血の軌跡 (おいいいいい)
しおりを挟む

Prologue 
01


目が覚めると其処にいた。

 

其処は何処までも暖かく、またどこまでも冷たかった。

 

「生存者がいるぞ!」

 

どこかで兵士の声が聞こえた。でも今の自分にはそちらに関心を示すことはできず、唯々もう動かなくなったみんなを見ていることしかできなかった。

 

近くにいた兵士が何か話しかけていたが、その内容は全く頭に入ってこなかった。よく無事で、とか言ってた気がする。

 

そりゃそうさ無事に決まってる。

 

なんせこれは俺がやったんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はこの春からこのトールズ士官学院第Ⅱ分校に通うこととなり現在はその入学式みたいなものの最中だ。

そして各教官からそれぞれのクラスが発表されたが、俺と青髪の男子と、ピンク色の髪した女子、そしてなぜか幼女が残っていた。

その後分校長のありがたいお言葉をいただいて、そういえば俺たちのクラスは何処なんだろうと思っていると。

黒髪の教官が肩を竦め分校長に尋ねた。

 

「分校長、そろそろクラス分けの続きを発表していただけませんか?」

 

俺たちは幼女を除いてそろって間抜けな声を出した。その様子を見てなのかどうかは分からないが分校長は愉快そうに笑って答えた。

どうやら俺たちのクラスは≪Ⅶ組・特務課≫というらしい。

特務?何するんだろう、と頭を悩ませていると金髪の教官がついて来いというので大人しくついていくことにした。

 

 

 

しばらく行くと何だか研究施設のような白い建物が目に入る。

 

「Ⅶ組・特務化には入学時の実力テストとして、この小要塞を攻略してもらう。」

 

金髪の教官が言うにはこれは小要塞らしい、イメージと全く違ったわ。

 

「攻略…?」

 

「そもそもこの建物は一体…?」

 

ピンク髪の女子と、青髪の男子が疑問を露わにしていた。

博士っぽい人が施設の概要を説明してくれた。どうやらこの小要塞、魔獣などが出るらしい。

それを聞いて担任教官がひらめいたのか、要はこれは入学オリエンテーションであり新米教官への実技テストですね?みたいなことを金髪教官に言っていた。

なるほどーと思っていると、ピンクの女子が声を荒げた。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!黙ってついてきたら勝手なことをペラペラと…。」

 

いかにも私怒ってます!的な雰囲気を発しながら続ける女子。

 

「そんな事を…ううん、こんなクラスに所属するなんて一言も聞いていませんよ!?」

 

確かに俺も元々は戦術課を志願していたけど、特に関係ないだろうと考える。

その後金髪教官が文句あるなら帰れ的なことを言ったので女子は黙るしかなくなった。

その後青髪の男子や幼女も納得したことにより要塞攻略をすることになり、現在要塞内で待機するように言われた。

 

「申し訳ないが、到着したばかりで君たち3人のことは知らなくてね。俺は―――。」

 

「フン…名乗る必要なんてないでしょう?≪灰色の騎士≫リィン・シュバルツァー教官。」

 

なるほど教官はリィン・シュバルツァーというのか。あと一つ気になることがあったので聞いてみることにした。

 

「すいません…≪灰色の騎士≫ってなんですか?」

 

すると教官を除いた三人ともあり得ないような顔をしていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

02

「えっと…冗談だよね?」

 

ピンク髪の女子が信じられないように尋ねてくる。

周りを見てみるとみんながみんな同じような顔をしていた。そんなにおかしいことだったんだろうか少なくとも今までの人生で≪灰色の騎士≫なんてものは聞いたことがなかった。

 

「はは…その様子じゃ冗談じゃぁなさそうだな。改めて、君たちの担任教官のリィン・シュバルツァーだまだまだ新米だけどよろしく頼む。」

 

「こちらこそよろしくお願いします。エルド・アイゼンタークです。それで…。」

 

「クルト・ヴァンダール。帝都ヘイムダルの出身です。」

 

「ユウナ・クロフォード。クロスベル警察学校の出身です。正直よろしくしたくないけど…そうも行かないのでよろしく!」

 

俺がみんなの方を見ると続けて自己紹介を行い。残るはなにやら教官と既知の仲であるだろう幼女だけになった。

 

「最後は私ですね。アルティナ・オライオン帝国軍情報局の所属でした。」

 

「「!?」」

 

「一応ここに入学した時点で、所属を外れた事になっています。どうかお気になさらず。」

 

どうやら政府側の人間だったようだ、多分教官が政府の手伝いをしたときに知り合ったのだろう。

 

「…聞き捨てならないことを聞いた気がしたんだが。」

 

「情報局って、噂に聞いた…って、それより事になってるってなによ!?」

 

「失礼、噛みました。」

 

いや、噛んでないと思う。

 

「それより、そろそろ準備しなくていいんですか?」

 

俺がそういった直後に頭上からセッティングが完了したことを告げるアナウンスが流れた。

その後教官からARCUSⅡの説明を受け、もらったマスタークオーツをARCUSⅡにセットした。

すると、みんなの体から仄かな光が発せられた。

 

「わわっ…。」

 

「これが…。」

 

「マスタークオーツが装着されることでARCUSⅡが所持者と同期した。これで身体能力も強化され、アーツも使えるようになった筈だ…ってエルド、なんで同期してないんだ?」

 

リィン教官がそう尋ねてくるが自分でもわからない。自分もみんなと同じようにセットしたはずなのになぜだか同期することなく、何も起こらなかった。

 

「故障か?博士に見てもらおう。」

 

「フン、問題ないそのまま続行する。」

 

「しかし!」

 

「貴様がその分努力すればいいだけの話だ。」

 

「っ!」

 

「それでは見せてもらうぞ。≪Ⅶ組・特務課≫とやら。この試験区画を、基準点以上でクリアできるかどうかを―――!」

 

「!みんな足元に気をつけろ!」

 

教官がそういうと足元の床がガコンッ!と下に抜け俺たちはそのまま下に落とされていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

03

今回から長めに書こうと思いました。


下に落ちるとクルトがユウナに敷かれていた。クルトがユウナの胸に顔をうずめる形で。

ちょっと羨ましい。

二人の様子を観察していると、教官と不思議な人形に乗ったアルティナが下りてきた。

「エルドは無事だったかって、これは…。」

教官は二人の方を眺めながら何だか呆れたようななんというかそんな表情をしていた。

するとユウナはクルトの上から立ち上がり声にならない声をあげてクルトを睨みつけた。

 

「~~~~っ~~~~!」

 

「…事故というのはこの際、関係なさそうだ。弁解はしない。一発、張り飛ばしてくれ。」

 

そういうとユウナの強烈なビンタがクルトの顔面に叩き込まれた。

 

「ま、まぁ四人とも大きなダメージはなさそうだな。」

 

苦笑しながらもこちらを見て尋ねる教官、俺はうなずいて答えた。それを見て教官は安心したのかホッとした表情をして、すぐさま真剣な表情になった。

 

「それではこれより、この小要塞の攻略を開始する。各自武装を見せてくれ。」

 

「わかりました。自分はこれです。」

 

クルトは腰に差していた剣を2本取り出すと軽く振って構えた。

 

「ヴァンダール流の双剣術…存在するのは知っていたが。」

 

「剛剣術の方が有名ですからね。ですが、あちらは持って生まれた体格と筋力を必要とする…こちらの方が自分は得意です。」

 

クルトの武装に納得した後、隣にいたユウナに話を振る教官。対してユウナは若干不機嫌そうな雰囲気で答えた。

 

「勝手に話を進められているみたいで面白くありませんけど…士官学校の新入生として、一応、弁えているつもりです。」

 

そういうとユウナは後ろから赤いトンファーのような物を取り出し少し自慢げな表情で続ける。

 

「ガンブレイカー――クロスベル警備隊で開発された銃機構(ガンユニット)付きの特殊警棒です。モードを切り替えることで中距離の範囲射撃になります。」

 

みんながちょっと驚きつつ次はアルティナの話になった。

アルティナが腕を上げると突如何もない空間に黒い鋼鉄の人形が出現した。みんなして驚いているとアルティナが説明を始めた。

 

「クラウ=ソラス―――≪戦術殻≫という特殊兵装の最新鋭バージョンとなります。秘匿事項となるため詳細は説明できませんがそれなりの戦闘力はあるかと。」

 

「まぁ、聞きたいことは山ほどあるだろうが我慢してくれ。じゃあ最後はエルドだな。」

 

苦笑しながら俺に話を振る教官。

しかし困った、現状俺には皆のような立派な武装がない。あるとすればロープとかを切るようのナイフしかないが、仕方ない。

俺は刃渡りが8リジュに届くか届かないかぐらいのナイフを抜き皆の前に出す。

 

「俺の武装はこのナイフです。……一応。」

 

「「「「…………………………」」」」

 

皆がみんな口を開け呆けている。

その様子を見て苦笑しながらも何だか申し訳ない気持ちになった。

 

「えっと………冗談だよね?」

 

最初に口を開いたのはユウナだ。

そして残念ながら冗談ではない、俺はそのことを首を横に振ることで伝えるとユウナは肩を落とした。

 

「君は………ふざけているのか?」

 

「いやぁ、ふざけてはないんだけど…そう取られても仕方ないよね…。」

 

実際そう取られても仕方ない。

先ほどはARCUSと同期が出来ず、今回はこれだ。自分がクルトの立場だったらそう思う。

 

「ま、まぁわかった。早速行動を開始しよう。エルドはなるべく俺から離れないようにしてくれ。」

 

教官がそういうと各々準備をし行動を始めた。

因みに教官が見せた表情は今日見た中でダントツに困っていた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

04

中に入ってみるとちょっとした迷宮のようになっており、比較的簡単な作りになっていたため、迷わずに先に進めることができていた。

また、魔獣が出現していなかったこともあり、少しばかり警戒が緩んでいた、その状態のまま皆が『なんだ案外楽じゃん』と思いつつ進んでいると先頭を進んでいたリィン教官が突然立ち止まった。そのおかげで教官の後ろを歩いていた俺はそのまま教官にぶつかりかけた。そのことを抗議しようとすると人差し指を立て静かにするように指示した。

 

「静かに…みんな、止まれ。」

 

その言葉に従い教官が見据えている方を見ると、兎のような鼠のような魔獣が二匹ほどうろついていた。

 

「……早速現れたか。」

 

クルトの一言をきっかけにさっきまで弛緩していた空気が引き締まり皆が教官の指示を仰ごうと教官を見る

 

「リィン教官、指示をお願いします。」

 

「そうだな…まずは現時点での戦力を確かめておきたい。―――各自、戦闘準備を!」

 

その指示を聞いて各自、自分の武装を取り出す。一応俺もナイフを構えた。

 

「ほんとにこの娘と、エルド君を戦わせて大丈夫なんですか!?」

 

「……?特に問題は感じませんが。」

 

「あはは…。」

 

ユウナの当然な疑問にアルティナは当然のように答えるが。俺は苦笑いを浮かべるしかなかった。

その様子を見て教官はいまだこちらに気づいていない魔獣を見据え答えた。

 

「大丈夫だ、俺もサポートする。このまま仕掛ける。君たちも気を引き締めてくれ!いくぞ!」

 

ユウナはどことなく納得していなかったが、その一言を切っ掛けに戦闘が始まった。

まず教官とクルトが速攻を仕掛け魔獣の背後から攻撃を仕掛けるが、さすが獣というべきか足音でそのことに気づき、二人の攻撃を躱し、背後に回ると攻撃をしようとする。クルトは魔獣が素早いこともあり反応が少し遅れたが教官はそのまま回転し、とびかかってくる魔獣に対しカウンター気味に斬撃を浴びせた。斬られた魔獣は吹っ飛んで地面を転がり壁に激突する。そこにアルティナがクラウ=ソラスによる追撃を浴びせそれで息絶えたのか、動かなくなった。

