【試走】がっこうぐらし! RTA 学園ヒーロールート【完結】 (haku sen)
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Part1  スタート

 

 RTA風の小説に挑戦してみるはいいものの、予想以上に難しく、自身の浅はかな知力が露見する結果となっております。
 思わず首を捻るような事や不快に思う描写があるかもしれないので、それらを事前に分かった上で見てください。

 


 

 

 

 

 全員を助ける(全員とはいっていない)ヒーローを地で行くRTAはーじまーるーよー。

 

(なお、今回は試走になります。本当なら試走ではなかったんですが、正直言うとガバりました。そんなもん上げんな、って話なんですが、ちょっと見たことないめぐねえとの関係があったので投稿しました)

 

 計測開始はスタート画面のはじめるを押してから。計測終了は称号およびエンディングが流れ始めたらとします。

 キャラクリは名前と性別以外はランダムで。ただ、見た目が悪いと多少なりと好感度に響くことになるので、すぐにリセットあんどスタートになります。(2敗)

 

 結局は顔。はっきりわかんだね。

 

 はい、よーいスタート。(唐突)

 

 すぐに飛ばせないオープニングが流れるので、その間に本RTAの説明をば。

 

 今も各ルートの開拓や先駆者兄貴たちがタイムを更新しているなかで、今回やるのは『学園ヒーロー』という称号およびエンディング獲得を最速で目指していきたいと思います。

 原作でもゆきちゃんが言っていた奴ですねぇ~。それを主人公に体現してもらうルートが『学園ヒーロー』になります。

 

 先に言っておきますと、これは称号およびエンディングは厳密には別になります。

 エンディングの方は普通に学園生活部としてやっていけば見られるでしょう。ただ、要介護者と名高いめぐねえの生存が必要不可欠となっております。

 なんで、すぐ自己犠牲に走るんですかねぇ?(56敗)

 

 そして、称号の方は学園生活部のメンバーは勿論のこと、そこにチョーカー姉貴こと柚村(ゆずむら)貴依(たかえ)、太郎丸を含む計六人と一匹を卒業まで導けば獲得できます。

 残念ながら、祠堂(しどう)(けい)と覚醒素材こと先輩は含みません。

 覚醒素材は単純にOBですし、くるみにはゴリラになってもらいたいですし、おすし。

 

 圭に関して行けないこともないですが、RTA的にはロスなのと、蛇足となってしまうので無理です。

 学園ヒーローだからね、仕方ないね。(なお、みーくんを救うためにショッピングモールには向かう模様) 

 

 それと、気がついた方もいると思いますが、称号獲得のための条件に主人公は含まれておりません。

 ええ、はい。主人公には恐縮ですが死んでもらいます。というか、死んで貰わないと獲得できません。

 そこは、始まってからおいおい説明致します。みんな、ヒロインたちの泣き顔は好きダルルォ!?

 

 

 おっ、オープニングが終わってキャラクリ画面が見えてますね。

 性別はステータスが平均的に高い男性を選びます。男性ならば高確率で運動部に所属している可能性が高く、所属している部によってステータス向上も見込めますし、戦闘技能(スキル)も手に入れることができます。

 

 名前は『本城(ほんじょう)幹久(もとひさ)』。略してホモくんですね。当たり前だよなぁ?

 これだけ決めたらさっさと決定ボタンを押して、始めましょう。

 かーらーのー、暗転とロードが始まりますので、まだ始まりません。

 

 あっ、そうだ(唐突)。言い忘れていましたが、俗にいう幼馴染みシステムは採用しております。

 それ、RTAにいるぅ? ガバらない? と思ったそこのアナタ。

 確かに、好感度ガバが多くなって各ルートに進行してしまうことも多々あります。

 

 だが、しかーし! 私のチャートにガバるという単語は存在しません!

 故に、幼馴染みシステムは私にとってはステータス向上、技能獲得、初期好感度上昇などなど……メリットしかないです、はい。(ドヤ顔)

 

 それに加えて、今回のルートは誰が幼馴染みでも問題ないという強みがあるんですよ。(問題がないとは言ってない)

 まさに突き入れる穴(・・・・・・)がない──っと、始まりましたね。

 

 どうやら、学校内のようです。

 グラウンド、もしくは体育館近くならばくるみで、屋上であればりーさん、教室ならばチョーカー姉貴ですね。

 二週目以降から外になる可能性もあるそうです。場合によっては大学編の方々たちと一緒になることも、あるとかないとか。

 ゆきちゃんはどこでも沸きます。

 

 そして、今回は校舎内のどこかの廊下なので恐らくゆきちゃんでしょう。

 

「──あら? もとく……んんっ、本城くん。こんなところで何してるの?」

 

 ……ファッ!? なんで!? なんで、めぐねえが!?

 いや、もちつけ。餅をついて素数を数えましょう。

 ニイ! サン! オッケェー!

 

 ふぅ……恐らく、ゆきちゃんが来る前のフラグか何かでしょう。

 教師と生徒が幼馴染みとか妄想がはかど、ゲフンッゲフン……いや、あり得ませんからね。

 

「もうっ、めぐねえじゃなくて佐倉先生です! 少なくとも学校ではそう言うように約束したでしょう?」

 

 あんれぇー? おかしいぞ?

 今この場面でステータス画面を開くのはRTA的にアウトですが、致し方ありません。関係性を確認しておきましょう。

 …………ほほぉ、どうやらホモくんとめぐねえは従姉弟のようですね。ホモくんにとっては本当の姉のような存在みたいです。

 へぇ、こんなこともあるんですね。私は初めてなりました。後でWikiを確認しておきます。

 

 ……えぇ、何それ。チャートが崩れるんですけど? しかも、周知の事実というわけでも無いという。

 それにより、周囲の生徒たちの好感度は変わらないようです。勿論、原作キャラたちも同じです。

 そして、幼馴染みシステムで最も大事と言われている技能も貰えないという……ああもう、辞めたら? 現国の教師。

 

 はぁ~、コレわぁ、リセ案件ですわ。ここリセットポイントじゃないんだけどなぁ~。

 

 この時点で何かしらの技能も無いのであれば、アウトブレイク後がキツくなります。

 特に、ショッピングモールなどの時に苦戦するハメになります。RTA的にはそれは避けたいですね。

 

 ええ、申し訳ございませんが、リセット──しません。

 あえて、続行します。ちょっとこのめぐねえは初めてなので。

 寧ろ、本番で来られたら大変ですので、試走ということにして続行します。

 

 本番で来たときのために、今後の展開がどうなるか結果をちゃんと記録しておきましょう(向上心のある走者の鑑)。

 

「うん? ああ、私はこれから丈槍さんの補習なの。本城くんもあまり遅くまで残ってちゃダメよ」

 

 ここは素直に頷いておきましょう。

 ちなみにホモくんは剣道部みたいですね。今日は体育館を他の部活に取られているため、休みだそうです。

 

 技能は『摺足』と『剣術』ですね。

 剣術は長物などを使うときに火力を大幅に上げるのと、スタミナの消費を抑えてくれる優れものです。

 ただ、序盤に武器となる長物が大体は掃除道具などの柄になるので、くるみほど火力は期待できません。

 ショッピングモール等でそれらしい物を手に入れないと真価を発揮しませんね。

 『摺足』は隠密系ですね。かれらをアサシネイトする際に役立ちます。

 

 さてと、ホモくんをこれから操作していきますが、帰るわけにはいきません。帰ったら、文字通り帰らぬ人となってしまいます。

 なので、今からすることは、アウトブレイクに備えての各階層のロッカーチェックですね。

 これによって、この後に発生するアウトブレイク時にAIが勝手に認識して、すぐさま武器を入手することができます。物が何処にあるか確認するのが大事って、それ一番言われてるから。

 

 あと、このとき周囲の反応で見た目の良し悪しがわかります。

 プレイヤーからすればどれも美形ですが、ゲームの中はちゃんと区別されているので、初めてやる人は注意しましょう。(2敗&大事なことなので二回目)

 

 ……ふぅーん、ホモくんはどうやらイケメンの分類に入るみたいですね。ちょっとした行動でも女子生徒が声をかけてきています。

 ただ、RTA的にはロスなのと、ホモなので無視だよ、無視。

 

 一階のロッカーにはめぼしいものはありませんでしたね。じゃあ、次は二階に行きましょう。動けってんだよ!(豹変)

 

 はい、着きましたね。では、ごまだれー……はい、変わらず掃除道具だけです。

 基本的にはそーふなどの掃除道具が入っているのですが、偶にそれ以外のものも入っていたりすることがあります。

 まあ、今回はありませんでしたね。偶にですから、入っていないことが当たり前です。(震え声)

 

「きゃあぁぁぁぁっっ!!」

 

 おっ、始まりましたね。ここでチキンセーブを挟みましょう。

 ……いや、もうRTAでは無くなったので、しなくてもいいです。

 大体、一階のロッカーから調べていけば、三階を調べきった際に始まるように時間を調整されております。

 

 運営側がこの時間でやれることをしとけよ、って暗に指示しているんですよね。

 まあ、初見でわかるわけねぇだろ、って話なんですが。

 

 さあ、ここからが本番です。プレイヤースキルの見せどころさんでもあるので、見とけよ見とけよー。

 阿鼻叫喚が目の前に広がっていて、ホモくんが恐慌状態寸前ですが、その尻をヌッ叩いてロッカーまで移動させましょう。

 

 その中にある、そーふという名のモップを逆さに持って構えさせます。房糸が付いている方で構えさせてはいけません。(1敗)

 後はくるみことゴリラが覚醒素材を運んでくるので、それまでこの場を凌ぎましょう。

 

 オラッ! ジュウなんて捨ててかかってこい!

 怖いかこのクソッタレめ!

 けっ、アバズレが。

 おまえは最後に殺すと約束したな? あれは──

 

「ッ! 本城! 何やってんだよ!?」

 

 来ましたね。さっさとくるみを屋上へと向かわせましょう。

 成人近い男性を背負ってここまで来れるとか、やっぱゴリラだな。(確信)

 

「っ、……ごめんっ!」

 

 ここまでの戦闘はいわゆるチュートリアルです。このとき、やられそうになると原作キャラの誰かしらが強制的に屋上まで運んでくれます。

 つまり、ここからは普通にガメオベラとなるので気を引き締めていきましょう。

 

 後、初日は戦闘による経験値が稼げません。

 アウトブレイクした初日は所謂、無限湧きなんですが過去にそこで馬鹿みたいに稼いだ兄貴が居まして……お察しの通り運営側がアップデートという名の罰則をしました。

 故に、ここで経験値を稼ごうとしても薄味以前に無味となります。

 

 じゃけん、ここは大人しくチクチクやっておきましょうね~。

 チョーカー姉貴は……いませんね。この場にいないということはどこかのトイレに引き籠もっているのでしょう。

 システム上、一日か二日は大丈夫なので安心して、後で助けに行けます。

 

 ……よし、そろそろフェーズ2に移行します。

 先ほど、ホモくんは初めて人を殺したので、SAN値がヤバイところまで減っています。

 そうなると、罪悪感や混沌とした環境下から『恐慌状態』という行動を制限するデバフがかかります。

 

 おっ、それとプラスしてホモくんの脳内でエンドルフィンがドバーしてますね。

 興奮と昂揚……まあ、アレです。最高にハイッ! て奴です。

 戦闘終了後は体力という概念が吹き飛びますが、戦闘が継続している限り体力が減らない状態ですね。

 

 うーん、これもそうそう起こるモノじゃ無いんだけどなぁ~。まあ、ええやろ、

 しかし、これで問題ありません。寧ろ、敢えてこうしました。

 

 そして、ここが最大の難所の一つでもあり、最初のリセットポイントでもあります。

 

 今回、ホモくんには噛まれてもらいます。

 

 はぁ? 何言ってんだコイツ? と思うかもしれませんが、かれら化してもらう必要があるんです。

 まあ、厳密に言えば『かれら』ではありません。『適応者』といった分類のナニカになってもらいます。

 

 この作品に限らず、似たような作品にはお約束事のようにそういったシステムが存在しています。

 所謂、生体兵器(B.O.W.)の先駆けですね。

 極まれにウイルスに適合するんですよ。確率的にもそう多くありませんが、天文学的なものではないので十分可能性はあります。(88敗)

 寧ろ、ホモくんといったオリジナルキャラクターほどなりやすい傾向にあったりするとか。運営が黒幕だった……?

 

 この『適応者』になると、全ステータスが日を追うごとに上昇していき、最終的には上限が伸びていきます。

 後半まで行けば、かれらの頭部を握りつぶす握力、屋上まで跳び上がれるほどの跳躍力、車にも追いつける脚力、骨折も半日で治る回復力などなど……どこぞのアメコミヒーロー顔負けの化物になれます。

 

 後、技能で『アンロック』というものも得ることができます。

 これは、自身で身体のリミッターをオンオフ出来るスイッチのようなものです。

 それによって、超人も超人、スーパー野菜人になれます。(なれるとはいってない)

 

 たかし……失礼、噛みました。

 ただし、時間が経てばたつほどホモくんの自我が薄れていきます。加えて、想像も絶する飢餓に苛まれますが、それはどうにかなります。肉ならそこら中にあるからね。

 

 自我が薄れる、イコール、かれらと同類になります。寧ろ、同類より厄介な存在になるでしょう。

 最終的にはスタぁーズぅー、とか言いながら学園生活部のメンバーを襲うようになっちゃうんですよ。

 なので、ホモくんには最終的に火に巻かれて死んでもらう必要がありんす。

 

 ……と、まあ長ったらしく説明しましたが、コレ、もう試走なんだよなぁ。

 まあ、気を取り直して、ホモくんをかれらに一歩近づけるために物理的にも近づいて貰いましょう。そうなると、対抗フェーズが始まります。

 

 ここで恐慌状態が付いていないと運動部ならば対抗フェーズが発動しませんので注意。

 動きがノロイかれらに対して、腐っても運動部ならば回避できちゃうんですよね~。

 それと、深手を負うようなモノでもいけません。場合によっては、そのままアニメ版の太郎丸のように衰弱死してしまいます。

 なので、ホモくんにはかれらが甘噛みしてくれる程度の抵抗をさせましょう。

 

 

 へへへへ……そーふも必要ねぇや。へへへへ、誰がテメェなんか……テメェなんか恐かねぇ!!

 

 ──野郎、ぶっころしてやぁぁぁぁぁ!!

 

 ……えっ、いや、ちょ、複数はらめェ! なんでぇ!? なんでよっ!? そうならないように位置取りしたじゃん!?

 

 おまっ、……隠れてんじゃねぇぇぇぇぇ!!?

 

 あわ、あわわっ。ど、どうしよう!? いや、待て。

 ここを……こうして、こうするじゃろ? そうするとこうなって……こうなるんじゃ。

 

 ──やべぇ、状況が悪化した。

 

 くそっ、HA・NA・SE☆! こうなればゴリ押しじゃあぁ! 元、脳筋プレイヤーをなめんなよぉ!?

 

 オラオラオラオラオラッ!! ……よしっ! さあ、バッチェ来い! 噛めオラァ!

 

「──もとくんっ!!」

 

 め、めぐねえ!? なんでぇ!? もう屋上組が降りてくるはず無いじゃん!?

 初日はもう屋上から出てこないのに……てか、要介護者(めぐねえ)を守りながら甘噛みとか無理じゃない!?

 

 ……なっ、なにィー!? あの悪質なタックルはッ!?

 

 あっ、ええい、離さんかい!! テメェはそのまま逃げんかい!

 

「ダメっ! 絶対っ! ほら、早く!!」

 

 えっ、ちょ、強っ!? 力強くない!? ゆきちゃんに次いで弱小キャラのクセしてツヨない!?

 

 あ、待って、お願い! 先っちょ、先っちょだけでいいから! 

 

 

 ちょっと軽く噛んでくれるだけでいいからぁぁぁぁぁ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………ええ、はい。現在、屋上にて無傷のまま生還しております。

 まぁ、好感度以外のガバは起きるって言ったし(言ってない)、何とかなるやろ。

 

 嘘です。(手のひらくるー)先ほど言った適合者ルートでなければ相当キツいです。

 そもそも、適合者ルートでなければこの近くにいる太郎丸を救うのが困難になります。

 

 あの子、割と簡単に捕まっちゃうんですよねぇ……。そこに、ある程度戦えるホモくんがいないと原作同様、ゆきちゃんの目の前でブシャー案件になります。

 全員に精神的ダメージを与える上に、終盤において各キャラの生存確率が大幅にダウンしてしまいます。

 理由として、太郎丸が生きていると、アニメ版のように原作キャラの窮地を救ってくれる優秀なお助けキャラに様変わりするんですよ。

 

 つまり、称号獲得のためにも太郎丸の生存は必須です。それを確実とするための適合者ルートなんですが……ええ、見ての通り破綻してしまいました。

 まあ、ある程度流れは掴めましたし、チャートの改善点なども見えたので、良しとしましょう。

 

 試走はここまでです。ご視聴ありがとうございました。

 

 あ、今回のめぐねえってどうなるんでしょうね? ちょっと進めて────

 

 

 

 

 

 

 

 § § §

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 胸の内にある不安を押し殺しながらも、現代国文の教師である佐倉(さくら)(めぐみ)は補習を受けていた生徒、丈槍(たけや)由紀(ゆき)と共に屋上へと向かった。

 本来なら閉まっているはずの屋上に続く扉を開き、様子を伺うようにして覗き込む由紀が言う。

 

「鍵、空いていたね」

 

「あ、すいません」

 

 その声と開ける音に反応したのか、こちらにむかって声がかかる。

 

「また、閉め忘れていました。鍵掛けて貰えますか?」

 

 日の沈む直前の赤い光に照らされて見える一人の女子生徒。

 首に掛かるタオルと手にした軍手、そして、右手にある如雨露から彼女が園芸部の子だと慈は察する。

 

「わぁー、すごーい!」

 

 由紀は目の前に広がる屋上のプランターに植えられた食用の植物を見て感嘆の声を上げる。

 太陽に向かって伸びるように育つ多種類の植物は、夕日の光に照らされてキラキラと輝いて見えた。

 

「あ、園芸部の人ですか?」

 

「ええ、見ての通りよ。アナタは見学かしら?」

 

「はい! トマトすっごく美味しそうだね!」

 

「食べたい?」

 

「いいの!?」

 

 二人の微笑ましいやりとりを見ながらも、慈は先ほど母から送られてきた不安を煽るメールを確認する。

 

悠里(ゆうり)さんは、いっつも一人で菜園の手入れをしてるの?」

 

 水をあげながら、ふと疑問に思った由紀が彼女、若狭(わかさ)悠里(ゆうり)に問いかける。

 それに、悠里は立ち上がり首を横に振りながら否定した。

 

「ううん、今日はどうしてか、誰も来ないのよね」

 

 そのやりとりの裏で、慈は母に電話を掛けていたが、その心配性の母が一向に電話に出る気配が無い。

 不安に駆られ、その連絡先の一覧からまた新たに電話を掛けるべく、その名前の欄をタップする。

 

 プルルルッ、と聞き慣れた電子音。しかし、それが途切れること無く、慈の鼓膜を同じ音がずっと揺らし続ける。

 

「もとくんも出ない……どうして?」

 

 本城(ほんじょう)幹久(もとひさ)。母の妹の子供であり、弟のように可愛がっていた従弟の愛称を口にして、慈は生唾を飲み込む。

 

 形容しがたい不安と焦燥が慈の身を蝕んでいくのを感じながら、今一度電話を掛けようとしたその時。

 

 手に持つスマホが揺れ動き、着信を示す音を鳴らす。

 ディスプレイに映った名前は同僚であり、先輩でもある神山先生。

 慈は躊躇いも無くその電話に出た。

 

「もしも──」

 

『──大丈夫っ!? 佐倉さん、今どこに居るの!?』

 

 

 ドンドンドンッ!!

 

 

「ッ!?」

 

 その突如、力強く叩かれる屋上の扉。

 力強さや何度も連続で叩く音から、その人物の焦燥が伝わってきて、今の状況がただ事ではないことを顕著にしていた。

 

「何だろう?」

 

「ほかの当番の子かしら?」

 

 それに対して暢気とも取れる発言をする由紀と悠里。しかし、それは状況を分かっていないからだ。

 ただ、そんな二人の言葉が自身のこの不安も勘違いかもしれないという風に思わせてくれる。

 

「はーい、今開けるよー」

 

 だが、そんな淡い期待もスマホから聞こえてきた神山の声でかき消された。

 

『屋上!? なら鍵を締めて、絶対誰も入れないで!! 職員室は──』

 

 切羽詰まった声が途切れ、代わりに聞こえてきたガラスが割れる音と悲鳴。

 それで理解した慈は恐る恐る扉の方を向く。

 

 そして、扉を開けようと駆け寄る由紀に制止の声をかけた。

 

「待って!」

 

「……めぐねえ? でも、開けてあげないと」

 

 言葉が出ない。もしかしたら、という思いが言葉を詰まらせる。

 

「誰か! お願い、開けてっ!」

 

 その時、扉を叩いていた主であろう声が聞こえた。

 聞き覚えのある声。最も厳密に言えば先ほど聞いた声だ。

 慈は急いで鍵を外し、扉を開く。

 

恵飛須沢(えびすざわ)さんっ!?」

 

 開ければ予想通りの人物がいた。しかし、その背には血の滲む運動着を着た男子。

 

「早く! 鍵を掛けて!」

 

 息も絶え絶えになりながら焦燥に任せた言いよう。やはり、どう考えてもただ事ではない。

 

「何が、あったの……?」

 

「酷い怪我……っ! 早く保健室につれて行かないと!」

 

 しかし、悠里の倫理的な言葉は彼女、恵飛須沢(えびすざわ)胡桃(くるみ)の言葉で断ち切られる。

 

「下はダメだ! 下は……もうダメなんだ……」

 

 諦観に尽きたように呟く胡桃。

 

「なに、あれ……?」

 

 それと同時に聞こえてきたのは恐怖に震えた由紀の声だった。

 屋上の手すりに掴まりグラウンドを見下ろす由紀。それに釣られ慈もグラウンドを見る。

 

 そして、後悔した。

 

「急に、みんな……あんな感じになって……すぐ陸上部も巻き込まれて、先輩が……」

 

 人が人を襲っている。

 生徒が生徒を襲って、食べているようにも見える。

 

「そしたら、本城が三階であいつらと戦ってて……私、アイツに言われたまま逃げてっ! ……わ、私は……っ!」

 

 震えた両手で胡桃は顔を覆う。その言葉通り受け取れば彼女は恐らく本城という生徒を見捨てたのかもしれない。

 

 ……本城?

 

「っ、本城! 本城幹久ですかっ!? 恵比須沢さん!!?」

 

 危機迫る勢いで胡桃に詰め寄る慈。

 胡桃は見たことも無い様子の慈に驚きながらも、首を縦に振った。

 

「め、めぐねえっ!?」

 

「佐倉先生!?」

 

 背後から聞こえる由紀と悠里の声。しかし、その声に反応している暇は無い。

 慈は振り返ることも、言葉を返すこともなく、気がつけば扉の方に走っていた。

 

 その行動は先生、いや、大人として失格だろう。

 今のところ唯一の安全地帯とも言える屋上の扉を私情で開き、ここにいる全員を危険に晒したのだ。

 大人という括りでは収まらない。人として最低だ。

 

 でも、それでも慈は動いた。なぜか勝手に身体が動いた。

 

「──もとくんっ!!」

 

「っ! めぐ、ねえ!?」

 

 階段を降りた先に彼はいた。

 

 臓腑が転がった血まみれの廊下。吐き気を催す死臭。未だに鳴り止まない悲鳴と怒号。

 そんな中で、彼は血塗られた状態で『かれら』と対峙していた。

 かれらの首元に腕を当てて防いではいるものの、状況としては今にも噛み付かれそうになっている。

 信じられない光景を目にしながらも、慈の目には彼がしっかりと映っていた。

 

 恐怖に震える身体を制して、一歩足を踏み出す。

 

「──来るな!! めぐねえ、来ちゃダメだ! そのまま屋上にッ!!」

 

 それと同時に聞いたことも無い彼の鋭い怒声。彼は自分自身が死への恐怖に震えながらも自分を守ろうと行動していた。

 その姿はまるで──

 

 服の裾を握りしめる。恐怖で頭がおかしくなりそうな状態で、慈は突き動かされるままに行動した。

 

「っ!」

 

 噛み付こうとしている生徒だった存在に身体ごと当たる。

 横合いからの衝撃にその生徒だった存在は簡単に倒れた。

 

「めぐねえ! 逃げろ! 俺はいいから!」

 

「ダメっ! 絶対にっ! ほら、早く!!」

 

 尚も戦おうとする彼の手首を掴んで、引きずるように屋上へと続く階段を上がる。

 背中に虫が這いずるような感覚を背後から受けながらも、何とか屋上の扉へとたどり着き、幸いまだ空いていた扉に転がりこんで直ぐさま閉めた。

 

「めぐねえっ!!」

 

 扉を背にして座り混み、両肩を上下させる自分の首元に抱きつく一人の小柄な少女。

 嗚咽を耳元で鳴らし、抱きしめる腕の力が増していく。

 その背を弱々しいながらも摩るようにすれば、やっと安堵の気持ちが込み上げてきた。

 

 彼女越しに横を見れば、彼も頭を垂れて呼吸を整えようとしている。

 その腕は見て分かるほど震えており、どれほどの恐怖を味わったのか、嫌でも理解させていた。

 

 正面を向けば、混乱と恐怖に表情を染めた二人の女子生徒の姿。

 その片方は頬に血が付いており、側には血を流す男子とスコップが転がっていた。

 

「先生、学校も、外も、これからどうしたら……先生? 先生!」

 

 ああ、何ということだろう。今日は……。

 

 今日というこの日は、最悪の日常の始まりなのだろうか。

 

 

 

 

 




 実際に書いてみて分かりました。これは、無理。

 更新されないから自分が書こう、などと意気込んで開始そうそうに超えられない壁に阻まれる現実。

 チャートという名の構成、原作をゲームと見立てるための設定、RTAパートと小説パートのすり合わせ、差別化を図るための工夫......上げれば枚挙に暇がないでしょう。
 淫夢ネタに関しても詳しく無いことから、コマンドーネタで代用していますし。

 RTA、小説、どちらも知識不足でした。数多くの先駆者様たちの作品を参考にしたにも関わらずこの低クオリティーです。

 ただ、書いていて楽しかったです。そこに関してはまだ意欲があり、心も折れておりません。

 皆様の知恵を少しだけ著者に頂ければという打算があって、この拙い作品を投稿させていただきました。

 故に、試走という形にしております。
 厚かましい願いと思っていますが、どうかよろしくお願いします。




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Part2 毛むくじゃらの生存者 

ありがてぇ、ありがてぇ......!

皆さんからゴーサインが出たので狂喜乱舞しながら初投稿です。



 リアルタイムアタックじゃなくなったRTA(仮)はーじまーるーよー。

 

 はい。上記の通り破綻していますが、練習兼調査という名目で続行させていただきます。ええ、ただの実況プレイです。

 

 あっ、そうだ。(唐突)

 これを完走した後に、チャートを組み直してちゃーんと『学園ヒーロー』ルートを最速で走るつもりなので──マグロ、ご期待ください。(太鼓の音)

 

 と、ともかく、前回に続いて屋上にいるメンバーはホモくん、めぐねえ、ゆきちゃん、りーさん、くるみ、あと先輩の屍ぐらいですかね。

 本来であれば、ホモくんが初日の夜にチョーカー姉貴を確保し、そのまま屋上へと放り込んだら太郎丸の確保に行く予定でした。

 

 しかし、それが出来ない以上、大幅のロスです。本番の方で失敗しないように、ちゃんとメモしておきましょう。

 

・めぐねえルートはダメ、絶対。アウト。ロス。

 

 よし。前回みたいにめぐねえらしくない行動を取られたら、堪ったものではありませんからね。

 タイム的にも、心臓的にも、デメリットでしか無いです。

 

 普通はゴリラことくるみが屋上まで上がって来たら、もう屋上から出てこないはずなのですが、何故か前回は降りてきました。

 まあ、恐らくホモくんとめぐねえの関係性によるものだとは思いますが、ちょっと信じられなかったですね~。

 

 めぐねえは確かに強かな女性ではありますが、それは終盤まで生き残ったら、という前提条件が必要になります。

 少なくとも死亡する確率が二倍、三倍と跳ね上がる雨の日は乗り越えましょう。

 

 勿論、あのSAN値直葬のマニュアルイベントをクリアしてからです。因みに私は二回ぐらいしか見たことがありません。(92敗)

 それまでは、常時移動型ヒーラーでもあるゆきちゃんよりも役立たずなので、頑張って介護しましょう。

 

 さて、現状としては日が落ちた後の真っ暗な屋上です。全員が柵を背もたれにしつつ膝を抱えてますね。前に置いた懐中電灯の光に照らされています。眩しい……眩しくない?

 

 ええと、ホモくんは……ああ、もうスタミナゲージがこのゲームでは名物の真っ黒状態ですね。

 つまり、スタミナは残っていません。この状態では走ることも、戦うこともままならない状態です。

 前回言った『昂揚』の副作用ですね。もはや失神寸前です。

 

 じゃけん、ここは大人しく寝ましょうね~。周りがうるさいですが、無視して構いません。

 

 大体は、弱音を吐いてるか長期籠城を決め込むことの話し合いでしょう。あんなことがあった以上、彼女たちは眠れませんからね。

 

 その中で熟睡するホモくん……やっぱりホモじゃないか!(確信)

 

 まあ、そんな彼女たちに寄り添って、好感度を上げるのも一つの手ですが、次の日のスタミナと体力が微量にしか回復しませんので、パスします。

 どうせ、ヒーローしたら勝手に好感度が上がるので、気にせず行きましょう。

 

 あぁ^~、コンクリートが冷たいんじゃ^~。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おはようございます。(真面目)

 

 ……ん? おやぁ? 随分と回復してますねぇ。なぜでしょう?

