妹が悪の組織を作って俺をそのトップにしてきました。どうしよう? (百燈 結人)
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本編
兄視点


「…計画は以上です。

近隣の制圧率は70%、もう少し制圧圏を広げてから侵攻するつもりでしたが作って貰った重力発生装置を使えば確実に相手の本拠地を攻め落とすことが出来るので、予定を変更して本陣を奇襲することで奴らを再起不能なまでに叩きのめすことにしました。」

「うん。いいんじゃないか?」

「はい。なので次の戦いが実質敵な最終決戦になるかと。」

「戦いを長引かせるよりかは早めに終わらせた方がいいからね。」

 

私は世界征服を企む組織のリーダー、いわゆる首領だ。

今日も私の優秀な部下である副首領が侵略の進展を伝えてくれる。

どうやら順調のようだ。

 

「すでに他の皆には配置についてもらっています。

 私もすぐに向かうのですが…あの、いつものお願いできますか?」

「あぁ、気をつけていってらっしゃい。」

「~~!はい!がんばります。」

 

部下を労ることも組織のトップとしての大事な仕事だ。

戦場に向かう勇敢な者には激励を送ることも忘れない。

 

「じゃあ、行ってきます。夕方までには帰るよ。()()()()()。」

「あぁ…本当に気をつけるんだぞ。」

 

 

 

 

「…行ったか。」

妹が俺の部屋から出て行ったのを確認して息を吐く。

 

 

「あー、どうしよ。本当になんでこうなっちゃったかな。」

この俺、明野(あくの) (りょう)は悪の首領である。

しかし、なりたくてなった訳ではない。

いや、小さい頃はなりたかったよ?悪ってなんとなくかっこいいからね?

まぁ子供の頃の話だし、真剣になりたかった訳でも無い。

将来の夢はあさりになりたいとかそういう妄言の類いだ。

ならなぜなってしまったのかと言われると…

妹である福がある日突然、組織を作りたいと言い出したのだ。

そして、俺にリーダーをして欲しいとねだられたのだ。

妹に甘い俺である。頼まれたら断れない。そうして俺は悪の首領となった。

 

いや…ね?妹のせいみたいに言ってるけど、全部俺が撒いた種のようなものなのよ。

実際、心当たりしかないしね。

 

これは、そう。十年以上前、俺が12才で妹が5才の時の話だ。

 

妹は現代医学では治すことが出来ない不治の病に侵されていた。

この病は妹の体を蝕み、あと1年生きられるかどうかも分からないほどだった。

どれだけ金を積もうとも治せない病ということで親も諦めかけていた。

 

しかし俺は諦めなかった。当時小学生ながら俺は天才だった。

妹の病気が治らないと聞いた瞬間から妹を助ける為の研究を始めたというのに簡単に治してしまったのだ。

 

これには親も大喜び。俺を褒めちぎった。

しかし、当の俺は満足していなかった。

 

妹の病を治す事は出来た。ただ、これから先の未来で妹がまた命の危機に晒されるかもしれないと考えてしまうと不安になった。

 

可愛い妹の辛い姿などもう二度と見たくない俺は決断した。

 

そうだ。妹を超強化人間にしてしまおうと。

 

俺は天才だったから実行することも可能だった。

当然親にも相談したが二つ返事で許可が出た。俺が言うのもなんだが親も大概だな。

 

誰にも力負けしない(パワー)

どれだけ運動しても疲れない体力(スタミナ)

どんな時にもくじけない精神(メンタル)

どんなことも忘れない(ブレイン)

あ、容姿については弄らない。だって既に完璧だから。

いつでも改造できる準備は整った。

 

ここからが問題だ。いや、妹に問題があった訳じゃ無い。俺の問題だ。

中二病をこじらせていたのだろう。普通に妹に改造すると言えばいいのに俺は何故か悪の大総統になりきって宣言してしまった。

 

「ふははは!妹よ!これからお前は我が組織の改造人間として生まれ変わるのだ!

さぁ、共によりよい世界にするために励もうではないか!」

 

…ってね?うん。今考えるとすごい恥ずかしい。

妹はこれ聞いて目を輝かせて頷いちゃうし。

 

そうしてまぁ、なんやかんやあって妹の改造は上手くいった。

ついでに妹に行った改造を俺にも施した。おそろだ。

 

さらに、まだ不安だった俺は妹の護身用に武器を作った。

まぁ、武器なんて使わなくても妹の体に傷をつけることは不可能に近いのだがもしものためだ。

使い方を説明するために武器を1つ作る度に見せていたら、その都度最大限褒めてくれるのが嬉しすぎて俺は調子に乗って作りすぎてしまった。

現在倉庫に5000個ぐらい収納されている。

ちなみに全て被殺傷である。

 

 

そうやって世界征服をするつもりで活動していたのだが、年月が過ぎるにつれ熱が冷めてしまった。

実際、世界制服した後に何かしたかった訳でもないし、当然だろう。

 

今は家の地下に作り上げた研究所内で研究しているだけで満足だ。

研究所が充実しすぎてここ2年ほど1歩も外に出ていないぐらいだ。

 

しかし、まぁ。分かるだろう。俺が冷めただけだったのだ。

妹はむしろ世界征服に積極的に動きだしたのだ。

 

そう、今も忘れられないあの日。春のことだ。

妹が突然俺の部屋の扉を開けて、こう言ったのだ。

「お兄ちゃん!洗脳装置を作って!」

 

…うん。びっくりしたよね。

前日までは高校に新入生がいっぱい入ってくるから楽しみみたいな日常会話しかしてなかったから特にびっくりした。

 

あれかな?時が来た的な奴かな?

それとも高校に入ってきた新入生の男に一目惚れでもしたのかとか思ったよ。

お兄ちゃんは許しませんよ。

 

けど、可愛い妹の頼みだ。特に理由も聞かず作ったけどね。

洗脳装置事態は簡単に作れる。というか基盤はすでにあった。

俺と同程度の科学者とかが現われて妹を洗脳しようとかしてくる可能性も考えたりしたからどんな洗脳も耐えられるように耐性をつける改造をしたからな。それを応用すればすぐ作れる。

お手軽かつ他の人に怪しまれないように不可視のビームが出る仕様にした。

 

でもまぁ制御装置的なのはつけた。

妹に尽くしたいとか、相手が心から洗脳されたいとか願わない限り洗脳されないように設定しておいた。

 

これで洗脳が成功することはないだろう。俺は妹を犯罪者にはしたくない。

なに、これで洗脳されるような奴は洗脳装置など使われなくても既に妹に籠絡されているようなものだ。なら問題ないだろう。

 

妹には装置は出来たが成功率はとても低くそう簡単には洗脳できないかもしれないと伝えておいた。

妹も納得してくれたようだった。

 

 

………妹の求心力を舐めていた。

装置を渡したその日の内に1人洗脳してきてしまった。

 

同じ高校の生徒会長らしい。

男を洗脳してくるのではないかと思っていたけど、女の子だった。少し安心。

え、でもなんで洗脳出来ちゃってるの!?

妹が生徒会に所属しているのは知ってたけど、生徒会長とそこまで深い仲だったってこと!?お兄ちゃん不純異性交遊も許さないけど不純同性交遊も許しませんよ!?

