亡霊のお話 (Luly)
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謎の空間(弐の始)

最初の空間です。


「…ん?」

 

本に囲まれた部屋の中。一人の男がいた。

 

「あんたは…」

 

男はこちらを見て何かを呟こうとした。

 

「…いや、別にいいか。こんなところになんの用だ?」

 

男はそう言うと立ち上がって近くの本棚に近づいた。

 

私は用件を伝えた。

 

「……記録が見たい、ねぇ。どんな記録だ?」

 

男は本棚を見ながらそう言った。

 

私は実体験できるような記録がいいといった。

 

「実体験ができるような…か。」

 

男はそう呟いて視線を落とした。

 

「客観的にみるような奴じゃなく、主観的にみる奴のことだろ?」

 

男はこちらをじっと見つめて問うてきた。

 

私はその問いに頷く。

 

「…はぁ…今主観で見られるのはあれしかないんだよな…」

 

男はため息をつきながらそう呟いた。

 

私はあれとは?と聞いた。

 

「見ている側が気分の悪くなるような話だ。」

 

私はそれを見せてほしい、と言った。

 

男は私の言葉を聞いて私をまっすぐと見つめた。

 

「…本当に見たいのか?」

 

私はもちろん、と言ってうなずいた。

 

「……本当に、見たいのか?」

 

男が念押ししてくるように聞いてきたが、変わらず頷いた。

 

「……はぁ。後悔しても知らないぞ。」

 

私は構わない、といった。

 

「……ついてきな」

 

男は諦めたように言って、机にかかっていた杖を持って大量の本棚のある場所へと向かい始めた。

 

私は慌ててついていく。

 

男はしばらく歩いた後、一つの本棚の前で止まった。

 

「…最後に、もう一度だけ聞く。…………本当に、いいんだな?」

 

私は変わらず頷いた。

 

「…分かった」

 

男はそう呟いて杖を本棚に向けた。

 

「開け」

 

男がそう言うと本棚が小さく発光した。

 

「生きる記憶を封じる扉よ。わが声のもとにその姿を現せ。魂の名のもとに汝の封じる記録に通じよ。我が杖“レコーダリス”と我“魂込(たまごめ) 彼方(かなた)”の名のもとに!!」

 

男が男性にしてはかなり高い、というか女性と言っても過言ではないレベルの高音で唱えると、本棚が揺れてその奥に通路が現れた。

 

「…さ、行くぞ。」

 

男はそう言い、通路の中へと入っていった。

 

「…この先には、とある記録が保管されている。実際俺達が保管してる中でも真面目に嫌な記録だ。」

 

そう言った後歩き続けると、一つの鉄扉が現れた。

 

「…見るって言ったのはあんただ。…それでも最後にもう一度だけ聞く。…本当に、見るか?」

 

男はそう言って私を見つめた。

 

私は頷き、そして先程から気になっていたことを聞いた。

 

それは、男と呼んでいた存在が本当に男性なのかということ。

 

なぜなら、先程の高音と名前。明らかに女性レベルだったからだ。

 

「はぁ?俺?女だがそれがどうした?」

 

男、ではなく女であった。

 

「ま、自分が間違えられやすいのは知ってるがな。」

 

女は軽く笑いながらどこかから取り出した鍵を扉の鍵穴に差し込み、回した。

 

「…開けるぞ」

 

女がそう言って扉を開けると絶叫のようなものが聞こえた。

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」

 

苦しんでいるような、怒っているような。そんな声が、私の前にいる半透明の存在から発せられていた。

 

「…そいつに触れれば記録の中に入れる。」

 

そう言うと、女は部屋の隅によった。

 

私はその存在に触れた。

 

触れた瞬間、私は落下感覚を感じた。

 

 

 

side 女

 

 

「…行ったか」

 

俺は来客が記録の中に入ったことを確認した。

 

「……呼んでおくか、ヒーラー。」

 

俺はそう呟いて右手を振った。すると緑色のウインドウが現れる。

 

「…っと、これか」

 

目的の表示を見つけてそれを叩く。

 

 

prrrrr…

 

 

少し長めの呼び出し音のあと、通話がつながる音がした。

 

<はい、こちら月が支配する夜の世界、外部電話通信形式集中管理局でございます。ご用件は何でしょうか。>

 

「調律師に用がある。繋いでくれないか。」

 

<調律師…“創詠(つくよみ) 旋理(せんり)”様ですね、少々お待ちくださいませ。>

 

その言葉の後、電話口から曲が流れ始める。

 

「…暇だな。」

 

女がそう呟くと音楽が止まり、誰かが出た気配がした。

 

<お電話代わりました、“創詠 旋理”です。どちら様でしょうか。>

 

「記録の管理者、“魂込 彼方”。ヒーラーの派遣を要請したい。」

 

<魂込 彼方様…ご用件はヒーラー、治癒師の派遣ですね?>

 

「あぁ、頼めるか?」

 

<少々お待ちくださいませ。>

 

その声が聞こえると、電話口の方でページをめくる音がした。

 

<申し訳ありませんが、世界群コードをお願いします。>

 

「“GW03”…だったか」

 

<GW03…世界コードをお願いします>

 

「“record index”」

 

<なるほど。ポータル接続を確認してきますので少々お待ちください。>

 

そう言うと、電話口から誰かが離れた気配がした。

 

「…あ、しまった。使えなかったかもしれん。」

 

<彼方様、大変申し訳ありません。現在、世界接続が非常に不安定でして、GW03へのポータルが起動できない状況でございます。>

 

「まじか…」

 

<大変申し訳ありません。>

 

「あ~…じゃあ精神を安定させるような術ってありますか。」

 

<…?術でしたら“術の管理者”である魂込(たまごめ) 香織(かおり)様がいるのでは…>

 

電話口で言われたことに女…彼方は少しだけ動揺した。

 

「あ~っと…香織は今ちょっといなくて…」

 

<そうですか…では今から軽いものを教えますね>

 

電話口の少女(?)はそう言って術の概要を彼方に教え始めた。

 

<……これで大丈夫です。>

 

暫く話し続けると、少女はそう言った。

 

「ありがとさん、料金は?」

 

<教えただけですし料金は発生致しません。それでは失礼いたします。>

 

少女はそう言って電話を切った。

 

「…早えよ。」

 

彼方はそう呟いてウインドウを閉じた。

 

「…さて、“亡霊のお話”。どうなることやら。」

 

彼方はそのまま壁に寄り掛かった。

 




…さてと、この話が好印象を受けるか悪印象を受けるか。多分悪印象でしょうね。
では、また今度。


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第一話 始まり

そういえばこんな話作ってたなぁ、と思ってここに投げる(私はたまに置くことを投げるって言います)ことにしました。作ったのが結構前だったりするんですけど…タグにあるんですが真面目にこれは気分が悪くなりかねないので苦手な人は読まない方がいいかも…


─────これは…私、“THE PHANTOM(亡霊)”が…どのように主と出会ったのか…そして、出会うまでに何があったのかを記した物語。

 

 

 

─────約5年半前───

 

 

 

私は、世界を意味もなく彷徨っていた。

 

限りなく薄い状態で、でも存在はここにあって。

 

時には誰かに憑りついて何かをしたり。

 

何も記憶が無くて、魂という枠のみで存在していた。

 

私は、何者か。

 

私は何のためにここにいるのか。

 

私は何故この“霊”という状態になっているのか。

 

私の心残りは何かあるのか。

 

私はいつからここに“在る”のか。

 

確か、この状態になってすぐのころはそんなことを考えていたと思う。

 

でも最近、そんなことはどうでもよくなってきた。

 

彷徨って、憑りついて、彷徨って、憑りついて。ずっと、その繰り返し。

 

繰り返しているうちに、もう200年くらいは過ぎてると思う。

 

それでも答えは見つからなくて。

 

時代の変化とともに、私にも変化は起きている。

 

私が魂だけになってから40年くらいたったころ。

 

私に何か変化が起こったのを感じた。

 

私の中を渦巻く不思議な力。

 

でも使い方はわからなくて、困惑するばかりだった。

 

その力が発現した80年後。

 

私とは別の霊が水を浴びせてきた。

 

私は一瞬反応が遅くなったものの、その水がどこから発生しているのかを知った。

 

虚空。

 

何もない空中から、水が発生していた。

 

もう一度その霊の付近に水が発生し、私に水がかかる寸前、私は目を瞑って手を前に出した。

 

すると、いつまで待っても水はかかってこず、代わりにその霊のぎゃあ、という声が聞こえた。

 

目を開けてみると、その霊に()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

私は、その霊が感電しているうちにその場を逃げ出した。

 

その80年後となった今。私は住宅街の中に不自然に存在する空き地の中でその霊と見つめあっている。

 

あれからというもの、この霊は私を探し続け、何年かに1回は会っている。

 

その度に私は水をかけられ、相手がしびれ、私が逃げる、というのが続いている。

 

ただ、会うごとに相手にする霊の数が多くなっている。

 

今。私の視界に入るだけでも10,000はいると思う。

 

私はまた水をかけられる。

 

私が片手を地面につけると相手が感電する。

 

いつもならこれで終わりだが、流石に80年もの間追い回されていると腹が立つわけで。

 

もう片方の手を地面につけると、私の周囲に“()()”が見えるようになった。

 

その電気は私を中心に広がっていって。

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

やっと終わった、そう思うとその場に崩れ落ちた。

 

私は、その場で眠りに落ちた。




あ、まだ軽いのですよ。本格的に辛くなるのは第五話からかな…ちょっと覚えてない…


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第二話 出会い

まだ…まだ大丈夫なはず…(先の展開を知っているため辛い)


私は唐突に目が覚めた。

 

体が重く、動くことができない。

 

昨日の疲れが残っているのだろうか。

 

自分の手を見ると、いつもより透明度が高い気がした。

 

やっと消えるのかな、と、目を閉じながらそう思った。

 

そう思った、時だった。

 

?「あれ…どうしたの?」

 

不意に、何者かの声がした。

 

目を開けると、少女がいた。

 

黒く長い髪、黒い眼。水色を基調としたトップスに黄色のスカート。

 

気配は生者そのもの。

 

でも、雰囲気は真っ白で、柔らかい雪のようで。

 

彼女に触れたら彼女が溶けて消えてしまいそうな感覚がした。

 

少女「貴女は…誰?」

 

少女の問いに、私は答えられなかった。

 

少女「弱ってるのかな…?…私の家、くる?」

 

私は軽く頷くことしかできなかった。

 

 

 

私を見つけた少女は“美恵(みえ)”というらしい。

 

私が彼女の家についてから、すぐに名乗られた。

 

美恵「貴女の名前は?」

 

そう聞かれたけど、首を振ることしかできなかった。

 

それを見ると、彼女はどこかに消えた。

 

怒らせたかな、と心配になったが、すぐに戻ってきた。

 

だが、先程までとは姿が全く違った。

 

白く長い髪に赤い眼。真っ白な素肌に淡い青色のワンピース。

 

触れたら消えてしまいそうなイメージがさらに増した。

 

薄く微笑むその気配が、何とも言えない儚さを引き出していた。

 

美恵「私は、“美恵”。今年で18歳。貴女の、名前は?」

 

再度問われたが、私は首を振ることしかできなかった。

 

美恵「…もしかして…名前…ないの?」

 

私は素直にうなずいた。

 

美恵「…そっか。ごめんね、しつこく聞いちゃって。」

 

私は首を振った。

 

美恵「あれ…もしかして…声も…?」

 

私は軽く首を振って、口から小さな音を吐き出した。

 

美恵「声が無いわけじゃなくて…言葉が出せないってこと?」

 

私はうなずいた。

 

美恵「そっか…ごめんね、さっきから…」

 

私は首を振って、美恵に抱き着いた。

 

美恵「私のせいじゃないって?…ありがとう。優しいんだね。」

 

この時、私は言葉を覚えようと思った。

 

 

 

美恵と出会ってから、2週間が経った。

 

あれから、美恵は私に名前をくれた。

 