 ああ、なるほど。堅くて冷たいものが暖かく柔らかいものに変わってますね。

 

 所謂、好感度イベントです。特定のキャラの好感度が高いと睡眠時に同性なら添い寝、異性ならば膝枕、と睡眠時の回復効果を大幅に上げてくれるものです。

 このタイミングでこの好感度イベントは旨味ですね。恐らく、めぐねえだからでしょう。

 

 ゆきちゃん、りーさん、くるみ、等の同年代による幼馴染みだと初日は絶対にこういったイベントは起きません。

 プレイヤー側からだと見えませんが、彼女たちにもちゃんと精神的パラメーターはあります。

 

 その数値が高いと精神的に余裕が無い状態を表し、高いままだと、普通は起きるはずのイベントが起きません。場合によっては狂気イベントが代わりに起きます。めぐねえならばトイレの中で発狂したりする、アレですね。

 

 その有無は表情から察することが出来ますので、注意深く見ておきましょう。このゲーム、表情の変化に力を入れすぎだろ、と思えるぐらい凄いです。

 

 運営が変態なのか、随分と美少女たちの絶望顔をこれでもかってぐらい見せつけてくるんですよね~。いいぞ、もっとやれ。(人間の屑)

 

 まあ、このイベントは嬉しいですが、太郎丸がいれば毎日それと同じ効果を得られますので、無理して好感度を上げる必要もありません。

 ただ好感度が異常に低いと、異性という理由を建前に別室となります。それによっては、主人公が孤独と疎外感によってデバフが掛かりますので注意しましょう。

 

 では、目が覚めたところで校舎の中へといくいくぅ~。

 

 単独行動は彼女らの好感度を下げることになりますが、二日目はまだ大丈夫です。それらしい理由は一杯ありますからね。

 ただ、三階を確保したら自重しましょう。一番好感度が高いキャラと運命のナイロンロープで繋がれてしまいます。

 そうなると、行動に制限が掛かるので面倒なことになるでしょう。紐ルートも嫌いじゃないですがね。

 

 後、嫌われていたら繋がれるのは無機物になります。残念ながら無機物ルートはありません。(無慈悲)

 

 っと、行く前に少量の野菜を食べましょう。野菜はものによっては水分も一緒に取れるものもあるので、全体的に微量ではありますが、回復します。ステータスに『ベジタリアン』が付いていると、効能が上がるんだとか。

 

 ……おっと、扉を塞ぐロッカーのことを忘れていました。

 どかさないといけませんが、多少大きな音を立てても大丈夫です。

 彼女らは先ほど寝たばかりなので、物理的に起こさないと目を覚ましません。なので、ちょっとずらしてギリギリの隙間を空けましょう。

 ここで、ギリギリにして置かないと、何処からともなく湧いた『かれら』に寝込みを襲われます。なんでや。(3敗)

 

 三階は……全然いないですね。早朝のため、まだ少ないようです。

 ただ、教職員たちは朝早くから来ていることが多いため、慎重に行きます。

 今回、チョーカー姉貴こと柚村貴依の確保に向かいます。職員室は時間があれば、場合によっては害となるマニュアルをどうにかしますが、無理そうならば諦めましょう。

 だってホモくん、今回は普通の人なんだもん。

 

 その場合は申し訳ないですが、めぐねえに発狂して貰います。まっ、初期好感度高いからどうにかなるっしょ。(ゲス顔)

 

 話を戻しますが、アニメ版にて強烈な印象を残した彼女。なんとゲーム版であれば救うことが可能です。その可能性をちゃんと運営側が残してくれているんですよね。

 

 長くとも三日目の朝、最低でも二日目の夜まで生存が確認できるようにちょっとした痕跡を残しています。まあ、初見では無いので気にする必要はありません。

 基本的にはトイレの個室などに息を潜めているらしいですが、固定では無いようです。

 個室、ともかく鍵が掛かる部屋で籠城していることが多く、時には外にある運動部の部室にいるとか、いないとか。

 

 そして、チョーカー姉貴が三階にいないことは前回確認済みですので、そのまま二階に降りま──せん。

 右側の階段から二階へと降ります。時間は有限ですが、『かれら』が少ないこの時間帯で、尚且つこちらは一人。

 

 ええ、はい。絶好の稼ぎポイントです。加えて、ホモくんは三階のロッカー位置を確認していますので、すんなりと武器を確保出来ます。

 

 ごまだれー……チッ、しけてやがんな。

 いつもの(モップ)をゲットしたら、階段へと向かいましょう。

 その途中で教室を調べることを忘れずに。大体、居残り組がいますので背後を取れそうであれば、アバーッ! っと断末魔を上げることなくサクッとやります。

 

 怖いなぁー、怖いなぁー、チラっ……いない! 次ィ!

 

 チラっ……いるぅ! いるいる!

 

 ……チラっ、ほらぁ! ほらほら! やっぱりいるんだよ!

 

 ……ふぅ、計六体ほど居ましたがどうにかなりましたね。お陰様でレベルアップ......では無く、スキルポイントを獲得しました。

 一定量の『かれら』を倒すと、レベルアップはしませんがスキルポイントを貰えます。それを、ステータスに振るも良し、技能(スキル)に振るも良し、プレイヤー次第です。

 

 ただ、スキルポイントを使って新たな技能は獲得出来ませんので、初期ステータスと幼馴染みシステム、後は原作組との好感度が大変大事になっておりまする。

 まあ、詳しい話は後ほど安全な場所でスキル振り分けするのでその際に。

 

 やはり、初日で『かれら』を一人でもヤっていれば、精神的ダメージも少なくて済みますので、まだSAN値には余裕がありますね。

 狂気度を抑えるために『不殺』プレイもできるそうですが、正直オススメしません。めぐねえは確実に死んでしまいますし、それに追従してくるみも噛まれ、最悪りーさんか主人公で介錯するはめになります。(3敗)

 原作でもギリギリですからね。他はそこまで不殺プレイをしてないので分かりません。

 

 よーし、右側の掃討はある程度終わりましたので、安心して階段を降りましょう。

 ……うーん、やはり二階は三階に比べて多いですね。それでも、この時間帯ならまだ少ない方です。

 フム、なら先に降りてすぐ近くにあるトイレを調べましょう。

 

 大体は声を掛ければそれらしい反応が返ってきますが、敢えて私はノックします。

 もうRTAじゃないのでタイムを気にせず、じっくりと恐怖を与えていきましょう。(満面の笑み)

 

 入り口から順に、コンコン……コンコン……ドンドンッ!! ……あり?

 

 音で短い悲鳴の一つや二つ上げるんですが……鍵は閉まってませんね。

 男子トイレに入っているかと思いきや、こっちにも居ませんでした。たくっ、悲鳴の一つや二つ聞かせろってんだ。(豹変)

 

 

 となると反対側のトイレか、中央のトイレ。後は各準備室でしょうか。

 ……うわ、めんど──んんっ、ちょっと武器が心許ないですね。ですので、このまま一階へと降りましょう。

 

 『摺足』の技能(スキル)があるため『かれら』に気がつかれることなく、ささっと移動できます。勿論、それなりのプレイヤースキルが必須ですが、私ですしぃ?(ドヤ顔)

 

 一階まで降りれば、すぐ目の前に渡り廊下があるので、そのままそちらへと行き、ぐるっと回って部室へと向かいましょう。ここで、向かうのは野球部の部室一択です。

 はい、おわかりの通り確定で金属バットが手に入ります。

 

 かさばらず、耐久力もあり、攻撃力も申し分ないとか……誇らしくないの?

 まあ、『剣術』の真価を発揮するわけではありませんが、モップと比べたら全然違いますからね。ですが、くるみのスコップには勝てません。(絶対)

 

 この辺にぃ~、いい金属バットぉ、あるらしいんすよ。

 

 おっ、ありましたね。(唐突)

 ちゃんとグリップテープも巻かれています。勝ったな、風呂に入り──ません。いや、ちゃんと入りますが、その前にチョーカー姉貴を救いにいきます。

 

 ただ、ここで思い上がってはいけません。周辺をちゃんと見てから出ましょう。(2敗)

 

 『かれら』は……いませんね。では、いざゆか──

 

「──わんっ!」

 

 誰だ、お前は!? 

 

 ……え? うそ、お前、太郎丸か……?

 お前、こんなところにも湧く──

 

「──わん! ウゥ、わんわんっ!」

 

 バカッ! おまっ! バカヤロウッ!!?

 アアアアッ!! もう、寄って来ちゃったじゃん!? どうすんのコレ! どうすんのっ!?

 

 ええい、仕方ありません! 予定変更です!

 

 太郎丸確保ォ! それと同時にGO! 逃げるんだよォ! スモーキーッ!

 来た道を回れ右しながら全速前進DA☆! コーナーを攻めて、華麗にターン! からの、階段を駆け上がりーYO!

 

 後は、このまま階段を上っていけば……ちょ、太郎丸!? 暴れんなよ……暴れんな! と同時にGOォォォォォALッ!! 決まったアァァァァァ!!

 

「っ、もとくん!」

 

 やったよ、めぐねえ! 私はやってやりまし──痛いっ! なんでっ!? 誰にもぶたれたこと無いのにっ!?

 

 えぇー? …………えっと、はい。なんか、今にも泣きそうな表情で怒っているめぐねえをバックに、今回はここまでです。

 

 ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 § § §

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜の帳が下りて、周囲を闇と無音が包み込む。

 もう慣れてしまった血の匂いが、肌寒い風とともに自分たちを撫でた。

 慈はそれが気持ち悪くて、彼女たちもそう思っているのでは無いかと懐中電灯に照らされた教え子たちの方を見る。

 

 左腕に抱き着いた由紀(ゆき)が、服にしわがつくほど強く握りしめたまま、何かに怯えていた。

 そのさらに向こう側には膝を抱え、顔を埋めている胡桃(くるみ)とそれを慰めるようにして寄り添う悠里(ゆうり)の姿。

 

 全員、想像も出来ない状況に混乱し、怯え、肉体的にも精神的にも疲れ切っていた。

 

 ぎゅっ、と抱きつく由紀を抱きしめ返すように自身の身体を寄せる。

 

「めぐねえ……?」

 

 涙で濡らした目元が赤く腫れぼったくなっている。

 ふと、視線を感じて顔を上げれば胡桃と悠里が不安げな表情でこちらを見ていた。

 

「だ、大丈夫。……大丈夫よ、みんな。きっと助かるから」

 

 根拠も無いその言葉を無理やり作った笑顔で覆い尽くす。

 しかし、彼女らの表情は晴れない。寧ろ、何処か心配そうにこちらを見ていた。

 どうして、という疑問が浮かび上がる前に肩を叩かれる。

 

 振り返れば、こちらを疲れ切った表情で見る幹久(もとひさ)がいた。

 

「めぐねえ……そんな泣きそうな顔で言われても……みんな、不安になるだけだと……思うよ?」

 

「えっ……?」

 

 言われて顔を触る。

 触って自分の表情が分かるような特技は持ち合わせてはいないが、それでも顔の筋肉が強張っているのが分かった。

 どうやら、自分は笑っているつもりで、全員の不安を煽る表情を浮かべていたようだ。

 

「……ははっ、本城。お前も似たようなもんだよ」

 

「マジ? それは……やばい、な」

 

 疲れ切った笑い声を上げる胡桃に、幹久も釣られて乾いた笑みを浮かべる。

 

「それを言うなら、みんな同じよ……ねっ?」

 

「うん……うん! 悠里さんの言うとおりだよ。だから、ね? めぐねえも無理しなくていいんだよ?」

 

「っ、別に、無理は……」

 

 由紀と悠里の言葉が心に突き刺さる。

 

 今、この場にいる大人は自分だけ。周りは全員守るべき存在。

 その守るべき存在に弱みをみせてどうなる。不安にさせるだけだ。

 頼れるのは自分だけ。頼られる存在も自分だけなのだ。

 

 だから、弱みをみせるべきでは──

 

 ──ごとっ、と小さく音がした。

 

 思わず反射的に音の鳴った方を見る。心の内にあるのは『かれら』かもしれないという恐怖。

 

 だが、それは悠里の言葉で別の恐怖へと変わった。

 

「本城、くん?」

 

 音が鳴ったのは自分の左側。つまり、幹久が何かしらしないと音が鳴らないはず。

 

「おい、本城……?」

 

 胡桃の声。だが、反応が無い。

 まさか……という嫌な予感が脳裏を過ぎったとき。慈は直ぐさま幹久の前へ移動し、倒れた(・・・)幹久の頭を胸元に抱きしめた。

 

「違う……違うっ! もとくんは……大丈夫っ、だからっ……!」

 

 『かれら』とは違う。自分の従弟(おとうと)はあんな化物なんかにならない。

 でも、もし……もし、彼が『かれら』になったら……もし、そのようなことがあれば、私が──

 

「──佐倉先生、大丈夫です。落ち着いてください……ほら」

 

「っ……あ、ぇ?」

 

 悠里に促され、腕に込めた力を抜いていく。

 そうすれば、何処か苦しそうに寝息とも取れる呼吸をした幹久の姿。

 彼は死んだように眠りに落ちていた。

 

「本城くんに怪我が無いことは、みんなで確認したじゃないですか。だから、大丈夫ですよ」

 

 きっと、という言葉を悠里は喉元で飲み込んだ。

 何もかも分からない状況で、戦っていたという幹久が本当に大丈夫なのか確信は無い。

 

 だが、今はそうでも言わないと慈が落ち着かないと感じ取った悠里は、不安を押し殺してそう告げた。

 

「そうだよ、めぐねえ。本城くんなら大丈夫。だって強いもん」

 

 それに便乗して……というよりは自分の知っていることを率直に言って、由紀は笑う。

 

「……ああ、そうだよな。優秀で、人気者で、剣道も……えーっと、どう、なんだ?」

 

「恵飛須沢さん……」

 

「うっ、だ、だって! 知らないもんは知らないし……」

 

 悠里の信じられないような視線に、いたたまれなくなった胡桃は語尾を弱めてそっぽを向く。

 

 ああ、自分は本当に……。

 

「めぐねえ?」

 

 心配そうな声と表情をする由紀に、慈は涙を流しながら、やっと自然に笑った。

 

「ふふっ……これじゃあ、先生失格です、ね」

 

 一人でパニックになって、生徒に慰められて……本当に自分は教師失格だ。

 でも、それでも……今は彼女たちに甘えよう。

 

「良かった……本当に、良かったぁ……」

 

 今度は幹久の頭を優しく胸に抱きしめ、慈は安堵するように涙を零した。

 

「お、おお……なんか、めぐねえ……私たちの知ってるめぐねえじゃない気がする」

 

「そうねぇ……随分と本城くんに入れ込んでいる気がするわ」

 

「えっ、めぐねえと本城くんって……」

 

「ち、違います!!」

 

 あらぬ方向に流れそうになった会話を焦るように否定する。

 涙を拭き、膝元に幹久の頭部を乗せて、改まって座り直した慈は少しだけ声を弾ませながら語った。

 

「本城くんは……いいえ、もとくんは私の従弟なんです。ですから、弟のような存在で......」

 

「え!? そうなの!?」

 

「へぇ、やっぱそうなんだ」

 

「言われてみれば、似てる……かも?」

 

 驚愕する由紀とは違って、事前にそういった噂を知っていた胡桃と悠里は確信を得たように納得する。

 

「知ってたの二人とも!?」

 

「いや、確か噂で本城(こいつ)が最初に『めぐねえ』って言ったとか、言ってないとか」

 

「そうね。私もその噂は聞いたことあったけど……ある意味、本当だったわね」

 

 それに、慈は苦笑いを浮かべる。

 

「学校では言わないようにっ、て言ったんだけどね? 気がつけば、皆から『めぐねえ』って言われてしまってて……お陰様で教頭先生から距離感が近い、って怒られましたよ」

 

「そうだったんだ……でも、めぐねえはめぐねえだよねっ!」

 

「もうっ……佐倉先生でしょう?」

 

 くすり、と笑みが零れる。何時もの日常を想起させる一連のやりとりは、少なくとも恐怖を和らげることが出来た。

 

「あーあ、気持ちよさそうな寝顔しやがって……こいつは」

 

 軽く笑った全員は胡桃が言ったその言葉を皮切りに、幹久の寝顔を覗き込む。

 

「あら、意外と寝顔は子供っぽいのね」

 

「むぅ、めぐねえ、私も!」

 

「え? で、でも」

 

 幹久と由紀を交互に見る。さすがに二人一緒に膝枕が出来るわけもない。

 だが、幹久をこのまま床に下ろすのは阻まれる。しかし、それでは由紀が……と、オロオロし始める慈に胡桃が助け船を出した。

 

「なら、私が代わりにしてやるよ!」

 

「えぇー? 恵飛須沢さんのは……なんか、堅そう」

 

「お前なぁー!?」

 

 朗らかな笑い声が屋上に響く。これから起きる過酷なことを考えれば笑っている場合じゃないだろう。

 それでも、彼女たちは何時までも続いたはずの……当たり前の日常を思い出すように笑った。

 

 そして、その笑い声が収まっていくのと同時に、現実も徐々に理解し始める。

 こんな、たわいもないやり取りで腹を抱えて笑えるほど、彼女たちは追い詰められていたのだ。

 

「これから……どうなっちゃうんだろうな」

 

 地面を見ながら独り言のようにぽつりと呟いた胡桃の言葉が、嫌と言うほど重くのし掛かるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──んっ! わんっ!

 

「う、ううん……?」

 

 鬱陶しいと思えるほどの光量が、瞼の裏に隠した瞳を刺激する。

 

 それと同時に聞こえてくる煩わしい犬の鳴き声。

 

 今、何時だろうか? という素朴な疑問は、視界に映る見慣れない朝の光景で瞬時に吹き飛んだ。

 

 そうだ、自分たちは昨日何とか屋上まで逃げ延びて、そして──

 

「──っ!? もと、くん?」

 

 寝ぼけた頭が瞬時に覚醒する。自身の膝元にあるはずの重みが無く、代わりにあるのは両肩に掛かる由紀と胡桃の両名の重みのみ。

 急速に冷えていく背筋に反比例するかのように全身から汗が吹き出た。

 

「皆! 起きて!」

 

「……ん、んん? どうした? めぐねえ」

 

 目を擦りながらも最初に起きた胡桃。

 とりあえず、起きた胡桃に由紀を預けて立ち上がり、周りを見渡した。

 

 ──いない。少なくとも屋上で見える範囲にはいない。

 

 どうして? なんで? という疑問が頭を埋め尽くしていくが、その埋まる前の空白に浮かんだ一つの声。

 

 それは、声というよりは鳴き声だ。

 

 そう、そうだ。犬。犬の鳴き声がしたんだ。

 

「めぐ、ねえ、え?」

 

 ぼちぼち目を覚まし始める由紀と悠里を確認しつつ、慈は柵に乗り出す勢いでグラウンドを見た。

 

「……あら? 本城くんは?」

 

「へ? ……まさかっ!?」

 

 悠里が気づき、胡桃が理解する。

 二人、いや、全員が慈と同じようにグラウンドに目を向ける。

 それは、慈が見ていたから、という心理的なものがあったが、それが逆に功を奏した。

 

「おいっ! あそこ!」

 

 胡桃が指を指しながら叫ぶ。

 ギリギリ、それも校舎の陰に隠れる後ろ姿しか見えなかった。

 だが、あの素早く動く姿は緩徐となったこの世界では嫌というほど目立った。

 

「っ、あの、バカッ!」

 

 胡桃は焦るように手すりから離れ、躊躇いを見せながらも、血の付いたシャベルを手に取る。

 

「恵飛須沢さん! 私も行きます!」

 

「めぐねえ……でも」

 

 分かる。分かっている。言い淀む気持ちや由紀や悠里の心配する表情の理由はよく分かる。

 

 なぜなら、自分でも分かるほど震えているからだ。

 

「めぐねえ……」

 

「……大丈夫。大丈夫だから、ゆきちゃん。若狭さんと一緒に待ってて?」

 

 これが蛮勇というものであったとしても……自分は行かなければいけない。

 例え、この行動が近い未来、後ろ指を指されることになろうとも、この行動は自分が一番に動き出さなければいけないことだ。

 

 全員に視線を合わせ、お互いに頷き合う。

 

「あっ、先生ちょっと待ってください」

 

 悠里が何かを思い出したように倉庫の方へと向かっていった。

 それから、少ししないうちに両手で何かを抱えて戻ってくる。

 

「先生、あの……一応は、持っておいた方が良いかと……」

 

「……はい。ありがとうね、若狭さん」

 

 それは、持ち手が長く伸びた枝切り鋏だった。

 あのグラウンドに見えた『かれら』がもう人では無いことは分かっている。

 だからこそ、身を守る武器。

 

 ……出来れば使いたくは無い。人を攻撃、ましてや生徒であった存在に殺意を向けることなどしたくない。

 

 だが、いずれはその選択を迫られる時が絶対に来る。遅かれ早かれ、必ず。

 

「行こう、めぐねえ」

 

「はい」

 

 胡桃の言葉にしっかりと頷いて慈は屋上に唯一繋がる扉へと向かう。

 

 だが、近づいた辺りで扉の向こうが騒がしくなった。

 

「っ!」

 

 『かれら』か。もしくは、ここに居ない幹久か。

 

 はたまた、新たな生存者か────

 

「──わんっ!」

 

「……えっ」

 

 その間抜けな声は自分か。それとも、他の誰かだろうか。

 ただ、全員がその予想もしていない可愛らしい生存者に緊張が解ける。

 

「あっ、ちょ、お前は小さいからいいけど……いたっ! 脛打った!」

 

 その後、金属バットを持って扉の隙間を通り抜けるのに苦労する幹久の姿を見て、思わず倒れそうになった。

 こちらが唖然としているなか、彼は何食わぬ顔で片手を上げながら言う。

 

「あ、めぐねえ。おはよう」

 

 変わらない。何時もと変わらない笑顔をじわじわと浮かべ始めながら言うのだ。こちらの気も知らないで。

 

「っ、もとくん!」

 

 どうしようもない怒りが込み上げてくる。

 

 そして、気がつけばその笑顔を浮かべる幹久に近づいて、手を振りかぶっていた。

 

 

 




小説パートはめぐねぇを主軸に描いていますが、各キャラの心情も自身が持ちうる語彙力で出来る限り、丁寧丁寧丁寧に描いて行きたいと思っています。
ちょっと描写がくどいかな?


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Part3 大人の意地

アンケートありがとうございました。頑張って完走して、再走して、失踪します。

ちょっと今回は短めです。



 

 

 涙目で激おこなめぐねえを宥めるところ始まるRTA……ではなく、実況プレイ。はーじーまるーよー。

 

 

 一部の兄貴たちに刺さりそうな、というか刺さった挙げ句、数多くの鬼畜兄貴たちによって泣かされ続けためぐねえを画面一杯に広げてスタートです。

 

 先に伝えておきますが、本番で活かすために出来る限り短縮出来るところは短縮していきます。前回までのことは忘れること、いいね?

 

 さて、この状態はどうやら好感度イベント……か、単純にイベントのようです。その証拠にレバガチャしてもホモくんが動いてくれません。

 このままでは、鬼畜兄貴歓喜の映像を垂れ流しにするはめになります。

 

 そんな皆さまのためにぃ~……え? 別にこのままでいい?

 

 ……そうですか。でしたら、ちょうどいいですね。

 この硬直状態を使ってステータス画面を開きましょう。このゲームは戦闘やイベント時でもステータス画面を開くことができます。 

 ただ、ゲーム自体は現在進行形で動いておりますので気をつけましょう。(1敗)

 

 えーっと……はい。右画面が泣いているめぐねえで、左画面がホモくんの簡易ステータスと各キャラたちの関係性が表示されています。

 

 今、ホモくんが所有している技能(スキル)は『剣術』、『摺足』……しかありませんね。本来ならばこの欄に幼馴染みボーナスとして各キャラの技能が手に入ったんですが……まあ、仕方ありません。無いものは無いので。

 ここで、『摺足』にスキルポイントを振っておきましょう。雨の日には役立ちませんが、それ以外は腐ることも無いので安定感が増します。

 

 そして、各キャラの関係性の欄にはデフォルメされた彼女たちの顔が映し出されており、その横にどういった間柄か簡潔に書かれています。

 残念ながら好感度を数値として見ることは出来ませんが、優しいことに、そのデフォルメされた表情で判断できるので有難いですね。

 

 表情は喜色(きしょく)愁色(しゅうしょく)憂色(ゆうしょく)生色(せいしょく)……怪人百面相も真っ青なほど多岐に渡って表現されており、正直に言えば判別が着いておりません。有難くも無ければ、優しくもありませんでした。(絶望)

 

 中には怨色(えんしょく)と呼ばれる恨み顔もあるのですが、普通に怒っているようにしか見えず、りーさんに寝首を掻かれたプレイヤーも少なくないでしょう。(6敗)

 

 そして、現在の関係性は……問題なさそうですね。

 

 糸目のりーさんは『知人』。

 

 まさかり──ではなく、かっこいい笑みを浮かべてシャベルを担いだくるみは『友人』。

 

 へちょ顔を晒しているゆきちゃんは『知人』。

 

 そして、右では泣き顔、左では満面の笑みを浮かべるめぐねえは『従姉』となってます。

 

 何となく表情から好感度を察することが出来ると思います。

 この関係性は他にも『恋人』や『親友』。そして『他人』というものがあり、各イベントを終えると関係性が更新されていきます。

 

 幼馴染みシステムを採用していると初期好感度が高く、最初から『幼馴染み』と表記され、笑顔満点である場合も多いですが……『従姉』ってなんぞや。

 ……まま、ええやろ。幼馴染みと従姉は一緒みたいなものです。きっと。(切望)

 

 ただ、注意しなければいけないのが、関係性がこうだから大丈夫だろう、と思ってはいけないことです。特に『親友』と表示されている時ほど注意が必要です。

 二人以上『親友』または『恋人』という関係性があると、そのデフォルメされたキャラたちの背景に暗雲が立ち込める時があります。

 

 俗に言う修羅場イベントですね。ここに表示されているのはあくまでも主人公との関係性なので、各キャラの仲が良いとは限りません。

 

 滅多に起きることはありませんが、りーさんとゆきちゃんが仲悪いとか、くるみとめぐねえが仲悪いとか……イレギュラーな存在でもある主人公次第では、偶に関係性が崩れるので注意しましょう。

 

 まあ、主人公が異性だと起こりやすいだけなんで大丈夫です。ホモくんはホモですし、ヒーローにさせますのでガバりません。(慢心)

 

 何故、そこまで好感度関係に自信があるのかと言うと、ある一定の条件を満たすことで『親友』や『恋人』とは別枠として『恩人』という関係性が解放出来るのです。

 

『恩人』は……また長くなるので今回は省きます。

 

 ともかく、ピンチを助けたり、彼女たちの精神的支柱になったりすれば、関係性が『恩人』となる確率が高いので、どんどん恩を売りつけてやりましょう。

 

 おっ、動けるようになりました。どうやら説教が終わったようですね。

 では、改めてチョーカー姉貴を救いにいきま──せん。というか、今はもういけません。

 

 無理を押して単独行動をすれば、それこそ監禁ルートが解放されますし、場合によっては要介護者であるめぐねえが助けに来て、めぐねえが噛まれてしまいます。なんでや。

 

 そして、もう時間帯が登校時間を過ぎ始めてるんですよね。説教が長過ぎんよ~。

 今の時間帯は『かれら』も徐々に集まってきており、大変危険です。なので、今からすることは一番好感度が低いキャラと交流を深めつつ、三階の解放フラグを立てましょう。

 

 それとなく、何時までも屋上は……的な発言をしつつ、三階の状況を伝えておけば、三階へ赴くことが出来るようになります。

 夜までにはチョーカー姉貴を救いにいきましょう。今日の夜が最後のボーダーラインです。

 

 さあ、それまでは太郎丸を見習って現状一番好感度が低いキャラ……ゆきちゃんとりーさんですが、ここはりーさんに尻尾を振ります。媚びると言っても過言ではありません。

 

 りーさん自身のガードが堅く、警戒心も高いので、最初は些細なことからの積み重ねで信用を得るようにしましょう。

 彼女、ぽやっとしているかと思いきや、後ろで組んだ手に護身用の武器が……なんてこともありますからね。

 ただ、落としてしまえばただの若妻になりますので、気になる人はプレイしてみましょう。

 

 え? ゆきちゃん? 大丈夫です、気がつけば上がってます。

 

 では、りーさんに話しかけましょう。へい、そこのお姉さん! 私とお話し──

 

「──ねぇ、本城くん! この子の名前は太郎丸でいいよね!」

 

 あのさぁ……ここは適当にイエスで。当たり前だよなぁ? 

 名前は変えられたりしますが、やっぱりここは王道を征く太郎丸でいきましょう。

 

 ただ、お前のせいでチョーカー姉貴を助けられなかったんだからな。

 

「ウゥ……わんっ、わんっ!」

 

「あっ、太郎丸!」

 

 なんで避けられる必要があるんですかね。(半ギレ)

 

「あははっ! 助けた本人なのに嫌われてるのかよ!」

 

 ウッソだろ、お前。お前がいないと睡眠時の回復効果に天と地の差があるだが? 責任とれんの? おお?

 まあ、後でムツゴロウさんかチョコラータさんを見習いながら撫でて上げましょう。それだけで、きっと尻尾を振ってくれます。

 

「本城くん、どうぞ。あ、丈槍(たけや)さんと恵比須沢(えびすざわ)さんも」

 

「あっ、きゅうりだ! ありがとう、りーさん!」

 

「り、りーさん?」

 

 あぁ^~、いいっすね。その笑顔を曇らせたい。(人間の屑)

 

 太郎丸が来たことによって、精神的に余裕が生まれ始めていますね。ゆきちゃんによる交友イベントです。

 余裕が出ると、ゆきちゃんが率先して全員の和を繋げていってくれます。常時移動型ヒーラーで好感度も上げてくれるとか……誇らしくないの?

