ハイスクールD×D 天馬の神器を持つ者 (gbliht)
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第一話 プロローグ

初めましての方は初めまして。そうでない方は、お久しぶりです。
今回、ちょっと息抜きということで、ハイスクールD×Dに手を出しました。
亀更新となるかもしれませんが、あしからず。

では、第一話をどうぞ。



私は一体どれくらい生きていたことだろうか。

 

周りの景色が全て早く見える時があった。しかし、遅く見える時もあった。

 

それでも、時間の流れは一定で、時間は正確に流れる。だが、どうしても私は世界があまりにも遅く、あまりにも早く感じた。

 

 

 

他人より何倍も生きていると感じたこともあるし、逆に何倍も生きていないと感じる。だが、それも幾分か時が流れることによって、自然と慣れてきた。

 

そんな世界に慣れてき始めたある時、誰にもいないのにどことなく声が聞こえ始める。それは、男とも女とも取れない声……一種のテレパシーのような物といえばいいか。

 

『……ようやく会話できるようになったか』

 

そのテレパシーのような物は、最初はあまり聞こえなかったのだけど、段々と声が認識できるようになっていった。

 

そんな声に、勿論俺は聞いたよ。

 

(お前は誰だ?)

 

『誰……とな。ハハハ、そうだな。確かに、幼き我が主は知らないよな』

 

すると、テレパシーのような物は、抑揚の無い声音? で少しだけ笑ったと思ったら、急に目の前が真っ暗になった。

 

部屋の中だからよかったものを、これが道路だったりしたどうするんだ。

 

なんて、心の中で愚痴っていると、真っ暗だった目の前が急に明かりを取り戻し始めた。

 

ゆっくりと目を開けると、煌々と照っている明るい太陽。先が見えないほどの広大な草原。心地いい微風。思いっきり外だったね。

 

外に急に放り出されれば、普通の人は辺りを見渡すわけで、私も例外なく辺りを見渡した。そして、ある一角だけ、蜃気楼のように歪んでいる場所があったんだ。

 

そこをよく見てみると、馬鹿みたいに大きな馬が座っていた。大体五~十メートル程かな? でも、馬といっても翼が生えてるし、馬ではないよな。なんで、その時の私は、馬だと思ったのだろう。

 

「お前が……呼んだのか?」

 

『……そうだ。ここに呼んだのは他でもない私だよ。幼き我が主』

 

馬は座っている姿勢から立ち上がると、ゆっくりとした足取りで、こちらに歩いてくる。座っている時も凄かったが、立ち上がるともっと凄い。全長十五メートルはあるんじゃないか?

 

「我が主とはなんだ?」

 

『我が主は我が主。この身……ペガサスであるこの身を扱うに値する主と言うだけだよ』

 

「ペガサス? 扱う? よく分からん。詳しく教えてくれ」

 

『ペガサスは文字通り幻獣であるペガサスと思ってくだされば良い。扱うと言うのは、少しばかり話しが長くなってしまいますが、良いですかな?』

 

「ああ、お願いする」

 

そこからペガサス? が発した言葉は意外なものだった。

 

神が死んだという事。このペガサスは、神が作ったとされている神器(セイクリッド・ギア)と呼ばれる物に封印されている事。そして、天使と悪魔と堕天使が戦争をし、三すくみの状態だということ。その他諸々。

 

最初は突拍子もない言葉で驚きを隠せないでいた。馬鹿馬鹿しすぎる。わけがわからん。

 

しかし、実際に目の前にこんな奴がいるのだから、私はすぐさまこの話は本当だと思ったよ。

 

夢でもいい。ただ、この時私は……争える力と存在が欲しかったんだ。

 

「……事情は解った。でも、どうしてお前……」

 

『クリストフとお呼びください』

 

「……クリストフは封印なんてされたんだ?」

 

『それは簡単。天使、堕天使、悪魔の三すくみが戦争を行っている時に、二天竜と呼ばれる存在が三すくみに喧嘩を売った』

 

「ふむふむ、それで?」

 

『そこに、私が飛び込んだ際、二天竜と共に三竦みに討伐され、神器(セイクリッド・ギア)の中へと封印されたということ』

 

「そうか」

 

別に、この時、どうして喧嘩を売ったのかどうかの理由はどうでも良かった。けども、どうしてもこの時、このクリストフにはある事を聞きたかった。

 

「……クリストフ、一つだけ聞かせてくれ」

 

『何なりと』

 

「二天竜に喧嘩を売って……勝ったか?」

 

真面目な顔をして、この時はクリストフに聞いていたな。これからの人生、共にする為の存在としての値踏みだ。

 

『……成程、勝ったかどうか』

 

「ああ、答えてくれ」

 

クリストフは、ゆっくりと頭を垂れると、私の目の前に顔を持って微笑む。

 

『勝った……だが、その後の三すくみには負けてしまった』

 

「……ありがとう、それだけでありがたい」

 

頭を垂れたクリストフに対して、私は腰を九十度に曲げて頭を下げた。

 

「クリストフ。俺は五月雨天馬(さみだれてんま)。これからの人生、よろしく頼む」

 

『こちらこそ、我が主殿。これからの人生、出来れば争いと平和のある生活を楽しみにしていますよ』

 

「任せな。楽しませてやるよ」

 

そうして、クリストフとあった次の日から、私の生活は一変する。

 

次の日に高校を卒業すると同時に社会人になると、家を飛び出し、世界中を回り始めた。ある時は、弾丸飛び交う紛争地域を、この神器(セイクリッド・ギア)と己の力のみで暴れまわり。またある時は、堕天使や悪魔といった面々が、私を危険分子と見なして殺しに来たので、逆に返り討ちにしてやったり……。

 

そんな事を繰り返し続け、齢六十程になった。その間に、日本に戻ったりしたが、そこであったのは、神社を襲っている人間がいたので、神社の人全てを助けながら、人間たちを惨殺しすぐさま日本を出たり。

 

他には、日本にいる最中、白黒の子猫が腹を空かせていたので、助けつつ交番に渡して自分に家に戻り、すぐさま日本を飛び出したりした。

 

それと……なんか英雄とか自分でほざいている若造どもを軽くあしらったりもしたな。

 

後、なんか男なのか女なのか分からん引っ込み思案な吸血鬼にもあったりした。

 

そんな事をしていた私は、今は、聖剣計画と言う、人の命をゴミのように扱っているゴミどもの巣窟へと向かっている最中だ。

 

なんでも、聖剣を扱う子供を生み出す計画とやら。そこまではいいだろう。しかし、聖剣が使えなければ即処分。言い方を変えれば、殺すということ。

 

人として許せん。故に、そんな腐った計画をぶっ潰す為に、齢六十の体を引きずりながら、向かっていた。

 

「ここか?」

 

『多分そうでしょう。我が主』

 

「よし……行くぞ」

 

雪が燦々とふり、雪が降り積もっている地面を踏みしめ、ゴミどもの巣窟である教会の扉を蹴り破り中へと入りこむ。中には数十人にも及ぶ研究服の男達。そんな男たちは、私に気づくと、一斉に視線をこちらに向けてくる。

 

「な、何者だ!」

 

「黙れ。ここの計画はバレてる。さっさと計画をやめろ」

 

「何を言っている!! この計画は、我が教会にとって不可欠な実験なんだぞ!! それに、後少しなんだ!! 今更引き下がれるか!!」

 

一人の男が私の前に詰め寄ると、そんな事を言ってくる。

 

「そうか」

 

全く、反吐が出る。自分たちは何一つその身で実験をせず、罪もない子供たちを代えのきくモルモットのように殺していく。

 

何故こんなゴミどもが生きているんだ? 天使共は何をしているんだ……。

 

「ともかく、出て行け!! 今、大事な所なんだ!!」

 

「解った。お前らが実験を辞めるつもりも無いことがよくわかった」

 

「ああ!! ならばさっさと……」

 

「じゃあ、もういいや。殺す」

 

「は?」

 

どうやっても説得できなさそうなので、馬鹿みたいな顔をしている目の前の男の腕を、下から振り上げた手刀により切り落とす。いわゆる、暴力での会話だ。

 

「は……え、あ、あああああああああ!!!!!」

 

肩口までバッサリと切られた男は、絶叫を上げると、傷口を余っている方の手で押さえて、その場で蹲る。

 

「さて、これでもやめないか?」

 

「あ、あああああ、あああああああああああああ!!!!!」

 

半狂乱した男は、懐に傷口を抑えていた方の手を入れると、メスのような物を抜いて、突進してきた。

 

躱すのも面倒なので、顎を蹴り上げる形で膝蹴りをかまして、男の体を空中に持ち上げる。そして、すぐさま体を回転させ、空中に浮いている男の腹に目掛けて回し蹴りを放つ。

 

回し蹴りを喰らった男は何の抵抗もなく吹き飛び、私の正面にあった扉を盛大に壊しつつ、

その向こう側へと落ちる。

 

「う、うわああああああああ!!!」

 

「に、逃げろおおおおおお!!!!」

 

その光景を見ていた他の研究員たちは、混乱したように走り回り、我先に逃げようと、窓や他の出口から次々と飛び出していく。

 

「クリストフ」

 

『無論承知』

 

男が吹き飛んでいった扉へと歩きながら、軽くクリストフに声を掛ける。と、同時に、教会の外から悲鳴や絶叫が聞こえてくる。

 

あいつらにしたのは、転移魔法。行き先は、地上に住んでいる天使の居住区。罪状と共に送りつけてやった。

 

なんで、天使の居住区なんて知っているんだと思うかもしれないが、長年生きていると、色々とあるのだよ。

 

外の絶叫が止むと同時に、扉をくぐった私は、声を詰まらせてしまった。

 

「……間に合わなかったか」

 

目の前にあるのは、巨大なガラスで出来た箱のような空間の中に倒れている幼き子供達。皆一様に動かず、ただその場に倒れふしている。

 

すぐにガラスを拳で叩き割り、中へと入っていく。辺りに呼吸の息遣いが聞こない。

 

「もう少しだったんだが……ん?」

 

辺りを見渡していると、ピクリとだけ動いた少女がいた。すぐさま駆け寄ると、僅かに呼吸をしている。

 

「息はある……ならば」

 

少女を背中におぶり、入ってきた入口は逆の入口の扉を破壊し、外へと飛び出す。

 

「よし、後は……クリストフ」

 

『少しお待ちを』

 

少女を抱きかかえたまま、クリストフに声を掛けると、私の体から淡い赤色の光が少女に向かって流れ始める。

 

戦場で傷ついた時に、クリストフがよくやってくれていた回復の魔法だ。本来、クリストフの神器(セイグリッド・ギア)にはこのような機能はないのだが、私が願うと、クリストフが封印される前に持っていた回復の魔法を使えるようになった。

 

使えるといっても、私が使えるのではなく、クリストフの神器(セイクリッド・ギア)意思によって使えるだけなのだが。あぁ、それと他の魔法も使えるようになってたな。

 

「う、う」

 

「クリストフ、回復量は?」

 

『大体八割程度の回復でございます。命に別状はない程度には回復しました』

 

「そうか、ありがとう」

 

クリストフに礼を言い、少女を着ていた服で包みつつ私は歩き出した。行く先は、暖かい所。死んでしまっていた少年少女たちには申し訳ないが、黙祷を送り、後で来るであろう天使に任せた。

 

 

 

歩き始めて一日目。私は気候のいい街中まで歩いていた。暑苦しくはなく、かと言って涼しくもない。丁度いい場所だ。

 

「ここら辺か……」

 

「う、う~ん」

 

「起きたか」

 

気候のいい街中を歩きつつホテルを探していると、私が抱いていた少女が動き始めた。

 

「ここは……」

 

「起きたかい?」

 

「ヒッ!?」

 

起きた少女に、軽く声を掛けると、声を詰まらせて、ガタガタと震え始める。

 

やはり、殺されそうになった恐怖のせいか。

 

「大丈夫、私はアイツ等とは違う」

 

「あ、ああ……」

 

違うと言っても、少女は恐怖のあまりか震えが止まらない。更には、何かを必死に叫ぼうとしている。

 

どうすればいいのかと思案にくれる。そんな表情が顔に出ていたのか、少女は申し訳なさそうな表情をした。

 

「すまない、怖がらせてしまったね」

 

「……」

 

「これから、ホテルへと行くが、良いかな?」

 

少女はこくりと頷くと、私の服に包まり、顔を隠してしまった。

 

これからどうやって、この少女の心のケアをしていこうか……まぁ、それはいいか。これから考えればいい。まずは、休むためにさっさとホテルへと行こうか。

 

すぐに思考を切り替え、ホテルへと向かう。大した金は持ってはいないが、一日止まる程度なら問題ない。

 

 

 

「よいしょっと」

 

ホテルへと着いた私は、すぐさまホテルへチェックインし、少女をベットへと優しく下ろす。

 

「……」

 

無言で私の服から出てきた少女は、ベットのシーツを体に巻きつけて、無言で睨んでくる。その瞳はまるで、復讐する相手を見ているかのような。

 

シーツからに包まった事と、今の部屋が茶色の部屋だということで解ったが、少女は銀色の髪に、金色の双眸だった。

 

「……」

 

「……」

 

無言で互いの瞳を見合う。決して目をそらすよう真似はしない。そんな事をすれば、即座に少女の信頼を失う。そんな気がしたからだ。

 

「……」

 

「……貴方は」

 

しばらくの間、少女と見合っていると、唐突に少女が口を開いた。その声音はまだ弱々しいものだが、はっきりと意志が乗っている声だ。

 

「なんだい?」

 

「貴方は何故あんなところにいたんですか?」

 

「そのことか」

 

一つため息を吐いてから、今までの経緯を少女に教えた。聖剣計画、その末路。私が行った時に起きていた現状、全て。

 

黙って聞いていた少女は、私の話を全て聞くと、目尻に涙を貯めて、シーツをギュッと握った。

 

「そう……だったんですか」

 

「あぁ、それでだが、これからどうする?」

 

「どういうことですか……?」

 

「君のこの後の処遇」

 

「ッ!?」

 

処遇と言った瞬間、少女は息を詰まらせて、後ずさってしまった。しまった、言葉を選ぶべきだったな。

 

「処遇と言っても、別に殺すわけじゃない。そんなことしてしまったら、私が君を助けた意味がない」

 

「では……」

 

「選ぶとしたら、私が提案できるのは二つ。一つは、地上の天使勢に君が行き、保護してもらうこと。二つ目は、自分で行きたいところがあるのなら、そこまで送るよ。さあ、どっちを選ぶ?」

 

決して、自分と一緒に行くという選択肢は出さない。別に一緒についてきてもいのだが、如何せん私の旅は危険が伴いすぎる。もし少女が一緒に行きたいと言えば、連れては行くが……それ以外は、なるだけ連れて行きたくない。

 

少女は、私の言葉を聞くと、考え込むように手を顎に当てる。

 

「……二つ目で、お願いします」

 

「分かった、どこがいい?」

 

少女に問うと、少女は私の事を指差してきた。

 

「貴方の元でお願いします」

 

「……何故だい?」

 

「私には身元も戸籍も何もかもありません。それに、行きたい所などもありませんし、何より私は自分の力だけでこの世界を生きていけません。あんな計画を見過ごしていた天使だって、あまり信用できませんし」

 

「……成程、わかった。しかし、何も私のところにいる必要はあるまい。私は寝床などない旅人の身である存在だ。それに、もしかしたら、君に嘘を付いて連れ出したって言う可能性だってあるのだぞ?」

 

「それについては問題ありません。私は、実際に殺され掛けましたし、貴方が嘘をついていないと言うのもわかります。寝床なども不要です。元々、そんな物はいりませんでしたしね」

 

「一つ聞かせてくれ。なんで私が嘘をついていないとわかるんだね?」

 

すると、少女の金色に輝く瞳が一瞬光ったと思ったら、目を伏せて短く息を吐いた。

 

「私のこの瞳。霊的な瞳(アウラー・オブ・ヴィジョンアイ)は、相手が嘘を言っているかいないかの判別が出来る位の力は持っています。まだまだ、これに活用法があると思いますが、それは置いといて……だから、貴方は嘘を言ってないと思うんですよ」

 

私は、少女の言葉に成程と頷いていた。この少女も神器(セイクリッド・ギア)を持っているのかと。それならば、一人にするよりも、私と一緒に行動しといたほうがいい。下手に一人で放置なんてしたら、少女はその力によってまともに生活などできないだろう。この世界は結構嘘だらけだからな。

 

「そうか。……その、霊的な瞳(アウラー・オブ・ヴィジョンアイ)の説明をしてもらっていいかな?」

 

「これは、簡単に言えば、人のオーラ……つまり、全ての生物が持っている『気』が見えるんです。それは、人の悪意から、善意の見分けまで。本気になれば世界の悪意さえ見えてしまいます。他にも色々と出来る方法はありますが、今はこの程度で。一応、制御は出来ていますが、いつその制御ができなくなるかはわかりません」

 

「わかった」

 

ふむ、制御できないのだったら、やはり私と一緒にいたほうがいいな。

 

「……君、名前は?」

 

「名前等ありません。お好きに呼んでください」

 

「じゃあ、適当に呼ぶぞ」

 

何にするか……私は生まれてこの方、名付けなどしたことがないからな……ネーミングセンスには自信がないのだが。

 

「……じゃあ、五月雨銀華って呼ぶぞ?」

 

適当に銀髪だから。それ以外に理由は……ないな。

 

「はい。多少言いづらいですが、銀華と名乗ります。貴方のお名前は?」

 

「五月雨天馬。この歳で天馬と名乗るのは意外と恥ずかしいんだ。だから、天とだけ呼んでくれ」

 

「分かりました。天さん、これからよろしく願いします」

 

「ああ、お願いするよ。銀華」

 

そんなわけで、少女こと銀華とあっさりと打ち解け、私は銀華と握手を交わし、そのまま一緒に旅をすることとなった。

 

旅は特に何もなく、いつも通り、悪魔や堕天使を退け、銀華に一通りの戦闘法を叩き込みながら、世界を巡りに巡っている。そう言えば、教会に顔を出したこともあったな。その時は、銀華の事で一悶着あったりしたが、至って平和に終わった。

 

それ以外には、その教会で神器を持っている少女と話したりもしたな。本人は気づいていなかったようだが。

 

そんなこんながあり、早十年ちょっと時が過ぎた。齢七十の身となった私は、とうとう体が言う事を効かなくなり、まともに動くことすら叶わなくなる。それでも、意地で紛争地域に飛び込んだりしたが、怪我の割合が増えるだけだったので、もうやめにした。

 

そうして、私は十七程になった銀華と共に、生まれ故郷である日本へと帰ってきていた。

 

「ここが、天さんの生まれ故郷ですか……」

 

「ああ、懐かしいな。昔と結構変わってしまったが、やはり変わらないものと言うのはあるのだな」

 

街の中へと入ると、明るい人々の声。飢餓に苦しんでいる子供たちの声はなく、楽しく平和な街。ああ、本当に素晴らしい国だ。

 

「それで、会わせたい人と言うのは?」

 

「多分、もう少しで来るはずだ」

 

街の公園でベンチに座りながら、のんびりと陽の光を体に浴びる。心地よい風と暖かい太陽。もう、これだけで幸せを感じるとは、私も歳を取ったものだ。

 

しばらくそうやっていると、一つの悪魔の気配を感じた。

 

「こんにちは、天」

 

「遅かったな、リアス」

 

私のベンチの隣に立ちながら、女性……リアス・グレモリーは呆れたようにため息を吐く。

 

彼女の名前はリアス・グレモリー。魔王を兄貴に持つ上級悪魔だ。なんで、そんな人物と仲良くなっているのかと聞かれれば、それは、昔襲ってきた連中と戦ってる時に、リアスの兄貴が私の元を訪ねてきたのだ。

 

その時に、軽く談話してみたら、馬があってな。それで、その後も縁を持つようになって、今に至ると。

 

「しょうがないじゃない。急な事だったんだから。貴方も、連絡くらいは事前に入れて欲しいものだわ」

 

「すまないな。しかし、今回は時間がなかったんだ」

 

ゆっくりと痛む腰に手を当てながら、私はベンチから立ち上がり、リアスの前に銀華を出す。

 

「銀華、分かっているよな?」

 

「……えぇ、近いうち、いつかこうなるとは思ってましたが、案外早かったですね」

 

「……? どういうこと、天?」

 

首を傾げているリアスに、私は頭を下げた。そんな突然の行動に、リアスは慌てるが、私は頭を下げたまま、リアスに話しかける。

 

「すまないな、リアス。実は、私はこの先短い。故に、銀華をグレモリー家で引き取って欲しい」

 

「ちょ、ちょっと待って! よく意味がわからないわ」

 

「もう、私は寿命なのだよ。そして、私が死ねば、銀華には居場所はない。だからこそ、グレモリー家で引き取って欲しい。出来れば、人間のまま、幸せに生きれるようにして欲しいが」

 

「……」

 

考え込むようにリアスは黙ると、少し経った後に、ため息を吐きながら、頷いた。

 

「わかったわ。銀華は私達が、家族として迎えれるわ」

 

「感謝する」

 

「けど、天。貴方、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)によって、悪魔に転生するって手段があるけど?」

 

リアスの言った悪魔の駒(イーヴィル・ピース)とは、先の三すくみの戦争によって減っていった、出生率の低い悪魔たちを増やすという事で作られた、人間を悪魔に変える駒。しかも、人間のチェスをモチーフにもしている。

 

確かに、その方法も私は考えていたのだが、実は、それができないわけがある。

 

「すまないな、リアス。私には、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)は使っても意味はないのだよ」

 

「どういうこと?」

 

首を横に振りつつ言うと、リアスは眉を寄せて聞いてきた。

 

「実は、前にやってもらったことがあったんだが、どれも不可能だった」

 

「そんな……『女王(クイーン)』の駒でも?」

 

「ああ、それどころか、『兵士(ポーン)』八つでも無理だったよ」

 

「そんな……」

 

驚きと悲しみを合わせたような表情で、リアスは俯く。

 

「銀華、幸せに暮らせよ」

 

「はい。天さん、今までありがとうございました」

 

銀華の最後になるであろう会話を交わし、私は公園の出口へと向かって歩き始める。老兵は死なず、ただ去るのみってな。

 

しかし、出口へと向かう途中、私の腕をリアスが引っ張り止めた。

 

「どこに行くの?」

 

「自分の死に場所を探しにな」

 

「ここにいればいいじゃない」

 

「それは駄目だ。ここで死ねば、君たちに未練が残るだろう。それに、私は死ぬと言うのは言葉の綾だ。俺はただ、消え去るのみだ」

 

優しくリアスの腕を優しく外し、再び出口へと歩き出す。

 

「それじゃあな、リアス。恋人でも見つけて、幸せにな」

 

リアスに後ろを向きながら手を振り、自らの神器(セイクリッド・ギア)の力によって、一瞬で日本から離れる。場所は決めてない。ただ、適当に歩いただけ。

 

 

 

そうして、幾年……或いは数時間が経ったある時、私は見知らぬ土地で仰向けにブッ倒れていた。

 

若い頃の姿などとうに影もなく、今は真っ白の白髪によぼよぼ肌。乱雑に無精髭が生えていた。昔はそこそこのイケメンだったんだがな……背は百八十五以上はあったし、髪だって真っ黒なオールバックの髪だったのに……やはり、歳だな。

 

「あぁ、これで終わりか。……すまないな、クリストフ」

 

仰向けに倒れたまま、自分の相棒に声を掛ける。

 

『いえ、我が主。短い時間でしたが、私は楽しめましたよ』

 

「短い……か。だな、もっと暴れたかったな」

 

『えぇ、ですが、これも宿命。暴れたかったのは同じですが、それ以上に私は楽しかった。貴方と共にあった日々。貴方と共に駆けた戦場。そして、貴方と共に戦えた死闘』

 

「あぁ、楽しかったな。でも……これで終わりか」

 

徐々に力が抜けていく感覚が私を襲う。それに抗う術はないし、抗ったところで、もう無理だ。

 

「なあ、クリストフ」

 

『どうしましたか?』

 

徐々に抜けていく力と共に、目を瞑りながら、長年の相棒に最期の言葉を贈る。

 

「私は、最高のパートナーだったか?」

 

『……えぇ、貴方は最高のパートナーであり。私の最高の親友でしたよ』

 

「ハハ、そうか……」

 

クリストフの言葉に軽く笑い、私は体の力を完全に無くした。

 

「来世でも……パートナーでいたいもの……だ……よ」

 

『私もですよ。我が主……いえ、五月雨天馬』

 

もう、全ての感覚も無くなり、私はとうとう意識を手放した。これから死ぬというのに、気持ちは至って平静だ。

 

楽しかった。ああ、楽しかったよ。……でも、もう少し戦いたかったな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なら、その命、私が拾ってあげるわ。五月雨天馬。丁度よく、変異の駒(ミューテーション・ピース)が二個もあるのだからね」

 




如何だったでしょうか?

感想、批判、アドバイス、誤字、お待ちしております。


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旧校舎のディアボロス
第二話 ササン・カラビア




では、第二話をどうぞ。




あれから一年経ち春となり、リアス達との駒王学園の生活を謳歌している中。私は三人の変態組を土下座させて、その頭の上に足を置いて罵っていた。

 

「で、何か弁明はある? ゴミ虫ども」

 

「俺は覗いてない!! 松田と元浜が悪いんだ!!」

 

「あ! テメェ! 一人だけ逃げる気か!」

 

「うるせっ! 元々、お前らが覗こうなんて言ったんだろう!」

 

「何を言う、イッセーもノリノリだったではないか!」

 

私の目の前で、ギャーギャーと喧しく騒ぎ合ってる丸坊主とメガネとツンツンの三人組。その内一人は、自分は悪くないとか主張しているが、それはない。何故なら、こいつも私達の着替えを覗いていたのだから。

 

「だいたい、元浜が……」

 

「で、何か弁明はある? ゴミ虫ども」

 

全く最初と同じセリフを言ってやると、三人は顔を青ざめて、ガタガタと震えだした。

 

「何か弁明は?」

 

「「「すみませんでしたああああ!!!!」」」

 

「わかった」

 

土下座までして、地面に額を擦りつけてまで謝ってくる三人組に、私は笑顔で足を避ける。その行動に、許してもらえたと勘違いしている三人は、笑顔で頭を上げた。

 

「ほ、本当ですか銀華様!」

 

「勿論……」

 

大手を上げて、喜ぶ三人に、私は軽く手を上げ、後ろに箒やら竹刀やらを持って構えている女子達に指示を出す。

 

「許さない。者共、行けぇ」

 

「「「ぎゃああああああああああ!!!!」」」

 

取り敢えず、女子達に後は任せて、私は校舎へと戻る。しかし、何故だろう? 先程から、懐かしい気配を感じる。それは、とてもとても親しくして、その人はもうこの世にはいないはずなのに。

 

「あら、銀華ちゃんじゃない」

 

「ササン・カラビア」

 

エメラルドグリーン色のポニーテールに、スラッとした長身。顔は美人の部類に入るが、胸は……うん、ちょっと小さい。この学園三大美女の一人に入っている人、ササン・カラビア。

 

そんな彼女が、物思いにふけりながら廊下を歩いている私の背後から声を掛けてきた。

 

「なんでフルネームなのかしら」

 

「驚いたからです」

 

この方も、リアスと同じ上級悪魔。だけど、その名前はあまり有名ではない。けれども、その力は、若手の上級悪魔の間でも、一目置かれている程。なのに有名じゃないと言う二三転した矛盾を持つ人。

 

「そう。それにしても、何を物思いにふけっていたの?」

 

「ちょっと、懐かしい人の気配を感じましてね」

 

窓の外を見ながら、雲がゆったりと流れている雲を眺める。ただ、雲は流れているだけ。それが、とても気持ちよさそうに見える。

 

「そう……それにしても、最近あの子達も騒がしいわね」

 

窓の外を見ている私の隣に来て、ササンは変態三人組の方を眺めてながら言ってくる。そこには、女子達に箒で叩かれながら、なんとか逃げ出そうとしている変態三人組がいた。

 

「別段、いつもと変わらないと思いますけど?」

 

「気づかないかしら? ……いえ、気づいているのでしょうけど、まだ漠然としてるって感じかしらね」

 

意味の分からない事を言いながら、ササンは変態三人組の一人……兵藤一誠を見ている。その見ている表情は、どこか笑っているようで、少しだけ口元がつり上がっていた。

 

「あ、そうそう。明日か明後日辺りに、新しい担任が来るから、楽しみに待ってなさい」

 

「はて? どうしてですか?」

 

「ま、それはお楽しみってことで。じゃあね~」

 

後ろを向きながら手を振り、ササンはそのまま歩いて行ってしまった。

 

一体なんで私が新しい担任を楽しみに待ってなきゃいけないのでしょう? ……ま、それはササンの言った通り、楽しみに待ってましょうか。

 

「っとと、そろそろ時間ですね。戻らなければ」

 

休み時間もそろそろ終を迎えてきているので、教室へと戻る。明日の担任とやらを楽しみにしながら。

 

 

 

「は~あーい、元気にしている?」

 

「あぁ、元気にしているよ」

 

旧校舎にある、一室の中に入ると、私の『騎士(ナイト)』がスーツを着て、ソファーへとどっかりと座っていた。見た目は二十やそこらなのに、雰囲気は歴戦の戦士を想起させる。事実、悪魔に転生する前は、あらゆる戦いをしてきたのだから、そう感じるのは当然か。

 

「まさか、この歳になってスーツを着るとは思わなかったよ」

 

「何言ってるのよ。貴方は悪魔になったのだから、まだまだ若いわよ」

 

「……そうだな。感謝してるよ、ササン。あの時、君が助けてくれなかったら、私は後悔したまま死んでいたよ」

 

哀愁漂う表情で彼はそう言うと、ソファーに前のめりなって座り直した。

 

「いいえ、私も私の為に貴方を転生させたのだから、感謝は無用よ」

 

「ハハハ、そういう事にしとくよ」

 

乾いた笑いをする彼の向かいのソファーに座り、私は腕を組む。別にこうする必要は無いのだが、なんとなく気分ってやつよ。

 

「それで、この学園はどういう感じ?」

 

「素晴らしい学園だ。気候は日本故に問題は無いし、何より面白い人物達が勢ぞろいしている」

 

ニヤリと口を三日月のように歪めて、彼は面白そうに笑った。まぁ、面白い人物達がいると言うのは、私も認めている。リアスにその眷属。それにもう一組の悪魔の眷属達。そして、あの二天竜の一角もいるし。

 

「さて、ではそろそろ私は帰らせてもらいます。明日の準備もありますし」

 

「そうね。それじゃあ、また明日学校で会いましょうね」

 

「はい。では」

 

頭を下げた彼は、ソファーから立ち上がると、部屋の出口へと向かった。ただ、それだけ。ただ、それだけだと言うのに、彼の動きが見えなかった。それは彼にとっては普通に歩いただけであって、決して自分の神器(セイグリット・ギア)の力は使ってない。これは、彼の素の力なのだ。

 

「全く……恐ろしいものだわ。そして……」

 

一人部屋に残った私は、自分で悪魔へと転生させた彼を思い出しながら、身震いした。恐怖等の感情で身震いした訳ではない。身震いしたのはたんに興奮したため。

 

「最高に刺激的だわ」

 

 

 

「監視……ですか、リアス?」

 

「そうよ、銀華」

 

授業も全て終わり、私はリアス達が作っている部活の部室へと訪れていた。

 

オカルト研究部。それは建前じょうであり、本来の目的は、リアス達の眷属が悪魔としての仕事をする的な部活だ。

 

そんな部室に顔を出してみれば、唐突にリアスにそんな事を言われた。

 

事の発端はこう。まず、この学園に、赤龍帝と言う、二天竜の一角を封印した神器(セイクリッド・ギア)を宿す学生がこの学園にいるとの事。それで、なんかそいつが色々と狙われてるし、自分の眷属にしたいとかなんやかんやで、監視しろと。

 

「なんやかんやって何よ」

 

「心を読まないでください」

 

「声に出てるのよ」

 

「これは失礼。……それで、誰を監視すればいいんですか?」

 

「この子なんだけど」

 

そう言って渡してきたのは一枚の写真。そこに写っているのは……。

 

「やめていいですか?」

 

「その気持ち、わかるけどもお願い」

 

この学園三大変態の一人、ツンツン野郎こと兵藤一誠……イッセーの姿が映っていた。確かに、彼には何かしら私と似通った物を感じてはいたけども、まさか変態に赤龍帝の神器(セイクリッド・ギア)が宿ってるなんて……世も末ですね。

 

「じゃあ、お願いね」

 

「はぁ、わかりました。監視はこっちでこっそりとしますよ」

 

「よろしくね」

 

写真を胸ポケットに仕舞いつつ、私は部室を出た。もう、ここにいても用はないし、監視にも行かなければならないからね。

 

そうして、学校の外に出ようとすると、向こう側から男性が歩いてきた。年齢的には二十やそこら。どことなく、歴戦の戦士のような雰囲気を醸し出しているが、それは気のせいだろう。

 

今の日本、どれだけ頑張ってもこのような雰囲気は出せない。海外の戦場を駆け巡ったりすればこのような雰囲気を出せるかもしれないが、そんな稀有な人間はこんな学園なんかには来ずに、ずっと戦場にいるだろう。

 

だから、これは気のせい……と思いたのだけど、どうしてだろうか? 彼から目を離すことができない。

 

「……」

 

「……」

 

男性はすれ違いざまにチラッとこちらを見た後、無言で学園の方まで歩いて行った。

 

もしや、彼がササンの言っていた新しい担任とやらなのだろうか? それならば、なんでササンは彼の事を楽しみに待ってろと言ったのか……まぁ、そんなことはどうでもいいか。

 

姿が見えなくなるまで男性を見ていた私は、見えなくなると同時にイッセーを探しに歩き始めた。

 

彼の気配は、私の霊的な瞳(アウラー・オブ・ヴィジョンアイ)である程度の場所はわかるのだが、どうも他のオーラが見えて仕方がない。

 

「そういえば、さっきの男性のオーラを見るのを忘れてました」

 

振り返るが、そこにはもう男性の姿はない。……また今度でも別にいいですかね。

 

「ま、いいです。行きましょうかね」

 

イッセーの気配の元まで行きますか。すごく嫌ですけど……。

 

 

 

「さて、ここまで来ましたが、なんとまぁ厄介なことに巻き込まれてますね」

 

あれから数十分程探し回っていると、民家の屋根の上からイッセーの姿を見つけた。ですが、ありえないことになんと彼の隣には女性がいたのです。見た目は隣町だかどっかの学生服を着た、中々の美人。変態のイッセーには不釣り合いすぎる。これは、天変地異の前触れなのではないのでしょうか?

 

「でも、あの気配、人間じゃないですね」

 

見た目は確かに美人……なのだけど、中身は人間じゃない。あの中身は……ふむ。どうやら堕天使の気配を感じるから、堕天使のようですね。

 

やはり、イッセーの中にある神器(セイクリッド・ギア)の存在の確認でしょうか? それなら、あのイッセーと共に歩いている理由にもなりますが。

 

それに、何やら話しあってるようですし……これは予測ですが、恋人のフリでもして、神器(セイグリット・ギア)の確認といった所でしょうかね。

 

「っと、何やら話しも終わり、別れるようですね」

 

二人はそれぞれお互いに手を振ると、正反対の方に歩き出した。

 

さて、ここでどうしましょうか? イッセーを追うか、さっきの堕天使の女を追うか……ここはイッセーでいいでしょう。女の方は、監視の手伝いを要請されていないのでね。

 

民家の屋根を蹴り、壁や民家の屋根を歩きつつ監視したが、その日は特に何もなくイッセーは無事に帰路へと着いた。

 




如何だったでしょうか?

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第三話 馬月雨天

「……っと、そんな訳です」

 

「そう……ありがとう、銀華。この後も、引き続き監視をお願いしてもいいしら?」

 

「いいですよ。では、これからも続行します」

 

イッセーの監視をした次の日。私は朝一でリアスの元へと行き、昨日の報告をしていた。別段、特に変わった事はなかったが、それでも一応の報告は必要だろうと思ったから。

 

それで、再び監視の手伝いをすることになった。まぁ、私も別に一日だろうが二日だろうが変わらないので了承した。……流石に十日とか一ヶ月とか言われたら断りますが。

 

「それと銀華のクラスの担任。新しい先生になったから」

 

部屋を出る途中、リアスがそんな事を言ってきた。

 

「その事なら知ってますよ。ササンが言ってました」

 

「あらそう。ちなみに、その先生は、ササンの眷属らしいから、仲良くして頂戴ね」

 

ってことは、新しい先生は悪魔だということですか……ま、私は悪魔じゃないので関係ないですが。

 

それにしても、昨日の男の人は悪魔だったんですね。あの時はそんな気配は感じなかったですけど……。

 

「えぇ、分かりました。それでは、失礼します」

 

それだけを言い、私は部室を出た。

 

 

 

「……銀華先輩。おはようございます」

 

 

「おはよう、小猫ちゃん」

 

旧校舎を出て、新校舎へと向かっている途中、向かい側から来た後輩に挨拶をされた。

 

彼女の名前は塔城小猫ちゃん。我が校のマスコット的存在である。その姿は、白髪のショートカット? に小さな体。一部のロリコン共から好評で、なんかファンクラブがあるとかないとか……。

 

猫っぽい見た目みたいで無口な子だが、この子はリアスの眷属である。『戦車(ルーク)』の駒の保持者で、ツッコミ役。

 

「……何か失礼なこと考えてませんでしたか?」

 

「別に考えてないよ。それにしても、どうしてここに居るの? もう、授業始まっちゃうよ?」

 

「……いえ、少し風に当たりたかった気分だったので」

 

「ふ~ん」

 

明後日の方向を見ながら、小猫ちゃんは言ってくる。

 

その気持ちはなんとなくわかる気がする。私も今、無性に彼の事を思い出しているから……。

 

彼との戦場。彼との生活。そして、彼との旅。何故か無性に今、思い出しているのだ。なんででしょうね? 今彼の事を思い出すなんて……何かの前触れか何か?

 

ま、小猫ちゃんの場合は、私とは違う思いがあるんだろうけど。

 

「っとと、早く行かないとね。一緒に行こうか、小猫ちゃん」

 

ぼーっとしていたせいか、時計を見れば、もう朝のホームルームが始まる時間になりかけていた。

 

「……はい」

 

 

 

「おはよう」

 

「「おはようございます!! 銀華様!!」」

 

小猫ちゃんと教室の前で別れて、教室に入ると、敬礼をした状態で挨拶をしてくる松田と元浜が現れた。

 

ぶっちゃけうざい。ってか、周りの視線を気にしないでやってる辺り、こいつら狙ってるのですかね。

 

……ん? そう言えば、イッセーがこの二人と一緒にいないのは不思議ですね。さて、どこにいるのやら……。

 

なんて、教室を見渡してみると、俺勝ち組っすから! みたいな表情で、ドヤ顔しながら机に座っているイッセーがいた。

 

正直言うと、可哀想。折角彼女が出来たというのに、その彼女は堕天使なのだから……自分が殺されるかもしれないのに。……本人はそんなこと知らないでしょうが。

 

「まあ、おはよう。ゴミ二人」

 

「「ありがたきお言葉!!」」

 

取り敢えずゴミ二人を放置して、予鈴がなると同時に席に着いた。

 

予鈴がなってしばらくすると、一人の男性が威風堂々と教室のドアを潜ってくる。その姿に、教室にいる皆は、一様に息を詰まらせ、いつもなら先生が入ってきても話をしている男子たちも黙ってしまう。

 

髪は黒色のオールバック。顔はイケメンで、私達とたいした年齢差が無いように見えるほどの外見。普通なら、女子の黄色い声が上がったとしても不思議ではないが、彼の纏っている雰囲気のせいで、そんな事を女子達はできないでいる。

 

「今日から、このクラスの担任になる、馬月雨天(ばつきうてん)よろしく」

 

そんなクラスを見渡した彼は、自分の名前を黒板に書くと、ニッコリと笑った。

 

その表情は、まるで年季に入ったお爺ちゃんのよう。普通ならそんな感想を抱くべきではないのだろうが、何故かこの人の笑顔はそう受け止められる。

 

笑顔を浮かべた彼によって、彼の纏っていた雰囲気が霧散する。そのお陰で、クラスの皆も、いつもの調子を取り戻した。

 

「さて簡単な自己紹介はこれで終わりにするから。次の授業の準備して待ってろよ」

 

彼……雨天さんはそれだけを言うと、そのままクラスを出て行ってしまった。もう少し、自己紹介のなんかはないのかと思うが、別にいいか。後で、リアス達の所で自己紹介すればいいよね。

 

そうして、次の時間の準備をして、私は席に座って授業を待つのであった。

 

 

 

「どう? 初めての教師は?」

 

「慣れないものだ」

 

クラスのホームルームを終わらせた私の『騎士(ナイト)』に、窓の縁に座りながら声を掛ける。

 

「その内なれるわよ……で? どうだった?」

 

「……成長していたよ。たかが一年会ってないだけで、かなり大人びてたよ。クラスの友達とも仲良くやってるようだし」

 

彼はその顔に微笑みを浮かべつつ、まるで我が子を自慢するかのように言ってくる。……いや、実際我が子なのかな? 育ての親なんだから。

 

「それは良かったわ」

 

「あぁ。それに、面白い子もいたな」

 

「二天竜の子?」

 

「そう。見た瞬間、私の神器(セイグリット・ギア)が興奮して大変だったよ」

 

それは大変だった事。彼の神器(セイグリット・ギア)は、二天竜と浅はかならない因縁を持ってるのだから、興奮しても仕方ない。それを気合だけで押し込めた彼も彼で凄いけど。

 

「じゃあ、そういうことで。ササンも、早く教室に戻るんだぞ?」

 

「私は心配しなくていいわ。単位なら、三年間授業にでなくても有り余るくらいもらっているから」

 

「それは、ありえないだろ」

 

呆れた表情のまま、彼はため息を吐くと、ゆっくりと歩き出して、私の肩に手をおいた。やっぱり、動きが見えない。これで、刺されでもしたら、大変なことでしょうね。

 

「まぁ、それでも、青春の一ページとして授業に出ることをお勧めするよ」

 

「肝に銘じとくわ」

 

耳元で呟いた彼は、そのまま私の肩から手を離すと、歩いて行ってしまった。

 

振り返り、彼の姿を確認しようとすると、そこには彼の姿はない。相変わらず、ありえないスピードを出すわね、彼。

 

「ま、そんな所がいいから眷属にしたんだけれどね」

 

再び振り返り、正面を向いた私は、自らの教室に、鼻歌を歌いながら向かうのだった。

 

 

 

「うーん。ようやくこれで、全部の授業が終了しましたね」

 

全ての時間の授業が終了し、雨天さんによる帰りのホームルームがようやく終わった。

 

さて、さっさと部室に向かいましょうかね。雨天の事も自己紹介して欲しいですしね。……あ、イッセーの監視、どうしましょうか。……ま、後ででもいっか。

 

「銀華さん」

 

「おや、木場君」

 

部室に向かおうと、カバンを持って教室を出ると、隣のクラスから、ある意味幼馴染の木場君が現れた。

 

木場祐斗。イケメン。金髪。以上。

 

後、私と同じ、聖剣計画の生き残りの一人でもある。その為、彼とは面識はあるのだが、私は天馬さんのお陰で、あまり過去を引きずってはいないが、彼はかなり昔の事を引きずっている。……それは、まぁ、今度ということで。

 

「銀華さん。一緒に部室に行かない?」

 

「別にいいですよ」

 

二人で横に並び、廊下を歩いていく。

 

なんか、女子たちから、「キャ――――!!! 美男、美女カップルよ―――!!」とか、「クソ、木場の野郎め、あの銀華さんに手を出すなんて!!!!」とか、「大丈夫よ!! 木場君はホモだから!!」とか。なんか、よくわからないことが囁かれている。

 

「木場君。ご愁傷様」

 

「ハ、ハハ……」

 

苦笑いを浮かべるイケメン。困っているイケメンというのは、なんかとても情けなく感じた。

 

 

 

「こんに……ち、は?」

 

「リアス、こんにち……は?」

 

部室の扉を開けて中に入ると、そこには、頭を抱えて、ササンとチェスをしているリアスの姿があった。

 

チェスはリアスの劣勢。どこをどう足掻いても、この戦況はひっくり返らない。

 

「は~あーい 銀華ちゃん、木場君。こんにちは~」

 

余裕で腕組みしつつ、リアスを見下しながら、ササンはこちらに挨拶をしてきた。そして、そんなササンの隣に、ソファーに座った小猫ちゃんにケーキを出している雨天さんの姿ある。

 

「リアス、諦めなさいよ」

 

「むぐぐ、ま……まだ、よ」

 

「もう。そう言ってから、二分は経つわよ」

 

取り敢えず、チェスをしているリアスとササンを放置して、私と木場君は、小猫ちゃんの座っているソファーの向かい側に座る。

 

「雨天さん。私にもケーキをくれると嬉しいのですけど」

 

「どうぞ」

 

言葉はぶっきらぼうだが、雨天さんは一瞬で私の前にケーキとファーク、そして紅茶を入れて置いてくれる。

 

そのスピードは異常までに早く、私の目ですら追いきれなかった。それに―――

 

「美味しい」

 

「……それ、雨天さんの手作りだそうですよ」

 

「へ~」

 

ケーキの美味しさがやばい。こう、言葉では現れない程に美味しい。更に、紅茶を一口飲むが、ケーキとの相性は抜群で、とても美味しい。

 

「美味しいです、雨天さん」

 

「それは良かった」

 

無愛想にそれだけを言うと、雨天さんはササンの傍らに立ち、リアスに二、三助言を加え始める。

 

「ここと、ここ。で、ここをこうすれば……」

 

「あ、ああ!! そういうこと」

 

「さっすが、私の『騎士(ナイト)』よくわかってるじゃない」

 

雨天さんの助言に、チェスの情勢は一気に逆転し始めている。この位置からは見えない為、その後どうなったのかは分からないが、結局最後にはリアスが負けてしまった。

 

「あ~あ、負けてしまったわ」

 

「まだまだね、リアス。その程度じゃあ、私を倒せないわよ」

 

「む――! いいもん。今度、絶対勝ってやるんだから」

 

お姉様風を吹かせているリアスだが、実は子供っぽいところもある。事実、今負けがこんだリアスは、子供っぽく頬を膨らませたし。

 

「それは置いといて、ササン。貴方の眷属の自己紹介をお願いできるかしら?」

 

「リアス。その前に一ついい?」

 

ササンが喋りだす前に、私はリアスに手を挙げた。

 

「なに? 銀華?」

 

「朱乃がいないんだけど、どうしたの?」

 

「朱乃には今、イッセーの監視を任せているわ」

 

な~るほどね。どうりでいないわけだ。実質その仕事は私がするべきなんだろうけど、今は朱乃に任せましょう。私にだって、休みが必要だからね。

 

「で、ササン?」

 

「わかったわ」

 

リアスの言葉に、ササンは一度頷いて、胸の前で両手を組んで右手の人差指をピンっと立てた。

 

「ササン・カラビア……は分かっているわよね。それじゃあ、私の説明は省いて。こちらが今回新しく入った、『騎士(ナイト)』の馬月雨天。他の眷属は皆も知ってると思うから、今回は新しく入った彼だけを紹介するわよ。雨天」

 

「馬月雨天。元人間の転生悪魔だ。これでも一様皆よりは最年長者だ。よろしく」

 

簡潔に自己紹介を終えた雨天さんは、その場で頭を下げる。

 

「それじゃあ、雨天。こっちの眷属の自己紹介を……」

 

「いや、結構」

 

リアスが私たちの事を紹介しようとするが、雨天は手を前に出すことによって、拒否する。

 

「こちらは、そっちの素性を全て知っているので、大丈夫だ」

 

……? 一体何故私たちを知っているのだろうか? ……ササンにでも教わったのだろうか。

 

そういう疑問を持っているのか、周りの皆も私同様、同じ表情をしている。

 

「雨天には、私から貴方達の事を教えたわ」

 

「そう。そういう事は先に言ってよね」

 

やはりそうだったのか。でも、どうしてだろうか? 感覚的に、ササンから雨天が教わったって感じがしない。なんて言うか、最初っから知っているたような気が……。

 

……そうか、私の霊的な瞳(アウラー・オブ・ビジョンアイ)で確認すればいいだけじゃない。一応、嘘発見器のようなことも出来るから。

 

「発動」

 

ボソッと小声でいい、私は霊的な瞳(アウラー・オブ・ヴィジョンアイ)を発動する。

 

うん、嘘は言ってない。………って、え!? このオーラって、まさか……でも、だってあの人はいないはずじゃあ……それに、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)での、悪魔の転生は不可能なはず……。

 

「それじゃあ、今日は私達は帰るわね」

 

「あ……」

 

霊的な瞳を使う事に集中している間に、雨天とササンは部室を出て行ってしまった。

 

あれは、あれは一体誰だと言うの……。やはり、あの人なのだろうか……。

 

「天さん……貴方、なのですか……」

 




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第四話 イッセーの失恋

彼――――雨天が教師としてやって来てから、二日が経過した。

 

未だに彼だという確信が得られないままだったが、一応彼とは仲良くしながら、探りを入れつつ学校生活をしている。

 

直接聞けばいいのかもしれないが、それでは彼にはぐらかされてしまい、真実かどうかの確信が得られない。なので、じわりじわりとこっそり探っているというわけ。

 

そんなある日の土曜日、イッセーに動きがあった。正確にいえば、堕天使の方なのだが。

 

「ほほう、なんとまあ、ロマンチックだこと」

 

電柱の側面に垂直にくっつきながら、イッセーのいる公園の一角を見る。

 

そこには、ベンチに座り、夕日をバックにしてロマンチックな雰囲気を醸し出している、イッセーと堕天使の姿があった。

 

そんなベンチに座っている二人の内一人、堕天使の方が立ち上がり、夕日をバックにして立ち上がる。

 

その姿は、幻想的な印象をイッセーに与えてるんだろうな~私的には、ちょっと気味悪く感じるけど。

 

……おっと、これはこれは、イッセーの奴、キスされると思っているのか、頬を緩ませて、立ち上がったぞ。

 

「でも、これはちょっとマズイですね」

 

電柱の側面から降りて、地面に着地し、霊的な瞳(アウラー・オブ・ヴィジョンアイ)を発動しながら、イッセーのいる公園へ走っていく。

 

霊的な瞳(アウラー・オブ・ヴィジョンアイ)の効果として、長距離の光景くらいは、まあ見れる。ただ、あんまり長距離を見ていると、目が痛くなるけども。

 

っと、やっばいなあ。堕天使の奴、とうとう本性晒して、翼なんか出し始めたよ。それだけならいいけど、光の槍まで出して、イッセーを殺そうとしてますよ。

 

「間に合うかな?」

 

本気で走ってはいるけども、なまじ距離がある為、間に合うかどうか分からない。

 

ちょっとした説明に入るが、霊的な瞳(アウラー・オブ・ヴィジョンアイ)の副効果的なもので、その、なんて言うかこの瞳は、人の悪意とか善意とかそんな未知の誰しもが持っているオーラというものの機微を見て、嘘か見分けていた……ってのは、前に言いましたよね?

 

で、そのオーラって言うのは、実は肉体強化も出来たりもする。これは、彼――――天さんと共に旅している時に気づいたものだが、その見えてるのを応用して、自分のオーラを自己の強化に回せないかなと思ってやってみたら出来たわけ。

 

それと、自分のオーラを操れば、電柱だってなんだって貼り付けるられるんですよ? 勿論、電柱だけではなく、なんにだって貼り付くことだってできます。……これ、ちょっとしたお金稼ぎができるかも……。

 

まあ、それはいいとして、今はそのオーラってやつで足を強化して、自動車並の速度を出しているわけだけど……まっにあうかな~。

 

「あ、駄目だわ。間に合わない」

 

後一分……いや、三十秒あれば着いたけど、もうイッセーに光の槍が放たれていた。

 

こりゃあ、間に合わない。もう、光の槍が刺さったな……と、思ったら、意外な人物がその場に現れた。

 

「あれは……雨天さん?」

 

雨天さんは、光の槍がイッセーに刺さる直前に、素手で横から握り止めた。

 

「何をしている?」

 

「誰よ貴方!」

 

「この子の学校の教師だ。悪いが、俺の生徒に出だしはさせんぞ」

 

私が公園に到着すると同時に、雨天さんは握っていた光の槍を握り潰すと、イッセーの前に立ち、堕天使を睨みつける。

 

「っ!?」

 

光の槍が握りつぶされた事と、睨まれた事によって、堕天使は息を飲む。

 

その気持ちはわかる。雨天さんの睨みつけてくる瞳が、なんというか、その、一言で言うなら怖い。でも、懐かしすらもある。

 

昔っからあの瞳を、私は見ている。それも、ごく最近、そう、一年前まで。

 

……やっぱり、貴方なのですか、天さん。

 

「堕天使レイナーレ。一度のみ忠告する。この場を去れ」

 

「なにを……」

 

「去らんか!」

 

「ヒッ!」

 

「ッ!?」

 

雨天さんが大声で堕天使に一喝すると、大気が震え、周りの砂は舞い、木々はまるで台風のように揺れる。

 

迫力のありすぎる一喝に、堕天使は小さな悲鳴を上げると、自分で飛ぶことも忘れて、涙目になりながら走って逃げ始めた。……あ、転んだ……。

 

「う、雨天、先、生……」

 

呆然としているイッセーは、なんとか喉から声を搾り出すと、雨天さんに向かって手を伸ばした。

 

「せ、先生は一体……」

 

「すまんな」

 

「ッ!?」

 

イッセーの言葉が終わる前に、雨天さんは振り返りながら歩き、イッセーの首の後ろを手刀で叩き、気絶させた。

 

……動きが見えなかった。私が言ったのはあくまで結果であって、その過程は想像に過ぎない。

 

もしかした、雨天さんは他に腹を殴ったり、首筋を押さえて気絶させたりしたのかもしれないが、その全ての動きが見えなかった。

 

この動き、やっぱり天さんなの……? いや、天さん意外にこんな動きが出来るはずがない。

 

時が遅くなったような、早くなったような、言いようのないこの感覚。あの人の神器(セイクリッド・ギア)意外にありえないはず……

 

「銀華、後は頼む」

 

「え、あ……」

 

「じゃあな」

 

気絶したイッセーを放置し、隠れて雨天さんから見えていないはず私に、雨天さんは声を掛けてから、その場を去る。

 

何も言えずに、ただ見送る……はずだったのだが、いつの間にか雨天さんの姿が消えた。

 

見えていた……のにも関わらず、消えた。認識できなかった。そもそも、元からそこにいなかったような感覚さえ感じる。

 

「……雨天さん。貴方は一体、誰なのですか……」

 

小さな言葉を発すると同時に、イッセーの体から、リアス家特有の真っ赤な魔法陣が現れた。

 

 

 

「そろそろ、動き始めるわね」

 

自分の自室に篭もり、椅子に座って紅茶を飲みながら呟く。

 

誰もいない室内……のはずなのだけど、室内の一室に、薄らとした気配を感じる。

 

「あら、帰ってきてたの?」

 

「やだな~姉さん、気づいていたくせに」

 

室内の気配がドンドン大きくなり、紅茶を飲んでいる私の向かいに、紫色のポニーテールのスタイル抜群女性が椅子に座った。

 

「気づいてはいたけど、いつにもまして、気配が薄かったわよ」

 

「おお、褒められるとは、嬉しいですねぇ。あ、紅茶貰っていいすか?」

 

「はい」

 

「ども」

 

ティーポットとカップを渡し、自分で注ぐように渡す。

 

全く、主に注がせようとするなんて、とんだ眷属よね。まぁ、それが彼女の良いところなんだけどね。

 

彼女はカップに紅茶を注ぎ、角砂糖を五個も入れて、一気に飲み干す。

 

うわぁ、ちょっと流石にそれは引くわ~多すぎるでしょう、五個なんて。

 

「んぐ。ごちで~す」

 

「はいはい……それで?」

 

「と言いますと?」

 

とぼけたように彼女はそっぽを向くと、ニヤニヤとした笑いを口元に浮かべる。

 

「とぼけないでいいわよ。アレの状況よ、アレ」

 

「いやあ、なんにもないっすよ? まだ、堕天使の陣営にいるようですし。……ああ、でも、なんかあの組織と繋がってるとかないとか」

 

「ふ~ん、な~るほ~どね~。まだ動きはないか。つまんないわねえ。でも、いっか。今は、この街に面白いものがいっぱいあるしね」

 

笑を浮かべながら、目の前の彼女に向かいながら言う。彼女も私と同じように笑を浮かべる。

 

ふふふ、早く覚醒してくれないかしらねえ、赤龍帝君。家の『騎士(ナイト)』も楽しみにしてるし、私達も大いに楽しみにしてるし。

 

「ああ、早く覚醒して欲しいわね。赤龍帝君に白龍皇君」

 

「ええ、楽しみっすねえ。……それじゃあ、私はこの辺で、またなんかあったら報告しますわ」

 

「よろしく、『僧侶(ビショップ)』。メルト・コカトリス」

 

 

 

イッセーが気絶させれた次の日の放課後、私はリアスに部室へと呼び出されていた。

 

「失礼します」

 

「入って頂戴」

 

部室の扉を叩き、中に入ると、そこにはリアス一人だけがソファーに座って紅茶を飲んでいた。

 

一体、何の御用でしょうねぇ。相手の気持ちも無視して、勝手にイッセーを眷属にしたリアスさんは。

 

昨日、あの後、イッセーの元へと現れたリアスは、死んでいると思ったイッセーに、急いで眷属の駒、つまり、悪魔の駒の『兵士(ポーン)』の駒八個も使って、眷属悪魔にしたのだ。

 

けども、実はイッセーが死んでいなかったと気づいたリアスは、やばいって表情を浮かべて、あたふたしてたなぁ。

 

あの時の表情ったら……プッ。

 

「なに、笑っているのよ」

 

「いえいえ、なんでも」

 

必死に笑いを堪えながら、なんとかリアスの顔を見る。

 

「は~まぁいいわ」

 

リアスはため息を吐くと、私にソファーに座れと指で促してくる。その指に従い、リアスとは反対側のソファーに座ると、リアスは足を組んで息を吐いた。

 

「それで、なんで今日は呼んだの?」

 

「実は、イッセーをしばらく放置しておこうと思ってね」

 

……何を言ってるのだろうか、この馬鹿は。

 

いやいや、ダメでしょう。悪魔だって本人は知らないのに、それを放置しておくなんて。そんなことしたら、たちまち堕天使とか天使とか悪魔とかにはぐれ悪魔扱いされて、殺されてしまうよ。

 

はぐれ悪魔ってのは、簡単に説明すると、自分の主を殺したり、もしくは悪さをし続ける奴らの事を言う。そいつらは、どの陣営も問わずに殺していいことになっている。

 

「放置してたら、あの子死ぬよ?」

 

「そうかもしれないけど、でもね、自分で悪魔だって気づいて欲しいのよ」

 

「な~に言ってるん? あんさん馬鹿でっか?」

 

んなもん、一般人が気づくわけないがな。せいぜい、ちょっと身体能力が高くなったなあとか位しか思わないよ。

 

なんか、私の言葉でキョトンとしているリアスに、私はソファーにふんぞり返りながら話す。

 

「ん、んん……えっと、わからなかった? なら、もう一度言うけど、貴方は馬鹿ですか?」

 

「いやいやいやいや、二度も言わなくていいわよ! ちゃんと聞こえてわよ! それで、なんで私が馬鹿なのよ!」

 

「分からないのなら言ってやろう。まず一つ目、普通、そんな悪魔になったとかは、一般人は分からん。二つ目、そもそも、主も分からないのに放置していたら、はぐれ悪魔と間違われて殺されかねない。そして、三つ目、仮にもイッセーは一般人なので、どこの陣営に見つかっても、逃げきれずに即死です。以上、三つのことにより、お前は馬鹿かと言いたい」

 

ぐうの音も出ずに、リアスは黙ってしまった。

 

「ぐう……」

 

訂正、ぐうの音は出ました。

 

「で、でも……」

 

「そもそも、放置しておくメリットがゼロじゃない。なのに、それでなんで放置しておくの?」

 

「そ、それは……!」

 

「ほら、いわんこっちゃない」

 

リアスの何かを言いかけた時、私とリアスはちょっとした異変を感じた。それは、イッセーが現在、堕天使によって殺されかけているということ。

 

「い、行くわよ、銀華!」

 

「全く、世話の焼ける姉さんだ」

 

リアスが魔法陣を展開し、私とリアスはその魔法陣を介して、イッセーの元へと飛ぶのだった。

 




題名が思いつかない。
涙目レイナーレっていいと思いません?