クルトの方にいた魔獣はクルトが反撃をもらう前にユウナが銃撃を放ち、そのことによって魔獣はバックステップで距離を取る、その様子を見て俺は魔獣の背後に回りナイフを突き立てた。しかし、行動が遅かったのか、感づかれ噛みちぎろうと攻撃を仕掛けてくるが一瞬俺の方が早かったため、俺のナイフが先に魔獣の首に突き刺さった、魔獣は息絶え動かなくなった。

怪我をすることはなかったが、もう少しで大けがになっていたと思うと腰が抜け、地面に尻もちをついてしまう。

 

「エルド、怪我はないか?」

 

教官が尻もちをついていた俺に手を差し出す。

おれはその手を掴んで立ち上がると怪我はないことを告げた。

 

「みんなも、怪我はないな?」

 

「……ええ、問題はありませんが…。」

 

チラッとアルティナを見るクルト、あんな綺麗な連携を見たのだその気持ちもわかる。ユウナもアルティナがここまで戦えるとは思っていなかったのかアルティナの方を見ていた。

 

「まぁ、アルティナはともかくクルト、ユウナ二人とも実線は問題なさそうだな。」

 

「……まぁ、魔獣の手応えもそこまででは無さそうですし大丈夫です。それよりも…。」

 

「あぁ…そうだな。エルド。」

 

「は、はい?」

 

さっきまでアルティナに向いていた視線が全て自分に集まったことによって少し動揺してしまった。

 

「エルド、先ほどの判断はよかった。」

 

「あ、ありがとうございます…?」

 

「だが、君は自身の武装を考えて行動をするべきだ。さっきは怪我無く魔獣を倒すことができたがいつでもそうできるとは限らない。それに失敗したらどうなっていたか分からないわけじゃないだろう?」

 

教官の指摘が正論過ぎて、ぐうの音も出ない…。

でもしょうがないんだ…。アーツもちゃんとした武装も無く使えるのはこのナイフだけだったんだから。

その後、教官がそれぞれの総評を言ったのちに探索再開となり、俺は魔獣との直接戦闘は禁止された。まぁしょうがないよね。

 

 

 

 

探索を再開してしばらくたった後、行き止まりの様な部屋にたどり着いた。

よく部屋を見渡してみると外に続いていそうな道があり、しばらく歩き回って疲れていた俺は安堵の溜息を吐く。

 

「やっとおわ…。」

 

思いっきり伸びをしようとしたとき、背後からなにか音が聞こえ、振り返ってみると先ほどまでは何もなかった場所に時空の歪みのようなものが現れていた。

 

『み、皆さん、逃げてくださいっ!』

 

そう慌てたアナウンスが流れると同時に、巨大な何かが時空の歪みのようなものの中から出てきた。それは立ち上がると全長5,6アージュはある鋼鉄の人形だった。

 




初戦闘シーン…戦闘描写って難しいね…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

05

 

「こ、これって……帝国軍の≪機甲兵≫!?」

 

「いえ、これは―――。」

 

「≪魔煌兵≫――暗黒時代の魔導ゴーレムだ!」

 

教官のその言葉と同時に俺たちは互いに武器を構える。

それを見計らったかのように≪魔煌兵≫はその鈍く輝く腕を俺達に叩きつける為振り上げる。

 

「攻撃が来る!回避するんだ!」

 

教官がそう叫ぶとユウナ、クルト、アルティナの三人は横に跳んで回避をする、俺も同じようにするが三人と違いARCUSⅡの身体強化の恩恵を受けていないためか鈍い。対して≪魔煌兵≫の動きは体格に似合わず素早い、このままでは間に合わない。

しかし、その事に気づいた教官は俺を抱え上げ安全圏まで避難した後、俺を壁際まで投げ飛ばした。

 

「エルド!すまないがそこでじっとしていてくれ!」

 

「いたっ……。」

 

見ると腕から血が流れており、かすり傷程度ではあるが怪我をしていた。

 

「それは内戦時に出現していた旧時代マシナリィを捕獲したものだ、機甲兵よりも出力は劣るが、自律行動できるのは悪くない。それの撃破をもって今回のテストを終了とする。」

 

スピーカーから聞こえる博士の声に皆が文句を言うが魔煌兵は止まらない。

再び腕を振り上げ教官達を潰そうとしてくる。

それを回避した教官は何を思ったのか、右手を天高く伸ばし言葉を発した。

 

「来い、≪灰の騎神≫―――。」

 

「騎神の使用は禁止だ。」

 

が、それは博士の声によって遮られた。

 

「LV0の難易度は騎神の介入を想定していない。その程度の相手に使ったら正確なテストにならぬだろう。」

 

スピーカーから流れる残酷な音声、それぞれがそれぞれに息をのむ。

 

「シュバルツァー、せいぜいお前が“奥の手”を使うか――まだ使っていない≪ARCUSⅡ≫の新機能を引き出して見せるがいい。まぁ尤も、使えぬ者がいはしたが、問題ない、貴様ら四人でも十分に対処可能だ。」

 

「≪ブレイブオーダー≫モードを起動してください……!」

 

「そうか――了解だ!」

 

教官がARCUSⅡを起動し操作すると四人の身体が仄かに光り始める。

それと同時にこれがARCUSⅡの真骨頂なんだなと思う。当然俺はそんな現象は起こっていない。

そう思うと何だか無性にARCUSⅡに申し訳がなくなってきた。

 

「なんだかごめんな……使ってあげられなくて……。」

 

そういいつつARCUSⅡを撫でる眼前では皆が魔煌兵との戦闘を繰り広げている。ブレイブオーダーとやらの効果かかなりこちら側が押している状況だ。

それを見てなんだか羨ましくなる。

 

「せめてもう少しまともな武器が……そうだ剣があれば……。」

 

そういいつつ右手を前に伸ばす、先ほど怪我したところはもう乾いて血は止まっていた。

 

「剣が……。」

 

そうつぶやくと一気に身体が重くなる。

その瞬間に異変は起きた。

突如、地面から巨大な剣が出現し、魔煌兵を縦に切断した。

 

そこで俺は意識を手放した。




主人公能力覚醒!!!!!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

06

「なっ…」

 

それが誰の言葉だったかはわからない。

眼前では、魔煌兵が赤黒い巨大な剣によって貫かれていた。

あまりに唐突に訪れた異常に誰もが一瞬固まる。

 

「博士、これは試験の一部ですか?」

 

リィンは現状を理解するためにシュミットに質問を飛ばす。しかし、第三者の存在を警戒しいまだ警戒を解いてはいなかった。

 

「……いや、そのような物は設定していない。」

 

「では、先ほどの攻撃は何処から……。」

 

リィンがそう尋ねるのとほぼ同時、突如、パシャリ。と水が跳ねるような音がしたかと思うと、先ほどまであった巨大な剣が消えていた。

代わりに地面には大量の赤い液体がぶちまけられていた。

リィンはそれに恐る恐る近づくと指に液体を絡ませ臭いをかぐ。

 

「これは…血……?」

 

そうつぶやいた瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「「「「っ!!」」」」

 

その光景に誰もが息をのむ。

そしてたどり着く終点、そこには壁に背を持たれかけ意識を失ったエルド・アイゼンタークがいた。

血はエルドの身体の中に入っていき、やがてその全てがエルドの身体の中へと消えていった。

 

「うがっぁっぁあああ!!!!」

 

かと思うと突如、エルドが苦しみ悶え始めた。

その声に正気に戻った四人は急いでエルドの元に駆け寄る。

 

「エルド!!」

 

「あああぁぁあああ!!」

 

「くそっ……!」

 

リィンはエルドの方を揺らし呼びかけるが激しく続く喘鳴は止まない、リィンはこのままでは埒が明かないと思いエルドの首筋に手刀を叩き込んだ。

そのおかげかエルドは気を失い、大人しくなった。

 

「取り敢えず、彼を医務室まで運ぼう。」

 

「その、教官彼は……。」

 

「今は気を失っているだけだ、掠り傷含め外傷はない。」

 

「いえ……そう言うわけでは。」

 

勿論リィンはクルトが言わんとしていたことを理解していた。

自身も恐らくクルトと同じ結論にたどり着いたからだ。

 

「わかっている…だが今は確実な証拠はない――」

 

そういいながら背中に背負ったエルド・アイゼンタークを見る。

 

「――取り敢えず彼に聞いてみないとな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先ほどのデータは取れてるな、弟子候補。」

 

「はい、ブレイブオーダーのデータもバッチリです!あと……そのあとの事も……」

 

狭い管制室に響く老人と少女の声、少女は老人からの問いかけに最初は元気に答えていたものの先ほどの光景を思い出しおどおどしながら答える。

フム…とため息交じりに答えながら次の作業を端的に老人は伝える。

 

「先ほどの映像をだせ。」

 

そういわれるや否や少女はすぐさま動力機を操作し画面に先ほどの映像を流す。

画面には、何もない場所から巨大な剣が出現し魔煌兵を切り裂いた光景が映っていた。

少女は映像が終わるとおどおどとしながら老人に質問をするために振り替える。

だが老人を見たところで少女は固まる。

()()()()()()()

普段から仏頂面で堅物な老人が笑うことはない、ましてや今目にしているように口を大きく歪ませて笑うことなどありえないのだ。

だがそれも仕方ない。

彼は今、目の前で起きた異常に対し、人生史上最高に知的好奇心を刺激されているのだから。




予想以上におもくなりそう……。
第三者視点も難しいですね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

07

今回ちょっと長めですね。


夢を見た。

男は武器を構え果敢にも立ち向かい、無残にもその血をまき散らし帰らぬ人となった。

夢を見た。

女は子供とともにいた、ただ逃げることしかできずに、子供諸共潰され死んだ。

夢を見た。

そこには数多の兵隊がいた。その全てが此方に武器を向けていた。その半数が死んで、もう半分が喜んでいた。

体が震え、嫌な汗が額から滲む。

これが自分の結末、自分の根源、そう思うと恐ろしくなる、嬉しくなる。

矛盾している、まるで自分の中にもう一人自分がいるようだ。

深呼吸をする、すると先ほどまで感じていた苦しさはない。

再び目を閉じる。

もう夢は見なくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めるとベッドの上にいた。

薬品とか包帯があるってことはここは医務室だろうか、ここに運ばれるまでの記憶がないってことは自分は気を失っていたのだろう。

それで誰か、教官辺りに運ばれて此処にぶち込まれたのだろう。

まったく、情けない、ただ見てるだけだったのに気を失ってしまうなんて。

そういえばあれからどうなったのだろうか、自分がここにいるってことは試験自体はクリアしたって事だと思うのだけど……。

まさかあの堅物そうな博士が終わってないのに通すことはないだろう。

 

「問題は、あれからどれくらい経ったのかだけど……。」

 

そう独り言ちベッドから起き上がり部屋を一通り見まわして部屋を出ようとすると外から話し声が聞こえてくる。

誰だろう?と思い扉に手をかけ開く。

 

「「「「あっ……。」」」」

 

声が重なる。

目の前で呆けた顔をしているのはユウナ、クルト、アルティナの三人である。恐らく自分も同じような顔をしていることだろう。

ただいつまでもこうしている分けにはいかないだろう。

 

「おはようございます。すいませんが自分はどれくらい意識がなかったんでしょうか?」

 

「……って……ない……。」

 

「はい?」

 

「起きてすぐふらついてんじゃないわよ!!」

 

「へ……?」

 

彼女はそういうや否や俺を小脇に抱えベッドに戻そうとしながら、アルティナに指示を出す。

なぜか俺を小脇に抱えるように突っ立って、首を絞めながら。

 

「アルティナ!教官呼んできて!」

 

「了解しました。」

 

「まって……はな…して……しま……。」

 

何度も彼女の腕をパンパンと叩いて限界だとアピールするが、ユウナは混乱しているのか全く気付かない。

やばいそろそろ息が……

 

「ユウナ、ユウナ。」

 

「なに!?クルト君!」

 

「絞まってる。」

 

クルトのその言葉に少し冷静になったのか、ユウナはゆっくりと虫の息な俺を見る。

それで自分がしていたことが理解できたのか、腕を話しすごい勢いで謝ってくる。

 

