ちょっと読みたいあなたへの一話完結 (ぱるーる)
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ブルーハワイ



はるのん誕生日おめでとう
というわけでどうぞ。


 

 

 

青とは嘘であり悪である。

青は清涼感、クールというイメージがあると思う。

夏のCOOL BIZの「清涼感のあるブルーカラーで夏をクールに過ごそう」という広告を何度見たか。

しかし、それは嘘だ。

青い海に青い空、こんなにも視界いっぱいに青が広がっているというのに、体はその青を見るたびに赤に染まっていく。

そのおかげで心がブルーだ。

 

 

さらに、青はあまりいいイメージも思い浮かべないのではないか?

今、心がブルーだと表現したが、青はあまりプラスの表現には使われないだろう。

この小説投稿サイトだって低評価が多いと青になるし。

しかも青は食欲を最も失う色でもある。

青い食べ物とかなにが含まれてるかわからないだろ?

今目の前にあるこのブルーハワイ味のかき氷も何気なく口にしているがこれ何味だ?

なんだよハワイ味って、土とか木の味しそう。

 

 

 

そう、青とは嘘であり悪であり、なにが含まれてるかもわからない。

 

 

 

 

……だからなんだって?

 

 

まぁ結局言いたいことは……

 

 

 

 

「比企谷くんおまたせ〜!」

 

 

 

 

この青い水着をきた雪ノ下陽乃こそ嘘であり悪であり、なにが含まれてるかわからない。

 

 

 

 

 

 

**************

 

 

 

 

 

 

陽乃「比企谷くんおまたせ!待った?」

 

 

煌々と輝く太陽に照らされたその笑顔はまさにスポットライトに照らされた歌手のよう。

周囲の人の目を釘付けにするには十分だった。

 

 

八幡「ええそりゃもう。もうちょいで美味しそうに焼けるとこでした。」

 

 

陽乃「そこは君は悪くないよ的なニュアンスの言葉をかけるんじゃないの〜?」

 

 

八幡「俺がそんなこと言うと思ってたんですか?」

 

 

陽乃「ううん、ぜんぜん。」

 

 

真顔で返された。

ちょっとくらい期待しようぜ。

 

 

陽乃「そんなことよりどう?お姉さんの水着姿は」

 

 

そう言って雪ノ下さんはその場で回って見せた。

水着自体はこの海水浴場にもかなりいる普通のビキニだが、普通だからこそ雪ノ下さんの破壊力が際立つ。

大人の魅力とでもいうのか。

ところでそれ下着とどう違うんですかね…

 

 

八幡「……まぁ、似合ってないと言えば嘘になりますね」ムスッ

 

 

陽乃「素直じゃないなぁ〜。あとなんか機嫌悪い?朝から拉致したこと怒ってる?」

 

 

八幡「あれは怒ると言うよりは恐怖です」

 

 

いや、怖いでしょ。

朝いきなりインターホンがなったからドア開いたらいきなりヘッドロックからの投げ技で車の中に投げ入れられていきなり連れてこられたんだから。

ヘッドロックの際に雪ノ下さんの破壊力が堪能できたことは黙っておこう。

 

 

陽乃「あはは、びっくりしたでしょ?」

 

 

八幡「ええ、度肝抜かれました。」

 

 

陽乃「まぁいいや!早く遊ぼう!」

 

 

八幡「一体なにするんですか…?」

 

 

陽乃「ここどこか知ってる?」

 

 

八幡「さぁ?」

 

 

だってわけもわからず連れてこられ車の中ではあなたに構ってましたからね…

 

 

陽乃「ここセレブ御用達のビーチなの」

 

 

八幡「へぇー」

 

 

陽乃「興味なさそうだなぁ」

 

 

八幡「ええ。だからなんだって感じですね。強いて興味があるとすればそこらじゅう全員金持ちかよってことですね」

 

 

陽乃「まぁお金持ちしかいないだろうね」

 

 

マジかよ。

………はっ!ここで将来の稼ぎ頭である俺の嫁を探すことができるのか!?