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第五話 誤認されるイッセー

最近、ルビ振りが面倒になってきたgblihtです。
何か楽にルビ振りができる方法はないでしょうか?


「いってぇ! なんだよ、この痛み!

 

「どうします? リアス」

 

「助けるに決まってるでしょう!」

 

魔法で飛んだ先は公園。茂みに隠れ見ていると、そこには、帽子を被った堕天使によって、腹を光の槍で貫かれたイッセーがいた。

 

な~んでこの子はこの前、堕天使の奴に襲われたのに、またここに来てるんでしょかね? 馬鹿でしょうか?

 

「他の眷属に連絡は?」

 

「入れといたわ。朱乃はここにすぐ来るし、小猫も祐斗もすぐに来るわ」

 

「そうですか……っと、マズイですね」

 

リアスと会話していると、イッセーに二本目の光の槍が放たれようとしていた。

 

私の言葉で気づいたのか、リアスもそちらの方を向き、急いで滅びの魔力を指先に集中させる。

 

この滅びの魔力ってのは、リアスの母方の家系……確かバアル家だっけかな? だかの特有の物で、その名の通り、大体なんでも滅せる。でも、リアスはまだ、なんでも滅ぼせるわけではないですけどね……それでも、そこら辺の悪魔なら一発で滅ぼせる。

 

滅びの魔力を放ったリアスは、光の槍を消し去ると、飛び出していく。

 

全く、無鉄砲に飛び出さにでくださいよ。危ないったらありゃしない。

 

「リアス……先輩と……銀……華?」

 

あらら、最期の力を振り絞ったイッセーはそれだけを言うと、そのまま地面にうつ伏せになって気絶してしまった。

 

「何奴!」

 

「ただのクラスメートです!」

 

「そんな事を聞いてるんじゃない!」

 

「聞いてるじゃないですか、やだなあ、もう」

 

折角、答えてあげたのに、この堕天使ったら、光の槍を飛ばしてきましたよ。こっちは、ただのか弱い人間だっていうのに。

 

ま、これくらい光の槍、天さんとの修行中にいくらでも味わったので、なんともないですがね。

 

私は、飛んでくる光の槍を、両手にオーラを纏い、右手で弾く。そして、踏み込んで追撃を仕掛けるが、後ろに飛ぶことで躱されてしまった。

 

「貴様、何者だ」

 

「だから、クラスメートだって言ってるじゃないですか」

 

拳をぶらぶらと振りつつ、目の前の堕天使に言うと、リアスが後ろから一歩踏み出してきた。

 

「ここを引くつもりはないかしら、堕天使さん?」

 

「……その紅の髪……なるほど、貴様グレモリーの者か」

 

堕天使は帽子を深く被り直すと、服に付いていた埃を落とす。

 

気取った堕天使ですね。なんか、ちょっとイラッときます。殴っていいでしょうかね?

 

「そちらの者は、貴様の下僕か?」

 

「えぇ、そうよ」

 

「そうか……ならば、飼い離しにしとくのはやめといた方がいい、でないと、私のような通り過ぎの堕天使に狩られるぞ」

 

それだけを堕天使は言うと、踵を返して、夜の闇に溶け込むように飛んでいってしまう。今だ!

 

「やめなさい」

 

「あだっ」

 

クソ~何をするリアス。折角後ろを見せたから殴ろうとしたのに、なんで足を引っ掛けて転ばすんですか。

 

障害は早い内に叩いとく! ならば、今しか!

 

「……やめてください。銀華先輩」

 

「いたい……小猫ちゃん」

 

地面に倒れていると、私の上にいつの間に来たのか、小猫ちゃんが乗ってきて、右肘の関節を決めてくる。

 

「えぇ、そうですわよ、銀華ちゃん」

 

「痛いです、朱乃さん」

 

地面に倒れていると、その上にいつの間に来たのか、朱乃さんが乗ってきて、左肘の関節を決められてしまう。……なんか、デジャヴ。

 

それより、肘痛い。なんで二人とも、私の肘を決めるんですか。しかも、息もぴったりですし、威力も中々……ってか、本気です。

 

流石の私でも、折れますよ。私、これでも人間なんですから。光の槍とかへし折れますけども。

 

「朱乃、小猫、離してあげなさい」

 

「はい、部長」

 

「……分かりました」

 

やっぱり、二人とも息ピッタリで、同時に離してくれる。

 

いや~痛かった。後、二百秒位で折れるところでしたよ。

 

「よっこいしょっと……さてリアス、この子どうする? もう少しで死ぬよ?」

 

立ち上がり、イッセーの元まで行き、容態を確認すると、腹から血がどっぷり。息はほぼ無し。脈は……だいぶ弱ってますね。

 

さて、このまま、放っておけば死ぬね。

 

「それは勿論、助けるわよ。だって、その子は……」

 

そう言って、リアスはイッセーと一緒に転移魔法に入ると、そのままどっかに飛んでいってしまった。

 

多分、イッセーの家なんでしょうけど……なんか嫌な予感がするんですよね。例えば、全裸でイッセーと一緒に添い寝するとか……ま、ないな普通。

 

でも、普通じゃないからな、リアスは。

 

「すみません、遅れました!」

 

全てが終わると同時に、木場君が、公園にやって来た。そして、公園の状況を見て、全てが終わってると悟った木場君は……落ち込んだ。

 

……ふむ、ドンマイ、イケメン。

 

 

 

「ハローササン。ヤッホー」

 

「あら、ナリヤ、戻ってきたの?」

 

「戻ってきたよーっと、いや~なにこれ? 面白そうなことがこの街で起こってるようじゃん」

 

一人部屋で紅茶を飲んでいると、もう一人の『僧侶(ビショップ)』が部屋の中に入ってきた。

 

彼女の名前はナリヤ・エクスパレント。元人間で、彼の後に入った子。見た目は子供っぽく、腰まである水色の長髪に、薄紫の双眸。これで、結構な強さを眷属内でも持っている。

 

一応彼女は、彼より遅く入ったが、リアスたちには知られている。彼の方は、顔合わせする前に、ちょっと用事が入っちゃたからね。

 

それと、彼女にも、神器があるのだけれど……それは後でね。

 

「それで、仕事の方は?」

 

「一応、雨天を連れて猫の奴とは話してきたよ。いやー驚いてたね、あの猫。なんてたって、目の前にいるのが、命の恩人なんだからね。かなり、感謝してたよ」

 

「そう、それで、会った感想はどうだった?」

 

私は紅茶を一口飲み、部屋の隅っこに向かって声を掛ける。

 

「元気だった。妹さんもこの学校にいると言っていたな。それに、はぐれ悪魔扱いされてはいたが……まったく。完全な悪人ではなく、むしろアレは、主が最大限に悪いな」

 

「それなら良かった」

 

相変わらず低い声音で、彼はぶっきらぼうに答える。

 

彼、もうちょっと表情を表に出せばいいのに。そうしたら、かなりのイケメンなのだけどね。……それとも、アレかしら? こんな歳にもなって、はしゃぐのが恥かしとか? ……ありそうね。

 

「じゃあ、ここら辺であたしは……」

 

「ああ、ちょっと待ちなさい」

 

報告を終え、出ていこうとしたナリヤに声を掛け、一枚の紙切れを渡す。

 

「ちょっと用事があるから、あまり遠くには行かず、ここら辺にいて頂戴。むしろ、学校にいなさい……それと、そこに書いてあるもの、持ってこれるだけ持ってきて頂戴」

 

「わっかりましたーじゃあ、あたし、明日から学校に登校しますわ。ブツの方も、できるだけ早く」

 

「よろしく」

 

それだけを言うと、ナリヤは部屋から出ていった。

 

「ササン。さっき、イッセーが堕天使に襲われたが、どうする?」

 

「どうするって? そうね……まだ、放置でいいわ。貴方の言っていた堕天使の仲間かもしれないし」

 

この前、彼が会った堕天使の子。その子、なんか他の堕天使より光の密度が濃いらしいのよね……それが気になるし、もし、本当に他の堕天使より光の密度が濃かったなら……眷属に入れようと思ってね。

 

「わかった。しかし、もしイッセーが殺されそうになったら、助けるぞ。無論、他の生徒も襲われていたら助けるが」

 

「そこら辺は任せるわ。貴方のさじ加減でやって頂戴。ああ、それと、リアス達が堕天使を殺そうとしていたら、堕天使の方を助けてあげて」

 

「わかった」

 

彼は一言返事をすると、この部屋から消えた。

 

「さて、もう少しでパーティーが始まるわよ」

 

 

 

「で、イッセーを部室に呼んで来いと?」

 

「ええ、その通り」

 

堕天使にイッセーが刺された次の日、私はリアスに部室へと呼び出されてた。

 

なんでも、今日イッセーに悪魔だってことを伝えるんだそうだ。そのため、私にイッセーを呼び出して欲しいとの事。

 

ぶっちゃけ、嫌です。つか、めんどい。あと、変態だから。その他諸々の理由でやりたくない。

 

「ええっと、嫌です」

 

「そこをなんとか!」

 

部室の中で全裸になりながら、リアスは両手を合わせて、可愛らしく舌を出しながら言ってくる。

 

あざとい、あざとすぎる。そして、女から見れば、それは逆効果だ。

 

ああ、あと、リアスが部室で全裸なのは、別にリアスが痴女ってわけじゃないいんですよ?

リアスが全裸なのは、昨日、イッセーと添い寝したせいで、風呂に入れなかったからとか。

 

ま、案の定、添い寝の時は全裸だったそうですが……まあ、それは置いといて。それで、今は部室に備えられている風呂に入ろうとしているため、リアスは全裸になっているのだ。

 

しかし、どうしましょうか? リアスは私を頼っているようですが、めんどいので、誰か代わりになる人がいないですかね? 

 

……あ、いるじゃないですか、丁度いい人が。

 

「リアス、何もそれは私がやらなくてもいい仕事でしょう?」

 

「まあ、そうだけど……貴方が一番イッセーの事を呼ぶのが楽かなと思って」

 

「楽ではないけどね。じゃあ、別に私じゃなくていいんだね」

 

「ええ、別に呼んできてくれるなら、誰でもいいけど」

 

「そっか、じゃあ、あとは私に任せて。放課後、イッセーをここにこさせるから」

 

そう言って私は、部室から出て、自分の教室に向かっていく。

 

廊下を歩き、自分の教室に向かっていると、一人の小柄な少女が廊下を歩いていた。

 

「あれは……おーい、ナリヤー!」

 

「んお? おお、銀華ちゃんじゃあ、ないですかー」

 

最近学校に来ていなかったナリヤに、手を振りながら声をかけると、ナリヤはイカぽっぽを口に咥えたまま振り返り、手を振り返してきた。

 

「珍しいいですね、貴方が学校に来ているなんて」

 

「仕事が一段落ついたからね。今日から数日は学校に復帰だよ」

 

ナリヤの隣に並びつつ、廊下を一緒に歩く。クラスは、木場君のクラスなのだが、ま、途中までは一緒の道だしね。それに、彼女とは結構仲がいいし。

 

イカぽっぽを噛じりつつ、ナリヤはこっちを向いてくる。

 

「んで? 銀華ちゃんはどうしてこんな時間に? いつもはもっと早いじゃないですかー」

 

「リアスに呼ばれたんだよ……と、そうだ、丁度いい。ねえ、木場君にさ、放課後イッセーを部室に連れてきてって伝えてくれない?」

 

「木場君にかい? オッケーいいよー」

 

笑顔でナリヤは言いつつ、口に咥えていたイカぽっぽを丸呑みにして食べてしまった。

 

そして、手を頬に当てると、先程食べたイカぽっぽがあまりにも美味しかったのか、ニンマリと笑う。

 

「いやーやっぱり、イカぽっぽは美味しね。特に朝に食べるやつは」

 

「普通、イカぽっぽは朝に食べるものじゃないと思うけど?」

 

「いいんだよー、朝飯は人の自由さ! それじゃあ、銀華ちゃん。また放課後ねー」

 

「よろしくねー」

 

私のクラスの前で、ナリヤと分かれて、私は自分の教室に入る。すると、教室は一瞬静まり返ったかと思うと、ゴミ虫二人がいきなりひれ伏してきた。

 

「「銀華様!! その足で私たちを踏んでくださませ!!」」

 

「やだ、断る。誰が踏めと言われて踏むものですか。踏んで欲しかったら、全裸で教室に待機するくらいの気概は見せなさい」

 

な~んて、Sっけたっぷりで言ってやったら、ゴミ虫二人は悶えて、その場で四つん這いになってビクンビクン痙攣し始めた。うわっ、キモ。

 

そんなキモイものは無視して、私はクラスの友だちに挨拶しながら、自分の席に座る。

 

「なあ、銀華」

 

「おや? イッセー君ではないですか」

 

席に座り、教科書の準備やら何やらをしていると、急にイッセーが話しかけてきた。それも、結構神妙な顔で。

 

大方、昨日のことなのでしょうけど、今この場で話すわけにはいきませんし、そもそもリアスが説明するそうなので、ここは適当に誤魔化しときますか。

 

「なあ、銀華。昨日俺、お前の姿を見たんだよ」

 

「ほう、それはそれは、一体どこで?」

 

「それは、その……公園で、だよ」

 

「時間は?」

 

「夜中」

 

「ならそれは見間違いでしょう。私はその時、自分の部屋にいましたし、何より、女の子がそんな時間にウロウロしてるはずがないでしょう?」

 

イッセーに答えつつ、私は紙を出して、ペンで文字を書いていく。外国出身ですが、天さんのお陰で、五カ国語位は話せますし、文字で書けるんですよ? 凄いでしょう。

 

「そんな、とぼけないでくれよ! 俺、昨日お前の姿とリアス先輩の姿を……」

 

「イッセー」

 

「なん……!」

 

肝心の、一般人の知られてはいけない所まで口走ろうとしたので、私は紙に書いた文字を教室の皆に見えないようしながら、イッセーに見せる。

 

『話は放課後に話す。だから、それまで黙っとけ。分かったな? わかったなら、頷きながらわかったと言って、大人しく放課後まで待て』

 

「……分かった」

 

頷きながら、渋々といった感じでイッセーは自分の席に座る。

 

「さて、これで後は放課後を待つだけ」

 

一人呟いた私は、そのまま自分の席に座り、雨天さんが来るのを待つのだった。

 




如何だったでしょうか?

感想、アドバイス、批判、誤字報告、お待ちしております


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第六話 イッセー加入

遅いですが、暇があればこの作品も見てください。


「さて、放課後になってしまいましたね」

 

腕をまっすぐ上に伸ばして背伸びをしながらイッセーの席の方を向く。まだ席にイッセーは座っているので……逃げるなら今か。

 

そそくさと帰り自宅を済ませ、イッセーにバレないようにこっそりと教室を出て行く。私がいなくても、ちゃんと木場くんがイッセーのことを部室に連れてくるでしょう。なので、ここは、イッセーとの変な噂を立てられたくないので、去るに限る。

 

変な噂が立つのは、木場君とイッセーのホモホモしいBLの噂だけたっていればいいんですよ。

 

「よし、脱出完了」

 

教室を出て、廊下をこっそりと歩き、木場君の教室に行く。

 

「木場君、木場君」

 

「あれ? 銀華さん、どうしたの?」

 

教室の中には入らずに、廊下からこっそりと木場君に手招きしながら声を掛ける。そんな私に、すぐ木場くんは気づき近寄って来た。

 

「木場君、今朝ナリヤから言われてると思いますが、あとはよろしく頼みましたよ」

 

「ナリヤさんに言われたこと? ……ああ、イッセー君のことだね。分かった、後は僕に任せて」

 

「では後ほど部室で」

 

伝えることだけを伝え、私はその場をそそくさと去る。

 

教室の方を見れば、私がいなくなったことにようやく気づいたのか、イッセーが慌てて教室から飛び出し、辺りをキョロキョロし始めた。

 

まるで飢えた獣のようですね。流石、万年発情期のイッセー君は違います。

 

振り返り、目線だけで木場君に、イッセーの元へすぐに行ってくれと伝え、人が結構いる廊下の人を避けながら無音で走っていく。一応、走る速度は押さえてますけどね。

 

 

 

そうして人々の間をすり抜け、外靴へと履き替えて旧校舎へと向かう。

 

……ここまでくれば、見つかることはないでしょう。さてっと、どうやってイッセーに言い訳をしましょうかね。

 

単純に一緒に歩きたくなかったから木場君に任せた? それでもいいかもしれないですね。でも、ぶっちゃけ私が説明するとは一言も言ってないですし、別に私が話さなくても問題は無いですよね?

 

ま、イチャモンでも付けられそうになったら、小猫ちゃんやら朱乃さんやらリアスの姿でも見せれば、エロ妄想に集中しすぎて忘れるから大丈夫でしょう。

 

ちょっとした林の中に建っている旧校舎の入口を開け、いつものオカルトメンバー……リアス達がいる部室へと向かう。

 

「こんにちは」

 

「……こんにちはです、銀華先輩」

 

「ハロー銀華ちゃん。お邪魔してるわよ」

 

部室の中へと入れば、そこにはソファーに座って羊羹を食べている小猫ちゃんと、同じくソファーに座りながら紅茶を飲んでいるササンがいた。

 

「貴方がいるということは……リアスはどこですか?」

 

「リアスなら、昨日お風呂には入れなかったからって言って、シャワー浴びてるわよ」

 

ひとさし指を部屋の奥の方に指しながら、ササンが言ってくる。

 

指さされた方を見れば、何故か部屋に備え付けれているカーテン一枚のシャワー室の方から、水しぶきの音が聞こえる。なるほど、リアスはあそこですか。

 

鞄を部屋の隅にあるテーブルの上へと置き、小猫ちゃんの隣に座り込む。

 

「……どうぞ」

 

「ありがとう、小猫ちゃん」

 

小さなお皿に乗った羊羹に竹で出来たような串を添えて、小猫ちゃんが差し出してきてくれた。

 

ありがたく羊羹を受け取り、一口食べる。うん、美味しい。頭使ったあとだから、よけい美味しく感じる。

 

「そういえば銀華ちゃん」

 

「はい?」

 

二口程で羊羹を食べきると、紅茶を飲んでいたササンが声を掛けてきた。

 

「貴方のクラスに行った雨天はどんな感じかしら?」

 

「雨天さんですか? 至って良い方ですよ。少し無口で怖いですが、来てから数日で生徒からの支持も得てますし、頼れる先生としてやってますよ」

 

本当の話しだよ。雨天さんの勉強は覚えやすいことで有名だし、説明も的確だ。そこら辺の教科書や参考書よりも的確。

 

それに、生徒の相談も積極的に受けてくれる。しかも、全ての質問に的確な答えを返してくれるって話しだし。

 

まあ、私は相談したことはないんですがね。

 

「そう、それは良かったわ」

 

「質問に答えたので、こちらも質問していいですか?」

 

「どうぞ?」

 

紅茶を飲みながら言ってくるササンに、これまで疑問に思ってきたあることを聞く。

 

「雨天さん……あの人は、天馬さん……ではないですよね?」

 

ササンの飲んでいる紅茶のカップが、注意してみなければ分からない程僅かにぶれる。この反応は……やはり、あの人は雨天ではなく天馬さんなのでしょうか?

 

「どうしてそう思うのかしら?」

 

「あの言いようのない時間の感覚。あんな変な時間を感じさせることが出来るのは、私は天馬さんだけしか知りません」

 

時間が早まったようであり、遅くなったようであり、時間が止まったようであり、時間が途切れたようだったり……あんな変な感覚、天馬さん以外考えられない。

 

紅茶を優雅に飲みながら、ササンは少し目を瞑る。そして、目を開け、ササンが口を開こうとした所で――――――

 

「こんにちは。部長、イッセー君を連れてきました」

 

空気の読めないイケメソが入ってきた。

 

なんての間の悪い。あと少しでササンから聞き出せたというのに……仕方がない。また今度聞くことにしよう。

 

木場君の後をオズオズと畏まりながら入ってくるイッセー。そんなイッセーは、羊羹を食べている小猫ちゃんを見ると、固まる。大方、学園のマスコット的存在である小猫ちゃんがここにいることにでも驚いているんでしょう。

 

「小猫ちゃん、こちらイッセー君。僕たちの同期だから、小猫ちゃんの先輩だね」

 

「あ、どうも、兵藤一誠です」

 

「……塔城小猫です。よろしくお願いします」

 

イッセーたらかしこまっちゃって、借りてきた猫みたい。

 

小猫ちゃんから視線を外し、今度はササンを視界に入れるイッセー。

 

この学校の三大お姉さまの一人であるササンに目がいったか。変態だね、流石だと言いたいよ、クソイッセー。

 

「ササンさん、こちら例の赤龍帝です」

 

「へ~この子が今回の赤龍帝なのね」

 

紅茶をテーブルに置き、立ち上がると、イッセーの顎を持ち上げながら、瞳を凝視するササン。ああ、童貞野郎イッセーなのだから、そんなことしたら、固まって動けなくるよ。実際、固まって動けなくなってるし。

 

「う~ん、かわいい系の子だけど、私の好みじゃないわね。私的には、雨天の方が百倍好みね」

 

あ~らら、はっきり言われちゃいましたね、イッセー。

 

ショックを受けたのか、落胆した表情で地面に四つん這いになりそうになる。なりそうになったということは、実際はなっていないわけで、イッセーは四つん這いになる前に、奥の方から聞こえるシャワーの方に反応してそちらの方を向く。

 

うっわーマジキモいっす。野獣っす。目線が完全に性欲に飢えた獣ですわ。

 

「……いやらしい目」

 

うん、小猫ちゃんの言うとおり。いやらしすぎる。モテたいとか言ってるのに、こんな目してるから、モテないのですよ。

 

天馬さんなんか、色恋沙汰にあまり興味なかったからでしょうかわかりませんが、こんな瞳見たことないですよ。まあ、あの人は基本戦いに没頭してる人だったからアレなんでしょうけど。アレの意味は、ご想像にお任せします。

 

「部長、これを」

 

「ありがとう、朱乃」

 

シャワーの音が止まり、奥の部屋から朱乃さんとリアスの声が聞こえる。あそこに朱乃さんもいたんですか……気づきませんでした。

 

服でも着ているのか、スルスルと服の擦れる音が聞こえてくる。

 

おうおう、段々ヨダレが出そうなくらいいやらしい表情になってきましたよ。……あ、ヨダレが垂れそうになって袖で拭った。

 

どこまで変態なんですか? イッセー。

 

「ごめんなさいね。昨日イッセーの部屋に泊まったから、お風呂に入れなくて……」

 

「リアス、まさかイッセーに添い寝したわけではないでしょうねえ?」

 

「え? したけど……あいたッ!」

 

ソファーから立ち上がり、軽くリアスの頭を叩く。

 

何やってのよリアス! 貴方はアホですか……いや、アホだった! イッセーに添い寝? そんなことしたら、女性としての貞操が危ういわ!

 

なのに、なのにリアスったら……ああもう! この危機感ゼロ女!

 

「何するのよ、銀華!」

 

「こっちのセリフです。何をやってんですか、この危機感ゼロの処女女郎。そんなことやってたら、いつの間にかイッセーに処女奪われますよ」

 

「お、おい、銀華! いくらなんでもそんなことは……」

 

「黙ってなさい、この童貞野郎! ……ま、いいでしょう。これからは気をつけてくださいよ、リアス」

 

「はい……」

 

私の罵声にしょぼくれたイッセーは置いといて、リアスに最後の一言を言い終えたあと、再びソファーに座りなおす。

 

「さて、リアス。イッセーに昨日の説明をどうぞ」

 

「そ、そうだったわね」

 

いつもの調子になったのか、リアスは腰に手を当て、ふんぞり返ると、ひとさし指を上にまっすぐと立てる。

 

「イッセー、貴方をオカルト研究部の一員として、歓迎するわ」

 

そうリアスが言うと同時に、私以外の全員が背中から悪魔の翼を生やす。

 

「悪魔としてね」

 

 

 

その後、イッセーを私の向かいのソファーに座らせ、しばらくの間、イッセーが悪魔になった理由とオカルト研究部の実態。そして、あの堕天使の女がイッセーを騙していた話しをした。

 

悪魔になった理由は、とりあえず勘違いだったことは言わずに、あの堕天使が殺したことにしといた。なんて言ったけ? ほら、あの変に紳士的な奴の方……忘れたからいいや。

 

で、そいつに殺されて、間一髪の所で、リアスが配っている、悪魔が願いを叶えてくれる魔法陣をイッセーが持っていて、その魔法陣のお陰で、イッセーが救われたってことにした。

 

オカルト研究部のことは、オカルト研究部は仮で、悪魔の活動が本業なのだと話しとく。

 

そして、初めての人が堕天使で、騙されていたことに酷くショックを受けたイッセーは落ち込むが、リアスの話しは続き、今は悪魔の業界の事と、神器(セイクリッド・ギア)の説明に入ってる。

 

「神器(セイクリッド・ギア)?」

 

「神器(セイクリッド・ギア)っていうのは、人間に宿る規格外の力のこと。過去の有名な偉人たちだって、神器(セイクリッド・ギア)をその身に宿してたしね」

 

「ちなみに、現代にも神器(セイクリッド・ギア)を宿している人はいるのよ。私とかね」

 

「へ~……って、銀華! しれっと説明してくれてるけど、なんでお前がここにいるんだよ! それに、説明するって言っときながら、なんで先にいなくなるんだよ」

 

「その話は、後ででいいでしょう。それに、今説明してるんだから、大人しく聞けこの野郎」

 

急に突っかかってきたイッセーを一蹴して、テーブルに置いてある紅茶を飲む。

 

「まあ、それでね。神器(セイクリッド・ギア)は人間社会でしか機能を果たさないものばかりなのだけど、例外もあるわ。堕天使や悪魔に天使。神だって殺せるものだってある……イッセー、手を上にかざして頂戴」

 

「手……ですか?」

 

リアスに言われたとおり、イッセーは左手を上に掲げる。

 

「目を閉じて、あなたが最も強いと思う存在を思い浮かべなさい」

 

「最も強い存在……ド、ドラグ・ソボールの空孫悟かな……」

 

ああ、あの野菜人とかが出てくるアレですか……アレは面白いですよねえ。天さんも結構好きでしたし。天さんだけに。

 

「そう、それじゃあその人物が一番強く思える姿を思い浮かべて」

 

「……」

 

お、出るかな? あの技。有名なあの技を!

 

「ゆっくりと腕を下げて、立って」

 

イッセーは目を閉じたまま立ち上がる。

 

「そして、その人物が最も強くなる姿を真似して。強くね」

 

やはりこの歳になって、あの技の真似は辛いのか、少しだけ躊躇ったあと、イッセーはゆっくりと両手を開いてくっつけ、前へ突き出す。

 

そして――――――

 

「ドラゴン波!」

 

……ぷふ、ふふふふふ!

 

面白い、面白すぎる! ドラゴン波って! 確かに彼がやれば格好良いですけど、イッセーがやるなんよ……ぷふ!

 

イッセーから顔を背け、ソファーに顔を埋めて、必死に笑うのを堪えながらソファーを叩く。

 

「さあ、目を開けてみて。魔力が漂うこの空間なら、貴方の神器<セイクリッド・ギア>もこれで発現するはずよ」

 

「な、なんじゃこりゃあああああああああああああ!!」

 

イッセーが目を開くと同時に、まばゆい光が部屋の中に広がる。

 

私はソファーに顔を埋めてたのであまり光は感じませんでしたが、モロに食らってたら目の前が見えなくなるでしょうね。

 

光が徐々に収まり、ソファーからイッセーの方へ顔を向けると、そこには左手には真っ赤で、真ん中には丸い宝玉がついた籠手が装着されていた。

 

「それが貴方の神器。一度発現出来れば、いつでも出せるわ。……さて」

 

リアスが立ち上がると、その後ろに他のオカルト研究部の面々が整列する。そのリアスの横に、私とササンが並んで立つ。

 

「改めて自己紹介するわね、祐斗」

 

「僕は木場祐斗。イッセー君とは同学年ってことは分かってるよね。えーと、悪魔です。よろしく」

 

「……一年。塔上小猫です。……よろしくお願いします。……同じく悪魔です」

 

「三年生、姫島朱乃ですわ。研究部の副部長も兼任しています。これでも悪魔ですわ、うふふ」

 

「三年。ササン・カラビア。リアス達と同じく、悪魔。でも、リアス達とは違うグループだから、よろしくね」

 

「五月雨銀華。私は悪魔じゃないから、そこら辺よろしく、イッセー。いえ、童貞野郎」

 

「そして、私がこのオカルト研究部部長、リアス・グレモリー。家の爵位は公爵でこの子達の主。そして、貴方もこれから私に仕えることになるわ。よろしくね、イッセー」

 

全員の自己紹介が終わると、皆の背中から一斉に黒いコウモリの翼が生える。勿論、イッセーの背中からも。

 

さて、これで説明も終わりましたし、これからの悪魔としてのイッセーの生活が楽しみですね。……いえ、赤龍帝の生活が、ですかね。

 




次はいつ更新になるかな……?

感想、アドバイス、指摘、誤字、お待ちしております。


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第七話 イッセーのチラシ配りしかし、即効で終了

今回、四千文字と多少少なめですが、区切りが良かったので。
それと皆様、遅くなってしまい、申し訳ないです。


さて、あの説明から幾日後。私はリアスと共に、オカルト研究部の部室で紅茶を嗜んでいた。

 

新しく入ったイッセーは、チラシ配りだ。

 

チラシ配りっていうのは、新人悪魔がやらされる一つの仕事。その内容は、悪魔を呼ぶためのチラシを、色々とお願い事のある人の家に届けるというものだ。

 

本来は悪魔の手下というかなんというか、とりあえずそんな感じの使い魔に任せるのだが、新人悪魔さんは何故かチラシを配らないといけないらしい。

 

まあ、そんなこんなで、今日はそのイッセーのチラシ配りが終わり、いよいよ悪魔としてチラシを配った人達に呼び出されることになりました。

 

いや~、ようやくですね。一体どんな方に、この変態なイッセーは呼び出されるのでしょうか? ま、どうせ、同じタイプの変態なんでしょうけど……いや、変わり者って言った方がいいかな?

 

「さて、リアス。他の皆は?」

 

「そろそろ来るわよ。ササンも来るって言ってたし」

 

「へ~ササンさんがですか。でも、何故?」

 

「さあ? 現赤龍帝がどんなのか気になるんじゃないからかしら?」

 

はて? 本当にササンは何が目的で来るのでしょうか?

 

オカルト研究部の一員でもないし、ましてやリアスの下僕でもない。まあ、親友ではありますけど。

 

……なんでもいいですか。リアスの言った通り、ただ赤龍帝イッセーの事だけが気になるだけでしょうし。

 

 

 

そして時間は進み、リアスと会話している内に、いつの間にかオカルト研究部のイッセーを除くメンツが全員揃った。

 

「はい、小猫ちゃん」

 

「……ありがとうございます、銀華さん」

 

ソファーに座っている私の隣にやって来た小子猫ちゃんに、そっとケーキを差し出す。

 

ああ、かわいい。流石駒王学園のマスコット。可愛すぎる!

 

「こ~んば~んは~」

 

「失礼する」

 

「あら、ササン。遅かったじゃない」

 

「少しある物の生成に手間取ってね。ほら、雨天」

 

小猫ちゃんのケーキを食べる姿に見とれていると、急にオカルト研究部の部室が開き、ササンと雨天さんが部屋の中に入って来た。

 

相変わらず無表情な方ですね、雨天さん。渋い。

 

「あら、雨天。貴方はなんで来たの?」

 

「なに、現代の赤龍帝をこの目で確かめてみようと思ってな」

 

私たちの後ろにある一人用の椅子に座り、リアスに言葉を返す雨天さん。ササンはリアスの横に座った。

 

「……あの」

 

「ん、どうした?」

 

あれ? さっきまで私の隣にいた小猫ちゃんが、いつの間にか雨天さんの前に行ってる。いつの間に?

 

「……これ、どうぞ」

 

「ああ、ありがとう」

 

小猫ちゃんが持っていたケーキを雨天さんに渡すと、雨天さんはケーキを食べ始めた。

 

「……どうした?」

 

「……いえ」

 

ケーキを渡し終えたのに、一向に小猫ちゃんが戻ってこない。戻ってこないどころか、雨天さんの方を見て、固まっている。一体どうしたのだろうか?

 

雨天さんも小猫ちゃんに気になったのか声を掛けてみるが、いい回答が帰ってこなかったみたい。

 

いい回答が帰ってこなかった雨天さんは、ケーキを食べる時に使用したフォークをケーキの皿に置くと、顎に手を当て考え始める。

 

……あの考える姿勢。天さんにそっくり。まるで、天さんを見てるよう。

 

「……おいで」

 

考え事を終えたのか、雨天さんは顎に手を当てるのをやめ、自分の膝を軽く叩く。

 

「……」

 

小猫ちゃんは、少しためらったあと、ゆっくりと歩き出すと、チョコンと雨天さんの膝に乗っかった。

 

……可愛い。行動全てが可愛すぎる。

 

「あらあら、まるで親子のようですわねえ」

 

「そうですね。雨天さんの若さ的に、もうちょっと小さい子のような気がしますけど」

 

「いや、私に娘がいれば、今頃は木場君位の歳だよ……はい、アーン」

 

木場君と朱乃の会話に雨天さんは返答すると、フォークを手に持ち、ケーキを小猫ちゃんにアーンする。

 

……何故でしょう。アーンされている小猫ちゃんが羨ましい。胸がモヤモヤする。

 

「……あむ」

 

「よしよし」

 

小動物のようにパクッと一口小猫ちゃんは差し出されたケーキを食べると、雨天さんに頭を撫でられている。

 

めっさ、小猫ちゃん嬉しそう。いつもはクールな小猫ちゃんの頬が、僅かに緩んでいるもの。

 

ああ、いいないいなあ。私も雨天さんに撫でられたい……って、なんで私はこんなことを考えてるのでしょうか?

 

天さんならまだしも、雨天さんに撫でられたいなんて……やはり、雨天さんが天さんに似ているからでしょうか? 見た目とかじゃなくて、雰囲気が。

 

「……ぐぬぬ」

 

なんでか私は握りこぶしを握っていた。

 

負けた気がする。駄目だ。後で、何かでストレス解消しないと、ストレスで爆発してしまう。

 

「銀華、こっちに来い」

 

「? 何ですか雨天さん」

 

握りこぶしを解き、雨天さんに言われた通りに雨天さんの元へと行く。

 

そして、雨天さんの元へと着くと、雨天さんは小猫ちゃんが座っている膝とは違う方の膝を指差す。

 

これは……座れということでしょうか? 少し気恥ずかしいですが、座ってみますか。

 

雨天さんの指差す通り、雨天さんの膝へと座る。

 

「あらら、今度は大きな娘さんが出来ましたわねえ、雨天さん」

 

「こんな二人みたいな娘が出来たら、俺は幸せだよ」

 

なんてことを言いながら、雨天さんは私の頭をそっと撫でてくれる。

 

……ああ、これだ。この頭を撫ででくれる感覚。懐かしい。あの天さんと旅していたとき、よくこうして撫でてもらっていたなあ。

 

本当に、あの頃が懐かしい。

 

「……銀華先輩」

 

「ん? どうしたの、小猫ちゃん?」

 

「……涙、出てます」

 

「え?」

 

そっと頬を触れてみたら、何か温かいものが私の頬を伝っていた。

 

泣いてる……? 私が? 

 

今まで、天さんがいなくなったことに涙を流したことはなかったのに……なんで、今になって……涙が流れるの?

 

「大丈夫、大丈夫だよ」

 

「……銀華先輩」

 

「大丈夫……だから」

 

必死に瞳から流れてくる涙を袖で拭い、小猫ちゃんに向かって笑顔を作る。

 

そう、大丈夫。大丈夫だよ。天さんが死んだ後でも、私は強く生きるって決めたんだから。

 

だから、だから! そんな顔をしないでよ――――――天さん。

 

 

 

「いや~可笑しかったわね、イッセー君」

 

私は現在、オカルト研究部から自分の持っている部屋へ戻り、さっきあったイッセー君の事について思い出し笑いしていた。

 

イッセー君がオカルト研究部の部室へと、いつもの仕事を終えて帰って来ると、リアスは早速とばかりにイッセー君を魔法陣を介して依頼人の元へと飛ばそうとした。

 

でもね、なんとイッセー君ったら、魔力が足らなすぎて依頼人の元へと行けなかったの!

 

 

もう、これにはその場にいた全員が固まったわね。だって、子供の悪魔でも出来ることをイッセー君は魔力が足らなすぎて出来なかったのよ?

 

いや~笑った笑った。久々に面白いものが見れたわ。

 

「それで、貴方はどうして先程からそんな表情をしているの?」

 

部屋にあるソファーに座り、部屋の隅の方でボーっとしている雨天に話しかける。

 

オカルト研究部から戻ってきてからずっとこの調子だ。ただ、ボーッとして、全てのことについて上の空のように見える。

 

「……いや、置いてきた娘が泣いていたもんだからな」

 

「あら、ぶっきらぼうの貴方でも、娘を思いやる気持ちはあるのね」

 

「元は人間だからな。それに、両親が死んでからは、アイツがたった一人の家族だったからな」

 

「そうね」

 

私は巨大な体をしているくせに、チョンっと触れば崩れてしまいそうな雨天へと近づき、雨天の肩の上から顔を出し、そっと後ろから雨天を抱きしめる。

 

「……ごめんなさいね、雨天。もう少しだけ待ってね。そうしたら、あの子の元に行っていいから」

 

「……いや、あの子の元へはいかんさ。俺の居場所はお前だけだ、ササン」

 

ああ、本当。どうしてこの人は、こんなにも渋くて格好良いのだろうか。もし、他の人だったら、惚れてるわよ。私は一目見た時から惚れてるけど。

 

「ありがとう……天馬」

 

「ああ、ササン」

 

彼に抱きついてる腕に更に力を込め、ギュッと抱きしめる。彼は彼で、彼の肩の上に置いた私の頭を優しく撫でてくれる。

 

「おやおや~これはちょいとお邪魔でしたかね~どう思います~メルトさん」

 

「いや~これはこれで~ぐっとタイミングではないっすかね~そう思いませんすか~ナリヤさん」

 

「ナ、ナリヤ! メルト!」

 

雨天にばっかし集中しすぎて見落とした!

 

二人の声に咄嗟に雨天から離れ、入口の方を見ると、そこには頭だけを部屋の中に入れて、ニタニタと笑っているナリヤとメルトがいた。

 

くそ~恥ずかしい! あの二人にこんな姿見られるなんて! 絶対この事でネタにされて弄られる!

 

そもそも、なんで二人がここにいるのよ! 仕事はどうしたのよ! まったく!

 

「二人とも、何でここにいるのよ!」

 

「いやね~例のブツを届けに来たんですよ~」

 

「私は仕事が一段落着いたので、途中で会ったナリヤの付き添いっす」

 

「そ、そう……ん、ゴホン! ありがとう、メルト。例のブツを頂戴」

 

「ほい」

 

メルトから貰った大きな紙袋を受け取り、中身を確認する。

 

確かに、例のブツは全部揃っている。これなら……例の作戦も決行出来そうね。

 

「そういえばササン。堕天使側の情報によると、そろそろこの街に来るそうっすよ、あのシスター」

 

「そう……なら、そろそろ準備に掛からないとね。ナリヤ、メルト、貴方達はこの学校にいつも通り通って、いつでも作戦を決行出来るようにして。雨天は変わらずいつも通り教師をして頂戴。もし何かあったら、私に連絡。分かった?」

 

「「イエス、マイマスター」」

 

「了解した」

 

礼儀正しく並んだ二人は同時に言い頭を下げ、雨天は相変わらずのぶっちょう面で首を縦に振る。

 

ふふふ、さてさて、これから楽しくなるわよ。早速私も例のブツである物を作らないと。

 

パーティーの時は、近いわよ!

 




如何だったでしょうか?

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第八話 約束時々はぐれ悪魔

「イッセーに駒の説明をしたい?」

 

「そう」

 

昨日イッセーが悪魔としての仕事を本格的に初め……られたのかは微妙ですが、まあ、初めた次の日。

 

結局昨日イッセーは、魔法陣から依頼人の元へジャンプ出来ず、いつものチラシ配りで使っている自電車で依頼人の所に向かった。

 

それと、イッセーは悪魔になったのは仕方のないことだから、折角なら上級悪魔になろう!と決意したりしましたね。

 

上級悪魔になり、自分の眷属を全て女の子にし、自分だけのハーレムを作る! というのが、決意の半分を占めてはましたけどね。

 

そんな昨日の事を思い出しながら、私が夜の部室でのんびりと紅茶を飲んでいると、リアスが部室に入ってきて、唐突にそんな事を言ってきた。

 

「別にすればいいじゃないですか」

 

「そうなのだけど、言葉でいっても分かりづらいでしょう? そこで、何かいい案でもないか銀華に聞いてみたのよ」

 

「いい案……ですか。そうですね、一番手っ取り早いのは、何かと戦って、駒の性質を直接イッセーに見せるのがいいんじゃないの?」

 

「うーん、それもいいのだけど、何と戦えばいいのよ?」

 

「そんなの知りませんよ。そこら辺は、自分で考えてください」

 

残っていた紅茶を全部飲み干し、横に置いていた鞄を持ってソファーから立ち上がる。

 

「ってことで、私は明日何かしますんで、ここら辺で家に帰りますね」

 

「何かって何するの? 予定ないなら、一緒に考えて頂戴よ」

 

「ああ……今予定を考えました。そんな訳で、さいなら~」

 

「あ、ちょっと銀華! もう……」

 

部室の扉を開け、そそくさと部室を後にする。

 

さて、明日の予定なんですが、雨天さんと一緒に出かけてみようと思います。

 

何故って? そりゃあ、あの人が天さんだっていう確証を得るためですよ!

 

昨日は、まあ、その……色々とありましたから、確証を得ることが出来なかったのでね。

 

そんなことはいいんですよ。それよりも、昨日雨天さんに接近して撫でられた時、私はなんて言いましたか? そう、雨天さんの事を天さんと無意識で言ったんですよ。

 

って事は、あの雨天さんを、私は無意識下で天さんだと認識したんですよ! これは、能力的に人を間違える事の無い私が、唯一間違えた事。

 

つまり、雨天さんの気は天さんに似すぎている、或いは本人の気の可能性が高い。まあ、泣いたせいで、感覚が鈍っていた可能性もありますけど。

 

「そんな訳で、ポチッと」

 

家に帰る道で、鞄から携帯を取り出し、ある所へ電話を掛ける。

 

「……う~ん、なかなか出ないですね。……あ、もしもし、ササンさんですか?」

 

「こんな時間にどうしたのかしら、銀華ちゃん」

 

電話を掛けて数十秒後。夜中の一時をとうに回ったというのに、電話先の相手は出てくれた。

 

ま、悪魔なので、この時間に起きていても問題ないのですが……う~ん、なんでしょうかね。電話先から、何かを煮込むような音が聞こえる。夜食でしょうか?

 

こんな時間に食べれば、お肌にも悪いですし太りますよ。……悪魔には関係ないのでしょうかね。

 

「あ、もしもし、急なんですが、明日って雨天さん暇ですか?」

 

「雨天? ……そうね、少し待って頂戴」

 

保留状態の軽快な音楽が鳴り、向こう側の声が一切聞こえなくなる。

 

「お待たせ」

 

「いえいえ、大丈夫です」

 

しばらく保留の音楽を聴いていると、ちょっと嬉しそうな声でササンが出てきた。

 

「でね、雨天は明日は暇だそうよ」

 

「そうですか……では、雨天さんに明日ショッピングに付き合ってくださいと言ってくれませんか?」

 

「OK 分かったわ。伝えておくわ……場所は」

 

「場所は……チッ。すみません、ササンさん。邪魔が入りました」

 

携帯を手に持ったまま、大きな道路の向こう側からやってくる、汚い気を放っているモノを見る。

 

黒いローブで長身の体を隠し、冬でもないのに口元から白い息を吐くモノ。

 

「ケケケ!! ウマソウナアニンゲンジャアナイカ」

 

人間とは思えない奇怪な声を上げると、目の前の黒ローブの体が大きく膨れ上がる。

 

「はぐれ悪魔ですか……良かったです。ここがあまり誰も通らない道路で」

 

はぐれ悪魔。まさか、こんな近場にこんな奴がいたなんて。まだこの街に入りたてだったのでしょうかね。

 

被害の初めてが私だったのなら、幸いです。なんせ、他に被害者を出さなくていいんですから。

 

「もしもし、銀華ちゃん。もしもし!」

 

持っていた携帯から、ササンの慌てたような声が聞こえる。おやおや、慌てているのでしたら、後で謝らないといけないですね。

 

鞄を電柱の近くに投げ、その鞄がクッションになるように、一緒に携帯も投げる。

 

「ケケケ!! クワレロニンゲン!!」

 

大きさは、民家一つ分位。両手には大きなカマキリのような鎌。足はムカデのような感じ。一言で表すなら、気色悪いです。

 

その民家一つ分ある巨体で、はぐれ悪魔は突っ込んでくる。速度はあまり早くない。ただ、迫力だけは凄まじいですけど。

 

両手に付いた鎌を、私に向かって大きく振るってくる。

 

「ったく、本当、この程度の相手は弱くていけませんね」

 

両足を気で強化し、はぐれ悪魔の大きさ以上の高さ位まで、横にあった電柱に向かって跳ぶ。

 

突っ込んで来たはぐれ悪魔は、私という対象物を無くしたため、すっ転んで地面を抉る。

 

私はというと、霊的な瞳(アウラー・オブ・ヴィジョンアイ)を発動して、気を足に集中させて、電柱の横に垂直に立ち、転んだはぐれ悪魔を見下ろす。

 

……はぁ、全く。久々の戦闘が、まさかこんな雑魚になってしまうなんて……萎えるわ~。

 

でも、戦闘じゃなくて、これは遊びと考えましょうか。こんな雑魚の相手なんて、戦闘の範疇に入りませんからね。

 

「ドコイッタア!! ニンゲン!!」

 

標的である私を見失ったはぐれ悪魔は、道路の下で叫び始める。

 

これ以上煩くされてはかないませんね。ご近所の皆様に迷惑です。……仕方ない、ちゃっちゃと片付けましょうか。

 

道路を探していたはぐれ悪魔は、上を向いて私を見つけると、ニンマリとキモイ笑みを浮かべて、上を見ながら電柱へと突っ込んで来た。

 

「来なさい、三流。格の違いってやつを見せてあげる」

 

 

 

「もしもし、銀華。もしもし!」

 

銀華ちゃんが、邪魔が入ったと言ってから数分後。何があったのかは知らないが、急に銀華ちゃんと話せなくなった。

 

しかも、なんだが電話の向こうで物が砕けるような音がしたし、大丈夫だろうか。

 

「どうした、ササン」

 

「雨天、大変よ。急に銀華ちゃんと話せなくなった」

 

「……そうか」

 

話しかけてきた雨天は、それだけを言うと、テーブルに置いていた紅茶を飲む。

 

心配じゃないのだろうか。仮にも銀華ちゃんは雨天の……。

 

「心配じゃないの?」

 

「ああ、どうせ、戦闘でもしているのだろう。それも、はぐれ悪魔辺りとな」

 

「なら、なおさら心配じゃないの?」

 

はぐれ悪魔。仮にも悪魔だから、生身である銀華ちゃんは危ないと思うのだけれど。

 

私が聞くと、雨天は苦笑いを浮かべて、紅茶のカップをテーブルへと置いた。

 

「ササン、ある話をしよう」

 

「何?」

 

「昔な。ある所に一人の男と女の子がいたんだ。その二人は旅をしていてな。でだ、その二人のうち、男の方が天使や悪魔、更には堕天使等など様々な勢力から狙われていた」

 

……これは、もしかして。

 

「二人の旅路には、その等などが度々襲いかかってきた。十や二十といった小編成の部隊でな。だが、その部隊は毎度毎度、男によって壊滅させられた。そしてある時、その小編成の部隊から、それぞれが協力し合って、上級悪魔や天使や堕天使が百人編成……おおよそ三百人という大部隊を作り上げて、二人へ襲いかかった」

 

私は雨天の話を聞いて、生唾を飲んだ。

 

三百? 馬鹿げてる。本来ならば、それだけでこの世界の人間なら、塵すら残らず消滅させられている。

 

「まあ、悪魔や天使や堕天使は楽勝だと思ったんだろうな。なんせ、男と少女の二人組だからな……でも」

 

そこまで雨天は話すと、ソファーに深く座り込み、両膝の上に両肘を付けて、前かがみになる。

 

「壊滅させられた。完膚無きまでに。しかも、一人の死なせずにだ」

 

「でも、それって普通なんじゃ……」

 

男がそれをやってのけたのなら、別に分からない話でもない。だって、その男の方はきっと……。

 

私が普通だというと、雨天は首を左右に振って、いつもの仏頂面が嘘に感じるような笑みを浮かべる。そして、彼とは思えない程、長く話してるわね、今日。

 

「いやいや、この話には秘密があってだな。その部隊を壊滅させる時、男の方は参加してなかったんだよ」

 

「は?」

 

参加してない? って事は、つまり……少女一人が相手したってこと?

 

雨天は心底嬉しそうにクツクツと笑うと、口元を三日月のように歪めた。

 

「ククク……そうだよ。想像通り……でもま、明日の予定を聞かなきゃいけないから、行くか」

 

雨天はそう言うと、呆然としている私の横を通り過ぎ、扉から出ていこうとする。だが、扉を開けたまま、こちらに振り返る。

 

「その少女が戦った時、齢十の時だったそうな」

 

 

 

「グガ……ガッガガ」

 

「この程度で終わりですか、つまらないですね」

 

私の目の前には、両腕をもがれて、私の気で体内を侵食されて動けないはぐれ悪魔がいた。

 

「よっと」

 

「ガ!」

 

足を蹴りで破壊し、動けないでいるはぐれ悪魔を転倒させる。

 

あ~あ、本当につまらない。あんだけ大見え切って置いて、この程度だなんて……反吐が出る。

 

「この程度で私を食おうなんて、とんだお調子者でしたね」

 

「グガッ!」

 

倒れたはぐれ悪魔の喉元を踏みつけ、霊的な瞳(アウラー・オブ・ヴィジョンアイ)の効果で黄金に輝いているであろう瞳で、はぐれ悪魔の瞳を覗き込む。

 

……汚い。汚すぎる。純粋で、無垢で、華やかで、色美しく、真っ直ぐで、目的があって、意志がある。そんな誰にあっても当然の魂の色が見えない。腐りきっている、この魂は。

 

こんな魂……いらない。未来永劫、消え去れ。

 

「お前は汚い。自らの力に溺れ、害しか出さない……まるで、ゴミ。いや、それ以下だ」

 

「ゲ、ゲゲ」

 

足に力を込め、はぐれ悪魔の汚らしい声を出させないくらい力強く踏みつける。

 

聞きたくない。目障りだ。もう消えてしまえ。

 

「だからこそ、もう消えてしまえ。この世界に存在するな」

 

「グガアアアアアア…………」

 

雄叫びを上げるはぐれ悪魔の喉を踏み潰す。

 

血が溢れ、私の顔や服に着く。ああ、汚い。血は洗濯が大変だから、着けたくなかったんですよ。

 

最悪。本当、害しか及ばさなかったな、このはぐれ悪魔。

 

血に濡れた足を退け、ゴロンと転がったはぐれ悪魔の頭を握り、持ち上げる。

 

「……本当、使えない」

 

頭をそこら辺の壁に投げつけ、電柱の近くに置いた鞄を持って歩き出す。

 

電話は……もう切れている。はぁ、ササンには悪い事をしてしまいましたね。

 

天さんとの修行及び、私の霊的な瞳(アウラー・オブ・ヴィジョンアイ)の第二の効果によって作り出せるようになった光の爆弾を右手に形成し、左手には光の槍を形成する。

 

「シネエエエエエエエ!! ニンゲンガアアアアアアアアアアアア!!」

 

「だから、雑魚は嫌なのですよ」

 

胴体だけで突っ込んでくるはぐれ悪魔に向かって、振り返りながら光の爆弾を投げる。

 

莫大な閃光が辺りを包み、突っ込んで来たはぐれ悪魔の体は、光の影響によって、塵も残らずに消え去った。

 

「名前も知らないはぐれ悪魔でしたが、リアスへの説明はどうしましょうか」

 

左手に形成した槍を、壁にぶつけたはぐれ悪魔の頭に向かって投げつける。突き刺さったはぐれ悪魔の頭は、胴体と同じように塵も残らずに消え去った。

 

完全に消え去ったのを確認してから、私は再び振り返って、家に帰る道を歩き始める。

 

明日は、雨天さんとのショッピングだというのに、この血の量……洗い流すのが大変ですよ。

 

服もですし……はあ、大変だ。

 

しかし、なんでしょうかね。何かを忘れているような……それも。結構大変な事。

 

リアスの事……ではないですし、イッセーの事? いやいや、イッセーに対しても何もないですね。一体、なんでしょうか、このもやもや?