「ほんとーにごめん、エルド君!!」

 

「い、いや問題ないですよ。それとクルト。」

 

「ん?」

 

「ありがとうございます。あなたが神でしたか。」

 

「何をやっているのですか貴方たちは。」

 

そんなやり取りをしているとアルティナが若干呆れながら入ってきた。

その呆れるアルティナの後ろには、困ったように苦笑いを浮かべるリィン教官がいた。

 

「エルド調子は大丈夫か?」

 

「ええ。これと言って特には。まぁただ気を失っていただけですからね。」

 

「あ…ああそうだな。」

 

教官の問いにそう返すと、なんだか教官は言い淀んだ。

取り敢えず目下知りたいことを聞こう。

 

「あの…自分はどれくらい……。」

 

「……二週間だ……。」

 

「へ?」

 

「いや……だから、二週間だ。」

 

随分と長いこと意識がなかったんですね自分……。

そりゃ皆驚くわけだ、何だか本当に情けなくなってくる。

 

「ところでエルド、あの日の事で何か憶えている事はないか?」

 

「何かとは?あの魔煌兵が出てきて皆さんが戦っていたとこまでは憶えていますよ?」

 

そう答えると教官は少し考えた後「そうか…。」と独り言のようにつぶやいた後再びこちらに話しかけてくる。その表情はどこか真剣みを帯びていた。

 

「エルド、君には二つの選択肢がある、一つ目はこのままⅦ組としてこのまま士官学院生として過ごすこと。残念ながら転科はできないけどな。」

 

「もう一つは何ですか?」

 

「もう一つは……、シュミット博士の研究所預かりということで、分校を辞めて過ごすことだ。」

 

「どういうことですか?」

 

思いもしなかった選択を提示されて思わず少し強い口調で返してしまう。少なくとも自分はそういう知識がなく、興味もこれと言ってあるわけでも、志願したわけでもない。

なら後考えられる可能性としては、でも、自分にはそんな不確かなところはない、いたって普通の人間のはずだ。

 

「疑問に思うのも当然だ、まずはこれを見てくれ。」

 

教官はそういいながら此方にARCUSⅡの画面を見せてきた。

画面には先日の魔煌兵が映っていた、しかし赤黒い巨大な剣によって串刺しにされた状態で。

 

「博士……いや、俺達はこれが君が原因として起こったのではないかと思っている。」

 

「なっ…!」

 

その言葉に驚きを隠せない、自分にそのような力が在るとは思わなかったからだ。

今も昔もそのような力を……()()

自分の中で自分への疑問が生まれる、今まで信じていたものが崩れ去っていく感覚がする。

 

「俺としてはこのままⅦ組にいて欲しい。だが、決めるのは君自身だ。」

 

教官の声は遠くこもって聞こえない。だが、教官の瞳がこちらを真直ぐ見据えている。

その眼には申し訳ない気持ちと決意が現れていた。他の三人も此方をじっと見つめている。

 

「……Ⅶ組にいればわかりますか?」

 

「それはわからない……でも、きっと真の意味で自分を理解できる切っ掛けにはなると思う。」

 

もしあれが自分が原因としてもそうじゃなくても、自分という存在を理解できるのなら。

拒む理由などない。

 

「エルド・アイゼンターク。≪Ⅶ組・特務課≫に参加します。」

 

そう言って手を差し出し真直ぐに教官を見据える。

 

「俺が何者なのか、何をしたいのかは自分で見つけたいんです。間違っても偏屈博士なんかに任せたくありません。それに―――あいつにも会えそうですしね。」

 

「了解した、エルド。≪Ⅶ組≫への参加を歓迎する。」

 

そういうと互いに微笑み、手を結んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ところで―――――“あいつ”ってだれだっけ。

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

08

「立て、エルド・アイゼンターク。この程度では話にならんぞ。」

 

目の前の銀髪の女性は此方に訓練用の剣を向けそう言い放つ。対して俺は地面に膝をつき、ただ、剣を向ける相手を睨みつけることしかできない。

 

「くそっ…」

 

悪態を吐きながら、半ばから折れた剣を持ち立ち上がる。相手をしっかりと見据えながら、剣を構え深呼吸をする。最初の目的など、最早どうでもいい、今は只、目の前の格上の剣士に一矢報いたいという気持ちしかない。

その思いとともに、俺はまた吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後、今日は自由行動日だから好きにしていいよと教官から言われ、折角だからとⅦ組で街を散策することにした。

校舎を一通り回ったり、近くの喫茶店でパンケーキを食べたりして時間を過ごした後、休んでいると、あの日の話、ひいては俺自身の話になった。

 

「そういえばあれって何だったんだろう?」

 

そう言いだしたのはユウナだった。

彼女の言葉にそれぞれがうなずく。

 

「まぁ…調べていくしかありませんよね。」

 

そう言いながら立ち上がり伸びをする。

皆の視線が此方に向く。

 

「寮の方に訓練室があるって話でしたよね。今からそこで色々確かめてみようかと思います。話を聞く限り、俺に何かしかの異能があるのは間違いなさそうですし。」

 

「あっ、じゃあ私も手伝うよ、人手が多い方がいいと思うし。」

 

「それなら僕も行こう。それにエルドの実力も見てみたいしね。」

 

「私も参加させていただきます。情報局の人間として知っておかなければなりませんし。」

 

そういう三人に軽く礼を言うとクルトがこれだけの人数なら校舎の方の訓練室の方が広くて、設備が充実しているのでそちらの方がいいというのでそちらに向かうことに。

訓練室で準備体操をした後、まずなぜ発動したのかを考えることに。

少しの間考えたが、誰も思いつかなかったので、取り敢えず憶えてる所までの状況を再現をしてみることに。

 

「気を失う前は何を思っていましたか?」

 

アルティナが俺に尋ねる。俺はあの日の事を思い出しながら答える。

 

「そういえばあの時は剣が欲しいと思ったような気がします。」

 

「剣…ですか。」

 

「ほら、あの時って真面な武器を持っていませんでしたから。」

 

そういうとそのまま「フム…。」と顎に手を当て考え始めた。

少しして何か思いついたように顔をあげる。

 

「もしかしたら、ですけど、エルドさんが剣が欲しいと望んだからではないかと。」

 

「というと?」

 

「つまり、異能の発動の条件はエルドさんが望んだものを作り出す。ということになるのではないかと。」

 

「なるほど……。……剣よ……。」

 

アルティナの推理に納得し、あの日のように右手を前にかざし、小さく呟く、が、そこには何も変わらない訓練室があるだけ。

 

「なにも……起きませんね。」

 

「うーん。何が原因なんだろ。アルティナの推理もいい線言ってると思うのよねぇ~。」

 

俺がそう呟くとユウナは頭を抱え悩み始めた。

 

「もしかしたら、明確な“敵”が必要なんじゃないか?」

 

そういうクルトの一言にそれぞれが確かに…。と思っているとクルトが壁にかかっている剣を取り出し此方に構える。

 

「ということで、僕が敵役をやろう。」

 

そういって微笑むクルト。イケメンだから様になってるけど、それ自分が戦いたいだけでは……?

そう思っていると、訓練室の入り口が開き誰かが入ってくる。

 

「いや、その必要はない。その役目は私が引き受けよう。」

 

「「分校長!!」」

 

ユウナとクルトの声が重なる。アルティナも僅かではあるが驚いているようだ。

呆けていると分校長が此方を見て言葉を続ける。

 

「いやなに、一汗かこうと訓練室まで来たら面白い話が聞こえたのでな。それでかまわないな?アイゼンターク。」

 

「も、問題ないですけど……。」

 

呆気にとられながらそう答えた。

その時のクルトの表情は目に入っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう、まだ立てるか。出血をしていないとはいえ、大した根性だ。」

 

「まだ、成果を……得られて…ませんの…で。」

 

分校長の言葉に息も絶え絶えに答える。

少なくとも、この折れた剣では一矢を報いることなんて不可能だろう。

少なくとも、異能が使えれば……。

考えろ……どうすれば……。

 

「ほう。考え事か?関心せんな。」

 

「…っ!…。」

 

思考していて反応が遅れる。

気づいた時には相手の剣が目の前まで迫っており、慌てて剣を合わせるが踏ん張ることができず吹き飛ばされる。

痛みに耐えながら再び思考を始める。今度は相手から目をそらさない。

思い出せ……。発動の条件はあの日あの場所では全て揃っていたはずだ。

今回と前回で違うところは……、そうか……。

 

「また考え事か?余程斬られたいみたいだな!」

 

分校長が踏み込み剣を上段から振り下ろす。

これは賭けだ、もし違ったら自分は大けがを負うだろう。でもこれは自分を知るための大事な一歩だから諦めたくない。

 

「剣よ!!!」

 

そう叫び右腕を力任せに横に振る。

 

「得られたか……。」

 

分校長の手には根元から折られた剣、俺の手には赤黒い剣が握られていた。

 

俺に足りなかったもの、それは――()()




もっとかっこよくかきたかった。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

09

ミラボレアス強すぎね……?


「ほう……それが…。」

 

「ええ…、御蔭で一矢報いることができました。」

 

そう言って構えを解くと、パシャリと音が鳴り、剣はその形を崩し血を地面にぶちまける。

そして零れた血が()()から自分の中に還っていく。その様子を見ながら続ける。

 

「どうやら、俺の能力は()()()()()()()()()()()()()()()()()()の様です。勿論、自分の体内の血液量以上の物や、想像もつかない物は作れないでしょうけど。」

 

「だけど、前に見たとき剣は地面から……。」

 

ユウナの問いに頷いてさらに続ける。

 

「ええ、恐らくですが、自分の血が在る場所にしか創れないんでしょう。」

 

「どういう……?」

 

「つまり――。」

 

そう言って、俺は左に持っていた折れた剣の刃を自身の右手首に当てる。

すると手首からは血が零れ出し、その血を地面に一滴垂らし呟くと、血が付いた場所から剣が出現する。

 

「――こういう事です。」

 

その光景に誰もが息をのむが、分校長だけは愉快そうに笑っていた。

 

「恐らくですが、俺の異能は、自身の血を外界に出すことが発動の条件なんでしょう。そして、自分の血が付いた所からしか創ることは出来ないようです。」

 

「それはどれ程もつのだ?」

 

「現状では長時間は使用できないかと、一分程度でしょうか。」

 

分校長の問いに簡潔に答え、分校長に向き直り礼を言う。

 

「分校長、有難うございました。御蔭で自分の事が少し理解できました。」

 

「気にするな。私も良い物が見れた。それに礼を言うのはまだ早いぞ?アイゼンターク。」

 

そう言って分校長は腰に差している自らの獲物を取り出す。

それを見て思わず口角が上がっているのを自覚する。

理性がここから先は踏み込んではならないと告げている、ここから先に行けば戻ってこれないと。

 

「試したいのだろう?」

 

「よくわかりましたね。」

 

「なに、そんな目で見られれば読んでくださいと言ってるようなものだ。」

 

分校長が軽く剣を振るうと凄まじいほどの闘気が溢れ、俺の肌をビリビリと刺す。

自分でも分かっている、相手が格上なことも、これが必要ない闘争だということも。

 

()()()。」

 

「っ……!」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

でも、こんな物を前にして我慢などできるわけがない。だって――――。

 

「いくぞ、雛鳥!凌いで見せろ!!」

 

「――剣よ!!」

 

――こんなにも身体が闘争を求めているんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

互いの剣が交わり、訓練室にぶつかり合う音が響く。

その音が互いの剣戟の重さを物語っている。

その剣戟も一合、二合とその数を増していく。

 

「随分と腕を上げたものだな。先程とはまるで別人だぞ?」

 

「ええ、剣が教えてくれますので。そういうものではないですか?」

 

「フフ、剣に振られている、という事か?」

 

互いに皮肉を言いながら、距離を取る。

両方ともに、相手を見据え予断無く構えているが、先に動いたのはエルドだった。

彼が放ったその突きは常人であれば、それだけで仕合が終わるような物であったが、オーレリアは剣の腹で受け流しそのまま斬撃を繰り出す。

それを避けられないと悟ったエルドは、空いている方の手に剣を創りだし、受け止める。

 