 

 

陽乃「比企谷くん、その腐った目でビーチ見渡すと警備員呼ばれるかもよ?」

 

 

八幡「見渡しただけで警備員呼ばれちゃうのかよ…」

 

 

……嫁さんは気長に探すとします。

 

 

陽乃「ちなみにここは結構アトラクションがあるんだ!」

 

 

八幡「それをやりに来たわけですか…」

 

 

陽乃「そそ、んじゃバナナボートからやろ!」

 

 

砂浜を軽快に走っていく。

その姿に魔王の面影はなく、無邪気な女の子のようだった。

 

 

陽乃「比企谷くん!はやく!」

 

 

八幡「…はいはい」

 

 

屈託のない笑顔で俺を急かす。

その笑顔につい俺も口角があがる。

でも彼女の目の奥になにが隠されているのかまではわからない。

無邪気な普通の女の子に見えるが、それは彼女の得意技を使っているからかも知れない。

なにを考えてるかわからない。

あの笑顔で俺を誘っている、騙しているのかも知れない。

 

 

しかし、暑さにやられているのか、青に騙されているのかはわからないが、あんな笑顔を見せられたら騙されてもいい気にもなる。

 

 

 

 

 

****************

 

 

 

 

 

 

水上バイクに繋げられた少し便りがなさそうなヒモがバナナボートを引っ張る。

でもヒモといえば頼らないくらいがいいよね!守ってあげたくなる感じするよね!

というわけで俺を養ってくれる人募集中。

あ、俺はそこらへんのヒモとは違って家事とかやるし奥さん癒せるから。多機能性ヒモだから。

 

 

 

そんな現実逃避をしたくなるくらいにこのアトラクションは…

 

 

陽乃「いやっふぉぅぅぅぅ!」

 

 

八幡「ぬぁぁぁぁ!!!」

 

 

怖い。マジ怖い。はるのんくらいこわい。

 

 

陽乃「ふぅぅぅぅ!!!」ゲシゲシ

 

 

ちょっとまって、楽しみながら蹴らないで!!

あとなんで後ろの人間が考えてることわかるの!?

 

 

 

陽乃「お、中間地点だね」

 

 

八幡「はぁはぁ…やっと休憩ですか…」

 

 

バナナボートを引いていた水上バイクの人はどこかへ行った。

 

 

八幡「あれ、どっか行っちゃいましたけど」

 

 

陽乃「ああ、いつもここに来ると数十分ここで一人にしてもらうんだ」

 

 

八幡「へぇ」

 

 

陽乃「というか、以外にこういうの苦手なんだね」

 

 

八幡「絶叫とかこういうのはあまり好みませんね」

 

 

陽乃「もしかしてお化け屋敷とかもダメだったり…」

 

 

八幡「それはないです」

 

 

もし俺がダメだったら修学旅行でサキサキと一緒にマラソンに興じていただろう。

二つの意味で汗だくになりそう。

 

 

八幡「というかこんなところまで来るんですね」

 

 

ここは陸地からだいぶ離れた島のそば。

人間の手が触れないところだからか、そこそこ深いはずなのに海の底まで見通すことができ、色とりどりの魚があちこちを行き交う。

 

 

陽乃「綺麗でしょ?」

 

 

八幡「ええ、まぁ」

 

 

こちらを見て微笑む彼女もまた、同じくらい綺麗だと思ったのは内緒だ。

 

 

陽乃「私ここ好きなんだ。いつもこのビーチ行くと水上バイクで連れてってもらってここら辺で浮いてるの。そうすると人間が自分一人だけしかいない世界に来たようで不思議な気分になれるんだよ」

 

 

ここは普段誰も来ない。

それを求めてここに来るのだろう。

親も、妹も、同級生も、先輩も、後輩も、仕事に関わる年寄りたちも、ここには誰もいない。

一人しか存在しない、しがらみなど存在しないと錯覚させてくれるのだろう。

この夏だけはここに来て、この青い海だけは嘘をついてくれるのだろう。

彼女はここに、青に騙されに来るのだろう。

 

 

 

陽乃「でも…」

 

 

八幡「?」

 

 

陽乃「今は君と二人。二人だけしかいない世界だね!」

 

 

八幡「……そうですね」

 

 

さっきの無邪気な笑顔とは違う、「二人で騙されよ?」と言わんばかりの悪戯な笑顔でこちらを見た。

足元を泳ぐ魚が、島の上を飛び交う鳥が、人間は俺たちしかいないと錯覚させる。

ここには二人しか、俺と雪ノ下さんしかいない。

 