 

というか妹が全然満足してないんですけど!まだまだ洗脳しなきゃとか言ってる。

そのための組織作らなきゃとか言ってる。妹がノリノリすぎて怖い。

このタイミングで俺にリーダーをしてくれって頼まれるんだよな。

俺は乗り気じゃ無かったけど、妹を放っておいたら何をしでかすか分からなかったからブレーキ役としてリーダーになることにした。

 

 

生徒会長さんは戦える力が欲しいので改造して欲しいそうです。

改造するためにはある程度の適性が無いと無理なんだけど…うん。この子は頭脳系の改造しか適性はないな。肉体を無理に改造しようとしちゃうと体の形が変わっちゃうだろう。

幸い本人の希望もそちらだったようで、解析能力を強化してあげた。

透視も出来るし、物体の成分分析まで可能な万能能力だ。

生徒会長さんも喜んでらっしゃる。

 

ていうか生徒会長さん、兄上殿は素晴らしいですとか尊敬しますとか滅茶苦茶褒めちぎってくるんだけど。妹よ、どんな洗脳をしたんだい?

 

 

まぁ、予想外なことも起きたが同じ生徒会のメンバーなのだから親密度が高かったのだろう。そう簡単には洗脳できないだろうし…

 

とか、考えてたんだけどね。

 

なんか妹が言うには順調に洗脳出来ちゃってるらしいのよ。

100人単位で洗脳出来てるとか言うから本当びっくり。

なに?なんなの?なんでそんなに家の妹を崇拝している人が多いの?

いや、分かるよ。確かに妹は1億年に1人いるかいないかの美少女だよ。

でもそんなに身を委ねたい人が多いと思わないじゃん?

 

しかも洗脳した人は地下施設に住み込んでるらしいし。

まぁ、空間拡張されてるから1万人ぐらいは住める広さはあるし、

食料も施設内で育ててるから問題は無いんだけどさぁ。

規模が大きくなりすぎじゃない?

 

妹はまだまだ満足出来なかったようで、動物を従える装置を作って欲しいと言ってきた。

あの洗脳装置は人用だから動物は洗脳出来ないのは分かっていたが、ついに動物までをも従えようとするとは。猛獣使いでも目指そうとしているのかな?

 

そうして俺は動物をリラックスさせる装置を作った。

人に猛獣を仕掛けるとなると危険だからね。せいぜいペットにするくらいしか出来ないようにしておいた。

妹にもおとなしくすることは出来るが、言うことを聞いてくれるようには出来なかったと伝えておいた。

俺が自信なさげに伝えると妹も少し残念そうだった。そんなに動物兵を作りたかったのか…。そうだよな。昔から猫とか好きだったもんな。

 

そんな妹は動物兵を作るという事を諦めていなかった。

妹は自信満々に新しい子達だと言って見せてくれた。

 

 

()()()()()の生えた小学生ぐらいの女の子を。

 

 

…本物の動物じゃなくてもいいんかい!

いや、妹が満足ならそれでいいのよ。猫耳可愛いね。

いや、実は妹は癒しを求めていただけだったのかもしれない。

それでいきつく先が猫耳美少女というのもどうかと思うが。

 

しかし、この子達とても元気だな。本物の猫みたいだ。

この子達もやはり洗脳されているようで俺のことを天才だとか最強だとかかっこいいとか褒めてくれる。洗脳によってもたらされた結果だとしてもなんか子供の純真な気持ちで褒められると照れてしまうな。

 

 

そんなこんな過ごしつつ1ヶ月程過ぎたのだが…。

なんか俺達の組織を敵対視している組織がいるらしいということが分かった。

 

そらそうなるだろうよ。俺達の組織は人を攫って洗脳していく非道な活動しかしてないしね。正義の組織が潰しに来ているんだろうよ。

 

妹はそいつらがちょっかいかけてくるのが許せないらしく、あいつらだけは絶対潰すとか言ってるし…。いや、俺達の活動が活動だから仕方ないんじゃないとは思ったけどね。

 

はぁ…出来るなら妹に危険なことはして欲しくないんだけどなぁ…。

でも、好きなこと好きなだけして欲しいしなぁ。

相手の方が強くて負けちゃったら妹はどうなっちゃうのだろうか?

 

 

………もしもの時のためにつくっておいた宇宙船で逃げられるように準備だけでもしとくか。

 




登場人物紹介

・明野 亮
悪の組織の頭領?である。
この世界の誰よりも優れた頭脳を持っているがその全てを妹の為に費やしているシスコン。
その肉体は妹と全く同じ改造が施されている。妹とのおそろいという気持ちもあったがそれだけでなく強くなりすぎた妹が孤独を感じない用にするという思いもあった。
最近は妹が野心を持って行動していていつか破滅しないか心配になっている。
家の地下の拡張空間は研究するにあたって快適すぎるのでここ数年外出していない。
妹が外で何をしているのかはとても気になるがプライベートを詮索しすぎると嫌われるかもしれないと思い、発信器をつけるだけに留めている。

・明野 福
妹。世界征服をしようとしている。
幼少期に不治の病を治してくれた兄を尊敬している。
世界中の人々を洗脳するという使命に燃えている。

・保坂 寧々
妹の通う学校の生徒会長。
最初に妹に洗脳された。
自ら進んで改造されることを望み、解析能力を手に入れた。

・徳井 咲と実
小学性の双子の姉妹。咲が姉で実が妹。
猫耳がついていてわんぱくなので本当の動物のよう。


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妹視点

「まず1っぴきぃいいいっ!」

「逃がさないよぉおお!?」

 

「ぐわぁあああ」

「やめてくれぇ…たすけてぇ…」

 

私がお兄ちゃんからアイテムを貰って仲間達の元へと向かうと、既に戦闘が始まっていた。

 

「…なんで私が来るまで待てなかったの?」

「面目ない。少し目を離した隙にあいつらが飛び出していってしまったんだ。」

 

はぁ…。まぁ、あの子達が暴走するのはいつもの事だし仕方ないけど。

 

「ところで、兄上殿に頼んでいたものは出来ていたのかい?」

「もちろん。これで奴らを根絶やしにできるよ。」

 

今までは追い詰めても逃げられていたが、今回はそうはさせない。

今日でこの戦いを終わらせてみせる。

 

「あ!福ちゃんっ!見て見てこんなに倒したよっ!」

(みのり)が12匹で~。(さく)が10匹~。えへへぇ。私の方がいっぱい倒したよ。ほめてほめて。」

「うんうん。二人とも頑張ったね。」

 

血まみれになりながらも笑顔で近づいてきた二人を撫でてあげる。いつもなら少しお説教をする場面だが、敵を引きつける事には成功しているようだし、結果オーライだ。

 

「さぁ、みんな!!今日が決戦だ!私達の力を見せつける時だよっ!」

 

この戦いで私達は支配から解き放たれる。

その思いのままに仲間達も大きく声をあげる。

 

「よく我慢した!だけど、それも今日までだ!」

 

皆の声が力強くなる。

 

「準備は整った!後は殲滅するだけっ!」

 

さぁ、始めよう。

 

()()()を全滅させるよ。」

 

戦いの幕が開けた。

 

ーー◇ーー◇ーー◇ーー◇ーー◇ーー◇ーー◇ーー

 

 

私達と宇宙人の戦いはつい一月前から始まった。

奴らが侵略してきたことで平和な日常は崩れ去ったのだ。

 

副会長である私は生徒会の仕事もあって朝早くから学校に向かっていた。

幼なじみで生徒会長の保坂(ほさか)寧々(ねね)ちゃんとも合流して仕事の話をしている時に…

空で何かが光った気がしたんだ。

 

キュィィイイイイン

 