すごくきれいな名前だったはず。

 

でも、今となっては思い出せない。

 

亡霊「み、え…」

 

美恵「…え?───?言葉を…?」

 

亡霊「お、し、え、て…」

 

美恵「え?え?え??」

 

美恵は困惑していたが、私から視線は外さなかった。

 

亡霊「お、し、え、て…こ、と、ば…」

 

美恵「言葉を…教える…??」

 

亡霊「お、し、え、て…み、え…」

 

美恵「わ、私が!?───に!?」

 

私は軽くうなずいた。

 

美恵「えぇっ、できるかなぁ…」

 

亡霊「だ、め?」

 

私がそう言うと、少し考えてこう言った。

 

美恵「いいけど…できるかなぁ…と、ともかく、私、頑張るね!」

 

その日から私は美恵に言葉を教わり始めた。

 

…ちなみにここまでは独学。

 

 

 

それからまた5週間くらい経って、私は普通に会話ができるようになっていた。

 

亡霊「美恵…」

 

美恵「ん~?」

 

亡霊「…ありがと、私に言葉を教えてくれて。」

 

美恵「あ~…」

 

美恵は言葉に詰まった。

 

美恵「流石にいきなり教えて、っていわれた時はびっくりしたよ。教えられるかわからなかったし。でも…」

 

美恵はそこで言葉を区切った。

 

美恵「“一緒に話すことができるかも”、とは思ったんだよね。ほら、ここって私と───以外住んでないでしょ?」

 

そう言われてみると確かに、この家で私と美恵以外の存在を見たことが無かった。

 

美恵「だから、話し相手がいなくて少し寂しかったんだよね。私、こんな姿だから気楽に外にも行けないから。」

 

亡霊「“こんな姿”って…綺麗じゃん、美恵。私、美恵の姿好きだよ?」

 

美恵「あはは…ありがとね、───。お世辞でもそう言ってもらえると私も嬉しい。」

 

お世辞じゃないんだけど、という言葉は飲み込んだ。美恵の表情が苦しそうに見えたからだ。

 

美恵「…そうだ、───。霊力の方はどうなの?」

 

霊力。私に宿っていた力。160年前、私に発現した不思議な力の一端だった。

 

この力、実は美恵が気付いた。言葉を教えてもらっているとき、[───から自分と同じ力の気配がする]、と言われたのだ。

 

その言葉の通り、美恵も霊力持ちだった。

 

言葉の練習と一緒に、霊力の使い方も教わった。

 

亡霊「ばっちり、かな?まだ安定しないところを見ると、もうちょっと調整が必要かもだけど。」

 

美恵「そればっちりって言えるの?」

 

亡霊「うっ…」

 

美恵「全くもう…私は霊力しかないからまだいいけど、───は霊力だけじゃなくて魔力、妖力、神力もあるんだからね?」

 

亡霊「はぁい…」

 

そう。霊力、魔力、妖力、神力。これが私に発現していた力だった。

 

美恵「…さ、練習練習。」

 

亡霊「はぁい……?」

 

美恵「…?どうしたの?」

 

亡霊「…美恵、焦ってる?」

 

美恵「…どうして?」

 

亡霊「勘…かな?」

 

美恵「へぇ…」

 

美恵は少し考えこんだ。

 

美恵「う~ん…───が霊力の扱いの基礎をマスターしたら。そしたら教えてあげるね。」

 

亡霊「…わかった。」

 

それから私は霊力の扱い方の練習を以前よりも積極的にやり始めた。

 




…そういえばタグに書いてある要素出てくるの遅いんですよねぇ…“カードキャプターさくら”はもう出たけど(実在しないカードだけど“THE PHANTOM”っていう名前で察してください)。


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第三話 真実

う~ん…最近筆が進みません。これに関しては別に筆が進まなくても大丈夫なんですけどね…


あれから10週間が経った。

 

美恵「…変化して。」

 

亡霊「…こう?」

 

美恵「そう、それから肉体を散らせて…」

 

…怖いことを言っているように聞こえるが、ただただ体を霧散させているだけである。

 

美恵「細分化は成功。元に戻して。」

 

その言葉で私は元の白く長い髪に鮮やかな緑の眼、白めの素肌に淡い緑色のワンピースという姿に戻る。

 

この淡い緑色のワンピースは美恵が私にくれたものである。

 

美恵「水。」

 

軽くイメージすると手のひらの上に水が現れた。

 

美恵「凍らせて。」

 

熱を奪うイメージをすると、その水がいきなり凍った。

 

美恵「溶かしてから霧に。」

 

熱を与えるイメージの後、霧をイメージするとその水が霧状になった。

 

美恵「霧を凍結。」

 

そのまま熱を奪うイメージをすると空気中に氷が現れた。

 

美恵「…ん、消していいよ。」

 

空気中の氷を消すイメージをすると、私はすぐにその場に崩れ落ちた。

 

亡霊「はぁ…はぁ…」

 

美恵「う~ん…やっぱり温度操作苦手?」

 

亡霊「温度操作じゃなくて…複数の同時操作が苦手…」

 

美恵「そっちかぁ…」

 

美恵は少し考えこむ。

 

美恵「並列作業は慣れるしかないからなぁ…まぁいっか。」

 

亡霊「…次は?」

 

次の扱い方に入ろうと思ったのだが…

 

美恵「え?もうないよ?」

 

亡霊「………え?」

 

突然の言葉に私の思考が止まった。

 

美恵「だって、“変化術”“治癒術”“攻撃術”“元素生成”“温度操作”“物体操作”…この辺終われば霊力の扱い方はほぼ終わってるもん。」

 

亡霊「…ってことは…?」

 

美恵「これにて基礎修行終了、かな?お疲れさま、───。」

 

私はよく意味が分からなかったけど、とりあえず美恵に抱き着いた。

 

美恵「わっとっと……でも、基礎修行終わっても気を抜いちゃだめだよ?応用は───自身が作り出すんだから。」

 

亡霊「はぁい…」

 

美恵「…ね、───。」

 

亡霊「?」

 

美恵「今夜…私が───に隠してたこと…話すね。」

 

亡霊「隠してたこと…?」

 

美恵「うん…」

 

美恵はそれ以上語ろうとはしなかった。

 

 

 

夜になった。私は家の中から空を見上げて美恵を待っていた。

 

美恵「…お待たせ。ごめんね、待たせちゃって。」

 

私は首を振った。

 

美恵「…その答え方、見るの久しぶりかも。最近はずっと言葉で答えてたもんね。」

 

亡霊「そうだっけ…?」

 

美恵「そうそう。」

 

そこで会話が途切れた。

 

美恵「…ね、───。」

 

亡霊「?」

 

美恵「今から私が話すこと…聞いててね。」

 

亡霊「?う、うん…」

 

美恵「…この世界ではね。異端は生きていけないの。」

 

亡霊「異端?」

 

美恵「うん…普通じゃないもの。それは生きていくことができない。私も…そう。この世界で生きてはいけない存在。」

 

亡霊「え…」

 

美恵「───はさ。私の姿を見て…綺麗、って言ってくれたよね。」

 

黙ってうなずいた。

 

美恵「正直、うれしかった。だって、そんなこと言ってくれる人、今までいなかったし。」

 

亡霊「…」

 

美恵「私みたいな異端は、逃げ続けてもいつかは、って思ってたから。」

 

亡霊「…」

 

美恵「…ごめんね、暗い話で。」

 

謝られる…が、先に1つ言いたい。

 

亡霊「…綺麗だって思ったのは本当なんだけど…」

 

美恵「…うん、わかってる。ありがとう。」

 

亡霊「だって、あの時お世辞だと思ったみたいじゃん…」

 

美恵「あれは照れ隠し!!」

 

亡霊「へぇ…」

 

美恵「もう…話を続けるよ。この世界で普通っていうのは、何も能力とかを持っていない人間。そして…“黒髪黒眼”の人間のこと。それ以外の人間は全て“異端”と見なされる。」

 

亡霊「…」

 

美恵「異端と判定された者は…」

 

そこで美恵の声が止まった。

 

亡霊「美恵…?」

 

美恵「…っ!」

 

美恵の体が震えていた。私はそっと、美恵の手に自分の手を重ねた。

 

美恵「…ぁ…」

 

美恵の震えが収まっていく。しばらくそのままにしていると、震えが完全に止まった。

 

美恵「…ごめん、情けない所見せちゃったね…」

 

亡霊「美恵…辛いなら…」

 

私がそういうと美恵は軽く首を振った。

 

美恵「ううん、自分で話すって決めたことだから。…ね、───。」

 

亡霊「?」

 

美恵「手…つないでくれるかな…」

 

亡霊「…ん。」

 

私は美恵と手をつないだ。すごく、冷え切っていた。

 

美恵「…ありがと。」

 

亡霊「…」

 

美恵「続けるね。この世界で、異端と判断された者はね…」

 

亡霊「…者は…?」

 

美恵「…捕まって実験動物として使われるか…殺されるの。」

 

亡霊「…!」

 

美恵「初めて会ったとき…私、黒髪黒眼だったでしょ?」

 

私は軽く頷いた。

 

美恵「あれ…私ができるカモフラージュなの。ああでもしないと、私も…」

 

亡霊「…」

 

美恵「6年前…政府と世界統一省の追っ手から私を逃がしてくれたのはお母さんだったの。お母さんは普通だったんだけど…」

 

亡霊「…」

 

美恵「…世界総合法第4条…異端者を庇った者は即刻処刑される…」

 

亡霊「そんな…!じゃあ、美恵のお母さんは…!」

 

美恵はぎこちなくうなずいた。

 

美恵「うん…私が…12歳のころ、殺されたよ…私の、目の前で…」

 

亡霊「…」

 

美恵「お母さん、最後に私に向かって言ってた。[美恵、逃げなさい!この世界の、どこまでも!]、って。そういった後、お母さんは…」

 

その話を聞いて、私は自然と美恵を抱きしめていた。

 

美恵「え…?」

 

亡霊「ごめんね、辛い話をさせて…」

 

美恵「…いいよ、自分から話したんだし…」

 

そういう美恵の声は震えていた。

 

美恵「ふっ…ぁっ…」

 

亡霊「…」

 

美恵「ぁっ…ぁっ…うああぁぁぁぁぁぁあああ!!!」

 

私は泣き出した美恵の声を聴いて決意した。

 

絶対に、美恵の事は守ると。

 

そのために、私は強くなると。

 

 




ということで美恵さんの過去と世界の事情が明かされました。…はぁ。


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第四話 変動

そういえばこちらの更新忘れてました。…実際更新したくないのが私だったといえばそうなのですが。


 

 

 

事態は次の日に起こった。

 

ピンポーン…

 

美恵「お客さん…?は~い。」

 

美恵が玄関に走っていった。

 

カシャン

 

唐突に何かが割れるような音が聞こえた。玄関の方からだ。

 

亡霊「…美恵?」

 

嫌な予感がして玄関に走った。

 

亡霊「美恵…っ!?」

 

美恵「…──…─…」

 

目の前の状況を理解しにくかった。美恵が、青く特徴的な服の、顔に鬼の刺青がある男につかまって…

 

?「…?っ!異端者だ、捕まえろぉ!」

 

男の声を聴いたとたん、すべてを理解した。同時に男の影から複数の人影が飛び出す。その数5。

 

亡霊「っ!ちか…よるなぁっ!!」

 

左手を振ったとたん、(いかずち)が人影を襲った。

 

人影「「「「「ぐあぁぁぁっ!!」」」」」

 

?「異端者の上、異質者だとっ!?世界総合法第6条、“異質者はその場で捕縛せよ”により、貴様の身柄を…」

 

亡霊「そんな話を聞くかぁ!!」

 

地面に手をつき、揺れを起こし、美恵と男を隔離した。

 

亡霊「美恵、逃げるよ!」

 

美恵「…」

 

亡霊「美恵っ!」

 

美恵「っ!う、うん!」

 

その場で風を起こし、私達はその場から姿を消した。

 

?「…異端者共め…」

 

 

 