 

陽乃「あーあ、もう来ちゃった」

 

 

どうやら水上バイクが戻ってきたようだ。

 

 

陽乃「どうだった?二人だけの世界は」

 

 

八幡「言い方があれですが……まぁ、よかったです」

 

 

陽乃「そっか」

 

 

会話こそ無かったが、たしかにあの空間は二人だけのものだった。

 

 

陽乃「さて、ビーチにもどりますか!今度は私が後ろね!」

 

 

八幡「はいはい」

 

 

雪ノ下さんは俺の後ろに移動すると、俺の腰に腕を絡め、女性特有の凶器を背中に押し付けた。

いいぞ、もっとやれ。

 

 

陽乃「それじゃれっつごー!」

 

 

八幡「……はぁ」

 

 

 

あの空間が、今の状況が、俺を騙そうとする。

でも、それがなんだか心地がいい。

 

 

雪ノ下さんと一緒に、青に騙されるのも悪くないかもしれない。

 

 

 

 

 

 

****************

 

 

 

 

 

俺たちはめちゃめちゃ遊んだ。

バナナボートだけでなく、ウェイクボード、ジェットパック、ビーチバレーなど。

それを終えた俺はというと…

 

 

 

陽乃「いや〜疲れたね〜!」

 

 

八幡「はぁはぁ………はぁ…」

 

 

 

死にそう。

 

 

 

陽乃「体力ないなぁ〜。雪乃ちゃんのやつうつった?」

 

 

八幡「体力がないのがうつるなんて聞いたことないです。そして俺が体力がないのではなくあなたが無尽蔵なんですよ」

 

 

いや、マジでなんでまだ動けるんだよ。

 

 

陽乃「よし、そろそろ帰りましょうか」

 

 

八幡「賛成。これ以上ないくらいに賛成」

 

 

陽乃「つかれてるねぇ」

 

 

それから、着替えて迎えの車を待つことに。

 

 

陽乃「いや〜楽しかった!」

 

 

そう言ってぐっと背伸びをする。

先ほどより布面積は多い服装ではあるが、薄手なのには変わりなく、なんならこっちのがエロい。

目のやり場に困っていると雪ノ下さんが話しかけてきた。

 

 

陽乃「……ねぇ、楽しかった?」

 

 

八幡「いきなりどうしました?」

 

 

陽乃「いや、今日無理やり連れてきちゃったし、あんまり笑ってなかったから……もしかしたらつまんなかったのかなって」

 

 

少ししおらしくする雪ノ下さんは笑顔を浮かべていた時と同様、とても綺麗で、無邪気な子供が謝っているようだった。

 

 

八幡「…心配しなくても楽しかったですよ。今日、雪ノ下さんと見た景色は忘れられないほど綺麗でした。あまり外に出ないので、いろんな体験ができましたよ。まぁ、事前に知らせてくれれば助かりましたけど」

 

 

 

陽乃「うん、それはごめん」

 

 

 

そう、楽しかったのは事実。

今日はいろんなものを見れた。

それは綺麗な景色もそうだが、普段とは違う雪ノ下陽乃を見ることができた。

普段のガチガチに固められたあの表情ではなく、純粋に、無邪気に楽しむ雪ノ下陽乃を見た。

あんな顔をすることを知らなかった。

俺に意図的にあの顔を見せたのか、それとも実はただの元気で無邪気な女の子なのか。

俺にはわからない、わからないがあの顔が見れたことで、拉致されても、連れ回されても、騙されてもいいと思えた。

 

 

 

陽乃「あ、きた!」

 

 

やっと迎えがやってきたようだった。

以下と同じく黒塗りの高級車だ。

改めて見るとこんなのに乗るの緊張するんだけど。

 

 

陽乃「比企谷くんを家に送ってあげて」

 

 

「かしこまりました」

 

 

八幡「え、場所わかるんですか?」

 

 

陽乃「そりゃナビに比企谷くん家いれてあるから」

 

 

八幡「へぇ……いや待って待って待って」

 

 

いや待って、なんで人ん家登録してんの?

