平行世界の秘封 (陰猫(改))
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バー・オールドアダム再び

「メリー。以前、行った酒場を覚えているかしら?」

 

 親友である宇佐見蓮子の切り出し方があまりに過ぎてマエリベリー・ハーンはしばし、考え込む事となる。

 そして、導き出されたのはかつて訪れたあの場所だろうかと思い、宇佐見蓮子に問う。

 

「確か、バー・オールドアダムだったかしら?」

「ええ。そうよ。私達が書いた燕石博物誌を作った時に仕入れたあの特殊な人達が集まって自身の身に起きた未知の体験談を話し合ったあの旧型酒場よ」

 

 どうやら、正解だったらしい。

 燕石博物誌とはマエリベリー・ハーンの体験して来た事を宇佐見蓮子と一緒に記した同人誌である。

 そして、バー・オールドアダムとは宇佐見蓮子の言う通り、その同人誌を作る上で仕入れた特殊な人間の集まる旧型酒場であった。

 

 因みに旧型酒とは古くから飲まれている酒の事であり、一般的に広く飲まれている依存性が低く、比較的身体に害のない工夫の酒の事を新型酒ーー所謂、ノンアルコールーーと云う。

 

 旧型酒と云うだけあって希少価値が高く、旧型酒場に行く人物は金に余裕のある。

 そこでマエリベリー・ハーンはペンネームであるDr.レイテンシーとして体験談を語った。

 

 その酒場の特殊を自称する人間達の体験談の大半が作り話であったが、マエリベリー・ハーンの目的は他人の体験談を自分達のものにする為であった。

 無論、それをそのまま、アイディアとして吸収する事ではなく、本当にその体験をする為である。

 

 それは彼女達の役に立ち、マエリベリー・ハーンと宇佐見蓮子はその真実だった体験に触れる事となり、彼女達の新しい体験談として綴られる。

 そんなバー・オールドアダムにはもう用はないだろうとマエリベリー・ハーンは思っていたが、親友が意味もなく、再びその酒場の名を口にするとは思えず、話を聞くだけ聞いてみようと云う気になった。

 

「それでその酒場がどうしたの、蓮子?

 まさか、またあそこへ行く理由でも出来た?」

「まあ、そうなんだけど・・・ちょっと眉唾なのよね?」

「勿体ぶらずに早く言って頂戴。蓮子らしくないわよ?」

 

 口ごもる親友にマエリベリー・ハーンはそう言うと宇佐見蓮子は「じゃあ」と口を開く。

 

「最近、あの酒場に出入りしている子がいるらしいの。それも年齢的にまだ未成年らしい子がね」

「それは私ではなく、警察に通報するべき事ではないかしら?」

「まあ、そうなんだけれど、どうもその子はDr.レイテンシーを探しているらしいのよ。つまり、メリー。貴女の事をね?」

「私を?」

 

 マエリベリー・ハーンが自身を指差しながら問うと宇佐見蓮子は頷いた。

 

「ね?ちょっと気になるでしょ?」

「そうね。その子の為にも、またあのバーに行った方が良さそうね?」

 

 こうして、マエリベリー・ハーンと宇佐見蓮子は再び、バー・オールドアダムへと足を運ぶ事となるのだった。

 

「Dr.レイテンシー。再び、お会い出来て光栄です」

 

 以前、出会った初老の男性がそう告げて挨拶するとマエリベリー・ハーンは軽く会釈をしてから目的の人物を探す。

 

 その人物はすぐに見付かった。

 

 この場には似つかわしくない学生服ーー恐らくは東京の某中学校の制服だろうーーに桃色のロングヘアーを靡かせながら、暇そうにカウンターに座っていた。

 

「ちょっと良いかしら?」

 

 マエリベリー・ハーンが彼女に近付いて尋ねるとその少女が振り返る。

 

「はい。なんでしょうか?」

「貴女、未成年?こんな所で何をしているの?」

「あ。すみません。ちょっと人を探してまして・・・」

「その人って、Dr.レイテンシーかしら?」

 

 マエリベリー・ハーンが質問すると少女はジッと彼女の瞳を見詰める。

 そして、お互いに本物であると理解するのであった。

 

「・・・あの、貴女はもしかして、本物のDr.レイテンシーですか?」

「ええ。そうよ。ここの人達にも聞いてみると良いわ」

「そんな必要はありません!

 私の勘が貴女で間違いないと言っていますから!」

 

 勘で人を判断するとは危ない子だなと思いつつ、マエリベリー・ハーンは隣にいる宇佐見蓮子に頷く。

 

「ここではなんだし、場所を変えましょう」

「はい!」

 

 少女は元気良く頷くとマエリベリー・ハーン達と共にバー・オールドアダムから出ていく。

 今回はこの少女の保護が目的であり、体験談を話に来た訳でもないので三人は早々に酒場を後にしたのだった。

 

 マエリベリー・ハーンと宇佐見蓮子は嬉しそうについて来る桃色髪の少女と共に近くのカフェに入り、適当な席へと座る。

 その間も少女は楽しげにニコニコと笑っていた。

 