どれくらい飛んだだろうか。

 

美恵の家から長い距離を飛んだ気がする。

 

飛んだ先の岩山の中に洞窟を見つけ、そこの入り口に着地する。

 

亡霊「安全…かな?」

 

私は私たちを覆っていた風の防壁を解除しようとした。

 

美恵「待って。」

 

そんな時、美恵から声がかかった。

 

美恵「ここで風の防壁を解除しないで。この洞窟の…奥のほうまで行って。」

 

美恵の言うとおりに洞窟の奥の方まで行った。

 

美恵「風の防壁を解除して…私を下ろして。」

 

言われる通り美恵を下ろした。

 

美恵「…“気配遮断”。“証拠隠滅”。“周波遮断”…」

 

美恵が震える声で唱えると、洞窟の奥の方にだけ防壁のようなものが張られた。

 

美恵「こうすれば…少しの間は、大丈…夫…」

 

そう言うとそのまま崩れ落ちた。

 

美恵「…」

 

美恵の体が震えていた。私はそっと美恵の手に自分の手を重ねる。

 

美恵「っ…ありがとう、───…」

 

亡霊「私は何もしてないよ…」

 

美恵「そんなことない。───がいなかったら、今私はここにいないもん…」

 

そこで一端会話は途切れた。

 

美恵「…今日来た人…」

 

亡霊「そういえば…あいつらは…?」

 

美恵「あぁ、知らないんだっけ。あの人は…世界統一省の役人…だよ…」

 

亡霊「世界統一省…」

 

美恵「うん…そして…私のおばあちゃんを殺した男…だと思う…」

 

亡霊「え…」

 

私は驚きの声しか出せなかった。

 

美恵「昨日、お母さんは普通だった、って話したよね。」

 

亡霊「うん…」

 

美恵「でも…おばあちゃんは私と同じアルビノだったんだって…」

 

亡霊「アルビノ?」

 

初めて聞く単語に聞き返した。

 

美恵「あれ、説明しなかったっけ?私みたいな白い髪に赤い眼を持つ人の事。人以外にもアルビノはいるけどね。」

 

亡霊「へぇ…」

 

美恵「で、おばあちゃん…私が生まれる前に殺されたんだって…」

 

亡霊「…もしかして…」

 

美恵「多分、───の考えている通り。異端者だから。」

 

亡霊「そんな…」

 

美恵「お母さんの話だとね…青い服で顔に鬼の刺青がある男に刺された後…おばあちゃん、亡くなる前にこう言ったんだって。[こんなことを続けていたら、いずれ罰が当たるよ!!]って。何でそんなことを言ったんだろう、ってお母さんに聞いたら、私のひいおばあちゃんが異質者だったみたいで。亡くなる前にこう言ったんだって。[世界を支配する者はいずれ、強き悲しみによって打ち砕かれるであろう。空は荒れ狂い、地は焦土と化す。その地は草木の生えぬ死の地となるであろう。世界を支配する者は(いかずち)に打たれ、絶える運命となるであろう]、ってね。私もお母さんも意味わかんなかったけど…」

 

亡霊「…わかんない…」

 

美恵「おんなじだね。」

 

会話が止まった。

 

美恵「…ごめん、ちょっと寄りかからせて…」

 

私が答える前に、美恵は私の肩に寄りかかってきた。

 

美恵「…どうしよう。カモフラージュももう効かない…私は…どうすればいいんだろう…」

 

亡霊「…」

 

私はかける言葉が見つからなかった。

 

美恵「…家に…帰りたいよぉ…」

 

亡霊「…」

 

美恵「思い出の…あの家に…」

 

亡霊「家…」

 

美恵「思い出の…あの場所に…もう一度…」

 

ここで一瞬引っ掛かりを覚えた。

 

亡霊「…あの場所…?」

 

美恵「…“あの場所”っていうのは…───と初めて会った場所だよ…」

 

亡霊「え…」

 

美恵「あの場所はね…元々、私のおばあちゃんが住んでた家があった場所なんだよ…」

 

亡霊「そうだったの…!?」

 

道理であそこだけ空き地になっているわけである。

 

美恵「うん…あの日は丁度、おばあちゃんの誕生日で…私の誕生日でもあったから。」

 

亡霊「え…」

 

美恵「毎年誕生日にはあそこに行ってるの。お母さんが生きてた頃も同じことをしてたから。」

 

亡霊「…ね、美恵。」

 

美恵「?」

 

亡霊「その場所…私達の“約束の場所”にしない?」

 

約束の場所。それは、特定の個人との思い出の場所や、離れてしまった時の待ち合わせ場所として言われる場所。そう、美恵から聞いた。

 

美恵「…私もちょっと思ってた。たとえいつか離れてしまっても…」

 

亡霊「あの場所でまた…」

 

私の意識はそこで落ちた。

 

 

 

すぐに冷たさで覚醒した。

 

亡霊「つめっ…これ、水…?」

 

美恵「おはよ、───。」

 

亡霊「…おはよ…」

 

美恵「ごめんね、強制的に起こしちゃって。」

 

亡霊「いいけ…」

 

霊力の扱い方を教わり始めてからの癖になっている周囲の索敵が動き、何かの反応を検知した。

 

亡霊「…?」

 

美恵「どうし…」

 

亡霊「しっ。黙って…索敵術、全感覚状態」

 

全感覚状態で周囲を探った。すると、全方位に反応があった。

 

亡霊「…囲まれてる?」

 

美恵「えっ………ほんとだ…」

 

美恵がそういうと同時に破裂音のようなものがした。

 

?「流石流石。異質者といったところか…気配を察知するとは…」

 

亡霊「この声は…」

 

声のした方を向くと、青く特徴的な服で、顔に鬼の刺青のある男が立っていた。

 

美恵「おばあちゃんを殺した男…」

 

?「うんん?貴様とは昨日初めて会ったはずだが…」

 

亡霊「…」

 

?「ふむ…殺意を感じる。まぁいい。」

 

男は1枚の紙を取り出した。

 

忠次「世界統一省役人、“忠次(ただつぐ)”。世界総合法第6条により、貴様らを拘束する。捕まえろぉ!!」

 

そういった直後、壁が壊れて私たちは人影に取り押さえられた。

 

亡霊「離して…!離せっ!」

 

美恵「いや…やめて…!」

 

亡霊「美恵っ!このっ…!」

 

美恵「あっ!」

 

亡霊「美恵っ!?この…吹き飛べっ!!」

 

そう叫ぶと、私の上に被さっていた人影がすべて吹き飛んだ。

 

亡霊「美恵は…!?」

 

忠次「近づくなっ!」

 

亡霊「っ!」

 

美恵「んー!んー!」

 

忠次「そこから一歩でも近づいてみろ…こいつの命はないと思えっ!」

 

亡霊「卑怯な…」

 

忠次「なんとでもいえ…」

 

その態度に軽く怒りを覚えた。

 

亡霊「それが!仮にも世界を統べる者のすることなのか!!」

 

忠次「この世界に異端なぞいらぬ!!あるのは普通のみ!異端という害悪は排除するのみだ!!」

 

亡霊「だからといって!少し姿の違うだけの人間を…それも女の子を消し去るのか!?」

 

忠次「言ったはずだ!異端という害悪は排除するのみだと!!それは女であろうが子供であろうが関係ない!」

 

亡霊「この…!」

 

美恵「…もう、いいよ…」

 

熱くなっていた私の意識を元に戻したのは美恵の声だった。いつの間にか、口の拘束が解けていたらしい。

 

美恵「───は…逃げて…」

 

亡霊「なんで…!」

 

美恵「お願い!!逃げてっ!!」

 

亡霊「…っ…」

 

美恵「お願いだから…逃げて…私はもう…目の前で…仲のいい人が死ぬのは見たくないの…!」

 

亡霊「…」

 

美恵「お願い…っ!」

 

亡霊「…」

 

私は何も答えられなかった。

 

美恵「…」

 

亡霊「…分かった…」

 

そう言うと、美恵から息を吐いたような音が聞こえた。

 

亡霊「美恵…1つ、守ってくれる…?」

 

美恵「…?」

 

亡霊「絶対に…死なないで…また…会える時まで…」

 

美恵「…うん…頑張る。」

 

亡霊「約束だよ…?」

 

美恵「…うん。約束。そのかわり、───も…」

 

亡霊「…うん。」

 

そう言ってから、私は美恵に背を向けた。

 

亡霊「じゃあね…」

 

そう言って歩き出そうとした時だった。

 

美恵「───っ!いつか…絶対に“約束の場所”で…!」

 

亡霊「っ…待ってる。私、まってるからっ!」

 

そう言って私は洞窟から飛び去った。

 




なんか変、と思われるかもですがお気になさらず。


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第五話 痕跡

美恵さんと別れてからのお話。


 

美恵と別れてから、1年が経った。

 

あの洞窟から飛び去ってからというもの、大変だった。

 

まず、当然のように追っ手が来た。

 

予想していなかったわけではないが、しつこさには呆れた。

 

一応のカモフラージュはしたものの、即座に見破られ、追われる羽目になった。

 

だから、撒いた。

 

撒いて、撒いて、撒いて、撒いて…撒き続けて3ヵ月ほど。体力が尽きた。

 

タイミングよく、追っ手は私を見失った。

 

だから、私は体を散らせた。

 

体を散らせて、全感覚遮断状態で体力の回復を待った。

 

幸いというべきか、異質者を見つける方法というのは存在しないらしかった。

 

体力がある程度回復したころ、私は自分の姿を変えた。

 

黒く短い髪に黒い眼。黄色を基調としたトップスに水色のスカート。

 

これが、新しい私のカモフラージュ状態だった。

 

ちなみに以前のカモフラージュ状態は黒く長い髪に黒い眼、ピンク色を基調としたトップスに黄緑色のスカート。それから髪に白い朝顔の花、というものだった。白い朝顔の花は美恵が私にくれたものだった。

 

元々私は“霊”であるため、食事を必要としなかった。

 

だから、長い間、何もせずに待つことができた。

 

私がカモフラージュ状態を変えたことで、追っ手は私のことが分からなくなった。

 

だから、体力が完全に回復してから6ヵ月の間、平穏な日々を過ごしていた。

 

…1年経った今、まだ美恵は約束の場所に現れない。

 

だから、私は美恵を探すことにした。

 

最近使えるようになった分身術で約束の場所に自分の分身を置いて、美恵が来た時に対応できるようにした。

 

この1年の間で、私は美恵の痕跡を辿れるようになっていた。

 

何故かはわからない。

 

でも、今の私が美恵を探すには痕跡を辿るしかない。

 

私は体を散らし、痕跡が示す道を辿り始めた。

 

辿り始めたはいいものの、基本的には私と美恵が一緒に住んでいた家と約束の場所にしか辿り着かなかった。

 

稀に商店街に辿り着くこともある。でも基本的には住んでいた家と約束の場所だった。

 

美恵の痕跡を辿り始めてから4週間。住んでいた家、約束の場所、商店街以外に通じる痕跡が2つ、あった。

 

どちらの痕跡も、別方向につながっていた。

 

1つは空中に。もう1つは地に。

 

先に地にある痕跡の方を辿ることにした。

 

その先に何があるかは知らない。

 

でも、先にこっちを知らないといけない気がした。

 

地に存在する痕跡を辿っていくと、やがて1つの家に辿り着いた。

 

1軒の大きな木造の家。そうしかいえなかった。

 

誰かが住んでいるんだろうか。長い時間ここに存在しているはずなのに、朽ちかけている様子はなかった。

 

丁度近くに人気のない場所があったため、その場所を起点に元の姿に戻った。

 

カモフラージュ状態になるのも忘れないようにして、その場所から出た。

 

再度、その家を見た。

 

やはり、朽ちかけている様子はなかった。

 

しばらくそうしていると、戸が開くような音がした。

 

?「…ん?」

 

中からおじいさんが現れた。

 

おじいさん「どうしたのかね?」

 

亡霊「…朽ちてない、と思いまして。」

 