 

「本城くんはもとくんって呼ぶね! めぐねえが言ってたし!」

 

 おっ、そうだな(適当)。愛称が付くなら何でもいいです。上手いこと調整すれば、彼女たちにホモと呼ばせることも可能だとか。変態だな。

 

 さて、みんなで和気藹々と野菜を貪っているなか、ホモくんに世間話をするかのように三階の状況を言わせましょう。ホモはせっかちだから、仕方ないね。

 

「……だな。このままずっと屋上に、ってわけには……いかないもんな」

 

 ここで、くるみが覚醒していると漢らしく賛同してくれます。そうすれば、後は多少なりともゴリ押しで行けます。めぐねえも渋々従ってくれるので問題ありません。

 ただ、三階を解放する場合めぐねえは確定で着いてきますので、くるみかホモくんで護衛する必要性があります。

 

 事前に教室方面は片付けていますので、新規が来ない限り職員室方面に集中できるでしょう。

 そうなると、比較的に楽なので余程のイレギュラーが無い限り大丈夫です。

 

 よーし、腹ごしらえも済んだところで三階の解放へと乗り出しましょう。

 昼時であれば学食の方に『かれら』が集まっておりますので、戦闘音も届きにくいでしょう。

 その際、バリケードも作ると思うので、机の回収と称して二階の調べてない方を探索します。

 

 つまりはチョーカー姉貴の救出ですね。

 

 っと、いったところで今回はここまでです。

 

 ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 § § §

 

 

 

 

 

 

 

 

 屋上に響く乾いた音と痺れる手のひら。

 だが、それ以上に(めぐみ)は泣きたくなる自分を堪えて、唖然としている幹久(もとひさ)を睨み付けた。

 

「もとくん。なんで私が怒っているか……分かってる?」

 

「えっ……あー、っと、まあ……はい」

 

 察しの良い子だ。自分がどうして怒られているのか瞬時に理解したのだろう。

 ただ、周囲の様子を……由紀(ゆき)胡桃(くるみ)悠里(ゆうり)など他人の視線を気にしているのはいただけない。

 

「もとくん!」

 

 両頬を両手で挟み、しっかりと面をこちらに向かわせる。

 きょとんとした表情でこちらを見下ろす彼と、それを怒った表情で見上げる自分。

 

 昔に比べて随分と背が伸びたせいか、今やこうして見下ろされることも多い。

 声も低くなり、体格も随分と逞しくなった。

 幼い頃とは逆の構図になったが、それでも自分にとっては今でも可愛らしい弟分であることは変わりない。

 

「えっと……ごめん、なさい。めぐねえ」

 

 ああ、本当に自分は彼に甘い。

 あんな危険なこと……命を失うかもしれないことを彼はしたというのに、その顔を見ると怒る気が失せる。

 

 言いたいことが一杯あった。心配と失う恐怖から生まれた怒りを言葉としてぶつけるつもりだった。

 だが、今は寧ろ、彼を叩いた罪悪感が自分に重くのし掛かっている。

 

 そして、それと同時に浮かんだのは多大な安心感。

 

 それが、怒りを包み、言葉を詰まらせる。どうやら、自分はとことん教師には向いていないらしい。

 今回は私情を多分に含んではいるものの、こうなる前から生徒を怒ることが出来なかった。

 

 それが、彼に変わっただけでここまで怒りを霧散させることになるとは……。

 

「わんっ!」

 

 何処か気まずい雰囲気のなか、人間の事情など知ったことでは無いと言うように足下から鳴き声がした。

 

「あー、まあ……目が覚めたらコイツが鳴いててさ。ちょっと気になったから助けに行ってた。怪我はしてないみたい」

 

 手を彼から外し、足下で尻尾を振る小さな柴犬に身を屈めながら手を伸ばす。

 柔らかく、つるりとした手触り。それに加えて心地の良い暖かさが手を通じて伝わってくる。

 

 生の実感。自分が生きているということを改めて感じさせてくれるようだった。

 

「ハッ、ハッ、わん!」

 

「あっ」

 

 自分の手のひらをすり抜けて、走り出す柴犬。

 そして、こちらの様子を不安げに見守っていた由紀たちの方へと向かい、その胸元へと飛び込んだ。

 

「わわっ!?」

 

「あら、随分と人懐っこいのね」

 

 由紀は胸元に飛び込んできた柴犬に驚きの声を上げ、警戒も躊躇いも無い柴犬の様子に悠里は首を傾げる。

 

「多分、どっかの誰かが世話をしてたんだろうな」

 

 悠里の疑問に当たり障りの無い答えを出した胡桃は、由紀の胸元で暴れる柴犬を突きながら笑みを浮かべた。

 

「ちょ、くすぐったいよぉ~! ははっ!」

 

 由紀の顔を舐める柴犬に、悠里と胡桃は微笑ましい笑みを浮かべながら、その柴犬を可愛がる。

 さっきと打って変わった雰囲気にもう怒る気も無くなった慈は、横で穏やかな笑みを浮かべる弟分の脇腹をつねった。

 

「い゛っ!?」

 

「今回はこれで許してあげます。ただ、もう二度とこんなことしないようにっ! いい?」

 

「わ、分かりましたよ……佐倉先生」

 

「……もうっ」

 

 こういうときに限って。と思いながら慈は幹久の服を見て顔を曇らせた。

 白いワイシャツに赤黒いシミがいくつもある。

 

 血だ。昨日から付いていたものも多いが、明らかに真新しいシミがあるのが分かった。

 きっと、『かれら』と戦ったんだ。そして、もう動かないように……。

 

 そんな時だった。くぅー、と聞き馴染みのある音が聞こえる。いや、聞こえたのではなく鳴った(・・・)のだ。

 

「えっと……野菜はありますから、ご飯にしましょうか」

 

「っっ! ……はい、そうしましょう」

 

 悠里の気遣いが羞恥に追い打ちをかける。

 顔を真っ赤に染めて俯く自分に対して、その横では笑い声を押し殺すのに必死になって震える幹久がいる。

 キッ、と睨み付けながら慈は野菜を収穫する悠里の手伝いを申し出た。

 

 それに、続いて幹久も手伝いを申し出ようとしたとき、その進行を阻むようにして目の前に現れる柴犬。

 

「ねぇ、本城くん! この子の名前は太郎丸でいいよね!」

 

 由紀が柴犬を前面に突き出しながら笑顔でそう言った。

 

「うん? ああ、いいんじゃない?」

 

「やったぁ! ほらほら、恵比須沢さん!」

 

「良いのかよ……」

 

 何処か適当な返事をした幹久に由紀は喜び、それに反対していたくるみは苦い表情を浮かべる。

 

「良かったねー、太郎丸!」

 

 向きを変え、太郎丸に満面の笑みを浮かべながら名前を言う由紀。それに感化されたのか、幹久が太郎丸に手を伸ばした、が。

 

「よし、ほら太郎──」

 

「ウゥ……わんっ、わんっ!」

 

「あっ、太郎丸!」

 

 幹久が太郎丸を撫でようと手を伸ばした、その瞬間。

 

 太郎丸は唸り声を上げ、警戒を示すように吠えると、由紀の胸元から飛び出て地面へ降りる。

 由紀は慌てるが、太郎丸は大人しく座っていたので、そのまま跪いて「よしよし」と撫で続けた。

 

「──丸……た、太郎丸ー? おーい、太郎丸ー?」

 

「あははっ! 助けた本人なのに嫌われてるのかよ!」

 

 幹久は余程ショックだったのか、表情を固めたまま名前を連呼する。だが、その名前を呼ばれている太郎丸は由紀に大人しく撫でられたままで、幹久の方を見向きもしなかった。

 その一連の場面を見ていた胡桃は腹を抱えて笑う。

 

「みんなー、こっちに来てー」

 

 そんな楽しい時間を遮るように聞こえてきた悠里の声。

 特に行かない理由もなく、そのまま太郎丸も連れて悠里たちの方へ行けば、悠里と慈が野菜が入れられた竹箕(たけみ)を持っていた。

 

「本城くん、どうぞ。あ、丈槍さんと恵比須沢さんも」

 

 差し出される長く緑色の野菜。誰しもが見たことはある野菜を受け取りながら由紀は笑顔を浮かべる。

 

「あっ、きゅうりだ! ありがとう、りーさん!」

 

「り、りーさん?」

 

 呼ばれたことも無い愛称に悠里は困惑して、オウム返しをしてしまう。

 それに、由紀は笑みを深めて大きく頷いた。

 

「うん! 悠里さんだからりーさん! ……ダメだった?」

 

「えっ、ああ……ダメじゃないわ。これからよろしくね、丈槍さ……ううん、ゆきちゃん」

 

「私もくるみでいいぜ」

 

「分かった! これからよろしくね、くるみちゃん! りーさん!」

 

 それに便乗して胡桃も親交を深めていく。

 

「本城くんはもとくんって呼ぶね! めぐねえが言ってたし!」

 

「おう、好きに呼んでくれ」

 

「お前……さっきから適当過ぎないか?」

 

 太郎丸といい、愛称といい、何処か生返事の幹久にくるみは思わず肘で脇腹を突いた。

 その生徒たちのやりとりを見ていた慈は日常で浮かべていたのと同じ微笑みを携え、口を開く。

 

「じゃあ、私は──」

 

「めぐねえは、めぐねえだよ?」

 

「だな」

 

「同じく」

 

「ふふっ、そうね」

 

「──……ええ、はい。分かってましたよ」

 

 少ししょんぼりした慈を見ながら、瑞々しい採れたての野菜を頬張る一同。

 

 だが、その笑顔も長くは続かない。各々が野菜の味の感想を述べながらそれを実感し、ハッキリと理解した。

 

 このまま野菜だけではやっていけない、と。

 

 そして、それを代弁するように幹久が自身に配分された野菜を食べ終えて言葉にする。

 

「さっき三階を見てきたけど、チラホラ奴らがいる程度だった。今はどうか分からないが……少し様子を見に行かないか?」

 

「……だな。このままずっと屋上に、ってわけには……いかないもんな」

 

 ぽきり、といい音をたてながら噛み折ったきゅうりを飲み込みつつ、胡桃はその案に肯定の意を示す。

 

「でも、それは……」

 

 それに難色を示すのは慈だ。

 

 ハッキリと言って危険であることには変わりなく、加えてそれを率先してやろうとしているのが、まだ子供の範疇にいる教え子たち。

 教師として、唯一の大人として、その意見には大手を振って肯定の意を示すのは憚れた。

 

「遅かれ早かれだよ、めぐねえ。やるなら、まだ動ける体力が残ってる今がいい」

 

 多分、正論だろう。きっとこの状況下であれば、その判断が一番正しいと思える根拠がある。

 

「大丈夫だって、めぐねえ! 私と幹久で何とかするからさ」

 

 勝ち気な笑みを浮かべながら胡桃は慈の肩に手を置いた。

 確かに二人ならば大丈夫だと思う。胡桃はともかく、幹久ならば大丈夫だろうと思える実績が少なくともある。

 絶対というものは無いが、それでも幹久なら問題なく、その次に動ける胡桃も彼の足を引っ張ることは無いだろう。

 

 大丈夫、きっと。

 

 そう自分に言い聞かせ、二人に任せようとしたとき。肩に置かれた胡桃の手が震えているのを感じ取り、慈は覚悟を決める。

 

「──分かりました。ただ、私も行きます。二人だけに任せるわけにはいきません」

 

「なっ! めぐねえ!?」

 

 驚きの声を上げる胡桃の手を取りながら、慈は思う。

 

 そうだ。一体、何を考えていたのだろうか、自分は。

 

 二人に任せる? 子供であり、守るべき二人に任せると?

 

 違う、違うだろう。それこそ、自分が先頭に立つべきだ。

 先頭に立ち、率先して自分が動くべきなのだ。例え、恥を晒すことがあっても大人の自分が動かなくてどうする。

 

「そう、だな。めぐねえがいれば大丈夫。何たって俺たちの先生だし」

 

「ちょ、幹久!?」

 

 付き合いの長い彼の事だ。自分のことをよく分かっている。

 何を言っても引き下がるつもりはない。自分が頑固なことぐらい一番よく分かっているし、その次に彼は自分のことを知っている。

 

「大丈夫、大丈夫。何とかなるって!」

 

「はぁ、その根拠はどこから来んだよ……」

 

 笑う幹久に嘆息する胡桃。

 それとは別に心底心配であることを隠そうともしない由紀と、不安げな表情を浮かべる悠里に慈は力強く笑って見せた。

 

「大丈夫、大丈夫だから、二人とも。私が何とかしてみせるから」

 

 これは、最早意地のようなものだ。

 ここにいる全員、何が何でも守って見せる。

 

 そう心に決めた慈は、少なくとも今は震えていなかった。

 

 

 

 




あんまり設定などを長ったらしく説明するのもアレかなー、と思ったので省いています。そもそも、深く考えれていませんので、矛盾だらけになるんですよね......。
なので、ほぼ流し見てもらって大丈夫です。


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Part4 過去との決別

本当は二日目を終わらせるつもりでしたが、今回の倍以上の文字数になったので、ぶった切りました。実況パート対して小説パートが約全体の七割弱を占めてるっていう......。

それと、誤字報告ありがとうございました。お陰様で早めに投稿できました。(投稿ペースが速くなるとは言ってない)
後、返信できてませんが感想も読ませて頂いてます。

今回、(小説パートが)長いです。



 

 

 チョーカー姉貴をビビらせることに主眼を置いた救出作戦、はーじまーるーよー。

 

 前回、いえ、前々回からチョーカー姉貴を救います詐欺をしてきましたが、今回は確実に救いに行きます。でなければ、死んでしまいますので。

 

 それに伴い、今回の救出メンバーはホモくん、シャベルという名のエンピを装備したゴリラ、気がつけば『かれら』化している要介護者の三名で行きたいと思います。(なお、実質行くのはホモくん一人という)

 

 さあ、行くぞ! みんな、丸太はも──ん、どったの? くるみちゃん?

 

 え、先輩を下ろすのを手伝ってくれだって? まだ、外に投げて無かったのか……。

 まあ、死体があるだけでSAN値が減りますし、衛生面に関しても悪いので、ここはイエス一択です。好感度も上がりそうですし。

 

 すまない、君はもう用済みなんだ。はい、せーのっ、ぽーい。……ふう、ホモくん良い仕事しました。(爽快感)

 涙ぐみながら、くるみが先輩(故)のことを語り始めますが、ロスなので軽く聞き流しましょう。まあ、元気だせって。

 

「うん……うん、ありがとな!」

 

 おう、感謝しろよな。(傲慢)

 さあ、イベントも終わったので早速校舎へと行きましょう。ここで、太郎丸をゆきちゃんに押しつけることを忘れないように。下手に着いてこられたら大変ですからね。

 

 リードという拘束具がない間は、ゆきちゃんがリード代わりになってくれます。

 そして、その綱を持つのは全てにおいて抑止力となるりーさんに任せましょう。磐石の備えとなります。

 

 これで、後顧の憂いは断ちました。安心して攻略に乗り出せます。

 

「気をつけてね、三人とも」

 

 新妻感溢れるりーさんに見送られつつ、三階の制圧を開始します。

 そろーりと校舎の中に入れば何ともおどろおどろしい雰囲気ですね。

 

 窓ガラスは割れ、廊下には屍が転がり、タールのように真っ黒となった血が──ああああああああああ!!?(絶叫ビーバー) 

 

 やべぇ……やべぇよ! 死体を片付けて無かった!

 くるみはまだともかく、ゆきちゃんに次いでクソ雑魚メンタルのめぐねえはまずいですねぇ! 

 

 発狂までしなくともSAN値がゴリゴリ減ってしまい、行動にデバフがかかってしまいます。

 そうなると危険度と難易度が跳ね上がり、下手をすれば救出どころの話ではありません。

 

 ここは、一旦めぐねえを──

 

「……だい、丈夫です。行きましょう」

 

 ──おっ? 顔面蒼白ではありますが、デバフが掛かるほどでは無いようですね。いつの間にか強化アップデートでもありましたか?

 

 まあ、嬉しい誤算ではありますが、始まってから私の知らない行動ばかりするめぐねえなので、気が抜けません。

 なので、『摺足』かつ慎重に進んでいきましょう。

 

 廊下は……ざっと二体ほどでしょうか。教室側の方は大丈夫そうですね。職員室側に集中しましょう。

 横から手が伸びてきたら堪ったものでは無いので、準備室や物理実験室などもちゃんと確認しつつ、廊下にいる『かれら』をぱぱっと片付けます。

 

 くるみちゃんは右ね。……え? 左がいいの? やっぱり、覚醒したくるみは積極性が違いますね。

 

 こちらに気がつき、手を伸ばしてきたところを横振りでそぉい! そのまま窓からボッシュートとなります。

 くるみちゃんの方は喉元を一突きで終わらせてますね。ホモくんよりか手際良いとか……やっぱりゴリラだな。(確信)

 

 さて、この調子で各部屋を確認して行きましょう。問題は不意打ちと職員室ですね。

 

 不意打ちはちゃんと警戒していれば大丈夫といえますが、危険であることに変わりないです。

 また、SAN値直葬マニュアルの心配はありませんが、気の利く神山先生がいると、めぐねえの気に効いてしまいます。

 

 そうなると、一定の間めぐねぇが行動不能となってしまいますので、他の教職員がいると危機的状況に陥る確率が高いです。

 

 ですが、こちらには戦闘要員が二人もいるので恐らく大丈夫でしょう。遅くなるとチョーカー姉貴が間に合わなくなるので、ここは大胆に行きます。

 

 ……いや、やっぱりここは安全策をとった方が正解か……? いそガバ回れという言葉もあるわけだし、ここは慎重に──

 

「──パパッと調べようぜ」

 

 あっ、ちょ……なに、今回のくるみちゃん。逞しい……逞しすぎない? いくら原作でもほぼ一人で戦っていたとはいえ、それはゴリラ過ぎるでしょう。

 

「っ、かみ、やま……先生」

 

 あちゃー、居ましたね。まだ神山先生一人だけだったので良かったですが、これは来てますね。来てます来てます。

 ここはくるみにめぐねえを任せて私が片付けましょう。デスクを陰にしながら背後を取れば終わりです。

 

 ……あれ? 動かない。ホモくんが動きません。バグ? バグった?

 

「……私が、やります」

 

 え? これイベント? イベントなの? 

 

 ………………。(攻略wikiガン見)

 

 あ、はい。イベントですね。めぐねえに精神的余裕があると、稀に起きるイベントです。

 勿論、知っていましたが、如何せん『かれら』の目の前にめぐねえがいると思うと焦っちゃいますね。落ち着け、私。素数を数えることから始めましょう。

 

 イチ! ……よし。コレにて三階は解放されました。

 

 新規が来る前に机でバリケードを作るように提案しましょう。後はそれらの材料を集めるという名目でチョーカー姉貴を救いに行きます。

 後、屋上に残った二人を呼びます。ホモくんたちだけでも出来ますが、作業効率が段違いですから呼ばない理由はありません。めぐねえ、呼んできてー。

 

 さて、めぐねえがりーさんたちを呼びに行っている間に、こちらは死体を片付けておきましょう。下手にSAN値を下げる必要性も無いですからね。

 あと、二階に行く前に教室からバックを拝借しましょう。出来ればリュックサックです。無ければスクールバックでも可。ともかく、両手が空く物にします。

 

 今回は運良く小綺麗なリュックサックが手に入りました。後、適当に筆記道具類を持っておきましょう。これで準備完了です。では、中央階段からいくぅー。

 

 つくぅー。っと、結構な量の『かれら』が徘徊してますね。バリケードやチョーカー姉貴を救った後のことを考え、少し量を減らしましょう。

 

 勿論、この狭い空間で多数を相手出来ないので、下に続く階段の方にボールペンやシャーペンなど、先ほど拾った物を投げて音を出しましょう。

 ただ、筆記道具などは陽動に適さず、何度もする必要があります。時間が削られますが背に腹は代えられません。

 

 いーち、にー、さーん、しー、ごー、チッ、全部くれてやるわっ!

 

 筆箱ごと投げたところで、全員反応してくれましたね。後は、勝手に転がり落ちてくれますので大丈夫です。

 経験値は貰えませんが、定期的に狩る予定ですので問題はありません。そのまま、中央のトイレを調べましょう。

 

 んー、二日目ともなれば、それなりにチョーカー姉貴の痕跡が目視できるぐらい転がっているはずですが、ここには無いですね。

 となると、残りは購買近くの各準備室か職員室側のトイレでしょう。そうに決まっています。(震え声)

 

 ただ、突っ切るのは危険なので三階からぐるっと回ってから職員室側の階段を降ります。

 

 あ、くるみちゃんだ。ちょうどいいのでバリケードの進行状況を聞いておきましょう。場合によっては先にバリケードを作る必要性があります。

 

 ねぇ、どうなの? 進んでる?

 

「おう、教室側はもう少しだと思う」

 

 ハヤスギイ! 漢らしい返事をいただいたところで、こちらも頑張りましょう。

 階段を降りて、まず角待ちしている奴がいないかちゃんと確認します。(5敗)

 

 ……いない、ですね。どうやら、まだ学生食堂内に多く残留しているようです。チャンスですね。今の内にトイレを調べます。

 

 準備室は嫌だ準備室は嫌だ準備室は嫌だ準備室は嫌だ準備室は──

 

 ヌッ! いたぞぉー! いたぞぉーー!

 

 痕跡がありました。チョーカー姉貴はこのトイレの個室に隠れているようです。

 

 ふふっ、では鬼畜兄貴たちお待ちかねのビビらせターイムです。(最大の無駄)

 

 入り口から順に、コンコンとノックしていき──

 

「──お前……女子トイレに入るかよ? 普通」

 

 くるみちゃんさぁ……ねぇ、あのさぁ……てか、いつの間に着いてきてたの。

 

「──だ、誰か……そこにいる、の?」

 

 ……はーい。チョーカー姉貴救出でーす。

 

 チョーカー姉貴こと柚村(ゆずむら)貴依(たかえ)という戦利品を持って三階に戻りましょーねー。

 え? なに? 腰が抜けて動けない? しょーがねぇーなぁー、これ以上時間の無駄も出来ないので抱っこしましょう。

 

「……そこは、お姫様抱っこじゃないのか?」

 

 両手が塞がるだろうがっ! だからゴリラなんだよ!?(暴論)

 

 はぁ……チョーカー姉貴を救出した後は、そのまま見栄えしないバリケード作りですので、チョーカー姉貴について話しておきましょうか。

 

 彼女は性能的に見れば、オールラウンダーと言えます。

 りーさんには劣るものの全体を纏める発言力があり、不和を防ぐムードメーカーでもあり、多少なりと戦闘も出来るオールマイティ。

 

 ただ、やはり各々にはどうしても一つ劣ってしまうのが欠点でしょうか。

 ですので、適所に配置を換えていき、各キャラたちと相乗効果を得られるように上手く動かしましょう。

 場合によっては何かに特化していない主人公より優秀になります。終盤になるともはや彼女が主人公してたり、してなかったり……これもうわかんねぇな。

 

 しかし、喜んでいるばかりではありません。チョーカー姉貴が来たことによって、今いる生存者は合計で六人プラス一匹になります。

 

 ただでさえ、ホモくんというイレギュラーもいるので、物資を圧迫していくのは目に見えて明らかです。上手いことやらなければ雨の日の前に物資が尽きてしまいます。

 先にショッピングモールに行くのもありですが……難しいところですね。

 

 雨の日は本当に何が起こるか分かりません。それぞれ違う動きをする各キャラを守るというのは至難の業と言っても過言では無いでしょう。

 キャラが増えるイコール守るべき対象が増えるので、非常に悩ましいところです。

 因みに『適応者』ルートならば、玄関に仁王立ちしているだけで終わります。生物兵器は伊達じゃない。

 

 さて、そうこう話しているうちにある程度バリケードが完成しましたね。ただ、これは未完成ですので運が悪いと普通に『かれら』によって崩される可能性があります。なので、夜以外はしっかりと見回りをしましょう。

 

 バリケードが築かれたところで、強制的に暗転あんどロードが入りました。どうやら、夜のようです。二日目もそろそろ終わりそうですね。

 

 っと、言ったところで今回はここまでです。

 ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 § § §

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、幹久(もとひさ)……ちょっといいか?」

 

 それは、校舎へと足を踏み入れる直前のことだった。

 バットの握り具合を確認し、気を張っていた幹久に躊躇いながらも声を掛ける胡桃(くるみ)

 

「ん? ああ……別にいいけど」

 

 幹久は胡桃の背後にいた(めぐみ)の目配せに気がついて、大事なことなのだろうと判断し、そのまま了承した。

 屋上の端まで二人はお互いに言葉を掛けること無く歩く。

 そして、太陽光パネルによって物陰となった場所まで行くと、そこには、地面にかけられたビニールシート。

 

 否、そのビニールシートは不自然な凹凸が出来ていた。まるで人型のような凹凸が。

 

「……悪いけど、コレ(・・)を下ろすのを手伝ってくれない?」

 

「下ろすって……いいのか?」

 

 幹久はすぐに察しが付いた。そのビニールシートに包まれたものが何なのか。

 だが、それよりも驚いたのは胡桃の言った『コレ』という言葉。

 

 詳しくは知らないが、このビニールシートに隠れたものが胡桃にとって何かしら大切なものだったのは知っている。

 だからこその疑問。何であれ……例え、それが無粋だったとしても確認せずにはいられない。

 

 本当にいいのか? ……と。

 

 胡桃は少しだけ間を置いてから顔を伏せて無言で頷いた。

 ならば、それ以上は聞くまい。彼女が良いと言うのならそうするまでだ。

 

 二人はそのビニールシートが被された物体の端をお互いに持ち、柵の上へと持ち上げる。

 そして、それを幹久が思っていた以上に胡桃はあっさりと屋上から投げ落としたのだった。

 

 抵抗もなく落ちていくソレを、胡桃は最後まで見ること無く空を仰ぐ。

 

「……私、さ……先輩のこと、好き、だったんだ……」

 

 ぽつぽつと途切れながらも言葉を零す胡桃。それに幹久は気まずそうにしながらも、無言で聞く姿勢を取った。

 

「陸上部に入ったのも、割と不純でさ……私、マネージャーって感じじゃあ無いだろ?」

 

「だろうな」

 

 まさか、即答されるとは思っていなかった胡桃は目を見開き、ムッとしながら幹久の胸元を小突いた。

 

「何だよ……そこは嘘でも……否定しろよなっ」

 

 嗚咽も交えながらも、文句を言った胡桃の目元には大粒の涙が溜まっていく。

 一度、緩んだ栓は言うことを効かなくなり、決壊したダムのように溢れてきた。

 

 それを、幹久は無言で受け止める。

 

 女が泣いているというのに慰めもしないのか、と思いつつも胡桃はそれが今は嬉しかった。

 

 自分はただ聞いて欲しかっただけかもしれない。あの時、言えなかった言葉を誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。

 

 叩く。何度も……何度も何度も関係の無い幹久を叩いた。

 涙を流しながらどうしようもない悲しみを幹久にぶつけた。そして、気がつけばその胸元で泣きじゃくっていた。

 

 どのくらい時間が経ったのだろうか。数十分、いや数分かもしれない。

 ただ、胡桃は自分でも驚くほど短時間で心に区切りが着いていた。

 

「少しはスッキリした?」

 

 泣き終えた女に掛ける言葉としては、何とも無粋だ。そんな(なり)して女の扱いに慣れてないらしい。

 だが、今は生やさしい声を掛けられるよりも、無粋な言葉の方が心にすんなりと入り込んだ気がした。

 

「うん……うん、ありがとな!」

 

 目元を手で拭って胡桃は笑う。随分と晴れ晴れとした笑顔を浮かべて。

 

 胡桃にもう迷いは無い。シャベルを肩に担いで胸を張る胡桃の後に幹久は軽い笑みを浮かべて着いていった。

 

「お待たせ、めぐねえ」

 

「大丈夫……そうですね、くるみさん」

 

「うん、コイツのお陰でスッキリした」

 

 そう言って胡桃は幹久の背中を強めに叩く。堅く、筋肉質な感触が返ってきて、若干手のひらが痺れる。

 一皮むけた様子の胡桃に、慈はほっとしたように肩の力を抜き、そしてまた気を引き締めた。

 

 三人はお互いに頷き合って、各々持つ自分の武器を握り直す。

 そして、今まさに内部へと向かおうとした瞬間。足下へと纏わり付くように動き回る小さな生存者が三人の行き足を阻んだ。

 

「わんっ!」

 

「おっとと、太郎丸か。お前も一緒に行きたいのか?」

 

 舌を出して、尻尾を振る太郎丸に胡桃はしゃがみ込んで乱暴な手つきで撫でる。

 それに、太郎丸は気持ちよさそうに目を細めた。

 

丈槍(たけや)、ちょっと」

 

 その横でやり取りを見ていた幹久は由紀(ゆき)を手招きで呼んで、太郎丸を指さす。

 何となく意図を察した由紀は無防備な太郎丸の背後を取って、その脇腹に腕を通すとそのまま太郎丸を抱き上げる。

 

「太郎丸は私たちとお留守番だからねー」

 

 特に暴れることなく大人しく由紀の胸元に収まった太郎丸を見届けて、幹久は軽く金属バットをくるりと回す。

 

「三人とも、気をつけてね」

 

 不安と憂いが入り交じった悠里(ゆうり)の声に見送られて、三人は屋上へ続く階段を降りていき、三階へと足を踏み入れる。

 

「……っ」

 

 そして、廊下に転がる多くの死体を見て言葉を失い、表情を青ざめた。

 想像以上の光景に、口元を抑え、顔を青白くさせた慈は小刻みに肩を震わせた。

 

「めぐねえ」

 

 そこに置かれる暖かい手。その手は震えておらず、力強さをしっかりと感じさせた。

 

「……だい、丈夫です。行きましょう」

 

 幹久は慈の次に胡桃の方に視線を移す。その顔は青ざめているが、慈ほどでは無く、スコップを握る手に震えは無い。

 三人は音を出来る限りたてないようにして歩き左右を見た。教室の方は床に伏せる『かれら』と思わしき死体だけ。

 

 その逆、職員室側は二人ほどの『かれら』が力なく立っているのが見えた。

 

「っ……!」

 

 胡桃はその片方を視界に納めた時、思わず唇を噛み締めた。

 

 親しい友人の末路にしては、余りにも悲惨過ぎる。

 

 休日は一緒に遊び、陸上では互いに競い合い、学校でも笑い合った仲だ。浮かび上がる思い出は山ほどある。それこそ、語り尽くせないほど。

 

「……俺が左を。恵比須沢は右を頼む」

 

「……いや、私が左をやる。私がやらなきゃダメだ」

 

 そんな気遣いはいらない。目を背けていられるほど、今の世界は優しくないはずだ。

 

「っ、あ」

 

 そう意気込みながら提案をはね除けたのは良いものの。

 改めて、対峙してみて思うのはただ一つ。

 

 ──怖い。ただただ単純にそう思った。

 

 だが、その横でしっかりと剣を構えるようにして金属バットを持つ幹久の力強さというか……頼もしさのようなものを感じて、恐怖で狭まった視界が大きく開く。

 震えを抑えるようにシャベルの柄を握り直し、引ける腰を元に戻して前を向いた。

 

 ゆっくりと呻きながら近づいてくる『かれら』に、胡桃は力一杯シャベルを突き出す。

 がむしゃらとも言える大雑把な攻撃は、運良く喉元に深々と刺さり抉った。

 

 シャベルから伝わってくる不快な感触。

 それに、背筋を凍らせて、悲鳴が上がりそうになるも、奥歯を噛み締めて悲鳴を上げないように我慢した。

 ずるり、喉元からシャベルを抜くと、友人だった存在は声も上げる事無く崩れ落ちた。

 

 それに、胡桃は呟く。

 

「……ごめん」

 

 懺悔するように、胡桃はシャベルの先端に付着した血を見ながら、聞こえてもない死体に謝罪する。

 

「くるみさん」

 

 その悲しげに俯く胡桃に慈は後ろから包み込むように抱きしめる。

 

「……辛かったら、いつでも言ってください」

 

「うん……ありがとう、めぐねえ」

 

 胡桃はやんわりとその抱擁から抜け出すと、しっかりとした足取りで幹久の隣に立った。

 幸い、これ以上の『かれら』はおらず、最奥の職員室前へと何事も無く進むことが出来た。

 

「後は、ここだけ……か」

 

「だな。パパッと調べようぜ」

 

 ここに来て、何か感傷深いものでもあったかのように呟く幹久に胡桃はバッサリとそう言い切った。

 

 そして、扉の取っ手に指を掛ける。

 

「え、ちょ、まっ──」

 

 小言で何かをいう幹久を無視しつつ、胡桃は音をたてないように扉をスライドさせた。

 職員室の中は他とそう変わらず、タールのように黒い血が地面にべっとりと付いて、散乱した書類や物が床に散らばっている。

 

 そして──

 

「──っ、かみ、やま……先生」

 

 職員室のなかに居たのはたったの一体。

 しかし、それは慈にとっては恩人のような存在でもあった同僚の成れの果て。

 

「……二人はここに」

 

 込み上げてくる慈の気持ちなど知らないと言わんばかりに突きつけられる言葉と進行を阻むように伸ばされた腕。

 

 慈は咄嗟にその腕を掴んだ。

 幹久は視線を神山の成れの果てから外さずに、困惑したように名前を呼んだ。

 

「めぐねえ?」

 

 何故だかは分からない。ちゃんとした理由も思い浮かばない。

 だが、これは、自分がどうにかしなければいけない事だと思った。

 

「……私が、やります」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──バリケード?」

 

「そう、バリケード。机とか重ねて紐か何かで縛れば、それなりに安全じゃないか?」

 

「あー、なるほど?」

 

 幹久の提案に自身の思うバリケード像を思い浮かべながら二人はその提案を聞き入れる。

 

「じゃあ、りーさんたちも呼ぶのか?」

 

「呼んどいた方がいいかな。めぐねえ頼める?」

 

「ええ、それは構わないけど……」

 

 慈の視線は廊下へと向けられる。それに釣られ、二人も廊下に目を向ければ、冗談でも気分が良いとは言えない惨状が広がっていた。

 

「……少し、時間をおいてから降りてきてくれた方が助かるかな」

 

「そう、ね。その方が良いと思う」

 

 いずれ二人もこのような惨状を目にすることがあるだろうが、それは今で無くとも良いだろう。

 

 そうして、めぐねえは屋上へと向かい、悠里と由紀に状況を説明しに行き、幹久と胡桃は時折悲痛な表情を浮かべながらも、死体を窓の外へと放り出した。

 

「っと……あれ、幹久?」

 

 最後の一体を外へと投げ捨て終わった胡桃は、姿が見えない相方の名を呼ぶ。

 しかし、返事は無く、その代わりに聞こえてきたのは教室の方からの物音。

 胡桃は音のした教室を覗き込むようにして様子を探ると、そこには明らかに他人の私物を漁る幹久の姿があった。

 

「何、してるんだ?」

 

 思わず声を掛ける胡桃。それに幹久は答えることなく、教科書などが入ったリュックサックをひっくり返して空にした。

 

 そして、それを背負うと誇らしげにこちらを見る。

 

「……ごめん、意味が分からない」

 

「だろうな。意味なんてないし」

 

「えぇ……」

 

 なんだこいつ、という胡桃の視線を物ともせず幹久はその横を素通りしていった。

 

「おい、何処行くんだよ?」

 

「下に材料集め」

 

 なるほど、と思うと同時に大丈夫なのかと心配になるが、くるくるとバットを器用に回している様子を見ていると、心配ないだろうと思えてきてしまう。

 本来なら一人で行かせるべきではない。最悪な事態が脳裏を過ぎるが、胡桃は何故か幹久なら大丈夫だと確信があった。

 

 故に、胡桃は遠のく幹久の背中を何も言わず見送った。そして、手に持つシャベルに移し、軽く振るう。

 

「……こう、か?」

 

 幹久がやっていたように、手首や腕全体を上手く使ってシャベルを回そうとした……が。

 

「──あっ」

 

 手のひらからすり抜けていくシャベルを見ながら、そんな声が出た。

 

 そして、聞こえてくるのは思わず耳を塞ぎたくなるけたたましい金属音。

 