「改めて、私はDr.レイテンシーことマエリベリー・ハーン。こっちは友人の宇佐見蓮子よ」

「朝多マヤです!改めて、宜しくお願いします、ハーンさんに宇佐見さん!」

「それで私を探していたらしいけれど、貴女、大丈夫なの?」

「はい。あそこの方々も比較的に紳士な方が多くて私がハーンさんを探していると伝えたら、快く受け入れて頂きましたので。

 まあ、お酒を勧められそうにもなった事もありましたけれど」

 

 度胸があるのか、それとも身の危険が解ってないのか知らないが、今回、朝多マヤと名乗る少女に接近出来たのは正解だったのだろう。

 ある意味、彼女からは親友の宇佐見蓮子並みの行動力があるのかも知れないと思いつつ、マエリベリー・ハーンは朝多マヤに忠告した。

 

「ともかく、貴女の事は親御さんに知らせないとね。今頃、心配しているわよ?」

「それも計算済みです。私みたいな学生があんな所にいたら、普通は不審に思うでしょうから。あとはハーンさん達が来るのが先か、警察が来るのが先か・・・まあ、ちょっとした博打ですね」

「そんな危険を冒してまでメリーに逢いたがっていたって事は貴女もなの?」

 

 マエリベリー・ハーンと朝多マヤの話を聞いていた宇佐見蓮子が尋ねると朝多マヤはゆっくりと頷く。

 

「見ている世界は違いますが、私も見えます」

「・・・でしょうね?」

 

 朝多マヤの言葉にマエリベリー・ハーンはそう呟くと彼女の代わりに宇佐見蓮子が質問する。

 

「見えるって事は貴女、メリーにその話をしたくて、あんな場所にいたの?」

「はい!そうです、宇佐見さん!」

「なら、もう少し安全な方法を取る事をオススメするわよ。

 あそこの人達はそこまでじゃないけれど、もっと質の悪い輩もいるんだから」

「蓮子の言う通りよ。目的は果たしたんだし、もうあそこにいるのはダメよ?」

「はい。すみません」

 

 明るく笑う朝多マヤを見て、本当に解っているのか心配しつつ、マエリベリー・ハーンは彼女に尋ねた。

 

「それじゃあ、貴女の話を聞かせてくれるかしら、朝多さん?」

「その前に確認なんですが、ハーンさんは平行世界と言うのを信じますか?」

 

 その言葉にマエリベリー・ハーンと宇佐見蓮子が顔を見合わせる。

 平行世界ーーパラレルワールドなど空想の産物でしかないと言うのは容易い。

 

 しかし、マエリベリー・ハーンの境界を見る事が出来る事で二人は異世界を認知している。

 当然、平行世界があってもおかしくはない。

 

「私が見ているのはその平行世界の未来です。まあ、睡眠による夢に限定されちゃいますが・・・」

 

 朝多マヤはそう言って笑うと「でも」と口調と表情を変え、真剣な態度で二人に断言する。

 

「睡眠による脳内処理によるモノと言われてしまえば、それまでですが、私は確信しています。平行世界がある事も、その先の未来が見える事も。

 だから、いま、研究しているんです」

「研究?」

「夢を通して人為的に世界を移動する方法です。その為にもDr.レイテンシーにーーハーンさんに会いに来たんです」

 

 その言葉に再び、マエリベリー・ハーンと宇佐見蓮子はお互いを見詰める。

 この朝多マヤと言う少女はある種の天才なのだろう。恐らく、将来、大物になる。

 もしかすれば、将来、彼女が新しい秘封倶楽部の部員となるかも知れない、と・・・。

 

 その証拠に彼女は持っているのだろう。

 

 それを証明するものを・・・。

 

「貴女の話は解ったわ。でも、証拠はあるの?」

「そう言われると思ってました」

 

 マエリベリー・ハーンが試すように質問すると朝多マヤは待ってましたと言わんばかりに制服のポケットから円柱のルービックキューブのような物を取り出して机に置く。

 

 それを見て、宇佐見蓮子が興味津々にそれに触れ、あれこれと調べ出す。

 

「これはなんなの?」

「未来で使われる試験の道具です。パネルを操作する事でテストの問題を解きます。まあ、端末がないとただのリモコンなんですが・・・」

 

 その言葉に嘘はないだろうとマエリベリー・ハーンは察する。

 宇佐見蓮子も朝多マヤが本物であるとは薄々気付いていた。

 

 マエリベリー・ハーンと宇佐見蓮子が過去の産物から異世界を見るのに対して、朝多マヤは平行世界から未来を見ているのだ。

 そして、朝多マヤは研究の成果を試したいのか、それともマエリベリー・ハーン達を被検体にしたかったのか、接触して来たのである。

 

 もし、彼女が本当に夢を通して、世界から世界へと移動出来る事が可能だと証明と出来るのなら、マエリベリー・ハーン達に新たな布石となるだろう。

 

 故に彼女達はこの未知への好奇心を持つ朝多マヤの誘いに乗る事にするのであった。



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卯酉新幹線ヒロシゲ

 マエリベリー・ハーンは朝多マヤの実家である東京を訪れる為に再び卯酉新幹線ヒロシゲへと乗車する。

 

 東京へは親友の宇佐見蓮子に何度か訪れたが、特に彼女が見るべきものは特になかった。

 だが、今回は違うかも知れないと思いつつ、マエリベリー・ハーンは楽しげに雑談する宇佐見蓮子と朝多マヤを見る。

 本当にこの二人は似た者同士だ。

 

