を一気に駆け戻っていく。頼むから無事でいてくれよ…!



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55話

 

 俺は来た道を駆け戻っていく。目標の二人の姿はすぐに見えた。

 

「響香、葉隠」

 

 俺が見つけたのは、意識を無くした葉隠と響香の姿だった。

 

「脈は…二人ともまだあるな、最悪の事態までは行かなかったか」

 

 俺は二人にガスマスクをつける。これ以上ガスを吸わせないためにもできる限りのことをしないと。

 

 

 

「Transform,エルレイド」

 

 

 

 俺はエルレイドに変身し、この技を放つ。

 

 

 

「ミストフィールド」

 

 

 

 俺はミストフィールドを展開する。これが広がっている間は状態異常になることがないというものだ。

 

 

 

「いやしのはどう」

 

 

 

 そして俺は二人の体力を回復させる。とりあえずこれだけやっておけば命は助かるだろう。

 

 二人を脇に寄せて俺は敵のところへ向かおうとしたところガサッっという音が聞こえた。

 

 俺は警戒態勢に入る。だがそれは杞憂に終わる。

 

「え、我羅琉!?」

 

 拳藤だった。八百万からもらったのであろうガスマスクを装着している。

 

「拳藤、お前らは大丈夫か?」

 

「うん、さっき八百万に会ってコレ貰ったんだよ。私も手伝って周ってるんだ」

 

「よかった、…拳藤、ちょっとこの二人頼めるか?」

 

「え、我羅琉はどうするの?」

 

 拳藤は俺に聞いてくる。

 

「俺はこの毒ガス出してるやつを止めてくる。恐らくこの近くにいるはずだ」

 

 さっきまでいたところに比べるとこの辺りはガスが深くなっている。近くにいるだろう。

 

「分かった、…でも無理はしないでよ」

 

「ああ、必ず生きて帰ってくるよ」

 

 俺は変身リレーの体制に入る。

 

「Retransform,ルカリオ!」

 

 俺はエルレイドからルカリオにリレーする。

 

 波導ポケモンのルカリオは波導を使いこなすポケモンであり、格闘タイプのほかに、毒を無効化できる鋼タイプも兼ね備える珍しいタイプ構成のポケモンでもある。

 

 

 

「神速!」

 

 

 

 俺は目にも止まらぬ速さで駆け出した。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 俺は「神速」で移動しながら敵を探す。こういうときに役に立つのがルカリオが感知できる波導の力だ。

 

 波導はあらゆる存在しているものが放っているオーラのようなものだ。勿論人間も波導を放っているのでそれを探知すれば居場所が分かる。

 

「…見つけた」

 

 俺は邪悪な波導を放つ人間を見つける。近づくとさらにガスが深くなっていく。間違いなくコイツだろう。

 

「…グロウパンチ!」

 

 俺は敵の方向へ殴りかかる。

 

「…単純だな」

 

 だが俺の攻撃はかわされる。結構不意突いたと思ったんだけどな。

 

「このガスはさァ、僕から出て僕から操ってる。君らの動きが揺らぎとして、直接僕に伝わるんだよ」

 

「…お前がこのガスまき散らしてるやつだな」

 

「だったら、何?…雄英の生徒かなんだろうけどお前のことは見たことないね。体育祭でも活躍できなかったヒーロー科の落ちこぼれかな」

 

 俺のこの姿を余り見せてなかったことが功を奏したか。基本はコジョンドとかだったからな。結果的にはよかったことになるか。

 

「あー、外れだ、折角A組の奴らと戦えると思ってたのに、どうせなら1位の我羅琉牙那と戦いたかったな」

 

「しょせん、お前はあの程度でも活躍できない落ちこぼれ。今なら見逃してやるからとっととどっかに行ってくれ」

 

 ヴィランが俺を挑発してくる。その我羅琉牙那が俺なんだけどなー、…笑えてくるよ。

 

 …でもこいつの言ってることは間違ってる。明らかにB組及びA組の活躍できなかった面々を侮辱した。

 

「なあ、ヴィランさんよ」

 

「ああ?さっさとどっか行ってくれよ」

 

 

 

 

 

「…俺は今から怒るぜッ!!」

 

 

 

 

 

 …アイツらだって自分のなりたいヒーロー像に向けて頑張ってる。アイツらを侮ったことは後悔させてやらねえとな。




俺は今から怒るぜ!!…元ネタはポケモンBW2のヒュウの「オレはいまから怒るぜッ!!」。大体この時点でキレている。本文内でも言ったときには既にキレてる。


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56話

 

 

「怒る?なら見せてみろよ、落ちこぼれ野郎が!」

 

 俺が言った瞬間、ヴィランからさらに多くのガスが放たれ、視界が一気に見えなくなる。

 

 だが、今の俺に視界なんて必要ない、…もとい、いらない。

 

「ラスターカノン!」

 

 俺はラスターカノンを相手にぶつける。

 

「ぐッ、なんで分かる…」

 

「残念だったな。今の俺に視界なんて必要ねえんだよ。波導さえあればお前の位置はわかる」

 

「後、なんで僕のガスが効いてねえ!もう人間なら致死量に至ってるはずだぞ!」

 

「お前は金属に毒を試したことがあるか?今の俺の体は金属の組織になってる。そんな奴に毒が効くと思うか?」

 

「なら…!」

 

 …なるほどね。

 

 アイツは拳銃を取り出す。そしてすぐに弾丸が放たれる。

 

 ギィン!

 

 俺の体と弾丸の金属がぶつかり合う音がぶつかる。なんだこの程度かよ。

 

「な、なんでだ!この弾丸は…」

 

「そこそこ強い銃でも貰ったか?俺にそんな子供だましは効かねえぜ」

 

 並大抵の銃じゃこの体は傷つかない。ルカリオの良いところだ。

 

「どうだ?お前が落ちこぼれって侮った奴に全く攻撃が効かないのは?」

 

「うるせえ!お前みたいな単細胞がさァ! 学歴だけで! チヤホヤされる世の中って! 正しくないよなァ!」

 

 アイツはブチギレたみたいだ。幼稚だわ、こんなやつ。

 

「確かにな。学歴だけでちやほやされてるヒーローはみたいなやつはいくらでもいる。だがな、それ相応になるような努力をしてる。そうじゃねえとヒーローになんかなることはできねえよ」

 

 俺は力を貯めていく。

 

 

 

「…はあああッ、波導弾!

 

 

 

 俺はフルパワーの波導弾を放つ。

 

 ギュオッと唸るような轟音を立てて進んで行く。

 

 …だがそれは相手には当たらない。

 

「くそっ、危なかった…」

 

 ギリギリ躱したみたいだ。そこそこやるか。

 

「お、お前の波導弾ってのも役に立たねえみたいだな!当てられなけりゃ、どんな攻撃も意味ないからね!」

 

 …やっぱり甘いな。

 

「…どこを見ているんだ?」

 

「何だと…グアッ!」

 

 ヴィランは攻撃を受けたようだ。波導弾は俺が狙った相手に当たるまでは追尾し続ける。それを回避し、その後の軌道を見抜けなかったようだ。

 

「さあ、終わりにしようか!」

 

 俺は一気に相手の懐に入る。

 

「そんなガスマスク付けてねえで一緒に吸おうぜ!」

 

 俺は一気に攻撃を相手の体に何回もぶち込んでいく。

 

「オラオラオラァ!インファイトォ!!

 

 ヴィランは攻撃を受けて吹っ飛び、大きな轟音を立てて地面にぶつかる。そこには大きなクレーターのようなものが出来上がった。

 

 そして今までこの辺りを満たしていたガスは一気に晴れる。まずはこれで一安心だ。

 

 

 

「Trans,オフ」

 

 

 

 こんなんで俺に挑もうとか、…舐めプもいいかげんにしやがれ。

 

 俺はしっかりとヴィランが気を失っていることを確認して縛りつける。

 

 …銃も回収しておこう。ヴィラン連合のトップがこんなのを回収しに来るとは思えないが。

 

 他の所はどうなってるんだろうか。移動している間に消太さんが個性の使用許可を出したみたいだが、不安でしかない。

 

 むしろ消太さんがそこまで言うってことは相当ヤバいってことだ。俺は何とかなったが…。

 

 とりあえず、響香たちの所に戻ろう。ただでさえあの場所で拳藤を待たせてるんだ。

 

 俺は響香たちがいる場所へと歩みを進めた。

 

 

 



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57話

 

 俺は拳藤達がいる場所に戻ってきた。

 

「悪い、拳藤。今戻った」

 

「毒晴れて来たからやったとは思ってたけど…、やっぱ強いねアンタは」

 

「当然の結果。俺がこんなとこで負けるかっての」

 

 拳藤が俺に聞いてきたがなんてことないように俺は返す。

 

「…拳藤、お前にも心配かけちまったな」

 

「いいよ、別に。おかげでこれ以上ガスを気にしなくてよくなったんだからさ」

 

 まあ、それならよかったよ。拳藤も後ろに一人抱えてる。負担は大きくなっただろう。

 

「じゃ、私はそろそろ行くよ」

 

「え、そうなのか?」

 

「我羅琉とあっただけだったからね。他のメンバーも気になるしね」

 

「あ…、それは悪いことをしたな」

 

 確かに会ったときは誰かを探してるようだったからな。

 

「良いって、私も助けられたし」

 

「ああ。だが気を付けろよ、どこにいるかわからねえからな」

 

「うん、そっちもね」

 

 そう言って俺と拳藤は別れた。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 俺は息を潜める。

 

 ヴィランがいてその上に出久たちがのしかかるような感じでやってきた。

 

 ヴィラン達と出久たちの話を聞いている限り、勝己と常闇が相手に奪われたみたいだ。

 

 勝己と常闇は相手の手の中で球状にされているらしい。

 

 …奪うしかねーか。幸い俺には気づいていないみたいだしな。

 

 

 

「…Transform,エルフーン」

 

 

 

 俺はかぜかくれポケモンのエルフーンに変身する。

 

 こいつはどんな隙間にも入ることができるポケモンだ。

 

 

 

「…どろぼう!」

 

 

 

 俺は一気に相手との距離を詰めて、相手から球状のものを奪う。

 

「これは返させてもらったぜ、ヴィランさんよ」

 

「お前知ってるぜ?誰だ!」

 

 全身をラバーの服を着た男が俺に言ってくる。

 

「そこらにいるヒーロー候補生だ。お前らも知ってるはずだ」

 

「牙那君!」

 

「よお出久。話は聞いていたからな」

 

「よくやった我羅琉、逃げるぞ!」

 

 障子が俺に言う。だが…、なんかコレ違和感があるな。

 

「Retransform,プクリン」

 

 俺はプクリンにリレーする。

 

「…ちっ、コレ勝己達じゃねえな」

 

 俺はプクリンの特性「おみとおし」を発動し見抜く。

 

「インチキ野郎、勝己達をどこにやりやがった」

 

「インチキとは言ってくれる。だが…正解だよ。ダミーだ」

 

 そう言ってヴィランは舌を出す。

 

 そこには俺が奪った玉のような物が二つある。

 

「くっそ!!」

 

 そして俺たちが再び動こうとしたとき、ヴィラン達の後ろの空間が歪む。

 

「合図から5分経ちました。行きますよ、荼毘」

 

「っ!ワープの…」

 

 黒霧が姿を現した。

 

「種は割れちまったが…トリックは成功だ。そんじゃーお後がよろしいようで…っ!?」

 

 

 

「行かせるかァ!」

 

 

 

 俺はハイパーボイスを放つ。

 

 それによって相手は二つの玉を落とす。

 

「ぐッ、頭が…!」

 

「全然効かねえなァ!くっそなんだコレ頭割れる!」

 

 

 

「今だ、轟、障子!」

 

 

 

 俺の声が森に響く。

 

 障子はしっかり掴んだ。

 

 だが…、

 

「くそっ頭が…だが貰ったぞ。哀しいなあ…轟焦凍」

 

 轟は届かなかった。

 

 その後、荼毘の合図で個性をとき常闇は救出したが勝己一人がさらわれてしまった。

 

「かっちゃん!!」

 

「来んな…デク」

 

 出久の叫びは闇に虚しく響いた。

 

 



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Rescueしなければならない作戦
58話


 林間合宿が最悪の形で幕を閉じた。

 

 雄英側としては起こる筈がないと思っていたのだろう。まあその通りだとは俺も思う。

 

 もとから合宿先を知っていたのは計画した雄英の教師陣と受け入れたワイプシの4人、後は先に向かっていた俺だけである。

 

 これから分かることが一つある。

 

 

 

 …内通者がいるということだ。

 

 

 

 教師側か生徒側か、どっちに潜んでいるのかは分からない。でもいることは確かである。

 

 少なくとも俺がこの数ヶ月間で怪しい奴は見当たらなかった。隠れるのがうまい。

 

 俺たちはいくつかの条件をのみ、帰ることが許された。

 

 帰った後、俺は改めて瑠莉姉に特訓を申し入れた。

 

 その後はずっと特訓である。

 

 

 

 ある日、葉隠と響香の見舞いに来た時に切島から声をかけられた。

 

「我羅琉、お前、俺たちと一緒に来てくれないか?」

 

「何?」

 

 切島が言うことには、勝己を助けるため八百万に受信機を作ってもらい、情報をもとにその場所に行くというものだ。

 

「お前も爆豪を目の前で攫われて悔しいだろ、我羅琉!まだ手は届くんだよ!」

 

 確かにな…。

 

「他に行く奴は?」

 

「確定してるのは轟、後は緑谷と八百万が保留中だ」

 

 切島に聞けば出久の所に見舞いに行ったとき一度提案したみたいだが、みんなには否定されたようだ。

 

 まあ、そうだろう。切島がやろうとしてることは極めてアウトローに近いものだ。

 

「お前には覚悟があるのか、切島」

 

 俺は切島に向かって言う。そのまま俺は続ける。

 

「お前がやろうとしてることはヴィランと同じだ。下手すりゃヴィランと同じ扱いされるかもしれねえんだぞ」

 

「ああ、今爆豪を助けなきゃ男でもヒーローでもなんでもねえよ」

 

 俺は少し黙った後、口を開く。

 

「…分かった、乗らせてもらうよ」

 

「本当か、我羅琉!」

 

「ああ、だが絶対に対人で個性を使わないって誓えるならな。消太さんの戦闘許可はもう切れてるからな」

 

「…ああ、分かったよ」

 

 切島達に俺のような道は歩んでほしくない。だからこそだ。

 

 俺みたいなやつは俺一人で十分だ。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 その夜。来たのは俺と切島、轟、出久、八百万、そして飯田だった。

 

 飯田は俺たちのことが心配できたらしい。

 

 それもそうだろう。飯田としてはステインとやり合ったとき止めてくれたのは轟と出久らしい。

 

 色々あったが八百万と飯田が万が一のストッパー役としてくることになった。

 

 だったが俺は言う。

 

「…飯田、八百万、来るからには聞いておく。意志はあるんだよな?」

 

「「…っ」」

 

「お前らが今から行くところは学校みたいに安全が保障されてる場所じゃねえ、まぎれもなく戦場だ」

 

 そして俺は告げる。

 

「お前らに助けるって言う意思がなきゃ死ぬ可能性が高い。俺らが戦闘を避けた所で向こうは手を出してくんだ。中途半端な『ストッパーになる』っていう気持ちじゃあ行くだけ無駄だ」

 

「ちょっと牙那君…」

 

 出久が俺に言ってくる。それに俺は返す。

 

「事実を言ったんだよ、俺は。そんなんじゃ逆にピンチになる可能性の方が高いっていうのが今回の作戦だ」

 

 少し黙った後、飯田と八百万が口を開く。

 

「僕はっ…!僕は彼を!爆豪くんを助けたい!」

 

「わ、私も爆豪さんを助け出したいですっ!」

 

 二人の目には紛れもなく意思が宿っていた。

 

「それならいい、二人とも。後は…」

 

「『助けたい』じゃねえ、『助ける』んだ。この作戦、絶対成功させるぞ!」

 

「「「おう!」」」

 

 俺たちは一つに纏まった。…待ってろよ勝己。

 

 

 

 



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59話

 

 作戦が決行された。

 

「いいですか?発信機の示した座標は神奈川県横浜市神野区」

 

「詳しいところは分かるのか?さすがに神野区っていうだけじゃ探せねえぞ」

 

「ええ、発信機は神野区のこの地点の建物の中にあるということまで示しておりますので」

 

 さすがだな、オイ。

 

「ここからだと2時間くらいか」

 

「大体午後10時頃の到着ですね」

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 …そして電車に揺られながら2時間。俺たちは神野に到着した。

 

 それにしても人が多い。

 

「あの、皆さん。私たちは周りに顔を知られています。見つかって騒ぎになってはいけません。そこで分からないように変装をしていきませんか?」

 

「そうだな。俺たちの顔は体育祭やらいろいろなところでで知られてる。俺もできる限り隠れて周りにもヴィランにもバレないようにしていくのが得策だと思う」

 

 八百万と俺の発言に対し切島が言う。

 

「でもよ、変装なんてどうするんだ?俺たちそんな服もってねえぞ?」

 

「八百万が服を作るのか?」

 

 轟もそれに続く。

 

「いえ、それについては私行ってみたいところが…」

 

 八百万は俺たちとは違う方法を考えているようだった。

 

 

 

「で、なんだこの格好は?」

 

 俺は安物のスーツと眼鏡を組み合わせたサラリーマンスタイルに身を包んでいる。

 

 そのほかの面々は出久がヤンキー風、轟はホスト風、といったようなところだ。

 

 これは某激安店でかき集めたものである。

 

 …八百万が作ればよかったのかもしれないが八百万が「何このピュアセレブ」状態になっていた。お嬢様の八百万にとっては一度行ってみたかったのだろう。

 

 この統一感もないバラバラな集団を傍から見ればなんの集まりかわからないだろう。

 

 …まあ、それで話しかけられないことを思えばいいのだが

 

「お?雄英じゃん」

 

 そんな中、どこかから声が聞こえてきた。

 

「あ、コラァ!」

 

 ヤンキー風に言った出久をはじめ、全員がその声に反応する。

 

 だがその人物が言ったのは街頭テレビについてであった。

 

『では先程行われた雄英高校謝罪会見の一部をご覧下さい』

 

 そこには消太さんとブラド先生、それに根津校長が会見を開いている姿であった。

 

 ビルについている大きなモニターに会見の様子が映し出された。

 

 進んでいくに連れてモニターを見上げている人たちから野次が飛ぶ。

 

 だが仕方がないことではあるがプロヒーローとしては結果が全て。

 

 じゃあ逆にお前らが守れるのかと思い、腹が立ってしまうが、守れなかったのは事実だ。

 

 今の空気はこの今の個性社会、特にヒーローに対する猜疑心で包まれている状態だ。

 

 このままだとヴィラン連合の思いのままになる可能性が高い。

 

 恐らくアイツらが望んでいるのは今のこの社会の崩壊だ。

 

 今ここに流れているその空気はそれに繋がっていくものだろう。

 

 俺たちヒーロー側としてはそれを再びヒーローが必要とされる社会が求められる空気に変えなければならない。

 

 俺たちは誰も何も発さないまま非難の声が響くその場所を後にしていった。

 

 

 

 

 



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60話

 

 俺たちは発信機が示す場所に到着した。

 

 何かを作る工場のようだが…。

 

 そんな中、切島があるものを取り出す。

 

「なんだそれ、切島」

 

「暗視鏡だ、必要になるかなって思ってな」

 

 切島が暗視鏡を持ってきていたようだ。そこそこな値段のはずだが…。

 

「っ…!?」

 

 見ると切島が信じられないようなものを見たような表情をしている。

 

「どうした?」

 

「脳無がいた…!」

 

 脳無だと!?

 

「Transform,レントラー」

 

 俺はがんこうポケモンのレントラーに変身する。

 

 こいつは透視能力を持っているのが特徴だ。

 

 俺はすぐに透視能力を発動させてその場所を見る。

 

 …脳無を作っている工場みたいだな。脳無が大量に機械の中に居やがる。

 

 少なくともここがヴィラン連合の中核の場所であることは間違いないみたいだな。

 

 俺たちが見ていると隣の建物から大きな声が聞こえてきた。

 

「でえええい!」

 

 声の主はMtレディだった。巨大化した彼女が一気に足を振り下ろし、周りには建物が崩れる轟音が響き渡る。

 

 周りを見てみるとベストジーニストやギャングオルカ、それに虎さんもここにきているようだ。

 

 …どうやらあの消太さんたちの会見はブラフの意味もあるようだ。ヴィラン側も会見を行っている当日中に攻めてくるとは思っていなかっただろう。

 

 俺たちはそれを見て安心し、帰ろうとしたときだった。

 

「チッ、お前ら伏せろ!守る!

 

 その瞬間…今まであったものがなくなっていた。

 

「あ、ありがと牙那君…」

 

「礼はいらねえ。音を立てるな」

 

 実際俺も結構ギリギリなタイミングだった。もしかしたら発動できていなかったかもしれねえ。

 

「せっかく弔が自身で考え、自身で導き始めたんだ。出来れば邪魔はよしてほしかったな」

 

 そして今まで建物があったところには一人の男が佇んでいた。

 

「さて…やるか」

 

 周りに絶望を与える男、オールフォーワンが立っていた。

 

 アイツが瑠莉姉が言ってたやつか…。

 

 確かにやべえオーラしか放ってねえ。今まで戦ってきた奴らに比べたら半端ないもんだろう。

 

 だが、俺は戦えねえ。今の俺はドラゴストームじゃねえ、ヒーロー候補生の我羅琉牙那だ。

 

 ここで出て行くことも選択肢としてはあるだろう。だがそれは俺を表に表すということ。雄英に批判的な声が多い雄英にとってはさらに評価を下げてしまうことを考えればできない。

 出久たちはそれを見て恐怖で体が動かなくなっているみたいだった。

 

 その間にも他のヒーロー達を自らの個性でギリギリで回避させたベストジーニストに迫る。

 

「君の個性は弔とは性が合わなさそうだ」

 

 その声とともにジーニストにとどめを刺す。

 

 ジーニストでも大分強いのにマジかよ…。

 

 あそこまでトップヒーローを捻れる奴はここにはいないだろう。

 

 …そうしているうちにヴィラン連合の面々がやってきた。…勝己も一緒に連れて来られたみたいだ。

 

 ってことは他にヒーロー達が攻めている場所があったということ。いつ来る…?

 

 今、俺が戦えたら…。

 

 違う、そんなことを考えても意味がねえ。

 

 考えろ、ここから戦わずに離脱する方法を…。

 

 

 

 

 



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61話

 

 ヴィラン達が現れてから数十秒後、オールマイトがここにやってきた。

 

 オールマイトとオールフォーワンの戦いが始まり周りには一気にその衝撃波が広がる。

 

「5年前と同じ過ちは犯さん、オールフォーワン」

 

「爆豪少年を取り戻す!そして貴様は今度こそ刑務所にぶち込む!貴様の操るヴィラン連合もろとも!」

 

 オールマイトが一気に勢いをつけて距離を詰める。

 

 だがオールフォーワンは落ち着いた口調で返す。

 

「それは…やることが多くて大変だな。…お互いに」

 

 オールマイトは一気に飛ばされる。空気を押し出すってやつを筋力増強でさらにパワーアップ。なんでもありかよ…。

 

「オールマイトォ!」

 

 勝己が叫ぶ。まああれぐらいならオールマイトが死ぬことはないだろうが…。

 

「ここは逃げろ、弔。その子を連れて」

 

 オールフォーワンはそう言いながら、黒霧に対し個性を強制発動させて、ワープゲートを展開する。

 

 …まずいな。このままだと勝己を連れていかれる。ここから再び攫われたとしたら勝己の場所を探しあてるのは不可能に近いだろう。

 

 ここで取り返さないとゲームオーバー。なんとかしないと。

 

 …だが、俺たちは戦えねえ。どこかに隙はねえのか…。

 

「牙那君、みんな!」

 

 そのピリピリとした空気の中で出久が口を開く。

 

「だめだぞ、緑谷君…」

 

 飯田が言う。戦うとでも言い出すと思ったのだろうか。

 

「違うんだよ、あるんだよ!決して戦闘にはならない、僕らもここから去れる、それでもかっちゃんを助け出せる方法が!」

 

「本当か出久、言ってみてくれ」

 

 俺が出久に対して言う。出久は続ける。

 

「うん、だけどこれはかっちゃん次第でもあって…、この策だと僕じゃ成功しない。だから切島君、君が成功率を上げる鍵だ」

 

 切島…か。確かにこいつは数少ない勝己と対等な関係の一人だ。

 

 勝己のプライドは並大抵のもんじゃない。下に見てるやつに助けられるのは間違いなく屈辱だ。それなら自分でなんとかしようとするだろう。

 

「かっちゃんは相手を警戒して、距離をとって戦ってる。タイミングはかっちゃんとヴィランが2歩以上離れた瞬間」

 

「博打ではあるが…、状況を考えれば俺たちへのリスクは少ない…。何より成功すれば、すべてが好転する…」

 

 出久の言葉に飯田が返す。…それしかねえな。

 

 俺たちは出久の作戦に乗ることにした。

 

 今、俺はレントラーからTrans状態を解除していない。リレーなら電気とエスパーか。

 

 

 

「Transform,ライチュウ,アローラ」

 

 

 

 俺はねずみポケモンのアローラライチュウに変身する。コイツは唯一のでんきタイプとエスパータイプの二つのタイプをかけ持つポケモンだ。

 

 さあ、やるとしますか。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 まずは出久と飯田で推進力を産み出す。

 

 そして切島の硬化で壁をぶち抜く。

 

 その瞬間、轟が氷でできる限り高くなるようにしたジャンプ台を作る。

 

 ジャンプ台を作ったことによって少し遅れた轟を俺がサイコキネシスで浮かびあがらせ、集団に入れる。

 

 そしてそのまま戦場を上から横断する!