 瞼をぎゅっと瞑り、両肩を跳ね上げさせた胡桃は咄嗟に前を見た。

 ……幹久の姿は見えない。どうやら、今の失敗は見られていないらしい。

 

 だが、ほっとするのも束の間。今度は背後から慌てた様子で降りてきた慈を含む三人の対応に慌てる。

 

「あ、いや! 大丈夫、大丈夫だから! ただ落としただけだから!」

 

 少しだけ頬を赤らめ、急いで地面に落ちたシャベルを拾う。

 

「本当に大丈夫なの、くるみ?」

 

「大丈夫、ホントに」

 

 心配そうにこちらを見る悠里に胡桃は全身を見せるかのように両手を広げて怪我が無いことをアピールした。

 

「良かった。それじゃあ、バリケードを……って、もとくんは?」

 

 胡桃の身に何の異常が無いことを確認した慈は、胸をなで下ろしながら提案者である幹久の姿が見当たらないことに気がつく。

 

「ああ、幹久なら必要な物を集めに行った。多分、すぐ戻って来るだろ。私たちはそれまでに……教室側から机を並べていくか」

 

 胡桃は荒れた教室を見る。それに釣られ慈たちも教室を見て、素朴な疑問を口にするように由紀が胡桃に質問する。

 

「これ、全部の机を廊下に出すの? くるみちゃん」

 

 残りの場所も考えれば、恐らく教室二個分は考えておいた方が良いだろう。

 

「おう、多分そのぐらいは必要かもな」

 

「それを私たち四人で?」

 

「四人で」

 

 元気よく即答する胡桃に悠里……いや、胡桃だけではない。

 慈も由紀も、そして、言った本人も思った。

 

 これこそ、男手が必要では無いのだろうか、と。

 

「……よし、やるぞー!」

 

「ラ、ラジャー!」

 

「わんっ!」

 

 胡桃の掛け声に戸惑いながらも由紀は便乗して、その声に反応した太郎丸が由紀の胸元で吠える。

 

 それに、悠里と慈は互いに顔を合わせ、軽く笑いあった。

 

「あ、でも太郎丸は逃げないようにしててね、ゆきちゃん」

 

「はーい」

 

 幸い、太郎丸が由紀に懐いているということもあって、最悪な事態に陥ることは無く、作業は順調に進んでいく。

 いくらか弱い女子とはいえ、四人もいればそれなりの速度でバリケードの基礎が出来上がっていった。

 

 後、もう少しといったところで中央階段から上がってくる幹久と、机を運ぶ胡桃がちょうど鉢合わせる。

 

「お疲れ。どんな感じ?」

 

「おう、教室側はもう少しだと思う」

 

 抱えた机を持ちながらそういった胡桃に幹久は驚いたような表情を浮かべた。

 

「随分と早いな」

 

「まあ、四人も居るし、中身も空だしな」

 

 何時もなら入っているはずの教科書類が入っていなければ、そこまで重たい物では無い。

 

「そっちは?」

 

「イマイチ。流石に購買まで突っ切る訳にもいかないから、あっちから回って行こうかな、って」

 

 空のままのリュックサックを見せつけながら幹久は階段を上りきる。

 

「そっか。まあ、あんまり無理すんなよ」

 

「りょーかい」

 

 若干疲れ気味のまま職員室側へと歩いて行く幹久を見ながら胡桃は「大丈夫か、アイツ」と呟き、後で様子を見に行こうと決めてバリケード作りに勤しむ三人に近づく。

 

「これで足りそう? りーさん」

 

「ええ、恐らく。幹久くんは何て?」

 

「イマイチだってさ。後、ちょっと疲れてるみたいで……私、様子見てくるよ」

 

 夕方の駅のホームから出てくるサラリーマンのような雰囲気を纏った幹久の後ろ姿を見ながら、胡桃は壁に立てかけていたシャベルを手に取る。

 体力的にはまだまだ余裕はありそうに見えるが、精神的に疲れ始めているのだろう。

 

 それは、悠里も感じ取っており、その二人が分かるのだから当然、慈も分かっていた。

 しかし、二人にここを任せておくのは危険だ。故に、慈はくるみに軽く頭を下げる。

 

「くるみさん、もとくんをよろしくね」

 

「おう、めぐねえも気をつけてな」

 

「もうっ、佐倉先生です!」

 

「えー、幹久は良いのに?」

 

「そ、それはっ」

 

 思わぬ返しに口ごもる慈。それに、胡桃は今にも舌を出しそうな悪戯っぽい笑みを浮かべて幹久の後を追いに行った。

 

「ふふっ、一本取られましたね。先生」

 

「はぁ、先生と言ってくれるのは悠里さんだけですよ......」

 

「どうしたの、めぐねえ?」

 

「……ほら」

 

 しょんぼりする慈とくすくすと笑う悠里。その二人のやり取りに疑問符を浮かべる由紀の三人は、少ししてからまた作業に戻るのだった。

 

 

 

 

 胡桃が幹久の後を追って、職員室側の階段を降りきると、そこにはトイレの前で膝を着いて、地面を見ながら眉を顰める幹久の姿があった。

 

 そして、胡桃が声を掛ける前にトイレへと入っていく。

 その後を追って胡桃も周囲を警戒しながら、トイレ前へと辿り着き、思わず「マジかよ」という声を零す。

 

 少し視線を上に上げれば男女を表すシンボルが描かれており、幹久が入っていたと思われるのは赤色の……つまり女子トイレ。

 胡桃も入ってみれば、そこには神妙な顔つきで今にも個室を調べようとしている幹久がいた。

 

 正直、引いたと言っても過言では無い。でも、コイツもやっぱ男なのだろうと内心思いつつも、そこまで軽蔑する気持ちは湧かなかった。

 

 だが、それとは裏腹に自分でも驚くほど呆れた声が出る。

 

「お前……女子トイレに入るかよ? 普通」

 

「っ、ストップ」

 

「はぁ?」

 

 焦った反応をするかと思いきや、幹久は口元に立てた指を当てて歯を見せた。

 予想とは全然違う反応。そして、その静かにというジェスチャーが何を意味するのか理解した胡桃は手に持ったシャベルを構える。

 

 何を勘違いしているのだろうか。彼より自分の方が煩悩に塗れているような気分になる。

 

 後で謝ろうと心に決めながら、こちらを手で制する幹久が個室に一歩足を近づけた、その時。

 

「──だ、誰か……そこにいる、の?」

 

「っ!?」

 

 声が個室の方から聞こえた。

 震えて聞き取り辛いが、間違いなく生きた人間の声だった。

 

「三年の本城幹久だ。大丈夫、今は危険じゃない」

 

 人を落ち着かせる声とは真逆の力強い声で言った幹久。この場合、それが正しいのかは分からない。

 ただ、個室の中に隠れていた彼女にとっては、それが正解だったようだ。

 

 力強い生気を感じさせる幹久の声に誘い出され、カチャリとロックが外される音が響く。

 そして、慎重に、ゆっくりと開かれた個室の扉から出てきたのは、死人のように疲れ切った表情をした女子生徒だった。

 

「おいっ、大丈夫か!」

 

 シャベルを床に寝かせ、胡桃はその女子生徒に近づき支えるように肩を持つ。

 

「わ、私っ、何が起きたのか……そ、それで、取り敢えずここに隠れてっ! そしたら……っ!」

 

 彼女が何を見たかは分からない。ただ、トイレの床にこびりついた赤黒い血と、それが線状に出口へと続いていることから、何となく想像はついた。

 

「取り敢えず、三階へ行こう。アイツらが来ないとは限らない」

 

 出口から外を伺っていた幹久がこちらに視線だけ向けながら言う。

 

「だな、ほら掴れ」

 

 胡桃は女子生徒の腕を自身の首に回して立ち上がる。そして、歩き出そうとしたが、想像以上の重たさに女子生徒を見た。

 

「ご、ごめん。足が……」

 

 ダラリ、とまるで芯が抜かれたように力無く地面に着く彼女の足。

 小刻みに震えてはいるが、いくら頑張って力を込めようと、その足が身体を支えることは無かった。恐らく、緊張が解けて腰を抜かしてしまったのだろう。

 

 こんな時に、なんて思わない。寧ろ、腰を抜かしていて当たり前とも言える状況だ。

 

「……恵比須沢、リュックを持ってくれ」

 

「あ、ああ、分かった」

 

 その状況を見た幹久が背負っていたリュックを胡桃に手渡すと、そのまま女子生徒の前で屈んだ。

 意図を察した女子生徒は倒れるように幹久の背中に抱きつき、その首元に両手を回す。

 

「……そこは、お姫様抱っこじゃないのか?」

 

「えっ?」

 

 ちょっとした自分の乙女な考えが思わず言葉として出る。

 

 それに、きょとんとした幹久と似たような意味を含んだ視線を向ける女子生徒の様子を見て、ハッとした胡桃はわざとらしく咳払いをした。

 

「んんっ……気にしないでくれ」

 

「……ああ、うん」

 

 頬を赤く染める胡桃を余所に、幹久はそのまま抵抗もなく立ち上がり、左腕だけ彼女の膝裏へと通すと、右手にバットを持った。

 階段はすぐそこだが、万が一と言うのもある。合理的で、安全面を考慮した運び方だ。

 

 ……うん、幹久の考えが一番正しい。お姫様抱っこなど、もってのほかだろう。

 

 胡桃が出口から頭を出して周囲を見る。幸い、近くにいない。

 振り返り、幹久を見ながら頷いて先に行くよう促す。

 音を立てず、しかし、素早く動く幹久の後を胡桃は守るように追った。

 

 特に問題無く三階へと戻ってきた二人は、作業をしていた三人に手を振りながら呼びかける。

 そして、幹久の背負っているものに気がついた三人は驚愕に顔を染めた。

 

「も、もしかして、たかえちゃん!?」

 

「ゆ、ゆき……? ほ、本当に、ゆきだよ、な?」

 

 彼女、柚村(ゆずむら)貴依(たかえ)を知っていた由紀は、思わず抱きつきそうになるが、貴依が居る場所は幹久の背中。

 涙を浮かべ、どうすれば良いのか分からなくなった由紀は最終的に側にいた悠里に抱きついた。

 

「うわあぁぁ! 良かったよぉぉぉ!」

 

「ゆきちゃん……」

 

 悠里は由紀の背中に手を置き、あやすように優しく抱きしめる。

 その泣いている由紀を見て、貴依も込み上げてくるものがあったのだろう。

 

「うっ、うう……」

 

 静かに幹久の背中で涙を流した。

 

「もとくん、取り敢えず校長室へ。そこにソファがあるから柚村さんを横にさせてあげて?」

 

「分かった」

 

「ほら、ゆきちゃん。一緒に行きましょう」

 

「うんっ……!」

 

 胡桃は校長室に入らず、その扉の真横に立ってシャベルを持ったまま壁に寄りかかる。

 

 そうして、少しすればすぐに幹久も出てきた。

 

「……で、どうだった?」

 

 要領を得ない胡桃の問いかけ。しかし、その要領を理解していた幹久はその問いに淀みなく答えた。

 

「さあ? 多分、これから調べるだろう。そこら辺は若狭が上手いことやるさ」

 

 どうやって『かれら』が出てきたのかは分からない。ただ、噛まれたら『かれら』になるということは、初日から大体察しが付いていた。

 

「それもそうか……ああ、後、お前がいるんじゃあ、脱がすもんも脱がせられないもんな」

 

「やめてくれ……ただでさえ、肩身が狭いんだから」

 

 気まずそうに後頭部を掻く幹久に、胡桃は悪戯な笑みを浮かべて脇腹を肘で突つく。

 

「さっ、バリケードを作ってしまおうぜ」

 

「だな......終わらせよう」

 

 二人はお互いに武器を手に持ち、バリケード作りへと集中するのだった。

 

 

 




ちょっとしたくるみ主体パートになりました。

後、若干各キャラの性格などが掴みきれていないので、口調等いろいろと可笑しいですが、大目に見てくれると投稿速度があが────。


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Part5 初恋

誤字脱字、多すぎてヤバかった......本当に申し訳なく思うと同時に感謝しかありません。何でもはしませんから、許してください。

後、今回はちょっと区切りをつけたかったので、チョー短いです。すみません。



 

 

 全く話しが進まない実況プレイはーじーまるーよー。

 

 ぬわあああああん! 疲れたもおおおおん!

 

 さて、様式美も済んだところで、今現在はバリケードを作り終わり、夜へと移行しております。

 今居る場所はどうやら生徒会室のようですね。チョーカー姉貴とゆきちゃんがいないようですが……先に休んでらっしゃる? そっかー。

 

 是非とも交流(意味浅)したかったのですが、残念です。明日にでもしましょう。

 そして、見張り、というかバリケードの見回りですが、ぶっちゃけ夜はいりません。

 夜は極端に『かれら』が少ない上に、わざわざ三階まで上がってくる物好きも少ないからです。

 

 そして、未完成品であってもバリケードを作っておけば、一体や二体では壊されませんので、安心して寝ることができます。三体以上来たら終わりですけどね。

 ただ、それを知るのは勿論プレイヤーだけですので、これを利用しない手はないでしょう。

 

 はーい、私は深夜に見回りしまーす。

 

 やはり女性に夜更かしは……などという紳士(ジェントルマン)な理由ではなく、物資集めと少しでも経験値を稼ぐためです。出来れば、雨の日までには『剣術』を上げておきたいので。

 勿論、バレると大変ですが、バレなきゃ犯罪じゃないという迷言もあるので、バレなきゃ大丈夫です。

 

 なので、飯食ってシャワー浴びたら寝ます。真夜中の見回り(仮)に徹するためにも早めに寝ておきましょう。

 起きていたら好感度を上げることも出来ますが、どうせ好感度はヒーローすれば(以下略)。

 

 では、やることやって寝ましょう。おやすみなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 やっはろー!

 

 うん、良い感じですね。月が真上にあります。ちゃんと夜中に起きられたようです。

 ……しかし、妙に回復してますね。太郎丸を抱いた(文字通り)覚えはないのですが……。

 

 まあ、得したことには変わりありません。気を取り直して、部屋から出ましょう。そのとき、相棒(バット)と昼間手に入れたリュックサックを持って行くのを忘れずに。

 

「あっ、幹久くん。お疲れ様」

 

 おっ、見回りはりーさんでしたか。

 月明かりに照らされて何とも色っぽく見えますね。運営はどういう意図でこの差分を作ったんでしょう。

 

 はーい、じゃあ後はホモくんに任せて寝ましょうねー。ほら、行った行った。女はお呼びじゃねぇんだよ。(豹変)

 

 ……よし。りーさんがホモくんに促されるまま、寝室(仮)へ向かったら行きま──せん。もう少し様子を見ましょう。

 

 良くあることなのですが、事前にフラグなど立てなくともイベントが発生することがあります。

 ちょっとした会話程度の時もありますが、ゴリゴリの好感度イベントの時も普通にあります。

 もし、そのようなイベントが起きるときにホモくんが居ないと、警報が鳴ったように全員で探し始めるはめになりますので気をつけましょう。(2敗)

 

 なので、動き出すのはもう少しだけ待ちます。

 

 …………ヒャッハー! もう我慢できねぇぜ!

 

 ここまで待ってウンともスンとも言わないのであれば大丈夫です。

 真夜中の学校、寝静まった彼女たち、起きているホモ、これらの要素が揃っていて何も起きないはずがありません。

  

 あんなこと(物資集め)や、こんなこと(経験値稼ぎ)をしに行けると考えただけで……なんていうか……その…下品なんですが──

 

「──本城……何してるの?」

 

 それはこっちの台詞なんですけど?(半ギレ)

 

 何でチョーカー姉貴がこんな時間に……って、似たような時間帯から休んでましたね。ということは、ゆきちゃんも起きてきているのか。

 

「ああ、ゆきなら太郎丸? と一緒に寝てるよ」

 

 ゆきちゃん、いっつも寝てんなー。

 

 いや、そんな事よりもチョーカー姉貴ですよ。眠れないのは分かりますが、廊下に出てくる理由が分かりません。

 これでは、あんなことやこんなことが出来ません。何とかして部屋に戻って貰わなければ。

 

 ……ナズェミデェルンデェズ!

 

 

「……横、いい?」

 

 ダメです。

 と言いたいところですが、ホモくん自身に断る理由がないため、選択肢そのものがありません。

 

 あちゃー、そのままイベントに入っちゃいましたね。仕方がありません。あんなことやこんなことは諦めましょう。

 ただ、職員室には行きます。予定とは違いますが、ある意味チャンスですね。あのSAN値直葬マニュアルをどうにかしましょう。

 

 めぐねえがマニュアルを見るか見ないかで、雨の日の生存が大きく変わると言っても過言ではありません。

 見た場合、めぐねえ自身が乗り越えるか、それとも周りが察して支えることが出来れば、ぐーんと生存確率は上がるでしょう。

 

 しかし、上記のことが無理であれば、ほぼ原作同様のことが起きる確率が高いです。

 そうなると、くるみやホモくんが噛まれる可能性が高くなりますし、そもそも本末転倒です。

 

 今回のめぐねえなら大丈夫そうではありますが……ここは堅実に行きます。

 

「その……ありがとう。本城が見つけてくれなかったら、私は……生きてなかったと思う。だから、その……ま、また、ちゃんとお礼は言うから! お、おやすみ!」

 

 どうやら終わったようですね。時間的にも職員室でマニュアルをどうにかしたら、そのまま朝を迎えそうです。パパッと済ませましょうか。

 

 さあ、職員室に一直線です。そして、そのまま戸棚の……こ↑こ↓にありましたね、マニュアル。

 

 これで、ホモくんのSAN値が逝ってしまいますが、回復する手段は多くありますし、行動に支障が出るのは最初だけです。後、効果が出るのはイベント後ですから今は気にしなくて大丈夫です。

 

 さて、選択肢として『残す』『破棄する』『持って帰る』とありますが、ここで少し待ちます。すると……『破り取る』という新たな選択肢が出てきます。

 これで任意の場所を破り取ることが出来るようになります。今回は地図の項目以外を破り取ってしまいましょう。ただ、その破り取った物は破棄できないので注意が必要です。

 

 これで大丈夫です。元の棚に戻しておきましょう。後々、めぐねえが読んでくれます。

 こうすることによって、めぐねえたちがデバフを受けずに、地下を解放することができます。

 地下は現段階では行くことはしませんが、解放しておけば学校が炎上した際に確定で助かります。

 

 一見、メリットばかりのようにも見えますが、千切られているので、めぐねぇを筆頭に不審がられますし、場合によってはその破り取った紙片を持っていることがバレる可能性も高いです。

 

 それに加えて、めぐねえほどではありませんが、ホモくんが代わりに抱え込──ファッ!? なんでっ!?

 

 いやいや、可笑しいでしょう!? こんなに減るなんて見たこと無いんですけど!? 普通はちょっとじゃん!? そもそも────。

 

 ……失礼。取り乱しました。

 

 えーっと、ですね。本来ならばちょこっとステータスの上限が削れるだけで済むんですよ。

 ですが、今のホモくんはちょこっとではなく、ゴリっと……それは、もうエグいぐらいゴリっと削れております。

 それこそ、めぐねえと同じぐらいのデバフを受けてしまっていると言っても過言ではありません。なんでや。

 

 これは、ヤバイですね。ギリギリ許容範囲内ではありますが、雨の日がちょっと……。

 そもそも、何故ホモくんがこんな精神的ショックを受けたんでしょうか? なんかあったかな~。

 

 …………まあ、大丈夫でしょう。ガバの内には入りません。

 結局はホモくん以外が助かれば良いだけですので、誤差だよ、誤差。そういった厄介ごとは全てホモくんに抱え込んで貰いましょうねー。(外道)

 

 さて、これで今日やれることはやりました。いろいろと失ったホモくんもこれ以上は酷使出来そうにありません。

 

 じゃけん、朝が来たらそのまま仮眠を取りましょうね~。

 

「ふぁ~……おはよう、もとくん」

 

 やっと起きたか、この要介護者め! それじゃあ、後は任せた! もう寝る!

 

 っと、言ったところで今回はここまでです。

 ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 § § § 

 

 

 

 

 

 

 

 夜の帳が下りた二日目の夜。

 

 未だ不安要素は多いが、彼女たちの表情は初日ほど強張ったものでは無く、比較的に落ち着いたものであった。

 それは、ここが屋上という屋外では無く、まだ比較的に綺麗な状態で残っていた生徒会室という屋内だからであろう。

 

 加えて、全員の前にはそれぞれ種類の違うカップラーメンが置かれていた。

 

「何か、初日に比べたら凄い見違えたよな」

 

「そうね。人工的な光がここまで心安らぐものだとは思わなかったわ」

 

 悠里(ゆうり)は天井に取り付けられた蛍光灯の光を見上げる。懐中電灯とは違う暖かみというのが感じられた。

 

「あれ、丈槍(たけや)柚村(ゆずむら)は? 後、めぐねえも」

 

 幹久(もとひさ)がここにいない三人の名前を口にする。

 

「それなら、めぐねえが呼びに行ったよ……あ、お帰りめぐねえ」

 

 胡桃(くるみ)が行き先を告げたと同時に扉が開き、電気ポットを持った(めぐみ)が入ってくる。

 

「だから、佐倉先生です!」

 

 電気ポットを机の上に置き、そのままプラグを壁にあるコンセントに繋げた。

 そして、電気ポットにランプが付いたのを確認出来ると、一同はほぼ同時にほっとする。どうやら、電気は通っているらしい。

 

「めぐねえ、二人は?」

 

「二人なら、そのまま校長室のソファで一緒に寝ててね……起こすのも忍びないかなって」

 

「そっか……で、結局のところ柚村は大丈夫だった?」

 

「ええ、絶対に大丈夫とまでは言わないけど、噛まれた痕は無かったわ。だから、今のところは大丈夫だと思う」

 

 ただ、随分と衰弱していたわ、と悠里はそう締めくくり、お茶が入ったコップを手に取る。

 

 それもそうだろう。自分たちとは違い、単身で……しかも、あの閉鎖空間の中で一日を過ごして居たのだから。

 状況が分からず、時折聞こえる物音に驚き、恐怖し、心身ともに疲弊していたに違いない。

 

 そう考えると、幹久が彼女の存在に気が付くのにもう少し遅ければ、手遅れになっていた可能性が高いだろう。

 

「命の恩人だな」

 

「運が良かっただけだろ……彼女の運が」

 

 何処か、茶化すように胡桃は隣に座っている幹久に声をかけたが、それを幹久は上手いこと避ける。

 そのやり取りを見ていた悠里は微笑ましいものを見るように目を細め、揶揄うように言った。

 

「二人ともいつの間にそんな仲良くなったの?」

 

「……へっ?」

 

 それに胡桃は鳩が豆鉄砲を食らったような顔を浮かべる。そして、何故か急に恥ずかしくなり、慌てて何かしらの言い訳を口にしようとしたが、その前に幹久が口を開く。

 

「恵比須沢は誰に対してもこんな感じだろ?」

 

 至極当然、それが当たり前、とでも言わんばかりに彼は真顔でそう口にした。

 

 それに不満が出るのは、言われた本人だ。

 恥ずかしくなった気持ちが急速に引いていき、代わりに浮かんできたのは一抹の不満と心外だ、という気持ち。

 

 胡桃自身、何故そう思ったのか分からないが、それでも気分が良いとは言えない。

 故に、その不満が表情に表れ、胡桃の場合は表情だけに飽き足らず、行動にも表れる。

 

「いっ!?」

 

 突如として襲う太ももへの激痛。それに、幹久は表情を歪ませながら真横を見た。

 

 何故? と言った幹久の無言の問いかけに幹久の太ももを抓った胡桃は、ぷいっと明後日の方向に顔を反らす。

 それに、幹久は心底困惑し、助けを求めるように悠里と慈を見た。

 

「えーっと……本城くんって、そういうタイプなのね」

 

「そういうところは叔母さんにそっくりね」

 

 悠里は意外とでも言うように目を丸くし、慈は心当たりがある光景に苦笑いを浮かべる。

 ただ、それで幹久が分かるわけもなく、困惑を強いられ、疑問符を浮かび上がらせるだけだった。

 

 対して胡桃もこの不満が何を意味しているのか分からない。

 

 好意? それとも、また違う感情?

 

 仮に、これが好意から来るものであるのであれば、自分は何て尻軽な女だろうと胡桃は自嘲する。

 

 ただ、胡桃はこの感情が先輩に抱いていたものとは違うものだと不明瞭ながらも理解していた。

 

「さあ、みんなご飯にしましょう! ……カップラーメンだけど」

 

 慈の言葉で先ほどの雰囲気が霧散する。

 

 久しぶり……と言ってもたった一日程度の差だが、随分と長いこと食べていなかったかのように、久方ぶりの温かい食事に全員が感動を覚える。

 

 そして、少し前まで当たり前だと思っていた日常の味が、高級料理店で食べる食事のように思えてくる。

 三者三様に思い出すことは違えど、その場にいる全員がたかだか数百円のインスタント食品に涙を流しかけた。

 

 そんな感動的な食事も終わり、全員はこの後のことを話し合うために気分を入れ替える。

 

「見張りは立てるべきだろう。用心に越したことはない」

 

「私もそう思う。ちょっとあのバリケードじゃあ不安だし、定期的に見回りした方がいいと思う」

 

「そうね……先生、どうします?」

 

 悠里の一言で全員の視線が慈に集中する。何であれ、今は彼女が唯一の大人であり、頼れる存在なのだ。

 

 故に、そういった決定は自然と慈に委ねられていた。

 

「……うん、見張りは立てましょう。時間に関しては──」

 

「深夜は俺が。だから先に休んでもいい?」

 

「じゃあ、私はこの後すぐにしようかな」

 

「分かったわ。ああ、それと更衣室のシャワーが使えるのは聞いた?」

 

「ああ、めぐねえから聞いた。じゃあ、悪いけど先に休ませてもらうわ」

 

「おう、しっかり休めよな。先生もそれでいいだろう?」

 

 幹久が席を立った後に言うのは少々遅い気もするが、胡桃は慈の確認を一応は取った。

 それに、しょぼくれた雰囲気を纏う慈は首をゆっくりと縦に振る。

 

「──……生徒たちの自主性が高くて先生は嬉しいです……」

 

 

 

 

 

 柚村(ゆずむら)貴依(たかえ)は寝苦しさを感じて起きた。

 周りは暗く、音も殆ど聞こえない。身体を起こしてみれば、自身の腹を枕代わりにして寝息をたてる由紀の姿があった。

 その横には丸くなって寝ている小さな柴犬もいる。

 

 確か……太郎丸とか言っていたっけ、と思いながら由紀を慎重にどかし、自身に被せられていた毛布を由紀に掛ける。

 

 ……そうだ。自分は助かったんだ。

 

 寝る前に聞いた状況を考えれば助かったとは言えないだろうが、それでも自分は今こうして生きている。

 

『三年の本城(ほんじょう)幹久(もとひさ)だ。大丈夫、今は危険じゃない』

 

 思い出すのはトイレの個室に籠もっていた時に聞いたあの声。

 あの時のことはどうやら衝撃的だったようで、何度も頭の中で繰り返し流れているような感覚があった。

 

 貴依はそれもそうだ、と自分で肯定する。

 

 あの声のお陰で自分は今こうして由紀と再び出会い、他の生存者たちと同じ場所に居られている。

 

 貴依は半分ほど中身が減ったペットボトルを持って外に出る。

 幸い、廊下は月明かりに照らされよく見えた。少し幻想的な情景だが、所々割れた窓ガラスと汚れた廊下が気持ちを現実に呼び戻す。

 

 そのとき、足音が聞こえ、そちらの方を向けば、ちょうどこちらに気がついたような仕草をする幹久の姿があった。

 

「本城……何してるの?」

 

「いや、そっちこそ、こんな時間に……ああ、さっきまで寝ていたからか。丈槍は?」

 

 随分と察しが良いな、と思いながらも貴依は答える。

 

「ああ、ゆきなら太郎丸? と一緒に寝てるよ」

 

 あの調子だと、朝まで起きないかもしれない。

 

「そっか……ああ、えっと、ご飯なら生徒会室にあるから好きに食べて良い。それと、更衣室にあるシャワーも好きに使える」

 

「随分と……なんか、至れり尽くせりだね」

 

 昨日までは考えられなかった言葉の数々に貴依は衝撃を受けた。

 

「何、助かった後ぐらいはそれぐらいしても(バチ)は当たらないだろう」

 

「それは、そうだけど……後々大変だろ」

 

 水なんて有限だろうし、食料に関してもそうだ。こんな状況だからこそ無駄には出来ない。

 

「まあ、そうは言っても……なんかこの学校って無駄に設備がいいし、割と大丈夫そうなんだよな」

 

 強制するつもりはないらしい。幹久は特にそれ以上のことは何も言わず背を壁につけて、その場に腰掛けた。

 その側に、月明かりに反射して光る金属バットとリュックサックを置いて、幹久は廊下の奥に見えるバリケードを見る。

 

 見張り、そんな言葉が頭に浮かぶ。そして、それは間違っていないだろう。

 

「……隣、いい?」

 

 気がつけばそんな言葉が出ており、幹久も特に拒まず仕草だけで了承の意を示した。

 貴依は一人分の距離を開けて座り、膝を抱え込む。

 

 互いに無言。

 

 幹久から何か言うことも無く、貴依も隣に座ったまでは良いものの、何を話したら良いのか分からない。

 

「……っ」

 

 何か喋ろうとして、口を開き、息を吸って……口を閉じて。

 それを何度か繰り返したのち、貴依は大きく息を吐いた。

 

「……ねぇ、本城。一年の頃、クラスが一緒だったの覚えてる?」

 

 長く続いた沈黙を破る言葉がコレ。自分で言っておいて、何とも情けなく感じる。

 

「一年? ……んー、多分覚えてない。てか、柚村は一年の頃からそんな格好じゃ無かったろ?」

 

 言われて気が付く。まだ入学して間もない頃は今より、もうちょっと控え目だったのは確かだ。

 

 それに、と続けて幹久は言った。

 

「何か、接点とかあったっけ?」

 

「……いや、別に」

 

 そう、本当にただ一緒のクラスだったというだけ。何かしらアクシデントがあったとか、記憶に残ることがあったか、そんな青春の1ページに刻むようなことは一切無かった。

 

 ただ、こちらが一方的に覚えているだけだ。

 

 またも沈黙が場を包む。加えて気まずい雰囲気も混じり始めている。

 

 違う、こんなことを言いたかったわけじゃないだろう。

 何度も口ごもり、何度も唾を飲み込み、何度も息を吸って、そして、ようやく言葉が出た。

 

「その……ありがとう。本城が見つけてくれなかったら、私は……生きてなかったと思う。だから、その──」

 

 目が合う。視線が交差する。

 

「──ま、また、ちゃんとお礼は言うから! お、おやすみ!」

 

 それだけ、一方的に言って貴依はその場から離れた。

 急いで、だが由紀を起こさないように静かに部屋に戻り、大きく息を吐いた。

 

 身体の奥底が熱い。額に汗が滲む。

 ただ、助けてもらったお礼を言うだけだったのに、何故こうも緊張しなければならないのか。

 ペットボトルに残っていた水を一気に飲み干す。

 

 熱が冷め、動悸も落ち着き始めるが、異様なまでに目が冴えている。夕方になる前から寝ていたというのもあるが、今日はいろんな意味で眠れそうにない。

 

 

 




いろいろと書きましたが、結構省いてます。りーさんとか、めぐねぇとか、睡眠時の回復だとか、小説パートで触れられていないところは、省いた後だと思って貰えれば。

ですが、まあチョーカー姉貴は出来る限り書けたかな、と思っているので私は満足です。満足したので失踪します。

後、次回から4対6の割合で書いていきたいと思っているので、若干小説パートが薄くなるかもしれません。


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Part6 一つの強がり



感想、評価並びに誤字脱字報告ありがとうございます。

ちょっと軽くスランプですが、何とか様にはなったので初投稿です。




 

 

 色々と可笑しくなってきた実況プレイ、はーじーまるーよー。

 

 

 ひゃっはろー! 