光ったのは一瞬だったので気のせいかと思った。

でも、気のせいじゃなかった。

一緒に歩いていた寧々ちゃんがどこか虚ろな目をして上を見ていたのだ。

それだけじゃない。早朝だから人は少ないが、寧々ちゃん以外の人も心ここにあらずといった感じであった。

何かおかしなことが起こっていると確信した私は寧々ちゃんの手を引いて家に引き返すことにした。

家に帰りさえすればお兄ちゃんがいる。お兄ちゃんならばこんな危機的状況でもどうにかしてくれるはずだ。

そう信じて帰路につく。

 

走り出してから5分ほど経った頃、ボーッとしていた寧々ちゃん突然声をあげて騒ぎ出した。

その声の調子はいつも通りの寧々ちゃんで、少し安心した。安心してしまった。

 

「おい待て!どこに行こうとしている!?そっちは学校じゃないぞ。」

「寧々ちゃんっ!よかった…。目を覚ましたんだね…。」

「何を泣いているんだ…。はぁ、今日のお前はどこかおかしいぞ。まぁいい。急いで学校に行くぞ。」

 

あまりにもいつも通りなので、私の方がおかしくなったのではないかと思った。

でも……、やっぱり違った。

 

「まったく…今日は何よりも大事な日なんだぞ。そのために昨日から準備してきたんじゃないか。私とお前は生徒会長と副会長なんだ。他の生徒の見本となるようにしないとな。」

「あはは…ごめんね、寧々ちゃん。今日が入学式だからかな?緊張でパニックになっちゃった「ちょっと待て。」…のかなって…え、何?」

 

「入学式?何を言ってるんだ。」

「何を言ってる…って、入学式!今日は新入生が入ってくる日でしょ!」

 

「ははっ。福。お前も面白い冗談を言うんだな。

今日は私達の真の支配者であるノリトリ星人様達の降臨祭を行う日じゃないか。」

 

そう寧々ちゃんが言った直後、上空に複数の円盤が飛び交った。

 

「おお!見ろっ!ノリトリ星人様の乗っているUFOだ。我々を支配してくださる方々が乗っていると考えると少しワクワクしてくるな…って、おい引っ張るな!だからどこに行こうとしてるんだ。」

 

私が思っている以上に事態は深刻だった。

早く手を打たないと手遅れになる。

 

自分だけが正気を保っていられるのは、お兄ちゃんのおかげだろう。

そう。お兄ちゃんに出来ないことなんてない。お兄ちゃんなら絶対に寧々ちゃんを、人類を助けてくれる。

何が真の支配者だ。今に見ていろ。お前達などお兄ちゃんの敵ではない。

 

 

 

あの日から2日。町は完全に奴らに支配されてしまった。

道行く人達は皆、揃いの服を着ている。ピチピチのスーツに身を包んだ彼らは特撮に出てくる戦闘員のような出で立ちだった。

 

宇宙人の侵略のスピードがあまりにも早かった。

寧々ちゃんは家に連れて帰ってからは暴れていたので縛り付けていたのだが、お兄ちゃんが作ってくれた装置を使うことで正気に戻ってくれた。

寧々ちゃんはすぐにこの状況を理解して、お兄ちゃんに戦える力を求めていた。

私にだけ負担をかけたく無いんだって。うれしかった。

とりあえず私に戦闘を任せて自分は相手を見極める力、解析能力を手に入れることにしたようだ。

 

でも寧々ちゃんと私は二人だけでは奴らを倒すには戦力が足りないので一緒に洗脳された人々を解放していき、人類救済戦線を組織することにした。

宇宙人に対抗するための武器は、私の護身用のためと称して作ってくれた物が大量にあるので戦う準備はばっちりだ。

ただ、私達が洗脳されていないことは出来るだけ奴らにばれないように潜伏しながら解放していく。奴らの動きを寧々ちゃんが解析して予測することで見つかることなく多くの人を解放していった。

途中で奴らに見つかって罠に嵌められたりしたが、特に問題にはならなかった。

 

そうして順調に解放していたのだが、問題が起こった。

 

戦闘服を着ているだけの人達は装置を使えば簡単に元に戻すことが出来た、出来たのだが元に戻せない子達もいたのだ。

宇宙人に体を改造されてしまって体を戻すことが出来ない。動物と合体させられて精神がぐちゃぐちゃになってしまい、洗脳が解けないらしいのだ。

寧々ちゃんが言うには動物と精神まで強く融合されてしまって、分離するのは難しいそうだ。

 

どうにかして救い出せないか。お兄ちゃんに相談してみたのだが……すぐに解決した。

動物の精神が洗脳解除の邪魔になっていると伝えると、すぐに動物の感情を沈めてくれる装置を作ってくれた。

この装置の効果はばつぐんで、すぐに洗脳を解除することが出来た。

 

そうして洗脳を解除された双子の姉妹の実と咲は、わんぱくだった。

獣の本能というものなのだろうか?敵を見つけたら私達の言うことを聞いてくれずに突っ込んでいくぐらいだ。

しかしこの二人、戦闘力でいえば私達の組織の中では私の次に強い。

敵のアジトに突撃した結果、全滅させたということも多くあった。

そうしてまぁ、重要な作戦以外は彼女達の好きにさせようということになった。

 

 

 

長い戦いだった。いろんな戦いがあった。

でも大丈夫。勝算はある。

お兄ちゃんがいれば負けるなんてありえないけどね。

お兄ちゃんと私の夢…よりよい世界を作るっていう夢を邪魔するあいつらだけは許せない。

絶対に倒す。

 

待っててね、お兄ちゃん。勝って人類の平和を取り戻してみせるよ。




登場人物紹介

・明野 亮
悪の組織の首領…ではない。
侵略された星を取り戻すレジスタンスのリーダーというのが正しいだろう。
妹がかつての自分の考えに感化されて悪の組織を組織したと勘違いしているが、
妹自身は兄の夢が世界征服ではなく、人々にとってよりよい世界を作ることだと思っているので、兄の考えているようなことになることはなかっただろう。

・明野 福
精神を支配する類の物は改造手術により克服されている。兄も同様。
兄を心酔しているので、宇宙人が攻めてきていることも当然把握していると思っている。
身体能力が異常に高く、宇宙人では倒すことが出来ない。
兄に渡された洗脳装置がなぜ問題なく作動したかというと、自ら洗脳にかかりたいという意思があれば洗脳されるので、人々に宇宙人の洗脳から解放されたい意思があったおかげである。

・保坂 寧々
洗脳を解除してくれた兄上のことを尊敬している。
解析能力を用いて宇宙人の隙をついていた。
双子の姉妹の洗脳が解けないと解析能力を持っていたせいで知ってしまい、絶望したりしたがそれでも容易く洗脳を解除する兄上を見て尊敬度が増した。

・徳井 咲と実
猫と混ざりあってしまった結果、獣の本能を抑えられないようになっているが洗脳前から結構わんぱくであるようだ。
猫耳は頭部から直接生えている。尻尾も直接生えている。
2人の装備はハンマーで、振り回しているだけでも敵が簡単に吹き飛んでいく。


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???視点

ネタバレ回避のため???視点としています。


「お前達、準備は出来たか。」

「はい。いつでも撃てやすぜい。」

 

私はノリトリ星人、その王だ。

数多の星を侵略してきた私が次の目標としたのは、表面が大量の水で覆われた惑星だった。

 

「では、撃てい。」

「了解。」

 

キュィイイイイン

 

私の侵略はとても簡単だ。

星全域を包み込む催眠光線を一回打ち込むだけで完了する。

 

「終わりました。王よ。」

「ではお前達、いつものように行動せよ。」

 