怖い怖い怖い。

 

 

陽乃「冗談にきまってるじゃん!」

 

 

八幡「あなたの場合冗談じゃないかもしれないんだよなぁ」

 

 

心臓に悪い。

 

 

陽乃「にしても今日は……楽し…かった………なぁ」

 

 

八幡「そうですね。こんな暑いのに外に出ることはないので新鮮でしたし、いいものも見れましたし、何より………ん?」

 

 

肩に重みを感じ、そちらに視線をやると吸い込まれそうな綺麗な黒髪がすぐそばで見つかった。

 

 

八幡「…やっぱ疲れたんだろうな」

 

 

ふと、子供にまつわる話を思い出した。

子供は延々と走り回ったり遊んだらするが何故か。

あれは大人は100の体力があったとして、45くらい減れば疲れたといっても休むが、子供は70の体力でも69まで全力で動き続け、そして気絶するように眠ると。

 

 

まるで子供のように、無邪気に遊んで、車に乗ってすぐに寝息を立てている彼女を見てその話を思い出し、微笑ましくなった。

 

 

彼女の寝顔を見ても、やはり綺麗で、今日の雪ノ下陽乃が夢ではないことを示しているようだった。

やはり、彼女の本当の姿はこれなのか、これすらも彼女の特技の一つなのか。

 

 

 

彼女はブルーハワイのようだ。

 

 

 

 

何が含まれているかわからない、なんの味なのかもわからない。

 

 

 

 

でも、それはたしかに甘かった。

 

 

 

 

 

 

おわりん

 

 

 

 

 

 






マジでブルーハワイ何味かわかんねぇ。
ちなみに最初この小説いろはすで書こうとしたんだけど誕生日ってのと、はるのんのが何が含まれてるかわからない感があったからはるのんにした。
まぁ、八色も八陽も大好物なのでいいんですけどね。
ではまた。




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まず一歩踏み出します

小町主役のお話を考えてたら出来たやつです。
なぜか小町関係なくなりました。
ではどうぞ。


子供に戻りたいと思ったことはないだろうか。

辛い現状に耐えかね、楽しかった過去に戻りたいと願うことはないだろうか。

どの子供時代に戻ろうか、無邪気な小学時代、新しい生活が始まった中学時代、青春真っ只中の高校時代、また、大学生を子供時代と呼びそこに戻りたいと思う人もいるだろう。

しかし、こう思えるお前らは幸せなのだと俺は声を大にして言いたい。

これは過去が楽しかった、充実した学生時代を過ごせたものにのみ許される現実逃避なのだ。

 

 

その点俺は過去に戻りたいなどとは思はない。

いてもいなくても変わらなかった小学時代、黒歴史製造機の中学時代、高校時代はこの中ではマシだが戻りたいと思えるものではなく、ここでも別の黒歴史を製造してしまった。

大学生はめんどくさい人付き合いと就活に追われた。

今は今で大変だし、面倒だし、仕事辞めて専業主夫になりたいし、俺も寿退社とか言ってみたいけど、過去は過去で内容は違えど同じく面倒なので戻りたくない。

……いや待てよ?

過去に戻ればお兄ちゃんっ子だった小町や高校時代の今とは違い幼さが残る戸塚や、JCJKの制服姿の小町や、爽やかなジャージ姿の戸塚や(以下省略)を再びみれるのではないか!?

やっぱ過去戻りたいわ、過去最高。

 

 

過去が最高なら俺幸せなんじゃね?

やったー、おれしあわせだー

 

 

 

……むなしいですねはい。

 

 

 

くだらないことを考えながら帰路を辿り、気がつけば俺が住むアパートの前だ。

残業のせいで暗くなった空が手元の視界を悪化させ、鍵を探すのにもこちらの時間を削ってくる。

ここまで来て残業は俺の足を引っ張るのか。主夫になりたい。

 

 

八幡「ただいま〜」

 

 

誰もいない部屋には、その声は響か「おっそーい!!」ないはずなんだけどな。なんで?