 

 うーん、全くもって清々しくない目覚め。また、ミョーに回復していますが、体力とかほぼ底辺のままなんだよなぁ。

 

 ステータス的にも体力的にも、全てにおいて最悪のコンディションですが、動けるのであれば問題ありません。ほら、ホモくん動いて。(鬼畜)

 

「あ、本城。おはよう……って言っても、もう昼だけど」

 

 扉を開けたら全てが夢だった。……みたいな光景が広がっていますが、単純にホモくんが寝ている間に掃除でもしたのでしょう。ただ、まだ廊下と生徒会室だけのようです。

 

 取り敢えず、このままでは掃除すら出来ないので、生徒会室にでも行ってコーヒーを飲みましょうか。

 コーヒーはSAN値を微量ながらも回復させ、飲料水と同じく水分補給も出来る優れもの。ただ、飲み過ぎると『中毒』になりますので、一日三杯が限度です。

 

「おはよう、幹久くん。顔色悪いけど、大丈夫?」

 

 (大丈夫じゃ)ないです。こちとら、SAN値が逝った上に各種ステータス削れてんだぞ。オデノカラダハボドボドダ!

 

 じゃけん、コーヒーを飲みましょうね~。勿論、ミルクと砂糖は入れます。え? ない? ですよねー。

 

 ホモくん、コーヒーブレイク中。

 

 ……ふぅ、スッとしたぜ。(ホモくんが)

 これで、問題ありません。後は自然回復で補えるでしょう。

 

 さて、三日目にやることですが、最初は三階を完璧にしていきます。

 残っている空き教室などをキレイキレイしてしまい、原作ぐらいまで持って行きましょう。そうすれば、セーフティエリアとなって、殺伐とした場所から戻ってきた際には回復するようになります。

 

 その後は、物資調達ですかね。掃除を終えた後ならばちょうどいい時間帯になるでしょう。

 そろそろ、女性たちの不快度が溜まり始める頃合いですからね。ホモくんが異性ということもあって、ちょっと溜まるのが早いです。

 

 一応、隠しステータスですが、普通に会話でそれらしいことを匂わせますし、表情からも察することができます。女性はいろいろと入り用だからね、仕方ないね。

 ああ、ホモくんは男の子ですので、ちょっとやそっとじゃあ問題ありません。

 

 ただ、ホモくんは良いとしても女性陣から不満の声が上がり、関係が悪くなると同時に精神的ショックを受けるので問題しかありません。ちゃんと清潔にしときましょう。(手のひらドリル)

 

 さて、コーヒーを飲み終えたところで、ホモくんには体力を回復させるためにも適度にサボらせつつ、掃除をして貰いましょう。

 

 うーん、このホモくんの場違い感。

 見ている分には意外と楽しいのですが、画面はただ掃除に勤しむ美少女たちとホモが映っているだけっていう。

 

 ですので、そんな皆 さ ま の た め にぃ~。こんな映像をご用意させて頂きました。

 

 

 

 

 

 §

 

 

 

 

「──う、そ……だろ? なぁ……うそ、だよな……?」

 

 唇を震えさせ、現実を直視できていないことを表すように、瞳を揺らす胡桃(くるみ)

 その視線の先には屋上の柵に力無く背を預け、腰を屋上の床に着けた男子生徒がいた。

 

 その男子生徒を中心に広がる夥しい量の赤い鮮血。行き場を失ったその血が柵を通り越して、下の階へと赤い滴になって落ちた。

 

 そんな重傷を負いながらも、その男子生徒は何とか顔を上げ、想像を絶する痛みを我慢しながら、目の前で涙を流す幼馴染み(・・・・)にもう一度言う。

 

「うそ……じゃねぇ、よ。もう……無理、だ。俺は……」

 

 彼が自分自身で言った通り、どう見ても手遅れだった。誰が見ようと、それが医者であろうと、彼はもう助からない。

 

 首を噛み切られ、腹部もシャツに血が滲み、左肩にも深い噛み傷。

 それだけではない。真っ青になっていく顔色。光を弱める瞳。動かなくなる指先。

 彼の見た目は徐々に死人のソレへと近づいていた。

 

 そして、それを良く分かっているからこそ、彼は薄く笑いながらもう一度言うのだ。

 

「──頼む、胡桃……お、れを……殺し、てくれ」

 

 酷なことを言っているのは分かっている。頼む相手が違うことも分かっている。

 それでも、彼は幼馴染みに殺してくれと悲願した。

 

 『かれら』と同じように成る前に。

 

「いや、だ! 嫌だ、嫌だ嫌だっ!! 何で、お前まで私を置いていくんだよっ!? お前まで、死んだら……私はっ!」

 

 一度、大切だと思っていた存在をこの手に掛けた。それだけで心が張り裂けそうだと言うのに、まだ奪い足りないと言うのか。

 

「死なないでよっ!? 置いてかないでっ! 頼む! 私から……もう、私から大切なものを奪わないでくれっ……!」

 

 胡桃は血に塗れることも気にせず、その彼に縋った。涙を流して、信じてもいない神に願った。

 だが、それも届きはしない。何故かは、自分が良く分かっている。

 

 神など存在しないからだ。存在しているのならば、こうはなっていない。

 

「──胡桃」

 

 死に際の一言。

 

 それは……彼の全てが詰まった最後の言葉は、聞き慣れた音色で紡がれる自分の名前だった。

 

「────っ、うわあああああああっっ!!!!」

 

 

 

 §

 

 

 

 

 

 ああ^~、心がぴょんぴょんするんじゃぁ^~。

 

 はい、くるみによる介錯エンドになります。決してしくじったやつではありません。ええ、はい。

 

 胡桃の幼馴染みかつ序盤の方で重傷を負い、何とか屋上に戻ってくればこのエンドが見れます。確か最速は三十分を切っていたんじゃないんですかね? 

 

 まあ、そこまで難しいものでもありませんから、くるみ好きの兄貴たちには一見の価値ありでしょう。

 多分、このくるみちゃんはバーサーカー並みに強いと思うの。

 

 さあ、そんな失敗──ゲフン、ゲフン、参考映像は置いといて。

 掃除の方は終わりましたね。この後は一休みした後に購買へと行きます。俗に言う肝試し回です。

 

 これで、めぐねえたちも夜は『かれら』が極端に少ないことに気がつくでしょう。そうした疑問から徐々に生態などが分かってくるので、積極的に動きたいですね。じゃないと、雨の日に死ぬまで耐久するはめになります。

 

「みんな、ちょっといい?」

 

 おんやぁ? めぐねえが手に持っているのは何でしょう?

 

「これ、緊急時に見るように言われてたものなんだけど……」

 

 ほーほー、ホーホー? 職員用緊急避難マニュアルですか。

 

 へえー、この学校に地下があるんだー、そうなんだー、ふーん。

 あ、本当だ。何か破れた痕がありますねぇ、ありますあります。まあ、地下は後でいんじゃなーい?

 

 ……はい。過度な棒読みも結構疲れるものです。めぐねえが首を傾げていますが、適当に誤魔化しましょう。

 

 てか、そんなことよりさぁ……時間なんだけど……購買いかない?(迫真)

 

 はい、準備して行きましょう。

 

 今回は購買にて各種生活用品や替えの制服、あと学校を焼くための布石となる風船。その他諸々を確保したら図書室へと向かいます。

 まあ、風船に関しては主人公が拾わなかったら、ゆきちゃんが自動的に拾ってくれるので問題ありません。

 

 ああっと、忘れるところでした。おやつなどの嗜好品などは多めに持って帰りましょう。こういった消耗品はショッピングモールへ行くための口実作りになります。

 

「本城、そんなお菓子好きだったっけ?」

 

 ゆきちゃん用ですけど? まあ、口実作りというのもありますが、単純にこういった趣向品は回復や精神を落ち着かせる効果があり、尚且つ手早く食べられる物が多いので重宝します。

 じゃけん、じゃんじゃんリュックサックに詰め込みましょうね~。

 

 さあ、次は図書室です。

 小説や漫画はストレス値を下げてくれますし、参考書や教科書類などを手に入れたらめぐねえの授業イベントが発生します。

 全体の好感度上げなどがそのイベントで出来ますので、旨味な良イベントと言えるでしょう。だが、本編ではキャンセルだ。

 

 この際、図書室じゃなくて学生食堂内にある厨房へ向かうことも出来ますが、敢えて今回は行きません。

 そうすることによって、また肝試しに行けますし、めぐねえたちも『かれら』の情報を集めることが出来ます。

 

「ふぅ……そろそろ戻りましょうか」

 

 そうっすねー。ぼちぼち戻りましょうか。

 人数が多いから物資を大量にゲット出来ました。これを考えると、やはり序盤でチョーカー姉貴を助ける方がメリットになりますね。

 

 今回、残念なことに全く戦闘をしませんでしたが、ショッピングモールで最低限は戦うはめになりますので、恐らく雨の日までには『剣術』を上げられるでしょう。

 その際に、『剣術』を活かせる武器も手に入るので問題ないですね。

 

 ええ、お察しの通り、準備が整い次第ショッピングモールにてみーくんこと直樹(なおき)美紀(みき)の確保に向かいます。

 雨の日の難易度が上がりますが、各キャラのコンディションを整えるためにも物資は潤沢にあった方が良いですし、先にやっておけば乗り越えた後が短縮されます。

 

 まあ、雨の日は結局のところ、如何に上手く立ち回るかが攻略の鍵となります。それこそ、プレイヤースキルの見せ所なので見とけよ見とけよー。

 

 っと、言ったところで今回はここまでです。

 ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 § § §

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──っと、大方綺麗になったかな」

 

 貴依(たかえ)は手に持った床ホウキを立てて、一息つく。

 

 視界に映るのは初期とは比べものにならないほど綺麗になった廊下。

 所々、目に余る汚れはあるものの、見違えたと言えるだろう。

 

「待て待てー!」

 

 頑張った成果を貴依が実感しているとき、屋上に上がる階段の方から声が聞こえた。

 

「こらー! 太郎丸ー!」

 

「わんっ!」

 

 駆ける太郎丸(たろうまる)とその後を追う由紀(ゆき)

 由紀の両手に軍手をしているところから、恐らく屋上でプランターの手入れでもしていたのだろう。

 

 その一人と一匹が夢中になりながら廊下を、延いてはこちらに向かって走ってきていた。

 

「うわっ! と。おーい、ゆき! 何サボってんだよ!」

 

 危うくぶつかりそうになり、ギリギリ壁側に寄って避けた貴依は、走り去る由紀の背に軽く小言をいう。

 

「ごめーん! たかえちゃーん!」

 

 返ってくる返事はとても簡素なもの。どうやら追うのに必死らしい。

 

「ったく、何してんだか……マジ?」

 

 仕方ないと言わんばかりに薄い笑みを浮かべながら視線を廊下に戻し、そして表情を反転させる。

 

 そこには点々と後を残す土の汚れ。それが、由紀の走り去った方向まで続いていた。

 

 目元をヒクつかせ、今度は違う種類の息をつく。

 後で一言いってやろうと心に決めながら、床ホウキを手に取ると同時に近くの教室の扉が開かれる。

 

「あ、本城。おはよう……って言っても、もう昼だけど」

 

 教室から出てきたのは随分と険しい表情を浮かべた幹久(もとひさ)だった。若干顔色も悪いように見える。

 

「……おはよう、柚村」

 

 返事に力が無い。気怠そうに身体を動かしつつ、生徒会室の方へと向かう幹久の背を見ながら、貴依は声を掛けようとして、辞めた。

 

 昨日のことが尾を引いて、どうも気恥ずかしいのだ。

 ただ、肝心の幹久は忘れてしまったかのように平然としていたのが少しムカつく。

 

「……私もさっさと終わらせるか」

 

 後で、由紀を揉みくちゃにしようと心に決めて。

 

 

 

「──おはよう、幹久くん。顔色悪いけど、大丈夫?」

 

 悠里(ゆうり)は生徒会室に入ってきた幹久を見て、心配そうに言う。

 それに、幹久は手を軽く振って椅子に座った。

 

「若狭、コーヒーとかあったりする?」

 

「コーヒー? ええ、あるわよ。淹れましょうか?」

 

 頼む、という返事を受けて悠里は手慣れたようにインスタントコーヒーを準備し始める。

 

「あっ、ごめんなさい。言い忘れていたけど砂糖とミルクは無かったから、ブラックしか出せないの……飲める?」

 

 コップに注いだ後に言うのは随分と手遅れだったが、悠里は申し訳なさそうにその事実を言って、コップを幹久の前に置く。

 

 それに、幹久は気にした様子も無く笑みを浮かべてお礼の言葉を口にした。

 

「ああ、ありがとう。元々ミルクは入れないタイプだし、砂糖も気分によって入れたり、入れなかったりするから」

 

 幹久は白い湯気が渦を巻いて立ち昇っていくコップを手に取り、下唇を縁に着ける。

 

「そうなんだ。私もそんなに色々と入れないタイプなの」

 

 次いでに自分の分まで用意していた悠里は幹久と対角線上になるように座り、自分もコーヒーを幹久のように口に含んだ。

 

 ──熱い。と感じた五感の後を追うように口内に広がる風味と苦み。

 舌先、舌根、喉元、食道を通って黒い液体が胃に落ち、鼻孔からコーヒー特有の香りが抜けていく。

 

 ほっ、と同時に一息ついた二人はお互いに見合って、微笑んだ。

 

「今、やってるのは掃除?」

 

「ええ、今のところはここを中心に生活するでしょ? だから、少しでも綺麗にした方が良いかな、って」

 

 救助を待つにしても、結局は安全な場所で……出来るならば快適な場所で待った方が良いに決まっている。

 

 悠里はそれに、と続けて部屋を見渡した。

 

「幸い、この学校って設備が揃っているじゃない? だから──幹久くん? やっぱり体調が悪いの?」

 

 心ここにあらず、といった風にコップを見つめる幹久に悠里は思わず言葉を切ってまで声を掛けた。

 

「えっ? あ、いや、どうも朝は弱くてさ」

 

「……そう? あんまり無理しないでね」

 

 誤魔化すように笑う幹久に悠里は不安を覚える。明らかに昨夜の時とは雰囲気が違うのだ。

 

「コーヒーありがとう。俺も手伝ってくるよ」

 

 幹久は礼を言って、生徒会室から出て行く。その背中は何処か逃げるように見えて……いや、と悠里はそんな考えを打ち消した。

 

 彼も疲れているのだ。自分よりも遙かに頑張っている。

 

 それに……弱みを見せないのは男の子ならば良くあることだと言うではないか。

 先ほどの誤魔化すような仕草も、きっとその強がりの一種だと思えば納得がいく。

 

 頼り過ぎ、なのだろうか。率先して動く彼に自分たちは頼り過ぎているのだろうか。

 

 悠里はいつまでも変わらない昼下がりの青空を見ながらそう思った。

 

 

 

 

 掃除を一通り終えた彼女たちは、各自が用意した飲み物を手にして生徒会室で一休みしていた。

 

「ふぅ、疲れた。何か、夏休み前の大掃除した気分だ」

 

「じゃあ、明日から夏休みだね!」

 

「それはちょっと違うでしょ」

 

 胡桃が話題を上げ、それに由紀が乗っかり、すかさず貴依がツッコミを入れる。

 

「えー? また一緒に遊ぼうよー、たかえちゃん」

 

「ゆき、いっつも補習だったじゃん」

 

「うっ、それは……何とかなるよ、きっと」

 

「典型的なヤツだぞ、それ」

 

 ありもしない希望的観測を口にした由紀に、胡桃を筆頭にその場にいた全員が苦笑いを浮かべた。

 

「夏休み、か……いいんじゃない? 明日から夏休みで」

 

「え、っと、それはどういうこと? 幹久くん」

 

 由紀の妄言とも言える言葉に好意的な反応を示したのは、意外にもこの中である意味、一番この現実と対面しているであろう幹久だった。

 

「こんな状況でも……いや、こんな状況だからこそ、少しは学生っぽいことしたくない?」

 

「そうだよ、みんな! 明日から夏休みにしよっ!」

 

 笑顔でそう語りかけてくる由紀と、それを微笑ましく落ち着いた様子で見守る幹久。

 何というか……孫の遊びに付き合うおじいちゃんのような物言いに、残った三人は顔を見合わせ、口元を引く。

 

「ってもなー。まだ本格的な夏じゃないし……」

 

「夏休みって、学生っぽいか?」

 

「うーん、あんまり実感がないわよね」

 

 三人とも首を捻り、余り好意的とは言えない。多数決であればこちらが負けるのは自明の理。

 由紀は唯一味方となった幹久に涙ぐんだ視線を向けて、助けを求める。

 

 そして、幹久は笑顔で言った。

 

「──じゃあ、今のナシで」

 

「もとくんっ!?」

 

 まさかの裏切りに由紀は驚愕に顔を染めた。

 さっきの肯定していた幹久は別人だったと言われて可笑しくないほどの切り替えに、由紀は少し離れた位置に座る幹久の太ももを叩いて抗議する。

 

 そのやり取りを見ていた胡桃と貴依は声を出して笑い、悠里も口元に手を当てて楽しんでいた。

 

「──みんな、ちょっといい?」

 

 そう言いながら笑い声を断ち切るようにして入ってきた(めぐみ)。その表情は何処か気難しそうにも見える。

 

「あ、めぐねえ! 職員室の方はもういいの?」

 

「ええ、重要と言えるのはコレだけだったから」

 

 慈は手に持っていた冊子を机の上に置き、全員がそれを中心にして囲うように集まった。

 

「職員用……緊急避難マニュアル?」

 

 表紙にデカデカしく校外秘と押印された薄汚れた冊子。見たことも聞いたことも無い冊子に彼女たちは首を傾げた。

 

「これ、緊急時に見るように言われてたものなんだけど……」

 

 曰わく、非常時に見るように言われていたらしく、今まさにその非常時だと慈は思って、そのマニュアルを手に取ったらしい……のだが。

 

「これだけ……ですか?」

 

 そのマニュアルを開いた悠里は、否、悠里だけでなくそれを見ていた全員がその言葉に同意する。

 

 冊子はたったの三ページほどしかなく、しかも内容はこの学校の校内図と思わしきものだけ。

 悠里がこれだけ、と思わず口を開くのも良く分かる。

 

「へぇ、この学校に地下とかあったんだ。8ページ参照って書いてるけど……」

 

「ええ、柚村さんの言うとおり。8ページどころか他にも破かれた後があるの」

 

「あ、ホントだ」

 

 慈は開いた冊子に破かれたと思われる箇所をなぞりながら思う。

 

 何故? と。

 

 単純な疑問。いや、逆にその単純な疑問しか無い。

 

 あの日、誰かしらの教職員がこれを開封したのは想像がつく。

 だが、何故これだけを残して他は破ったのだろうか。そもそも、破いた理由が分からない。破いた上で元の棚に戻したというのも、些か奇妙だ。

 

「先生は他に、何か聞いていないんですか?」

 

「ううん……非常時に、っていう以外は特に何も」

 

 悠里の問いかけに慈は首を横に振って答える。

 

 一体、誰が、何のために避難マニュアルをこのようにしたのか。

 正直にいえば皆目見当もつかず、ほぼ手詰まりとも言えた。

 

 だが、この新たな地下という存在が何かしら重要であることは確かだ。

 

「まあ、普通に考えたら避難先……だよな」

 

「もしかしたら、地下に避難した人も居るんじゃない?」

 

「そうね……可能性は十分あり得ると思う」

 

「なら、地下に行ってみる?」

 

 もし、他にも生存者が居て、地下がちゃんとした避難先であるのならば、きっとここよりはまだマシだろう。

 

 他にも外との連絡が取れるかもしれないし、別の抜け道があって、そこから助かっているのかもしれない。

 

 全てはタラレバの話だが、行ってみる価値は十分にあるだろう。

 

 だが、それに待ったをかけた人物がいた。

 

「今すぐには危険じゃないか? 結局、地下に行くにしても現状をどうにかしないと、一階の探索もままならないだろうし」

 

 幹久にそう言われ、全員が押し黙る。

 

 明日、いや数時間後に自分が生きているのかも分からない状況下で、地下に行ってみよう、というのは随分な空論とも言える。

 

 この三階でも絶対に安全が確保されているとは言い難いのだ。それが、ましてや二階、一階を通り越して地下ときた。

 

 無理じゃないにしても、無茶はしたくない。無茶をすれば死があることは身を持って知っている。

 

「じゃあ、地下に行くことを当面の目標にしましょうか」

 

「ん、了解。っと、そろそろ行くか」

 

 慈がマニュアルを閉じるのを見届けた後に、幹久は窓から見える夕焼けの空を見ながら立ち上がる。

 

「うしっ、私は何時でも行けるぜ」

 

 それに呼応するように、胡桃が近くに立て掛けたシャベルを手に取って肩に担いだ。

 

「ゆきちゃん、太郎丸は大丈夫そう?」

 

「うん、多分大丈夫! 流石の太郎丸でもあの扉は開けられない……はず」

 

「言葉の節々から大丈夫じゃないんだが?」

 

 ここにはいない太郎丸の様子を尋ねた悠里に、由紀は自信満々に答えるが、胡桃が言ったように言葉の節々から不安が垣間見られた。

 

「流石に、リードも着けずに二階までは連れていけないもんな」

 

「まあ、購買に行けばリードの一つや二つ、あるだろ」

 

「いや、無いだろ!?」

 

 貴依の言葉に何とも適当なことを言う幹久に胡桃は思わず指摘する。相変わらず突拍子も無いことを言うヤツだと思いながら。

 

 そんな和気藹々とした生徒たちの様子に、慈は心安らぐものを感じたが、これから行く先は真逆の世界だ。

 命を失うかもしれない場所に、そんな浮ついた気持ちで行かせるわけにもいかない。

 

 故に、少しでも緊張感を持たせようと慈は注意を促すべく、教師としての顔を作る。

 

「みんな、落ち着いているのは良いことだけど、バリケードを越えたら気を引き締めること! いい?」

 

「はーい!」

 

「……ゆき、そこの返事はちょっと違うんじゃない?」

 

 元気よく笑顔で返事をした由紀に、貴依は苦笑いを浮かべてそう言った。

 

 

 

 

 

 

 日が落ちた校舎の中は随分と薄暗くなっており、まるで山奥にあるトンネルを彷彿とさせる雰囲気があった。

 中央階段に設置したバリケードを越えた先は、本当に同じ構造だとは思えないほど、がらりと一変した世界が広がっている。

 

 言うなれば異空間に迷い込んだかと思うほど、雰囲気が違った。

 

 仄暗く、物々しく、恐怖を引き立てるその空間は、全員に安全地帯を抜け出したという事実を嫌でも実感させる。

 

 先頭を歩いていた幹久とその隣を守るようにして動く胡桃が左右の安全を確認する。

 

 そして、幹久がこちらに振り向き手招きした。

 

「……何か、全然いないな」

 

 小さく囁くように言った胡桃の言葉がハッキリと聞こえる。

 

 『かれら』の姿が見えないどころか、音も聞こえない。

 これを幸いと言えるのかどうか判断するには、余りにも情報が少な過ぎる。だからこそ、慎重に歩を進めていった。

 

 だが、それとは裏腹に道中は特に問題も無く購買部の前へと辿り着く。

 

 いない。『かれら』の姿が殆ど見えない。

 

 言い難い恐怖を感じながらも、少しだけ安堵し、今一度気を引き締めて内部へと入る。

 

 だが、その気張りも無駄に終わる。

 

 彼女たちを迎えたのは何の動く気配も無い、ありきたりな購買部の静寂だった。

 

 拍子抜け、という言葉が胡桃の頭の中で浮かぶ。

 何というか、馬鹿正直に息を潜め、足音を消し、慎重に慎重を重ねて行った結果が何も無かった。

 

 それは、良いことだ。何も起きなかった現実が一番いいに決まっている。

 だが、全員はそこで初めて肩透かしというのを実感した気がした。

 

「……まあ、少しゆっくりと漁れそうだな」

 

 幹久の言葉に誰も反対する者はいなかった。

 

 

「あ、チョコレートだ! ポテチもあるー!」

 

 由紀の喜色を含んだ声を筆頭に、各々必要な物を手に取ってバックに詰め込んでいく。

 

「ほ、本当にあった……ペット用リード」

 

 商品が陳列されている戸棚の末端に、ぽつんと置かれた赤色の首輪とリードがセットになった商品を手に取って、驚きを隠せない胡桃。

 

「えっと、シャンプーとボディーソープと……あっ、あと洗剤も」

 

「これも……必要よね。後、何が必要だったかしら?」

 

 最低限必要な物を事前にメモしていた悠里と慈は手分けしながら、それらをバックに詰めていった。

 

 それとは別に、もうある程度欲しいものを詰め終えた貴依は、園芸コーナーにあった高枝切鋏を手に取り少しだけ迷う素振りを見せる。

 

 先端に見える抜き身の刃を見ながら熟考して……そして、元あった場所に直した。

 

 そのまま、特に考えも無く歩き回っていると、由紀の近くで同じようにリュックサックにお菓子を詰める幹久の姿が目に映った。

 幹久は選別もしないで目に付いたものを手当たり次第にリュックサックに押し詰めていっていた。

 

 異常とは思わなかったが、幹久がそういったものを好んでいるとは知らず、つい貴依は声をかける。

 

「本城、そんなお菓子好きだったっけ?」

 

「ん? いや、そこまで」

 

「えっ、じゃあ何で?」

 

 好きでも無いものをがむしゃらにリュックサックに詰める……全くもって、行動と原理が一致していない。

 

 貴依がそのことを指摘すれば、返答の代わりに差し出される一つのお菓子。

 その小さく、棒状のお菓子を差し出されるがままに受け取った貴依は、やはり意味が分からず首を傾げた。

 

「あ、それ! うんまい棒!」

 

 埒外からの反応。何故か風船が入った袋を片手に現れた由紀にぎょっとしたリアクションを取る貴依。

 

 そんな貴依を後目に、幹久は由紀にうんまい棒と呼ばれるお菓子を差し出す。

 それを由紀は嬉しそうに表情を綻ばせて、直ぐさま開封するとともに口に含んだ。

 

「……まさかと思うけど、このため?」

 

「まあ、柚村も食べてみろって。意外と美味しいから」

 

「食べた後なのか……」

 

 逆だった。由紀から伝染した何かしらのものに幹久が感染し、彼も同じようにお菓子を詰めるようになったらしい。

 

「おーい、そろそろ行こう──って、うんまい棒!?」

 

 予定通り、必要なものを集め終え胡桃が幹久たちを呼びに来たとき、その三人が同じような表情を浮かべて、同じお菓子を食べている光景は何ともシュールだった。

 

 そんなやり取りもほどほどに、全員はそのまますぐそばにある図書室へと向かう。

 こちらも幸い、『かれら』の姿は無く、スムーズに目的を果たせそうであった。

 

「何か、今の状況に役立つ本があればいいけど」

 

「少し前にあそこら辺でサバイバルブックを見た気がする」

 

「見てみて、貴依ちゃん! この漫画面白そうじゃない?」

 

「漫画はいらないだろ」

 

 図書室は元々、漠然としたものを欲していたため、目的の品が見つかり次第退散する予定だったが、予想よりも早く目的の品が見つかったので全員は少しだけ一息ついた。

 

「──ふぅ……そろそろ戻りましょうか」

 

 慈が軽く両手を叩いて注目を集めつつ、少しだけ疲労が浮かんだ表情でそう言った。

 

「これだけあれば、明日からはもっと快適になりそうだな」

 

 胡桃は各々の成果を見つつ満足げにそういう。

 各種生活用品に趣向品。ちょっとした替えの服にバリケードを強化できそうな素材など、明日からの生活は見違えるだろう。

 

「幹久くん、大丈夫?」

 

 そのとき、横で顔を伏せていた幹久に悠里は声をかける。

 昼の時から幹久の様子を気に掛けていた悠里は、ちょっとした変化も気がついていた。

 

「ん……いや、大丈夫。ちょっとぼーっとしてただけ」

 

 顔を上げ、無理をするように笑う幹久。

 

「おいおい、本当に大丈夫かよ?」

 

 胡桃の言葉に幹久は何時ものように片手を振りながら、壁に預けていた背を離す。

 

「大丈夫だって。さっ、早く帰ろう、めぐねえ」

 

「だから、皆の前ではめぐねえじゃなくて佐倉先生でしょ?」

 

 リュックサックを背負い直し、右手に金属バットを持つ幹久は誰よりも先に扉の方へと立つ。

 

 気のせい……だったのかもしれない。

 

 疲労の色は見える。だが、それは全員にも言えることだ。幹久だけじゃない。

 

 何とか沈没を免れている船の上で、懸命に自分が出来ることをしている。全員が必死に生きようとしている。

 肉体的にも、精神的にも疲れているのは自分でも良く分かり、それは他の皆も同じこと。

 

 少し昼のことを引きずり過ぎているのだろう。気にしすぎと言うのも迷惑な話だ。

 

 大丈夫。状況が落ち着けば無理をする必要も少なくなる。そうなれば......。

 

 悠里は慈たちの背を追いながら、漠然と浮かぶある考えを形にすべく脳を回転させた。

 

 

 

 

 

 




これは、4対6です。だれがどういようと、RTA風が4で小説パートが6ですね。

あれもこれも書きたい描写があって、それに加えて描写しないといけない箇所があって......まあ、お察しの通りです。

次回から出来る限りトントン拍子に進んで行く予定。さっさと再走したいんじゃぁ~。


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Part7 彩る非日常



感想、評価並びに誤字脱字報告ありがとうございます。

今回も長くなったのでぶった切りました。




 

 

 お菓子こそ至高な実況プレイ、はーじーまるーよー。

 

 

 前回、購買から帰ってきたところからスタートです。

 

 ただ、残った時間でやることはバリケードの強化ぐらいですかね。購買で手に入れたロープ等を使ってガチガチに補強しましょう。

 ……おーけー、大丈夫でしょう。後は、また深夜の見張りを申し出て寝ます。

 

 やっと、真夜中の探索と経験値を稼ぐことが出来そうです。前々回は悉く邪魔され、職員室に行くはめになったかと思えば、ホモくんが弱体化して……本当に散々な目に遭いました。

 

 しかーし! 今回こそ大丈夫です。全員、前回の肝試し(物資調達)で疲れていますから、イベントは起きません。ホモくん? 知らない子ですねぇ。

 

 ただ、やっぱりホモくんの弱体化が痛いです。戦えないこともないですが、正面切っての戦いは避けたほうが良さそうですね。余りにも不安要素が多いです。

 

 ここは、大人しく暗殺を中心に戦った方が良いでしょう。囲まれたら即撤退します。

 後、出来れば地下の様子も確認しておきたいんですよね。

 どうやって迷い込んだか知りませんが、逃げ込んだ際に『かれら』がいたりする場合があります。

 疲労が蓄積された状態で相手取るのは難しく、危機を脱した直後ということもあって油断も隙も多いです。

 

 なので、一人で動けるときに確認しておきたいんですよね。それこそ、称号を獲得する寸前で誰かしら逝ってしまうかもしれません。

 

 目標は地下の確認およびに安全確保。それと同時にサブとして『剣術』の──

 

「──今日はもういいんじゃないか? 大丈夫だろ」

 

 おっ、そうだな。(適当)

 

『剣術』のレベルを上げることを視野に入れて、行動していきましょう。

 正直、幼馴染みシステムで最も大切だと言われる技能(スキル)を獲得出来ていないため、ショッピングモールの攻略が非常に難しくなっております。(Part1参照)

 

 それに加えて、ホモくんの弱体化。徐々に回復してはいますが、それでもショッピングモールの攻略は鬼門とも言え…………ん?