 まず、行動力が違う。

 まさか、二日後に三人でヒロシゲに乗るとは思ってなかった。

 しかし、親友に似ているだけではなく、朝多マヤから自分と同じものも感じ、マエリベリー・ハーンは彼女を親友の宇佐見蓮子と自分を足して2で割れば、彼女みたいな子が出来るのではと思う。

 

 そんな彼女の何者も恐れない姿勢と飽くなき好奇心、実現の為の行動力がマエリベリー・ハーンには眩しく思えた。

 彼女だけではない。親友の宇佐見蓮子も恐らく、彼女が羨ましく思っている事だろう。

 

 マエリベリー・ハーンと宇佐見蓮子は対極に位置し、互いの欠点を補う事でいまの二人で一つの秘封倶楽部となった。

 だが、朝多マヤはマエリベリー・ハーンのように別世界を覗き、宇佐見蓮子も顔負けする行動力を持っている。

 ある意味、二人の理想とする姿が彼女である。

 

 だが、逆も然りである。マエリベリー・ハーンのように世界を見ると云う事はそれが実体験となって襲い、宇佐見蓮子に似た行動力の為に自ら危険に飛び込む。

 マエリベリー・ハーンと宇佐見蓮子はお互いがお互いを補うと同時に双方が自身のストッパー役となっている。

 

 だが、朝多マヤは一人だ。

 誰かが止める事も出来ない。故に彼女自身が体験し、それを解決しなければならないのだが、彼女がそれを判断し、如何に危険を回避するかを学ぶには幼すぎる。

 

 それも含めて、先輩である彼女達が朝多マヤに知恵を授ける必要があった。

 最悪、彼女には研究をやめるように言わねばならぬだろう。

 

 もっとも、二人の特性を持つこの少女が聞き入れるとも思えないが・・・。

 

 マエリベリー・ハーンはそう思いながら溜め息を吐き、新幹線から見える景色を見詰めた。

 

 卯酉新幹線ヒロシゲは京都から東京まで直通を地下鉄新幹線である。

 その際に富士山の通るのだが無論、地下を通る為に本来、富士山は見えない。

 

 窓に写る景色は人工的に作られた映像である。

 それとは別にマエリベリー・ハーンには違うものも見えている。

 

 ーーと楽しげに親友と会話していた朝多マヤの様子がおかしくなる。

 

「どうしたの、マヤちゃん?」

「いえ。少し気分が悪くなってしまって・・・お二人に会えて、はしゃぎ過ぎたのかも知れません」

 

 心配する宇佐見蓮子に朝多マヤはそう言うとペットボトルの水を飲んで気分を落ち着かせる。

 そんな朝多マヤを見て、マエリベリー・ハーンは別の心配をする。

 もしかすれば、彼女は自分と遭遇して感応したのかも知れない。

 

 見ているものは違えど、別世界をお互いに見ている事には変わりない。

 特異点同士がぶつかれば、より大きな特異点が勝る。

 

 つまり、マエリベリー・ハーンと云う大きな特異点に朝多マヤと云う小さな特異点が呑まれているのではないだろうか?

 

「・・・何か飲み物を買ってくるわ。二人とも、何か欲しいものはある?」

「あ、なら、私はコーヒーで」

「オレンジジュースでお願いします」

 

 マエリベリー・ハーンは席を外し、新幹線内の自販機へと向かう。

 昔は購買用の円柱のロボットがいたが、最近では見なくなってしまった。

 

 代わりに昔ながらの自販機が新幹線内で見られるようになる。

 人間と云うのはわがままなもので便利さよりも旧式の作法の方が愛着が湧くものらしい。

 文明は便利になれども、根っこの部分が変わらないのが人間である。

 

 だから、人間は今、現在も進化の袋小路にいるのだとマエリベリー・ハーンは考えてしまう。

 

 自販機で飲み物を購入し、マエリベリー・ハーンが戻って来ると朝多マヤは眠っていた。

 

「寝ちゃったの?」

「ええ。寝顔もだけど、本当に可愛いわね?」

「襲っちゃダメよ?」

「笑えないわよ、その冗談」

 

 マエリベリー・ハーンから飲み物を受け取りながら宇佐見蓮子は彼女とそんなやり取りをすると親友に訊ねた。

 

「マヤちゃんの様子がおかしくなったのって、メリーのせい?」

「蓮子もそう思う?」

「勘だけどね。電波はより強い電波に掻き消される。

 メリーって電波にマヤちゃんって電波が掻き消されそうになったのかなって・・・」

「私も似た事を考えていたわ」

 

 宇佐見蓮子とそんな会話をしながらマエリベリー・ハーンは先程まで自分の座っていた席に座り直す。

 

「・・・いま、マヤちゃんが見ているのは彼女の夢だと思う?それとも、マエリベリー・ハーンって強い電波から受信した別の夢?」

「それは本人が起きてから確認しましょう?」

 

 マエリベリー・ハーンと宇佐見蓮子はそう言って静かに寝息を立てる朝多マヤを眺めた。

 