「忍ばせていたか。まぁいい、不出来な剣が増えただけだ。」

 

「その不出来な剣に随分と攻めあぐねているみたいですね?」

 

「ハハハ!!面白いことを言うものだ。ならば――、更に上げていくぞ?」

 

「っ……!!」

 

オーレリアがその言葉と共に、さらに闘気を高める。

実際のところ、エルドは限界だった。

起きてまだ、数時間しかたっていないことや、先ほどまで何度も打たれていたことも相まって疲労はピークであったが、何よりも技量の差が歴然であった。

先ほどまでの攻防も、なんとかギリギリ追えていただけでしかない。

 

「ほら、しかと受け止めるのだぞ?」

 

「グ……!!」

 

突如、目の前に現れた彼女から放たれた、上段から振り下ろされた刃を、剣を交差させ受け止めるが、それは今までの物がお遊びだと感じるほど鋭く、重い、エルドは思わず体制を崩してしまい、すぐさま攻撃に移れない。

しかしオーレリアは止まらない、彼女はすぐさま剣を横薙ぎに振るう。

 

「まずっ……!!」

 

「なかなかに楽しかったぞ。だが、残念だ。」

 

エルドは横薙ぎの攻撃に反応することが出来ず、何とか剣で防ぐも後ろに大きく吹き飛ばされる。

オーレリアはすぐさま距離を縮め、最後の言葉と共に一撃を放つ。

 

()()()()()。」

 

その一言を最後に、エルド・アイゼンタークは意識を刈り取られていた。




身体は闘争を求める。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10

調査報告書

 

調査対象:エルド・アイゼンターク(以下“甲”と記載)

 

≪調査趣旨≫

七耀暦1206年4月1日にてトールズ第二分校で行われた、入学時実力テストで同敷地内にある小要塞の攻略が行われた際、甲により異常な能力すなわち“異能”と思われる物が確認されたことにより、甲と同じくトールズ第二分校≪Ⅶ組・特務課≫である元帝国軍情報局所属のアルティナ・オライオンからの要請で調査を開始した。

 

≪調査内容≫

まず、甲の経歴を調べてみたが孤児であることが判明、その為、七耀暦1205年1月より以前の情報は甲との接触なしでは調査不可能と判断、アルティナ・オライオンにより調査を継続する。

七耀暦1205年1月以降は、ネア=アイゼンタークに拾われ、帝都近郊の街道にある孤児院に引き取られ過ごす。

七耀暦1206年1月、同施設は街道に発生した魔獣の襲撃を受け壊滅。

同日、街道の魔獣駆除に出ていた部隊により発見。報告によれば生存者は甲以外に無く、ネア=アイゼンターク、甲を除いた孤児11名が死亡。

死体と周囲の状況を見るにかなりの抵抗が行われたのか、魔獣の死体でバリケードを作り入り口を塞いでいたが、内側に魔獣が入り込んだことにより全滅したとみられる。

その後は鉄道憲兵隊隊員であるアサリム=ガードマンに引き取られ今日まで過ごすことになる。

次に“異能”の力について、此方については経過観察が必要だと思われる。

先日の小要塞での出来事を考えるに、様々な推測は可能であるが推測の域を出ないため今回は記載をしないものとする。

またこの件に関しては、G・シュミット博士が興味を示しており、本人の意思を尊重した上で実験を行っていくとのこと。

 

 

帝国軍情報局所属レクター・アランドール

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「以上が、情報局で調べて得られたエルド・アイゼンタークの情報だ。」

 

と、赤毛の男レクタ―・アランドールはため息交じりに答える。

 

「しかし…これは。」

 

レクタ―の言葉にリィンが信じられない物を見るかのような表情になる。

その表情を見てレクタ―は先ほどよりも深いため息を吐いて続ける。

 

「ああ…まったくだ。こんなのじゃ情報局の面子丸潰れだぜ、やれやれ。」

 

「全く……ですか?」

 

「全くだ、エルド・アイゼンタークの1205年1月より前の情報は噂話とかも含めて入ってきていない。むしろそっちで知っていることがあれば教えてほしいくらいだ、なんならお得意の推理力で何とかしてくれてもいいんだぜ?」

 

レクタ―は笑みを浮かべながら対岸に座る、長めに伸ばした赤髪を後ろで束ねた男、ランドルフ・オルランドに話を振る。

オルランドは首を横に振りながら、溜息を吐き答える。

 

「そういうのは俺の十八番じゃないし、そもそも俺はエルドと話したことすらねーんだ、聞く相手がちげーだろ。」

 

「俺ですか?そうですね……。」

 

ランドルフに指され、リィンは考え込む。すると一つの情報に行きついた。

 

「そういえば……。」

 

「おっ、なんかあるのか?」

 

「えぇ…、さっきエルドが目覚めてすぐ彼にⅦ組に入る意思があるかどうか聞いたんですが。」

 

「それで?」

 

「その時自分を知りたいからとⅦ組に参加したんですけど、もう一つあって、()()()にも会えるからって言ってたのですが……。」

 

()()()か……。」

 

レクタ―は少し考え、今は考えても仕方ないと思ったのか、そのことはひとまず置いてオーレリアに向き直る。

 

「取り敢えず、そのことは置いておくとして、どうでしたか?博士の依頼で動かれたのでしょう?」

 

レクタ―が言わんとしていることはエルドの“異能”について。

オーレリアはあの時の熱を思い出すように微笑み応える。

 

「なかなか良い物だった。“異能”についても自分の意志で使えるようになったからな。」

 

「それでどのような物でしたか?」

 

「ああ、自らの血であらゆるものを創る能力らしい。」

 

「「「!!」」」

 

オーレリアが示した情報は“異能”の中でも更に特別の物であり、もはや特殊(スペシャル)ではなく異常(イレギュラー)であった。

しかし彼女はそんなことを気にしていないかのように愉快そうに笑う。

 

「それに腕もそれなりに立つ、数打ちの物とは言え、私の剣を折ったのだからな。」

 

続いたその言葉に全員が驚愕をあらわにした。

特にリィンはその言葉を信じられなかった。

リィンが目にしたエルドは明らかに戦闘の素人といった感じだった。

黄金の羅刹、オーレリア・ルグウィンの剣を折るなど生中な剣士では到底不可能であり、エルドが出来るとは思わなかったからだ。

 

(エルド……、君は…一体。)

 

現実で起きた矛盾に、リィンは自身の教え子に対して疑問が生じたのであった。

 




今回大変だったaa


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

11

お気に入りの件数が50人行っててとても嬉しいです。
いつもありがとうございます。


「特別演習か…。」

 

現在俺たちはサザーラント州行きの列車に揺られていた、その中の寝室でベッドに横たわり一人呟く。

そして制服のポケットに入っているARCUSⅡを取り出し見つめる。

起きてから一週間、あれから博士と毎日のように様々な実験をした、そしてその成果がこのARCUSⅡである。

一応、試作品(プロトタイプ)という事らしく、色々と難しい説明を受けたがとりあえず現状ではアーツだけが使える状態らしく、データを取ってくるように言われている。

 

情報(データ)…ね。」

 

ARCUSⅡをベッドに放りそう呟く。なんだか、頭がモヤモヤするが仕方がないことなので気分を切り替えるためシャワー浴びるため立ち上がり通路に出る。

シャワー室に行くと誰か入っていたので三号車の食堂でコーヒーを飲んで時間を潰していると後ろから声をかけられた。

 

「あっエルド君もう大丈夫なの?」

 

「ええ、大分良くなりました。」

 

話しかけてきたのはユウナだった、彼女は俺を心配する言葉を掛けながら隣に座る。

 

「にしても乗り物酔いするなんて、気絶も良くするしエルド君って意外と病弱なの?」

 

「ゔ…気絶するのは仕方ないじゃないですか…。」

 

「うんうん、そうだね。」

 

ニヤニヤしながら同意するユウナを恨みがましく睨む。

するとユウナの制服のポケットが膨らんでいるのが見えた。

 

「それは?」

 

「ん?ああ、これ?VMっていうんだけど知ってる?」

 

「いいや、知らないですね。」

 

「そっか…、そうだ!時間あるしやってみよ、ルールは教えるから!」

 

それからユウナにVMの基本的なルールを教えてもらい、何回か対戦をしたところで俺は――

 

「ここはこれしか……。」

 

――完全にハマっていた。

 

「ふふん。今さらそんな物を出しても……これで終わりよ!」

 

俺が出したネイティアルがすぐさま破壊されると、残り少ないHPのマスターカードに攻撃が集中し俺の敗北が決まった。

 

「ぐぬぬ…。」

 

「ふふん。まぁ初心者にしてはよくやるじゃない。」

 

「その初心者に勝率五割ってのもどうなんですか…。」

 

「うっ。」

 

勝ち誇るユウナにそういうと、少しバツが悪そうな顔をしたのでスカッとしたところでリィン教官が横を通り此方に気づく。

 

「二人とも何をしているんだ?」

 

「あっ教官、VMです。今ユウナに教えてもらったんですけどハマってしまって。」

 

話を聞く限り教官も最近始めたそうで、錯覚だし一緒にどうかと誘うが、教官は俺の対岸を見て「また今度な。」と苦笑いを浮かべながら答える。

教官が見ていた方を見ると、明らかに機嫌が悪くなっているユウナがいた。

 

「それで、明日はどうするんですか?」

 

「ああ、それなんだが……実は俺もまだ聞いていなくてね。」

 

ユウナの少し言葉に棘がある質問に困ったような表情を浮かべながら教官が答える。

 

「…ふぅ、しっかりして欲しいんですけど。前もそんな感じじゃなかったですか?」

 

「どうも俺たちのカリキュラムはかなり特殊なものになりそうでな。明朝、俺含めてⅦ組全員でブリーフィングを受けることになる。」

 

「はぁ、ならいいですけど、クレア教官はこういう連絡はもっとちゃんとしてましたよ?」

 

「はは、少佐と比べられるとグウの音も―――そんなにハマったのか、エルド。」

 

そんなユウナと教官の会話をしり目に俺はVMのカードを広げ、デッキ構成を考えていた。

二人を見ると少し呆れたような表情をしていたが、そんなことはお構いなしに再びデッキ構想に戻る。

 

「ま、まぁ取り敢えず、今日はしっかり休んでおくんだぞ。」

 

そういう教官におざなりな返事を返しながら考えていると、ユウナがカードをくれるというので二つ返事で受け取った。

その時のユウナと教官の表情は物凄く引きつっていた。

 

 

 

 

 

「あっシャワー浴びるの忘れた。」

 

すっかりVMに夢中だった俺は本来の目的をすっかり忘れ、部屋に戻った時にようやく本来の目的を思い出した。

シャワー浴びに行きたいが時間を見るともう随分と遅い時間であったのでやめようかとも思ったが、少し考えやっぱりさっぱりしたいと思い通路に出ると、もうみんなは部屋に戻ったのか通路は随分と静かで仄暗い通路には列車の駆動音だけが響いていた。

シャワー室の前に来ると、五号車の方からだれか出てきた。

 

「あっ、アルティナじゃないですか。こんばんは。」

 

「エルドさん…、こんばんは。」

 

「どうしました?こんな時間に、あっ今からですか?」

 

「ええ…シャワーを浴びてから就寝しようと思ったのですが……。」

 

そう言いながらアルティナは気まずそうにシャワー室の扉を見る。

 

「良かったら先に使いますか?」

 

「いえ……、後程でも大丈夫です。」

 

「いえいえ、レディーファーストですし、それに、何か聞きたいこともあるでしょうしね。」

 

俺のその一言で先ほどまでの申し訳なさそうな表情は鳴りを潜め表情が真剣みを帯びる。

 

「……わかりました。それではお言葉に甘えて。」

 

その後シャワーを浴び、ベンチに腰掛けドリンクを飲んで一息ついたところで話を切り出す。

 

「それで?聞きたいことは何でしょうか、大体想像つきますが。」

 