 

「……って、あ……雨天さんに明日の集合場所を伝えるの忘れてた……」

 




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第九話 私ちょいと恥ずかしいですけど

「さて、どうしましょうか……?」

 

はぐれ悪魔を滅した後、私は携帯を手に持ちながら明日のことについて考えていた。

 

明日……そう、明日! 折角、雨天さんの予定が空いていたので、ショッピングに付き合ってもらおうと思ってたのに、まさか集合場所を伝え忘れるなんて……。

 

今から電話しても間に合うでしょうか……。寝てはいないと思うんですけども、何ていうかその……気まずいです。

 

さっき、話の途中で電話を離してしまいましたから、絶対心配してると思うんですよね。……は~、なんて説明しよう。

 

率直に、はぐれ悪魔と戦ってましたって言えば大丈夫? ……ああ、もういいや。面倒臭いから、それで行こう。

 

「出ますかなっと」

 

「その必要はないぞ、銀華」

 

「うわおっ!?」

 

電話を耳元に当て、ササンが出るのを待っていると、急に後ろから声をかけられた。

 

突然の事で驚いた私は、飛び上がりながらも後ろを振り返る。すると、そこには先程まで影も形も無かったはずのスーツ姿の雨天さんが平然と立っていた。

 

一瞬敵かとも思った私は、雨天さんだということに気づいて、そっと胸を撫で下ろす。

 

ああ、驚いた。いきなり声を掛けるなんて、雨天さんも人が悪いですねえ。

 

「いつから居たんですか、雨天さん」

 

「はぐれ悪魔を楽しくいたぶっている時だ」

 

それって、後半の殆どじゃないですか? そこまで見ていたのなら、手伝ってくれてもいいような気がするんですけど。……まあ、必要ないですけど。

 

「その時から見てるなら、助けてくださいよ」

 

肩を落としながら言うと、雨天さんは私の手から携帯を抜き取り、ササンに掛けていた電話を切る。

 

「銀華、お前には必要ないだろう。さて、本題だが、明日の集合場所はどうする?」

 

「どこでもいいのですが、雨天さんはどこか行きたい所はないですか? そこによって、集まる場所を決めたいのですが」

 

いきなり話が変わったことに若干戸惑いつつも、平静を装って返す。

 

そもそも、雨天さんは、この街を知っているのだろうか? 正直、彼の個人情報ってほとんど知らないんですよね。

 

出身も、どうして悪魔になったのかも、どんな能力を持っているのか、そのどれ一つも知らないんですよね。

 

「ふむ、行きたい所か……」

 

私が聞くと、雨天さんは顎を押さえて、考え込んでしまった。

 

……う~ん、やっぱり似てる。誰って? 天さんにですよ。

 

「いや、無いな。そもそも、明日は銀華のショッピングだろ? 俺は何処でもいいから、銀華の行きたい所でいいぞ」

 

「さいですか……」

 

正直、どこに行こうかとか考えてないんですよね。ショッピングと言っても、目的は雨天さんの正体の確認ですし……。

 

 

「……そうですね、じゃあ、公園に集合にしましょう。そこから、お店に出向くという形でいいですか」

 

「分かった。それじゃあ、時間は十時位でいいか? 少し、学校の方の仕事を終わらせなければいけないのでな」

 

「分かりました。では、公園に十時集合でお願いします」

 

よし、これで明日の時間は決められましたし、他に決める予定はないかな? ……無いですね。

 

ショッピングの内容は、明日考えればいいし、今日は早く帰って服とか洗って明日の準備をしましょうか。

 

電柱の近くに投げた鞄を取り、雨天さんに右手を差し出す。

 

「携帯、返してくれると嬉しいんですが」

 

「……少し待ってくれ」

 

雨天さんはそれだけ言うと、私の携帯をいじり始めた。

 

女の子の携帯を無断で弄るのはマナー違反だと思うんですが。……まあ、そんな貴重な情報やちょっとアレな情報なんかは見てないし、入っていないのでいいですが。

 

入っているとしたら、リアスとの悪魔に関してのメールくらい? でも、一般人に見られれば問題ですが、悪魔の雨天さんに見られても、然程問題ないんですよね。

 

「よし、これでいいはずだ」

 

少しの間、私の携帯を弄った雨天さんは、私の右手に携帯を置いてくる。

 

その渡された携帯の画面を見てみると、誰かの番号が登録されていた。これは、もしや……。

 

「雨天さん、この番号は?」

 

「俺の電話番号だ。これから用がある時は、その番号に電話してくれ」

 

ほほう、やはり雨天さんの電話番号でしたか。これは、いい物を手に入れました。

 

これで、雨天さんといつでも連絡が取れる。それに、こっそり二人っきりになることも出来るじゃないですか。

 

「ありがとうございます。じゃあ、これから連絡をとる時は、この電話番号に連絡しますね」

 

登録された電話番号に、雨天とだけ名前を入れ、登録をし直してから鞄の中へとしまう。

 

「それでは、雨天さん。明日の予定も決めたことですし、今日は帰りますね」

 

明日の事も決め、雨天さんの電話番号も手に入れた私は、雨天さんに向かって軽く頭を下げる。

 

「ああ、また明日……だが」

 

頭を下げた状態のまま、雨天さんの言葉を聞いていると、何かが私の体に被せられる。

 

何かと思い頭を上げると、私の体に、先ほど雨天さんが着ていたスーツがかけられていた。

 

「これは……」

 

「そんな血濡れのままこの夜道を歩いていたら、一般人に見られた時驚かれるぞ」

 

そう言いながら、雨天さんはズボンのポケットからハンカチを取り出している。そして、小声で何かを呟くと、雨天さんの周りに小さな水の塊が複数作り出された。

 

……おかしい。雨天さんが呟いた瞬間、もう一つの気が生まれた。いや、違う。正確には、隠されていたもう一つの気が現れた。

 

霊的な瞳(アウラー・オブ・ヴィジョンアイ)を解除して無かったからこそ、分かった事だが、雨天さんの中には何かがいる。

 

神器(セイグリッド・ギア)の中には、希に魂を封印された物があるのですが、それのせいで、もう一つの気が出てきたのでしょうか?

 

しかし、この気、なんかどこかで見たことあるような。

 

前までは、雨天さんは天さんの気に似ていたのですが、今は何故か違うんですよね。気を変えるなんて普通は無理ですから、まあ、そこら辺は明日また詳しく見るとして……ならこの見たことある気は一体どこで見たのでしょうか? 天さんでもないとすると……。

 

……あ! 思い出した、この気は天さんの中にいた、あの……。

 

「そんな、雨天さん。折角のスーツが血まみれになってしまいますよ」

 

一つの考え思い浮かべた私は、スーツを脱ごうと手をかけるが、雨天さんはそれを右手で止めてくる。

 

「いいんだ」

 

雨天さんは周りに浮かべていた水の塊を持っていたハンカチに落とすと、私の顔を拭いてくる。

 

……やばい、恥ずいです。普段そんなに赤面しないはずの私が、顔真っ赤になってます。

 

なんで分かるのかって? 顔が暑いからですよ!

 

そ、それに、雨天さんの顔が、ち、近い……。は、離れてぇぇぇ! そうしないと、私が恥ずかしさのあまりに死んでしまう。

 

「よし、これでいいだろう」

 

「あ、ありがとうございます」

 

血を拭き終えたのか、雨天さんは私から離れると、踵を返した。

 

「それじゃあ、銀華。また明日。今日は早く寝ろよ」

 

「あ、はい……」

 

返事を返すと、雨天さんは僅かに私の方を向いて頷くと、少しだけ笑顔を浮かべて、民家の屋根の上を跳んでどこかへ行ってしまった。

 

今の笑み……天さんにそっくり。どうしてでしょうかねえ。そろそろいい加減に、正体を知りたいものです。

 

さて、雨天さんも帰ったことですし、私も帰りますかね。洗濯や明日の準備もしたいですしね。

 

「う~ん、しかしまあ、明日はいいとして、はぐれ悪魔の事、どうしましょうね」

 

 

 

「久々だな、銀華と出かけるのは……なあ、クリストフ」

 

『そうで御座いますね、我が主よ。かれこれ一年ぶり……いえ、あの最後の一年は戦いばかりでしたから、三年以上昔のことでしょうか』

 

「それぐらいになるのか……」

 

『ええ……我が主、そろそろいいのではないでしょうか?』

 

「そうだな。なら、此度の事件で、正体をばらすとするか」

 

『それが良いかと』

 

「さて、どう言い訳をしようか」

 

 

 

雨天さんと別れた次の日。私は一人、十時になる五分前に、公園にいる子供達の声を聞きながら、時計の下で一人立っていた。

 

服装は白いワンピースに白いハイヒール。それと、白のトートバックを肩から下げている。今回は、白一色で染めてみました。

 

本当なら、春先なのでもう少し暖かい格好がいいのですが、今日は少し暖かいので問題ありません。

 

「それにしても、昨日は疲れました」

 

結局昨日は、血に濡れた服を全て洗剤で漬け置きしてから洗濯機にかけて洗ったり、リアスに昨日のはぐれ悪魔の報告をしたり等など、まあ、色々と大変だったんですよ。

 

リアスには一人で戦った事と、イッセーの駒の説明相手に丁度よかったのにと文句を言われもしたんですよ。全く、もう文句言われるのは嫌ですわ。

 

「ま、ストレス溜まりまくりですが、今日のショッピングでストレス解消しましょう」

 

そんなこんなで待つこと五分。十時丁度になるという時、公園の入口の方が何やら騒がしい。

 

こう、ざわざわっと……有名人でも来ているのでしょうか?

 

まだ雨天さんも来ないので、何気なく公園の入口の方へ歩いて行ってみると、そこには黒スーツを来て、サングラスを掛けた上に髪型がオールバックという、傍から見たらやーさんの格好の雨天さんがいた。

 

……まあ、好きですよ。ああいう格好。

 

皆になにやらざわつかれている雨天さんは、こちらに気づくと、私の方に歩いてきた。

 

「すまん、待たせたか?」

 

「いえ、待ってはいませんけども……」

 

うん、待ってはいないので、どうかその格好をやめてはただけませんかね。……なんて、言えない。

 

言いたいけどね。でも、言ったら、流石に失礼でしょう。なので、これからのショッピングデートで、雨天さんのファッションを変えましょう。

 

「そうか……では、どこに行く?」

 

「そうですね。なら、最初は電車で二、三本先にいった所にあるデパートにでも行きましょうか」

 

「分かった」

 

黒サングラスを掛けたまま頷く雨天さん。本当、怖いです。

 

白一色の私と対照的な、黒一色の雨天さんが話しているというせいなのか、はたまたやーさんみたいな雨天さんと、この純情乙女で清廉かつ清楚な私が話しているのが不自然なのか、公園にいる人達が小声で何やら話し合っている。

 

……そりゃあ、話し合いにもなりますか、目立ちすぎですもんね~主に、雨天さん。あ、携帯取り出した人がいる……こりゃあ、早めにショッピングに行った方がいですね。

 

「では、雨天さん、行きましょうか」

 

「ああ……では、銀華、手を」

 

右手をスッと出してくる雨天さん。一体なんなんでしょうか?

 

私がどうすればいいのか迷っていると、雨天さんは余っている左手で、私の右手を取ってくる。

 

「普通なら男がこういうのをエスコートするものだが、生憎と今日のプランは銀華に任せているのでな……故に、このようなことしか出来ん」

 

そのまま、私の右手を右手で握り返してくると、雨天さんは振り返って、公園の入口の方を見た。

 

「歩幅は合わせる。駅までは、エスコートさせてくれ」

 

ああ、これってアレですか。こう、デート特有の男の人がエスコートしてくれるってのは……やばい、雨天さんメッチャ格好良い。

 

いや、渋い? まあ、とにかく、私の好みのタイプドストライク。

 

「じゃあ、行くか」

 

こちらに首だけを向かせて、あのいつも無表情とは思えない程、柔らかい笑みを浮かべてくる。

 

その笑顔にちょっとドキッとした私は――――――

 

「……はい」

 

少しだけ顔を赤くしながら俯いて、歩き始めた雨天さんに手を握られながら、雨天さんの隣を歩き始めたのだった。

 




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第十話 現れる金髪シスター

公園から手を握らながら歩き始めること数分で駅の入口へと着いた。

 

傍から見たら、やーさんに連れてかれる可憐な少女だが、雨天さんが怪しい人扱いされて警察官に職質される……なんて事はなかった。これで職質されたらされたで面白いですが。

 

道行く人には視線を向けれられるが、気にせず入口から駅に入り、雨天さんの奢りでチケットを貰い、電車に乗る。

 

「……」

 

「……」

 

何故でしょう。気まずい。

 

先程からお互いに会話がない。別に仲が悪いとか、初対面とかではないはずなのに……なんで会話が無いんだ。

 

緊張してる? いやいやいや、そんなはずはない。だって、緊張する必要がないでしょうに。

 

なら――――――

 

「……銀華」

 

「ひゃい? なんでしょうか?」

 

いきなり掛けられた声に対して、変な声で返してしまうが、そこは無理やり気合でなかったことにする。そう、誰もひゃい? なんて聞いてない。聞いてないったら聞いてない。

 

「もう少しくっついて座れ。ほかのお客さんが座れないだろう」

 

それは、分かりました。分かりましたんですけど、どうして私の肩に腕を回して、私の体を自分の体の方に近づけるんですか!?

 

いや、席を広くするためってのは分かるんですよ。そうじゃあなくて、あの、その……ああもう! こうなりゃあ、ヤケだ!

 

自ら雨天さんの体にしがみつき、多少なりとも人が座れるようなスペースを開ける。

 

「……いくらなんでも、ここまで近づかなくていいと思うのだが」

 

そう言われても、こうなってしまっては、離ようがない。いや、離れられない。だって、もう隣に人が座ってしまったのだから。

 

でも、冷静に考えてみたら、この状況は好都合。今のうちに、霊的な瞳(アウラー・オブ・ヴィジョンアイ)で雨天さんを調べましょう。

 

今回はいつもと違いますよ。至って冷静ですし、この距離だから雨天さんの深いところまで見れる。これなら、勘違いやら見間違えなんかはしない。

 

……ん~やはり何にも見つからない。この前みたく、あのもう一つの気は見つかりませんし、今の雨天さんの気も雨天さんのままだ。

 

深くまで探りを入れてるから、間違えることはない。……やっぱり、今までのは見間違いだったのかな?

 

「……華……銀華」

 

「はい?」

 

「着いた、降りるぞ」

 

雨天さんの気の探りに集中しすぎていた。……もう駅に着いてたんだ。

 

雨天さんに手を引かれる形で電車から降り、人ごみの中を掻き分けながら駅の外へと出る。

 

「では、どうする銀華」

 

「まずは、あのデパートに行きましょう」

 

遠くにある大手のデパートを指差す。

 

本日は休日って事で、多少人が多いでしょうけど、でかいデパートだから大丈夫でしょう。

 

「よし、なら行こうか」

 

優しく手を引かれ、デパートの方へと歩いてく。後、ついでに霊的な瞳(アウラー・オブ・ヴィジョンアイ)は切っておく。目的は果たしたし、コレあんまり長時間発動してると、私の精神が持たないからね。

 

 

 

「いや~ありがとうございます、いいストレス発散になりました」

 

「そうか」

 

時刻は一時ちょっと過ぎ辺り。一通り買い物を済ませ、私と雨天さんはデパートの中にあるレストランへと来ていた。レストランと言っても、ファミレスみたいなもんですよ?

 

適当に二、三品食事を頼み、二人でお互いを見るような形で席に座る。

 

お昼どきなだけに人でいっぱいですが、すんなり入れてラッキーでした。

 

「銀華、この後はどうする?」

 

ドリングバーから飲み物を持ってきて席に座ると、雨天さんが聞いてきた。

 

「一応、やりたいことはあらかたやってしまったので、帰ってもいいんですよね……雨天さんはどこか行きたい所とかありますか?」

 

「いや、無いな」

 

「そうですか」

 

じゃあ、どうしましょうかね。帰ってもいですけど、折角雨天さんと一緒にデートしているのですか、何かしたいですよね。

 

……そうだ。今朝集まった公園にでも行きましょうか。あそこ、結構雰囲気的に好きなんですよ。

 

やる事はないですけどね。あるとすれば、のんびりとする事だけ。つまり、何もしない。

 

つまらないでしょうけど、今はそれしか思いつかない。でも、あっちでのんびりとでもすれば、なにか思いつくでしょう。

 

「お待たせいたしました」

 

まあ、料理も来たことですし、コレを食べ終えてから、雨天さんにこの後の事を話しましょう。

 

 

 

持ってこられた料理を雨天さんの奢りで食べた私達は、電車に乗り、再び公園へと戻ってきた。

 

意外にも、雨天さんは公園でのんびりする事に異議を申し立てたりはしなかった。のんびりすることでも、好きなんでしょうかね。

 

公園に設置されているベンチに雨天さんと座り、のんびりとする。

 

ああ、空が青い。子供たちの元気な声が良いですねえ。昔を思い出します……とと、なんか思考がおばあちゃんみたいになってしまいましたね。

 

それに、昔を思い出すって、私の昔、散々じゃん。仲間を機関に殺されたり、襲ってくる天使やら何やらをボッコボコにしたり……

 

「……銀華、急にどうした」

 

「いえ、少し昔の事を思い出しまして」

 

昔の事を思い出している最中、何故だが憂鬱になり、顔を手で覆いながら下を向いしてしまった。

 

くそ、あの野郎め。今度会ったら、仲間の分も含めてボッコボコにしてから、豚の餌にしてやる。それか、木場君に任せて、殺してやる。

 

「フフ、フフフ」

 

「銀華、黒い何かが漏れているぞ」

 

おっと、いけないいけない。ドス黒い感情が漏れてしまいましたね。気を付けないと。

 

「うぇえええん!!」

 

「ほら、男の子でしょう、我慢なさい」

 

「ん?」

 

黒い感情を押し殺し、再び公園でのんびりしていると、急に子供の泣き声と、その泣いてる子供をあやしているお母さんの声が聞こえる。

 

声のした方向を見てみると、そこには転んで膝でも擦りむいたのか、膝から血を流してる子供とそのお母さんがいた。

 

これはいけない。早く治療しないと、傷口からばい菌が入ってしまう。

 

ベンチから立ち上がり少年の元へと歩いて行こうとすると、私より先に少年の元へと駆けていく人が現れた。

 

「大丈夫ですよ。男の子なんですから、しっかりしないと」

 

駆け寄って行った人は、そう言うと、少年の膝に手を当てた。

 

少年は不思議そうな顔をしていますね。それはそうでしょう、だって、駆けていった人は外人なんですから。

 

金糸のような綺麗な金髪のロングストレート。エメラルドグリーンのような双眸。シスターの格好。絵に書いたような美少女ですね。

 

「彼女が……」

 

「どうしました、雨天さん?」

 

「……いや、なんでもない」

 

……? 何か隠していますね。でも、私には関係ないことでしょうから、深入りはやめときますか。

 

っと、一瞬雨天さんを見て、再び金髪の少女の方を見てみると、そこには淡い緑の光を両手から出してる少女の姿があった。

 

あれは確か……そうだ『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』だ。回復用の神器(セイクリッド・ギア)だったはず。これは、また珍しいこと。

 

「はい。これで大丈夫ですよ」

 

少年の傷が全て治ると同時に、少女はニッコリと笑いながら言う。

 

「ありがとう、お姉ちゃん!」

 

少年はそう言うが、その少年の母親は、少女の事をまるで異物を見るかのよう瞳で一瞥してから、少年を引っ張って行ってしまう。

 

……やはり、そうなるんですね。この世界は、自分とは違う物、知らないものを異物、化物として扱ってしまう。それは、人間に限らず、動物でも変わらない。

 

故に、差別もなくならないし、なくそうとも思はない。何故なら、自分とは違う存在なのだから。

 

「ありがとうだって」

 

「あれは……」

 

さった少年のと入れ替えになるようにイッセーが公園の入口からやってきた。

 

まさか、イッセーの知り合いだったとは……これも、赤龍帝の影響ですか。

 

龍とは、古代から力の象徴。その象徴には、強いものと女が集まる性質がある。赤龍帝だって例外ではない。

 

イッセーと少女は、何か話すと、二人して公園から出て行ってしまった。

 

……なぜでしょうね。妙な胸騒ぎがして仕方ないのですが……ただの気のせいですよね。

 

その後、約五時になるであろう時間に、私は雨天と別れ、一人学校の部室へと向かった。

 

 

 

「ササン、例の少女がこの街に入った」

 

「そう。じゃあ、そろそろ本腰を入れて作らないとね」

 

一人、部屋である物を作りながら、部屋に入ってきた雨天に返事を返す。

 

はぁ、材料を集めてきて貰ったのはいいけど、思った以上に作るのが難しいわね。特に、人型にするのが。

 

変な形なら問題ないけども、人型で固定するのが……それに、他にもある物を作らないといけないし……ああ、もう! 忙しい!

 

でも、この計画を実行するためだし、仕方ない。頑張ろう。

 

「なんか手伝うっすかマスター?」

 

「別に、問題ないわよ、メルト」

 

いつの間に部屋にいたのやら、いきなり声を掛けられてびっくりした。

 

ソファーの方を見てみると、そこにはまたもや紅茶に砂糖を五個入れて、一気飲みしているメルトがいた。

 

「でもササンー辛そうだよ?」

 

「大丈夫」

 

何故お前がいるナリヤ。そして、なんで全員集合してるの?

 

「それでも、無理をしているのなら、頼りにしてよー? ササンはマスターである前に、あたし達の家族なんだから」

 

……全く、いいこと言ってくれるわねえ、ナリヤったら。

 

手を止め、皆を見渡してみると、皆私を見ながら頷いてくれた。

 

「……フフ、分かったわ。でも、本当に大丈夫」

 

「そう? じゃあ、頑張ってねー」

 

「頑張ってくだっさいっすね、マスター」

 

「失礼する」

 

……あれー? この場面って、皆が手伝ってくれる展開じゃないの? いや、断ったのは私だけど、もう少しほら何ていうかその、食い下がってよ!

 

「うがー! やってやる!」

 

こう、モヤモヤっとした気持ちをぶつけるかのように、私は再びあるモノを作り始めた。

 

 

 

「で? こんな時間に呼び出して、どうしたの?」

 

雨天さんと別れた私は、一旦家に戻ってから制服に着替えてオカルト研究部の部室へと来ていた。

 

そこには、ソファーに座って優雅に座るリアスがいる。……人を呼びつけておいて、優雅にお茶とは……いいご身分ですこと。実際いい身分ですが。

 

リアスは飲んでいた紅茶をテーブルに置くと、膝を組んだその上に手を置いて、手の上に顎を置いてこっちをニンマリと見つめてくる。

 

「実はね、大公からはぐれ悪魔討伐の指令がきたの」

 

「はぁ……」

 

はぐれ悪魔……ね。この前倒しちゃったんだけど。

 

「場所は廃工場。討伐は今夜。だから、ついでにイッセーのコマの説明をしちゃおうと思ってね。……もちろん、ついてくるよね?」

 

夜の廃工場ではぐれ悪魔の討伐ですか……ってか、そもそもいるのでしょうか、はぐれ悪魔。この前ブッ倒した奴とは違うのですかね。

 

「まあ、いるのなら行ってもいいですよ。その代わり、私は自分が危なくならない限り戦闘はしませんからね」

 

「ええ、別に構わないわ。一番の目的は駒の説明だから」

 

「そうですか……では、後は夜になるまでのんびりしていていいのですね?」

 

「ええ、してていいわ」

 

なら、お言葉に甘えて夜までのんびりと紅茶を飲んで待ちましょうかね。

 

自分で紅茶を注ぎ、ソファーに座って皆が集まるのを待つ。さてと、今回の討伐では、皆無事だといいですね。

 




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第十一話 はぐれ悪魔討伐

現在廃工場。

 

リアスの眷属である皆……勿論イッセーも含めたグレモリー眷属と一緒に廃工場へ来ていた。

 

理由? そんなの、はぐれ悪魔討伐に決まってるじゃないですか。でも、いきなりこう言われても、困ると思うんで、少し時間を遡ってみましょうか。

 

 

 

パチン! っと急に部室の中に木霊するビンタの音。このビンタの音の音源は、イッセーの頬から来ている。原因は、リアスによるビンタ。

 

何故リアスがイッセーに手をあげたかというと、イッセーがこの町にある教会に行ってしまったからだ。

 

悪魔であるイッセー。その悪魔を滅しようとする天使の息がかかってる教会。これを聞けば察しのいい人ならわかるだろう。本来ならイッセーは死ぬよ。

 

でも今回はあの公園で会った金髪の女の子を教会に届けたことによって、天使からのお咎めはなかったらしい。それでも、かなり危険だけども。

 

「イッセー。今度から教会に近づいてはいけないわよ」

 

「……はい」

 

「……落ち込まないでね。貴方のために言ってるのよ」

 

確かにイッセーのためだね。もしイッセーが悪魔の状態で光の槍にでも貫かれたら――――――

 

「いい? イッセー。もし貴方が天使や堕天使の光の槍で貫かれたら、魂ごと消滅するのよ。わかる? 魂の消滅ってのは、死より酷い……完全なる無になるのよ。考えることも話すことも、ましてや貴方の好きなおっぱいを揉むこともできないの」

 

リアス、最後の一言は余計です。今までのシリアスが全部崩壊しましたよ。これじゃあ、忠告になりません。……あ、でもイッセーには案外効いてる。おっぱいを揉むことが、話したり考えることより優先することなのか。

 

「部長、大公からはぐれ悪魔討伐の依頼が来てますわ」

 

 

 

ってなわけで、私とグレモリー眷属はこの廃工場にやってきたのです。

 

不穏な空気が漂ってますね。それと、入口付近から臭ってきてましたが、血の匂いが半端じゃないですね。こりゃあ、二、三人殺られてるかもしれない。

 

イッセーなんか緊張しまくりで、顔と体がガチガチですよ。……仕方ないですね、この前まで唯の一般生徒だったんですからね。私みたいに昔から戦い慣れてる人だったら別ですけど。

 

「……血の臭い」

 

うん、小猫ちゃん。気づくのが遅いよ。もう少し鼻を効かせないと。

 

しかし、私も鼻が利き過ぎですね。小猫ちゃんが気づかない距離で血の匂いを嗅ぎ取れるなんて……ふぅ、来ますね。あちらさん、こっちに気づいて殺気向けてきました。

 

急な殺気を当てられ、イッセーの膝が震えだす。……仕方ない、少し安心させてあげますか。

 

「ほーらっ」

 

「痛え!」

 

「緊張しなさんな」

 

一番前にいるリアスの元へ行くついでに、イッセーの尻を一発叩いとく。そのお陰か、イッセーの足の震えは消え去った。

 

「イッセー、いい機会だから、悪魔の戦いを経験なさい」

 

「マ、マジっすか!? 自分、戦力にならないと思うんすけど……」

 

「そうね、戦力にならないわね。でも、悪魔の戦いを知ることは出来る。それと、今回は下僕悪魔の特性を教えてあげる」

 

ふむふむ、どうやらリアスは順調にイッセーに解説しているようですね。良かったです。

 

……しかし、リアスたちは気づいているでしょうか。今回のはぐれ悪魔は実は――――――

 

 

 

「な、成程」

 

俺は今、リアス部長と明乃さんと木場に現在の悪魔と天使と堕天使の事情を教えて貰っていた。

 

なんでも、昔悪魔と天使と堕天使は三つ巴の戦争をしたらしい。その戦争によって、大半の純潔悪魔が死んでしまった。だが、それだけの者が死んだ後でも、未だに三つ巴のにらみ合いは続き、少しでも隙を見せれば危うい状態らしい。

 

そこで、悪魔がしたことは、少数精鋭を作り出すこと。その役割を果たすのが悪魔の駒、イーヴィル・ピース。しかし、これは爵位を持った悪魔しかダメらしい。

 

そのイーヴィル・ピースは人間界のチェスをモチーフにしたらしく、主である悪魔が『王(キング)』その下に『女王(クイーン)』『騎士(ナイト)』『戦車(ルーク)』『僧侶(ビショップ)』『兵士(ポーン)』となる。

 

でだ、このチェスのような少数精鋭制度が爵位を持った悪魔達の間で人気になり、自分の下僕を自慢したり、大会を開いたりしているみたい。……でも、リアス部長はまだ成熟した悪魔ではないため、公式の大会に出たことがないらしい。

 

ってのが、ここまで聞いた話しを俺なりにまとめたものだ。

 

……うーん、正直簡単に纏めたつもりだけど、意外と分からないとかが結構あるな。

 

けど、わからないところよりも、最も気になることがある。そう、俺の駒の役割だ。

 

「部長、俺の駒は、役割や特性って何ですか?」

 

「そうね―――――イッセーは」

 

そこまでいって、部長の足が止まる。

 

俺にも部長が止まった理由が分かる。鳥肌が立つほどの気持ち悪い気配。吐き気がするような殺気。それが、より一層濃くなったのだ。

 

何かが……近づいて来てる! 以前まで一般人だった俺でも分かる!

 

「美味そうな匂いがするぞ? でもまずそうな匂いもするぞ? 甘いのかな? 苦いのかな?」

 

地獄の底から響くような気色悪い声。その声を聞いただけで、さっき銀華のお陰で収まってた膝の震えがまた起きそうだ。

 

「はぐれ悪魔バイザー。貴方を消滅させにきたわ」

 

ケタケタケタケタケタケタ……。

 

人間では決して発せなさそうな異様な笑い声が聞こえてくる。あーハッキリ分かったよ。これは、俺の知ってる悪魔の笑いでもない。

 

向こうの暗闇から来る者に警戒心を強めていると、暗闇からぬっと女性の顔が出てきた。

 

上半身は裸の女性のものだが、腕の数が四本。その四本全てに槍らしき得物が握られている。

 

下半身は完全に化物だ。四足であり、そのどれもが図太い。爪も鋭く、尾は大蛇のようだ。うわ、尾が一人で独立して動いてやがる!

 

大きさは全て合わせて五メートル以上。……これが、これも悪魔なのか? だよな、『はぐれ悪魔』だもんな。

 

うわあ、改めて実感。悪魔怖い!

 

「主の元を離れて自分の欲求を満たすために悪略非道の限りを尽くすのは万死に値するわ。グレモリー公爵の名に置いて、滅してあげるわ」

 

腕を腰に当てながら堂々と叫ぶ部長。

 

「こざかしぃぃぃいいいいいい!! 小娘がぁぁぁあああ!! その紅の髪のように、お前の体を鮮血で染めてやる!!」

 

「雑魚程洒落の効いたセリフを吐くものですね。……では、リアス。くれぐれも気をつけて」

 

そういえば、何で銀華はこの状況で平然といられるんだ? 俺はブルって動けないっていうのに……。

 

そもそも、銀華にはおかしい部分が多々あった。悪魔の事情も詳しかったし、この神器(セイクリッド・ギア)にも詳しかったし、部長とも平然とタメ口で話しているし……一体何者なんだ、銀華。

 

「ええ。分かっているわ。祐斗!」

 

「はい!」

 

俺が思考を巡らしている間、木場がはぐれ悪魔に向かって飛び出した。

 

速い! 姿が見えなかったぞ! どんだけのスピード出してるんだよ!

 

「イッセー、さっきの続きをレクチャーするわ」

 

さっきのって言うと、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の特性のことか。

 

「祐斗の役割は『騎士(ナイト)』、特性はスピード。『騎士』となった者は、速度が増すの」

 

部長の言う通り、木場の速度は徐々に上がっていく! 化物も武器を振るって木場に当てようとするが、当たる気配がまるでない!

 

「そして、祐斗の最大の武器は剣」

 

いつの間にか動きを止めていた木場を見ると、木場は西洋剣らしき物を握っていた。

 

その西洋剣らしき物を鞘から抜き放つと、銀光を放つ剣が現わになる。

 

木場の姿が一瞬で消える! それと同時に、化物から悲鳴がこだまする。

 

「ぎゃあああああああああああああ!」

 

見れば、化物の腕は槍ごと綺麗さっぱり胴体から離れていた。

 

「これが祐斗の力。圧倒的な速力と達人級の剣捌き。この二つが合わさることによって、祐斗は最速の『騎士(ナイト)』なれるの」

 

「この小虫がぁぁぁぁあああああ!!」

 

木場と入れ替わるように、今度は小さな影が化物へと飛び出していく……って、あれは小猫ちゃんじゃないか!

 

小猫ちゃんは、足を振り上げた化物に踏み潰される。小猫ちゃん!

 

「次は小猫。小猫の駒は『戦車(ルーク)』。戦車の特性は至ってシンプル――――――」

 

一瞬、踏み潰された小猫ちゃんに駆け寄ろうとしたが、部長が余裕そうな態度でいるので、助けるために駆け寄ろうとするのをやめ、部長の話に耳を傾ける。

 

……アレ? 化物の足、なんか浮かんでないか?

 

徐々に化物の足が持ち上げられていく。その化物の足の下には、さっき踏み潰された小猫ちゃんが!

 

「バカげた破壊力と、屈強な防御力。無駄ね。あの程度では、小猫を潰しきれないわ」

 

「……吹っ飛べ」

 

化物の足が持ち上げられ、一瞬の隙に足元から逃げ出した小猫ちゃんは、飛び上がり化物のドテッ腹に向かって拳を叩き込む。

 

ズドン! と細身の小猫ちゃんからは想像できないような音がなると同時に、化物はその体格に似合わない距離をブッ飛ぶ。

 

そういえば、俺の依頼者の人が言ってたな。

 

――――――小猫ちゃんは、怪力が自慢だったよ。僕、お姫様抱っこされたもん。

 

うん、確かに怪力自慢だわ。化物吹っ飛んでんじゃん!

 

これから、小猫様には逆らわないでおこう。命がいくつあっても足りん!

 

「最後に朱乃ね」

 

「はい、部長。ああん、どうしましょうか」

 

未だに小猫ちゃんの拳によって立てなくなっている化物に、朱乃さんは微笑みながら近づいていく。

 

「朱乃の駒は『女王(クイーン)』。私の次に最強の者よ。全ての駒の能力を持っている、まさに無敵の副部長よ」

 

「ぐゥゥゥゥぁぁぁぁ」

 

「あらあら、まだまだ元気ですわね。なら、これはどうでしょうか」

 

朱乃さんの微笑みが、不敵な笑みへと変わった刹那。天から化物に向かって雷が落ちる。

 

「ガガガガッガッガッガガガ!!」

 

じゅうっと丸焦げになる化物。あの苦しみは、想像を絶する苦しみだろう。だが――――――

 

「ギャアぁぁアアアア!!」

 

痛みを感じてる暇もなく、第二の雷。もう、断末魔の声が上がる化物に対して、更にもう一発雷が!

 

「グガアアアアアアアアアア!!」

 

チラッと見えたけど、朱乃さん、大変恍惚の笑みを浮かべてます! ドS! この人はまごうことなきドSだ!

 

「朱乃は魔法が得意なの。雷や凍といったね。それと、朱乃は究極のSでもあるわ」

 

いやいや部長。ドが抜けてます、ドが! もう一度言う! あの人はSじゃない、ドSだ!

 

「……うう、朱乃さんが怖いです」

 

「大丈夫よイッセー。一旦戦闘になれば、相手が負けを認めても痛ぶり続けるけど、味方なら優しいから。それに、貴方のことも気に入ってるらしいわよ? 今度甘えてあげなさい」

 

「うふふふふふふ! さあ、まだまだ聞かせて! あなたの悲痛の叫び声を! あぁ、でも死んではダメよ? あなたのトドメは我が主がするのだから。オホホホホッ!」

 

……目の前の人が怖いです。部長。

 

一番常識人だと思ったら、一番常軌を逸してる人だったんて……。

 

それから数分間。朱乃さんによる、化物拷問は続き、朱乃さんが一息ついたところで、戦意皆無の化物の元へ、部長が近づいていく。

 

「何か言うことは?」

 

「殺せ」

 

化物は、声とは言えないような掠れた声で言う。

 

「そう、なら滅びなさい」

 

冷徹な一言。部長の一言で、全身が震えた。

 

ドン! と音が鳴ると、部長の手から化物を覆い隠すような大きさの魔力が打ち出される。

 

魔力に当たった化物は、その姿を一片たりとも残さず、この世界から消え去った。

 

「終わりね。皆、ご苦労さま」

 

化物が消滅したのを確認すると、部長は部員向かって言った。これで……終わりなのか。

 

はぐれ悪魔。何を思い、何を考えて主の元を離れたのかわからない。だけど、主を裏切った末路は、こうなるのか……。

 

これが、悪魔の戦い。これからは俺も、この戦いに参加するんだよな。……やべ、緊張してきた。

 

「はぁ……やはり」

 

「銀華?」

 

隣に立っていた銀華は急に前屈みになると、クラチングスタートのような形になる。

 

一体、何をやっているんだ銀華? 短距離走でもするのか?

 

「イッセー、リアスを受け止めなさいよ」

 

「え……?」

 

次の瞬間。隣にいたはずの銀華の姿が消える! え!? どこいった? 

 

「リアス、八十点ね」

 

「キャッ!?」

 

先ほど銀華に言われたセリフを思い出し、部長の方を見ると、そこには部長をこちらに蹴り飛ばしている銀華がいた。

 

銀華! 何やってんだよ! なんで部長を蹴ってんだよ! 部長が何した!

 

訳の分からない行動を取る銀華に対して色々と文句は言いたいが、それより先に、俺は飛んで来る部長を受け止める。

 

「部長! 大丈夫ですか!?」

 

「え、ええ、大丈夫」

 

良かった。別に痛みで苦しいとかはないみたいだ。なら……銀華!!

 

部長の安否を確認し、訳の分からない行動を取った銀華の方を睨みつけるように見る。……だが、俺は浅はかだった。

 

部長から視線を外し、銀華を見てみれば、そこにはさっきの化物以上の大きさと相対している銀華の姿が。

 

い、いつの間にあんなのいたんだよ! 全然誰ひとり気づいていなかったぞ!

 

上半身は先程と同じように女性。だが、腕は全てがカマキリのようになっている。

 

下半身はライオンのようなしっかりとした四肢。尾に関しては蛇なのだが、もはやその大きさは大木だ。そして爪。その爪が異常すぎる。一本一本の爪が、まるでダイヤモンドのように輝いてる。

 

明らかな化物。先ほどの化物が可愛く見える……。

 

そんなことよりもだ! 速く銀華を助けないと! いくら神器(セイクリッド・ギア)があるとは言え、銀華はごく普通の人間なんだから!

 

「クケケケケケ、せっかっくよぉ。気配消して油断するまで待ち伏せしてたのに。な~んで気づいちまうかな」

 

「はん! お前みたいな気持ち悪いの、すぐに見つけられるわ」

 

「部長、速く銀華を助けないと!」

 

一触即発の空気に焦りを感じつつ、受け止めた部長に言うと、部長は至って平然としていた。……いや、部長だけじゃない。周りにいる朱乃さんや小猫ちゃんや木場。誰しもが平然としている。

 

「部長!」

 

「イッセー、あなたに一つ教え忘れてたわ」

 

こんな時に何を言ってるんだ。速く銀華を……

 

部長は俺の腕から降りると、服についた汚れを手で払う。その間俺は、焦りしか感じてない。

 

「貴方は銀華を助けるために焦ってる。でもね、それは必要ない」

 

「どうしてですか!」

 

「彼女はね、私……いえ、私達全員を合わせても勝てないわ」

 

……は? 勝てない? 人間である銀華に、悪魔でありさっきの化物を難なく倒した皆の力を合わせても……勝てない?

 

「訳がわからないって顔をしてるわね。……見てなさい、イッセー。あれが、銀華よ」

 

「まずは、お前からだよ邪魔者。シネエエエエエええええ!」

 

部長が目線を向ける方に視線を向けると、そこには先ほどの小猫ちゃん同様、踏み潰されそうになっている銀華!

 

あれはダメだ! よけないと銀華が潰れ――――――

 

「霊的な瞳(アウラー・オブ・ヴィジョンアイ)発動」

 

銀華が呟いた刹那、俺の体がとてつもない悪寒に襲われる。何だよこれ。

 

空気が違う。いつも空気を吸うという行為を自然に行っているのに、今は意識しないと出来ない……。

 

「気をしっかり持ちなさい」

 

銀華が片腕を化物に向かってあげる。その行為は、本来であるなら、化物の重さによって腕が折れるなんて生易しい結果になるはずがない。そもそも、あの重さに潰されたら、ミンチだ。

 

だが、銀華は違う。銀華は――――――

 

「この程度? 期待はずれにも程がある」

 

「な……に……?」

 

受け止めた。腕一本で。しかも、小猫ちゃんのように潰れていない。本当に立ったまま片腕で受け止めた。

 

「もう少しましだと思ったんだけどね、はぁ、つまらない。準備運動にもならない」

 

銀華は受け止めている足を押す。それによって、化物はバランスを崩す。そして、俺は一瞬しか化物を見ていない。なのに、視線を銀華戻してみれば、そこには銀華がいない。

 

「ギャアアアア!!」

 

いきなり聞こえる悲鳴。

 

悲鳴の発生地点である化物を見てみると、そこには化物の腹に足が垂直にめり込んでいる銀華がいる!

 

いつの間に、あんなとこに移動したんだ? もしかして、木場より速い?

 

「どうしたのですか、化物。私を殺すんじゃなかったの?」

 

「グァアア……」

 

悲痛な声を出す化物の顔面を容赦なく踏みつけ、蔑むように言う銀華。

 

そんな銀華の瞳のが金色に変わり輝いているのだ。

 

率直に言わせてもらう……怖い。単純に怖い。

 

朱乃さんみたいに、いつもと違う姿を見て怖いのではない。生物の本能のようなものが、銀華の事を恐れ、畏怖している。

 

絶対に逆らえないと、絶対に逆らうなと、俺の生物としての本能が訴えている。

 

「つまらい、本当、つまらない。もういいよ、消えて……食べる気にもならないし」

 

銀華は何か言うと、踏みつけていた足に力を込める。

 

化物もなにか抵抗しようと必死に暴れるが、銀華は少しも動かない。そして――――――

 

「バイバイ」

 

化物の頭が踏み砕かれた。

 

ピクリとも動かなくなる化物。馬鹿げた大きさの化物が、たった一人の細い女の子によって完膚なきまでに圧倒され、殺された。

 

「……はぁ、今回もつまらなかったですね」

 

「そうね……ありがとう銀華。油断してわ」

 

「気を付けでくださいよ。リアスだけではなく、皆も」

 

化物の元を去って、こっちに戻ってきた銀華の瞳は、いつもの瞳へと戻っていた。それと同時に、先程まであった怖い気持ちが消え去った。

 

「気を付けるよ」

 

「気をつけますわ」

 

「……気をつけます」

 

皆一様に畏まって銀華に言う。……一体、銀華は何者なんだ?

 

「ええ……では、帰りましょうか」

 

そう締めくくり、銀華は俺の隣を過ぎ去って廃工場を出ていこうとする。だが、その途中で俺の肩に手を置いてくる。

 

「まあ、イッセー。これから頑張りなさい」

 

肩から手を離し、再び歩いていく銀華。

 

……何故だろう。銀華がとてつもなく大きな存在に感じた。人間である銀華にだ。

 

振り返り、廃工場の入口の方を見てみると、銀華が長い銀色の髪をなびかせて、悠々と廃工場から出て行った。

 

「イッセー、どうだった?」

 

「凄かったです。人間であるにもかかわらず、悪魔の俺よりも強い。正直、これからの戦いに関する自身が無くなりそうです」

 

「そう……でも大丈夫よ、イッセー。貴方は貴方。これから努力していけば、きっと銀華よりも強くなれるわ」

 

「……はい、俺頑張ります!」

 

ああ、そうだ、頑張ろう! これからだ! これから頑張ればいい! 口先だけじゃなくてちゃんとな!

 

こうして、深夜の廃工場のはぐれ悪魔の討伐は終了した。

 




章管理したほうがいいですかね?

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第十二話 神父

神父の外道っぷりが書けない。


「よ、ようやく完成した……」

 

あの全員集合から一日経つ。その間、堕天使達は目立った行動をせず、私は無事、目的のものを作り出せた。

 

それにしても眠い。流石に徹夜で作ったのだから仕方ないか。ああもう、手伝ってくれたらもうちょっと早く終わったのに。

 

「ふぁ~あ」

 

作ったモノをソファーの傍らに置き、ソファーに横になる。もうね、眠い。少し位寝たって文句は言われないでしょう。

 

まぶたを閉じ、気持ちを落ち着けるとすんなりと眠りにつけた。どうやら、私はすんなり眠れる程疲れてたみたい……。

 

 

 

「サ……ササ……」

 

ん? 誰? 私、まだ眠いから寝かせて欲しいんだけど……ああ、もう。分かった分かった、起きるわよ。起きればいいんでしょ。

 

「誰~?」

 

まだ眠りたいという気持ちを押さえてなんとか起き上がり、眠ったせいでボサボサになった髪を整えながらソファーへ座る。

 

「あ、ようやく起きったすか。ほら、髪の毛整えて」

 

重たいまぶたを開けてみると、そこには櫛を持って、紫色の髪を結ばずない状態でいるメルトがいた。

 

髪の毛を整えてもらいがら、いつでも考えれるように体を起こしていく。……よし、紅茶を飲もう。じゃないと、頭が回らん。

 

「メルト、紅茶をくれない?」

 

「ちょっと待ってくださいっすね」

 

普段は私に紅茶を入れさせるようなメルトだが、こういう時だけは大人しくいうことを聞いてくれる。

 

髪を整えてくれたメルトは、私のために紅茶を入れてくれると、テーブルの前へと置く。その紅茶を一口飲み、ゆっくりと呼吸をする。……よし、これで大丈夫。

 

「で、どうしたのメルト? なにか事件でも起きた?」

 

「それがっすねマスター。今イッセーが向かった依頼主の所に、例のシスターがいるらしいんですよね。ですから、今のタイミングで計画を実行したらどうっすか?」

 

チラッとソファーの傍らに置かれた例のモノを見ながら言ってくるメルト。

 

確かに、今のタイミングでもいいのだけど、それだと堕天使たちに気づかれる気がするのよね。どうせなら、もっとドサクサに紛れて計画を実行したい。

 

それに、私の思い通りに事が進めば、イッセーは赤龍帝の力を少しは開放できる気がするのよね。……さて、どうしたものか。

 

「……そうね、監視で留めて置いて。でも、もし堕天使がシスターの神器(セイクリッド・ギア)を取ろうとしたら、シスターを攫って計画を実行するわ」

 

「了解っす」

 

その一言だけ言って、メルトは部屋から出ていく。

 

さて、そろそろ実行の時ね。上手くいくように根回ししとかないと。

 

 

 

「……ここか」

 

悪魔としてのお仕事で呼び出されたのは、マンションやアパートといったものではなく、一軒家だった。

 

残念なことに、魔力が足りなさすぎて魔法陣からジャンプできない俺なので、毎度玄関から入るんだけど、大丈夫かね? 一軒家だから、依頼主の他に家族とか居たらマズイと思うんだけど……。

 

「それにしても……はぁ」

 

何故俺がこんなため息を吐くかというと、俺の駒が『兵士(ポーン)』だったんですよ。

 

なんでも、部長の『僧侶(ビショップ)』はいるらしい。なので、俺はあまりでいっぱいで、一番下っ端の『兵士(ポーン)』。

 

別に部長がそういった訳ではないけど、そう思っちゃうんだよね。

 

「……だああ! 落ち込んでる場合じゃない! 今は早く上級悪魔になるため頑張んないと! 集中」

 

依頼主の玄関前で自分の頬を叩き、気合を入れ直して集中する。

 

よし! 行こう!

 

だが、玄関から数歩踏み出してようやく気付いた。

 

「扉が……開いてる?」

 

こんな深夜遅くに開いているはずがない玄関の扉が、無造作に開かれていた。こんなこと、よっぽど無用心じゃなければやらない。

 

なら、どうして開いているんだ? 考えた通り無用心なだけ? それとも――――――

 

「ッ!」

 

そこで、言いようの無い不安感が襲ってくる。

 

もしかして――――――

 

ゆっくりと玄関へ歩み寄り、一歩だけ中に入ってみる。人の気配が……感じられない?

 

中には入り、廊下を覗いてみると、突き当りの部屋から明かりが漏れている。皆寝ているのか? いや、それでもこの異様な雰囲気は感じ取れるだろう。

 

唾を飲み込み、靴を脱いで持ち、静かに廊下を歩く。

 

「ち、ちわーっす。グレモリーさまの使いの者ですけど……依頼主の方はいらっしゃいま

すか?」

 

明かりが漏れている部屋の前で自信なさげに声を出してみるが、中から返答は帰ってこない。

 

意を決して、扉を開けて中に入ってみる。そこには、ソファーやテレビ、テーブル等、普通のどこにでもある部屋だ。

 

……え? これって……

 

何気なく床を見てみると、そこには血の跡がある。その血の跡を辿って見ると――――――

 

「ッ!? うげぇ」

 

そこにあったモノを見て、思わず腹の中のものを吐き出してしまった。なんで、なんで普通の家にこんなのがあるんだよ……。

 

二度と見たくはないが、なんとかそこにあるものを見る。

 

そこにあるのは、人間の死体。だが、その死体が異常すぎる。

 

リビングの壁に上下逆さまに杭で貼り付けにされ、体中が切り刻まれている。傷の一部からは、臓器らしきものも……。

 

この家の人か? でも、なんでこんな風になっているんだよ! こんなことやった奴、まともな神経じゃないだろう。

 

「なんだ……これ」

 

必死に吐くのを堪えて、死体をよく見ると、死体の傍に文字が書かれている。

 

「なんて、書かれてるんだ?」

 

「悪い子はお仕置きよって、偉い方のお言葉を借りたのさ」

 

急に聞こえた声の方に振り返ってみると、そこには白髪で、口もとをニンマリとさせている男がいた。若い、十代程かな?

 

「これはこれは~あーくまクンではないですか!」

 

本当に嬉しそうに言ってくる。

 

……そうだ、思い出した。確か部長が言っていた。もし、教会の悪魔祓い(エクソシスト)に会ったら注意しろと。何故なら、彼らは天使や堕天使の加護を受けて、光の力を使えるからだ。

 

マズイマズイ! この状況は非常にマズイ!

 

「お前がやったのか……?」

 

「勿論! 俺ことフリード・セルゼン様がぶっ殺しましたぁ。ああ、名前とか名乗ならくていいから。それに~くそ悪魔には関係無いことでしょう! 今ここで死ぬんだから!」

 

こ、こいつ、なんて事を平然と言ってやがるんだ! 頭のネジの二、三本外れてんじゃえねのか!

 

「なんでこんな事したんだよ! 殺す必要なんて無いだろ!」

 

「はぁぁぁぁ? 馬鹿じゃねえの? クズ悪魔にお願いしたんなら、その時点で人間として終わってんの。クズなのクズ! 殺して当然でしょ。それに何? 悪魔が俺に説教しよっての? マジ笑える! クソ悪魔の分際でよく俺にそんな口聞けるね」

 

くそ! やっぱりイカレテやがるこいつ! 完全に、キチガイだ!

 

「もういい? もうういよね! はい決めた、今決めた。この俺が決めた! 今からこの光の剣でバラッバラのひき肉にしてあげちゃう! う~ん、俺って良心的!」

 

勝手に自分の中で結論着けたキチガイ……もとい、フリードはいきなり持っていた剣の持ち手だけを振るって来る。

 

咄嗟に横にダイブして躱しはしたけど、アレってもしかして光? じゃあ、あれに切られたら、マズイんじゃ……。

 

嫌な汗が背中から吹き出るが、必死に思考を回転させて次の行動に移ろうとする……だが。

 

「いつッ!?」

 

急に右足に激痛が走る。何事かと右足を見てみれば、太ももに丸い穴があいていた。

 

やべえ、超痛え! 何だよこの痛み! これが、光の痛みなのかよ……。

 

「どうよー! エクソシスト特性の光の弾丸は! 超痛えだろう?」

 

ニタニタとウザったい笑みを浮かべるフリードの手元には、光の剣といつの間にとったのかは知らないが、銃が握られていた。

 

つか、光の弾丸? 銃声なんて、少しもしなかったぞ!

 

「光の弾丸なので、音は出ません! 気づかなかっただろう!」

 

「グッ!」

 

必死に足の傷を押さえて座り込んでいる俺の横っ面を蹴り飛ばしたフリードは、地面についた俺の頭を踏みつけると、楽しそうな笑みを浮かべてくる。

 

「おいおい! もう少し楽しませてくれよ~悪魔ちゃん。これじゃあ、どれだけお前を細切れにできるか大会をするしかなくなるじゃない」

 

さらっととんでもない事を言いやがったな、こいつ! しかも、細切れにするって、細切れにされんのはごめんだぞ俺!

 

どうせ死ぬなら、昼間会った金髪シスターのアーシアって子の胸の中で……ってこんな死にそうな時に何を考えているだ俺は!

 

ここは、如何に逃げるかを考える――――――

 

「キャアアアアア!!」

 

「ッ!?」

 

いきなり聞こえた悲鳴に驚きながらも、咄嗟に悲鳴の方向を向くとそこには――――――

 

「アーシア……」

 

昼間会った金髪のシスター、アーシア。純情でおとなしいはずの彼女が、何でこんな所にいるんだよ!

 

「おんや~助手のアーシアたんじゃない。頼んどいた結界は張ってくれたんですか?」

 

「フ、フリード神父この人は……」

 

「人? 違う違う! コイツはクズ。悪魔なんかにお願い事をしたクズなの。人間じゃありません」

 

「ですが……!?」

 

気づいてしまった。アーシアが俺に気づいてしまった。ハハ、こんな姿、できれば気づいてくれない方が良かったよ。

 

「イッセーさん……」

 

「あ? 何、この悪魔くんと知り合い?」

 

「あ、悪魔?」

 

「そう、悪魔! 人間を徹底的に陥れるクズの中でも飛びっきりのクズである悪魔!」

 

「そ、そんなはずは……」

 

ああ、最悪だ。出来ればアーシアには、ただの優しい高校生でいてあげたかったのに……。

 

「ごめん」

 

「そんな……イッセーさん……」

 

「ねえ、もういい? 君らのウザったい空気のせいで、俺マジで吐きそうなんだけど」

 

倒れふしてる俺に向かって笑顔を向けながら、フリードは持っていた光の剣を振り上げる。

 

「それじゃあ――――――」

 

「やめてください!」

 

あと一瞬で光の剣が振り下ろされるといった瞬間、アーシアがフリー度に向かって抱きついて動きを遮るようにする。

 

「な!? このアマ! 離せ!」

 

「離しません! イッセーさんを滅する事なんてさせません!」

 

アーシア、なんで俺のためにそこまでしてくれるんだよ。さっさとにげればいいのに!

 

アーシアの言葉を聞いたフリードは、表情を険しくする。

 

「……おいおい、マジで言ってやがるのかよー? アーシアたん、何言っちゃってるのかわかってるの?」

 

「……はい、フリード神父。私は、このイッセーさんを助けます――――――キャッ!」

 

必死にしがみついていたアーシアをフリードは、持っていた銃で容赦なくアーシアを殴りつける。その衝撃に耐えられなかったのか、アーシアは地面に倒れこむ。

 

「さっすがの俺でも今のはちょいとカチンときたし、傷ついちゃいましたー。堕天使の姉さんには殺すなとは言われてますけど、他の事については言われてないんでねぇ。ちょっち俺の傷ついた心をアーシアたんで癒そうかねぇ」

 

殴られ、地面に倒れこむアーシアに、フリードはゆっくりと歩み寄っていく。

 

おい、あの野郎! アーシアに何しようとしてやがる! クソ、動けよ俺! 守ってくれた女の子が襲われそうになってるんだぞ! ここで動けなくて、何が男だ!

 

痛い脚を庇いながらも立ち上がり、右手で握り拳を作る。ただ一発、それだけでいい。それだけ出来れば……

 

「おい」

 

「ん? あぷぎゃ!」

 

振り返ったフリードの頬に、倒れ込みながら全体重を込めて打った拳がめり込む。そのまま地面へと倒れこむが、フリードの奴も軽く吹っ飛び、ソファーをひっくり返して動かなくなる。

 

ハハ、どうよ。これで、アーシアは大丈夫なは……グッ!? なんだ、いきなり腕に激痛が!

 

「この、クソ悪魔が! 俺を殴りやがって! 死ぬ一歩手前までメッタメタに切り刻んでやる!」

 

頭を抑えながソファーから体を起こしたフリードは、二三回頭を振るうと、立ち上がって俺の方に歩いてきた。

 

「クソ悪魔が! クソ悪魔が! 死ね!」

 

「グッ!」

 

なす術もなく蹴られ踏まれ続ける俺。

 

くそ、やっぱりおれじゃあ、勝てないのか……大切な女の子ひとり守れないのかよ!

 

 

 

「よくやったねえ。イッセー君」

 

「え?」

 

「ぷげら!?」

 

俺とフリードとアーシアしかいないはずなのに、誰でもない新たな声が聞こえた。その声は、フリードの背後から聞こえたる、と同時に、フリードの体が吹っ飛んだ。

 

フリードのいた場所、そこにいたのは隣の木場のクラスの人、名前は確かメルト・コカトリス。最近休んでいたけども、復帰してきたらしいい。そんな彼女が、どうしてこんな所にいるんだ!?