 

 ヴィラン達はまだ俺たちには気付いてねえ。今ならアイツらを出し抜ける!

 

 そして今、オールフォーワンはオールマイトを食い止めてる。なら逆もそうだ。

 

 そして勝己の直上を通過しようとするとき切島が叫ぶ。

 

 

 

「来ぉい!!」

 

 

 

 こいつの呼びかけなら勝己は来てくれるはずだ!

 

 俺たちの思惑は当たり、勝己は爆破を起こして上に飛び上がる。…来てくれたか!

 

「…バカかよ」

 

 そして今勝己の手が切島によってがっちりとつかまれる。

 

「今だ、牙那君!」

 

 出久から声があがる。

 

「了解したぜ!絶対全員俺から手を離すなよ!」

 

 全員が誰かしらを通じて俺に触っていることを確認してから俺は叫ぶ。

 

 

 

「テレポート!!」

 

 

 

 俺はテレポートを発動させ、俺たちは戦場から離脱した。

 

 

 



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62話

 

「こ、ここは…」

 

「俺ん家だ、八百万。テレポートを使ったら絶対ここに帰ってるって言う仕様になってるみたいでな」

 

 八百万の疑問に俺が返す。

 

 あの戦場となっていた神野の地から勝己を含む俺たちは俺の家にワープした。

 

「勝己、連合のやつらに薬とかは盛られてないよな」

 

「…ああ、別に体弄られたりはしてねえよ」

 

 俺は勝己に聞いておく。

 

 万が一洗脳やらをされていたら再びあっち側に行ってしまう可能性がある。まずは一安心だ。

 

 俺は話を続ける。

 

「言っておくが、ここは少なくとも雄英並みには安全だ。この夜の間は安全のためにもここにいてほしい」

 

 だが俺は後ろから近づく存在には気付いていなかった。

 

「…アンタが何えらそーに言ってんの!」

 

「痛てっ!」

 

 俺は後ろから手刀を頭に受ける。

 

「全く、夜なのに下がうるさいって思ったら…」

 

 …瑠莉姉だ。

 

「別にいいじゃん、瑠莉姉。文句はないんだろ?」

 

「ここは私の持ち家。アンタのじゃないから。…勝己、無事でなにより」

 

 俺が文句を言うが軽くいなすように瑠莉姉は言う。…瑠莉姉も勝己のことは心配だったようだ」

 

「…アンタに心配されるほど弱くねえ」

 

「そっか。まあコイツもさっき言ったけどここにいる限りは安全は私が保障するよ」

 

「あ、ありがとうございます…」

 

 瑠莉姉の言葉に切島が答える。

 

「さて、アンタ達はこれ見なくていいの?」

 

 瑠莉姉がそう言いながらテレビをつける。

 

 そこに移っていたものはというと…、

 

「うそだろ、アレがオールマイトなのか…」

 

「体がいつもの体型じゃないし…」

 

 オールマイトの体は筋骨隆々のマッスルフォームではなく、やせ細ったトゥルーフォルムとなっていた。…ここでかよ。

 

「アレがオールマイトの本当の姿。今までは時間制限がありながら、その制限の中でヒーロー活動をやっていたの。…本当にすごい人だよ」

 

 瑠莉姉が言う。あの姿を知っているのはヒーローや公安の中でも数少ないメンバーしか知らない。

 

 俺はヴィラン退治をしているときに見てしまったことがあるから知っているだけであり、瑠莉姉は昔からオールマイトとは連絡を取り合ってる。俺の雄英入学のときにもいろいろと確認したらしい。

 

 …今ここで平和の象徴であるあなたが倒れてしまったらこの国は終わりですよ、オールマイト。

 

 そして、グラントリノに何かを言われた後、オールマイトの片腕だけがマッスルフォームになっていた。

 

 多分最後の力だろう。

 

「多いよ…!ヒーローは…守るものが多いんだよオール・フォー・ワン!!だから…負けないんだよ!」

 

 俺の周りにいる、出久や勝己も、全員が声援を送っている。

 

 テレビからオールマイトの声が聞こえてくる。

 

 恐らくオールマイトにも俺たちの声援と気持ちが伝わり力になっていることに違いない。

 

 熱気に当てられたかのように全てがオールマイトを後押しする。

 

「煩わしい。もう終わりにしよう。確実に殺す為に、今の僕が掛け合わせられる最高・最適の個性たちで…君を殴る」 

 

 オール・フォー・ワンも全力を持って片をつけるつもりだ。

 

 だが、オールマイトは相手の攻撃を上手く相殺し、全力の一撃を叩き込む。

 

「「勝てや、オールマイトォ!」」

 

 

 

 

 

『UNITED STATES OF…SMASH!!!』

 

 

 

 

 

 腕を思い切り振り切った後、オールマイトは腕を高々とあげる。

 

 オールマイトの勝利だ。

 

 …アンタやっぱ最高のヒーローっすよ。

 

 

 

 



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63話

 

 神野の悪夢と呼ばれた事件によりさまざまなことが起きた。

 

 まずはオールマイトの引退である。

 

 あの姿を周りに知られては無理だろうし、オールマイト自身も力を使い切ったらしい。

 

 そして数多くのヒーロー達が活動休止となった。

 

 重症を負ったベストジーニスト、ラグドールがオールフォーワンに個性を奪われた影響により活動できなくなったワイプシなどの有名どころが活動休止になった。

 

 そして案の定、ヴィランの数が増えた。

 

 依頼数は変わっていないのだが、屯するヴィランが増えた。

 

 …まあ、なんてことない実力の奴らばかりではあったが。変身するまでもなく仕留めることができるレベルだ。

 

 その数日後、消太さんが家にやってきた。

 

「全寮制、…いいよな、瑠莉奈、牙那」

 

「ええ、大丈夫ですよ。コイツにもいい経験になると思いますし。全寮制って滅多に経験できませんし」

 

「俺もっす。仕事できなくなるのは痛いですけどね」

 

 消太さんが俺たちに言ってきたのは雄英高校の全寮制についてだ。

 

 理由としては昨今の増加するヴィランからの安全を確保するため…というのが表の理由であり、主目的は全寮制によって内通者をあぶりだすことらしい。

 

 まあこれでわかるのなら仕方ないだろう。ヴィラン退治は出来なくなるが仕方ないか。

 

「すまない、こっちの勝手で」

 

 消太さんが俺たちに頭を下げる。

 

「仕方ないですよ、さすがにあんな事件があってなにもしないってのはないって思ってましたし」

 

 俺もそれに返す。

 

 あれから雄英も世間からの風当たりが強くなった。準備出来ていなかったとはいえ守れなかったというのは雄英側に重くのしかかっている。

 

 教師陣のみなさんも気にしているんだろう。

 

 ただでさえオールマイトの引退により忙しくなったうえにコレだ。

 

 俺たちも負担をかけないように動いていかないと。

 

「後、お前爆豪を助けに言っただろ」

 

 …バレてーら。

 

「まあ言わなくても分かってるからな」

 

「まじっすか。でも俺はあの時正しい選択をしたって思ってますよ。戦いたかったですけど」

 

「戦うなよ…?まず2学期でヒーロー仮免取るまでは外で戦うな」

 

 消太さんに釘を刺される。

 

「分かってますよ、一時的に「ドラゴストーム」は活動休止っすね」

 

 休止…せざるを得ないんだよな。

 

 俺が活動していないとわかればヴィラン達は活性化するかもしれない。

 

 かといって先生たちに、俺だけ毎夜外出を認めるっていうのは出来ないだろうし、もしそれをすると俺が何をしているのかと間違いなく疑われる。

 

 1Aの面々などの雄英教師陣を除くメンバーにバレるのを防ぐためには仕方ないか…。

 

 



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Licenceを手に入れろ!
64話


 家庭訪問から数日後、消太さんによって俺たちは寮に集められた。

 

 雄英高校の敷地内にあり、校舎から徒歩五分の場所にある"ハイツアライアンス"。ここが俺たちの新たな家になるところだ。

 

「とりあえず1年A組、無事に集まれて何よりだ」

 

 消太さんが俺たちに対して言う。まずはそれに尽きるだろう。

 

「皆許可降りたんだな」

 

 瀬呂が言う。確かに攫われた奴、意識不明になった奴など様々だ。

 

「私は結構苦戦したよ…」

 

「普通そうだよね…」

 

 そう言ったのは意識不明になった葉隠だ。同じような目にあった響香も同様みたいだ。

 

「無事に集まれたのは先生もよ、会見を見た時はいなくなってしまうのかと思って悲しかったの」

 

 蛙水が言う。確かに責任を取って辞任というものがありえた。消太さんがそれに返す。

 

「…俺もびっくりさ」

 

 消太さんは話を続ける。

 

「当面は合宿で取る予定だった仮免取得に向けて動いていく」

 

 その言葉に俺以外の全員がざわつく。

 

 …まあ、忘れるのも当然だろう。

 

「大事な話だ、いいか 轟、切島、緑谷、八百万、飯田、それと牙那。この6人はあの晩あの場所へ爆豪救出に赴いた」

 

「「え…」」

 

 その言葉に1Aのメンバー動揺を隠せずにいた、消太さんは言葉を続ける。

 

「その様子だと行く素振りは皆も把握していたワケだ、色々棚上げした上で言わせて貰うよ」

 

 消太さんはさらに俺たちに向かって言う。

 

「オールマイトの引退が無けりゃ俺は、爆豪・耳郎・葉隠以外全員除籍処分にしてる」

 

「「「!!??」」」」

 

 周りに緊張が走る。「…だが」と前置きをして消太さんは続ける。

 

「俺も行くことが分かってて止めなかったわけだ。君たちには正規の手続きを踏み、正規の活躍をして…信頼を勝ち取ってくれるとありがたい」

 

「「「はいっ!」」」

 

 俺たちは消太さんの言葉に揃って返す。少なくとも消太さんから期待されていることには変わりない。

 

「以上!さっ!中に入るぞ元気に行こう」

 

 消太さんの言葉の後、俺たちは寮の中に入っていった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 俺たちは一階の共同スペースに連れて行かれた。

 

 共同スペースは広く、テレビもキッチンもついた豪華なものだった。

 

「広キレー!そふぁぁぁ!」

 

 まあ、案の定みんなはしゃいでる。

 

「牙那はテンションとかあがらないの?」

 

 なんて反応をしない俺に対して響香が聞いてくる。

 

「別に…だな。こっちがキッチン…って嘘だろこのキッチン!最新式だし、すげー広い!こんなん使いこなせねーだろ!?」

 

「はしゃいでんじゃん」

 

 俺もテンションが上がりまくっていた。

 

 それに続いて2階。

 

「部屋は二階から、1フロアに男女各4部屋の五階建て、1人一部屋エアコン、トイレ、冷蔵庫にクローゼット付きの贅沢空間だ」

 

 ここもなかなか…、十分すぎるなコレ。

 

 ちなみに部屋割りは先生によって決められており、俺は勝己の隣の部屋になった。

 

「勝己ー、やかましくすんじゃねーぞー」

 

「うっさいわ、牙那!」

 

 そんなことを言いながら、俺たちは事前に送ってもらっていた荷物を広げて自分の部屋を作った。、、



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65話

 

 みんなが部屋の片づけを終わり、広場でくつろいでいるころ。

 

「お部屋披露大会、しませんか!?」

 

 言い出したのは芦戸だった。

 

 葉隠も同様のようで明るい二人によって事態は進んで行く。

 

 出久はついて行けていない様子だったが、芦戸と葉隠に背中を押されてエレベーターへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 まず一人目、出久。

 

「わあああ! ダメダメちょっと待─」

 

 ようやく状況を把握し、静止させようとした出久であったがもう遅い。

 

 抵抗すらする暇もなく、扉が開かれる。

 

「オールマイトだらけだ! オタク部屋だ!」

 

「昔っから出久は変わらねえなー、ってか昔よりも量増えてやがる」

 

 楽しそうにする麗日と懐かし気に言う俺。

 

「い、今でも憧れなんで…恥ずかしい」

 

 出久は赤面するしかなかった。

 

 …こんな感じ"お部屋披露大会"が始まった。

 

 

 

 二人目、常闇。

 

「黒っ! 怖っ!」

 

「男子ってこういうの好きなんね」

 

 

 

 三人目、峰田をスルーして上の階の尾白。

 

「わぁ、普通だぁ!」

 

「普通だぁ! すごい!」

 

「これが普通ということなんだね……!」

 

 

 

 四人目、飯田。

 

「難しそうな本がズラッと!」

 

「さすが委員長!」

 

「メガネクソある!」

 

 

 

 五人目、上鳴。

 

「チャラい!」

 

「手当たり次第って感じだなー」

 

 

 

 ここまでは概ね酷評の嵐となった。

 

「…釈然としねえ」

 

「ああ、奇遇だね。俺もしないんだ、釈然」

 

「そうだな」

 

 そんな中、峰田が言う。

 

「男子だけが言われっ放しってのも変だよなぁ? "大会"っつったよなぁ? なら当然! 女子の部屋も見て決めるべきなんじゃねえのか? 誰がクラス最高のインテリアセンスか、全員で決めるべきなんじゃねえのか!?」

 

 それによって最終的に女子部屋も見て回ることになった。

 

 続いて四階。

 

 切島の部屋はは絵に描いたような暑苦しさで、"彼氏にやってほしくない部屋ランキング2位くらいにありそう"という、絶妙な女性受けの悪さを発揮。

 

 その隣、障子の部屋はインテリアセンスがどうこう以前の、ごく最小限にまで絞ったものしかないミニマリスト仕様だった。

 

 勝己は早々に引き上げていたため、俺の番となる。

 

「じゃー次、我羅琉!部屋みせてー!」

 

 芦戸が俺に言ってくる。

 

「別にいいけどなんてねーぞ?」

 

 俺がドアを開けると、興味津々なことを隠し切れないクラスメイトたちが先んじて入っていく。

 

「アレ?」

 

「なんか…、以外と普通…」

 

 周りが一気に冷めたような空気になる。まあ、そうだろうな。

 

「別に内装とか興味ねーからよ、家具のカタログ参考にしてそのまま置かせてもらった」

 

 俺の部屋は、この世代のやつなら「まあ、こんなかんじだろう」と誰もが答える普通の部屋だ。

 

「そこの本棚ってどんなの入ってるの?」

 

 聞いてきたのは葉隠だ。

 

「色々あるぜ、まずこれが実家周りでの有名なヴィラン達をまとめた奴、これは出久にも協力してもらったヒーローの特徴をまとめた奴、これはAとBの生徒をまとめた奴で、これは俺が変身できるポケモンたちを詳しく説明したやつだな」

 

「うわ、なんだコレ細かい数値がいっぱいだ…」

 

 ポケモンまとめファイルを見た芦戸は倒れそうになったとだけ言っておこう。

 

 

 

 続いて5階。

 

 まずは瀬呂から。

 

 扉を開けると周りから感嘆の声が漏れる。

 

 アジアンテイストのリゾートホテルを思わせる部屋。家具や小物の配置も煩くならない程度に配された、かなりクオリティの高い作りだった。

 

「ステキー!」

 

「瀬呂こういうのこだわるヤツだったんだ」

 

 ここに来て初となる高評価な声。これには本人も嬉しそうであった。

 

 その次は口田。

 

「ウサギいるー!可愛いー!」

 

「…」

 

 部屋の中には動物が一杯いた。口田らしいと言えるだろう。

 

 そして轟。

 

「さっさと済ませてくれ。ねみい」

 

「─完全和室!?」

 

「造りが違くね!?」

 

 気怠気な表情のままに部屋主が開いた扉の先に広がっていた光景は、全員の予想を軽く飛び越えるものだった。

 

 畳敷きの床や障子戸はまだしも、砂壁と言われる近代和風建築お馴染みの壁模様に、床の間まで存在するとあっては、皆驚かざるを得ない。

 

「当日即リフォームってどうやったんだ!?」

 

「…頑張った」

 

 最後には砂藤。

 

「俺だけどまー、つまんねー部屋だよ」

 

 溜め息と共に砂藤が扉を開いた先には、前3人と比べては確かにありきたりなシングルルームだった。

 

「轟インパクトの後じゃ、誰でも同じだぜ」

 

「てか良い香りするの、コレ何?」

 

「香ばしい、あるいは美味しそうな」

 

 しかし、俺たちは視覚よりも嗅覚に届く何かに意識が向いた。

 

「ああイケね、忘れてた! だいぶ早く片付いたんでよ、シフォンケーキ焼いてたんだ! ホイップがあるともっと美味いんだけど…。食う?」

 

「模範的"意外な一面"かよ!」

 

 手早く切り分けられたそれらに、真っ先に甘党な数名の女子が手を挙げ、最終的には全員に行き渡り、もれなく絶賛の声を零すことになる。

 

 最終的に結果は…、

 

「『ケーキ美味しかった』、だそうです!」

 

「部屋は!?」

 

 …砂糖が優勝した。なんか腑に落ちねえ。



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66話

 入寮から一夜。夏休み真っ盛りではあるが、他科に先駆けて入寮したヒーロー科に休める道理はなく。

 

 1年A組の生徒たちは教室に集まっていた。

 

 そんな中、消太さんが教室に入ってきて俺たちに言う。

 

「おはよう。昨日話した通り、仮免の取得が当面の目標となる」

 

 そのまま消太さんが続ける。

 

「ヒーロー免許ってのは人命に直接かかわる、責任重大な資格だ。当然、取得のための試験はとても厳しい。仮免といえど、その合格率は5割を切る。教導資格持ちが"受験するに足る"と判断しているのに、だ」

 

 現在、最も人気のある職業であるヒーロー。その資格試験を受けたがる者は数多く、その全てを審査していては人も金もかかりすぎる。

 

 そこで、ヒーロー公安委員会が作り出した仕組みが、「仮免試験の受験は、教導官の許可を必要とする」というものである。

 

 教導官は専門の資格保持者かプロヒーローが務めることで、最低水準に達していない者を見極め、受験前にふるい落とす仕組みにになっている。

 

 そうやって、合格の見込みが有る者だけが受験していてなお、夢破れる者たちが大半を占めるあたり、その難解さが分かる。

 

「そこで諸君らには1人につき最低2つ、必殺技を作ってもらう」

 

 消太さんの言葉とともに、 教室へと入ってきたのはエクトプラズム、セメントス、ミッドナイトの3人。

 

 …だが、俺以外のメンバーが気になったのはそこではない。"必殺技"の方である。

 

 

 

「「学校っぽくてそれでいて、ヒーローっぽいのキタァ!」」

 

 

 

「…必殺技って学校ぽいのか?」

 

 俺の声は喝采の中に消えていく。

 

「必殺!コレ即チ、必勝ノ型・技ノコトナリ!」

 

「その身に染み付かせた技は他の追随を許さない! 戦闘とは、いかに自分の得意を相手に押し付けるか、だよ」

 

「技は己を象徴する!今日び必殺技を持たないプロヒーローなど、絶滅危惧種よ!」

 

「詳しい話は実演を交えて合理的に行いたい。コスチュームに着替えて、体育館ガンマに集合。以上、行動開始」

 

 プロヒーロー達の言葉を受け、この後の特訓に心躍らせ、談笑しながら更衣室へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 俺たちが集められたのは体育館γ。

 

「通称 トレーニングの(T) 台所(D) ランド(L)。略して T D L ! 

 

((TDLはまずそうだ!))

 

 俺たちはセメントス先生の説明に対し、いつかのUSJを紹介されたときと同じような反応をする。

 

 だがセメントス先生は気にせず続ける。

 

「ここは俺考案の施設でね。生徒一人ひとりに合わせた地形やものを用意できる。台所ってのはそういう意味だよ」

 

 俺たちはそれを聞いて納得する。

 

 その中で飯田がいつものように挙手をして尋ねに行く。

 

「何故仮免許の取得に必殺技が必要なのか、意図をお聞かせ願います!」

 

 それに対し消太さんは言う。

 

「順を追って話すよ。ヒーローとは事件・事故・天災・人災…、あらゆるトラブルから人々を救い出すことが仕事だ。取得試験ではその適性を確かめられることになる。情報力、判断力、機動力、戦闘力、他にもコミュニケーション能力、魅力、統率力など、多くの適性を毎年違う試験内容で確かめられることになる」

 

 そしてミッドナイト先生が言葉を続ける。

 

「その中でも戦闘力はこれからのヒーローにとって極めて重視される項目になります。備えあれば憂いなし!技の有無は合否に大きく影響する」

 

「状況に左右されることなく安定行動を取れれば、それは高い戦闘力を有していることになるんだよ」

 

 セメントス先生の言葉に続けたのはエクトプラズム先生だ。

 

「技ハ必ズシモ攻撃デアル必要ハナイ。例エバ、飯田クンノ”レシプロバースト”、一時的ナ超速移動ソレ事態ガ脅威デアル為、必殺技ト呼ブニ値スル」

 

「アレ必殺技でいいのか…!」

 

 飯田が感動しているようだ。

 

「なる程…、自分の中で「これさえやれば有利・勝てる」って型を作ろうって話か」

 

 砂藤の言葉を肯定したのはミッドナイト先生。

 

「そ!先日活躍したシンリンカムイの「ウルシ鎖牢」なんか模範的な必殺技よ、分かりやすいよね」

 

 そして消太さんが言う。

 

「中断されてしまった合宿での「”個性”のばし」は、…この必殺技を作り上げるためのプロセスだった。つまりこれから後期始業まで、残り10日余りの夏休みは、”個性”を伸ばしつつ必殺技を編み出す…、圧縮訓練となる」

 

 消太さんは一息おいて、再び話し出す。

 

「プルスウルトラの精神で乗り越えろ、準備はいいか?」

 

 その言葉に答えるように俺たちのテンションはノリノリの状態になっていた。

 

 

 

「「「…ワクワクしてきたァ!」」」

 

 

 

 …さて、気合入れていくとしますか!

 

 

 

 

 

 

 



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67話

 

 

 

 

 

 訓練の日々は流れ、遂に仮免試験当日。俺たちを乗せたバスは、試験会場となる国立競技場へと到着した。

 

 広大な面積を持ち、様々なイベントに使われるとあって報道などでその知名度は抜群である。…やっぱでけーな。

 

 全員が降りたところで、消太さんの声が聞こえたので、俺たちは全員が背筋を正して口を噤む。

 

「この試験に合格し仮免許を取得できれば、お前ら志望者は晴れてヒヨッ子、セミプロへと孵化できる。……頑張ってこい」

 

「「はいっ!」」

 

 消太さんの激励。それは俺たちが気合を入れるには十分すぎた。

 

「っしゃあ! なってやろうぜヒヨッ子によぉ!」

 

「いつもの一発決めて行こーぜ! せーのっ、Plus──」

 

「Ultra!!」

 

 切島の背後から、突如響く大声が聞こえた。そこへ視線を向ければ、帽子をかぶった大柄な男子学生の姿があった。

 

「誰?」

 

「さあ?」

 

 俺たちが見覚えのない姿に疑念を感じている間にも、どうやら同校の生徒に注意されたらしい件の学生がガツン、と音を立てて、謝罪と共に頭を地面にぶつける。

 

「どうも大変!! 失礼!! っ致しましたぁっ!!」

 

「なんだこの、テンションだけで乗り切る感じの人は!?」

 

「飯田と切島を足して二乗したような……!」

 

 この状況に全員がドン引きしていた。

 

「あの制服、士傑か」

 

「…東の雄英、西の士傑」

 

「雄英に匹敵する難関校の、士傑高校か…!」

 

 騒々しさに他校も足を止めて注目する中には、その威風堂々とした佇まいに気圧される者も見られる。それほどまでに、厳しいカリキュラムに裏付けされた高い実力は有名だ。

 

「一度言ってみたかったッス!! プルスウルトラ!! 自分、雄英高校大好きッス!! 雄英の皆さんと競えるなんて、光栄の極みッス!! よろしくお願いします!!」

 

「うるさっ」

 

 その騒々しさに響香が耳を塞ぐ。

 

「夜嵐イナサ。…イヤなのと当たったな、ありゃあ、強いぞ」

 

「先生の知ってる人、ですか?」

 

「昨年度の推薦入試、つまりお前たちの年に、実技トップの成績で合格したにも関わらず、なぜか入学を辞退した男だ」

 

 …変だな。なんで入学しなかったんだ?好きなのに入学しなかったってことはなんか裏がある筈だ。

 

 周りも変だという声が聞こえるが、「変だが実力は本物だ」という消太さんの声で気を引き締める。だがそんな消太さんを呼ぶ人が一人。

 

「イレイザー? イレイザーじゃないか!それに牙那も! テレビや体育祭で姿は見てたけど、直で会うのは久しぶりだな!」

 

 消太さんは嫌そうな面倒臭いといった顔を向けながらその知った顔の方へ顔を向ける。

 

「結婚しようぜ!」

 

「しない」

 

「しないのかよウケる!」

 

 流れるようなやり取りに生徒たちは置いてけぼり、になっていない者が僅かに居た。"結婚"に耳聡く食いついた芦戸。後はの出久である。

 

「スマイルヒーロー"Ms.ジョーク"! 個性は"爆笑"! 近くの人を強制的に笑わせて思考、行動共に鈍らせるんだ! 彼女のヴィラン退治は狂気に満ちているよ!」

 

「狂気て…、まあそうだが」

 

 瞬時に情報を引き出す辺り、彼も十分に変わった存在だ。

 

「相変わらずっすね、ジョークさん」

 

「おうよ、牙那!なあイレイザー、私と結婚したら、笑いの絶えない幸せな家庭が築けるんだぜ!」

 

「その家庭、幸せじゃないだろ」

 

 相変わらずのジョークさんと同じく相変わらずの消太さん。

 

「…仲が良いんですね?」

 

「昔、事務所が近くでさ。助け助けられをくりかえすうちに相思相愛へ「なってない」─ツッコミ早いな!」

 

「俺は昔消太さんに特訓してもらってたからな、その頃に面識あるんだ」

 

 俺が関係性を説明すると、ジョークさんが再び口を開く。

 

「いやあ、弄り甲斐があるんだよな、イレイザーは」

 

「鬱陶しいからやめろ。…お前のトコも受験か」

 

「ああ、そうそう。おいで皆! 雄英だよ!」

 

 ジョークさんは消太さん弄りに満足したのか、振り返って離れたところにいる生徒たちを呼びよせる。

 

「傑物学園2年2組、私の受け持ちさ。よろしくな」

 

 紹介する言葉に続いて、俺に好青年が笑顔で近づいてくる。

 

「君が我羅琉君だね。俺は真堂揺。今日はよろしくね」

 

 …作り笑顔。悪意はないみたいだけど、情報が欲しいのかな。適度に揺さぶって出方を見るってとこか。

 

 俺はそれに対し、同じように作り笑顔で話す。

 

「ええ、こちらこそ。折角の機会ですし、あなたの顔を歪ませてやるとしますよ」

 

 笑いながらも、好戦的な目を見せた俺に対し相手も分かったようだ。

 

 そして、真堂さんは次から次へと握手していく。まあいいか。

 

 俺たちと傑物学園の生徒たちの間では、賑やかな時間が彼らの担任が声をかけるまでではあるが続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 



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68話

 

 仮免試験が始まった。

 

 ルールとしては、それぞれ6つのボールを携帯し、3つのターゲットを身につけて行い、3つ目のターゲットにボールを当てた人が"倒した"ということとされ、2人倒した者から勝ち抜くというもの。

 

 ターゲットは体の好きな場所、ただし常に晒されている場所に取り付けることが決まりになっている。脇の下や足裏は反則らしい。まあ適当に張り付けておこう。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 試験が始まり、俺たちは毎年恒例と言われている雄英潰しに遭遇した。

 

 なんとか全員で塊になって攻撃を防いでいたのだが、真堂さんの技「震伝動地」によってバラバラにされた。

 

 その後、合流できたのは響香、障子、蛙水、八百万の4人。

 

 ひとまず建物の中に入り形勢を立て直すということになり、入っていった後だった。

 

「階段を歩く音がいくつか、登ってきてる!」

 

 響香がイヤホンジャックを壁にさして相手の出方を探る。

 

 陽動なのかコレは?響香の個性含め俺たちの個性は相手には既にバレてるはずだ。そんな奴らが真正面に来るか?