 

 ちょ、あれ? ホモくーん? 寝床に入るのはまだ早いって。

 

 夜はこれから……くそっ、動けこのポンコツが! 動けってんだよ!?(懇願)

 

 ああっ!? そういうことか! 『かれら』が一人もいなかったから──

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……おはようございます。

 

 清々しい、良い朝ですね。全然回復していませんが。

 

 このように、夜の内に『かれら』の存在を確認できていなかったら警戒心が薄れます。

 そうなると、初回は強制的に全キャラが就寝しちゃいます。来ないと分かっているのに見張り立てても意味無いですからね、仕方ないね。

 

 加えて、今度から見張りという概念そのものが無くなります。これは、『かれら』の生態の第一段階を理解したという証です。

 これによって、次回から見張りを立てる必要が無くなり、より良く体力等を回復出来るようになるでしょう。

 

 つまり、言ってしまえば今回から原作のような生活が本格的に始まります。

 まぁ、こちらとしてはマズ味ですね。通常プレイならまだしも、効率を重視するのならば、余りやらない方がいいです。

 

 さて、失敗を悔やんでいても先には進みません。ですが、ちょっとした憂さ晴らしはします。全員をたたき起こしましょう。(ゲス顔)

 ほら、起き──

 

「──んっ」

 

 ヌッ、めぐねえは起きてしまいましたか。流石は社畜の鑑でもある公務員ですね。格が違いますよ。

 じゃあ、改めて他の皆を叩き起こし……なに、どうしたの、めぐねえ?

 

 んー、話があるようですね。ここは素直に従いましょう。恐らくイベントです。

 まあ、これは所謂アレです。幼馴染みイベントってヤツです。めぐねえとの関係性は『従姉』ですから、従姉イベントと言ったところでしょうか。これもうわかんねぇな。

 

 こういう風に、状況が落ち着けば関係性に伴ったイベントが発生します。

『恋人』ならば、二人っきりでイチャイチャしたり、一つ下の『親友』であれば、好感度次第では告白イベントだったり……関係によって大きく内容が変わります。

 

 この場合は……何でしょうかね? 従姉は流石に分かりません。

 

「こうしてゆっくり話すのも、何か久しぶりだね」

 

 ふーん、ただの従姉弟同士というか、姉弟同士の会話みたいなものですね。

 生徒会室でコーヒーを飲みながら仲睦まじく会話をしていますが、(こちらとしては知ったことでは)ないです。

 なので、この状況を利用して今日の動きを軽く説明しましょうか。

 

 今日は、こういったイベントを消化しつつ、食料調達へ赴きます。

 あのSAN値直葬マニュアルのせいで、各種パラメーターが大分削れてしまっていますが、時間経過とともに微量ながら回復していますので、余程のことが無い限り大丈夫でしょう。

 

 コーヒーやお菓子、後は好物などによって多少は改善できるので、今のところ何とか戦えそうです。ただ、睡眠時の回復が平均以下だったのがちょっとネックですね。

 やはり、根本的な解決をしない限り雨の日は危険か……。

 

 私の経験上、後少し回復してくれればショッピングモールも何とか攻略出来るはずです。

 ですので、今日中にホモくんには英気を養ってもらい、明日にはショッピングモールに……延いてはみーくんの救助に行けたら良いなと思っています。

 

 ただ、現状として行くためのフラグが何とも微妙なんですよね。

 一応ながら規定を満たしてはいますが、確実に行けるかと言うと微妙なところです。

 何だかんだ言って、チョーカー姉貴や太郎丸が序盤からいますので、フラグの一因ともなる物資の枯渇は問題ないのです。

 

 ですが、学生食堂内部にある厨房の食料庫(大型冷蔵庫)を襲撃して、手に入る食料次第では行く必要性が無くなります。

 潤沢にあった場合は高確率で行く必要性が無くなり、少ないのであれば問題無く行けるでしょう。

 ただ、その量が中途半端であれば説得次第で行けたりします。くっ、ゆきちゃんが幼馴染みならば『話し上手』の技能が取れたのにっ……!

 

 ……よし、予定変更です。今日中に頑張ってゆきちゃんの好感度を上げます。

 

 今日中に技能を手に入れることは難しいかもしれませんが、好感度が高ければ擁護してくれることがあります。

 つまり、『話し上手』のゆきちゃんを側に置いて説得できるということ。その場合、確率が上がりますし、『話し上手』で更に確率アップです。

 最低でも『親友』まで持って行ければ擁護してくれるはず。

 

 食料庫がある厨房の方は、明日に行ってもまだ雨の日までにはギリギリ間に合いますので、今日は積極的に交流を図っていきましょう。

 今のところはヒーローとして順調(?)なので、好感度に関しては問題ないはず。そこっ! ヒーロー的な行動してた? とか言わない!

 

 確認のためにも軽ーく、ここでステータス画面を開きましょう。

 えーっと、現在の関係性は……。

 

 

 糸目のまま笑顔を浮かべているりーさんは『友人』。

 

 キリッとした笑顔を浮かべているくるみちゃんは『親友』。

 

 にぱーっとしているゆきちゃんは『友人』。

 

 純真な乙女の笑顔を浮かべているチョーカー姉貴は『親友』。

 

 相も変わらず満面の笑みを浮かべているめぐねぇは『従姉』。

 

 

 めぐねぇの『従姉』というパワーワード感よ。まるで姉を名乗る不審者を彷彿とさせますね。

 

 いや、違う。そうじゃない。

 

 りーさんは分かる。くるみちゃんも分かる。ゆきちゃんも分かる。めぐねえはそもそも変わってないからスゲーよく分かる。

 

 だが、チョーカー姉貴はどういう事だああ~~~~っ!?

 なんで『恩人』じゃあねぇーんだよォオオオオオッ!!?

 どういう事だ! どういう事だよッ!?

 

 ……ふぅ、失礼。取り乱しました。ちょっと、振り返って見ましょうか。

 

 圧倒的な恐怖と命の危機を感じているところに颯爽と現れるホモくん。

 それによって助かったチョーカー姉貴は、腰を抜かしてしまい、そのままホモくんの背中に乗って救出された……と。

 

 これは……普通に『恩人』になるのでは? というか、通常プレイではこれで『恩人』になるはず何ですけど……んん~?

 …………まま、ええやろ。こっから『恩人』になるから。(震え声)

 

「ふぁ~……あっ、お、起きていたのね、幹久くん。それに、先生も」

 

 さて、貴重なりーさんの欠伸をスクショしたところで幼馴染みイベントも終わり、ぼちぼちみんな起きてきましたね。全員が揃ったところで軽く朝食と行きましょう。

 

 まあ、野菜中心のものになりますが、前回の購買で取ってきたお菓子等がありますので、まだマシと言えます。

 

「わーっ! お菓子だー!」

 

「朝からお菓子か……」

 

 ゆきちゃんが好きだからです。

 

「……きゅうりの横にうんまい棒があるのは何でだ?」

 

 ゆきちゃんが好きだからです。

 

「幹久くん……あの、レタスの上にポテチを置くのは、ちょっと……」

 

 ゆきちゃんが好きだからです。

 

「ま、まあ……多少はね? 仕方ないところもあるし、お昼はちゃんとしたものだから」

 

 ゆきちゃんが(略)。

 

 いやぁ、コレばっかりは仕方ないですね。そういった技能なんて持ってないんで、軒並み酷評を貰ってしまいます。そもそも、(料理じゃ)ないです。

 

 だが、しかーし。

 

「いただきまーす!」

 

 お前の事が好きだったんだよ! (大胆な告白)

 そう、ゆきちゃんなら喜んで食べてくれます。かわいいし、優しいし、こんなことで好感度が上がるとか、天使かな?

 

 さて、お菓子(・・・)な朝食を済ませたら、ゆきちゃんと一緒に土いじりと行きましょう。

 ゆきちゃんのすることが土いじりなら土いじりをし、太郎丸と遊ぶというのなら太郎丸と遊びます。

 

 つまり、ゆきちゃんのすることに追従する形で動いていきます。これも、好感度稼ぎのため……誰だよ、ヒーローすれば好感度がガバらないとか言ったヤツ。

 

 え? お前だろって? 仰る通りです。

 

 話は戻りますが、この土いじりという名の菜園の手入れ、これは生命線の一つなので割と重要です。

 なので、ちゃんと専門家であるりーさんの指示に従いましょう。下手をするわけにはいきません。

 

「幹久くん、そこの培養土持ってきてくれない?」

 

 了解しました! ホモくんにお任せ下さない!

 

「おお~! もとくん力持ち!」

 

 ダルルォ!? 上限削れていようがコレぐらいなんてことないっスよ。

 

「じゃあ、今度はこっちにもお願いできる?」

 

 おっしゃ、土は任せろー。(バリバリ)

 ……ふぅ、こんなもんですかね。

 

「ありがとう、助かったわ」

 

 ……あれ、これりーさんの好感度が上がっただけじゃね? それはいけません。ほら、ゆきちゃん、お菓子よー。

 

「ありがとう!」

 

 可愛い。ゆきちゃんの好感度上げたいなら、やはりこの手に限りますね。

 

 さて、もう昼なので昼飯にしましょう。

 

 

 っと、言ったところで今回はここまでです。

 ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 § § §

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──よし、こんなもんだろ」

 

 胡桃(くるみ)の前には積み上げられた机の壁と、それを押し固めるようにロープの線が蜘蛛の巣のように張り巡らせている。

 それを、軽く指で弾くように触れば、弦楽器にも似た音が鼓膜を揺らした。

 

「くるみ、そっちはどう?」

 

 ちょうど階段を上がろうとした胡桃に上から声がかかる。

 胡桃が階段を昇りながら顔を上げれば、こちらを見下ろす悠里(ゆうり)と視線があった。

 

「こっちは大丈夫、そっちは?」

 

「ええ、こっちも問題なさそう。これで多少は安心出来るわね」

 

 二人は足並みを揃えて月明かりに照らされる廊下を歩く。

 そして、前方に見えてくるのは小さい正方形の形をした人工的な光。それが、生徒会室の扉から伸びていた。

 その人工的な光が漏れている扉を開けば、「おかえり!」と元気の良い声が二人を出迎える。

 

「おかえり、二人とも。大丈夫だった?」

 

「おう、アレだったらそう突破されることも無いだろ」

 

 (めぐみ)の言葉に胡桃は自信満々に答えて、椅子に座った。

 あれほど頑丈な壁だ。『かれら』と対峙したことがある胡桃は、束になって迫ってきても大丈夫だろうと率直に思った。

 

「まあ、でも一応は見回った方がいいよな」

 

 長机を二つ合わせた大机を囲むようにして座る全員に、幹久(もとひさ)は視線を向けながら言う。

 

「でも、二階にアイツら居なかったけど?」

 

 大机の中央に置かれたチョコレート菓子を手に取りながら、貴依(たかえ)は言葉を返す。

 

「……そうね。確かに、姿が見えなかったわ」

 

 悠里もそれに合わせて中央のお菓子に手を伸ばして、貴依の主張に同意をする。

 

「なんで、居なかったんだろうね?」

 

 既に大量のビニールの包みを目の前に広げる由紀(ゆき)は、手に持つお菓子を口にしながら疑問を告げた。

 

「何で……でしょうね。もしかして夜は帰っている、とか?」

 

 由紀の疑問に眉間の皺を寄せ、深く思考を巡らせる慈は中央のお菓子の山に自然と伸びる手に気がつき、ちょっとだけ恥ずかしそうにしながら小さい物を手に取った。

 

「今日はもういいんじゃないか? 大丈夫だろ」

 

 最後にうんまい棒を手に取った胡桃は大雑把に幹久の提案をそう締めくくった。

 

「本城、気持ちは分かるけど……身体が持たないんじゃない?」

 

 胡桃の言葉に続くようにして言った、貴依の言葉に幹久を除く全員が同意するように首を縦に振った。

 

 ほぼ全員が前のような睡眠を取れていない。

 何かと忙しい慈は似たようなことがあれど、学生の身でこのようなサイクルで睡眠をすることなど、経験に無かっただろう。

 

 故に、その身体と脳は想像以上に疲労を蓄積していた。

 

「……だな。扉を完全に閉め切って、朝確認する感じで行くか。それで問題ないよね、めぐねえ?」

 

「……えっ? そ、そうね! 今日はゆっくりと休みましょうか」

 

 視線が中央にあるお菓子に向いていた慈は慌てたように、幹久の言葉に反応する。

 それは、誰がどう見てもお菓子を欲しているのが分かった。

 

「どうしたの、めぐねえ?」

 

「めぐ……先生も遠慮せず食べればいいのに」

 

 由紀と貴依の言葉に慈は肩をビクつかせる。

 その慈の仕草に思い当たることがあった幹久は、気がついたことそのまま口にした。

 

「ああ、確かにこんな時間帯にお菓子とか食べたら太るかもね」

 

「うっ!」

 

 頬杖をつきながら、何気なく言った幹久の言葉に反応する慈。

 否、反応を示したのは慈だけでは無かった。

 

 中央に伸びた手を瞬時に戻す者。お菓子を口に含もうとしたまま固まる者。そっと自身が食べたお菓子の包みを隠す者。下を向いて押し黙る者。

 全員、反応は違ったが、共通して押し黙り、お菓子に手を伸ばさなくなったのは確かだ。

 

「……ごめん。デリカシーに欠ける発言だった」

 

 近しい存在に向けて言った言葉が、この場にいる全員に効いてしまったことを瞬時に察した幹久は、同じように下を向いて謝罪の言葉を口にする。

 

「本城……アンタ、空気読めないとか良く言われない?」

 

「……良く言われる」

 

 その貴依の指摘に答えた幹久の言葉を最後に、その事に触れる者は誰もおらず、そのまま各々やるべき事やって床に就くのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んっ」

 

 慈は朧気な視界を揺らしながら、上半身を起こす。

 視界、意識、どちらも鮮明になった辺りでもう朝になったことを認識する。

 

 そして、その視界の端で動くものを確認して小さくか細い声で言った。

 

「──おはよう、もとくん」

 

「おはよう、めぐねえ」

 

 体操服の上着の袖を腰に巻いて、背伸びをしている幹久を視界に収めながら慈も同じように上半身を伸ばした。

 

 そして、幹久は他も起こそうと行動に移そうとするが、それを慈は唇に立てた指を当てて制止の意を示す。

 首を傾げつつも、素直に応じた幹久に慈はまたジェスチャーで隣の生徒会室に行くように指示をした。

 

 幹久を先に行かせ、自分もなるべく音を立てないように準備すると部屋を出て、待っているであろう生徒会室へと向かう。

 扉を開けば、鼻先を擽るコーヒーの香りと人工的な光とはまた違う暖かみのある朝日が慈を出迎える。

 

「どうぞ」

 

「ありがとう」

 

 席に着くと同時に目の前に置かれるコップ。

 それを両手で包み込むように触れば、じんわりと手のひらを通して感じる熱さ。

 

 幹久も慈の前に座り、コーヒーに手をつける。

 

「こうしてゆっくり話すのも、何か久しぶりだね」

 

「入学式以来だっけ?」

 

「えー、覚えてないの? 去年の正月以来だよ」

 

 それを聞いても、未だに首を捻る幹久に慈は仕方ないかと思う。

 あの時、話したのは取るに足らない事だったのだから、忘れていたとして可笑しくは無いだろう。

 

 学校はどうだとか、友達と上手くやっているのかとか、今思えばまるで母親のようなことを聞いていたと思う。

 

 そんなつもりは無いのに、つい気になって聞いてしまうのだ。

 

「本当に……随分と大きくなったね」

 

 気がつけばそんな言葉が口に出ていた。自分でもビックリするほど勝手に出た言葉に幹久は目を丸くし、そして笑った。

 

「ははっ、お母さんかよ。めぐねえは逆に老けたな」

 

「むっ、もとくん! 例え、近しい仲でも言っちゃいけないことがあるんだよ!」

 

 それこそ、女性に対してそれはNGワードの一つと言っても過言では無い。昨日のこともそうだ。女性が気にしていることを口に出して言うなど……。

 

「ごめんごめん、今度から気をつけるよ。親しき仲にも礼儀あり、だもんね」

 

「……ちゃんと分かってるのに、体現出来てないのは減点かな~」

 

 そう言うと彼は何も言わず笑顔を見せる。

 

 昔からそうだった。悪戯がバレた後はそうやって屈託のない笑顔を浮かべる。

 それに、みんな毒気を抜かれて怒ることが出来なくなる。

 

 しょうがない、仕方ない、と彼の笑顔に釣られてこちらも笑顔が浮かんでしまうのだ。

 

 彼の笑顔はきっとこの状況でも前を向かせてくれる力がある。

 なら、私に出来ることは……大人として子供の笑顔を守るのは当然の義務だ。

 

「もとくん、絶対に何があっても守るから……ううん、みんな守ってみせるから」

 

 それは何時の日か心に決めた一つの意地。今、それを口にしたことによって、その意地は覚悟へ変わった。

 何が何でもこの子たちだけは守ってみせるという覚悟へ。

 

「…………そっか。なら俺はめぐねえを守るよ。どんなことからも、俺が守る。それなら皆でハッピーエンドを迎えられる、かな?」

 

「──……もうっ、そこは自信持ってハッピーエンドって言わないと」

 

 少しだけ小っ恥ずかしく感じた慈は、それを隠すようにコップを口元に持って行く。

 その様子に気がついた幹久も、自分が随分と恥ずかしいことを言ったことに気がつき、同じようにそっぽを向きながらコーヒーを口にした。

 

 気まずい空気がその場を包む。何か、話題を振ろうと慈が口を開いたその瞬間。扉が開かれ、眠たげな表情を浮かべた悠里が入ってきた。

 

「ふぁ~……あっ、お、起きていたのね、幹久くん。それに、先生も」

 

 二人がいたことに気がついた悠里は咄嗟に開いた口を手で隠す。

 まだ慈は良い。だが、幹久、異性ともなれば話は変わる。

 

 眠気が急速に羞恥へと変わり、顔が自然と赤らんだ。

 

「おはよう、若狭」

 

「おはようございます、ゆうりさん」

 

 二人は何も見なかったように朝の挨拶をする。

 

「おはよう、ございます」

 

 それはそれで嬉しいが、恥ずかしさというのは見て見ぬフリをしてくれる気遣い、というのが助長させるものである。

 

 そんな悠里の気持ちは余所に、その背を追うようにして胡桃や貴依と言った残りのメンバーも起きてきた。

 

「おはよう、三人とも早いな」

 

「……おはよう」

 

「おは、よう……」

 

 それぞれ、何時もの場所の椅子に腰を下ろす。未だ眠たそうな由紀は椅子に座った途端、上半身を机に倒した。

 

「朝食にするか。若狭、野菜あったっけ?」

 

「ええ。というか、野菜しか無かったと思うけど?」

 

 幹久に言われるがまま、悠里は収穫していた野菜を並べていく。

 その前で顎に手を当て、眉間の皺を寄せながら何かを考える幹久は、ふと天啓を得たかのように持っていたリュックサックを漁りだした。

 

 そして、そこから取り出したのは何種類かのお菓子。

 

「──こんなもんかな」

 

 紙皿に盛り付けられた野菜に加わるスナック菓子。随分と異質で、違和感を禁じ得ない。

 

 そして、その朝食に各々は多種多様な反応を示した。

 

「わーっ! お菓子だー!」

 

 好意的な反応を示す由紀は野菜と共に添えられたお菓子の数々に瞳を輝かせる。

しかし、好意的な反応を示したのはその由紀だけ。

 

「朝からお菓子か……」

 

「……きゅうりの横にうんまい棒があるのは何でだ?」

 

「幹久くん……あの、レタスの上にポテチを置くのは、ちょっと……」

 

 諦観に近い何かを思う者。少し的を外れた疑問を抱く者。野菜への冒涜だ、とでも言いたげな表情を見せる者。

 

 反応は違えど、気持ちは大体共通していると言ってもいいだろう。

 

「ま、まあ……多少はね? 仕方ないところもあるし、お昼はちゃんとしたものだから」

 

「野菜だけよりかは、マシだろ?」

 

 確かに、マシではある。理屈は分かるし、理解も出来る。

 だが、これは……と、余りにも異質で見たこともない光景に口を閉ざしてしまう。

 

「──いただきまーす!」

 

 ただ、由紀は喜々爛々とその朝食を口にした。

 そんな由紀の姿を見れば、拒絶を示した三人も渋々と手をその朝食へと伸ばす。

 

 味に関して、まあ、相反する二つを合わせないで食べれば問題は無い。それに、確かに味気ない野菜だけの食事にお菓子が加わっただけで、随分と見違えたようにも思えた。

 

 そんな変わった朝食を終えた全員は各々やるべきことを決めるため、飲み物を片手に話し合う。

 

「私は、あのマニュアルが他に無いか職員室を探してみるね」

 

「ああ、じゃあ私もそれ、手伝うよ」

 

 慈と貴依は他に職員用緊急避難マニュアルが無いか探しに職員室へ。

 

「見回りは私に任せてくれ。終わったら、そっちと合流するよ」

 

 胡桃は見回りとバリケードの確認及び慈たちの手伝い。

 

「なら、私は畑の手入れね」

 

「私も手伝うよ、りーさん!」

 

「同じく。力仕事もあるだろう」

 

 残りの悠里、由紀、幹久は今や生命線の一つとも言える屋上の菜園の手入れへ。

 

「じゃあ、今日はそれで行きましょう。あっ、お昼にはまたここに集まってね」

 

「「はーい」」

 

 慈の言葉を締めとして全員が、先ほど言った目的のために動き始めた。

 

 

 

 澄み渡る青空に燦爛と浮かぶ太陽が、屋上で育てられた植物たちを照らす。

 心地の良い晴れ模様のなかで、額に汗を浮かべながら作業をする悠里は一息つきながら、首に巻いたタオルで顔を拭く。

 

「こんなものかしら」

 

 何時ものように、こんな状況になる前からやっていたことを何処か新鮮な気持ちでやっていた。

 

「りーさん! 変な虫がいる!?」

 

「クウゥ……」

 

 そんな声が明後日の方向から聞こえてくる。

 声のした方向へ振り返ればしゃがみ込みながら、太郎丸と一緒にその虫を恐れながら見ていた。

 

 変な虫……悠里からすれば虫そのものが変なものに感じる。そして、由紀が言う変な虫とは恐らく何度も見たことがある種類のものだろうと確信を持って思った。

 

「ゆきちゃん、別に気にしなくていいわよ」

 

 故にそう言う。既に対策をしていることに注意を割く必要が無い。

 

「幹久くん、そこの培養土持ってきてくれない?」

 

 今度は逆の方向に視線を動かし、そう言った。

 

 すると、そこで同じく作業をしていた幹久は声に反応し、視線を一度自分に向けて、そのまま端に積み上げられた土のうに移動させる。

 

「一個?」

 

「そうね……二袋お願い出来るかしら?」

 

 幹久は一旦作業する手を止めると、土のうがある方向へ赴き、そのまま二袋いっぺんに持ち上げて見せた。

 

「おお~! もとくん力持ち!」

 

 由紀から感嘆の声が上がる。

 

 男子、それも運動部に所属しているのだから普通かもしれないが、土のうの重さを知っている悠里は由紀と同意見の言葉を心の中で思った。

 

「ここでいい?」

 

「ええ、ありがとう。流石は男の子ね」

 

「どういたしまして」

 

 特に誇示する訳でもなく、世辞の言葉も淡々と受け取る姿勢は一見冷たいように思えるが、悠里からすれば好印象の分類に入る。

 

 だからだろうか。つい、それに頼ってしまう。

 

「じゃあ、今度はこっちにもお願いできる?」

 

「こっちに二つ? 了解」

 

「私も手伝う!」

 

 また同じように二つ持とうとする幹久にストップをかけた由紀は、張り切るように土のうを持とうとし、想像以上の重たさに「重いぃ~」と苦悶の声を上げた。

 

 それを横で見ていた幹久はその姿に加虐心でも刺激されたのか、由紀の持つ土のうを片手で支えたり、支えなかったりして反応を楽しみ始めた。

 そして、その行動に由紀が怒るギリギリを見計らって二つとも持ってみせる。

 

 それに何とも言えない表情を浮かべる由紀だったが、その表情の節々には楽しさのようなものが滲み溢れているのは見れば分かった。

 

「二人ともー、遊んでないでさっさと終わらせましょう」

 

「はーい!」

 

「りょーかい」

 

 間延びした返事が返ってくる。

 前の時が楽しくなかったわけではない。学校行事よりかはやりがいもあったし、楽しいとも感じていた。

 だが、今の悠里は前の日常より充実感を得ていた。

 

 何とも皮肉なことだ。非日常が日常を彩るスパイスとなるなど、考えたことも無い。

 不安はずっとある。ふとした時に恐怖で身体が竦むこともある。

 

 しかし、それでも今この時間は罪悪感を抱くほど、充実した何かを感じていた。

 

「ありがとう、助かったわ」

 

「ふっふっふっ、これぐらいどうってことないよ」

 

「わんっ!」

 

 得意げに胸を張る由紀と肯定するように吠えた太郎丸。

 

「いや、運んだの俺……」

 

 隣で土のうを地面に下ろした幹久は、信じられないとでも言うようなそんな言葉を零した。

 クスッと思わず笑みが零れる。こんなたわいもないやり取りが殺伐とした状況を彩らせるのだ。

 

「──むっ、それは!」

 

「幹久くん、お菓子持ってきてたの?」

 

 作業を終わらせ、校舎内に戻ろうとしたときのことだった。

 唐突に幹久が何時ものリュックサックからお菓子を取り出して、誇らしげに由紀と自分にお菓子を手渡してきたのだ。

 

「ありがとう!」

 

「え、ええ……ありがとう」

 

 何故? という疑問と同時に、やっぱり男の子って良く分からない、と悠里は心の中で思った。

 

 

 

 




ポイントは純真な乙女の笑顔。チョーカー姉貴はもっと流行っていい。流行らせコラ!


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Part8 回顧の日常



感想、評価並びに誤字脱字報告ありがとうございます。

今回、短い上に色々とゴリ押しなところと、変なところがあります。実況風というか、醍醐味でもある前半のパートがすっからかん過ぎてヤバイ。


 

 

 大いにガバっていく実況プレイはーじーまるーよー。

 

 あー、腹が減ったメシだ、メシ。といった具合に生徒会室に戻ってきたところからスタートです。

 まあ、言っても惣菜パンとか何ですけどねー。因みに夕飯はカップラーメンになります。

 

「皆、昼から気張らしに勉強でもしませんか?」

 

 おっ、前々回言っていた授業イベントですか。うーん、グッドタイミングです。流石めぐねえ、分かってるー。

 

 さて、授業イベントですが提示された問題は出来る限り答えていきましょう。衒学(げんがく)的な人間は嫌われますが、今回の場合に限り好感度が上がります。簡単な問題であってもドヤ顔してやりましょう。

 

 学力に関しては完全にランダムですが、幼馴染みシステムを採用していると、キャラによって加算されたりします。

 今回、めぐねえということもあって学力に関しては問題なさそうですね。でも、りーさんとみーくんには負ける模様。教師が従姉だというのに、この体たらく。

 

「──この語句の読み方が分かる人?」

 

「はい! ときどきあめ!」

 

「ある意味、正解……か?」

 

「えっ、違うの!?」

 

 うん、可愛い。それ以外の言葉はフヨウ! 終わり! 

 因みに答えはしぐれ、ですね。止まない雨はないよ……by 時雨。

 

 そんなこんなでイベントを消化しつつ、好感度を上げてきましたが、果たして……。

 

 

 ちょっと照れ顔のりーさんは『友人』。

 

 キリッとした笑顔をしているくるみちゃんは『親友』。

 

 にぱーっとしているゆきちゃんは『友人』。

 

 純真な乙女の笑顔を浮かべているチョーカー姉貴は『親友』。

 

 相も変わらず満面の笑みを浮かべているめぐねぇは『従姉』

 

 

 ウゾダドンドゴドーン!! 

 

 りーさんが照れただけじゃねぇか!?

 

 はぁ......(クソデカため息)うせやろ? あほくさ。辞めたらこの── 

 

「ねっ! キャンプしよ! キャンプ!」

 

 ──オッケー、準備は任せろ。(手のひらくるー)

 

 と、勢いで言いましたがキャンプするフラグいつ立った? 別に雨とか降っているわけじゃないし……まあ、いいか。

 これは、神様がくれた救済処置に違いありません。ありがたく使わせていただきましょう。

 

 キャンプは、本来ならば二回目以降の雨の日に起きるイベントです。

 これは、授業イベント同様に全員の好感度を上げてくれる上に、睡眠時の回復量も跳ね上がります。理由は分かりません。

 

 後は、積極的にゆきちゃんに話しかけて好感度を稼ぎましょう。

 

 えーっと、確かここら辺にテントが……小さい、小さくない?

 

 ホモくん、めぐねぇ、ゆきちゃん、くるみちゃん、りーさん、チョーカー姉貴、太郎丸……五人の定員にして六人プラス一匹ですか。

 まあ、太郎丸は数に含めないにしても、誰かは仲間外れになりますね。

 

 うーん、ここまで来てイベント自体を無くすわけにも行きませんし、ホモくんを抜かせば本末転倒……。

 よし、ここはめぐねえ一択ですね。好感度が一番高いですし。

 

「──じゃあ、よろしく本城。 まあ、後で差し入れするからさ」

 

 んなことだと思ったよ、コンチクショー!

 次はもう助けてやんねーからなっ! 覚えてろよ! 

 

 しかし、この好感度で除け者とは……ホモくんだから? ホモがくんだからいけないのか? ホモをちゃんにすれば──

 

「──わんっ!」

 

 おお、太郎丸……お前だけが唯一の──イタッ!? 甘噛みじゃない!? あっ、ちょ、そのリュックサックを漁らないでぇー!?

 

 畜生ォ!! 持って行かれた……!!(お菓子)

 

 はぁ……仕方ありません。食料庫(大型冷蔵庫)がすっからかんなことを祈りましょう。

 はい、じゃあ、もう寝ます。やることないし。

 

 ほら、太郎丸。お菓子上げるからこっちにおいでー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あーたらしいあさがきたー。きぼーうのあーさーがー。

 

 希望とはほど遠い現実ですが、おはようございます。むっ、なんかまーた回復している量が……って、太郎丸を抱いていました。

 

 太郎丸を抱いて寝るとこのように、平均以上に睡眠時の回復効果を得られます。

 

 べ、別に昨晩のことは忘れたわけじゃないんだからね!