 

「さあ、遊んであげるっすよ。ガキ」

 

 

 

結界を破壊し、中に入ってみれば、そこには倒れ込んでいる例の人物と、イッセーがいるじゃないですか。だけど、状況は芳しくない。何故なら、神父がイッセーをいたぶっていたから。

 

多分、イッセーの奴、光に撃たれたね。う~ん、早くリアス達は来てくれないですかね。私の目的はあくまで二人の保護。救出ではないのでね。

 

「やあ、イッセー君。元気っすか?」

 

「あ、ああ……って、何でこんな所にいるんだよ!」

 

「そんなことはどうでもいいじゃないっすか。今は逃げる三段でも付けておいてくださいっす……来ましたね」

 

イッセーとの話が一段落すると同時に、足元に赤色の魔法陣が浮かび上がる。この魔法陣は、グレモリーの紋章。よし、これで逃走ルートは確保できた。

 

「あらあら、これはこれは」

 

「……酷いですね」

 

続々と現れるグレモリー眷属を尻目に、先ほどの神父を見る。

 

「いてて……って、おんやまあ! 悪魔さん御一行様じゃないですか!」

 

「神父か」

 

イッセーを持ち上げて小猫ちゃんの方にぶん投げてから、神父を再び見てから、ゆっくりとリアスに近づく。

 

「リアス嬢。私の目的はシスターにあります。故に、これ以上はそちらに任せてもいいですか?」

 

「ええ、分かったわ。イッセーを助けてくれてありがとうね、メルト」

 

シスターの安全だけを確保し、リアスに持ち場を譲る。これ以上は、私の干渉する必要はないからね。

 

「俺っちを無視して話をするのはやーよ!」

 

いきなり斬りかかってくる神父に、木場が握っていた剣を引きに抜いて応戦する。

 

「神父とは思えない言動だ」

 

「あれー? クソ悪魔の君に何がわかるのかな?」

 

「本当、吐き気がする話し方だ」

 

木場は光の剣を押し返し、横凪に剣を振るうが、神父に軽く避けられてしまう。だが、避けたのは剣だけで、後の攻撃は避けきれないね。

 

「……飛べ」

 

「ふげっ!」

 

体に見合わない大きさのソファーを軽々とぶん投げる小猫ちゃん。相変わらず、馬鹿げた力だこと。

 

「今のうちに飛ぶわよ! 朱乃、準備を」

 

「はい、部長」

 

「部長、アーシアを一緒に連れてってくれませんか!」

 

魔法陣からジャンプしようとしたが、イッセーはシスターを指差して叫ぶが、リアスは首を横に振る。

 

「無理よ。この魔法陣は私の眷属しか飛べないわ……メルト、あなたもいいわね」

 

「ええ、こちらもこちらで用意してるっすから」

 

「アーシア! アーシアアアァァァアアア!!」

 

魔法陣の光が一層濃くなり、グレモリー眷属は全員この場からジャンプして逃げていった。……さて、私も逃げましょうかね。この近辺に堕天使が数名近づいてきてる事だし。戦ってもいいけどね。

 

ま、この分だとシスターももう少しは生き長らえるでしょう。神器(セイクリッド・ギア)も、まだ大丈夫。なら――――――

 

「逃げましょうかね」

 

お決まりの気配を薄くしていく技術を使って、この場から気配を消してゆっくりと外に出ていく。どうやら、堕天使にも気づかれてないようですし、ミッションは成功ってとこですかね。

 

「う~ん、ヤッパリ疲れるっすねぇ、監視は。どうせならもっとこう、ドカンと一発やりたいですよね」

 

あの家から離れ、そろそろ堕天使に見つからないであろう距離まで来たところで、自分の気配をいつも通りに戻す。

 

「でもま、それは今後のお楽しみって事で我慢するっすか」

 




如何だったでしょうか?

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第十三話 動きだす陣営

「え? イッセー君、今日は休みなの?」

 

「ええ、昨日はぐれ神父と戦ってね。その時に負った傷がまだ治ってなくてね。貴方もメルトから話は聞いてるでしょう?」

 

「聞いてるわ」

 

私ことササンは、朝学校に登校してからすぐさまリアスの元へと向かった。理由は昨日のはぐれ神父の一件。私の部下であるメルトが事件に関わってしまったから、その後始末をどうするかの相談で来たのよ。

 

結局後始末は全部リアスがやってくれるということで解決した……のは良かったんだけど、その話を終えて世間話をしてる途中に面白い話を聞いてしまったのだ。

 

それが、先ほど話題になっていたイッセーが学校を休んでいるということ。……さて、これがどれだけ重要な意味を持っているか分かる? いや、わかんなくて普通だけど。

 

説明させてもらうと、今回の事件の被害者であるシスター……確か調べた結果では、アーシア・アルジェントだったかしらね? その子が女の子で、傷つけられたっていうのとイッセーの神器(セイクリッド・ギア)に宿っているのが赤龍帝というのが重要。

 

この二つとイッセーの性格を合わせてみる。

 

代々赤龍帝は女性、強い者を引き寄せる性質がある。シスターアーシアはあのはぐれ神父によって逃げたいや悲しいといった感情を持ち、色々と助けられたイッセーに会いたいとする。そこにイッセーがアーシアを助けたいと思っていると仮定する。

 

結果、悲しみにくれているアーシアは散歩で気を紛らわしたり、逃げようとするかして外に出る。そこに、アーシアを助けたいと思うイッセーの思いが赤龍帝に呼応して、アーシアは赤龍帝であるイッセーに引き寄せられていくと思う。……あくまで、ここまでは私の想像よ?

 

ま、簡単に言えば、イッセーとアーシアがどこかで出会いそうってこと。

 

……さて、どうするかな。アーシアが来て約二日。そろそろ堕天使の方も動き出す頃よね。……よし、学校抜け出して決行しますか。

 

「ねえ、リアス。私今思い出したのだけれど、全身からガマ油が出るって呪いをかけられているの。だから、今日は学校を休むって先生に言っておいて」

 

「……え?」

 

「じゃあね!」

 

「え! ちょっと、ササン! どういうことよ!」

 

真顔で言った私に困惑していたリアスを放置して、言いたいことだけを全て言って、三階の窓から飛び降りる。良かったことに、下や周りには誰もいなかったので騒ぎにはならないだろう。

 

なんだか喚いているリアスの声を聞きながら地面に着地し、すぐに懐から携帯を取り出して雨天に掛ける。今は、朝のホームルーム終わりだから、出ると思うんだけど……。

 

「もしもし、私だ。どうした、ササン?」

 

「ああ、雨天。ちょっとイッセー君探して欲しいんだけど」

 

「分かった。少し待ってくれ」

 

良かった。電話に出てくれて。これで出てくれなかったら、銀華ちゃんに電話しなきゃいけないところだった。

 

「見つけた。公園だ。今遊具を使って体を動かしている。それにアレは……例のシスターもその付近を彷徨いている」

 

流石雨天。仕事が早い上に、私がしたいことを言わなくてもわかるなんて。

 

「ありがとう、雨天」

 

「気をつけろよ、ササン。なんたってお前は……」

 

「分かってるわよ。ちゃんと、自制は出来るわよ」

 

通話を切り、携帯をしまって走り出す。目指すのはアーシア……では無く。二人が合って、どちらにも一気に近寄れる場所。茂み辺りに隠れればバレずにいけるかな。

 

 

 

「参ったわね。少し遅かった」

 

公園に着き、二人へ一気に近寄れる場所に隠れたはいいのだけど、そこには予想外のお客さんがいた。

 

「さあ、アーシア。こっちに来なさい。貴方はこちら側の人間なのよ。そんな下賎な悪魔と一緒にいてはダメなのよ」

 

「レイナーレ様……」

 

堕天使レイナーレ。堕天使でも中堅程度の実力者だと私は思っている。……やっぱり間近で見て思ったけど、欲しいわね。

 

「夕麻ちゃん……いや、レイナーレ! アーシアが嫌がってるだ! お前なんかには渡さない!」

 

アーシアの前にイッセーが立ち、レイナーレの事を睨みつける。……ふ~ん、意外と勇気はあるのね。でも、実力がなければ、それは勇気ではなくただの無謀よ。

 

「下賎な悪魔風情が私の名を呼ぶな!」

 

憤怒の形相になり叫ぶレイナーレに、一瞬萎縮するイッセーだが、すぐに気合を入れなおすと、腕を突き出した。

 

「セイグリッド・ギア!」

 

先ほど突き出した腕が赤く光、イッセーの腕には神をも殺せる神器(セイクリッド・ギア)、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)が装着される。

 

「や、やっ……けふッ!?」

 

「何だ、ただの龍の手(トゥワイス・クリティカル)なのね。上の方から指令で殺せと言われてどれだけ凶悪なものかと思えば、ただのありふれた神器(セイクリッド・ギア)だったとわね」

 

レイナーレ、貴方の目はまだまだね。イッセー君の神器(セイクリッド・ギア)の正体を誤解してる時点ではね。

 

それにしても、イッセー君。神器(セイクリッド・ギア)を出せた時に、油断しすぎよ。だから、両足を光の槍で貫かれるのよ。

 

苦しそうだけど、助けないわよ。だって、助ける役は――――――

 

「イッセーさん!」

 

悲痛な声を上げて走って近づくアーシアはイッセー君の元へとたどり着くと、イッセー君の両足に向かって手を向ける。すると、アーシアの両手から緑の光がイッセー君の足へと飛んでいく。

 

う~ん、やっぱり回復系は便利だけど、イマイチね。なんせ、回復役なら私がいるからね。

 

「アーシア、最後の忠告よ。私とついてくるならそこの下級悪魔は見逃してあげる。でも、もし断るようなら――――――」

 

レイナーレの手に光が集中していく。その濃さは先ほどとは比較にならないほど。アレを喰らえば、イッセー君はひとたまりもないわね。

 

……ああ、やっぱり欲しいわ。あの子。絶対仲間にしよう!

 

「……分かりました。レイナーレ様、あなた様について行きます」

 

「アーシア!?」

 

「イッセーさん、ありがとうござました。どうか、お元気で」

 

「いい子ね、アーシア」

 

レイナーレの元へと歩いてくアーシアを止められずに、未だ僅かに残った怪我のせいで動けずにいるイッセーは、悔しさのあまり握り拳を思いっきり握っている。

 

自分の不甲斐なさ。弱すぎる自分の嫌気がさしているのでしょうね。……ふふ、強くなるわよ。ああいう子は。

 

さて、私も準備しましょうか。

 

「アーシア、アーシアアアアアアアアアアアアア!!」

 

レイナーレがアーシアを連れたまま空に飛んだ。よし、このタイミングしかないわね。

 

空を悠々と跳ぶレイナーレ。多分、人間には見えない魔術でも掛けているのでしょうが、甘いわよ。悪魔が貴方の事を狙っているのだから。

 

走って追いかけ、森の茂みがあと少しで途切れると瞬間、私は懐からソフトボールくらいの大きさの玉を二個取り、思いっきりレイナーレに投げる。

 

「キャッ!? 何!?」

 

驚きのあまり硬直したレイナーレだが、すぐに周りの異変に気づき、警戒態勢を取る。

 

遅いわね。こちらは奇襲なのだから、少しでも油断すればやりたいことを達成できるわよ。……ここら辺の鈍感さは仲間に入れからゆっくりと教えていきましょう。

 

「煙幕! 誰がこんな小賢しい真似を……ッ!? チッ! アーシアを取られた!」

 

私が投げたのはけむり玉。これは、ぶつければ自動で破裂して煙が出るアイテム。製作者は私よ。

 

さて、レイナーレが混乱してる間に、私の小脇で寝ている者を抱えて、代わりに作った者を置いときましょう。

 

さっさと用事を済ませて、再び茂みの中へと戻る。それと同時に、周りを覆ってた煙が全て晴れた。

 

「ケホッ、ケホッ、アーシアは……いた。ふふ、間抜けな襲撃者さんね。自分で襲っておいて、アーシアを連れてくのを忘れるなんて」

 

私の思い通り、レイナーレは置いていた代わりに作った者を持って自分の陣地へ戻っていってしまった。

 

「……ふ~なんとか抑えられたわね。さて、計画も順調だし、帰ろう」

 

小脇に抱えている者を再び優しく持ち直してから、ゆっくりと起こさない程度に家へと帰る。……これで準備は整った。楽しい、楽しい、祭りの始まりよ!

 

 

 

「部長! お願いします! アーシアを助けに行かせてください」

 

「ダメなものはダメよ。敵だらけの陣地である教会に、シスターを救出しに行くなんて認めないわ。諦めなさい」

 

放課後の旧校舎。いつもの習慣でやって来たのはいいのだが、何故か旧校舎の部室内でイッセーとリアスが口論していた。ちなみに、他の皆は二人のことを遠くから眺めている。

 

内容を聞く限り、どうやらあの例のシスターが堕天使共に連れ去られたようですね。それに対して、イッセーが助けに行くといって、リアスが助けに行ってはダメの意見が平行線になっているせいで口論になっている……ってところですかね?

 

ソファーに座って二人のことを見ている小猫ちゃんの隣りに座りながら紅茶を飲み、この前調べたシスターについての情報を思い出す。

 

あの聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)の力で人々を治療し続けた結果、聖女として協会で崇められることになったアーシア・アルジェント。人々は喜んでアーシアを聖女として崇め続けたが、それもある事件がキッカケで掌を返される。

 

アーシアは、教会前で怪我を負って動けなくなっていた悪魔を、聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)で治療してしまったのだ。その一部始終を見ていた他の協会の者に見られ、悪魔をも回復できる呪われた力などと呼ばれるようになり、聖女として崇められていたアーシアは協会を追い出された。そして、今に至る。

 

こうして知らべてみて思いましたが、人間とは勝手な生き物ですよね。勝手に聖女として崇めて、自分たちにとって異端であったならば、すぐさま捨てる。……これだから、聖職者は嫌いなんですよ。ま、私は元聖職者ですがね。

 

「部長、そろそろ時間ですわ」

 

「そう、分かったわ、朱乃。いい、イッセー、絶対助けに行ってはダメよ」

 

時間? リアスに今夜予定は入っていなかったはずですが?

 

朱乃さんと二人、リアスは部室を出ていこうとするが、少し体を外に出したとこで振り返った。

 

「いい、イッセー。出て行く前に三つだけ教えていくわ」

 

「三つ……ですか?」

 

「ええ。一つ目は『兵士(ポーン)』は実はとっても大事な駒であること。この『兵士(ポーン)』は敵の陣地に入った時、プロモーションと言って『王(キング)』以外の駒になれる。二つ目は、神器(セイクリッド・ギア)は想いの力によって力を増すわ。そして、三つ目は――――――」

 

呆然と立ち尽くすイッセーから視線を外して、リアスは長い真紅の髪を靡かせながら扉の外に出て行く。

 

「貴方は、私の最強の『兵士(ポーン)』だという事よ」

 

その言葉がい終わると同時に、扉は閉まった。

 

……はぁ、全く、リアスも素直じゃないですね。助けに行きなさいって直接言わないなんて……でも、仕方ないですね。一応、リアスはこの地域を仕切ってる悪魔の立場があって、下手に動けませんからね。

 

さて、そこで立ち尽くしながら拳を握っているイッセー、貴方は助けに行くのですか? 行くなら……いえ、愚問ですね。貴方は、何が何でも助けに行く、そう言う人ですからね。

 

室内にいる木場君と小猫ちゃんに視線を向けると、二人共リアスの意図を理解しているのか、頷いてくる。

 

「どうするんだい、イッセー君?」

 

「……助けに行く。止めるなよ、木場。何を言われても、俺は行くぞ」

 

「そう……じゃあ、行こっか」

 

「そうですね」

 

「え?」

 

木場君は傍に置いていた剣を取って椅子から立ち上がると、驚いているイッセーに近づく。私はというと、まだ座ったままですよ。

 

「なんで……?」

 

「なんで? はぁ、貴方はリアスが好きなのに、何も分かっていないの?」

 

「んな!?」

 

おお、顔を真っ赤にして驚いてる驚いてる。可愛ですね~初心な男は。エロいくせして、恋愛には初心なんだから。

 

そんなイッセーに、ニコニコスマイルの木場君が説明する。

 

「部長はね、遠まわしに助けに行ってもいいって言ったんだよ。本当に行っちゃ駄目だったら『敵だらけの陣地である教会』なんて、プロモーションを許可するような事を言わないからね」

 

「それと、暗にイッセーのサポートをしろってリアスに言われたのよ。それに――――――」

 

お腹もすいたしね。

 

声に出さず、心の中でだけ言い、飲んでいた紅茶を全て飲み干して立ち上がる。

 

最近、まともな食事をしてませんからね。そろそろ、雑魚でもいいから捕食しないと……ね? ちなみに、私の食事の仕方なんですが……お楽しみという事で。

 

「……私も行きます」

 

「小猫ちゃん!?」

 

「……木場先輩とイッセー先輩が心配ですから」

 

「あれ~小猫ちゃん。私は?」

 

「……先輩は別に大丈夫です」

 

酷い。これでも私はか弱い乙女ですよ……な~んてね。小猫ちゃんの言うとおり。心配される必要なんてありません。大丈夫です。神父程度なら。

 

「小猫ちゃん、銀華……ありがとう」

 

「別に、いいよ。だから、さっさと助けに行くわよ。アーシアちゃんをね」

 

「イッセー君、僕もいるんだけど……」

 

苦笑い木場君。やはり、イケメンには困り顔が似合いますね。この顔……写真で取って売りさばけば結構な儲けになるんでは……。

 

「勿論、木場にも感謝してるぜ……うしっ! それじゃあ、アーシアを助けに行こう!」

 

気合十分、準備万端になったイッセーは、勢いよく拳を突き上げる。うん、元気があっていい事だよ。でもね――――――

 

「さっさと行こう」

 

「先行ってるよ、イッセー君」

 

「……お先します」

 

「あ、あれ? 皆乗ってくれないの?」

 

あえて、皆スルーします。

 

「それじゃあ、行こっか」

 

「はい」

 

「……行きましょう、銀華先輩」

 

「え、えぇ……お、おう」

 

でも、私の時には乗ってくれる。流石、ノリがわかる二人だ。

 

こうして、私達四人はアーシアちゃんが捕らえられている教会へと向かった。

 

 

 

「行ったか……なら、私達も作戦を始めるぞ」

 

「了―解! 任せて……ぬふふ、ああ、楽しみ」

 

「了解っす。いや~楽しみっすねぇ、久々の戦闘。ああ、楽しみ」

 

「楽しんでもいいが、気は抜くなよ」

 

「「了解」」

 




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第十四話 ナリヤの神器 メルトの能力

「どうする?」

 

「どうするって……ね~木場君、小猫ちゃん」

 

「……はい」

 

「そうだね」

 

学校の部室を抜け、教会の玄関口まで来たのはいいんだけど、どうやら中にエクソシストどもの大群がいるので、どうやってはいるか悩んでいる最中である。

 

でも、悩んでいる必要はないですよね。古来から、敵の陣地に乗り込むには――――――

 

「こうですよね」

 

「うおッ!?」

 

玄関にある扉を思いっきり蹴破り、中へと侵入していく。一瞬、イッセーが驚いていたが、すぐに平常心を取り戻し、一緒に中へと入っていく。……イッセー、異常な状況に慣れて、すぐに順応出来るようになってきましたね。いいことです。

 

「これはこれは~懐かしお久し悪魔くんじゃないですか。嬉しいねえ。一度殺しそこねた悪魔をまた殺す機会があるなんて」

 

拍手と共に、教会に設置されている大きな十字架の後ろからなんかよく分からん神父が現れる。

 

何アレ? 白髪の上にウザったい笑みまで浮かべてニタニタニタニタと。私と白髪ってキャラが被るからやめてほしんだけど。

 

「フリード!」

 

「うわお! 鬼気迫る顔でこわーマジ怖―。そんな怖い悪魔くんには、これでしょう!」

 

フリード……でしたっけ? が、ベロベロと舌を出しながら腰から銃と光の剣を取り出す。

 

……こいつ、ぶん殴って黙らせていい? ウザイんだけど。もしくは、喋れないようにぐちゃぐちゃにしていい?

 

「僕が行くよ」

 

「木場!?」

 

「イッセー君、小猫ちゃん、銀華さん。サポートお願い」

 

「了解」

 

「……分かりました」

 

「ひゅ~悪魔同士の熱い友情ってかぁ? ああ、嫌だ、きもちわるいねっと!」

 

「流石、腐ってもはぐれ神父」

 

ウザイ口を黙らせるために、木場君が腰に着けていた剣を抜いて神父に斬りかかるが、神父は光の剣で余裕に止める。

 

「やあーイケメン君。この前はどうも。ずっと考えてたよ。その小奇麗な顔をぐちゃぐちゃにしてやりたいってねえ」

 

「下賎な趣味だ」

 

「小猫ちゃん」

 

「……わかってます」

 

小猫ちゃんと二人。木場君の後ろから左右に駆け出し、教会に置いてある長椅子を同時に神父へ向かって投げつける。

 

「しゃらくせぇ!」

 

バッサリと二つの椅子は光の剣で切り捨てられるが、計算通り。既に、その二つを切り捨てられるのを木場君は理解してるからね。

 

「貰った!」

 

「うえっと! あっぶないね~こんな手が俺に通用するとおもったの? さっすがクソ悪魔、低能だねえ」

 

だが、神父の背後から放たれた木場君の一撃は、振り返った神父の光の剣のひと振りで弾かれる。更に、弾いた瞬間、追撃とばかりにもう片方の手に持っていた銃でき木場君を撃ち抜こうとする。

 

でも、甘い。その程度の反撃、見切ってるよ。

 

「さあ、出番だよ。行きなさい」

 

「プロモーション! 『戦車(ルーク)』!」

 

「んな!」

 

神父の後ろに突っ込んでいくイッセーに、慌てて神父は銃をイッセーに向かって撃つ。Sかし、それは無駄。何故なら――――――

 

「『戦車(ルーク)の特性は、馬鹿げた防御力と!』

 

『戦車(ルーク)』へとプロモーションし、『戦車(ルーク)』特性を得たイッセーにはそんな下級レベルの光の弾丸なんて効きはしない。

 

全ての弾丸がイッセーの体へと当たるが、そんなことは気にせず、イッセーは神父に向かって走り続ける。

 

「マジですか……!」

 

「馬鹿げた攻撃力だ!」

 

「ぷぎゃう!」

 

力いっぱいに振るわれた拳は、神父の頬へと綺麗に入る。流石の神父でも、その威力に耐えられなかったのか、教会に置いてある椅子を巻き込みながら吹っ飛んでいく。

 

よし、ここはダメ押しでもう一発! こういう輩は徹底的に潰さないと気がすまないのでね。

 

「……先輩」

 

「ふぎゅ! ど、どうしたの小猫ちゃん」

 

神父に向かって駆け出そうとしたら、いきなり小猫ちゃんに首元掴まれてしまった。私、身長は結構あるから小猫ちゃんの身長じゃあ掴めるはずがないんだけど……どうやってんの? 

 

「小猫ちゃん、どうやって掴んでるの?」

 

「……背伸びして摘んでるだけです」

 

ふ~ん。摘んでるだけね……力強すぎでしょう! まだ本気出してないとはいえ、私が動けなくなるほどの力って……相当だよ?

 

「――――――っくそ……」

 

急に聞こえてきた声の方を向いてみれば、そこには頬を赤く腫らせている神父がいる。……ふむ。『戦車(ルーク)』状態のイッセーに殴られてあの程度とは、不可思議ですね。本来なら死んでもおかしくはないんですが……ああ、成程。咄嗟に持っていた剣で防いだんですか。

 

怒っているのか、神父はイッセーの拳を防いだせいでボロボロになった剣を投げ捨てると、銃を仕舞い、両手に光の剣を持つ。

 

「この、クソ悪魔共が! 調子に乗りやがってよぉぉぉぉぉぉ!! ぜってぶっ殺す! 粉微塵になるまでぶった斬って生まれてきたことを後悔させてやる!」

 

今にも飛び出して来そうな神父。……ああ、もうダメ。限界。

 

「あ゛?」

 

「ッ!?」

 

小猫ちゃんを優しく離してから歩き出し、一番神父に近いところにいた木場君を掴んで私の後ろへと下げる。

 

「テメエこそさっきから何調子こいてんだ? クソ悪魔クソ悪魔ってよ? 誰がクソだコラ! こいつらはな、私の大切な仲間なんだよ。それとも何か? 私の仲間をワザと罵って、喧嘩売ってんのか? よし、買った。殺してやるからそこ動くな」

 

「こりゃあ……ちょっとドジったなぁ。まさかアンタみたいなのがいるんなんて。そんなわけで、俺は死ぬ勝負は死なない主義なんだよねぇ。じゃ、バイナラチャ!」

 

私が掴みかかろうと走ると同時に、神父は咄嗟に胸元に手を突っ込み、小さな球体を取り出す。それを、地面に叩きつけると、強烈な音と眩い光が辺りを包み込む。これは、閃光弾か。小賢しい真似を!

 

気配だけで捕まえようとするが、逃げられた。……チッ、クソ野郎目。

 

「じゃあねえ。天才無敵の俺様に無様に逃げられる悪魔の皆さん。……ああ、それと。イッセー君だっけ? 次会ったら、首チョンパね」

 

教会の窓の淵に立ち、颯爽と外に出てく神父。ええ、今度会ったら、お前も首チョンパですけどね。

 

さて……気配が大量に地下から感じますね。アーシアちゃんが捕らえられているのは地下でしょうか? 床を割って直接行ってもいいのですが、その行き方ではアーシアちゃんを傷つけてしまうかもしれませんね。

 

なので、多分地下へ入れる入口があると思うのですが……おお、十字架の近くにある教壇を動かしたら地下へ続く階段が出てきましたよ。

 

「じゃあ、行こっか」

 

「……はい」

 

二人分程通れるスペースがある階段を小猫ちゃんと一緒に降りていく。

 

「なあ、木場。銀華があんなに怒ったのって見たことあるか?」

 

「ないね。僕は結構昔から銀華さんの事を知ってるけど、あんなに怒ってる姿は初めて見たよ」

 

「そっか……これから、銀華を怒らせないようにしよう」

 

「同感だよ」

 

「ほら、行きますよ」

 

全く、男二人で何を話しているのでしょうか。……やはり、木場君はホモなんですかね。なんだか、生き生きしてますし。

 

 

 

「あは! 今頃アイツ、死んでるんじゃないの~?」

 

「そうかもしれんな。あの程度の下級悪魔ではな」

 

「言えてる」

 

私ことナリヤはメルトと共に、教会にこっそりと忍び込んで例の作戦を実行してる最中です。本当ならすんなりと暴力的に解決できた。なのですが! 三人の堕天使を探っていたら、とっても険悪な場所にきてしまいました。

 

それは、リアスと朱乃。その二人に対して、堕天使三人がリアスの下僕であるイッセー君を罵ってる場所です。

 

私達の計画では、この三人の堕天使を無事に保護しなければいけないのだけど……どうしよう? この状況じゃあ、リアス達に保護するからその三人渡してって言っても素直に渡してくれませんよね。

 

「どうするー? メルト?」

 

「う~ん。もう横取りでいいんじゃないっすか?」

 

「やっぱりメルトって脳筋?」

 

「いや~最近また胸に脂肪がついたんすよ」

 

「そのくせお腹の肉は落ちたの? 羨ましいわ~」

 

メルト。なんで同い年のくせして、こんなスタイルいいの? 私なんて、まだそんなにないのに、メルトったらもう朱乃さんとかのレベルだよ? くそ、羨ましすぎる!

 

いいもん! ササンと一緒に貧乳同盟作ってやるもん! それと、銀華ちゃんも無理やり混ぜてやる!

 

「でも、それ以外に手段ってあるっすか?」

 

「う~ん……こう、上手い具合に立ち回る?」

 

「私と変わらないじゃないっすか」

 

「う、うるさいよ。もう! いいから突っ込もう!」

 

「了解っす」

 

呆れ顔で了承してくるメルトに対して自分の発言が恥ずかしく思えてきた私は、若干頬が熱いのを感じながら、両者の間に飛び出していく。

 

「ちょっと待ったー!」

 

「いや、何も待ってないと思うんすけどね」

 

「もう! 細かいことはいだよ!」

 

どうしてこう、細かいところを突っ込んでくるかな? メルトのせいで、両者共にポカンとしてるじゃん!

 

「なに? また新しい悪魔? うわ~めんどっくっさ」

 

「別に構うまい。何人いようが、問題はないだろう」

 

「そうだけど、正直めんどくさい事には変わりないわね」

 

堕天使が何やらごちゃごちゃ言ってますが気にしない!

 

「メルト、ナリヤ。貴方達どうしてここに?」

 

「久しぶりです。リアス・グレモリー様」

 

「久しぶりっす。今回、私達は極秘に動いてる計画を完成させるために来ましたっす」

 

「極秘の計画? ……その内容は?」

 

「あまり深くは教えられませんけど、簡単に言えばあの堕天使三人の保護です」

 

「なッ!?」

 

やっぱり、案の定驚いたちゃってるよ。そりゃあそうだよね。悪魔の宿敵である堕天使を保護しようってんだから。私だっていきなりササンに言われた時は戸惑ったよ。

 

「ですから、イッセー君を侮辱されお怒りなさっているでしょうが、ここは私達に任せていただけましょうか?」

 

「……分かったわ」

 

怒りを押さえて、渋々といった感じで提案を受けいれてくれるリアス。いや~良かった。これで下手にごねられても面倒なだけだからね。

 

「そんなわけ、ちゃっちゃとやっちゃいましょうか、メルト」

 

「そうっすね。終わらせまっすすか」

 

「なーんか、ごちゃごちゃ言ってるんですけどー」

 

「終わらせる? 終わるのはお前たちだろ?」

 

「貴方達の死によってね!」

 

堕天使三人は同時に光の槍を持つと、私達の方へと突っ込でんくる。本当なら、少し位怖いもんだけど、この程度じゃねえ……ぬるすぎるよ。

 

「神をも捕縛する砕けぬ鎖(ブロークン・チェーンバインド)

 

両手を左右に伸ばし、握るモーションをした瞬間、私の両手から黄金の鎖が飛び出し、三人の堕天使を全員を縛る。

 

神をも捕縛する砕けぬ鎖(ブロークン・チェーンバインド)。私の神器(セイクリッド・ギア)。能力は、どんな相手でも縛るっていう能力。他にも、物理的に鎖で殴ることもできるし、相手を縛って振り回したりも出来る。

 

本数に限りは無く、幾らでも出せる。他には……まだないかな? もしかしたらこれからも成長して新たな能力を手に入れられるかもしれないからね。だって、神器(セイクリッド・ギア)は自分の想いで成長してくからね。

 

「な、なにこれー!」

 

「う、動けん!」

 

「むぐーむぐー!」

 

「メルト」

 

「了解っす」

 

地面へと落ちた堕天使三人に向かって、メルトは歩き出し正面で止まる。そして、しゃがんで大きく息を吸うと――――――

 

「はい、お休みっす」

 

ふっ……と短く息を吐き出す。すると、先程まで慌てふためいていた三人の体が徐々に灰色へと変わり、やがてカチコチの石へと変わった。

 

これは、メルトがコカトリスとしての種族の特性上持っている能力。

 

コカトリスであるメルトは、自身の息に念じた状態で他の奴に吹きかけることによって、石にしたり毒を与えたり誘惑したり、後ちょっと気合を入れれば炎を吐いたり冷気を吐いたりすることが出来る。……まあ、炎やら冷気やらは実際に見たわけではないけど。

 

完全に石になった三人を端っこの木の根元に置き、自身の鎖を戻す。

 

「よし、これで任務完了!」

 

「そうっすね。それじゃあ、戻るっすか」

 

「それじゃあ、リアス様。私達は少し暴れてきますんで」

 

「待って頂戴」

 

頭を下げ、教会の地下へと行こうとしたら、リアスに肩を掴まれてしまった。

 

「もしかして教会の地下に行くの?」

 

「そうですけど?」

 

「私達も行くわ」

 

……どうしよう? マズイな~。雨天さん、今回、神器(セイクリッド・ギア)を使う予定らしいんだよね。で、もし使ってしまったら、今まで隠してきた雨天さんの正体がバレちゃうんだよね。……ま、いいか。どうせ、バレるのも時間の問題だし。

 

「分かりました。じゃあ、一緒に行きましょうか」

 

「ええ、行きましょう」

 

「……驚かないでくださいっすよ?」

 

「何が?」

 

「いえいえ、なんでもないっす」

 

「あらあら、気になりますわね」

 

「……行けばわかりますよ」

 

もう、危ない発言しないでよ、メルト。……はぁ、大変だ。

 

結局、なんとか秘密は誤魔化して、四人一緒に教会の地下へと向かった。

 

 

 

「行くぞ、クリストフ」

 

『イエス。マイマスター』

 

「天駆ける天馬の脚(ディエイト・ペガサス)

 




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第十五話 天

地下への階段を降りて行くと、段々神父やら堕天使やらの気配がハッキリと分かってくる。ああ、いっぱいいるなぁ。これだけいれば、多少は満たされるかな。

 

階段を降りること数分。ようやく、中へ入るための階段の扉が見えてきた。

「気を引き締めなさいよ、イッセー」

 

「分かってる」

 

扉を押し開け、中へ入っていく。こんな地下に隠れているのだから、ロクな場所を想像していなかったが、想像してた所より最悪だった。

 

周りの壁には松明の光。そして、大きな十字架に貼り付けられているアーシアちゃんと思しき人物と堕天使。他にもはぐれ神父みたいなのがうじゃうじゃといる。

 

「遅かったわね、イッセー君。儀式は終わったわよ」

 

「儀式が終わった……?」

 

「へ~成程。あんたの狙いは最初からそれだったわけね」

 

手に付けている緑色の宝石がついた指輪を見せながら言ってくる堕天使に、私は堕天使の狙いがわかった。

 

堕天使の狙い。それは、アーシアちゃん本人ではなく、アーシアちゃんの持っている『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』が狙いだったんだ。

 

しかし、今狙いがわかったところで、遅かったですか。もう儀式が終わったということは、アーシアちゃんはもう……。

 

「おい、銀華どういう事だよ!」

 

「多分堕天使の狙いはアーシアちゃんの持っている『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』……そうでしょう?」

 

「お見事。正解よ……なら、この子がどうなったかわかるでしょう?」

 

「アーシアが……アーシアがどうしたってんだよ!」

 

「木場君、説明よろしく」

 

本当はここで私がブチギレて全員皆殺しにしてもいいんだけど……ちょっと気になることがあるから木場君に説明は任せて、今はアーシアちゃんに集中する。

 

私は霊的な瞳(アウラー・オブ・ヴィジョンアイ)の効果を発揮しながら、アーシアちゃんを見る……? アレは、本当にアーシアちゃん? それにしては気配がちょっと……。

 

「木場、アーシアは……アーシアはどうなったんだよ!」

 

「イッセー君……神器(セイクリッド・ギア)を抜かれた者は、死ぬんだ」

 

「死ぬ……? 死ぬって……ッ! アーシア!」

 

いきなり飛び出していくイッセー。もう少し冷静に行動して欲しいものだけど、好きな人が目の前で死んでるなら激情に任せても仕方ないか。

 

ここは、私と木場君と小猫ちゃんでサポートに回るか。

 

「どけッ! どけよ! アーシアがアーシアが!」

 

周りから襲ってくる神父を薙ぎ倒してイッセーは進んでいくが、やはりまだ未熟だから押されかけている。

 

すぐさま木場君と小猫ちゃんに目配せして飛び出し、イッセーを襲う神父達を薙ぎ倒していく。

 

「木場! 銀華! 小猫ちゃん!」

 

「速く行け、イッセー」

 

少しだけ動きを止めるイッセーだが、私達を見て一度頷くとアーシアちゃんまで真っ直ぐに走っていく。

 

イッセーを襲う神父は私達が倒すからいいとして、問題は量だ。雑魚がいくら集まろうが殺られる心配はないが、時間が掛かる。すぐにイッセーを助けには行けないですね。

 

神父を一人殺し、イッセーの方を見てみれば、アーシアちゃんの場所まで無事に着いていた。横では堕天使がニヤニヤとイッセーを見ている。……圧倒的な立場からくる余裕か。

 

「アーシア……アシーア」

 

「寂しそうね、イッセー君。初デートの人には殺されかけ、次に恋した人には死なれる。まるで悪夢ね。」

 

「……本当、悪夢だ。夕麻ちゃんには殺されかけるわ、アーシアは死ぬわ。悪夢以外の何物でもない」

 

「なら、その悪夢を終わらせてあげるわ。アーシアと同じ死によってね」

 

「……ふざけるな。アーシアを殺した奴が生きていられると思うなよ」

 

「はぁ? 雑魚が何をほざいているの? 雑魚のイッセー君に何ができるのよ。精々死ぬのに努力するくらいじゃないの! それとも雑魚の貴方が私を殺すっての? アッハッハ、それだったらウケるわー!」

 

「レイナーレぇぇぇぇええええ!!」

 

「雑魚が私の名前を気安く呼ぶんじゃないわよ!」

 

ブチギレて、今にも堕天使に殴りかかろうとするイッセー。マズイ。アーシアちゃんを守りながら戦うなんて、戦い慣れてないイッセーじゃ無理だ。

 

「イッセー君! この場所でアーシアさんを守りながら戦うのは不利だ!」

 

「だから、アーシアちゃんを連れて逃げろ!」

 

向かってくる神父を叩き潰し、イッセーへの逃げ道を作っていく。だが、やはり神父の数が多すぎて、道を作るのが難しい。

 

ああ、クソ! これじゃあイッセーの元へも行けないから、イッセーのサポートが出来ない。一瞬でもサポートに行ければこの場から逃がせるのに!

 

イッセーの方を見てみれば、アーシアちゃんをお姫様だっこして逃げようとする姿が見える。

 

……ッ! まず! 堕天使の奴、無防備な姿のイッセーに向かって、光の槍を投げようとしてる! 木場君も小猫ちゃんも私も、イッセーの逃げ道を作っているのでイッセーの防御に回れない。

 

神父を掴んでぶん投げ、イッセーの盾にするか? いや、それじゃあ、間に合わない。なら神父共を弾き飛ばして強引にイッセーの元に向かうか? だが、神父は十や二十じゃ間に合わない数だ。突破できるか怪しい。

 

仕方ない、光の槍で堕天使の槍を弾く……!?

 

襲ってくる神父を倒し、少し離れた所から光の槍を放とうとした時、私の横を暴風が通り過ぎた。

 

室内だというのに、この風はおかしい。一体何が通って……!

 

暴風は余っていた神父を一瞬で殺し尽くすと、イッセーのいる場所まで行き堕天使の放った光の槍を弾く。どう弾いたのかは分からない。ただ、弾かれたのだけが見えた。

 

『rapidly!!』

 

ッ!? この声は……まさか!

 

思わず私は動きを止めてしまう。私だけじゃない。何故か小猫ちゃんも動きを止める。

 

「行け、イッセー」

 

「貴様は!」

 

 

渋い声が暴風から聞こえてくる。まさか、まさかまさかまさか! あるはずがない! いるはずがない! だって、彼はもうこの世界にいないはずなのだから!

 

イッセーが私達が開けた逃げ道をイッセーが通ると同時に、暴風が真の姿を現す。

 

「久しいな、堕天使レイナーレ」

 

ああ、ああああ!! そんな、まさか。生きていたなんて!

 

暴風から現れたのは、黄金色の外側に刃が付いた金属のガントレットを両手に身に付け、足に黄金色で白い羽の付いた金属のレギンスを身に付けている老齢の男が現れる。

 

「我が名は五月雨天馬! 天駆ける天馬の脚(ディエイト・ペガサス)を持ちし者!」

 

「天駆ける天馬の脚(ディエイト・ペガサス)!? 神滅具(ロンギヌス)」の一つじゃないの!?」

 

「天さん!!」

 

天さん! 天さんだ! 死んだと思っていたのに……まさか、こうしてまた会えるなんて!!

 

天さんの懐かしき姿に思わず叫ぶ。堕天使と睨みあっている天さんはこちらを見ると口もとを少しだけ動かして微笑んだ。

 

「冗談じゃないわ! 折角、念願の『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』を手に入れたっていうのに! こんな所で死んでたまるもんですか!」

 

黒い羽のを出し、イッセーが出て行った階段から逃げようとするが、遅い。天さん相手にその速度じゃあ、例え何百年経とうが逃げれやしない。

 

予想通り、天さんはいつの間にか、逃げていく堕天使の背後に現れると堕天使の蹴り飛ばす。

 

……ん? 天さんにしてはかなり手加減してる? 本来なら、あの堕天使が跡形もなく吹き飛んでいるはずなんだけど……?

 

「銀華!」

 

「は、ハイッ! なんでしょうか!」

 

昔の癖か、天さんに戦闘中呼ばれると思わず敬語になんてしまう。戦闘中の天さん、メッチャ怖いんですよ。昔、少しよそ見しただけでグーで殴られたりしましたからね? 本当、怖すぎですよ。……まあ、優しい所もいっぱいあるんですけどね。

 

「禁手化(バランスブレイク)を許可する。速く腹を満たせ」

 

「了解しました!」

 

天さんの言うバランスブレイクとは、神器(セイクリッド・ギア)のスケールアップ。要は強化版だ。で、バランスブレイクとは、本来ならスケールアップで済むのだが、たまに別の物に化ける時がある。

 

私の霊的な瞳(アウラー・オブ・ヴィジョンアイ)の禁手化(バランスブレイク)は本来なら、静寂なる霊の眼差し(サイレンス・パルシイ)見た者の気の流れを操り、動きを止める神器(セイクリッド・ギア)なのだが、何が起こったのか、私のは違う物になってしまった。

 

「死者を統べし孤高の獅子|《デスペラードソルジャー・トリスタン・ライヒ》」

 

霊的な瞳(アウラー・オブ・ヴィジョンアイ)で変化するのは瞳だけなのだが、この死者を統べし孤高の獅子|《デスペラードソルジャー・トリスタン・ライヒ》は瞳だけではなく、髪の毛までもが黄金色に輝く。

 

「では、いただきます」

 

死者を統べし孤高の獅子|《デスペラードソルジャー・トリスタン・ライヒ》の能力。それは、殺した、或いは死んだものの魂を喰らい、自分の能力とすることができる。他にも、発動している間は、今まで吸収した魂をこの世界に呼び出す事もできる。

 

勿論、それなりのリスクはちゃんとある。死者を統べし孤高の獅子|《デスペラードソルジャー・トリスタン・ライヒ》を発動出来るのは最大で五分まで。五分以上過ぎると、この体は徐々に壊れていく。一度呼び出した魂は、数年以上呼び出すことはできない。そして、最後に、この状態でいると起こる症状がある。それは……破壊衝動。

 

常に何かを破壊し続けていないと、満足できない。周りの物全てを破壊したくてしょうがない感情が、私の心を支配してくる。

 

必死に堪えているが、二分程過ぎると、歯止めが効かなくなり暴れだしてしまう。敵味方の区別くらいはつくけどね。

 

「ごちそうさまでした」

 

急いで元の状態に戻り、暴走状態にならないようにする。……ふぅ、良かった。なんとか間に合った。

 

「……何度見ても、衝撃的だよね」

 

「……」

 

衝撃的だなんてそんな。私はただ、ふよふよと浮いている透明な塊を口から食べてるだけだよ。こう、お餅を食べるみたいにむにょーんと。

 

……って、そんな事はどうでもいいよ。今は、私の食事よりも天さんのことが気になる。

 

急いで天さんのいた方を見ると、そこには先ほどと同じ姿で立っている天さんがいた。

 

「……天さん、天さんなんですよね」

 

「……ああ、私だ、銀華。クリストフ、パージ」

 

『了解しました』

 

ああ、懐かしいこの声。天さんの神器(セイクリッド・ギア)に宿っているクリストフさんの声。

 

天さんの神器(セイクリッド・ギア)が光の粒子になって消えると、そこには昔の姿まんまの天さんが立っている。

 

あの頃と何一つ変わってない。見た目は年老いた老人のはずなのに、筋肉が目に見える程の足腰。幾千もの戦場をくぐり抜けてきたのがすぐに分かる鋭い眼光。ああ、間違いなく、彼は天さんだ。

 

「天さん、今までどこに行っていたのですか……? こんな歳ですが私は、たった一人の家族である天さんが、消えてしまってかなり寂しかったんですよ。それに、それに……」

 

今まで溜め込んでいた思いを伝えたいのに、言葉が続かない。本当はもっと色々と言いたいのに、天さんに再び会えた感動のせいで言葉が出ない。ああきっと、私はみっともなく泣いているんだろうな。

 

でも、構わない。なんてったって、死んだと思っていた天さんに生きていている状態で会えたんだから。

 

なんで生きてたのか、死んだんじゃないのかとか、今はどうでもいい。今はただ、天さんと会えたことが嬉しくて、嬉しくて……

 

「すまんな、銀華。もっと早く会いたかったんだが、少し用事があってな」

 

そう言いながら抱きしめてくれる天さん。ゴツゴツの筋肉の中にある少しの柔らかさ。懐かしい。

 

「本当にすまない、銀華」

 

「天さ、ん……天さああああああああああああん!!」

 

久々に天さんに抱きしめられて安心したのか、私は天さんにしがみついて泣き叫んでしまった。

 




如何ったでしょうか?

感想、アドバイス、誤字、質問、お待ちしています


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第十六話 解決

「……」

 

「銀華、大丈夫か?」

 

現在、私はむつけてます。何故かって? 恥ずかしからですよ! もう! どうして私は皆がいる前で泣いちゃったのよ! 

 

ほら、小猫ちゃんなんか微笑みながらこっち見てるし、木場君も微笑んでるし……ああもう! 恥ずかしい!

 

「……銀華先輩、可愛かったです」

 

「可愛かったね」

 

うがあああ!! 恥ずかしくて死にそう。誰か助けて……。

 

ってか、そもそも、私がこんなに恥ずかしい思いをしているのは天さんが急に現れたのが悪いんだ! 全て天さんのせいだ!

 

若干睨みながら天さんに視線を向けるが、天さんは私を見て首をかしげている。この、鈍感め!

 

……ふぅ、落ち着け私。いいから落ち着け私。色々と恥ずかしい思いはしたが、それは一旦置いとけ。今はなんで天さんがここにいて、何で天さんが生きてるのか聞くのが最優先だ。

 

イッセーの方にあの堕天使が行った……というよりは飛ばされたのは気になる所だけど、天さんが何かしらの理由があってワザと飛ばしたのでしょうか、まあ、気にしなくてもいいでしょう。

 

「ん、ん! て、天さん。二つ聞いてもいですか」

 

いつものクールビューティーな私を取り戻し、天さんに聞いてみる。

 

「なんだ?」

 

「一つ目は何故天さんが生きているのかといこと。二つ目は、なんでここに居るのですか?」

 

「その事か。それについては、アイツ等が来てからにしよう」

 

「アイツ等?」

 

アイツ等とは、いなくなっていた一年間に会った人でしょうか?

 

天さんの言葉の内容を考えていると、急に床の一部が光りだした。あれは……ササン・カラビアの家の転移魔法の紋章。という事は、まさかアイツ等とはカラビア家の人ですか。

 

「到着! おお! 貧乳同盟メンバーナンバースリー銀華ちゃんだ!」

 

「だ、だだだ誰が貧乳ですか! 私はただあんまりないだけです!」

 

 

カラビア家の転移魔法から出てきたのはメルトとナリヤ、そして朱乃さんとリアス。それはいいのですが、いきなりナリヤが失礼なことを言ってきやがった。

 

全く、コイツは何を失礼な事を言うのだろうか。私は貧乳ではない! 断じてない! 私はただちょっと周りよりも少し小さいだけだ! 異論は認めん!

 

「それを貧乳って言うんっすよ」

 

「黙りなさい!」

 

何をいうかこのマスクメロン! お前は少しデカすぎだ! 少しよこせ! 具体的には三割くらい脂肪をよこせ!

 

「……銀華先輩」

 

「ど、どうしたのかな小猫ちゃん?」

 

「……仲間」

 

い、いや小猫ちゃんよりはあるはずだから、私は仲間なんかじゃ……う~小猫ちゃんの視線が完全に仲間を見る目だ。……分かったわよ! 認めるよ! 私は貧乳ですよ! 何か文句あるか! こんにゃろおお!!

 

「て、天!?」

 

「リアス、久しぶりだな」

 

私がいじけていると、いつの間にか天さんとリアスが話し始めた。

 

「貴方どうしてこんな所にいるのよ……いえ、別にそんな事はいいわ。いや、よくはないけど、置いといて。イッセーはどこにいるの?」

 

「イッセーなら、上に上がって堕天使と一騎打ちをしている所だ」

 

「そう、一騎打ちね……なら大丈夫だわ」

 

大丈夫……ですかねえ。いくら赤龍帝の神器(セイグリッド・ギア)があるとは言え、勝てるでしょうか……勝てますね。あのイッセーの性格だと、神器(セイグリッド・ギア)は簡単にとはいきませんでしょうけど、結構引き出せると思いますからね。それに、アーシアちゃんの事もありますし。

 

「行くのか?」

 

「ええ、多分もう終わってるでしょうしね」

 

「なら俺も行こう……ナリヤ、メルト、行くぞ」

 

「「了解!」」

 

ああっと、リアスと天さんたら、私達を置いて行ってしまいましたよ。まだ、天さんに聞いていないと言うのに……仕方ない、追いかけますか。

 

 

 

「もしや、あの方は……」

 

「どうしました、朱乃さん」

 

階段を歩いていると、隣を歩いている朱乃さんが天さんの背中を見ながら呟いた。

 

どこか懐かしげで、それでいて感謝したいような気持ちでいっぱいのような瞳をしている。……はて、どうしたのでしょうか。

 

「……私がまだ幼かった頃……まだ人間だった頃。一度、死にかけた事があるのです。その時助けてくださった人が、リアスの隣を歩いている彼に似ていまして」

 

へ~……って、多分それ天さんだわ。だって、昔何人か人とか動物とかを助けたって話を天さんから聞かされた時があるんだけど、その時、巫女を助けたって話を聞いたもん。しかも、その巫女ってのが、人間の巫女と、堕天使と人のハーフ巫女……つまり、朱乃さんとそのお母さんの事だと思う。

 

「は、はぁ、そうなんですか……そういえば、何で朱乃さんってなんで悪魔になったんですか?」

 

堕天使と人のハーフである朱乃さん。そんな人が、堕天使の敵である悪魔になんかなたりしないよね。今まで聞いたことなかったけど、ちょうどいい機会だから聞いてみよう。

 

ちょっと恥ずかしそうに頬を赤らめる朱乃さん。……何か聞いていけはいけなかったのでしょうか?

 

「……笑わないでくださいね?」

 

「笑えなかったら」

 

笑っちゃうような内容なの? なんていうかこう、~の恨みを晴らすためとか、~に復讐するためとかじゃないの?

 

「実はですね。私、家出した所をリアスに拾われたんですの」

 

「……へ? 家出?」

 

こりゃあまた、朱乃さんらしからぬ言葉だこと。

 

「家族仲が上手くいってなかったんですか?」

 

「いえ、上手くはいってましたわ。ですが、その……上手くいきすぎていてその、当時の私には刺激が強すぎて」

 

「と言いますと?」

 

「夜の営みを見てしまいまして……しかも、SMの」

 

……あっちゃ~そりゃあ、家族間気まずくなるわ~家でもしたくなりますわ~しかもSMと来ましたらもう……ね。

 

「それで、当時の私はその光景に耐え切れず家出し、その途中でリアスに拾われまして、自暴自棄になっていた私はそのままズルズルとリアスの眷属に……」

 

な……何も言えね~どうしろと? 笑えばいのか? でも笑ったら多分朱乃さん傷つくでしょう。

 

というよりも、朱乃さん自暴自棄になりすぎでしょう! 何ですか、自暴自棄になって悪魔になるなんて! 若いとは言え、もう少し考えて行動しましょうよ。

 

「多分、あの頃の私はお父様に対する敵対心みたいなのがあったのでしょうね。それで、こんなふうに……」

 

「そ、それはなんというか……ドンマイです」

 

これ以外に言葉なんぞ浮かぶか! どうしろって言うんだよ! どうしようもないだろ!

 

「でも」

 

少し落ち込みながら言っていた朱乃さんだが、一度目を瞑ってから、女の私でも見惚れるような優しい笑みを浮かべた。

 

「私は悪魔になったことに悔いていないですわ。悪魔になった今でもお父様との仲はいいですし、お母様との仲も良好ですしね。それに、リアスや小猫ちゃん、木場君やイッセー君、そして銀華ちゃんにササン。他にも沢山楽しい人達に会えましたしね」

 

……この人は、もし私が男だったら惚れてる所でしたよ。いつものお姉さまな雰囲気とは違った年頃の女の子っぽい所も評価高いですよ。

 

「朱乃さん、聞いてるこっちが赤くなりそうです」

 

「あら、ごめんなさい。でも、これが私の本心ですわ」

 

「ああ、可愛い。私が男だったら惚れてましたよ」

 

「ふふふ、ありがとうございますわ」

 

ったく、本当、この人、可愛すぎるだろう。

 

 

 

階段を全て上がり、地上へと出ると、そこには丁度堕天使を殴り飛ばしたのか、両足を光の槍で貫かれながら、殴った状態のまま立っているイッセーがいた。

 

「祐斗」

 

「はい、部長」

 

立っていたイッセーだが、流石に無理がたたったのか、ふらつき倒れそうになる。急いで木場君が駆け寄ってイッセーの肩を支えるが、どうしてでしょう。木場君がホモにしか見えない。

 

「小猫、さっきの堕天使を連れてきて頂戴」

 

「……分かりました」

 

小猫ちゃんが器用に窓から外に飛び出して行く。

 

「さえ、私達はイッセーの所に行くわよ」

 

イッセーの元へ歩いていくリアス。お、いとしのリアスが近づいて来たのに気づいたのか、イッセーがこっちに振り返ってきた。

 

……ん? 教会にあった椅子に横たわっているのはアーシアちゃん? ……ふむ、先ほどの御紋を解消してみましょうか。

 

皆に気づかれないようにコッソリとアーシアちゃんに触ってみる。……やはり、これはアーシアちゃんではない。

 

これは、精巧に作らたアーシアちゃんの人形だ。いったい誰がこんな事を……!! まさか、これをやったのは天さんか?

 

「銀華ちゃん、何してるっすか?」

 

「わひゃあ! もう、脅かさないでください、メルト」

 

視線を天さんに向けながら一人で考えていたら、いきなり後ろからメルトに抱きつかれた。う! この背中に感じる柔らかさは……クソ、このマスクメロンめ!

 

「あ~アーシアちゃんすね~」

 

「そうです。……何か知ってますか?」

 

「知ってるすっよ。でも、答えは合わせはもう少し先っす。ほら、始まするっすよ」

 

答え合わせは先……? どういうことだろう。メルトがこれに関わってるのは分かったが、それ以外は分からない。しょうがない、答え合わせってのを待とう。

 

メルトが離れ、指差す方を見てみれば、そこには堕天使が何かイッセーに懇願している。

 

「イッセー君! この悪魔を一緒にやっつけましょう!」

 

「……部長、もういいっす。やってください」

 

「イッセー君!!」

 

「黙りなさい。私の下僕をたぶらかした罪は重いわ……消えなさい」

 

リアスが堕天使に向ける指に滅びの魔力が集まっていく。アレが当たれば、あの堕天使は跡形もなく吹っ飛ぶだろう。

 

「さあ、始まるっすよ!」

 

「え……!?」

 

リアスの指から放たれた破滅の魔力の塊。その塊が堕天使へと当たる一瞬にも満たない瞬間、破滅の魔力の塊が霧散した。

 

それと同時に、メルトとナリヤは堕天使の横に立ち、私達を迎え撃つような形になる。

 

「すまんな、ここから先は私達に任せてもらう」

 

霧散した理由は堕天使が弾いたとかではなかった。霧散した理由は、天さんが何かしたからだ。

 

見えない。やっぱりあの人の速さはどうあっても見えない。

 

いや、それよりも、どうして貴方までそちら側に居るのですか、天さん! まさか、貴方は堕天使の陣営に行ってしまたのですか……。

 

急いでリアス達の元へ駆け寄る。やはり、全員天さんやメルト、ナリヤの行動に驚きを隠せていない。そりゃあ、そうだ。私だって驚いているのだから。

 

「て、天、何故そっちにいるの?」

 

「それは――――――」

 

「それは、私から説明させてもらうわ」

 

「誰?」

 

「酷いわね。この私の声を忘れるなんて」

 

急に声が聞こえたかと思うと、今度は壊れた扉の方からコツコツとハイヒールの音が聞こえてくる。

 

それと同時に、天さんやナリヤ、メルトが横に一列に並んで頭を下げる。

 

「ササン!」

 

「はーい、リアス」

 

やって来たのはササン。……ん? 頭を下げてるのは、ササンの下僕である人物達。つまり、天さんもササンの下僕になったの!?

 

悠々とササンは堕天使の前へと立つと、堕天使の顔を覗き込む。

 

「こんにちは、堕天使レイナーレ。私はササン・カラビアよ」

 

「貴様……」

 

「ああ、話さなくていいわ。貴方に、二つの道をあげる。一つは、悪魔に転生して、私の下僕になること。二つ目は、ここで私に最大級の拷問を喰らって死ぬこと。どっちがいい?」

 

「ササン、勝手な事は……」

 

「黙ってて頂戴、リアス。今は、こっちの問題なの」

 

ッ!? マズイ、天さんが目で私に言ってる。これは、私達は少し黙ってろって事だ。

 

「リアス、ここは少し黙ってましょう」

 

「……ええ、そうね。ここで下手に口出ししたら、軽くひねり潰されそうだわ」

 

良かった、リアスがまだまともな精神を持っていて。ここで、手柄がどうとうか言う馬鹿な上級悪魔だったら、今頃ここは血まみれになっていたよ。

 

「さて、どうするレイナーレ?」

 

「そんな事、悪魔になるなら……」

 

「ちなみに、貴方のお友達の三人は、今安全に私達が保護してるわ」

 

「……」

 

「それに、考えてみなさい。ここで、貴方がなるといえば、三人は助かる上に……」

 

そこからは、ササンがレイナーレに耳打ちしたので聞こえなかった……けども、私はちょっとした読唇術でササンの唇を見て、ササンの言葉を読んでしまった。

 

ササン曰く、貴方の好みの渋いおっさん系である天がついてくるわよ……だって。

 

はぁ、ササンも馬鹿だな。そんな事でレイナーレが釣れるわけ――――――

 

「……カッコいいかも」

 

釣られてる!! 思いっきり釣られてるよ! この堕天使さん、渋めのおっさんである天さんに惹かれてるよ! おっさん好きとしてその気持ちはわかるけど!