 

 俺と同じく八百万も考えているようだ。

 

 …まてよ、なら響香の耳の良さを逆に利用されたら…。

 

「響香!今すぐ壁からイヤホンジャックを外せ!」

 

 だが、俺の言葉は一足遅かった。

 

「え…、ぐわあああ!」

 

「「耳郎さん(ちゃん)!」

 

 響香の個性を逆手にとってきやがったか!

 

「響香、立てるか?」

 

「うん、なんとか…」

 

 だが、そういう響香の耳からは血が出てきている。このままじゃまずい。

 

 しかし、相手は攻撃の手を緩めない。

 

「ちっ、次は俺の目を封じるつもりか!」

 

 次のターゲットは障子。周りにあるガラスが次々に割られていく。一気に外の景色は見えなくなっていく。

 

 響香が腕に装着していた音響増幅装置も壊され、入り口を見ると隙間が溶接されていた。それだけでは終わらない。

 

「蛙水、どうした?」

 

「…少し眠くなってきちゃって、私寒いところは苦手なの…」

 

 空調を見ると、冷たい空気が流れ込んできており、部屋の気温は急に下がってきていた。恐らくは蛙水を封じるためだろう。

 

 

 

「Transform,ウルガモス」

 

 

 

 俺が変身したのはたいようポケモンのウルガモスだ。寒さ対策ならもってこいのやつだろう。

 

「牙那、それって」

 

「ないよりはマシだ、響香。少しだけだが対策にはなると思う」

 

「あ、確かに暖かくなってきましたわ…」

 

 万が一のため、蛙水は障子が複製腕で覆っている。そして俺はその言葉の後、八百万に聞く。

 

「八百万、どうするんだ」

 

「…牙那さんは、あの扉は破壊できますか?」

 

 八百万は俺に聞いてくる。

 

「ああ、出来るが…、恐らく相手も多く控えてるぞ。開けた瞬間に投げられまくってoutってのが高いな」

 

 恐らく相手は俺が軽く扉を吹っ飛ばせるくらいは知ってるはずだ。

 

 この部屋から脱出できる方法は溶接されたドアを吹っ飛ばすことのみ。外の割られた窓には既にシャッターが降りており、完全な密室になっている。

 

 ドアを閉めたまま、向こうの相手を倒す方法か…。

 

「…浮かびましたわ」

 

 来たか。

 

「耳郎さん、イヤホンジャックはまだ使えますか?」

 

 八百万の言葉に響香は頷く。

 

「うん、ヤオモモ」

 

 その言葉の後八百万は何かを作り出す体制に入った。

 

 八百万の作戦を信じますか。



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69話

 

 八百万が作ったのはでかい音響装置のようなもの。それと俺たち5人分のヘッドホンである。

 

「なあ八百万、これって…」

 

 俺の言葉は八百万の言葉によって遮られる。

 

「皆さん付けてください。後、耳郎さんはここへイヤホンジャックを」

 

 俺たちは言われた通りにヘッドホンを装着する。

 

 そして響香が音響装置に挿すと…、

 

「…なん、だ、コレ…!?」

 

 ヘッドホンをしていても聞こえてくる…、というか頭にガンガンとする衝撃が走った。

 

 コレ、ヘッドホンありでこの状態だからなしだったら相当やべえぞ!?

 

 数十秒後、音が止まり、八百万からヘッドホンを取れという指示が入り、さらに八百万から指示が出る。

 

「牙那さん、お願いします!」

 

「任せろ!」

 

 俺は答え、鎧を纏うように炎を体に纏っていく。

 

 そして、俺はそのまま扉に勢いよく突っ込む!

 

 

 

「フレア、ドライブッ!!」

 

 

 

 頑丈に封じられた扉は軽く吹っ飛び、俺たちは久しぶりに部屋の外に出ることができた。

 

「やった、大成功!」

 

 響香が言うように部屋の外には多くの人が倒れていた。

 

 終わった後、八百万に聞けば高周波音撃装置というものだったそうで、頭に強い衝撃を与え気絶させるというものだったそうで、それを使うために響香のイヤホンジャックを使ったらしい。

 

 …だが倒れていたのは全員ではなかったみたいだ。俺たちの不意を突いて八百万が部屋へと連れ戻される。

 

 まだ、倒れ切ってなかったか!

 

 だが、相手の攻撃は未遂に終わる。八百万が手錠を作って相手を逃げられなくし、ボールが握られた手は復活した蛙水の舌でしっかりと巻かれる。…あっぶねー。

 

 相手もそれを受けて観念し負けを認めた。

 

 その後、俺たちは倒れていた人たちにボールをぶつけて一次試験を突破した。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 俺たちが控室に戻ると轟が先に来ていた。

 

 初めから俺たちとは別行動で、一人で巻き込まれたらしいが何とか突破したらしい。

 

 そんなことを話しながら俺は治療に入る。

 

 俺以外のメンバーは大きく体力をそがれている。このまま二次試験に突入させるのは厳しいだろう。

 

「Transform,タブンネ」

 

 俺は慣れた手つきでヒヤリングポケモンのタブンネに変身する。

 

「いやしのはどう」

 

 俺は手をかざし癒しのはどうを送っていく。これは使う対象の最大体力の半分を回復させるという技だ。

 

 回復をひとしきり終えた俺に轟から質問が来る。

 

「お前らは5人で行動していた経緯ってなにかあるのか?」

 

 俺は変身を解除して、その質問に答える。

 

「会場に入る前に会った傑物学園の真堂ってやつ、アイツにやられた」

 

 それに響香や蛙水も続けていく。

 

「地面ごとブチ割られて、分断されちゃってさ」

 

「響香ちゃんも割ったから、お互い様かもしれないわ」

 

 それを聞いて轟が言う。

 

「真堂って、あの笑顔で俺たちと話に来たやつか?」

 

「そう、あの作り笑顔のね」

 

 俺の言葉は「え?」という4人の声で途切れさせられる。蛙吹と障子、響香、轟だ。

 

「八百万はやっぱ分かってたか」

 

 俺は唯一驚かなかった八百万に対して言う。

 

「ええ。パーティーなどで見かける、こちらを探ろうとする目つきに似ていましたので」

 

「ブルジョワジー……!」

 

 そんな感じで、俺たちは話を続けていく。それは一次試験が終わって、1年A組の面々が全員合格したことを知るまで続いた。

 

 …たまにはこういうのもいいだろう。



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70話

 

 全員が通過することができたA組全員が通過者控え室に集まり、喜びあっている最中。

 

 放送がつながるような気配で俺たちは話を止める。

 

『えー、一次試験通過者の皆さん。モニターをご覧ください』

 

 スピーカーから聞こえた眠たげな声と共に、壁面に設置されていた大きなモニターに映像が映し出された。

 

「一次試験のフィールド…?」

 

「なんだろう─」

 

 誰もが疑問に思う中、すぐに異変は訪れた。

 

 地面を揺らす轟音と共に、リンクして爆炎が映るモニター。ビルが、工場が、山が、高速道路が、次々に爆発によって崩れていく。

 

 

 

((何故!?))

 

 

 

 俺たち受験者が心を一つにした瞬間は、間違いなくこの時だっただろう。突然起きた爆破解体劇の意味がわからず、誰もが言葉を失っていた。

 

 そして公安の人は話し始める。

 

『次の試験でラストになります。皆さんにはこの災害現場で、バイスタンダーとして救助演習に挑んでいただきます。ここでは、あなた方は一般市民としてではなく、仮免許を取得した者として、どれだけ適切な行動が取れるかを試させていただきます』

 

「「……パイスライダー……?」」

 

 …ウチのスケベコンビがとんでもない聞き違いをしているようだ。

 

「バイスタンダー。現場に居合わせた人のこと、授業でやったでしょ」

 

「ったく、お前らの頭の中はかわらねえな」

 

 葉隠がしっかりと説明し、俺もついでに言っておく。

 

 その中でモニターを見ていた障子が呟く。

 

「…待て、人が居るぞ」

 

 障子の声を聞いた俺を含む面々はすぐに映像を注視し、動く存在を見つける。

 

 その多くは老人や子供といった非力な者たちのように見えた。その者たちはその後の放送で説明される。

 

『彼らはあらゆる訓練に今、引っ張りだこの要救助者のプロ! "HELP・US・COMPANY"──略して"HUC"の皆さんです。傷病者に扮した彼ら"HUC"が、フィールドのあらゆる場所にスタンバイします。皆さんには、これから彼らの救出を行っていただきます。それぞれの行動をポイントで採点し、演習終了時に基準値を上回っていれば合格となります。……今から10分後に開始となりますので、トイレなど済ませておいてくださいねー』

 

 最後の最後で緩んだアナウンスに肩の力を抜かれた俺たちは、めいめいに先程の試験での疲れを癒やしていた。

 

 その中で、言葉を失っている出久に飯田が話しかける。

 

「緑谷君…」

 

「うん…、神野区を模してるのかな…」

 

「あの時、俺たちは爆豪君をヴィラン連合から遠ざけ…、プロの邪魔をしないように徹した…。その中で死傷者も多くいた…」

 

「…頑張ろう」

 

 出久は気合を入れなおしたようだ。

 

 その後士傑の一人が勝己に対していざこざがあったそうで謝りに来ていた。まあ勝己達が倒したらしいが。

 

 その中で轟が夜嵐を呼び止めようとした。

 

 だが、夜嵐の目は遠目からでもわかるような試験前のような友好的な表情ではなく、それとは到底言い難いような様相だった。

 

 …恐らく何かあるのだろう。轟とアイツが以前あったのは雄英の推薦入試なはず。そこで轟はアイツの気に障るようなことをしてしまったって言う可能性が高いか。

 

 耳が良い障子や響香の反応を見るに相当ヤバいことを言ったのだろう。

 

 そんな中けたたましい非常ベルが鳴り響く。

 

『─ヴィランによる大規模破壊が発生! 規模は○○市全域、建物倒壊により傷病者多数!』

 

「演習の想定内容ね。…始まるわ」

 

 アナウンスと蛙吹の言葉に、俺たちは一斉に表情を引き締めた。

 

 

 

 

 

 



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71話

 

『─ヴィランによる大規模破壊が発生! 規模は○○市全域、建物倒壊により傷病者多数! 道路の損壊が激しく、救急隊の到着に著しい遅れ! 到着するまでの救助活動はその場にいるヒーローたちが執り行う! 1人でも多くの命を救い出すこと!』

 

 一次試験と同じように、俺たちが居る控え室が機械音と共に開ききると、二次試験開始のアナウンスが高らかに響き渡る。

 

「とりあえず一番近い都市部ゾーンへ行こう!」

 

「なるべくチームで動くぞ!」

 

 出久と飯田によって俺たちはまとまって行動する。勝己は切島と上鳴を連れて山岳ゾーンに向かったようだ。

 

 その中で俺たちは早速泣いている子供を見つけた。

 

「あっち…!、おじいちゃんが!!ひっ、潰されて…!!」

 

「ええ、大変だ!どっち!?」

 

「なァんだよそれえ、減点だよォお!」

 

「「!!??」」

 

 そういうことか!確かにこういうことが慣れている助けられるプロだからこそできること。

 

 ヒーローらしくなかったらどんどん減点される。

 

 なら、これは…、

 

「…頭から多量の出血、呼吸の変化、足もちょっとやられてるか…」

 

「き、牙那…?」

 

 ぶつぶつと出久のように呟き始めた俺に対し響香が言う。俺はそのまま子供役の人に優しい口調で話し始める。

 

「…大丈夫。俺たちが来たからにはおじいちゃんも助けてみせるよ。おじいちゃんはどこにいたの?」

 

「…あっち」

 

 俺の言葉でHUCの方は前の状態に戻った。これでいいのだろう。

 

「ありがとう。…こういうことだろ」

 

 俺は出久たちに向け言い、そのまま続ける。

 

「出久この子を救護所へ。頭から血出てるから余りゆらさないように頼む」

 

「う、うん!大丈夫だからね!」

 

 そう言って出久は元気づけながら他の学校の人が作り始めた救護所へと走りながら向かっていった。

 

 

 

 出久と別れた俺たちはそのまま都市ゾーンへ向かう。

 

 すると早速瓦礫に挟まれた老人の方を見つけた。

 

「…いや、コレどうやって入ったんですか。逆に知りたいっすよ」

 

 とんでもない挟まり方をしていた。確か爆破の後から準備だから…

 

「細かいことはいいんだよ」

 

「…さっき、あっちで子供を一人見つけまして。俺の仲間に救護所へと向かわせました、安心してください」

 

 まず、こういう人には親しいものが助かったという風に安心させるのが第一優先だ。逆に助けようとして先にアッチを助けてくれという人たちも結構いる。

 

「あなたもすぐに助け出します。Transform,レントラー

 

 俺はレントラーに変身する。透視できる目はこういうときに思う存分活かすことができるからな。

 

 …見えた、あの辺りに1本噛ませばこの人の上の瓦礫はどかせるな。

 

「八百万、鉄骨を」

 

「もうできておりますわ!」

 

 …さすが。計算はえーな、オイ。

 

「じゃあ、俺がまずはここに噛ませてっと!」

 

 そして砂藤が鉄骨を瓦礫の隙間に入れる。

 

「じゃ、俺はテープで安全性を強化!」

 

 さらに瀬呂がテープで瓦礫と鉄骨を固定させる。

 

「最後は私が!」

 

 最後は麗日。上を固定したことにより取りやすくなった瓦礫を順に取っていく。

 

 そして俺たちは救助を達成できた。

 

「意識はあり、潰されたときに足を怪我されたみたいですわ。出血もかなり」

 

 救助され人は八百万がテキパキと状態を判断していく。

 

「牙那さん、救護室までお願いします。ここ居る面々だとスピードがあるのはあなたですので」

 

「任されたよ、八百万!」

 

 俺はその人を背中に乗せて救護所へと駆けていった。



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72話

「…意識ははっきりしてます。ただ足から多量の出血しているのと骨折の可能性ありですね」

 

「ありがとう、後はこっちに任せて」

 

 俺はさっき助けた人を救護所で治療を行っているうちの一人に受け渡す。

 

 …回復持ちの個性の方々がいる以上、俺は救助に向かう方がいいと判断した。

 

「あ、我羅琉君。少しいいかな」

 

 だが、俺は救助に戻ろうとした時、呼び止められる。

 

 俺を呼んだのは真堂さんだった。

 

「なんですか?」

 

「ちょっと君にも相談したいことがあってね。雄英体育祭1位の考えを聞かせて欲しいんだ」

 

 真堂さんはそのまま話を続けていく。

 

「実は、今それぞれのゾーンでここの救護所ほどじゃないけど救護所を作ったみたいなんだ」

 

 それに先ほどまで真堂さんと話をしていた人がそれに加えていく。

 

「それで、ある程度それぞれの場所での救助活動が落ち着いてきたらここに移そうかなって思っているんだ」

 

 つまり、傷病者をスムーズに病院への搬送をするために一ヶ所に纏めようってことか。

 

 うーん、確かにそれもいい案だと思うけどな…、不安要素が消えねえ。

 

「…俺は逆ですね。何個か救護所があった方が、万が一に役立つと思います」

 

「万が一って…、これは救助演習だろ?助けて搬送の準備を整えて…で終わりじゃないのか?」

 

「…誰が救助演習って言ったんですか?」

 

 俺はその言葉に続けていく。

 

「俺が気になってるのは、この事件を起こしたヴィランがどこにいるかってことです」

 

 俺の言葉に真堂さんは驚いた表情をしている。

 

「それって、まだこの事件は終わってないということか?」

 

「察しがいいですね。ここからヴィランの襲来があると俺は考えてます」

 

 その言葉に周りで俺たちの話を聞いていた人達からはどよめきが起こる。

 

「オイオイ、我羅琉、さすがに難易度高すぎるだろ!? 救助に対敵、いっぺんにやれって、ンなもん、プロでもキツいぜ!?」

 

 俺はその言葉をすぐに反論していく。

 

「でも、プロヒーローなら"救助だけやれば大丈夫"なんていかないですよ?むしろ、そうならない方がおかしいです」

 

 俺はそのまま続けていく。

 

「話を戻します。俺は移送には反対です。どこかにここが潰れたときに使えるサブ本拠地的なものを万が一のために作っておいた方がって思いますね」

 

「確かに、1ヶ所に集めておいて"ヴィランに狙われました"じゃあ、避難に時間もかかるな」

 

 俺の考えには納得してくれたようで周りの受験者の人達が続々と散っていく。

 

 こればかりは俺は出来ない。俺ができるのは精々雄英メンバーに伝えることが限界だ。

 

 一次試験を見ている限り、真堂さんは他の学校の方々からも一定の信頼があるみたいで話は伝わっていった。

 

 だがその中に空間ごと揺れるような振動と轟音が響く。

 

「やっぱ、来やがったか…!」

 

 俺は土煙の中から現れる存在に向けて呟く。

 

『ヴィランが姿を現し追撃を開始! 現場のヒーロー候補生たちはヴィランを制圧しつつ救助を続行してください!』

 

 …ここからだな、真価が問われるのは。

 



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73話

 ヴィランが狙うのは主にヒーローのような強者よりも弱者を狙う。自明の心理だ。

 

 そしてヒーローはさらなる犠牲を出さずにやらなければならない。ヒーローがヴィランを倒したところで大幅な被害が出ればそれはヒーローの勝利とはいかないだろう。

 

 今回ヴィラン役として俺たちの前に現れたのはプロヒーローのギャングオルカ。神野の事件でも招集されたようにその実力は本物だ。

 

「俺が時間を稼ぐ!みんなはその間に怪我人たちを連れて避難を!」

 

 真堂さんがギャングオルカに対して突っ込んでいき、その間に俺たちは怪我人たちを避難させる。

 

 …だが、さすがはプロヒーローと言うべきか。

 

 ギャングオルカは攻撃を受けたうえで、逆に超音波であろう攻撃を叩きこむ。それによって真堂さんはKOとなった。

 

 やべえな。このままだとこっちに来るのは時間の問題だ。

 

 さらに、戦えるタイプの人たちは既に戦うことを余儀なくされている。

 

 …俺が行くしかねえか。

 

 

 

「Transform,バシャーモ!」

 

 

 

 俺はもうかポケモンのバシャーモに変身する。

 

 コイツの特徴は何といってもバランスの良さだ。攻撃・特攻の値が高く、それ以外の数値も平均水準以上の値を誇る。

 

 俺は相手との距離を詰めながら技を放つ。

 

「にほんばれ!」

 

 この技はここ一帯を「ひざしがつよい」状態にするというものだ。バシャーモが主に使う炎技を強化してくれるというのも一つだ。

 

 ギャングオルカの弱点は乾燥だ。少しでも能力をさげておかねえと。

 

「…瑠莉奈の弟か」

 

 ギャングオルカが言う。瑠莉姉は何回かチームで仕事したって言ってたっけ。俺はその人に対して言う。

 

「ええ。アンタの運命(さだめ)は、俺が決めさせてもらいます

 

「ほう、やれるもんならやってみろ!」

 

 俺とオルカさんの戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 その言葉と時を同じくしてオルカさんの超音波の攻撃が俺を襲う。

 

「遅いですよ!」

 

 俺はその攻撃を素早くよけて技を放つ。

 

「ほのおのパンチ!」

 

 俺の炎を纏ったパンチは綺麗にオルカさんに当たる。

 

「少しはやるようだな。瑠莉奈の弟」

 

 だが、あまりダメージはくらっていないようだ。

 

「牙那っていいます。これを機会に覚えてくださいねっと!」

 

 俺は続けてほのおのパンチを叩きこむが、それはしっかりガードされる。

 

 その時、横から氷の大波がオルカさんに押し寄せていく。

 

 だがそれも躱される。

 

「我羅琉、俺も加勢する!」

 

 轟がこの場所にやってきたようだ。それと同時にもう一つの声がする。

 

「ヴィラン乱入とか!! なかなか熱い展開にしてくれるじゃないっスか!!」

 

 士傑の夜嵐も来たようだ。

 

 …だが、大丈夫なのだろうか。確かこの二人の間に起こる雰囲気はヤバかったはずだ。

 

 もし争いなんかしやがったら大幅な減点になる。

 

 こんなところで、衝突しなければいいのだが…。

 

 

 

 

 




その他用語解説
 「アンタの運命(さだめ)は、俺が決めさせてもらいます」…元ネタは朔田流星(仮面ライダーメテオ)の「お前の運命(さだめ)は俺が決める」。ヒーローとしての先輩にあたるので丁寧目な言い方に。


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74話

 轟と夜嵐が俺とオルカさんのバトルに合流してきた。

 

 俺は二人に遠距離攻撃を任せ、俺は接近戦をしかけようとした。

 

 …だが、それは出来ずに終わってしまう。

 

 轟の起こした熱風と夜嵐が起こした風は、互いに干渉してオルカさんには向かって行かずに見当違いの方向に向かってしまう。

 

 …その方向には攻撃を仕掛けようとした俺がいた。

 

「マ、ジ、か、よ!?」

 

 俺は体制を無理矢理ガードの体制に変えたが遅かった。俺は熱風に吹き飛ばされてしまい、近くの壁にぶつけられてしまう。…くそ、恐れてたことが…。

 

「だってアンタはあの、エンデヴァーの息子だ!!」

 

 そして2人が喧嘩を始めてしまった。

 

 俺には原因がどちらにあるのかはわからないが、試験だとは言え、ヴィランの前でそんなことをする奴は論外だろう。

 

 恐らく、夜嵐が突っかかっていったのを、轟が受け流せなかった形に見て取れるが、こんなことは初歩以前の心構えの話になってくる。

 

 そして、再び攻撃をするがさっきと同じように見当違いの方向へ熱風が向かってしまう。

 

(マズい!あの方向には!)