いつものことであるが退屈な作業だ。

連盟に所属していて文明が発達した惑星の中には催眠光線を防ぐことが出来る惑星も少なくはない。

だが、この星のような科学技術が発達していない星ならば防がれるようなことは起きない。

そして催眠を防ぐ装置は惑星全域を包む事が出来るが、解除する装置は個別に時間をかけなければならないので一度催眠出来れば連盟の者達がやってきても惑星を正常に戻すことはほぼ不可能といってもいいだろう。

 

「王よ。現地住民は問題なく催眠にかかっているようです。」

「では、処置をしておけ。」

 

星を侵略することは簡単だが、催眠光線を使用することは宇宙法で禁止されているので使用を確認すると付近の連盟に所属している惑星が我々を討伐するためにきてしまうので、すぐに防衛の準備をしておく必要がある。

 

戦闘員スーツを現地住民に装着することで戦闘力を数倍に引き上げることが出来る。

長く装着することで素の能力値も向上するので、最終的に身体能力は数十倍にもなる。

1人1人の力が弱くとも数の力とは侮れないものだ。

近隣の惑星は確認している。かなりの距離があったので攻めてくるとしても1ヶ月以上の期間はあるだろう。

この惑星の人間全てを戦闘員にしてしまえば攻めきることは不可能に近いだろう。

 

「適合者はいたか?」

「はい。20人ほど見つかりました。ですが特級が今回は少ないようで2人だけのようです。」

 

ふむ。2人か…少ないな。

戦闘員以上に力を手に入れることが出来るのが適合者だ。

適合者とは私達の改造技術を受けた際の成功率が高い者のことだ。

成功率は良くても50%といったところで、失敗してしまえば廃人になってしまうのだが、特級の適合者だと成功率は100%。さらに他の適合者に比べて改造した時の強化率も比べられない程になる。

特級の適合者1人だけで攻めてきた奴ら全てを倒したこともあるほどだ。

だから特級の数は多ければ多いほど良いのだが…いないものは仕方ない。

 

「では早急に改造を施せ。」

「了解です。」

 

特級の者も改造してから時間が経てば経つほど能力が上昇していく。

能力の上昇幅は通常の戦闘員とは比べられない程であるので出来るだけ早く改造しておく必要がある。

 

「他に報告することはないか?」

「はい。それ以外はいままでの惑星と変わりは無いかと。」

「ならばよい。あとはお前達の好きなように行動するがよい。」

 

侵略が終わると、現地の戦闘員達が自ら進んで私達の住みやすい環境を整えてくれるので

我々がすることは特に無くなる。

後は各々の支配欲求を満たしつつ、連盟の奴らが来るまで過ごすだけだ。

好きに過ごして貰って、ここに定住したいかを決める。

少数の同胞を惑星に残して、また別の惑星を侵略するために旅をする。

そうしていくつもの惑星を支配してきた。

 

「はい。では、問題は無さそうなので王を讃える像の建設に取りかからせます。」

我の像を作ってくれるのは毎度のことながら照れるな。

 

 

 

侵略が終わってから特に何も起こらないまま1週間が経った。

この惑星の茶葉を気に入った私がいつも通り優雅な一時を過ごしていた所でその知らせはやってきた。

 

「大変ですっ!!王っ!!。」

「騒々しいぞ。何をそんなに慌てているのだ。」

 

急に私の私室に大声でノックもせずに入ってきた臣下のせいで少しイライラしてしまった。

侵略した惑星の嗜好品をゆっくり楽しむのが私の一番の楽しみであるのでこの時間を邪魔されないために臣下にはこの時間に部屋に入ってこないように厳命していたのだ。

一度プライベートを邪魔してきた愚か者には然るべき処罰を与えたこともある。

それを知らない訳でもないであろうに、くだらないことならばどうしてくれようか。

 

「お休みのところ申し訳ありませんっ!しかし早急に報告をしなければいけないことがありまして…。」

「ご託はいい。早く申せ。」

「恐れながら申し上げます…。現地住民の中に催眠にかかっていない者がいるようです。」

「なんだと!?」

 

そんなことありえるはずがない。

こんな辺鄙な惑星に催眠装置を防げるような科学力はないはずだ。

侵略する星を間違えたか…?

……いや、だが待てよ…?侵略自体は滞りなく進んでいる。

催眠を防げるというならばここまで順調には進んでいないだろう。

限定的に防げる何かを持っていたのか?

過去に他の惑星から来た者に友好の証として手に入れたとかだろう。

しかし、それにしても厄介だな。

 

「その者は捕まえたのか?」

「いえ…なにせ催眠が効いていない者がいるなど想定していませんでしたから捕獲の準備などもしておらず逃がしてしまいました。」

「では必ず捕らえよ。」

 

他惑星の技術が少なからず存在するというならば我々と戦える能力をも有している可能性が高い。

大多数の現地住民を既に催眠で私中においているので、放置しておいても構わないのだが不確定要素は排除しておかなければいけない。

1人でも捕らえることが出来れば、催眠妨害装置を外して催眠をかけることが出来る。

そうすれば、催眠のかかっていない残りの人数やどれほどの戦力が揃っているかの情報を手に入る。

数々の惑星を侵略してきたのだ。催眠装置以外の兵器も有している。

いることさえ分かっていれば対処は簡単だ。

優秀な部下達ならば明日にでも全員捕まえて来るだろう。

 

 

 

「王よ、報告があります…。」

「あぁ、昨日のことだろう?で、どうだった?」

現地住民にてこずるようなことは無いので捕まえてはいるだろうが、知りたいのはその先だ。他惑星のどんな装置を持っていたのかなどの情報を知りたいのだ。

他惑星の者に気に入られるような人物なのだ。改造の適性も特級の可能性も高いだろう。

 

「あの…実は、まだ捕まえられていません。」

「なんだと?」

捕まえられていない?何を言っているんだ?

連盟から逃げ続けられている私達だ。索敵技術と隠蔽技術は他のどの惑星よりも優れている。だから催眠にかかっていない者が見つかっていないはずがない。

むしろこの時点で全部解決していてもおかしくないはずだ。

 

「それが…索敵装置に引っかからないのです。それでも運良く遭遇自体は出来たのですが逃げ足が異常に速く逃げられました。せめて相手の本拠地さえ分かればと相手にマークまでつけたのですが、やはり信号が捕らえられずなんの成果も得られませんでした。」

「逃げ足が速く、索敵に引っかからないか…。」

やはり催眠を防ぐ装置だけでは無かったか…。

聞く限り我々の隠蔽技術よりも遙かに高い技術を持っているようだ

どこの惑星の技術かは知らないが連盟から逃げるのが常である私達にとっては喉から手が出るほどに欲しいものだ。。

これは是が非でも捕らえねばならぬな。

 

「そうか、相手は思ったよりも手強そうだな。ならばここは絡め手を使うぞ。

既に催眠済みの現地住民を囮に使おう。親交の深い者を使えば誘い出すことも容易であろう。逃げる技術も高いようだが、誘いこんだ先で逃げ場を封じてしまえば捕らえられるだろう。」

「了解しました!早速実行に移します。」

少し驚かされたが、これでこの問題も解決だろう。

 

 

「大変ですっ!奴らを侮っていました!逃げ道を防いでいたにも関わらず逃走を許してしまいました!」

「お前らは何をやっているんだ!遊んでるんじゃないんだぞ!」

「それが…想定外なことに奴ら戦闘もすることが出来るようでして警備を強行突破されてしまいました。」

「戦闘まで出来るのか…つくづく厄介だな。しかし今回は相手に親交のある者を人質にしていたのだろう?奴らが抵抗したり、逃走しようとしたら自害するように命じたと申していたではないか。親しい者が目の前で死のうとしているのにそいつらはその場から逃げ出したと言うのか!?」