「はい。エルドさんあなたの過去についてです。」

 

その言葉にやはりか…と思い溜息を吐く。

実は先日、教官の方から情報局が俺のことを調べているという事を聞いてこうなることは想像できていたからである。

 

「先日、私の方に情報局から連絡が来ました。あなたの、エルド・アイゼンタークの過去を調査せよと。」

 

「所属は外れていたんではなかったのですか?」

 

「今回だけの特例だそうで帝国政府からの命令です。」

 

「そうですか……、ですが、残念ながら恐らくあなたが聞きたいことには答えられません。」

 

「どうしてでしょうか、何か知られたくない物があるのでしょうが。」

 

アルティナが訝し気な視線を向ける。

別に、何かやましいことがあって言えないわけではなく――

 

「記憶がないんです。孤児院に引き取られるまでの。」

 

――ただ知らないだけなのだから。なんなら此方が知りたいぐらいである、気が付いたらそこにいた。という表現がまさに適切であり、一番最初の記憶は、力なくうなだれている俺を抱えるネア、そしてその時ネアが何かを言っていたという事だけ。

 

「……そうですか、わかりました。では孤児院でどの様な生活をしていたか覚えていますか?」

 

「いいんですか?こんなもので。」

 

アルティナの態度に思わず聞き返してしまう。

しかし、アルティナは当然のように答えた。

 

「はい。記憶が無いなら無いでそのように報告させていただきますので。」

 

「そうですか……。」

 

「それで…。」

 

「ええ…よく覚えていますよ、特に最後は。余り言いたくない事ですけど。」

 

今でもよく思い出す。

千切られ、抉られ、裂かれていく(家族)の顔を、何もできず見ることしかできなかった自分を。

あの時、自分に力が在れば皆を助けることができたかもしれない。

そう思い、強く手を握り締める。

すると、俯いたまま黙った俺を見てアルティナも察したのか声をかける。

 

「嫌なら別に後日でも構いません。特に期限は設けられていませんので。」

 

「すいません……。」

 

「いえ、それではおやすみなさい。」

 

「ええ、おやすみなさい。」

 

そう言ってアルティナと別れる。

すっかり身体は冷え切ってしまっていた。




エルド君はVMがお好き。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

12

今回から頻度が落ちるかも……です。


「これが特務活動の内容ですか。」

 

俺が教官の持つ紙を覗き込みながらそう呟く。

現在俺たちは、予定通り演習地に到着した後、Ⅶ組の説明を受け今回の演習地のサザーラントの責任者であるハイアームズ候に謁見を行い、軽く互いに挨拶をした後に執事の方から特務活動の内容が書かれた用紙を渡され、館を後にし内容を確認していた。

 

「そうだ。必須と書いてあるものはできるだけやった方がいいが、任意と書かれているものはやるもやらないも自由だ。それから、こちらが先程の『重要調査項目』だな。」

 

そう言いながら『重要調査項目』と書かれた用紙を取り出し此方に見せる。

 

「たしか“金属の部品で出来たような魔獣”でしたか……。」

 

「ああ、その調査を含めやるべき要請をクリアしたら南にあるパルムへ移動し、そこでの要請も検討しつつ、魔獣調査を遂行する。――一日目はこんなところだな。」

 

教官から軽い説明を受けた後に、任意の要請については俺たちの判断に任せるとのことで、話し合った結果、謎の魔獣について情報収集をしながら、各要請をこなすことに。

クルトの案内の元、情報収集をしながら要請をこなした俺たちは、途中教官の同級生の女性にあったりなどしたが、妙な連中がうろついていたという事と、北東の街道に謎の魔獣が出現したという情報を入手し早速行ってみることに。

 

「えっと、この辺りが報告書にあった場所かな?」

 

「北サザーラント街道の外れ、旧都から50セルジュの地点……距離的には間違いなさそうだ。」

 

「ここまでそれらしいものはいませんでしたし、まだこの辺りにいるのではないでしょうか。」

 

「魔獣の気配はなさそうだが……。」

 

場所に間違いがないのを確認して、俺たちは辺りを探索し始める。

しかし、先ほどから教官とアルティナの様子がおかしい。

 

「で、何なんです?さっきから2人して。」

 

「どうやら謎の魔獣について心当たりがありそうですが?」

 

疑問に思っていたら、ユウナとクルトが聞いてくれた。

2人の問いにアルティナが答える。

 

「心当たりというか蓋然性の問題ですね。」

 

「歯車の音を軋ませる金属の部品で出来た魔獣……他の可能性もあるかもしれないが十中八九――」

 

教官が説明をしていると直ぐ近くから何かの機械音が聞こえてきた。

 

「「「!?」」」

 

「どうやら的中したようだな、Ⅶ組総員、戦闘準備!リンクをつなげろ!」

 

教官のその一言で、全員が武装を展開しリンクシステムを起動させる。

俺も持っていたナイフで右手に軽く傷をつけ剣を創り出す。

すると、前方から二足歩行の武装した機械が三体やってきた。

 

「これってもしかしてクロスベルにも持ち込まれたっていう……!?」

 

「ああ――結社≪身喰らう蛇≫が秘密裏に開発している自律兵器……人形兵器の一種だ……!」

 

「……っ!こい!」

 

人形兵器は此方を捉えたかと思うといきなり銃撃を放ってきた。

それに対し俺はみんなの前に躍り出て、剣は捨て、身の丈ほどの盾を創り出し、弾を防ぐ。

 

「みんな!俺が注意を惹きます!その間にこいつらを!」

 

「了解だ!だがエルド無理はするんじゃないぞ!」

 

教官のその言葉を聞き走り出す。

そのままの勢いを乗せ相手の懐で盾を人形兵器にぶつけると注意が此方に向くと同時に銃撃が迫るが、盾を引きずりながらも回避をする。

 

「ユウナ!」

 

「はあああああああああ!!」

 

完全に此方に気を取られていた人形兵器は背後のユウナに気づかず攻撃をもろに喰らってしまう。

しかしそれでは破壊することはできず銃口がユウナの方に向くが、時すでに遅し、ユウナはガンブレイカーをガンモードに変形し零距離で銃弾を叩き込んだ。

それが決定打となり人形兵器は動かなくなった。

しかし安心はできない、まだ無力出来ていない人形兵器が2体いる。そう思い状況を確認すると教官が一体相手取っていて余裕がありそうだった、クルト、アルティナも一体相手取っていたのだがそちらは銃撃に阻まれうまく攻められていないようだった。

 

「ユウナ!教官のフォローをお願いします!俺はクルトたちのところに!」

 

「了解!」

 

クルトたちの方の人形兵器に盾で攻撃し注意を此方に向ける。

 

「二人とも!今のうちに!」

 

「ああ!」

 

「了解しました!」

 

そう言った二人の攻撃により人形兵器は完全に停止し教官たちの方も制圧したらしくその様子を見て一息つく。

 

「戦闘終了。残敵は見当たりません。」

 

アルティナのその一言によって全員警戒を解く。

 

「はは、どうやらウロボロスではなかったようですね。」

 

そう呟いて地面に座り込み乾いた笑いを浮かべる

 

「みんな、よく凌いだな。」

 

そう皆を称える教官は少しも疲れた様子を見せずに武器を収める。

そんな教官にユウナが堪えられないといった様子で問いかける。

 

「って、それよりも!どうして≪結社≫の兵器がこんな場所にいるんですか!?」

 

俺はいまいち≪結社≫というのが何なのか分からなかったため近くにいたクルトに耳打ちする。

 

「さっきから気になってたんですけど≪結社≫ってなんです?」

 

「僕も詳しく知っているわけではないが…先の内戦でも暗躍したという謎の犯罪結社のことだ。」

 

「なるほど、それがこの地で活動を始めたと?」

 

「可能性はある――だが、断定はできない。開発・量産した人形兵器を闇のマーケットに流しているとも噂されているからな。」

 

「以前の内戦で放たれたものが今も稼働している報告もあります。現時点での確定は難しいかと。」

 

俺の問いに教官とアルティナが答える。

なるほど、と思っていると背後から男性の声が聞こえた。

 

「へぇ、大したモンだな。」

 

「あなたは……?」

 

「おーおー、あの化物共が完全にバラバラじゃねぇか。お前さんたちがやったのかい?」

 

男性は人形兵器の残骸を見ながら此方に尋ねてくる。

 

「えっと、そうですけど……。」

 

「手こずりましたが、何とか。」

 

男性は感心したような目で俺らを見て、俺を見たときに少し驚いた表情をしたかと思うとすぐに元の表情に戻った。

 

「どうやらお揃いの制服を着ているみたいだが…、ひょっとしてトールズとかいう地方演習に来た学生さんたちかい?」

 

「ええ、よくご存じですね、何処で情報を得られたんですか?」

 

教官が情報のありかを確かめようと少し怪しみながら男性に尋ねる。

 

「ああ、仕事柄そういう噂は仕入れるようにしててなぁ。しかし大したモンだ。随分、優秀な学校みたいだな?」

 

「トールズ士官学校・第二分校、≪Ⅶ組・特務科≫です。自分は教官で、この子たちは所属する生徒たちになります。あなたは……?」

 

「俺は何て言うか、“狩人”みたいなもんだ。倒せそうな魔獣は退治することがあるんだ、この魔獣も噂を聞いてな、倒せそうかどうか調べに来てたんだ。まさか機械仕掛けとは思わなかったがなぁ。」

 

「そうでしたか、こういった魔獣などに限らず、何かあったら演習地に連絡していただければ。色々お手伝いできるかもしれません。」

 

教官がそういうと男性は朗らかな笑みを浮かべ礼を述べた後に俺らが来た道を辿って去っていく。

その時、俺の横を通った時に小声で呟く。

 

「「お前を待っている。」だとよ。」

 

「っ!」

 

その言葉に驚きを隠せずに振り返ると、もう男性は見えなくなっていた。

 

 




かなり本編内容カットした形になってしもた


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

13

12話を編集しまして、内容を追加しました。
そちらを先に読んでから13話をお読みください。


あと更新遅くなって申し訳ありませぬ。



その後の事はよく覚えていない、気が付いたらデアフリンガー号の寝室にいた。

俺はベッドに寝そべりながら、制服のポケットから一枚の紙を取り出す。

そこにはこの辺りの地図が記されており、そして昼間俺たちが人形兵器と戦闘をした場所に赤字で丸がされておりその隣に時刻が書かれていた。

恐らくこの時間、この場所に俺を持つ何者かがいるのだろう、()()の事を知る誰かが。

因みにこのことは教官達に報告してない、恐らくだが戦闘になるし、自分の事に巻き込みたくなかったからだ。

 

「そろそろ時間かな……。」

 

待ち合わせの時間が迫り、そろそろ行こうと思ったところで外から轟音が聞こえた。

慌てて外に出てみると外に置いてあった機甲兵が何かの攻撃によって破壊されていた。

先程の音を聞いたのか、慌てて教官達が出てくる、そして今回の下手人と思われる二人の女性が丘に立っていた。

教官達と少しのやり取りと共に彼女たちは、大量の人形兵器を繰り出してきた。

 

「Ⅶ組は遊撃だ!Ⅷ組・Ⅸ組をフォローするぞ!」

 

取り敢えず合流しようとみんなの元に駆け寄ろうとするが人形兵器が道を塞ぐ。

咄嗟に剣を創りだし構え、攻撃しようとする。

 

「トールズ第二分校Ⅶ組エルド・アイゼンターク!!」

 

突然放たれたその言葉の出どころは茶髪の方の犯人だった、思わず動きが止まってしまう。

その様子を見て彼女は続ける。

 

「貴方には待ち人がいますわ。そちらの方にお行きなさい!」

 

その言葉に教官達が此方を見る。

 

「エルドどういうことだ?」

 

「昼間の男性に俺を待っている誰かがいると告げられたんです。」

 

教官の問いに簡単に答える。

 

「行きたいのか?」

 

「はい。」

 

「わかった。だが、絶対無事に戻ってくるんだぞ。」

 