 

 熱風が向かった方向には真堂さんが倒れている。このままだとまずい。

 

「こうそくいどう!」

 

 俺は攻撃から救助へと方針を転換し、ハイスピードで真堂さんがいる方向へ向かう。

 

 …俺はしっかりと救助しようとしたが、そこにはいなかった。

 

 俺はその先にいた人影を見つける。

 

「出久!」

 

 出久が俺より先に到着して、救助していた。

 

 見渡すと尾白が向こうで戦っている。出久が今向いている方向から考えると、尾白に推進力をもらって飛んできた形か。

 

「何を、してんだよ!」

 

 出久が轟と夜嵐に向かって叫ぶ。

 

 この短い言葉は二人にとって気持ちを入れ替えるいい機会になってくれればいいのだが。

 

 …しかし、その間に轟と夜嵐がオルカさんの超音波攻撃で落とされ、俺たち3人に向かって他のヴィラン役の人たちが迫ってくる。

 

 だがその心配は杞憂に終わることになる。

 

「震伝動地!」

 

 真堂さんが個性で地面を割り、ヴィラン役の人たちを巻き込んでいく。

 

「真堂さん!」

 

「動けるんですか、無理しない方が…」

 

 出久と俺の声に真堂さんが返す。

 

「ああ、個性柄揺れるのには耐性があってね。折角倒れたフリして隙を伺ってだまし討ち狙ってたのにねェ!、そこのお前とあっちの1年二人がさァ!」

 

 …俺と出久は言葉を失っていた。

 

 あの人がこうなるのか…と。

 

 俺も素を隠しているとは思ったがここまでとは思ってなかった。

 

 その時、また俺たちは風を感じた。その熱風は紅蓮の竜巻となりオルカさんの周りを囲んでいく。

 

 …ようやくかよ、と俺は呟いた。

 

 個性をギリでコントロールできる夜嵐が風を起こし、足りない火力は轟が炎を放ってカバー。この連携が最初からできていたらと思ってしまう。

 

「出久、仕掛けるぞ!」

 

「了解!」

 

 俺と出久はオルカさんが俺たちから視線を離したすきに攻撃を仕掛けていく。

 

 この程度でオルカさんは倒れない。いくら乾燥が苦手だとはいえ、こんな状況はいくらでも経験してきたはずだ。

 

 俺の読み通り、嵐の中でもオルカさんは平然としていた。

 

 轟たちに興味が移っているこの瞬間俺は攻撃を仕掛ける。

 

「ブレイズキック!」

 

 俺は脚に炎を纏って蹴りを入れる。出久のフルカウルで強化した蹴りもほぼ同時に、しっかり攻撃がとオルカさんに刺さる。

 

 だがその蹴りが刺さった瞬間、終わりを告げるブザー音が会場に鳴り響く。

 

『只今をもちまして、配置されたすべてのHUCが危険区域より救助されました。まことに勝手ではございますが、これにて仮免試験全工程、終了となります!』

 



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75話

 俺たちがハードな試験を終えて、俺たちは感想や反省を語り合っていた。

 

 ちなみに真堂さんからは「あの時のことは忘れて」と何回も頭を下げられた。…いや、別にいいませんけど。

 

 その後、真堂さんと付き合っているという中瓶さんが言うには「あの荒々しいのが本当の彼なんだけどね」ということらしい。

 

 そうこうしているうちに、俺たちの前には簡易組み立て式の舞台が作り上げられ、そこにヒーロー公安委員会の目良さんという人が登ると俺たちは一斉に口を閉じる。

 

『えー、皆さん、長いことお疲れ様でした。これより結果を発表しますが、その前にひとつ。採点方式についてお話します。

 

 我々ヒーロー公安委員会と、HUCの皆さんによる二重の減点方式であなた方を見させていただきました。

 

 つまり、危機的状況で、どれだけ間違いのない行動を採れたかを審査しています。

 

 それを踏まえた上で、まずは合格者を五十音順でモニターに出しますので、ご確認ください』

 

 そして目良さんの後ろには組み上げられた大きなモニターに、一瞬の揺らぎの後にズラリと名前が表示された。

 

「みっ、みみ、み」

 

「みみみみみみみ」

 

 共に"み"から始まる出久と峰田の鳴き声に俺は苦笑いしながら、俺は自分の名前を探していく。

 

「…あったか」

 

 それを見た俺は自然に呟いた。まずは第一段階クリアといったところだろう。

 

 その後、他の面々の名前を探していくと轟と勝己の名前がなかった。

 

 恐らく、轟はいがみ合っていたアレが大幅な減点対象になったのだろう。夜嵐の方も名前が出ていない。

 

 勝己の減点ポイントは言動だろうか。助けには行っただろうが、あの言葉遣いじゃそうなっても仕方ないだろう。

 

 その轟を見ると、悲しくも悔しくもしていない表情をしていた。恐らく轟自身も分かっているのだろう。

 

 その轟に一人の影が迫る。

 

「轟!!」

 

 夜嵐だ。夜嵐は轟の近くまで歩き、少し間を開けて…、

 

「ごめん!!」

 

 ゴツンッ!というかなり大きな音を立てて、夜嵐が頭を地面にぶつけるようにして頭を下げる。

 

「アンタが合格逃したのは、俺のせいだ!! 俺の心の弱さの!! ごめん!!」

 

「…元々は俺の蒔いた種だし、よせよ。お前が直球でぶつけて来て、気付けたこともあるから」

 

 二人とも落ちた原因は分かっているなら、もう衝突することはないか、と俺は安心する。

 

 ただ一つ妙なことが一つ。

 

 減点方式ならなぜそこで脱落させなかったというのが気になる。それでないと試験を続ける理由はないだろう。

 

 …だが、俺の考えの答えを目良さんが言う。

 

 一次試験はふるい落とすための試験で100人まで絞るというものだったが、二次試験はそうではなく、ヒーロー仮免持ちとしてどう動くかを重視したとのことで、簡単には試験に落とさずに、補講を受けることによる再試験で、免許を取得することができるということ。

 

 確かにそれならと俺も納得した。補講は相当キツイものみたいだが、轟と勝己、それに夜嵐は受ける気満々のようである。

 

 そんな流れで、仮免試験は終わりを告げ、俺たちは雄英に戻った。

 



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76話

 

「…出久の奴、こねーな」

 

 仮免試験があった日の夜、俺は色々と出久と話そうと思い、俺の部屋に誘っていた。

 

 …だが、時間がたっても来ない。

 

 出久はこういうのにはしっかり来るタイプだ。来ないってことは何かがあったってことだ。

 

 俺は出久の部屋に向かい、扉をノックしてみる。

 

「出久ー?来ないから俺から来てやったぞー」

 

 しかし、反応はない。

 

「む、我羅琉か。どうしたんだ?」

 

 そこに通りがかったのは出久の隣の部屋にいる常闇だった。

 

「あ、常闇。出久探してるんだけどさ、どこにいるか分からない?」

 

「緑谷か、…さっき外の方へ出て行ったのを見たな。何かあったのか?」

 

 …外?なんでだ、特に今日は特訓することとかもなかったはずだ。

 

「ああ、ちょっと用事があってね。ありがと、常闇」

 

 常闇に礼を言った後、俺は寮の外に出る。

 

 少なくとも、先に用事があったのなら、俺から伝えたときにアイツから行ってるはずだ。

 

 ってことはこれは、出久にとっては不測の事態、予定外のことが起きたということ。

 

 俺は、思い当たる訓練室から順に回っていくことにした。

 

 だが、行く前に俺に冷たい声がかかる。

 

「…どこに行くつもりだ?」

 

 それは、消太さんの声だった。

 

「あー…、出久と用事があって、それで探しているんですけど…」

 

「…、緑谷なら爆豪と訓練室使って大喧嘩だ」

 

 はい!?どういうこったよ!

 

「俺が行こうとしたんだが、オールマイトさんが来てな。任せろって言うから今待ってる最中ってわけだ」

 

「あ、そうなんすね」

 

 …恐らく、提案したのは勝己だろうか、内容とまでは分からないが…。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 そして出久たちをオールマイトさんが連れ帰ってきた。

 

 二人を見ると痣だらけであり、大喧嘩だったということを物語っている。

 

 消太さんとオールマイト、そして俺が傷を治療し、一段落ついたときである。

 

「試験終了日の夜に喧嘩とは元気があってよろしい」

 

 消太さんが一気に二人を捕縛布で締め上げた。…アレは痛い、うん。経験したからわかる。

 

「相澤君待って、捕縛待って」

 

「まあ、二人にも訳があったんでしょうし…」

 

 オールマイトと俺が消太さんを止めようとするが消太さんは気にせずに捕縛を続ける。

 

 その後、オールマイトが言うことには、勝己が「オールマイトを終わらせた」と思い、そして自分より下ではあるだろうと思っていた出久が仮免試験に合格し、自分は落ちた…ということに納得いかず、出久を呼び出したということ。

 

 確かにあの神野の事件がなければ、ヒーローとしてのオールマイトが終わることはなかっただろう。

 

 だがそれはそれだ。オールマイトさんの体は限界に近付いており、実際問題として終わることは確かだった。だから雄英に教師としてきたのだ。勝己が責任を負う必要はない。

 

「先に手ェ出したのは?」

 

 消太さんが言うと、二人が答える。

 

「…俺だ」

 

「僕もその後結構…」

 

 最終的には、先に手を出したのは爆豪だが、出久も進んでやっていたらしい。

 

 その言葉を聞いて消太さんが二人に捲し立てるように言い放つ。

 

「爆豪は4日間!緑谷は3日間の寮内謹慎!その間の寮内共有スペース清掃!朝と晩!!+反省文の提出!!」

 

 あ、そんだけなんだ。意外と消太さんにしては軽そう。除籍もあり得ると思ってたから…。

 

「後、牙那も、こいつ等の治療はするなよ。演習ならまだわかるが、これは二人の結果だ」

 

「了解です。…そういう訳らしい。勝手に直せ」

 

 その日はやっと終わりを告げた。

 

 

 



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成長させるInternship
77話


「「ケンカして、謹慎〜!?」」

 

 出久と勝己の大喧嘩の翌日の朝。寮に芦戸と葉隠の元気な声が響き渡る。

 

 その原因となった出久と勝己はばつが悪いという風に絆創膏が貼ってある顔を歪ませている。

 

「馬鹿じゃん!」

 

「馬鹿かよ!」

 

「骨頂」

 

 二人はクラスメイトたちから浴びせられる口撃に言い返すこともできずに下を向く。

 

 その後、一通りイジり倒して、謹慎などを受けていない俺たち18人は揃って寮を後にし、夏休み中も訓練のために往復したおかげで、早くも通い慣れた道を進んでいく。

 

 その道中でも話題になるのはさっきの二人の話だ。

 

「あ、そうだ。あの二人の怪我については何もするなって消太さんに言われたよ」

 

「うわ、よく"それくらい"で済んだな。夜中に抜け出してケガするほどの大ゲンカだろ?」

 

「尾白、それに加えて仮免試験直後に、だぜ。オイラは除籍されてねーことが不思議なくらいだ」

 

 俺の言葉に尾白と峰田が返していく。確かに今回の処分は、あの消太さんにしては軽い方だろう。

 

 周りも般若の形相をした消太さんを思い浮かべたようである。

 

「朝から妙なプレッシャーを感じるよぉ…」

 

 葉隠は入学当初のことを思い出したようだ。ちなみに俺たちA組は入学式には出ていないが、B組の拳藤や泡瀬に聞くと「校長の話がくそ長かった」…らしい。

 

 そんな葉隠を蛙水が落ち着かせる。

 

「落ち着いて、透ちゃん。相澤先生は同じことが起きないように、釘をさすくらいのはずよ」

 

 その言葉に続けたのは芦戸だ。

 

「入学式の日は、ホントに式だけだったからね。今日の始業式後は普通に授業だし、時間の都合で無理は利かないでしょ」

 

「…芦戸の言葉が、あのような形で裏切られることになるとは、この時の彼女には想像すら出来ないのであった」

 

 瀬呂が返し、俺たちの不安が増大していく。

 

「止めてよ瀬呂、不吉なこと言うの! 期末赤点仲間じゃん!」

 

「それ言うなよ、割とガチで心が痛え!」

 

 そんな感じでわちゃわちゃしながら俺たちは片道徒歩5分の通学路を歩いて行った。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 そして始業式。始まりは校長先生の訓示から。

 

 …ただ、その話はもの凄くどうでもよく、ありえないほど長かったとだけは言っておこう。

 

 その後、…暗に出久と勝己のことを表しているのであろう、昨日起こった大喧嘩を注意するハウンドドックさんだったが…。

 

「…なんて言ってんの?」

 

 俺たちにはハウンドドックさんが吠えまくってるようにしか聞こえなかった。

 

 その後、スナイプさんが通訳する。

 

 始業式はつつがなく終わり、ヒーローインターンという新たな情報の説明や、テンションの割に内容は普通なプレゼントマイクによる英語の授業という風に、俺たちは久々にありふれた学園生活を送った。

 

 



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78話

 

 始業式から3日。謹慎期間を終え、鼻息を荒くした出久が復帰したことにより、ヒーロー仮免を取得したメンバーが全員教室に揃ったA組。

 

「それじゃあ、本格的にインターンの話をしていこうか。─入っておいで」

 

 消太さんが外に向けて話しかけ、扉がすぐに開く。

 

 教室に入ってきたのは3人。俺たちが疑問に思う中、消太さんが言う。

 

「職場体験とどういう違いがあるのか、直に経験している人間から話してもらう。多忙な中、都合を合わせてくれたんだ。心して聞くように。現雄英生の中でもトップに君臨する3年生、通称"ビッグスリー"の皆だ」

 

 一見何の共通点があるのかとは思ったが、そういうことか。

 

「じゃあ手短に自己紹介、よろしいか? 天喰から」

 

 そう消太さんが言い、俺たちはその先輩に注目する。黒髪の先輩は生来であろう三白眼が更に鋭くなって、初対面の俺たちはその迫力に気圧されてしまった。

 

 …だが、本当に睨んだりしたくはないみたいだ。

 

「…ダメだ、ミリオ、波動さん…」

 

 そう言って彼は小さい声で話し始める。

 

「ジャガイモだと思って臨んでみても、頭部以外は人間のままで、依然人間にしか見えない…。どうしたらいい…。言葉が、出てこない…。頭が真っ白だ…。辛い、帰りたい…!」 

 

 彼はそう言って俺たちに背を向け、壁を向いてしまう。…そういうタイプなのか。

 

「そういうの、"ノミの心臓"って言うんだって。人間なのにね。不思議だね。─彼はノミの天喰環、それで私が波動ねじれ。今日は皆にインターンについて、お話してほしいと頼まれて来ました、けどしかしところで、君はどうしてマスクを? 風邪? オシャレ?」

 

 ふわふわな感じの女性、ねじれさんはそう話しながら正面の席にいる障子に話し始める。

 

「これは昔に──」

 

「あらあと貴方が轟くんだよね! ね! どうしてそんなところを火傷したの?」

 

「っ! それは──」

 

「ね! 芦戸さんはその角折れちゃったら新しいの生えてくる? 動く?」

 

「へ?」

 

 ねじれさんは次々に興味が移って行くようで、俺たちは呆気に取られていた。

 

「蛙吹さんはアマガエル? ヒキガエルじゃないよね? 峰田くんのボールみたいなのは髪の毛? 散髪はどうやるの?」

 

「オイラのタマが気になるってちょっとセクハラですってセンパ「違うよ」──モガッ!」

 

 瀬呂、ナイス。そんな話しているねじれさんはもう次に興味が移っていた。

 

 それを見た消太さんは「…合理性に欠くね?」と呟く。

 

 そんな中、消太さんの怒りを悟ったのか、金髪の先輩が話し始める。

 

「イレイザーヘッド安心してください! 大トリは俺なんだよね!」

 

 その先輩は俺たちの方向に一歩進める。

 

「前途ー!?」

 

 先輩は耳に手を当てて回答を待つかのような姿をするが、俺たちからは声が出ない。

 

 前途…洋々、もしくは遼遠あたりか?

 

「多難ー! っつってね! よおし、ツカミは大失敗だ!」

 

 そっちか。先輩は言葉とは真逆に大きな笑い声をあげるが、その姿に威厳みたいなものは感じられない。

 

 俺たちのほとんどは困惑の表情だ。

 

「まぁ何が何やらって顔してるよね。必修ってワケでもないインターンの説明に、突如現れた3年生だ。無理もないよね。……1年からの仮免取得。今年の1年生って凄く、元気があるよね。何やらスベり倒してしまったようだし──君たちまとめて、俺と戦ってみようよ!」

 

 

 

 え?

 

 

 

 俺たちが驚いている間に、先輩が消太さんに直接訓練による合理性を言って許可を取っていた。

 

 マジでやるんすか?

 

 

 



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79話

 俺たちA組の面々と通形先輩は体操服に着替えて、戦闘の体制に入る。

 

 轟は仮免を所持していないというので辞退したみたいだ。

 

 出久が先頭で向かうと宣言して、それ以外の近接格闘を得意とする面々もそれに続こうとする。今回、俺は後方支援に入った。

 

 それに対し通形先輩は佇んでいるままだ。

 

「よっしゃ先輩、そいじゃご指導ぉ、よろしくお願いしまああっ!?」

 

 そして俺たちが攻撃しようとした瞬間、通形先輩の着ていた体操服が地面に落ちる。

 

 脱いだ…、というより先輩の体をすり抜けるって感じだな。

 

「服が"落ちた"ぞ!?」

 

「ああ、失礼。調整が難しくてね」

 

 その後、すぐにズボンを引っ張り上げる先輩に、出久が蹴りを入れようとするが、何もないという風に通り抜けてしまう。

 

 芦戸の酸も、瀬呂のテープも同じように通り抜けていく。

 

 そして、先輩は体の大部分を地面に沈め、ポーズをとる。恐らく、後ろにいる俺たちを狙ってくるのだろう。

 

 

 

「Transform,ゲンガー!」

 

 

 

 俺はゲンガーに変身する。ジュナイパーはヴィジランテ用なので使うことができないのでゴーストタイプでは最も使うポケモンだ。

 

 その間にも一番後ろにいた響香と上鳴がやられ、二人はイヤホンジャックで巻かれてしまう。

 

 八百万、芦戸、蛙水と倒され、続けて俺の鳩尾に攻撃を入れようとするが霊体になっている俺の体には攻撃はすり抜けてしまう。

 

 だが、気にしていないように、というか先に他の面々を倒そうとしたのか、他の遠距離攻撃持ちを続けて倒していく。

 

 残った俺はまだ生きている近接メンバーに合流する。

 

「何したのかサッパリ分かんねえ! すり抜けるだけでも強えのにワープとか、それもう無敵じゃないスか!」

 

「よせやい!」

 

 その中で出久が言う…というかブツブツモードに入る。

 

「…いや、何かカラクリがあると思う。"すり抜け"の応用でワープしてるのか"ワープ"の応用ですり抜けてるのかどちらにせよ直接攻撃されているからこっちも触れられる機会があるハズだ障子くん耳郎さんの警戒も突破できている辺りにヒントがあると思う…何してるか分からないなら、分かってる範囲から仮説を立てて、とにかく勝ち筋を探っていこう!」

 

 出久が気合を入れ、それは残っている面々にも移っていく。

 

 その後先輩は地面に姿を消す。

 

 どこからくる…?恐らく来るとしたら…。俺は腕に力を貯める。

 

 そして先輩は俺たちの前に現れる。だが、それは予想済みだ!

 

「ビンゴ!シャドーボール!

 

 出久の蹴りと俺の攻撃が先輩に迫っていく。

 

 だが、シャドーボールはかわされ出久は先輩の「ブラインドタッチ目潰し」で潰される。

 

 …さすがは消太さんが"ナンバーワンに最も近い"って言うだけはある。

 

 出久がやられ、それに動揺したほかの面々も潰されていく。

 

「さて、後は君だけだね。我羅琉君!」

 

「ええ、俺がこいつらの最後の希望っすからね」

 

 その流れで俺は消太さんに聞く。

 

「消太さん、どれぐらい戦っていいですか?」

 

「できる限り早くな。俺がもういいって言ったらすぐやめろよ」

 

 消太さんの許可は出た。短時間だが、俺の本気、久しぶりに出せそうだ。

 

「いいね、その態度!やっぱ君は他の子たちは違うね」

 

「褒めていただいて光栄です。先輩、攻撃が透過するもの同士、仲良くしましょうかっと!」

 

 俺と通形先輩の戦いが始まった。

 

 

 

 

 




その他用語解説

「俺がこいつらの最後の希望っすからね」…元ネタは操真晴人(仮面ライダーウィザード)の「俺が最後の希望だ!」。再び結構無理矢理な感じが…。


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80話

 通形先輩と俺との一騎打ち。

 

 俺は姿を消そうとするが、それを止めようと先輩が近づいてくる。

 

 だが、そんな攻撃は今の俺には通用しない。

 

 先輩が振りかぶって放ってきた右腕は霊体になった俺の体をすり抜けてしまう。

 

「マジか!」

 

「まじですよ。…先輩の弱点も見つけさせてもらいましたよ」

 

 俺はそのまま先輩に突っ込む。

 

「無駄だね!」

 

 先輩がガードの体制に入るが俺は攻撃態勢を変えない。

 

 

 

「冷凍パンチ!」

 

 

 

 俺は冷気を纏ったパンチを放つがその攻撃は先輩の個性によってすり抜けてしまう。

 

「ここだよね!」

 

 先輩は俺にカウンターパンチを仕掛けてくる。

 

 …それを待っていた!

 

 

 

「ほのおのパンチ!」

 

 

 

 俺は先輩のパンチをしてくる手を炎を纏うパンチでぶつける。

 

 先輩の個性が自分の体を透過させるという個性なら、いくら俺に殴ってこようと個性を発動しているとその攻撃も透過して、ダメージは与えられない。

 

 つまり、先輩は攻撃する際には個性を発動してはいけないのだ。

 

 なら、攻撃してくる手は個性は発動していない。攻撃は当たる!

 

 俺の攻撃は見事に当たって、通形先輩にダメージを与える。

 

「へえ。なかなかやるじゃん!」

 

「ありがとうございます」

 

 続けようとしたがそれは消太さんの声によって止められる。

 

「そこまでにしとけ、二人とも」

 

「あ、もう終わりですか?」

 

「これ以上は時間の無駄だ」

 

 その言葉で俺は変身を解いた。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「ギリギリちんちん見えないように努めたけど、すみませんね女性陣! とまぁ、こんな感じなんだよね!」

 

「「「…我羅琉以外、全員わけもわからず腹パンされただけなんですが…?」」」

 

 俺と通形先輩の戦いが終わり、そこにはタイマンしていた俺と参加していなかった轟を除く全員が殴打された鳩尾を押さえるという傍から見れば異様な光景が広がっていた。

 

 その後、通形先輩が自身の個性について説明する。

 

 "2つの物質が重なることはない"、という世界の法則を活用し、地面に沈んだ状態で解除すれば"重なり合った状態"が作れる。

 

 そして世界というのは"正常な状態を保とうとする"性質があるので、重なっていない状態に戻ろうとして、それぞれが弾き飛ばされる。

 

 その相手が地面の場合は質量差が大きいために、通形先輩が地上へ瞬時に放り出されるというもの。これにポーズや体の向きを加えて瞬間移動をしているらしい。

 

 通形先輩は続ける。

 

「光も透過するから見えないし、音も聞こえない。それはただ、何も感じることなくただ落下の感覚があるだけなんだよね。そんなだから、壁一枚すり抜けるにも"片足以外発動"、"通過してもう片足を解除して接地"、"残る足を透過させて通過"と、いくつもの工程が必要なんだよね」

 

「急いでる時ほどミスるな、俺だったら……」

 

「おまけに何も感じなくなってるんじゃ動けねえ」

 

 と瀬呂、轟が言っていく。確かに俺もテンパるときがないわけではない。そういう時に逆に相性最悪のポケモンに変身するということも昔何回かしたことがある。

 

「そう、案の定俺はビリッけつまで落っこちた。ついでに服も落ちた。この個性で上に行くためには、遅れだけはとっちゃダメだった。─予測! 周囲よりも早く、時に欺く! 何より"予測"が必要だった!」

 

 通形先輩は自分のこめかみをトントンと叩く。そのまま通形先輩は言う。

 

「その予測を可能とするのが"経験"! 経験則から予測を立てる! 長くなったけど、これが手合わせの理由! 言葉よりも"経験"で伝えたかった!」

 

 …確かに学校で学べることには限界がある。俺がヴィジランテ活動を今やっていなかったら恐らく今こんな風にはなってはいないだろう。

 

「インターンにおいて、我々は"お客"ではなく1人のサイドキック、プロとして扱われるんだよね。…それはとても恐ろしいよ。時には人の死にも立ち会う。けれど、恐い思いも辛い思いも、すべてが学校じゃ手に入らない一線級の"経験"だ。

 

 俺はインターンで得た経験でトップを掴んだ! ─ので! 恐くてもやるべきだと思うよ、1年生!」

 

 そう力説する通形先輩の言葉には確かな芯というものがあった。

 

「「「ありがとうございました!」」」

 

 皆の感謝の言葉と拍手によって、ヒーローインターンの説明は無事に終わりを告げた。



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81話

 唐突だがインターン…、どうしよう。

 

 俺の職場体験先はワイプシ事務所だった。だがワイプシは現在活動休止中である。

 

 一応信乃さんに連絡を取ってみたのだが、案の定で断られた。仕方ないだろう。

 

 瑠莉姉も一応まだプロヒーロー免許は持っているので、消太さんに相談したところ、瑠莉姉は余りインターンの受け入れ実績がないためダメだとのこと。

 

 瑠莉姉本人にも聞いてみたが軽く断られた。

 

 …本当にどうしよう。

 

 そんな中、教室にいた俺に声がかかる。

 

「が、我羅琉君…、ちょっと来て…」

 

「天喰先輩!?」

 

 というか、なんで先輩が1年教室に来てんの、まず!?