 

「……分かった、なるわ」

 

「商談成立。さて、これで私の目的の一つは消費したわね」

 

堕天使との商談? もとい、多少強引な交渉を終わらせたササンは、こっちに向かって歩いてくる。

 

「で、二つ目の商談。銀華ちゃん、私の眷属にならない?」

 

「なッ!?」

 

「眷属、ですか……」

 

その話は、出される気がしていた。だが、私には天さんとの約束が……て、ちょっと待った。

 

天さんとの約束は、出来れば銀華を人間のまま幸せに生きられるようにして欲しいだったっけ? なら、別に悪魔になってもいいんじゃない?

 

今までリアスには世話になったけど……それとこれとは別問題だよね。悪魔の眷属にも、交換制度があるし、それに基本人間は欲望に忠実だからね。

 

「なります!」

 

「ちょ、ちょっと銀華!」

 

「ごめんね、リアス。今までお世話になったけど、私はやっぱり天さんの元に居たいんだ」

 

「……そんなこと言われたら、無理に止められないじゃない」

 

「ごめんね……でも、一生の別れってわけじゃないんだ。遊びに行ったりするよ」

 

「はい、これで二つ目、最後は……」

 

あっさりと終わった私との交渉をあとにすると、ササンはイッセーの前に立つ。

 

「イッセー君、納得がいかないって顔だね」

 

「……」

 

「そりゃあ、そうよね。君を好いているアーシア・アルジェントちゃんが堕天使レイナーレによって殺されたというのに、堕天使レイナーレは殴られただけで終わり」

 

「分かってるなら……」

 

「そんな君にとっておきのプレゼントをあ・げ・る」

 

イッセーの鼻先をデコピンしたササンは指を真っ直ぐと立てて教会の出口を指差す。全員ササンの指差した方を見ると、そこには長髪の金髪を振り乱しながら走ってくるシスターが……。

 

「アーシア!?」

 

「イッセーさん!」

 

向こうから走ってきたシスター……もとい、アーシアちゃんはイッセーに駆け寄ると思いっきり抱きついた。ふむ、やはりアレは人形でしたか。

 

「アーシア、どうして生きてるんだ!?」

 

「えっと、それは……」

 

「私が予め匿っておいたのよ」

 

「どういうこと、ササン?」

 

得意げな顔して、いきなり腕を組むササン。何でしょうか、無性に腹が立つ。

 

「ふふん。実は、私には今回三つの目的があったの」

 

「何の話し?」

 

「いいから黙って聞いてなさい。それでね、その一つ目の目的が、赤龍帝の強化。二つ目がアーシアちゃんの救出。そして三つ目が、レイナーレの仲間加入」

 

ほ~……成程、ある程度理解はしました。しかし、凄いですね。ここまで計算通りだったら、前もって相当綿密に計画を練っていたんでしょうね。

 

私以外を見渡してみる……はぁ、誰もピンときていませんね。

 

「まず一つ目の赤龍帝の強化。これは、レイナーレと戦わせて強化しようと考えてたのよ。正直言ってあまり期待はしてなかったんだけどね。でも……」

 

一旦言葉を止めると、ササンはアーシアちゃんに向かって指差す。

 

「彼女、アーシア・アルジェントがイッセーと接触し、仲良くなった。これで、レイナーレがアーシア・アルジェントを殺せば、怒りによって赤龍帝の力を強化出来る……と考えたわけ。結果は……まあ、成功って所かしらね。でも、これには欠点がある。それは、二つ目の目的であるアーシア・アルジェントの救出が出来なくなってしまう。そこで、アレ」

 

パチンとササンの指が鳴ると同時に、ナリヤの腕から黄金の鎖を飛ばし、私が先程から人形と言っているものに絡ませて自分の所に持ってくる。

 

「このダミー人形を使ったわけ。これ作るの、すっごい大変だったんだからね。しかも、聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)の偽物も作らなきゃいけなかったし……。ま、そのお陰で、この場にいるレイナーレ及びリアス達を騙せたんだけど。それは置いといて、これで、二つ目のアーシア・アルジェントの救出は無事成功。そして、難関だった三つ目。レイナーレを私の仲間にすること」

 

「え、え、な、何?」

 

どうしてでしょうね。急にササンが握り拳を作ったかと思うと、堕天使の元へツカツカと歩いていく。

 

「本当にね、私達頑張ったのよ。イッセー君を傷つけてしまってはリアスが許さないからイッセー君を傷つけさせないようにしないといけない……無理だったけど。しかも! アーシア・アルジェントを傷つけたら、今度はイッセー君が許さないだろうし。それ以上にまず、仲間にする為にレイナーレを脅迫……ん、んん! 誘導するために色々と調べたりしたし……つまり、何が言いたいかというと」

 

ニッコリスマイルなササン。そのササンが握っていた拳が段々と上に上がると……。

 

「一発殴らせろや!」

 

「いたァ!?」

 

イッセーに殴られていたせいか、まともに避ける事の出来ない堕天使は、ササンの全体重が乗った拳を頭に……うわぁ、痛そう。

 

殴らられた堕天使はそのままノックダウン。要は、意識を失ってしまいました。あ、天さんが無理やり堕天使を起こした。うわ、首の骨、ガキッ! とかいってるよ。堕天使、生きてるかなあ?

 

「そんなこんなで、三つの目的を達成された今回の事件は全て丸く収まりましたと。誰も悲しまないハッピーエンドって事で、説明終わり! ああ、話しすぎて疲れた……あ、それとレイナーレと銀華ちゃん」

 

「な、何でしょうか?」

 

「はい?」

 

名前を呼ばれつつ、手招きされる。一体なんでしょうか? わお、首でも痛いのだろうか、摩りながらもちゃんとササンの近くに来ていますよ、この堕天使……いえ、これから仲間になるのですから、レイナーレと呼びましょうかね。

 

手招きしたササンは地面に指差す。これは……正座しろということですかね?

 

「なに?」

 

「正座しろだそうですよ、レイナーレ?」

 

「正座?」

 

ああ、堕天使だけに日本の文化には疎いのですか。仕方ない私が先に手本を……

 

「こうやるんだ、レイナーレ」

 

見せる前に天さんが先にしてしまった。しかも、ナリヤとメルトまで。

 

流石に見せられれば分かるのか、レイナーレも同じように正座する。勿論、私も。

 

横一列に正座し、リアス達の方を向く。すると、ササンが私達より一歩前に出て正座する。もしかして、これは……

 

「リアス・グレモリー様、兵藤一誠様、木場祐斗様、塔城小猫様、姫島朱乃様、アーシア・アルジェント様。此度の一件。私の下僕であるレイナーレが起こした事件、言葉では謝りきれるものではございませんが、謝らせてください。すみませんでした」

 

「「「すみませんでした」」」

 

やっぱり、土下座でしたか。って、やば! 出遅れた! 天さん達が頭下げてるのに、私とレイナーレだけ頭下げてない。

 

「ど、どうすればいの?」

 

「謝れ、このバカ!」

 

小声で聞いてきたレイナーレにこちらも小声で言って、すぐさま頭を下げる。

 

「すみませんでした!」

 

「ごめんなさい」

 

「そ、そんな、いいっすよ。アシーアも生きてましたし……まあ、フラれた上に殺されそうになるのはもう勘弁ですけど」

 

「……そう言ってもらえると、こちらも助かるわ。ほら、レイナーレ、ちゃんとたって謝りなさい」

 

私の隣で土下座していたレイナーレはちょっとムスっとしながらも立ち上がると、イッセーとアーシアの前に立った。

 

「その、謝りきれるものではないけども、ごめんなさい」

 

頭を深々と下げるレイナーレ。

 

さて、アーシアちゃん、一体どうするのでしょうか。仮にも貴方の命と引き換えに聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)を取り出そうとした堕天使ですよ。イッセー? どうでもいいです。

 

「……レイナーレ様、顔を上げてください」

 

「アーシア」

 

「レイナーレ様。私は別に、レイナーレ様の事を恨んではいませんよ。例え、私の聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』を取るためとはいえ、行く宛がなかった私をこの教会に迎え入れてくれました。それに……」

 

振り返り、イッセーの腕に抱きつくアーシアちゃん。

 

「レイナーレ様がこの街に呼んでくれたおかげで、イッセーさんにも出会えましたから」

 

「アーシア……本当にごめんなさい」

 

流石、聖女と呼ばれただけはあるね。器がでかい。

 

「さて、これにて一件落着!」

 

はぁ、終わりましたか。じゃあ、帰りましょうかね。でも、その前に……

 

「誰か立たせてください。足が痺れました」

 




長くなったので一旦終了。次回は、色々と補足を入れさせてもらいます。

感想、アドバイス、誤字、お待ちしております!


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第十七話 五月雨澪

口調が変でも気にしないでください。


アーシアが攫われた次の日の夜。俺は旧校舎にある部室へと向かっていた。なんでも、リアス部長が俺に伝えたいことがあるらしい。

 

「失礼します」

 

部室の中へと入ると、リアス部長がソファーに座り、他の皆がリアス部長の周りに立っていた。まるで、悪魔になって最初に呼び出された時みたいだ。

 

「イッセー、そこに座りなさい」

 

「はい」

 

部長は対面にあるソファーに指差しながら言うので、大人しく指さされたソファーに座る。……まるで、怒られるような雰囲気なんだけど、俺って何かしたっけか?

 

「イッセー。昨日助けたアーシアなんだけど」

 

……アーシア。正式な名前はアーシア・アルジェント。協会を追い出され、この街に来たシスター。

 

その少女を昨日堕天使から助けた後、リアス部長とササン先輩が話し合った結果、リアス部長がアーシアを預かる事になり昨日は解散となった。

 

そのアーシアがどうしたのだろうか? ……もしかして、追い出すとか? いや、リアス部長に限ってそんなことはないはず。

 

「アーシアが……どうしたんですか?」

 

「昨日、私が考えた限り、アーシアを」

 

「アーシアを?」

 

「悪魔にしたわ」

 

「……へ?」

 

アーシアを悪魔に? 教会の人間を悪魔にするって、それは色々と大丈夫なのか? 無理矢理悪魔に……ってわけじゃないよね?

 

「入ってらっしゃい」

 

「イッセーさん!」

 

「アーシア!」

 

俺が入ってきた扉が勢いよく開くと、最初にあった時のようなシスター服を身に纏ったアーシアが入ってきた。

 

思わず立ち上がってアーシアの元に駆け寄ってしまう。

 

「アーシア、どうして悪魔なんかに……」

 

「えっと、それはリアスさんが……」

 

「部長が?」

 

リアス部長、一体アーシアに何を吹き込んだんだろろうか。いや、アーシアと一緒にいられるのは嬉しいけど。

 

アーシアに部長と言われて、ふと部長の方を見てみると、そこには不敵な笑みを浮かべているリアス部長が。

 

「悪魔になれば、イッセーと一緒に居られるわよって言ったの。そしたら悪魔になるの一点張りでね。それで、魔力の素質がありそうだからアーシアを僧侶(ビショップ)の駒で悪魔に転生させたの」

 

成程。アーシア、そんなに俺と居たいから悪魔になったのか。そうかそうか。

 

超嬉しいんですけど!! 何? 俺にも春到来!? ヤベー超ヤベー!

 

っと、俺、もっと冷静になるんだ。ここで、顔に出したら負けだ。何に負けるのか知らないが、負けだ。

 

ま、今は取り敢えず……

 

「これからよろしくな、アーシア!」

 

「はい、イッセーさん、よろしくお願いします!」

 

「……さて、これでアーシアは正式に私の眷属ね」

 

アーシアが一緒の眷属になれたことを嬉しがっていると、リアス部長がなんか悲しそうな表情を一瞬浮かべた。……今の表情は一体?

 

「部長、一つ聞きたいことがありますの」

 

「なに? 朱乃」

 

「あの教会にいた天とは……誰なのですか?」

 

そうだ。昨日初めて見た、老人と言っても差し支えないような人物天。唐突に現れたササン先輩の眷属の一人。彼の事をリアス部長は知っているようだったけど、一体彼は誰なんだろう?

 

「……そう、貴方達がまだ生まれる前に活躍した人だから、知らないのよね」

 

一度大きく息を吸って吐き出したリアス部長は、目を瞑りながら淡々と語り始めた。

 

「五月雨天馬……今は馬月雨天。通称天。彼は十七から十八の時、三つ巴の大戦があった時に暴れていた二天龍を同時に相手して倒した天馬(ペガサス)を封印した神器(セイグリッド・ギア)を発現させた。この神器(セイグリット・ギア)の発現は今までに数回しか確認されてないのだけども、そのたった数回で、神を殺す神滅具(ロンギヌス)に認定されたわ」

 

二天竜を同時に相手して倒したって……本物のバケモンじゃないか! そんなバケモノを封印した神器(セイグリット・ギア)を宿してるなんて……ん? でもどうしてそんなすごい人を俺は知らなかったんだろ。

 

「彼は、自身の神器(セイグリット・ギア)を使い、各国の紛争地域を飛び回って戦い続けた。そんな彼が神器(セイグリット・ギア)を使っていくたび、堕天使や天使、そして悪魔は彼に恐怖し、三陣営で共闘して殺す計画をたてたわ。本当なら殺されるはずなんだけども、彼は全て殲滅したわ。十や百では効かない数を同時にね」

 

悪魔や天使や堕天使を同時に何十も倒した……? なんていう怪物だよ! だって、その時はまだ人間だろ!? それなのに何十も同時に倒すなんて……

 

「そして、色々あって魔王に会い、天使長に会い、堕天使の長と会い、彼は全てのボスと関係を持っていったわ。まあ、そんな事を知らない悪魔や天使や堕天使は彼を襲い続けたけどね」

 

もう、何も言えね。人間なのに、凄すぎるだろう、天さん。マジのバケモンじゃん。

 

そこで目を開けたリアス部長は、周りにいた皆を順番に見ていく。

 

「彼はね。小猫、貴方と貴方の姉をこの世界で拾い助け、私達のいる冥界で幸せに過ごせるように送ってくれたの。そして、朱乃、貴方と貴方の母親を人間の襲撃から救ってくれた張本人。最後に祐斗。彼は貴方がいた聖剣計画の実験場を跡形もなく破壊してくれた人よ……本人は祐斗が聖剣計画の生き残りだとは知らないようだけども。嘆いていたわ。一人しか救えなかったって。アーシアは、もう彼の事は知ってるわね」

 

リアス部長の言葉が終わると同時に、皆の顔色が変わった。木場は怖いくらい冷徹な表情になり、目つきが鋭くなってる。朱乃先輩はやっぱりといったような表情を浮かべ、小猫ちゃんは普段の無表情とは違い、どことなく悲しんでるような表情をしている。そして、隣にいるアーシアは知ってると言われた瞬間、微笑んだ。

 

……なんだろう。もしかして、俺だけが天さんと何ら関わりがないとか? そもそも、皆何で助けられたんだ?

 

「彼は、聖剣計画の施設を破壊した時に助けた銀華と旅をし、齢七十になる頃この街に来て銀華を私に託したあと、行方不明になったわ」

 

「……そうでしたか。ありがとうござますわ、部長」

 

リアス部長は話を終わると、ふぅと息を吐いてまた目を瞑ってしまった。

 

ってか、銀華。何者だと思ってはいたけども、まさかそんなバケモンみたいな人と生活していたのか。そりゃあ、あんなはぐれ悪魔見たって動じたりしないわな。

 

……ん? なら、天さんはいつの間にササン先輩と出会ったんだろ? 謎だ。

 

 

 

「これで、貴方達は私の眷属になったわ」

 

私は今、ある場所……まあ、旧校舎の一階、つまりリアスがいつも使ってる部室の下に来ている。

 

悪魔の駒(イーヴィルピース)を体に入れられたわけだけど、対して変わりはないですね。レイナーレは、堕天使と悪魔の翼が生えて凄いことになってますけどね。

 

「さて、レイナーレ。貴方にはやってもらうことがあるわ」

 

「なに?」

 

やってもらうことですか。一体なんなんでしょうね? 私にはないので、余計気になります。

 

「貴方は一週間後にこの学園に来てもらうわ。それと、もう一つ……メルト、ナリヤ」

 

「分かってっるっす」

 

「はいはーい!」

 

「え? なに、なに!?」

 

ササンに呼ばれたメルトとナリヤは、急にレイナーレの両脇を持ち上げる。何をするんでしょうね?

 

「貴方には、一週間後の入学までこの二人にガッツリ鍛えてもらうわ。安心して、多分死なないから。それじゃあ、頑張って」

 

「はーい、じゃあ行くよー!」

 

「行くっすよ。いや~楽しみにっすね!」

 

「ちょ、ちょっと、助け……」

 

そのまま二人に連れてかれるレイナーレ。頑張れ!

 

「で、銀華、貴方は特にすることもないから、今までどおりの生活をして頂戴。私は基本リアスの所にいるから。呼び出す時は、ちゃんと呼び出すからね。あ、でも、夜はここに来てね」

 

「分かりました」

 

「それじゃあ、あとは自由にして頂戴」

 

さて、自由にしていいと言われましたので天さんと話したいのですが……どこに行ったのでしょうか?

 

 

 

「久しぶりだな。天」

 

「久しぶりだな」

 

「どうだい、悪魔の生活は?」

 

「充実している。人間だった時と変わらずな」

 

「そうか」

 

「今回の事件の結果だが、堕天使の四人のうち一人は貰い、他の三人は神の子を見張る者(グリゴリ)に送りつけた。だが、堕天使と共闘していた神父の一人は逃走。そして、赤龍帝のイッセーは僅かに成長し、アーシア・アルジェントはグレモリー眷属の僧侶(ビショップ)となった」

 

「成程。これで、リアス・グレモリーは回復役を手に入れた……か。で、赤龍帝はどれくらい成長した?」

 

「まだまだ、白龍皇とはまともに戦えない。精々、下級悪魔一人倒せる程度だ」

 

「でも、堕天使は一人で倒したんだろう?」

 

「ああ、倒せはしたが……それは怒りに身を任せたから。本来の力は全然だ」

 

「そうか……なあ、天。お前の目から見て、今代の赤龍帝はどうだ?」

 

「……面白い奴だ。素直で愚直。自分の想いに正直。私の見立では……強くなるぞ」

 

「こりゃあ、今代の決戦は凄いことになりそうだ」

 

「いや、凄くなりどうではなく、凄くなる。私がいるからな」

 

「被害は余り出すなよ」

 

「それは保証できんな」

 

「……まったく、今代の白龍皇と天馬は血の気が多くて困るね」

 

 

 

「転入生を紹介する。入ってこい」

 

私が悪魔になった次の日……アーシアちゃんが私のクラスへと転入して一週間が経った。転入してきたアーシアちゃんは、その優しさからかクラスの全員と打ち解け、何人かの友達も出来た。ちなみに、友達の中に、私も入っている。

 

そんな日の事、天さんが教室に入ってくるなり、なんの前触れもなく転入生が来たとの連絡が。

 

アーシアちゃんという転入生が来てからまだ一週間しか経っていないというのに、一体どんな方が転入して来たのだろうか?

 

「失礼します」

 

「んな!?」

 

「あらら」

 

凛とした声色で答えながら教室の扉を開けて入ってくる美少女。黒髪のロングストレートで、キリッとした目つき。醸し出す雰囲気は、例えるなら委員長。ええ、答えましょう。我が校の制服を身に纏ったレイナーレです。

 

「この度、駒王学園に転入してきた五月雨澪(さみだれれい)です。皆さん、よろしく」

 

「え!?」

 

驚きのあまり、声を出してしまいました。だって、レイナーレがいきなり五月雨と名乗ったのですよ? 私と同じ名字……天さんと同じ苗字である五月雨を! これを驚かなくてどうするんですか!?

 

しかも、レイナーレなのに、名前が澪って。もうちょっと捻っても良かったんでは?

 

「五月雨って……銀華ちゃんと何か関係があるんですか?」

 

クラスメイトよ、私を見ながら聞かないでくれ。私だって、レイナーレが五月雨の苗字を名乗るのなんて、自己紹介が始まるまで知らなかったんだから。

 

イッセーもアーシアちゃんもこちらを見て驚かないでくれ。私も分からないんだよ。

 

「銀華姉とは姉妹の関係です。姉が銀華姉で、私が妹です」

 

「そうなんですか……でも髪と目の色が違うんですが」

 

そこに突っ込むなクラスメイト。いや、それよりも。私が姉で、妹がレイナーレ……もとい、澪が妹って、おかしいでしょ。どちらかというと、身長も胸もない私が妹……って、認めんぞ! 胸がないなんて認めんぞ!

 

なんだ、考えすぎて訳わからない事を考えていると、急に澪が目尻に涙を浮かべ始めた。

 

「じ、実は私達、互いに捨て子だったんです。その時、私達は今の父に拾われ、今まで生活してきたのです。髪や瞳の色など気にせず、お互い本当の姉妹のように……ですから、ですから」

 

両手で顔を覆って、泣き崩れてしまう澪。……嘘なのに、よくそこまで演技ができるね。

 

「あ、えっと、そうだったんですか。すみません、嫌なこと聞いてしまって」

 

「いえ、いいんです」

 

涙を拭い、立ち上がる澪。おい、そこの二人。イッセーとアーシアちゃん。お前らふたりは嘘だと分かっているだろう。なのに、なんで感極まった泣きそうになってんだ。

 

「さて、自己紹介は終わりだ。澪、お前は姉である銀華の横に座れ」

 

「はい、先生」

 

涙目のまま歩いてくる澪。そして、私の隣の席に座り、机に顔を向けた瞬間。

 

「ふっ。簡単ね」

 

「うわぁ」

 

あくどい笑みを浮かべ、さっきまでの涙目が瞬時に消えてしまった。流石堕天使。人を欺ことに長けてること。

 

「それと銀華、澪」

 

「はい?」

 

澪のあくどい笑みに呆れていると、急に天さんから声を掛けられた。

 

「放課後、部室に顔を出すように」

 

「部室?」

 

部室とは一体……? リアスがやっているオカルト研究部でいいのでしょうか?

 

「それでは、ホームルームは終わりだ。皆、次の授業の準備をするように」

 

部室……ですか。一体何をするのでしょう。昨日の夜、ふと感じた巨大な気配が関係しているのでしょうかね。

 

……ま、何にしろ。

 

「面白い事であればいいんですがね」

 




旧校舎のディアボロス・完

次回から、戦闘校舎のフェニックスが始まります。

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第十八話 焼き鳥はお好き?

「ねえ、銀華、澪」

 

「どうしました、ササン?」

 

「何?」

 

澪こと、レイナーレが転校してきてから数日経ったある日。私と澪がオカルト研究部のしたにある部屋に来てのんびりとしていたら、先に部屋に入ってくつろいでいたササンに話しかけられた。

 

「貴方達って……焼き鳥は好き?」

 

「焼き鳥って……」

 

あの食べる焼き鳥? なんで急に?

 

「私は好きよ。お酒のツマミにちょうどいいの」

 

澪、貴方酒飲んでるんですか。学生なのだから、程々にしなさいよ。ま、そんなこと言ってる私も、昔チョロっと飲んだことがあるんですがね。あまり、美味しくはありませんでしたけど。

 

「まあ、私も好きですね。……味は塩で」

 

「そう、それは良かったわ」

 

私が答え終えると、ササンは嬉しそうに笑う。……なぜ?

 

ササンの行動の意図が読めず、私は澪の方を見る。澪の方も、ササンの意図が理解できてないのか私の方を見て、首を傾げる。澪もわからないのですか。

 

「ササン、なんでそんな事を聞いたの?」

 

「いえ、ちょっと焼き鳥を食べる予定があってね」

 

焼き鳥を食べる予定って……なんですか、その予定。

 

「そうなんですか。じゃあ、その時は誘ってくださいよ」

 

「いいわよ。そもそも、二人共連れていく予定だったし」

 

私達から視線を外し、天井を見上げるササン。天井……リアス? リアス達も一緒に焼き鳥を食べに行くんでしょうかね。

 

 

 

「アーシア、貴方漢字は書けるようになった?」

 

「いえ、それがまだでして……」

 

「そう、じゃあ、私が教えてあげるわよ」

 

「ありがとうございます。澪さん」

 

あれから数日後。澪がこの学校に来て、順調にクラスメイトと仲良くなっていき、アーシアちゃんやイッセーとも仲良くなり始めてきた。

 

元々猫をかぶるのだけは上手い澪だからこそ、これだけ早くクラスに馴染めたんでしょうね。

 

そんなある日の事。

 

「なあ、銀華」

 

「どうしました、イッセー。私に話しかけるなんて珍しいですね」

 

イッセーが、他にいるエロバカ二人と話さずに私に話しかけてくる。これは珍しい。いつもなら、クラスでも平気でエロ話ばっかりして鼻の下を伸ばしているイッセーなのに、今日は神妙な面持ちだ。

 

「いや、それがさ。最近部長の様子がおかしいんだ」

 

「リアスの?」

 

様子がおかしい……ですか。はて、何があったのでしょうか?

 

「どんな風におかしいのですか?」

 

「何かこう、いつもみたいな元気がなくて、一つの事に集中出来ずに急に窓の外を見てぼうっとしてたり、暗い表情のままため息ついたり、それと……ま、まあ! おかしいんだよ」

 

……ふむ。一つの事に集中できなくて、暗い表情のままため息ついたり、元気がないと。それってさ、恋じゃね? ほら、恋に落ちると人って元気なくなるじゃん。知らないけど。

 

「あ~イッセー。多分それ、恋愛絡みの何かだと思いますよ」

 

「れ、恋愛!?」

 

「落ち着きなさい」

 

「って!」

 

今にも私に掴みかからんとばかりに迫ってきたので、取り敢えずデコピンして黙らす。

 

「イッセー。多分貴方は知らないと思いますが、リアスには許嫁がいるんですよ」

 

「許嫁!?」

 

「ええ、許嫁。ま、親が勝手に決めた政略的許嫁ですけどね。……私が思うに、それ関係だと思いますよ。それ以外だとすれば……体重が増えたとかじゃないですかね?」

 

「許嫁……政略結婚……」

 

ああ、愛しの部長さんに許嫁がいるとわかった瞬間、イッセーが地面に崩れ落ちてしまった。しょうがない……ふざけるか。

 

「イッセー、落ち込むことはないのですよ!」

 

「銀華……」

 

崩れ落ちたイッセーの肩を掴み、目を見ながら言う。

 

「リアスには、確かに許嫁がいるでしょう。しかし! それは望まぬ結婚! そう、政略結婚ゆえ、リアスの意思などは関係ないのです。ならば! まだチャンスはあります。イッセーのやる行動は一つ! 許嫁を殴り飛ばし、俺がリアスと結婚するんだと豪語するべきなのです!」

 

「銀華……そうだな。もし、部長が許嫁で困ってるんだったら、俺、部長を助けるよ!」

 

「そのいきです。イッセー。頑張りなさい」

 

我ながら、臭いことをしましたね。でもま、イッセーもやる気満々の元気野郎になりましたし、良しとしましょう。

 

……しかし、リアスの元気が無い……ですか。これはなんだか、面白そうなことが起きる予感がしますね。

 

 

 

「はぁ」

 

授業が終わり、休み時間になったので廊下をぶらつていると、窓の外を見ながらぼうっとしながら溜息をはいてるリアスがいた。

 

「どうしたの、リアス。テンション低いわね」

 

「ササン……」

 

隣に行き声を掛けてみる。やはり、表情が暗い。ま、そりゃあそうか。昨日が昨日だから。

 

「もしかして、結婚の事で悩んでる?」

 

「……ええ、そうなの」

 

昨日の夜。私の部屋に一人の客人がやってきた。その客人が、何故私の所に来たかというと、リアスの居場所を知ってるかとのこと。

 

リアスの家とは結構な繋がりもあるため、リアスの事については知ってるつもりだが、流石にリアスの居場所を常に知ってるというわけでもないので、とりあえずイッセー君の所にいるのではないかと言っておいた。

 

結局、その客人はすぐにイッセー君の所に向かった為、何故リアスを探してるかとか、細かい事情が聞けなかったが……目星は着いていた。

 

家同士が勝手に決めた、政略結婚が近々強制的に行われるのだ。リアス個人はこの結婚をあまり望んでいない。それに、リアスはせめて大学に入るまでは嫌だと言っているのだが、相手側……婿の方が早く結婚したいんだそうだ。

 

そのせいで、リアスの結婚ははやまり、近々執り行われるとのこと。でだ。もっと最悪な事があり、実は今日、そのリアスの婿がこの学園に訪れるのだそうだ。

 

「リアス、貴方どうするの? 多分、今日何かしら起こさないと、結婚直行になっちゃうわよ」

 

「そうなのよね……はぁ、お兄様もお父様も大学に入るまで待ってくれればいいのに。本当、どうしよう」

 

「リアス、貴方はどうしたいの?」

 

私が聞いてみると、リアスは一度窓の外を眺め、はぁと息を吐く。

 

「勿論、断りたいわ。……でも、断ってしまっては家に迷惑を掛けるんじゃないと思って」

 

ったく、この娘は。嫌なら嫌と言ってしまえばいいのに。……でもま、家と違って色々と家の事を考えなきゃいけないから、自分の気持ちを押し殺さないといけないのかしらね。

 

「……ま、私は何にもアドバイスはしないわ。貴方の好きなようにやりなさい。婿と会う時くらいは、一緒にいてあげるけど」

 

「ありがとう、ササン」

 

「いえいえ、それじゃあ――――――」

 

リアスに別れの言葉を告げて歩き出し、自分の教室に向かう。

 

「さて、焼き鳥でも食べに行きますかね」

 

 

 

放課後、私と木場君とイッセーとアーシアちゃんと澪は、五人で集まってオカルト研究部の部室へと向かっていた。

 

本当なら、ナリヤとメルトを連れて行きたかったのですが、生憎とふたりは先に行ってしまっていた。天さんでも誘おうかと思ったけど、生憎とまだ仕事中らしい。

 

「へ~リアスって、許嫁がいたんだ」

 

「そうなんだよ……って言っても、俺が知ったのも今日の朝、銀華に教えてもらったからなんだけどな」

 

「銀華が……? 貴方、なんでそんなこと知ってんのよ」

 

「知ってんのよ……って言いますけど、私、この一年間はリアスと共に暮らしていたんですよ。知ってて当然じゃないですか」

 

「銀華さんって、リアス部長の家に住んでたんですか」

 

「そうですよ、アーシアちゃん。私、一年前にリアスの家に預けら……へ~」

 

「……? どうしたの、銀華さん?」

 

歩きながら話していたせいか、少しだけ気づくのに遅れましたが、この気配は……。澪を見てみれば、私と同様この気配に気づいているのか、微妙に顔を険しくしている。

 

「いえ、木場君も歩いていれば気づきますよ」

 

「何を……!? なるほど、そういうことだね」

 

どうやら、木場君は気づいたようですね。ただ、イッセーとアーシアちゃんはまだ悪魔になったばかり……というか、戦い慣れていないため、この気配に気づいていないようですね。

 

「しかし、なんで急にあの人が?」

 

疑問に思いつつも歩き続け、オカルト研究部の前へと着く。扉の前だというのに、中の雰囲気をヒシヒシと感じますね。……リアス、相当不機嫌だ。

 

「失礼します」

 

中へと入ると、そこにはソファーに座って不機嫌そうにしているリアスと、リアスの後ろにいつも通りのニコニコ笑顔なのだがどことなく怖い朱乃さん。リアスの対面には不敵な笑みを浮かべているササン。

 

少しソファーから視線を外してみれば、そこにはいつも以上におとなしい小猫ちゃんと、ニタニタと笑っているナリヤとメルト。そして、いつもの仏頂面の天さん……天さん!?

 

あ、あれ? お仕事は? まだ残ってるんじゃなかったの? ……ま、まあいいや。それは後から聞くとして、今一番注目しなきゃいけないのは……

 

「お久しぶりです、グレイフィアさん」

 

「お久しぶりです、銀華さん。半年ぶり……位でしょうか?」

 

「そうですね。それくらいになりますね」

 

メイド服を着た、魔王ルシファーの女王(クイーン)グレイフィア・ルキフグス。灰色に近い色のショートヘアーに、二つの三つ編み。スラッとした体型だが、出るところは出て絞まってるところは絞まってる美人。彼女、こう見えて冥界では、一位二位を争うくらいの女性悪魔だったりするんですよ。

 

私達が中に入り、リアスと朱乃さん以外全員ササンの座ってるソファーの後ろに立つ。すると、私達を一通り見渡したリアスはゆっくりと口を開いた。

 

「みんな揃ったわね。……部活を始めたい所ではあるけど、ちょっと話があるの」

 

話ですか。なんでしょうね。面白い話ならいいのですが。

 

「お嬢様、私から話しましょうか?」

 

「いえ、私から話すわ。実はね――――――」

 

リアスが肝心な話を始めようとした途端、部室にある一角が急に光りだす。あれは、転移魔法陣?

 

「……フェニックス」

 

フェニックス、フェニックス……ああ、成程。リアスが不機嫌だったのは、そういうことね。今日は、リアスの許嫁が来る日なのね。……小猫ちゃんに言われるまで、フェニックス家の魔法陣だってこと忘れてた。

 

より一層魔法陣が光りだすと、急に魔法陣から炎が吹き出し火の粉が舞う。相変わらず、炎だけは立派ですね。

 

「ふぅ、人間界は久しぶ……」

 

真っ赤なスーツを着込んだ長身の金髪野郎が魔法陣から出て、スーツのシワを直しながら部室の中を一瞥する。だが、ある一点を見た瞬間、金髪野郎はスーツのシワを直してる状態のまま固まった。

 

誰を見て……ああ、ササンか。なぜに?

 

「久しぶりね、ライザー」

 

「翠髪の毒薬姫(ポイズンプリンセス)! 何故ここにいる!」

 

「翠髪の毒薬姫(ポイズンプリンセス)?」

 

イッセー、知らないのですか。……翠髪の毒薬姫(ポイズンプリンセス)……知らないですね。初めて聞きました。

 

翠髪……確か、緑色に近い黒……カワセミの羽のような色だったはずです。しかし、ササンの髪の色はエメラルドグリーンのような明るい緑。なのに、翠髪ですか。

 

「なあ、銀華。あのいきなり出てきた野郎が言った翠髪の毒薬姫(ポイズンプリンセス)ってなんだ?」

 

「さあ? リアスの二つ名みたいなものと同じじゃないですかね」

 

リアスにも、紅髪の滅殺姫(ルインプリンセス)の異名がありますが、それと同じようなものなんでしょうかね。

 

小声で聞いてきたイッセーに小声で答えると、何やらササンの方では話が進み始めた。

 

「あら、別に私がここにいてもいいでしょう? グレモリー家とデカラビア家の仲は家族当然。なら、リアスの管轄であるこの町、この場所にいたとしても問題は無いはずだわ。……それとも、私がいては問題かしら?」

 

「い、いや、問題はないが……」

 

目つきを鋭くさせ、金髪野郎にササンが言うと、金髪野郎は若干バツが悪そうに答える。……ふむ。どうやら、金髪野郎は、ササンの事が苦手なようですね。

 

「なら、存分に話し合えばいいじゃない。リアスのお婿さん」

 

イッセーの方を見ながら、含み笑いを浮かべながら言うササン。何を企んでいるの、ササン?

 

「……ん? お婿さん?」

 

驚きのあまりなのか、ただ単純に反応が遅かったのか知らないが、イッセーはワンテンポ遅れてから婿の所に反応した。

 

「兵藤一誠様」

 

「は、はい」

 

「この方はライザー・フェニックス様。純潔の上級悪魔であり、古い家柄を持つ、フェニックス家のご三男であらせられます」

 

へ~フェニックス家の三男坊ですか。どうりで見たことないはずです。基本、私が見て来たフェニックス家は長男の人でしたからね。

 

「そして、グレモリー家次期当主であるリアス嬢さまの婿殿でございます」

 

「へ~……むこおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!?」

 

おう、ナイスリアクション。

 




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第十九話 口車

「いやー、リアスの女王(クイーン)が入れてくれたお茶は美味しいな」

 

「恐れいりますわ」

 

現在、あの焼き鳥野郎がリアスの隣に座ってお茶を飲んでいる。リアス、凄い嫌な顔してる。余程その焼き鳥野郎が嫌いなんだね。

 

ま、そりゃあそうか。肩やら尻やらさりげなく触りまくってるもんね。どうせなら、私にしてくれればいいのに。それを口実にボッコボコにするから。

 

「ライザー、何度も言うけど私は貴方と結婚はしないわ!」

 

「それは何度も聞いている。だが、そうもいかないだろう? 君の御家事情は結構切羽詰まっているじゃないか」

 

「余計なお世話よ! 私が次期当主である以上、私の婿くらいは自分で決めるわ! そもそも、お父様もお兄様も急ぎすぎなのよ。大学でるまでは自由にさせてくれる約束なのに!」

 

「ああ、そうだ。君は基本的に自由だ。大学に行ってもいいし、遊んだっていい。だが、君のお父様やサーゼクス様は不安なのだよ。さきの戦争のせいで純潔悪魔の数は激減。御家断絶をする家は少しづつ出てきている。それに、今の状況もある。いつ堕天使や天使が攻めてくるかわからない。ならば、上級悪魔同士速くくっつき子を生すのは当然だと思うのだが。君も知っているだろう。如何に悪魔の新生児が貴重か」

 

そこで焼き鳥野郎は一旦お茶を飲むと、目つきを鋭くさせて私達の方を見てくる。

 

……はぁ、面倒くさい。そんなに御家が大事か。代々続いてきた名門だが知らんが上級悪魔ってのはそんなに必要なもんなんですかね? いらないんじゃない? だって、下級悪魔の存在を蔑ろにして、新たなものを求めない上級悪魔なんてただ邪魔だけじゃん。

 

でもま、今の魔王様達は昔の縛りに縛られてない面白くていい人達ばかりだからいいですけどね。

 

「さらに言えば、新鋭の悪魔――――――君の下僕みたいなのが幅を効かせているが、それじゃあ、昔から居る俺達上級悪魔の立場がない。ま、それは別にいい。これからの悪魔には新たな血を入れるのもいいとは思う。だが、それでも旧家の上級悪魔の血を途絶えさせるわけにはいかないだろう? 君と俺は上級悪魔の血を絶やさないために選ばれた者達なんだよ。俺の家には兄達がいるから大丈夫だが、君の兄妹は二人だけ。しかも、兄君は家を出られている。ならば、君しかグレモリー家を継ぐ者はいないのだぞ? 婿を取らなければ、御家は断絶。君は、家を断絶させたいのか? それに、もう『七十二柱』の殆どはいない。これは、悪魔の未来もかかっているのだよ」

 

黙って聞いているリアス。鋭い瞳は変わらず鋭いままだが、何か思うとこがあるのか、若干表情が暗い。

 

「私は家を潰す気はないし、婿養子だって取るわ!」

 

「おおっ! なら、早速俺と」

 

「でも、あなたとは結婚しないわ。私は自身が良いと思った人としか結婚はしない」

 

立ち上がりながら言うリアスに、ライザーも立ち上がりながらリアスを見下す。

 

「俺もな、リアス。フェニックス家の看板を背負ってんだよ。名に泥を塗る気はない。わざわざこんなボロくて狭い場所にも来たくなかったしな。それに、俺は人間界は嫌いなんだよ。炎は汚い風は汚い。炎と風を司る悪魔としては耐え難いんだよ!」

 

殺気と炎が部屋全体を包む。いいですねえ! いい雰囲気になってきた。

 

「俺は君の下僕を全て燃やし尽くしても冥界に連れて行くぞ」

 

ザワツク空気。イッセーはブルブルと震えているが、その他の皆は平然を装っている。……いや、約五名。異常者がいる。

 

ナリヤ、天さん、メルト、澪、そして、私。

 

ナリヤとメルトは下を向いたまま、ニヤリと口元を歪めている。天さんは壁に背を預けたままいつも通りの無表情なのだが、口元が僅かににやけている。澪は隠すこともなく笑っている。

 

そして、私は自身の神器(セイグリット・ギア)の昂ぶりを抑えながら拳を握る。

 

徐々にリアスとライザーは力を出していく。リアスは自分の紅い魔力を纏い始め、ライザーは炎の羽を作り出していく。

 

ああ、ダメか、ササン。戦ってはダメかササン!

 

リアスとライザーの対面に座っているササンに視線を向ける。

 

そして、ライザーの羽が完成する寸前、ササンはソファーから指だけを出して、小さく前に倒す。瞬間――――――

 

「な!?」

 

「え!?」

 

私達五人は一斉に動き出し、私はリアスとライザー、二人の真ん中で両者を止める。

 

澪は私と共に二人の間に入り互いに光の槍を向ける。私は二人に向かって掌を向け、いつでも倒せる準備を終わらせる。

 

ナリヤは例の鎖でリアスを縛り上げ、メルトはライザーの後ろに回り首元に自分の手を添えている。そして、天さんは既に行動を起こしたのか、壁に背中を預けてこちらを見てる。

 

「これは、どういうことかしら、ササン」

 

「どういうことも何も、私はただ貴方達を止めただけよ」

 

「止めただけにしては少し強引ではないか、翠髪の毒薬姫(ポイズンプリンセス)

 

「いえいえ、これでも手加減した方ですわ。焼き鳥」

 

「誰が焼き……!?」

 

「動かないほうがいいっすよ。スパッといきますよ、スパッと」

 

ライザーの首に力を込めたメルトは笑いながらライザーに言う。ライザーはメルトが本気だと思ったのか、大人しく目だけをササンの方に向けて睨む。

 

「ササン様、少々やりすぎです」

 

「あら、ごめんなさいグレイフィア。離してあげなさい」

 

ササンの指示通り、私達は同時に離し、元の位置に戻る。いや~久しぶりに楽しかったですね。

 

「お嬢様、ライザー様。こうなることはこちらも重々承知でした。それ故、旦那様とサーゼクス様から最終手段が出されました」

 

「最終手段?」

 

「お嬢様。ご自身の意思を押し通したければ、ライザー様と『レーティングゲーム』にて決着をつけよとのことです」

 

レーティングゲーム。下僕達を戦わせて競い合うやつか……なるほど、簡単な話になった。勝てば約束は無し、負ければ結婚。手っ取り早くていいじゃない。

 

「本来ならば、成人した悪魔しかレーティングゲームは行なえません。ですが、非公式とあらば、お嬢様でも参加できます」

 

「そう、お父様達は私が拒否した時の事も考えて、ゲームで決着をつけさせようとしていたわけね。……どこまで私の生き方をいじれば気が済むのよ」

 

「では、降りると?」

 

「いえ、まさか、こんな好機が訪れているのに降りるはずなんてないわ」

 

ほう、リアスの奴やる気満々だね。いいねえ。これぞ悪魔。

 

「へー、受けるのか。いいぜ。俺は構わない。だがいいのか? 俺は成人していて公式試合にも何度か出ている。勝ち星も負け星より多い。それでもやるのかい?」

 

「ええ、消し飛ばしたげるわ!」

 

「分かりました。両者共に戦う意思があるとグレイフィアは確認しました。ご両家のゲームの指揮は私が取らさせてもらいますが、よろしいでしょか?」

 

「ああ」

 

「ええ」

 

「では、ご両家には私の方から報告させてもらいます」

 

礼儀正しく頭を下げるグレイフィアさん。

 

……さて、ササン。ここからどうやって焼き鳥と戦うように仕向けるのかな。楽しみにしてるよ。

 

「ねえ、ライザー。貴方の下僕はどこにいるのかしら?」

 

「なんだ、翠髪の毒薬姫(ポイズンプリンセス)。気になるのか?」

 

「ええ、とっても気になるわ」

 

急にライザーに声を掛けるササン。下僕か……焼き鳥野郎の事だから、どうせ可愛い子だけ集めたに決まっている。いや、確信はないけど。

 

「なら、見せてやろう。俺の可愛い下僕たちを」

 

焼き鳥野郎が指をパチンと鳴らすと、部屋の中に十個くらいの転移魔法陣が出てくる。

 

ゆっくりと魔法陣が消え、出てきたのは悪魔の駒(イーヴィルピース)十五個全てを使ったフルメンバー。

 

まさか……私の予想していた通りだとは。

 

全員女の子! 騎士や魔道士やチャイナ。それに獣耳を生やした女の子二人に、双子! ロリっ子にナイスバディ女二人! 着物の大和撫子にドレスを着た西欧のお姫様! 半分仮面着けた女性に、剣を背負っているワイルド女性に、踊り子!

 

この、変態野郎が!

 

そして、イッセー! 隣で涙を流すな! 悔しいのはわかるが、本気で涙を流して鼻水まで流すな!

 

「それで、全員?」

 

「ああ、そうだが?」

 

「そう……グレイフィア!」

 

「何でしょうか」

 

「これから私はお願いを出します。それを、貴方の判断で大丈夫か決めてもらいたいのです」

 

「お願いとは?」

 

丁寧に言ったササンは立ち上がると、焼き鳥野郎に指を向ける。

 

「ライザー、貴方にレーティングゲームを挑むわ」

 

「なっ!?」

 

「……どういうことでしょうか、ササン様?」

 

「順を追って説明させてもらうわ。ライザー、貴方先ほどリアスの下僕全てを焼き尽くしてでも冥界に連れて行くと言ったわよね?」

 

「言ったが?」

 

「その時、貴方一旦本気を出そうとしてこの建物を全て焼こうとしたわよね。リアスの下僕はともかく、無関係である私とグレイフィアすらも」

 

「な、そ、それは……」

 

「何も言えないわよね。グレイフィアが強いから大丈夫だと思ったなんて言い訳は通用しないわよ。それに、もし、私の下僕が貴方を止めなければ私達は焼き殺されていたかもしれない。……どうしましょうね。つい口が滑って、フェニックス家の三男は無関係の上級悪魔を自分の私欲で殺そうとしたなんて流してしまうかもしれませんわ」

 

「ぐ……何をすればいい」

 

「簡単よ。さっきも言ったけど、私達とレーティングゲームをしなさい。……それに、グレイフィア。リアスとライザーではまだ実力が空きすぎている。特に、まだろくにも戦えやしない赤龍帝君がね。なら、僅かでも修行をつけさせるために準備期間が必要ではなくて?」

 

「……そうですね。確かに、お嬢様にも準備期間は必要です」

 

「でしょ? なら、そうね……約十日後。リアス達はレーティングゲームをすればいいわ。その間に、体が鈍らないよう、私達がライザーの相手をしてあげる」

 

「……少し、話してきていいでしょうか?」

 

「ええ、構わないわ」

 

さっすが、ササン。上手い交渉を仕掛けましたね。これでは、ライザーは嫌でも戦わなければならない。何故なら、上級悪魔としての体裁があるから。

 

噂というのは不思議なもので、あっという間に世間に広がる。もし、ササンの言う通りの噂が流れたとしよう。そしたら、どうなるか? 簡単。ライザーは上級悪魔を殺そうとしたせいで今回の話はお流れ。最悪、御家の存続すら危うい。

 

しばらく魔法陣と何かを話していたグレイフィアさんが戻ってきた。

 

「決まりました……ササン・カラビアとライザー・フェニックスのレーティングゲームは旦那様とサーゼクス様、そしてフェニックス家現当主様から許可が下りました」

 

「そう、なら話は速い。ライザー、そういうことで、やりましょうか。貴方が勝てば、私の持っている噂話は一生話さない」

 

「貴様が勝った場合はどうするんだ」

 

「何、別に私は求めてないわ。……強いて言うなら、貴方が負ければ、貴方の名声は少し減るでしょうね」

 

地味にプレッシャーを掛けますね、ササン。勝ったら何もなし……別にいいですけどね。久しぶりに体動かせるんだったらなんでも。

 

他の四人も同意見なのか、全員口元だけをニヤけさせてササンを見る。

 

「それと、お嬢様。これは旦那様とサーゼクス様の命令です」

 

「命令?」

 

「ササン・カラビアとライザー・フェニックスの試合は下僕共に絶対に見ること。そして、お嬢様とライザーの戦いは十一日後」

 

「……分かったわ」

 

強制的に私達の戦いを見ろと。何を考えているのでしょうね、リアスの父と兄は。

 

「では、ササン様。試合の日程は」

 

「決まってるじゃない。試合は――――――」

 

そこで一旦振り返り、私達を見たササンは挑発するような笑みを見せたあと……

 

「明日よ」

 

堂々と言い放った。

 




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第二十話 レーティングゲーム上

「お兄様」

 

ササンがライザーとの試合が始まる数分前。私はお兄様とお父様がいる場所へと向かっていた。

 

ササンが戦う……それは私にとっては非常に不思議なことだ。だって、ササンが戦う所を私は聞いたことがない。

 

どれほどの力を持っているのか知らない……けども、ライザーに勝てないと私は思っている。ライザーの持つフェニックスの力。圧倒的な治癒力。例え、頭を吹き飛ばされようが、体を吹き飛ばされようが、精神が死なない限り死ぬことはない。

 

もし、今回のレーティングゲームの内容が相手の殲滅の場合なら、ササンが勝つのは無理。

 

……だけど、天なら或いは勝てる?

 

「お兄様、お父様、失礼します……!」

 

扉をノックし、中に入る。そこにはお父様とお兄様。そして、これからライザーと戦うはずのササンが。

 

「やあ、リアス。入りなさい」

 

「はい」

 

とりあえず、ササンの事は気にせず、お兄様に言われた通りにソファーに座る。

 

「では、サーゼクス様。お父上。私はこれにて失礼します」

 

「ああ、頑張ってくれたまえ、ササン」

私がソファーに座ると同時に、ササンはお兄様とお父様に頭を下げて出ていってしまった。

 

一体、何をしに来たのだろうか。

 

「それで、リアス。何をしに来たのかな?」

 

「あ、はい。お兄様、お父様。聞かせてください」

 

「何をだね?」

 

「どうして、ササンとライザーの試合を認めたのですか? いくら天がいるとしても、ササンのチームでは勝てない気がするのですが」

 

戦ったことはないが、メルトやナリヤ、二人でも勝てないと思う。そして、銀華でも勝てるかどうか。澪は、もしかしたら勝てるかもしれないが、どうなるかわからない。天の圧倒的な攻撃があればいけるかもしれないが、分からない。

 

全員の戦ってるところは見たことがないが、多分ライザーよりは弱い……というよりも、ライザーを仕留められるだけの破壊力を持っていないはず。

 

私が真剣な表情でお兄様に問うてみると、お兄様は私の顔を見てから一度笑う。

 

「そうか、リアスはまだ彼らの戦う姿を見たことがないんだったね。なら、勝てないと思うのは当然か」

 

クツクツと楽しそうにお兄様は笑う。

 

「何、彼らは負けはしないよ。むしろ、十全の余裕を持ってライザーに勝てるだろうね」

 

「そんな……」

 

「馬鹿なと思うかもしれないけど、それが事実なんだよ、リアス。彼らは凄いよ。眷属全員と見て、是非参考にしなさい……いや、まだ出来ないか」

 

何やら最後の方は聞こえなかったが……ササン、そんなに凄いの? お兄様の太鼓判を押されてるし……。

 

「ほら、始まるよ」

 

 

考えこんでいると、お兄様が机の上を指さす。そこには、ライザーとササンの両名が写っている。

 

「それでは、お兄様、お父様。失礼します」

 

「ああ、また後でね」

 

急いで二人に頭を下げ、転移魔法陣を使って眷属の皆の所に戻る。

 

「さあ、始まるよ。彼らの一方的な破壊が」

 

 

 

「さあ、皆。行くわよ」

 

いつもの部室に集まり、ダラダラと時間を潰していると、どこかに行っていたササンが戻ってきた。

 

行くわよって言われても、どこに行くのか。……あ、ちなみに私達の服装は、澪が堕天使の時に着ていたボンテージのような衣装で、天さんがいつもの黒スーツ。私とナリヤとメルトは学園の制服。そして、ササンの格好は上が水色のパーカーに下が緑のミニスカート。センスはともかく、凄い色合い。

 

「準備はいい? 各々の獲物の確認は終了した?」

 

獲物……私の場合は自分の神器(セイクリッド・ギア)だけですから問題ないですね。

 

「そう、大丈夫みたいね。じゃあ、行きましょうか」

 

そう言って、足元に転移ようの魔法陣を展開するササン。

 

光が一瞬私達を包み込む。光がやんだ先は……あれ? さっきの部室と同じなんですが。

 

『皆様、今回のササン対ライザーのレーティングゲームを取り仕切らせてもらいます。グレイフィアでございます。今回の戦う場所は、レプリカの駒王学園です』

 

ああ、レプリカの駒王学園だったのか。どうりで、同じ場所だと思ったわけだ。

 

それにしても、悪魔の技術って凄いですね。そっくり別の空間に同じような場所を作り出すなんて。

 

『今、皆様がいる場所が両陣営の本陣です。兵士(ポーン)の方がプロモーションする場合、敵の本陣でしか出来ませんのでご注意を』

 

なるほど……でもま、私達にはどの駒にでもなれるプロモーションをする兵士(ポーン)がいませんから関係ありませんけどね。

 

『今回の試合はデスマッチ。相手陣営の眷属及び王(キング)を一定以上のダメージを与えての撃破(チェック)又は降参させた場合、勝利となります』

 

へ~デスマッチですか。いいですね、分かりやすくて。相手を倒せばいいのでしょう?

 

『尚、今回の試合はグレモリー家、フェニックス家、さらに各上級悪魔の方々が観戦致しております』

 

各上級悪魔……か。それほどこの試合は見ものってことだね。

 

『それでは、五分後試合を始めますので、それまでは各陣営で作戦会議となります』

 

「さて、作戦だけど……ナリヤ、メルト」

 

「はーい!」

 

「はいっす」

 

「貴方達は、多分ライザーの事だから、ライザーのいる本校舎までの近道である体育館を何人かで固めて取らせないようにしてるだろうから、そこを襲撃して一蹴して頂戴」

 

「了解っす」

 

「了解―!」

 

「で、銀華、澪」

 

「はい」

 

「何?」

 

さて、私達はどこを任せられるのでしょうか。楽しみです。

 

「貴方達は校庭に行って、正面から校舎に突っ込んでいって。その途中でライザーの眷属が出てきたら潰して頂戴」

 

「分かりました」

 

「分かったわ」

 

いいですね、正面突破ですか。単純かつ正直で大好きですよ。さあ、楽しくなってきました。

 

「ただし、銀華、貴方は魂を吸うのだけはやめなさい。そして、澪、貴方は槍の密度を落としなさい。これは、今回戦う上で決められたことだから、必ず守ってね」

 

魂を吸うって、そんなことしませんよ。アレは、無差別に殺していい時だけしかしません。今回はゲームなので、楽しむつもりですし。

 

「そして、天。貴方は上空から全員のサポート。もし、上から攻撃してくるような奴がいれば叩き落としていいわよ」

 

「了解」

 

「最後に私だけど、私はここを攻めてくる奴がいるだろうから、そいつらをボコしてからライザーの元に向かうから。皆も、自分の仕事を終えたらライザーの所に向かっていいからね」

 

ボコすって……ササンってそこまで強いんですか? 戦ったことないからわからないんで、ちょっと不安なんですよね。

 

「ササン、ササンって強いんですか?」

 

不安が残るとアレなんで、聞いてみる。その方が安心しますし。

 

「私? そうね……総合的な力で言えば、この中で一番弱いかもしれない」

 

それなら、私達の誰かがササンの守りに入ったほうがいいのでは?

 

「でも、それはあくまでこの中の話し。この中の話でなかったら、私はリアスの十倍は強いわ」

 

十倍……あの滅びの魔力を持つリアスの十倍って、それ、かなり強くないですか? だって、十倍ですよ? 簡単に言って、リアスが十人ですよ。

 

「それに、私にはこれがあるし」

 

そう言ってササンが取り出したのは、二丁の銃。細長く、まるで昔の火縄銃のような形状だが、色が白銀だ。

 

「双銃カストル。私の愛銃で、自分の魔力を直接打ち出すことができるの。その他にも色々とギミックがるんだけど……残念。時間ね」

 

凄い気になるんですが、そのカストルのギミックが。

 

「皆コレを付けて」

 

ササンが小さく丸いイヤホンみたいな物を渡してくる。……どうすればいいの? あ、皆耳に入れてるから、耳に入れればいいのかな?

 

「知ってると思うけど、これは発信機の役割をしてるから、連絡はこれでやりとってね」

 

『それでは、十秒前になりましたので、両陣営構えてください』

 

「皆、やるからには徹底的によ」

 

『イエス、マイマスター』

 

 

 

「さて、ここっすかね」

 

「そうだね」

 

私とメルトはコソコソと森の中を抜けて、体育館へとやってきた。

 

ここまで、何にもなかったけど、敵側は余裕なのかな? だって、トラップとかゼロだったんだよ。普通なら、トラップの三つや四つや五つや六つくらい用意しとくもんでしょう。ま、私達も一個もトラップなんて設置してないけどね。

 

体育館の横にある扉からこっそりと忍び込み中の様子を伺う。中にはチャイナドレスを着た女性と、チェーンソー持ちの体操服ブルマ少女が二人。

 

う~ん、こっちに気づいてる感じはない。ダメだなあ、いくらこっちが気配を消してるからって気づかないなんて。……しょうがない、気づかせてあげるかな。

 

「やっほー!」

 

「ちょ、ナリヤ。もう少し警戒しようっす」

 

元気いっぱいで飛び出してみれば、ようやく三人がこっちに気づいてくれた。もう、気づくのが遅い!