そう言って教官は目の前の人形兵器を切り伏せていく。

それに対してユウナが苦言を呈す。

 

「エルド君がいればもっと楽に状況をよくできるんですよ!?」

 

「大丈夫、君たちならできるはずだ。それともエルドがいないと不安なのか?」

 

教官の少し挑発したような言葉にユウナはムキになって武器を構える。

 

「そんなわけないでしょ!!」

 

そう言ってユウナは勇ましく武器を構え人形兵器を攻撃していく。

 

「急いで戻ってきます!」

 

そう言って演習地を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後、指定の場所に着いた。

街道の明かりは此方まで届いていないが月明かりのおかげか、思いのほか明るかった。

そこには一人の俺と身の丈が変わらないような後ろ姿の茶髪の男性がいた、()()()()()()()()

 

「あなたが待ち人ですか?分校生ですよね、どうしてここに。」

 

思わずまだ戦っているであろう皆の事を思い語気が強まる。

 

「フッ……ハハハハハハ!!!」

 

問いかけるが相手は答えず顔を覆い笑いだす。

その笑い声は夜の空に響き、嫌に耳に残り思わず顔を顰める。

 

「何がおかしいんですか!」

 

「フフ……そりゃぁおかしいさ。」

 

「だから何が!!」

 

「ああ…悪い悪い、まず最初の質問だが、私が君の待ち人で間違いねぇ。」

待ち人はさらに続ける。

 

「そして、二つ目の質問だが、否であり是というところかな?」

 

そう愉快そうに曖昧に答える相手に怒りが沸き激しい言葉で問い詰める。

 

「どういうことだ!!!」

 

「それは…こういうことだよ。」

 

問い詰め、剣を創り構えると、その言葉と共に相手が此方を振り向いた。

 

「ぇ……。」

 

思わず情けない声を出す。

そしてその声はひどく震えていたとも自覚する。

全身から嫌な汗が噴き出し、全身が震える。

 

「どうした?毎日見てる顔だろう?」

 

「黙れ…。」

 

「どうした?感動で何も言えなくなったか?」

 

「黙れ!!」

 

もうこれ以上しゃべって欲しくないとでも言うように叫ぶが相手はそのまま続ける。

 

「おっと、そういえば挨拶を忘れていたな。初めましてだな。兄弟(brother)]

 

そこには笑顔で顔を歪ませた俺の顔があった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

14

いや…遅くなって申し訳ない…。
対馬を蒙古から救ってたらこんな事になってました…。


「…兄弟というのは少し違うな。偽物(ドッペルゲンガー)複製(クローン)?いいや、やはり()自身と言った方が適切だな。」

 

そう言って考え込む俺ではない俺の顔をした何か。

その醜悪な笑顔で歪んだ顔は月明かりに照らされ、より醜悪さを増す。

 

「何者なんですか…貴方は…。」

 

先程から言う事を聞かない身体を無理やり動かし剣を構え、絞り出したかのような声で問いかける。

 

「ん?今言っただろ。私はお前だ、エルド・アイゼンタークそのものだ。」

 

「違う!俺がエルド・アイゼンタークです!貴方は偽物だ!」

 

「はぁ…なら聞くが、お前をお前足らしめているものは何だ、お前がエルド・アイゼンタークであるという証拠を示せ。」

 

そう問われた俺はすぐに答えることが出来なかった。

俺には俺自身の根源ともいえる過去の記憶がないからだ。

しかし、その中で最後まで残ったものがある。それを手に握りしめ答える。

 

「この力だ!この力は俺だけのもです!」

 

「はぁ……。」

 

俺の答えに頭を掻きながら溜息を吐き此方に近づいてくる。

剣の切っ先が相手の首元にわずかに触れ、血が流れだす。それを指で掬うのと同時に持っていた剣が何かに弾かれ、パシャリ、と音を立ててそこに血だまりを創る。

 

「それなら…これはどういう事だ?」

 

「っ…!」

 

そう言ったやつを見ると、下卑た笑みを浮かべ、俺が先程まで握っていた物と同じ赤黒い剣を手に切っ先を此方に向けていた。

 

「お前と同じ顔、声、身体、そして能力、これでもまだ私を偽物だと?」

 

俺は否定するための材料を全て排除され、最早どちらが本物で偽物なのか分からなくなっていた。

自分という存在が大きく揺らぎ足元から崩れていき、何か別の物に侵されていく感覚がする。

 

「それに……やはりというべきかなんというか、Ⅶ組の面々は連れてきてないみたいだな。」

 

「っ……!巻き込みたくなかっただけです。」

 

「いいや違うな。お前は無意識にあいつらを煩わしく思っているはずだ、自らの意志で決めたはずなのに良い様にしか利用されてないからな。」

 

「そんな事は…!」

 

「ならどうしてこの場所にⅦ組と共に来なかった?あの場を制してからここに来ることも可能だったはずだ。」

 

「それは…。」

 

奴の言葉にすぐに返すことが出来ず、言葉が詰まる。

奴の言う通り、本来なら敵か味方かも分からない誰かが待つ場所に向かうよりも、あの場を優先するべきなのだ。

しかし、俺はそれをしなかった。

理由は巻き込みたくなかったから、確かに博士のデータ取りや、学院や、情報局の聴収などに煩わしい気持ちがないとは言えなかったが、それでも一人で来たのはきっと、彼らを思っての事だ。

 

「……私たちは無能(ノーマル)でも、異能(スペシャル)でもない。異常(イレギュラー)だ、だからこそ誰とも繋がれない、繋がることができない。」

 

奴は一拍置いてから、先ほどできた血だまりに向かい、地面に広がる血だまりを指で掬いながらそう呟く、その顔はどことなく寂しげで、同時に憐れんでいるようにも見えた。

 

「何が言いたいんですか……。」

 

そう尋ねると先ほどの表情から一転して「フンッ」と鼻で笑い答える。

 

「要は私達は脚本に組み込まれることのない役者(キャスト)だって事だ、そして、それはストーリーを破壊しかねない。」

 

「……だから殺すと。」

 

「まぁそう言う事だ。」

 

奴はやれやれと言った様子でため息を吐きつつ答える。

 

「それで貴方の目的はなんなんですか?」

 

今までの会話で奴が何かしらの組織、もっと言えば結社かそれに類似する何かと協力関係に有るのは明らかで、その組織の目的も分かったが、肝心のやつ自身の目的が分からなかった。

 

「目的か…最終的には奴らと同じだ。」

 

「最終的に、とはどういう事ですか?」

 

「今日は殺さないという事だ。」

 

「まるで、何時でも殺せるみたいな物言いですね。」

 

奴のまるで此方を舐め切ったような言葉に怒りを露わにするが奴はさも当然の様に告げる。

 

「あぁ、今のお前なら何時でも殺せる。だが、それではつまらない。」

 

「だから成長する迄待つと…随分と舐められた物ですね。貴方の方がやられるかもしれないのに。」

 

「やってみるか?」

 

「いいでしょう。」

 

互いに相手を見据え距離を取る、5アージュ程距離が空いた所で止まり、闘気を高め半身の姿勢になり何時でも武器を創れる様にナイフを左手に構える。

奴も手に持っていた剣を消して、左手に俺と同じようにナイフを構える。

そうして辺りが静寂に包まれ聴こえるのは風の吹く音のみ、風に揺られた葉がゆらゆらと互いの視線を切り、地面に落ちる。

その瞬間、互いにナイフで右手首を薄く切り、闘う為の祈りを唱える。

 

「「剣よ!!」」

 

 

 




人物関係とか微妙に間違ってたりして無いですよね?
大丈夫ですよね?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

15

大変お久しぶりです。

気づいたら年明けてました。
明けましておめでとうございます。

遅くなって申し訳ありません、他の書いてたら遅くなってました。
でも今年に入ってからも結構見られてて嬉しい限りです。

次も何時になるか分かりませんが出来るだけ早く上げたいと思ってます
どうか気長にお待ちいただければ。



月明かりの下、二つの血が交わり、その音を周囲に響かせている。

 

そんな中、俺は困惑していた。

 

なぜだ。

なぜ、こいつと剣を交えるとこんなにも心乱されるのか。

どうしてこんなにも()()()()()()()()()()()()()()()()のか

 

「どうした?随分と楽しそうじゃないか。」

 

「黙れ…。」

 

気づけば俺は笑っていた。

その様子に、目の前の自分がまるで分っていたことの様に此方に問いかける。

俺はまるでその笑みを隠すかのように顔に付着した血をぬぐう、その顔にはもう何も浮かんでいないはずだ。

 

「無理しなくていい、それが私達の本能なのだからな。」

 

「俺は貴方とは違う…、そんな物が私の本能なわけがない。」

 

「いいや、違うね。」

 

「っ!!」

 

奴はいとも簡単に俺が持っていた剣を弾き飛ばすとそのままの勢いで突きを放ってくる。

俺はギリギリでそれをよけるとナイフを取り出し素早く両手首を切りつけ武器を創る。

 

「剣よ!」

 

剣を両手に構え奴に突撃し、連撃を加えんとするが、華麗ともいえるような動きですべて躱される。

 

「能力の使い方も間違っているような奴に私が殺されるわけないだろう?」

 

奴は半ば呆れたように、俺が持っていた剣を全て弾き飛ばし、溜息を吐く。

そんな奴の一挙手一投足にいちいち腹が立ち、再び剣を創り突撃をするが、再び弾かれ喉元に切っ先を突き付けられる。

 

「間違っている?何が間違っているというのですか。貴方だって同じように使っているじゃないですか。」

 

「お前に合わせているだけだ。まぁ仕方ないか、偶発的に発言したようだし。」

 

その声は俺を小馬鹿にするように呟かれる。

 

「黙れ、貴方を見ていると無性に腹が立ってくる。一刻も早く俺の目の前から消え去ってください。」

 

最早、Ⅶ組の皆の事は頭になかった。

今はただ、この嫌悪感を早く取り除きたい。

もっとこの喜びを享受したい。

 

「そんなこと言うなよ。もっと愉しもうぜ?私をもっと満足させてくれよ。」

 

その口から一筋の血が流れる。

それはまるで獰猛な肉食獣のようだ。

 

「ほら、嫌悪感に浸っている暇はないぞ?」

 

そう言って奴は右腕を振り上げる。

その腕には切り傷、血が流れていた。

そして振り上げたことによって飛び散った血が此方に向かってくる。

それだけで危機を察するには十分だった。

 

「っ!!!」

 

すぐさま横に転がって次に来る攻撃を回避する。

先程までいた場所にはズガガガッッ!!と無数の剣が突き刺さる。

 

「どうして…。」

 

「どうして?今更、自分が殺られる理由が分からないとかいうつもりか?」

 

「違う!!どうやってこの量の武器を創れるんだ!」

 

そう、俺が疑問に思ったのはその事ではない。

奴とはすでに5分以上戦っている。

その最中で互いに何度も武器を創りだしている。

今までの博士との実験により自身の血液量を超える物は創り上げることができない。

現に俺も今までの攻防で疲弊し、段々と限界に近付いている。

だが、奴も俺と同じ、いや、それ以上の量の血を使っているはずだ、そう思っていた。

しかし、奴は眼前で明らかに血液量以上の剣を創り上げてみせたのだ。

 

そのことに驚いて呆然としている俺に奴は笑いながら応える。

 

「だから言っただろ?能力()の使い方が違うって。」

 

「どういう事だ。」

 

「それは自分で()()()()()()()そう決めたんだろう?」

 

「なら!あなたを殺してからゆっくり考えることにしますよ!!」

 

それはほぼ反射的に出た言葉だった。

まるで元から備わっていたかのような言葉と共に奴に突撃をする。

 

「ははっ!!そうだ!!その意気だ!!それでこそ殺しがいがある!!」

 

再び剣と剣が交わる。

ガキィン!!と今までで一番大きな音が鳴り響く。

その音は一合、二合とその数を増すごとに、速く、大きくなっていく。

 

片方は笑みを浮かべ

 

片方は怒りを浮かべ

 

最早俺自身がどちらの顔をしているのかは分からなかったが。

此処で初めて奴の武器が弾かれ胸元が晒される。

 

だが、油断はしない。

 

奴は俺よりも能力について熟知している。

この状況から覆すことは可能のはずだ、現に俺と奴の間には奴の腕から流れ出た血が宙を舞っている。

このタイミングでは避けることはできないだろう。

 

「残念だったな!お前の負けだ!」

 

その笑みはまるで勝利を確信したもであった。

だが、同時にこちらも同じように笑みを浮かべる。

 

「貴方こそ、能力の使いかたを忘れてるみたいですね、地面を見てください。」

 

奴の視線が一瞬地面に向けられる。

そこにはどちらの物か分からない血だまりが二人を中心に広がっていた。

 

「っ!はは!!面白い!!質量勝負と行こうじゃないか!エルドォォォォォォォォォ!!!!」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

二人のその叫びと共にほぼ同時に生み出された無数の剣が二人を包んだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

16

最近ようやっと創の軌跡の追加ストーリーやったけど、ラスボス強すぎねぇ?