「そう言えば、こうやってメリーと東京へ行くのはいつ以来かしら?」

「そんなに日は経ってないわよ。でも、なんだかとっても懐かしく思えるわね?」

「・・・ねえ。メリーは大学を卒業したら、どうするの?」

 

 不意に親友からそんな問いを受け、マエリベリー・ハーンはしばし、考え込む。

 

「勿論、私の研究を続けるわ。でも、そうね。

 もしかしすると私は蓮子と離れ離れになったら、前の生活に戻ってしまうかも知れない。

 誰にも理解されず、誰にも知られる事なく、夢とも現実とも解らない狭間を漂うのかも」

 

 マエリベリー・ハーンはそう告げると「蓮子は?」と問う。

 

「私は勿論、学者になっているわ。でも、そうね。マエリベリー・ハーンって親友が迷わないように傍らにいるのも悪くないかもね?」

 

 親友にそんな事を言われて、マエリベリー・ハーンは目を丸くすると「ふふっ」と笑ってしまう。

 

「まるでプロポーズみたいね?」

「まあ、そんなものかもね?男の方が良かった?」

「いえ。蓮子は蓮子よ。私の無二の親友。

 例え、自分が解らなくなっても、蓮子が側にいてくれれば、乗り越えられる。そんな気がするわ」

 

 二人はどちらからともなく微笑むと朝多マヤが起きるまで他愛もない雑談をして時間を潰す。



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幼き少女の未発達方程式

 朝多マヤが起きると彼女は早速、マエリベリー・ハーンと宇佐見蓮子に夢の話をした。

 ヒロシゲが目的地に到着するにはまだ余裕があったし、今回の彼女の眠りが浅かった事もある。

 そんな彼女の見た夢は二人の危惧したものとは違い、朝多マヤが見た夢は再び、平行世界の未来の夢であったらしいので二人はホッとする。

 

 これでいつものようにマエリベリー・ハーンが夢を見る世界を彼女が見ていたとしたら、朝多マヤも危険な目に合っていても全くと言っていいほど、おかしくはない。

 

 そんな朝多マヤの見た夢にはこことは違う近未来的な景色が見えたそうであった。

 その世界では全ての力が統一されて証明されているのだそうだ。

 

 そんな話を聞いて蓮子が食い付かない訳がないが、あくまでも朝多マヤが見ている世界の話なのであって、実際に彼女がそれを証明するには知識が足りていない。

 

 ーー故に本来は空想上の理論として片付けられてしまうのだが、それが夢ではない事を宇佐見蓮子は知っていた。

 実際、彼女はその超統一物理学の分野を専門にしている大学生なのであるのだから。

 まだ授業でも習わぬそれを中学生の朝多マヤが口にしたのだから、興味を示してさない方が無理な話である。

 

 それに朝多マヤの研究する平行世界への移動にはそう言った量子力学に近いものが用いられているのだが、朝多マヤ自身はそれがどう言う事なのかすら半分も理解していない。

 

 ただ、自身の直感を信じて動いているのだ。

 

 もしも、朝多マヤが自分達の歳になり、それらを研究しているのならばーーもしも、平行世界の存在を実際に朝多マヤが証明出来たのならば、宇佐見蓮子の超統一学もマエリベリー・ハーンの専門にする相対性精神学も更なる進展を見せるだろう。

 

 何故なら、それはマエリベリー・ハーンの異世界へ通じる夢を宇佐見蓮子の専門とする超統一物理学で科学的に解明するようなものであるのだから。

 

「ねえ、マヤちゃん?」

「なんでしょうか、宇佐見さん?」

「貴女が夢から平行世界の未来を見れるとしたら、それは此方でも起こりうる未来なのよね?」

「そうかも知れません。でも、仮にそうだったとしたら、未来はかなり、つまらないものになっているでしょう。

 だって、そこに夢やロマンがないんですから。

 実際、ニュースとか見て、私達は知る事でドンドンと当たり前じゃない知識が当たり前の知識になるんですから」

「それでも、貴女がいまの研究をする理由は何故?」

 

 宇佐見蓮子の言葉に朝多マヤはしばし、考え込むと彼女にこう答えた。

 

「今の常識って概念に縛られた息苦しい世界から解放されたいからかも知れませんね。

 私は宇佐見さんの言う超統一物理学やハーンさんの相対性精神学とかって知識はありませんし、何を言われているのかも理解出来ません。

 でも、それらの根底を覆す新しい発見があったって良いじゃないですか?

 誰かが現在に提示した理論とかを壊して新たな可能性を見出だしてもバチは当たらないでしょう?」

 

 朝多マヤがそう告げるとマエリベリー・ハーンと宇佐見蓮子は笑った。

 勿論、朝多マヤの仮説を馬鹿にしたからではない。

 寧ろ、新たな発見に夢を見ている朝多マヤに心底、感心したからである。

 彼女に言い分では過去の偉人達が現代に与えた方程式の根本から否定しようと言うものである。

 そう言った常識外の計算が如何に難しくーーそして、それを彼女がどう証明するのか・・・。

 

 本当に朝多マヤと言う少女はまだ若いながらも面白い事を考える子だなと二人はつくづく思うのだった。

 

「やっぱり、おかしいですか?」

「いいえ。素敵な考えだと思うわよ?」

「そう、ですか?」

 

 宇佐見蓮子の言葉に朝多マヤは照れると興奮したように喋る。

 

「そもそも、今の方程式なんかも昔の人が作ったものじゃないですか?