 

 

 

****************

 

 

 

 

靴を脱ぎ、部屋に上がると、不機嫌そうな少女が机に突っ伏していた。

その少女は吸い込まれるような黒髪に透き通るような肌、これ以上ないくらいに整った顔、美少女としか形容できないその容姿を台無しにするかの如くだらしなく、手には明らかにソフトドリンクではない缶が握られていた。

 

 

 

 

「八幡遅い〜〜」

 

 

 

八幡「はぁ……お前なんでいるの?ルミルミ」

 

 

 

そう、こいつはルミル「留美」……留美、鶴見留美だ。

同姓同名じゃないぞ?あの小学生だったやつで間違いない。

大学生の時に家庭教師やってたらこいつが生徒だった。

そして家を突き止められ、社会人になった今もこうして襲撃してくる。

 

 

 

留美「毎週土曜日は来てるでしょ?早く慣れて?」

 

 

八幡「いやいやいや、なんで毎週土曜日に来るの?」

 

 

こいつはいつも俺の唯一の休息、日曜日の前日にやってきて、そのまま泊まって俺の休息を潰しにかかる悪魔だ。

明確な理由があるなら是非教えて欲しいのだが…

 

 

留美「そんなの……決まってんじゃん……」

 

 

八幡「え?なんで?」

 

 

留美「もううっさい!!全然帰ってこなかったくせに!」

 

 

理不尽極まりない。

俺は帰りたい気持ちだけは人一倍あったから。

なんならその場で仕事辞めてきたかったから。

 

 

八幡「残業だったんだよ。大体…まぁ、いつもそうだが未成年が何飲んでんだコラ」

 

 

こいつはいつも人の家に来ては未成年の分際で俺の酒を勝手に飲みやがる。

…いや、成人してても人の酒勝手に飲むなよ

 

 

留美「大丈夫。誰にもバレなきゃ犯罪じゃない」

 

 

八幡「ここに人いるからね?亡き者にしないで」

 

 

留美「八幡は通報しないし、未成年が飲酒してるなんて言いふらす人もいないでしょ?」

 

 

八幡「さらっと罵倒を混ぜないでいただけますかね…」

 

 

留美「ていうか、お酒は二十歳になってから、なんて律儀に守ってる人いるの?」

 

 

まぁ、確かに留美の言う通りだとは思う。

大学生になったばかりの19歳が新歓等で酒を飲まされ、救急搬送されるなんてのはもはや春の風物詩と言ってもいいだろう。

また、酒を飲むと言うことに憧れを抱く奴も少なくない。

周りで酒を飲んでいる奴がいればそれに倣い酒を飲むといった負の連鎖も生まれる。

二十歳まで酒を飲まないのは至難の技ともいえるだろう。

 

 

留美「どうせ八幡も周りに流された〜とかで飲んでたでしょ?」

 

 

八幡「舐めるな、俺に流される周りなどいない」

 

 

留美「お酒の方を否定しようよ…」

 

 

呆れながらそう呟く留美の姿は某氷の女王を想起させる。

そして彼女よりは幼さがが残る顔と体がそれは彼女ではなく留美なのだと自覚させられる。

 

 

八幡「ていうかお前あんまり強くないんだからそんなグイグイ飲むなって…」

 

 

留美「そんなに飲んでないよ〜!」

 

 

八幡「いやあなただいぶ酔ってますから…普段そんなに元気じゃないですから…」

 

 

普段雪ノ下に見た目も中身も似てるのに、飲むと由比ヶ浜に近くなるんだけど。

めっちゃ鬱陶しいんだけど。

 

 

八幡「じゃあお前その状態で歩かんのかよ」

 

 

留美「当たり前だよ!私をなんだと思ってんの?人間だよ?二足歩行が得意な霊長類、人間だよ?」

 

 

由比ヶ浜より頭はよかったわ。

由比ヶ浜はバカでこいつはアホだな。

 

 

八幡「じゃあどうぞ」

 

 

そういうと、留美はすくっと立ち上がった。

 

 

留美「まず一歩踏み出します」

 

 

八幡「おう」

 

 

留美「んで反対の足も踏み出します」ズルッ ドサッ

 

 

八幡「転んでますが」

 

 

留美「幻覚です」

 

 

八幡「幻覚見てんのはお前だよ」

 

 

留美「このくらい…ズルッ ドテッ…あれ?」

 

 

八幡「はぁ…よっこらせっと」

 

 

留美「え?ちょ、うわっ!」

 

 

俺はろくに立つこともできない留美を抱え上げ、ベットに運ぶ。

 

 

留美「え、ちょ……や、優しくしてね?」

 

 

八幡「なにがだよ…もう寝ろ。酔いすぎだ」

 

 

留美「……あー!今なら酔ってるから抵抗もできないし大変だなー!しかも明日になったらあんまり覚えてないかもしれないしなー!どこぞの狼さんに襲われたらどうしよー!」

 