 

「な、いつの間に!?」

 

「気づくの遅すぎ。メルト、私は双子を殺るからチャイナよろしくね」

 

「チャイナをヤッチャイナっすか? 笑えないっすね」

 

メルト、いくらなんでも寒すぎるよ。あまりにもつまらなすぎて、チャイナとブルマがドン引きしちゃってるよ。

 

「ま、いいや。来なよ。ブルマ幼女」

 

「「馬鹿にして!」」

 

二人共声をハモらせながら、チェーンソーを起動させて突っ込んでくる。

 

あのチェーンソーに当たれば手足を切り落とされるだろうけど、問題はないね。だって、当たらなければいいんだもん。

 

「神をも捕縛する砕けぬ鎖(ブロークン・チェーンバインド)

 

「「え?」」

 

向かってくる二人をムーンサルトで飛び越え、鎖をチェーンソーに巻きつけ、引っ張る。あらら、簡単に取れちゃったよ。全く、力が足りないね。

 

「よっと、さて、武器も取ったしどうするかな……あ、いいこと思いついた」

 

チェーンソーの持ち手に鎖を巻き直し、鎖を握る。うん、これでいける。

 

「さあ、来なよ」

 

「「え、ああ……」」

 

鎖を振り回し、チェーンソーをヌンチャクのように振り回す。いいね、コレ。もう少し慣れれば、音速の壁を超えられるかな。

 

「どうしたの、来ないなら!」

 

「「キャッ!」」

 

足元を薙ぐように鎖を振り回す。すると、ブルマの二人はジャンプして私のチェーンソー付き鎖を躱す。

 

ま、切り刻んで終わらせるのは流石に可哀想だからこれで決めてあげよ!

 

 

「よっと、これで終わりっと」

 

ブルマの二人がジャンプすると同時に、私自身もブルマの二人より高い場所まで跳び二人の頭の上から地面に向かって二人を蹴り落とす。

 

あまりにも威力が高かったせのか、二人共無言で落ちていったよ。そこまで強く蹴ったつもりはないんだけど。

 

地面にぶつかった二人はピクリとも動かない。そして、しばらく二人を見ていると、もうダメなのか、二人の体が光に包まれていく。

 

『ライザー様の兵士(ポーン)二名リタイア』

 

「よし、こっちはこれでいいとして、メルト、そっちは……って」

 

二人を見てからメルトの方を見てみれば、そこにはボロボロになっているチャイナと全然余裕のメルトがいた。

 

メルト、楽しんでるよ。疲れきってる相手に向かって更に攻撃って、やっぱり、メルトはドSだったんだね。

 

「どうしたの、ねえ? どうしたの? もう終わりっすか? つまんないすねえ。この程度でフェニックスの眷属を名乗ってるんすか?」

 

「くッ、馬鹿にして、馬鹿にして、馬鹿にして!」

 

「ま、いいすけどね。もう終わらせるんで」

 

ふっとメルトの姿が消えたかと思うと、次の瞬間、チャイナが壁に向かってぶん投げられてた。

 

うわーメルト、凄い投げ技使うね。チャイナの背後に前転しながら跳んで、上から首を持ちながら、回転の勢いを利用して壁に向かってぶん投げたよ。

 

『ライザー様の戦車(ルーク)一名リタイア』

 

「よし、終わったっす。それじゃあ、行きましょか」

 

「そうだね。でも、メルト。可哀想だから、あんまり虐めちゃダメだよ?」

 

「そうっすね。次は手っ取り早く片付けるっすよ」

 

「もー! 本当に分かってるんだか……」

 

メルトとふざけた事を言いながら体育館を後にして、本校舎へと向かう。皆……手加減して上げてるよね? もしかして、メルトみたいに本気でやっちゃいないよね。……大丈夫だと祈ろう。

 




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第二十一話 レーティングゲーム中

「私達は正面突破……なのですが、何でしょうね」

 

「誰もいないわね。何? ここまでたどり着けないとでも思ったのかしら?」

 

本陣から真っ直ぐと本校舎まで走ってきた私と澪。今は茂みに隠れて本校舎を覗いております。……あ、そういえば途中、なんか二十個くらいトラップがあったけど、たいしたことなかったな~。

 

地面を踏んだ瞬間に爆発とか、跳ぼうとしたら頭の上にはピアノ線が張り巡らされてたり、いきなり炎が真正面から飛んできたりとか、たいしたことなかったですが。

 

文字通り正面から全部突破してやったけど、一つくらい引っかかってあげればよかったかな?

 

「ま、誰もいなくてもいいですよ。さ、ちゃっちゃと向かいましょう」

 

「そうね。どうせ、奇襲とかしょうもないこと考えてるだけでしょうし」

 

茂みから飛び出し、校舎へ向かうために通らなければならない校庭を悠々と歩いていく。

 

……ここにもトラップがあるもんだと思っていましたが、一つもありません。つまらないですね、これじゃあ簡単に校舎に――――――

 

「澪」

 

「分かってるわよ」

 

小さな光の槍を作り出した澪は、背後を見ずに光の槍を背後に投げる。すると、数秒後爆音が鳴り響き、砂埃が舞上がる。

 

「やはり奇襲でしたか」

 

「でも、お粗末ね。殺気がただ漏れで奇襲になってないわよ」

 

二人して背後を顔だけづらして見れば、そこには翼を生やして宙に浮いているローブを被った魔道士が。確か、彼女はライザーの女王(クイーン)名前は……ユーベルーナ。爆発女王(ボムクイーン)でしたか。

 

ふうん。女王(クイーン)の登場ですか。これはこれは、好都合。

 

砂埃が収まっていく。さっきまでユーベルーナしかいなかったのに、砂埃が止んだ校庭には、更に一人、仮面を着けた女性が立っていた。

 

「さっきの爆撃を防ぐなんて、やりますわね」

 

「いやいや、余裕ですけど? もしかして、奇襲のつもりでしたか?」

 

あ、ちょっと挑発してみたら、ピキッと青筋立てた。いや~怖い~助けて~。

 

「どうやら、貴方は徹底的に爆殺しないとダメみたですわね」

 

「知りませんがな……澪、貴方は横の仮面をお願いしますね。どうやら、相手は私を指名してるようなので」

 

「分かった。精々手加減してあげなさいよ」

 

「さあ、それはどうでしょうか?」

 

悪魔の翼を背中から出し、空へと飛び上がる。一方、澪は相手の仮面と静かに向き合っている。

 

「ユーベルーナさん? いや、爆発女王(ボムクイーン)? どっちで呼べばいでしょうか?」

 

「ユーベルーナと呼びなさい。小娘」

 

「では、ユーベルーナさん、お願いがあるんですがいいですか?」

 

「何? 命乞いなら聞かないわよ」

 

「いえいえ、そんなものではないです。私がお願いしたいのは――――――」

 

簡単に倒されないでくださいよ。

 

そう言った瞬間、私はユーベルーナに向かって飛び出す。まだ霊的な瞳(アウラー・オブ・ヴィジョンアイ)を発動はしない。だって、発動しちゃったら、瞬殺なんですもん。

 

咄嗟の事で、ユーベルーナは杖を突き出し爆発を起こそうと魔法陣を展開しようとするが、遅い。

 

「え……」

 

展開した魔法陣を勢いよく右足で横薙に蹴り壊し、勢い殺さないまま左足で裏回し蹴りでユーベルーナの腹を思いっきり蹴り飛ばす。

 

おー、すごい飛びましたね。十メートル位吹っ飛びましたよ。……しかし、今の一撃に耐えれるのですか。ならもう少し出力をだしてもよさそうですね。

 

「ぐ! なんて威力! これが、霊的な瞳(アウラー・オブ・ヴィジョンアイ)の力なの……」

 

空中でなんとか態勢を整えたユーベルーナが何か言ってますが、的外れです。まだ霊的な瞳(アウラー・オブ・ヴィジョンアイ)は使っていません。これは私の素の力です。

 

悪魔の駒(イーヴィルピース)を取り込んだおかげですかね、力が溢れて仕方ないんですよ。

 

再びこちらに向かって杖を突き出し、爆発の魔法陣を展開するユーベルーナ。……ふむ、素の防御力がどれほどになっているか気になるので、一回受けてみますか。

 

「喰らいなさい!」

 

はい、喰らいます。

 

私の周りに魔法陣が現れ、一斉に光りだす。次の瞬間、爆音とともに魔法陣は弾け飛ぶ。

 

「あはは、いい弾け具合ね」

 

何やら高笑いしてるユーベルーナですが、残念な事に私、ノーダメージです。何故でしょうね。悪魔の駒(イーヴィルピース)を取り込んだだけで、ここまで防御力が上がるなんて……元のスペックが良かったんですかね。それとも、取り込んだのが、女王(クイーン)だからでしょうか?

 

ま、どちらにしても、もうこの戦いに興味はなくなりました。

 

黒い爆煙の中、悪魔の羽を羽ばたかせるのをやめ、地面に向かって真っ逆さまに落ちていく。そして、爆煙を抜けると同時に、再び悪魔の羽を羽ばたかせ、ユーベルーナの背後に回る。

 

「貴方に一つ教えましょう」

 

「ッ!?」

 

「爆発とは、こうやるんですよ」

 

ユーベルーナの背後に何十個もの魔法陣、そして私とユーベルーナを囲むように結界を展開し、話しかけると同時に指を鳴らし魔法を発動させる。

 

私の声に驚き振り返るユーベルーナ。瞬間、私とユーベルーナを閃光が包み込む。

 

隕石が落ちてきたかのような爆音。常人ならまず耐えられないような爆発が何十、何百と発動していく。

 

そして、ようやく爆発が止むと、そこにはユーベルーナの姿はなかった。……あれ? もしかして、跡形もなく消し飛ばしちゃった?

 

やばッ!? それだったら私人殺しじゃん!

 

『ライザー様の女王(クイーン)リタイア』

 

あ、良かった~。アナウンスが鳴ってるんだから、ユーベルーナは生きてるんだよね。これで、私は人殺しじゃないよね。……なんてね。今更人殺しがどうとか気にはしませんよ。

 

「ケホッケホ。しかし、この爆発でも傷一つないとは、どんな体の構造になっているんでしょうか、私……それとも、初めて使った見よう見真似の魔法陣だったから威力がおちたのでしょうか?」

 

ま、それよりも、澪は……っと、戦ってますね。お、澪、肘関節完璧に決めましたね。ありゃあ、逃げられない。あ、タップが入った。

 

『ライザー様の戦車(ルーク)リタイア』

 

あれで、降参に入るんだ。……でもま、いっか。これで、本陣から本校舎までの道のりは確保っと。後は、天さんとササンがどう動くかによるんだけど……ライザーの所まで攻めちゃっていいか。

 

宙からゆっくりと地面に降りて澪の横に立つ。やっぱりというかなんというか、一切疲れきった様子がないですね。私も疲れてはいないですけど。

 

「お疲れ」

 

「お疲れ。どうだった、クイーンは」

 

「全然、素の力で圧倒できたよ」

 

「やっぱり? 実は私もなのよね。あの修行に比べたらなんというか、全然楽なのよ。同じ戦車(ルーク)なのに、ここまでの差があるなんてね」

 

「そりゃあ、駒二つと一個の差じゃない?」

 

「そうかしらね?」

 

「ま、それはともかく。さっさと攻めに入りましょう」

 

「そうね」

 

軽く澪と会話を交わしてから、本校舎に向かって歩いてく。さて、私達がライザーを倒すまでに、他の皆は来るかな?

 

 

 

「来たわね」

 

本陣で一人で目をつぶって待っていると、校舎の中に複数の気配を感じた。数はおよそ九。ふーん、殆どの戦力を私のところに回してきたわね。面白い。アナウンスで兵士(ポーン)二名脱落だから、他の六名の兵士(ポーン)はこちらに来て女王(クイーン)になっているでしょうね。

 

「ふふふ、いいわね。これでこそ、やりがいがるってもんよ」

 

両脇に置いていた双銃カストルを手に持ち、扉に向かって構える。そして、徐々に私がいる部屋に足音が近づき――――――

 

「動く――――――な!?」

 

「一斉発射。恨みっこは無しよ!」

 

剣を構えたまま扉を蹴破ってきたライザーの眷属に向かって一斉にカストルの弾丸を発射する。

 

カストルの弾丸は私の純粋な魔力を固めている物。例えばもしこれをリアスが持って撃てば、滅びの魔力が圧縮されて弾丸となって打ち出されることになる。魔力の弾丸と言っても、普通の銃と同じで、相手に当たれば貫通くらいはするわよ。

 

なら、私の場合はどうなのかと聞かれれば、私は別に滅びの魔力を持ってはない。だから、ただ単に普通の魔力の弾丸が飛ぶだけなのよ。はぁ、リアス見たいな滅びの魔力が欲しかったわ。

 

……ま、その代わりにカストルに色々とギミックを加えたからいいんだけどね。

 

「でも、泣き言言ってても始まらないわよね」

 

カストルを撃ち続け、まず目の前にいた騎士(ナイト)倒す。そして、弾丸の撃ち過ぎで埃やら木屑やらで視界が悪くなってるうちに、すぐさま扉から廊下へスライディングする。

 

右側に着物大和撫子とそれを守っている剣士。左側には兵士(ポーン)が六人。……よし、まず大和撫子と剣士を倒す。

 

体を起こしながら大和撫子と剣士に向かって弾丸を放つ。左は大和撫子の胸へ。右は剣士の足と顔に向かって撃つ。

 

「うぐ!?」

 

視界が悪い中での不意打ち。流石の剣士でもこの視界では反応が鈍ったのか、頭は弾丸を躱したが、足は躱しそこねて当たる。大和撫子は、そもそも何が起こっているのか理解できていない状態のまま私の弾丸に撃ち抜かれて消えた。

 

剣士が怯んでいる間に、天井へと跳び、コウモリのように張り付き、下にいるクイーンにプロポーションしている兵士(ポーン)に向かって弾丸の雨を降らせる。

 

廊下が狭いことと、何人も固まっていたせいで、満足に避ける事も出来ずに、兵士(ポーン)達は私の弾丸の雨を受け続ける。

 

かろうじて獣耳を生やした少女二人が私の弾丸の雨から逃れ剣士の方へ跳んで逃げる。私はというと、天井から降りて、今は少女達と剣士の向かいに立っている。

 

「奇襲とは、卑怯な!」

 

「ごめんなさい。これも、勝つ知恵って事で」

 

再びカストルを構えて撃とうと引き金を引くが、弾丸が出ない。あれ、もう魔力切れ? 流石に連射すると魔力がなくなるの速いわね。

 

「「チャンスよ!」」

 

弾丸が出ない事を好機と見たのか、笑みを浮かべて突っ込んでくる獣少女達。確かに、魔力切れで弾丸が出ないからピンチかもしれないけど……忘れてもらっちゃ困る。このカストルには、あるギミックが付いていることを。

 

突っ込んでくる少女達に向かって私も突っ込み、片方ずつ握っていたカストルを両方共両手で握る。

 

振り抜かれる二つの拳。少女たちが殴りかかってきたんでしょうが、問題はないわ。

 

咄嗟に体をずらして二つの拳を躱し、私は二人の横を通り抜けようとする。その際、小さくある言葉を呟く。

 

「ハルフゥ起動」

 

「「え?」」

 

通り過ぎ終わると、二人の少女達に刀で切られたような傷が大きく胸から腹に向かって出来る。

 

「なん……だと……」

 

剣士が驚いているのも無理はない。なんてたって、さっきまで持っていた銃は綺麗さっぱり消えて、今私の手には刀が握られているのだから。

 

これが、カストルのギミック。カストルはある言葉を呟くことによって形態を様々なものに変える事が出来る。勿論、銃と刀だけじゃないわよ。あと三つは変化させられるわ。

 

「ふう。久々に振るったけど、意外と体は覚えてるもんね」

 

刀をひと振りし、刀に着いた血を飛ばす。それと同時に、少女達は光に包まれて消え去った。

 

「さて、残りは貴方だけだけど、どうする?」

 

「私は……騎士だ! 私は、騎士の誇りにかけて、最後まで戦う!」

 

自身の持っている剣を杖がわりにして立ち上がり、こちらに向かって戦う気満々の瞳を向けてくる。いいわね。それでこそ、騎士。ライザーの眷属じゃなかったら、欲しかったくらいね。

 

「その誇り、素晴らしいわ」

 

言い終わると同時に、ハルフゥを振るって斜めに袈裟斬りし騎士に止めをさす。

 

『ライザー様の兵士(ポーン)六名、騎士(ナイト)二名、僧侶(ビショップ)一名リタイア』

 

「じゃあ、ライザーの所に向かいましょうか」

 




次回、焼き鳥はどうなるのか。

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第二十二話 レーティングゲーム下

ササンの作戦通り、空を飛び回りながら敵の姿を探す。

 

本来ならば、ライザーの所に行って決着を着けてもいいのだが、今回は銀華と澪の試運転もあるため、決着はライザーの眷属が全滅してからにしてくれとササンからこっそり言われている。

 

試運転ならば、はぐれ悪魔と戦えばいいと思うが……そう簡単に見つかるものではないか。

 

「クリストフ。敵の配置を」

 

『少しお待ちを』

 

校庭の真上で滞空し、クリストフに声を掛ける。瞬間、私から球体の魔法陣がこの空間を覆うように飛び出す。

 

これは、クリストフが封じ込められる前に持っていた『感知』の能力。今は気配を探る程度にしか使えないが、全盛期の時は気配だけではなく、相手の動き、未来予知まで可能だったらしい。

 

『校庭に二人、体育館に三人、そして本陣に九名、そして……目の前に一名です』

 

クリストフに言われた通り正面を見ると、上からピンクのドレスを着た金髪で左右ロールの少女が降りてきた。

 

「こんにちは。ササン・カラビアの騎士(ナイト)様」

 

丁寧にスカートの端をつまんでお辞儀をしてくる少女。

 

……この子は確か、フェニックス卿の娘君だったか。名は確か……レイヴェル。レイヴェル・フェニックス。どうして彼女がこのような場所に?

 

「こんにちは、レイヴェル嬢」

 

礼儀正しくされたのならば、こちらも礼儀を持って接する。それが私だ。

 

胸に手を当て、丁寧に頭を下げる。

 

「あら、私の事を知ってらっしゃるのですか?」

 

「フェニックス卿とは懇意の仲ですので。娘様のお噂もかねがね」

 

「そうでしたの……どうです、今からお茶でしませんこと?」

 

今は戦いの最中なのだが、随分とこの子は余裕そうだ。それ程、ライザー……いや、フェニックスに絶対的な自信があるのか。

 

「どうなされましたか?」

 

いかん、考えに没頭しすぎたか。悪い癖だな。考えに没頭してると、黙り込んでしまう。

 

「いや、なんでもございません。お相手させて頂きます」

 

 

 

 

場所を移動し、レイヴェルと二人でお茶を始めて数分が経った。あれから何だが色々と騒がしいが、まあいいだろう。どうせ、他の者が戦っている最中なんだろ。

 

「では、貴方様は死にそうになってから悪魔になったのですか?」

 

「ええ、そうです」

 

話しながらゆっくりと紅茶を飲む。先ほどから色々と話しているが、どれも私がこれまで送ってきた人生の話しばかりだ。

 

何をしていたのか、悪魔になる前はどんな人間だったのか等色々。

 

「そうなのですか……似ていますわね」

 

「誰にですか?」

 

似ているか。いったい誰に似ているのだろうか。

 

「私の憧れの人。五月雨天馬様にですわ」

 

……ああ、そうか。今は五月雨天馬ではなく馬月雨天と名乗っているのだった。私の正体を知っているのは四大魔王とグレイフィア、そして各上級悪魔数名と天使と堕天使のトップのみだからな。

 

「貴方も悪魔になったばかりだとしても天馬様は知っていられるでしょう?」

 

「お噂は」

 

「素晴らしい御方ですよね。神器(セイクリッド・ギア)を持っているとはいえ、ただの人間があそこまで戦うなんて。悪魔の威厳とか無しに、純粋に素晴らしいと思います」

 

徐々にヒートアップしていき、レイヴェルは紅茶を飲むのも忘れて話し続ける。

 

「それに、あの神々しいお姿。文献などでしか見たことはありませんが、美しいですよね。一度でもいいですから本物を見てみたかったのですが……残念な事に、天馬様はもういない」

 

泣きそうになるレイヴェル。まさか、そこまで憧れられていたなんて……なら、今日は最高の日になるのだろうな。

 

ポケットからハンカチを出して涙目のレイヴェルにそっと差し出す。

 

「ありがとうございます」

 

ハンカチを受け取ったレイヴェルは目元をハンカチで拭く。

 

『主よ。そろそろ時間でございます』

 

そうか、ならばそろそろ行くか。

 

「レイヴェル嬢」

 

「どうしましたか?」

 

「そろそろ時間ゆえ、私は行かせてもらいます」

 

「そうでございますか……貴方様との会話、楽しかったですよ」

 

紅茶を飲み干し立ち上がる。そして、悲しそうなレイヴェルの横を通り過ぎてライザーの元へ行こうとする。

 

「っと、言い忘れていました」

 

「どうしました?」

 

レイヴェルの横を通り過ぎてライザーの元へ行こうとするが、やることがまだ残っていた。

 

振り返り、レイヴェルの方を向く。レイヴェルもこちらを振り向いて私の方を見てくる。

 

「レイヴェル嬢。貴方の天馬に対する気持ちはよく分かりました」

 

「それが、どうしたのですか? ……ふえ!?」

 

不思議そうに首を傾げてくるレイヴェルの頭に手を乗せ優しく撫でてやる。

 

「レイヴェル嬢の会いたかった相手に会わせてあげますよ」

 

「っ!? どういう……」

 

質問には答えず、手を頭からどけてライザーのいる方を向く。

 

「天駆ける天馬の脚(ディエイト・ペガサス)起動」

 

呟くと同時に、黄金色の外側に刃が付いた金属のガントレット、足に黄金色で白い羽の付いた金属のレギンスが装着される。

 

「まさか……貴方様は!」

 

「我が名は五月雨天馬。天馬を宿しもの」

 

言うと同時に、軽くレイヴェルを見てからライザーの下へと跳んでいく。

 

「天馬……様」

 

 

 

『ライザー様の兵士(ポーン)二名リタイア』

 

ライザーの下へ向かっている途中、ライザーの駒撃破のアナウンスが聞こえてくる。

 

「クリストフ、ライザーの残りは誰と戦っている」

 

『現在、校庭にて銀華と澪がクイーンとルークと交戦中。ササン・カラビアが校舎にてポーン六名、ナイト二名、ビショップ一名と交戦中。そして、今ルークが一人やられました』

 

『ライザー様の戦車(ルーク)一名リタイア』

 

クリストフが言うと同時にルーク撃破のアナウンスが流れる。

 

なるほどな、終わる頃には到着するか。

 

『ライザー様の女王(クイーン)リタイア』

 

ライザーの本拠地である本校舎に着く。この屋上にライザーはいるのか。

 

『ライザー様の戦車(ルーク)一名リタイア』

 

これで、ライザーの眷属は残り九人。レイヴェルもいるが、彼女に闘う意思はないので、自分でリタイアでもするだろう。

 

『ライザー様の兵士(ポーン)六名、騎士(ナイト)二名、僧侶(ビショップ)一名リタイア』

 

これで、ライザーの眷属は全滅。

 

「さあ、どうするライザー。これで、貴様一人だぞ」

 

屋上への扉を開けてライザーに向かって話しかける。

 

「……」

 

ライザーは屋上の端に立ってポケットに両手を突っ込んだまま無言で空を見続ける。

 

これは、臆して話をしたくないとか、自分の眷属がやられて茫然自失して何も言えない感じではないな。いうなれば、この感じは……覚悟を決めた男の感じだ。

 

「正直この戦いは簡単に終わると思っていた」

 

私の方を向かずに淡々とライザーは語りだす。

 

「俺の眷属は基本的に弱い。俺とユーベルーナ以外は力だけなら中級悪魔程度だ。だが、レーティングゲームを何度も経験しているから、その経験のアドバンテージのお陰でそこいらの中級悪魔以上だとは思っている」

 

そこで一旦言葉を切り、ふぅとライザーはため息を吐くと、両手をポケットから出す。

 

「だが、実際はどうだ? 下級悪魔にコテンパンにやられてる。これには、流石の俺でも呆然としてしまった……だが」

 

振り返り私の方を向き、鋭い眼光で私を睨みつけてくる。

 

「死んだとされていた五月雨天馬が眷属にいるならば、話は別だ。貴方がいる眷属だ。弱いはずがない。いや、弱いまま放置するはずがない。貴方以外の悪魔は力だけなら、もう既に上級悪魔でも必死にならないと勝てない程に育てたんではないか?」

 

よく私の事を理解している。

 

そう、私と銀華、そしてササン以外の三人は上級悪魔位の力は持っている。まだ、戦略やらは拙いものではあるが、それでも力だけなら上級悪魔に引けは取らない。

 

「ああ、確かに私が一年で育てこんだ」

 

「やっぱりな……それなら、俺の眷属がこんなアッサリと負けるのは納得がいく。そして、そんなアッサリ負けた眷属の主である俺の相手はあの天馬」

 

片手で額を抑え、空を見るライザー。

 

諦めて……いないな。この状況下でもライザーは諦めていない。

 

「勝てないかもしれないな……だけどな、俺は勝てない試合だとしても諦めるつもりはない」

 

再び俺を鋭い眼光で睨むライザー。

 

「俺は上級悪魔だとかフェニックス家三男の前に、一人の男であり、十四人の眷属の主だ。その俺が、闘う前から諦めはしない。それに……」

 

「それに?」

 

「俺の愛する眷属を簡単に倒してくれたんだ。これに怒りが湧かなくてどうする」

 

ライザーの体から炎が噴出し、翼へと変わる。

 

……立派な漢としての部分があるのだな。最初からこうだったんじゃないだろうな。私と関わってしまったせいか。

 

どうにも、私と関わる者は少し心境に変化が起こるみたいだな。

 

「そうか……では、戦おうかライザー」

 

「フェニックスの不死と業火、篤とお見せしよう!」

 

 

 

炎の翼を羽ばたかせ、ライザーは空高く飛び上がる。

 

「クリストフ、行くぞ」

 

『了解した、我が主よ』

 

こちらも悪魔の翼を出し、空へと飛び出していく。

 

次々と私に向かって炎の塊が飛んでくる。流石はフェニックス。並大抵の火力じゃないな。当たれば、少しは焦げるか。

 

ま、当たりはしないがな。

 

「流石は天馬、速いな」

 

飛んでくる炎の塊を避け続けてライザーに向かっていく。

 

『rapidly!!』

 

始まったか。

 

私の天駆ける天馬の脚(ディエイト・ペガサス)の能力。それは、十秒ごとに自身の速度を倍にする能力。他にも二、三個あるにはあるが、それはまた今度でいいだろう。

 

ライザーの炎の塊を避けて横に回り込み、右の拳を叩き込む。

 

「ぐッ!?」

 

「ふむ、熱いな」

 

ライザーの体を打ち抜くが、すぐにライザーの体は治ってしまう。

 

ガントレットを着けているというのに右手の拳が溶けてしまいそうなくらい熱い。……個人的にここでは使いたくはなかったのだが、このまま殴り続けたら手が溶けてしまうから仕方がないか。

 

右手を振り、熱を逃がしてから、体に力を入れる。それと同時に、私の体から金色のオーラが溢れ出る。

 

「なんだ?」

 

「これは闘気と呼ばれている生命力のような物だ。ある悪魔から教わった努力の賜物だ」

 

両手両足にその闘気纏い、破壊力と防御力を上げる。

 

この闘気は、リアスの従兄弟であるサイラオーグ・バアルと呼ばれる者から教えてもらったものだ。サイラオーグは滅びの魔力を身につけられず母親以外からは散々能なしなど言われてきたが、私から言わせてもらえばサイラオーグは天才だよ。努力のな。

 

『rapidly!!』

 

再び自身の速度を上げ、炎の塊を躱しながらライザーに近づいていく。

 

「くッ!? なんて速度だ!」

 

今度は闘気を纏った拳でライザーの顔面と腹をほぼ同時に殴りぬく。頭と腹が無くなったというのに、ライザーは自身の炎を更に噴出させて私を焼き殺そうとしてくる。

 

『rapidly!!』

 

炎が迫り来る中ライザーの胸を蹴り、距離を取る。

 

『rapidly!!』

 

数秒炎がグルグルとライザーの周りで回り出すと、徐々に頭をと腹と胸を再生させていく。

 

「ここまで破壊力があるとは……!」

 

『rapidly!!』

 

「待て、何故そんなに天駆ける天馬の脚(ディエイト・ペガサス)カウントが早い!? 天駆ける天馬の脚(ディエイト・ペガサス)の能力は十秒ごとに自身の能力を倍に……まさか!?」

 

「気づいたか」

 

『rapidly!! rapidly!! rapidly!! rapidly!! rapidly!!』

 

私のカウントが何故こんなにも早いのか。簡単な話だ。私自身の速度が上がっているのだから、私と一体になっている天駆ける天馬の脚(ディエイト・ペガサス)のカウントも早くなるのは道理だろう。

 

今までの使い手はこのような事が出来なかったらしいが、何故か私とは相性が良かったのか出来るらしい。

 

ライザーは私のカウントの秘密に気づき警戒するが、既に遅い。

 

もし、不死の存在であるフェニクスを相手にするとき、どうやったら勝てるか? 方法は二つある。一つは神が放つ攻撃並の破壊力を持つ攻撃でフェニックスを殺る。二つ目は、フェニックスの精神を折り、精神を殺す。この二つのどちらからだ。

 

生憎と私は精神を殺すなんていう芸当は出来ない。それはササンの得意分野だ。

 

だから、私はこうするのみ。

 

「一つ教えてやろう。私の天駆ける天馬の脚(ディエイト・ペガサス)は最終的に光を超える」

 

『rapidly!!rapidly!!rapidly!!rapidly!!rapidly!!rapidly!!rapidly!!rapidly!!rapidly!!rapidly!!』

 

天駆ける天馬の脚(ディエイト・ペガサス)から、カウントが一秒も経たずに鳴り始める。それと同時に、私は空中でクラッチングスタートの姿勢を取り、ライザーの方を向く。

 

「ま、聞こえていはいなだろうがな」

 

言うと同時に飛び出す。

 

一歩で音速を超え、二歩で空気の層を突破し、三歩で光を超える。

 

「光灯す光翼馬の波動(ウェーブライトペガシス)

 

光の速度に達した私は、ライザーへと一直線に突っ込んでいく。言うなれば、光速の突進。しかし、これで当たればライザーは死ぬ。

 

ライザーへと当たる瞬間、私は空中で急ブレーキを掛ける。

 

慣性の法則で私の内蔵などはグチャグチャになるものだが、今まとっている闘気を内蔵にまで覆っているからその心配はない。

 

私の体はライザーに当たらなかったが、私の移動スピードが速すぎて、急ブレーキした時に出来た空気の層にライザーの体が当たって粉微塵に消えてしまった。

 

「……終わったか。クリストフ」

 

『分かりました』

 

クリストフの応答と共に、私の体から天駆ける天馬の脚(ディエイト・ペガサス)の装備が消え去っていく。

 

……ふう、終わった。この天駆ける天馬の脚(ディエイト・ペガサス)を使うと、体がだるくて仕方がない。

 

実は自身の体を速くするとしても、何故か私の身体的時間は通常通りに流れていたりする。ここら辺の仕組みはよくわからないが、クリストフに聞いてみたところ、クリストフが私の体力を代償に、身体的時間を通常通りに流してくれているらしい。

 

『ライザー様の僧侶(ビショップ)リタイア。そして、ライザー様リタイア。この勝負、ササン・カラビアの勝利で終了となります』

 

「不死のフェニックス。そこまででもなかったな」

 

私達は案外楽に勝てた。だが、ライザーはこの戦いを糧として次のリアス達との戦いは油断せずに来るだろう。

 

「死に物狂いにならないと、やられるぞリアス」

 




意外とね。ライザーはゲス野郎ではない気がする。

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第二十三話 お礼

ササンのレーティングゲームが終わった後、私は急いでお兄様の下へと向かった。

 

ありえない。あの光景はありえない。今までササンの戦っている所を見たことはないが、アレは絶対にありえないと言い切れる。

 

私を含めた眷属は多少なりともはぐれ悪魔と戦ったりして戦いの経験を積んでいる。しかし、ササンはその経験を積んでいない……はず。

 

基本的にササンではなく私の方へ大王から依頼が来るから、ササンがはぐれ悪魔と戦うことはない。ならば、誰かに鍛えられた……天に鍛えられた? それでも、あの強さは……考えても仕方がない。

 

お兄様のいるドアの前に立ちノックする。

 

「入りさない」

 

「失礼します……!?」

 

ドアを開けて中に入ると、そこには優雅に紅茶を飲んでいるササンがいた。

 

「あら、どうしたのリアス。そんなに慌てて」

 

「ササン、どうして貴方がここに……」

 

「リアス、その前に勝者へ贈る言葉があるだろう?」

 

お兄様が柔和な笑みを浮かべながら言ってくる。

 

ササンが居ることに驚いていたせいで、忘れていた。そうだ。ササンはさっきまで戦っていて、勝ったんだ。私が倒さなければいけない男、ライザーに。

 

「ん。おめでとう、ササン」

 

「ありがとう、リアス。それで、私がここにいる理由だけども、貴方がここに来ると予想してたからよ」

 

「じゃあ、私がここに来た理由もわかるかしら?」

 

少し試すような物言いをする。

 

何でもかんでも私の事はお見通しで、幼い頃から私を見透かしているようなササンに、ちょっとムカっとしてしまった。なんだか、負けたような気がするのよね。

 

ササンはゆっくりと紅茶を飲むと、笑みを浮かべた。

 

「ええ、分かるわよ。貴方は、私が何故アレだけの力を持っているのか、気になったのでしょう?」

 

「ッ!? 何故、分かったの?」

 

「さて、何故分かったのでしょうね?」

 

私の言葉はサラリと流し、ササンは再び紅茶を飲む。

 

「リアス、ササンの件に関しては、私から説明させてもらうよ」

 

「お兄様?」

 

ササンが話すのかと思い待っていたら、急にお兄様が話に入ってこられた。

 

「ササンはね。実は一年間、ある者とある事によって驚異的なスピードでここまで成長したんだ」

 

「ある者とある事?」

 

者については心当たりがある。五月雨天馬。一年前かどうか分からないが、確実に彼は関与しているはず。しかし、事の方については一切分からない。

 

ゆっくりとお兄様は頷くと、ササンを見た。

 

「そう。者の方はリアスとも親しいあの天だよ。そして、事の方なんだが……話してもよいかね?」

 

「構わないわ」

 

「そうか。……ササンは一年間の間に、リアスに内緒で上級のはぐれ悪魔を捕獲し、更に数々の上位使い魔と戦い続けたんだ」

 

「なっ……」

 

思わず言葉を失ってしまったのも仕方ないと思う。上級のはぐれ悪魔と上位使い魔と戦い続けたと聞けば誰でも言葉を失うと思うから。

 

上級のはぐれ悪魔は、私達主より強い事になる。主を殺してはぐれとなるのだから、上級のはぐれ悪魔は私達でも手に負えない位強くなければならない。なのに、ササンは私達よりも強いはずの上級のはぐれ悪魔を捕獲したとの事。これは、並大抵の力では無理。

 

そして、上位の使い魔との戦い。上位であればヒュドラ等の主自身を殺せる力を持った使い魔達だ。これとも戦い続けたのだから、アレだけ力があっても不思議ではないわ。

 

お兄様から視線を外し、ササンを見る。そこには、未だに紅茶を飲んでいるササンがいる。

 

「……最初はね、死ぬような思いをしたわ。でも、その死ぬような思いをしたおかげで、私――――――いえ、私達は強くなったわ」

 

淡々とササンは言うと、紅茶のカップを置いて立ち上がり、私の方を向いた。

 

「だから、頑張りなさい。例えライザーに負けたとしても得るものはある。それは何かは私には分からないけど、貴方達にとってきっと重要なものよ。だから、頑張りなさい、リアス」

 

ぽんっと肩に手を置いたササンは、お兄様に一礼すると、ドアまで歩いていく。

 

ライザーに負ける? そうね、負けるかもしれないわ。あれだけの戦いを見せられたもの。負けるかもしれないと思うわ。でもね、私は負けない。例え負けても、心では負けないわ。

 

「それでは、失礼しますね」

 

 

 

レーティングゲームが終わり、私はレーティングゲームでリタイアした者達が来る救護室に来てシャワーを浴びていた。

 

「久方ぶりに歯ごたえのある戦いを味わえると思ったのだが、想像以上にあっさりと終わってえしまったな」

 

『そうでございますね。そもそも、貴方とまともに戦える者はそうそういないと思うのですが?』

 

一人しかいないシャワー室で呟くと、クリストフが答えてくれる。

 

確かに、私とまともに戦えるのは神や仏、アイツ等や魔王四人に各陣営のトップに君臨する者達くらいか。他にも、銀華は戦ったらかなり苦戦するだろうが、娘と闘おうとは思わん。

 

「そうだが、相手はフェニックスだったんだ。少し期待してもいいだろう」

 

『そうでございますね。しかし、フェニックスも落ちましたな。私が現役だった頃はあの程度で倒されはしなかったのですが……』

 

「時代のせいだろう。こんな戦の無い時代だ。力が衰えていたとしても仕方がない」

 

シャワー室から出て、タオルで体を拭いていく。

 

ふと、設置されている鏡を見てみると、これまでに負った傷が見える。

 

体のいたる所にある銃痕。肩から腹まで斜めに切られた切傷。体中にある火傷の痕。幾百もの戦場を巡って出来た傷たちだ。

 

「消えぬものだな」

 

『私の力を使えば完全に傷痕を消せますが、如何なさいますか?』

 

「……いや、このままでいい」

 

これは、私が今まで巡ってきた戦場の歴史だ。その歴史を消すとなれば、これまでの私の人生は無駄になってしまう。

 

『そうでございますか』

 

肩にタオルを掛けてズボンを履き、着脱室にある自販機に向かう。

 

ここの自販機。参加者に対しての配慮なのか、全て無料だ。しかし、どれも聞いた事ないメーカーの飲み物。

 

「相変わらず、変わっている」

 

適当にボタンを押し、備え付けの長椅子に座り、買った飲み物を一口。

 

……不味い。二度と口にはしたくないくらい不味い。だが、さっきの戦闘で無くなった体力が回復している気がする。

 

「良薬口に苦しか……」

 

不味さに耐えて一気に飲み干し、ゴミ箱に投げ捨てる。真っ直ぐ飛び、ゴミ箱に入るかと思ったが、そのまま真っ直ぐに進み壁に突き刺さってしまう。

 

戦いの後のせいか、力加減が戻っていないな。クリストフ、調整しといてくれ。

 

『了解しました』

 

さて、シャワーも浴びた事だしそろそろここを出るか。……いや、その前に一つやることがあったか。

 

ある予定を思いだし、着替えようとした途端、ドアがノックされる。

 

「入って構わないぞ」

 

「失礼しますわ……て、あらあら」

 

「て、天馬さん、その傷」

 

「……酷い傷」

 

「どうしたのですか、その傷」

 

入ってきたのはイッセーとリアスを除いたリアスの眷属達。皆、私の傷を見ると、目を丸くして驚いている。アーシアにいたっては口元を両手で押さえて失神しそうになっている。

 

子供達にとって、いささか刺激が強すぎたか。

 

「何でもない、昔の傷だ。それで、どうした」

 

シャツを着てからスーツの上を羽織り皆の方に体を向ける。すると、私が体を向けると同時に、皆が一列綺麗に横に並んで頭を下げてきた。

 

「「「「ありがとうございました」」」」

 

「急にどうした」

 

アーシアはともかく、他の三人から礼を言われる覚えはないのだが?

 

昔行った教会で、私は一度アーシアと出会っている。まだ幼く、七か六歳程の頃だろうか? 自身の力の正体を知らずに、神に仕えていたアーシアに私は会っている。

 

その時、アーシアの可愛さのせいかアーシアを穢そうとしたのだ。しかも、教会の内部で。

 

丁度私がその場を見ていたから穢されることはなかったが、いなかったらどうなっていたことか。その後、アーシアを穢そうとした奴は教会を追放させられ、アーシアは貞操を守りきれた。

 

朱乃がいつもの微笑んでる表情を一変させると、真面目な表情になる。

 

「私達は皆、天馬さんに助けてもらった者達なのです」

 

「助けてもらった? 私が助けたのか?」

 

「はい。天馬さんは昔、日本の神社を救った記憶はございませんか?」

 

神社……確か、十数年前に神社を襲おうとしていた人間を殺して、母と娘を助けた記憶はあるな。という事は、この子はバラキエルの娘だったのか。

 

「まさか、その時の子か?」

 

「そうですわ。あの時、天馬様が助けてくださらなければ、私達は今この時を生きていられませんでしたわ。今は母と父と仲良く暮らしています」

 

「そうか、それは良かった。……バラキエルは元気か?」

 

「っ!? 父の事をご存知なのですか?」

 

「ああ、旧知の仲だ。聞いたぞ。『ウチの娘がヤケになって悪魔に転生してしまった!! どうしよう!!』って。酒を飲んでる時は惚気話を聞かされ続けたし。娘がおもら……」

 

「て、天馬さん! そ、それ以上は言ってはいけませんわ!」

 

「……しをして悩んでいると相談を受けたりもした」

 

「天馬さん!」

 

本当に、あの時は大変だった。

 

ササンの眷属になる前、私はちょくちょく堕天使の幹部と親睦を深めていた。親睦を深めると言っても、ほんの数名だ。

 

その数名の中にいたのが、バラキエル。筋肉隆々で武人そのものだが、どうしてか酒を飲むと娘の話ばかり聞かせてくるんだ。

 

しかも、私が神社を助けた者だと知った時は感謝された上で、夫婦の惚気話と娘の話を永遠と聞かされ続けた。

 

「小猫、君はどうして私に礼を言う?」

 

「……私は、天さんに命を救われました」

 

小猫がそう言うと同時に、頭の上に白い猫耳が生える。この猫耳、どこかで見た気が……ああ、思い出した。この猫耳は――――――

 

「小猫、君はあの時の子猫だな?」

 

「……はい」

 

これまた十数年前。朱乃がいた神社を救った後の話なのだが、雨が降る中、私は二匹の猫を拾った。

 

一匹は全身黒の子猫。そして、もう一匹は全身真っ白の子猫。後に二匹はサーゼクスに預け、二人はサーゼクスから悪魔にひき取られる事になる。

 

聞いた話によると、その後黒猫の方が主である悪魔を殺し、はぐれ悪魔になった。理由は不明との事だが……私はもう既に姉から聞いている。主殺しの理由を。

 

そして、残された小猫は他の悪魔から殺せと言われたが、サーゼクスは周りの反対を押し切って小猫を引き取ったらしい。

 

何度もサーゼクスは私に頭を下げたよ。すまない、と。私のせいで小猫が一人になってしまった、と。だが、サーゼクス一人のせいではない。助けた私が無責任だったせいでもあるんだ。あそこで私が姉妹共に養っていたら、こんな風にはならなかったかもしれない。

 

「……姉さまは、今、この場にはいません……理由は……」

 

徐々に小猫の声は細く弱々しいものになっていく。悲しいのだろう。辛いのだろう。たった一人の家族に裏切られ、一人ぼっちになってしまったのだから。

 

だが、今は違う。グレモリー家という家族がいる。裏切られ、一人ぼっちになったせいで塞がれてしまった小猫の心を開いた、グレモリー家が。

 

「知っている。黒歌から直接聞いた」

 

「ッ! 姉さまは! 姉さまは今どこにいるのですか! 教えてください!」

 

驚愕に目を見開いた小猫は私の服を掴むと、見上げながら激しく問うてくる。

 

普段をあまり知らない私だが、このような小猫を見るのは初めてだ。朱乃もアーシアも木場も同じ気持ちなのか、僅かに驚いている。

 

「駄目だ。今は黒歌にもやる事がある故、話せん」

 

「何故話せないのですか! 私達の主を殺して! 私を放ってどこかに行ってしまった姉さまにどんなやる事があるというのですか! 私よりも……たいせつ、だと、いうん、です、か……」

 

徐々に大きな瞳に涙を浮かべる小猫。何故黒歌が主を殺したのか、話してやりたいのは山々だが、私から話す事は出来ない。

 

黒歌が自分の主を殺した理由。それは、小猫が関係している。黒歌と小猫の種族は猫又。しかも、仙術という希有な能力持ちだった。その力に目をつけた黒歌の主は、小猫を戦わせないのを条件に黒歌を働かせ、戦わせ続けた。

 

小猫を守るため、黒歌は戦い続けていった……が、黒歌が戦いを終えて帰ると、小猫が主に襲われていたらしい。いわば、アーシアと同じ状況だ。

 

黒歌は止めたが、主はそれでもやめない。そして、黒歌は……主を殺し、はぐれ悪魔の汚名を被った。

 

小猫を守るために自ら悪の道に落ちたのだ。そして、小猫をこっちの道に引き込みたくないがために、小猫の目の前から姿を消した。

 

この事を私から小猫に話しても良いのだが、それで小猫が納得するかと言われれば、しないだろう。

 

居場所を教えることは別にいい気がするのだが、既に黒歌に止められている。

 

私の服にしがみついて鳴き始める小猫に、羽織っていた上着を羽織らせて視線を合わせる。

 

「小猫、話を聞け」

 

「て、ん、さん……」

 

「黒歌の事については私からは話せない。だがな、これだけは教えられる。黒歌は――――――小猫、お前の事を一番にいつも考えているぞ」

 

「え……」

 

「理由は話せないが、小猫を置いていったのは小猫のため。小猫に会わないのも小猫のためだ」

 

「そんな、姉さま……」

 

小猫は俯くと、絞り出すような声音で言う。

 

「どうして姉さまは私に会いに来てくれないのですか」

 

「それは、教えられない。黒歌にも事情があるのだ。分かってやってくれ。黒歌も辛いんだ」

 

納得できないだろう。だが、それでも今は納得してもらわねばならない。黒歌のためにも、小猫のためにも。

 

小猫はギュッと私にしがみつくと、小さな声で呟く。

 

「わかり……ました」

 

「ありがとう」

 

しがみついてくる小猫の頭を優しく撫でやる。

 

「木場、お前は何故私に礼を言うのだ?」

 

小猫の頭を撫でつつ木場の方に視線を向けると、木場は少し困ったような表情をしながら頬を掻く。

 

「小猫ちゃんの後にいうのはなんだか気が引けるけど……天馬さん、僕は聖剣計画の生き残りです」

 

聖剣計画の生き残り……だと? そうか。銀華意外にも生き残りがいたのか。

 

「それで……って、天馬さん!?」

 

驚きの表情で固まる木場。

 

私の目を見て固まっている。なんだ? 私の目に何か……成程、そういう事か。

 

どうやら、聖剣計画の生き残りが銀華以外にもいた事に感極まり、私は涙を流してしっまたらしい。涙を流したのは幾年ぶりだろうか。

 

「……天さん、泣いています」

 

「……そうだな。みっともないかもしれないが、今は泣かせてくれ」

 

「みっともなくないですわ、天馬さん」

 

良かった。銀華しか助けられなかったと思っていたが、もう一人生きていてくれてよかった。

 

「ああ、私は二人助けられていたのだな……」

 




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第二十四話 死神

「……ふう」

 

私はレーティングゲームが終わった後、リアス達が拠点としている駒王学園旧校舎のオカルト研究部部室に備え付けのシャワー室へと来ていた。

 

天さんみたいに、リタイアした者が行く場所にあるシャワー室に行こうと思ったけど、生憎と迷惑な客人が私の下へと来てしまったので、使うことができなかった。ったく、コイツさえ来なければ、天さんと一緒にシャワーを浴びれたというのに……。

 

「それで、いつまでこちらを見ているのですか? 生憎とコチラも花を恥じらう女子高生ですよ? 例え貴方がその他塵芥の存在だとしても、恥ずかしいのですが? 端的に言う、こっち見んな、クソが」

 

シャワー室を出て、部屋の隅で佇んでいる死神に睨みを聞かせながら言うと、豪華な装飾を施した布を着、仮面を付けて大鎌を携えている死神は仮面を左右に揺らす。

 

《それはお断りします。貴方の監視はハーデスさまのご命令ですので》

 

「この変態が」

 

死神を尻目に、自分の制服を着込み死神を正面に見据える。

 

「それで、何の用ですか、死神プルート」

 

死神プルート。冥界のさらに奥にある地獄の長であるハーデスの部下であり、最上級死神の一人。

 

何故プルートがここにいるのかというと、私の霊的な瞳(アウラー・オブ・ヴィジョンアイ)が関係している。

 

人や生物は死ねば地獄に魂が送られてハーデスによって裁判に掛けられる。そこで出た判決によって天国か地獄かに分けられるのだが、私の霊的な瞳(アウラー・オブ・ヴィジョンアイ)が魂を取ってしまうせいで、ハデスが仕事出来ないらしい。

 

仕事ができないハーデスは怒り、私を殺すために最上級死神であるプルートを送り込んできたのだが……天さんにボッコボコにされて帰っていった。

 

ハーデスは更に怒り、こうしてプルートがハーデスの命令で私の命を狙いに来るようになってしまった。これが、プルートが私を監視し続ける理由だ。

 

《聞かなくても分かっているでしょう。貴方の命を取りに来たんですよ》

 

「また……お前もハーデスの爺も懲りないですね」

 

《貴方が死なない限り、貴方が溜め込んだ魂は解放されませんし、正当な判決を与えることが出来ませんからね……なので、早く殺されてください》

 

大鎌を傍らに浮べ、プルートは私へと詰め寄ってくる。

 

死神の鎌は傷をつけるものであり、精神を削る鎌でもあるため、掠れば命を削り取られてしまう。

 

「相変わらず、うざったいですね」

 

霊的な瞳(アウラー・オブ・ヴィジョンアイ)を発動し、プルートの仮面に向かって蹴りを打ち込む。

 

真っ直ぐと進む私の脚は、プルートの仮面を打ち抜くが、プルートは何事もなかったかのように私の真横に音もなく移動すると、大鎌を振り下ろしてくる。

 

防御しようと刃を押さえれば、命を削られる。私の場合は溜め込んでいる魂を削れるだけだが、それでは私の力が落ちてしまう。ならば、大鎌の柄を掴むだけだ。

 

背後から振り下ろされる大鎌の柄を振り返って掴んだ私は、プルートから奪い取るとプルートに向かって大鎌を振るう。

 

豪華な装飾が施された布を大鎌は切り裂くが、手応えがない。やはり、死なないか。こいつを殺すには、私の霊的な瞳(アウラー・オブ・ヴィジョンアイ)で魂ごと吸収するか滅っするしかない。

 

切り裂かれた布は、まるで自身の意思を持ったかのように動きだし、私が振るった大鎌の刃の部分を包む。すると、私がさっきまで握っていた柄の部分が消えてしまった。

 

「……まだやる? これ以上は手加減は出来ませんよ」

 

窓際まで後退し、プルートへ問う。

 

《ええ、勿論。貴方の監視と貴方の命を奪うのが私の仕事ですから》

 

プルートは部屋の出口付近で大鎌を取り出すと、この旧校舎を覆う結界を張る。

 

この結界を張って私と何度も戦ってる割には、いつもいい所で逃げるんですよね、このプルート。いい加減、覚悟を決めて死ぬまで私と戦えばいいのに。

 

プルートの殺気が室内に充満していく。常人ならば、発狂するでしょうね。まあ、ここには発狂するようなやわな者はいませんがね。

 

自身も殺気を放ち、プルートを威嚇する。

 

互の殺気が濃密に室内に充満すると同時に、私はプルートに殴りかかろうとした。

 

そう、かかろうとした。ある者にプルートが気づくまでは。

 

 

 

「アイツが、俺達が倒さないといけない相手……」

 

レーティングゲームの観戦を終えた俺は、一人旧校舎へと向かっていた。

 

木場に朱乃さんに小猫ちゃんにアーシアは雨天先生の下に行っている。部長はなんだか怖い顔してお兄様に会いに行ってくるって言ってそのままどこかに行ってしまった。

 

で、一人残った俺はなんとなく旧校舎に向かっている。

 

「それにしても、ササン先輩の眷属、皆スゲーよな」

 

皆強くて、ライザーの眷属が弱く見えた。いや、ライザーの眷属だって皆強いんだろうけど……圧倒的にササン先輩の眷属が強過ぎた。

 

ササン先輩、銀華、ナリヤ、メルト、レイナーレ、雨天先生。同じ悪魔だっていうのに、物凄く遠くにいるような感じがした。

 

手を伸ばしても決して届かない。圧倒てきな力の差。どれだけ挑んでも、どれだけ制約を付けても勝てないと思う。それ程、俺とあの人達との力の差は歴然だった。

 

「俺も、いつかあの人達みたいに強くなれるだろうか……」

 

いや、強くなれるだろうかなんて、考えるんじゃない。強くなるんだ! だって、俺は部長の兵士(ポーン)だ! 目指すなら、あの人達みたいにじゃない! あの人達よりも強くなるんだ!

 

それに、俺には神を殺せる赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)が宿っているんだ! 俺は最強の兵士(ポーン)になってやるぜ!

 

ガッツポーズをし、気合を入れた俺は旧校舎へと入っていく。外見はボロイが中は綺麗な旧校舎。いつも通りのはずの旧校舎なのだが――――――

 

「な、なんだよこれ……」

 

気持ち悪い。旧校舎に踏み込むと同時に、吐き気とめまいがした。震えが止まらない。魂を鷲掴みにされてる気がする。一刻も早くここから出たい。

 

振り返り、入ってきた扉を開けようとするが……開かない。

 

「なっ! どうして、開かないんだよ」

 

何度も扉を開けようと押すが、開かない。まるで、何か強大な力で向こう側から押さえつけられているような感じだ。窓も、同じ感じだ。

 

「……行くしか、ないのか」

 

扉や窓から出られないということは、出られないようにしている奴を倒されなければならないってことだよな。数分もすれば出れるかもしれないけど、今は行ってみるしかない。

 

ゆっくりと体の震えを抑えながら歩いていく。徐々にこみ上げてくる吐き気を抑え、着いた場所はオカルト研究部部室だった。

 

「この、声は……」

 

オカルト研究部の部室から聞こえてくる声に耳を傾けると、銀華とノイズみたいな声が聞こえてくる。

 

僅かに扉を開け、扉の隙間から中を覗く。そこには、立っている銀華と――――――

 

《ほう、これはいい者が来た》

 

「うわ!?」

 

仮面がいた。驚きのあまり、後ろに飛び退いてしまいそうだったが、俺の体は見えない力の働きによって動けない。

 

なんだよコイツ! 見てるだけで気が狂っちまいそうだ!

 

「は、なせ……」

 

必死に喉から声を搾り出して、体を動かして逃げようとする。だが、体がピクリとも動かない。

 

仮面はゆっくりとした動きで俺の眼前に来ると、再び銀華の方に向き直る。

 

《銀華、交渉しましょう。この者の命を助ける代わりに、自害なさい》

 

「ッ!?」

 

自害しろって、それって銀華に死ねってことか! ふざけるな! 俺のためにわざわざ死ぬことはねえ!

 

「銀華、構うな! 俺は……」

 

《黙りなさい、赤龍帝。今、貴方に選択肢はない》

 

仮面の大鎌が喉に突きつけられる。

 

《今代の赤龍帝を殺せば白龍皇が怒るかもしれませんが、貴方を殺せるなら白龍皇の怒りなど安いもの》

 

誰だよ、白龍皇って……いや、今はそれよりも早く逃げる方法を見つけないと!

 

必死にもがくが、やはりピクリとも体が動かない。

 

《早く答えて頂きたいのですが?》

 

仮面の大鎌が俺の喉に僅かに刺さった。痛え。少ししか刺されてないのに、超痛え!