「それが一番の想定外なんです。信じられないかもしれませんが、奴らは催眠を防ぐ装置だけでなく催眠を解除する装置までをも持っていたのです。」

「防御装置を持っていれば、解除装置も持っているかもしれないとは考えていた。

しかし、解除装置は装置にかけてから解除されるまでに最低5時間以上はかかるはずだ

それまでの間、指を加えて眺めていたわけでもあるまい。」

「いえ…信じられないのですが、奴らの持っていた光線銃のようなものが人質に命中した直後、催眠が解けてしまったのです。」

「はぁ!?何を言っているんだっ!そんな物が存在するはずがないだろう!」

そんな物があるなんて聞いたこともない。もしありえるならば私達の侵略はこうも上手くいってはいないだろう。

ありえない。どうなっているんだ。

 

 

「奴ら私達が催眠解除装置の存在を知ったからか、堂々と攻めてくるようになりました。

次々に私達の戦闘員が解放されていきます。これは後から知ったことですが偶然発見出来た時にも催眠解除の活動をしていたようで、あの事件以降奴らの出没した地域の戦闘員達は軒並み持ち場から消えてしまいました。」

「ぐぬぬ…。」

「さらに、戦闘能力もまだ本気を出していなかったようで我々の戦闘部隊をもっても倒すことは不可能のようです。やられた同胞は相手に連れ去られてしまいました。」

想定外だ。このままではまずい。

敵は想定以上の能力を有している。かつて連盟に属している惑星を侵略しようとして失敗した時と同じような感覚だ。

出し惜しみなどしていられない。こうなったら…

「特級の適合者を討伐に向かわせろ。」

「よろしいのですか?まだ調整の途中で想定の50%ほどしか能力を引き出せていませんが…。」

「かまわん。これ以上奴らに好きにさせておくわけにもいかない。

特殊改造された者達は複数の魂が複雑に絡まり合い催眠解除をすることは不可能だ。

それに50%もあれば充分だ。それだけあればそいつらを殺すことも可能であろう。」

「捕獲するのではないのですか?」

「思っていた以上に奴らは厄介だ。加減をして勝てるようなものでもあるまい。

出来るなら私達の戦力にしてしまいたいが、それが難しければ最悪殺さねばならないだろう。」

どれだけ強いと言っても特級相手では戦闘にもならないだろう。

殺す必要性が出てくるかもしれないとは言ったが、特級ならば手加減していても余裕で捕獲することも可能であろう。

ふぅ…。最近張り詰めすぎて参ってしまった。

ティータイムをして気分を落ち着かせよう。

 

 

「特級が倒されましたっ!!」

「あ…ありえない。」

特級が倒されたなど信じられるはずがない。まだ全力を出せる状態じゃなかったとしても倒すためにはそれこそ連盟の将軍級の力がないと勝てないはずだ。

「分かっていたことですが、催眠光線は効きませんでした。奴らもそれに驚いていて、我らの勝利を確信したのですが…。目を離した隙に特級は気絶していました。」

「気絶だと…?交戦することも出来ずにただやられたというのか!?それほどの戦力差があるならば全力を出せていたとしても勝てたかどうか怪しいではないか!」

「し、しかし特級は連れ去られてしまったようですが、幸い催眠は効かないので遠隔で帰還の指示を出し続ければ連れ戻すことも可能かと…。」

「特級以上の戦力が向こうにはいるのだぞ!そこから逃げ出すことなど不可能であろう!」

 

特級が捕らわれてから2日経った。

奴らの襲撃も止むことはなく、気の休まらない日々であった。

「た、大変です!特級が帰って来ました。ただ…様子がおかしいのです。」

これからもっと酷い状況になるとも思っていなかったが。

「拠点にまっすぐ向かってきているのですが、出撃した時と装備が違うのです。

というか、武器を構えて突っ込んできています!」

「馬鹿なっ!催眠が解けているとでもいうのか!?」

「それだけではありません。出撃前は50%の力しか出せていなかったはずなのに100…いや、それ以上の能力が引き出されています。」

ありえない。催眠が解けているだけでも信じられないというのに、私達よりも能力を引き出すことが出来たというのか。

「凄まじい勢いで我々の拠点が破壊されていきます!あぁ、王の像まで…もうおしまいだ…。」

奴らは襲撃してくることはあってもここまで豪快な破壊をすることはなかった。

こちら側の被害は甚大だ。これ以上は取り返しのつかないことになるだろう。

「この惑星から撤退する。総員準備にかかれ。」

「よろしいのですか?」

危険な状態の惑星に同胞を残していくことも出来ない。このまま撤退すると何も得る物がない。だが、想定外が多発しているこの状況でこの惑星に滞在していることの方が問題だ。

早急に撤退すべきだろう。

「かまわない。出立のためのエネルギーはあとどのくらいで貯まる?」

「あと最低3日はかかります。」

「よし、ならば3日後に出立だ。」

予定より少し早めの出発になるが、連盟の者達もそろそろ補足出来る距離に近づいて来たであろうし、ちょうど良い時期かもしれない。

逃げることが常の我々だ。屈辱だが、こういうこともあると飲み込まねばな。

 

 

「出発の準備が出来ました。」

「よし、では地上の同胞を回収せよ。」

あれからも襲撃を受け続けたが、無事に戦艦にエネルギーが貯まり逃げ出す準備が出来た。

後は地上の部隊を撤収させるだけだ。

「はい…あぁ、特級の者が暴れていて今すぐ撤収することは難しいようです。」

「そうか、いつでも出発することは出来るのだ。奴らがいなくなってからでも構わないだろう。」

逃げ出す準備が出来たので、少し待つぐらいならば問題ないだろう。

「了解しました。そのように……、ってなんだこれは!?何かの力を受けて地上に落下しています!」

「っ!?今すぐエンジン全開だ。この惑星から脱出しろ!」

「無理です。機体の制御が効きませんっ!」

戦艦を落とせるだけの技術を隠し持っているなんて思うわけがないだろう。

いつでも使えただろうにこのタイミングで使ってくるなんて、我々の限界を見極めての行動に違いない。

油断していた。奴らを侮っていたわけではないが、最後の最後にしくじってしまった。

 

運が悪い。いや、これは必然だったのであろう。この惑星を侵略しようと決めた時から敗北することは決まっていたのだ。

もう逃げることも不可能だ。覚悟をせねばならぬだろう。特級の戦力を下すような奴らに勝てるとも思わないが最後のあがきで私も戦うことにしよう。

あぁ、私が住むに値する惑星を探す旅をまだ続けたかったが、ここで私の旅も終わりなのだろうな。

 




登場人物紹介

・侵略者の王
多くの惑星を侵略してきたノリトリ星の王。
ノリトリ星は遙か昔に惑星の寿命が無くなり、新たな住処を見つけるために旅をしていたが人の住んでいない惑星ではいい惑星が見つからないので催眠装置を使って侵略することにした外道である。
ノリトリ星の者達の多くは侵略した惑星に移住したが、王は自分の理想とする惑星が見つからず、旅を続けていた。
宇宙の中で技術力が高い連盟に所属している惑星は狙わず、未発達の惑星を狙い続けていた。

・徳井 咲と実
洗脳をかけてきた宇宙人を絶対に許さない、絶対に倒すという使命感に燃えている。
妹達が戦闘員にされた人がまだその場に残っているかもしれないと慎重に動いていたのに、
躊躇いなく相手の拠点を崩壊させていくバーサーカー。
この子達が戦闘をしている裏では妹達が救助活動をいつも以上に必死に行っていたという。