 

ベットに寝かせると棒読みちゃんが如く全く変わらぬトーンで、なんの危機感もなさそうな声でいきなり叫び出した。

酔っ払いの戯言など右から左に聞き流します。

ムーディー比企谷です。

 

 

さっき優しくしてねと言われたので留美をそっとベットの上に置く。

え?こういうことでしょ?(すっとぼけ)

 

 

八幡「んじゃ、おやすみ」

 

 

留美「ヘタレ」ボソッ

 

 

去り際になにか言われた気がしたが俺の耳には届かなかった。

 

 

八幡「さて、俺も一杯やるとしますかね…あれ?」

 

 

…酒がない。

あのクソガキ全部飲みやがったな!?

ていうかどんだけ飲んだんだよ!!

 

 

八幡「…寝よ。」

 

 

俺も寝ることにした。

来客用(小町用)の布団を取り出して敷く。

これで小町と一緒に寝てる感じになれるね!

こんなこと言うと俺の株が暴落しそうなので口には出せないね!

小町の布団使ったのも黙っとこ!

 

 

寝る前に寝ている留美の方をふと見た。

アルコールが入ったことによって少し赤らむが幼さの残る留美の顔を少し大人にしていた。

さっきまで接していたクソガキとは違い、大人の女性という雰囲気を纏った留美に少しだけ、少しだけ見惚れてしまった。

 

 

 

 

****************

 

 

 

 

 

今日は休日なので目覚まし時計は設定していないはず。

仕事もないため、泊まっている留美に起こされでもしない限りは寝ていていいはず。

また、起きてしまってももう一度眠りについていいはず。

 

 

そのはずだった。

 

 

八幡「…」

 

 

目の前の時計は7:00を指している。

そして眠気はない。

 

 

悲報 八幡、社畜になった模様。

 

 

いやいやいや、おかしいよね!!絶対に会社に飼い慣らされてるよね!!もう生活リズムまで固定されてるんですけど!?

あれだけなりたくなかった社畜にいつのまにかなっている絶望感は半端なかった。

 

 

八幡「…はぁ、朝飯作るか。」

 

 

昨日遅くまで飲んでいた留美はまだ目覚めるはずもなく、仕方なく二人分の朝食を作ることに。

あいつの肝臓はあいつに相当いじめられているのでせめてもの優しさにしじみの味噌汁と100%オレンジジュースを用意しておく。

ちなみに八幡豆知識だが、二日酔いにはしじみの味噌汁も効くが100%オレンジジュースもかなり効く。

全国の大学生、社会人にぜひおすすめしたい。

 

 

 

ガラッ

 

 

留美「…おはよう」

 

 

不機嫌そうな留美がこちらをジト目で見つめながら挨拶をしてくる。

その顔は一部の層に受けそうなのでやめておきましょう。

 

 

八幡「おう。どうせ二日酔いだろ?味噌汁とオレンジジュース出しといたから先飲んどけ」

 

 

そういうと何故か留美は自分の体をペタペタ触り出し、服を少しまくり、肌を確認する。

そんなことをするので料理に目を集中せざるを得ない。

 

 

留美「起きた時に衣服の着崩れなし、肌に何かしらの跡もなし、下腹部に違和感なし…」

 

 

八幡「え、なにそれ。最近の女子高生寝起きにそんなの確認するの流行ってるの?」

 

 

え、寝相の良し悪しきにするとかそんな感じ?

寝相占いみたいなの流行ったりしてる感じ?

 

 

留美「…はぁ、確かにできれば起きてる時が良かったけど、寝ててもよかったんだよなぁ。手を出してくれればあとはどうでもいいんだよなぁ」ボソッ

 

 

八幡「あ?なんかいったか?」

 

 

留美「何にも。いただきます」

 

 

八幡「おう」

 

 

そう言って留美は味噌汁をすする。

今の会話の間に朝食ができたので机に朝食を運び、俺も箸を手に取る。

 

 

八幡「いただきます」

 

 

留美「そういえば八幡料理うまいよね」

 

 

八幡「まぁこれほぼ火を通してるだけだけどね」

 

 

留美「いや、手際がいいじゃん」

 

 

八幡「まぁ大学の時は一人暮らしだったからな」

 