 

「……」

 

銀華は俯くと、何かを呟いた。瞬間、あたりの雰囲気が変わった……。

 

空気はまるで南極にいるかのように冷え、辺りの家具やソファーが地震が起きてるかのように揺れ出す。

 

異常な雰囲気に、思わず俺を捕まえている仮面が後ろに身じろいた気がした。

 

《なんて言ったのですか?》

 

仮面が聴くと、銀華はゆっくりと顔を上げた。

 

「ッ!?」

 

銀華を見た瞬間、思わず言葉を失う。

 

瞳は黄金になり輝く。そこまでは、いつもの銀華の神器(セイクリッド・ギア)の効果だ。だが、いつもと違う箇所が二つある。

 

一つは銀華の髪が黄金に染まり、腰の辺りまでに伸びていること。そして、もう一つが――――――

 

「黄金の、獅子……」

 

黄金の獅子が銀華の背後に見える。

 

この世に全てを食らい尽くし、自身こそが最強だ。そんな風に威嚇している獅子の姿が見える。

 

「死ねと言ったのだ。プルート」

 

《ッ!?》

 

一瞬でプルートと呼ばれた仮面は俺を離すと、廊下に飛び退いた。

 

《まさか、死神である私の魂を生きているのにも関わらず食い尽くそうとするとは……やはり、貴方は危険だ》

 

「黙れ。喋るな。我が友の命を奪おうとした者の言葉等、聞くに耐えん」

 

俺の下まで歩いてきた銀華が腕をプルートに向けると、銀華の髪が逆立った。

 

《これは……! 仕方がありません。ここは一時撤退です》

 

「死ね」

 

その言葉が聞こえると同時に、俺の視界は爆音と共に真っ白になった。

 

 

 

「……チッ! 逃がしましたか」

 

私が放ったモノは結界を軽々と破壊し、旧校舎の外へと飛んでいってしまった。

 

今のでプルートを殺せなかったのは、少しだけ惜しいことをしたと思っている。折角、プルートを殺す理由ができたというのに、仕留められないなんて。

 

「それにしても、我ながら久々にブチギレてしまいましたね」

 

背後で倒れているイッセーを見ながら、ため息を吐いてしまう。

 

「久方ぶりのブチギレでしたね。初めてキレた時以来じゃないでしょうか」

 

「う、う~ん」

 

思い出にふけっていると、さっきの爆音で気絶したイッセーが起きた。

 

「お目覚めはどうですか?」

 

「ん、銀華……? ッ! そうだ、銀華、さっきの奴は……」

 

「逃げましたよ、とっくにね」

 

「そうか。ごめん、俺のせいで……」

 

「貴方は何も悪くないですよ」

 

起きたイッセーは座りながら私の返事を聞くと、しょんぼりとしてしまった。

 

「むしろ、私の方が謝るべきです」

 

私とプルートの勝手な争いに偶然巻き込んでしまった。それに、プルートの鎌で僅かに傷を受けてしまっている。僅かとはいえ、死神の鎌。一年くらいの寿命が削られているはずだ。

 

何万年も生きる悪魔から見れば一年など僅かな年月でしょうが、それでもイッセーの寿命が一年減ったには変わりません。

 

「ごめんなさい、イッセー」

 

「別に、銀華が謝ることはないだろう。勝手に覗いて捕まった俺が悪んだから……」

 

「……では、どちらも悪かったということにしましょう。このままでは、永遠ループには入るからね」

 

「そうだな」

 

手を差し出し、イッセーを立たせる。

 

「そういえば、銀華。その髪、どうするんだ?」

 

埃を払い落としたイッセーが私の髪を指差しながら言ってくる。

 

「髪……ああ、これね」

 

この髪、私がブチギレた時に出てきた魂の一部が私に影響を及ぼしたせいでなったんですよ。何故だか、体や顔は変わりませんが髪だけ変わるんですよね。

 

「それに、この際だから聞くけど、どうして銀華は霊的な瞳(アウラー・オブ・ヴィジョンアイ)を発動すると瞳の色が変わるんだ?」

 

「話してなかったっけ?」

 

「うん」

 

「私、実は元の瞳の色が金色なのよ。普段はカラコン入れてるから分からないだろうけど」

 

目からカラコンを外し、イッセーを真っ直ぐと見る。

 

「どうしてカラコンなんか入れてるんだ?」

 

「素のままの瞳の色だと色々とめんどくさいの。買い物とかね」

 

「そうなのか……で、髪はどうするんだ?」

 

「髪の色は自然と時間が経てば元に戻るとして、髪は……」

 

正直、長髪だと髪の手入れがめんどくさいんですよね。リアスとか朱乃さんとか尊敬しますよ。

 

なので、こうなったら私がやる行動は一つですよ。

 

「切ります」

 

いつもの長さまで髪を持ったら、余った部分は素手でバッサリと切る。普通なら素手で切れませんが、まあそこは気合と根性と能力でどうにかしてます。

 

「ああああああああ!?」

 

「うるさい」

 

私が髪を切ると同時に、イッセーが泣き崩れた。意味が分からないのですが? 何、もしかして私の髪が欲しいの?

 

「せ、折角の金髪が! 貴重な金髪長髪が!」

 

「切った髪ならあげますよ」

 

「いらねえよ! っつか、そうじゃねえよ! 俺は欲しいんじゃなくて、俺はお前に金髪長髪の可愛い美少女でいてほしかったんだよ!」

 

「えっ……」

 

顔をわざと赤らめ、イッセーから視線を外す。

 

「あ、いや、その……」

 

「今、美少女って……」

 

おうおう、赤くなって。いっつも、エロいことしか考えてないから、こいうシチュエーションは未経験だと思っていたけど、やっぱり未経験だったか。

 

「そんな、当然のことを」

 

「……え?」

 

「私が美少女で可愛いのは当然よ。むしろ、私をブスだと言う奴は、もはやこの世の美を一つにしたくらいの人物ですよ。それに――――――」

 

「いてっ」

 

呆然としているイッセーの額をデコピンして、出口へ踵を返し向かう。

 

「そう言う言葉は、貴方を思っている子達、もしくは貴方が心から好きになった人に言うものですよ、イッセー。……いえ、人ではなく、悪魔ですかね」

 

ふふっと笑みを見せてから、部屋から出る。

 

これで、少しはアーシアちゃんとかリアスとかの仲が進めばいいんですがね。……まさか、私に来るなんてことはないですよね? 私は天さん一筋ですよ。

 

 

 

「……ハッ!? な、なんで銀華に見とれてんだよ! うがあああああああ! なんだこのもやもやした気持ち! 俺は、部長に惚れてるはずだああああああ!」

 




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第二十五話 男に必要なもの

もの凄くどうでもいいことで一話使いました。


私は朱乃達と別れた後、一人スーツ姿のまま廊下を歩いて、フェニックス卿の下へと向かっていた。

 

柄にもなく久々に泣いたな。何年ぶりだ、あそこまで泣いたのは……。

 

『かれこれ、四十年前ほどですかね。我が主が初めて戦争を体験し、子供が死んだ時以来ではないでしょうか?』

 

……そうか、それ程私は涙を流していなかったのか。意外と、涙は出ないものだな。

 

『我が主は生きている内はもう泣かないと決めておりましたから、仕方がないと思いますが?』

 

確かにそんな誓いを建てた気がするな。

 

『ええ……もっとも、我が主は一度死んだ身。もうその誓いは終わりましたな』

 

そうだな。俺は一度死んで悪魔になった身。もう泣かないという誓いは終わりだ。……だが、泣き過ぎるのも格好が悪い。これからは、あまり泣かないという誓いを立てよう。

 

『ふふ、格好悪くはないと思いますが?』

 

いや、これは俺のポリシーだ。それに、最近年を取りすぎたのか、涙腺が緩くてな。これくらいの誓いを立てておかないとすぐに泣いてしまいそうなんだ。

 

『銀華を見たときも、泣きそうなっておられましたしね』

 

ああ。本当、歳はとりたくないものだな。

 

『何をおっしゃいますか。我が主は悪魔になった身。後何万年も生きられるではないですか』

 

そうなんだが、もう心が若くはないんだ。あのヤンチャしていた頃の性欲もわかん。

 

『それは雄としては一大事でございますね。悪魔はただでさえ出生率が低いのですから、悪魔の男――――――それも私を宿して、三陣営にモテモテな我が主が性欲を失ったら本気で悪魔は滅びますぞ』

 

そうなんだが、どうしてだか湧かないんだ。……はぁ、どうしてだろうか。若い頃は性欲はバリバリあったのだがな。

 

『……我が主、それはもしかしたら、娘ができたからかもしれません』

 

娘……銀華か?

 

『はい。娘の前では雄の本性を表してはダメだと意識していたせいで、徐々に性欲が失われていったのではないでしょうか』

 

……一理あるな。確かに銀華を助けるまでは多少なりとも性欲は残っていた。だが、銀華を娘として迎え入れた途端、一気に性欲は消えたな。……マズイな。これでは、アイツと会った時、夜の営みをしようと言われても出来ないぞ。

 

『あの方に治してもらえばいいではないですか。あの方はそんな我が主でも性欲を滾らせることは出来るでしょう』

 

難しいな。死ぬ前は性欲がなくても別に構わなかったが、悪魔になってから性欲が必要になるとは。

 

『我が主、頑張りましょう。魔王の夜伽は激しいですぞ』

 

若い頃はもったが、今は本気で死ぬかもしれんな。

 

「……っと、ここか」

 

クリストフと話ながら歩くこと数分。私はフェニックス卿がいる部屋の前へと着いていた。

 

「フェニックス卿、天です」

 

「天さんか、入ってくれたまえ」

 

ドアを三回ノックして声を掛けると、中からフェニックス卿の声が聞こえてくる。

 

「失礼します」

 

フェニックス卿の許可を得たため、中に入るとそこにはソファーに座っているフェニックス卿とソファーの影に隠れている金色のツインドリルが……レイヴェル、何をしているんだ?

 

『多分、我が主が来たことで動揺し、咄嗟に隠れたのでしょう』

 

何故だ……と聞くのは野暮だな。レイヴェル的には、憧れの人物が現れたのだ。しかも、憧れである私にレーティングゲームの際、凄い楽しそうに語っていた。

 

つまり、レイヴェルが隠れている理由は、本人だと気づかずに話していた自分が恥ずかしいからだろう。

 

「どうしましたかな、天さん」

 

「いえ、フェニックス卿の御息女が私のファンという事で、この度は会いに来た次第です」

 

「おお! そうでしたか! それは良かった。家のレイヴェルは天さんに憧れを抱いていましてな! 一度でいいから会ってみたいと言っていたのですよ! ……あ、すみません。こんなに大声を出してしまって。どうぞ、座ってください」

 

ニコニコ顔のフェニックス卿は立ち上がるとソファーに手を向け、座るように促してくる。

 

「失礼します」

 

「そんな硬くならないでください。昔のようにタメ口で構いませんよ」

 

「そうですか……ならば、私からも願おう。フェニックス卿。昔通りタメ口で話してくれ」

 

「ええ……分かった」

 

一通りの茶器を用意したフェニックス卿は私とフェニックス卿の間にあるテーブルに置くと、ニコニコ顔で再び話し始めた。

 

「紅茶にコーヒーに日本茶。どれが好みかわからんから適当に飲んでくれ……」

 

「ああ、適当にいただくよ」

 

とりあえず日本茶を取り一口。ふむ、旨いな。さっき変な飲み物を飲んだから、丁度いい。

 

「いや~しかし懐かしいな! 天! どれほどぶりだ?」

 

「私が転生悪魔になって、こちらの業界で礼儀作法を覚えた辺りだから、半年くらい前か」

 

「そうかそうか。それしかまだ経っていないんだな。もう、何十年も会ってない気がしたぞ」

 

「時間の感覚が狂ってきているな。そろそろボケ始めたか?」

 

「何言ってんだよ。俺はまだボケはきてないぞ」

 

「そうか……所でレイヴェル嬢。いつまでそうしているんだ?」

 

ソファーの影に隠れていたレイヴェルはビクッ! と体を震わせ驚く。その姿をフェニックス卿は面白そうに見ている。

 

「すまんな、天。レイヴェルは本当にお前に憧れていたんだ。俺が一回話してやった天の姿や伝説を語ってやったら、そりゃあもう目をキラキラさせて食いついてくるんだ。そこからは、お前の伝説や姿が描かれている本を食い入るように読むようになった」

 

「お、お父様!」

 

ソファーの影から飛び出してきたレイヴェルはフェニックス卿に怒鳴ると、ハッとした表情で固まってしまった。

 

「ほら、レイヴェル。憧れの天だぞ。言ってたじゃないか。天に会いたいって」

 

「そ、それは……その……」

 

スカートの裾を持ち、モジモジ体を動かして頬を赤くさせるレイヴェル。年頃だ。こういう憧れの人に出会うのは恥ずかしいのだろう。例えるなら、憧れのスターが目の前にいるようなもんだからな。

 

「フェニックス。レイヴェル嬢もお年頃だ。憧れの人に会って、素直に憧れてました、なんて話しかけられる歳じゃない。もう少し、考えてやれ」

 

「そういうものか? 家では毎日のようにお前の伝説を聞かせてくるんだがな」

 

「お父様!」

 

「いでで! 髪を引っ張らないでくれ!」

 

……ああ、仲いいな。私と銀華はこういう親子のような行動はあまりしてこなかったからな。

 

『そうでもありませんよ。我が主は気づかぬ間に自然とやっておりましたよ』

 

……それならばいいのだが。

 

髪を引っ張られているフェニックス卿は急に何か思いついたような表情をすると、レイヴェルを自分の正面に連れてきた。

 

「なあ、天。急にで悪いんだが、もしよければレイヴェルをお前の嫁にしないか?」

 

「なッ!?」

 

「どうした、急に」

 

いきなり嫁にしないかだと? まだレイヴェルはそんな年齢でもないだろうに……急にどうしたんだ?

 

フェニックス卿はレイヴェルを自分の前に立たせながら頭を掻き始める。

 

「聞いてくれ。俺は多分、今回の婚約の話はなくなると思うんだ」

 

「リアスとライザーのか?」

 

「ああ。十中八九間違いなく破談する」

 

……ふむ、フェニックス卿が言うように、多分今回の婚約は破談となるだろう。サーゼクスもリアスの父もそう考えている。

 

あの二人も、表面上は上級悪魔の血を絶やさないと言ってはいるが、本心ではリアスの好きなようにさせたいと考えている。そんな二人が、無理矢理ライザーとリアスを結婚させるわけがない。

 

フェニックス卿は手を顎に当てると、ふぅと息を吐く。

 

「確かに、純潔の悪魔の血を絶やさないのは分かる。だが、正直な話し、俺はそんなのどうでもいいんだ。それに、今回の婚約の話が破談しようが、俺にはまだ二人いるからな」

 

「二人? レイヴェルはどうした?」

 

「そう、そこなんだよ!」

 

パン! と自分の両膝を掌で叩いたフェニックス卿はレイヴェルの両肩を掴む。

 

「家のレイヴェルはな、メッチャ可愛い! 目に入れても痛くないと断言できる!」

 

「あ、ああ」

 

フェニックス卿は机をバン! っと叩き立ち上がると、拳を握りながら熱弁し始める。私は、その迫力がありすぎる熱弁に思わず引いてしまう。

 

「可愛さでいえば、悪魔のトップテン入りすることは間違いなだろう! 今出来ないとしても、大人になったら必ずスリー以内に入るだろう!」

 

「そ、そうか……」

 

フェニックス卿の横で顔を真っ赤にしながら俯くレイヴェル。

 

レイヴェル、その気持ちは大に分かる。他人の私でも、この親バカっぷりは恥ずかしい。銀華という娘がいた私でもここまで親バカになってなかったぞ。

 

『我が主はコッソリと親バカしていましたがね』

 

なに?

 

『戦場を一人で行かせたのにこっそり後ろを付いていったり。銀華に告白しようとした男を陰でボッコボコにしたり。他にも口では言えないような親バカっぷりが多数ありましたよ』

 

ば、馬鹿な! あれくらい普通だ! 銀華を一人で行かせたのはまだ成長しきってんない状態であったためであり、男をボコしたのは銀華に相応しくない男だと判断したからであり――――――

 

『それが親バカだというのですよ』

 

馬鹿な!?

 

「そんな可愛すぎるレイヴェルがだ! もし、どこぞの馬の骨ともわからない奴に目をつけられたらどうする! いや、それ程までにレイヴェルは魅力的すぎるから仕方がない……だが! それでもだ! 私の可愛いレイヴェルをどこぞの馬の骨ともわからない奴に目をつけられるのだけは勘弁願いたい! ましてや結婚しようなんて言ってきたら俺は死ねる!」

 

フェニックス卿が熱弁しているが、私には少ししか入ってこない。クリストフに言われたのが衝撃的すぎる。私が、フェニックス卿と同じくらいの親バカだということが。

 

ショックを受けてると、急にガシッと両肩を掴まれた

 

「そこでだ! お前なら、レイヴェルをやってもいい! どこぞの馬の骨に渡すくらいなら、信頼できるお前に嫁がせる! レイヴェルもお前を好いてることだ! 丁度いい!」

 

ブンブンと前後に振られる。

 

なあ、クリストフ。ここまでの話を聞いていなかったから、簡単にまとめてくれ。

 

『どこぞのわけのわからん奴らにレイヴェルをやるくらいなら、娘が好いていて、尚且信頼できるお前にやる。だから、娘を大切にしろよこの野郎……ってことです』

 

成程、私が放心している間にそんなことになっていたのか。

 

「事情は分かった。だから離れろ」

 

「グッ!」

 

デコピンをかまし、フェニックス卿を弾き飛ばす。フェニックス卿はデコピンの勢いてソファーまで吹っ飛び、ソファーごと後ろにズッコケた。

 

「事情は分かった。……だが、私は嫁を取る気は毛頭ない」

 

「ッ!」

 

レイヴェルがギュッとスカートの裾を握るのがわかる。そんな反応をされても困る。こっちは六十年以上人間として生活してきたのだ。そんな私が、今更嫁を取る気なんて沸くわけがない。ましてや、銀華より年下の少女を相手に。

 

ソファーと一緒に倒れていたフェニックス卿は起き上がると、驚いた表情をして固まっていた。

 

「なん……だと! お前、まさかもう性欲が沸かなくなったのか!?」

 

「ああ、どうやらな。昔は幾分か残っていたが、人間の状態で六十年近く生きていたせいか、心の中から性欲が消えかかっていてな。だから、嫁を取りたいなんて気が起きない。後、アレをする気も起きん」

 

アレはアレだ。男女の営みだ。

 

「馬鹿な……かつてアレだけ女を惚れさせ、魔王レヴィアタン様ともヤったお前がか!?」

 

「クリストフが言うには、娘を得た事で性欲への欲求を閉ざしていたせいで、機能しなくなったんではないかと言う判断を得ている」

 

「嘘だ……何十人とは言わないまでも、三人くらいとは肉体関係を持っていたお前の性欲が消えるなんて……思い出せ! 思い出すんだ! 天! お前みたいな若者の――――――しかも最上級悪魔クラスの悪魔が性欲を失ったら、悪魔は途絶える!」

 

クリストフも同じような事を言っていたな。だが、私だけが性欲を失ったとしても、悪魔は滅びんだろう。私より性欲旺盛でこれからモテるであろうイッセーがいるのだから。

 

「そういう訳で、私はレイヴェルは貰えん。他にいい相手を見つけるんだな」

 

ストンと脱力しきってソファーに座り込んだフェニックス卿は頭を抱えると黙り込む。

 

さて、そろそろ帰るか。今回、本当はレイヴェルにサインの一枚でも置いていこうと思っただけなのに、なんでこうなった。

 

『我が主は色々な方々から信頼を得た上でモテますからな。こんな事態になったのは必然というもの』

 

「……め……」

 

帰ろうとお茶を飲み干し机に置くと同時に、フェニックス卿はなにか呟いた。何を呟いたの聞こうとした瞬間、フェニックス卿はガバっと顔を上げ――――――

 

「駄目だ! 許さん! お前のような強大な悪魔が性欲を失ってはダメだ! 絶対にお前にレイヴェルを嫁がせる!」

 

「おいおい、理解できなかったか? 私は嫁を取らないと……」

 

「ああ、聞いた! だからお前に嫁としてレイヴェルを嫁がせると言うのだ! レイヴェル!」

 

「ひゃいッ!?」

 

フェニックス卿はレイヴェルの両肩を掴むと真っ直ぐと見つめた。

 

「レイヴェル、お前はどう思う。天の事が好きか? 嫌いか?」

 

「え、っと、それは、その……」

 

「ハッキリするんだ。もし、嫌なら無理に婚約などさせん。だが、もし好きならば婚約の話は通す」

 

しばらく視線を右往左往させたレイヴェルは意を決めたのか、顔を赤らめて俯き、小さく呟いた。

 

「好き……です。天さんのお嫁さんになりたいです!」

 

「よし、よく言った! それでこそ俺の娘!」

 

何かを決めたのか、フェニックス卿は片手でレイヴェルの肩を、片手で私の肩を掴むと、レイヴェルと私を互いに真っ直ぐと見合わせる。

 

「レイヴェル、よく聞け! お前は今から天に嫁ぐと心に決めるのだ! そして、天の性欲を沸き出させるように性的に襲え!」

 

「「……は?」」

 

異口同音。レイヴェルと私は互いに同じ言葉を放っていた。

 

性欲を沸き出させるよう、私を性的に襲えだと……? 何を考えている! 馬鹿かコイツは! 銀華より年下の女の子相手に出来るわけがなかろう!

 

「お、お父様! それはまさか、その……」

 

「そのまさかだ! 何年かかってもいい! 必ず天の性欲を目覚めさせるんだ! いや、お前一人でなくともいい。天を好きだと言う奴と共に頑張り、性欲を目覚めさせるのだ!」

 

「フェニックス。そんなのは無理だ。そもそも、私の性欲を復活させる宛はとうに出来ている」

 

先程の話で出てきた魔王レヴィアタン。彼女なら、私の性欲を復活させる事ができるかもしれん。

 

「ならば、俺の娘を貰うことができるな。だったら、今のうちから一緒に暮らしておけ」

 

その考えでいけば、そうなるのだが……私はもうオヤジだぞ。言うなれば、七十の爺だぞ。悪魔から見たら若いが、人間から見たら確実に年齢差は五十以上になるぞ。

 

「家には娘が二人いるのだが……」

 

「ちょうどいいじゃないか。その二人の娘に紹介しておけ」

 

「出来るわけないだろう。娘二人はレイヴェルより年上なのだぞ。それなのに、娘二人に娘より若い子を連れてきて、『この子が私の嫁だ』なんて言えるわけがない」

 

そんな事を言った日には、家の中で悪魔、天使、堕天使を巻き込んだ全面戦争が起こる。比喩ではなく本当に。

 

「いいや。それでも、俺の娘は貰ってもらうぞ!」

 

……これは、なんと言おうが絶対に諦めないな。どうすればいい……

 

『もらわれては如何でしょうか?』

 

出来るわけないだろう。娘より年下なのに。それに、私にはそういう趣味はない。どちらかというと、同年代の奴がいい。

 

『ならば、彼女が我が主の言う年齢になるまで待てばよろしい』

 

だが、私は特にレイヴェルを何とも思ってはいないのだぞ? それなのに、貰うというのは、男として最低な野郎になってしまうぞ。

 

『そんなものは時間がなんとかしれくましょう。ゆっくりと時間を掛けて、我が主は彼女を愛していけばよろしい』

 

……。

 

『それに、我が主はまだ心に決めた者がおりません。自然と生活している内に、彼女を愛し抱きたいと思い始めるかもしれませんぞ』

 

確かに私は未だ心に決めた者はいない。

 

『ですがまあ、愛せなかったら違う方面から愛せば良いのですよ』

 

違う方面?

 

『ええ。銀華を愛するように、自分の娘のように愛せば良いのですよ』

 

それでは、子をなしたいとは思わなくなるぞ。

 

『そこは魔王様に頑張っていただき、性欲を復活させましょう。そうすれば、義理の娘を一人の女として見れましょう』

 

それは、男として一番最低ではないか? 性欲が沸いたから義理の娘とヤルなんて。

 

『最低か最低ではないかを決めるのは相手です。我が主の心がそうしたいのならば、相手と確認をとってすればよいだけ。それに、今の論点はフェニックス家の御息女を嫁にするかどうかでございます。子をなすかどうかは別問題でございますよ』

 

……はぁ、まさかこの年になって嫁問題が出てくるとはな。両親が生きているうちはこんな事はなかったのだが。

 

「……分かった。フェニックス、レイヴェルを貰おう」

 

「おお!」

 

「だが、二つ条件を付けさせてもらう」

 

指をピンと2本立てる。

 

「まず一つ。私はまだレイヴェルとは結婚はしない。結婚するのは、最低でも二十年後。大人になってからだ」

 

「それでも構わない。……娘がそれを認めるならば」

 

チラッとレイヴェルを見ると、そこには右手を大きく上げて目をキラキラさせているレイヴェルが。

 

「はい! 私はいつまでも天さんを愛します!」

 

「そうか……それで、二つ目は?」

 

「ああ、二つ目が肝心だ。……正直な話をすると、私はまだ誰と結婚するか決めてはいない」

 

「誰と……?」

 

「もしかしたら、レヴィアタンと結婚するかもしれない。他の奴かもしれない」

 

「それは、つまり……私を捨てるという事でしょうか?」

 

涙目になりながら言ってくるレイヴェルに、首を左右に振る。

 

「いや、捨てはしない。正確に言えば、私はハーレムをつくるかもしれないという事だ」

 

「ハーレム……?」

 

「今のところ、五人。いや、もしかしたらそれ以上になるかもしれないし、それ以下になるかもしれない。私としては、全員を愛すと誓えるが、女性の方達はそれを納得しないかもしれない。納得はさせる予定だが。……まあ、私の性欲次第でハーレムになるかどうか変わるのだが」

 

そこで一度言葉を区切って天井を見てから、再びレイヴェルを見る。

 

「それでも、いいという事を条件に出したい。もし、私がハーレムを作ったとしても、他の者達と仲良く出来るか?」

 

「少し……考えさせてください」

 

この年齢の少女には酷かもしれないが、これだけは先に言っておかねばならない。この条件が呑めなければ、最初の約束を破ってしまうかもしれないからな。

 

ならば、この婚約を無くせよと思うかもしれないが、フェニックス卿は今回の婚約の件は絶対に諦めない。もし、強引に私が断れば、フェニックス卿とレイヴェルの心に深い傷を負わせてしまう。

 

しばらく考えこんだレイヴェルは私の瞳を真っ直ぐと見てくる。

 

「私は……もしかしたら、他の方に嫉妬してしまうかもしれません。恨めしく思うかもしれません」

 

「そうか」

 

やはり、ダメか。

 

「ですが――――――」

 

レイヴェルは息を大きく吸うと、はぁと息を吐く。

 

「私は天さんが絶対に私も愛してくれると信じています。他の方とは多少なりともいざこざはあるでしょうが、それでも良いのならば、私をお嫁に貰ってください!」

 

勢いよく頭を下げてくるレイヴェル。

 

そこまで私は信頼されているのか。……ならば、信頼には答えなければならないな。

 

私はソファーから立ち上がりレイヴェルの下まで歩き、レイヴェルの手を取りながら膝を着く。

 

「こちらこそ、よろしく頼む。二十年という長い時間を掛けさせてしまうが、必ず君を迎えに行こう」

 

「ッ! 必ず……お願いします!」

 

涙をポロポロと大きな瞳から流し出すレイヴェル。

 

『我が主は女泣かせでございますね』

 

うるさい。私が女性を泣かしたのは、これで二度目だ。

 

『……ふふ、そうでございますね。ですが、これからは気をつけてくださいまし。これからは、我が主の身が危険に晒されるとこのように泣く者が増えていきますゆえ。』

 

分かっている。出来るだけ、気をつけるさ。……だが、今は革命時だ。各陣営で平和へと向かう革命が起きつつある。今はまだ悪魔だけだが、そのうち三陣営と言わず、世界中で平和に向かう革命が起こる。

 

『ええ。ですが、この世の中には平和を願わない者達が出てくる。それは誰かは分からない。けれども、確実に出てくる。命を掛けた戦いが確実に起こる。だから――――――』

 

ああ、だから――――――

 

『「私達は平和を目指す者達のために修羅道に落ちよう」』

 




フェニックス卿のテンションがおかしいのは気にしない方向で。
次回、ようやく合宿。

感想、誤字、アドバイス、質問、お待ちしております。


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第二十六話 九日間

修行パートその一。


「ぜぇ、ぜぇ、ま、まだ着かないのか」

 

俺は今、山へと来ている。ピクニックに来ているのかって? いやいや、ピクニックだったらどれだけいいか。

 

ライザー対ササン先輩戦が終わった次の日、俺達オカルト研究部はライザー打倒のため学校を休み、部長が人間界で所有する山へと修行に来ているんだ。

 

ああ、それにしても荷物が重い。いや、俺の分の荷物は少ないんだけど、アーシアの着替えとか鍋とか包丁とか入ってるから重い。まあ、アーシアに荷物は大した苦ではないんだけど、やっぱり鍋とかが重すぎる。

 

「もう少しよイッセー。頑張りなさい」

 

「頑張れ~イッセー君~」

 

「イ、イッセーさん! 頑張ってください」

 

俺より先に行った部長とササン先輩とアーシアが声を掛けてくれる。……ササン先輩、なんでいるんだろう? 学校でなくていいの?

 

「大丈夫、イッセー君?」

 

「ぜぇ、ぜぇ、お前、俺よりデカイ荷物持ってるのに、よく汗一つかかないな」

 

「慣れてるからね」

 

くそう! 木場の爽やかイケメンスマイルが眩しい! 

 

「……お先しますね」

 

「んな……」

 

俺と木場が話している横を、小猫ちゃんがスタスタと歩いて行ってしまった。俺達より倍近い荷物を持った小猫ちゃんがだ。

 

おみそれしました、小猫様。

 

 

 

「はぁ、ようやく着いた」

 

あれから歩くこと十分ほど。俺達オカルト研究部は山奥にあるコテージへと辿り着いていた。

 

「それじゃあ、皆、各自部屋で着替えたらまた外に集合ね」

 

休む暇も無く修行か。少し休憩した所だけど……いやいや! ライザーに勝つためだ! 泣き言は言ってられない!

 

木場と移動して二階の部屋へと移動し、すぐさまジャージに着替えようとする。

 

だが、着替えを初めて上半身裸になった所でどこからか変な視線を感じた。どこから……。

 

「……」

 

「……」

 

一体何時から居たのだろうか。窓の外を見てみると、そこにはニコニコ顔で俺達の着替えを逆さ吊りで覗いているナリヤが――――――

 

「やっほーイッセー君!」

 

「お、おう……って! なに覗いてんだナリヤ!」

 

思わず大声を出しながら窓を開けてしまった。内開きだから良かったけど、これもし外開きだったら確実にぶち当たってたぞ!

 

逆さ吊りのナリヤは両手を組んで水色の長髪をゆらゆらと揺らしながら目を瞑る。

 

「んー強いて言うなら、目の保養?」

 

「いや、疑問形で聞かれても知らねえよ! ってか目の保養って何!?」

 

腕組みしていたナリヤは頭を掻きながらニコニコと笑い始める。

 

「ほら、アレだよ。イッセー君が女子の更衣室を覗くような感じだよ」

 

なんだよそれ! と言いたかったけど、何となくわかってしまった! くそ! 分かってしまう自分が憎い!

 

「ああ、それにしても木場君いい体してるね! いい目の保養だよ!」

 

「ありがとう、ナリヤさん。でも、その、これから下の方も着替えるから覗かないでくれると嬉しいな」

 

「え~いいじゃない! 見せてよ!」

 

この娘何言っちゃってんの! 見せるわけないじゃない! この変態! ……って、俺が言える事じゃねえ!

 

「全く、何やってんすか」

 

どうやっても覗こうとしてくるナリヤに苦労していると、どこからか声が聞こえてくる。それと同時に、ナリヤの後頭部に魔力の塊がぶち当たる!?

 

「ギャブッ!」

 

「え! ちょ!」

 

え、ええ! 大丈夫なの!? 気絶して真っ逆さまに落ちていったよ! ここ二階だから、結構な高さがあるよ!

 

急いで窓から下を覗きナリヤの安否を確認する。

 

「よっと。あはは、ごめんっす、イッセー君。ナリヤは私が何とかしとくんで、ゆっくり着替えてくださいっす」

 

窓の下を覗くと、そこには気絶したナリヤを抱えたメルトの姿が。

 

メ、メルトまでいる。なんで二人がいるんだ!? 学校行かなくていいの?

 

「イッセー! 早く着替えて降りてきなさーい!」

 

部長の声! まずい、俺全然着替えてない! あ、木場の奴! もう着替えてやがる!

 

色々と疑問は残ったが、取り敢えずナリヤとメルトは気にせず、窓を閉めて急いでジャージへと着替えた。

 

 

 

「じゃあ、皆。始めましょうか」

 

「「「「はい」」」」

 

コテージの前へと集まった俺達に部長は言う。

 

「今回の修行には、上の意向からササンの眷属から三人まで修行の協力を貰うことを許可されたわ。ササン、今日から九日間よろしくね」

 

「ええ、いいわよ。ただ、私達が手伝うのは、あくまで貴方達からの進言があって伸ばしたい所を言ってくれた場合のみよ。こちらは言われない限り手伝わないから。そこの所よろしくね」

 

自分からお願いしないといけないのか……俺に足りない物。俺が伸ばさなければならい所。よし! この修行で格上の存在であるササン先輩達に俺の伸ばさなければならない所……って言っても、体力から筋力まで全部なんだけど。徹底的に育ててもらおう!

 

「よろしくっす!」

 

「よろしくねー!」

 

メルト、ナリヤがそれぞれ挨拶してくる。

 

「それじゃあ、まずは各自イッセーを一時間交代で鍛えるわよ。順番は祐斗、小猫、朱乃、私。そして、ササンかナリヤ、もしくはメルトの誰か。この順番でいくわよ!」

 

最初は木場が相手か……よし! 気合入れて頑張るか!

 

 

 

「驚いたわよ、リアス。まさか、私達の力を借りるなんて」

 

リアスの眷属がそれぞれのトレーニングに向かったのを確認した私は、リアスを横目で見ながら声を掛ける。

 

リアスの事だから、てっきり私に頼らず自分達で何とかすると思っていた。

 

私の言葉にリアスは腕組みし目を瞑ると、多少むくれながら言ってくる。

 

「……しょうがないじゃない。本当は貴方の力を借りるつもりは無かったけど、私一人じゃあこの短期間で育てるのにも限界があるのよ」

 

「ふ~ん……ま、私は頑張れって言っただけで、修行を手伝わないとは言ってないからね。お願いされたなら、ちゃんと修行をつけてあげるわよ」

 

「なんだか上から目線でムカつく!」

 

おおカワイイ。上目遣いの涙目、更に頬膨らませを同時に繰り出してきた。こんな表情をイッセー君に見せればイチコロだろうに。

 

「実際上だからね。……ただ、私は慢心はしてないわよ。やるならば徹底的に。それが、五月雨天馬の修行方針よ」

 

本当、あの修行の時は殺されかけた。徹底的にぼこぼこされた。……ああ、ヤバ。寒気が。

 

「サ、ササン。大丈夫? 震えてるわよ?」

 

「気にしないで頂戴。過去のトラウマを思い出しただけよ」

 

「トラウマ……天の修行?」

 

「ええ。詳細は聞かない方がいいわよ。貴方泣くわよ」

 

「そ、そこまで……」

 

もうね。私とメルトは号泣したわよ。ナリヤは笑っていたけど、あんなの泣くしかないわよ。

 

ああ、巨大な化物が! 龍が! ドラゴンが私を襲ってくる! 逃げれば天にぶん殴られる! 

 

「本当に大丈夫?」

 

「……ええ、大丈夫よ。だから、行ってくるわ」

 

フラフラと歩いて小猫ちゃんの下へと向かう。最初に呼ばれたのが小猫ちゃんだからね。どうやら、自分の力を更に高めたいとの事。

 

「死なない程度に手加減出来るかしら……」

 

 

 

「おりゃあ!」

 

俺は木場との修行に入っていた。木場が教えてくれるのは剣術。剣術なんてものは全然知らないから、取り敢えず力いっぱい木刀を振り回して木場に当てようとするが、全然当たらない!

 

「ダメだよイッセー君。そんな大振りじゃあ当たらないよ」

 

「うおっ!」

 

木場に真っ直ぐと木刀振り下ろすが、木場は僅かに体を横にズラすだけで躱し、勢い余った俺に足を引っ掛けて転ばしてくる。

 

「真っ直ぐに突っ込んでくるのもいいけど、相手だけじゃなく、もう少し視野を広げて剣や相手の周囲を見ないと」

 

足を引っ掛けられてゴロゴロと転がった俺は、仰向けになりながら木場の言葉を聞く。

 

簡単に言ってくれるが、周りを注意しながら戦うなんてすぐに出来るもんじゃない。どれだけ意識しても、相手だけを見てしまう。

 

その点、木場は凄い。俺の動きをしっかりと見ながら最小限の動きで木刀を躱していく。……圧倒的だ。俺と木場の間には圧倒的な差がある。

 

「さて、まだ続ける……っと、時間だね」

 

ジリジリと時計が鳴り響く。これは、部長が渡してくれた時計だ。一時間キッカリでなるように調整されている。

 

「いっててて」

 

「手を貸すよ」

 

「サンキュ」

 

腰を摩りつつ、木場の手を借りながら立ち上がる。

 

確か、次は小猫ちゃんだったよな。小猫ちゃんからは打撃の訓練を受ける手はずになっている。

 

「次は小猫ちゃんだったね?」

 

「ああ、一時間後ここに来てくれるはずなんだけど……」

 

それぞれのトレーニングに向かう時、小猫ちゃんにそう言われたんだが、一向に小猫ちゃんが来ない。

 

「来ないね」

 

「時間忘れているのかな……」

 

木刀を肩に乗せて木場と顔を合わせる。

 

おい、木場。なんで俺と目が合った瞬間に微笑む。なんだ、その熱い視線は。寒気がしてきた……。

 

「おっまたせー!」

 

木場とたわいない話をする事五分後。一向に小猫ちゃんが来ないため、こちらから小猫ちゃんの下へと向かおうとしたら、ニコニコスマイルのナリヤが現れた。

 

「ナリヤ? なんでここに?」

 

「小猫ちゃんがねーササンとの修行でボロボロになっちゃって修行できなくなっちゃんだ」

 

ボロボロって……ササン先輩、あの小猫様に何したんですか……。

 

「だから、先に私と修行に入るよ、イッセー君!」

 

「そうなんだ。じゃあ、イッセー君。僕は行くね」

 

「おう! ありがとうな、木場!」

 

去っていく木場を見送ってからナリヤを見る。

 

俺よりちょっと低い身長。小柄な体躯。普通なら男より力が強くない少女であるナリヤ。だが、実質の力は俺の何倍も強いナリヤ。

 

「それじゃあ、イッセー君。何したい?」

 

「何したいって……」

 

技術も高めてたいし、筋力も高めてたい。何より、戦いに慣れておきたい。どうしよう、やりたいことが多すぎる。

 

「……取り敢えず、小猫ちゃんとやる予定だった打撃戦の訓練で」

 

「オッケー了解。ちなみにイッセー君って打撃戦の経験は?」

 

打撃戦の経験か……子供の頃の喧嘩と、この前レイナーレをぶん殴った時くらいか。他には悪友二人とのどつきあいくらい。

 

「この前堕天使を一発ぶん殴ったくらい。後は、悪友とどつきあったくらい」

 

「ふむふむ、成程ねー……じゃあ、まずは軽く来なよ。どれくらいか見てあげる」

 

「来なよって……」

 

「殴ってこいってこと。別に蹴りでもいいけど。イッセー君が思う打撃戦を私に放ってみて。勿論、私は避けたり、軽く反撃したりするから気をつけてね」

 

笑顔で言ってくるナリヤ。その笑顔が妙に怖く感じたのは、気のせいだろうか。

 

……しかし打撃か。俺が思うに、拳や蹴りなんかが打撃だと思う。

 

拳を握り、真っ直ぐとナリヤを見る。ナリヤは手を後ろで組んで、ニコニコと笑顔を浮かべたまま俺を見ている。

 

「ふっ!」

 

息を吐きだし、思いっきりナリヤに向かって飛び出し拳を振るう。自分で拳を打ち出して驚いたが、人間の時には出せなかったスピードが出てる!

 

拳は真っ直ぐとナリヤの顔面に向かって進んでいく。

 

「う~ん、ダメだねー。速さとかはまあまあだけど、重さが足りないよ」

 

するっと横に体をずらして躱したナリヤはそう言いながら、目を瞑る。

 

勢い余って木場に足を引っ掛けられた時みたいに転びそうになるが、なんとか踏ん張り、ナリヤに再び拳を打ち出す。

 

ナリヤの死角から打った拳。しかも、ナリヤは目を瞑っている。これなら当たるはずだ!

 

「それとまだバランスも悪いかな~」

 

「んな!?」

 

躱された。俺を見ないで、見えていない状態でナリヤはその場でクルリと回って躱した。

 

もう片方の手で再びナリヤに向かって殴りかかるが、ナリヤは目を瞑ったまま再び躱す。

 

「ほらほら。もっと、がむしゃらに打ってきていいよ」

 

ナリヤに言われると同時に、俺はありったけの力でナリヤに殴りかかる。

 

打っては避けられ、打っては避けられ。時に蹴りを放つがそれすらも避けられる。そんなこんなを数十回続けた所で、俺は膝を着いてしまった。

 

「ッア、はぁ、はぁ」

 

「う~ん、初心者にしては体力はまあまああるね。でも、レーティングゲームに出るんじゃあ、全然足らない。最低でも今の三倍の速度で動いて、息切れ起こさないくらいにしないと」

 

無茶言わないでくれ。今のでも精一杯だったってのに、これ以上早く動こうとしたら死んでしまう。

 

「まあ、いっか。そこら辺は今から鍛えてあげるから」

 

「へッ?」

 

地面に両手をつけて休んでいると、ナリヤが笑顔で近寄ってきた。

 

「イッセー君が伸ばさないといけないのは全部。体力から筋力に至るまで全部伸ばさないとね。う~ん……取り敢えず、私とスパーリング三十分ね。ダウンしたら、強制的に起こしてボコすから。ボコされたくないなら、逃げるか反撃してきなよ~!」

 

スパーリングって何ですか? ……いや、それよりももっと恐ろしいことがある! え!? 俺ダウンしてもボコされるの!? しかも、息絶え絶えの今の状況で!?

 

「三秒だけあげるよ。息を整えて、歯食いしばってね」

 

目が、ナリヤの目が本気だ! これは、マジで言った事を実行するつもりだ!?

 

急いで立ち上がり、ナリヤを見ながら距離を取る。息は整ってないけど、今はそれどころじゃない!

 

「い~ち、サン! ハイおしまい!」

 

「二は!?」

 

「さあ?」

 

ツッコンでいる間に、ナリヤが追いかけてきた! やばいやばい! 結構離れてたのに、一瞬で詰められた!

 

「安心してね。痛いのは一瞬だけだから!」

 

「絶対嘘!」

 

「ちなみに、私の神をも捕縛する砕けぬ鎖(ブロークン・チェーンバインド)の応用練習で気絶はしないと思うから! 安心してね!」

 

「逆に安心できない! 気絶させてください!」

 

その日、俺は地獄を見た。小柄な少女が笑いながら俺を殴ってくるっていう地獄を。気絶も許されず、逃げることもできないっていう地獄を。

 




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第二十七話 メルトの過去とナリヤの過去

今回の話はちょっと危ない単語も入っているので、消されるかもしれない……。まあ、大丈夫でしょうけど。


「痛い……」

 

ナリヤの奴、手加減なさすぎだろ。俺死にかけたぞ? 何度か死んだ爺ちゃんが川の向こう側から手振ってたのが見えたぞ。

 

「イッセーさん、大丈夫ですか?」

 

「ああ、大丈夫だよ、アーシア」

 

ナリヤとの修行を終えた俺は、痛む体を動かしてアーシアに傷やら打撲やらを治してもらいながら、コテージへと向かっていた。

 

次の修行担当は朱乃さんだ。朱乃さんからは、魔力を操る修行を付けてもらう予定。アーシアも、俺と一緒に魔力の操作を修行するらしい。

 

アーシアと共にコテージへと着き、朱乃さんがいるであろう部屋へと向かう。

 

「朱乃先輩。失礼します――――――んな!?」

 

扉を開けた瞬間、俺は固まってしまった。だって、だって!

 

「あらあら、イッセー君ったら。ノックもせずに入ってくるなんて、ダメですわよ」

 

おっぱいが、そこにはあった。

 

丸く形が整っているおっぱい。部長よりも張りがあり大きさがあるおっぱいが、そこにある。

 

どうやら朱乃さんは黒いジャージに着替えてる最中だったらしい。そこへ、ノック無しで俺突入。そしてこの展開。

 

「……グフ!」

 

「イッセーさん!?」

 

思わず朱乃さんのおっぱいを見たせいで、鼻血を吹き出して倒れてしまった。

 

ふふ、俺の負けたぜ。お前の勝ちだ。おっぱいよ。

 

アーシアが急いで駆け寄って来て、俺を回復してくれる。ああ、アーシア。俺はもうだめだ。我が人生に――――――悔いは残ってる! 俺は、おっぱいを触っていない!

 

鼻血を気合で止め、起き上がる。だが、眼前にはもうおっぱいはなかった。

 

「うふふ、ボーナスタイムは終了ですわ」

 

笑顔のまま人差し指を自分の唇に当てる朱乃さん。な、なんてお美しい姿!

 

朱乃さんはパンと小さく両手を合わせて音を出すと、再びニコニコとした表情になる。

 

「では、イッセー君、アーシアちゃん。魔力についてお勉強しましょうか」

 

「「はい!」」

 

 

 

「そうじゃないのよ。魔力は体全体を覆うオーラを流れるように操って魔力を集めるのです。意識を集中させて、魔力の波動を感じるのです」

 

うぬぬぬ! 朱乃さんの丁寧な説明の通りに掌に集中するようにやっているが、中々上手く出来ない! 

 

中々できない俺を見かねてか、朱乃さんは頬に片手を当てて微笑む。

 

「……そうですわね。ここに銀華ちゃんがいれば話が早いのですけど」

 

銀華? なんでだ? 確かに銀華は強いが、今関係あるのだろうか>

 

「朱乃さん、何故、銀華なんですか?」

 

「銀華ちゃんの神器(セイクリッド・ギア)、霊的な瞳(アウラー・オブ・ビジョンアイ)は、詳しくはわかりませんが私達の体を流れているオーラ、即ち魔力や気といったものが目で見えるのです。ですから、銀華ちゃんがいれば、イッセー君の魔力の流れにアドバイス出来ると思ったのですが……」

 

成程、銀華はそんな神器(セイクリッド・ギア)を持っていたのか。

 

何度か銀華が戦う所を見た事はあるが、まさかそんな神器(セイクリッド・ギア)持ってたとは思わなかった。ってか、俺ってササン先輩の眷属達、つまりササン先輩、ナリヤ、メルト、銀華、天さんの事について知ってることって少なくないか? ……今度、聞いてみよう。

 

「出来ました!」

 

隣から嬉しそうなアーシアの声が聞こえてくる。

 

急いでアーシアを見てみれば、掌に緑色の淡い光を放っている魔力の球体が作り出されていた。アーシアの魔力は緑なのか。ササン先輩と似てる。

 

「あらあら、アーシアちゃんはやっぱり魔力の才能があるのかもしれませんね」

 

うぐぐ……アーシアは魔力の才能があるのか。それに比べて、俺はてんでだめだ。なんとか小さな魔力の球体を作り出せはしたが、アーシアは俺の倍の倍以上の大きさ、ソフトボールくらいの大きさだ。

 

「では、その魔力を今度は炎や氷といったモノに変化させてみましょうか。これは、イメージ力の問題ですが、初心者の方は実際にある炎や氷を動かした方が上手くいくでしょう」

 

朱乃さんは水の入ったペットボトルを取り出すと、ペットボトルに魔力を込める。すると、ペットボトルの中に入っている水がトゲ状になって内側からペットボトルを貫いた。

 

うお! 凄いな! 慣れればこんな事も出来るようになるのか。

 

「では、アーシアちゃんは次にこれを練習してください。イッセー君はまた魔力を集める練習。いいですか、イッセー君。魔力の源流はイメージ力。とにかく頭の中に思い浮かべたものを具現化させてください」

 

イメージしたものを具現化……。

 

朱乃さんの言葉に、俺はじっと朱乃さんのおっぱいを見てしまう。

 

「いつも想像しているものやことなら比較的早く具現化出来るかもしれませんわ」

 

いつも想像していること……俺にとっていつも想像している事は……まさか! 魔力があれば! あんな事を出来るかもしれないのか!?

 

よし! ならば頑張るぞ! アレのためだ! 俺の魔力の全才能を注ぎ込んでやるぜ!

 

「あらあら、イッセー君ったら、ヤル気が出たようですわね」

 

「ええ! なんとしても、これは習得しなければならないので!」

 

 

 

「よし、ある程度はイメージは固まった! あとは練習あるのみだ!」

 

朱乃さんとの修行を終えた俺は、コテージから少し離れた山の中へと向かっていた。

 

部長とはなんの修行をするかは聞いていない。多分、俺がここ最近毎朝やっているトレーニングと一緒だと思う。走ったり筋トレしたりだ。

 

「ん?」

 

「……う、でも、用心はしておいて……ゼルからも定期的に連絡を受けておいて」

 

部長の下へと向かっている途中、茂みの奥の方から誰かの話声が聞こえた。

 

この声は……ササン先輩? 一体誰と話しているんだ? ……部長との修行までにはまだ時間がる。気になるから、ササン先輩の下に行ってみるか。

 

茂みの中を歩き、少しすると開けた場所でササン先輩が手元に魔法陣を展開して話していた。

 

「……ええ、そうね。白の動向と旧の動向。そしてカオス……そう、じゃあよろしく……ふう」

 

草陰に隠れていたから途切れ途切れでしか聞こえなかったが……白に旧? 何の話だ?

 

ササン先輩は誰かとの話を終えると、一息吐き、ニヤっと笑った。

 

「さて、イッセー君。そろそろ出てきたらどう? 盗み聞きなんて、男のすることじゃないわよ」

 

う!? バレていたのか。いや、隠れるつもりはなかったんだけど。

 

「すみません。ササン先輩。盗み聞きするつもりはなかったんですが……」

 

「うむ、ちゃんと謝ってよろしい。ただ、言い訳するのは良くないわよ」

 

後頭部を掻きながら草陰から出ると、笑顔でササン先輩が俺の額を小突いてきた。

 

痛くはない。ただ軽くコツンと。何故だろう。このササン先輩の行動が胸にくるものがある!

 

「すみません、今後気をつけます」

 

「うむ……で、イッセー君はどうしてこんな所に? リアスとの修行は?」

 

「部長との修行はこのあと行きます。ここに来たのは、その……ササン先輩が何か話していたのでつい」

 

「成程ね。……聞きたい? さっきの話」

 

う~ん、聞きたいか聞きたくないかで聞かれれば、正直聞きたい。でも、聞くのはササン先輩に悪い気がする。

 

……あ! でも、違うことなら聞きたいことがある。

 

「いえ、さっきの話はいいです。でも、ちょっとほかに何か聞きたいことがあります」

 

「何かしら。お姉さんが答えられる範囲でなら答えるわよ」

 

人差し指を滑らせるように動かして俺の顎を撫でてくるササン先輩!? うわ! ササンお姉様の色気がダイレクトで俺の心に!

 

「ほら、早く言わないと……」

 

「い、言わないと?」

 

ゴクリと生唾を飲んでしまう! 早く言わないと、俺何されちゃうの!?

 

ドキドキとしながらいると、ササン先輩は人差し指を俺の顎から話して俺の後ろを指差す。

 

「リアスがキレちゃうわよ」

 

「へ……」

 

「イッセー……何してるのかしら~!」

 

恐る恐る後ろを向くと、そこには怒りの形相で腕組みしている部長が!

 

「な、なんで部長が!?」

 

「あんまりにもイッセーが遅いから迎えに来てみれば……ササンと何をしようとしていたのかしら?」

 

や、やばい! 部長の体の周りに赤いオーラが漂い始めている! 

 

「い、いや、ササン先輩にはただ聞きたいことがあって……」

 

「聞きたいこと?」

 

おお! なんとか部長の赤いオーラが霧散した! 良かった。これで一命は取り留められた!

 

さっきまで俺の顎を指で撫でていたササン先輩が俺の隣に来る。

 

「そうみたいなのよ。全くリアスったら、何をどう想像したのかしら?」

 

「な!? ササン! どういうことよ!」

 

「さあ? 貴方の考えてることを知っているのは、貴方だけよ」

 

ぐぬぬと涙目で唸る部長。……なんでだろう。どうしてだか、いつも凛としている部長のこういう面をみるとものすごく可愛く感じる。いや、普段もメッチャ綺麗だし可愛いけどさ!

 

「で! イッセー! 一体ササンに何を聞こうとしてたのよ!」

 

八つ当たり気味で言われる俺! うぅ、リアスお姉さまが怖いです……。

 

「えっと、ササン先輩に聞こうとしていたのは、ササン先輩の眷属についてなんですけど……」

 

俺が言うと、部長とササン先輩はキョトンとした表情でお互いの顔を見合った。アレ? 俺なんか変なこと聞いた?

 

「……リアス、貴方私達の事話してないの?」

 

「……ええ、まあ。本人達の許可なく話すのはいけないと思って何も話してないわ」

 

「そうなの。ふ~ん……イッセー君」

 

「は、はい」

 

「教えてあげる。私と、そしてナリヤ、メルト、天、銀華のこと」

 

「今日の私の修行は無しにしてあげるから、この時間はササンの話を聞きなさい」

 

部長のお許しが出た。でも、なんだがお許しを出した部長の顔色が優れない。

 

「わかりました」

 

部長の顔色が気になるが、取り敢えず首を縦に振る。

 

「じゃあ、話すわよ。まずは一番最初に眷属になったメルトについて話しましょうか」

 

 

 

あれは、天と出会う数ヶ月前の事。私は一人、自身の眷属を求めて魔物が住む冥界の辺境に向かっていたわ。

 

私が眷属として最初に求めていたのは、コカトリス。バジリスクと同一視されることもある幻獣よ。それと冥界の辺境になんの関係があるのかというと、そこはコカトリスの産卵場所でもあるの。

 

バジリスクはギリシャ神話のヘラクレスに殺されたメデューサの血から生まれたとかいう逸話があるけど、そこら辺の話はカットさせてもらうわね。

 

で、向かうこと幾日か。コカトリスが住む冥界の辺境へと着いたわ。

 

丁度その日はコカトリスの産卵日でもあってね。何十体ものコカトリスがいたわ。本来、鶏の卵がカエルによって温められたら生まれるはずのコカトリスだけども、最近のは種族同士でも生まれるようになったみたいね。

 

私はというと、コカトリスに見つからないようコソっと草陰に隠れて産卵シーンを見ていたわ。

 

それで、何体目でしょうね。十個か二十個か。どれほど卵を産んだかは知らないけど、とうとう最後の出産に入ったの。

 

最後のコカトリスは大きかったわ。大体十メーターくらいだったかしらね。私なんか頭から丸呑みされるレベルの大きさね。

 

ま、その最後のコカトリスが卵を産み終えた時、ある事が起きたの。それはね――――――生まれたばかりの卵が一瞬で蒸して卵から出てきたの。それだけだったら良かったんだけどもね。ここからが本題。

 

卵から生まれたコカトリスの大きさは母体を大きく上回り、大体二十メーター程かしらね。で、その二十メーター位の大きさの子供は何を思ったのか、急に雄叫びを上げると、周りにいた仲間達を食い殺したの。

 

もうね、凄かったわよ本当。まるごとがっぷりと頭から母体を飲み込んだのだから。もうね圧巻の一言よ。

 

そのまま子供は周りにいたコカトリスを食いまくり、とうとう自信しかいなくなってしまったわ。

 

子供の周りは血まみれ。無垢な子供だから出来る事なのかしらね。普通なら絶対にやりはしないわ。

 

「で、ササン先輩はどうしたんですか?」

 

勿論、子供が周りにいたコカトリスを喰らい尽くした所で飛び出したわ。

 

近くで見たコカトリスはもう鳥肌が立ちまくりだったわよ。イッセー君は普段のメルトしか見てないから分からないと思うけど、彼女の本体は凄いからね。

 

鶏の頭に、言葉では説明しきれない程ぶっとい胴体。背中にはこれまた馬鹿でかい竜の翼が四つもついていて、お尻の方には大蛇のような蛇の頭が五本もあるの。で最後に黄金の鬣に黄金の羽毛。

 

「ど、どうやってそんな化物をササン先輩は眷属にしたんですか?」

 

それはね。まあ、もう少しのお楽しみ。話はまだ続くのよ。

 

コカトリスの前に飛び出した私は口元をにやけさせながらコカトリスに歩み寄ったわ。コカトリスは訝しげな目で私を見てはくるけど、決して襲ってこようとはしなかったわ。

 

コカトリスに歩み寄った私はこう言ったの。貴方、もっと暴れたくない? って。

 

でも、言った後でしまったと思ったわ。だって、生まれたばかりの子に言葉なんて分かるはずないもの。でもね、その時また私は驚いたわ。なんとね、生まれて間もないはずのコカトリスが喋ったんだもの。

 

「眷属だと? 私よりも弱い者に私は仕える気はない。それにだ。私はお前を頼らずとも一人で暴れられる」

 

生意気な大人びた声でそう言ってきたの。

 

後で聞いた話なんだけど、なんでメルトがこの時に言葉を理解できてたのかというと、食った仲間から基本的な生活に必要な記憶を抜き取ったんだって。普通は出来ないことなんだけど……まあ、そこら辺の細い所は本人に聞いて頂戴。

 

「ササン先輩はなんて言ったんですが?」

 

私もその時はブチギレたからよく覚えてないんだけど、メルトの話では――――――調子に乗るなよ。って言ったらしい。

 

で、そこからはブチギレた私と、私の言葉によってブチギレたコカトリス状態のメルトとのガチンコバトル。

 

この前見せた銃や刀があるでしょう? アレを使ってメルトと戦ったの。いや~キツかったね。撃っても撃っても弾かれて、切ったら切ったで傷口から致死毒が溢れてくるんだもの。

 

「致死毒って……ササン先輩無事だったんすか?」

 

無事じゃあ済まないわよ。なんとか解毒できる毒もあったけど、解毒できない毒もあって、急遽抗体を作らないといけないなんて自体にもなったし。でも、互角には戦い続けたわよ。流石に、生まれたばかりのガキンチョには引けを取りません。

 

まあ、それは置いといて。私とメルトは戦い続けたの。何時間、或いは何十時間かしらね。で、それくらいの時間が過ぎ去ったあと、私とメルトは同時に地面にブッ倒れたわ。

 

コカトリスの顔が私の前に、私の顔がコカトリスの前に、私とコカトリスは目と目があったの。そして、何ででしょうね。戦ったせいなのか、私とメルトはそこで面白くなって吹き出して笑ったちゃったの。

 

で、しばらく笑ったあと、コカトリスが言ったの。

 

「ハハハ! 私は貴殿を侮っていたようだ! 私より弱い? とんでもない。貴殿は私より強い!」

 

でしょう。どんなもんじゃい。

 

「ああ、よかろう。我が主よ。私を眷属にしてくれ。我命、貴殿が死ぬその時まで貴殿に尽くすと決めよう」

 

こうして、メルトは私の眷属になったの。……今思うけど、私って運がいいわね。これだけ強いメルトが、僧侶(ビショップ)の駒一つで済んだんだから。

 

ちなみに、メルトがなんで人型になっているのかというと、人間世界で動く時に元の姿だと動きづらいから、人型になるよう魔力で体を作り替えているの。コカトリスの姿にも戻れるわよ。重要な時以外は戻らないように命令しているけど。

 

イッセー君。一応メルトは人間との生殖行為で子をなすことは出来るからね。

 

「な、何言ってるんですか! そ、そんなメルトと生殖行為だなんて……」

 

ふふ、若いわね。まあ、あの子には好きな人がいるから、無理かもしれないけど。

 

……それじゃあ、次はナリヤについて話しましょうか。イッセー君。ナリヤの話は胸糞悪くなるから、聞かないなら今のうちよ?