 

「い、インターンのことで話があってね…。相澤先生にも話は伝えてるから…」

 

 まあ、断る理由もないっすけど…。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「で、どうかしたんですか?」

 

「実はね、ウチのファットが君をすごく気に入っちゃってね…、「これるんだったら是非ウチに誘っといてや!」って…。君が良ければなんだけど、どうかな…?」

 

 ファットガム。関西の方で活躍するヒーローであり、士傑出身ではあるが瑠莉姉と同期だったはず。何年か前にウチに来たことがあったかな。

 

 俺としては大助かりである。今俺はインターンとして行くところがない。まあ、俺がプロヒーロー達にインターンの受け入れをお願いすれば何個かあるかもしれないが、消太さん曰く、インターンは職場体験などで得たコネを活用しろ…とのこと。まあこれも職場体験ではないが先輩からの紹介なのでいいのだろう。

 

「こちらこそ、お願いします。ワイプシが活動休止になったので俺としてもありがたいです」

 

「ありがと…、ああ、これでファットにどやされないで済む…」

 

 なんかあるのか…。

 

 …で、だ。

 

 俺は部屋の外にいる存在に目を向ける。

 

「…いつまでそこにいるんだ、お前らしく男らしく来いよ」

 

「え…?」

 

 天喰先輩は驚いた表情をしているが、俺はそのまま扉を開ける。

 

 …そこには切島がいた。

 

「いつから気付いてたんだよ?」

 

「俺が教室を出るときに後ろから変な波導を感じ取ってな。来るかなって思ってたよ」

 

「さすが、我羅琉だ。…悪ィ我羅琉、盗み聞きするつもりじゃなかったんだ」

 

「え、えと…」

 

 俺と切島が話してる間、天喰先輩はオロオロと慌てている表情をしている。

 

 そんな天喰先輩に切島が言う。

 

「天喰先輩!俺をファットの所で働かせてください!」

 

 切島は天喰先輩に対して勢いよく土下座した。そこまでするか!?

 

「あ、あの…、理由を聞いてもいいかな…」

 

 先輩は切島に対しそう話す。切島はそのまま続ける。

 

「俺はこのままじゃ俺の目標とするヒーローになれねぇっス!今の俺じゃ何も守れねえ、何でもちゃんと守れる紅頼雄斗にはなれねえ!…無理矢理ってことは分かってます!雑用でもなんでもいいッス!どうかこの俺を使ってもらえないっスか!」

 

 そこには少しの沈黙の時が流れる。

 

 その後、先輩は話す。

 

「か、顔上げて…、…分かった。俺もファットに聞いてみるよ…。君のやる気は本物みたいだし…」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 切島は土下座の態勢のまま大きく何回も頭を下げる。

 

 これは面白いインターンになってきそうだな。

 

 俺はそう思い、にやりと笑みを浮かべた。

 

 

 

 



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82話

 関西地方、江洲羽市。

 

 環先輩(名前の方で呼んでと言われた)に連れられて、俺と切島はインターン先であるファットガム事務所に到着した。

 

「なんか、いかにもファットガムって感じだな、コレ」

 

 事務所はファットガムの顔を模した建物であり、周りとの剥離というか独特な存在感が凄い。

 

「そうだな、我羅琉」

 

 切島も同感のようだ。そんな感じで二人で話していたが環先輩が俺たちに向けて言う。

 

「二人とも、入るから…」

 

「うっす!」

 

「お願いします」

 

 そう言って、俺たちは環先輩に連れられて事務所に入る。

 

「失礼します、雄英高校の切島と」

 

「我羅琉です。今日からインターンお願いします」

 

「おー!来たな!雄英生徒!よう来た遠い所からなー!」

 

 少し緊張しながら言う俺たちに笑みを浮かべながら労ってくる黄色いジャージを着た丸々としたマスコットのような物体…、ではなくここのトップであるファットガムさん。

 

「我羅琉君とは、一回nacitaであったんやったか?瑠莉奈は元気にしとる?」

 

「まあ詳しいことは知らないですけど、この前話したときは相変わらずでしたね」

 

 俺は苦笑いしながら言う。

 

「それにしても、この環が人を連れて来るとはなぁ!体育祭見たで!元気がある子は歓迎やで!」

 

「あ、はいよろしくお願いします」

 

「恐縮っす!」

 

 ファットさんが俺たち二人に向けて話し、俺たちが返す。まあ環先輩は仕方ない面もあるだろう。

 

「こいつなんぞアガってしもて毎年ドンケツやねん」

 

「俺のことはいいでしょう…」

 

 環先輩を指さし笑いながら言うファットさん。

 

 そして、先輩は事務所内に入っても俺たちの方に背を向けて壁の方を見つめたままである。

 

 そんな中、切島が口を開く。

 

「職場体験の時にに指名してくれたフォースカインドさんもそう言ってくれました、威勢が良い奴がいると事務所の士気が上がるって…、でもそれだけッス」 

 

 切島は俯きながら話を続けていく。

 

「俺…、それだけじゃ嫌なんです紅頼雄斗みたいにちゃんと守れるヒーローに、変わりたくて‼︎だから無理言って環先パイにここ紹介してもらったんス、誰かのピンチを見過ごす情けない奴にはもうなりたくないっス!」 

 

 切島の目は真っすぐだった。…恐らくこいつは守れなかった経験をしている。じゃねえとこんな感じでは言えねえ。

 

 その切島の言葉に俺も続ける。

 

「俺だって同じです。俺の目の前で絶望なんてさせやしない。絶望するのはもう俺だけで十分っすから。そのためにここで学んで成長していきたいです。ファットさん、これから頼みます!」

 

 俺はその流れのまま頭を下げ、切島も続くように頭を下げる。

 

「…2人とも、顔上げぇ」

 

 ファットさんは椅子から立ち上がりポンポンと俺たちの肩を叩く。

 

「2人の気持ちはよーわかった!

ヒーローに必要なのはそんな感じの強い意志や!さぁ、二人ともヒーロースーツに着替えてパトロールや!」

 

 …やっぱここに来てよかった。ここなら俺はまだ成長できそうである。

 

 

 

 

 

 

 




その他用語解説
「俺の目の前で絶望なんてさせやしない」…再び元ネタは操真晴人(仮面ライダーウィザード)。


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83話

 

 俺たちがヒーローコスチュームに着替えて数分後、俺たちは江洲羽市のパトロールをしていた。

 

「最近チンピラやらチーマーやらのイザコザが多くてなぁぁ!腹が減ってしゃあないわ!!」

 

 ファットさんは片手にたこ焼きを食べながらズンズンと歩いている。彼曰く、これも市民との交流の一つらしい。

 

 俺も店の人から「一つ食ってき!」と言われたので食べながら歩いている。行儀が悪いと言われるかもしれないが…、うまいわ、コレ。

 

「せやからここらのヒーロー事務所も武闘派欲しがっとんねん、レッドライオット君、キバナ君適材やで」

 

「よろしくお願いします!」

 

「恐縮ですね」

 

 そんな中、歩いていると、俺も結構知名度があるみたいで、よく周りの人たちから話しかけられる。恐らくは体育祭を見てくれていた人たちだろう。

 

 小さい子たちからもサインを求められたりもしていて、結構大変だ。

 

「それにしても、キバナ君のカッコは運動でもするんか?そのパーカー取ったらスポーツ選手みたいやで」

 

 ファットさんがそう俺に言う。確かにこのカッコを見た人たちはヒーローかスポーツ選手かどうかって聞かれたらどっちか迷うだろう。

 

「まあ、コレはサッカーのユニフォームをもとにしたものですからね」

 

 俺のこの服はサッカー発祥の国、イギリスが元ネタとなっているガラル地方のドラゴンユニフォームだ。

 

 ガラル地方のジムリーダーたちはそれぞれのユニフォームの上にそれぞれアレンジをして着用しているのだ。

 

 俺としては動きやすいし、丁度いい。

 

 ちなみに瑠莉姉もヒーロー時はみずユニフォームを着用している。

 

 そんな感じで話がをしている中、誰かのさけび声が聞こえてきた。

 

「ケンカだぁ!誰かぁ!」

 

「来よったか!」

 

「分かってます!」

 

「よし!」

 

「…」

 

 4人それぞれの反応をしながら構えると、前からヤクザ達が走ってきているのが見えた。

 

「バカがウチのシマで勝手に商売しやがって!っちくしょうついてねぇ!折角これから一旗あげようって時に!」

 

 ヤクザたちは捕まるまいとばらけようとしたがそうはさせない。ファットさんは何人かを体に沈ませて捕まえる。

 

 だがそれは一部だ。俺たちの方に捕まえそこねた面々が走ってくる。

 

「いつもの奴で、行きますか!」

 

 俺は変身態勢に入る。

 

 

 

「Transform,コジョンド!」

 

 

 

 俺は慣れた手つきでコジョンドに変身する。

 

「さっさと終わらせるぜ!」

 

 俺はヤクザたちとの距離を一気に詰める。

 

「まずは…、ねこだまし!

 

「ぐわっ!」

 

 俺はねこだましを喰らわせる、簡単な技ではあるが結構有能技だ。

 

 怯まされた相手に対しその体に俺は手をかざす。

 

「はっけい!」

 

 俺は相手に対し、衝撃波を与え相手をKOさせる。…なんだこんなもんか。

 

 そんな中、ヒーローの活躍を見ようとした野次馬達が徐々に集まって来ている。だが、その中で異様な雰囲気を出している男がいた。

 

「兄貴達、、助けなきゃ!」

 

 その男は俺たちに対し、銃を向けてくる。

 

「あかん!伏せ!」

 

 ファットさんが気づいたが少し遅かったか。叫ぶが環先輩が撃たれてしまう。

 

「先輩!」

 

「アニキィ!逃げろぉ!」

 

 男は叫ぶと共に再び発砲する。

 

 …が、それは俺たちには来なかった。

 

「弾けた!?」

 

 大きな音とともに切島が自身の硬化によって弾いた。

 

「捕えます!」

 

 切島はそのまま逃げた男を追う。

 

「先輩、大丈夫ですか?」

 

「あぁ…、大丈夫、思ったほど痛くはない…」

 

 よかった。まずは一安心か。

 

「けど…、個性が…、使えない…」

 

 環先輩は個性を発動させようとするが発動できていない。

 

「なんやて!イレイザーでもおんのか!」

 

「いや、それなら戦う前に使えなくなるはずです、ファット。多分ですけど、撃たれた弾に何かありそうな予感がしますね…、俺、レッドライオットの加勢に行ってきます!」

 

「おぉ!ここは任せとき!」

 

 ファットの声に送り出され俺は切島の援護に向かった。 

 

 



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84話

 

 ファットさんと別れた俺は切島に追いつく。

 

 …なんだ、終わったのか。

 

 そこには恐らく切島に倒されたのであろう男が地面に座り込んでいた。

 

「ライオット!もう終わってたか」

 

 俺は切島に駆けよっていく。

 

「おう、キバナ!今片付いたトコだ!」

 

 俺たちが話していると倒れていた男が立ち上がる。

「倒したやて?調子のんなやボケカス、アニキらについていけば、力を貰えるんや」

 

「ちっ、まだ倒せてなかったか!」

 

 俺たちがそう言うと男は首に何かを注射する。

 

「あぁああ!あ!ああああ!」

 

「何してんだ!何打った!?オイ!大丈夫かよ!?」

 

 マジかよ、アレは…!

 

「ライオット!来るぞ!」

 

 男はふらつくが、その後、男から刃が飛び出し、切島を襲う。

 

「うぐぉあ!」

 

「ライオット!」

 

 刃系の個性か、なら鋼タイプで、

 

「Retranceform,ルカリオ!」

 

「行けるか、切島?」

 

「ああ、平気だ。アイツが言ってたんだ、アイツの個性は刃渡り10センチ以内の刃が飛び出す個性って…」

 

「恐らくトリガーだな。理性を犠牲にして自身の個性をブーストさせる薬、…噂には聞いてたがやっぱあったか」

 

「我羅琉、大通りにコイツが出たら大惨事じゃ済まねえ。ここで決めるぞ!」

 

「分かってる!」

 

「誰が決めるんやてぇ!」

 

 俺たちの言葉に男がそう言いながら、俺たちに向けて刃を伸ばしてくる。

 

 …だが、甘い。

 

「バレットパンチ!」

 

 俺は弾丸のような速さで拳を繰り出し、バキィという音と共に刃を砕く。

 

「…今ここでお前を止められるのはただ一組、俺たちだけだ!」

 

「かっこつけんなやぁぁぁ!」

 

 それを聞いた男は無作為に刃を飛び出す。

 

 それはしっかりと切島が自身の硬化で受け止める。

 

「…ライオット、あるんだろ、切り札?」

 

「やっぱお前には気づかれてたか、…ああ、俺にはコレがある」

 

 そういった切島の肌はガチガチと刺々しく固まっていく。

 

「個性伸ばしの圧縮訓練で到達した現時点での最高硬度!

 

 烈怒頼雄斗 安無嶺過武瑠!

 

 切島を襲った刃が逆に折れてしまうほど、切島の体は固くなっていた。

 

「キバナ、これは30秒くらいが限界だ、その間にこいつを倒す!」

 

「ああ!」

 

 それを聞いた俺はスピードを一気に上げていく。

 

「…さあ、俺の姿が捉えられるか?」

 

「こうそくいどう!」

 

 俺は目にも止まらぬ速さで相手の周りをグルグルと回っていく。

 

 男は俺の姿を見つけられず、完全に混乱していた。

 

 そんな中、切島が男との距離を詰め、拳を構える。

 

「必殺!烈怒頑斗裂屠!」

 

「うぐばぁァァァ!」

 

 切島渾身のブローが相手に決まる。

 

 俺はそのスピードのまま、男が吹き飛んだ方向に移動し、男に技を放つ。

 

「オラよっと!インファイトォ!」

 

 俺は相手に高速で且つ性格に猛攻撃を与えていく。

 

 俺に吹っ飛ばされた男は地面に大きなクレーターを作ってめり込み、気絶した。

 

 俺は変身を解除し、切島も安無嶺過武瑠を解除する

 

「っしゃあ!これでいいだろ!」

 

「…やっべ、やりすぎたかも。まあ、後は警察の仕事か」

 

 その後、ファットがやってきて「もう終わってるやん…」と呟いていた。

 

 こうして俺と切島は鮮烈なデビューを飾った。

 

 

 

 

 

 

 

 




その他用語解説
「…今ここでお前を止められるのはただ一組、俺たちだけだ!」…元ネタは飛電或人(仮面ライダー01)の「お前を止められるのはただ一人! 俺だ!!」。外にはファットガムがいたりしてキバナ一人だけが止めれるわけではないのと、切島が横にいたのでこういう変化に。


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85話

 インターンでデビューをした数日後、雄英に帰ってきた俺と切島の二人。いつも通りの学校生活は久しぶりな感じがした。

 

「ふぃー、…やっぱきついな。この後補習もあるし…」

 

「ああ、我羅琉。疲れも取れたわけじゃないから頭が回らねえ…」

 

 そんな感じでのんびりしている俺たちに前の席の上鳴が話しかけてくる。

 

「オイ、我羅琉、切島、コラァ!」

 

「ん?どうした、少しぐらい寝させてくれ…」

 

 俺は言うが上鳴はそんなこと知るかという感じで話しかけてくる。

 

「寝させてたまるかっての!お前ら名前!ネットニュースにヒーロー名!のってるぞ!すげぇ!」

 

 上鳴が見せてきたスマホの画面にはでかでかと大きく『新米サイドキック!烈怒頼雄斗&キバナ 爆誕!』と書かれてあった。

 

「…なんだそれだけか、じゃ寝る…」

 

「オイ、我羅琉!?うれしくねーのかよ?」

 

 俺は興味がなさそうにするが、そうはさせてくれない。

 

 話した方が早いか、これは。

 

「単純に注目されんのめんどい、消太さん風に言えば合理的じゃないってやつ、以上な…」

 

「あ、オイ我羅琉、寝るなー!」

 

 この後も授業あるんだ、少しぐらい休んでもいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 数日後、俺と切島はファットさんからの呼び出しを受け寮を出ようとしていた。

 

「お!緑谷!おはよ!お前も今日行くんだな!」

 

「しばらく呼ばれなくってやっと今日だよ、コスチュームはいらないって言われたけど…」

 

「俺たちも今日はコスチュームいらないって言われてんだ。奇遇だな」

 

 その後、寮の玄関から麗日と蛙吹も出てきた。

 

「あれー!?おはよーー!みんなも今日!?」

 

 最終的に5人そろって俺たちは駅に向かった。

 

 その後も、俺たちは全員一緒のルートを通る。

 

「あれ?みんなこっち?切島くんと牙那くんは関西じゃ…」

 

「ん?ああ、何か集合場所がいつもと違くてさぁ」

 

 その後、ホームに上がったが全員同じ列車に乗るみたいである。

 

「アレ、お前らもこっち?」

 

「先輩と現地集合なのよ」

 

 その後も、俺たちは全員、同じ角を曲がり、同じ道を通る。

 

 俺たちが向かった先には雄英ビッグ3が揃っていた。

 

「環先輩、なんかあったんすか?」

 

「ファットから聞けばわかる、入るよ…」

 

 俺が環先輩に聞くがそれだけである。

 

 そして皆同じ部屋に集められた。

 

「グラントリノ!? それに、相澤先生まで!? …チャートに載ってる有名ヒーローから地方のマイナーヒーローまで…」

 

「一目でマイナーヒーローをも見抜く、って、かなり凄いことだからな、緑谷」

 

「え、でもヒーロー名鑑にみんな載って──」

 

「普通、覚えらんねえから」

 

「というか、あれ、トップランカー以外は顔写真すら載ってねーからな、出久。お前どっから情報仕入れてきた」

 

 出久がいつものモードに入ってる通り、そこには多数のヒーローたちが集まっていた。…チームアップでもするのか?

 

 そしてここのオフィスのトップである、ナイトアイがが口を開く。

 

「あなた方に提供していただいた情報のおかげで、調査が大幅に進みました。死穢八斎會という小さな組織が、何を企んでいるのか。知り得た情報の共有とともに、協議を行わせていただきます」

 



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86話


 今回いつもより1000字ほど長めです。毎回できる限り1500字以内で収めようとしたのですが、やっぱり説明シーンは切りにくい…。


 「あなた方に提供していただいた情報のおかげで、調査が大幅に進みました。死穢八斎會という小さな組織が、何を企んでいるのか。知り得た情報の共有とともに、協議を行わせていただきます」

 

 告げられた組織の名前を知らない学生組は、揃って不思議そうな表情だった。

 

 例外なのは通形先輩、出久の二人のみである。

 

「俺ら、置いてけぼりなんスけど、、ハッサイ?なんすか?」

 

 良くわかっていない切島はファットに聞く。

 

「死穢八斎會や、悪いこと考えとるかもしれんから皆で煮詰まりましょのお時間や、お前らも充分関係してくるで」

 

「極道、ですか…」

 

 俺はそう口を開く。極道系の敵とは余り戦ったことねえんだよな。

 

「えー、それでは、始めてまいります。我々ナイトアイ事務所は、約2週間ほど前から、死穢八斎會という指定ヴィラン団体について、独自調査を進めて、います!」

 

「私、サイドキックのセンチピーダーが、ナイトアイ指示の下で追跡調査を行っておりました。ここ1年以内に、組外の人間や組織との接触が急増しており、組織の拡大と資金集めを目的にしていると思われます。そして──」

 

 ナイトアイのサイドキックである、センチピーダーとバブルガールの二人が経緯を説明しながら、二人の背後のスクリーンに1枚の写真が映し出される。

 

 かなり遠くからのものであり、かなり荒い画質だった。

 

「調査開始からすぐ、ヴィラン連合の1人である分倍河原 仁──ヴィラン名・トゥワイスと接触。追跡は叶わず、以降の足取りは掴めておりませんが……」

 

「ヴィラン連合が関わる話なら、ってことで、俺や塚内にも声がかかったんだ。まあ、その塚内は他の目撃情報が入ったんで、そっちに行ってるが」

 

 言葉を引き継いだのはグラントリノ。出久の職場体験で世話になったヒーローらしく、オールマイトの師匠らしい。

 

「えー、このような過程があり、"HN"にて皆さんに協力を求めたわけで─「そこ、飛ばしていいよ」─うん!」

 

「"HN"?」

 

「ヒーローネットワークだよ。プロ免許を持った人だけが使えるネットサービス。便利な個性のヒーローに協力を申請したりできるんだって!」

 

 ねじれ先輩の言うヒーローネットワーク。瑠莉姉も使っていたことを見たことはあるが、基本的には知られていない情報だ。

 

「…雄英生とはいえ、ガキがこの場に居るのはどうなんだ? 話が進まねえや。本題の"企み"に辿り着く頃にゃ、日が暮れてるぜ」

 

「ぬかせ! この3人はスーパー重要参考人やぞ!」

 

 なかなか進まないことに苛立ちを覚えたのか、口を開いたのはロックロックだ。それに抗弁するようにファットさんは立ち上がる。

 

「八斎會は以前、認可されていない薬物の捌きをシノギの1つにしていた疑いがあります。そこで、その道に詳しいヒーローに協力を要請しました」

 

「昔はゴリゴリにそういうん潰しとりました! そんで先日のキバナ・烈怒頼雄斗デビュー戦! 今までに見たことないモンが環に撃ち込まれた! …個性を壊すクスリや」

 

 その言葉に場は騒然とする。にわかには信じがたいだろう。

 

 通形先輩が環先輩を心配して声をかけるが、問題ないという風に環先輩が個性を発動させて安心させる。

 

「回復すんなら安心だな。致命傷にはならねえ」

 

「いえ…。その辺りは、イレイザーヘッドから」

 

「俺の"抹消"とは違うようですね。俺は個性を攻撃しているわけではないので」

 

 消太さんの‟抹消”は個性を構成する要素、個性因子を一時的に停止させるものである。破壊するわけではない。今回の薬はそれが破壊されたのである。

 

「すぐに病院で見てもろたが、その個性因子が傷ついとった。今は自然治癒で元通りやけどな。環の身体には他の異常は無し。撃った連中はダンマリ、銃はバラバラ、弾は撃ったっきり! ……ただ、切島くんが身を挺して弾いたおかげで、中身の入った一発が手に入った、っちゅーワケや!」

 

「…? …俺スか!? ビックリした! 急に来た!」

 

「…そして、その中身を調べた結果。ムッチャ気色悪いモンが出てきた。…人の血ィや細胞が入っとった」

 

 ファットさんはそう告げる。俺もこれを聞いたときは「マジか…」ってなった。

 

「うーん……。さっきから話が見えてこないんだが、それがどう、八斎會と?」

 

「今回、切島くんと我羅琉君が捕まえた男。そいつが持ってた違法薬物しかり、その手のブツの入手経路は複雑でな。今でこそかなり縮小されとるけど、色んな人間、グループ、組織が、何段階にも卸売りを重ねて、ようやっと末端に行き着くんや。…捕まえた連中はダンマリ決め込んどるけど、警察の方ではもう、関わった可能性のある組織は割り出し済みや」

 

 そこで出てきたのが八斎會だった。そういうことか。

 

「八斎會の若頭、治崎の個性は"オーバーホール"─対象の分解、修復が可能という力です。…そして治崎には娘が居る。出生届もなく詳細は不明ですが、ウチの通形と緑谷が遭遇した時は、手足に夥しい包帯が巻かれていました」

 

 それだけで俺が想像するのには十分すぎた。…嘘だろ?自分の娘にそこまでさせてんのかよ…。

 

「な、何の話スか…?」

 

 切島は俺たちの空気が分からないという風に聞く。俺はそれに返す。

 

「…その治崎っての、娘の身体を銃弾にして捌いてんじゃね? ってことだよ切島。想像したくねえがな…」

 

 それを聞いた1年の面々は背筋がぞくっと冷える感覚がしただろう。

 

「現時点では、性能はあまりにも半端です。ただ、仮にそれが、試作段階だとして。もしも完成形が、個性を完全に破壊するものだとしたら……? 悪事のアイデアがいくらでも湧いてくる」

 

「コイツラが子供を保護してりゃ、一発解決だったんじゃねーの?」

 

「全て私の責任だ、2人を責めないでいただきたい。知らなかったこととはいえ、2人ともその娘を救けようと行動したのです」

 

 事実を知っているのはこの場では通形先輩と出久の二人。最も強いショックを受けているのは、間違いない。

 

「「今度こそ必ずエリちゃんを、保護する!!」」

 

「─それが、私たちの目的となります」

 

 思わず、といった様子で立ち上がった2人の目は、決意に満ちたものだった。

 

 

 

 




 


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87話

 

 ミーティングを終え、個別に打ち合わせを行う消太さんを待ってる間、俺たちは通形先輩と出久に声をかけられずにいた。

 

 この二人の守れなかったという気持ちは俺たちにも痛いほど分かる。熱い切島は自分のことのように感じているような表情だった。

 

 その中で、軽やかなエレベーターの電子音が響く。

 

「…通夜でもしてんのか?」

 

 エレベーターから降りてきた消太さんは俺たちに歩みを進めていく。

 

「先生…」

 

 学外ではイレイザーヘッドと呼べ、という言葉の後に消太さんは続ける。

 

「…しかし、今日は君たちのインターン中止を提言する予定だったんだがなぁ」

 

「ええっ!? 今更何で!?」

 

 その言葉に切島が勢いよく立ち上がる。

 

「連合が関わってくる可能性がある、と聞かされたろ。話は変わってくる。…ただなぁ」

 

 頭をボリボリと掻きながら、消太さんの視線は出久に向く。

 

「…緑谷。お前はまだ、俺の信頼を取り戻せてはいないんだよ。残念ながらここで止めたらお前はまた飛び出してしまうと俺は確信してしまった。だから、俺が見ておく。するなら正規の活躍をしよう。わかったか、問題児」

 

 消太さんのあえて茶化したのであろう言い方に出久は涙をこらえるのに必死の形相だ。

 

 軽い音と共に胸元に突きつけられた拳から伝わる温かさ、伝わるには十分だった。

 

「気休めを言う。掴みそこねたその手は、エリちゃんにとって、必ずしも絶望だったとは限らない。前向いて行こう」

 

「っはい!」

 

 あー、よかった。

 

 俺以外の3人も安心した表情を浮かべていた。

 