リィン・シュバルツァー含め≪Ⅶ組・特務課≫の面々は夜の街道を駆けていた。

理由は同じくⅦ組のエルド・アイゼンタークにある。

先の結社≪身喰らう蛇≫による襲撃の際、エルドは先約があるとのことでその場での戦闘に参加せず。

どこかの待ち合わせ場所に向かったのである。

 

「エルド…。」

 

しかし、それから最早二時間は経とうとしている。

既に分校の生徒、教官の活躍により場は制圧され、襲撃した結社の人間は去っていた。

だが、何時まで経ってもエルドが戻って来る気配はない。

彼の担任教官であるリィンは彼の身に何か起きたと思い、自分の判断の浅慮さを後悔する。

 

「取り敢えず、昼間行った場所を中心に探索をするぞ!」

 

現状ではエルドがどこに行ったかは全くもって不明だ。

しかしエルドは昼間に人形兵器と戦闘をした際に出会った男から伝えられたと言っていた。

つまり、『待ち人』は予め自分たちの行動を読んでおり、そのうえで偶然を装い接触したと考えた方が自然である。

また、結社が絡んでいそうな事だ、戦闘の可能性も十分あり得る。

その為、セントアークの街中など夜とはいえ人目はあるため、そこが待ち合わせ場所になるとは考えにくい。

そう思ったリィンは昼間自身が不思議な感覚に襲われたイストミア大森林を手始めに探索することにした。

 

「なら私達が人形兵器が出現した辺りを探索します。」

 

「ええ、その方が効率的でしょう。」

 

ユウナ、クルトが意見をするがリィンはそれを否定する。

 

「駄目だ。もしそちらに『待ち人』が出た場合、君たち二人で対処できない可能性がある。」

 

そう、ユウナやクルト、アルティナ程度の実力であるならば制圧、もしくはそれが出来ないにしろ時間稼ぎは出来るはずだ。

しかし以前オーレリア分校長からエルドの話を聞いた際数打ちの物とは言え彼女の剣を叩き切ったという話もある。

リィンは聞いただけで実際に見ていないため実際はどうかは分からないが、もしそのレベルの使い手を相手に行動不能、もしくは二時間近く戦い続けることが出来る相手だった場合、正直四人がかりでも苦戦させられるだろう。

 

「でもそうだな、其方の方が距離的にも近い。そちらの方から先に捜索をするとしよう。」

 

「「「はい!」」」

 

 

 

 

 

------------------------------------------------------------------

 

 

 

 

 

 

そこには花が咲いていた。

 

色は怪しく光る紅。

 

花弁は剣で

 

蜜は血。

 

月光に照らされるそれは、一瞬動いたかと思うとその姿を保てなくなり儚い音と共に散る。

中から人影が二人。

片方はトールズ士官学校第二分校Ⅶ組・特務課の一員であるエルド・アイゼンターク。

もう片方はそのエルド・アイゼンタークと因縁があるもう一人のエルド・アイゼンターク。

二人は地面に伏していたが、片方が動き起き上がる。

 

「はぁ…はぁ…。全く、思いっきりやりやがって。だが…」

 

立ち上がったのはもう一人のエルド・アイゼンタークだった。

そしてそのまま剣を創り上げ地面に伏したままの自分の首元にその刃を突き立てようと大きく振り上げた。

 

「ここで殺すつもりはなかったが、もうどうでもいい。ここで死ね。」

 

その刃が振り下ろされその首を断ち切ろうとした瞬間、背後から銃声が聞こえ膝を撃ち抜かれそれがかなう事はなかった。

すぐさま後ろを振り向くと、そこにはガンブレイカーを構えたユウナ・クロフォードとⅦ組の面々がいた。

 

「エル…ド…君?」

 

ユウナは困惑した様子で自分の知らないエルドに尋ねる。

 

「あぁ、Ⅶ組。時間切れってわけか。」

 

「あなた、何者!!」

 

「落ち着くんだユウナ。」

 

つい感情的になってしまったユウナをリィンは宥める。

 

「流石、灰色の騎士様。そこのバカと違って理知的だな。」

 

「流石に状況が読み込めなくてね。君は俺たちが知るエルド・アイゼンタークではないのか?」

 

「そうだな、私は(エルド・アイゼンターク)であり(エルド・アイゼンターク)ではない。」

 

「目的は?」

 

(エルド・アイゼンターク)を殺し、私になること。」

 

「そうか。」

 

リィンは目の前の相手がいつ来てもいい様に腰に差した太刀をいつでも抜けるような構えを取る。

その様子を見た、エルドはお道化たように続ける。

 

「戦うつもりはないぜ?貴方達が来た時点で此奴を開放するつもりでいた。」

 

そう言って「ほら。」と、エルドの首根っこを持ち上げ此方に投げてよこす。

その際投げられた方から呻き声が聞こえた。

 

「なんだ、まだ意識があったのか。」

 

「おかげ…さまでね…。」

 

互いに鋭い眼光で睨みつける。

しかしそれは一瞬で、すぐさま身体を翻しエルドはⅦ組の面々に背を向ける。

 

「君の名前は?」

 

「は?」

 

リィンがそう尋ねた。

彼にとって来るとは思っていなかった質問だった。自分はエルド・アイゼンタークそう思っていたからだ。

しかし自分はエルド・アイゼンタークであってエルド・アイゼンタークではない別の存在、ならば新たな名前が必要だろう。

 

「そうだな、二人ともエルド・アイゼンタークでは面白くないものな。」

 

故に、片割れがそうされたように彼も名乗らねばならないだろう、刻みつける為に。

 

「アンリ……、アンリ・アイゼンタークと呼んでくれ。」

 

 




今回にてようやくプロローグは終了です。

次回からは少しテンポを上げていく予定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Chapter Ⅰ
17


4/23 演習2日目

 

演習最終日だというのに生徒たちの士気は落ち切っていた。

原因は昨晩の襲撃によって損傷した物品だ、昨日必死こいて設置したものが一晩でめちゃくちゃにされたのだ無理もない。

しかしながら、何時までも落ち込んでいるわけにもいかず、生徒たちは教官の指示のもとそれらの修復を行っていた。

 

「ごめんねエルド君、手伝ってもらっちゃって。」

 

そうエルドに謝りながらテキパキと機甲兵の整備を行うのは《Ⅸ組・主計科》のティータ・ラッセルだ。

彼女は機甲兵に大きな損傷がないことを確認すると安心したようにコックピットから降りてくる。

 

「構いませんよ。怪我も派手に動かなければ問題ないって教官のお墨付きが出ましたし。」

 

「あはは…。」

 

ティータはエルドのその言葉を聞いて今朝の事を思い出す。

彼の担任教官リィン・シュバルツァーはエルドの状態から、今日の活動は禁止と言っていたのに対し、エルドは反抗した。

その言い争いはほか生徒の目覚ましになるほど激しく、結局リィンが折れて、過度に動かなければという条件付きで許可したのである。

 

「それにしても教官達遅いですね。ティータは何話しているか聞きました?」

 

「ううん、聞いてないよ。あっちょうどお話が終わったみたい。」

 

見るとデアフリンガーのドアが開かれ、ティータの担任であるトワ・ハーシェルが下りてきた。

どうやら誰かを捜しているようで、あたりをきょろきょろしている。

そしてしばらくして、探し人は見つかったのか此方に向かってくる。

 

「エルド君。話があるからちょっと来てくれるかな?」

 

「俺にですか?」

 

エルドはティータに目配せし、心の中で謝ると向こうも大丈夫という様に笑みを返してきた。

しかし、呼び出される理由がエルドには分からなかった、朝リィンと口論はしたもののそれ以外は特に怒られるようなこともしてないしトワに呼び出されるようなこともしてない。

そう不思議に思いつつ、トワについていき、デアフリンガーのドアを開くとそこにはいつもの教官達に加え、先日あった旧Ⅶ組の三人、それと情報局のレクター・アランドール少佐がいた。

 

「えっと、これは…。」

 

「おっようやく来たな?」

 

困惑しながら中に入るとレクタ―はへらへらと笑いながら応える。

しかし他の面々は真剣な表情だったのでそれがさらにエルドを困惑させた。

 

「……っ。」

 

「リィン教官?」

 

リィンが拳を強く握りしめるのが見えた、しかしなぜそのような顔をするのかは分からないが、これから説明されるだろうと待っているとレクタ―が懐からとある用紙を取り出しリィン、エルドに突き出すようにそこに書かれていることを読み上げる。

 

「≪灰色の騎士≫リィン・シュバルツァー殿、並びにトールズ士官学校第二分校≪Ⅶ組・特務課≫エルド・アイゼンターク殿。帝国政府の要請(オーダー)を伝える。サザーラント州にて進行する≪結社≫の目的を暴き、これを阻止せよ。」

 

そうレクタ―が仰々しく言うとリィンは突き出された用紙を手に取り、恭しく答える。

 

「その要請(オーダー)しかと承りました。」

 

そんな状況の中、エルドは状況が理解できずに手を上げる。

 

「あの、要請自体の意味は何となく分かるんですがどうして俺もなんでしょうか?」

 

「ああ、お前に関しては監視の意味合いが強い。」

 

「監視…ですか?」

 

「つまり、俺たちはお前が≪結社≫と何らかの関りがあるんじゃないかと睨んでるんだよ。」

 

そう言うレクタ―だがエルドにとっては身に覚えのない話である。

確かに≪結社≫は此方の事を知っているようだったが自分は知らない。そう答えると

 

「アンリ・アイゼンタークだったか?」

 

「っ!」

 

昨晩の事を思い出し、思わず顔が強張る。

それと同時に情報局の目的が何となくわかった。

 

「あぁ…つまり俺を餌として使いたい。そう言う事ですね?」

 

「まぁ、そういう事だな。」

 

「いいですよ。」

 

「エルド!」

 

「大丈夫です、リィン教官。自分もあいつ…いや、アンリから聞きたいことがありますし。」

 

そうしてエルドは手を自身の心臓に充てるように構え恭しく礼を行う。

 

「エルド・アイゼンターク、その要請(オーダー)しかと承りました。」

 

 

 

-------------------------------------------------------------

 

 

 

リィンはつくづく自分の不甲斐なさを噛み締めていた。

 

「くそっ!」

 

ガンッ!!と自室の壁を思い切り殴りつける。

リィンが抱いている物は情報局に対してでもエルド自身に対してでもない自分自身だ。

先程の要請(オーダー)を本当に受けてもいいのかとエルドに聞いた際エルドは「仕方ないですよ。」と微笑みながら答えた。

その表情は何処か諦めているかのようなもので、生徒にそんな表情をさせてしまっている自分が情けなかったのだ。

 

「リィン、大丈夫?」

 

外から此方を心配する旧Ⅶ組の声がする。

その声でリィンは取り敢えずは目の前の事に集中しなければ、と意識を切り替え返事を返す。

 

「あ、あぁ、大丈夫だ。今行くよ。」

 

扉を開けるとそこには予想した通り旧Ⅶ組の面々がいて、その後ろにエルドが立っていた。

 