・明野 福
潜伏行動するにあたって相手の索敵に引っかからなかった理由は兄が妹にストーカーがつくのを心配して、悪意ある者が家の位置を把握しようとしたり、妹の位置情報を取得しようとするとジャミングするような装置を作っていたかららしい。


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侵略の終わり

「いや、驚いたな。戦闘をした宇宙人は全て弱かったからその親玉も弱いのかと思っていたが……あそこまで戦えるとは」

「私達二人だけだと勝てなかったよ~」

「まぁ、福ちゃんも戦い始めたらよゆ~で倒せたけどね~」

 

 戦いは終わった。

 みんなは余裕で勝てると確信していたようだが、この規模の戦艦を率いているリーダーだ。

 何を隠し持っているか定かではない。油断しないように観察をしていたが、その予感はやはり的中した。まぁ、純粋な戦闘能力が高いとは思わなかったが。

 

「こいつらを倒せば皆の洗脳が一気に解けると考えていたが、洗脳装置をもう一度同じ対象に使用出来ないようにされているとは思わなかったな」

「できないの~?」

「むりっぽい~?」

 

 洗脳装置を寧々ちゃんの解析能力で見てもらった結果、洗脳した者を再洗脳出来るようにはなっていなかったようだ。一度洗脳してしまえば宇宙人のいうことなら何でもいう事を聞く人間になるので必要のない機能なのだろう。いや、違うか。同じ洗脳装置を持つ者が後から洗脳出来ないようになっているのだろう。

 でも、問題ない。

 

「安心して。お兄ちゃんはすごいからこの装置を見れば解決方法が思いつくと思う」

「あぁ、そうだな。兄上を連れてこよう」

「こよ~」

「れっつご~」

 

 

 

 

「え~……でっかぁ」

 妹が急に部屋に来たと思ったら、見せたい物があるといいながら引っ張られて外に連れ出された。連れ出される途中で聞いた話だと敵対組織を倒したから相手の持っている技術を利用して洗脳装置のレベルを上げて欲しいとのこと。

 敵対組織だし妹に好感なんて持っているはずもないから洗脳出来なかったんだろうなぁ。

 女騎士みたいな人がいて抵抗しながら「くっ……殺せ!」とか言ってるのかもとか考えていた。

 敵の装置を参考になんかしなくても誰でも洗脳出来るようになんてすぐ出来ちゃうんだよなぁ、とか考えながらついた場所には巨大な宇宙船があった。

 正義の組織の本拠地に連れてこられると思ったらまさかの宇宙船。

 え、妹を止めようとしてた人達ってまさかの宇宙人なの!? 辺りを見回してみると宇宙人みたいな人達がいっぱい転がってるし、実際に戦っていたのは宇宙人なのだろう。

 そんな……妹の脅威が宇宙規模で広がっていたなんて……既に宇宙では妹の手配書も出回っているのだろう。これでは緊急脱出用に用意していた宇宙船で宇宙に逃げても意味が無いではないか……。

 とかなんとか考えて勝手に未来に絶望していたのだが、妹が言うことをしっかり聞いているとさらに混乱した。

 なんだか俺が知らないうちに宇宙人に攻め込まれていて、人々が洗脳されてしまっていた。

 が、俺の発明のおかげで窮地を脱して元凶を倒すことが出来たから、後は洗脳された人達を解放するだけだそうだ。

 ……うん。妹が悪の組織を作ってしまったと思いパニックを起こして思考を閉ざしていたがなにか誤解をしていたようだ。

 洗脳装置を作って欲しいと言ってきたのは洗脳された人々を救出したかったからで、組織の戦力を増やしたかったとかじゃなかったのか。

 あー、くそ。妹は心優しい子のままだった。信じられなかった自分が憎らしい。

 この状況をちゃんと把握出来ていたら、もっと全面的にフォローしてあげられたのに! 

 ……悔やんでたって仕方ない。今出来ることをしよう。

 妹に言われた通り、宇宙人の装置を見てみたが確かにかなりの技術だ。

 これを俺の作った洗脳装置と繋げて、調整すれば……はい出来た。

 このままスイッチを押せば……っと、これで全員の洗脳が解けただろう。

 まぁ、宇宙人の装置など参考にせずとも少し時間があれば調整することは可能だったが、何も参考にせずに作ってしまうとなんで今まで作らなかったんだ、って攻められちゃうかもしれないからね。なんとなく雰囲気で誤魔化そうとしてしまっているな。

 

「さすがですね、兄上。これほど早くに装置を改良してしまうとは……」

「当然。お兄ちゃんは何でも出来るんだから」

 こうして褒められてるとちょっとだけ罪悪感を感じてしまう。

 むしろこんなことになっているのに気づかなかった俺は責められても仕方ないだろうしな。

 

「やったー! 解決だ~」

「うちあげしよ~」

 この2人も妹の趣味で猫耳が付けられているのだと思っていたが、しっかり目をこらして見ると猫耳が直接頭から生えている。きっとこれも宇宙人の仕業なのだろう。

 ……この子達のフォローもおいおいしていかなければな。

 

「よし、じゃあ打ち上げをしにいくか

「控えよ! 私が来たからには容赦はしないであります! ノリトリ星人めっ!」

 

 なんだなんだ。次から次へと、今度は何が起こったんだ。

 空から声が降ってきているということはまた別の宇宙人でも攻めてきたのか。

 

「貴様らは自身の索敵能力に自信があったのでありましょう。ですが、私達のステルス能力はそれを凌駕する。我々が来る前に逃げようという算段だったのでしょうが、そうはさせません。この私、連盟軍の八将軍が1人アリス・マーノが成敗するであります!」

 

 ……ヒーローは遅れてやってくると言うが、悪が倒された後にやってくるとは遅いにもほどがあるだろう。

 

「どうした! ノリトリ星人! 恐れをなして言葉も出ないか! ならば私から仕掛けさせてもらおう! ……っとう!」

 

 あ、なんか空から落ちてきた。

 土煙をあげながら立ち上がった姿はまさしく騎士。鎧を身に纏った姿には威厳さえ感じられる。

 

「さぁ、剣をとるがいい。私が全て切り伏せてみ……せ……って、何ですか? この状況? 

 戦艦はボロボロだし、王は倒れてるし……え、おかしいな」

 

 あ、混乱しているみたい。分かるよ。想定外のことがあると頭がおかしくなりそうになるよね。俺も最近感じたからシンパシーを感じるね。

 

「何ですかあなた。この宇宙人ならもう私達が倒しましたよ」

「え、うそ。この惑星に催眠装置を防げるような設備は存在していないはず……なんで普通に活動できているのでありますか? それだけでもおかしいのにノリトリ星人の王までも倒してしまうだなんて……ありえないであります」

「ありえないってなんですか? 助けに来てくれるんだったらもっと早く来てくださいよ。私達が洗脳にかからずに動けたからよかったもけども、全人類が洗脳されて大変だったんですよ!」

「うぐっ……。それに関してはすまないのであります。こいつらのステルス能力もなかなかの物で大規模な装置の使用でもしない限りこちらもこいつらの位置を感知できないのであります。しかし、この後の対応は任せて欲しいのであります。催眠を解除する装置も持参しているので少し時間がかかるでありますが全ての人の催眠を解いてみせましょう」

「いや、それも解決済みなんですけど」

「はい……? いやいや、催眠解除は連盟の最新技術を用いても1人あたり5分以上はかかる

 であります。私達は100台装置を持ってきたけど、かなりの効率で催眠が解けたにしても100年単位の時間はかかるであります。それを、こんな短期間で……? 本当に?」

「だから、そう言ってるじゃない。お兄ちゃんに出来ないことはないのよ」

 そう言って妹が俺を讃えるように手を振り上げる。あ~あ~アリスさんが困惑顔でおろおろしているよ。というか話を聞いてる限り宇宙の技術ってそんなに進んでない? 