「…とは言っても、だ。プロと同等か、それ以上の実力を持つビッグ3と牙那はともかく。1年生の役割は薄いと思う」

 

「あれ、俺のこと認めてくれてるんですか?」

 

 俺の言葉に消太さんは軽く流すような言い方で続けていく。

 

「…お前は黙ってろ。…蛙吹、麗日、切島。お前たちは、自分の意思でここに居るわけでもない。…どうしたい?」

 

 …その答えはずっと教えてきている消太さんでも聞かなくても分かってるだろう。

 

「先っ、イレイザーヘッド! あんな話聞かされて、"やめときましょ"とはいきません!」

 

「イレイザーが駄目と言わないのなら、お力添えさせてほしいわ。小さな子を傷つけるなんて、許せないもの」

 

「俺らの力が少しでも、その子の為ンなるんなら、やるぜ! イレイザーヘッド!」

 

 それを聞いて消太さんは俺の方を向く。

 

「牙那も、お前が辞めたいなら抜けていい、どうする?」

 

「もちろん参加させてもらいますよ、消太さん。その子の手はまだ絶対に掴めるはずですからね

 

「イレイザーと呼べと言ったはずだ…、全員の意思確認をしたかった、わかっているなら良い。決行にせよ中止にせよ、別途連絡があるまで、学生組は待機だ。授業でもやったが、捜査途中の情報は関係者外に漏らすなよ」

 

 教師としての顔を覗かせた消太さんの言葉に、揃って返事する声が辺りに響いた。




その他用語解説
「その子の手はまだ絶対に掴めるはずですからね」…元ネタは火野映司(仮面ライダーオーズ)の「俺が手を掴む!」。助けられなかったことを悔いる映司の思いが詰まったいい言葉です。


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88話

 

 

 サー・ナイトアイ事務所にて会議が行われてから、2日後の深夜。雄英高校学生寮、ハイツアライアンス1階。

 

「いよいよ、だな」

 

「……うん」

 

 部屋着のままに集まった5人。対死穢八斎會への作戦に参加する彼らは、一様にスマートフォンを手にしていた。

 

 送られてきたメッセージは、作戦の決行日である。

 

 …ついに決まったか、というのが俺の反応だ。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 AM8:00、警察署前。

 

 ナイトアイが構成員のその後を"見た"結果、八斎會邸宅には届出のない入り組んだ地下施設が存在し、その中の一室に今回の目的である女児がかくまわれていることが確定した。

 

 構成員の男は、地下への入り口から女児の部屋まで一切寄り道せず行ったため、地下全体は把握できなかったらしいが、男が歩いた道はそのまま目的への最短経路。

 

 広い敷地の中だと、非常に有益な情報である。

 

「しかし、目指すにしても‟個性‟を駆使されれば捜査は難航する。そこで、分かる範囲だが八斎會の登録個性をリストアップしておいた。頭に入れておいてくれ!」

 

 …あー、こういうのマジ助かる。いちいち相手について自分で調べるのは面倒くさいんだよな。

 

「隠蔽の時間を与えないためにも、全構成員の確認・補足など、可能な限り迅速に行いたい」

 

 その場には多数のヒーロー、機動隊を含めた大きな集団が出来上がっていた。本気度の現れだろう。

 

「決まったら早いっすね!」

 

「君、朝から元気だな…」

 

「まー、これが切島の良さですからねー」

 

 俺たちは移動までの間、準備をしながら話をする。

 

 リューキュウさんが言うことには「こういうことは、学校じゃ詳しく教えてくれなくて、新人時代苦労した」とのこと。

 

 その分、俺たちはここで学べてるってことは恵まれてるんだろう。

 

「プロみんな、落ち着いてんな!慣れか!」

 

 切島が話す中、出久は誰かを探しているような素振りを見せていた。

 

「出久、どうした?」

 

「皆…、…グラントリノがいないよ…。どうしたんだろ」

 

 そういえば確かに今日は見てないな…。

 

 それを聞いていたナイトアイが話す。

 

「あの人はこれなくなったそうだ」

 

「え…」

 

「塚内が行ってる連合の件に大きな動きがあったみたいでな。悔しそうだったよ。だがまぁこっちも人手は十分、支障はない」

 

「そっか…」

 

 刑事さんの言葉に出久が納得したようだった。

 

 確かにそれだったらそっち側の方が優先度は高いな。

 

「ヒーロー、多少手荒になっても構わない。少しでも怪しい素振りや反抗の意思が見えたら、すぐ対応を頼むよ」

 

 その話の中でファットが環さんにある食材を渡していた。

 

「環、コレ食うとき、カジキ」

 

「…なんでカジキ、頂いておきます」

 

 カジキか…、先の尖がった部分で戦えってことなのかな。使うのは環さんだから任せるとして。

 

「…相手は仮にも今日まで生き延びた極道者、くれぐれも気を緩めずに各員の仕事を全うしてほしい!」

 

 

 

「出動!」

 

 

 

 

 

 

 

 



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89話

ここ数日間書けなかったのを某チームの外国人選手の言葉を借りるとするならば…、

「モチベーションが上がらない」

 …失礼かもですがこれです。


 死穢八斎會事務所・邸宅前

 

 AM8:30

 

 作戦決行!

 

「令状読み上げたらダーッ‼と!行くんで!速やかによろしくお願いします」

 

 刑事さんがインターホンに手をかけようとしたところ、ルカリオになっていた俺はある波導を感じた。ここにいる人たちとは違う波導だった。

 

「この波導…、大柄な奴が門の向こうから攻撃、来ます!」

 

 俺の言葉と共に邸宅の様子を隠していた門扉が弾け飛んでいき、ちょうど門の前に立っていた警官隊の人たちがそれに巻き込まれてしまう。

 

「助けます」

 

 だがそれは素早く反応した消太さんと出久によってしっかりと救助される。

 

 相手が次の攻撃を仕掛けようとしたがそれはある一人のヒーローが抑える。

 

「とりあえず、ここに人員割くのは違うでしょう。彼はリューキュウ事務所で対処します、みんなは引き続き仕事を」

 

 リューキュウさんが男の腕を竜になって掴んでいた。やっぱかっけー。

 

 サポートには波動先輩、麗日、蛙水を含むリューキュウ事務所のサイドキック達が入り、それ以外の面々は言葉通り一気に邸宅内になだれ込んでいく。

 

 入った後にはこてこての極道らしい人達がいたがしっかりとヒーロー達が倒していく。

 

「まっすぐ最短で、目的まで!」

 

 ファットの言う通り、俺たちは真っすぐ進んで行く。

 

 そうして進んで行くと、ナイトアイが予知で確認した隠し通路への入口に到着した。

 

「ここだ」

 

 通路の開きかたを知っているナイトアイが操作をして、通路が開く。

 

「こんなとこ見てなきゃ普通分からないな…、…奥から邪悪な波導、誰か来ます!」

 

 俺の言葉通りに通路が開き切ると、すぐに3人が飛び出してきた。

 

 俺が攻撃態勢に入ったがナイトアイ事務所のサイドキック2人が前に出る。

 

「ここはお任せを!バブルガール!1人頼む!」

 

「了解!」

 

 流石はヒーローというお手並みで2人は即座に3人を拘束した。

 

 二人は3人を完全に無力化してから合流するらしく、俺たちは先を急ぐ。

 

 隠し通路は地下に繋がっており、階段を下っていく。

 

 すると、そこは行き止まりだった。 

 

「行き止まり?」

 

「説明しろナイトアイ」

 

「…ミリオ、見てきてくれ」

 

「分かりました!」

 

 言い合いになりそうなところ、ナイトアイが通形先輩に壁を抜けて見てくるように指示を出す。

 

「壁で塞いであるだけです!ただ、かなり厚い壁です」

 

 結果的には壁に塞がれているが、通路は続いているようだ。

 

 なら強行突破で行くか。

 

「デク、ライオット、行くぞ!」

 

「「了解!」」

 

 俺は出久と切島に示し合わせて壁の前に立つ。

 

 二人の足取りには躊躇はなかった、覚悟はできてるみたいだった。そして…、

 

「バレットパンチ!」

 

「SMASH!」

 

「烈怒頑斗裂屠!!!」

 

 壁をぶっ壊した。まあこれぐらいはしないと。

 

 ロックロックとかまだ、俺たちの実力認めてないって雰囲気出してたから丁度良かっただろう。

 

 これ位しかトラップないんだったらいいんだけどな…。警戒していかないと。



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90話

 

 壁を突破した後、俺たちはめまぐるしく変わっていく通路の対応に追われていた。

 

 通形先輩だけは個性を活かして順調に進んで行く。

 

 俺もルカリオからゴーストタイプのギルガルドに変身しておく。こういう場所の時はゴーストタイプの方が勝手が良い。

 

 そんな中、周りの壁に意識がとられていた俺たちだったが、そんな中俺たちの立っていた床に大きな穴が空いた。

 

 一瞬で階下に落とされた俺たちが着いた場所は広間のような空間であった。

 

「おいおいおいおい。空から国家権力が…不思議なこともあるもんだ」

 

 そして待っていたかのように俺たちの前に3人の敵が現れた。

 

「よっぽど全面戦争したいらしいな…!さすがにそろそろプロの力見せつけ…」

 

 ファットが流石に我慢ならないといった様子で前に出ようとした。

 

 だが、それを制した者が1人いた。 

 

「そのプロの力は目的の為に…!!こんな時間稼ぎ要員…俺1人で充分だ」

 

 環先輩だった。

 

 …確かにこの場だと、それが最善か。

 

 俺たちの目的はまだ先、ここで変に体力を削がれるわけにはいかない。

 

 あの3人は窃野、多部、宝生だったはず。あの3人の中で1番厄介なのは…、

 

「…ん、どないしたんや?」

 

 俺は相手から姿が見えないよう、ファットの体の影に隠れる。

 

「黙っててください…Retranceform,パンプジン

 

 俺はファットに声を出さないでと言いながらパンプジンに変身する。

 

 そして俺は影に潜みながら3人の後ろに向かう。

 

 背後を取った俺はある一人に対し、後ろから闇で出来た腕を伸ばす。

 

 …そこからは一瞬だ。一気に体を地面に叩きつけて気絶させる!

 

「…ゴーストダイブ」

 

 …俺が狙ったのは窃野だ、アイツの‟個性‟窃盗は身にまとっている個性を自分の元へと奪うというもの。環先輩にとっては厄介な相手になることは間違いなかっただろう。

 

 ちなみにその窃野はゴーストダイブを見事に喰らってダウンだ。

 

「先輩、後は頼みます」

 

「…分かってる」

 

 環先輩の目はいつものオドオドしてる環さんの目じゃなかった。ここはもう大丈夫だろう。

 

「ふざけんな、ガキ!仲間1人やられてみすみすと行かせるわけねえだろうが!」

 

 そのやり取りの中で宝生が怒りをあらわにして俺に向かってくる。

 

「どこ見てんだよ」

 

 俺が言い返した瞬間、宝生には環先輩が繰り出したタコの足が襲い掛かる。

 

 敵2人を壁に拘束した環先輩は俺たちに向かって言う。

 

「皆さん!ミリオを頼むよ!あいつは根っからのヒーローだ。多分無理する。だから助けてやってくれ!」

 

 その声を聞きながら俺たちは走り出す。

 

 俺はその中で、手早くギルガルドに戻っておく。波導を感じるうえでいつでもルカリオになれるようにはなっておいた方がいい。

 

「…流石だな、牙那」

 

「…まさか、あそこまでたやすく倒すとは」

 

 その道中で消太さんが俺に向かって言う。ナイトアイも同感みたいだ。

 

「そいつを育てたのは誰だと思ってんですか、消太さん。ナイトアイさんも、まだまだですよ、俺は。褒めていただき光栄ですがね」

 

 俺たちはそのまま目的へと進んで行く。

 

 



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91話

 

 環先輩と別れた後、俺たちは地下を進んでいたが、さっきとは打って変わった状況を疑問に思っていた。

 

 さっきまでは暇もなく俺たちに向けて壁が襲い掛かってきていたのだが、今はさっぱりだ。全くと言っていいほど迫ってこない。

 

「妙だな。地下を動かす奴が何もしてこない」

 

「そうっすね…、っ消太さん、来ます!」

 

「くっ!?」

 

 …こういうことか!

 

 消太さんの横の壁から急にせり出し、消太さんを別の空間へと押し出そうとした。

 

 俺の声は間に合わず、消太さんは触れてしまい、どこかに飛ばされると思ったが、近くにいたファットと切島が消太さんを弾き出し、代わりに二人が飛ばされた。

 

 …この判断は正しいものだろう、消太さんの個性はこの壁を攻略する上で最も重要なものだ。失うわけにはいかない。

 

 間違いなくこの壁を操ってる奴は消太さんから見られることを嫌がってる。ならまずはその厄介な奴を消しておきたいところだろう。

 

「…って、マジかよ!」

 

 そんな考えをしていると狙いを変えたのか俺の方にに壁がせり出してきた。

 

「牙那君!」

 

 出久が俺に向けて叫ぶが、間に合わない。

 

 俺は反応できずに違う空間へと飛ばされてしまった。

 

「ちっ、どこだよここ…?」

 

 一応言っておくが、俺は対象までのルートは確かに頭に入れていた。だが、これは想定外の状況である。

 

 ルートを外れ、周りの景色がずっと変わらないこのような場所だとさすがに位置感覚はつかめない。

 

「Retranceform,ルカリオ」

 

 俺はルカリオに変身して周りにいる人たちの波導を探す。

 

 探してみると、消太さん達の波導は壁の向こうにあるみたいだが波導が薄くなっていた。

 

 これから考えると。俺が飛ばされてきた方向は大分分厚い壁になっているみたいだ。

 

 これを突破して再合流するためには多くの力を必要とする、まだ対象を確保することができていない現状、力を使いまくって追われるときにそれは避けたい。

 

 それ以外には一人がなんてことなく進んで行くという波導と二人が戦おうとしている波導。

 

 恐らく前者の波導は通形先輩だ。個性をフル活用して真っすぐ進んで行っているのだろう。

 

 後者の波導はさっき飛ばされたファットと切島の波導だろうか。相手の波導も戦う気で溢れているといったものだ。

 

 だが通形先輩の波導は消太さん達が放つ波導よりも薄い。

 

 恐らくは消太さん達の位置よりも遠いところにいるのだろう。さっきの理由からそこに合流するのは除外せざるを得ない。

 

 …なら、ファットと切島の所か。ファットがいるから大丈夫だとは思うが…。

 

 俺はファットさん達が戦っている方へと足を進めることにした。

 

 



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92話

 

 俺は波導を探りながらファットと切島が戦っている現場へと向かっていった。

 

「えーと…、こっちか」

 

 そうやって探しているうちに波導が大きくなってきた。

 

 …恐らくこのあたりか。

 

 俺は壁の向こうから波導が出ていることを感じ取る。これ位だったら壊せるか。

 

 再変身はしなくていいか。ルカリオのスペックはなかなかなものだし。

 

 俺は前にある壁に対して大きく深呼吸をする。

 

「…剣の舞、悪巧み」 

 

 念のためまずは攻撃と特攻の数値を上げておこう。

 

 あっちに行って準備できてないだったら間違いなく迷惑が掛かってしまう。

 

 …こんなもんだろう。

 

 再び深呼吸をして俺は壁に向かって技を放つ。

 

「グロウパンチ!」

 

 俺の強烈なパンチが放たれた壁は大きな音と共に崩れ落ちる。

 

 そこにいたのは戦っていたファット、恐らく攻撃を受けてリタイア寸前の切島。相手側には筋肉質な大男と和服で糸目な男の二人。この二人もさっき戦った3人同様にペストマスクを着けている。

 

「誰だ!」

 

「通りすがりのヒーロー候補生ですよ、…切島、大丈夫か?」

 

「ああ、ただアイツの攻撃、安無嶺過武瑠が簡単に割れちまった、くそ、俺ってやっぱり…」

 

 切島はその言葉の通りいつもの状態ではなく、時折見せるネガティブな方の切島だった。

 

 やっとここまで来たのに簡単に攻略されては自身も喪失するだろう。

 

 …だが、そんな切島に叫んだのはプロヒーローであるファットだった。

 

「その状態解くな!心まで折れたらホンマに負けや!」

 

 その言葉に俺は続ける。

 

「切島、この前ファットが言ってただろ。「敵退治は『いかに早く戦意喪失させるか』」だって。こっちが先に喪失してどうすんだよ」

 

 俺はファットの傍に進み話す。

 

「ファット、まだやれますよね?」

 

「もちろんや、牙那君もそういうからにはやれるんやろな?」

 

「ええ、…ヴィランさんよ、殴り合いがご所望なら、相手してやるぜ!」

 

 俺はそのまま攻撃態勢をとる。

 

「コメットパンチ!」

 

 勢いよく放った俺の拳はバリアによって防がれてしまう。

 

「おい、天蓋。これどけろ、俺はこいつと殴り合いがしたい」

 

 天蓋と呼ばれた男性は落ち着いた口調で話す。

 

「待て乱破よ、こいつの相手は我がしよう、お前にはアイツがいるだろう」

 

 天蓋が示したのはファットだった。乱破と呼ばれた男はマスクの中でニヤリと笑う。

 

 それに気づいたファットは口を開く。

 

「乱破くんいうたな、打撃が効いたんは久方ぶりや、俺も昔はゴリゴリの武闘派やってん、おまえの腕が上がらんくなるのと俺が耐えきれんくなるのどっちが先か、矛と盾どっちが強いか、勝負してみようや!乱破くん!」

 

「やっぱりお前は良いデブだ!」

 

ここで天蓋がバリアを解き、乱破を解放させる。

 

「天蓋!バリアは!!」

 

「出さない」

 

「そう!良い人ばっかりじゃねぇか!」

 

 乱破はファットの方に駆けだしていく。

 

 俺はそれと同時に攻撃する。

 

「グロウパンチ!」

 

 だがまたしても俺の拳はバリアによって止められてしまう。

 

「へえ、出さないとか言っといて俺には出すんだ」

 

「当然だ、お前には言ってない。こっちも勝負するか?」

 

「ああ、だが…、アンタにはこっちの方が効きそうだ」

 

「何?」

 

 俺はそう言って変身の体制に入る。

 

「Retranceform,ギルガルド!」

 

 俺はギルガルドに再変身する。こっちの方が後につながる。

 

「ほう、剣と盾か」

 

「アンタが盾なら、こっちはこれで行かせてもらう」

 

 糸目だが天蓋は笑うような素振りを見せる。

 

「フッ、面白い奴だ」

 

「褒めていただき光栄だ、…さあ、クライマックスを楽しめ!




その他用語解説
さあ、クライマックスを楽しめ!…元ネタはガラル地方チャンピオンダンデ。アニポケの方の名台詞を貸してもらいました。


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93話

 

「オラオラァ!れんぞくぎり!」

 

「きかんな」

 

 俺は戦いを始めてからというもの、ずっとバリアを斬り続けている。

 

 …やっぱ、かてぇな、オイ!

 

 何回かひびを入れることには成功したが、そのたびに新しいバリアを張られ突破できないでいた。

 

 …まあ、いいんだがな。ギルガルドの役目は次のポケモンに変身する中継点だ。コイツが油断するまではこのままで行く。

 

「…なら、これでどうだ!かわらわり!」

 

「…ほう」

 

 俺はかわらわりでバリアを初めて突破する。それでも天蓋は表情を変えない。

 

「だが、こういうのはどうだ?」

 

「…やべっ!キングシールド!」

 

 天蓋は迫る俺に対してバリアを張ってきた。俺はそれに対してキングシールドでガードし、その後距離をとる。

 

 あのまま、突っ込んでいたら壁にぶつかって大きなダメージを受けていただろう。やっぱり、あの人はただもんじゃねえ。

 

「…盾は時として矛ともなる、覚えておけ」

 

「ありがとうございますっと!」

 

 俺は再び円形状のバリアを張った天蓋に向けて叫びながら再び攻撃する。

 

 だが、バリアの中に居た天蓋は切島の方を向いていた。

 

「どうしたんすか、天蓋さん!戦いの最中に余所見とか、余裕っすね!」

 

 俺はバリアを攻撃しながら天蓋に向けて叫ぶ。その天蓋は冷たい表情で淡々と言う。

 

「…いや、あの少年はもう無理だなと思ってな、あの目は恐怖に染まった目だ。かわいそうに、ああなったらもう二度と立ち直れまい…」

 

 切島の方を見ると確かにそんな目だった。

 

 …一度、切島に聞いたことがある。なんでヒーローを目指すのか、と。

 

 少し前、切島の同級生が大男に脅しかけるように道を聞かれてるのを見かけたそうだ。

 

 だが、切島は動けなかった。何とかその場は芦戸の機転によって助かったらしいが。

 

 そこから自己嫌悪に至ったが、たまたま憧れのヒーロー紅頼雄斗のインタビュー動画が映り、それに触発され「情けない自分との決別」を決意したらしい。

 

 そんな奴が軽々とくたばると思うか?

 

 …答えは否だ。

 

「…勝手にあいつを決めつけるんじゃねえ」

 

「何?」

 

 俺は天蓋に向けて叫ぶ。

 

「勝手に決めつけるんじゃねえよ!あいつは何も守れねえやつじゃねえ!あいつは絶対に守り切るヒーロー、烈怒頼雄斗だ!」

 

 そう叫んだあと、俺はここまであまり対策を練られないために温存してきた切り札のポケモンに変身する体制に入る。

 

 

 

「Retranceform,ドラパルト!」

 

 

 

 俺はステルスポケモンのドラパルトに変身する。

 

 こいつはいわゆる600族と呼ばれるポケモンであり、俺が変身するポケモンの中でも最強クラスと言ってもいいレベルのポケモン達の一つである。

 

 ドラパルトの魅力は圧倒的な速さ、高火力な攻撃や特攻値、多様な技範囲であろう。

 

「…ほう。まだ、隠していたか」

 

「…黙れ、もうお前は俺のスピードにはついてこれねえよ」

 

 俺はそのまま攻撃態勢に入りながら言葉をつづける。

 

 

 

 

 

「…さあ、振り切るぜ!」

 

 

 




その他用語解説
「…さあ、振り切るぜ!」…元ネタは照井竜(仮面ライダーアクセル)の台詞より。速さのライダーといえば…ということで。


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94話

 

 

「…さあ、振り切るぜ!」

 

 

 

 それを見た天蓋はバリアを張りながら俺に向かって言う。

 

「やれるもんならな、やってみろ」

 

「行くぜ!シャドーボール!」

 

 俺は黒い球状の塊を天蓋に向かって放つ。だが、それは天蓋のバリアによって防がれる

 

「無意味だ」

 

「何が無意味だって?」

 

 だが、それは俺にとってはプラフでしかない。俺は呟く。

 

「…壁の破壊に時間がかかるのなら、まず発想を変えればいい」

 

「攻略できないなら、攻略しなければいいってね!壊すんじゃなくて、通り抜ければいい!」

 

「何だと!?」

 

 …これこそが俺がドラパルトに変身した理由だ。ドラパルトの特性は『すりぬけ』。どんな壁も透過して攻撃できるというものだ。

 

 勢いよく壁を透過した俺は、天蓋の前に迫っていく。

 

「ドラゴン、テール!」

 

「ぬぁぁぁ!」

 

 俺は天蓋に向けて俺の尾を思いきりぶつけ、天蓋を吹っ飛ばした。

 

 俺はそれを見て乱波とファットの方を見る。

 

「…やっぱ、お前はそうでなくちゃな」

 

 そこには切島が乱波の繰り出すラッシュを受け続けている姿があった。

 

 …まずは一安心だ。

 

 ここで折れたらアイツが求めるヒーロー像、守れるヒーローなんてなれやしない。

 

 その後、切島は倒れてしまったが、ファットが乱波から受けたダメージを吸着したことによるエネルギーをもとにして渾身の一撃を放ち、俺の攻撃によるダメージからなんとか復帰した天蓋がバリアを展開するもたやすく破られ、乱破と共に吹き飛んでいった。

 

「ホコタテ勝負…、こっちの勝ちや!」

 

 ファットは倒れた切島にも聞こえるように、堂々と勝利を宣言した。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「「…誰っすか?」」

 

「いや、ファットさんや!結果にコミットしたんや、流れで分かって!?」

 

 俺と切島はローファットの姿になったファットさんの姿を見て呟いた。

 

 本当にこんな感じになるのか…。

 

「こないなってまで…、大丈夫や、もう…」

 

「とりあえず、治療しましょう」

 

 だが、そんな俺たちに吹っ飛ばした方向から何かが動く音がした。

 

「殺し合いだ…、まだ俺は死んでない!!」

 

「タフすぎやろ…!バリアが緩衝材になったか!にしても…」

 

 乱波が立ち上がったのだ。ファットはそれを見て驚く。

 

「脂肪ももうない…!体力も使い切った…!どないしたら…」

 

「下がってください、ファット。ここは俺がやります。後一人ぐらいなら戦えます」

 

 俺は戦う態勢をとりファットの前に出る。

 

 だが、そんな俺たちに返ってきたのは予想外の答えだった。

 

「奥で応急処置位出来る、そのガ…男手当しろ」

 

 ……

 

 一瞬の沈黙があった後俺たち二人は顔を見合わせて口を開く。

 

「「罠やん(ですか)」」

 

 それを意識を取り戻した天蓋が止めようとする。

 

「勝手な真似をするな!暴力を貪るだけのケダモノがここにいれる理由を考えろ!貴様の役割はなんだ乱波!」

 

 だが、乱波は天蓋の腹を踏みつけ再び気絶させる。

 

「バリア張る余力もないんだろ、じゃ黙ってな」

 

 その後、乱波は続ける。

 

「命を賭すことでしか生まれぬ力!!そのぶつけあい!!だからよかった!!お前らはとてもよかった!!特に赤髪!!俺はお前が気に入った!!再死合をしよう!!傷を治せ!!次はちゃんと殺してやる!!」

 

 そういう乱波にファットが言う。

 

「逮捕されたら次なんてあらへん」

 

「知るか!誰も死んでないならドローだ!!」

 

 …無茶苦茶な理論だな、オイ。

 

「ちゃんともう一回殺りたいんだ、その男とよ」

 

 そう言って乱波は進んで行った。俺はファットに話しかける

 

「どうしますか、ファット」

 

「うーん…、牙那君はまだ戦えるんよな?」

 

「ええ、まだなんとか」

 

 それを聞いたファットは俺に言う。

 

「じゃあ、君だけイレイザー達と合流してき、俺と切島君はもう戦えんからここは乱波君の言葉信じるしかないわ」

 

「了解です、あの言動から大丈夫だとは思いますがね。お気をつけて」

 

「ああ、そっちも気ィつけてな」

 

 俺はそう言ってファット達と別れた。

 

 



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95話

 ファットと別れた俺は飛ばされてきた道を逆戻りして壁をドラパルトのまま通り抜けていった。

 

 そうして壁を通り抜けていった瞬間俺はある一団と出会った。

 

「ヴィラン…!?なら俺が…」

 

「ま、待ってください、環先輩!俺です、牙那です!」

 

 俺は変身を解き環先輩に見せる。恐らくあの3人を倒した後、急いで駆け付けてきたのだろう。

 

「な、なんだ、牙那君か…。よかった…」

 

「俺もです、環先輩。…ファットと切島はさっき敵と戦って離脱しました、今治療中です」

 

「ありがとう、牙那君。ついてきてくれる…?」

 

「もちろんです」

 

 警察の人も含めた俺と環先輩を含んだ一団はそのまま進んで行った。

 

 そんな中、道を進んでいると、俺は倒れている一人の姿を見つけた。

 

 …それは、多数の傷で戦闘不能になっている通形先輩だった。

 

「「ミリオ(通形先輩)!」」

 

 俺と環先輩は通形先輩の元に駆け付ける。

 

 …よかった、まだ意識はある。

 

 とりあえずは応急処置だ。

 

Transform,ルカリオいやしのはどう

 

 俺はいやしのはどうで傷を回復させる、いや、ダメージ受けすぎだろ、コレ…。

 

「やっぱ君ってなんでもできるね…」

 

「さすがに複雑骨折とかの大怪我になれば無理ですがね、普通の骨折レベルまでなら何とかなりますが…、とりあえず応急処置だけはしておきました」

 

 環先輩の言葉に俺は返す。処置をした通形先輩は環先輩が背負い俺たちは動く。

 

 周りには激戦だったということを証明する痕跡があちらこちらに残っていた。

 

 恐らく上からの衝撃で空いたのであろう天井を見上げてみると誰かが戦っている波導が届いた。

 

 この感じ慣れた波導は出久か、もう一人は恐らくここのトップの治崎であろう。

 

 それ以外にも戦っているリューキュウ事務所のヒーロー達の波導も俺に届いていた。その近くにいたナイトアイは波導からするとまずい状態だ、コレ…!