おじいさん「そうか…」

 

私とおじいさんは少しの間その家を見上げていた。

 

おじいさん「…むかしはのぉ。儂の孫がここに遊びに来とったんじゃよ。それも、儂の娘が亡くなった7年前まではの…」

 

亡霊「そうですか…」

 

おじいさん「…そう、ちょうど…お前さんに似ておった。黒く長い髪に黒い眼。水色を基調としたトップスに…」

 

亡霊「黄色のスカート…」

 

おじいさん「うむ。…む?何故お前さんが孫の特徴を…?」

 

亡霊「大切な人に…似てるので…」

 

おじいさん「…」

 

おじいさんはそこで無言になり、門の鍵を開け始めた。

 

おじいさん「…入りなさい。」

 

亡霊「え…」

 

おじいさん「少し…話を聞きたい。」

 

亡霊「…」

 

私は少しためらったが、美恵の痕跡はこの家に続いているため、家の敷地の中に入った。

 

おじいさん「…ついてきなさい。」

 

門を通ると同時に、おじいさんについてくるよう言われた。よく見ると、家の敷地内に美恵の痕跡が多いのに気が付いた。

 

しばらくついていくと、その先にあったのは小さな小屋のようなものだった。

 

おじいさんがその小屋に入っていったため、私もついていった。

 

中は綺麗に整備されていた。

 

おじいさん「すまないの。こんな場所で。」

 

亡霊「いえ…」

 

私はおじいさんに勧められて小屋の中の椅子に座った。

 

おじいさん「…カモフラージュを解除しなさい。」

 

亡霊「えっ…?」

 

その言葉を聞いて警戒心が強まった。

 

おじいさん「お前さん、異端者じゃろう?孫…美恵と同じようにのぉ…」

 

亡霊「美恵を知ってるんですか!?」

 

椅子が倒れるのも構わず、立ち上がった。

 

おじいさん「そうじゃ。儂は美恵の祖父じゃ。あの子のカモフラージュも、あの子の本当の姿も…知っておる。流石に今何をしているかは知らぬが…のぉ。」

 

亡霊「…」

 

おじいさん「…異端者は自分の姿を他人にさらすのを怖がる。仕方のないことじゃ、この世界ではの…」

 

亡霊「…」

 

おじいさん「かつて…儂の妻も自分の姿を儂に見せるのを嫌がったものじゃ…」

 

亡霊「奥さんというと…美恵のおばあ様…?」

 

おじいさん「その通りじゃ。儂の妻も異端者でのぉ…美恵が生まれたときは、妻の生まれ変わりかと思ったくらいじゃ。見事な白い髪じゃったよ、妻は…」

 

私は話を聞き続けていた。

 

おじいさん「…美恵は、いまどこでなにをしているのじゃろうか…」

 

亡霊「それは…分かりません。1年前に、別れたきりなので…」

 

おじいさん「そうか……お前さん、美恵を探しておるのじゃろう?」

 

亡霊「え?は、はい…」

 

おじいさん「ならば…」

 

おじいさんは小屋の奥に行くと1つの小さめの箱を持ってきた。

 

おじいさん「確かこの箱の中にあったはずじゃ……これじゃな。」

 

箱の中から青色のペンダントを取り出した。

 

おじいさん「これを、持っていきなさい。」

 

亡霊「え…」

 

おじいさん「儂には必要ない物じゃからのぉ…」

 

亡霊「は、はぁ…」

 

私がそのペンダントを受け取ると、満足そうな顔をした。

 

おじいさん「さて。長めに話してしまったの…門まで送ろう。カモフラージュは大丈夫じゃな?」

 

私はその言葉で自分の姿を確認した。カモフラージュは解けていないようだった。

 

おじいさん「…そうじゃ、お前さん、名は…」

 

亡霊「私の名前…───です。」

 

おじいさん「良い名じゃの…」

 

亡霊「名前のなかった私に…美恵がつけてくれました。」

 

おじいさん「そうか…」

 

そこからは無言になって歩き続けた。少しして、門の場所までたどり着いた。

 

おじいさん「さて、ここでお別れじゃの…」

 

亡霊「はい…」

 

おじいさん「…[世界を支配する者はいずれ、強き悲しみによって打ち砕かれるであろう。空は荒れ狂い、地は焦土と化す。その地は草木の生えぬ死の地となるであろう。世界を支配する者は(いかずち)に打たれ、絶える運命となるであろう]…妻の母が言っておった言葉じゃ。儂も、娘も理解はできなんだが…じゃが、この年になると分かったかもしれないの…」

 

亡霊「…」

 

おじいさん「…さて、行きなさい。お前さんの道をどこまでも…」

 

亡霊「…はい。」

 

おじいさんは私の言葉を聞くと、家の中へと去っていった。

 

私は、人気のない場所に入り、体を散らせた。

 

 




美恵さんの親族さん。今はもう、このおじいさんしか生きていません。


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第六話 夢

最近忘れてました……


夢を見た。

 

歳の若い少女が走り回る夢。

 

広い場所を、自由に駆け回っていた。

 

その少女を、静かに見つめる女性の影があった。

 

 

 

場面が変わる。

 

 

 

老いた女性が寝具の上に横になっていた。

 

眼も開けず、死んだように横たわっていた。

 

老いた女性が突如口を開く。

 

低く、威厳のようなものがありそうな声でこう言った。

[世界を支配する者はいずれ、強き悲しみによって打ち砕かれるであろう。空は荒れ狂い、地は焦土と化す。その地は草木の生えぬ死の地となるであろう。世界を支配する者は(いかずち)に打たれ、絶える運命となるであろう]、と。

 

その言葉を言うと老いた女性は何も言わなくなった。

 

老いた女性のそばに、少し若い女性と少女、それから若い男性の姿があった。

 

 

 

場面が変わる。

 

 

 

老いた女性が家の中で青く、特徴的な服の男に襲われていた。

 

老いた女性はその男から逃げていたが、やがて捕まり、体の右上から左下に斬られた。

 

老いた女性が吠えた。

 

[こんなことを続けていたら、いずれ罰が当たるよ!!]、と。

 

男はそれを嗤った。

 

男は言った。

 

[そんなものしらぬ。我ら、世界統一省がこの世界では正義なのだ。それに歯向かうものや普通でない異端なぞのことは知るものか。この世界には普通だけあればいい。]、と。

 

男は振り向いた。

 

顔に、鬼の刺青があった。

 

その場面を、若い女性が見ていた。

 

 

 

場面が変わる。

 

 

 

家の中に女性と少女がいた。

 

突如家のインターホンが鳴る。

 

女性が玄関に向かい、客と相手をする。

 

しばらくして、客と思しき人物が部屋に入ってきた。

 

灰色の服を着た女だった。

 

刃物なのだろうが、見たことのないものを持っていた。

 

その後ろから、女性が駆け寄ってきた。

 

女を引っ張り、追い出そうとした。

 

女は吠えた。

 

[世界総合法第4条!異端者を庇った者は即刻処刑される!!それでもいいのか!!]

 

女性は怒鳴った。

 

[法が何!?自分の娘に何かをされると聞いて、はいそうですかと渡せる母親がどこにいるっ!!]

 

さらに続けて怒鳴った。

 

[法なんて知らない!!私は私の意志であの子を守る!!]

 

女が吠えた。

 

[ならばこの場で処刑とする!!覚悟しろ!!]

 

女性はそれを見ていた少女に言った。

 

[美恵、逃げなさい!この世界の、どこまでも!]

 

女性がそういった直後、その女性が細切れになった。

 

少女はその光景を見て逃げた。

 

[捕まえろぉ!]

 

男の声が聞こえたが無視だった。長い長い時を、逃げ続けた。

 

逃げ続けて、1年が経った。

 

とうとう、少女の力が尽きた。

 

しかし、少女を追ってくるものはいなかった。

 

少女は奇跡的に、母と住んでいた家に辿り着いた。

 

少女はそのまま、眠り込んだ。

 

 

 

場面が変わる。

 

 

 

空き地に白い髪の少女が目を閉じた状態で倒れていた。

 

少女は透けて見えるようで、今にも消えそうに見えた。

 

そんな時、その場所に向かう黒い髪の少女がいた。

 

黒い髪の少女は白い髪の少女を見つけると、驚いた表情をしながらもその白い髪の少女に近づいた。

 

[あれ…どうしたの?]

 

黒い少女の声が聞こえると白い髪の少女は目を開き、黒い髪の少女を見た。

 

[貴女は…誰?]

 

その問いに白い髪の少女は答えなかった。

 

[弱ってるのかな…?…私の家、くる?]

 

白い髪の少女は、小さくうなずいた。

 

 

 

亡霊「っ!」

 

私は突然飛び起きた。

 

夢を見ていた気がする。

 

しかしその夢が何だったかを思い出せない。

 

だが、悲しみが残っている気がする。

 

体の細分化は解けていない。

 

おじいさんにもらった、青色のペンダントが、小さく光った気がした。




次回 “第七話 微かな望み”

美恵を探す亡霊の少女は、痕跡という微かな望みに賭けて探し続ける。


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第七話 微かな望み

読んでるだけで辛くなってくるんですよね…これ


 

昨日は夢のことを考えているだけで終わってしまった。

 

夢に関してはもう考えても仕方ない、ということで納得しておいた。

 

気を取り直して、空に続く方の痕跡を辿ることにした。

 

これまでの痕跡より、ずっと薄い。

 

まるで、消え去ろうとしているかのようだった。

 

それでも、私はその痕跡を辿り始めた。

 

その痕跡を辿っていると、見覚えのあるような風景が見えてきた。

 

こちらに来たことはないはず、そう思いながら痕跡を辿った。

 

すると、1つの岩山に辿り着いた。

 

ここで痕跡は止まっている。

 

なぜか、懐かしい感覚がした。

 

この場所に見覚えはない。しかし、なぜか懐かしいと感じた。

 

感覚を鋭くさせて周囲を探ると、2つの反応があった。

 

動くものではない。ただ2つの、霊力の残滓。

 

今いるこの場所に、2つの霊力の残り香があった。

 

さらに感覚を鋭くさせると、もう3つの霊力の残滓を見つけた。

 

その霊力の質を調べた。

 

調べたところ、3つが私の霊力。もう2つが、美恵の霊力だった。

 

何故ここに私と美恵の霊力が残っているのか。しばらく考えて、ようやく分かった。

 

ここは、美恵と一緒に逃げてきた洞窟があった場所だ。

 

洞窟が崩れ、岩山だけになっているが、間違いない。霊力の残滓を詳しく調べたところ、一番強い私の霊力の残滓が“風”を扱ったことを示していた。

 

この風は恐らく人影たちを吹き飛ばしたときに使用したものだ。

 

そして一番強い美恵の霊力の残滓。これは洞窟の奥に入った後、美恵がしていた作業によるものだ。あの時はわからなかったが、“結界”を扱ったらしい。

 

他の小さな残滓は1つずつが“索敵”によるもの。残ったもう1つは、私の使っていた風の防壁だ。

 

そこまで分かったところで、私は美恵の痕跡がこの場所の外に続いていることに気が付いた。

 

今まで見ていた痕跡よりも、ずっと薄い。

 

感覚をかなり鋭くしていなければ、見つけられないほどに。

 

鋭くしている影響か、頭痛を感じ始めた。

 

私は、今日の捜索を断念して、その場で眠りについた。

 

 

 

翌朝、感覚を鋭くさせたまま岩山を出発した。

 

鋭くさせていると、体に変化を感じた。

 

重い。

 

体が、とてつもなく重かった。

 

普段、私は霊力を使わずに空を飛んでいるのだが、体が重すぎてそういうわけにはいかなかった。

 

だから、霊力で小さな風を起こした。

 

しかし、霊力の安定がうまくいかず、何度か落ちかけた。

 

どうやら、霊力の方にも異常が出ているらしい。

 

だが、行動しないわけにはいかないと思い、無理やり動いた。

 

結局、その日はいつもの半分も行動できなかった。

 

 

 

…それから、5週間が経った。

 