 

 

 っと、言ったところで今回はここまでです。

 ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 § § §

 

 

 

 

 

 

 

 

「いただきます」

 

 朝食時のように全員が席について、両手を合わせた。

 目の前に置かれる包装されたパンの袋を開け、スポンジのように柔らかい生地の感触を感じながら、その表皮に歯を立てる。

 

「ん~、美味しい!」

 

 甘く、柔らかいこの感触が懐かしい。これも、ほんの数日前まで普通に食べていたというのに。

 

 それぞれ、各々が手にする菓子パン、惣菜パンの味を楽しみながら(めぐみ)の報告を聞いていた。

 

「じゃあ、特にそれらしきものは無かったってこと?」

 

「全部ひっくり返したし、なんなら校長室も漁ったけどね」

 

 悠里(ゆうり)の言葉を菓子パンにかぶりつきながら答えた貴依(たかえ)は、少しだけ疲れたように咀嚼する。

 結局、それらしき物は全くなく、あると言ったら今は何の役にも立たない紙切ればかりだった。

 

 そのまま、微妙な雰囲気を占めつつあるなかで、貴依はふと思い出すように言った。

 

「ゆき、アンタの小テスト結果、散々だったよ」

 

「……えっ」

 

 何の脈絡も無く言われた言葉に由紀は呆けたように貴依を見る。

 

「因みに何点なんだ?」

 

「んー、確か十点中二点?」

 

「えぇっ!?」

 

 胡桃(くるみ)の問いかけに答えた貴依の言葉は、由紀に衝撃を与えるには十分だった。

 

「そ、そういう貴依ちゃんは何点だったのさ!?」

 

「……どうだったかな。忘れた」

 

「怪しい! めぐねぇ、教えて!」

 

 さっ、と目を反らした貴依を見て瞬時に察した由紀は、めぐねぇに詰めかけるように問う。

 

「え、えっと……」

 

 鬼気迫る勢いで見つめる由紀と、無言の圧をかけてくる貴依。

 二人の視線に困った風な表情を浮かべながら周囲を見渡すが、部外者を決め込む三人は耳しか傾けてない。

 どうしようか悩んでいる慈の脳裏に、ふとあることが降りてきた。

 

「皆、昼から気晴らしに勉強でもしませんか?」

 

「勉、強……?」

 

 期待していた返答とは大きく違う言葉に由紀の思考は止まる。

 正確に言うなら嫌いな言葉が出てきて、本能的に思考を止めたと言ったところだろうか。

 

「いいんじゃない?」

 

「はい、私もいいと思います」

 

 こんな状況で、とは思いつつも肯定を示した幹久(もとひさ)と悠里の二人。

 

「え、いやいや、二人とも。ちょっと待ってよ」

 

 由紀は立ち上がり、それりゃあねぇぜ、と額に汗を浮かばせながら口元を歪ませる。

 

「勉強だよ? あの、勉強をしようって言ってるんだよ?」

 

「別に昼からすることもないし」

 

「ゆきちゃん、たまにはね?」

 

「いやいや、二人とも……そもそも勉強は────」

 

 由紀の熱弁? も空しく、簡単な昼食を済ませた全員は教室へと移動するのだった。

 

 がらん、とした教室に人数分の机が準備され、そこへ生徒である彼女たちが座り、こちらを見ている。

 懐かしい。本当に懐かしく感じる視線と教卓からの景色。前とは雰囲気も風景も随分と違うが、それでもこうしてまたここに立つことが出来たことが慈は嬉しく感じた。

 

「それじゃあ、号令を……そうね、本城くん。お願いできる?」

 

「ん、起立」

 

 椅子を引く音、生徒が立つ光景。そんな当たり前の光景が目の前に広がっている。

 

「礼──」

 

「「──お願いします」」

 

 ああ、本当に……。

 

「着席」

 

 全員が席に着いた後、少しだけ慈は呆けるように余韻を噛み締めた。

 そして、慈も切り替える。ここからは何時もと変わらない授業なのだから。

 

「──この語句の読み方が分かる人?」

 

 最初のウォーミングアップも終わり、授業も中盤へと差し掛かった辺りで、慈は問題を出した。

 黒板に書いた『時雨』という二文字。その漢字の読み方を全員に投げかける。

 

 その中で、由紀は大きな声で手を上げて答えた。

 

「はい! ときどきあめ!」

 

「ある意味、正解……か?」

 

「えっ、違うの!?」

 

 胡桃の言葉に由紀は驚いたように反応する。

 

「いや、それを言うならときあめ、じゃないか?」

 

「ああ、そっか。『(アレ)』がないもんな」

 

 幹久の言葉に納得するような声を上げる胡桃。

 その横で答えに自信があった由紀は、ただただ困惑しか無い。

 

「じゃあ、恵比須沢さん。答えられる?」

 

「しぐれ」

 

「なんで、お前が答え──何だその顔っ!?」

 

 胡桃が答えようとした瞬間に横合いから答えが飛び出してきた。

 そして、それを答えた幹久はこちらを見下すような表情を……言うなれば、ドヤ顔を浮かべていた。

 

「うざっ……めぐねぇ! 次の問題だ!」

 

「え、ええ?」

 

「現国なら負けないぜ?」

 

 置いてぼりを食らい、落ち込んだ様子を見せる由紀を余所に始まった二人のバトル。

 

 しかし、そんな二人のバトルに意外な人物が一石を投じた。

 

「──さみだれ、ですね?」

 

「えっ、よ、よく分かったわね。若狭さん」

 

「なっ!?」

 

 黒板に書かれた『五』という一文字だけ。それだけで問題を予測し答えて見せた悠里に、肝心の二人は衝撃を受けたように固まる。

 

「っ、次の問題だ、めぐねえ」

 

「ああ、望むところだ」

 

「ふふっ……」

 

 三人は椅子に座り直し、今まで以上に黒板へと集中する。その様子はまるで期末試験の真っ只中を彷彿とさせた。

 

 気が張り詰め、最小限の音しか鳴らず、何処か息苦しさすらも感じるほど、あの特有の空気が三人を中心にして渦巻いている。

 

 その様子を見て力が入るのは、やはり教員だからか。

 真剣に授業を臨もうとしている生徒たちの熱に当てられた慈も、同じように真剣な表情を浮かべる。

 

 そして、ついて行けてない二人はお互いに顔を見合わせて、肩を竦めた。

 

「まっ、私たちじゃあ理解できないことだな」

 

「だね、貴依ちゃん」

 

 ただ、その授業は今までにないほど楽しいものだった。

 

 

 

 

 

 

「──ねっ! キャンプしよ! キャンプ!」

 

「キャンプ?」

 

 夕食後、唐突に由紀がそんなことを言い出した。

 その発言に、全員は何事かとその視線を向ける。

 

 由紀の勝ち気な笑顔から手元の方へと視線を移せば、つい最近見たことがある本の表紙が目に入った。

 同年代と思われる少女たちがテントとランプを背景にして映っているアウトドア関連の本。

 

 それだけ、全員が勘づく。

 

「ゆき、流石にキャンプは無理でしょ」

 

 由紀の思うキャンプがその本に載っていることならば、間違いなく無理だ。

 

「違う違う、貴依ちゃん。室内でキャンプするの!」

 

「……はあ?」

 

 イマイチ分からない、といった風に首を傾げる貴依。それは、他の胡桃や悠里も同じだった。

 ただ、一人を除いて。

 

「ああ、室内(ここ)にテント張って、雰囲気だけでも楽しむってことか」

 

「そう! 流石はもとくん!」

 

「なんで分かるんだよ、お前……」

 

 イエーイ、とハイタッチする二人に全員は苦笑いを浮かべる。

 

「確かテントってあったよな?」

 

「ええ、あるにはあるけど……」

 

 善は急げと言わんばかりに、幹久はテントを引っ張り出して広げてみた。

 しかし、それは全員が入るには小さく、悠里が心の中で懸念していた通りの事実が目の前に広がっている。

 

「これは……」

 

「どうする?」

 

 テントを折角広げたというのに、直ぐに畳んでしまうのは少し勿体ない。ここにいる全員が、その由紀が持っていたアウトドア本を読んでいるため、やってみたいとは思っているのだ。

 

 あの雰囲気を味わうためにも、出来ればテント内で寝たい。

 しかし、全員は入ることは出来ず、誰か一人は外で寝ることになる。

 ならば、その一人はどうやって選ぶか。

 

「ここは先生が──」

 

「──じゃあ、よろしく本城。まあ、後で差し入れするからさ」

 

 大人であり、先生という立場があるため慈は自分から遠慮しようとしたが、それを断ち切るように貴依が幹久を決定事項のように決めつけた。

 

「おう……え?」

 

 反射的に返事をして、二秒ほど経ってから惚けたような声が幹久から発せられる。

 

「まあ、それが妥当か」

 

「そうね」

 

 胡桃、悠里は何故か貴依の決定について特に意を唱えることなく、加えて何処か楽しげに賛成の意を示した。

 

「いや、でも、みん──むぐっ」

 

 由紀は自身が言い出した手前、やはり仲間外れがあるのは見過ごせない。

 故に、そのことを伝えようとしたのだが、その口を貴依によって塞がれてしまう。

 

 そして、貴依は由紀の口を押さえたまま言った。

 

「少しの間だよ。寝る前になったら呼ぶって」

 

「……あっ、なるほど。分かった」

 

 その言葉の意図を読み取った幹久は納得がいったような表情を見せる。

 そして、今度は由紀に貴依は耳打ちした。

 

「むう~……ぷはっ、もう貴依ちゃん! そうならそうって言ってよ」

 

 女子会、という単語を貴依から聞かされた由紀は幹久と同じく納得いく様子を見せるが、やはり罪悪感があったのだろう。

 申し訳なさそうに由紀は幹久へ謝罪の言葉を口にした。

 

「ごめん、もとくん」

 

「別にいいって。キャンプに見張りは付き物だろ?」

 

 トントン、と由紀が持っていた本を指で叩かれる。確かに、この本にもそう言ったことが書かれていた。

 

「じゃあ、そろそろ始めようぜ」

 

「りょーかい」

 

 胡桃の言葉を皮切りに幹久は部屋から出て行き、彼女たちもテント内へと入っていく。

 

「えっ、あの、皆さん?」

 

 約一名、ついて行けてない慈はテントから自分を呼ぶ声があるまで、混乱していた。

 

 

 

 テント内の中央に置かれたランプを囲うようにして、全員は座る。

 

「おー、雰囲気あるね」

 

「そうね。こういう時は怪談とかいいわよね」

 

「「えっ」」

 

 悠里の言葉にほぼ全員が拒絶的な反応見せた。

 

「ふ、雰囲気はあるけど……」

 

「私はパス!」

 

「いいんじゃない?」

 

「せ、先生もちょっと苦手かな?」

 

 貴依を除く全員が不安げに顔を顰めた。

 しかし、その反応を見て悠里の顔に影が差し、雰囲気もまたちょっと違うものへと変わる。

 

「……知ってる? 今日みたいに明かりが少ない日は──」

 

「ちょ、ダメだって言ってるじゃん!?」

 

「もうっ、楽しいのに」

 

 胡桃が慌てて悠里の怪談話を止める。どうやら、悠里はちょっとサディスト傾向にあるらしい。

 

「じゃ、じゃあ、貴依ちゃんは何かある? 怖い話じゃなくて」

 

「私? うーん、そうだな……」

 

 由紀に話題を振られた貴依は少し悩む素振りを見せる。

 そして、ふと貴依は前から気になっていたことを口にした。

 

「先生さ。本城と結構仲良いよね」

 

 ちょっとニヤついた笑みを浮かべて、何かを探るように聞いてくる貴依に全員は「ああ、そっか」と妙に納得したような表情を浮かべる。

 

「貴依ちゃん。それ、もうやった」

 

「……はぁ!?」

 

 それから事の顛末を聞かされた貴依は少しガッカリした様子を見せつつも、何処か安心したような雰囲気を見せた。

 

「従姉弟だったんだ……」

 

「あ、あはは……」

 

 恐らく貴依は何か禁断の恋的なものでも期待していたのだろう。

 だが、蓋を開けてみればただの半分血の繋がった親戚同士。それも、言うなれば姉と弟のような関係ときた。

 

「なあ、柚村」

 

「はぁ……なに?」

 

 何とも言えない雰囲気を醸し出していた貴依に胡桃は率直に聞く。

 

「もしかして、幹久のこと憎からず思ってる?」

 

「ぶっ!? な、な、なっ!?」

 

 好きなの? とは言わなかったものの、それはもうそう聞いていると言っても過言では無いだろう。

 故に、そう捉えた貴依は顔を真っ赤にして否定しようとするが、その肝心の言葉が出てこない。

 

「あ、いや、そ、そう、いうんじゃな、くて……」

 

 焦っているためか呂律が回らない。

 その上、気恥ずかしさが頭の中を真っ白にする。

 

 遂には、俯きながら羞恥に震え始めた。全員は、そのショートした頭から白い湯気のようなものを幻視する。

 

 そのまま少しした後ぽてっ、と身体を布団の上へと倒して、貴依はうめき声を上げた。

 

「あぁ~、もう、何で私がぁ……」

 

「自分から墓穴を掘ったな」

 

 自分がこうなるとは思っていなかった。ちょっとした打算があって幹久をわざわざ追い出したというのに。

 

「そ、そうだったんだ……め、めぐねえ! どう思う!?」

 

「え、ええっ!? 私に聞くの!?」

 

 両手と首を横に振って、辞めてほしいと悲願するが、由紀からの熱い視線は変わらない。

 それに、気がつけばその視線は悠里や胡桃からも来ていた。

 

「……はぁ、私からは何とも言えないのが正直なところ、かな」

 

「と、言うと?」

 

「私がもとくんのあれこれを言うつもりはないし、そんな資格も無い。ただ、やっぱり今の状況を考えると……」

 

 これが前と同じ環境だったら、また違ったかもしれない。

 素直に喜んでいたかもしれないし、何か複雑な気持ちを抱いていたかもしれない。

 

 だが、どっちにしろ、今のことを思えば素直に分からないとしか言えないのだ。

 

「あっ、ご、ごめんね? 暗い方向に持っていちゃって!」

 

「……いや、別に私もあれこれ言うつもりはないし」

 

 慈の言葉に貴依は身体を起こしながらそう言った。

 

「気持ちは伝えないの?」

 

 悠里の言葉に貴依は少しだけ悩んで、そして笑顔を浮かべて言った。

 

「いつかは言うよ。少なくとも今じゃない」

 

 バレてしまった、ということもあるだろうが、それを除いたとしても貴依は随分と吹っ切れた様子を見せた。

 

「じゃあ、そろそろ寝ましょうか」

 

「あっ、私もとくん呼んでくるー!」

 

 由紀の言葉に貴依はビクリと肩を跳ね上げた。心なしか顔が赤くなった気がする。

 

「っ、何だよ」

 

「いや、別に? なあ、りーさん」

 

「ええ、青春だなって」

 

 二人の言葉とニヤついた顔に怒りと羞恥が混じり合う。

 吹っ切れたと言っても、今さっきともなれば嫌でも意識してしまうのだ。

 

「……にしても遅いな、ゆき」

 

「そうね。少し様子を見に行きましょうか」

 

 呼びに行ったにしては余りにも時間が掛かりすぎている。

 少しの不安を持って、残った全員で外へと出てみればオロオロしている由紀が目に入った。

 

「おい、ゆき──」

 

「しー、静かにっ」

 

 声を潜めながらそういう由紀に全員は首を捻る。

 そして、由紀が見る方向に顔を向ければ、そこには太郎丸を膝に乗せたまま、一緒に眠る幹久の姿があった。

 

 背を壁に預け、丸まった子犬を膝に乗せている姿は妙に絵になっている。

 

「どう……する?」

 

「……そのままにしときましょうか」

 

 慈の言葉に全員は頷いて、部屋へ戻っていく。

 

 その最後、貴依は全員にバレないようにそっと幹久に向かって口を動かした。

 

 

 

 




本当は匂わせる程度だったんです。今回もそこまでで留めておくつもりが……割とスランプ気味です。

後、ホモくん廊下で寝てます。ええ、はい、廊下で寝てます。何か問題でも?

と、まあ、色々とおかしいのと、言いたいことも一杯あるんですが、それはこれを終わらせた後の感想時に謝罪するので大目に見てください。

次は早めに投稿しますし、番外編的なものも書くので許して。


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Part9 愍然たる思い出



感想、評価並びに誤字脱字報告ありがとうございます。
宣言通り早めに出せたけど、過去一番短い上に低クオリティ……終わったら再走もするし、番外編的なもの出すから許して。





 

 

 当初とは全然予定が違う実況プレイはーじーまるーよー。

 

 さて、簡単に朝食を済ませたら、食料庫の襲撃に直ぐさま行きましょう。昼時を狙うなど言語道断です。(3敗)

 

 今回の食料庫襲撃メンバーはホモくん、熟練のエンピ使いとなったくるみちゃん、隠し病みキャラのりーさんの三名で行きます。

 ホモくんとくるみちゃんはお察しの通り戦闘要員です。そこに何故、りーさんが加わったかと言うと、彼女は『目利き』という技能(スキル)を持っているからなんですよ。

 

 食材の状態は勿論のことですが、他にも各種アイテムの劣化具合も分かりますし、レベルを上げれば各キャラの体調すらも『目利き』できます。

 

 今のところ、まだ電気等はちゃんと機能しているので問題はありませんが、今から手に入れる食料はやはり生鮮食品。

 何かに当たって動けなくなったりしても困りますし、病気にでもなったらソレこそ終わりです。

 

 なので、最初の雨の日を乗り切った辺りから絶対に『目利き』を持つキャラを連れて行きましょう。

 

 今回、道中の戦闘は避けます。じゃないと昼時に間に合いませんし、間に合っても帰る時に囲まれてしまいます。

 ですので、伝説の傭兵ばりのステルスで行きましょう。技能を上げるなんて無かったんや。

 

 ササッ……コソコソ……チラッ、ズリ、ズリ……チラッ。こちらホモ。コレよりミッションを開始す──

 

「……何やってんだ、お前?」

 

 んもー、くるみちゃん! 君は本当に邪魔ばかりして! こちとらホモよ!?(謎)

 

 いや、しかし随分と多くなってきていますね。ぼちぼち遠征や遠足をしていた学生が戻ってきているようです。早急に食料を奪取して戻りましょう。

 

 ちーっす、三河屋でーす。誰か居ませんかー?

 

「よし、大丈夫そうだな」

 

 幸い、厨房のおばちゃんは居なかったみたいです。居たらいたで、ちょっとだけ経験値になったんですが……残念です。(外道)

 

 さあ、食料を漁りましょう。ホモくんのリュックサックにはもうお菓子が一杯ですので、入らないですが、くるみちゃんとりーさんのバックに詰めれば数日はご馳走にありつけるはずです。

 

 ですが、今回はそれが狙いではありません。寧ろ、ご馳走などいらぬ。

 

 さあ、頼む! すっからかんであってくれ! 無理なら中途半端でもいい!

 

「これなら、しばらく食料に困りそうにないわね」

 

 あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛も゛う゛や゛だ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!

 

 だが、私は諦めん! まだだ! まだ、終わらんよ!

 

 俺たちの戦いは、これから────

 

 

 

 

 

 

 

 

「──カレーだっ!!」

 

 ダメだったよ……。

 予見していた通り『説得』という選択肢がそもそも出ませんでした。誠に遺憾です。これまでの時間そのものが無駄になりました。

 

 まあ、コレばっかりはもう仕方ありません。こういう制約は通常プレイならば付き物です。

 だからこそ、『学園ヒーロー』の好タイムを目指すなら適応者ルートが前提となるんですよ。こういったもの軒並み回避出来ますし。

 

「ふふっ、どうやら美味しくできたみたい」

 

 ぺっ! ああ、美味しいぜ。この敗北の味はよぉ~?

 

「……口に合わなかった?」

 

 いや、凄く美味しいです。マジで、美味しいです。ええ、はい。

 

 りーさんに対してメンタルダウンするような言葉や行動は控えましょう。こちらがメンタルブレイクするはめになります。

 

 ここが怖い! 隠し病み属性の若狭悠里! っていう題名で攻略チャートがあるぐらいですから。おお、こわいこわい。

 

「あ、そうそう。みんな見て欲しいものがあるんだけど」

 

 あらま、それはまたレア物を拾ってきましたねー。

 

「ポラロイド、カメラ?」

 

 んー、まあ別に必須というわけではないアイテムの一つですね。

 写真を持っていると、多少なりともSAN値を回復しますが、それならば、お菓子等の趣向品で十分です。

 

 利点としてはキャラ目線の一人称でギャラリーを埋められるぐらいですかね。正直、現状としては無用の長物と言っても過言では無いでしょう。

 

「ほら、もとくんも入って入って!」

 

 いや、だから無用の長物……ええい、貸せ! 私が撮る!

 

 ほら、笑って笑って……ああ、いいね! そうそう、いいよぉ!

 じゃあ、次は少し脱いで──え? そういうのじゃない? そっかー。

 

 残念ながらそういった機能はありません。期待していたノンケの兄貴たちはすまん。多分、他の誰かやってくれると思うから。(他力本願)

 

 はーい、じゃあもうイベントも終わったので寝ます。私に残された手段は少しでも多く、ホモくんを回復させることです。

 だから、太郎丸。お前が必要なんだよ!(迫真)

 

「わんっ!」

 

「わっ、ぷ! あははっ、くすぐったいよ~」

 

 なんでや。今日の朝まで一緒に寝たやろ。

 

 そうやって、私のことを捨てるのねっ!? 

 

 ……むぅ、ホモだから行けないんでしょうか? となると、ホモちゃんになることも視野に入れておかねば……。

 

 じゃあ、おやすみなさーい。

 

 

 

 

 

 ──寝ると思っていたのか?

 

 はい、残念ながらホモくんには寝ている暇はありません。ショッピングモールに行けない以上、無理矢理にでも上げるしか無いでしょう。

 

 ちょうど、日数が経っていますからね。食料庫強奪時にも増えていることを確認済みですので、これによって真夜中のお仕事へ向かうフラグが立っております。

 

 幸い、今までの行動で結構回復出来ていますので、多くて二回は正面切って戦えると思います。ただ、それ以上はガブっといかれると思うので注意しましょう。

 

 では、いざ参る!

 

 おおっ、バリケードを越えて辺りに既にもう居ます。一体だけですので、原作でもくるみちゃんがやっていたように、陽動からの足払い、そしてトドメの一撃を食らわせてやりましょう。

 

 ただ、まだここは三階ですので余り音を立てないように。普通に誰かしら起きてしまいますからね。

 陽動は……勿体ないですが、お菓子で良いでしょう。

 

 ほーら、お菓子よー。

 

 ……よし! 一発で釣れましたね。では、がら空きとなっている足下を払ってやりましょう。せいっ!

 そして、尽かさずていっ! 念には念を入れて、ていっ!

 

 ふぅ、久しぶりの戦闘ですが問題無かったですね。ただ、ホモくんのSAN値が通常より多めに減ってしまいました。

 

 これは、一日の間に日常が挟まれると起こる乖離現象です。

 ちょっとだけ麻痺していた感覚が、こういった行為によって無理矢理現実に戻されるようなものですかね。

 

 ただ、次からは通常通り戻りますので大丈夫ですし、これを繰り返すうちにその乖離現象自体無くなります。

 

 ああ、それと死体はちゃんと片付けて起きましょう。でなければ、朝の見回りの時にバレてしまいますからね。

 

 はい、まず周りを確認して……よし、ではそれを見えない位置に持って行きましょう。絶対に階段の方に流してはいけません。

 場合によってはその死体がスロープとなって、自分の首を絞めるはめになりますからね。(3敗)

 

 まあ、見えなければ大丈夫ですので物陰に隠しておけば大丈夫でしょう。何か違うゲームになってる気がしますが、気にしてはいけません。

 さあ、こんな感じでじゃんじゃん狩っていきましょうか。まあ、無理は出来ませんし、時間もそんなにありませんので、じゃんじゃんは狩れませんが。

 

 

 おっ、あんなところに黄昏れているじゃあ、あーりまーせんか。ちょっと背後失礼。

 

 あっ、ちょ、団体様は対応出来ないので、二度と来ないで下さい。お願いします、何でもしますから。

 

 ……ケッ、大勢で来ればいいってもんじゃねぇってのによ。ふざけやがって。(震え声)

 

 おほっ、あんなところにまた一人だけのヤツが……むっ! この気配は! やはり、物陰に一人隠れていましたね。割と角待ちしているヤツは多いんですよね。

 だが、分かってしまえば造作もありません。かかったなアホが!

 

 

 ──ふぅ、こんなものですかね。何とかスキルポイントは獲得出来ました。速攻で『剣術』に振っておきましょう。

 これで、この弱体化したホモくんでも最初の時みたいに戦えるはずです。最初の鬼門でもある雨の日も問題無いでしょう。

 

 さあ、パパッと証拠隠滅して戻ります。撤収、撤収せよー。

 

 後は、シャワー等浴びたらまた寝ます。少し寝不足になりますが、元々弱体化していますので、回復量的にちょうどいいはず。

 

 ……よし、誰も起きていないようですね。それじゃあ、おやすみなさーい。

 

 

 っと、言ったところで今回はここまでです。

 ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 § § §

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日の朝。

 

 全員が思っていたことを幹久が口にしたことが始まりだった。

 

「──食堂、か……確かにあるだろうけど」

 

「長くは持たないだろし、早いほうがいいと思う」

 

 ただ、一言だけ幹久が「味気ない」といったのを皮切りに、淡々と進んで行った今回の行動。

 

 それは、学生食堂内にある厨房から食料を手に入れることだった。

 

 

「人数はどうする?」

 

「少ない方がいいと思う……三人ぐらいか?」

 

「なら、私と幹久、後一人誰か……か?」

 

 もはやルーティンのように胡桃はシャベルを肩に掲げて、勝ち気な笑顔を見せる。

 

「俺は勿論だけど、恵比須沢は無理しなくても……」

 

「別に今更だろ? 確実を得るなら私と幹久がいないと」

 

 そう言われてしまえば、無理に否定することも出来ない。現状、それが問題なく安全に事を運べるだろうからだ。

 

「なら、私が行くわ。二人みたいには動けないだろうけど……」

 

「ん、決まりだな。それでいい、めぐねえ?」

 

 是非とは言えない。それに対して、どう転んでも自分の立場を考えれば首を縦に振れないだろう。

 何故なら、自分は大人であり、教師であり、彼らを守る立場にあるのだから。

 

 ただ、そう考えてもやはり彼のいうことは正しく、それが最善だろうと思わせる何かがあった。

 

 思うところは多々ある。だが、これだけは言っておかなければならない。

 

「三人とも、無茶だけはしないでね」

 

「気をつけてね」

 

「本当に気をつけなよ」

 

 三人からの声を背に受けて、幹久たちは準備を整えた後にバリケードを越えた。

 

 ゴクリ、と生唾を飲み込む音が悠里から発せられる。

 やはり、どうも慣れそうにない。この感覚は。

 

 一新される恐怖という感覚。いや、蘇る恐怖といった風が正しいか。

 バリケードという存在がこれほど、気持ち的にも大きいものなんだと、改めて感じた。

 

 三人は特に声を出さず、下の階へと降りる。幸いにも『かれら』の存在は二階に降りるまで無かった。

 

 しかし、二階からその存在を明確に確認出来る。

 

「廊下に二体……いや、三体、か?」

 

 ぱっと見ただけでも明らかに数日前より増えているのが分かる。流石に、相手とるのは得策ではないだろう。

 

 どうする、と胡桃が幹久に意見を聞こうと横を横に視線を向けるが、視界に入るのは目線を下に下げている悠里の姿だけ。

 

 あれ、と思いつつ悠里の視線の先を辿れば、膝を着いて廊下の床を触っている幹久の姿があった。

 

「……何やってんだ、お前?」

 

「ん、いや……何でもない」

 

 何事も無かったように立ち上がり、幹久は廊下の状況を胡桃から聞いた後に避けて通ろうと進言した。

 それに、二人は首を縦に振る。リスクを冒さないなら、それに越したことはないだろう。

 

 それから一階へ降りていき、危ない場面もありつつも、三人は何とか学生食堂内にある厨房まで来られた。

 

「よし、大丈夫そうだな」

 

 どうやら、ここまでは『かれら』も入ってきてはいないらしい。

 

 いや、痕跡はあるが、他ほど漁られた後や暴れた後も無かった。

 

「調理器具も持って帰るか?」

 

「そうね、あった方が良いと思う」

 

 悠里の返答に胡桃は手に持っていたフライパンを四苦八苦しつつも、バックの中に入れた。

 ただ、そういった物を漁るのもほどほどに三人は、まるで開かず金庫を初めて開くように冷蔵庫の取っ手に手を掛ける。

 

 そして──互いに顔を見合わせ、笑顔を見せた。

 

「これなら、しばらく食料に困りそうにないわね」

 

 目の前に広がるのは所狭しと敷き詰められた数多くの冷凍された食材たち。

 中にはちゃんと調味料も確保されており、料理としてのレパートリーも十分期待できるだろう。

 

 危険を冒した価値はあったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぐつぐつと鍋から煮る音が周囲に響く。それに次いで食欲をそそる匂いも充満していた。

 

「まさか、柚村さんがそんなに料理上手だとは思わなかったわ」

 

「貴依でいいよ……そんなに意外?」

 

 肩を揃えて洗い物に従事する悠里に、貴依は思わず半目になりながらそう言っ

た。

 

 それに、悠里は笑みを浮かべながら頷く。

 

「だって、その見た目からじゃあ想像付かなくって……気に障った?」

 

「いや、別に良いけどさ」

 

 割とよく言われることだ。最初ならいざ知らず、今はもう慣れた言葉だ。

 

 ただ、やはりそう言われると思うところもある。自分からすればこんな格好普通だと言うのに……。

 

「彼もきっと気に入ってくれるんじゃない?」

 

「っ! ……私、若狭のそういうところ好きじゃない」

 

「ふふっ、ごめんなさい。貴依が何だか可愛くって」

 

「かわっ!? いいって何だよっ」

 

 頬を若干赤らめ、そっぽを向く貴依にクスクスと笑う悠里。

 その二人を見ながら鍋の中身をかき混ぜていた慈は、二人に釣られて自身も笑みを浮かべる。

 そして、心の中で「若いって、いいなぁ」としみじみ思うのだった。

 

 慈は視線を鍋へと向ける。お玉を回していた手を一旦止めて、そのまま持ち上げ小皿に少量移した。

 

 ふー、っと息を吐きかけながらその小皿を傾け、口の中に含む。

 ジュワっと溢れる唾液。口に広がるスパイス。

 

「──うん、良い感じかな。二人ともどう思う?」

 

 悠里と貴依も言われるがまま慈と同じように味見して、同じような意見を零し

た。

 

「じゃあ、呼ぶ? それとも先に盛り付ける?」

 

「んー、先に盛り付けちゃおうか」

 

 三人は手慣れた手つきで皿に出来上がった料理を盛り付けていく。

 見た目も良く、味も申し分ない。今までにおいて一番美味しい食事となるだろう。

 

「よし、じゃあ、ゆきちゃんたちを──」

 

 準備も全て整え、後は全員が揃うだけという所まで持ってきた。

 後は、その最後のピースを揃えるために呼んできて貰おうとした瞬間。

 

 忙しないドタバタ音と共に勢いよく開かれる扉。

 

「──カレーだっ!!」

 

 その言葉を伴って現れた由紀の瞳はこれまで以上に輝いていた。

 

「ゆ、ゆき……お前なぁ……」

 

「……っ」

 

 だが、それと対比して。

 恐らく無理矢理連れてこられたのか、それとも引っ張られたのか……もしくは両方を由紀に強いられ、既にグロッキーな状態の胡桃と幹久が横にいた。

 

「ほらほら、二人とも早く!」

 

「ちょ、まっ」

 

「……っ!」

 

「だ、大丈夫?」

 

 由紀に引っ張られ、椅子へと無理矢理座らせられた胡桃と幹久。その状態に見かねて慈は声をかける。

 

「太郎丸、ほら餌だぞー」

 

「あらあら、まあ」

 

 しかし、その横で悠里と貴依は平時とさほど変わった様子も見せず、貴依に至っては見向きもしないで太郎丸に餌を与えていた。

 

「──じゃあ、揃ったところでいただきましょうか」

 

「「「いただきます」」」

 

「わんっ!」

 

 慈の言葉を皮切りに、全員は声を合わせて手を合わせる。

 

「うーん! 美味しい!!」

 

「うまっ!」

 

「ふふっ、どうやら美味しくできたみたい」

 

 かき込むようにスプーンを動かす胡桃と由紀の様子を見て、安堵するように悠里

は微笑んだ。

 

 だが、しかし。二人とは違って余り手が動いていない幹久が気がかりだった。

 横を見れば不安そうにしている貴依の表情が瞳に映る。

 

「……口に合わなかった?」

 

「あ、ああ、いや、美味しいよ……ちょっと感動してただけ」

 

「分かる! 分かるよ、もとくん!」

 

 幹久の何処か曖昧な言葉に由紀は大袈裟な反応を見せる。それに、幹久も笑顔を浮かべた。

 

「……彼、感動していたらしいわよ?」

 

「なんで、それを言いながら私を見る?」

 

 口外に聞かれたらどうするんだ、と言う視線と焦りを交えた言葉を、横で揶揄ってくる悠里に向けた。

 

「おいしかったー、おかわりない?」

 

「早っ! くるみちゃん、太るよー」

 

「い、いいんだよ! ちゃんと身体は動かしてるから!」

 

 由紀の指摘に恥ずかしくなりながらも言い返す胡桃。それに、全員は笑顔を浮かべる。

 

 今日のこの夕食で、全員がやっと心の底から笑えた気がした。

 

 

 

 

「──あ、そうそう。みんな見て欲しいものがあるんだけど」

 

 最高の夕食も終わり、和気藹々とした雰囲気が残っているなかで、慈はある物を取り出した。

 

「何、それ?」

 

「カメラ?」

 

 慈が取り出した物に全員が眉を顰めて首を横に曲げる。それに、慈はジェネレーションギャップを感じ、衝撃を受けた。

 