 

 だが、それ以外にも俺は不穏な波導を感じた。

 

 弱っている…、この感じは消太さんの波導か、後はもう一人…。

 

 …加勢に行くか。

 

「環先輩、あっちで消太さんの波導を感じ取りました。俺、加勢に行ってきます」

 

「…それじゃあ、俺も行く…。君を一人にするわけにはいかないから…」

 

 そう言って俺と環先輩は消太さんが発する波導の方へ向かう。

 

 …見つけた。アイツは確かクロノスタシス、対象の行動を遅くする個性だったか?

 

「…行くよ」

 

「…了解です」

 

 その言葉と同時にドアを開け、環先輩はカジキの角で、消太さんにとどめを刺そうとした玄野の腕を刺して玄野の動きを止める。警察の方たちは銃を構えて有事に備えている状態だ。

 

 その間に俺はしんそくで消太さんを相手から離す。

 

「大丈夫ですか、消太さん」

 

「イレイザーと呼べ…。まあ、なんとかな…」

 

 環先輩と警察の方々が玄野を確保し、俺は消太さんが「上に連れていけ」という言葉で地上に上がる。

 

 そこにはやられた治崎と、少女を背負って立っている出久の二つの姿があった。

 

 しかし治崎は完全には倒れていないみたいであり、出久に攻撃を仕掛けるが、出久が背負っている少女の個性の影響なのか体が分離して、そこを麗日がしっかりと組み伏せて治崎を拘束する。

 

 出久の方を見ると、少女の個性が暴走しているのか力を増すばかりであった。どうすりゃアレを止められる…?

 

 だが、俺の体を消太さんが掴み、それで察した俺は消太さんの視線を少女の方に向ける。

 

 そして消太さんの抹消が発動し、勢いはなくなり少女は気を失った。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 戦いは終焉を迎え、救急車が到着して怪我を負った多数のヒーロー達が運ばれていく。…この場所にはここまでの力があったのかと俺は呟く。

 

 少女も厳重な警戒の中でで救急車に乗せられた。

 

 とりあえず…これで終わりだ。

 

 AM9:15、保護完了!

 

 

 

 

 

 



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96話

 

 戦いが終わり、負傷したヒーロー達は一番近い大学病院で治療を受けることになった。

 

 幸いにして、俺を含むファットガム事務所の面々は今後のヒーロー活動に支障が出るような怪我はなかった。

 

 俺は一応検査してもらったが何もなし、切島は全身裂傷に打撲と酷いが命に別状はなしでまるでミイラのような状態、環先輩は顔面にひびが入ったが後に残るようなものではないということ、ファットは何か所か骨折したものの元気そうであった。

 

 だが、あくまでこれはファットガム事務所の中では…の話である。

 

 あの後、ナイトアイが亡くなったらしい。

 

 リカバリーガールの治癒でも無理だったらしい。戦いの後、俺も見せてもらったがあのレベルになれば俺も無理だ。

 

 ただ、最後を看取った出久に聞けば、「笑っていろ」と言われたらしい。

 

 確かにヒーローとして、下向いてたら市民に顔向けできない。そんなヒーローに守ってもらいたいか、と聞かれれば違うだろう。

 

 …ナイトアイは最後までヒーローとしてなるべき姿を教えてくれた。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 翌日、通形先輩を残し雄英の面々は学校に戻ることになった。

 

 ただ、…ここに来てヴィラン連合が治崎を襲撃したということだ。

 

 恐らく、目的は個性をなくす弾丸を奪い取ること。もう相手にわたったと考えてもおかしくはないはずだ。

 

 アイツらはヒーローを倒すためなら何でもしてくる奴だ。警戒を増やすことに越したことはないだろう。

 

 その後、学校に戻ってからも色々と調査や手続きが立て続けであり、寮に結局帰ってこれたのは夜だった。

 

「とりあえず、やっと終わった…」

 

「ああ、やっとな…」

 

 俺が寮の共有スペースの戸を開けた瞬間、峰田の叫び声が響いてきた。

 

「帰ってきたァァァ!奴らが帰ってきたァァァ!」

 

「大丈夫だったかよぉ!」

 

「ニュースみたぞおい!」

 

「皆心配してましたのよ」

 

「まぁとにかくガトーショコラ食えよ!」

 

 その後、俺たちインターン組を襲ったのは1-A全員の心配の嵐である。それに俺たちは戸惑うしかなかった。

 

「…なあ、お前らここまですることねーだろ」

 

 その俺の言葉に上鳴は俺の両肩を掴んで俺の体を揺らしながら言う

 

「当たり前だろ!おまえら毎度凄ぇことになって帰ってくる!怖いよいいかげん!」

 

「無事でなにより」

 

「ブジかなぁ…、無事、うん…」

 

「皆!心配だったのはわかるが!!落ち着こう!」

 

 そう言って遮ったのは飯田だ。

 

「報道で見ただろう!あれだけの事があったんだ!級友であるなら彼らの心を労わり静かに休ませてあげるべきだ、身体だけでなく、心も擦り減ってしまっただろうから…」

 

 飯田はそう言うと、出久の方を向く。

 

 それに気づいた出久は飯田に話しかける。

 

「飯田くん、飯田くん」

 

「ム!」

 

「大丈夫」

 

 出久はその一言だけ飯田に言った。

 

「…じゃあ、いいかい」

 

 飯田は確認を取ると出久の両肩をガシッと掴んで言う。

 

「とっっっっても心配だったんだぞもう!俺はもう君たちがもう!」

 

「おめーがいっちゃん激しい」

 

 飯田は今までの我慢してたであろう心配を出久にぶつけていた。

 

 そんな中俺に響香が話しかけてきた。

 

「牙那、大丈夫だった?」

 

「平気だよ、俺を誰だと思ってんだ。アレぐらいでやられるようなやつかよ、俺が」

 

「あ、なんか今変わってなくてすっごい安心した」

 

「腹立つ言い方だな、オイ」

 

 俺が突っ込むが響香はいつもの感じで続ける。

 

「まあね、さすがのアンタだとは言え、心配したのは本当なんだから」

 

「ありがとな、響香」

 

 



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Festivalを楽しめ!
97話


 

「見て見てー見ててー!」

 

 授業の合間の休み時間。芦戸がストレッチをしていた。

 

 俺がその方向を向くと、芦戸がステップを踏み始める。

 

 ステップからの体に捻りを加えたジャンプ。そして床に着地すると、肩を軸にし体全体を回してブレイクダンスを披露した。

 

「ブレイキン!ブレイキン!」

 

「なるほどね、ブレイクダンスか」

 

 周りの奴が言うには芦戸の趣味はダンスなんだとか。

 

 それを見ていた出久が自分で纏めているヒーローノートを開いて言う。

 

「芦戸さんは身体の使い方がダンス由来なんだよねなんというか、、全ての挙動に全身を使う感じだ」

 

「まー、結構俺もダンスというかそんな技使ったりもしてるからな。使えることは確かだな」

 

 俺の言葉に芦戸が返す。

 

「そうなの?じゃ我羅琉も何かみせてよ!」

 

「俺がか?…まあ次の授業も座学だし、まあいいか」

 

 そういわれた俺は変身態勢に入る。

 

Transform,ルカリオっと」

 

 俺は慣れた手つきでルカリオに変身する。

 

 そして俺は舞う。

 

「…つるぎのまい。…まあこんなやつだ」

 

「何というか…、ダンスっていうより舞踊とかそっち系な感じだね」

 

 葉隠が率直な感想を俺に告げる。俺は「そうだな」と肯定し変身を解く。

 

Trans,オフ…。まあ、これは戦いの舞いだからな。舞って気合を入れて攻撃力を上げるってシロモノなんだよ」

 

「え、それだけで力が強くなるのか?」

 

 そう聞い敵たのは尾白である。

 

「ああ、だけど敵の前でこんなことやったら隙だらけだからな。基本的には移動中とかにしてるよ」

 

「いやー、それにしてもよぉ、砂藤のスイーツとかもそうだけどさ、ヒーロー活動にそのまま活きる趣味は良いよな!強い!」

 

 そう切り出したのは上鳴だ。その視線の先には響香がいる。

 

「ちょっ、やめてよ」

 

「あの部屋楽器屋みてーだったもんなぁ」

 

「もぉ!やめてってば!部屋王忘れてくんない!?」

 

「いや、ありゃプロの部屋だね‼︎なんつーか正直かっ…」

 

 照れたのか響香は上鳴が全て言い切る前に、自身のイヤホンジャックを上鳴に向ける。

 

「マジで!」

 

 響香はイヤホンジャックを引っ込めると赤面しながら自分の席に戻って行った。

 

「何で…?」

 

 その後、上鳴が「なんで?」とオロオロしていたがチャイムがなり集まっていた面々はそれぞれの席へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「文化祭があります」 

 

 

 

「「「ガッポォォォォォイ!」」」

 

 

 

 いや、がっぽいってなんだよ。学校っぽいの略か?

 

 消太さんの言葉で1Aの面々のテンションが上がる。

 

「ガッポイの来ました‼︎」

 

「何するか決めよー!」 

 

 …だが、個性派集団の塊である俺たちの意見がまとまるわけもなく。最初から挙手の嵐で各々が自分の意見を通そうとして、何も決まらずに1時間を経過してしまった。

 

 消太さんが「実に非合理的な会だったな」と立ちあがり、寝袋を小脇に抱えて教室を出て行きながら、俺たちに向かって言う。

 

「明日の朝までに決めておけ、決まらなかった場合…、公開座学にする」

 

 あ、やっべ。あれガチの奴じゃん。とは言っても俺たちはこの後補習だし、それ以外の奴らに任せるか。

 

 



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98話

 インターンによる長い長い補習が終わり、俺たちインターン組が寮に戻ってきた。

 

「うーす」

 

「補習の穴ようやく埋まったぜー」

 

「本格参加するよー!」

 

 最終的に決定したのは、生演奏とダンスによるパリピ空間の提供というもの。 

 

 今はバンドメンバーを決めるところで、勝己が案の定な才能マンっぷりを披露しドラム、ピアノ経験者の八百万がキーボード、演奏経験豊富な響香はベースに決定したらしい。

 

「じゃ、牙那ギター頼める?」

 

 そんな響香が俺に聞いてきた。

 

「あ、俺?いいけど…2本いるだろ。後一人どうすんだ?」

 

「うーん、それなんだよね…」

 

 そんな中手を上げたのは峰田と上鳴だ。

 

「やりてー!楽器弾けるとかカッケー!」

 

「やらせろ!」

 

 そんな軽い感じの二人に勝己が言う。

 

「やりてぇじゃねぇんだよ!殺る気あんのか!」

 

「あるある超ある!」

 

 そう言って上鳴と峰田がギターを肩にかける。

 

「ギターこそバンドの華だろィ!」

 

「…」

 

 上鳴はギターをちゃんと持ててるが、峰田は身長の問題で持てなかった。

 

「キャラデザのせいで手が届かねぇよ!」

 

 峰田がギターを諦め、部屋の隅でいじける。

 

 そんな中、俺は上鳴に話しかける。

 

「上鳴って未経験なんだよな。一から教えるとなると、上鳴の頭がショートしかねないな」

 

「オイ、俺でもさすがにそれぐらいできるってー」

 

「以外と難しいんだよ、俺も上達するまで時間かかったし」

 

 そんな中、誰かが切ない音色を鳴らし、周りの面々がその方向を向く。

 

 それを鳴らしたのは意外にも常闇であった。

 

「昔に手を出したことがあるのだが…、Fコードで躓いてしまって手放してな。それ以来だ。これでもいいか?」

 

「十分だよ、常闇。手を貸してくれるか?」

 

「もちろんだ」

 

 そういうわけでバンドのメンバーが決まった。

 

 後は…だ。

 

「それで、肝心のボーカルはどうしましょうか…」

 

「へ?うたは耳郎ちゃんじゃないの?」

 

 そう言ったのは麗日だった。

 

「いや、まだ全然…」

 

「ボーカルならオイラがやる!モテる!」

 

「オウ!楽器はできねーけど歌なら自信あんぜ!」

 

「いや、響香でいいだろ」

 

 俺は二人の意見を一蹴する。

 

「ちょっと、牙那…」

 

「私も耳郎ちゃんだと思うんだよ!前に部屋で楽器教えてくれた時、歌もすっごくカッコよかったんだから!」

 

「俺も耳郎推しだな!カラオケでも90点台めちゃくちゃとってたしな!」

 

 芦戸と上鳴が俺の意見を肯定して、響香は顔を赤らめる。

 

「ちょっと二人も!ハードル上げないでよ!」

 

「まあ、論より証拠ってことで」

 

 俺はスタンドマイクを響香の前に置く。

 

「全く、牙那も…」

 

 響香がしぶしぶマイクを持つ。

 

 そして響香が一曲歌うと聞きなれた俺を含め、全員が聞き惚れて響香に拍手を送る。

 

「耳が幸せー!」

 

「まあ、これが響香だよな」

 

「セクシーハスキーボイス!」

 

「満場一致で決定だ!」

 

「うぅ…、よろしくお願いします…」

 

 響香はイヤホンジャックをいじりながら赤面する。

 

「まあ、これでバンドのメンバーは決まったか。バンド名はどうするよ?」

 

「夜間奏団」

 

「俺」

 

 …この二人の提案は置いておこう。

 

「A組全員で臨むという意味を込めて、Aバンドというのは…」

 

「それだ!」

 

 



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99話

 

 バンドメンバーが決まり、その次の土曜日。

 

 集まって練習しようと思っていたのだが…

 

「「「「…」」」」

 

 かれこれ2時間ぐらい沈黙が続いている。

 

 それにしびれを切らした勝己が床をダンッ!と叩き叫ぶ。

 

「なぁんで俺の選曲がダメなんだよ!頭おかしいのかてめぇらこらぁ!」

 

 それに俺は返す。

 

「そんなこと言ってるけどよ、勝己。勝己の選んできた曲全部エゲツない歌詞ばっかじゃねーか。いくら音で殺るっていっても限度があるよ」

 

 俺の意見に同調したのは芦戸だ。

 

「しかもデスメタルだし、それに合わせて踊るなんて無理だし」

 

「クソが!」

 

 勝己はそう言って席に座りなおす。

 

「ウチの選んだ曲は一ヶ月で覚えられるか不安だし…」

 

「私はロックなどの曲は疎いので皆様に従いますけれども…、曲の方が全く決まりませんね…」

 

「俺も八百万に同意。選曲は響香たちに任せてたからな…」

 

「我羅琉に同じ」

 

 そんな感じで俺たちは黙っていたのだ。

 

 結局、その日は決まらずに解散となった。

 

 …でその次の日曜日。

 

「出来たァ!」

 

 という響香の言葉に俺たちは集まり、俺たちは楽譜を見せてもらった。

 

「…いいんじゃねーの?」

 

「…やるならとっとと始めっぞ」

 

 勝己もこの反応ってことは納得したみたいである。常闇と八百万も同じみたいだ。芦戸も「これなら!」とアイデアが浮かんできたみたいだ。

 

「よっし!曲は決まった!ウチらはひたすら!」

 

「だな!」

 

「殺る気で練習ぅぅぅ!」

 

 寮に音が響き始めた。

 

 この日から本格的にAバンドの練習が始まった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 曲が決まって1週間。練習が終わり、俺たちは共同スペースで休んでいた。

 

 まあバンドの成長具合はというと、まだまだバラバラだがなんとか形にはなり始めてきているというのが現状だ。

 

 そんな中、八百万が母親から送られてきたという幻の紅茶 "ゴールドティップスインペリアル"を淹れてくれたらしい。ありがたくもらうことにしよう。

 

「ありがと、出久はどうする?」

 

 俺が出久の方を見ると、見慣れたブツブツモードに入っていた。

 

「アイテムつきオールマイト…、僕としたことがそんなレアマイトを知らないなんて不覚も不覚…」

 

「ちょっとはこっちを気にしろっと」

 

 俺は軽く出久の頭を叩くと、出久が何かの動画をタップしてしまったようだ。

 

 出久のスマホの画面には紅茶が映し出される。

 

『諸君は、いつ・どんな時に紅茶を飲む?』

 

 出久と俺はその画面を見る。

 

『私は必ず仕事の前と後、仕事の大きさによってブランドを選ぶ、そしてこのお茶は高級紅茶ロイヤルフラッシュ、つまりどういうことかおわかりか?』

 

 …そういうことかよ。出久はなんだかよくわからないみたいだが。

 

 そして紅茶のカップしか映ってなかった画面から、男の顔が見える。

 

『次に出す動画、諸君だけでなく社会全体に警鐘を鳴らすことになる、心して待っていただきたい!』

 

 動画はそこで終わった。

 

「ジェントル・クリミナル…か」

 

「え!?知ってるの!」

 

 俺の言葉に出久が驚いた表情を見せる。

 

「まあな、ネット界ではそこそこ有名だし。一応チェックは入れてる」

 

「僕はなんとなくしか知らないけど…」

 

 …一応警戒を強めて欲しいって消太さんに伝えておくか。警戒をしておくことに越したことはないしな。何もないのが一番なんだが…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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100話

 

 文化祭当日…その朝。

 

「そろそろだなー!ソワソワしてきた!」

 

「明鏡止水、落ちつきましょう上鳴さん」

 

 午前8時45分。俺たち1‐Aの面々は本番を前に衣装に着替え出番を待っていた。

 

 …ただ、一人を除いて。

 

「緑谷がいねェな」

 

 轟の言葉通り出久の姿がなかった。

 

「起きた時に通知来てたな。サポート科の発目だったとは思うけど、そいつに頼んでたサポートアイテムができたらしくて、それの慣らしの朝練と買い物で出て行くって言ってたけど…」

 

「我羅琉、それって何時ごろの話?」

 

「確か7時半ぐらいだったはず…だな」

 

 芦戸の声に俺は一応スマホの画面で通知を確かめる。俺の言葉に葉隠が不思議がる。

 

「だったら少し遅すぎない?」

 

「そうなんだよな…。いくら朝練が長引いたとはいえこの時間になるとは思えないし…」

 

 俺はそう言いながら決断をする。

 

「…悪ィ、響香。ちょっと出かけてくる」

 

「え、大丈夫なの?最後チューニングしたいって言ってたじゃん」

 

 その疑問に俺はいつもの表情で返す。

 

「大丈夫だ、俺を誰だと思っている?」

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 俺は校内で出久の波導を探しながら回る。

 

 森の方から…、戦う波導?

 

 なんでだ、とは思ったがもう一人の戦う波導とそれを手助けしようとする波導。

 

 恐らく二人組の誰かと戦っていると考える方がいいか。

 

 俺は素早くその波導の方向へ向かう。

 

 その途中で、俺はある人と出会った。

 

「ハウンドドック先生とエクトプラズム先生?どうしたんですか?」

 

「…我羅琉か、お前こそどうした?」

 

「実はうちのクラスの出久がなかなか戻ってこなくて。それで疑問に思って波導で探してたんです」

 

「俺も同じだ。連絡が入ってな。万が一に備えてエクトプラズムの分身も借りてきたんだ」

 

 ハウンドドック先生が後ろに5人ほどいるエクトプラズム先生を指さしながら言う。

 

「とりあえず、近いです。出久の波導と波導がもう二つ」

 

「ああ、匂いも近い。その二人は迷子か、怪我人か、それとも愚者か」

 

 俺はそのまま波導のする方へと近づいていく。

 

 そこには一人の男性が小さな女性を抱きしめていた。

 

 そして男性の方が呟いた。

 

「雄英、自首がしたい」

 

 俺はその声と顔に見覚えがあった。

 

「ジェントル・クリミナル…。なんでアンタが」

 

 俺に続けてハウンドドック先生が問い詰めていく。

 

「仲間は!」

 

「いない」

 

「その傷と抉れた地面はなんだ?」

 

「躓き転んでしまっただけだ」

 

「二人だけか?」

 

「そうだ」

 

 そのジェントルの言葉に先生が声を荒らげ、問い詰めていく。

 

「そうだ!?もう一人いるだろ、雄英の生徒が!」

 

 その問い詰めていく中で森の中から出久が近づいてきた。

 

 その中でもジェントルは言葉を続けていく。

 

「数々の罪を犯してきたが、最大の罪は世間知らずの女性を匂引し、洗脳していたこと。すべての罪は私に、だから相葉愛美には恩赦を」

 

 相葉愛美とはジェントルの裾を掴んで泣き崩れている女性のことだろうか。

 

 その中で現れた出久に対し、ハウンドドックは聞く。

 

「その傷は、戦ったのか?」

 

 その言葉に出久が口を開く。

 

「雄英にいたずらしようとしているのが分かって、少しもめました。けれど…、もう大丈夫です」

 

 その時、連絡用の無線機が鳴った。それはスナイプ先生の声で状況確認の連絡だった。それにハウンドドック先生が話す。

 

「端迷惑な動画投稿者の出頭希望…、俺もわかりませんがとりあえず現時点で緊急性はない、引き続き警戒を続けます」

 

 「詳しいことは署で話せ」とハウンドドックが連れていきながら、ジェントルは言う。

 

「緑谷出久、それとそこの少年、君もヒーロー候補生なのだろう。私もかつてはヒーロー科にいた、ジェントル・クリミナルはヒーロー落伍の成れの果てだ…、とても言えた義理ではないが君達の想い、届くといいな」

 

 



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101話

 

「なるほど、それで…」

 

 出久と合流した俺はカイリューに変身し、出久を背に乗せて出久が買い物の荷物を取ってきて、その後、スピードを上げて戻っているときのことである。

 

 文化祭自体はもう9時を回っており始まっている。俺たちの出番は10時からであるが、恐らくもう9時20分ぐらいにはなってるだろう。

 

「まあ、出久の判断は間違ってねえとは思うがな。恐らくあのままだと侵入されてただろうし。かといって学校に連絡して大事な戦いになることになるのも避けたかったし」

 

「そ、そう…」

 

 俺は「だが!」とその出久の言葉に続ける。

 

「まずは周りに何かあったら連絡すること!結果的になんとかなったが、まずは頼れ。先生だけじゃねえ、俺や他の奴らもいるんだからよ。まあまだ資格もってねえ勝己は戦えないが」

 

「はい…」

 

 俺の言葉に出久は肩をすくめる。…まあ、出久は携帯を部屋に忘れたらしく連絡取れなかったみたいだが、それは置いといて。

 

「もうすぐ着くぞ」

 

「あー、やっぱり早い…」

 

 俺は寮の前の庭にゆっくりと着地する。そのまま変身を解き俺と出久は玄関に向かう。ちなみに出久の傷は治療済みだ。

 