この世界の1年は53週間、12ヵ月。371日であると美恵から聞いていた。

 

私が美恵と出会ってから、1年と189日が経っていた。

 

今、私は砂漠にいる。

 

感覚を鋭くしたままにしておくのも慣れ、いつものような進度で動くことができるようになっていた。

 

それでも、美恵は見つからなかった。

 

ここまでに痕跡が強い場所はいくつも見つけた。

 

でも、美恵はいなかった。

 

私にも変化は起こっている。

 

まず、私は“四大元素”と呼ばれる火風水土の4つの属性を操れるようになった。

 

今まで、私は風と土しか上手に操れず、美恵の補助があって火と水が少し操れた程度だった。

 

だが、美恵が応用として扱う“天候操作”のような術はいまだに扱えなかった。

 

次に、私の中で渦巻いていた力の1つ…魔力が扱えるようになった。

 

霊力とは別の力ではあったが、扱い自体は霊力と同じようだった。

 

そういえば、4つの力は性質がそれぞれ違うのかもしれない。

 

霊力は正の力を持ち、傷つけるような術を不得意とし、逆に癒すような術を得意としていた。

 

しかし魔力は負の力を持ち、扱う術に得意不得意が無いようだ。

 

妖力と神力はまだわからない。

 

最後に、応用術として“催眠術”、“華舞術”、“結界術”が使えるようになった。

 

結界術はあの岩山を訪れた後、時間をかけて習得した。

 

華舞術は風の術の応用に近い。花を生み出し、それを周囲に舞わせる。その気になれば催眠をかけることも可能だ。

 

催眠術に関してはいつの間にか使えるようになっていた。

 

痕跡が続く先に辿り着いた。

 

…ここにも、美恵はいない。




ちなみに暦の流れがこちらと違うのは仕様です


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第八話 祟り

第八話……う…


 

…痕跡を辿り始めて、360日が経った。

 

私は山の中にいた。

 

この先に、美恵の痕跡は続いていた。

 

すぐにでも探しに行きたかったが、この山に入った途端体が重くなった。

 

自分の体を調べると、疲労によって体が重くなっているようだ。

 

動こうにも体が重く、歩きずらい。

 

せめてと思い、木の枝の上に移動すると、すぐに意識が落ちた。

 

 

 

私の意識はすぐに覚醒した。

 

しかし、体が動かなかった。

 

無理もないかもしれない。

 

あの岩山で薄い痕跡を見つけてからここまで、休みなしのようなものだからだ。

 

動こうとしても動けないことに気が付いた私は、動けるようになるまで待つことにした。

 

 

 

結局、動けるようになったのはそれから5日後の事だった。

 

366日目。私は、山の中を進んだ。

 

山の中は迷路のようだった。

 

痕跡も多く、場所を行ったり来たりしていた。

 

1つずつ見ていくと、やがて1つの痕跡に辿り着いた。

 

私はその痕跡を辿って行った。

 

時折、痕跡への道をを邪魔している木々もあった。

 

そんなのは斬り倒すか、地面を潜って通過した。

 

迷い続けて2日。369日目、ついに開けた場所に出た。

 

そこには、石造りの建物があった。

 

美恵の痕跡は、確実にその建物へと通じている。

 

木の陰から様子を見ていた私は、3つの人影を見た。

 

1つ目は白い服を着た人間。2つ目は青く、特徴的な服を着た人間。3つ目は灰色の服を着た人間。

 

白い服と灰色の服は分からない。

 

だがあの青い、特徴のある服は分かる。あれは、世界統一省のものだ。

 

そろそろ2年前になるが、忘れていない。

 

とはいえ、それで怒りに任せて出ていくほど馬鹿ではない。

 

細分化したまま、私はその建物に向かった。

 

建物の中に入ってすぐに目についたのは真っ白な壁だった。

 

どこを見ても白、白、白。気味が悪かった。

 

比べるのは悪いとは思うが、美恵の髪のような光に照らせばその光を反射してきらきら光る、綺麗な白じゃない。無機質な、ただただそこにあるだけ、というような白だった。

 

普通以外を認めないこの世界で、この光景は異常に見えた。

 

しかし、先程から私のそばを通り過ぎる人間たちは、皆、異常だとは思っていないようだった。

 

追跡を続けていたせいか、気分が悪くなり、建物内に少しは異常ではないような場所があったため、そこである術を使ってから休息をとった。

 

 

 

ふと、意識が覚醒した。

 

周囲が壁のため、時間は分からないが、恐らく次の日になったのだろう。

 

休息をとる前に使ったのは、次の日になったら自動的に覚醒へと導いてくれる術だ。

 

偶然完成した応用術だが、こういう時には役に立つ。

 

370日目。

 

美恵の痕跡はこの建物で途絶えている。

 

いくら感覚を鋭くしても、ここから出た痕跡は見つからなかった。

 

いる。

 

確実に、美恵はここにいる。

 

そう思って見える痕跡を辿り始めた。

 

 

 

何時間が経ったのだろう。

 

この場所で痕跡を辿り続け、長い時間が経った気がする。

 

美恵の痕跡は、同じ場所を行ったり来たりしていた。

 

そのせいで、痕跡を辿るのが大変だった。

 

だが…

 

見つけた。

 

…最後の痕跡。

 

美恵が、最後に行った場所に通じるであろう痕跡。

 

1つの、部屋に通じていた。

 

両開きの扉の、その先に。

 

痕跡を示す線は、続いていた。

 

私はその扉を通過した。

 

その後、私は久しぶりに元の姿へと戻った。

 

この場所に……

 

……美恵は、いなかった。

 

あったのは、大量の機械と、()()()()()()()()()()()()()()()()()()…だ……け………

 

……いや。

 

…………まさか

 

………………そんな

 

はずは……

 

私は嫌な予想を拭うために美恵の痕跡を探した。

 

その痕跡は………

 

………塊に、つながっていた。

 

理解ができなかった。

 

…否、理解したくなかった。

 

私は恐る恐るその塊に触れた。

 

…全てを、理解した。

 

理解してしまった。

 

これは…

 

この塊は……

 

………まぎれもなく…………

 

………………美恵だと………

 

亡霊「あ…あ……あ……ぁ…」

 

塊に触れたとき、全てを理解した。

 

何故ここにこんな塊があるのか。

 

この塊が何なのか。

 

………美恵が、私と別れてからどうなったのか。

 

全て。

 

理解、してしまった。

 

亡霊「ぁ…ぁ……!」

 

その時、後ろの扉が開いた。

 

白い服の。

 

人間だった。

 

白い服の人間「む…!?異端者っ!捕まえろ!!」

 

白い服の人間が私を見てそう叫ぶと同時に、灰色に“法の下に在れ”という言葉が緑色で書かれている服を着た人間。そして、青い、特徴的な服を着たニンゲンが現れた。

 

亡霊「ぁ…ぁ………!!」

 

その姿を視認した瞬間、私の中で何かが切れた。

 

こいつらだ。

 

亡霊「あ……あ…ア…ア…!」

 

美恵を…

 

亡霊「ア…アァ…!」

 

…殺した奴らは。

 

亡霊「ああああああああああアアアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッ!!

 

そこから先は、覚えていない。

 

ただ。

 

私が意識を取り戻したとき。

 

()()()()()()()()()()()

 

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()()()()()()()()()()()()()()()1()()()()()()()()

 

さらに…

 

亡霊「…ぁ。」

 

()()()()()()()()()

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

これが、今────2019/08/01から丁度3年前の出来事である。;




ちなみに赤く染まったのは返り血です。…なんで私こんなの書けたんでしょう。
それと最後の方の亡霊さんの

ああああああああああアアアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッ!!

っていうのは文字数稼ぎ目的じゃなくて彼女の怒りの咆哮だと言っておきます。文字の方も変わってますし。


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第九話 怨霊

…もともと、LINEのノートに書き込んでた話だったので一話一話が短いのです。


 

 

それからというもの、私は青く特徴的な服を着た人間、灰色に“法の下に在れ”と書かれた服を着た人間、白い服を着た人間を見ると歯止めがきかず、暴走するようになっていた。

 

それだけでなく、世界各地に存在する、中の壁が白い建物を破壊して回るようになった。

 

建物の破壊には時折一般人を巻き込むこともあった。

 

そんな時は大体、暴走が収まり、そのまま去るという行動をした。

 

あれから1年。私は暴走中に意識が無くなることが無くなっていた。

 

妖力が扱えるようになって、意識を保てるようになった。

 

妖力は負の力を持ち、広範囲破壊、広範囲殲滅を得意とし、精密操作を不得意とする力だった。

 

さらに、神力も扱えるようになっていた。

 

神力は正の力を持ち、主に妨害と精密操作を得意とし、修復系を不得意とする力だった。

 

4つの力を扱えるようになったからなのか、四大元素が完璧に扱えるようになった。

 

この1年の間、“研究所”と呼ばれる施設と、3種類の人間。そして、3種類の人間がいる拠点を片っ端から潰し続けた。

 

いつしか私は、“異質、異端者の怨霊”と呼ばれていた。

 

1年の間、私は拠点と研究所を潰し続け、ついに母体を潰した。

 

再生不可能なほど粉々に。

 

強力な(いかずち)を連続で落とし、巨大な炎で地を焼いた。

 

その母体があった3つの場所は、焦土と化し、草も木も生えぬ、生物ですら生きられぬ、“死の大地”と化した。

 

 

 

そんな私は、“約束の場所”に来ていた。

 

政府、世界統一省、そして実験研究所。その全てを潰し終えて、私は約束の場所に来ていた。

 

亡霊「…こんなことをしても、美恵は帰ってこない。それは分かってる。美恵の性格だから、多分こんなこと望んでない。それでも、私は抑えられなかった。」

 

軽く座って手を合わせる。

 

亡霊「霊が手を合わせる、なんて変な気もするけど。それでも…」

 

あとに言葉は続かなかった。

 

亡霊「…じゃあ、行くね。」

 

私は立ち上がり、その場で魔法を発動した。

 

亡霊「…異端と呼ばれ、普通ではないという理由だけで命を奪われしものたちの魂よ。今ここに、安らかに眠りたまえ…罪なき者たちに、永遠の安息を与えよ…」

 

そこまで唱えると、魔法陣が強い光を発し、守りの力が発動された。

 

亡霊「…」

 

?「…見事じゃの。」

 

いきなり隣で声がして、思わず飛びのいてしまった。

 

亡霊「み、美恵のおじい様…」

 

おじいさん「うむ。そういうお前さんは───じゃな?」

 

亡霊「…」

 

おじいさん「ちがうかの?」

 

亡霊「…ごめんなさい、名前を…忘れてしまったんです。」

 

おじいさん「ふむ…まぁよい。」

 

おじいさんは私に背を向けた。

 

おじいさん「…妻の母が言うとったことは…こういうことじゃったのか。」

 

亡霊「え…」

 

おじいさん「…何でもない。それじゃあの。」

 

そう言うとおじいさんは私から遠ざかっていった。

 

亡霊「…私も行こう。」

 

私は、その場でとある術を起動した。

 

それは、世界を越える術。

 

ここまでの間で、私は世界を越えられるようになっていた。

 

全てが終わったときには、私自らこの世界を去るつもりだった。

 

愛着も何もないが、3年と121日…1年を365日とするならば、3年と139日を過ごしたこの世界を。

 

亡霊「…じゃあね。」

 

術が効果を発揮し、私を光が包む。

 

その寸前。

 

亡霊「っ!」

 

微かに、でもしっかりと聞こえた。3年間忘れなかった、彼女の声。

 

あ、り、が、と、う

 

それから…

 

ご、め、ん、ね

 

と…

 

 

 

これが、(2019/08/01)から約2年前になる。




とりあえずこっち早く終わらせようと思います。


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第十話 祟り巫女

他作品キャラが出ます。少しだけですが。


 

 

元の世界を去って、3ヵ月が経とうとしている。

 

この世界でも、私の怒りは収まらなかった。

 