 昔と今では値の出し方も異なると思うんですよ?

 例えば、面積の出し方や円周率だって昔の人が用いた方程式を使っているだけで現代人が自ら導き出した答えとは言えません。

 こう考えると現代の人は昔の人の恩恵にあやかっているだけであって、自分達で本当に導き出した方程式とは言い難いんじゃないですか?」

「面白い考え方をするのね。そうかも知れないわ。

 そう考えると確かに夢の詰まった話ね?」

「でも、そうなると貴女はどうやって、その新しい方程式とやらを編み出すのかしら?」

 

 宇佐見蓮子と朝多マヤのやり取りを聞いていたマエリベリー・ハーンが朝多マヤに問うと彼女は「えっと・・・それは・・・」と口をもごらせる。

 流石に彼女もまだ、そこまでの考えには至ってはいないらしい。

 

 だが、過去に偉人達から継承した方程式を否定し、ゼロから新しい発見を模索すると言う事自体、並大抵の事ではない挑戦である。

 もし、彼女がそう言ったものに関して、新たな発見などを見つけ、更に実証した時を思うと科学者として将来、芽吹くかも知れないだろうとマエリベリー・ハーンと宇佐見蓮子は思うのであった。

 空想上の理論や物理法則などを演算する技術などは当にあみだされている。

 

 しかし、それは彼女の言うように現代人が自らの知識で得た訳でもない。

 今のインターネットワークで構築される知識とも異なる見解が見付かるのかも知れない。

 そもそも、ネット自体の演算機能が過去の偉人達の産物を基盤にしたコンピューターと呼ばれる代物によるものである以上はそれが常識であり、当たり前なのだ。

 彼女はその常識そのものに自らメスを入れて、新たな方程式を産み出すと言う突拍子もない話なのである。

 

 だからこそ、人間が新たな進化をする為にも彼女のような存在は希少とも言える。

 それと同時に確立された現代社会でも彼女は奇異な存在であり、彼女が直感的な天才であるが故にいまの人間には受け入れられないだろうと言うのも、よく理解出来た。

 

 やはり、彼女は此方側なのだろう。

 マエリベリー・ハーンと宇佐見蓮子は改めて、夢を現実にしようとする朝多マヤと言う少女にある種の期待を寄せるのであった。

 

 そんな話をしている間に地下鉄新幹線ヒロシゲは目的地に到着し、三人はヒヒロシゲから降りて、朝多マヤの住まうマンションへと向かって歩き出す。



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次世代科学世紀の少女

 マンションの一角にある朝多マヤの部屋に入ると二人は目を思わず、目を疑う。

 その部屋にはB級映画にでも出てきそうなゴテゴテした機械と実験台が部屋の一室を占領していたからである。

 

「・・・これ、マヤちゃんが一人で作ったの?」

「はい。5年は掛かりましたが、なんとか形にする事が出来ました」

「5年って・・・マヤちゃんはその時、10歳でしょ?」

 

 宇佐見蓮子の言葉に朝多マヤは「えへへ」と笑う。

 まさか、この様な形で既に用意されているとは二人も思わなかった。

 

 やはり、彼女には才能があるのだろう。

 

 ーーただ、同じく夢と現を垣間見るマエリベリー・ハーンには非効率な方法なのでは思ってしまう。

 元々、夢と現の境界のないマエリベリー・ハーンには朝多マヤのような実行力はない。

 理由としては幾つがあるが、実体験として肉体に残るからである。

 

 例えば、夢の中で怪我をすれば、現でも本当に怪我をするし、夢で手に入れたものを現実に持って来る事が可能である。

 また、最近では夢を共有して宇佐見蓮子に実際に見せる事すら可能なのだ。

 

 朝多マヤが行おうとしているのはそれを夢にリンクして平行世界の未来を現実として体験しようと言う物である。

 

 そんな説明を聞いて、マエリベリー・ハーンは不安になった。

 もしも、これが成功した時、それは誰も彼もが同じ体験をする事が可能となる。

 

 つまり、誰も彼もがマエリベリー・ハーンや朝多マヤのような体験が出来るのだ。

 

 勿論、それに対して、朝多マヤ本人に邪念などはない。

 彼女は産まれながらの探求者なのだ。

 

 それ故にマエリベリー・ハーンは注意しなければならなかった。

 このような追体験の装置は危険であると・・・。

 

 だが、言えなかった。

 

 もし、否定してしまえば、朝多マヤの才能を否定する事になるし、なによりもまだ、どの程度の危険なのかも解ってはいない。

 もしかすれば、この装置自体、未完成の可能性もある。

 

 だが、彼女の言葉を聞いて、マエリベリー・ハーンはこの装置が見せかけではないと知る。

 

「この装置はとある教授からアイディアを頂きました。

 まあ、夢の中で・・・なんですけれどね?