 

「っふぅ~。まだ飲み込めないこともありますが、大体分かりましたであります。そこの御仁の発明で危機を乗り越え、この惑星の全ての人の催眠を解いたというわけですね」

 おぉ、キリッとした姿に戻ったと思ったらこっちに近づいてきたぞ。

 て、なんか手を捕まれたんだけど!? どうした!? 

 

「どうかあなた様の発明を私達にくださいでありますっ!」

「あー!! なに、お兄ちゃんに手をだしているんですかー!!」

 あ~、何かと思えば勧誘か。昔から俺の技術を欲しがって近づいてくる奴ばっかだったからなんか懐かしいわ。

 というか妹よ、この人は俺をナンパしようとしているわけでは無いと思うぞ。

 

「突然のことで申し訳なく思うのでありますが、この惑星以外にもノリトリ星人の催眠の被害を受けたせいで救済が間に合っていない所が多くあるのであります。しかし、あなた様の発明さえあれば全ての惑星の問題が解決するであります」

 え~、俺に関係ないことだしあまり乗り気じゃないなぁ。

 でも、妹はなんか使命感に燃えた目をしてらっしゃる。

 

「なるほど! そういうことなら仕方ありません。お兄ちゃんの発明を貸してあげましょう。

 いいよね、お兄ちゃん?」

「あぁ、俺は構わんぞ」

 妹がしてあげたいというなら、俺が断るようなことはない。

 いくらでも俺の装置をくれてやろうではないか。

 

「ありがとうございますであります! で、あの……ついでのお願いになるのですが、あなた様に連盟の本拠地がある首都星に来ていただきたいのであります。あなた様の発明は見る限り連盟の技術より遙かに高い領域にあるように見受けられます。これからの宇宙平和のために技術顧問として受け入れたいのです。それ相応の待遇をお約束するであります」

「え、お兄ちゃんまで連れていくの? うーん。参考程度に聞かせてその主星まではどのくらいで着くの?」

「大体10年でありますね」

 なっが。いや、そうでもないのか宇宙人なら数百年生きるような奴らもいるだろう。

 その尺度で言えば短い旅路かも知れないが、俺たちの価値観で言えば受け入れがたい時間だな。

 

「うぇ~、長すぎ。別にお兄ちゃんを連れて行かなくても装置だけ持って行けばいいじゃない」

「そこをなんとか!」

 妹の言いたいこともよく分かる。そこまでしてやる義理なんてないし……いや、待てよ。

 

「アリスさん。主星までの航海図とかあります? 参考程度に見たいんですけど」

「え、はい。構わないでありますけど……」

 渡して貰った航海図を見る。ふむ……。思った通りだな。

 

「俺の作った宇宙船なら10年もかからなさそうだぞ」

「え、本当! さすがお兄ちゃん!」

「宇宙船まで作ってしまうとは……すごいですありますね。ちなみにどのくらいの期間でつくでありますか?」

「3日」

「3日でありますか!?」

 この距離なら俺の作った時空間ゲートを多用すれば問題なく着くだろう。軽い気分で宇宙旅行が出来るというものだ。

 

「さ、さすがでありますね。宇宙航海技術もかなり発達しているはずなのにそれを軽く追い越してくるとは……」

「そうでしょう! お兄ちゃんはすごいんですから」

 ははは、でもまぁ。ぱっと行ってぱっと帰ってくればいいのだから特に悩む必要もないだろう。

 

「よし、じゃあ行くか。宇宙」

「お兄ちゃんが行くなら私も着いてくよ! 寧々ちゃんも行くよね?」

「福が良いというなら着いて行きたいな」

「実も行く~」

「咲も~」

 

 

 

 そうして、宇宙人との戦いは終わった。

 ノリトリ星人の侵略した星の問題は当然解決し、それ以外の侵略者が起こした問題も解決していった。予想外であったのは戦闘力に関しても妹以上の者は居なかったようで将軍以上の位である大将軍が新たに作られることになったことだろう。

 俺の発明も連盟に組み込まれていった。ただ、連盟も一枚岩ではなかったようで俺の発明を悪用しようとする者も何人かいたようだった。

 まぁ、俺の装置を悪用したくてもプロテクトを掛けているので出来ないのだが。

 悪用しようとしたデータも残るようにしていたので、連盟内の悪を粛正するのに一石二鳥になったりしたんだけどね。

 

 そうして地球は宇宙連盟の中核となって技術の発展が進み俺と妹の夢であったよりよい世界に変わっていった。

 

 妹も嬉しそうだし、嬉しそうな妹を見て俺も満足だ。

 




これで完結になります。読んでくださりありがとうございました。


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番外編
侵略後のひととき


番外編を書いてみました。


「いや~地球のお茶はおいしいでありますなぁ~」

「そうですねぇ~」

 

 地球が宇宙連盟に登録されて知名度が上がった結果、宇宙からの観光客が多くやって来るようになった。実は今までも宇宙から観光に来る者もいたらしいのだが、宇宙法で科学力が一定水準以下の星では正体を秘匿しなければいけなかったらしい。観光に来て浮かれてしまい、ステルス迷彩を作動し忘れて地球人に見つかってしまった者もいるとかなんとか。

 まぁ、今は秘匿する必要もなく、正体を隠すこと無くその辺に宇宙人が歩いている。

 目の前にいるこの人達も宇宙人だ。宇宙人なのは別にいいのだが……。

 

「人の家でリラックスしすぎじゃないですか……」

 八将軍が2人も俺の家に来たことに驚いていたが……それにしてもくつろぎすぎじゃないだろうか? 

 

「このお茶を飲んでいると落ち着くのでありますよ~……あ、おかわりください」

「私はこのお饅頭をもう少しいただきたいですねぇ~」

「あなた達何しに来たんですか……」

 

 連盟軍の八将軍のアリスさんは初めて会った時の凜々しさを感じられないとろけきった表情を浮かべている。家に押しかけてきた時に着ていた鎧も今は脱いでいるので、とても将軍には見えない。

 横にいるストレアさんはお茶請けにと思いたくさん置いておいた饅頭をほとんど1人で食べ尽くしてなお、まだ饅頭を食べる気でいるようだ。

 

「私達だって来たくて来てる訳じゃないでありますよ。あ~お茶がおいしいであります」

「あなた達兄妹が連盟軍本部に来ないから私達が来るはめになったんですよぉ~……お饅頭まだですか?」

 あーそのことか。連盟に加入するとなった時に俺達の貢献度が高いこと、戦闘能力が連盟の誰よりも高いことから俺は技術開発局長、妹は大将軍という連盟の中でもかなり重要なポストに就くことになったのだが、連盟の船の技術が向上したことで連盟本部に集まり易くなったので将軍級以上の役職を持つ者は1ヶ月に一度本部に集まり会議を行うことに決まったのだが……。

 

「今回の会議は欠席するって伝えたと思うんだけど」

「分かっているでありますよ! そんなことは! でも、今回は新体制になってから初めての会議! 大将軍が理由も告げずに欠席だなんて困るであります!」

「上も怒っててですねぇ。何度通信しても応答しないから私達が直接迎えに来たってわけですよぉ。とりあえず何でもいいから引っ張ってきなさいって。とりあえず会議は1週間後に延期しましたからぁ。余裕を持って本部に行けますからねぇ。逃がしませんよぉ」