白い服を着た人間が、嫌いになりかけていた。

 

…そういえば、新たな出会いがあった。

 

1匹の、狐。女の子だった。

 

出会いは単純だ。

 

私が白い服の人間を殺していた時、偶然出会った。

 

彼女は人々から“祟り狐”と呼ばれていた。

 

私と違い、暴走したままの状態であった彼女をどうにか鎮め、話を聞いた。

 

彼女曰く…

 

[自分の大切な人を殺した白い服の人間が憎い]

 

だそうだ。

 

同じだった。

 

白い服の人間といっても、その実態は違ったが。

 

大切な人を殺された。この観点に関しては同じだった。

 

先程も言ったが、白い服の人間といっても私と彼女では憎しみの対象が違う。

 

私が憎い白い服の人間は“研究員”だ。あの研究所にいた、白い服の人間は研究員。そう、どこかで聞いた。

 

対して、彼女が憎いのは“神主”。神社等にいる白い服の人間だ。

 

ただ、私の場合白い服の人間を片っ端から殺してた覚えがあるわけで。

 

…ううん。何とも言えない表情になってしまった。

 

結局、私はこの世界でも破壊を繰り返している。

 

ちなみに、それによって私に付いた名が“祟り巫女”であった。

 

[祟り狐あるところに祟り巫女あり]などと言われているそうだ。

 

解せぬ。

 

 

 

彼女の力はすさまじかった。

 

“妖狐”と呼ばれる存在らしい彼女は、(いかずち)を操った。

 

それだけでなく、体術も優れていた。

 

霊魂である私とは違い、彼女は狐からそのまま妖狐となっている。

 

彼女が白い服を着ていたことで、一度戦闘になったことがあったが、一撃一撃が非常に重かった。

 

私は体術面は弱い方だ。

 

だから、距離をとって攻撃術を放つしかなかった。

 

結局、その時の決着はつかず。

 

軽く正気に戻った彼女から事情と正体を説明されて私の怒りは収まり。

 

それがあった後は、普通に話していた。

 

 

 

元の世界を去ってから5ヶ月が経った頃、事態が動いた。

 

彼女が封印されたのだ。

 

この世界には、退魔師という存在がいた。

 

その退魔師も、被害を多く出したようだが、祟り狐と呼ばれていた彼女を封印したそうだ。

 

だが、私に彼女のことを気にしている余裕はなかった。

 

退魔師達の次の狙いは、祟り巫女と呼ばれていた私だった。

 

私は、どうにかしてその追っ手を振り切った。

 

…多少、白い服の人間がいたために殺したが。

 

いつの間にか、私は彼女が封印されている場所にいた。

 

私がその封印に触れると、彼女の思いが伝わってきた。

 

[封印は解かないで。自分が悪いことをした自覚はあるから。あなたはどうか…逃げてほしい。]

 

私は彼女の言うとおりにした。

 

その時、なぜ私が祟り巫女と言われているのかを彼女に聞いた。

 

彼女は答えた。

 

[それはあなたが祟りを放っているから。]

 

私自身はそんな自覚はなかった。でも、彼女が言うには、私にも祟りが纏わりついているらしい。

 

私はそれを聞いてすぐにその場を離れた。

 

彼女は祟りと共にいないほうがいい。

 

祟りが近くにあれば、彼女の心が壊されてしまう。

 

彼女が放っていた祟りのように、彼女の優しい心を。

 

そう、思ったからだ。

 

その後、私は世界を越えた。

 

 

 

それから私は、いくつもの世界を旅した。

 

その全てにおいて、私は追われる身になったが。

 

祟り狐と呼ばれた狐がいた世界を去って、4ヵ月が経った。

 

私が世界を越えると、見たことのある場所に放りだされた。

 

亡霊「ここは…」

 

周囲を探ると、私の力の反応があった。

 

それによって理解した。

 

ここは元の世界。そしてこの場所は……

 

亡霊「“約束の場所”…」

 

もう戻らないと思っていたこの世界に。

 

9ヵ月の時を経て。

 

偶然、戻ってきてしまった。

 

それに気づいた直後、足音がした。

 

私は警戒心を強めた。

 

この世界はもともと異端を排除していた世界。

 

以前私が潰したとはいえ、また同じようなことになっている可能性があった。

 

足音が止まった。

 

私は相手の姿を見た。

 

黒い髪に黒い眼。

 

白い、巫女服を着こんだ少女。

 

首から、3つの鍵と、紫色の宝石を下げている。

 

?「貴女は…そうですか。」

 

謎の少女と、出会った。




謎の少女。さて、一体誰でしょう。


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第十一話 神月の巫女

戦闘回。


白い服。それを見た途端、私の中で何かが沸き上がった。

 

?「っ…祟りっ!」

 

少女は首から下がっている鍵の1つを手に取った。

 

創詠 月「神なる月の力を秘めし鍵よ。真の姿を我が前に現わせ。神代の契約のもと、“神月の巫女”である我、“創詠(つくよみ) (るな)”が命じる!」

 

少女…月というらしいその少女が詠唱を紡ぐ度にその鍵が魔力を帯び始めた。

 

月「封印解除(レリーズ)!」

 

その鍵が強く輝いたかと思うと、先の方に3つの三日月と星が付いている杖になった。

 

月「祟りを持つものよ!私はあなたを救いに来ました!依頼によって…きゃぁっ!?」

 

抑えるのに限界が来てしまった。何かを言っていた途中で申し訳ないと、少し思った。

 

月「…あっぶなぁ…早い…」

 

少女が体勢を立て直している間に、私は少女の後ろに回り込んでいた。

 

亡霊「…シャッ!」

 

月「っ…!」

 

使えなかった体術は祟り狐の彼女に教えてもらっていた。

 

私の手は、少女の喉元を目指していた。

 

少女は反応が鈍く、防御が間に合わない。

 

そう思った直後だった。

 

?《Protection.(プロテクション)

 

機械的な声が響いたと思うと、私の手が少女の喉元に届く前に弾かれた。

 

?《Divine Shooter.(ディバインシューター)

 

再度機械的な声が響いたと思うと、桜色の光弾が私に向かって飛んできた。その数、15。

 

私はとっさにその場から離脱した。光弾から十分に距離をとってから唱える。

 

亡霊「雷(いかずち)よっ!!」

 

私の手から電気が発生し、その光弾を撃ち落とした。

 

そのせいで霧のようなものが発生し、少女が見えなくなった。

 

?《Did you prevent ... It looks pretty strong.(防がれましたか…なかなか強そうですね。)

 

月「そうだね…それにあの速さ、少し油断していたとはいえ反応できなかった。あの子、かなり強い。」

 

?《What if you do?(ならばどうしますか?)

 

月「…あの速さ。対処…できる?」

 

?《If you and me ... (私とあなたならば…)that would be easily dealt with.(あの程度、容易に対処可能でしょう。)

 

月「…だよね!」

 

?《Stand by?》

 

月「うん、“ルナリア”、行くよっ!!」

 

ルナリア《All right. My master.》

 

霧が晴れ、少女の姿が見えるようになった。

 

月「月は夜に、闇は彼方に!月の神達の想いはこの胸に!ルナリア・エコーズ、セーット、アーップ!!」

 

ルナリア《Stand by Ready. Set up.》

 

晴れ始めていた霧の中を、紫色の光が照らした。

 

ルナリア《Barrier Jacket,(バリアジャケット、) Maiden Mode.(メイデンモード。)

 

機械音の後、光が収まり、私の視界が戻ったかと思うと、少女の姿が変わっていた。

 

…否。姿ではなく装備。先程の三日月が付いた杖ではなく、紫色の宝石が付いた杖を片手に持っていた。

 

月「お話を…聞いてくれませんか?」

 

少女が手を伸ばしてくるが、私はそのまま少女に突進をかけた。

 

ルナリア《Master!(マスタ-!)

 

杖の言葉で少女が私の突進をよけた。

 

月「一筋縄じゃ行かない、って感じかなぁ…」

 

再度突進をかけるが、危なげなくよけていた。

 

亡霊「…特大の(いかずち)よっ!!!」

 

私は…否、“私の体”は勝手に動き、特大の雷を少女に放った。

 

月「っ…!?さっきより高電圧…!」

 

ルナリア《Lightning Protection!(ライトニングプロテクション!)

 

機械音がそう叫ぶと、紫色の障壁のようなものが発生した。

 

ルナリア《Accel Junp!!(加速跳躍!!)

 

直後、ものすごい速さで少女が跳躍した。

 

月「…」

 

ルナリア《Are you okay,(大丈夫ですか、) Master?(マスター?)

 

月「何とか…でも、これは…まずいかもね…」

 

ルナリア《What if you do?(ならばどうしますか?)》

 

月「…ルナリア。」

 

少女は何かを考えているようだ。

 

月「…いける?」

 

ルナリア《of course.(もちろん。)

 

その答えを聞くと少女は杖を振りぬいた。

 

月「…カートリッジ!」

 

ルナリア《Cartridge set.(カートリッジセット)

 

機械音がそういうと同時に、空中に新しい部品のようなものが現れ、その部品が杖と同化した。

 

ルナリア《Load Cartrdge.(ロードカートリッジ)

 

機械音の声とともに杖から何かが出てき、少女の魔力が増幅された。

 

月「話にならないなら仕方ない…なら!力ずくでも!!」

 

少女を中心に魔法陣が展開された。

 

杖の先には、巨大な桜色の球体がある。

 

月「“ディバインバスター…」

 

ルナリア《Divine Baster ...(ディバインバスター…)

 

直感的に、まずい。そう感じた。

 

月「フルバースト”ッ!!!」

 

ルナリア《Full Burst.(フルバースト)

 

瞬間。私に向って、桜色の壁が迫ってきた。

 

亡霊「大地の盾よっ!!!」

 

地面を盛り上げて防御を試みたが、あっけなく粉砕。

 

そのまま私は吹き飛ばされた。

 

さらに、その吹き飛ばされた先で大量の何かが私の体に覆いかぶさった。

 

しかし、視界は塞がれなかったため、少女の姿が見えた。

 

月「…やりすぎたかな?」

 

ルナリア《...》

 

月「なんか言って!?」

 

少女は少し涙目になっていた。

 

ルナリア《... Are you okay?(…大丈夫じゃないですか?) So ...(ですって…)

 

月「ですって?」

 

ルナリア《... She, something I hate.(…彼女、全く怯んでませんもの。)Despite receiving a full burst (カートリッジで強化されたフルバーストの)direct hit with the cartridge.(直撃を受けたにもかかわらず。)

 

月「…あの砲撃を食らって?怯んでない?」

 

気が付かれていた。

 

亡霊「…吹き飛べっ!!」

 

私は強い風を起こして覆いかぶさっていたものを吹き飛ばした。

 

月「…ほんとだぁ…」

 

少女は少し落ち込んだような表情をしていた。

 

亡霊(…なんかごめんなさい…)

 

亡霊「シュッ!!」

 

私の想いとは別に、体は少女に攻撃を仕掛ける。

 

月「早い…けど…」

 

ルナリア《Master?(マスター?)

 

少女が手のひらを私の方に向けた。

 

月「“ラウンドシールド”。」

 

ルナリア《Round Shield.(ラウンドシールド)

 

機械音が聞こえると同時に紫色の円状の魔法陣が現れた。

 

その魔法陣と私の手が衝突すると同時に大きな音が響いた。

 

月「…ルナリア。ウェポンモード。カテゴリは細剣で。」

 

ルナリア《All right.(分かりました。) Weapon Mode.(ウェポンモード。) Weapon category, Rapier.(武器カテゴリ、細剣。)

 

機械音が聞こえると、杖が刀身の細い剣になった。

 

月「…ハッ!」

 

亡霊「!」

 

いきなり少女から放たれた3発の鋭い突きに反応しきれず、1発は何とか回避したものの残り2発は直撃を食らってしまった。

 

亡霊(痛い…)

 

亡霊「グルル…」

 

月「…」

 

ルナリア《Linear.(リニアー)

 

機械音が聞こえると同時に、少女の右手から見えないほどの速さで突きが放たれた。

 

亡霊「ガッ!?」

 

亡霊(きゃあぁぁぁああ!?)