 名前は確か、岡崎夢美と名乗っていたと思います」

 

 その言葉を聞いて、マエリベリー・ハーンと宇佐見蓮子はお互いの顔を見合わせる。

 

 岡崎夢美と言えば、宇佐見蓮子の専門である超統一物理学の教授の名前である。

 その彼女が平行世界の未来で朝多マヤに伝授したと言うのであれば、本当の事なのだろう。

 

 それ故にマエリベリー・ハーンは慌てふためく。

 

「マヤちゃん!それを起動しては駄目よ!」

「え?どうして、ですか?」

「貴女のーー岡崎教授の知恵なら本当に起こる可能性があるからよ!」

「?それなら本当に試さない手はないのでは?」

「それが危険だと言っているの!

 ともかく、この装置を止めなさい!」

 

 鬼気迫るマエリベリー・ハーンの言葉に朝多マヤは首を捻ると宇佐見蓮子を見る。

 

 そんな宇佐見蓮子の反応はーー

 

「面白そうじゃない!行ってみましょうよ!平行世界の未来って奴に!」

 

 ーーと、かなり乗り気であった。

 

「ちょっと!?蓮子!?」

「まあまあ、落ち着きなさい、メリー。平行世界とは言え、あの岡崎教授の教え子って事は私の後輩になるでしょ?ーーその岡崎教授の興味を持った子ですもの。きっと意味があるんだわ」

 

 そう告げると宇佐見蓮子は朝多マヤに顔を向けた。

 

「それでどうするの、マヤちゃん?」

「私がリンク役になります。宇佐見さん達は2メートル近くで寝てて頂ければ、問題ありません」

「OK。早速始めましょう」

「待ちなさい」

 

 はりきる二人にマエリベリー・ハーンは待ったを掛けると親友と次期後輩を見詰めた。

 

「私も同行するわ。貴女達。二人に何かあったら困るもの」

「とか言って、本当は除け者になるのが嫌なだけなんでしょう?」

「うるさい」

 

 茶化してくる親友にマエリベリー・ハーンはそう告げると朝多マヤに近付く。

 

「マヤちゃんに足りないのは実際の体験だと言う自覚ね。本当に夢を現実にするって言う怖さを知らなすぎる」

「え?」

「だから、ちゃんと私と蓮子が教えて上げるわ。その危険性って言うのをね?」



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別の世界の科学世紀・東京

 朝多マヤの夢の世界にリンクするのは容易かった。

 本当に瞼をつむり、横になっているだけで見られるのだから。

 

「へえ。本当に現実みたいね?」

 

 宇佐見蓮子の言葉にマエリベリー・ハーンも頷く。

 この歳で夢を現実にする装置を作ってしまうだけ、朝多マヤがやはり、本物だと思い知らされる。

 それと同時に様々な経験をして来たマエリベリー・ハーンと宇佐見蓮子には拍子抜けするものであった。

 

 ーーと云うのも、朝多マヤの言う未来とやらは彼女達の科学世紀と然程変わらぬ光景であったからであった。

 これが未来だと言うのなら、かつて、宇佐見蓮子が発言した通り、つまらない時代なのだろう。

 

 だが、なにかが異なる。

 

 上手くは言えないが、ここは明らかに別の未来なのだと彼女達は悟る。

 それにいち早く気付いたのは宇佐見蓮子であった。

 

「メリー。あれはなんだと思う?」

 

 親友の言葉にマエリベリー・ハーンも気付くと天と地を貫く線のような建物に気付く。

 

「もしかして、あれって宇宙まで行けちゃうエレベーターだったり?」

「そうですよ。流石は宇佐見さんです」

 

 宇佐見蓮子の言葉に朝多マヤは頷くと家を出る。

 そんな彼女の後について行くようにマエリベリー・ハーンと宇佐見蓮子はついて行く。

 

 彼女達の世界では首都が移され、寂れた田舎の東京の筈であったが、今いる世界は明らかに違う。

 まるで彼女達のいる京都同様に賑わっていた。

 

「・・・東京、なのよね?」

 

 困惑するマエリベリー・ハーンが親友に尋ねると宇佐見蓮子も同様に困惑しながら「多分」とだけ言葉を紡ぐ。

 そんな二人をおかしそうに朝多マヤが笑う。

 

「とりあえず、お茶にしましょう」

「マヤちゃんは・・・怖くないの?」

「え?どうしてですか?」

 

 朝多マヤはマエリベリー・ハーンの言葉に首を捻るとマエリベリー・ハーンは何も言えなくなってしまう。

 彼女が見ているのは確かに現実に近い夢なのだろう。

 つまり、異世界のような世界に触れている自分とは異なるのだ。

 

 ある意味では安心であり、ある意味では残念にも感じる。

 朝多マヤとマエリベリー・ハーンは確かに似た性質であるが、その根元が異なるらしい。

 

 故に朝多マヤは夢を楽しみ、マエリベリー・ハーンは夢を恐れる。

 自分も彼女みたく、このような世界ばかり夢を見ているのなら、もう少しポジティブになっていただろう。

 

 彼女達がお茶の出来る場所へと向かおうと角の喫茶店に入る。

 無論、マエリベリー・ハーン達が来た時にはこのようなものはなかった。

 

 三人はそこで椅子に座る。

 

「お金は大丈夫なの?」

「私も入るのは初めてですから、どうでしょう?」

「初めてって・・・なんで入ったのよ!」

「私だけなら不安でしたけど、今はハーンさん達がいますから」

 

 朝多マヤの言葉に呆れながら、マエリベリー・ハーンは溜め息を吐く。

 こう言う突発的なところは親友そっくりである。

 

 そんな事を考えていると忽然と粒子が集まり、人の形を為す。

 光が収まると眉間に皺を寄せる婦警の格好をした女性が現れる。

 

「また、貴女なの?」

「こんにちわ、婦警さん」

「お知り合い?」

「平行世界を守る警察なんだそうです。私ではよくは解りませんでしたが・・・」

 

 本当に丸投げするところは宇佐見蓮子のようだと思いつつ、マエリベリー・ハーンはその婦警と話す。

 

「えっと、こんにちは」

「貴女達、この子の知り合い?」

「ええ。まあ、そうなります」

「なら、この子に言ってくれないかしら?