「エルド、準備はもういいのか?」

 

「はい。といっても俺は色々必要なわけではないので取り敢えずこれとこれを持ってきました。」

 

そう言うとエルドはポケットから、二つの≪ARCUSⅡ≫を散りだす。

片方はシュミット博士から情報(データ)を取って来いと言われていた試作機。

もう一つは一番最初に学院が用意した≪ARCUSⅡ≫。

 

「そっちも持っていくのか?動かないんだろう?」

 

「まぁ、一応ですね。」

 

リィンは皆を見て大体の準備が出来ていることを確認し外に出ると、ユウナたちが駆け寄ってくる。

 

「い、いまトワ教官から聞いたんですけど本当ですか!?帝国政府からの要請で教官とエルド君は別行動になるって!」

 

「本当だ、特務活動は昨日で終了とする。本日はⅧ組・Ⅸ組と合同でカリキュラムにあたってくれ。」

 

問いかけるユウナにリィンは突き放すかのように答える、三人ともその言葉に反応するが、動揺したのはユウナ、クルトだけでアルティナはすぐに自身も同行する旨を伝えたがリィンは彼女の言葉をすぐに否定した。

 

「…経緯はどうあれ、今の君は第Ⅱに所属する生徒だ。一生徒を、()()()()()()()()に付き合わせるわけにはいかない。」

 

そう言って教え子をその場に残したまま後を去ろうとするとクルトが呼び止める。

 

「…一つだけ、聞かせてください。」

 

「…なんだ?」

 

「ヴァンダール流は――僕の剣は不足ですか?」

 

それは無意識に口から出た言葉だろう。

本人にも自覚はないし、Ⅶ組の生徒はそれが彼の未熟さから来る言葉だとは思っていないだろう。

しかし、リィン含む旧Ⅶ組の面々はそれに気づいていた。

 

「ああ――不足だな。」

 

故にこその拒絶の言葉。

クルトが付いてくると彼はまざまざとエルドとの違いを思い知らされ、根付いてしまったその種の成長を助長してしまうだろう。

だからこそ、彼を残していく事で少しでも遅らせようとした。

尤もらしい理由を付けて。

 

「いくら才に恵まれていようが、その歳で中伝に至っていようが…半端な人間を“死地”に連れていくわけにはいかない。」

 

「なにが、っ!――失礼します!」

 

そうして走り去っていくクルト。

恐らく自身が抱えていたものを理解したのだろう、しかしその感情を無視することもできなかったのだろう。

その顔には逃げ場のない感情がありありと現れていた。

 

「教官、聞きたいことがあります。」

 

「ああ。」

 

ユウナが口を開き、リィンは次にくる言葉を理解していた。

 

「さっき教官は一生徒に()()()()()()に付き合わせるわけにはいかないって言ってましたよね。じゃぁ…それなら…どうしてエルド君はその()()に付き合わなきゃいけないんですか!?」

 

「っ……。」

 

「生徒を“死地”に連れていく事が教官の用事なんですか!?只でさえエルド君は昨日大怪我をしたばかりなんです!、それが本当に―「ユウナ。」

 

リィンを責め立てるユウナに待ったの声が入る。

それはこのやり取りの中口を開かなかったエルドによるものだった。

 

「ユウナ、俺の事を心配してくれるのはうれしいです。でも大丈夫ですから。」

 

「でも!」

 

「教官や皆がいますきっと大丈夫ですよ。」

 

「エルド君は…エルド君は本当にそれでいいの!?」

 

()()()()()()()()()()()()

 

「っ!…もういい!!」

 

そう言ってアルティナを引き連れながら走り去っていくユウナの目には悲しみが浮かんでいた。

それは確実にエルドにも読み取ることができただろう。

 

「ごめん…。」

 

エルドは微笑みを湛えながら、その背中を見送った。




クルト君はこの時点で少し嫉妬心を持っている設定


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

18

俺たちは情報を集めるためにセントアークに来ていた。

というのもフィーさんが何やら心当たりがあるらしく、遊撃士教会の支部として利用している場所にに案内されていた。

中には導力機が置かれており、フィーさんがカチャカチャと操作すると、導力機が起動しモニターに人物が映し出された。

 

『よっ、久しぶりだなリィン。元気してたか?』

 

「トヴァルさん…!お久しぶりです。」

 

通信に出たのはトヴァルさんという人らしく、彼は遊撃士で教官達とも知り合いらしかった。

 

『おっと、そっちの奴は?リィンの生徒か?』

 

「はい。エルド・アイゼンタークです。よろしくお願いします。」

 

俺が挨拶をするとトヴァルさんは少し困ったような表情で答えた。

 

『あー…リィン、こう言っちゃぁなんだが、エルドは実力はあるのか?正直言ってそこまであるとは思わないんだが…。』

 

「正直俺も不安ですが、最悪ヴァリマールでエルドだけ逃がすようにします。」

 

『そうか…』

 

トヴァルさんの問いに冷静に教官が応える。

しかし、その手を強く握りしめていたのが見えた、本当は連れて行きたくないのだろう。

 

それからトヴァルさんと結社の情報と行動に対する推測を互いに共有した結果、どこかに拠点があるのではとの結論になった。

その後同じく遊撃士のアガットさんが合流し、最終的に正規軍側の情報は知っておきたいとの事で、エリオットさんのお父さんがいるというドレックノール要塞に向かう事となった。

道中、アガットさんが持ってきた手配魔獣の情報をもとに余裕があれば討伐していく流れになったところでフィーさんが切り出してきた。

 

「ねぇ、エルド。」

 

「はい、何ですか?」

 

「さっき、トヴァルも行ってたけどエルドはどのくらいできるの?」

 

「えっ…と。」

 

フィーさんの言葉に思わず言葉が詰まる。

思えば、ここに来てからの戦いそのほとんどが負けているか、気を失っているかだ。

実際自分がどのくらい出来るのかは分からない。

そう思い考え込んでいると、教官が救いの手を差し出してくれる。

 

「その気になれば前衛も後衛も行けるだろう。でも、今回は戦わせない方向で行こうと思うんだ。」

 

「リィンのその考えは分かる。でも、危なくなった時自衛出来るぐらいの実力がないと困る。」

 

二人の意見はどちらも否定できるようなものではないだろう、教官は『生徒』として俺を見ているため、出来るだけ怪我をさせたくないのだろう。

その事は先ほどの、ユウナたちに対する態度で分かる。

一方でフィーさんは形はどうあれ、同じ任務にあたる『仲間』として俺を見ている。

その為、俺がどこまでできるか知りたいのだろう。もし俺が下手をすればその場で全滅という事もあり得るのだから。

そんな二人の想いを受けて、ラウラさんが一つの提案を出す。

 

「それならばフィーが直接確かめてみてはどうだ?」

 

「しかしだな…。」

 

「リィン、危険から遠ざけるだけが守るという事ではないだろう。時には試練を与え成長させることも大事だろう。」

 

結局ラウラさんの言葉に教官が折れ、俺はフィーさんと模擬戦を行う事になった。

 

「ん。ここならちょうどいいかな。」

 

街道から横にそれたちょっとした広場で俺とフィーさんは向かい合っていた。

 

「じゃぁ始めるよ。」

 

そう端的に言うと双銃剣を構え突撃してくる。

その速さは凄まじく、武器を創り出すより前に、俺の眼前に拳銃に着いた短い刃が見えた。

寸でのところでそれを回避するが、すぐに放たれた弾丸が迫りそれを横にローリングしながら回避して、そのまま剣を創り出す。

 

「へぇ、昨日はあんまりじっくり見れなかったけど、便利だね。」

 

そう言うとフィーさんは銃弾をまき散らしながら再び突撃をしてくる。

それを見た俺はすぐさま大楯を創り出し銃弾を防ぎながら、フィーさんが盾を搔い潜り突きを繰り出してくるタイミングで、俺は大楯を思いっきり押し出す。

俗にいうシールドバッシュである。

自分でも見様見真似でやったものの、ここまできれいに決まると少し驚いてしまう。

フィーさんも流石に堪えたのか、迫っていた銃剣が地面に落ちていく。

此処がチャンスと右手に握った剣をそのまま突き出す。

しかし、フィーさんは衝撃を最大限逃がしており、武器がなくなったその手で盾の上部を掴みそのまま上に跳躍し避けられてしまった。

 

「なかなか面倒だね。」

 

全くそう思ってなさそうな口調で言うとフィーさんの手から何かが投げられた。

それは手榴弾、しかもフィーさんの銃口はそれを追っている。

すぐさままずいと思い、大楯を前面に出し盾に身を隠す。次の瞬間には手榴弾は爆発し、あたりは砂煙に包まれる。

 

「これでチェックメイト。だね。」

 

視界が明けると、背後から銃口を頭に突き付けられていた。

 

「まだです。」

 

「!?」

 

俺が見せつけるように切傷を見せる。

そこから流れ出る血液は確かに地面に届いていた。

次に起こることを察して思いっきりバックステップをする挙動に入るしかし、それでは僅かに遅い。

すぐに先ほどまで俺が持っていた剣よりも二回りほど大きい剣が出現し、フィーさんが構えていた双銃剣の片方が大きく上に弾き飛ばされる。

大きな隙が出来る。

いま彼女が失くしたのは左手に持っていた銃剣。

つまり今彼女の左手側は何もない、そう判断した俺は巨剣の裏から左手を取れるように動き出す。

 

これで決まりだ。

 

そう思い剣を振るうがそれが当たることはなかった。

フィーさんは弾かれた衝撃のまま俺を超えるように横に跳び、一瞬で背後を取ると一瞬のうちに俺を拘束したのだ。

 

「参りました。」

 

武装を解除しつつ、両手を上げて言うとフィーさんも俺を図り終えたようで小さく頷き武器をしまう。

 

「それで?どうだったのだ?」

 

「ん。悪くない。」

 

それを聞いて俺は少しほっとする。

どうやらお眼鏡にはかなったみたいで、彼女が言うには守りと逃げに徹してれば問題ないとのことだ。

しかし、一つ問題が残る。

 

「それで、どのくらいまで創り出すことが出来るの?」

 

そう、俺の能力には限界がある。

俺の創り出す剣や盾は言うなれば、自分の血を固めて創り上げている物であり、それを飛び散った血を起点に出現させているだけなのだ。

アンリは明らかに人間が持っていていい量の血液を超えていた数の剣を創り上げていたが、俺はそんなことはできない。

せいぜいできて剣だけなら30といったところだ。

 

「限界は創り出す物の大きさに比例します。さっき出したような直剣なら30ぐらいですね。」

 

「どれくらい長く出せるの?」

 

「よくわかりません。」

 

「どういうこと?」

 

フィーさんが小首をかしげ聞いてくるのに対し、俺は見てもらった方が早いと剣を創り出す。

 

「これに思いっきり攻撃してみてください。」

 

「?わかった。」

 

そう言って彼女は銃剣の刃を思いっきり俺の持っている剣に打ち付ける。

すると俺の持つ剣の刃が欠けたかと思うと、すぐにその形を保てず只の血に戻る。

 

「今見てもらったように何かが欠損したり壊れたりした場合姿を保てなくなります。」

 

これは他のあらゆる武器を創り出しても同じことだった、そしてこれこそが俺が銃を創り出さない理由になる。

というのも能力を使う上での最も有効な戦法は何かと考えて銃を使う戦法を考えていたが、銃は言うなれば都度マガジンから弾を送ってそれを打ち出しているため、能力で創る銃はマガジンを含めての事でありそのマガジンも弾がフルで入っている状態が完全な状態とみなされているらしく、『一発撃ってしまえばそれで終わり』になってしまう。

 

そんな事を模擬戦後に説明しながら目的地に向かっているとドレックノール要塞が見えてきた。

そこではまたもや、教官の学生時代の知り合いに会えたり、エリオットさんの父親であるクレイグ将軍からとある許可証をもらい俺たちはサザーラントにおけるもう一人の最高責任者であるハイアームズ侯爵閣下の元へと向かうのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。