 

心と体。それぞれ悲鳴を上げながら吹き飛ばされていった。

 

少女はすぐに吹き飛ばされた私の前に立った。

 

月「…ルナリア、どう思う?」

 

ルナリア《The mind and the body do not match ...(心と体が合っていない…) Rather, it is resisting so that the mind (というより、心が体に支配されない)is not controlled by the body ...?(ように抗っている…?)

 

月「多分…ね。だったら…」

 

少女はそこから先は言わなかった。

 

ルナリア《Weapon category, One Hand Sword.(武器カテゴリ、片手剣。) Style, Two Swords.(スタイル、二刀。)

 

月「…ありがと。」

 

少女は感謝の言葉を述べていた。

 

その少女の持つ2つの剣に、光が灯った。

 

ルナリア《Star Burst(スターバースト)

 

機械音がそういったとたん、少女が私の懐に入り込んだ。

 

月「“スターバースト…!」

 

ルナリア《Stream.(ストリーム)

 

機械音がそう言い切る前に連撃が始まっていた。

 

亡霊(痛い痛い痛い痛いっ!!)

 

月「ストリーーーーム”ッッ!!!」

 

亡霊「ウガァァァァアア!!」

 

月「きゃあっ!?」

 

私の体が少女を投げ飛ばそうとした…が。

 

月「舐め…ないでよねっ!!!」

 

亡霊「ヌガッ!?」

 

少女は私の拘束を無理やり振りほどき、空中に飛び上がった。

 

亡霊(無茶な…!)

 

私も人のこと言えないところはあるが。

 

しかし、少女の攻撃はこれで終わりではなかった。

 

ルナリア《Weapon change.(武器変更。) Unique name,(固有名、) Elucidator & Darkrepulser(エリュシデータ&ダークリパルサー)

 

まず、機械音の後に剣が変わった。

 

具体的には、普通といえる銀色の剣だったのが、緑色と黒色の剣になった。

 

その後、一瞬。ほんの一瞬だけ、私めがけて突進してくる少女の姿が変化した。

 

白い巫女服一式だったのが、上は黒いロングコート、下は黒いズボンに。

 

黒い眼だったのが、金色に輝く眼に。

 

長い髪だったのが、短い髪に。

 

その手に、今までなかった指だけが見える黒い手袋。

 

白い巫女ではなく。黒ずくめの剣士と言える姿だった。

 

月「ああああああっ!!」

 

けれど、その声は紛れもなく女性で。

 

時間にして1秒あったかどうか、その変化は消えた。

 

その1秒程度で、私を動揺させるには十分だった。

 

故に、私は防御を忘れ。

 

いつの間にか少女は、私のそばにまで来ていた。

 

少女は空中で剣を輝かせた。

 

月「“ブラック…」

 

ルナリア《Black Howling(ブラックハウリング)

 

亡霊(ブラックハウリング…?)

 

ルナリア《Assault.(アサルト)

 

月「ハウリング・アサルト”ッ!!」

 

剣が輝いたかと思うと、連撃が始まった。

 

しばらくすると剣の輝きが小さくなりはじめ、終わると思ったのだが…

 

月「“シャイン…サーキュラー”ッ!!」

 

ルナリア《Shine Circular.(シャイン・サーキュラー)

 

亡霊「!?」

 

剣が輝きを取り戻し、また連撃が始まる。

 

月「“ナイトメア・レイン”ッッ!!!」

 

ルナリア《Nightmare Rain.(ナイトメア・レイン)

 

亡霊(痛い痛い痛い痛い痛い~~~~!!!)

 

自分の意志で制御ができないとはいえ、自分の体である。連撃を叩き込まれていては流石にそうなる。

 

亡霊(これで終わってくれればいいけど…!)

 

しかし、現実は…

 

月「“ネビュラレイド……!!」

 

亡霊(なんか嫌な予感するっ!?)

 

ルナリア《Nebularaid Empress.(ネビュラレイド・エンプレス)

 

機械音がそう言ったとたん、先程とは比べ物にならない量の連撃が私を襲った。

 

亡霊(重い~~~!!一撃が!!凄くっ!!)

 

月「……エンプレス”ーーーーーッ!!!」

 

少女が叫ぶと同時に剣が止まった。

 

亡霊(はぁ…はぁ…重…すぎるよ……はぁ…はぁ…)

 

心の私はもう限界に近かった。

 

しかし、私の体は少女に向かっていく。

 

亡霊(お願いっ!!もう…止まってよっ!!)

 

そんな私の願いが届くことはなかった。

 

亡霊「死ねっ!!!」

 

物騒なことを言いながら、私の体は少女に向かっていった。

 

亡霊(お願いっ!!誰か…!!!私を…!!!!止めてっ!!!!!)

 

そう願った。

 

亡霊「地獄の紅蓮よっ!!!」

 

亡霊(…!だめーーーー!)

 

亡霊「いけっ!!」

 

その炎の先にいる少女はその炎をじっと見ていた。

 

月「…」

 

少女はその炎に手を伸ばした。

 

亡霊(だめっ!その炎は()()()()()()()()()()()()()!!触れないでっ!!)

 

そう思ったが、少女はその炎に触れてしまった。

 

しかし、その後の光景は私の予想外の物だった。

 

月「…」

 

亡霊(…え?焼かれて…ない!?)

 

少女は焼かれていなかった。というか、無傷。

 

亡霊(えええええええっ!?何で!?)

 

私の術の中で“地獄の紅蓮”のワードで起動する炎の術は、()()()()()()()()()()()()()()()()()。それ故に少女が焼かれないという結果は本当に予想外の物だった。

 

月「…ルナリア。あれ、お願いね。」

 

ルナリア《That's good but ...(それはいいのですが…) I can not support you.(あなたのサポートができなくなります。) Is that all right?(それでも大丈夫ですか?)

 

月「大丈夫。ルナリアの準備ができるまで、時間稼ぎはするから。」

 

ルナリア《All right.(わかりました。)Good luck.(ご武運を。)

 

そう言うと、機械音はしなくなり、少女もその機械音がしていた剣を背中にあった鞘に納めた。

 

代わりに、背中に吊ってあったらしい三日月の付いた杖を構えた。

 

亡霊(…っていうかあの杖、いつの間にかなくなってたと思ったら、背中に吊ってあったんだ…)

 

月「…ルナリアの補助もほとんどない状態で。そして、何も武器を使わずに勝てる相手じゃないって言うことは分かった。」

 

少女が話し始めた。

 

月「でも、私は負けるわけにはいかない。ここに来たのはあなたを助けるためだから。」

 

亡霊(私を…助ける…?)

 

亡霊「ルルル…」

 

月「…あなたが、私に対して憎しみを抱いているのは、戦ってて分かった。でも、私はあなたと会ったことなんてないし、なんで私が憎まれているのかも知らない。」

 

亡霊「…」

 

月「でも…なんだか放っておけない。依頼云々抜きにしてっ!!」

 

亡霊(依頼…)

 

そういえば、最初にそんなこと言ってた気がする。

 

月「“(THE SWORD)”。」

 

少女が何かを唱えると、持っている杖が剣になった。

 

亡霊(それも剣になるんだ…)

 

よく分からない感情が沸いた気がする。

 

月「だから…今の状態で出せる全力で行くっ!!」

 

少女から魔力が漏れ始めた。

 

月「ルナリアがいないからって…神月の巫女を舐めないでよねっ!!」

 

私の体が霊力で少し短めの剣を生成した。短めといっても、それは少女の剣と刃渡りが同じくらいであったが。

 

亡霊「ガァァ!!」

 

月「セァッ!!」

 

直後、私と少女の剣が交錯した。

 




ちなみに英文に関してはgoogle先生の力をお借りしております


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第十二話 決着

すみません、久しぶりの投稿で…!


 

 

 

あの後、何度か激突した。

 

正直、少女と私の力量は同じくらいだった。

 

違うのは力の運用方法。

 

彼女は魔力を体のどこかに纏わせて攻撃を放つことが多かった。

 

対して私は武器自体に力を纏わせて強化していた。

 

先程から体術も含まれてきているのだが、全く倒せるような未来が見えない気がする。

 

少女の攻撃の例を挙げるとすれば、まず、普通に斬りかかってくる。それを私が受けると、剣をずらし、背を低めて足払い。慌てて私が姿勢を直すと、私の顔面に向かって正拳突き。

 

はっきり言ってスタイルが変わりすぎだ。

 

剣かと思ったら足、足かと思ったら拳。拳かと思ったら足になり、足かと思ったら拳になる。

 

剣かと思えば槍、槍かと思えば鎌。そんな近接的な攻撃だけかと思えば、光弾や飛び道具。

 

正直、全く予想ができない。

 

しかも少女は汗をかいていない。

 

つまり、少女はこれを苦だとは思っていないということだ。

 

その中でも、特に光弾…つまり術的な攻撃が厄介だ。

 

その術的な攻撃の中でも…

 

ある3つの技が厄介だ。

 

月「スペルカード発動!霊符…」

 

亡霊(来るっ!!)

 

月「“夢想封印”っ!!」

 

1つは夢想封印という技。

 

いくつかの光弾が私に向かって放たれる技だ。

 

いくら逃げても私を追ってくる。

 

亡霊「(いかずち)よっ!!!」

 

複数の(いかずち)が光弾を相殺する。

 

だが…

 

月「スペルカード発動!恋符…」

 

少女が構えた。

 

月「“マスタースパーク”ッ!!!」

 

亡霊「水の渦よっ!!」

 

2つ目、マスタースパーク。大きな光線が私に迫る。

 

少女の攻撃と私の水の渦が激突するが。

 

月「スペルカード発動!凍符…」

 

亡霊(また…!)

 

月「“エターナルフリーズ”ッ!!!!!」

 

3つ目に面倒だと思う技、エターナルフリーズ。どうやら、周辺を瞬間的に冷やすことで物を凍らせる術のようだ。

 

それによって私の水の渦が一瞬で凍らされる。

 

結果、攻撃を抑えきれず、私が作った元・水の渦は粉砕された。

 

水の渦にしなければいいと思うかもしれないが、実は私と少女が戦っている場所はずっと動いている。

 

今は空中。地の力は扱いずらい。

 

(いかずち)は例外として。

 

だったら水とともに炎を、そう思うのはあるのだが。

 

これが難しいのだ。

 

まず、水と炎を近づけすぎたら炎が消える。

 

ならばと思い、離してみると、今度は氷の溶解が遅い。

 

それならと、氷になった瞬間に最大火力で溶解しようと思ったのだが…

 

私が0.5秒以下の耐久時間で最大火力を展開できるわけがない。

 

水の渦で防いでいる理由は単純だ。

 

それ以外だと押し負けた。

 

泣きたい。

 

月「スペルカード連続発動!斬符“旋車(つむじぐるま)”っ!!」

 

いつの間にか少女の持つ剣の大きさが変わっており、黄緑色に光ったと思うと、少女を中心に風が起こった。

 

月「斬符“浮舟(うきふね)”っ!」

 

今度は青色に光ったと思うと、ほぼ垂直に切り上げた。

 

月「斬符“幻月(げんげつ)”っ!」

 

同じ色に光ったかと思うと、私から見て右上から左下に。左上から右下に剣をふるった。

 

月「斬符“羅刹(らせつ)”っ!」

 

…赤色に光ったのはかろうじて覚えていた。

 

月「斬符“東雲(しののめ)”っ!」

 

こちらは青。しかし、先程より攻撃が重い気がする。

 

月「斬符“緋扇(ひおうぎ)”っ!」

 

こちらは赤。何故だろう、先程より少し軽い…?

 

月「秘奥“天焔(あまつのほむら)”っ!!!」

 

赤に光ったのは同じだった。だが…

 

亡霊(重っ!?)