 

「……聞きます。仲間の事は知っておきたいんで。どんな話でも聞きますよ」

 

……そう、なら話すわね。

 

 

 

ナリヤ・エクスパレント。イッセー君は、売女という言葉を知っているかしら?

 

「一応知っています」

 

金のために体を売った少女、もしくは売らなければならなかった少女。簡単に言えばそういう事ね。ナリヤは、売女だったの。でもね、彼女の人生は売女だけではないわ。

 

彼女の人生は壮絶よ。彼女は西洋の方面で生まれたわ。ごく普通の家庭にね。でも、ごく普通の家庭に生まれた彼女は、生まれた数年後に父親に犯された。八歳から十歳の時だと聞いているわ。

 

理由は会社をリストラされ、自分の妻に逃げられたストレスを発散するためにしたそうよ。

 

そして一年後、彼女の父親が膨大な借金を背負うと同時に、彼女は特異な力を目覚めさせた。その特異な力とは神器(セイクリッド・ギア)。彼女は、父の借金のかたに借金取りに売られたわ。

 

借金取りの方では、裏の世界……つまり、膨大な金をあぶくのように使える奴らの集まりに神器(セイクリッド・ギア)という特異な力を持つ珍しい見世物として、売女として、最後には商品として売りに出されたそうなの。

 

幼い見た目に、特異な力。一部の好色家達は彼女をなんとしても手に入れるために莫大な金を彼女につぎ込んだらしいわ。

 

そして、彼女は買い取られた。二十億という人間の作り出した何の価値もない金によって。

 

首輪を巻かれ、犬のように扱われる上に、中年の小太り男に性処理道具として散々に扱われたそうよ。

 

時に薬物。時に機械。時に獣。時に複数。少女の心を壊すには十分な責め苦を男は飽きもせず毎日、数年間続けたわ。

 

でもね、散々やり尽くして飽きたのかしら。男はとうとう少女に見向きもしなくなったわ。飯は与えている。生きる場所も与えている。けれども、彼女は性処理道具として男の部下どもに回され続けたわ。

 

そして、彼女から反応がなくなると同時に、部下も、そして男も誰一人見向きもしなかったわ。飯を抜かれ、最低限の居場所も彼女は失いかけた。その時かな。私とメルト。そして、天がナリヤの所に向かったのは。

 

何故ナリヤの下へ行けたかというと、ある筋によって聞かされたの。人間社会の裏で、無垢な幼い少女が地獄を味わっていると。

 

この言葉を聞いた天はブチギレた。あの天の表情は今でも忘れない。憤怒を丸出しにした天の表情を。まるで悪鬼羅刹のようだったわ。

 

即座に私達は男の下へ乗り込んだわ。男の手下が数十人で警備していたけど、ブチギレた天が一人残さず滅したわ。どうやったのかは知らないけど、本当に何も残さなかったわ。

 

そして、警備を抜けて男の部屋に向かう途中、また警備員に出会ったわ。

 

でも、今度の警備員は普通とは違ったの。全員、何かしらの神器(セイクリッド・ギア)だったわ。

 

攻撃型からサポート型まで選り取りみどり。大体三十人程いたわね。……ま、全員、一片の躊躇もなく殺したけどね。

 

警備員を殺した後、死体はそのままにして男の部屋へと突入したわ。

 

中には小太りの男が葉巻を吸って椅子にふんぞり返っていたわ。その男の横には、檻の中に閉じ込められて、今にも死んでしまいそうなくらい衰弱している少女――――――ナリヤがいたわ。

 

「うるせえなぁ、勝手に入ってくんじゃねえよ。ちゃんとノックしてから入ってこいって教えてるだろうが。それよりも、侵入者は死んだのか? 死んでねえなら、さっさと持ち場に戻って殺せ」

 

男は私達が侵入者だという事を理解していないのか、そう言ってきた。

 

私達は男が私達の方を向く前に近づいて思いっきり椅子をぶっ壊してやったわ。男には一切傷をつけないようにね。

 

「ってえな! ゴラァ! テメエ、誰に向かって……」

 

腰を摩りつつ振り返って私達の方を見た男は、言葉を失って徐々に顔を青くしていったわ。

 

「て、テメエら何もんだよ!? 外の警備員共は何してやがる!?」

 

「全員この世にはいない。残るは貴様だけだ」

 

天の静かな怒気が含まれている言葉に、男は共学の表情を浮かべたあと、後ずさって逃げようとする。

 

私とメルトは動かないわ。……いえ、正確に言うと、動けなかったわ。天の怒気はそれほどだったの。

 

男は後ずさりながら言ったわ。

 

「て、テメエらの目的は何だよ!?」

 

「貴様を殺すことだ」

 

「何故俺を殺す! ま、まさか、どこかの企業の奴が俺を消すために雇ったのか!?」

 

「違う。貴様、この数年前に裏の競売で買った少女を知っているな?」

 

「裏の競売だと……! あ、ああ、アイツか! なんだ、テメエらアイツが欲しいのかよ! ならとっとと持ってけ! もう、アイツには飽きたからな!」

 

男は醜悪な笑みを浮かべると、平然とそう言ってきたわ。ナリヤの命をまるで自分の所有物のように。

 

「……貴様には、少女と同じようにこの世の地獄を見せてから殺してやろう」

 

「ひ!? な、何すんだよ!? やめろ! 離せ! テメエ! 俺に喧嘩売ったらどうなるか分かってんだろうな!」

 

「知らんな。最低でも、貴様よりは俺の方が立場は上だ」

 

天は胸ぐらを掴むと、男を引きずりながら何処かへ行ったわ。後から聞いた話だと、天は男を連れて厨房に行ったらしいの。そこで天がやった事は……これはまあ、聞きたかったら話してあげるわ。男にとってはキツイ話だから。

 

天がいなくなってから、私とメルトは急いでナリヤの下へ向かったわ。

 

ナリヤの息は殆ど無かった。後一日遅れていたら、餓死、もしくは衰弱死していたでしょうね。それ程までに、ナリヤはボロボロだったわ。

 

急いで各種栄養剤と僧侶(ビショップ)の駒をナリヤに与え、ナリヤの回復を促したわ。本人に許可なく悪魔にしたのは悪いけど、あの状態ではああでもしないと各種栄養剤だけで回復は無理だったわ。

 

その後、天が帰ってきて、ナリヤを屋敷まで連れてきて目を覚ました後のアフターケアは尋常ではなかった。

 

まず、ナリヤは自我を失っていたわ。目は虚ろで、ベットに座ったままどこを見ているのかわからない。こちらが言葉を投げかけても一切返事はしなかったし、そもそも、まず生きるという事を諦めていたわ。

 

仕方ないとは思うけどね。若干十歳位の女の子が監禁されて尚且拷問に近い行為を数年間続けられていたんだもの。心の一つや二つは壊れてもおかしくはない。

 

こちらからのコンタクトは意味を持たない。ナリヤの心を取り戻す方法が見つからず、もうこのままだと思ったその時、天が言ったの。

 

「……彼女の心は、俺が取り戻す」

 

ベットに座っていたナリヤを抱えて連れて行った天は、部屋を出てから三日後位にナリヤと一緒に帰ってきたわ。どこに行っていたのかとか、色々と聞きたいことがあったけど、そんな事よりも驚くことがあったの。

 

ナリヤの瞳がしっかりとした自我を持っていたの。

 

「……天、さん。この人達は誰ですか」

 

か細いけども、天の後ろに隠れながらナリヤは言葉を発したわ。今まで一切の反応を見せなかった彼女からの初めての反応。

 

思わず私とメルトはお互いに顔を見合わせたわ。

 

「ナリヤ。この人達は大丈夫だよ」

 

「……」

 

いや~今思い出すとあの時のナリヤって警戒心バリバリでずっと警戒していたわねえ。私とメルトがまともに話すようになったのって、一ヶ月くらい経ってからだったかしらね。

 

ま、そんなこんなでナリヤは徐々に心を開いてくれて、今の関係になったの。本当、昔を思い出すと、よくここまで明るくなれたわよね、ナリヤ。

 

これくらいかしらね。他の細い所は、ナリヤとメルトの本人達から聞いて頂戴。

 

「……分かりました、聞いてみます」

 

うん。それじゃあ、私の話はこれで終わり。なんならこの後にナリヤかメルトに話を聞いてきたら? どうせ、その体じゃあ今日はもう動けないでしょう? 余程ナリヤに絞られたみたいね。

 

……さて、じゃあ、これで今回はおしまい。また暇があったら、昔話してあげるよ。イッセー君。

 




天のやったことが知りたい方は感想に書いてください。次話で書きます。

感想、アドバイス、誤字、お待ちしております。


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第二十八話 ナリヤは……

あけましておめでとうございます!
今回の後半はグロ注意。一応オブラートには包んでいますが、理解すると、吐き気を催す気がしますので。




「どうっすかな~」

 

メルトとナリヤの昔の話をササン先輩から聞いた俺は、一人自分の部屋のベットに仰向けに寝転んでいた。

 

時刻はまだ五時程。俺以外の皆はまだ修行しているはず。俺も早く修行をしなければならないんだが……どうしてだか、さっきのササン先輩の話を聞いてからヤル気が起きない。

 

やっぱり、ナリヤの話が結構来てるな……。

 

「まさか、あの明るくおちゃらけてるナリヤにあんな過去があるなんて……」

 

想像したくない。……いや、そもそも俺の人生経験からは想像出来ない。きっとこんな平和な場所に生まれた俺らには想像できないだろう。

 

「……一体、どうやって天さんは壊れたナリヤの心を癒したんだ?」

 

気になる。気になってしまう。あんな風に言われたら。

 

「ああもう、気になる!」

 

体を横にして、窓を見る。もう、夕方だ。そろそろ修行に戻らないと……。

 

「ふむふむ、よく分からないがそんなに悩んでどうしたんだい、少年!」

 

「いやさ、実はナリヤとメルトの過去の話を聞いて……って、アレ?」

 

俺は今自室に一人。ベットに横になっているとは言え、ちゃんと一人しかいない事は確認済み。誰か入ってきた音もなかったし……じゃあ、今俺の後ろから聞こえた声の主は誰?

 

「ほうほう、私の過去を知ったんだね……これは、生かしておけないね」

 

「え、え!? う、嘘だろ!」

 

ベットから飛び降り、急いで振り返る。そこには、ベットに横になっているナリヤの姿が。

 

いや、そんなことより生かして置けないって、冗談だよな! 本気だったら逃げきれる自信がない!

 

「冗談だと思う?」

 

「冗談だと思いたい!」

 

「うんまあ、冗談だけどね」

 

「冗談なんだ!」

 

取り敢えず一安心! 

 

体の力が一気に抜け、地面に座り込んでしまう。まったく、ナリヤも悪い冗談を言ってくる。もし本当だったら……考えたくもない。

 

俺が地面に座り込んでいると、ナリヤはベットから飛び降りて俺の前に立つ。

 

「それで、私の過去の話を聞いたんだって? どうだった? 凄いでしょう?」

 

「凄いって聞かれたら、凄かったけど。そんな笑って言えることなのか?」

 

こうもっと重くて話しづらいことだと思ってたんだけど……笑って話せるようなことなのか?

 

「アハハ、やっぱり皆最初はそんな風な感じになるんだよね~」

 

ナリヤは微笑みを浮かべると、ベットにぼすんと座る。

 

「ねえ、イッセー君。私はね、過去の事を気にしているかしてないかで聞かれれば、全然気にしてないの」

 

「……どうしてだ?」

 

例え時間がどれだけ過ぎようと、心に残った傷は中々治らないもんだと思う。特に、ナリヤみたいなモノは時間が治せるようなものではないと思う。

 

ナリヤは俺の言葉を聞くと、スッと表情を冷たくした。

 

「知りたい? なら、教えてあげる」

 

ゴクリと唾を飲む音がヤケに大きく聞こえる。これ以上は聞いては駄目だと本能が言ってるような気がする。

 

ナリヤは冷たい表情から下を向いて目元を隠して、ニッと口の端を釣り上げる。

 

「私を犯したら奴らと私を売った組織。そして私を売った父親全てを殺したからよ」

 

「……は?」

 

殺した? 組織や犯した連中と自身の父親を?

 

「もう一回言ってあげる。殺したの。私の父親を、組織を、犯した奴ら、ぜーんぶ殺した。一人も残さず、一片の欠片も残さず、この世から消し去ったの」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 殺した? 自分の父親もか?」

 

未だに顔を下に向けているナリヤは尚下に顔を向けたまま話す。

 

「ええ、父親をこの手でね。そもそも、あんな奴は父親でもなんでもない」

 

「ッ!」

 

ゆっくりとナリヤは顔を上げる。

 

いつもの、ナリヤの表情じゃない。瞳は冷たく笑っていない。なのにも関わらず、口の端は釣り上がっている。

 

怖い、恐ろしい。この前見た銀華とはまた違った恐ろしさがある。

 

「娘を犯した上に、娘を売る。これを父親と呼ぶなら、この世は腐ってる。それにね、イッセー君。今の私の父親は、天さんだよ」

 

天さんが父親?

 

「私の心を癒してくれたのは、天さん。天さんはね、心を閉ざした私の心に入ってきてただ一言こう言ってくれたの。力が無かったから売られ犯され辛い目にあったんだってね。それで、私は聞いたの。どうしたら強くなれるかってね」

 

「天さんはなんて……」

 

「ここから出て、私に教えを請え。それだけを言って天さんは私の中から出て行った」

 

そこまで言った所で、ナリヤは片手で頬を抑えて恍惚に満ちた表情を浮かべて俺から目線を外した。

 

「もうね! 最高だった! その一言に私は痺れた! 今まで何人も私に優しい言葉を掛けてきてくれる人はいたよ! 気を確かに、諦めないで、未来に希望を持って……馬鹿かっての! そんな事が言えるんだったらまず私を助けろっての!」

 

そこで言葉を一旦区切ると、恍惚とした表情のまま俺の瞳を真っ直ぐと見る。

 

「でもね、天さんは違った! 役に立たない口先だけの有象無象とは違った! ちゃんと私に足りない物を示し、更にはそれを私に与えてくれると言ってくれた! 口先だけではない、本当の救いをくれた! イッセー君には分かる? この本当の絶望から救い出された時の気持ち」

 

「……俺には、分からない」

 

ナリヤと絶望なんて比べられたもんじゃない。俺にとっての絶望とナリヤにとっての絶望では決定的に格が違う。

 

俺が言うと、ナリヤは一度目を瞑って開ける。そこにはもう、さっきの冷たい瞳は無かった。あったのは、いつもの陽気でおちゃらけている時のナリヤの瞳があった。

 

「ごめんね。ちょっと熱くなりすぎちゃった」

 

「いや……」

 

あまりの変わりように、少し面食らってしまう。まるで、二重人格みたいな変わりよう。……あの怖い感じもナリヤなんだよな。

 

「ふふ、少し怖かった?」

 

「うっ」

 

「正直に言っていいよ。怖かったでしょ?」

 

怖かったと言われれば、怖かった。これは、素直に言ってもいいのかな。

 

「ま、まあ、正直言うと、怖かった」

 

「だろうね。大抵、この話をすると、理解できずに恐怖するか、理解して恐怖するからね。そして、この話を聞いた人は気まずくなって私から離れていくんだよね」

 

話を聞いて離れていくって……あんまりだろ。別に話を聞いても、いつも通り接すればいいのに……

 

悲しそうな顔を浮かばえるナリヤ。これは、声を掛けるべきだよな。

 

「ナリヤ、俺は……」

 

「ハイストップ」

 

言おうとしたら、ナリヤは笑顔で俺の口に人差し指を当ててくる。

 

「分かってるよ。イッセー君はこの話を聞いた程度では離れないって」

 

……はっ! いかんいかん! ナリヤの微笑みに思わず見惚れていた! 

 

「ふふ、初心で可愛いなあイッセー君よ! あの人が好いてるのも分かる気がする!」

 

「ちょ、ちょっと! ナリヤ……」

 

ベットから降りて、ナリヤはいきなり俺の頭を抱きしめると、頭を撫ででくる。さ、流石にちょっと、恥ずかしいんだが……いくらエロエロな妄想をしている俺でも、リアルでやられるとちょっと対応に困るというかなんというか。

 

そ、それにさっきから俺の顔にナリヤの、その、小さくとも女の子には必ず付いている二つの山が俺の顔に当たっている。

 

「ふう、ああ面白い!」

 

満足したのか、俺から離れるナリヤ。うむむ、ちょっと、もう少し堪能したかったかも。

 

「ねえ、イッセー君。さっきの話の続きになるんだけどさ、イッセー君私の過去知りたいって言ってたよね?」

 

「言ったけど、もう教えてもらっただろ?」

 

ナリヤの過去を一通り教えてもらったつもりなんだが、他にもまだあるのか?

 

「いやね、一通り教えたんだけど、実は一つ教えてなかったんだよね」

 

「何を?」

 

「天さんがやった事。多分、私の過去をササンから聞いたんだろうけど、私が救われた時の話は聞いた?」

 

えっと確か、アレだよな。天さんとメルトとササン先輩がナリヤの囚われてる所に殴り込みかけたって話。

 

「一応聞いたけど」

 

「その時、天さんが私を買った奴にした事って聞いた?」

 

ああ、確かササン先輩は聞きたかったら話してあげるわって言ってたな。

 

「いや、聞いてない」

 

「……聞きたい?」

 

う~む、聞きたいか聞きたくないで聞かれれば、ちょっと聞きたい。でも、このナリヤとササン先輩の渋りよう……マズイ話なのかな?

 

「ちょっと、聞いてみたい」

 

「そ、じゃあ、話してあげる。気持ち悪くなる話だから、いつでもストップかけていいからね」

 

「お、おう」

 

え、何? そんなにやばい話なの!?

 

 

 

えっとね、イッセー君にとって、というか男にとって一番大事な場所ってどこ?

 

「そ、そりゃあ、アレだろ」

 

うんまあ、そうだよね。両手で隠さなくていいよ。別に狙ってるわけじゃないんだから。

それでね、天さんは私を買った男にこの世の地獄を見せるって言って厨房に連れて行ったんだって。

 

で、天さんがやった事なんだけど、その男の大事な部分をね。

 

「部分を……」

 

スパっと。

 

「スパっと!?」

 

そう、スパっと。根元からスパっと。で、次に、切った奴を油でカラッと。

 

「カラッと!? え、ちょっと待って! アレをカラッと揚げたの!?」

 

揚げたの。

 

「うわ、気持ち悪くなってきた……」

 

で、カラッと下のを上の口にズボっと入れるんじゃなくて、下の口にズボッと入れたの。

 

「もう、何があろうとつっこまないぞ」

 

長でグリグリと揚げたのを出し入れしてから、茶色い物体を付けた揚げ物を今度は上の口にズボッと突っ込んで無理矢理食べさしたらしい。

 

「……」

 

で、食べさせた後、今度は残った玉の方を下の口に二個とも突っ込んで逆さ釣りにして、下の口にホースを突っ込んで水を流したの。

 

もう、あれだよね。胃の中ぐちゃぐちゃだよね。いや、そもそも、切られた時点で意識なくなるよ。天さんは、何か意識だけをすぐ回復できるようにして常に意識を保たせてたみたいだけどね。

 

「ノーコメント」

 

下の口から水流したら上の口から出てくるわけで、それはもうすごかったらしいよ。まるで人間蛇口だったって。

 

それで終わりかと思ったら大間違いで、今度は指の関節を一つずつ外していったんだって。あ、外したのは、第一関節からだからね。

 

全部の関節を外し終わったら、切って骨を取り除いてカラッとまた揚げて下の口から突っ込んで、また水流して、それを二十回くり返してそれから……

 

「分かった。もういい! それ以上はいい! ごめんなさい! 俺が悪かったです! 許してください!」

 

……むう、やはり刺激が強かったか。まあ、聞きたくないなら話はしないよ。これで終わり。……ああ、それとね。実は私、これと同じ事を私を犯した奴らと父親にやったんだ。

 

「……え?」

 

そんなわけで、今日はおしまい。またね~!

 




次回、修行パートでもしかしたら、終わるかな?

感想、アドバイス、誤字、お待ちしております。


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第二十九話 修行終了

少し駆け足気味ですが、今回で修行パートは終わりです。
では、第二十九話をどうぞ。


「……はぁ、はぁ、当たらない」

 

「祐斗先輩でも追いつかないなんて……」

 

「小猫ちゃん、祐斗君。動きが遅いし鈍くなってきてるわよ」

 

イッセー君にナリヤの過去を話した後、私は木々が鬱蒼と茂っている山の中に来て二人を扱いていた。扱きの相手は小猫ちゃんと祐斗君。その二人に今、それぞれ足りない物を鍛え込んでいる最中。

 

祐斗君に足りない物は防御力。圧倒的な速度で相手を攪乱させ惑わし、攻撃を避けて尚且フェイントを入れて攻撃していくスタイル。でもこれじゃあ、もし相手が高威力かつ祐斗君より早く動いてきたら一発でアウト。だから、今は少しでもいいから、防御力を上げている。ついでに、速度も。

 

一方の小猫ちゃんは高威力かつ高防御力を持つ攻防一体型。しかし、速度と決定打に欠けている。これからの事を考えれば、イッセー君と祐斗君、そしてリアスが高威力のアタッカーになってしまい、小猫ちゃんの出番がなくなってしまう。そうならないよう、小猫ちゃんが隠している力を表に出させようとしているのだが、一向に出そうとしない。……まあ、これには深い理由があるから今回出せなくても仕方がないけど。

 

それは置いといて、今小猫ちゃんには自身が持っている攻防力を少しでも高めてもらう。出来れば、ライザーの女王(クイーン)であるボムクイーンの一撃には耐えてもらわないと。

 

「さあ、あと二日しかないのだから寝ている暇と休んでいる暇はないわよ。貴方達には少しでも強くなってもらわないといけないのだから」

 

私の愛刀である白銀の刀ハルフゥを片手で握って肩に担ぎ、もう片方の手に持っているカストルを、剣を地面に刺して片膝を着いている木場君の頭に向け引き金を絞る。

 

「ッ!」

 

咄嗟に横っ飛びで躱す祐斗君。しかし遅すぎる。

 

「ッァ!」

 

すぐさま祐斗君の後を追い、側頭部に蹴りを入れ、木にぶつける。木から落ちて蹲っている木場君から、小さな声が漏れるが、気にせずまた祐斗君の頭にカストルを当てて再び引き金を絞る。

 

今度は躱す気力がなかったのか、モロに私のカストルの弾丸を頭に当ててしまう祐斗君。あらら、気絶しちゃった。

 

「う~ん、私の軽い弾丸で総勢十七発。並の中級悪魔ならこれくらいは軽く耐えられるんだけど……まあ、最初にしては及第点かしら。もう少し耐えれるようにするのはまた追々ね。じゃあ、次小猫ちゃん。ラストスパート行くわよ」

 

「はい」

 

「気絶するまで耐えなさい。ブレイカー起動」

 

両手に持っていたカストルとハルフゥを片手で握り呟くと同時に閃光が辺りを包む。目が見えなくなる程の閃光。まるで閃光弾ね。

 

光がやみ、徐々に私が持っている物の形が鮮明に浮かび上がってくる。

 

「それは……」

 

「これがブレイカー。破壊するもの。ようは、ハンマーね」

 

そう。私が持っていたのはハンマー。色は白銀。ハンマーの殴る部分の大きさは直径三メートル程。見た目以外はごく普通のハンマー。ただし、これには二つ仕掛けがしてある。

 

「魔力をかなり喰うからあまり連発はできないけど……威力は絶大よ」

 

ブンッ! と音を出して片手でハンマーを担ぐ。大きさと色合いに目を奪われたのか、全身傷だらけでボロボロになっている小猫ちゃんは私を見て固まっている。

 

「見るのは後にしなさい」

 

「ッ! はい」

 

返事を聞くと共にハンマーを小猫ちゃんの真横に振るう。咄嗟に両腕をハンマーの方に向けて十字に組み、踏ん張る小猫ちゃん。そんじょそこからの相手ならそれで防げるでしょうが、私の一撃はその程度では防げないわよ。

 

「小猫ちゃん。限界を超えなさい」

 

ドグ! という鈍い音が聞こえる。それもそのはず。何故なら小猫ちゃんの両腕に当たったハンマーは小猫ちゃんの防御力を超えて、両腕をへし折ったのだから。

 

 

両腕をへし折られ、吹っ飛んでいった小猫ちゃんは木々を何本もへし折って飛んでいき、最後に岩に全身を打ち付けて地面に倒れてしまう。並大抵の悪魔ならこれで終わりなのだが、なんと小猫ちゃんは気合を入れて立ち上がろうとする。

 

「っぅぐ」

 

「……これに少しは耐えられたなら合格よ。だから、少し休みなさい。あとは、コテージに連れて行ってあげるから」

 

「……」

 

ハンマーを逆さまにして地面に着け、両腕をハンマーの持ち手の頂点に置いて言う。すると、小猫ちゃんが無言のまま正面に倒れこむように崩れてしまう。

 

「よっと。流石に虐めすぎたかしらね。……でも、これくらいしないと、これからの戦いでは勝てないわよ」

 

倒れる小猫ちゃんの体を受け止め、ゆっくりと抱きかかえる。

 

「メルト、そこにいるのでしょう?」

 

「いまっすよ」

 

気絶している祐斗君の近くにある木の上からメルトが飛び降りてくる。この娘、さっきからずっと私達の事を見てたのよね。祐斗君と小猫ちゃんは気づいてないだろうけど。

 

「祐斗君を頼んでいいかしら? あと、コテージの方に着いたらこれとこれ塗って。あ、その前にちゃんと体は拭いてあげてね」

 

「了解っす。小猫ちゃんの方は?」

 

「こっちでやるわ。小猫ちゃんは祐斗君より傷が深いから」

 

「わかったっす」

 

祐斗君を背負い、私から瓶入りの粉状の薬を二三個貰ったメルトはその場で跳び、木々の上を渡ってコテージの方に向かっていく。

 

メルトの姿を見送った私は、抱きかかえている小猫ちゃんのバキバキに折れた腕を見ながらお腹の部分を触る。

 

「内臓は破裂していない。なら、私特製の薬で治るわね」

 

腰から四個程粉の入った瓶を取り出し、空中に魔法陣を作り出し小さな水の球体を四つ作る。そして、その一個一個にさっき取りだした粉を入れていく。

 

「聞こえてないかもしれないけど、ゆっくりと飲んで頂戴」

 

四つの薬入りの水の球体を小猫ちゃんの口元に近づけ、ゆっくりと流し込んでいく。うん、つまらないように飲めている。これで全部飲めば……よし、これで、一時間もすれば、バキバキに折れた骨は自然とくっついていくはず。

 

あとは、汚れちゃった体とかを綺麗にしないとね。女の子なんだから、こんな泥だらけの姿じゃ可愛そうよね。

 

「よいしょっと、それじゃあ帰りましょうか」

 

小猫ちゃんを抱っこから背中に背負うのに変えて、コテージに向かって歩き出す。

 

 

 

「はぁぁぁあああああ!!」

 

コテージに向かって歩き出していると、どこからか物凄く気合の入った、それもこの修行中一回も聞いた事がないくらい気合が入った声が聞こえてきた。この声って……イッセー君?

 

本当なら急いでコテージに行かなきゃいけないんだけど、ここは気になったので見に行ってみよう。

 

そんな訳でイッセー君の声のしたとこに着いたのだけど……

 

「何やってるの、イッセー君?」

 

「うお!? ササン先輩いつからそこに!」

 

「キャッ! ササンさん!?」

 

そこにいたのは、涙を流しながらアーシアちゃんの下着らしき物を握りしめてるイッセー君と、所々服が破り捨てられて涙目を浮かべているアーシアちゃんが。

 

「……ああ、なる程。そういう事ね」

 

「へ?」

 

「情事に及ぼうとしていたのね。ごめんなさい、空気を読まないお姉さんで。まさか、こんな人気のない所にアーシアを呼び出して、嫌がるアーシアちゃんの服を無理矢理引っペがした上に涙目のアーシアちゃんを犯そうとするなんて、さすがよ。これはもう、リアスに言うしかないわね」

 

まさか、こんな事をしてるなんてね。

 

「ちょ、ちょっと待ってください! ササン先輩! それは違い……」

 

慌てた様子で首を横に何度も振るが、私は無視して話を続ける。

 

「いいのよ否定しなくて。……そうね。私がアドバイスできるのは、お互い悔いの残らないようにヤルことね。特に、アーシアちゃんは教会育ちの箱入り娘なのだから、丁寧にヤってあげるのよ。……それとも、やっぱり泣いてるアーシアちゃんを無理矢理犯すのが好みかしらね。お姉さん、感心しないわよ」

 

「違……」

 

じりじりと迫り寄ってくるイッセー君から徐々に距離を取る。まあ、大方のことは理解してるつもりよ。でもね、こんなに弄りがいがあるのに、弄らないなんて選択しないでしょう。

 

「じゃあね。お姉さん、これ以上いたらご迷惑だと思うから。精々泣かせないように」

 

イッセー君に片手を上げて、即座に走ってコテージに向かう。これ以上邪魔したら、魔術の練習に支障をきたすだろうからね。

 

 

 

「よっこいしょっと。ふ~疲れた」

 

コテージに着き、小猫ちゃんの部屋に入ってベットの上に小猫ちゃんを寝かせた私はベットの近くにあった椅子に座って一息。

 

「夕飯まで一時間以上あるから、夕飯までには目を覚ますはね。それじゃあ次は、体の方を拭かないと」

 

大浴場に桶はあったかしら? あとタオル。ここのコテージってリアスの家の所有物だからどこに何があるのか分からないのよね。

 

 

 

「あら? リアス、どうしたの?」

 

大浴場から桶を、自室からタオルを持って小猫ちゃんの寝ている部屋に戻ってきてみたら、リアスがさっき私が座っていた椅子に座って小猫ちゃんの寝顔を見ていた。

 

「ササン……」

 

悲しそうな顔で小猫ちゃんの頭を撫でたリアスはゆっくりと話し始める。

 

「私は一体、何をしているのかしらね?」

 

「何をしているって、どういうことよ」

 

珍しいわね。こんな風に弱気になっているリアスってのは。十数年一緒にいるけど、滅多に見ないわよ。

 

「身勝手な私の都合で、可愛い眷属達を苦しませている。私が大人しくライザーと結婚していたら、皆は苦しまなくていいのに。この子達を巻き込まず、私一人で解決したらよかったんじゃないかな……」

 

自虐的に微笑むと、リアスは窓の外を見る。

 

「ようはね。私の我儘に無理矢理付き合わせてるんじゃないかなって思って不安なのよ、私は」

 

なるほどね。自分の都合で振り回している下僕達に申し訳ないと。でも、そう思う必要はないと思うのだけれど。少なくとも一人、喜んで戦ってくれる子がいるのだから。

 

リアスとは反対の、小猫ちゃんの眠っているベットの空いてる所に座り、私はリアスに体を向けずに肩ごしに三つ指を立てた。

 

「そうね……リアス。私から三つアドバイスしてあげるわ」

 

「何?」

 

「まず一つ目。貴方は不安がることはない。……貴方はライザーとの結婚が嫌なんでしょう?」

 

「ええ」

 

「なら、いいじゃない。眷属達が迷惑だと思っていようがいまいが、眷属にとっては主の願いが最優先。それは鉄則よ」

 

そう。それが鉄則。これを守れないよう奴は、主を殺してとっととはぐれになっているか、そもそも眷属になぞなってはいない。

 

「ならば、貴方のやった事は正しい。嫌な事は嫌だと言えるだけまだいい方じゃない。世の上級悪魔には、有無を言わさず強制的に結婚してるのなんかいっぱいいるのだから」

 

どれだけいるだろうか。この上級悪魔が少なくなった世の中で自身の最愛の人を見つけて結婚できた人は。

 

「そして二つ目。遅かれ早かれ、貴方達は結局傷つき、修行をしなければなくなるわ」

 

「……どういうこと?」

 

「貴方の最終目標は昔と変わらなければ、レーティングゲームの王者。つまり一位ね。だったら、修行しなくてどうするの。相手の眷属は貴方達より何倍も強いわよ。……それに」

 

「それに?」

 

「貴方は、龍……ドラゴンを眷属にしてしまった。まあ、イッセー君の事なんだけど。それはいいとして。……ドラゴンはいわば力の象徴よ。強い奴が寄ってくるの。それも、貴方達から見ても化物のように感じる強大な敵がね」

 

「……そう。そうよね。結局は強くならなきゃいけない。これ程の修行では足りない修行を。血反吐を吐いても足りないほどに」

 

「ええ。そうでなくてはならないの。それが、ドラゴンを仲間にした宿命よ」

 

もっと、もっと強くなってもらはなければならない。神をも殺せる存在に。でなければ、イッセー君に小猫ちゃん。アーシアちゃんにリアス。朱乃に木場君はいずれ死ぬ。殺される。私達のサポートがあるとは言え、いつでも守れるわけではないのだから。

 

「最後に三つ目。リアス、貴方って自分がどんな人物だと思う?」

 

「どんなって……成績優秀スポーツ万能の才色兼備なお姉様」

 

……思わず頭に手を当ててしまいたくなる。ここまで自惚れられるなんて思ってもいなかったわ。

 

「はぁ。あのね、リアス。それはあくまで人間から見た貴方よ」

 

「じゃあ、ササンは私の事どんな人物だと思うのよ」

 

「馬鹿」

 

「は?」

 

「馬鹿よ馬鹿。大馬鹿よ。チェスでは私に勝てない。精々勝ってるのは胸くらいね」

 

それ以外言い様がないほどの馬鹿である。考えてはいるけども、一歩足りない馬鹿である。よく言って、どこか一歩抜けている年上のお姉さんくらいよ。

 

「ちょ、ちょっとササン! 急に何よ馬鹿って! もう少し言いようがあるでしょう!」

 

私の背中に向かって叫んでるのだろうけど、気にはしない。どうでもいい。

 

「ないわよ馬鹿。人に自分をどう思っているのかさりげなく聞けないような悪魔は馬鹿意外ないわよ。しかも、自分の下僕相手に」

 

「ササン……」

 

「だからね、リアス。不安だったら聞きなさい。自身が信じている下僕達に。これが私からの最後のアドバイスよ。……それに、どうやら少なくとも二人は進んで貴方のために戦ってくれるみたいだし」

 

ベットから立ち上がり、扉の前に立った私は、振り返らずに一言。

 

「ね? 小猫ちゃん」

 

「……リアス部長」

 

「小猫! 目が覚めたのね!」

 

「はい。ササン先輩のアドバイス三つ目が始まった時くらいに……」

 

ここから先、私はいる必要はないわね。頑張るのよ。リアス。

 

 

 

そして、リアスと別れた翌日。本日をもって対ライザーの修業は終了となる。本当なら後一日修業できるのだが、残りの一日は明後日の試合に備えてお休みらしい。

 

「ふあ~あ」

 

緑色のふわふわパジャマを着ながら、コテージの廊下にある窓から見える朝日を拝む。昨日、リアスはちゃんと自分の心の内を開けられたかしらねえ。……まあ、出来ていなければ嘲笑ってやるけど。

 

「おはよう、ササン」

 

「ん、おはよう。……ふ~ん、どうやら、スッキリしたみたいね」

 

朝の挨拶をされた方を見てみれば、そこには昨日のうじうじしたリアスはおらず、いつも通りの凛としたリアスが立っていた。……パジャマ姿だけど。

 

私の言葉に対して軽く自嘲気味にリアスは笑うと、ゆっくりと窓枠に腕を置く。

 

「ええ、スッキリしたわ。……ササンと別れた後ね、私の眷属を集めて聞いてみたの。私の身勝手な理由が原因で行われる今回の戦いに嫌々参加してない? ってね」

 

くつくつと楽しそうにリアスは笑うと、目を細める。

 

「そしたら、朱乃がね。笑顔で近寄って来て思いっきり頬にビンタしてきたわ」

 

わお、流石リアスの親友の朱乃だこと。

 

「どうしてかしら?」

 

朱乃の意図を理解している私はニタニタと笑いながらリアスに聞くと、リアスは昨日ビンタされたらしき場所を摩りながら言ってくる。

 

「リアス、何を馬鹿な事を言っているのですか? 嫌々やっている? ふざけた事を抜かさないで! リアスの為に嫌々やっているのっだったら、元から貴方の眷属なんかにはならないし、今回の戦いに参加なんかしないわよ! ……ってね」

 

「ふふ、朱乃ったら、途中から素が出てるじゃない。……でもそれって、素に戻るくらいリアスに怒ってたって事よね」

 

「ええ、そうね。……朱乃にビンタされた後、私の可愛い下僕達は次に次に言ってくれたわ。『……嫌々やってないです』『僕は騎士(ナイト)ですよ、主の為に忠誠を尽くしている身、嫌々でなんかやりません』『部長さんの為なら頑張らせていただきます!』そして、『俺は部長の為ならどこまでも頑張れます! そんな部長の、それも結婚が決まる戦いなのに、嫌々でなんかやりません!』」

 

「……ふふ、あははは!」

 

「な、何笑ってるのよ!」

 

面白い。やっぱり、リアスの眷属も主を一番に思っているじゃない。それなのに、リアスったら鈍感なんだから。

 

「ごめんなさい。……良かったわね、リアス。貴方は皆から信頼されてるじゃない。これで、何も不安に思う事は無いわね」

 

なら、良かった。これでウジウジ悩んだままだったらライザーになんか勝てないからね。

 

「じゃあ、リアス、悩みも解決した事だしそろそろ朝食と行きましょう。今日は修業の最終日。全員どれだけレベルアップしたか見るんでしょう?」

 

「ええ、そうね。朱乃やアーシアはいいとして、イッセーがどれだけレベルアップしたか見ないと」

 

リアスと一緒に並び食堂へと向かう。さ~て、皆どれほどレベルアップしたかな?

 

 

 

「まあ、妥協点くらいかしら」

 

朝食を食べ終え、コテージ前へと全員で集合し、今回の修業でどれだけ皆がレベルアップしたかを見ることとなった。

 

結果として、皆いい感じに仕上がっていた。木場君は持ち前のスピードを少しながらも上げる事に成功し、小猫ちゃんもボムクイーン並みの攻撃に二三発は耐えれる程になっている。

 

そして、一番伸びたのはイッセー君。彼は戦いという物を全く経験した事は無かったのだが、ここ数日の修業が功をなしたのか、相手の攻撃から避ける事位は出来るようになった。

 

避けるだけなら戦いに居ても居なくてもさほど問題は無い。だが、イッセー君は違う。イッセー君の神器(セイクリッド・ギア)、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)

十秒毎に自信の力を倍にしていく神器(セイクリッド・ギア)。ま、簡単に言えば、イッセー君は逃げれば逃げるだけ強くなっていく。倍化の重ね掛けは十回が最高だけど、十分。ゴミ程しかなかったイッセー君の魔力でも、山の上半分を吹き飛ばす事が出来るレーザーのような物を撃ち出せるのだから。

 

「アレ、俺がやったんすか?」

 

山半分を吹き飛ばしたイッセー君は呆然としている。無理もないわね。修業前はこんなこと出来なかったんだから。

 

「そうっすよ。イッセー君自身がこれをやったんす」

 

「よかったね、イッセー君! これで、イッセー君は役立たずじゃなくなったよ! むしろ、私との修業で役立たずのままだたったら……ね?」

 

「ッ!? ナリヤ師匠! すみません!」

 

何やらナリヤとイッセー君の間で上下関係が出来ているが、気にしないでおこう。

 

「リアス、ちょっといいかしら?」

 

「何、ササン?」

 

一通り、皆のレベルアップを見た私はリアスの肩を叩いて耳を貸すように指でクイクイっと自分の方に向けて曲げる。

 

「最後の締めに入りたいんだけど、いい?」

 

「いいわよ。ありがとうね。修業に付き合って貰っちゃって」

 

「別に問題ないわよ。私も楽しかったし……それじゃあ」

 

リアスとの会話をやめ、全員私を見るように両手を合わせてパンっと鳴らす。

 

「リアスの眷属の皆よく聞いて。まず、この九日間の修業お疲れ様。皆それぞれ修業前とは段違いに強くなってるわ。……さて、修業は終わったけど、皆の目的は修業で強くなって終わりではないわよ。皆の目的は修業で強くなってライザー及びライザーの眷属を叩き潰すことよ」

 

皆の顔が一斉に引き締まる。ん~いい表情。

 

「皆強くなったとは言え、戦闘経験で言えば相手の方が上よ。戦術、戦い方は相手が上だと思って。力では負けてないと思うけどね。……でもね、一番厄介なのは、ライザーよ」

 

ライザー・フェニックス。彼が、今回のレーティングゲームで最も攻略が難しいだろう。不死とか何をやっても倒せないとか、物理的な事ではない。心の事だ。

 

「ライザーは、私達との戦いで覚悟を決めている。絶対に負けないという覚悟をね。これを崩すには圧倒的な力でねじ伏せるか、ライザー以上の覚悟を持って戦いに挑まなければならないわ。……貴方達に、ライザー以上の覚悟があるかしら」

 

「「「「あります」」」」

 

即答。別に前もって言っていた訳ではないのだけど、皆声を揃えて答えてくれた。

 

「そう……その言葉が嘘じゃないと信じるわ。頑張りなさい、皆」

 

これにて、九日間の修業は終わった。後は明後日の試合のみ。勝てる勝てないは今の所分からないけど、善戦はするでしょう。いざとなったら、私達が結婚式を滅茶苦茶にしてやればいいし。汚名を被るのは慣れている。

 

「……そういえば、銀華はちゃんと契約を結べたかしら?」

 




次回、一話挟んだ後ライザー戦です。

感想、アドバイス、誤字、お待ちしております。


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第三十話 双子の妹

今回は修行しているリアス達の裏で銀華達が何をしていたかです。
では、第三十話をどうぞ。


「銀華、今日の放課後部室に来てくれ」

 

ササンとナリヤ、それにメルトがリアスの修業に行ってしまってから二日後位。私は平穏凡々な生活をだらだらと過ごしていると、朝礼を終えた雨天さん、もとい、天さんが珍しく廊下で話しかけてきた。

 

話しかけられたといってますが、別に学校で一回も話しかけられないってわけではないですよ?

 

普段一緒に暮しているので話すことは家で話してしまいますから、学校で話す事はないんですよ。ちなみに、一緒に住んでいるのは私に澪、それに天さんです。

 

「分かりました。放課後ですね」

 

「ああ、それと……」

 

スッと音もなく私の横に移動してきた天さんは私に四つ折りに折った紙を手渡すと、そのまま歩いて行ってしまった。

 

「何でしょうか」

 

渡された紙を開き見てみると、そこには……

 

『戦闘になる可能性がある。準備万端でくるように』

 

とだけ書いてあった。

 

「戦闘……一体何をするのでしょうか?」

 

「どうしたの?」

 

「ああ、澪」

 

廊下で立ちながら渡された紙を読んでいると、私の肩越しから澪が話しかけてきた。どうやら、アーシアちゃんがいないため、暇なんでしょう。お友達がいないのかな?

 

「ふ~ん、何があるのかしらね。ねえ、銀華。これ、私も行っていいかしらね?」

 

 

「いいんじゃない? 別に天さんは私一人で来いとは言ってなかったですしね」

 

「じゃあ、放課後一緒に行きましょう。今日、アーシアちゃんがいないから暇なのよ」

 

「いいですよ」

 

さて、何があるんでしょうか。面白いことであればいいんですけど。

 

 

 

「使い魔ですか?」

 

「そうだ」

 

放課後、部室に来た私は天さんの言葉に首を傾げてしまった。

 

使い魔ってアレですよね? リアスが持っているコウモリのあの子とか小猫ちゃんが飼っている白猫みたいな、いわば相棒みたいな存在の子ですよね。

 

「でも、なんで今日なの? 使い魔なんていつでも大丈夫じゃない?」

 

「そうだな。使い魔はいつでも大丈夫だ」

 

「では、何故今日なのですか?」

 

「丁度いいからだ。ササンはいない、リアスもいない。やる事がないのだから、暇な今の内に使い魔を捕まえておいた方がいいだろう」

 

ふむ、それもそうですね。やる事ないですし。使い魔を捕まえれれば、なんか色々と楽しめそうですし。

 

「そうですね、お願いします、天さん」

 

「よし、では行くぞ」

 

天さんが円を描くように指を振ると、私達の足元にササンの家の魔法陣が展開され光に包まれる。

 

さてさて、どんな使い魔が仲間になるんでしょうか。楽しみです。

 

 

 

「ここだ」

 

光が止み、辺りを見渡してみればそこは森の中。人間界のどこかにでも飛んで来たのかと思ったが、空が紫色なので人間界ではない。冥界のどこかなんでしょう。

 

「天さん、どこら辺に使い魔がいるのでしょうか?」

 

何かいる気配は感じない。結構広範囲で気配を探ってみましたが、どこにも生物らしき気配を感じない。

 

天さんは何やら小声で呟くと、森の奥の方を睨んだ。

 

「……向こう側だ」

 

「向こう側ですか?」

 

天さんの睨んだ方向に気配を巡らしてみても何も感じない。向こう側には何もいないと思うんですけど。……まあ、天さんが言うのであれば、何かしらいるのでしょう。

 

ゆっくりと歩き出した天さんの後を追うように、私と澪は歩き出す。

 

「ねえ、銀華。あっちの方向、私の感覚では何もいないのだけれど」

 

歩いていると、隣で歩いていた澪が耳元で聞いてくる。

 

「私もですよ。一応念密に気配を巡らしてみましたが、何も感じませんでした」

 

私の持つ霊的な瞳(アウラー・オブ・ヴィジョンアイ)からは基本的に隠れる事が出来ません。何故なら霊的な瞳(アウラー・オブ・ヴィジョンアイ)で見るのは体ではなく、その体に流れている気だからです。

 

普通の人なら気を隠すなんて事は出来ません。仙術、或いは気を操る事に特筆しているのであれば別ですが。

 

つまり、言ってしまえば、天さんが指さした方向には気を操ることに長け、尚且つ物理的にも隠れる事が得意な種族がいると言う事です。

 

強敵ですよ。見ることが出来ないまま気を纏わせた何かで攻撃してくる。簡単に言えば、見えないまま相手を常に一撃必殺の威力で攻撃できるってことです。

 

「……っと」

 

澪と話しながら数分程歩いていると、先行して歩いていた天さんが横に腕を伸ばして止まるように指示する。

 

どうやら、この先に私の使い魔候補がいると言う事ですね。

 

ジッと止まって天さんの視線の方向を見る。視線の先は暗闇があるだけ。

 

「来るぞ、銀華前に」

 

天さん言葉に対して身構えながら前に出ると同時に、視線の先にある暗闇が徐々に集まっていく。

 

「あれは……」

 

暗闇が集まりきると、人の形へと変わった。見知った人の形。そう、私自身という見知った人物に。

 

私と同じ銀色の髪、服装、そして身長。どれもが同じ。ただ、瞳の色だけは違うけども。

 

「天さん、彼女の能力、種族を教えてください」

 

「アレは使い魔の中でも最高ランクの種族であるドッペルゲンガー。能力は相手となる人物の全てをコピーする能力。仲間にする条件としてアイツを打倒しなければならない。ついでに言うが、能力故にアイツを使い魔にしたのは片手の指程しかいない……この意味がわかるだろ」

 

成程。つまり、彼女を仲間にするには、私自信を打倒しなければならないわけですか。そうですかそうですか。全く……不可能だというのに。

 

「天さん、彼女なら、私にピッタリだという訳ですね」

 

「ああそうだ。アイツならば、相棒として申し分ないだろう」

 

「了解です。では、行ってきます」

 

彼女をボコそうと歩き出すと、急に腕を掴まれた。掴まれた腕を見た後、掴んでいる人物を見る。

 

「澪、どうしましたか?」

 

「貴方、天の言った意味が分かる? あの子は貴方自身を全てコピーしているのよ。勝てるわけがないじゃない」

 

そんな事、言われずとも承知ですよ。勝てるわけがない。

 

「そうですね、勝てるはずがない」

 

「分かっているのなら……」

 

澪の言葉が終わるのを待たずに、私は澪の掴んでいる腕を音もなく外す。流れるように腕を離された澪は驚いた表情を浮かべるが、私は気にせず彼女に向かって歩き出す。

 

「だから、勝てるはずがないのですよ。彼女が私にね」

 

ゆっくり歩き、彼女から数歩離れた場所に立つ。

 

「私は……誰?」

 

誰とはどういう意味でしょうか? 彼女はドッペルゲンガー……って、そう言う事ですか。

 

ドッペルゲンガー。文献ではドッペルゲンガーは己という者を持たない。どこにでもいて、どこにもいない。確定した存在ではないのだ。

 

だから、彼女は自分が誰なのか分からない。……ならば、彼女に確固たる己という者を与えてあげましょうか。

 

「その答えは私が教えてあげます。来なさい、ドッペルゲンガー。確固たる己を貴方に教えてあげる」

 

瞬間、世界が変わる。私は霊的な瞳(アウラー・オブ・ヴィジョンアイ)を発動させ、彼女は私に向かって突っ込んでくる。

 

左の拳が顔面に向かって飛んでくる。そこいらの中級悪魔ならば即死級の拳を私は真正面から右手で受け止め、彼女の腹に向かって全力の前蹴りを叩きこむ。

 

彼女も私同様受け止めようと右手で私の足を受け止める。だが、私の蹴りの勢いは止まらず彼女を後ろにふっとばす。

 

「カハッ!?」

 

背後にあった木にぶつかり、口から血反吐を吐いた彼女を私は真っ直ぐ見つめる。

 

訳が分からないといった表情をしていますね。ま、それはそうでしょう。基本性能が同じ相手に圧倒されているのだから。

 

「ほら、私と同じ性能ならまだまだ来れるでしょう」

 

睨みつけながら挑発すると、彼女は何も言わずに今度もまた真っ直ぐと突っ込でくると再び私の顔面に向かって拳を振るってきた。

 

さっきと同じく私は彼女の拳を受け止めようとする。が、彼女は私の手に触れる前にしゃがむと、私の両足を横に回転しながら払ってくる。

 

「流石」

 

両足を払われた私は空中に浮いてしまう。そこに、空中で身動きが取れない私に、彼女は回転したままの勢いを殺さずにバク転し、オーバーヘッドキックのような技を私の頭に向かって放ってくる。

 

「ですが、私には程遠い」

 

オーバーヘッドキックを後頭部にワザと受けた私は、食らった勢いのまま今度は彼女のがら空きの後頭部に踵を叩きこむ。

 

思いっきり彼女の後頭部へと入り、彼女は前へ倒れこむ。しかし、私は大人しく倒れさせてあげるほど優しくはない。

 

倒れこむ彼女の首を後ろから掴み持ち上げ、肩の上で足と首を持ちアルゼンチンバックブリーカーを力だけで決める。技術なんてもんはない。

 

「ッ! ッ!」

 

ガッツリと決まり、彼女の背骨がミシミシとなる。流石に痛いのかジタバタと暴れるが、外してあげない。

 

「ほーら、背骨が折れますよ」

 

ゆさゆさと上下に揺さぶってやる。おお、痛い。昔、天さんに訓練と称してプロレス技を体に叩き込まれましたが、いや~あの時やられたこの技は痛かったですね。

 

しばらくの間ゆさゆと動かしていたら、諦めたのか彼女はタップして参ったをしてきた。これは、勝ちに入るのでしょうか。まあ、完全に折ると可愛そうなので離してあげましょうか。

 

ゆっくりとうつ伏せに寝かせるように降ろしてあげると、彼女は涙目で腰を摩りながら私を見てきた。

 

「私は……誰?」

 

首を小さく傾けて涙目で聞いてくる彼女に多少ムラっとした私は正常なはず。自分自身とはいえ、私、可愛すぎでしょう。

 

「一つ教えて、貴方は私に着いてきますか?」

 

「……貴方が私に答えをくれるのなら」

 

「ならば、教えてあげましょう。貴方は鏡華(きょうか)。五月雨鏡華。私の双子の妹ですよ」

 

「鏡……華……」

 

手を差し出すと、彼女……鏡華は私の手をゆっくりと握り返した。

 

「そう、貴方は鏡華。私の妹と言う唯一無二の存在である五月雨鏡華ですよ」

 

握り返された手をゆっくりと引いておんぶし、彼女の腰に気を流して直してあげる。

 

「鏡華。妹……鏡華……よろしく、主」

 

「主じゃないですよ」

 

新しく出来た可愛い妹を背負いながら、私は言う。

 

「私の事はお姉ちゃんって呼びなさい」

 

「……うん、わかった。お姉ちゃん」

 

ああ、可愛い! 私、お姉ちゃんっていうのに一度憧れてたんですよね。澪? あれは妹ってよりも年上の友達ですからノーカンです。

 

「では、帰りましょう、鏡華。貴方の新しいお家に」

 

「うん、お姉ちゃん」

 

 

 

「ねえ、天。どうして彼女は勝てたのかしら?」

 

銀華と彼女……鏡華ちゃんだったかしら? の戦いを見終えた私は、隣に立っている天に話しかける。

 

銀華、そして天は最初から勝てると決め込んでいた。同じ性能と言う普通なら引き分けにしかならないはずである相手にたいしてだ。

 

「……澪、魂という物を知っているな」

 

「ええ、勿論。これでも昔は天使だったのよ。知らないはずないでしょう」

 

魂とは簡単に言えば体という物には入っていて、脳とはまた別の精神と言った物であり、体を操っている超高密度のエネルギーだ。

 

天は、私の回答を聞くと目を瞑る。

 

「魂とは超高密度のエネルギー。一つの体に一つが限界だ。神器(セイクリッド・ギア)に封印されている魂なんかは別だがな」

 

「それがどうしたの? 彼女の中に誰か別の魂が入っているとでもいうの? それのおかげで彼女は勝てたと?」

 

ドッペルゲンガーは本人の全てしかコピー出来ない。もし、本人以外の魂があるならば、その分銀華にアドバンテージがある。

 

私の言葉を聞くと、天は頷く。

 

「そう言う事だ。銀華の体の中には魂が入っている。だから、俺と銀華は最初から勝利を確信していたんだ」

 

「成程ね。……それで、銀華の中には一体何の魂が入っているのかしら?」

 

「人間の魂が大よそ、五百二十七万六千七百九十二人分入っている」

 

「は?」

 

今なんて言った? 万? 万ですって? 

 

「ふざけないで頂戴」

 

「ふざけてなどいない」

 

天の顔は嘘を言ってはいない。

 

「そんな……馬鹿な……」

 

ありえない。ありえてはならない。

 

魂は超高密度のエネルギー。確かに魂の数を多く集まれば強くなれる。だが、それはあくまで理論上であり、理想である。

 

考えてみてほしい。自分の中に、常に別の誰かがいて、何かを話しているという状況を。しかも、二十四時間ずっと毎日だ。

 

楽しいかもしれない。でも、寝る時も遊んでいる時も話している時も、何時も自分の中で誰かが喋っていたら? それが万を超えた数ならば? 精神なんてもんはたやすく壊れてしまう。

 

「最初は俺も心配はした。だが、銀華はさも当然のように他の魂を食った。そして、驚いた事に、食われた魂は何一つ文句なく銀華に従っているらしい」

 

「……」

 

言葉を失ってしまった。従えるなんて、そんな事十七や十八の少女に出来る事ではない。とんでもないカリスマがあれば別だが……

 

天から視線を外し、銀華の方を見る。そこには、ニコニコと笑いながら、新しく出来た双子の妹を背負って歩いているいつもの銀華がいた。

 

……貴方は一体何者なの……銀華。

 




今回は双子の妹事鏡華ちゃんが誕生しました。やったね銀華ちゃん!
この妹の鏡華ちゃんも次話から徐々にパワーインフレを起こしていきます。レーティングゲームには参加しませんがね。

感想、アドバイス、誤字、お待ちしております。


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