 

留美「ふーん」

 

 

何やら留美の機嫌は治りそうにない。

しかし、膨れながらパクパク朝食を口に運ぶ姿は可愛らしいと言える。

昨日の大人っぽさなど微塵もなく、小動物の様だった。

 

 

それからは他愛もない会話が続き、朝食は終わる。

 

 

八留「「ご馳走様でした」」

 

 

留美「片付けやるよ」

 

 

八幡「ん?いや、いいよ」

 

 

留美「作ってもらったんだからそれくらいやる」

 

 

八幡「じゃあ手伝ってくれ」

 

 

留美「ん」

 

 

留美はシンクで俺の隣に立ち、二人して皿を洗う。

 

 

八幡「…」カチャカチャ ゴシゴシ

 

 

留美「…こうしてると夫婦みたいだね」

 

 

少し頬を染めて留美が言う。

少し微笑んでいることからこの返答で留美の機嫌が変わる可能性が高い。

確変のチャンスだ。

 

 

八幡「どっちかっていうと兄妹みたいな気がするけどな」

 

 

留美「…」ゲシッ

 

 

蹴られた。失敗した。

留美は喋ることなく皿を洗っていく。

機嫌はさらに悪化した気がする。

 

 

八幡「さて、洗い終わったし、今日はどうする?どうせどっかいくんだろ?」

 

 

留美「…ねぇ」

 

 

八幡「ん?あんまり遠くは疲れるから却下な」

 

 

留美「いや、そうじゃなくてさ、毎週私がくる理由、本当にわかってないの?」

 

 

先ほどの膨れた顔とは打って変わって寂しそうな表情でこちらに話しかける。

 

 

八幡「そ、それは…」

 

 

留美「私、ここでしかお酒飲まないし、寝泊りなんて友達ともしないし、着崩れとか家で気にするわけないし!」

 

 

留美は寂しそうに、そして必死に訴えかける様に畳み掛ける。

 

 

留美「ねぇ、本当にわからないの?」

 

 

八幡「…」

 

 

留美「私は八幡が好きだよ!だからいつも家に押しかけたり、無理やり酔ったりしてるのに一向に手を出してこないし!…もし、本当に迷惑なら諦めるよ。でもさ、私そんなにダメかな?そんなに、そんなに魅力も何にもないかな…?」

 

 

そう訴えかける彼女の目には涙が浮かび、あと少しで赤くなった彼女の頬を濡らしてしまうだろう。

 

 

なぜだろう…

 

 

こんな時でさえ…

 

 

紅潮し、目に涙を浮かべる目の前の少女に見惚れていた。

 

 

 

留美「…八幡?」

 

 

八幡「あ、ああ悪い、必死の留美の顔があんまりに可愛く……あ」

 

 

留美「へ?」

 

 

……多分今年最大の失態を犯した

え、これどうしようもなくない?

ルミルミじゃなくて普通にマジトーンで留美って言っちゃったし…

 

 

八幡「あ、ちょ、今のはその…」

 

 

留美「…ねぇ」

 

 

八幡「その、勘違い…いや、勘違いってわけでもないんですけどなんというか口が滑ったと言いますか…」

 

 

留美「ねえ!」

 

 

八幡「はい!」

 

 

留美「か、可愛いって……ほんと?」

 

 

上目遣いでこちらを覗いてくる留美。

潤んだその瞳に吸い込まれそうになるが踏ん張る。

 

 

八幡「えっと、まぁ…はい、本当です」

 

 

留美「ふーん、そっか…」

 

 

先ほどの様に取り乱している様子はなく、少し微笑んでいる様に見える。

 

 

留美「ふぅ…改めて言うね」

 

 

八幡「おう」

 

 

落ち着いた様子で息を整え、こちらに向き直った。

 

 

留美「私は、あなたが、比企谷八幡が大好きです。結婚を前提に付き合ってください。」

 

 

八幡「……さっきわからないの?って言ったよな」

 

 

留美「うん」

 

 

八幡「俺は多分わからない…というよりはわかろうとしなかったんだと思う。毎週留美が家に来て、酒飲みながら駄弁って、翌日は留美をどこかに連れてって振り回されて…なんだかんだ言ってそれが楽しかった。