 

一撃の重さが違った。

 

月「はぁぁぁ!!」

 

気合とともに少女が光の消えた剣を横一文字に振りぬいた。

 

それによって私は少し吹き飛ばされた。

 

亡霊(いっ…たぁ…)

 

傷はないようだが、痛みはあった。

 

その後も私と少女は何度も激突した。

 

その激突が20を超えるだろうと思った時だ。

 

亡霊「ゥルルル…」

 

体の方の感情が私に伝わってきた。…怒り。それと憎しみ。

 

亡霊(…怒りが強くなって攻撃が単調になってき始めてる。流石に限界が近いかもしれない。)

 

私は少女を見た。

 

亡霊(あなたは関係ないのに…巻き込んでしまってごめんなさい…)

 

そんなことを思っていた時だった。

 

突如、少女の魔力の纏い方が変わった。

 

初めて、武器に魔力を纏ったのだ。

 

しかし、私はそれが気になった。

 

体の方はそれを気にしてもいないのか、少女に近寄っていく。

 

…同性だからいいが。これ、異性だったらただの変質者な気がする。…気のせいだろうか。

 

亡霊「シャッ!!」

 

月「…シッ!!」

 

少女と私の剣が激突する。

 

しかし、その時、今までの激突とは違う感じがした。

 

何かを抜き取られるような…

 

すると、突然私の体が少女から距離をとった。

 

同時に少女も私から距離をとる。

 

亡霊(え…?)

 

予想外の行動に、私は動揺した。

 

亡霊「…あなた…何をしたの…?」

 

月「…さぁ?」

 

亡霊「とぼけないで!さっきの吸い取られるような感覚…あれはあなたでしょ!!いったい私に何をしたの!?」

 

月「…知っていたところで、教える義理はないはずでしょう。」

 

亡霊「…ふz…」

 

月「私たちはいま敵同士。なら、やることは1つ…違う?」

 

何故だろう、少女から、冷たい空気が流れている気がする。

 

亡霊「そう…なら!!」

 

私の体は構え、少女に突撃した。が。

 

月「…時間切れ…かな?」

 

眼前にまで迫った少女がそういうと同時に円状の魔法陣が現れた。

 

亡霊「っ!!」

 

私の体はその勢いのまま魔法陣に拳を叩きつけた。

 

すると、ちいさな爆発が起こった。

 

私の体は、少しの間その場で動かなかった。

 

月「…危ない危ない、もうちょっとで間に合わなかったかも。」

 

少女の声が聞こえると同時に、爆発の煙が消えていった。

 

少女は無傷だった。

 

いや…

 

いや。

 

それだけではない。

 

亡霊「何…これ!?」

 

私の手が鎖で縛られていた。

 

月「カウンターバインド。私の得意技に近いんだけど…綺麗にかかったね。」

 

少女がそう言った途端、鎖、輪っか、箱…のようなものが私の体の動きを完全に止めた。

 

月「…お疲れ、ルナリア。」

 

亡霊(え…)

 

ルナリア《Well, that's all.(えぇ、全くです。) |Do you know how much I worried about?《というか私がどれだけ心配したか分かってます?》》

 

機械音がした。

 

月「分かってる。ごめんね、心配かけて。」

 

機械の杖が、戦場に戻った。

 

ルナリア《Device Mode.(デバイスモード)

 

武器が杖の形態に戻った。

 

月「ランサーセット…」

 

少女の周りに金色の球が現れた。その数…50。

 

亡霊(……え!?)

 

ルナリア《Photon Lancer Phalanx Shift.(フォトンランサー・ファランクスシフト)

 

亡霊「だ、大地の壁よ!!」

 

私は咄嗟に唱え、少女との間に壁を出現させた。

 

月「…アルカス・クルタス・エイギアス。疾風となりし天神、今導きのもと撃ちかかれ…」

 

亡霊「大地の壁よっ!!」

 

私の体の恐怖心が勝ったのか、もう1枚大地の壁を出現させた。

 

月「バルエル・ザルエル・ブラウゼル。“フォトンランサー・ファランクスシフト”ッ!!撃ち砕け、ファイアー!!」

 

ガガガガガガガガッ!!!

 

見えないのでどうなっているかはわからないが、ものすごい勢いで壁が抉られているのが分かる。

 

亡霊(…っていうかこれ!破られる!!)

 

そう思いつつも、防御はやめなかった。

 

すこしして、衝撃が止まった。

 

防御自体はもうボロボロで、あと少しで貫通するところだった。

 

亡霊(た、助か…)

 

月「“スパークエンド”ッ!!」

 

亡霊(……え?)

 

少女の声の後、何かが飛来してきたようで、それによって壁は粉々に砕けた。

 

亡霊(追い打ち…!?)

 

まさかの追い打ちである。

 

見ると、私をとらえていた箱が消滅していた。

 

亡霊(…まだ動けないんですけど…)

 

そう思っていると、突如上空が明るくなった。

 

亡霊(……?…え。)

 

そこには少女がいた。

 

しかし、杖の先の球体を見て驚愕した。

 

亡霊(…何あの大きさっ!?)

 

少女の体がすっぽり入りそうなレベルである。

 

亡霊(まずいまずいまずい!!!?あれは絶対にまずい!!!絶対に防御なしで食らっちゃいけない代物だと思う!!!)

 

直感でそう思えるほど存在感が圧倒的だった。

 

亡霊「ひ、氷塊の壁よっ!!!」

 

私の前に10枚もの氷塊の壁が形成された。

 

月「“スターライト…!」

 

球体が大きくなったのが一瞬見えた。私は今残っている力を全て壁に注ぎ込んだ。

 

月「ブレイカー”ーーーーーー!!!」

 

掛け声のようなものと同時に、大きな光線が放たれた。

 

…氷塊の壁に光線に衝突した途端、その氷塊の壁10枚全てが、あっけなく割れた。

 

当然、その光線は私を目指していたわけで。

 

威力がほぼ落ちないまま、直撃した。

 

亡霊「ぐぎゃあああああああ!!!?」

 

亡霊(いったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!?)

 

直撃の痛みで動けない私に少女が近寄ってきた。

 

機械の杖でなく、三日月の付いた杖を持って。

 

私は少女の目を見た。

 

そこには、私にとどめを刺そうという感情は見えなかった。

 

月「…」

 

亡霊「…」

 

少しの間、私たちは見つめ合っていた。

 

やがて、少女が杖を私に向けた。

 

月「…神月の巫女の名のもとに…暴れ狂い、そして悲しみを持つものよ。いまここに…汝の暴走を封じ込めんことを…」

 

杖が光り、私を光が照らした。

 

温かい、光だった。

 

月「…これで一応の封印はしたけど…どう?」

 

亡霊「どう、って…」

 

そういえば、目の前の少女に殺意が沸いていない気がする。

 

さらに、心と体の意志が分かれているわけでもない気がする。

 

亡霊「大丈夫…みたいです。」

 

月「そっか…よかった。」

 

少女は軽く微笑んだ。

 

月「…ねぇ、相談…みたいなものなんだけど。」

 

亡霊「?」

 

月「…私と一緒に来ませんか?」

 

一緒に…?

 

亡霊「一緒に…とは?」

 

そう言うと少女は苦笑した。

 

月「あまり直接言いたくはないんだけど…私の使い魔にならない?って聞いてるんだよね…」

 

亡霊「使い魔…」

 

月「あぁ、使い魔って言っても理不尽な…」

 

亡霊「なります。」

 

少女が固まった。

 

月「…一応聞くけど、なんで?」

 

亡霊「それは…」

 

私はこの少女とのここまでの話を思い出した。

 

亡霊「あなたなら、信用できるかも、そう思ったからですかね…」

 

私の返答を聞いて少女は頭を抱えた。

 

月「私、なんか高評価貰ってる…?」

 

亡霊「それに…」

 

私が声を出すと、少女は私の言葉を待った。

 

亡霊「救ってもらいましたから。あなたに。抜け出せなくなっていた、場所から。」

 

月「…そっか。」

 

少女はそれ以上聞かなかった。

 

月「じゃあ、使い魔になるってことでいいんだよね?」

 

亡霊「はい。」

 

月「分かった。じゃあ、私の前に座っててくれる?」

 

今がちょうど少女の前なので、ここから動かないようにした。

 

月「…力を持つものよ。そして我が力になることを望むものよ。その姿をここに映し、我らの力となりたまえ。月を司るもの、“創詠 月”がここに契約を交わさん。」

 

少女…月が唱えていくと私の体が温かくなっていった。

 

月「神なる月の杖のもと我らの力となれ!…契約(コントラクト)!!」

 

月がそう唱えた瞬間、私の存在が何かに吸い込まれる感覚がした。

 

しかし、嫌な感じはしなかった。

 

月「…あ。ステラカード…あれ?2枚…?」

 

ステラカード、というのには聞いたことが無かった。2枚、というのは予想外なのだろう。

 

月「えーっと、こっちの赤い髪の方がさっき話していたあなただよね。」

 

はい、と答えたつもりだったが、声にならなかった。

 

月「改めてよろしくね。私は“創詠 月”。神月の巫女という存在です。えーっとあなたの名前は…」

 

月…違う。主、創詠 月は私の上の方と下の方を見て少し顔がこわばった。

 

月「えーっと…この呼び名でいいのかなぁ…」

 

私はどんな名前でも構いませんよ、という思念を送ってみた。

 

月「あなたがそういうならいいけど…それにしても…」

 

主は私と隣のカードを見比べた。

 

月「…ファントムとアピレイション…“亡霊(THE PHANTOM)”と“怨霊(THE APPARITION)”のカードかぁ…」

 

亡霊(それはどちらが私なのでしょう…)

 

確実にそう思った。

 

月「…ともかく、この名前で呼んでいいのならいいけど。本当にいいの?」

 

私は構いませんよ、というような思念を送ってみた。

 

月「…そっか。じゃあ、これから改めて…よろしくね、ファントム。」

 

亡霊(…はい、我が主!)

 

そして、主が世界を越えるための扉を開いた。

 

主もあまりこの世界には長居したくないらしい。

 

ただ、私がここの世界の“常識”的なものをある程度壊してくれたおかげで少しは改善されたそうだが。

 

私はまた、この世界を去ることになった。

 

またここに来ることがあるかもしれない、とは思っているが。

 

その時、声が聞こえた気がした。

 

忘れもしない、彼女の声だった。

 

“よかったね。”

 

“ありがとう。”

 

“ごめんね。”

 

皮肉も何もなく。

 

ただ純粋に祝福の声と。

 

感謝の言葉と。

 

謝罪の言葉だった。

 

私は思念を送った。

 

“貴女と出会えて私は幸せでした。”

 

と。

 

返事はすぐに来た。

 

“うれしい。”

 

“ありがとう。”

 

“私も貴女と出会えて幸せでした。”

 

 

これが、1年と3ヵ月前。主、“創詠 月”と、初めて会った時である。

 




霊符“夢想封印”

東方projectより、霊夢のスペルカード。


恋符“マスタースパーク”

東方projectより、魔理沙のスペルカード。


凍符“エターナルフリーズ”

オリジナルスペルカードにしてチルノのスペルカード。意味は“永遠の凍結”。周囲を瞬間的に冷やし、物を凍結させることを目的とするスペル。


斬符“旋車(つむじぐるま)
斬符“浮舟(うきふね)
斬符“幻月(げんげつ)
斬符“羅刹(らせつ)
斬符“東雲(しののめ)
斬符“緋扇(ひおうぎ)
秘奥“天焔(あまつのほむら)

ソードアート・オンラインシリーズより、全てソードスキルをスペルカードとしたもの。刀カテゴリソードスキル、全て“ソードアート・オンライン(SAO) ホロウ・フラグメント(HF)”に存在するソードスキルから。多重連携OSSにて全部繋がるのは確認済み(実戦に使えるとは言っていない)。


フォトンランサー・ファランクスシフト

魔法少女リリカルなのはシリーズより、フェイト・テスタロッサの必殺技。


スターライト・ブレイカー

魔法少女リリカルなのはシリーズより、高町なのはの必殺技。


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