 はあ、妹が「欠席連絡はちゃんとしといたよ」って言うから信用していたが欠席理由も言っていなかったとは……。まぁ、妹はこの事になると周りが見えなくなるからな。

 たぶんだけど欠席するってちゃんと伝えたのに、あーだこーだうるさいから着信拒否しているのだろう。確認してみると俺の通信装置も妹によって宇宙連盟からの着信が届かないようになっていた。いつもの事とはいえ妹のこの暴走癖だけは治さないといけないな。

 

「いや、すまない。俺ももう少し気にしていればよかった。ちゃんと会議には参加するから許してくれ」

「困ったものでありますよ全く……ふぅ、叫んだら喉が渇きました。お茶をください」

「お饅頭以外のお菓子はないのでしょうかぁ?」

 

 ……俺達も大概だがこの人達も自由すぎるな。

 早く帰って来てくれ妹よ……。お兄ちゃんは疲れた。

 

 

 

「ただいまお兄ちゃん! ってアリス! どうしてここに!?」

「あなたが通信拒否をするせいで直接来るしか無かったからでありますよ!!」

「む、ストレア殿も一緒なのか」

「はぃ~お久しぶりですねぇ。寧々さん」

 小学性だけで行動するのはあぶないと咲と実を迎えに行っていた妹が帰ってきた。

 咲と実の頭には既に猫耳は無い、尻尾も同様だ。

 2人はあの姿を気に入っていたようだが普段の生活に影響が出ることも考えて元の姿に戻してあげたのだ。

 ただ、元の姿に戻って少し不満そうだったので、猫耳少女の姿にはいつでもなれるようにコマンドを唱えることで変身出来るようにしてあげた。ついでに変身した時に魔法少女っぽい姿になるようにしてあげたらすごく喜んでくれた。

 寧々ちゃんに関してはあまり変わらずだ。ただ、会う度にしゃがんでお祈りのポーズをするのだけは本当にやめて欲しい。崇められても困る。私は神では無い。

 

「アリスちゃんもストレアちゃんもパーティに参加するの~?」

「パーティ楽しみだね~」

「パーティ? なんのことでありますか?」

「なんのパーティか……ですか。ふふっ。それはこの世界で何よりも優先すべきパーティですよ」

 あーあー。妹の変なスイッチが入っちゃったよ。

 妹は祝い事が好きだからなぁ。こうなると止められないんだよなぁ。

 

「さぁ!皆さん始めますよ! クラッカーは持ちましたか? ……よし! では始めましょう! 

 

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「いやぁ、亮さんの誕生会のために会議を欠席したのでありますか……ってそれだけでありますか!?」

「何を言うかと思えば……これ以上に優先するようなことなどないでしょう。

 私はお兄ちゃんのバースデーパーティを1年で一番楽しみにしているのです」

「えぇ……いやいや、亮さんの誕生日はここじゃなくても祝えるでありましょう?」

「分かっていませんね。祝うことには入念な準備を必要とするのです。他の事に気を回す余裕などないのです」

「目がヤバイのであります……」

 

「ねぇねぇお兄さん。妹さんのお目目がぐるぐるしてますよ? 大丈夫なんですかぁ?」

「あぁ、妹は祝い事が大好きでな。こうなると止められないんだよ」

「へぇ~祝い事が好き……それだけじゃないような気がしますけどねぇ……」

 いや本当に妹は祝い事が大好きなんだよ。俺の誕生日だけじゃなくて妹自身の誕生日も楽しみにしてるし、バレンタインとかクリスマスとかも好きみたいだな。

 

「俺も妹が楽しみにしてるのは分かってるからな。イベント事は全力で楽しむようにしてるんだ。祝い事に応じたセットを用意したり、プレゼントも気合いいれて用意するようにしてる。けど、俺の誕生日に関しては妹が全部用意するから祝われることだけ考えてほしいって言われてるんだよ。全部自分で用意するからだろうな、俺の誕生日の日は他の日と比べものにならないぐらいにやる気に満ちてるんだよ」

「いや、ちょっと違う気がしますけどぉ……まぁいいです」

 

「あ、お兄ちゃん。お饅頭おいしかった? お兄ちゃんはお饅頭大好きだもんね。たくさん作ったからお腹いっぱい食べれたでしょ?」

「お饅……頭……?」

「お誕生日の度にお兄ちゃんがまだまだ食べられるぞって言うから今年は絶対に食べきれない量を作ってみたんだ~。どうだった?」

「あわわわわ」

 ストレアさんが小刻みに震えてる。どうしたんだ? 

 しかし饅頭か……確かに俺の好物でいくらでも食べれるとは言ったけど、今年は本当に食べきれない量あったんだよな。しかし、お兄ちゃんとしては妹が丹精込めて作ったものを残すなんてことはしたくない。だから急な訪問ではあったけどストレアさん達が来てくれて本当に助かった。ものの数分で全部平らげてしまうとは思わなかったけど。

 

「あぁ、いつも通りとてもおいしかったよ。食べ尽くしたい気持ちはあったんだけどね? 少しだけ食べきれなかったからストレアさんに残りを食べてもらったよ」

「ストレアさんが?」

「ひっ……」

「……どう? おいしかった? お兄ちゃんのために作ったお饅頭」

「お、美味しかったですよぉ」

「それはよかった。お兄ちゃんも満足してくれたみたいだし、私も満足だよ」

 妹のお饅頭は毎年どんどんおいしくなってくからな。

 来年も楽しみだな。

 

「ストレア、大丈夫でありますか?」

「大丈夫ですよぉ。ちょっと妹さんの顔が凄まじいスピードで私を見ただけです。びびってなんていませんよぉ」

 

「さぁ、お兄ちゃんのバースデーパーティは始まったばかりだよ! 

 料理もたくさん用意してあるからね。楽しくみんなで祝いましょう!」

 

「「おー!!」」

 

 

 連盟本部に向かうため誕生会が終わった次の日に俺達は地球を発った。

 妹の暴走状態は収まり、いつも通りになった。それを見たアリスさんとストレアさんはほっとしたような顔をしていた。少し申し訳ない気分になった。

 そうして連盟本部に到着した。会議まで少し日程が空くはずだったのだが、全員集まったので到着したその日に会議をすることになった。

 会議が始まると、将軍の1人が妹に対して大将軍が私情の為に欠席するなどありえないと糾弾してきた。仰るとおりで反論することも出来ずに口を閉ざしていたのだが、アリスさんとストレアさんが俺達をかばってくれたのだ。あれほど俺に文句を言っていたアリスさん達が味方してくれるとは思わなかった。どこか焦っている感じであったのが不思議ではあったが、それだけ俺達を守ろうとしてくれたのだろう。嬉しい話だ。

 会議はそれ以降特に何も起ること無く終わった。

 今後の会議の日程については各人の都合の悪い日程を避けて行われることになった。

 最初からそうして欲しかったが、まぁいいだろう。

 これから連盟のルールも柔軟に変えていけばいいことだ。

 

 

「はぁ、びっくりしたであります。本部にあらかじめ報告書は送っておいたのにあいつは読んでなかったのでありますな。寿命が縮まると思ったであります」

「あの発言を聞いた瞬間に妹さんの目が据わったのには恐怖しましたねぇ。私達がフォローに回ったら元に戻りましたけど」

「亮さんに対する福さんの執着は凄まじい物があるようであります。これからも注意しなければいけないでありましょう」

「そうしましょう。……しかし妹さんの作ったお饅頭美味しかったですねぇ。また食べたいものです」

「はぁ……命知らずでありますなぁ」

 




世界の平和を守ることは大切だが、それ以上に兄が大切。


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