仕事も、それを楽しみにして頑張れた。俺はその日常が、万が一でも崩れるのが嫌だったんだ。こいつと、ずっとこうしていれたらと思っていた。」

 

 

そう、俺の願いはただ一つ。

 

 

八幡「俺も、お前のことが好きだよ。留美。ずっと俺の隣にいてくれ」

 

 

留美「八幡!!」ダキッ

 

 

俺がそう言うと留美は思いっきり飛びついてきた。

 

 

留美「よかった…てっきり私に興味ないのかと思ってた…」グスッ

 

 

八幡「お前みたいな可愛い子に興味ないわけないだろ。ましてや目の前で無防備なんだ、頑張って堪えたっての」

 

 

留美「…もう堪える必要ないんだよ?」

 

 

八幡「いや、お前まだ高校生だし…」

 

 

留美「八幡社会人だし、卒業したら結婚しよう?そうすると…」

 

 

八幡「え、ちょ…」

 

 

留美「やっぱ結婚したあとの予習は大切だよね。だから今日は家で……いや、声が大きいとお隣さんに迷惑かかるから…」

 

 

八幡「ねえねえ、聞いて?」

 

 

留美「よし!八幡!行きたいところ決まったよ?」

 

 

八幡「はい?」

 

 

留美「察しのいい八幡ならもうどこにいくかわかったよね?」

 

 

八幡「勘違いなら恥ずかしいんだけど……それでいいのか?」

 

 

留美「私が望んでるんだよ。それに印つけとかないとすぐに取られそうだし」

 

 

八幡「印って…」

 

 

俺は物か…

 

 

留美「今一歩踏み出したのは私だから……今度は八幡から来てくれると嬉しいんだけどなぁ……」

 

 

八幡「……はぁ、わかったよ。後悔するなよ?」

 

 

留美「うん!」

 

 

 

留美は幸福をこれでもかと表現した笑顔を浮かべる。

確かに寝顔や泣き顔も見惚れるほど美しかった。

ありきたりかもしれないが、やはり笑顔が一番、見惚れる…いや、もう惚れてるが、惚れ直すほど美しかった。

 

 

そして、留美の笑顔を曇らせないためにも、まずは歩み寄ってくれたこいつに、今度は俺が一歩踏み出さなくちゃな。

 

 

 

 

 

****************

 

 

 

 

 

 

そういえばこんな感じで付き合ったなぁ…

 

 

留美「八幡」

 

 

八幡「ん?」

 

 

「んんっ、誓いますか?」

 

 

八幡「へ?あ…ち、誓います!」

 

 

あ、そうだった…

今は結婚式の最中だったな…

誰のって?もちろん俺と留美のだ。

 

 

留美の約束通り高校を卒業して速攻で結婚となった。

お互いの親も反対することなく、というかむしろすげぇ推奨してきた。

小町は「お義姉ちゃんかとおもったらまさかの義妹だったかぁ…想定外だったなぁ…」と言っていたが、俺の結婚を喜んでいた。

小町の結婚は絶対に喜びませんけどね。

…あ、一応言っておくけど子供はまだだよ?

あの時出来た子供が原因とかはないからね?

 

 

そんで迎えた式の最中に物思いにふけってたわけですね。

バージンロードは新婦の人生を表すとかあるけど新郎にもそんな感じのやつないですかね。

いい感じに物思いにふけりタイムとれそうなやつ。

 

 

「では、誓いのキスを」

 

 

留美の純白のベールをあげると、そこには今までで一番美しい留美がいた。

 

 

留美「八幡、私嬉しすぎてどうにかなっちゃいそう。今だって、なんかふわふわしてるんだ」

 

 

八幡「俺も嬉しすぎて死にそうだけどふわふわはしてないから…大丈夫?酔ってる?」

 

 

留美「酔ってるわけないでしょ!もう…」

 

 

八幡「じゃあお前その状態でキスできんのかよ」

 

 

留美「当たり前よ。私をなんだとおもってるの?」

 

 

八幡「じゃあどうぞ」

 

 

留美「まず一歩踏み出します」

 

 

そう言って距離を詰め、背伸びをした留美と唇を重ねた。

 

 

 

おわりん

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ルミルミ可愛いですよね。
でもなんで途中から小町じゃなくなったのか疑問しかないです。
次こそは小町と言いつつまた違うの書きそう。
ではまた。


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