「ごめんみんな!」

 

「悪い、ちょっと時間かかった!」

 

 周りからはようやく戻ってきたという安堵と何をしていたという疑問で満たされていた。

 

 質問をかわしながら戻る俺に響香が言う。

 

「遅いよ、牙那!ホラ、さっさと準備!」

 

「分かってる!」

 

 俺は急いでTシャツに着替えてギターの調子を確認しておく。…いつも通りの感覚だ。

 

「…最終調整、完了!いつでも大丈夫だ!」

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 AM 9:59

 

 雄英体育館のステージ前は、沢山の人で埋め尽くされていた。

 

 ステージの垂れ幕の裏では俺たちAバンドの面々が待機している。

 

 観客の声も俺たちに聞こえてくる。体育祭の時とはまた違う感覚だ。

 

「お、お、始まるぞ!」

 

「きたー!」

 

AM 10:00

 

 ブーという機械音と共に垂れ幕が開かれ、俺たちにスポットライトが当てられる。

 

 横を見ると響香は深呼吸をしており、八百万や常闇も同じであった。

 

 そしてドラムの勝己の声が体育館中に響き渡る。

 

「行くぞコラァァァ!」

 

 

 

「雄英全員!音で殺るぞ!」

 

 

 

 勝己がドラムをたたくと同時に爆炎を上げる。

 

 それが俺たちの演奏開始の合図だ。

 

 俺と常闇のギター、八百万のキーボード、響香のベースが大きな音を立てて鳴り響く。

 

 そして響香は観客に向けて叫ぶ。

 

「よろしくお願いしまぁぁぁす!」

 

 その声と共にダンス隊も前に出る。

 

 …やっぱ、本番って何かあるんだよな。

 

 周りを見ていても、演奏、ダンス、演出とそれぞれの練習で培われた、それ以上のものが見せれていると感じた。

 

 俺もそれにつられていくように自然と指が動いていた。なんとも言い表すことができないものだった。自然と笑みもこぼれていた。

 

 まるで怒号のような、歓声を受けながら続け、その中で俺たち1-Aの発表は終わりを迎えることができた。

 

 

 

 



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全員集結、激突Crash!
102話


 文化祭が終わり数ヶ月。新たなヒーロービルボードの発表などがあり、季節は冬である。

 

「ワクワクするねー!」

 

「葉隠寒くないの?」

 

「めっちゃ寒ーい!」

 

 冬になったことによりそれぞれ冬仕様のコスチュームに変わったが、葉隠は個性の都合上手袋だけになっている。…絶対寒い。

 

 まあ俺の恰好もドラゴンユニフォームとコートを合わせただけなのだが。

 

「大した根性だよ、葉隠は」

 

「そういう牙那もあまりかわってないね」

 

 俺に話しかけてきたのは響香だ。

 

「まあな、変える必要性も感じねーし、…あ、そうだ。お前らちょっとあったまるか?」

 

 俺は変身態勢に入る。

 

Transform,ウルガモスっと」

 

 俺はたいようポケモンのウルガモスに変身する。太陽の代わりになったと呼ばれるポケモンだ。

 

「わー、あったかーい」

 

「ケロ、私も少し温まらせてもらうわ」

 

「では私も…」

 

 寒さに弱い蛙水とコスチューム的な問題のある葉隠と八百万が近づいてきた。それ以外の面々も近づいてくる

 

「本当に我羅琉の個性ってなんでもありだよな…」

 

 上鳴はそう言って俺の体を触ろうとする。

 

「あ、バカやめろ!」

 

「え…?」

 

 俺の言葉も届かず上鳴はおれの体に触れてしまう。そして、

 

 

 

「あっちぃ!」

 

 

 上鳴が触れた手は赤くなっている。やけどだろう。

 

「な、なんだよこれ!」

 

「だから言っただろ、ウルガモスの特性はほのおのからだ、俺に触れた相手に対してやけどを負わせるってシロモノなんだよ」

 

 そんな中、俺たちに向けて遠くから声が聞こえた。

 

「たるんでるねえ、さァA組‼︎今日こそシロクロつけようか!?」

 

 …なんだ物間か。後ろには拳藤や泡瀬といったB組の面々もいる。

 

「…お前なんかとかかわってる暇ないんだよ全く」

 

 俺は嫌がる表情を見せるが物間は気にせず続けていく。

 

「見てよこのアンケート!文化祭でとったんだけどさァーァ!A組ライブとB組超ハイクオリティ演劇どちらが良かったか!見える!二票差で僕らの勝利だったんだよねぇ!!」

 

「マジかよ!見てねーからなんとも言えねー!」

 

 切島は悔しそうな顔をする中、俺はそのアンケートを見ておかしな点に気づいた。

 

「切島、物間が持ってる奴持ってきてくれ。この状態だと物もてねえ」

 

「あ、ああ…」

 

 その紙を見透かすと明らかな不正の証拠があった。

 

「お前のやりそうなことだな、2重に線を引っ張ってやがる」

 

「え?切島私にも見せて」

 

 響香が見ても、そこにはマジックペンを重ね書きしてかさ増しした痕跡があった。

 

「おいお前…」

 

 物間には一気に疑惑の目が向けられる。

 

「物間…」

 

 泡瀬をはじめとしたB組からも冷たい目線を受けていた。まあ自業自得か。

 

「いや違うよ!ここでペンのインクが切れたんだ!だからだよ!信用してくれよ!」

 

 物間が喚きながら弁明する。

 

「その目はなんだい!そんな目で見るな!そ」

 

「フレア、ドライブ!」

 

「ぎゃああああ!」

 

 フレアドライブをお見舞いしてやった。こういうのは黙らすのに限る。

 

「悪い、いい加減うるさかったから黙らせてもらった」

 

「あー、ごめんね我羅琉、ウチのバカが…」

 

 拳藤が申し訳なさそうに言う。まあ拳藤もいつもアイツを抑えるのには苦労しているのだろう。

 

 案外物間はくたばってなかったようで体を引きずりながら近寄ってくる。

 

「全く、いつもいつもA組は暴力に頼るよねぇ!それでしか僕をキュ!」

 

 そんな中物間の首に布が勢いよく締める。

 

「黙れ」

 

 あ、消太さん。ブラドキング先生もいる。

 

「牙那、コイツのことはいいから戻ってろ」

 

「了解です、Trans,オフ

 

 そのまま先生たちが言葉をつなげていく。

 

「今回ゲストがいます」

 

「しょうもない姿はあまり見せないでくれ」

 

 先生たちが説明するとブラドキング先生の後ろからヒョコっとゲストが出てきた。

 

「ヒーロー科編入を希望してる普通科C組、心操人使くんだ」

 

「「「あーー!!!」」」

 

 へえ、あの時の。

 

 …面白くなってきそうだな、この訓練。



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103話

 

 

「ヒーロー科編入を希望してる普通科C組、心操人使くんだ」

 

「「「あーー!!!」

 

 俺たちの目の前に姿を現したのは体育祭で出久と戦った心操である。口元には奇妙なマスク、首元には消太さんがいつも使う布が巻かれていた。

 

 心操の「この場の全員が壁でなれ合うつもりはない」という言葉で俺たちにも一層の気合が入る。

 

 その後にブラドキング先生から今回の演習についての説明が入る。

 

 言葉通りに説明すると、

 

 

 

 ・今回はA組とB組の対戦

 

 ・場所は工業地帯をモチーフにした運動場γ

 

 ・双方4人組を作って1チームずつ戦う形式

 

 ・心操はA組とB組に一回ずつ参加

 

 ・設定としては「敵グループを捕捉し確保に動くヒーローで互いに敵と認識し、先に4人捕まえた方が勝利

 

 ・双方の陣営に『激カワ据置プリズン』を設置し、投獄した時点で確保

 

 

 

 …というものだ。

 

 …もう『激カワ据置プリズン』の世界観は放っておくことにしよう。恐らく校長の発案だろうし。

 

 くじ引きの結果俺のチームは八百万、常闇、葉隠。相手は拳藤、黒色、吹出、小森といった面々だ。

 

 ちなみに心操はA組の1番とB組の5番。一度戦ってみたかったが仕方ないか。

 

 演習はそのまま始まる。

 

 内容は…というと、敵として言わせてもらうとするなら心操のアレが厄介だ。声まで変えれるのはヤバい。相手を使うこともできるし敵全体を混乱させることもできる。

 

 結果はA組の面々がなんとか勝ったがという感じだ。それぞれが自分の改善点を口にしている。消太さんもそれについて言っていったが上鳴だけは違ったので消太さんから叱りの言葉であった。

 

 B組はブラドキング先生からでる圧が凄かったとだけ言っておこう、目も凄い怖かったし。

 

 反省会が終わり、俺たちの番となる。

 

「八百万、そういえばなんでミスコン出なかったの?」

 

 そう聞いてきたのは拳藤だった。八百万がそれに返す。

 

「相澤先生が言ってくれなくて、バンド練習があったのでどっちみちでなかったでしょうが…」

 

 その言葉に拳藤は続けていく。

 

「職場体験でCM出てさ、そこから私たち、まとめて箱押しされてるみたいで。成績も個性も八百万の方が上なのに一緒くたにされるのが嫌だったんだ」

 

 そこから挑戦的な目で八百万に続ける。

 

「個人的に、ちゃんと戦ってみたかったんだよね!」

 

 それに八百万もそれにこたえるように返す。

 

「分かりました、誠心誠意お受けしましょう」

 

 へえ、いい感じじゃん。

 

「拳藤、一応言っとくが俺たちもいるんだからなー、八百万ばっか気にしてたらさっさとやられるぜ?」

 

「分かってるよ我羅琉。アンタも要注意人物だしね」

 

 俺の軽い言葉に拳藤は返す。…まあ、油断はないならいいか。

 

 もう一方を見ると葉隠が常闇と黒色の方を見ていた…んだよな、うん。

 

「どうしたよ、葉隠」

 

「いやー、あのふたりがさあ」

 

 葉隠が指さした方を見ると、

 

「貴様も深淵の理解者」

 

「ヒヒ…、常の黒に住む」

 

 …すっげえ厨二な会話だな、オイ。というか塩崎もそうだがBにもあんなのがいるのか。

 

「わぁー」

 

「何思ったんだお前、さっさと行くぞー」

 

 葉隠の何を思ったのかわからない言葉を適当に返しながら俺は開始の位置に着いた。

 

「さてと、お前ら、この試合も勝ってA組連勝としようぜ!」

 

「おおー!」

 

「もちろんですわ!」

 

「承知!」

 

 気合十分、ノリノリで行くとしますか!

 

 

 

 

 



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104話

 

 開戦の合図が鳴り響き、戦闘が開始される。

 

 まずは常闇が黒影を放ち、B組を探す。

 

「見つけたようだ、あの一際高くそびえる煙突の下手前」

 

 その言葉通りに俺たちは向かっていくが、そのすぐ後に常闇が足を止める。

 

 その瞬間、黒影が戻ってきていた。常闇の表情から察するに指示はしていないことが起こった。

 

 恐らく、黒色あたりか!

 

「Transform,マフォクシー!」

 

 俺はマフォクシーに変身し、黒影を止めようとする。

 

「サイコキネシス!」

 

 俺は体からサイコパワーを放出し、黒影を地面に伏せる。

 

「すまない!」

 

「平気だ、これ位。とっとと出てきやがれ黒色!」

 

 俺の言葉の後、黒影から黒色が出てくる。

 

「…チッ、我羅琉牙那、貴様に用はない」

 

「黒影の中から黒色くんが!」

 

「捕えます!」

 

 八百万が腕を振り網を発射するが、黒色はそれを避け、"個性"『黒』でパイプの影に入り込む。

 

「常闇踏陰、おまえは俺が穿つ」

 

 …うっわー中二病だ。

 

 そう黒色に言われた常闇は体勢を立て直すと羽織っていたマントを脱ぐ。

 

「良いだろう、ホークスのもとで編み出した技"黒の堕天使"で受けて立つ」

 

 こっちの中二病もいつもの調子か。

 

「ケヒヒ!黒の堕天使!?良いじゃねぇか見せてみろ!」

 

 黒色はそのままパイプの影に入り込み、姿を消す。

 

「この配管まみれのステージじゃ居場所把握は無理だ!」

 

 黒色の声が辺りに響く。

 

「…じゃあ、光らさせてもらいますか」

 

 俺は再変身態勢に入るがその体を黒色が掴む。

 

「ひっかかった」

 

 ケヒヒと笑いながら黒色は俺を連れ去る。

 

「マジか、よ!」

 

「この4人の中で一番厄介なのはお前だ、まずお前を仕留める。常闇に宣戦布告したから油断していただろう!俺のスピード!そしてこの狭く煩雑なステージ!黒影は本体と繋がる"へその緒"が邪魔で動きづらいだろう!つまりA組が俺に追いつく術はない!」

 

「だと思ったか?」

 

 黒色が俺に放つ言葉の裏で常闇の言葉が聞こえた。

 

 振り向くと常闇は空を飛んでいた…、いやマジで飛んでるんだけど!?

 

「黒影、黒の堕天使」

 

 …恐らく黒影に体を委ねて飛んでいるのだろう。背中には黒影の腕が翼のように広がっていた。光も黒影をマントの中に入れることによって遮断しているようだ。

 

 黒色が驚いている隙に常闇は俺をとりかえす。

 

「取り返したぞ、黒き者よ」

 

「また来るぞ黒の堕天使…」

 

 黒色は捨て台詞を吐くとパイプの影に消えていった。俺は常闇に礼を言う。

 

「悪い、常闇!」

 

「かまわん、それ以上に助けてもらってきた」

 

 そんな会話をしていると八百万から声がかかる。

 

「我羅琉さん、光を放つことはできますか?」

 

「ああ!」

 

「では、お願いします!」

 

 俺は袖の中に忍ばせていた木の杖を取り出し、攻撃態勢に入る。

 

「フッ、マジカルフレイム!

 

 俺が放った、まるで幻想的な炎は今まで作られていた影を揺り動かし、黒色が影から弾きだされる。

 

 さっきはミスったからな、ここから取り戻していかねーと。



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105話

 俺が炎で影の形を乱して黒色を弾き出し、葉隠が黒色に向かって走る。八百万が黒色の確保を確信した瞬間だったが。

 

 ポムッ

 

 八百万の鼻の頭からキノコが生えた。

 

「いやっ!」

 

 走っていた八百万は急ブレーキをかけて自分から生えてくるキノコを払う。

 

「わー!シルエット見えちゃう恥ずかしー!」

 

 葉隠の体からキノコがポムポムと生え、体の形が見えてくる。

 

 さらには飛んでいる常闇の体にもキノコが生えていく。

 

「菌茸類が大地を埋め尽くしていく…、お前には生えないのだな」

 

「今の俺の体は熱を持ってるからな、キノコに乾燥は持って来いだろ。…ちっ、どこ行きやがった黒色!」

 

 俺たちの目の前を既に多数のキノコで覆いつくされており、黒色はすでに身を隠していた。

 

 恐らくはキノコの個性を持つ小森の個性だろう。

 

「皆さん落ち着いて!まずは一かたまりに、、」

 

 八百万が指示を出そうとした瞬間、遠くから奇妙な声が聞こえる。

 

 その声の後には、ゴンガンドガの巨大な文字の塊が襲いかかり、俺達を散らした。

 

「あれっ!ヤオモモいない!」

 

 葉隠が八百万の姿がないことに気づく。

 

 八百万はこのオノマトペの壁に分断され、1人になってしまったみたいだった。

 

「常闇、葉隠を頼む!俺は自力で飛べるから!」

 

「了解した!」

 

俺は常闇の体から離れながら変身しなおす。

 

 

 

「Retransform、ファイアロー!」

 

 

 

 俺がれっかポケモンのファイアローに変身している間に常闇はキノコにまみれた葉隠を回収し、俺たちは黒色が追ってこれないような影のない建物の屋上で再度合流する。

 

「モヘー、3人の居場所見つけなきゃ勝てないよぉー」

 

「しかし、再度あの湿気と菌茸類で埋め尽くされた場所に突入するのは危険だぞ、八百万がいないこの状況、どうする我羅琉」

 

 だが…、どうする。にほんばれをしてもいいが、そうすると常闇の黒影が動けねえ。だけど、今のままじゃジリ貧だ。

 

 そんな中、オノマトペの壁からあるものが撃ちあがる。

 

「あれは…、黒影!」

 

「アイヨ!」

 

 黒影がしっかりと袋をキャッチし、俺たちの所に運ぶ。

 

 袋には『ヤオヨロズラッキーバッグ』と書かれていた。

 

「…なるほど、滅菌スプレーか。確かにこれならあの中でもキノコを気にせずに済む」

 

 袋の中には菌を殺すエタノールスプレーが大量に入っていた。

 

「それとコレはゴーグルか?」

 

「デザイン的に常闇くん用だね」

 

 常闇はゴーグルを着けるとあることに気づいたみたいだ。

 

「これは…、サーモグラフゴーグルか…」

 

 常闇が付けたのは周りの温度が分かるサーモグラフゴーグル。人がいればそこだけ変色して見える。これなら黒色も見つかるだろう。

 

 マスクを再び被ると常闇は相手の居場所を補足した。

 

「常闇、葉隠、俺は壁を越えて八百万のフォローに行く、悪いが残りの3人は頼めるな?」

 

「ああ、任せろ」

 

「私も!ここからは私もガンガン行くよー!」

 

 二人と話した後、俺はそのまま飛び、壁の向こうへとスピードを上げた。



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106話

 常闇たちと別れた後、高熱の翼を羽ばたかせて、俺はオノマトペの壁を越える。

 

「…いたか」

 

 俺がその場所に着いた時には八百万はダウンしていた。

 

 だが、拳藤にただではいかさないと、拳藤を自分と絡み付け動きにくくしていた。

 

 …できる限りのことはしてくれたみたいだ、助かるぜ。

 

「…拳藤、今のお前の状態で戦えるとは言わねえ。降参するなら今の内だぜ?」

 

「あいにく、こっちもそう簡単には行かないよ、我羅琉。アンタとは戦ったことなかったしね!」

 

 拳藤はまだやる気は残っているみたいだった。…そうこなくちゃな。

 

「…なら、全力で行かせてもらうぜ!」

 

 俺は攻撃態勢に入る。拳藤も自身の手を大きくし、抗う準備は万端だ。

 

 炎を纏った俺は、パイプの隙間を飛び回りながらスピードをあげ、拳藤に突っ込む。

 

 

 

「ニトロチャージ!」 

 

 

 

「当たらないね!」

 

 拳藤はその攻撃を素早く躱し、自身の大拳で俺にカウンターパンチをくらわせようとする。

 

 だが、甘い。

 

 俺は急ブレーキをかけ、拳藤の方へと方向転換して攻撃を与える。

 

 

 

「つばめがえし!」

 

 

 

 さらに、その流れの俺は拳藤に休む暇を与えずに攻撃していき、確実にダメージを与えていく。…アクロバットだ。

 

 そんな中、動きづらい環境となっている拳藤も攻撃ばかりはされまいと俺の攻撃が切れる瞬間を見切り、俺の体を掴む。

 

 ちょこまかと動く相手に対し、追いかけまわすのは悪手だ。自身の手でしっかりと掴んだほうが早い。

 

 だが、今の俺相手にはそれを選ぶことは避けなければならかった。

 

「掴まえた、ってあっつ!」

 

 今の俺の体には高温の熱を持っている。直で触るとやけどする特性、ほのおのからだだ。

 

 その熱さにたまらず拳藤は俺の体を離し、俺は再び動き回り、フリーな状態になる。

 

 俺は勝負を決めにかかる。

 

 炎を鎧のように纏った俺は、ニトロチャージで上がったスピードを利用し、拳藤に再度突入する。

 

 

 

「フレア、ドライブ!」

 

 

 

 ファイアローが使える屈指の高火力の技を喰らった拳藤はたまらず膝をつく。

 

「…やっぱ強いね、アンタは」

 

「褒めてもらって光栄だ。さっさと寝てろ、次に目を覚ますのは牢の中だけどな」

 

 拳藤はそのまま地面に倒れる。

 

 …まずは牢屋に入れないと。ただ倒しただけじゃだめだ。

 

「Retransform,マフォクシー」

 

 俺は再びほのおタイプとエスパータイプを兼ね持つマフォクシーに変身する。

 

 八百万は肩に背負い、拳藤はサイコキネシスで浮かせて、牢屋の方へ進む。…やっぱこういう時はエスパータイプの方が便利だ。

 

 途中で吹出をやっつけた葉隠と合流し、拳藤と吹出を牢屋に入れた後、俺たちは常闇のサポートへと向かう。

 

「常闇君、大丈夫かな…」

 

 移動しながら葉隠が心配そうな声で話す。

 

「大丈夫って信じたいけどな。こればっかりは任せるしかねえよ」

 

 黒色は何とかなるとしても小森の能力がどこまでできるのかはまだ未知数だ。警戒しておくに越したことはない。

 

 

 

 …その後、何とか探し当てたが、常闇は黒色を自身のマントに閉じ込めたものの、小森に気管にキノコをはやされたことによりダウンしていた。…なかなかにエグい攻撃だ。

 

 時間はそこで20分を過ぎ終了となり、牢屋に入れた合計人数が多いA組の勝利となった。

 

 

 

 



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107話

 

「メンゴね、常闇。浅田飴いる?」

 

「情けは無用…!」

 

「リカバリーガールにお薬貰おうね」

 

 戦いが終わった後、小森が優しい口調で話しかける。

 

「しっかし、エグい攻撃するな、小森」

 

「うん、あそこでコレ使ってなきゃやられてタケ、使わなくてやられるのもダメキノコだし」

 

 俺の言葉に対し小森は言う。まあ実戦を考えればそうなるよな。

 

 その後、ド派手にステージを壊した拳藤と吹出に注意が入り、休憩をはさんでステージ移動となる。

 

 待っていると治療を受けた拳藤と八百万が戻ってきた。俺に向かって拳藤は言う。

 

「いやー、やっぱ強いね我羅琉!」

 

「まあな、でもお前も100は出せてないだろ。八百万のおかげでな。八百万もアレは助かったよ」

 

「いえ、私もまだまだですわ。拳藤さんのような至近距離で攻めてくる相手にどう立ち向かうか…、また一つ課題ができましたわ」

 

「そうか」

 

 俺たちが話をしている間に次の試合は始まっていた。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 3試合目は双方の意地がぶつかり合う激戦となり、轟と飯田、骨抜と鉄哲がダウンし、牢屋に入ったのは一人ずつで引き分け。

 

 最後の角取の行動も本番を見据えれば適切な行動といえるだろう。

 

 

 

 4試合目、…これはなんというか。あのなんでもできる勝己が協調性を覚えればそうなるよなって話だ。

 

 5分も経過せずにB組の4人を牢屋に入れ爆勝した。

 

 

 

 そして最終試合の5試合目。出久が黒い何かを発現させたものの暴走したみたいだが、心操により一時停止。

 

 その後は何とかコントロール出来たのかは知らないが、一度使用しようとしたものの一瞬っで消えたが、その後の乱戦の間にA組がB組の面々を倒してゲームセット。

 

 

 

 最終スコアは対抗戦はA組の4勝1分となりA組の勝利となった。

 

 その後出久に消太さんが「なんなんだお前」と問いかけ、出久は自分もよくわからないがあの場面は心操と麗日が止めてくれたからなんとかなったとのこと。

 

 麗日も「何もできずに後悔するより良かった」と言い、心操も「自分のことだけで精一杯だった」と話す。

 

 その後、消太さんが「まだ誰もそこまで求めていない」と言い、そのまま続ける。

 

「自分ひとりでどうにかする力がなければ他人は守れない。その点で言えばお前の働きは充分及第点だった」

 

 …確かにその通りだ。始めたばかりの心躁がそこまでいけばそれは間違いなくオールマイトや瑠莉姉みたいな天才である。

 

 その言葉の後に出久が「誰かのための強さで言うなら僕の方がダメダメだった」と言い、消太さんは「そうだな」と返す。

 

 これから心操の編入に対する審査に入るらしいが、ブラド先生が言う。

 

「恐らく点、いや十中八九!心操はヒーロー科に入ってくる。お前ら中途にはり合われてんじゃないぞ」

 

 その言葉にA,Bともにざわつくがどちらに入るのかは追々らしい。

 

 その後、物間が負け惜しみか何かを言っていたが気にせずに放っておいた。相手にする方が面倒だろう、コイツは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 いつもこの小説を読んで頂きありがとうございます。始めは見切り発車で書いたものが100話まで来るとは私としても思ってもみないことでした。構想でも体育祭の所までかければいい方だろうと思っていましたので、A・B対抗戦までかけたのは奇跡です。この小説のコンセプトとして、このサイトに多数存在する傑作小説の合間合間に読めるような小説を目指そうとここまで書いてきましたが、お知らせがあります。



 一時的にこの小説の更新を停止します。



 理由は単純です。…このままだと軽く原作を追い越してしまうことが理由です。エンデヴァーでのインターン、ヴィラン連合のバトルは主人公視点だとすべてカットになるため、この次は一大決戦となります。文才がない者としては書けないので、一時停止という決断をさせてもらうことにしました。再開は原作終了後を予定しています。

 ここまでこれたのは読者の皆さんのおかげです。本当に感謝してます、ありがとうの言葉以外にありません。この後の活動としては、同じジャンプ作品でこの「ポケモンの力を持つ主人公」をターゲットにした何かを始めようかなと思っています。「これ以上駄作を増やすな」という意見も受け止める覚悟です。

 今までこの作品を読んでくださり、本当にありがとうございました!

 


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