 平行世界の治安が乱れるのはよくないから、やめて欲しいって・・・」

「それは何故ですか?」

 

 挨拶をしたマエリベリー・ハーンの代わりに宇佐見蓮子が尋ねると婦警が「本当に知らないのね?」とぼやく。

 

「平行世界から飛ぶって事は未来では罰則で禁止されているの。

 それなのにその子ったら、夢で見ているだけなのだから問題ないでしょうって言うのよ」

「実際、そうじゃないですか?

 夢で別の世界を覗いているんですから、問題ないですよね?」

「貴女を助ける身にもなりなさい!

 この間なんかは世紀末覇者みたいな世界から救出するの大変だったんだから!」

 

 どうやら、この婦警と朝多マヤは何度か顔を合わせているらしい。

 流石に婦警の言葉も気になり、マエリベリー・ハーンは朝多マヤに助言する事にした。



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本当の自分の答え

「マヤちゃん。貴女には貴女の理論があるのよね?」

「はい。そうですが・・・」

「なら、これは貴女の研究成果と言えるのかしら?

 よく考えてみて。これは本来、貴女の得た知識ではないでしょう?」

 

 そうマエリベリー・ハーンが諭すように質問すると朝多マヤは黙ってしまう。

 マエリベリー・ハーンが何を言わんとしているのか、解らない程、朝多マヤは子供ではない。いや、子供ではある。

 しかし、変に大人びてしまった思考故にマエリベリー・ハーンの発言は彼女を深く傷付ける事となる。

 

「・・・どうして、そんな事を言うんですか?」

「貴女の知識ではないからよ、マヤちゃん。

 確かに貴女は夢で得た知識で今、実際に私達と平行世界を体験している」

「だったら、何が悪いんですか、ハーンさん?」

「それはーー」

「マヤちゃんが自分で到達した結果じゃないからでしょ、メリー?」

 

 マエリベリー・ハーンに否定されてショックを受けている朝多マヤにキツい言葉を言い掛けた彼女に代わって、親友である宇佐見蓮子が答えた。

 そんな宇佐見蓮子は納得していない朝多マヤに優しく囁く。

 

「マヤちゃんは確かに凄いよ。こんな風に平行世界の未来の境界を一人で暴いちゃうんだから」

「・・・宇佐見さん」

「でも、だからこそ、マヤちゃんは自分の力でそれを証明しなきゃ駄目なんだよ。

 その別世界の岡崎教授だってマヤちゃんにヒントをくれただけなんだから、答えを丸写ししてたらダメでしょ?

 それは別の方程式とかもゼロから探しているマヤちゃんの考えに反するとは思わない?」

 

 囁く宇佐見蓮子に朝多マヤは嗚咽を漏らして泣き出す。

 二人なら解ってくれると思っていた。

 出会った事でそれは確信へと変わる。

 

 そう朝多マヤは信じていた。

 しかし、待っていたのは否定の言葉である。

 ここまでしても認められない事にーー信じられる人間に言われたらこそ、まだ年端もいかぬ少女は涙を流す。

 

「・・・ひっく・・・ぐすっ・・・わたし・・・頑張ったのに・・・」

「うん。マヤちゃんは頑張っているよ。

 エラいと思う。実際にマヤちゃんは凄い事をしているんだから」

「・・・ぐすっ・・・蓮子さん」

「だからこそ、自分の中にある本当の答えを見付けてね、マヤちゃん。

 借り物の力じゃなくて、マヤちゃん自身がこれだと思う結果を自分の力で見付けなきゃ意味がないんだよ」

「・・・はい!私、頑張ります!」

 

 涙に濡れながら朝多マヤは宇佐見蓮子に抱き付くと宇佐見蓮子は優しく朝多マヤの頭を撫でる。

 そんな二人を見て、マエリベリー・ハーンはホッとすると同時に少し親友が羨ましくも思う。

 

 自分ならば、結論しか口に出来ないだろう。

 何故ならマエリベリー・ハーンは夢と現を区別出来ない程に不安定なのだから。

 結果的に朝多マヤを不安にさせ、最終的に全てを否定して終わるだろう。

 

(敵わないわね、蓮子には・・・)

 

 自分の中心となった親友に色々と思いながら、マエリベリー・ハーンは婦警に視線を移して頭を下げる。

 

「大変でしょうが、彼女を宜しくお願いします」

「・・・今更って感じね。まあ、私も彼女とは浅はからない縁だし、彼女が本当に犯罪者にならぬように見ているから安心なさい」

 