「えっ、知らない? ポラロイドカメラ?」

 

「ポラロイド、カメラ?」

 

「知らないよ、そんなカメラ」

 

 無慈悲な従弟の言葉が心を抉る。

 そんな、ありえない。コレは何かの間違いだ、と自分に言い聞かせながら、慈は必死になりながらポラロイドを説明した。

 

「へぇ、じゃあそれで記念写真でも撮るの?」

 

「そう! ほら、もとくんも入って入って!」

 

 何故か異様にテンションが高い慈に言われるがまま、幹久も由紀を中心としたグループに入り、ポーズを決めたところでシャッターを切られる。

 

「どう? どんな感じ?」

 

「あっ、ちょっと待って……ほら」

 

「おおー!!」

 

 すぅ、と白紙に浮かび上がる自分たちの姿。

 見たことの無い現象に由紀たちは、驚きながら笑みを浮かべた。

 

 出来上がった写真には、その笑顔と全く同じのものが映っている。この写真から誰も今のような状況を想像できはしないだろう。

 

 それほど、全員が楽しそうに笑っていた。

 

 思わず目元が潤む。少し前まで普通のことであったはずなのに、今はこれがどうしようもなく、掛け替えのないものに思えた。

 

「──ほら、めぐねえ」

 

「めぐねえ、早く!」

 

 言われるがまま手を引かれ、彼女たちの和に入る。

 そして、ポラロイドカメラを構える従弟に向かって顔を向けた。

 

「じゃあ、撮るよ──ハイ、チーズ」

 

 きっと、これは何年経っても色褪せない大切な思い出だ。

 

 

 

 




ジェネレーションギャップのくだりをやりたいがために、ゆきちゃん以外も知らない設定にしております。それと、申し訳ないですが、番外編的なものはこれが完結してから出します。

後、ちょっとだけ投稿ペースが落ちるんじゃあ~。色々と立て込んできましてね。


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Part10 生者の行進



感想、評価並びに誤字脱字報告ありがとうございます。

ここで重大なお知らせです。ぶっちゃけ、今回が本編的には最終回となりますので、初投稿です。

何とか慌ただしくなる前に投稿できた……。





 

 

 怪しげな空模様の下でお送りする実況プレイはーじーまるーよー。

 

 おはようございます。(真面目)

 

 うーん、やはり全然回復しませんでしたね。夜更かししたのも原因ですが。

 まあ、いつも通りと言えばそうですし、回復したとしても高が知れています。

 

 さて、朝起きたら何時ものルーティン(コーヒー)をしつつ、皆様、窓をご覧下さい。

 

「一雨、来そうね」

 

 Exactly(そのとおりでございます)。まあ、午後から降る予定ですが。

 

 はい、遂に来ました最大最悪の雨の日。条件次第では高校編にて一番の難易度を誇ります。

 一応、その条件には満たしていないものの、ホモくんの弱体化の影響でそれに近しい難易度にはなっている模様。

 

 そして、勝利条件は一定時間経った後に放送を流すことのみです。

 あと勝利とは言えませんが、誰か一人犠牲になることで『かれら』を退けることもできます。

 

 勿論、そんなことをすれば目的の称号も取れませんし、通常プレイにおいても大打撃を食らうはめになるでしょう。

 

 つまり、如何に下校促す校内放送まで時間を稼ぐことが出来るかが勝利の鍵となります。

 放送に関しては『かれら』の生態について第二段階まで理解しているので、めぐねえ辺りが思い付いてくれるでしょう。

 

 場合によっては外で時間を稼ぐはめになりますが、今のホモくんならば何とか保つはずです。

 なので、今回やるべきことは最初にバリケードと各種武器の点検……くらいですかね。

 

 ぶっちゃけ、雨の日がヤバイと分かっているのはプレイヤーだけですから、操作しているホモくんをあれこれ誘導は出来ても、その肝心のホモくんは何も分かっていません。

 

 故に、対策がコレだけしか出来ないんですよ。二回目以降ならばともかく、今回は初めてですから。

 

 では、方針も固めたところで動きましょう。平和ボケした面を晒しているホモくんを動かします。

 

 バリケードの方は……特に問題なさそうですね。昨夜に仕事した甲斐もあって、殆ど無傷です。

 後は足止め用にボール等があれば良かったんですが、今回は見つかりませんでした。まあ、これも運なので仕方ありません。

 

 武器の方は……うーん、何とも言えませんね。保つには保つでしょうが、ギリギリ壊れるかもしれない……そんな曖昧な耐久値ですね。祈りましょう。

 

 くるみちゃんのシャベルは不壊属性(デュランダル)神造兵装(公式チート)ですので気にしなくて大丈夫です。

 

 はい、もうやれることがありません。後は本当に座して待つしか取れる行動が無いです。

 

 とはいえ、元々事故率も大変多く、ここで誰かしら脱落してしまったプレイヤーも数多くいるでしょう。

 仕様とはいえ、この事前の準備が殆ど出来ないのも難易度を上げている一つの要因だと思います。

 

 後はもう本当に祈りましょう。数多くあるファンブルもそうですが、屑運を引かないことにも祈ります。

 

「あ、洗濯物!」

 

 あ、武器! 

 

 そうでした。バリケード前にて防衛線を張るのでくるみちゃん以外の武器が必要です。

 めぐねえは枝切り鋏はあったはずなのでいらないとして、ゆきちゃん、りーさん、チョーカー姉貴は……仕方ありません、床ホウキや懐かしきそーふと言った初期装備で行きます。

 

 隙間から『かれら』を棒のようなもので押し出せば、時間稼ぎは出来ますので十分でしょう。

 

「──ちょっと、待って……何か変な音がしないか?」

 

 おっ、流石くるみちゃん。どうやら気がついたみたいですね。

 

 生徒会室の扉をそっと開いて様子を見ると、そこにはB級ホラー映画さながらの量がバリケードに押し寄せていました。 

 いや、これはB級ホラーよりも多いですね。コストかかってんなー。

 

 ──んなこと言ってる場合じゃねぇ!? コイツはヤベぇぞ!

 

 ちょ、想像を遙かに超える量なんですけど!? ここでこんな量が出てくるなんて、ある意味運が良いですね!

 

 今ならガチャ運も良さげな気がする! 絶対に入っていない木刀とかも入ってる気がするぅっ!

 ごまだれー……ですよねー!! はい、三人ともコレ持って、握って、押しのけて!

 

「おい! こっちヤバイぞ!」

 

 ああ、マジか。マジなのか! ゆきちゃん、チョーカー姉貴は職員室側見てきて!  

 りーさんとくるみちゃんは中央階段! 私とめぐねえは教室側!

 

 ぬわああぁぁぁっ!! ここで時間を稼げなかったらヤバイ!

 仮にホモくんが残って時間稼ぎしても、ギリギリ間に合わなくなっちゃうぅぅぅ!?

 

 頑張れ頑張れできるできる絶対できる頑張れもっとやれるって!

 気持ちの問題だ頑張れ頑張れそこだ!

 そこで諦めるな絶対に頑張れ積極的にポジティブに頑張る!

 北京(?)だって頑張ってるんだから!

 

「──階段はもう無理だッ!!」

 

 諦めんなよ! 諦めんな、お前!!

 どうしてそこでやめるんだ、そこで!!

 ダメダメダメ! 諦めたら! あと、ちょ──

 

「──本城!!」

 

 あはぁーん。

 

 チョーカー姉貴たちも早くない!? てか、ここもヤバイ! 決壊する!?

 

「めぐねえ!」

 

「あっ」

 

 やばっ! 間に合うかっ!? ──うわっ、めっちゃ減った! くっそ体力持ってかれた! てか、いい加減に離れてよっ! 変態めっ!

 

「も、とくん……?」

 

 やっぱり、要介護者の名は伊達じゃなかったぜ。いやぁ、今のは本当に危なかったですね。何とかホモくんシールドでめぐねえは無事です。

 

 さあ、さっさと放送室へ行きましょう。まだ大丈夫! まだ挽回の余地はあります!(STAP細胞並感)

 

「本、城……っ!?」

 

 何でチョーカー姉貴がショックを受けているんですかね?(半ギレ)

 

 めぐねえといい、チョーカー姉貴といい、何なのもうっ!? てか、志村うしろぉー!?

 

「──グゥッ! わんっ!」

 

 た、太郎丸ー!? ナイスゥ!! 最高かよっ! ついでに、私も助けてくれませんかね?

 

「太郎丸!」

 

 テメェ、コラ! お菓子をくれてやった恩を忘れたか!?

 

 いや、もういいです! そのまま、めぐねえをそっち側へそぉい!

 

 早く放送してっ! どうなっても知らんぞ! ホモくんがなっ!

 

「幹久!!」

 

 馬鹿野郎お前俺は勝つぞお前!! 俺に勝とう──やっぱ、無理っ!?

 

 と、取り敢えず大半は釣れましたが、流石にこの囲まれた状況は不味いですねぇ!

 

 切り抜けるには、ちょっとした小技をするしかありません。先ほどのように噛み付かれた場合に限って、振り払うことができます。

 

 その時の無敵時間を使って、そのまますり抜けるというちょっとした小技があるんです。

 

 でも、体力的にちょーギリギリなんですよね。場合によってはそのまま、群がられて飲み込まれます。

 ……ぬぅ、イチかバチかですが、もうそれしかありません!

 

 さあ、目指すは層が薄い場所! そこに突撃し、振り払いモーション時の無敵時間を利用して切り抜けます。

 

 持ってくれよっ、ホモくんの身体……っ! いづっ!? 離してぇ!! よし、そのまま抜け──あぶっ、あぶねぇ!? 

 

 へっ、リュックサックぐらいくれてやるよっ!

 

 ……ふぅ、何とか死なずに囲いから抜けられました。噛まれた後、また掴まれたのは焦りましたが、何とかなりましたね。

 

 後は念のために放送室から『かれら』を離しつつ、地下へ向かいましょう。

 

 ああ、もう画面真っ赤。これ大丈夫かなぁ……うーん、大分ギリギリですが、何とか地下までは来られました。

 

 もう全てがギリギリですね。弱体化してなかったら、もうちょっと余裕があったんですけど。

 

 取り敢えず、ここら辺に……お、あったあった。抗ウイルス剤です。それを素人とは思えないモーションで自身に注入します。

 

 これ、他のキャラにも言えることですが、明らかに訓練を受けた後みたいな……何度もやったことがある風に手慣れている感が半端ないんですよねぇ……。

 

 まあ、そんなことはどうでもいいんですよ。

 

 本当は死ぬ運命にあるホモくんには使いたく無かったですね。仕方ないとはいえ、一度は噛まれても大丈夫というアドバンデージをここで失うのは大きいです。

 

 ──むっ、むむっ……どうやらホモくん、間に合わなかったみたいです。

 

 体力的にギリギリでしたから、いくら『かれら』化しなくとも傷が深ければ、意味ないですからね。まさか、アニメ版の太郎丸にホモくんがなるとは。

 

 はぁ、本当に全てがガバガバの参考動画にすらならない駄作でしたね。

 ただ、お陰様で随分と勉強になりましたし、研究も進められたなと思います。これらは全て視聴者様たちのお陰です。

 

 そして、先駆者兄貴たちの偉大さと、後続に続く新たな兄貴たちに感謝と応援の言葉を──ん? んん~?

 

 あっ、これ適応していますね。精神的デバフが消え去り、ステータスの上限が振り切れているのが何よりも証拠です。

 

 ただ、もうホモくんの体力が回復に追いつきそうに無いんだよなぁ~。しかも、これじゃあ介錯エンドも無いじゃん。

 いや、まあ仮にこのまま続いていたら、恐らくめぐねえ的な立場になるでしょうから、死んでおいて正解でしょうね。抗ウイルス剤無いし。

 

 はぁ……最後の最後でも変な運を引くのは走者としての運命(さだめ)なのかも知れませんねぇ……。

 

 というわけで淡い期待も消えゆくなか、申し訳ない程度の試走した感想ですが────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 § § §

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ダメだっ、めぐねえ!!」

 

「いや、離してっ!! まだ、もとくんが外にッ!?」

 

「本城はっ……! もう、本城は無理だ!」

 

 手を伸ばす先には誰もいない。そこにあるのは閉じられた扉だけ。

 だが、慈は閉じていく瞬間にまだ幹久が──否、自分のせいで残った幹久の姿をハッキリと捉えていた。

 

 左右から抑えられているのに、慈は尚も手を伸ばし続け、果てには扉の向こう側へと行こうとしている。

 

 しかし、慈を抑えている胡桃と貴依、そして由紀と悠里はハッキリとその扉の裏にいる存在を認識していた。

 

 ガリ、ガリ、と扉を引っ掻くような音と動物のような唸り声。

 

 扉を開けた先にいるのは『かれら』だ。幹久じゃない。それだけは分かる。

 

「幹久っ、なんでっ……! なんでだよっ!?」

 

 胡桃は慈を抑えながらそう叫ぶ。溢れてきたものを止めることなく、吐き出し続けた。

 

「もとくんっ! もとくんっ!!」

 

 手を伸ばす。手を伸ばし続ける。

 

 守ると誓った。この命に代えても守って見せると心に決めていた。

 

 なのに、なんで──

 

 

『──そっか。なら俺はめぐねえを守るよ。どんなことからも、俺が守る。それなら皆でハッピーエンドを迎えられる……かな?』

 

 

「──あ、ああああああぁぁぁぁぁっっ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どのくらい、時間が経ったのだろうか。

 一時間? 二時間? いや、半日以上?

 分からない。時間という概念自体を脳が理解していない。

 

 ただ、気がついたときには外の静寂とすすり泣く声だけが鼓膜を揺らしていた。

 

「……めぐ、ねえ?」

 

 赤く充血した胡桃の目と力無い言葉に返事を返さず、ふらりと立ち上がる。

 

 そして、当たり前のようにドアノブに手をかけた。

 

「先生!」

 

 悠里の切羽詰まった声が背中に突き刺さる。

 だが、突き刺さっただけ。その言葉の意味が分からない。

 

 だから、慈はごく自然に……普段取りに、扉を開いた。その先にある危険など分かっていないように。

 

「……っ」

 

 誰かの息を呑む音が聞こえる。

 廊下は酷く汚れ、人影も無く、こちらも同じく静寂が広がっていた。

 

 それに、慈は呆然として立ち尽くし、虚空を見つめていた。

 不気味なほど静寂が三階を包んでいる。あの大群は幻覚で、これまでの生活も妄想だったと言われても疑いはしない。

 

 それほどまでに、自分たちが置かれている状況が理解できていなかった。

 

「ああ……皆で、また掃除しないとね」

 

「……は? めぐ、ねえ?」

 

 胡桃たちは慈が何を言っているのか理解できなかった。

 

 この光景を見て、思ったことが掃除?

 

「先生……何、言ってんの? 掃除なんてどうでもいいじゃん! アイツが……っ! 本、城がぁ……!」

 

 貴依が声を荒上げ、その名前を口にし、言葉を詰まらせる。

 それは、詰まらせるというより言葉が嗚咽に変わったように思えた。

 

 悲しくて、信じられなくて、心から溢れた涙がまた流れ始める。

 

 涙が止まらない。先ほど枯れるほど流したというのに、まだ溢れ出てくる涙が信じられない。

 

「貴依ちゃん……」

 

 由紀が側に寄り添い、慰めるように背中を摩るが、その手は震えており、彼女の頬にも同じものが流れていた。

 それを見て、慈は何を思ったのか覚束ない足取りで前へ歩き出した。

 

「先生! 佐倉先生! っ、くるみ……?」

 

 止めようとした悠里を胡桃が手で制止する。首を横に振り、慈の背中を見ながら言った。

 

「今は、そっとしておこう。私、も……ちょっと時間がほしい」

 

「くるみ……」

 

 込み上げてくるものがある。

 貴依の言葉と涙で理解し、また認識して、現実を見て、それを否定したいかのように涙で視界をぼやけさせる。

 

 悠里もまた同じだった。

 下を向き、手を震わせ、床に落ちる滴をただ見送って……そして、彼女たちは慈の後を付いていった。

 

 また、静寂とすすり泣く声だけがその世界を占める。

 だが、それもすぐ終わる。慈が止まり、彼女たちも止まり、目の前に現れたのは見慣れた扉。

 

「生徒会室……」

 

「大丈夫、きっと、大丈夫……もとくんはここにいるから」

 

 うわごとを言うように、そう思い込むように……慈はそう言って扉を開けた。

 

 扉を開けた先には何時もと変わらない姿を残した内装で、言ってしまえばこうなる前まで居た時と何一つ変わっていない。

 生活感溢れるというか、ありふれた部屋というか……本当に一つも変わっていないのだ。

 

 廊下との格差が激しすぎる。余りにも隔絶し過ぎて、頭がこんがらがる。

 だからだろうか。一瞬だけ、何時もの席に幹久が座っているように見えた。

 

 こちらに気がつき、笑みを向ける幹久の姿が薄れ、消えていく。

 

 それが、決定的だった。

 

「もと、くん……もとくん?」

 

 いない。いない。何故、いない? 

 

 何時もいた。扉を開ければ何時も彼がいた。

 いつもと変わらない笑顔を浮かべて「めぐねえ」と呼んでくれるはずだ。

 それに何時も自分はお決まりの言葉を告げて、一緒に笑い合うはずだ。

 

 なんで、どうして、私は──

 

「──先生、幹久くんはっ……もう、いないんです」

 

 分かっている。分かっているとも。

 そんな現実、自分が一番分かっている。

 だけど……だけど、どうしても信じたくなかった。

 

 そんなことは無いって、そんな現実はないって……『本城幹久』がいないって思いたくなかった。

 

 そうしないと心が保たないから。そうしないと心がきっと壊れてしまうから。

 

「ごめん、なさい。ごめんなさい……っ! みんなっ、ごめんなさい! 私が守るって言ったのにっ、私っ!! 私がっ!!!!」

 

 守ると言っておきながら守られて。

 

 今もこうして泣きじゃくって、頭ごなしに謝罪の言葉を口にして。

 

 何が先生だ。何が大人だ。何が家族だ。

 

 佐倉慈は子供どころか、身内の一人も救えないただのボンクラだ。

 

「めぐねえ……私はめぐねえに守られたよ」

 

「──えっ?」

 

「めぐねえが居たから私はここにいるんだよ?」

 

 膝を付いて泣きじゃくる慈を正面から抱きしめて、由紀はそう感謝の言葉を口にした。

 

「そう、だよ……私だってめぐねえのお陰で助かったんだ」

 

「先生、自分ばっかり責めるのはやめなよ。抱え込むのもさ」

 

「先生……私は、私たちは先生がいたからこそ、今日まで生き残れてきたんです。それは、きっと幹久くんも同じはずです」

 

 違う、それは幹久がいたからだ。胡桃も貴依も幹久が救ったではないか。

 

「めぐねえ──いつも、おつかれさま」

 

「めぐねえ、おつかれさま」

 

「先生、お疲れ様」

 

「先生、お疲れ様です」

 

「……っ、わ、私は…………────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと、ゆきちゃん。どこ行くの?」

 

「わっ──おっとっとっ!」

 

 急に呼び止められ由紀はバランスを崩し、危うく階段から転びそうになった。

 

「だ、大丈夫?」

 

「もうっ、めぐねえが急に呼ぶからー」

 

「めぐねえじゃなくて、佐倉先生でしょ?」

 

 何時ものやり取りに二人は笑う。そして、由紀は「あっ」と声を上げた。

 

「めぐねえ、貴依ちゃん見なかった?」

 

「柚村さん? それなら確か実験室にいたと思うわよ?」

 

「ありがとう! むむっ、この匂いはっ!」

 

 先ほどから廊下まで香る匂いに釣られて由紀は実験室へと向かっていく。

 慈は苦笑いを浮かべながらその駆けていく由紀を見送り、そのまま階段を上がり、屋上の扉を開いた。

 

 思わず目を細めたくなるほど眩しく暖かい太陽の光を手で遮りつつ、足を踏み出せば声が掛かってくる。

 

「あっ、先生。どうしたんです?」

 

「めぐねえ、どうしたの?」

 

 似たような言葉が違う方向から聞こえてきた。

 物陰から顔を出したのは首にタオルを巻いた悠里と、シャベルを持つ胡桃の二人。

 

「二人とも、お疲れ様。ちょっと、ね」

 

 慈が手に持つ物を見て二人は納得いったような声を上げて、そのまま作業へと戻っていった。

 

 緑が囲む道をそのまま真っ直ぐ進めば、見えてくるものがある。

 そこだけ緑が無く、代わりにあるのは不格好な十字架。

 

 勿論、そこに死体は無い。その下には何も埋まっていない。

 あるのは周りを埋め尽くす彩り豊かな花と十字架にかけられた自分のペンダントだけだ。

 

 慈はそこに新たな色の花を一輪だけ置く。そして、両手を合わせた。

 

 思い出すのは、あの日のことやその前の細やかな日常のこと。色褪せない大切な思い出の数々。

 

「──佐倉先生。あっ、す、すいません!」

 

 感傷に耽っているとき、そんな風に自分を呼ぶ声が聞こえた。

 声のする方へ振り返れば、若干申し訳なさそうにしている声の主が立っていた。

 

「いえ、別に大丈夫よ。それで、どうしたの? 直樹(なおき)さん」

 

「えっと、この辺に太郎丸を見ませんでしたか?」

 

 彼女──直樹美紀(みき)は手に持つ赤い首輪を持ったまま、困ったように訪ねてきた。

 

「あら、また首輪を外して逃げたの?」

 

「はい、随分と器用みたいで……」

 

 はあ、と疲れたようにため息を吐く美紀に慈は笑みを浮かべて、一緒に探すことを提案した。

 

「ありがとうございます、佐倉先生。あの、本当にすみません。大事な時に声をかけてしまって……」

 

「ふふっ、いいの別に。ちょうど戻ろうとしてたところだから」

 

 毎日のように来て、また思い出して、それを繰り返しているだけ。

 どちらかと言えば、冥福を祈るというより、自分を安定させるための行動とも言える。

 

「その、本城、先輩はどんな人だったんですか? 噂は知っていますが……」

 

「もとくん? うーん、一言で表すなら……天然?」

 

「て、天然? ですか……そ、それと、もとくん(・・・・)とは?」

 

「あっ、そっか。でも、ちょっと長くなるから、ご飯の時にでも話しましょうか。ほら、太郎丸も探さないとね?」

 

「あ、はい! 楽しみにしています!」

 

 彼女の反応が楽しみだ。あの時の由紀みたいな反応をするのか、それとも胡桃や悠里みたいに大方勘づいているのか。

 

 そして、彼のことを知った彼女がどういった印象を持つのか……きっと、今日も楽しい一日になる。

 彼がくれた今日も楽しく過ごせる。

 

 それが、私に出来る唯一の恩返しだと信じて、今日も生きている。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「た、太郎丸! 何処からそのリュックサック持ってきたの!?」

 

「ん? どうしたー、ゆき?」

 

 




本編は一応これで終わりです。まあ、死亡フラグを乱立させてましたし、大体二話三話あたりでこういう終わりにしようと決めてました。

ただ、まあめぐねぇを幼児退行させるか、させないか途中まで迷いましたし、最後のゆきちゃんからのお疲れ様発言はちょっと違うかなーって思ってたり。

まだ色々とありますが、また後日ある視点のものを投稿する予定ですので、それらが終わったらちゃんとした感想を的なものを投稿して、失踪──ゲフンゲフン、再走する予定です。

そして、最後のアレは番外編の伏線というか、ぶっちゃけ後日談的なもののプロローグというか。
なので、最後の方は時間が飛んでます。具体的にはショッピングモール関係は丸々カットしており、めぐねぇ生存のアニメ版的な? 風に思っていただければ。

番外編はまっちくり~。後、番外編を含めて二、三話程度は更新する予定です。



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Part0 愚者の停滞



感想、評価並びに誤字脱字報告ありがとうございました!

(実況パートは)ないです。後、ちょー短いです。マジで短いです。



 

 

『感染対策は初期の封じ込めが重要であるが、それに──』

 

『いわゆるパンデミック状態が引き起こされた場合──』

 

『厳密な選別を基本方針とすること──』

 

「なん、だよ……これ……っ!」

 

 思わず握る手に力が入り、手に持つ冊子が歪む。

 

 最初からこうなることは予測済みだった? 

 

 こうなっても良いように、最初から準備されていた?

 

 そうと分かれば、全て納得がいく。辻褄が合う。

 

 この学校の充実した施設も、このマニュアルに書かれていることも、こうして感染爆発(パンデミック)が起きたのも。

 

「ふざけんなよ……人の命をなんだと思ってんだ!」

 

 偶然かもしれない。何らかの事故だったのかもしれない。

 だが、それで多くの者が死んでいる。これからも多くの人が死んでいく。

 

「めぐねえは……あの人(・・・)は知ってるのか?」

 

 職員用と記載されているこのマニュアルを、職員であるめぐねえが読んでいないはずがない。

 

 最初から知っていたのか? 分かった上で自分たちと一緒にいるのか?

 

 ──いや、知らなかった。

 

 あの人が……自分が姉と敬愛するめぐねえはそんな人じゃない。幼い頃から知っている自分にはそう確信できる思い出と信頼がある。

 

 知っていたらあんな態度は取れない。めぐねえは悪い意味で人が良すぎる。知っていたら、罪悪感で押し潰されていたに違いない。

 

 だから、知らない……はずだ。知らないで居て欲しい。

 

 ただでさえ、この状況に責任を感じているのだ。自分たちを、生徒を守らないと使命に駆られている。

 

 これ以上は、きっと耐えられない。その重みに耐えきれない。

 

 だから、これは無い方がいい。あったら困るものだ。

 

 ……だが、もしコレが────

 

 

 

 

 

 

「──おはよう、幹久くん。顔色悪いけど、大丈夫?」

 

 こちらの顔を覗き込むように見つめてくる若狭の目を遮るようにして、手を振った。

 

 先ほど柚村にも言われたが、自分は随分と顔色が悪いらしい。

 寝付きは悪くは無かったが、昨夜のアレが尾を引いているのだろう。

 

 若狭にコーヒーを頼む。ブラックしか出せないと言っていたが、それは好都合だった。甘いのは得意ではない。

 出されたコーヒーを口に含めば、飲み慣れた苦みが意識を鮮明にさせ、微睡んだ思考を整えてくれる。

 

 よくよく考えて見ればアレはまだ開封されていなかった。自分が初めてアレを開いたわけだ。

 非常時に、と書かれていたし、他も見当たらなかった。まあ、それも各々に配られているのなら話しは変わるが。

 

 やはり、皆に伝えるべきなのだろうか。取り敢えず、めぐねえだけにも伝えて、二人で考えてみた方がいいのだろうか。

 

 ……分からない。何が正解で、何が正しくて、誰を信じていいのか分からない。

 

「──幹久くん? やっぱり体調が悪いの?」

 

「えっ? あ、いや、どうも朝は弱くてさ」

 

 我ながら下手な誤魔化し方だと思った。

 

 こんなにも日が差し込み、星が見えるほど透いている青空が横の窓から見えるというのに。

 

 これ以上、ボロを出すわけにもいかない。

 無理矢理、会話を断ち切って席を立つ。まだもう少し考えて見た方が良さそうだ。

 

 

 

 

 

 

「──本城、そんなお菓子好きだったっけ?」

 

 リュックサックに詰めるお菓子を見ながらそう言った貴依の言葉に、迫り上がってくる嫌な汗が身体中を駆け巡る。

 

「ん? いや、そこまで」

 

 ただ、端的に。ただ、冷静に。

 

 隠そうとする動きを見せれば怪しまれる。この好きでも無いお菓子の最下層にある、引き千切った用紙(・・・・・・・・)の存在がバレてしまう。

 

 だから、いつも通りに……何時もの自分を演じるんだ。少し大袈裟でもいい。

 

 適当に選んだ棒状のお菓子を貴依に渡す。

 それに、困惑した様子を見せる貴依だったが、途中から丈槍が割って入り、どうにか事なきを得た。

 

 二人を見習うかのようにお菓子を口にしてみたが……正直、味は分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 目が覚める。だが、覚めるにしては余りにも早すぎる時間帯だった。

 ふと、周りを見れば寝息を立てている彼女たちの姿が目に入る。

 

 何の憂いも無く、安心して眠れる彼女たちが羨ましい。

 

 守ってくれる存在が居るから、安心して眠れる彼女たちが腹立たしい。

 

 ……いや、そんな大層なものじゃないか。だが、理解している。

 

 頼られているのが分かる。

 信頼してくれているのが分かる。

 背中を預けてくれているのが分かる。

 好意を向けてくれているのが分かる。

 想ってくれているのが分かる。

 

 全部が全部、痛いほど分かっている。

 

 それが、どうしても自分には重たく感じてしまう。上げる足を抑える足枷になっている。

 

 違う、違うんだ。自分はそんな存在じゃない……そう声を大にして叫びたい。

 自分は彼女たちが思っているほど強くない。精神的にも、肉体的にも、強くない。

 

 ただ、自分が生きたいから率先して動いているだけだ。動かなければ恐怖で身体が竦みそうになる。

 強迫的な、自分を脅すような、ともかくやらなければと思ってしまう。

 

 そんな、どうしようなく追い詰められているだけの人間だ。

 

 言ってしまえば楽になるのだろう。

 

 全て打ち明けてしまえば楽になるはずだ。

 

 何もかも、発露してしまえばきっと──

 

「──もとくん、絶対に何があっても守るから……ううん、みんな守って見せるから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──も、とくん……?』

 

 ズキズキと痛む傷を抑えながら思い出すのは、あの時のめぐねえの表情。

 ……きっと、ズキズキと痛むのは傷じゃなくて心だ。心が痛みで悲鳴を上げている。

 

 整わない呼吸を必死で整えようとして。

 

 流れ出る血と一緒に消えていく手足の感覚を感じて。

 

 どんどん、冷たくなっていく身体を震わせて。

 

 今にも死にそうになっている自分が持っているのは、変わった形をした注射器。

 

 自分だけが知っていること。自分だけが助かろうとしていること。

 

「あ、あぁ……ごめん、ごめんっ、めぐねえ、みんなっ! ごめんなさいっ、ごめんなさい……っ!!」

 

 最低だ。正真正銘の屑だ。意気地なしにも程がある。

 

 死にたくない。ずっと思っていたこと。

 

 でも、死にたくないと思いながら、ずっと死のうとしていた。

 

 皆の期待から。信頼から。笑顔から。何かも重圧に感じていたから。

 

 一人の方が楽だ。一人の方がよく寝られた。一人の方が戦いやすかった。

 

 でも、いざ一人になれば弱音を吐き、孤独に耐えかね、温もりを求めようとする。

 

 そして、死にたくない、と口に出して自分だけ助かろうとする。

 

 皆がくれた恩を仇で返そうとしている自分が止められない。

 

 愚かな自分を誰か裁いてほしい。神様でも、悪魔でも、いっそのこと『かれら』でもいい。

 

 ──今日、自分はやっと死にたいと心の底から思えた気がした。

 

 

 

 

 





 ここでタイマーストップ! と言って見たかった……。
 
 いやあ、本当にボロボロでした。途中から単純な実況プレイへと成り下がり、クリアすることも無く死んでしまい……本当に申し訳ないです。

 ただ、憧れと見切り発車で始まったコレも何だかんだ多くの方に読んで貰い、少しでも楽しんで貰えたようで嬉しい限りです。
 正直、何時になるか分かりませんが、前々から言っていた『学園ヒーロー』をちゃんとしたRTAで投稿したいと思っています。
 まあ、小説とRTAを一から勉強してちゃんと設定を練って、ガバるところを考えて……もうわかんねぇな。

 ともかく、この『試走』は付いていないものを投稿する予定ではあります。
 期待は……余りしない方向でお願いします。クオリティ的にはきっとコレより劣る可能性があるから。
 と、まあ長々と話すこともあれですので、この辺で。

 御拝読、ありがとうございました!



 番外編は……一話、二話? ぐらいですかね。もし、リクエストがあれば出来たら書きます。書けるかは分かりませんが。

 番外編の投稿は未定!


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