 婦警はそう告げると抱き締め合う宇佐見蓮子と朝多マヤに向かって手を叩く。

 

「さ、もう良いでしょ?・・・貴女達は自分の世界に帰りなさいな」

「そう言えば、貴女の名前は?」

「私?私はことーー」

 

 そこまで聞かぬ内にマエリベリー・ハーンと宇佐見蓮子は朝多マヤの覚醒によって彼女と同時に共有していた平行世界へ通じる夢から覚める。



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未来へ向かって

 それから数日が経った。

 

 朝多マヤは満足した表情で卯酉新幹線ヒロシゲが来るのを待つマエリベリー・ハーンと宇佐見蓮子を眺める。

 プラットフォームの時刻表の予定通りであれば、ヒロシゲの到着時刻までまだ10分以上も時間がある。

 

 なので朝多マヤは二人と連絡先を交換し合う。

 

 朝多マヤが上機嫌なのは、なにも二人と連絡先を交換したからだけではない。

 夢の中で二人に教えられた自分の描くやり方で研究すると云う新たな課題が出来たからである。

 

 朝多マヤの心は純粋であったが為に自分が間違えていると指摘され、それを素直に受け取った。

 そして、それに向かって新たに進めるだけの意思の強さがある。

 

 大人になってしまったマエリベリー・ハーンには恐らく、そのような柔軟な思考は出来ないだろう。

 自身の成果を一度捨ててしまい、新たに証明しろと言われれば、自分ならば、不可能であろう。

 その困難な道に向かうように仕向けたのは自分と宇佐見蓮子であったが、彼女は全く気にした様子はない。

 

 寧ろ、新たな課題を楽しむ姿勢とその純粋さはマエリベリー・ハーンにとって眩しいものであった。

 

 恐らく、親友の宇佐見蓮子もそう思っているのだろうと思いつつ、マエリベリー・ハーンは腕の時計を見る。

 そんなマエリベリー・ハーンの動きに呼応するようにヒロシゲの到着を呼び掛けるアナウンスが流れる。

 

 ヒロシゲから降とりる人々がいなくなってから入れ違いにマエリベリー・ハーンと宇佐見蓮子が改札口を通る。

 

「ハーンさん!宇佐見さん!

 色々ありがとうございました!」

 

 朝多マヤが元気に手を振りながら叫ぶと宇佐見蓮子が笑って応じる。

 

「マヤちゃんも元気でね!」

 

 親友のそんな姿を見ながら、マエリベリー・ハーンも朝多マヤに応えて手を振って到着したヒロシゲへと向かう。

 二人が乗車してヒロシゲが発進するとマエリベリー・ハーンは親友に尋ねた。

 

「どうだった、彼女の夢は?」

「解ってて聞いてるでしょ、メリー?」

 

 宇佐見蓮子は意地の悪い親友の言葉に笑う。

 

「未来に向かうって云うのは退屈なものだと思っていたけれど、少し見方が変わったわ。

 たまには未来を思い描くの悪くないかもね?」

「あら。そう?」

「まあ、それはそれ。未来の秘封を暴くのも魅力的だったけれど、やっぱり、いつもの活動が私達らしいわ」

 

 宇佐見蓮子の言葉にマエリベリー・ハーンも笑うと彼女と同じく、いつもの境界暴きの方が自分達らしいと思っていた。

 違う事があるとすれば、今回の一件で出会った少女とのやり取りで少しは自分も夢を楽しんでみようと思う気持ちがある事であろうか?

 

「そう言えば、マヤちゃんと見た夢の事なんだけれど、私は面白い事を考えていたわ」

 

 唐突に宇佐見蓮子がそう告げるとマエリベリー・ハーンは「やっぱり」と呟く。

 朝多マヤの作った機械をマエリベリー・ハーンが使えば、恐らく、今以上に現実味を帯びた夢として体感出来るであろうと云う事は彼女も考えていたようである。

 

「言っておくけれど、私があの機械を使うって話はナシよ?」

「ああ。やっぱり、ダメか・・・メリーの夢を科学的根拠に基づいて調べられる機会だと思ったのに」

「まあ、そう云う秘密を暴くのは未来の部員さんに任せましょう」

 

 二人はそう言って笑うといつもの常人とは異なる生活へと戻っていくのだった。

 

 

 

「そう言えば、この新幹線のフォルム、少し変わってなかった?

 なんか、少し年季が入ったと云うか・・・ちょっといつもよりも古びてたように見えたけれど?」

「そこまで気にしてはいなかったけれど、どうだったかしらね?

 もしかすると私達はまだ、マヤちゃんの夢の中にいるのかも知れないわね?」




今回も書きたい事を書いた感じです。
原作の秘封倶楽部は主に現代から過去や幻想郷などをマエリベリー・ハーンと宇佐見蓮子が体験しますが、今回の私の作品では未来の秘密を少し覗いた感じで書きました。

我々は未来を現実に変えて来たが、それは過去から現代への過程としての話。
では、更に未来へ踏み込むにはどうすべきか?

過去だけでなく、未来にも秘密があった方が面白いと思いますので今回、書いた次第です( *・ω・)

未来を描け、若人よ。
それを現実にするのは君かも知れない。

ではでは、この辺で。
また次の作品でお会いしましょう( ・ω・)ノシ


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